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[30852] 【ネタ】英霊シャッフル―ウェイバーくんの聖杯戦争―
Name: さんすけ◆475e9ac4 ID:c4fc3fc9
Date: 2011/12/13 01:13
ウェイバー・ベルベットは歓喜していた、手元にある郵便物は本来なら降霊科の講師であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトが受け取るべきものだ。その中身は聖杯戦争におけるサーヴァント召喚のための触媒、管財課の手違いだろうがこのチャンスを逃すほどウェイバーは馬鹿じゃない。


ロンドンの最高学府『時計塔』で自己を研鑽する日々に未練はもはやない、それよりも冬木で行われる聖杯戦争の栄光がウェイバーには何よりも重要だった。無論勝ち抜くことが大事だが、そこは心配していない。あのケイネスが用意した触媒なら最良のサーヴァントだろうとウェイバーは当たりをつけている。


確認のため見てみると、それは剣の鞘だった。それも黄金の地金に青の装飾を拵えたもの、中央部に彫られた刻印は今は失われて久しい文字が刻まれている。一目見て由緒正しき工芸品だと思わせる品物だ、ウェイバーは震える手でそれを握りしめいやったぁ!と歓声を上げた。概念武装としても使え魔法の域にある宝物、持ち主を癒し老化を停滞させる効果を持つ。この伝説をウェイバーは知っていた、約束された勝利の剣の担い手。


聖杯が招く七つの座の一つ『セイバー』最強と云われているクラス に縁のある品ならばもう何も怖くない、それに子供の頃ウェイバーはアーサー王と円卓の騎士の物語を読み騎士道に憧れたこともあったから尚更だ。男の子の夢が叶ったと言ってもいい、浮かれるのは当然だ。


……最もウェイバーが抱いた幻想を打ち砕かれたのは数日後だが。


極東の国、冬木。拠点の確保としてウェイバーはとある老夫婦に魔術的な暗示をかけ孫だと思わせ召喚の夜を待つ、既に手の甲には令呪が浮かんでいる。決行は今夜だ、老夫婦の会話を適当に切り上げアーサー王の邂逅を夢見る。冬木に出る物騒な殺人鬼の話題も気にならなかった、穏やかな一時を過ごすが召喚のために用意した鶏の鳴き声が耳障りだった。


かくて運命の夜は幕を開く。


冬木市深山町、とある雑木林の奥地。人目のつかない場所を見つけるには苦労したがこれからのことを思えば気にならない、念入りに周囲の目がないことを確認してウェイバーは召喚儀式に入る。鶏の血で地面に描いた魔法陣、失敗は許されない。


「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する」


呪文を唱えながら魔術回路を開く。


「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ――」


しくじれば命を失う危険にウェイバーは立ち向かう、力を求める不屈の意思がある彼はまぎれもなく優秀な魔術師だった。例え時計塔の連中が認めなくても。全身を魔力が駆け巡る、その悪寒にウェイバーは耐え詠唱を紡ぐ。


「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」


渦巻く光と風、魔力の奔流にウェイバーは確かな手応えを感じた。熾天の座から招かれる英霊、それが姿を現す。月明かりに照らされる金色の髪、流れるような青の礼装。顔立ちは凛とした美少女、手には不可視の剣を携えて問い掛ける。


「問おう、汝が我を招きしマスターか」


「……」


ウェイバーは目を擦る、おかしい。何度見ても召喚されたのは美少女だ、自分が喚んだのは威厳をもったアーサー王なのだが。目の前の少女も威厳を持っていると言えばいる、だが想像していたものよりも違う。ウェイバーが答えないので少女は首をかしげる、その仕草に心が奮えるが別の意味でも奮えた。


「どうしてこうなる……」


これがウェイバーとセイバーの出会い、ちなみにウェイバーは知らないことだがケイネスが用意したものは征服王に縁のある品物だった。アーサー王に縁のあるそれはアインツベルンに渡るはずだったものである、何の手違いかウェイバーに渡ったがこれも運命なのだろう。


他の陣営もこうなのだから正に運命の悪戯か、こうして混乱の第四次聖杯戦争が始まった。





[30852] ACT1 アインツベルンがみてる
Name: さんすけ◆475e9ac4 ID:0628fb02
Date: 2011/12/16 00:15
ウェイバーがセイバー召喚した現場を髑髏の仮面が見つめている、気配遮断のスキルを持つサーヴァント『アサシン』だ。確かにウェイバーは念入りに人目が無いことを確認したがこれを見抜くことは出来なかった、アサシンの報告をそのマスターである衛宮切嗣は聞いていた。


『セイバーのマスターを視認しました、如何しますか』


「常に一人付いておけ、手はまだ出さなくていい」


アインツベルンが用意した切り札、それをどんなマスターが持っているのかと思えば取るに足らない魔術師とは想像できなかった。あれならば暫く放っておいても構わないだろう、優先するべき事は他にある。切嗣が注意するべき相手は聖堂教会の代行者である言峰綺礼ただ一人、無論彼以外にも手強い敵は居る。


遠坂、間桐、外来の魔術師達と調べた限りで判明しているのは4人、先ほど確認したので1人。自分を含めれば残りは1人だ、聖杯戦争のために現界するサーヴァントのクラスはアーチャー、ライダー、セイバー、ランサー、アサシン、バーサーカー、キャスターの7騎でそれらを使役する魔術師も7人。切嗣がアサシンを使って調べていないのはキャスターのマスターだけで他は調査済みである、間もなく判明するだろう。アサシンの隠密行動を切嗣は高く買っていた、アインツベルンに雇われた魔術師殺しと暗殺に長けたサーヴァント。正しく波長が合う二組、アインツベルンの悲願は今回で果たされそうだった。


「結果だけ見れば今の状況は僕に向いている、うまく立ち回ればマスターを始末することも出来るが……」


魔術師殺しと言われた技術を駆使しても必勝というわけではない、サーヴァントの力を決して侮るわけにはいかないのだから。アサシンも戦闘力はあるが他のクラスに比べると見劣りする、それでも切嗣は勝算があった。真っ向勝負じゃなくてもいい、これは戦争。奇襲もありである、それこそ切嗣とアサシンの本領発揮。


「切嗣、準備が出来ました。いつでも行けます」


切嗣の弟子とも言える久宇舞弥の言葉に意識を切り替える、ここからが本番だ。


風に揺れる金色の髪、セイバーは辛抱強くマスターの言葉を待つ。そうして第一声が、


「なあ、本当にお前がアーサー王なのか?」


自分を疑うような発言。流石に聞き捨てならない、騎士王としての誇りもある。


「この剣に誓って」


凛とした眼差しにウェイバーは沈黙した、伝承ではアーサー王は男の筈だ。それが少女でしたなどと信じるわけにはいかないが現実は無常である、ウェイバーは契約した。納得はできないがセイバーの問いに答えないと何も始まらない、簡単な自己紹介をしてどうしてこうなったんだぁと頭を抱える。



「はあ色々聞きたいけど明日にするよ……と、その格好じゃあ目立つな。霊体化して付いてこい」


冬木の夜は物騒な殺人鬼のせいで警察の目が光る、そんな中で完全武装のセイバーがいたらどうなるか。霊体化すれば大丈夫だろうとウェイバーは楽観していたが何故かセイバーは申し訳なさそうな顔、嫌な予感がする。


「ウェイバー、私はその……霊体化が出来ないのです」


「はあああぁぁっ!?」



基本的にどの英霊も霊体化という不可視の力を持っているがこのセイバーはある理由でそれが出来ない、何となく先行きが不安になるウェイバーだった。仕方がないので用意していたマントを被るようにしてみる、一悶着ありながらマントをすっぽりと被ったセイバーは見た目魔法使いっぽくなった。これはこれで怪しそうである、セイバーの手を引きながらウェイバーは全速力で家まで走った。警察に見つかりませんようにと祈りながら。


余談だがその上空でソリのような車に乗った大男とツインテールの少女がはしゃいでいたらしい、管理者でありマスターである父が頭を痛めていたという。





[30852] ACT2 正義の味方は不滅です
Name: さんすけ◆475e9ac4 ID:e667dd5f
Date: 2012/01/02 11:04
とある男の話をしよう、人の身でありながら尊い理想を追い続けた男の話を。彼は争いが終わらない人の世を変えようと奮闘してきた、やがて気付くこの世の理では変えられないことに。ならば人という種を越えて悲しみも争いも起こらない理想郷を具現化させる、いわばこの世全ての悪の廃絶。


幾度も打ち砕かれ叶わないと知りながらいつか叶うと信じて、魔導を駆使してこの身を削っても後に続く者が現れてくれるまで挑み続けた。だがその旅の果てに辿り着いたのは魂の摩耗による己の願いの変容と人ならざる身、尊い理想はいつしか人ならば誰もが持つ死にたくない願望を抱きその身を自身の魔導である蟲に宿し聖杯に不死を願う事となった。


そんな彼の名はマキリ・ゾオルケン、正義の味方と言うには余りにも報われない結末と業を背負った男である。今は間桐臓硯と名乗り聖杯戦争を見極める立場にあった、本来の願いを思い出したのは出来の悪い息子が喚び出したサーヴァントとの問答。


話は数時間前に遡る、第四次聖杯戦争に参加せず遠坂から養子に迎えた桜を使い調教して次の戦いに挑むつもりだったが帰省した雁夜の望みを知り戯れに参戦させようとした。桜を救いたい雁夜だが元より臓硯には桜を手放す気はない、それよりは魔導の素質がありながら未熟の雁夜が何処まで足掻けるか見ものだった。


一年の修行に耐え外見が変わり果てた雁夜、常に死を纏わせる風貌に満足し臓硯は用意した触媒を置く。本来なら裏切りの騎士ランスロットをバーサーカーの座で喚び出す目論見があった、だが何の手違いか届いたのは木乃伊の破片にしか見えないもの。それでも聖遺物としては申し分ない、遥かなる昔にこの世で初めて脱皮した蛇の抜け殻。その逸話に出てくる最古の英雄王、ギルガメッシュ。勝ち抜くためには最適のサーヴァントだ、雁夜が彼の能力を活かせるかは別の問題だが。そのためのバーサーカー、クラスによる補整のパラメーター強化。その筈だったが――


「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者」


これが熾天の座から招き寄せる英霊を狂気のクラスへ貶める二節、他の魔術師とは違って雁夜は魔術回路を蟲に寄生されている身である、刺激と痛みと血涙が流れても詠唱を止めない。想いがある、心を閉ざした少女を助けたい。そのためならここで退くわけにはいかない、精神力を引き締める。


因みに雁夜も臓硯も知らないことだが既にそれは使われていた、異国の地の優秀な魔術師の手によって。早い者勝ちとはこの事か、同じ座の重複はあり得ない。故に雁夜が召喚するクラスは、


「問おう、汝が我を喚び出したマスターか」


単独行動のスキルを持つアーチャーだった。


金色の輝きを照らす甲冑、王の存在感を示す雰囲気。燃えるような真紅の眼差しを向ける男に雁夜は答えられない、否答えようとしたが圧倒的なプレッシャーに押し潰されて口がうまく働かなかった。アーチャーはそんなマスターの様子を見て何事か考え込む、無論臣下の礼を取らない雑種を切り捨てようとか思っていない。動いたのは臓硯である、長く生きた経験は伊達じゃない。


「カカカカッ、あの雁夜が三大騎士クラスの一人であるアーチャーを喚び出すとはのう。面白くなってきたわ」


「ふん貴様も我を見るに値せぬ、王たる我に臣下の礼を取らぬ雑種など……ほうお前は違うようだな」


臓硯を見たアーチャーはその中身に興味を持つ、彼が興味を抱くのは傲慢なる生。器の卑小さを弁えず大それた望みを懐く者は見ているだけで飽きない、人として生きながら人ならざる悲願を懐き人であることを止めた者の悲哀と絶望はアーチャーを愉しませる。そういった意味では臓硯は正しくアーチャーの目にかなった、雁夜はこれからといったところだろう。


「貴様は何を目指して諦めた? 答えよ」


「…………」


アーチャーの問いに今度は臓硯が沈黙する、目指したものなど不死以外にはない。本当に? もっと別に願いはなかったか、例えば人だった頃に抱いた想いは……魂と記憶の摩耗でも心は確かに覚えていた。遠き理想は人類の救済、それでも生にしがみつく。


「答えられぬか、雑種ごときが意気がるなよ。この場で逝け」


アーチャーの背後から無数の宝具が具現化する、それは刃であり槍でもある武器。どれもが魔力を帯びた必殺の一撃だが、


「な、に!?」


アーチャーは何かに気づいたかのようにマスターを見る、地に転がり必死に痛みを耐えていた。舌打ちして宝具を仕舞う、あのマスターの様子では自身のパラメーターが若干低下しているのだろう。屈辱だった。


かくて間桐家の聖杯戦争は幕を開ける、本来の願いを思い出した臓硯と桜を救いたい雁夜と独自の道を貫くアーチャー。彼らの未来に何が待つのか、月と切嗣の命を受けて気配遮断していたアサシンだけが見守っていた。


その頃、ウェイバーは孫の帰りを心配して待っていたマーサにセイバーを見られて。


「あらまぁ、ウェイバーちゃんに彼女が。赤飯を炊こうかしら」


「ちょっ、お婆ちゃん!?」


「ウェイバー、赤飯を食べてみたいです」


「セイバアァァツ!?」


目をキラキラさせたセイバーにウェイバーは叫んだという。



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