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[30983] 【習作 クロス】夢見の少女と医者見習い【H×H × ゆめにっき】
Name: 築◆acd2306e ID:449d6c04
Date: 2011/12/26 12:25
HUNTER×HUNTERとゆめにっきのクロス物SSです。
十年振りにレオリオさんが本編に登場したことに興奮して書いてしまいました。

このSSはもしゆめにっきの舞台がH×Hの世界だったら?という構想の元、ゆめにっきEDのその後の展開を妄想したものです。
作品内の時間軸はGI編から会長選挙編の間になります。

※登場人物は作者の独断と偏見によって性格が魔改造されている可能性がございます。ファンの方は十分にご注意下さい。
※なるべくオリキャラは出さないで進めていきますが、ゆめにっきからの登場人物は半オリキャラと化しております。十分に(ry

では、両作品のファンの方も、そうでない方もお楽しみください。

※12/26追記 
荒らしによって感想欄が埋まってしまったので、再投稿しました。前の感想版にコメントを下さった方々、本当に申し訳ありません。



[30983] ゆめのまえ
Name: 築◆acd2306e ID:449d6c04
Date: 2011/12/26 12:26
りぃん、りぃんと、鈴の音が聞こえた。


 夜が好きだった。
 ゆめの中なら、わたしは何でも出来たから。
 ゆめの中なら、やさしい人もいるから。
 
 体にできた青いアザも、ママに叱られたことも、パパにぶたれたことも、学校のことも、友達のことも、ゆめの中ならぜんぶ忘れられる。
 
 ―――なのに、そのはずだったのに。

 明るいひかりはぷつんと消えて。
 やさしかったゆめは怖いゆめに。
 なかよしのあの子は怖いあの子に。


 昼はきらいだった。
 夜はきらいになった。
 
 ゲームの明かりだけが眩しい部屋のなか、わたしは隅っこでうずくまる。
 ふと顔を上げると、そとの景色が窓から見えた。
 赤い赤いその景色が。


 手すり越しに見える、赤く染まった世界。
 わたしはやさしいゆめの中、飛んでた空を思い出した。
 わたしは赤い世界に手を伸ばし。
 それから。―それからわたしは。


ぐしゃっ。


 遠くから、鈴の音が聞こえた。
 りぃん、りぃんと、鈴の音が。

 りぃん。

 りぃん。

 りぃん。



[30983] ゆめ 1 や
Name: 築◆acd2306e ID:449d6c04
Date: 2011/12/26 12:27
 「クソっ、ついてねぇぜ。…くそっ、くそっ、くそぉおおオ!」
 俺は今日何度目か分からない悪態をつく。

 今日の俺は絶好調だったはずだ。ポーカーで四連勝を決めたところまでは良かった。ただ、その後のスロットがダメだ。ポーカーの勝ち分はみるみる減っていき、気付けばタネ銭まで底を付いていた。
 いや、そこで止めておけばまだマシだったかも知れない。自前の財布は確かにすっからかんだったが、その時の俺には別口のカネがあったのだ。ボスから預けられた組のカネ、その額3000万ジェニー。悪魔が俺に囁いた気がした。なぁに、別に着服しようってんじゃないだろ?ちょっと借りるだけさ。
 そう、ちょっと借りるだけ。勝った分は懐に入れて、あとは黙っておけばバレやしない。

 その考えが甘かった。500万、1000万と負けはどんどん嵩み、気付けば俺は後戻り出来なくなっていた。足元がふら付き視界はぐにゃりと歪んで見えた。最後のカードが尽きカジノのボーイに肩を叩かれた時、俺の足元には汗で水溜りが出来ていた。

 店から追いたてられ、薄暗い路地裏。俺は頭を抱えて蹲った。ヨークシンマフィアは田舎のチンケなマフィアとは違う。ケジメをつけるのにハンパな方法は取らない。頭の中に浮かぶのは『見せしめ』、『拷問』、そして『死』という文字。

 その後、半日駆け回り、チンピラ時代の手下どもにも手段を問わずかき集めさせ、得たのはやっと100万たらず。今週末の顔合わせまでに3000万間に合わせなければ、俺に待っているのは破滅の運命だ。

 「クっそぉ!!!」
 真夜中、表通りの繁華街。露骨に目を逸らすカタギどもを後目に、腹立ち紛れに足元のゴミ箱を蹴り飛ばす。

 「くそっ!くそっ!くそっ!糞ォっ!!」
 道路に散乱した生ゴミを何度も何度も踏みつけていると、俺のほうに視線を送ってくるヤツが居た。俺を舐めてんのか?急激にアタマに血が上ってくる。

 「あ?なに見てやがンだ!?コロすぞごらぁ!!!…あ?」
 俺が舐めたヤロウの方を振り向くと、そこに居たのはガキだった。10かそこらのちいせえメスガキだ。それもスラムに居る骨と皮だけの薄汚いガキじゃ無い、そこそこ良い身なりの小奇麗なガキだった。俺のガンにもビビらず、眠たげな目でこちらを見ている。

 そいつをまじまじと眺めて、俺は神とやらに感謝する気になったね。僥倖、これは僥倖だ!こんな路地裏で親も連れずにガキが一人で居るなんてそうとしか思えないだろう?このガキはそこそこ見目が良く、育ちも悪く無いように見える。まさに変態の金持ちどもが目の色を変えそうな『商品』だ。俺の日頃の行いに、と神が寄こしたカネヅルに違いない。

 こいつを逃がす手は無い。俺はガキの好みそうな笑顔を作って話しかけた。
 「へへっ、驚かせちまったか?パパとママはどこだい嬢ちゃん。」

 俺がそう言うと、ガキはちょっと考える素振りを見せ首を振った。つまり親は近くにいない。どこぞの金満観光客の娘がホテルをちょっと抜け出して冒険気分、と言ったところか。これはますますウマい。

 「ほぉ、ならオジサンと遊ばねぇか?イイところ紹介してやるぜ?」
 俺がそうやって笑いかけてやると、ガキは小さく頷いた。ちょろい、なんてちょろいガキだ!思わず大声で笑い出しそうになるのを必死で堪える。無口で大人しそうなガキだが、オトナの世界には興味シンシンってか?いいぜぇ嬢ちゃん、俺がたっぷり教えてやるよ。


 ガキの手を引いて、やって来たのはけばけばしいネオンの光るホテル街。この手の『商品』を扱う斡旋所に連絡を取る為に、ガキを人目の付かない場所に連れ込む必要があった。
 ―それに、売っ払う前に具合《・・》を確かめておくのも悪くない。価値が下がるから前《・》は使えないが、それなりに楽しめそうだ。

 結局ガキはホテルの一室に連れてこられても全く抵抗する素振りを見せなかった。本当に警戒心の無いガキだ。ベッドに大人しく腰を下ろすガキを見つめながら、例の業者の番号を押していく。

 「よぉ、俺だ。上物が手に入ったぜ。ガキだ。十歳ぐらいの。ああ。」
 さっそく電話越しに斡旋業者と『商談』を始めるが、カネの交渉になった途端に雲行きが怪しくなってきた。

 「あ?良くて1000万だと!?足元見てんじゃねぇぞっ!!」
 「いやぁ、そうは言ってもおたくの組に知られずに卸すってなるとねぇ。嫌なら闇オークションにでも流したらどうです?」
 「…クっ!!!」

 通話を切って、携帯を床に叩きつける。
 闇オークション…、組に知られるのは避けたかったが已む無しか。確かに業者を介すより遥かに実入りは大きい。いざとなれば余剰売り上げを上納すれば命は免れるか?

 …ん?なんだ?ガキが俺の服の裾を引っ張っている。さっきまで眠そうだった赤い瞳を大きく見開き薄く笑っていた。その顔がガキの癖に妙に蠱惑的で、俺は思わず喉を鳴らした。
 紅玉のような潤んだ瞳、それを彩る長い睫毛、陶磁器のように滑らかな白い肌、全てが俺の心を掴んで離さない。その細く頼りない首筋から微かに漂う甘い香りが鼻腔を刺激し、俺の中の欲望がムクムクと鎌首をもたげてくる。

 「…ね、あそばないの?」
 俺に向かってガキが始めて口を開いた。その誘うような、甘えるような口調に反応して、俺の下半身にどんどん血流が溜まっていくのが分かる。―しまった、コイツまさか本業か?頭の片隅でそんな考えが浮かぶが、黒い炎のように燃え滾る獣欲がそれを彼方に押しやっていった。

 「へ、へへっ…。とんだスキモノじゃねぇか。」
 そう呟く口の中はカラカラに渇いていた。そして俺は本能の赴くままベルトに手を掛ける。

 「あのね、みんなあそびたいんだって…。」
 急にガキがそんな事を言い出した。みんな…?みんなって何だ。
               「くすくす。」
       「キャハハハ。」
 突如、部屋に響く若い女の声。何だこれは、このガキの声じゃねえ。
   「キャハハハハ。」     「くすくすくす。」
 安ホテルの狭い室内。もちろん俺とガキ以外には誰もいない。
     「キャハハ。」
             「キャハハハ。」
 なのに、この声はなんだ?ひどく耳障りで金属質な、複数の女の声。
  「くすくすくすくす。」  「キャハハハハハ。」
     「キャハハハハハハハハハ。」
 …この声はなんなんだ!?

 体が急速に冷えていった。汗が全身に浮かんでくる。いつまでも止まない嗤い声に、体がガタガタと凍えたみたいに震える。違う、寒さじゃ…無い。これは恐怖だ。俺は恐怖を感じている。

 「…おっ、おいガキ!!てめぇなにをっ…。」
 そう言ってガキの肩に掴みかかる。さっきまで見開かれていた瞳が眠ったように、いや、まるで死んだように閉じられていて、それが一層不安を呼んだ。俺は必死でガキを揺さ振る。

 ―ごろん。ごとっ。

 なんの音だと、俺は一瞬思ったが、すぐに理解《わか》った。
 俺が掴んでいた肩から、ガキの小さい首が、もげ落ちていた《・・・・・・・》。

 「ひぃっっ!なんだよこれ!なんなんだよ一体!!!」
 残ったガキの体を突き飛ばし俺は叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
 ―悪夢。まるで悪夢を見てるみたいだ。部屋中に響く嘲笑はますます大きくなっていて、ガキの分かたれた胴体と頭から噴出す真っ赤な血が室内をグロテスクに彩る。だが、悪夢はこれで終わらなかった。

 あちこちに出来た赤い水溜り。そこから突如、何本もの手が突き出る。猛禽のような骨と皮だけの手だった。手だけだったそれは、やがてもがくように這い出し、徐々に全身を現していく。

 「「「「「「「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。」」」」」」」

 羽をむしられた畸形の七面鳥、それとも早くに産まれすぎた鳥の胎児か。それが無理矢理人の形を取り繕ったようなもの。血溜まりから上体を覗かせたそれら《・・・》はそうとしか言いようがなかった。そいつらが皆一斉に俺のほうを向いて甲高い女の声で狂ったように嗤っている。どいつも2mは優に超えた長身で、骨格は奇妙に捩じれている。なのに服と髪型だけは表通りを歩く女のように綺麗に整えられていて、それがより一層の嫌悪感を俺に与えた。

 「ははっ。ははははは。アはははハはハ!!」
 目の前の光景に、俺は笑うしか無かった。涙と鼻水が顔を伝い、失禁した尿が内股を濡らし脱ぎかけのズボンを汚していく。ああ、俺は狂っちまったんだろうか。死ぬほど恐ろしいはずなのに、渇いた笑いを止められない。
 赤い極彩色の部屋の中、俺と鳥女たちの笑い声がこだまする。這い出してきた鳥女たちは、その巨体から想像できない異常な速さで俺を取り囲んだ。

 「あひゃヒャっ!ひっ、ヒっ!けはっ、ハッ、はハはははひゅハっ…!」
 鳥女の醜悪な手が俺を掴んだ。俺もそいつも涎を撒き散らしてけたけた笑う。群がる鳥女達が、俺の体を引きずり、血まみれの床に線を刻んで行く。

 ―ずる、ずる、ずる、ずる
   ずる、ずる、ずる、ずる。

 鳥女達は俺の体を、大きな血溜まりに運んでいく。途中、目を瞑ったままのガキの生首が俺を見ている気がして可笑しかった。

 “鳥人間に捕まるとね。閉じ込められちゃうんだよ?何処にも行けないところに。”

 血の海に飲み込まれる瞬間、何か聞こえた気がしたけど、そんなことはもう、俺にはどうでも良かった。
 
 
◇ ◇ ◇


「オヤジ、こいつ一体どうするんです?」
 部下の一人が、こいつ―俺の組のカネに手を付けた元部下を見て言った。

「…いつも通りにやれ。」
「ってもコイツ完全にイカれちまってますよ。指ィ詰めてもバカみてぇに笑ってるんですぜ。」

 確かに、拷問係りであるそいつの言う通りだ。元々チンピラ上がりのおつむの弱い下っ端だったが、ここまで箍が外れていた筈は無かった。

 人身売買業者がタレ込んで来た情報を元に、こいつを攫って来たまでは良かった。だが、相当ヤバいクスリでもやったのだろうか、連れてこられたこいつは既に完璧にイっちまっていた。発見した部下によるとラブホテルの一室でションベン撒き散らして寝こけていたらしいが…。

 それに気になるのが、タレ込んだ業者の情報にあった女のガキ。カタギのガキだったらしいが、昨夜親からはぐれた迷子のガキは居なかった。サツにカネを握らせて仕入れた情報だから、まず間違いは無い。しかし再度、業者を呼んで吐かせても嘘は付いて無いようだった。明らかな矛盾だが…。

 「あひゃっ!あひゃひゃひゃヒャ!!!ひぃひっ。あイつが!あノ、ガキがっ!!」
 廃人同然だった元部下が豹変し、根元しか残っていない人差し指で窓の方を示していた。
 「おいゴラ!どうした!急に暴れるんじゃ……うっ、クせぇ!こいつ漏らしやがった!」

 今、確かに『あのガキ』と聞こえた。どういう事だ?元部下は酷く怯えた様子で窓を指差しているが、そこにはすぐ隣の雑居ビルの煤けた壁面しか見えていない。

 「アいつガ!まどかラっ!おでを見てルうっ!あヒャ!あイ…ヒッ。」
 元部下は暫く痙攣した後、ぴくりとも動かなくなった。拷問係りが慌てて脈を確かめ、青褪める。
 「…死んで、ますぜ。」

 なんの冗談だ?冷や汗が頬を伝って流れて行く。
 元部下が事切れる瞬間、窓に映ったアレは?ピンク色の服を着たおさげの…。

 ―いや、そんなはずは無い。俺は目を瞑り、先程の幻影を振り払った。





[30983] ゆめ 2 や
Name: 築◆acd2306e ID:449d6c04
Date: 2011/12/26 12:28
  「―続いてのニュースです。先日のヨークシンシティ暴力団幹部自さ…」
 煩いテレビを消し、静かになったホテルの室内。俺―レオリオ・パラディナイトは通帳を捲り頭を抱えた。

 「残高1万29ジェニー…。うがぁー!!」
 クラピカと旅団《クモ》の事件から一月、俺は未だにここ、ヨークシンシティに居た。
 本調子では無いクラピカの様子を見る為ずるずる滞在を引き延ばしていたら、いつの間にか飛行船の足代まで無くなっていたのである。いや、それどころか今宿泊しているホテル代すら危ういぞ?まだ先払いした分は残っているが、それも明日まで。…つまりこのままだと俺は明後日には宿無しになる。

 クラピカに頭を下げて借りるか?…いやいや病み上がりのヤツにカネを無心するのは気がひける。そもそもカネの貸し借りなんて滅茶苦茶嫌がりそうだぞアイツは。例の嫌味たらしい口調で説教されるのが目に見えてる。
 センリツ…。これも却下だ。昨日空港で格好良く別れたのに、チケット代が払えませんでした、なんて理由で顔を合わせる時点で気まずい。くぅっ、そうじゃなきゃ一番優しく貸してくれただろうに!
 ゼパイル…、は論外。内臓を担保に借金抱えてるヤツにカネせびるとか無茶だろ。
 受験用に積み立ててるカネがあるにはあるが、ここから引き出してしまうといざという時困る。それにそのカネは結局補充しなくてはならない。

 ハッ!そういやライセンス使えば交通機関タダじゃなかったか?
 ……いや駄目だ。んなことしたら俺の故郷にライセンス狙いの小悪党が集まっちまう。同じ理由でこのホテルにも、わざわざカネ払って泊まってるんだもんな…。


 詰まるところ、今日明日中に即金の仕事を探すしか無いわけで。俺は少し肌寒くなってきたヨークシン市街を、一人とぼとぼと歩いていた。
 目指すはハンター協会ヨークシン支部。基本的にメシのタネは自分で探せ、というスタンスのハンター協会だが、手間賃稼ぎ程度の軽い仕事なら各地の窓口で紹介してくれる。手間賃といってもハンター基準なので、一般の日雇い仕事よりも遥かに稼げる。と言うことで折角のライセンスを活かさない手は無いってわけだ。

 「ヨォ、俺はレオリオってもんだが…。」
 入り口から一番近いカウンターに座る受付嬢に、ライセンスを渡し手続きを済ませる。…関係ねーけどチチでけぇな。あとで番号聞き出そう。

 「あ、ハイ。えー、第287期合格のレオリオ・パラディナイトさんですね。どういったご用件でしょうか?」
 「ああ、ちょっと仕事の斡旋を頼みたくてよ。」
 巨乳の受付嬢からライセンスを受け取りながら答えた。
 「かしこまりました。…ハイ、ではこちらが現在ご紹介できるお仕事のリストとなっております。」
 そう言って差し出されたタブレット端末の画面を眺める。

 ドブ浚い、ペット探し、浮気調査…。どれもこれもダメだな。一番下までスクロールしてもロクな仕事がねえぞ。仕方無く日雇い即金のドブ浚いを選択しようとした時、軽快な電子音と共に画面が書き換わった。
 New!という赤い文字と共に新しい依頼が追加されている。なになに?事件調査依頼、ヨークシンシティ怪死事件について。ずいぶんキナ臭いが一応詳細を見ておくか。


 案件名:ヨークシンシティ暴力団員連続怪死事件調査依頼
 詳細:1999年10月2日早朝、ヨークシン市の指定暴力団ヤマーチ組組長ルッツィアーノ・ヤマーチ氏の遺体が同組員により発見された。氏の遺体には不審な点が多く見られたが、市警による司法解剖の結果自殺と鑑定される。しかし遺体発見当日の夕方、第一発見者の組員が後を追うように自殺したのを皮切りに、他の組員やその家族らが次々と自殺。また、生きている組員らも重度のてんかんに似た神経症状が見られ、市内の病院に搬送された。事態を重く見た市警は、覚醒剤・麻薬等の関与を疑い捜査を行うも、遺体や患者から薬物は検出されなかった。
 当協会は本件を念能力者による大規模テロ事件と認定し、同時にその犯人をA級賞金首に指定。協専ハンターを派遣するとともに、一般のプロハンター諸兄姉にも広く本件の捜査協力、及びに犯人の捕縛を依頼する。
 報酬:前金;3000万ジェニー(各人)、情報提供報酬;重要度により個別評価、捕縛報酬;80億ジェニー(要犯人の生存)


 「はっ、はちじゅうおくぅうう!?」
 はっ、やべえ、周りのヤツらに聞かれちまう。にしてもなんだこのべらぼうな金額は。旅団の連中ですらここまでじゃなかったはずだが、協会はこの犯人を旅団の連中以上の実力者と見てるって事か?正直俺の手に負えるとは思えないが、…しかし、前金だけで3000万か…。

 「な、なぁネエちゃん。この依頼の前金って返還義務はあんのか?」
 とりあえずこれだけ聞いといても損はねぇだろ。
 「あ、ハイ。え~、その依頼の前金は実質、調査経費として皆さんに支給されるものです。ですので、たとえ皆さんが情報を提供出来なかったとしても当協会では返還の要求を致しませんっ。」
 おいおいまじかよ。ってことは依頼を受けるだけで3000万丸儲け、さらに情報提供だけでそれ以上か…。

 …ん?なにやら俄かに周囲が騒がしい。
 「おい!この依頼受けるぞ!」
 「私もよ!早く手続きして頂戴!」
 「待てよ!俺の方が先だ!!」

 くっそ。周りの連中しっかり聞き耳立ててやがった!
 「ネエちゃん!俺も頼むぜ!」


 
 「くっふふふふ。さ・ん・ぜ・ん・マ・ン。」
 通帳に記帳された金額を見つめて思わず顔がニヤける。くぅ~、美味しすぎるぜハンター!
 さて、これからどうするか。前金だけ貰ってハイさようならってのもアリっちゃアリだが…。80億、いやその二分の一、いやいや十分の一でも病院建設資金には十分。俺の夢の実現にかなり近づくな…。ちょこっと調査するぐらいならバチは当たんねえんじゃないか?

 「おわぁっ!」
 やべっ、通帳見ながら歩いてたせいで人とぶつかっちまった。

 「すまねえ嬢チャン!大丈夫か?」
 俺は急いでぶつかった相手の人物―10歳くらいの少女を助け起こす。栗色のおさげ髪に四角い模様がプリントされたピンク色のシャツ、赤いスカート。眠そうな赤い瞳でぼんやりと俺を見ている。
 う~む、惜しい。あと10歳、いやせめて5歳年上だったらな…。ハッ、いやいやそうじゃねえだろ。

 んっ?まじまじと俺を見つめていた少女の瞳が、ちょっと驚いたように円く見開く。
 「…せん、せい?」
 先生?俺はまだそう呼ばれる身分じゃないんだが。誰かと間違えてんのか?周りに少女の保護者らしき人物は見当たらない。てえことは、この子は迷子だと俺は判断した。

 「あ~悪りい、おれはその先生って人じゃないが。その人とはぐれちまったのか?」
 俺の質問に少女は黙って首を横に振って答える。違うか、なら。
 「親父さんやお袋さんは?一緒に来たんだろ?」
 これにも少女は首を振って、小さく呟く。
 「…いない。」

 やっぱり迷子か。どうする?とりあえず迷子センターにでも連れてくか。
 「あ~お嬢チャン。俺はレオリオってもんだ。近くに迷子センターが有るから一緒に行こうか。なっ。」
 そう言って俺が手を差し伸べると、少女はこくん、と頷き俺の手を握った。やれやれ、と俺が歩き出そうとすると、少女が突然口を開いた。

 「わたしはね。マドツキって言うの。」
 「マドツキ?あ~、なんつうか。変った名前だな。」
 と言うかぶっちゃけ変な名前だ。

 「ファミリーネームはなんて言うんだ?」
 フルネームが分かれば、迷子センターですぐに親を捜せるだろう、と思ったんだが。生憎、少女―マドツキはこの質問にも首を振った。…参ったな。なにやら複雑な事情がありそうだ。服装は清潔だからストリートチルドレンとは思えないんだがなぁ…。
 ハァ、せっかく景気のいい仕事が転がり込んで来たっつうのに幸先が悪い…。そんなことを考えながら、俺はマドツキの手を引いてビル風の舞う市街を歩き出した。



[30983] ゆめ 3 や
Name: 築◆acd2306e ID:449d6c04
Date: 2011/12/26 12:29
  迷子センターはヨークシン市の表通りに面した一等地に位置していた。ヨークシンには一年を通して数多くの観光客が訪れる。迷子センターがこのような目立つ場所に、それなりに大きな敷地を有しているのは、一般人の家族連れがマフィアの絡む犯罪や抗争に巻き込まれないようにという配慮の為だ。ヨークシンに観光で訪れる子持ちの旅行者の間では、我が子に真っ先にこの場所を覚えさせるのが常識となっている。

 そのくらい有名なところなんだがな、と俺は傍らに座る少女を見て考える。あれから迷子センターに辿り着くまで、マドツキは一言も喋らずに、大人しく俺に手を引かれていた。
 ここは迷子センターの待合室。我が子を探す若い夫婦や、両親とはぐれて泣きべそをかいている子供たちでごった返している。現在、俺とマドツキは入り口で整理券を受け取り、並んでソファに座り順番を待っているところだ。

 着いたのは朝の10時ごろだったのに、もう昼になろうかという時間だ。混んでいるせいか?さっぱり順番が回ってこねえ。俺はイライラと腕に嵌めた時計を見遣る。一方マドツキは静かにぼんやりと虚空を眺めていた。う~ん、この年頃の子供にしちゃコイツは大人しすぎないか?

 「番号札1224番でお待ちの方。25番窓口へどうぞ。」
 やっと俺たちの番か。俺は隣のマドツキに声を掛ける。
 「よし、ほら行くぞ。」
 促してやるとマドツキはすぐに立ち上がり、俺の手にしがみついた。なんか随分懐かれちまってんなぁ…。

 「さっき表で見つけた子なんだが、こいつの親を見つけてやってくんねえか。」
 窓口に座る対応係りに、俺はそう話しかけた。
 「かしこまりました。その子のお名前は分かりますか?」
 「マドツキって言うらしい。ファミリーネームは分からん。」
 いかにもお役所仕事といった感じの慇懃な男性係員に、俺はそう返した。
 
係員は名前のところでちょっと変な顔をしたが、何も言わずに手元の端末で検索を掛けてくれている。マドツキと二人待つこと数分。係員が再び声を掛けてくる。
 「…。マドツキ、という名前のお子さんの迷子届けは現在出ておりません。また、全ヨークシン在住者や宿泊施設滞在者のリストを調べても、該当者は存在しません。本当にそのお名前で合っていますか?」

 おいおい何だそりゃ。怪訝に思ってマドツキを見つめると、彼女はきょとん、と首を傾げた。
 「おい、マドツキって名前でいいんだよな?」
 確認の為に再び尋ねると、マドツキはやはり、確りと頷いた。
 「ほら、マドツキで合ってるってよ。ちゃんと検索できてねえんじゃねぇの?ちょっとその機械貸してくれよ。」
 そう言って俺は係員の手元の端末に手を伸ばす。
 「うわ、止めてください!個人情報保護の為、一般の方にはお見せできません!しつこいと警察を呼びますよ!」
 う、それは面倒だな。そういう事なら仕方ねえか。

 「あ~、分かったよ。まあいい、とにかくこいつ預かってくれよ。あるんだろ?託児所みたいな場所。」
 そもそも俺は、こんなとこで道草食ってる場合じゃ無いのだ。早いとこ事件の調査をしなければ他のやつらに先越されちまう。

 「それはできません。」
 何だって?俺は思わず係員のスカした顔を睨みつけた。
 「入り口の案内図にはちゃんと描いてあったぜ?どうして受け入れできねえんだよ。」

 「…居るんですよねぇ。育児が面倒になったからって、うちみたいな施設に子供を捨てていく親が。その子、本当は貴方のお子さんなんじゃないですか?マドツキ、なんて適当な名前でっち上げて。」
 そう言って係員はあからさまに俺を疑った態度を見せる。
 「なっ…!ちょっと待てよ!俺はこう見えてもまだ19だぞ!こんなでかい子供を持った憶えはねぇ!」
 この展開はまずい!俺は慌ててマドツキに弁護を頼んだ。

 「な、マドツキ。コイツにちゃんと説明してやれよ。俺とはさっき会ったばかりだってよ。」
 するとマドツキは何を勘違いしたのか、ぎゅっと俺の脚に縋り付いて来る。そして心なしか潤んだ瞳で俺を見上げると、とんでもない爆弾を落としていった。

 「…せんせぇ。わたしを、おいてかないで…。」
 …。
 決定的でした。

 係員の疑いの視線は完全に軽蔑したそれに変り、俺は半ば追い出されるようにして迷子センターを後にした。
 

 「…ハァ、どうしてこうなった。」
 おれは恨めしげに、こうなった原因の張本人を見つめる。
 今俺達が居るのは、表通りからちょっと入った路地にある定食屋だ。丁度ハラが減ってたし、あれから俺の足にしがみついて離れないマドツキを落ち着かせる為でもある。

 「へいお待ち!ご注文はっ!」
 「あ~、サッパの味噌煮定食と、こいつはお子様定食で。」
 妙にテンションの高い店員に注文を伝え、俺はマドツキと向かい合った。ごほん。

 「お前、もしかしてやっぱり孤児なのか?」
 向いの席に座るマドツキに、俺はそう話を切り出した。すると彼女はちょっと考えるような素振りをして答えた。
 「…分からない。」
 おぅい、分からないってなんだよ!叫びだしそうになるのを堪えて、俺は辛抱強く問い返す。
 「あ~、親とか、一緒に住んでる仲間とか、帰る場所とかねえのか?」
 この質問に、マドツキはちょっと顔を伏せた。そして弱々しく首を振って、小さい声で。
 「…いない。」
 ……。これは思った以上にハードだぜ。さて、どうすりゃいいか…。

 「へいお待ちぃ!サパ味噌、お子定!。」
 重い雰囲気が漂う中、さっきの店員が空気を全く読まずに、俺達のテーブルに料理を置いていった。しっかしはええな。さすが「早い!安い!安い!」と評判の店だ。
 しょうがねえ。まずは腹ごしらえにするか。俺は結構なボリュームのあるそれに軽く手を合わせ、大口でかっこむ。

 半分くらい腹の中に叩き込み、ふと見ると、マドツキが目の前の料理と俺を見比べて不安そうな顔をしている。なんだ、遠慮してんのか?
 「どうした?食っていいんだぜ?」
 俺がそう促してやると、マドツキはパァーという擬音が出そうなくらい嬉しそうな顔をして、国旗の刺さったチャーハンの器を大事そうに抱え込んだ。さっき会ったばかりとは言え、こいつの表情がこんなに大きく変化するのを初めて見て、俺は少し驚く。

 子供らしくねーと思ってたが、こんな顔もできるんだな。俺はちょっと前に別れた、仲間二人の顔を連想した。あいつらもそれぞれ家庭の事情を抱えてるが、こいつもそうなんだろうか?俺は残った味噌煮と白メシを頬張りながら、そんなことを考える。

 「あ~食った食った。」
 定職を全て平らげた俺はハラを抱え、お決まりのような独り言を呟く。マドツキはと言うと、最後に残ったデザートのゼリーを、それはそれは大切そうにつついていた。そんな様子を見ていると、自分でも思わぬ言葉が口を衝いて出てきた。

 「おい…。行くとこ無いんなら、俺んとこ来るか?」
 ああっ、なに言ってんだよ俺!もっと良く考えろ!なんでさらっとガキ養う決心してんだよ!19でコブつきになってどうする!

 「―――っ!…良い、の?」
 「お前が良けりゃあな。」

 俺の内心とは裏腹に、あっさりとそんな言葉を吐く俺の口。
 …だってしょうがねぇだろ。こんな、さっきの顔よりもっと嬉しそうな、こいつの顔を見ちまったら。やっぱダメだ、なんてこと言えるわけが無い。

……子連れハンターレオリオ、誕生の瞬間だ。
ハァ、俺は心の中でもう一度叫んだ。―どうしてこうなった!!



[30983] ゆめ 4 や
Name: 築◆acd2306e ID:449d6c04
Date: 2011/12/26 12:29
  定食屋でハラを満たした俺は、マドツキを連れて一旦滞在中の安宿に戻った。依頼内容の再検討と、今後の方針を決める為である。
 マドツキの面倒を見ると決めちまった以上、依頼には一層気合いを入れる必要があるからな。なにしろ、ガキを養うのには結構なカネが掛かると聞くし。
 
 ちなみにホテルのロビーではちょっとした一悶着があった。そりゃ一月以上滞在している明らかにカタギじゃない客が、急に小さい少女を連れて来たらビビるのは分かる。逆の立場だったら俺だってビビる。
 だけどなにも警察に電話掛けなくても…。まぁ慌てた俺がハンターライセンスを見せながら、適当な理由をでっちあげた事で、何とか未然に防げたんだが。…なんか先が思いやられるぜ。

 いやいや、そんな事は片隅にでも追いやって、今は依頼に集中だ。俺はハンター協会支部でプリントアウトして貰っていた依頼詳細にもう一度目を通す。ちなみにマドツキは、室内のテレビを真剣な顔で食い入るように見つめていた。

 詳細のうち、まず気になるのが最初に発見された遺体に見られたという不審な部分。はっきり書いていないのが気になるな。情報を集めるとしたらまずは警察署だろうか?
 次に生き残った被害者たち。犯人に到るには現状、情報が不足しすぎてる。こいつらの証言は貴重だろう。第二の行き先は病院に決定。
 そして一番引っかかるのが協会の対応だ。なぜハンター協会はこの事件を念能力者による仕業と断定した?集団ヒステリーやらの可能性もあるだろうに。
 自殺させる能力者か、或いは自殺に偽装した殺人と協会は見抜いている?べらぼうな報酬も良く考えるとおかしい。…しかしこれは考えても仕方ないか。ハンター協会上層部の判断なんぞ、俺には及びもつかん。調べる方法も無いしな。

 さて、現時点で推測される犯人像はなんだ?動機はマフィアへの怨恨?はたまた無差別の犯行か。前者だとしたら、マフィアに恨みを持つ人間を探ればいいが…。これにはクラピカの助けが要るな。裏社会の情報は中々表には漏れない。ライセンスを使って調べるよりも、身近な伝手を頼るべきだ。
 
 さらに考えるべきは犯人の能力。先月の一件で念の恐ろしさを実感したからな。いくら情報収集が中心とは言え、その過程で犯人とカチ会わせちまう可能性は十分にある。予め用心するに越したことは無い。
 マフィアの事務所に潜入して多数のスジモンどもに気付かれず組長を暗殺、あるいは自殺に追い込む。そしてそれからタイムラグのある第二の犠牲者。やはり一番可能性が高いのは操作系か。人を自殺させるなんてそれくらいしか…。
 いや待てよ?変化系はどうだ?例えば念を毒物…。違うな、感染性のある病原体に変えて組長を殺害。そして第一発見者に感染した後に他のヤツラにも伝播した。おおっ、これはビンゴじゃないか?念能力なら司法解剖で検出されないのも頷ける。なかなか冴えてるぞ、俺!
 だが能力が推測できてもどうする?俺ははっきり言って念初心者。そんなバケモノみたいな敵に対処できるか?…この辺のこともクラピカに聞かなきゃダメそうだ。あいつは俺よりずっと念に精通している。
 
 よっし、それじゃあまずはクラピカに連絡を取るか。
 「おいマドツキ。すまんが電話掛けるから、音下げていいか?」
 俺がそう言うと、マドツキは素直にこくんと首を振った。うんうん、聞き分けが良くて何より。リモコンで音量を下げつつ、空いた手で携帯を耳に当てる。

 ………。長く続く呼び出し音。暫くして繋がったと思ったが、聞こえてきたのは無機質な女の声と、それに続く甲高い電子音。やっぱり仕事中だったか?しょうがねえ、俺は取り合えずメールで用件を伝えることにする。

 え~と、まずは用件と、依頼の詳細も一応送っといたほうがいいか?くそっ、文字数が多くてめんどくせえな。おっと、あっちは病み上がりだから最初に見舞いの文句も。マドツキの事は…、まあ書かなくてもいいか。………折り返し連絡求む、っと。これでよし。

 「わりぃなマドツキ!もうボリューム戻していいぜ…。…?」
 俺が振り向くとマドツキはテレビの前、自分の足を抱えて座ったまま器用に眠っていた。すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてくる。その姿を見て、俺はぽりぽりと頬を掻いた。あ~、まぁ…疲れてたんだろうな。こいつが今日までどこに居たか知らんが、色々あったんだろう。
 
 しゃーねぇな、ベッドに運んでやるかね。俺はマドツキを抱き上げ、一つしかないベッドに運ぶ。見た目通り軽い体だ。その間、マドツキは全然起きる気配が無かった。ついさっきまで起きてたのに、こいつ無茶苦茶寝付きいいな。
 
 本当はこの後警察署にでも行きたかったんだがなぁ。だがこいつは目が覚めた時、俺が居なかったら不安がるだろう…。俺も色々あって疲れたし、明日に廻すか。…疲れたのは大体こいつのせいな気もするがな。
 
 ん~、と大きく伸びをすると、目の端に作りつけの書机が写る。その上には以前買ったきりになっていた参考書とノートが乱雑に置かれている。…。ふぅ、今日この後は受験生らしく過ごすのもいいか。

 室内にあるのは、規則的で静かな寝息、紙の上をペンが滑る音、それに時々頭を抱えた俺の唸り声。――まぁこんな時間も悪かないな。



――――――――――――――――――――――――
今回は短い繋ぎ回でした。ちょっとだけ鋭い?ところを見せたレオリオさん。
それと感想板に寄せられたご意見を元に、だい2やをちょこっと修正しました。
この場で改めて御礼申し上げます。また他の皆様もご意見ご感想ありがとうございました



[30983] ゆめ 5 や
Name: 築◆acd2306e ID:449d6c04
Date: 2011/12/26 12:51
うぉお!ここは天国か!?照り付ける熱い太陽!彼方まで続く白い砂浜!何処までも広く青い大海原!―そして、周囲には小麦色の肌をした渚の天使たち!!!
 俺は堪らず、一番近くに居た金髪のボインちゃんに飛びつくっ!へっへっへ、いいじゃねぇかちょっとぐらい。さぁ!俺の太陽よりも情熱的な南国キッスを………。
 
 
 「ふへへ、ふがっ、…んあっ?」
 なぜか急にボインちゃんは消え去り、辺りは薄暗く…。そして俺の目前には南国美女の灼けた肌では無く、穏やかに眠る少女の白い肌と薄く色付いた小さなくちび、る…?
 「のわぁあああ!!?」

 あっぶねえ!もう少しでマジモンのロリコン犯罪者になるとこだったぜ…。そうか、俺は昨日こいつ―マドツキと名乗る少女と偶然出会って、そしてどんな運命のイタズラか、こいつを引き取る決意をしてしまったのだ。隣で安らかに眠る少女を見て、はぁ~、と溜息を付いてみても、男が一度決めた事だ。ジタバタせず運命に身を委ねるべき、なんだろうな。

 にしても俺はいつの間に寝ちまったんだ?昨夜、夜食に取ったルームサービスのピザを食べたとこまでは記憶があるんだが…。
 ハッ!?瞬間、俺の脳裏に悪い予感が去来し、慌てて掛け布団を跳ね除け上体を起こす。…ふぅ、良かった…。俺もマドツキもちゃんと服を着ている。最悪の間違いは犯していなかったようだ。いなかのカーチャン、俺はまだまだお日様の下でおまんまを食えるみたいです。
 
 だが自慢のブランドスーツは寝乱れてぐちゃぐちゃだ。やれやれ、マドツキは俺とは対照的に全然服が乱れてねぇな。寝付き同様、寝相もいいらしい。それにしても良く寝るヤツだ。まさか昨日の昼からずっと寝てんのか?
 
 ん、そういや今何時だ?と俺は枕元の時計を見る。げっ、もう10時。こりゃ相当他のヤツらに先越されてるだろうな。俺は手早く新しいスーツに着替えると、マドツキを揺り起こした。
 
 「お~い、マドツキ起きろ~。出掛けんぞ~。」
 「んぅ…。せんせい?」
 熟睡してたワリにはあっさり目を醒ましたマドツキが、目をこすりながら言う。しかし、こいつは意地でも俺の事を先生と呼びたいらしいな。正直、現時点で医学部にも入れてない俺がそう呼ばれんのはむず痒いんだが。
 
 「今日は色んなとこ行くからな。お前も早く顔洗って着替えて…。」
 ここまで言って俺は気付いた。こいつの着替えねぇじゃん。う~む、帰りにデパートにでも寄って買ってやるか。コイツだって女の子なんだし着たきりスズメは嫌だろう、と不思議そうに首を傾げるマドツキを眺めながら思う。一つ行き先が増えちまったなぁ。
 
 幸いマドツキの支度は短時間で済んだ。つうかあんだけ寝といて、寝癖ひとつ付かないとは恐れいったぜ。俺達はエレベーターで一階に降り、ロビーでチェックアウトを済ませる。前払い分は今日までだから、帰ってきたらもっかいチェックインし直す必要があるな。ま、カネはたんまり手に入ったんだし良いか。
 
 マドツキの手を引きながら、片手で携帯を操作して警察署への道順を確認する。ちなみにナビ機能他諸々付き、タッチパネル式の最新モデルだぜ?俺は常に流行の先端を追う男なのだ。…と、急にマドツキがスーツの裾を引っ張った。
 
 「お?どうした?」
 「…あのね、今日はこわいゆめ見なかったよ。」
 マドツキは俺を見上げて、そんな事を報告してくる。無口なこいつにしては珍しい。
 
 「そっか。今まで怖い夢見てたのか?まぁ、もう見なくなったんなら良かったじゃねぇか。なっ?」
 俺がそう答えると、マドツキは少しはにかんだように頷いた。あんまり表情は動かないが、これは喜んでるんだろうか。…夢の事で一喜一憂なんて、お子様は微笑ましくていいよな。俺は今朝の自分の事は棚上げして、そう思った。
 
 しばらく二人でまったりと街を歩き、辿り着いたヨークシン市警本庁舎。その受付ロビーには、一般人に混じってちらほらと、カタギじゃないと思わせる顔が有った。―十中八九同業者だろう。予想はしてたが、昨日の今日でもうこんなに広まってるとは。まったく、ハンターって人種は嫌なくらい鼻が利く。
 中にはカネの匂いを嗅ぎ付けただけのアマチュアも多く居るだろうが、…こりゃ昨日俺と居合わせたプロの連中には、相当先を行かれてると見ていいな。俺も急いで受付に向かう。
 
 「はぁい、プロハンターの方ですねぇ。署長が対応しますので少々お待ち下さぁい。」
 間延びした口調の婦警は、そう言って俺とマドツキを応接室に案内してくれた。なるほど、受付で待たされてるヤツらは全部アマチュアって事だな。そう考えるとちょっと気分がいい。ふふふ、これがプロとアマの差ということなのだよ諸君。
 
 署長への面会はさほど待たされずに済んだ。俺は先程の婦警に案内され、署長室に通される。ちなみにマドツキも連れてだ。例によってこいつが俺と離れるのを嫌がったので、案内役の婦警に無理を言って許可して貰った。
 
 …しかしその際の婦警の言葉。
 「うふふ、可愛い娘さんですねぇ。」
 ってのはどう言うことだ!?俺ってやっぱり、そんなに老けて見えんのかなぁ…。がっくり肩を落とす俺の顔を、マドツキが下から心配そうに覗き込む。…え~、誰のせいだと思ってるんだね、キミは。
 
 
 「ふん、またハンターか。で?俺はまた同じ説明を繰り返さなきゃならんのか?」
 部屋に入ると、でっぷりと太った警察署長は開口一番、俺達を伴って来た婦警に向かってねちねちと言い放った。
 いかにも裏であくどいことやってます、ってツラだな。マフィアの牛耳るこの街で、警察のトップやってんなら当然か…。不健康そうな油顔を紅潮させ、思うさま婦警に怒鳴り散らしている。
 
 「なぁ署長サンよぉ。話を聞きたいって言ってんのは俺なんだから、その子は早いとこ通常業務に戻らせてやれよ。」
 そんな光景を見せられたら、俺だって気の長いほうじゃない。できるだけ不躾な態度でそう言ってやった。
 
 「―まったく何だってヤツらはこんな事件を…。………おお、これはハンターの方。何時から、いらっしゃったのですかな?」
 署長は今初めてこちらの存在に気付いた、とでも言うようにゆっくり振り向いて応えた。
 「…さて、私は何を話せばいいんで?」
 わざとらしく嫌なおっさんだな、チクショウ。…まぁいい。
 「分かってんだろ?例の事件についてだ。」
 俺がそう言うと、署長は気が乗らない態度でのろのろと資料を開き、説明を始めた。曰く。

 組長の遺体は2日の朝6時頃、事務所兼自宅の寝室で、彼を起こしにやって来た腹心の部下によって発見された。第一発見者の彼は現場の状況を見て、最初は何者かによる暗殺だと考え警察に通報した。何故なら、発見時の遺体の状況がこの上なく凄惨なものだったからだ。
 組長の遺体は両目が抉りとられ、また、両耳に外傷性の鼓膜穿孔も見られた。更に64歳という年齢にしては豊かだった毛髪も一夜にして全て抜け落ちていた。
 ―しかし後の司法解剖の結果、両の目と耳は生前、彼自身の手により損傷したものだと判明。毛髪は何らかの理由で自然に抜けた物だと分かった。直接の死因は頚動脈切断による失血死。使用されたのは組長が護身用にと、常に持ち歩いていた短刀だった。
 つまり彼は自分の意志で自らの両目を抉り、鼓膜を破いた上で、護身用の短刀でためらい傷もなく己の首を掻き切った、と言う事になる。
 担当した医師はこう語った。―何か途轍も無く恐ろしいものを見聞きしていたんじゃないか?それこそ恐怖で髪が抜け落ち、目と耳を潰した方がマシだと思わせる程の、恐ろしいナニカをね、と。
 ここまでが第一の犠牲者の情報。
 
 第二の犠牲者は事前の情報通り、最初の遺体の第一発見者。彼は警察の事情聴取に答えた後、同日の正午頃、体の不調を訴え休息を取っていた。しかしその日の夕方、午後5時頃に急遽てんかんに似た発作を起こし、更に十分後、取り押さえようとする複数の組員、警察官を振り切り、事務所の屋上に登ると、そこから身を投げて自殺した。その様子を見ていた人々の証言によると、“まるで見えない怪物から逃げているよう”だったと言う。
 
 そして事件はそれで終わらなかった。第一、第二の現場に居合わせた組員5名と警察官2名、計7名がその後4日間に渡って次々に自殺。いずれも亡くなる当日体調不良を訴え、半日以内に第二の犠牲者と同じような発作を起こし、自殺に及んでいた。そして組長から数えて4番目に亡くなった組員の15歳の息子が、事件から5日後の10月7日―つまり一昨日に自殺して、以後自殺者の報告は無い。
 また三番目の犠牲者以下8名は、人間関係のトラブルに悩んでいたり、心療内科の通院歴のある者達であった為、事件の衝撃が引き金となり自殺に到ったものと見られている。
 
 それ以外にも事件直後から丁度一週間後の今日、10月9日に到るまで、組員、捜査員の中から発作を起こし病院に運ばれる者が複数出ている。だが警察はこれらを、事件の影響によるPTSDと判断し、現在はこの一連の事件に対する捜査を打ち切っている。
 
 
 …う~ん、こりゃ確かに警察が初動段階で、クスリの関与を疑ったのも頷ける。そんくらい無茶な事件だ。俺は手元に取ったメモと睨めっこしながら思わず唸った。
 
 昨日は変化系能力者の犯行かと思っていたが、どうなのだろう。てっきり俺は、もっと分かり易い死体の状況が出てくると思っていたのだ。例えばみんな自分の首を掻き毟って死んだ、とか。それなら毒物や病気ってセンも有り得るだろ?
 しかし今聞いた犠牲者達の自殺方法は、どれもてんでバラバラだった。共通点は自殺前の体調不良と何かに怯えたような発作、ぐらいか。
 
 怯えたような、ねぇ。本当に悪霊かなんかの仕業なんじゃねぇの、これ。それか悪霊を具現化した具現化系能力者に違いない。いや待て、変化系の可能性もまだあるな。人から人へと感染する麻薬とか。あれ?それだと操作系でも…。
 うがぁー!アタマがこんがらがるぜ!
 
 思考の袋小路に入り込んだ俺に、資料を机にしまい込んだ署長が声を掛ける。
 「さ、もういいですかな?私はこう見えても忙しい身分でしてね。気楽なハンターの方々には分からんでしょうが。ささ、どうぞ、そちらのドアからお帰りになられては?」
 本当に嫌なヤロウだぜ。ったくよぉ。
 
 長話に退屈したのか、いつの間にか船を漕いでいたマドツキを起こして、俺は言われた通りさっさと部屋を退出しようとした。――しかし、後ろを向く刹那、署長のヤロウが懐からハンカチを取り出したのを俺は見逃さなかった。…何だ?どうしてそんなに汗をかいている?もう十月で室内の温度はさほど高くない。
 
 怪しいぜ?署長サンよぉ。ここは、いっちょカマかけてみっか。
 「おいアンタ。まだ隠してることが有るよなぁ?」
 俺は再度署長を振り返り、自信たっぷりにそう宣言した。
 言われた署長の肩がびくんと震える。
 「―――なっ!うぉほんっ、…なんの事ですかな?」
 よし、掛かった!
 
 俺は懐からハンターライセンスを取り出して言う。
 「知ってっか?この薄っぺらいカードには、アンタのご大層な身分よりも大きな権力パワーが有るって事。」
 署長は顔を茹ダコのように真っ赤にして、遠目に見ても大量の汗を流しているのが分かる。もう一押し、か。
 「例えば、こいつがあれば礼状無しにアンタをしょっぴく事も出来るんだぜ?叩けば結構なホコリが出て来そうだと思わないか?……署長サンに俺の、ハンターとしての初手柄になって貰うのもアリかもなぁ…。」
 
 「わっ、分かった!言う、言うから!それだけはご勘弁を!!」
 顔の色を一転、赤から青に変えた署長は、そう言って俺の前にひれ伏し床に頭を擦り付けた。
 
 ま、交渉の達人レオリオ様に掛かりゃ、ざっとこんなもんよ。
 ―さぁて、有益な情報を頼むぜ?



[30983] ゆめ 6 や
Name: 築◆acd2306e ID:449d6c04
Date: 2011/12/26 12:58
「…隠してる情報を明かせば、俺の地位は保障してくれるんだろうな?」
 所長は顔を上げると、先程までの取り繕ったような敬語をかなぐり捨てて言った。
 「さぁて、な。アンタが洗い浚いぶち明けてくれるっつうんなら、考えないでもないけどよ。」
 隙は見せない、妥協しない、こちらの要求だけを高圧的に述べる。マフィアのような強い存在にへつらい、今の地位を保持してきたコイツみたいな人間には、それが一番効果的だ。

 「グッ…。いいだろう。」
 署長は苦虫を噛み潰したように顔を歪めたが、やがてその重い口を開いた。
 「……組長の死の前日、10月1日の事だ。公式に発表されている以外にも、その日、二人の組員が死亡している…。この事件の本当の第一と第二の犠牲者だ。」
 隠されていた二人の死者、ねぇ。署長はさらに言葉を繋いだ。
 「最初の犠牲者は下っ端構成員のセルシオ・マモーネ。組の資金を着服したのがばれ、見せしめとして拷問を受けている最中に死亡した。」
 
 「おいおい、ちょっと待てよ。そりゃただキツい拷問の末に死んだってだけじゃねえのか?」
 この事件とは何の関係も無いように思えるが…。
 「フン、アンタが聞きたいって言うから話してやってるんだぞ?俺だって最初、組長から話を聞いたときは、ただ組織内のトラブルを揉み消して欲しいだけなのかと思ったさ。」
 だが、と署長は続ける。
 「マモーネの直接の死因は、心因性のショック死。マモーネの死体には確かに拷問を受けた痕が有ったが、それは彼の死とは関係が無かったんだよ。」
…心因性のショック死?他の犠牲者は皆自殺によって亡くなっていたが…。

 「そして、次の犠牲者は組内で“くすぐり屋”のテッドと呼ばれていた男だ。“くすぐり屋”、つまり拷問役の事なんだが、マモーネへの拷問もコイツが行っていた。テッドが死んだのは、マモーネの死の同日夜。仲間との食事を終え店を出たときに、突然道路に身を投げ出し車に撥ねられた。まぁ、つまりは自殺だな。」
 言い終えると、署長は机から高級そうな葉巻を取り出す。咥えたそれに火を着け、大きく吸い込んで盛大に紫煙を吐き出した。

 「ふぅん、…しかしアンタは何でこの事を隠していたんだ?」
 「…言っただろ?生前の組長に頼まれていたのさ。この事は口外するな、とカネを握らされてね。」
 成程な、署長が事実を隠蔽しようとしていたのは、死んだ組長への義理立てと言うよりは、自身の汚職行為が白日の下に晒されるのを恐れて、ってとこだろう。
 だが、気になるのは組長の行動だ。
 「なぜ組長はそんな事をアンタに頼んだんだ?そりゃ拷問を行っていたって事が公然と明かされれば、世間は良い顔はしねぇだろう。しかし海千山千のマフィアのボスが、今更その程度を恐れるか?そんなのは鼻たらしたガキでも知ってる、暗黙の常識だぜ?」

 俺の疑問に署長が答える。
 「ああ、もちろん組長はそんな事を恐れていたんじゃないだろうさ。…テッドが死んだ後の、ヤツとの会談のときの事だ。」
 署長は何故か、窓辺に行き分厚いカーテンを閉めた後、そのときの事を思い出すように語り始めた。
 
 ―その日の組長は様子がおかしかった。いつもの裏社会の大物然とした居住まいは無く、酷く疲れた顔をしていたよ。まるで施設に放り込まれてるジィさんみたいにしょぼくれて、傍目には実年齢より10歳は年老いて見えた。そして、虚ろな目でこう言うのさ。…アイツがずっと俺を見てる、ってな。
 俺はヤツに、一体何を言ってるんだと聞いたさ。だが、その説明は支離滅裂だ。アイツの存在を世間にバラしたらきっと消されるだの、寝たらアイツがやって来るだの、窓からこっちを見てるだの…てんでバラバラな事を言っていて、まるで末期のジャンキーか分裂病患者のようだった。
 しかしその滅茶苦茶な話を何とか整理して行く内に、ヤツの恐れてるものが何なのか分かった。…ガキさ。あの男が恐れていたのは小さな10歳くらいの少女だと言うんだ。お笑いだろう?
 訳が分からん、といった顔だな、ハンターさん。説明してやろう。
 そもそも会談の前に組長は俺に2回、電話を掛けて来ていた。最初の用件は、死んだマモーネが連れていた10歳くらいの迷子のメスガキを探せ、と言う物。まぁ、結局そんな人物は見つからなかったんだが…。
 そして、テッドが死んでから掛かって来た2回目の電話。…今思うとあの時既に組長はおかしかったな。その電話で組長はこう言ったんだ。“俺に取り憑いている幽霊を逮捕してくれ”―。俺は何かの冗談だと思っていたんだがね…。
 そう、組長が結局なにを恐れていたかと言うと、小さいガキの幽霊だったのさ。マフィアの親分がそこら辺のガキのようにオバケを怖がっていたんだよ。マモーネが連れていた少女は幽霊で、それがマモーネを殺し、テッドを殺し、そして自分も殺されるんだ、とね。
 
 「…まぁ、結局組長の言う通りになっちまったんだけどな。……。…俺が話せることは以上だ。」
 そう言って、署長は話を締めくくった。
 …幽霊、ねぇ。心霊現象はその大半が、一般人が念能力を誤認した物、らしいが…。ハンター協会がこの事件を念能力者による犯行と断定したのは、何処からかこの情報を入手した為だろうな。

 さて、もうここで得るものは無さそうだ。引き上げることにするか、と俺はマドツキに声を掛ける。
 「おいマドツキ。そろそろ起きろよ。次行くぞ~。」
 少し目を離すと、コイツはすぐに寝てしまうようだ。マドツキの肩を叩いていると、そんな俺に向かって署長が再び声を掛けてくる。
 「…なぁ、ハンターさん。そのお嬢ちゃんはアンタの娘さんかい?」

 「…俺はそんなトシじゃねーっての。コイツはただのま…。いや、成り行きで面倒見てるだけだ。」
 …俺は、俺は迷子という言葉を言えなかった。連想してしまったからだ。先程の署長の話に出てきた、迷子の少女の幽霊。それとマドツキを、俺は心の中で結びつけてしまっていた。

 俺の答えを聞いた署長は、今度は眠気まなこのマドツキに向かって言った。
 「…そうか。…なぁ、嬢ちゃん。アンタは、ちゃんと生きてるよな?幽霊なんかじゃないよな?」
 普通に考えれば失礼な署長の言葉。だが、俺はその質問を遮ることができなかった。だって、署長のその質問は、俺が頭の片隅に抱いた疑問を代弁していたから。

 「……ちがう、よ?」
 急に声を掛けられたから驚いたのだろうか。マドツキが俺の足の陰に隠れながら、小さい声で答える。足からマドツキの体温が伝わって来た。
 ホラ、ほらな。こいつは幽霊なんかじゃねぇ。ましてや12人もの人間を殺した念能力者なんかでもねぇ。…温かいこいつが、臆病なこいつがそんなモノであるはずが無い。

 俺は署長に話の礼を言い、マドツキを連れて今度こそ部屋を後にしようと踵を返した。しかし、ノブに手を掛けた俺の背中に、声が投げかけられた。
 「…実を言うとな、俺も怖いんだよ。忘れられないんだ。あの時組長が言っていた言葉。窓からアイツが見てる、アイツが見てる、アイツが見てる…。」
 ぎょっとして振り向くと、署長の顔は蒼白で、葉巻を持つ手はぶるぶると震えていた。

 「恐ろしくて、本当は誰かに話したくて堪らなかった。けど、…組長は俺に話したから死んだんじゃないのか?…アンタに話を漏らしちまった俺も、殺されるのか?」
 そう言って署長は、整髪料でべったりと固められた頭を掻き毟る。…俺はそんな署長に声を返した。出来るだけ明るい風を装って。

 「ははっ、なぁにビビってんだよ署長サン。幽霊なんざ、いねぇよ。この事件には犯人が居る。ちゃんとした生身の人間のな。」
 俺がそう言うと、署長はぎこちなく顔を歪めた。…笑おうとしているのだろうが、全然そうは見えなかった。
 「そう、だよな。ハッ、ハハ。なぁ、ハンターさん。アンタには貴重な情報を呉れてやったんだ。ちゃんと犯人を捕まえてくれよ?…期待、してるぜ。」



 警察署を後にし、時刻は14時になろうか、というところ。思ったより時間を取られちまったな。本当は今日中に病院にも行きたかったんだが、この分だと難しそうである。
 とりあえずメシかな、と俺は隙あらば嘶こうとする自分のハラをさすりながら思った。そういや朝メシも食ってねぇしな。
 
 「なぁ、マドツキ。お前もハラ減っただろ?何食いたい?」
  道の両側に立ち並ぶ飲食店を物色しながら、俺はマドツキにも意見を伺う。するとマドツキは、こいつにしては珍しいほど元気に返してきた。
 「―っ!おこてい、おこていがいい!」
 「おこてい…?何だそりゃ…ああ、もしかしてお子様定食か?」
 俺が問い返すと、マドツキはコクコクと頷く。…昨日のアレそんなに気に入ったのかよ。旗が刺さったチャーハンに、スープとデザートが付いただけの代物なんだがな。

 しかしマドツキの期待に満ちた顔を見ると、もっと高級なところにしようぜ、とは言い出せず。俺とマドツキは冷たい秋風が吹く大通りを通り抜け、チープな大衆食堂へと歩を進める。
 道中、先刻の署長の言葉を思い返していた俺は、マドツキの温かい手を、ぎゅっと握った。


―――――――
は、話が遅々として進まないぜ!
もうしばらくこういった地味な展開が続くと思います。ゴメンナサイ
さくさく物語を展開させられる他の作者様の技量が妬ましい…



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