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[3137] 東方よろず屋(東方シリーズ×銀魂)【完結】
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/08/26 23:12
 ※この作品は東方シリーズと銀魂のクロスになります。そのため、ご都合主義な部分が大量に見られます。それでも大丈夫だと思われる方々は、本編をどうぞ。
  ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。









 侍の国。この江戸という場所がそう呼ばれていたのは、はるか昔。
 今この土地には天人(あまんと)と呼ばれる者たちが往来し、かつての面影も薄れつつあった。
 江戸の中央にはターミナルが立てられ、天人たちが次々とやってくる。

 そんな江戸のかぶき町と呼ばれる場所。そこは未だにかつての面影を色濃く残しており、その場所に、今回の主人公は居を構えている。
 坂田銀時。よろず屋銀ちゃんなる店を構えるこの話の主人公。銀髪に白い服をだらしなく来たこのマダオ(まるで駄目なオッサン)は、かぶき町の往来をアイスクリーム片手に食べ歩いている。

 「銀さん。銀さんってば! そんなに甘いもの食べてたら、また血糖値上がっちゃいますよ」

 そんな彼の後ろを付いてくるのは、イマイチ目立たない顔立ちに眼鏡をかけた少年、志村新八であった。
 新八とはもう一人、赤いチャイナ服に身を包んだ少女、神楽の姿もあり、そんな彼女の傍らには、信じられないほどデカイ白い犬、定春の姿もある。

 「ばっか、オメェ。よぉやく銀さん糖分にありつけたんだよ、新八君。我慢して我慢して、ようやくこの糖分の塊を頂いちゃってるわけですよ。あれですか? 思春期の息子を持つお母さんですかこのヤロー」

 そしてそんな新八の忠告など何処吹く風。自分の欲望に忠実な糖尿病一歩手前のマダオの様子に、新八は深いため息をついた。

 「何言っても無駄ネ新八。銀ちゃんが糖分で妥協するわけないアル」

 と、的確な意見を飛ばす神楽。その表情にはどうでもいいやという感情が見え隠れしていたが、そのことに気づいているんだかいないんだか、銀時はその言葉に便乗するように言葉をつむいでいた。

 「そうだぞ~新八。さっきの依頼でもらったお金、今回は糖分とジャンプを補給することにしたんだよ、銀さんは」
 「オィィィィッ!! あんたまたか!! いつまで少年の心でいるつもりなんだよ!! いい加減にしろコノヤロー!!」

 あんまりといえばあんまりな発言に、すんごい顔した新八のツッコミが飛ぶ。まともに給料をもらっていないことで鬱憤がたまってるのかもしれない。結構、顔が怖い。

 「いやね、銀さんもジャンプは卒業する歳だと思うんだけどよぉ。でもよ、男ってのはいつまでも夢を持たなきゃ生きていけないんだよ、これ」

 そんな新八にもまったく持って動じないわれらが主人公。きっと体は糖で出来ているに違いない。

 「ねぇ銀ちゃん」
 「あんたはいつまで少年のつもりなんですか!! 歳考えろ、歳を!! いつまでジャンプ読むつもりだよ!!?」
 「ばっか、オメェ! ジャンプ馬鹿にすんな!! ジャンプにはなぁ、男に夢と希望を与えてくれるものなんだよコノヤロー!!」

 神楽がいつもの調子で言葉を投げかける。しかし、口げんかに発展した二人はその事にまったく気付かないでヒートアップしていく。町行く人が、そんな三人を遠巻きに見詰めていたりするが、そんなことにも気付かずに話は進んでいく。

 「夢も希望もねぇじゃねぇかぁぁぁぁあ!! あんたの何処に夢と希望があるっていうんですか!! 死んだ魚のような目をしおってからに!!」
 「バカヤロォォォ!! オマッ、この目を見ろ!! 夢と希望に満ち溢れてんだろーがっ!!」
 「いや無いから!! 怠慢と堕落しか無いから!!」

 壮絶な舌戦……かどうかは正直微妙だが、オーバーリアクションを交えての言い争い。はたから見れば面白い光景だったりするが、当の本人達はそれどころではねぇのである。

 「銀ちゃ~ん」

 今度は少し大きめに声を出す神楽。そしたらようやく聞こえたらしく、銀時が神楽のほうをむいた。

 「なんだ、神楽!? 今、銀さんはなぁ、この分からず屋にジャンプについて話してるとこなんだよ!! どうでもいいことなら後にしてくんない!?」

 それこそ心底どうでもいいんだよ。そう思いはしたが、今はそんなこと突っ込むのもめんどくさいんで、本題を切り出すことにする。そもそも、ツッコミは新八の担当だ。いずれきっと新八がツッコミを入れるだろう。

 「じゃあ言うアルけど、私たちの足元、地面が綺麗さっぱりないネ」
 『はい?』

 その神楽の言葉に、言い争っていた二人が足元に視線を向けた。
 そこに、あるはずの地面が無い。いやそれどころか真っ黒な空間の先に無数の目がギョロリと銀時たちを一斉に覗いているホラー空間が展開中。


 それを確認した瞬間3人と一匹は、ものの見事にその空間の中に落下した。


 「オィィィィィイイイイイ!! なんですか、この展開ぃぃぃぃいいいいいい!!?」

 上がる叫び声。しかし、その言葉に応えられる人物は当然居らず、やがて不可思議空間は何事もなかったかのようにブッツリと閉じられる。
 そうして、この物語はようやく始まりに立ったのである。


 ■東方よろず屋■
 ■プロローグ「死んだ魚の目の男にはろくな奴がいない」■


 ところ変わり、ここは幻想郷。あらゆる幻想が住まうこの世界には、数多くの妖怪や人間、果ては天人や亡霊や幽霊なんかが存在する。
 そんな世界の神社に住まう巫女、博麗霊夢は、ここ最近結構な悩みを抱えていた。
 神社のはずなのにまぁ集まるのだ。何がって? 主に妖怪が。

 「なんていうかさ、その辺りどうかと思うわけよ。私は」
 「はぁ……」

 そんなつかれきった霊夢の言葉に、緑の髪をした少女、東風谷早苗はなんともいえない相槌を打つ。そんなこと言われたって、彼女にしてみれば、かの妖怪たちは霊夢のことが気に入って集まってくるのだし、その辺どうしようもないんじゃないかとも思うわけだ。

 「イイじゃない。困るわけでもないんだから」

 そんな霊夢の言葉にまともに答えたのは、昼間ッから地上に降りてきている鮮やかな蒼い髪の天人くずれ、比那名居天子その人である。天人からその発言が出るのはどうよ? とも思ったが、皆までは言わなかった。
 だって、この天人は不良で有名らしいし。天界では。

 「よくないわよ」
 「だったら拒めばいいじゃない。それをしないってことは、結局なんだかんだで彼女達が来ることを楽しんでるってことでしょうに」

 むっとした顔の霊夢の言葉に、天子はそんな言葉を返していた。この歯に衣を着せないわがまま天人は、どうやら霊夢の機嫌を逆撫でしたいらしい。
 頼むから勘弁して欲しい。主に被害が自分に来るから。
 そんな思いで、はらはらと二人の成り行きを見守る早苗。事態はまさに一触即発の状態。いつでも逃げれる状態をスタンバイしながら、早苗はごくりと生唾を飲んで……。

 突如上空に出現したスキマに、更にいやな予感を増幅される結果となった。

 「あれは…」

 ひんやりと流れる冷や汗。あの空間の裂け目は間違いなく八雲紫のものだ。
 頼む。この状況で奴だけは現れて欲しくない。だって、現れたら現れたらで場を引っ掻き回すトラブルメーカーなんだから、あの女は。
 最悪の状況を覚悟して、いよいよ逃げようとした早苗だったが―――

 ズドォォンッ!!!
 『たわばっ!!!?』

 その予想は、いい感じに裏切られることとなった。
 スキマから落下してきた三人と一匹。チャイナ服の少女は綺麗に着地し、残りの二人、地味な少年と銀髪の男性は着地できず、人間乗せれそうな巨大な犬の下敷きになった。

 突然の展開に、思考がまったく追いつかない巫女と天人くずれと風祝。しかし、そんな三人とは裏腹に、必死にもがく地味な少年と銀髪男性。

 「定春ぅ!! 定春ぅぅぅうう!! 頼むからどいてくんない!? 出るって!! これ出るって!! なんか内臓的な物が銀さんの口から飛び出しちゃうんですけどぉぉぉおおおお!!?」
 「定春!! お願いだから退いて!! 死ぬって!! これマジで死ぬって!!」
 「わん♪」

 現実は無情だった。残念ながら定春には二人の言葉がわかっていないらしい。本当はわかってて聞かないのかもしれないが。本人はじゃれてるつもりなのかもしれない。

 「てんめぇぇ、クソ犬!! 退けッつってんだろコンチクショー!! 銀さん怒るよ!? マジで怒るよ!?」
 「定春。私が許すネ。その二人を遠慮なくファックするといいヨ」

 銀髪の罵倒に、チャイナが無情な命令を巨大犬に下す。そしてその人物の言葉に従って、遠慮なくプレスを強める顔だけなら可愛い巨大犬。
 心なしかめきめきと骨が軋む音がする。

 「うぉぉぉぉおおおおいい!! ギブ!! マジでギブ!! 謝るから!! 謝るから定春どけてぇぇぇえ!!?」
 「ぎゃぁぁぁああああああああ!! 僕完全にとばっちりなんですけど!!? ちょっとぉ!! 神楽ちゃぁぁぁああああん!!?」

 悲鳴を上げる銀髪と地味。相変わらずめきめきという音は継続中。だんだんと青ざめていく銀髪と地味。そんな様子を、呆然と眺めていた霊夢が一言。

 「……なんなのよ、一体」

 疲れたようにつむがれたその言葉。その言葉に、天子も早苗も全面的に同意したことは言うまでもない。


 ■■■■■


 「は? 私がこのメンツを?」

 夜の帳が落ちて、毎週恒例の大宴会が起こっている最中、霊夢は件の張本人と思われる八雲紫に、彼らを元の世界に戻すようにという言葉を投げかけていた。
 彼女にしては珍しく、本当に心当たりがないといわんばかりに、昼間にスキマから落下してきた三人と一匹、坂田銀時、志村新八、神楽、定春に視線を向けた。
 本来、幻想郷の外からやってきた人物を送り返すのは霊夢の仕事だ。ところが、この三人から話を聞いたところ、早苗の証言でどうやら外の世界の人間達ではないらしいことがわかった。多分、異世界とかそういった類じゃないだろうか。というのが、早苗の意見だった。もともと外の人間である早苗が言うのだから、この三人が外の世界の人間じゃないってことはほぼ確実らしい。
 そうなると、霊夢では手に負えない。だったらと、手っ取り早く事件の犯人に送り返させようということに決まり、三人と一匹をひとまず博麗神社に留まらせ、宴会が始まって紫を待っていたのである。

 「……まいったわねぇ。私も知らないわ、そんな世界」
 「……知らないじゃないわよ。じゃあなんで、あの三人と馬鹿みたいにでっかい犬がこっちにいるって言うのよ?」

 相変わらずとぼけた顔だが、本当に心当たりがないらしいことは、付き合いの長い霊夢だからわかる。しかし、納得できるかといえばそんなこたぁないのである。

 「うーん。本当に覚えがないのよ。多分、寝ぼけてなんかやらかしちゃったんだろうけれど、参ったわね、元の世界がどこかわからないと戻しようがないわ」
 「……あんたねぇ」

 本気で頭痛がしてきた。この八雲紫、境界を操る程度の能力というとんでもない力を持っている。彼女の力なら、違う場所と場所をつなげて移動したり、物の境界をあやふやにして破壊したり、または創造したり出来るというデタラメなものだ。
 …が、さすがの紫にも出来ないことはあったらしい。なのだが、じゃあどうしろというのか、あの三人と一匹は?


 一方、そんな妖怪だらけの大宴会の中、坂田さんたちは何をしているのかというと。


 「ささ、坂田さんもどうぞお一つ」
 「おぉ、悪いねぇ。天狗のねぇちゃん。あれだ、妖怪が一杯来るってんで銀さんビクビクしちゃったんだけどもぉ、こぉんなに可愛い子達が一杯なら、別に怖がるこたぁなかったね」
 「って、オィィイイイイイ!! 何あっさり順応してんだアンタァァァァアアアアアアアアアア!!」
 「あっはははは!! 声大きいねぇ、君」

 ばっちり順応してた。鴉天狗、射命丸文から酌をされる銀時のいつもの調子に、新八の切れのあるツッコミが唸りを上げ、その様子に大笑いする天子。神楽はとっくに酔いつぶれ、定春はレミリアとフランに抱きつかれてもふもふされている。
 最初、銀時たちは妖怪がたくさん来ると聞いてビクビクしながら待っていたのだが、いざ集まってみれば美人、美少女のオンパレードという状況に、すっかりと恐怖心を投げ出してしまったのである。一応、彼女達も人間を食うから気をつけるように。という霊夢の言葉も、彼らにはすっかり頭から抜け落ちていた。
 まぁ、浮かれるのは仕方がないかもしれない。彼らは最初、となりの屁怒絽みたいなのが大量にくると思っていたのだ。そしたらいざ着てみれば美人、美少女ぞろいだったもんだから、浮かれるのも仕方がないかもしれない。


 紅魔館の面々。白玉楼の面々。永遠亭に天人くずれ。それから風祝に閻魔に死神。ワーハクタクに鴉天狗と鬼、更には七色の人形遣いに黒白魔法使いに竜宮の使い。そして今回新たに加わっている坂田さん一家。
 そんなカオスな状況を遠巻きに眺め、霊夢は心底疲れたようにため息をついていた。
 どうやら、あの三人組と一匹とは、しばらく長い付き合いになりそうだと思いながら、ひとまずワーハクタクで人間の里を守っている慧音にあの三人を頼もうと足を向けた。
 内心、凄く憂鬱だったのを、隠しもせずにため息をついて。


 ■あとがき■
 どうも、白々燈です。はじめまして、そしてこんにちわ。
 いや、蓬莱の姫のほうはどうしたと思われる方々、まず謝ります。スミマセン。
 先日型月板である作品が荒れに荒れているのを見て、ちょっと型月のほうを更新するのがちょっと怖くなりまして…。情けない話ですが、しばらくあっちの方更新をちょっと休めようと思うんです。本当にスミマセン。チキン野郎で。

 んで、書いてる作品がまたクロスとか何考えてるんだろうね、自分。
 でも書きたかったんです。東方キャラと面白おかしく過ごす銀さんたちが。
 そういうわけでいかがだったでしょうか? 違和感なくかけていればいいんですが…。
 銀さんたちが来た原因がかなりむちゃくちゃですが、大丈夫でしょうか?どうだろう^^;
 ご都合主義満載でしたが、楽しんでいただけたら幸いです。
 ちょっと短いですが、今回はこの辺で。
 それでは。



[3137] 東方よろず屋 第一話「地震の時は机の下に隠れてやり過ごせ!!」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/06/01 15:29

 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。

 ありとあらゆる幻想が住まうこの幻想郷に銀時達が事故により来訪したその当日、彼らはワーハクタクの上白沢慧音が守る人里で生活することが決まった。
 もちろん、これは件の張本人、八雲紫が彼らの世界を見つけ出すまでの間の処置であり、そうなれば彼らは改めて自分達の世界に帰ることとなる。
 問題があるとすれば、銀時たちがいた世界を見つけ出すのが、はっきり言って絶望的な数値だという事実だろう。何しろ、件の張本人は、どうやら寝ぼけて能力を行使してしまったらしく、一体何処の世界とつないでしまったのかが皆目見当もつかないということ。
 世界とは、それこそ可能性の数だけ広がっている。あらゆる異世界、あらゆる時間軸、あらゆる世界軸を調べまわらなければならず、その数ははっきり言って無限といって差し支えはない。
 たとえるなら、銀河系の中から宇宙に漂う米粒を探すようなもの。一日どころか百年かかっても見つかるかどうかも不明。いくら妖怪たちの賢者と呼ばれ、境界を操る程度の能力を持つ彼女でさえ、こればかりはどうしようもなかった。
 さすがにばつが悪かったのか(どうかはちょっと疑問だが)、紫は銀時たちがいた世界を探してはくれるらしい。もっとも、彼女のことだから、マイペースに調べるんだろうが、それはもう彼女に任せるしかない。というか、むしろ彼女じゃないと無理だというのが現実なのである。


 そんなわけで、銀時たちは人里でいつものように「よろず屋」を再開することを決め、慧音に用意してもらった家で寝たのが昨日のこと。
 さっそく、気分を一新してよろず屋を始めようという矢先に―――

 「……お~い、新八ぃ。二日酔いの薬……」
 「あ……頭がガンガンするアル」

 約二名が昨日の宴会で飲みすぎて二日酔いでダウンしていた。



 ■東方よろず屋■
 ■第一話「地震のときは机の下に隠れてやり過ごせ!!」■



 「だから言ったじゃないですか。昨日あんなに馬鹿みたいに飲んで」

 呆れたように新八が呟き、布団で横になっている二人に視線を向けた。
 銀時と神楽。二人はばっちり二日酔いでノックダウンし、まともに布団から出られない状態だったのである。まぁ、その辺りは彼と彼女に飲ませまくった鴉天狗と鬼にも責任はあるのかもしれないが、それはこの際おいておく。

 「し…仕方ねぇだろーが。お前、美少女の勧めるお酒にケチつけるのは男のやることじゃね……ウップ」
 「新八、わかってないアル。女には、避けられない戦いがあるヨ。あんなちびっ子に酒飲みごときで負けてられな……ウェ」
 「はいはい。吐くならトイレに行ってくださいよ。それから、銀さんはただでお酒が飲めるから浴びるほど飲んだだけでしょうが。
 それから神楽ちゃん。あれ無理だから。あの鬼の女の子の相手は無理だから。あの子、神楽ちゃんが酔いつぶれた後も、結局最後までがぶがぶ飲んでたし、あの宴会で一番飲んでたの、あの子だと思うよ」

 なんか適当な屁理屈をこねる二人に、新八はため息をつきながら刺のある言葉をつむぎだす。実際、昨日の宴会で酔いつぶれた神楽と銀時を背負って帰ったのは新八と、親切にも神楽を背負ってくれた慧音だ。
 その辺、少し反省しろというニュアンスが込められているんだろうが、あいにくこの二人はそんなこと聞きはしないのである。

 「しょうがない。この時間だったら、確か鈴仙ちゃんが薬を売りに来てるっていう話でしたから、二日酔いの薬貰ってきます」

 仕方がないと呟きながら、新八は定春をつれて新居を後にする。定春を連れて行ったのは、新八なりの配慮だ。これで定春が今の状態の二人にじゃれ付いたら、大きさが大きさだ。二人を圧殺しかねない。
 そんなわけで、新居には二日酔いに悩まされるマダオとチャイナが残されることになった。
 ずきずきガンガン、頭で鐘がなってるかのような痛みに耐えながら、ひとまず新八の帰りを待つ二人。

 そんなときに、トントンッと、来客を告げるノックが響いた。
 だがしかし、二人とも酷い二日酔いでまともに動けない。そんなわけで、銀時は神楽に一言。

 「おい、神楽。お前出ろって」
 「銀ちゃんこそ出るアル。ここ銀ちゃんの家ネ」
 「ばっかオメェ、ここは俺たちの家だろーが。新八がいないんだから、お前が出ろって」
 「冗談じゃないアル。こっちだって頭ガンガンしてるアルよ。たく、肝心なときに新八いないとか、マジ使えないアル。これだから新八は」

 自分が動きたくないもんだから、お互いに押し付けあう醜い二人。そしてさりげなく暴言を吐かれるこの場にはいない志村新八。ちなみに、この時にもしっかりとトントンッというノック音は続いており、気がつけばドンドンッという音に変わってきている。
 どっちも出る気がなく、二日酔いに悩まされた二人がとった行動は―――

 「は~い、居ませんよ~。居留守ですよ~」

 恐ろしく最悪な方法だった。何が最悪ってもういろんなところが。
 神楽の言葉に、ピタッとやんだノック。まさか本当にあれで帰ったのか? などと思う銀時だったが、二日酔いの彼は、まぁいいや。と、適当に考えることを断念。
 これで落ち着いて二日酔いと戦える。そんなことを思った刹那。
 銀時たちに用意された住居は、突然起こったマグニチュード8超えの大地震であっさりと潰れることとなった。









 無論、二日酔いでダウンしている二人もろとも。










 「ふぅ」

 小さく息を吐き、少女は満足そうに表情を綻ばせる。鮮やかな蒼の長い髪を掻きあげ、地面に突き刺していたオレンジ色の剣【緋想の剣】を抜いて直すと、眼前の廃墟となった建物に視線を向けた。
 そこだけが綺麗に倒壊しており、隣の住居にはまったく被害がない。まるで【そこだけに地震が起こった】ような現象による結果が、今まさに眼前に広がっている。
 比那名居天子(ひななゐてんし)。天界に住む天人くずれ。その能力は【大地を操る程度の能力】。地盤沈下や土砂崩れ、さらには局地的な地震すらも可能にするその能力を考えれば、この現状が誰の仕業かは想像することは容易だった。

 「まったく、失礼しちゃうわ」

 クスっと冷笑を浮かべて、瓦礫のほうに視線を向ける。人がわざわざ尋ねてきたというのに、堂々と居留守宣言。これにイラッと来た天子は、何の戸惑いもなく地震を起こして、銀時たちが居た住居を壊滅させたのである。
 まぁ、退屈で退屈で暇だったからという理由で、幻想郷では重大な役割を持つ博麗神社を倒壊させたり天候を操ったりなんていう異変を起こした彼女にしてみれば、何の変哲もない地上人の住居など考慮することもなかっただろう。
 末恐ろしい。我が侭ここに極まる。

 『ぶはっ!!』

 瓦礫から顔を出す二つの顔。その顔といえば当然、生き埋めになった銀時と神楽である。

 「何事!? ちょっと何事!! なんで家だけ倒壊してんの!? あの地震でなんで家だけ!? 今はやりの欠陥住宅ですかコノヤロー!!」

 あんまりの理不尽な展開に、銀時がツッコム。そして二日酔いには勝てないのか、その直後に神楽と共にグロッキー。「あー、駄目だ、頭イテェ」と完全にダウン。
 そんな二人に歩み寄る天子。瓦礫になかば挟まれたような状況の二人を別に助けるようなことはせず、ニコニコ顔で二人の前に立った。

 「こんにちわ、銀さん。神楽」

 なるべく優しそうに、しかし恐ろしいオーラを振りまきながら、二人に話しかける天子。そんな彼女の顔を、銀時は見た覚えがあった。そう、俗に言うキャバクラフェイス。
 ゾクリと背筋が凍るが、それよりも今は二日酔いの頭痛のほうがずっと痛い。……はずなんだけど、やっぱり目の前の美少女もかなり怖いわけで。

 「え~っと、誰だっけ?」

 が、残念ながら銀時は名前が思い出せなかった。そして放たれる恐ろしいほど鋭い蹴り。天子の放った蹴りは銀時の側頭部に命中し、「ぐはっ!?」という短い悲鳴を上げさせる結果となった。
 天人なのにに足癖悪いのはいいのか? イイのです。だって彼女は不良天人だから。

 「あー、悪かった。思い出した思い出した。てんこちゃんだったね。いやー、昨日はお世話になったね、てんこちゃん」

 鼻血垂らしながら言葉にした銀時に続いて襲ったのは踵落とし。寸分たがわず銀時の脳天に直撃し、何だか洒落にならない音と共に「アベシッ!!?」という短い悲鳴と共に瓦礫にキスすることになった坂田銀時。
 それにしてもこの天人、本気で足癖がワリィのである。

 「銀さん。私の名前は比那名居天子です。てんこじゃ無いですから」

 前髪を掴んで顔を持ち上げ、なんかもう血だらけの銀時ににこやかに、しかし青筋を浮かべながら言葉にする天子。てんこちゃん発言がよっぽど気に障ったらしい。目が激しく笑ってない。

 「はいー、スイマセンッシター。でもね、銀さん二日酔いで頭痛いんですー。お願いだから、そっとしといてくれませんかね?」
 「大丈夫、きっと私の踵落としで痛みがプラマイゼロになってるはずよ。よかったわね、私がサド気質で」
 「いや、痛みが倍増しただけだから。銀さんマゾの気質ないからねー、天子ちゃん」

 朦朧とする意識の中、一応そんな主張をしてみるものの、バッサリとめちゃくちゃな論理で踏み倒されそうになる。あ、ヤベ。血がたんねぇ。なんて思いはしたが、現状はまったくといっていいほど好転しちゃいないのである。

 「せっかくお客が来たというのに、堂々と居留守宣言はどうかと思うなぁ。おかげでついカッとなって 私の大地を操る能力で家を潰しちゃったじゃない」
 「ってオィィィィィイイイ!! あの地震お前の仕業かいっ!!」

 聞き逃せない発言を前に坂田銀時血まみれで復活。傍目から見ればかなりホラーな光景だが、当の銀時はそんなことを気にする暇もない。何しろ頭の痛みも二日酔いの苦しみも一発で吹き飛んでしまった。血だらけだけど。
 一方、そんな銀時に臆することもなく天子は少し頬を膨らませて。

 「だって、あったまに来たんだもん」
 「もんじゃねぇぇぇぇええええ!! お前、語尾可愛くすれば許してもらえると思ってんじゃねぇぞコンチクショー!! どぉすんのコレ!? 一日たたずで家が潰れるとかどうすんのこれぇぇぇえ!!?」

 プリプリ怒ってみせる天子だが、生憎銀時の怒りのボルテージはとどまるところを知らない。いや、まぁいきなりそんな理由で家を壊されたらそりゃ怒るだろうけど。
 が、やっぱりそんな銀時に動じない天人くずれ。肝が据わってるんだか、それともただ単に鈍いのか。

 「大丈夫よ。私が天人たちに言ってちゃんと直させるから」

 あっけらかんと言う。んな無茶な!? とは思うが、実際彼女は天界での権力はそれなりに高く、他の天人に家を修復させる命令などお手の物なのである。そんな様子に気が抜けたのか、銀時は小さくため息をつきながら後頭部を掻く。どうやら何を言っても無駄なのだということを悟ったらしい。こうなったらおとなしく用件だけを聞いてとっとと追っ払おうと心に決めて―――

 「って、オィィィィィイイイイイイイ!! 家が無いんですけどどういう状況だぁぁぁぁぁぁぁああああ!!?」

 鈴仙をつれて戻ってきた新八の魂の絶叫(ツッコミ)が、人間の里中に響き渡ったのである。
 ちなみに、近くにいた鈴仙がその割れんばかりの音量に耳を押さえて気絶したことをこの際追記しておく。


 ■■■■■


 「んで、話って?」

 鈴仙から二日酔いの薬を貰って動けるようになり、天子が天界の天人に家の建て直しを命令したところで、疲れたように、銀時は目の前の少女に言葉を投げかけた。ここは幻想郷には珍しい西洋風のカフェ。そこの外の席で、銀時、神楽、新八、そして一日足らずで家を倒壊させた張本人、比那名居天子が座っている。ちなみに、定春は神楽の席の足元で丸まって欠伸をしていた。

 「これよ」

 そういって天子が三人に見せたのは、一枚の新聞広告。文々。新聞という名が打たれており、その一面には大きく、「人里になんでも依頼を引き受けてくれるよろず屋が開業」という見出しで記事が書かれていた。

 「あぁ、これ文さんの新聞じゃないですか。まさかもう新聞にして宣伝してくれてるなんて」

 これは新八の弁。昨日の夜の宴会の折、銀時や新八が自分達が向こうの世界でなにをやっていたかというのを一同に聞かせていて、コチラの世界でもそれを生業にしていくつもりだという話をした。そこで鴉天狗の新聞記者、射命丸文が新聞の記事にもなりますし、宣伝もかねてどうでしょう? なんていう話を持ち出したのである。
 まさかもう発刊したとは……幻想郷最速の二つ名は伊達じゃないらしい。

 「じゃあ、なんだ? 依頼でも持ってきたのか?」
 「いいえ。……うーん、でも依頼といえば依頼かもねぇ」

 銀時の言葉に、天子はそういって言葉を濁す。その言葉の真意が読み込めず、イマイチよくわからないといった顔をするよろず屋メンバー。
 そんな一同の表情に満足しながら、天子はクスっと笑ってそして一言。

 「私もよろず屋で雇ってもらえないかしら? それが私の「依頼」よ」

 なんて、そんな一言を放っていたのである。
 たっぷり沈黙する一同。そいて大体20秒ぐらいたった頃、銀時が迷惑そうな顔をしてはぁ……とため息をつく。

 「お前ばっかじゃねぇの。人の家壊すような奴雇うわけねーだろーが。寝言は寝てから言え、てんこ」

 ゴズッ!! という鈍い音。致命的な一言を吐いた銀時の頭を、天子は要石を持って思いっきり強打した。先が尖ってるもんだからばっちりと刺さる要石。どくどくぴゅーぴゅーと頭から血が吹き上がる銀時に向かって、ニッコリと目の笑ってない笑顔を浮かべる天人くずれ。

 「銀さん!! 銀さぁぁぁぁん!! ちょ、何してるんですか天子ちゃん!! 明らかに致命傷なんですけどこの傷!!?」
 「雇って、も・ら・え・な・い・か・し・ら?」
 「聞けぇ!! このクソアマァァァァアアアアア!!!」

 新八の発言を綺麗に無視し、もう一度、アクセントを強めてニコニコ笑顔でのたまう天子。そんな彼女に過激な発言でツッコミを入れる新八。そしてクソアマ発言をした新八にも、要石を投げつけてノックダウン。鼻血を吹き上げ、きりもみしながら吹っ飛ぶ地味めがね。

 「えーっとですね、天子ちゃん。ひとまず理由を聞いていいですかね?」

 下手に出ながら、とりあえず頭に刺さった要石をはずす銀時。なんだかんだでものすごく頑丈な男である。そんな銀時の様子に多少驚きながら「あなた頑丈ねぇ」なんて呆れたように口にしてから、天子は心底憂鬱そうに言葉をつむぐ。

 「だって、天界にいても暇なんだもの。博麗神社の宴会は週に一回だし、普段は本当にやることがないのよ。それなら、面白おかしいあなた達と一緒にいたほうが有意義だと思っただけよ。ほら、ここの地理には詳しくないでしょ? 私がいればその辺りはカバーできるし、この世界の者が一人ぐらいいたほうが、都合がいいと思うのだけど。どうかしら、悪くはないと思うけど?」

 そういって、彼女は紅茶を口に含む。
 それは、天子にとっては紛れもない事実だ。天界という場所はとにかく退屈な場所で、天人でありながら自分に正直で我侭な天子には苦痛な場所なのである。それなら、このおかしな面子の手伝いをするほうがよっぽど面白そうだと、ただそれだけの話だ。
 長い年月を生きると、暇であるということはそれだけで苦痛になる。そういった場合、時を重ねた妖怪や天人は、「いかに」面白くあるかという過程を楽しむようになる。

 「……断ったら、どうするアルか?」
 「あの家を直すの止める。直っててももう一回ぶっ壊すわ」

 神楽の言葉にもにべもない。しかも真顔。要するに、はじめッから銀時たちに拒否権なんてないわけで。そんな天子の言葉に、銀時は「仕方ねぇ」なんて呟いて、チョコパフェをぱっくりと食う。

 「わーったよ。うちで雇ってやる。ただし、給料なんてでねーし、しっかり働いてもらうかんな」
 「OK、私は退屈しなければそれでいいのよ。交渉成立ね」

 銀時のやけくそ気味な言葉に、天子は満足そうにうなずいて、手を差し出す。

 「では、あらためまして。比那名居天子よ、これからよろしく」
 「へーへー。坂田銀時、趣味はジャンプ読むことで好きなものは甘いもの、歳は秘密っつーことで。よろしく」
 「オィィイイ!!? なんだその合コンみたいな自己紹介ぃぃぃぃ!!?」

 互いの自己紹介をして握手した二人に…というよりもむしろ銀時に、即座に復活する地味めがねこと志村新八。さすがよろず屋メンバー純ツッコミ担当。ツッコム場所があったらたとえ傷を負っていようとツッコミをいれずにはいられないらしい。ある意味コイツも銀時並みに頑丈である。

 「えっと、それじゃあ次は僕か。僕は志村新八。これからよろしくお願いします」
 「神楽ネ。よろしくアルよ」
 「えぇ、これからよろしく、先輩方」

 くすくすと笑いながら、二人の自己紹介に応える。多少…というかかなり性格に難はあるが、その笑顔はとても可愛らしかった。
 まぁ、この濃いメンツに、また濃いのが混ざったところで、これ以上どうにかなるものでもないだろうと自己完結。そもそも、このよろず屋のトップがどうしようもないぐうたら野郎なのだし、今更駄目人間が増えたところで何か変わるわけでもないだろう。

 「あ、そうだったそうだった。よろしくね、定春」

 思い出したように席を立ち、神楽の足元で丸まっていた定春に言葉をかけて。

 「わん♪」

 バックリと食われた。それも顔面から。
 頭がすっぽりと定春の口の中へ。当の定春は尻尾を振っている辺り、やっぱりじゃれついているだけなのかもしれない。

 「あれ? なんか暗くなったわ。常闇の妖怪でも襲来したのかしら?」
 「何落ち着いてんの天子ちゃんッ!! 食べられてる!! 食べられてるから!!」

 常闇の妖怪ルーミアでも襲撃したのか? なんて疑問に思っている天子に、新八の気が気でないツッコミが飛ぶ。というか、この光景を新八も神楽も見たことがあった。
 なんというか、主に銀時が交通事故にあって記憶喪失になったときみたいに。

 「あら、そうなの? でも大丈夫よ。天人って体が頑丈なの。あぁ、でも―――なんだか気持ちよくなってきたわ。痛みでどこか登っていけそう……」
 「大丈夫じゃねぇじゃねぇかぁぁぁあああああ!! そして、登るなぁぁぁああ!! 登ったら間違いなく天国に直行じゃボケェェエエエエエエ!!!」

 言ってる傍から血をだらだらと流す天子に鋭い切れのある新八のツッコミが入り、それから慌てて助けに入る。さすがは新八。ツッコミという一点だけ見れば間違いなく一流である。
 それにしても、ナイフすら刺さらない天子の体に傷を付けられるとか、どれだけ顎の力強いんですか定春さん?

 「定春!! 噛むの止めて!! 死ぬから!! 天子ちゃん死んじゃうから!! 神楽ちゃんも早く止めて!!」
 「大丈夫よ新八。天人はね、ほぼ不老不死なの。だから邪魔しないで、私の中で何か目覚めそうなの」
 「目覚めるなぁぁぁあああ!! 目覚めたとしてもいいもの目覚めないから!! 明らかにマゾの気質が目覚めようとしてるから!! ていうかS(サド)にM(マゾ)ってどういうハイブリットヒューマンだアンタァァァアアアアアアアアア!!?」

 必死に止めに入る新八。止めに入りながらもそのツッコミの切れは未だに健在。定春の中で「はぁぁぁぁあ」なんて心底悦に入った吐息を漏らす天人くずれ。一方の神楽は酢昆布を口にし、完璧に無視を決め込んでいて、銀時はそんな様子の面々をみて小さくため息。
 どうやら、こっちの世界でもいつもみたいに、……いや、いつも以上に騒がしくなりそうだなんて思いながら、やっぱり助けには入らず、その光景をチョコパフェをぱくつきながらぼんやりと考えるのであった。


 ■あとがき■

 第一話、いかがだったでしょうか? 作者です。
 今回色々書いてみましたが、イマイチ納得のいかない結果に。ご都合主義ばっかりだし、大丈夫かなぁ、自分。
 とりあえず、今回緋想天新キャラの天子さんが大暴れしてます。自分の中じゃ、彼女はこんなイメージですがどうだろうか?
 とにかく、皆さんが楽しく読んでくだされば、それで満足です。

 意見、感想、指摘など遠慮なくどうぞ。
 それでは、今回はこの辺で。



[3137] 東方よろず屋 第二話「教師の説明は異様に長いから眠くなる」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/06/01 15:30

 ※東方緋想天のネタバレあります。ご注意ください。






 「実は、明日はどうしても外せない用事があってな。済まないが臨時の講師をやってもらいたいんだ」

 前日新居が倒壊してから早数日。ようやくよろず屋として再開できる最低限まで復旧したその日、最初に依頼に訪れたのは上白沢慧音だった。慧音にお茶を出す新八に、その向かい側の椅子に座っている坂田銀時。神楽は定春に餌を与えており、今回から新規参加の天子は優雅に紅茶を楽しんでいたりする。

 「講師……ねぇ。確か寺小屋開いてるんだっけか? 悪ぃが、俺たちドイツもコイツも学がねぇぞ? 講師が勤まるとは思えねぇんだが」
 「その辺は問題ないよ。講師といっても、どちらかといえば子供達の面倒を見ていて欲しいのが理由としては大きい。集まっているのは小さな子達が多くてね、簡単な問題を出していてくれればそれでいいんだ」

 銀時の言葉に、慧音はそういってからズズッとお茶を口に含む。そんな銀時の様子を伺いながら、横手から天子が一言。

 「いいんじゃない? 慧音先生直々においでなんだから、引き受けてあげても」
 「別に引き受けねぇとはいってねぇよ」
 「……それでは」
 「あぁ、その依頼。確かに引き受けさせてもらうさ」

 銀時のその言葉に、慧音は満足そうにうなずくと、ゆっくりと席を立った。メッシュの入った銀髪を揺らしながら、慧音はゆっくりとした足取りで、ドアを開けた。
 外は夕方。日はもうすぐ落ちるだろうし、そうなれば妖怪たちがこの里を襲うかもしれない。あまりここに長居をするわけにもいかない。

 「すまない。よろしく頼む」
 「へーへー。わーってるよ」

 気のない返事。だというのにそれが彼らしいと思うのだから、おかしいものだ。その返事に不思議と納得しながら、慧音はよろず屋を後にした。
 残された銀時はそんな彼女を見送りながら、がりがりと後頭部をかいていた。




 ■東方よろず屋■
 ■第二話「教師の説明は異様に長いから眠くなる」■




 「はーい、というわけで。今回慧音先生の代理の銀八先生でーす」
 「助手の天八先生でーす。皆さんよろしく」

 白衣姿で教室に入っていきなり偽名を語る二人。そんな二人にもけなげに「はーい」なんて返答する子供達。そんな二人を教室の後ろのほうで気が気でない表情で見守っている新八と、心底どうでもよさそうな神楽と定春の姿。

 「ちょっと銀さん。タバコ吸うの止めましょうよ。ていうか何処で入手したんですかそのタバコ」
 「新八ー、これはタバコじゃありません。ぺろぺろキャンディーです。ぺろぺろしてると煙が出る新種なんですよ、コレ」
 「聞いたことねぇよそんなぺろぺろキャンディー!! 子供いるんだからとっとと吸うの止めろボケっ!!」

 むちゃくちゃな屁理屈をこねる銀時に飛ぶ新八のツッコミ。そんな様子を眺めている天子はというと、なんか生き生きしてるわねぇ、ツッコミ入れるとき。とか何とか思っていたりする。
 慧音が依頼をもちかけた次の日、銀時たちはちゃんと寺子屋に訪れ、講師としての役割もこなすつもりらしい。はっきり言って無謀以外の何者でもない。しかも講師役、見張り役とで分かれ、講師役が銀時と天子。監視役が新八と神楽、そして定春となったのである。ちなみに、じゃんけんで分かれた辺り、とっくにまともに授業する気が無いのは目に見えていたりする。

 「はーい、皆ー。あそこの没個性の眼鏡のことは無視して、今日は楽しく授業しましょうねぇ」
 『はーい』
 「オィィィィィイイイイ!!! 誰が没個性だこのSM(サドマゾ)ハイブリットがぁぁぁぁあああああ!!」

 何気に酷い発言をする天子。そしてそんな天子にツッコミをいる新八だったが、その一言が天子の機嫌を損ねたらしく、投げつけられた要石ドリルが新八の額を直撃する。先端が尖ってるもんだからがりがり新八の額を削り、やがて頭蓋骨の丸みによって軌道が逸れ、寺子屋の天井を直撃し、貫通して空高くへと消えていく。
 当然ながら新八は血を噴出しながらグルグルと回転しながら床にぶっ倒れる。明らかに致命傷だったが、銀時も神楽も、それどころか子供達ですらガン無視。志村新八、いくらなんでも哀れすぎる。

 「はい、注もーく。これから先生が簡単な問題を出すんで、それがわかったら挙手して答えるよーに」

 パンパンと手を叩きながら子供達の視線をコチラに向ける銀時。そんな彼に「はーい」と従順に返事をする子供達。そんな子供達は銀時に任せ、パンパンと手を叩いて倒れている新八に言葉を投げかける天人くずれ、比那名居天子。

 「はーい、没個性メガネ野郎。さっさと起きなさい。授業始まるわよー、仕事しなさいよ」
 「っだぁぁぁああああ!! ムカツクゥゥゥ!! ムカつきエンペラーだよっ!! どこのサド王子だテメェはぁぁぁぁあああああああ!!」

 天子の無茶苦茶な物言いにあっさり復活する新八。相変わらず血まみれだったが見事に立ち上がりツッコミを入れるその姿は、ある意味まばゆく輝いているかもしれない。ツッコミ芸人の鑑である。それにしても、以前神楽に言ったムカつきチャンピオン通り越してムカつきエンペラーと称している辺り、そうとうムカついたらしい。
 そんな最近なじみになった新八と天子の口喧嘩(?)をよそに、銀時は黒板に手早く数式を書いていく。内容は1+1=というごく簡単な誰でも出来そうなものであった。

 「はい、みんなこれがわかるかなー? わかったら先生に挙手で教えてください」

 やる気ゼロの棒読みな台詞だったが、子供達は真面目に挙手。はい! はい! と元気に声を張り上げて当ててもらおうと躍起になっている。ちなみに挙手したのは全員。まぁある意味当たり前だろう。簡単も何も片手で計算が事足りる内容である。
 一応真面目な授業内容に、ほっと胸をなでおろす新八。

 「意外アル。銀ちゃんちゃんと授業してるアルネ」
 「本当だね。これなら心配要らないかな?」

 神楽の言葉に同意して、ひとまず安堵の息を漏らす新八。そして誰かが当てられたらしい。元気よく「はい」といって席から立ち上がる。

 「2です!!」
 「ぶっぶー、違います」

 正解のはずの答えに「え?」と疑問視を浮かべる一同。そんな中、われ関せずといわんばかりにカッカッと黒板に文字を書いていく銀時。そこにはとある漢字がはっきりと書かれている。

 「正解は田んぼの田です」
 「オィィィイイイイ!! 何子供相手に引っ掛け問題出してんだこのボケェェェエエエエエ!! 子供かアンタはぁぁああああああ!!」

 収まっていたツッコミ熱が再燃焼。やっぱり志村新八。どこまで行ってもツッコミという星の元に生まれて来たに違いない。そしてやはり坂田銀時。何をやっても駄目な男だということが証明されつつある。さすがマダオ。他のとマダオ率が一味違う。

 「馬鹿だなーお前。銀さんは親切心からこういう意地悪な問題出してるんですよー新八君。アレだぞ? 今の世の中、子供のうちから大人の汚さを知っておいたほうが後々楽になるってもんなんですよー」
 「子供だからそういう汚いことを知らずに生きて欲しいってもんでしょーが!! ていうかそんな子供はろくな子供に育たねぇよコンチクショー!!」
 「新八、銀ちゃんの言う通りね。大人の汚さを知っておかないと子供は苦労するあるよ。大人の汚さを知って、味わって、かみ締めて、そうして子供は大人の階段を登っていくアルヨ」
 「オィィィィィ!! 大人の汚さを知ってろくな子供に育ってねぇいい見本がここに居るじゃねぇかぁぁァアアアア!!! ていうか何!? 僕がおかしいの!? 僕がなんかおかしいの!!?」

 いい具合に孤立無援、四面楚歌状態の志村新八。悲しきかな、子供達を除けば比較的常識人なのはこの場には新八しかいないのである。
 そんな新八をよそに、また別の問題を黒板に書いていく銀時。

 「はいはい。次の問題ですよーチミ達。お父さんカエルはケロケロケロ、お母さんカエルはケロケロ。
さて、子供はなんと鳴くでしょう?」
 「さぁ、みんなで考えよー」

 銀時が問題を出し、天子がパンパンと手を鳴らして子供達を煽る。しかし、なかなか思いつかないのか、必死に悩む子供達。そんな中、寺子屋の子供達とはまったく関係ない神楽が挙手。
 そんな彼女を視界に納め、「はい、神楽」と真っ先に当てる銀八先生。

 「おそらくジェロニモォォオオオオだと思うであります!! 軍曹!!」
 「いねぇぇぇよそんな子供!! 世界広し探しても超人の名前を泣き声にする子供なんていねぇよボケェェェエエエエ!!」
 「はい新八。いつものツッコミありがとう。そしてチワワ一等兵。今軍曹は銀八先生だから。そしてそれハズレだから。はい次ー」

 神楽の的外れな回答に新八がいつものようにツッコミ、銀時が軽くスルーして子供達に促す。そんな中、一人の子供が挙手して立ち上がる。他に誰もわからないようすだったので、銀時は遠慮なくその手を上げた少年を当てた。

 「はい、そこの少年。答えは?」
 「えっと、おぎゃーおぎゃーとか?」

 自信なさ気に答える少年。事実、他の子供達も自信が無いのか難しい顔をしているし、必死に色々考えているらしい。それどころか、銀時の隣にいる天子ですら難しい顔で考えてる始末。
 しかし、銀時はその答えにも「ぶっぶー」と駄目押しをしていた。そんなわけで、全員の視線が銀時に集まる。答えを待っていることは銀時もわかったようで、相変わらずやる気なさそうな顔で答えをつむぐ。

 「正解は、おたまじゃくしは鳴きません」
 「また引っ掛け問題かァァァァァァアアア!! アンタいい加減にしろ!! 真面目に授業しろよコノヤロー!!」

 というか、そもそも今の問題は引っ掛け問題以前になぞなぞの類ではなかろうか? なんて思った子供達も何人かいたものの、誰も何も言わなかった。そろそろこの銀髪がまともな教師じゃないことに気がついたらしい子供達。まぁ、ここまで引っ掛け問題しか出さない奴がまともな教師だなんてことは絶対にありえないというかむしろ居たら嫌なわけだが、それはさておき。
 新八のツッコミに対し、「あー、はいはい」と適当な相槌を打つ銀時。

 「わーったよ。ちゃんと授業やりゃいいんだろーが」

 後頭部をカリカリと掻きながら、銀時は子供達を見回す。そんな銀時を子供達は黙って見つめ、ようやくまともな授業が始まるらしいと悟った子供達。子供達の視線を一身に受け、銀時はゴホンとわざとらしく咳をする。

 「あー、それではこれから保健体育の授業を始めたいと思いまーす。さし当たってはどうやって子供が出来るのかを勉強―――」
 「銀さぁぁぁぁあああああん!!? それアウト!! 色々アウトだから!!」

 しっかりと飛ぶ新八のツッコミ。だがしかし、そんなことに気にも留めず、天子に視線を向ける銀時。

 「そんなわけで、今から実践しようと思います。はい天八先せー、服脱いでこっちこ―――」

 皆まで言うことなく、銀時の言葉はゴシャッというなんか砕けたような音で中断されることとなった。犯人はもちろん比那名居天子。要石を銀時の顔面に叩きつけ、ニコニコ笑顔ながらしっかりと青筋を立てている。
 そして当然のように、要石が砕け散った後には顔面血だらけの銀時が居るわけで。

 「銀八先生。セクハラ発言はどうかと思います。次やったら問答無用で殺しますよ?」
 「ばっか冗談だよオメー。オメーみたいな貧相な胸の奴とか興味ないから銀さんは」

 言わなくていいのにまた地雷を踏む銀時。当然のように繰り出されたハイキックが銀時のこめかみに命中し、「アベシッ!!」という奇妙な悲鳴と共にノックダウン。恐ろしく切れのあるハイキックを目にして、一同「おぉ!」だの「姉ちゃんスゲェ!!」だの歓声が上がる教室内。崩れ落ちた銀時の頭を踏みつけ、「ブフッ!!?」という悲鳴を聞かなかったことにして、にこやかに教室中を見回す天八先生。でも悲しきかな、目はコレッぽっちも笑っちゃあいねぇのである。
 そしてやっぱりこの天人くずれ、足癖がわりぃのであった。

 「はい。子供の作り方はさておきまして、一応幻想郷の歴史について勉強しましょう」

 皆まで言わせねぇ。何か言おうものならブッチKILLという気配をありありと漂わせながら、声の質は穏やかに、しかしその笑顔は恐ろしく冷たい相貌で一同を見回している天子。そんな彼女に逆らえる人間がこの場にいるわけも無く、コクコクと首がもげそうな勢いでうなずく子供達。


 そんなわけで、銀時たちよろず屋メンバーの仕事はつつがなく(?)進んでいったのである。


 ■■■■■


 時刻は既に昼。用事を終えて、寺子屋に戻った慧音は、子供達とよろず屋のメンバーが居るであろう場所に足を速めた。予定よりも早く用事が終わったということもあり、これ以上あのメンバーに迷惑をかけるわけにもいかないと足を速める。教室にまでたどり着き、窓から様子を伺ってみると、そこには楽しそうに授業を受ける子供達の姿があった。

 (……よかった。ちゃんとやってくれていたんだな、彼らは)

 そう思って、その光景をもう少し眺めていたくなった。そこには笑顔が溢れており、慧音が授業をするときにはそんな顔をしている生徒はほとんどいなかった。
 自分でも、楽しい授業をやるということが苦手で、なにか面白い話もしてやれない。それは、慧音が持つ一つの負い目……というより、悩みといったほうが正しいのかもしれない。だから、その光景は、とてもまぶしいものに感じてしまう。
 ……のだが、

 「はい、そろそろお昼の時間なんでー、今日のおさらいをしようかと思います。はい、1+1=?」
 『田んぼの田ー!!』

 その一言でずっこけた。もうそりゃあ盛大に。近年のお笑い会でも見られないような見事なこけ方だった。審査員とかいたなら間違いなく皆、満点をつけたに違いない。そのおかげで床に後頭部を強打し、あまりの痛さにごろごろと転げまわる羽目になった。
 そんな大きな音に視線を廊下のほうに向ける一同だったが、銀時だけは我関せずを貫き、「はい正解」と言葉にしていたりする。
 痛みが治まってきたところで、ガタッと立ち上がる上白沢慧音。なんか凄い形相のまま歩き出し、教室のドアを開けて銀時に一直線。そのまま銀時の顔面にワンパンチ!
 「グハっ!!?」という短い悲鳴と共に倒れそうになる銀時の胸倉を掴んで引き寄せて、慧音はドスの利いた声で銀時に言葉を投げかける。

 「何をやっているんだお前は?」

 もちろん、目が笑っていない。なまじ美人が凄むと怖いといういい見本である。しっかりと青筋を浮かべて、件の張本人を締め上げようと腕の力を強めていく。
 ちなみに、この間に新八と神楽は教室内から子供達を外の広場に誘導する。「さ、皆外で遊ぼうねー」なんて呼びかけながら、いち早くこの危険空間から子供達を退避させる。ちなみに、天子もそれに混じって手早く退避。銀時を見捨ててあっさりと逃亡したのである。

 「いやね、銀さんは今のうちに大人の汚さを教えようとですね……」
 「子供のうちからそんなこと教えてどうするんだ!! アレか!? ワザとか貴様!!?」

 ガックンガっクンと頭を揺らす。いい具合に脳みそがシェイクされていく坂田銀時だったが、それにも負けず一応言葉にする。

 「いやね、銀さんもがんばったんですよ? 後は子供達の前で子作りの実践をするしか銀さん浮かばなくてですね……」
 「ふんっ!!」

 メゴシャッ!! という鈍い音が教室中に響く。慧音の放った頭突きはいい具合に銀時の眼に命中した。

 「痛ッ!!? 痛いんですけど!? 目に頭突きはちょっとしゃれにならないんですけどコレ!? 破裂してない!? 銀さんのお目々が破裂してなーい!!?」
 「うるさい!! そこに直れ!! 貴様に一般常識というものを叩き込んでやる!!」

 そんなわけで慧音先生のお説教タイムに突入していく教室内。そこにはとっくに二人しか残っておらず、新八も神楽も自業自得って言うことで早々に避難した。
 外に集まって早くも遊びに興じる子供達。教室のほうから時折聞こえてくる銀時の悲鳴は全員が黙殺した。誰も地雷は踏みたくないものである。というか、災難に自分から首を突っ込むのは愚者のすることだということを学んだだけでも、銀時の授業には価値があったのかもしれない。













 「…すまん、やりすぎた」

 色々と説教が終わって外の広場に顔を出した慧音が、一緒に出てきた銀時に向かってそんな一言をつむいでいた。
 何しろ、今の銀時の状態がかなり愉快なことになっている。頭突きを連続で受けたことによって頭がカチ割れてぴゅーぴゅーと血を噴出して顔面血まみれだし、ところどころぼろぼろになったその様は、なんというか死亡一歩手前なようにしか見えなかったのである。
 さすがにばつが悪かったのか、素直に頭を下げる慧音先生。そしてそんな彼女の様子にも動じないで、銀時はすぐそばにあった、木で作られたベンチのように横に長く作られた形をした椅子に腰掛けた。

 「別にいいって。もう気にしちゃいねーよ。あんたが怒るのも、まぁ当然だったかも知れねぇしな」

 取り出したハンカチで頭を拭く銀時。そしてあっという間に赤に染まっていくハンカチ。あー、こりゃ洗濯しても落ちねぇなぁなんてぼんやりと思いながら、銀時は目の前の光景に視線を向けている。慧音もその視線を追って、眼前の光景に視線を向けた。

 元気にはしゃぎまわる子供達。その相手をしているのは、神楽や新八、そして天子と定春達。

 「姉ちゃん姉ちゃん。そのおッきな犬にかまれてるけど痛くないの?」
 「痛くないわ。むしろなんかこう……ゾクゾクって来るものがあって気持ちよかったりするわよ? 試してみる?」
 「やめんかぁぁあああああ!! それアンタだけだから!! あんたしか来ないからそのゾクゾクとした快感なんざァァアアアアアアア!!」

 後頭部をガップリと定春にかまれている天子。その様子を心配げにしている子供達の言葉に、天子は血まみれになりながらにこやかに言葉にして、それを新八がツッコミを入れる。神楽は子供達と一緒に縄跳び辺りに興じており、それなりに馴染んでいる様子だった。
 子供達は皆笑顔で、楽しそうにはしゃぎまわっている。そんな様子を眺めながら、慧音がポツリと言葉にする。

 「……私は、教師には向いていないのかもしれないな」

 それは、誰に向けられた言葉だったのか、それとも自分自身に向けた言葉だったのか。少なくとも、銀時はそれに答えず、聞いているのか聞いていないのか、ただ眼前の光景に視線を向けているだけだ。
 思い出すのは、先ほどの授業風景。授業内容こそアレだったものの、そこには確かに笑顔があって、皆楽しそうに授業を受けていた。楽しくない授業なんて、それこそ苦痛にしかならない。それがわかってはいるものの、自分ではその楽しい話というものがどうも苦手だった。
 性根が真面目なこともあって、面白おかしい話というものが苦手で。淡々と真面目な授業を繰り返すことしか出来ない自分が、どうにも恨めしかった。
 自分には出来ない、授業中に笑顔を浮かべさせるという光景。その内容がアレだったとしても、やっぱり、その光景はうらやましかった。

 「面白いことなんて何一ついえない。真面目な授業ばかりで、先生の授業はつまらないって何度も言われたこともある。楽しい話の一つでも出来ればいいんだが……難しいものだよ、教師というものは」

 静かに続く独白。それは、ただ自分の不甲斐なさを悔いるように紡がれて、空気に乗せて、やがて消える。自分の欠点。自分が直すべき場所。それがわかっていながら、うまくいかないもどかしさ。

 「いいんじゃねぇの。アンタはそれでよ」

 そのもどかしさを、まるで消し去るかのように銀時は言葉をつむぐ。驚いて慧音が彼を見れば、相変わらず死んだ魚のような目をした男は、ただ眼前の子供達を眺めているだけで、慧音には視線を移さない。

 「教師なんて真面目なくらいで丁度いいんだよ。俺みたいに不真面目な奴がやったって、何にも身になりゃしねぇ。アンタは、子供たちのことを考えて教師やってんだろ?
 なら、それでいいじゃねぇか。アンタの性格なら親身になって子供達を教えてるだろうし、それに自ずと子供達も応えてくれるってもんだ」

 いつものふざけたような言葉ではなく、ただただ染み渡るような言葉。それを耳に受け入れながら、しかし、慧音は少し俯いて、視線を銀時から逸らした。

 「しかし、私は―――」
 「半分妖怪だから……ってか? どうでもいいんじゃねぇの、そんなの。少なくとも、この寺子屋にそんなこと気にしてる奴なんざ居ねぇだろうし、里の連中だってアンタのことには感謝してるからな。それは、アンタが勝ち取った信頼ってもんだろ?
 半分妖怪だろうが関係ねぇ。上白沢慧音は、間違いなく教育者として大切なものは持ってるんだ。それは素直に、誇れるべきところだと思いますけどね、銀さんは」

 なんでもないように返される言葉。その言葉に、どうしてか何か救われたような気がしてくる。
 いつも里の人々に感じていた不安。自分が半分妖怪……ワーハクタクであるという負い目。それすらも、この男はそんな適当な言葉使いであるというのに、不思議と安らぎを与えてくれた。
 銀時が素直に思い、直に感じた上白沢慧音という少女に対する印象、紛れも無い本心。それが、慧音の心に深く浸透して、ゆっくりと波紋を広げていく。
 そんな時、広場のほうから何人かの子供達が慧音に駆け寄ってくる。その子供達は慧音の手を掴んで楽しそうな笑顔を浮かべていた。

 「慧音先生。慧音先生も遊ぼうよ」
 「し、しかし、私は―――」
 「いいっていいって。行ってきなさいよ慧音先せー。銀さんはここで眺めてるから、遠慮なく慧音先生を拉致って行きなさいチミ達」

 子供達の言葉に、慧音は戸惑うものの、それを銀時が後押しする形で強制的に行かせる。子供達に連れられていく間際、慧音は笑顔を浮かべて小さく言葉を銀時につむいでいた。
 あとは、彼女は遠慮なく子供達の輪に入っていく。新八が定春に頭から食われ、その光景を大笑いする慧音以外の一同。慌てて助けに入ろうとする慧音に、そんな光景を大笑いしながら楽しんでいる天子と神楽。
 騒がしくて、あわただしい光景。それに様子を見に来た阿求も加わったもんだから、余計と場は混沌とした現状を作り上げていく。
 そんな様子を、遠巻きに眺めている糖尿病一歩手前のマダオ。

 「ありがとう…ねぇ」

 ポツリと呟いて、空を見上げる。それは、慧音が子供達に連れて行かれる間際に、銀時に紡いだ言葉。別に思ったことを口にしただけで、それが効果があったのかは微妙だとおもっていただけに、その言葉は不意打ちだったらしい。ボーっと空を見上げれば、この上なく快晴の青空が広がっている。
 いつから教師に助言できるほど偉くなっちまったのかねぇなんて間の抜けたことを思いながら、銀時は空を見上げて、ポツリと一言。

 「あー、ジャンプ読みてぇ」

 いつものマダオに逆戻り。銀八先生の役割もこれで終わりだと理解しながら、空をぼんやりと眺めて、最近まったく読めなくなった趣味の一つに思いをはせる。
 こうして、よろず屋の初仕事はさまざまな騒動がありはしたものの、無事に終了したのであった。


 ■あとがき■
 今回はちょっといい話を目指してがんばってみた。でもやっぱり納得のいかない出来に。いい話に出来ているのかどうかも自信がないという罠。
 学校の教師を請け負う話でしたが、いかがだったでしょうか? 東方らしさも残せたらいいんですけど、今のところ銀魂色のほうが強いかな?
 東方のキャラは色々出せたらいいなぁとは、個人的に思っています。
 今回はこの辺で。意見、感想、指摘等ありましたら、遠慮なくいってください。
 それでは。



[3137] 東方よろず屋 第三話「花が咲くときは花粉症に気をつけろ!!」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/06/23 21:27
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください















 「とぉ、いうわけでございましてぇ!! 是非とも太陽の畑に巣くう花を操る最悪の妖怪を退治していただきたいぃぃぃいいい!!」

 よろず屋に訪れた今日の来客が満ちかけてきた内容は、つまるとこそういった内容のものだった。
 そんな依頼人の話を聞いているよろずやメンバーは、そのあまりにもでかい音量の声に耳を塞ぎながら、何とか話を聞いている。
 そのよろず屋メンバーの中に、今日は天子の姿が無い。今日は用事があってこれないのだそうだ。
 そういうわけで、元の世界でよろず屋を営んでいたこのメンツで、今日も相変わらず依頼を受けているのだが、よりにもよって妖怪退治という依頼が来てしまったのである。
 ここ幻想郷には、退治やら何やらには独特な決闘方法を用いる。
 それが、スペルカードルールという、この世界独自の文化だ。

 まず一つ目、スペルカードとは自分の得意技に名前をつけたもので、使うときは宣言してから使う必要がある。

 二つ目、お互いのカード枚数は予め決闘前に提示しなければならない。

 三つ目、手持ちのカードがすべて破られると負けを認めなければいけない。

 四つ目、勝者は決闘前に決めた報酬以外は受け取らない。相手が提示した報酬が気に食わなければ断ることが出来る。

 五つ目、勝者は敗者の再戦の希望を、積極的に受けるようにする。

 そして六つ目、不慮の事故は覚悟しておく。

 大雑把に言えば、スペルカードルールというのはこのようなもので、生憎銀時たちはそういったスペルカードなどといった類のものを持っていない。
 故に、彼らが決闘を行う場合、自然と他の方法に限られる。例えば銀時であるのなら、せいぜい接近戦のガチンコ勝負がいとこなのだ。
 この場に天子がいれば、そういったスペルカードルールで決闘を挑んでもらって、銀時たちは適当に観戦するといったことも出来たのだったが……。

 「期日は今日まで!! 出来れば早急にお願いいたしたい!!」

 こういわれては、唯一スペルカードルール、要するに弾幕ごっこで勝負が出来る比那名居天子不在のまま妖怪退治に向かわなければならない。
 それはいくらなんでもマズイ。何しろこっちの世界に来たときに、博麗の巫女である博麗霊夢から、口すっぱく言われたことの一つが、「妖怪相手に弾幕勝負以外で決闘をしないこと」だったのだ。
 実力差こそあるものの、スペルカードルールによる決闘は、種族問わずほぼ対等な勝負が出来て、見た目も美しく派手であるという理由から、この幻想郷では人気の決闘法である。しかし、それが出来ない以上、身体能力が尋常じゃない者も居る妖怪相手に、殴り合いだとかそういった決闘を申し込むほか無いのである。

 「出来れば明日まで待って欲しいんですがねぇ。家の弾幕要因が今日は休んですよ~、これ。正直俺たちじゃ荷が重い……」
 「そぉですか!! 引き受けてくださいますか!! さすがよろず屋!! 噂に違わぬ豪傑でございますな !!!!」
 「おーい、人の話し聞いてる? 聞いてますか? なんかどっかのダレカさんを彷彿させるんですけどこの人。というかいつ噂になったの銀さん? 豪傑とか明らかに嘘だよね? 銀さんまだ戦ってないもの」

 そして最悪なことに人の話をまったく聞きゃぁしねぇ依頼人。いつぞやの鍛冶屋兄弟の片割れを思い出しながら、銀時は問いかけるがまったくといっていいほど効果な無い。

 「それでは!! 私は急ぎの用事がありますのでこれで!!」
 「ちょと待てい!!? 無視!? また無視ですか!? 銀さんの意見は徹底的に無視ですか!? 本当にどっかのダレカさんを彷彿させるんですけどもこの人!! ていうか待てッつってんだろオイィィィィイイイイ!!」

 言うが早いか、依頼人のオッサンはあっさりと玄関から外に飛び出し、ばびゅーんなんて聞こえてきそうなスピードであっさりと見えなくなる。
 そして残される三人と一匹。ため息をついたのは一体誰だったのか、それに答えるだけの気力が残っている人間は、この場にはいなかったのである。





 ■東方よろず屋■
 ■第三話「花が咲くときは花粉症に気をつけろ!!」■




 「はい、というわけで銀さん達は太陽の畑に来ていまーす」
 「……銀さん。誰にしゃべってるんですか?」

 あらぬ方向に向けてしゃべる銀時に向かって、新八が冷たい目を向けながらツッコミを入れる。銀時、新八、神楽、定春、三人と一匹の視界の先には、あたり一面視界いっぱいに植えられた向日葵が今か今かとツボミを膨らませていた。
 まだ夏にはなっていないので当然といえば当然、花など咲いてはいないのだが、それにしてもここに植えられている向日葵は随分と成長が早いらしい。まだ暦で言えば春のはずだが、この分だともう少しで花が咲きそうな勢いだ。

 「僕いやな予感がするんですけど、どうするつもりなんですか、銀さん。僕達、霊夢ちゃんたちみたいに弾幕勝負なんて出来ないですよ?」
 「わーってるよ、んなもん。受けちまったもんは仕方ねーだろうが。オイ神楽、あっきゅんから教えてもらった情報、なんて書いてある?」

 新八の言葉に、いつものようなやる気の無い言葉を返し、稗田阿求からもらった情報と、里からここまでの道のりが書かれた地図をもった神楽に言葉を投げかける。

 「んーっと、銀ちゃん。この紙には『花の妖怪は幻想郷最強クラスの妖怪である。間違っても退治しようなどとは思ってはいけない。自殺行為である』とか書いてアルヨ」
 『………』

 神楽の読み上げた言葉に、思わず沈黙する銀時と新八。そういえば、事の説明をしたときに阿求がものすごく裏のありそうないい笑顔で「がんばっ!」などと親指をサムズアップしていたことを思い出す。
 これから退治するべき妖怪は、残念ながら二人が思っていた以上にパンチの利いた存在らしい。

 (オイオイオイ、冗談じゃねぇぞ。幻想郷最強? なんだってそんなものの退治依頼が俺んとこに来るんだよ)

 冷や汗流しながら、太陽の畑に視線を向ける。あー嫌だ嫌だと、早くもモチベーションが下がってきたらしい。無理も無いかもしれないが。

 (大体、花の妖怪って外見の特徴も何もわかんねぇんじゃどうしようもねぇじゃねぇか。あれか? 花で最強っつーぐらいだから……)

 もやもやと思考に埋没する。花を操る最強の妖怪というものを想像していくと―――悲しきかな、銀時の想像力はとんでもないものを連想してしまったのである。
 まぁ、平たく言えば。隣の屁怒絽さんを想像してしまったわけで。

 花を操る→花屋。
 最強→顔がまさに最恐。
 妖怪→顔が(以下略

 「……新八君。やっぱ帰ろうか」
 「オィィィイイイイ!! 早ぇぇんですけどこのマダオが!! せめてもう少し真面目に仕事しろよ頼むから!!」
 「ばっかオメェ!! となりの屁怒絽みたいなの出てきたらどうするんだッツーの!! 花で最強とか銀さん一発であれに変換しちまったんですけどもぉ!!?」
 「知るかァァぁああああああああああああ!!」

 ここに来て勃発する毎回恒例のマダオVSメガネ。しかしながら観戦者はここには誰もいない。神楽は目の前の太陽の畑に視線を向けているのみである。
 だからこそ気付いたのだろう。今はまだ咲いていない向日葵畑の前で、ぽつんと佇む日傘を差した少女の姿があった。

 「銀ちゃん。あそこに誰かいるアルヨ」
 「あん?」

 神楽の言葉に視線を向けると、確かに日傘を差した少女の姿がある。

 「どうします? あの人に聞いてみましょうか?」
 「しょーがねぇな。いくぞ~、オメェら」

 新八の言葉に、銀時は相変わらずのやる気ゼロの声で足を動かす。そんな彼のあとを追って、新八と神楽、定春も向日葵畑に足を向けた。
 ある程度近づいてみると、確かにその少女は未だに咲かない向日葵たちに視線を向けていた。
 あとその少女との距離まで2mほどのところまで近づいてみると、銀時が言葉を投げかけた。

 「すんませーん。ちょっと聞きたいことがあるんですけども~」

 そんな気のない声に、少女はふわりと振り返って、その顔を銀時たちに向けた。
 鮮やかな深緑の緩やかなセミロング。色の白い肌。人形のように整った顔立ちの少女は、不思議そうに銀時たちに視線を向け、にっこりと笑顔を浮かべた。

 「何か御用かしら?」

 穏やかな物腰。鈴のような声を耳にして、銀時は改めて思う。こっちの世界、美少女とか美人の類が多すぎじゃね? とかなんとか。
 事実、目の前の少女は文句なしに美少女の類だし、その証拠にそういうことに免疫が無い新八が顔を真っ赤にしているのが気配でわかる。

 「新八~。顔赤いあるよ~。ぶっちゃけキモイからさっさと素面にもどれよ眼鏡が」
 「って、ちょっとぉ!! ぶっちゃけすぎだろそれ!! ていうかなんでそんないきなり言葉が辛辣なの!?」

 とかなんとか、銀時の後ろのやり取りはひとまず置いておいて……。

 「いやね、花を操る妖怪を退治しに来たんですけどねぇ。多分、頭に花と角生やして顔が真緑のごっつーい顔した―――」
 「オィィィィイイイイイ!! だからそれはアンタの勝手な妄想だろうがァァァアアアアア!!」

 銀時の言葉にすぐさま飛ぶ新八のツッコミ。そんな光景を視界に納めたまま―――



 「……へぇ~」



 ゾクリと、底冷えするような冷たい声で、少女は言葉にした。
 相変わらず少女は笑顔だ。笑顔なんだけれど、額にはうっすらと青筋が浮かんでいるようにも見えなくも無い。不思議な迫力に、思わず一歩下がる銀時。

 「あれ? あれあれ? 俺なんか言った? 銀さん何かまずいこと言った!!?」
 「えぇ、とっても。『私を退治に来た』なんてだけでもアレなのに、面と向かって言葉でそんな侮辱をされればねぇ…。要するに喧嘩売ってるのよね、貴方」

 うろたえる銀時に、クスクスと笑う目の前の少女。そんな彼女を、冷や汗だらだら垂らしながら見つめているよろず屋メンバー。
 何しろ、彼女からにじみ出る殺気が半端じゃない。相当頭にきているらしく、笑顔のまま信じられない殺意をぶちまけていた。

 「も、もしかして……アンタが?」
 「えぇ、その通りよ。私は風見幽香。貴方達がお探しの、花を操る妖怪ですわ」

 銀時の言葉に、少女……風見幽香は笑顔のまま、なれた動作で赤いチェック柄のスカートの裾を掴んで会釈した。

 (おいおい。顔よくて礼儀正しくてそのうえ最強とかどんな完璧超人ですか? あ、妖怪だったっけ?)

 微妙にテンパッている銀時。そんな彼の心情を理解しているのかいないのか、幽香はにっこりと笑顔を浮かべたまま、一歩前に足を踏み出した。

 「普通なら貴方みたいな弱そうなのは相手にしないんだけど、今日は特別ね。それで、スペルカードは何枚まで?」
 「あー、……ワリィけど俺たち誰一人としてスペルカードなんて大層なもんは持っちゃいねーぞ。持ってるとしたら、この木刀ぐらいなもんだ」

 そういって、腰にさしていた洞爺湖とかかれた木刀を肩に担ぐ。そんな銀時の言葉に、幽香は笑顔を崩して、ぱちくりと信じられないものを見たような目で銀時を見る。いや、むしろ珍獣か何かを見るような目であったといっていいかもしれない。

 「それって、つまり私に接近戦を挑むっていうこと?  ……あなた正気?」
 「仕方ねぇだろーが。無いもんは無いんだし、依頼は期限が今日までなんでね。生憎、家の弾幕要因は今日はお休みなもんでね。代わりに俺が体張って仕事するしかねーだろーが」

 そう紡ぐ銀時の言葉にも、イマイチやる気は感じられない。こうなんというか生きる気あるんだろうかと思うほど目が死んでるやつって言うのも結構珍しいと思う。

 「そう。世知辛いわね」
 「世知辛いんですよー、世の中。それで、決闘は受けてくれるのか?」

 幽香の言葉に軽口を返し、銀時は改めて彼女に問いかける。
 クスリと、少女は笑って日傘を閉じると、銀時に改めて視線を向けた。

 「いいわ。受けましょう、その決闘。その代わり、弾幕とまではいかないけれど、私は遠距離攻撃もそれなりに使わせてもらうから、死んでも知らないわよ?」
 「へーへー、それじゃ、死なない程度にがんばりますかね。おい、新八、神楽、オメェら下がってろ」

 シッシッと手で追っ払う銀時。何か言いたそうにしていたが、おとなしく新八たちは銀時と幽香から離れていく。10mほど離れただろうか。ここまでくれば大丈夫だと思ったのだが、幽香は大きな声で二人に言葉を投げかける。

 「まだ足りないわ。もうちょっと離れなさい」
 「だとさ、新八。ほれ、早くしろよ~」

 更に下がっていく二人と一匹。それを見届けてから、「まぁいいでしょう」なんて呟いて、幽香は銀時に視線を向けた。

 「馬鹿ね。仕事だからってむざむざ命を落とすこと無いのに」
 「別に、死ぬつもりなんかねぇよ。マジでやばくなったら、尻尾巻いて逃げすさ」

 本気なのか冗談なのか、どちらともつかない言動。やる気があるのか無いのか、飄々とした雰囲気のこの男は、やる気なく木刀を腰溜めに構える。
 まったく不思議な男だと思いながら、幽香はクスっと笑って傘を眼前に突き出す。なんてことはない日傘のはずなのに、まるで真剣と相対したかのような緊張感。

 「えぇ、そうしなさい。死にたくなかったらね!!」

 幽香がつむぐその言葉が、この決闘の幕開けの号砲の代わりとなって、二人をすぐさま行動に移させていた。














 二人の姿が霞み、ガッという硬いものがぶつかった音が太陽の畑に鳴り響く。木刀と日傘がせめぎ合い、視線の先にはお互い敵の姿が視界に映る。
 ぎちぎちと、銀時の腕の筋肉が悲鳴を上げる。木刀からもミシミシという音が聞こえてきて、ことのしだいを伝えてくる。
 自分よりも背丈が低い少女に、一体どこにそんな力があるというのか、銀時が圧倒的に押されつつあった。

 「おいおい、マジでトンデモネェなこっちの連中は。そんななりしてまぁ、あんたどんだけ怪力さんですかね?」
 「女の子に怪力扱いは頂けないわね。もう少し、女の子の扱いを勉強されては?」
 「へいへい、そうさせてもらいますか、ね!!」

 力をうまく受け流して、日傘を地面に激突させる。その余波で巻き上がった衝撃だけで体が泳ぎ、咄嗟に飛びのけば、切り替えしのように放たれた幽香の日傘が、銀時の腹を掠める。
 それだけで裂ける肌。着物が少し破れてうっすらと血が滲んだ肌が晒される。

 「ちょっとぉ!! これ一張羅なんだけどどうしてくれんの!?」
 「知らないわよ!」

 傘を真横に振るう。何もなかった空間から巨大な花が出現し、高速で回転しながら大地を抉って銀時に直進する。
 無論、鋭利な傷跡を残していくそんなものにあたるつもりなどなく、それを紙一重でかわしながら、コチラも人間にしては信じられない速度で幽香に接近する。
 ガンッと、木刀と傘が打ち合い、二人の位置が入れ替わるようにじりじりと移動して、そして弾かれるように距離をとる。少女は綺麗に着地し、銀時は片膝をつきながらの着地。
 銀時が体勢を立て直す間も与えず、幽香は、文字通り人外さながらのスピードを披露する。
 10mもの間合いを、この少女は一秒とかけずにゼロにした。
 再び打ち合われる木刀と日傘。さっきから信じられない力で叩きつけられているというのに、その傘は傷一つ付くことなく凶器として機能している。
 上段から振り下ろされた一撃を、銀時はかろうじて受け止めていたが、じりじりと押されていく。
 このまま力負けすれば、その日傘で真っ二つにされる。それが当然のように理解できて、冷や汗が流れるのをとめることが出来ないでいた。

 「慣れてるわね、接近戦。少し面白くなってきたかも」
 「そりゃどうも。こっちは必死ですよまったく」

 軽口を叩く銀時に、幽香はクスリと笑う。
 実際、人間でこの男ほど接近戦が出来る奴を、幽香は知らない。しかも、この男は明らかに接近戦に慣れている。
 必ず当たると思ったはずのこの攻撃を、この男は咄嗟に受け止めて見せた。
 考えての行動じゃない。体が勝手に反応したといった感じだ。つまりそれだけ、この男は接近戦で戦い続け、しかもそれなりに修羅場をくぐってきたということになる。
 人間にしては最上級クラスの身体能力もそうだし、この事実が幽香を予想以上に楽しませていた。
 最初は目の前の人間を懲らしめてやろう位の心算だった。あそこまで馬鹿にされた発言をされて、黙っていられるほど幽香は人がいいわけじゃない。だから、現実というものを教えてやろうと思ったわけだけど、それがどうして、その怒りという感情が今は綺麗さっぱり消えてしまっている。
 ここ最近、弾幕勝負ばかりで体がなまっているというのもあったかもしれない。だから、久しぶりに体を大きく動かすという今の状態が、たまらなく気持ちがいい。
 しかも、目の前の男は人間でありながら、自分の動きにしっかりと反応している。
 これを、楽しまずになんとしろというのか?

 「いいわ、貴方。接近戦限定だけれど、人間相手にこんなに楽しい気分になったのは霊夢や魔理沙以来だわ」
 「生憎だな。こっちは全然楽しくねぇっての!!」

 木刀をうまく動かし、日傘の軌道を逸らす。その隙に転がるように移動しながら立ち上がり、銀時は木刀を構え……。


 もう既に、目の前にまで接近している幽香の姿に愕然とした。


 「んな!?」

 咄嗟に木刀を盾にする。信じられない速度で繰り出された突きは銀時の体を、それこそ車に引かれたかのように吹き飛ばしたのだ。
 もし生身で受ければ、直撃した箇所が綺麗に貫通していただろう。この戦闘反射とも言うべき自分の反応に、銀時は素直に感謝したい気分になりたかったが、現実そうもいっていられない。
 今度は三つの花の刃。それが三方向から銀時に襲い掛かり、その刃に、潜り込むようにして回避して、再び幽香に走っていく。

 「ほらよっ!!」

 構えも何もない。手数の多さで責め立てる乱打。急所に狙うわけじゃなく、どこかに当たればいいという乱雑な攻撃。だが、その一つ一つが速く、幽香もその木刀を受け止めるのに意識を集中させる。
 連続的になる硬い音。それを耳に届けながら、銀時は蹴りを放った。

 ふわりと音がしそうなほどの優雅さで、幽香は後ろに跳躍することでその攻撃を回避する。
 はたから見れば目で追うのがやっとの光景、その光景を見ている新八と神楽は、一体何を思うだろうか?

 地面に着地した瞬間、幽香は信じられない神速を持って銀時に接近する。
 繰り出される傘による斬撃は、それこそ視認することが難しいような信じられない速度。
 蹴りを繰り出した状態で体制を崩している銀時には、その攻撃は致命的な一撃だった。かわすすべなんて無い。みっともない格好のままよけたところで、続く第二撃に討ち取られる。
 完全なチェックメイト。そう誰もが思ったはずだ。

 遠くで、あの二人が銀時の名を叫ぶ。それだけその状況は、絶望的な光景のはずだった。
 流れていく景色。まるでスロー再生されているかのような時間の乖離の中、幽香はその光景に驚愕することになった。


 不完全な体制のまま銀時はその一撃を木刀で受け、力に逆らわず受け流した。


 「なっ!?」

 完全に勝ったという心の油断。わずかあの瞬間に、この男は更にその動きを加速させた。
 視界の先には、ゾクリとするような眼をした男の姿がある。
 コイツが、本当に先ほどの男と同じなのだろうか? その冷たい眼が、幽香を見据えて、見下ろしている。
 死んだ魚のような目をした男は、今この一瞬だけかつての面影を取り戻す。
 白夜叉。かつて攘夷志士だった男の、鋭利で冷徹な視線が幽香を捕らえて離さない。

 日傘が地面に突き刺さりつんのめる。それは、逃れようのない完全な隙だった。
 振り下ろされる木刀。それを、愕然とした表情のまま視界に納めて―――




 ピタリと、男は木刀を直前で止めた。




 「はい、終了。銀さんつかれましたよー」

 あっけらかんと、銀時は口にして木刀を腰に戻した。幽香にその木刀が直撃することもなく、男はやる気なさ気に背中を向けた。
 その眼は、先ほど幽香が見た鋭利な目などではなく、元の死んだ魚のような目に戻っていた。

 「…どういうつもり? 弱っちい人間の癖に、私に情けをかけるっていうの。私はあんな攻撃でやられたりしないし、負けたりなんてしないわ。なんで―――」

 憮然とした言葉。怒りと共に戸惑いのこもった声を銀時に投げかける。
 幽香の言葉は事実だ。確かに、あれが直撃すればある程度は痛いだろうし、怪我もするかもしれない。だが、勝ち負けとは別の話だ。実際、あれを受けてもまだ彼女は戦えた。
 それは、この男だってわかっているはずだ。なのになんで―――

 「俺たちの依頼は、最悪の妖怪を退治するってもんだ。ここには、そんな最悪の妖怪なんて居なかったッてだけの話だよ」
 「……どういう意味?」

 納得がいかないと、幽香は言葉をつむぐ。銀時はそんな彼女に視線を向け、彼女の後ろにある向日葵畑に指をさした。

 「俺の背後に向日葵があるとき、あんたあの遠距離攻撃してこなかっただろ? それも何度もだ。距離が開いてるっていうのに、何の迷いもなく接近戦を仕掛けてきやがる。
 それで銀さんは直感したんですよ。あぁ、コイツはこの向日葵畑を傷つけたくないんだってな」

 その言葉に、幽香は小さく息を呑む。
 彼のいうとおり、幽香は銀時の背後に向日葵があるとき、遠距離攻撃を使わなかった。
 それは、彼女がこれから咲くであろう向日葵を傷つけたくなかった。確かにその通りだ。
 この男は、この短い時間に……そのことに気付いたっていうのか?

 「表情見りゃすぐにわかる。大事なんだろ、この向日葵がよ。向日葵を傷つけないように気をつけて戦うような奴が、【最悪の妖怪】だとは思わねぇし、根っこから悪い奴だとは思わねぇよ。俺は」

 その言葉に、また眼をぱちくりとさせるしかない幽香。
 人間からそんな言葉を聞くことになるとは思わなかった。少なくとも、里の人間達は、幽香のことをそう評価することはあるまい。
 霊夢や、魔理沙ばかりだと思っていた。自分に、悪い妖怪以外の評価をつけたこの人間に、不覚にも、幽香は驚きを隠せないで居た。
 クスクスと笑う。笑いが零れて、この男のバカさ加減に大笑いしたい気持ちを、必死に抑えて彼を見た。

 「変な奴」
 「そりゃないんじゃない? まぁ、いいけどよ。おーい、新八、神楽。帰んぞ~」

 やる気のない足取りで、銀時は二人に歩み寄っていく。そんな彼の後姿を眺めながら、幽香はくすくすと笑って、三人と一匹の姿を見送った。
 なんか妙な終わりになったもんだけれど、まぁいいかとも思う。たまにはこういうのも悪くないと思いながら、先ほどから覗いている誰かに視線を向けた。


 「それで、いい加減出てきたらどうかしら?」
 「ひっ!?」

 情けない悲鳴。腰を抜かした男が、向日葵畑の陰に隠れていた。
 その手元には、弓矢が握られている辺り、だまし討ちするつもりだったんだろうが、生憎それよりも先に決着がついてしまったということか。
 その男は、銀時に依頼を持ちかけてきた男だった。

 「決闘に横槍はよくないわね。覚悟は出来てるんでしょう?」

 くすくすと笑いながら、男に近づいていく。這いずるように逃げ出す辺り、腰が抜けてしまったのか。
 まぁ、どうでもいいやと思いながら、幽香はその男の背中を踏みつける。
 ひぃっ、という情けない悲鳴。幽香は満面の笑みを浮かべながら、踏みつけている男を見下ろして―――






 「今夜は、久しぶりに人間でも食べてみようかしら」






 そんな、恐ろしい一言を紡いで、傘を遠慮なく、その男に突き立てた。





























 「……で?」

 翌日、よろず屋で天子の不機嫌そうな声が上がる。彼女の視線の先には、どういうわけか、椅子に座ってお茶を嗜む風見幽香の姿があった。

 「どういうこと、これ?」

 ジト眼で銀時を睨みつけながら、天子は言葉にする。一方の銀時は、一体どこで仕入れてきたのかジャンプを片手に無視を決め込んでいる。

 「新八~、やっぱ俺も【卍解】とか使えるべきかね?」
 「そうね、使えたらいいわねぇ。そうしたら、ちゃんと私に身体能力で勝てるかもしれないわね」
 「聞いてよ!! ていうかなんでそんなに馴染んでんのよ!? 意味わかんないんだけど!!」

 銀時の言葉に、新八の代わりに幽香が答え、そのあまりの馴染みっぷりに切れる天子。

 「天子ちゃん。実は昨日色々あってね、幽香さんは今日から家で手伝いすることになったんだ」
 「はぁ!? コイツが!!? どんな気まぐれよ!!」

 新八の言葉に、信じられないといわんばかりに天子が言葉にする。
 まぁ、彼女を知っているものならそんな言葉をつむぐのも無理はないのかもしれない。
 風見幽香という少女は、とにもかくにも弱い相手にはまったくといっていいほど興味がない。
 そんな彼女が、このよろず屋の手伝いとか、一体何をたくらんでいるというのか。

 「イイじゃない。暇だし、たまにはこういうのも悪くないわ」
 「むぐっ!?」

 まるっきり自分のときと同じ物言い。それをいわれると言葉に詰まる。
 そんな彼女を尻目に、幽香は銀時に視線を向けた。
 死んだような魚の目。その眼が、あの時一瞬―――鋭利で冷徹な修羅の目に変わった。
 こうやって一緒に居れば、もしかしたらその目をもう一度見れるかもしれない。
 要するに、興味本位。幽香自体、それ以上の理由は無いが、暇だというのも理由の一つ。

 こうして、風見幽香という少女がよろず屋に入り浸ることとなり、よりカオスなよろず屋がここに誕生したのであった。


 ■あとがき■

 いろいろ思うところはありましたが、幽香の話。
 なんか今回だけ話違うような…。
 うん。よりカオスになったことだけは確かかと。
 どうなんだろうなぁ、今回の話。説得力よわいというか、展開が急ぎ足というか…。
 次回からまたギャグになると思います。
 それでは。

 誤字の修正をしました。
 ご指摘、ありがとうございました。



[3137] 東方よろず屋 第四話「お酒は心の潤滑油って徳川家康が言ってたような気がするけどやっぱ気のせいだ」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/06/05 17:49
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください













 「うーん」

 非常に唐突ではあるが、稗田阿求は気難しげに唸っていた。
 理由は眼前に立っているお隣さん、よろず屋銀ちゃんとか看板が立っているお店……というより一軒家。
 ここには先日から、ちょっと特殊な場所から幻想郷に迷い込んだ三人と一匹が生活しており、阿求はうろうろうろうろとせわしなく動いている。
 理由はなんてことはない。昨日の一件が全ての原因であった。
 実を言うと、昨日そのよろず屋のメンバーが妖怪退治の依頼を受けたらしく、よりにもよってその妖怪があの風見幽香。
 花を操る妖怪で、幻想郷においてもトップクラスの実力と危険性を孕んだ存在で、人間なんかが到底叶うような存在ではない。
 おもしろ半分で送り出し、まぁせいぜい注意書き見てとっとと帰ってくるだろうことを予想していた。
 ……いたのだけれど、もし、あの注意書き無視して決闘なんぞやらかして命を落とされた日には眼も当てられないというか、さすがに罪悪感を感じるというものだ。
 つまりこれは様子見。ちゃんと無事に帰ってきているかどうかの確認である。

 「……よし」

 意を決して、阿求はよろず屋の玄関に手をかけて、こっそりとドアを開ける。そこには―――



 「おーい、ゆうかりん。お茶たのむわぁ」
 「はいはい。そうよねぇ、ジャンプ読むので忙しいものねぇ、銀時は」
 「定春~、お手あるよ」
 「わん♪」

 ズドムッ!!

 「総領娘様!? ちょっ、大丈夫ですか!!?」
 「大丈夫よ、衣玖。痛いけど気持ちいいから」
 「大丈夫なんですかそれっ!!?」



 ―――ステキなカオスが広がっていらっしゃいました。

 ジャンプ片手に幻想郷最強クラスの妖怪にお茶を頼む銀時。
 そんでもってそんな彼の言葉に嫌味言いながらもお茶を用意する幽香。
 芸の練習らしきことをやっている神楽だがしかし、定春のお手……もといメガトンパンチは天子の顔面に直撃し、そんな天子の様子を見によろず屋に訪れ、今は彼女の身を案じる竜宮の使いの永江衣玖。
 そんな彼女の言葉にも危険な香りが漂う天子のドM発言にツッコミを入れる衣玖さん。

 まさしくカオスッ!! もとい混沌。

 そんな光景を視界に納め、阿求は朝日のように爽やかな微笑を浮かべ。

 ぴしゃりと、ドアを閉じた。

 何も見ていない。何も見ていません。見ていないったら見ていない。
 心の中で暗示のように自分に言い聞かせる。あまりのカオスぶりに思考が微妙に混乱中。
 よし、音もなく、すばやく、忍びのようにこの場から立ち去ろう。そう決めてくるりと180度回れ右をして―――

 「あれ? 阿求ちゃん。どうしたの、こんなところで?」

 気配がまったくなかった買い物帰りの地味眼鏡にとっつかまりました。オウ、シット。
 さすがは地味めがね。真後ろにいても気づかねぇこの空気ぶり。



 地味メガネ固有スキル。
 気配遮断・EX―――新八特有のスキルというより存在感の無さ。その空気ぶりは眼も当てられず、近くにいても認識できないこともある。ツッコミ時のみ、このスキルは無効になる。さすが地味メガネ。



 「ってちょっと待てぇぇぇえぇぇえええええ!! 何だ今のわけのわからん説明はァァァアアアア!!!?」
 「新八君、誰にツッコミいれてるの?」



 ■東方よろず屋■
 ■第四話「お酒は心の潤滑油って徳川家康が言ってたような気がするけどやっぱ気のせいだ」■




 「ひ、引き分けた!? 彼女にですか!!?」

 時間は緩やかに午後。昨日の依頼が一体どういうことになったのかを問うてみると、そんな言葉が返ってきた。
 勝ったわけではないが、人間が彼女に引き分ける。
 それだけでも信じられない事実であり、阿求を驚かせるが、銀時はやる気無く言葉をつむぐ。

 「引き分けたッつっても、俺が勝負うやむやにしたまま帰っただけですよー? あのまんま続けてたら、間違いなくやられてたと思うがね、俺は」
 「だとしても、凄いことですよ。意外ですね、弾幕勝負強かったんだ、銀さんって」

 そんな阿求の感心したような言葉に、ぱちくりと眼を瞬かせる銀時と幽香。
 そんな二人を、怪訝そうに見つめるのは天子と衣玖の二人。今、阿求は何かおかしいことを言っただろうか? と、そういった疑問が顔に出ている。

 「何勘違いしてるかしらねーが、俺はスペルカードもねぇし、弾幕だってはれねぇぞ。大体空飛べねぇし。昨日の決闘はガチンコの接近戦だったからな」
 『はぁっ!!!?』

 驚きの声が上がったのは、阿求、衣玖、天子の三人。
 まぁ、その驚きも当然かもしれない。
 幽香の身体能力はそもそも人間では到底届かない領域にある。そんな彼女に、弾幕勝負ではなく接近戦なんてまさしく自殺行為だ。
 そう、勝てるはずが無い。三輪車でF1カーに勝てないのと同じように、人間では風見幽香を含む他の最強クラスの妖怪には勝てないのが道理だ。
 そんな彼女に、接近戦で引き分けた。この事実は、弾幕勝負で引き分けたのとではわけが違う。

 「ま、確かに銀時って人間離れしてるわよ、身体能力。その辺の妖怪じゃ銀時の相手にならないんじゃない? 接近戦限定だけど」
 「おいおい、買いかぶりすぎだッツーの。もう妖怪相手に戦いませんよー、銀さんは」

 幽香の言葉に、銀時は相変わらず気だるげな声で言葉を返す。
 あいた口がふさがらないとはこのことか。接近戦で妖怪とタメをはれる人間なんて希少品以外の何者でもない。
 あんまりな事実に思考がフリーズする三人。何しろ幻想郷最強クラスの妖怪のお墨付きだ。疑えというほうが無理というものである。
 そんな三人の視線を無視し、再びジャンプを読み出すマダオ。「あー、卍解つかいてぇ」なんて口走ってるさなか、台所から顔を出す地味メガネこと志村新八。

 「銀さーん。やっぱり今月マズイですよ」
 「そっかー、やっぱこの歳でジャンプはマズイか」
 「確かに、お前の作った飯はまずいアルネ」
 「どっちも違ぇよ!! つか、まえにもやったんですけどこのやり取り!!? そうじゃなくて、今月の生活費ですよ」

 見当ハズレの言葉に、新八はデジャヴを覚えながら問題を切り出してくる。そんな問題に耳を貸さず、相変わらずのマダオとチャイナ。

 「はっ! そんな脅しになんか屈さないアルヨ! 食事の量は減らさねーかんな、新八」
 「脅しじゃねぇよ!! 食えなくなるんだよ米すらも!! もともとろくにお金なかったのに、昨日の依頼だって結果が中途半端な上に依頼人が行方不明で結局タダ働きだったんだからァァアアアアア!!」

 神楽の現実見てない言葉に新八が燃え盛る炎をバックに大音量で吼える。
 一体どうやったらそんな大音量が出せるのか、あの幽香でさえ目を瞑って耳を押さえている。
 突っ込むのはイイが新八、その音量は明らかに近所迷惑だ。

 「……はぁ、しょうがないわね。明日、天界の桃持ってきてあげるわ。味の保障はしないけど」
 「あ、ごめん天子ちゃん、ありがとう。明日から雑草すらご馳走になるところだったよ」

 ……そんなにやばいのか?
 にこやかに言う新八の言葉に、そんなことを思った天子、衣玖、阿求、幽香の4人。見事なシンクロである。

 「……私もお米、おすそ分けしましょうか?」
 「……私も、お酒でよければ持ってきます」
 「……そうね、私からも何か持ってきましょうか」

 阿求、衣玖、そして幽香すらも哀れみの目を向けて新八に声をかける。
 普段なら知らん振りをする幽香なのだが、今回ばかりは半分くらい自分が原因のところがあるのでさすがに罪悪感があるっぽい。主に依頼人の行方不明の部分辺り。

 「あはは、やだなぁ皆。ありがたいけれど、それじゃまるで僕達貧乏みたいじゃないですか」

 文字通り貧乏でしょうが。
 そう喉まで上ってきた言葉を飲み込んだ。世の中言わないことのほうがいい時が多々存在するのである。今回はまさにそれだ。
 そんな時、とんとんとなるノックの音。それに「はーい」といって玄関に向かう新八。
 玄関を開けると、そこにはニコニコ笑顔の鴉天狗の姿があった。

 「あれ? 文さん。こんにちわ」
 「えぇ、こんにちわ新八君。あやややや、大所帯ですねぇ」

 新八に軽い言葉を返し、中に上がりこむ文。
 まぁ、彼女がそういうのも無理は無いかもしれない。何しろ、メンツがメンツである。

 「どうした、ブンブン。依頼でも持ってきたのか?」
 「いえいえ、違いますよ。……って、なんですかそのあだ名」

 ジャンプ読んでる銀時の言葉に軽やかに言葉を返そうとして、なんか妙な名前で呼ばれたことに引っかかる文。
 銀時に視線を向けてみるが、相変わらずジャンプを熟読中。

 「今考えた。どうだ? プリチーでキュートだろーが。あだ名だから字数少ないし呼びやすいし」
 「いやいやいや、プリチーでもキュートでもないですから。オマケに字数多くなってますから。ていうか何? 呼びやすいって私の名前そんなに呼びにくいんですか?」

 冷や汗垂らしながら言葉にする。そんな彼女の言葉に、銀時は相変わらずジャンプに視線を向けている。
 だれている。だれまくっている。こんなんでお客が来るのだろうかと思うほどにだれている。

 「呼びやすいだろーが。文って呼ぶよりブンブンってほうが呼びやすいんですよ銀さんは。なぁブンブン。あれ、もしかしてブンブンは気に入らなかったか? そうなのかブンブン?」
 「ブンブンって連呼しないでください!! なんか私ハエみたいじゃないですかそれじゃあ!!」

 ダンッと銀時がいる机を叩く。そんな彼女の肩にポンッと手を置くニッコニコ笑顔の風見幽香。

 「落ち着きなさいブンブン。貴方天狗でしょう。もう少し冷静になりなさいってばブンブン」
 「だからブンブン言うなって言ってるでしょう!! 何これ、嫌がらせ!!?」

 いい感じに弄られる鴉天狗。ガミガミと口論に発展した銀時周辺を視界に納め、阿求は冷や汗流しながらその光景を見守っていた。
 いや、幽香相手に引き分けたって言う辺りから只者じゃないとは思ってはいたものの、銀時がこんなに性格の図太い奴だとは思わなかった。
 ここまで妖怪相手に暴言……というか、妖怪をおちょくる人間も珍しいかもしれない。
 それにしても、なんだろうこの混沌とした空間。
 人間3、妖怪3、宇宙人1、天人1、犬(?)1と、明らかに人外のほうが多いこの状況。

 「はいはい二人とも。嫌がらせはその辺にしといて。それで文さん、今日はどうしてここに?」
 「あ、そうでしたそうでした。実はですね、萃香さんと一緒にお酒飲むことになったんですけど、帰りに通りかかったものだから銀さん達にも聞いとこうと思いまして。萃香さんなら拒まないでしょうし、人数は多いほうがいいですからね」

 新八の言葉に、文はここに来た経緯を説明する。まぁ通りがかったということだから、たまたまということになるんだろうが、丁度人数もそれなりにこの場にいる。
 もっとも、タダで酒が飲めるということなんで、銀時がそれを拒むはずも無いんだが。

 「イイですよー別に。どうせなら家でやんない? こんぐらいの人数なら、うちでも十分だろ。酒が切れても買いに行けるし」
 「了解。それじゃ、あとで萃香さんと一緒にこっち来ますね」
 「え? まさか、私もそのメンツに入ってるんですか?」

 二人のやり取りを聞いて、まさか……と内心思いながら聞く阿求。そんな彼女の言葉に、眼をぱちくりとさせる銀時と文、そして幽香の三人。

 「当たり前だろーが、あっきゅん。あれだぞ? お酒は心の潤滑油って徳川家康がいってたような気もするけど……やっぱ気のせいだわ」
 「気のせい!? 気のせいなのに偉そうに語っちゃったの!!? というかもしかしてそのあっきゅんって私のあだ名ですか!!?」

 えらそうに語っておきながら、やっぱ気のせいとかほざく銀時に飛ぶ阿求のツッコミ。そしてやっぱりそのあだ名は看過できないのか、ツッコミついでにそんな言葉も混ざってしまう。
 そんな彼女の言葉に、なんの戸惑いも無く頷く坂田銀時。
 ……あぁ、駄目だ。眩暈がしてきた。と、くらっと倒れそうになる阿求。

 「それでは、私たちも一度戻りましょうか。総領娘様。お酒とか持ってこないといけないですし」
 「そうね。それじゃ、銀さん。私たち一度戻るわね」

 そういってよろず屋を一旦後にする天子と衣玖。その後に続くように、幽香もよろず屋の玄関に向かった。

 「私も一旦帰るわ。何か持ってきてあげるから、おとなしく待ってなさい」
 「へーへー。いってらっしゃい、ゆうかりん」

 幽香が退出し、その言葉に銀時が気だるそうに言葉にする。
 それにしてもこの男、幽香にすら妙なあだ名をつけている辺り、本気で命知らずなのかもしれない。
 あとに残されたのはよろず屋メンバーと稗田阿求に射命丸文。時刻はとっくに夕方。窓から入り込む夕日をバックに、文はクスリと笑って大きめの窓に腰掛ける。

 「それじゃ、またあとで。楽しく飲みましょう、銀さん」
 「う~い。後でな、ブンブン」
 「だからブンブンは止めてくださいってば」

 ブンブン発言に情けなく項垂れる鴉天狗。そんな様子の彼女にも気にも留めない銀時だったが、やがて文は笑顔を浮かべて「それでは」といって、黒い翼を羽ばたかせて飛び去っていく。
 考えてみれば、不思議なものだと思う。あそこまで親しげな幽香もそうだし、変なあだ名で呼ばれながらも、なんだかんだで楽しそうな文もそうだ。
 二人とも妖怪で、それも相当な力を持った強者だ。そんな彼女達が、どうしてこのやる気の無い男といてなんだかんだと楽しそうなのか。とりあえず天子は置いておく。あれは遠慮なく銀時殴るし。楽しそうという点では共通しているが。

 「ほれ、あっきゅんも用事あるんだったら一旦帰ったほうがいいぞ。さわがしくなりそうだからな」

 そんなことを言いながら、銀時は阿求に言葉をかける。
 考えてもわからない。もとより妖怪の考えなんて自分にはわからない。
 まぁいいや。といい加減に自己完結させて、阿求はコクリと頷く。

 「わかりました。どうせですし、おすそ分け分のお米も持ってきますよ」
 「おう、頼むわ」

 まったく、視線ぐらいこっちに向けろというのに、この男は。
 そんなことを思いながらよろず屋を後にして、お米のほかに何を持って行こうか思案する。
 そこで、自分が意外にもその小宴会を楽しみにしていることに気がついて、その子とを不思議に思いながら阿求は自宅に戻っていった。

























 そうして、彼女は眼を覚ました。
 頭がずきずきして、まぶたを開けると、そこには地獄が広がっていた。
 もう既に酔いつぶれたらしい新八、天子、神楽が無造作に床に転がっており、未だに飲み続けている妖怪組。
 萃香が衣玖にお酒を進め、それにお礼を述べながらお酒を煽る衣玖。
 反対に幽香にお酒を勧めているのは文で、随分会話に花が咲いているらしい。
 もぞもぞと動くと、自分に毛布がかけられていることに気がついて、隣を見ると酒を手に持った銀時が座っていた。

 「おっと、起こしちまったか?」
 「いえ、頭痛くて起きただけですから。この毛布は?」
 「俺がさっきかけといたんだよ。風引かれると寝覚めワリィからな」

 そんなことをぼんやりと答えながら、銀時は目の前の光景に視線を向けていた。
 相変わらず飲み合っている妖怪たち。一体どこにそんなアルコールを入れる場所があるのか、衰える様子は見受けられない。

 「……飲みますねぇ、皆さん」
 「まぁな。神楽の奴が対抗心燃やしてがぶがぶ飲んでたがあっという間につぶれたし、俺もちょっとアブねぇからこっちに避難してきたんだよ」

 銀時の言葉に、確かに。と頷く阿求。
 ただでさえ鬼や天狗は酒豪なのだから、人間の銀時が彼女達にまともに付き合っていたらさすがに酔いつぶれるだろう。
 避難、というわりにはちびちびとお酒を飲んでいる銀時。一体どのあたりが避難なのだろうとか思わなくも無いが、阿求はそれを口にはしなかった。

 「……ねぇ、銀さん」
 「あん?」
 「怖くは無いんですか? 彼女達は妖怪で、幽香さんは人を食べます。それ以前に大抵の妖怪は人間では敵わないほど強力なのに」

 本当はそんなことを口にするつもりは無かったのだが、ついつい言葉にしてしまう。お酒を飲んだということもあったのだろう。口が少し軽くなっていることを自覚する。
 そんな阿求の言葉に、銀時は後頭部をがりがりとかきながら、静かに言葉にする。

 「別に、思いっきり化け物ッてんならともかく、ああいう外見なら怖いとはおもわねぇよ。妖怪だからって、そいつの全部を否定することもねぇだろ。話せば案外いい奴なのかもしれねぇし、そうじゃないのかもしれねぇ。
 あんまりご大層な御託並べられるほど人間出来てるわけじゃねぇけど、難しいこと考えたってしかたねぇだろ。もちろん、俺は食べられるの嫌だから、そうなったら必死になって抵抗するだろうし。
 まぁなんつーか、……正直な話、そのへんは特に考えてもねぇんだわ」
 「……いいんですか、そんなんで?」

 あんまりな返答に思わず冷や汗を流す。ここまで危機感がかけてるのもどうなんだろうと、ちょっと思う。
 しかし、妖怪だからってそいつの全部を否定することも無い。なんというか、その辺りはなんだかこの男らしいような気がする。

 「いいんだよ。正直考えるのもめんどくせぇよ、んなもん」

 要約するとそういうこと。銀時らしいといえばそうだろうし、なんともやる気のない返答がまさしく彼の性格を代弁しているような気さえする。
 呆れた……というか、よくそんなんで妖怪と仲良くできるものだとある意味感心する。
 いや、もしかしたらそういう性格だからこそ……なのかもしれないが。まぁ一つ確かなことは。

 「変な人」

 そう、変な奴という事実だけ。

 「おいおい。こっちの連中は本当、人をなんだと思ってんですかね? ゆうかりんにも言われましたよ、それ?」
 「あらら、幽香さんと同じ意見とは。じゃあやっぱり変な人なんですよ、銀さんは」
 「おーい。頼むから歯に衣着せろオメェら。銀さんヘコムぞ? マジでヘコムよ?」

 阿求の言葉にむすっとした顔のまま、グイッとお酒を煽る銀時。
 拗ねたということがわかったので、それがなんだかおかしくてくすくすと笑ってしまう。
 そんな阿求を憮然とした表情で見据えるが、「銀さーん、お酌しますよー」なんていう文の声でそちらのほうに視線を向ける銀時。

 「まぁ、いいさ。あんたはもう寝てろよあっきゅん。飲みすぎは体に毒だぞー」
 「それはこっちの台詞ですから。早く行ってきてくださいよ。ちゃんと寝てますから」

 くすくすと笑って銀時を見送り、阿求は静かに眼を閉じる。
 なんというか、やる気なくて、駄目人間で、何にも考えてなくて、明らかに好意を持てるようなところなんて無いのに、話していると不思議といやな気分はしてこない。
 あ、そういえば……と、阿求はくすくすと笑った。
 いつの間にか、あっきゅんなんていう変なあだ名で呼ばれても嫌悪感を抱いていない自分がいて、それをおかしく思いながら、まどろみの中に落ちていく。
 毛布あったかいなぁなんて思ったのが最後の思考。きっと眼を覚ましたら凄い二日酔いに悩まされるんだろうけれど、それでもいいや。なんて、阿求は不思議と思ってしまった。
















 ちなみに翌日、昨日の宴会に参加した萃香以外の全員が二日酔いでぶっ倒れて、一日中まともに動けなかったのだが、これはこの際おいておこう。








 ■あとがき■
 こんにちわ、作者です。ギャグと宣言しておきながら結局最後はちょっとしんみりな話になってしまった…。
 うん、力不足ここにきわまる。書きたかったものからどんどんずれていってこうなった罠。
 銀さんがわりとあだ名で呼ばせまくってるのは、一番あだ名で名前呼びそうな人だから。
 おかげでいろんな人があだ名で呼ばれてます。天子だって最初はてんことかよんでたし。
 言うと殴られるんで言ってないですけど、この話の銀さん。
 ちなみに、文のブンブンは自分や弟がよく使ってます。ブンブンかわいいよブンブン。

 さて、今回はいかがだったでしょうか? 銀さんの強さはあくまで白兵戦でしか発揮できないので、単純な実力勝負なら東方側が強いと思ってます。個人的に。
 難しい理屈こねるよりは、タダなんとなくで深くは考えないのが銀さんだと思う。…どうだろう? 違うかな? わかんないわw 最後のほうの銀さんの台詞にはイマイチ自信なし^^;
 それでは、今回はこの辺で。



[3137] 東方よろず屋 第五話「図書館に引きこもっても肝心なことはわからない」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/06/12 00:00
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください










 紅魔館の地下にある大図書館。
 そこにはあらゆる本が納められており、魔道書のみならず、辞書やら日記まで、幅広い種類の本がある。
 そんな図書館に居を構え、年がら年中その場所で本を読み漁る少女が、紫の長髪にネグリジェのような姿のパチュリー・ノーレッジであり、その使い魔の役割を果たし、なおかつ司書としての仕事をこなすのが、この赤い長髪の小悪魔という少女である。
 この図書館はとても広い。何しろ天井にまで届く本棚に、ギッシリと本が積み込まれており、なおかつその本棚もゆうに百を超える勢いで立っている。
 そんな場所を、小悪魔一人が本を探し出したり、または直したりといった仕事をこなしているが、今回ばかりはさすがのパチュリーも小悪魔だけに任せるのは酷だと判断したらしい。
 外の世界からの書物が大量に入荷したこともあり、いまだに分別中の書物。
 千冊は超えるだろう、その大量の書物を前に四苦八苦しているのは最近まったく別の世界から訪れた来訪者達。

 「銀さ~ん。この数学論理って本、どこに置いたらいいんですか?」
 「う~ん、そこ置いとけや新八。後で銀さんがやっとくから」
 「ってオィィィィィイイイイイイ!! 何マンガ読んでんのアンタ!! 仕事しろよ!! アンタのトコだけ一向に終わってねぇじゃねぇかぁぁぁああああああ!!!」

 あ~、うるさいなぁなどと思いつつ、パチュリーは件の三人と一匹、そしてここ最近よろず屋メンバーになったらしい比那名居天子と風見幽香に鬱陶しそうな視線を向け、程なくしてもとの読書に没頭する。
 一体どういう経緯であの天人と妖怪が一緒にいるのは不明だが、それでもはたから見ている分にはうまくやっているらしい。
 まるでプチ博麗神社みたいだと思ったが、それを表情に出すことも言葉にすることもない。
 なんにしても、後は彼らに任せておいて大丈夫だろう。自分は本を読んでいればそれでいい。



 大丈夫だと思うことと、不安に思うことはまったくの別の問題だが。





 ■東方よろず屋■
 ■第五話「図書館に引きこもっても肝心なことはわからない」■





 「それじゃ、この本の束はどこまでもって行けばいいの?」
 「あ、はい天人さま。それはあそこの上のほうにお願いします」

 優に二十冊近くは積み上げられた本を持って、天子は小悪魔に問いかけ、その指示通りに「OK」と返事して飛翔すると、指定された場所にまで本を運んでいく。
 パチュリーが呼んできた助っ人は、人間と妖怪、更に天人というある意味混沌とした混成部隊。
 その混沌具合に一瞬何事と思わなくもなかったが、しっかり仕事をしてくれているので個人的には大助かりだった。
 ……まぁ、なんというか約一名を除いて。

 「あの、スミマセン銀時さん。まったく終わってないように見えるんですが?」

 一応助っ人ということなんで、強く出れないでいる小悪魔。
 その視線の先には今回の助っ人のうちの一人である坂田銀時が、やる気なさそうに漫画を読んでいる。
 タイトルは【武装錬金】とか何とか書かれてあったが、それはこの際余談ある。

 「ん~、やりますよ~、やってますよ~銀さんは。……アンタ名前なんだっけ?」
 「……はぁ。私には名前はありません。小悪魔とでも呼んでください。いや、だからやってませんよね? これっぽっちもやってないですよね?」

 銀時の言葉に、小悪魔はジト目で睨みつけながら言葉をつむぐ。
 そんな彼女の言葉が聞こえているのかいないのか、難しい顔で黙り込み、再び漫画を読み始める。

 「ちょっと待っててくんない? これ読み終わったらちゃんとやるからよ、少し待っててくれや。こぁ」
 「……わかりました。読み終わったらちゃんとやってくださいよ。……て、なんですかその『こぁ』って?」

 諦めたように呟いて、そう妥協したところでその言葉に気がつく。
 そんな彼女の反応を見て、銀時は後頭部をがりがりと掻きながら、読み終わったらしく漫画を閉じる。

 「オメェだよ、オメェのあだ名。いいじゃねぇの、こぁって。呼びやすいし字数少ないし」
 「そりゃそうですけど……、安易過ぎませんか? そのあだ名」
 「あだ名なんてそんなもんだって。なぁ、ゆうかりん」

 小悪魔の後ろのほうから歩いてくる幽香に話を振る銀時。
 小悪魔が幽香に振り返ると、そこには満面の笑顔なのにどこか負のオーラを感じる風見幽香の姿。
 ゾクリと背筋に怖気が走り、バッと身を引く小悪魔。
 そんな彼女が視界に入っているのかいないのか、幽香はツカツカと優雅に歩を進め、銀時の前に立つと思いっきり傘で頬を引っ叩いた。
 グシャという凶器の割にはオカシイ音。物理法則によって引きちぎれんばかりに捻られる首。「あぶふぁっ!?」なんていう意味不明な悲鳴を聞きながら、幽香は綺麗な笑みを浮かべ、そして一言。

 「仕事してね銀時。仮にもあなたがこのよろず屋のトップなんだから。じゃないと殴るわよ?」
 「……殴る前に聞かない? そういうの」

 だくだくと鼻血を出しながら講義する銀時。明らかに今の致命傷っぽい感じだったのに、鼻血だけですむって一体どうなんだろう? と思わなくもないが、概ね幽香と同意見だったので何もいわない小悪魔。
 そんななか、本を一まとめにおいてある場所に戻ってきた新八が、幽香に同意するように言葉にする。

 「幽香さんのいうとおりですよ、銀さん。さっきから何もしてないじゃないですか」
 「馬鹿いうな新八。やってただろーが、本の分別を」
 「やってねぇよ!! 漫画読んでただけじゃねぇか!! アレを本の分別とか抜かすかコノヤロー!!!」

 怒り心頭といった具合にツッコミを入れる新八。あの様子だと苦労しているみたいだと、ちょっぴり親近感を覚えてしまう小悪魔だったが、そんなことを感じる暇は、生憎ない。
 何しろこの量の本を今日中に分別して、なおかつ本棚に直さないといけないのだから。
 残念ながら、ここの主であるパチュリーはそういうことを手伝わないので、完璧に戦力外なわけだが。

 「ちょっと、終わってないじゃない銀さん。というかむしろ減ってないんじゃないの?」

 さっきの本の束を直し終えたのか、天子がため息混じりに銀時に話しかける。
 実際、彼の担当分だけまったくといっていいほど片付いていない。他のメンバーは大体半数ぐらいは終わっているというのに、彼のところだけは致命的に片付いていなかった。

 「仕方ねぇじゃねぇか。内容見なきゃ分別できねーし、自分のペースでやらせてくれたっていいじゃないの。なぁ、てんこ」

 ミゴスッ!!

 「……殴るわよ?」
 「いやだからさ、殴る前に聞かない、そういうの?」

 うっかりしちゃったてんこ発言に、天子に全力で要石を顔面に叩きつけられ、またもや鼻血を噴出しながら講義することになる坂田銀時。
 そろそろ鼻血で貧血になりそうな勢いではある。

 「それにしても、小悪魔さん凄いよね。もう自分の分終わったんだ」
 「えぇ、新八君。私はなれてますから」

 何しろ本職だし、もう何十年単位でここで仕事をしているのだから、当然といえば当然だ。
 自分の分の仕事を終え、他のメンツの手伝いをしようと戻ってきたのだが……どうやらこれは、この一向にやる気のない男の手伝いをする羽目になりそうである。
 これからのことを想像して小悪魔がため息をつくそんな中、図書館の入り口が開き、この館のメイド長を勤める少女が入室してくる。
 肩口で乱雑に切りそろえた銀髪の少女の名は十六夜咲夜。この館の主、レミリア・スカーレットに仕える人間の従者は、人数分の紅茶が乗ったトレイを片手にパチュリーが居る机にまで歩みを進めた。

 「パチュリー様。紅茶が出来ましたよ」
 「そう、ご苦労様、咲夜」

 魔道書に眼を通しながら、パチュリーは咲夜のそう言葉をかけてねぎらう。
 その言葉に「ありがとうございます」と一礼してから、咲夜は銀時たちに視線を向けた。

 「皆さんも、コチラにいらして紅茶などいかがでしょう? 一応、人数分用意いたしておりますが?」

 営業スマイルを浮かべたまま、咲夜はそう言葉にする。
 その言葉に断る理由もないのか、小悪魔を除くよろず屋メンバーはそそくさと机に移動する。
 そんな様子を見て、小さくため息をつく小悪魔だったが、「まぁいいか」と呟いて銀時が残していた本の片付けに取り掛かろうとして、銀時にずるずると引きずられていく。

 「ちょ、銀時さん!? 私まだ仕事が……」
 「はいはい、落ち着けやこぁ。自分の分は終わったんだろ? だったらイイじゃねぇの。少し休憩しとけ」

 抗議の声を上げる小悪魔を無視して、ずるずると引きずって椅子に座らせる銀時。
 生憎、小悪魔はパチュリーと同じ席に着いたことはなく、緊張しっぱなしで固まってしまう。
 そのことに気付いているのかいないんだか、銀時は隣に座って、遠慮なく用意された紅茶を口に含んだ。

 「あー、やっぱ仕事の合間に飲むのみもんってなぁうまいもんだな」
 「だから仕事してねぇだろ!! アンタのトコだけ山のように残ってるじゃねぇか!!」
 「うるさいぞー新八。あれはな、妖精さんが悪戯したせいでああなってるんだよ。銀さん別に仕事サボってたわけじゃないよ?」
 「オィィィィイイイイイイイ!! どんな言い訳だソレェェェ!!? 嘘付くならもうちょっとまともな嘘付けやコラァァァアアアアアア!!!」

 あー、うるさいなぁなんて思いながら、紅茶片手に魔道書を読む魔女はあえて周りの存在を無視して読書を続行する。
 思った以上に騒がしい連中だと思う。特にメガネの地味な奴はあんなに叫んでて喉がおかしくならないのだろうか?
 そんなことを思考しつつ、パチュリーは相も変らぬ眠そうな眼で魔道書に眼を通す。
 一応、彼らの話には耳を傾けつつ、意識のほとんどは本に向けられている。

 「うるせぇな。大体、ここにはメイドがたくさんいるじゃねぇか。そいつ等も手伝わせればいいのによぉ」
 「うちの妖精メイドはあまり役に立っていなくてね。自分達の服を洗濯したり、自分達の食事を用意するので精一杯なのよ」
 「……スミマセン。それ、雇ってる意味あるんですか?」

 銀時の言葉にパチュリーが答え、もっともな疑問が新八から飛ぶ。
 そんな彼の言葉に、パチュリーは小さくため息をつき、あいも変わらない愛想の悪い表情を一瞬だけ、新八に向けた。

 「質より量なんでしょうね。レミィのことだから、多く雇っていたほうが貴族らしいとかその程度の些細な理由でしょうけど……。実際は心配ないわ。咲夜が全てやってくれてるから」
 「全てって、この館の掃除とかですか!?」
 「えぇ、掃除のみならず、食事、里への買出し、お嬢様のお世話、メイドの管理、全て私が受け持っています」

 パチュリーの言葉に驚く新八の言葉に、礼儀正しく答えたのは咲夜だった。
 その言葉に驚く新八ではあったが、横手から銀時が深いため息をついて、新八に視線を送る。

 「馬~鹿、新八。お前ここに来る途中に、迷路みたいな館の内部見ただろ? 一人じゃ無理に決まってんだろーが」
 「そうアルネ。少しは現実考えてから物言えヨ。だからお前は眼鏡って言われるんだよボケが」
 「ちょっとぉぉおぉおおお!! なんでいきなりそんな言葉が辛辣なんだよ!! というか眼鏡の存在全否定か!!? 許さん!! 許さんぞぉぉぉおおお!!」

 銀時と神楽のツープラトン口撃はとてつもなく辛辣であり、そのことが新八のツッコミ魂に火をつける。
 だが、まぁ確かに。銀時のいうとおり、紅魔館内部はかなり広い。
 こういった地下室のほかにも、内部は迷路のように広がっており、とても一人で掃除できるような広さではない。それに加えて、料理や主人の世話、更には部下のメイドの管理まで行っているという。
 ともすれば、一日の仕事量としてはあんまりな内容で、常人ならぶっ倒れるどころか過労死しそうだ。
 第一、どう考えても掃除だけで一日かかっても終わりそうにない。
 そんな彼らの疑問に答えるように、咲夜は一礼してから言葉をつむぐ。

 「皆さんの疑問はもっともですわね。でも、ご心配には及びません。私には、【時を操る程度の能力】がありますので」

 その一言に、誰よりも反応したのは銀時だった。ピクッと反応したかと思うと、胡散臭そうに咲夜に視線を向けている。

 「信用できませんか?」
 「そりゃあな。こっちの世界に来て、いろいろ普通じゃねぇ連中が多いのはわかったが、あんたは確か人間だろ? それがいきなり時間を操れるって言われてもな」

 咲夜の言葉に、銀時はそう紡いで紅茶を飲む。
 確かに、こっちの世界に着てからいろんな奴に出会い、そしてその度にその能力に驚かされる。
 紫の境界を操る能力もそうだし、天子の大地を操る能力もそうだ。幽香の花を操る能力は……まぁオマケのようなもので、本人の身体能力が非常識。
 人間では、霧雨魔理沙が魔法を操る程度の能力。博麗霊夢が空を飛ぶ程度の能力。東風谷早苗が……確か奇跡を起こす程度の能力だったはずである。
 それだけでも十分凄い能力だが、それを差し置いても時を操る能力なんて常軌を逸している。それこそ妖怪なんかが本来持ち得そうな能力だ。
 それを、人間が扱うとなると正直、素直に信用できないというのが銀時の本音だった。

 「それでは、少し私の能力をお見せいたしましょうか」

 クスリと笑い、咲夜は銀時に視線を送る。
 一体なんだよと銀時が思った刹那、咲夜の腕がぶれる。
 ゾクリとした悪寒。それを肌で感じ取った銀時は、頭が考えるよりも早く、体が反応して木刀に手をかけて自身の心臓付近に盾になるように置く。
 きらめく一陣の銀閃、それは神速を持って銀時の胸に飛来して―――

 ―――ピタリと、何もない空間で停止した。

 木刀にあたる直前、咲夜から放たれた銀のナイフは何もない空間で、それこそ絵のように停止していた。
 その事実に、彼女が時を操るということに半信半疑だった新八と神楽は、その光景を驚きの表情で見つめている。
 もっとも、今この場には、別の意味で驚愕に表情を歪めている者が一名いたわけだが。

 「……驚いた。まさか反応されるとは思っても見ませんでした」
 「コイツが時を操るってことか? 勘弁してくれよ、心臓が縮こまっちまったじゃねーか」

 驚いた表情ながらも冷静な咲夜の言葉に、銀時は疲れたように深いため息をついて木刀を直す。
 そんな彼の様子がおかしかったのか、咲夜は「失礼しました」と苦笑しながら空中のナイフを回収した。

 (あー、マジで死ぬかと思ったぜ。ていうか時間止めるとかマジで反則じゃねーか。しかもナイフってオメー)

 そこまで考えて、ふと思い出す漫画に登場したカリスマ的な悪役。能力といい攻撃方法といい、まるでその悪役そのものだ。
 それのことを思い出しながら、銀時は咲夜の事を視界に納めて、ふと言葉を紡いでしまう。

 「あー、そうか。ザ・ワールドか。新手のスタンドだったわけだったんだなサッキュンは。あれだ、てぇことは―――」

 言いかけたところで再び飛来する咲夜のナイフ。しかも今度は寸止め無しで、銀時の服を器用に引っ掛けた上に吹き飛ばし、壁に貼り付け状態にする。
 スタタタンと軽い音がして、銀時は壁に縫い付けられたことを自覚した。

 「ちょっとぉぉぉおおお!? 何すんの!? マジで何すんの!?」
 「なんだか知りませんが微妙に貶されてたみたいでしたのでつい。というか、私はあんな筋肉の塊じゃありませんので」
 「知ってるよね!? あなた知ってますよね!? DIOもザ・ワールドも知ってますよね!!?」

 銀時から上がる講義の声。しかし、咲夜はにっこりと笑みを浮かべ、見る人が見ればうっかり惚れてしまいそうな綺麗な笑みで、しかし、見る人が見れば凄く恐ろしい笑顔で、銀時に視線を向けている。
 無論、銀時には後者に見えたわけだが。

 「知りませんよ。えぇ、これっぽっちも知りません。URYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!! だとか、貴様、見ているな!!? なんて台詞も知りませんよ」
 「知ってんじゃねぇぇかぁぁぁぁあああ!! もう貴女完璧に知ってますよね!? 完璧にジョジョ知ってますよね!!?」

 とぼけたような咲夜の言葉に上がる銀時のツッコミ。それに取り合わず、神楽の紅茶のお変わりに答える完全で瀟洒な従者。
 どうやら、銀時はこのままナイフで縫い付けにされたまま放置の方向らしい。
 とりあえず、その騒ぎにも無関心を決め込んでいたパチュリーも、一度縫い付けにされた銀時に視線を向けて、やがて興味なさ気に視線を魔道書に戻した。

 「小悪魔。あの男の分お願いね」
 「え? ……あ、はい。わかりました」
 「あれ? 放置!? 銀さん放置ですか!? このまま放置プレイですか!!? 俺そんな殊勝な趣味ないんですけど!? ちょっと聞いてますかァぁぁあああああああああ!!?」

 パチュリーの言葉の意味を一瞬理解しそこね、しばらく思考してからようやく合点が言ったらしい小悪魔は、それにコクリとうなずく。
 その様子からこのまま完全に放置らしいことが決まったということを感じ取ったらしい銀時が大声を上げるが、生憎誰もそれに取り合わない。
 やがて机から解散していくパチュリーを除く一同。よろず屋メンバーも助けない辺り、少し灸をすえたいのだろうと、パチュリーは適当に考える。
 しばらくわめいていた銀時だったが、もう無理なんだと悟ったのだろう。
 貼り付けにされたまま、銀時は本を読むパチュリーに声をかける。

 「おーい、パチュリー。聞こえてッかー? これとって欲しいんだけど?」

 無視。そもそもそれに取り合う必要などないし、取り合う理由もない。
 第一、コイツが一番職務怠慢だったのだし、このぐらいの罰ぐらいおとなしく受けろというのだ。
 というかむしろ話しかけないで欲しい。鬱陶しいから。
 そんなパチュリーの心情を理解しているのかいないのか、銀時はなおも言葉を投げかけたがパチュリーはものの見事に無反応。
 それにちょっと苛立ちを覚えた銀時は、小さく、小声で一言。

 「バーカバーカ紫もやし」
 「火金符『セントエルモピラー』」

 ズドォォオオオオオオン!! という、ワリとしゃれにならない爆発音が図書館に響いた。
 パチュリーが生み出した火玉はものの見事に銀時に直撃し、派手な爆発と共に火柱を上げて、銀時を即座にノックダウン。
 その衝撃でナイフが外れて、ボロ雑巾のようになり、頭がアフロのようになった銀時がボテリと地面に倒れた。
 当然、なにも言わない銀時。それを見届けると、パチュリーは何事もなかったかのように読書を再開した。
 内心、お望み通り取ってあげたわよ。などと思いながら。

 「銀さァァァぁぁぁぁああああああああん!!? ちょっと、パチュリーさんやりすぎぃぃぃいいいいいい!!?」

 地味眼鏡が何事か喚いていたがとりあえず無視。ガン無視。完全無視を決め込んで、パチュリーは魔道書に眼を通しながら、小さくため息をつくのであった。


 ■あとがき■
 今回は紅魔館の話。でもレミリア、フランは登場せず。
 いかがだったでしょうか、今回の話。咲夜さんは一応お客という感じの対応させてますが、銀さんにナイフ投げるのはやりすぎたかなーなどと思わなくもない。
 でも咲夜さんはやりそう。なんというか東方キャラ皆にいえることだけどそれはさておき。
 銀魂キャラはこれ以上増やすことがこの先あるのかどうか……。
 友人からの要望で何人か出して欲しいって話はあったんですが……さて、どうなることやら。

 それでは、今回はこの辺で。



[3137] 東方よろず屋 第六話「過剰なスピードの出しすぎは事故の元だから気をつけろ!!」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/06/12 00:01
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください








 幻想郷は今日も日光に包まれて大地を照らし続けている。
 妖怪の山の一際目に付く大木の枝に、彼女はのんびりと腰掛けて眼下を視界に納めている。
 鴉天狗、射命丸文。幻想郷の出来事を新聞にし、自由に空を翔ける人里に最も近い天狗。

 「天気晴朗、今日も幻想郷は活気に包まれている……か、いいことね」

 クスリと言葉をつむいで、彼女は身軽に飛んで、大木の頂点に着地した。
 広がる景色はこの地を表すようにまさに幻想のよう。眼下に広がる幻想郷は、まさしく壮観だった。
 クルッと手に携えた文化帖を弄んで、天狗はいつものように見ていて気持ちがよくなるような爽快な笑みを浮かべた。

 「さて、今日もネタを求めて駆け抜けますか。幻想郷最速のこの翼で」

 バサリと、背中に生えた漆黒の翼を大きく広げる。
 今まさに飛び立とうとした刹那、背後に生まれた気配にその足を止めてしまう。
 振り向けば、文自身とも面識のある人物が、器用なことに空中に浮かぶ箒を足場にして立っていた。
 黒と白の服装をした魔法使い、霧雨魔理沙が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて立っている。

 「聞き捨てならないな。生憎、私は幻想郷最速を譲った覚えはないんだが」

 不遜な物言いに、文はくすくすと笑ってその人物の登場に感謝する。
 まさか、今日はネタのほうからやってきてくれるとは、世の中もなかなか捨てたものではないかもしれない。

 「こらこら、いつまでたっても入山禁止の立て札が見えなかったの?」
 「あいにく見えなかったな、そんなファンシーな立て札」
 「帰れ!! っと、言いたいところですが」

 以前にもやったような一連のやり取り。それが少しおかしくて、お互いに苦笑して相手を見据える。
 まぁ、こんなやり取りはちょっとした言葉遊びだ。それが魔理沙にもわかっているのだろう。
 特にいやな顔一つせず、相変わらず意地の悪そうな笑みを浮かべる魔法使いを視界に納め、文はクスっと笑う。

 「幻想郷最速の名、譲る気は無いと?」
 「当然だぜ。生憎、私は諦めが悪くてね」

 文の言葉に、魔理沙はさも当然のように返答する。
 あぁ、これだから彼女達は面白い。こうやって自分からネタになるようなことをやらかしてくれるのだから、新聞記者としては万々歳だ。

 「わかりました。それでは、幻想郷最速にどちらがふさわしいのか、勝負することにいたしましょう」

 ニヤリと、見下すように人間を視界に納める。
 その視線を真っ向から受けて、魔理沙は不遜な態度を崩すことも無く、ハッと鼻で笑って見せた。
 堂々としたその佇まい、まっすぐな眼光は射命丸文を臆することなく貫いている。


 それが今回の喜劇の幕開けとなったのは言うまでも無いことだろう。



 ■東方よろず屋■
 ■第六話「過剰なスピードの出しすぎは事故の元なんで気をつけろ!!」■



 「さて、まずは大雑把にルールの説明をいたしましょう」

 その日の正午。博麗神社に集まった参加者に、射命丸文はにこやかに説明を開始する。
 まぁ、参加者自体は射命丸文本人と、霧雨魔理沙の二名のみ。それとは別にこの博麗神社の境内にいるのは、ここの住人である博麗霊夢と、ちょくちょくこの神社に遊びに来る幼い姿の鬼、伊吹萃香のほかに、射命丸文に立会人を頼まれてここにいる坂田銀時のみである。

 「お~い、ブンブン。銀さん二日酔いでしょ~じききっついもんがあるんですけど?」

 抗議の声を上げる銀時の表情は確かにすぐれない。
 前夜に酒場で飲みすぎて二日酔い、昼間に起きてきてみればいつの間にか新八たちが依頼を受けていたわけで。
 銀時にしてみればたまったものではない。正直、二日酔いの薬飲んで眠りたいというのが本音だった。

 「スタート地点はここ博麗神社。コースは紅魔館テラスに第一チェックポイント、そこから太陽の畑に第二のチェックポイントがあります。ゆえに、紅魔館、太陽の畑を経由して、ここ博麗神社にたどり着けばゴールとなります」
 「おーい、ブンブン。無視すんじゃねぇ。銀さんきついんだってば。今にも胃液的なものを吐き出しそうなんだってば!」

 抗議の声を完全に無視して、文は説明を開始している。
 そんな彼女にさらに抗議の声を上げるものの、彼女がそれを気に留める様子はコレッポッチも無い。
 銀時の抗議に「吐くなら帰れ」と言いたそうな巫女がいたが、それもひとまず無視を決め込む射命丸。

 「チェックポイントには人を配置しています。第一チェックポイントには天子さんと神楽さんを、第二チェックポイントには幽香さんと新八君がそれぞれスタンバイしています。
 彼女達からチェックポイントを通過した証として、小さなボールを貰ってくること。それが無ければ失格となるので、気をつけてください。
 また、スペルカードの使用は認めますが、今回は純粋なスピード勝負ですので、相手への攻撃は無しにしましょう。
 念のため、ゴールの判定は銀時さんや萃香さん、霊夢に任せてあります。まぁ、それほどの僅差になるとも思えませんが―――」

 ちらりと、隣にたたずむ魔理沙に視線を向ける。
 相も変らぬ不敵な笑み。自信と確信に満ちた、敵を知らぬという覚悟の顔。
 そんな彼女の表情を視界に納め、文はクスリと笑って、財布から一枚のお金を取り出す。
 それは小銭の王様500円。それが彼女の指にかけられた途端、ピクッと反応する気配がしたが……文はあえてそれを無視する。

 「ご質問は?」
 「無いぜ」
 「そうですか。それでは、少々古風ではありますが、スタートはこれで」

 言って、ピンッと指を弾いてコインが空高く舞った。


 ひゅんひゅんと回転しながら上昇する銀色のコイン。
 それは風の影響も受けずに真上に飛んで、やがて重力に引かれて落下し始める。
 空気の抵抗を受けながらも、それは吸い込まれるように地面に落ちようとして―――


 『貰ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!』

 約二名の人影に、その落下を邪魔されることとなった。

 「って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!?」

 ここに来て、初めて射命丸文が驚愕の表情を浮かべることとなった。
 彼女ですら反射を許さぬ速度で疾走した二つの人影は、迷うことなくその500円に親指と人差し指で掴んだ。
 疾走した陰の正体は博麗霊夢と坂田銀時。二人は血走った目で飢えた獣のごとく500円に飛び掛り―――

 「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!?」
 「ぎゃぁぁぁああああああああああああああああ!!?」

 ものの見事に、勢い余って階段に飛び出してしまい、この百段はあるんじゃねぇかって勢いの博麗神社の石段をごろごろと転げ落ちていった。
 なまじ勢いがついていた分、なかなか止まらずにかなりの距離を落下する二人。
 やがてようやく勢いが殺されて、二人はピタッと石段の中腹ぐらいで止まった。500円は離さぬまま、しっかりと指に力を込めて。

 「ちょっと!! 何やってるんですか!!」

 さすがにあれだったのかツッコミを入れる射命丸。
 そんな彼女の言葉に、ガバッと視線を彼女に向ける無傷の霊夢と、顔面血だらけの坂田銀時。
 どうでもいいが同じ転び方でここまでダメージに差が出るものなのだろうか?

 「ばっかオメェ!! お金を粗末にすんじゃねぇよコノヤロー!! そんなわけで、これは銀さん頂いていくかんな。最近マジで金がやべぇんだよ」
 「冗談じゃないわ。私だって家計が苦しいのよ。働きもしない奴なんかにこの500円は渡さないわ!」
 「馬鹿いってんじゃねぇよ霊夢!! オメェだって仕事してねぇだろーがっ!!」
 「醜いんだけど!? ありえないくらいに争いが醜いんだけど、あんた達!!」

 お金のことで激しく言い争いを始める二人に、思わず素の言葉使いで全力のツッコミを入れる文。
 貧乏とはかくも恐ろしい。なまじ人生通して金欠の二人の目は激しく笑っちゃいねぇのである。
 そんな二人にツッコミを入れている文の背中を、つんつんと突付いたのは萃香だった。

 「あ、あれ? どうかしました、萃香さん?」
 「んー、いや。こんなところで道草食ってていいのかい? 魔理沙もう行っちゃったよ」

 ピタリと、恐る恐る先ほどまで魔理沙が居た場所に視線を向ける。
 その場所に、本来居るべき彼女の姿はなく、はるか遠くに彼女の後姿が確認できた。

 「しまった!!」

 慌てて翼を大きく広げ、ダンッと力強く大地を蹴る。
 空を翔る鴉天狗。風きり音と共にその姿はあっという間に遠くに遠くにと小さくなり、彼女が飛び去った余波であたりの木が風に揺られた。
 そんな彼女を見送ったのは萃香のみ。霊夢と銀時はぎゃーぎゃーと500円をかけて格闘中。

 「さて、どうなるかねぇ」

 ケタケタと豪快に笑いながら、萃香はグビッと酒を煽った。
 人間対天狗。この差がいったいどう結果に影響するのか、それはもう萃香にもわからない。

























 (あぁもう、私としたことが!! これで負けたら銀さんと霊夢のせいだからね!!)

 心の中で愚痴を零しながら、文は目の前の人物を追いかける。
 空で繰り広げられる追走劇。既に音速に近づきつつある文の速度を持ってしても、箒にまたがって空を飛ぶ霧雨魔理沙の背中は、なかなか近づかない。
 速い。以前よりもはるかに!!
 自分の見込みの甘さと油断に舌打ちして、彼女は黒と白の魔法使いのあとを追いかける。
 徐々に徐々に近づきつつはあるが、この分では博麗神社に到達するまでに差を埋められるかどうか…。

 そして徐々に見えてくるチェックポイント。魔理沙がテラスに降り立って、神楽からビーダマ程度の大きさのボールを受け取ると悠々と太陽の畑に進路を取って、箒にまたがって飛び去ってしまう。
 その光景を視界に納め、彼女は苦々しく顔をゆがめてようやくテラスに到着する。

 「ほい、がんばってくださいね」

 天子から投げ渡されるチェックポイントのボール。
 それを受け取って「ありがとうございます」とあわただしく言葉にしてから、文は翼を羽ばたかせて飛び去っていく。

 状況は圧倒的に文に不利。徐々に差は縮まりつつあるが、この差は絶望的なまでに大きい。
 流れていく風景。流れていく景色。その世界の中で、眼前を行く霧雨魔理沙という少女だけが姿をぶれる事なく視界に映し出されている。
 知らず、文の口元がニヤリとつりあがった。
 あぁ、上等だ霧雨魔理沙。お前が幻想郷最速を欲するというのであるならば、私は全力を持ってお前を叩き潰そう。
 嬉々とした感情。知らず知らずのうちに沸き起こる高揚感。この絶望的な状況において、射命丸文はなおも勝利を捨ててなどいなかった。

 「どうした!? 幻想郷最速なんじゃなかったのか!!?」
 「言ってなさい!!」

 安い挑発にも、文は笑みを浮かべて嬉々として言葉を返す。
 既に二人の速度は音に届き、幻想郷の空を我が物のように翔けていく。
 二人が通り過ぎた後には風が巻き起こり、地にいる生物や植物を吹きつけ、吹き散らしながらそのスピードを物語る。
 この状況において、もはや二人に追いつけるものなど居はしまい。
 徐々に徐々に差を詰めてくる文を背中越しに見据えながら、黒白の魔法使いはニヤリと、帽子で目元を隠しながら笑った。

 「はっ! そうこなくちゃ面白くないぜ!!」

 引き上げられるトップスピード。アクセルを踏みっぱなしで翔けて行く、空が舞台の追走劇。
 互いに風を感じながら、魔理沙は目的の第二チェックポイントを視界に納めた。
 すぐ背後に迫る鴉天狗の気配。
 クッと、喉の奥で魔理沙は笑い、敵の手強さに嬉々とした感情を宿らせる。
 そうだ。それでこそ幻想郷最速をかけるにふさわしい。

 太陽の畑に着地すると、未だに咲かない向日葵たちを背景に、志村新八がボールを手渡した。
 それに軽くお礼を言いながら、魔理沙はあっという間にスピードを跳ね上げて空へと飛び立つ。
 それからわずか2秒の差で、射命丸文がチェックポイントに到達した。

 「はい。文さん、がんばってください」
 「ありがとう、新八君」

 手短に笑いながら言葉を返して、天狗の少女も空を翔ける。
 空を飛び立つ拍子に、巻き起こった風が新八に吹きかかる。
 そして上空を見上げてみれば、もう既に二人の姿は視界に映っていなかった。
 信じられないスピード。ともすれば、新八たちの世界に存在するどの乗り物よりも早いのではないかとさえ思えるあの速さ。
 いや、実際にあの二人のスピードならば、新八たちの世界の乗り物は相手にすらならないだろう。

 「すごいなぁ、どっちが勝つと思います、幽香さん?」

 傍らにたたずむ幽香に言葉を投げかける。
 そんな新八の言葉に、幽香は「そうねぇ」なんて呟いてからしばらく考え込む。
 やがて考えがまとまったのか、彼女はゆっくりと言葉をつむぎだしていた。

 「今回のこのコース、いろんな要素が試される。スピードはもちろん、瞬発力、持久力、スタートダッシュ等、その点を考えれば、今の二人は互角に見えるけど―――」

 目を細めて、幽香は二人が飛び去った空を見据えて、二人の後姿を幻視した。
 そう、確かにその点で言うならば、今の二人はほぼ拮抗しているといってもいい。
 スピード、瞬発力、スタートダッシュ、このどれもが二人には僅差といっていい。
 だが―――

 「問題は、後半戦。ようは持久力ね。二人には徹底的にその差が大きすぎる」

 淡々と、風見幽香は事実を伝えてくる。
 その事実は、言われてみればあまりにも必然だった。
 霧雨魔理沙は確かに尋常じゃない速度を誇るが、あくまでも彼女は人間。
 対して、射命丸文は生粋の鴉天狗。持久力の差など、これだけで説明できてしまうほどの純然たる事実。

 「加えて、魔理沙は魔力を駄々漏らしにするから、余計に魔力を消費する。箒で飛んでいる以上、飛行するには魔力を消費するだろうし、スピードをあそこまで上げているなら消費も馬鹿にならないでしょう」
 「……じゃあ、この勝負」

 幽香の言葉を聞いて、新八は言葉をつむごうとして……他でもない幽香に止められた。

 「まだわからないわ。なんにしても、私たちの仕事は終わったのだから、博麗神社に向かいましょう」

 優雅に日傘を差して、幽香はそんな言葉を紡ぎだした。
 それに納得しかねる様子ではあったが、新八は小さくため息をついて彼女のあとをついていく。
 幽香の口元は薄く笑みの形を作っていた。
 確かに、彼女がこのまま行けば魔力を枯渇させる可能性がある。そうなれば射命丸文にあっという間に逆転されるだろう。
 だが、ただで終わらないのが霧雨魔理沙だ。それは幽香もよく知っている。

 「さて、どうなるかしらね。この勝負」

 あぁ、楽しみだわ。なんて呟いて、幽香はつかつかと歩いていく。
 空は快晴。この上なく晴れ渡った空を、二人の少女が幻想郷最速の名を賭けて空を翔けている。















 意識が朦朧とする。いよいよ自分の限界が近いのだと体中が訴える。
 浮かび上がる汗が、べとべととして気持ち悪い。まだ春だというのに、魔理沙の体は異様な熱を持って、その体を冷まそうと発汗作用が働いている。

 順位は、ここに来てすっかりと逆転していた。
 無理も無い話だ。文に勝つためにと力づくで速度を引き上げ、膨大な魔力を引き換えに彼女と同等の速度を得ていた。
 だが、爆発剤にしていた魔力(燃料)がなければ、スピードで負けていくのは道理。
 風のように駆け抜ける鴉天狗。その背中を、魔理沙は意地と根性で粘るように着いてきていた。
 このまま負けられない。負けたくないという気持ちに反比例して、スピードは徐々に徐々に落ちていく。
 ぐらりと、意識が遠のく。無理やりに動かしていた体がとうとう限界を向かえたのか、意識が闇の中に沈んでいく。
 その間際に―――、文がコチラに顔だけを振り向かせるのが見えた。
 その顔が、その表情が、何よりもその眼が―――魔理沙に言葉を投げかけていた。


 ゛―――そんなものなんですか、貴女は―――゛


 見下す赤い瞳。言葉が発せられたわけじゃないけれど、その眼は明らかにそう語っていた。
 期待はずれだと、この程度だったのかと、興味をなくし、失望したかのようなその瞳。
 その瞳が、死に体だった霧雨魔理沙に熱をともした。

 「舐めるなよ、鴉天狗」

 ギリッと歯を食いしばって、魔理沙は箒を強く握る。
 体に残ったありったけの魔力。それを使わずして、どうして諦めることが出来ようか?
 手に持ったスペルカード、今この場で、今このときに使わず、いつ使えというのか!


 「彗星『ブレイジングスター』!!」


 発動するスペルカード。宣言と共にありったけの魔力を総動員。残りっカスすらも残すつもりなど無い。
 今この場で全部使い果たす勢いで、魔理沙はその力を解放する。

 そうして、彼女は青白い光に包まれて音速を突破して文を振り切った!!

 「なっ!?」

 上がる驚愕の声。完全に魔力が無くなりかけていたあの状況で、こんな大技を使うなどと誰が想像しただろう。
 魔理沙は文字通り彗星のように空を翔け、博麗神社まで一直線に爆進する。
 その光景を視界に納めて、文はクッと喉の奥で笑いを堪えた。
 そうだ。それでいい。それでこそ、―――この勝負を設けた甲斐があるというものだ!!
 文もスピードを限界近くまで引き上げながら、これ以上魔理沙に離れまいとスペルカードを取り出す。

 (まさかこれを使うことになるとは思わなかったけれど―――)

 わずかな逡巡。あの魔理沙がここまでして全力で勝負を挑んでいるというのなら、全力で答えねばなるまい。でなくては、どうして鴉天狗が彼女等より強者だと振舞えようか。

 (仕方ないわね!)

 もとより、思考は一瞬。迷いなどあれば、この勝負は間違いなく自分が負ける。
 それを自覚している。だからこそ、彼女はそのスペルカードを使うことをためらわない!


 「『幻想風靡』!!」


 スペルカードを宣言する。そのまま、彼女は全身に力を込めて、最大速力を引き出していた。
 先を先行する魔理沙に、風を切りながら矢のように差を縮める文。
 魔理沙が彗星だと評されるなら、文はまさしく神速の風そのものだった。
 共に音速などとうに超えている。二人が通り過ぎた途端、大地を突風が遅れて巻き起こる。

 まるで早送りのように視界に近づく博麗神社。

 文が。
 魔理沙が。

 博麗神社の境内に降り立ったのはほぼ同時だった。

 「くっ!」
 「っ!?」

 あまりのスピードだったせいか、うまく着地できずにごろごろと転がる二人。
 数メートル以上転がりながら、彼女達はようやく止まることが出来た。
 着地地点が抉れ、相当強い勢いで自分達は突っ込んでいったらしい。
 文は妖怪ということもあって何とか立ち上がるが、魔理沙は完全に魔力切れを起こしたのかピクリとも立ち上がらない。
 一応意識はあるらしく、やれやれと苦笑して、文は魔理沙に肩を貸した。

 「……あー、きついぜ。さすがに」
 「無茶しすぎなんですよ。まったく、さすがに驚きました」

 彼女のそんな言葉に、文は苦笑しながら言葉をつむぐ。
 まぁ、もっとも。その無茶が無ければ、魔理沙は間違いなく負けていたわけだが…。
 とはいえ、結局は二人まとめて突っ込んだこともあり、結果が不明。
 まさか本当に僅差になるなんて……と、文は微妙な感情にとらわれながら、ゴールの判定を頼んでいた三人に視線を向けると―――

 「だぁから、その500円は俺のだって言ってんだろーが!!」
 「私の500円よ!! 私の家の敷地内で落ちたもんは等しく私のものなのよ!! アンタのものも私のもの!! 私のものも私のものよ!!」
 「何その偏屈したジャイアニズム!!? 新手のガキ大将ですかオメェは!! 空き地で音痴な歌をリサイタルですかコノヤロー!!」

 未だに500円ぴったりと離さず、ケンカしてる霊夢と銀時の二人が眼に映ったのだった。
 ……え、何? この状況? などと呆然と思っていると、彼女達に気付いたのかケタケタと萃香が笑って二人を出迎えた。

 「おぉ、お帰りぃ。で、結局どっちが勝ったの?」

 そんな彼女の一言に、ぐらりと本気で眩暈を覚えた二人。
 えーと、つまりなんですか? 見てない? 見てないんですね、三人とも。
 今までの私たちの勝負は一体なんだったんだろうと、二人はその場にばったりと倒れてしまう。

 一人はあんまりな結果に耐え切れず。
 一人は結果+魔力枯渇の疲労困憊で。

 とりあえず、二人とも空に無意味に叫びたい気分だったが、そんなことをしてもまるっきり無意味なんで黙って意識を手放した。
 人それを、現実逃避という!! なんて変な言葉が聞こえた気がしないでもなかったが、特に反論も出来ないので天狗と魔法使いはあっさりと意識を手放し―――要するに、気絶したのであった。


 ■あとがき■
 ども、作者の白々燈です。
 今回はいかがだったでしょうか? 試験的に東方分を強めにしてみましたが…。
 新八。悲しいほど目立ってねぇなぁ。

 内容としては、幻想郷最速を賭けたレースみたいな感じになってます。
 うーん、でも書いてて思ったけど、これってもしかして誰かがネタにしてるんじゃなかろうかと思わなくも無い。漫画なり小説なり、ありがちな話だったかもしれないです。
 …かぶってたらどうしようかな…。

 銀魂キャラはこれ以上増やさないことにしました。
 みなさん、ご意見どうもありがとうございました。

 ご感想、ご指摘、ご意見等ありましたら、遠慮なく書き込んでください。
 それでは、今回はこの辺で。



[3137] 東方よろず屋 第七話「有頂天って実は場所のことらしいが知る人は少ない」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/06/13 22:09
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください




 非常に唐突なことではあるが、私、比那名居天子は天人である。
 うん、まぁ周囲は私のことを不良天人だの天人くずれだの言うが、一応天人であり、それなりに偉い立場の者でもある。
 親の七光りだといわれるとどうにも反論できないのが悔しいところだけど、それはさておき。

 私はつい先週の少し前ぐらいから、暇つぶしのためによろず屋で働いている。
 ここに従業員として働いているが、だからといって給料が出るわけでもないので、本来はあんまりここに来る意味は無いけど、私はそれでもここにいる。
 理由……というのも、暇つぶし以外の何物でもない。理由としては本当にそんな単純で些細な理由。
 それには、天界という場所が絶望的なまでに退屈だというのが、もっとも大きな要因ではあるだろうが。
 あぁ、でも。ここにい続けている理由はやっぱり、仕事があろうが無かろうが、ここにいると退屈しないし、面白いからなんだけど。

 「おーい、天子。買い物頼むわぁ」
 「あらやだ、銀さん。とっても暇そうに見えますけど?」
 「いんや~、銀さんは忙しいぞぉ? ジャンプ読むのに非常に忙しいんですよ~、これ」

 要するに暇なんでしょうが。
 思わずため息もついて出る。何しろ、天人であるこの私を遠慮なく扱き使うコイツは相当大物だと思う。
 というか、少しは敬ってよ。頼むからホンのちょっとぐらい。
 そんなことを思いもするが、この外の世界の漫画読んでるいい年こいたおじさんは口にしたところで聞きはしないだろう。
 何しろ、あの幽香とかあそこらへんの幻想郷最強クラスの妖怪にすらこんな感じだし。

 あぁ、そうそう。幽香がよろず屋に来はじめた辺りからぱったりと人間の客が来なくなった。
 原因は間違いなくそこの優雅にお茶を飲む妖怪が原因なのは眼に見えてるんだけど……、その辺自覚してるのかしら? ここのメンツ。

 「わかりました。買い物には行きますけど、いい具合に蕩けて地獄に落ちてね、銀さん」
 「地獄には落ちたくねぇけど、糖分地獄とかだったら考えるよ~、銀さんは」

 ……どんな地獄だ、それは?

 「天子ちゃん。僕も行くよ。荷物もちぐらいいるでしょ」
 「ん~、そうね。お願い」

 台所の置くから登場した新八の言葉に少し考え込み、荷物もちぐらいはいるかと思考して了承する。
 この分だと、定春とじゃれてる神楽と幽香も荷物もちなんてやってくれないだろうし、新八の提案はまさに渡り舟だ。この際甘えておこう。




 ■東方よろず屋■
 ■第七話「有頂天って実は場所のことらしいが知る人は少ない」■




 「で、眼鏡野郎。買い物はこれで全部?」
 「うん。そうだけど……、いやいやいやいや。その眼鏡野郎って止めてよ。僕がまるで眼鏡しか特徴無いみたいじゃない」

 あらかた終わらせた買い物の帰り、私が彼のそう言葉を投げかけるとそんな反応が返ってくる。
 私は大げさに「えぇ!?」と驚いて見せて、そして一言。

 「眼鏡が無かったら、あなたただの眼鏡掛けじゃない」
 「うぉぉぉぉぉぉぉおおおい!! 何それ!? もはや人ですらないんですけどっ!!?」

 ズビシッとしっかりツッコミを入れてくる新八。うん、相変わらずキレのあるツッコミをありがとう。
 いや、よろず屋にいても退屈にならない要因は彼の存在がかなり大きい。
 ちなみに、好きだとか好意だとかそういった類のものではなく、ただ単に「からかうと面白いから」の一言に尽きる。
 何しろ、彼のようなタイプは幻想郷にはいないし。反応が斬新過ぎて面白すぎるというか、からかってるとおかしいというか、まぁそんな感じ。
 そんな彼の反応に、私はたまらずクスクスと笑ってフォローを入れる。

 「大丈夫よ、冗談じゃないから」
 「フォローになってねぇよ!! せめて冗談って言えよ!!」

 おっと、つい本音が出てしまった。自重自重っと。
 まぁ、クックッと笑いを堪えている私を見てため息をつく新八を見る限り、ことの追及は諦めてくれたらしい。
 ま、一週間近くも一緒に仕事していれば、お互いどういう性格かわかるもんだし。
 そんななんでもない日常になりつつあるやり取りの途中で―――ばったりと、とある人物と遭遇することになった。
 砂金のようなセミロングの髪、黄金色の瞳に、まるで人形のような服装の少女。

 「あら、人形野郎」
 「あら、地震野郎」

 にっこりと笑い、お互いに軽い言葉(ジャブ)を繰り出してけん制する。
 そんな私の様子に何事かと思ったのか、荷物を抱えた新八が私の目の前にいる人物に視線を向ける。

 「あれ、アリスちゃん。どうしたの、こんなところで」

 そう、私の目の前にいるのは七色の人形遣い、アリス・マーガトロイド。
 ぱっと見は人間に見えるが、れっきとした種族としての魔法使い。
 その魔法使いは私から一旦視線をはずし、新八に視線を向けて特に表情を変えずに言葉をつむぐ。

 「今日はハクタクのところで人形劇をね。今はその帰りよ」
 「ハクタクって言うと、慧音さんか」

 アリスの言葉に、新八は少し考え込んでその言葉に納得がいったらしく、うんうんと頷いていたりする。
 そういえば、ちょくちょく人里に人形劇をやってるっていう話を誰かから聞いたような……、誰が言ってたんだっけかな?

 「仕事熱心ですよね、アリスさんって。銀さんにも見習ってもらいたいぐらいですよ」
 「別に仕事ってわけじゃないわよ」

 シレッと愛想の無い返答をする人形遣い。まぁ、もともと人との係わり合いとか気にするタイプには見えないし、仕方ないといえば仕方ないのか。
 ん? でも宴会には絶対に参加してるのよね、彼女って。その辺考えると、やっぱり人付き合いは良いほうなのかしら?
 そんな疑問を浮かべている私に向かって、……いや、私たちに向かって、アリスは言葉をつむぎだす。

 「そういうあなたたちこそ、今日は買い物?」
 「えぇ、今日はうちのトップの命令でパシリよ」

 やれやれといった具合に、私は肩をすくめて見せる。
 言葉はまぁ悪いけど間違いじゃないし、実際これじゃ本当につかいっ走りだ。
 否定できないのがなんとも悔しい気もするが、アレは絶対に動かないし、誰かがやらなくちゃいけないのもまた事実なのである。
 ま、退屈するよりはいいんだけどね。

 「天人をパシリにするとか、大物なのか、ただの馬鹿なのか……」
 「さぁ、多分両方なんじゃないの?」

 呆れたように言葉にした彼女に向かって、私はそんな風に苦笑しながら言葉を返していた。
 ほら、なんていうかあそこまでやる気がないとかえって清々するというかなんというか……あとで全力でぶん殴るときに遠慮しなくていいし。

 っと、徐々に徐々に近づいて来る気配がする。
 一体何事だろうと、私とアリスはその気配のほうに視線をむける。
 そこに居たのは、何の面識も無い、そこらへんに転がっていそうな何の変哲も無い人間の男二人だった。
 ……あ、アリスが露骨にいやそうな顔してる。

 「よぉ、姉ちゃんたち。俺たちに付き合えよ。そんな眼鏡より楽しいぜ?」

 げらげらと下品な笑みを浮かべる男二人。
 自然と、眉がつりあがって目の前の二人組を睨み付けてしまう。
 なんというかハッキシ言って私の大ッ嫌いなタイプというかなんというか、こんな笑い方する奴にろくな奴がいねぇというのが私の持論である。
 ん? あれあれ? 眼鏡って……誰のこと?

 「……誰が眼鏡だよ」

 っと、そんなことを思っていると私の背後からそんな声が聞こえて、ようやくその人物に合点がいった。
 新八……、アンタってツッコミ入れてないときは本当に空気ね。

 「オメェだよオメェ。オメェなんかがこんな可愛い子ちゃん二人と一緒にいることが場違いなんだッてぇの。俺たちにこそ、そこの嬢ちゃんたちはふさわしいって先生言ってたぜ」
 「なんでやねん!!」

 アッハッハッと、変なコントなのか微妙なことやって笑っているアホ二名。
 今のどの辺がおかしかったのかぜひとも詳しく聞いてみたい気もするが、やっぱどうでもいいや。
 とりあえず、目の前のゴミ(確定)を掃除しようと緋想の剣を取り出そうとして―――

 「ツッコミが甘いんじゃボケェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

 ボグシャァッと、なんかすさまじい轟音が響いて、ツッコミいれたゴミの片割れが「ぐえっ!?」と奇妙な悲鳴を上げて吹っ飛んだ。
 下手人の名は志村新八。一体どこにそんな力が隠されていたというのか、2m近く跳躍して思いっきり跳び蹴りを側頭部に叩き込んでいた。
 綺麗過ぎる跳躍。まるで絵のような美しすぎる軌道。その姿はまさしくライダーキック。
 物理法則にしたがって男の顔が捩れて、その衝撃で体が宙に浮き、ギュルンギュルンとなんかありえない音を立てながら空中で回転して吹っ飛んでいく。

 「なっ!?」
 「そんなんでこのSSのツッコミが勤まると―――」

 再び響く骨が砕けたような音。新八の拳は仲間が吹っ飛ばされて呆然としていた男の顎に突き刺さり、綺麗に頭部を跳ね上げる。
 その隙に裏に回りこみ、ガシッと両腕で胴体を固定する。

 「思っとんのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 それは等しく、魂の絶叫(ツッコミ)だったに違いない。
 持ち上がる男の体。男の体は今この一瞬、確かに重力という戒めから開放された。
 一瞬の光景。しかし映る光景はまるでスローモーションのように鮮明に、その姿を流していく。
 大きく反れる新八の体。しかし、それは美しい技の体現であり、その光景は怖気がするほど完璧だった。
 ジャーマンスープレックス。その究極を再現した新八の手により、男は後頭部からまともに地面に垂直落下して、グシャッとなんかつぶれる音と共に地面に叩きつけられた。

 カァンカンカンカァァァァン!! と、どこかで甲高いゴングの音がなったような気がしないでもない。

 新八が殲滅(ツッコミ)を開始してわずか1秒半。見事なスピード勝負で決着がついてしまったのだった。
 ……いや、その台詞危険だから!? とか、いろいろツッコミたいことはあるんだけど。
 なんていうか、ツッコミが関係すると恐ろしく強くなるのね、新八って。
 妖怪もなんのそのな勢いであっという間に殲滅した新八を、私とアリスは呆然と見つめていた。
 スタッと立ち上がり、それと同時に降ってきた買い物袋を綺麗にキャッチ。
 多分、最初の跳び蹴りのときに上に放り投げていたんだろう。
 ……どこの曲芸師だ、アンタは。

 ―――うおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 と、突然湧き上がるギャラリーからの咆哮。
 とりあえず、みな一様に「感動した!!」だの、「アイツらには俺たちも手を焼いていたんだよ」だの、「スゲェ、君は超人か!!?」なんて新八に言いよっているのが眼に映った。
 ……、超人って……ジェロニモとか? なんか以前神楽がそんなこといってた気がするけど。
 アッハッハッとか大笑いする町民一同。どうやら相当嫌われていたらしい、あの二人組み。
 うん、でもあれだ。とりあえず、そのテンションについていけてない新八に気がついて欲しいのだが……、まぁいいや、もみくちゃにされてる眼鏡野郎が面白いからもうちょい見ていよう。


















 そんなわけで、あれからアリスと別れ、よろず屋に戻ってみると、これまた珍客が姿を現していたのである。
 彼女の名前は鈴仙・優曇華院・イナバ。月の兎の少女は、緊張したように椅子に座っており、その向かい
ッ側にやる気なさそうな銀時と、これまたやる気のなさそうな神楽の姿が視界に映る。

 「どうぞ」
 「あ、お構いなく」

 コトッと、鈴仙にお茶を出す幽香に、彼女は恐縮したように慌てて言葉をつむぐ。
 うーん、彼女のことを知ってるならその反応も、まぁわからないでもないけど。何しろマジで幻想郷最強クラスの妖怪だし、幽香は。

 「そんで、ウドンゲ。依頼ってーのは?」
 「あ、はい。実は―――」

 銀時の言葉に、鈴仙はいいずらそうに口ごもる。
 なんだ、本当に今回の依頼人になるわけだ、彼女。
 新八が台所の奥に消えていく中、私は遠慮なく椅子に座って彼女の言葉を待った。
 すると、やがて小さく、しかし確かに―――

 「実は、永遠亭の大掃除を手伝ってもらいたいんです」

 ―――そんな、思わず自分達でやれよ!? とツッコミたくなるような言葉をつむいでいたのだった。



 ■あとがき■
 こんばんわ、白々燈です。
 今回も試験的な話。ちょっと短いですが銀魂メンバー以外の視線で話を組んで見ました。

 前回の話は自分でもある程度覚悟していましたが、やっぱりいろんな人がネタにしてたみたいですね。
 自分の力不足を再認識する形になりましたが、これを糧にこれからもがんばって生きたいと思います。
 皆さん、厳しい意見。ご感想。どうもありがとうございました。

 と、最近感想とか見てると銀魂知ってて東方知らないという方が多い様なので、今までに登場した東方キャラの簡単な説明でもしてみようかと思います。
 大体あとがきに5キャラずつぐらい。もしかしたら、自分の勝手な妄想も入ってるかもしれないですが、その辺指摘してもらえるとありがたいです。いらないと思われるなら遠慮なくいってください。その場合、ちゃんと消しますから。
 さて、そんなわけで、第一回東方キャラ紹介、やってみようと思います。

 ■東方キャラクター紹介■

 【博麗霊夢(はくれいれいむ)】
 ・種族 人間
 ・能力 「空を飛ぶ程度の能力」
 ・東方シリーズの主人公。異変解決の専門家の巫女。非常に陽気で危機感に欠ける。誰にでも同じように接し、優しくも厳しくも無い。そんな性格からか、強い妖怪から好かれやすく、弱い妖怪には恐れられる。平たく言うと誰に対しても容赦しない。
 能力は名前だけ聞くとそうたいしたことのないように聞こえるが、実際は「あらゆる束縛から解放される」というとんでもない能力だったりする。
 ちなみに、彼女は仕事をしないことで有名。

 【霧雨魔理沙(きりさめまりさ)】
 ・種族 人間
 ・能力 「魔法を使う程度の能力」
 ・東方シリーズもう一人の主人公。元幻想郷最速だった人。職業が魔法使い。性格は人を馬鹿にしたような態度をとり、思いやりがあるようには思えないが垢抜けており、一緒に居ると楽しくかんじる。見た目に反して結構な努力家。
 ルパンと次元のような関係な人物はいないがその代わり、ルパンととっつぁんの間柄な人物ならわりと多数。ちなみに「借りていく」の名目でしょっちゅう本を盗む。
 魔力駄々漏れで燃費が悪いらしい。

 【比那名居天子(ひななゐてんし)】
 ・種族 天人くずれ
 ・能力 「大地を操る程度の能力」「気象を操る程度の能力(緋想の剣の能力)」
 ・東方緋想天のラスボス。不良天人だの天人くずれだの言われるとおり、性格は天人らしくなく、非常にわがまま。言動はSッポイのにストーリーモードでは全員からワザとボッコボコにされていたことが原因でM疑惑が浮上中。
 暇で退屈だからという理由で幻想郷に異変を起こした前代未聞な人。
 彼女本人のストーリーモードで多くのキャラに連戦して勝利していく様から、多分強キャラではあるだろうが、紫にギッタンギッタンにされたことを考えると最強クラス一歩手前ぐらいの強さと思われる。

 【風見幽香(かざみゆうか)】
 ・種族 妖怪
 ・能力 「花を操る程度の能力」
 ・自称、幻想郷最強。ただし、それも自他認めるほどの実力の持ち主で、阿求いわく、人間じゃ到底かなわないとまで言われている。一年中花に囲まれて生活し、邪魔が入れば絶大な力で問答無用で滅ぼしにかかる。他の生き物にまるで容赦しない。
 花を操る能力は実際オマケ程度で、実際は人間をはるかに凌駕した身体能力で戦うほうが得意。
 花を飛ばしたり、傘で攻撃したりする優雅な戦い方をする。特定の力を持った人間か、同じくらい強力な妖怪しか相手にしない。
 人の神経を逆なでるのが大好きな困ったさん。

 【射命丸文(しゃめいまるあや)】
 ・種族 天狗(鴉天狗)
 ・能力 「風を操る程度の能力」
 ・幻想郷最速の鴉天狗。性格は真面目で社会適応性は高いが根は狡猾。強いものには下手に、弱いものには強気で接する。ただし、取材対象には常に礼儀正しい。
 実は一回だけゲームで主人公を務めていたりする。ONとOFFの言葉使いの違いが大きい。地味に強キャラで最強クラスの実力の持ち主だが、天狗ゆえにあまり本気を出さない。文々。新聞という新聞を発行しており、妖怪の山以外の場所の出来事も記事にする。
 妖怪の山の外の人間や妖怪を記事にするのは、天狗の中では彼女だけらしい。



[3137] 東方よろず屋 第八話「嫌よ嫌よも好きのうちなんて所詮妄言って誰かが言ってた」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/06/20 23:23
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください








 永遠亭は迷いの竹林と呼ばれる場所に建っている。
 そこは文字通り人が入ればたちまち迷い込み、数日は迷い続けることで有名な場所である。
 実際、銀時たちもコチラに着てから数日でその場所の噂を耳にしており、この竹林に足を踏み入れたことは一度も無い。
 とはいっても、もともと神経の図太い連中の集まりであるよろず屋メンツといえば、そんなことを気にして仕事を放置する気もさらさら無いのである。
 何しろ生活費がかかっている。そろそろ天子の差し入れの桃だけで生活するのは色々とまずい。
 特に銀時の血糖値がマズイ。そろそろ糖尿病一歩手前どころかマジで糖尿病になりそうな勢いなのである。

 とまぁ、そんなわけで。よろず屋は永遠亭に到着するや否や、大掃除に呼ばれた理由をすぐに理解した。
 デカイ。とにかくデカイ。紅魔館と同じぐらいあるんじゃないかっていう面積の広さに、大掃除に呼ばれた理由をすぐに察するよろず屋メンツ。
 しかも追い討ちといわんばかりに、輝夜の寝室のすぐ近くにある私室。そこがもう致命的にやばかった。
 なぜか鎮座するテレビは横向きに、春だというのにコタツが用意されていて、床には何か道具やら漫画やら雑誌やらが無造作に放置されていた。
 平たく言うと、どこの引きこもりの部屋だ? みたいな状態だったわけで。
 結局、じゃんけんで各自の分担を決めて、掃除を開始したのがつい3時間前。
 途中で鈴仙がこの館の主人である黒い長髪の少女、蓬莱山輝夜の命令で誰かに青い顔しながら荷物を届けに出て行くというハプニングはあったものの、おおむね順調にことは進み、この永遠亭に住む長い銀髪を三つ編みにした薬師、八意永琳の計らいでそろそろ夕食にしましょうかという話になったのである。

 「にしても、本当に広いアル。定春に乗ってどこまでも走っていけそうアルヨ」
 「そうかもね~。あぁぁぁぁ、定春の背中気もちいぃ~」

 背筋を伸ばしながら言葉を漏らしたのは神楽。そんでもって神楽の後を付いてくる定春の背中に乗って上半身を押し付けるように抱きついているのは、ここの兎妖怪達を実質的に仕切っている黒髪セミロングの因幡てゐである。
 分担場所が同じだったこともあり、気が合うのか随分と会話が弾んでいるらしい。

 「あら、随分と仲良くなったのねてゐ」
 「神楽ちゃんも、随分楽しそうですね。いいことだとは思いますけど」

 と、コチラは保護者気取りの薬剤師と眼鏡。どちらともなく苦笑して、彼らはある場所を目指して歩いていた。
 問題の輝夜の私室。そこの掃除を担当することになったのは、あろうことか蓬莱山輝夜と、よろず屋の坂田銀時。
 駄目な上司ツープラトンという最悪な組み合わせだったのである。
 まぁ決まったものは仕方がないし、正直二人っきりにするとかある意味かなり心配だったが、二人とも自分達だけで大丈夫だと半ば強引に押し切られたのであった。
 と、永琳の足が止まり、件の部屋の前にたどり着く。その場所にある襖を遠慮なくあけると―――


 緊迫した空気のまま、坂田銀時と蓬莱山輝夜の二人は互いをにらみ合いながら動いていた。


 思わず、その場にいた四人が息を呑む。
 その剣呑とした空気に当てられたのか、喉から声が絞り出せない。
 発せられているのは明らかな敵意。二人とも眼前の人物を睨みつけ、ただただ隙をうかがうように動いている。
 どうして―――? 逡巡する思考の中で、その疑問だけがぐるぐると回り続けた。
 目の前の光景が理解できない。どうしてこんなことになっているのか、新八の頭にはただ疑問しか湧き上がってこなかった。
 すーっと、二人とも流れるような足運びで動き続ける。ともすれば、残像すら見えそうなこの流動。
 見るものが見れば、美しいと感嘆したことだったろう。
 流れる沈黙が場を支配する。その沈黙を破ったのは―――


 「だから違うってば!! 無想転生の動きはこっからこーやって―――」
 「ばっかオメェ!! ありゃあ北斗七星の軌跡を描いてんだよ」


 そんな、緊張感のかけらもねぇ二人の間抜けな発言だった。
 そうとわかればあら不思議、さっきまで洗礼されていた動きに見えていたものが、なぜか今は間の抜けた動きにしか見えなくなる。
 相変わらず奇妙な動きを続ける二人。そんな彼等―――というより、銀時に向かって走っていく一人の人影。
 その気配に気がついたのか、銀時はハッとしたように振り返り―――

 「何やっとんじゃてめぇらぁぁぁぁあぁあああああああああああああああああ!!!!」

 ゴグシャッ!! と、新八の恐ろしく切れのいい跳び蹴りを食らって顔が勢いよく捩れた。
 「ごぶるぁっ!?」とかなんとか奇妙な悲鳴をあげ、床に何度も叩きつけられながら吹っ飛んでいく坂田銀時。やがて庭に突き抜けて顔が地面に擦れながらようやく停止する。
 そんな銀時の頭を、グシャッと追い討ちのように踏みつけるステキな人物が約一名。

 「銀時ぃ? 新八の声が聞こえてここまで吹っ飛ばされてきたってことは、またサボったのよねぇ、貴方ってば」

 ンフフッと素晴らしくいい笑みを浮かべながら、だがしかし、眼が激しく笑っておらず、恐ろしいほどの視認できそうなどす黒いオーラを振り乱しながら、グリグリと銀時の頭を踏みつける緑髪のセミロングの少女。
 いうまでも無く、幻想郷最強クラスの妖怪、フラワーマスター風見幽香。
 S(サド)っ気全快で踏みつけ続ける幽香さん。そのおかげで同じ掃除場所担当だったその他大勢の兎妖怪の方々が怯えて木の陰に隠れてしまってらっしゃる。
 そんな中、顔面血だらけで銀時は踏みつけられている頭をかろうじて、目線だけを上げて抗議しようとして―――

 「あ、白い。オレァてっきり黒かと……」
 「ふんっ!!」

 グシャッ!! と、余計なことを口走ってしまい、顔を真っ赤にした幽香に思いっきり頭を踏みつけられ、顔面が綺麗に地面に埋まることとなったのであった。








 後に、八意氏は語る。あれを食らって、頭部が粉々に砕け散らなかったのは奇跡だった、と。








 ■東方よろず屋■
 ■第八話「嫌よ嫌よも好きのうちなんて所詮妄言って誰かが言ってた」■





 「それで、反省したかしら? 二人とも」
 「……ごめんなさい、永琳」
 「あの、スミマセン。とりあえず怪我の治療とかしてもらってもいいですかね? 銀さん貧血で倒れそうなんですけど? これじゃ出来の悪いホラー映画の死体みたいじゃん?」

 一通りの掃除が終わって、一同が集まった縁側。
 永琳の説教のあとに、素直に謝る輝夜と、血をだくだくと流しながら床を赤く染めまくっている坂田銀時。
 顔面血まみれ。服も自分の血液で真っ赤。そろそろ致死量に達しそうな血液をだくだく流すマダオを見つめ、永琳は「はぁ……」と深いため息をついた。

 「まぁ、少しは片付いていたみたいだからこれ以上は何も言わないわ。後は夕飯の後にしましょうか」
 「あれ? 俺の治療は? マジでこのまま放置ですか!? さすがに死ぬんですけど!?」
 「……銀さんのは自業自得だと思いますけど」

 さらっと流した永琳にツッコミという名の救援を送ってみるが、残念ながら天子の冷たい言葉が帰ってくるだけとなった。
 まぁ、実際。かなり自業自得だが。

 「ところで、お師匠様。夕飯はいいですけど、鈴仙ちゃんが帰ってきてないですよ?」
 「てゐのいうとおりアルヨ。あの紫ウサギが帰ってきてないネ」

 てゐの言葉に同意するように、神楽が言葉をつむぐ。そんな二人の言葉にのるように、定春も「わん」と鳴いて、竹林の方向に顔を向ける。
 そんな二人の言葉で、ようやく自分の弟子である鈴仙がいように遅いことに気がついたのか、永琳は思いのほか首を捻らせることとなった。

 「輝夜、一体どこに使いに行かせたの? 随分とウドンゲの帰りが遅いんだけど?」
 「あぁ、それは―――」

 永琳の言葉に、輝夜が満面の笑みを浮かべて言葉をしゃべろうとした瞬間―――

「かぁぁぁぁぁあああああああああああぐぅやぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!」

 ちゅどぉぉぉぉぉおおおん!! と、信じられねぇ爆音と共に何かが炎を纏って永遠亭の庭に落下したのであった。
 ……ちなみに、落下地点に善意で穴を修復していた新八が居て、もろに直撃を受けた彼は「なんですかぁぁああああああああああああああ!!?」などと絶叫を上げて吹っ飛んでいった。
 その落下地点。煙が吹き上がり、生まれたクレーターのど真ん中に立っていたのは、ズタボロになった鈴仙を引っつかんでいる、炎の翼を携えた白い長髪の少女だった。

 「新八ぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!? ちょっとぉ!!? 何あの子!!? 何なのあの子!!? えらくご立腹みたいなんですけどぉぉぉぉおおおおおお!!?」

 爆発の巻き添えになって吹っ飛んだ新八の心配を微妙にしつつも、隣にいた輝夜に疑問をぶつける坂田銀時。
 彼のいうとおり、目の前に落下してきた少女は目に見えて怒っているのがわかるし、憎憎しげに輝夜を睨みつけているもんだから、銀時にしてみたら彼女に問いかけるしか方法が無いわけで。
 一方の輝夜はというと、「ようやく来たか」なんて呟いて、にっこりと満面の笑みを銀時に浮かべる。

 「アレは藤原妹紅。まぁ、私の知り合いよ。ところで妹紅、ひとんちの庭を爆破するなんて一般常識が足りないんじゃないの? ちゃんと修理してよね」
 「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞこのクソアマッ!! 人の家を自分の部下ごと爆破した奴が何言ってんだコラァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 ビカァッと眼に怒りという名の光を灯す少女、藤原妹紅。
 どうやらあのズタボロになった鈴仙は、彼女がどうこうしたわけじゃなく、ただ単に輝夜のお届けもののとばっちりらしい。
 ひどい。ひどすぎる。何がひどいって自分の部下に平然と爆発物持たせて相手の住居を丸ごと吹っ飛ばす辺りとか。
 まさに外道。
 後ろで事の成り行きを面白そうに見守っている神楽とてゐ。
 ンでもって心底どうでもよさそうにその光景を眺めているのが天子と幽香。
 心底疲れきったため息を漏らしたのは永琳である。

 「だからって、人の家の庭を爆破すること無いじゃないの。子供じゃないんだから、眼には眼を、歯には歯をなんて古い格言に従っちゃ駄目じゃない」
 「てぇんめぇぇぇぇええええええ、テメェのその言葉こそが幼稚だとおもわねぇのかァ? あぁ?」

 ギリギリと、遠く離れている銀時たちにすら聞こえてくるほどの歯軋りが、彼女の怒りの深さを物語る。ちなみに、その他大勢の兎妖怪たちはとっくに部屋の中に避難している。
 ゆらゆらと、妹紅の背後に立ち上る炎。それが彼女の感情に呼応するように揺らめき、青筋を立てまくりながら輝夜を睨みつける。
 そろそろ怒りのあまりに般若の顔に変わるかもしれない。あれのモチーフは怒った女性の顔らしいし。

 「あのー、すんません。あの二人、仲ワリィの?」

 そんな光景をはたから見ていた銀時が、疑問符つけながら後ろにいた永琳に言葉を投げかける。
 すると、彼女は一瞬ぱちくりと眼を瞬かせ、「そうねぇ……」なんて呟き、そして言葉をつむぐ。

 「300年前から殺し合いしてるから、そんなに仲はよくないかもね」
 「そんなにってレベルじゃねぇんですけどぉぉおおおおおおおおお!!? 明らかに仲良くないよ!? 間違いなく犬猿の仲ですよ!? ト●とジェ●ーじゃん!?」
 「銀ちゃん。その台詞色々と危ないアルネ」

 盛大な銀時のツッコミ。しかし、それに永琳が取り合う様子も無く、神楽の冷静なツッコミが帰ってくるだけだった。
 そんな後ろのやり取りを完璧に無視しつつ、輝夜は妹紅と対峙する。
 彼女の手に掴まれてる鈴仙は……ひとまず保留にしておき、輝夜はクッと喉の奥で笑ってみせる。

 「御託はいいわ。要は私を殺したいのでしょう? なら、―――いつものようにすればいいだけよ。ねぇ、妹紅?」

 小ばかにしたような輝夜の言葉。もともと、輝夜を目の前にすると沸点の低くなる妹紅が、それを許容できるはずも無く。

 ブッツンと、大事な何かが切れる音がした。

 それからの妹紅の行動は実に早かった。片手に掴んでいた鈴仙をその場に離し、信じがたい速度で低空を飛行して、輝夜の首を思いっきり引っつかんで空中に舞い上がった。
 飛翔する炎の翼。夜空に舞い上がる紅蓮の翼は、確かに美しく夜空を彩った。

 そんな光景を眺めていた永琳は、小さくため息をついてその光景を見上げた。

 「やっぱり、こうなったわね」
 「やっぱりじゃねぇよ!! 止めろよアンタッ!!」

 突然横手から上がる声。その声に視線を向けてみれば、なんと、先ほど吹き飛ばされた志村新八だった。
 その彼の背中には、未だボロ雑巾状態の鈴仙が気絶している。

 「新八!? 無事だったか!!?」
 「当たり前じゃないですか!! あの程度で死んだりしませんよ!! ついでに、鈴仙ちゃん回収してきました!!」
 「でかした新八!! そして、新八君。あれやばかったから。明らかに即死もんだったって、アレは」

 お互いの無事をたたえあいながら、ひとまず鈴仙を寝かせると、新八は永琳に視線を向ける。
 感慨深そうな表情。ただ、遠いものを見るように目を細めて、永琳は上空の二人に視線を合わせていた。
 ギャリッと音がして、二人が離れると、そのまま高速移動の空中戦が展開された。
 炎が大気を焦がし、お互いが展開する弾幕が夜空を埋め尽くす。弾丸と弾丸がぶつかり合い、焦がし、消失し、幻想的な世界を生み出していく。
 銀時が、新八が、そして神楽が。初めて眼にする純粋な決闘。この世界にのみ存在する、スペルカードルールによる弾幕勝負。

 「すげぇな。これが弾幕勝負ってやつか」

 ポツリと、銀時は嘘偽りの無い本心を口にした。
 こっちの連中はそろいもそろって常識はずれと言うかなんと言うか、こんな決闘方法なんて普通は思いつかない。
 いや、彼女等だからこそ出来ることなんだろう。
 仮に、自分が弾幕勝負をする羽目になったらと思うと、改めて理解させられる。
 おそらく、自分は彼女達にかなうまい。あんな弾幕の嵐を、全てよけて接近するなんてあまりにも無謀が過ぎる。
 以前、稗田阿求が妖怪である風見幽香に接近戦で対等に渡り合うことのほうがすごいといわれたことがあったが、銀時にはこっちのほうが凄いとしか思えなかった。
 それだけ、上空で繰り広げられる戦いは壮観で、確かに美しかった。

 「お師匠様、あの戦いとめたほうがいいと思う。余波で屋敷が壊れたりとかしたら、また掃除しないといけないし……」
 「む、そういえばそうね」

 今日が大掃除だということを思い出したのか、てゐの言葉に気難しげに唸る永琳。
 いつもなら、二人の気がすむまで大いに暴れさせるのだが、今回は永遠亭が近くにあり、なおかつ掃除の途中である。
 あの二人、戦いになると見境無く攻撃しまくるところがあるので、このままだと永遠亭に危害が及ぶ可能性が大である。
 そうなると、今まで掃除した場所をまた掃除しなくてはいけないどころか、最悪大工の真似事までしなくてはいけなくなってしまう。
 それだけは避けたい。絶対に避けるべき最悪のシナリオである。

 「おーい、神楽。あれ止められっか?」
 「無理ネ、銀ちゃん。あんなに高くはさすがに飛べないアルヨ。新八、お前が行けヨ。地味眼鏡だろ」
 「って、何それ!? 無理に決まってんだろ!! ていうかどんな理由だよそれはっ!!?」

 そして、再び掃除するのが嫌なよろず屋メンバーは、何とか止めようとするために作戦会議をするものの、残念ながら弾幕勝負の出来ない彼らに、はるか上空で戦う輝夜たちを止めるすべは無い。
 永琳たちが行けばいいのだろうが、生憎、二人が永琳の言葉を素直に聞くとも思えず、結局どん詰まりに行き着いてしまった時……。

 「しょうがないわね」

 そんな、花の妖怪の一言を聞いた気がした。


















 迫り来る炎の弾幕。それをすばやく、鮮やかに、時には戦闘機のロール回転のように回避しながら、輝夜は弾幕を展開していた。
 無数の弾による弾幕で、相手を封殺し、なおかつ蹴散らす。
 数百に及ぶであろう、整頓とした弾幕は、大気を焦がすように妹紅に殺到していく。
 それを、妹紅は最短距離を飛行しながら、輝夜に接近する。
 あるものは避けて、あるものはその手で弾き、あるものは避けもせずに被弾するが、そのおかげで距離をとろうとした輝夜の首を再び掴んだ。
 ギリギリと締め付ける。そのまま力を込めて、このまま炎に包ませてやろうとするものの、それよりも先に伸びてきた輝夜の腕が、妹紅の首を爪を立ててつかみとる。

 「っぐ!?」
 「っ」

 そうして、結果的には、一時的に弾幕が止んで、静けさが辺りを包み込んだ。
 次第に、お互いの腕に力が込められる。首が絞まり、ともすれば互いの首を砕かんばかりの勢いで、ギリギリと力を込めていく。
 この程度で、二人は死なない。何しろ、二人とも蓬莱の薬という秘薬を飲み、不老不死となった身。
 既に生を数えれば千年以上のときを、この二人は生きている。
 たとえ、首をへし折られようが、真っ二つになろうが、跡形も無く消し飛ぼうが。
 二人は絶対に死なず、すぐさま体が再生する。
 実際、先ほど妹紅が被弾した場所にはもう火傷の跡すらも無い。
 爪が肉に食い込み、お互いをビリッとした痛みが脳に伝わる。そして―――

 ゾクリと、二人の背筋を言い知れない悪寒が走りぬけた。

 「……なぁ、輝夜」
 「……何、妹紅」

 恐る恐る、二人が言葉を投げかける。
 背筋に残る悪寒はちっとも消えてくれず、むしろ強くなる一方。
 いつの間にかお互い首を絞めることすら忘れていたが、今はそんなことに気をかけている余裕は無い。

 「なんかさ、すっごくいやな予感がするんだが……」
 「奇遇ね、私もよ」

 二人とも感じている悪寒。あぁ、気のせいだったらいいのにね、なんて。お互い乾いた声で笑ってみる。
 OK、落ち着こう私。落ち着こうか私。
 大きく息を吸い、大きく息を吐いて深呼吸。
 恐る恐る、眼下に視線を向けてみるとそこに、


 ステキに嫌な光景が広がっていたのでした。


 とりあえず、その光に二人はよく見た覚えがあった。
 白い光が収束し、膨張した光が今か今かと、開放される瞬間を心待ちにしている。
 そう、それは黒白の魔法使いが得意とし、特に愛用していたスペルカード。
 【恋符「マスタースパーク」】と呼ばれる、小さな山ぐらいなら跡形も無く吹き飛ばす高出力スペルカードと、その光景はとってもよく似ていたのだ。
 うん、それはいい。いや、今この状況でなんでそんなものが見えるのかとか色々思うことはあるが、とりあえずそれは脇に置いといて、一番の問題はだ。

 なんで、そんなトンデモネェスペルカードとよく似た光を、あの風見幽香がニッコニコ笑顔でこっちに向けているのかということだ。

 閉じられた日傘の先に、白い光が凝縮されていく。暴力の塊がぎゅうぎゅうに凝縮されて、今か今かと開放の瞬間を待っている。

 「ちょ、待て待て待て!! それマズイだろ!! 何で他人のスペルカードをパクッてんだよ!!」
 「そ、そうよ!! 落ち着きなさい!! さすがにそれは痛い所の話じゃないんだけど!!?」

 さすがにあれを食らうのは嫌なのか、全力で抗議の声を上げる二人。さっきまでケンカしてた割にはすばやい結託である。
 だがしかし、幽香はそんな二人ににっこりと、それはもう見ていて寒気が走るほどのすばらしく綺麗な笑みを浮かべて、そして言葉をつむぐ。

 「本当は横槍するの好きじゃないんだけど、あなたたちにケンカされて仕事が増えたらさすがに嫌だモノ。あと、これはそもそも私のほうが先に使ってたんだから、パクッたのはあっちよ」

 愕然とする二人。そんな二人を視界に納め、そしてもう一言。

 「じゃ、そういうわけで遠慮なく」
 「ちょっ!?」
 「まっ!?」

 叫び声を上げる暇もあらばこそ、ぼひゅっ!! と、大気を焼く音と共に、幽香の放った白い光の奔流は、見も蓋もなくあっさりと、文句を垂れようとしていた二人を飲み込んでいたのだった。
 白い光が空を切り裂いたかのような錯覚さえ覚える光景。やがて長く放出されていた光は細く細く弱まっていき、やがてその力を失って虚空に溶ける。
 空を漂っていた雲がわれ、欠けた月がぽっかりと顔を出す。それが、その攻撃の破壊力ッてぇもんをありありと語ってくれたのでした。マル。

 ひゅるりぽてりと庭に落下する気絶した二人。原形をとどめている辺り驚愕に値するかもしれないが、まぁそれもいいかと幽香は発射口代わりにしていた日傘の先端をゆっくりと下ろした。

 「はい、止めたわよ」
 「ってやりすぎじゃボケェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!! 何!? なんなの今の波動砲っ!!?」

 悪気の無い笑顔で言ってのける幽香に、新八が何の遠慮もなしにツッコミを入れる。
 凄い。さっきの光景を見てここまで堂々と罵声を浴びせられる人間が果たして世の中に何人いることか。
 さすがは志村新八。ツッコミに命をかける男だ。きっとその体はツッコミで出来ていたに違いねぇのである。

 「凄いアルヨ!! 今度から姉御って呼んでもいいアルカ!?」

 んで、今の波動砲を見た神楽は大興奮。その眼が憧れに輝いている。
 傘を持ってるんだから自分もつかえるんじゃなかろうかと思っているかもしれない。
 そんなよろず屋メンバーをよそに、気絶した二人を丁寧に運んでいくてゐと鈴仙。鈴仙はどうやらさっき眼が覚めたらしく、今もまだ眼が少し眠そうである。

 「ありがとう。おかげで助かったわ。私はあの二人を寝かせてくるから、掃除の続きはそれからということで」
 「えぇ、わかった」

 永琳が幽香にそう言葉を伝えて、鈴仙たちが消えた場所に歩いていく。
 おそらく、簡単な治療だけ施して帰ってくるつもりなんだろう。そんな永琳の後姿を眺める幽香に、銀時は言葉を投げかけていた。

 「なぁ、最初に俺たちが出逢ったとき、あれ使うつもりだったか?」

 その言葉の意味が一瞬理解できなかったのか、幽香は少し驚いたような表情を浮かべて、しばらくしてからクスクスと笑い出す。
 あ、ヤベ。なんか嫌な予感がする。
 銀時がそう感じた瞬間、彼女は相変わらず笑顔を浮かべて―――

 「そうね、長引いてたら使ったかもね」

 なんて、そんな恐ろしい事実をにべも無く口にしたのであった。

 (……あ~、マジであん時たたかうのやめててよかったぁ~)

 冷や汗流しながら思う。もしもあの時、あのまま彼女と戦い続けていたら、あの波動砲もどきを自分に叩き込まれていたわけで。
 まじでよかった。味方で本当によかった。改めてそう思う。



 ちなみに、結局掃除が終わってから二人は目を覚ました。またケンカしようとした二人だったが、今度はさすがに永琳が黙らせた。物理的に。
 妹紅の家は責任を持って妖怪ウサギ達や自分が直すことを妹紅に伝えると、しぶしぶながら引き下がったので、どうやら万事解決らしい。
 そうして、永遠亭での仕事はさまざまなハプニングがあったものの、何とか終わらせることが出来たのであった。


 ■あとがき■
 どうも、白々燈です。今回はまたいかがだったでしょうか?
 イケイケ元祖マスタースパーク。旧作ネタは正直どうなんだろう? とか思ってみましたが、物は試しということで。
 次回の話もある程度は固まってます。まぁ、どうなるかは書いてみないとわかりませんが。
 にしても鈴仙。今回の話はマジごめん。
 銀魂キャラの説明も欲しいとのことだったので、とりあえずそっちのほうも書いてみようかと思います。
 まぁ、こっちはこのSSで登場する人数少ないので2人ずつぐらいで書いていこうかと。
 皆さん、ご意見、ご感想、誤字の指摘など、いつもいつもありがとうございます。

 さて、次からは白々燈的キャラ紹介に行きますよw

 ■銀魂キャラクター紹介■

 【坂田銀時(さかたぎんとき)】
 ・よろず屋を経営する銀髪の男。趣味はジャンプ。好きなものは甘いもの。
 糖尿病一歩手前のまるで駄目なオッサン。略してマダオだが、その昔、天人(あまんと)相手に戦った元攘夷志士で、白夜叉と呼ばれた実力者で、実際かなり人間離れした身体能力をしている。
 洞爺湖と銘の入った木刀片手にあまたの事件を面白おかしく、時にはシリアスに解決する。
 大体金欠。そして万年金欠。めんどくさがりな所はあるが義理は通すし、なんだかんだでいい人である。

 【志村新八(しむらしんぱち)】
 ・よろず屋で働く眼鏡の少年。主にツッコミ担当。ツッコミが絡むと異様に強くなる。
 普段は地味でダメージ担当であることが多い。基本的に無個性。
 性格は真面目だが、アイドルオタクだったりと地味に個性的。しかし、このSSでそれが発揮されることは多分あるまい。
 姉がおり、二人で暮らしている。家が道場なので、剣の心得あり。地味に強い。本当に地味に。

 ■東方キャラクター紹介■

 【八雲紫(やくもゆかり)】
 ・種族 妖怪
 ・能力 「境界を操る程度の能力」
 ・東方一のバランスブレイカー。最強クラスの実力を持つ萃香いわく、存在そのものがインチキ。モノにもよるが、間違っても彼女を戦闘メインの作品にクロスなんてさせてはいけない。例えるならは○めの一歩にDBのブロリーを持っていくようなものである。
 彼女の境界を操る能力は物事の根底を覆す能力で、別の場所と場所を繋いで移動するほか、論理的な創造と破壊を可能にする能力で、阿求の言を借りれば「神様に匹敵する能力」。彼女も最強クラスの実力を持ったうちの一人で、友人関係も伊吹萃香、西行寺幽々子と、最強クラスの力を持ったメンツが多い。能力のほかにも、常識を超えた身体能力と、超人的な頭脳を持つ。
 性格は人情に欠けるとされているが、本人は話し好き。天子を亡き者にしようとした割には、なんだかんだで桃を持ってくれば許すみたいな発言をしているあたり、案外優しいのかもしれない。
 ちなみに、彼女ほど幻想郷を愛しているものはいないといわれるが、皆からは何を考えているかわからないだの、胡散臭いだのいわれて色々犯人扱いされることも多い。

 【十六夜咲夜(いざよいさくや)】
 ・種族 人間
 ・能力 「時を操る程度の能力」
 ・紅魔館で働くメイドで、レミリアの世話をし、絶対の忠誠を誓っている。紅魔館に訪れる里の人間にも冷たく、常に妖怪の味方。一応、客としていく分には礼儀正しく接してくる。
 彼女の時間を操る能力は人間が持ちえる能力としては最上級。時間を早くしたり遅くしたり、時間を止めたりと出来るが、時間を元に戻すことだけは出来ないらしい。また、この能力は空間をいじることも同様に可能とする。

 【小悪魔(こあくま)】
 ・種族 悪魔
 ・能力 -
 ・紅魔館に住み着く小悪魔。名は無い。ちなみに正式な設定も実はほとんど無く、悪戯好きであるというこは公式設定らしい。
 ただ、大体は礼儀正しく書かれていることが多く、パチュリーの使い魔だったり、図書館の史書のようなしごとをしていたりされていることが多い。
 外見にしても、二通りあり、髪が長くスタイルがいいタイプと、ボブカットで子供に近い体型の二通り。
 ちなみに、公式絵が無いのでどちらが正しいのかも現時点では不明。

 【パチュリー・ノーレッジ】
 ・種族 魔法使い
 ・能力 「魔法(主に属性)を操る程度の能力」
 ・紅魔館に住む魔女。属性魔法を得意とし、さまざまな魔法を組み合わせたりして行使する。
 中でも小さな太陽を作り出して、それを破裂させることで大爆発を起こす日符「ロイヤルフレア」は圧巻の一言に尽きる。
 性格は暗く愛想が悪いが、思考が暗いわけではない。物静かで、めったに外には出ない。100年以上生きているが、ほとんどを本を読むことで生活している。喘息もちで、呪文の詠唱が最後まで出来ないことがしばしば。
 魔理沙とは「ルパンととっつぁん」な関係。よく魔理沙に本を盗まれる。

 【上白沢慧音(かみしらさわけいね)】
 ・種族 獣人(ワーハクタク)
 ・能力 「歴史を食べる(隠す)程度の能力(人間時)」「歴史を創る程度の能力(ハクタク時)」
 ・知識も豊富でちょっと固いところがあるものの人がよく、人里で寺子屋を開いている。満月のときにハクタクに変身し、体毛が変わり、角が生える。
 能力の歴史を食べるとは、文字通り歴史を隠してしまうことである。また、歴史を作るというのは文字通り、歴史を作り上げるという、能力はかなり強力であると思われる。
 不老不死の藤原妹紅の数少ない理解者でもある。



[3137] 東方よろず屋 第九話「太陽と月と星に吼えてもただ虚しいだけである」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/06/20 23:24
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください








 魔法の森には魔法使いが住みやすい環境である。それは事実であり、実際、霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドはこの森の中に居を構えている。
 そんな森の中を歩くのはよろず屋メンツの一人、神楽とそのペットである白い巨大犬、定春であった。
 永遠亭の仕事があったのが先日。その仕事をこなし、さすがに休暇をとらにゃあ労働基準法に訴えられるとか何とかで今日は休日と相成った。
 実際、そんなことをせずとも仕事が舞い込むこと自体がそう多くないというのに、こんな休暇などあまり無意味ではなかろうか? と、思いもした。
 しかし、銀時が本格的にサボりたいだけと悟ると、みな結局何も言わずに休日を受け入れたのである。
 そんなわけで、神楽は定春をつれて、幻想郷を渡り歩いてみることに決めたのがつい先ほど。
 迷いの竹林にだけは足を踏み入れないようにという銀時の言葉を一応守りつつ、適当に歩を進めて魔法の森にたどり着き、興味本位で探索を開始したのが一時間前。
 だがしかし、彼女は知らなかったのだ。ここ魔法の森も、迷いの竹林と同様に迷いやすい場所であるということを。

 「定春~、帰り道どこかわかるアルか?」

 案の定、彼女はこの森で迷っていた。だが、その声に危機感は感じられず、むしろ適当な感じすらするのである。
 定春は彼女の言葉に応えるように、匂いをかいでいるようだが、生憎イマイチ芳しくないらしい。
 そんな二人の様子を眺める三つの影がある。

 「あっはっはっは、見てよアレ!! おっかしぃ~!!」
 「ちょっと、サニー大声出さないでよ。いくら私の能力で音を消してるからって」
 「でも、本当に間抜けな人間よね。この森に堂々と入ってくるなんて」

 三種三様の言葉。大笑いする仲間をジト眼で睨む少女、そんな二人にはかまわず目の前の神楽と定春の様子に小ばかにしたような言葉をつむぐもう一人の黒髪の少女。
 そんな三人の背中には、皆さまざまな薄い羽が生えていた。
 サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア。この魔法の森で森に入ったものを迷わせて悪戯をする妖精である。

 「いいじゃん、ルナの能力は信用してるんだしさ。どうせならもうちょっと驚かせてやろうよ」

 クックッと笑いを噛み締めながら赤い服を着た妖精、サニーは言葉をつむぐ。
 そんな彼女の様子をむっとした様子で睨みつけているのが、ルナと呼ばれた白い服を着た妖精だった。

 「ちょっと、危ないわよ。何をするつもりなの?」
 「近づいていって後ろから脅かすの。私の能力なら絶対にばれないって」

 ルナの言葉に、サニーの案の定といった返答が帰ってきて、思わず深いため息をついてしまう。
 確かに、サニーの持つ光を屈折させる程度の能力を使えば姿を隠すことも容易だが、そういったことをやってうまく驚かせたことが今まであっただろうか?
 残念ながら、ルナの思いつく限りではほとんど無い。まぁ、驚かそうとする相手が悪いといってしまえばそれだけなのだが。
 何しろ、この魔法の森に訪れるものたちといったら、博麗霊夢だとか魂魄妖夢だとか十六夜咲夜だとか。
 とにもかくにも、常識的に考えて戦ったらまずい分類の相手しか来ないのである。
 そういう意味で言えば、今までろくに悪戯できなかったサニーがこの少女を驚かそうというのもわからなくも無い。
 だが、ルナはなんというかいやな予感しかしないでいたのだ。

 「いいじゃない。行かせてあげれば」

 そんなルナの様子に見飽きたのか、横から声を出したのは黒髪の青い服を着たこの場にいる最後の妖精、スターサファイアだった。
 そんなスターの言葉に反論しようとしたものの、肝心のサニーがかの少女に向かって飛行していってしまったのである。
 しょうがなく、消音の能力で彼女から発する音を全部消して事の成り行きを見守る。
 少し飛行してから地面に着地し、一歩、また一歩、サニーが件の少女の背後に接近して。
 音を消しているのに抜き足差し足という間抜けな光景ではあったが、まぁその辺りをこの妖精たちには疑問に思わない。
 そして今まさに、木の後ろから用心深く接近したサニーが、少女を驚かそうとした瞬間―――

 「私の後ろに立つんじゃねぇコンチクショーーーーーーー!!!!」

 少女……、神楽の振り向きざまに放った蹴りが、ものの見事にサニーの頭スレスレを通過した。

 「ひっ!?」

 思わず硬直し、そんな情けない悲鳴を上げてしまうが、ルナが音を消してくれたおかげでそれが神楽に聞こえることは無かった。
 彼女の身長が、人間の10歳そこらの子供程度の身長しかないのが幸いしたのだろう。
 もし、これで彼女達が神楽ぐらいの身長であったならば間違いなくその蹴りが直撃していたはずである。

 グキャリと、蹴りが命中した大木はあっさりとへし折れ、ぐるんぐるんと回転しながら宙を舞った。
 当事者のサニーはもちろん、その光景を見ていたルナとスターでさえ、「はい?」と思わず声を漏らしていた。
 何しろ、その大木ときたら大人4人が手を繋いで輪を作ったほどの太さがある。
 そんな大木が、あろうことかあの少女の蹴りによって、衝撃のあまりにへし折れたどころか、ぐるんぐるんと宙高く空を舞っているのである。
 ただの人間の子供だと思っていた彼女達は、その光景に愕然とするしかない。
 だがしかし、神楽はただの人間などではなく、夜兎族と呼ばれる戦闘民族の天人(あまんと)。
 その実力は一人で一個大隊だとか一個師団に匹敵するとか何とか。
 そんな彼女の放った蹴りが、当然ながら尋常じゃない破壊力を秘めている。

 やがてズズーンと響く重低音。その場にぺたッとへたり込んでしまったサニーは、このとき致命的な間違いをやらかしてしまっていたのである。
 本当なら、この場からすぐに逃げ去るべきだった。なりふりかまわず、それこそ弾かれたように逃げていれば、こうなることは無かったはずなのである。
 ひょいっと持ち上げられる体。後ろ襟を何かにつかまれたようで、後ろを振り返れば、そこにはあの巨大な犬、定春。

 「どうしたアルか、定春。……? そこに何かいるアルか?」

 神楽の疑問に、吠えることなくうなずくことで定春は答える。途端、サニーの顔から血の気がサぁーッと引いた。
 何しろ、目の前の少女はあろうことか定春の首元……要するに、今は能力で見えなくなっているサニーがいる場所を蹴る気満々である。
 ヒュッヒュッと風を切る音が少し離れたここにまで聞こえてくる。
 ヤバイ。何がやばいって色々やば過ぎる。あんな蹴りを食らったらひとたまりも無いことぐらいすぐにわかる。
 かといって、逃げようにもこの犬が襟をくわえて離してはくれない。
 今まさに、神楽のメガトンキックが放たれようとした刹那―――

 「うわぁぁぁ!! ちょっと!! 待って待って、蹴らないでぇぇぇ!!!!」

 能力をといたサニーの姿が、神楽の眼に映ったのはその時だった。




 ■東方よろず屋■
 ■第九話「太陽と月と星に吼えてもただ虚しいだけである」■





 「ふーん、お前達この森に住んでるアルか?」

 少し開けた森の広場、そこで神楽は目の前で律儀に正座している三人の妖精に視線を向けていた。
 サニー、ルナ、スターの三人に一瞥をくれて、神楽は興味なさそうに三人を視界に納めている。
 話を聞いたところ、この森で神楽が迷った原因は彼女達の仕業であることがわかりはしたが、神楽は別にとがめるわけでもなく、ただふ~んと頷くだけ。

 「まぁ、いいアルヨ。あとで道案内してくれれば何も言わないアル。え~っと」

 難しい顔をして黙り込む。一体何を考えているのかと疑問に思ったが、どうやら視線はサニーに向けられているらしい。
 うっと呻くサニーをよそに、神楽はやがてようやく思い出したといわんばかりにポンッと手を叩いた。

 「ビッチ」
 「ビッチ!? 何それっ!!?」
 「何ってお前の名前アル」
 「違うわよ!! ていうか一文字も掠ってないし!!?」

 大いに怒鳴り返すサニー。その様子を嗜めようとするルナだったが、「面白そうだからもうちょっと見てましょう」というスターに止められる。
 そんな心配そうなルナと、いかにも楽しんでいる風のスターをよそに、神楽とサニーの言い争いは続いていた。

 「サニーミルクよ、サニーミルク!! 変な名前付けないでよ!!」
 「うるさいアル。お前の名前が無駄に卑猥からそんな突拍子も無い名前がつい浮かぶんだろうがクソが」
 「卑猥って何よ!!? ていうか言葉使い悪いしっ!!?」

 一旦始まってしまえば収まらない口げんか。それはどんどんヒートアップしていき、サニーのほうはともかく、まぁ神楽の口から放送禁止用語が出るわ出るわ。
 その辺の言葉の意味を、この妖精三人が知らなかったのは幸いといえばそうなのかもしれない。
 まぁ、その三人のうちの二人は、神楽とサニーの口げんかにいい加減飽きたのか定春とじゃれ付き始めていたりするが。

 「じゃあ、私がビッチならあの二人はどうなるって言うのよ!?」

 ズビシッと、定春とじゃれ付いていた2人に指をさすサニー。
 ルナはともかく、スターは「こっちに話し振るなよ」と言いたげな目を向けていたが、その視線にサニーが気付く様子は無い。
 そんなサニーの言葉に、神楽は少し考え込んで―――

 「ドリルと田中」
 「ど、ドリ……」
 「た、たな……」

 神楽から飛び出した言葉に、思わず絶句する2人。ちなみに、ドリルがルナ。田中がスターである。

 「な、なんでよ!! なんで二人だけ微妙に名前が掠ってるのよ!!?」

 そして恐ろしくピントのずれたところで怒るサニーを尻目に、ガクッと落ち込んでいるルナとスター。
 サニーにいわれてその事実に気がついたのか、神楽はしばらくして「あ、本当アル」なんて呟いていた。
 恐ろしい混沌空間。ここにはなまじツッコミがいないだけによりカオスな空間が広まりつつあった。
 Come on!! 新八!! 頼むからこいつ等を何とかしてくれ!!

 「よし、わかったわ!! そんなにいうんなら勝負よ勝負!!」

 完全に頭に血が上っているのか、そんなことをのたまうサニーにぎょっとするルナとスター。
 さっきの光景を忘れたというのか、もう狂気の沙汰にしか思えない。
 案の定、ルナとスターは慌てて彼女に駆け寄って「なに考えてるのよ!?」だの、「無茶よ!?」だの言い争っている。
 そんな光景を視界に入れて、神楽はニヤリと笑って見せた。

 「わかったアル。勝負の方法は?」

 掛かった!! ニヤリと、サニーが今度は表情をゆがめた。
 彼女達にいわれるまでもなく、今回はちゃんと頭を使ったのである。
 何も勝負とは殴り合いだとか弾幕勝負だけじゃない。自分達にもっとも有利な勝負があるじゃないか。
 堂々と神楽を見据える。その表情には歓喜と余裕が見て取れる。そんな不適な表情を浮かべたまま―――

 「かくれんぼよ!!」

 そんな、しょうもない勝負を提案したのであった。













 サニーの提案した勝負はこれ以上にないくらいしょうもないものだったが、彼女達の能力を考えればそれはこれ以上にないくらい有利なものだった。
 勝負の詳しい内容を説明すれば、刻限は空が夕暮れになるまで。範囲はこの広場を中心にした半径500mの森の中。
 鬼は神楽。隠れるのはサニー、ルナ、スターの三人。
 単純に考えて、この勝負は神楽が圧倒的に不利だ。何しろ、妖精たちの能力はそれぞれこのかくれんぼに適しているといえる。
 サニーの能力は光を屈折させる程度の能力。これで三人の姿を消してしまえばそれだけで見つけにくい。
 ルナの能力は音を消す程度の能力。サニーの能力で姿が消え、これで音を消されてはわずかな気配すらもわからなくなる。
 そしてスターの能力は、動くものの気配を探る程度の能力。簡単に言えばレーダー能力だ。
 そこで、神楽には定春を使うことが許され、サニーたちは固まって行動しないというハンデが与えられた。
 使う能力も、自分達のものだけを頼るというもの。それに承諾した神楽は、今まさに、100まで数え終わるところだった。

 「99~、100~」

 木から顔を離し、辺りを見回すが案の定彼女達の姿は見えない。
 もとより、受けた勝負に負ける気などない。神楽はニヤリと口元を歪めて、定春の背中に乗った。

 「いくアルよ、定春。一人残らず見つけ出すネ!!」
 「ワンッ♪」

 神楽の言葉に応えるように、定春は一声吠えると匂いを頼りに進みだす。
 当面の目標は、一番厄介な能力を持つスター。何しろ、コチラの居場所を感じ取られてはすぐに場所を移されて、最悪見つけられないだろう。
 サニーの能力には匂いという弱点があるし、ルナの能力はこの三人の中で比較的見つけやすい。
 それでも、見つけ出すことが難しいことには変わりないが、だからこそ面白い。
 神楽はもともと負けず嫌いな性分だ。はなッから、負ける気なんてさらさらない。それがどんな勝負であったとしてもだ。
 こうして、4人と1匹のかくれんぼは始まりを告げたのであった。







 「なんでこんなことになるのかしらねぇ」

 そう小さな声でぼやいたが、返ってくる言葉はどこにもない。
 スターは草むらの中に身を潜めながら、辺りの気配を注意深く伺っていた。
 彼女の能力の利点は、顔を出さずとも動いたものの気配を感じ取れるということだろう。
 これなら、たいした危険を冒さずに相手の位置を確認できる。

 「みんなばらばらに隠れたわね。サニーもルナも、すぐに見つからなきゃいいけど」

 そう呟きながら、小さくため息をつくスターであったが、生憎、彼女は最後まで逃げ切る自信があった。
 彼女の能力は確かに、かなり優秀であり、こと逃げるとか隠れるといったことに特化してるといえる。
 それが、この妖精の自信の根本。事実、彼女の【目】にはコチラに移動してくる気配が見えている。
 すぐさま、距離があるうちに移動を開始する。このままいけば、一直線にスターに向かってくる。
 なら、そうならないように移動して、大きく距離をとることが大切なのだ。
 その道理にしたがって、スターは動いていた。しかし、誤算があるとすれば、その気配は間違いなくコチラを追ってきているという事実だった。

 「まずは、私ってわけね」

 苦虫を噛み潰した表情をしながら、スターは呟く。
 いい判断だと思う反面、絶対につかまってやるものかという意識も芽生えてくる。
 彼女は良くも悪くも、あの3人の中で一番冷静だ。敵の思考を読み取った彼女は、熱くなることもなく状況を冷静に判断した。
 一定の距離を保ちながら、移動を続けるスター。だからこそか、その異常に気がつくのにさほど時間はかからなかった。

 「……なんで、一気に距離を詰めないのかしら?」

 おそらく、敵は匂いで追っているのだろう。そうであったなら、コチラに徐々に迫ってくるのはわかる。
 だが、コチラの動きにあわせたように、一定の距離を保ちながら移動してくるのは一体どういうことだろうか?
 そうして、行き着いた一つの可能性。その事実にはっとした瞬間、スターはその気配が完全に立ち止まったことを確認した。
 そして―――


 「見つけたアル」


 ―――その声を、はるか頭上で聞いてしまった。
 見上げれば、そこには高い木に登って眼下を見下ろす神楽の姿。
 そう、彼女は誘い出されたのだ。この場所に。
 彼女の能力は確かに優秀だ。その能力を考えれば、探し出すことはかなり難しい。
 なら、おびき寄せればいい。彼女の能力は、【動いていないもの】を映し出すことは出来ないのだから。
 迂闊だったといえばそうだろう。もう少し注意深く考えていたなら、彼女は少なくとも見つからなかったのだから。

 「……まいったわ」

 両手を挙げて降参のポーズ。ルールはルールだ。見つかったものは仕方がない。
 そんな彼女の姿を視界に納め、神楽は楽しそうに笑って見せた。

 「まずは一人」

 木から飛び降りて、綺麗に着地する。あんまりにも綺麗に着地する神楽を見て驚いた表情を浮かべるスターだったが、神楽はそれに気付かなかった。
 定春が走ってくるのを視界に納めて、自身の前で止まった定春の頭を遠慮なく撫でてやる。

 「よくやったアルヨ定春。この調子で他の二人もあっという間ネ」

 そんなお気楽な1人と1匹を見て、そんなにうまくいくものかと嘆息する。
 まぁ、そんなスターの様子に気付いている風にも見えないの二人を見据えながら、スターは他の二人の場所を探ってみる。
 よせばいいのにまぁ……、あの2人はじっとしておくという言葉を知らないのだろうか?
 デタラメに動き回る二人の気配に、「あぁ……」と深いため息をついて頭を押さえた。
 いけない。、このままじゃ本当にコイツに全員捕まってしまうんじゃなかろうか? という、一抹の不安を覚えながら。












 ちなみに、結局スターの予想通り、ルナはともかく、姿を隠せるサニーまでもがあっさり見つかることとなった。
 え? 内容? 正直かなり盛り上がらないんで内容は省く。















 「あーあ、結局逃げ切られたアル」
 「ふんっ! あったりまえじゃない!!」

 魔法の森の入り口。そこに神楽と定春、そして妖精三人はお互いに口を交わしていた。
 アレから何度もかくれんぼは行われ、最初の全員ばらばらで逃げていたときは神楽の勝利。
 そして、今度は三人そろってのかくれんぼが執り行われ、今度ばかりはさすがに神楽と定春には分が悪かった。
 結果、三人は見事に逃げ切り、サニーたちの勝利という子達に納まったのである。
 結果的に一勝一敗の痛みわけだが、4人と1匹はそんなことはどうでもよさそうにくすくすと笑っていた。
 時刻はすっかり夕方。人里に帰り着くのは夜ぐらいになるだろう。
 銀時や新八は自分の心配をしているのだろうか? そう思って、新八はともかく銀時が自分の心配をするようには思えなくてくすくすと笑った。

 「それじゃ、道案内ありがとうアル。今日は楽しかったアルヨ。今度うちに来るといいネ。なんでも引き受けるヨ」

 そういいながら、彼女は定春の背中に乗って帰っていく。
 そんな神楽の背中を見送りながら、3人はくすくすと笑ってしまう。

 「ん~、今日は散々だったね」
 「まったくよ。サニー、だから止めとけばよかったのに」
 「でも、楽しかったわね」

 サニーの呟きに、ルナが苦笑しながら答え、スターが言葉をつむぐ。
 そんな彼女の言葉に、あぁ違いない。と、3人で苦笑して、誰ともなしに満足そうな表情を浮かべていた。
 こんなに充実した一日はいつ以来だろうか?
 自分達以外のものと遊んだのは初めてだし、オマケにそいつは妖怪並みの身体能力を持ってると来た。
 それでも、あの1人と1匹と遊んでいる間は、本当に楽しかった。

 視線の先に、もう神楽の背中は見えない。もう少しで夜のほとぼりが落ちて、世界を闇に染め上げるのだろう。
 彼女達は、そろい合わせたように家路に着いた。
 今度うちに来るといい。そんな、神楽の言葉を脳裏に反芻しながら。

















 丁度昼間、稗田阿求はお隣さんに差し入れのお米を持ちながらその玄関前に立っていた。
 ここの住人は一癖も二癖も強く、ともすれば濃いメンツという表現がぴったりな連中で、阿求にもなんと表現していいのか想像が付かない。
 まぁ、ものすごく貧乏というかなんというか、こうやって差し入れしておかないとマジで飢え死にしてそうなので、お隣さんとしてはそれだけは勘弁してほしい。

 「よし」

 小さく息をついて、一つ強く意識を持つ。
 何しろ、この先には人間+妖怪+天人というとんでもカオスワールドが広がっているのである。
 そんな場所に、今度は何が起こってもいいように覚悟を決め、そして玄関を開ける。
 ガラガラと引き戸が開き、阿求が遠慮なくお隣さん……よろず屋の坂田銀時宅に足を踏み入れたのだった。

 「銀さん。差し入れのお米―――」

 持ってきましたよー、なんてつむごうとした口が凍りつく。
 覚悟はしていた。覚悟していたはずだった。だっていうのに―――

 「えぇっと、サニーミルクっつったっけ? ……なんつーか、アレだな。名前の響きがエ……」

 ミヅッ!!

 「銀さん。こんな見た目小さい子を前にしてその先の発言はどうかと思いますよ?」
 「銀さんもお前のその要石の顔面殴打はどうかと思うんですけどもー。こんな見た目小さい子の前で流血沙汰はまずいと思うんですよー銀さん」
 「……何、私の名前そんなに変?」

 銀時と天子のやり取りに、自分の名前のことにショックを受けているサニー。

 「はい、ルナちゃん。コーヒー」
 「あ、ありがとう新八」

 そんな三人のやり取りを無視してコーヒーを楽しむ新八とルナ。

 「へぇ、あの子苦いものが好きだなんて妖精の割には変わってるのね」
 「そうアルか? ドリルは妖精の中でも変わってるアルか? 田中」
 「田中じゃないってば。スターサファイアだって。んー、確かにルナは他の妖精と変わってるけど」

 そんな二人のやり取りを見て、何気ない会話を交わす幽香、神楽、そしてスターの三人。

 ……えぇっと、何? この状況?
 そんな思考が堂々巡りして思考がフリーズしかかっている彼女を見つけたのは、偶然玄関に視線を向けた天子だった。

 「あら、阿求じゃない。どうしたのよ?」
 「いえ、天人さま。これ……どういうことですか?」

 阿求の視線の先には、未だによろず屋メンツと楽しそうに談笑する三人の妖精たち。
 それで納得がいったのだろう。「なるほどねぇ」なんて苦笑してから、天子は神楽を視界に納めて言葉を紡ぎだす。

 「神楽のお友達だってさ」
 「と、友達? 妖精と?」

 まぁ、半ば呆然とした阿求の発言ももっともなのかもしれない。
 妖精とは人間よりも弱い。それはこの幻想郷における確たる事実である。
 まぁ、それでも多少なりの危険はともなうし、めったに危険なことにはならないが、だからといって妖精を友達と表現する者はおそらく居るまい。

 いや、以前からわかっていたつもりだった。
 つもりだったのだが、天人の次は妖怪、妖怪の次は妖精とか……どんだけ見境がないのか、ここのメンツは。

 阿求は目の前のカオスワールドを視界に納め、深くため息をついた。
 まぁ何よりも確かになった事実といえば、お隣さんが今まで異常にやかましくなったという事実だろう。


 「おーい、新八!! お前も思うよな!? サニーミルクってなんか響きがアレじゃね!?」
 「うるせぇんだよこのマダオがぁっ!! その話を僕に振るなボケェェエエエエエエっ!!!」


 ……いや、以前からやかましかったか。








 ■あとがき■

 ども、みなさんこんにちわ。白々燈です。
 今回は神楽をメインにすえた話しにしてみました。
 色々疲れを残したままの執筆になりましたが、いかがでしょう。
 今回は、サニー、ルナ、スターの三人に登場していただきました。
 今まで神楽がかなりかげ薄かったので、これで少しは濃くなればなぁなどと思いつつ。
 反面、もうちょっとかくれんぼの描写増やしたかったですが、すんません、色々限界でした。もっと精進したいです^^;

 それでは、今回はこの辺で。
 次からは恒例のキャラ紹介に行きます。



 ■銀魂キャラクター紹介■

 【神楽(かぐら)】
 ・見た目は人間だが、常に傘を持ち、日光の光が当たらないようにしている。
 これは彼女が日光に弱いためで、肌もかなり白い。
 実は天人(あまんと)で他の星の住人、戦闘民族【夜兎】の一人。
 その強さは本物で、岩を一撃で砕いたり、怪我をしてもほぼ一日で完治したりとおおよそ人間の身体能力を凌駕している。
 性格は結構腹黒く、見た目の可愛さに反して破天荒でかなり辛辣。酢昆布が大好物。

 【定春(さだはる)】
 人を乗せて走れるほどの巨大な犬。万事屋の前に捨てられていたところ神楽に拾われ、万事屋で飼われるようになった。
 その正体は大地の流れ龍脈が噴出する場所「龍穴」を守護する「狛神(いぬがみ)」だが、一緒に暮らしていた双子の巫女姉妹、阿音・百音に経済的な理由により捨てられた。
 彼女らからは「神子(かみこ)」と呼ばれている。
 苺と牛乳を飲ませると巨大化して顔がごつくなって大暴れするため要注意。


 ■東方キャラクター紹介■

 【稗田阿求(ひえだのあきゅう)】
 ・種族 人間
 ・能力 「一度見た物を忘れない程度の能力」
 ・九代目阿礼乙女で稗田家の現当主。九代目だから名前は「阿求」らしい。
 百数十年に一度の転生を繰り返しながら幻想郷縁起を書いている。
 一代一代は短命で30歳ほどしか生きられないが、総括的に見ればとんでもなく長生きしている。
 主に妖精に対する黒すぎる感情が見え隠れする。なんかいやなことでもあったのか?
 パチュリー、慧音、永琳に並ぶ知識人。

 【アリス・マーガトロイド】
 ・種族 魔法使い(元人間)
 ・能力 「主に魔法を扱う程度の能力」
 ・沢山の人形を操って暮らす賑やかな独り暮らし。魔理沙とは蒐集仲間でありライバル。
 弾幕はブレイン。弾幕はパワーだと主張する魔理沙とは正反対なタイプ。
 魔理沙とは「ルパンととっつぁんな関係」の人その2。
 なんだかんだで彼女に力を貸すことが多く、でもやっぱり口喧嘩は多い。
 東方ただ一人のヤンデレ担当。東方では唯一、彼女の曲がアレンジされてカラオケにあったりする。

 【サニーミルク】
 ・種族 妖精
 ・能力 「光を屈折する程度の能力」
 ・三妖精のリーダー格。日の光の妖精。
 日の光を屈折させて、虚像を見せて道に迷わせたり、自分達の姿を見えなくしたりする。
 だが雨の日などは不自然でばれやすくあまり役に立たない。愛称は「サニー」。
 3人の中で最も頭は切れ、表情豊かで明るく、元気もある。でも一番失敗が多い。
 日の光を浴びる事で怪我を治癒する事が出来る。
 もっぱら名前の響きがえろいとか散々な言われようだったりするが、そこには目を瞑ろう。

 【ルナチャイルド】
 ・種族 妖精
 ・能力 「音を消す程度の能力」
 ・月の光の妖精。周りの音を消す事が出来る。だが音が鳴っている環境では不自然で反ってばれやすくあまり役に立たない。
 愛称は「ルナ」。三月精の中で最もとばっちりを受ける役回りをすることが多い。
 月の光を浴びる事で怪我を治癒する事が出来る。「文々。新聞」を読んでるシーンが度々登場し、人間の子供と同じ様なものを好む妖精の中では珍しく、蕗の薹やコーヒーなど苦味のあるものを好む。
 月の光の妖精だからか夜に出歩くことが多く、十六夜の日には色々なものを拾ってくるらしい。
 一応3人の中では一番残酷らしく、紫から「(三月精の中で)最も妖怪に近い」と称されていた。
 地味に小説版の主役らしい。

 【スターサファイア】
 ・種族 妖精
 ・能力 「動くものの気配を探る程度の能力」
 ・星の光の妖精。気まぐれな性格で腹黒い。
 能力は三妖精の中でレーダー的な役回りで間接的ながら重要だが、彼女の性格のせいか悪戯が失敗する事が多い。
 三妖精の中では唯一天候に関係なく能力が使える。愛称は「スター」。天候に影響を受けず、常にゆっくり回復する。



[3137] 東方よろず屋 第十話「中華って何気においしい料理が多いよね」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/06/23 21:30
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください







 空は快晴。見ていて気持ちよくなるほどの晴れ晴れとした青空。
 ゆったりと流れる雲が、平和な世界を象徴するようにゆらゆらと、ゆっくりと風に乗る。

 「……はぁ」

 だというのに、グリーンを基調とした服と帽子に身を包み、鮮やかな赤色を腰まで伸ばした髪の少女は、盛大にため息をついていた。
 出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。そんな女性らしい体つきの彼女は、憂鬱に空を見上げている。

 「なんでこんなことになってるんですかねぇ」

 ポツリと、納得がいかないように一人呟く。
 空はどこまでも晴れやかだ。だって言うのに、少女の心は曇り模様。そんな彼女はこれまた盛大にため息をついた。

 紅美鈴。それがこの紅魔館の門番を務める彼女の名前である。

 先ほどまで自分は仕事をしていたというのに、主人……、レミリア・スカーレットのふとした思い付きのためにここにいる。
 正直、彼女はそこまで危機感を感じているわけではない。
 外見だけでなく精神的にも地味に幼い彼女の主は、突拍子もなく、時にはマジで死に至りそうな無茶な思い付きをすることがある。
 彼女の妹、フランドール・スカーレットの弾幕ごっこの遊び相手とかいい例である。アレは彼女の中でも軽くトラウマになりつつある。
 今回の思いつきは、それに比べればはるかにマシといえる。それは正直ありがたい。
 ただし、今目の前にある問題はある意味では凄く悩ましい事実が転がっている。

 そう、【転がっている】のだ。

 「ちょっとぉぉぉぉ!!? いきなり拉致られたと思ったらなんですかこの状況ぉぉぉぉぉ!!? 意味わかんないんですけど!? マジで意味わからないんですけど!!?」

 眼前に、簀巻き状態でこの紅魔館中庭に連れてこられた哀れな人間の銀髪男性。
 周りには紅魔館のテラスで二人を見下ろす主要メンツどころか、妖精メイドが彼女達を取り囲んでいたりする。
 キャーキャーワーワーとえらい興奮状態の彼女達。ついでに言うと、テラスには銀髪の仲間であるよろず屋メンツが心配そうに視線を向けている。
 ……あ、ちょい訂正。天子と幽香は実に面白そうに笑みを浮かべていたりする。



 とりあえず、美鈴はどうやってこの状況を納めようか必死に思考を動かしていたのだった。




 ■東方よろず屋■
 ■第十話「中華って何気においしい料理が多いよね」■





 きっかけというのもなんてことはない。
 レミリアが咲夜から、「自分の投げナイフに近距離で反応した」という男の話を聞き、暇だし、面白そうだという理由から始まった今回の騒動。
 紅美鈴VS坂田銀時。そう銘打って開催された今回の騒動は、しかし、美鈴にとっては頭を悩ませるには丁度いい迷惑さだったのであった。
 弾幕は無し。あくまで接近戦主体の格闘戦。それさえあればスペルカードの宣言も自由。
 銀時は弾幕勝負が出来ないので、そこで格闘戦を得意とする美鈴に白羽の矢が立ったのだ。
 いい迷惑だ、とまた小さくため息をつく。
 相手は人間。こちらは妖怪。この時点で格闘戦なんて狂気の沙汰としか思えない。
 弾幕勝負は不得手だが、格闘戦は彼女本来のフィールドである。そんな彼女と格闘戦なんて、無謀以外の何者でもない。

 「銀時ー、そんなわけなんだけど事情は飲み込めたー?」
 「飲み込めるわけねーだろーが!! ちょっとサッキュン!! あんた自分のご主人にどういう教育しちゃってんの!!?」
 「残念ね、お嬢様のは素だから。私は何も教育していません」

 事情でも説明していたのだろう。レミリアの言葉に思いっきり抗議をする銀時だったが、咲夜がさりげなく自分の主に毒を吐く。
 テラスはさしずめ特等席といったところか。
 あそこにはレミリアやフランドール、パチュリー。そして咲夜と小悪魔。新八、神楽、幽香、天子、定春の姿が見て取れる。
 いい気なものだと、美鈴は内心毒づいてしまう。こっちはどうやって相手をなるべく傷つけずにことを乗り切ろうか大変だというのに。
 とりあえず、簀巻き状態でビッタンビッタンとはねる辺り、かなり器用な銀時を視界に納めて、またため息。
 いけない、ため息ばっかりじゃない。と思いもするが、この妖怪にしては心優しい彼女はどうやって相手を傷つけないかで苦心していた。
 彼女の職務はあくまで門番。門を許可なく突破しようものなら容赦はしないが、今回はそういった類のものではない。
 どう考えたって、今の銀時はレミリアの我が侭に付き合わされた被害者である。

 「美鈴さま~!! がんばってください!!」
 「ふぁいと~!!」
 「絶対に勝ってくださいね!」
 「おら、簀巻きの銀髪!! 美鈴さまに怪我させたら夜闇に気をつけなっ!!」

 ついでに、耳を劈くばかりの周りの妖精メイドの応援もどうにかして欲しい。
 声援は主に門番隊の妖精メイドたちと、彼女に憧れを持っている内勤のメイドたち。
 ……ところで誰だ? 最後の過激な発言は。

 そんな彼女の思惑などそっちのけで、妖精メイドの何人かが銀時の縄を解いて、洞爺湖と銘打たれた木刀を彼に渡す。
 その際、メイドが銀時にメンチを切っていたことだけは見なかったことにする。
 ついでにそのメイドが自分の部下の門番副長だったことも見なかったことにする。

 「あーあ、ったくよ。銀さんはやりたくないんですけども? すんませーん、キャンセルは?」
 「受け付けておりません」

 咲夜がばっさりと斬って捨てる。見ていて惚れ惚れするほどの即答振り。
 咲夜さん。アンタ鬼や。悪魔や。鬼畜ですよ、イやマジで。
 どう見たってやる気のない銀時。だらしなーく木刀を構え、適当に終わらせてさっさと帰ろうという魂胆が見え見えである。
 そんな相手に、どう本気を出せというのか? 彼女の主は全力でやれといっていたが、美鈴自身、それを実行するほど良心は捨てていない。
 と、そんな銀時を見かねたのか、テラスから上がるフラワーマスター、風見幽香の声。


 「銀さーん。ワザと負けたら承知しないわよ。もし負けたらアレ、あなたに遠慮なく撃つからそのつもりでね」


 ズビシッと、坂田銀時が完全無比に硬直した。彼の脳裏には、永遠亭の出来事がエンドレスで回想されている。
 アレって、アレ? あの二人まとめて吹き飛ばした挙句に、空の雲すら断ち割って月をのぞかせたあの波動砲ですか?
 硬直する銀時。ニッコニコ笑顔の幽香。そして言葉の意味がよくわからないで首をかしげる美鈴。
 周りのメイドたちの喧騒がやけに遠く聞こえて―――

 「っしゃぁぁぁぁぁのやろぉぉぉぉぉ!! 来いコラ!! 俺絶対に負けねぇ!!」

 なんか急にやる気出した銀髪。しかしその顔には余裕ってもんがコレッポッチもなかった。

 「なんか……、必死ですね」
 「いや、命掛かってますから」

 切実だった。切実過ぎて涙が出てきそうだったが、美鈴はかろうじて堪えた。
 でも、目の前の光景がかすむぐらいは許して欲しい。切な過ぎて今にも涙が零れ落ちてしまいそうだ。
 なんですかね、この近親間。実にいやな近親間だけど。





















 「ま、ああはいったけど美鈴に一票ってところかしら」

 ポツリと、眼下で対峙する二人を視界に納め、レミリア・スカーレットはそう言葉をもらしていた。
 日の光が彼女と、その妹、フランドール・スカーレットに当たらぬように立てられたパラソルの下で、紅の吸血鬼は冷静に状況を分析した。

 「まったく、だったらこんな催しをする必要はなかったんじゃないの? わざわざ咲夜にアレを拉致させておいて。見事な手際だったけど」
 「恐縮ですわ」
 「私も手伝ったのだけどねぇ」

 そんな吸血鬼の親友であるパチュリー・ノーレッジは、親友にそんな言葉を投げかける。
 その言葉の中で褒められた咲夜は、礼儀正しく礼をいい、少し主張するように幽香が言葉を続けた。
 実際、ことが決まって銀時を連行する際、咲夜の働きも見事だったが天子と幽香の裏切りが実に手早く銀時を拘束した。
 嬉々とした表情で銀時を縛り上げる、天子と幽香の恍惚とした表情は今でも忘れられない。
 あぁ、いい汗かいた。みたいなすこぶるご機嫌な笑顔を浮かべたまま、二人はあっさりと咲夜に銀時を明け渡したのである。
 ちなみに、幽香が亀甲縛りで銀時を拘束しようとしていたが、さすがにそれは全員から止められたのは余談である。

 「それにしても、美鈴さんって強いんですか? 門番任せてるくらいだから、相当だと思いますけど」
 「そうでもないわよ。むしろ妖怪としてはあまり強くないほうね」

 新八の言葉に、レミリアはあっさりとひどい言葉を発言する。
 まぁ、確かに。美鈴は妖怪としてはそう強い部類ではないだろう。だが―――

 「でも、こと対人となればあの子に隙はないわ。接近戦はあの子の十八番だし」

 そう、紅美鈴は確かに妖怪としては、決して強い部類とはいえないが、それでも弱者というわけではない。
 単純に、弾幕勝負という彼女の不得手な勝負方法が常だったために、得意の拳法で戦う機会がほとんどないのだ。
 人間相手には隙がないとは、レミリアの知る紅美鈴という少女をより的確に示していた。

 「随分、あの門番を評価するのね。それじゃ、私は銀時に一票」

 クスクスと笑いながら言葉にする幽香。
 その言葉に、若干驚いた様子を見せる紅魔館のメンバーをよそに、彼女は眼下に視線を向けた。

 「あなたこそ、随分とあの銀髪を評価してるのね、風見幽香」

 訝しげなレミリアの言葉に、幽香は視線を逸らさぬままクスっと笑う。
 一体何が楽しいのか、何が可笑しいのか、クスクスと銀時に視線を向けていた。

 「当然じゃない」

 つむがれる言葉。そこには絶対の自信が宿っていた。
 つりあがる唇。彼女のまぶたが閉じられ、手の中に現れる白い百合の花。
 脳裏によみがえる、あの眼。あの冷たくて、底冷えのするような夜叉の眼差し。
 その瞳を、もう一度見ることが出来るかもしれないと思うと、「あぁ…」と喉がなった。
 閉じられた目蓋を上げる。恍惚の笑みを浮かべて、これからの未知に心震わせて、言葉をつむぐ。




 「だって、あの男は私と格闘戦で引き分けた男なんですから」




 白い百合が、彼女の手から放射線を描いて、ゆっくりと中庭に落下していく。



















 湧き上がる周りからの歓声。その中で、二人はただお互いだけを視界に納めていた。
 目前の相手は、未だに構えらしい構えを取っていなかった。
 木刀を肩に担ぎ、片方の腕を着物に突っ込んでいる。戦う気があるのか? と、疑問に思うほど隙だらけな光景。

 (しょうがない。一発で気絶させて早々と終わらせよう。お嬢様には悪いけど)

 心の中で愚痴り、静かにため息をつく。
 正直それしか穏便に終わらせる方法が思いつかない。いや、穏便かと聞かれれば絶対に違うと言い張れるけど。
 それはともかく、美鈴は構えを取る。両の拳を中段に構えて、急所をカバーできるように構えるオーソドックスなファイティングポーズ。
 それを確認したらしい銀時は、ぐっと脚に力を込める。
 向こうから来るか。なら後の先で終わらせる。それが、彼女が即座に導き出した決断だった。
 カウンターの準備を内心で進めながら、彼の挙動一つ一つを見逃さない。
 脳内ではカウンターの瞬間のイメージを何度も思い描きながら、相手の出方を待った。

 そうして、まるで申し合わせたように、どこからか落ちてきた白い百合の花が、ぽとりと地面に落下した。

 その瞬間を見計らったかのように、銀時が動き出した。力を込めた脚で大地を踏み抜き、一直線に美鈴に直進する。
 この時、ことの内容はある程度までは美鈴のイメージどおりだった。何度も反芻したとおりの軌道を、この銀時という男は直進した。

 唯一の誤算は―――、その人間にあるまじき、異常な身体能力。

 驚愕に染まる美鈴をよそに、木刀が振り抜かれる。
 完全にタイミングを狂わされ、イメージしていたカウンターの構図が霧散する。
 かろうじて身をそらして避けるものの、切り返しの要領で変化した太刀筋が美鈴に襲い掛かる。
 舌打ちしながら、彼女はその木刀の腹を叩いて攻撃を弾く。

 「もらった!!」

 木刀を弾かれて泳ぐ体。その瞬間、確かに銀時は無防備に体勢を崩していた。
 美鈴の拳が、吸い込まれるように銀時の頭部に吸い込まれる。
 これで決まる。そう確信した刹那、目の前の男は弾かれた力を利用して、ギュルっと一回転しながら木刀を振りぬこうとした。
 ばかげた反射神経。それは直撃するはずだった拳を髪にかすらせるだけにとどめ、あまつさえ反撃の機会を作り出していた。

 (嘘でしょ!?)

 どんな馬鹿げた身体能力をしているのかと、驚愕しながらも美鈴自身も常人には信じられない反射神経を発揮してバックステップ。
 無理に起こしたアクションなだけに、常人なら足首を痛めるだろうその動きにも、妖怪である美鈴には苦にもならない。
 わずかに離れる間合い。美鈴の顔面スレスレを通り過ぎる木製の凶器。それを確認した銀時はそのまま倒れこむように前進する。
 追撃をかける銀色。突き出された木刀を身を捻って回避し、そのまま捻った力を使って放たれた回し蹴りが大気を斬る。

 「うぉわっ!!?」

 直撃すれば一撃で意識を刈り取るだろうその一撃を、銀時は頭を低くすることで何とかやり過ごした。
 ただし、バランスを崩し、まともに顔面から地面に倒れこみ、勢いあまってごろごろと転がっていく。
 傍目に見ていてかなり痛いが、この隙を逃すほど美鈴も間抜けではない。

 「あいたたた!! 削れた!? 今頭削れたって!!?」
 「知りませんよ!!」

 倒れていた銀時に拳を打ちつけようとするが、木刀をうまく使って軌道をそらされてしまう。
 器用な奴!! と、悪態をつきたい気分にかられながらも、湧き上がる高揚感。
 それに蓋をして、目の前の戦いに集中する。何しろ、この男はすぐさま美鈴に脚払いを仕掛けてきたのだから。
 今度ばかりはさすがに避けれず、倒れこみそうになるが何とか受身を取って距離をとる。
 気がつけば、銀時も既に立ち上がり、パンパンと服についたゴミをはたいている。


 静寂が、場を支配した。その言葉の通り、今この場に言葉を発するものは誰もいなかった。
 観客も、レミリアも、フランも、パチュリーも、咲夜も、小悪魔すらも。
 ただ一人、満足そうに笑みを浮かべていたのは幽香のみ。

 わずか一瞬の攻防。果たして今の攻防が見えたものが、あのテラスの上にいる以外のメンツで、果たして何人いたことか……。
 あぁ……と、美鈴は小さく喘ぐような言葉を漏らした。
 自分は、相手を甘く見ていたらしい。身体能力が、もう既に人のそれとしては非常識な高さ。
 なるほど、知らず知らずのうちに油断していたらしい。それに、今はこんなにも―――

 「気持ちいい」

 湧き上がる高揚感。蓋をしたはずなのに溢れ出る闘争本能。
 本来、彼女は物静かな印象を受けるが、根のほうはかなり好戦的だ。
 最近は彼女に腕試しをしてくれる相手もいなかっただけに、自分の得意な格闘戦で戦えることが、気分を高揚させる。
 改めて、美鈴は銀時に視線を向けた。
 今このときから、彼女は相手を気遣うなんていう余分は捨てる。捨てなければ勝てないと、無意識に理解した。
 この男は強い。人間でありながら、身体能力は並大抵の妖怪に凌駕するだろう。

 「失礼しました。ここからは、本気でお相手いたします」
 「いいって、本気出さなくて。出来ればわざと負けてくれたら、銀さん嬉しいんですけども。命掛かってるし」
 「そういうわけにもいきません。お嬢様の命令は絶対ですので」

 ダンッと、大地を勢いよく踏みしめる。踏み締められた地面がわずかに陥没し、構えは今までで一番力強いものを取っていた。

 「紅魔館門番、紅美鈴。参ります!!」
















 「驚いたわ。まさかここまでとはね」

 ポツリと、感情の平坦な言葉がテラスに響いた。
 声の主は誰よりも早く、その光景を現実として受け止めたパチュリーのものだった。
 眼下で繰り広げられる戦い。接近戦という美鈴の本来の戦闘スタイルを持ってなお拮抗する二人。
 坂田銀時。以前紅魔館に訪れたときとはまるで別人のような身のこなし。それを持って、彼は門番の少女と戦っている。
 彼女自身、格闘技などというものには頼ろうとしない。それを補って有り余るほどの魔法のバリエーションこそが、彼女の最高の持ち味なのだ。
 事実、パチュリーという魔女にとっては、格闘技で挑んでくる相手など大して脅威にはならない。
 魔法で防げるし、避けることも出来るし、何より接近される前にかたをつける自信があった。
 だが、それでも。自分が出来ないことに対する憧れに近い感情は、少なからずありはした。
 もともと体が弱い自分が、格闘技などむかないことはわかっていたし、それを押しとどめて本を読むことに没頭した。
 本の傍に自分があってこそ、自分はパチュリー・ノーレッジでいられるのだという、そのあり方こそは変わらない。

 だが、それを差し引いても―――目の前の戦いは驚愕と、そして興奮を覚えさせる光景だった。
 少なくとも、この格闘の「か」の字にも興味がなさそうな彼女が、無意識に言葉をつむいでしまうくらいには。

 「すっごーい、銀時。美鈴と互角だね」
 「そうね、これはさすがに予想外だったけど……、棚から牡丹餅ってこういうことを言うのかしらね」

 ケタケタと楽しそうに笑いながら言葉を紡ぐフランの言葉に、姉のレミリアが肯定するように言葉を紡ぐ。
 レミリアは別に美鈴の実力を低く見ているつもりはない。
 彼女の不得手である弾幕勝負ならいざ知らず、格闘戦であったなら彼女は人間に対してはほぼ最強だろう。
 長年の経験と、隙のない構えと、洗練された技術から放たれる技。そして妖怪特有の身体能力の高さ。
 それを持ち合わせ、更に技の鍛錬を欠かさないのがあの紅美鈴なのだ。

 その美鈴と、互角に格闘戦を行うあの坂田銀時という銀髪の男。これがまた戦い方が奇妙なのだから余計に面白い。
 構えは隙だらけ。やる気のない体勢から放たれる木刀の一撃は、恐ろしいほどに早い。
 急所を狙わず、乱雑な攻撃と見えるのに、一撃一撃が洗練されているように感じてしまう矛盾。
 加えて、そいつの攻撃というものには型がない。臨機応変に、時には足場が不確かな空中でさえ身を捻らせて、信じられない一撃を放ってくる。
 ああいう戦い方をされては、美鈴もさぞ攻め手を考えあぐねていることだろう。
 とにもかくにも、あの銀時の動きは先が読みづらい。

 「さすが銀ちゃんアル。あの歳でジャンプ読んでるだけはあるヨ」
 「いや、ジャンプ関係ないから。あの歳でジャンプ読んでるからって強いわけじゃないから」

 二人の戦いを見下ろしながら、呟くチャイナにツッコミをいれる眼鏡。
 そんな二人のテーブルに、完璧瀟洒な従者は紅茶を置いて、例を言う新八に軽く会釈をしてから幽香に近づく。

 「はい、あなたの分の紅茶ですわ」
 「あら、ありがとう」

 彼女の分の紅茶をテーブルに置くと、幽香はいつものように笑みを浮かべたまま言葉をつむぐ。
 そのまま、彼女は咲夜には興味がないといわんばかりに視線を眼下の戦いに向けた。
 振り抜かれる木刀。それを受け流し、何とか隙を作ろうとする美鈴。
 その隙を作るまいと、無茶な体勢からも鋭い一撃を放ってくる銀時。
 拮抗した戦い。お互いの実力が伯仲し、なかなか致命打を与えられない。
 その男の目を、幽香はただ見据えた。
 今の銀時には、いつもの死んだ魚のような濁った目ではなく、嬉々とした感情が読み取れる。
 なんだ、ノリノリじゃないの。なんて思いもしたが、小さくため息をつく。

 「でも、足りないわ」

 そう、足りない。あの眼じゃない。あの底冷えのする、冷たく鋭利な夜叉の目には、まだ遠い。

 「ねぇ、見せてよ銀時。あの目を」

 静かな独白は、誰の耳にも届くことはなく、やがてどっと沸きあがった歓声の中に消えていった。


















 もうどれだけ戦っていただろうか。
 ここに来て、互いの種族としての決定的差が現れ始めていた。

 すなわち―――耐久力、スタミナの差だ。

 銀時にはうっすらと汗が滲み、わずかに呼吸が荒くなっている。
 それとは対照的に、美鈴には汗もなく、呼吸を乱した様子もない。まったく疲れは見えていなかった。

 「おいおいおい、元気すぎるんじゃねぇの? どこの超戦士ですかコノヤロー」
 「銀時さんが不健康すぎるのでは? というか、人間と妖怪の基本能力を一緒にされても正直困ります」

 まったく持ってその通りである。妖怪と人間という時点で身体能力に致命的なハンデがつくものだ。
 銀時の身体能力の高さもあって、それは限りなく縮まってはいるが、耐久力となると話は変わってくる。
 周りの歓声がやけに大きかったが、二人には互いの声がちゃんと聞こえ、じりじりと間合いを調節する。
 このままでは、おそらく銀時の敗北で決着がつくだろう。何しろ、本当に目の前の少女には隙が見当たらない。
 攻撃にも防御にも、付け入れるような隙を見つけられず、じりじりと体力を消耗する結果となってしまった。

 「銀時さん。私、一枚だけスペルカードを使わせていただきますよ」

 途端、空気が変わった。美鈴が決意したように銀時に視線を向け、その瞳には確かな覚悟が張り付いていた。
 木刀を構えなおす。未だ致命的な怪我こそ負っていないものの、油断すれば即座に敗北が待っているだろう。
 空気がぴりぴりと痛む。周りの歓声さえ聞こえなければ、まるで戦場に佇んでいるかのような錯覚さえ覚えてしまう。
 そんな感覚を覚えてしまう自分自身に、チッと舌打ちしながら脚に力を込める。
 二人とも、互いに視界を納めたまま動かない。数秒とも、数分ともつかない奇妙な時間の中で―――

 美鈴が、今まで以上のスピードをもなって動いた。

 今までの比ではない。幽香には及ばずとも、それでも銀時には十分に早く感じる速度。
 銀時の眼前で、美鈴の体が右倒しに近い体制となる。

 (左っ!)

 間髪いれず、銀時は左に体を向ける。
 今の美鈴の速度なら、ここから反応しなければ間に合わない。反撃をするつもりならばなおさらだ。
 振り返る。視界の先に、緑の帽子をかぶった彼女が、そこに―――居なかった。
 それを脳が認識した瞬間、【背後】から感じる冷たい感覚。

 「しまっ!?」
 「―――三華!」

 振り返れば、宣言したスペルカードを放り投げる美鈴の姿。
 力づくで引き上げたトップギアによるフェイント。そのフェイントに、まんまと引っかかった自分自身にしかりつけたい気分になる。
 だが、避けようにも、防御しようにも、反撃しようにも、今の銀時はあまりにも隙だらけだった。

 掌が腹部にめり込む。華奢な腕からは想像も出来ない破壊力を秘めたその一撃が、銀時の体をくの字に折り曲げる。

 「【崩山―――」

 そのまま美鈴は身を低く屈め、肩で突き飛ばすように銀時を上空に跳ね飛ばした。
 トラックにひかれたかのような衝撃。上空に空高く跳ね飛ばされた銀時は、鈍い激痛を覚えながら青い空を視界に納めていた。

 (ヤベェ、これちょっとまずくねぇ?)

 木刀を落とさなかったのは僥倖というべきだろうか? だというのに、体中が痛みでうまく動かせないのだから、どの道敗北は確定だろう。
 あー、アレ食らわなきゃいけねぇのかなぁ? などと微妙にずれた思考展開させながら、銀時はどうせなら今のうちに気絶できないかな? なんて考えていた。
 だって、地上にはとどめの一撃を構えている美鈴の姿があるのだし。今気絶したら、多分痛みはないだろうとも思う。

 「銀さん!!」
 「銀ちゃん!!」

 (あーうるせぇ。そんな大声出されたら銀さん気絶できねーだろーが。頼むからおとなしく気絶させろコノヤロー)

 新八と神楽の声が聞こえて、そんな悪態をついてしまう。
 上昇した体が止まる。このまま、自分は一気に重力にしたがって落下するのだろう。

 その一瞬の浮遊の間に、白髪で、眼鏡をかけたぽっちゃりした誰かを幻視した。

 「あ、安西……先生」

 見てしまった。見えてしまった。落下する自身の体。
 その幻覚が、「諦めたら、そこで試合終了ですよ」なんて語っていた気がした。ついでに親指をサムズアップしていた気がするけど、多分キノセイダ。
 ぐっと力がこもる。こんなところで負けていられないし、何よりも安西先生にそんなこといわれたら負けられないではないか。
 というかそもそも、ここに来て負けたら幽香の似非波動砲を食らわなきゃいけないということを今更のように思い出した。

 「冗談っじゃねぇっ!!」

 動かなかった体に活を入れる。ギュルリと身を捻り、眼下で拳を突き出そうとしていた美鈴と視線が重なった。
 その光景を見ていた美鈴は、驚きのあまりぎょっとしてしまう。
 まさか、アレを食らって空中で身を立て直すなんて……、そんなの、この幻想郷でどれだけの人間が出来ることか?
 彼は本当に人間なのだろうか? あの体勢、あの痛打を受けて、落下する体に鞭打って反撃しようと体を捻らせている。
 だが、こちらも既に技の体勢は整ってしまっている。こちらも―――引けはしない!!

 「いっけぇぇぇぇぇぇっ!!!」
 「―――彩極砲】!!!」

 木刀と、拳が交差する。時間の流れが乖離していく。
 周りが感じる時間と、二人の感じる時間がずれて、まるでスローモーションのような光景が二人に飛び込んで―――


 ―――刹那、極彩の光が爆ぜた。



















 七色に解けた美しい光が、二人を中心に炸裂した。その瞬間に銀時が吹き飛び、10mほど吹き飛ばされてごろごろと転がっていく。
 美鈴は、拳を突き上げた状態のまま、ピクリとも動かない。
 シンと、辺りが静まり返った。静けさの中で、誰一人として言葉を発するものはいない。

 「どうなったの?」

 呟いたのは、天子だった。
 あまりにも一瞬の交差の上に、美鈴の気を込めた拳の放った七色の光がそれを邪魔してしまっていた。

 「……美鈴の勝ちかしら?」
 「いえ」

 パチュリーの言葉に、不機嫌そうに答えたのは幽香だった。
 眼下をの二人を交互に見やり、やがてやれやれといった風に小さくため息をついていた。

 「相打ちよ」

 そう彼女が言葉にした瞬間、美鈴の体がぐらりと倒れこんだ。
 どさりと、美鈴が倒れてあっという間にパニックに陥る妖精メイドたち。
 それを大人しくさせようと咲夜が動き、パチュリーは不本意そうに二人の治療のために魔法を使って楽な姿勢のまま移動していく。

 「銀さん!!」
 「銀ちゃん!!」

 テラスから飛び降りる神楽と、階段を使って慌てて駆け下りる新八。

 あの刹那、銀時の体に美鈴の崩山彩極砲は間違いなく直撃していた。
 その一瞬、そのわずか一瞬に、銀時は身を捻って繰り出した一撃は、美鈴の後頭部を直撃していた。
 落下と遠心力を駆使した一撃。なるほど、それなら確かに、あの妖怪の意識を刈り取るぐらいは出来ただろう。

 それでも、風見幽香は不機嫌だった。
 銀時が引き分けたからではない。ただ単に、あの目が見られなかった。そんな、些細な理由だった。

 「驚いた。人間が美鈴と格闘戦で引き分けとはね」
 「あら、それじゃそのうちもっと驚くことになるかもね」

 レミリアの言葉に、幽香はそんな言葉を紡ぎだした。
 あの時の目。あの一瞬の超反応。まだあの男は、本当の意味で全力ではなかったのだろう。
 手加減していたのか、それとも無意識のうちの力だったのか、それは想像つかないが……。

 「あーあ、あの様子じゃ、明日はよろず屋は休みかしらね」

 クスクスと少し残念そうにいいながら、幽香は定春の喉を撫でてやる。
 気持ちよさそうに目を細める定春を見て、彼女はまた楽しそうに笑った。

 ま、負けてはないから、アレは勘弁してあげましょう。なんて、そんなことを思いながら。



 ■あとがき■
 力尽きた。ども白々燈です。
 最近仕事で大変なことがいろいろあってもう……、現在モチベーションがやばいことに。
 スミマセン、なんか今回の話も熱いバトルが書きたかったのになんかわけのわからん方向に。何だこれ?
 モチベーションって大事ですね。なんか銀魂分が薄い気もするし。
 今回はこの辺で。キャラ紹介は今回お休みにさせてください。ちょっと今、色々きついんですよ^^;
 それでは、また次回。



[3137] 東方よろず屋 第十一話「吸血鬼の飲む紅茶ってどんな味するのか気にならないこともない」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/06/30 19:43
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください







 銀時が紅魔館の門番と一戦交えたその翌日。当然のごとく、よろず屋はその日は休業となった。
 何しろ銀時本人が怪我を負っているので、営業しようにも新八たちだけでは少々心もとない。
 もっとも、ここ最近は人間の依頼人というのがまったく来ないので、余計に新八たちに任せられないという事情があるのだが。
 まぁ、それはさておき。
 志村新八と神楽は定春をつれ、本日の食事の材料の買出しに出ていた。
 あらかた必要なものは買い終わり、二人と一匹はいつものように最近すっかり馴染みとなってしまった我が家に帰り着く。

 「ただいまー」
 「ただいまアルヨ、銀ちゃん。おとなしく眠ってるアルかー?」

 ぞろぞろと帰り着く。何しろ銀時は魔法で傷を治してもらってはいるものの、一応、念のために一日は何もしないようにとパチュリーに念押しされている。
 一方の美鈴はといえば、ものの数時間で傷は完治し、その日のうちに門番としての仕事に戻ったのである。
 さすが妖怪。頑丈さが人間とはわけが違ったのである。
 と、話がずれたが、今現在、時刻は昼前。銀時はおそらくまだ眠っているだろう。何しろ、大体昼過ぎに起きてくるし。
 そう考えると、今の自分の言葉がどれだけ無意味なものだったかを悟った新八は、たまらず苦笑して台所に荷物を置くと、銀時の部屋に向かった。

 「銀さーん、まだ寝て―――」

 襖を開け、ピタリと目の前の光景に行動、思考、共にパソコンよろしくフリーズする地味眼鏡。
 その彼の視線の先には―――

 「あら、お帰り新八。ちょっと悪戯でこんな風にデコレーションしてみたんだけどどうかしら?」

 ―――心底おかしそうに笑っている花の大妖怪と……

 「って、おぃぃぃぃ!! 何してんですかアンタァァァァ!!? これじゃ銀さんまるっきり死人じゃねぇかぁぁぁぁ!!!」

 ……真っ白な花に全身埋め尽くされ、顔だけぽっかりと出して眠っている坂田銀時の姿だったのである。






 ■東方よろず屋■
 ■第十一話「吸血鬼の飲む紅茶ってどんな味するのか気にならないこともない」■





 「もう、あんなに怒らなくてもいいじゃない。ちょっとしたお茶目だったのに」
 「お茶目でもやっていいコトと悪いことがあるじゃないですか!! まったく、縁起でもない」

 まったく悪びれた風もない幽香に、新八は疲れたようにため息をつき、頭を押さえる。
 銀時はようやく起きてきて自分の置かれていた状況に「何事!? 銀さん死亡扱い!!?」なんて喚いていたが、今は着替えて歯を磨きに行っている。
 問題は、この風見幽香という妖怪。なんというか本当に冗談の一つ一つがマジで笑えない。
 さっきの冗談というかお茶目がいい例である。

 「おっはよー、生きてるかー、銀髪~」
 「おはよう、神楽」
 「お邪魔します」

 そんな時に、遠慮なく上がりこんでくる妖精三人。
 正確には妖精は匹という表現が正しいのだが、なまじ外見が近いだけに、銀時、新八や神楽は人で数を表している。

 「あ、おはよう三人とも」
 「お~、おはようアル。サニー、ルナ、……田中」
 「なんで私だけっ!? というか今の間は何!?」

 新八が挨拶をし、それに気付いた神楽がサニーとルナの名前を読んで、しばらく考え込んで最後の一人の名前を紡ぎだした。
 田中、もといスターは自分だけ名前が覚えられていないという事実に驚愕し、ガクッと膝を突いていたりするが、まぁこれはその際置いておく。

 「あー、なんだ。チビッ子三人組。銀さん今日はあんまり調子よくねぇから、さっさと帰れ」
 「何よ~、せっかく悪魔の館に行って無事に帰ってきたか確認してやりに来てるのにさー」

 奥から現れた銀時が三人を見つけ、すぐにめんどくさそうな顔を作ってシッシッと追っ払うようなジェスチャー。
 それを見たサニーが、ニッシッシッと意地の悪そうな笑みを浮かべてそんな言葉をつむいでいた。
 何しろこの三人。銀時が幽香と天子、そして咲夜に縛られている時に傍にいてその光景を面白おかしく傍観していたのである。
 その後、よろず屋メンバー全員で紅魔館に赴いたものの、サニー達はレミリアの存在を恐れてそっちのほうには行かなかった。
 ……まぁ、実際。このよろず屋にもレミリア・スカーレットと負けず劣らずのトンでも存在がいたりするのだが、彼女達は初日である程度接して慣れてしまったらしい。
 慣れって偉大ですね、先生。

 そんなやり取りが交わされていたよろず屋の玄関が、トントンと無遠慮にノックされた。
 一応、玄関に休業の看板が立っているはずなのだが、そのことに気付いているのか、あるいは無視しているのか、ノックの音は続く。

 『はーい、いませんよー。居留守ですよ~』
 「ってやめんかぁぁぁぁ!! 何!? 神楽ちゃんだけじゃなくサニーちゃん達まで!? 止めてくれる、その堂々とした居留守!!」

 神楽と三人の妖精の言葉が見事にハモる。その言葉に対して新八が大声を張り上げる。
 しっかしこの四人、種族は違えどものすごくノリノリな上に、見事に仲がいいのであった。
 そんなわけで、この四人がそろうとかなり始末に終えなかったりする。
 ピタッと止まったノック音。その時、銀時が「あれ? デジャヴ?」とか首をかしげていたが、その事実に誰も気がつかない。
 やれやれと呟きながら、新八が急いで玄関の引き戸を開けようと、その取っ手に手をかけようとして……。

 ……瞬間、玄関が爆ぜた。

 引き戸のはずの玄関のドアが、原形を留めたまま衝撃によって綺麗に新八に直撃。
 そのまま新八ごと飛行し、壁にぶつかって新八は壁と玄関の引き戸ではさまれる形となった。
 激しい衝撃音。そのまま新八は壁にめり込み、玄関の引き戸だけが重力に再び囚われてゆっくりと床に落ちていく。
 一瞬、あまりの事態に呆然とする一同。新八はあまりの衝撃にあっという間に意識を手放して気絶中。

 「まったく、堂々と居留守宣言とかアレだね。そんなんじゃ客来ないよ、銀髪」

 そうして、玄関のほうから上がった声。その声にビクッと体をすくませて部屋の隅に逃げていく三人の妖精。
 件の犯人、日傘を持ったその吸血鬼は、やれやれといわんばかりに方膝を上げた状態のまま玄関先にたたずんでいた。
 傍にはしっかりとメイドが佇んでおり、その手には何やら荷物の入った籠のようなものが見える。
 永遠に幼い紅い月、レミリア・スカーレットとその完全瀟洒な従者、十六夜咲夜がよろず屋に堂々と入り込んだのであった。

 「ちょっとぉぉぉ!!? 何やってんだオメェ!! 人の家の玄関蹴り飛ばすとか止めてくんない!!?」
 「何よ。せっかく人がたずねてきたって言うのに、居留守をするそっちが悪いんじゃない」

 銀時の言葉に、にべもないレミリアの言葉が返ってくる。事実だけに、うぐっと言葉に詰まる銀時。
 だがしかし、自分だって大使館の玄関に当たる門を勢いよく蹴り飛ばした経験があるくせに、この男、自分のことを棚に上げてとんだ言い草である。

 「咲夜。今のうちに買いだし行ってきなさい。私はここで待ってるから」
 「かしこまりました。紅茶とティーセットはこちらに置いておきますわ」
 「ん、サンキュー。ほらほら、早く行った行った」

 どっかりとソファーに腰を下ろし、満足げにくつろぐ吸血鬼。その様子に苦笑しながら、咲夜は玄関のなくなったよろず屋から退出していった。
 んで、その遠慮なくくつろぐ吸血鬼を視界に納めて、銀時はジト目で彼女を睨む。

 「おいおい、家は託児所じゃねぇんですけど? これ以上ウチにちびっ子はいりませんよー、レミリア」
 「別にいいじゃない、気にしなくても。私はあなたたちに話しがあってきたんだし……、と。あの天人は今日はいないのね」

 辺りをきょろきょろと見回して、天子がいないことに気がついてそんなことを呟くレミリア。ちなみに、部屋の隅でガタガタブルブル震えている三人の妖精はアウトオブがんちゅー。
 確かに、今日は天子は来ていない。何でも巫女の霊夢に呼ばれたらしく、今日はそっちのほうに行っている。
 そして、きょろきょろと辺りを見回していたレミリアが、何かを見つけてピタッと動きを止めた。
 何を隠そう、先ほどレミリアが吹っ飛ばした玄関で壁にはさまれて埋められ、壁画と化した志村新八である。
 一瞬の、もしくは永遠とも感じる矛盾した沈黙の中、レミリアが言葉をつむぎだしていた。

 「何してんの新八。新手の遊び?」
 「ちげぇよっ!! アンタのせいでこうなってんだよ!! アンタの蹴破った玄関の引き戸のせいでサンドイッチ状態になったんだよコッチは!!」

 復活、志村新八。めり込んだ体全体から頭部分だけを何とか前に出して全力で抗議する。
 ちなみに、この時傍観していた幽香が大爆笑していたが、それを咎めるものはこの場に誰もいなかった。
 だって、神楽も一緒に大爆笑してるし。そしてここぞとばかりに妖精三人も大爆笑。
 皆さんそこまでにしてあげてほしい。いい加減にしないと新八がグレそうな勢いである。

 「そんで、話って?」
 「ちょっとぉ!! 銀さんまで!? 銀さんまで僕のこと放置ですか!!?」

 頭をがりがりと掻きながら、銀時は新八のことはとりあえず放置の方向で話を進める。
 なにやら新八が大声で喚いているものの、銀時はそれに耳を貸すことはなかった。ある意味ひでぇ。
 哀れ、新八。残念ながらこの中にまともな良心持った奴は一人もいねぇのである。
 そんな彼らのやり取りに苦笑しながら、レミリアは籠から愛用のティーカップと、紅茶の入った水筒を取り出した。

 「あんた達、外の世界とは違う場所から迷い込んだんだってね」
 「そんで?」

 レミリアの言葉に、銀時は気のない返事をして先を促す。そんな様子に、クスクスとレミリアは可笑しそうに笑う。
 レミリアの存在はこの幻想郷の中においても恐怖と畏怖の対象である。
 たとえ外見が幼くとも、その内なる力は強大で、【運命を操る程度の能力】を持つ吸血鬼。
 そんな自分に、よくもまぁこんな態度が取れるものだと、レミリアはそれが可笑しくて仕方がない。
 だってそうだろう。こんな態度をとるのは、従者の咲夜を除けば霊夢か魔理沙ぐらいのものなのだから。

 「ちょっと、銀さん。もうちょっと愛想よくしたっていいじゃないですか。あ、レミリアちゃん。僕が紅茶注ぐよ」

 ようやく壁画状態から脱したらしい新八が、これまたフレンドリィにレミリアから水筒を受け取った。
 コポコポと慣れた様子でティーカップに紅茶を注ぐ新八の姿を見て、レミリアはそういえば……と、思考を巡らす。
 よくよく考えれば、この志村新八という存在も奇異な奴だと思う。
 誤解のないように言っておくが、よろず屋のメンツはレミリアが強力な吸血鬼で、幻想郷でも指折りの実力者であることは知っている。
 事実、レミリア自身も最強クラスの強さを誇り、昨日の銀時VS美鈴の試合が終わった後、怪我した銀時を含む全員がレミリアVS幽香のデスマッチを目の当たりにしている。
 お互い弾幕勝負での決闘だったが、結局引き分けだったのは余談である。
 話を戻し、何が言いたいのかといえば、よくもまぁ、そんな存在に普通にフレンドリィに接せるものだなぁと思う。
 しかも、よりにもよってこの紅の吸血鬼、恐怖と畏怖の対象であるレミリア・スカーレットを「ちゃん」付けである。
 人からちゃん付けで呼ばれることに慣れてないレミリアは、これまた怒っていいのか、それとも恥ずかしがればいいのか微妙な気分になるのであった。
 何しろ、外見こそ幼いが500年生きているのである、この吸血鬼。500年生きてる自分が、さすがにちゃん付けされるのは少し恥ずかしい。

 「ロリコンね」

 と、これは幽香。

 「ロリコンだよね」

 続けてサニー。

 「ロリコンだわ」

 そのまま続行でルナ。

 「ロリコンね~」

 立て続けにスター。

 「ロリコンアル新八クソが。とうとう犯罪者の仲間入りかヨ」

 そして一番辛辣に毒を吐いたのはやっぱり神楽だった。

 「っておいぃぃぃぃ!! なんで紅茶注ごうとしただけでそんなにボロクソに言われなきゃならないんだよ!! ていうか僕はロリコンじゃねぇし、それに僕はお通ちゃん一筋だから!!」
 「大丈夫よ新八。ロリコンはみんなそう言うの。貴方は胸をはっていいのよ?」
 「だからちげぇって言ってんだろーがぁぁぁぁ!! 何それフォローのつもり!? 全然フォローになってねぇんですけどぉぉぉぉ!!?」

 反論した傍から、今度はレミリアからすらもロリコン呼ばわりされる地味眼鏡。
 ちなみにレミリアはこれでもかというほどにいい笑顔で、親指をズビシッとサムズアップしておいでだった。どうもフォローのつもりだったらしい。
 ……全然フォローになってなかったが。
 あ、ヤバイ。コイツいじるの楽しい。なんて思っていたが、あくまでそれは表面に出しつつ、ニヤニヤと笑ってみたりするレミリア。

 「大丈夫だ、新八。俺はよくわかってる。よ~く、お前のことは理解してるし、俺、信じてっから、おとなしく警察行こうか」
 「銀さぁぁぁぁん!!? アンタまで!? アンタまで僕のことロリコン呼ばわりするんですか!? ていうかこれっぽっちも信じてねぇし!!?」

 内心、ブルータスお前もか!? 的な勢いで銀時の言葉に反応する新八。ここまで来ると本当にもう哀れである。
 誰の目に見てもわかる四面楚歌状態。誰か彼に安住の地をあげてください。いや、もう本当に。

 「いや、信じてるって。銀さん信じてますよ? お前がロリコンだって」
 「そんなとこ信じられても嬉しくねぇよ!! 何あんた等!? 今まで僕の何を見てたって言うんですか!!?」

 大声で抗議する新八。ご近所の稗田さん家は毎日毎日この騒音と戦って大変そうである。
 相変わらず何か言おうとしていた新八だったが、結局は幽香のチョップが脊髄に叩き込まれてあえなくノックアウトされておとなしくなった。
 ひでぇ。まさに外道である、この妖怪。

 「……んで、俺たちが外の世界とは違う世界から来たから、何だってんだよ」
 「簡単なことだよ」

 相変わらずボーっとした感じの声に、レミリアはそうつむいでくすくすと笑う。

 「あなたたちの世界のこと、教えて頂戴。どんな場所か、とても興味深いからね」

 その言葉を、レミリアは紡いでいた。心底面白そうに、いまにも未知の物語に心躍らせる、外見相応の童女の顔。
 そんな彼女の言葉に、「あ、私も興味あるわね」なんていって幽香が加わり、「それじゃ、私たちも」ということで、サニー、ルナ、スターの三人が加わった。

 「イイじゃないですか銀さん。別に減るものじゃないでしょうし」

 そしていつの間にか復活を果たしている新八。そのあまりの復活の早さに、さすがの幽香も驚きを隠せないでいた。
 さすがは新八。きっと特技欄に復活スキルが三つ連なっているに違いない。9カウント復活は伊達じゃねぇのであった。
 それはそれで本当に人間なんかどうか危うい新八は、この際置いておき。

 「別にいいけどよ、おもしろいこっちゃねぇぞ?」
 「いいわよそれでも。私が聞きたいんだから、それでいいじゃない」

 銀時の言葉にもにべもない。レミリアのきたいのまなざしについに根負けしたのか、銀時は自分達の世界について語りだしたのであった。






 江戸の町に降り立つようになった天人(あまんと)。宇宙船が縦横無尽に飛び交い、さまざまな姿をした天人(あまんと)が闊歩する世界。
 かつて天人(あまんと)を追い返そうと起こった戦争のこと。
 自分達の出会いの馴れ初めや、歌舞伎町で起こった事件の数々。
 それを心底楽しそうに、レミリアは聞き入っていた。
 自分のまったく知らない世界観。いや、大本はこの国の昔の江戸時代がベースのようだが、あまりにも歴史が違いすぎている。
 宇宙人が普通に闊歩する世界で、外見がここの世界の妖怪たちよりよっぽど妖怪らしい外見をしているものも多いという。
 それが、より一層レミリアの興味を引く。外の世界よりも年号が下だと思われるのに、技術自体はおそらく同等だろう。
 何しろ、スクーターや携帯電話など、外の世界の道具の名前がちらほらと出てくるし。
 気がつけば、咲夜も帰ってきていて、レミリアの傍に控えていたが、彼女はただ自分の主人が満足するのを待っていた。

 「へぇ~、あんたの家のお隣さんって、そんなに怖いの?」
 「そりゃおめー、怖いなんてもんじゃねぇぞ? ぜってぇ食われるって思っちまったからな」

 レミリアの言葉に、銀時は感慨深く頷く。
 ことの話はとなりの屁怒絽の話題に移行していた。
 どうやら相当怖かったらしく、この男が怖がるというそのお隣さんをどうしても知りたくなった。

 「咲夜、似顔絵できる?」
 「お望みであるなら」
 「ん、OK。銀時、そいつの特徴を言ってみて」
 「ん? あぁ……、そうだなぁ~」

 言われるがままに、銀時は出来る限り詳細に特徴を挙げていく。
 角が生えているだの、白目のところが黒いだの、ライオンのような黒い髪だの、体色が緑だの色々な特徴を挙げていく。
 そして、完成した絵。しかし、描いた本人である咲夜自身がヒクッと口端を引くつかせていたりする。

 「どうしたの、咲夜。描けたんでしょう?」
 「え……えぇ、描けましたけど」

 やや顔を引きつらせながら、描き上げた絵をテーブルの上において……。

 『……』

 途端、このよろず屋に重い沈黙がのしかかったのである。
 ごつごつしい顔。顔には傷があり、体は緑色。角が生え、獅子の鬣のような黒い髪。鋭い牙に、目の白い部分は漆黒に塗りつぶされ、瞳は禍々しく赤い。
 こう、明らかに「私、地球征服しに来ました」的なそいつの顔は、確かに、幻想郷の妖怪にすらいないほどの極悪な面だったのである。
 なんというか、この里の人間に顔を見られようものなら100%の確率で「ひぃっ! 化け物!!?」とか言われて逃げられること請け合いな面構え。
 頭になんかかわいらしく小さな花が生えていたりするが、正直、そんなのでかわいらしくなるようなツラではない。断じてない。
 確かに、こうなんというか、生理的嫌悪を覚えそうな顔だった。事実、レミリアも顔には出してないがちょっと怖いとか思ったし。
 これで花屋らしい。いや、絶対嘘だろ。本職地球征服だろ? とかなんか色々心の中で突っ込んでいたりするが、とりあえずそれは気持ちの中だけでとどめておく。

 「そう!! コイツだよ、となりの屁怒絽!!」
 『コイツが!!?』

 その場にいた幻想郷メンバーの全員の声が見事にハモッた。
 そりゃ無理もないことかもしれない。描いていた咲夜自身、何かの手違いだと思ったぐらいだし。

 「あ、本当だ。屁怒絽さんだ。咲夜さん上手なんですねぇ」
 「本当アル。瓜二つアルね」

 そしてものの見事に肯定するよろず屋メンバー。
 え? 何? マジでいるの、そんな極悪な顔した奴がお隣さんに? 見たいな顔を皆が展開中。
 そんな中、ゆらりと立ち上がる風見幽香。何ゆえか、恐ろしいほどの負の感情を撒き散らしながら。

 「んっふっふっふ、ねぇ、銀時。この絵、私があなたと最初に出逢ったときに、あなたが言ってた特長と見事に合致するんだけど……。
 まさか貴方、花の妖怪とか聞いて【コレ】を想像したってことなのかしら?」

 綺麗な声と思うのに、なぜか低くどすの聞いた声なようにも聞こえるこの不思議。
 ブワッと噴出す大量の汗。銀時は制御の利かないそれを肌で感じながら、目の前の恐怖に恐れおののいていた。
 イヤだって、幽香の背後に般若が見える。
 そんな彼女の顔は等しく笑顔だったが、「キリキリ吐きやがれこの豚野郎」と眼が語っていた。
 気がつけば全力で退避しているレミリア含む全メンバー。部屋の隅に固まって、事の成り行きを見守っている。
 いつもなら「あれ!? 銀さん一人!? なんで皆退避しちゃってんの!? 銀さん見捨てられましたかコレ!?」ぐらいのツッコミを入れるのだが、幽香がそれを許さない。
 リアルタイムに命の危機。しかし、かばってくれる味方は誰もいないこの状況。
 無言を肯定と判断したらしい。幽香はゆっくりと、愛用の日傘を構える。それはもう、誰もが見ほれる綺麗な振り子打法。
 ビュンビュンと割と洒落にならねぇ風きり音。逃げようと思うのに、悲しきかな、銀時の足は恐怖のあまりにすくんで動かない。
 素振りが終わる。そして幽香は大きく振りかぶって―――

 「死ね!!」

 思いっきり銀時のどたまを日傘でホームランしたのであった。













 ちなみに、その日の夜の紅魔館。

 「咲夜、あそこ面白いし、退屈しないから、霊夢のところ行った後にあそこ寄ってみようかと思うの」
 「……はい?」

 再びよろず屋カオスフラグが立ったとかなんとか。









 ■あとがき■
 緋想天レミリアストーリールナティッククリアしましたー!! ども、のっけからテンションおかしい白々燈です。
 キツカッタ。何がキツかったってゆかりんの鬼畜さに泣かされた。いや、もうドップラーとかネストとか狂躁高速飛行物体とかもう……。

 それと最近の出来事をもう一つ。モチベーション下がってたときに友人から「お勧め」などと言われてやってみた「沙耶の唄」というADVゲーム。
 まぁ、気晴らしにはいいかな? と思ってやってみたんですが……。
 ……うん、まぁ知ってる人は知ってると思います。ヤラレマシタ。いろんな意味でヤラレマシタ。
 ていうか、気晴らしにとか言う理由でやるゲームじゃなかった。しかも友人の「夜にやったほうが面白いよ」の一言で夜中に一気にやったもんだから余計に大ダメージ。
 まる二日ぐらいずっと鬱入ってました。あれはあかんよ。アレ系駄目な自分はモロに夢に見ましたよ。
 というか、アレ系駄目な自分にアレッてどうなの? いやまぁ友人はそのことを知らないんですけどね。自分がアレ系駄目なこと。
 いや、話自体は嫌いじゃないんだけど……。そのせいで一気に終わったぐらいだし……。
 沙耶の唄を知らない人は、まぁ覚悟のいるゲームだとだけ言っておきます。自分は正直キツかった。人を選ぶゲームです。アレは。未成年は絶対にやっちゃいけません。いろんな意味で。
 ストーリーは嫌いじゃなかったですけど。

 そんなわけで現在、レミリアルナストーリークリアの無理なハイテンションで気を紛らわせとります。
 それでは、今回はこの辺で。次は東方キャラクターの紹介に移ります。

 ■東方キャラクター紹介■

 【レミリア・スカーレット】
 ・種族 吸血鬼
 ・能力 「運命を操る程度の能力」
 ・二次はともかく、原作ではルックス、強さ、カリスマを兼ね揃えた希少な人……だったんだけど、緋想天にてカリスマが大暴落した。「ぎゃおー、食べちゃうぞー」は多分、後にまで伝わる迷言だと思う。
 偉そうで偉い。でも背伸びをした子供のままの子供。かなりのわがまま。
 少食で人から多量の血が吸えず、さらに血液をこぼして服を真っ赤に染めるため「スカーレットデビル(紅い悪魔)」と呼ばれている。
 パチュリーとは長い付き合いの親友で、レミリアはパチュリーのことを「パチェ」、パチュリーはレミリアのことを「レミィ」とあだ名で呼び合っている。ちなみに、原作であだ名で呼び合っているのはこの二人のみ。
 ネーミングセンスに問題があり、そのセンスは不夜城レッドを筆頭に全世界ナイトメアまで生み出すカオスぶり。
 最近は素で妹になめられつつあるけれども、幻想郷最強クラスの実力を持ったうちの一人。
 れみりあ☆う~。

 【フランドール・スカーレット】
 ・種族 吸血鬼
 ・能力 「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」
 ・東方きってのバランスブレイカーその2。能力、身体能力ともに幻想郷最強クラスの持ち主。レミリアの妹。レミリアのことは好きなのか嫌いなのか多分自分でもよくわかっていない。
 長い間幽閉されていたせいか、少々気が触れているらしく、情緒不安定。そのため外に出してはもらえない。本人も基本的に出ようとは思わない。約495年引きこもり。
 感情をそのまま表に出す子供らしさを持つが、能力はある意味紫クラスのでたらめぶり。
 彼女の能力である『ありとあらゆるものを破壊する能力』とは、打撃による破壊活動ではなく、全ての物には力を加えれば物を破壊できる「目」が存在しており、離れた物の「目」を自身の手の中に移動させることができ、強く握ることで爆発(破壊)させてしまう能力。ぶっちゃけ回避不可のトンデモ能力。
 歯止めが利かないという一点でその破壊力は姉を遥かに上回る。
 普通吸血鬼は人間の血を吸うために殺さない程度に襲うものだが彼女に人間を襲わせたら間違いなく血飛沫すら残さず消滅させてしまうらしい。
 彼女には食料としての人間の血と、その元になる人間が結びつかないらしく、その理由というのも彼女が普段食べている「人間の血」は見た目ケーキだったり紅茶だったりするからだそうだ。

 【紅美鈴(ほんめいりん)】
 ・種族 妖怪
 ・能力 「気を操る程度の能力」
 ・紅魔館の門番を務める華人風の妖怪ちなみに何の妖怪なのかは不明。
 チャイナドレスに鍔無しの人民帽と、装いも中国人風であり、紅い髪と帽子についた星に刻まれた「龍」の文字がトレードマーク。
 主に湖からやってくる妖精を迎撃していて、門番以外にも色々と仕事を任されているらしく、紅魔館の庭にある花畑の管理人でもあるという話も。
 妖怪でありながら人を襲わず、逆に人間と親しく話すことから穏和な性格であることがうかがえるが、その一方で侵入者に対しては容赦がない。武術の達人であり、試合を申し込みにくる武道家も多いらしい。
 弱点らしい弱点がなく普通の人間相手には強いが、妖怪としてはそれほど強くない。
 朝は太極拳、昼には昼寝をしている。
 元祖、東方界の名前で呼ばれない人第一号だったが、最近漫画で名前で呼ばれだしたのでそのネタも廃れつつある……のかもしれない。

 【伊吹萃香(いぶきすいか)】
 ・種族 鬼
 ・能力 密度を操る程度の能力
 ・幻想郷に現れた鬼。見た目は少女だが、何百年も生きている。かなりの飲兵衛でいつも酒を呑んでは酔っているが、幻想郷中に広がる薄い霧になって盗み見ていたということもあって時折人の心を読んだかのような発言をする。
 酒に酔っているためか、常に前後にフラフラしている。見かけによらずかなりの怪力。鬼だけに弱点はやはり炒った大豆らしい。
 持ち歩いている瓢箪は「伊吹瓢」と言い、酒が無限に沸いてくるが、転倒防止のためのストッパーが付いており、一度に出る酒の量は瓢箪の大きさ分のみ。紫とは友人。
 鬼は長い間幻想郷から居なくなってしまったとされてきたため鬼を退治するための特別な方法が現在の幻想郷からは失われており、誰にも退治できなくなっている。

 【東風谷早苗(こちやさなえ)】
 ・種族 人間
 ・能力 「奇跡を起こす程度の能力」
 ・守矢の神社の風祝(かぜはふり)で、秘術を操る一族の子孫。
 秘術を使用できる者は現人神として人間からの信仰を得るようになったらしい。
 外の世界で信仰を得られなくなった神奈子の提案により、神社ごと幻想郷に移り住んで博麗神社を脅して幻想郷を思い通りにしようとした。
 まじめな性格で自分の力に自信を持っていたようだが、外の世界の常識は幻想郷ではまったく通用せず、霊夢や魔理沙によって返り討ちにされてしまう。
 根拠のない自信が暴走し空回りする典型的な勘違いキャラ。
 その性格からかなりの苦労人な立場に回ること多数。誰か彼女に救いの手を差し伸べてあげてください。
 霊夢と色違いに近い服装から、ル○ージだのと散々ないわれようだが、プロポーションだけなら霊夢より上。



[3137] 東方よろず屋 第十二話「八目鰻におでんにロックンロールってもはや意味がわからねぇ!!」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/06/30 19:44
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。
 あと、今回はオリキャラに順ずるキャラクターが登場するのでお気をつけください。








 非常に唐突ではあるが、世界には奇跡というものが本当に存在していたらしい。







 いつものように晴れた昼下がり、こんこんと、よろず屋の玄関からノックの音がした。
 その音に、よろず屋にたむろしていた天人、吸血鬼、メイド、花妖怪、妖精三人組は玄関に視線を向けていた。

 天人、比那名居天子は読書を。吸血鬼、レミリア・スカーレットは紅茶を。メイド、十六夜咲夜は吸血鬼の傍らに。
 花妖怪、風見幽香はリビング兼事務所に自分の力で咲かせた花に水を。妖精三人組は神楽と談笑を。

 そんないつも通りに、お互いやりたいことをやりっぱなしに放り投げていた面々だったが、そのノックの音で意識が玄関に集中してしまう。

 「銀時~、誰か来たよー。依頼人なんじゃないの?」
 「ばーっか、レミリア。こんな時間に依頼人なんか来るかッてぇんだよ。どーせ新聞の勧誘かなんかだろ。新八~、文々。新聞以外だったら、文々。とってるからって追い返しとけ」
 「はいはい、わかりましたよ」

 不承不承といった感じで、新八が重い腰を上げる。この間にもノックは続けられており、未だに鳴り止む気配はない。

 「新八、文々。新聞だったら、朝日のように爽やかに暴言を吐いて追い返すネ」
 「いや駄目だろ。文々。新聞だったら間違いなく文さんだから。追い返しちゃ駄目だし暴言も駄目だから」

 なかなかにヘヴィなボケをかます神楽にとりあえずツッコミながらも、新八は玄関に向かって脚を勧めた。

 「は~い、今開けますから、ちょっと待っててください!!」

 大声を上げて、小走りに玄関に近づくと、ためらいなく玄関を開ける。
 そこに―――その男は立っていた。
 白髪の混じらぬオールバックで纏めた髪。目つきは鋭く、体格も筋肉がついてがっしりとしており、その背丈はどこかとなりの屁怒絽と同じぐらい。
 かっこいい、というよりは、どこかダンディといったほうがしっくりと来る印象の男であった。

 「スマンが、頼めば何でも引き受けてくれるよろず屋というのはここだろうか?」

 そして声のほうもそこはかとなくア○ゴ君そっくりのダンディボイス。しかし悲しきかな、筋肉質な体とは不釣合いなエプロンが非常に間抜けに見える。
 男性はぐるりと中を見回し、一同……無論、この場合レミリアや幽香も含む。を、視界に納めて、改めて言葉をつむぎだす。

 「この里でカフェの店長をやっている者なんだが、俺ぁ依頼を持ってここに来た」

 ピタリと、よろず屋にいた全員が言葉を無くし、程なくして沈黙が訪れる。
 1秒、2秒、3秒、―――時計の音がカチコチと滑稽に鳴って……。

 『えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!?』

 ありえない現実と夢のような展開を目の当たりにして、依頼人以外の、レミリアや幽香すらも含む全員が驚愕の声を上げることとなった。






 ちなみに驚いた原因はというと、その外見でカフェの店長はありえないだろうという事実と。
 もう一つは、このよろず屋のカオスを目の当たりにして、平然と依頼を持ってくる里の人間がいたという事実に。





 ■東方よろず屋■
 ■第十二話「八目鰻におでんにロックンロールってもはや意味がわからねぇ!!」■






 そう、その出来事があったのがつい先ほど。今現在、銀時と新八は慣れないウェイターの制服に袖を通していた。
 店長の話によると、いつも来ているウェイトレスの子の母親が急病で倒れたという知らせが入ったらしく、早退してしまったのだという。
 いつもなら一人でこなすのだが、今日はどういったわけか客の入りが多く、一人では捌ききれなくなったのだそうだ。
 そこで、昼の休憩時間を利用して、銀時たちに依頼を持ちかけたというわけである。

 「おー、結構さまになるものね」

 ケタケタと笑っているのはレミリア。一応、傍には咲夜も控えており、彼女達(というよりもレミリア)はおかしそうに日の当たらない机に陣取っている。
 まぁ、彼女はよろず屋の従業員ってわけじゃないので、当然といえば当然だが。
 レミリアと咲夜のウェイトレス姿をご想像した方々、世の中はそんなに甘くはねぇのである。

 「うるせーよ。冷やかしなら帰れよー、レミリア」
 「銀さん、レミリアちゃんは一応お客ってことでここにいるんだから、そんな乱暴な言葉遣いしないでくださいよ」
 「私的にはちゃん付けも正直勘弁してほしいんだけど……」

 むっとした風にレミリアは言うが、同時に「まぁどうせ直す気無いんだろうなぁ」などと思考しながらため息をつく。
 何しろ、今まで何度注意してみても、この男ときたら必ずちゃんをつける。どうも癖らしく、なかなか直らない。
 まぁ、いいか。などと思考しながら、レミリアは他の連中の登場を待った。おそらくだが、他の面々もウェイトレスの姿で登場するのだろう。
 おかしかったら思いっきり笑ってやろうとか思考しつつ、店の置くから登場する女性陣に視線を向けた。
 サニー、ルナ、スター、そして神楽は同じタイプの制服で、白と黒を基調にし、ロングスカートに洒落た刺繍も施されている。
 知らず、「へぇ……」と感嘆の声がレミリアの口から零れ落ちる。
 あの筋肉質な店長からは想像できなかったのだが、コレがなかなかどうしてセンスがいい。
 少し洒落た制服は、これまたこのちびっ子の面々によく似合っていた。
 コレには、神楽がいつもの髪型ではなく、髪を下ろして少し大人びて見えるのも一つの一因かもしれないが。

 「ウェイトレスねぇ……。外の世界じゃこういうのが普通なのかしら?」

 ブーブーと、文句をたれながら出てきたのは、髪をポニーテールにした天子。彼女もちびっ子と同じタイプの制服を着込み、両腕を前に組んでレミリアを見る。

 「なんで居るの?」
 「イイじゃない。お客さまなんだから」

 実に簡潔な言葉が返ってくる。天子は「あっそ」と、それっきり興味をなくしたかのようにむーっと考えながら仕事内容を反芻する。
 実に意外なことではあるが、この天人、やるからには完璧にこなさないと気がすまないらしい。

 「みんな似合ってますね」
 「褒めたって何もでないわよ?」

 新八の言葉に、クスクスと笑いながら天子は言う。まぁ実際、彼にしてみれば天子やサニー達はともかく、神楽が予想外に似合っていることに驚きを隠しきれない。
 まぁ、神楽自身、元は可愛いほうなので、わりかし何でも似合うのかもしれないが。
 ……と、ここで約一名がまだ出てこないことに気がつく銀時。その一名と言うのは言うまでもなく風見幽香だった。

 「おまたせ」

 もしやトンズラこかれたのだろうかと銀時が心配になってきた頃、件の人物の声が聞こえてくる。
 やれやれ、やっときやがったかよ。なんて思いながら、銀時は気だるそうに視線を声のほうに向けて―――

 途端、ピタリとその姿を認めて綺麗に硬直してしまったのである。

 幽香はにこやかにその姿を現す。彼女が着込む制服は、なんというか他のメンツが着ているものとだいぶ違っていた。
 神楽たちが着てきた制服は、黒と白を基調とした服装で、黒のロングスカートには白い糸で刺繍が施されている。どちらかというと清楚な印象の制服だった。
 対する幽香の制服は、全体的には黒と白が基調と、ここまでは同じだったが……残念ながら共通項はそこまでだった。
 まず、他のメンバーが着ている制服に比べると布が少ない。胸元は上は綺麗に無く、ふくよかな胸の谷間とほっそりとした肩が外気に晒されている。でも何故か袖はある。
 しかも、スカートはロングではなくそれなりに短い。こちらもやっぱり細部にまで細かな刺繍が施されていた。
 スカートが短い代わりに、黒のハイニーソックス。腰には大きな白いリボンでアクセントが加えられている。
 うん、なんというかウェイトレスというよりはなんかいかがわしい場所のメイドのコスプレに近いと思う。

 「あのー、ゆうかりん? なんか他のメンツと衣装が違いませんかー? それじゃどこぞのコスプレ喫茶じゃん」
 「あら、そうなの? 制服が二種類あったから、私はこっちにしたんだけど」

 こともなげに答える。服装が服装なだけにたわわに実っている胸が強調され、自然とそこに目が行くのは男の悲しさか。

 (あ、やべぇ。鼻血でそう)

 慌てて鼻を押さえてそれを悟られまいとする銀時。ちなみに傍らに居た新八にいたっては既に鼻から赤い雫がぽたぽたと零れ落ちていたりする。
 二人とも心の中では『クールになれ! クールになるんだ坂田銀時(志村新八)!!』などと必死に叫んでいたりするが、その叫びだけはやめてあげていただきたい。
 だって、その台詞出てきたら大抵は惨劇しかおこらねぇ魔の呪文だったりするのだから。
 まぁそれはともかく、そんな幽香の胸に視線を向けていたのは何も男性陣だけではなかったが。

 『…………』

 幽香を除く女性陣全員が、彼女のその大きな胸に視線が注がれている。しばらくそれを見て、自然と自分の胸に視線を移す一同。

 ……全員がシンクロして、ふいに涙を流したくなった。

 「おぉっと、みんな存外に似合っているじゃねぇの。似合わねぇンじゃねぇかと思ったが、問題ねぇみてぇだな」
 「アンタのそのエプロン姿が一番問題だよ! 頼むから変えろよマジで!!」

 仕込を終えたらしい店長が、全員の姿を見てそんな言葉をつむぐが、横合いから新八が声を大にしてツッコむ。
 何しろ、かわいらしい雀のプリントが入ったエプロンが非常に似合っていない。ある意味夢に見てうなされそうなほど似合っていない。

 「いいか、よぉく聞いてくれ。これから昼からの営業を開始するが、質問は今のうちにいつでも言ってくれぃ。
 一時とはいえここで働く以上、俺はオメェたちのことをファミリーだと、思ってる」

 そう言って、店長はキセルを口に含み、ポワッと煙を吐き出す。

 「無視かよ。いやそれより、お店の衛生上、キセル吸うの止めたほうがいいと思うんですけど?」
 「馬鹿ヤロウ新八。俺が居るのは喫煙席だろぅが。第一、仕事中にまで吸うような馬鹿はしねぇよ」

 新八の指摘にそんな言葉を返しながら、店長はまたキセルを口に含み、時計を確かめている。
 その様子に、新八は深いため息をつく。こんな店長で本当に大丈夫なんだろうか?
 なんというか、非常にアウトローというかなんというか、絶対に店長には向きそうにない。
 なのに、この店はそれなりに繁盛しているらしく、自分達に救援を求めるぐらいなんだから相当だろう。

 「ねぇねぇ姉御。その脂肪の塊こっちによこせよ」
 「コレは駄目よ。それに、神楽はまだこれからなんだから、諦めちゃ駄目だわ。少なくとも、他の連中よりは救いがあるから」
 『どういう意味だ!!?』

 とりあえず、背後で展開されている修羅場は見ないことにする。一斉に鳴った複数の歯軋りのような音もきっと気のせいということにしていただきたい。
 そんな女性陣のやり取りを眺め、苦笑しながら店長は更に言葉をつむぎだしていた。

 「いいか? 客っつっても相手ぁいろんな奴がいる。人当たりのいい客もいれば、いちゃモンつけてくるような奴もいる。こいつばかりは仕方がねぇ。
 オメェさんたちは今日が初めてだからな。困ったことがあったら、遠慮なく俺に言ってくれや」
 「店長ー。この制服、胸がきついのだけどー?」
 「そいつは自分でどうにかしてくれ。ほら、これから開店すッぞー!! 気合入れろテメェら!!」

 幽香の悪戯の混じった言葉を綺麗にスルーしつつ、パンパンと手を叩く店長。その姿が実にさまになっている。エプロンさえなければ。
 そうして、カフェが開店してよろず屋のハードな午後が幕を開けたのであった。












 カフェは思いのほか賑わっていた。女性客から子供に人気があり、男性客もちらほらと訪れている。
 そしてやっぱりレミリアと咲夜の主従コンビもしっかり居座っており、優雅に紅茶を楽しんでいる。
 そんな中で、せわしなく動きまわる妖精3人組は思いのほか役に立っていた。もっとも、その中でルナはしょっちゅう転ぶのと料理が出来るのとで厨房にいたが。
 神楽は問題を起こしそうなのでとりあえずテーブル拭きに落ち着き、天子は以外にもちゃんとオーダーを取って、客にも愛想を振りまいている。
 時折、「ちょろいもんよね」的なすごく黒い笑みが見えるのは見なかったことにして。それはさておき。
 新八はレジ要因。銀時は一応客のオーダーを取ったり料理を運んだりとちゃんと働いていた。やる気のない顔と声がかなり減点対象ではあったが。

 そんなメンバーの中で、意外にも好成績なのがなんとあの風見幽香であった。
 いつも笑顔でいるものだから愛想もよく、客の対応も丁寧。流れる動作に一切のよどみもなく、手馴れた様子で料理を運ぶ。
 最初は幽香の姿を見て怯えていた者も多かったのだが、ここまで綺麗にウェイトレスとしての役目を果たし、丁寧で礼儀正しく接してもらえると段々と警戒心が薄れていったらしい。
 実際、幽香のような長い時を生き、強い力を持った妖怪ほど、普段は礼儀正しく紳士的。よっぽど悪辣なことがない限り、彼女はある程度は紳士に接してくれるだろう。
 ……無論、あくまである程度、ではあるが。なんだかんだで彼女はS(サド)ッ気が強いし。人の神経を逆撫でしたがる悪い癖がある。

 「お待たせいたしました。オーダーなされたバケツパフェですわ」

 でんっと本当にバケツをひっくり返して作ったかのようなパフェが、二人の男性客の前に置かれる。そのまま別の机に向かおうと、ゆったりとした動作できびすを返す幽香。
 その瞬間、シュバッ!! と勢いよく、血走った目で顔を下にして、目線を上に向ける欲望に忠実な馬鹿が二名。が、しかし。
 ズドっ! ミヅッ!! と打撃音が聞こえた瞬間、突然男二人の頭が跳ねてそのまま気絶してしまう。
 一体何が起こったのだろうと首をかしげる一般客。しかし、今の光景が【見えて】いた五人は、「またか……」と、それぞれ小さく呟いていた。
 なんてことはない。幽香が立ち去ろうとしたところで欲望に忠実にスカートの中をのぞこうとした二人は、他でもない幽香自身に蹴られたのだ。おおよそ、常人の目に映らないような速度で。
 それが見えていたのは、レミリアと咲夜、そして天子に神楽、最後に銀時である。
 かれこれ同じ光景がここ一時間だけで既に五回。そのことごとくを幽香が放った蹴りが覗きを敢行する男性客をノックアウトしている。
 もうそのことを咎めることすら疲れたらしい新八は、ツッコミもせずに黙々と仕事をこなしながらため息をついていた。

 「あらやだ。どうしたのかしらあの二人。最近はやり病でもはやってるのかしらねぇ」
 「でも奥さん。心なしか恍惚としたいい笑みを浮かべてらっしゃるわよ、あの二人。店員さん、なにか知りません?」
 「いーえ、全然知りませんよ~。まぁなんかぶつかったんでしょうや」

 オーダーを取りに来た銀時に話しかける中年の女性二人。そんな彼女達に、銀時は適当に答えながら、先ほど彼女達が言っていたオーダーを書き留めていく。
 そろそろ失敗もなく適当なこともしなくなった銀時だったが、それでもやはりやる気がゼロにしか思えない言動と態度。
 勘違いしてはいけないが、この男はこの姿こそがデフォルトである。もうちょっとがんばって生きろよ、天パー。
 そんな銀時にも気さくに話しかけるお客のおばちゃん。その顔には既に噂好き特有の表情が見て取れる。

 「あぁ、そうだ。店員さん知ってるかしら? ここの店長さんはね―――」
























 すっかりと、夜のほとぼりは落ちていた。
 店の営業時間が終わり、よろず屋メンバーも給料を貰ってそれぞれ帰路に着いた……はずであった。

 「すまねぇな、銀さんよぉ。いやなら、断ってもよかったんだぜ?」
 「気にしなさんなよ店長。俺は別に嫌ってわけでもねぇし、いい酒飲めるんだったらそれでいいさ。それより、どーしてオメェがいるんだよ、ゆうかりん」
 「イイじゃない。私だってお酒が飲みたい気分なの」

 銀時、幽香の二人が、店長に連れられて夜道を歩いている。他のメンバーはとっくに自分が変えるべき場所に帰宅している。
 最初に誘ってきたのは店長だった。「いい場所を知ってるから、一緒に飲みにいかねぇか?」と言葉を持ちかけてきた店長に、銀時は二つ返事でうなずいたのだった。
 そんな二人に引っ付いてきたのが幽香である。彼女はどこか上機嫌に日傘を片手に二人の後ろをついてくる。

 気がつけば、三人はとっくに人里から出ていた。道を歩き、電気もない暗闇の中を、提灯一つを頼りに歩いていく。
 そうして、聞こえてきたのだ。その歌が。

 「おーう、今日も歌ってやがんな」

 カッカッカッと楽しそうに、どこか安心したように店長が笑う。
 激しく、まるでロックンロールを思わせるような激しい歌。その歌が聞こえるほうに、店長は迷いもなく歩みを進めていった。
 一瞬怪訝な表情を浮かべる銀時と、その歌を非常にうざったそうにしている幽香だったが、仕方なく店長のあとに続いていく。
 やがて見えてくる一軒の屋台。周りは森に囲まれているというのに、こんな人も来そうにない場所で、その少女は歌っていた。
 やや小さいが立派な翼に、長い爪。外見こそ12~15歳程度のその少女は、上機嫌に歌っている。

 「お、店長じゃん。どう、そっちはさ?」
 「おうよ、ボチボチっていったところよ。ミスティアこそ、相変わらずみたいじゃねぇの」

 店長に気がついたのか、少女は歌を中断して言葉を投げかける。お互いに気軽に会話しながら、アッハッハッと景気よく笑う二人。
 やがてドカッと用意されていた長椅子に座り、銀時と幽香もそれに続いた。

 「うわっ、花の妖怪。なんでこんなとこにいるのよ?」
 「別にいいでしょ。今日はお客なんだから。えっと、焼き八目うなじだっけ?」
 「八目鰻。まぁ、今はそれだけじゃ繁盛しないんでおでんもやってるけどね」

 お互い顔見知りなのか、ミスティアと呼ばれた少女と幽香は互いに軽口を叩き合う。

 「ん? アンタはお初だね。名前は?」
 「坂田銀時。一応、里でよろず屋なんていう何でも屋やってる」
 「ふーん。私はミスティアよ。ミスティア・ローレライ。妖怪よ」

 お互い簡単な自己紹介を済ませる。妖怪と聞いても顔色一つ変えない銀時をみて、馬鹿にされているのだろうか? と思うミスティアだったが、銀時はそんなことには目もくれない。
 三人は熱燗を頼み、ミスティアは慣れた手つきでてきぱきと道具を用意する。

 「よぉ、店長。アンタ、この妖怪とは知り合いだったのか? アレか、ロリコンか?」
 「ちげぇよ。ありゃ俺がガキの頃の話でよぉ……、大体30年ぐらい前からの付き合い……ま、強いて言やぁくされ縁って奴よ」

 気を悪くした風もなく、ケラケラと店長は笑い、そのまま言葉をつむぎだしていく。

 30年前。その頃はまだ子供だった店長だったが、人里から少し離れた場所で罠にかかった妖怪を見つけたのだという。
 それが彼女、夜雀の妖怪、ミスティアだった。
 当時幼く、妖怪の危険性というものをあまりよく理解していなかった彼は、罠が足に食い込んで、痛そうにしている彼女を、何の疑問も持たず解放した。
 それから、店長とミスティアの奇妙な関係は始まったのだという。
 決まった時間に森の一角で待ち合わせ、遊んだり、時には里で人気のお菓子を持ち出して食べあったり、時には彼女の歌を聞くだけだったり。
 大人になって、彼女が人を食らう妖怪だと知り、理解しても、彼はいつものようにミスティアに会いに行った。
 彼が酒を嗜むようになってからは、もっぱら夜に開いているという屋台に足を運ぶのが日常となっていった。

 「懐かしいねぇ」

 店長の語りを聞きながら、ミスティアは相変わらずケタケタと笑みを浮かべながら三人分の熱燗を取り出し、いつの間にか幽香が頼んでいた焼き八目鰻を、これまた三人分並べる。
 妖怪とは、人間よりもはるかに義理堅い生き物である。腹が減れば遠慮なく人間ですらも捕食するミスティアだったが、さすがに恩のある人間を食べようとは思わなかったらしい。
 第一、一緒に居るときにお腹がすいても、大抵は彼が何か食べ物を持ってきていたので、それを遠慮なく差し出してくるのだから、わざわざ恩人を食べる理由もない。
 そんなこんなで長く続いた関係は、ま、適当な関係を上げるなら友人といった表現が適切かもしれない。

 「なるほど。道理でよろず屋の中身見て驚きもしないはずだわ。妖怪慣れしてるのね、店長って」
 「おーい、ゆうかりん? それじゃ家が人外魔境みたいじゃん? やめてくんない、そういう言い方」
 「正しく人外魔境じゃない。私のほかに、最近はレミリアだっているし、オマケに妖精三匹に天子までいるじゃない」

 そこまで自覚なかったの? と、幽香は冷ややかな視線を銀時に送りつつ、銀時のコップにお酒を注ぎこむ。
 そんな幽香の言葉に、ミスティアが「うわぁ……」と露骨に言葉を漏らしていたりする。

 「凄い人外魔境じゃん。それじゃ下手な妖怪だって近寄らないと思うわよ? あたしも近寄りたくないなぁ、そんな場所」
 「そんなに!? そんなにヤバイの我が家って!!? 妖怪だって近寄らないとか洒落になりませんよコレ!!?」

 今明かされるよろず屋の実態。その事実に「どうりで客がこねぇハズだ」と、納得したように紡いで頭を抱える。
 まさか妖怪ですら近寄りがたい魔境と化していたとは。里の人間が来ない理由を今はじめて思い知った銀時であった。





















 ―――それじゃ、今日は人間の面々は帰った帰った。早くしないと、私の狩りの時間になっちゃうよ。


 相変わらずの笑顔で言葉にした夜雀の言葉を反芻しながら、店長と銀時は帰路についていた。
 幽香はもう少し飲んでから帰るといって屋台に残り、べろんべろんに酔っ払った銀時に肩を貸しながら店長は歩いていた。
 既に人里に入っている。人里に入れば、たいていの妖怪は人を襲いはしない。だから、一応今は安全のはずである。

 「うー、飲みすぎた。やべっ……、吐きそう」
 「おいおい、銀さんよ。吐くなら帰ってからにしてくれよ? ほら、今つれてってやるからよ」

 ずるずると銀時を引きずりながら、店長はよろず屋目指して一直線に脚を進めていく。
 少しの間、沈黙が降りる。相変わらず気分の悪そうな銀時だったが、今はだいぶ落ち着いているらしい。
 そんな沈黙の中で、口を開いたのは店長だった。

 「変だと思ったかい? 人間が、妖怪とあんなに仲良くすることが」

 それは、ある種の独白だった。不思議そうな表情を浮かべながら、銀時は店長の顔を覗き見る。
 何か遠い、憧れに近いものを思い出すかのような表情。届かない何かを、必死に追い求める男の顔がそこにあった。
 昼間、店でおばちゃん二人組が話していた言葉を思い出す。

 『ここの店長さんはね、妖怪に恋をしてるんじゃないかって言う噂があるのよー。実際、昔はしょっちゅうあってたみたいだしねぇ』

 恋……とは、違うのかもしれない。ただ、それに近い感情を持っていることは想像するのに難しくはない。
 そう出なくては、妖怪と30年も長い間友人のような関係など築けまい。

 「別に、変だとは思わねぇよ。第一、それをいったら俺も似たようなもんだろーが」
 「はっはッはッ!! そりゃそうだ、違いねぇ」

 銀時の言葉に、盛大に大笑いする店長。あんまりにも豪快な笑い声だったもんだから、眠ってる人が文句を言うんじゃないかとひやひやしたもんだ。
 まぁ、どうやら店長も酔っ払っているらしい。ほんのり顔が赤く、銀時ほどでないにしろアルコールが回ってるのだろう。
 実際、店長なんぞより銀時のほうが妖怪たちとの友好関係はかなり広い。

 「俺ぁアイツの歌が好きでよ。昔ッからよくアイツのとこに行ったもんだ。そのことで親父ともケンカしたし、家も出ちまったしな。ま、そう考えるとだ、俺はアイツに惚れてたんかねぇ」

 柄にもねぇ。なんて小さく呟いて、店長は銀時を引きずる。

 「馬鹿なもんだぜ。俺は人間、アイツは妖怪。俺は捕食される側で、アイツは捕食する側。そもそも、たとえあいつに惚れていたとして、アイツと共にいたとして、俺はアイツみたいに長く生きられねぇってのによ。
 あーあ、まったく。当時の俺は大馬鹿野郎だったってぇわけだ」

 まるで、自分自身を戒めるように。それは自分自身に対する楔のように。
 吐いて、吐き捨てて、ただただ弱い自分を叱咤する。間の抜けた話だと、自分自身でも思いもする。

 「それでもよ、やっぱ俺はアイツの歌が好きなのよ。あいつの歌を聞いてるとよ、こう、力が湧いて、明日もがんばろうって気分に何のさ」
 「あのロックな歌がか? どんなファンキーな子供時代送ってんだオメェは」
 「ファンキーか。確かに違いねぇや」

 カッカッカッと、店長は酔った頭で笑いながら銀時を未だに引きずっていく。
 そうして、目的の場所に着くと、店長は引き戸を開けて玄関に入り込み、ゆっくりと銀時を腰掛けさせる。
 さてっと、店長はきびすを返して歩みを進める。その背中に、銀時の声が投げかけられた。

 「――――――」

 それを背に受けて、クッと店長は苦笑する。そのままドアを閉めて、彼はやれやれと肩を回しながら自宅の方に足を向けた。
 空には星がちりばめられている。人が作った星座と、妖怪が思い描いた星座が、夜空に浮かんでいる。
 かつて、子供時代にミスティアに教えてもらった星座を探してみて、それを案外覚えている自分自身に驚いて、また苦笑する。


 ゛俺は、あんたのことを大馬鹿だとは思わねぇ。ただ、不器用なだけだよ。アンタは゛


 「言ってくれるじゃねぇの」

 誰ともなしに呟き、意外としっかりとした足取りで歩いていく。
 なんと無しに気があって、酒を飲み交わして、自分と同じように妖怪と交流を持った人間。
 素性は知らないが、里の中に、自分と同じように妖怪と平然と接することが出来る人間が、果たして何人いることか。
 だから、そういった意味で言えば。銀時という男は唯一、腹を割って話せる数少ない人間だったのだ。

 「今頃、どこかで人間でも襲ってんのかねぇ、アイツは」

 ポツリと呟き、それもせんないことだと苦笑する。
 妖怪とはそういう生き物だ。一歩間違えれば、彼女は自分を襲い、食らうかもしれない。
 だが不思議と、恐怖は無いのだ。その時はその時で、どうせなら彼女に食われてしまえたら。と、思っている自分もいる。

 「わりぃな、銀時。やっぱ俺ぁ大馬鹿だわ」

 ポツリと呟く。夜の風が酔いをほんのりと醒ましていき、春とはいえ夜は風が冷えて仕方がない。
 あー、さみぃ。なんて呟きながら、彼は歩を早めて帰路に着いた。



 その途中。風に乗って、彼のよく知るあの激しい歌が、耳に届いたような気がした。






 ■あとがき■
 ども、白々燈です。今回の話はいかがだったでしょうか?
 今回はちょっとしんみりな方向にしてみました。今回の話は色々試験的なものを多分に含んでおりますので、ちょっと反応が怖かったりしますが…。
 今回はミスチーの話。まぁ一方的な人間→妖怪の片思いに近い話にしてみたかったんですが、なんだか微妙かも。もうちょっとミスチーに出番を与えたかった…。

 最近ようやくモチベーションが上がってきています。やっぱり歌を聞きながらだと結構上がりますね。
 そんなわけで最近、「ゼロの使い魔に恋姫の趙雲が召喚されるSS書いてくれ!」などと友人にいわれましたが…無理だッツーに。ただでさえ作品連載止めて、コレ書いとるというに。
 ただプロット自体と話の流れはあっという間に浮かんでしまった罠。まぁ書きませんが。
 そして今更ながら東方キャラソートなるものをやってみた。
 結果は↓

1 風見幽香
2 比那名居天子
3 射命丸文
4 ルナチャイルド
5 レミリア・スカーレット
6 サニーミルク
7 小悪魔
8 八雲藍
9 稗田阿求
10 鈴仙・優曇華院・イナバ

 うん、まぁこのSS読んでたら薄々わかったんじゃないかなぁと言うような順位に。
 阿求が9位にいることに驚きましたがw
 それでは、今回はこの辺で。



[3137] 東方よろず屋 第十三話「狐は油揚げが好きだといわれるけど実はさほどでもないらしい」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/06/30 19:46

 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。





 八雲藍。それが彼女の名前であり、この幻想郷に住まう大妖怪、八雲紫の式である。
 彼女自身も九尾の狐であり、主に劣るとはいえ、妖獣の中では最強といってもいいだろう。並大抵の妖怪には彼女は負けない。
 そう聞くと、とても恐ろしく、獰猛な生き物を思い浮かべるものも多いだろうが、案外そんなことはない。
 幻想郷に綻びがないかを観測して、幻想郷の治安をかげながら守っていたり。
 はたまたは人里に下りてきて買い物に来ていたりするなど、本人はいたって穏やかな人物(?)なのである。

 そんなわけで、彼女は主の八雲紫に料理を振舞うために人里に買い物に来ていた。
 妖怪がいればたいていの人物が警戒するものの、こと彼女の場合は自分から人を襲うことがないだけに町の人々から警戒の視線を向けられることは少ない。
 むしろ、藍のほうから挨拶をするぐらいだ。基本的に、彼女は礼儀正しく、そういった礼は欠かさない妖怪なのである。

 「あれ? 藍さんじゃないですか」

 ふと、そんな声が聞こえてきて後ろを振り返る。
 そこには、先日、彼女の主人が寝ぼけてこの世界に迷い込んでしまった人間のうちの一人。
 名を、確か志村新八といったはずだ。眼鏡をかけた素朴な印象の少年が、買い物袋を持ったままこちらに歩み寄ってくる。

 「む、新八か。君も買い物か?」
 「えぇ。大体買い物は僕の仕事ですし、今日は銀さん二日酔いで潰れてますから」
 「そうなのか? うちの紫様も二日酔い……ではないが、昨日は花の妖怪と夜雀のところで酒を飲んだらしくてね、まだ眠ってるんだ」

 やれやれ。と、藍は肩をすくめた。
 まぁ、あの主人が朝から夕方にかけて眠るのは今に始まったことじゃないし、むしろ妖怪としては正しい姿なのだが、それはさておき。

 「あぁ、銀さんも確かそんなこといってましたね。昨日の仕事の依頼人だった店長さんと、幽香さんとで飲みに行ったとか」
 「ふむ、ということはすれ違いかな。紫さまが風見幽香と飲んだのは。……って、待て待て待て! なんで君の口から幽香の名前が出てくるんだ!?」

 危うくそのままスルーするところだったところを、藍はかろうじて気付いて思わず新八に言葉を投げかける。
 何しろ、風見幽香といえば幻想郷の中でもトップクラスの危険な妖怪である。
 身体能力は吸血鬼たちにすらも匹敵し、その妖力も馬鹿げた高さを誇る。
 おそらく、能力に頼らずもあれほどの力を持った妖怪など、幻想郷広しといえど彼女ぐらいのものだ。
 何しろ、彼女の能力は戦闘にはまったくといっていいほど向かない。なのに、彼女は幻想郷においてもトップクラスに君臨する大妖怪なのである。
 自称最強を名乗る彼女だが、その実、それに見合うだけの実力を持っている。
 そのせいか、幽香は弱い相手にはとことん見向きもしない。
 彼女が戦う相手となれば、霊夢や魔理沙、咲夜といった特別な力を持った人間か、紫やレミリアなどの最強クラスの妖怪ぐらいのものだ。
 実際、並大抵の妖怪では彼女には敵わないし、そんな手合いには幽香は興味も示さない。
 だからこそ、不思議でたまらないのだ。この少年の口から、どうしてその名前が出てくるのか。

 「あぁ、そのことですか。話せば長くなるんですけど―――」

 そうして、少年はぽつぽつと語りだした。
 無論、その内容はとてもじゃないが、八雲藍には信じがたい話であったということだけは付け加えておかねばなるまい。









 ■東方よろず屋■
 ■第十三話「狐は油揚げが好きだといわれるけど実はさほどでもないらしい」■






 坂田銀時は机の上に突っ伏し、三人の妖精がその周りを囲んで彼を囃し立て、神楽は酢昆布を齧りながらソファーに身を預け、比那名居天子は定春に頭を齧られながら恍惚の笑みを浮かべている。
 そんなどこか頭のねじが外れてそうな一団に混ざって、件の人物、風見幽香は優雅に花に水をやっていた。

 それが、引き戸を開けた瞬間、八雲藍の視界に飛び込んできた光景だった。
 まぁ彼女のその表情を言い表すのならば「え、何? この状況?」である。

 「ただいま、銀さん」

 そしてそんな光景を目の当たりにしても平然と中に入っていく志村新八。
 それも当然、彼にしてみればこの状況はもはや日常になりつつあるのだから。

 「藍さんもどうぞ。中に入ってくださいよ、お茶ぐらいは出しますから」
 「え? あ、あぁ……お邪魔するよ」

 半ば呆然と行った感じで中に入る九尾の狐。中に案内されて、彼女は先ほど買い物をした荷物と一緒にソファーに腰掛ける。
 改めて見回せば、天人、妖怪、妖精、人間と、とんと混沌とした空間が広がり、ある意味奇妙な空間が出来上がりつつある。
 そんなわけで、ついつい思ってしまう。こんな状況で、よく彼らは平気だなぁ……と。

 「あら、あのスキマの式神じゃない。どうしたのよこんなところに。もしかして今回の依頼人?」

 隣に座ったことで気がついたのだろう。天子がマジメな顔をして藍に話しかける。血だらけだが。
 畜生、座るトコ失敗したなぁなどと心の中で愚痴る八雲藍。というか血だらけで話しかけないでほしい。なんというかこう心臓に悪いから。

 「いや、新八の話を聞いていたら少々心配になってな。というか、お前はとりあえず頭に齧り付いているその犬をどかしたらどうなんだ?」
 「ん? あぁ定春のこと? いいのよ、痛くて気持ちいいから」

 ……よくねぇだろ。と、すかさず心の中でツッコミなどを一つ。
 本当なら矯正するべきなんだろうが、生憎とその恍惚とした笑みを見てわかってしまったのである。
 もう、どうしようもないぐらいに手遅れだったんだということを。

 「……貴女もやってみる?」
 「結構だ!!」

 全力で拒絶した。もうコレでもかってくらいに。間違っても彼女はその気に目覚める気はコレッぽっちもないのである。

 「うるさいわねぇ、すっぱ天狐。花たちがびっくりしてるでしょう?」
 「あ、スマ……っていやいやいや、すっぱ天狐とか言うな。なんか凄くいやな響きに聞こえるから」

 今度は幽香から苦情が飛んできて、その中に暴言が混ざってると気付いて謝ろうとしたところを慌ててツッコミを入れる。
 あれ? 私は今客人のはずだよな? などと思わないでもないが、その肝心の藍を招き入れた新八が今は台所に引っ込んでいる。

 「もう、幽香さんも天子ちゃんも、あんまり人をからかわないでくださいよ。そんなんじゃ友達が出来ませんよ?」
 『ぐふっ!?』

 台所から緑茶を持って現れた新八の一言に、幽香と天子が露骨に胸に手を押さえてうめき声を上げていた。
 どうやら心当たりがあるらしく、青い顔してあらに方向に視線を向ける二人。天子はただ単に血が足りてないだけかもしれないが。まだ噛まれて血をだらだら流してるし。

 「……ザ○とは違うのだよ、○クとは」
 「神楽ちゃん、そのボケはちょっと……」

 某ロボットアニメのラ○バ・ラルさんの物まねをする神楽に飛ぶ新八のツッコミ。当然、この幻想郷にそのボケを理解できる人がいるはずもなく―――

 「え、ハ○ネ?」

 ……訂正、一人いた。しかも大本から角度七十五度ぐらいにずれた返答をしたのは、何ゆえか開いた窓から侵入している途中の鴉天狗の射命丸文だった。

 「あれ? 文さん。こんにちわ」
 「えぇ新八君、こんにちわ。毎度おなじみ文々。新聞ですよ~」

 そしてナチュラルに会話する眼鏡と天狗。その光景を頭痛そうに手で押さえてため息をついている九尾の狐。
 彼らが幻想郷に流れてきて、確かまだ一ヶ月とたっていないはずである。
 なのになんだろう、この混沌とした家は。自称最強の妖怪はいるわ、妖精はいるわ、天狗は来るわ、天人は噛まれてMに目覚めているわ……。
 たしか、最初に彼らが訪れていた宴会のときに、彼女の主である紫と、博麗の巫女である霊夢から必要以上に妖怪と接するなという注意があったようななかったような……。
 あの二人のことだ。その辺、注意を怠ったのかもしれない。
 だってここのメンツ、そろいもそろって警戒心0である。いくら面識があるとはいえ、もう少し警戒しろというのだ。

 だがしかし、彼女は知らない。実は時たま吸血鬼もこの家に訪れているということに。
 ちなみに、件の吸血鬼は今日は一日某巫女のところで過ごすらしく、彼女いわく、「霊夢分を補給するのよ!!」とか何とか。
 もはや意味不明である。

 「あやや、これはこれは紫さんの式神ではないですか。何ゆえこのような場所に?」
 「まぁ、色々と事情があるんだ」

 文に言葉を投げかけられるが、適当な言葉を返して場を濁す。
 実際、新八の話を聞いて現状が少し心配になったからなのだが……、この分だと少しは大丈夫らしい。
 ……ある意味大丈夫には思えないが。

 「新八~、く、薬を……。銀さん今にもこう胃液的なものをリバースしそうなんですけども?」
 「OK、落ち着きなさい銀時。私がボディに打ち込んでスッキリさせてあげるわ」
 「いや駄目だって! どう考えたって数秒後には悲惨な光景しかお目にかかれねぇじゃねぇか!!」

 銀時の心底辛そうな言葉に、先ほどのダメージから復帰した幽香がボディブローの練習をしながら呟き、そこを新八がツッコミを入れる。
 心なしかビュオン、ビュオン、とうなる風切り音が、どういうわけか死神の鎌が振られているかのような幻想を見せ付ける。拳なのに。
 さすがゆうかりん、そんな容赦ない言動に痺れる憧れるぅ!! とは、現在銀時を囃し立てている三人の妖精の弁である。

 「大丈夫よ新八。貴方がキャッチ&リリースすれば万事解決だから」
 「誰がするか! つか汚いし、どこも解決してねぇよ!! ていうかなんで釣り用語!?」

 口早にまくし立てる新八。幽香のその顔は明らかにからかって楽しんでいるものの顔だが、それに新八が気付いた様子はない。
 いや、もうとっくに気付いていて、そのことを指摘するのにも疲れたのかもしれないが。

 「……元気だな、ここの連中は」
 「そうねぇ、騒がしいくらいに」

 ポツリと呟くと、隣から帰ってくる声。その声はやはり、今はあの輪に混ざっていない比那名居天子なわけで。

 「ところで、いい加減その犬はずせ。さすがに色々危ないから」
 「もう、この気持ちよさがわからないなんて、あなたも子供ねぇ」
 「やかましい黙れ。知りたくも無い」

 いわれてようやく定春を頭からはずす天子。上半身真っ赤なのは、言わずもがな彼女の血のせいである。
 藍の冷たい言葉に、いい感じに身をくねらせていたことには目を瞑る。もう駄目だコイツ、手遅れだ。という感想は喉の奥に飲み込む。
 だって、どうせ言ったって喜ばせるだけだろうし。

 「幽香さん。フックじゃ駄目ですよ。こう、円運動するようにループを描いて体を動かし、そしてその勢いを利用して拳をたたきつけてはどうでしょう?」
 「なるほど、さすがは天狗ね。いい技を知ってるわ」

 そして向こうでは天狗の提案で、∞を描くように体を動かしている風見幽香。
 その挙動、その動きこそまさしく、ボクシング界に震撼を引き起こしたご存知『デンプシーロール』!
 心なしか、その光景を見ていた一同に「まっく○うち!! まっ○のうち!!」なんて幻聴が聞こえていたり聞こえていなかったり。
 そんな幽香とは裏腹に、文は文で楽しそうに片手を振り子のように揺らしている。
 こっちはこっちで伝家の宝刀『ヒットマンスタイル』! 今にも鞭のようにしなるフリッカーが飛んできそうな勢いである。

 「あの、すんません。なんか銀さん生命の危機を感じるんですけども? なんで二人とも某ボクシング漫画のスタイルで銀さん追い詰めてんですかコレ?」

 頭痛と吐き気を覚えつつも、命の危機を感じた銀時はがたっと立ち上がってじりじりと後退する。
 そんな二人を嬉々とした表情で追い詰める天狗と妖怪。そして口にしたのはやっぱり妖怪のほうだった。

 「大丈夫よ銀時。気絶してしまえば頭痛も吐き気もなくなるでしょう?」
 「大丈夫じゃねぇぇぇぇ!! どのへんが大丈夫なの!? 恐怖と絶望しか感じないんですけどその発言!!?」
 「そうですよ幽香さん!! 冗談にしても性質悪いですよ!!」

 あんまりといえばあんまりな発言に、銀時と新八のツッコミが飛ぶが、幽香は未だににっこりと笑みを浮かべたままである。
 無論、傍にいる文も実に楽しそうな笑顔を浮かべてらっしゃる。

 「大丈夫よ新八。冗談じゃなくて本気と書いて『マジ』と読むから」
 『なお悪いじゃねぇかぁぁぁぁ!!』

 二人のツッコミが見事にハモって幽香に突き刺さるが、本人は涼しい顔をして聞き流す。
 そんな光景を傍目から眺める藍。もういい加減突っ込む気も失せたのか、彼女は新八が用意してくれた緑茶を堪能して我かんせずを貫いている。

 やがて聞こえてくる打撃音。ゴシャ! グシャ!! などというワリと洒落にならない音を耳にするが、藍はとりあえず聞こえないふりをする。
 銀時の悲鳴と、新八の悲鳴が同時に聞こえてくるが、やっぱり無視を決め込む九尾の狐。
 そしてとうとう限界を超えたらしい。銀時の口からステキな音が聞こえたけれどそれも無視して知らぬ振りを慣行中。
 銀時の名誉のために、あえて詳しい描写は止めておこう。そうでもしないと銀時の人権が色々と危ない。

 ゆうかは「拳符『フラワーデンプシー』」をしゅうとくしました。
 あやは「拳符『神風フリッカー』」をしゅうとくしました。

 (……待て待て、何だ今の電波な思考は)

 自分の思考に一人でツッコミを入れながら、ちらりと惨劇の光景を視界に入れてみる。
 そこには、黄色い液体に沈む誰かの姿と、いい具合に血まみれな天狗と妖怪の姿。
 すぐに目を逸らした。あんまりな光景にすぐに目を逸らして先ほどの光景を見なかったことにする。

 「……神楽、彼らはいつもあんな感じなのか?」
 「んー、大体あんな感じアル。あの程度のダメージでへこたれてたらよろず屋は務まらないアル」

 ワリと平然に返されて、思わず返す言葉を失ってもう一度さっきの光景に視線を移す藍。
 ところが、先ほど自らの嘔吐物に顔を埋めていた銀時はいつの間にやら復活し、文と幽香に食って掛かっている光景が目に飛び込んでくる。
 なんていう復活の早さ。思わずお前人間なのか? と思ってしまったが、無理もない話である。

 「あー、すみません藍さん。せっかく招待したのに、ろくなおもてなしもせずに」
 「いや、それは別にいいんだが……、いいのか、あれ放っておいて」

 お菓子を用意する顔の腫れた新八に、藍は冷や汗流しながら幽香と銀時のほうを指をさす。
 その様子に、新八は「あぁ」と納得したように苦笑して、そして言葉を紡ぎだす。

 「大丈夫ですよ。多分」
 「自信なさ気に言うな」

 小さくため息をつき、もう一度緑茶を口に運ぶ。ほろ苦い味わいが口の中に広がって、それがなんともいえない美味しさを持っていた。
 ただなんというか、思っていた以上に、このメンバーはうまくやっているらしい。
 最初はあの風見幽香がいると聞いて大丈夫なんだろうかと心配したものだが、それも杞憂のようだ。
 見た感じはあれだが、うまく付き合っているほうだろう。多分。

 「ま、私がどうこう言える立場ではないか。私の主人が君たちを巻き込んだ元凶なのだし」
 「気にしてませんよ。こっちの生活には不自由してないですし、愚痴を零したって始まらないじゃないですか」
 「あぁ、そう言ってもらえると助かるよ」

 そう言って、お互いくすくすと笑いあう。
 自分の主人のやらかしたことで、彼らに迷惑をかけているのは事実だし、いくら藍が妖怪といえど少なからずの後ろめたさを感じる程度には、良心を持ち合わせているつもりだ。
 もっとも、それが彼女の主人である八雲紫にあるのかどうかと聞かれれば、正直「微妙」としか答えられないが。
 でもだからこそ、その被害者であるうちの一人である彼にそう言ってもらえるのはありがたい。

 「そうそう私にも、手のかかる式の子がいるんだが―――」

 苦笑交じりに言葉を紡ぐ。ここにいるのが不思議と楽しくなってきて、ついつい話を弾ませてしまう。
 ここの妙な空気に当てられたのかもしれない。でも、それでもいいかと、思っている自分自身に、藍は驚くが、心のうちにそれをしまう。
 自然と笑顔がこぼれて、そんな彼女の話に耳を傾けているよろず屋のメンバーの視線が、妙にこそばゆい。


 そんな楽しそうな彼女の姿を、彼女の主であるスキマ妖怪が、こっそりと覗き見をしていることに気付かないまま。




 ■あとがき■
 どうもこんにちわ、白々燈です。今回は藍のお話でした。少々短かったですが、いかがだったでしょう?
 最近は友人にSSをリクエストされることが多くなりました。
 先日の「ゼロ魔×恋姫(趙雲)」とか、今度は「ゼロ魔×東方(幽香)」とか。
 なんでゼロ魔ばっかりやねん!! とかツッコミたくもなりましたが。
 趙雲inハルゲニアはまだしも、ゆうかりんinハルゲニアとか「ゆうかりん召喚した瞬間ルイズ殺されない?」などと突っ込んでみたところ、「KIAIと根性でカバー!!」なんて返答が帰ってきたときは本当にどうしようかと。
 というかゆうかりんだとフーケのゴーレムもワルドも5万(7万でしたっけ?)の軍勢も相手になんなくない? という根本的な問題がありますが。
 いや、それ以前に自分がセロの使い魔を二次創作でしか知らないっていう大本の問題があるんですけどね。書くとしたら本格的に設定調べてみますけど。
 上の二つで読んでみたいと思うのがあれば、感想にでも書いてみてください。暇と余力と根性があればもしかしたら書くかもしれません。書かないでいいと思うならそのように書いてくださいw

 さて、次辺りはようやく冥界組を出せそうです。一体どのように登場するのかは、今この場では伏せておきます。
 それでは、今回はこの辺で。次からは東方キャラクター紹介をどうぞw


 ■東方キャラクター紹介■

 【蓬莱山輝夜(ほうらいさんかぐや)】
 ・種族 月人
 ・能力 「永遠と須臾を操る程度の能力」
 ・地味。ニート。その漢字からてるよ。など呼び名はかなり散々。でも能力はワリと反則。
 正真正銘、竹取物語のかぐや姫だが、倒しに行くと結構はすっぱな庶民口調で迎えてくれる。
 もっこす(妹紅)とはト○とジェ○ーの関係。
 元々彼女は月の民として生まれ姫として何一つ不自由なく育てられたが、それは禁薬である蓬莱の薬を飲んだ時から彼女の生活は一変。
 不老不死となった彼女は罪人として処刑されたが死ぬことができず、やむなく穢れた地上へ転生という形で落とされることになる。
 転生した彼女はある地上の民に発見され、輝夜の名で育てられることになる。
 あとはかぐや姫の通りに生活し、そのうち彼女の罪は贖われ月から迎えの使者が来る。
 しかし地上に残りたいと願う彼女は使者の中にいた旧知の八意永琳と共謀して他の使者を全て殺害し逃亡。
 そんな設定があるからか、シリアスだとものすごく腹黒い性格で書かれることが多い。特に某サイトの輝夜は「様」と敬称を付けたくなるほど理性保ったまま狂ってて腹黒くてカッコいいです。
 でもギャグになると大抵ニートの駄目なお姫様に。この落差はある意味東方一かもしれない。

 【藤原妹紅(ふじわらもこう)】
 ・種族 人間(蓬莱人)
 ・能力 「老いる事も死ぬ事も無い程度の能力」
 ・幻想郷の不死鳥。ぶっきら棒な上に我武者羅。輝夜より年下っぽい。
 けーねとてるよとの三角関係の渦中の人。
 死なないので色んなのに好き勝手嬲られる。
 「蓬莱の玉の枝」を要求された車持皇子(藤原不比等)の娘と思われる。
 暴走ばかりにみえて実はいぶし銀な優しい人。
 文花帖で薄れた殺伐属性は求聞史紀で完全消滅。
 最近では永遠亭に患者を送る際の護衛も引き受けてくれる。根っこのところは本当に優しいらしい。
 ただ輝夜を目の前にすると恐ろしく沸点が低くなるのはご愛嬌。
 【不死「火の鳥-鳳翼天翔-」】などネタ満載。

 【八意永琳(やごころえいりん)】
 ・種族 月人
 ・能力 「あらゆる薬を作る程度の能力」「天才」
 ・巨乳。サド。そして永遠亭の影の支配者。うどんげいじめと変な薬をばらまくのが趣味な困ったさん。
 弓が武器のようだが使っている姿を見るのはほとんどない。
 花の兎や人形のエンディングから、人任せにせず何でも自分でやったり出歩いたりしている。
 実は主人の輝夜より強かったりするメタな設定があったりする。
 しばらくは輝夜の側近的な立ち位置と思われていたが、儚月抄により輝夜の家庭教師だったことや、輝夜を呼び捨てにしていることが発覚した。
 最近ではどうも、月の都を作り上げた月夜見より年上かつその相談役らしいことが判明。
 二次創作では奇妙な薬を作るネタが多く、八雲紫同様ただの便利役として使われること多数。
 一体どこまで彼女の地位がインフレするのか、ファンは戦々恐々である。多分主人の輝夜も同じ気持ちに違いない。

 【鈴仙・優曇華院・イナバ(れいせん・うどんげいん・いなば)】
 ・種族 妖獣(玉兎)
 ・能力 「狂気を操る程度の能力」
 ・永琳と輝夜とてゐのおもちゃ。
 妖夢と双璧を成す弄られキャラ。涙目がよく似合う。生真面目な性格が災いしてか大体はろくな目にあわない悲惨なキャラ。
 正統派美少女っぽい外見のせいもあってか高い人気を得た。
 耳は偽物らしく、根元のボタンが非常に怪しさをかもし出す。
 花でコスチュームチェンジしたにも関わらず、そちらは余り人気がない。
 原作のCGやドット絵から尻尾がないと思われていたが、求聞史紀や緋想天の立ち絵では尻尾ありだったりするので尻尾の有無はどちらでもいいという結論になりつつある。
 能力は狂気を操る程度とされているが実際には電磁波や光なども含むあらゆる波について、その波長・位相などを操ることができる。
 人妖の波長を見ることで性格を見抜いたり、竹林一帯に錯覚を生み出し、迷いの結界を作り出す等、その力は人間や妖精を遥かに上回る。能力だけ見るならわりと強キャラ。

 【因幡てゐ(いなばてゐ)】
 ・種族 妖獣(妖怪兎)
 ・能力 「人間を幸運にする程度の能力」
 ・健康に気使って長く生きているうちに、妖怪変化の力を身につけた兎。永遠亭に住む大量の兎のリーダーで、その気性の激しい性格は妖怪より妖精に近いらしい。
 一説によるとあの因幡の白兎の馴れの果てとも言われているが定かではない。
 優曇華への呼称は長らく不明だったが、最近の書籍作品により「鈴仙」と呼んでいる事が発覚。更に永琳の事は「お師匠さま」と呼んでいる事も発覚した。
 登場以来、最も出世したであろう中ボス。募金回収活動も活発。嘘と詐欺が大好きな根っからの詐欺師。
 作中でうどんげとは相性がさほど良くないらしく、やり取りが色々と適当な事が多い。



[3137] 東方よろず屋 第十四話「幽霊と亡霊の違いがイマイチわからないがちゃんと違いがあるらしい」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/07/06 18:52

 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。
  今回オリキャラに準ずるキャラクターが登場するのでお気をつけください。







 「今日、あんた等に頼みてぇのは他でもねぇ。奴についてだ」

 もう夜になろうかという時間帯。人里でカフェを営む彼が尋ねてきたのはそんな時間だった。
 私、比那名居天子はそんな彼の様子をソファーから眺め、隣にはこのよろず屋の主、坂田銀時が珍しく真剣な表情で店長と向かい合っている。
 ぴりぴりとした緊張感。珍しく肌がざらつくような空気を漂わせながら、二人は向かい合って語り合っている。
 そんな様子だからか、私も、それどころか幽香や新八、神楽までもが固唾を呑んで見守っている。

 「いよいよ、明日に奴が動く。俺たちも出来る限り数をそろえるつもりではいるが、いかんせん数が足りねぇ」

 ふぅっと小さくため息をつき、店長はキセルを銜え、鋭い眼光をこちらに向けてくる。

 「全面戦争よ。銀さん、アンタも力を貸しちゃあくれねぇか?」
 「あぁ、わかったぜ。俺たちの命、店長に預ける」

 勝手に預けんじゃないわよそんなもん。などといえる空気でもなかったので、それはかろうじて喉の奥にしまいこむ。
 ……にしても、なんなんだろう。この会話。あんた等やくざか何か?
 そう言われても文句言えない内容に、私は内心あほらしいと思いはしていたが、どこかで楽しみではあったのだ。
 会話の内容からして、おそらくはどこかに殴りこみにでもいくのだろうけれど……それはそれで最近なまっていた体をほぐすのに丁度いい。

 「あんたならそう言ってくれると思ったぜ」

 ニヤリと、嬉しそうに笑いながら店長は席を立ち、ぷはぁっとキセルを取って煙を吐き出す。

 「明日、準備が出来たら俺の店に来てくれや。頼んだぜ」

 そう言って、彼は玄関まで歩いていき、そしてよろず屋を後にした。
 ガラガラ、ピシャン。という音が、静まり返ったよろず屋の内部で大きく反響する。
 誰もが口を開かない。いつになくシリアスな展開に言葉を発することを忘れたのか、皆一様に黙り込んでいる。

 「おい、天子、幽香」

 不意に、名を呼ばれて私たちは怪訝な表情を銀さんに向けた。
 いつになく真剣。だからか、私たちはいつもなら茶化すところを黙って彼の言葉を待つ。
 ゆっくりと、銀さんが私と、私の後ろにいる幽香に視線を向け。



 「奴って、誰だ?」
 『って、アンタ知らないで今まで話に乗ってたの!!!?』



 シリアスな空気をぶち壊すとんでもない発言をかましていたのであった。

 








 ■東方よろず屋■
 ■第十四話「幽霊と亡霊の違いがイマイチわからないがちゃんと違いがあるらしい」■








 「とぉ、言うわけで!! 今からオメェたちに役割分担を言い渡すぞ!!」
 「って、ちょっと待ったぁぁぁ!!」

 翌日、指定どおりに店長が経営するパフェに訪れ、彼の発言に私は思わず大声を張り上げていた。
 そんな私の言葉に、きょとんとした表情をを浮かべたのは間違いなく店長その人である。
 今この場には私のほかに、銀さん、新八、神楽、幽香のよろず屋メンバーに加え、元からこの店の従業員らしき子が二人と、何ゆえか夜雀の姿があった。
 そんなメンバーの視線が一様に私に向けられるが、そんなことにはひるまず私は店長を睨みつけていた。

 「どうした天子の嬢ちゃん。なんかあったか?」
 「あったわよ!! ありまくりよ!! 何、昨日散々もったいぶってた奴てまさかただの客!!?」

 らしくないとは思いながらも、やはり言葉にしたら止まらない。
 いや、だって。奴が動くだの全面戦争だの言われたら誰だって暴力沙汰を想像するじゃない?
 昨日から殺る気満々(誤字にあらず)だった私のこの気持ちはどうしろというのだこの男は!!
 ……いや、先週のようにウェイトレスの格好させられたから、まさかとは思ってたんだけどさ。
 何もこんなときにいやな予感が当たらなくてもいいじゃない?
 そんな私の思考に気付いているのかいないのか、私の肩を後ろからポンッと叩いた誰かに視線を向けると、それは夜雀の妖怪のミスティアだった。

 「……な、何よ」

 なんだか生暖かい目につい耐え切れず、冷や汗流しながら彼女に言葉を投げかける。
 すると彼女はどこか達観したような表情で「ふっ」とため息なんだか嘲笑なんだかわからない微妙な吐息を漏らしてそそくさと去っていった。
 ……え、何? なんなのよ一体? ていうか従業員の子達もその「所詮人生なんてこんなもん」みたいな表情止めてよ!! 不安になるじゃない!!

 「でも、僕達も実際天子ちゃんと同じ気持ちですよ。昨日のはちょっと言いすぎだッたんじゃないですか?」
 「そうだぜ、まったく。ていうか、奴って一体誰なんだよ」

 呆れたような言葉をつむぐ新八と銀さんに、私は思わず手放しで応援したい気分になった。
 いいぞ、もっと言え!!
 しかし、そんな私にとっては心強い援護射撃にもかかわらず、「知らないっていいなぁ」みたいな顔をする従業員とミスティア。
 そんな彼女達の気持ちを代弁するかのように、店長は銀さんと新八の肩をがっしりと掴んで……。

 「……オメェら。そんな甘い気持ちは、甘い幻想は、甘い妄想はここで捨てるこった。でねぇと、……死ぬぜ?」
 「……一体何が来るって言うんですか、マジで」

 わりと切実だった店長の言葉に、新八が冷や汗流しながらとりあえずツッコミを入れる。
 なんだろう。このわりと何事にも動じなさそうな店長がここまで焦燥にかられる客って。
 あれか? 生粋の幻想クレーマーとかそんなパンチの効いた存在なんだろーか?
 ……いや、でもそれだと数を集めて欲しいっていう理由がないし。

 「いいか、料理は俺達カフェの従業員とミスティア、それから新八で何とかする。他は料理を運ぶ係りと接客だ。いいな、こいつは飲食店の接客じゃねぇ、戦争だと思え!!」
 『はいっ!!』

 事情を知ってるらしい従業員とミスティアは元気よく敬礼し、そしてイマイチ理由がわからない私たちは首をかしげることしか出来ないでいた。
 いやだって、どう考えても大げさというかオーバーなリアクションという印象しかもてないんだけど……。
 従業員と店長に連れられて、新八とミスティアが厨房のほうに消えていく。
 うーん、こんな様子なら無理やりにでも衣玖を連れてくるべきだったかしら?
 前のように髪をポニーテールにしながらそんなことを考えていると、カフェのドアが無造作に開く。今日はその客の貸しきりだそうなので、実質この客が件の人物なのだろう。
 そういうわけで、私は以前習得したフレンドリィスマイルを浮かべて接客を開始したのである。

 「いらっしゃいませ~、……って」

 思わず、ぴたりと硬直して件の人物達を視界に納める。向こうも私に気がついたらしい。
 顔はいつものように怪しい笑顔のままだが、目が微妙に笑ってない。視界に納めて、私たちは笑顔のままお互いをにらみ合う。
 八雲紫。金髪ロングで白い肌。白を基調とし、陰陽をイメージさせる紫の生地でアクセントを加えたドレスを着た幻想郷の大妖怪。
 以前、彼女とはちょっとしたいざこざがあってそれ以来、お互いを意識してはいるが、その内容は平たく言えば犬猿の仲なのである。
 まぁ、なんか他にも誰かいるみたいなんだけど、生憎、今の私はこいつ以外はアウトオブがんちゅーなのだ。

 「いらっしゃませスキマ野郎。お帰りはあちらですよ?」
 「あらあら、私はお客なのよ? そんな冷やかしのような対応をされるとは心外ですわ」
 「あなたの存在自身が冷やかしかと思いますが?」

 にこやかにズバッといってやる。心なしか、後ろの狐がうんうんと同意していたが横合いから出現した隙間から飛び出した拳にノックアウト。
 そんな狐に駆け寄った化け猫がいたような気はするけど、ひとまず無視の方向で。

 「天人ともあろうものが下界でウェイトレスをやっているとか、威厳がありませんわね?」
 「いいのよ、そういうのはただの偏見でしてよ? やってみると意外と楽しいのですから、寝てばっかりでなくてあなたも働いてはいかがかしら?」

 んふふふ、っとお互い険悪な笑みを浮かべながら顔を思いっきり接近させてにらみ合う。
 顔と顔をつき合わせて、険悪な笑みを振りまく私たち。上背で負けてる分、私のほうがちょっと不利だけど。

 「何やってんだオメェは」

 銀さんの言葉と共に、ドンッと、後頭部から襲い掛かる衝撃。突然のことに私は勢いを止めきれず、結果―――

 『んむっ!?』

 ……悲劇的なことに、私と目の前のスキマ妖怪との唇が見事に重なったのだった。

 「……あ」

 後ろから間の抜けた銀さんの言葉が聞こえてくる。世界からこの空間が隔離されたんじゃないかというほど気まずい空気が漂った。
 視線が、私たちに集まっているのがみなくてもわかる。
 この絶対零度にまで下がったんじゃなかろうかというほどの冷たい空気の中、私は思考をフリーズしたままで行動を起こせないでいたのだ。
 それは、どうやら目の前のスキマも同じらしい。目を見開いたまま、驚きと共に硬直してしまっている。
 なんか約一名、あらあらなんていいながら私たちのこの様子を楽しそうに見ている亡霊が視界の隅に見えているが、そんなことを考える暇もない。

 『ぷはっ!?』

 さすがにお互いの口を塞いだまま無呼吸状態は苦しく、半ば本能的に私たちは離れた。
 顔が火照っていて、明らかに顔を真っ赤にしているんだろう。それを直そうと思ってもうまくいかない。
 ていうか、スキマ!! なんでアンタまで顔赤くしてるのよ!!
 いや、そんなことよりも、そんなことよりもっ!!
 ギギギィっと軋んだ音を響かせながら、私はゆっくりと、顔が真っ赤のままこうなった元凶を睨み付けた。

 「……銀さん?」

 地獄のそこから響くような声。
 自分でもよくこんな声が出せたもんだと内心思いながら、私の真後ろにいて硬直したままの銀さんを殺気を孕ませて睨みつける。
 そして、銀さんが半歩下がる。私がこれから【ナニ】をするのか悟ったのだろう。
 全身冷や汗をだらだらと垂れ流しながら、彼は必死に弁明を開始した。

 「いや、銀さんは―――」
 「シャラップッ!! 小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震える準備はOK?」

 がしかし、私はもともと彼の弁明なんぞ最初ッから聞く気なんてなかったので皆まで言わせるまでもなく、その言葉を遮った。
 何しろ、私の脳内最高裁判所では既に、彼の有罪が確定しているのだから、これから何が起ころうと結果は覆るはずもない。
 すなわち撲殺!! 私の脳内で撲○天使とやらが先ほどから耳元に優しく語り掛けているのだ!!

 「銀さんの馬鹿、銀さんの馬鹿! 銀さんの馬鹿っ!! 私のファーストキスだったのにぃぃぃぃ!!!!」


































 ただいま見苦しい映像が流れております。世界の列車の車窓の風景をお楽しみください。

































 かくして、制裁(という名の惨劇)は終わりを告げた。
 とりあえず、かつては銀さんだったモザイク無しにはテレビに映れない物体を部屋の隅に放置し、ようやく冷静になった私は客をテーブルに案内した。
 紫に視線が行っていたせいで先ほどは気がつかなかったが、ちょっとした家族ぐらいの人数が集まっていた。
 先ほどの八雲紫に、彼女の式である九尾の狐、八雲藍。その八雲藍の式である、茶髪のショートカットが印象的な化け猫の橙。
 んで、先ほどの光景がよっぽど面白かったのか、未だに楽しそうに笑顔を浮かべている桃色金髪のセミロングの亡霊は西行寺幽々子。
 その主人を見て、これ見よがしに「はぁ……」と深いため息をついている白髪のおかっぱ頭の少女が、半人半霊の魂魄妖夢である。

 「……まぁ、がんばって」

 なんかすんごく達観した表情で妖夢からそんな言葉をいただいた。実に勘弁していただきたい。凄く不吉だ。彼女がなまじマジメなだけに。
 あと、とりあえず、そのふよふよした人魂の半身をせわしなく動かさないで欲しい。色々うっとうしいから。

 「……何やってるの、銀時」

 後ろから幽香のあきれた声が聞こえてきて、そちらのほうに視線を向けると、ゴミ箱に頭から突っ込んで何かやってる銀さんの姿が目に映った。
 いや、ていうか早くない、復活するの?

 「いや……、ムー大陸の入り口を探しに……」

 もはや意味がわからない。何よ、ムー大陸って。
 これは後に聞いたことなんだけど、どうやら銀さんは幽霊というものが本当にだめらしい。
 ……妖怪は大丈夫なのに幽霊は駄目とか……、よくわかんないわねぇ。妖怪のほうがよっぽど恐ろしいでしょうに。

 「それで、ご注文は?」

 一応、営業スマイルを浮かべて問いかける。
 出された注文をひとまず紙に書き、その内容を確かめてみる。
 紫がガトーショコラ。藍は白玉善哉。橙がショートケーキにオレンジジュース。妖夢はバナナクレープ。
 聞けば聞くほど至って平凡。これのどこが戦争だというのか。やっぱり、店長にはめられたのかしら?
 そう思いながら、最後……幽々子の注文に耳を傾ける。

 「えーっと、飲み物はストロベリーシェイクだけでいいわ。あとはモンブランと白玉善哉―――」

 ……あれ、やっぱりたいしたことないわね。店長ったら本当にどういうつも―――

 「以外を全部」
 「ぶぅっ!!」

 トラップ発動!! なんてパンチの効いたトラップなのだろう。カフェのメニューを範囲指定とかナニ考え店のよこの亡霊!!?
 思わず噴出しちゃったけど私は悪くないよね!? だって油断した途端にこの発言はないわよ!!

 「6ダースお願いね」
 「その発言はもっと無い!!」

 今度はたまらず声に出た。いやだって、このカフェ、飲み物除いたって60以上のケーキやサラダやらのデザートや軽食があるのだ。
 それを!! 6ダース!? ダースっていくつだっけ!? 知ってるけど考えたくない聞きたくない!!
 ふと、視線を妖夢に移してみる。そしたらなんかものすごく生暖かい目で頭を下げられた。
 なんか同情されてるしっ!!!?
 堪らず私はその視線から逃れるように厨房に向かい、するりとその中に入り込む。
 そこには気合十分にスタンバイしている店長と従業員とミスティア。それとイマイチ事情を飲み込めてない新八の姿があった。

 「て、ててててて店長!! ちょっとどういうことアレ!!? 一部除いて全品6ダースとか聞いたこと無いんだけど!!?」
 「だ、ダース!!? この店のメニューをですか!!?」

 新八の驚愕の言葉に、私はコクリとうなずく。すると店長は、鋭い眼光を私にぶつけてくる。

 「だから言っただろうが! これから先は戦場だと!! しかし、今回は少なめだな。今すぐ用意する!!」
 「少ないんですか!? 全品6ダースが少ないんですか!!?」
 「そうだよ新八!! あの亡霊ならあと5ダースは軽いはずよ!!」

 店長の信じられない発言に新八がツッコミをいれ、その新八のツッコミに答えるようにミスティアが言葉を投げかける。
 とりあえず、今の発言を全力で忘れてしまいたい。いや、本当に。ついでにゴミ箱に頭突っ込んだまま動かない銀時の存在も忘れときたい。
 あー、マジで役にたたねぇ、この男。
 店長は片手にお玉、片手に包丁を持ち、目の前に所狭しと並べられた食材に視線を向ける。

 「いくぞ腹ペコ嬢。胃袋の空腹は十分かっ!!」

 誰の台詞のパクリだそれは? あと全然かっこよくないから。
 私の心の中のツッコミはもちろん彼には聞こえない。そんなことにも気にかけず、店長は瞬く間に調理に取り掛かった。

 「ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!」

 店長が吼える! 銀閃が煌く!! 食材が宙を舞い、瞬く間に解体され、ボールのなかには真っ白な液体が超高速でかき回されている!!
 そのさまはまさに人の業などではない。いかな天才とてその域に達するには不可能なのではないかと思わせるような早業の数々!!
 気がつけば、彼の背後には亡霊のように青髪パーマーロングの斧持った誰かさんの姿が見える! 誰だアンタは!!?
 みれば他の従業員も、皆彼には及ばないもののかなりのスピードで調理を進めていく。もちろん、ミスティアもかなり早い!!
 その中で、新八だけが遅れをとっている。だが、そこは恥じるところじゃない。こいつ等がありえないくらいに早すぎる!!
 今このとき、私は始めて実感した。
 今この場は、まさに店長の言ったとおりに【戦場】なのだということを!!












 結局、気がつけば夜がとっぷりと暮れていた。
 全員が疲れたように突っ伏し、まともに動ける人物はこの場にはいない。
 閉店の文字が書かれたカードをかけて、私たちはみんな一様に死んだように動かない。
 結局、あの数を幽々子はすべて平らげた。その内容は語らない。語らせないでください本当にお願いだから!!

 「……だらしないわねぇ」
 「……」

 見事にテーブルの上に突っ伏す私を見て、スキマから顔を覗かせたスキマ妖怪がそんなことを呟いた。
 うるさい黙れ。帰ったと見せかけて何の嫌がらせだコンチクショウ。
 無論、私はそれに答えない。嫌がらせとかじゃなく、純粋にもうそんな体力も気力も無いからだ。
 あー、どうやって帰ろうかなぁ天界に。雲の上なんだよね、あそこって。もういっそよろず屋に泊めてもらおうかしら?

 「どう? よろず屋は」

 唐突に、スキマはそんな言葉を私に投げかける。
 いつもの怪しい笑顔のまま、だけどその目は真剣そのもの。そんな彼女の視線が珍しかったものだから、ついつい言葉を返してしまった。

 「いいところよ。面白いし、楽しいし、退屈しないわ」
 「そう」

 ころころと、実に満足そうにそいつは笑った。
 あー、チクショウ。こいつの顔なんて見たくないっていうのに、なんだって私の視線のまん前にスキマなんて作って顔出すんだこいつは。
 紫は少し視線をはずして、同じように力なく地面に突っ伏している銀さんに視線を向けると、感慨深げに小さくうなずく。

 「なら、問題なさそうね。妖怪だらけと聞いたから、少し心配だったのだけれど」
 「何それ。それなら博麗神社のほうがよっぽどアレじゃない」
 「そうね、確かにあっちのほうがアレね」

 お互いに、ただなんとなく笑った。
 非常に意外なことではあったが、今こうしている分には不思議といやな気分はして来ない。

 「膝枕してあげましょうか? ファーストキスを奪ってしまったお詫びに」
 「遠慮しとく」

 くすくすと笑いながら、私は返答する。その返答がわかっていたからだろう。紫はまたクスクスと苦笑した。
 うん、少しずつだけど調子が出てきたみたいだ。あのファーストキスは、……まぁノーカンってことで一つ。

 「紫~、こんなところで何してるの?」

 スキマからにゅっと顔を出す亡霊。そんな彼女の様子に、私と紫は堪らず苦笑して、彼女に視線を向ける。

 「ちょっとのお詫びと、少しのお話をね」
 「そうなの? なら、どうせなら銀時も呼びなさいな。こんな状態だし、楽しくおかしく話をしましょう」
 「それはちょっと難しいんじゃない?」

 その言葉に、幽々子は気を悪くした風もなくころころと笑った。にしても、相変わらず傍目からみると能天気な連中に見える。
 ま、いいや。どうせこんなのは一時の気の迷いだ。しばらくしたら、いつものように犬猿の仲に戻るだろう。

 だったら、今だけは友人のように話をしたって、罰は当たらないだろう。











 「……銀ちゃん、何をやってるアルか?」
 「……いや、シュガーレット王国の入り口を探しに」


 とりあえず、またゴミ箱に頭を突っ込んでた銀時は見なかったことにしておく方向で。






 ■あとがき■
 こんにちわ、白々燈です。今回ようやく冥界メンバーを出せました。いかがだったでしょうか?

 先日、東方緋想天のストーリールナティック、鈴仙と天子の両名でようやくノーコンテニュークリアしました。天子がマジできつかった。あと持ちキャラでクリアしてないのは文だけですw

 そして今回も友人から「虚無つながりでゼロ魔にスレイヤーズのロードオブナイトメア召喚とかどうよ!?」なんて言葉をいただきました。
 なんつーか「ハルゲニア滅亡フラグですね」なんて思った自分は間違いではないと思う。
 むしろレコンキスタの数万の軍勢を瞬殺フラグですか? とも思いましたが。
 あとルイズがラグナブレードとか覚えちゃうフラグですか? みたいなそんな感じ。
 あ、それはそれで面白そうだと思ったりもしましたが。
 まぁ、書きませんけどね。せめてこのSSが完結するまでは。

 それでは、今回はこの辺で。次からは東方キャラクター紹介です。


 ■東方キャラクター紹介■

 【八雲藍(やくもらん)】
 ・種族 妖獣(式神)
 ・能力 「式神を操る程度の能力」
 ・九尾の狐。乳大きめ。油揚げ好きで性格の方は丸く、穏やか。自分の式である橙を溺愛してる。
 基本的には便利屋さんであるため普段は紫にこき使われている。
 性格以外は大体紫の下位互換。しかし比較元が元な上、媒体としての藍自身が最強の妖獣なのでかなり強い。
 それでも使い走りな苦労人っぽいイメージが拭えない悲惨なキャラ。
 誰か彼女に愛の手を。

 【橙(ちぇん)】
 ・種族 妖獣(式神)
 ・能力 「妖術を扱う程度の能力」
 ・無邪気な猫又。普段は藍とは別居状態。猫を配下にしているが、全然扱えていない。
 勘違いされやすいが彼女にはまだ苗字がない。八雲一家唯一苗字なし。
 でも藍には愛されている。その影響か紫からも最近は愛されているらしい。
 藍の式神。でも思考能力は人間の子供と大して変わらないらしい。

 【ミスティア・ローレライ】
 ・種族 妖怪(夜雀)
 ・能力 「歌で人を惑わす程度の能力」
 ・歌はうまいのか下手なのか意見の分かれる。なんでもハードロック調らしい。立ち絵をよく見ると公式ニーソックス。
 何気に爪が凶悪な形。弾幕よりもこれで引っかいたほうが強力そうだ。
 幽々子の食料(非情食、もとい非常食)にされること多数。誰か助けてあげてください。
 鰻屋台ネタはピークを過ぎたのか、最近ではおでん屋台ネタが見受けられる。
 食事的な意味でもっとも人間を襲う「妖怪らしい妖怪」の一人。

 【魂魄妖夢(こんぱくようむ)】
 ・種族 半人半霊
 ・能力 「剣術を扱う程度の能力」
 ・人間と幽霊のハーフの二刀使い。師匠は妖忌。
 くそ真面目。半分幽霊なのにお化けが怖い。鞘には花が咲いている。
 妖怪を斬ったり植木を斬ったり、斬れないものはあんまりないので斬りたがる。
 幽々子のボケに突っ込むのが日課だが自身も割とボケているので逆に突っ込まれたりもする。
 全体的にいじられ役。でもストーリーでは「とりあえず斬る。話はそれからだ」なんて言う辺り根っからの辻斬り体質な危ない人物に見られなくもない。

 【西行寺幽々子(さいぎょうじゆゆこ)】
 ・種族 亡霊
 ・能力 「死を操る程度の能力」
 ・白玉楼の主。腹黒でボケーっとしてる。
 妖夢をいじめるのと紫にいじめられるのが日課。言動がめちゃくちゃ。
 その一見、呑気な外見とは裏腹に、高難易度かつ華麗な弾幕を所有する。
 生前はある「歌聖」の娘であったという。
 無抵抗に相手を即死させる能力が在るが、滅多に使う事はない。
 はらぺこキャラ。何でも喰う。際限なく喰う。とことん食いまくる暴食ぶり。
 切れ者なのか痴れ者なのか、いまいちつかみどころがない。ちなみに体は冷たくないらしい。
 幽霊と亡霊の違いは、実体の有る無しの他に、体温などいろいろある。
 亡霊は実体があるので、体が物質を透過できない。



[3137] 東方よろず屋 第十五話「幸せの青い鳥とか言うけど割りと結構見ること多い」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/07/09 00:34

 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。
  今回オリキャラに準ずるキャラクターが新たに登場するのでお気をつけください。








 「すまないな、わざわざ朝早くに付き合ってもらって」
 「いいんですけどねー、別に。銀さんは気にしませんよー」

 朝霧が立ち込める早朝、村から少し離れた場所の田畑に彼らの姿はあった。
 一人はこの里で寺小屋の教師を務め、なおかつ里の守護者でもある上白沢慧音。
 そんな彼女の傍らにたたずむ銀髪天然パーマーはわれらが主人公、坂田銀時。
 その彼の少し後ろについてくるように、眼鏡とツッコミがとりえの地味少年、志村新八。
 新八の隣には、純白の巨大犬の定春の背に乗った毒舌チャイナン、神楽。
 合計四人と一匹は朝も早くから村から少し離れたこの場所を歩いている。
 なんでも、今朝早くに農業に勤しんでいた里人Aさんが「妖怪が罠にかかっている」という報告が慧音にあったらしい。
 そんなわけで、万が一のためにとよろず屋のメンバーも連れて件の場所にと訪れていたのである。 

 「でも、どうするんですか、その妖怪。罠にかかってるんでしょ?」
 「退治するアルカ? それなら私にまかせるネ!」

 新八が言葉をつむぎ、それに便乗するように神楽が言う。
 そんな神楽は言い終わるや否や「捻りこむように、打つべし、打つべし、打つべしっ!!」と妖怪すら殺せそうな明日のためのジャブを繰り出している。
 さすが宇宙最強の夜兎族。そのジャブが既にギャラくティカマグナム張りの高威力なのである。

 「まぁ、相手の出方次第だ。おとなしく帰るならよし。そうでないなら……、っと着いたぞ」

 最後まで言う前に目的地に到着し、慧音はそこで言葉を切った。
 朝霧に浮かぶ、ぼんやりとした影。そこはかとなくその黒いシルエットは大木の枝にプランプランと何かがゆれていたりする。

 「……まさか、アレですか?」
 「……そう、だろうな」

 もう既にいやな予感しかしていない新八の冷静な言葉に、冷や汗流しながら慧音が力なく言葉を返す。
 近寄っていけば徐々に姿がハッキリと映り、罠にかかった妖怪が片足を紐に引っ掛けられて青い顔のままブランブランと揺れている。
 あぁ、確かタロットカードにこんな感じの絵があったよな? などと慧音先生は思っていたが、そんな彼女の現実逃避とは別にピクリともしない青い顔の妖怪。
 スカートがめくれて下着が見えているのはご愛嬌。でも事態はそんなことを気にするような場面でもなく、いやな沈黙が一同を包んでいる。

 「いやー、慧音先生。罠にかかってるのが妖怪で俺たちどうしたらいいかわかんなくて、どうしたらイイですかねぇ、アレは」

 農作業にいそしんでいた親父さんが慧音に語りかける。そちらに一瞬視界を移し、そしてまた逆さづり状態になってる妖怪に視線を向けて、小さくため息。


 ((((とりあえず下ろしてやれよ))))


 慧音とよろず屋メンツ全員が同じことを思ったことは言うまでも無い。






 ■東方よろず屋■
 ■第十五話「幸せの青い鳥とか言うけど割りと結構見ること多い」■






 妖怪の少女はひとまずよろず屋に運ばれ、時刻が昼になろうかという時間帯に彼女は目を覚ました。

 「ホンマにお世話になりました」
 「いや、さすがにあの状態で退治しようと思うほど非道じゃねぇぞ、俺は」

 深々と頭を下げる妖怪の少女に、銀時は後頭部をぽりぽりと掻きながら言葉をつむぐ。
 改めて少女を見ると、随分と青いという印象を深く受ける少女だった。
 長いロングの鮮やかな青い髪に、同色の鳥の翼と琥珀色の瞳。ところどころフリルで装飾された白のワイシャツに、黒のミニスカートといった外見は人間の14~16歳ぐらいの少女の姿。
 少女は「アオ」と名乗り、ああなった経緯をぽつぽつと語り始めたのである。




 何でも、彼女には姉がおり、名を「ソラ」というらしい。
 彼女にとっては自慢の姉ではあったが、同時にかなり厳しく放任主義。
 もともとは妖怪の山でひっそりと暮らしていたらしいのだが、姉の「幻想郷を見て歩き体感してきなさい!」という宣告にぽーんっと放り出されたのだという。
 結果、まともに妖怪の山から出たことの無かった彼女が食事なんかをまともに取れるはずも無く、空腹も一週間続けばまともな思考力が失われる。
 普通に考えれば人間なら死亡している断食期間であったが、そこは妖怪。だけど妖怪でもその空腹感には耐えられなかった。
 結果、人里のはずれにあった田畑の野菜や果物に目をつけ、なりふりかまわず盗もうとして罠にかかったのだという。
 非常に迷惑な話だが、彼女にとっては死活問題だったのである。その辺を歩いていた人間を標的にしなかっただけまだマシだったのだろう。
 まぁ、問題があったといえば。もともと体力の限界が近かった彼女が、極限の空腹状態から人がいなくなる夕方から早朝まで逆さづりにされて無事なはずも無く。




 「気がついたら、あんさん達に助けられとったっちゅうわけやな」

 うんうんと頷くアオ。ちなみに用意された茶菓子はすべからく彼女の胃袋に消えていった。
 その話を聞いて、慧音は思わず頭を抱えた。なんというかこの少女に致命的に危機感が欠けていたせいだろう。
 つい先ほどのことなのにもう過去のことにしているし、自分が死に掛けていたという自覚も無い。
 まぁ、救いといえば、どこと無く紅魔館の紅美鈴や、竜宮の使いの永江衣玖と同じ「人を襲わない妖怪」の独特な雰囲気を感じることだろう。少なくとも悪人ではない、と慧音は直感する。

 「そうか。それなら早々に自分の家に帰るといい。こんなことが度々おこっては里の人々も気が気でないし、君自身もこれ以上は生活できないだろう」
 「いやー、そうなんやけどなぁ」

 慧音の正論に、しかし、アオは気難しそうに、それでいて困ったように唸ってしまう。

 「ソラねぇちゃんには『500年は帰ってくるな』いわれとるし、このまま帰ったら間違いなくウチ妖怪の山の滝に重石付ノーロープバンジーさせられるの目に見えとるもんなぁ」
 「どんな姉だソレは!!」

 思わず慧音先生ツッコム。何にってその姉にあるまじき発言とか、妹に対する仕打ちとか色々。
 その慧音のツッコミに頷くよろず屋メンバー。ちなみにこの日、幽香と天子は先日の「幽々子カフェ襲来事件」にて筋肉痛でダウンしていたりするが、それはこの際おいておく。
 そんな一同の反応に、「あはは」とわりと能天気な笑顔を浮かべるアオ。

 「いや~、ウチは基本的に根っからの不幸体質やからなぁ。滝にダイブさせられるとか、スズメバチの大群に追い掛け回されるとか、弾幕勝負の巻き添え食らったりとか日常茶飯事なんよ」
 「オイィィィ!! にこやかに言うところじゃねぇよソレ!? 嫌だよそんな命の危機に脅かされた日常!!」

 えらくヘヴィな体験を日常茶飯事で済ますこの少女に、新八が思わずツッコミを入れる。
 その様を眺めていた慧音だったが、本当に先ほどからため息が止まらない。この妖怪、下手すると知らない間に死んでるんじゃないかと思うほどの不幸率である。

 このまま外に放すか? いや、多分それだとしばらくしたら餓死死体が見つかりそうなんで却下。
 妖怪の山に送り返すか? いや、それはそれで彼女が滝の下で藻屑になってそうだ。
 じゃあ、一体どうすれば……?

 「銀さん、家で居候させましょう。この子、一人にするとマジで死にそうなんですけど?」

 どうやら慧音と同じ結論に至ったらしい新八が、銀時に言葉を投げかける。
 しかし、銀時はというと別段興味なさそうに頬杖をついてため息をつくのだった。

 「ばーか、新八。ウチにそんな余裕あるわけねぇだろーが。寝言は寝てから言いなさい、新八君」
 「そうあるね新八。人間善意だけじゃ生きてはいけないアルヨ。善意でお腹は膨れないアル。所詮世の中お金ヨ新八。
 「酷い!! そして黒いよアンタ等!!」

 そしていつものやり取りなよろず屋メンバー。その様子を、ぽかんとした様子で眺めているアオに、慧音がぽんと肩をたたく。

 「私も新八君の意見に同意するよ。今更この家に妖怪が増えたって変わらないだろ」

 慧音の言うことももっともである。何しろこのよろず屋、今日は筋肉痛でダウンしているが、最強クラスの妖怪が割りと毎日入り浸っているのである。
 里の人たちも半黙認状態だし、今更ここに妖怪が一匹増えたところで何も言うまい。もとい、誰も文句がいえない。という事実はこの際バットでホームランしておき。

 「アオ、君はどうだ?」
 「へ? いや、そらありがたいんやけど……ホンマにええの?」
 「いいわけねーだろーが!! ウチの財政状況考えろ慧音先生よぉ!!」

 いつの間にやら取っ組み合いのけんかになっている三人のほうから、銀時が二人にボこられながら大声で抗議する。
 そんな彼の様子に、慧音は「仕方がない」と小さく呟き。

 「月に大根、にんじん、キャベツにほうれん草を提供しよう」
 『OK、俺(私)達は諍いを捨てて協定の輪をとりましょう』

 ピタッとあっさりと喧嘩を止めて慧音の案を承諾する銀時と神楽。

 「アンタ等……」

 そして頭痛そうにその光景を眺めて頭抑えている苦労人、志村新八。
 なぜか、アオは彼と仲良くなれそうな気がした。主に不幸体質つながりで。

 「じゃあ、お前は新人だから私の舎弟ネ。酢昆布買ってきな!」
 『うぉぉぉぉい!! 第一声がそれか!!?』

 大胆不遜とはこのことを言うのか。ソファーにふんぞり返った神楽は、見下した目でアオを睨みつけ、新八と慧音が同時に突っ込む。
 その神楽の態度と言葉が、アオにとっては凄く不快だった。
 仮にも、アオは温和なほうだが妖怪である。そんな彼女が、たかが人間にそんな風に見下されて黙っていられるはずがない。
 妖怪であるがゆえに、神楽のその態度がとにかく、不快でたまらなかった。

 「ふざけるんやないで小娘!! ウチは腐っても妖怪や!! アンタなんかの舎弟になった覚えは―――」

 ズドンっ!!!!!

 かっこよく啖呵を切ろうとしたアオの言葉は、そんな大轟音に遮られることとなった。
 神楽の放った拳がアオの顔面スレスレを通過し、空気の焼けるきな臭い匂いが鼻につく。神楽の拳はその勢いのままに壁に突き刺さり、巨大な穴を空けさせた。
 ピタリと、口も動きも止まる。ついでに身動き一つとれずにただ呆然と神楽の視線を真正面から受け止める。

 「なんか言ったアルカ?」
 「イエ、ナンデモアリマヘン」

 眼つけられながら神楽に言われ、アオは情けなくもカクンカクンと首を機械のように振るしか出来なかった。
 残念ながら不幸体質Aランク突破してEXランク。目の前に対峙する少女は宇宙最強と名高い夜兎族。
 その気(夜兎の血全開)になればレミリアとだって接近戦で張り合えるようなモンスターなのである。
 そんな彼女に、強さで言えばルーミアやミスティアレベルの彼女には到底太刀打ちできるはずも無く、あえなく彼女は神楽の舎弟という形でよろず屋に居候する羽目になったのである。












 端的に言えば、アオの働きぶりは目に見張るものがあった。
 部屋の掃除、食事の用意、買い物や花の手入れetcetc
 なんだか半泣きで作業に没頭するさまはかなり哀愁を誘うが、その辺に目を瞑れば実に優秀である。
 しばらくは自分で提案したコトながら「早まったか?」などと思っていた慧音だったが、徐々に銀時たちと受け入れられ始めている彼女を見て、これなら大丈夫かと安心する。
 今では銀時や新八、神楽にも笑顔を見せている。なら、多分大丈夫だろうとは思うのだが、イマイチ釈然としない。
 ま、大丈夫だとは思うので、その日は一旦帰ってまた明日訪れることにしたのだ。






 そして、翌日。彼女と彼はそこにいた。
 途中でふらっといなくなった銀時とアオを探す羽目になった一同だったが、空から探していた慧音はすぐに見つけた。
 よろず屋の屋根の上。そこにごろんと横になった銀時と、横になりながら空を見上げているアオの姿。
 まったく、とため息をつきながら、慧音は屋根に降り立った。

 「何やってるんだ、お前達は」
 「いーだろ、慧音先生。こーやって昼寝するっていうのも乙なもんだぜ?」
 「そーそー。気持ちえぇよ? 青い空が綺麗で、手を伸ばせば掴めそうや」

 あきれたような慧音の言葉にも、銀時はいつものようにやる気無く答え、アオはケタケタと笑いながら手を伸ばす。
 憧れに手を伸ばすかのように。恋焦がれる場所に届くように、あらん限り力いっぱい手を伸ばして、そして諦めた腕が力なく横になる。

 「ウチな、空、飛べへんのよ」

 ポツリと、小さく言葉をつむぐ。春の陽気が心地イイ。麗らかな日差しが全身を清めるように降り注ぐ中、アオは相変わらず晴れ渡った青空を見上げていた。
 彼女の不幸な体質は生まれつきだった。生まれつき翼は不自由で満足に飛行も出来ず、幸せを運ぶはずの青い鳥の妖怪であるはずなのに、彼女は青い空に恋焦がれた。
 姉に何度も訓練してもらった。厳しくもあったが、それ以上に空が飛べるならと苦にはしなかった。
 それでも、彼女の願いはかなえられなかった。
 必然的に、彼女のツバサは飛ぶためのものではなく、ただの装飾品に成り下がった。
 それが、彼女には何よりも辛かった。

 「鳥の妖怪なのに、ウチは空を飛べへん。もっとも空に近いはずやのに、ウチは生まれてからあの青い空はずっと遠い場所やったんや。
 あの青い空を自由に飛べたら、それはなんて―――」

 あぁ、そうだ。あの青い空を、自分の翼で自由に飛びまわれたら。それはなんて、気持ちいいことだろうか。
 どこまでも飛んで行きたい。どこまでも吸い込まれそうなあの青い世界を泳げたのなら、どれだけ気持ちがいいだろう?
 想像することしか出来ない。それでも、彼女はその妖怪なら半ば「あたりまえ」に近い飛翔という事実に、ただ憧れた。

 その憧れこそが、慧音が感じた違和感の正体だった。
 おかしいと思ったのだ。彼女は青い鳥の妖怪で、立派で美しい青い翼がある。
 なのに、彼女は昨日も今日も、その翼をまったくといっていいほど動かさなかった。
 彼女の翼は、動かさなかったのではない。【動かせなかった】のだ。
 本来なら空に近いはずの妖怪なのに、彼女は最も空から遠い生き物になってしまった。
 それはなんて―――つらいことだろうか。

 「―――だったら」

 唐突に、銀時は言葉をつむぐ。
 自然と彼に視線が集まるが、銀時は気にした風も無く言葉を続ける。

 「俺たちが手伝ってやるさ。何度でも、俺たちでよければな。諦めなきゃ、いつか報われるもんだろ? なら続けりゃいい。挫けたっていい。弱音をはいたってかまわねぇ。
 確かに、難しいことなのかもしれねぇ。俺は翼なんて持ってねぇし、オメェの気持ちも理解してやれねぇ。だからこそ頼れよ。そんときゃ、手伝ってやらんことも無いさ」
 「僕だって手伝いますよ」
 「私だって手伝うネ」

 ひょこっと、銀時の言葉に続けて飛び出る言葉。
 気がつけば、はしごが掛けてあったほうから新八と神楽が屋根の上に上がってくるところだった。

 「おいおい、いつから話きいてやがったんだ。つーか、下の受付はどうすんだコノヤロー。客着たらどうすんだ」
 「大丈夫ですよ。幽香さんがいますから」
 「いや、それはかえって大丈夫じゃない気がするんだが……」

 新八のさらっとした返答に、慧音が思わずツッコミを入れる。
 やっぱり新八もいい具合に毒されているらしい。アレが視界に入ったら大抵の里の人間はまず逃げるぞ。
 そんな慧音の心配を気付いているのかいないのか、新八も神楽もごろんと横になった。
 新八に「さ、慧音さんも」と促され、最初は嫌がっていたのだが、やがてしぶしぶと横になる。
 五人そろって屋根の上で寝転がる。ある意味では、滑稽な光景なのかもしれない。

 「頼りないかもしれないですけど、遠慮なくいってください」
 「まったくアル。舎弟は舎弟らしく、遠慮なく私に相談するといいアル」
 「私も、……そうだな。少しぐらいなら力になるさ」

 新八が、神楽が、そして慧音が、アオに言葉を投げかける。
 こんなにも、空は青く澄み渡っている。飛べない自分を馬鹿にするわけでもなく、彼らは手助けをしてくれるという。
 それが、こんなにも、満たされてしまいそうなほど嬉しかった。
 どうしてかはわからない。目から零れ落ちそうな熱い何かを拭うように、アオは腕でごしごしと擦る。

 腕をどければ、また青い空が視界に映る。
 その姿がとっても綺麗で、見惚れてしまう美しさ。その世界にいつか、私は飛びたてるのだろうか?

 「ありがとう」

 満面の笑みで、アオは礼を言った。
 その言葉に、苦笑が重なって、アオはおかしくなってケラケラと笑った。


 それが、よろず屋に幸せを運ぶ青い鳥が住み着くようになった日の出来事だった。








 ■あとがき■
 こんばんは、白々燈です。今回は試験的な話でしたがいかがだったでしょうか?
 人間のオリキャラは店長がいたので、今回は妖怪のオリキャラを作ってみようという話でした。元は童話の幸せを運ぶ青い鳥をイメージしました。
 一応、これ以上明確なオリキャラは登場しない予定です。オリキャラ嫌いな人本当にごめんなさい。

 実はこのオリキャラのアオ。まだ能力が決まっていません。
 一応、自分は「身近な幸せに気付かせる程度の能力」とか考えてますが、それじゃてゐとかぶるんですよね。
 なにか案があったら感想のついでに書いてくださいw

 あと今回短いうえに時間が無くて見直ししてないので誤字多いかも…。あと展開も急だったかもしれない。色々スミマセン。

 それでは、今回はこの辺で。



[3137] 東方よろず屋 第十六話「死神でもサボりたいときにはサボるものなのです」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/07/23 22:54
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。
  今回オリキャラに準ずるキャラクターが登場するのでお気をつけください。










 青い鳥の妖怪、アオがよろず屋に滞在し始めて一週間の月日が流れようとしていた。
 妖怪という立場ながら、彼女は里の人間達にもそれなりに評判はいいほうだった。
 基本的に明るく、話しかければ気さくに言葉を返してくれる。
 子供達が無茶をしようとすればそれを嗜め、なおかつ面倒見のいい性格が功をそうして子供達にはなつかれる。
 困ったことがあれば相談に乗り、なおかつ親身になって共に悩み、考えてくれる。
 オマケに、彼女はどちらかといえば肉食というより草食な方で、なおかつ小食だということも一員としては大きかっただろう。
 そんなおおよそ妖怪らしくないところばかりが目立つこの少女のことは、基本的にそれほど大きくない人里の中ではあっという間に噂として広まっていく。
 その辺、妖怪としてどうよ? などと思う事実だが、当の本人はまったく気にしていないのでそれでいいのだろう。

 「あら、アオちゃん、新八君。今日も買出しかい?」
 「あ、こんにちわ。そうなんですよ」
 「こんちゃ~。今日は珍しく鍋にするらしいんよ、銀さん」

 そんなわけで、里中で話しかけられることも多くなり、それに答えるバリエーションもこつこつと増えていく。
 街道であった顔見知りのおばちゃんと二、三程会話したあと、軽く会釈をして目的の場所にまで歩みを再開した。
 鼻歌交じりにスキップでもしそうな勢いのアオを視界に納め、新八は思わず苦笑していた。

 彼女はなんにでも興味を持つ。悪く言えば世間知らず、というところだ。
 そんなわけか、彼女は妖怪でありながら「人を襲って食う」という概念に乏しいし、その言動や行動は本当に純真だ。
 何より、彼女は誰にでも優しいのだ。口ではなんだかんだということも多いが、結局頼みごとを断りきれないお人よしな一面を持っていた。
 ぶっちゃけた話、新八はそんな彼女の存在が純粋に嬉しかった。むしろ感動したといってもいい。
 その辺、新八の取り巻く環境に、彼女のように純粋に優しい性格をした人物がいないことが最大の原因だったりするのだが……、まぁその辺りは察して欲しい。

 「アオちゃん。今のうちに食べられないもの言っておいて」
 「ん~、ほな鳥肉は遠慮できる?」

 流暢とはいえない、どこと無く似非くさい関西弁でつむがれた言葉に、新八は苦笑する。
 実を言うと、その鶏肉というものはこれからの買い物リストにばっちりと入っていた。
 彼女には悪いが、こればっかりはどうしようもない事実なのである。牛よりも豚よりも兎よりも安い鶏肉はなんとしても入手しなければならない。

 「うーん、別に食べなくてもいいけど、鶏肉は今夜のメインになる予定なんだ。どの道買うことになっちゃうけど……鶏肉食べられないの?」
 「いや、食べれる食べられないの問題やのぅてやなぁ」

 新八の言葉に気まずげに視線を逸らし、少し遠い目をするアオは、憂鬱を吐き出すように小さくため息をついて、そして一言。





 「さすがに、【共食い】はちょっと……」
 「すんませんでしたっ!!」





 ものすごく切実な言葉に、新八はたまらず土下座して謝ることとなった。
 ちなみに、この瞬間に鶏肉から豚肉に食材変更になったことは言うまでも無い。






 


 ■東方よろず屋■
 ■第十六話「死神でもサボりたいときにはサボるものなのです」■







 「んで、なんでオメェさんがうちに居るんだよ。仕事はどーした、仕事は」
 「アンタにそれは言われたくなかったけどねぇ」

 新八とアオが買い物に出かけていたその頃、よろず屋には意外な人物が我が物顔で居座っていた。
 三途の河の水先案内人、小野塚小町。死神に分類される彼女は、これまたケラケラと笑いながら銀時に言葉を返している。
 彼女を知るものならば、誰もがその事実に行き着くだろう。
 まぁ、平たく言えば、休憩の名を借りたサボリである。

 「どーせサボりネ。閻魔の奴にチクってもいいアルか?」
 「チクってイイに決まってるじゃん」
 「仕事しないから幽霊が増えていくものね」
 「いつものことみたいだけど」

 神楽の言葉に反応して、サニー、ルナ、スターのトリオが順に言葉をつむいで小町を囃し立てる。
 そして仲良く意気投合し、「いぇーい」と手を打ち合わせる四人。戦闘の上下の差が極端に激しい四人であったが、実に仲がいい。
 そんな四人とは対照的に―――

 「……」
 「お、そういやぁアンタもここで働いてるんだっけね」

 にやりと笑い、先ほどの軽快な笑みとは違う顔を天子に向ける小町。そんな彼女を、天子は心底不機嫌そうに眉を寄せ、小町を睨みつけていた。
 ナニを隠そう。この二人、実に仲が悪い。天人の最大の天敵は死神である。それは、天人を唯一殺しうるのが寿命を刈り取る死神だからである。
 彼女のように、人間から天人になった存在でも寿命というものがなくなるわけではない。
 寿命を迎えるたびに訪れる死神を撃退し、そうやって生きながらえるのである。事実、かく言う天子も何度か寿命を向かえ、死神を返り討ちにしている。
 そんなわけで、彼女等は仲が悪い。それは端的に言えば個人、というよりは職業柄という奴に近いものだ。

 不機嫌そうな天子の手には、お茶の乗ったお盆。ナニが悲しくてこいつのお茶なんて用意しなければいけないのかと思っているのだろう。
 事実、彼女にしてみたらあの胡散臭いスキマのほうがよっぽど好感が持てる。
 ある意味、【紫>小町】な彼女の思考は、この幻想郷では非常に珍しいともいえる。
 何しろ、小町は気さくで話し好きであるという一面を持っており、人当たりもいい姉御肌なため、彼女を嫌うものはそう多くは無いだろう。

 「はい、粗茶ですが」
 「って、ごっさり指入ってるし!!」

 そんなわけで先制攻撃は天子からだった。湯飲みの中に入ったお茶にどっぷり親指をつけたままソファーに座っている小町の前に出した。
 熱さで親指がひりひりとするが、そんなこと知ったことかと更に奥にまで指をズプズプと沈めてやる。ざまぁみろだ。
 気分が幾分かすっきりしたことでお茶に浸かっていた指を引き抜くと、無言ですたすたと奥の部屋に引っ込んでいってしまう。

 「さすが不良天人。露骨に地味な嫌がらせだよ」
 「相変わらず仲が悪いわねぇ」

 冷や汗流しながら言葉にする小町に、幽香はあきれたように言葉をつむぐ。
 というか、そもそも仕事をほっぽり出している時点で、褒められた奴じゃないことは明白なんであきれられるのは無理も無いかもしれないことだが。
 ここのよろず屋のトップと同じで。

 「まぁ、職業柄って奴かね。まぁ、嫌いなのは事実だけど」
 「あなたがそんなに嫌うって言うのも珍しい気はするけど」

 そうして、幽香はそれっきり会話をすることを放棄し、いつものようによろず屋の窓際に咲かせた花に水をやる。
 さすがは協調性ゼロの超ドSな花の妖怪。自分が興味なくなったらそれまでなのである。
 まぁ、その辺りの性格は理解しているので、今更そのことを深く問い詰める人間も居なかったが。
 ……いや、半分ぐらい人じゃないけど。

 「ただいま、銀さん」
 「ただいま~。ありゃ? 小町さんやんか」

 ようやく買い物から帰ってきたらしい使いっパシリ二名がタイミングよく帰宅する。
 そこで小町の姿を認めて、アオが少し驚いたように彼女に視線を向けたのだ。

 「お、アンタかい。最近はこっちに来ないから、随分久しぶりだねぇ」
 「あはは、その節はどうも」

 アオのことを知っていたのか、小町は砕けた様子で彼女に話しかけ、アオもなれた様子で言葉を返していた。
 話から察するに、二人とも知り合いらしい。人懐っこい笑みを浮かべながら、アオはぱたぱたと小町に歩み寄って談笑を始め、その様子を銀時が怪訝な様子で眺めている。

 「おいおい、なんですか御宅等。何、知り合い?」
 「そうだねぇ。昔はしょっちゅう私の仕事場に来てたからねぇ」

 しみじみといった具合に小町は言うが、あいにくとその言葉の意味を理解したらしい幻想郷の住人である幽香と妖精三人は、ある種哀れみの視線をアオに向けていたりする。
 小町は三途の河の水先案内人。要するに三途の河を渡る船の船頭である。つまり、彼女の仕事場ってぇもんは要するに三途の河に他ならないわけで。

 「いやぁ、昔はしょっちゅう死に掛けよったからなぁ。その時の縁やな」
 「そういう縁なの!? 何、その物騒で寒気のする縁!!?」

 わりと笑顔でのたまう彼女に、新八が思わず声を上げてアオにツッコミなどを一つ。
 つまり、アオと小町の縁というのはそういった類のものなのである。今まで彼女が三途の川に訪れた回数は両手の指を使っても足りないだろう。
 それだけ、彼女は小町と出会っていたりする。実にいやな出逢い方だが。

 「大丈夫やて。最近は体が頑丈になったおかげか、彼岸に魂だけで行くことものうなったし。さすがに隕石が頭上に落ちてきたときは死ぬかと思うたけど」
 「何が大丈夫なの!? 今の発言に大丈夫だった部分一箇所もねぇんですけどぉぉぉぉ!!?」

 にへらっと笑いながら、何てことも無いような発言をするアオだったが、新八のツッコミはそんなこと知ったことじゃないといわんばかりに唸りを上げた。
 まぁ要するに、それだけ肉体的な不幸に見舞われ続けているという事実の裏返しなのだが、この分だとこの青い鳥の妖怪はその事実に気付くまい。

 「そういえば、三途の河に足を滑らせて落ちたこともあったっけねぇ」
 「……ねぇ、さすがにそれは洒落になってないんじゃなくて?」

 いや懐かしい。なんて表情でしみじみと語る小町をよそに、あの幽香が冷や汗流しながらポツリと一言。
 実際、三途の河に落ちればただじゃ済まない。三途の河はなぜか体が浮かび上がらず、死神以外の舟では河の中に沈んでしまう。
 そんな河の中に沈んでしまったらどうなるのか? そのまま魂が消滅するのか、それとも地獄に落ちるのか。真実は閻魔と死神が知るのみである。
 ちなみに、彼女はあろうことか自力で這い出して生還した。完全に体が沈みきる前に手が川岸を掴んでいたことでかろうじて生還したという程度のものだが。
 運がよかったのか、それともやっぱり運が無いのか。絶妙に判断が分かれるところである。

 「おーいパシリー。早く例のブツよこすネ」
 「あ、はいはい只今~」

 買い物袋から酢昆布を取り出し、ぱたぱたと慌しく神楽のほうに歩みを進めるアオ。もはや完璧に神楽の舎弟である。
 妖怪のプライド? ナニソレおいしいの? そんなもの犬に食わせてしまえ。そして畜生に食わせて投げ捨ててしまえ。むしろ私に食わせてくださいお願いします。
 まぁ、相手が悪いという話も無いではないが、それはこの際ゴルフのクラブアイアンで視界の果てまですっ飛ばしておき。

 「まぁ、ここならそうそう四季様に見つからないだろうしねぇ。ゆっくりするさね」
 「やっぱサボリじゃねーか。働けよ。まじめに働けよオメェ。人生なめんじゃねぇぞ?」
 「オメェが言うな!! 万年よろず屋という名のプータローに落ち着いてるくせに!!」

 だらけた様子でソファーに背を預ける小町にむかって銀時があきれたように言葉を投げかけ、新八がみんなの気持ちを代弁するような言葉をつむぐ。
 と、そこに突然窓から現れる見慣れぬ誰か。小町に見つからぬように、静かに侵入した彼女は、死神の視界に映らないように背後に回る。
 いきなり入ってきて何事かと思ったが、幽香から件の人物の詳細を耳打ちされて押し黙る銀時。

 「……ほう、何故このような場所にいるかと思えば、やっぱりサボリですか小町」
 「まぁ、そういうことにな……はっ!!?」

 突然振って湧いた聞きなれた声に、油断していた小町はその声の主に気がついて顔を青ざめさせた。
 ギギギと、まるで壊れた人形のように首をきしませながらゆっくりと後ろに振り返る。

 そこにはほら、なんということでしょう(某リフォーム番組風)。にこやかに「死なす微笑み」を浮かべた閻魔様がそこにいらっしゃるではありませんか。

 冷や汗がとめどなく流れ出る。自分よりも頭二個分ほど低い少女の登場に、あのマイペースな小町が明らかに恐れおののいている。
 なんとも奇妙な光景かもしれないが、こと幻想郷においてはそう珍しいことでもないのかもしれない。

 「えっと……、四季様?」
 「なんでしょうか、小町?」

 あくまでにこやかに、しかし額には青筋浮かべながら厳格な言葉で相手を圧殺する閻魔様。
 四季映姫・ヤマザナドゥは、明らかに憤怒を笑みの中に押し隠したまま、自分の部下である小町を睨みつけている。
 だがしかし知っているだろうか? 笑みとは動物が威嚇したときの表情によく似る、攻撃的な表情であるということを。
 この閻魔様の笑みは間違いなくこの類である。
 一体何故? という思いがついて出る。いくらなんでもばれるのが早すぎやしないか!?
 そう思いながら視線を泳がせていると、ふと、ふすまの隙間から顔を覗かせたあのいけ好かない天人と目が合って―――

 「……フッ」

 侮蔑の目線をこめられて鼻先で笑われた。
 それで確信する。間違いなく下手人はあの天人なのだということを。
 文句の一つでも言ってやろうと席を立った瞬間、小町の頭部を鋭い痛みと衝撃が襲う。「きゃん!?」なんてわりとかわいらしい悲鳴を上げて、地面に突っ伏す小町。

 「聞いているのですか小町!! 今日という今日は我慢がなりません!! そこに正座しなさい!! ついでにそこの天然パーマーも!!」
 「うえぇぇぇえ!?」
 「何で俺も!?」
 「いいから座りなさい!! 正座っ!!」

 あらゆるブーイングを断殺し、仕事をサボることにかけては常習犯な二人を強制的に座らせる。
 外見は神楽以上に背の低い映姫だが、そこは閻魔という役職柄か、威厳はたっぷり。カリスマ溢れた眼光で二人を睨みつけていたりする。
 彼女の部下である小町はしぶしぶながら座り、銀時も銀時で、あいてが地獄の裁判官だとさすがにメタな事をするつもりは無いのか、おとなしく座った。

 「すんません。トイレ行きたいんで、ちょっと席はずしていいですかね?」

 前言撤回。この男、既に逃げる気満々であった。
 この言葉、言うまでも無く嘘の上に逃げる算段まで組み立てている銀時。まるで親の説教から逃げる子供の言い分である。
 だがしかし。

 「嘘でしょう!! いっそ垂れ流しなさい!!」

 相手が悪い。映姫様ステキに過激発言をなされたが、そのことに気付いてないらしい。
 よっぽど今回のことは腹に据えかねたらしく、「次に何か言えば弾幕で埋め尽くすぞコラ!!」と目が語っていた。
 残念ながら、彼女に嘘は通じない。だって閻魔様だし。



 「いいですか!! 大体あなたたちはですね―――」



 話は本気で長くなりそうだった。






























 時刻は既に真夜中に指しかかろうとしていた。
 ようやく説教が終わり、映姫はなかば魂の抜けかかった小町を襟首掴んで引きずるように玄関に向かった。

 「まったく、私の部下が迷惑をかけました」
 「いえ、気にしないでください。銀さんにもいい薬になったことでしょうし」

 映姫が謝罪し、新八は恐縮のあまりにそんな言葉を返していた。
 何しろ、相手は外見こそ小さな少女だがホンマもんの【閻魔】様なのである。恐縮するのも無理らしからぬことだった。
 ちなみに、彼女は説教しながら鍋もいただいた。銀時たちも説教聴きながら鍋をいただいていた。
 実に変な集団に映ったことだろう。傍目からみれば。
 ちらりと、銀時が座っていた場所に視線を向ける新八。そこにはいい具合に魂が抜けかかって昇天しかけている銀時の姿があったが、まぁ多分大丈夫だろうと自己完結。
 幽香と天子、サニー、ルナ、スターは既に帰り、神楽とアオは二人で同じ布団で眠りについていた。
 なんだかんだで仲のいい主人(神楽)と舎弟(アオ)の姿を思い出し、なんとなしに苦笑してしまう。

 「彼女達にも挨拶をしておけばよかったのでしょうが、眠っているのを起こすのも忍びないですしね。まったく、説教が長くなるのは私の悪い癖です」
 「いいんじゃないですか? そのほうが閻魔らしくて」
 「閻魔だからといって説教が長ければいいというものでもないのですが……」

 互いに気苦労の多い身だからか、なんとなくお互いに苦笑して、小さな会話に花が咲く。
 その内容がお互いの苦労話というのも、なんだか情けない話ではあるが。
 まぁそれもいいかと、この二人は思っていた。
 まるで友人のような会話に、お互いに違和感を覚えないでもないが、たまにはこういうのもいいだろう。

 「なんにしても、そちらも大変でしょう。あのメンバーといるのは」
 「まぁ、確かに大変ですけど、好きで一緒にいるわけですから。映姫ちゃんはどうなんですか?」
 「奇遇ですね。私もです」

 最後に「仕事をサボりがちなのが困りますが」といって、映姫は苦笑する。
 なんだかんだ言って、映姫は小町のことを信用していた。仕事はサボりがちではあるが、いざ送るとなれば彼女はしっかりと仕事をこなす。
 その点だけは、映姫は小町をしっかりと評価していたし、彼女ほど死した者の幽霊達を楽しませながら三途の川を渡る死神もいないだろう。
 まぁ、もうちょっとマジメに仕事をして欲しいとは思いはするが、こればかりは本人がやる気を出さなければ徒労にしかならない。

 「それでは、私はそろそろ失礼しましょう。おやすみなさい、新八君」
 「えぇ、おやすみなさい、映姫ちゃん。夜道には気をつけてくださいね」

 人間に夜道を心配されるという事実に、思わず変な顔をしてしまいそうになる。
 イヤだって、閻魔に夜道の心配をする奴がいるとは思わなかったので、その発言がこの上なく不意打ち気味であったのだ。
 まぁ、これは新八ゆえのお人好しという一面から出た言葉ではあったが。
 一旦冷静を取り戻し、まぁいいかと静かに思う。これはこれで、彼の美点であるのだし。好意は素直に受け取るべきだろう。

 「わかりました。それでは」

 納得のいかないものはあったが、映姫はこれ以上長居するわけにも行かずによろず屋を後にした。
 たまった仕事をどうしようかと思わず頭を抱えそうになったが、小町の頭を軽くこついて帰路に着く。



 これが、よろず屋メンバーが幻想郷の閻魔に久しぶりに再会した日の出来事である。






 ■あとがき■
 みなさん、遅くなりました。今回は閻魔と死神の両名に登場していただきました。
 いかがだったでしょうか? 最近忙しくてなかなか執筆が出来ません。あるゲームにはまってしまったのも一因ではありますが。

 最近、悠久の車輪というアーケードカードゲームにはまってます。最近になって友人と一緒によく行きます。誰かやってる人いるのだろうか?
 猫レンダーと呼ばれるデッキを主に使ってます。とりあえずは召喚獣出すためにシナリオモードを地道に進めてますが。
 名前はPNと同じ白々燈でやってます。

 ではでは、最近暑いですが皆さん日射病や夏ばて、熱中症などに気をつけてくださいね。
 今回はこの辺で、失礼いたします。

 色々修正しました。ご報告くださった方々、本当にありがとうございます。



[3137] 東方よろず屋 第十七話「氷の妖精と大妖精と破壊の権化」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/07/23 22:57

 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。
  今回オリキャラに準ずるキャラクターが登場するのでお気をつけください。
  あと今回ちょっとネタがバッチイかも知れないのでお気をつけください。










 空は今日も快晴である。これほどまでに快晴な日に、いささか珍しいものを感じながら彼と彼女は道を歩いている。
 よろず屋を束ねると見せかけて、実は一番役に立っていなかったりする坂田銀時と。
 最近よろず屋に住み着いた、優しいけれども不幸の塊の青い鳥の妖怪、アオ。

 「あ~、駄目。銀さん二日酔いが酷いの。やっぱ、アオアオだけで行ってくんない?」
 「そらあかんでぇ、銀さん。ウチも銀さん休ませたいんは山々なんやけど、これも仕事やからなぁ」

 顔を真っ青にし、今にも嘔吐物をぶちまけそうなほど顔色の悪い銀時の言葉に、アオは少々申し訳なさそうに言う。
 今、二人は仕事のために紅魔館近くの湖に向かう途中で、依頼内容は忘れてきた釣り道具を取りにいって欲しいというものだった。
 それぐらい自分で行けよ。などと思った銀時だったが、こちらの世界は妖怪が居る分、安全が保障されているというわけでもなく、銀時が思う以上に危険なことでもある。
 ただ内容自体は簡単ではあったので、二日酔いの銀時と、その付き添いとしてアオがこの仕事を分担することになったのだ。
 ちなみに、他のメンバーは別の依頼を受けてそちらのほうで忙しいのである。

 「銀さんはもー少しお酒の量を考えんとあかんで? そんなやから二日酔いで次の日キツクなるんやんか」
 「なーにーもーきーこーえーねー。そしてやかましいっつーの。思春期の子供持ったお母さんですかコノヤロー」

 銀時を思っての忠告であったのだが、銀時は耳を貸さず、そんな彼を視界に納めてアオは小さくため息をつく。早くも苦労人という役職が板についてきたようだ。
 そんなやり取りをしている間に件の場所に到着したらしい。目の前にはそれなりの大きさになる湖が広がっており、その向こうには紅魔館が見える。
 ようやく到着した。そうアオが思った瞬間、銀時が急に駆け出した。
 なんだかんだでやる気があったらしい。そのことにちょっと安堵し、銀時のことを少し見直そうと思った瞬間。

 「おぼろろろろろろろろろろろ~~~~~~~~~」

 湖で盛大に嘔吐する銀時に、思わずずっこけるアオであった。



 


 ■東方よろず屋■
 ■第十七話「氷の妖精と大妖精と破壊の権化」■







 「ろろろろろろろ~~~~~~~~~」
 「銀ちゃーん」
 「ろろろろろろろろろろろろろろ~~~~~~~~」
 「銀ちゃ~ん」
 「ろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ~~~~~~~~~」
 「銀ちゃんってば~~~~。ていうか長すぎやろ。そろそろ血反吐でてまうで?」

 湖に色々口からぶちまけてる銀時を後ろから呆れたように見つめながら、アオは彼に語りかける。
 この湖に二人がついてからはや30分。アオは依頼をこなそうと辺りを探し回っていたものの、肝心の銀時は最初の場所からまったく動かずにナニを吐き出していた。
 断続的にこの調子である。というかそろそろ本気で胃液どころか水分が足りなくて干からびそうだ。
 そうなる前に是非とも病院にいってほしい。無いけど。

 「ばかやろうアオアオ。銀さんはなぁ、吐けば吐くたびにパワーアップしていくんだよ? 倍の倍更に倍って寸法よ。ほら、アレだ。
 ジャングルの王者ターちゃんで主人公がパワーアップするあのパワーアップ方法と似たようなもんぼろろろろろろろろろろろろろ~~~~~~」
 「ごめん。とりあえずどこから突っ込んだらええのかわからへんけど……アンタ、それマジで言うとるん?」

 銀時の弁明じみた言葉にも、今度ばかりはアオの視線も冷たい。絶対零度もかくやといわんばかりに冷徹な視線が、未だに嘔吐する銀時を見下ろしている。
 こんな一場面を見ると、彼女も根っこのほうはちゃんと妖怪してるんだと思わせるような視線だったりするが、場合が場合なだけに実にしまらねぇのである。

 「銀さ~ん!! アオちゃ~ん!!」
 「銀ちゃ~ん!! パシリー!!」
 「あ、新八君に神楽ちゃん」

 背後のほうから声が聞こえ、そちらのほうにアオが振り向けば新八と定春に乗った神楽がこちらに向かっているところだった。
 そこで、はて? と、アオは銀時の嘔吐音をBGMに首をかしげた。
 彼らは幽香と天子、そしてあの妖精三人組と一緒に別の依頼についていたはずなのである。どうしてこんなところにいるのだろうという思考に行き着いたところで、アオ前に二人と一匹が到着した。

 「どうしたん? あっちの依頼は?」
 「あぁ、あっちはある程度めどが立って幽香さん達だけで何とかなりそうだったから。ちょっと心配になってこっちにきたんだけど……」
 「こっち来て正解だったみたいアルな」

 そして新たに向けられる二対の冷ややかな眼光。それは寸分違わず、未だに湖で遠慮なくブツを吐き出しているよろず屋の主に向けられているわけで。
 この場に幽香がいたら、間違いなく銀時をそのブツが浮かんだ湖に蹴落としていたことだろう。何しろ生粋のいじめっ子。つまりドS(サド)だし。

 「ねぇねぇ新八、パシリ。今すぐに銀ちゃんそこの湖に蹴落としてもいいアルか?」
 「いや駄目だろ。銀さん悲惨なことになるから。色々」

 ここにも地味に毒を吐くサド属性少女が眼鏡にツッコミをいれられていたりするが、それはさておき。

 「はぁ~、しゃあないなぁ。あとはウチがやっとくから、新八君たちは銀さんを……って、殺気!!?」

 言いかけた言葉を遮り、アオはそれを敏感に感じ取って体を動かしていた。
 二人を突き飛ばし、自身も転がるようにその場から離れる。瞬間、コンマ数秒の刹那の間をおいて、巨大な氷の弾丸が三人がいた場所を貫いていた。

 アオは姉から厳しい特訓やら苛めやら暇つぶしやらを散々受け、更には持ち前の不幸体質もあって何度も生死の境をさまよった経験がある。
 そういったせいか、彼女は意外と自身に対する悪意やら敵意にはひどく敏感だった。今回はその恩恵といえよう。

 では、彼女、ひいては彼らに敵意を向けたのは誰なのか?
 弾丸が飛来してきた方角に、つまりは上空に視線を向ける。その場所には―――



 「アタイの縄張りで、随分好き勝手してくれるじゃない」



 怒りという感情を秘め、新八たちを見下ろす青の衣装に身を包んだ氷の妖精の姿がそこにあった。
 肌がぴりぴりとする。アオ自身が持つ敵意に反応する自身の体は、的確に目の前の妖精がこちらに敵意を向けていることがよくわかった。
 一体なん―――

 「ろろろろろろろろろ~~~~~~~」
 『ごめんなさい』

 でかは、考えるまでも無く、間違いなく銀時の『アレ』である。そんなわけで、常識人二人はすぐさま頭を下げた。
 イヤだって、誰だって人の生活圏にあんなことされれば激怒すること間違いないのである。
 というか銀時。そろそろマジで体中の水分が湖の中に抜けていったんじゃなかろうかといわんばかりである。
 その件のよろず屋トップといえば、ようやく少し落ち着いたらしい。彼は気だるそうに上空を見上げ、そして一言。

 「あれ? 幼女が空を飛んでいる?」
 「銀さん。こっちの世界じゃ幼女が空飛ぶことなんて珍しくないですから」

 状況をまったくもって理解してない上司の言葉に、新八がため息つきながらツッコミをいれ、この状況をどうしようかと真剣に考える。
 説得でもするべきだろうか? いや、この考えは即座に否定する。もしも同じ状況に立たされたとき、自分はどうするだろうか?
 結論、間違いなく怒る。そりゃもう徹底的に。

 「こうなったら弾幕勝負でたたき伏せるしかないアル!! 行けパシリ!! 君に決めた!!」

 妙案といわんばかりに、どこぞの何とかモンスターの主人公風に神楽がズビシッと氷の妖精を指差した。
 その顔にはなんでだか自信満々の表情が張り付き、実に楽しげだったのだが……。

 「……あの、神楽ちゃん。ウチが空を飛べへんこと忘れとらへん?」

 そんな、アオのつめたーい言葉で、ピタリとその動きが硬直したのであった。
 そうなのである。確かに、アオ自身は幻想郷の住人であり、スペルカードも一応三枚ほど所持していたりもする。
 が、しかし。弾幕勝負とはつまるところ、空中戦が基本であり空という空間を縦横無尽に駆け巡る回避手段があってこその決闘方法なのである。
 もちろん、格闘を含めた変則的なスペルカードルールが無いわけでもないが、それでも「飛翔」という行為は重要なファクターである。
 つまり、生まれつき翼が不自由で空を飛べない彼女には、弾幕勝負は土台無理な話なのである。せっかくのスペルカードもこれでは宝の持ち腐れだ。
 そんなわけで、ゆっくりと神楽はアオに視線を向け、そして一言。

 「ケッ! マジ使えないアルこの鳥。飛べるようになってから出直すアル」
 「オィィィィ!! 言葉が辛辣すぎるんですけど!? 本人目の前にして言う台詞じゃないんですけどぉぉぉぉぉ!!?」

 唾のオマケつきで放たれた辛辣なその言葉に、はたから見ていた新八が的確にツッコミ、神楽の言葉にトラウマを抉られて「うぐっ!?」とうめいて眩暈を起こすアオ。
 そんな光景を見下ろしながら、とりあえず名乗るタイミングも攻撃するタイミングも完璧に逃してしまった氷の妖精チルノは、眼下のカオス空間に硬直するばかり。
 そんなチルノの肩を、ポンッと叩くだれか。そちらにチルノが振り向けば、割と長い付き合いになる名も無き大妖精がおどおどした様子でそこにいた。

 「やめてあげようよ。あの男の人はただ気分が悪かっただけなんだろうし、それにちゃんと謝ってるから……」
 「冗談じゃないよ。とりあえずあの男だけは絶対に許さないんだから」

 眼下にいる銀時を睨みつけながら、チルノは語る。今にも凄惨な表情から憎悪が噴出しそうなほど、彼女の怒りはとても深いのだが……。

 (じゃあ何で最初ッからあっち狙わなかったんだろう?)

 そんな疑問があったので、大妖精は緊迫した空気には感じられず、小さくため息をつくのであった。
 その緊迫した空気がもてない原因は、下でちょっとしたミニコントを展開しているメンツにも原因があるのだろうが。

 さて、この状況をどうしようかと大妖精は考える。そもそも、彼女はそういった争いごとといった類のことが苦手である。やりすぎるチルノを何かと止めるのも大方彼女の仕事だ。
 だがしかし、現状はどうだろう? チルノがこうなったら、熱された鉄が長い間熱を持つのと同じように、怒りは早々には収まるまい。氷精の癖に。
 かといって、確かにあの下のメンバーが悪いのは間違いない。何しろ、湖の一部がステキに変な色に濁ってるし。

 「大体ここはアタイのテリトリーなの。言い換えればここはアタイたちの家に他ならないのにさ、こんな仕打ちされて耐えられるのアンタは!!?」
 「そ、それはそうだけどぉ」

 これはヤバイ。この妖精、今回はマジで許す気が無いらしい。大声を張り上げ、傍らにたたずむ大妖精に罵声を浴びせかける。
 さすがにこれにはおびえるように肩を震わせ、大妖精は少し涙目で曖昧に言葉を返す。
 このチルノという妖精。他の妖精と比べると大きすぎる力を持つ。無論、妖怪と比べるなんておこがましいにもほどがあるが、それでも下手な人間よりはよっぽど強かろう。
 ……まぁ、非常に残念な頭の持ち主ではあるが。⑨は伊達じゃないのである。

 『家』

 そして、その単語に敏感に反応したのは、下でコントのような掛け合いをしていた新八、神楽、そしてアオである。
 チルノをどうにかして撃退しようと考えていたこの三人は、上で聞こえていた怒鳴り声とその内容を聞き、態度を一変させて銀時を冷ややかに見つめていたりする。

 「銀さん、アンタ最悪ですね。人の家でゲ○するなんて」
 「マジ外道アル。いっぺんあの妖精にボッコボコにされたほうがいいアル」
 「そやね。もういっそのことそこの濁ったとこの水飲み干したほうがええんとちゃうか?」
 「ワンっ!!」
 「ちょっとぉぉぉぉぉ!!? 何でいきなりそんなに辛辣なの!? 銀さん何かした!?」

 いきなり四面楚歌状態に陥った銀時が、たまらず大声で反論する。何しろ、さっきまで比較的味方だったメンツがいきなり敵に回ったのである。
 銀時にしてみればたまったものではなかっただろう。何しろ、定春までもが同意するかのように一声鳴く始末。
 銀時が声を大にして反論する中、アオが深いため息をついて銀時の体を回し、背中を押すように銀時を歩かせる。

 「お、おいおい」
 「ええから、ちゃんと銀さんの口から謝らんと。ワザとや無いにせよ、人の家で吐いてもうたんは事実なんやから」

 ほらほらと、アオは銀時の背中を押して歩かせる。
 いい加減、銀時を孤立させるのも寝覚めが悪いと思っての行動であり、彼女もこの湖があの妖精の家になっているなど思いもよらなかったのだ。
 銀時に非が無いわけではないが、だからといってここまで一方的に集中放火するようなことでもないように思う。
 だから、ここで銀時に謝らせて、あとは何とか話し合いで解決しようと、アオはそう考えていたのだが……。


 「―――禁忌『レーヴァテイン』!!」


 刹那、赤光と爆炎が世界を包んだ。
 

 「あぁぁぁいきゃんふらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっっっ!!!!?」

 吹き上がる爆炎。煌々たる灼熱に灯った魔剣の一撃は、辺りを根こそぎ薙ぎ払い、大地を蒸発させ、近隣の森の一部を容赦なく焼き斬った!!
 そんな某腹ペコ騎士王の聖剣クラスの一撃を受け、アオはこれまた盛大に吹っ飛んだ。そう、吹っ飛んだ。大地にたたきつけられバウンドして空高く、真上に吹っ飛んだ。
 キラーンなんて擬音が聞こえてきそうなほどに、意味不明な悲鳴を上げて綺麗に星になったアオ。
 そして大地には、このスペルカードによる被害で生み出された生々しい傷跡がくっきりと残っている。
 森の一部が一直線に、根こそぎ荒野になった傷跡。上空から見れば線によって表される被害範囲は、これまた結構深刻だったりする。

 そんな光景を、ぽかんとした表情で見つめているチルノと大妖精。
 それも無理らしからぬことだろう。罵声を浴びせようと思った瞬間、数コンマあとには見るも無残な戦後のような惨状が残っただけなのだから。
 いや、ほらだって。あの銀髪天然パーマも巻き添え食って黒焦げになってるし。

 「銀さぁぁぁぁん!!? アオちゃぁぁぁぁぁん!!? ちょ、ナニコレ!! 何だこれ!!? 一体何事ですかぁぁぁぁ!!?」
 「うぉぉぉ!? 凄いアル!!? まるでミサイル乱れ打ちしたような惨状アルね!!」

 新八と神楽が突然の事態に大声でそんな言葉をつむぎだす。中身は決定的に違っていたが、それはそれでまぁ仕方が無いことなのかもしれない。
 ワン、と定春が一声鳴いて駆け出していく。そちらのほうに視線を向ければ、日傘を片手に、鋭い眼光を携えた一人の少女の姿。
 薄い金髪のセミロングだが、髪の一部をサイドにまとめてあげており、その瞳はルビーのような真紅。歪な形をした七色のダイヤ形の翼。

 「定春のお友達を、銀時をいじめる奴は許さないんだから」
 「フ、フランちゃん!? そ、それにレミリアちゃんや咲夜さんまで!?」

 その人物の姿を認めて、新八は心底驚いたように言葉をつむぎだしていた。
 確かに、その日傘を差した人物はフランドール・スカーレットその人だ。その傍らには、確かに彼女の姉である日傘をさしたレミリアの姿と、従者たる咲夜の姿も見て取れた。
 どうやらよろず屋にこれから向かうところだったらしく、今回はあのフランも一緒だったようである。

 「フラン、銀時まで巻き添え食ってるじゃない。ちゃんと手加減しないと」
 「あー、そうだね。ごめんなさい、お姉さま」
 「個人的には妹様のアレ食らって原型をとどめていること自体に驚きですが」

 それぞれ実にいい加減な意見を述べ、咲夜がもっともらしいことを呟いていたりする。
 そしてその言葉の直後、ムクリと起き上がる黒焦げになった坂田銀時。この時点で、咲夜の驚きは臨界点を突破したといってもいいだろう。
 というか、ほとんど炭の状態で平然と立ち上がらないでいただきたい。ぶっちゃけかなり怖い。

 「あ、銀時~!やっほー!!」

 そしてそんなホラーな銀時に、のんきに言葉を掛けるフランドール・スカーレット。さすがは悪魔の妹。精神的にかなり図太い。情緒不安定だが。

 「やっほーじゃねぇぇぇぇぇ!!! 何してんの!? 何してくれてんの!? 何してくれちゃってんのっ!!? 危うく死ぬところだったじゃん!!」
 「……普通死んでるわよ」

 至極まっとうな反論が口を衝いて出て、銀時は盛大に怒っていたりするのだが、これまたレミリアのまっとうな意見が飛び出て少し押し黙る。
 まぁそれも当然か。普通ならフランの手加減無しのレーヴァテインの一撃なんて、人間が生き延びれるような代物ではない。というかむしろ、食らえばどんな生き物とて灰すら残るまい。
 某12の命を持った大英雄ですらも少なくとも10以上の命はまとめて殺しつくせちゃうようなトンでも破壊力なのである。

 例えるなら、虚化した一護の全力月牙天衝。
 例えるなら、全力全開殺傷設定スターライトブレイカー。
 例えるなら、スーパーサイヤ人状態の元気玉。
 例えるなら、某腹ペコ騎士王の聖剣とか、某慢心王の乖離剣。
 例えるなら、ファイ○ルファン○ジーシリーズの隠し召喚獣。
 例えるなら、ガン○ムDXのツインサテライトキャノン。
 例えるなら、新ゲッ○ーのストナーサンシャイン。
 例えるなら、イデ○ンの最終兵器イデ○ンガン。

 フランの全力全壊(誤字にあらず)のレーヴァテインは要するに、ニュアンス的にはそんな感じなのである。
 後半かなり誇張気味な気もするが、そんなもんを人間の身で受けて平然と反論する銀時はある意味貴重な存在である。
 というか、本当に人間止めてるのかもしれない。と、最近のレミリアはちょっと思うようになったりする。
 パッパッと汚れを祓うようにするしぐさをすると、外側にこびりついた炭が落ちていき、元の銀時の姿を徐々に取り戻していく。
 マジで人間止めてるのかもしれない、この男。ギャグ補正、侮りがたし。

 その時、ずしゃっと銀時の傍に何か落ちてくる。
 ピクピクと痙攣し、全身ズタボロになったアオが、青い顔をしながら半なき状態で空から降ってきた。
 今まで落ちてこなかったとか、どれだけ空に停滞していたのだろう? 心なしかかなり寒そうだったりする。

 「あかんなぁ、ウチ今夢を見とったんや。なんか、ソラねぇちゃんに焼き鳥にされて食べられる夢を見たような気がするわぁ」

 かなり憔悴しきった様子で、アオはそんな風に言葉をつむいでいた。
 そんな彼女を、ついつい痛ましそうに見つめる新八。夢の内容があんまりだったからか。それともそれは俗に言う走馬灯だろ!? とツッコミを入れるべきか悩んでいるのか。
 まぁ、それはこの際おいておき、フランはそのアオの姿を認めると、ゆっくりと歩みを進め、アオを見下ろした。

 「わかった? 定春のお友達に手を出したら、今度は殺しちゃうよ?」
 「だぁぁぁ!! ストップ!! ストォォォォップ!! 違うんだよフランちゃん!! その子はウチに新しく入ってきた従業員なんだ!!」

 今にもアオを殺しそうなフランの状態に気がついたか、今度ばかりは新八が慌てて止める。
 その言葉がよほど意外だったのか、フランもレミリアもきょとんとした表情を浮かべ、新八に視線を向けたあと、そのまま定春に視線を向けた。

 「そうなの? 定春?」
 「ワン!」

 フランの言葉に、元気よく定春が肯定する。こういったとき、知性がそれなりに高い定春は絶対的な証言者となりうる。
 ……まぁ、なかなかに腹黒い一面を盛っていたりするが、少なくともフランは疑わないだろう。

 「うーんと、ごめんね? なんか勘違いだったみたい」
 「あ、あははははは。か、勘違いかぁ。そらよかったわぁ」

 フランの申し訳なさそうな謝罪の言葉に、アオは顔を引きつらせながら言葉をつむぎ、乾いた笑い声を上げながら先ほどのスペルカードによって生まれた惨状を見渡した。

 (……よく生きとったな、自分)

 手放しで自分を褒めてあげたくなった。いやだって、生きてること自体がまさに奇跡なのである。
 まぁ、体はズタボロな上にほとんど動かせないけど。
 さすがは不幸体質といったところだろうか? いや、不幸体質にそぐわぬ幸運振りというべきなのだろうか?
 いや、レーヴァテインの直撃を食らうこと自体が不運で、それを食らってズタボロになりながらも何とか生き残った幸運。
 相対的にみればプラマイゼロ……ややマイナス寄りといったところか。

 「定春~、パシリを背中に乗せてあげるとイイね。それとフラン、よくやったアル」
 「いや怒れよ! 今のどのへんがよくやったんだよ!!」

 そしていつものやり取りに発展するよろず屋メンバー。そんなやり取りを、上空から見下ろして、完璧に存在を忘れ去られたっぽい妖精二人。
 プルプルと体を震わせ、無視されている怒りがこみ上げてきて、それは今まさに臨界点を突破した。

 「ふざもがっ!?」
 「し~!! チルノちゃん静かにっ!!!! まずいってば、相手がまずいってば!!」

 怒鳴り散らそうとした刹那、大妖精がチルノの口を塞ぎ、あわててその場から離れていく。
 未だに怒り覚めやらぬ親友を何とか抑えながら、大妖精はこれからのことについて本気で頭を悩ませるのであった。



 ■あとがき■
 どうも、最近暑いですね。こんばんわ、白々燈です。
 今回、自分でもちょっとどうかと思うネタばかりですが、皆さんが不快にならないか正直心配で仕方がありません。いかがだったでしょうか?

 最近の出来事。
 先日、ようやくFateの格闘ゲームをプレイしました。持ちキャラはアサシンとランサーです。
 対人戦は負け続きですねぇ、うまく勝てません。

 あと最近になってようやくニトロロワイヤルを購入。現在の持ちキャラはアナザーブラッドですね。弟が沙耶使ってます。というか、セイバーの約束された勝利の剣のヒット数とダメに吹いた私はおかしいでしょうか?

 それにしても最近本当に暑いですね。おかげで執筆がなかなか思うように進みません。気だるくて。
 暑さはマジで敵です。こっちの地域本当に暑くてたまりません。
 それでは、今回はこの辺で。



[3137] 東方よろず屋 第十八話「梅雨の雨ほど気が滅入ることもない!!」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/08/07 14:29
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。
  今回オリキャラに準ずるキャラクターが登場するのでお気をつけください。







 ザァーッという、無数の水滴が叩きつけられることによって巻き起こるオーケストラ。それに気がついたのは他でもない、目の前の光景に呆れて物も言えなくなっていた私自身。
 私、比那名居天子はその音に気がついてふと窓の外に目を向ければ、ざぁーざぁーと激しい雨が降り注いでいる。

 「雨……か」

 ポツリと呟いた私の言葉に、このよろず屋にいたメンバー全員が窓の外に視線を向ける。
 みんなの反応はさまざまだったと思う。

 紅い悪魔はその光景を見て苦々しそうな表情をして。
 メイドは困ったような表情を浮かべ。
 悪魔の妹もあまり嬉しくはなさそうな表情。
 花の妖怪は興味なさ気に視線を移しただけで。
 不幸体質は「ありゃー」なんてぽけっとした言葉を漏らし。
 眼鏡は「ふってきましたねー」なんて世間話でもするような。
 チャイナは相変わらず酢昆布かじりながら窓の外を。
 そして糖尿病一歩手前はどうでもよさそうに一瞥しただけ。

 そんないつもどおりとは少し違う、でもやっぱりいつもどおりのよろず屋の光景。

 暦は7月に入ろうかという頃合。もうすぐ、幻想郷にも梅雨が来るのだ。 






 


 ■東方よろず屋■
 ■第十八話「梅雨の雨ほど気が滅入ることもない!!」■







 「まったく、こんなタイミングで雨が降らなくってもねぇ」

 一人小さくため息をつきながら言葉にしたのは、やっぱりというかなんというかレミリアだった。
 彼女はソファーに腰掛け、背中を思いっきり預けて窓の外に視線を向けている。

 「いいじゃない。ここに泊まらせてもらえるんだから」
 「こんなボロッっちい家に泊まってもねぇ」

 にべもなく口にする。まぁ、確かにぼろっちぃというのには全面的に賛成させていただくけど、いきなりそれはどうなんだろうか?
 ま、いいか。家主本人が聞いていても何も言わない辺り、別に言ってもかまわないんだろう。

 「こんばんわー……というか、相変わらずここは人外魔郷ですね。前に来たときよりも状況悪化してません? ここにいるメンバーだけで世界取れますよ」
 「そうなのかあっきゅん? ウチってそんなにやばいのか!?」
 「ヤバイですね。悪の秘密組織とかいわれても文句言えませんよ、このメンバー」

 家に入ってくるなりこんな暴言をぶっぱく人物だっているのだ。このぐらい暴言にも入んないと思う。
 そんなわけで、この家のお隣さんの稗田阿求が、どういったわけか袋持参でこの夜遅くによろず屋に現れたのだ。
 ところで、紫おかっぱ。その人外魔郷には私も入ってるんじゃないだろうな?
 ……入ってるんだろうなぁ、畜生め。

 「集まってきたわねぇ。いっそのことこのメンバーで宴会でもしたらいいんじゃない?」

 これは名案ねぇ。などとのたまいながら、幽香は既にお酒を取り出していたりする。
 さすが自称幻想郷最強の妖怪。人の家のお酒を勝手に取り出してくるとか少しは自重しろっていうのよ。私もやると思うけど。

 「……それ、まさか私も強制参加ですか?」
 「当然ね」

 阿求の不安そうな声に、にべもなく即答する幽香。どうやらこのまま宴会は確定らしい。
 外は雨だって言うのに、よくやるわねぇ、本当。いや、雨だからこそ、と言うやつなのかもしれない。

 「あややー、降ってきましたねぇ銀さん」
 「おーい、ブンブン。いつも言おうと思ってたんだが、窓は玄関じゃないんで玄関から入ってきてくれませんかね?」
 「硬いこといいッこなしですよ。ほら、お酒とイチゴ牛乳」

 そして狙い済ましたかのように現れる新聞記者の鴉天狗、射命丸文。
 お酒よりもイチゴ牛乳に反応して結局何も言わずに彼女を招き入れる坂田銀時。この甘党め。
 ため息一つついて辺りを見回してみれば、もうすっかり宴会する気満々のメンバーがいて、それを苦笑しながら新八と咲夜が準備を進めている。


 最近は、すっかりと見慣れてしまったその光景。
 いつものように馬鹿騒ぎをして、いつものように言い合って、いつものようにケンカして。
 そしてなんだかんだで、最後にはこうやって宴会という名の大騒ぎで一週間を締めくくる。

 
 そんな毎日に、なんだかんだといいながら満足し始めたのは、一体いつからだろうか?
 彼らがこの幻想郷に訪れてもう三ヶ月がたつ。三ヶ月、自分でもよく彼らと共に行動したものだと感心してしまう。
 そんな自分の思考がおかしくて、ついつい苦笑してしまうけど、宴会だと浮かれて楽しみにしているメンバーには気付かれなかったようなので、まぁよしとしておこう。

 「天子ちゃん。このお酒、テーブルに運んで」
 「はいはい。わかったわよ」

 働かざるもの食うべからず。そんな言葉とは一生無縁だと思っていた私にしては、こうやって手伝ったりなどといった行為は随分成長したものだと思う。
 以前の私なら絶対やらない。もう確実に。10万円かけてもいいわ。

 ざーざーと、外では相変わらず雨が降り注ぐ。でもよろず屋はいつものように馬鹿騒ぎをやめはしない。
 きっとこれからも、彼らとはこうやって過ごしていくに違いない。
 退屈とは無縁の、忙しくも満ち足りた生活が続くことだろう。

 笑って、怒って、やっぱり笑って。

 そうやって、銀時たちと過ごしていくのだろう。自分がここまでこのよろず屋を気に入るとは夢にも思わなかったけれど、そのことをいやだと思うこともない。

 定春がいて。
 新八がいて。
 神楽がいて。
 そして、銀時がいる。

 はじめはたった三人と一匹に私が加わって、いつの間にか幽香も加わって、それからなし崩しな形で入り浸るメンバーが増えていって。
 きっと、このままこんな時間が過ぎていくんだろうと、そんなことを思いながら準備を進めていく。

 「おーっし、てめぇら。酒持てよ。僭越ながら、銀さんが号令かけたいと思いまーす」
 「オィィィィィィ!! アンタ一人だけイチゴ牛乳じゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!」
 「違うアル新八。あれには私が角砂糖一杯ぶちまけたからどっちかというと糖の固まりアルよ」
 「なお悪いんですけどっ!!? 銀さん糖尿病まっしぐらじゃんっ!!?」

 見慣れたと思っても、どこか笑いを誘うそんな銀さん達のやり取り。その光景がおかしくて、私たちはみんなして苦笑した。
 しばらくして、銀時は一度咳払いをすると、お酒……ではなくてイチゴ牛乳という名の糖分の塊を高々と掲げた。
 それにあわせて、私たちも一様にみな自分の分のお酒を掲げる。

 『乾杯!!!!!』

 いつものやり取りを交えた宴会の始まり。それが今回の宴会の始まりで、








 同時に、最後の宴会の始まりでもあったのだ。
















 「ふぅ」

 ちゃぷんっと、足先から温かい湯船につかる。
 未だに馬鹿騒ぎを続けるメンバーをよそに、私は一人だけ先にお風呂を使うことにした。
 風呂自体は新八が既に沸かしてくれていたらしく、今は少しぬるいけれど、まぁ仕方ないだろう。
 以前なら間違いなくわがまま言っていたと思うけど、成長したわねぇ、私ってば。

 「天子ちゃーん、温いでしょ? 今から薪を入れて温度調整するから」

 そんな物思いにふけっていた私を、外から聞こえてくる新八の声で現実に引き戻される。

 「新八? 宴会は?」
 「いや、僕もそろそろお酒きつくてね。抜け出してきたんだ」

 外の……といっても、壁一枚隔てた場所から聞こえてくる声は、どこ苦笑が混じっていた。
 なるほど…・・・とどこか納得してしまい、「じゃあお願いするわね」なんていって、私は改めてお風呂を堪能する。
 ちゃぷんっと、片足だけ上げて、それを太ももから足首にかけて両手でなぞる。今日の仕事は走り回ったもんだから、脚が張っているっぽい。
 とりあえず入念にマッサージしておくことにして、私は徐々に温かくなっていくお湯を堪能する。

 「どう?」
 「ん~、いい感じ。気持ちいいわ~」

 湯船から立ち上る水蒸気が、うっすらと靄を作っている。そんな室内で、私は新八の言葉に耳を傾けて、そして言葉を返す。
 ほかほかとして温かい。上気した顔が、私の体温が上がっていっていることを如実に現していく。
 お風呂を考えた人って本当に天才よね。今の世の中、お風呂のない生活なんてなかなか考えられないし。
 そういえば、魔理沙の家には温泉があるとかいってなかったっけ?
 真意は定かではないけど、なんとも贅沢なものだ。

 「慣れてるわねぇ、新八」
 「そりゃ、僕だっていい加減慣れるよ。もう三ヶ月もたつんだし」

 何気なくいった言葉に帰ってきた返答。その返答が耳から入ってきて脳に蓄積されて、なんともいえない感情を湧き起こしてくる。

 「そっか、もう三ヶ月なのね」

 そう、三ヶ月。私がこのよろず屋の一員になって、もうそれだけの時間が経過した。
 ただ私自身は、もっと長い間、彼らと一緒にいたような気分だった。
 だから、【もう】ではなく、【まだ】三ヶ月といったほうが、心情的には正しいのだろう。
 もともとこの世界の住人ではない彼ら。
 彼らには自分達の住むべき場所があって、待っている人たちがいて、残してきてしまった人たちがいる。
 そんなそぶりなんて見せないけれど、きっと彼らにもいるはずなんだ。

 「帰りたい? 元の世界に」

 本当なら、聞くべき言葉ではなかったかもしれない。でも、私はどうしても聞きたかった。
 だって、彼らが元の世界に帰りたいと願っていたら、そう遠くない未来に彼らはもといた世界へと帰っていくだろう。
 あのスキマのことだ。癪だけど、アイツは近いうちに彼らの世界を見つけ出すに違いないのだから。

 「そうだね。いつまでもここにお世話になるわけには行かないし、姉上も……多分心配してるだろうし」
 「そう」

 わかっていた返答だったのに、改めて聞いてみればやはり、落胆は隠せない。
 それはつまり、彼らはいつかもとの世界に帰ってしまう。いつの日か、近いうちに必ず。

 「どうかしたの?」
 「なんでもないわ。ほら、温くなってるから、口よりも先に手を動かしなさい」

 誤魔化すようにせかして、私は深く湯船につかりなおす。
 壁越しに苦笑するような気配がしたけど、私は知らないフリをして自分の思考に埋没した。

 彼らが、元の世界に帰る。それは、永遠の別離を意味している。
 まったくの別世界だ。幻想郷の外の世界でもなく、もっと幻想郷とは違う次元に位置した世界。
 そもそも、歴史の流れからして既に違うのだ。そんな世界に、果たして行くことが出来るだろうか?
 断言しよう。キッパリと無理だ。あのいけ好かないスキマ妖怪でもない限りは。
 このよろず屋が、幻想郷からなくなる。彼らが、幻想郷からいなくなる。
 なんてことはないはずなのに、元の形に戻るだけなのに、それが、なぜかこんなにも―――


 「嫌……だな」


 外の新八に聞こえないように、小さな声で呟く。
 ここがなくなるなんて、そんなの嫌だ。だけどそれはどうしようもなくて、彼らには彼らの帰るべき場所があって。
 理屈ではわかってる。それはどうしようもないことなんだけど、それでも、思うのだ。

 いつものように彼らと馬鹿騒ぎをして、いつものようにケンカして、いつものように笑って。
 そんな生活が、そんな場所が、私は―――いつの間にか、たまらなく好きになっていた。
 出来れば、こんな生活がずっと続いて欲しいとも思う。でも、それは結局高望みなのだ。

 「あー、もう。らしくないわねぇ」

 自分自身に愚痴を零す。こんなネガティブなのは私のキャラじゃないってのに、私という人物は我が侭で傲慢で自分中心に世界回ってる的な性格でこそ私ってもんでしょうに。
 ……今、自分で思ってて悲しくなってきたわ。

 「天子ちゃん、どうかした? さっきから独り言ばっかり、痴呆?」
 「……新八、あんたあとで覚えてなさいよ」

 新八の失礼な一言に、青筋を浮かべながらしっかりと言葉を返す。
 ひとまず、お風呂から上がったら『全人類の緋想天』をぶちかましてやろうと心に誓いつつ、今はこのお風呂の気持ちよさに身をゆだねる。
 結局のところ、遠くない未来だったとしても、まだ猶予はあるはずなのだ。
 その間、彼らとはきっちりと遊びまくって、その上で気持ちの整理をつければいい。


 そう、思っていたのに―――


 「あれ? 紫さん」
 「はろろ~ん。ご無沙汰していますわ」

 私にとっては、不吉な声が外から聞こえてきた。
 嫌な予感が胸を締め付け、心臓を鷲摑みにしているかのような錯覚。
 新八の言葉に答えた声の主は、間違いなく……あのスキマ妖怪。


 どうしてコイツは―――


 「どうしたんです、いきなり?」
 「えぇ、急ぎの用事があったもので、こうしてスキマから失礼いたしますわ」

 クスクスと妖しい笑いが耳に届く。その声が、私の不安を余計に煽っていく。
 それは半ば確信に近い直感。霊夢じゃないけれど、それでも、この嫌な予感は外れてくれそうにはなかった。


 今、このタイミングで―――


 「あなたたちの世界、先ほど見つかりましたわ」



 ―――そんな、私の心を砕いてしまう事実を持ってきてしまうのか?




 雨は、いまだ降り止まずに、ザーザーと耳障りな音を奏でていた。




 ■あとがき■
 どうも、最近体調を崩し気味の白々燈です。今回遅くなってスミマセン。
 そんなわけで今回はシリアスな展開が多かったですが、ギャグ分少なくて申し訳ありません。しかも短いし…申し訳ない。
 そしてとうとうゆかりんが見つけてしまった元の世界。これからこの話はどうなるのか?
 そんなわけで、次回をお楽しみに。



[3137] 東方よろず屋 第十九話「有頂天変~WONDERFUL HEAVEN」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/08/09 23:39

 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。
  今回オリキャラに準ずるキャラクターが登場するのでお気をつけください。














 よろず屋がなくなる。


 この幻想郷から、彼らがいた場所にぽっかりと穴が開く。


 ただそれだけ。ただそれだけの事実に、こんなにも心が恐れ、震え上がる。


 いつの日からか、大切な場所になった場所。


 ただの暇つぶしの場のはずが、こんなにも楽しくて居心地のいい場所になった。


 その場所が、なくなる。消えて、なくなるのだ。


 その事実が、その真実が、私の心をこんなにも揺さぶって、不安が波のように全身に広がる。


 嫌だと、声を大にして叫びたかった。


 だけどその時の私は、ただその言葉の意味を拒絶しようとするばかりで、そんな簡単な言葉すら紡げなかった。


 なんてことはない。幻想郷が元の形を取り戻すだけだというのに、こんなにも……心が張り裂けて壊れそうになる。






 だから、私はそのことを実行することに、何の戸惑いもなかった。










 


 ■東方よろず屋■
 ■第十九話「有頂天変~WONDERFUL HEAVEN」■




 銀時たちのもといた世界が見つかった。




 八雲紫からもたらされた一報は、さまざまな反応をもたらした。

 来るべきときが来たか。と、妙に納得するもの。
 その言葉の意味をよく理解できずに、身内に説明を求めたもの。
 笑顔を浮かべながらも、少し残念そうにしたもの。

 多種多様、さまざまな反応があったものの、みな一様に、多少の皮肉を込めながらも「おめでとう」と口にした。

 よろず屋のメンバーは喜んでいいのか、悲しんでいいのか微妙な反応をしていたが、某吸血鬼の提案で博麗神社で最後の大宴会を開こうという提案が出た。
 盛大なお別れ会。博麗神社の巫女に了承を取っていない提案だったが、いつも了承なんてとらないのでまぁ大丈夫だろう。
 その大宴会を明日の夜、雨だった場合は延期と約束して、彼女達は思い思いの場所に帰っていった。









 その約束をした日から【一週間】、銀時たちはまだ人里の仮の住居に住んでいた。

 「やまへんなぁ、雨」
 「まったくアル。これじゃ、いつまでたっても帰れないアルよ」

 窓の外を見ながら呟いたアオの言葉に、神楽が何気無しに呟いて、アオは少し悲しそうな顔をする。
 なんだかんだで、彼女にとってはよろず屋のメンバーは家族のように思っていたのだ。
 短い間ではあったが、その感情は芽生えてしまったのだから仕方がない。
 彼らは、そのうちに帰ってしまう。自分に、このよろず屋をしていた住居と、思い出だけを残して。
 その事実が、やっぱり悲しくて、それがついつい表情に出てしまう。

 「ごめんね、アオちゃん。飛べるように手伝うっていったのに」
 「あはは、仕方あらへんよ。ウチのわがままで皆を引き止めるわけにはいかへんもん」

 新八の申し訳なさそうな声に、アオは慌てて笑顔を浮かべてそう返答する。
 荷物は既に纏めてある。そのせいか家の中は閑散としていて、アオの私物だけが置いてあるだけ。
 それは誰の目から見ても、なんともさびしい光景だった。

 「にしても、妙な空だぜ。緋色の雲なんざ、俺ぁ初めてみた」
 「僕もですよ」
 「私もアル」
 「ウチも」
 「わんっ」

 銀時の言葉に、全員が同意して、改めて窓から空を見上げる。
 そこに広がるのは、灰色ではなく緋色の雲。その雲から、ザーザーと水滴が零れ落ちてきて、雨という現象を作り出している。
 確かに、妙な雲だとはみなが思ったが、そのことを深く考えることはなかった。

 天子は、あの日から姿を見せていない。あの図太い性格をした彼女が、今の今まで姿を見せないことに疑問に思うが、なにか心境に変化でもあったのだろう。
 幽香はこの長雨で太陽の畑が心配になったらしく、ここ最近はよろず屋に姿を見せていない。
 レミリアたちはもってのほかだ。彼女等はそもそも雨のときは外に出ない。というか出れない。
 だからこそ、銀時を見送るという口実の大宴会は雨の日は延期なのだし。

 そんなときに、こんこんと控えめなノックの音がした。

 一体誰なのかと疑問に思いながら、新八が玄関を開けると、そこにはセミロングの青い髪をして、緋色の羽衣を纏った女性がたたずんでいた。
 竜宮の使い、永江衣玖。雨に濡れた様子もない彼女は、ゆっくりとよろず屋の中に入り込んだ。

 「衣玖さん。どうしたんですか、今日は一体?」
 「えぇ、実は皆さんにお願いがありまして」
 「……お願い?」
 「はい。場合によっては依頼ととってかまいません」

 丁寧な物腰で、衣玖は静かに言葉にする。
 その言葉を不思議に思いながら、よろず屋のメンバーは首をかしげながらも、とりあえず座るように衣玖に促す。
 彼女は「ありがとうございます」と一礼してから、ソファーに座る。
 ザーザーッと、雨はいまだ降り止む気配を見せず、容赦なく大地を打ち付けている。

 「んで、依頼って? 一応、今は休業中なんですけど?」
 「存じています。ですが、ことは急を要しますし、あなた方もあながち無関係というわけではありません」

 その言葉に、合点がいかず首を傾げる銀時。ほかのメンバーもみな同じような反応だ。
 その中で、新八は銀時と同じように首をかしげながらも、体が冷えているだろうと温かいお茶を衣玖に差し出す。
 新八に一礼し、そしてまた彼女はその瞳を銀時に向ける。

 「この梅雨の時期と同時に始まった長雨、これは人為的なものであり、俗に言う【異変】というものです」
 「異変……ですか」

 コクリと、新八の問い返しに丁寧に頷き、更に言葉をのせる。

 「この異変はあなた方を狙ってのものです。あなた方を元の世界に帰すまいと、【あの御方】が起こしたわがままの結果といえましょう」

 その言葉に、銀時たちはお互いに顔を見合わせた。
 元の世界に帰さないように。それはつまり、銀時たちと面識があるということ。
 そして、彼女が【あの御方】と表現する人物。
 そんな人物は、彼らが知る限りではただ一人しか該当しない。

 「そんで、俺にどうしろっていうんだ?」

 大して興味もなさそうに、銀時は言葉にする。
 衣玖の言葉を信じるのであれば、犯人は間違いなく彼らがよく知る【彼女】に間違いないだろう。
 そのことに気がついているのか、それとも気付かないフリをしているだけなのか、銀時はここにいたってもいつもどおりの態度だった。

 「それは、あなた方のお心次第。そのままでいるのもいいでしょうし、この件を解決なさる気があるのでしたら、私はあなた方を責任を持ってご案内いたしましょう」
 「銀さん……」

 衣玖の言葉は、あくまで選択を促すような問いかけ。その言葉で、新八は思わず銀時に視線を向けた。
 坂田銀時という男は、良くも悪くも何を考えているのかわかりづらい男だ。
 こういうとき、今このときに、銀時が一体何を考えているのか、悔しいことに、付き合いが長いと思っている新八でさえわかりかねる。
 それは、神楽も同じだ。だからか、彼女にしては珍しく、何もしゃべらない。
 そんなわずかな間に訪れた沈黙に、終止符を打ったのは、やはり銀時だった。

 「ったくよぉ、そういうのは選択肢がねぇって言うんだぜ?
 この異変の目的が雨を降らせて宴会をさせねぇことにあるんだッてぇなら、これを解決しない限りは俺たちは帰れねぇ」

 俺はあの吸血鬼の嬢ちゃんに怒られるのはゴメンだからな。と、そんな言葉を付け足す。
 まぁ実際、雨が降ったところで帰れることは帰れる。
 ただ、かねてから予定していた大宴会が出来なくなるというだけの話であって、それさえ無視してしまえば帰ること自体に問題はない。
 だが、やはり心情の問題だろう。どうせなら最後にぱーっと景気よく別れたいというのもあるし、何よりあの吸血鬼は雨の日は外に出られない。
 彼女達には世話になったこともあるし、それなりに親しい……とは思う。
 だからこそ、彼女達には別れに付き合って欲しいというのが本音であった。
 それに何より、宴会が出来ずに勝手に銀時たちが帰ったと知ったら、あのわがまま吸血鬼は間違いなく怒るだろう。
 室内で……という案もあるにはあるが、やはりここの幻想郷のメンバーは、宴会は外の月の下で……というほうが好きらしい。
 だから、この話には銀時たちには最初ッから選択肢なんてなかったのだ。
 この異変を解決しなければ、いつまでたっても彼らは元の世界に帰れない。それに―――


 「それにだ。アイツは俺に用があるみたいだしな、いくっきゃねーだろーが」


 そう言って、坂田銀時は立ち上がった。
 重い腰をあげ、愛用の木刀を腰に挿し、やる気なさそうにカリカリと後頭部をかく。
 その様子に、……いや、その言葉に、衣玖は満足そうに笑みを浮かべた。

 「僕も行きますよ、銀さん。僕等、よろず屋の一員なんですからね。それに、彼女だってよろず屋のメンバーなんですから、説得しないといけないですし」
 「まったくアル。駄目だとかいっても絶対についていくヨ。こんなことしてただで済むと思ってるんならボッコボコにしてやるアル! 同じよろず屋銀ちゃんの一員として!」

 その様子を見て、衣玖は微笑ましい気持ちを覚えながら、静かにまぶたを閉じた。
 あぁ、あの御方は本当にいい人たちとめぐり合えたのだと、今更のように気付いた。
 自分達が帰ることを妨害しているというのに、本来ならば口汚く罵ってもいいはずなのに、それでも、彼らは口々にいう。
 同じよろず屋のメンバーだ。つまりは、彼女は仲間なのだと、そんな風に口にする。
 そこに、負の感情は見当たらない。ただ純粋に、悪いことをした子供を叱りにいくかのようなそんな雰囲気に、衣玖はたまらず苦笑する。

 なんとなく、本当になんとなく……衣玖は、あのわがままな少女がこの異変を起こした理由を、少しだけ理解できたような気がした。
































 そうして、彼女はすっと瞼を上げた。

 空は極光が輝き晴れ渡り、大地には美しい花々が咲き誇った場所―――天界。
 自身が長年住み、【退屈な場所】と称した場所に、彼女……比那名居天子はたたずんでいた。
 小さく息を吐き、ふるふると頭を振る。

 「少し……寝てたかな。疲れてるのかしら」

 わかりきっているくせに、確認するようにそんな言葉を紡いだ自分自身に腹が立つ。
 小さくため息をつき、彼女は大きめな要石を作り出して、そこに腰を下ろした。

 疲れているのか? 当然といえば当然の自身の問いに、しかし天子はそれを否定する。
 もしそれを肯定してしまえば、今の今までの行為が全て無駄になってしまう。それだけは避けなければならない。

 結論から言えば、間違いなく天子は疲れていた。
 彼女がこの【振り続ける雨の異変】を起こし始めてから、わずか二日で異変を解決するために巫女が……博麗霊夢が来た。
 何しろ、天候を操作した上に、緋色の雲も出ていたのだ。以前、天子が異変を起こしたことを知っているメンバーならすぐに犯人に行きついただろう。
 それから立て続けに霧雨魔理沙、十六夜咲夜、魂魄妖夢、東風谷早苗、鈴仙・優曇華院・イナバ、アリス・マーガトロイド。そうそうたるメンバーが異変解決のために天子の下に訪れた。
 その全てと戦い、勝利を収めて、彼女は今ここにいる。

 本当は、時間が欲しかっただけなのかもしれない。
 考えて、考えて、考えるだけ考えて、彼女はようやく一つ行動を起こした。

 「衣玖は……うまくやってくれてるかしら」

 ポツリと呟き、天子は苦笑する。
 まぁ、あの口のうまい竜宮の使いのことだから、あまり心配はしていない。
 だから、彼女は座して待てばいい。彼らが、この天界に来るまで、堂々としていればいい。
 自分はわがままだ。それは認めよう。これ以上にないくらい、わがままな女だという自覚もある。
 なら、今回はそのわがままを突き通す。それでこそ、彼女は彼女でいられるのだから。
 静かに体を休めることに勤める。今はただそうすることしか自分は出来ない。
 それに、こうやって静かに考え込むのも、別段悪くないような気がするのだ。


 だというのに、何もない空間に亀裂が生じた瞬間に、あらゆる思考が漂白されていくのを感じた。


 亀裂はやがてスキマに変わり、そこから物理法則をまったく無視して一人の女性が姿を現す。

 「あぁ……、最悪」

 小さく呟き、天子は目の前の女性を睨みつけながら立ち上がる。
 手には既に緋想の剣が握られ、いつでも斬りかかれるようにギュッと剣を握る力を強める。

 八雲紫。あらゆる法則を曖昧にし、破壊してしまえる文句なしの【最強】。それが今、天子の目の前に佇んでいた。

 「こんにちわ、比那名居天子。ご機嫌はいかがかしら?」
 「何度もいうけど最悪ね。出来れば今すぐ立ち去ってほしいのですけど?」

 なんてことはない、言葉でのけん制。幻想郷では見慣れ、聞きなれる言葉遊び。
 軽口をたたいてはいるが、天子は相対する相手のせいで、余裕なんてものはなくなってしまっている。
 からからと喉が渇く。相対するだけで、チリチリと肌を焼くような威圧感。普段彼女からは感じないそんな圧を、以前にも天子は経験したことがある。
 だからこそ、彼女は理解した。
 勝てない。それは、どんなに考えても考えても、それ以外の結論が出ないほどの決まりきってしまった未来。

 「それは無理ですわね。私はあなたに用があってまいりましたのに」
 「私にはないわ」
 「私にはあるの」

 飄々とした言葉。妖しい笑みを浮かべたまま、八雲紫は一歩、天子に歩み寄る。
 勝てない。あぁ、そうだ。絶望的なまでに、目の前の妖怪には敵わない。本気の八雲紫に敵う者がいるとすれば、それは……幻想郷の最高神、【龍】ぐらいのものではないのか?
 それでも……、天子は負けられない。負けられない理由があった。
 それはとても傲慢で、自分勝手なひどいわがまま。
 だけど、その思いはある意味では何よりも子供らしく、そして純粋なものだった。
 ここで負ければ、ここで終わってしまったら、全ては泡沫に消えてしまうだろう。

 それは……、それだけは絶対に、嫌だった。

 「落ち着きなさい。別に私はあなたをコテンパンにするために来たわけではありませんわ」

 そう思っていただけに、その紫の言葉は天子には予想だにしない言葉で、思わず目を丸くする。
 その様子がおかしかったのか、紫はクスクスと苦笑した。

 「……どういうつもり?」
 「どういうつもりもないわ。今回、あなたの邪魔をするつもりはないと、そういうことよ。観客が舞台に上がって上演を邪魔するのは無粋でしょう?」
 「もう上がってるじゃない」
 「舞台はまだ始まってませんもの。その前に質問がしたかっただけ」

 その真意がわからず、天子は相変わらず怪訝な表情を浮かべるだけ。
 そんな天子の表情にもかまわず、八雲紫はいつもの仕草、いつもの妖しい笑み、いつもの立ち振る舞いで、静かに問いかける。


 「そんなに、あのよろず屋が大事?」


 そんな、心の奥底を見抜いたような、その問いに。


 「……、えぇ。私は、あの場所が大事で、大好きで、無くしたくない」


 天子は、その言葉の意味を理解したあと、迷いなくその思いを口にした。
 端的にいってしまえば、彼女が異変を起こした動機の根源はまさにこれだった。

 雨が降れば宴会は起こらないし、そうなれば不確かではあるものの、その間は銀時たちはこの幻想郷にいてくれるだろう。
 本当は、その間に心の整理をつけるつもりだった。
 そうやって、笑顔で、いつものようにあいつ等を送り出してやるのだと、そう納得しようとした。
 でも、……出来なかったのだ。
 納得しようとして、心がそれを否定して。結局、彼女は納得できずに、こうやってその結論に達してしまった。

 もっと、よろず屋にいたい。あそこで笑って、喜んで、怒って、悲しんで、そしてやっぱり笑って。
 そんな、充実した毎日を過ごしたいと、彼女は思ってしまった。

 「それでも、彼らには帰る場所がある」
 「わかってる。そんなことわかってるわ。だから―――けじめをつけるの」

 小さく、彼女は瞳を閉じた。そうすれば、まるで昨日のようのことに、彼らとの日々が思い出せた。
 地震を起こして彼らの家を潰したことや、本の分別の仕事や、掃除に、ほかにもたくさん彼らと過ごしてきた。
 だから、けじめをつける。理由がどんなにわがままであると罵られても、それでも彼女はそれを決めた。


 銀時と戦って、無理やりにでも幻想郷に引き止める。
 だけど、もし銀時に負けたその時は―――。


 結局は、やっぱり我侭。自分自身の、盛大で傲慢な、子供の駄々のような彼らに迷惑をかける理由。
 それでも、

 「わかりました。この件に関しては、もうしばらく傍観することにいたしましょう」

 八雲紫は、そのことを咎めなかった。
 その言葉を一瞬信じられず、天子は驚いた表情で紫を見つめるが、彼女は満足したようにスキマに戻ろうとしている。

 「なん……で?」
 「何故? あなたをコテンパンにするのは、今回は私の仕事じゃない。彼の役目でしょう?
 確かに、以前異変を起こしたときと【全く同じ】であったなら、あなたを今度こそ亡き者にしようかと考えもしましたけれど……ね」

 なかなかに物騒な言葉を紡ぎながらも、紫は振り向きざまにクスリと微笑んで、それっきり何も言わずにスキマの中に戻っていった。
 あとには、天子だけがこの場に残される。

 確かに、天子の今回の異変は以前と同じように彼女のわがままが起因する。
 だがしかし、結局幻想郷に異変は大体が何かしらの【わがまま】だったりするのである。
 以前、紫が以前天子に対して怒ったのは、彼女がそれらのわがままに、更に輪をかけてたちが悪かったからだとも言える。
 何しろ、彼女が以前異変を起こした理由は「暇だった」というとんでもない理由であったし、その上、異変のあとに博麗神社を乗っ取ろうとさえした。
 結果、天子は怒った紫にギッタンギッタンにされる羽目になったのである。

 それに比べれば、今回彼女が起こした異変は。……いや、異変を起こした理由は、人に迷惑をかけるとはいえとても子供らしく、誰もが持つ想いでもあった。

 大切な場所を無くしたくない。それは、人間であれ、妖怪であれ、誰もが持つ確かな理由なのだから。

 無論、褒められたものではないかもしれない。褒められたものではないが、それを怒るのは紫の役目ではない。ただ、それだけのこと。

 「……ありがとう」

 小さく、本当に小さく、天子は呟く。
 それが、あのスキマ妖怪に聞こえていたかどうかはわからない。
 むしろ聞こえないように呟いたのだから、これでいいのだが。
 万が一にもあのいけ好かないスキマ妖怪に聞かれていたらどうしようとも思うが、いってしまったものは仕方がない。

 「総領娘様」

 その声を聞いて、彼女はゆっくりと視線をその声の場所に向けた。
 その場所には、お使いを果たした永江衣玖が、空気のボールに包まれた三人と一匹を傍らに、ゆっくりと着地する。
 十分な高度まで下がってきたことを確認すると、衣玖は空気のボールをといて、三人と一匹を天界の大地に丁寧に下ろした。

 「うわぁ……凄く綺麗な場所じゃないですか。オーロラだって見えてますし」
 「うっぷ、俺、酔っちまったみたい。乗り物酔いですかこれ? ものすごく気持ち悪いんですけども?」
 「……銀ちゃん。なんかいろいろ台無しネ、その台詞」

 一週間ぶりのよろず屋のメンバーたち。いつもと変わらない相変わらずの面々に、疲れも忘れて天子は苦笑した。
 本当に、彼らは変わらない。そんな馬鹿らしいやり取りも、いつものように目の前で交わされている。
 舞台は整ったのだと、天子は自覚した。

 「それでは、私は席をはずします」

 空気を読んだのか、静かにそれだけを言葉にして、衣玖はその場から立ち去っていく。
 あとに残ったのは、天子と、そして銀時たちよろず屋のメンバーたち。

 「お久しぶりですね、銀さん、新八、神楽、それに定春。お元気でしたか?」
 「久しぶりじゃねぇんだよコノヤロー。人様に迷惑をかけるなって親に教わんなかったのか?」
 「教わらなかったわね」

 いけしゃあしゃあと言葉にして、天子はくすくすと笑った。
 ここ最近は考えるばかりで、ろくに笑みなど浮かべてはいなかったが、それでも彼らと会話すると自然と笑みが零れた。
 そのことを嬉しいと思うと同時に、一抹の悲しさも同時に覚えて、それを心の奥底にしまいこむ。

 「天子ちゃん、僕たちは……。その」
 「何も言わなくていいのよ、新八。これからあなたたちがやることはひどく単純で、簡単なことなんだから」

 静かに目を閉じて、そして、覚悟を決めて、再び瞼を開ける。

 「私が勝ったら、あなた達には幻想郷に残ってもらう。私が負けたら、この雨の異変は終わって、宴会の後にあなたたちは元の世界に帰れる。
 幻想郷のルールの一つに、勝者は決闘前に決めた報酬以外は受け取らない。相手が提示した報酬が気に食わなければ断ることが出来るというのがあるけど、どうする?
 もちろん、私はこれ以外には提示しないけど」
 「あのなぁ、そういうのは選択肢がねぇっていうんだよ。ワリにあわねぇから天界の桃もつけとけや」
 「いいわよ。そのくらいなら」

 軽口のたたきあい。その中には、決闘の約束も含まれていた。
 選択肢のない、むちゃくちゃな条件。けど、結局彼らにはその条件を飲むしかない。
 そういう条件を突きつけるために、彼女はこの異変を起こし続けたのだから。
 自分でも卑怯だと思う。それでも、今はその汚名も甘んじて受けよう。
 いってしまったからには戻れない。彼女の手には既に緋想の剣が握られている。

 「それにな、帰る帰らない以前によぉ、俺はここに【超絶わがまま娘】をオシオキしに来たんだぜ?」

 超絶わがまま娘。そんな言葉を聞いて、天子はクックッと苦笑した。
 なるほど、確かに。そんな奴は私以外にはいないだろう。と、なんだかおかしくて仕方がない。
 腰にさした木刀が、ゆっくりと引き抜かれる。それを確認した天子は、本当に―――満足そうに笑みを浮かべた。




 「それが私じゃないとは言わせない!!」
 「あったりまえだろーがっ!!」






 甲高い音が天界に響き渡る。
 駆け出した二人は木刀と緋想の剣を交差させ、これで最後になるかもしれない決闘が幕を開けた。










 ■あとがき■
 終わりが近づいてまいりました東方よろず屋。
 今回始終シリアスばかりでした。やばいよ、やばいよ。ギャグ入れるスペースがないよ先生!!
 まぁ、それはともかく、銀魂からみでシリアス一辺倒ってイイのだろうか? と思わなくもないですが、どうだったでしょうか?
 一応、あとは最終話とエピローグを残すのみとなりましたが、もう少しだけ皆さんお付き合いください。

 最近になって、ようやく友人の家で天子の曲を聴きました。
 有頂天変と幼心地の有頂天。この二曲をはじめて聞いたというのも、実は自分のPCは音源がぶっ壊れているのか音がまったくでないせいなんですが、まぁそれはともかく。
 もうなんていうか、この二曲を聞いて……なんだか知らないですけど涙が出てきてしまいました。
 なんでかはわからないんですけど、ただものすごく心に残るというか……うまく言えないですけど。凄くよかったです。

 そんなわけで次回、最終話「幼心地の有頂天」をお楽しみに。
 それでは、今回はこの辺で。



[3137] 東方よろず屋 最終話「幼心地の有頂天」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/08/17 18:46
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。
  今回オリキャラに準ずるキャラクターが登場するのでお気をつけください。















 それは、想像を絶するとしか表現しようのない戦いだった。少なくとも、志村新八と神楽の二人にとっては。
 花が咲き誇り、美しかった大地は見るも無残に荒れ果て、ある場所は陥没し、またある場所は隆起し、またある場所は空高く聳え立ち、またある場所は抉れて傷がついている。
 どうすればそんな惨状になるのか、それを目撃した当人達、あるいは戦いの真っ最中にあるあの二人以外にはわかるまい。
 もはや原形を留めぬ大地で戦っているのは、お互い仲間であるはずの二人。

 自らの世界に帰るために戦う、坂田銀時と。
 彼らと居たいがために、自身のわがままを突き通そうとする比那名居天子。

 それを見守っているのは、今この場には新八と神楽、そして定春のみであった。
 そう、つい先ほどまでは。

 「あら、先客が居たのね」
 「ゆ、幽香さん!?」

 ふわりと新八たちが居た場所に降り立つ日傘の少女、花の妖怪、風見幽香。
 ここ最近は太陽の畑の向日葵畑の様子を心配して、よろず屋にはしばらく来ていなかった少女である。

 「どうしたアルか姉御? こんな辺鄙な場所まで」
 「最近雨続きだったでしょう? どうも異変みたいだし、私の向日葵たちもそろそろ危険だから、この異変を起こした大馬鹿をコテンパンにしようと思ってたんだけど……」

 神楽の言葉に答える最中、ひときわ大きな破砕音が響き渡る。
 そちらに視線を向ければ、空から落下する天子が抱えた巨大な要石を木刀で粉砕する銀時の姿があった。
 そんな様子を見て、幽香はいつものようにくすくすと笑ってみせる。

 「先にあなたたちが居たってわけ。それにしても随分楽しそうね、妬けちゃうわ」
 「た、楽しそうって……」

 幽香の発言に冷や汗を流しながら、新八はチラリと再びかの戦場に視線を向ける。
 錐状の凶器となって銀時に牙をむく大地。その凶器を、愛用の木刀で打ち砕き、その隙に接近し緋想の剣を振りぬく天子。
 交差する木刀と宝剣。互いに一歩も引かず、譲らず、鍔迫り合いながらも互いの隙を見出そうとにらみ合っている。

 「楽しそう……ですか?」
 「えぇ、とても。本当なら、私が銀時と戦ってみたいものだわ。お互い全力で、ね?」

 クスリと、妖艶に笑って見せて、幽香は新八と神楽を流し見る。
 ただそれだけの行為に、ゾクリと、嫌な冷や汗が背筋が伝うのを感じてしまう。

 「あなたたちを殺したら、彼は本気の全力で戦ってくれるかしら?」

 クスクスと、幽香はそんな物騒なことを問いかけて、哂った。哂ってはいるが、その目はどこまでも平坦で、一切の感情を宿してなどいない。
 それで、新八は心のそこから、生理的な恐怖と共に理解する。

 彼女は本当に、人を食い殺す類の化け物なんだということを。

 そんなことは、頭の中では理解しているつもりだった。本当に、【理解したつもり】でしかなかったのだと痛感する。
 それは、単純な本能。捕食者と対峙した得物が、本能的に感じる潜在的な恐怖という感情。
 それが、彼女のその【笑顔】を見ただけで、白刃の下に引きずり出されてしまった。

 「なんて、冗談よ新八。そのおびえた顔、凄く可愛かったけど」

 だというのに、幽香はその【笑顔】をあっさりと引っ込めて、いつもの花咲くような笑顔を浮かべた。
 いつも見ている幽香の笑顔。そのいつもどおりの彼女に、新八はようやく潜在的な恐怖から立ち直った。
 はぁっと小さくため息をつき、頭を片手で押さえてフルフルと振るう。

 「幽香さん、洒落になってないですから今の。いい加減その人を困らせたり、怖がらせたり、トラウマ作ったりするの止めてください」
 「……まぁ。私に死ねとおっしゃるのね、新八」
 「治らないのかよ! ていうか治す気ゼロかっ!?」

 いつものようにからかってやると、また面白い反応を返す新八。だから、幽香は彼が好きだ。玩具的な意味で。
 だからか、幽香は先ほど言ったように新八たちを殺そうなどとは、ほとんど思っていない。
 それだけ、彼女もこのよろず屋を気に入っているということで、そのことを彼女が自覚しているかどうかは……まぁ、多分しているだろう。
 この反応が、もう見れなくなるのかと思うと少し物寂しい気もするが……、まぁいいか。と、幽香は思う。
 いざとなったら、あの八雲紫をぼこぼこにしてでも彼らの世界に行けばいいのだし。などと、かなりポジティブな思考だったりするのである。
 まさに強者の思考である。自称最強は伊達じゃない。彼女はやるといったら念入りに【殺ル】タイプなのだ。

 っと、そこでとある疑問に行き着いたのか、神楽は幽香に視線を向けて、言葉を紡ぐ。

 「そういえば姉御。竜宮のナンタラはどうしたアル?」
 「ん? あぁ、アレね」

 それが誰なのかに思い当たったのか、幽香はにこやかな、見る人物がみれば凄く【嫌】な笑みを浮かべて。


 「ここに来るの邪魔してきたからコテンパンにしたあと岩に縛り付けて放置してきたわ」
 「オィィィィ!! あんたどこまでサド気質全開なら気がすむんだぁぁぁぁ!!!?」


 そんな、なんでもないことのようにとんでもない爆弾発言をかましてくれちゃった幽香に、新八のツッコミが見事にこだまする。
 人呼んで花を操る妖怪改め、アルティメットサディスティッククリーチャー、風見幽香。彼女は今この場面においてもいつものようにマイペースを崩さなかったのである。

 くすくす笑ってゴーゴーです。










 


 ■東方よろず屋■
 ■最終話「幼心地の有頂天」■














 ゴシャリと、木刀によって砕かれた大地の槍。その隙を縫うようにして、天子は彼に接近した。
 大上段から一気に振りぬく一撃は、しかし、隙を見せたはずだった銀時の身を捻るような回避でかわされる。
 チッと舌打ちしたあと、彼女は途中で剣の軌道を無理やり帰る。振り下ろしから、直角に曲がるように繰り出される鋭利な薙ぎ払い。
 これにばかりはさすがの銀時もかわしきれずに、木刀の腹できっちりと受け止める。

 「本当に木刀なの、それ!? 緋想の剣を受け止めるどころか傷もつかないってどうなってんの!!?」
 「ばっかオメェ、こいつぁな、洞爺湖の仙人から譲り受けた由緒正しき―――」
 「嘘くさいにもほどがあるわよ!」

 明らかな大嘘を最後まで聞くこともなく、天子がタンッと軽く大地を踏む。それに気がついた銀時は慌てて真横に転がり込むように飛び込んだ。

 その刹那、先ほどまで彼がいた場所を、巨大な大地の錐が貫いていた。

 「オィィィィ!! お前少しは手加減しろよ!! そんなの食らったら銀さんグロいオブジェになっちゃうんですけどもぉぉぉぉ!!?」

 たまらず上がる悲鳴交じりのツッコミ。それにかまわず、天子はすぐさま行動を移していた。
 緋想の剣を大地に打ち付ける。その瞬間、マグニチュード8に届こうかという巨大なゆれが大地を、いや、銀時に襲い掛かる。
 襲い来る振動に、たまらず大地は悲鳴を上げて亀裂を生み、それに飲み込まれまいと銀時は必死に走り回る。
 その銀時を、比那名居天子は自身で起こしたこの大地震の影響をまったく受けずに追跡する。

 地震の影響を受け、足元のおぼつかないまま逃げる銀時と。
 地震の影響を受けず、いつもと変わらぬ速度で駆け抜ける天子。

 ゆえに、彼女が彼にすぐさま追いつくのは必然でもあった。
 加えて、銀時は足場が不安定。そんな状態でまともに迎撃できるほど、生憎と比那名居天子は弱くはなかった。

 「ぐっ!?」

 銀時の口から、空気が零れる音がする。
 結果的に、銀時はあの不安定な状態から天子の緋想の剣を見事に受け止めて見せた。そこはさすがと言うべきだろう。
 が、なにも彼女の攻撃手段は緋想の剣だけではない。銀時の体にダメージを与えたのは、みぞおちに直撃した鋭い蹴りだった。
 まともに受け、たまらずたたらを踏む銀時に向かって、天子の追撃が襲い掛かる。
 十分な遠心力を利用した、こめかみを狙いにいった後ろ回し蹴り。そして、地震が収まったのも丁度このとき。
 その瞬間を逃さず、とっさに銀時は後ろに飛んで、かろうじてその一撃をやり過ごした。
 ビュオンッ!! という風きり音。鼻先をかすめ、前髪の何本かが衝撃のあまりにちぎれて宙を舞う。
 タンッと、危なげながらも銀時は着地し、もう一度後ろに飛んで距離を離す。天子の追撃もここで一旦止まった。

 両者の間合いは開き、仕切りなおしというかのように二人は互いを視界に納めている。

 「相変わらずとんでもねー能力もッてんなコノヤロー。なかなかうまく攻めさせちゃもらえねー」
 「とんでもない……ねぇ。そんなこと言われたのは初めてだわ」

 相変わらずの軽口に、天子は小さくため息をつきながら答える。

 【大地を操る程度の能力】。それが、比那名居天子がもつ能力であり、彼女の強さを支えるものだ。
 が、彼女の能力はそもそも幻想郷においてはさして強力なものとはいいにくい。
 遠く離れた場所の局地的な大地震すらも可能にし、土砂崩れや大地の陥没もお手の物。そう聞けば、確かに強力ではあるし、その力の膨大さは考えるまでもないだろう。
 彼女の不幸といえば、そもそも幻想郷の決闘は基本的に【空の上】だという事実だ。
 対象が空に浮いているのであれば、彼女の能力は威力半減どころかほとんど役に立たないのが現状だったのである。

 だが、もし……もしもの話。相手が空を飛べない者だったなら?
 もし、飛び道具の持たない相手だったなら?
 足場もまともに確保できないなか、相手だけはそんなことも気にせずに移動できる。
 大地全てが敵であり、また凶器でもあるという事実。

 これが、強力でなくてなんだというのか?

 オマケに、彼女の能力は隙のなさもこれまた厄介だった。
 何しろ、彼女はイメージして大地を少し強く踏む。これだけで大地の槍を作り出せるし、緋想の剣を打ち付けて広範囲に大規模な地震すらも起こせる。
 実に馬鹿げている。オマケに、天子の体はナイフが刺さらないほどに頑丈でもあるし、なによりも打たれ強い。
 さすがに、速度は射命丸文や風見幽香には及ばないが、それでも十分に早く、攻撃には威力もある。

 口の中に広がってきた鉄錆の味を無くすために、ぺっと血の混じった唾を吐き捨てる。
 みぞおちの辺りに鈍く重い痛みが沈殿するが、それを意識しないようにギッと奥歯を噛み締める。

 はっきり言おう。彼女は、比那名居天子は間違いなく強かった。

 「ったく、駄々っ子の相手も楽じゃねーな」
 「えぇ、そうですね。駄々っ子はつまるところ自分の我を通そうとする子供ですものね。否定はしません」
 「自覚あるところがまた手に負えねぇ」

 くすくすと天子は笑い、銀時はうんざりとしたように呟いた。
 そんな様子がおかしかったのか、彼女はまた一層おかしく笑ってみせる。
 その姿が、本当に可笑しそうで、本当に楽しそうで、遊びに夢中な童女のようだった。

 そこには、いつもの彼女がいた。
 そこには、いつもよろず屋で見せていた彼女の顔があった。
 ともすれば命のやり取りとも足られかねない激しい戦闘を行っている最中で、天子は実に楽しそうに笑うのだ。
 そんな姿を見て、銀時は小さくため息をつきながら目の前の少女に言葉を投げかける。

 「さって、そろそろ決着と行こうじゃねーの。おーい、てんこ。オメェの切り札、俺に使って来いや」
 「だから、てんこじゃありませんってば……って、今更ですね。
 それはつまり、あなたが私のスペルカードを破れたら、あなたの勝ちに。破れなかったら私の勝ちにしようと、つまりはそういうこと?」
 「おうよ。このままやってても埒があかねぇ。つーか、今更俺に敬語でしゃべるなッツーの、気持ちわりー」
 「やっぱり?」

 今度は、お互いに苦笑した。
 銀時の提案は、端的にいえば無謀以外のなんでもない。いや、彼にはある意味ではこれしかないのだ。
 銀時の身体能力はずば抜けている。それこそ、普通の人間とは思えないほどに卓越し、技術という面においても尋常なものではない。
 だが、唯一、持久力というてんでだけは、どうしても彼は劣ってしまう。
 だから、彼は短期決戦を挑むしかない。比那名居天子に隙がないなら、その隙を作るしかない。

 無論、その狙いには天子だって気付いていた。彼女は天人であるだけに知識や思考能力においても常人よりははるかに上だ。
 ならば、その銀時の案を蹴れば、それで彼女の勝利はほぼ確定となる。彼女はその選択をするべきだ。
 だが―――

 「いいわ。受けてたちましょう」

 ……彼女は、その選択をよしとはしなかった。
 自身のけじめをつけるために、自身のわがままのために、だけど大切な場所を引き止めたいがために始めた、この決闘。
 ならば、相手の挑戦を受けて勝利してこそ、その勝利には意味がある。
 少なくとも、天子はそう思った。だからこそ、彼のその言葉に同意した。

 それに何より、彼女は自分の持つ最強の切り札であるあのスペルカードに、絶対の自信があったのだ。

 スッと、一枚の緋色のスペルカードを懐から取り出す。一旦目を瞑り、天子は祈るように瞑目したあと、改めて銀時を視界に納めた。

 「銀さん、私、出来る限り威力を押さえるけど、うまく防ぐなり回避するなりしないと……」

 すぅっと、目を細める。その瞳に、一体どんな感情を宿したのか、銀時が知る前に―――


 「下手をすると、死ぬからね」


 ……そんな、心底物騒な言葉を紡ぎだした。






















 「あれ?」
 「うぉぉ!? 私の体から変な靄みたいなのが溢れてるよ新八!?」

 その異変に気がついたのは、新八と神楽の二人だった。
 二人の体からは緋色の靄が大気に昇り、よくみれば幽香の体からもそれは吹き上がっている。
 緋色の靄は大気に昇り、やがてそれはある一転を目指して収束していく。その様子を見た新八は、そうしてあることに気がついた。

 「な、なんなんですかこれっ!?」

 空が、緋色の靄に包まれていた。緋色の靄がありとあらゆる場所から一転を目指して収束していき、その膨大さゆえに空が緋色に染まって見えているという怪異を生み出した。

 その緋色の靄が集まっていく先には、比那名居天子の姿がある。

 「新八、神楽。定春をつれて私の後ろに」

 幽香からの、静かな声。その声に一瞬呆然としたが、新八と神楽は慌てて定春をつれて彼女の後ろに回った。
 それを彼女が確認すると、愛用の日傘を開き、盾のように眼前に突き出した。

 「下手に動かないで。私の後ろから絶対に出ないこと。でないと―――」

 幽香の顔には、相変わらず表情はない。冷たく、いつもの笑みすらない能面。そんな表情のまま……。


 「ただじゃ済まないわよ。あんなものが直撃したらね」


 そんな、言葉を紡ぎだしていた。




























 「―――『全人類の緋想天』―――」


 そうして、彼女はスペルカードを宣言した。
 途端、銀時の体から緋色の靄が噴出し、天子の眼前に集まっていく。
 いや、銀時からだけではない。気がつけば、どこから集まってきたのか空を緋色に覆うほどの緋色の靄が彼女に向かって集まっていく。
 彼女の手のひらに、ぎゅうぎゅうに圧縮されていく緋色の靄。だというのに、緋色の靄はとどまることもなく遠慮無しにその場所に集まってきている。

 それは、その赤い靄は、人々や妖怪たちが持つ【気質】。人々が潜在的に持っている気象で現せるその人間の気性。
 博麗霊夢なら【快晴】、十六夜咲夜ならば【曇天】、霧雨魔理沙ならば【霧雨】、八雲紫なら【天気雨】。
 その【気質】が、緋想の剣の力を借りて、天子の眼前に集まってきている。

 ゆっくりと、天子は少しだけ宙に浮いた。
 その間にも緋色の気質は集まり続け、見ただけでもわかるほど膨大な力の塊が今かと今かと解放を待ち望んでいる。
 だというのに、その力は未だに集まり続けている。一体どこからそんなに集まってくるのかと疑問に思うほど、その気質はどこからともなく集まり続けていた。
 その答えは、彼女が宣言したスペルカードの名の中にあった。

 【全人類の緋想天】。つまり、その力は彼女だけではなく、ましてやこの場にいる全員からでもない。
 文字通り、この幻想郷、果ては外の世界全ての人間や妖怪の気質をかき集めている。
 世界には人間だけで、すでに桁外れな人数が存在している。その全員から気質をかき集めたスペルカードのその破壊力。
 その破壊力を想像して、あまりの規模のでかさに冷や汗が流れ出すのを止められない。
 ヤバイなんていうものじゃない。本能が全力で逃げろと警告し、わめきたててくる。

 「おいおいおい、マジかよ。洒落になってねぇっつーの」

 思わず、そんなことをぼやいてしまう。はたから見れば神々しいだろうその光景も、もう少ししたら自身に向けられるのだと思うとそんな感想すらも抱けない。

 だから、銀時は走り出した。後ろにではなく、全力で前へ。

 その規模ゆえに、それの発射までには時間がかかる。その間に天子を気絶させるなり、一撃入れさえすればそこで銀時の勝ちだ。
 だが、それを実行するには、銀時と天子との距離は、あまりにも遠かった。

 空が元の色を取り戻す。ギチギチに収束した緋色の気質は、天子の両腕に抱かれるようにそこに顕在した。
 良くも悪くも、この一撃で全てが決まる。それを自覚して、改めて、天子は己が覚悟を強固にする。
 もう、後には戻れない。どっちが勝っても、どっちが負けても、これで【最初で最後】なのだという事実。
 緋色の気質が、出口を求めて膨張を開始する。それを、銀時に向かって突き出して―――

 「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええっ!!!!!!」

 彼女の最強のスペルカードが、今まさに放たれたのだ。
 緋色の気質はまるで巨大なレーザーのように直線状を薙ぎ払う。
 空気を焼き、大地を抉り、緋色があらゆるものを蹂躙する。
 それを目の当たりにして、銀時はどこが威力を抑えるだよっ!! と愚痴を零したくなったが、生憎これでも威力は抑えてあるのだ。

 それほどまでに、彼女のこのスペルカードは強力だった。
 その本来の破壊力は、それこそ単純な威力でいうならば、フランのスペルカードにも匹敵しうるだろう、天子のもつ最強の切り札。

 威力、攻撃範囲、速度、どれも十分すぎる。避けようにも、タイミング的にとてもよけれるようなものではなかった。ここに来て、彼女に向かって走り出したことが裏目に出た。
 もし、彼女に向かって走っていなければ、最悪回避ぐらいは間に合っただろうが、今となってはもう後の祭りだ。
 そんな圧倒的な暴力の奔流を目の前にして、銀時はあろうことか、顔をかばうように腕をクロスさせ、その緋色の暴力の中に身を躍らせたのだ。
 避けられないのなら、防御しながら突っ込む。それが、銀時の選んだ選択だった。


 「なっ!?」
 「フンごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」

 天子の驚愕の声と、銀時の気合なのか踏ん張るような声が同時に上がる。
 肉のこげる匂いが鼻につく。ただれ、焦げて、顔を除く全身が火傷のような熱に襲われていく。
 それもしばらくして、何も感じなくなった。どうやら、痛みをつかさどる神経が麻痺したらしい。
 意識が遠のく。視界は緋色で埋め尽くされて、ともすれば心がくじけそうになる。それでも―――

 「なめんじゃねぇっつーの!!」

 気合を乗せた言葉で、そのくじけそうな心を強くする。
 その足は止まらない。駆け出している脚は、いまだ深い傷を負いながらも止まらずに前へ進む。


 そして、緋色の本流の中から、白の夜叉が飛び出してきた。
 天子が居た場所よりもはるか高くに跳躍し、大きく木刀を振りかぶる。
 その姿を天子が捉えたとき、彼女はその姿に驚愕した。

 満身創痍なんてものじゃない。とても戦えるような体ではなかった。
 腕と脚からは煙が上がり、おそらく焼け爛れたか、悪い場所は炭になっているだろう。特に、服のなかった腕はその被害は一目瞭然だった。

 そうして、緋色の暴力はやがて力を失い、完全に消失する。
 でも、天子はそんなことも気にならないくらい、違うものに魅入られていた。

 ぼろぼろの体。全身、無事なところなんてほとんどないのに、それでも、その男の目はこれっぽっちも死んでいなかった。
 いつもとは違う、死んだ魚のような目ではなく、もっと鋭利で底冷えのするような、そんな目に、天子はただ魅入られた。


 かつて、白夜叉と呼ばれ恐れられた男は、この土壇場になってかつての姿を取り戻したのだ。


 「こんの超絶わがまま娘ぇぇぇぇ!! 歯ぁくいしばれぇぇぇぇ!!!」

 気合と共に振り下ろされた一撃は、重力と落下の力も合わさって十分な重さとなる。
 木刀は天子の肩口に叩きつけられ、その衝撃は十二分に彼女の体を貫いていく。

 その一瞬が、二人にはとても長い時間に感じられた。それこそ、終わりの感じられないほど長い長い時間に。

 無残な大地にたたきつけられる二人。盛大な土煙が巻き起こって、それが二人を包み込んだ。

 ずきずきと、たたきつけられた場所が痛む。それが……天子に、自分自身がどうなったのかを知らしめる。

 「負けた……。あ、はは……そっか、負けちゃったのか」

 力なく、彼女は笑った。笑ってはいたが、目から溢れる涙が止まらなくて、やがて嗚咽が零れ始めた。
 守りたい場所があった。無くしたくない場所があった。だけどその場所は―――零れ落ちてしまった。

 「ぅっく、……ぁぁあああっ」

 止めようとしても、止めようとがんばってみても、どうしても……止まってくれなかった。
 涙も、嗚咽も、どちらも止まらないまま。

 天子はただ、仰向けに倒れたまま泣き続けていた。




















 「あー、マジ痛ぇ。マジでいてぇんですけどコレ。その場のノリで突っ込むんじゃなったなこりゃ」

 ずきずきと痛みが復活してきた頃、銀時はそんなことをぼやいていた。
 まだあらかた痛みが麻痺しているのと、アドレナリンが放出されているおかげもあるのだろう。傷のワリにはまだまだ大丈夫そうな銀時だった。
 そんな彼に、歩み寄る人影があった。
 新八と神楽、そして―――

 「あれ? なんでオメェがいるんですか、ゆうかりん?」

 恐ろしいほどに上機嫌な幽香が定春に腰掛けてやってきた。
 そんな銀時の疑問の声に、幽香はニコニコと笑顔を浮かべて、その疑問に答える。

 「何でも何も、私も異変を解決しに来たんだけど、おかげでいいもの見れたわ」

 いい物を見れた。それは、彼女があの日からもう一度見たいと思っていたあの目だった。
 それを、意外な形で見ることが出来た。だから、彼女はものすごく機嫌がよかった。
 いい物を見れたという言葉に、何か別のものを想像したのだろう。銀時はものすごく微妙な顔をした。

 「相変わらず趣味ワリィな。おめぇは」
 「なんとでも」

 くすくすと笑いながら、幽香は手を差し出す。

 「さ、掴まって」
 「掴まれるわけねぇだろーが!! お前この腕見ろこのやろー!!」
 「わかってて言ってるんだけど?」

 幽香の容赦のないからかいに、銀時の怒りのボルテージが急上昇。
 本当にこの妖怪、相手が誰だろうがどんな状況だろうが容赦しねぇのであった。
 そんな様子の銀時に、やれやれと肩をすくめる幽香だったが、彼をいじめるのも一旦おいておき、倒れたままの天子に視線を向けた。

 「……どう? 新八」
 「……寝てますね。もうこれでもかってくらいに」

 幽香の言葉に新八が答える。その言葉の通りに、天子は泣きつかれたのかその場で安らかな寝息を立てて眠っていた。
 それも、当然なのかもしれない。彼女はこの一週間、ほとんど眠ってなどいなかったのだから。
 何しろ今回の異変、目的を果たすにはずっと雨を降らせなければいけなかった。
 以前のように人の気質に任せても、望んだ結果は得られない。うっかり晴れてしまったらそれこそ彼女の努力が無駄になる。
 だから、彼女は眠ることもせずに、緋想の剣を使って気象を操り続けた。
 その反動だろう。彼女は一向に起きる気配を見せなかった。

 「あらあら、満身創痍ですわね」

 にゅっと、何もない虚空に亀裂が走り、スキマが生まれて中から女性が顔を覗かせる。

 「おー、ゆかりんじゃねぇの。いつから見てやがった?」
 「それはもう最初ッから。霊夢たちと一緒にね」

 くすくすと笑う女性、八雲紫。彼女の言葉の通りに、隙間の向こう側には博麗霊夢のほかに、大宴会で集まるいつものメンバーが勢ぞろいしていたのである。
 その様子に、銀時は思わずため息をついた。

 「おいおいおい。俺はみせもんじゃねぇんですけど?」
 「あら、それはごめんなさい」

 胡散臭く誤る紫。そんな様子に、銀時はますます深いため息を漏らしたのであった。
 そんな様子を見ても、紫はやっぱりくすくすと妖しく笑うだけ。
 もう直らないんだろう。彼女のこういう胡散臭い性格は。
 だけどまぁいいかと、銀時はいい加減に納得して、大地に倒れ付したまま空を見上げる。

 地上では、雨はもうとっくに降り止んで、晴れ晴れとした青空が広がっているに違いないのだから。



















 そうして、彼女は目を覚ました。
 目を覚ました瞬間、目の前にあったのはいけ好かないスキマ妖怪の顔。

 「……最悪ね」
 「ひどいわね、もう」

 直球なその感想にも、紫は気を悪くした風もなくころころと笑う。
 彼女……天子はゆっくりと身を起こし、辺りを見回してみると、その光景に気がついた。
 いつものようなドンちゃん騒ぎ。いつも異常にハイテンションなそのメンバーに混じって、よろず屋の面々も楽しげに混ざっていた。
 大怪我をしていたはずの銀時は、今もやっぱり包帯でぐるぐる巻き状態だったが、それでもだいぶ元気そうである。
 頑丈な奴。素直にそう思う天子であった。

 そして、同時に、自分が負けたのだという事実が、より一層心を支配していく。

 「……情けないなぁ。決めたはずだったのに」

 ポツリと呟いて、天子は自嘲するように笑みを零す。
 なんてことはない。ちゃんと決めたはずなのに、ちゃんと覚悟したはずなのに、まだ帰って欲しくないという自分がいることが、ただ情けなく感じた。
 負けた自分が、あいつ等に最後に出来るのは、笑顔で送り帰してやる。ただ、それだけだっていうのに。

 「さ、天人もおきたことですし、記念写真でも取りましょうか」
 「わっかりました!! 私の出番ですね!!」

 そんな天子の心情をまるっきり無視して、紫の写真という言葉を聞いて俄然とやる気の上がる鴉天狗、射命丸文。
 そんな様子を見て、寝起きでイマイチ頭の回らない頭で考えようとするが、うまくいかない。
 夜のほとぼりが落ちた博麗神社。今この場の宴会は、かつてないほどに大きなものになっているらしい。
 幽霊楽団のプリズムリバー三姉妹に、ミスティアのボーカルコラボ。
 ある意味では豪華なそのキャスティングな歌の最中に、みんながみんな文の前に集まっていく。

 「さ、あなたはこっち」
 「え、ちょ、ちょっと」

 紫に押されて、天子がいる場所は銀時の隣。反対側には幽香もいたりするが、それに気付くほど意識が集中できない。

 終わりが近い。その事実を、否が応にも認識させられる。だけど回りはそんなことも気にしないといわんばかりに、がやがやと馬鹿騒ぎを引き起こしている。
 世界は回っている。ぐるぐるぐるぐる。彼女の心の整理などお構い無しに、世界はただ無情に進んでいく。

 「よぉ、目ぇ醒めたか」
 「う……うん」

 いつものように気だるげな言葉で問いかけられて、でも、なんとこたえていいのかわからず、つい口ごもる。
 らしくないとは思う。だけど、整理をつけたはずの心が、未だにごたごたとしていて、思ったとおりの反応が出来ないでいた。
 そんな天子の様子に気がついたのか、銀時は小さくため息をつきながら言葉をつむぐ。

 「今まで、悪かったな。散々世話になっちまった。お前ぇにも、それにこの世界にもな」

 感慨深そうに、銀時はその言葉をつむぎだす。もう一度、今いる幻想郷の風景を視界に焼き付けるように。
 その銀時の表情を見て、胸がずきりと痛むのを感じる。

 「世話になったのは、私のほうよ」
 「そうかねぇ?」
 「そうなのよ」

 軽口がうまく、言葉になってくれて、それで少し心が軽くなる。
 その言葉は偽りのない本心で、代わりようのない事実のひとつ。
 相変わらず、目の前に銀髪はやる気なんてないような表情をしているけれど、それが彼らしいのだと、そう思う。

 「それからよ、もうちょっと手加減しろよおめーは。おかげで満身創痍じゃねーか」
 「だからしたってば。アレはあれで精一杯なのよ。真正面から突っ込んだ銀さんの自業自得よ」
 「いや、ほらアレだ。だってあのモヤモヤ綿菓子みたいだったじゃん? つい食いつきたくなったんですよ銀さんは」
 「嘘ばっかり」

 意味のよくわからない返答に、今度はちゃんと笑みを浮かべることが出来た。
 本当に、不思議なものだと思う。銀時と話していると、沈んでいた気持ちがいつもの調子に戻っていくのを感じるのだ。
 「それじゃ、とりますよー」なんて、元気のいい鴉天狗の声が聞こえてきて、二人は同時に前を向いた。
 タイマーをセットしたらしい文が、慌ててこちらに走ってくる。そして彼女は銀時の前、新八と神楽の間に陣取った。
 思いっきり写真に写るど真ん中。とびっきりの特等席である。
 その様子に各所で「ずるっ!?」なんて声が聞こえてきたが、文はそれを聞かないフリをして銀時に背中を預け、ぺロッと小さく舌を出して見せた。



 「はい、チーズ!」



 問答無用。そういわんばかりの文の言葉と同時に、パシャッという音とフラッシュが辺りを一瞬照らした。
 あとは阿鼻叫喚の地獄絵図。文の行為に怒りを覚えた一部のメンツが彼女を捉えようと追っかけまわし、その文は怪我人の銀時を抱えて文字通り音速を超えて逃亡を開始した。

 かつてないほど騒々しく、かつてないほど大騒ぎした大宴会。
 そんな様子を眺めて心底頭痛そうに手で押さえている霊夢の姿は、実に印象的であった。


 ちなみに、文に逃亡のための道具として散々連れまわされた銀時は、博麗神社に帰り着いた頃には音速を超えたGによって怪我が悪化するどころか怪我が増えまくっていたことは言うまでもない。


























 そうして、とうとうその時はやってきた。
 辺りは先ほどまでの大騒ぎが嘘のように、しんっと静まり返っている。
 ほとんどのメンバーが酔いつぶれ、この博麗神社に無事に残っているのはよろず屋のメンバーと、八雲紫、アオ、伊吹萃香、そして風見幽香と比那名居天子。

 「ほら、コレは私特性のお酒。大事に飲んでよ~。鬼のお酒なんて貴重なんだからさ」
 「おうよ、ありがたく貰っとく」

 酒ビンに入った萃香特性のお酒を受け取る銀時。見るだけで確かにおいしそうなそのお酒を、銀時はしげしげと見つめている。

 「私からはコレ。私が特にいいのを選んであげたから、大切にね」

 そう言って、大きな向日葵の花を神楽に渡したのは、幽香である。
 彼女のことを知っている人物なら、少なくともその行為に驚愕することだろう。
 彼女の手渡したその向日葵は、彼女の能力で生み出したものではなく、あの太陽の畑に咲いている一輪なのだから。

 「ありがとうアル、姉御。みんなで大事にするアルヨ!」
 「ぜひそうして頂戴。でなかったら思いっきりひっぱたくんだから。主に銀時を」
 「俺!!? なんでですか!!? 意味わかんねぇんですけどぉ!!?」

 神楽のお礼の言葉に、やっぱり銀時を対照にした言葉の刃をさらりと混ぜる幽香。その幽香に身の危険を感じてツッコミを入れる銀時。
 あれは絶対に大事にしようと思わせるには十分だったらしい。やっぱり彼女は人を苛め倒すのが大好きなのである。
 銀時のそんな様子を見て、クスクスと満足そうに笑うデンジャラスサディスティッククリーチャー。この辺、彼女の性格をより強く表してると思う。

 「私は写真が現像できたら紫さんに頼んでそちらにもっていってもらいますんで、それまで少々お待ちください」
 「ありがとう、文さん。楽しみにしてますね」
 「えぇ、待っていてください新八君。きっとステキな写真になってますから」

 文の言葉に新八が答え、彼女は自信満々にそんな言葉を紡いでいる。
 新聞記者としてのプライドか、それともカメラマンとしての絶対の自信なのか、どちらかはわからないが、よっぽど自信があるらしい。
 その生き生きした表情が、実に天真爛漫な彼女らしい表情だった。

 「うちは、なんも用意できひんかったから、これで勘弁したってな」

 そう言って、少し照れたように笑うと、アオは銀時の頬に軽くキスをする。
 そのことに一瞬驚いた銀時だったが、同じことを新八と神楽、定春にもやっていたので、どうやらスキンシップの一種らしいと安堵する。

 この場では、誰も知らないことではあったが、実はこのとき、アオは自分の能力を彼らに使っていた。
 彼女の能力は、【自身の幸運を他人に分け与える程度の能力】。
 そのため、彼女はこの能力を使うたびに誰かを少しだけ幸せに出来る代わりに、自分自身の運が下がっていく。
 彼女の不幸体質の一旦は、この能力こそが原因であるとも言えた。
 だからか、この能力の本質を知ったとき、なるべく使わないようにしてきたのだが、それでも今回彼女は使うことをためらわなかった。

 彼女にとって、彼らは第二の家族のようだったから。だから、家族に幸せになって欲しいと願うのは、当然のことなんだから。

 「さて、そろそろ時間よ」

 そして、そのことを告げたのは誰でもない、八雲紫だった。
 彼女の能力が時限の境界をあいまいにし、世界と世界を繋いで道を作る。
 巨大なスキマが出来上がり、それは彼らが通るのをただ待ち続けている。

 「みんな」

 小さな言葉。その言葉を紡いだのは、ほかでもない天子だった。
 その言葉に、銀時たちが振り向く。その視線が天子に向けられて、彼女は小さく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 そうして、彼女は精一杯の笑顔を浮かべた。決闘に負けたときはそうやって彼らを送り帰そうと、ずっと心に決めていたから。
 うまく笑えていたか、少し自信はなかったけれど、それでも、天子はその言葉を彼らに投げかける。

 「今まで、本当にありがとう。さようなら」

 いってしまってから、涙がまた溢れそうになる。だけど、それだけは見せたくなくて、彼女は必死になってそれを押さえ込んだ。
 それは、彼女の秘めた精一杯の気持ち。今まで楽しい時間をくれた、彼らに対する最高の賛辞。
 もっと、うまい言葉があったかもしれない。だけど、それ以上どう言葉で気持ちを表せばいいのだろう?
 だから、きっとそれだけで十分だったのだ。それだけあれば、彼らは理解してくれるだろうから。

 「そりゃこっちの台詞だっつーの。けどな天子、一つ間違ってんぞ」

 そして、帰ってきたのは意外な返答。一瞬「え?」と呆けた声を上げてしまいそうになった天子だったが、次に彼から飛び出した言葉にまた驚愕することになる。


 「こういう時は、『さよなら』じゃなくて『またな』って言うもんだろーが」


 その言葉に驚いたのは、何も天子だけではない。この場にいた、ほとんどが、その言葉の意味を理解して内心驚いていた。
 この男は、またいつか会えると思っている。彼女達と出会えるのだと、微塵も疑ってなんていなかった。
 それが当然のことのように、彼はそんな言葉をいつものように紡ぎだしていた。

 「あっははははは!! いやぁ、銀時らしいねぇ!!」
 と、これは萃香。

 「まったくね。一度頭カチ割ってどうなってるか見てみたいわね」
 これは幽香の弁。

 「あやや~、最後の最後まで変わりませんねぇ」
 苦笑しているが、どこか楽しそうな文。

 「まぁ、銀さんらしいっちゃ、らしいなぁ」
 どこか呆れたようなアオの言葉。

 「あらあら、それはつまり私にみんなから喧嘩売られろってことなのね。酷いですわ」
 言葉とは裏腹に、実に楽しそうにいう紫。

 「そうですよ。またいつか会えますって。今度、僕等の家にも来てくださいよ。案内しますから」
 「そうアル。私たちよろず屋銀ちゃんが面白おかしく案内してあげるアルヨ!」

 新八の言葉に同意するように、神楽は笑顔を浮かべてそんなことを言う。
 銀時だけでなく、彼らもまた会えるのだと疑っていない。

 そんな彼らを見ていると、ごちゃごちゃと悩んでいた自分が、なんだか馬鹿らしく感じてしまう。
 そう、自分も彼らの一員。彼らの仲間。だったら、彼らのその能天気さに、自分が乗ったって何にも罰は当たらないだろう。

 「えぇ、わかった。いつかそっちに行くから、絶対に案内してよね。約束よ?」

 いつもどおりの、天子の言葉。悩みも悲しみもない、いつもどおりの彼女の屈託のない言葉。
 その言葉に安心したように、銀時たちはそろってうなずいて見せた。
 その様子にみんなして苦笑して、そしてゆっくりと時は過ぎていく。



 「それじゃ、またね」
 「それじゃ、またな」



 笑顔で伝えた、再開を約束した言葉。
 その言葉を最後に、銀時たちはそのスキマをくぐってもとの世界へと帰っていく。

 そうしてスキマが消えて、彼らはこの幻想郷をあとにした。
 だけど、誰も悲しんではいない。だれもさびしいとは思わない。

 だっていつか、また彼らと会えるのだということを知っているから。
 だって、彼らとまた会うのだと、そう約束したのだから。













 それは、長いようで短かった、楽しい楽しい、三ヶ月の間の出来事。



 ■あとがき■

 みなさん、どうだったでしょうか?
 最終話「幼心地の有頂天」をお送りいたしました。これで残るはエピローグのみとなります。
 なんか過去最長の話になってしまい、皆さんが飽きないか心配で仕方ないです^^;
 ところどころ真夜中に書いた部分もあるので、どこか分がおかしかったりするかもしれません。

 今回アオの能力は初公開。色々なやんだ結果こうなりましたが、皆さんいかがだったでしょう^^;

 それでは、エピローグはなるべく早く上げたいと思います。
 ではでは、今回はこの辺で。



[3137] 東方よろず屋 エピローグ「彼と彼女の”また会える日まで”」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/08/24 01:34
 ※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。











 目を覚ませば、そこはやはり最近すっかり見慣れてしまった光景が広がっていた。



 「目を覚ましましたか? 総領娘様」
 「衣玖? ……あー、そっか。また負けたのね、私」

 ボーっとしたままの頭で、視界に映った人物の名を呟き、自分自身がどうなったのかを鮮明に思い出す。

 「毎回毎回よくやるなぁ、お前等。見てて惚れ惚れするぐらい負け続きだけどな」
 「まったくね。というか、何でよりにもよってウチで決闘するわけ、あんたら」

 横合いから聞こえてきた声に、私は少々不機嫌になりながら「ほっといてよ」と口にして、横になっていた体をゆっくりと起こしていく。
 場所は博麗神社の縁側。私は彼女達と……、博麗霊夢、霧雨魔理沙、そして永江衣玖と同じように腰掛けて、小さくため息をついて先ほどのことを思い出す。
 八雲紫とスペルカードルールで決闘して、また負けた。これで通算14度目の敗北だった。

 あの日、銀時たちと別れて2週間がたつ。
 あの時、私達は再会を約束し、その約束を果たすために八雲紫に決闘を挑む。
 何しろ、八雲紫しか彼らの世界にいく方法を持たないのだ。だからあの日のうちに八雲紫が、私……、いや、私たちに突きつけた条件は、たった一つ。

 スペルカードルールの決闘で、私たちの誰かが彼女に勝利する。という、実に単純でわかりやすく、そしてこの上なく難儀な条件だった。

 八雲紫は強い。それがどんな決闘方法であれ、あのスキマ妖怪は常軌を逸した強さを誇っている。
 スペルカードルールであるという時点で望みはある程度あるのだけど、それでもやはり彼女に勝つのは難しい。
 彼女に勝てるとしたらそれは―――、スペルカードルールの決闘方法において天倵の才をもつ博麗霊夢ぐらいのものだろう。
 ことスペルカードルールにおいて、彼女に勝る相手は今のところ想像できない。

 ……まぁ、霊夢はこのことに関してはまるで無関心だから、彼女が紫に『これ』関連の決闘を挑むことはないと思うけど……。

 今のところ、戦況というのもあまりよろしい状況ではなかったりする。
 私は言わずもがな毎日決闘を挑んで結果は惨敗。
 幽香は今のところ挑むつもりはないらしく、もっぱら太陽の畑で向日葵の世話にいそしんでいる。そんなわけで、唯一アレに勝てそうな彼女はこの夏が終わるまで期待できない。
 射命丸文も銀時たちの世界に興味があるのか、彼女も彼女なりに時たま決闘を挑んでいるらしいけど、今のところ勝ったという報告は聞かない。
 アオは……、そもそも飛翔が出来ない彼女はスペルカードルールを用いた決闘が出来ないので、決闘自体はまったく別の方法が用いられた。

 彼女だけじゃんけん。聞く人が聞けば「なんて緩い条件なんだろう」とか口走りそうだが、舐めてはいけない。相手はあのアオだ。
 現在、人里の元よろず屋に居を構え、今もよろず屋をついで忙しく駆け回っている彼女に、先日戦況を聞いたところ、5千回中全敗というステキすぎて寒気を覚える返答が返ってきた。

 5千回よ? 普通考えて最低でもあいこぐらいあるじゃない? その全てが初手で負けてるとかどんな確率なのよ?
 そんなわけで、アオは期待できない。というか、期待するほうが酷かもしれない。改めて彼女の不幸体質を実感できる話よね。

 「ま、なんとかなるわよね」

 一人呟いて、なんと無しに苦笑する。
 ほかのメンバーが一体何事かと怪訝な表情を浮かべていたけど、私はそれを気にしなかった。
 彼らは今何をしているのだろう? そんなことを想像して、それが鮮明に想像できるものだから、またくすくすと笑ってしまう。

 「……頭の病気?」
 「失敬な」

 まじめな顔されて言われた言葉に軽く傷つきながらも、私はしっかりと返答して空を見上げた。
 手元には、今日現像できたらしい一枚の写真。今度はそちらに視線を移して、そのあわただしい写真を見て、ついつい苦笑する。

 大丈夫。私はがんばれる。感傷に浸るなんて私らしくないけれど、それでも私は私のやりたいようにこれからも生きるのだ。
 今はまだ届かないけれど、それでも泣き言なんていってやるものか。あのスキマ妖怪から一本とればいいのだから、きっと何とかしてみせるんだから。



 だって、約束した。私たちはまた会うんだって約束したんだから。
 だから、待ってなさいよみんな。―――また会える日まで―――









 


 ■東方よろず屋■
 ■エピローグ「彼と彼女の”また会える日まで”」■














 「いい加減家賃払えッつってんだろーがクソボケェェェェェェェ!!」
 「だからちょっと待てって言ってんだろーがクソババァ!! ほら、アレだ、昨日ビデオ直してやっただろーが。あれでチャラでいいだろ!!」

 太陽がさんさんと輝き、今日もかぶき町は活気に満ちている。
 そんななか、今日も今日とていつものやり取りを繰り広げているのはスナックお登勢の二階、よろず屋の玄関にいる二人。
 よろず屋の大家、年のころなら60代ながらも未だに元気なお登勢とそのよろず屋の主である坂田銀時である。
 その二人を、よろず屋の中で眺めている従業員、志村新八と神楽、その神楽のペットたる定春。

 「帰ってきたんだね、僕等」
 「新八、それこれで何回目アル? ここ2週間はずっと同じことをアレ見てるたびに言ってるネ」

 新八の感慨深く呟く言葉に、神楽が酢昆布をかじりながらそんなことを言葉にする。
 ここ三ヶ月、彼らはこの世界では行方不明者として扱われていた。何しろ、本当に彼らは三ヶ月前、忽然と姿を消したのだ。

 幻想郷という異世界。そこに、彼らは迷い込んだ。どこぞのスキマ妖怪が寝ぼけたせいで。

 まぁそれはともかく、戻ってきた彼らはまず自分達の住居とも言うべきよろず屋がまだ残っていることに安堵した。
 この辺、実はアオが残した能力の影響だったりするのだが、本人達は知るよしもない。
 新八は家に帰ると、姉であるお妙にひとしきり泣かれたあと、お約束といわんばかりにぼこぼこにされたりするが、この際余談である。
 いわく、「てめぇ、人に散々心配かけといて今まで何してやがったんだコノヤロー!!」とかなんとか。とても三ヶ月行方不明だった弟にかける言葉ではないが、それはさておき。

 「元気にしてるかな、天子ちゃんたち」

 なんともなしに呟いて、新八は窓の外に視線を向ける。
 長いこと見慣れた風景。だけど、幻想郷で営んでいたよろず屋からの光景も、鮮明に思い出せて、ダブって映る。

 騒がしかった三ヶ月。
 わがままを言いながらも楽しげにしていた比那名居天子。
 面白おかしく、マイペースに人を弄り倒した風見幽香。
 自由気ままに騒ぎまくった三妖精。
 紅茶を嗜みながら、なにかとちょっかいをかけてくるレミリア・スカーレット。
 そんな彼女に付き従い、結果的によろず屋に入り浸ることとなった十六夜咲夜。
 夕方にはいつものように射命丸文が酒を片手に尋ねてきて。
 それに混じる形で伊吹萃香が参戦する。
 そんな彼女等に巻き込まれて、なし崩し的に参加することになるお隣さんの稗田阿求。

 よろず屋にいただけで、これだけの人物が集まってくるのだ。依頼を受けたこともあり、その友好関係はわずか三ヶ月で捨てがたいほど大きく、そして多くなった。

 未練がましいとは思うけど、それでも新八はその思い出を忘れることなど出来そうにない。
 それは神楽も同じだ。口には出さないが、彼女にとっても幻想郷の毎日は楽しくて仕方がなかったのだ。
 会いたいと、この二週間、まったく思わなかったわけではない。だが、彼らにはどうしようもない。どうがんばったって、彼らは幻想郷にはいけない。

 「大体、妖怪が普通にいた異世界に居たとか信じられねぇーんだよ馬鹿たれ!!」
 「だって仕方ないじゃん!! いっちゃったもんは仕方ないんですよ!! つーかそこの妖怪よりオメェのほうがよっぽど妖怪なんだよコノヤロー!!」
 「あらあら、そんなことを言っては失礼ですわ、銀時」

 ぴったりと、いい争いをしていた二人の動きが止まった。
 一人は、ありえないものを見たがゆえに。もう一人は、ここしばらく聞いてなかった知り合いの声を聞いたがゆえに。

 そう、唯一、彼らが彼女達にあえる要因を持つのは、かのスキマ妖怪以外には存在しないのだから。

 ゆっくりと、銀時が顔を後ろに向ける。そこにはスキマから体の上半身だけを出していつものように妖しい笑みを浮かべている八雲紫の姿があったのである。
 ぶっちゃけると、事情を知らない人間が見ればばっちりホラーな光景である。だって、上半身だけで下半身が見えないんだし。

 「おぉ、ゆかりんじゃねぇの。つーか、いつも思うけどその登場の仕方止めてくれませんかね?」

 がしかし、幻想郷である程度耐性のついた(ついちゃったとも言う)銀時は普通に言葉を返していた。
 そんな彼の様子を視界に納め、紫はころころと笑って、スキマから全身を出し、そのスキマに腰掛けた。
 見ようによっては、空中に座っているように見えるだろうその光景を見て、さっきから沈黙しっぱなしのお登勢さん。

 「こんにちわ。私は八雲紫、あなたの言う信じられない生き物、つまりは妖怪ですわ」

 饒舌に、八雲紫はいつものように語り、お登勢は珍しく呆けた表情を浮かべていた。
 まぁ、無理らしからぬことだろう。長年生きていた彼女にしてみても、目の前のそれはあまりにも異常すぎた。

 「あれ? 紫さんじゃないですか」
 「おぉ、久しぶりアルなスキマ」
 「あらあら、新八も神楽も元気そうね。それに定春も」

 声をかけられてそちらに振り向き、新八たちに視線を向けてそんな言葉をかける。
 そんな光景を見て、お登勢は小さくため息をついて目の前の光景を眺めていた。

 どうやら、銀時の言っていた妖怪が平然とすむ異世界というものが、少しずつ現実味を帯び始めてきたらしい。
 これが銀時だけが主張したならば、いつものような根も葉もない嘘と断じるだろう。
 というかそもそもそんな話、天人(あまんと)が従来する昨今といえど信じられる話ではない。誰から聞いてもだ。
 だが、目の前で次元に切れ目を作って【常識的にありえない】登場をした自称妖怪と、そんな人物と平然と話をする新八と神楽。
 しかも、彼らの会話の中には【幻想郷】という単語が何度も飛び出している。その幻想郷というのは、三ヶ月の間銀時たちが居た異世界だという。あくまで銀時の話だが。
 ドッキリだとしても手が込みすぎているし、すくなくとも、銀時や神楽はともかく、新八に関してはこんなことをするとは思えない。

 第一、目の前の自称妖怪はありえないほど人間離れしていた。
 空間に切れ目を作って登場したことといい、その外見も人の姿をしていながら、まさしく人外のような美貌だった。
 金紗の長髪、病的なほどに白い肌、自然界にはありえない金色の瞳。顔立ちはひどく整っており、まるで作り物めいた美しさがそこにある。
 何よりもその身に纏う雰囲気が、その立ち振る舞いが、人でありながら人ではない矛盾した【何か】を醸し出していた。

 それらの要因が、異世界という存在を【根も葉もない嘘】から、【嘘だとは思うが、もしかしたらあるかもしれない】と考えを改めさせる。

 「あんた、八雲紫っつったね? あたしゃお登勢って言うもんだけど、その口ぶりからするとこいつ等の知り合いかい?」
 「えぇ、そうよ。私の手違いで彼らを私たちの世界に招きいれてしまった。ま、悪いとは思っていないけど」

 いけしゃあしゃあと言葉にし、紫はくすくすと笑ってお登勢の言葉を待つ。
 そんな彼女の様子を見て、お登勢は小さくため息をつき、目の前の自称妖怪に視線を向けた。
 彼女の言葉からも【世界】なんて単語が飛び出して、自分の常識が崩れそうになりながらもお登勢はそれを一旦外に追い出した。

 「そーすっと、あんたかい? こいつ等をどこぞにやっちまったのは」
 「私自身は寝ぼけて覚えてはいなかったのですけど、そのようね。伊達に、【神隠しの主犯】なんて呼ばれていませんわ。でもいいじゃない、困るわけでもなし」
 「こっちが困るんだよ。ったく……」

 平然と口にする目の前の女性の言葉に、頭痛を覚えながらお登勢は言葉を口にする。
 今まであったことのない、人を煙にまくような胡散臭い言動。何よりも平然と自身を【神隠しの主犯】であると臆面もなく口にする。
 胡散臭い。だというのに、明らかに嘘としか思えないその言動が、どうしてか【嘘】だとはっきり断じることが出来ない違和感。
 それを外に出さないだけ、お登勢という女性は肝が据わっているといえるのだろう。

 「ま、それはともかく。今回、私がここに来たのはちょっとした用事があったからですわ」
 「用事?」
 「そう、用事」

 そういいながら、紫は懐から一枚の写真を取り出す。お登勢にはそれがなんだかわからなかったが、よろず屋の面々はその写真が何かわかったらしい。
 みな一様に、喜びの色を強くする。あの無関心で居ることの多い銀時ですら、うっすらと笑みを浮かべている。

 「それ、もしかして文さんからですか?」
 「えぇ、あの鴉天狗からお使いを頼まれましてね。こっちには、手紙もあるわよ」

 にこやかに言いながら、紫はそれを彼らに手渡した。
 手紙は、彼らがお世話になった里の人々や、数多くの妖怪たちからのものだった。
 その中に、彼女の名前を見つけ、自然と新八の顔がほころぶ。

 「元気みたいですね、みんな」
 「えぇ、それはそうよ。私、あれには毎日喧嘩をふっかけられてるし」
 「……なんでアルか?」
 「私に勝ったら、こっちに続く【道】を作ってあげるから。って、約束したもの」

 だからでしょうね。なんて言葉にして、紫は苦笑した。
 幻想郷の結界に綻びがないかを管理する。ある意味では管理者である彼女。その彼女でしか出来ないこと。管理者としては失格かもしれないが、それでも……、彼女も彼らのことを嫌ってはいないのだ。
 彼らが居た三ヶ月。幻想郷にも大きな影響を与えたといってもいいだろう。特に、あのわがまま不良天人には。

 だから、建前として条件をつけたのだ。
 少なくとも、すぐにやられてやるつもりはないけれど、それでもいつかはあの少女は八雲紫を下すかもしれない。
 それほどまでに、あの少女が彼らに【会いたい】と願う思いは本物だった。

 かつては犬猿の仲だった、少女と紫。それがいつしか、紫にとっては彼女はわがままを言う身内という認識に取って代わったのはいつの頃からか?
 それは、彼女自身にもわからなかったが、少なくとも嫌な気はしないので、そのことを深く考えはしなかったが。

 「……女ばっかじゃないかい。あんた、本当にどこに居たんだい?」
 「オイィィィ、クソババァ!! 人を汚物見るような目でこっち見んじゃねぇぇぇぇ!!」

 写真を見て軽蔑の眼差しを向けるお登勢に、銀時が弁明するように暴言交じりの声を張り上げる。
 まぁ、お登勢の反応も無理のないことだろう。何しろ、銀時と新八、かの店長以外は全員女なのだから。
 しかも、中には少女といえる年齢のものも多く、明らかに幼女な者も何人か居た。
 オマケに、包帯まみれの銀時には左右から青い髪の少女と、緑の髪の少女が腕を絡めとっていたし、銀時の前に居た黒髪の少女は背中を預けてにこやかに笑っている。
 回りもほとんど女性だし、なにより誰もこれも美女、美少女ぞろい。
 ぶっちゃけ写真だけ見ると女性を手玉に取ったプレイボーイである。無論そんなわけないのだが。

 お登勢は知るよしもないが、この中のほとんどが全員百歳越えている妖怪とか神様とか吸血鬼ばっかりだったりするのである。だって、この中に人間ほとんど居ないし。
 「一部の方は写真に写らないんで、にとりさんに改造して写るようにしてもらった甲斐がありました」などといい笑顔で某鴉天狗こと射命丸文は語っていたが、ここにきてその心遣いが裏目に出てしまったようである。

 「それじゃ、私は幻想郷に帰るわね。またいつか」

 そんな楽しい騒動を懐かしそうに眺めていた紫だったが、彼女はそんなことを口にしてスキマの中に消えていく。
 その光景を信じられないといった面持ちで見ていたお登勢。跡形もなく綺麗さっぱり居なくなったのだ。驚くなというほうが無理というものだろう。
 神出鬼没とはまさにこのことか。自分の都合で現れてあっさりと帰っていく。なんとも八雲紫らしいあり方に、銀時も新八も、神楽も思わず苦笑した。

 「銀さん、これ天子ちゃんから」

 新八から一通の手紙を渡され、それを受け取って中身をあける。それを見ないように、お登勢は端のほうに移動してタバコをつけて、それを口にくわえる。
 これはお登勢なりの配慮だろう。歳を重ねているだけあって、さりげなく相手を気遣うすべは心得ている。

 銀時が中身を開けると、そこにはなかなかに達筆な文字が視界に飛び込んでくる。
 ソファーに腰掛けると、新八と神楽もよってくる。それを追い払うそぶりもなく、銀時はその文面を目で追い始めた。

 最近の近況。自分が今ナニをしているのか。
 いろいろかくものがありすぎて、だけど何と書いていいのかわからない。
 そんな気持ちが文面に表れていて、たまらず三人とも苦笑した。
 良くも悪くも、あの天人は人に手紙を送るなどということは初めてだろうし、これはこれで仕方がないのかもしれない。
 そして最後に、こう記されていた。


 ”―――またいつか、会える日まで―――”


 「あぁ、わかってるさ。いいからとっととこっちにこいってんだ、アイツは」

 小さく言葉にし、ぼやいたように聞こえるその声とは裏腹に、その表情には小さく笑みが浮かんでいた。
 新八にも、神楽にも、同じように笑みが浮かんでいる。それに気がついているのか、気がついていないのか、銀時はまた言葉をつむぎだす。

 それはなんでもないことのように。いつものように飄々とした言葉で。









 「待ってんぞ、天子。”―――また会える日まで”な」
















 /東方よろず屋・了








 ■あとがき■
 どうも、白々燈です。これにて、東方よろず屋は完結いたしました。
 色々書いてていい経験になりました。

 ひとまず、銀さんたちの奇妙な体験はこれにてひと段落です。
 ただ、もしかしたら、ネタが集まり次第【第二部】という形で執筆することがあるかもしれません。
 でもその際、新しくスレを建てるか、それともこれにそのまま続けて投稿するかは悩むところではありますけど……。

 それでは、皆さん。今回はこれにて終了です。
 またいつか、もしかしたら銀さんたちと幻想郷のメンバーのどたばたが見れることもあるかもしれません。
 その時があれば、気まぐれ程度に見てあげてください。

 それでは、今回はこの辺で。
 今までご感想、意見などくださった皆さん、本当にありがとうございました。


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