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[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)(生存報告&お詫び)
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:3655646f
Date: 2010/05/01 13:48

お詫び・えーどうも皆さん、お久しぶりです。作者です。この半年間、更新が全く出来ずどうもすみませんでした。

自分の様な者が描いた拙い作品をいつも楽しみにしている読者の方々、本当に申し訳ありませんでした。

とりあえず、作者自身の事情によって今まで更新できませんでした。
去年の暮れの頃から、作者のリアルの事情がリアル修羅場を迎えていまして、それでこの半年間、更新ができませんでした

現状の報告としましては、作者はこのSSを投げ出した訳ではありません。
更新する気は満々です。

ですが、現状としては少し厳しい状態です。

今回は更新は出来ませんが、近日中には最新話は更新する予定です。
自分の作品をいつも読んでくれている方々へ、本当にありがとうございます。そして本当に申し訳ありませんでした。

出来ればこれからも、「君が主で忍が俺で」の応援を宜しくお願いします。

作者より。









注意 この作品は「NARUTO」のコミックス派の方々にとってはネタバレを含む内容になっています。
「それでも構わん、バッチコーイ!!」という方々のみお読み下さい。







///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////







・・・降りしきる雨・・・

・・・砕かれた大地・・・

・・・横たわる二人の人間・・・



その二人の人間を、うちはマダラは見下ろしていた。


「・・・遅かったな。」

「アンタじゃないんだから、そんなに早く移動出来ないよ。」


溜息と共に呟く。

周囲の惨状と未だ倒れ伏す二人の男達を見ればここで何があったかは明らか


倒れているのは、血塗られた因縁で今日までを過ごしてきた兄弟

うちはサスケとうちはイタチ

そして、倒れている片割れ・・・うちはイタチは

既に事切れていた。


「見ていたなら、ちゃんと録ってあるだろうな?」

「安心シロ、全て記録シテアル。」


マダラの背後、地面より頭部のみを出してゼツが答える。

それを聞いて、マダラは満足気に頷いた。


「後でじっくり見させてもらおう。」


再び、二人の男に眼をやりゼツに言う。

「イタチの死体を持っていく・・・・直ぐに行くぞ。」


サスケとイタチを担いで、マダラはその場を後にする。


目指す先は、隠れ家の一つ

イタチは既に手遅れだが、サスケはまだ息がある。
しかし、イタチとの戦闘による極度の疲労と出血が、戦闘が終わった今でもサスケを死に追い遣ろうとしていた。


マダラは駆ける。

その後を数瞬遅れて、ゼツが追う。


「・・・イタチ・・・」


既に物言わぬ体となったイタチに、マダラが言う。


「・・・俺と思考、生き方が違えど・・・お前は、尊敬に値する忍だった。」


仮面に隠れて表情は見えないが、その声には確かな敬意と・・・僅かな哀れみがあった。


「俺は、サスケが目を覚ましたら・・・全てを話す。」


仮面から僅かに覗かせる紅の写輪眼に決意の光を宿し、マダラはイタチに語りかける。


「・・・お前が今まで守ってきた物、今でも守ろうとした物・・・・お前の忍としての生き様、お前が今まで背負ってきた物を全て・・・サスケに話すつもりだ。」


マダラは言う、お前が命を掛けて守り通した物に、自分の全てを掛けて守ろうとしたサスケに、全てを話すと・・・


「だが、これはサスケにとって必要な事だ。」


全てを語り終えて、マダラは再び口を閉ざす。

イタチという男の亡骸を背負い、この男の在り方を思い出し、これから自分が行う事について、僅かな罪悪感の様な物が脳裏に過ぎったからだ。



「・・・もしも、来世というモノが存在したなら・・・」



再び、マダラはイタチに問いかける。


「今度は、平和なる世に生まれてくるんだな。」


それは、マダラなりの追悼の言葉だったのだろうか・・・


「・・・戦争もない、争いもない・・・平和なる世に生まれ、平穏と安らぎの中で生きるといい・・・」


言葉は雨の中に消える。

今日はいつになくセンチだと、マダラは心の中で舌打ちをする。

これ以上、余計な事を考えるのは止めよう。


・・・在りもしない、下らない願望を前提とした絵空事・・・

・・・その絵空事が現実になる、なんて事は・・・

・・・有り得ないのだから・・・





プロローグ





・・・

・・・・・?

・・・・・・・なんだ、ここは?


コールタールの様に混沌とした思考のみが、脳裏に響く

他に感じるものはない



・・・そうか、サスケは生き抜いたか・・・


・・・・天照も授ける事ができた・・・


・・・あれならば、サスケ自身の万華鏡写輪眼に目覚める日も、そう遠くないだろう・・・


・・・・サスケは本当に強くなった・・・・


・・・アレならば、もう俺が居なくても生きていけるだろう・・・


・・・・俺の役目は、もう終わった・・・・


・・・流石に、疲れた・・・


・・・・ココから抜け出れば、冥府の入り口だろうか?・・・・


・・・この消耗しきった体では、途中の三途の川で力尽きるかもな・・・


・・・・・・


・・・・案外、それでも良いかもしれない・・・・


・・・また、会ってしまうかもしれんしな・・・


・・・・父上、母上、シスイ・・・・


・・・俺が手にかけた一族の皆・・・


・・・・流石に、気が重いな・・・・


・・・ふう、肩の荷が下りたばかりだと言うのに気が滅入る・・・


・・・・・・・・


・・・俺は、許されないだろうな・・・


・・・・どんな理由があろうとも、両親を殺し、親友を殺し、仲間を殺した・・・・


・・・償い切れぬ罪、許しがたい咎・・・


・・・もとより、許されない事だと承知している・・・




・・・・だから、せめて祈る・・・・




・・・次にこの世に生まれ出でる時は、平穏なる世に生まれたい・・・


・・・・平和なる世に生まれ、安らぎの中で生きたい・・・・


・・・誰も彼もが幸せな世に生まれたい・・・


・・・そんな、世、に・・・


・・・・う・・・ま・・・・・れ・・・・


・・・・・・




「・・・・っ!!」


それは、唐突の目覚め。


体中を蝕む激痛に、イタチの意識は覚醒した。


「・・・ぐ、ああ・・ぐ、はぁ・・・!」


焼ける

全身が焼ける


「・・・あ!・・ぐ、ああ・・!!」


軋む

骨が軋み、骨格が歪む


「・・・う、あ・・・ぐ・・・!!」


裂く

裂かれる、皮膚が切れ、肉が捌かれ、肉体が八つ裂きにされる。


「・・・が!・・ああああ、ああぁ・・・!!」


脳髄に叩き込まれる、激痛のノイズ


消えかかる自我に幾千幾万の刃が刺さり、消滅を許さない

朧の様な意識が、強制的に引き摺り出され、覚醒する。


この身は、まだ朽ち果てていないと実感させる。


「く!は・・・はあ、はあ・・・いき・・・て、るのか?」


徐々にクリアになる視界

万華鏡写輪眼の後遺症で低下しきった眼でも、周囲の状況と自分の状況は確認できる。


体を起こそうと、僅かに四肢に力を込めるが・・・再び激痛が体を蝕む。


「・・・流石に、いきなりは無理があったか・・・」


唯でさえ病に蝕まれた体

サスケとの戦闘のダメージ

万華鏡写輪眼とスサノオの使用

天照の譲渡・・・


それら全てが要因となり、イタチの体を蝕んでいた。


「・・・暫くの間は、まともに体を動かせんだろうな・・・」


痛みに慣れ、思考に余裕が生まれた頃に再び新たな疑念が過ぎる。



「・・・ここは、どこだ?」


激痛に耐えながら身を起こす。


そこは、月明かりで照らされるソコは丸で庭園

手入れされた木々

色取り取りの花が咲き誇る花壇


明らかに自分が先程までいた場所ではない。


(・・・木の葉の里?・・・いや、木の葉にこの様な場所があるなどとは聞いた事がない・・・砂か?・・・もしくは雨隠れの里か?・・・いや、霧隠れという事も・・・)


そして、更なる疑問


(・・・!・・・サスケは!!?)


周囲に視線を走らせるが、その姿が発見できない。

幾通りのマイナス思考がイタチの脳裏を駆け巡り、イタチを思考の海に追い遣る。


「・・・まさか・・・・マダラの仕業か?」


想定され得る中で、最も危険視される可能性。


「・・・ぐ!お!・・・うおおおぉぉ!!」


筋組織が悲鳴をあげながらも、

体中を蹂躙する激痛に耐えながらも、イタチは立ち上がる。


如何にサスケには天照の保険を授けたとはいえ、相手はあのマダラだ。


自分の仕込みに気付き、対策を講じてサスケに接触する事も有り得る。


ソレだけは絶対に避けねばならない。


今までの苦労が、自分が背負い守ってきた物が


最後の最後で、壊されるなど有ってはならないからだ。



「二人を・・・追わね・・ば・・・」


ここが何処だろう関係ない。

二人の後を追い、最悪の事態だけは回避せねば!!


木に背中を預けながらも、立ち上がる。

呼吸を整え、足を地に立たせ、行動を起こす



正にその瞬間だった。



「おい貴様!この久遠寺家の庭園で何をしている!!」






続く


後書き  やっちまった・・・どうも、のっけから懺悔しがちな掃除当番です。ここ数週間のナルトを読んで、株を急上昇させたイタチで、有りえないクロスネタを描きたいと思い、投降させていただきました!
    流石にやっちまった感が否めませんが、寛大な心をもって読んで頂きたいと思います!!



[3122] 君が主で忍が俺で(NARTO×君が主で執事が俺で)第一話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:d9ab1b9b
Date: 2008/05/28 17:49




・・・追わねば・・・


「おい貴様!この久遠寺家の庭園で何をしている!!」


・・・早く、二人の後を・・・


「答えろ!今ならばまだ穏便に済ませてやる事も可能だぞ!!」


・・・五月蝿い・・・

・・・黙れ・・・

・・・何だ・・・コイツ等は・・・


「どうした!何とか言わぬか!!この狼藉者めが!!」


・・・邪魔を・・するな・・・

・・・そこを・・・どけ・・・


「ならば仕方あるまい、実力行使で行かせて貰うぞ!!」

「・・・ど・・・け・・・・!!」


「・・・なに?」




「そこをどけええええぇぇぇぇぇ!!!俺の邪魔をするなあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」




第一話「月下戦闘」



「よおぉぉし!もういい塩梅ね!!今日は森羅様と夢っちの仲直りを記念してフグチリ鍋よ、ジャンジャン食ってよおぉぉし!!」

「はい、お椀と箸ですよレンちゃん。」

「サンキュー、鳩ねえ。」

「あ、森羅様の分は私がよそいますね。」

「うむ、頼む。」

「デニーロ、この唐辛子切れ掛かってるわ。新しいの持ってきておいて。」

「了解だぜ、未有。」

「はい、南斗星さん。大盛りでよそっておいたよ。」

「わあー、ありがとう夢!」

「あ、大佐。お茶のお代わりはどうですか?」

「お、気が利くなハル。それでは一杯貰おう。」



七浜にある高級住宅地に建つ久遠寺家の一室

そこでも食事の場、一つテーブルに久遠寺家の全員が揃っていた。


テーブルの中央に置かれた二つの鍋を、皆が思い思いに箸で突き、歓談が始まる。

そしてそんな光景を見ながら、この家の家長である久遠寺森羅は箸を止めて自分の専属の執事である上杉錬に視線を移した。


「・・・しかし、今回の件については本当に錬には世話になった。改めて礼を言おう。」

「・・・い、いえ・・・森羅様、そんな礼を言われるほど大層な・・・」

「ほーう、私と夢の長年の誤解と確執が消え、姉妹としての絆を取り戻し、愛情という物を再確認できた事が大層では無いと・・・クックック、随分と偉くなったもんだなぁレン?」


サディスティックな笑みを浮かべながら、森羅は錬に言った。


「な!そういう意味で言った訳じゃないですよ!!今のは・・・何というか・・・」

「もーうお姉ちゃん、余りレンくんを苛めちゃ駄目だよー。」


久遠寺家の三女である久遠寺夢が、仲裁に入ると周囲には軽い笑いが生まれる。


つい先日、この久遠寺家の三姉妹である森羅と夢が互いのすれ違いで大喧嘩するという事件が起きた。

二人の喧嘩は、互いに罵り合ったり、暴力に訴えた苛烈な物にはならなかったが、
周囲の人間にも明らかになる位の刺々しい雰囲気とプレッシャーを放つ、一種の冷戦の様な状態となった。

しかし、そんな膠着状態から事態は急転する。

喧嘩の切っ掛けとなり、全ての発端となった幼き日の記憶を、夢が思い出したのだ。

それは幼い夢が、当時両親が死に、悲しむ間もなく、死を悼む間もなく、自分たち姉妹を安心させようとしていた長女の森羅に、追い討ちを掛けるという内容だった。

その事に夢は激しい自己嫌悪に陥り、家でしたのだ。

最初は互いに会う事を渋っていたが、錬が仲介役となり、めでたく事態は収拾したのだ。



「はっはっは、なあに軽い冗談だ。レンはイジり甲斐があるからな。だがなレン、主が従者であるお前に礼を言っているんだ・・・ここは素直に受け取るのが礼儀というヤツだろ。」

「・・・そうですね、すいません。でも何か照れくさくて・・・。」

「照れくさくても、素直に受け取れ・・・それでお前が行った無礼と命令違反の数々を一先ずは忘れてやろう。」

「りょ、了解しました。」


背筋を伸ばし、主に向かって敬礼をする。

そして、再び箸を進める。

数十分後、二つの鍋は空になっていた。


「ふ~う、食った食った。」


錬が出張った腹を擦りながら満足気に言う。


「さてと、後片付けしないとね。」

「あ、ベニスさん手伝いますよ。」

「私も手伝うわ。」

「あ、ありがとうございます。それじゃあハルはお椀と箸を持ってきて、未有さんはテーブルを拭いておいて下さい。」


朱子と美鳩にハルと未有が続き、食器をもって厨房に向かう。


「・・・大佐、この後時間あるか?」

「む?特に予定は入っていないが。」

「それじゃあ、今日も一つ手合わせ頼むぜ!」


拳をならして宣言する錬

錬の言葉を聞くと、大佐は愉快気に笑みを浮かべ快諾する。


「ふふ、血の気の多いヤツだな。ならば・・・・・!!!」


しかし、その言葉は途中で切れる。

大佐の顔は一転して真剣味を帯びた表情となり、南斗星に視線を向ける。


「・・・南斗星。」

「大佐もですか・・・やはり。」


二人は互いに目配りをして、頷き合う。

そして、大佐は何かを決意した様に周囲に呼びかける。


「・・・森羅様、未有お嬢様、夢お嬢様・・・直ぐに使用人と共に階上へ向かい、ご自分の部屋に・・・いえ、一塊になって避難して下さい。」


「・・・どうした、大佐?」


「侵入者です。何者かが、この久遠寺家に侵入しました。」

「・・・何だと?」


大佐の言葉に、皆の表情は剣呑なものへと変わる。


「・・・気のせい、では無いようだな。」

「南斗星のヤツも、その気配を察知しています。まず間違いないでしょう。」

「・・・数は?」

「恐らく一人です、ですが油断はなりません。これから南斗星と共に向かい、対処します。」


「なら大佐、俺も・・・」


しかし、錬の申し出を大佐は一蹴する。


「小僧・・・お前は、皆と一緒にいろ。相手が一人だけとはまだ分からん・・・万が一の時に備えてお前は森羅様たちと共に居ろ・・・分かったな?」

「・・・え!・・んな・・・・そうか、分かった。」


反論しようとするが、どこか納得し錬は頷く。


「・・・は!まさかこの屋敷に乗り込んでくるなんて命知らずなヤツもいたもんねー!!」

「大丈夫ですよ。鳩は平和の象徴ですからねー、この純白な羽を傷付けようものなら、鳩は鷹にも大鷲にもなりますよー。」

「へ、そんなヤツがもし屋敷に乗り込んできても・・・未有が密かに取り付けた俺の必殺技パート3で蹴散らしてやるぜ!!」


それぞれの人間が臨戦態勢に入り、森羅は大佐に向き直る。


「・・・だ、そうだ。私達は大人しく避難しよう。だから安心して向かってくれ・・・怪我だけはするなよ?」

「了解しました、森羅様。」


そして、大佐は南斗星に向き直る。


「行くぞ、南斗星!!」

「了解です、大佐!!」




そして、物語の冒頭へ





「そこをどけええええぇぇぇぇぇ!!俺の邪魔をするなあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」



「「・・・!!」」


空を裂く巨声と共に発せられる禍々しいプレッシャー

皮膚をビリビリと刺激し、鳩尾を直接殴りつけられた様な嘔吐感に襲われる

口の中はカサカサに乾き、それとは裏腹に額と背中には冷や汗が止めどなく流れる

凄まじいばかりの狂気と殺意

その威力は、実戦慣れした大佐と南斗星を反射的に逃走体勢に追い込む程のものだった。


(・・・何という凄まじい気当たり!何という禍々しい殺気!この男は一体!!?)

(・・・う、わ・・・まず、い・・!・・・この、ひ、と・・・き、け、ん・・・!!)


一瞬にして

南斗星はイタチに呑まれていた



実力では大佐と同等以上のものを持つが、それはあくまで単純な戦闘能力「のみ」を見た時の話。

自分と同等以上の存在に本気の殺意を向けられた経験が全くない南斗星にとって

その男の存在は、明確な「恐怖」だった


僅かに揺らぐ覚悟


その揺らぎを大佐は反射的に悟った。


「来るぞ!!構えろ南斗・・・・」


しかし、その言葉は途中で遮られる

爆ぜる大地

疾走する影

迫る脅威


大佐が南斗星に気を掛けたその僅かな一瞬

その僅かな一瞬は

イタチに二人の間合いを犯させるには十分な時間だった



ドゴオオオォォォ!!!


「・・・・え?」




南斗星が呟く

一瞬にして、姿を消した侵入者

耳に響く轟音

反射的に視線を向けるとソコには


顔面を鷲掴みにされ、木に叩き付けられる大佐の姿があった。




メキ、メキ、メリメリ・・・

「・・・が、ぶ!!・・フゴ!ぶごおおぉ!!」


鼻と口から息が漏れる

後頭部への衝撃

叩き付けられる背中

顔面を襲う圧迫感


(・・・馬鹿な!!この私のスペシャルな制空圏を突き破るなど有り得ん!!・・・)


その事実は、大佐に嘗て無い衝撃を与えていた。


鼻血が噴出し、メリメリと頬が圧迫され口の中を切り呼吸と共に血が飛沫となる。

万力の様に締め付けられる顔面、その細腕からは到底考えられない腕力と握力から解放されるのは容易な事では無かった。


「大佐を放せえええぇぇぇ!!」

「・・・!」


イタチを背後から襲う南斗星の蹴撃

空いた左手で咄嗟にガードしようとするが、それは軌道を変えてイタチの腹部を襲う。


「・・・く、」


大佐を解放し、迫る南斗星に向き合う。

空を切り裂く南斗星のミドルキック

それを、イタチは掴んだ。


「・・・な!」

「邪魔だ。」


ミシリ、と南斗星の骨が軋み

瞬間、背骨を突き上げる衝撃

苦痛を伴った浮遊感


「ごっ!・・・・か、は・・!!」


イタチのボディブローは、南斗星の腹部に深く突き刺さる。

その衝撃に、南斗星は力無く膝をつく

そんな南斗星をイタチは一瞥する事無く、歩みを進めようとするが・・・


「行かせるものかあああぁぁぁ!!」


しかし、それを大佐が阻む。

オーソドックスなボクシングスタイルを取り、ワン・ツー

肩口から真っ直ぐ伸びるジャブ、それと同じ軌道をもって敵を襲うストレート


しかし、それは虚しく空を切る。


「・・・ぬう!?」

「邪魔をするなと言った筈だ。」


手が微かにブレて、それは大佐の顔面を襲う。


「同じ手は喰わん!!」


しかし、大佐は手を十字に構えて、それを捌く。

そこから手首を取り一本背負い。


だが、その一本背負いも不発に終わる。

イタチは空に身を投げ出される、その僅かな浮遊時間で身を捻り両足で着地する、が・・・


「はああぁぁぁ!!!」

「・・・!!?」


着地の隙を突いて、ダメージから立ち直った南斗星が攻める。

身構え、大佐は追い討ちを掛ける


「小癪な!ならばスペシャルにギアを上げるまでだ!!」


己のスピードをトップギアまで高めて、大佐の猛攻

苛烈を極めた南斗星の高速ラッシュ

暴風の様な大佐の拳と南斗星の蹴りがイタチに迫る。

その一発一発の威力は、常人ならば一撃のみで意識を刈り取る威力を秘めていたが、

イタチはその全てを着弾の前に叩き落す。


拳と蹴り、戦気と闘気が入り混じった暴風をイタチは全て捌き凌ぐ。


しかし、膠着はいつまでも続かない。

イタチは、徐々に圧され始めていた。


・・・ズキン、ズキン、ズキン!・・・


「・・・く!」


イタチの体中を絶え間なく蝕む激痛は、更に色濃く痛烈なモノとなり呼吸をするだけでも、体中の神経が引き千切れる様な痛みを帯びていたからだ。


(・・・く!この程度の連中に圧されるとは・・・せめて、体術だけでも満足に使えれば・・・!!)


イタチのチャクラは底をつき、体力も既に無いに等しい状態

最下級の術すら使用できない己の体たらくに、イタチは心の中で舌打ちをする。

しかし、追い詰められていたのはイタチだけではない。


(・・・ぬぅ、恐ろしい程の使い手だ・・・単純な戦闘能力のみならば、あの鉄一族の上を行くぞ!!)

(・・・凄い、私と大佐の同時攻撃をここまで捌くなんて・・・この人、本当に強い!!・・)


二対一という有利な状況において、未だ決定打を決める事が出来ずにいた大佐と南斗星も同様であった。


(・・・これ以上は、無駄な時間は割けられん・・・)


徐々に追い詰められるイタチは一つの決断をする。

それは賭けに等しい、一つの手段。


大佐と南斗星の挟み打つかの様に放たれるハイキック

ほぼ同時に放たれたその一撃は、

互いに衝突する。


「・・・な!」

「・・・え?」


唖然とする、二人

視界から消えたイタチは数歩の距離を取り、低空姿勢で構えをとる。


・・・神経を細く、鋭く、針の様に尖らせろ・・・


「・・・く、そこか!」


・・・体の隅々まで神経を巡らせろ・・・


「そんな、いつの間に!」


・・・僅かに体に染み付いたチャクラを、血流に乗せて掻き集めろ・・・


二人は、イタチの位置を捕らえる。


・・・瞬時にチャクラを練り上げて・・・


瞬時に体勢を整えて、イタチに駆ける。


・・・両目に集中させろおおぉぉ!!・・・



イタチの写輪眼が、唸りを上げる。

その眼に映るのは、目の前の二人ではなく

かつて自分の前に立ちはだかった忍の一人

木の葉隠れの里の屈指の体術の使い手



「・・・逃がさないよ!!」


南斗星が攻める





―――木の葉・剛力旋風!!!!―――






「・・・がっ!!あ!ぁ!」


南斗星の腹部にめり込むイタチの蹴撃。

それは、今までのイタチが見せた体術とはケタ違いの威力と錬度の高速回し蹴り

その一撃は攻撃を仕掛け、そのままカウンターで貰った南斗星の意識を刈り取るには
十分すぎる程の破壊力を持っていた。


「南斗星ええぇぇ!!」

大佐が叫ぶ。

しかし、それと同時に


「・・・・あ!・・・ぐお、あ・・・!!」


イタチは頭蓋が砕ける様な激痛と感覚に襲われる。


チャクラの過剰消耗


体中の力が抜け、意識が消失しそうになる。

目の奥で閃光が瞬き、胃液をブチ撒けながら倒れそうになる



だが、堪える。



「・・・お、おお・・・」


そのまま、倒れそうになる意識を拘束し前屈みになった体勢からダッシュへと繋げる。

辿り着くのは、目の前の男の懐


「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!


そのまま、顎を蹴り上げた。


「・・・な、に?」


大佐の意識が揺れ、体が中に舞う

しかし、既にイタチは・・・・次の行動に移していた。




―――木の葉・大閃光!!!―――




追い討ちの空中からの回し蹴り

空中で、くの字のまま曲がった大佐の体は


「ぐはああああぁぁぁぁぁああっ!!!」


そのまま、轟音と共に地面に叩きつけられた。





「・・・はあ・・・はあ、はあ・・・」


二人の敵を倒し、その場に唯一立ち残るイタチ

しかし、その顔には勝者としての覇気も余裕もない。

真っ青な顔に、滝の様な汗

手足はブルブルと痙攣し、その場に崩れ堕ちそうになるが意識を繋ぎとめる。


・・・これで、ようやく・・・追える・・・


消えかかる自我を必死で奮い起こさせる。



「俺の必殺技!パート2!!」


「・・・・!!」



不意に響く、声


――カっ!!


そして閃光


・・・なに?・・・


それは、イタチの周囲を爆煙で覆い状況的に孤立させる。

そして、それは煙の中から飛び出す。


「喰らいやがれえええぇぇぇぇぇぇ!!!」


それは一人の青年、

消耗しきったイタチに拳を振り下ろす。



・・・フザケルナ・・・

・・・一体、貴様等はどこまで・・・


イタチの頭に、再び憤怒の篝火が宿る。


ガシ!


錬の拳は止められる。

イタチは錬の一撃を額当てで受け


「・・・・な!」

「俺の邪魔をすれば気が済むんだああああぁぁぁぁ!!」


錬の頬に深々と拳が突き刺さる。

そのまま、錬はピンボールの様に吹き飛ばされた。


「うおあ!!」


そのまま、地面を転がる。

イタチはそのまま追い討ちを掛けるべく、地面を蹴る。



その時、一人の女性が、視界に入る。




「レンちゃあぁん!」

「!・・・鳩ねえ!来ちゃ駄目だ!!」




その光景は

自分が知る「何カ」の光景と

不思議と重なった





・・・・・・サスケ、来てはいかん!!・・・・・

・・・ドクン・・・




「・・・・!!」



それは、突然のフラッシュバック

あの忌まわしい夜の記憶

自分の地獄

絶望を見たあの日




「・・・う・・・お、う、ぅ・・・ごぷっ・・・」


張り詰めた緊張の糸の一瞬の緩み

逆流する胃液



「・・・お、おう・・・ぇ・・・」



揺れる視界、混濁する意識

混沌とした現、前後左右上下不覚の感覚



その緩みは、イタチの意識を激痛と疲労で一瞬にして追い込み



イタチの意識を、闇に落とした





続く



後書き 今回はイタチvs大佐&南斗星を描いて見ました。イタチは十四歳の時に
マダラとたった二人でうちは一族を皆殺しにしてますから、この位の戦力差で
丁度いいかな?と思って描きました。若干イタチがハイテンション気味ですが、それは追い詰められているからという事で納得を・・・w
次回はイタチ&久遠寺家面子を描きたいと思ってます!

あと、感想を見ました!!不安だっただけに凄く嬉しいです!!途中で挫折する事が無いように頑張ります!!


補足  木の葉剛力旋風・・・使用者マイト・ガイ。イタチ初登場の戦闘シーンで使用、回し蹴り。

    木の葉・大閃光・・・使用者マイト・ガイ。アニメのオリジナル体術、空中からの回し蹴り。(本編ではイタチはこの術を以前に見た事があるという設定です。)




[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)第二話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:0aa547d7
Date: 2008/05/29 22:28



久遠寺家の一室

そこで、大佐と南斗星と錬の三人は手当てを受けていた。


「・・・おい、大丈夫かよ?無理するなよ大佐。」

「無理などしておらん、私とてヤワな鍛え方はしていないからな。」


そう言って、大佐は包帯で覆われた腹部を擦る。


「・・・しかし、恐ろしい男だった。常人ならば最後の一撃で内臓破裂を起こしていたぞ・・・」

「マジか!・・・でも・・・まさか、大佐と南斗星さんが負けるなんて・・・」

「下男なんて、一発でKOされてたしね。」


からかう様な朱子の言葉に、レンは顔を顰める。


「む、だがなベニ公、俺はアイツの顔面に一発叩き込んだぞ。」

「煙に紛れての不意打ちで、でしょうが。」


「静かにしなさい、ここには怪我人もいるのよ。」


未有が一喝すると、錬と朱子はバツの悪そうな表情をして押し黙る。

二人のすぐ傍では南斗星が手当てを受けていた。


本来ならば、女である南斗星は別室で手当てを受ける筈だったが、
救急箱が一つしかなかった為、みんなでまとめて手当てをする事にしたのだ。


「・・・南斗星さん、大丈夫?お腹は痛くない?気分悪くない?」

「大丈夫だよ夢、心配させてゴメンね。」

「ううん、そんな事ないよ!」


一通りの手当てを受けて、南斗星は夢に微笑む。


「ですが、森羅様・・・一つお聞きしたい事が・・・」

「・・・む?何だ、レン?」


森羅がレンの呼びかけに応えると、森羅はレンに視線を移す。


「何で、あの侵入者をこの屋敷で寝かせてるんですか?」





第二話「似た者同士」



「お~い、アイツの診察終わったぜ!」


別室から、デニーロが戻ってくる


「あら、意外と早いわね・・・で、何か分かった?」

「身分証明書の類はもってなかったな・・・まあアイツが倒れた理由は分かったけどな
原因は極度の過労と睡眠不足、いわゆる疲労困憊だな。
ズイブンとボロボロの格好をしていたが、他に目立った点は無いな。」

「・・・何、疲労困憊だと?」


デニーロの発言を聞いて、森羅は目を丸くする。

それに続いて、そこにいた皆はその意味を悟る。


「ちょっと待ったあぁぁ!じゃあ何!そいつはへばりにへばった状態で大佐と南斗星に勝っちゃった訳!!!」

「・・・有り得ねえ・・・」

「そ、そんな!信じられません!!」


朱子とレンとハルが声を上げて驚く、

他の面子も、声にこそは出さないが同じ感想の様だ。

そして朱子は森羅に進言する。


「森羅様、そんな危険人物をこの屋敷に置いとく理由なんて有りません!
警察に突き出しちゃいましょうよ!!」

「森羅様。俺も、今回はベニ公と同意見です。だってコイツ、屋敷に侵入したばかりか
問答無用で大佐と南斗星さんに襲いかかったんですよ!しかも、二人に怪我を
負わせて・・・」

「私も、基本的には二人と同じ意見だ。・・・だがな・・・」


森羅はそこで一旦言葉を切る。
そして、大佐へと視線を移す。


「・・・なあ、大佐・・・コイツは俺の邪魔をするな、と言ったんだな?」

「はい、確かにその様な事を口にしていました。」

「だったら、その理由を聞いてから判断しても遅くはあるまい。」


頭の上に、疑問符を浮べながら錬が尋ねる。


「?・・・どういう事ですか?」

「人が非行や犯罪に走るのには、それなりに理由があるという訳だ。金に困っての
犯行だったかもしれないし、飢えにやまれぬ為の犯行だったかもしれないだろう?」

「・・・う、」


そう言って、森羅は朱子に視線を送る。

朱子は困った様に視線を逸らした。

どうやら、朱子にも思う所がありそうだった。


「なんにせよ、理由を聞いてやらねば何も分からん。もしもこいつが本当に腐ったヤツ
なら直ぐにでも警察に引き渡すし、もしもそうでなかったら・・・まあ、それなりの対応
はしてやるつもりだ。」


溜息を付きながらも、森羅は言う。


「それに・・・我が家の家訓は『困った者には手を差し伸べよ』、コレを無視する訳にはいかんさ。」


森羅のその言葉で、それ以上の反対の意見は出てこなかった。



そして、このおよそ54時間後

イタチは意識を取り戻した。








・・・そうか、やはり『うちは』はクーデターを・・・


・・・木の葉・警務部隊の第一分隊が反乱を起こすとなれば、他国は必ず攻め込んでくるだろう・・・


・・・いや、そればかりか・・・『うちは』の一部は暗部にも所属しておる・・・


・・・非同盟国に里の情報を売り渡し・・・他国との衝突で消耗しきった時に攻めてくる事も有り得る・・・


・・・最悪の場合は、第四次忍界対戦が現実のものに・・・





・・・出る杭は、今の内に叩くべきだ・・・


・・・『うちは』の過激派の頭、うちはフガクは我々との和解の意思は無いとの事です・・・


・・・三代目が提唱する妥協案も、ヤツらは受け入れる事は無いだろう・・・


・・・止むを得まい・・・




・・・木の葉・暗殺戦術特殊部隊・分隊長・うちはイタチ・・・


・・・貴様に、次の任務を与える・・・


・・・心して聞け・・・




「・・・・!!!」


深い眠りから一転して、イタチの意識は覚醒した。


「・・・はあ、はあ・・・ゆ、め・・・?」


荒くなった呼吸を必死で沈める。

ボヤけた視界で、周囲の状況を確認する。


「・・・どこだ?」


自分は、ベッドで寝かされていた。

今居る場所は簡素な作りだが、どこかした気品さと高級感を感じさせるモノとなっている。

そして部屋の一角、口髭を生やしたスーツを着た男がそこにいた。


「・・・・!!」


しかし、男は椅子に座ったまま動かない。

どうやら、転寝をしている様だ。


そして、再び記憶がフラッシュバックする。

見慣れぬ庭園

サスケの不在

二人の敵との戦闘


現状を把握するには、十分な材料だ。


体を起こす。

骨が歪む様な感覚を覚えるが、上半身を起き上がらせる。

それだけでも、かなりの重労働だ


どうやら・・・長い間、睡眠をとっていた様だ

かなり肉体は衰弱しているが、回復はしてきている

ただ一つ、問題があるとするならば


・・・チャクラが・・・練れん・・・


軽く印を結び、意識を集中させてチャクラを練る。

しかし、その瞬間脳髄が裂かれる様な痛みを覚え
体中の力が抜ける。


「・・・ぐ!・・・はあ、はあ・・・」


・・・無様、だな・・・


如何にサスケとの戦闘で消耗していたとは言え、数回の写輪眼の使用でこの様だ。

下手にチャクラを練り上げれば、再び意識を失うだろう


そして男を起こさない様に、ベッドから降りる。

そこで初めて気付く

自分の体には、何かしらの手当てが施されていた。


そして、窓を開けて窓枠に足を掛けて跳躍する。

屋敷の屋根に着地して、風景を一望する。


「・・・やはり、知らない場所だ・・・」


見渡す光景に、自分の記憶と一致するものは存在しない。

この屋敷に至ってもそうだ。

この規模の屋敷なら、どんなに低く見積もって一国の高位士官クラスの資産の持ち主だ。


そして、自分の居る場所から見て取れる幾多の灯り

ボヤけた視界でも、闇夜に存在する光は良く映った。

その数から、今居る場所は小国や田舎などでなく、かなりの先進国である事が分かる。

自分が知るなかで、これほど発展しているのは火の国か風の国くらいだ。

だが、その二つの国とはあまりに似ても似つかない。



そして、新たに沸き起こる疑問



「・・・なぜ、俺は生きている・・・」


今更ながらの疑問であり、イタチにとっては最大の疑問だった。

その理由は、自分を蝕んでいた病

サスケと闘う為に、禁薬まがいの薬を過剰摂取してまで延命し、死を先送りしてきた。

そして、服用時間が僅かにでも遅れれば病は急速に侵攻し、肉体を死へと誘う。


サスケとの戦闘
自分はそこで発作を起こした。

胃がせり上がり、鉄の匂いが口と鼻に充満する感覚は今でも覚えている。

文字どうり、自分は精も根も尽き果てていたのだ。

そして、その状態で自分は最後のチャクラを振り絞り
サスケに天照を譲渡した。

そこで、意識は完全に途絶えたのだ。


「・・・夢、ではない・・・」


今の状態では使用こそは不可能だが、片目には奇妙な違和感がある。

体中に染み付いたチャクラが、その部分だけ「薄い」のだ。

その事から、少なくとも今の自分には天照が宿っていない事が分かる。


矛盾する事実

この様な事態は、イタチの20年ばかりの人生において初めてだった。



「・・・冥府の入り口にしては、華やか過ぎるな・・・」


しかし・・・ここでふと、思い付く。


自分が患った病は、死へと誘うモノだ。

あらゆる手を尽くしても、延命にしかならず遅かれ早かれ「死」は絶対の結果だった。



ならば、既に死んだ体に対してはどうだ?



病とはあくまで「過程」、死は「結果」。

仮に、自分が「死」という「結果」を迎えたとして、「病」という「過程」は肉体に残るのか?


これが、違うものだったら、

もしも、「爆発」という「過程」で、「破壊」という「結果」が残った時、「爆発」はいつまでもそこに存在するだろうか?

もしも、「斬る」という「過程」で、「切断」という「結果」が残った時、「斬る」はいつまでもそこに存在するだろうか?


答えは、否。


それならば、もしこの体が「死」という「結果」を迎えたとして・・・

・・・「過程」の「病」は・・・


「・・・馬鹿馬鹿しい・・・」


自分の下らない仮定を一蹴する。

今考える事は、これから自分がやるべき事

まずは、ここの地理を確認する事
そして移動手段を確保し、二人の接触をなんとしても阻止する事。


当面の行いは、情報収集と体力の回復

・・・ならば・・・








「何が馬鹿馬鹿しいんですか?」





「・・・!!?」


突然の背後からの声に振り返る。

そこには、奇妙なデザインの服の上にやたら裾の長い白いエプロンを纏った
栗色のロングヘアーの女性

久遠寺家のメイド・上杉美鳩がいた。








「女・・・いつからココに居た?」


イタチは視線を移して美鳩に尋ねる。

しかし、美鳩は飄々とした態度で


「・・・そうですね、貴方がここに来たより後・・・とだけ言っておきましょうか・・・」

「・・・なんだと?」

「何を驚いているんですか?私はずっと貴方が寝ていた部屋にいたんですよ?」

「・・・!!」

「てへ、これでも気配断ちには自身があるんですよ。心源流師範代のお墨付きですから、
まあ、流石にメイド服で屋根に上るのは骨が折れましたけどね。」



イタチは驚く。

この女に、自分はずっと後ろを取られていただと?


「だって、如何に森羅様のご命令があったとは言え・・・レンちゃんを傷つけた人間を
 野放しになんか出来る訳ないじゃないですか?」


目つきを僅かに鋭くして、美鳩はイタチを見る。


「・・・レン?」

「貴方が殴り飛ばした、男の子の事ですよー。」


その言葉を聞いて、イタチは「ああ」と納得する。

・・・姉弟・・・か?・・・



「まあ、そんな私の可愛らしくて愛らしい、心の底から愛しく思っている大切な弟を
傷付けた貴方を許せない訳ですよ。ですが、大佐と南斗星さんを倒すほどの人に真っ向
から挑む程、鳩は愚かではありません・・・森羅様のお言葉も無視できないし、さて
どうしようかな?と悩んでいたんですよ・・・。」


よよよ、目元を手で覆い泣き真似をしてイタチに向き直る。


「最初は寝ている貴方に治療という名目で、鍼を打ち込んだり、虫が貴方に飛んで来たら
わざと貴方の顔に一撃を入れたりと色々楽しんでいたのですが・・・何もリアクションが
無いから飽きちゃったんですよー。」


しかし、そんな表情から一転
美鳩は輝かんばかりの笑顔をイタチに向けて


「でも、ついにチャンスが来ました!目覚めた貴方はフラフラで、しかも私の存在に
気付かないで、何故か屋根に移動!これはチャンスです!!神様が私にレンちゃんの仇を
討つをチャンスを与えたてくれたんですよ、やはり日頃の行いの良さ、もとい弟への愛が
呼んだ奇跡ですよー、クルックー!」


そのまま、スカートの両端を抓んでクルクル回る。

その様子を見て、イタチは尋ねる。


「それで、俺をどうするつもりだ?」

「ここから突き落とす。」


ピシャリと言い放ち
一瞬で、目つきを鷹の様に鋭くして美鳩はイタチ向き合う。


「・・・ほう。」


その言葉にイタチは、僅かに身構える。
今まで自分の背後を取っていた女、自分に気圧されない事からそれなりの度胸と力量が窺える。

先の二人と比べれば、明らかに実力は劣るであろうが・・・この女には不気味な「何か」がある。




「でも、止めちゃいました。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」



一転して、再びの笑顔。
その有り得ぬ表情の落差に、イタチは唖然とした。


「屋根の上で、一人で佇んでいる貴方を突き落とそうと近づきました。後ほんの数歩
近づいて、手で押せば・・・多分、貴方を突き落とせました。」

「・・・なら、どうしてしなかった?」


「貴方から、私と同じ『匂い』を感じたからです。」

「・・・・?」

「私、ブラコンなんですよー」


クスクスと笑いながら、美鳩はイタチを見る。

イタチは、未だ要領を掴めずに居た。


「私にとってレンちゃんが大切な様に、レンちゃんにとっても私は大切な存在です。
 レンちゃんに何かあれば、私が悲しむ様に・・・私に何かがあれば、レンちゃんは
悲しみます。」

「・・・・」

「・・・貴方からは、そんな私達と同じ匂いを感じました。貴方をここで突き落とせば、
貴方は怪我をしたかもしれない、場合によっては死んでしまったかも知れない・・・・
そして貴方が死ねば・・・それによって貴方を大切に思っている誰かが、悲しむかも
しれない・・・」


目を伏せながらも、美鳩はイタチに自分の気持ちを語る。


「私がレンちゃんに何かがあったら私が悲しむよう・・・その人も、貴方に何かが
あったら悲しむかもしれない・・・」


目にほんのりと憂いの影を宿し、
僅かに言葉を区切り、





「そこまで考えたら・・・貴方を突き落とせなくなっちゃいました。」





てへっと笑い、イタチに言う。

その言葉を聞いて、イタチは何を思っただろう・・・

何を感じただろう・・・

それは、誰にも分からない事であった。



「・・・余計な気遣いだったな。」

「・・・?」

「・・・・仮にお前が俺をこの程度の高さから突き落としたとしても、俺は死なんし
カスリ傷一つ負わん・・・そして、お前は何より前提を間違えている。」


ふう、と溜息を吐いてイタチは言う。



「俺が死んで悲しむ人間などいない。」



ハッキリと、イタチは宣言する。

写輪眼が完全に解け、どこまでも黒いイタチの瞳

その瞳は、今の言葉は紛れも無い事実だと言う事を美鳩に語っていた。


「・・・・・」

「だから、余計な気遣いだったな。」

「せめて、もっと早く言って欲しかったですー。せっかく啄ばんだ豆を、口からこぼしてしまった気分ですー。」


イタチの言葉への当て付けだろうか
拗ねた様に美鳩は呟く。

そんな美鳩を見て、イタチは思わず夜空を仰ぎ見る。



・・・大切な、存在か・・・



思う事は、ただ一人の弟の安否

再び、イタチは美鳩に向き合った。



「・・・おい、女・・・」

「・・・はい?」


「俺の質問に答えろ。」





続く




後書き  似た者同士という事で、美鳩との会話で今回はお送りしました!!
    次回は、改めてイタチと久遠寺家のやり取りを描きたいと思ってます!!
    沢山の感想&閲覧、ありがとうございます!!皆さんの応援を糧に頑張りたいと思います!!。



[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)第三話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:5d0a571c
Date: 2008/06/01 01:15



第三話「異世界、そして採用」




「まず、一つ目の質問だ・・・ここは何処だ?」


「?・・・何処って・・・ここは久遠寺家のお屋敷ですよ・・・というか、貴方知らずに
忍びこんだんですか?さては地元の人ではありませんね・・・七浜に住む人だったら、
久遠寺家の屋敷はご存知の筈ですから・・・」


「・・・ナナハマ?・・・ここの地名か?この国はどこの国だ?火の国か?・・・風の国か?」


「??・・・言ってる意味が良く分かりませんよー?まあ、昔は『黄金の国・ジパング』
なんて呼ばれていたらしいですが・・・」



・・・黄金の国?・・・ジパング?・・・


突如として現れた、不可思議な単語


・・・近年できた、小国の名前か?・・・


・・・だが、辺境や秘境の土地でもない限り・・・大抵の国には足を運んだ事がある・・・


・・・少なくとも、これほど発展している土地ならば・・・絶対に足を運んだ事はある筈だ・・・


・・・いや、黄金の国という名前から察するに、鉱山で栄えた国か?・・・


・・・だが待て、金を発掘できる鉱山を有する国くらい、全て頭の中に叩き込んである・・・


・・・駄目だ、考えが纏まらない・・・




「私からも、質問よろしいですか?」

「・・・ああ、構わん。」

「・・・どうして、お屋敷に忍びこんだのですか?」

「忍びこんだ訳ではない、気が付いたらこの屋敷に庭にいただけだ。」



「それは可笑しいですねー、じゃあどうして『俺の邪魔をするな』というセリフを言った
んですかー?何かしらの目的が無ければ、こんな言葉は出てきませんよー、矛盾してます
よー。」

「矛盾などしていない、俺はこの屋敷になんの興味も無いし、目的も無い・・・強いて
言うなら、ここからさっさと出る事が目的だった・・・。」

「・・・アレ?それじゃあ、ひょっとして・・・大佐と南斗星さんが戦った意味って・・・」

「あの二人の事か?・・・ああ、全くの無駄そのものだ。」




「・・・次は俺の質問だ、木の葉隠れ、砂隠れ、霧隠れ、雲隠れ、岩隠れ・・・ここから
一番近い里はどこだ?」

「???・・・近いも何も、そんな地名聞いた事ありませんよ?・・・そもそも里って、
どこの田舎ですか?」

「・・・貴様こそ、何を言っている?忍び五大国と言われる程の大国だぞ、そんな事も
知らないのか?」

「知りもしないし、聞いた事もありませんよー?そもそも忍って何ですか?忍者の事
ですか?そんなの、この平成の世に居る訳ないじゃないですかー?」

「・・・忍者が、居ない?・・・」



後頭部を軽く殴れられた様な衝撃が襲う。

程度の違いがあれど、忍は万国共通の軍事力だ。

そして、その存在は軍事的なものだけでなく日常レベルの雑用から、一国のトップの護衛
など、幅広く活躍し一般的にも広く浸透する身近な存在である。



・・・それを、知らない?・・・


その瞬間

イタチの中で、何かが咬み合う


自分の体内から消えた死の病


今までの違和感


有り得ぬ過去と現在の境目


それら全てが歯車となり、イタチの中で咬み合い




唐突に、理解する。






「・・・穢土・・・転生・・・」



全てを結ぶキーワード「禁術・口寄せ穢土転生」


生贄を捧げる事によって死者をこの世に転生させる、禁術中の禁術

人命を犠牲にし、死者をこの世に呼び出し利用するという非人道的な術として火影が禁術
として封印した忍術。

そして、木の葉の三忍と称され、かつての「暁」の同胞・大蛇丸が独学で体得した術でもある。

木の葉崩しの際に、大蛇丸はこの術を使い初代火影と二代目火影をこの世に呼び出した
という事実は、イタチも聞き及んでいる。


だが・・・それなのに、今まで考えもしなかった


あの世と呼べる存在が、実在するという可能性に・・・。



「・・・馬鹿、な・・・・!」



・・・まさか、本当に冥府の世界だとでも言うのか!・・・


・・・じゃあ、・・・



・・・サスケは・・・


・・・マダラは・・・








・・・コノ世界ノドコニモ存在シナイ?・・・







「・・・どうかしました?」


「・・・どうも、しない・・・今、全てを、理解・・・した!」


消え入りそうな声で呟きながら、イタチは膝を付く。

許しを乞う咎人の様に、膝を付き、両手を付き、項垂れる。


何かが、イタチの中の決定的な何かが・・・抜け落ちた瞬間でもあった。


「・・・煮るなり、焼くなり・・・好きにしろ、それが俺の今までの所業に対する
罰というのならば・・・俺は、甘んじて受け入れよう・・・。」



・・・もし、ここが死後の世界なら・・・


・・・俺を討ち取ったのは、紛れも無くサスケだ・・・


・・・大蛇丸を葬り、『暁』のメンバーを討ち取り、『うちは』の歴史に終止符を打った英雄となれるだろう・・・



・・・それならば、もはや未練はない・・・


・・・マダラの不安も拭えぬが・・・


・・・強さを得たサスケなら、これからも強く生きていけるだろう・・・


・・・俺の居場所は、もはやあの世界には存在しない・・・


・・・今の俺という存在は・・・文字どうり、忌まわしい亡霊・・・



・・・ならば、今度こそ本当に・・・



・・・俺の役目は終わったんだ・・・



・・・親を殺し、友を殺し、仲間を殺し・・・

・・・コノ手を血に染めて、幾多の屍を築き上げ・・・

・・・俺が犯した罪の数々・・・



・・・その終着点が、ここ・・・



・・・これで、終れる・・・



・・・これで、やっと・・・終れるんだ・・・・・








(・・・これは、少々予想外の事態になりましたね・・・)


目の前で頭を垂れる男を目にして、美鳩は思う。

確かに、自分は元々この男を断罪する為にここにやってきた。


レンの事だけではない。

自分の恩人とも言える大佐と、良き友人の南斗星

この二人を襲い、怪我を負わせた事に対しても、美鳩は並々ならぬ怒りを感じていた。


感じていた、筈だった。


だが、この男を見ている内に・・・そんな感情は不思議と鎮まってしまった。

同属の気配を感じ取っただけでは無い。



美鳩は知っている。



この男と同じ姿を・・・この男と同じ目の光を



美鳩は知っている。



(・・・卑怯ですよー、その「目」をされたら・・・何も出来ないじゃないですかー・・・)



それは、一種の絶望

苦しいのに、

助けてほしいのに

どうする事も出来ない


ただ一人、迫り来る恐怖と絶望に耐え忍ぶしかない

いつ来るか分からない終焉を期待して、ただ待つしかない



・・・そんな姿を・・・


・・・そんな目の光を・・・


・・・美鳩は、知っていた・・・



(・・・全く、どうしたらいいものですかねー?・・・)



だが、この男が自分の弟を傷つけた事もまた事実なのだ。

簡単に、割り切れるモノではない。

本当は、許せる筈もないし、許したくもない


幾千幾万の罵詈雑言の言葉を投げつけてやりたい

この男が錬や大佐、南斗星にやった様に・・・暴力という暴力で蹂躙したい。


しかし、今のこの男にそれを行えば・・・

かつて、絶望に打ちひしがれていた弟と・・・同じ目をしたこの男に行えば・・・


・・・自分は、同類になってしまう・・・


・・・かつて自分の弟に暴力を振るい続けた、あの父親と・・・


・・・あの最低最悪な父親と、同じになってしまう様な気がした・・・



(・・・我ながら、難儀な事ですねー・・・)



肩を竦めて、溜息を吐く。

しかしこの直後

「・・・!!!」

美鳩は閃く。


(くるっくー、閃きました!これは名案です!我ながら素晴らしいアイディアです!!)


自画自賛しながら、美鳩はイタチに近づく。



「・・・今更なんですが、お名前を窺ってよろしいですか?」

「・・・うちは・・・イタチ・・・」

「イタチさん、ですかー・・・変わったお名前ですねー。ところで、さっきの煮るなり
焼くなり好きにしろ・・・という言葉は、嘘や茶化しなどではなく・・・真剣なお気持ち
からのお言葉と受け取って受け取っても宜しいですか?」

「・・・ああ、あの言葉に偽りは無い・・・」


イタチは顔を上げると、そこには微笑む美鳩の顔。


「・・・イタチさん、明日ある人に会って頂きます、そこで私と話を合わせて頂けませんか?」

「・・・別に構わんが、何をするんだ?・・・」

「貴方に、罪を償って頂きます。」



















「・・・おい、今なんと言った?」



私の名は久遠寺森羅。

この久遠寺家の長女であり、家長でもある。

ある楽団で指揮者を勤めながら、妹である愛しのミューたんとラブラブな日々を送っている。

目下、目的としては帰宅した私に「おかえりなさい、姉さん。ご飯にする?お風呂にする?
それとも、ワ・タ・シ?」とラブラブ対応をミューたんにして貰う事だ。


最近、この屋敷に二人の使用人が増えた。

上杉錬と、美鳩の姉弟だ。

家庭の事情から、家から逃げ出して七浜まで来たこの二人を我が妹であるミューたんと夢、

そして、使用人であるベニ、ハル、南斗星。

この久遠寺家の様々な人間と縁があるから、試しに雇ってみた。


弟の錬はからかうと面白いし、単純で血の気の多い部分もあるが・・・基本的に根が真面目のお人よしだ。

姉の美鳩は、家事全般は得意だし、身内に劣情を抱いてしまった者同士で話が合う。


まあ、ぶっちゃけた話おもしろそうだから二人を採用した。

今では錬は私の専属執事で、美鳩は未有の専属メイドだ。



この家の他の人間とも仲良くやっているようだし、暫くは退屈する事はないだろう・・・




・・・・と、思っていたのだが、



「・・・ですからー、この人はうちはイタチさんと言いましてー・・・」

「違う美鳩、そのもっと後だ、後。」



ころころと笑顔をしながら、美鳩は私に言ってくる。

そして、その美鳩の隣に立つ男。


紛れも無く、先日の侵入者だ。

我が家に侵入し、久遠寺家最強の大佐と南斗星の二人を圧倒的な実力で捻じ伏せ、

その後、過労でぶっ倒れて丸二日以上我が家で眠り続けていた男。


この居間には、久遠寺家のほぼ全員が揃っている。

おい錬、ベニ・・・・警戒するのは分かるが、その視線だけで射殺せる様な目は止めろ

南斗星、お前もイタチとやらがちょっと手足を動かす位で、臨戦態勢に入ろうとするな

大佐は・・・ふ、流石に落ち着いている・・・・・おい、胸板が妙に膨らんでいないか?
何を仕込んでいる、そこに・・・



「・・・森羅様?」

「ん?・・・ああ、すまん・・・」



そうだ、今は美鳩と話をしていたんだ。

と、いうか・・・そもそもコイツがいきなりトンデモ発言をするからだ。







「このイタチさんを・・・久遠寺家で雇ってみませんか?」








・・・何をしたいんだ、この女は?・・・


目の前の二人の女のやり取りを見ながら、イタチは思った。

昨夜の女の提案を、自分は受け入れた。

今までの自分が犯した罪を償いたかったからだ


しかし、その後は自分が予想していた展開とは少々違っていた。



・・・俺を、雇う?・・・


・・・多少の行き違いがあったとはいえ、この家の人間を傷付けた人間を?・・・


・・・一体、何のつもりだ?・・・




「・・・おい、イタチ・・・と言ったな?お前はここで働きたいのか?」


目の前の長い黒髪の女、「シンラ」と呼ばれた女が問い掛けてくる。

俺は、その女の隣に佇む長い栗色の髪の女・・確か、ミハトと言ったか?

その女に視線を送る。

その女は、ゆっくりと頷いた。



「・・・ああ、そのつもりだ。」


「お前は自分が何をしたのか理解しているか?お前はこの屋敷に無断で侵入し、この家の
使用人を傷付けたんだぞ?・・・そんな貴様が言うに事欠いて雇わせてくれ?正気の沙汰か?」


・・・この女の反応も、至極当然の反応だ・・・


俺はもう一度、ミハトに視線を送る。

声を出さずに、唇を動かしている

読唇術、か?それならば、こちらもそれに対応する。



「・・・それに関しては、こちらの非礼を詫びよう。だが俺はこの屋敷に忍び込んだ
つもりは無い・・・気が付いたら、ここに居た・・・それだけだ。」


「!!・・・アンタねえ!!そんなふざけた言い訳が通用するとでも思ってるの!!
まさかそれで言い逃れ出来ると・・・!!」


「ベニ、お前は黙っていろ。」



シンラがベニと呼ばれた赤毛の女にそう言うと、女は黙る。


「・・・だが、ベニの言うとおりでもあるな・・・・お前、本当にそんな言い訳が通じる
とでも、思っているのか?」


「通じるもなにも、事実だから仕方が無い。」


「・・・ほう、なら仕方がない・・・と言いたい所だが、こちらとしてもそう簡単にお前
の言う事を信じる訳には行かないな。私達は、お前が何かしらの目的を持ってこの屋敷に
侵入したと考えているのだからな・・・。」


「・・・当然の回答だな。」


「お前は、「俺の邪魔をするな!」といって大佐と南斗星に襲い掛かったそうじゃないか?
 少なくとも、何も目的を持たない人間からは、この様な言葉は出てこない。」



そう言って、シンラは俺にサディスティックな視線を俺に向ける。



「お前の目的は何だ?」

「答える義理は無い。」



・・・!!!・・・


その瞬間、俺を突き刺す視線がより強くなった。

特に、口髭を生やすタイサと呼ばれた男とベニと呼ばれた女の視線の圧力は並々ならぬものがある。



「・・・だが、俺がそこの二人を襲い、そこの男を含めて三人を傷付けた事には変わりはない。」


「・・・・」



俺は、三人を視界に納められる様に体を入れ替える。



「・・・俺は、この屋敷も、そこに住む人間も、傷付けるつもりは無かった。だが、俺が
お前等を傷付け・・・ここに住む者達の平穏を傷付けた・・・」



俺という存在の所為で、ここの人間は平和というものを傷つけられるという結果になった。


だから、その事だけは・・・素直に謝罪したかった。



「その事については、本当に申し訳ないと思っている。・・・・すまなかった。」



頭を下げる。

僅かに、息を呑む音が聞こえる。

顔を上げて、再びシンラと向き合う。
僅かに驚いた表情をしていたが、数秒すると愉快気に口元を吊り上げた。



「・・・ふむ、イタチ、か・・・お前、体の方の調子はどうだ?」

「・・・全快にはほど遠いが、日常生活を送る程度なら問題ない。」


「・・・そうか、なるほど・・・ふむ。」



そう言って、女はポンっと手を叩く。



「・・・好し、お前を仮採用しようじゃないか。」


「・・・!!んな!」

「森羅様!!」


シンラの発言に、レンとベニスは驚いた様に叫ぶ。

他の者達も森羅の発言に、驚きの表情をしている。



「大佐と南斗星を凌ぐ程の猛者だぞ?警備員には持って来いじゃないか、試してみる価値
はありそうだ?」

「・・・ですが!!」


「俺の力量を期待しての発言か?なら今の内に撤回しておけ、さっきも言ったように、
今は日常生活が送れる程度にしか回復していない。」


「それは謙遜か?お前は先日、今とは比べ物にならない程ボロボロの状態で大佐と南斗星
を倒したんだぞ?」


「不安要素がある事には変わりは無い・・・それに、そこの二人は庶民だろ?いくら深手
を負っていようと、手習い程度に武術を齧った人間の十や二十に遅れを取るほど、腑抜け
た人生など送って居ない。」


「・・・なに?」


シンラは僅かに目つきを鋭くして、俺を見る。

タイサと呼ばれた男と、ナトセと呼ばれた眼帯を付けた女の視線が強くなる。

確かに、体術のみ見ればこの二人は中忍レベルはある。

口髭の男は戦を知る闘い方であったし、眼帯の女は素質だけなら上物だ。



だが、それだけだ。



口髭の男の闘い方は、「老い」を感じる。
現役を退き、争いから逃れた日和った拳だ。



眼帯の女に至っては問題外。
この女は、「戦」を知らない・・・実戦経験も乏しい、何より非情に徹し切れていない。



忍としてみれば、この二人は明らかな不適合者。

俺から見れば、この二人程度なら庶民となんら変わりは無い。


だから、あえて忠告する。



「事実を述べたまでだ。あれ以上の実力者を、俺は腐るほど知っているし、飽きるほど
討ち取ってきた・・・・と、いうか・・・これほど巨大な屋敷で、そこの二人しか護衛は
いないのか?いくら何でも楽観視しすぎだ、むしろそっちに驚いたぞ。」



俺の言葉を聞くと、シンラという女は豪快に笑い出した。



「・・・ぷ、く・・・くっく・・・」


「・・・・?」


「くはははは!!成るほど、腑抜けた人生か!!中々面白い事を言うな!久遠寺家最強の
二人を捕まえて庶民だと!!はっはっは!くはははは!それだけの事を言えるのなら問題
ないだろう。お前には、警備を主体とする遊撃を勤めて貰う事にしよう。数日ほどお前の
働きを見て、それ以降に正式に採用するかどうか判断する。」


「・・・了解した。」


「うむ、これにてこの場は解散。大佐はイタチのサイズに合う使用人の服を用意してくれ。」


「了解しました、森羅様。」



そう言って、その場は解散となる。

俺は、服のサイズを知りたいからとタイサと呼ばれた男と共に移動する。

その途中、二人の男女と・・・卵が足に生えたような奇妙なカラクリが俺の進路に立ちはだかる。


ベニ、レン・・・それと、デニーロと呼ばれたカラクリだ。



「森羅様が言うからこの場は見逃してやるけど、私はまだアンタを信用した訳じゃない
んだからね。そこは勘違いするなよ、コラ。」


「鳩ねえが、これから同僚になるのだから仲良くしろって言うけど・・・・俺も、お前の
事を許した訳じゃねえからな。」


「未有に何かあったら、その時は・・・ただじゃおかねえからな!!」



三方向からの突き刺さる視線。

吐きたくもない溜息が出る。

いつまでも俺を睨み続ける二人と一体に対して、大佐が一歩前に出る。


「よさんか、二人共いい加減仕事に戻れ!デニーロも未有様の下へ戻れ。」

「・・・うす」

「・・・分かりました。」

「・・・ま、シャーネーナー。」


二人と一体はその場から離れ、再びタイサの後に続く。



「わしからも、お前に言っておく事がある。」


「・・・なんだ?」


「もし、ここに住む人間に不埒な真似をすれば・・・わしはお前を許さん。その事を努々忘れるな。」


「・・・了承した。」





・・・あの女の意図が未だに掴めんが・・・




・・・中々、難儀な生活になりそうだ・・・









「・・・それにしても意外だったわね。」


「何がですか?森羅様が、イタチさんを雇った事についてですか?」


場所は変わって、未有の部屋。

未有は紅茶を口に含みながら、美鳩に話しかけた。



「それもあるけど、私が驚いているのは貴方の事よ美鳩。」


「・・・ほえ、何がです?」


「だって、あのイタチって男はレンを殴ったのよ。付き合いはまだ短いけれど・・・
貴方という人間は理解しているつもりだわ。大切な弟を傷付けられた貴方なら、あの場で
あの男に襲い掛かっても不思議ではないと思ってたのに、仲介役を買って出ているんだ
もの・・・不気味に思わない方が不自然よ。」


「もう、未有ちゃん。私だって時と場所は考えますよー。確かに私だって大切な
レンちゃんを殴ったあの人を許せませんが・・・時と場所くらい考えますよー、それに・・・」


「・・・それに?」


「・・・自分のやった事に対して、素直に謝ってくれましたから・・・私としては、
この件については決着がついたつもりでいますから。」

「まあ、確かに誠実さは感じられたわね。私もこれ以上とやかく言う必要はないけど・・・
錬とベニスは危険ね。今にもイタチに食って掛かりそうだったもの・・・。」


「大丈夫ですよー。レンちゃんには仲良くするように言っておいてありますから・・・それに・・・」


「・・・それに?」


「・・・いいえ、何でもありませんー。」



・・・ふふふ、イタチさんが思ったより素直で助かりましたー・・・



・・・一番の難関だった森羅様にも無事通過する事ができましたー!・・・



・・・てへ、流石は鳩。平和の象徴に名に恥じぬ働きですー・・・



・・・さてと、お姉ちゃん・・・頑張りますよー!・・・









続く。




後書き イタチ、無事久遠寺家に雇われました?ちょっと強引な気もしましたが、
これ以上描くとテンポが悪くなりそうだったので、この形でまとめました。

次回から、イタチの久遠寺家の生活の幕開けです!そして、皆が大好きな
あの方が登場する予定です。

沢山のご感想、ありがとうございます!皆さんのご期待に添えられるように
頑張ります!!



いつの間にか、レスが溜まったので返信したいと思います。

これからも、皆さんの期待に応えられるように頑張ります!!

<アスさん
お褒めの言葉ありがとうございます。余り無いタイプの組み合わせだったので、
そう言って貰えると嬉しいです!

<トルケルさん
感想ありがとうございます!次回も期待してて下さい!

<kururuさん
感想ありがとうございます!僕も同じ感想を持った人間です、イタチという人間を
これから上手く描いていきたいと思います!

<ニッコウさん
いつも感想ありがとうございます!凄く嬉しいです!イタチときみあるメンバーとの
パワーバランスは不安でありましたが、中々好評な様で安心しました!
次回からは、イタチの久遠寺家での生活の始まりです!

<○さん
感想ありがとうございます!とりあえずイタチは美鳩を介して久遠寺家へ関わっていく
予定です!

<AMさん
感想ありがとうございます!次回からはもう少しテンポよく描ける様に努力していきたいと思います!


<Valueさん
感想ありがとうございます!とりあえず、病気はイタチの肉体から消えた、という設定です。

<無知ですみませんさん
感想ありがとうございます!とりあえずイタチの視力は両目ともD以下?みたいな感じです。

<通行人さん
感想ありがとうございます!パワーバランスは不安でしたが、そう言って貰えて嬉しい
です!イタチというキャラクターを崩さずに描いていきたい思います!


<通る者さん
感想ありがとうございます!「少々、イタチを熱血にしすぎたかな?」と思っていたので
不安だったのですが、そう言って貰えて嬉しいです!

<ブウさん
感想ありがとうございます!とりあえず、「こんな組み合わせ有り得ねえだろう」みたい
に考えて出来た作品です、これからも期待に添えられる様に頑張ります!

<333さん
感想ありがとうございます!無口キャラはきみあるの世界に居なかったからでの人選です、
とりあえず次回からはちらほらとギャグテイストが来ると思います。

<アルバトロスさん
感想ありがとうございます!パワーバランスの設定は不安が多かったのですが、肯定派の
意見が多くて安心しました!イタチはここ数週間で株が急上昇したキャラなので上手く
描いていきたいと思います!

<蘇芳さん
感想ありがとうございます!とりあえず両目ともD以下?くらいの設定です。ご期待に添
えられる様に頑張ります!

<香我美さん
感想ありがとうございます!とりあえず一話目では、大佐と南斗星の二人掛かりようやく
同格。現在は少々回復した為未知数となっています。ちなみに次回はあの方達が出ます。

<バルカンさん
感想ありがとうございます!次回も期待してて下さい!

<まんさん
感想ありがとうございます!それとご忠告ありがとうございます、これからはなるべく
不用意な発言はしない様に頑張っていきたいと思ってます。




[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)第四話・7月11日大部分加筆修正
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:e7dd12d2
Date: 2009/07/11 21:01



「・・・フム、服のサイズは小僧とほぼ一緒だな。これなら新たに服を仕立てなくとも、
まだストックがあった筈だ・・・そちらを使う事としよう。」


大佐はイタチの体のサイズをメジャーで計測して結論づける。

部屋のクローゼットを開けて、透明なビニール袋で包装された服を一着手に取る。
そしてそれをイタチに手渡すが、思いついた様にイタチに言う。


「・・・それにしても、よく見れば、服だけでなく貴様自身も随分ボロボロだな・・・
着替えのついでだ、二階に使用人用の風呂があるから、シャワーを浴びて来い。
使用人として最低限の清潔感を保って貰わなくてはならん。」

「・・・分かった。」


イタチは渡された服を抱え、二階の浴室に向かった。






第四話「期待の新人」






「・・・今日からこの久遠寺家で働く事になった、うちはイタチだ。至らぬ点も多々あると思うが、宜しく頼む。」


額当てを外して、執事服に着替えたイタチが自己紹介をして、(一応の)主達に一礼する。

その姿にある者は感心した様子で見て、ある者は唖然とし、ある者は羨望し


イタチを、様々な視線で皆は見る。


「・・・どうした?」

「いや、どうしたという訳じゃないのだけど・・・何というか、見違えたわね・・・」


未有が感心したかの様に呟く。

元々、使用人同士のみで行われる自己紹介だが興味が先走ってか、森羅、未有、夢の
久遠寺三姉妹まで同席していたのだ。


皆の視線の理由、それは他ならぬ目の前のイタチだ。


元々、イタチは顔の造りは美形の部類に入る。


今まではボロボロの格好で薄汚れたイメージがあったが、今は風呂上りで体の汚れは
洗い流されて、顔もサッパリとしているし、髪は色艶を取り戻して、生来の姿を取り
戻している。


更に決め手となるのが、執事服だ。


イタチが纏う一種独特の、抜き身の刃の様な鋭いオーラ。

一朝一夕では身に付く事が無い、死線を潜り抜けた者のみが纏う事を許される覇気の衣


そんなイタチのイメージと執事服はこれ以上に無い程にマッチし、
イタチの持つ空気を一味も二味も昇華させたのであった。


「・・・ほう、素質はあるとは思っていたが・・・これは中々・・・まさか、これほど
ハマるとはなー。」

「・・・な、なんか、『デキル男』って感じだよねー。」


森羅と夢が感心したかの様に呟く。

元々、この屋敷で執事服を着用していたのは大佐と錬とハル、そして南斗星だった。

だが、大佐は既に高齢であったし、ハルは男とも女ともとれない中性的な顔立ちであった

南斗星は執事服が似合うといっても、女性の身だ。


つまり、この屋敷では執事服が似合う「年頃」の男は少ないのだ。

唯一、この条件に当てはまるのが先日雇用された錬だけだったが・・・



錬とイタチの二人では、どちらの方が執事服が似合うか?という度合いでは、その答えは一目瞭然だった。


「それで、俺は何をすればいい?」


そんな場の空気を切り、イタチは尋ねる。

あまり値踏みするかの様にジロジロと見られるのは好きではない。

さっさと仕事を与えるなり、職場を案内してもらうなりをして欲しかった。

イタチの言葉に、大佐が反応する。


「そうだな、まずはこの屋敷とその周囲の地理について知っておいて貰おう。
・・・案内は、そうだな・・・美鳩、案内してやれ。」

「了解ですー。」


大佐の言葉に、美鳩は笑顔で答える。

しかし、その申し出に錬が不服の声を上げる。


「・・・大佐!案内なら鳩ねえじゃなくて俺が・・・」

「お前では駄目だ。」


しかし、間髪入れず大佐が錬の言葉を一蹴する。

先日の一件から始まり、先程のやり取り。
イタチと錬を二人きりになんかしたら、それこそ先日の焼き直しとなる結果になるだろう。

また、同じ理由でベニスも却下

ハルではこの男に気圧されて、まともに案内など出来ないだろう

南斗星も、先日の一件をまだ完全に割り切れていない様子だった。

自分はこれからイタチの部屋の準備をしなければならない。



つまり、消去法で美鳩となった。



何でかは分からないが、美鳩とこのイタチの間には蟠りの様なものはない。

このイタチが目を覚まし時に、美鳩が一番にそこに出くわし、そこでお互いに打ち解けた
本人は言うが・・・


何にせよ、今のところは美鳩にしか案内を任せられないのが現状だった。


「大丈夫ですよレンちゃん、お姉ちゃんはしっかりと働いてきますからー。」

「・・・でもよー、鳩ねえ・・・」

「レ・ン・ちゃん?」


僅かに視線に力を込めて、美鳩は錬にいう。

その顔を見て、錬は僅かにたじろぎ顔は青白くなり、力なくうな垂れる

そして、皆は仕事に戻る。


「それでは、行きましょうか。」

「分かった。」










「・・・・どういうつもりだ。」

「何がです?」

屋敷の案内。

そこで二人きりになったイタチが、美鳩に尋ねる。


そもそも、この女の行動に不可解な点が多すぎるからだ。

なぜ、知り合って間もない・・・しかも身元も定かではない不審者の自分を雇うのか?


そして・・・・なぜこの家の主であるあのシンラという女はそれを受け入れたのか?


・・・それとも、この世界では・・・それほど珍しい事ではない事なのか?・・・


「・・・いや、まさかな・・・」



思った事を、素直に口にする。

現に、この女の弟とベニスという女の態度は自分に対して明確な「敵意」を持っている。

今、自分がこの屋敷に存在するという事は・・・未だ治らぬ生傷に、塩を塗り付ける様なものだ。


「・・・俺は、自分が行った事に対する償いをするために此処に居る。」

「可笑しな事を言いますねー。この屋敷に住む方達に迷惑を掛けたのですから、この屋敷
でそれ相応の働きをするのは、至極自然だと思いませんか?」

「家族を、もしくはそれに値する親しい人間を傷付けた人間と一緒にされて・・・
気が良い人間など居る訳なかろう。」


屋敷の廊下を歩きながら、イタチは呟く。


・・・そう、平気な人間などいない・・・

・・・嘗て、あれほど自分を慕っていた弟が、自分を仇として憎んだように・・・

・・・自分が、弟を守るために・・・血を吐く様な思いで、両親に手をかけた様に・・・

・・・それほど、家族とは大切なものだ・・・





その言葉に、美鳩は有無を言わさぬ重さを感じる。
まるでこの男の奥に潜む何かを、具現化した様な・・・ズシリとした何かだ。


「・・・だから、自分はここに居るのは良くないと?」

「・・・・・・」

「・・・こんな犯罪者もどきはとっとと警察なりなんなりに突き出してしまった方が良いと?」

「・・・そうだな・・・」


この男の事を、美鳩は何も知らない。

この男が、今までどんな人生を歩んできたかも知らない。

だが、この男が今まで何かを背負ってきたのは・・・なんとなくだが察しがつく


「どうしたんですか?今まで余程悪い事でもしてきたんですか?」


半分冗談、半分本気の美鳩の問い。

その問いに、如何に返すかと美鳩はイタチを見る。


そして、イタチは応える。



「・・・・ああ、そうだな・・・・」

「・・・・・」



その胸中は、どの様な物であったのだろう

イタチの語らい

それを美鳩は、黙ってきく。



「・・・たくさん、悪いことをしたな・・・」



その言葉が、何を指しているいるかは分からないが・・・

美鳩は、何となくだが・・・理解する。


自分が、錬を守り続けてきた様に
この男も、今まで何かを守り続けてきたのだと・・・美鳩は感じていた。



「・・・なら、尚更ここで働くべきですよー。ご自身でいう、この家での事を含めてたくさん悪い事をしてしまったのなら・・・
尚更罪を償うべきだと、まずはこの久遠寺家で働いて・・・罪を償えば良いと、私は思います。
・・・今はその事は大佐達には黙っているのが懸命ですね。何をしてきたかは知りませんが、
その事が大佐達に知られたら・・・本当に追い出されちゃいますよ?」

「・・・なぜ、そんなセリフが言える・・・」

「・・・はい?」

イタチの質問に、美鳩は首を傾げる。

どうやら、この女の答えは変わらないらしい



「・・・この家の危機管理能力を疑うな・・・」



呆れた様に呟く

理解できない、それがイタチの素直な感想だ

この女が、弟を心の底から愛しているのは理解できているつもりだった

そして、それを守る為だったらどんな手段も厭わないという事も理解できているつもりだった



「・・・後悔しても知らんぞ・・・」



だから、今のこの女の行動と言葉は

どうしても理解できなかった。



「・・・くす」

「何が可笑しい?」

「いえいえ、ついここに来たばかり事を思い出してしまって・・・」

「・・・?」


美鳩が思い出すのは、この久遠寺家に来た最初の日

自分の弟が、主達に言った言葉



・・・いや、貴方達はお嬢様育ちの人間には分からないかもしれないけど・・・


・・・世の中、本当に腐っているヤツとか・・ろくでもない人間がいるからさ・・・


(・・・やはり、レンちゃんに似ている所がありますねー・・・)



「そういう事を言えるのなら・・・まあ、ある程度は信用できます。
私は本当にロクでもない人間という物を知っていますから・・・・。」

「・・・そう、か・・・」

「はい、そうです。」



美鳩の笑顔と真意を理解できないまま、屋敷の案内は続く。



そして、イタチは更に考える


・・・なぜ自分は今の様な立場に居る?・・・


・・・自分に、拷問・尋問をかけて・・・情報を引き出そうとするなら解かる・・・


・・・自分という存在を強制的に排除し、危険因子を取り除こうとするなら解かる・・・


・・・この世界の警務部隊に、不審者として自分を突き出すのならまだ解かる・・・



・・・しかし、今の自分は何れのどれにも当てはまらない・・・



・・・一番妥当な表現とするなら、「捕虜」というポジションだが・・・



(・・・これほど監視と拘束が緩い捕虜の扱いなど、聞いたことがない・・・)



イタチには、未だこの家の人間の真意が分かりかねていた。



(・・・もしくは、狙いは「写輪眼」か?・・・)



それならば、現状にもまだ納得がいく。

うちは一族が誇る血継限界・「写輪眼」

血継限界の研究は、未だ多くの里で行われている。


自分のいた世界とは勝手が違うといえど・・・この世界にも、異能を研究する似たような研究機関があるかもしれない。


先日の戦闘で、自分は写輪眼の力を使った

もし自分が写輪眼・・・血継限界の力を持つ事がバレていて、
その力を手元に置き・・・監視するためだったら?


未知の力を前にして、迂闊に手を出す事が出来ないので居たとしたら?


そして、その力を手に入れる為に・・・その機会を虎視眈々と狙っているのだとしたら?



(・・・現状としては、これが一番筋が通る考えだが・・・)



イタチには、なぜかその考えに納得できなかった


そう、木の葉隠れの里を抜けてから・・・自分は様々な敵と戦ってきた

そして、その者ら全てに共通するモノがある

すなわち、「敵意」


多かれ少なかれ、自分に明確な敵意をもっている者達であった

そして、長年の経験から・・・自分はソレを察知する術を身に付けている

長年の経験と勘によって培われたその能力に、自分は絶対の自信をもっている

そうでなければ、自分はとうの昔に命を落としていただろう



だが、しかし・・・



(・・・あのシンラという女からは・・・「敵意」も「悪意」も感じなかった・・・)


いや、正確には「あった」


だが、自分と話している内に・・・それが感じられなくなった

その事から読み取れる事



(・・・俺と、そしてミハトの言う事を信じ・・・俺を受け入れても構わないと、思っている事・・・)


しかし、すぐに考え直す

それは既にお人好しとすら言えない「馬鹿」の領域だ


決め付けは失敗の始まりだ。

それに、この家のおおよその戦力は解かっている。

この家の護衛・・・タイサとナトセ。
あの程度の連中なら、例え寝込みを襲われても幾らでもあしらえる。

一通りの思考をを終えて、イタチは再び美鳩の案内を聞く。



「・・・それで、三階は森羅様、ミューちゃん、夢ちゃんの私室になっています・・・って聞いていますかー?」

「・・・ああ」



適当に相槌を打つ。

しかしこの屋敷の中を一通り案内されて、イタチはふと思った。



・・・この家、あまりにも無用心じゃないか?・・・



他人の家とはいえ、これから仮にも職場になるのだから、つい考えてしまう。

この家の人員も、セキュリティーも、屋敷の周囲の警戒も、

この家の規模と比べると、あまりも低すぎるのだ。


「・・・・少々、無用心すぎるのではないか・・・この屋敷?」


柄ではないが、つい進言してしまう。


「???そうでしょうか?・・・警備システムも万全ですし、警備員として大佐と南斗星さんのどちらかが常に屋敷に居ますし
少なくともここら辺ではこの久遠寺低が一番安全ですよ?」

「・・・そのシステムとやらがどれほどの精度のものか知らぬが・・・機械やカラクリほど騙しやすいものは無い
それに、あの二人程度の戦力など正直アテにならん。希望的観測を頼った警備など・・無いに等しい。」

「・・・随分、手厳しい評価ですね。」

「・・・とりあえず、警備を任された身だからな・・・。」

そんなこんなで、屋敷の案内は終了した。








「・・・あれ?」

「・・・あら?」


周囲の地理を把握する為に、屋敷から出る。

その途中、この屋敷の門で桃色の髪の少女と先日の眼帯の女と鉢合わせた。



「あらあら、夢ちゃんに南斗星さん。これからお買い物ですか?」

「うん、そうだよ。ちょっとCDを買いに・・・そっちは?」

「私達は、イタチさんにこの周囲を案内するために。」



美鳩が返すと、夢は二人を見て思い付いた様に言った。



「あ!じゃあ一緒に出かけない?まだ私イタチさんとは余り喋った事ないし、南斗星さんだってあまり喋った事ないでしょ?南斗星さん、どうかな?」

「そうですねー、先日の事でお互い思う所もあるでしょうしー・・・ここはお言葉に甘えるとしましょう。」

「・・・・・」

「・・・・・」



しかし、南斗星は応えない。

視線をイタチに向けて、二人は向き合い、そこに立っている。

その二人を取り巻く空気は、夢に僅かながらのプレッシャーを与えていた。


「・・・南斗星さん?」

「・・・へ?え・・・あ」


夢の言葉に、南斗星は視線を戻し


「え?・・・う、うん・・・私は、別にいいよ。」

「まあまあまあ、それではお言葉に甘えて。」


美鳩が笑顔で返事をする。

そして、四人で七浜市内へ繰り出す事になった。





最初イタチは自分の世界と比べて、かなりの発展を見せる七浜市を見て驚いていたが、
次第に、そのギャップに慣れてきた様だ。


(・・・建築技術一つ見ても・・・木の葉よりもかなり優れているな、それにあの道を走る・・・専用路線を必要としない蒸気機関車のような乗り物
似た様な代物は見た事はあるが・・・あれほどのスピードで走る物はなかったな・・・
後は、店頭に並べられていた映像機器の画像も・・・恐ろしい程に鮮明だったな・・・)

単純な「技術」という物が、少なくともこの国は優れている

その事を、イタチは理解した


夢の買い物を済ませて、商店街、チャイナタウン、倉庫街、七浜学園・・・


そして、今は七浜公園にいた。



「・・・ねえ、イタチさん。」

「何だ?」

「駄目ですよー、ちゃんと夢ちゃん達には敬語を使って話さないと。」


美鳩の指摘を受けて、言い直す。


「・・・何ですか?」

「まあ、夢としてはタメ口でも良いんだけど、お姉ちゃん達が主従のケジメをつけろって
言うからね。
それで、イタチさんって凄く強いみたいだけど・・・何処かで武術を習ったりしてたの?」

「・・・基本的な戦闘技術は父上に叩き込まれました。あとはアカデミーで演習・実習を
繰り返し独学で鍛錬しました。」

「へー、お父さんにか~。それに、アカデミーって学校の事だよね?軍隊学校とか、
そういう学校?」

「・・・似た様なものです。」

「そっかー、だから強いんだね。大佐や南斗星さんも凄いけどそういう事情なら納得しちゃうなー、ねえ南斗星さん・・・南斗星さん?」



自分の声に気付かない南斗星に、夢は疑問の声を上げる。

そして、夢の視線に気付き慌てて対応する。


「・・・ん、え・・・あ、ごめん夢!何の話だっけ?」

「イタチさんの事を話してたんだけど・・・ひょっとして、南斗星さんどこか調子が悪いの?」

「う、ううん!そんな事ないよ・・・ただ・・・」

「・・・ただ?」



「ハッキリと言ったらどうだ?」



夢の問いに口ごもる南斗星に、イタチが言う。

その言葉と共に、三人の視線がイタチに集まる。



「俺を警戒しているんだろ?」


「・・・・・・!!」


イタチが言うと、南斗星は僅かに驚いた様に目を見張る。


「・・・一つ言っておく、ナトセ・・・お前の判断は正しい。俺の実力、戦闘方法から
常に一挙手一足投に目を置き、退路を確保し、己の主を守るために常に体内のリミッターは外しておく。
護衛としては、十分優秀の部類にはいる。」

「・・・・・」

「最も、行動と実力が伴っていないのが惜しいがな。」



そう言って、イタチは言葉を締めくくる。

南斗星は更に視線を強めて、イタチに尋ねる。



「・・・一つ、聞きたい事があるんだ・・・イタチ、くん・・・」

「・・・何だ?」

「・・・君は・・・悪い人、なのかな?」


恐る恐る、南斗星は尋ねる。

眼帯をしていない片目からは、真剣な眼光が宿り、イタチを射抜く。



「・・・そうだ、と言ったら・・・お前はどうする?」



ハッキリと、イタチは宣言する。

その様子を、美鳩は「・・・はあ、人の話を聞いて下さい・・・」と呆れながら呟いた。

そう言って、イタチは南斗星を見る。



「・・・そう・・・」


「見た目や思い込みで人を判断しない事だ。だから、お前は正しい。自分の主を守る為に、
疑わしい者は排除しようとする、その在り方はな。」


「!!・・・ち、違うよ!!別に、私はそんなつもりじゃ!・・・ただ、確かめておきたくて・・・」


「それで、俺が悪人と分かった今・・・どうするつもりだ?ここで排除するか?」


「・・・・・そ、それは・・・」


「鳩デコピーン!!」


南斗星の言葉を遮って、バチン!!と破裂音が響く。
美鳩が、イタチにデコぴんをしたのだ。



「・・・何をする?」

「こっちのセリフですー!硬いですー!指が痛いですー!! 爪が折れそうですー!!」


美鳩が涙目で指を擦りながらイタチに訴える。

イタチには、何がどうしたのか理解できない。



「もう、そんな風に冷たく喋ったら誤解されちゃいますよー!もっと素直に噛み砕いて
言って上げなくちゃあ誤解されますよー!!」

「・・・ほえ?」

「・・・誤解?」

「イタチさんは、レンちゃんと南斗星さんと大佐を傷付けた人間が傍に居て、
久遠寺家の皆さんが快く思う筈が無いって思っているんですよー。」

「・・・・・・」



美鳩の言葉に、夢と南斗星は僅かに目を見張る。

そして、南斗星は自分の態度を思い返し、困惑した表情を浮べた。


「・・・えと、あの・・・その・・・」

「・・・だが、俺の言う通りだろ?・・・ミハト、お前が何を考えているかは知らんが」







「おおぉ!! そこに居るのは我が友夢ではないか!」







突然大声を掛けられて、一同は一斉に声の発生源を見る。

イタチの目に映るのは、銀髪のショートカット、額に映る十字傷
制服姿に身を包んだ、久遠寺夢の同級生

九鬼揚羽とその執事・武田小十郎が居た。



「揚羽ちゃん、それに小十郎くんも・・・こんな所で何してるの?」

「我は日課のトレーニング中よ、小十郎は我の新技の実験台だ。のう小十郎。」

「その通りでございまする!揚羽様ああああぁぁぁぁぁ!!」

「声が小さいわぁ!このボケがあぁ!!」


揚羽のアッパーが小十郎の顎を跳ね上げる。


「ぐはあぁ!!申し訳ありません!揚羽さまああああぁぁぁあぁぁぁ!!」


小十郎に一撃を叩き込み、再び視線をこっちに向ける。


(・・・ん?この光景・・・前に、どこかで・・・)


そのやり取りを見て、イタチは何故か懐かしさを伴った奇妙な感覚に襲われた。


(・・・ああ、なるほど・・・)


その数秒後、イタチはその正体を突き止める。




(・・・このノリ、このテンション・・・ガイさんにそっくりなんだ・・・)




脳裏に極太眉毛にオカッパ頭が映える、白い歯を輝かせた自分の先輩の姿を思い浮かべて
イタチは納得する。



「全く、この愚図め・・・おお、南斗星ではないか?丁度いい、小十郎では些か力不足でな
もう少しタフな相手が欲しい・・・と・・・・・・」

「・・・どうしたの揚羽ちゃん?」



不意に、揚羽の言葉は止まる。

その視線を夢から外し、南斗星から外し、その焦点を一人の男に絞る。


「・・・夢よ、この御仁は一体?」

「ああ、その人はイタチさんっていう家の新しい使用人候補の人だよ。今、夢達で町を
案内してあげてるの。」

「・・・ほう、なるほど・・・・」


ゆっくりと、揚羽はイタチとの距離を詰めてイタチを見る
足元から頭の先までじっくりと、その視線を動かし・・・

その瞬間

銀髪の髪が揺れる。


「・・・・はっ!!」


空を裂く、疾風の一撃

肩口から真っ直ぐ伸びる右のストレート

それは必殺の威力をもってイタチを襲う


完全なる不意打ち
その光景を見ていた小十郎も夢も、数瞬後にはイタチが吹き飛ぶ姿を想像していたが・・・


・・・パチン・・・



「・・・・!!」



小さく、何かの音が響く。

それと同時に、揚羽の表情はこれ以上に無い程に驚愕の色に染まる。


揚羽の放った一撃は、イタチが五指の先端で軽くハタいて、その動きを止めていた。


「・・・気は済んだか?」


予想外の出来事だったのか
それとも予想以上の出来事だったのか

揚羽は、ただ呆然としていた


「・・・あ、揚羽さま?」


未だ呆然とする揚羽に、イタチは何かを確認するかの様に呟き

小十郎は困惑した表情で揚羽を見る。



「・・・ふ・・・ふ、ぐ・・・・」



次の瞬間、揚羽はこれ以上にない程に大声で笑い上げた。


「・・・ふ、ふは・・・ふはははは!! 今日は誠に良い日だ!まさかそなたの様な強者に出会えようとは!!」


これ以上にない、歓喜の表情をしながら揚羽は言葉を続ける。


「ふはははは!! はははははは!! 誠に愉快!いや実に愉快よ!! 夢よ、我は心の底から
お主を羨ましく思うぞ!! 大佐殿といい、南斗星といい、久遠寺家には誠に面白い人材が
多い!やはり、これも森羅殿の人徳が成せる業か!良き姉を持った事を、我は心の底から
羨ましく思うぞ!我が友・夢!! ふははははははははは!!!」


「・・・へ、ほえ?・・・これは、褒められてるのかな?・・・いや、そう思うと、何だか照れまするな~。」


そう言うと、夢は恍惚の表情を浮べる

そして揚羽はイタチの前に一歩出て申し出る



「・・・イタチ殿、と言ったか?我は九鬼揚羽と言う。・・・誠に唐突で済まないが、
我と一戦所望仕る!!」

「断る。」



しかし、揚羽の申し出をイタチは一蹴する。


「貴様ああぁぁ!!揚羽様の申し出を断るとはどういうつもりだあぁぁ!!」

「お前は黙っていろ小十郎!!・・・して、それは何故?」

「・・・強いて言うなら・・・」



イタチは揚羽と小十郎を見据えて、冷徹に言った。


「興味が無い。」


その言葉に、揚羽は唖然とする。


「・・・・な!!」

「貴様あああぁぁ!! 揚羽様を侮辱するとはああぁぁぁ!! 許せん!!」


イタチの答えを聞いて、小十郎が顔を憤怒の色に染め上げて、
イタチに襲い掛かる。

揚羽が制止の声を上げるが


「よせ小十郎!!」

「うおおおおおぉぉぉぉ!パンチィングドライバアアアアアァァァァァァァ!!!!」


それでも止まらず、イタチに一撃を放つ。

全身全霊を込めた、小十郎の必殺の一撃

しかし、イタチはそれに動じず


・・・ガシ!

「・・・あぐぁ!! まだまだああぁぁぁ!!!」


小十郎の手首を掴んで、それを止める。

しかし、小十郎は止まらない。
空いた左手で振りかぶる。


「ジャオウ・エンサツ・レンゴクショオオオォォォォ!!!」


左の高速乱打、イタチの顔面を目掛けて一撃、二撃、三撃と放たれるが


それは豪快な風きり音を鳴らし、空を切る。

超接近戦での一撃でも、イタチにその拳は触れる事はなかった。
迫る四撃目を、イタチは再び手首を掴んで止める。


「・・・な!!」

「・・・落ち着いたか?」


十字に交差する手首を僅かに締め上げて、解放する。


「この愚か者!相手の力量も分からぬのか貴様は!!」

「ぐはあぁ!申し訳ありません!揚羽さまああああぁぁぁ!」


そして、解放された小十郎を揚羽の一撃が襲う。

小十郎は叫び、再び倒れる。どうやら気絶をしている様だ。


「・・・すまぬイタチ殿、下僕が迷惑を掛けた。」

「・・・気にするな・・・それに、」

「・・・?」





・・・兄さん、今日は新しい手裏剣術を教えてくれる約束だろー!!・・・





・・・ずるいよー!かくれんぼで分身の術を使うなんてー!!・・・





・・・今日は俺の稽古をしてくれる約束だろー!!・・・





「・・・そういう真っ直ぐな性格をしているヤツは、嫌いじゃない。」


「・・・そうであるか。」


揚羽と小十郎を見て、かつての弟とのやり取りを思い出しながら

イタチは、少し懐かしい気分に浸っていた。



「そいつが目を覚ましたら伝えておけ、俺をどうにかしたいのなら・・・腕を上げてから
出直して来いとな。」


「うむ、了解した。しかし一つ聞いて貰いたい事がある・・・我も腕を上げたなら、
その時はそなたと手合わせを願いたい。」


「・・・考えておこう。」


「そうか、恩にきるぞイタチ殿。それでは夢、南斗星、引き止めて悪かったな・・・
我々はこれにて失礼する。」


そう言って、揚羽は小十郎を叩き起こす。

そんなやり取りを苦笑しながら、イタチ達はその場を後にした。





・・・イタチくん・・・か・・・


南斗星は、共に歩いている男について考えていた

先日の久遠寺家庭園においての・・・イタチとの戦闘

満身創痍のイタチを相手に、自分は大佐と二人掛かりで・・・ようやく対等の勝負が出来た

あの時抱いた感情を・・・自分は、今も良く覚えている

あの戦闘の後、森羅様が倒れたイタチをこの屋敷に置くと言った時
自分も、レン君達程ではないけれど・・・反対だった


だって、彼は明らかに自分や大佐よりも強い


もしも、彼が危険な人だったら・・・彼の拳が、久遠寺家の皆に向けられたら・・・


自分では・・・とても守れない、守り切れない


そうしたら、自分はまた・・・味わう

あの日・・・右目と一緒に、自分の全てを失った時の様に


あの苦しみを

あの悲しみを

あの絶望を


自分は、また味わう事になる



(・・・だけど・・・)



南斗星は先程の小十郎と揚羽のやり取りを思い出す。



・・・そういう真っ直ぐな性格をしているヤツは嫌いじゃない・・・



あの時見たイタチの表情は・・・・なんというか、温かくて柔らかいものを感じた。

それは、自分がよく知る表情

大佐や夢・・・久遠寺家の皆が家族や自分達に見せるソレと、同じ物を感じた

だから、一瞬信じられなかった
あんな暖かい表情をできる人間と、この前の自分達を襲った人が同一人物なんて・・・


だから、分からなくなった



・・・イタチくんは、ああ言ったけど・・・


・・・ベニや、レンくんはまだ疑っているみたいだけど・・・



南斗星は考える。



・・・本当に、悪い人なのかな・・・



しかし、その問いに答える者は誰も居なかった。











「起きろ!この愚図めが!!」

「ぐはあぁぁぁ!!申し訳ありません、揚羽さまああああぁぁぁ!!」


揚羽の拳が小十郎の顎を突き刺す。
更に、揚羽の折檻は続く。


「それでも貴様は我が九鬼家の使用人か!主に恥をかかせおって!!」

「ぐっはあぁ!! 面目ありません!この小十郎、つい熱くなってしまい・・」

「貴様はいつでも暑苦しいだろうがあああぁぁぁ!!!!」


そう言って、揚羽は小十郎の両足を掴み、振り回す。

俗に言う、ジャイアント・スウィングだ。



「風になって己の愚かさを反省するがいい!!」

「了解しましたあああぁぁ!!揚羽さまああああぁぁぁ!!」



そして、両腕を離し、小十郎は弾丸の様に飛び出す

砲弾の様に投げ飛ばされた小十郎は、轟音を伴って飛んでいった

その余韻に浸りながら、揚羽は先程の男について考える。



(・・・そう言えば、あれは気のせいだったのであろうか?・・・)



それは、些細な違和感。

自分の時と、小十郎の時に感じたイタチの姿




(・・・イタチ殿の眼が、一瞬赤く輝いた様に見えたのは・・・・)





続く





後書き 7月11日・大部分加筆修正







[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)・第五話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/07/13 23:12

久遠寺家・その屋敷の一室にて

大佐は一心不乱にサンドバックを殴りつけていた


「っふ!! っふ!!っは!」


大佐がサンドバックに拳を叩きつけると、サンドバックは大きく揺れ、更にそこに大佐はパンチを突き入れる

グローブ越しに衝撃が拳に響き、腕から肩へ伝わる

大佐の脳裏には、昼間の出来事が色濃く残っていた


そう、それは美鳩からあの侵入者が目を覚ましたと報告を受け・・・改めて、あの男・うちはイタチと対面した時・・・



「・・・!!!」



脳裏浮かぶ感情を否定する様に、大佐は更に勢いを増してサンドバックにパンチを叩きつける


大佐が否定しようとした感情、それは・・・「恐怖」

そう、その感情が・・・大佐がイタチに対して抱いた感情であった


虎は傷ついてからが本物である、という言葉がある
体に傷を負った獣は、我を忘れてその本能と怒りに身を任せてより恐ろしくなる・・・という意味である

最初のイタチとの戦闘・・・大佐は、その時のイタチがソレだと思っていた

流星が燃え尽きる瞬間、最も光り輝くように・・・あの恐ろしいまでに殺気と狂気を振り撒いて自分達に襲い掛かったイタチが、
もっとも恐ろしい状態だと思っていた

あの時、自分と南斗星は遅れを取ったが・・・奴の手の内は身を以って知る事が出来た

多少体力が回復しても・・・今の自分なら、十分対処できる範囲だと思っていた




だが、その考えは一蹴された




目を覚ましたイタチとの対面によって

大佐は・・・悟ってしまった



・・・甘かった・・・

・・・自分の読みが・・・考えが・・・全てが、甘かった・・・



・・・勝てない・・・

・・・鼠が空を飛べないように・・・

・・・蟻が竜になれないように・・・

・・・今の自分では・・・この男に、絶対に勝てない・・・



・・・次元が、違う・・・



陳腐な表現だが・・・これが一番適切な表現だ


手負いでは無かったのだ
あの時のイタチは・・・文字どうり、死に体だったのだ

だが、そのイタチにすら・・・自分は敗れた


だから、大佐は恐怖した
この圧倒的な存在ですら、氷山の一角でしかない事が

恐怖を覚えるその力を・・・更に超える力をイタチが持っている事が


「・・・ふ、この年で・・・挑戦者か・・・」


今の実力では・・・例え自分が20人いても、1分持たずにイタチに敗れるだろう


「・・・はあ!!」


豪腕が唸り、サンドバックが大きく揺れる

大佐は己の体を、基礎から徹底的に鍛え直す事を心に決めた






夜の久遠寺家の庭園。

季節の花が咲き誇る花壇の一角で、イタチは佇む


「・・・・」


無言のままに、十の指を常人では不可視の速度で操作する。
幾十通りの組み合わせで指を組み変え、重ね合わせ、ある種の形を作り上げる。


「・・・やはり、な・・・」


両手で印を結び、納得したかの様にイタチは呟く。


そのまま、両足に力を込めて庭園を駆ける

無音の疾走
忍としての必須スキルを生かした無音高速移動術


そして、イタチが向かうのは一本の木

この久遠寺家の庭園に生えている木々の中でも、一際巨大な物だ。

しかし、イタチは止まらない。
このまま走り抜ければ、自分は間違い無く木と衝突する。


この速度でぶつかれば、かなりのダメージを追うだろう。


「・・・・ふっ!」


しかし、イタチは駆け抜ける。


それは、現実では有り得ぬ光景

全力疾走で、イタチは木の幹に足を付けて駆ける。

イタチは大地と水平の疾走から、垂直の疾走に変化したのだ。


幹の最上部まで駆け抜けて、そのまま飛び、着地する。



(・・・木登りの業、か・・・まさか今更こんな初歩的な物をやる事になるとはな・・・)



イタチの自分の仮説が、確信に変わるのを実感する。

今イタチが行った事は、簡易的なチャクラコントロール法
全身にチャクラを巡らせて、身体強化を目的としたものだ。


そして、チャクラの特性である「吸着力」

足のチャクラをコントロールして、吸着力を一定のままに維持してあらゆる物を吸着する能力。



大佐と南斗星と戦い、気絶した後
イタチは一時的にチャクラを練れなくなった

僅かにでも練り上げれば、激しい頭痛と吐き気が引き起こされ、練ったチャクラが霧散する結果となった

初めは、今までこの体に強いてきた無茶・無謀な試みによる副作用かと思った
また、肉体の死という、根本的な問題かとも思った



だが、イタチはその考えを改める事になった


切っ掛けは、昼間の二人

九鬼揚羽と、小十郎と呼ばれた男との接触だ。


あの時、イタチは確かに「視えて」いた。


あの二人の動きの次のイメージが、
静から動に転じる際に発生する、全身の筋力の躍動


写輪眼を使用した際に見える、確定未来の映像。




あの瞬間

目の焦点を合わせるかの様に、イタチは自然と写輪眼を使用できたのだ。


そして、これは一つの可能性でもあった。


(・・・俺は、チャクラを練れなくなった訳ではない・・・)


特異な血脈と遺伝子、チャクラによって発生する異端の能力・「血継限界」

そして写輪眼とは、「うちは」の血脈による血継限界だ
この能力の使用にも最低限のチャクラは必要とする


イタチは、執事服に着替える際に自分の顔を見た

そこに映った両の目は紅の写輪眼ではなく、漆黒の眼。

そして、チャクラを練る際に起こる頭痛

この事から、イタチはある仮説を立てた。


自分が行えなくなったのはチャクラのコントロールではなく、チャクラの生成ではないのかと・・・



チャクラとは、身体エネルギーと精神エネルギーを体内で融合させる事によって得られる

言わば、忍術を使用する際に消費するガソリンの様なものだ。


そして、チャクラの生成とコントロールを上手く操作する事が出来なくては、術は使用できないし、場合によっては術者に深刻な反動が生じる。


今のイタチの肉体は、限り無く消耗しきった状態だ

つまりチャクラを生成する材料である、「身体エネルギー」が絶対的に不足している状態だ

それに対し、「精神エネルギー」の方は長時間の睡眠のおかげか、通常の状態に近い


イタチが得た結果

チャクラが練れなくなった理由
それは、二つのエネルギーのバランス崩壊によるチャクラ生成の不可


そして、チャクラを練ったときに起こる頭痛は行き場を無くした精神エネルギーが脳へ逆流し、その衝撃の為であると・・・


そして、それに対する対策は
イタチが結果を得ると同時に、イタチは答えを手に入れていた。


ならば、身体エネルギーに合わせて精神エネルギーを抽出し、配合すればいい。


そうすれば、少量ではあるが・・・チャクラを練る事ができる。


結果は、ご覧の通りだ。



(・・・・写輪眼の常時展開は無理でも、瞬間的なら問題ない・・・あとは、術だな・・・)

練れたチャクラの量から、自分の限界を図る。

(・・・体術なら、蓮華クラスでもない限り問題ない。・・・問題は幻術・忍術だな・・・
 チャクラを多大に消費する物は控えた方が良いな・・・特に、影分身や火遁系は・・・)

そこまで考えて、イタチは自分の考えを思い直す。


(・・・いや、いっその事・・・術その物の使用を控えた方が良いな。どうやらここでは忍術という存在は認識されていないらしいからな
・・・あまり目立つ事は好まんし、自分の手の内を晒す事になる・・・・どちらにしろ、自分にとってはマイナスにしかならない。)


なら、今の自分がすべき事は変わらない。

肉体の回復に専念し、全快する事。


(・・・欲を言えば、回復の程度を図る為の手合わせできる相手が居れば良いが・・・)


現在、自分の身の回りにいる人間を思い浮かべて考える。


(・・・駄目、だな。ここで出会った人間は絶対的に実戦不足の連中ばかりだ。仮にそうでなかったとしても、体術限定の話になる・・・)


体術だけならば、通常の筋トレ程度で回復の度合いは図れる

問題は、術だ。


(・・・しばらくは、チャクラのコントロールのみで判断するしかないな・・・)








チリン、チリーン


久遠寺家の一室から、鐘の音が鳴り響く。

そして、その音に二人の人間が反応する。


音の発信源は、森羅の鐘である。
つまりは、これは錬と朱子に対する召集だ。


「「お呼びでしょうか森羅様?」」

「・・・お、早いな二人とも。」


足早に自分の部屋に入ってきた二人を見て、森羅は満足気に頷く。


「少し仕事で疲れてな。レン、肩揉みを頼む。ベニは茶と菓子を持ってきてくれ。」


森羅の要求を聞いて、ベニスは僅かに不満な表情をするが


「森羅様、下男なんかに頼まなくても、マッサージも私が・・・」

「私は美味い茶が飲みたいんだ。この家では、お前が入れた茶が一番美味いからな。」

「・・・森羅様。はい、ただいま!」


一瞬にして顔を輝かせて、ベニスはお茶を入れに行く。


「それじゃあ、レン、肩を揉んでくれ。」

「はい、了解しました。」


そして、錬は森羅の両肩に手を置いて指に力を込める。

そのまま、グイグイと肩の凝りを解す。


「う~む、やはり肩揉みだけなら・・・お前はベニより美味いな。」

「身に余る光栄です。」


納得したかのように森羅が錬に賛辞を送り、錬もまた笑顔で返す。
そのまま肩揉みを数分続けていると、ベニスが紅茶と茶菓子を持ってやってきた。


森羅はそのまま菓子をつまみ、思い付いた様に尋ねる。


「・・・そういえば、イタチの様子はどうだ?」

「あいつの事ですか?」


ベニスとレンは各々の作業をしながら考える。
手を止めずに思考出来るのも、この屋敷で働いた事に身に付けたスキルだ。


「・・・そうですね、まだ一日目で細かい事は分かりませんが・・・行動と仕事は早いですね。」

「・・・ほう。」


朱子が思い付いた様に言うと、森羅は興味深く口元を緩ませる。


「掃除とかは・・・流石にハルほど丁寧じゃないですけど、手を抜いてるって訳じゃないんですよ。
多分元々の仕事スピードが早いんだと思います。仕事能率だけ見れば、ハルや南斗星よりもずっと上だと思います。」

「・・・ふむ、素質は格好だけではなかった訳だ。レンは何か気付いた事はないか?」

「・・・俺が気付いた所は特に・・・あの、森羅さま・・・無礼を承知で、お尋ねしたい事があるんですけど・・・」

「・・・何だ、言ってみろ?」

「・・・どうして、アイツを雇うつもりになったんですか・・・」

「・・・ふむ」


その言葉を聞いて、森羅は顎に手を置く


「・・・俺も訳アリで、この家に雇って貰う時に・・・大佐やベニ公と一悶着やらかしちゃったから・・・強くは言えないですけど・・・何ていうか、その・・・」

「下男の意見に乗っかる訳では無いですけど・・・はっきり言って、今回は森羅様の考えには賛同しかねます。
・・・せめて、納得できる理由があればいいのですけれど・・・」


そして、森羅に朱子と錬の視線が集まり・・・森羅は答えた


「・・・そうだな、一言で言えば・・・興味が湧いたからだ」

「興味、ですか?」

「そ、興味だ。」


朱子が不思議そうに首を傾げる
そこで、森羅は紅茶を口に含み


「・・・私はな、仕事上・立場上、様々な人間と接する機会が多い・・・
我が七浜フィルハーモニー楽団の団員、公演先の来賓、取材のマスコミ・・・
社交界で顔を合わせる父・万象の友人・縁者・・・その他諸々・・・そいつ等と顔を合わせている内に、
自然と人を見る目というのは磨かれていくものだ」

「・・・人を、見る目・・・ですか?」


確認するかの様に朱子が言い、森羅は言葉を続ける


「そうだ、錬、ベニ・・・人の本質を人目で掴む上で、最も注目すべき事は何だか分かるか?」


森羅の問いに、二人は答えを考えて見るが


「・・・う~ん、最も注目すべき場所?」

「やっぱり、服の着こなしとか、何気ない仕草ですか?」

「はずれ。」


結果は不正解


「・・・正解は、眼だ。」

「・・・眼?」

「人は眼を見れば、そいつがどんな人間か分かる・・・私を一途に慕う眼、尊敬する眼、敬う眼・・・羨望の目、嫉妬の眼、憤怒の眼・・・鬱屈とした眼、虚無の眼・・・」


そこまで言って、森羅は口元を愉快気に吊り上げる


「・・・そんな眼の中で、私が最も嫌う眼がある・・・それは「腐った眼」だ。」

「腐った、眼ですか?」


錬が確認する様に呟き、森羅は「うむ」と頷いて話を続ける


「そうだ。いやらしい鉛の様に濁った眼だ・・・私を陥れ様とする者、私を利用しようとする者、
父・万象の威光を利用しようとする者・・・腐った人間は、例外なく腐った眼をしている・・・
・・・イタチも、そういう眼をしていれば即刻叩き出すつもりだったんだ。」


しかし、結果としては・・・森羅はイタチを使用人として、仮採用する事を決めた


「確かに・・・ヤツは我が家に不法侵入し、大佐と南斗星と傷付けた・・・
素性だって知れた者ではない、身分証も一銭も持たず・・・オマケに格好はボロボロの疲労困憊・・・信頼できる物は何一つなし・・・」

「・・・・・・」

「・・・だが、奴の眼は腐った眼ではなかった・・・その程度の事しか判らなんだが・・・
まあ、いわゆる『女の勘』という奴だな・・・それに、大佐と南斗星の一件も奴の本意では無かった様だしな・・・」

「・・・でも、それだけで雇うなんて・・・やっぱり危険ですよ。」


朱子が眉を顰めながら恐る恐る進言するが・・・


「言っただろう、単純に奴に興味が湧いたんだ・・・少なくとも、大佐や南斗星を一蹴する強者を放っておくのは勿体ないだろう?」


そう言って、森羅は再び楽しげに口の端を吊り上げた


「あと、理由を挙げるとするなら・・・キャラだな。」

「・・・キャラ?」

「カリスマ家長、金髪ロリータ、従順ツンデレメイド、ブラコンメイド、眼帯格闘娘、達人執事長、ショタ顔執事に新米シスコン執事・・・」


急な森羅の演説に朱子と錬は唖然とするが・・・
更に森羅の様々な単語を上げる


「熱血主従、ボーイッシュ、ハードM・・・更にはマスコットロボ・・・」

「???」

「・・・森羅様?」

「これだけ様々な人間が居るにも関わらず・・・一人もキャラがかぶっていないんだ! 
更に新しいキャラ属性が追加されるんだ!これって結構凄くないか!!」


穢れを知らない少年の様に瞳をキラキラ光らせる森羅に、錬と朱子はどう反応していいか分からなかった







休日明けの月曜・早朝
週の始めであり、色々な意味で貴重なモーニングタイム


その大切な時間帯

久遠寺家からは凄まじい轟声が響いていた





「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

「せいやああああああぁぁぁぁぁ!!!!」





その発信源は二人の男女

その男女は叫び声と共に、拳打を繰り出し、蹴撃を放つ

風を切り裂き、その一撃一撃は獲物に襲い掛かる


しかし


「・・・な!」

「・・・ぬぅ!」


獲物はそれを僅かに身を反らして攻撃を潜る

しかし、獲物を追う追撃は止まない


「まだまだああぁぁ!!!」


男女の片割れ、金髪のボサボサ頭の男が即座に距離を詰めて両拳でラッシュを繰り出す

しかし、それは先程と結果は変わらない

まるで舞い落ちる木の葉が風に揺れるように、獲物は攻撃の隙間を縫う様に動く


だが、男はニヤリと笑う

自分の役目は、ただの陽動・・・囮だ

拳の弾幕で獲物の視界を奪い、退路を制限させて、注意を引き付ける


そこを、本命が攻める


「貰った!必殺・爆裂旋風脚!!!」


獲物の死角からの必殺の一撃

その一撃は必殺のスピードとパワーを持って獲物を仕留める筈だったが


それは空を切るだけだった


「・・・な!!」

「残像だ」


完全なる空振り、女はそのまま膝を地面に擦り着けながら着地した


そして、この一連のやり取りは終わりを迎える

アラームが響き渡る


「はい、時間切れ。終わりだよ揚羽ちゃん、小十郎くん。」


パチンと携帯電話を閉じて、夢は二人に告げて

二人はガクリと膝を着いた


「ぬぅおおおおぉぉぉ!!! 何故だああああぁぁぁぁ!!! 一発も当たらん!それどころか、ガードすらされないだと!クソオオオオオォォォォ!!!」

「・・・ま、まさか、これほどの実力差があろうとは・・・いや、もはや何も言うまい・・・我等の、完敗だ・・・!!」


そんな二人の落胆を尻目に、二人の獲物であるイタチは告げる


「だから言っただろう、腕を上げてから出直して来いと・・・」


腕を組んで、涼しげな顔で言う
その顔には、汗一つかいていなかった



事の始まりは、数十分ほど遡る




========================================




久遠寺家の主従面々が食堂に揃い、森羅・未有・夢の三人は朝食を

朱子や美鳩、錬とハルとイタチはそれぞれの仕事をこなしていた

爽やかなモーニングタイム


しかし、その時間を思いっきりぶち壊すその声は響いた




「たぁのもおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」




大気を揺るがす大声

朝っぱらからこんな事をする人間は一人しかいない

大佐が溜息を吐いて外の門まで向かう
そこに居たのは、大佐の想像通りの男


「朝っぱらなんだ・・・騒々しいぞ、小十郎。」

「・・・おお、これは大佐殿。おはようございます!」

「うむ、おはよう・・・で、何なんのですかコレは?」


大佐が小十郎の隣にいる揚羽に話しかける


「うむ、早朝から申し訳ない大佐殿・・・小十郎のヤツが、先日のリベンジをしたいと言って聞かないのでな・・・」

「・・・リベンジ?」


物騒な物言いに大佐が眉を顰めるが、次の小十郎の言葉で事態を察する


「・・・朝から騒がしいかと思えば・・・お前等か。」

「おお、イタチ殿おはようである。」

「ぬう!ここであったが百年目ぇ!勝負だ!うちはイタチいいいぃぃ!!!」


その瞬間、揚羽はこめかみ青筋を浮べて


「目上には敬語を使わぬかぁ!このボケがあああぁぁぁ!!!」

「ぐっはあ!! 申し訳ございません!! 揚羽さまあああぁぁ!!!」


その一連のやり取りを見て、イタチは呆れた様に呟いた


「・・・言っただろう、手合わせをしてやっても良いが・・・腕を上げてからにしろと・・・」

「男子三日会わざれば活目して見よ、という言葉もある!」

「まだ二日も経ってないだろう・・・」


何分、こちらは病み上がりの身だ
確かに以前よりは体力を取り戻しているが、急激な運動は控えたい

どうしたら良いかと悩んでいると、不意に後ろから声をかけられた



「良いじゃないか、やってやれ。」



声の発信源に視線を移す、そこには腕を組んで佇む森羅の姿が


「おはよう、揚羽に小十郎。朝から元気が良いな。」

「森羅殿、おはよう。朝から騒がして申し訳ない。」

「おお、これは森羅殿!おはようございまする!」


揚羽と小十郎が笑顔で挨拶をするが、イタチは表情を変えぬまま森羅と向き合う


「イタチ、少し手合わせをやってやれ。大切な妹の友人の頼みごとだ、久遠寺家としてはあまり無碍には出来ん。」

「おお、流石は森羅殿。話が早くて助かる。」


揚羽がニッコリと笑みを浮べるが、イタチの表情はどこか曇ったまま


「・・・激しい運動は控えたいのですが・・・」

「なら、激しくない程度でやってやれ・・・そいつ等の性格は私も良く知っている。お前が相手をしてやらない限り、朝のコーヒー牛乳を小十郎の魂の叫びを聞きながら飲む事になる・・・それは少々嫌だからな、夢の登校準備が出来るくらいの間、相手をしてやれ。」

「はは、お見通しという訳ですか。森羅様には敵いませんな!」


意地悪な笑みを浮かべる森羅に歓喜する小十郎と揚羽

イタチは観念したかの様に呟いた


「・・・分かりました、主様の意向に沿いましょう。」

「おお!そうこなくては!!」

「ただし、条件がある」


小十郎の言葉を遮って、イタチが二人に告げる


「・・・小十郎、揚羽・・・お前等は二人掛かりで来い。どうせお前も何だかんだで俺と手合わせするつもりだったのだろ?」

「ふふ、お見通しであったか・・・だが、二人掛かりとは・」

「言葉通りの意味だ。」


不思議そうな顔をする揚羽に、イタチは更に言葉を続ける


「俺はお前等の攻撃に対して、反撃も防御もしない・・・ただ避けるだけだ。勿論、こちらからも一切攻撃をしかけない。
そして、夢さまの準備ができるまで・・・およそ数分間、その間に俺に一撃でも入れられればお前達の勝ちだ。」

「「・・・!!!」」


喜びの表情から一点、二人の顔は驚愕の色に染まる

余りにも、自分達に有利すぎる条件・・・それはつまり



・・・舐められている・・・



その事を、二人は理解すると・・・


「貴様、またしても揚羽様を・・・!!!」

「よせ、小十郎・・・ではイタチ殿、我等がもしこの勝負に勝ったら・・・次からはもっと対等な条件で手合わせしてくれる、という訳か?」

「・・・ああ、それで構わん。いつでも、お前等の申し出に付き合い、手合わせをしてやる・・・
だが、俺が勝った時は・・・俺がお前等の要望を断った時には潔く退いて貰う。」

「・・・乗った、その条件を飲もう。」

「ふ、我等に対して甘い認識をした事を後悔させてやろう!!」


そして、揚羽と小十郎の二人は構えをとる

事のやりとりを見ていた森羅は、流石にイタチに声を掛けた


「良いのか、そんな不利な条件で? 負けて仕事を疎かにする羽目になったら流石にクビだぞ?」

「・・・ああ・・・」


イタチは軽く背筋を伸ばして答えた




「問題ない。」







========================================




そして、時間は戻る

夢が登校準備を終えてここに来た時点で、時間終了だったが

登校時間までまだ余裕があると言って、時間を延長をしたのだ


そしてその間、二人の攻撃は一度たりともイタチに当たることは無かった



「ははははは!まさか×デコのヘコむ姿が見られるなんてな!早起きは三文の得とはこの事だぜ!!!」

「やー夢、おはよう。」

「あ、おはようミィ、おケイ。・・・あ、二人に紹介するね。こちらはうちはイタチさん。久遠寺家の新しい使用人候補の人だよ。」


夢の友人らしいショートカットの少女と緑色の髪の眼鏡を掛けた少女に向き合う


「おう、俺は稲村圭子。こいつはミィ、よろしく!」

「アナスタシア・ミスティーナです、よろしく・・・あの、イタチさん・・・」

「・・・何だ?」


緑髪の少女が、不意にイタチの名前を呼び・・・そして



「・・・ぶって、下さい・・・」



一瞬、イタチは完全に呆気に取られた


「・・・は?」


聞き間違いか?とも思ったが、頬を紅潮させて、息を切らしているその少女を見て





・・・ああ、なるほど・・・





・・・飛段の同類か・・・





などと考えていた


「こんのハードMがぁ!初対面の人間になんてこと言ってやがる!!!」

「ああ! もっと! そう!もっと強くぶってええぇぇ!!!」


混沌とする場
それに動じないでいる夢や揚羽を見ると、どうやらこのやり取りは日常の一部の様だ



「・・・安心しろ、その手のやり取りに免疫が無い訳ではない。自然体で結構。」

「・・・おい、アンタまじで言ってるの?」

「・・・ああ、放置プレイ・・・」


おケイは呆然としながら呟き、ミィは更に頬を紅潮させる

そしてイタチの発言について、おケイは尋ねた



「・・・あんたの知り合いにも、こいつ並みのマゾヒストがいんのか?」



イタチは僅かに考えて








「・・・スケールは多分、俺の知り合いの方が上だ・・・」



「・・・はぁ!!!・・・」









爆弾投下

予想を遥かに上回るトンデモ回答、流石に三人は言葉を失う


「・・・こ、こいつを上回るマゾが・・・い、いるのか?」

「・・・上には、上がいるってヤツだね・・・」

「・・・ちなみに、その方はどんなお方ですか?」


三人が思い思いの言葉を口にして、ミィがイタチに尋ねる

そしてイタチは再び考えて



















「自分の腹に愛用の大鎌を突き刺して、口から血を吐きながら恍惚の表情を浮べる様な男だ。」

「「嘘だ!!!」」





















思わず夢とおケイが叫んでハモる

そしてミィは・・・



「・・・世界は・・・広い・・・」



リアルに凹んでいた









「そうだ、ねえイタチさん・・・一緒に学校まで行かない?」


カオスな空気が消えた頃、夢はイタチに尋ねた



「・・・学校に、ですか?」


イタチが聞き返すと、夢は「ウン」と頷いて


「錬くんも、この屋敷に入りたての時は一緒に行ったの。一種のお約束事ってヤツ? おケイやミィともっと話して貰いたいし、どうかなイタチさん?」

「・・・・・・・」


イタチは僅かに考えて


「分かりました、ご一緒しましょう。」


と、言った。





そして、イタチ達は七浜学園への通学路を進む


学校まで着く間、イタチはおケイとミィと簡単な自己紹介を済ませたり

小十郎が懲りずにイタチに再戦を申しこんだり

それを見た揚羽が小十郎に制裁したり

そのやり取りを見ていた夢が苦笑したりと、いつもより割り増しで賑やかな通学となった



「あ、到着だね。」



夢がそう言い、イタチは学び舎に視線を移す


そして、思わず目が釘付けになった




・・・それは、屈託のない笑顔・・・


自分と二つ三つしか年が変わらない男女が浮べる・・・沢山の笑顔だった



・・・そう、か・・・



思えば、イタチはこの世界にどこか違和感を感じた


そして、この瞬間・・・その違和感の正体を突き止めた



・・・そうか、そういう事だったのか・・・




イタチの居た世界では、程度の違いはあれど・・・殆どの国で忍者の育成が行われている

イタチの故郷である木の葉隠れの里も、比較的平穏な国であるとはいえ・・・幼い頃から、忍者の教育を受けてきた

そしてイタチはその天賦の才が災いして、年が二桁になる頃には・・・既にその手を血に染めていた

今の木の葉も、多少自分が居る時と比べて教育が緩和された物になったとは言え・・・常に任務には命懸けの心得をもって当たる様に、指導されている


・・・そう、感情を殺し・・・感情に流されること無く・・・任務を行う様にと・・・


だから、里に属す殆どの者は・・・こんな笑顔をする事ができない


「知る」笑顔と「知らない」笑顔は・・・絶対的に違う


だから、イタチはこんな笑顔をする人間を久しく見た覚えは無い


自分と同年代の人間に限定すれば・・・そんな経験は皆無だった




だから、分かった・・・悟った





・・・ああ、そうか・・・






・・・この国は・・・







・・・平和、なのだな・・・









・・・俺がいた、あの世界よりも・・・ずっと・・・









そして、夢達を見送って帰路につく


そしてイタチは歩きながら、考えていた



「・・・こんな世界も、あったんだな・・・」



それは、嘗ての世界では見る事ができなかった世界


自分が、望んだ世界だった



そして、イタチは美鳩の言葉を思い出す





・・・なら、尚更ここで働くべきですよー・・・


・・・ご自身で言う、この家での事を含めてたくさん悪い事をしてしまったのなら・・


・・・尚更罪を償うべきだと、まずはこの久遠寺家で働いて・・・罪を償えば良いと、私は思います・・・



・・・・・・



・・・・・・




・・・そうだな・・・




・・・もう少し、真面目に考えてみるか・・・




・・・これからの・・・久遠寺家での、生活について・・・





曇天の空から、一雫の光が零れる


今まで、後ろ向きだったイタチの考えが


ほんの少し、前向きになった瞬間でもあった










・・・だが、事は思う様に・・・順調には進まない・・・



・・・この数日後、久遠寺家において・・・二人の人間が衝突する事になる・・・





・・・衝突したのは、イタチと・・・






・・・朱子だった・・・













続く










おまけ





「なあ、ベニ公・・・さっきの森羅様の言ってた事キャラ属性の事だけど・・・」

「あん、何よ下男?」

「カリスマ家長ってのは、森羅様だよな?」

「当然じゃない。」

「んで、金髪ロリータは未有さま。」

「まあ、そうね。」

「ブラコンメイドは鳩ねえ、眼帯格闘娘は南斗星さん、んで従順ツンデレメイドはお前?」

「そうなるわね。」

「達人執事長は大佐、ショタ顔執事はハル、そんでもって新米シスコン執事が俺。」

「・・・って事になるわね。」

「んで熱血主従が揚羽さんに小十郎、ボーイッシュはおケイ、ハードMはミィ、マスコットロボはデニーロ。」

「・・・そういう事になるわね。」



「・・・誰か、忘れてねえ?」


「・・・あ?」








「・・・へっくしゅん!」

「アレ、夢どうしたの?風邪?」

「違うよ南斗星さん、う~むこの感じのクシャミは・・・誰かが夢の事を噂して」






終わり







後書き まず一言、皆さん一年以上更新しないでいて・・・本当に申し訳ありませんでした!!!
   下手な言い訳はしません! 本当に、マジで申し訳ありませんでした!!!
   とりあえず、今後の展開のプロットは出来ているので・・・不慮の事故等がない限り、定期的に更新できると思います!!

   マジで今後は気をつけますので、これからも宜しくお願いします!!!






[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)・第六話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/07/13 23:12




イタチが久遠寺家の使用人となって五日目
最初は掃除などの勝手がイマイチ掴めず、少々苦労する場面等もあったが


今では大方の手順や勝手を理解し、元々高かった仕事能率は格段に上がり
その仕事振りは、森羅が長年自分に仕えてくれている朱子にも、決して引けをとらないと太鼓判を押すほどだった


そしてイタチの人間関係に関しても、改善の方向へ向かっていた


元々、森羅、未有、夢の三人はイタチが起こした事については、イタチがキチンと謝罪してくれた時点でその問題の決着は着いたつもりでいたし


美鳩もイタチの誠意を感じ取って、それ以上の問題追及はせず、同僚としてイタチのフォローに回ったり


南斗星も安易な決め付けは良くないと、己で反省して警備の事についてイタチに教授したり



また、イタチと一番打ち解けているのは意外にもハルだった



切っ掛けは、イタチが久遠寺家の使用人となって三日目の事
夢の見送りから屋敷に戻ったイタチは、久遠寺家内の客間の清掃を任された


イタチとて、何もこの手の仕事が始めてという訳ではない


木の葉の忍時代、潜入を目的とする任務においてターゲットの屋敷に使用人として潜り込む事が、何度かあった


そして、より任務の成功率を上げるには優秀な使用人を演じる必要があった


潜入を目的とする任務は、大抵が情報収集を行う為だ


だから相手に自分が忍である事を悟らせない為には、完璧な使用人を演じる必要があった



だから、自然と清掃のやり方を覚えた



そして、いざ掃除を始めていると・・・


「ダメですよー!そんなに乱暴に磨いちゃあぁ!!」


イタチのその声の発信源に目を向ける、そこには自分と同じ使用人の少年・ハルがいた


「いいですか? まずこの絨毯は冷水を用意して、こっちの専用洗剤を冷水に混ぜた後・・・
こっちの軟性素材の雑巾に染み込ませて、色落ちしない様に軽く丁寧に・・・」


そう言って、ハルはイタチの前でテキパキと掃除を進め


「・・・それで、仕上げに乾拭きでさっと拭いて・・・」

「ふむ、ふむ、なるほど・・・」

「ね、全然違うでしょ。拭き方一つで、凄く綺麗にできるんですよ。」

「確かに、これは凄いな・・・なるほど、参考になる。」


イタチは、素直に感心していた

確かに、自分の行った清掃の存在を疑ってしまう程に、その在り方は違う

この少年が自分がいた世界の大名に仕える使用人でも、決してその名に恥じないだろう

それほど、ハルの仕事は素晴らしいものだった


「分かりましたね?それでは次にこっちソファーですが・・・」


と、そこでハルは言葉を区切って、急に顔を引き攣らせる

そして、汗をダラダラ流しながらイタチと向き合った


「・・・どうした?」

「ぐ、が、ぐぉ、ごごご、ごめんなさい!僕なんかが偉そうな口をきいて!!」

「???」


先程の自信満々の態度から一転、急に卑屈なこの態度

感情が先走っての行動だったのか

どうやら、今までの自分を行動の事を指している様だ


「・・・何をそんなに卑屈になる? お前の仕事は贔屓目なしで素晴らしいものだったぞ、それに教え方も分かりやすい。
堂々と、胸を張れば良い。」

「・・・え?」

「なるほど、掃除など汚れが落ちればそれで良いと考えていたが・・・絨毯の色落ちか、
汚れを落とした後の事など考えていなかったな・・・」


ハルは呆然とする

怒りが向けられると思ったのに、それどころか自分が感謝されているからだ


「大いに参考になった、感謝する・・・お陰で恥を晒さずに済んだ。」

「あ、はい・・・どうも。」

「ああ、そうだ・・・こっちのドアの取っ手なんだが、見た処これは銀製か?
 普通に拭いていいのか?」

「え、あ・・・それは、こちらのシルバーダスターを使って・・・」


ハルが一つ一つの手順を説明する度に、イタチは感心していた

ハルが掃除の技術を教えている事に対してではない

確か、この少年・ハルはこの屋敷の清掃主体の仕事を任されていている使用人だった筈だ

この屋敷の清潔感は、イタチの目から見て完璧なものだ

手を抜いて、手順や手間を無視した清掃では、ここまで屋敷を綺麗にする事はできないだろう

ましてや、この屋敷の広さは相当なものだ

ただ掃除するだけでも、その労力は決して軽くはない筈だ


つまりは、そういう事だ


この少年は、テキパキと自分に掃除の手順を教え、淀みなく行動に移している

少なくともこの少年は、その手順を忠実に守って、手間暇を掛けて、毎日仕事に励んでいるという何よりの証拠

それは決して容易な事ではない



だからこの少年の働きは、尊敬に値するものだ


「なるほど、粗方の手順は分かった。済まないな、態々面倒な事を頼んでしまって。」

「いえいえ、僕が好きでやった事ですから気にしないで下さい。」

「・・・そうか、分かった。おかげで、一人でも何とかなりそうだ。」


そう言って、イタチは続きを行う為に掃除道具を持つと


「あの、イタチさん!!」

「何だ?」


再び声を掛けられて、イタチが視線をハルに移すと


「ゴメンなさい!!」


突然、謝りだした


「・・・急にどうした?」

「僕、イタチさんの事を良く知りもしないのに・・・一人で勝手に恐がって、変な態度で接して・・・
森羅様達にも先日の事は決着は着いたって言われてたのに、イタチさんもちゃんと謝ってくれたのに・・・
僕はいつまでも気にしてて・・・」

「・・・まあ、仕方あるまい。それだけの事をした自覚はあるからな。」

「でも! 今までのイタチさんを見て、そんな僕は間違っていると悟りました! 
あんなに真面目に掃除と向き合ってくれる人が、悪い人の筈がありません!! だから、謝りたいんです!! 
言わばこれは僕のケジメです!! 本当に、本当にすみませんでした!!!」


そう言って、再びハルはイタチに深々と頭を下げて、謝罪した


「・・・別に、気にはしていない。それよりも、頭を上げて貰いたい・・・こんな所を他の人間に見られたら誤解されそうだ。」

「あ、ご、ごごご!ごめんなさぁい!」


ハルは慌てて顔を上げて再び謝り、イタチは相も変わらずの表情であったが

両者の空気は、どこか柔らかいものとなっていた

こうして、イタチとハルはすんなりと打ち解けたのであった






第六話「シェフは忍者?」





大佐は自室にて、パソコンと向かい合っていた

マウスを動かして、クリックする
メールの受信フォルダだ

大佐のパソコンに送られてくるメール種類は、大別すると二つある

一つは、久遠寺家に関する物
家長の森羅は幾ら威厳ある当主とはいえ、まだ若い

それに指揮者としての仕事に誇りを持っているため、大佐は森羅の負担を少しでも減らす為に大抵の久遠寺に関する仕事は、一旦大佐の下に届く様にしている


もう一つは、大佐のプライベートに関する物だ

フォルダを開いて、まず久遠寺に関するメールのチェックを行う
全てのメールに目を通し、森羅に相談する物や、自身で処理する物を分別する

そして久遠寺のメールを全てチェックをし終えた後、今度はプライベートのメールのチェックを行う


「・・・む?」


大佐の手が止まる
ディスプレイに映るのは、ある自分宛の一通のメール

嘗ての傭兵時代・よく世話になった情報屋からのメールだった

そこに書かれた内容は、極めて単純


『収穫なし。』

「・・・むぅ・・・」


大佐は唸る様に呟く

大佐は森羅がイタチを家に置くと言った時、自分の勝率を僅かにでも上げる為イタチの事を調べた

確かに、ここ数日間のイタチの仕事振りは目を見張るものがあるし

使用人の間でも、美鳩、南斗星、ハル、この三人とは徐々に打ち解け始めている

森羅の、人の本質を見抜く目は確かなものだ

しかし、だからと言って楽観視は出来ない


あの男からは、血の匂いを感じる
それは森羅ですら気付いていない、大佐のみが気付いている事実


大佐は、イタチについて考えた

イタチの戦闘力・戦闘方法から大佐は、イタチはただの一般人ではなくどこかの組織に属する武闘派構成員、
又は自分と同じ様に傭兵の様な仕事を生業にしていた人間だと考えていた


イタチの戦闘技法は、錬の喧嘩スタイルとも、南斗星のムエタイとも、九鬼揚羽の古武術とも異なる


相手の急所を性格に狙い、相手に「勝つ」のではなく相手を「倒す」事を目的とした武術


嘗ての傭兵仲間が使うものが、一番近い様に思えた


しかし、大佐の持つコネ、人脈を利用しイタチの素性を調べた

だが、目ぼしい結果は得られなかった


だから大佐は嘗て世話になった情報屋と連絡をとり、イタチの顔写真と名前や分かり得る情報を送り、イタチに関して調べてもらったのである

だが、どうやら収穫はないらしい


「・・・ぬぅ、ヤツでも調べがつかんとは・・・」


大佐は思わず眉を顰める

あの情報屋は裏社会にもそれなりに顔が効き、自分が知りうる限りでは一番の情報収集力を持っていた筈だ


その事から考えられるのは、大きく三つ


イタチは、今まで特定の組織に属した事のない

とある理由で、その存在を示すデータは根絶されている

並大抵の事では調べる事すら出来ない、深い闇に関係している



一つ目ならともかく、後二つはマズイ

イタチ自身が危険でなくとも、イタチに関わったという理由だけでこの屋敷に危険が降りかかる可能性があるからだ

まあ唯一の救いは、イタチが警察から指名手配を受けている犯罪者・テロリストの類ではない事だが・・・


大佐は、自室に設置してある電話を取る
番号を押して、受話器からコール音が響く


「もしもし、田尻という者だが・・・ああそうだ、橘のヤツに代わってくれ。」


用件を伝えると、受話器からメロディーが流れ、不意に切れる


『今電話を変わった、耕か?』

「うむ、先日頼んだ件について電話をしたのだが・・・何か分かったか幾蔵?」

『ああ、例のイタチとか言う襲撃者についてか。一応出来うる限り軍の関係者を調べておいたが該当データはなかったな。
我の権限を持っても調べがつかないところを見ると、少なくとも海軍関係者ではないな。
同期で顔が利く連中にも調べを頼んだが、余り期待はできんな。』

「・・・そうか、面倒を押し付けて済まないな。」

『気にするな、貴様には傭兵時代に色々と私用で働いて貰ったからな。・・・それに、貴様を討ち取ったその男にも、
我自身興味がある。今度暇を見つけたら、そちらに顔を出そう。』

「・・・別に構わんが、戦艦で突っ込んでくるなよ?」

『ふははは! そいつは約束できんな! それじゃあ、新しい情報が分かったらこちらから連絡する。』

「ああ、頼む。」



そう言って、大佐は電話を切る

とりあえず、今後の新しい情報が入るのは難しそうだ


「・・・ふぅ、仕事に戻るか。」


大佐はパソコンをシャットダウンさせて、部屋を出た









「・・・む、どうしたんだ小僧?」

「あ、大佐」


大佐が部屋から出て一階に向かうと、電話の前で森羅と夢、そして使用人達が集まっていた


「森羅様、どうかなさったのですか?」

「大佐か、いや大した事ではないのだが・・・今日の夕食を作る人間がいなくなってしまったのだ。」

「・・・何ですと?」


大佐が僅かに驚く

そういえば、朱子は今日は暇を貰って県外の気になるレストランに料理研究してくると言っていた

そして未有様と美鳩は少し遠出して買い物をしてくると言って、午後から出て行った

だが、両者共に夕食には戻ってくると言っていた筈だ


「何か、電車で人身事故があって止まっちゃったらしいんですよ。」

「なに、人身事故だと?」


疑問を浮べていた大佐にハルが告げる


「さっきミューさんから電話があって、帰りの電車に乗ろうとした矢先に電車が止まっちまったらしい・・・
復旧の目途は立ってないから、多分夕食には間に合わないって。」

「ベニからも電話があって、同じような事を言っていた。
ミューの奴に早めに帰ってくるようにと電話をしようとした所、皆とここで鉢合わせた訳だ。」

「・・・なるほど・・・」


大佐が合点がいった様に呟く


この家で主な食事担当は朱子と美鳩の二人だ

そして、たまに二人のサポートとして手伝う未有

この三人が揃って帰ってこれなくなったのだ

確かに、残った面子は自分を含めて料理には疎い人間ばかりだ


「確かに、これは少々面倒な事態ですな。」

「・・・ま、こういう事もあるさ。何も夕食が食べられなくなった訳ではない、外食に行くなり出前を取るなり、幾らでも手はある。」


森羅はそう言って、皆の希望を聞こうとしたところ・・・



「・・・こんな所で何をしている?」



一同が声の発信源に視線を移す

そこには、ダンボール箱を抱えたイタチが立っていた


「あ、イタチくん。ちょっと今晩の夕飯について話していたんだよ。」

「夕飯? まあ良い。大佐、貴方宛に荷物だ。応対は俺がやっといた。」

「む?そうか、ご苦労。」

「それで、夕飯がどうしたんだ?」

「・・・あ、それはね~」


イタチが尋ねると、イタチの隣にいた夢が説明する

そして、大体の事態を理解すると


「・・・なるほど、それで皆が集まっていた・・・と。」

「まあ、そういう事だな。まあ、今日の夕食は外にでも食べに行こうと・・・」


大佐がこれからの予定を説明しようとすると、



「なら、俺が作ろう。」



と、イタチは言った







「「「「「「はぁ???」」」」」」



皆の声が重なる
それは、全員イタチの発言に対してのものだった



「作る人間がいないのなら、代わりに作れる人間がやるのが道理だろう。」

「・・・まあ、確かにそうだが・・・お前、料理できるのか?」

「調理技術の心得はある、それに一時期は自炊をしていた。」


大佐の問いに、イタチは淀みなく答える

あくまで自然体で話すイタチを見て、ハッタリでは無いと実感するが



「お前がそこまで言うのなら、ある程度は出来るんだろうが・・・ここの家の者は、朱子や美鳩の料理を食べているんだぞ? 
普通に出来る程度なら、話にもならんぞ?」



森羅が僅かに目を鋭くし、イタチに尋ねる

朱子は幼少時代から料理店で下働きをしていて、プロ顔負けの調理技術を持っているし

美鳩も、長い間上杉家の食事を作っていた為、朱子に近い調理技術をもっている

そんな二人の料理を食べ慣れている久遠寺家の面々には、並みの料理では少々物足りない食事になるだろう

しかしイタチは


「なら、あの二人と同じ程度の味の食事なら文句はない・・・という訳ですね?」

「ああ・・・って、おい、お前まさか!!」


森羅が驚いた表情をするが、イタチは表情を変えず




「それなら問題ない。」




と言った






数分後、イタチは執事服の上から灰色のシンプルなエプロンを着けて、台所に立っていた


先程のイタチの言葉、ある程度の料理は出来る

これは、間違いではない


木の葉のアカデミー時代、基本的なサバイバル技術で簡単な料理と調理方法を学んだ事もあるし

母親が用事で作れない時には、自分が家族の食事を作っていたし

木の葉の抜け忍になった後も、多々自炊する事もあった



だが、イタチの調理技術はそれほど高くはない

だから、イタチは調理技術の底上げをする



イタチは目を瞑って、イメージする

イメージするのは、自分がここで食べた料理の数々

その中で、自分が再現できる物を適当にピックアップする



通常、忍者は五感を余す事なく鍛える

勿論、味覚も例外ではない
むしろ、味覚を一番重要視して鍛錬する忍も多い


その理由は、毒


どんな忍でも、毒物を体内に摂取してしまってはその体に強い影響が出るし、毒物によっては死に至る

これは、イタチにも言える事だ


だから忍は、そういう物を口には含まないように嗅覚、そして味覚を鍛える

近年、忍が扱う薬品のレベルはあがり
ほんの数滴で人一人を簡単に死に至らしめる無味無臭の毒など、腐るほどある

毒の使用方法の主な方法として、料理に混ぜる方法がある

毒が混じった料理等を摂取しないために、摂取しても舌が鋭敏に反応するように味覚を鍛える



では、これが調理にどう繋がるか?答えは簡単。



覚えて、再現する



濃厚な味の料理に潜む、無味無臭の微かな毒の違和感を見つける事に比べれば

「味」の塊である料理に使われた食材の特定など、決して不可能ではない



通常、これらは可能でも時間と手間が掛かるが、今は違う



まずイタチは屋敷のゴミ掃除もしているので、料理に使われた生ゴミは毎日見ている

それらを覚えていれば、大まかな材料は特定できる

後は、それがどういう料理か覚えていれば簡単だ

肉を食べた事を覚えていれば、同じ肉を使えばいいし

野菜を食べた事を覚えていれば、同じ野菜を使えばいい

食材がなければ、補充すればいい



あとは、料理その物の味
出来るだけ正確に、どんな味だったかを思い出す

辛かったか? 甘かったか? 味は濃かったか? 薄かったか?

どんな匂いだったか? どんな食感だったか? どんな歯応えだったか? どんな舌触りだったか?


それらを、出来るだけ正確に思い出して、イメージする

ゆっくりと、目を開ける


イタチは調理を始めた










「出来たぞ」


イタチが使用人の皆に伝える

予定よりも三十分ほど出来るのが遅くなったが、まあ許容範囲だろう

南斗星とハルに手伝って貰って、料理をテーブルに運ぶ



「思ったよりも手こずってな、遅くなった。量は多めに作っておいたから、お代わりしたいなら気にするな。」

「ふむ、クリームシチューと付け合せのパンに、ポテトサラダか。」

「朱子さんが前に作ったヤツに似てるね。」



この料理は夢の言うとおり、朱子が数日前に作ったメニューであった

イタチがこれを作った理由も、至って単純


一番印象に残って、味を正確に思い出せたのがこの二品だったからだ


それにシチューの様な煮込む料理は少しの失敗なら、大きく味は崩れない

また崩れても、味の調整が他の料理よりも簡単に出来る


これも、大きなポイントだった


そして皆が食卓に揃う

全員が揃って「いただきます」と言い、皆がスプーンを手にとって食べようとするが


「・・・ふむ。」


そんな中、森羅もシチューに手を伸ばす

その顔は、不敵に笑っている

その目はイタチに「妥協はせんぞ」と言っているようだった

そんな森羅の顔を見て、思わず他の人間は手を止めてしまった


そして森羅はスプーンで一口掬い、匂いを嗅ぐ


「匂いは悪くないな・・・さて、味はどうかな?」


そしてゆっくり、口に含んでテイスティングする様にゆっくり味わう

そして、ゆっくりと飲み込む


「・・・ほう・・・」

「どうですか?」

「くくく、なるほど・・・そう来たか」


そして、愉快気に笑う

イタチは食卓の皆に視線を移して


「食べてみろ。」


それが合図になり、皆はそれぞれ口に運んだ


「・・・む、これは・・・!!」

「うわぁ!美味しい!! イタチくん、すごく美味しいよ!」

「凄いです! 朱子さんと同じくらい美味しいですー!」

「ぐ、悔しいが・・・美味ぇ。」

「イタチさんて、料理も上手いんだねー。」


それぞれが、言葉こそは違うがイタチの料理を絶賛する

それは当然だ。これは朱子が作った味で、皆が以前食べた時も至って好評だった

その味を、イタチは入念に時間を掛けて

出来る限り、食材を一つ一つ吟味して、厳選し、その上で再現したもの


再現するのに苦労をしたのは、それほど朱子の調理技術は高かったという事だ


そしてその事実に、気付いた者がいた



「・・・おい、イタチ。」

「何ですか?」


食べる手を止めて、森羅が愉快気に尋ねる


「これは、ベニの味だな?」

「ええ、その通りです。自分なりに再現してみました。」

「・・・やはりな。」


特に隠す程の事では無かったので、イタチはサラリと事実を言う

その言葉に、森羅は納得したかの様に呟いた


「お気に召しませんでしたか?」

「まさか。私が聞きたいのは、どうしてこんな手のこんだ真似をしたのかだ。」

「食べ慣れた味の方が良いと思いましたので。」

「・・・くっくっく、そうか・・・それで、どうしてここまでベニの料理を再現できた? ベニのヤツが自分のレシピを教えるとは考えにくいが?」


イタチは水を一口飲んで


「思い出して解析しただけです。」

「ぷ、ぷくくくく・・・そうか!・・・お前、本当に面白いな!」


愉快気に笑ったまま、森羅は食事を続けた










皆も食べ終わり、食器の片づけをしていると


「ただいま戻りましたー!!」

「姉さん、帰ったわよ。」

「レンちゃ~ん、ただいまです~。」


玄関から帰宅を知らせる声が響く

どうやら、朱子、未有、美鳩の三人が帰宅した様だった



「おかえりなさいませ。災難でしたね、未有様。」

「まあ、偶にはこういう日もあるわ。」


未有が少し疲れた表情で言い、朱子が不安げに大佐に尋ねた


「すいません大佐、食事の用意ができなくて・・・」

「なに事故が原因では仕方あるまい、森羅様も気にはしておらん。」

「そういえば結局、食事はどうなさったんですか? 外食ですか?」

「イタチの奴が作った。」


その言葉に、三人は驚いた様な表情を浮べた


「あ、あいつが作ったんですか!」

「・・・何気に万能ね。」

「なるほどーイタチさんが~・・・それで、どうでした?」


美鳩が大佐に尋ねると、大佐は「うむ」と頷いて


「文句なしで美味かったな。森羅様もご満悦で、終始笑顔のまま食事をされていた程ですから。」

「へぇ、あの味に五月蝿い姉さんを満足させるなんて・・・やるわね。」

「そうですねー、意外にあの人は掘り出し物かもしれませんね~」

「・・・大佐。」

「何だ?」


朱子が何かを考える様にして、大佐に尋ねた


「あいつの料理、まだ残ってますか?」

「ふむ・・・確かイタチのヤツは、三人が夕食を食べないで帰ってくる事も想定して、料理を別にしてとっておいた筈だ。」

「じゃあ、食べさせて下さい。台所ですね?」

「なら、私も頂こうかしら。食事は済ませてきたけど、単純に興味があるわ。」

「クルックー、それなら鳩もご一緒しますねー。」



そして、三人は台所に向かう

台所に入ると、そこにはイタチがいた


「おかえりなさいませ。」


未有の姿を確認したイタチが軽く頭を下げる

イタチはシチューを温め直していた


「ただいま。ところで、何をしているの?」

「玄関での会話が聞こえていたので、シチューを温めておきました。少々お待ち下さい。」


そう言って、三人は居間のテーブルに座る


程なくして、イタチが料理を運んで来た


「どうぞ。」

「ありがとう。・・・あら、美味そうじゃない。」

「ですねー。」

「んじゃ、早速貰うわよ。」


そして、三人はシチューを口にする

未有と美鳩は、驚いた様に呟いた


「・・・うん、美味しいわ。確かにこれなら姉さんも納得する筈だわ。」

「むむ、確かにこれは想像以上ですね~。鳩もウカウカしていられませんね~。」

「・・・恐縮です。」


二人の賛辞の言葉に、イタチは小さくお辞儀をする

しかし二人とは対照的に、顔を顰める者がいた


「・・・ねえ、イタチ。」

「何だ朱子?」

「この料理、どうやって作った?」

「・・・ベニ?」


朱子が物々しい雰囲気でイタチに尋ね、未有はその空気に何か不穏な物を感じる

そして朱子の問いに、イタチが答えた



「ああ、お前が作った物を再現した。」

「・・・!!!」



その言葉に、朱子の顔は驚愕に歪む

そして、確認するかの様に呟く


「・・・さい、げんしたぁ? レシピも残してないのに、どうやって再現できたのよ?」

「前にお前がこの料理を作っただろ? 味を覚えて食材を分析して、あとはこっちで調整しただけだ。」

「・・・んな!!」


イタチの言葉に、朱子が驚愕し


「ふざけた事を言ってんじゃねえ! そんな簡単にあたしの味を再現できてたまるかあぁ!!! 
あたしがこの味を出すのに、どんだけ苦労したと思ってるのよ!!!」

「・・・何をそんなに興奮している?」

「ベニ、少し落ち着きなさい。」

「!!・・・すみません、ミューさん。」

「そうですよ、お食事中は静かにするのがマナーですよ?」

「鳩は黙ってろ。」


未有と美鳩が朱子を諌めるが、朱子の様子は変わらない

そしてイタチは顎に手を置いて


「お前が何をそんなに怒っているのかは知らんが、どうやら俺がお前の料理を模倣した事が原因のようだな。」

「・・・あん?」

「誤解がない様に言っておく。俺がお前の料理を模倣したのは、別に他意はない・・・」


そして、イタチは一息吐いて









「お前の料理なら出来そうだったから、作っただけだ。」









淡々と、朱子に告げ


「・・・おい・・・」


その瞬間、朱子の顔が歪み










「今、何つった?」











続く








後書き 復帰早々、沢山の感想ありがとうございます!! なるべき定期的に更新できる様にこれからも頑張りたいと思います!!

 次回は朱子がメインになると思います、これからもよろしくお願いします!!!



[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)・第七話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/07/15 15:37
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今から、どれくらい昔の事だろう?

両親が死んで突然一人になり、生きる方法を見失っていた


そして私はある親戚を名乗る男に引き取られた

他人同然の親類だ、勿論私が歓迎される筈がなかった


男は、料理店を経営していた


そして私はそこで下働きをする事によって、寝床と食事を得ていた

そしてその頃から、私は一人で生きていく方法を考えていた

今のままで行っても、未来なんか見えなかったからだ



だから、私は料理を覚える事にした

親類の男の腕は決して悪くはなかったら、私はその男の調理風景を盗み見て、客の残した料理をこっそり味見して、
仕事が終わった後、疲れた体に鞭打って・・・自分の技術にしていった


やがて、私の調理技術を認めた親類の男も、私に厨房を任せる様になった



「この料理、嬢ちゃんが作ったのかい? 美味かったよ。」

「小さいくせにやるなぁ!」

「ごちそうさん、またお嬢ちゃんのメシ食いにくるから。」


辛さと貧しさの中を生きていて、欲しい物なんて特になかったけど

いつしか、お客の「美味しい」という言葉が、私の生きがいとなっていた



ある日、私はある光景を見た

それは、自分と同年代の少女が綺麗な服を着て歩いている所だ



「何だお前、あーいうのに憧れてるのか? 無理だな、お前なんかじゃなれねーよ。」



そんな事は無いと思った

自分とあの子達に、差なんてあるものか

いつか、絶対あそこにいく・・・私は強く決意した


そして私は、今まで以上に料理に没頭する事になった

自分が唯一認められる道だと思って、今まで以上に、本当に死ぬ気で努力した


お客さんにふられた話についていけない時があった

私は教養も必要だと思って、睡眠時間を削って本を読んだ


時が流れ、私はそこそこまともな人間になっていた

職もあり、教養もあり、金もある

周りの同年代の私と同じ境遇な女の中には、体を売って生計を立てている者も決して少なくなかった

だから、私の選択は間違っていなかった


そう思っていた矢先、親類の男の店は潰れてしまった

何かがあった訳ではない、どこにでもある経営難だ

親類の男は、私を置いて海外に逃げた


働こうと思って地元の料理店を訪ねても、私を見た目で判断して、すぐに門前払いされた


また、雇ってくれる所もあったけど・・・大抵私の体が目当てで、すぐに私は店から抜け出した

手持ちの金なんて、すぐに無くなった

やがてお腹が空き・・・本当に耐えられなくなって、限界が来て・・・


私は、金を盗もうと思った


ただ盗むのでは難しいから、ターゲットは観光客

それも、スケベそうな身形のいいオヤジがいい


私はある東洋人に声を掛けた



「ねえオジさん、私を買わない? 200でいいわよ。」



男はホイホイついてきて、私の言うままにシャワーを浴びた

案外チョロイと思い、私は男の服を探って・・・財布を見つけた



やった、これでゴハンにありつける

そう思った矢先、私は男に取り押さえられた


「ふむ、やはりそういう事か。」


男はシャワーなど浴びていなかった
罠に掛かった振りをして、私が尻尾を出すのを待っていたのだ


犯される

私は、本能的な恐怖を感じたが・・・男は、私に事情を聞いたきた


――どうしてこんな事をした?――


私は答える


――職場が潰れて、働き先も見つからず、お腹がへって我慢できなくなった――


男は言う


――どんな職場で働いていた?――


私は言う


――しがない料理店で厨房に立ってた――


そして、男は言う


――なら、なんでも良いから料理を作ってみろ――

――ほら、材料費だ――


そう言って、男は財布から札を数枚取り出して、私に渡した

私は、その出来事が信じられなかった


この男は、私が律儀に料理を作ると思っているのか?

私が、この金をもってトンズラすると思っていないのか?

私は、金を持って外に飛び出し・・・



食材を買い込んで、男の下に戻った



自分でも、なんでこんな事をしたのかが分からない

だけど、この日本人は信じられる

私の本能がそう言っていた


私は、男に料理を作り食べさせた

男は言った


――わしと一緒に日本に来ないか?――


思いがけない言葉

聞くところによると、男は日本のある大きな屋敷に仕える使用人で、丁度料理が作れる人間を探していたとの事


どうせ、今のままでは何も変わらない

私は、男の提案を受け入れた


そして、日本に来て、久遠寺家に来て、



――ほう、美味いじゃないか。お前の料理、今まで食べた料理の中でも一番美味いぞ――



森羅様に出会って



私はこの家で、自分が生涯を掛けて仕える主に出会った



私に料理の腕が無ければ、私が久遠寺家に雇われる事は無かったかもしれない


ひょっとしたら・・・今頃イタリアの路地裏で見知らぬ男に媚を売り、股を開いて生活していたかもしれない



だから、私にとって料理とは誇りだ



そして、私の全てだ




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「おい、今何つった?」





私は、思わずイタチを睨む

こいつが作った料理は、明らかに私が作り上げた味だ
そこいらの主婦がレトルトで作るものとは訳が違う


イタリアでの下積み時代で得た知識と技術、そして日本で得た知識と技術


日本でも評判の高い料理店にわざわざ赴いて、味わって、

少しずつ、自分の技術の糧にして

それらを試行錯誤させて、自分なりにアレンジし、時間を掛けて改良に改良を重ねて作り上げたもの


私が、何年という長い時間を掛けて培ってきたものを・・・


私の、誇りを


私の、全てを



ほんの数時間程度で、あっさり作り上げて


挙句の果てに




――お前の料理なら出来そうだったから、作っただけだ――




「・・・フザケンナ・・・」

「・・・なに?」




「ふざけんなあああああぁぁぁぁ!!! もういっぺん言ってみやがれええええぇぇぇぇ!!!」












第七話「誇りと敬意」













「・・・で、その後どうなった?」


森羅の部屋に久遠寺三姉妹が揃い、先程起きた一件について話し合っていた


「そのままイタチに殴り掛かろうとしたベニを美鳩が止めて、私がイタチに退出を促して・・・後は、ベニの頭が冷えるのを待つだけね。」

「そうか・・・しかし、こうなるとイタチの採用は難しいな。」


森羅が考える様にして言う

イタチに問題がある訳ではない。寧ろ自分としてはイタチに高い評価をつけている

この数日間、イタチの働きは目を見張るモノがあるし

未有や夢、使用人とも打ち解け始めているし


そして、今回のイタチの模倣技術

単純に考えて、朱子と美鳩の負担が減るのは好ましい事だった


しかし、それが今回仇となった

このタイミングでイタチを正式に久遠寺家の使用人として採用したら、イタチと朱子の軋轢は更に大きなものになる

そうなっては、結局元も子もない

少なくとも、イタチと朱子の仲が改善されるまではイタチを正採用できないであろう


「ほとんど正採用が決まってるのにね~。」

「・・・ま、ベニの気持ちも分からんでもないがな・・・」


森羅は少し疲れた様に呟く


森羅は一楽団の指揮を任されている者だ

自分の仕事には遣り甲斐を感じているし、誇りを持っている

もしもタクトも碌に持った事の無い人間に、「自分でも出来そうだ」等と言われたら
流石に良い気分はしないだろう


しかも朱子の場合は、ご丁寧に実演までされてしまったのだ

実際、イタチの作った料理の完成度は高かった


もしも、あの料理を作ったのがイタチだと知らされていなければ・・・

自分はいつもの様に朱子が作ったと思い込んでいたかもしれない


朱子からすれば、心中穏やかではいられないだろう



「まあ、イタチに悪気は無かったんだろうが・・・相手が悪かったな。」

「なにもイタチに非がある訳ではないわ。先に手を上げようとしたベニにも非はあるわ、
それにあくまでイタチは、使用人としての仕事を全うしただけなんだから。」

「う~む、難しい問題だね。」



三人は、思い思いに口にするが

結局は、これは個人の感情の問題だ
しかも単純なものさしでは計れない話ときている。


「私としては、イタチは是非採用したいわ。彼の模倣技術は正直言って大したものだわ、
一度しか食べてないベニの料理を、あれほど完璧に再現できるんですもの。
来るべき私の起業に備えてイタチの技術があれば、正に万夫不当・・・大いに期待できるわ。」


未有は夢として、外食産業の企業を目指している

朱子の料理をあれほど完璧に再現できるイタチなら、他店の「味」のデータ収集及び研究に十二分の力を発揮してくれるだろう


「それは分かっている、時期が悪いと私は言っているんだ。」

「そう言えばさー、何でイタチさんはベニスさんの料理を作ったんだろう?」


何気なく夢が尋ねる

それに対して、未有が答える


「言ったでしょう?ベニの料理なら再現できそうだったからって。」

「でもさ、うちには美鳩さんもいるじゃない? 美鳩さんだって朱子さんと同じくらい料理が上手なんだよ?
それなら、別に美鳩さんの料理でも良かったはずじゃない?」


そこまで聞いて、未有は「確かに」と思う


「・・・言われてみればそうね。」

「単純に、好みの問題じゃないか?」

「どういう事、姉さん?」


森羅の言葉に、未有が尋ねる


「どういう事って、簡単じゃないか」


森羅は不思議そうな顔をして






「どうせ作るのなら、美味い物を作りたいじゃないか。」






と言った













次の日から、イタチと朱子の間に決定的な溝が出来ていた


表面化での争いこそはないが、空気が険悪なのだ

これはなまじ表立って争われるものよりも、くるものがある

森羅や大佐がそれとなく嗜めるが、それも一時的にしか効果がなかった


そして、朱子は目に見えて無理をするようになった


「あいつの料理は所詮猿真似の二番煎じ、それならあいつの技術程度じゃあ猿真似にもならない程・・・あたしが料理の腕を上げればいい。」


知識と技術に貪欲な朱子らしい発想だった、そしてすぐに行動を起こした


まず、夜は深夜まで起きて台所で料理を研究し

早朝は、いつもより二時間早く起きて朝食兼研究をしていた


幸い、久遠寺家には南斗星というギャル○根顔負けの大食漢(?)が居たから食べ物を粗末する事はなかったが



「・・・ダメね、この程度で音をあげちゃあ」



朱子の疲労は、着実に溜まっていった

料理に没頭しすぎて、仕事を疎かにする事などあってはならないと、いつもよりも仕事に打ち込んだ



「もっと煮詰めないと・・・もっと煮詰めて、もっと美味くしあげないと・・・」



ここ数日、朱子の一日の睡眠時間は平均で四時間に満たなかった


そして、徐々に朱子にも限界が見え始めてきた


「・・・公・・・! ベ・・・公!!」

「・・・ん?」

「ベニ公!!!」

「・・・!!!」


不意に朱子の意識は覚醒する
どうやら、転寝をしてしまったらしい

視線を移すと、そこには錬と南斗星がいた


「下男、それに南斗星。」

「・・・お前、大丈夫か? 調子悪そうだぞ?」

「ベニ、無理はよくないよ・・・顔色も悪いし、少し休んできたら?」


「・・・ありがとう、でも気持ちだけ受け取っておくわ・・・んー!でもあたしとしたことが、仕事中に転寝しちゃうなんて弛んでる証拠ね!
 名誉挽回の為、今日の昼食は気合入れて作ってあげるから期待していいわよ!」


頬を叩いて、朱子は気合を入れて立ち上がるが
その瞬間、立ち眩みを起こした

咄嗟に錬が支えるが


「・・・ば! お前、やっぱり無理してるじゃねえか! お前の分は俺がフォローに回っておくから、少し寝て来い!」

「・・・は!なに下男が一丁前に人の心配してんのよ! 人の心配をする前に、まず自分の心配をしなさい!
 おら、早く離さないとセクハラで訴えるわよ」


負けじと、錬が声を上げる


「お前に何かあったら森羅様が悲しむのが分かんねぇのか!!!」

「・・・!!!」


その錬の言葉に、朱子の瞳は一瞬揺れる

そうだ、これは結局のあたしの感情の問題だ

その事で、森羅様にご迷惑を掛ける事などあってはならない


そう思い、錬の言葉に甘えようと思ったが



「休んできなよ。仕事の事なら大丈夫だよベニ、美鳩さんだっているし・・・イタチくんだっているんだから。」

「・・・!!!」


それは、何気ない南斗星の一言

南斗星は純粋な性格だ、イタチと朱子の雰囲気がおかしい事もわかっていた

だから、南斗星は二人の仲を改善させる為にイタチの名前を出した


イタチくんはベニの敵なんかじゃない、頼っていい味方なんだよ

ただその事だけを、南斗星は言いたかったのだが


それは、完全に逆効果だった


南斗星の一言で、朱子に完全に火がついた



「・・・やっぱ、休憩はなし。南斗星、あんたも仕事に戻りなさい・・・」

「おい、ベニ公!」

「下男も仕事に戻りなさい。大丈夫よ、あたしの体はそんなヤワじゃないわ。」


そう言って、朱子は二人に背を向ける



・・・確かにね、下男・・・あんたの言う通りよ。ここであたしが無理をしても・・・森羅様は決して喜ばないでしょうね・・・


・・・でもね、例え森羅様の名前を出されても・・・これだけは譲れない・・・


・・・これはあたしの・・・あたしの、プライドに関わる事だから・・・


・・・絶対に、これだけは妥協する訳にはいかないから・・・


・・・だから、これだけは譲れないの・・・



そう思って、朱子が仕事に戻ろうとすると



「鳩チョップ!」

「・・・が!は・・・」


その瞬間、朱子の首筋に衝撃が走る

そこで、朱子の意識は途切れドサっと倒れた


「鳩ねえ!何を・・・!!」

「気絶させただけです。私としてはベニちゃんが倒れようと些細な問題ですが・・・
久遠寺家の使用人としては、同僚の無理は見過ごせませんから。」

「・・・鳩ねえ。」

「南斗星さん、お手数ですがベニちゃんを部屋で寝かせて上げておいて下さい。
無理しすぎて倒れたと言えば、流石に今後は無理をしないでしょう。」

「うん、分かった。・・・それと、ありがとう。ベニを止めてくれて。」


朱子を抱きとめながら、南斗星は美鳩に微笑みながら礼を言った


「クルックー、お礼を言われる程じゃありません。」

「でも、流石は鳩ねえだ。俺たちに出来ない事を平然とやってのける、そこに痺れる憧れるー!!!」

「ああんレンちゃん!レンちゃんのその言葉だけで、お姉ちゃんはエクスタシーに達してしまいそうですー!!!」

「・・・ははは・・・」



朱子を南斗星に任せて、錬と美鳩は各々の仕事に就く

そして、美鳩はポツリと呟いた



「・・・流石に、これ以上は見過ごせませんね・・・」











「・・・と、いう訳でベニちゃんと仲直りして下さい。」

「いきなりお前は何を言っている。」


美鳩は、屋敷の警備中だったイタチを捕まえていた


「流石に、ここ数日の貴方たちの雰囲気は目に余るものが有ります。
このままで行ったら、久遠寺家をクビになるかもしれませんよ?」

「・・・ふむ・・・」


その言葉を聞いて、イタチは流石に考えた

確かにそれは自分の本意ではない


「だが、なぜヤツが俺を目の仇にしているのかが・・・俺には分からん。」

「・・・本気で言っているんですか?」

「冗談に見えるか?」

「残念ながら、見えません。」


この男は、あくまで真面目に自分の考えを言っている

だから尚の事問題なのだと、美鳩は溜息を吐く


「本来は自分で考えろと言いたいところですが、それでは永遠にこの問題は解決されないでしょうから理由を教えます。
ずばり、原因は貴方の料理と発言です。」

「・・・なに?」


意外だったのか、イタチの顔は一瞬呆ける


「ベニちゃんみたいに、今まで料理一筋の人間が「お前の料理なら出来そうだったから作った」
なんて言われれば、誰だって怒りますよ~。しかもベニちゃんは人一倍気が短いんですから、
これは明らかに貴方の落ち度ですよ~。まあ、いつまでも根に持っているベニちゃんにも問題はありますが・・・」

「・・・待て、俺はあいつを侮辱した意味でそう言った訳ではないぞ?」

「・・・何ですって?」

「そもそも、なぜ俺が朱子の料理を作ったというと・・・」



イタチは、美鳩に説明をする

美鳩はイタチの一言一言を聞き、吟味し、事の真相を理解して


「と、いう訳だ。」

「・・・・・・」


イタチの説明が終わる

美鳩は、笑顔のままイタチを見つめ


「鳩デコピーン!」


イタチの額に、炸裂音が響く


「・・・何をする?」

「やっぱり痛いですー!凄く痛いですー!爪が骨と一緒に割れそうですー!
貴方のおデコは一体何で出来ているんですか!? オルハルコンでも仕込んでいるんですか!?」


右手の中指を擦りながら、美鳩は「よよよ」と涙目で訴える


「とにかくイタチさん、南斗星さんとの一件でも思っていましたが・・・貴方は絶対的に言葉が足りません!」

「・・・そうか?」

「そうです、ですからベニちゃんにさっきの内容を・・・そうですね、ざっと三倍増しで懇切丁寧に言って上げて下さい。
そうすれば・・・少なくとも、互いの誤解は解けます。」


有無を言わせぬ迫力で、美鳩が言う

そう言って、美鳩は言葉を締めくくり

とりあえず、イタチは納得し美鳩の言葉を聞き入れる
時間は過ぎていった






夜、ベニスは屋敷の屋根の上にいた

ここから見える景色は絶景だ、朱子が一ヶ月ほど前から見つけてちょくちょく来ているお気に入りのスポットだ

しかし、相変わらず朱子の心は晴れなかった


「何なのよ、アイツ」


憤怒の気持ちを込めて呟く

あれから、より一層自分は自分の料理技術を高めようとした

あいつが私の模倣をしているだけの、ただの猿真似なら、真似できない程に自分の技術を高めればよいと思った



だけど、それで結局周りに迷惑を掛けることになった

気がついたら、私は自分の部屋のベッドに寝かされていて南斗星が傍に付き添っていた


南斗星に話によると、三人と話した後に急に私は倒れたらしい


その後、下男にハル、鳩に大佐・・・ミューさんとデニーロにまで心配されて


私は居た堪れなくなった


結局、無理した分が私自身に降りかかってきたのだ


「・・・ちっくしょう・・・」


悔しかった、私の積み重ねていた技術をあっさり再現される事が・・・

憎かった、初見の相手にたやすく模倣されてしまう、私自身が・・・

そしてその結果、周りに迷惑をかけて、心配を掛けさせた事が・・・


私の存在意義を、否定された様な気分だった





「ここにいたか。」


不意に、声を掛けられた

視線を移すと、そこにはイタチがいた


「・・・あんた、何してるのよ?」

「・・・見回りだ、たまたまお前の姿を見かけたのでな。」

「・・・そ、ならさっさと仕事に戻れば?」


そっけなく、私は言う

内心では腸が煮えくり返そうだったが、必死で自制する


「いや、俺はお前に話すことがある。」

「・・・私はあんたと話す事なんてないわ」

「なら、これから話す事はただの独り言だ。」


むかつくヤツ

私は立ち上がって、イタチに背をむける

こいつの顔を、見たくなかった



「朱子は、今まで必死に料理の勉強をしてきた。」

「・・・!!!」

「そして苦労した得た技術を、俺の様な人間にあっさり再現されては・・・さぞ悔しいだろうな。」


「分かったような口きいてんじゃねえぇ!!!!」



我慢出来ず、私はイタチに掴みかかった


「テメェに何が分かる!? あたしの何が分かる!!? あたしが今までどれだけ料理に掛けてきたか分かんのか!!?
 あたしが今までどんだけ苦労して! 努力して! 腕を磨いてきたかテメェに分かんのかぁ!?」


「・・・そうだな。」


「料理はあたしの誇りだ!あたしの全てだ! テメェにあたしの気持ちが分かんのか!? 今までの自分の誇りを!全てを! 
ものの数時間程度でテメエにあっさり実演されたあたしの気持ちが分かんのか!分かるなんて言わせない・・・分かってたまるかああぁ!!!」


一度言葉が口から出てしまうと、感情が溢れて、止まらなかった



「どうせ、テメエはここにあたしのご機嫌を取りにきただけだろ! 本当はあたしの事を心の中では見下してんだろ!? 
テメェみたいに他人の猿真似をするだけで、あっさり他人の技を自分の技に出来る人間なんかにしたら・・・
あたしは体の良いカモにしか見えねえんだろ!! 『お前の料理だったら出来そうだった?』ふざけんなああああぁぁぁぁ!!! 
猿真似野郎が、あたしを見下してんじゃねええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」



今まで心の中に溜めていた鬱憤を、叫びと共に一気に吐き出した

そして、私は泣きたくなった


こんなのは、全然「雅」じゃない


きっと森羅様なら、イタチの猿真似なんか微笑みながら軽く受け流しただろう

きっと森羅様なら、己の実力のみでイタチの模倣を圧倒しただろう


でも、私にはどちらも出来なかった

所詮、私はこの程度なのかと思った

ヒステリックに見苦しく喚き散らすのが、私の限界なのかと思った


そう思うと・・・私は無性に泣きたくなった



「猿真似、か・・・確かにそうだな・・・」



私が呼吸を整えていると、イタチが口を開いた


「確かに、俺が得意とするところは・・・結局、ただの猿真似だ。「その気」になれば、俺はお前の料理を寸分違わず再現できるだろう。」

「・・・何よ、結局あたしの言うとおりじゃない・・・」


恨みがましく私が言うと、イタチは再び口を開いた


「・・・俺のこの模倣技術は、元々父から教わったものだ。・・・そして、父は俺にこの模倣技術を扱う際の心構えを教えた。」


そう言って、イタチは目を瞑った







俺は目を瞑って、写輪眼が開眼した時の事を思い出していた




――まさか、僅か八歳で写輪眼に目覚めるとはな・・・流石は俺の子だ――


――良いかイタチ、今からお前は写輪眼という新しい武器を持って任務に当たる事になる――
――だから、お前に写輪眼を扱う際の心構えを教えよう――


――心して聞け――


――それは――




「それは相手を敬う事、そして誇りに思うこと。それが父の言った心構えだ。」

「・・・は?」



朱子が俺の言葉に僅かに唖然とするが、俺は言葉を続ける



――お前のその両目・「写輪眼」に刻み付けられた情報は、生涯消える事は無い・・・どんなに素晴らしい技術でも、忌むべき禁術でも――
――己で律する事は出来ても、決して消える事はない――


――イタチよ、お前はこれから先・・・任務を成功させる為、仲間を守る為、そして里を守る為に、幾度と無く写輪眼を使うだろう――
――そして、それによって得た情報はお前が好む、好まざるを選らず、お前の写輪眼に刻まれて・・・お前の血肉となるだろう――


――そして、写輪眼に刻まれた技術・情報の中には・・・お前にとって耐え難いものがあるかもしれない――
――お前はソレを得た事を呪うかもしれない・・・お前は、写輪眼を持った事を心の底から後悔するかもしれない――





――だからイタチ、写輪眼を使う時は・・・相手を心から尊敬し、敬意を持て――





――そして、光栄に思え、誇りに思え、お前の糧となり血肉となった技術を――


――そして、お前の糧となった相手自身を・・・心の底から尊敬しろ――


――そうすれば、少なくともお前は間違わない、迷わない、後悔しない――


――だからイタチ――



――それを努々忘れるな――




・・・結局、抜け忍となり・・・目標を達成する為に、生き抜くために、父の言う事を破ってしまったがな・・・




俺は、心の中で苦笑した

そして、表情を直して朱子と再び向かい合う


「食事を作るとき、俺は真っ先にお前の料理が思い浮かんだ。それは作り易かったからではない・・・
お前の作ったものが一番美味かったからだ。だから俺は覚えていた、再現したいと思った。」


「・・・・・・」


「そして、俺は自分で望んでお前の技術を得た。お前の技術は俺の糧となり、血肉になる。
確かにお前からすれば面白くなかっただろう、悔しかっただろう、自分の努力を、誇りを、蔑ろにされたと思っただろう。」


だから、俺はキチンと自分の気持ちを伝える



「お前から見れば、俺はお前を見下している様に見えるかもしれんが・・・それは違う。」



それが、美鳩に言われた俺の義務だ









「お前の事を、俺は心から尊敬している。」










「・・・・・・」

「そして、誇りに思っている。お前の技術を得られた事を光栄に思っている・・・その事を、お前に伝えておきたかった。」


そして、俺は朱子に背を向ける

言いたい事は全て言った、もう話すべきことはなかったからだ

仕事に戻ろうと、歩みを進めたところで



「バーカ、調子に乗ってんじゃねえ。」



後ろから、声を掛けられた


「さっきから聞いてりゃあ、なに、アンタあの程度であたしの技を盗んだつもり? バッカじゃない、自惚れも甚だしいわ。
確かに多少は上手く真似できたみたいだけど、ダメね。あの程度じゃ全然ダメよ・・・まあ、良いとこ85点ってところね。」

「・・・そうか。」

「一つ言っておくけど、私はあんたの事今でも気にいらないし、目障りだと思ってる。」

「手厳しいな。」

「・・・でも、そもそも原因はあたしが皆の食事を作れなかったのが原因だもんね。
あたしの代わりに皆の食事を・・・森羅様をも満足してくれた食事を作ってくれたあんたに感謝こそはしても、
怒鳴ったのは・・・我ながら筋違いだったわ・・・」


「・・・そうか」


俺は振り返って返事をする

そして朱子と向かい合う




「だから、これでお互い言いっこなし。」




朱子は微笑んで俺に言った

しかし、すぐにいつもの顰め面にもどり


「言っとくけど、あたしはアンタに謝んないわよ。あたしの技を無断で勝手に拝借したんだから・・・
本来は使用料及び購入費及び著作権侵害の三コンボで諭吉100人は請求したいんだからね。寛大な処置に感謝しなさい。」


ふう、ようやくいつもの調子が戻ったか


「ああ、そうだな・・・感謝する。」

「そ、じゃああたしはもう寝るわ、おやすみ。」

「ああ、おやすみ。」


そう言って、俺は中庭へ飛び降りた











「・・・そうか、二人は和解したか。」

「少なくとも、あの険悪な雰囲気は無くなると思いますよー。」

「そうね、報告ご苦労さま美鳩。」


美鳩はイタチと朱子の和解を報告し、一礼をして退出する。
森羅、未有、夢の三人と大佐は安堵したかの様に息を吐いた

そして場の空気が緩んだところで、大佐が尋ねる



「それで、どうなさいますか森羅さま? そろそろイタチの奴に結果を出してみては?」

「・・・そうだな。」



森羅、未有、夢の三人は互いに目配せをする



「・・・イタチのヤツは無表情で愛想もないし、錬と違ってからかい甲斐がない。」

「おまけに口数が少なくて、今回の様な誤解を招くこともしばしば・・・」

「しかも、イタチさんがいる間は・・・毎日の様に揚羽ちゃんと小十郎くんが家に押しかけて来て大変だったね。」

「極めつけは、何より怪しい。身元不明、身分証なし、得体の知れない事この上無い。」



三人は思い思いの意見を出して苦笑する

しかし


「・・・だが、錬とは違った意味で面白い。」

「性格は真面目、仕事は優秀、料理も出来る。」

「南斗星さんたちとも、少しずつ打ち解けて馴染んできてる。」

「しかも、腕が立つ。大佐や南斗星、九鬼揚羽をも凌ぐ実力は正に圧巻だ。」

「模倣技術も大したものだわ、器用な上に万能。」

「いやー、ここまで来ると流石の夢も、霞んで見えちゃうよ。」


「全員、答えは同じ様だな。」


クスリと森羅は微笑えんで、三人は頷く

そして、声を高らかに宣言する



「それでは、『うちはイタチ・久遠寺家使用人正式採用決議案』を、今この時をもって可決とする!!」

「「異議なし!!!」」



三人は、揃って微笑む

そして、森羅は確認をとる様に夢に尋ねる



「・・・そう言えば夢、そろそろ春休みだったな?」

「うん、明後日からね。」

「・・・また何かの悪巧み?」

「なぁに、最近我が家でもゴタゴタが続いたからな・・・偶には羽を伸ばさないとな。」


「・・・と、言いますと?」


大佐が尋ねると、森羅はニヤリと笑って






「来週からは、バカンスだ。」









続く







後書き とりあえず、イタチと朱子は和解しました。あと本編におけるイタチの父親の写輪眼うんぬんの話は、自分で考えて作ったものです。
    
一応補足としての説明をすると、イタチが原作で常時写輪眼だったのは「サスケと闘って死ぬ」事を第一目標にしていた為、万が一にも他の要因で死ぬ訳にはいかず、常日頃から念には念を入れて写輪眼にしていたという設定です。


沢山の感想、ありがとうございます! これを励みにこれからも頑張りたいと思います!!

次回は、南の島でのバカンス編です! どうぞよろしく!!!
  





[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)・第八話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/07/18 20:02

照りつける太陽

足に纏わり付く砂

耳に響く波の音

鼻を突く磯の香り



そして広大な青い海



三月某日

久遠寺家の面々は南の島に来ていた







第八話「久遠寺家、南へ・その1」








遡ること数日前
それは、森羅の第一声により始まった



「来週からバカンスだ。」


「「「「「「はあ!?」」」」」」


森羅の余りにも唐突な言葉に、思わず全員の声がハモる

そんな使用人の反応を見て、森羅は思わず首を傾げた


「・・・む?どうした皆、嬉しくないのか?南の島だぞ、南の島。」

「姉さんが唐突すぎるだけよ。」


溜息を吐きながら、未有が言葉を続ける


「イタチの正採用も決まった事だし、夢の春休みに合わせて姉さんの仕事も休みに入るのよ。
それでうちにはイタチ、錬、美鳩の三人が新しく我が久遠寺家の使用人となった訳だから、
親睦会もとい別荘のある南の島に遊びに行こうって事になったの。」

「錬と美鳩、それにイタチのパスポートはこっちで手配した。あと、イタチ・・・これがお前の身分証だ。持っていろ。」


大佐がイタチに保険証やその他諸々の書類をイタチに渡す


「・・・どうやって、これらを用意できた?」

「世の中、金とコネがあれば大抵の事は出来る。過程が普通と違うだけで、それらは真っ当な代物だ。安心して持っていていいぞ。」


イタチが怪訝な表情で尋ねるが、森羅は胸を張ってイタチに言葉を返す

どうやら、偽造の類ではなさそうだ



「それでは、ありがたく頂戴いたします。」

「うむ。それじゃあ全員、予定は空けておけよ。水着の準備は忘れるなよ!」

「「「「「はい!!!」」」」」「・・・了解」









そして、現在


「はぁーやっぱり海はいいなぁ。輝く太陽、真っ青な空と海・・・おまけにここは久遠寺家のプライベートビーチ、
人ごみもなく南の島を満喫できるなんて最高だ!」

「ですね、レン兄!」


錬が感慨深く呟き、ハルが返すが・・・


「・・・何でビーチにはお前しかいないんだよ!! こういうのは普通可愛い女の子が水着姿でいる筈だろ!!」

「いやぁ、折角の海ですから錬兄と一緒に満喫したいと思いまして。」


ハルが笑顔で答える

ちなみにハルはトランクスタイプの紺の水着、錬はハーフパンツタイプのグレイと黒のストライブの水着である

ハルは確かに中世的な顔性質の、言って見ればどことなく保護欲を誘う可愛いらしい顔つきなのだが・・・


残念な事に、彼は生物学的上の性別は歴とした雄(♂)である

もちろん某ライトノベルに出てくる第三の性別、もしくは「ハル」という名の性別という訳ではない

ハルは、男なのである。


「・・・分かってるよ、チキショー。」

「レン兄、ヘコまないで下さいよ~。」


「お、早いね錬くん、ハルくん。」

「男の子は、着替えるのが早いねー。」



声の発信源に錬とハルは振り向く

そこには、夢と荷物を抱えた南斗星がいた


「どう、似合ってる?」

「はい。夢お嬢様も南斗星さんも、とても良くお似合いです。」

「二人共、凄く似合ってますよー!」


錬とハルが笑顔で答える

夢は白の花柄の入ったビキニ、そして腰には眺めのパレオが付いている水着
スレンダーな体と、明るいイメージの夢を存分に引き立てている

南斗星はシンプルな青のビキニ
健康的に引き締められた南斗星の魅力を、十分に引き出していた

両者とも、文句なしに似合っていた


「ありがとう錬くん、ハルくん。」

「何か、照れくさいね。」


夢はニコリと微笑んで、南斗星は照れくさそう頬を掻きながら微笑んだ



「う~む、やはり海は良い。」

「ですね、森羅様。」

「あ、シンお姉ちゃん。」



三人の声に反応して錬が振り向く


(・・・これは、マズい!!!・・・)


振り返った瞬間、錬は瞬時に思う。


森羅は首にチョーカーが付いた黒のビキニ
森羅の豊満なバストと、スラリと伸びた手足、キュっと締まった腰のくびれが惜しげもなく晒され、
その魅力は危険な域にまで達している。


「おら下男、鼻の下伸ばしてんじゃねえ!」


パラソルを立てながら、朱子が言う

朱子は白の布地に赤のラインが入ったビキニだ
森羅ほどでは無いが、整ったプロポーションと朱子の特徴である赤のロングヘアーの相乗効果で、朱子の魅力を引き立てている。


「・・・へ、そんな大したもんでも無い癖に。」

「あん?」

「よせ、全くお前達は・・・こういう時くらい、仲良くしろ。」


森羅が軽く二人を嗜める
二人は即座に「申し訳ありません!」と言って謝罪した。

そして、森羅は持っていたバッグから萎んだ浮き輪を取り出す


「錬、これを膨らませてくれ。」


そう言って、錬に投げ渡す

そして、錬は息を吹き込もうとして浮き輪を拾い上げるが・・・


「・・・パンダ?」

「パンダと言えば、私のトレードマークだろう?」


いつのまにか、森羅は錬の眼前にまで距離を縮めていた

しかもご丁寧に体を屈めて胸を強調し、ちょうど錬の目線の高さと合わせる様に

完全なる不意打ち

錬の顔は一瞬で、トマトの様に赤くなった


「・・・ん。どうした?」

「い、いえ!何でもありません!!」


そう言って、錬は場を取り繕う様に浮き輪に空気を入れるが・・・


「どこを見ていた?」

「ブウウウウウゥゥゥゥー!!!」


口に溜めていた空気が、一気に漏れ出る

その光景を見て、森羅は楽しげに口元を吊り上げて


「ん、どうした?もう一度聞くぞ錬、私の「ドコ」を見ていた?」

「・・・い、いや・・・あの、その・・・」

「何だ錬、主の言う事が聴けんのか?これはお前の採用の件は、もう一度検討し直す必要があるなー。」

「・・・うううぅぅ・・・」


更に森羅がニヤニヤと意地悪気に笑うと、錬は観念したかの様に唸り


「・・・ぅ、ね、です・・・」

「良く聞こえん、もっと大きな声で言え。」


そして錬はヤケクソ気味に顔を上げて


「森羅様の胸に目が釘付けになっていましたぁ!! 申し訳ございません!!!」

「宜しい、最初から素直にそう言え。」


クスクスと愉快気に森羅は笑い

錬は雑念を振り払う様に浮き輪に空気を入れた。



「レンちゃーん、お待たせですー。」



浮き輪が丁度膨らまし終わった頃、タッタッタと砂浜を駆けて美鳩がやってきた

美鳩の水着はシンプルな白のビキニである
単純な胸の大きさなら美鳩は森羅以上である。
しかもそれでも出る所は出て、引っ込むところは引っ込んでいるという女性らしさに溢れる体つきである。
白のビキニはそんな美鳩の体に良く映えて魅力を十二分に出していた。


「どうですか、レンちゃん?」

「鳩ねえは何を着ても最高だよ。あ、森羅様!浮き輪を膨らませ終わりましたー!」


そう言って錬は浮き輪を持って森羅の元に駆け出す



「レンちゃん・・・つれないですー。」

「何を落ち込んでいる?」



美鳩が落ち込んでいると、不意に後ろから声を掛けられる

そこにはクーラーボックスを体中に巻きつけたイタチが居た


「・・・別に、貴方には関係ありません。」

「まあ、それもそうだが・・・折角の旅行だ。つまらん事で落ち込んでいるな。」

「余計なお世話ですー・・・っていうか、その格好・・・」

「ああ、これは主様達の飲み物だ。人数が人数だからな。」


そう言って、イタチはクーラーボックスをパラソルの下に下ろす



「いえ、どうして貴方は水着じゃないんですか?」



美鳩が不思議そうに尋ねる

そう美鳩が指摘した通り、イタチは水着でなくいつもの執事服を着ていた
正確にはYシャツが半袖の夏服仕様だが

しかし、どう見ても浜辺には似つかわしくない格好であろう。


「いや、先約があるからな・・・そちらが終わった後、水着に着替える予定だ。」

「先約?」

「ああ。」


一体どんな?と美鳩が聞こうとした所で



「ちょっと姉さん!これはどういう事!?」

「ん、どうしたミューたん?」



浜辺に、未有の声が響く

視線を移すと、バスタオルを体に巻きつけた未有がいた


「私の水着をすり替えたの姉さんでしょ! どうしてくれるのよ、私の水着!」

「ああ、ロリなミューたんには不釣合いなあの水着か?やめとけやめとけ、ロリなミューたんに紐ビキニは十年早い。」


クククと楽しげに口元を歪ませて、森羅は未有を見る

未有は羞恥心と怒りに身を震わせて


「どんな水着を着ようが私の勝手でしょ!しかも代わりの水着がこんな、こんな・・・!!!」

「ほう・・・どんなのか、見せてみ、ろ!!!」


そう言って、森羅は強引にバスタオルを剥ぎ取る
錬やハルは咄嗟に目を両手で覆うが・・・



「・・・み、見ないで・・・」



余りの羞恥心に、顔を赤く染め上げて、未有は呟く

バスタオルが剥ぎ取られ、白日の下に晒された未有の姿

それは布地面積が広い、紺のワンピースタイプ

そして、胸元には大きく名札が縫い付けられて「未有」と書かれている


そう、未有はスクール水着を装着していた。


「とにかく!私の水着を返しなさい!!!」

「断る。そもそもミューたんは既にそのスクール水着を着ているではないか。今から着替えるのか?そんな物は二度手間だ、もう割り切ってしまえばいいじゃないか。」

「・・・な!なんですってー!!!」


徐々に森羅と未有のやり取りは激しくなり、苛烈なものになる


「・・・止めなくていいのか?未有様の専属だろう?」

「いえいえ、あれはお二人なりの姉妹のコミュニケーションですからー。邪魔をするのは無粋、というヤツです。」

「・・・そういう、ものか?」

「ええ、そういうものです。」


二人のやり取りを見つめ、イタチはゆっくりと息を吐いた所で



その二人は現れた






「はっはっは! 九鬼揚羽、ここに推参!!!」

「武田小十郎!揚羽様と共にここに推参!!!」




炎天下の中で、二人は雄々しくそこに立つ

しかも南の島の浜辺というシチュエーションで、二人はいつもの制服と執事服だ。


「ああ、来た来た。待ってたよー、揚羽ちゃんに小十郎くん。」

「暑苦しい場所に、暑苦しいヤツ等がきたなー。」


朱子がやや面倒くさそうに様に息を吐く

そう、夢の提案もあっ九鬼揚羽と小十郎の二人も、この南の島に招待されていたのである。


そして、その揚羽と小十郎の参加理由はもちろん・・・



「イタチ殿! 我等二人、イタチ殿との再戦を希望してここに馳せ参じた!!!」

「勝負だああぁぁ!!!うちはイタチイイイイィィィィ!!!!」



イタチを視界に納めた二人が叫ぶ。

それを見て、イタチは疲れた様に息を吐いた


「・・・これが、貴方の言っていた『先約』ですか?」

「・・・ああ。」


イタチの先約

それは二人の言っていた通り、揚羽と小十郎との再戦であった

そもそも二人がこの旅行に参加した理由は、久遠寺家が旅行に行っている間はイタチに再戦が申し込めない・・・という理由からである。

夢の誘いもあって、二人は久遠寺家の旅行に同伴する事に決めたのである。


もちろん、イタチには先の勝負での揚羽達との約束で、イタチが断った時は潔く引くという事になっているが・・・


そうなると、最悪の場合イタチは旅行中ずっと二人に付き纏われる恐れがある。

極端な話、潔く引けば・・・再戦の申し出は可能だからだ


それでは、自分はともかく・・・揚羽と小十郎の二人はこの旅行を楽しめない。

それではあまりに不憫だろう・・・

だからイタチは旅行初日の頭、体力気力が全開に近いこの時のみの、一回限りの再戦を受ける事を約束したのである。

そして、勝負の結果に関係なく旅行中は再戦の申し込みはしないという条件をつけて。


二人は二つ返事でこの申し出を受け入れた


そして、今に至る訳である



「・・・難儀な性格ですね。」

「放っておけ、自覚はしている。」



美鳩が溜息を吐きながら呟いて、イタチも諦めたように呟く





「ふむふむ、なるほど・・・面白そうだな。」

「・・・姉さん?」

「なあ、ミューたん・・・賭けをしないか?」

「・・・何ですって?


森羅の提案に、未有は怪訝な表情で尋ねる


「うちはイタチvs九鬼揚羽&武田小十郎。勝つのはどちらか賭けようと言っているのだ。」

「・・・へぇ、面白いわね。で、勝負のルールは?」

「確か、イタチさんは攻撃も防御も反撃もなしで、制限時間内に一度でも二人がイタチさんに攻撃を当てる事が出来たら二人の勝ち・・・だったよ。」

「・・・なに、そのルール。イタチが不利ってレベルじゃないわよ。」


夢のルール説明を聞いて、未有は唖然として呟く

だが、森羅はそんな未有に面白そうに微笑みかけて


「ヤツは十日前にやった時は、勝っていたぞ。」

「・・・マジ?」

「マジなんだよね~。」


未有が唖然とするが、夢が事実だと宣言する

そして、揚羽達と小十郎は全力が出せる様に砂の上ではなく
土の上まで移動する。



「・・・で、少しは腕を上げたんだろうな?」

「ふ、その問いにはこの再戦の中でお答えしよう。」



イタチの問いに、揚羽はクスリと微笑みながら答える
その余裕の表情から、どうやら自信はあるらしい。


「・・・なるほど、それで姉さんはどっちに賭けるの?」

「私はもちろん、イタチ一点張りだ。久遠寺家の家長が使用人の勝利を信じずして、誰が信じるというのだ。」

「そう、それなら私は揚羽と小十郎ね。」

「負けた方は、今日一日は相手に絶対服従な。」

「ええ、問題ないわ。」


二つ返事で互いに了承する

それは互いに勝算あっての事だ


森羅は、僅か十日程度ではイタチと二人の実力差は大きく縮んでいないと考え

未有は対照的に、十日もあれば揚羽と小十郎はその実力を大きく伸ばし、イタチとの実力差を縮めていると考えたのだ。



そして、勝負が始まる



「・・・来い。」

「九鬼揚羽! いざ参るっ!!!!!」

「行くぞおおおぉぉぉぉ!!! うちはイタチいいいいいぃぃぃぃ!!!!」







二人は同時に地面を蹴り、イタチに襲い掛かる

先に距離を詰めてくるのは揚羽


「せいやああああぁぁぁぁ!!!!」


左の拳を、散弾銃の様な乱打でイタチを打つ



(・・・ほう・・・)



その打撃を見て、思わずイタチは感心する



(・・・なるほど、腕を上げたというのは嘘ではなかったようだな・・・十日前とは、まるで違う・・・)



スピード、パワー、そして体の軸が全くブレていない事から余程の鍛錬を重ねたのだろうと推測する。


(・・・いや、それも単純な鍛錬ではない・・・)


乱打を避けつつ、イタチはバックステップをする

その一瞬後、超低空の一撃が弧を描いて滑降する


それは、小十郎の水面蹴りだ


(・・・揚羽が上の注意を引きつけて・・・小十郎が下を撃つ、か・・・理に適っているな・・・)


恐らく、対自分用のプランを固めて、その上でチームワークとコンビネーションを底上げする訓練を積んできたのであろう


「・・・ちぃ! 外したか!!」


小十郎が忌々しげに呟く

そしてイタチが、二人から距離を取って二人の姿を視界に納めようとした時



イタチの視界は、拳で覆われていた




(・・・これは、驚いた・・・)




イタチは、心の底から驚嘆する

しかし、首を捻るようにしてそれを流す

だが、死角から小十郎が再び責める

低空姿勢からの、ボディアッパー



(・・・俺の動きを、確実に捉え・・・合わせてきている・・・)



イタチは体の向きを横から縦にシフトチェンジをして、小十郎の一撃をかわす


しかし、二人は間髪入れずイタチを挟み込む



(・・・十日前は俺の動きを殆ど補足できず、闇雲に攻撃するだけだったが・・・今は、駆け引きまで行えるようになっている・・・)



現に、自分は前後からの挟み撃ちという多対一において最も不利な体勢に追い込まれている

その事が、この二人は自分の動きが見えているという何よりの証拠



「捉えたぞ!イタチ殿おぉ!!!」

「貰ったあああぁぁぁ!!!」



二人が勝利を確信して、揚羽が拳を振りかぶり、小十郎が身を捻る・・・




(・・・だが、惜しいな・・・)




イタチは静かに迫る一撃を見つめる


揚羽の一撃は、真っ直ぐに自分の顔面を目掛けて飛んできているし

小十郎の繰り出したミドルキックは、自分のボディー目掛けて弧を描いている


左右に避ければ、揚羽からの迎撃が飛ぶ

前後に避けては、どちらかの一撃を確実にもらう

ガードをしてしまえば、その時点で自分の負け


通常ならば、これは「詰み」の状態だ


(・・・狙いは上々、個々の鍛錬も良く積み・・・チームワークも錬度が高い・・・)


もしも、これが十日前なら・・・この二人は確実にこの勝負に勝っていただろう



(・・・だが、まだ足りない・・・お前等には・・・)



イタチは、ポツリと呟く






「速さが足りない。」






その瞬間、イタチは僅かにチャクラを練り上げて

二人の眼前から姿を消した。












二十分後


「クソオオオオオォォォォ!!! また一発も当たらなかったあああぁぁぁぁ!!!! 何故だあああああぁぁぁぁ!!!!」

「ぬぬぬぬぬ!ま、まさか掠りもしないとは・・・実力の、底が見えん!・・・我は今まで、井の中の蛙だったという事か!!!」



二人は、砂浜にガクリと膝を着く

だが、イタチは二人の言葉とは対照的な事を考えていた




(・・・惜しいな、この二人・・・)



イタチは、この二人の評価を大きく変えていた

間違いなく、この二人には素質がある

才もあって、鍛錬もしている



(・・・今はまだ未熟だが・・・体術限定の潜在能力を見れば、上忍クラスはある・・・)


(・・・もしも、この二人にちゃんとした師が居れば・・・)



イタチは二人を見て、更に考える



(・・・そう、例えばガイさんの様な・・・体術のスペシャリストがこの二人を鍛えれば・・・)



(・・・この二人、化けるぞ・・・)




そして、その考えに至った瞬間

イタチの脳裏に、ある光景が過ぎる




========================================




「はっはっはー!! 青春しているかぁお前らぁ!!!」

「はい、ガイ殿! 今日も存分に青春しております!!!」

「ガイ先生! 今日もご指導ご鞭撻のほどを宜しくお願いします!!!」

「うむ! その意気や良し!!!それじゃあ二人とも、先ずは手始めに腕立て五千回だ!!!」


「な! 腕立て五千・・・流石、ガイ殿は他の武術家と一味違う・・・。」

「ぬぅ・・・しかし、五千回とは・・・果たして、今の俺の力量で完遂できるか・・・」

「む、どうした小十郎? 自信がないか?」

「いえ!この小十郎、まだ未熟とは言え揚羽様の執事!・・・主がやると言うのなら、黙って付き従うのが執事の役目!!!」

「小十郎・・・うむ、貴様の意志・・・しかと受け取ったぞ!!!」

「それでは、二人とも始めぇ!!!」





「・・・ぐ、はぁ!!!」

「どうした小十郎! まだ『たった』三千回だぞ! 揚羽は既に四千回を超えているぞ!!!」

「申し訳ありません、ガイ先生!!・・・ですが、この小十郎・・・もはや腕が上がりませぬ!!!」

「小十郎・・・貴様、我の従者がそんな泣き言を言うなど許さんぞ!!!」

「止せ、揚羽・・・小十郎、確かに今のお前では荷が重い内容かもしれない・・・
もう、お前の体にはなんの力も残されていないかもしれない・・・だがな、それで良いんだ!!!」


「ガイ先生・・・」

「お前等の目的は何だ! 強くなる事だろ!自分の限界を超えるためだろ!! そして、小十郎・・・今、お前の体に限界が来た! それで良いんだ!!!」

「ガイ先生・・・それは一体?」

「なぜならお前の体が限界というのなら・・・そこから先、修行をした分だけお前は限界を超えるという事だからだ!!!」

「・・・は!! 確かに、その通りでございます!!!」

「小十郎!確かにお前の体は限界かもしれない、もう力が残されていないかもしれない・・・
だがな!出来ないと思っている内は、何をやっても出来ん!!! だが、出来ると思ってやれば何でも出来る!!!
 肉体の力では足りないと言うのなら、魂で補え!! 人間、肉体の力に限界はあっても・・・魂の力に限界はない!!!」

「はい、了解しましたあああぁぁ!ガイ先生!!!」


「・・・ガイ殿、この九鬼揚羽・・・いつもガイ殿の言葉には心から感服いたします!!」

「はっはっは!! 人は誰でも間違い悩む・・・だがな、それで良いんだ!なぜならそれが青春だからだああぁぁぁ!!!」





「よ、4998・・・よ、4999・・・5000!・・・やった、やったぞおおぉ!ガイ先生!この小十郎、見事腕立て五千回!完遂致しましたあぁぁ!!!」

「バカ野郎おおおおぉぉぉぉぉ!!!」

「ぐっはぁ!」

「小十郎・・・お前ってヤツはぁ・・・お前ってヤツはぁ!!!」

「・・・せ、先生・・・」



「・・・もういい小十郎!何も言うなああああぁぁぁ!!!(涙)」

「が、ががが、ガイせんせええええぇぇぇぇ!!!!(涙)」


「おお、何という熱く美しい師弟の抱擁・・・いかん、つい涙腺が緩く・・・主が従者の前で涙を見せるなどあってはならん・・・」





「よし!二人とも!! 家までダッシュだ!俺よりも着くのが遅れたら・・・七浜公園外周・五百周だ!」

「「はい、分かりました!!!」

「はっはっは!これぞ青春だああああぁぁぁぁぁ!!!」





=======================================




「・・・・・・」


そんなやり取りを、イタチは一瞬で思い浮かべて・・・



(・・・いや、これ以上は考えるのは止そう・・・)



そして、疲れた様に息を吐いた











(・・・暑苦しい事この上無い・・・)














ちなみに、賭けに負けた未有は結局スクール水着のまま、この日を過ごしました。






続く







後書き とりあえず、バカンス編その1を更新しました!今回は複数話を使うと思います!
    
    ちなみに、イタチの妄想を書いている時・・・自分はこの「きみある」の世界に来たのは、イタチにして良かったな~っと思いました。

     
    なぜなら来たのがガイだったらイタチ以上にとんでもない事になっていたからです。

    それでは、次の更新も宜しくお願いします!!!






[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)・第九話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/07/23 15:37




その日、私は穢された

本当は、その日は楽しい日になる筈だった
大切な家族と、南の島で楽しい一時を過ごせる筈だった


いつも私に欲望のままに襲い掛かってくるあの獣も、その日は大人しくしている様に見えたからだ


でも、それは一瞬で壊された


そう、私は油断していた

あの獣は、虎視眈々と私の油断と隙を狙っていたのだ

そして、そのツケが私に回ってきた


私は、衣服を奪われて

あられもない格好にされて

獣は下卑た欲望に塗れた目で、私を見る


その目は欲望に身を任せて、快楽を求める目


私は、それに抵抗する術を持っていなかった

文字道理、為されるがままの状態

私は、唇を噛み締めて・・・その辱めに耐えるしかなかった


そして、獣は息を荒げて叫ぶ






「あーっはっは!!! 最高だ!最高だぞミューたん!!! 次はこっちだ!こっちのセーラー服をスク水の上から羽織って猫耳だぁー!!」






獣・・・もとい姉さんは、興奮しながらデジカメのシャッターを切っていた








第九話「久遠寺家、南へ・その2」










「ううぅ、どうして私がこんな辱めを・・・」

「ファイトですよ、ミューちゃん。ほら、舐めているとシュワシュワする飴ですよ。」

「そんな子供だまし・・・あら、本当ね。」


美鳩から渡された飴を上機嫌で舐める未有だったが



「じゃなくて! もういい加減にしなさい姉さん!十分楽しんだでしょ!?」

「ふふん、何を言っているミューたん?賭けの効果は今日一日の筈だろう?
それにこんなチャンスは滅多にないからな、私はまだまだミューたんで楽しみたいのだよ。」

「・・・ううぅ。」



再び、未有は力なく項垂れる

確かに、これは姉の一方的な我侭ではなく賭けによって森羅が得た正当な権利

姉の言っている事は概ね正しいのだ

だからこそ、自分はこうして為されるが儘になっているのだ


「おや、未有殿? なにやら随分愉快な格好をしてなさるな?」

「ですね。」


そこに、水着を着た揚羽と小十郎がやってきた

揚羽は薄紫のビキニ、小十郎は灰色の布地に黒のラインが入ったトランクスタイプだ


そして、その目は未有に釘付けになっている
どうやら状況が良く分かっていない様だ


「・・・ううう、もう見ないで・・・」

「森羅殿、これは何かの催しものであるか?」

「うむ、これは『万国ビックリ・ミューたん博覧会』だ。」

「ふざけた名前をつけないで姉さん。」


せめてもの抵抗で、ふざけた事を言う姉を睨みつける

すると森羅はヤレヤレと肩を竦めて


「さっきお前等がイタチと再戦をしただろう? 実は私とミューたんもそれに便乗して賭けを行っていたのだ。」

「賭け、ですか?」


小十郎が不思議そうに尋ねて、森羅は「うむ」と頷く
そして更に言葉を続ける


「賭けの内容はお前等の再戦の勝者を予想し当てるというもの。
そして、私はイタチに賭け、ミューたんはお前等に賭けた。
そしてミューたんは賭けに負けたから今日一日は私の玩具という訳だ。」

「・・・な、なんと!!!」

「そういう事であったか!!?」


森羅の説明を聞いて、小十郎と揚羽は目を見開く
そして、次の瞬間


「「申し訳ございません、未有殿!!!」」

「・・・はあ?」


揚羽と小十郎が砂浜に額を擦り付けて土下座し、森羅はそんな揚羽たちの行動に呆然とする。


「未有殿は、我等の勝利を信じてくれていたにも関わらず、我等が力及ばずこの様な辱めを・・・!!! 
それも我等は今の今まで気付かず、ただ自分の事しか考えていなかった!!
・・・誠に申し訳ありません、未有殿!!!」

「森羅殿おおぉぉ!我等を信じた未有殿が辱めを受けるというのであれば・・・戦いに敗れた私も辱めを受けるのが道理!!
 森羅殿!どうかこの小十郎にも、未有殿と同じ辱めをお与え下さい!!!」

「小十郎の言うとおりである。そして小十郎が辱めを受けるというのなら、我も小十郎の主として辱めを受けるのが道理!
 さあ森羅殿、どうか我々にも同じ辱めを!!!」

「・・・お前等に・・・未有と同じ?」


森羅は何気なく想像する。


スクール水着の上にセーラー服をきて猫耳を装着させた揚羽と小十郎の姿を



「・・・う、(自主規制)!!!!」


「どうなさいました森羅どのおぉぉ!!!」


自分の想像で、つい森羅は吐き気を催す

そして気分を落ち着けた後・・・



(・・・揚羽はともかく・・・小十郎はない!!!・・・)



ダラダラと流れる嫌な汗を拭きながら、森羅は思った

そして、その時森羅はふと思った


「おい、美鳩。」

「なんでしょうか森羅様?」


森羅はグルリと視線を回転させた後に



「もう一人の当事者はどこだ?」









丁度その頃、イタチは森羅たちとは離れた浜辺にいた



「・・・よし、こんな所か。」



イタチはやや裾の長い黒のトランクスタイプの水着を着て、薄青色のパーカーを羽織り、
周りに生い茂る木々に己のチャクラを込めた術式を刻んで、己のいる場所をグルリと囲む

そして、両手で印を組み、チャクラを練り上げて、


(・・・随分と、久しぶりだが・・・出来るか?)


チャクラを練り上げた両手を地面に叩きつけて、術を発動させる


「幻術・狐狸心中の術!!!」


イタチが術を発動させると、チャクラは地面を伝い、術式を刻み込んだ木々に伝染する

そして、木々全体に自分のチャクラは浸透した


「・・・よし、この程度は回復しているか。」


安堵した様に呟く

元々、自分は幻術に秀でた忍だったからこの程度なら・・・と思って試したが、どうやら無事成功の様だ。


狐狸心中の術、相手に周囲の情報を誤認させて周囲を延々と彷徨わせる術である

並みの森なら複雑怪奇な迷宮に変身するが、この程度の木々なら行く事は出来なくても戻る事は可能となる。

なぜこの様な事を行うかと言うと、これから行う事を他人に見られたら少々面倒くさい事になるからだ

そして、今日の様な絶好の機会をイタチは逃したくなかった。


水が豊富にあり、衣服が濡れていても不自然でなく、多少の大きな波や音が起きても気にされない状況


水遁系の術を試し撃つには、これ以上適した環境はない


「さて、どの程度の術なら耐えられるか?」


そして、再びチャクラを練り上げる

この世界に来た初日では、写輪眼発動だけで頭が割れそうだったが、今はそれが見えない


「水遁」


そして両手で印を組んで、チャクラをコントロールして、術を組み上げる

すると、海水はまるで自分の意志に同調するかの様に、渦巻き、形作り、唸って猛る

そしてイタチは、練り上げたチャクラを一気に解放する



「水牙弾!!!」









「イタチのヤツが見かけないな。」


森羅は浜辺を見渡して呟く

朱子は自分の傍で控えているし

夢は南斗星と一緒に泳ぐ練習をしているし、未有はそれを傍でコーチしている

錬と美鳩は揚羽と小十郎を交えて、ビーチバレーに興じているし

ハルはゴミ一つない浜辺を見て、恍惚の表情を浮べていた



「森羅様、どうなさいました?」

「大佐か。いや、イタチの奴を知らないか?」

「イタチの奴ですか?確か一度別荘で水着に着替えて、そちらに戻った姿を確認しておりますが・・・」

「滝業にでも行ってるんじゃないですか? あいつ、どことなく揚羽に近いタイプですし。」


変に感の鋭い朱子が満更外れでもない答えを口にし、森羅は「ふむ」と考える

イタチを雇ってから今日まで、随分とイタチも久遠寺家に馴染んできたが、イタチはどことなく距離を取っているのを森羅は感じていた

元々これは錬、美鳩、そしてイタチの為に用意した親睦会なのだ

イタチがこの場に居なくては、その意味が半減してしまうだろう


「誰か、イタチのヤツを知らないか?」

「あ、それなら僕知ってますよ。」


森羅の問いに、ハルが答える

どうやら、他にイタチの事を知っているのはハルだけのようである


「そうか、ならちょっとイタチのヤツを呼んできてくれないか? 折角の旅行なんだ、皆と一緒に過ごさなくては意味がないだろ?」

「はい、分かりました森羅さま。」


そう言って、ハルはイタチが消えた木々が生い茂る樹林へ足を運んだ









「はぁ!はぁ!・・・はぁ、はっ・・・ふぅ」


イタチは手を膝に置いて、額に汗を浮べて、息を荒げて浜辺に立っていた
そして一息ついて、汗を拭う


「流石に、水龍弾クラスは無理があったか・・・」


そして、イタチの眼前の海には未だその爪あとが色濃く残っている
周囲に被害を出さないようにコントロールはしたが、流石に全てをコントロールするのは難しかった

それになんとか発動はしたが、鬼鮫のものと比べると明らかにパワーが足りていない

もともと、この術はチャクラを多大に消費する術だ
流石に勇み足が過ぎたかもしれない


だが、これで大まかな自分の回復具合は確認できた


「次は、水分身あたりをやってみるか。」


水分身は水を媒介として自らの実体ある分身を作り上げる術

同じ実体を持った分身を作り上げる影分身と比べて、使用するチャクラの量は少なく、その生成度合いで自分の回復具合をより正確に図れるとイタチは考えていた

早速試そうと、両手を組んだところで



「うううぅ、イタチさーん!どこですかー!」

「・・・ん?」



自分を呼ぶ声を聞いて、イタチは術を止めた


「・・・この声は、千春か?」


若干涙交じりの声だが、間違いない

大方、森羅たちに言われて自分を探しに来たのだろうが・・・


「・・・一体どうした?」


あの涙声が少々気になり、声の発信源に歩みを進める

すると木々の間に、泣きながら徘徊するハルを見つけた


「何をしている?」

「!!? い、イダヂざあああぁぁん!!!」


イタチの姿を確認すると、ハルは突然イタチに抱きついてきた


「・・・何故、抱きつく?」

「だっで、だっで、イダヂざんがごごに行くのが見えだのに、ちっとも見づがらないじ・・・
何時の間に、おなじどごろをグルグル回って、道に迷って、帰り道も全然わかんなくって・・・
どんどん恐くなって、このまま遭難して、影薄いキャラが災いしてこのまま誰も僕に気付かず、
ずっと一人だったらどうじようって考えたら・・・もうどうじだらいいが分がんなぐなっで・・・」

「・・・あ、」


気まずそうに、イタチは呟く

そういえば、幻術をかけたままだった気がする


「・・・すまん。」


あくまで自分基準で考えていたが、この程度の樹林でも一般人からみたら樹海レベルになっていたかもしれない

少々罪悪感を覚えながら、イタチは幻術を解いてハルと共に皆の所に戻った。






「ふ~、遊んだ遊んだ。」

「ですね、錬ちゃん。」


陽も落ちかけて、バスタオルで体を拭きながら錬と美鳩は呟く


あの後、イタチとハルが戻ってきた後久遠寺家は延々浜辺で遊んでいた

錬も美鳩も初めての海外という事で、年甲斐もなくハシャギすぎてしまった

また、ハシャいでいたのは自分達だけではない


ここに来た面子を二チームに分けて、時期外れのスイカを用意していた森羅が
「第五回・久遠寺家西瓜早割り対決」(未有曰く、一から四はやった記憶はないらしい)なる物を開き、例によって、森羅と未有は対立してチームを組んだ

ちなみに、結果はドロー

森羅チームはトップバッターの揚羽が、未有チームはトップバッターの南斗星が、それぞれ一発でスイカを叩き割り、他の人間が一切楽しむ事が出来ず閉幕した

ちなみに割ったスイカは久遠寺家で美味しく頂きました


その後、ドローという結果に満足しなかった森羅と未有は延長戦「久遠寺家水泳リレー対決」を行った

ゲームの終盤、僅差で森羅チームがリードをして、アンカーの揚羽にバトンを渡し


「秘技・アメンボ走り!!!」


などと言って、水面を全力疾走し
それを見て、チームの敗北を悟った未有だったが、自分のチームのアンカーのイタチが



「・・・なるほど、こっちでも水面を歩ける人間はいるのか。」



その後、同じ様にイタチが水面を疾走して揚羽をブッチぎって逆転勝利を収めたりと

異様なテンションで久遠寺家は遊び尽くした訳である。




そして夕食

「おらぁ野郎共!夕飯はバーベキューだ!たらふく喰らいやがれ!!!」

「「「「「「おぉー!!!」」」」」」


別荘の前に簡単なキッチンセットを用意して、大きな肉と野菜を豪快に串刺しにして、鉄板の上でジュウジュウと焼く

一同は夕飯のバーベキューに舌鼓を打ち、食事を楽しんだ

また調理班も朱子、美鳩、イタチの三人がローテーションを組み、それぞれが食事を楽しみ

旅行でテンションが上がり、やや「量を作りすぎたか?」と思われたバーベキューだったが、
皆が満腹になった後も揚羽、南斗星、錬、小十郎の四人がペロリと平らげて


食事は終始楽しく終わった


「ふー、随分食べたわね。」

「私ももうお腹いっぱいだよー。」


未有と夢が感慨深く呟き

朱子が片付けに入った


「そんじゃ、テキパキ片付けますか。」

「我等も手伝おう、馳走になった礼だ。」

「はい、お任せ下さい揚羽さま!」


昼間は遊びつくし、食事も美味しく頂き、片付けが終わった後はそれぞれ割り当てられた部屋に皆は戻った


そして、イタチもまた自分の部屋に戻ろうとした時、未有がイタチに話しかけてきた


「ちょっと良いかしらイタチ?」

「・・・何でしょうか?」


何の用かと、使用人として身構えるが
未有はクスリと微笑んで


「そんなに身構えなくて良いわよ、ちょっとお酒に付き合ってくれない?」









夜の浜辺、そこで錬と大佐は対峙していた

互いの表情には先ほどまでの旅行を楽しんでいた空気はなく、両者の間に流れる空気は緊迫感をもったものとなり、抜き身の刀の様な緊張感を持っていた

錬は大佐に敗れて以来、仕事の終わりには毎日鍛錬を欠かさず、大佐に挑んでいる

そして大佐も、仕事が終わればいつでも相手にすると錬に約束していて、こうして相手をしている

だが未だ勝ち星を上げられず、いつかリベンジを果たす為にこうして大佐に挑み続けている


「いくぜぇ大佐ぁ!!」

「来い、小僧!!」


錬は大地を蹴って大佐に飛び掛る

そして、腕を振りかぶって渾身の一撃を繰り出すが


「なっちゃいない!なっちゃいないぞ小僧!!!」


錬の一撃一撃を、大佐は悉く捌いて叩き落す
だが、それでも錬の猛攻は続く


「クソ!それなら・・・」

「甘い!!」


一瞬の隙を突いて、大佐は即座に距離を詰めて錬の鳩尾にボディーブローを決める


「ぐっはぁ!」


冷気を伴った苦痛が内臓に浸透し、錬は思わず膝を着くが


「ふん、大口を叩いていた癖にもう終わりか小僧?」

「・・・ぐ、まだまだあぁ!!!」


しかし、歯を食い縛って錬は立ち上がる

ダメージが色濃く残り、重くなった体を必死に支えながら立ち上がる
その目に、闘志の光は未だ輝いていた


「・・・ふ、その意気だ小僧!!」

「行くぜええぇぇ!!!」


大佐は満足気に笑い、錬は再び大佐に飛び掛るが


数分後、錬は力尽きて仰向けになって倒れていた



「・・・ちっくしょう・・・またやられちまった。」



目を開けると、そこには満天の星空があった

体に走る痛みに耐えながら、ゆっくり体を起こす


「あまり無理はせん方がいいぞ? わしの攻撃をあれだけ喰らったのだ、今しばらくは休んでおけ。」


上から掛けられた声に反応すると、大佐は自分の隣に腰を下ろして髭を手入れしていた


「くそ、まだ大佐に敵わねえか・・・まだまだだな、俺。」


ポツリと、錬は呟く
それを聞くと大佐は薄く微笑み


「そう卑下するものでもないぞ?お前の腕は着実に上がってきている、初めてお前と手合わせした時とはまるで別人だぞ。」

「・・・自分じゃ分かんねえや。」


軽く拳を握って、自重気味に微笑む

そして錬は大佐に向き合い


「なあ大佐・・・」

「何だ小僧?」


「あんた・・・強くなってねえ?」


「・・・ほう。」


錬の言葉を聞いて、大佐は僅かに驚いた表情をし


「なぜそう思った?」

「何となく・・・ただ、最近っていうか・・・正確には、イタチが久遠寺に来てからだな。
なんつーか、あんたの拳がやたら重いっつーか、内部に響くっつーか、いつもよりも攻撃の一発一発を意識している風に見えた。」

「・・・中々目聡いな、小僧。」


そう言うと、大佐は満足気に笑う
やはり、この男にも見所はある

純粋に、嬉しさから来る笑みだった


「仮にも久遠寺の護衛を任された身だ。それをただ一人の侵入者・・・それも南斗星の二人掛かりで打ち負かされてはな。
まあ、わしも言ってみれば男の子だ・・・お前と同じで負けっぱなしではいられん口だ。」

「・・・イタチ、か。」


大佐が強くなった理由であろう名前を、錬は呟く


錬にとって、大佐は己の目標であり、憧れでもあった


錬は父親に愛情という物を殆ど与えられた記憶はない

そして父親との生活が我慢出来なくなり、父親から逃げて、久遠寺家にやって来て


大佐と勝負して、完膚なきまでに敗北し

そして、久遠寺家の執事になって大佐に挑み続けて・・・


最初は、ただのキザなナルシストのオヤジだと思っていた

だが、大佐のその圧倒的な実力
そして温厚な人柄、年長者としての包容力、厳しくも優しいその在り方


いつの頃からか、錬の中で大佐はいけ好かないオヤジから頼れる大人に・・・そして尊敬し、憧れる存在になっていた


そして、錬は大佐の事を・・・いつの間にか父親の様に思っていた




しかし、その大佐を
更に圧倒的実力で打ち負かす男がいた



「うちは・・・イタチ。」



自分の目標であった大佐、そしてその大佐と同等以上の実力を持つ南斗星

その二人を、あの男は疲労困憊の身でありながら同時に相手にして


そして・・・打ち勝った


信じられなかった

錬の中で、絶対的な強さの象徴の二人が敗れた事が

そんな二人を超える、更なる強さを持った存在がいる事が

錬には、信じられなかった


「なあ、今のあんたとイタチが勝負したら・・・どっちが勝つ?」

「100%わしの負けだな。」


間髪入れず大佐が答える

錬も特に驚きはしなかった


「・・・絶対、負けか?」

「もって十五秒だな・・・今日のイタチが、あいつの全力ならな。」

「・・・マジ?」

「大マジだ。言ってしまえば・・・実力の次元が違う。」

「そう、か。」


錬は再び大の字になって地面に寝そべる

そして、改めて考える


「・・・世界は、広いんだな・・・」

「ああ、わしもこの年で・・・改めて実感したわい。」

「・・・俺、あいつより強くなれるかな?」

「さあな。だが、お前は何と言ってもまだ若い。わしよりは遥かに可能性はあると思うぞ。」

「・・・そっか。」


可能性はある

気休めかもしれないが、その言葉は錬の中に強く響いていた


全ては、自分次第

そして、自分は着実に成長している


「・・・やっぱ、もっともっと鍛えるしかねえな。」

「そうだな、修行あるのみだ。」


目標は、遠い

だからこそ、やり甲斐がある


錬は心の中に、新たな目標と誓いを立てた









「それじゃあ、乾杯。」

「・・・乾杯。」


リビングにて、未有とイタチは向かい合ってテーブルに着き、グラスを手にしていた

未有は自分で作ったカクテル、そしてイタチはアイスティーだ

そして互いのグラスをキンと鳴らす


「本当にお酒じゃなくていいの?今日くらいは無礼講でいいのよ?」

「酒は精神力と集中力を鈍らせますから・・・。」


あくまで自分は使用人、そして護衛でもある

元々病に伏せていた身でもあったから、イタチはあまり飲酒をする事はなかったのだ
むしろ苦手な部類に入る


「真面目ね。まあ私はそこが気に入ってるんだけど。」

「恐縮です。」


そして、互いに一杯口につける

やがてどちらからともなく世間話を進めて


「そういえば、貴方って本当に強いのね。あの揚羽と小十郎を相手にあれだけの事が出来るんですもの、正直言って驚いちゃった。」

「別に大した事ではありません。」

「謙遜しなくても良いわよ。」


未有が賛辞の言葉を言うが、軽く流す
謙遜でも遠慮でもなく、事実をそのまま口にした


「・・・確かに、あの二人は才能があります。天性のものと言っても良いでしょう、
そしてその才に驕れる事なく鍛錬している・・・だが、それだけです。」


イタチの言葉に、未有が不思議そうな表情を浮べる


「・・・それだけ?」

「あの二人に限っての事ではありません。レンにナトセ・・・この二人も同じです、
いずれも発展途上でありますが、いずれ伸びしろを残して成長を止めるでしょう・・・。」

「・・・よく分からないわね。」


イタチはグラスを一口飲むと


「・・・人間、鍛錬を重ねている内に必ずどこかで壁にぶつかります。
その時にありがちなのが、己の力のみにしか目が行かず、物の見方・視野が極端に狭くなる事です。」

「まあ、よく聞く話ね。」

「例えば、目的までの道のりで間違って袋小路に入った時、少し後ろに下がれば容易く道は見つかります。
ですが、視野が狭くなっていると目の前の壁しか目に入らない。後ろに下がる事すら考えず、ただ壁に突っ込んで無理に進もうとする
・・・揚羽、小十郎、レン、ナトセはこの典型と言えるでしょう
・・・勢いに任せてただ前進するのみ、それでは壁を壊せない、道も見つからない・・・結果、潰れます。」


ゆっくり息を吐いて、イタチの言葉は続く


「だから、潰れる前に考えるんです・・・このままで良いのか?このままではいけないのか?・・・
このまま、壁に向かって突き進むか?それとも一歩引いて道を見つけるか?」

「・・・なるほど、それで貴方はどっちが正解だと思っている訳?」


未有は僅かに微笑んでイタチに尋ねる
どうやら、未有には正解が分かった様だ


「両方とも正解であり、」

「不正解、でしょ。」


イタチの言葉を繋げて、未有はフフンと笑う

やはりこの主は聡明だと、イタチは思う


そしてイタチは、ある二人の男の事を思い出す



嘗て、イタチがいた世界ではマイト・ガイという忍がいた

忍術、幻術の才能が全くなく、忍として落ちこぼれ、不適合者、様々な不名誉な烙印を押されていた

だから、彼は残された可能性に縋った

忍術も幻術も出来ないのなら、体術を極めようと

体術を極めて、極めつくして、立派な忍になろうと、
例え忍術も幻術も才能が無くても、努力すれば鍛錬すれば、誰でも立派な忍になれるのだと

彼は考え、それを証明した

血の滲む様な、骨を砕く様な、内臓を潰す様な努力を経て、それを証明したのだ


彼は我武者羅に壁に突き進み、それを壊したのだ


力が無ければ、身に付ければいい


これは、イタチの言った前者の正解例と言える




そして嘗てイタチの「暁」の同士・飛段を倒した忍、奈良シカマル

不死身であり、S級犯罪者である飛段を倒した男がどんなものかと聞いてみれば・・・それはあまりにも凡庸な忍だった


確かに、奈良シカマルには素質があった
並外れた頭脳を持ち、奈良家の秘術を持つ男


だが、一つの戦闘力として見れば彼は明らかに物足りない、平均的な中忍クラスだ

自分の様な刺せば死ぬ、斬れば死ぬ、焼けば死ぬ、沈めば死ぬ、普通の人間を相手にするなら、それでも十分だっただろう

如何に実力があろうと、所詮この身は人の身なのだから


だが、飛段は違う
飛段は、不死身だ


そして、ただの不死身ではなく、優れた戦闘能力と必殺の呪いを併せ持つ実力者


現に飛段は木の葉守護忍十二士の地陸と猿飛アスマ、そして尾獣「二尾」を討ち取っている

木の葉でも優れた戦闘能力を持つこの二人でさえ、最強クラスのチャクラを持つ尾獣でさえ、飛段には勝てなかったのだ


少々頭が切れるだけのネタを仕込んだ忍程度では、その勝率は微塵もなかった筈


しかし、奈良シカマルは単身で飛段と闘い、討ち取った


奈良シカマルは自分の持つ頭脳と情報と術を最大限に利用して、己の戦闘力を補ったのだ


奈良シカマルには、自分が持っている物と持っていない物が分かっていた

分かっていたからこそ、無いものねだりをせず、自分の持つ全ての物をフル活用する道を選んだのだ


力が全てではない、力がないなら別のもので補えば良い


これはイタチの言った後者の成功例と言える



「どちらの道でも良い、重要なのは己の選択を信じる事・・・だが、分かっていてもこれは存外に難しい。」

「特に天才と言われた人間ほど、それが顕著な訳ね。今まで壁らしい壁にぶつかった事がないから、己を信じきれず・・・結果、潰されてしまう。」

「だから、そこが自分の限界だと・・・所詮自分はその程度だと、成長を止めてしまう。」

「揚羽やレンもそうなると?」

「・・・それは、まだ分かりませんが・・・」



だが、今のままではそうなるだろう


現に、今日の揚羽と小十郎の顔には明らかな影が見え始めている

努力・鍛錬したにも関わらず、その結果は報われる事なく
更には、自分が更なる力を隠し持っている事を知ってしまったから


あの二人は、着実に力をつけている
だが、その事を信じきれていない


ただ、自分との力の差があまりにも大きいから・・・自分達は全く成長していないと思ってしまっているのだ

そして、自分とあの二人の差は・・・これからも広がる

自分の体力が回復しきるまで、チャクラを完全に使えるまで、二人との実力の差は広がり続ける


仮に、自分が「お前等は成長している」と言っても、あの二人の心には届かないだろう


あの二人は、ガイと同じタイプだ

挫折や苦渋、辛酸を味わって、それを克服し大成したガイの様な男の言葉でなければ、あの二人には届かない


恐らく、そう遠くない内にあの二人は壁にぶつかるだろう


その結果、あの二人はどうなるかは・・・それこそ、あの二人次第だ


だが・・・


「だが、それさえ乗り越えれば・・・一回りも二回りも成長するでしょうね。」

「中々含蓄のある言葉ね。イタチにもそういう経験があったのかしら?」

「・・・人並みには。」



もっとも、それは主に戦闘以外での事であったがと
イタチは飲み物と一緒に、言葉を飲み込んだ



「・・・なんとなく、貴方が強い訳が分かったわ。
肉体的にも精神的にも強いのなら、向かうところ敵なしという訳ね。」

「・・・そうでしょうか?」

「あら、違うの?」


イタチの言葉に、未有は意外な表情で返す


「・・・確かに、人よりも少々優れているとは思っていますが・・・自分が強いと思った事はないです。」

「また謙遜?・・・そこまで来ると嫌味の領域に入るわよ。」

「事実ですから。」


未有はクスクスと微笑んで返すが、イタチは至って正直な気持ちだった



(・・・確かに、嘗てはそう思っていた時期はあった・・・)


(・・・だが、今は違う・・・本当に、自分が強いと思ったことは無い・・・)



思い出すのは、あの忌まわしい光景



(・・・もし、「本当」に自分が強ければ・・・俺が、優秀だったのなら・・・)



「・・・あんな事を、する必要はなかった・・・」


「何か言った?」

「いえ、何も・・・」



どうやら、旅行で舞い上がっていたのは・・・自分も同じらしい

知らず知らずの内に、口が軽くなっている



「随分とネガティブな意見ね。やっぱり、貴方でも敵に回したく人間っているの?」

「ええ、居ますよ。」

「ふ~ん、ひょっとして我が久遠寺家にもそういう人間は居る訳?」


薄い微笑みと共に放った未有の言葉

それは未有にとって冗談交じりの言葉

イタチの後ろ向きな発言を聞いて、ふと思い付いた言葉であった

イタチは肉体だけでなく、精神的にも秀でている

大佐や姉の森羅とのやり取りを見ていれば、その事が良く分かる


未有としては少しイタチをからかうつもりで言ったのだ


だから








「ええ、居ますよ。」








この、イタチの言葉は

未有にとって、予想外であった


「・・・へ?」




「貴方の言うとおり、俺は久遠寺家の人間で一人・・・敵に回したくない人間がいます。」




未有が呆然とするが、イタチの言葉は続く



「それは家長の森羅さまでもなければ・・・執事長の大佐でも、護衛のナトセでもありません。」


「・・・中々、興味深いわね。それで、一体それは誰の事かしら?」



未有が驚いた様にイタチに尋ねる


「・・・・・・」


そして、僅かな沈黙を置いて


イタチはポツリと、その人物の名を言った












「上杉美鳩です。」

















続く





後書き 少々更新の日が空いてしまいました、これからはもう少し気をつけたいと思います。
    前半は書きたかった小ネタを一気に出してみて、後半はイタチと未有の会話を書いてみました。

    本編の後半、イタチが長々と言っていますが・・・言いたい事はただ一つ


    鳩ねえ最強、ただそれだけです(笑)。


   それでは、次回に続きます!!



[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)・第十話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/07/27 23:09



久遠寺家の別荘から少し離れたリゾートホテルにて

その二人は居た



「よっしゃあ!! きたきたー!スリーセブン!」

「凄いよベニ!今日は当たるね。」

「あーっはっは!私に掛かればざっとこんなもんよ!!!」



ホテルのカジノフロア
朱子と南斗星はそれぞれ赤と黒のナイトドレスを身に纏って、カジノに興じていた

現在、朱子がプレイしているのはスロットマシーン
そしてそのスロットは、三つの「7」という数字が並んでいた


そして、ジャラジャラと大量のコインがマシンより排出される

ベニスはそのコインを両手に取って、恍惚の笑みを浮べていた



「う~ん、この雅な輝き。たまらないわ~。よっし、今日はジャンジャン稼ぐわよー!!」

「ははは、でも今日は本当にベニは乗ってるねー。」



南斗星はテーブル一杯の料理に舌鼓を打っている

元々、ホテルの料理をご馳走するからと言われて朱子に付いてきたのだが
朱子は思いのほか好調のようだ。


「ねえベニ、追加を頼んでもいい?」

「追加? フルコースでも満漢全席でも好きなのを頼みなさい!! 全部私のオゴリよ!!」

「本当!! やったー!!」


南斗星が歓喜の声を上げて、朱子は更にカジノ興じていく

その後も、朱子の快進撃は続いた

スロット、ブラックジャック、ポーカー、ブール、ルーレット・・・

その日は負け知らずだった。


チップは山の様に溜まり、朱子のテンションは最高潮に上がっていた





だから、気付かなかった




自分達の事を、下卑た視線で見る者達がそこに居た事を・・・。










第十話「奪還」











「・・・み、美鳩?」

「ええそうです、上杉美鳩です。」



未有は僅かに驚いてイタチを見る

その顔は冗談を言っている様にも、自分をからかっている様にも見えない

至って真面目
だからこそ、未有はイタチの言葉に驚いた


「ミハト・・・美鳩ねぇ、確かに美鳩は一癖も二癖もある人間だけど・・・
貴方がそこまで言うほどなのか?と聞かれると、私も少々考えさせられるわね。」


付き合いこそはまだ二月程度だが、未有は美鳩の事を良く知っている

確かに、美鳩はイタチとタイプの違う強さを持っている人間だ



イタチは戦闘能力や模倣技術といった、分かり易い強さを持っているに対して
美鳩一筋縄ではいかないトリッキーな特技を持つ、ジョーカー的な強さを持っている



だが、イタチと比べると・・・美鳩は少々見劣りしてしまうだろう
それほど、イタチという人間は自分達にとってインパクトの大きい存在だったのだから



「では未有様に質問します。人間にとって一番やっかいな、危険な、なるべく敵に回したくない物・事・人間はどんなものだと思いますか?」

「・・・そうね。」



未有は顎に手を置いて考える
過去の自分の経験や体験を思い出して、答えを出す



「思いもよらない・・・全く予想外の事、かしら?」

「やはり、貴方は聡明ですね。」



恐らく、これは正解と取っていいのだろう

未有の回答を聞いて、イタチは言葉を続ける



「そう、考えもつかない予測不可能な事・・・それが一番敵に回したくない事です。
例え対象となる問題が、自分の手に余る、自分の能力を超える問題であっても、予想・予測が出来るのなら、ある程度対処はできます。
例えば人身事故が良い例ですね、世の中の大半の人間は医師免許、技術を持っていませんが応急処置はできる。被害の拡大を防ぐ事は出来る。」

「確かに・・・あらかじめ、その可能性があると分かっていれば人間は解決は出来なくとも、対処はできるわね。」

「例えばこの瞬間、『一分後、この久遠寺家の別荘に隕石が直撃する。』という情報が入ってきたとしましょう。
もちろん私達に隕石を止める手立てはありませんが・・・ここから逃げて避難する事はできます。
それは所詮焼け石に水かもしれませんが・・・やらないよりはマシです。
もしかしたらそれが切っ掛けで、億に一つの可能性で助かるかもしれませんしね。」



イタチの言葉を聞いて、未有が言葉を続ける


「・・・でも、その情報すら知らない。その可能性すら知らなかったら、そうはいかない。」

「ええ、皆仲良くあの世行きで終了です。」


そう言って、イタチはグラスにアイスティーを注ぐ
そして、一口含んだ


「人間、予想が出来るのならそこから予測が出来ます。そして予測ができるから対策を考え、対処ができるんです。
本当に恐ろしいのは、予想すら出来ない事、考えもつかない事です。そして、美鳩はそういうタイプです。」

「・・・確かに、美鳩はそういう面も持ちあせているわね。」


生来の能力の高さもあるのだろうが、妖しげな特技、その奇天烈的な行動と性格
様々な意味で、久遠寺家の家長・森羅と同等以上の存在と言えるだろう


「確かに、単純な戦闘力では美鳩は大佐や南斗星に大きく劣るでしょうが・・・それは俺からすれば些細な問題です。
美鳩は何をしてくるか分からない、想像がつかない・・・なるべく、そういう手合いは敵にしたくはないですね。
・・・多分、大佐も同じ様な評価を美鳩にしていると思いますよ。」

「・・・なるほど、まあ納得できる話ね。単純な殴り合いでも、美鳩が負けるという姿はなかなか想像できないわ。」

「多分、揚羽程度なら喰いますよ。」


それは過大でも過小でもない、イタチが美鳩に持つ正当なる評価

美鳩は単純な戦闘力を持たないが、得体の知れない「何か」をもっているタイプだ

それは、単純な戦闘力の優劣よりも重視しなければならないもの



嘗てイタチは、美鳩に完全に背後を取られた事があった

あの時は病み上がりと言えど、見知らぬ土地と敵地に居たという事で平時以上に気を張り巡らせていた筈だった

だが、美鳩に声を掛けられるまで
自分はその存在に毛ほどにも気付かなかったのだ


つまり単純な隠密性のみで言えば・・・美鳩はサスケ以上と言えるかもしれない


もしも、アレが実戦だったら・・・

美鳩が、完全に自分の事を「敵」として見て、それに対処する行動を取っていたら


自分は、美鳩に負けていただろう。



「随分美鳩に高い評価をつけているのね。」

「低くつけるよりは良いかと。」

「ふふ、同感ね。」


未有は楽しげにクスクスと笑い、カクテルを一口飲む
そしてイタチに向かい合う。


「ねえ、イタチ・・・私の専属にならない?」

「・・・はい?」

「貴方と美鳩、久遠寺家での全くベクトルの違う『最強』が揃えば、姉さんも私においそれと手出しは出来ない筈だもの。
私は貴方の事を気に入っているし、どうかしら?」

「そうですね・・・」

「ね、良いでしょ?ぜひ貴方に履いてもらいたい半ズボ・・・ゲフ、ゲフン!大丈夫よ、大丈夫、悪い様にはしないから、ね、ね、良いでしょ?」

「酔っているんですか?」


急に息を切らせて、なにやら興奮した様子で未有は自分に問いかけてくる

顔も妙に紅潮しているし呂律も怪しい事から、アルコールが回り始めてきたのだろう。


「・・・もうお休みになられた方が良いですね。」


時計を見ると、既に日付が変わっていた
どうやら、かなり長い間世間話をしていたらしい

溜息を吐いて、イタチは未有を寝室まで連れて行った

部屋まで着くと、未有はすぐさまベッドに倒れこみ、スヤスヤと寝息を立て始めた。


「・・・やはり、酒はよくないな。」


イタチはそっと呟いて、未有に布団を掛けなおして部屋を出た


そして、念のために別荘の戸締りを確認する

ざっと巡回して、チェックが終わったら軽く仮眠をとろうと思って・・・

イタチはある事に気付いた。



「・・・靴が、少ない?」


それは玄関の戸締りを確認している時だった、玄関の靴入れに入っている靴の数が少なかったのだ

そして、更に視線を移す


「・・・鍵が、開いている。」


玄関の戸の鍵は開いたままであった

もう夜も深けていて、外で鍛錬をしていた大佐と錬も別荘に戻っている

つまり、誰かが出かけ・・・まだ戻っていないという事

残っている靴から察するに、出かけたのは・・・


「朱子と、南斗星か・・・」


「何をやっているんですか?」


声を掛けられて、振り向く
そこには、イタチが想像したとおりの人間が立っていた


「・・・美鳩か。」

「あら、驚かないんですね。」


美鳩が不満げな表情をしながら呟く


「・・・未有様と俺が話していた時、ずっと俺の事を監視していただろう?」

「何の事ですか~?」


そう言って、美鳩は笑顔を崩さず俺に返して

どうだか、と心の中で呟く

まあ、話は流石に聞いていないだろう


流石に話を聞かれる程接近していたのなら、自分はともかく未有にとっては決して気持ちの良いものでもないし


そこまでプライバシーを侵害するほど、美鳩は無粋ではないだろう

そして再びイタチは美鳩から靴へ視線を移した。


「それでどうしたんですか、こんな所で?」

「いや、朱子と南斗星の二人が出かけてまだ帰ってきていないようでな。少し気になっただけだ。」

「・・・ベニちゃんと、南斗星さんが?」


イタチがそう言うと、美鳩は僅かに顔を顰めた
どうやら思うところがあるようだった。


「・・・どこに行ったか、知っているのか?」

「ええ、南斗星さんを連れて少し離れたホテルのカジノに行くとかで・・・」

「カジノ?・・・賭博か。」


確かカジノとは、この世界にある大型賭博施設だった筈だ

だが、それにしては帰りが遅い


そして賭博という言葉に、イタチは何か引っ掛りを覚えた。



(・・・待て、確か「暁」の任務で資金調達を任された時・・・アレは確か・・・)


嘗ての「暁」のリーダー・ペインに言われての資金調達任務

その概要を思い出し


「・・・まさか、な」

「???どうしたんですか?」

「・・・美鳩、」


僅かに考えて、イタチは美鳩に視線を移す



「二人が行った場所、その正確な位置は分かるか?」














カジノのフロアから離れた、とある一室
そこに朱子と南斗星はいた



「・・・ま、何も難しい話じゃない。金が無いなら、体で払って貰おうって話をしてるだけだ。」



朱子と南斗星を視界に納めて、その男はニヤつきながら言う


朱子は、そんな男を睨みつけて舌打ちをする

今思えば、あそこがケチのつき始めだったのだろう

カジノに興じて、出だしこそは好調であったが・・・ルーレットで大敗して、チップの殆どを取られてしまったのだ

負けっぱなしではいられないと、南斗星がもしもの事を考えて持参した食事用の資金も使い勝負に挑んだのだが・・・あえなく敗北

正真正銘一文無しになったところで、この目の前の男
このカジノの支配人が、自分に借金を申し出てきたのだ


そして、結果は惨敗


チップを使い切ったところで、自分と南斗星はこの部屋に連行されたのだ

そして、今に至る



「ふん、恨むのなら・・・運を使い切った自分達を恨むんだな。」

「・・・どうする、ベニ」



南斗星が自分と背中合わせになって、ムエタイのポーズを取る

既に周囲は黒服の男達に囲まれて、逃げ場はない。



「いざとなったら本気で・・・」

「やめなさい、南斗星。」



戦闘モードの南斗星を、左手で制する

この程度の修羅場は、何度も味わった
この身は仮にも、偉大なる主・久遠寺森羅に仕える身



借金から逃げ帰るのではなく、どうどうと全額返済してから久遠寺家に帰るべき

だから、腹を括った。





「言っておくけど、私は安くはないわよ。」










そして、私と南斗星はバニーガールの衣装を身に纏い、フロアに出る事になった

南斗星はフロアでウェイトレス
そして私はバーテン


かつて料理屋で働いていた時の要領で、笑顔を貼り付けて仕事をこなす

南斗星はぎこちない笑みで、たどたどしく仕事をこなしている
最初はあれで大丈夫か?と不安だったが、初々しいとかえってウケている様だった


客の注文に答えて酒を用意しながら、私は今後の事を考える

まず、タイミングを見計らって久遠寺家に連絡を入れなければならない

森羅様には後で怒られるだろうが、心配を掛けさせるよりはずっといいだろう。



「ベニ、飲み物が切れちゃったから新しいのを貰える?」

「ん、了解。」



問題は南斗星だ
元々、南斗星は私の付き添いでここに来ただけだ

南斗星は無関係だ

このバニーの仕事だって、南斗星に後は任せて帰れと言ったのにあのバカは、




「一人よりも、二人で働いた方が早く借金を早く返せるよ。」




と言って、聞かなかった


南斗星は・・・そういう奴だ


だから尚更・・・これ以上巻き込む訳にはいかない


今はそれほど過激なことはされていないが、それも時間の問題だろう


あの支配人の下品な笑みと、下品な視線
かつて私の体目当てだったオヤジ共と、同じ物だ。


後であの支配人に、無理矢理にでも南斗星を止めさせて久遠寺に帰らせなければ・・・




「・・・あんまり、無理すんじゃないわよ。」

「うん、ありがとうベニ。心配してくれて。」




そう言って、飲み物を補充する

この後の算段を考えながら、仕事をしていると



「そろそろショーの時間だ、ステージに上がる準備をしておけ。」




そう言って、支配人は私と南斗星に衣装を渡してきた
ステージ用の衣装だ


そして、その衣装を手にとって
私と南斗星の顔は、一気に青ざめた


布地が、極端に少ない
こんなのは、ストリップも同然だ。



「ちょっと!こんなの聞いていないわよ!!」

「何だ、お前等に拒否権があるとでも思っているのか?」



支配人が視線をステージに向ける


そこには、自分と同じ様な衣装を着た女性従業員が、スタンドポールで官能的なポーズを取っていた




・・・あれを、私と南斗星にやれっていうのか!・・・




怒りに頭が熱くなるが、必死で堪える
それ以上に、想定外だったからだ


この手の事をやらされると、薄々見当はついていたが・・・こんな衣装、着れる訳がない

私だって女だ、こんな衆目の前でこんなバニーガールの衣装を着ているだけでも虫唾が走るのに・・・

こんなストリップまがいの衣装で、ステージに立たされて、下品な輩の下卑た目で見られるなんて

想像するだけで汚らわしい。




「・・・だからって、こんな!!」




南斗星に視線を移す
南斗星は衣装を手に取り、涙目でプルプルと震えていた


それを見て、男はサディスティックな笑みを浮べていた
私の様な強気な女が、南斗星の様なお人よしが

拒絶しながらも嫌々自分の思い通りに動くという事が、男の加虐趣向を一層煽る結果になっているのだろう


だが、このまま「はい、そうですか」と首を振るわけにはいかない

せめて、南斗星だけでも守らなくては


そう思っていた所で















「良いじゃないですかベニちゃん、多分似合うと思いますよ。」



「煽るな、美鳩・・・しかし、ここの甘味は美味いな。」















・・・は?・・・







思わず、私と南斗星の目が点になる

そして、ギギギと壊れたからくり人形の様に首を動かす




そこには、カウンター席に座る執事服のイタチとメイド服の美鳩(はと)がいた。







「イタチくん!美鳩さん!!」

「あんた達!どうしてここに!!」


私達は、思わず二人に駆け寄る



「お前等の帰りが遅いからな、迎えに来た。」

「あ、写真とって良いですか?森羅様に見せたら喜んでくれそうなので。」



イタチが呆れた様に呟き、鳩がニコニコしながら私にデジカメを向けている

だが、そんな事はどうでもいい
こいつらがココに来ているって事は、森羅様達も・・・


そう思って、私が辺りを見回した所で



「森羅様達なら、今頃就寝なさっている。」

「この程度の事で、森羅様のお手を煩わせるにはいきませんからね。」

「・・・お前も、来る必要は無かっただろう。」

「いえいえ、折角ですから記念に本物のカジノという物を見ておこうと思いまして~。いやー、でも凄い熱気ですね。」



二人が私に告げる

確かに、ここにいるにはコイツらだけ
森羅様や未有様はもちろん・・・同じ使用人の大佐もいないようだ


良かった、とりあえず森羅様達は来ていないらしい。


・・・つーか、鳩・・・良くメイド服でここに入れたな・・・


ほっと一息吐いたところで




「困りますねーお客様、勝手に話を進められては。」




私達のやり取りをずっと傍観していた支配人の男は、私達に割って入ってきた



「この二人のお連れ様か何かですか?」

「ええ、そこの眼帯のお嬢さんだけ。」

「っておい!私は違うんかい!!」

「茶化すな、美鳩。」

「クルックー。」



私は思わず突っ込むが、美鳩は終始笑顔、イタチは無表情


断言する!やっぱ、私はコイツらが気に食わない!



「そちらの言う通り、この二人は俺たちのツレだ。帰りが遅いから迎えに来たのだが・・・」

「迎えに来たのに、バニーガールの格好をなさって働いているものですから・・・私達も困惑していたところなんですよ~。」

「・・・なるほど、ではこちらからざっと事情を説明しましょう。」



そう言って、支配人の男はイタチと鳩に私達がどうしてこうなったのか説明した

最初こそ、支配人を怪訝な表情で話を聞いていたが
話が進むにつれて、その表情はどんどん変わり



「・・・ギャンブルに、借金・・・」


「自業自得ですね~。」



呆れた様に、二人が私を見て呟く



「・・・典型的な、ギャンブルで身を滅ぼすタイプだな。」

「同感です~。ですがここまで分かり易いと、かえって感動してしまうのは何故でしょう~。」

「知らん。」

「もういいわぁ!」



思わず叫ぶ、そこでタイミングを見計らって支配人が再び出る



つーか、さっきからコイツ等息あってんなぁオイ!



私はこめかみに青筋を浮べて二人を睨むが



「と、まあそんなところです。事情はお分かり頂けたでしょうか?」

「確かに、そちらの言い分は概ね正しいな。借りた物を返すのは道理だからな。」

「お金が無いのなら、働いて返すのは当然ですからね~。」

「話が解る方々で助かります。無論この二人が借金を全額返済すれば、我々が責任を持ってこの二人をそちらに送り返します。」



そう言って、支配人はニヤリと微笑む

確かに、支配人の言う事は何一つ間違ってはいない

だが、それではダメだ

正しいからこそ、ダメな部分もある



「・・・イタチ、ちょっと。」

「何だ?」



私はイタチの手を取って、支配人達から距離を取る

こいつの事はいけ好かないが、今はこいつしか頼れる人間がいない



「・・・私がこの後、何が何でもあいつらとは話をつける。そしたら、南斗星を力づくでも良いから連れ帰って。」

「・・・なに?」



イタチが怪訝な表情をするが、私は構わず続ける



「・・・南斗星は、元々私のツレってだけで巻き込まれただけ。
でもあのバカ、自分が拒否すれば最初からこんな事をしなくていいものを・・・
『借金が早く返せる』って言うだけで、私に付き合ってくれてるのさ。
・・・でも、これ以上は付き合わせる訳にはいかない。
あんたなら、暴れる南斗星を力づくで押さえ付けてでも、久遠寺にまで戻る事はできるでしょう?」

「・・・・・・」



イタチの無言を肯定と捕らえて、私は話を続ける



「なんとか私が上手くやるわ・・・それじゃ、後は頼んだわよイタチ。」



そう言って、私達は支配人達の所まで戻る



「話はついたかね?」

「ええ、ついたわ。」



私が答えると、支配人は「そうか」と頷いてクックと笑う

込み上げる怒りを飲み込んで、私は支配人と話をつけようとした所で・・・





「いくらだ?」





「「・・・はい?」」





私と、支配人の声が重なる
今の言葉を放ったのは、イタチだ

そして、イタチは再び言う。










「この二人の借金はいくらだ?」













続く









後書き 今回は描いていて、あまりにも量が多くなった為、二話に分けて投稿する事にしました。次回は、明日にでも投稿できると思います!
    ちなみに今回はアニメのストーリーからの二次創作になってます、アニメの朱子南斗星・奪還とは違うイタチが絡んだ奪還になります。


    それでは、早めに次回は更新します!!





    次回予告・「結成・最強タッグ」










[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)・第十一話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/07/28 19:51




*注意・今回の話では、カジノに関するルールをいくつか書いていますが、作者が調べたところ実際はお店によって細かいルールや上限金額は異なる様です。
 
今回この作品で出てくるカジノのルールで、「あれ、このルール自分が知っているのと違うな~」と思っても、スルーする方向でお願いします。

  あと、本来カジノでは配当率以外にも、控除率という親元に渡るチップが存在しますが、いろいろややこしい計算になるので本作品では省いています。

  以上のことを良く注意した上で、本作品をお楽しみ下さい。




========================================





「いくらだ?」



「「・・・はい?」」




私と、支配人の声が重なる
今の言葉を放ったのは、イタチだ

そして、イタチは再び言う。





「この二人の借金はいくらだ?」








第十一話「結成・最強タッグ」








「・・・ちょ!アンタ何言ってるの!!?」


私がイタチを問い詰めるが、こいつは表情を変えずにそこにいる
そして支配人はそれを見て


「・・・それは、貴方がこの二人の借金の肩代わりをするという事ですか?」

「そうだ。この二人の借金を全額返済すれば、そちらも文句はないだろう?」

「・・・なるほど、確かに。」


イタチの意見を聞いて、支配人は頷く


「それで、借金の額は?」


だが、次の瞬間この支配人は更にとんでもない事をいった。


「しめて100万ドルです。」

「・・・はあ!!」

「ひゃ、ひゃくま!!」


私と南斗星の声が、思わずハモる

だって、100万ドル!? 私が借りたのは・・・え~と、3千ドル?まあその程度だった筈だ

断じて、100万ドル・・・日本円にして一億以上もの大金なんか借りていない!


「・・・ベニちゃん、そんなに借りたんですか~?」

「んな訳あるかああぁ!私はそんなに借りていないわよ!」


私が再び叫ぶが、支配人は顔色一つ変えず


「この二人が借金を返せなくなった時点で、この二人は我がカジノで「雇用」した「従業員」です。
ですから本人からならともかく、赤の他人である貴方達がお金だけ出して「ハイ、おしまい」というのは些か乱暴な話だと・・・
やはり、それなりの「筋」を通して貰わないと。見たところ、日本の方々ですよね?日本にもそういう言葉はあるでしょう?
「郷に入っては郷に従え」でしたっけ?」


支配人は、ニヤニヤしながら私達を見る

ふざけんな
そんなのは筋でもなんでもない

こいつら、結局の所私と南斗星を手放す気は無かったのだ
私と南斗星の「商品」としての価値が無くなるまで、使い倒す気でいたんだ。

ふつふつと、私の怒りが湧いてきた所で・・・


「つまり、借金を返すのではなく・・・この二人を、買えと?」

「リアル人身売買ですね~。」

「人聞きが悪いですね~。違いますよ、筋ですよ、ス・ジ。」


二人の言葉を返して、支配人は更にニヤニヤと気味の悪い笑みを浮べる

それは、既に自分の勝ちを確信している笑みだった。


もう我慢の限界、腸なんてとっくに煮えくり返っている

私がブチ切れようとした、その時






「分かった、用意しよう。」






イタチは、

さらりとそんな台詞を言った

そしてざっと辺りを見回して言葉を続ける。


「・・・幸い、というのもおかしい話だが・・・ここは賭博だ。」


そして



「金が無いなら増やせば良い。」



と言った。









イタチはその後、自分の所持金のおよそ八万円を全てチップに替えて
朱子が惨敗したルーレットまで来ていた(久遠寺家での仮採用時代、イタチは森羅から日払いで給料をもらっていました)

ちなみに、朱子と南斗星のステージ行きはとりあえず見送りとなった。


「余興はゆっくり見たい」とは、支配人の弁だ


ディーラーが、ゆっくりとヨーロピアンルーレットのホイールを回す


そして、イタチはまだチップを賭けず
他のプレイヤーがルーレットをやっている様子を黙ってみていた。



「・・・ちょっとイタチ、あんな大見得切って大丈夫なの?」

「そんなのは知らん、ギャンブルとはそういうものだろ?」

「ておい!自信ないんかい!!」


しれっとイタチは言う

朱子はイタチに掴み掛かりそうになるが


「自信は無いが、」

「・・・ん?なに?」


イタチは、朱子の瞳を真っ直ぐ見て



「お前達を連れ帰る事は、真剣に考えている。」



静かに言い放つ

「・・・!!!」


そして、再び視線を移す
その目は、真っ直ぐにルーレットの台を捉えている。


「・・・で、どうすんのさ?チップはもったまんまじゃ増えないよ。」



こいつは、さっきからずっと他のゲームを見る訳でもなく

チップを賭ける事無く、じっと他のプレイヤーがルーレットをしている様を見ている。



「・・・少し、確認したい事があるからな。」










(・・・これで、通算20ゲーム目か・・・)

イタチはルーレットを見ながら、静かに考える

イタチがルーレットを選んだのは、理由がある。


一つは、朱子が大敗し最後にプレイしたゲームだったから

そしてもう一つは、完全に運任せ、装置任せのゲームだったから


黒い瞳で真っ直ぐにルーレットを見つめて、イタチは考える


(・・・回転速度、回転数に比例する球の初速、運動量は・・・大まかに把握できた・・・)


そして、ゲームは淡々と進む


(・・・台と球の間に生じる摩擦係数・・・把握・・・)


その全ての情報を、イタチは頭に刻み付けて、考える。


(・・・球の初期位置と最終位置における、これらの要素の関係性・・・イレギュラー・・・法則・・・)


何度も頭の中でシミュレートをして、ルーレット台を見つめる


頭の中でルーレットを回し、球を転がせる

現実と、脳内のギャップを埋める

仮想の現実を、目の前の情報で補い肉付けして、より現実に近づける


予想を予測に、予測から法則に


その上で、イタチは考える。



「・・・そろそろ、行くか。」



イタチの前のプレイヤーが席を離れ、その台はプレイヤーがいなくなる


「・・・席を借りるぞ。」


ルーレットが回る
イタチが動いた。



「ベットする、賭けるのは偶数だ。」


そう言って、イタチは300ドル分のチップを賭けた。




イタチの居た世界にも、勿論こういった賭け事はある

だが、それらはサイコロを用いた丁半や大小、花札

スロットマシンやパチンコと言ったものが多く、ルーレットの様な物は賭博に滅多に存在しない


理由は、「忍」の存在である

サイコロは用いるカップに特殊な術式を刻み、「透遁」の術を用いたイカサマを防ぎ

花札にも勿論同じコーティングが施され

またマシンの類には、チャクラを感知するセンサーの様な物が施され、忍術を用いたイカサマを行えば直ぐに警報が鳴り


更には、殆どの賭博にはイカサマ防止用の警備の忍がついている


そうでもしなければ、賭博という物自体が成り立たないからである。


だが、ルーレットはそうはいかない
忍は総じて、一般人よりも能力が高い

最下級の下忍でも、一般人を遥かに超える身体能力を持っている


殆ど一定規則で、しかも程よい速度で台が回り、球が転がり・・・その止まる位置を予想するルーレットは、
忍者にとってはこれ以上にないカモ

何のイカサマもせずに、全ての情報を目に、頭に、脳に刻んで・・・対処すれば簡単


少なくとも、どの辺りで球が止まるかは・・・かなり高い精度で予測できる


だから忍が存在したあの世界では、この様なルーレット式の賭博は滅多に存在しなかった



そして、イタチはこのルーレットの情報を概ね把握し終わった


つまり



「偶数」


「偶数」


「奇数」


「偶数」


「奇数」



イタチ、連勝である

イタチの賭けたチップは、もとの300ドルから19000ドル近くに増やしていた

元手の、60倍以上である。


「ろ、ろろ六連勝おおおぉぉぉ!!!」

「凄い、凄いよ!イタチくん凄いよ!!」


朱子が驚嘆の声を上げ、南斗星は歓喜の声を上げる

しかし、イタチは二人ほど喜んでいなかった。


(・・・このままでは、埒があかんな・・・)


そもそも、イタチのやり方はあらかじめ落下地点を脳内演算で割り出し

ベットタイム終了直前まで、考えて計算し

イレギュラーを含めた誤差も想定して、堅実な賭け方をして手堅く勝ちを築くというもの


ルーレットの盤上では、数字は規則正しくではなく、乱立されて並んでいる


そもそもイタチはさっきから偶数奇数で賭けているのも、その数字の並びが原因だ

ルーレットは赤と黒の交互、偶数奇数が二ずつ交互に並んでいる


数字表にならって賭けるやり方では、どうしても効率が悪い。




しかも、目標の100万ドルはまだまだ遠い

それに、このやり方は大いに精神力と集中力を消耗する


朱子や南斗星からは、自分は涼しい顔をして当てた様に見えるだろうが


(・・・このままでは、流石にキツイな・・・)


実際は、神経を擦り減らし、冷や汗物の勝負だった

実際、いつミスして今までの利益を台無しにしてもおかしくはなかった


はっきり言って、このままでは分が悪い。


だから








「なんだか、私も見ているだけでは暇ですね~。」








ここで、美鳩が動く。





「イタチさん、チップを分けてくれませんか? 支配人さんも構いませんよね?」

「え?ええ、当店ではお客様同士のチップのやり取りは違反ですが・・・
一度精算して、現金にした上でお客様同士でやり取りなさって、その上でチップに替えるのなら問題ありません。」


支配人が困惑しながら美鳩の質問に答えて、イタチに向き直る。


「だ、そうです。」

「・・・ああ、持っていけ。」


イタチと美鳩は目配せして、チップを分け合う


そして、およそ9000ドル分のイタチと色違いのチップを美鳩は受け取り、席に着く


そしてベットタイムが始まり、ルーレットは回る



「・・・ベットする、横一列28-30。」

「それなら、私は赤の「7」の一目賭けで。」



イタチは8000ドル分のチップを、2000ドル分のチップをそれぞれベットする

そして、ベットタイムが終了するが、イタチは動かない
今の所は、このままでも問題は無いからだ。



急な高配当を狙った二人の行動


「ちょっあんたら!いきなりどうしてそんな!!」

「危険だよ、今からでも考え直した方が!!」


それを見て、朱子と南斗星は一気に不安と緊張が走るが
二人は表情を崩さない。


元々、分が悪い勝負なのだ

ある程度、無茶をしなければ目的には辿り着けない



それに、このやり方には訳がある

ルーレットでは、28、7、29の数字は三つ並んでいる


イタチの穴を美鳩が埋める共同戦線


イタチは今まで以上に回る盤面を、そして球の動きを注視して、シミュレートを行った


失敗すれば、今までの半分の利益を失う

だが、成功すれば・・・一気に目的地までの距離は縮まる



美鳩はニコニコと笑っているが、イタチからすれば綱渡りものだ

そして、ゆっくり球が止まる。



止まったのは


黒の



29




「「いやったあああぁぁ!!!」」


「あらあら、はずれちゃいました。」

「・・・ふぅ。」


朱子と南斗星がお互い抱き合って、歓喜の叫びを上げる

イタチが今回行ったのは、三目賭け

配当は約12倍

8000×12=96000(ドル)


そう、これで二人の総資産は10万ドルを超えた


イタチは視線を移す

朱子と南斗星は既にいけいけモード、かなりのハイテンションで自分達を見ている
そして、それに対してギャラリーも大いに賑わっている


だが、肝心の支配人の顔は

明らかに引き攣り、歪んでいた。






(・・・さて、そろそろか・・・)





既に、種は撒き終わった

後は、獲物がどう食いつくかだ


心の中で呟いて、行動に移す。


「美鳩」

「・・・はい?」


イタチに呼ばれ、美鳩が振り向く

そして、ボソボソと小声で何かを呟く。



「・・・と、いう訳だ・・・頼めるか?」

「なるほど~、分かりました。」

「二人でさっきから何をコソコソしてんのさ?」



イタチと美鳩のやり取りを、不審に思った朱子が尋ねるが

二人は意に介した風でもなく


「いや、ここまでくれば・・・もう危険な賭けはせず、堅実な賭け方で手堅くいくかを話していた。」

「そうですよ。さっきは流石に冷や汗ものでしたからね~。」


二人の回答を聞いて、朱子と南斗星は「確かに」と頷いて


「そうだね。さっきなんか見てるだけで凄くドキドキしたし・・・」

「確かに、あれは心臓に悪いわね。」


納得して、再び頷く

そうして、二人はゲームを進めていった。








(・・・な、なんなんだコイツら!!!・・・)


支配人の男は、驚愕と焦りに顔を歪ませながら二人のゲームを見ていた

この二人の有り金は・・・たかが800ドル程度だった筈だ

この二人の様子からして、そこそこ自信はあるようだが・・・目標額は100万ドル

絶対に、届く筈がない


なのに


(・・・それが、十回程度のゲームで10万ドルだとおおぉぉ!!! バカなああぁぁ!!!・・・)


歯軋りしながら、心の中で叫ぶ


最初は、何かのイカサマかとも思ったが
ルーレットは、全ての作業がディーラー任せだ


プレイヤーがイカサマなんて、出来るわけがない


だが、あの二人は・・・悉く狙いを的中させて、チップを増やしている

目や雰囲気を見てみれば解る
あの二人が悉く勝ちを築いたのは、単なる運ではない


何らかの、絶対の根拠があって・・・あの二人は勝ち星を上げている


現在、目標の約一割
しかも、ここからは堅実なやり方でいくと二人は言っている


ここから先
この二人は間違いなく更なる勝ち星を増やしていく

自分の本能が、そう告げていた。



(・・・ふざけるな!こんな事で、あんな上玉の女二人を手放せるかあぁ!!!・・・)



再び、心の中で憤怒の叫びを上げる

このカジノは、近年売り上げが落ちている

売り上げを上げるには、カジノ以外にも手を加える必要がある


だから、支配人は朱子と南斗星に目を着けた

この二人には、どことなく「華」があるからだ

これだけの上玉をステージに上げれば、このカジノの売り上げは更に伸びると思ったからだ。



(・・・潰すなら、今のうちだな・・・)



支配人の目に、妖しい光が宿る

そして、ディーラーにむけてサインを送る


(・・・やれ・・・)


サインを送ると、ディーラーは小さく頷いた。








「ベットだ、奇数に2万ドル。」

「私は今回、見送らせていただきます。」


回るルーレットと球を見て、シミュレートを行う
よし、問題は無い

そしてルーレットは止まり、球はゆっくりと失速していく


「・・・・」

「・・・!!」

「あ!!」

「え!!」


球が、止まる

止まったのは、赤の36



ココに来て、イタチの初黒星
2万ドル分のチップは没収される



「・・・ま、まあ一回くらいは仕方ないわよ!」

「そうだよ。今回は被害が少ないし・・・大丈夫だよ。」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


朱子と南斗星がそれぞれ慰めの言葉を掛ける
しかし、イタチと美鳩は無言

イタチは気を取り直してゲームを進めるが



「ベット、赤に2万ドル。」


結果、黒の4


「・・・ベット、偶数に1万ドル。」


結果、赤の25


「ベットだ、奇数に2万ドル。」


結果、赤の30



イタチ、4連敗

美鳩はこの間、ゲームに参加をしていなかったため被害はないが
既に負けは7万ドル

残りは、3万ドル程度にまでなっていた



「・・・・・・」

「・・・ま、まだ大丈夫!大丈夫よ! まだ3万ドル以上残ってるのよ!」

「そ、そうだよ!最初はたった800ドルから始めて3万ドルだよ!イタチくん、自信もって!!」



今までの好調から一転、瞬く間に四連敗

朱子と南斗星が、必死に士気を上げようとするが



「私はもう、この辺りでチップを精算した方が良いように思います。」



四人が、視線を移す
そこには、ニヤニヤと笑う支配人の姿があった



「いや~お客様、正直ここまでの奮闘を見せてくれるとは思いませんでしたよ。いえいえ、私自身つい興奮してしまった程です。
しかも元手800ドルから今は3万ドル、一時期は10万ドル・・・いやはや、お客様には心の底から感服させられましたよ。」

「・・・・・・」

「で、す、が」


そう言って、支配人は口元を楽しげに歪める


「お客様は既に今日の運を使い切ってしまった様にお見受けします。幸運の女神は気まぐれで嫉妬深いと言いますからね。
そちらのレディの様な目麗しい女性を隣に座らせてしまっては、女神もヘソを曲げて怒ってしまうという訳ですよ。」

「あらあら、お上手ですね~。女神が嫉妬する女なんて、褒め過ぎですよ~。」


美鳩がニコニコと返し、支配人は再び笑う


「いえいえ、そんな事はありませんよ。おっと、話が逸れましたね・・・まあ、私が言いたいのは余り欲を張ると、痛い目を見ますよ・・・
と申し上げているんです。流石に、この流れで今まで以上の勝ちを上げるのは難しいでしょう?
 これは、このカジノの支配人としてではなく、一人の人間としてのアドバイスです・・・ご理解頂けました?」

「・・・・・・」


そう言って、再び朱子と南斗星を見て微笑む
生理的嫌悪を煽る笑みだ


「なぁに、お連れ様達事なら心配いりません。借金さえ全額返済して頂ければ、お連れ様達は自由の身ですから・・・ふ、ふふ、ふはははは!ふははははは!!」


そう言って、支配人は笑う
嘲る様に見下す様に、醜悪な顔で己の勝利に酔いしれる

そして、その笑い声と共に


「・・・く、ぅ・・・」

「・・・うぅ・・・」


朱子と南斗星は、自分達の敗北を悟っていた。






























「・・・それで、『確認』できたか美鳩?」
















しかし















「ええ、貴方の言うとおり・・・バッチリ食いついて来ましたよ。」















二人の顔に、敗北の色は無かった

その目は、未だ不敵な光を宿している



「・・・こっちもだ、僅かだが球が明らかに不自然な動きを見せた。恐らくルーレットの台と球に、磁力か何かを用いた仕掛けがあるな・・・
精度はさほど高くは無いが、客の狙いを外す位なら十分だろう・・・非常に巧妙に作られているな。
普通の客なら、まず気付かない。」


「まさかご丁寧に、四連続で同じサインを出すなんて思いませんでしたよー。
顎を上げて、三回擦る・・・サインの正確なパターンまで分かっちゃいましたよ。」


「仕込みのスイッチは、あのチップ容れだな。四回程前から急に中のチップの数を不自然に確認しだした。」





「あらあら、これはいわゆる『謎は全て解けた!!』というヤツですか?」


「さあな。」





イタチはいつもの仏頂面で、美鳩は目を細めながら不敵な笑みを浮べて
互いの情報を交換していた。



「・・・だが、確認したい事は全て確認できた。」

「多分、ベニちゃんは美味しくカモられちゃったんでしょうね~。」



そう言って、イタチは息を吐く



「・・・それで、貴方はどうするんですか?」

「ああ、勿論賭けは続ける・・・あちらの『流儀』にならってな。」

「そうですか~。なら、私も少し『遊んで』きますね~。実はルーレットってあまり好きじゃないんですよね~。」



美鳩は、クスリと微笑む



「・・・程ほどにしておけ。」

「くるっく~、借りたチップは後できちんと返しますから。」

「ああ。」



そう言って、美鳩はチップを一度清算する

ルーレットには、イタチ一人が残る


「おやおや、お連れ様は諦めてしまったようですが・・・貴方は続けるんですか?」

「ああ、そうだな・・・あと一回、ここでプレイさせて貰おう。」

「引き際を見極める事も大切だと思いますが・・・まあ、お客様がそう仰るのなら私はもう止めません。
それで、やはり次も手堅く賭けるんですか?」

「・・・そうだな・・・。」



イタチは僅かに考えて、ベットする



「ベット。赤の36に2万5千ドル。」

「「「!!?」」」


ドサリと、イタチはチップをベットする


その瞬間、朱子と南斗星と支配人は驚愕する

ここに来て、イタチの大半のチップを用いた一目賭け

その行動に、朱子と南斗星はイタチに抗議する



「ちょおおおぉぉっと待ったああぁぁ!! あんた、何考えてるの!!!」

「いくら私でもこれが無謀だってことくらい分かるよ!! 流石にこれは無茶だよ!!」



二人がイタチに詰め寄るが、イタチは表情を崩さす



「さっき、そこの支配人が言っていただろ? どうやら俺は、幸運の女神とやらに見放されてしまったようだ・・・
確かに、普通にやっていては俺はこれ以上勝つ事はできないだろうな。
俺の目的はお前達を連れて帰る事・・・この程度のチップでは、頭金にもならん。」

「・・・そ、そうかもしれないけど。」

「だったら、やる事は一つ。幸運の女神が見放したのなら・・・支配人の言うとおり、未だにヘソを曲げたままなのだとしたら・・・」



そう言って、イタチは二人に視線を移す
そして、言葉を繋ぐ。




「こちらから、その女神とやらを口説くしかあるまい。」




静かに、だがキッパリと言い放つ

朱子と南斗星は唖然とするが、支配人は弾けた様に笑い出した



「くふ!くは!くははははは!! いや、失礼!だがお客様は実に面白い!!
 長年この商売をやっておりますが、お客様の様な方は初めてです!! 
なるほど、女神を口説くですか!!!確かにそうですなぁ!! 
運は人間を選ぶとも言いますし、もしかしたら本当に幸運の女神は貴方とよりを戻してくれるかもしれませんしねえぇ!!! あーっはっはっは!!!」



その言葉は、明らかな建前
その笑い声には、これ以上にない醜悪な響きがあった



そして、ルーレットは回る。








「・・・・・・」



本来、イタチは

やろうと思えば、簡単に朱子と南斗星を連れ帰る分の利益を得ることが出来た


しかし、それはやらなかった


もしも、店側が行っている商いが公正公平なものだったら
自分のやった事は、店のルールを破った事になる


だからイタチは、あくまで能力を制限し・・・あくまで店側と対等の「ギャンブル」をする為に、自分でもミスを犯す危険性のあるルーレットを選んだ


イタチは、どうしても確認したかったからだ


朱子の負けが、「運」によるものだったのか


それとも、「故意」によるものだったのか



イタチは、それを確認する必要があった


そして、イタチはその確認を終えた


そして、判断した



朱子の負けは、「故意」によるものだったと・・・。




「・・・へ?」

「え?」

「んな!!?」



・・・ざわ・・・

        ・・・さわ、ざわ・・・



ギャラリーがどよめく


ルーレットが止まり、球もその動きを止めている


球が落ちた所は・・・赤の、36





「「きたああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」





朱子と南斗星が、本日一番の叫び声を上げる


イタチがベットしたのは赤の36、2万5千ドル

配当は36倍、つまり90万ドル


この一勝負で、目標額の実に九割の金を得た事になる



「・・・ば、ばかな・・・!!」



支配人が、思わず呟く

念のため、確かに自分はディーラーにサインを送った筈だ

それに、そのディーラーも困惑している


操作は、された筈なのだ

では、何故?



「・・・どうやら、まだ完全に運に見放された訳では無いようだな。」


「・・・!!」




この支配人は、三つの間違いを犯した



一つ、仕込みを施した装置を用いて朱子と南斗星を罠に嵌めた事


二つ、その仕込みを、イタチと美鳩に看破された事



そして、三つ






「貴方の言った通りだ、幸運の女神とやらは気まぐれのようだな。」






赤い瞳で、




イタチが微笑む。





ゆっくりと、そして薄く、冷たく、イタチは微笑む

それは、微笑む様な笑みでなく

相手の心を砕く、折る、殺す、死の微笑。





「・・・な、なんです・・って?」





支配人が犯した最大の間違い





それはイタチにとって、





最高の環境を与えてしまった事。








「さあ、ギャンブルを続けよう・・・今なら負ける気がしないからな。」

















続く





後書き え~とカジノのルールに関しては上記の注意の通り、細かいツッコミは無しの方向でお願いします!!
    次回、イタチと鳩ねえの逆襲が始まります!! 
    



    次回予告・「最強&最恐」



 



[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)・第十二話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/07/31 16:37


注意・今回は本編の中に少々過激な描写があるのでご注意ください。


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「う~ん、これは困りましたね~。」


困惑の表情を浮べながら美鳩が呟く

美鳩はイタチのチップを持って、ポーカーをプレイしていた


「自信がないのでしたら、ゲームから降りる事もできますよ。」


美鳩はこの勝負、己の全チップの半数以上をベットしている

ディーラーの男が笑顔で美鳩にアドバイスをするが


「いえいえ~、勝てる可能性は0ではないのでこのまま勝負させて頂きます。」


既に互いは山札からカードを引く権利は無い

つまり、今の手札で勝負となる。


「ははは、確かにそうですね。」


ディーラーが軽く微笑んで、手札公開となる

両者は互いに手札を見せる


そして


「・・・え?」


ディーラーが唖然として呟く

ディーラーの手札の役は、フラッシュ


それに対して、美鳩の手札は・・・


「・・・す、ストレート・フラッシュ・・・!?」

「あらあら、勝ってしまいましたね~。本当はロイヤル・ストレート・フラッシュを狙ってたんですけど~
中々Aが来なくてただのストレート・フラッシュ止まりだったんですよ~。」


ニコニコと微笑んで、美鳩の前にチップは山の様に築き上げられる

この時のディーラーは、美鳩の微笑が死神の笑みに見えたと、後に語る。







第十二話「最強&最恐」








誰もが、目を疑う様な光景がそこに繰り広げられていた。


「・・・・・・」


無言のままに、イタチは回転するスロットを見つめる

現在、イタチはルーレットからスロットマシンに席を移して賭けに興じていた

そして、タイミングを見計らって「タンタンタン」と、テンポ良くマシンのボタンを押す。



―――777―――



スロットマシンから、コインが景気良くジャラジャラと排出される


「あ、あの~・・・い、イタチ、さん?」

「ああ朱子か、丁度いい。このコインをチップ容れに入れておいてくれ。」

「・・・い、いや・・・そういう事じゃなくて・・・」

「・・・何だ?」


そう言って、朱子と会話しながら再びボタンを押す


再び、777


更にマシンからコインが排出されて、場のギャラリーがどよめく

そんな中、支配人はもちろん
イタチの身内である朱子と南斗星までもが、イタチのプレイ振りを見て顔を引き攣らせていた

その原因の一つが、イタチの元に築き上げられているコインの山だが

最も大きい原因は・・・



「おい、支配人。マシンのコイン不足だ、台を変えるからキチンと補充をしておけ。」


「!!!?・・・ま、またですか!」



イタチの言葉を聞いて、更に支配人の顔が引き攣る

確かに、イタチの前のスロットマシンにはコイン不足を知らせるランプが点灯している

そして、支配人や朱子、南斗星が驚いているのは・・・これが、最初ではない事



通算、五台目である。



既に、目標額の100万ドル分のチップはとうの昔に溜まっている
だが、イタチは止まらない

最初、イタチの孤軍奮闘振りに興奮していた朱子や南斗星も・・・今はすっかり顔が引き攣っている



イタチは、殆んどミスをせず
当たりは全て777だった。



本来、カジノ側には客と店との利益のバランスを上手く取るための対応策という物がある

スロットマシンには、難易度の調整という物が存在する

簡単に言えば、客をどれだけ儲からせるかを調整する物だ



しかし



難易度とは、あくまで「難易」を決めるもの

当てるのが難しくなるだけで、当たらない訳ではない

サッカーや野球で言えば、ゴールやストライクゾーンの様なもの


これらの物は、絶対にボールが通る大きさは必要である


そうでなければ、ゲームが成り立たない
例えそれが、毛の先ほどのミスが許されない超難関でも


極端な話、ミスさえしなければいいのである。




しかし、これらはあくまで一般論

この店に限っては、少々事情が異なる。



(・・・まさか、こいつを使う事になろうとはな・・・)



今の支配人が、このカジノの支配人になってから
この店は大掛かりな設備の改変が行われている


装置を用いた仕込みである。


そして、この店のスロットの様なゲームのマシンには「緊急装置」と言われる物がある
簡単な話、当たりを全く出なくさせる究極的なイカサマ

本来、難易度の調整だけで店の利益を簡単にコントロールできるマシンには不要なもの


支配人の、ただのお遊びで作ったものだった

まさか、使う羽目になるとは思わなかったが・・・人生、何がどこで役に立つかは分からない



支配人は、「緊急装置」のサインを出した




今から一時間ほど、前の話である・・・。





(・・・おい、何故だ!何故当たりが止まらない!・・・まさか、故障か?それも五台のマシンが一斉に!!?・・・)



支配人は困惑の極地にいる

サインを出した筈なのに、イタチの当たりは止まらない


なぜその様な事態になったのかは、誰も答えを知らない



イタチの赤い瞳以外、誰も何も知らない。



そして、支配人がそんな考えをしている最中

イタチの777の嵐は、未だに続いていた。







「あらあら~、大漁ですね~。」

「・・・美鳩か?」


そこに、もう一人の役者が現れる

山の様なチップを持った、美鳩だ



「・・・あ、あの~ミ、ミハト、さん?」

「あら、どうしたんですかベニちゃん?急にかしこまっちゃって?」


顔をピクピクと引き攣らせて、朱子が美鳩に尋ねる
同じ様に顔を引き攣らせていた、南斗星が美鳩に尋ねる


「あ、あの、美鳩さん。それ、どのくらい稼いだの?」

「さあ、分かりません。150万ドルを超えた辺りから数えるのが面倒くさくなってしまいました~クルック~。」


その言葉を聞いて、朱子と南斗星が再び驚愕する


「ひゃ!ひゃくご・・・ひゃくごじゅま!!!」

「ひゃくごじゅうまんどるううううぅぅぅぅぅ!!!」


もう、今日だけで一年分の驚きを使ったかもしれない

そして、美鳩はイタチのコインにも目を向ける



「あらあら~、こちらも随分当てましたね~。どのくらい当てたんですか?」

「さあな、コインの一枚の単価は知らん。まあ、もう十分な額は溜まっているがな。」



そう言って、イタチはスロットのボタンを再び叩き、そのスロットが回転を止める

言うまでもなく、777


ジャラジャラとコインが排出されて、排出された後コイン不足のランプが光る。



「あ、コイン切れですね。」

「・・・ふむ、もうこのぐらいで良いか。おい、すまないが俺達二人のチップとコイン・・・全ての精算額を計ってくれ。」

「・・・わ、わかりました。」



たまたま近くに居た従業員が、二人の持っているチップとコインの総額を量る

既に支配人は半ば呆然としている

そして、総額を調べた従業員が駆け寄ってくる


「・・・いくらだ?」

「・・・はい。」


支配人が、青ざめた顔で従業員に尋ねる

そして、その従業員はその額を言う。



「そちらのお嬢様のチップ、総額240万5120ドル。」


「・・・な!!」


「次に・・・そちらのお客様のコイン、チップ合わせて、総額1084万9830ドル。」


「んな!なな!!」







「そして、お二方の総額・・・1325万4950ドルです。」


「――――――!!!」





声を無くす絶叫とは、正にこの事だろう

支配人は、その有り得ない数字を聞いて心の底から絶叫した。



馬鹿な!!

何故!!

どうして!!!

イッタイドコデマチガエタああああぁぁぁぁ!!!!



グルグルと頭の中で、何かが目まぐるしく回転する


どうする?

どうやって、この損害をチャラにする?


・・・この二人の、値段を吊り上げるか?・・・


そんな考えが過ぎった瞬間


「随分稼いじゃいましたね~。」

「・・・まあ、有り得ないとは思うが・・・これでも足りないと言うのなら、もう一稼ぎするしかないがな。」

「!!!」


その瞬間、支配人は心臓を一気に鷲掴みにされる感覚に陥った



(・・・ほ、本気だ・・・コイツら・・・)


(・・・俺が言いがかりをつけた次の瞬間、更にもう一稼ぎする気だ・・・)


(・・・な、なんだ・・・コイツら・・・)


(・・・一体、こいつらは何なんだああああぁぁぁぁぁ!!!・・・)



俯いて、冷や汗をダラダラ垂らしながら考える

ダメだ、どう考えても今ここで何かをするのはリスクが高い


他の客の目もある

それに、この男はスロットマシンにルーレット
店側が完全にコントロールできるものしかやっていない


無理な言いがかりは、この店の風評に傷をつける事になる


そしてこのカジノの風評に傷がついたら、それだけで売り上げは激減
店の存在自体が危ぶまれる結果になる


だが、この二人の売値を差し引いた1000万ドル以上の損害はこの店にとってあまりにも痛い


少なくとも、自分は終わる


そして、考える


両者にとって、最悪の選択肢を・・・



(・・・実力行使しかない、何とか事務スペースまで引きずり込んで脅しを掛ければ・・・)



相手は男一人に女三人、単純な力ではこちらに分がある

多少強引な手だが、この際手段は選んでいられない

この後の算段を頭の中でつけて、顔を上げる

そして、顔に笑顔を貼り付ける。



「分かりました。ですが額が額なので一度事務所の方にま、で・・・」



その瞬間


支配人は


イタチの赤い瞳と


目が、合った。





========================================





――死ンダ――

―― 一人ガ死ンダ――

――二人ガ死ンダ――

――三人ガ死ンダ――

――十人ガ死ンダ――

――皆ガ死ンダ――

――目ノ前ノコノ男ニ、ミンナ殺サレタ――



――残ッテイルノハ、モウ自分ダケ――



――走ッタ――

――走ッテ逃ゲタ――


――追イ付カレタ――


――指ガ無クナッタ――

――手ヲ切ラレタ――

――腕ヲモガレタ――

――足ヲ潰サレタ――


――骨ヲ折ラレタ――


――皮ヲ剥ガレタ――


――鼻ガ割レタ――


――耳ヲ飛バサレタ――


――目ガ抉ラレタ――


――オ腹ガ裂カレタ――


――中ノモノヲ全部引キ摺リ出サレタ――


――赤イ血ガタクサンデタ――


――ナカニハ、ナニモナクナッタ――



――デモ、マダイキテイル――



――スゴクイタイケド――

――スゴククルシイケド――



――マダ、イキテイル――



――タスケテ、テイッタ――


――タスケテクレナカッタ――



――コロシテ、テイッタ――


――オレハ、シンダ――






========================================






それは、死のイメージ


自分の死のビジョン


あまりにも悲惨な、己の結末



「・・・あ、ぅう・・・あ、ぁ・・・」



気がつけば、俺は床に座り込んでいた

冷や汗が、滝の様に流れていた

体はブルブルと痙攣していた

息は激しく荒れていた

鼻水が垂れていた

胃がせり上がって吐きそうだった

涙が流れていた

全身の力が抜けていた

せめてもの救いは、失禁はしていなかった事だ



「気分が悪そうだな、手を貸そう。」



そう言って、目の前の男は俺に手を差し出す

その時、俺は悟った




・・・俺が、・・・



・・・この男を、脅す?・・・



・・・ははは・・・



・・・馬鹿か、俺は・・・





















「・・・あ~あ、それにしても・・・少し勿体無かったんじゃないの?」

「何がだ?」

「折角の大金を、チャラにしちゃった事よ。」



帰り道、朱子はやや惜しむ表情をしながらイタチに呟いていた

結局、イタチと美鳩が稼いだ殆どの金はカジノに返金した


朱子と南斗星は、二人の判断に当初は困惑をしていたのだが



「所詮はイカサマで得た金だ。それでは俺達も、お前達を嵌めたあの支配人と一緒だ。」

「あの支配人さんだって言ってましたよ。あまり欲を張ると痛い目を見ると、実際にベニちゃんは痛い目を見ましたからね~。」


美鳩が朱子に視線を向けて、クスクスと笑う。


そう、イタチはある時点から
イカサマを用いて、チップを得ていた。


ルーレットは不可視のチャクラの糸を練り、ルーレットの球に貼り付けて「傀儡の術」を用いて球を操り


スロットは写輪眼の洞察眼を用いて、777を当てていた


また、支配人にはスロット時にはちょっとした幻術を掛けておいた
自分たちに対して支配人が妨害工作をしてくる事は明らかだったから、幻術を掛けて妨害工作をした「つもり」になって貰った。



つまり、殆どの金はイカサマで得た物なのである。



あの大金はイカサマで得たという事実を知って、朱子と南斗星は納得してしまった

あんな大金、真っ当な手段で稼げる筈がないからである。



ちなみに、どんな手段を用いたのかは結局二人は朱子と南斗星に教えなかった。



結局、イタチと美鳩が得た金は朱子達の身代金、南斗星の食事代を差し引いて残った1200万ドルの内、3万ドル。


イタチと美鳩曰く


「ああ、この金は実力で得たからな。」

「返す必要はないです~。」



さらっと発言したイタチと美鳩に、朱子と南斗星は再び顔を引き攣らせたらしい

それなら10万ドルでも良かったのだが、



「身の丈に合わない欲と金は、身を滅ぼす。・・・それがギャンブルなら尚更だ。」



と言い、美鳩もこれに了承した

どうやら、美鳩も綺麗な方法でギャンブルに勝っていた訳ではなさそうだ。



それでも、イタチは美鳩に「ある程度は手元に残しておいたらどうだ?」と言ったのだが


「いえ、ちょっと私の知っている最低最悪の人間と同類になってしまいそうなので・・・
イカサマして稼いだお金は、ちゃんとお返しします。」


と、顔に若干陰を作りながらそう言った


どうやら、美鳩は美鳩なりに事情があるらしい。

また、この二人の決定にカジノの支配人は驚愕していた


内心、クビを切られて再就職する覚悟まで決めていたらしい

自分たちの決定を知ると、涙ながらに謝罪と感謝の言葉を述べた


まあ、現金なものである。



また、今回の一番の被害者は南斗星であったので

美鳩が南斗星に「御飯でも奢ろうか?」と言ったところ



「それなら、皆で食べようよ!」



目をキラキラと輝かせて、喜びの表情をする南斗星を見て



「そうだな、折角の機会だ。主様達や揚羽と小十郎も誘うか。」

「ですね~。あのホテルにはバイキング・レストランがあったので、今日の夕食にでも皆で食べに行きましょうか。」

「バイキング!やったー!!」



イタチと美鳩の提案に、南斗星は両手を上げて喜ぶ。

多分、事前予約が必要だろうが・・・いざなったら、あのカジノの支配人に一肌脱いで貰おう

恐らく自分たちの頼みなら、喜んで(?)引き受けてくれるだろう



(・・・少々、やり過ぎたかもしれんがな・・・。)



あの支配人の様子を思い出して、心の中で思わず苦笑する。

そんな事をイタチが考えていると、ここで朱子が


「ちょっとちょっと、あのホテルのバイキングで皆で食事って・・・結構な額が掛かるわよ?お金はどうするのよ?」

「どうするって、決まっているだろう?」


朱子の質問に、イタチはさも不思議そうな表情をして





「ここに、3万ドルもの大金があるだろう?」





イタチはいつもの仏頂面で


美鳩はクスクスと微笑んで


朱子は可笑しそうに笑って


南斗星は、満面の笑みで喜んで



そうして、夜明けの帰路を皆で歩いていた。




カジノでの当たりは、1300万ドル

イタチと美鳩の利益は、3万ドル



そして久遠寺家の皆との思い出

プライスレス――。



































同日・日本・七浜学園



「失礼します。」

「ああ、良く来たね。ちょっと今はそこに座ってて。」

「あ、はい。分かりました。」


職員室のドアがノックされて、教師が返事をして一人の青年が入室する。

年は外見で判断すればおよそ16から18程、
身に纏っている制服が七浜学園指定の制服ではない事から、恐らく新入生か転入生だろう。



「あれ、今日はご両親は?」

「すいません、仕事の都合でどうしても来れなくて。でも必要な書類は全て預かってきていますので。」

「そうか、まあご両親には都合がついた時で良いから一度学校に来るように言っておいて。
事前に電話をくれれば、春休み中なら何時でもいいから。」

「はい、分かりました。」



青年が了承して、封に入った書類を教師に渡す

そして、一枚一枚の書類をチェックする。



「しかし、君も大変だね。来年から三年生なのに転校だなんて・・・ご両親の仕事の都合だっけ?」

「はい。滅多に家に帰ってこない両親ですけど、俺にまだ一人暮らしはさせたくないみたいで・・・
両親についてくる形になっちゃいました。」

「まあ、同じ子を持つ親としての心情は解かるけどね。まあ安心していいよ、この学園は皆良い子ばかりだから・・・・
まあ、少し変わってたり・・・少し元気が良すぎる娘もいるけどね。」



そう言って、教師は思わず苦笑する

そんな雑談を交えながら、書類の一枚一枚をチェックする



「うん、書類の方はOKだね。後は制服とかその他諸々だけど、制服は多分今週中にでもそちらに届く手筈になっているから。
あとは教科書だけど、これは新学期の初日から校内販売で売っている筈だから、その時に買っておいてね。」

「はい、分かりました。」



受け取った書類をチェックし終えて、教師はその書類を机にしまう

そして、机の中から包みを取り出す。



「はい、これが君の本校の学生証で、こっちが生徒手帳。
こっちは本校規約についての保護者様用の書類諸々、失くさないように気をつけてね。」

「分かりました。親にも目を通すように言っておきます。」

「うん、お願いね。それでこっちからは以上だけど、そっちから何か質問はある?」

「う~ん、そうですね~。」



そう言って青年は、顎に手を置いて僅かに考えて



「昼休みの学食と購買って混みますか?」

「戦争だね。」

「ははは、そうですか。どこの学校も一緒ですね。」

「だが購買の焼きカレーパンと学食のハンバーグカレーは、一度は食べておいた方がいい。」

「・・・貴重な情報提供、感謝します。」



そう言って、両者はクスリと笑う。


「それじゃあ、質問は以上みたいだね。」

「ええ、雑談ありがとうございます。お陰で少し緊張が解けました。」

「まあ、そう気を張らなくても大丈夫だよ。リラックスリラックス。」


軽く笑い、青年は荷物を持って立ち上がる

そして、教師に一礼をした



「それでは、今日はありがとうございました。」

「はい、お疲れ様。それじゃあ新学期に。」



青年は教室から退室して、教師は再び仕事に戻る。

そして仕事に戻っていると、再び職員室のドアが開いた



「あ、教頭先生。」


「ああ、君か。仕事ご苦労様、そう言えば先ほどまで・・・誰か来ていたようだが?」


「ああ、転入生ですよ。新学期からここに転入する生徒が来ていたんです。」


「転入生? ああ、そういえば三年に新しく入る生徒が一人居たな・・・え~と、名前は何て言ったか?」


「確か、鉄ですよ。「鉄」って書いて「クロガネ」・・・え~と、確か下の名前は・・・」


そう言って、教師は先ほど青年から預かった書類を見る

そして、言葉を繋いだ。







「ミナトですね、鉄ミナトです。」

















続く








後書き バカンス編はこれで終わりです。次回から新展開に入ると思います。
    そういえば、七浜学園って共学だっけ? まあ本編では共学で通します。

    さて今回新キャラが出ましたが・・・新キャラに関して、一言言えるのは

    オリキャラじゃありません(笑)

    それでは、まだ次回に続きます!



追伸 先日PS2ソフトの「ナルティメットバトル2」(アクセルじゃないです。)をプレイしました。
   ゲームオリジナルのストーリーモードが滅茶苦茶熱い展開でした!

   5年位前のソフトであまりネタバレとか関係ないかもしれませんが、
ネタバレを考慮して発言すると(ネタバレが嫌な人はここから先は読まない事をオススメします。)















   某三忍の蛇が、また木の葉に攻め込んできたり

   カカシが蛇と闘ったり

   カカシが案の定、ピンチに陥ったり

   そこにガイが駆けつけたり

   ガイが蛇の部下のメガネとガチバトルしたり

   
   某霧隠れの鬼人やお面のショタが穢土転生で復活したり


   サスケがお面のショタとリベンジマッチをしたり


   エロ仙人が霧隠れの鬼人とバトったり


   ネジが単身でメガネに闘いを挑んだり

   
   綱手が三代目と闘ったり


   最後は九尾化ナルトが大蛇○と最終決戦をしたりと


   ついつい、熱くなってしまいました(笑)


   
   漫画の企画であったりする「夢の対決」シリーズが好きな自分には堪らない内容でした。

   それでは、駄文で失礼しました。



[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)第十三話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/08/29 07:13





それは、幼き日の残滓


まだ、自分たちが子供だった頃


過ぎ去った日々の夢



――ほらほらー、もっと早くはしれーこじゅうろぉ!!――


――もうこれいじょうはムリですよぉ。もうイイかげんおりてくださいよー――


――なんだとー?ウマがもんくをいうなー!! ――


――いた!! いたい!バンダナをひっぱらないでくださいー!! ――



――くろがねおとめえぇ!! ワレのジュウシャになにをしてるー!! ――



――あ、あげはさまあぁー!! ――


――なんだ、あげはか。なんのようだ?――


――こじゅうろうからおりろおぉ! こじゅうろうはワレのジュウシャだぞおぉ!! ――


――なんだとぉ? イヤだ!わたしはコイツがきにいった、レオよりのりごこちがいいからな!――


――ふざけるなぁ! こじゅうろうはワレのものだぁ!おりろおぉ!! ――


――いたっ!! やったなぁ!よわいくせにナマイキだぞアゲハあぁ!! ――



――きょうこそはけっちゃくをつけてやる! しょうぶだぁクロガネオトメエェ!――


――ふん、いいぞ。かえりうちにしてやる!! いくぞアゲハあぁ!! ――











「はい、二人ともそこまで。」










――――



――




「…む、朝か?」



そこで、目が覚めた


布団から起きて、軽く背筋を伸ばす


カーテンを開けて部屋の空気を入れ替える



「揚羽さま、失礼します。」

「小十郎か、入れ。」



自分の了承を得て、小十郎が入室してきた


「……ぁ。」


小十郎が何かに気付いた様に、少々バツの悪い表情をする


「む、どうした小十郎?」

「いえ、今日はいつもよりも深く就寝なさっていたようですから。」

「…なに?」


そういえば、まだ自分は寝巻きのままだった

いつもなら小十郎が部屋に来る前には、服を着替えて軽く柔軟をして、朝のトレーニングに備えているところだ。



「ふむ、今日は夢見が悪くてな。まあ、偶にはこういう日もあるだろう。」


そう言って、揚羽が洗面台に向かう


「そうですか。…お加減がよろしくないのでしたら、無理はなさらない方がよろしいですよ?」


小十郎が揚羽に進言すると、揚羽は僅かに眉を顰めて



「安心しろ、そういう類のものではない……少々、昔の事を夢で見ただけだ。」

「…昔の事、ですか?」

「ああ、そうだ。」


そして、顔を洗い小十郎からタオルを受け取り
顔を拭きながら答えた




「あのいけ好かない鉄一族の……あの男の事をな。」







第十三話「気に入らないヤツ」







冷たい汗が、ポツリと流れる


空気が、真剣の様に研ぎ澄まされる


南の島から久遠寺家の皆が帰還して、早一週間


一体、誰がこの様な事態を想像できたであろうか

イタチは、こちらの世界に来てから…今までにない程に追い詰められていた



「……まいったな、これは……」



柄にもなく呟いてしまう

最初は軽い任務かと思っていた

今までこの身は曲がりなりにも、何度も死線と修羅場を潜り抜けて来たのだから


自分がこの世界に来てから、久遠寺家の下で働き始めて既に三週間以上は経過した

初めはこの世界の事や勝手が分からず、それなりに苦労した

だがそれらの事も今は解消し、こちらでの生活にも随分慣れた



そう、自分は油断していたのだ



油断大敵とは良く言ったものだ

現に自分はこうして追い詰められている

原因は良く分かっている、自分の情報収集の不足の所為だ


せめて、あの時もっと良く情報を入手しておけば…



「後悔、先に立たずか…良く言ったものだ。」



自嘲気味に呟く

だが、今すべき事は自嘲でも後悔でもない
この任務を成功させる為に打つ最善手だ



「対象物は三つ。その内、本命は一つ…。」



自分で確認するように、小さく呟く。


こういう時、下手に動揺したまま行動すべきではない
先走った真似をすれば、それは即ち任務の失敗に直結する

軽く呼吸を整えて、冷静さを取り戻し落ち着く事が何よりも重要だ。


……


……


よし、もう大丈夫だ


そしてイタチは自分の状況を確認すべく
自分の主である夢に、任務を与えられた時の事を思い出す





「イタチさーん、買い物のついでにジャンプ買ってきてくれない?」





そして、イタチは改めて自分の目の前に並んでいる物を見る


「週刊少年ジャンプ」


「赤丸ジャンプ」


「ジャンプスクエア」


そこには、「ジャンプ」と大きく書かれた雑誌が三種

他にも似た名前があったが、こちらとはタイプが違うため除外した。



イタチはそれらを見つめながら、考えた



(……一体、どれを買えばいい……)












「なに、イタチ殿は不在であるか?」

「ええ、少し買い物で出払っていまして…」



久遠寺家前

もはや久遠寺家にとって恒例行事となった揚羽と小十郎のイタチへの再戦

大佐が申し訳なさそうに揚羽達にイタチの不在を告げて

その再戦を、出鼻から挫かれて揚羽は落胆の表情を浮べた。



「それでは、中でお待ちになりますか? 夢お嬢様もご在宅ですし、イタチの方もさほど帰宅するまでは
時間は掛からないでしょう。」

「…ふむ、それでは大佐殿のお言葉に甘えて。」

「ええ、それではお邪魔いたします大佐殿。」



大佐の申し出を二人はありがたく受け入れて、二人は一礼して久遠寺家に上がる

そして大佐が居間に居た森羅達に来客を告げた。


「森羅様、来客です。」

「来客?誰だ?」

「揚羽と小十郎の二人です。」

「そうか、なら構わん。通せ。」


森羅が二つ返事で了承し、大佐が二人を居間へ通す

そして、二人は一礼して居間に入った


「失礼、邪魔をする。」

「皆さん、唐突の来訪。どうもすみません。」

「なに、もはや恒例行事だ。今更気にするな。」


二人が入室し、ややすまなそうな表情をするが
森羅は特に気にした様子でもなく、クスクスと笑っていた

同じくテーブルに着いていた夢も、歓迎した様に笑顔で二人で迎えた。



「いらっしゃい、二人共。」

「うむ、お邪魔させてもらっているぞ夢よ。」

「くくく、またイタチに挑戦しにきたのか?」

「ええ、そんな所です。アテは外れてしまいましたが。」



ニヤニヤと森羅が二人に尋ね、小十郎が苦笑しながら残念そうに肩を竦めた

そして、揚羽は椅子に座り小十郎は揚羽の隣に控えて、どちらからともなく雑談を始めた

朱子が森羅と夢に紅茶を、二人に緑茶を用意し、簡単な茶菓子をテーブルに置く

茶と菓子を抓みながら、居間での会話は大佐や朱子も加わって盛り上がり
談笑している揚羽と小十郎を見ながら、森羅はそれとなく尋ねた



「しかし、お前達もよくやるな。先日のバカンスでお前達二人共イタチに惨敗したばかりだと言うのに、もう再挑戦か。」

「ふふ、確かにあの時は我ながら格好はつきませんでした。惨敗も惨敗、未だにイタチ殿の体に一撃当てるどころか衣服にすら攻撃が掠りませぬ。」

「正直に言って、実力の次元そのものが違います。」



森羅の問いに、二人はやや苦い笑みを浮べながら答える
特に揚羽はいつも豪快な笑みをしている分、今の様などこか頼りない笑みは森羅達にとっては新鮮だった

恐らく、それ程までに揚羽達とイタチの実力差は激しいのであろう



「…ですが…」



だがしかし、次の瞬間
二人の目つきは変わる

目に確かな光と意志、そして野望を宿した様な猛禽的な双眼



「だからこそ、やり甲斐がある。」


「ええ、これ以上ない程に。」



先刻の苦笑とは一転、不敵な笑みを二人は浮べていた

そんな二人の表情を見て、森羅は愉快気に微笑んだ


「くっくっく、なるほど。」

「まあ、想像はしていましたけど…いわゆるバトルマニアって奴ですね。」

「ふふ、まあ若い者はその位で丁度いいです。
少々はみ出る位にやる気と情熱に滾っているくらいが、若者として相応しい在り方と私は思っていますから。」


朱子はどこか呆れていたが、大佐は二人の姿勢に肯定の意を述べる

森羅も、どこか面白そうに二人に言葉を掛ける。



「高い目標ほど遣り甲斐があるか、確かにそうだな。
やはり、お前達は面白い。向上意欲が強いヤツは好きだぞ。」



二人に賛辞の言葉を送りながら、森羅は紅茶に口をつける

森羅も向上意欲に関しては、貪欲な人間だ
こうして、他人の意欲に触れると自分の意欲も触発される様な感覚になる

そして、貪欲な意欲こそがより良い技術を生む

妹の友人としてだけでなく、一人の人間としての立場でも
森羅は揚羽と小十郎の事を気に入り、評価していた。








「ああ、そう言えば随分昔に…そっち方面の界隈で、やたら天才だの何だのともて囃されていた奴がいたな。」








不意に
思い出したかの様に、森羅は声を上げた



「…!!」

「……」

「そうそう。確か十年、いやもっと前か? 私が護身術を習い始めた時だったから、やはり十年前か? 揚羽達も聞いた事くらいあるんじゃないか?
だんだん思い出してきたぞ。確か当時、超人・無敵・最強…そんな感じの異名を持っていた爺さんがいただろう?」



喋っている内に当時の記憶が蘇ってきたのか、淀みなく次々と森羅は言葉を続ける

そして、確認を取るかのように揚羽と小十郎に死線を向けた



「ええ、存じていますよ。
「武神」と称され、ありとあらゆる武に通ずる者達に恐れられていた老人…川神一族の川神鉄心と伯仲の実力を持ち、
その力は正に一騎当千と言われた鉄一族の首位、鉄陣内。」



揚羽が答えると、森羅は納得が言ったかのように声を上げた



「そうそう。確か鉄のじいさんだったな、思い出した思い出した!
 確か鉄のじいさんが、七歳か八歳になる孫に負けたとかで話題になったんだ。」



ウンウンと納得しながら、森羅が言葉を繋げ
森羅の言葉で大佐も当時の事を思い出したのか言葉を続け、僅かに考えて言葉を繋げる。



「…ああ、確かにそんな事がありましたね。私も陣内殿とは傭兵時代からの顔馴染みでしたから、当時の事を覚えています。
確かに、あれは色々な意味で衝撃的な一件でした…何かの間違いか、与太話の類かと思って私も鉄家を訪ねて直接真偽を尋ねたのですが…
当の陣内殿はと言えば、豪快に笑いながら肯定していました。」

「それでその一ヵ月後くらいにじいさんが引退したもんだから、話題騒然となった訳だ。
確か引退理由は雷が落ちて体を悪くしたかららしいが、直接的理由はこの孫との一戦が原因と周囲から囁かれていたんだ。」

「話の腰を折っちゃうけど、少しいいかな?」



ここで、森羅達の会話に入れていなかった夢が遠慮しがちに訪ねた。



「何でしょう夢お嬢様?」

「話の流れと内容は大体分かったんだけど、そのく、クロガネ、じ、陣内さん?そのおじいさんって、どのくらい強かったの? 大佐や揚羽ちゃんと同じくらい?」



どうやら、夢は話のスケールが未だに分かっていなかった様だ

元々昔の話であったし、夢は武術の事に関しては疎い
夢の疑問は、当然とも言えた。



「いえいえ、現役時代での私でさえ高齢の陣内殿には手も足でませんでした。」

「え、そんなに!」

「鉄一族は、我が九鬼、そして川神に並ぶ古き歴史を持つ武の一族。
そして陣内殿はその当時の鉄の頂点に立っていた御方、言わば「格」そのものが違う。」

「そんな化け物じいさんに七~八歳で勝ったって、そいつ…一体どんな化け物ですか?」



大佐の説明に、更に揚羽が補足を入れて、夢は更に驚き
朱子に至っては、既に驚きを通り越していた



「こら朱子、そういう言い方はよせ。」

「はい、すいません。」


大佐が朱子を軽く注意して、話を続ける


「件の少年の父はわしの友人でな、昔はそこそこ会っていたが……最後にあの子に会ったのは、もう五年も前か…
確か、夢お嬢様や揚羽様と同年代だった筈。そう確か名前は…み「ミナトだ」、揚羽さま?」



大佐の言葉を遮って、揚羽が答えた。




「そいつの名はミナト。鉄一族の……鉄ミナトだ。」



















その頃のイタチさん



「う、む…さて、どうする。」


未だに、雑誌と睨みあっていた

そして困った様に唸る。


イタチが本屋にて雑誌と睨みあう事数十分

未だに何の打開策も浮かばず、頭を悩ませていた

選択肢の一つとして三誌全てを購入するという手段があるが、それは最終手段
この場合、余計な出費をしてしまっては任務成功とは言えないだろう。


「…ん、そういえば…」


しかし

ここでイタチは、ある事を思い出す

それは数日前の、久遠寺家でのある光景




========================================



「お~い夢、新しいジャンプあるか? 貸してくれ。」

「ん、ジャンプ? 分かった、少し待っててシンお姉ちゃん。……あ、あったあった、はいコレ。」

「うむ、ご苦労……って、なにいぃ!!?」

「どうしたの、シンお姉ちゃん?」

「どうしたもこうしたも……今週は『ハンガー×ハンガー』が載っていないではないか!!!? 
『ネウ口』が終わってから、私はあれが唯一の楽しみだったんだぞ!!」

「作者の都合で暫く休載だって、前のジャンプに書いてあったよ。」

「作者の都合だとおぉ!!? どうせあいつは新しく出たドラク「ワー!わあああぁぁぁ!!! シンお姉ちゃんストオオオォォップ!!!」 ぬぬぬ、仕方ない…この行き場のない怒りは、ミューたんをいじくって発散するかぁ…。」



========================================



回想終了


「…確か、『ハンガー×ハンガー』だったな。」


それは、一筋の光

一握りの希望

己の記憶から掴み取った情報から、なんとかヒントを得た

この三誌の中で、このタイトルが載っている物を見つければ良い筈だ。


そして、イタチは雑誌を手にとって、掲載タイトルを確認する。



「………ない。」


二冊目を手に取り、確認する



「………これにも、ない。」



三冊目、これが最後の雑誌
ペラリペラリとページをめくる



「………どういう事だ?」



…載って、いない…



…何故だ?…



三誌のどれにも、『ハンガー×ハンガー』なるものは掲載されていなかった


これにより、イタチは更に頭を悩ませる結果になった



……一体、どれを買えばいい?……
















「鉄ミナト、曰く「神童」、曰く「鬼才」、曰く「鉄初まって以来の天才」、曰く「武の神に愛された子」…
とまあ、ヤツに関しては様々なその存在を褒め称える言葉がある。」


ゆっくりと、揚羽は語る



「…な、なんか凄いね。」

「ですが、事実なんですよ。」



揚羽の言葉で夢の頬がやや引き攣るが、小十郎が揚羽の言葉を肯定する。
そして、大佐が更に言葉を続ける




「確かに、ヤツの才能は凄まじいモノはありました、が…」

「が?」

「我は、それ以上にヤツが気に入らなかった。」

「…知っているのか?そいつの事?」



奥歯に詰まる様な言い方をする揚羽に、森羅が不思議そうな顔して尋ねる
まるで、実際に会ってその人物を知っているかの様な言い方だったからだ。



「ええ、鉄と川神と我が九鬼は昔から交流がありましたから…幼い頃は、良く一緒に稽古に励んだものです。」

「ん、幼い頃は?」

「やめたんですよ。鉄ミナトは、武術を…」

「へ、何で?」



揚羽と小十郎の言葉に、夢と朱子が不思議そうに首を傾げた

揚羽は苦虫を咬んだ様な顔をし、小十郎が説明した



「確か、陣内殿が引退して一年程立った合同親睦会での事……ヤツは突然こう言い出したんです、

『もう、こっちは潮時かな。』と…

そう言って、ヤツはそれ以降の親睦会にも滅多に顔を出す事もなく…
その後の噂では、いつも稽古をする時間になっても何処かにフラフラと姿を消し、
人前で武術をする事もなくなってしまったようです。」



小十郎の説明を聞いて、朱子が不思議そうな表情を浮べて尋ねる



「…なんでその、ミナトってヤツは武術をやめたの? そんなに強くて、しかも子供なら、
普通ならどんどん自分の力が上がっていくのが、凄く楽しいものだと思うんだけど…?」

「…恐らく、ヤツは燃え尽きてしまったんでしょう。」



小十郎が、ゆっくりと溜息を吐く



「一族最強と言われていた鉄陣内を倒し、周りから持て囃されるだけ…周囲には自分と対等の人間はなく、力を高めてもそれを存分に発揮する機会も、相手もいない。

端的に言ってしまえば、やり甲斐がない…

恐らくヤツは、自分が武術をする理由を見出せなくなってしまったんでしょう…。」



自分の力を高めて、高め続けても
その力を存分に発揮する事が出来ず、唯々周囲からの期待に応える為だけに努力を重ねる


そして、そこにあるのはそれだけ…


森羅は考える
自分の仕事にやり甲斐を感じるのは、それは自分達のコンサートを聞きに来る人がいるから、自分達のコンサートを心から楽しみしている人たちが居るからだ。


朱子は考える
自分がここまで料理の腕を高める事が出来たのは、自分の努力の他に…自分の料理を食べて「美味しい」と言ってくれる人達がいたからだ。


趣味や日々の楽しみならともかく


やり甲斐がなければ、続ける事は確かに難しい


確かにやり甲斐がなければ、それはただ虚しいだけかもしれない。


小十郎の言葉は続く



「ヤツがやめると言った時も、周囲の反対は凄まじいものだったらしいのですが…ヤツは一切聞く耳持たずだったそうです、
そして、何とかヤツを再び燃え上がらせる為に鉄一族の皆も色々と画策し、ついには川神鉄心にすら頭を下げて頼み込み…
鉄ミナトにぶつけようと試みた様ですが、結局は失敗に終わった様です。」

「…完全に、燃え尽きてしまった…という訳か。」



森羅がそう呟くと、小十郎と揚羽は小さく「恐らく」と口にした

僅かばかりの沈黙が場を支配し、揚羽が口を開いた。



「ええ、そう通り。
だから、我はヤツが気に入らないんです…。」



いつもの揚羽らしからぬ、憎々しく忌々しい様に

揚羽は呟いた。












久遠寺家・正門にて



「お掃除♪お掃除♪オソウジパッパー♪」



ハルは鼻歌を口ずさみながら、門の前で箒を掃いていた

ささっと辺りを掃いて、一息ついた



「いや~、やはりお掃除は気持ちが良いですね~。箒を掃いているだけで、己の心が洗われるようです~。」



額の汗を軽く拭いて、掃除を再開しようとした


その時



「……あっれー、おかしいなー?」

「…ん?」



不意に、困ったような人の声が聞こえてきた

何だと思い、声の発信源に視線を移すと…そこには、一人の青年が居た



「地図だとこの辺の筈なんだけど…う~ん、道間違えたかな~?」



手に持った紙と睨めっこしながら、うんうん唸っている

やはり困っているようなので、ハルは声を掛ける事にした。



「どうなさいました、なにやらお困りのようでしたけど?」

「ん? ああ、これは失礼。最近この近くに越して来たのですが…お恥ずかしい事に、道に迷ってしまった様で…
ん~、参ったなー。引越しの挨拶の菓子の味が悪くなっちゃうよ。」



ハルの言葉に、再び困った様に呟く

恐らく年齢は夢や錬と同じくらい、まだ学生だろう
格好は白のYシャツに、黒のスラックスというシンプルな格好。それになにやら手さげ袋を持っている。

「なんという所を探しているんですか? 力になりますよ?」

「本当ですか!ありがとうございます!!」



困った顔は一転、パアっとその青年は顔は輝いた

近い距離で顔を合わせる

金髪が特徴の、どこか人懐っこい印象を持つ好青年という感じだ。



「それで、どこに行く予定なんですか?」

「この近くに、父の友人……じゃなくて、田尻って人が住んでいると思うんですけど…その人の家を。」

「田尻?」



その言葉に、ハルは心当たりがあった



「その人って、もしかして田尻耕って名前ですか?」

「そうです!知っているんですか!?」

「ええ、このお屋敷で住み込みで働いている僕の上司です。」



驚いた様に青年は声を上げた



「あ~、なるほど…住み込みか~それは盲点だったな。とにかく、ありがとうございます。
お陰で助かりました。」

「いえいえ、そんな事はないですよ。それじゃあ早速お屋敷の方に話を通してきますね…
え~と、お名前は…」

「あ、これは失礼。」



そう言って、青年は僅かに咳払いをして



「申し遅れました。自分の名前は、鉄ミナトです。」










続く








補足説明


その1・鉄乙女(クロガネオトメ)、「きみある」の前身ともいえる「つよきす」のヒロインの一人。本編では作者の都合で揚羽とほぼ同年代としているが、実際は不明。
揚羽が鉄一族と因縁がある主な理由は、乙女さんが原因と作者が勝手に捏造。


その2・鉄陣内(クロガネジンナイ?)、上記の鉄乙女の祖父。乙女さん曰く強さの象徴。鉄一族の数少ないフルネームが分かっている人物の一人。



後書き すいません、更新が遅れました。少々インフルエンザになっておりました。
   しかも旅行→インフルエンザという黄金コンボ、実際は一週間もしないうちに治りましたが、中々調子が戻らず…更新が遅れました。

    本当に、申し訳ございませんでした。これからは体調管理にも気をつけます。


   あと、今更ながら「まじ恋」の体験版をしました。



   ……なんだ、あれ……



   めっちゃくちゃ面白いんですけど!! あれなにマジで!!
   イイ、凄くイイデス!! めっさ面白いです!!!


   自分が気に入ったのは…ぶっちゃけ、全員気に入ってます。
   強いて言うなら、女は川神姉妹とあずみさん。男はキャップと英雄とロリコンです!



   くっはー!本編とクロスさせてええええぇぇぇ!!!

   そんでもって決闘システムを利用して天下一武道会もどきをやって、イタチやミナト、きみある勢も参加させてバトらせてええええぇぇぇ!!!


   

   イタチVS百代さんとか!!

   小十郎VSワン子とか!!!

   揚羽VSクリスとか!!!

   南斗星VSまゆっちとか!!!

   錬VSあずみさんとか!!!


  そういう大乱戦やらせてえええええぇぇぇぇぇ!!!!





  まじ恋、買おうかな…




  とまあ、長々と作者の妄想…失礼しました。
  
  ちなみに、ミナト参戦は復帰した当初から実は決めていました…

  みなとソフトなだけに!!……すいません、マジで失礼しました!
  次回は早めに投稿したいと思います! それでは!!






[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)第十四話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/09/06 02:19


久遠寺家・地下物置にて



「ふー、これで大体一段落ついたかな?」

「ですね~。思ったよりも時間が掛かっちゃいましたね。」


錬は持っていた大きなダンボールを、戸棚に置く
美鳩も持っていた荷物を置いて、一息つく

錬が軽く腰を叩いていると、上への階段から南斗星が最後の荷物を持ってやって来た。


「ゴメンね、二人とも。私の仕事だったのに、手伝って貰っちゃって。」

「いやいや、気にしないでよ南斗星さん。」

「困った時は、お互い様ですね。」

「それでも、ありがとう。お陰で凄く助かったよ。」


ニコリと微笑みながら南斗星は二人に感謝の言葉を送る

一仕事を終えて、次の仕事に移ろうとした時



「あ、そういえば揚羽様と小十郎くんが来てるみたいだよ。」

「あらあら、本当ですか~?」



南斗星が気が付いた様に声を上げる。



「揚羽さんと小十郎が来てるのか、それなら少し挨拶をしておくか。」

「そうですね。それで、お二人はどちらに?」

「確か、森羅様達と一緒に居間の方にいらっしゃっていたよ。」


美鳩の質問に南斗星が答えて、錬が声を上げた



「森羅様達と一緒か、それなら報告がてら挨拶しにいくか。」



そう言って、三人は居間へ足を運び



「森羅様、上杉錬です。」


居間の扉を軽くノックする
僅かな間を置いて、中から了承の返事がきた



「それでは、失礼します。」



そして、錬が扉を開けると…



「…………」



「…………」



「…………」



そこには、とっても素敵な修羅場が出来上がっていました。








第十四話「意外な顔」







ナンデスカ、コノ空気ハ?


居間に入った錬は、冷や汗を垂らしながらこう思った

特に何かがある訳ではない

いつもと比べて変わった所があるとすれば、揚羽と小十郎、そして見知らぬお客さんが来ている事くらいだ。

そう、外面的には何も問題はない



そう、問題は別の所にある



(おぅいいいぃぃぃ!!!! 何だ!何なんだよこの空気! おいベニ公、何があったのか俺達に説明しろ!!!)


(私が知るかああぁぁ!!! 大佐の友人の子っていうあの客が着たら、いきなりこんな空気になったのよ!!! 
ちょっとハル!あの客つれて来たのアンタでしょう!! 何とかしなさいよ!!!)


(ぼ、ぼぼぼ僕がですかぁ!? む、むむむ無理ですよぉ!! それに、僕はあのお客さんがこの屋敷に来たから応対しただけですよぉ!!!)



小声で、三人は思わず問答する。

そう、錬達が先ほどから感じている「ナニカ」…

それは、一重にこの居間の空気だ。



何というか、重い…
果てしなく重い。

体が重い、咽喉が干上がる

背筋が凍る、地に足が着かない

居るだけで、尋常でない程のプレッシャーを掛けられている感覚に陥る


まるで、己の五臓六腑全てが他者に握られている様な感覚



「コホン。」



そんな錬達のプレッシャーを感じ取ってか、森羅が咳払いをして



「錬、美鳩、南斗星…未有のヤツも来たし、今屋敷に居る面子はこれで全員か。
 なら、今が頃合か。客人、すまないが自己紹介を頼めるか?」

「はい、勿論。」


そう言って、テーブルに着いていた金髪の青年が錬や美鳩に視線を送る

そして一礼して、自己紹介を始めた。



「久遠寺家の皆さん初めまして、鉄ミナトと言います。
先日この近くに引っ越してきたので、父の友人である田尻さんに挨拶に来たのですが、
久遠寺家の皆さんにもこれから会う機会は多くなるからと、そこにおられる森羅様の言葉に甘えてこうして皆さんにも挨拶させて頂きました。
まだ若輩者で至らぬ点も多々ありますが、これからよろしくお願いします。」


爽やかな笑顔とハキハキとした口調と挨拶

礼節も弁えたその態度、錬達も先ほどまでのプレッシャーが和らいだ
そして森羅達も自己紹介を始めた


「うむ、中々良い挨拶だったぞ客人。私はこの久遠寺家の家長、久遠寺森羅だ。
聞いた話だと、何でも四月から夢や揚羽達と同じ七浜学園に通うそうだ。
これから、皆とも接する機会は多いだろう…大佐の知人とあれば、この久遠寺家は無碍には扱わん。
困った事があったら、何時でも相談しろ。」


「私は久遠寺未有、この久遠寺家の次女よ。
困った事があれば、いつでもこの年上のお姉さんに相談しなさい。年上として、アダルトにお答えするわ。」


「それじゃあ、次は私だね。私は久遠寺夢、ミナトくんと同じ七浜学園の三年生だよ。学校で分からない事があったら遠慮なく聞いてきてね。
ミナトくんとは同い年だから、堅苦しい感じは抜きで仲良くしてね。」


「はい、皆さんよろしくお願いします。」




三姉妹が紹介を終えて、ミナトも改めて一礼をした


そしてその後、錬、朱子、美鳩、ハル、南斗星と挨拶をしたところで



「うむ、これでほぼ全員か。しかし久しぶりに会ったが…ミナトよ、中々スペシャルな育ち方をした様だな。
口調や仕草と言ったものだけでなく、滲み出るオーラでお前が如何な成長をしたのか手に取る様に分かるぞ?」


「ははは、田尻さんもお変わりない様で。それに幾ら何でも褒めすぎですよ、自分はまだまだ若輩者です。」


「ふふふ、謙遜するな。あいつもお前の様な息子なら、安心して留守を任せられるだろう。」


「買い被りですよ。現にこうして一人暮らしはさせられないと、転校させられてしまいましたから。
…そういえば、さっきから気になっていたんですけど…」


「…ん、何だ?」



ミナトは大佐との会話を打ち切って、揚羽と小十郎に視線を移し



「そちらの方が、まだ自己紹介されていないのですが…?」

「「!!?」」



ミナトがそう言葉を発した瞬間
揚羽と小十郎は目を見開かせ、僅かに顔を強張らせた



「貴様、我等が誰なのかを忘れたか?」

「誰って言われましても、その制服は七浜学園のものですよね? ひょっとして転校手続きの時にあったりして…」

「貴様…とぼけるのもいい加減するのだな。それとも何か?我等は貴様にとって、記憶に残す価値すらないと?」



薄れていた緊張が、またここで高まる

まるで両者の間に、火花が散っている様な感覚

一種の緊張感の中で、いつ一触即発が分からない状態になって所で…



「…ん、その額の傷……バンダナ…」



ミナトは、何かに気付いたかの様に二人を注視して



「ああああぁぁぁぁ!!! もしかして、揚羽ちゃんに小十郎!!?」

「…やっと気が付いたか。」

「ああーそっかー、全然気付かなかった! ゴメンゴメン。でも久しぶりだねー二人共大人っぽくなってたから気付かなかったよ!」

「あの、ひょっとして三人は知り合いなんですか?」



納得が行ったかの様に言葉を発するミナトを見て、錬は疑問の声を上げた

錬と美鳩と南斗星とハル、そして未有は、さっきの会話を聞いていなかったから三人の関係性が未だに分かっていなかった


「そうですね。幼馴染で幼い時の修行仲間って感じですかね?」

「……」

「…まあ、間違ってはいませんね。」


ミナトは揚羽と小十郎に視線を送るが、二人の態度はどこかつれない。

しかし、そんな二人を尻目に南斗星が声を上げた



「修行仲間って事は、ミナトくんも武術を?」

「ええ、そこそこ嗜んでいた程度ですが…」

「くくく、謙遜するな。」


ミナトの言葉に、森羅が反応してニヤリと笑った


「どういう事ですか、森羅様?」

「それはな錬。こいつは、武術の界隈において九鬼家と肩を並べる鉄一族の一族最強の鉄のじいさんを幼少時にKOした程の天才なんだとさ。」


その言葉に、錬やハル。先ほどの会話を知らない面々は大いに驚いた



「揚羽さんの家とタメを張る一族最強の人を倒したって…マジですか?」

「クルックー、それは凄いですね。ハトも驚きです。」

「す、凄いですねー。僕とそんなに年は変わらないのに…」

「確かに、それは凄いね。」



それぞれの面々は驚いた表情でミナトを見つめる
錬と南斗星、特に南斗星は揚羽を初めとする九鬼家の武闘派の実力を良く知っているので、驚きもより大きかった

それぞれの視線を一身に受けて、ミナトは恥ずかしそうに笑った



「いえいえ、それ程のものでもありませんよ。
確かに昔は天才だなんて周りから言われていましたが、今はそんなのもパッタリ。

ジンじいちゃんとの話だって、そんなに大した事じゃないですよ。たまたま自分との組み手中にじいちゃんが足を滑らせた所に、
自分の一撃がじいちゃんの鳩尾に入っちゃっただけで、しかもその直後にじいちゃんが持病のギックリ腰が出ちゃって、
その話が大げさになって伝わっただけの話です。」



あくまで自分の勝利は偶然の産物だったと、ミナトはそう語るが


「何を言う、例え偶然でもあの陣内殿に一撃を入れる事が出来た時点でもその結果は大いに評価される事だ。
もはや過ぎた話だが、お前が武術をやめたと聞いた時はわしも心の底から勿体無いと思ったものだ。」


大佐がミナトの当時の実力を改めて評価する。
しかし、ミナトは少々気まずそうな笑みを浮べて


「…確かに、あの時は親戚一同が家に押しかけて来て大変でした。正確に言うと、武術は完全にやめた訳ではないのですけどね。
今だって健康の為に運動をしていますし…」

「我にとってはどちらでも変わらぬ!」



不意に、揚羽は声を上げた
その顔は確かな怒りを見せて、歪んでいる

この様な表情をする揚羽を見たのは、錬や美鳩は勿論
級友の夢でさえ、初めてだった。



「揚羽様、恐れながら申し上げます…ここは九鬼の家ではございませぬ。少々お声を荒げすぎかと…。」

「…む、確かに。騒がせて申し訳ない……だが鉄ミナト、これはいい機会だ。
久しぶりに我と手合わせをしようではないか? それで先ほどの無礼は忘れよう。」



小十郎が揚羽の態度に釘を刺すという珍しい光景を目にしながら
揚羽はミナトに手合わせを申し出る

が、





「え、ヤダ。」





出されたお茶を啜りながら、ミナトはあっけらかんと答え

揚羽はあまりに素早い返答に、思わず唖然とした



「んな!」

「いま思い出したけど…揚羽ちゃんって、組み手の時って凄い恐いんだもん。
一撃一撃がモロに人体急所を狙ってくるし、勝つまで延々と組み手止めさせてくれなかったし
あまりにそれが続くと涙目になってくるからこっちは何も悪くないのに…凄い罪悪感に襲われるし…」

「ぬあ!!」



幼い頃の触れられたくない過去を出されて、思わず揚羽は赤面するが



「ほほ~、なるほど。昔の揚羽にはそんな子供らしい可愛らしい一面があったのか?」

「まあ、急所を躊躇なく狙ってくるというのはあまり子供らしいとは言えないけど…」

「でも、揚羽ちゃんの子供の頃か~…私も興味あるかな~?」



マズイ、と揚羽は思った

今の森羅は興味深々と言った顔をしている
揚羽は森羅の事を尊敬しているが、森羅は良い意味でも悪い意味でも幼い面を持っている

子供ころなんて、誰にだって思い出したくない過去など一つや二つ持っているものだろう


子供故の幼さというものだってある

そう考えていた所で



「じゃあさ、揚羽ちゃんと小十郎くんって昔から仲良かったの?」



揚羽の心中を無視して、夢が先陣を切った


「そうですね、昔から凄く仲良しでしたよ。今も相変わらずみたいですし。」

「…ぬ!」

「いえ、まあ…」


ミナトが夢の言葉に答え、揚羽と小十郎が呻く様に声を出す

しかし、ミナトは更に話を続けて



「それで、乙女さんっていう鉄の親戚の女の子がいたんですけど…小十郎は昔、その娘に気に入られてたみたいで
よくその娘にあっちこっち手を引かれて、遊び回って走り回ってで、とにかく気に入られてたんですけど…
揚羽ちゃんは、それを見ては乙女さんにいつも『クロガネオトメェ!勝負だぁ!!』って言って突っ掛かって…」

「ほほう?」



更なる過去の暴露で、森羅が再びニヤニヤと笑い



「それでも懲りずに乙女さんは小十郎を連れまわし、揚羽ちゃんはそれを見ては突っ掛かって喧嘩っていうお決まりパターン。
それで、この乙女さんも揚羽ちゃんも同年代の中では力が飛び抜けてたから…もう喧嘩も凄くて…

喧嘩が終わってもその後の口喧嘩が凄くて、やれ「小十郎は我のものだ!!」とか「私はコイツが気に入った!こいつは私のものだ!!」とか

それでもって最終的には揚羽ちゃんが「小十郎は我だけのものだぁ!!」って言って涙目になって
乙女さんに「貴様ああああぁぁぁ!!! これ以上ふざけた事をぬかすとその首ヘシ折るぞおおおぉぉ!!!」おっと。」



幼さ故の純真な発言が恥ずかしかったのか
それとも自分の従者の所有権を巡って幼稚な喧嘩をしたのが恥ずかしかったのか
もしくは気に入らない相手に、自分の過去を勝手に暴露されたのが気に食わなかったのか

顔を真っ赤にし目をこれ以上に無い程に吊り上げた揚羽がミナトに襲い掛かるが、ミナトはそれをひょいと避け


「全く、コイツは……はっ!!!」


それで一旦会話は終わるが、時は既に遅し
揚羽は森羅や夢から生暖かい視線で見られていた



「なるほどー、三角関係か。小十郎も意外にやるなぁ。」

「ふふん、両手に花と言う訳ね。」

「へぇ、やっぱり二人とも昔から仲が良かったんだぁ。」

「…ぬ、ぬぐ、ぬぐぐぐぐ…」


ニヤニヤと、森羅達は揚羽達に視線を送る

咄嗟に、小十郎がフォローを入れるが


「い、いえまあ…子供の時の話なので…」

「愛されているんだなぁ、小十郎は。」

「ぐっはぁ!!!」


その森羅の一言で、小十郎は撃沈

顔を赤面させて嬉し恥ずかしの表情で思わず膝を着いた

そして、夢は再びミナトに視線を移して


「ねえねえミナトくん、今の話に出てきた乙女さんってどんな人なの?美人?」

「あ、待ってください。携帯に正月の時に取った写真が……あ、あったあった、この人です。」


そう言って、ミナトは携帯電話を夢達に見せる
そこには、青みがかかったショートヘアーの女性が映っていた



「…わ、キレイな人。」

「へえ、これは確かに中々。」

「ほぉ、なかなかレベルが高いな。」



そう言って、森羅達は携帯電話を注視する

しかし、そこで再び揚羽が


「きいぃすぅうあぁぁまあああぁぁぁ、そうか、そういう事か…これは我に対する宣戦布告だな、そうなんだな?」


頬を盛大に引き攣らせて額に青筋を浮べて、拳をバキバキと鳴らして揚羽はそこに立つ


「あれ、揚羽ちゃん…ひょっとして怒っちゃった?」


恐る恐る夢が揚羽に尋ねる

揚羽はクスリと笑い



「ふふふ、侮るではない夢よ。我とて幼き日の思い出をからかわれた程度で憤怒したりはせぬ。」

「……ほ、なら良かっ…」


揚羽の発言に、夢がほっと一息を吐くが





「ただ、無性にヤツの血が見たくなっただけだ。」





「うわあああぁぁぁ! どうしようシンお姉ちゃん!揚羽ちゃんがマジ切れしちゃってるよおおぉぉ!!!」


夜叉の様な表情を作りながら、揚羽はギラギラと目を光らせた


「う~む、少しからかい過ぎたか…」

「いや、これは止めた方が良くないですか? 流石にこれ以上は危険かと…」


錬が事態の危険度を察知して、森羅に進言する

どうしたものかと、森羅が考え始めた所で…




「ただいま戻りました。」




不意に、居間のドアが開いて



「それで、何の騒ぎですかこれは?」



久遠寺家、最後の使用人がその姿を見せた。






















「ふぅ、何とか買い物を済ませられたな。」


久遠寺家への帰路を歩きながら、イタチは呟いた

購入に手こずった「ジャンプ」とやらも、無事に入手できた


やはり、分からない時は店員に聞くのが一番だ



(…まあ、少し気になる事もあったが…)



店員に、『ハンガー×ハンガー』が載っているジャンプとはどれだ?
と尋ねたのだが……



何故か、店員は半笑いだったのだ。



まあ、こうして無事に買えたのだから良しとしよう


買い物袋を携えて、イタチは久遠寺家の門を潜り抜けた


「ただいま戻りました。」


そう言って、玄関で声を上げるが返事がない

まあ、気にする事もないと思って靴を脱ぐが…


「…ん、この靴は?」


来客用の靴箱に、何足か靴が入っていた

そして、イタチはその内二つは見覚えがあった



「これは揚羽、こっちは小十郎だな……それで、これは…」



そう言って、最後の一足に目を向ける

見知らぬ靴、どうやら自分が知らない客の物だろうと思って…



ある事に、気が付いた



「……ほう……」



感心したかの様に、イタチは呟く


その靴は踵の部位が、水平に磨り減っていた。

殆どの靴の靴底というのは、斜めに磨り減っていく
これは殆どの人間の重心が、足の親指に定まっていない為である。


しかし目の前の靴はほぼ水平に磨り減っている

そこから考えられるのは、この靴の持ち主は足の親指にしっかりと重心が乗っているという事
そしてこれは、余程の鍛錬を積み…足腰が鍛えられている何よりの証拠

現に、揚羽と小十郎の靴も同じ磨り減り方をしている



つまり、この靴の持ち主は足腰だけを見れば
揚羽達と同等、もしくはそれ以上に鍛えた人間という事になる


「あいつらの様に、好戦的でなければ良いがな。」


一通りの考察を終えて、そう締めくくる

流石にあの様な手合いが増えると、やや面倒が増える


客人が来ているとなると、皆は応接室か居間だろう


足を進めていると、なにやら騒ぎ声が聞こえてきた

良く聞いてみると、それは居間から聞こえてきた



「この声は、揚羽か? 何を騒いでいるんだ…」



大方、自分との再戦を申し込みに来たのに留守だったから

南斗星や大佐あたりに無茶な願い事をしているのだろう

そう予測づけて、居間へのドアを開けた。




「ただいま戻りました。それで、何の騒ぎですかこれは?」




居間には、久遠寺家の面々


揚羽と小十郎


そして








その人物は居た








「ああ、イタチか。丁度良かった、揚羽のヤツを……」


揚羽を止めてくれと頼もうとして、森羅の言葉は止まる


「…イタチ?」




なぜなら、あの無表情のクールキャラのイタチが



これ以上にない程の、驚愕の表情を浮べて

そこに立っていたからだ。




















ドクンと、心臓が跳ね上がった気がした

心臓が脈打ち、激しく脈動していた


呼吸が、止まった気がした

肺が、停止した様に感じた


時間が、凍った様に感じた


それらは、時間にすれば三秒に満たない時間だったろうが

自分にとっては、遥かに永い永劫の時間に感じられた



なぜなら、自分の目に飛び込んで来たのは



あまりにも、想定外……そして、有り得ないものだったからだ



「……な、ぜ…?」



この久遠寺家の居間にいる、ただの来客の一人


あの金髪の青年……恐らく、あの靴の持ち主


その人間を目にした瞬間……自分の頭の中から、あらゆる雑念は吹き飛んだ



「…あれ、どうしたのイタチくん?」

「イタチさん…どうかしたんですか?」



南斗星とハルが、自分に駆け寄って何かを言っているが耳に入らない

自分の様子に気付き、居間にいる全ての者の視線が集中するが…気にもならない





なぜなら、その人物が居る事比べれば…それらの事は塵芥に等しい事だったからだ





有り得ない、そう思っていた


「そんな事」は、有り得る筈がないと…そう思っていた




普通に考えて、他人の空似というのが一番まともな考えだっただろう



だが、それは即座に却下した



なぜなら、既に自分という「前例」があったから


そして、前例があるのなら…同じことは絶対に起こり得るからだ





そして、何より自分の直感が



本能が



写輪眼が




それら全てが、



そこに居る人物は、あの人だと





そこに居るのは、紛れも無い本物だと


自分に告げていたからだ。









「……な、ぜ……貴方が、ここにいる?……」









それは、自分の故郷で知らぬ人間はまず存在しない


なぜなら、その人物は自分の故郷の英雄だから


かの大戦では、勇猛果敢な働きを持って…里を幾度となく勝利に導き


己の命と引き換えに、あの九尾から里を守り抜き




英雄として、その名を歴史に刻んだ伝説の忍



その人が今、自分の目の前にいた










「……四代、目……」












ゆっくりと、その名を呟き



そして、その青年も自分に視線を向け




「……イタチ、さん。でしたっけ?……」




その青年は、僅かに考えて

ゆっくりと言葉を繋いだ








「少し、お時間を頂けますか?」














続く







後書き えー十四話を投稿させていただきました! 感想でも多かったのですが、このミナトはあのミナトなのか? 
どこまでミナトなのかが疑問視する声が多かったのですが、その疑問は次回で解決する予定です!!

ちなみに、靴の踵うんぬんは昔に読んだ漫画の知識です。


あと、「きみある」の主要キャラって年の順で並べると…


大佐≫森羅≧南斗星>美鳩>未有>夢=朱子=錬=揚羽=小十郎>ハル


の順ですかね?

久遠寺三姉妹は言うに及ばず、原作では夢と朱子と錬は同年代と明言されています、これらは確実だと思います。

更に、錬が南斗星は美鳩より年上と言っていて、美鳩は未有より年上か同年代らしいです。
大佐を抜かすと、森羅と南斗星のどちらかが一番年長らしいのですが…これは良く分かりません。

あとは、肝心な年の数ですが…夢と未有は年は一つしか離れていないそうです。
夢が学生で尚且つ十八歳以上の未成年、そして未有は飲酒を許されている年齢らしいので

未有は二十歳で確定とすると、美鳩は二十歳以上、南斗星は二十一歳以上

それでファンブックによるとイタチは二十一歳なので


南斗星>美鳩≧イタチ≧美鳩>未有
という感じになります。


という訳で、これからはイタチと美鳩は同年代という描写でいこうと思っています。





[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)第十五話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/09/06 10:50

注意!!・今回は一部のキャラクターが激しくキャラ崩壊しています。

   本編を読むときは、この事をよく注意してから読んでください!!



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「…行ってしまったな、アイツら…」


唖然としたまま、森羅は呟いた


「イタチ君のあんな顔、初めて見た…」

「ええ、驚きました。」


森羅の言葉に、南斗星とハルが続く

どうやら、先程までのイタチについて話している様だ


「…なあ、未だに話が見えてこないんだが…ベニ公、どういう事か説明してくれ。」

「私だって知らないわよ。っていうか、そっちの方が詳しい事情が分かるんじゃないですか?」


朱子は、チラリと揚羽と小十郎に視線を向ける

しかし、二人も浮かない表情を浮べて…


「いや、我等も詳しい事情は分からぬ。雰囲気と先程のやり取りで、イタチ殿と鉄ミナトは面識がある、という事は分かったが…」

「それ以上は流石に…。逆にお尋ねしますが、久遠寺家の皆さんは何か知っているのではありませんか?
少なくとも、我々よりはイタチに詳しいと思うのですが?」


小十郎が久遠寺家の面々に視線を投げかけながら尋ねるが、
その問いに、答えられる者はいない


「私達も、イタチさんについてはあまり知らないんですよ~。イタチさんはあまり自分の事は話さない人なので…」


美鳩が困った様な表情で尋ねる
何か他に知っている事は無いかと、皆が考えた所で


「あっでもイタチさんは、武術は元々お父さんに習ったって言ってたよ。」

「そう言えば、あいつの模倣って元々父親に習ったものとも言っていたわね。」


夢と朱子が嘗てのイタチとの会話を思い出し、そう進言するが

それだけの情報では、今一つ欠ける


「あ、そう言えばイタチさんは甘い物が好きですね。」

「いや、それはどうでも良いし。」


美鳩がのほほんと、そんな事を呟くが
朱子が即座に打ち切る、そして森羅は呟く


「う~む、結局…何も分からんか。」

「…まあ、今はあの二人を待つしかないわね…。」


ここで、初めて未有が発言する

そう言ってイタチとミナト、二人が出て行ったドアを皆は見つめていた。











第十五話「イタチとミナト」











久遠寺家・中庭



「…お久しぶりです、火影様。」

「やっぱり、フガクさんの所のイタチくんか…久しぶりだね。」


そう言って、二人は互いに言葉を交わす

既に互いが自分の知る人物である事は、先刻のやり取りで十分解かった

そして、お互いが言いたい事も

それが、あの場所では話せない内容である事も。



「君と最後に会ったのは、九尾事件の直前の大戦慰霊の儀だったから…十六年も前か。」

「…俺の事を、よく覚えていましたね。」

「まあ、ちょっとした事情でね。それにそれはお互い様だよ。」



その言葉に、イタチは「確かに」と頷いて言葉を続ける



「ええ。ですが、俺は一目で貴方があの四代目だという事が分かりました。
如何に世界は広いと言えど、貴方ほど澄んだチャクラを持つ者はいませんから。」

「…やっぱり凄いね「写輪眼」は。……いや、ここはその若さでそこまで写輪眼を使いこなし
俺のチャクラを見極めたイタチくんを褒めるべきだね。」

「勿体無いお言葉です。」



そう言って、ミナトはクスリと笑う
イタチもそう言って、一礼をした


イタチが、このミナトはあの四代目火影・波風ミナトと判断した最大の理由

それは、ミナトの中に流れるチャクラの奔流
常人では考えられない程に洗練し、研ぎ澄まされたそのチャクラを

写輪眼で見極めたからだ。


「さて、そろそろ本題に入りたいんじゃない?」

「……お見通し、という訳ですね。」

「はは、伊達に火影をやっていた訳じゃないからね。正直、今の君の立場だったら俺も迷わず君と同じ行動をとるだろうし。」



ミナトは軽く微笑んだ後、すっと表情を引き締めて



「多分、君の予想通りだと思うけど…俺は十六年前、あの九尾事件の時に九尾の封印と引き換えに、命を落とした。
いや、命を落とした筈だった…」


そして、ミナトは語りだした

己が体験した、今日この日まで自分が歩んできた経緯を。











さて、どこから話そうか?
やっぱり、解かり易い様に最初から話すとしよう…


俺はあの九尾との闘いで、命を落とした

うん、「禁術・屍鬼封尽」…契約した死神に、己と対象の魂と命を食らわせて永劫的に封印する術

俺は九尾のチャクラを自分とある赤子の二つに分けて……そう、やっぱりナルトの事も知っているか

まあ、話を戻すよ。



俺の意識は、九尾の封印を完了したと同時に闇に落ちた

あの死神の腹の中に、俺は九尾と共に封印された筈だった



でも、そこから先は完全に俺の予想とは違う方向に事態は進んで行ったんだ。



闇に落ちた意識が回復した時

俺は、見知らぬ山の中に居た

正直、あの時は訳が解からなかった。


体も縮んでいた、多分三歳か四歳くらいのサイズ…歩くのも精一杯だった

多分、丸二日…いや三日かな? その位、その山の中にいたかな?
当てもなく山中を徘徊していたけど、やがて俺は疲労と空腹で動けなくなった……殆ど飲まず食わずのままだったからね


普段ならどうって事ないけど、幼児化が原因か…俺はもう、這いずるのもままならない位に体力が消費していた


ああ、これはヤバイ…死ぬな…
そう思っていた時、頭上から声が降ってきた。



……子供?…どうしてこんな所に?……

……まずい、衰弱が激しい!…おい坊主、大丈夫か!! しっかり掴まってろ!!……



俺はこうして九死に一生を得た
病院に運ばれて、体調を回復して…病院の医師に色々と身元とかを聞かれた時になって



俺はようやく、その異状に気付いた…気付かされたんだ。



うん、察しがついたね

国名が違う、忍も忍術も存在しない

歴史が、いや世界そのものが…自分の知るものとは根本的に異なる異世界


流石に、唖然としたよ。


結局、俺は身元不明のまま……後で分かった事だけど、俺が最初にいた山
その山は俺がこっちに来たとほぼ同時期に、大規模な地滑りがあったらしくて…
行方不明者も、結構出たみたい


…え? この体は自分の物か?…

まあ、多分俺本人の体に間違いないと思うよ


他人の体とは思えない程に、俺の動きに体が馴染んでいるし

それに、顔も嘗ての俺にそっくりだろう?


だから、この体は若返りした俺の体で間違いないと思う



それじゃあ、話を戻すよ。



俺は、その時の行方不明者の一人と判断されたんだけど…結局、身元は不明のまま

施設に入れるかどうかの話になった所で、俺を見つけて病院に運んでくれた人たちが俺を引き取る事になったんだ


うん、その人達がこっちでの…俺の父さんと母さん


その人の姓を貰って、俺は「鉄ミナト」になった

そして、その人の下で…俺の新しい暮らしが始まった。



……え? 元の世界に帰る方法を探さなかったのかって?……


そりゃあ、勿論探したさ


あっちには、生まれて間もない俺の息子もいたし

それに、あの九尾事件でも気になる事があったからね


とにかく、帰る方法を探した


口寄せを試したり、あっちに残した俺のマーキングのチャクラを探ったり

とにかく、沢山の方法を試した



でも、結局はダメだった。



そして何時しか、俺はこの世界で暮らす事を受け入れ始めていた

帰る方法が分からないってのもあったけど、俺自身…この世界での繋がりが多すぎたんだ


特に大きかったのは、こっちでの俺の両親だね


両親は優しかった、凄く良い人たちだった

俺の事を凄く可愛がってくれて、大事にしてくれた。


後で知ったんだけど…こっちでの俺の父さんと母さんには、こっちに来た俺と同じ年くらいの子供がいたんだ

でも母さんとその子は、ある日事故に巻き込まれて…その子は死んで、母さんも子供が出来ない体になっちゃったんだって


子供を失った事はないけど、子の親としては…

そして、あの戦争を体験した身としては…

その苦しみと悲しみは、痛いほど理解できちゃったんだ。



そして、この人たちに…そんな苦しみと悲しみを二度も与えたくない

そう、思うようになったんだ


俺は、こっちの世界の両親を……好きになり過ぎちゃっていたんだ。



正直、色々と葛藤したし……悩んだ


でも帰る方法は、一向に見つからない

それに、俺は元々死んだ身

ナルトの事も、三代目に頼んであったし……自来也先生もいた

木の葉の里も、その優秀さは火影である俺が良く理解していたし



生きた亡霊に、あの世界での役割は無いと思うようになったんだ。




そして俺は、この世界で

鉄一族の、「鉄ミナト」として生きていく事を決めたんだ。




それからの数年間、本当に穏やかな日々が続いた

鉄一族は元々武術で栄えた一族らしく、俺も武術を始めた


技術があっても、体がついてこない状態だったからね

こっちに来た時、碌にチャクラも練れなかったからなぁ


調子に乗って体を鍛えていたら、周囲から天才だのと神童だの言われて一時期大変だったかな?

それで丁度その時期、揚羽ちゃんと小十郎と知り合ったんだ。



うん、そうだね

楽しかった


偶に、元の世界の事も考えたけど……三代目や自来也先生、カカシにリン…


俺の良く知る、優秀な人材が木の葉には沢山いたし…もう、俺が死んで数年経っていたからね


寧ろ、あの世界では俺が介入する事はかえってマイナスなんじゃないか? って思うようにもなっていたんだ



だから、俺の役目はもう終わった……そう、考えていた。



……でも……










「でも、そんな俺の考えを……一から考え直させる事態が起きたんだ。」

「…何ですか、それは?」


ミナトは目を閉じて、僅かに考え込み

そして、言葉を繋いだ。



「ある日の夜、俺は夢を見た……その夢に出てきたのは、一人で泣いている息子の……ナルトの姿だった。」

「……!!?」



その言葉に、イタチは心の底から驚愕した。



「ナルトには九尾の封印以外にも、俺の精神体も封じてあったから…その影響だと思う。
 最初は、ただの夢だと思ったけど……それから、俺は良くナルトの夢を見る様になった。

多分、ナルトのチャクラと九尾のチャクラが同調し始めた頃だったんだろうね。」



イタチには、そこから先の内容が

ミナトが言わんとしている事がどの様なものか、

分かった、分かってしまった気がした。



「ナルトは、泣いていた。孤独に打ちひしがれて、里から迫害され、いつも一人で…一人で、泣いていた。
…正直、この時は自分の迂闊さを呪ったよ。いくら三代目の庇護があっても、人の意識までは変えられない。

九尾をその身に宿したナルトは、英雄ではなく、そのまま里の憎しみの象徴になったんだ
…イタチくんも、その辺の事情は良く知っていると思う。」

「ええ、良く存じています。」



ミナトの問いに、イタチは頷いた

暁の一員だったイタチは、人柱力がどの様な扱い方をされていたのか…よく知っていたからだ。



「せめて、ナルトが俺の子って言っておけば良かったんだろうけど…こっちにも色々と事情が有ってね…
特に大戦が終わってそう経っていない時期だったからね……『九尾を宿した亡き火影の形見』、流石にそれは危険すぎたんだ…。」



イタチは、「確かに」と思った

ミナトは知らないだろうが、大戦後…確かに世界全体が不安定になった。


砂の国を初めとする大国でも「尾獣」、そして「人柱力」の開発と研究が盛んに行われ

地方における血継限界狩りの横行

木の葉でも、雲の国による「日向宗家・誘拐未遂事件」が起きている


そして何より、ミナトは「木の葉の黄色の閃光」と言われた伝説の忍であり英雄

英雄とは、逆に言えばそれほど敵国に恨みを買っている存在だ


九尾のチャクラを宿した、英雄の子供


これほど、恰好な獲物は他にないだろう。




「…ナルトは、擦り切れる寸前まで追い詰められていた…今にも壊れ、崩れそうだった。
 だから、俺は再び元の世界に帰る事を決意した。
両親の事も考えたけど……俺自身、もう手段は選んでいられなかったんだ。」

「…しかし、結果は変わらなかった。」



イタチの言葉に、ミナトは重く頷く


「……うん、武術も止めて…俺は忍術の研究に専念した。時空間忍術の知識はこれでも自信があったからね。
あらゆる術式、マーキング、口寄せ、逆口寄せ、チャクラの逆探知…本当に、色々な方法を試した……
でも、結果は変わらなかった。」


そう言って、ミナトは溜め込んだ息を一気に吐いた。



「正直、雁字搦めだった。このまま息子が追い詰められ、絶望していく様を見ている事しかできないと思った。
確かに、こういう可能性も考えてなかった訳じゃない。

ナルトは俺とクシナの子だ…多少の差別も、しがらみも、強く乗り越えていける…そう思っていたけど…
結局は、全ては俺の見通しの甘さが招いた事だった…正直、ナルトはいつ最悪の状態になってもおかしくなかった。」

「………」

「でも、」


しかし、ここでミナトの表情は変わる。




…おいこらあぁぁ!! てめえスカしてんじゃねえってばよ!!!…



…ぶはははははー!!! どうだぁ! 優等生のお前にはこんな事できねえだろ? だが俺は出来る! つまり俺はお前より凄い!!!…



…あぁん! テメエなに鼻で笑ってんだ!! 誰がウスラトンカチだぁ!!?…



…ち、く、しょおおぉぉ…今日の所は勘弁してやるってばよ…




「そんなナルトを、救ってくれた存在がいた。」

「……?」



イタチが疑問の表情を浮べるが、ミナトはクスリと微笑んで

その人物の、名を呟いた



「…うちはサスケ…君の、弟さんだよ。」



「!!?」

「…うん、うちは一族の悲劇も、その概要も…ナルトを通して知っている。イタチくん、君が犯した事も…大体の事は知っている。」

「…そう、ですか…」



あの事件を、自分の事を、知っているのか…

イタチは少々驚いたが、それだけだった


あの時から、自分は世界中全ての人間の憎しみの象徴になる覚悟で…一族の皆に手を掛けた

嘗て仲間と呼んだ人間から、友と呼んだ人間から

そして、最愛の弟から


全ての人間の憎まれながら、何年も過ごしてきた


今更、そんな視線が増えた所で特に何も思わない


もしも、これが森羅を初めとする久遠寺の人間でも…イタチの気持ちは変わらなかっただろう



だが




「うん、知っている。あの事件の事も…そして、あの事件には君にとって並々ならない事情があった事も。」


「!!?」



そのミナトの言葉に

イタチは、心臓を鷲掴みにされた様な感覚に陥った。



「君の事も、ナルトを通して知っていた。そして君が、サスケくんの事を案じて…何かをナルトに託した事もね。」

「……」

「…あの時、サスケくんを探していたナルトと鉢合わせした時…俺は、ううん…俺たちは気付いた
ナルトが、心の底からサスケくんを兄弟の様に思っている事が分かった時…
君が心の底から安堵して、嬉しく思っていた事にね。」



ミナトが確認を取る様に、イタチに視線を送るが

イタチは、その視線に目を合わせる事はなく
ミナトは「君も難儀な人だね」と、溜息を吐いた。




「……ナルトは、サスケくんと出会って…何かが変わったんだ。
自分と、同じ様な存在を見つけて…自分の様な存在は、自分だけじゃない…それが分かっただけでも、ナルトにとっては嬉しかったんだ。
まあ、互いの境遇を考えると……ちょっと、複雑な気持ちだったけどね。」

「……そう、ですか。」

「うん、そうだよ。でもナルトは泣く事も、あまり無くなった…多少なりとも笑う様になった。
そして、自分から自分を認めて貰う行動を起こす様になった…まあ、多少歪んだ形だったけどね。」



そう言って、ミナトは再び微笑んだ。



「そして、ナルトにも…いつしか、友達が出来た。」



…なあナルト、次の授業ふけねえ? 面倒くせえし…


…こらあ! その最後の一口は僕のだぞおぉ!!…


…あ、あの…ナルトくん…その、授業は、ちゃんと…受けたほうがいいよ…



「それは、普通の人にとっては当たり前の事だったけど…それは、ナルトにとって確かな救いだった…
そして、ナルトを認めてくれる人が出来た。」



……ナルト、卒業おめでとう……



……お前らあああぁぁぁ!!! ごーかっく!……



……俺はもう、大切な仲間を失いたくない……





「そして、それからナルトは俺が思い描いた様に…良い意味でも悪い意味でも、立派に成長してくれた。
仲間を大切にし、他人の苦しみや痛みを分かってやり…仲間を、己を信じて最後まで諦めない

あの、幼い頃の日々からは信じられない程に…ナルトは、健やかに育ってくれた。」



その言葉に、どんな思いが込められていたのだろうか

喜び、感動、そういう言葉では表わせない…様々な感情をその目に宿して



「嬉しかった……心の底から。」



ニッコリと、満面の笑みを浮べて
そう呟いた。

更に、ミナトの言葉は続いた



「そして俺自身…ナルトと、対面できる日が来たんだ。」

「対面? うずまきナルトと?」



どうやって?とイタチが疑問に思ったが

次の瞬間、ミナトは答えを口にした



「さっきも言ったけど、ナルトの体には九尾のチャクラと一緒に…俺の精神体も封じ込めてあったんだ。
そして、ある条件が満たされると…ナルトの精神の中で、俺の精神体が発現する様に仕組んでおいたんだ…

でも、まさか直に会話ができるなんて思いもしなかったよ。」



ミナトは頬を掻きながら、苦笑しながらそう言い

そして



「十六年振りに息子に会って、いきなりフルスウィングで殴られたよ。
…それで、沢山文句を言われた…目の前で泣かれた。
それでも、ナルトは俺の事を…俺の気持ちを汲み取って、受け入れてくれた

沢山迷惑を掛けて、辛い思いをさせてしまったけど……俺は、息子と話して…心の底から安心した。

あれが最初で最後の…親子の会話だったんだと思う、俺はその日以降ナルトの夢を見る事は無くなった。」

「………」

「これが……俺が今日の日までこっちの世界で歩んできた経緯の全てかな。
質問があれば、俺の可能な範囲で答えるけど。」




そう言って、ミナトは己の話を締め括る

残念ながら、今のイタチが持つ情報とあまり大差はなかったが



この人との会話は、それ以上の意味と価値があった



その事を、イタチは心の底から噛み締めた



「質問など、ありません…。」

「……そう、ごめんね。大した情報もなくて…」

「ただ…」


次の瞬間

イタチは、改めてミナトと向かい合い




「貴方との会話は……俺にとって、とても意味のあるものでした。」




ミナトと真っ直ぐに向き合い、心の底からの気持ちをミナトに伝えて



「……ありがとう。」



ミナトも穏やかな表情を浮べて、そう返した。








「逆に質問するけど、イタチくんは…あの世界に帰りたい?」

「……そうですね……」



ミナトからの質問
イタチは、僅かに考えて



「…帰りたくない、そう言えば嘘になりますが……帰るつもりはない、それが今の俺の正直な気持ちです。」

「そっか……」

「貴方は、やはり今でも?」



イタチが質問すると、ミナトはゆっくり頷いた



「そうだね、欲を言えば……うん、帰りたい。
と、言うよりも……もう一度、ナルトに会いたい。」

「……そう、ですか……」



その気持ちを、イタチは理解できた

何故なら、自分も同じ気持ちを持っていたから

ただ一つ、我侭が許されるのなら……自分も、この人と同じ事を願っていただろう



しかし









「そして、あの愚息をブン殴る。」


「……は?」











顔を歪めて、口元を吊り上げながら
ミナトは宣言して

イタチはそのあまりの変化に、思わず唖然とした




「いやね、この前…暁のペインって奴が木の葉を潰しに来たんだけどね……」




腕を組んで、ウンウンと唸りながらミナトは説明を続ける

ちなみに、イタチは


え? それマジ?


とか思いながら爆弾発言に驚愕するも、
ミナトはこれを華麗にスルー



「その時に、ナルトの奴はペインに追い詰められたんだけど……日向のヒナタちゃんって娘が、ナルトを庇ってペインの前に立って

『わたしは、ナルトくんの事が大好きだから』って言ったんだよ!!

イタチくん! 一健康男児としてこれをどう受け取る!!?」



何か、この人キャラが変わってねえ?
などとイタチは思いながら、ミナトのあまりにも鬼気迫る迫力に押されながらも



「…俗に言う、愛の告白というものかと?」



そう、恐れながら口にすると


Exactly!!! まさしくその通りだよ!! 健気な女の子が、強大な敵を前にしながらも最愛の男の為に戦う!! そんなシチュだよ!!
死ぬかもしれない、もうこれで最後かもしれないと思って…あの娘は初めて自分の想いを伝えたんだよ!!!」

「……はあ。」

「だがしかあぁし!!! あいつ、そんなヒナタちゃんの気持ちにこれっぽっちも気付いてないんだよ!!! しかもその後、華麗にスルーしたんだよ!!
信じられる!!? この娘ね、本っ当に昔からナルトの事が好きで、中忍選抜試験の時なんかと言ったら…ええい、話が逸れた!!!

とにかく!! あの娘が可哀相すぎる!!!
俺はナルトの父親として…ナルトを殴る! ブン殴る!! いや、むしろ殺る!!!」



血涙を流さんばかりの形相で、ミナトは語る

そこにもはや、先程までの四代目火影として面影はない
ただのアレな人だ



「いや、まあ…そういうのは当人同士の問題かと?」

「…は、当人同士の問題? まあ、ナルトにも想い人は居るみたいだけど……
サクラちゃん? スプリングフィールド? 何の事です?
あの娘はダメ、愛しのサスケくんにしか目が行ってない。良い娘であるのは認めよう…だけど、それだけ。
っていうか、あの娘はナルトの事を全然異性として見てないね。

っていうか! 俺の中では『ヒナタちゃん≫越えられない壁≫サクラ・スプリングフィールド』これはもう確定事項だから!!!」


(…というか、スプリングフィールドって何だ?…)



イタチが進言するも、ミナトは即座にこれを却下

ちなみに、父親から想い人の脈なし失恋確実を言い渡されたナルトに
イタチはちょっぴり同情したと言う



しかし、ここで




「……ちなみにさ、イタチくんの方はどうなの?」



ミナトは、イタチに話を振る



「いえ、別にどうも……というか、火影さま…人格が変わっていませんか?」



イタチが先程からの疑問を口にする
もはや別人格、二重人格の疑いまで考えたミナトに質問すると

ミナトは軽く微笑んで



「あはははは。ちょっと一時期は命がけで守った筈の里の皆に、最愛の息子が迫害される様を見続けて…

腸が煮えくり返り過ぎて、情緒不安定になっちゃったからねー。

そう言えば、父さん達にも一時期は随分心配されたなー……医者から薬とかも貰ってたし…
でも今はもう大丈夫! 鉄ミナトはイライラすると、ついヤっちゃうんだ。」



てへりと、ウインクしながらミナトは宣言する



……何というか、不憫だ……



ミナトの置かれた境遇を思い出して、イタチはミナトに同情した

そして、自分は決してこうならない様にと心に決めた



「……で話を戻すけど、イタチくんは良い人いないの? この屋敷、綺麗どころが揃っているし…
ちょっと良い感じの人とかいないの?」

「いません。」



キッパリと、そう宣言するが



「いやいや、そんな事はないでしょ? 俺の見立てだと、朱子さんか美鳩さんあたりが怪しいと思うんだけど?」


「貴方が想像している様な事実は、一切ありません。」


「……ふ~ん、じゃあ俺が想像していない様な事はあったんだー。」



その瞬間、ミナトはニヤリと笑った



「……いえ、そもそもこれはプライベートの問題なので。」

「忍にプライベートもプライバシーも無いよ、イタチくん。」



イタチが断るが、ミナトは即座に切り返す

両者、共に譲らない状況だった

だがここで



「じゃあさ、こういうのはどう?」

「…何がです?」



ミナトは、イタチにある提案をする









「俺とイタチくん、勝負して負けた方が……勝った方の質問に何でも答えるっていうのは?」

「……!!?」









その提案に、イタチは僅かに息を呑んだ

ミナトは、更に続ける



「イタチくんは興味ない? 俺との手合わせ。」


「……そうですね。」



イタチは考える。


正直な話、興味はある
イタチは心の底からそう思った


嘗ての大戦ではその勇名を他国に知らしめ、

螺旋丸や屍鬼封尽と言った、様々な強力な術を開発し

あの写輪眼のカカシの師にして、若くして火影の座についた……正真正銘の天才



木の葉隠れ・最強の忍……波風ミナト



闘ってみたい

弟へ言った虚言ではなく、嘗て本当に高みを目指していた一忍として
イタチはそう思った



「…それで、どうする?」



あの伝説と、手合わせを出来る



それだけで、気分が高揚していくのが分かった


血が沸き、肉が踊る様な感覚になった


先程の勝った方が負けた方のうんぬんを抜きにしても、この提案は魅力的だった






だから、迷った






この屋敷で…いやこの七浜市内でなら、どこだって同じ事が言えるだろう



もしも、自分とこの人が「それなり」の力でぶつかったら……その被害は、甚大だ



その事を考えると、どうしてもこの誘いを受けるのは躊躇ってしまった。


ダメだ、今回は見送ろう
そう思ったところで…












「良いじゃないか、やってやれ。
いや、むしろやれ。」












不意に、そんな声が響いた













続く








オマケ




「ん、どうしたのよ夢っち?」


「……先週、ジャンプが合併号だったのを忘れてた。」




イタチから渡されたジャンプを手に持ちながら、夢は呟いた





終わり






後書き まず最初に一言、ミナトファンの皆さん…本当に申し訳ありませんでした!!!
    一応補足としましては、ミナトは里の人間によるナルトの迫害のせいで
ストレスや鬱憤が溜まるとキャラが崩壊しちゃうみたいな感じにしちゃいました!!
    常に崩壊しているのではないので、その辺を考慮して何卒ご容赦してください!!!


    そして次回、森羅達の常識が一気にブチ壊されます。それでは!







[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)第十六話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/09/15 01:04
「いいじゃないか、やってやれ。いや、むしろやれ。」


「…!!!」


不意に響いた声に、イタチは振り向く

そこには、森羅を始めとする久遠寺家の面々が揃っていた


「………」


しまった、とイタチは思った
如何に四代目との会話に熱が入っていたとはいえ、周囲の警戒を怠るとは…


しかも、ここまで森羅達が接近するまで…その存在に気付かなかった


思わず、イタチは心の中で舌を打つ。


聞かれた?

今の話を?

どこから?

どの程度まで?


と、イタチは一瞬で思考を展開させるが



「盗み聞きなんて、あまり感心できませんよ。」



ここで、ミナトは髪をポリポリと掻きながら苦笑するが



「…だそうよ、姉さん。」

「おいおい、見損なうな。
この久遠寺森羅、従者と客人のプライベートの会話を盗み聞きする様な無粋なマネはしない。」



未有が困った様に溜息を吐いて

森羅が言葉を続ける



「お前等が何か訳アリっぽい雰囲気だったからな。さっきのイタチの表情、明らかに普通ではなかったし…
さっきから、何やら騒ぎ声も響いていたからな。

様子を見ようとここまで来たのだが、タイミングが悪かった様だ…
私達は、お前達の「負けた方が勝った方の~」からの下りしか聞いていない。」

「……そうですか。」



思わず、安堵の息を吐く
どうやら核心的な部分は聞かれていなかったようだ



「……だが、何やら面白い話になっているようではないか。」



そう言って、森羅は愉快気に口の端を吊り上げた



「久遠寺家期待の新人・うちはイタチvs鉄一族の神童・鉄ミナト。私としてはこの一戦…実に興味があるな。」

「全く、姉さんは……と、言いたい所だけど。
実の所、私も興味はあるわね。」

「……う~む、確かに……私もお姉ちゃん達と同じ意見だったり。」



久遠寺三姉妹が、次々に発言する。
どうやら三人は興味深々といった感じだ


いや、三人だけではない


「ミナトとイタチか……本来わしの立場ならあまり歓迎はできんが……
うむ、お客様の要望とあれば…全力でお応えするのも使用人の役目。」

「…確かに、興味はあるな。」

「錬ちゃんが興味あるのなら、私も錬ちゃんに同意ですね~。」

「森羅様が見たいのなら、私としては反対する理由なし。」

「あわわわわ、何やら大変な事態に!!……でも、ちょっと気になるかも…」

「お、落ち着いてハルくん。でも、本当に凄い事になっちゃったね。」



使用人の皆も、主達と一緒で賛成の意見は出ても反対の意見は出なかった



「ふむ、本来は我が手合わせを所望したいところだが……まあ良い。
貴様の様に才に溺れた者との組み手程度、イタチ殿にとっては準備運動の様なものか。」

「揚羽様さえよろしければ、この小十郎…反対の意などございません。」



主・同僚・客人、全てが満場一致

もはや、障害は無くなった



「…さて、後はイタチくんの意志だけだね。」

「…その様ですね、ほか……ミナトさま。」



火影様、と言いかけた所で言い直す。

この単語を発すれば、要らぬ疑問を招く事になるだろう。



「…それでは、あまり周囲を巻き込む物は無しの方向で。」

「もちろん、流石にそれは迷惑が過ぎるからね。」



互いに了承する

そして、イタチは上着のスーツを脱いでYシャツ姿になる


「千春、すまないがコレを持っていてくれ。」

「良いですけど、何で上着を脱ぐんですか?」


畳まれたスーツを受け取りながら、ハルは尋ねる



「汚れたら、洗うのに手間が掛かるだろう。」

「……!!」



その何気ない言葉

その言葉に、そこに居た皆は驚かされた



(…我と小十郎、二人掛かりを相手にする時はそんな事を微塵も気にしなかったイタチ殿が…)


(…あの鉄ミナトには、そんな心配をするだとおぉぉ!!!…)


(…それは、つまり…)


(…目の前の相手には、上着を汚されるって事か…)


(…なるほど分かり易いな、イタチの評価は…)



揚羽と小十郎は顔をやや歪めて

大佐と錬と森羅は、静かにイタチの言う事を噛み砕いていた


「準備は良い、イタチくん。」

「……そうですね。」


二人は軽く会話をしながら、準備運動を行う

そして互いに向き合い…









「それでは、相手をしましょう。」









静かに、イタチは呟く

その言葉に、ミナトは軽く微笑んだ後








――その場は、異界と化した――








『……!!!?……』




まるで異空間

全てが違和感

全てが異物

その世界は、似て非なるもの



なん、ダ?


コノ、くう、キは?



そこに居る、誰かがそう思う


時間にして、それは一秒にも満たない僅かな数瞬



そこに居る人間は、一瞬の間に呼吸を忘れ、思考を忘れ

我を取り戻した、次の瞬間









ピシリ、と






ナニかが、ナった。













第十六話「うちはイタチvs鉄ミナト~久遠寺家の常識が崩壊する日~・前編」








二つの風が
駆け出したのはほぼ同時だった


閃光が弧を描いて互いの獲物に襲い掛かった



「……っつ!!」

「……っふ!!」



風の交差は一瞬

交えた攻防の数は十と八

互いに、ダメージは無し

地面に闘争の痕跡を残しながら、二人は距離を取る

しかし、二人は体勢を即座に立て直して大地を蹴り踏み込み



一気に、チャクラを練り上げた



――瞬身の術!!!――




爆発的加速

それは疾風すら超える超高速


片や神速、片や超速


閃光が、弾けて交じり合う


手の甲で相手の拳を捌く

掌で肘鉄を受け止める

蹴りを蹴りで跳ね返す

一撃で一撃を相殺する


拳打乱打

打撃蹴撃


空気が弾け、互いが互いに喰らい合い、衝撃が爆散する


「…は!!」

「…っふ!!」


互いが交差するその瞬間、四肢に何十もの衝撃が走る

肉が歪み、骨が軋み、血が猛る

破壊的な連続音を撒き散らし、四肢は狂気に餓えたかの様に咆哮を上げて相手に食い掛かる


「は!! 貰った!!」

「そうは…させん!」



拳が交わる

蹴が弾きあう


疾風怒濤

猛烈苛烈

そんな言葉すら陳腐に感じる程の、圧倒的攻防


激突に次ぐ激突
爆発にも似た衝撃を振り撒いて二つの暴力は唸りを上げる


四度の交差

交えた攻防は既に三桁


互いの一撃が衝突したのを機に、互いに後ろに跳んだ








「……大佐、今の見えました?」

「……最初の攻防は目では追えた、だが二度目以降は殆ど目で追い切れなかったな。」


大佐と南斗星が、淡々と語る
しかし、その顔には確かな驚愕に埋め尽くされている


「……驚いたな、あのイタチと互角に渡り合っているぞ。あの年で大したものだ。
あの鉄ミナト、どうやら才能だけの成り上がりとは違う様だな。」

「……二人が凄い速さで何かをしてた。とりあえずその事だけは理解できたわ。」

「…は…はは、人間って、消えるんだね。」


既に森羅達は驚きが入った呆れの表情

もはや、目の前の出来事を現実として受けいれているのかどうかすら怪しい



「…小十郎、お前…今の、見えた?」

「…錬、分かっていて聞いていないか?」



錬と小十郎も、驚愕に頭を支配されながらも
今見たものを必死で受け止める



「……これが、イタチ殿の……実力。」



揚羽が、ポツリと呟く

その言葉に、驚き以外の感情は感じない


今ここで、揚羽を見れば誰もがその違和感に気付いただろう



「……そして、鉄ミナトの実力……」



なぜなら、今の揚羽の顔からは、いつもの覇気は……全く感じられなかったのだから


今まで揚羽は、イタチに最高の評価をつけていたつもりだった

だが、その評価も……今日のこの瞬間、脆くも崩れた


強い

次元うんぬんの問題ではない

この二人の強さは…「存在」というその根底から、自分達の物とは異なる物



その事実を、揚羽は噛み締めていた。








粗方の攻防を終えて、二人は向き合う



(……迅い。写輪眼の洞察眼を持ってしても互角が精々……サスケ以上のスピードだ。
一瞬でも判断を誤れば、そこで終わる……)


(……何とかスピードで押さえこんだけど…隙の突き方が上手い、いや巧い。しかも想像以上に強い。
カカシとナルトが闘ったあの分身体、あの分身体の倍は強い……)



先刻のやり取りで得た情報を、脳内で反芻する

そして、改めて相手を見る



(相手はあの四代目、チャクラに不安がある今では術の無駄撃ちは出来ない……速度は相手が上、なら隙を作り……そこを突く。)


(相手はあの写輪眼を持つうちは一族。数手以上の印を組む忍術、幻術で対処をするのは自殺行為……それなら……)



刹那の思考と演算

次の先手を、今度はミナトが取る



(……よし!!)

(…!?……何か仕掛けてくるな…)



次の瞬間、ミナトは両手を組み合わせてチャクラを練る

その圧倒的チャクラの奔流を、イタチも感じ取る



(…術? いや違う、体中にチャクラを…肉体活性化か?…)



その流れを、イタチは即座にその流れを読み取り



(……まずい!!……)



その瞬間、イタチはその危険を感じ取る

己の目に映るのは、可視化レベルに到達せん程に凝縮された圧倒的チャクラ

それを宿すのは、ミナトの両腕


(……そうだ!この人は四代目火影!!…あの「螺旋丸」を生み出した……)



「はああああぁぁぁぁっ!!!」


(……「形態変化」を極めた天才!!!……)



その腕の一振りが、唸りと咆哮を上げた




――チャクラ千本!!!――




貫きの弾幕
嘗てサスケも使った形態変化の「千鳥千本」とほぼ同種の術


(…回避! いや、左右の回避は逃げ切れん、上は追撃される!!……防御、いや蜂の巣だ!!……)


火を噴く様な連射
その速度・威力・弾幕範囲を見極めて結論づけるが



「……だが!!」


イタチも即座にその対処に出る

既にチャクラは練り上げてある、千鳥の要領でその形態変化を作り出す




――チャクラ刀・飛燕!!――




次の瞬間、イタチの両手は二振りの刀を形成する

そして、それを持って荒れ狂う脅威を迎撃する


「……っシ!!」


鼓膜を劈く連続音

両腕を振るい、糸状の閃光がイタチの前で壁を作る

暴風と言っても過言でないその千本を一つ一つ打ち落としながら


イタチが前に出た



「…!!…そのスピードでお構いなしか!!!」



範囲を絞り、機関銃の様に高速連射で千本を繰り出すが
その全てをイタチは斬り落とし、撃ち落す


チャクラ千本ではイタチは止まらない


即座に判断して、ミナトは更なる形態変化をイタチに撃つ



「…じゃあ、これはどうかな!!!」




――チャクラ鋭槍!!!――




弾幕を放つ片掌に、もう一つの掌を合わせて

一筋の閃光が奔った


「……!!!?」


ダメだ、これは撃ち落せない

イタチは一瞬で判断して、身を捻って閃光をやり過ごす


「だが甘い!!」

「……な!!?」


思わず、イタチが驚愕の声を上げる

やり過ごした筈の閃光は、周囲を平行する千本と解け合い、融合し


それは大網を形成して、イタチの体を包み込んだ



「…ぬ、ぐ!!!」

「貰ったああぁぁぁ!!!」



ミナトが吼えながら絡め取った獲物を、一気に引き寄せる

しかし



「……え?」






その瞬間、体中に杭が突き刺さっていた





何で?

一体、いつ?

どうやって?

有り得ない…


「…ぐ!」


体中を襲う激痛に、思わず混乱する


しかし混乱したのは刹那の間

直ぐに対処をしようとして…



「……まさか、しまっ!!」



その正体に気付いたが、既に遅かった

体中の杭が消えて自由を取り戻すが、言葉は続かなかった



なぜなら、既にイタチは己の呪縛から解き放たれていたのだから。



「……驚いたよ、まさかあの一瞬で俺に幻術を掛けるなんて……。」


「……それはこちらの台詞です。まさか一瞬で俺の幻術を破るとは…。」



互いに驚愕を表わして、二人はまた距離を取る


イタチがミナトの手から逃れられた理由

それは、チャクラの網に拘束されるまでのその一瞬で
幻術を発動させたからだ


魔幻・枷杭の術


嘗てはあの大蛇丸ですら破る事が出来なかった幻術

「月読」を抜かせば、イタチの扱う幻術の中でも最高ランクのものである



(……この幻術すら効かないとなると、俺の幻術はほぼ全てが無効と判断した方がいいな……)


(……流石に形態変化だけで対処するのはキツイな、だけど術を使った所で写輪眼には無駄撃ちも良い所…さて、どうする……)



僅かな思考

互いが「見」に徹し、相手の出方を探るが



今度は、イタチが先を取った



(……!!?…来る!!!……)


ミナトは迎撃の構えを取る

イタチは再び、その手に「飛燕」を形成して印を結ぶ



「……木の葉流……」


(……印? 何だ、忍術…いや幻術か?……)



ミナトも、再びチャクラを練って両手に集中させる


次の瞬間、イタチは瞬身の速度を持って





「三日月の舞!!!」





三方向から斬りかかった



「っ!!!」


ミナトが目を見開く

その目に映るのは、チャクラ刀をその手に持って自分に斬りかかる三人のイタチ


(……三日月の舞!! Aランクの超高等忍術!こんな術まで扱えるのか!!……)


木の葉流・三日月の舞

実体・分身体を含めた三方向同時に相手に襲撃する木の葉の剣技であり忍術。



(……左右から二人、上から一人…本体は一人、いや…影分身なら三体全てが実体!!!…)



この術の優れている点は、「影分身」と「瞬身」の二つを併用した陽動も兼ねている事

忍が使う影分身の術は、その本体を見極めるのは困難

しかも高速で動くとなれば、それが例えただの分身でも見極めは困難を極める



(…見極め、無理!…回避、無理!!…防御は…もっと無理!!…)



思考は刹那


「だったら迎撃あるのみ!!」


ミナトはそう判断し、掌のチャクラに意識を集中させる


集中

回転


それは掌の中で渦を巻き、猛って唸る

幾重にも幾重にも回転に回転が重なり合って、その形を作り上げる




――螺旋掌!!!――




チャクラの大渦

轟音と暴風を撒き散らし
その巨大な力は、一瞬で自分に斬りかかる三人のイタチを飲み込んで



その全てが消えた



「……!!!?」



全部、影分身!!
そうミナトが思った瞬間

ミナトの顎は跳ね上がった



「…がはっ!!!?」



顎に衝撃と激痛が走り、目には虚空が映りこんでいた


(……そうか、三日月の舞に俺の意識を集中させて…土遁で下から攻めたのか!!……)


しかし、気付いた所でもう遅い
顎への一撃は致命的だった

脳が揺さぶられて、意識が揺れる


更に、イタチの攻撃は続く


(……マズい!……)


「もう、遅い。」


イタチが呟く


打ち下ろしの一撃、ミナトの頬に叩き込む

下がった顎に掌打を叩き込んで、再び跳ね上げる
ガラ空きの鳩尾に蹴撃を叩き込む


「…が! ぐ!!」


鈍い衝撃音と共に、ミナトの体は後方に弾き飛ばされる

しかし、瞬身の術を発動させてミナトに追いつき


裏拳を打ち下ろし、膝蹴りを腹部に叩き込んで宙に浮かし

中段回し蹴り


「ぶはぁ!!!」


再びミナトの体は弾かれるが、イタチはそれに追いつく


踵落とし、更にそこからサッカーボールの様にミナトを蹴り上げて

舞い上がったミナトの腹部に、渾身の右の打ち下ろしを放って



「……うちは流体術……」



撃墜されるミナト

その鳩尾に、空中からの回し蹴りを叩き込んだ




「無双疾風陣!!!」




それは轟音と衝撃を振り撒いて、ミナトの体に炸裂する


ミナトの体は地面に僅かなくの字でめり込み、ピクリとも動かなかった。









「ちょ!ちょちょちょちょっとおおおぉぉぉ!!! イタチぃ! アンタやり過ぎよおおおぉぉ!!!」


「朱子さんの言うとおりですよー!! ちょっと、これ…まさか…死……」


「クルックー、まさかこの久遠寺家で、火曜サスペンスの様な展開があるなんてー。
……っていうか、一瞬イタチさん…三人になりませんでした?」



朱子とハルが動揺しながら叫び、美鳩もなにやら際どい発言を口にするが…


イタチは、そんな可能性を微塵も考えていなかった




「……っつぅ…!!」


その激痛、イタチは思わず顔を歪める

そして、その発信源の両拳に目を向けた



「……」



拳は赤く腫れ、皮も破けて血が滲んでいた


その事を確認していると、その声は響いた




「……やっぱり凄いね。流石に今のは死ぬほど効いたよ。」




上体を起こして


ミナトは、ムクリと立ち上がった



「…あれ、ビックリしないね。」


「貴方に最初の一撃を叩き込んだ時、手応えが異状に硬かったですから。」



そう言って、イタチはミナトに向き合う



「……恐らく全身装甲型のチャクラの形態変化、それで俺の攻撃に耐えたんですね。」


「そ、形態変化は得意だからね。三日月の舞のフェイクに気付いた時、咄嗟に服の下から仕込んだんだよ。
……ああー!! でも本当に効いたー!! 普通だったらアバラ粉砕コースだよコレっ!!」



そう言って、ミナトは腹部を擦る

そして、数回深呼吸を行い…呼吸を整えて



「……でも礼を言うよ、おかげでようやく勘が戻ってきた。」



にっこりと、不敵な笑みを浮かべて呟く



「…ハッタリ、ではないようですね。」


「勿論!!! フフフ、テンション上がってきたー!!」



軽く背筋を伸ばしながら、ミナトは叫ぶ

その既視感


あれ? またこの人、人格崩壊してないか?
と思った所で



「今までのやり取りで、俺は一つ自分の絶対的なアドバンテージを確信した。
 悪いけど、今からはそれを活用させて貰う。」


「ご遠慮なく、むしろ自分としてはそうでなくては意味がない。」


「ふふふ、言うね。」



ミナトは軽く微笑んで、即座に表情を引き締める

収束するプレッシャー
その集中の一点が、ミナトに定まったところで

ミナトは素早く印を組み合わせ









「……飛雷神の術……」









その言葉が、イタチの耳に響いたのと同時だった



イタチの頬に何かがめり込んだのは。




(……え、な……?)


気付けば、自分は横殴りに吹き飛んでいた

その一瞬後、何かの音が響いた


(……まさか、殴られた…のか?……)



この思考を行うだけでも、五回は視界が変わった



「……が!! く、は!」



そこで、ようやく現実に戻る

乱れる平衡感覚を制御して、流れる体を両足で必死に踏ん張るが



ここで、ようやく自分の体が痛みを認識した



「…っ!!!?」



その瞬間、自分の世界が閃光を捉える

黄色い閃光

その閃光は流星となって自分を追撃する



「君が何発も攻撃している間に、俺が何もしなかったと思ったかい?」



声に反応して、闇雲にガードをする

偶然にも顔面への一撃は防げたが、鳩尾に一撃が入り、酸素を吐き出しながら弾き飛んだ。



そしてイタチは気付く

自分の服から感じる、ミナトのチャクラに



(……迅い、迅すぎる!! まさか、写輪眼を持ってしても捉えきれないだと!?……
……これが…噂に名高い四代目の最大の切り札、「飛雷神の術」か!!!……)


「気がついたみたいだけど、もう遅い。」



追撃の拳打が胸に突き刺さり、顎を蹴り上げられ
体が宙を舞い

背後から声が響いた




「ここから先は、君の弟さんの術だ。」




「……!!?」



右の回し蹴り
咄嗟にガードをするが、腕ごと足が腹部にめり込む

そして、反対側からも追撃が走る


「…ぐ!!?」


残る片腕でそれも止めるが、もう自分を守るものは無くなった

体勢を立て直したミナトの拳が腹に突き刺さり、再び激痛が走り


「ラストオオオオォォォォオ!!!!」


その咆哮と共に、その一撃は繰り出された




「獅子連弾!!!」




必殺の手応え

撃墜と同時の、振り下ろしの回し蹴り

大地を背にし、その衝撃は一切逃げることなく自分の体を蹂躙した。









「……やり過ぎちゃったかな?」


グッタリと、大の字になったままのイタチを眺めて

ポリポリと、頬を掻きながらミナトは不安げに呟く


イタチが立ち上がり気配はなかった。



(……うわやっば、久遠寺の皆…引いてる…っていうか、唖然としてる……やっぱり手加減するべきだったかな…
…いやいやいや!! 手加減なんかしてたら、俺が逆の目に遭ってたし! つうか未だに体中はズキズキ痛いし!!!……
いや、確かに俺にも非はあるけど……そもそもイタチくんが最初から素直に俺の質問に……質問?……)



そう考えが至った瞬間、本来の目的を思い出した。



「あぁ!!そうだそうだー! これでイタチくんの恋バナゲットー!! 良くやったー流石オレ!!
さて、そうと決まれば早速イタチくんを介抱して…」

「結構です。」


「……あれ?」



今度はミナトが驚愕した

自分の切り札を持って攻め込んだイタチが、ユラリと立ち上がったからだ。



「…タフだね、お互いに…」

「……」



呆然としながらミナトが呟くが、イタチは答えない

だが、見るからにダメージは濃厚だ
足元は先程から覚束ないし、体全体がフラフラゆれているし

イタチの顔にも、先程までの覇気はない


(……でも、やる気は変わらず…みたいだね……)


ミナトは、そう結論づける

イタチの顔は傍目にはいつもと同じ無表情に見えるが、



その目の奥には、確かな闘志の炎が揺らめいていたからだ。



「……やめだ。」


「……へ?」



ゆっくりと、イタチは呟く。

何が?と、ミナトが聞こうとすると……





「……もう、ややこしい事を考えるのはやめだ……」





どこかおかしい足取りをしながらも、イタチはミナトと向かい合い

ギラリと、赤い瞳で睨み付け
そして、印を組み始めた



「……あれ、イタチくん……その印ってまさか…」


(…ヤバい、ちょっとキレてる。やっぱりサスケくんの術を使ったのは挑発が過ぎたかな…)




つつつと、ミナトは冷たい汗を流した。





「…こおおおぉぉぉ…!!」



唸るような吐息を吐きながら、イタチはチャクラを練り上げる

今のイタチはチャクラを大量に消費する術は、嘗ての様に高速発動はできない

ゆっくりと丁寧にチャクラを練って、印をコントロールする事によって初めて発動する


体の芯からチャクラを抽出して、一気に練り上げて、





「こちらも、正真正銘……全力で行かせて貰います。」





それらを、細心の注意でコントロールし
その術を、発動させた。








「多重影分身の術!!!」













続く






補足説明


三日月の舞…原作使用者・月光ハヤテ。影分身を用いて三方向から敵を斬りつける術
      脇役の、しかも一回しか出ていない術にも関わらず、かなり人気がある術

螺旋掌…原作使用者・波風ミナト&自来也。螺旋丸の一段階前の渦状の術
    自来也が初めてナルトの前で見せた螺旋丸もどき

魔幻・杭枷の術…原作使用者・うちはイタチ。写輪眼の催眠眼を用いた幻術。
        金縛り効果と物理的痛みを伴うために、主に拷問に使われる幻術

無双疾風陣…使用者・うちはサスケ。ナルティメットヒーローシリーズのサスケの体術
      この術と名前が似ている「無双豪炎陣」という技もヒーロー3で使えるので
      勝手に「うちは流体術」と作者が命名

チャクラ刀・飛燕…原作使用者・猿飛アスマ。本来はクナイや刀をチャクラで強化して
      武器の威力を高め、間合いを伸ばす術。本編のイタチはこれを素手で使用


鉄ミナトの形態変化


その1・チャクラ千本…使用者・鉄ミナト。「千鳥千本」と同種の形態変化
          チャクラを千本状に固めて撃ちだす術、本編オリジナルの術。

その2・チャクラ鋭槍…使用者・鉄ミナト。「千鳥鋭槍」と同種の形態変化
          チャクラを槍上に固めて相手を貫く術、本編オリジナルの術。

その3・チャクラの鎧…使用者・鉄ミナト。「砂の鎧」と同種の形態変化
          チャクラを全身に纏って表面で硬質化させる術、本編オリジナルの術



後書き  第十六話・イタチvsミナトの前編を更新しました。今回やたら忍術が多く出たのですが、結構調べるのに時間が掛かりました。
とりあえず、バトル描写はなれていないので…結構苦労しました。

次回は後編、森羅たちの常識が本格的に崩壊れます!!


追伸・まじ恋、買いました。
   イヤー、オカゲデサイキンネブソクデスヨー。






[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)第十七話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/09/21 11:59
補足説明・この話は前回投稿した物と前半部はほぼ同じ内容です。



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「なあ、『ブローチ』の“十剣“って言う敵いるだろ? 私はどう見てもアレ、ウルシオラが最強に見えてしかたないんだが。」


「『スクライト』のクウガ対ムヂョウは、カナメが捕まっていなければクウガは絶対に勝っていたと思っているのは、俺だけじゃない筈。」


「最近の『ワンパーク』の面白さは異常よねー。」



久遠寺家の中庭にて

森羅、錬、朱子が思い思いのトークを行うが…


「デニーロ、あそこでイイ感じに現実逃避をしている主従トリオを正気に戻しなさい。」

「よおーし、任されよう!」


未有が溜息を吐いて、デニーロに指示を出し


「コホン。時に美鳩、突然変な事を言うけど……私の頬を思いっきり抓りなさい。」

「はえ? どうしてですか?」

「……これが、現実だという、確かな実感が欲しいわ。」


未有も、いつもと違い疲れ果てた様な表情をその顔に貼り付けて言った。


「まあ、ご命令とあれば……テイ!」

「…い! いぃ!! いた!! 痛い痛い!! 痛たたたたたあぁ!!! もう十分! もう十分よ美鳩!!」

「はーい、了解ですー。」


未有の命令で、美鳩は抓っていた頬から手を離す

そして、未有は赤くなった頬を擦りながら
未有は、これは現実だと…改めて実感した



「……流石の私も、これは想定外だわ……。」



未有は、噛み締める様に呟く

そして、そんな未有の視線の先
そこには、自分の家の使用人・うちはイタチが居る


別段、その恰好に不自然な点はない

強いてあげれば……服が少々ボロボロになっていて、顔に殴られた痕がある程度だ



だが、何時もと決定的に異なる点が一点

それは




「……で、美鳩。『何人』くらいだと思う?」

「目算で、130人と少しって感じですね。」







そんなイタチが、
凄まじい人数に増えていた事だった。











第十七話「うちはイタチvs鉄ミナト~久遠寺家の常識が崩壊する日~・後編」











自分の周囲を完全に包囲し、埋め尽くす圧倒的人波

鉄ミナトは、周囲の状況に目をやりながら思考していた


(…多重影分身の術…よくもまあ、これだけの大人数を作れたもんだ…)


ミナトは視線を回して、その人数を数える



(…132、133……135……138ってところか…)



多重影分身の術

初代火影が禁術と定めた術の一つであり、圧倒的大多数の影分身を作り出す術

明確な人数は定められていないが、これほどの人数ならば十分に「多重影分身」の領域に入っているだろう。



「……それでは、参ります。」



闘気と戦気が収束し、ミナトの五感を刺激する。

影分身の、前線部隊が構えを取る


「……なるほど、質より量で攻めるって事か。」



ミナトは呟く。



その瞬間

影は弾丸の様に弾けた



「……散!!!」



イタチの影分身の前線部隊は一斉にミナトに襲い掛かった

それは常人から見れば、暴風すら超える轟風

確かに、イタチ程の忍がこれほどの影分身を作り出せば
それだけで、戦局は大きくその流れを変えるであろう


しかし





「いやいや、これは悪手でしょ…イタチくん。」





そして、ミナトはチャクラを再び両腕に集中させて



「チャクラ千本!!」


「―――!!!」



ミナトの掌から放たれる、閃光の弾幕

それは、イタチの影分身体を貫き、次々に蹂躙し打ち消した


しかし、全てを迎撃できた訳ではない


ミナトの間合いを犯し、数人の影分身体が接近するが


「…し!!」


猛打炸裂

肉体活性化を駆使したミナトの体術の前に、それらは霧散して消える。



しかし、間髪入れず追撃がミナトを襲う

一撃放った後の僅かな硬直を狙って、更に十数人のイタチが襲い掛かるが



「大・螺旋掌!!」



特大の大渦

通常の螺旋掌の三倍以上の威力と出力を持った破壊風


イタチの影分身を大きく飲み込み、それでも威力は死なずに後方に控えていた影分身を飲み込んだ


前方の三人のイタチを取りこぼすが


「せい!!」

「…く!!」

「…む!!」

「…ちぃ!!」


一蹴

肉体活性を施したミナトに、それらは合えなく撃沈する



「…やっぱりね。」



確認するかの様に呟く。



(……今までの感触から、イタチくんのチャクラ量はカカシとほぼ同じ程度…
いや、イタチくんは何か体がノリきれていないから…それより、少し劣るレベルか……)



影分身は、本来チャクラの量が多い忍向けの術である

その理由は元々チャクラを多めに消費する術である以外にも、影分身を作るとそのチャクラの量は等しく均等されてしまう為

あまりに大多数を作ると、その影分身自体が余りにも脆くなり、指揮が難しくなり、自滅する事が多くなるというデメリットもある


「…流石のイタチくんも、息が上がってきているね。随分辛そうに見えるけど?」

「………」


そして何より、あまりにも多大なチャクラを消費すれば…それだけでも術者を戦闘不能に陥るケースも多い。



だが、イタチの影分身の猛攻は終わらない

物量に任せたゴリ押し


前後の挟撃

左右の包囲

空と土からの上下同時奇襲


四肢を駆使した圧倒的手数


多彩なる攻め、影を影で補う重厚な厚みを持つ暴力の荒波

しかし



「指揮は十分だけど、明らかに脆い。」



質が、格段に落ちている

ミナトは自分に襲いかかる影分身を迎撃しながら、そう考える



(…確かに、通常の戦闘なら影分身に物量を言わせた戦術…例えば360度包囲の火遁、水遁、風遁…
忍術を駆使した大規模の攻め、それらの事が出来たけど……)



今は、状況が違う

自分達は、事前に「周囲への巻き込みは極力避ける」と明言している

そして、自分もイタチもこれに同意している
現に今までの戦闘が、それを物語っている


前方からの奇襲に、チャクラ千本で応対する

間髪入れず足首が地面に捕まれるが、チャクラ刀を地面に突き刺してそのエネルギーを流し込む。



(……これだけの影分身を作れば、出来る術は限られてくる。体術に関しても同じ……
これだけ人数が居ても、一斉に飛びかかれるのは数人から十数人……)



千本の雨から逃れた数人が、自分の眼前にまで辿り着くが…


「その程度なら、何の問題ない!!」


――螺旋掌!!―――




零距離から思いっきり叩き込む
これは元々近接戦様の術

自分に襲い掛かった数体も、風船の様に破裂して消えた


イタチの影分身体は、尚も自分に襲い掛かるが



「…はあ!!!」



右のチャクラ千本
左の螺旋掌


己の形態変化を、その両腕を持って存分に振るう

もう、既に70近くは影分身を撃破しただろう

ミナトは次々とイタチの影分身を迎撃、撃墜していき


それに気付いた。



「……む。」



気が付けば
辺りには、影分身との戦闘と迎撃した際に発生した土煙

それらが、自分を包み込んでいた


「…目くらましか? だけどこの程度じゃ……」


しかし、言葉は続かなかった

なぜなら次の瞬間




「…い!!?」




煙を貫いて、凄まじい数のチャクラの槍が伸びてきたからだ。



(……多重影分身の狙いはコレか!! 影分身の霧散したチャクラをコントロールして煙幕を作り、
周囲を覆った所を形態変化で一斉に撃つ!!……)


通常の目くらましを使えば策に勘付かれる

しかし、少数の影分身では煙幕を張れる程の期待は薄い


(……なるほど良く考えてる!! これじゃあ瞬身でも逃げるのは不可! やれば即座に串刺しの刑だ!!……)


その槍の数はおよそ60
しかもチャクラ千本と違い、迎撃も防御も難しい

しかも360度の上方・前後左右の全方位からの襲撃と来ている


速度は十分

威力は高い

退路は無し

逃げ場はない



「だが……詰めが甘い!!」



『こういう』事態に備えて、既に対策は出来ている

そして、既に仕込みは終わっている



――飛雷神の術!!――




瞬間、ミナトの姿が包囲から消え去る

それは、速度を超えた空間跳躍


その目的地、目指すは一点



「……!!」


「中々良い闘いだったよ、イタチくん!!」



改めて、二人は対面する
ミナトの眼前には、驚愕の表情を浮べるイタチ


これが、ミナトの最大にして最強の切り札・「飛雷神の術」


かの大戦において波風ミナトが「木の葉の黄色い閃光」の異名の元となった時空間忍術

己のマーキングを刻んだ場所なら、例え百里離れた場所でも一瞬で駆けつける事が出来る瞬間移動


如何に影分身とはいえ、
ミナトのマーキングを刻まれたイタチは、本体を誤魔化すことは不可能



「……ちぃ!!」

「逃がさないよ!!」


瞬身の術を発動させるイタチを、即座に捉える
その胸倉を思いっきり掴み上げて

瞬時にチャクラを練り上げて、右手に集中させる
可視化レベルまでに凝縮された、圧倒的チャクラの一撃


千鳥がチャクラの矛とするならば、これは言わばチャクラの槌


「終わりだ!!」



その槌を
ミナトはイタチの鳩尾に全力で叩き付けた


「がはあぁぁっ!!!」



豪腕破砕


拳から、一気に肩までその反動は響く

背骨を貫き、突き上げる衝撃

筋肉がめり込んで、一気に肺にまで蹂躙する


暴虐の一撃



「……か、ぁ…は……」



ミナトの拳に体を預けて、イタチは倒れる

そして、イタチの影分身は次々とその姿を消した



「……ふう、終わりかな。」



その光景を見て、ミナトは安堵の息を吐き
気を緩めた



その瞬間だった










「ええ、終わりです。」











声が、静かに響く。


「……え?」


気が付けば
ミナトの首元には、チャクラ刀

背後にはイタチが立っていた。



「……マジ?」

「の、つもりですが。」



次の瞬間、ミナトに体を預けていたイタチは消える

影分身だ


そして、イタチは宣言する。




「俺の勝ち、それで良いですか?」

「………。」



ミナトは自分の状況を確認する

首元には、ピッタリとチャクラ刀が突きつけられている

そして、イタチは自分の背後を取って構えている


しかも、イタチは既に飛雷神の術の「仕込み」に気付いている



影分身体が消えた場所には、イタチのシャツの胸ポケットの部分が千切られて、落ちていた。


多重影分身の、真の狙いは……コレだったのだ。


自分に大多数の影分身を迎撃させて、自然と煙幕を作って視界を塞ぐ

その隙に、本体は自分がマーキングしたイタチの服の一部分を千切り、分身体に持たせる

そして、自分に「飛雷神の術」を使わざるを得ない状況を作り出し



そこを、狙い撃つ。



「……凄まじいね、本当に。」



素直な気持ちで、ミナトは呟く


恐らく囮の影分身には、さっき自分が使った形態変化「チャクラの鎧」を仕込んでおいたのであろう

影分身体の表面をチャクラで固めておけば本体と変わらない手応え、
そしてダメージが浸透して影分身が消えるまでのタイムラグを利用して、自分を騙せる



ミナトは結論づける





「うん、詰みだね。俺の負けだ。」


「…了解。」





両手を上げて、ミナトは宣言し
そして、イタチもチャクラ刀を消した。


(……しかし、本当に強い……)


このうちはイタチは、自分が闘った相手の中でも間違いなく最強クラスの忍だ

自分の実戦離れを抜きにしても、この男を相手に勝つのは骨が折れるだろう。


流石に、この状況からの逆転は少々無理があった




多少の無茶と無理を通せば、逆転は可能だったかもしれないが……




(……流石に、少しキツいなもんなー……)




改めて、ミナトは考える

瞬身の速度は自分が上だが、
この状況では、確実に自分の初動はイタチの半歩……いや、一歩分は遅れる


幻術、忍術……印を組めばその瞬間、自分の首が飛ぶ。






(……鉄心さん以来かな? ココまで見事に負けたのは……)






思い出すのは、もう何年も前の古い記憶







「……ちなみに、イタチくんから見た俺の敗因って何だと思う?」

「油断しすぎ、遊びすぎが原因かと。」

「……やっぱり?」



イタチに指摘されて、ミナトも思う所はあった


例えば、最初に「飛雷神の術」を使った時

体術ではなく、先のイタチの様に形態変化を行使して戦闘不能状態にすれば確実に自分は勝っていたし


チャクラの鎧でダメージを軽減した自分とは違い
獅子連弾でイタチをダウンさせた後、いくらでも自分はイタチを追撃できた筈


今思えば、勝てるチャンスを自分は悉く見逃していた。



(……やっぱり、かなり勘が鈍ってるな。……あの時と違って、今は体も術も研磨されて現役時代に近い実力なのに…
……流石に、ちょっとヘコむなー……)



自分の敗因を十分に噛み締めて、今後は改善していこうとミナトは決め



「ま、でも良い勉強になったよ。今度は何の制限もない状態でやってみたいかな。」


「……そうですね。あまり派手なものは遠慮したいですが。」



ミナトの申し出に、イタチも僅かに考えて了承する。


強かった、本当にこの人は強かった

だが自分と違って、この人は十数年もこっちの世界にいた

あちらと比べて比較的平和・平穏のこっちの世界では、上忍クラス以上の実力者との戦闘は難しいであろう


自分も、かなり体調は回復してきている
今回の戦闘で、その程度がより正確に分かった


つまり正直な話、このままでは近い内に自分もこの人と同じ状態になるかもしれないという事


如何に揚羽と小十郎に素質と才能があると言っても、その開花にはまだまだ時間が掛かる


だから、イタチにとってもミナトの申し出はありがたかった。



「じゃあ、その時はその時で。」



そう言って互いに了承した。

そして、二人は体の力を抜いた



思い切り体を動かしたからであろうか

お互い気持ちは、どこか晴れやかなものだった。



















「よし。それじゃあ次はお姉さん達と楽しいお話をしようじゃないか、二人とも?」

















しかし

不意に二人は背後から肩を掴まれた。



「………」


「………」



二人は、ゆっくりと後ろを向く

そこには、とても素敵な笑顔を浮べる森羅の姿


その表情は語る



“こんなとんでもビックリショー、きちんと説明するまで逃がさねえぞコラ”




「とりあえず、まずは軽くお掃除ですかね~?」



ズイ、と

美鳩は笑顔を浮かべ、二人に接近する。


気がつけば、自分達の周囲は荒れに荒れた中庭


ギャラリーや花壇、植木には極力被害が行かない様にはしていたが

ぶっちゃけ、それだけだった。



「…イタチくん。」


「…ええ、とりあえず一仕事ですね。」



疲れた様に呟き





……さて、どうやって説明するか?……





二人は虚空を仰ぎ見ながら考えた。









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「さて、まあ二人共。ゆっくり寛いでくれ。」


森羅がミナトとイタチに着席を促す。


「それじゃあ、お言葉に甘えて。」


「……失礼します。」


久遠寺家・リビング
そこには久遠寺家の面々とその他の全員が揃っていた


(……さて、どうするか……)


イタチは自分の周囲の状況を見回して考える

ミナトとの手合わせで白熱していたが、こうして冷静になってみると確かに自分はハシャぎすぎた



(……やはり、多重影分身はやりすぎだったか……)



今更ながらにそう思う

せめてアレ以外なら幾らでも口先のみで誤魔化す事が出来たのだが……



「…さて、まあ単刀直入に言わせてもらおう。先程の戦闘、実に素晴らしい…いや、これはおこがましいな。
私は実際殆ど目で追う事が出来なかったからな、凄まじい勝負…こう言わせて貰おう。

いや流石だ、鉄ミナト。戦乱の世から続く日本有数の武家の一つ、鉄一族において「神童」と言われた事はある。」


「お褒めの言葉、ありがとうございます。」


「ミナトに関してはそれで良い。私達が気になるのはお前だ、イタチ。」



そう言って、森羅の疑問の矛先はミナトからイタチに向いた。



「………」

「先に言っておこう。イタチ、私はお前の事を別にどうこうするつもりはない。
 もしそうならば、元からお前をこの屋敷で働かせなんかしない。

 さっき、お前達二人が部屋から出て行った後…お前の話になってな、お前の事で少し皆と話合ったんだ…

……それで、分かったんだ」


「何がですか?」



イタチが尋ねると
森羅はゆっくりと息を吐いて



「私達は、何もお前の事を知らないんだな……って。」



僅かに顔に影を帯びて、森羅はゆっくりと呟いた。



「まあ、お前は自分の事を話した事は無かったし、だからと言って何か問題があった訳じゃない。

実際に、お前はこの屋敷で良くやってくれている。最初はお前を働かせるのに当たって多かった反対意見だって
この数週間で、殆ど無くなった……これは純粋にお前の功績だ
そして私達とお前の間にある距離は、それなりに縮まったと考えている。」


「………」


「だが、それなのに私達はお前の事を何も知らないんだ。
 そして、そこに鉄ミナトが来た……隠す必要なんてないだろうから聞くが、旧知の仲なんだろう?

先程の手合わせ、自覚はしてなかったかもしれんが……お前、凄く表情が生き生きとしていたんだぞ?

お前は私達が知らないお前を知る相手に、私達が知らない表情を見せていたんだぞ…」



そして、森羅は改めてイタチと向かい合い




「何か、そんなのは寂しいじゃないか……。」




そう言い放った。

しかし、直ぐに森羅はにこやかな表情に変えて…



「とまあシリアス風に語ったが、要はあんな人間ビックリショーな技を身に付けた経緯を面白く可笑しく私達に教えろ、
と私は言っている訳だ。」

「いや、いきなり砕けすぎだから姉さん。」

「何を言っているミューたん。あんな漫画やアニメでしか見られない現象を、リアルでお目に掛かる事が出来たんだぞ? 
ジャンプ黄金世代を知っている身なら気になるのは当然だろう。」

「いや、意味が分からないし。」


クスリと、森羅は砕けた様に笑いながら言って
それに未有が合いの手を入れた


そしてそれに伴って、部屋の空気はどこか軽くなった


恐らく、これは森羅なりの気遣いだろう

自分の気持ちを伝えた上で、こうした砕けたやり取りにして、
場の空気を過度に重くさせず、事をあまり大きくしない様にしているのだろう


そこから汲み取れる、森羅の真意



(……話したくなければ、話さなくて良い…と言った所か……)



イタチは皆に視線を移す
そこには、程度は違えど皆森羅の意見に同意している事が汲み取れた。



(……さて、これはどうするか……)



イタチは、改めて考える。

正直な話、このまま口を閉ざしたままこの場を打ち切るのは容易い

適当に虚実を入り混ぜて、そこそこ信憑性のある作り話をでっちあげて皆を誤魔化すのはもっと容易い。



だが


なぜかイタチは、それらをするのは躊躇った。



(……俺も、なんだかんだで…久遠寺家に染まっている…のか?……)



嘗ての自分を思い出して、イタチは少し自分の変化を自覚した。



(……どうする? 何なら俺が適当に話を濁そうか?……)

(……いえ、それには及びません……)



ミナトが小声で言うが、イタチは断る。

もう、自分なりに答えは出ている
イタチは森羅達に向き合って



「俺とこの鉄ミナトは、いわゆる同郷の仲です。」













イタチは自分達の核心的な部分を上手く触れる事無く、森羅達に事情を説明した。



「それじゃあ、お前等はミナトが鉄家に引き取られる前からの知り合いで……結構最近まで近況報告をしていたと?」

「ええ、それで合っています。最近は俺の事情で報告は怠っていましたが。」

「まあ、そんな感じですね。と言っても俺が一方的にイタチくんの状況を知っていただけですが。
それでもお互いの事は結構知っている間柄って感じですかね?」

「……む? 少し引っ掛る物言いだな。」

「それにミナト、お前が鉄家に引き取られたのは…お前が二歳か三歳くらいの話であろう?
それ以前の知り合いと言うのは……。」


森羅と大佐が、同時に疑問を投げ掛けるが


「まあ、それはあまり人様には言えない事情があったりするので、その辺は察してくれると助かります。

それとイタチくんに関してですが、三年位前にひょんな事からお互いに顔合わせして、
それから俺がイタチ君の事を思い出していったって感じですかね。」


森羅の質問に、ミナトは淀みなく答えて、核心的な質問も上手く誤魔化した

嘘は言わず、真実をぼかして話す

イタチだけでは無理があったかもしれないが、このミナトの助力で話はスムーズに進んだ。

実際に、ミナトの手際の良さにはイタチも感心する場面も多かった。


「む、そうか。分かった。」

「ふむ、なるほど。」


そして、森羅達もイタチとミナトの空気と雰囲気を読んで、話せない事情を持っている事に関しては
深く問い詰める真似はしなかった

元々、この久遠寺家には訳ありの人間が多い

森羅達曰く、そう言った連中の相手は慣れているらしい。



「さて、まあ正直に言ってこれが私の本題なんだが……イタチ、お前のあの摩訶不思議な技。
……あれはいわゆる「分身の術」で間違いないのか?」

「……まあ、その様な見解で間違いないかと。」

「イタチ殿、あの戦いを見た所あの分身体は目の錯覚や残像を利用するものとは違い、
全てに実体があった様に見えたが?」

「まあ、一目瞭然だな。」



あれだけ影分身で暴れていれば、どんなに鈍い人間でも察しがつく

実際その通りだったし、ここである程度の事情や情報を喋っておけば今後の余計な追随も抑えられる。

だから、イタチも特に否定はしなかった。



「…全部実体って、お前……もはや何でもありだな。」


「本当に漫画の世界ですね…。」


唖然と、森羅と朱子は呟き

しかし、イタチとミナトは表情を変えずに


「まあ、確かにあまり常識的ではないですね。」

「言っちゃあ何ですけど、俺の知り合いにはもっと非常識な人が居ますよ。
ドッジボールで学校のグラウンドを破壊した某乙女さんとか、声で地震を起こすご老人とか。」


イタチとミナトは軽く返して、ミナトの言葉に森羅は軽く笑う


「ははは、確かにそれは非常識だな。」


しかし大佐、揚羽、小十郎の三人は…





(((……ああ、確かに居たな。そんな奴等……)))





などと考えていた。



「それでは、次に我が質問したい。イタチ殿は父君に武術を習ったのであるか?」


間を持って、揚羽がイタチに尋ねる。


「ああ…夢様達には話したが、俺の武術は父から授かったものだ。
そして俺の扱う武術は、俺の一族が既存の体術に独自のアレンジを加えて強化したものだ。」


「……ふむ、なるほど。イタチ殿の父君か、是非会ってみたいものだ。」

「それは無理だな、父とは既に死別している。」

「…む、そうであるか。知らなかったとはいえ、失礼した。」

「気にするな、もう何年も前の事だ。」


バツの悪そうな表情をする揚羽に、イタチはフォローを入れる。


「俺からも質問がある。」


そして、小十郎が質問する



「何だ小十郎?」

「あの分身術は全て実体という話だが、それはどの様に体得したのだ?
 自分としては、まず何よりもそこに興味がある。」


しかしイタチは、


「……それは無理だな、教えられん。」

「…む?」

「お前が俺の立場だったら、自分の技の秘密……特に体得条件等をベラベラと喋るか?」

「…そうか、分かった。」


そう言われては、小十郎も諦めざるを得なかった

言ってしまえば、自分とこの男は赤の他人だ


既に知られている情報なら兎も角、赤の他人に重大な秘密を喋ったりはしないだろう。







また未有はイタチの言葉を聞いて



(…は!! あのイタチの全てが実体なら…それぞれに私が厳選した半ズボンを履かせれば……)


そして、その光景を思わず想像して


「Oh…」

「未有、顔がニヤけているぞ。」

「…は! 私とした事が、つい妄想…ゲフ、ゲフン、思考の海に溺れてしまったわ。」


などと考えていた。



=====================================











「小十郎よ、今日の事をどう思う?」

「うちはイタチと鉄ミナトの事ですか?」

「……うむ。」


粗方のやり取りを終えてあの場はお開きとなり、小十郎と揚羽は帰路についていた



「…そうですね。俺が言えるのは、まず鉄ミナトに関して。」

「うむ、どう思った?」

「噂では幼少時に武術を止めたと言われていましたが、それは本人が言っていた様に間違いだった様です。」


揚羽の言葉に、小十郎はミナトに関しての意見を自分なりに纏めて







「あの男は間違いなく武術を、鍛錬を続けていた様ですね。」


「うむ、そうでなければあの閃光の様な体術の説明がつかん。」







思い出すのは、自分達ですら目で追いきれなかった攻防の数々

あれは唯の才能では説明がつかない

日々の努力

圧倒的鍛錬

それらによって得られる、身体能力が絶対に不可欠だからだ。



「揚羽様は、今日の二人の戦いを見て……どう思いますか?」

「それは難しいな。火星と土星、どちらが遠いかを尋ねている様なものだ。」


あまりにも、スケールが違いすぎる

そう言って、揚羽は重く息を吐く。





「あの二人の実力、どんなに低く見積もっても川神院師範代クラス。高く見てしまえば、鉄心殿と同格やもしれん。」





揚羽は答える。




川神院

確かな歴史と格式を持つ寺院で、日本においては間違いなく最高峰の実力を持つ武術寺

その寺院において日々修行に励む修行僧の実力は、その最下層でも世間で言う猛者・豪傑クラス


そして、そんな彼等の上に立つ師範代……そして、師範

毎年、何人もの天才、達人と称された武道家・武術家が川神院・師範代の座を求めてその試練に挑戦するが

それを突破できるのは極一摘みの人間のみ

彼等の単純な実力は日本のみでなく、世界的に見ても最強クラス。


そして、そんな師範代の更に上に立つ存在……師範

その力は「武神」と称され、ありとあらゆる武の世界において正に神の様な存在


特に現在の川神院師範・川神鉄心は日本の武の父と言われた程の存在


最強

無敵

超人


あらゆる絶対的称号をその身に宿す武人


某大国のトップの人物も、「核兵器を所持する国と闘っても、カワカミとは闘うな。」と苦言している程である。


今の揚羽と小十郎にとっては、彼等は正に雲の上の存在。


そして、それが今の自分達とあの二人の差――






「……遠いな。ああ、本当に遠い。」


「……揚羽様。」





いつもの揚羽とは違い

心の底からその事実を噛み締める様に、揚羽は呟く

また、小十郎もその事実を深く噛み締めていた。


「……」


「……」


沈黙と静寂が場を支配する事、数分


揚羽は、口を開いた。



「……小十郎。」


「は、何でしょうか。」



小十郎が揚羽に返事をして、揚羽は小十郎に向かい合った。












「川神院へ電話しろ、鉄心殿と話がしたい。」
















続く











後書き とりあえず、決着です。以前投稿した物とは別の決着となっています。


     次回からは、久しぶりに日常パートに戻る予定です。思ったよりミナト編で話数を使ってしまったので
     次回以降はもう少しテンポ良くいきたいと思っています。
あと、「まじ恋」に関してもかなり構想と土台は固まってきました。
前回の様な事もあったのでこれからじっくりプロットを完成させていこうと思います。


   とりあえずコンセプトとしては、

「ネタバレ控え目、体験版プレイだけでも安心!」

   みたいな感じでプロットを組んでいます。



追伸 デニーロ、超久しぶりの本編登場でした。
   



[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)第十八話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/09/28 18:10


*今回の話は、一部原作のやり取りをそのまま流用しています。




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「うむ、こちらはこの位で良いだろう。」

「お疲れ様です、イタチさん。」



昼下がりの久遠寺家・正門

そこでイタチとハルは箒を持って掃き掃除をしていた。


「いや~、しかし今日はポカポカ暖かくて良い気持ちですね。」

「…そうだな、もう四月だ。今日に限らずこれからどんどん暖かくなっていくだろうな。」

「そういえば、イタチさんって春物の服とかって持っているんですか?」


互いに箒を動かしながら、ハルが尋ねる


「……いや、服は最低限の物しか持っていないな。」


僅かに考えて、イタチは答える。

元々イタチは衣服の類は持っていなかったし、この屋敷での給金は服を初めとする生活用品に当てていたため
最低限の物しか持っていなかったのである。


それにイタチは今までの生活上、衣服にあまり拘る事は無かった為

いたってシンプルな白や黒のYシャツや、スラックス
防寒用のセーターやベスト、手袋
運動用のジャージやシャツ、ズボンなどの物しか持っていない


これらも別に春を迎える上では問題がないが、少々季節感が感じにくいであろう

自分個人としては問題なくとも、世間の目という物もある
自分個人の評価=職場の評価、という事だって珍しくない


まあ簡単に言うなら、自分の評価で久遠寺家の評価が決まる事だってあるから

服装もそれなりに気をつけろ、という事である。


「それなら、今度の休みに一緒に服を買いに行きませんか? 朱子さん行きつけの服屋が駅前にありまして、
 安くて良い服が沢山揃っているお店があるんですよ。」

「ほう、そういう店があるのか? それなら一度行って見る価値はありそうだな。」


そう言って、二人は軽い雑談をしながら掃除に精を出す


イタチとミナトの手合わせから早数日

多少の驚きが有ったものの、久遠寺家は日常の光景を取り戻していた。


イタチとミナトの戦闘によって荒れた久遠寺家の中庭も、イタチとミナトの土遁の術で簡単な修復を施し
あとは軽く掃除、整備をする事によって中庭はほぼ完全修復できた。


また久遠寺家の皆も、今まで知らなかったイタチの事を多少なりとも知る事ができ

心情的にイタチとの距離を縮める事が出来たと、小さな前進を感じ取り、両者にとって価値のあるものとなった。


そして、以前と変わった点が一つ

それは



「そういえば、最近揚羽さんと小十郎さんの姿が見えませんね。」



先日の一件以来、揚羽と小十郎がパッタリと姿を見せなくなった事だ



「そうだな。まあ今は学生は『春休み』という春季長期休暇なのだろ? 家族で旅行にでも行っているのだろ。」

「かもしれませんね。まあ、最近は少々賑やかな日々が続いたので少し静か過ぎるかな? と思いまして…。」

「自分としては、あの二人はエネルギーが余り過ぎだ。偶にこういう日が無くてはこっちの身がもたん。」

「ははは、確かにそうかもしれませんね。」


ハルは軽く笑いながら、軽く集めたゴミを掃き集める

雑談しながらも淀みなく掃除を行える手腕は流石というべきだろう。



……やはり、あの二人もそれなりに衝撃は受けた様だな……



先日のミナトとの手合わせ
その時のあの二人の表情を思い出して、イタチは考える



……錬や南斗星もそれなりに影響されたみたいだが、あの二人はそろそろ壁に当たる頃だろう……



今の揚羽の実力は、大佐や南斗星と比べて頭が一つ飛び出ている
そして、小十郎もその実力をグングンと伸ばしている


更に言えば今のイタチの見立てでは、状況と条件さえ揃えば小十郎が揚羽に勝つ事もそう難しくないと考えている


あの二人は、今が伸び盛りの時期だ
そして、伸び進んだ先には壁が待っている

多少の事では越えられない、大きな壁
あの二人は、これから多少の困難と苦悩を味わうだろう


だが、人は壁を乗り越えた時…爆発的な成長を遂げる
今まで精神的な迷いや悩みで扱い切れなかった肉体が、なんの障害も無しに扱える様になる

同じ刀でも、その持ち手によってその真価が大きく変わる様に……あの二人も、壁を越えれば大きく成長するだろう


そうなれば…



……流石に、今までよりは少しあの二人の相手はキツくなるかもな……



ふう、とイタチはゆっくりと息を吐く



「まあ、今はこちらも骨休みさせてもらうか。」



ゆっくりと呟く


あの二人の問題は、一朝一夕で解決するものではない。
これを機に、じっくり体を休めよう



…と、イタチが思った所で





「イタチくーん、俺と一緒にM-1に出なーい?」





イタチの平穏を、思いっきりぶち壊す言葉が響いた。









第十八話「NARUTOのアニメのギャグパートって、何気にレベルが高いよね?」








「ミナトさん。どうもこんにちはです。」

「やっ、いつもお仕事ご苦労さまですハルさんにイタチくん。」

「どうも……それで、貴方はいきなり何を言っているのですか?」


イタチは溜息を吐いて、自分を訪問してきた嘗ての四代目火影・波風…改め鉄ミナトに尋ねた。


「だから、俺と一緒にコンビを組んでM-1出よう!」

「…それで、何ですか? そのM-1というものは?」


M-1グランプリ…毎年年末にある日本中のお笑い芸人が漫才の腕を競い合うコンテスト、優勝コンビには凄い賞金が出る。


「という物です。」

「説明ご苦労、千春。」


イタチの質問に、ハルが答えてイタチは再びミナトを見る


「物は分かりましたが、なぜ貴方がそういう結論に至ったのか甚だ疑問です。」

「え? だって面白そうじゃん。」


あっけらかんと、ミナトは言い切る


鉄ミナト……過去に色々あって、偶に情緒不安定になってしまう苦労人である。



「いやー昔からお笑い番組は結構見ててさ、俺も自分で出たくなった訳なんだよ。」

「お断りします。」

「えー!! 何でだよイタッチ!! 俺たちなら第二の雨○がり決死隊になれるって!」

「……誰がイタッチですか……。」


グっと親指を立てて、ミナトは爽やかスマイルを浮べる。



何故だろう、イタチは本気で頭が痛くなってきた



「要は二人組で行う漫談みたいなものでしょう? 自分の様な人間には不向きだと思いますし、何より自分は素人です。」

「大丈夫だって、いざとなればちょろっと審査員に幻術を掛けちゃえば楽勝だって!!」

「止めてください、とりあえずこの国の全ての芸人に謝ってください。」



とりあえず、ミナトを軽くたしなめておく。

イタチは軽く頭痛を覚えて額に手を置きながら、現状について考えていた


「あの~、気のせいかもしれませんが…何だかミナトさんのイメージが最初と大分違うような…?」

「安心しろ、俺も同じ事を考えていた。」


ハルの言葉に、イタチは同意を示す。


「あ、自分偶にこういう感じになっているので、そこの所はよろしくお願いします。」

「は、はあ…。」


ミナトが呆然とするハルの肩をポンポンと叩き、片目でウィンクをする

そのやり取りを見て、イタチは考えた。


曰く、里の英雄

曰く、木の葉の黄色い閃光

曰く、木の葉隠れ最強の忍

曰く、四代目火影


里のあらゆる尊敬と憧憬を集める存在


波風ミナト、改め鉄ミナト


そんな人間が……




「それでもし優勝したら、賞金は全部「うめえ棒」につぎ込んでうめえ棒パーティやろうよー! もちろん味は全部めんたい味にね!」



……一体、どうしてこうなってしまったのだろう?……



「……あれ、どうしたのイタチくん?」

「いえ、貴方が本当にあの四代目かと思うと…色々と考える事が多くて…。」

「ははは、あまり難しい事を考えているとハゲちゃうぞ。」


そんなミナトを見て、イタチは更なる頭痛を覚える。

どう考えても、平時のミナトとは異なる
完全に、『スイッチ』が入った方のミナトである。



「…一つお聞きしますが、最近なにか嫌な事ありました?」



何気なく、ミナトに尋ねる
しかしミナトは不思議そうな表情をした後



「あはは、分かる? 実は昨日、俺の好きな漫画の実写版を見たんだけど……

それでちょっとイラっときちゃったんだよねー。



口元を「ククク」と歪めながら、ミナトは言い


「…そうですか。」
(…何故だ? それなら寧ろ機嫌が良くなる筈では?)


ミナトの言葉にイタチの疑問は深まり



「……ああ、なるほど。」



ハルはどこか納得した笑みを浮べていた。


鉄ミナト……しつこい様だが、様々な事情により少し情緒不安定になってしまった苦労人である。







久遠寺家・夢の私室


「大体出来てきたね、夢。」

「うん、そうだね南斗星さん。でも本番まではまだ時間があるから、一回通しでやってみてダメな所は直していかないとね。」

「今年こそは、隠し芸大会で優勝したいもんね。」

「うん! 春の一大イベントだもん、そして今年こそは優勝の脚光を浴びるぞー!」



二人は毎年恒例である久遠寺家・隠し芸大会に備えて漫才のネタを考えていた。

四月の下旬にあるお花見と共に行われるこのイベントには、久遠寺家の人間だけでなく付近の住人も多数見物に来るほどの催しである


去年、優勝を逃した夢と南斗星はそのリベンジに燃えていた。


そして、二人は台本を持って作ったネタを一旦通してやってみる


そして、粗方の通しを終えて



「……う~ん、一通りやってみたけど…やっぱり夢達だけだと不安かも。」

「うん、そうかも。夢が作ったネタだから、私もこのネタには感情移入しすぎちゃってる部分があるからね。
やっぱり、他の人の意見も欲しい所だよね。」

「他の人か~、でもおケイもミィも隠し芸大会は楽しみにしているし…お姉ちゃん達には見せる訳にはいかないし…
ハルくんも夢達と同じチームだから、どうしても夢達寄りの意見になっちゃうからな~。」

「……難しい所だね。」



そう言って、二人は考え込む。

やはり折角作ったのだから、第三者の意見も聞いておきたい所なのだが…どうにも適任者がいない

さて、どうしようかと考えた所で



「ふう、やっと落ち着いて帰ったな。」

「あはは、まあ僕としてはあっちのミナトさんの方が親しみが持てますけどね。
 話をしてて面白いですし。」

「……まあ、賛同は出来るが…普段とのギャップが、な。」



不意に、廊下から何やら話し声が聞こえてきた

声から察するに、声の主はイタチとハルだろう。
そしてその声を聞いた夢が、突如閃いた。



「そうだ! イタチさんに夢達のネタを見て貰おうよ!」

「イタチくんに?」



夢の突然の提案に、南斗星は首を傾げた


「イタチさんってまだ誰の専属にもなっていないし、口も硬そうじゃない? 気付いた事とかもズバズバ指摘してくれそうだし、
何よりあのイタチさんがクスリとでも笑ったら、本番はきっと大ウケだと思わない?」

「……なるほど、確かにそれはあるかも。」


夢の意見に、南斗星も賛同する

確かに、夢の意見には同意できる点はあったし

何より、あの普段から表情を崩さないイタチの表情を少しでも崩す事が出来れば、本番でも良い成績を残せるだろうと
南斗星は考えた。



「うん、確かに…私も賛成。」

「よし決定! それじゃあ早速呼んで来るね! ねーえ、イタチさーん!」



そう言って、夢は部屋から出て行った。









「…と、言う訳でイタチさんとハル君に夢が作った漫才を見てもらいたいの。」

「へー、面白そうですね。」

「…しかし、漫才…ですか。」

「あれ? 何か問題があるイタチくん?」



あまり乗り気でない様子のイタチに、南斗星はふと尋ねる


「いやそういう訳ではない。まあ多少の不安はあるが、主様の頼みなら自分に出来る限りの事はしよう。」

「本当? それなら早速準備を始めるね!」


顎に手を置きながら、イタチは言う。

そして二人の了承を得て、夢と南斗星は二人の前で漫才を始めた。



「どうも、サザンクロスドリーム・夢です」

「南斗星です。よろしくお願いしまーす」


部屋をステージに見立てて、二人は中央に歩み寄る


「見事な桜、春爛漫ですね」

「春と言えば、出会いの季節ですよ。」

「出会いか~、私はないなー…南斗星はある?」

「あまり興味ないかな。」

「じゃあ何でそのネタふったのー!」


夢が過剰にリアクションをとって、南斗星につっこむ。
ハルはコレが受けたらしく、クスリと口元を緩ませた。


「春と言えば、やっぱり就職シーズンですよ!」

「南斗星は切り替え早いなー、最近は面接も色々奇抜な事をやってるらしいね?」

「柔軟に対応出来る様に、練習しときたいなー。」

「あ、それならやってみる?」 


夢が提案すると、南斗星はサッと構えをとって


「じゃあ、サーブは私からね。」

「面接をやるの! この流れでいきなりテニスとかありえないでしょう!」


再び夢のツッコミが入り、二人は改めて続行する。


「夢が面接する人で、私が面接を受ける人ね。それじゃあ始めよう!」

「こんこん」

「はい、どうぞー。」

「失礼します、宜しくお願いします。」


今度は部屋を面接室に見立てて、夢が面接官、南斗星が面接生のポジションについた
そして早速、面接官役の夢が南斗星に質問をした。


「それでは面接を始めます。まず、貴方が弊社を希望した理由は何ですか?」

「何だと思いますか?」

「答えてよ! 面接官にいきなり質問しないでよ!!」


笑顔のまま夢の質問に南斗星が切り返す


「希望する理由は、御社が家から近いからです。」

「正直な理由ですね、他には?」

「通いやすいと思ったので」

「さっきと理由かぶっちゃってるよ! もう、そんな態度だと面接に落とされますよ!」


夢がやや怒った表情で南斗星を見るが、南斗星はここでキリっと表情を引き締めて


「ありのままの、裸の自分を見て欲しいので…正直に。」

「…ソウデスカ。それじゃあ貴方の趣味を教えて下さい。」

「それは言えません。」

「裸の自分を見て欲しいんじゃなかったの!! 貴方は本当にこの会社に入りたいんですか!?」


再び夢が声が響くが、南斗星は真剣な表情を崩さず


「…では、貴方はこの会社で良かったんですか?」

「ほ?」


逆に南斗星が質問をして、夢の表情が呆気に取られたものになる。


「貴方は、本当は何になりたかったんですか?」

「……私は、本当はミリオン連発の歌手になりたかった。
そしてそのお金でドリームランドを建設して、美男子ハーレムを作ってそのハーレムでリアルメリーゴーランドを作りたかった……
って! 違うでしょ! 質問に答えてよ!!」


そして、二人は仕切りなおしをして再び向き合い


「こほん、それでは好きなスポーツは何ですか?」

「…テニスが好きです。」

「やけにテニスに拘るなー。まあ良いや、貴方は面白いので合格です。」

「貴方はつまらないので、こちらからお断りさせて頂きます。」

「私が面接されてたの!! ええい、悔しいからもう一度やるよ!」


ここで、南斗星は再び構えを取って…


「サーブは私からですね。」

「だからテニスは関係ないでしょ! もうええわ!」

「「ありがとうございましたー。」」



二人の声が同時に響き、漫才のリハーサルは終了した。

二人は不安げにハルとイタチを見る
ハルは笑顔でパチパチと拍手をしているが、


「………」


イタチはいたって無表情


「……あ、はは。イタチさん、ひょっとして…面白くなかった?」



夢が不安気に尋ねるが、イタチは表情を崩さずに何かを考えて…


「……夢様、質問いいですか?」

「…う、うん。何でもどうぞ。」


夢がそう言うと、イタチはゆっくりと夢に向き合って…












「いつ、笑えば良いんですか?」


「いきなりバッサリ切られたああぁぁぁ!!!」












一刀両断

思わぬ攻撃にバッサリと切られて、夢はガックリと項垂れる

自分でも覚悟はしていた事だったが、まさかここまでズバっと言われると堪えるものである。



しかし、夢の本当の苦しみはここからだった



「しかし、何故面接でテニス…庭球が出てくるのだ? そこが疑問で途中から漫才に集中できなかったのですが?」


さらっと、イタチは漫才で感じた疑問を尋ねる。

その質問に、主の変わりに南斗星が答えた



「ああ、面接関係ない事を絡ませていけば『おいおい、何だよそれは~』っていう感じで面白いってが言ってたよ。」

(……ハウ!)

「なるほど、だから面接とは関連性が極めて薄い庭球が出れば面白いと夢様は思ったのだな。」

(……ハウ!ハウ!!)

「でも、僕は結構面白かったですよ夢お嬢様の考えたネタ。」

(……ウウー、こ、これは…思ったよりもキツイかも……!!)


何となく、全身がムズ痒くなる様な感覚に襲われる夢

結構目の前で談義されると予想以上にキツい、夢はその事を存分に噛み締めるが…



「ふむ、なるほど。確かに今こうして考えてみれば……確かに、目を引くものがあるな。」

「お! これは思わぬ所からの好感触が!」


イタチの言葉に、夢はパアっと顔を輝かせる

が、



「人間の笑うという行動に関しては、その発生源の理由の一つに『構図のズレの認識』という物がある。」

「……あり?」



何やら予期せぬ高尚な単語を耳にして、夢は思わず呆気に取られるが…

イタチの言葉は続く



「俺が昔聞いた話なのだが、『一国の英雄がある日、石に躓いて転んだ。それを見た子供達は笑ったが、大人達は笑わなかった。』という話がある。

なぜこの話の子供は笑ったのか? 
それは子供の持つ「英雄とは格好良い。どんな苦難にも決して挫けず、倒れる事無く立ち向かう。」等のイメージのズレ、
つまり構図のズレがあったから、子供は面白いと思って笑った。

なぜこの話の大人は笑わなかったのか?
それは大人は「英雄だって自分達と同じ人間。偶然道端で転ぶ事だってある。」そういう常識的思考を持っていたから
構図のズレは起きなかった、だから大人は笑わなかった。

つまりは、これが笑いにおける構図のズレだ。」

「…え? ほえ?」


急なイタチの説明に、夢は咄嗟に反応出来ずにいる
自分が考えた漫才のネタから、なにやらイタチの笑いの構図の談義にまでなっているからだ。


「おおーなるほど、分かり易い例えですね。」

「うんうん、私にも良く分かった。 でも、それが夢のネタにどう繋がるの?」


イタチの説明を聞いて、ハルと南斗星は理解したかの様に頷く
そして、イタチの説明は続く。



「世間一般でいう面接のイメージとは主に
『就職試験や受験において、対象の人物の書類では知る事の出来ない人物像、性格、雰囲気、思想、その他諸々を実際に会って見極める。』
等のものだ。

しかしこれに対して先の面接のやり取り、面接という大切な試験においては
受ける側の人間もその態度はそれ相応な態度で受けて然るべきものだ。

だが、夢様の考案なされた受験生の役柄はそんな受験生とは大きく離れ、更には面接官に試験とは大凡関係ない
面接官の心情面において奥深い部分にまで踏み込んだ質問までされている。

これもいわゆる「構図のズレ」、本来一般的な面接のイメージを持つ人間には確かにこの手のやり取りは心理的に笑いを誘うものだ。」


「……あ、あのイタチさん…流石に、そこまで言われると…夢もキツイものが……」


ここで、夢が頬を引き攣らせながら宣言するが



「更には関連性の薄い庭球を頭に持ってくる事で一度見る人間の意識を面接から離す事によって、
後の面接のやり取りを際立たせている。
一度意識が離れるから、後の面接のやり取りが活きるという訳だ。」


「…いや、あの……本当に、そんな大層なものじゃないんで…」


「そして、何より特筆すべきはこれすらも締めの伏線という事。
面接のやり取りで見ている人間の意識が完全にそこに向いた所で、先の庭球を持ってくる。
反復効果も相まって、更にこの庭球のネタが活きてくる。


「……あ、あの、すいませ……も、もう、その辺で、勘弁して……」


「『構図のズレ』『意識の強弱』『反復効果』この三つをバランスをよく使い、笑いを誘う…
なるほど、改めて考えるとこれは良く出来ている。
心理的な笑いの発生要素を刺激する「もういい!!! もういいよおおぉぉ!!! もうこれ以上私のネタを解剖しないでえええええぇぇぇ!!!」分かりました。」



お笑い芸人が
最も嫌う行動の一つに、自分のネタを解剖されるというものがある。

第三者の手によって理論と因果関係を持って冷静にネタを分析されると、とてつもなく恥ずかしい気持ちに陥るらしい。


効果は絶大だった


涙目になりながら懇願する夢を見て、イタチはその言葉を止めた。


(……ううう、流石にこの流れはキツい……何か、何かして場の流れを変えないと!!……)


なんとかして場の空気をリセットすべく、夢は咄嗟に声を上げた。



「そうだ! 参考までに、イタチさんが今まで経験した仕事の事とか聞いてもいい!?
 やっぱり、実際に体験した人の話が聞ければネタも補強されると思うんだ!!」

「自分が体験した、仕事ですか?」

「そうそう、イタチさんって人生経験豊富そうだし! 参考までに何か聞かせて欲しいかな、って思ったの!」

「……そうですね。」



夢の言葉を聞いて、イタチは「ふむ」と顎に手を置いて考える。

ちなみに夢は、なんとか場の空気の流れを変える事が出来て、ほっとしていた。



「自分は、一時期はいわゆる『何でも屋』の様な組織に属していた事もあったので…それなりに体験した仕事の数はありますね。
要人警護、護衛に警備、潜入捜査、遺失物調査、盗難物奪還……一般的な仕事でもペット探しや商店の手伝いや老人介護等もしていましたね。」

「おおー、なにやら凄い経歴だね。」

「要人警護か、確かにイタチくんはそういう雰囲気あるね。」

「確かに、ボディーガードとかイタチさんはしっくり来ますね。」



あの反則的なまでの強さに、真面目で実直な性格
言われて見れば、確かにイタチの雰囲気とその手の仕事はマッチしていると、夢達は思った。



「じゃあさ、一番最近までイタチさんがやってた仕事の職場ってどういう感じだった?」

「……一番、最近ですか?…そうですね……」



思い出すのは、ある組織で過ごした日々

イタチはここに来るまでの自分の生活を思い出し、ある程度に考察を重ねた所で…







「普通に丸三日は完徹で仕事をさせられたりする職場でしたね。」

「「「はあ!!!」」






そのイタチの返答に、三人は思わず声を上げた



「み、三日間徹夜!!?」

「キツいってレベルじゃないですよ!!」

「っていうかそれブラックだよね! 真っ黒クロスケ並みのブラック企業だよね!!」


「ブラック? まあ良くは分かりませんが、三日程度でしたら自分は普通に活動できるので…それほどキツいという訳ではなかったですよ。」


え? そういうものなの?
自分達の認識が甘いだけ?

などと夢達は一瞬考えるが……








「まあ、流石に六日間完全不眠不休での徹夜作業をさせられた時はキツかったが……」

「「「ダウトオオオオオオオォォォォ!!!」」」








一斉に、三人はイタチを指差して叫んだ。



「それブラックだよ!! 絶対ブラック企業だよ!!」

「非人道的にも程がありますよ!!」

「私だってそこまでハードな仕事経験した事ないよ!!」



夢、ハル、南斗星はそれぞれイタチに詰め寄るが、イタチは表情を変えずに一考して


「ああ、元々九人しかいない組織だったからな。ある程度キツいのは仕方が無かった。」

「そうなの?…っていうか、他の人は文句言わなかったの?」

「まあ、多少の文句はあったが…キツいのは皆同じだったからな、受け入れていた。」

「そ、そうなんだ…。」


夢が恐る恐る尋ね、イタチは答える。

まあ、当人達が納得していたならそれで良いかな?

と、思った所で…








「まあ、なんだかんだで四人死んだがな。」

「「「はいアウトオオオオオォォォ!!!」」」








再び、三人は一斉にイタチを指さして絶叫した



「過労死だよ! 死んだ人それ絶対過労死だよ!!」

「っていうか、もはやブラックって言葉すら生温いですよ!!」

「本当に、それ裁判ものだよ!」



と、三人がそれぞれ声高に叫ぶが








「ああ、正確に言うと元々十人の組織だったが、一人辞めたヤツがいて、九人になった後、
そいつが死んで三人が死んで一人が生き埋めになった。

「「「恐いよ!!!」」」







更なる三人の声が響く



「イタチさん!! それ何のフォローにもなってないよ!! 寧ろ恐いよ!!」

「一人生き埋めってなんですか!! もはやホラーですよ!!」

「何で辞めた人まで亡くなってるの!! 絶対何かに呪われてるよ!!」



もう、今日だけで何回突っ込みを入れただろう。
三人は声高に盛大にイタチにツッコミを入れ

ちなみに夢はこの時


「あれ? ひょっとして今の夢、ツッコミキャラとして輝いてる?」


と、軽く悦に入っていた。

ちなみに、この話を聞いて夢は新たに新ネタを思い付いたのはまた別の話である。


























同日・川神市・川神院

九鬼揚羽と小十郎の二人はそこにいた。


「ここに来るのも久しぶりよの。」

「そうですね、年初めの挨拶に来た時以来ですね。」


そして、二人は目の前の寺院に一歩踏み込む


その中に踏み込んだ瞬間、一人の老人が姿を現した。



「ほっほっほ、久しぶりじゃの揚羽に小十郎。」

「お久しぶりです。鉄心殿もお変わりなく。」

「元気そうでなによりです。お久しぶりです、鉄心殿。」


二人は目の前の老人、川神鉄心に笑みを浮べながら軽く挨拶をし

鉄心は、その二人を一瞬目を鋭くして見て



「……ほう、どうやったかは知らんが…二人共、かなり腕を上げた様じゃな。」



愉快気に口元を綻ばせ、鉄心は楽しげに笑った

そんな鉄心の言葉に、二人は目を丸くした。


「…む、そうでしょうか?」

「あまり、自覚はありませんね。」

「フォッフォッフォ、まあこういうものは得てして本人は気付かないものじゃ
 まあこうして若い世代が育っていく様を見るのも、この老いぼれの数少ない楽しみじゃ。」

「鉄心殿には百代と一子がいるではありませぬか。」



揚羽がそう言うと、鉄心は肩を竦めて溜息を吐いて


「一子はともかく、百代はのー…実力では申し分ないのじゃが、あれは心に問題ある。
 一言目は「戦い」二言目は「闘い」、全く困ったもんじゃわい……わしの育て方が拙かったのかのー?」

「ははは、そう悲観なさらずとも百代はあれで健やかに育っているではありませぬか。」

「ほほ、そう言って貰えるとこっちも少しは気が楽になるのー。」


揚羽の言葉を聞いて鉄心は再び笑い、改めて二人に向かい合った。



「さて、ではそろそろ本題に入ろうかの? 先日の電話の件……あれは、本当に良いのかな?」


「はい、何も問題ありません。ですから今日はその為に、我が直々に川神院に足を運びました。」



そう言って、揚羽は表情を引き締める。

鉄心と小十郎も先程までの笑みは消えて、辺りの空気は張り詰めた様な緊張感が支配する。


そして、その緊張感を切って

揚羽は口を開いた。











「この九鬼揚羽、本日をもって『武道四天王』の座を返上する。」













続く








後書き ヤバイ、ミナトがフリーダムすぎる……(汗)
    今回は日常パートメインに描かせてもらいました。夢と南斗星のコントは原作のやり取りを一部編集したものを使わせていただきました。
  
    ……流石に、自分で漫才のネタは作れなかったので(笑)

    ちなみに、今回の話でまじ恋クロスのための「種まき」は終わりました。
    揚羽が四天王入りした時期が分からなかったので、とりあえず本編では既に四天王入りしているという設定です。

    多分近い内に、本格的にクロスをさせた物を載せられると思います。


追伸 先日友人の一人と「まじ恋」に関して会話したのですが…


作者「お前さー、『まじ恋』のキャラで誰が一番かわいいと思う?」


友人「師岡卓代ちゃん。」



……コイツ、分かってやがる、と思いました。







[3122] 特別編・真剣で忍に挑みなさい!!・第一話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/10/03 04:51




特別編を読む前の注意事項


その1・この特別編は「真剣で私に恋しなさい!!」のキャラクターが出演します。

その2・この特別編を読む前に、まじ恋の体験版をするか、まじ恋のキャラクターの概要を掴む事をオススメします。

その3・これは「まじ恋」本編が始まる約二年前の設定です。

その4・作者も気を付けますが、軽度なネタバレはあるかもです。(NARUTOで言ったら、実は影分身を使って修行すると凄い成長が早い…ていう程度のもの)


とりあえず、まじ恋に関しての超重要レベルのネタバレ、例えるならイタチとサスケが闘う前に

『実はイタチはずっとサスケの事を守っていた。』

を暴露する様なレベルのネタバレは、まず無いのでご安心下さい。


あと、今回は一部激しくネタに走っています。



それでは、以上の事を踏まえて特別編をお楽しみ下さい。




========================================







……“侍”……




……国花と言われる桜の花や富士山と同じ様に日本を認識する上で使われる独特な語句……




……侍の存在は、既に消えてしまっているけど……




……嘗て彼等が抱いた武士道は、力と美の象徴として今も日本人の心に深く刻まれている……









……そして、侍と同じ様に日本を認識する…もう一つの語句がある……




……それは……









……“忍”……













七浜・とある和菓子店

そこで、二人の男が向かい合ってお茶を啜っていた。


イタチとミナトである


ミナトは黒い薄地のシャツにジーパン

イタチは今日は非番なので、白のYシャツの上に灰色のベストにスラックスと、
普段着を着ている。


「…ぷはー、うん美味い。やっぱり羊羹には緑茶だよね。」

「その意見には賛同します。しかし、美味いですね…この芋羊羹。」

「でしょ? 鉄一族御贔屓の老舗和菓子店の看板商品だからね。そんじゅそこらの物とは一味違うよ。」


二人はそう言って、目の前の小切りにされた羊羹に楊枝を突き刺して口に運ぶ

口当たりの良い、上品な香りと甘味が口に一杯に広がり、味を十分に堪能した後に飲み込む。


うむ、美味い。


突然のミナトの誘いに、イタチはまたミナトが暴走したものかと思ったが

実際はそんな素振りを見せず、なにやら自分に話があるらしくて
まずは自分と菓子を摘みながら茶をしよう、と言ってきたのである。


まあ、今日は特に予定も無かったのでイタチはミナトについて行く事にしたのである。



「…で、何ですか? 話と言うのは…?」

「うん、実はイタチくんにお願いがあるんだ。」



そう言って、ミナトは神妙な顔をしてイタチに向き合う

その真面目な表情、どうやら真剣な願いらしい
茶を一口啜って、イタチはミナトに向き合って


突如、ミナトはイタチに頭を下げた





「イタチくん! 突然の事で申し訳ないが、今度の土曜俺と一緒に川神まで来て!!!」















君が主で忍が俺で・特別編『真剣で忍に挑みなさい!!』


第一話「四天王」














「…それで、何故俺にその川神市の川神院にまで来て欲しいのですか?」


事情が今一つ分からず、イタチはミナトに尋ねる。

そして、ミナトは顔を上げて


「実はさ、この間…川神院から俺に通達が来てさ…」

「通達? なんて?」



「俺に、『武道四天王』の一人になれってさ。」



ポツリと、ミナトは言う。



武道四天王

日本の武術の総本山と言われる川神院が認める、最強の武人の称号

年齢が学生、若しくはそれに準ずるまでの若者という縛りはあるが…その称号を持つ人間は常に最高クラスの実力者である。

そして、この称号を手にする方法は至って単純


現四天王と闘い、勝てば良い


そして現四天王に勝てば、その人間はその場で四天王の称号を手に入れ、四天王は負ければその座を即座に剥奪される。

このシステムは「人生とは常に闘い」の言葉を掲げている、川神鉄心が決めた物である。



「……ふむ、大体の事情は分かりましたが…なぜ、貴方がそれに選ばれたのでずか?
 表立っての武術は辞めたと言っていた気がしますが…?」

「…まず、選ばれた理由だけど…そもそもの事の発端は、四天王に空きが出ちゃったからなんだ。」

「空き?」

「……揚羽ちゃんが、四天王の座を返上したらしくてさ。」

「揚羽? 九鬼揚羽の事ですか?」



イタチがそう言うと、ミナトは頷く



「それで、その揚羽ちゃんから俺の事が伝わったみたいで…だから俺がその新しい四天王候補の筆頭になったらしいんだよ。
 それで、その事で川神院から通達が来て……四天王に足る実力があるか見極めたいから、今度の土曜、川神院に来いって…

…は~あ、やっぱり口止めくらいしとくべきだったかな? マジふざけんなよ、あの腐れデコ女。



なぜか、軽く口調が変わるミナト

イタチはマズイと思って、咄嗟に切り替えした



「……要は、貴方はその招集に自分も着いて来いと? 理由は?」

「不安だからに決まってるじゃない。四天王なんてなりたくもない称号を押し付けられて、折角の休日潰してアウェイに単身で乗り込むんだよ?
行きたくないに決まってると思わない? 行くにしても一人じゃ絶対嫌だよ。」

「アウェイ…敵地ですか? 随分な物言いですね。」



イタチが尋ねると、ミナトは再び重い溜息を吐いて



「俺さ、八年くらい前に鉄の親族に頼まれて、俺にもう一度武術をしてみないかって話に来た鉄心さんの面子を思いっきり潰しちゃったんだよ。

武の世界では神様みたいに崇められてる人の面子を、たかだか十歳程度のガキが潰したんだよ?

もう、ここまで言えば分かるでしょ? 色々とあーだこーだ言われた訳よ、鉄心さんは色々な人に慕われてたからね…。
まあ元々説得に来た鉄心さんも乗り気じゃなかったから、そんなに大事にはならなかったけど、外野の声が色々有ったらしくさ…

それでも、俺の意思を尊重してたジンじいちゃんや俺の父さんと母さんも色々と中傷されたらしいんだよ…

…ほんと、雑魚の癖に口だけは一丁前の連中ってマジむかつくよね。
まあ五~六人裏で俺考案の大蛇丸ごっこに付き合わせてやったら大人しくなったけど。」


「取りあえず落ち着いて下さい。草餅でもどうですか? 奢りますよ。」

「本当? ラッキー! おばさん注文、草餅二つね!」


ミナトがそう言うと、店員の女性は笑顔で了承した。

とりあえず機嫌が治ったミナトは話を続ける。



「…ま、つまりはそういう事。川神院の人達は基本良い人達だけど、あの人達は日々真面目に修行してる人達だからね…
俺みたいな「気まぐれな才子」、しかも鉄心さんの面子を潰した俺には少なくとも良い感情は持っていないさ。」


「ふむ……しかし今思ったのですが、その四天王とやらの座を辞退してしまえば宜しいのでは?」



何となく、イタチは尋ねる。

下手に話をごちゃごちゃにするよりも、こっちの方が後腐れなくてよっぽど簡単で建設的な解決方法に思えたからだ。

しかし、ミナトはそれを否定する。



「それは火に油だって。只でさえ俺が武術を辞めて、鉄心さんの説得を聞かなかった俺が間接的にとはいえ
揚羽ちゃんを四天王の座から引き摺り下ろして、しかもその座を辞退?
しかも俺、十年前に武術を辞めた身でありながら、ずっと真面目に修行してきた揚羽ちゃんより上回っている事になってるんだよ?

そんな事したら、絶対また面倒くさい事になるって。こういうのは尾ひれが付いて広まるものだからね。
イタチくんもある程度知ってると思うけど、ああいう中途半端に身分や権力、力を持っている人間って、
勝手な物差しで上から目線で威張ってる奴等が多いんだよ…。」



疲れた様にミナトは語って、イタチは数日前の久遠寺家のやり取りを思い出す。


……そう言えば、揚羽と小十郎も…初めはかなり敵対的な雰囲気だったな……


その事を思い出す
多分、この人が言っている事は事実だろう。



「いや、俺の事は自業自得だから別に良いけど…それで外野から俺の両親やジンじいちゃんが中傷されるのは我慢できないんだよね…

まあ今度そういう事になったら、『変化の術』を使ってそいつ等を社会的に抹殺してやるけどね。


クククと、顔を歪ませて「忍術って、ステキー♪」とミナトは笑いながら呟く。


「……なるほど。」


イタチは重く頷く

嘗ての自分なら「何を馬鹿な事を」と言って、一笑に付していただろうが…



……今のこの人なら、本当に殺りかねん……



注文した草餅を食べながら、イタチは思った。



「まあ要するになっても苦痛、ならなくても苦痛っていう面倒な事態なんだよ。」

「さっきから話を聞いていると、貴方はその四天王とやらになりたくない様ですが…
そんなに貴方はその座に付きたくないのですか?」

「付きたくないね。さっきも言ったけど、俺には色々と居心地が悪いんだって。
……それに、他に納得できない理由がある。
それが有る限り、俺はそもそもあの四天王を認めるつもりすらない。」



更に表情を引き締めて、真剣な雰囲気を持ってミナトは語る

平時のミナトの時の人懐っこい表情とも
暴走時の歪んだ表情とも異なる

真剣なる表情


そのミナトの顔は、イタチの記憶にあるあの四代目火影の顔であった。



「…なるほど、随分な物言いですね。出来れば、その理由を教えてくれませんか?
もしかしたら、この一件の解決の糸口になるかもしれません。」

「……そうだね。確かに、君にはその理由を知る権利があるね……。」



ゆっくりと、そして深く、ミナトは溜息を吐く
そして、ミナトは目を瞑る。

辺りの空気が、緊張感に収束されて、重いプレッシャーになる

糸が張り詰める様な緊迫感

その剣呑な空気に、イタチは思わずゴクリと息を呑む。


もしかしたら、自分の一族や日向一族の確執の様な理由があるかもしれないのでは?

と、イタチは思って真剣に聞く姿勢を作る。

ミナトはゆっくりと目を開ける
そして語る。




「そもそも俺が認める四天王は『ゴルベーザ四天王』だけだ。」


「…………………はあ?」



その聞きなれない言葉に、イタチは思わず呆気に取られた。


「……ご、ごるべーざ?」


ゴルベーザ四天王……某有名大作RPGシリーズの四作品目に出てくる敵幹部、名前の通り主人公達の宿敵ゴルベーザが結成した四天王である。


「…と、いう存在だよ。」

「……まあ、粗方の概要は分かりましたが。」


たどたどしく、イタチは語るが



「いやね、超格好良いんだよ、マジで。、
俺の携帯の着メロは『ゴルベーザのテーマ』だし、アラームは『四天王戦』だからね。
勿論待ち受け画像はゴルベーザ、ちなみにメールの着ボイスはあの名言『さあ、回ふ……」

「いえ、もう結構です。要は架空の存在な訳ですよね? それならそこまで拘る必要は無いのでは?」



そうイタチが言うと、

ミナトは一瞬、養豚所の豚を見る様な目でイタチを見た後


「イタチくん、君に質問しよう」

「…はい、何でしょう?」

「君は見ず知らずの人間が勝手に『うちは一族』の名を語っていたら、どう思う?」

「……なるほど。」



その問いを聞いて、イタチはほんの一瞬の間を置いて答えた。


少なくとも良い気分はしないだろうし、場合によってはその場で排除・抹殺の手段にでるだろう。


要はそういう事だ。

これは個人の価値観と感情の問題という訳だ
確かに自分の物差しでは、計りにくい問題だ。



「ま、要するに生理的に受け付けない訳だよ。それを抜きにしても自分にとっては居心地悪いし面倒くさいし
ハッキリ言って、俺にとっては嫌な事尽くめなんだよ。」

「……確かに、それは考えますね。」


どうやら、自分の考えを少し改める必要があるらしい。
思ったよりも、この問題は根が深そうだ。


さて、どうしよう

とイタチが考えた所で



「…って言うか、いつも思ってるんだけど、あいつ等はどうして我が物顔で四天王語ってるん?なに、そんなに死にたいの?

つーか、鉄心さんも鉄心さんだよ何「四天王」なんて勝手に作ってんの?

しかも武道の四人だから武道四天王なんて安直だしドスが効いてない、
大体全員が同じ様な実力で同じ様な武人キャラって何ソレ?少しはキャラを差別化しろよ

そもそも四天王には最弱で人格が腐ってて人として器の小さい残虐非道で主人公一派の踏み台になる噛ませ犬的存在が絶対不可欠なんだよ、そういうキャラが居て初めて武人キャラが引き立つんだよ、じゃなきゃ話が盛り上がらないだろうがプレイヤーが飽きるだろうが飽和してるってレベルじゃねーぞ。

それに比べて「ゴルベーザ四天王」、土水風火の四属性から構成される精鋭だぞ?しかもこっちは皆キャラが立ってるんだぞ?

死して尚恐ろしい土のスカさんがいるんだぞ?寂しがりやなカイさんがいるんだぞ?竜巻になれてガチで強いバリさんが居るんだぞ?そして四天王最強で相手と常に正々堂々勝負してくれる超紳士なルビさんが居るんだぞ?
コッチはゴルベーザだぞ?横文字が入ってんだぞ?和洋折衷だぞ?どう考えてもこっちの方が適確だろうがさっさと改名しろよ、他に無いなんて言い訳すんなよ?巷では三闘神や四魔貴族、五聖刃に六神将、七武海や十本刀なんていうオサレなネーミングだってあるんだよ、舐めてんじゃねーぞコラ」


「とりあえず落ち着いて下さい、普通に不気味です。」



……前言撤回、思ったよりも浅い…かもしれない……



完全にスイッチが入ったミナトを見て、イタチはそう思った。


「と、言う訳でイタチくん…俺、どうしたら良い?」

「もういっその事、その武道四天王とやらの筆頭にでもなってゴルベーザ四天王なりオルゴール四天王なりに改名すれば良いのでは?」


疲れた様にイタチは呟く
もうこの事を難しく考えるのは、何やら馬鹿らしく思えたからだ。



しかし、この数秒後

イタチはこの言葉を言った事を心の底から後悔する

























「……良いね、ソレ。」




























ポツリと、ミナトは呟く


「……は?」

「うん、うん…確かに、どうしてこんな簡単な事に気付かなかったんだろう。
うん、正に目から鱗だ。」


イタチの言葉に納得したかの様に頷いて、ミナトは言う。


あれ、この流れ不味くない? ひょっとして地雷踏んだ?
等とイタチは考え


「よーし、とりあえずやる事は決まったぞ。先ずは手始めに土曜に川神院に行って、他の四天王を軽く皆殺しにして…

「ちょっと待て。」


ガシリとミナトの肩を掴んでイタチが言う。


動揺のあまり思わずタメ口になってしまったが、まあご愛嬌というヤツだ。



「どうしたルビカンテよ? そんなに怖い顔をして。」

「やめて下さい、誰がルビカンテですか? とりあえず、落ち着いて下さい火影様。」

「そんな称号は既に無い、俺の事は『ゴルベーザ』と呼びたまえ。」

「お断りします。いい加減にしないと火遁で焼きますよ。」



額に手を置きながら、イタチは呟く。

どうしてこんな事になってしまったのだろう?

更にミナトはドコからか紙とペンを持ち出して


「うーむ、他のメンバーはどうしようかな? まあ水はどう考えてもあの人が適任だよね、強いし風格あるし
……でもあの人、こっちに来てるか分からないからなー。まあ風は、思い付く限りあの娘しかいないかな? 何気に上忍だし…
あ、ダメだ。あの娘は良く考えたらシカマルの嫁だ、っていうかあっちで元気にやってるわ。
土はな~何人か思い当たるが、皆今一つだな……あ、そうだ! アイツが居るじゃん!

……ダメだ、アイツよく考えたらあの婆ちゃんが生き返らせてたわ…
うむ、少し困ったな。」


「とりあえず止めて下さい。他の人を巻き込もうとするのも本当に止めてください。」


「むう、まあ確かに土曜まであの四天王を潰せる四属性を揃えるのは厳しいな。
 仕方ない、今回はルビカンテのみで我慢しよう。」


「……既に俺が行く事は決定しているんですか?」



疲れた様にイタチが言うと、ミナトは思い付いた様に手を打って



「あ、そう言えばイタチくんは仕事とかあるっけ? それなら別に良いよ、今回の打開策も見つかったし、
いざとなったら、俺一人で行くからさー。



あっけらかんと、そう言うミナトを見て


(……この人が、一人で……)


平常時のミナトなら、まあ問題はない。
礼儀を弁えているし、物腰も柔らかい、特に問題はない。


だが、もしあちらで「スイッチ」が入ったら……


その光景を想像して







イタチは戦慄を覚えた。







(不味い……というか、危険だ。普通に気に入らない相手に螺旋丸とか使いかねん……)




突っ込み所の塊の様な光景を思い浮かべて、イタチは頭を抱えたくなった。


もう、正直に言って詰んでいた


そして、何よりこの状況を作ったのは自分だ


もはや無関係とは言えない、それどころか決定的な一打を作った自分の言動を思い出して


イタチは、再び重い溜息を吐いた。




「火影様、やはり今の件ですが……」




やはり、どう考えてもストッパーは必要だ。

話をしながら、イタチはその結論に至った。












そして、時は流れて当日の土曜日

久遠寺家・正門


「や、イタチくんお待たせ。」


「どうも、おはようございます。」



ミナトは久遠寺家に赴いていた

二人の待ち合わせ場所が、この場所だったからである。



「いやー、でも何か悪いね。俺の私用で態々手間を取らせて。
まあ、お礼にあっちで甘い物でも奢るからさ。」

「気にしないで下さい、万が一に備えてですので。」

「万が一? まあ良く分からないけど、イタチくんはその執事服で良いの?」



ミナトがイタチに尋ねる

イタチは普段着ではなく仕事着である執事服を着用していた。



「ええ、川神院は歴史と格式のある場所と聞いていたので、失礼のない様にこちらの服で行く事にしました。
久遠寺家の執事服は機動力重視なので、中々動き易いですし。」

「ふーん、ラフな格好で良いと思うけど…ま、それで良いか。」

「所で、待ち合わせはここで良かったのですか? 普通に鉄道を使う物だと思っていましたが?」


イタチが何気なく尋ねる。

川神市は七浜の隣だというから、鉄道かバスのどちらかを使うものだとイタチは考えていたが…





「ああ、大丈夫大丈夫。ここから『飛雷神の術』で川神市まで行くから。」


「……すいません、今なんて言いました?」





うむ、どうやら自分の耳は少しおかしくなったらしい。

目の前の人物が忍としてあるまじき発言をした様に聞こえ、イタチは自分の耳を軽く掃除して



「だから、ここから『飛雷神の術』で川神まで行くんだってば。交通費浮くし、何より時空間忍術だから一瞬で着くし。」

「とりあえず、歯を食い縛って下さい。なに奥義レベルの忍術を足代わりにしてるんですか?」

「ははは、何を言っているんだいイタチくん。
こういう術は常日頃から使って慣らしておかないと、いざという時に使えないじゃないか?」



微笑を浮べて、さりげなく正論を言うミナトを見て



「……失礼ですが、他に日常的に使っている術はありますか?」


「うーん、他には学校に遅刻しそうになったら『飛雷神の術』を使ったり、学食で出遅れた時は『瞬身の術』を使ったり…
学校サボリたい時は『影分身』に登校させたり、スーパーのお一人様に付き一つまでの品物を『変化の術』使って購入したり…

他にはバイトとか……あれ? どうしたのイタチくん、頭抱えて?」


「……スイマセン。貴方の話を聞いていたら、本気で頭が痛くなってきたので…」



サラリと突っ込み所が多すぎる発言を聞いて、イタチは頭痛を覚えた。


イタチはこの世界での忍術の特異性を考慮して、今までその使用を極力隠していたのに
目の前の元火影は、隠すどころかガンガン日常的に使っていたからだ。



……案外、これが器の差というヤツかもしれんな……



痛む頭を抱えて、イタチはそんな風に考えていた。



「ああ、ひょっとして人に見られる心配とか考えてる? 大丈夫大丈夫、この前いい感じの廃ビルを見つけて、
そこにマーキングをしといたから、まず外から見られる事は無いから安心していいよ。」


「……そうですか。」



なんとか痛みも引いてきて、イタチは答える。

まあ、この人も何だかんだで最低限の事は考えて(?)行動しているらしい

これ以上、あまり難しく考えるのはよそうと思って話を続ける。



「さて、じゃあサイフは持った? ハンカチとティッシュは?」

「大丈夫です、忘れ物などありません。」

「よーし、なら俺の肩に手を置いて。それじゃあレッツ・ゴー!!」



イタチはミナトの肩に手を置いて、周囲に人の目が無いかを確認して

ミナトは印を組んで




「飛雷神の術!!!」





その瞬間、二人はその場から消えた









しかし、二人は気付いていなかった









今、この時

この瞬間から




波乱が始まっていた事に……










「よし、到着。」


「ここが、川神ですか?」



自分達のいる場所を確認して、イタチが呟く

さっきまでと場所は変わり、見知らぬ廃ビルの中にいた。



「うん、そうだよ。それじゃあ早速……」



しかし、不意にミナトの言葉は途切れる


その表情はイタチに向けたまま固まり、小さな声で「あ、ヤバ」と呟いていて


「???…どうしま…」


そして、ミナトに視線をイタチも追い……言葉が途切れた。




二人の、視線の先









そこには赤いバンダナをかぶった青年が、驚愕の表情で自分達を見ていた。














続く







後書き ヤバイ、ミナトがどんどんカオスになっている……(汗)
    
とりあえず、今回から「まじ恋」のクロスになりますが…いきなりネタに走らせて頂きました。
あと、この作品のメインはあくまで「きみある」の世界なので「まじ恋」クロスの今回は特別編とさせて頂きました。
自分としては、今回は数話程度の予定です。

あと誤解された人もいるかもしれませんが、ミナトの過去の話で出てきたミナトの中傷をしていた人間は、基本川神院とはあまり関係ない人間です。
川神院の人達は、基本皆良い人です。

あと、ミナトが四天王入りしてイタチが四天王入りしなかった理由は次回書くつもりです。


そして次回、あのファミリーがイタチ達と一騒動を起こします。







[3122] 特別編・真剣で忍に挑みなさい!!・第二話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/10/13 21:38






川神市・とある廃ビル

そこに、年の功がおよそ15~16の少年少女達が集まっていた。


「おーい、キャップ。そろそろ起きろ。」

「…うん、起きたかな?」


頭上から響くその声に、青年は目覚めた

赤いバンダナをつけたキャップと呼ばれたその少年は、目を開けてムクリと起き上がった


「……大和、京?…それにモロにガクト…ワン子もか。」


キャップと呼ばれた青年が呟くと、それぞれは安堵したかの様に溜息を吐いた


「…もう、ジュース買いに行くとか言って中々戻ってこないから…心配したんだからね。」

「そうよ、おまけにこんな所で寝そべっているんだもの…私達の心配、返しなさいよ!」


モロと呼ばれた前髪で片目を隠した色白の少年と、ワン子と呼ばれた栗色のポニーテールの髪の少女
二人がそれぞれ、キャップに声を掛けるが…



「む? ここで、寝てた?……俺がか?」


「…おい、頭でも打ったんじゃねーか?」


ガクトと呼ばれた筋肉質の体格をした青年が心配気に言う

しかし、キャップという男は途端に目を見開いて



「そうだ、思い出した!! おい、俺の傍に男が二人いなかったか!!?」

「…男? どんな?」



京と呼ばれた紫色のショートヘアーの少女が不思議そうに尋ねる

すると、キャップと呼ばれた男は僅かに唸って


「二人とも見た感じ俺らより年上だったな。一人は金髪でモモ先輩より一つ二つ年上って感じのヤツだ。
もう一人は大学生くらいで黒い髪を後ろに束ねてた…あと、そいつはスーツを着てたな。
Yシャツの上にVネックのベストみたいな黒地のスーツを着てた。」

「とりあえず、そんなヤツ等はいなかったぜ。」


大和と呼ばれた青年が答える

キャップの言葉を聞いて、ワン子と呼ばれた少女が疑問の声を上げた


「それで、その二人がどうしたの?」

「おう! 皆、今から俺が目撃したスゲー事を話すぞ! 驚きすぎて腰を抜かすんじゃないぞ!」

「とりあえず、早く喋る事を希望する。」


京が疲れた様に溜息を吐いて、皆が聞く姿勢を作る
そして、キャップは「コホン」と咳払いして





「俺がジュースを買って戻って来たら、何も無い空間からいきなり男が二人現れたんだ!!」





一瞬の間



「…は?」



「目の前で、それもいきなりだぜ! たぶんアレは映画や漫画で見る『空間跳躍』ってヤツだ!どうだ、スゲーだろ!!
流石の俺も驚いたぜ、あれは恐らく超能力者…いや、未知の能力を使う異世界人という事も有り得る!」




嬉々とした表情で、キャップは語る
その顔からは、溢れんばかりのワクワクという名のオーラが滲み出ている。




「そして、俺がここで寝ていたという事は…恐らく、その二人は目撃者の俺を口封じしようと襲い掛かったが
俺を気絶させた時に皆がここに来る気配を感じ取り、即座にここから逃げたに違いない!!

くぅー突然の事で動揺していたとはいえ、あっさり俺を気絶させるとは……!!
だが、このまま引き下がっているままの俺じゃない! ここからは俺のターンだ!
逆にアイツらを追い詰めてやるぜ!!」




そう言って、キャップは熱くこれまでの経緯を語るが

そんなキャップを、皆は心配げな目で見て



「どうしよう大和、これ病院に連れて行った方が良いよね。」

「言ってやるな京。未だに夢と現実の境目が分かっていないんだ、頭を打った人には偶にあるらしい。」

「…ん、大和、京、それどういう事?」


大和と京の言葉に、ワン子は首を傾げ


「……むぅ、肉弾戦なら負ける気はせんが…相手が未知の力を持っているとなると俺様も少々不安だぜ。」

「って、こっちは完全に信じちゃっているしいぃ!!!」


ガクトの言葉に、モロのツッコミの言葉が廃ビルに響いた。









特別編・第二話「川神」









川神院・院内


そこで、とある少女は道着を身に纏い佇んでいた

精神を集中させて、体中の気を練り上げ



そして、爆発させる。



「ハァ!!!」



空気を切り裂いて、衝撃が突き抜ける

拳打によって圧縮された空圧が弾丸となり、空間を貫通する


「……ふぅ。」



一連の動作を終えて、少女は一息つく

呼吸を整えながら、少女は数日前の出来事を思い返していた。









遡る事、数日前――

川神市・川神院



「それはどういう了見だ、揚羽さん?」

「…百代か、久しいな。」


揚羽は背後からの声に反応して、振り向く。

そこには、揚羽の予想通りの人間がいた。



黒い艶やかな長い髪

同性の自分ですら時折見惚れてしまう美しい顔つき

引き締められ、鍛え上げられ整った体

鬼神の様な闘気



川神院師範・川神鉄心の実の孫、そして自分の宿敵

齢十六にして『武道四天王』の一人



――川神百代――



「もちろん、言葉通りの意味よ。そちらは、なにやら随分不満があるようだな。」

「…今日は貴方が来ると聞いて、久しぶりに全力で闘いが楽しめると思っていたのだが…
四天王の座を返上するとはどういう事ですか?」



苛立ちを隠し、それでも眉間に僅かな皺を作りながら百代は言う

そして、百代の言葉を聞いて揚羽は肩を竦める。


「ふむ、その性分は相変わらずの様だな……いや、お前のそれはもはや業の領域か?」

「ま、そう言っても過言じゃないな。高校に入って、少しは環境に変化があると思ったが…相も変わらずだ。
私に挑戦してくる者は殆どが格下、若しくは徒党を組んだ雑魚やチンピラ……
 積もりに積もったこの欲求不満を、ようやく今日は解消できると思ったのだが…」



そう言って、百代は目を鋭くして揚羽を見て




「ちょっと、私は不機嫌になってしまったぞ。」




殺気

収束、研磨された殺気が周囲に広がり、その場にいる人間の肌を張りの様に突き刺し
重いプレッシャーが、体に圧し掛かる。



「ふふ、中々心地良い殺気だ。また腕を上げた様だな?」

「それはこちらの台詞です。揚羽さんも相当腕を上げた様子で。
しかも、そっちの小十郎さんは軽く一段階は腕が上がっているんじゃないのですか?」

「お褒めの言葉、恐縮です百代殿。」


百代の賛辞の言葉に小十郎は一礼をするが、百代の気配は未だ変わらず



「それで、なぜ貴方が四天王を返上するんですか? せめて説明くらいはして下さい。」

「無論。こちらは元よりそのつもりよ。」



そして、揚羽は百代と鉄心

その二人に、改めて向かい合って



「我が四天王の座を返上する理由はただ一つ、それは更なる高みを目指すため。」



その真剣な瞳と共に、揚羽は宣言した。


「…更なる…」

「…高みじゃと?」


百代と鉄心の二人が、そう呟く

揚羽は「ウム」と頷いて



「我は先日、ある二人の武人の闘いを見た。」



そして、語りだす。
自分が見たある日の光景を、そして自分が抱いた気持ちを



「あれは正に、武の頂に立つ者同士のみが出来る真の死闘。力と技を極めた者達が織り成す闘いの極致
それを見ると同時に、我等は悟った…今のままでは、この先どれだけ鍛えようとあの者等の膝元にも及ばぬと。

…我等には、「何か」が足りない…彼等と我等の一線を画す何かが、根本的な何かが足りないという事を悟りました。」

「………」


「我等は、それを知りたい。そして我等も彼等と同じ頂に立ちたい……そう思ったのだ。」



その揚羽の言葉に、二人は驚愕した

揚羽も『武道四天王』の一人であり、その力は同年代の中でもズバ抜けており川神院がその力を認める屈指の実力者である。

そして、川神院に属する百代と鉄心はその事を誰よりも理解している

だからこそ、揚羽がその様に語る人物がいる事は予想外であったからだ。



「今、我はその事に集中したい。それに当たり「武道四天王」の座は今の我にとっては足枷以外の何物でも無いと判断したのだ。
暫くは、己を見つめ直し我等と彼等の違いを見つける事に専念しようと思います。」



揚羽の言葉を聞いて、百代が尋ねる。



「…それほど強いのか、そいつら?」

「強いぞ。次元が違うというレベルでなく、我等とは「存在」そのものが異なる強さだ。」

「……そうか。」



そう言って、百代は目を瞑って肩を竦め





「なにやら、随分面白そうな展開になってきたじゃないか。」





不敵な笑みを浮べながら、百代は言った。

そして、鉄心はその百代を困った様な視線で見て



「全く、この孫はいつもコレじゃ…。」

「五月蝿いぞジジイ。それで、その二人の武人とは誰だ? 松笠の橘平蔵か? それとも九鬼家の切り札と名高いヒューム・ヘルシングか?」

「どちらも、ハズレよ。」



揚羽は一呼吸の間を置いて




「一人は鉄一族・鉄ミナト。」




揚羽の言葉を聞いて、二人は驚愕で目を見開いた。



「!!!……クロガネミナト、あの鉄一族始まって以来の天才と言われた…あの鉄ミナトか!?」

「鉄ミナト……あの子か。
…確かに、あの子なら有り得ない話では無いが…あの子はもう何年も前に武術を止めた筈…」


百代が驚愕の言葉を、鉄心が驚きと疑問の言葉を上げるが

二人の言葉に、揚羽が繋げる



「ええ、我もそう聞いておりましたが……ですがそれは誤りだった様です。ヤツは間違いなく、武術と鍛錬を続けていました。
そして、鉄一族最強の陣内殿を倒したと言われたあの頃よりも強くなっております……」


揚羽はここで言葉を区切り、
その戦闘、力、技

それらを一つ一つ思い返して




「…それも、圧倒的に…。」




ハッキリと二人に宣言する

一切の誇張と過大もなく、ただの事実として述べた意見

そんな様子の揚羽を見て、二人はそれが純然たる事実だと言う事を確信した。


「ふむ。四天王であるお前がそこまで言うのなら……なるほど、では新しい四天王の第一候補は鉄ミナトじゃな。」


揚羽の言葉に、鉄心は一考して



「ククク、なんだかゾクゾクしてくる話だなぁ。」



百代は笑った。


「それで、もう一人とは誰だ? 同じ鉄一族の鉄乙女か?」


百代の質問に、揚羽は答えようとするが……

不意に押し黙り、何かを考え込んで…



「いや、もう一人の名は教える事が出来ん。」

「…む、何故だ? ここまで来てお預けはないぞ?」

「そうではない。もう一人はあまり戦いに関しては積極的な人間ではないのでな、
少々ここで軽率にその名を出して良いものか考えたのだ。
事実、我等がその者と手合わせを願い出た時、かなり渋られたからな。
恩を仇で返す様な真似はあまりしたくないのだ。」



揚羽は過去に、何度もイタチと手合わせを断られた時期があった

その時はイタチの体が本調子でなく、病み上がりという事実があったのだが揚羽はそれを知る由もなく

初めて出会った時から今日まで、手合わせをしてくれたのは両手の指で数えられる程度
そして、それらの事実がイタチは他者との戦いに関しては消極的な人間と揚羽は思っていたのだ。



「我がここでその者の素性を言えば、鉄心殿はともかく…百代は放ってはおけんだろう? そういう性分だからな。
 それにその者は我等の様な気楽な学生とは違い、既に手に職を持つ身分。
あまり先方に迷惑を掛ける事はしたくない。」

「むぅ、なにやら酷い言われようだな……まあ、合っているが。」

「ふむ、手に職を持っているという事は…既に成人以上の年齢かの?」

「年は二十一と聞いております。」

「なるほど、それじゃあ四天王入りはちと厳しいのう。」



残念そうに、鉄心は呟く

武道四天王は元々若者をより切磋琢磨させようと競争心・闘争心・向上心を刺激する為に川神鉄心が考案した物であり

その縛りである年齢もいわゆる学生の年齢、大学卒業の二十二歳程度までと決めてあるのだ。



「それでは、話も終わったゆえ我等はそろそろ失礼する。今は時間が惜しいのでな。」

「うむ、ご苦労じゃった。それでは鉄ミナトに関しては、早速こちらから通達を出しておこう。」



そして、この日はこれで終了となった。









一連のやり取りを思い返し、百代は笑った

今日、件の鉄ミナトはここにやってくる


あの九鬼揚羽にあそこまで言わせた人間が、ここにやってくる



「鉄ミナト、嘗てはあのジジイや釈迦堂さんですらその才能と力を認めた神童。」



拳打を繰り出し、蹴撃を放つ



「そして、その鉄ミナトと同格の実力を持つ者がもう一人…」



四肢を行使して、型を繰り出す



「…フフフ、暫く退屈する事は…なさそうだ!!!」



ダン、という轟音が響き

百代は愉快気に笑った。











川神市・金柳街


「美味っ!! ナニコレ、美味すぎるよマジで!!」

「白玉きなこアイス・黒蜜付けと言いましたね。アイスに白玉や黄粉と言った物を合わせるのはどうかと思いましたが…
確かに、これは美味い。今度久遠寺家で作ってみても良いな。」



二人は金柳街のある甘味処で、それぞれ甘味を楽しんでいた

ミナトが川神院に訪問する約束時刻まで、まだ時間があったからだ。


そして甘味を楽しみながら、イタチは先程の一件について尋ねる。



「…それで、本当に良かったのですか? あの少年は」

「ま、軽く当身をやって気絶させただけだからね。下手に幻術を掛けるよりはよっぽど健全で建設的さ。
人間ってのは意外に単純だから、目が覚めたら俺たちの事は忘れてるか、夢を見たと思うかのどちらかだと思うよ。
仮に他人に話したとしても、忍術が存在しないこっちの世界じゃ笑い話になるのがオチさ。」

「…なるほど。」



お茶を啜って、ミナトが語る


あの時見知らぬ青年に「飛雷神の術」を見られたミナトは、即座に少年に背後に回りこんで
当身をして気絶させたのだ


「……と、言うか…随分、手馴れていませんでした?」

「ははは、これでも元・火影だよ? あれくらいの芸は出来るって。」

「…まさか、良く『こういう事』があるのではないでしょうね?」



イタチがミナトに尋ねると、ミナトは軽く笑って


「ははは、今日は間が悪かっただけだって。」

「まあ、それなら良いのですが…。」

「ソウダヨー、ナニモ問題ナイヨー。」



何故だろう
イタチは盛大に不安になった。






「……ん?」

「どうしました?」


二人が甘味を食べ終わり、お茶を啜って「さあ、川神院へ行こう。」という時になった時

不意に、ミナトが声を上げた。
イタチは何だと思い、一瞬辺りの警戒を更に強めるが…


「いんや、何でもない。ちょっと見知った顔がいると思っただけ、大した事じゃないよ。」

「…そうですか。」


ミナトがそう言い、再びお茶を啜る

イタチもそんなミナトを見て、それ以上の追求を止めるが



「っていうか、さっきからイタチくん…神経質になりすぎじゃない?」

「こちらに来てから、やたら視線を感じるので。」

「……あー、確かに。こっちは七浜の高級住宅街とは違って執事服は珍しいからね。」



納得したかの様に、ミナトは呟く

今までイタチは自分の職場がある七浜から出た事は、以前の南の島を抜かせばほぼ皆無だった
七浜…特に久遠寺家周辺は高級住宅街ゆえに、執事服やメイド服はあまり目立つ事はなかったが


七浜とは環境が違う川神では、確かにイタチの様な執事服は目立つだろう


「…ま、イタチくんは何だかんだで執事服が似合ってるからねー。顔も良いし、普通の人なら目が行っちゃうさー。」


ミナトはイタチと会話しながら、チラリと周囲を見る

そこには自分達、更にいうならイタチの方をチラチラと見る女学生グループの姿があった。


「そうですか? 確かに以前、主様達には似合っているとは言われましたが…」

「ま、こういうのはさっさと受け入れちゃった方が楽だよ。
それに、視線の中にヤバイ視線が有っても俺達なら直ぐ気付くでしょ。
イタチくんは元より、俺だって自分に向けられる殺気や視線、気配に気付かない程ボケてはないよ。」


そう言って、ミナトはお茶を口に運ぶ


「…まぁ、そうかもしれませんね。」


イタチはそう締め括り、お茶を口に運んだ。





「さて、そろそろ出ようか…それじゃあお会計しておくから。」

「悪いですね、奢ってもらって」

「ま、今回は俺の私用で付き合って貰ってる訳だからね。コレくらいの事はやんないと、それにこれでも俺の方が年上だしね。」

「…そうですね。それではご馳走さまです。」


そう言って、イタチはミナトに一礼する。

ミナトは「別に良いって」と少し照れた様な仕草をしたが、イタチに向き合い


「あ、それとイタチくん。少し用事を思い出したから先に川神院に行っててくれない?
 川神院はここから見えるし、大丈夫でしょ? 後で追いつくからさ。」


ミナトは川神院を指差しながら、イタチに言う
川神院はその建物自体が大きいため、二人がいる甘味処からもその姿は良く見えていた


「急用、ですか?」

「ま、大した事じゃないけど…放っておくと、少し面倒くさい程度のものかな?」

「……まあ、別に構いませんよ。」


見たところ、まだ時間に余裕はあるし
ああも目的地が分かり易く見えているのなら、迷うこともないだろう

イタチはそう自分の考えを纏めて、判断した。



しかし、イタチは気付いていなかった


ミナトの口元が、楽しげに歪んでいたのを…











ミナトとイタチが居た甘味処から少し離れたとある場所

その場所から、六人の少年少女が二人を見ていた



「おい、もっと近づかないと見えねえぞ?」

「ガクトの言うとおりだよ。京、もう少し近づけない?」



物陰から人混みを通して、遠く離れた人物を見ながらガクトとモロが言う
しかし、京はこの意見を却下した。


「…ダメ。多分これ以上近づくと、あの二人に気付かれるよ。
あの金髪の人、さっきこっちをチラっと見たからね……あれは多分、偶然じゃないと思う。
あの二人、武術か何かやってるね。」

「私も京と同じ意見ね。あの二人、相当武術をやり込んでるわよ。
 さっきからアイス食べてるけど、全く隙が無いもの……確かに、これ以上近づけば危ないわね。」


京の言葉にワン子が同意して、二人はこの位置のままでいる事を進言する。
京とワン子はそれぞれ武術を嗜んでいる為、それらに対する嗅覚は確かなもの
その二人の決定に、大和は興味深く呟いた。



「なるほど、この距離と人込みで気づかれるんなら……確かに、普通じゃないな。
キャップの言う事も満更嘘でもないって訳か…。」

「そうだろ大和! 全く、キャップである俺の言う事を疑うなんて…お前ら、風間ファミリーとしての自覚が足りないぞー!」



キャップと呼ばれた青年が不満を顔に出しながら言うが、大和はそれを嗜める。


「大声上げるなよ。下手に騒いだら気づかれるぞ。」


「…む、確かにそうだな。」

「それに、いきなり超能力者や異世界人の話をされても普通は信じないって。」

「だな。」

「いや、ガクトは思いっきり信じてたでしょ!」


キャップの言葉に、モロとガクトが続き、モロの突っ込みが響く。


あの後、キャップはあの二人を追撃すると言って廃ビルから飛び出し
残りの五人は、キャップについていく事にしたのである。

キャップの言う事を、正直言って信じてはいないが

もしも、偶然にもキャップが言う人相と全く同じ人相の人間が居たら…下手をしたら、不味い事態になったりするかもしれない


このキャップは良い意味でも悪いでも、子供の様に純粋な興味と好奇心、そして行動力を持っている人間

子供と言っても、基本的にキャップは物事の分別が出来る人間なので他人に迷惑を掛ける事はないが…

好奇心と行動力が相まって、意図しない被害を作る事も偶にあったりなかったりする。

こういう時は、彼が作った「風間ファミリー」である人間がストッパーとして同行するのだ。



そしてつい先程、キャップが自分の記憶にある人相を持つ二人を発見したのである。




「んで、どうすんだキャップ? 見つけたは良いが、こっから先の事とか考えてんのか?」

「ない!!」

「…まあ、だと思ったよ。」


ガクトの質問にキッパリと宣言するキャップを見て、モロは寧ろ納得した課の様に呟いた

そして、皆の視線は自然とある人物に集まる
この風間ファミリーの参謀役、軍師・大和だ



「とりあえず、今は静観だな。
キャップの言っていた事を全否定するつもりはないが、いきなりあの二人に…

『すいません。貴方達、さっきテレポートとかしてましたけど超能力者か何かですか?』
なんて聞ける訳ないからな。
あまりに度が過ぎれば、それだけで警察沙汰になるからな…。

だから、今は遠目からの監視と追跡だ。
もしキャップの言う事が事実なら、相手は絶対にどこかでボロを出す筈だ…どこにでもいる唯の学生に超能力を見られて
それで口封じに打って出る様なヤツ等だからな。」


大和が結論づけると、京は顔を赤らめて


「なるほど、流石大和。冷静な見解、そんな所が好き。」

「すいません、お友達で。」


京の言葉を、即座に大和は一蹴するが
京は赤らめた頬に手を置いて、


「つれないなー、大和。でもそんな所も好き。」


微笑みながら、改めてそう言った。

そして、キャップも大和の考えに異議はない様だった
寧ろ乗り気であった


「なるほど、付かず離れずの尾行作戦って訳か。なんか探偵漫画みたいで面白れーな!!」

「探偵漫画か……なら、僕達これから絶対になんかの事件に巻き込まれるよね。」

「バーロー、そんな事あってたまるか。」


心の底から面白そうに、子供の様な笑顔で笑いながらそう言い、モロがポツリと呟き、大和が続く。

そしてキャップはここで何かに気付いた様に手を叩いて



「む、待てよ? 尾行なら…なんか足りない様な…」



そう言って、ウームと唸りながらキャップは考え込む

しかし、次の瞬間




「キャップ、コレです。スポーツ新聞です!」

「おお! そうだ、コレだー! やっぱり尾行にはカモフラージュ用の新聞が不可欠だぜ!」




不意に渡された新聞紙を受け取りながら、キャップは納得がいったかの様に声を上げた。

そして更に


「あとキャップ、コレです! 飯用の餡パンと牛乳です! そこの古河パンで安売りしていたので買ってきました!」

「そうそうコレコレ!! やっぱり尾行・張り込みの食事と言ったらアンパンと牛乳だろ!」

「うっす! 定番です! いや、寧ろ王道です!! と、言う訳でお納め下さいキャップ!!」


そう言われて、キャップは差し出されたアンパンと牛乳を受け取り、満足気に笑い

そして、感謝の言葉を放った。





「うむ! ありがたく受け取ろう。ご苦労だった、知らないお兄さん!!」



「はい! 勿体無いお言葉! ありがたき幸せです!!」





その言葉が、ファミリー全員の耳に響き








一瞬、時が止まった









「……へ?」



キャップの声が響く

そして、一同は初めて「ソレ」に気づいた



「うっす。皆さん、どうかなさいましたか!?」



声の発信源に、皆の視線が集中する。

その視線の先

そこには、自分達がこれから尾行しようとしていた金髪の青年が…笑みを浮べてそこに居た。














続く













補足説明


大和……本名・直江大和(ナオエヤマト) 「まじ恋」の主人公、風間ファミリーの参謀役。
頭を使っての作戦や戦略が得意なのでファミリーからは軍師と呼ばれる。
ヤドカリをこよなく愛する男、ちなみに結構Sである。


キャップ……本名・風間翔一(カザマショウイチ) 風間ファミリーのリーダー、キャップと呼ばれ何時も頭に着けているバンダナがトレードマーク。
常識やルールに捕われない風の様に自由な男、好奇心と行動力が溢れる子供がそのまま大人になった様な男である。
思春期でありながら異性への興味に目覚めていないという希少種な人間でもある。


川神百代(カワカミモモヨ)……「まじ恋」のメインヒロイン。川神鉄心の孫にして、武道四天王。
揚羽とは強敵と書いて友と呼ぶ関係。風間ファミリーのただ一人の年長者。
根っからの戦闘狂であるが、良く他流派やチンピラの挑戦を受けるがほぼ瞬殺。
周囲には自分と対等に勝負を出来る人間は皆無なので日々、戦闘に餓えている。


ワン子……本名・川神一子(カワカミカズコ) 「まじ恋」のヒロインの一人、風間ファミリーの一人でありあだ名は「ワン子」。百代の妹。
姉の影響で武術を嗜む、結構な武闘派だが頭が弱いのでアホの子扱い。
ちなみに専用の犬笛を吹くと、無意識レベルで吹いた人間の下に行く様に調教されている。


京……本名・椎名京(シイナミヤコ) まじ恋のヒロインの一人、風間ファミリーの一人。現在は大和にベタ惚れ。
特別編では一人だけ県外に住んでいるが週末はいつも川神で過ごしている。
幼い頃より弓術と護身術を習っていて、見た目よりも腕が立つ。いつもは冷めた性格だが、大和絡みになると超アグレッシブになる。


ガクト……本名・島津岳人(シマヅガクト) 風間ファミリーの一人、日夜女にモテる為に体を鍛えるが…
全く効果がない男。あだ名はガクト、名前負けとよく言われる。
だが体を鍛えている分、実力は高い…のだが、ファミリーの百代が最強すぎるためにその事実は埋もれている。


モロ……本名・師岡卓也(モロオカタクヤ) 風間ファミリーの一人。パソコンに詳しい、好きな漫画は『とらぶるン』。あだ名はモロ。
人見知りする性格で、特に女性が相手だと目を見て話せない。自分でも直したいとおもっているが、効果はなし。だが、そんな彼が一度女装をすると……








後書き 今回は少し遅くなりました、どうも申し訳ありません。意外に風間ファミリーを書くのに手こずりました。
    今回はミナトが出てきたにも関わらず、ネタは少なめです。なぜだか知りませんが書いてて違和感がありました(笑)
    今回は、とりあえずミナトは風間ファミリーと接触です。ちなみにイタチも風間ファミリーの視線には気づいています。
    次回は多分明日に投稿できると思います。


   そして次回、川神院にてイタチも動き始めます!!







[3122] 特別編・真剣で忍に挑みなさい!!・第三話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/10/14 21:48








川神院・院前



「遅いな。」


川神院の門の前で立ちながら、ポツリとイタチは呟いた

直ぐに追いつくと言って分かれたミナトが、一向にここに現れる様子がなかったからだ

既に、ミナトの約束の時間までもう十分もない状態だ。

流石に、時間に遅れるのは不味いだろう…とイタチは思ったのだが



「無線も、通信機も持ち合わせてない……連絡は無理だな。
あの人の事だから危険は無くても、厄介ごとを起こしている事は考えられるな…。」



連絡を取りたくても、取れないのが現状だった

イタチは互いに交信し合える通信機の類は持っていない、
ミナトは自分の携帯電話を持ってはいるが…



「…せめて、コールナンバー位は教えて貰うべきだったか。」



今更ながらにそう思う。

自分には必要ないと思って今まで考えていなかったが、
こちらの世界での一般用通信機・「携帯電話」の購入も真面目に考えてみた方が良いかもしれない。


イタチはそう結論づけた。

しかし、そうこうしている内に約束の時刻まで残り数分程度にまでなってしまった



「せめて、先方に事情の説明はしておくか。」



そう思い、イタチは川神院の門を潜った

門を潜って、広場の様に開けた場所に出る



「なるほど、確かに歴史の重みを感じるな……中々の風格だ。」



寺院を真近で見て、イタチはそう思う

言葉などでは上手く言い表せない、「荘厳」「威風」と言った単語が似合うその姿を見て

イタチは感慨深く寺院を見つめていた。




「……む?」


寺院に向かって歩みを進めて行くと、なにやら物々しい音が聞こえてきた

良く聞いてみれば、音の正体は人の声
騒ぎ声、抗議の声、争う様な声である事が分かった


「何かの揉め事か?」


そう思って更に歩みを進める
寺院の中に入ると九人の武道家風の者達が何やら言い合いをしていた。









特別編・第三話「邂逅」









「ここに来たのは私が一番最初だ、なら私が一番に挑戦する権利がある筈だ。」

「ハ! 俺たちハ態々祖国・アメリカから来タンダゼ! 長い時間飛行機に乗ッテ態々ヤッテ来タンダ!」

「ソレに僕と兄サンは予めコノ川神院には事前連絡をシテイルカラネ。ソレナラ僕たちカラカル兄弟が一番に挑戦スル権利がアルンジャナイカナ?」

「待て、聞いたところお前達はここに来たのは初めての様だな。
それなら私に先手を譲って貰おう、私はここの川神百代に雪辱を晴らさねばならんのでな。」

「は、負け犬は引っ込んでろよ。それなら俺に最初を譲れ、川神鉄心からは何時でも挑戦を受けると直々に言われたからな。」

「それは世間ではリップサービスというものだ。社交辞令も知らん坊やはお家に帰りな。」

「…いつまでこんな話し合いを続ける気だ? いい加減、嫌になってきたぞ。」

「ったく、メンドくせーな。もうまとめて勝負の方が手っ取り早いんじゃねーか?」

「……下らん。不毛な争い、時間の無駄だ。」



口々に言い合う男女

イタチが何だと思い、それらのやり取りを見つめていると
彼等もイタチの存在に気づいた。



「ん、何か用かい兄ちゃん?」

「マサカ、君モ川神鉄心に用がアルなんて言ウンジャナイノダロウネ?」



パソコンを持った外国人の男がククと口元を歪めてイタチに言い



「ああ、その通りだ。お前達は川神院の人間か? もしそうなら、鉄心殿にお会いしたい。
お目通りは願えるか?」



イタチがそう言うと、彼らはそれぞれウンザリした表情をして


「おいおい、またこのパターンかよ!」

「割り込みは良くないよ。それと俺達は川神院の人間じゃない、外部の人間さ。
そして、ここに来た理由も君と同じ。皆が川神鉄心に会いに来たんだ。」



彼等の内の何人かが、口々にそう言う
どうやら、彼等は川神院の人間ではないらしい



「どうやら、ここに居る全員が鉄心殿に会いたい様だが…それならさっさと終わらせてくれ。
俺は最後でも構わんが、時間が無いのでな。」

「それが出来ないから困っているのですよ。」



イタチの言葉に、そこにいる武道家達とは少し違う道着姿の黒髪短髪の青年が答える

どうやら、ここの修行僧らしい


「…どういう事だ?」

「まあ、簡単に事情を言いますと…」


そして、その青年は以下の事を簡単に説明した。


彼等は、川神院師範・川神鉄心に挑戦するためにココに来た

そして、ここでお互いがバッタリ鉢合わせした


その数、九人
いつもは二~三週に三・四人が挑戦しに来る程度で、多くても週に四人程度らしい

だから今日の様に一日に九人
しかも時間もほぼ同時になんて事は、今までなかったらしい。


自分達は九人、それに対して川神鉄心の体は一つしかない


つまり、必然的に挑戦する順番を決める事になる

川神鉄心としては、一度に全員の相手でも何の問題はないらしいが…

彼等にも、武道家としての誇りがある
徒党を組んで一斉に飛び掛るなど論外


そして順番を決める時になって……これが揉めた。


川神鉄心とて人間
動けば動くほど、闘えば闘う程体力が減る

闘いなら、当然傷を負う事だって有り得る

つまり、後に闘う者ほど有利……と普通は考えるだろうが、彼等は違った。


先にも言ったが、彼等は自分の力と技に誇りを持つ武道家だ

全力の川神鉄心と戦う事に意味がある
最強の武人が最高の状態で最強の力で戦うからこそ、意味があると考えている


もし、自分と闘う前に川神鉄心が疲弊していたり、傷を負っていたとしよう

そんな鉄心相手に勝利をもぎ取っても、彼等にとってそれは真の勝利と言えないのだろう



……と、言うのが彼等の言い分だ。



だから、揉めているのである。



ちなみにこの事に対して川神鉄心は


「わし、これから人に会う約束があるから後はお主に任せる。順番が決まったら読んでね。」



そして、川神鉄心の孫娘は


「私はこれからメインディッシュの大物が控えているんだ、今はこんな事に付き合う気にはなれんな。
とりあえず闘う順番が決まったら呼んでくれ。」



と言って、門下生に後を任せて奥に引っ込んでしまったのである。




「なるほど、概ねの事情は分かった。だから全員が我先にと躍起になっている訳だ。」

「はい、鉄心様もこの件に関しては『周囲に迷惑が掛からん範囲なら、好きにやらせておけ』と…」

「なるほど、難儀な事だな。」



そう言って、イタチは彼等を見る

しかし、彼等の様子を見ている限り順番が決まる事は難しそうだ

ミナトがこちらに来る様子は未だない。


まあ、自分は彼等と違って腕試しに来た訳ではない…

自分の事情を説明して、先に川神鉄心に会わせて貰おう


順番を割り込む様であまり良い気分はしないが、これは自分が我慢するしかない

と、思った時




「もうこれ以上の話は無意味だ、この中で一番強い者が一番最初…これで良いだろう。」




彼等の中の、日本刀を背負った長い銀髪の女性がそう言う

そして、その発言を聞いた皆の目の色が変わった。



「確カニ、ソレが一番アト腐レがナクテイイネ。」

「シンプルイズベースト!」

「確かに、これが一番お互い納得できそうだな。」



彼等はその意見に、次々と賛同する

そして、互いに距離を取り構える。
どうやら、ここで一戦交えるらしい



「おい、ここで闘うらしいが…良いのか?」

「大丈夫ですよ。ここは元々決闘用の武道場ですし、鉄心様にも必要なら使えと許可を貰っています。」

「…そうか。」


どうやら、コレは川神院にとって迷惑行為には当たらないらしい


「……なるほど…」


この事を聞いて、イタチはある考えが浮かび

その考えを、実行に移すことにした。




「待て、それなら俺も参加させてもらおう。」




イタチが割って入る
皆の視線は、一斉にイタチに集まった。


「俺も少し急いでいるからな、こっちに参加した方が早く用事が済みそうだ。」


彼等を見ながら、イタチが言うと…


「あん、お前がか?」

「オイオイ、コレハスポーツじゃないんダゼ?」

「しかもその様なスーツで、ふざけているのか?」

「まあ怪我をしても恨まないと約束してくれるなら、参加したまえ。」


それぞれがイタチを一瞥し、参加を許可する。

イタチが参戦した理由
こっちの方が簡単で確実、早く川神鉄心に会えるとイタチは判断したからだ。



そして、彼等は改めて得物を構えて戦闘体勢を取る





「……じゃあ始めようか…」

「……ああ」

「準備は…出来ている。」

「ふん。」

「いつでも良いぞ。」




その瞬間互いの闘気と殺気が入り混じり、辺りに充満する

互いが互いの一挙手一投足に目を置き、いつでも迎撃できる様に構える


空気が針の様に研磨されて、真剣の様な鋭さを帯びる

緊張と圧迫感が入り混じり、体に重く押しかかる




そして、その僅かな隙間

時間と時間

空気と空気

意識と意識の隙間


九人の隙間が、

一瞬、重なった



「行くぞっ!!!」



そう誰かが叫んだ、その瞬間だった







何かが、奔ったのは







「……け……」


「…ふ?……」



誰かが、倒れる音が響いた
















「……先ずは、二人……」














誰かの声が響く






「「「「「「「…え?」」」」」」」





七人の声が重なる

そして、思わず視線が音の発信源に向かう



そこには、倒れる「カラカル兄弟」と名乗った二人の男と



その二人の後ろ
そこには、スーツ姿の飛び入り参加者がいた。

その者の目が七人を捕らえて、ギラリと光る


――殺気の両眼――


そして、その目と彼等の目が合う







その瞬間、意識を八つ裂きにされた。








「…ひ!…ぃ!」

「…ぐ、ぅ!!」



誰かの呻き声が響く
意識の中で、八つ裂きにされた自分の姿を見た者達だ。



……怪物……


……化物……


……敗北……


……虐殺……


……死……


あらゆる不吉な単語が頭の中に過ぎる


捕食する者と捕食される者、相手は前者で自分は後者


心身を蹂躙する恐怖


混濁する意識


「…い、ぬ…ぐぅ!!」

「ぐ、うあ、お…うおおぉぉ!!!」


だが、彼等とて一流の武道家
そこで終わらなかった


本能を呪縛する恐怖を、無理矢理に打ち破る。



「我が獅子牙流が負ける筈がなああああぁぁぁい!!!」

「この、八手拳が見切れるかああああぁぁぁぁぁ!!!」



同時に獲物に襲い掛かる高速ラッシュと拳打の嵐

しかし獲物の黒い影はその隙間を縫って、それぞれの眼前に辿り着いて




二人の意識を手刀で刈り取った






「…が…」

「…は」


ドサリ、と
音が響く





「……四人。」





手応えを感じ取り、イタチは呟く

殺気の視線
それらを感じ取り、イタチもまた殺気で答える


交差する殺気と闘気


そして次の瞬間



「はああああぁぁぁぁぁ!!!」

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

「せやあああああぁぁぁぁ!!!」



イタチの殺気に触発されて、三人の男が襲い掛る

彼等はイタチに対して徒党を組んだ訳では無い

ただ、考えと行動とタイミングが同じだっただけだ


この男は、危険
彼等はそう判断し、真っ先に排除する事を選んだ


その男達は、いずれも達人の領域にいる者達。


一人は国から帯刀を許され、剣聖と称された黛十一段の直系の弟子

もう一人は古い歴史を持つ古豪の流派の一つ・小島流鞭術の後継者候補

そして最後の一人は嘗て「風魔」と呼ばれた忍の一族の末裔



「剣技・刹那!!!」

「奥義・八尾蜂!!!」

「二刀小太刀・六連!!!」



風を切り裂く神速の斬撃

火を噴く様な猛威の乱打

竜巻の様な超高速の連続斬り


その錬度と威力は、まさに必殺と言う名に相応しいものだったが…




それは全て、獲物を捕らえる事は出来ず

虚しく、空を切った




「……!!?」

「…な!!…」

「消え…!!」



空虚の手応えに驚愕の声を上げる
しかし、言葉は続かなかった



首筋を襲う衝撃
次の瞬間、既に彼等の意識は闇に飲まれていた。



「……」

「……」

「……」


糸が切れた人形の様に、静かに三人は倒れる

彼等の背後には、彼等の獲物

獲物の牙によって、彼等は意識を絶たれていた



「……七人。」



イタチが呟く
そして、再び視線を残りの人間に向ける



……ナンだ、……


……コイツハ?……


…人間、か?……



そこに居る誰かがそう思う

目にも映らぬスピード

圧倒的過ぎる実力

人外にも思えるその強さ


そして、思わぬ思考に動きが止まる



そしてイタチはソレを見逃す筈がなかった



疾風が駆ける



「私の『神の眼』に挑むか、良いだろう!!」


駆けるイタチに対して、その男はボクシングスタイルを取る

男の名は、リカルド
脅威の実力と動体視力を持ち「神の眼」と称されたメキシコ随一の達人



リカルドは迫るイタチを冷静に観察する。


相手は迅い、だが動きは至って直線

タイミングを見計らってのカウンターを狙えば、そこで終わる。


互いに間合いに入り、イタチの手がリカルドに照準を合わせる



「…ココだ!!!」



ライトクロスカウンター

迫るイタチの一撃をよけ、必殺の一撃を放つが…



「……バカ、な…」



体を貫く衝撃

腹部にめり込む拳


相手の一撃を避けた筈だったが……避け切れなかった

リカルドは膝を着く


「……我が『神の眼』ですら…見、え…」


しかし、そこから言葉は続かず

リカルドはそこで意識を失った。





「……八人。」





残るのは、後一人

イタチは最後の一人、日本刀を背負った銀髪の少女に目を向けた。



「……なるほど、強いな。」



少女は、スラリとその刀を抜く
日本刀独特の波紋を帯びた輝きが、イタチの視界に映る



「貴様は強い。だから一人の武人として、私も全力を持って貴様と闘おう…」



スっと、刀を突き出すように構えて

イタチもそれに向き合った



「ハアアアアアアァァァァァァァァ!!!」



少女の咆哮が響き渡る

闘気が刀に伝わり、大気が鳴動する
雄々しく猛るその気魄


風の如き踏み込みで一気に距離を詰める

足から腰へ、腰から腕へ、腕から刀へ
己の最強の一撃を、そこに練り上げる


白銀の一撃が唸りを上げた



「天上より、赤く染め上げろ! 曼珠沙華!!」



疾風迅雷

閃光が弧を描く必殺の一撃

それは空を切り裂いてイタチに襲い掛かるが



「俺を斬りたいのなら」



一撃を放つと同時に、少女の背後から声が響いた

少女は驚愕に眼を見開く


目の前の男が男の残像だった事に気づいた時は、既に遅かった




「せめて鬼鮫の『鮫肌』を超える一撃を身に付けてからにするんだな。」




ガラ空きの首筋へ、軽く一撃を入れる


女はガクリと、膝を着いて倒れた。




「終了だな。」




倒れ伏す九人を一瞥して、イタチは呟く

倒れた人間は、皆がピクリとも動かない

所要時間は僅か一分に満たないこの結果


傍で観戦していた修行僧の青年は、完全に呆気に取られていた


「これで、鉄心殿にお目通りは出来るか?」

「!!…は、はい! ただいま!!」


我を取り戻した修行僧の青年が答える。

そしてイタチは時間を見る
少々時間には遅れてしまったが、まあ事情が事情だ。


きちんと説明すれば、それほど大事にはならないだろう


そうイタチが思った時だった













「驚いたな、圧倒的じゃないか」













不意に

イタチの背後から声が響いた

視線を声の発信源に移す


目に映ったのは、長い黒髪、白の道着



そこには、道着姿の少女が

自分を見て、楽しげな笑みを浮べてそこに居た。













続く













補足説明







黛十一段……「まじ恋」に出てくる剣聖と言われる、国から帯刀を許可された剣の達人。必殺技は神速の斬撃「清浄」。悩みの種は自分の娘に中々友達が出来ない事。


小島流鞭術……「まじ恋」に出てくる武家の一つが扱う流派、武力よりも鞭の多様性を極めた流派でその応用力は他流派の追随を許さない。最強の奥義の名は「九尾狐」。


風魔……嘗て忍と言われた一族、単純な戦闘よりも奇襲・暗殺や斥候・諜報に長けている。小太刀やクナイと言った小型から中型サイズの武器を使った戦闘が得意。


カラカル兄弟……「まじ恋」に出てくる兄のゲイルと弟のゲイツの兄弟。
兄のゲイルは素手の格闘ならアメリカ最強の実力者、弟のゲイツは相手の動きを自作したプログラムで分析、解析し、その精度は確かなモノ。
この二人のコンビは正にアメリカ最強であるのだが、原作の「まじ恋」及び本編ではいわゆる噛ませ犬扱い
まじ恋のヒロイン・クリスと同等以上の実力を持っているにも関わらず扱いが不遇なかわいそうなキャラ。


リカルド……「まじ恋」に出てくる武道家。脅威の実力と動体視力を持ち、「神の目」と言われたメキシコの達人。
カラカル兄弟同様、その実力はいわゆる「強豪」、その実力に目をつけたドイツの軍人が自分の特殊私兵部隊の一人に加える。
原作・本編においては噛ませ犬扱いのかわいそうな人。



獅子牙流……いわゆる達人、この流派の師範は嘗てとある武道会に参加するが予選最終試合で十二歳の少年に敗れる
だがその少年は脅威の実力でその武道会で準優勝、次大会も準優勝、その次の大会で見事優勝しているので
師範はその敗北に、何も恥じる事は無いと胸を張って宣言している。その後現役を引退し、弟子の育成に励む。


八手拳……嘗てとある武道会において圧倒的強さで優勝した選手が使ったとされる、その拳打のあまりの速さに腕が八本ある様に見える技。
この技の生みの親は優勝したその大会に、あと二回ほど参加しているがいずれも予選敗退、その後は現役を引退し、弟子の育成に励む。







後書き 前回と今回は纏めて投稿しようと思ったのですが、あまりに長すぎたので二つに分けて投稿しました
今回はイタチサイドのみの話です。今回、自分で何度か読み返してイタチ対九人の武道家になるシーンは「少し展開が強引かな?」
とか思ったのですが、展開に少し修正を加えて通す事に決めました




だって一度で良いからイタチ無双をやってみたかったんです!!!



なので、自分は後悔はしてません(笑)

本当はもっと人数増やしてメッシとかニャニャとかムヤチャとか出したかったのですが、あまりに人数が多いと扱いきれないので九人にしました。


ちなみに銀髪の少女に関しましては、某つよきすの二学期について調べると幸せになれるかもです。

あと、「こっちの人間に鬼鮫の事なんか言っても意味がないんじゃね?」というツッコミもスルーでお願いします。




あと、本来の予定では川神院でイタチと闘うのはマルさんの予定でした……ちなみに大マジです。



ですがマルさんを出すとどうしてもクリスも出したくなってしまうので、話的にまだクリスはまだ出す予定ではないので
泣く泣くやめました。


それでは、次回に続きます!!




次回予告「執事vs武姫」










[3122] 特別編・真剣で忍に挑みなさい!!・第四話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/10/20 14:21



*もはや恒例ですが、今回も一部激しくネタに走っています。






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その「気」が現れたのは突然だった




その気は小さく儚い、何も変哲がない
最初は、ただの一般人のものかと思った。


だが、その考えは直ぐに却下した。


それは小さいのではなく、抑えていた

儚いと思っていたそれは、隠していた



更に注意深くその気を探る

そして気づく。



恐ろしく澄んだ気でありながら、それはとても深い

不気味な揺らぎを持っていながら、それは真剣の様に研磨されている



…ふむ、こいつは少々面白いかもな…



そう思って
私は鍛錬の手を止めて、その気の出所を探った。



発信源はここから離れた決闘様の武道場
さっき、ジジイ目当てに挑戦者が集まっていた場所だ。


挑戦者の一人か…なるほど、面白い


この気の持ち主は、明らかに他の連中とは異なる
言ってしまえば、一線を画している


こいつがジジイへの挑戦者なら、私とも闘う事になるだろう


見ておいて、恐らく損はないだろう。


メインディッシュの前は、オードブルと相場は決まっている
まあ、時間までの暇つぶしにはなるだろう


そう思って、私は武道場に足を運んだ。





「驚いたな、圧倒的じゃないか」





私は今、武道場に居る

そして私は、この上無い程に愉快な気分だった


面白い、実に面白い

ここ数年、これ程愉快な気分になったのは何時以来だろうか?


ダメだ、緩んだ口元を締める事が出来ない



其れ程までに、私は愉快な気分になっていた。



私の視線の先には、一人の男
一見、それは唯のスーツ姿の優男

そして、その足元には倒れ伏す九人の人間


一連の動きを見たが、コイツ等も決して弱くはない
最後の銀髪の女に至っては、四天王に近い実力を持っていた


ただ、こいつの強さがあまりに圧倒的だっただけだ


やはり私の勘は間違っていなかった




ああ、駄目だ
また口元がだらしなく緩んでしまった




今日は本当に良い日だ

久々に、全力で暴れられそうだ





「失礼だが、川神院の人間か?」


「おっと、これは失礼。先ずは名乗るのが先だったな。」



気分を落ち着ける意味も込めて、私は一呼吸の間を置く

僅かに興奮を抑えて

私はその男に名乗った



「川神百代、そう言えば分かるかな?」


「川神、百代?」



男は呟く

そして男は僅かに考える様な仕草をして

私に向かい合い、そしてこう言った。








「スマン、全く分からないのだが。」











特別編・第四話「火影とファミリー、そして執事と少女」











川神市・金柳街・路地裏

和風の商店が立ち並ぶその商店街の一角にて、彼等は向き合っていた。


「うっす。皆さん、どうかなさいましたか!?」


金髪の青年、鉄ミナトが楽しげな笑みを浮べて言葉を放つ

そして、その視線の先には六人の男女

自分を遠目から監視していた者達と対峙していた



「…何か用ですか?」

「…それはコッチの台詞ですよ。さっきからずっと俺たちの事を見てたでしょ? 気づかれていないつもりだったかもしれないけど
結構バレバレでしたよ。他人の観察なんてあまり良い趣味とは言えないですよ?」

「ハハハ、確かにそうですね。失礼しました。」



平静を装いながら、少年達の一人、どことなくニヒルな感じの少年が薄い笑みを浮べながらミナトに言って

ミナトもまた笑みを浮べて言葉を返す


友好的な親愛の笑み
この種の笑顔は、人に不快な思いを与えない社交的なものだ



そして、その状況でその少年・直江大和は考える。



バレた?

なんで? どうして?

この二人は遠目から見ていても、周囲から注目を浴びていた筈だ

この男達を見ていた人間は、自分達以外にも多数存在していた筈だった


では、

なぜ、自分達なのだろう?

なぜ、この青年は自分達だけに接触してきたのだろう?


そして、その時

自分達ファミリーのリーダーである男の言葉を思い出した。



『目の前で、それもいきなりだぜ! たぶんアレは映画や漫画で見る『空間跳躍』ってヤツだ!どうだ、スゲーだろ!!
流石の俺も驚いたぜ、あれは恐らく超能力者…いや、未知の能力を使う異世界人という事も有り得る!』


『そして、俺がここで寝ていたという事は…恐らく、その二人は目撃者の俺を口封じしようと襲い掛かったが
俺を気絶させた時に皆がここに来る気配を感じ取り、即座にここから逃げたに違いない!!』



思い出す、キャップの言葉を

そして考える
キャップの言葉が、何一つ偽りのない事実だった可能性を…



異能者


口封じ



いつもなら平然と笑い飛ばす様な考えだが、今は違う

事実、今ここで上手く表情を誤魔化せているのは自分だけ
皆がそれぞれ疑惑と困惑の表情と視線を、目の前の青年に見せている


これでは、自分達に何か裏がありますと言っている様な物だ


だが、自分と同じ対応を皆に求めるのは酷なものだ

事実、自分だって薄皮一枚の仮面の下では困惑と動揺で溢れている
メンバーの中での参謀役の自分がこれでは、皆の反応もある意味当然のもの


そこまで考えて、少年は考え直す。


落ち着け
そこまでマイナス思考になるのはまだ早い


ただの勘違いという事だってある


ここで自分が狼狽してボロを出す様な事はしない


大和は考える


自分達が見ていた事はバレた

だが、自分達の真意はこの青年は知らない筈だ

ならば、いくらでも誤魔化しは利く筈



「見ていた事は謝ります、すいません。
貴方のお連れ様がここら辺では見ない執事服を着ていたのでつい珍しく思ってしまい、目が行ってしまいました…
ですがそれで不快な思いをさせてしまった様で、重ねて謝罪します。どうもすみませんでした。」



物腰は低く柔らかく

相手に自分の真意を気づかれない様に、礼儀と礼節を尽くしながら接する


幸いな事に、自分以外の人間は余計な言葉を発していない

いつもならワン子やガクトの言動が墓穴や裏目にでるが、今回は動揺そのものが大きい為二人は動いていない
正に不幸中の幸いだろう

京やモロは元々感情やテンションに流されにくい、常時冷静を保ち理性で行動するタイプだから心配は無用


そして、何よりキャップ

自分と同じ風間ファミリー創設メンバーで最古参の一人
普段は風の様に奔放で先読みできない男だが、家族と呼べる程にこの男との付き合いは長い


そんなキャップが、自分の意図に気づかない訳がない
さっきから自分達のやり取りに口を挟んでこないのがその証拠であり、それはキャップの信頼の表れだ。


いざと言う時には本当に頼れ、自分たちを信頼し支えてくれる自分達のリーダー・キャップ



そんな彼の信頼を、自分は決して無駄にはしない

だから、後は自分が口先で相手を丸め込むのに集中すれば良い



……と、
大和が思った所で




「やいやいやい!! ここで会ったが百年目!! ついに見つけたぞ超能力者め!!!」




彼の思考と信頼を、思いっきりブチ壊す言葉が響いた




「……は? 超能力者? 俺が?」



突然の言葉に、ミナトは思わず唖然とする

しかし言葉を放った張本人・キャップと呼ばれた青年は更に興奮しながら言葉を続けた


「とぼけた振りをしても無駄だ! 何せ俺はこの目で確かに見たからな、お前がこのまま尻尾を出すのを待つつもりだったが
ここまで来たら話は別だ! 洗い浚い吐いてもらうぜ!!」

「ちょっと待て、キャップ…」

「うん、何だよ大和?」


キャップの言葉を切って、大和が声を上げる

突然会話の腰を折られたキャップが不服そうに声を上げるが


「何でキャップの方がいきなり洗い浚い色々な事をブチ撒けてるんだよ!!
 さっきあんだけ問い詰める事が無駄かって、説明したばかりだろ!! なに人の苦労を無駄にしてんだよ!!」

「何だとー!! って言うかさっきから大和だけズルイぞー!!! こんな美味しい状況で自分だけ接触を求めるなんて!!
 普通こういうのはキャップである俺がするべきだろ!! どう見たって大和の独り占めはズルいぞー!!!」


そう言って、二人は口々に言い合う

ミナトは目の前で繰り広げられるやり取りを見ながら、この状況について考えていた。



(…あー、やっぱり飛雷神の術を見た彼か……まさかとは思ったけど、本当にあれが現実だと受け止めて俺達を追跡してくるなんて…ちょっと見誤っていたかな?……)



自分の読みが外れた事を確信するミナト

それが今の事態を引き起こしている事を確信した



(……なるほど、超能力者ね…まあ、あながち間違ってはいないね。思考能力、判断力、そして実行力…
なるほどなるほど、あのバンダナの彼は結構イイセンス持ってるね。それと俺と会話していた彼…
この年であんな腹芸が出来る人間がこっちの世界にも居たとは……うん、なるほど、面白い……)



この人間達は面白い

そしてミナトは結論付ける







好し、どうせならもっと面白くしよう







ミナトの顔は楽しげに歪んだ




「フフフ、なるほど…どうやら記憶操作が不完全だった様ですね。」



クククとニヒルな笑みを浮べながら、悪役のオーラを振り撒いてミナトは言う。


「!!!…記憶操作、だとぉ!!」


ミナトの言葉に、キャップが反応する

そしてその言葉に、そこに居た六人全てが驚愕の表情を浮べた



「…ま、まさか…本当に…」

「おいおい…まさか、マジもんの超能力者かよ!!」

「超能力者……本当に居たんだ。」

「…しょーもない、と言いたい所だけど…事実を受け入れようとしている自分が居る事にビックリ。」



モロとガクトも続いて言葉を放ち、ワン子は唖然としながら呟き
京も驚きを隠しきれない表情で言葉を零す


そして、大和は意を決してミナトに向かい合った



「…あんた、本当に超能力者なのか?」



もうここまでくれば下手な会話や誘導尋問は不要

大和はそう判断して、ストレートに聞く事にした


そして大和の質問に、ミナトはニヤリと笑って



「違いますよ、俺は宇宙人です。」



そう答えた。


「「「なにいいいいいいぃぃぃぃ!!!」」」

「「「ナンダッテー」」」


クククと含み笑いをしながらミナトは質問に答えて
キャップとガクト、そしてワン子は驚愕の声を上げ

大和とモロと京の三人は如何にも胡散臭い目でミナトを見ていた


そしてミナトの答えを聞いたキャップは、その瞬間に興奮がピークに達した。



「ウチュウジン、宇宙人だとおぉ!!?」

「ええ、その通り。自分は地球から八百光年ほど離れた惑星ベジータという星から空間跳躍を用いてここにやってきました。」

「ぬぅ、やはり俺が見たのは空間跳躍か! これでやっと点と点が繋がったぜ! それじゃあ異星人であるお前が地球に来た目的は何だ!?」



興奮しながらも、納得が行ったかの様にキャップは言って更にミナトに尋ねる
そしてそのキャップの質問に、ミナトも答えた。


「目的は仕事です。そして自分は惑星ベジータを統べる最高機関・「ⅩⅢ機関」の一つ「時空管理局」の
機動六課よりこの地球の調査の為に派遣された捜査員のホカゲ・ゴルベーザと言う者です。」

「ぬおぉ!! 一惑星の最高機関からの派遣だとぉ!! こいつは想像以上だ! 面白そうな匂いがプンプンしてきやがるぜ!!」


心の底から楽しそうにキャップは言い、次々と質問の手が上がった



「じゃあ俺様も質問だ。一緒に居たあの兄ちゃんも、異星人か?」

「ええ、その通りです。彼はⅩⅢ機関の一つ「エスパーダ」から派遣されたクチキ・ルビカンテ・ビャクヤという捜査員です。」

「はいはーい、私も質問! 他にもそのⅩⅢ機関って所から捜査員は派遣されているの?」

「ええ、居ますよ。俺の知っている限りでは「型月」のエミヤとアルトリア、「LXE」のパピヨン、「ギアス」のルルとシーツー
「禁書目録」のカミジョーとミサカ、「リトルバスターズ」のナツメ・ブラザーズ、「傭兵部隊ミスリル」のサガラとテッサ
とまあ、こんな所ですかね? 彼らの部下も合わせると、その数は相当なものでしょうね。」


「はい、僕も質問。何で地球の言葉が喋れるの?」

「事前調査して現地言語を調べて、その分析の結果を元にウチの研究者の青狸が開発した「翻訳コニャック」という道具で喋れているのさ。」

「…はい、私も質問。調査に来たというけれど、どうやって調べているの? そしてどんな事を調べているの?」

「自分は主にこの外見を利用して、昼間は学校に通って色々と。何だかんだで教育機関って言うのは得られる情報が多いですから。
調査対象は、地球人の技術と危険度の調査ですね。地球人は争いが生き甲斐みたいな物騒な歴史を持っていますから。」


粗方の質問にミナトが答えると、キャップは興味深い笑みを浮べていた。



「なるほど、しかしこうして宇宙人と会話出来る日が来るとは…よし、今度オヤジに自慢してやろう!!!」

「あ、それは勘弁ですね。これ一応内密の調査なんで、正体がバレると給料が減るんで。」

「なにいぃ! それじゃあ俺はアンタの給料の為に口封じされそうになったのかぁ!?」

「すいません。自分、どうしても新しいPS3が欲しいので。」


疲れた様にミナトが肩を竦めて呟くと、更にキャップは嬉しそうに笑う
そして、そんな彼等を見てミナトは




(……ヤバイ…これ、面白すぎる……)




必死に笑いを噛み殺しながら、彼等と向かい合っていた。

愉快痛快

そんな快楽がミナトの脳内に広がり、ひたすら愉快な気分に浸っていた


しかし、そんなキャップとは逆に疑惑の視線を向ける人間が居た


軍師・大和だ


「……証拠は?」

「証拠、ですか?」

「そうだ、もしあんたの言っている事が事実なら…何か分かり易い証拠を見せてくれ。
俺達はキャップと違って、あんたの超能力を見た訳じゃないからな。」


相手を値踏みする課の様な視線を放って、ミナトを射抜く

大和は、未だ目の前の男に対して疑惑を抱いていた

何故なら、自分達の身近にも超能力者と言ってもいい非常識な存在が居るからだ。
仮に目の前の相手が本当にそんな非常識な能力を持っていたとしても、
相手が言う宇宙人がどうのこうのの話は、大和は信じられなかった。


その視線を受けたミナトは「ふむ」と考えて



「そうですね。それでは証拠として今から皆さんに、俺がこの星の調査で知り得たとても凄い事を教えて上げましょう。」



大和の視線と質問を不敵な笑みと共に返して、ミナトは言う

そんなミナトの答えを聞いて、大和は疑惑の視線を強くする



「凄い事? そんな事じゃなくて、もっと分かり易い証拠…」

「人間はしゃっくりを百回しても死にません。」

「「「マジでええぇぇ!!!」」」



大和の言葉を遮って放ったミナトの言葉に、そこに居た三人の人間

キャップとガクトとワン子が驚愕の声を上げた


「ぬうぅぅ!!! 大和、やはりこいつは本物だ! やっぱりこいつの言っている事は全部本当だ!!!」

「ここまでの事を言われたら、流石の俺様も受け入れるしかないぜ…!!」

「…ほ、本物よ!!…この人、本物のウチュウジンよ大和!!!」


これ以上にない驚愕の表情と感情を露わにしながら、三人は口々にそう言い

他の三人は別の意味で驚愕していた



「…京、大和…僕たち、もう来年は受験だよね?」

「…言うなモロ、こっちが悲しくなってくる…」

「…しょーもない。」



そこはかとなく、諦めの色を帯びて三人はそう言う

何故だろう、彼等は無性に悲しい気分に襲われた



「…あれ? そこの三人は驚かないね?」



ミナトが不思議そうな顔をして言う

それに対して、大和は心外だと言わんばかりに視線をやった


「それが本心からの言葉なら、名誉毀損レベルだぞ?」

「おやおや、これは手厳しい。それではもう一つのカードを切る事にしよう。」


再びミナトが不敵な笑みを浮べる

しかし大和は鼻で笑った



「ふん、さっきみたいな子供騙しレベルの戯言は…悪いが俺たちには通じな…」

「ちなみに俺はジャンプが金曜に売っている店を知っています。」

「「「「「凄ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」」」





五人の驚きの声が一斉に響いた



「……本当に、しょーもない。」



そして少女の疲れた様な言葉が、小さく響き



(……あれ?…なんか、俺…大事な事を忘れている様な?……まぁ良いか、楽しいし。)



とある火影は、一つ大事な用件を忘れていた。
























「…スマン。全く分からないのだが?」


「…は?」


イタチがそう言うと、百代は呆気に取られた

何故なら自分も武の世界においては、祖父の川神鉄心に並ぶ程に名は売れていて
自分に挑戦する為に態々海外からこの川神院に挑戦に来る人間だって、決して少なくないからだ

だから、川神院への挑戦者の中で自分の名を知らない人間が居る事に、百代は驚いていた。



「…全く、か?」

「はい、全く。」

「これっぽちもか?」

「名前からして川神鉄心の縁の者。年から考えて鉄心殿の孫に当たる人間くらいは考えている。」

「…要は、知らないって事か。」



ふう、と百代は寂しげに溜息を吐く
ここに来る者に自分の名を出せば、大抵何かしらの反応が帰って来たからだ


ある者は驚愕を

ある者は尊敬を

ある者は親愛を

ある者は挑戦を

ある者は恐怖を


何かしらの、自分に対する反応が帰って来た
それは、その者達全員が川神百代の名と、その実力を耳にしていたからだ


今回も、そうなると思った
だが違った

自分のことをこれっぽちも知らない人間に、自分は得意げに名を語った


そして百代は、その事を思い出して




(……うわあぁ…恥ずかしい……これは、とんでもなく恥ずかしいぞ私……)





顔を赤くして、羞恥心に身を悶えさせていた


(……こんなに恥ずかしいのは、小学生の時に間違えて担任の事を「お母さん」と呼んでしまった時以来かもしれん……)


「どうした、顔が赤いぞ?」

「いや、何でもない。これでも少しは名が通っているからな、さっきの答えが少し寂しかっただけだ。」

「…ああ、なるほど。」



そう言って、イタチも先程までのやり取りを思い出す

なるほど、確かにこの少女は少々常人とは違う
恐らく、武術を嗜んでいるのだろう

揚羽や小十郎とどことなく同じ匂いをイタチは感じた



「すまないな、やはり名前に聞き覚えはない。俺は隣の七浜に住んでいるから、川神の情報には疎いんだ。」



その言葉を聞いて、
百代は金ダライが頭に落ちてきた様な衝撃を感じた



「どうした?」

「…いや、何でもない…だが、そうか…フフフ、川神に住んでいないから知らない、か…
 そこそこ名は売れていると思ったが、そうでも無かった様だ。」



海を越える程に名前は売れても、地元には響かず

その様が少し滑稽だと、百代は思った。



だがまあ、考えてみれば

そんな事はどうでも良いと、百代は気づいた



「さて、それじゃあ貴方に一つ尋ねるが……貴方はジジイ、川神鉄心に用があるんだろ?」

「ああ、その通りだ。鉄心殿にお目通りは出来るか?」

「ああ、勿論。」



イタチの言葉を聞いて
百代は不敵に笑った



「ただし、私に勝つ事が出来たからな。」



眼光一閃

闘気と殺気を孕んだ眼光でイタチを射抜く
その眼光、視線に、イタチは少し眉を顰めた


「…差し支えがなければ、理由を聞いてもいいか?」


先程と同じパターン
だが状況が違う為に、イタチは百代の真意を尋ねた



「なに、ジジイはアレで多忙の身だからな。態々一つ一つの挑戦に対応している程時間がないのさ
だから、ジジイに挑戦しに来た人間は私がふるいに掛けるのが、ここの暗黙のルールだ。
私に勝てないヤツが、ジジイに勝てる筈が無いからな。」

「ふむ、なるほど…」



イタチは納得した様に呟く

確か聞いた話では川神鉄心は川神院以外にも、学校の理事長をやっていると聞いていた。

確かに二つの組織のトップを兼任するのは、骨が折れるだろう

こういう篩いも、確かに言われて見れば当然だとイタチは思った。


場所が違えばルールも違う

恐らく、これがここのルールなのだろう



(……あの人が言っていた、面倒くさい事とはこの事かもしれんな……)


ミナトの言葉を思い出して、イタチは結論づける


確かいつか、誰かが自分達に言った…「郷に入っては郷に従え」と



「なるほど分かった、それでは場所を変えよう。ここでは何かと不都合だろう?」

「そうだな、どうせやるなら思いっきりが良いからな。 村田さん、悪いがここを任せても良いか?」

「あ、はい。分かりました!」



百代はそこにいた修行僧の一人に指示を出して、二人は隣の道場に向かう

そして道場に入り、互いに向き合う




「では、改めて名乗ろう。私は川神百代、川神鉄心の孫娘にして武道四天王の一人だ。」


「それでは、礼儀として自分も名乗ろう。俺の名はうちはイタチ、現在は七浜にて執事見習いをしている。」




互いに名乗り、百代は構えて気を練り上げる

圧倒的な威圧感

超人的なオーラ


それに対して、イタチも闘気と戦気で答える


研磨された気と練磨された気がぶつかり合い、互いに喰らい合う


互いが互いの動きに注視して、動く機を見計らう

そして、その瞬間は訪れた




「それでは……始めようかああぁぁぁ!!!」




床が軋んで爆音を上げ、一陣の風が吹いた

先に動いたのは百代

床を砕かんばかりに踏み込んで、イタチとの距離を詰める。



「川神流・無双正拳突き!!!」



気を溢れんばかりに込めた右の中段突き

それはイタチの鳩尾を目掛けて疾走する。


それに対して、相手は未だ動かない
必殺の間合い、必殺のタイミング

防御も回避も不可能な必殺の一撃。


…入る!!!…


百代がそう確信した、次の瞬間だった



イタチの姿は百代の眼前から消えた。




「……!!!」




その一撃が、空虚の手応えを掴み取る

そして姿を消したイタチは



百代の背後に立っていた。



終わりだ
イタチはそう心の中で呟く



首筋を目掛けて、勝敗を決する一撃を放つ。



「初見では見切れなかったが」



しかし、そのイタチの一撃は空を切った

イタチの目が僅かに見開く。




百代は、僅かに頭を下げて
背後からの一撃を、完全に回避したのだ。



「九度も見れば、目は慣れる!!!」



その刹那、一撃が奔った

体ごと回転させて相手を巻き込む様にして打つ左のフック


「…っ!!!」


イタチのボディーを狙ったその旋風の如き一撃を、バックステップで避ける



しかし、それはその場しのぎにしかならない

即座に百代は体制を立て直して、イタチとの距離を詰める

両の拳を駆使した、機関銃の様な連打


しかし、それは全て空を切る
首を捻り、ステップを刻んで一撃一撃を見切って、イタチはその弾幕の連撃を全て回避する。


「ふはははははああぁー!!! ここまで避け切るか、面白い! 実に面白いぞおおおぉぉぉ!!!」



心の底から楽しそうな声を上げて、百代はイタチにラッシュを繰り出す

左のジャブを威嚇で放って、体制を崩して右のストレートで動きの少ないボディーを狙う。


「……」


イタチは体を斜に向きを変えて、その一撃を避ける。


更に上方からの一撃


「川神流奥義・天の槌!!!」


鉞の様な激烈の一撃

イタチはそれをサイドステップで回避するが


「川神流奥義・地の剣!!!」


下段の一撃が唸りを上げるが、これをバックステップで退ける


イタチはここに来ても、冷静に百代の動きを分析していた。



(……闘いのスタイルは揚羽よりも南斗星に近いな、スピードと戦闘本能がズバ抜けて高いタイプだが…
一撃一撃が重いな、多分単純なパワーは揚羽よりも上だな……)



一撃一撃は鋭く速く、そして重い

恐らく、身体能力のみならばこちらの人間の中では最強の部類

武道四天王、その実力は確かに他と一線を画すものだろう。



「だが、技術では揚羽に遥かに劣る。」



顔面に迫る一撃を回避して


イタチはスピードを一つ上げた。



「……んな!!」




今度こそ、その動きは見えなかっただろう

百代は驚愕の声を上げて、イタチは再び百代の背後に立つ。



「今度は、外さん」



その一撃が、百代の首に放たれた



「が…!!!」



必殺の手応え
その手応えをイタチは感じ取り、百代の体はグラリと傾く


それを見て、イタチは己の勝ちを確信する


しかし次にイタチの目に映ったは、百代の拳だった。



「……!!?」


「九度もその動きを見た……そう言った筈だあぁ!!!」



そこに在るのは、嬉々とした表情を浮べる百代

閃光の一撃
その閃光を身を捻って回避する

更に迫る追撃を回避して、サイドステップで距離を取るが





何かが、ポトンと




床に落ちた





「ちぃ、掠っただけか…今のは惜しかったな。」

「………」



惜しむ様に、百代は呟く。

イタチは視線を床に移す
床に落ちたのは、一つのボタン


そして、自分のスーツに視線を移す
そこには、僅かに肌けた自分のスーツ


その一撃は届かなかったが、掠った


その事に、イタチは驚いていた。



「どうした呆けて? もう少し、真面目に自分の相手をしてくれないか?
こんなに楽しい闘いは久ぶりなんだ、ならば心行くまで堪能しなければ損だろう?」



不敵な笑みと共に、百代は呟く
その自身に溢れた表情、その表情を見て…イタチの頭の中に、とある可能性が浮かんだ。



「……高速回復、それが先の一撃を耐え切った秘密か?」

「……ほう。」



そのイタチの一言に、百代は興味深い笑みを浮べた

そしてその反応を見て、イタチは自分の仮説が的中したのを確信する



「……何で気づいた?」

「先の一撃、あれは首を支点に脳を揺さぶるタイプのものだ。脳は肉体と違い、衝撃や揺さぶりに弱い
仮に俺の一撃を予め予想して失神は防げたとしても、脳を揺さぶられた事には変わりはない。

人間なら平衡感覚が狂い、足腰が立たず、反撃するどころかまともに立つ事もままらなん。
仮に立てたままだとしても、平衡感覚が狂った状態ではあの様な気の入った一撃を放つ事など不可能。」



先程の過程と結果を照らし合わせて、イタチは一つ一つ順序を立てて説明する。



「ならば考えられる可能性は大きく二つ。お前の脳が並外れて衝撃に強いのか、
若しくは、なんらかのダメージを受けても直ぐに回復する術をお前が持っているかのどちらか…
似た様な術に心当たりはあるからな、恐らくこちらだと思っただけだ。」


「…イタチさんって言いましたっけ? 本当に面白い人ですね、貴方は…。」



クスリと、百代は嬉しさを隠し切れない様に笑みを浮べた。



「瞬間回復、私はこの技をそう呼んでいる。貴方が最初から首への一撃を狙っている事は明白でしたから…
とりあえず、気を内部で練って首に意識を集中させて、一瞬での気絶は防いで、平衡感覚の狂いはこの技で回復させる

それが、先の一撃の真相です。まさかジジイにも見せた事のないこの技を、使う羽目になるとは思いませんでしたよ。」

「…なるほど、それで…何故急に敬語になったんだ?」



突然タメ口から敬語になった百代の変化を見て、イタチはそう尋ねる

すると百代はさも当然な表情をして



「尊敬に値する人間に対して、敬語で話すのは当たり前の事でしょう? 
私は少なくとも、今までのやり取りで貴方は十分に敬意を向けるに値する相手だと感じました。」

「……なるほど。」

「まあ、それと勝負は別物ですけどね。確かに貴方は迅いが、私にはこの瞬間回復がある。
 大抵の骨折や内臓損傷、常人には大ダメージになる物も私にとっては無意味…
 …貴方もまだ全力を出していない様にお見受けするが、全く手がない訳じゃない。」



そして、百代は不敵な笑みを浮べながらイタチを見る



「貴方のスピードにも、ようやく目が慣れてきた。悪いがこの勝負、私が勝たせて貰う。」



ハッキリと、百代はイタチに宣言する

その言葉が、イタチに対してどう響いたのだろうか?

イタチは、ゆっくりと溜息を吐いた



「俺に勝つか……無理だな、その程度の実力では。」

「……ほう、言ってくれるじゃないですか。」

「だが、こちらも随分お前の事を見誤っていた様だ……その事については、こちらも謝罪しよう。」



そう言って、イタチは僅かに頭を下げて自分の非礼を詫びる

そして顔を上げて、百代と向き合った。



「ここからは、俺も武人として…お前の相手をしよう。」

「…そうこなくては。」



イタチの言葉を聞いて、百代は構えを取る

相手の雰囲気は明らかに先程までとは違う


戦気と闘気、そして殺気
その全てが入り混じった必殺の気合


緊迫感と緊張感が場を支配して、気を真剣の様に研ぎ澄まして百代は相手に向かい合う


集中力が、グングンと高まっていくのが分かる
最高潮に達する精神力、そして戦闘本能


そして久しく忘れていた、全力の闘い

真の強者との闘いでしか味わえないこの快楽


それら全てが要因となって、川神百代の気をこれ以上無い程に研磨していた。




「行くぞ、第二ラウンドだ!!!」




百代がそう言って、一歩を踏み出す





その瞬間だった





一筋の閃光が奔り






「……な…に…!!?」




イタチの一撃

それは衝撃の槍となって、百代の腹部を貫いた






「…が!…あ!…ぁ!!」



声と共に、空気が漏れ出る

肺から口へ、空気が瞬時に流れ出る

鳩尾を的確に貫かれ、横隔膜にその衝撃が伝わり、呼吸器官の活動が鈍って肺から空気が流れ出る


急激な酸素欠乏で意識が揺れて、倒れ込みそうになるが



「…っまだだあぁ!!!」



瞬間回復



「…はぁ、はあ…はぁ、驚きましたよ…また一つスピードを上げるなんて…」


即座に呼吸機能を回復させて、相手と距離を取って荒れた呼吸を整える
しかし、その顔には相変わらずの楽しげな笑み。

そんな百代を見て、イタチは淡々と百代に告げる。



「思った通りだ、その技はあくまで回復。タメージを負った体を正常な状態に戻す、それだけだ。」

「……どういう事ですか?」



「体のダメージを消せる事が出来ても、吐き出した酸素までは元には戻らない様だな?」

「…!!!?」



そのイタチの言葉に、百代の瞳は驚愕で見開かれた。



「酸素を吐き出す事は人間としての正常の機能……つまり、その技は肉体が『異常』と判断した物にしか作用しない
横隔膜や肺、呼吸機能や平衡感覚のダメージを回復する事は出来ても……流石に酸素までは作れない様だ、
それはもはや回復を超えて創造の領域になるからな…

そしてその様子を見る限り、締め技も有効そうだな……思ったよりも突ける隙はありそうだ。」



己が知りえた情報から、イタチは百代の技を解析する。



「瞬間回復…確かに厄介だが、その程度の技なら何の障害にもならん。
むしろ体のダメージを気にしなくていいのなら、こちらも存分に攻撃する事が出来る。」

「ほう、随分簡単に言ってくれるじゃないです、かぁ!!!」



そう言って、今度は百代がイタチに襲い掛かる

苛烈を極めた超速の一撃

続いての嵐の様な乱打



しかし、それらは全てイタチに着弾する事はなく

全てが空を切っていた
そして、百代の攻撃を回避しながらイタチは言う



「確かに、その瞬間回復は大した技だ…俺も驚いた。」



その技を、イタチは素直に賛辞する

しかし、



「だが俺は、お前以上の戦闘能力を持っていて…」



……貰うぞ、貴様の心臓を……



「心臓を潰されても、平然としている男」



……ハハハハハ!!…ジャシン様の裁きが下るぜええぇぇぇ!!!……



「首を切り落として肉体を八つ裂きにされても、全くダメージがない男」



……痛みを知れ……



「そもそもダメージや死の概念があるかどうか疑わしい男」



口に出した男達の事を、それぞれの能力を思い返して


「そういう出鱈目なヤツ等を知っているのでな……」


そして、今度はイタチが駆ける

疾風の速度で、百代との距離を詰めて




「瞬間回復、確かに優れた技だが……ヤツ等のソレに比べたら」


「二度も同じ手は喰わん!!!」




百代は迫るイタチの動きを見て、間合いに踏み込みカウンターを放つが

そこに既にイタチの姿は無く、一撃は空を切り裂いて






「そんなものは、唯の小技だ。」







イタチは背後から、無警戒だった百代の首筋に一撃を叩き込んだ。















続く
















後書き えー今回も少々、ミナトはネタに走らせて貰いました!! 読者の皆さんには、どうか寛大な心と、生温い視線で受け流して貰えると助かります!!

   そして、今回はイタチvs百代を描かせてもらいました。
   序盤は百代優勢で描きました、事前にイタチの動きを見ていれば百代はあれ位は出来ると作者は思いましたので。

   そして勝負の後半、イタチの瞬間回復に関する攻略法はまじ恋を見ての考察と、昔自分が読んだ漫画から考えました。
   まじ恋のマテリアルブックでも、瞬間回復は気で細胞を活性化させて体のダメージを回復する技としてか書いていません
   つまり、瞬間回復で作用するのは肉体のダメージだけで、酸素までは作り出せないと作者は結論に至りました。


  そして、ラストのイタチの言葉を書いていて思った事は
  百代も結構なチートですが、暁の面々はそれ以上にチート集団だという事を実感しました!
 

 それでは、次回に続きます!!
 







[3122] 特別編・真剣で忍に挑みなさい!!・第五話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/10/24 00:02




「がっ!は!!!」




首筋に衝撃が走り、百代は呻き声を上げた

あれほど警戒していた筈の、首への一撃
しかしその警戒は、今は完全に怠っていた



理由は、驚愕
自分の奥義とも言える技を、一目で完全に見切られた事による驚愕だった


それは、百代の心に出来た僅かな隙間

絶対の切り札の弱点を知られた事による、動揺と驚愕


だから、その隙間を埋めるために…百代はその対策に出た


今まで首より上にしかしていない警戒を、自分の腹部…更に言うなら鳩尾にも向けた



その、僅かな一瞬
首から鳩尾へ、警戒の網を伸ばす為の僅かな隙を狙われた


首筋に、衝撃が走る

膝が折れる

体が落ちる

意識が揺らぐ


倒れる


負ける



そんな思考が、百代の脳裏を過ぎる



(…私が、負ける?…)



今まで、負けた事は無かった


今まで闘った中でも、苦戦した事は何回かあった


ヤバイと思った事も、何回かあった


好敵手とも呼べる人間と、心行くまで死闘を繰り広げた事もあった


だが


それでも、百代は一度も負けたことは無かった



……嫌、だ……



薄れ行く意識の中で、百代はそう思う



……負けるのは、嫌だ……



今までのやり取りで、十分に分かった

このイタチという男の強さは、今の自分を遥かに上回っている


恐らくこの男は、実力の半分も出していない


現時点での自分の勝率は、ほぼ0に等しい


それでも



……負けたく、ない……



だからこそ

百代は心の底から思った


負けたくない

勝ちたい


それは渇望

勝利への渇望

圧倒的な強者との出会い、そして天地の差ほどもある実力


それらによって生み出された、心の底からの勝利への執念



「……ま、るか……」



切れ掛けの意識を、必死に繋ぎとめる

意識の消失を防いで、両の足で地面に立つ





「…負けたく、ない…!!」


「……なに?」



僅かに、驚愕の声が響く

だが、それは百代には届かない

揺れる意識、回る視界、崩れる世界



――瞬間回復!!!――



それらを、全て正常に戻す

百代の眼に、再び光が宿った




「負けて、たまるかああああああぁぁぁぁぁ!!!!」








特別編・第五話「VS」







「はあああああああぁぁぁぁぁ!!!!」


拳の弾幕

百代は己のスピードをトップギアにまで上げて百代は全力の攻撃を繰り出す

それは正に吹き荒れる暴風
意志を持った暴力の嵐


しかし、それらをイタチは悉く避ける


「そこだ!!!」

「甘い。」


一撃と一撃の間を縫って、イタチは百代の鳩尾へ掌打を放つ


「が!!」


横隔膜に衝撃が走り、百代から酸素を奪うが

それでも、百代は構わず前進した



「…む。」

「狙いが分かっていれば、耐えられる!!!」



攻撃は最大の防御

腹部の激痛に顔を歪めるが
即座に瞬間回復で呼吸機能を取り戻し、イタチとの距離を詰める

そして、百代の一撃が繰り出される



「川神流奥義・蠍撃ち!!!」



鳩尾への一撃

しかし、イタチはその一撃を滑る様に回避しながら百代との距離を詰めて



「狙いは良いが、防御が拙い。」



裏拳

手の甲で、百代の顎を掠める様にして打つ

顎から脳に衝撃が伝わり、再び百代の平衡感覚が狂うが



「そんなものは効かん!!!」



即座に瞬間回復で立て直す



「ウオオオオオオオオォォォォ!!!!」



咆哮を上げながら、百代は更に攻撃を繰り出す


ここに来て、百代のスピードは更に跳ね上がった
イタチに追いつく為に練り上げた、四肢のオーラ


トップスピードを維持したままでの超速の攻防
この闘いで、百代は己のレベルが上がった事に気づくのはこの数日後である



今の百代の思考

絶対に、倒れない

これは百代の、最後の境界線だった



恐らく、一度でも倒れれば、膝を着けば

自分の心は、折れる

自分の心は、敗北を認める


百代はその事を、心のどこかで感じていた



そして、百代が倒れたくない理由はそれだけではない。




「ふ、ふは! ふははははは!!! ふはははははあああぁぁー!! 強い! 本当に強いな貴方は!!!」




それは喜び

圧倒的なまでの歓喜

勝利への渇望以上に百代の心の中に存在する、強者との戦いによる圧倒的歓喜、狂喜



「随分楽しそうだな?」

「ああ、楽しいさ!!! これ以上無い程になああぁぁ!!!」



乱打を繰り出しながら
イタチの問いに、百代は間髪入れず答える。



「初対面の貴方にこんな愚痴を言うのもなんだが、これも何かの縁だ!! まあ聞いてくれ!!!
私は心の何処かで、いつも思っていた! どいつもこいつも弱い弱い! 中には強い人も居たが
それでもいつも勝負すると勝つのは私だった!! 橘天衣! 鉄乙女! 揚羽さん!! 武道四天王と言われ
私と同格と言われていた人間ですらも、私には勝てなかった!!」



しかし、百代の攻撃の全ては空を切って風を鳴らす

それはイタチに被弾どころか、掠りもしなかった
それでも百代は笑って言葉を続ける



「勿論、私以上の実力者は居るさ!! 師範のジジイ!! ルー師範代!! 川神院から去った釈迦堂さん!!
だがな、それだけだ!! それだけなんだよ!! 私の周りで私に勝ち得るのはたったそれだけの人間なんだよ!!
私の身近に居るたった数人でしか、私に勝てそうな人間はいないんだよ!! でもその人たちとは立場上では勝負できない!!

私に挑んで来るのは格下ばかり! 徒党を組まなきゃ満足に喧嘩も出来ないチンピラばかり!! 欲求不満はつもるばかりだ!!!」



百代の一撃をイタチは回避して、足払いをして体勢を崩す

即座に首筋に一撃を放つ
しかし、百代は倒れない

更に苛烈を増したラッシュを繰り出して、イタチに襲い掛かる。



「だから、私は常々思っていた! 本当に、世界はこんなに狭いのか!? 小さいのか!?
 ジジイに頼んで海外の達人とも勝負をした!! それでも勝つのは私だった!!
 もう何人と勝負したかな!! 何時の頃からか私は如何に相手に勝つのではなく、如何に闘いを楽しむのかに変わっていたよ!!!
そうでもしなきゃあ、闘いで自分を満たす事は出来なかったからだ!!!」



顔面を襲う拳打を回避して、イタチは百代の懐に潜り込んで鳩尾へ掌打
次いで耳を平手で打って、三半規管を攻撃するが

瞬間回復

百代の攻撃は、休むこと無く続いた



「私は仲間との遊びや交流で、心の渇きを満たしていたよ!! 実際に楽しいし! 私はそれで満たされていたよ!!!

だがな、違うんだよ!! 私は戦いでも自分を満たしたいんだよ!! 眠いからと言って腹一杯の食事をすれば眠気は消えるか!? 
違うだろ!? 消えないだろう!! それと同じだ、私は闘いたい! 全力の闘いで自分を満たしたいんだあぁ!!!」



それは渇き
今まで自分と対等な者が居なかった百代の渇き




「だがな! 今はもうそんな事はどうでもいい!!! 何故なら今の私は最高の気分だからだああぁぁ!!!」




心の底からの喜びの言葉と、子供の様な無邪気な笑みを浮べて百代は叫ぶ



「イタチさん! 貴方は最高だ! 今まで出会った誰よりも最高の人だよ、貴方はああぁ!!! 
もう何度貴方に攻撃を貰ったかな!!? 私に瞬間回復がなければ、もう二十回は敗北しているなぁ!!!」



百代の一撃を回避して、イタチはバックステップで距離を取るが

それを追いかけて疾走する、百代の一撃



「川神流奥義・大蠍打ちいいぃぃ!!!」



その一撃を、イタチは伸ばした百代の腕を滑るようにして回避して
百代の死角に移動する



「楽しいなー!! 本当に楽しいなぁ!!! イタチさん、執事をしていると言ったがそれを辞めて川神院に来ないか!!?
 貴方程の人なら直ぐにでも師範代になれるぞ!! 様々なオマケ付でそこそこ贅沢できる程度の給料は出るぞ!!」

「誘いは嬉しいが、それは断る。俺は今の所あの職場から離れるつもりはないからな。」

「ふははははは!!! それは残念だ! 貴方がここに来てくれれば、ずっと私は満たされると思ったのだがなあぁ!!!」



百代がそう叫ぶと、イタチは溜息を吐いて



「……一つ言っておく。誤解を招く様な発言は控えた方がいいぞ。」

「ははははは!! 求愛の言葉にでも聞こえるかな!? だが残念! 私の操は安くないんだ!!
 だが貴方が川神院に来てくれるなら、少しは私も考えてしまうかもしれないぞ!!?」

「……とりあえず、碌に知らない人間にその様な言葉は言わない方が良いぞ?」

「何だ何だ! こんな美少女の誘いを蹴るのか! つれないなー! 少し京の気分が分かってしまったぞー!!?」



面白そうに、楽しそうに笑いながら百代は叫ぶ

そして、イタチに向けて更なる攻撃を繰り出す



「川神流奥義・顎!!!」



両腕を用いた上下の高速コンビネーション

本来これは薙刀を用いた上下の斬り返しだが、百代はこれを両の拳で代用した

岩をも砕く、竜の顎の連撃


だが、イタチはそれをサイドステップで回避する

そして技の硬直を狙って、再び百代へ一撃を放つ


首筋を狙った疾風の一撃


「それは分かっている!!!」


それを、百代は床に転がる様にして避ける

攻撃の勢いを利用した、受身に近い回避
それにより百代はイタチの攻撃よりも半呼吸早く動けた為に、なんとかその一撃を回避する


そして、両者の間に距離が出来る


だが、それをイタチは追撃する

相手は床に転がって隙だらけの状態、格好の獲物
即座に床を蹴って、百代との距離を詰めるが



「川神流奥義・雪達磨!!!」



その瞬間、床が凍りつく

百代が床に付けた掌から、瞬間的に床の表面は凍っていき一種のトラップを作り上げる

百代を中心に、床を侵食する氷結
それは一瞬にして、イタチの足場までに侵食するが



「生憎だが、それは無駄だ。」



しかし、イタチは氷の上を構わず疾走する

チャクラの吸着力
足の裏にチャクラを集中させて、吸着力を高める

凍った床で足を滑らせる事も、体勢を崩す事も無く、イタチは構わず百代との距離を詰める

しかし、それを見て百代は笑った



「それも予測済みだ!!」



百代の対の掌が、焔色の唸りを上げる



「川神流奥義・炙り肉!!!」



その一撃を、百代は凍った床に叩き付ける

次の瞬間、高熱の水蒸気がイタチに襲い掛かった



「…っ!!?」


「流石の貴方も、蒸気までは避けきれない様だな!!!?」



高熱の蒸気を浴びて、イタチの動きは一瞬の躊躇いを見せた


百代は凍らせた床に超高熱の一撃を叩き込む事によって、氷を即座に融解し水にして、水を蒸発させて高熱の水蒸気を作り上げたのだ。


しかしそれには何の威力も、破壊力もない

100℃に満たない、極少量の水蒸気
それは銭湯のサウナにすら劣る熱量でしかない


だが、それは威嚇としては十分な働きを示した


思わぬ反撃


異常察知能力に長けたイタチは、その予想外の事態に反射的に追撃から防御へ体勢を変えて
その足は、一瞬止まった



「貰ったああぁ!!! 川神流・無双正拳突き!!!」



イタチの顔面を狙って唸りを上げる猛威の剛拳
勝敗を決する、必殺の一撃


しかし



「その技は既に見た。」



次の瞬間、鈍い音が道場に木霊した



「…ぐ!!っぁ!!」



ミシリと、音が響いた

右拳から、腕を砕かんばかりの激痛が奔る

その激痛に、百代はたまらず顔を歪める


百代の放った、右の正拳突き

その正拳突きは、イタチの肘鉄に減り込んで
その侵攻を止めていた



「…エルボー・ブロック…だとぉ!!!」



百代はそこで、事態を把握する

必殺の一撃は、そのまま致命的なカウンターとなって百代に跳ね返ってきた

右拳の骨が、手首まで砕けていくのが分かった


折れた手の甲の骨が、赤い血と共に皮と肉を突き破って出てきた


「……っぁ! ぐ、ぅあ…!!」


灼熱にも見た痛み

骨をも砕く大ダメージ



今の状態では瞬間回復は使えない

肘に拳が減り込んだ状態で回復しても、減り込んだ肘が骨の再生を邪魔するからだ

今のままでは、攻撃は不可
百代は拳の骨を再生…回復するしかない


そして、拳を回復させるには拳を引くしかない


「……この私を……」


イタチがそう思った、その瞬間だった








「川神百代を舐めるなあああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」








あろう事か


百代はそのまま、砕けた拳を突き進めた




「……!!?」



メキメキと骨が不吉な音を立てながら、百代は拳を振り抜いた

赤い血を撒き散らしながら、脳髄に叩き込まれる激痛に顔を歪める百代
肘からの予想外の衝撃で、僅かに弾き飛ばされて後退するイタチの体

イタチは、信じられない表情で百代を見て


それを見て、百代は満足気に笑った



「……ふ、ふふ…ふはははは…」

「…どうした?」



何がおかしいと、イタチは尋ねる

その問いに、百代は笑みを浮べながら答えた




「……一撃、入れてやったぞ……!!」




その言葉に、イタチは驚いた


「…!!!」


確かに、今の一撃で自分の体は僅かに弾き飛ばされた
直接的なダメージはこちらは皆無だが、今の一撃で自分は後退した


確かに、結果として見れば百代はイタチに一撃いれた事になる



しかし、イタチが驚いたのはその事ではない



例え瞬間回復という肉体治癒があっても、痛覚は常人と同じ筈

骨をも砕く激痛に耐え、尚且つ砕けた拳で全力の一撃を振り抜く


それはもはや、激痛という言葉ですら生温い…地獄の痛苦だった筈


しかし


この川神百代は、それを実行した。




(……大した娘だ……)




イタチは心の底からそう思う

実力、才能、そして根性
強くなる為の三要素を兼ね揃えている



(……あと二~三年もすれば、俺も危ういかもな……)



百代を見て、イタチはそう結論付ける

そして百代の血塗れの拳は、見る見る内にその怪我を治していった



「……はー、滅茶苦茶痛かった。二度とやりたくないな、この攻撃…。」



完治した拳を軽く握りながら、百代は言う。

未だにイタチ優勢の勝負だが、流れは徐々に百代が掴みかけている

体中を心地よい昂揚感が包み込み、確かな充実感が百代の中に広がる

そして再び構えを取り、次の攻撃の姿勢を作る



正にその時だった










「……そろそろか。」










イタチがそう呟いた瞬間

百代の膝は、ガクリと折れた



「……え?」



突然の事態に、百代は思わず声を上げる

必死で折れた膝に力を入れて、体勢を保つが



「……なん、で?…力が、入ら、ない?」



足に力が入らず、そのままプルプルと体が震える

そして次に襲う体の脱力感



「まだ気が付かないのか?」

「…何が、ですか?」

「あれだけ景気良く、瞬間回復やら川神流奥義とやらを使っていたんだ…」



イタチは百代に視線を置いて、ゆっくりと答えた





「エネルギー切れになっても、何もおかしくないだろう?」

「!!!?」





その言葉に、百代の瞳は再び驚愕の色を宿した。



「え、エネルギー、切れ…だと!!?」

「元々、人間と言うのは小さな傷でも長い時間を掛けて少しずつゆっくり傷を治していくものだ。
だが、お前の瞬間回復はその自己治癒能力の働きを爆発的に早めて傷を癒すもの。
分かり易く言えば、ゆっくり歩いている馬に鞭を打って全力疾走させる様なものだ。
それに加えて、お前は自分の流派の奥義を連発し、休む暇も無く攻撃を繰り返した」



納得が行かない表情をする百代に、イタチは告げる



「ならば、体力、精神力、エネルギーの消耗も桁外れに多い。さっきお前はこの技を見せるのは俺が初めてと言ったな?
 ならば、こうなっても別段不思議ではない。」

「…なん、ですって?」



イタチはそのまま百代を見て



「何故なら、お前は実戦で瞬間回復を使うのは初めてだからだ。」


「…!!!?」



その言葉に、百代の目は見開かれた
そして次の瞬間、その表情は納得が行ったかの様な表情をした



「…ふ、ふふ…なるほど、実戦において瞬間回復を使う事による肉体の負荷…それを考えずに瞬間回復を乱発した私のミスか…
確かに、これは私の落ち度だな……以後、気を付ける事にしますよ。」

「更に言うなら、使用そのものも控えろ。
切り札を心の拠り所にするのは分かるが、その所為でお前の防御は攻撃に比べてお粗末すぎる。」



今までの戦闘を思い出して、イタチは更に進言する。



「瞬間回復があるから、ある程度なら攻撃を受けても大丈夫…心のどこかでそう思っているから、お前の防御は拙いんだ。
今以上に強くなりたいのなら、その技に頼るな。あくまで戦略が広がる程度に留めておけ。

それにその技は体中の細胞に大きな負担を掛ける、体も出来上がっていない成長期の体で使用すると、早死の原因になるぞ?」


「……随分、懇切丁寧に教えてくれるんですね。敵に塩と砂糖に合わせて味噌まで送っていますよ?」

「気にするな、性分だ。」



そう言って、イタチは疲れた様に息を吐く。

元々、イタチはこういう稽古染みた事は嫌いではない

昔は弟の修行に付き合い、色々な技術を手解きしたし
こちらに来てからも、揚羽と小十郎の手合わせに付き合わされていた



(……やはり、大分アイツ等に染まっているな……)



少なくとも、今までの自分は身内ならともかく赤の他人にまでこの様な助言をする事はなかった。

嘗ての自分と比べての変化をイタチは感じ取り、そっと溜息を吐いた


だが、瞬間回復についてはイタチはどうしても一言言っておきたかった。


イタチが百代に瞬間回復の使用を控える様に進言したのは他でもない百代自身の為だ
瞬間回復、これと同種の術を使う忍をイタチは知っている。


五代目火影にして木の葉の伝説の三忍の一人、綱手


圧倒的な格闘技術と神業とも言える医療忍術を併せ持つ木の葉隠れ一の女傑

そして、その綱手が長年の修行と研究の果てに生み出した奥義は、その胸を刃で貫かれても瞬時に再生するとまで言われている。


しかし、綱手はその術をいざと言う時にしか使用しない
細胞分裂を異常促進させて瞬時に傷を癒すこの術は、術者に大きなリスクを負わせる。


簡単に言ってしまえば、命の前払いだ


本来人間の寿命までに使われる筈だった細胞分裂を前倒しで使う
命を削り、寿命を縮める

綱手は医療忍者ゆえに、その危険性を十分に理解して使用を控えていた。


今までのイタチの攻撃は、百代の肉体事態には大した損傷を与えてはいないが

それでも、百代の体に負担が掛かった事には変わりは無い。


一度や二度ならともかく、今回の様な乱発は寿命を縮める事になる。


そうなるには、惜しい才覚の持ち主


イタチはそう判断したからこそ、百代に瞬間回復の使用を控える様に言ったのだ。



「…なるほど、敵わないですね。」



そのイタチの言葉を聞いて、百代は笑う

しかし、次の瞬間
百代はその足でしっかりと床を踏み締め、構えを取った



「…タフだな。」

「無論…と、言いたい所ですが…正直今にも倒れそうです。」



クスリと苦笑して、百代は言う
だが、その眼には真剣な光が宿っている



「…だが、私は貴方に勝ちたい。
ここまで心の底から勝利を欲したのは、生まれて初めてだ…。」
 


再び、百代から闘気と殺気が迸る

限り無く満身創痍に近い状態でありながら、この鬼神の様な威圧感
正に、武神の血を引く者のみが出来る所業だろう




「……今から、私の最強の一撃を放ちます。
それでも貴方を倒す事が出来なければ、私は己の敗北を認めましょう。」




そして、百代は体内の気を一気に練り上げる

体に残されたエネルギーを全てを掻き集めて、両の掌を集中させる


「ハアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!」


圧倒的なまでのエネルギーの波動、威圧感

全てを薙ぎ倒す様な破壊の咆哮



(……なるほど、どうやら唯のハッタリではない様だな……)



生半可な攻撃で突っ込んでは、その場で返り討ちに遭うだろう

イタチはそう判断して、

百代を“視た”







体中のエネルギーを練り上げながら、百代は考えていた


勝ちたい


この男に勝ちたい


この強い男に、私は勝ちたい


既に限界以上のエネルギーが、両の掌に集まり猛り狂って唸りを上げている。


もはや一度見せた技は、この男には通じない

生半可な技ではその場で自分は終わる


つまり必要なのは、未だこの男に見せていない最強の一撃



「……行くぞ!!……」



両の掌が焔色の輝きを宿し、紅蓮のオーラ、破壊の咆哮を上げ、それは完成する


全力全開

全身全霊


川神流奥義の中でも屈指の破壊力を持つ、百代の最大にして最強の一撃



「川神流奥義・星殺し!!!!」



その圧倒的波動と閃光

体中のエネルギーを圧縮した巨大な衝撃波
極太のレーザー砲にも見えるその一撃


その一撃が、イタチに唸りを上げて襲い掛かった


川神流奥義・星殺し

大気圏すらも突破し、星をも破壊する威力を持つと言われた川神流奥義


まともに喰らって、五体満足でいられる人間など皆無の一撃



(……チャクラの形態変化に近いが、威力は高等忍術に匹敵するな……)




その一撃を見て、イタチは瞬時に考える

自分に迫る一撃は、生半可な威力ではない…まさに必殺を超えた完殺の領域だ



(……ふむ、避けるだけなら造作もないが……)



もしもこの一撃を避ければ、この一撃は道場の壁を貫いて寺院に直撃する

目の前の少女はその事を知ってか知らずか、全力で一撃で放っている

もしも自分がこの一撃を避ければ、この一撃による被害は寺院を超えて市街も巻き込むだろう。


実際には川神院は今日は海外からの挑戦者と鉄ミナトが来訪する事から、それらによる周囲への被害を抑える為に
武道場や周囲の壁には事前に強力な結界が張ってあるのだが、イタチはソレを知らない。



避けるのは駄目、防御も不可

この結論に至るまで、僅か数瞬



「ならば相殺するしかあるまい」



イタチの紅い瞳が、唸りを上げた。















「……!!!……」


まさか、と
百代は思った


目の前の男は、構えを取って迎撃の姿勢を見せている


だが、そこではない
百代が驚いたのは、そこではない


その男から発せられる圧倒的なまでのエネルギーの波動、威圧感

焔色の輝きを宿す両の掌、紅蓮のオーラ、全てを薙ぎ倒す様な破壊の咆哮



…それは良く知る自分の技……



まさか…

そんな、馬鹿な…!

出来る筈がない!!!


瞬時に頭の中に巡る思考






「……川神流奥義……」





しかし

そんな百代の心情とは裏腹に、








「星殺し」








イタチはその一撃を作り上げた


「……!!?」


イタチの掌から放たれる、圧倒的なまでの破壊の衝撃波

それは雄々しい咆哮を振り撒きながら



百代の星殺しと、衝突した。













続く












補足説明


蠍撃ち……相手の鳩尾を狙う技、武術の基本である突きを極めた奥義


大蠍撃ち……蠍撃ちを更に超えた一撃、達人ならはその威力は内臓まで蹂躙し臓器破壊できるほどの威力を持つ。


雪達磨……川神流の奥義の一つ、本来は掌で掴んだ相手を凍らせて動きを封じ、重度の凍傷を負わせる技


炙り肉……川神流の奥義の一つ、超高熱を宿した掌で相手を掴んでそのまま相手の肉を炙る技。


顎……川神流の奥義の一つ、本来は薙刀を用いた奥義だが百代はこれを素手で行う
   イメージとしては、はじめの○歩に出てくる「ホワイト・ファ○グ」


星殺し……川神流の奥義の一つ、文字通り星すらも破壊する威力を持つ圧倒的エネルギーを持つ衝撃波




後書き 特別編・第五話を投稿させて頂きました、本当は特別編は今回で終了する筈でしたが思ったよりも百代との戦闘が長引いてしまい、次回まで持ち越しとなりました。

    次回で一先ず特別編は終了です。また機会を見て特別の方は書くつもりでいます。

    さて、今回は前半は百代の心情的な部分を描かせて貰いました。百代の心の飢えや渇きについて描いていたのですが中々難しかったです。
    百代はとあるルートでは暴走する程に鬱憤や欲求不満が溜まっているので、その辺の心情面を描かせていただきました。

    あと、一応百代にはイタチに対して恋愛感情は持っていません。あくまで尊敬できる人程度です。


    そして、本編の後半。これはまじ恋を本編をプレイした当初から描きたいと思っていたネタ


    星殺しを使うイタチを描かせて貰いました!! イタチ無双と同じく一度で良いからやってみたかったんです!!!


写輪眼は血継限界や秘術、特殊な道具を用いる術以外は全てコピーできる設定であり
星殺しも体術の延長、もしくはチャクラの性質変化、形態変化に近いものだと思ったので写輪眼ならコピー出来ると考えました!!



次回でイタチVS百代は決着します!!




    



[3122] 特別編・真剣で忍に挑みなさい!!・第六話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/10/31 14:19





「んで、お前が宇宙人っていう証拠は?」

「さっき見せたじゃないですか?」

「あんなん証拠になるか!!?」



川神市・金柳街

未だに、そこでミナト達は向かい合っていた

話している内容は勿論



「ぬぅ、そこまで言われるとは心外ですね? まさか、マガジン派ですか?」

「そういう問題じゃない。」

「ちなみに来週は一歩は休みですよ。」

「「「マジでえええぇぇぇ!!!」」」




再びキャップとガクトとワン子の驚愕の声が響き



「いや、もうそのパターンはもういいから!」

「つうか、お前等さっきから単純過ぎだろ!?」

「ちなみにネギまも休みです。」

「「「終わったああああああぁぁぁぁぁ!!!!」」」




その言葉に、思春期まっさかりの中学生にとっての貴重なエロ成分が消えた事に対して
大和とモロとガクトは心の底から嘆いていた



「……本当に、しょーもない。」



京の呆れた様な言葉が響き、キャップは気づいた様に声を上げた



「……そういやーさっきから気になっていたんだが、お前のツレはどうしたんだ?」

「……ツレ?」

「ほら、さっき一緒にアイス食ってたお前のツレだよ。」

「ああ、ルビカンテの事ですか? 彼なら今頃……」



言葉を言いかけて、不意にその口は動きを止める


「…今頃……いまごろ…」


その顔は青ざめて、表情は固まり

僅かに沈黙して口を閉ざす


そして次の瞬間









「やっべえええええええぇぇぇぇ!!!! すっかり忘れてたああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」









何かを思い出したかの様に、大声を上げた。



「ヤバイ!! これはヤバイ!! 激しくヤバイ!!!」

「「「「「「んな!!!」」」」」」


そう言って、六人は一斉に驚愕の声を上げた

何故なら目の前の自称・宇宙人はそこにあった電柱を垂直に駆け上り、あっという間に天辺までに辿り着いたからだ。



「川神院は……あっちか!!?」



目的地を見定めて、瞬身の術を発動させて

ミナトは、大和達六人の視界から一瞬でその姿を消し











「「「「「「……マジで?」」」」」」











その一部始終を見て

大和達は、信じられない様に呟いた。













川神院・川神鉄心の私室



「……む? モモのヤツ、かなり派手に暴れておるの……」


同じ川神院の敷地から感じるその気を感じ取りながら、鉄心は呟いた

激しく荒ぶる孫娘の気
その事から、珍しく孫娘…百代が全力を出して勝負をしている事が窺える


「…しかし、先ほどからモモとぶつかっているこの気……誰のものかは知らんが、かなりの手練じゃの……」


自分の孫娘と先ほどから激しくぶつかっている、もう一つの気を感じ取りながら鉄心は呟く

しかも百代はほぼ全力の力を出していながら、この気は全く揺らぎが見られない

揺らがない、つまり焦りがない…余裕がある


「……モモの奴、負けるかもしれんの……」


その戦況を感じ取り、分析しながら鉄心は呟く


しかし次の瞬間

鉄心は百代の気が、爆発的に膨れ上がるのを感じ取った



「…っ!!! まさか…モモの奴、アレを使う気か!?」



激しく猛り、そして収束していく脅威のエネルギー

間違いない、『星殺し』だ



「…いかん!!」



これは、不味い

鉄心はそう判断して、部屋から飛び出した。












特別編・第六話「決着!―星殺しVS星殺し―」












大地が鳴動し

暴風が吹き荒れ

衝撃が爆発した



「バカな!!! どうして貴方がソレを使える!!!」



百代の驚愕の声が上がる。

両の掌から押し寄せる強烈な圧力

自分の掌から放たれた星殺しと、相手が放った星殺しがぶつかり、互いに喰らい合っている。


床が唸り、壁が軋んでいる

拮抗する二つの超エネルギー


その手応えを、感触を、全身で、全神経で感じ取り

百代は感じ取る


紛れも無い、本物

本物の、星殺しだ。



川神流の奥義の中でも、この技の使い手は自分と師範のジジイを含めてもほんの数人

なのに、なぜこの男が使える?

絶え間なく脳裏に過ぎる、百代の疑問

その百代の心中を感じ取ってか、



「お前にとって、その問いは重要なのか?」



淡々とした表情で、イタチは百代に呟き



「……ふ……」



それを聞いて

百代は、声を上げて笑った



「ふはははははー!!! それもそうだな!!! 無粋な質問をして失礼した!!!」



腹の底から声を出して、百代は笑う


そうだ、考えてみればこんな事は些細な事


あれほど、自分が欲して止まなかった、望んで止まなかった

最高の強者と、最高の闘いが出来る


それが叶った事に比べれば、こんな事は些細な事だ。


寧ろ、ウェルカムだ。



「貴方は強い!! そしてその強い貴方に私が勝つ! 今はそれで十分だあああああぁぁぁぁぁ!!!」



更に両の掌に力を込めて、エネルギーを捻り出す

文字通り、自分の全てを込めて相手を撃つ


拮抗する力と力

破壊の唸りが響き渡り、暴虐とも言える衝撃の嵐が吹き荒れる


そして、徐々にその拮抗は崩れ始めた


百代が、圧され始めた。



「……ぬ!ぐっ!…ぅ、うああああああぁぁぁぁ!!!」



唸りながら両の掌に力を込め、足で踏ん張りを効かすが……体はジリジリと後退する


「……ちぃ、残りの、体力の、差が出たか……!!」


悔やむ様に舌打ちをする

今までの闘いで使った体力が、体中に響いてくる

エネルギーは既に枯渇しかけている

スタミナも底をついている


今の星殺しは、万全の状態で放つソレのおよそ半分程度の威力しかないだろう


ジリジリと、圧される自分

このままでは、もっておよそ二十秒



―それなら―



「ダメで元々、当たって砕けろ」



残りの体力、スタミナ、エネルギー

それら全てを、この一瞬に掛ける



「ウオラアアアアアアァァァァァァ!!!」



瞬間

力が逆転する


圧されていた暴力の砲撃が、唸りを上げて相手を喰らう

瞬間的に爆発的に跳ね上がる威力


百代の全てを込めた、最大の一撃


それはイタチの砲撃を食い破り、飲み込んで、一気に相手を喰らう…



「……星殺し……」



筈だった









「爆破」










その刹那

閃光が、辺りを包み込んだ















わしが道場に踏み込んだ瞬間、それは起きた


両目を焦がすような閃光が溢れ出て

鼓膜を突き抜けるような轟音

暴風にも似た衝撃


窓ガラスが一斉に砕け散り、床が割れ、壁が軋んだ


事前に張っておいた守護結界が無ければ、この道場は原型を留めない程に破壊されていただろう



そして、その爆撃にも似たこの現象の中心地

そこには百代と、一人の青年が立っていた












「今の一撃、実に見事」



互いの星殺しが完全に消え去ったのを確認して、イタチは呟く

そのイタチの視線の先には、自分の対戦相手が驚愕の表情を浮べて立っている



「だが、惜しかったな。」


「……一体、何をしたんですか?」



両目を鋭くさせて、百代は尋ねる

互いの砲撃が消えるその直前、確かに自分の砲撃が相手の砲撃を押し返した筈だった


だが、押し返したその瞬間

自分の砲撃が相手の砲撃を飲み込んだその瞬間、閃光が爆発し、互いの砲撃は消え去っていたのだ


そして、百代は思い出す

イタチが星殺しを放つ直前に呟いた言葉を



「……内部から星殺しを爆発させて、相殺したのですか?」


「ご名答。」



簡潔に、イタチは答えた


イタチの得意とする忍術、「分身・大爆破」

影分身を囮にして、そのチャクラをコントロールし爆発させて敵を屠る術がある


今回、イタチが使ったのはその応用


チャクラの塊の影分身
エネルギーを凝縮させた星殺し


多少の違いはあれど、その根底となる技術さえ身に付けて置けば、
例え写輪眼が無くてもその応用は容易い


後はタイミングの問題だった

もしも百代の星殺しが、イタチの星殺しよりも勝っていたら今の様に

もしもイタチの星殺しが、百代の星殺しよりも勝っていたら百代に着弾する前に


チャクラの爆風のベクトルを前もって計算して爆発させれば、百代と道場、この二つを守る事はそれほど難しいほどではなかった


(……小手先よりも火力、この技はその典型だな。威力はあるが、俺には不向きだな……
技自体は単純で応用が利くが、あまり多様は出来ないな……)


一撃放って、イタチは考える
この技は幻術や忍術に比べれば単純だが、燃費が悪くエネルギーを多く使う

技のタイプから、これはうずまきナルトや鬼鮫…並外れたチャクラの持ち主が使って初めてその真価を発揮するタイプの技だろう


そうイタチは判断して、再び百代に視線を移した。







「……全く…本当に、大した人だ。」







百代はクスリと笑い


その体は、ゆっくりと崩れ落ちた




「おっと。」




百代が完全に崩れ落ちる前に、一つの影が百代を支える


百代の祖父・川神鉄心だ。



「全く、大分無茶しおったな……体中の気を殆ど使い果たしておる。暫くは疲労と筋肉痛で、まともに動けんじゃろうな。」



百代を抱きとめて、鉄心は呟く

どうやら心身ともに力を使い果たして疲弊して、意識を失った様だ


その顔は安らかで、小さな寝息を立てていた

その様子を見て、イタチは小さく息を吐いた
とりあえず、川神百代の心配はなさそうだ



そして改めて眼の前の人物を、互いに見る



(……この老人、強いな……)


(……ほう、中々面白そうな若者じゃの……)



互いの雰囲気、佇まい、気の揺らぎ

常人とは一線を画す、その在り方

二人は、互いにその事を見極めた。



「失礼を承知で尋ねたい。貴方が、川神鉄心か?」

「……如何にも。」



イタチの質問に、鉄心は頷いた

良かった、とイタチは安堵の息を吐く

道のりは長かったが、これでようやく自分の目的は果たされる



(……と言うか、良く考えれば俺は川神百代と戦う必要が無かったのでは?)



今更ながらに、イタチは思った
自分は川神鉄心に会いには来たが、挑戦する為に川神鉄心に会いに来た訳ではないからだ



(……最近、揚羽達が来ない所為でどこか手持ち無沙汰になっていたからな…もしかしたら、その所為かもしれんな……)



自分も、ある程度は体を動かしたいと思っていたのかもしれない

まあ、もはや後の祭りだ

さっさと自分の用件を済ませよう

イタチがそう思った時だった





「すいません!! 遅刻しましたああああああぁぁぁぁぁ!!!!」





鼓膜を突き抜く様な声を上げて、ミナトはそこに現れた。



















「……う、ん……うん?」

「もう目が覚めたか、存外にタフだな?」


その言葉を聞いて、百代の意識は完全に覚醒した

自分は、医務室のベッドで寝かされていた
現状を察するに、今の今まで寝ていたのだろう


「……っ」


百代は体を起こそうと試みたが、それは不可能だった

体に力を入れても、まともに筋肉が働かない
今の状態では、這いずり回るのも一苦労するだろう


「起きようと思っても、恐らく無理だ。体に力が入らないだろう?」


百代の現状を察してか、イタチが進言する

百代は少し辺りを見回して、イタチに尋ねた。



「……私は、どの位寝ていたのですか?」

「まだ一時間も経っていない。もう少し寝ていろ、体中のエネルギーを殆ど使い切っていた様だからな。」



イタチがそう言うと、百代はジっとイタチを見つめて



「どうした?」

「いや、会ったばかりの異性に無防備な寝顔を晒した乙女の羞恥心と、生まれて初めて敗北した武道家としての悔しさ…
どちらを優先して気持ちに出すのか迷っていた…。」

「……とりあえず、存外に元気そうで何よりだ。」



イタチがどこか呆れた様に呟くと、百代はおかしそうにクスリと微笑んで


「……一つ、貴方に尋ねたい。なぜ貴方は星殺しを使えたのですか?」

「企業秘密だ。」


即答
自分の問いに対して即座に返したイタチを見て、百代は質問を変えた。


「川神院元師範代・釈迦堂刑部……この名前に心当たりは?」

「?……いや、無いが。」

「……そうですか。」

(……本当に知らないみたいだな……釈迦堂さんの秘蔵っ子という可能性は無いか……)


イタチの反応を見て、百代はそう思う

そして、次に百代が思い出すのはお互いの星殺しの激突

目の前の相手との闘い


――そして






「……そうか、負けたのか……私は。」






ゆっくりと、そして静かに、信じられない様に噛み締める様に

そう呟いた。


「……悔しいか?」

「……ああ、悔しい。一人だったら、ちょっぴり泣いてしまっているかもしれません。」


イタチの問いに、百代は答える
微笑みながら言っているが、それは紛れも無い本心なのだろう。


「だが、それ以上に心は充実しています。」

「……ほう?」

「ここ数年、ここまで全力を出して闘った事はなかったので。そして、貴方という新しい目標が出来た。
確か、七浜に住んでいると言っていましたね? こんな身近にこれ程の強者がいる、世間とは狭い様で意外に広いという事を知りました。」


百代は小さく微笑んで、言葉を繋げる。


「今までの私は、どこか世界の狭さに失望していましたが……意外と、そうでもないかもしれませんね。」


今まで、負けた事はなかった

海外で最強、無敵、達人と言われる人間でも、自分の一撃に耐えられる人間など殆どいなかった

自分より強い人も、確かに居る

だが、それは自分と同じ流派、自分と同門
つまりは、そういう事だ

山の中腹だと思っていたら、頂上付近に居た

今までの百代は、そんな心境を抱いていた


だが、それは違うのかもしれない
現に自分が住んでいる川神の目と鼻の先にある七浜に、これほどまでの強者がいた
百代は、その事実が分かっただけでも満足だった。



「一つ、お前に聞かせてやろう。」

「…なんです?」


「一月と少し前、俺はお前とほぼ同年代の人間と真剣勝負をし、殺されかけた。」


「んな!!!」



その言葉に、百代は驚愕に目を見開いた

この男の実力は、闘った百代自身が一番良く理解している

否、真の力という意味では未だに百代すら分かっていない
正に底が見えない実力、圧倒的戦闘力


そんなこの男が、真剣勝負で殺されかけた?
しかも、自分と同年代の人間に?


それは、百代にとって衝撃に他ならない事実だった

そして、イタチの言葉は続く


「更に言うなら、俺の同僚には俺の背後を簡単に取り、俺の額に楽に一撃を入れる女が居る
……何故だか知らんが、あれだけは未だに避けられん。」



脳裏にメイド服を靡かせて、笑みを浮べてクルクルと回る栗色のロングヘアーの女性を脳裏に思い浮かべて
イタチは百代に言う。



「……要は、そういう事だ。少なくとも、俺はお前以上の戦闘力を持つ人間を何人も知っている。
だが、それはお前が知らないだけだ……見たところ、お前はまだ十五、十六くらいの年だろう?
…その程度の年数しか生きていないのに、世界は狭いと決め付けるには少し早計ではないか?」

「……」

「少なくとも、俺はこっちに来て自分の世界は広がったと思っている。」



少なくとも、イタチはこんな世界がある事は今まで知らなかったからだ


そう言って、イタチは自分の言葉を締め括る

僅かな沈黙

その沈黙を、百代が破った





「なるほど、確かに世界はまだまだ広そうです。」





口元を僅かに綻ばせて、百代は呟いた


自分はどうやら、知らない内に井の中の蛙になっていたらしい

世界が狭かった訳ではない

自分の世界が狭かっただけだ



自分は、まだまだ未熟

自分は、まだまだ弱い


この人は強い、今の自分ではまるで歯が立たない程に強い

そして、世界にはまだ見ぬ強者が犇めいている

世界は、まだまだ広い


この事を心の底から実感し、百代は自然と笑みを浮べていた。












「お、もう目覚めておったか?」


不意に医務室のドアが開き、川神鉄心が姿を現した


「…どうも。」

「ジジイ? それに…」


百代は部屋に訪れた川神鉄心、そしてその後ろにつく見慣れぬ青年に視線を置いて

その青年は、ニコリと笑って



「どうも、初めまして川神百代さん。この度、新しい武道四天王に拝命された鉄ミナトと言います。
以後、お見知りおきを。」

「…!!! そうか、お前が揚羽さんの言っていた!?」



ミナトの自己紹介を聞いて、百代が驚愕の声を上げる

そしてミナトは百代からイタチに視線を移して



「大分派手に暴れたらしいじゃない、イタチくん?」

「誰の所為でこうなったと思っているのですか?」

「あはは、それもそうだね。」



イタチがどこか責めるような視線をミナトに送ると、ミナトは面白そうに笑った

そしてそのやり取りを見て、百代は不思議そうに表情をして



「……知り合い、なのですか?」

「ええ、まあ。」

「勿論。この人はうちはイタチくん、俺をK.O.した人だよ。」

「……!!!」



その言葉に、再び百代の目は驚愕で見開かれた

しかし、驚愕は一瞬
その言葉に、寧ろ百代は納得した



「…そうか、貴方が揚羽さんの言っていた……なるほど、揚羽さんが燃え上がる訳だ。」



九鬼揚羽も、恐らく自分と同じ様な思いを抱いたのだろう

世界は、まだまだ広い
ならば、その広さを知りたい、見てみたい

だから、九鬼揚羽は行動に移したのだろう。

百代は、今まで疑問に思っていた胸の突っ掛かりが取れた心境だった。



「九鬼揚羽と言えば……結局、貴方は武道四天王とやらになる事に決めたのですか?」



百代の言葉を聞いて思い出したのか、イタチはミナトに質問をした

すると、ミナトは頷いて



「まあね。俺は俺でやりたい事も出来たし……少し、気になる話を聞いたからね。」

「……気になる話?」

「いんや、こっちの話。」



珍しく少し影のある、曇った表情をしながらするミナトを見て、イタチは首を傾げるが

ミナトは何でもないと、話を切る。

そして、ここで川神鉄心が声を上げた。



「さて、さっきちょいとミナトと手合わせをしてみたが……なるほど、確かに腕の方は申し分ない。
九鬼揚羽がああも高い評価をするのも、納得がいったわい。
まあ、ミナトの四天王入りに関して色々と騒ぐ外野もおるだろうが…まあ、その辺はわしに任せて置きなさい。」

「どうも、お気遣い感謝します。」

「さて、問題はそこの…うちは、イタチ…と言ったかの? 個人的には、お主も四天王に入ってほしいのじゃが…
 全く、惜しいのー。もう少し若ければ、何の問題もなく四天王に加えられたのじゃが…。」

「別に構いません。俺は興味ないので。」



肩を竦めて残念そうな表情をしながら、鉄心は呟いた。

しかし、ここで鉄心はある提案を出す。



「そこで一つ提案なのじゃが…ここは一つ、代理で四天王に入っては貰えんか?」

「……代理?」



その鉄心の誘いに、イタチは首を傾げ
それを見て、鉄心は言葉を続ける。



「お主、聞いた所によると年は二十一らしいの? 
四天王は原則として年は二十二歳程度、大学卒業の年までと決めてあるのじゃが……これを逆手に取れば、お主も四天王に入れる方法があるんじゃ。

……ちょいと、こっちにも事情があっての……お主には代理でも良いから四天王になって貰いたいんじゃ。」



そう言って、鉄心はイタチに視線を置く

イタチは僅かに思考して、その答えに辿り着いた。



「……なるほど、二十二歳程度までが原則。だが逆を言えば…」

「二十二歳の間……つまり、二十三歳になる誕生日までなら四天王でいられるという訳か?
うっわ、セコイ考えだな~ジジイ。」



イタチの言葉を、百代が繋げる
その言葉を聞いて、鉄心は軽く笑い



「何とでも言え、こっちにも色々事情があるんじゃ。それに、これはあくまで裏技…あくまで代理じゃ。
お主に勝てる程の人間でなくとも、川神院が四天王に相応しい人間が見つければ、その者に四天王の座を譲る。
もちろん、手に職を持っているお主の為に色々と融通は通す方針じゃ。これでどうじゃろ?」



鉄心の言葉を聞いて、イタチは僅かに考えて



「そんな特別扱いをして、色々と軋轢を生まないか?」

「所詮は代理、その一言で片がつくわい。」

「……なるほど……」



そう言って、イタチは僅かに考える

そして視線を川神鉄心に移して、イタチは簡潔に自分の答えを告げた。













「さて、これでお互いに四天王になった訳だなルビカンテよ。」

「誰がルビカンテですか? いい加減、その呼び方は止めて下さい。それにあくまで俺は代理です。」



帰路を歩きながら、二人は話し合っていた


結局、イタチは川神鉄心の話を受け入れて武道四天王・代理となったのだ

ある、条件をつけて



「しかし、今回の一件を含めて……うちはイタチに関する全ての情報を秘匿する事、これってイタチくんが四天王入りした意味はあるのかな?」

「まあそうでもしなければ、俺はその代理とやらの件も少し考えさせて貰うつもりでしたから…
今回、俺も派手に動きすぎましたから……それで仕事や職場に影響が出る事は避けたいですからね。」



疲れた様にイタチは呟く。


今日、イタチが相手にした人間は、その全員が武術の界隈ではその名を達人として広く知られている存在だったらしい


これはイタチにとっても少し予想外の事であった


イタチは、それを知らずに全員を討ち取ったのである

中には、揚羽や小十郎の様に好戦的な人間もいるだろう
自分目当てに、久遠寺家を訪れるという事もあるかもしれない。


武道の達人の多くを一度に破り、あの川神百代までも討ち取り、新たな武道四天王となった男

これだけでも、その影響力は計り知れないものはある。



そして、名前が売れれば色々なものを引き寄せる

それらが自分の周囲、更に言えば久遠寺家を巻き込む可能性だってある



それを防ぐ為の処置

だからこその、名前を含めた全ての情報の秘匿……それをイタチは川神鉄心に要求し、鉄心もそれを応じた
この手のケースは、今回が初めてではなく前例があるらしい。


それに、自分は成り行きとはいえ道場の一つを破壊しかけた
修復は可能だろうが、金と時間は掛かるだろう

しかし、川神鉄心は「孫娘が暴走してしでかした事、だからその事は気にするな」と笑いながら言い、自分の責任に対しては何も追求しなかった。


それらの事も含めて、川神鉄心を無碍に扱えないのも事実だった


まあいわゆるギブ&テイクという奴だ。


こっちの意を汲んでもらう為に、相手の意を汲む
これも物事の基本である。



「…まあ、これで日常生活の保障が出来るのなら安いものです。」



サラリと呟く。

幸いな事に、今回の一件で自分の名を知っているのは川神鉄心と川神百代の二人だけ

あの二人が自分との約束を守ってくれれば、自分の事が広まる事はないだろう

今日見知ったばかりだが、恐らくあの二人は信用できる人間だろう


イタチはそう結論付けていた。


「ま、あまりネガティブに考える事もないんじゃないの? 森羅さん辺りなんかは、

『流石は我が久遠寺家の従者。ならば次は四天王筆頭を目指して天下を狙え!!』

…くらいの事は笑って言ってくれそうだけど?」

「…否定はできないですね。」


再び疲れた様にイタチは呟いて、それを見てミナトも小さく微笑んだ。


「まあ、それでもある程度は話しておいたら? 仕事には支障はないんだし、コレくらいの事は隠す必要はないでしょ?」

「……まあ、考えておきます。」


そして、二人は分かれ道に立つ


「それじゃあ、俺は道コッチだから。」

「ええ、それではまた。」


そう言って二人は分かれ、互いの帰路を歩んでいた。











「さ~て、寄り道する気分でもないし……真っ直ぐ家に帰るか。」


ミナトがそう呟きながら道を歩いていると、突然自分の携帯電話が鳴り出した。

ポケットから電話を出して、相手を確認する
電話は、母親からだった。


「母さんからか……なんだろう? はい、もしもし?」

『あ、もしもしーミナトくんですかー? お母さんですよー。』


電話を通して聞こえる声に、ミナトは言葉を返す。


「んで、どうしたの? 何か急用?」

『うん、そうなのー。お父さんのお仕事が予定よりも早まっちゃってー、お母さんとお父さん、今晩から出かけないといけないのー。』


少し困った様な口調で言う母親の言葉を聞いて、ミナトは軽く返した。


「ああ、大丈夫大丈夫。予定が一日早まっただけでしょ?」

『それだけじゃないのー、他のお仕事も予定が少し変わって…十日くらいかな? それくらいお母さん達、家を空けなきゃいけないの。』

「大丈夫、心配ないって。留守番くらい一人で出来るって、飯だって適当に冷蔵庫の物を料理するから。」



ミナトがそう返すと、ここで話の相手はミナトの予想とは違う答えを返した。



『……ああー、それは大丈夫。御飯の事なら心配しなくても良いよ。』

「ん、何で?」

『御飯の事はねー、』



母親の言葉に僅かな疑問を覚えて、少し質問する

すると、母親は僅かに笑い





















『お母さんが、小雪ちゃんに頼んでおいたからー。』














「……………………………………………………………………………………………へ?」





















電話越しから告げられた、母親の一言


その一言を聞いて、


ミナトは完全に凍りついていた。






















「ただいま戻りまシタ。」

「おおー戻ったか、態々ご苦労じゃったなルーよ。」


ミナトとイタチが帰り、私室で今日の後始末をしていると
川神院師範代のルーが姿を現した。


「聞きましたヨ。何でも、あの百代を打ち負かした者が現れた様デ?」

「うむ。実際に会ってみたが……アレは、相当強いぞ。」


そして、鉄心は今日起きた事をルーに説明する

一連の事を聞いて、ルーは納得した様に呟いた。


「……なるほど、代理ですか。貴方がそこまでの事をなさるという事は、その者は、よほどの強者なのですネ。」

「ウム。直接手合わせはしておらんが……釈迦堂以上の実力は秘めていそうじゃな。
それに強さだけでなく、礼儀もあり、礼節を重んじる。今の四天王には是非とも欲しい人材じゃったのでな。」

「……そうですね。」

「件の鉄ミナトも、四天王入りに当たっては申し分の無い実力を持っておった。
 有能な人材を二人も採用できたんじゃ…『緊急』の事態にしては、上出来じゃろ?」

「確かに。」



二人は一息吐き


鉄心は、この数日に起きた事を思い浮かべて










「しかし……まさかこの数日で、武道四天王が壊滅するとはの。」










その言葉を聞いて、ルーも重く頷く

先日の揚羽の一言から始まり、今日の百代の一件

そして、残りの二人

橘天衣と鉄乙女、この二人の事についてルーは川神院を空けていたのだ。



「……それで、どうじゃった? 二人の容態は…」

「……ハイ。」



鉄心の言葉に、ルーは再び頷いて答える。



「両者とも、手酷くやられた様でス。鉄乙女は全治二ヶ月、橘天衣は全治四ヶ月……こちらは、未だに意識が戻っていない様でス。
デスが、担当医師の話では二人共命に別状はなく、後遺症や障害の心配も無い様でス。」


「なるほど、それは何よりじゃ。」



鉄心は、そっと安堵の溜息を吐いた

そして、これが鉄心が多少の特別扱いをしてもミナトとイタチ
この二人を四天王入りさせたかった理由

そして、鉄ミナトが四天王入りを決定付けた理由でもある。


鉄乙女は二日前

橘天衣は昨日

詳しい状況は未だに把握しきれていないが、二人はある人物と決闘し…敗れたのだと言う。
最初は、あのイタチという男の可能性も考えたが…先程のやり取りで鉄心はイタチはシロと考えた。


二人が同一の人物に敗れたのかは、まだ分かっていない

相手の目的も分かっていない
現時点では、川神院の情報網に四天王を倒したと名乗りを上げた人間はいないからだ


武道四天王に勝てば、武の界隈では名が売れる……つまり、相手の狙いは名を売る事や地位ではない


いや、そもそも四天王を狙ってのことなのか

もしくは唯の偶然が重なっただけで、自分達が疑心暗鬼になっているだけなのか…それすらも分かっていない。


唯の偶然、純粋なる勝負、それなら何の問題もないのだが……この一件は、どこか「悪意」を感じる。


どちらにしろ、半端な人間では四天王を任せる事が出来ないのが現状だった。

だからこそ、鉄心はイタチに四天王入りを頼んだのだ。




「それで、詳しい話は聞けたのかね?」

「はい。鉄乙女から粗方の事情は聞けましタ……ですが、どうも相手に関してはその人物像がハッキリしまセン。
二日前の夜、突然決闘を申し込まれ、怪我はソレを受けた所による結果。

相手は黒いロングコートで身を包み更には頭からフードを目深くかぶり、顔も分からなかったそうでス……
ただ、声や体格の特徴から、相手は若い男の様に思えた…だ、そうデス。」

「……なるほど、ちょいと決め手に掛ける証言じゃのー。」



髭を擦りながら、鉄心は呟く

だがここで、ルーが何かを思い出した様に声を上げた



「…ですガ、それとは別に…鉄乙女は、妙な事を言っていましタ。」

「妙な事、じゃと?」

「…ハイ。何でも、アレは人間と手合わせしている感覚ではなかった……アレは、人以外の何かを相手にしている…
人間以外の何を相手にしている……そう、あれはまるで……」



「……まるで?」
























「まるで、人形を相手にしている様だった……と。」


























特別編第一部・終わり















後書き 今回で特別編は終了です。次回からは再びきみあるサイドの話になると思います。
    
    今回、色々とフラグを立たせてもらいました。
    近い内に、小雪も本編に参加すると思います。

    そして、本編最後に話に出てきた人物に関しては…まだ秘密です。
    例によって、オリキャラではありません(笑)

    それでは、次回も宜しくお願いします!!!







[3122] 君が主で忍が俺で(NARUTO×君が主で執事が俺で)第十九話
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2009/11/10 18:01




……夢…夢を見ている……





……赤と黒……

……たったそれだけの夢……

……唯ひたすら広がる赤と黒の空間……


……そこに、自分は立っている……



……ドコだ?……



……最初はそう思う……


……鼻腔を突く不快な臭い……

……足に纏わりつく気色悪い感触……

……鼓膜を刺激する不協和音……

……全てが不快……




……いや、既に不快というレベルではない……




……ここは、害だ……

……自分という人間を汚染する害悪以外の何物でもない……


……それを認識して、自分は行動に移す……


……早くここから出たい、抜け出したい……

……一時間も居れば、発狂してしまいそうだ……




……全ての不快を我慢して、目を凝らして、足を進める……

……害悪という名の感覚が、自分の五感に浸食する……



……しかし、それも徐々に変化が見える……

……だんだんと、感覚が慣れてきた……

……クリアになっていく、五つの感覚……





……やがて、そこが何なのか分かる……








……そこは地獄だった……













第十九話「信頼」













久遠寺家・早朝・更衣室兼洗面室


「ふあ~あ、ってアレ?」

「おはよう、朱子。」

「ん? ああ、おはよ……っていうか、相変わらず早起きねイタチ。」


洗面台の前で、朱子とイタチは軽く挨拶を交わす

朱子はまだ寝巻きの格好だが、既にイタチは執事服に着替えている

ほのかに湯気の香りがする事から、朱子が来る前にシャワーでも浴びていたのだろう。



「これでも警備を任されている身だからな。寝坊は不味くとも、早起きはしすぎても問題はないだろう。」

「…ま、その通りだとは思うけど……あんたさ、いつ寝てるの?」



ふと疑問に思った事を朱子はイタチに質問する

夜は大佐よりも遅くまで起きて夜間の警備に徹し、朝は食事係の自分よりも早起きをして仕事の準備をするイタチを見て

朱子は少し疑問に思ったからだ。


「睡眠なら仮眠を三時間ほど取った。」

「…はぁ!」


イタチの簡潔な返答に、朱子は驚愕の声を上げるが
イタチの表情は変わらず


「今までの生活が少し特殊だったからな、三日程度なら眠らなくとも問題なく仕事を出来る。
それに非番の日は多めに睡眠をとっているからな、仕事には何も支障はないから安心しろ。」

「……南斗星やハルが言ってたアレ…マジだったのかよ。」


呆れた様に朱子は呟く

嘗ては朱子も睡眠時間を削って仕事に励んだ時期もあったが、あの時はほんの数日でダウンした事を朱子は思い出し
目の前の男が如何に規格外な存在かという事を自覚した。


「…どうした?」

「あんたが如何にデタラメな存在か、改めて実感していただけよ。」

「…なるほど。」


どこか納得したかの様にイタチは呟く

そして、身だしなみのチェックを終えてドアに手を掛ける


「それでは俺は仕事に出る、朝食の仕込みは?」

「別に手伝いとかは良いわよ。後でドラを鳴らすからその時には集合しなさいよ。」

「了解。」


返事をして、イタチは仕事につく

そして、久遠寺家の一日が始まる




イタチの朝は早い

食事係りの朱子と美鳩が朝の六時には仕事の体勢に入っている事に対して

警備及び遊撃のイタチは朝の五時の段階で、既に仕事の体勢に入っている


起床した後、軽く体を解し、体操をして、体術の型をこなして、仕上げにチャクラのコントロールを繰り返す

その後、シャワーを浴びて汗を流した後に仕事着に着替える

朱子や美鳩も朝はシャワー室を使うため、鉢合わせしない為にもドアには鍵を掛けて
迅速に仕事の準備を終わらせた後に、鍵を開ける。

歯を磨き、身だしなみを整え、準備を終わらせると大体朱子達と入れ違いになる。


その後、使用人召集が掛かるまで朝の見回り及び郵便物のチェックを行い
屋敷の換気を行う



一通りの仕事を終わらせると、召集及び起床用のドラの音が響く


「よっし、全員揃ってるわね! それじゃあ今日も気合入れて仕事するわよ!!!」


朱子の言葉を聞いて、各々は仕事に就く

この時間帯、専属従者はそれぞれの主の下に向かいそれ以外の者は自己の判断で仕事を行う。

そして食事係りはその間に、使用人用の食事の準備をして
使用人の皆は、主達が起床するまでに朝食を済ませる


そして、朝食を取った後に各々は再び仕事に就く。


イタチは朝食の準備にあたり、リビングを軽く整理して食卓の準備をする。

そして朝に回収した郵便物をリビングに持ち込んでおいて、機会を見て受け取り主に手渡す。



「皆、おはよう。」

「good morning.」

「ふあ~あ、おはよー。」



朝食が出来上がる頃に主達はその姿を見せて、互いに挨拶を交わす。


「おはようございます。」


こうして、主達の朝食が終わるまではその傍に付き添い、それぞれの主のその日の予定を確認する。


朝食を終えた後は、それぞれが主の予定に合わせて行動を取る

森羅は仕事に備えての自己調整

未有は自宅待機

夢は登校の準備


森羅と夢を見送った後、屋敷に待機する使用人組はそれぞれがまた仕事を続ける。

イタチは基本遊撃な為、昼までの間はハルと共に屋敷の清掃を行う。



「それでは僕は三階を掃除するので、イタチさんは二階をお願いします。」

「分かった。」



モップと雑巾を持って、清掃に移る

この屋敷はとにかく広い、一箇所に長い時間は掛けられず、かと言って手を抜く事は論外


効率良く丁寧に、これが基本である。



「ああ、イタチさん。ちょっと良いですか?」

「何だ美鳩?」



窓拭きをしていると、声を掛けられて振り向く



「実はこの後未有ちゃんとお買い物に行くんですけど、少し買う物が多くて人手が必要なんですよ。
 悪いんですけど、お掃除が終わった後にでもお買い物に付き合って貰えませんか?」

「ああ、それなら構わん。ちょうど一段落着いたからな、そちらに向かおう。」

「了解です~。」



二階の清掃を粗方終わらせて、最後にハルのチェックを貰う
結果は合格。

その後に美鳩の元に行き、未有と美鳩とイタチの三人で商店街に買い物に向かう。


「悪いわねイタチ、私用でこんな事に付き合わせて。」

「いえ、仕事も一段落ついた所だったので問題ないです。」


未有の言葉を軽く返して、イタチは未有の後ろに就く

七浜市街を練り歩いて、未有の買い物をこなして、日用品や食材の買い足しを行う

そして、粗方の買い物を終えて帰路につく



そして、昼食



「んじゃ、サクサクっと食べちゃいな。」



キッチンに朱子の声が響く。
主が食事を済ませた後に、使用人は賄いという形で食事をとる


そして午後
いわゆる雑用をこなした後に、屋敷の見回りを行う


「……異常なし。」


異常がない事を確認して、キッチンに向かってお茶の準備をする

紅茶を準備して、茶菓子の準備をする

そして、未有の部屋に向かいドアをノックする。


「どうぞ。」

「失礼します。」


了承を得てから、入室する


「お茶を入れてきました、どうぞ。」

「あら、気が利くじゃない。ありがたく頂戴するわ。」


軽く雑談を交わした後に、退室する

屋敷内での雑用をこなし、中庭に向かう


「あれ、どうしたんですかイタチさん?」

「何か手伝う事はあるかと思ってな。」

「いえ、特にありませんよ。」


二人で何気なく会話を続けていると、




……ウオオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!……





遥か彼方から、そんな音が響く

否、それは唯の音ではない

良く聞けばそれは人の声、人の叫ぶ声だ


「……何だ?」

「何でしょう、この声?」


不思議に思って、イタチとハルは正門から顔を出す

万が一の事態に備えて、頭の中は戦闘用のスイッチを入れて迎撃態勢を整える

そして、その声はドンドン久遠寺家に近づいてきた


「ウオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!!!!」

「……アレ、この声?……っていうか、あの人…」


遥か遠方から道路を疾走する一つの影

それは人影
そして二人はその人物に見覚えがあった



「…あれ? ミナトさん?」

「あ、ハルさんにイタチくん! お仕事ご苦労様!!」



二人の姿を見つけて、ミナトは一礼する
身に纏っている服が学生服である事から、どうやら学校帰りなのであろう。



「学校の帰りですか? 随分早いですね?」

「ああ、俺は夢さんと違って部活には入っていないんで…っと、こうしてる場合じゃなかったあぁ!」



三人がそう言って会話をしていると、ミナトが走ってきた方向から凄まじい勢いで疾走する一つの影が映った


それは、雪の様に白い髪と肌の一人の少女
年の頃から考えて、多分あの川神百代と同年代程度の年だろう


その少女は、イタチ達と会話をするミナトの姿を確認すると



「ちぃ!! もう追いついてきたか!」

「あははははは! 見~つけた!! ミナトが僕から逃げられる筈が無いのだ~♪」

「っていうかユキ、学校はどうした!?」

「今日は半日なんだよ、だから問題ないのだ~♪」

「…っく、これがゆとり教育が生んだ現代の悲劇か! それじゃあイタチくんハルさん、また後で!!」



そう言ってミナトは再び駆け出していき、少女もその後に続いて楽しげな声と笑みと共に駆け出して行った。



「ねえ何で逃げるの~? 僕はただミナトの御飯を作って上げたいだけなのに~」

「すまないユキ、気持ちだけ貰っておく!!」

「あーまだ僕の事を馬鹿にしてるなー、もう僕は昔の僕では無いのだー!」

「じゃあユキに問題!! そばとうどん、マシュマロを使うのは!!?」

「両方!!」

「はい決めたああああぁぁぁぁ!!!! 絶対ユキにはウチの台所には上がらせない!!」

「えー!! 何でー! ミナトの意地悪! 人でなしー!!」



両者の疾走と共に遠ざかっていく声
正に台風一過の様なやり取り

その様子を、イタチとハルは呆然としながら見つめていた



「……な、何だったんでしょう?」

「分からん……まあ、見たところ大した事でも無いだろう。あれはじゃれ合っているだけだ。」



先のやり取りを思い出して、イタチはそう思う。

見たところあの二人は互いに顔見知りだった様であるし、会話の内容からそれなりの付き合いがある事も容易に想像できる

どうやらあの人はあの白い髪の少女から逃げているようだが、まあ心配はないだろう
あの人の表情にもそれなりの動揺は見られたが、それだけだ

もしも、あの人が本当に困って、追い詰められ、危険に晒される
その様な事態に陥っていたのなら、あの人が出る行動は大きく二つ


(……本当にその様な危機的状況なら、あの人は迎撃か術を用いた撤退を行う筈だからな……)


あの人の実力はこの身をもって知っている、あの少女もそれなりに身体能力は高い様だが……忍のそれには劣る。迎撃だけなら訳ない

そしてあの人が本気の撤退を選んだ場合、即座に時空間忍術や肉体活性を初めとする術を用いた撤退を行う筈

しかし、先の様子ではどちらも見受けられなかった


要はそういう事だ
あれは唯の戯れ、遊びの延長だ


イタチはそんな結論を出していた。



(……可能性の一つとして、その考えにすら及ばない程にあの人が動揺し、切迫し、パニックに陥っているという事も考えられるが……)



イタチは自分の知るミナトという人間の在り方を思い浮かべて…



(……まあ、それは無いか……)



その考えを、イタチは一蹴した。



ちなみにイタチがこの認識を改める事になるのは、この数日後の事である。








夕食
久遠寺家一同は食卓に揃っていた。

全員がテーブルに着いて、「いただきます!」と声を上げて、夕食に箸を伸ばした

久遠寺家はその拘りとして、夕食時は主・使用人問わずに皆が揃って食事をする決まりがあるのだ。


「……お、旨いなこの和風ハンバーグ。誰が作ったんだ?」

「ああ、それは自分です。」


森羅の問いに、イタチが答えた
どうやら今日のメインの一つはイタチが作ったらしい。


「ほう、なるほど……だがこれは初めて食べる味だな? ベニの味とも美鳩の味とも異なるが……」

「先日、千春と朱子の三人で買い物に行った時に立ち寄った店のものです。味が気に入ったので自分なりに再現したものです。」


森羅の疑問に、イタチは淡々と答える
その答えを聞いて、森羅は呆然とした表情を浮べて呟いた。


「……お前、本当にハイスペックだな……」

「もう、ここまで来ると私も感心の領域ですよ」


森羅の言葉を聞いて、朱子がどこか呆れた様に呟く
その顔には、以前の様な物々しい雰囲気はない


「……しっかしあんた、私の時もそうだけど……良く一回の実食でここまで再現できるわね
何かコツでもあるの?」

「難しい事などしていない、事は至って単純だ。覚えて解析する、ただコレだけだ」

「……それが難しいから聞いてるんだよ」


僅かに頬を引き攣らせながら、朱子は言う

朱子は前の一件の後、イタチが他人の料理を再現する様を一通り見た事がある。

確かにイタチは難しい事などしていなかった
再現する味をイメージして、それに見合った材料を選んで、一通りの調理をしながら味を整え
再現したい味に近づける

ただそれだけだ

これだけなら、調理経験のある人間なら誰しもが行う事

問題は、その精度だ。


イタチは食材と調味料の選定の段階で、既に七割から八割程の精度で材料を当てている

後はその食材の使い方と、調味料の分量と、味付けの仕方

この三行程を持って、イタチは残りの二割から三割の再現度を埋める

イタチはこの三つの行程の間に、「覚えている味」から「似ている味」に、「似ている味」から「同じ味」に近づけているのだ


要となるのは味覚の感度と、味や食感や匂いといったイメージを留める記憶力

分かり易く例えるなら
朱子の味覚の感度が10なら、舌を鋭敏化させたイタチの味覚の感度は50
朱子の感覚の記憶力が10なら、数分で難解な作戦内容を記憶するイタチの記憶力は100


つまり、性能の差である

勿論、料理の再現に至ってはそこに調理技術や食材の扱い等の要因は絡んでくる
現にイタチはイメージと同じ味に近づけているだけで、同じ味は作れていない。

今回の和風ハンバーグも、以前の朱子の料理を再現した時とは違って情報量は少なく
数日掛けて、その再現率はおよそ八割弱と言った程度だ


やはり最後の決め手は調理技術、という事である。
「単純」なイタチの調理技術を10とすれば、朱子の調理技術は1000を超えているだろう

如何に味覚と記憶力で技術をカバー出来ても限度がある
模倣限定のイタチと、人生の半分以上の時間を費やして調理技術を高めた朱子


それがイタチの料理と朱子の料理の、絶対的な差である。


「前にも言ったが、俺のは所詮猿真似だ。今までの特技がたまたま料理に関しても有効だっただけだ。
俺から言わせて貰えば、創作であれほどの味を出せる朱子や美鳩の方がよほど賛辞に値するものだが?」

「お、中々殊勝な事を言うじゃない」

「あらあら、改めて言われると結構照れるものですね~」



イタチの言葉に朱子は綻んだ様な笑みを、美鳩は楽しげな笑みを浮べて料理を口に運んだ

そして、思い付いた様に朱子は声を上げた


「あ、そうだ! イタチ、あんた今度私の料理研究に付き合いなさいよ」

「???……研究?」


イタチが首を傾げる
恐らく朱子の言う研究とは、たまに非番の日に遠出して有名料理店の品の味見のことだろう。


「そ、料理研究。あんたは食材や味付けの分析とかは、正直私よりも上だからね。
 あんたも一緒に来てくれれば、かなり効率良く研究ができそうなのよね」

(……ほう……)


その朱子の言葉を聞いて、森羅は楽しげな笑みを浮べた
今までの自分の従者からは考えられない光景を目の当たりして、森羅も少し思う所があった


「……アレ、どうしました森羅様?」

「いや、何でもない。ただ随分仲が良くなったなー、と思っただけだ」

「……はい?」


その森羅の言葉に、朱子は首を傾げるが
未有がクスクスと楽しげな笑みを浮べて


「まあ、確かにそうかもね。一時期は貴方達、犬猿の仲だったもの」

「っぅ!」

「そうだな。ベニがイタチに殴りかかった時を思い返せば、相当な変化だな?」

「んな…! もう、からかわないで下さい森羅様」

「ははは、スマンスマン。ベニは可愛いから、ついからかってしまいたくなるんだ」



森羅がそう言うと、食卓にいた皆もつられて笑い

終始和やかな空気で夕食の時間は過ぎていった。






そして、夕食の片付けをして

朱子の部屋で使用人一同はミーティングを行って、その日の業務は終了となるが

イタチとハルと錬の三人は、大佐の部屋に来ていた



「……ふむ、偶には男同士で酒を酌み交わすのも悪くはないな」



大佐はグラスにビールを注ぎながら、楽しげに言う


「まあ、確かにこういうのも良いな。
森羅様達と飲むのも楽しいけど、偶に目のやり場に困ったり、居づらくなったりするからな」

「ははは、森羅様はお酒が入ると少し過激な部分もあったりしますからね」

「個人的には、酒は控えて欲しいがな」


錬は大佐と同じビールを、イタチとハルはジュース

それぞれの飲み物を口にしながら、話に華を咲かせていた

話す事は仕事の事や個人の事、趣味の事や人間関係の事だ



「えぇ!! それじゃあ大佐とその人は同棲までしておきながら、結局分かれちゃったんですか!?」

「ああ、互いの育った生活環境が違いすぎたのが大きかったな。片や温室育ちの箱入りお嬢様
片や傭兵崩れの無骨な男……恋愛の内はそれで良かったが、人生の伴侶となるにはちょいと難が有りすぎたんだ」

「……やっぱ、大佐くらいになると色々な経験をしているんだな」



僅かにアルコールが回った状態で錬と大佐が話して、ハルが続く


「そういえば、錬兄は今まで彼女とかは?」

「んー、俺はずっと鳩ねえ一筋だからな。彼女いない歴=年齢だ」

「あははは、本当に錬兄は美鳩さんが好きなんですね」

「ああ、宇宙最高の姉だと思ってる。今まで俺は本当に鳩ねえに助けられて……救われてきたからな…」


少し苦い笑みを浮べて、錬は笑う
そして、強い意志を秘めた顔で言葉を繋げる



「だから、今度は俺が鳩ねえを助けていきたいと思っている! もうあのクソ親父に泣かされてたガキじゃなくて
立派な執事になって、一人前になった俺を見せて、鳩ねえを安心させる!! これが今の俺の第一目標だな!!!」



グっと握り拳を作って錬は宣言する
その言葉を聞いて、ハルはパチパチと拍手をした


「おおー! 錬兄、格好良いです!!」

「うむ、中々聞き応えのあるスペシャルな言葉だったぞ」

「……そうだな、家族を安心させる……立派な目標だ」


そこに居た皆は錬の言葉を賛辞して、錬は照れくさそうに笑った

そしてハルは視線をイタチに移した。


「イタチさんはどうでしたか? 今まで彼女とかは……」

「……ノーコメントだ」


ハルが質問をするが、イタチは僅かに考えてそう答えた。


「何だ何だ、一人だけだんまりはフェアじゃねえぞ」

「もしかして、イタチさんも僕たちと同じだったりします?」


ハルがどこか親近感を帯びた笑みを浮べて、イタチに尋ね


「まあ、人並みの恋愛経験はある…とだけ言っておく」

「おおー! これは貴重な証言!」

「って言うか、イタチが恋愛…………悪い、全く想像できん」


ハルが意外そうな声を上げて、錬が唸るように呟く

どうやら二人にとって、イタチの言葉は意外なものだったらしい


「でも、イタチさんってモテそうですよねー」

「……そうか?」

「そうですよー」


イタチが僅かに首を傾げる

イタチも確かに人並みの恋愛があり、恋人がいた事もある

しかし、「とある事情」で恋人を失って以来……イタチはまともに異性と付き合った覚えはない

まああるにはあるが、それはとても恋愛とは呼べるものではなかった


そんなやり取りをしていると、大佐は皆に視線を置いてゆっくりと呟いた。



「……まあ、お前達は皆若い。こういうのは巡り合わせだからな、焦って異性と恋仲になってもわしの様にロクな結果にならん事だってある
 こういうのは焦らずにじっくりと探すのが一番だ。人の出会いはめぐり合わせだ、今は居なくとも……
いずれ自分が生涯愛せる伴侶となる人と、めぐり合う時が必ず来るだろう」


「それじゃあ、まずは大佐の花嫁が最初だな」


錬が悪戯っぽくそう言うと、ハルもつられて笑って大佐もクスリと笑い



「小僧、余計な事を言わない事もスペシャルな男となる条件の一つだぞ?」



大佐がそう言うと部屋は軽い笑い声と、和やかな空気に包まれて

その日の男の付き合いは終始楽しいままに幕を閉じた。




























――夢…夢を見ている――



……赤と黒……

……たったそれだけの夢……

……唯ひたすら広がる赤と黒の空間……


……そこに、自分は立っている……




――ドコだ?――




……最初はそう思う……



……鼻腔を突く不快な臭い……

……足に纏わりつく気色悪い感触……

……鼓膜を刺激する不協和音……

……全てが不快……


……いや、既に不快というレベルではない……



――ここは、害だ――



……自分という人間を汚染する害悪以外の何物でもない……


……それを認識して、自分は行動に移す……


……早くここから出たい、抜け出したい……

……一時間も居れば、発狂してしまいそうだ……




……全ての不快を我慢して、目を凝らして、足を進める……

……害悪という名の感覚が、自分の五感に浸食する……



……足を進めると、グチャグチャとした不快な感触が広がる……

……耳には、絶え間なく何かの「音」……決して精神衛生上には良くない音が絶え間なく響いている……

……鼻には、鼻腔を突き抜けるような腐敗臭の様な臭いが常に付き纏っていた……





……しかし、それも徐々に変化が見える……

……だんだんと、感覚が慣れてきた……

……クリアになっていく、五つの感覚……



……自分の両目が光を取り戻し、視界が開ける……



……そして、自分の足元……自分の不快の原因に目を向ける……


















――自分ノ足元ニアッタノハ――






――嘗て自分ガ両親ト呼ンダ、腐肉ノ塊ダッタ――















「……っ!!!!!」



その瞬間、意識は覚醒し跳ね上がる様にイタチはベッドから身を起こした

体が燃える様に熱かった
それとは対照的に、脳は凍りついた様に冷えていた


咳き込む様に呼吸をして、酸素を貪る

汗は滝の様に流れていた


そして次に襲い掛かる、競り上がる様な胃の圧迫感



「……う、っぷ……ご、ぅ、ぇ……!!!!」



走った

即座に部屋から飛び出して、廊下を駆けてトイレに駆け込んだ



吐いた



耳障りな呻き声を上げながら、胃の中の物を全てブチ撒けた



胃液を含めた全ての内容物を便器に向かって吐き出した



胃液すらも出なくなり、激しく咳き込み、そこでようやく胃が落ち着いた



「……はあ。はあ……はぁ、はぁ…はあ……」



嘔吐物を流して、呼吸を整える

トイレから出て、洗面台で口元を洗って、口の中を洗う


両の掌で水を掬い、半分意識が剥離した様な状態で鏡に映る自分を見た



……無様な顔だ……



最初に、そう思った

こちらの世界に来て以来、イタチはまともに睡眠を取ったのは両手の指で数える程しかない

だがそれは、取る必要が無かったから取らなかったのではない



取ろうとしても、先の様に意識が覚醒してしまい……取りたくても、取れなかったのだ



思い出すのは、自分の一族に手を掛けたあの日

自分の両目に刻まれた、あの地獄の光景



イタチの両目に宿る写輪眼

その目に刻まれた情報は生涯決して消える事無く、永劫的に宿り続ける



イタチは、七年前のあの日から……ずっとこの地獄の光景と向き合ってきた


それは、久遠寺家に住む様になってからも変わらなかった






だからこそ、イタチは忘れずに済む






久遠寺家での生活に馴染みながらも、


自分を仲間の様に、家族の様に接してくれる人達と触れ合った生活をしても


死で死を覆う、血で血を洗う闘いに身を置く事無く、平穏な日々を過ごしても


穏やかな日々の中で、変わっていく自分を自覚しても



イタチは、忘れずに済む



自分が、罪人である事を



自分の両親、友、仲間、恋人……それら全てに手を掛けた血に濡れた存在



許されぬ咎を背負い、心の安寧など決して許されない忌まわしい存在



その事を忘れずに、心から自分と云う存在を認識できる



「……そうだ、これでいい」



自嘲と共に呟く



それは、イタチにとっては寧ろ喜ばしい事だった。






「何がこれで良いんですか?」






不意に、背後から声が響いた



「……美鳩か、何か用か?」

「あらあら、人の安眠を妨害しておいて随分な言い草ですね」



互いに向き合って、美鳩はどこか呆れた口調でイタチに返す
そして美鳩の言葉を聞いて、イタチは美鳩に言葉を返す。


「お前は未有様の寝室で寝ているとばかり思っていたが?」

「別に毎日という訳ではありません、私だって自分の部屋で寝る時だってありますよ。
それが急に隣の部屋でいきなりバタバタと騒いでくれるものですから、目が覚めてしまいましたよ」

「……そうか、すまなかった」


美鳩のどこか恨みがましい言葉を聞いて、素直に自分の非を認めてイタチは謝罪する

そして自室に戻るため、美鳩の隣をすり抜けようとするが



「そう言えば、この間も魘されていましたね?」

「……かもな」



何気ない美鳩の言葉が響く



「初めて会った時も、貴方は魘されていましたね?」

「……何が言いたい?」

「いえいえ、ただ大変そうだな~と思っただけです」



笑顔と共に、美鳩は呟く
そして次の瞬間には、その表情を引き締めた。





「……それで、今はどんな面倒事を抱えているんですか?」


「……っ」




僅かに、息が詰まった

その真剣な表情と視線と共に、美鳩はイタチに尋ねた

いつものお気楽的な空気は、今の美鳩からは感じられない

今のイタチを見て、美鳩は何かを感じる所があったのだろう



「別に面倒事など抱えていない、少し夢見が悪かっただけだ。」



溜息と共に、イタチは答える
その言葉に、嘘は含まれていない


ただ真実を隠しているだけだ。



「……そうですか」



そして、その答えを聞いて美鳩も口を閉ざす

僅かな沈黙、時間にすればおよそ数秒の静寂

沈黙を破ったのは、美鳩だった。



「イタチさん、少し質問をして良いですか?」

「……手短にな」



再び顔に微笑を浮べる美鳩を見て、イタチは答える
適当に付き合った方が面倒にはならない

そう判断したからだ。



「……イタチさんは、この久遠寺家が好きですか?」

「……?」


それは、予想外の質問
だが呆けたのは一瞬で、その問いについて簡潔に答えた。



「……そうだな、過ごした月日は短いが……好き、だな」



その言葉に嘘は無かった

その答えを聞いて、美鳩は満足気に頷いた
そして次の質問に移る。



「それでは、イタチさんは久遠寺家の皆さんを信用していますか?」

「信用が無かったら、少なくともここにはいないな」

「なるほど……それではイタチさん……」



一呼吸の間を置いて

美鳩は再び、イタチに尋ねた。









「久遠寺家の皆さんを、信頼していますか?」



































同日・同時刻
とある場所のとある一室



「……はーあ、まさかあそこで大穴が来るとはな……っち、やっぱあそこで止めておけば良かったぜ」



その一室で、男の声が響く。
その床には、古新聞、古雑誌、タバコにティッシュ……様々な物が乱雑に散らかっており

その部屋のテーブルにも、同じ様に物が乱雑に置かれている


その男は寝そべっていた状態から身を起こすと、そばにあったビール缶を手にとって中身を飲み干した。



「ちぃ! ついてねえな! 金づるはいなくなるし賭けは負けるし踏んだり蹴ったりだぜ!!!」



そう言って、男は手元にあった雑誌を壁に投げつける

そして、新しい缶に手を伸ばす。



「はーあ、面白くねえぜ……」



缶に口をつけて、グビグビと中身を飲む

視界の端で、先程投げた雑誌がとあるページで見開かれていた


何気なく、男はそれを目にする

そして、「ソレ」を偶然にも発見した。



「……おいおい、マジかよ?」



信じられない様に呟く

その声には、確かな驚きがあった

雑誌を手にとって、そのページを凝視する


そして、確信する。



「……ぷ、く……くくく……」



おかしい様に、男は噴き出す

そして次の瞬間



「くくく……くはははは! くはははははははははははははははははははははははははははあぁ!!!!」



その一室に、男の笑い声が響く

心の底から楽しそうに、男は顔を歪めて腹の底から笑い声を上げる

そして、一通り笑い終えて…再びその雑誌に目を向けた。







「ようやく見つけぜぇぇ息子おぉ」







男の声が響く

その雑誌のページには、「久遠寺森羅特集!!!」と大きく書かれ

森羅とその専属従者の写真が記載されていた……。















続く











後書き すいません! 更新が遅れました!! 最近は作者のリアルの方に事情がありまして……少し投稿が遅れました!

    さて、話は変わって本編ですが…今回は久しぶりの「きみある」サイド&イタチの超ネガティブモードです。今のイタチの精神状態を描かせて貰いました。
次回からは本編ではほぼ空気になっていた原作主人公の錬と美鳩、そしてイタチをメインに話を進めていく予定です。
    「前回の引きからコレかよ!!」と思った方々もいますでしょうが、どうかご容赦して下さい!!

     次回からは原点回帰……という訳ではありませんが、初期の路線に話は近くなると思います。


 追伸 小雪が本編に初登場でした。今回だけではミナトとの関係の全容は描けませんでしたが
    近い内に二人は本編に出てくる予定です。







[3122] 生存報告&お詫び
Name: 掃除当番◆b7c18566 ID:4ac72a85
Date: 2010/05/01 13:51

お詫び
 えーどうも皆さん、お久しぶりです。作者です。この半年間、更新が全く出来ずどうもすみませんでした。

自分の様な者が描いた拙い作品をいつも楽しみにしている読者の方々、本当に申し訳ありませんでした。

とりあえず、作者自身の事情によって今まで更新できませんでした。
去年の暮れの頃から、作者のリアルの事情がリアル修羅場を迎えていまして、それでこの半年間、更新ができませんでした

現状の報告としましては、作者はこのSSを投げ出した訳ではありません。
更新する気は満々です。

ですが、現状としては少し厳しい状態です。

今回は更新は出来ませんが、近日中には最新話は更新する予定です。
自分の作品をいつも読んでくれている方々へ、本当にありがとうございます。そして本当に申し訳ありませんでした。

出来ればこれからも、「君が主で忍が俺で」の応援を宜しくお願いします。

作者より。






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