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[31046] 【ネタ】僕と契約して、聖杯戦争のマスターになってよ!(fate/zero ×まどか☆マギカ)
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a8039561
Date: 2012/01/03 20:10
雨生龍之介は殺人鬼である。

主なターゲットは若い女性や幼い子供で、その殺し方は非常にバリエーション豊富かつ残虐。
被害者は両手の指の数を軽く超えており、証拠隠滅も完璧という、才能の使いどころを明らかに間違えているとしか思えない男だった。

しかし、彼は今のままでは『死の本質』を理解する事などできないだろうな、と考えていた。最近は、最初に姉を殺したときほどの死の実感が湧かないのだ。

フィクションの安っぽい死ではなく、本当の死。雨生龍之介はその実感と本質を求めていた。


「閉じろ閉じろ閉じろ閉じろ・・・。繰り返す事に四度、っと。
あれ、五度?
えっと、ただ満たされる時を破却する、だよなぁ・・・」


彼が今足で描いているのは魔方陣だ。実家の土蔵で発見した古文書の通りなら、これで「悪魔」が呼び出せる、らしい。


「んー、「触媒」? なにこれ。古文書の絵は・・・アクセサリーっぽい?」


パラパラと本をめくっていると、たまたま見落としていたページがあった事に気がついた。
それによると、悪魔を呼び出すには、魔方陣に何か置いた方がいいらしかった。
だが彼はそれらしい装飾品など持っていない。


「だったらこれを使うっきゃないよねぇ」


「ゔぅうーーー!!!」


「あり? これそんなに大切な指輪だった? そんなにいい品? ・・・だったら触媒にふさわしいかもねー。そう思わない、お嬢ちゃん」


「ゔぅ、んゔぅーーー!!」


その少女が身につけていた緑っぽい宝石がついた指輪。金目当てではないが、ちょっと気に入ったため取り上げておいたものだった。

少女は指輪を見てからさらに激しくもがき始めた。悪魔さんに
殺されてよと頼むと悲鳴を上げるが、予想通り猿ぐつわに拒まれる。そんな様子が面白くてたまらない。


「チャリーンってね」


魔方陣の中心にそれっぽい指輪を落とした。


「ははは! 悪魔に殺されるのってどんなだろうね? 貴重な体験だと・・・痛ッ!?」


突然激しい痛みを感じた。
驚く間もなく手の甲にわけのわからない模様が浮かび上がる。


「なんだ、これ。って、へ!?」


魔方陣が光った。


光って、

光って、

光って、

そこからあらわれたのは。









「僕と契約して、聖杯戦争のマスターになってよ!」


白くて小さなマスコットだった。





ーーーーーー





(せーはいせんそー? なにそれ。てかなにこれ? かわいいけど、これが「悪魔さん」なわけ? でも悪魔は相手を油断させるために親しみやすい姿を取るって聞いたことあるし、それかもなぁ。にしても耳? 耳なの? についてるリングとか超クールじゃん。さっすが! 喋れるのもいいよ。始めて見た! 俺動物愛好家なんだよね。なんて種類なんだろう。あ、悪魔か。ってそういうことじゃなくてさぁ!)


「僕はキュゥべえ。今回の聖杯戦争ではキャスターとして現界したよ。君の名前を教えてくれないかい?」


「あ、俺・・・? えっと、俺雨生龍之介。職業フリーター。趣味は人殺し全般。子供とか若い女とか好きです」


「・・・契約は完了だよ。頑張ろうね、龍之介。」


キュゥべえは尻尾を降りながら龍之介の足元・・・を通り過ぎて、縛っていた少女の元に歩いていった。
せっかくなので声をかける。


「あっそうだ。お近づきの印にさぁ、あれ食べない?」


「人間の肉は、スーパーなどの肉とは違って加工が加えられていない。栄養摂取の手段として理想的とは言えないね」


「えっそうなの?」


キュゥべえがもぞもぞと何かしている。気になって覗き込んでみれば、どうやったのか少女の猿ぐつわを外していた。


「ああ!? ちょ、なにしてんのさ!」


「たいしたことじゃないよ」


「っ! キュゥべえでしょ! 助けて! 私だよ!」


「え、お嬢ちゃん悪魔さんと知り合いだったの? なにそれ超クール」


「魔法少女・・・なるほど、触媒がソウルジェムだったからこそ僕が呼ばれたのか。龍之介が僕と似た人間には見えなかったけど、これなら納得がいく」


「キュゥべえってばぁ!」


今までぶつぶつとなにかつぶやいていたキュゥべえが、唐突に龍之介の方を向いた。


「龍之介、君は殺人鬼と称される人間だったよね。この子はどうしても君自身の手で殺したい子なのかい?」


「え・・・いや」


「なら丁度良かった」


キュゥべえは今まで通りの声で続ける。


「キュゥべえ、助けて・・・!」



「ねえ、君は魔法少女の真実について、興味はないかい?」







キュゥべえの営業トークと絶望の解釈を、龍之介がとても気に入り、仲良くなるのはしばらくあとのことであった。






ーーーーーー

【インキュベーター】
マスター:雨生龍之介
ランク=キャスター
属性:秩序・中庸
筋力:E
魔力:A
耐久:E
幸運:C
敏捷:C
宝具:EX

固有スキル
無限残機 A
殺しても次のQBがすぐ現れる。マスターを殺さない限りいくらでも現れる。同時に二匹以上行動する事も可能。

話術 B
自分の有利な状況になるように会話を進める事が可能。嘘はつかない。
カリスマB以上の者には聞きにくいが、そこは腕の見せ所。

陣地作成・道具作成 ??
インキュベーターの知識で様々なものが制作可能。ただし神聖はつかない。

宝具【僕と契約して魔法少女になってよ】
才能のある第二次成長期の少女を魔法少女にする事が可能。その際願い事を一つ叶える事ができる。ぶっちゃげ聖杯泣かせ。

ーーーーーー


無駄な事を好まないので、殺人ラブ龍之介とそれほど仲良くなれないかと思いきや、ペット的な意味で超クールだったので結局仲いい、的な。



[31046] ターゲットが決まったよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/01/02 12:57


(・・・夢オチ?)



龍之介は目が覚めた。やけに寝心地のいいベッドだ。なんだかとてもクールな夢を見ていた気がするのだが・・・。


(どこから夢だったんだろーなー。あ、じゃあ指輪を持ってた子そのまんま? 逃げてないかな。顔がバレるのはさすがにまずいよね)


「あ、起きましたか!」


(女の子?)


目に入ったのは金髪の若い女だった。今一年齢ははっきりわからないが、学生だろうか?


「んー・・・」


「良かったです。かなりの時間寝てらしたんですよ」


(かわいいなぁ)


嬉しそうに微笑む顔がとても可愛らしい。
自分がなぜこんなところにいるのか、そもそも少女は誰なのか、気にならなくなるくらいに。


「ふわぁーあ。・・・ねえ」


「? はい?」



「あんたの中、どうなってんの?」




龍之介は右手で枕元にあったペンを持ち、素早く振りかぶった。




ーーーーーー



「ごめんなさい! あの、本当にごめんなさい!」


「や、こっちこそ・・・」


結果からいえば、俺は少女を殺す事が出来なかった。さらにいえば、突然現れた黄色いリボンで両手と胴体を拘束されていた。宙ぶらりんである。わけがわからないよ。
龍之介は知らなかったのだが、少女は魔法少女だったのだ。殺人鬼だろうがなんだろうが、彼は紛れもない人間。悲しい事に両者には埋める事のできない力の差があった。


(うーん、なんで脳天えぐろうなんて発想でてきたんだろうなぁ。そんな殺し方全然クールじゃないのにさぁ)


首を捻る。
一気に殺したい衝動に駆られるなんて、らしくない。じっくりなぶり殺す事こそ最も命を味わう最高の手段だというのに! 殺してしまうと、綺麗な真っ赤な臓物はあっという間に腐ってしまう。何より表情がなくなる。
この女の子はとてもかわいい! 衝動で芸術を台無しにしかけるなんて。 龍之介は自分を責める。


「なんて事しそうになったんだよー、俺・・・」


「えーっと・・・」


「龍之介は魔女の結界に入ったからね」


「「キュゥべえ!」」


ちょっと気まずい空気を壊したのは、何時の間にかいたキュゥべえだった。


(悪魔がいる? って事は夢じゃなかったの?)


だとしたらクールだ。龍之介はキュゥべえに近づこうとしたが、リボンに阻まれ断念した。というかこのリボンなにもないところからでてきているんだけど、どうなってるの。


「魔女の結界、いや魔女の口づけが影響したのかしら。魔女本体を倒しても影響が残るなんて事あり得るの?」


「目にした相手を即、殺させようとする力だったのかもしれない。力を持続させる特性を持った魔女だったという可能性もあるしね。

それよりも、龍之介をおろしてあげた方がいいんじゃないかな。もう敵意もなさそうだし、しんどそうだよ」


「ああ!? ごめんなさい!」


「おおっと」


少女が手をかざすと、黄色いリボンは解けるように消えていった。ちょっとばかり手が痺れるが問題ない。
悪魔はこちらを向くと、話しかけてきた。


「あのあと龍之介は気絶したんだ。結界に入ったせいで魔女の魔力に当てられたんだろうね。
君は魔術の才能はあるけど、魔術師じゃない。勝手に勘違いした僕のミスだ」


「魔女?」


「それは私が説明しますね」


少女は話し始めた。魔女とか契約とかよくわかんないけど、話を要約すると、俺は魔女を退治しにきたこの子に助けられたらしい。


「ふーん」


「(反応薄い・・・それにしても、魔法少女や素質のある子以外にもキュゥべえが見える人がいるなんて。あとでキュゥべえにきっちり聞かせてもらわないと!)
そういえばまだ名乗ってませんでしたよね。私は巴マミっていいます」


「マミちゃんねぇ。あ、俺雨生龍之介。ところでここは?」


「見滝原にある私の家です」


「ふーん」





その後、しばらく話したあと、俺とマミちゃんはメルアドと住所のメモを交換した。心配してくれているらしい。うん、優しい子だ。

考えに没頭しながら、冬木への帰り道を歩く。結構近いので、徒歩でもまあ大丈夫なのだ。


(あんなにいい子だしなぁ。やっぱり考えぬいた方法で殺さないと、失礼だ。反省反省っと)


魔法とか魔女とかよくわからない。だがそれが自分の殺人のインスピレーションを高めてくれるもの、新しい視点から死を感じられるようになるものだという事だけはわかった。


(マミちゃんはかわいいし、いい子だ。だったら俺もできる限りの殺しをするのが礼儀だろう。
そうだ、次はとことん質にこだわってみよう。
いっぱい観察して、最高のアイデアを出して、しっかり予行練習もして・・・
そして、最高な方法でマミちゃんを殺そう)


いい目標を得た龍之介は、珍しく鼻歌交じりで足を進めていった。


((ご機嫌のところ申し訳ないけど。龍之介、帰宅後ちょっと話をして構わないかい?))


「!? ・・・どこから?」


((ああ、テレパシーみたいなものさ。声に出さずに念じてみて))


((・・・悪魔さまはそんな事までできるのかよ))


((聖杯戦争について、少し話をしたい。
あと僕は悪魔ではないよ。仮に悪魔を人間と契約する存在とするなら、間違ってはいないけど))


((ならキュゥべえさぁ。いいよ、話は聞く。あんたの絶望の解釈は超COOLだし。一緒にいれば、最高のアイデアが出せそうな気がするんだ))


((そうかい))









ーーーーーー
マミさん逃げて、超逃げて。



[31046] 超COOLだよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/01/03 19:44

「聖杯戦争・・・なるほどね。わかったよ」


「ずいぶん簡単に信じるんだね」


帰宅後、キュゥべえから聖杯戦争について説明をうけた。キュゥべえ自身、あっさり受けいれられた事に違和感があるようだった。だが俺にとってこれらのファンタジーは全て殺人のインスピレーションを上げてくれるものでしかない。一種のエンターテイメントだ。
自殺願望があるわけではないが、作品より命を優先するのは芸術家の恥だと思う。極限まで、ギリギリまで極めるのが一流ってものだ。俺はそれを目指したい。


「キュゥべえはさぁ。せーはい?にどんな事を願うつもりなの?」


「そういう龍之介はどうなんだい。聖杯に選ばれ、参加する決意をすぐにした君だ。戦いの運命を受け入れてまで、叶えたい望みがあったんだろう?」


「俺かぁ。うーん、望みはあるけど、それって自分で叶えてこそなんぼってものだし。願いはないよ」


「なんとなくなのかい?」


「強いていえば過程が望み」


「わけがわからないよ。過程とは目的の達成までにある段階のことだ。決して同一になることはない」


「んー、どうなんだろ。俺あんまりそういうムズカシイことわかんないんだよね」


そう言いながら腰をあげる。もう日は暮れていた。マミちゃんの家でケーキを食べたとはいえ、それで腹が満たされるわけではない。俺も健全な成人男性なのだ。
夕飯買いに行ってくるとだけ告げ、玄関にむかった。


「・・・今は聖杯戦争の真っ最中だよ?」


「『腹が減っては戦は出来ぬ』。家の食材、食べられなくなっちゃったしさぁ」


「魚や肉でも常温で放っていたのかい?」


靴を履いていた俺の肩にキュゥべえが飛び乗ってきた。なんか軽い。英霊って何でできているんだろうか。
鍵と財布を持っているのをきちんと確認してからドアを開けた。


「いや、人間。もう死んじゃってたし。それに体によくないんでしょ?」


せっかく生きたまま食べられるとどうなるのか試そうと思ってたのに。せめて腐る様子がみたかった。
続けてそう言うと「確かにもったいないね」と返された。

そういう返答をもらったのは、初めてだった。






ーーーーーー






「天に仰ぎ見るべき我を、同じ大地に立たせるかッ」


場所は倉庫街。ランサーが誘い、セイバーがそれに受けてたち、ライダーが乱入し、アーチャーが挑発に乗り現れ、そこにバーサーカーが加わった。
すでに脱落したアサシンを除外すれば、キャスターを除く全てのサーヴァントが集結したことになる。

さらに、アーチャーの背後から大量の宝具が現れた。それらは全てバーサーカーを狙っている。まさに発射されそうになったその時。

それは現れた。


「COOL! 最高だ! 超COOLだよアンタたち!」


唐突に叫んだ第三者の方向に全員が目を向けた。


(一般人!? 騒ぎすぎましたか・・・)


セイバーは目を細めて見る。それはラフな格好をした青年だった。恍惚とした表情でこちらを見ている。


「・・・主、どうしますか」


ランサーがマスターに指示を仰ぐ。
通常、サーヴァントやマスター同士の戦闘を見られた場合、一般人は速やかに始末するのが常識だ。
しかし・・・これだけのサーヴァントとマスターが集結している今、誰がそれを率先してやろうとするだろうか? 一般人を始末しようとした隙に己が襲撃されない保証はない。バーサーカーという理性のない者もいるため、話し合いで一時休戦・・・と言うわけにもいかない。金ピカのアーチャーもそのような取引に応じるとは思えなかった。


「あれ? 殺さないの?」
「うーん、そういうもの?」
「もっとCOOLを見せてくれよ!」
「アンタもこんなことできるの?」
「ふーん、まあいいや」


青年はあいかわらず一人で話し続けていた。


(・・・気違いか?)


セイバーがそう考えてしまったのも仕方が無い。恍惚とした表情で叫び続ける様はまさに気違いのそれだった。


「ふん。興がそれたわ」


はじめに動いたのはアーチャーだった。あっという間に法具をしまい、霊体化していく。


「・・・我々はどうしましょうか?」


セイバーは指示を仰いだ。


「そうね・・・」


アイリスフィール自身、むやみに一般人を殺したいわけではないが、この場合はしかたないだのだろうと諦めた。助けてやるという選択肢は最初からない。


「私達も・・・」


セイバーが負傷している今、このままバトルロワイアルを続けるわけにはいかない。引くと命じようとした時。


「!?」


「これは・・・!」


いきなり周りの景色が変わった。




ーーーーーー




「adfjgdoekowfhfndkdohshsk!!」

「snrificjewnsoxkehonnnsoguwodhiop!!」

「homuracha homhom!」



セイバーにはこれに見覚えがあった。


(魔物の領域か!? 現代にも存在していたとは・・・)


生前、国を治める際の悩みの種の一つだった化け物に、魔力の質が酷似していた。


「主? 主!?」


ランサーはおそらく、マスターとの連絡が途切れたことに驚いているのだろう。
生前の技術では領域内外の連絡は不可能だったが、長い時を経てもそれは変わらないらしい。


「ふむ、こりゃあ黒魔女か?」


「く、黒? というかライダーも知っいてるのか!?」


ライダーとそのマスターも知っているらしい。名称は異なるようだが、時代を超えた化け物というわけか。


「きゃあ!」


「なッ!」


アイリスフィールを襲った化け物を約束された勝利の剣(エクスカリバー)で切り伏せる。片腕でもこのくらいは余裕だ。


「僕も本物は初めて見るけど・・・一体? これはゴッホだし、ピカソなんて。有名どころのオンパレードじゃないか」


ライダーのマスターはつぶやいた。
聖杯からの情報からして、この魔物の手下は芸術を模しているようだった。


(さっきの気違いの青年は・・・はぐれましたか。やっかいですね)


セイバーは手下を片付け続けながら思考する。

バーサーカーは消えていた。魔力消費が段違いのサーヴァントだ。マスターの魔力供給が途切れたからだと予想した。


(ならばランサーもまずいのか?)


先ほどからランサーは最低限の動きで手下の攻撃を避けるばかりで、一切攻撃をしていない。


「セイバー、ライダーと一時的に協定を結びましょう」


「・・・はい」


さっさと魔物を倒してしまおう。ライダーの気質からして問題はあるまい。
セイバーはライダーに話しかけようとした。




「ちょっとちょっとぉ。そいつ使い魔だよ? 魔女はこっちだっての」

「ゆまだってたたかえるよ!」




「へ?」


ただ・・・残念な事に協定は結ばれる事なかった。

赤の少女と緑の幼女が現れたその数秒後、魔女は崩壊した。












ーーーーーー
原作でハイテンションじゃない龍之介の旦那以外との会話シーンが無いせいで、普段の口調がワカンネ。





[31046] 僕と契約して魔法少女になってよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/01/05 22:40


((龍之介は死にたいのかい?))


「・・・・・・」


((君が死ぬのは勝手だけど、僕が困るんだよ。グリーフシードを投げていなければどうなっていたか。想像するのは容易だよね))


「・・・・・・」


((龍之介?))


「COOLだ。こんなのだったんだね、聖杯戦争。死的にじゃないけど、モチベーションが上がったよ」


((そうかい?))


「殺そう。前言撤回、殺そう! マミちゃんには申し訳ないけど、とにかく殺そう!」



インキュベーターは英霊であり、現存している異例のサーヴァントである。
このインキュベーターは一度死んでいた。無限残機のインキュベーターも一度死んでいる。彼らは過去の個体だった。数多の英雄と奇跡、絶望を作り続けてきた英雄。
インキュベーターは一が全。種が滅びる事が無い限り、彼らの価値観ではそれは死では無い。故に、現存するサーヴァント。

インキュベーターは地球の人間と古来から接触したきた。人間の行動など、共感出来ずとも、解析できる自信はそれなりにあった。


((でも、龍之介の事はよくわからないよ))


「俺ね、今すっごい興奮してんの! すごいねサーヴァントって。超ファンタジーでリアルじゃん!」


((うん、とりあえず外で大声でサーヴァントとか言うのはやめようか))


そのあと、龍之介は幼女の手を引きながら帰宅しようとした。
偶々魔法少女の素質があったので、契約したら『助けて!』と願われたせいで逃げられた。
僕としてはなんの不満もないのだけれど、龍之介の気に障ったようで、キレられてナイフで頭を潰さfisjawsifoabai




もぐもぐきゅっぴい。わけがわからないよ。






ーーーーーー






冬木にある教会。そこの礼拝堂の中に、2人の人物がいた。
1人は、この教会の神父の息子、言峰綺礼。そして赤毛の少女は佐倉杏子といった。この二人は一応近所の教会の神父の子供同士・・・ということで、前々から交流があったのだ。決して仲がいいとは言えないが。


「相変わらず似合ってないよねぇ、その神父服」


「その林檎は、盗品か?」


「悪い?」


「キョーコ、とーひんってなに?」


「あー・・・貰ったんだよ、この林檎は」


窓から聞こえてきた幼女の声に、杏子はめんどくさそうに、だが律儀に答える。さながら姉妹のようだ。
だが、佐倉杏子の妹ではない。ならこの子供は何者なのか。


「佐倉、何の用もなしに来るお前ではない。要件はなんだ?」


「それをアンタが言う? あんなに馬鹿騒ぎしてさ、気づかないわけないじゃん」


杏子は林檎を丸かじりしながら返事をする。


「聖杯戦争。あたしにも一枚かませなよ」


「・・・佐倉杏子」


「安心すれば。願いなんてないしさ」


「ならば・・・」


介入する意味などないだろう。言峰の疑問を杏子は一蹴した。


「ただね、あたしと同じ間違いを犯しかけてる馬鹿見かけちゃったもんだからねぇ、綺礼おじちゃん? マスターなんだろ?」


戯けた調子で問いかけられる。
なぜ知っているのか。その疑問はとりあえず放棄し、質問の意図を考えた。

同じ間違い。聖杯戦争。願い。
いつまでたっても答えはでない。


「どういうことだ? だが安心しろ。私にも願いなどない」


「はぁ? だったらなんであんたがマスターになってるのさ?
御三家以外でマスターになる人物には、願いがあるもんなんでしょ?」


杏子の疑問はもっともだ。だが言峰自身、それがなぜなのかわからないのだから、答えようがなかった。

佐倉家が一家心中した次期、言峰は佐倉杏子と全く接触しなかった。事情を聞いたのみだ。
今思うと、あれは隣人愛をなせていなかったのだはないだろうか。
佐倉杏子は手助けしようと純粋に思う事が可能な人種だ。
・・・私は一体なんなのだろうか。言峰は苦悩する。

杏子は大きなため息をついた。


「・・・当てが外れたかなー。
聖杯戦争をネタにここに転がりこんでやろうと思ってたのにさ!」


「おいちょっと待て」


言峰はさっきとは180度変わった言葉に、思わずつっこんだ。


「ゆまもいるし、拠点が欲しかったんだよねー。三食風呂つき、魔女も多い。もってこいじゃん」


「・・・私の一存では決められんぞ」


ふざけんな。この時期になにを言っている。フリーダムさに思わず呆れた。


「アタシもゆまも自衛ならできる。頼むよ」


「よいではないか、綺礼」


「ギルガメッシュ・・・むやみに教会に近づくなと伝えていたはずだが」


「貴様ごときがこの我に指図するか?」


ゆまと戯れていた(正確には、遊んでいるゆまを眺めていた)らしいギルガメッシュが窓から顔を出した。並んでゆまも顔を出しているあたり、相性はいいのかもしれない。


「我は子供には寛大だぞ?」


ギルガメッシュは言う。


「なによりこやつらの第三魔法、興味が湧いた」


「(第三魔法?)ほら、そこの兄ちゃんもそう言ってるよ?」


鬼の首を取ったようなどや顔はやめてくれ。
アーチャーが賛同した時点で決まったも同然だが、とりあえず言峰は父親の下へ許可をとりにいった。



「ふん、我に感謝するが良い、子供」

(なんだこいつだっさい格好)





ーーーーーー





「龍之介、そろそろいいかい?」


「あー・・・うん、なんで生きてんの?」


「むやみやたたらと殺さないでほしいな。代わりならいくらでもあるけど、もったいないじゃないか。
あ、僕の目欲しいのかい?」


「や・・・いくらみたいだなーって。
というかさっきはごめんねー? 衝動的な行動はCOOLじゃないって反省した矢先に、ダメダメじゃん」


放り投げた旧べえの目を新べえが食べた。なんちゃって。


「もぐもぐきゅっぴい」


あ、やっぱ目も食べるんだ。


「固有スキルの無限残機 A だよ。僕は潰しても死なない」


なんかよくわかんないけど、すごいってことなのかなぁ。


「・・・さてと。でも、これで僕らの問題点が分かったよ。
はっきり言おう。僕らは聖杯戦争で勝ち残る事に向いていない」


「なんで?」


「いくつか理由はあるけど、強いて言えば2つある。

一つ。僕自身が弱すぎる事。
魔力と宝具を除けば死んでいるといっても過言ではない。宝具も直接戦闘には向かない。無限残機で多少は補えるとはいえ、龍之介を守り抜く事は難しい。

二つ。龍之介に魔術の心得がないこと。
グリーフシードは僕たちの重要な武器なのに、使う度に龍之介がふらふらになってたら、本末転倒だよね。流石に全く自衛出来ないのは困るよ」


あー、魔女だっけ?あれに近づくとなーんか頭痛くなるんだよね。吐き気もするし。


「手っ取り早いのは龍之介の強化だ。せめて魔女レベルには耐性をもってもらわないと」


「オーケイ。どうしたらいい?」


「そうだね。とりあえず・・・








僕と契約して魔法少女になってよ!」








「なるほどねー・・・ってふざけんなよ!?
いや俺男だし、魔法少女ってマミちゃんみたいな奴でしょ? だいたい俺願いなんてないし、ってそういやそんなことできるならキュゥべえせーはい?っていらないじゃん! そういうキモい趣味はないんだって! 魔法青年って名称変わっただけ・・・耳? 耳毛? 近づけんなって! ちょ、いやホント俺フリフリとかマジ勘bくぁwせdrftgyふじこlp




アッー!」










ーーーーーー
なんとなく龍之介魔改造。



[31046] 麻婆がとっても辛かったようだよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/01/07 23:09


「ふっふんふーん、よいしょって」


ぐちゃぐちゃぐちゃ。
暗い室内に音だけが響いた。
現在、雨生龍之介のアートの真っ最中だった。


「みてみて! マフラーぁっ♪」


「ひぃ、や!  いやぁ!」


「いいねいいね最高じゃん!」


「随分機嫌がいいね」


「そりゃあもちろん。もっぱらの悩みが解消されちゃって、もうね!」


龍之介は嬉しそうにメスをふる。それに合わせてコミカルに星や音符が現れて弾けては、すっと消えていく。
ただのメスではなかった。直接殺す傷は作らず、壊死をも防ぐ機能付きの彼固有の武器。

あのあとキュゥべえと契約するハメになった龍之介は魔法少女(青年?)になった。言葉にしなくても、ソウルジェムを精製する段階で、望みが浮き彫りになった。
雨生龍之介の他人に託す願いは「もっとCOOLなアートを作りたいから、そのためのいい道具が欲しい」というもの。
曲解されず叶った願いは、固有の能力という形で叶う事になった。
直接的な戦いには向いていないが、拷問には最適。それがこのメスだった(もちろん基礎的な能力は飛躍的に上がっている)。

昔からの悩みだった、人間の体のデリケートさ。それが解消して、アートのはばも一気に広がり、テンションはうなぎのぼりだ。


「マミちゃんはどんなふうに殺そうかなぁ。人間びっくり箱なんてどうだろう! 開ける度に、悲鳴と恐怖にまみれた顔が飛び出るの!」


「構造的に、難しくないかい?」


「理想を現実にするのが、アーティストの真髄だって!」


「それが、自分で叶えないと意味がない君の望みなのかい?」


「そんなと、こっ!」


「いや、いやぁぁあ!」


「あははははは!? ははは!」


ぐちゃぐちゃに悲鳴が混ざった。
少女は泣き叫ぶ。もがく。
成長途中の可愛らしい体はもはや原型をとどめていない。綺麗な色のウェーブのかかった髪も、今では赤黒い。
だがそれでも彼女は生きていた。

楽しくて楽しくて、龍之介は熱中し続けた。












prrrrrrr        prrrrrrr


pi



「もしもし。 あ、マミちゃん? いま? ちょっと趣味の真っ最中。マミちゃんは? ・・・お茶会? 今から? うーん、一時間後くらいでよかったらいくよ。ばいばーい」


ふう、と龍之介は息を吐いた。
こんなに長い間アートを作っていたのは初めてかもしれない。今までにない充実感に浸った。


「マミちゃんの人柄を知ることで、より良い殺し方が思い浮かぶかもしれないしなぁ。行こうか。
ケーキも美味しかったし」

「何度も言うようだけど、龍之介にはマスターの自覚が足りないよ」


「でもマミちゃんの方が優先度は高いんだよ」


口を尖らして文句を言う龍之介。不満そうなオーラーーー魔法による可視のものーーーがうっすら現れる。


「なら、むやみやたらと子供を殺すのはやめるべきだ。騒ぎすぎると残り全てのメンバーからターゲットにされるかもしれない」


「えー。でもまあアンタがそんなに言うなら・・・」


龍之介は変身を解きながら立ち上がる。

本人は着替える手間や服代が浮いてよかったと言う程度にしか考えていないが、変身後の姿が・・・やけにタキ◯ード仮面様そっくりなのだ。フリフリは嫌だが、魔法少女モノでマシな格好がこれしか浮かばなかったのだろう。つけてはいないが、仮面もある。
龍之介は殺人以外の想像力はそこまでないからね。キュゥべえは思う。

でもまあフリフリスカートとかじゃないからいいや(龍之介談)。


「んー、行こうか」


「そうだね」

手早く後処理を済ませた龍之介の頭に、キュゥべえは飛び乗った。
彼らは見滝原へ向かった。





「ところで薔薇は出さないのかい?」


「・・・・ 俺は、ぶ~らぶら~って言いながらサーカスのブランコに乗ったりしないからね」






ーーーーーー






正史ならキャスター討伐の知らせを出し、使い魔である意味賑わっていた冬木の教会。
しかし、今回雨生龍之介はそこまで大規模な犯罪を犯さなかった為、そのような連絡はなかった。

代わりに室内を賑わしていたのは今朝来たばかりの2人の少女、表面上は保護されたという形になっている佐倉杏子と千歳ゆまだ。
・・・この時期に教会に保護など、怪しい事この上ないのだが。ギルガメッシュ発案だけに、仕方ない。


「ごちそうさまでした」


「よし、えらいなゆま」


「ゆまお皿はこべるよ!」


るんるん気分で歩いていくゆま。落とすなよーと声をかける杏子が心なしか笑顔なのは、見間違いではないだろう。

ほのぼの空間から一転。少しはなれたところに言峰綺礼たたずんでいた。


(やはり昨夜の男、マスターだったか)


アサシンとの共感知覚。昨夜の乱入してきた男の独り言から察するに、あの男はマスターだ。いや、残るサーヴァントはキャスターなのだから通信魔術でも使っていたのかもしれない。それならあの気違い染みた叫びにも納得がいく。
また、言峰は魔術のまの字も知らない素人が偶々召喚したのではないかとも予測している。


(いや、それ以上に気になるのは・・・)


青年が幼女の手を引いて歩き始めたすぐあと、急に辺りが光だし見失ってしまった。
あの時ナニカが起こったに違いない。キャスターがアサシンに感づいたか、はたまた別の要因なのか。
ギルガメッシュの意味深な発言といい、佐倉杏子と千歳ゆまといい。想定外の事がよくこんなにも起こるものだ。


「随分浮かない顔してんじゃん」


「・・・そうか?」


「もしかしてその鉄面皮通常装備なの? うわー、久しぶりすぎて気づかなかったわ」


「・・・そうか」


何時の間にか「んまい棒」をかじっていた杏子が話しかけて来た。彼女の言葉通り最後に会ったのはかなり前になる。


「ところでさ。アタシ聖杯戦争の事願い事の為に殺しあうってことぐらいしか知らないんだけど、実際どうなの?」


「私に聞くな」


「アンタしかいないんだよ」


「・・・・・・」


勝手に話してもいいものか一瞬迷ったあと、言峰は話す事にした。聖杯戦争の存在を知っている上、教会に身をおいているのだ。色々と知らない方が危険だろう。


「代わりに第三魔法とやらの詳細を聞かせてもらおう」


「・・・ナニ、それ?」


「ギルガメッシュの言っていたものだ」


「あのパツ金の兄ちゃんのこと? あー、そういやあいつ変な感じしたな。人間じゃない、か」


「・・・ギルガメッシュはサーヴァントだ。第三魔法、天の杯(ヘブンズフィール)とは簡単に言えば魂の物質化による不死の実現だ」


「いやそんな専門用語使われても・・・
オイ今魂って言ったか?」


「・・・・・・」


「ソウルジェム・・・ったく、パツ金の話がマジってんなら、とんだ話じゃないか、あいつ・・・。やっぱりゆまは死ぬ気で止めるべきだったかもな」


「どこに行く?」


玄関に向かう杏子に声をかける。


「野暮用さ。対したことじゃない」


「・・・日がくれるまでには必ず戻れ」


「へー、心配してくれてるの? そんなことして、アンタになんの得があるのさ」


体が紅く光だし、あっという間に異なる服に変わる。
軽く手を降りながら杏子はゆらりと消えていった。


「!? 幻覚か・・・?」


ここまで見事な魔術の心得があるというなら、自衛だけでなく戦力として考えることができるかもしれない。時臣には報告すべきか。
しかし、それにしても・・・


(得だと? そんなものではない。神は隣人を愛せよと言っているのだから)


しかしそれは本当に己がしたいことなのか?
したいことも、「愉悦」もわからないような自分が言ってもいまいち説得力にかけた。

だが、今まで信じてきた神に疑問を抱くなど、言峰にはできない、してはならないことだった。


「切嗣君にも全然会えないし」


「おじさん、ごはんのマーボーさんすごくからかったぁ」


今更辛さがきたのだろうか。涙目のゆまが見上げてくる。
己の悩みが解消されるのは、まだまだ先のようだった。



(・・・結局なにも聞けてない)










ーーーーーー
ジル・ド・レェコスプレとフリフリスカートと幼女に魔改造と。迷って結局こうなった。



[31046] 綺麗な龍之介のターンだよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/01/09 15:34

「はい、どうぞ」


「ありがとね(やっぱりマミちゃんはかわいいなぁ)」


突然キュゥべえが部屋から出て行き、それを追っていくと龍之介がきていた。電話してから随分時間がたっていたらしい。落ち合った後部屋まで案内してケーキを振舞っていた。


(・・・それにしても、どうして頭の上にキュゥべえが乗っているのかしら)


一見チャラ男で目が死んでいる雨生龍之介の頭の上に魔法少女のマスコット。シュールにも程がある。


(でもこんなにも私の部屋が賑やかになるなんて・・・はじめてね)


振り向けば、魔法少女の素質がある2人の少女がいる。特例でキュゥべえが見えるという青年もいる。私を慕ってくれている。

私はもう一人ではない。

ああ、なんて幸せなんだろう。今までの孤独が報われた気がした。


「うわぁ。ひょっとしてマミさんの彼氏ですか? 流石大人です!」


「えっ? そ、そんなんじゃないわよ!」


「かっこいいです!」


「鹿目さんも!」


くだらない冗談を言って笑いあう。普通であるはずのことが、マミにはこの世で一番楽しいことだと思えた。


「ところでところで? お兄さんのお名前は? ワタクシ美樹さやかと申しまっす!」


「私は鹿目まどかです」


「俺は雨生龍之介。よろしくねー(うーんかわいいけど、やっぱりマミちゃんが一番好みかな)」


少し無気力な雰囲気で龍之介は返事をした。


「で、龍之介さんも変身とかしちゃうわけですか? 魔法青年な訳ですか!?」


「(この子ちょっとうるさいなぁ)魔女退治なんてしたことないよ」


「なんだぁ」


さやかはあからさまに残念そうな顔をする。


「美樹さんは元気ね」


思わず本音が出た。


「へへー、それがとりえですから!」


「さやかちゃん・・・」


ノリノリでポーズを決めるさやかに、苦笑いで突っ込むまどか。いいコンビである。



「彼女たちは、魔法少女候補なんです。魔女の説明もしたんですよ」


「ふーん(紅茶おいしいなぁ)」


「キュゥべえに選ばれる子は、それなりにいますから」


「ほー(俺みたいに悪魔呼ぼうとする子がたくさんいるなんて、世界はまだまだCOOLだなぁ)」


「それで、魔法少女になるのは一時保留して、体験ツアーをやっているんです!」


「へー(あ、今笑った瞬間胸ゆれた)」


「・・・ひょっとして雨生さん興味ありません?」


さやかが口を挟む。それほどまでに龍之介は無気力だった。
マミはその無気力な返事を気にしていないようだったが。


「いやー、さっきまでアート作っててさぁ。すっごいハイテンションだった反動がきたみたいなんだよねー(あの子の顔、かわいかったなぁ)」


「アートですとうぅ! もしかしなくても芸術家ですか?」


「すごいです」


後輩2人組は興味津々だ。大人しいまどかでさえも目を輝かせている。
微笑ましいのだが・・・マミにとってはちょっぴりつまらない。さっきまで独り占めしていた目線を取られて、嫉妬してしまったのだ。


(もう、私ったらなんてこと考えてるのかしら)


ため息をつく。自分の子供っぽい考えに呆れてしまった。


「さて、魔女が出るかは分からないけど、早速魔法少女体験ツアーをはじめましょうか」


「はーい! 了解でありますマミさん!」


「よろしくお願いします!」


「龍之介さんもご一緒にどうですか?」


「あー、マミちゃんが行くなら?(にしても肌綺麗だな・・うん、この美しさを生かした作品にしよう。びっくり箱は保留かな)」


「んなーぁぁ! もうお二人はそんな仲になっていたというのか!」


「もう、美樹さんったら!」


「さやかちゃん・・・」


こうして、魔法少女と候補生二人にマスコット+殺人鬼による前代未聞の魔法少女体験ツアーがはじまったのだった。





ーーーーーー





「きゃあ!」


可憐なる美少女戦士マミに襲いかかる危機!


「マミさぁぁぁぁぁぁん!!」


襲いくる薔薇の魔女!


「マミさん!」


絶体絶命の危機!


そこに一輪の薔薇と共に空中ブランコに乗った黒い影が現れるっ!


「ぶ~らぶら~(キリツ」


「あ、あなたは!?」


「泣いてばかりでは何も解決しないぞ巴マミ!(キリツ」


「いや泣いてません」


「あなたは・・・!! タキシード龍ちゃん様!!」


「さやかちゃん・・・」


タキシード龍ちゃん様が武器を構える。・・・ただしそれはステッキではなく身の丈ほどもある巨大なメスだ。


切っ先を引きずりながら一回転回ると軌跡に沿って真っ赤な細いラインが現れる。

そこから大きく振りかぶりながらの跳躍!


「タキシード・ラ・スモーキング・ボンバーァァァ(メス)」


どかーん
きゃー

ぱきーん



渾身の一撃がクリーンヒットし、薔薇の魔女が崩壊した。
パキリ。結界にヒビが入り、現実世界に戻ることができた。


すちゃっ


見事に着地したタキシード龍ちゃん様・・・もとい雨生龍之介は、しばらく硬直した後変身をとき、


思い切り頭を抱えた。


「りゅ、龍之介さん?」


まどかがおそるおそる話しかける。
変身をといたマミもかけよってきた。
ちなみにさやかはニヤニヤしている。


「雨生さん、あなた今のは・・・」


「怪我でもしたんですかっ?」


「まどかぁ、そういうときはそう言うんじゃないんだぞー」


「さやかちゃん?」


さやかがまどかの前にでながらそう告げる。
ニヤニヤ。その表情を一切崩すことなく、さやかは話した。




「雨生さん、セーラー◯ーン好きだったんですかwww」




「違う! 断じて違うから!」


がばっ! 龍之介は勢いよく頭を上げた。


「いやいや、セー◯ームーンは世代を超えた名作ですし恥ずかしがらなくてもwww」


「だから、違うんだって! なんかテンションがおかしくなっただけなんだって! 絶対魔女の影響だし! こんなの全然COOLじゃねぇ!」


「技名まで覚えて置いて今更恥ずかしがらなくてもいいですよwww」


「それは姉貴に無理やり付き合わされて見てただけだし! ああもう、俺人間として終わった! 駄目すぎる!」


「タキシード龍ちゃん様www」


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


「さやかちゃん・・・」


龍之介は再び頭を抱えて叫ぶ。魔術耐性がついたために、はじめて魔女をハッキリと認識した。そのせいかテンションがおかしくなり暴走してしまった、というのが現状だ。


「おれは しょうきにもどった!」


「再犯フラグ乙www」


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


「さやかちゃん・・・」


今だニヤニヤといじり倒すさやか。こうなるとさやかは強い。
仁美不在のため、まどかには止められない。


「なんか・・・」


「止められないわねぇ・・・」


苦笑いをして、事態の収集を諦めるまどかとマミ。
なぜ魔法青年?になっているのか。というかあれはそもそもキュゥべえとの契約によるものなのか。
疑問はたくさんあるが、この状況では龍之介本人に聞くことは叶うまい。


「えっと、キュゥべえ。いるかしら?」


「ここにいるよ、マミ」


キュゥべえはぴょっこりと足元からかおを出してきた。


「事情、説明してくれない?」


「構わないよ。簡潔にいうと、龍之介は魔法少女だ」


「(少女・・・)やっぱり。でも、前回あった時は契約前だった様だし、さっきだって魔女退治などしたことがないと言っていたみたいだけど」


「確かに魔女退治は初めてだよ。契約したのは昨晩遅くだったからね」


「・・・ねえキュゥべえ、龍之介さんはどんな願いで契約したの?」


「鹿目さん、そういうことは本人に直接聞くものよ」


「あっ・・・!」


マミの件を思い出したのだろう。まどかは声を上げた。
まどかが他人の願いを知りたがっているのは、魔法少女に憧れている為だろう。


「龍之介の場合、とある事情で急速に力が必要だったからね。むしろそちらが目的だった。
願いはそこまで大きなことではない。彼の願いは「アート作りのための良い道具が欲しい」というものだ」


「アートかぁ。どこまでも芸術家なんだね。そういえばどんなアートなんだろう」


「立体的な像・・・素材を生かしたものばかりさ。彼の発想には僕も驚かされるばかりだよ」


「へぇ、かっこいいなぁ」


まどかはそう呟く。
言峰綺礼と種類は違えど、魔法に出会うまでの彼女もまた、自分のしたいことや、なりたい姿がわからない人物だった。
明確な目標を持ち、それに向かって努力をしている。それは彼女が憧れるには十分条件をみたしていた。


「龍之介のアートはまどかの理解の範疇を超えていると思うよ?」


「えっと、個性的ってこと?」


「あそこまで個性的なアートを僕は見たことがないよ」


「ふーん、見てみたいなぁ。そうだ、頼んできてみます!」


まどかは嬉しそうにさやかと龍之介の方へ向かって行った。

しばらくの沈黙。



「・・・キュゥべえ、そろそろいいかしら。とある事情っていうのはなに?」


さっきのほのぼのとした表情が一変して、真面目な顔をするマミ。

キュゥべえの言ったとある事情。まどかはさらりと流していたが、それは一体なんなのか。

普通に生活していく上で、魔法少女並のスペックは必要ない。グリーフシードが必要な分、邪魔とさえ言えるだろう。
それでも必要だった力。


「なんらかの事件に巻き込まれているの? 手助けはできないかしら」


「それこそ直接聞いて見るべきことなんじゃないかな、マミ」


「それもそうね。よし、ちょっと遅いけどもう一度私の部屋に戻って事情を聞いてみましょうか」


「それがいいだろう」


マミも三人の元へ行くことにした。もちろん薔薇の魔女のグリーフシードは回収済みだ。これについての説明もしなくてはならない。


わーわーきゃーきゃーと騒いでいる三人に声をかけようとして・・・



「やぁっと見つけた。手間かけさせやがって」



赤い少女が舞い降りた。



長い髪、赤い槍、幼さの残る顔立ちに鋭い目。
マミはその正体を知っていた。



「佐倉・・・さん?」


「さあキュゥべえ。ソウルジェムの正体について、教えなよ」













ーーーーーー
ほむほむ「超展開すぎて出るタイミング逃した」



[31046] 赤い子との接触だよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/01/11 21:28



「私、龍之介さんのアートみてみたいです!」


「・・・え?」


人生最大の恥との葛藤を続けていた龍之介は、唐突にかけられたまどかの声に戸惑った。

己のアートは大衆には理解を得られない。

だからこそ、法があり、警察がある。
なぜ理解されないのか只々疑問だが。常識として、龍之介はそれを受け入れてしていた。
会ってから間もないが、この少女だって大衆側の人間だろう。


「うーん、どうしても?」


「はい! だってかっこいいじゃないですか!」


「や、知らないでしょ。俺の目標」


「確かにそれは知らないけれど・・・気になって」


「いやでも」


「それにキュゥべえから聞きましたし」


「・・・は?」


キュゥべえ。俺のアートを否定しなかった唯一の存在であり、COOLな力を与えてくれた存在。
今度こそ本当に耳を疑った。

この少女は、さっきなんと言った?
キュゥべえがこの少女に、話したと?
俺のアートが何か全てを知った上で、かっこいいと?

もしかして、いや本当に、この少女は理解者なのではないか?
ヒトは見た目が九割。しかしこの少女の残り一割はとてつもなくCOOLだった。想像していなかった仮説に、龍之介はゾクゾクする。


「本当にキュゥべえから聞いた?」


「はい」


「本当の本当に?」


「? はい」


「・・・・・・」


唐突に黙る龍之介に、まどかは何か禁句を言ったのではないかと焦る。
ぞれはあながち間違いではないのだが、本人に知る由も無い。


「さやかちゃん、私・・・」


「どうしたんですか、龍之介さん?」


二人は顔を覗き込む。


「ぐ」


「ぐ?」


「グゥゥゥゥゥレェェイト!!!」


「あ痛ッ!?」


いきなり上げた頭がさやかの顔面に直撃するが、龍之介は気にしない。
まさかこんなところで同士が見つかるとは。
想定外の喜びにさっきまでのことなど全て吹っ飛んだ。

桃色の少女の両手を掴み、思い切り上下する。


「超クールだよアンタ! まさかこんなところで同士に会えるなんて思ってもいなかった!」


「わっ、きゃっ、龍之介さん!?」


「そうだ、俺の家に招待しようか! まだアートが残ってる! 俺が丹精込めて作ったんだ!」


「龍之介さん、離してくださいってばぁ!」


「あ、ごめん。そういえば名前は?」


「鹿目まどかです。って言った気がするんですけど・・・」


「そうだっけ。でもまあそんなチンケなことはどうでもいい。今からでも俺の家に来ない?」


少し落ち着いてきたのか、声のトーンを落として改めて誘う。
だが、龍之介の目は今までの死んでいたのが信じられないほどキラキラ輝いていた。


「・・・龍之介さんさぁ」


「さやかちゃん?」


顔面を抑えていたさやかが低い声を出す。なにやら黒いオーラが出ているのは気のせいだろうか。


「えーっと、アンタの名前はなんだっけ?」


「ふざけんなぁぁぁぁ!」


さやかの怒りが爆発した。


「へ?」


龍之介は何が悪いのか悪いのかまるでわかっていなさそうな顔だった。
まどかは、これではさすがにさやかも怒るだろうと思った。


「まどかは私の嫁になるのだ! アンタにはやらん!」


「さやかちゃん、そこなの!?」


「まどか、男は狼なんだぞ! ホイホイついてったら駄目じゃん!」


「俺はまどかちゃんにアートを見せたいだけだし」


言い合い始めた二人。


(うーん、龍之介さんすごく喜んでるみたいだけど、私実物知ってるわけじゃないんだよね。今更言いにくいなぁ)


まどかはちょっと悩んだ後、まあ見てから考えればいいかと開き直った。あんなに頑張って作っているのだ。きっと素敵なものなのだろう。


「とにかく最高だ! そうだ、あんた程のやつならふさわしい! マミちゃんの・・・」





「やぁっと見つけた。手間かけさせやがって」





「え?」


ゆらりと、赤い少女が降ってきた。
ふわふわと幻想的で、はっきりと姿を見ることはできない。


「佐倉・・・さん?」


マミがそうつぶやく。
この少女は一体何者だ?


「さあキュゥべえ。ソウルジェムの正体について、教えなよ」


赤い少女はそう言いながら、キュゥべえに槍の切先を向けた。






ーーーーーー






「うーん、杏子。もしかして最近魔術師と接触したかい? あ、魔術は詳しく話せば長くなるけど、龍之介が僕のことが見える事にちょっと関係しているんだ。魔法少女以外の異能を操るモノや異能そのもののことだよ。魔法少女が個人の才能による力だとすれば、魔術師は積み上げられてきた歴史の力だ。ちょっと種類が違っていて、魔術回路という存在が要でね。魔術版のソウルジェムってところかな。まあ別物とはいえ、魔術回路のできと因果律は関係性があるから、魔法少女としての才能と基本的に比例しているモノなんだけど。
・・・杏子、痛いよ。だから槍の先で突っつくのはやめてくれないかい。話が逸れているって? 痛、痛いよ杏子! 刺さってるって!
まったく、酷いよ杏子。まどかも助けてくれてありがとう。
えっと。ソウルジェム、日本語に訳せば魂の宝石。これがソウルジェムの正体だ。名は体を表すとはまさにこれのことだよね。本来は体とハートは一緒にあるモノなんだけど、君たちはそれをソウルジェムにすることで魔法を使っているんだ。一人一人輝きが違うのはそのためさ。みんなそれぞれの希望を持ってるからね。
さらに言えば、ハートのパワーは、あらゆる限界を凌駕する。希望を持てば持つほど輝きも増すだろう。大切なものだから、最優先で守るべき箇所だよ!」


きゅっぴい! 長ゼリフを言い切ったキュゥべえは、妙に達成感のある表情をしていた。・・・少なくとも杏子はそう受け取った。それが、無性に、腹が立つ。


「要するに、私たちはこんな石ころにされた様なもんじゃねーか!」


「きゅっぴい!?」


杏子は首根っこを掴んで思い切り持ち上げる。


「なんでそんな大事なこと言わなかったんだよ!」


「だからソウル(魂)だって言ったじゃないか」


「餓鬼が英語なんて分かるかぁっ!」


「あばばば」


ゆさゆさゆさと縦横に揺さぶる。端から見れば動物虐待そのものだ。
よくある魔法少女もののアニメを見慣れたまどかとさやかにとってもそれは変わらない。
耐えられなくなり、さやかが口を挟んだ。


「ちょっとアンタ! いくらなんでも言いすぎじゃないの? ソウルが魂ってことなんて、今時小学生だって知ってるよ!」


「はぁ? トーシローが、アタシたちの問題に口出さないでくれる?」


「なっ! 私だって魔法少女候補だし。それに、ハートの宝石の何が悪いのよ! 石ころなんて言いすぎじゃない!」


「ふざけんな! 大体アタシだけならまだしも、ゆまも巻き込まれてるんだよ!」


「・・・ふふ、よかった。いつもの佐倉さんで」


「マミ(さん)?」


さやかと杏子の言い合いに歯止めをかけたのは、マミの笑い声だった。
小さいけれど、よく通る。不思議な声だった。


「そういえば、マミさんこの人と知り合いなんですか?」


まどかが尋ねる。


「佐倉さんとは、昔組んでたことがあってね。その頃と雰囲気は随分変わってしまっていたけれど、根っこは変わっていないのね」


「何を根拠に・・・」


「だって佐倉さん、ゆまって人のためにここまで来たのでしょう? 魔法が漏れてるわよ。誰かのためにそこまで感情を高ぶらせることができる。佐倉さんってそういう人よ」


マミは笑う。とてもとても嬉しそうに。
手を切ったのは杏子の方からだというのに、それを根に持たず、あまつさえ心配までする。
だから苦手なんだよ。甘ったるくて付き合いきれない。杏子は内心愚痴った。


「・・・そう言うマミは、未だに使い魔まで全部きっちり倒してるのかよ」


「それが魔法少女の務めですもの。
そうだ、佐倉さんさえ良ければ、また組みましょう? いつでも構わないから」


マミは掌を杏子に向けて差し出した。
杏子は初めは無視していたが、マミの期待に満ちた瞳に耐えきれなくなり、投げやりに握手をした。


「まあ、ゆまもいるしな・・・たまになら来てやらないこともないよ。
で、そっちは魔法少女候補だっけ? なんで男がいるのさ。アンタ誰?」


杏子に名前を聞かれた龍之介は素直に名前を答えた。


「ふーん、キュゥべえが見える、ねぇ。また変わったやつもいたもん・・・・?
おい、雨生だったか。手を出せ」


「ん、なんで?」


杏子を除く四人が、疑問に思った。
杏子はブツブツ言いながら、龍之介の手の甲の刺青らしきものをしげしげと観察している。



そして大爆笑した。



「佐倉さん?」


「ん、君どうしたの? 急に笑い出すのは流石に俺も引くわー」


お前が言うな。まどかとさやかはそう思ったが、声には出さなかった。


「ははは!? おいおいマジかよ! もしかしなくても、そういうことか!? いいじゃん!
おい、マミ。アンタはこいつの味方か?」


「え、ええ。まあそうだけど。どうして?」


「なら悪いけど、前言撤回だ。マミとは組めない」


とん、と軽く跳ねて距離をとった。


「佐倉さん? どうしてなの?」


マミは驚いた様な顔で尋ねる。
そんな彼女に対して、杏子はニヤッと笑いながら返事した。


「次会う時は、聖杯戦争だ。楽しみにしてるよ」



その時、龍之介には表情がないはずのキュゥべえが笑ったように見えた。














ーーーーーー
アサシンとキャスターの令呪って、似てね?



[31046] アインツベルン城での出来事だよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/01/14 22:29
アイリスフィールは結界からの警告に気づいた。結界への侵入者だ。
聖杯戦争の最中なので、それ自体はおかしくともなんともない。しかし、その正体が彼女にはまったくわからなかった。
水晶玉を使った千里眼で見て見れば、感じた通りの姿が現れる。アジア系の顔立ちの黒髪の少女。だが姿を見ただけではわからない嫌悪感がアイリスフィールを襲う。


「サーヴァントの気配はありません。ですが、マスターが単身攻めてくるとは考えにくい」


「そうね」


「では雇われの魔術師か、人型の使い魔でしょうか。
・・・アイリスフィール?」


アイリスフィールの異変を感じ取ったのか、セイバーが声をかける。
だが、この違和感は言葉だけでは伝えられない。


(まるで9年前の切嗣のような目。なぜ、あんな幼い少女があの目をしているの?)


あれは使い魔の様な作り物がする目ではない。勿論一般人ができる様な目でもない。感情があったはずなのに、目的のためにそれを殺している者の目だ。
日本は非常に安全な国だと、アイリスフィールも聞いていた。
だというのに、なぜあの様な目をしているのだろうか。


「私が迎え撃ちましょうか?」


「いいえ、切嗣に聞いてみないと」


「どうしたアイリ」


「切嗣!」


騒いでいるのに気がついたのか、切嗣がやって来た。


「侵入者か」


切嗣に水晶玉を見せるため、アイリスフィールは体をずらした。


「これは・・・」


少女の手にある銃を見て、驚きの声をあげた。世界広しといえども、己の他にも重火器を使用する魔術師がいたとは、と切嗣は思った。噂くらいあってもいいはずだが。


「心当たりはありますか?」


セイバーが問うが、それを無視して切嗣はアイリスフィールの方をむいた。


「転移か。高度な魔術だ。幻覚にしてはタイムラグが少なすぎる上、君を完璧に騙せるとも思えない。
力を見せつけていると見ていいだろう。
もしくは・・・」


切嗣はそれっきり黙る。何か思案している様だ。


「罠は、今のところ全て転移でかわされているの。ほぼまっすぐこちらへ向かってくるけれど、どうすれば」


「罠は適度に発動させたままにしておいてくれ。突然なくなれば警戒させる。
他に気配はないか?」


「おそらくは」


もう一度、目を閉じて集中してみるが、それらしい気配はなかった。


「僕と舞弥が行こう。アイリはセイバーを連れていつでも撤退できる準備を」


「切嗣?」


アイリスフィールは驚いた顔をした。売られた喧嘩を真正面から買うという。おおよそ、彼らしくない発言だった。


「あの目は、純粋な魔術師がするものではない。狡猾な狩人の目だ。ついて来られたところで足でまといになる。
後手に回ってはいけない」


「マスター! 確かに私今は片腕は使えませんが、ただの魔術師に負けるつもりはない!」


セイバーは叫ぶ。
しかし、その怒りの声さえも切嗣は当たり前の様に無視し、続けて喋った。


「舞弥、予備の弾薬も持って来てくれないか。
アイリ、待っていてくれ」


「・・・ええ。気をつけて」


アイリスフィールは一瞬セイバーの方に目線をやった後、返事をした。


「私は・・・」


セイバーの声は、最後まで続くことなく途切れた。






ーーーーーー






(聖杯戦争、ですって?)


時止めで罠を的確に交わしながら、ほむらは思考する。

今までのループでも、イレギュラーな出来事は多々あった。

上條恭介がギタリストだったこともある。
千歳ゆまが佐倉杏子に保護されていることもある。
手を下すまでもなく、美国織莉子が自殺していたこともある。
ジェム摘み(ソウルジェム狩り)をするために、見滝原に見知らぬ魔法少女が来たこともある。

もしかしたらそれらのイレギュラーは、ほむらの長い旅路を終わりに導いてくれていたかもしれない。

だが、美国織莉子のまどか殺しの一件から、ほむらはイレギュラーに過敏になっていた。そのためほぼ全てのイレギュラーにできるだけ関わらないように、可能なら抹殺するようにして来た。


(今までにはなかった幽霊城。この雰囲気は、今周回のイレギュラーに関係していると見て間違いなさそうね)


愛用の拳銃をぎゅっと握りしめる。
インターネットでは限界があった。情報が欲しかった。
最悪の場合は戦闘になってもいい様に、かなりの量の武器とグリーフシードを容姿している。
後手に回ってはいけない。


「・・・これは」


城は予想以上の大きさで、おとぎ話からそのまま抜け出して来た様な姿だった。
しかし、ほむらにはそれに悠長に驚いている暇はなかった。


「がはっ・・・!?」


銃声がした。
とっさに急所をかばったために心臓や頭には当たらなかったが、左足に痛みを感じ視線をやる。赤く染まっていた。


「くっ!」


取り合えず時を止めた。もし自分が相手の立場ならこの後直ぐに追撃する。移動しなければならない。


(銃弾、遠方から放てるタイプのもの。魔法で強化されているわけではないわね)


傷跡から弾を取り出して、軽く治癒魔法をかける。気休め程度だが、ないよりはマシだ。


「撃たれた方向からして、狙撃手はあちらね」


ほむらは距離を詰めるため、時を止めたままそちらに移動した。












カチリ


「!?」


「動かないで」


狙撃手の頭にベレッタの銃口を向けた。若い女だった。成人しているので魔法少女だとは思えない。まあ、例の魔法青年のこともあるので油断はできないが。
動くなと警告したにもかかわらず左手を動かしたので、踏みつけておいた。


「まあ、あなたでいいわ。聖杯戦争って知ってる?」


「・・・・・・」


「知らないなら用はないわ」


女の動きに警戒したまま、今後どうするかを考えた。


「きゃあ!!」


再び銃弾。だがそれはほむらに向けられたもの。
今度は確実に心臓を貫いた。


(最初の攻撃と、この女はフェイクだった!? 油断したわ。相手は一人だと思わせたところをやるつもりだったのね)


こうして倒れ伏しながらも考えることができるのは、ひとえにほむらが魔法少女だからだ。ただの人間だったなら、なにが起こったかもわからず死んでいただろう。


『舞弥、どうだ?』


『確認します』


通信機から男の声がした。女は舞弥というらしい。近づいていたので、心臓の修復と運動をやめた。
かなり危険だが、これで油断を誘えるならもうけものだ。


「・・・脈拍ありません」


『死体を持ち帰ってくれ。解体する』


(解体!?)


切嗣の解体とは、魔術的に科学的に侵入者を調べるという意味だったのだが、ほむらには知る由も無い。


(心臓を止めたままというのはちょっときついけど、場内に侵入できるならまあいいわ)


ソウルジェムは浄化したばかりで、即魔女化することもないはずだ。
自分の盾の中から直ぐに武器が出せるか感覚で確認した後、ほむらは本格的に死んだフリに専念した。





ーーーーーーー





(・・・あまりにあっけない。いや、あっけなさすぎる)


切嗣は侵入者の死体を運んでくる舞弥を待ちながら考えていた。
二度目の罠に引っかかるなど、早すぎる。罠はもう何重かに張ってあったというのに。
あんな目をしているのだから、もっと手強いものだと思っていた。

いや、そもそも敵なのか?
通信機越しの侵入者の発言は、我々がアインツベルン陣営ということすらわかっていない様に見えた。


(もしくは罠だな。 アイリは呼ばないべきか)


舞弥を疑うわけではないが、念には念を込めてだ。
そうこう考えているうちに、扉があいた。


「舞弥、どうだ?」


「心臓は止まったままです」


持ってきたスコープ越しに見ても、体温などにおかしな点もない。


「・・・本当に死んでいるのか」


「?」


「いいえ、あなたの疑念は正しいわ」


「なっ!?」


「切嗣!」


少女は一瞬にして切嗣の後ろに転移し、銃を頭に当てる。血は流れてはいない。つけたままだったスコープからは、少女の体温が正常であることが示してされていた。
転移にしては、転移前と転移後の様子が違いすぎる。
ではこの少女の力は何か?


「・・・固有時制御。いや、それだけではない。時間停止まで出来るのか」


「・・・どうしてわかったの?」


切嗣は相手の魔術を解析することに長けている。魔術師殺しの名は伊達ではない。己が似た魔術の使い手だということもあり、ここまで乱用されれば嫌でもわかった。

それにしても、言葉の端々から予測できる聖杯戦争の無知っぷりはどういうことなのか。
とても、大魔術の使い手とは思えなかった。


「君は僕らの敵か? 否か?」


「私は冷静な者の味方で愚か者の敵。
心臓を撃ち抜いておいて、おかしなことを言うのね」


少女が話している僅かな隙に切嗣は仕掛けていた罠を発動した。
ほむらの足元から錬金された針金が現れ、身動きを封じる。


「なっ」


「君が重火器を所持しているのは、時間停止に力をさきすぎているために、魔術的な攻撃手段を持たないからだ。違うかい」


「・・・・・・」


「改めて聞く。君の目的はなんだ」


「・・・私は情報が欲しい。利害が一致するなら味方にもなるわ。
けれどあの子に危害を加える気なら、始末する」


切嗣はスコープを外しながら、改めて聞いた。


「君は、何だ」


「暁美ほむら。ただの魔法少女よ」












ーーーーーー
ほむほむとキリツグさんの時間&重火器コンビ。



[31046] 協定を結んだようだよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/01/16 23:02



「切嗣、遅いわね。大丈夫かしら」


「アイリスフィール・・・」


「あの女の子、昔の切嗣と同じ目をしていたの」


「昔の?」


「ええ、私の知らない切嗣の目」


アイリスフィールは語る。
侵入者の少女の目を見た時、彼女は切嗣が九年前に完全に戻ってしまうのではないかという不安を改めて感じることとなった。


「あら、舞弥さん」


「侵入者はどうなりましたか?」


「我々と協定を結びました」


室内に入ってきた舞弥は言った。
聖杯戦争の最中に協定を結ぶ。ただの魔術師への対応ではない。敵への内通者となりうる者か、相当の実力者だったかということだろう。
仲間に引き入れるには、早計すぎる気もするが。


「それで、今切嗣とその人はどうしているの?」


「それは・・・」


珍しく舞弥は言葉を濁した。一体何があったのかと、セイバーとアイリスフィールは疑問に思う。


「・・・現在、上階で話されています」


「えっと、会っても大丈夫なのかしら」


「私としても会っておきたいですね。戦力の確認もしたいです」


セイバーも後押しする。
舞弥は頷いた後、二人を案内するために切嗣たちのいる部屋に向かった。


「あんなに迷うなんて、あの女の子は一体どんな人物なのかしら」


「危険人物ということでしょうか。部屋にはいる際は、私の後ろについておいてください」


アイリスフィールとセイバーは、まだ会わぬ少女に対して、警戒心を高めた。







コンコン


「失礼します」


返事を待たずにずんずん中に入って行く舞弥に戸惑いながらも、セイバーは室内を覗いた。


「なっ・・・!?」


「まあ」


中では。


「まどかの方がかわいいに決まってるじゃない!」


「いいや。君はアイリとイリヤのことを知らないからそんなことが言えるんだ」


「ハッ愛する人が2人もいるなんておかしな話ね。私はまどか一筋よ!」


「愛妻と愛娘だ。あの可愛さと言ったら・・・」


「まどかに価値があるのよ!」


切嗣と侵入者の少女が、『まどか』と『アイリスフィール』『イリヤスフィール』のどちらがかわいいかを言い争っていた。


(切嗣って、えぇ!? え、切嗣!?)


「もう切嗣ったらぁ」


混乱するセイバーをよそに、アイリスフィールはのろけ始めた。愛妻モードである。
というかあれは切嗣なのか。何かの術にかかったとかではないのか。口調が冷静なのが余計に気持ち悪い。


(会って間もないあの少女でも会話を成立させているいうのに・・・私は・・・)


何かに負けた気がしたセイバーだった。


「エイミーを抱きしめたまどかはそれはもう・・・あなたたちは誰?」


少女がやっとセイバー達に気づいたのか、声をかけて来た。


「・・・セイバーです」


「私はアイリスフィール」


「あなたが。確かにまどかほどではないけれど、美人ね」


「ふふ、ありがとう」


ほむらが褒めると、アイリスフィールは素直に喜んだ。切嗣はうんうんと頷く。気持ち悪い。
ほのぼのした空気が、セイバーにとっては気まずかった。






ーーーーーー






「私は」


その後、セイバーはバルコニーで夜風に当たっていた。
正直な感想、わけがわからなかった。結局あの少女の名前も力もわからずじまい。おかしなノリに流されかけたが、あの少女は信用できる人物なのだろうか。


曇り空を見つめていると、バルコニーの扉が空く音がした。
出て来たのは、例の少女だ。


「セイバー、だったかしら?」


「あなたは・・・」


「暁美ほむら。ほむらでいいわ」


ほむらは髪を払う。柔らかい黒髪が舞った。


「聖杯戦争の説明は、衞宮切嗣から聞いたわ」


「そうですか」


セイバーはくるりと身を翻して、ほむらの目を見据えた。


「あなたは本当に信用に値する人物ですか?」


「・・・私はとても信用できるモノよ」


「ならば問おう。あなたは聖杯に何を託す」


セイバーはそう続けた。
聖杯に何を託すか。すなわち戦う理由は何か。それを知ることで、人柄を図る狙いだ。
もしはぐらかしたり、虚偽があったり、そもそも願いがふさわしくなければ、例え切嗣との溝が深まろうと切るつもりだった。


「そんなものを言わなくても、信用できる証ならある」


「なんですか、これは?」


ほむらは紙の束をセイバーに見せた。一見記号の羅列にしか見えないそれ。だがセイバーは聖杯からの情報によって、それが何であるかを理解した。


「これは・・・!」


「魔術って便利ね。こんなに簡単に信用が得れるんだもの」



束縛術式:対象ー暁美ほむら
制約:暁美ほむらは衞宮切嗣及び同陣営の者に対し、殺害、障害、情報の漏洩の意図、行為および命令を禁ずる。ただし有事の際の■■■■■の保護■的での行動は当てはまらない。期限は・・・





以後続いていく文面。
自己強制証文だった。指で一部見えなかったが、それは対象者の死後の魂さえ縛る契約書。本来は魔術刻印を利用するものだが、そこにアレンジを加えたもののようだ。
しかし、これは簡単に結んで良いものではない。


「暁美ほむら! あなたはこれがどんなものか理解しているのか!?」


「ええ、聞いたもの。衞宮切嗣も同様のものを所持している。
私は味方よ」


ほむらは再び髪を払った。


「ならば、これだけは答えていただきたい。あなたは何がために戦うのですか?」


「・・・あなたが知る必要はないわ」


「!?」


ほむらがそう答え終わった瞬間、姿が消えた。


「暁美ほむら・・・」


あの束縛術式は本物だった。信用はできるのだろう。しかし誇りを重んじる騎士であるセイバーには、信頼できる相手ではなかった。

開けっ放しのバルコニーの扉が風に揺られる高い音が、やけに響いていた。






ーーーーーー






「まどかー、さっさと寝るんだよー」


「はーい!」


まどかは返事をしてベットに潜り込んだ。ただし、枕元の灯りは付けっぱなしだ。

魔法少女のイラストを書き込んだノートを開いて、絵を描き加え始めた。


(魔法少女に、聖杯戦争かぁ)


まどかはここ最近起きた不思議なことを思い返しながら、描き込み続ける。
マミさんはとってもかっこよかったし、龍之介さんもかっこよかった。赤い女の子とも出会ったし、ちょっとだけ聖杯戦争の説明もしてもらった。


「世の中にはどうしても叶えたい願いごとを持ってる人がたくさんいるんだなぁ。私の代わりにその人たちが願い事を叶えてもらえたらいいのに」


「まどかは他人のために祈るのかい?」


「キュゥべえ!」


キュゥべえはぴょこりとベットに飛び乗って来た。尻尾がゆらゆら揺れている。


「ええっと、誰かのためというか。私、誰かが願い事を叶える為に争って怪我をしちゃうのが嫌なの」


「怪我じゃすまないよ」


「えっ?」


キュゥべえの言葉に、まどかはぱちくりと瞬きをする。
まどかは、聖杯戦争とは願い事を叶えてくれる聖杯を手に入れる為に戦うことだと聞いていた。こっそり行われるものだということも。
争って、怪我じゃすまないということは。


「それって死んじゃうかもしれないってこと?」


「そのくらい、聖杯戦争は危ないんだ。龍之介も意図的ではなかったとはいえマスターになってしまったからね」


「龍之介さんも死んじゃうの!?」


そんなのは嫌だ! 彼は変わった人だったけれど、あんなにも芸術を愛していて、素敵な人だった。
大切な人が死んでしまうかもしれない。今までまどかが身近に感じたことのなかったその事実がとても怖い。


「わからない。マミは強いけど、いつも龍之介と一緒にいられるわけじゃないし。何より相手だって強者揃いだからね。一般人が巻き込まれることだって少なくない」


「そんな・・・もしかして最近欠席してる人が多いのも・・・?」


もう聖杯戦争は始まっているという。今だって龍之介さんは危険にさらされているのかもしれない。それなのに自分はただぐっすりと眠ろうとしているだけだなんて、まどかには耐えられなかった。


「そうだキュゥべえ。もし私が魔法少女になったら、どうなるの?」


「まどかが魔法少女になれば、マミよりずっと強くなれるよ」 


「えっ」


まどかは驚いた。確かに力になりたいとは思っていたけれど、いきなりそんなことを言われても実感がわかなかった。


「そうしたら、みんなを守ることができるかな」


「もちろんどんな願い事で契約するかにもよるから、一概には言えないけど・・・ まどかが産み出すかもしれないソウルジェムの大きさは、僕には測定しきれない。これだけの資質を持つ子と出会ったのは初めてだ」 


「私・・・」


自分の手を見つめながら、まどかは呟いた。
自分が魔法少女になれば、みんなを助けられるかもしれない。しかし、龍之介さんは勿論、さやかちゃんやマミさんはどう思うだろう。私などが勝手に一人で決めてしまっていいものなのか。


「キュゥべえ。今龍之介さんって危ないの?」


「・・・僕が家まで送って行ったからね。それに近くで戦いが始まれば、ある程度は察知できるし。龍之介の近辺で戦闘は行われていないよ」


「よかったぁ」


とりあえず肩の力が抜けた。息を吐く。


「キュゥべえ、私みんなに相談してみる」


「僕の立場で急かすわけにはいかないしね。助言するのもルール違反だし。ゆっくり考るといい」


「うん、わかった」


まどかは描き終えたノートを改めて見た。加わったのは、龍之介と杏子の変身した姿。


「・・・おやすみなさい」


「おやすみ」


まどかはノートを閉じて、灯りを消した。


(こんな私でも、誰かの役に立てるとしたら、それはとっても嬉しいなって)


こうしてまどかの長い一日は終わった。












ーーーーーー
聖杯戦争=まどかの契約の機会の増加=やばい。



[31046] 戦いが始まりそうだよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/01/20 23:01

「で、なんじゃこりゃぁ!」


見滝原での巴マミとの決別のあと帰宅した佐倉杏子は、ゆまの様子に驚きの声を上げた。


「えへへー、キョーコ! おいしいよ!」


「酒なんか飲んでんじゃねーよ!」


ゆまは酔っていた。手に持っているワイングラスがそれを証明している。奪い取って確認したので間違いない。底に僅かに残っていた瑠璃色の液体からは、アルコールの匂いがした。


「ああ、それゆまの!」


「ゆま、これは自分で飲もうとしたのか?」


「ううん。王さまのほどこし!」


「王様?」


そんな知り合いなど、自分にはいない。ゆまも、今までの環境を考えると可能性は低い筈だ。言峰親子は論外。冗談を好んで言うタイプではない。
教会には他に人は住んでいなかった筈だが。


「王さますごいよ! キラキラしてるの!」


「キラキラ? なんだそいつ」


杏子は首をひねった。人物像が全くつかめない。あれか、アイドル的なキラキラか。
ゆまは上機嫌なまま杏子の手を引いた。


「ゆま?」


「ゆまあれ好き!」


「おい、酒はもう飲むなよ!」


「こっちなの」


杏子はゆまのされるがままについて行き、階段を降りていった。教会はそこまで広くない。到着地は杏子も知っている場所だった。


「綺礼の部屋? あいつがゆまに酒を?」


聖職者以前に、あいつらしくない。ますますわけがわからない。
しかしゆまは否定した。


「違うもん! おじちゃんじゃなくて、王さま!」


「だから王さまって・・・」


ゆまは少し背伸びして扉を開けて、室内に入った。


「噂をすれば影か。ちょうど良いところに来たな、女」


「アンタは」


綺礼の部屋には、本人の他にもう一人の人間がいた。いや、それは人間ではない。金髪の男はサーヴァントと呼ばれる人外。杏子も綺礼から説明は受けていた。


「で、ゆまに酒を飲ましたのはアンタか」


「そう気を荒立てるな。この娘は我に臣下の礼を尽くした。ならば答えてやらねばあるまい」


「臣下ねぇ。生前は王サマでしたってか」


臣下の礼って何をしたんだ。ゆまの方を見つめるが、ただにこにこ笑っているだけだった。


「無論。真の王は天上天下我ただ一人」


「だからって未成年に酒を飲ませんなよ。それもこんな餓鬼にさ」


堂々とした態度を崩すことなく答える男に杏子はそう返した。
少し話しただけでも分かる。こいつは間違いなく暴君だ。国の民達はさぞかし苦労したことだろう。杏子は顔も知らないもの達に同情した。


「ほう、未成年ときたか。なぜそのようなことを気にする」


「気にするも何も、そう決まってるんだし・・・」


「我が法だ。そんなものよりも、我からの褒美を無下に扱うことの方が罪だと分からんか。その点あちらの小娘は幼いながらに理解していたな」


「ゆま・・・」


杏子は再びゆまの方を向いた。
いくら人の敵意に敏感とはいえ、ゆまはまだまだ幼い。きっと、手渡された酒を、なんの疑いもなく飲んだのだろう。その様子が簡単に想像出来た。


「常識的に考えて欲しいんだけど。大体綺礼もなんで止めてくれなかったのさ?」


「・・・止めた」


「止められてないよ」


大きくため息をついた。たしかに、綺礼には止められる様には見えない。
ゆまはすっかりこのサーヴァントになついた様で、ちょこちょことそばによって行った。私とあの子のどっちが大事なのよ! なんて台詞は柄ではないが、今なら少し気持ちがわかる。


「それよりも佐倉杏子。キャスターのマスターとは知り合いだったのか?」


「キャスター? ああ、マミといた男のことか。なんで知ってんのさ。
まあいい。本人とは知り合いじゃないけど、あれの仲間とは旧知の仲だよ」


綺礼の問いに答える。
そして一息おいたあと、こう続けた。


「キャスターのとこのマミは強い。サーヴァントってのがどの位のもんかは知らないけどさぁ。あいつは魔法少女のなかでもトップクラスだ」


そう、マミに啖呵を切ったはいいが、彼女はとても強かった。昔師事していた時に、その実力はこの目でしっかりと見ている。近距離戦闘の出来る遠距離型のオールラウンダー。その万能さがマミの強みだった。


「「拘束」することにおいては、右に出る奴はいないと思うよ」


「勝てないと?」


綺礼は再び問いかけた。杏子はそれを一蹴し、言い切る。


「いいや、勝つさ」


「そうか」


「・・・ちょっとちょっと。もうちょっと反応してくれてもいいんじゃないの?」


あまりにもあっさりした反応に戸惑った。過剰に期待していたわけではないが、ないならないで少し寂しい。


「何か策があってのことではないのか」


「まあね。だけど、とりあえず今は様子見かな」


「つまらん」


急に声をかけて来たのは、金髪のサーヴァントだった。相変わらずじゃれついているゆまを邪見にせず緑の球形の宝石を手で弄んでいる。・・・宝石?


「ゆまのソウルジェムじゃねーか!」


「ふふ、これほどの宝石であれば我の宝物庫に入るに値する」


「おい!」


「まあそれはともかく。貴様らはつまらんと思わんのか?」


「何がだよ」


杏子は純粋に問いかける。


「これだけの英雄が揃ったというのに、皆がみなこうも巣に篭ってばかりだとはな」


「戦争なんだから、勝つための作戦なんじゃないの?」


「勝つ? まず論点からして違う」


椅子に寝転んでいたサーヴァントが起き上がり、杏子に目線をやった。


「って言うと」


「聖杯が宝だというのなら、そもそも初めから我のものなのだ。故に我にとっての聖杯戦争とは、その過程にこそ喜びを見出すべきもの」


「・・・寄り道すんのか?」


「そういうことだ」


サーヴァントは肯定する。


「だが現状はどうだ? 身を弁えぬ雑種どもが、ありもせん勝利を求め策という名の無意味な愚行を続けている。
結局は敗北する運命なのだから、いかに我を楽しませるかこそが重要であろう?」


「・・・・・・」


杏子は他のサーヴァントの詳しい性格は知らないが、全てが全てこんな性格だとは思いたくなかった。


「宴を盛り上げる事すらできん虫けらには、舞台に登る資格すらない」


「・・・あっそ」


杏子はゆまの手を引きながら身を翻し、部屋を出て行こうとした。これ以上この部屋にとどまっていては、いらないストレスを溜め込みそうだった。
しかし、サーヴァントは杏子に再び話しかける。


「はたして・・・貴様らには参加する資格があると思うか?」


「んだと」


杏子は足を止めた。


「へぇ、アタシが臆病風ふかして逃げるとでも思ってんの?」


「さあな」


サーヴァントはニヤリと笑う。


「つまらない宴を盛り上げろっての? アンタの望みどうりに動くってのも癪だけど、舐めらたまんまでいるのはもっと癪なんだわ」


杏子は綺礼の方へ向いて、こう言った。


「どこでもいいから、マスターの情報よこしなよ」


「・・・どうするつもりだ」


綺礼とて空気が読めないわけではない。話の流れからどうしようとしているかは察する事ができたが、それでも耳を疑った。


「マスターだろうがサーヴァントだろうがどっちだっていい。前夜祭なんだから。とりあえずぶっ潰しちゃえばいいんでしょ?」


そう、彼女はサーヴァントだろうと戦って見せると言ったのだ。
杏子は笑いかけた。何時の間にか取り出した駄菓子の袋から、中身をとり、加える。


「せいぜい我を楽しませてみろ」


「まあ、今夜は行かないけどさ」


「ほう?」


あっさりと延期を申し出た杏子に、サーヴァントはほんの少しだけ意外そうな顔をした。
杏子は小さくため息をついて、手を繋いでいたゆまの腕を持ち上げて言う。


「キョーコぉ?」


「だってさ。ゆまがこれだけ酔ってるのに、今夜だったら、連れて行くわけにも置いて行くわけにもいかないじゃん?」








ーーーーーー






暁美ほむらは、まどか、美樹さやか、そして巴マミと共に呑気に会話を出来るこの状況に驚いていた。過去の周回では、初対面で悪印象を与えたにもかかわらず良好な関係を築けたことはなかったからだ。
今日は病院にシャルロッテが出現する日。魔法少女体験ツアーが行われて、ほむらが参加しなかった場合、巴マミは死亡する。これは決定事項だっだ。今までは全てそうなっていたのだから。だというのに、巴マミはこうして今生きていた。


『魂の宝石。これがソウルジェムの正体だ』


皮肉なことに巴マミの命を救ったのはインキュベーターのこの言葉だった。シャルロッテが本性を表した瞬間、走馬灯の様によぎったこの言葉。とっさに頭のソウルジェムをかばうことが出来たのは、他ならぬ彼女自身の実力だ。
巴マミは左腕を失うことになったが、そのおかげで拘束が解けたほむらは加勢することができた。シャルロッテはほむら自身が倒し、マミには治癒魔法をかけるよう命じている。巴マミの祈りは「命を繋ぎとめる」こと。魔法は「拘束」に特化しているものの、癒す力も中々のものだ。・・・実際に体験したことのあるほむらがいうのだから、間違いない。
時間をかければ、腕も元どうりになるだろう。


(早期にソウルジェムが魂だと判明すれば、巴マミは死なない。これは大きな収穫ね)


直接伝えては容易に信じてはもらえないのなら、彼女達の目の前でインキュベーターを問い詰めてはかせればいい。
ワルプルギスとの戦いで、巴マミが参加すれば、かなりの戦力が手に入る。あとは魔女化の真実を隠し切れば良いだけだ。


(そういえば佐倉杏子はどこでソウルジェムの情報を手に入れたのかしら。千歳ゆまとは出会っている様だけど)


「ほむらちゃん、ありがとう」


「まどか?」


「あの、マミさんを助けてくれて」


「彼女に死なれては困るもの」


「だからね、ありがとう」


まどかは嬉しそうに笑う。ああ、そうだ。私はまどかのこの笑顔を守りたいのだ。しなせたくない。死なせない。


「あー! 転校生が笑うなんて、意外。くぅー! これが萌えか、萌えなのかぁ!」


「まどか。私が転校してきた日にあなたに言ったこと、おぼえてる?」


「ちょ、無視!?」


ほむらはまどかに問いかける。


「・・・変わろうなんて、思うなってこと?」


「ええ、あなたは魔法少女になってはいけない。勿論、美樹さやか、あなたも」


「・・・どうして?」


まどかはほむらに問いかける。その表情は、先ほどとはうってかわって悲しそうなものだった。


「どうしてなっちゃいけないの? 今日だって、マミさんが怪我をしたし、龍之介さんだって、毎日危険なんだよ。みんなだって聖杯戦争や魔女に巻き込まれちゃったたりしら・・・!」


「あなただけで解決すべき問題ではない。私が守る。巴マミの負傷した分の穴も、私が埋める」


「でも、私だけ見てるだけなんてできないよ!」


まどかの声はどんどん大きくなっていった。どうしてわかってくれないの? など、こちらのセリフだというのに。


「ちょっと、転校生。アンタちょっと言いすぎじゃ」


「いいえ、それは彼女が正しいわ」


「マミさん?」


唐突に、今まで黙っていたマミが言葉を発した。


「鹿目さん、美樹さん、ごめんなさい。体験ツアーもこれでおしまいにしましょう」


「巴マミ?」


ほむらは、いつもとは違う彼女の様子に疑問の声をあげる。なんというか、覇気がない。口調も淡々としていて、まるで溢れ出そうな感情を無理やり押さえつけているような。


「私なんかのために、大切な願い事は使わせることはできないし、何より今日、私はあなたたちを守ることができなかった」


「そんなこと!」


「違わないの。私は、私は、死ぬことに恐怖してしまった。一度救われた命、どんなことにだって使えると思っていたのに実際は違うものね。それに、こんなことに二人を巻き込んじゃダメだもの」


「マミさん!」


さやかは叫ぶが、マミは返事をしない。


「ごめんなさい。少し一人にして欲しいの」


巴マミは逃げるように三人と別れて行った。






「マミさん・・・」


「彼女には時間が必要だわ。死にかけたんだもの」


「ちょっと転校生、なんでそんなに冷静なのさ?」


さやかはムッとした表情で言う。


「だからこそ、安易に契約しないことね。巴マミの意思を尊重したいのなら」


「ほむらちゃん・・・」



prrrr


prrrr



「?」


「もしもし。暁美です」


ほむらはかかってきた電話に出た。表示は非通知。


『今どこにいる』


予想通り、相手は衞宮切嗣だった。


「・・・見滝原の大橋よ」


『侵入者だ。10分で来れるか』


「十分よ」


ピ、と携帯を切った。


「ごめんなさい、用事ができたわ」


「用事?」


「こんな時間から?」


「ええ」


ほむらはそう返事をして、二人と別れた。完全に見えなくなったところで、時を止めて、本格的に移動を始める。パクったママチャリの持ち主には心の中で謝罪をしておいた。






ーーーーーー






夕方ごろ。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは使い魔によって二人の少女の姿を発見した。


(あれが、教会に保護されたという名目の?)


教会は孤児の保護も仕事だ。だがこの時期に、しかも聖杯戦争の監視役が? 胡散臭いことこの上ない。それを知ったあと、教会周りに使い魔をはなっておいたのは正解だったようだ。
大きいほうの少女も小さいほうの少女も、外見上はなんの変哲もない。だが、ケイネスは知っていた。


(倉庫街での実力・・・あれは一般人ではあるまい)


ふざけた格好での戦闘。時計塔でも時折耳にした存在である「魔女」を軽々と倒した実力。
あれは一般人ではない。明らかな異端だった。
二人が向かう方向には、アインツベルンの森がある。ならば要件は急襲か協定か。どちらにしろろくなことではない筈だ。
騒ぎを起こすに違いない。なら、利用するべきだ。


「アインツベルンには目にものを見せてやらねばな」


スイートのホテルを爆破され、現在ソラウの機嫌は右肩下がり。倉庫街の一件でも、あちらには借りがある。
何より、爆破などという下賤な手段をもって、かのロードエルメロイを殺そうとしたことに対する誅伐も行わなければならない。


「暗殺の様な弱者のする真似はせん。正面から行く様な愚直な行為もせん」


ケイネスは腰をあげる。


「この私が魔術師とはなんたるかを直々に教授してやろうではないか」


自身の切り札である礼装を手にして、ケイネスはランサーを呼んだ。


「ランサー」


「はい」


近くに待機させておいたランサーがすぐさま駆けつけて膝を折る。


「アインツベルンに行く。サーヴァント及び邪魔者を足止めしていろ」


「御意」


ソラウに少し声をかけてから、すぐにでも追いかけるつもりだった。
今度こそ邪魔などさせない。手の甲の三角残っている令呪をさすりながら、ケイネスは口角をあげた。






ーーーーーー







「・・・もう来たのか」


「随分魔力を消費してしまったけれど。早く来いと言ったのはあなたでしょう?」


「ああ」


アインツベルン城の一室にて、侵入者への対策を話し合っていた時。急に扉から入ってきたほむらに切嗣を除く三人は一瞬驚いた。電話から僅か5分足らずだというのに、前触れもなく、索敵魔術にも一切引っかからず、この少女はやって来た。敵に回せば厄介に違いない。
切嗣は返事をしたきり、向けていた顔を戻す。しかし、この少女への疑問は深まるばかりだ。


(時間停止すら使いこなすのなら、見滝原からここまで一瞬でたどり着けるのは分かっていた。だが、この少女は世界の修正を受けないとでもいうのか?)


得体のしれないものだろうと利益があるなら何でも利用する切嗣だが、疑問は深まるばかりだ。自身もまた時間操作系統の力を操り、その代償を払っているがゆえの疑問だった。


(拘束術式は機能している。魔術だろうが限定的な魔法だろうが魔法少女だろうが、何だって利用してやる。そして、僕は聖杯を手に入れてみせる)


改めてそう決心したあと、切嗣はほむらにも水晶の映像を見せた。


「この二人は見かけたかい?」


「いいえ、誰ともすれ違わなかったわ。・・・この二人は」


「面識があるのか」


「彼女たちは、佐倉杏子と千歳ゆま。私の同類よ」


「・・・彼女らも時間操作を?」


「いいえ。だけど貴方を基準とするなら、魔術師よりは確実に強いでしょうね」


ほむらはすぐに否定した。続けて、彼女らの専門が「幻惑」と「癒し」だと告げる。


「彼女達を殺されては困る。要件がわからない以上、追い返すのが望ましい」


「だが敵の可能性がある以上、殺さないわけにはいかない」


「なら、私が相手をする」


切嗣の主張を、ほむらは一蹴した。確かに奇襲に最適な能力を保有していて、相手を知り尽くしている様子のほむらに、彼女達の相手は最適だろう。しかし、ほむらにはしてもらわなければならないことがあった。


「ケイネス・エルメロイ・アーチボルト・・・ランサーのマスターが侵入した」


水晶玉の代わりに、今度は監視カメラの映像が映った画面をほむらに見せる。


「君にはこれの相手をしてもらいたい」


「・・・分かったわ」


ほむらはそれを聞くとしぶしぶ了解した。そのあと、セイバーの方を向く。


「セイバー、佐倉杏子と千歳ゆまは強い。恐らく貴方が対応することになるでしょうけど、出来るだけ殺さないで欲しい」


「・・・善処します」


セイバーは静かにそう告げた。


「舞弥はアイリと一緒に侵入者と正反対の方向へ一時撤退してくれ。僕は別ルートから撤退する。君は城でロードエルメロイと対峙してくれ」


念のため、切嗣は通信機器をほむらと舞弥、そしてセイバーの目の前においた。


「アイリ、セイバーには侵入者の対処に当たるよう、伝えておいてくれ」


「ええ、分かったわ」


アイリは相変わらず無表情のセイバーに話しかける。


「了解した。では、サーヴァントがセイバー、いざ参る」


セイバーは一瞬で概念武装を装備し、窓から飛び出した。
それを見届けてから、残りのメンバーも動き出す。


「・・・どの位の兵器なら、使用許可をもらえるのかしら?」


「出来るだけ城への被害は抑えたいが、止むを得ないなら破壊しても構わない」


「そう。じゃあ、またね」


ほむらはアイリスフィールと舞弥、そして切嗣の方を向いた。


「次に会う時は、マスターになっていて見せるわ」












ーーーーーー
次回から多分戦闘編。



[31046] セイバーVS佐倉杏子だよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/01/24 22:54

「・・・来たか」


前方から何かが近づいてくるのを感じた杏子は足を止める。
杏子とゆまはアインツベルンの森に侵入していた。一日たってゆまの酔いもすっかり覚めて、グリーフシードの量もそこそこ。


「はっ、盛り上げてやろうじゃないの」


「キョーコ・・・」


不安そうに見上げてくるゆまに、未使用のグリーフシードを押し付ける。今更になってあの金色のサーヴァントの挑発に乗りすぎたかと少し後悔したが・・・まあ、勝てば問題ない。

青いドレスに鎧姿の女が現れた。近づいてきていたのはこの人物だったようだ。


「倉庫街以来ですね」


「ああ、あん時の奴か」


返事をしながら杏子は右手を突き出し、変身する。赤い服に長い槍。戦闘体型に早変わりだ。


「それは貴様の概念武装だったというわけか」


「まあ、意味もなくこんな格好はしないしね」


「でもキョーコ似合ってるよ?」


「・・・ありがとな」


微妙にくうきよめてないゆまに顔を向けずに感謝した。


「何故ここに来た」


「つまんない宴を盛り上げるためだよ」


「・・・つまらんだと?」


「ムカつく馬鹿に唆されたんだよ。引きこもりどもをひっぱりだせってさぁ!」


槍を召喚したのを見て、セイバーは剣を構えた。


「ゆま、下がってろ」


「うん」


「・・・その幼子は戦わんのか?」


「どーでもいいでしょ?」


両者がお互いの武器を構えて対峙する。
「先に動いたほうが負ける」とはよく聞くが、実際どうなんだろうか。杏子が一瞬そう考えた隙を見逃すセイバーではなかった。


「はぁっ!」


「ちっ!」


槍で剣を受け止める。上から切りかかって来ているセイバーに対して、下から迎え撃つのは不利だったが、簡単にやられる杏子ではない。
杏子の笑みを目にしたセイバーは、自身の異常なまでの直感に従い半ば無意識に身を引いた。


「なっ!」


さっきまでセイバーがいた場所の地面から、佐倉杏子の手にしている槍と全く同じデザインのものが突き出して来た。あのまま押しあっていたなら、セイバーは下から貫かれていたに違いない。


「やっぱ簡単にはやらせちゃくれないか」


「舐められては困る」


「あっそ!」


地面から突き出されたままだった槍が赤い光の欠片となって消え去る。


「派手にいこうじゃないの!」


「望むところだ!」


二人は再び地面を蹴った。





(とはいえ・・・この槍使い、強い!)


セイバーは右へ左へ突き出される槍を、ある時は逸らし、ある時は躱す。
佐倉杏子は長さを利用し、見えない剣の確実なリーチ圏外から堅実に攻撃してしてきた。
セイバーからも攻撃はしているのだが、決定打には至らない。


(左手さえあれば・・・!)


剣に添えることしかできない自身の手が憎らしい。


「ほらほらどうしたのさ! その左手は飾り物かよ!」


「くっ・・・」


暁美ほむらは彼女は「幻惑」が得意だと言っていたが、使ってくる様子はない。抗魔力が高い自分なら、もし使われればある程度は感知できる筈だ。


「はあ!」


「やば!?」


僅かな隙を利用しセイバーは相手の懐に潜り込んだ。そうして、杏子の左腕を突く。


「ッ痛ぁ!」


「キョーコ!」


幼子が叫ぶ。セイバーは一度杏子と距離をとると、敵二人がお互いに近づかないよう警戒した。己の左手が不自由な今、「癒し」の力で回復されると痛い。


「避けたか・・・」


「キョーコ、死んじゃやだぁ!」


「まだ致命傷じゃねぇよ。まだだ」


杏子はそう言うが、依然腕は垂れたまま。


「まだ続けるか」


「あったりまえでしょ?」


杏子は右手のみで槍を構え、再び臨戦体勢に入った。


「いくぞ」


「きな!」


お互い左手のみでの戦い。今度は有利なのはセイバーだったが、杏子は笑みを絶やさない。


(戦場に喜びを見出すか?)


ならば殺さずに追い返してくれという暁美ほむらの頼みを聞くのは難しいかもしれない。


「らぁ!」


「甘い!」


左手を剣に添えることのできるセイバーと、だらりと垂らしたままの杏子の差がここに出た。動かせぬ腕など飾り物以下、寧ろ邪魔だ。バランスをうまく取れなかった杏子のスピードは、今までのものより僅かに遅い。


「はあぁ!!」


今度は胸を一線。大量の血が宙を舞う。あの女がいかに強くとも、これはたまらないだろう。
倒れて行く佐倉杏子と目が合った。相変わらず笑っている。いや、それだけではなかった。


「なっ」


眼前に迫る槍。怪我一つない万全の状態の相手。千歳ゆまのいる方向から感知出来る新たな魔力。
そうだ、何を思い込んでいた。あの幼子の治癒が、一瞬で完治させる規格外のものではないなど、離れていては使えないなどという確証はなかったではないか。


『まだ致命傷じゃねぇよ。まだだ』


そう、あの言葉はそのままの意味だった。佐倉杏子は初めから、致命傷を与えられた瞬間に千歳ゆまに治癒させ、相手が油断した隙をつくつもりだったのだ。
想定外だった。それは言い訳にはならない。


「しまーーーーー」


「終わりだよ」


対応できぬまま、槍がセイバーの頭をを貫く・・・






「勝手に死なれては困るぞ、セイバー」


「ランサー!?」


少女の槍を弾いたのは、乱入して来たランサーの破魔の黄薔薇だった。


「ちぃっ!」


杏子が二対二の構図になるように離れる。
幼子も同じ様に概念武装を纏っていた。ライダー辺りが見れば、猫耳にツッコミを入れたのだろうが、生憎この場にはそれが出来るものは居なかった。


「ランサー、何故・・・」


「ケイネス殿には邪魔者の排除を命じられた。だが、共闘するなとは言われていないからな」


心底楽しそうな顔でランサーは言う。


「・・・礼をいう」


「なに、お前との決着は俺も望むところ。
しかし、この俺を差し置いて勝手に戦おうなど、随分と無粋な真似をしてくれたな、女」


「戦いに無粋もなにもないでしょ。ったくうっぜぇ!」


苛立ちを隠そうともしない杏子に、ランサーは冷静に返す。


「先程、遠方から一瞬で完治させたその小娘の技量・・・図りかねるな。もはや宝具の域だ」


「宝具? ゆまが?」


一瞬わけがわからないという顔をする杏子。しかし、先程の治癒の力らは確かに規格外だった。
「全ては遠き理想郷」。昔セイバーが持っていたエクスカリバーの鞘よりも更に早い治癒。病気や老化などに対してはどうなのかはわからないが、どちらにしろとんでもない力には変わりない。


「さてセイバー。お前はどちらの相手をする?」


「私はあの赤い槍使いとの決着をつける」


「承知した」


ランサーがゆまの方に目を向けるやいなや、杏子は立ちふさがった。


「・・・ゆまにゃ手を出すな」


「我々を一人で相手にする気か?」


セイバーは眉を潜める。


「まあ、あいつにあれだけ啖呵きっといて、手ぶらで帰るわけにもいかないしね。アタシが相手するよ」


杏子が両手を合わせると赤い鎖がゆまと他の三人の間に張り巡らされる。気休め程度の強度なのは本人も分かっているはずだ。


「キョーコ」


「ゆま、自分でも結界を張るんだ」


「ゆまだって戦えるよ!」


「そうだな。アタシが怪我したら治してくれると嬉しい」


「・・・うん」


ゆまは少しかなしそうに目を伏せると、自身の武器をぎゅっと握りしめ、結界を張った。


「話は終わったか?」


「ああ、待っててくれてありがとな」


にいっと杏子は笑う。ゆまと杏子の会話中に攻撃がこなかったのは、セイバーとランサーの両者が背を向けた相手に不意打ちをすることを嫌っていたからに他ならない。


「ったく、コレは金輪際使わないつもりだったのにさ!」


槍を構え魔力の渦を発生させた杏子を見て、セイバーとランサーは警戒する。


「セイバー、お前の左手は俺が補おう」


「ふっ、貴様につとまるか?」


「想像している倍の成果をだしてみせるさ」


杏子は腕を突き上げ、槍を回し始めた。やがてそれは加速して行き、まるで槍が増えた様にさえ見える。


(いや、見えるのではない。確かに増えている!?)


槍だけではない。杏子自身の輪郭もぶれ、2人、3人、4人、5人。パラパラパラと辺りが埋め尽くされていく。


「なるほど、それが「幻惑」の力というわけか」


「・・・背中は任せたぞ」


「こちらもだ」


セイバーとランサーは背中合わせになり、大量に向けられた槍先に警戒する。



「「「「「ロッソ・ファンタズマ!」」」」」


「「いくぞ!」」














ーーーーーー
四肢切断を遠方から一瞬で完治させるゆまは相当チートだと思うんだ。杏子にだけ効果が強力になるのかもしれんけど。



[31046] 結局こいつらなにしにきたんだよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/01/29 20:08




(そうだ、ソウルジェムを浄化しないと)


ゆまはついさっき杏子に渡されたグリーフシードをソウルジェムに当てる。
ゆまのソウルジェムは4分の1程度濁っていた。癒しの力を使用したからだ。
ゆまの癒しの力の特筆すべき点は、その即効性と遠距離からでも使用可能という2つに尽きる。病気は癒せず老化を止められないという点では「全て遠き理想郷」が断然優れているが、それでも強力なことに変わりはない。そのため膨大な魔力を必要とし、即死ダメージを即回復させようと思ったら普通は一回につき半分以上はソウルジェムが濁る。今回4分の1程度ですんだのは「キョーコをたすけたい」という祈りの賜物だ。


「キョーコ・・・」


杏子の分身は前後左右上下あらゆる方向からセイバーとランサーを襲い、更に不規則に本人からの攻撃も加えられていた。幻覚は攻撃を無効化する代わり、対象に攻撃することができない。攻撃力はなくとも、目に映る赤に相手はどうしても反応してしまう。
しかし、セイバーとランサーもやられっぱなしではない。セイバーは自慢の対魔力と直感で対応していた。一方ランサーは自身の宝具「破魔の紅薔薇」で幻覚に対応する。槍の切っ先に触れた幻覚はあっという間に消滅していく。


「なにさ、随分面倒なもん持ってんじゃない」


「俺の宝具だからな。舐めてもらっては困る」


「めんどくせえ!」


杏子は削られた分の分身を作り出すと、再び一斉攻撃をしかけた。


「キリがないな」


「ランサー、私に作戦がある」


「ほう、どんなものだ」


しばらく2人は小声で話し合う。


「成る程・・・」


「できるか?」


「いや、良案だ」


セイバーは本体の杏子の槍を受け止めて弾く。ランサーは破魔の紅薔薇を横に振り、幻覚を2つ一度に消す。
セイバーは口を開いた。


「もう一度問う。貴様らは何故ここに来た」


「ムカつく馬鹿に唆されたって言ったでしょ?」


「誰に言われて来た。マスターでもサーヴァントでもない。酔狂で首を突っ込んでいるのなら、それは我々に対する侮辱だ」


「・・・口止めされてんの」


杏子は一瞬いやな顔をすると、小さな声でつぶやく。


「あたしだって途中からなにやってんだろーなーとは思ってたけどさ。今更引き下がれないし」


チラリとゆまの方に目を向けると、ため息をついた。


「せめて何か派手なことでも起きないと、帰れないんだよ!」


杏子「達」は一斉に切りかかった。


「随分と勝ちを急いでいるようだが。大量の幻覚に魔力を割いたためか、動きが悪くなっているぞ」


「挑発して幻覚を消させようってつもり?」


杏子「達」は笑う。


「・・・ランサー」


「いつでもいけるぞ」


「ならいく」


セイバーはエクスカリバーをまっすぐに構える。


(なにしようってわけ?)


本体の杏子はランサーに向かって切りかかろうとしていた。一瞬攻撃を躊躇するが、先手必勝とばかりに加速する。



「風 王 鉄 槌 !!」


「ひゃあっ!?」


突如巻き起こった旋風に体重の軽い杏子はたまらず吹き飛んだ。


(でも直接的な攻撃力はないし・・・!?)


「成る程、お前が本体か」


「な!?」


杏子は接近して来たランサーに驚く。そして何故本体が特定できたのかを悟った。


(幻覚に攻撃は効かない。当然吹き飛びもしない!)


地上に留まったままの杏子達と、一人だけ吹き飛んだ自分。どちらが本体かは明確だった。

慌てて槍で防ごうとするが、破魔の紅薔薇の刃に触れた途端、構成に歪みができ実体を保てなくなる。
ランサーは破魔の黄薔薇を構えた。


「まずっ・・・」


「いざ、覚悟!」


黄色い槍が振り下ろされる瞬間、



轟音が鳴り響いた。



「「!?」」


「ケイネス殿!?」


「おっと!」


発生源発生源アインツベルの城。ケイネスが向かい、暁美ほむらが迎え撃っている場所。
ランサーの作った隙を見逃さず、杏子は急いで距離をとった。


「キョーコ!」


「ゆま」


駆け寄ってきたゆまを杏子は片手で抱きしめ、同時にセイバー達と音の発生源に警戒する。


「すまんセイバー・・・!」


「・・・この轟音は」


「どうやらあんたらのお仲間の仕業じゃなさそうだね」


常人離れした五感は、この場にいるもの達に火薬の匂いを感じさせる。
動こうにも動けない緊張状態を破ったのは杏子だった。


「もしかして、あの城であんたらのマスターが交戦中で、片っぽが大技を使ったってとこ? 魔術師も凄いもんだね」


「・・・・・・」


ランサーは先程とはうってかわって落ち着かない様子だ。
セイバーは口を開いた。


「ランサー、私のマスターは城にはいない」


「・・・・・・」


「マスターがいないのなら、私はお前が城に向かうことを引き止める必要もない」


「・・・!」


ランサーは少し驚いた顔をした。


「感謝するぞ、セイバー」


「うざい奴にはうざい仲間がいるもんだね!」


イライラした顔で杏子は悪態をつく。なまじ負けそうになった分、手を出しにくい。


「まあ、マスターが一人脱落ってとこ? これならまああいつも満足するかな」


「 貴様!」


ランサーは少し眉を潜める。


「じゃああたし達もそろそろ帰ろう、かな!?」


「なっ」


杏子が両手を地面いつくと同時に赤い巨大な槍がそれぞれの足元に現れる。避けきれないものではないが、彼女らが逃げ出すための隙を作るには十分な攻撃だった。
赤と緑の影がみるみる遠ざかっていく。


「・・・行け」


「すまん、セイバー」


「・・・・・・」


ランサーも高速で城の方へと走り去っていく。



「あの者たちは・・・」


セイバーは一人思案した。














[31046] ほむらVSケイネスだよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/02/16 22:56



時は少し遡る。
暁美ほむらは侵入してきたケイネスの相手をしていた。


「これなら」


小型銃では無理だった。大型口径さえ無理だった。それではケイネス・エルメロイ・アーチボルトの霊装『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』を破ることはできなかった。
ならレベルをあげて物理で殴ればいい。
ほむらはRPG-7を構えた。


「どうかしら?」


ダンダンダンと三発程打ち、盾の中に収納する。
カチリ。時が動きだし、ケイネスに向かって凶悪な威力を持つ弾が打ち出された。
魔女すら倒せてしまうほどの兵器。持ち運び出来るものの中なら威力はトップクラスである。それを3発も食らったのだから、流石に少しはダメージを与えられただろうと思った。

しかし、ロードエルメロイの名はだてではない。


「どういうことなの・・・!」


「アインツベルンも落ちたものだ。そのような下賎な道具で私の『月霊髄液』を崩せると勘違いするとは。図に乗るなよ雇われの魔術師風情が」


砂煙の向こうから現れたのは無傷のケイネスだった。時止めで近距離から発射したというのに完全に防がれた。どうやら自動防御機能までついているらしい。


「Scalp!(斬!)」


「くっ・・・」


飛んでくる水銀の刃を紙一重で避ける。反撃を試みたが、その前に飛び散った刃は素早くケイネスの元に戻っていた。このまま打っても防がれる。


(いったん距離をとりましょう。作戦を立てなければ)


水銀に注意しながら再び時計のギミックを起動させる。ほむらはケイネスと正反対の方向へかけ出して行った。


「ん・・・ほう、逃げられたか。これほどの力を持ちながらあのようなものに頼るとはな。救いようのない」


ほむらを見失ったケイネスはそうつぶやく。


「屑が・・・死んで身の程を弁えるのだな」


Ire:sanctio! (追跡 抹殺!)


ケイネスは『月霊髄液』の索敵機能を作動させた。












「ソウルジェムは・・・穢れは半分少しというところね」


やはりアインツベルン城に来るまでに時を止めすぎただろうか。だが、急いで駆けつけなければ衞宮切嗣との契約違反だ。しかたがない。しゃがんで荒くなった呼吸を落ち着かせようとする。


(あの水銀は、自動で攻撃を防ぐ機能と、刃の形状で勢いよく飛び散ることによる攻撃機能がある。防御力はRPG-7でも突破できない)


やはり上手く水銀の壁を突破できるかが鍵だ。

そして攻撃機能。素早いが、離れてしまえばほむらでも容易くよけることができた。あれは、術者本人から離れれば離れるほど移動スピードが遅くなっている。
反面近距離での速度は凄まじく、おそらく5m圏内にはいってしまうと対応出来ないだろう。

時を止めている間に物理攻撃は出来ない。
時止めで接近し銃を打とうと果たして確実に当てられるものか。一度失敗すれば対策を立てられ、以降は接近すら出来なくなるだろう。


「よけて当てられるかしら。これ以上高火力の武器はワルプルギスの夜との戦いに残しておきたいし・・・」


その時ふとあることを思い出した。

衞宮切嗣と手を組んだ晩。おたがいの大まかな戦力を伝えた際、ほむらは言われたのだ。
ただ威力の高い武器を並べるのではなく配置に気を使えと。そうすれば高層ビルだろうと容易く壊せるのだと。


「・・・予行練習になるのかしら、この場合」


あいにく「ほむら主観の時間」なら十分にあった。
ケイネスの近くまで行こうと立ち上がった瞬間、にゅるりと動く水銀と目が合った。


「え」


少しの間。
水銀は、ほむらが固まっている間に遠くへと撤退して行った。


「索敵機能かしら。随分万能ね」


まるで巴マミのようだ。
とりあえずほむらは、もし水銀が拘束機能を持っていた時のためにも警戒しながら相手を待ち受けた。


アインツベルン城から轟音が鳴り響くのは、数分後のことだった。







ーーーーーー





「れ、レンズ効果って一体・・・」



説明しよう。
レンズ効果とは対象を囲むように爆弾を設置することにより爆風がなんやかんやで威力がとんでもないことになるとかいうものである。

とりあえず威力の基準が分からなかったほむらは、手持ちのC4爆弾を全て広場に積んで爆破したのだが、これがいけなかった。
想像を絶する威力を持った爆弾は、ほむらや城まで巻き込んで、辺りをめちゃくちゃにした。


「・・・・・・はっ、令呪!」


ぼーっと放心していた己を叱咤し、慌てて爆発源に近づく。


「こ、壊しすぎたかもしれないわね」


広場に面した塔が半壊している。ごめんなさい。日本人の性か、誰に対してでもない謝罪をする。


いた。


水銀の水溜りの中にケイネス・エルメロイ・アーチボルトはいた。身動き一つしていないが、水銀がわずかに波うっているので死んではいないだろう。


「・・・まどか。あなたを救うためなら、私はなんだってやって見せる」


閉じろ閉じろ閉じろ閉じろ閉じろ・・・・・


ほむらはケイネスのサーヴァントの令呪を奪うため、切嗣に教わった呪文を唱え始めた。







ーーーーーー






「マスター!」


ランサーが駆けつけた場所は、まさに先程の轟音に恥ぬ残状だった。焼けた土とひび割れた塔。大火事にならなかったのが不思議なくらいだ。
その中心にランサーのマスターはいた。


「いいえ、あなたのマスターは私よ」


現れたのは黒髪の少女。その衣服は現代の人間というより、サーヴァントの概念武装・・・いや、先程まで戦っていた「魔法少女」のものに近かった。


「どういう意味だ」


少女は無言で手の甲を見せつける。刻まれた「ケイネス」の令呪を見た瞬間、ランサーは驚愕した。


「貴様ぁ!」


槍を構え今にも切り裂かんとする。
しかし、出来なかった。「傷つけてはならない」という脅迫概念がランサーを縛り付ける。

見れば、少女の手の甲にある令呪は二画のみ。


(一画、使用されている!?)


prrrr prrrr


少女が携帯電話をかけると、2コール目に相手は出た。


「サーヴァント、ランサーの令呪及びマスター権の奪取は成功したわ。・・・ええ、勿論一画使用済みよ。時間の余裕ががあったのは助かったわ。危害は加えられない様に縛ったもの。「マスター変更に納得しろ」、とね」


「我が誇りを侮辱するか・・・!」


ランサーは手が白くなる程に2対の槍を握り締める。
その命令には応じたくなかった。ランサーの誇り、いや願いすらも踏みにじる醜悪な行為だった。
しかし、令呪はその憤怒さえも律する。
もっと早く駆けつけていればと、己の不甲斐なさに耐えられない。
これも令呪の力なのか。ランサーの槍は決してほむら(マスター)に向けられることはなかった。


「この、外道が・・・!!」


「なんとでも言いなさい。責任は慢心していたケイネス・エルメロイ・アーチボルトにある」


















ーーーーーー
ほむほむ戦力強化。ただし裏切りフラグはものすごく立っている。




[31046] 幕間 その頃彼らはこんなことをしていたよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/02/26 12:27
「お嬢ーさん。俺と楽しいコトやんない?」


龍之介はそういいながら右手を差し出す。ぼうっとした目の少女はその手をゆっくりと握り返した。

「アート作り」
それを極めるために必要なことは、何も道具だけではない。材料収集も大切な要素だ。微力ながら、催眠の力も彼には備わっていた。


(楽になったなぁ、誘拐すんの)


路地裏に向かいながら、なんとなく考えた。
あまりはしゃぎすぎて一地域で大量に殺すと、注目を集めてしまうのでほどほどを目指したいのだが、今ばかりはそうは言っていられない。


(まどかちゃんに見せるなら、会心の出来の作品をもっとたくさん作んなきゃね! そういえばどんなのが好みなんだろ。聞いときゃよかったなぁ。ま、いっか。サプライズも大切だ)


鼻歌を歌う。


「ほら、俺ん家はこっち」


「・・・・・・」


少女は龍之介に手を引かれ、無言のままについてくる。

マミちゃん達と同じ制服を着てるから。

それだけの理由でこの少女は選ばれていた。








「あ、起きた?」


「ん・・・ここは。誰でしょう・・・?」


「んー、俺雨生龍之介ね」


家についてから、催眠をといた。セッティングもバッチリだ。
よろしく、と笑いかけると少し安心したのか少女は少し笑う。そしてふと止まった。


「これは」


「手錠みたいな?」


座りっぱなしの少女がカチャカチャと手首をひねること数回。手を縛る手錠についている紐の先は、俺が持っていた。


「あなた、どういう・・・」


「いやぁ、まあこんなの必要ないんだけどさ。雰囲気作りも大事じゃん。そう思わない?」


「まさ、か」


ようやく身の危険に気づいたのか、目を見開いた。
ああ、マミちゃんならどんな顔をするのだろうか。やっぱりこんな顔? それとも冗談ですよねって笑い飛ばす? 無我夢中で暴れちゃう? あ、マミちゃんに暴れられたら流石に俺勝てないかもなぁ。対策考えておかないと。
おっとその前に。


「俺ね、殺人鬼さんなんだよね」


「ひッ!!」


確証を得た少女が退いた。とてもかわいい。


「ねえねえ、どんな殺され方がいい? 俺優しいからさ、君がしたい方法があったら、それを優先してやってあげたいんだよね。ま、毒殺なんて下らない方法は却下だけど」


「いや、いやぁ!」


「こーら! 泣いてるだけじゃわかんないでしょ! ちゃんと言葉で言ってってばぁ」


龍之介が腰を屈めて顔を見つめると、少女の目元に涙がうかぶのがよく見えた。
興味本位で、指で涙をすくいとる。


「きゃあ!」


「んー、味は微妙かな」


しょっぱいというより、とても水っぽかった。
ふう、とため息をついて、メスを取り出した。ちなみについさっき変身しなくても武器は取り出せることに気がついた。


「じゃあ、俺のオーダー通りってことでいいよね?」


「それ、メス、ですの・・・!?」


「うん!」


龍之介はメスをしっかり持つと、暴れる少女を片手で押さえつけながら、お腹にメスを入れた。






「うーん、とりあえず心臓くり抜いとく?」

「自慢できるくらいがんばんないとなぁ」

「ごめんごめんってばぁ」

「あ、やべミスった?」

「大丈夫、ぽい? もう! 作業中に話しかけるのは禁止だって言ってんじゃん!」

「生徒手帳か。ええと、じんみちゃん?」

「面白いことってなに? もっともっとクールなことでも起きるのかよ?」

「ふーん。まあ、俺はこっちに集中するね」

「きっと、まどかちゃんも喜んでくれるだろうなぁ・・・」




(まどか、さん・・・?)


その名前を聞いたのを最後に、少女は意識を失った。







ーーーーーー







とある見滝原中生徒と内臓まで繋がる深い仲になった日の夕方。龍之介は親愛なる同志にアートを見せるため、電話をかけ、まどかと接触することに成功していた。
例のごとく美樹さやかと揉めたが、彼女が病院にお見舞いにいくとのことで、結局別れた。
とりあえず二人と霊体化したキュゥべえで歩きながら会話をしていた。


「・・・え、マミちゃん怪我したの?」


「はい、えっと、今日の魔女退治で。ほむらちゃんが助けにきてくれたんで、死ななかったんですけど」


「なんだ、死んでないのかぁ。良かった」


「い、言い方が軽いですよぅ・・・龍之介さんだって危ないし、気をつけてくださいね」


「んー」


こうして普通に歩いて話しているだけでは、彼女はただのフツーのつまらない女の子だ。
だが、龍之介は知っている。この「鹿目まどか」の残り1割がシビれるほどCOOLなのだということを。
ただの殺人狂なら他にもいるだろう。しかし龍之介の製作するようなアートを、そして死を、愛で、じっくりと味わうのを良しとする同志はなかなかいない。いや、初めてか。


(そうだ、まどかちゃんにマミちゃんの殺し方の相談をしよう。今までは独力で作品を作ったことしかなかったけどさぁ。合作ってのもまた最高だ!)


「まどかちゃんさぁ、今度は俺マミちゃんでアート作ってみようと思うんだよね。どんなのがいいと思う?」


「うえっ! わ、私なんかが口出ししていいんですか・・・?」


「いいのいいの!」


笑顔でそう返すと、まどかは少し考えた後こう答えた。


「うぇーっと、マミさんは、ケーキや紅茶が好きで、作るのもうまいじゃないですか。それってマミさんらしさだと思うんです」


「うんうん」


マミちゃんのケーキと紅茶はご馳走になったことがある。そういった方面には疎い龍之介にも素晴らしいと分かった一品だった。
龍之介がアートを作るのと同じように、マミちゃんもその素材、工程、完成品をこよなく愛しているにちがいない。


「あと、私から見たマミさんと言えばかっこ良くて、こう、エレガントな感じだし、龍之介さんから見たマミさんは可愛いらしいし・・・うー、なんて言えばいいのかな。
マミさんのいろんな人からみた外面とか、内面とかをオシャレに表現してみたらどうでしょう・・・」


上手く言えないや。とほおをかくまどか。


「他人から見た殻の姿もまたマミちゃんの一部ってことかぁ。うーんさすがまどかちゃん、深いこと言うなぁ」

「ウェヒヒ、そんなことないです」


「謙遜なんてダサいことしなくていいよ!」


なるほど、今まで外観は人の本質を現さないと思っていたが、外面も含めて本質とは新しい価値観だ。
新しい価値観を知ることができるというのも、同志がいる喜びの一つに違いない。

龍之介は浮き足立ったが、今すぐに作業工程のことまで相談するつもりはなかった。目立つのは勘弁だからだ。
マミちゃんで作る前に、龍之介が警察に目をつけられたら本末転倒。まどかちゃんと一緒に日本中をランデブーしようにも龍之介の経済力でもう一人養っていくのは難しいし、まどかちゃん自身学生だから、親や先公だってうるさいだろう。


「俺も常識人だしね」


「? 龍之介さん?」


「いやいや、こっちの話」


「ならいいんですけど・・・きゃっ!」


「おっ? すまんすまん」


まどかは通行人とぶつかって、声を上げた。


(でけー・・・)


ぶつかった男は、大きかった。縦横共に龍之介の倍はありそうだ。


(あれー。この人どこかで見たような・・・)


「あの、これ落としましたけど」


「む?」


「まどかちゃん、どーしたの?」


まどかの手に握られていたのは、日本国民であれば知らないものはいないであろう有名な某ゲームのカセットのパッケージだった。


「ああ! 何やってんだよライダーぁ!」


「いや、何と言われてもなぁ・・・」


大男、もといライダーはぽりぽりと頬をかく。


(・・・ライダー?)


おかしいぞ、どこかで聞いたことがある。頭の中からポーズを決めた改造戦士を無理矢理追い出して龍之介は思考する。駆けつけてきた小柄な子供もどこかで見たことがあるような気がした。


「・・・こんなところで会うとは予想外だったよ。ライダーのサーヴァント」


「ふむ、この気配・・・お前サーヴァントか?」


「あり、キュゥべえ知り合い?」


実体化したらしいキュゥべえの発言に、龍之介は首を傾げた。キュゥべえの知り合いということは、聖杯戦争関係・・・


「ああっ! 倉庫街にいた!」


「オマエ、あの時の一般人か!?」


小柄な子供と龍之介はほぼ同時に叫んだ。


「サーヴァントがいるってことはマスターだったのか!」


「ええっと、キミは?」


「・・・答える義理なんてない。僕とオマエは敵同士なんだ」


「そこで提案なんだけど」


混乱するマスター達と、置いてけぼりをくらったまどかの三人に、キュゥべえは声をかけた。


「なんだ、ここで一戦やらかそうって訳ではあるまい?」


「勿論さ。僕が数百単位で襲いかかろうとも、ライダー、君には傷一つつけられないだろうしね。無価値は無意味だよ」


「ではなんだ?」


ライダーはニヤリと笑ながら、再び問うた。



「僕達と同盟を組んで欲しいんだ!」



「・・・はぁ!?」


小柄な子供が声をあげる。


「まあこんなところで話をするのもなんだし、どこかでゆっくりしながら話さないかい?」


キュゥべえは周りを見渡しながら言った。人通りが少ないとはいえ、明らかに変な目で見られている。


「余は構わん」


「おいライダー。 勝手に・・・」


勝手に話を進めるライダーに文句を言おうとして、ふと眼前に迫って来ていた龍之介に気がついた。
じーっと、顔を覗き込んで来る。


「な、なんだよ!」


「もしかして・・・」


「・・・・・・」


「きみ、女の子じゃないの?」


「馬鹿にしやがってぇ!!」


「痛ぁ!」


思わず、子供・・・ウェイバー・ベルベットは龍之介に頭突きを決める。無論、彼は純然たる男だ。


「いっ痛・・・。だってヒロインオーラ出してるしさ!」


「どの口がヒロインなんてほざきやがりますか!」


「うーん、これで女の子なら好みだったんだけどなぁ・・・」


「はぁ!?」


「龍之介さん・・・」


さらっと言う龍之介にまどかはツッコミをいれた。




「おーい、坊主! こんのか?」


「とりあえずあそこの喫茶店にでも行こうよ、まどか、龍之介!」


サーヴァント二名が、三人に声をかけた。







ーーーーーー







「現存する英霊なんて・・・。そもそも人外の英霊などあり得るものなのか?」


「そんな硬い考え方をするな」


「でも・・・」


ライダーは、別の人外の英霊を知っている。彼の愛馬がそうだ。


曰く、キャスターのマスターには聖杯に託す願いがないらしい。自称芸術家の男にとっては、過程こそが望み。己のインスピレーションを高めてくれるから、それが参加理由だという。
しかし元々正規の魔術師ではないらしく、そう言った知識もからきし。
青年が死ぬのはキャスターも本人も嫌なようで、直接戦闘が可能でなおかつ話をきいてくれそうなライダー達に会えたのをいいことに、この話を持ちかけたそうだ。


「しかし、貴様はどうなのだ? マスターに願いはなくともお前さんにはあるのだろう」


「マスターが死んじゃったら意味がないよ」


「最後は余と一騎打ちをすることになるだろうに」


「君は聖杯がどういう代物か知らないようだね。あれは魔力の塊だよ。突拍子もない願いでもない限り、5人しかサーヴァントを吸収していなくても、十分に機能は果たす」


「何?」


ライダーは聞き返す。


「僕はキャスターだよ? もし同盟を組んでくれるのならもう少し話しても構わない」


しっぽを揺らし、キュゥべえは続けた。


「最も、君のマスターの願いが根源への到達なんてたいそうな代物なら別なんだけどね」


「だ、そうだ坊主。どうしたい?」


「どうしたいって・・・!」


「キャスターと組むか、組まないか、に決まっておるだろう」


「僕は・・・」


キャスターは防衛特化のサーヴァントだ。押せ押せのライダーと相性はいいだろう。
しかしだからといって、すぐに手を組めるかと言えばNoだ。


「・・・ちなみに僕の陣地及び道具作りのスキルは平均以下とは言っておくよ」


「え?」


一瞬本当にキャスターの発言なのかと耳を疑ってしまった。でもまあ、人外だから、人間がなるものである魔術師にぴったり該当しないのかもしれない。

さて、どうするか。



「ちなみに断ったらどうするんだよ」


「他の陣営に同じことを申し出るよ。それも妨害してくるならここで戦うしかないね」


それを聞いたピンクの少女がびくりと肩を震わせた。


「・・・・・・」


むやみに死傷者を出したくないし、他の直接戦闘向きのサーヴァントと組まれては厄介そうだった。メリット依然にデメリットがなさそうだ。


「・・・分かった。手を組もう」


「ありがとう! 嬉しいよ!」


「よろしくねー」


キャスターのマスターが声をかけて来る。

かくして、ライダーとキャスターの同盟は結ばれたのであった。



「で、結局この小娘はなんなんだ?」


「わ、私・・・」


「俺の同志の鹿目まどかちゃんでーす」


「その・・・」


かあっ、と顔を赤くしてまどかはうつむいてしまった。


「彼女は・・・一般人だね」


「・・・その一般人にこういう話を聞かせてもよかったのか?」


「龍之介曰く同志のようだしね。何よりまどかは魔法少女候補さ」


「本業、ってことか」


魔法少女の話はウェイバー達も聞いていた。日曜朝8時にやっているアニメとほぼ同じ内容のことをやっているらしい。
アホかと激しく突っ込みたい。魔術師泣かせにも程がある。


「君も魔法少女になりたいかい?」


「なるか!」


コンマ数秒で叫んだ。
何が残念だよだ! 馬鹿にしやがって! とウェイバーは苛立つ。


「でも、キュゥべえがサーヴァントだったなんて知らなかったや・・・あと、今のキュゥべえとサーヴァントのキュゥべえがいるっていうのも」


「厳密に言えば、別個体だけどね。意思相通が出来るだけだよ」


ライダーの生きていた時代から存在していたという魔女。それを倒す魔法少女のパートナー達を総じて「キュゥべえ」と呼ぶらしい。


(きっとキュゥべえにも家族はいるんだろうなぁ)


まどかはそう思った。いつか会ってみたいと思う。
きゅっぴいとキュゥべえは鳴く。


「今の僕は、まどかと一緒にいておくよ。サーヴァントの僕は龍之介と一緒だ」


「うん、よろしくね。キュゥべえ」


「さて・・・」


ライダーは顎に手をやりながら、言った。


「同盟の祝限に、ここは一杯やらんか?」


「ライダー! なにのんきなことを・・・」


「俺のアパート、狭いしパース」


「キャスターのマスター・・・」


早速ノリ良く返事した龍之介にウェイバーは頭を抱える。のんきなのはライダーだけではなかったようだ。


「おお、そうだ。ちょうどいい奴らもおったな」


「奴ら?」


「まあ楽しみにしておけ」


ライダーは上機嫌でそう返した。
まどかが喫茶店の席を立つ。


「えっと、あんまり遅くなるとママに怒られちゃうから、私もう帰りますね」


「ええ、ちょっとぉ! 俺のアート見ていってよ!」


「ご、ごめんなさい・・・」


龍之介の勢いに押されてまどかは一歩下がった。


「ごめんなさい! また今度に絶対行きます」


「えー!」


悲痛な顔をする龍之介に罪悪感があったのか、ドリンク代をおいてそそくさと帰っていくまどか。
その姿が小さくなった頃、少女の足元に白い獣が寄り添っていた。キャスターと瓜二つ・・・今のキュゥべえである。


「反則だろ。キャスターと今代と協力体勢をとってるってのは本当だったみたいだな。でも話で聞くのと見るのじゃ大違いだな・・・」


「嘘なんてついたって意味ないだろう?」


キュゥべえはウェイバーの呟きにそう返した。


「ところでキャスターのマスターよ。ここいらでいい酒屋を知っておらんか?」


「酒屋? うーん俺缶ビール派だしちょっと・・・検索してみるね。結局宴会するの?」


携帯を片手で操作しながら龍之介は聞いた。


「ああ、王同士語らうためにも・・・いやそのために、だな。傍聴しても構わんぞ?」


「よくわかんないけど、まあ遠慮なく!」





この晩、キャスターとライダーの2組とそのマスターが神威の車輪に乗ってアインツベルンの森の方向に飛んでいったらしい。
















ーーーーーー
まどか意図せず死亡フラグ回避。
そして慢心王とゆま出したかったけど無理だった。



[31046] 王の宴パートわんだよ!
Name: きゃべる◆4462d66c ID:a511d3a3
Date: 2012/02/26 12:38

現在衞宮切嗣は暁美ほむらの家に来ていた。

理由は二つある。
一つは侵入者の固有魔法「幻惑」影響で、アインツベルンの結界にほころびが生じてしまっていたから。アサシンの存命がわかっている今、中途半端な対策のまま城で話すよりは、魔術的な防犯ができていなくとも場所の割れていない暁美邸で話した方が安全と二人は判断した。「時間停止」を使えば、家に入るところも目撃されずにすむ。
二つ目は、協定を結ぶ契約内容の中に、ワルプルギスの夜の撃退の助力というものがあったから。暁美ほむらは大型魔女の資料を残し、取り合えずこれを読んでおいてと言い残し少し席をたっていた。


「ワルプルギスの夜、か。これらの資料を鵜呑みにするとすれば、聖杯戦争どころの騒ぎじゃないな」


曰く、その装甲は今まで何者にも貫けなかった。曰く、全力をだせば一瞬で文明がひっくり返る。
化け物退治の得意な英雄とはいえ、全盛期ならいざ知らず、サーヴァントのクラスという器、そしてマスターからの魔力供給の必要性などの縛りがあることをを考えると、相応の策を練らねばなるまい。


(そもそも直接戦闘で負傷し戦力が落ちるのは好ましくないな。見滝原を封鎖して被害を最小限に抑えたいところだが)


包囲網を強行突破されれば意味がないので、要検討だ。


「それにしても、変わった趣味だな・・・」


一通り手元の資料を見終わった切嗣は、一息つくと部屋を見渡して呟いた。
手元の書類の他に映像化されやたらスタイリッシュに表示されている資料達。椅子の形といい、姿の見えない振り子の影といい、よく言えば近代的、素直な感想を述べるなら、変わっている部屋だった。
因みに魔術的な意味もない。


「ホログラム、最新ものか。これ自体は兵器を隠すカモフラージュと聞いたが・・・」


切嗣は椅子から立ち上がり、ワルプルギスの情報が表示されているディスプレイを通り過ぎ、兵器が保管してあるという一角へ行った。暁美ほむらの保有近代兵器は一体どの程度なのか。


「これは」


溜め込まれていた兵器群を見た瞬間、いろんな意味で切嗣は驚いた。


「・・・どうして小型軍艦がこうも適当に放置されているんだ」


どうやってこの家に持ち込んだのかも少し気になるが、それ以上に、管理はどうなっているんだ・・・と無意味に呆れた。

会った当初は気づかなかったが、どうにも暁美ほむらという人物はちぐはぐだ。冷静な判断力や幼い身に余る強大な能力に反して、レンズ効果を知らなかったり兵器の管理も雑だったり無知さが目立つ。
なにより『反乱の可能性が0でないランサーをここに放置して行く』という行為など、愚の骨頂だ。令呪に加え、ディルムッド・オディナには「女性の命令を断らない」という馬鹿馬鹿しい聖誓(ゲッシュ)がある。せめて切嗣への攻撃を禁ずると暁美ほむらは口にしておくべきなのだ。
ランサーは霊体化していて切嗣には肉眼で捉えることはできない。しかし、確実にいるはずだった。
もし切りかかられでもしたら溜まったものではない。下手にことを荒立てる方が襲われる確率が高くなるような気がして、退室しようとしていた暁美ほむらを呼び止めなかったが、まあそのなんだ、要約すると今の心境は、何やってるんだ馬鹿、である。


(暁美ほむらに指導をすべきか、利用して使い捨てるべきか、迷うところだな・・・)


「・・・・・・」


取り合えず小型軍艦の出どころを聞くために、切嗣は暁美ほむらがいるだろう部屋へと向かった。






そしてだ。事前に仕掛けの類はホログラムを除き全て解除してあるということで、不用意に扉を開けたのがまずかった、らしい。
攻撃をされたのならいくらでも対応できただろう。衞宮切嗣はそういう人間だ。しかしその生きて来た環境故に、こういう場合の対処の仕方を知らなかったのは・・・まあ仕方ないだろう。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「あー・・・その」


「・・・出て行きなさい」


具体的には、扉を開けたら全裸の少女がいた時の対処方法とか。
長い黒髪は濡れて肌についていて、不自然に二股に別れた癖はそのなりを潜めている。普段と比べてやや目も潤んでいた。湯気で見えにくいが、ついさっき湯から出たばかりなのか肌は紅潮している。いや、理由はそればかりではなさそうだ。


(Aか・・・)


「だから、さっさと、閉めなさいっ!」


ほおけていた暁美ほむらは慌ててタオルを纏い、若干震えながら叫んだ。
この部屋は、風呂場だったらしい。
やはり暁美ほむらはちぐはぐだ。どうやら彼女は全裸を見られて、顔を赤くして焦るような人種だったようだ。似合わない。

取り合えず扉を言われたとおり閉め、扉の隣に腰をおろした。
ポケットからタバコを出して火を付ける。


「・・・まったく、何をやってるんだ僕は」


蛙の子は蛙。例え血はつながっていなくても、未来の養子の特性は衞宮切嗣も多少は持っていたようだった。








ーーーーーー







ところ変わってアインツベルン城。先の魔法少女とロードエルメロイの襲撃とは違った意味でそこは賑わっていた。


セイバーが右に目をやれば、征服王が。左に目をやれば、傍若無人な金の男アーチャーが。さらにその奥にはライダーのマスターに、キャスター(らしい)とそのマスター(のようだ)、そしてさっきまでセイバーと交戦していたはずのうちの一人、緑の魔法少女ゆままでもがいた。
セイバーは油断することなく、アーチャーに差し出された酒を口にする。


「これは・・・」


喉に流し込んだとたん、まるで頭蓋の中身が倍に膨れ上がったかのような猛烈な多幸感がセイバーを打ちのめす。かつて味わったどんな美酒より素晴らしい一品だった。


アーチャーの酒の出来に驚く征服王騎士王を眺めながら、少し羨ましそうに眺めていた者がいた。残りのメンバーの中で唯一酒のよさがわかる人間、雨生龍之介である。


「飲みたいなー」


「缶ビール派じゃなかったのかい?」


「まあ、でもあんなに美味しそうにされると気になっちゃうじゃん?」


「そういうものかな」


キャスターとそのマスターは小声で話し合う。


「オマエらどうしてそんなにのんきなんだよ・・・!」


イラつき半分、焦り半分と言った様子のウェイバーが二人に呼びかける。ウェイバーは今日交わしたばかりの協定を早くも少し後悔し始めていた。
おそらくキャスターのマスターはサーヴァントの力をよくわかっていない。一刻も早く魔術の常識を叩き込まなければ逆にこちらの気が持たない。


「帰ったら死ぬ気でしごいてやるからな・・・」


「何を?」


状況がまるでわかっていない馬鹿の言葉を軽く流し、ウェイバーは小さくため息をついた。


(どうしてこの僕がこんなことしなくちゃならないんだ・・・)
「痛っ・・・」


「どうしたの?」


龍之介が覗き込んだウェイバーの額には、掠り傷ができていた。いつ作ったのかは分からない・・・いや多分神威の車輪での空中飛行中に必死にしがみついていた時に作ったものだろう。
さっきまで気づいてさえいなかったというのに、いざ意識し出すとどうにも我慢できなかった。


(治癒魔術なんてこんな道具も何もないところで出来ないし・・・)


「お兄ちゃん大丈夫?」


「うひゃあ!?」


「幼女ちゃん?」


「よーじょじゃなくて、ゆま!」


何時の間にか近づいて来ていた緑のワンピースを来た少女に腕を触られ、ウェイバーは思わず声をあげた。


「いたい?」


「お、オマエは・・・」


心配そうに問いかけて来た少女。一見すれば可愛いものだが、何しろこの少女は「あのアーチャー」が引き連れて来たのだ。ウェイバーに警戒心を抱かせるには十分な理由だった。


「ちょっとかして!」


「な、何を・・・」


ぽう、と薄い光がウェイバーの額を滑るようにはしる。光が全て消え去った頃には、傷がついていたことなど全く感じさせない肌へと変化していた。


「・・・何も使わないで、こんなに早く治せるだって?」


「キズは、ゆまがぜんぶなおしてあげるから!」


「オマエはアーチャーの仲間だろ!? 敵じゃないか!」


「でも、ゆまはなおしたかったから。おでこのキズはね、とってもいたいんだよ」


少女はそうつぶやいた。自身も額に怪我を負ったことがあるのだろうか。


(どいつもこいつも、馬鹿にしやがって・・・!)


だがその少女の優しさがウェイバーには気に食わなかった。
戦いの最中に相手の傷を治す・・・それは舐められているからに他ならないからだ。少なくともウェイバーはそう考えた。



そこでふと、三人は自分たちの声が響きすぎていることに気がついた。
そう、先ほどまで語り合っていたはずの王三名が唐突に沈黙したのだ。


「ありー、これって俺らがKYだった感じ?」コソコソ


「ど、どうするんだよ!」コソコソ


「王さまどうしたのかなぁ」コソコソ


なぜか周りの静寂に流され三人が小声になってしまうのも、無理はなかった。


「なぁ騎士王、もしかして余の聞き違いかもしれないが」


ようやく声をあげたライダーは、なぜか、明らかに困惑顔だった。


「貴様はいま"運命を変える"と言ったか? それは過去の歴史を覆すということか?」


「そうだ、たとえ奇跡をもってしても叶わぬ願いであろうと、聖杯が真に万能であるならば、必ずやーーー」


断言しようとした言葉尻が宙に浮く。ここに至ってセイバーは、ようやくライダーやアーチャーとの間に横たわる微妙な空気の正体に気がついたのだ。今やはっきりとーーー差し向かう二人の英霊が、白けきっているのだと。

その後セイバーに向けられたのは、他二人の王からの辛辣な言葉だった。

《故国に身命を捧げるなど馬鹿らしい》
《結末を悔やむ王は暗君》
《そんな生き方はヒトではない》
《無欲な王など飾り物にも劣る》

そして最後に


《貴様は臣下を"救う"ばかりで"導く"ことをしなかった》


セイバーも言い返したいことはいくらでもあったはずだ。しかし彼女の歩んできた道の最後、カムランの丘での光景、数多の屍たちの鮮明な姿がそれを阻んでいた。


「・・・ちょっと言いすぎなんじゃないか?」


ウェイバーがつぶやく。彼には王道がどういうものか未だにイマイチよくわからない。セイバーの言い分もまるっきり誤っている訳ではないはずだ。それ故なのか、ただ責められ悲痛な顔をするセイバーに多少なりウェイバーは同情していた。


「ああそうだね。ウェイバー、君はそう思うのかい?」


「キャスター?」


「彼女の願いは聞いた。ここからは僕の仕事さ」


つぶらな瞳がウェイバーを射抜く。キャスターは腰をあげ立ち上げ尾を一振りすると、三人の王の元へと向かっていった。
それにいち早く気づいたのは、比較的問答で口出しをしていなかったアーチャーだった。


「ほう。畜生の分際で、我と酒の席を共にすると?」


「まさか! 僕が用があるのは、王の宴じゃない。セイバー、君個人さ」


「・・・私に?」


「君の願いは、過去の清算だそうだね」


セイバーはやや苦々しい顔でキャスターに目を向けた。
若干細められた目は、次の瞬間キャスターに告げられた衝撃的な一言に、見開かれることになる。



「聖杯なんてなくても、僕がその願いを叶えてあげるよ」



「なんだとッ・・・!?」


流石にこの発言には征服王と英雄王も多少驚いたらしい。ライダーは驚きの声をもらし、アーチャーは僅かに目を細めた。


「君ほどの素質があれば、過去の清算など容易いことだ」


ぴょこり。可愛らしく首をかしげながら、キュゥべえは笑顔で決まり文句を言う。



「だから、僕と契約して魔法少女になってよ!」



その契約の果てにあるのがより過酷な煉獄なのか、あるいは全てを祝福する福音なのか、知る者はここにはいなかった。















ーーーーーー
キリツグ、お風呂イベントをこなす
アイリスフィール&舞弥空気
安定の営業マン

の三本でお送りしました。


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