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[31293] まつりのよるに【オリジナル】
Name: 午後12時の男◆96f3d9c1 ID:3561ecbb
Date: 2012/01/22 23:51
・書かなあかんもんが結構あるのに、友人とtwitterではじめた編集遊びで時間食ってしまい、そしてご覧の有様になったのがこれです。
・「非エロでな」と言われて非エロのつもりで書いたのですが、くぱあとか中出しとかキワキワな単語が頻出し、友人からも「ないわ」と言われたので、性描写が苦手な方を不快にさせないという意味で、泣く泣くXXXに投稿させていただきます。
・なので、申し訳ありません、抜き要素皆無です。しばらくぶりの投稿がこんなので申し訳ありません。



[31293] むしろオヤジのメンタリティ
Name: 午後12時の男◆96f3d9c1 ID:3561ecbb
Date: 2012/01/22 23:46
#1

 待ちに待った十五歳の秋祭り。
 その前日は、しかしやっぱりと言うべきか何と言うべきか、いつもとあまり変わらない、フツーの朝から始まりました。
 じりりり、とうるさい目覚ましを止めて、布団の中でごろごろする事、約五分。階下の母が怒鳴り声で呼びかけてきたタイミングで、ようやく身体を起こします。
 ぐっと伸びをして身体中の眠気を振り払い、活を入れ直してベッドから降り、私は先に着替えをすることにしました。いつもは寝間着のまま先にダイニングに向かって朝食をとるのですが、何となく気分を変えたかったのです。他愛ないですが、それでもそうしてやろうと昨日から企んでいた事でした。なにせ、十五歳の秋祭りと言えば、この街ではちょっとした大イベントなのです。
 申し遅れました。
 私の名前は、夏目ソラ。十五歳の女の子……です。一応。
 一応というのは、まあ詳しくは追い追い説明することとして、ぱっと見でも、鏡に映っている寝間着を脱いでショーツ一丁になった私の姿をご覧になればお分かり頂けることと思います。
 まっ平ら。なのです。胸とかお尻とか。二次性徴期? 何それ美味しいの? な状態です。悲しいほどに、ド絶壁。
 顔立ちは実のところ、大きめの目とか、小さめの鼻とか、それなりに整っているんじゃなかろうかと自分でもひそかに自惚れていたりもするのですが、この女っぽさの皆無な絶壁はもう絶望的なまでに圧倒的で、どう絶望的な絶壁かと申しますと、サイズに合うブラがないので、十五にして未だに私は上の下着を身に付けたことがありません。まあこの街に限って言うのなら、これは私だけの話でもないですが、それはそれ。一応ではあっても「女の子」なのですから、このありさまにはやはり唸ってしまうところがあります。
 ちなみに、ショーツ一丁と先程いいましたけれど、まあつまり、なので私は今、胸も露わな感じで姿見の前に立っている状態だったりします。圧倒的ド絶壁感、まるだしです。
「むむ……」
 いつも見慣れた顔であり胸ではあるのですが、顔はともかく、やはりこのおっぱい野郎はいかんともしがたいものがあります。おのれ、といった気持ちを多分に込めた掌を胸元に添えてぐにぐにと動かしてみますが、陥没気味の乳首がうにうにと周囲の皮に引っ張られて右往左往する様はなかなか見ていて切なくなるものがあります。友人の西野リオに薦められた豊胸運動ですが、やはりなんというか、ゼロには何をかけてもゼロなのではないでしょうか。
「うむ。あきらめよう」
 できれば明日までにちょっとだけでも、みたいな気もあったのですが、もうここまで大きくなる気配がないのは、やはり運命には逆らえない、ということなのでしょう。私はため息をひとつついて、着替えの作業に復帰することにしました。
 ブラウスを着て、スカートを着て、ブレザーを羽織って。
 ネクタイの歪みのないことを確認して、簡単にブラッシング。癖のないセミロングの髪はいつもに増して素直に寝癖から復帰してくれました。うむ。幸先がよろしい。
 ソラー! とますますマジギレ風味に母が呼びかけてきています。
 実は朝一番から数えて、かれこれこれで五回目の呼びかけだったりするので、もうそろそろ限界というものでしょう。「今行くー!」とこちらも大声で応え、ようやくそこで私は自室から出ることにしました。
 熱のこもった部屋の中と違い、廊下は少し肌寒く、でもそれが心地よくも感じられます。
 うん、いい朝です。大イベントの前日なのですから、こうでなくてはなりません。
 何となく弾む気持ちを胸に、私は朝食を取るべく階段を下りたのでした。

#2
 制服姿で食卓に登場した私の姿に驚く母や姉に、ニヤリとほくそ笑みつつ食事を終え、歯を磨きと、もう一度身だしなみを確認した後、いつもより三十分ほど早い時間で私は家を出ることにしました。本当はいつもの時間でなにも問題はないのですが、これもまあ、いつもと気分を変えたかったからの行動です。
 行先は学校ではなく、明日祭りが催される神社。学校の授業自体はお休みで、今日は祭の準備のお手伝いをすることになっています。じゃあ何で制服かと言えば、その祭の準備自体が学校行事の一環となっているからなのでした。
 とはいえ、作業自体は制服ではなくジャージで行うので、私の手にはいつもの鞄はなく、ジャージの入った袋だけを持っている状態です。この日のために忘れずジャージを持って帰ってこなければならなかったり、微妙にめんどくさいのですが、それでも通学と変わらず制服なのは、担任教師のうめちゃん曰く「そういうケジメこそが大事」なのだそうで、分かった様な分からない様な理屈ですが、何となくその理屈は好きです。
 ところで、行き先がいつもと違うために、目に映る風景がいつもと趣が違うというのも少し面白いものがあります。制服なので話をかけて違和感があると言うか、通学なのに散歩しているような、妙に開放的な気分になったりもします。
 遊歩道を突っ切り視界が開けた後、街を東西に分断する赤峯川を越え、その先にある寺が池を横切って。しばらくしていると、ようやく神社を囲む鎮守の森と、その裏山が建物の間に見えるようになってきました。まだまだ夏の気配も残っており暑苦しい時期なのですが、朝の早い時間なので、歩を進めるたびに頬に触れる空気は若干肌寒くもあり、そろそろやってくる秋の気配を感じさせてくれます。
 秋祭りが終わり、もうしばらくすれば本格的に実りの秋がやってくるでしょう。そうすれば、赤峯川では子作りのために川を遡上するゴマフアザラシの群れが見られるようになるでしょうし、同じくらいの時期から寺が池のマグロ漁も最盛期を迎える筈です。
 どちらも何か色々変な具合ですが、この街では秋の季節を象徴する風物詩といえるものです。
 そう、変なのです。
 変なのですが、この街では元からそうですし、じゃあどういうのが普通かと言われると、私にはそもそもどういうのが普通か判りません。
 聞いた話によれば、どうもかなり昔に大きな事件があって、世界は一度ぐちゃぐちゃになったそうで。今私たちがこうして生活をしている街は、辛うじて残っていた記録をもとに再生されたものなのだそうです。だから、こういう変になっているところが、街のそこかしこにある――なんて、そんな具合になっているのだそうです。「だそうだ」なんていい加減な言い方ですが、あくまでそういう話になっていいると言うだけで、というか、ほんとのところがどうなっているのかなんて街の誰も知らなくて、色々調べた結果そういうことらしいと言う話になっているのだそうで、まあ、そういう言い方になってしまうのはどうしようもないのです。
 いいんじゃないでしょうか、それで。
 そんなこと分からなくても毎日ご飯は美味しいですし、学校もそれなりに楽しいですし、まあ胸が小さいのは不満ですけど。そんな感じで大した不自由もなく円満に毎日を生きていられるのですから、変だからどう、と言って文句を言うのは、むしろ罰当たりな気もします。科学で世界の全てが解明できる、なんて、ゴーマンもいいところですしね。
「お」
 そんな風にさらりと街並み案内を終えたところで、道の向こうに私の友人たちを発見しました。「おーい」と呼びかけ手を振ると、脚を止めて私が来るのを待ってくれるようでした。私も小走りで二人に追い付きます。
「おはよ」
「うん、おはよ」
「おはよーさん」
 三者三様のあいさつをする私たち。
 紹介します。
 私から見て左側、女の子みたいに華奢な印象の男の子が、及川アユムくん。右側のふわふわした長髪ときりりとした目が印象的な女の子が、西野リオちゃんです。どちらも学校で一番親しくしている友人で、まあ、親友と言っていい間柄のお二人です。私は中学に入ってからお付き合いさせてもらっていますが、二人の関係はもっと長くて、聞けば家が近い事もあり、家族ぐるみで、ほぼ生まれた時からずっと一緒にいるくらいの幼馴染なのだそうです。幼馴染というと、小学生も後半くらいになると互いに好きなものも違ってきたりして、関係の維持が難しくなって自然に距離が離れていくものだと思うのですが、こうやってずっと一緒にいるあたり、本当に仲が良いということなのでしょう。そんな二人のやりとりははたから見ていて微笑ましく思えることが多々あります。
 そんな二人の中に私が入るのは何だか野暮という気もしないではないのですが、当の二人はあまり気にした様子もなく、まあ、何となく一緒にいる機会が増えて、今はこのトリオで一緒に何かをすることが多かったりします。
「アユムくんは浴衣とか、もう選んだ?」
「うーん、まだ選んでないんだよね。母さんは一生に一度の事だからきちんとしっかり選べっていうんだけど」
「実は私も。今まで参加するのも普段着ったし」
「え、嘘マジで」
「マジです」
「だーめだよ二人とも。一応、人生の節目なんだから」
「リオちゃんまで。何かお母さんみたいだよ」
 目的地の神社へと歩きながら、話題にあがるのはやはり明日の祭りに関することです。三人とも、心なしかいつもより語調が弾んでいるのは、それだけみんな盛り上がっているということなのでしょう。正直な話、催す内容自体は、もっと小さな子供のころから慣れ親しんだものなので、夜店も延々行きまくって飽きが来ている状態ですが、それでも十五歳の今回ばかりは意味合いが違うのです。
 十五歳の、というか、このトリオに限って言うなら、私とアユムくんの二人にとっては、ということになるでしょうか。リオちゃんは、実はこの件に関しては経験済みというか、私たちが明日に控えているイベントを一足先にすませているのです。今の会話で彼女がお姉さんな立場に立っているのも、まあそのあたりが関係しているのです。 実は昨日まででも、私とアユムくんがそのあたりについてさんざん色々と質問攻めしていたりして、この件の会話についてはもう完全にリオちゃんのお姉さん的立ち位置は定着してしまっています。
 そうそう、そうなのです。彼女はだから、もう経験済みなのです。
「……」
「……な、何?」
 不意にそのことを思い出し、リオちゃんの方を凝視し始めた私に、彼女は若干怯んでいるようですが、構いやしません。凝視しまくります。
 視線の先にあるのは、胸。おっぱいです。
 リオちゃんの胸元にあるそれは、私のような閑散的大平原ではなく、きちんと双丘と呼んで差し支えない、丸みのあるふくらみを見せています。おそらくはBカップ、あるいはCカップ。今一ブラとか付けたことがないので判りませんが、大して大きいわけではないけれど、小さすぎることもない、勿論、無というわけでもない、そこにはきちんと女性らしい形状が厳然として存在しているのです。
 ああ、妬ましい。いや妬んでも仕方ないのは重々分かっているのですが。しかしそれでも。
 いや、だって見てくださいよ奥さんこの形。羨ましくないですか。大き過ぎず小さすぎず、プロポーションを損なわない絶妙のバランスで整っていて、女らしいばかりでなく少女らしい清純さすら感じさせる奇跡の形状と言って差し支えありません。どこまでも柔らかそうな曲線を描きながら、しかし形が崩れる様子もなく、ピンと上を向いた乳首まで服の生地から透けて見えるようで……ああエロい! 可愛い! こんなおっぱい、私も欲しい!
「……いいおっぱいだよね」
「ソラちゃん!?」
 ふむりと頷き、指をあごに添えながらの、私のぼそりとしたつぶやきに、リオちゃんは悲鳴じみた声を上げました。
 ついで、私の視線から避けるように両腕で自分の身体を抱いて、身をよじったり。リオちゃん、ナイスです。その仕草、可愛らしくもエロっちくて、一応女の子の私でも色々垂涎ものです。ぱっちりした目はどちらかというと釣り眼気味で、気の強そうな印象が強い彼女ですが、こんな反応を返すあたりきっちりと花も恥じらう女の子。 胸ばかりでなく腰は細くお尻も柔らかそうで、要するに全身のプロポーションがものすごく整っているので、そんな彼女が性的な意味を帯びて恥じらう様を見せるとなると、これはもう媚薬そのものと言っていいんではないでしょうか。
 やばいです。私が男の子なら、それだけでもう襲いかかって最後までいたしちゃってもこれは仕方がないと開き直るレベルです。
 そんなレベルなので、半ば無意識に彼女の後ろに回り込んでぐわしと胸をつかみかかったとしても、だれがそんな私の行動を責められるでしょう。
「ちょ!? ソラちゃんっ!?」
 うおお。柔らかい。すげえ。
 この感触、何と表現すればいいのでしょうか。読者の方々に直に触っていただけないのが非常に残念ですが、あえて言葉で表現するなら、天使のマシュマロとでも表現しましょうか。服越しでも全く損なわれることのない柔らかさ。服越しにじっとりと感じる体温!
「や、ちょ……ッ! んんんっ ふぁっ、ぁうっ」
 揉み心地も、素晴らしいの一言です。寄せて上げて揉みしだいてと好き放題掌を動かしても形が崩れることなく、しかしどこまでも弱い弾力でもって指先を柔らかく迎え入れてくれます。何とエロいおっぱいでしょう。
 そしてまたリオちゃんの反応も非常によろしい。声を出すまいと折った人差し指を口にくわえてふるふると身を震わせながら耐えてるとか、あんたどんだけ天然エロゲキャラですか。GJです。
「ウフフー、可愛いねリオちゃん」
 思わず真っ赤になったほっぺたをペロリとしちゃいたくなります。
 ……ていうか、何か揉んでるうちに、ブラ越しの筈なんですけどなんかふくらみの真ん中に、こりっとしたものがあるような気がするんですが。心なしか。もしかしておっきしてますか。勃起してますか。ぽっちちゃんが。乳首が!
(これはもう、摘むしか!)
 ここまで色っぽい反応を返してくれたリオちゃんです。明確な性感帯を刺激されれば、もうこれ以上ないくらいの嬌声を上げてくれるに違いありません。
 思い立ったが吉日です。えいやと心の中で掛け声一発、その中心部の蕾へと狙いを定め、親指と人差し指とでくにりと摘んでやろうと――したところで私の脳天に強烈なエルボーがどすんと落ちてきました。
「あうっ」
 流石に恥辱を続けるどころではありません。私が頭を抱えた隙に、リオちゃんはすっとリーチの外へと逃げ出して、両腕で身体を抱きしめながら涙目で睨んできます。
 うむ。エロい。そんな表情すらエロい。身体が離れたのは残念ですが、そんな色っぽいポーズを見せられてそれで諦める私ではありません。指をわきゃわきゃと動かしながら私はもう一度リオちゃんに近づこうと――
「何してんの! 朝っぱらから! セクハラ! っていうかホント何やってんの何やってんの! 通学路よ!? 傍にアユムもいるってのに!」
「……っは!」
 リオちゃんの一喝に、目が覚めた想いがしました。
 何をやっていたのでしょう私は。思い出すと色々すごいことをやっていたような気もします。頭が痛くてよく思い出せませんが。
 うむむ、しかし一応女の子の私をここまで惑わせるとは。恐るべしおっぱいの魔力……っていやいや、そうじゃありませんでした。見ればリオちゃんの目つきがそろそろマジギレ寸前です。魔力のおっぱいに魅了されている場合ではありません。
「あ、えっと、いや。ごめん」
「……女の子になるとか聞いてたけど。あんた男の方が向いてるんじゃないの」
 じっとりと恨みがましい目で、リオちゃんはそんな事を言ってきます。
 まあ今の行動だけを見ればそうとも言えましょうが、それはしかし聞き捨てなりません。既に成熟した身体を持っているリオちゃんは、胸のない女の子の気持ちが分かっていません。おっぱい格差です。
「それは違うよ何て言うか、こう、いつかはおっぱいが出来た時にですね、素敵な彼氏と色々いたしちゃう時にこう、どういう反応すればいいかとか分かんないじゃない。私、まだ胸ないし。だからこうその前に、本当の女の子らしい反応はどういうものなのかというのをこれ以上ないくらい女の子サンプルなリオちゃんの反応を見て予習しておこうとかそういう、そう、学術的興味というか探究心の表れというか!」
「お前は何を言っているんだ」
「……ああ、うん。何言ってるんだろう私は」
 本当、何言ってるんでしょう私は。どうもこう、デキの良いおっぱいを前にすると心が千々に乱れるというかこう、正気を失ってしまうというか、とにかく変になって色々とやらかしてしまいます。実を言うと一昨日も同じような行動を姉にとってこっぴどく怒られました。ホント何やってんでしょう私は。
 ちなみに、アユムくんはというと、何だか茫然とした様子でそんな私たちのやりとりを眺めつつ、顔を真っ赤にして私に向かって、
「……ソラちゃん、ヘンタイ……」
 てなことをぼそりと言い放ってくれやがりました。
 女の子かあんたは。一応、男の子でしょ。
 一方、そんな私たちの様子を見て、リオちゃんはこれ見よがしに大きなため息をついたりしています。
「まったく……もっと自覚っていうか、きちんと自分の行動に気をつけようよ。明日からホントに苦労するよそんなんじゃ。ソラちゃんもそうだけどアユムも」
 返す言葉もありません。
 しかしだからと言って、気をつけろと言われてもどうしていいかもいまいち判りません。男の子らしい女の子らしいとその場その場の行動を見て何となく判断は出来ますが、あらかじめそうあらんと行動しろ、などと言われても、途方に暮れてしまいます。私とアユムくんはそろってうなだれて、うーんと首をひねります。私たちのそんなあいまいな反応に、リオちゃんは前途多難だ、と今日一番の大きなため息を吐いていました。

 そう。
 聡明な読者様方は、既に気付いておられるのではないでしょうか。
 先程、私はこの街には色々変になっているところがある、と説明しました。
 街の風物詩、風景や季節の移り変わり。色々変なところはあるのですが、そんな奇妙さは、私たちが見ているものだけでなく、私たち自身にも言えることなのです。
 その最たる一例が、この街の子供には、性がないということでしょう。
 私は自己紹介の時に『一応』女の子と自称したのも、また胸や尻が女らしさのないさびしい作りになっているのも、つまりはそのためです。『一応』男の子のアユムくんが妙に女の子っぽい仕草を時折見せるのも、同じ理由。今の私たちにとって、男の子、女の子の区別はあくまでごっこ遊びというか、これから大人になる時のための予行演習に過ぎませんからね。
 胸やお尻ばかりではありません。私の股間には、女として本来備わっているべき、あるいは男として備わっているべき性器というものが存在しないのです。これはアユムくんも、そればかりでなく街の同世代のほとんどが皆そうです。
 変でしょう。変だと思います。
 でも私たちこの街の人間にとって、子供とはそういうものなのです。
 男でも女でもない存在。子を孕む能力も、孕ませる能力もない、その準備段階にある、未分化な存在。
 勿論このままの形で歳を重ねても、生殖行為が行えないので私たちは子を殖やし命を後世に繋ぐことができません。だから何かのきっかけを得て、私たち街の子供たちは生まれた身体に性を、後天的に与えられなければならないのですが――はい、もうお分かりでしょう。
 その「きっかけ」こそが、秋祭り、なのです。
 他の街の方がどうなっているかは、私には判りません。更に言えば、世界がぐちゃぐちゃになる前にどうだったかなんて、見当もつきません。ただ私たちに限って言えば、年に一度の秋祭り、豊穣と実りを感謝するハレの日に、私たちは、私たち自身の豊穣と実りを支える能力である性を与えられるのです。
 一体どういう理屈なんでしょうね。
 今いち私も詳しい手順を聞かされてはいないのですが、何でも、きめられた順序に従って一連の儀式を行うと、次の日には性徴が始まっているのだとか何だとか。
 ていうかこれも結構いい加減な話らしく、その手順を踏んでしまえば、五歳児くらいでも性を持つことができるそうです。現に友人の西野リオちゃんなんかは、もう二年も前に性を与えられ、今ではもう誰が見ようと完膚なきまでの女の子な容姿をしています。うむ。羨ましい。
 ただ、彼女は結構な例外で、この街では、基本的には十五歳前後で性を与えられることが多いです。これは単に学校だとか教育委員会だとかそのあたりが、不純異性交遊への警戒と、性教育のバランスを考えてこのあたりが適切だろうと判断した数字で、子供たちの多くは性器がないために今一性愛にも無頓着である事が多く、大人たちの決めた数字に何となく従っているだけ、という結果だったりもします。
 かく言う私も、そしてアユムくんも、そうして何となく、十五歳の秋祭りに、性を与えられる事を選びました。
 ただ、何となくでもやっぱり、昂揚するものはあります。
 明日になれば、自分がそれまでとは違う自分になっている。
 ごっこ遊びの中で、でもひそかに本気で憧れていた、可愛い服や、少しえっちな下着や、そういったものを着ても、何の不思議のない身体になれる。
 それは結構ドキドキで、ちょっと不安で、怖くて、でもやっぱり、どこか冒険に行くようなワクワクに満ちた瞬間であるような気がします。
「目指せ美乳! 天使のブラの似合う女の子!」
「何を言っているんだお前は」
 ホント、何言ってるんでしょう、私は。
 まあそんな訳で。
 一足先に大人の身体になったリオちゃんを追いかけるようにして、私とアユムくんは、明日、女と、男の身体を手に入れるのです。



[31293] ローアングルは、偉大です。
Name: 午後12時の男◆96f3d9c1 ID:3561ecbb
Date: 2012/01/22 23:47
 #1

 先にも申し上げましたが、祭の準備は学校行事の一環として行われます。
 なのでまず参加者一同集合して、教頭先生と神社の宮司さんのお言葉をいただき、その後それぞれ、あらかじめ割り振られた班に別れて行動することになります。幸運と言っていいのかどうか、私と、アユムくん、それにリオちゃんは、同じ班として割り振られました。
 ちなみに、与えられた仕事は、夜店の設営ではなく、参道に飾られる提灯の設置、でした。
 正直なところ、ほんの少しだけ残念な気持ちでした。
「ちょっと、夜店の方がやりたかったよね」
「そう?」
 神社と外界を隔てる結界である、大鳥居のそばに止められたトラックから用具を受け取り、現場へと戻る道すがら、私とアユムくんはそんな、何の気ない会話をしていました。
 周りの同級生も同じ感じで、思い思いにしゃべりながら作業をしていたり持ち場へ移動していたりしています。
 それなりに重要で神聖なイベントの準備、の筈なのですが、基本的にやっていることは遊び場の準備というかそれに近いノリなので、私たちの間に緊張感はありません。気分的には学園祭の準備などに近いでしょうか。「自分たちの店を開くんだ」という高揚感はありませんが、明日への期待を孕みながらもどこか弛緩した和気藹々さというか、騒がしさがあります。
「うん、何て言うか。舞台裏を除く気分で楽しいかな、みたいな」
「ああ……なるほどね」
 手に持った提灯の束を持ちかえながら、私の言葉にようやく得心がいったようで、アユムくんは納得顔で頷いてくれました。ちなみにリオちゃんはここにはいません。彼女は神社の裏手にある納屋に置かれた発電機の方で作業をしています。
 ほんの少し、悪い気もします。
 でもそれを、わざわざ口に出すのも、それはそれで、なぜだか気が引けるものがありました。
 アユムくん自身は大して、気にした風でもないんですけどね。
「僕は……でもこっちの方が、まだいいなあ」
「ん? そう?」
「ああ、うん。だって、催しごとのためとか言っても、やっぱりメダカを金色に塗ったりするのは、ちょっと」
 言いながら自分がそれをするところでも想像したのか、少し困ったような顔をします。私は私で、彼の言わんすることに気付いて、なるほどとうなずきました。
「ああ、金魚すくいのアレね。うん。気持ちは分かる」
「でしょ」
「うん」
 おそらく、多分それも、「この街の、変になってしまった何か」のひとつなのでしょう。
 この街の祭りでは、「金魚すくい」という夜店で水槽を泳いでいるのは、金色のメダカです。勿論、金色のメダカなんて自然に存在するわけがないので、祭りの前に、アユムくんが言うように、夜店のためにメダカを金色に塗らなければなりません。水に入って色が落ちるようでは当然だめなので、念入りに、油性の塗料スプレーでしっかり塗りつけるのです。
 当然そのように無理をするので、金魚すくいで貰ったメダカも、祭りの後、大抵はすぐに死んでしまいます。中には五年くらい生き残るようなのもいるらしいですが、話に聞いたことがあるだけで、実際にそこまで元気なものなんて、見かけたことがありません。
 アユムくんは、何となくそういうことをすることが、間接的にメダカを殺していることになるのではないかと思っているようです。アユムらしい生真面目な考え方ですが、なるほど確かにそういう側面もあるかもしれません。
 しかしなんというか、皆が祭りの前で浮かれ気分の時にそういうことを考えちゃうあたり、彼もなかなか不自由な性格をしています。小動物の命に心を痛めることそのものは好ましいとも思いますが、もう少し、肩の力を抜かないと色々息苦しいでしょうに。
 ここで「あー、ねえ」みたいに彼の言葉を流してしまうのは、何となく、嫌でした。せっかくこうして話をしているのですから、せめて彼の気持ちをほぐしていこうとするのが、友達というものでしょう。
「メダカなんかじゃなくてさ、もっと大きめの、マスとかそこらへんでやればいいのにね」
「……え、何それ」
 何でしょう。今日は「お前は何を言っているんだ」な視線を向けられる事が多い気がします。そろそろ癖になりそうです。
「いやだって、死んでも美味しくいただけるじゃん。皮剥げば塗料も気にならないだろうし」
「え、食べるんだ……? え? 何そういう発想?」
「だって、そうすればこう、魚が死んじゃった事も無駄にすることないじゃない」
「水槽で泳いでた魚食べるって、微妙じゃない?」
「お寿司屋さんの生簀だってそうじゃない」
「いや、それはそうだけど……ていうかそれ、すくった魚が死ぬこと前提になってないかな……」
「……」
「……」
「……をを。そういえば」
 半眼で突っ込んでくるアユムくんの言葉に、はたと気づいて手を打つ私。何だか呆れ半分の苦笑をアユムくんは向けてくれました。何となく納得はいかないのですが、でも、それでも悪い気はしません。
 そんなこんなでようやく本堂の前まで戻ってきました。発電機から引っ張ってきたケーブルと、提灯設置用の脚立は既に準備万端。リオちゃんは腰に手をあて仁王立ちで、「遅いぞ!」などと怒ってきています。
 私とアユムくんは顔を見合わせ笑いながら、次の作業に移ることにしました。

 #2

 さて、いよいよ提灯の設置です。
 既にケーブルは引かれているので、脚立を使って提灯を所定の位置に吊るし、ケーブルと接続していきます。脚立を支える役割の者、脚立の上に乗って提灯を設置する者、脚立の下に構えて、たたまれた提灯を展開して設置役の人間に手渡す者、の三人ひと組での作業となります。
 班内では好きにグループは組めるので、当然のように私と、アユムくんと、リオちゃんは一緒に作業をすることにしました。
 リオちゃんが脚立を支え、私が提灯の設置、アユムくんが私に提灯を渡す役割です。ちなみにこの分担を決めたのはリオちゃんです。「上にあがるのはアユムくんの役割じゃない? 一応、男の子だし」と食いついてみたのですが、「あんた下にしたら、あたしにもアユムにもローアングル視点でヘンなこと考えるでしょう」と冷たい視線で突っ込まれました。
 うぬぬ。リオちゃん、大正解。
 確かにそれを、ちょっぴり期待していた私が居たのでした。
 女の子のリオちゃんをローアングルで思う様見れるというのは、もう何も説明せずともその眼福感、読者の皆様にはお分かりになるでしょう。そして実を言うなら、アユムくんでも割とかなり眼福です。
 だって想像してみてください。
 男の子にも女の子にもなり切れていない、性徴前の十代の子供の肢体。それは要するに言いかえればロリでありショタであるわけです。目覚める前の性の予感を孕んだ未分化で未成熟な肉体ということであり、直接的な妖艶さはないもののそういった文脈を合わせて、その肉感の乏しいふともも、胸板、股間をローアングルで見れば、コレはもうオカズにするしかないじゃないですか!
「うぬぬ。分かった。今回は譲る。でもちょっとだけ! 最後の五分だけ代わってくんない?」
「お前は一体何を言っているんだ」
「ソラちゃん……ヘンタイ……」
 ますます視線が冷たくなったような気がします。
 これはもう、いっそのこと絶対零度を目指してみるべきでしょうか。
 そんなバカな話を挟みながら、作業スタートです。
 提灯をつるすだけの単純作業なのですが、単純なだけにこれが結構いろいろ面倒くさく、何せ提灯をつるすのは一か所につき一個なわけですから、一個付けるたびに脚立ごと場所を移動しなければなりません。私とアユムくんが手分けして運びこんだ提灯は、合計で二十五個。結構な数です。
 とはいえ、作業自体は単純で集中力を極端に必要とするものでもないので、やはり気の抜けた会話をしながらの作業になってしまう訳ですが。
「そういえばさ」
 と、ふと思い出した様子で話しかけてきたのはアユムくんでした。
「この提灯、聞いた話だと三千年前から同じの使ってるんだってね」
「あ、それあたしも聞いたことある」
 話に一番に乗って来たのはリオちゃんでした。そのあたりの話を聞いたことのない私は、どういうことなのか分からず反応が遅れてしまいます。
「……そうなの?」
「そうなんだって。発電機は神社に置かれてるのに、何で提灯とかは市役所に保管されてていちいちトラックで運ぶのか、気になって。で、聞いてみたら、文化財扱いになってる貴重品らしいよ、これ」
「……」
 なんというか、それは。
「そんなの一介の中学生に運ばせていいもんなの?」
「傷つかないらしいよ。どうやっても壊れないらしいし」
 と補足をしてくれたのはリオちゃんでした。
 聞いたところによると、ある時市の職員が調査したところ、落しても投げても過剰に電流かけてみても、紙の風防部分に敗れの一つもできないし、中の電球も、故障のひとつもしなかったとか。
 これは提灯に限らず、例えば金魚すくいのポイとか、射的の銃とかも同じで、三千年近く、壊れることなくずっと同じものが使用されているということです。
 ……って。まって。ちょっと待って。電球?
「……三千年使ってるって、提灯のこの電球も?」
「電球も」
 今度頷いてくれるのはアユムくんです。と言ってもそんな彼自身の表情も、何となく納得できてないというか、腑に落ちていない、みたいな感じのものでしたが。
「……変じゃない?」
「うん。変だよね」
「変よね」
 脚立を固定し終わり、私は上にあがりながら、アユムくんに件の提灯を手渡されます。
 見た感じは何の変哲もない提灯です。
 木製の枠には漆が塗られていて。竹ヒゴの骨組には紙の風防がかぶせられていて。中にはひとつ、古臭い感じの電球が仕込まれていて。
 それだけの、何の変哲もない、安っぽい提灯です。
 うん。おかしいです。
 どう見てもこんなしょぼい作りのものが、三千年もの使用に耐えられるとは思えません。何より、三千年も前からこの電球が使われていたというのが不自然です。
 だってそれは、要するに、三千年前から、電気を使って明かりを確保する技術があったということじゃないですか。
 私たちが子供のころからでも、ずいぶん電気技術というものは進歩しています。身近な例で言えばパソコンの外付けハードディスクは普通に一テラ以上の容量のものが手に入るようになりましたし、十年前の据え置きハードと同じ性能の携帯ゲーム機が売り出されたりしています。
 五年十年の間でそんな進歩があるのに、古臭い構造とはいえ、電球というものが、三千年前から使われている。
 どこかで時間や歴史がねじ曲がっているんじゃないか、と疑わずには居られません。
 でも、そんな不思議を目の当たりにしても、私たちの反応は、やっぱり暢気なものでした。
「一種の怪談だよね、これ」
「ちょっと面白いよね」
 そう言って私たちは笑いあいます。
 そんなもん、なのです。
 この街で変なものなんて有り触れていますし。こんなこと一つで目くじら立てるなんて、今さらというものです。
 あるいは、そういう風に必要以上に不審に思わないように、そこのところも私たちは変になっているのかもしれませんね。
 私たちの性が後天的であるのと同様に。

#3

「うう―……」
 提灯の設置が二十個目を越えたあたりのことです。
 体力の限界が来ました。
 脚立を二人がかりで(もう一人は提灯を運ぶのです)抱えて移動して、三メートルの高さを上り下り。単純に見えてこれ、結構な重労働なのです。大して運動神経も体力もない身でこれを続けた結果、何と言うかこう、年寄りじみた話で恥ずかしいのですが、腰に来ました。
 ギリギリときしむような鈍い痛みが腰骨のあたりに。こう。痛くて。重くて。
「ごめん。無理。交代。お願い」
 色々しんどくて片言で訴える私がおかしかったのか、アユムくんとリオちゃんは顔を見合わせて笑い合っています。
 おのれ。人に重労働押し付けといて。
「しょうがないな」
「ぼくがやるよ」
 結局、私と位置を入れ替えるようにして、アユムくんが役割を代わってくれることになりました。
 やり方は一通り前もって教えてもらっているので、役割を入れ替えても不都合はありません。
 脇に置かれた提灯を広げ、脚立の中ほどで待ち構えるアユムくんに手渡します。ついでアユムくんが昇るのを追いかけるようにして私も彼の下の位置につき、脚立を支える役に回ります。
 ふと。視線が上に行きました。
 ……おお。ベストポジション。
 目の前にアユムくんのお尻が、どでんと見えました。筋肉質でない、むしろ肉づきの薄い、線の細いアユムくんのお尻は、やせ形の女の子のお尻にも見えます。
 アユムくんが脚立を登るたびに右へ左へと揺れるそれは、何と言うか、妙な色気も感じられます。
 思ったとおりであります。眼福であります。限界を迎えた私の腰、GJ。
 いや、しかし不思議なものです。
 明日、祭りで儀式を迎えたら、こんな愛らしいお尻――というより股間から、男の子として、女の子を貫き、女の子を孕ますための器官が生えてくるというのです。そして私も、それは同じこと。私は明日から女の子になって、今は何もないつるりとした股間に割れ目ができ、その奥には子宮ができ、それからしばらくすると生理というものが始まって、男の性器にそこを貫かれ、子種を注がれて子を孕む事が出来るようになるのです。そう考えると色々ドキドキしますよね!
 ……オヤジ臭い? ほっといて下さい。これは単に、そう、知的好奇心というものです。
 知的好奇心なのでしょうがないのです。
 しょうがないので、アユムくんの股間をガン見です。
「……リオちゃん。ソラちゃんの視線がこう……こわいんですけど」
「ああ、うん。もう蹴り入れていいと思うよ」
 今日一番のヒドい言われようです。
 しかしまあ確かに、ガン見するのみならず鼻息荒くして顔を密着させようとしたのは行き過ぎかも知れません。
「ていうかさ、そんな元気出てきたんなら、もういいでしょ。交代しなさいよ」
「うぐぐ」
 唸り声をあげますが、今までやってきた所業が所業なので反論することもできません。
 結局、アユムくんが設置した提灯は三つだけ。私は最後の二つの設置役をまたやるはめになったのでした。
 しょうがなくアユムくんと位置を交代します。と、どうやら、ついでに今度はリオちゃんが私に提灯を渡す役割をするようでした。
「……そっちは代えなくていいんじゃないの?」
「ん、まあ気分よ気分」
 確かに作業が単純なので、時折こうやって役割を変えるのもありでしょう。ていうか、たまにそうやって分担を変えて、効率よく作業を進めるように、みたいなことを、朝の挨拶の時に担任のうめちゃんが言っていたような気もします。どんだけ二人は私にお尻を見られたくないというのでしょう。いや確かに性的な目ではみてますが、減るもんでもなし、良く知った相手のすることなのだし、そのくらい多めに見てくれてもいいじゃないですか。
 と。
 まあ、間が悪かったのでしょう。
 位置を入れ替える拍子に、不意に、私の手はリオちゃんのお尻に触れてしまいました。
「あっ」
「きゃっ」
 それは全く意図していなかったことで、リオちゃんはもちろん、私も驚きの声を上げてしまいます。
「あ、ごめん、その……」
「……」
 なんでしょう。
 咄嗟に謝った私。そんな私の反応そのものに驚いたような顔を、リオちゃんはしています。
 変ですね。いつもなら怒鳴ったり冷たい視線を投げてきたりで非難をしてくるのに。しかも今回はそればかりでなく、どこかほっとした様子の笑顔まで向けてきました。
「な、何?」
「ううん、何でもない。さ、早く片付けちゃお」
 結局、その後の作業は何の不都合もなく終わりました。
 けれど、その時に見せたリオちゃんの笑顔の意味は、やっぱり最後まで分かりませんでした。



[31293] コンドームは着けてました。
Name: 午後12時の男◆96f3d9c1 ID:3561ecbb
Date: 2012/01/22 23:53
#1

 神社の裏には、一般に公開されている銭湯があります。
 この神社は様々な催し事が一年中行われており、外部の者が作業をすることも多いため、このような施設が用意されているのです。一見奇妙にも思えますが、神社と言えば神様を祀る場所な訳で、そういう意味では身を清めるための施設が整えられているというのも、不思議ではないのでしょう。御手水の発展系と考えればそれはその通りかもしれません。また聞いた話では、祀られている神様が火山に関係する由来のある神様であるそうなので、まあそういった流れもあるのでしょう。
 ……きっちりお金はとられますけどね。入湯料、四百円。
 作業を一通り終えて自由時間になったあと、私は少し考えてシャワーだけ利用することにしました。湯船にまでつかると身体を清めるどころが何だかどっと疲れて、なにもする気が起きなくなりそうな予感がしたのです。
 銭湯の中は、割合閑散としていました。
 私の他にちらほらと同級生の姿も見られますが、おそらく数えても十人は超えないと思います。まあ、家からそう遠いわけでもないのに、わざわざお金を払ってまで銭湯を利用しようとする人間はそう多くないということでしょう。打ち上げの気分で利用するにも、先生の目もありますからそこまで騒ぐこともできませんしね。
 服を手早く脱ぎ、手拭を持って、浴場に入ります。浴室や洗い場の他に、私と同じような利用者が多いことを見込んでか、シャワーを浴びるためのコンパートメントがあります。コンパートメントと言っても本当に区切りをする為の小さな板で仕切られているだけの、簡単な作りのものですけど。
 私は十列並んでいるうちの右から三列目のそこに入り、シャワーを浴び始めました。
 熱すぎることもなく冷たすぎることもない、心地よい熱湯が行き良いよく浴びせかけられます。やはりそれなりに疲れていたのか、ふっと生き返ったような心地になりました。
「あ、ソラちゃんも入りに来てたんだ」
「あ、うん」
 見れば、隣のコンパートメントにリオちゃんが入って、私と同じようにシャワーを浴び始めているところでした。
「なんていうか。考えることは同じだねえ」
「かもねえ」
 談笑しながらのシャワー、なかなか風情があるというか、良いではないですか。
 ……と。
 振り返った拍子に、不意にリオちゃんの胸元が見えてしまいました。
 うお。
 凄い不意打ちです。これは凄いです。凄いエロいです。
 形のいいおっぱいであることは既にしつこいほどお伝えしましたが、ブラによる矯正を抜きにして、そのまま形を崩すことなく、健康的かつ少女らしい色香をそのまま形にしたようなその曲線がそこにありました。そんな輪郭は言わずもがな、処女雪のような清純な白さを見せる肌はしかしそうであるからこそどこまでも艶やかで、しかも浴場の照明に照らされてその谷間の膨らみは微かな陰影を描き出しており、……っていうかちょっと待ってください今、今! その丸みをまるで強調せんがためのようにシャワーから降り注ぐ水しぶきが! 水滴が! 液体が! 液が! 淡い円弧を描きながら胸元を滑り落ちていく様はまさに天上の光景!
 しかも! しかも! そう! 聡明な読者様はお分かり頂けるでしょう! 今は、リオちゃんも裸なのです!!
 すなわち。そう、すなわち――

 ちくび ヤバイ。

 桃色、と言っていいんでしょうか。いや、もっと白に近く、もっと淡い色合いに彩られた突起がそこにありました。
 典雅でありながら慎ましく、慎ましくありながらどこまでも淫靡! 小指の先よりなお小さなその突起は、しかしシャワーの熱に当てられたか、わずかに膨らみ! ピンと背を伸ばしてその存在を主張しており! 劣情によるものではないと分かっていてもそのありようは私たちの中に眠る何かをかきたてずには居られません!! もう無理! 鼻血噴く!! 噴いてまう!!
「……」 
 流石にリオちゃんも、顔を真っ赤にしながらのそんな私の視線に気付いたようでした。
 怒られる、と思いましたが、もう視線は止まりません(?)。おっぱいの魔力は凄まじく、魔力に取りつかれた私はそのおっぱいに逆らうことはできないのです。
 そして、そんな愚を繰り返す私をまじまじと見つめながら、リオちゃんは言ったのでした。
「……触ってみる?」
 ……
「なんだと」
 思わず聞き返してしまいます。
 触ってみる?――そう、リオちゃんは言ったのです。
 何の気ない感じで。まるで明日の天気を聞くような気軽さで。
 しかしその顔には、どこか意地悪で、挑発するような妖しい笑みを浮かべながら。
 ……え。いや。だって。ちょっと。
 アリですかアリですかアリなんですかこのタイミングでそういうこと言うの。さっきアユムくんといた時には嫌がってばかりいたのに、視覚的情報でのエロさが今日一番なこのタイミングでそういうこと言うんですかリオちゃんは!?
「……いや、えっと」
 流石に、たじろぎました。
 そこまではちょっと、というか。ていうか失礼な話、若干引きました。
 ……いや、何と言うかこう。いつもやってることを考えれば何を今さらという気もするのですけど。でもやはりこう、いくらなんでも、そういう意味で懇ろでもない間柄の女の子の恥ずかしいところを直で触るのは、さすがによくないというか、そういうのしていいのはやっぱり彼氏だけというか、何と言うか私のエロ倫理に反するというか。
 あああもう、何言ってんでしょう、私は。頭に血が上って、まともにものが考えられません。
「……ぷふっ」
 そんな私の様子を見つめながら、リオちゃんは不意に笑い声を上げました。
 一体なんでしょう。何だか色々見透かされているような気がして、恥ずかしいです。私はますます自分の顔が赤くなるのを感じました。
「あー……何か、安心したわ」
「え、え? 何?」
「いや、だって最近、ソラちゃん、変だったから。何かにつけてえっちな方向持っていこうとするしさ。ちょっと前はどっちかっていうと、そういうのに関してシャイっぽかったのに」
「……」
 良く判りません。
 戸惑いの表情が顔に出ていたんでしょう、そんな私を見ながら、何もかもを分かっているようなお姉さんのような顔で、リオちゃんはこちらに笑いかけてきていました。
「でもなんか、今の行動見て安心した。ソラちゃんはやっぱりソラちゃんだね」
「そうだったかな……」
 呟くような私の言葉に、そうだよ、とリオちゃんは笑います。
 そうだったでしょうか。今一思い出せません。
 というより、まあ普通に考えれば最近の私の行動は、確かに変なのです。
 いや、変というのも変か。それほど特殊なものでもないんですが。
 ちょっと説明させていただきましょう。
 先にもお話しさせていただいたことと思いますが、先に祭の儀式を済ませたリオちゃんはともかく、今の私たちには性器がありません。そして性器のないこの街の子供たちは押し並べて性愛というものに対して無頓着で――要するに、性欲、というものがないのです。
 私もそうなのです。
 ……いや、信じられないかもしれませんが、そうなのです。ホントに。
 だって、セックスするための器官がないのに、セックスするための欲望だけがあるだなんて、そんなのありえませんしね。
 ついでに言うなら、、これも性を与えられてないことが関連するんでしょうけど、基本的に性のない私たち子どもは、性感帯というものがありません。乳首を触っても股間をいじっても、多少くすぐったいと感じるだけで気持ちいいと感じることはほとんどないです。まあそもそも、今の時点の私たちの股間には、弄るとこなんてないですけど。毛もなくのっぺりした肌と尿道口があるだけです。
 私も、だから、自慰をしたのは中学一年の時に興味本位でやった、一回だけです。大して気持ち良くないのでそれっきりでやめてしまっているのでした。
 でも一方で、セックスがどういうものであるかということや、それに伴う性的興奮や性的快楽というものがある、という情報は、やはり普通に生活をしていればそれなりに耳に入ってくるもので。
 性を与えられる前でも、怖いもの見たさというか、未知のものへの好奇心みたいなものを刺激されて、性的なものに異常に興味を示す子供も中には現れる訳です。
 オカルトみたいなものですね。興味ない人は全然興味なくて、何かツボに入った人だけはまりこんでしまうということです。多分、私の場合もその類なんじゃないでしょうか。
 何でそんな事すらすら説明出来るかといいますと、実のところ単純な話で、保健体育の授業でそういうこと教えられただけなんですけどね。
 だからまあ、私が自己分析出来ているというわけではまったくないのです。
 例えば今回の話題に関しての例で言うなら、そういうのに興味を持つのはやはり何かにきっかけがあってこそなのですが、私の場合のそのきっかけがなんだったか、あたりの話になると、自分でも今一わかっていなかったりします。
 そしてそんな私に対して、リオちゃんはにこりと微笑みかけてくるのでした。
「やっぱり、ソラちゃんは女の子だね」
「へ?」
 今更のように頷きながらそんな事を言われたので、間抜けな声が出てしまいました。
 そして。更に。
 ダメ押しのように、リオちゃんは続けて言ったのです。
「ソラちゃん、好きな人が出来たんだね」

 ……

「……はい?」
 今、何と?


#2

「ソラちゃんも、恋、してるんだよ」
 恋、とまで言われてしまいました。
 相変わらず何もかもかを見透かしたような笑みを、リオちゃんは向けてきています。
 どうなんでしょう。私はリオちゃんの言葉を自分の胸の中で反芻してみました。
 誰かを好きになって、でも自分はまだ性を持たないから、その自分の中の欠落を埋めるように性に対して異常な関心を示す――確かに分かりやすく、ありえそうなことです。保健体育の授業でもそんな例を挙げられていた覚えもあります。
 今一わかりませんが、じゃあ、私の場合もそうだというんでしょうか。
 性のない私たちは、いまいち、恋というものにも鈍感に出来ています。既に女の子になっているリオちゃんの言葉には、だから妙な説得力を感じてしまいます。
 でも、だとして。でもそれは――
「……それは、駄目だよ」
「駄目って」
 私の拒絶に、訳が分からないというような表情を返してきました。
 何でそんな表情をするのでしょう。そっちの方が訳分かりません。
 だって、そうじゃないですか。
 私が、今の時点で好きになる可能性のある相手。男の子か、男の子になろうとしている子供。そして、普段の生活の中で触れ合う機会の多い相手。そんなの、一人しかいません。
「だって。だってそれ、私が、アユムくんを好きだってことじゃない」
「そうじゃないの?」
 そう言って、何でもないような様子でリオちゃんは首をかしげています。
 まるでそれが、当り前の事実のように。
 どういうことなんでしょうか。何か、何でそんな反応を返してくるんでしょうか。
 だって、おかしいじゃないですか。
 アユムくんとリオちゃんは、とてもとても仲の良い幼馴染です。今でこそこうして、私を含めた三人で一緒に何かをやっていることが多いですが、本来なら私が割って入るのは無粋極まりないくらいの。十代も後半にさしかかろうというのに、今でも「幼馴染」であり続けられるくらいの、仲の良い二人なのです。
 だから、私は、アユムくんが明日になって性を与えられれば、リオちゃんと正真正銘、そういう仲になるんだろうと考えていました。
 そしてその暁には、晴れて一緒になれた二人を祝福しようと、そんな事も考えていました。そういう心づもりでいる、つもりでした。
 そう、つもりでした。
 でも、人間なんて、自分の気持ちにどこまで自覚を持っているかなんて怪しいものです。私自身はそういうつもりでも、もっと胸の奥には、自分にも気付かない気持ちを抱えていることだって、十分にあり得ます。そしてまた、外からみれば実はそんなの、一目瞭然だった、なんてことも、また良くあることです。
 だから……もし、ほんとにリオちゃんの言うことが正しいなら。私が自分でも気付かないところで、アユムくんに友人以上の好意を持っているとするならば。
 私は――本当に、間抜けで、愚かな、お邪魔虫ではないですか。
 そんなの、駄目です。困ります。
「……ソラちゃんが、あたしとアユムをどういうふうに見てたかは知らないけど」
 多分、こちらの表情から考えてることがわかったのでしょう。長い間一緒にいたせいで、こういう所ばかりは、リオちゃんはやけに鋭く他人の気持ちを察してきます。
 そして、そんなリオちゃんは、苦笑しながら言ってよこしたのでした。
 一大問題発言を。
「あたし、彼氏いるよ。勿論、アユムじゃなくて、別の奴」
 ……
 ……はい?
 でもって、更に問題発言。
「……ていうか、もう、その……初体験、済ますとこまで、行ってるし」
 ちょっと目をそらしながら、頬を赤らめて、更にそんな事までリオちゃんは言ったのでした。
 ああ、そんな表情も可愛らしいなあ………って。そうじゃなくて。
 ……
 ……
 あたまが。
 まっしろに。
 なりました。
 きっかり、一分。時間が止まり。
 そしてようやく。私は、彼女の言うところの意味を、理解することができました。
 もう一度。もう一度確認しましょう、リオちゃんが言った、その言葉を。
 ――あたし、彼氏いるよ。勿論、アユムじゃなくて、別の奴。
 ――ていうか、もう、その……初体験、済ますとこまで、行ってるし。
「ええええぇえぇえぇええぇえええええっっ!?」
 絶叫です。
 絶叫です。
 絶叫しまくりです。
 周りが何事かと視線を向けてきたような気がしましたが、それどころじゃありません。
 私が恋をしているかどうかなんて、そんな事も吹っ飛びました。
 それどころじゃありません。ええまったく、それどころじゃありません。
 え、何。何それどういうことですかどういうことですか。
 リオちゃんには、もう、彼氏がいて?
 それは、アユムくんとは別の男の子で?
 もう、え? やってる?
 セックス、しちゃってると?
「え、ちょっとまってちょっとまって! 何それ何それどういうことどういうことなの!?」
「あー……うん。まあこういう風に反応されるだろうから隠してたんだけどさ」
 何だか困ったふうに苦笑するリオちゃんですが、聞いてられません。
 だって、これ。いち大事ですよ。ありえないですよ。
 この、美しくて、可愛くて、清純そのもので、しかしどこか淫靡な、そんなリオちゃんの、「女の子」の身体を。女の子の私ですらむしゃぶりつきたいと思うそんな裸を。アユムくん以外の誰かが、触っているのです。セックス、しているのです。そう、セックスです。セックスと言えば。おっぱいを揉んで。唇を重ねて。股間をまさぐって。そしていきり立つ欲肉棒を濡れそぼったその割れ目にあてがい! 淫唇に割り込ませ! 狭く硬い膣襞に分け入り潜り込ませ! 清らかな乙女の証である処女膜を破り! 粘膜同士はこすれあい! 体液は混じり合い! 快楽は膨れ上がり! 劣情は昂ぶり続け! そうして昇りつめた欲望が欲望が欲望が! 白濁とした子種汁となって誰も見たこともないリオちゃんの子宮という禁断の聖域にどぱっと! どぱっと! 吐き出され染み込みそしてそして卵子が卵子が卵子がああああああああああああああッッ!!
 神は死んだ。
「誰ですかそんなことしたのっていうかホントなのやっちゃったの!? ちょっと確認させて見せなさい今すぐ!」
「ちょ、まって! おちつけ! ていうかなにを確認する気だ! や、まっ……ひゃあああああっっ!?」
「おちついてられるかチクショー! ええい喰らえぃスメラギ流秘奥義ッ!!
 まく!! けん!! さ!!」
「膜検査っ!?」
 リオちゃんの入っていたコンパートメントに音速の勢いで侵入し、私は彼女をその場に押し倒しました。暴れる彼女のキック&パンチに耐えながらまんぐり返しの体勢をとらせ、そして薄い毛の生えた女の子の場所に指を宛がい、その奥に清浄の証しである処女膜があるかどうかを見極めんがため、くにりと指に力を入れて、くぱぁっと――
 ごぎんっ――と脳天で重い衝撃がはじけました。
「あううっ」
 本日二度目の、リオちゃんのエルボーです。威力はおよそ五割増し。痛いです。痛いどころじゃありません、死にそうです。
「おちつけって! ああもう―――」
 流石にいつもの調子でしかり付け――そして、でも。リオちゃんは急にふっとその表情を緩めて、どこか不思議そうに私の顔を見ています。
 二人の体勢はずるずると崩れて、私は仰向けになった彼女の身体に、しがみ付くような体勢になってしまいました。
 エルボーのダメージもあり、そのままうずくまってしまった私の頭を、リオちゃんは撫でてきます。
 ……何なんですか。もう。こんな時に限って優しくなりやがって。
「……もう。何泣いてんのさ」
「だって。だって……」
 そう。私は、泣いていました。
 だって。悲しいじゃないですか。悔しいじゃないですか。
 リオちゃんのことを親友だと思っていました。なのに、私はリオちゃんのそんな側面に気がつきもしませんでした。
 リオちゃんとアユムくんのことを、お似合いのカップルだと思っていました。それは、ひそかに私のあこがれていた関係であり、だからこそ私は二人の関係を壊すまいと心に誓っていました。でもそれは私の勝手な思い込みで、リオちゃんは他の男の子と彼氏彼女の関係になり、既に男の肉体を知った女になっていました。
 自分自身の察しの悪さが悔しくて。そんな自分が大切にしていたものが、もうとっくになくなってしまっていた事が悲しくて。
 そしてそれに、何より――
「アユムくん……かわいそうだよ。こんなの。あんまりだよ……」
 リオちゃんは、素敵な女の子です。可愛くて。気立てがよくて。自分自身というものをきちんと持っていて。
 そんな彼女の魅力を、そんな彼女のことを、アユムくんは誰よりも知っている筈なのです。私なんかより、もっとずっと深く、広く。
 だから、リオちゃんのことをこの世で最も深く愛せるのは、アユムくんだけだと思っていました。
 なのに、そんなアユムくんが、リオちゃんと結ばれないなんて、おかしいです。
「……あー……」
 でも、リオちゃんは、泣きじゃくる私を見て、困ったように頭をかくばかりでした。
 どことなく気が抜けているような、緊張感に欠ける表情が、憎たらしくもあります。
 私の頭を撫でる手つきは、あくまでも優しいものでした。
 何となくそれが嫌で、振り払おうとするのですが、何でか、上手く力が入らなくて、簡単に抑え込まれてしまいます。
「大丈夫だよ」
「何がよぉ……」
 弱い声でののしりながら、私は渾身の力でリオちゃんを殴りつけていました。
 でもやっぱり腕には全然力が入らなくて、繰り出せたのは、ぽかぽかとそんな音すらならない、弱々しい拳でしかありませんでしたけど。
 何が大丈夫だというのでしょう。
 全然、大丈夫じゃないです。
 胸が痛いです。寂しくて悲しくて、仕方がないのです。
 でも、ああ、でも。何なんでしょう、これは。
 私は、これまで感じたことのない居心地の悪さを感じていました。
 性を持たない私には想像することしかできないのですが、あるいは恋人を寝取られた愚人の気持ちというのは、こういうものなのではないでしょうか。
 自分たちの感情は永遠のものだと思っていたのに、自分を――自分たちをさておいて、何の気なしに他の男のもとに去っていったリオちゃんが、憎くて憎くて仕方ありません。
 なんて尻の軽い女だろう。なんて股の緩い女だろう。このバカ。うらぎりもの。びっち。しんじゃえ。そんな口汚い罵声を浴びせたくもあります。
 なのに、それはきっと――いや、絶対できません。
 だって、今、私の頭を撫でてくれているリオちゃんは、やっぱり私の知っているリオちゃんなのです。
 きちんと自分を持っている強さがあって。
 身体の線はあくまでも柔らかで。
 どこまでもどこまでも美しい女の子。気高く可愛い、私にとってのあこがれの女の子。
 私を優しく見つめるその意思の強い瞳が、彼女が決して尻軽女でないことを何よりも雄弁に物語っています。
 そう、彼女は自分の意思で、西野リオ、として、アユムくんではなく、別の男の子を選んだのです。
 他ならぬ西野リオちゃんが選んだのなら、それに私が口出しできるわけがないのです。
 でも。なら。じゃあ。
 この釈然としない気持ちは、一体どうすればいいというのでしょう。どこに持っていけばいいのでしょう。
「……もう、大丈夫だってば」
 頭をなでられ続けても一向に泣きやまない私を、何処か愛おしそうに眺めながら、リオちゃんは、今度はわたしを抱きしめてきました。
 きゅ、と。心地よい息苦しさに、胸が締め付けられます。
 見るだけであれほど興奮していたのに、肌と肌が触れ合っているのに、まったくそういう気持ちにはなりませんでした。何でか、妙に心が安らいだ気持ちにすらなっています。
 リオちゃんはずるい。
 リオちゃんは、卑怯だ。
 私は、そう、心から思いました。
「ソラちゃんが心を痛めることはないの。これはアユムだってもう知ってることだし。私たちは納得してこうなったんだ。なるべくしてこうなったんだ」
「……」
「アユムのことで、泣く事もない。大丈夫、あいつは傷ついてない。私が保証する。賭けてもいい。だから、泣かないで。大丈夫。大丈夫なんだよ」
 それは、そうなんでしょう。
 多分、他に彼氏が居るだけで、アユムくんはやっぱりリオちゃんの幼馴染なのです。だから多分、私が守りたかったものは、私が見えていた側面では、多分、なにも間違っていないし壊れてもいないのです。
 全ては私の勘違い。
 その裏側まで、私が見えていなかっただけ。
 なら、その落とし前は、私が気持ちの区切りをつけることでしか、何とかすることができないものなのでしょう。
 それだけのことです。
 ……でも。だから――
「……でも」
「……うん?」
「酷いよリオちゃん……それ、やっぱり、私、除け者になってるじゃない……」
「……うん。ごめん。そうするしかなかったって――でもそれは言い訳だもんね、ごめん」
 最後の糾弾は、ちょっとした甘えが込められたものでした。
 だって、アユムくんとリオちゃんが、私の信じている通りに大切な友達のままならば、彼と彼女が私にその側面を見せなかったことには、やっぱり何がしかの意味がある筈なのです。
 そして、リオちゃんは、私の期待通りに、それを認め、謝ってくれさえしました。
 だからそれは、何よりの仲直りのしるし。
 そうしてリオちゃんは、私が泣きやむまで、シャワーの降り注ぐ中、私の頭を撫で続けてくれました。

 
 ――そして。
 十分くらい、かかったでしょうか。
「――大丈夫?」
「ん……」
 私が泣きやむのと同時に、私たちは一緒に浴場を出ることにしました。
 タオルで肌に残る水気を拭きとって。服を着て。脱衣場に備え付けられているドライヤーで髪を乾かして。
 そうしていく間に、私たちの間の空気もいつもの通りの明るさを取り戻し、冗談交じりの会話に笑い声も上がってきはじめます。
 それでいいのです。
 そんなもの、なのでしょう。
「……そういえばさ」
「なに?」
 髪が渇いた後、自販機で買った瓶牛乳を飲みながら、ふと、思い出して私はリオちゃんに尋ねました。
「アユムくんが傷つかないって、どういうこと?」
 結局それは、浴場では聞けずじまいになっていましたが、やはり不自然な感じはします。
 あれだけ一緒にいるのなら、幼馴染とはいっても異性同士、相手をそういう意味で意識することもあったでしょうに。ならリオちゃんに彼氏ができるなら、多少なりともショックは受けたんじゃないか、そう思えてならないのです。
 だけど――
「……はぁ」
「な、何よ」
「……ソラちゃん……」
 だけど、リオちゃんは、そんな私に心底呆れたような顔を向けてきました。
 というか、何だか憐れみの様なものまで感じられます。
 どころか、前途多難だわ、と呟いてため息まで漏らしやがりました。
 何なんですか、それ。
「……結構あんた、ニブいのね……性がないにしても、それどうよ……」
「な、何よう。教えてよ。教えてくれたっていいじゃない!」
「駄目。これだけは駄目。教えない。ヒントは上げたし、じきに答えも分かるから。せいぜい苦しみなさい」
「い、いじわる! いじわるだ!」
「うっさい! ああもう! まとわりつくな! くっつくな! ここんとこ、さんざんセクハラされたおかえしじゃ!」
「そんなイケズするなら今度こそ揉むぞ! 直に!」
「ひゃっ!? んぁ……ッ、 あうっ、 だあああッ! やーめーれーッ!!  っああもう!! しおらしかったと思えばすぐこれだよもう!!」
 そんな事を言いあいながら、私たちは銭湯を後にしました。
 乳首ぐりぐりしても、結局、教えてくれませんでしたけど。ぐーパンチはもらいましたけど。
 なんだっていうのでしょう、本当に。



[31293] 妄想長えよ
Name: 午後12時の男◆96f3d9c1 ID:3561ecbb
Date: 2012/01/23 03:21
#1

 性を与えられるための「儀式」の手順は、至って単純なものです。
 祭の日、神社の敷地内で行われている夜店などの催しごとを、男女(になる予定の二人)で一緒に一通りめぐり、そのあと神社の裏山に複数ある洞穴に入り、二人で一晩を過ごす、というものです。
 そうすれば朝、男の子は男としての性徴が始まり、女の子も女としての性徴が始まる――のだそうで。
 何やら怪しい、眉唾な雰囲気バリバリの内容ですが、少なく見積もって三千年以上もの間、そうやって街の人々は性を与えられているのですから、まあそういうものなのでしょう。
 以上、準備が終わって生徒が全員集合した際、性選択志願者に渡されたしおりからの抜粋でした。勿論、実際に書かれている内容はもっとまじめに書かれていましたけどね。
 ああそうそう、ついでにいうと、そのしおりにはしっかりこの神社の宮司さんと、この街の市長さんの署名が入っていました。色々何だかなあという感じですが、まあこれも、その手順が眉唾出ないものだという証拠にはなるんじゃないでしょうか。そこまで大がかりに大勢で子供を担いでも、何の得にもなりませんしね。
 ……しかしなんと言うか、男女二人で、誰も見ていない洞穴の中で一晩過ごすだなんて、何やら色々あからさまにイヤラシイ感じではないですか。まあ実際には、性が与えられると言っても、一晩のうちに性行為が可能になる程性徴が進む訳でもないので、実際にはそういうことができるわけでもないんですけどね。
 そういえば、実はそのあたりの手順をきちんと知らなかったのはどうも三人組の中では私だけだったようで。まあリオちゃんはもう経験済みなので知っていて当然なんですが、それにしても、いつもの言動がアレなのに何でそんな情報も仕入れていないのかと呆れられたりもしたのでした。
「あんた、あんだけあたしにセクハラしといて……」
「いや、だって。性別もらえるのはどうせそんな調べなくてもいけるじゃん。それよりこう、実際にあれこれいたしたりする時にどうするかの方で頭いっぱいだったというか! 調べなくても女の子には慣れるけど性感帯は調べないと分かんないんだよ!?」
「お前は一体何を言っているんだ」
「ソラちゃん……ヘンタイ……」
「またその反応かよっ!?」
 なんていう、ある意味いつも通りのやりとりがあったりもしたのですが、それはともかく。

 一夜あけて、いよいよ祭の本番、です。

 祭が始まった頃は、まだ空も茜色に明るかったのに、いつの間にかもうすっかり日も落ち、提灯の明かりの向こうは夜の闇色が見て取れます。
 洞穴に入るタイミングはそれぞれの「カップル」に任せられていますが、やはりなんというか、実際行うのが「そういうこと」なのですから、夜に入るのがふさわしいもののような気がします。「その時」が近づいてきたような気がして、なんとなく、気ちが焦っているような、落ちつかないような、変な高揚感というか緊張が高まってきます。
「……なんか、緊張するね」
「そうだね。夜店はフツーに面白いけども」
 隣のアユムくんが、少し乾いた声で笑いかけてきます。
 ここら辺は長らく付き合ってきた友人と言うべきか。考えること感じることは同じようです。
 アユムくんは、綺麗な格好をしていました。
 控え目な色合いで抑えられた浴衣は確かに男もののようですが、全体的に控え目な仕草が多く、華奢で色も白いアユムくんが着ると、何やらちぐはぐというか、やっぱり男装している女の子に見えてしまいます。首筋というかうなじのあたりとか、かなりエロいです。
 そう。
 当然と言えば当然の流れで、私はアユムくんと一緒に、性を与えられる儀式に臨むことになりました。
 正直、ちょっと複雑な気分です。
 昨日のリオちゃんとのやりとりが、何となく、引っ掛かっているといいますか。
 今のような関係のままで、アユムくんと一緒に性を与えられる儀式をしていいのか、みたいな。男女ひと組で与えられるものと知ったので、なおさらです。
 何だか、こうやってアユムくんと一緒に「男女」になるというのは、ただでさえややこしくなっていた私たちの関係に、新しい亀裂を生むんじゃないか、みたいな。
 気にしすぎなのでしょうか。気のしすぎなのだと思います。
 確かに昔はきちんとしたカップルで行うべし、みたいな感じだったらしいのですが、前述のように性を与えられる前の私たちは恋愛感情に対しても疎いことが多く、今では何となく仲のいい女の子になりたい子、男の子になりたい子でひと組になって儀式を受けることが多いそうです。
 ふつうは、その程度のものなのです。
 ちなみにリオちゃんは今年は「主役」ではないためか、「がんばってねえ」と微妙にイヤラシイ言葉を私たちにかけたあと、どこかにふいっと消えて行ってしまいました。
 肝心な時に頼りになってくれない親友です。
 ともあれ、逃げる訳にもいけません。
 というか、まあ、そもそも逃げる必要もないことなんでしょうけども。
(うーん……ま、いいか)
 少し悩みましたが、あまり考えないようにすることにしました。
 こういうとき、ウジウジ考えても前に進める訳じゃありません。
 ここは多分、悩んでも仕方ないところなのです。なら開き直る方が良いのでしょう。そもそも私は、そこまでものを考えられるほどデキの良い頭をしていませんしね。
 さてさて。
 そんなこんなをしているうちに、いよいよ夜も更けてまいりました。
 射的とか、金魚すくいとか、ヨーヨー釣りとか、今一インチキくさい型抜きとか、絶対適当っぽい相性占いとか、とりあえず夜店を一通り回り、あとは本番、あるのみ、です。
「そろそろ、かな」
「う。うん」
 私たちは緊張の面持ちで頷き合い、山へと入ることにしました。
 神社の本殿の裏は当然のように暗がりになっており、その端っこにちょこんと設けられた鳥居をくぐって、私たちは裏山へと入って行きます。
 背中で祭囃や人々のはしゃぐ声を聞きながら、二人肩を並べて山を登っていきます。舗装されていない地道ですが、鬱蒼とした木々に囲まれていながらも、意外と整備は行き届いていて歩きにくい感じはしません。傾斜もそれほどきつくはなく、浴衣でも大して苦もなく足を前に進めることができました。
「なんか、ここも変だね」
「そうだね」
 よくよく考えれば、木々に囲まれた夜の山道だというのに、まったく暗くない、というのは変ですよね。
 道を照らすものは、何もありません。上を仰いで見ても、木々の梢に遮られて星も月もここからは何一つ見えていません。だというのに、未知の凹凸が事細かに見えるのです。ただでさえ歩くのに適さない筈のこの場所で、何不自由なく私たちは上へと目指していけるのです。
 あるいは地面そのものが発光しているのでしょうか。地面に目を凝らしてもそんな風には見えませんし、まぶしくとも何ともないのですが。
 うーん。どういう仕掛けなんでしょう。
 この儀式はまあ街の仕掛けとして組み込まれているものですし、そういうことがあっても不思議ではないのかもしれません。変ですけど。
「ここの土、持って帰ってみようか」
「それ多分、怒られるんじゃないかな……」
 そんな事を言いあいつつ、十五分位、登ったでしょうか。
 不意に視界が開けました。
「……わぁ」
 思わず歓声が上がりました。
 神社の裏山はそれほど高いものではありませんが、街の中心部にあり、また街そのものが傾斜の乏しい土地であることもあるのでしょう、今私たちが立っている場所から、その夜景が一望できました。
 ロマンチック、という言葉は、こういうもののためにあるのでしょう。
 街にはそれほど高い建物もないため、それは私にとって初めての景色でした。
 光の点の多くは街灯のものなのでしょう。家々の輪郭は闇に覆われ見ることもできず、星よりはまばらで星よりは明るい光の群れが、私たちの足元で瞬いています。
 夜の空に響く、何かが唸るような音は幹線道路のものでしょうか。祭囃も既に何処か遠く、私たちの立っている場所は人々の生活からどこか遠くにある異界のような気もしてきます。あるいは神様という存在が居るとすれば、毎日こういった視点で、こういった気分で、人々の生活を見下ろしているのかもしれません。
 いや、確かにここは異界なのでしょう。
 背後を見れば、そこにはいつの間にか、先程まではなかった筈の洞穴がぽっかりと口を開けていました。
 そこが、私たちの場所だ、と、そういうことなのでしょう。
 何となくそれが理解できました。あるいは私たちはそのことを知っていたのかもしれません。何せ、そこになかった筈のものがいきなり現れるという、いきなりの超常現象を目の当たりにしても大した驚きもなく、それがまるで自然なことのように、私たちはそれを受け入れていたのですから。
 そう。私とアユムくんは今から、この場所で、夜を明かし、子供としての身体を棄てて、女として、あるいは男としての身体を手に入れるのです。
 ぶるり、と身体が震えました。
 武者震いといいますか。何でしょう。興奮と不安がない交ぜになったような、奇妙な昂揚で胸が熱くなってきます。
「……ソラ、ちゃん」
 うわ。何ですか何ですか。
 ふいに、きゅっと手が握られました。
 内心びっくりして手を振りほどきそうになったのですが、何とかそれをこらえ、私はアユムくんの方に振り返りました。
「な、何?」
 いやに真剣な目で彼はわたしを見つめてきています。
 どこか頼りない表情やしぐさが印象に残っているので、何となくそんな顔立ちが新鮮でもありました。
 にしても、ホントまつ毛長いですねこの子。
 顔立ちも綺麗だし、もし女の子になって、それなりに経験積んでアレな時にトロ顔なんかをするようになるとホント色っぽいだろうなあ……なんて。いやいやそうじゃなくって。何を現実逃避してるんでしょう、私は。
「その……ここに入る前に、伝えたい、事があって」
 緊張しているのでしょう。
 つっかえないように、一文字一文字を区切るようにして、やたらゆっくりな発声で、言ってきます。掌は僅かに汗ばんでいて、なんとなく、そんなアユムくんの様子にあてられて、私の方も身を硬くしてしまいます。
 こくり、と。
 アユムくんが喉を鳴らす音が、何故かひどく鮮明に聞こえました。
 そして。
 何かためらうように少し視線を彷徨わせて。
 何かを決心したように、頷いて。
 アユムくんは言ったのです。

「ソラちゃん。好きです」

 ……
 …………

 はい?



#2

 この街の子供は、生まれた時には性を持っていません。
 思春期前後に、街の中心に位置する神社で、一定の儀式をすることで、性と、生殖能力を与えられます。
 与えられる――というのは誤解を生む表現かもしれません。
 正確には、性がある身体へと、作りかえられるのだそうです。
 どういうことなのか――それを説明するためには、最早住人の誰も名前を覚えていない、この街の成り立ちからお話しなければなりません。
 先に少しお話したように、大昔、世界は大きな事件にあって、ぐちゃぐちゃになってしまいました。それが戦争なのか純然たる自己なのかはもう記録も残っていないのですが、どうも色々と調査を重ねたところ、その事件が起こった結果として世界は、「あらゆるものの意味が失われた」のだそうです。
 どういうことなのか今一意味がわかりませんが、とにかくそういうことなのだそうです。世界が原子の区別もつかないくらいに破壊されたのか、あるいは人の意識が何らかの操作を受けたのか。そのあたりも判然としません。ともかくそうやって世界は崩壊し、もとあったものはなに一つ残らずこの世から消え去りました。
 ただ、そうやって世界を破壊したその威力は、瞬間的に起こったものではなかったようです。
 来るべき終末に備えて昔の人々は様々な対応策を試み、そしてその限定的な成功例の一つとして、この街は生まれたのです。
「破壊を受ける前にその影響を受けないレベルまで世界を先に壊し、驚異が過ぎ去ったあとに、あらかじめプログラムしておいた手順に従って世界を再生する」
 この街をつくりだした者たちが取った対応策は、おおよそ、このようなものだったそうです。
 ただ、その策は、完全には成功しなかったようです。
 破壊の威力はあまりにも大きく、人々が残した対応策も、その威力に大半が飲まれ、結果的に世界はきちんとは元通りには戻りませんでした。辛うじて完全な破壊を免れた一部のプログラムが、わずか街ひとつの規模を、それも不完全な形で再現することになったのです。
 だから私たちの街には、色々とおかしいものがあちこちにある――なんて、要するにそのような寸法なのだそうです。
 性が未分化な子供。明らかにおかしい季節の風物詩――
 他の街がどうなっているかを、だから私たちは知りません。
 他に別の手段で生き延びた人々が居るのか。あるいは人としての意識を残すことができたのは私たちだけなのか。街の外縁部は不思議な霧のようなもので覆われており、その外に一歩も出ることもできない私たちに、街の外のことを知ることは出来ません。
 そもそもの話、私たち自身も、もとの人間の要素をどれだけ残しているか怪しいものですけどね。
 しかもその再生装置――どうも神社の地下にあるそうで、でもその実物を見た人間はいないそうですが――そのものも、機能の破壊そのものは免れたとはいえ、「意味の破壊」の影響を受けてしまい、本来の機能とはズレた効果を再生後の世界に及ぼしてしまっているようです。
 簡単に言ってしまえば、生き返る意味での「再生」ではなく、録音された音楽が「再生」される方の意味でしか、この街はこの世に姿を現してはいない、ということのようです。
 何千年もの間、だからこの街は一度の進歩もしていません。壊れたレコードのように、不完全な状態で、ある一定期間の世界を「再生し続けている」だけなのです。
 それも、どうも怪しいというか、完全なものではないようですけどね。
 何せ、少なくても三千年のあいだで、そういったループのようなものが何回か起こっていると、私たちはそのことを記録から知ることが出来ているのですから。
 ともあれ、私たちと、私たちの街は、そういうふうにして出来あがりました。
 私たちが儀式を行うことで性を与えられるのも、そういったいきさつがあったからなのです。
 子供は生殖機能がないので、性を持たない状態で生まれます。でも成長し十五歳前後になれば、思春期と言われる様に心身共に生殖が出来る、男と女の二種類の身体があるわけです。
 性のない子供と、性のある大人。
 そのギャップを埋めるための、いわば修正作業が、今、私たちが行っている儀式なのです。
 男女ひと組になって、夜店を回り、どちらが男でどちらが女かを互いの無意識の中で判定し、その状態で、神社の地下にある例の再生装置――世界の再生力の影響がより強い場所で一定時間を過ごす。そうすれば、まるで答え合わせをするように、男であると自覚を持った者は男の身体へと作り変えられ、女の自覚をもった者は女の身体へと作り変えられる。
 再生装置の中にある、「女の身体」「男の身体」の記録を転写される、といった方がふさわしいかもしれません。
 私たちが儀式によって性を与えられるというのは、つまり、そういうことなのだそうです。
 いろいろとまあ、ヒドい世界じゃないですか。
 まあ、その件に関してはいいのです。
 今更私たちが住む世界がどうだと言ったところで、明日の天気をどうこうできるわけでもないですし、明日もご飯は美味しい筈なので。
 ただ、でもやはり、気になってしまう事もあるのです。
 女になるということは、女の身体へと作り変えられるということ。
 男になるということは、男の身体へと作り変えられるということ。
 もしそれが本当のことだとして、じゃあ、私たちの、心はどうなのでしょう。
 勿論私は、私の姉や、リオちゃんなんかのことを知っています。
 彼女たちは性選択の前も後も変わらず、私の姉であり続け、あるいはリオちゃんであり続けています。
 でも、彼女たちの心のすべてがそう、とは言い切れる自身が、私にはありません。
 彼女たちの心のすべてを知っているわけでは、ありませんからね。
 そう。そこが、少し不安なのです。
 秋祭り。
 豊穣と実りを感謝し、豊穣と実りの能力を与えられる、神聖な日。
 神聖だと、そういうことになっている、その日。
 その日を境に、私たちは、心のどこかも、作り変えられてはいないでしょうか。
 

#3

「好きです。付き合って、ください」
 付き合って下さい、とまで言われてしまいました。
 ええと。
 ツキアウ、とはなんでしょう。
 突き合う? 何か色々武闘派です。抜き手でずぼずぼしあうのでしょうか。うん。なんか違う。
 憑き合う? オカルト系かすげえなおい。幽体離脱して互いの身体に憑依ですか。入れ替わり系ですかTSですか。無理やてそんなの。
 えっと……じゃあ。『付き合う』? これですか? このタイミングで一緒に買いもの付き合うとかそういうんじゃないですよね? え? じゃあ男女の意味で? 交際するという意味で付き合うということですか? マジ?
 いや。え。あ。でも。そうですよ。何混乱してるんでしょう、私は。
 言ってたじゃないですか、アユムくん、「好き」って。あはははは。じゃあこれですよこれ。これしか答え、あり得ないじゃないですか。馬鹿だなあ私。
「付き合うって……ええと」
「……うん」
「まだ、私女の子じゃないし」
「でも、ソラちゃん可愛いと思う。何て言うかその、ほっとけない感じというか。そういうのもあって、何か、いっつも一緒にいてたら、好きになってて。だからその、」
「――」
「だから、その……僕たちが男と女になったら、その時は、付き合ってくれないかな」
 ああ。なんて情熱的な告白。
 ……
 ……
 って。
 いやそうじゃなくって。付き合う? 男女の意味で? 私と、アユムくんが?
 付き合うって言えば、アレですよね。
 好き合った男女が一緒に行動する特別な関係になるという、アレです。
 学校でも一緒にお弁当食べたり。あまつさえそのお弁当が女の子のお手製だったり。休日になったら、そうデートです。一緒に買い物をして、映画を見て。喫茶店で長い時間、意味もないような、しかし楽しいおしゃべりに興じてみたり。そしてそうしているうちに日は落ちて、二人はなんとなく気恥ずかしげに手をつなぎながら、カップル用宿泊施設特殊用途仕様の中に入り、本当の意味での一夜を共にするのです。ひとつのベッドに肩を並べて座って。部屋に設置されたテレビをうっかり点けてしまって助平DVDにドギマギしたりしつつ、しかし何となくそれがそういう気分を盛り上げる後押しとなって、アユムくんの手がおずおずと私の身体に触れ始めるのです。見つめ合いながらのキスをし、そうしているうちに私も気分が高まって、自分から服を脱いだりしちゃったりもするでしょう。そして互いの鼓動を確かめるように裸同士で抱きしめ合い、赤面しつつも互いの局部をまさぐり始め、刺激を受けた男根は膨らみ、女陰は濡れ始め――そう、もうそうなれば本番です。緊張に身を硬くし、何かにすがるようにシーツを握りしめながらも私はアユムくんを受け入れたい一心で身をベッドに横たえ股を開き、そしてアユムくんも劣情と気遣いがない交ぜになった不思議な衝動に突き動かされて、いきり立ったそれを私の中に沈めて行くのです。何かが裂けるような痛み。思わず漏れる悲鳴。しかしそれは労わるようなキスによって封じ込められ、私もそれにいい気になって『いいよ、痛いけど……動いて』なんて言ってしまい、初めての身体で耐えられる筈もない激しい性行為が始まるのです。破瓜の血と愛液と先走りが私の中でこねまわされ、それが淫猥な水音となって二人の官能を刺激し、いよいよ二人は無口になって、息遣いと、喘ぎと、微かにベッドのきしむ音が酷くはっきりと聞こえ、しかしそれも徐々に掘り起こされていく快感によってやがて意識されなくなり、痛みは薄れ、下半身の熱さと掻痒感が今や感じる現実のすべて。止まらない二人。止められない性運動。もうそうなれば最後まで行きつくしかありません。初めてだというのにいつの間にか私の腰も快楽を求めて動き出し、初めての感覚に表情筋は蕩け、それでも気持ちいいことを伝えようと笑顔を浮かべキスを求め、そんな私の反応がアユムくんの中の雄を刺激し、いつもの彼からすれば信じられないほどの乱暴さで腰を動かすようになり、快感は高まり、気持ちは昂ぶり、そうして二人の間で高まった熱量はいつしか臨界をむかえ、絶頂までたどり着いてしまうのです。互いに痙攣する身体をかばうように抱きしめ合い、私の膣肉は絶頂に痙攣し、アユムくんの肉棒はそんな私の体内に脈動しながら精液をぶちまけるのです。初めての絶頂。初めての膣内射精。至福の法悦の時間はしかし長く持って数分。だけど気持ちはどこか昂ぶりをくすぶらせたまま私たちは抱き締め合い続け、そうして「気持ち、良かったね」なんて気恥ずかしげに囁き合ったり何かしちゃって――ああああああヤバい、素敵! 恥ずかしい!
 そんなことをしたいというのですか! アユムくんは! 私と!
 そんなことしたいと考えていたんですか! 日々私の方を見ながらそうやって私の身体を弄ぶ妄想をしていたんですがアユムくんは! この変態! スケベ! 色魔! もう駄目怖い犯されるぅッッ!!

 私は一体何を言っているんだ。

 そんな訳ないじゃないですかそんな訳。だいたいアレですよ、アユムくんは私のセクハラ行為にいっつも顔を染めて「ソラちゃん……ヘンタイ」とか言ってくれやがる超絶シャイな男の子ですよ。そんな助平な考え持ってる訳ないじゃないですか。
 いやまて。でもやっぱりそれでもそういうことするのが世の彼氏彼女という奴で、付き合うというならそういうのをするのが普通だしそれを考えてないアユムくんじゃないだろうし、何よりシャイボーイに限ってむっつりさんだというのが世の中の常という奴で……いやそうじゃない。そうじゃないよ私! いい加減錯乱して現実逃避するのやめようよ! 

 そう、問題はそういうところじゃありません。
 アユムくんの気持ちです。
 アユムくんは、私のことを、好きだと言ってくれました。
 そう言ってくれた当の彼は、何だか判決を待つ被告人の様な絶望的な表情で、私の反応を待っています。
 何かにつけて気弱な彼が、それだけの勇気を振り絞って、決心を固めて、その言葉を私に言ってくれた、ということです。
 勿論、嬉しい、と思いました。嬉しいと思いましたが、でもそれ以上に今の私の心を支配しているのは、自責と後悔の念でした。
 こんなにも彼は苦しんでいたのに、そんな彼の煩悶に、私は露とも気づいていなかったのです。最低の女の子ではないですか。
 そして、更に最低なことにようやく、今更のように、私は昨日のリオちゃんとのひと悶着を思い出してました。
 既に彼氏持ちになって一線を越えていたリオちゃん。それに対しアユムくんが可哀そうだとぼやいた私。そしてそんな私の反応に、呆れたような表情を浮かべながら、大丈夫だと言ってくれたリオちゃん――ああ。つまり、あれはそういうことだったのです。
 アユムくんは私のことが好きだから、リオちゃんに彼氏がいても何にも傷つくことはないと。
 これではますます私が愚鈍なだけではないですか。親友を気取っていたくせに、リオちゃんの人間関係も、アユムくんの気持ちにも気付いていないなんて。
 アユムくんは、まだ黙ったままです。
 何か言わなければいけない。彼を傷つけないような言葉をかけなければいけない。そうは思うのですが、考えがまとまりません。何を言っていいのかまず何を考えるべきかもまとまらず、思考が右往左往してしまいます。
 やがて、すっと、アユムくんの表情は緩んで、どこか困っているような笑みに変わりました。
「その……返事は、あとでもいいから」
 言いながら目をそらし、でも改めて私の掌をきゅっと掴んで、彼は洞穴の方へと脚を進め始めました。
 私も抵抗できないまま、彼の手に引かれて、薄暗い、その中へと入っていきます。
「ちょ、ちょっと……アユムくん?」
 呼びかけても、返事はありません。
 今見えているのは後ろ姿なので表情までは判りませんが、耳のあたりが真っ赤になっていました。
 彼は彼で、いっぱいいっぱいなのでしょう。多分、私の声が聞こえないくらいに。
 どうしよう。
 どうしたらいいのでしょう。
 もしかしたら今の沈黙で、彼を傷つけてしまったのではないでしょうか。
 彼の告白にどうしていいかも分からず答えあぐねていた結果の沈黙を、彼は拒絶のそれと、あるいは引いたが故のそれと勘違いしてしまったのではないでしょうか。
 そんなことはないのです。全くそんなことは、あり得ないのです。
 だって、わたしも、混乱してしまうくらい嬉しかったのですから。
 でも――だからと言って、彼の告白に今すぐうんと頷くことは、私にはできません。
 だって。そうじゃないですか。
 こんなにも鈍くて。親しい間柄の彼らの気持ちを、何にも分かっていないような子が、告白されたからと言っていい気になって、ほいほいと交際を始めるなんて。
 どうしよう。
 ホント、どうしよう――
(……あっ)
 洞穴の中は意外に深く、五十メートルはもう進んだでしょうか。前を見ればまだまだ先には深く長い道が続いています。私たちの間に会話はなく、足音だけが妙にうるさく聞こえます。
(あ……あっ……)
 その中で、私は奇妙な感覚にとらわれ始めていました。
 どう表現すればいいでしょう、形のない、それこそガスのような何かが、皮膚をすりぬけ、全身から私の内部に忍び込んでくるような、そんな感覚。
 身体的なものばかりでなく、心までそういう何かが、しかしガスというにはひどくおどろおどろしく粘着質な何かが、ジワリジワリと冒してくるような、そんな感覚です。
 あるいは、望まない相手に強姦されるというのは、こういう感覚なのではないでしょうか。
 身体の準備も心の準備も出来ていないままに、こちらの気持ちなど知らず、無遠慮に、無造作に、自分とは異なる何かが身体の中へと深く差しこまれるような、違和感。おぞましさ。
 これが、性を与えられるための、何かなのでしょう。今まさしく、私は身体を作りかえられようとしているということです。そしておそらく、身体ばかりでなく、心の形も。
 何でしょう、これは。何だというのでしょう。
 性を与えられるという、私にとって、待ちに待った瞬間の筈です。
 でも、違和感があります。
 何で私はおぞましいと思っているのでしょう。
 何で私は気持ち悪いと思っているのでしょう。
 何で私は、いま、性を与えられることに不安を持っているのでしょう。
 理不尽だ、と思いました。
 アユムくんの告白に対する自分の気持ちに整理が出来ていないのに、その上こんな嫌悪感を突きつけられるだなんて。
(アユムくん……)
 心の中で、未だ私の手をつかんで洞穴の奥へと進んでいる少年に縋って、そして私は、ようやく気付きました。
 言葉として表現してしまえば、酷く簡単な、身近な、単純な感情。
 でも性を貰えることに対する肯定的な気持ちが先に立って、私は自分がそれを抱いているという可能性に、なかなか気づくことができませんでした。
 拒絶の感情。
 嫌悪の感情。
 ごくありふれた、負の感情。
 ――そう。
 私は、嫌だ、と。そう思ったのです。
 

#4

「――で」
 祭の翌日にはまた生徒総出で後片付けがあって、今日はそのさらに翌日。学校はお休みです。
 私はリオちゃんに呼び出されて、駅前の喫茶店でお茶を飲んでいました。
 ちなみにまあ駅と言っても、この世界には私たちの住むこの街しかないので、電車はなく単に駅舎とホームと線路があるだけなんですけどね。
「結局、途中でやめて帰っちゃったわけね」
「まあね」
 しれっと応える私に、呆れたような視線を向けて、そしてリオちゃんはこれ見よがしな大きなため息をついて見せました。
「あんたさ、あんだけはしゃいどいて……」
「うーん、まあいいじゃない」
「……いいけどさ。あんたみたいに途中で止めるのも、珍しい話じゃないらしいし。また来年改めて参加すればいいだけだけどさ」
 とか何とかぶちぶち言いながら、アイスコーヒーを啜るリオちゃん。
 彼女は何だか私の選択に、納得いかないご様子です。
 そうなのです。
 結局私たちはあの後、私がアユムくんに嘆願する形で「儀式」を中断し、裏山から下りることにしました。
 理由は――まあ言ってしまえば、私のわがままです。
 あのまま性を与えられ、女の子の身体を持つことが、どうしても嫌だったのです。
 だって、そうじゃないですか。
 アユムくんは、私の事を好きだと言ってくれました。
 自分だってまだ男の子じゃないのに、同じくまだ女の子じゃない私を、女の子として好きだと。
 その事自体は、やっぱり嬉しいことではありました。
 今思い出しても舞い上がっちゃうくらいに。
 だから多分、私はどちらにしろ彼の告白を受け入れる事になるのだと思います。
 私にとって、いちばん近しい男の子と言えば彼です。男の子としてどう、というのはなくても、友人として、一番好意を寄せていた「男の子」といえば、やっぱりアユムくんなのです。
 多分、そんな私の気持ちをそのまま煮詰めていきさえすれば、それはいとも簡単に男女の意味での好意となるでしょう。
 それはそれでいいのです。素敵なことなんじゃないかという気もしますし、リオちゃんに別の彼氏がいると知った今なら、アユムくんを好きになることに躊躇いを覚える必要もありません。
 というかまあ、そのリオちゃんが言うには、もう私はとっくにアユムくんのことを意識しているらしいのですけれど。
 そう。だからこそ。ならばなおのこと、です。
 私は彼に対して、もっと誠実でありたいと思ったのです。
 そしてそのためには、今、女になってはいけないと。
 いや。だってそうじゃないですか。身体が女になってしまえば、おそらく、私は淫乱になると思うのです。
 別に多数の男を咥えこむ気などさらさらありませんけれど、私はご覧のとおりの性格をしてますので、多分、きちんとした女の身体になってしまえば、彼氏彼女の立場に胡坐をかいて、とにかく何よりも性感を優先してアユムくんと一線を越えてしまうような気がするのです。そして毎晩のようにいたしちゃったりしまくる気がするのです。
 それはでも、良くないことだと思うのです。
 性もまだない身で、私に振り返られる事もなかったのに、ずっと私への好意を育ててくれたくれた彼にとって、不誠実な態度にも思えたのです。
 だから、私は、今は女の身体を持ちたくない、と思いました。
 性もない状態で私の事を好きになってくれたように、私もアユムくんのことを、性のない状態で好きと言えるようになる。そうしなければ、せめてそうやって同じラインに立たなければ、何となく、彼に申し訳ないような気がしたのです。
 せめて今までまともにアユムくんに向き合えていなかった分、これからの一年は、彼を好きになるために費やそう。そう、思ったのです。
 結局それは、彼を一年間もの間、待たせるということなのですけどね。
 だから、そう、これは私のわがままなのです。
 そして、そんな私のわがままを、アユムくんは快く受け入れてくれました。
 ていうか、実はそれで怒られちゃいましたけどね。「待っているなんて言わないからね、僕はそのあいだ、もっとソラちゃんの事、好きになるから」なんて言って。
 同じラインになんて立たせてやらない、だなんて、結構言ってくれるじゃありませんか。
「……何にやけてんの。気持ち悪い」
「うお!?」
 やばいやばい、惚気が顔に出ていたようです。
 慌てて口元をごしごしし始めた私の様子を見ながら、先程と同じ呆れ交じりの、しかしどこか優しい苦笑をリオちゃんは向けてきました。
「まあ、考えてることは分かるけどね」
「な、何よう」
「きちんと自分の中で、それこそ自分から告白できるくらいまで、今の状態から気持ちを持っていかないとアンフェアだ、とか考えてんでしょ」
「……別に、悪い事じゃないじゃん」
「まーね。アユムがかわいそうだけど」
 どないせえと。
 良いじゃないですか。足踏みをしたって。
 私たちの住んでいる世界は、こんな変な有様です。
 停滞して。変なもので溢れてて。明日がどうなるかなんて誰も分からない。
 いや、逆に、多分、何事もないまま何百年何千年と、こういう日が続いていくのでしょう。
 だったら、良いじゃないですか。生き急がなくって。
 好きという気持ちをきちんと育てるために、たまには足を止めても、良いじゃないですか。
「……ソラちゃん」
 ふいに。リオちゃんが居住まいを正して、私をきゅっと厳しい目で見つめてきました。
「な、なに?」
「あたしにはもう別の、好きな男の子がいるけど。でも、アユムはね。あたしの幼馴染なの。大切な、大好きな男の子であることには、変わりない訳」
「……う、うん」
「だから、あいつと一緒に、きちんと幸せになんなかったら、あたし、恨むからね。覚悟しなさい」
 そういって、びしりと人差し指を、私に向けて突きつけてきました。
「…………」
 ほんとに。もう。
 なんて気持ちのいい女の子でしょう。
 多分、私がアユムくんをきちんと好きになるためには、私自身が、彼女のような素敵な女の子にならなければいけない気がします。だってそうしなければ、私自身、納得できませんからね。
 アユムくんのいちばんそばにいるのだから、アユムくんの幼馴染になんて、負けてはいられません。
 だから、ええ。この一年は、大変です。
 挑戦者の気持ちで、だけどなぜかとてもすがすがしい気持ちで、私はだから、こう答えたのでした。

「うん、まかしといて」

 みてろよ!
 そしてその暁には、らぶらぶせっくすだ!

<おしまい>


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