#1
待ちに待った十五歳の秋祭り。
その前日は、しかしやっぱりと言うべきか何と言うべきか、いつもとあまり変わらない、フツーの朝から始まりました。
じりりり、とうるさい目覚ましを止めて、布団の中でごろごろする事、約五分。階下の母が怒鳴り声で呼びかけてきたタイミングで、ようやく身体を起こします。
ぐっと伸びをして身体中の眠気を振り払い、活を入れ直してベッドから降り、私は先に着替えをすることにしました。いつもは寝間着のまま先にダイニングに向かって朝食をとるのですが、何となく気分を変えたかったのです。他愛ないですが、それでもそうしてやろうと昨日から企んでいた事でした。なにせ、十五歳の秋祭りと言えば、この街ではちょっとした大イベントなのです。
申し遅れました。
私の名前は、夏目ソラ。十五歳の女の子……です。一応。
一応というのは、まあ詳しくは追い追い説明することとして、ぱっと見でも、鏡に映っている寝間着を脱いでショーツ一丁になった私の姿をご覧になればお分かり頂けることと思います。
まっ平ら。なのです。胸とかお尻とか。二次性徴期? 何それ美味しいの? な状態です。悲しいほどに、ド絶壁。
顔立ちは実のところ、大きめの目とか、小さめの鼻とか、それなりに整っているんじゃなかろうかと自分でもひそかに自惚れていたりもするのですが、この女っぽさの皆無な絶壁はもう絶望的なまでに圧倒的で、どう絶望的な絶壁かと申しますと、サイズに合うブラがないので、十五にして未だに私は上の下着を身に付けたことがありません。まあこの街に限って言うのなら、これは私だけの話でもないですが、それはそれ。一応ではあっても「女の子」なのですから、このありさまにはやはり唸ってしまうところがあります。
ちなみに、ショーツ一丁と先程いいましたけれど、まあつまり、なので私は今、胸も露わな感じで姿見の前に立っている状態だったりします。圧倒的ド絶壁感、まるだしです。
「むむ……」
いつも見慣れた顔であり胸ではあるのですが、顔はともかく、やはりこのおっぱい野郎はいかんともしがたいものがあります。おのれ、といった気持ちを多分に込めた掌を胸元に添えてぐにぐにと動かしてみますが、陥没気味の乳首がうにうにと周囲の皮に引っ張られて右往左往する様はなかなか見ていて切なくなるものがあります。友人の西野リオに薦められた豊胸運動ですが、やはりなんというか、ゼロには何をかけてもゼロなのではないでしょうか。
「うむ。あきらめよう」
できれば明日までにちょっとだけでも、みたいな気もあったのですが、もうここまで大きくなる気配がないのは、やはり運命には逆らえない、ということなのでしょう。私はため息をひとつついて、着替えの作業に復帰することにしました。
ブラウスを着て、スカートを着て、ブレザーを羽織って。
ネクタイの歪みのないことを確認して、簡単にブラッシング。癖のないセミロングの髪はいつもに増して素直に寝癖から復帰してくれました。うむ。幸先がよろしい。
ソラー! とますますマジギレ風味に母が呼びかけてきています。
実は朝一番から数えて、かれこれこれで五回目の呼びかけだったりするので、もうそろそろ限界というものでしょう。「今行くー!」とこちらも大声で応え、ようやくそこで私は自室から出ることにしました。
熱のこもった部屋の中と違い、廊下は少し肌寒く、でもそれが心地よくも感じられます。
うん、いい朝です。大イベントの前日なのですから、こうでなくてはなりません。
何となく弾む気持ちを胸に、私は朝食を取るべく階段を下りたのでした。
#2
制服姿で食卓に登場した私の姿に驚く母や姉に、ニヤリとほくそ笑みつつ食事を終え、歯を磨きと、もう一度身だしなみを確認した後、いつもより三十分ほど早い時間で私は家を出ることにしました。本当はいつもの時間でなにも問題はないのですが、これもまあ、いつもと気分を変えたかったからの行動です。
行先は学校ではなく、明日祭りが催される神社。学校の授業自体はお休みで、今日は祭の準備のお手伝いをすることになっています。じゃあ何で制服かと言えば、その祭の準備自体が学校行事の一環となっているからなのでした。
とはいえ、作業自体は制服ではなくジャージで行うので、私の手にはいつもの鞄はなく、ジャージの入った袋だけを持っている状態です。この日のために忘れずジャージを持って帰ってこなければならなかったり、微妙にめんどくさいのですが、それでも通学と変わらず制服なのは、担任教師のうめちゃん曰く「そういうケジメこそが大事」なのだそうで、分かった様な分からない様な理屈ですが、何となくその理屈は好きです。
ところで、行き先がいつもと違うために、目に映る風景がいつもと趣が違うというのも少し面白いものがあります。制服なので話をかけて違和感があると言うか、通学なのに散歩しているような、妙に開放的な気分になったりもします。
遊歩道を突っ切り視界が開けた後、街を東西に分断する赤峯川を越え、その先にある寺が池を横切って。しばらくしていると、ようやく神社を囲む鎮守の森と、その裏山が建物の間に見えるようになってきました。まだまだ夏の気配も残っており暑苦しい時期なのですが、朝の早い時間なので、歩を進めるたびに頬に触れる空気は若干肌寒くもあり、そろそろやってくる秋の気配を感じさせてくれます。
秋祭りが終わり、もうしばらくすれば本格的に実りの秋がやってくるでしょう。そうすれば、赤峯川では子作りのために川を遡上するゴマフアザラシの群れが見られるようになるでしょうし、同じくらいの時期から寺が池のマグロ漁も最盛期を迎える筈です。
どちらも何か色々変な具合ですが、この街では秋の季節を象徴する風物詩といえるものです。
そう、変なのです。
変なのですが、この街では元からそうですし、じゃあどういうのが普通かと言われると、私にはそもそもどういうのが普通か判りません。
聞いた話によれば、どうもかなり昔に大きな事件があって、世界は一度ぐちゃぐちゃになったそうで。今私たちがこうして生活をしている街は、辛うじて残っていた記録をもとに再生されたものなのだそうです。だから、こういう変になっているところが、街のそこかしこにある――なんて、そんな具合になっているのだそうです。「だそうだ」なんていい加減な言い方ですが、あくまでそういう話になっていいると言うだけで、というか、ほんとのところがどうなっているのかなんて街の誰も知らなくて、色々調べた結果そういうことらしいと言う話になっているのだそうで、まあ、そういう言い方になってしまうのはどうしようもないのです。
いいんじゃないでしょうか、それで。
そんなこと分からなくても毎日ご飯は美味しいですし、学校もそれなりに楽しいですし、まあ胸が小さいのは不満ですけど。そんな感じで大した不自由もなく円満に毎日を生きていられるのですから、変だからどう、と言って文句を言うのは、むしろ罰当たりな気もします。科学で世界の全てが解明できる、なんて、ゴーマンもいいところですしね。
「お」
そんな風にさらりと街並み案内を終えたところで、道の向こうに私の友人たちを発見しました。「おーい」と呼びかけ手を振ると、脚を止めて私が来るのを待ってくれるようでした。私も小走りで二人に追い付きます。
「おはよ」
「うん、おはよ」
「おはよーさん」
三者三様のあいさつをする私たち。
紹介します。
私から見て左側、女の子みたいに華奢な印象の男の子が、及川アユムくん。右側のふわふわした長髪ときりりとした目が印象的な女の子が、西野リオちゃんです。どちらも学校で一番親しくしている友人で、まあ、親友と言っていい間柄のお二人です。私は中学に入ってからお付き合いさせてもらっていますが、二人の関係はもっと長くて、聞けば家が近い事もあり、家族ぐるみで、ほぼ生まれた時からずっと一緒にいるくらいの幼馴染なのだそうです。幼馴染というと、小学生も後半くらいになると互いに好きなものも違ってきたりして、関係の維持が難しくなって自然に距離が離れていくものだと思うのですが、こうやってずっと一緒にいるあたり、本当に仲が良いということなのでしょう。そんな二人のやりとりははたから見ていて微笑ましく思えることが多々あります。
そんな二人の中に私が入るのは何だか野暮という気もしないではないのですが、当の二人はあまり気にした様子もなく、まあ、何となく一緒にいる機会が増えて、今はこのトリオで一緒に何かをすることが多かったりします。
「アユムくんは浴衣とか、もう選んだ?」
「うーん、まだ選んでないんだよね。母さんは一生に一度の事だからきちんとしっかり選べっていうんだけど」
「実は私も。今まで参加するのも普段着ったし」
「え、嘘マジで」
「マジです」
「だーめだよ二人とも。一応、人生の節目なんだから」
「リオちゃんまで。何かお母さんみたいだよ」
目的地の神社へと歩きながら、話題にあがるのはやはり明日の祭りに関することです。三人とも、心なしかいつもより語調が弾んでいるのは、それだけみんな盛り上がっているということなのでしょう。正直な話、催す内容自体は、もっと小さな子供のころから慣れ親しんだものなので、夜店も延々行きまくって飽きが来ている状態ですが、それでも十五歳の今回ばかりは意味合いが違うのです。
十五歳の、というか、このトリオに限って言うなら、私とアユムくんの二人にとっては、ということになるでしょうか。リオちゃんは、実はこの件に関しては経験済みというか、私たちが明日に控えているイベントを一足先にすませているのです。今の会話で彼女がお姉さんな立場に立っているのも、まあそのあたりが関係しているのです。 実は昨日まででも、私とアユムくんがそのあたりについてさんざん色々と質問攻めしていたりして、この件の会話についてはもう完全にリオちゃんのお姉さん的立ち位置は定着してしまっています。
そうそう、そうなのです。彼女はだから、もう経験済みなのです。
「……」
「……な、何?」
不意にそのことを思い出し、リオちゃんの方を凝視し始めた私に、彼女は若干怯んでいるようですが、構いやしません。凝視しまくります。
視線の先にあるのは、胸。おっぱいです。
リオちゃんの胸元にあるそれは、私のような閑散的大平原ではなく、きちんと双丘と呼んで差し支えない、丸みのあるふくらみを見せています。おそらくはBカップ、あるいはCカップ。今一ブラとか付けたことがないので判りませんが、大して大きいわけではないけれど、小さすぎることもない、勿論、無というわけでもない、そこにはきちんと女性らしい形状が厳然として存在しているのです。
ああ、妬ましい。いや妬んでも仕方ないのは重々分かっているのですが。しかしそれでも。
いや、だって見てくださいよ奥さんこの形。羨ましくないですか。大き過ぎず小さすぎず、プロポーションを損なわない絶妙のバランスで整っていて、女らしいばかりでなく少女らしい清純さすら感じさせる奇跡の形状と言って差し支えありません。どこまでも柔らかそうな曲線を描きながら、しかし形が崩れる様子もなく、ピンと上を向いた乳首まで服の生地から透けて見えるようで……ああエロい! 可愛い! こんなおっぱい、私も欲しい!
「……いいおっぱいだよね」
「ソラちゃん!?」
ふむりと頷き、指をあごに添えながらの、私のぼそりとしたつぶやきに、リオちゃんは悲鳴じみた声を上げました。
ついで、私の視線から避けるように両腕で自分の身体を抱いて、身をよじったり。リオちゃん、ナイスです。その仕草、可愛らしくもエロっちくて、一応女の子の私でも色々垂涎ものです。ぱっちりした目はどちらかというと釣り眼気味で、気の強そうな印象が強い彼女ですが、こんな反応を返すあたりきっちりと花も恥じらう女の子。 胸ばかりでなく腰は細くお尻も柔らかそうで、要するに全身のプロポーションがものすごく整っているので、そんな彼女が性的な意味を帯びて恥じらう様を見せるとなると、これはもう媚薬そのものと言っていいんではないでしょうか。
やばいです。私が男の子なら、それだけでもう襲いかかって最後までいたしちゃってもこれは仕方がないと開き直るレベルです。
そんなレベルなので、半ば無意識に彼女の後ろに回り込んでぐわしと胸をつかみかかったとしても、だれがそんな私の行動を責められるでしょう。
「ちょ!? ソラちゃんっ!?」
うおお。柔らかい。すげえ。
この感触、何と表現すればいいのでしょうか。読者の方々に直に触っていただけないのが非常に残念ですが、あえて言葉で表現するなら、天使のマシュマロとでも表現しましょうか。服越しでも全く損なわれることのない柔らかさ。服越しにじっとりと感じる体温!
「や、ちょ……ッ! んんんっ ふぁっ、ぁうっ」
揉み心地も、素晴らしいの一言です。寄せて上げて揉みしだいてと好き放題掌を動かしても形が崩れることなく、しかしどこまでも弱い弾力でもって指先を柔らかく迎え入れてくれます。何とエロいおっぱいでしょう。
そしてまたリオちゃんの反応も非常によろしい。声を出すまいと折った人差し指を口にくわえてふるふると身を震わせながら耐えてるとか、あんたどんだけ天然エロゲキャラですか。GJです。
「ウフフー、可愛いねリオちゃん」
思わず真っ赤になったほっぺたをペロリとしちゃいたくなります。
……ていうか、何か揉んでるうちに、ブラ越しの筈なんですけどなんかふくらみの真ん中に、こりっとしたものがあるような気がするんですが。心なしか。もしかしておっきしてますか。勃起してますか。ぽっちちゃんが。乳首が!
(これはもう、摘むしか!)
ここまで色っぽい反応を返してくれたリオちゃんです。明確な性感帯を刺激されれば、もうこれ以上ないくらいの嬌声を上げてくれるに違いありません。
思い立ったが吉日です。えいやと心の中で掛け声一発、その中心部の蕾へと狙いを定め、親指と人差し指とでくにりと摘んでやろうと――したところで私の脳天に強烈なエルボーがどすんと落ちてきました。
「あうっ」
流石に恥辱を続けるどころではありません。私が頭を抱えた隙に、リオちゃんはすっとリーチの外へと逃げ出して、両腕で身体を抱きしめながら涙目で睨んできます。
うむ。エロい。そんな表情すらエロい。身体が離れたのは残念ですが、そんな色っぽいポーズを見せられてそれで諦める私ではありません。指をわきゃわきゃと動かしながら私はもう一度リオちゃんに近づこうと――
「何してんの! 朝っぱらから! セクハラ! っていうかホント何やってんの何やってんの! 通学路よ!? 傍にアユムもいるってのに!」
「……っは!」
リオちゃんの一喝に、目が覚めた想いがしました。
何をやっていたのでしょう私は。思い出すと色々すごいことをやっていたような気もします。頭が痛くてよく思い出せませんが。
うむむ、しかし一応女の子の私をここまで惑わせるとは。恐るべしおっぱいの魔力……っていやいや、そうじゃありませんでした。見ればリオちゃんの目つきがそろそろマジギレ寸前です。魔力のおっぱいに魅了されている場合ではありません。
「あ、えっと、いや。ごめん」
「……女の子になるとか聞いてたけど。あんた男の方が向いてるんじゃないの」
じっとりと恨みがましい目で、リオちゃんはそんな事を言ってきます。
まあ今の行動だけを見ればそうとも言えましょうが、それはしかし聞き捨てなりません。既に成熟した身体を持っているリオちゃんは、胸のない女の子の気持ちが分かっていません。おっぱい格差です。
「それは違うよ何て言うか、こう、いつかはおっぱいが出来た時にですね、素敵な彼氏と色々いたしちゃう時にこう、どういう反応すればいいかとか分かんないじゃない。私、まだ胸ないし。だからこうその前に、本当の女の子らしい反応はどういうものなのかというのをこれ以上ないくらい女の子サンプルなリオちゃんの反応を見て予習しておこうとかそういう、そう、学術的興味というか探究心の表れというか!」
「お前は何を言っているんだ」
「……ああ、うん。何言ってるんだろう私は」
本当、何言ってるんでしょう私は。どうもこう、デキの良いおっぱいを前にすると心が千々に乱れるというかこう、正気を失ってしまうというか、とにかく変になって色々とやらかしてしまいます。実を言うと一昨日も同じような行動を姉にとってこっぴどく怒られました。ホント何やってんでしょう私は。
ちなみに、アユムくんはというと、何だか茫然とした様子でそんな私たちのやりとりを眺めつつ、顔を真っ赤にして私に向かって、
「……ソラちゃん、ヘンタイ……」
てなことをぼそりと言い放ってくれやがりました。
女の子かあんたは。一応、男の子でしょ。
一方、そんな私たちの様子を見て、リオちゃんはこれ見よがしに大きなため息をついたりしています。
「まったく……もっと自覚っていうか、きちんと自分の行動に気をつけようよ。明日からホントに苦労するよそんなんじゃ。ソラちゃんもそうだけどアユムも」
返す言葉もありません。
しかしだからと言って、気をつけろと言われてもどうしていいかもいまいち判りません。男の子らしい女の子らしいとその場その場の行動を見て何となく判断は出来ますが、あらかじめそうあらんと行動しろ、などと言われても、途方に暮れてしまいます。私とアユムくんはそろってうなだれて、うーんと首をひねります。私たちのそんなあいまいな反応に、リオちゃんは前途多難だ、と今日一番の大きなため息を吐いていました。
そう。
聡明な読者様方は、既に気付いておられるのではないでしょうか。
先程、私はこの街には色々変になっているところがある、と説明しました。
街の風物詩、風景や季節の移り変わり。色々変なところはあるのですが、そんな奇妙さは、私たちが見ているものだけでなく、私たち自身にも言えることなのです。
その最たる一例が、この街の子供には、性がないということでしょう。
私は自己紹介の時に『一応』女の子と自称したのも、また胸や尻が女らしさのないさびしい作りになっているのも、つまりはそのためです。『一応』男の子のアユムくんが妙に女の子っぽい仕草を時折見せるのも、同じ理由。今の私たちにとって、男の子、女の子の区別はあくまでごっこ遊びというか、これから大人になる時のための予行演習に過ぎませんからね。
胸やお尻ばかりではありません。私の股間には、女として本来備わっているべき、あるいは男として備わっているべき性器というものが存在しないのです。これはアユムくんも、そればかりでなく街の同世代のほとんどが皆そうです。
変でしょう。変だと思います。
でも私たちこの街の人間にとって、子供とはそういうものなのです。
男でも女でもない存在。子を孕む能力も、孕ませる能力もない、その準備段階にある、未分化な存在。
勿論このままの形で歳を重ねても、生殖行為が行えないので私たちは子を殖やし命を後世に繋ぐことができません。だから何かのきっかけを得て、私たち街の子供たちは生まれた身体に性を、後天的に与えられなければならないのですが――はい、もうお分かりでしょう。
その「きっかけ」こそが、秋祭り、なのです。
他の街の方がどうなっているかは、私には判りません。更に言えば、世界がぐちゃぐちゃになる前にどうだったかなんて、見当もつきません。ただ私たちに限って言えば、年に一度の秋祭り、豊穣と実りを感謝するハレの日に、私たちは、私たち自身の豊穣と実りを支える能力である性を与えられるのです。
一体どういう理屈なんでしょうね。
今いち私も詳しい手順を聞かされてはいないのですが、何でも、きめられた順序に従って一連の儀式を行うと、次の日には性徴が始まっているのだとか何だとか。
ていうかこれも結構いい加減な話らしく、その手順を踏んでしまえば、五歳児くらいでも性を持つことができるそうです。現に友人の西野リオちゃんなんかは、もう二年も前に性を与えられ、今ではもう誰が見ようと完膚なきまでの女の子な容姿をしています。うむ。羨ましい。
ただ、彼女は結構な例外で、この街では、基本的には十五歳前後で性を与えられることが多いです。これは単に学校だとか教育委員会だとかそのあたりが、不純異性交遊への警戒と、性教育のバランスを考えてこのあたりが適切だろうと判断した数字で、子供たちの多くは性器がないために今一性愛にも無頓着である事が多く、大人たちの決めた数字に何となく従っているだけ、という結果だったりもします。
かく言う私も、そしてアユムくんも、そうして何となく、十五歳の秋祭りに、性を与えられる事を選びました。
ただ、何となくでもやっぱり、昂揚するものはあります。
明日になれば、自分がそれまでとは違う自分になっている。
ごっこ遊びの中で、でもひそかに本気で憧れていた、可愛い服や、少しえっちな下着や、そういったものを着ても、何の不思議のない身体になれる。
それは結構ドキドキで、ちょっと不安で、怖くて、でもやっぱり、どこか冒険に行くようなワクワクに満ちた瞬間であるような気がします。
「目指せ美乳! 天使のブラの似合う女の子!」
「何を言っているんだお前は」
ホント、何言ってるんでしょう、私は。
まあそんな訳で。
一足先に大人の身体になったリオちゃんを追いかけるようにして、私とアユムくんは、明日、女と、男の身体を手に入れるのです。