*タイトルだけ変更しました、すみません。
確かに殺したはずだった。
これまでの戦闘データから分析した敵の防御力の理論値を考慮すれば、先のデスボールは葬り去るのに十二分な威力を誇っていた。それも、相手が警戒を解いたタイミングを見計らって放ったのだ。現に、ターゲットは直撃の瞬間まで不意打ちに気づきもせず、防御する間もなく吹き飛ばされた。
コンピューターの算出結果によれば、その死亡率は99.98%。偶然や幸運で生き延びられる数値ではない。エックスの死は絶対のはずだ。
それなのに、
「お、前は……あの……とき―――」
なぜ死なない。
なぜ起き上がる。
なぜ意識を保っている。
なぜこちらを認識できている。
しかも記憶が残っている。メモリが破損していない証拠だ。
加えて身体は五体満足。原形を失うどころか、四肢の損失すら伺えない。
「お前を倒せば……悲劇は……お、わる……」
エックスはよろめきながらバスターを構え、申し訳程度の攻撃を繰り出している。威力も伴わず照準すら定まっていない砲撃。それも数発でエネルギーが尽きたのか、再び息を荒げて膝をつく。
どうやら敵は、幸運にも0.02%の生存を引き当てたようだ。いや、そうに違いない。
データによる分析は確実だ。それ以外では敵の生存に説明がつかない。
ならば話は簡単だ。
確実に息の根を止められるだけの攻撃を繰り出せばいい。
先の攻防から敵の耐久性を求めなおし、その損傷ダメージも加味する。ゲイトにより搭載されたプログラムは、数秒とたたずに必殺の一手を導き出す。
計算には寸分の狂いもない。100%の確率で始末できる。
今度こそ、殺す。
◇ ◇ ◇
ハイマックスの攻撃は命こそ奪えなかったが、エックスに瀕死の重傷を負わせていた。
アーマーの装甲は砕け散り、至る箇所でスパークが発生している。内部損傷も激しいのか目が霞み、ノイズが絶え間なく鳴り響く。
立っているだけで全身が悲鳴を上げ、痙攣は一向に治まる気配を見せない。左手の感覚は完全に麻痺し、手放さないと誓ったばかりのセイバーも消えていた。
ダイナモと対峙した時の比ではない。今のエックスは半死人も同然の有様だった。
「お、前は……あの……とき―――」
狭まった視界が敵を捉えると共に、瞼に覆われた瞳が怒りに燃える。
靄がかかったように輪郭しか捉えられないが、黒一色のボディが敵の正体を如実に物語っていた。
スカラビッチを殺した漆黒のレプリロイド。
全ての元凶が目の前にいる。
諸悪の根源が目の前にいる。
「お前を倒せば……悲劇は……お、わる……」
片足を引きずるように前進し、震えるバスターをハイマックスに向ける。
バスターの機能が残されていたのは奇跡だったが、思うように力を込められない。そこに集約されたエネルギーは平常時の10分の一にも満たなかった。
決死の覚悟で放った一撃は的外れな方向へと向かい、岩壁をわずかに焦がすだけで終わる。
負けじと二発目を放つ。
一段と弱々しさを増した攻撃はハイマックスに届きすらせず、空中で自然消滅する。
「お前を……た、お……せば……」
その次は発動しなかった。バスターは蛍のように点滅を繰り返すばかりで、本来の輝きは片鱗すら伺えない。
それを好機と捉えたのか、ハイマックスが攻撃に移る。巨体からは連想できないスピードでエックスに迫り、速度を上乗せした拳を猛然と突き出す。
鋼鉄の拳はその顔面を真正面から捉え、数十メートル近くも吹き飛ばす。
エックスの体は勢いに飲まれ、地面に叩きつけられては跳ね上がり、バウンドが6回に達したところで壁に叩きつけられる。痛覚機能も失われたのか全身を蝕み続けていた激痛が和らいでいく。
「や、た―――こ……れ、で……」
これでまだ戦える。
だが、そこで気づいてしまう。
痛覚だけでなく、全身の感覚を認識できない。どうやら神経回路が断絶されたようだ。立ち上がることはもちろん、その場で転がることすらできない。
絶体絶命の窮地に陥ったエックスだが、ハイマックスは追い討ちをかけようともせず呆然とした様子で何やら呟いている。
「バカな……確かに100%―――ありえない」
ノイズに邪魔されて聞き取れなかったが、どうやら敵はうろたえているようだ。これが最後のチャンスだろう。
(お願いだ、動いてくれ……)
一発だけでいい。
相打ちでもいい。
二度と動けなくなってもいい。
ここで壊れてしまってもいい。
そんな必死の願いもむなしく、彼の体は地べたに横たわり続ける。
エックスがあがくその間に、ハイマックスは混乱から立ち直った。
「デスボール―――」
半死半生の標的を今度こそ仕留めるべく、ハイマックスは胸元で両手を構える。
その間に生じた光球は徐々に成長し、直径30センチほどの大きさになる。敵が攻撃の予備動作を終えるまでが彼に残された最後の時間だった。
(死ぬ―――このままじゃ、死んじまう―――)
光球の巨大化は留まることを知らず、ハイマックスの体躯と同等にまで膨張する。
圧縮されてなお桁外れの大きさを誇る、計り知れないエネルギー。束ねられた破滅の光は、ついにエックスに向けて解き放たれる。
(いやだ……俺は、しね―――な―――)
迫り来る死を前にしてなお、エックスは動けない。
光球が直撃するより早く、ブラックアウトが訪れる。
死に瀕したことによる、すべて認識機能の喪失。死への恐怖を和らげるそれは、命を奪われる者への最後の慈悲だろう。
破壊の衝撃を、自身の死を感じることもなく、エックスの意識はそこで途切れた。
「うおぉあっ!!」
掛け声と共に光球が両断される。
高出力の破壊兵器―――エックスの手から跳ね飛ばされたセイバーは、膨大な圧縮エネルギーを一刀のもと切り捨てる。
その斬撃はエックスの手により振るわれたものではない。エックスは意識を手放し地に伏している。
それは突如として戦場に舞い込んだ第三者、赤いレプリロイドによるものだった。
「バカな。なぜオマエがここにいる」
ハイマックスは面識こそなかったが、その姿には見覚えがあった。
他ならぬ自分のオリジナル。
エックスと肩を並べる実力者として、その名を馳せたレプリロイド。
今はなき第0特殊部隊を率いていた、特A級のイレギュラーハンター。
「オマエは既に死亡を認識している。なぜ生きている―――ゼロ」
ハイマックスの問いかけに答える素振りを見せず、赤いレプリロイド―――ゼロはエックスの元へと駆け寄る。
まだ生きてはいるようだが、既に意識はなく虫の息。すぐにでもメンテナンスが必要な、危険極まりない状態だ。
ゼロはそのままエックスを抱えあげようと手を伸ばすが、背後からの殺気で鬱陶しそうに振り返る。
浮遊していたハイマックスは地上に降り立ちゼロを見据える。
「用なしが今更なぜ現れた。ジャマをするな」
「それは俺のセリフだデカブツ。見逃してやるから大人しく帰れ。」
もちろん帰れといわれて素直に帰る相手ではない。
予想だにしなかったイレギュラーの存在に、ハイマックスは露骨な敵意を向ける。
殺気を込めた瞳でゼロを睨み付け、自身の両手を大きく広げる。
「目障りな奴め。オマエはもう用済みだ、ここで消す」
連なった円環状の紋章がその周囲に展開され、ハイマックスを軸に回転をはじめる。
「それも、俺のセリフだ。これ以上俺たちに纏わり付くなら―――斬る」
相手の気迫に物怖じすることなく、ゼロは片手でセイバーを構える。それと同時に、ハイマックスは低空飛行の姿勢を保って襲い掛かる。
先の光球からして敵は遠距離戦に特化していると思ったが、どうやら遠近共に抜かりないようだ。
だが、接近戦はこちらも望むところ。自信過剰なのか、それともカウンターを意識していないのか、相手はバカ正直に突撃してくる。
敵の接近にあわせて、ギリギリのタイミングでセイバーを顔面へと突き出す。
刹那のタイミングで放たれた一撃。認識してから避けるのでは間に合わない。ゼロの繰り出した突きは確実にハイマックスの脳天を貫通するはずだった。
だが、敵は首を傾けるだけで必殺の一撃を容易に凌ぐ。
「なんだとっ!?」
驚愕すると同時に、ハイマックスの拳が胴体にめり込む。
巨体に見合う破壊力を秘めた攻撃。エックスを数十メートルも吹き飛ばした一撃をまともに食らい、それでもゼロは不動を保っていた。
歯を食いしばり、腹部に渾身の力を込め、両足が踏みしめた地面には亀裂が走る。
「ぬっ―――おおおおお!!」
そのままセイバーを真横に振るう。
ハイマックスの巨躯では接近した状態からかわすのは不可能だ。今度こそ敵を捉えたセイバーだが、その体を覆っていた円環に触れると同時に消滅する。
二度目の驚愕、そして二度目の隙。
すかさず顔面へ迫り来る拳。とっさに両腕を交差させてガードをすると、いきなり顎を衝撃が襲った。まるで予期せぬ方向からの攻撃にゼロの体は宙を舞う。
先のストレートはフェイント。次いで繰り出されたハイマックスのアッパーが、ガードを潜って顎を打ち抜いたのだ。
(こいつ……俺の動きを読んでやがる!?)
「無駄だ、ゼロ。オマエはワタシに勝てない」
異常な先読みと洞察力、加えてその身を守る障壁はエネルギー状の攻撃を無効化するようだ。ここにきてようやく敵があえて接近戦を挑んだ理由を悟る。
セイバーの攻撃は通じない。かといって、純粋な殴り合いで勝ちを拾えるとは到底思えない。
圧倒的にこちらが不利だが、勝機はある。
敵は無力化できるはずのセイバーの突きをあえてかわした。円環の防御が万能でない証拠だ。上から、もしくは下からの攻撃にまでは効力が及ばないのだろう。
ゼロは立ち上がり両手でセイバーを握り正面に構える。
自ら仕掛けたところで、こちらの挙動はほぼ見切られている。ならばわずかな隙を突く、あるいは相打ちを覚悟で放つしかない。
敵の拳は確かに痛いが耐えられぬほどの威力ではない。
肉を切らせて骨を絶つ、一撃を代償に息の根を止める。
「どうした、俺に勝ち目はないんだろ? ならビビッてないでかかって来いよ。そのデカイ図体は飾りか?」
「……消えろ、オリジナル」
挑発を受けてハイマックスが動く。
ゼロは敵の沸点の低さに笑みを浮かべ、即座にそれが過ちと気づく。
敵はこちらを見向きもせず、いきなり真横へ―――倒れているエックスへと向かう。
「な―――」
ゼロにとって、ハイマックスは打ち倒すべき怨敵。だが、ハイマックスにはゼロの存在など邪魔以外の何者でもない。
そもそもハイマックスの任務はエックスの始末。死亡したはずのゼロの登場は単なる不測の事態に過ぎない。ならば、まともに取り合う理由もない。
己の迂闊さを呪うのも後回しに、ゼロは全力でエックスの方へと駆ける。しかし、ハイマックスは絶望的な加速で突き進み、すぐそこにまで近づいている。
掲げられた拳が振り下ろされる刹那、両足に渾身の力を込めて跳躍。エックスに覆いかぶさるようにして倒れ込む。
直後、後頭部に思い切り鉄拳を叩きつけられる。
メットは粉々に粉砕され束ねていた髪が解ける。
「ぐっ……汚い真似してくれるぜ。そんなに俺と闘り合うのが怖いか?」
拳の衝撃はメットを破壊するだけに留まらず、装甲を貫通することで内部のプログラムに深刻なダメージをもたらしたはず。
それでも、ゼロは立ち上がる。ストレートの金髪を風になびかせ、両目により一層の闘気を漲らせている。
そこでハイマックスの声色に僅かな、微かだが否定しようのない困惑が浮かぶ。
「なぜだ……」
自分が先手を取った。
自分の方がより高速で動いた。
自分の方が標的の近くに位置していた。
それなのに、直前でゼロが間に割って入ってきた。自分を追い越してエックスを庇ったのだ。
これで、確実にエックスを始末できたはずの機会を3度逃した。敵は物理法則を、プログラムの解析を凌駕するとでもいうのだろうか。
ありえない。
ありえるはずがない。
自身に搭載されたプログラムはゲイトが手がけたもの。天才が自ら生み出した至高の作品なのだ。
エックスやゼロのような低スペックのオールドロボットが上回ることなど絶対にありえないのだ。
ハイマックスに感情は搭載されていない。それゆえ焦りや動揺も感じないはずだった。
しかし、己の理解を、プログラムを超えた『ありえない』はずの超常現象を何度も目の当たりにして、彼はかつてない困惑に見舞われていた。
「ワタシに勝るはずが……数値的な戦力は確実に上だ。オマエたちは……」
「数字にこだわるから分からないんだぜ。お前の軽いパンチじゃ俺たちの身も、心も、魂も砕けは砕けはしないぜ!!」
完膚なきまでに痛めつけても、何事もなかったように立ち上がる敵。
いかにダメージを負わせても、微塵も揺らぐことのない不屈の闘志。
ハイマックスの脳裏で警鐘が鳴り響く。
目の前の存在は異常だ。
目の前の存在は理解できない。
目の前の存在は得体が知れない。
殺さねばならない。
消さねばならない。
敵は常識から、理論から、データから、プログラムの枠組みから外れた存在だ。
こんなモノが在ってはならない。
ハイマックスは空中へ浮かび上がり自らを保護する円環を解除する。
ゼロを、目の前のイレギュラーを確実に抹消するため守りを捨てて攻撃に移る。
「デスボール、デスボール、デスボール……」
両手の間に光球が生まれ拡大と同時に分裂する。
2つ、4つ、8つ―――光球は増殖を繰り返し、そのすべてがゼロへ襲い掛かる。
凌げるはずがない。
かわせるはずがない。
プログラムではそう理解しつつも、ハイマックスは攻撃の手を緩めるどころか苛烈さを増す。
「デスボールデスボールデスボールデスボールデスボールデスボール―――」
数えるのも鬱屈な光の弾幕。
出しうる限りのエネルギーを込めた、自身の最大最強の攻撃。
確実に敵を葬り去るはずの猛攻を、死を免れぬ絶望を、ゼロは、防ぎ、避け、かわし、切り裂く。
降り注ぐ雨粒の一滴も浴びないように、弾幕の雨を掻い潜る。
わずかばかりの無駄もない、微塵の隙も伺えない動き。
荒れ狂う光球の群れを歯牙にもかけず、確実に距離をつめてくる。
「バカな……ありえない―――」
障壁を解除せず肉弾戦で嬲るように攻め続ければ、勝利したはずの戦いだった。ハイマックスは自らの優位を、自らの手で崩したのだ。
プログラムの解析に絶対の信頼を置き、自身の勝利を確信した。それゆえ、わずかに戦況が揺らいだ程度で暴走した。
感情を持ち合わせずプログラムに依存するしか脳のないハイマックスは、不測の事態を処理する術を知りえなかった。
「ありえない!!」
ゼロの振るったセイバーで片腕が斬り飛ばされる。
勝負の決め手となる一撃だった。ハイマックスの損傷は致命的なものではなかったが、ゼロの一撃は戦おうという意思をも断ち切っていた。
主の命令に絶対忠実のはずの戦闘兵器が、戦いを放棄し自らの意思で退却していく。
ゼロ、そしてエックスとの戦いを通じて、ハイマックスのプログラムには大きな変化が生まれていた。
それは世間一般で言う成長であり、ゲイトが下らないと一蹴する欠陥だった。
「どういう事だ……スピード、パワー、ボディ、どれをとっても負けてはいない」
上空に浮き上がり飛翔する自分を、ゼロは追いかけてこなかった。
追いかける手段を持たなかったのか、追いかける暇もなかったのか、あるいは追いかける必要などなかったのか。
己の直面した不条理に対する答えを求め、ハイマックスはゲイトの元へ―――天才の元へ帰還する。
「ヤツらは……『心』とは、何なのだ……」
◇ ◇ ◇
「アーッハハハッ!」
戦闘の一部始終を監視映像で傍観していたアイゾックは笑いを堪えられなかった。
「笑わずにはおられんわい! あのエックスでさえ歯が立たなかったハイマックスを、倒してしまうとはな」
ゲイトの生み出したハイマックスを前に、エックスはボロ雑巾のように敗れ去った。
だが、ゼロはどうだ。足手まといのエックスを庇い、それでいて致命傷らしいダメージも受けず、敵を心身ともに破壊しつくした。
その圧倒的な戦力差を目の当たりにして、アイゾックは喝采の笑い声を上げる。
「ゼロ! やはりおまえこそが最強のロボットじゃ!」
そして興奮に酔いしれるあまり、室内に入り込んできた存在に気づかなかった。
「なるほど。どういうことかと思えば、貴様の仕業だったか……」
気づけば背後にはゲイトがいた。
赤く光る両の瞳が堪えようのない憎悪と殺意で溢れている。
表情こそ崩れていないが、内心腸が煮えくり返る思いなのだろう。
「ボクのくれてやった実験データを何に使ったかと思えば、あんな旧世代のガラクタを蘇生させていたとは」
アイゾックがゲイトに接近した目的は、もちろん世界再生のためではない。それは、ゲイトの持つ優れたレプリロイド蘇生技術にあった。
レプリロイドの蘇生は現在でも困難を極め、よほど原型を保っていない限りはほぼ不可能とされる。
仮に同じ機体を作り上げたところで、その中身まで元通りというわけにはいかない。
レプリロイドのプログラムは擬似的な心である。そこには人格が宿り、それぞれが学習して個を形成することで初めて高度な機能を発揮する。心に代えは、量産は効かない。個々に応じたかけがえのない、唯一無二のプログラム。それがレプリロイド特有の『心』なのだ。
レプリロイドとメカニロイドの最大の違いは、蘇生の可否にあるとさえ言われていた。そんな常識を覆したのが、その当時天才の名を欲しいがままにしていたゲイトだった。
レプリロイドの残骸から、パーツの欠片から、一枚のデータチップから、形は愚か記憶すら保った個体を蘇生させた。
ゲイトが長年かけて培った技術の結晶こそが、アイゾックの真の狙いだった。
それだけのために、破壊されたゼロの破片を手土産にゲイトへ取り入ったのだ。
「あの汚らしい玩具はゼロを隠すための目暗ましだったか。まんまと騙されたよ」
「好き勝手ほざいておれ若造が! ワシの目的は既に達した! もはや貴様に用などない」
そして目論見どおり、見事にゼロは復活を遂げた。
最高のレプリロイドとして。
最強のイレギュラーとして。
今一度この世に解き放たれたのだ。
達成感に浸り声を荒げるアイゾックを、ゲイトは底冷えするような目つきで見下していた。
そして―――
「そうか。なら、もうこの世に未練はないな」
ゲイトの動きにアイゾックは反応できなかった。正確には目で追うこともできなかった。
あまりにも自然に、そして迅速に放たれた一撃。
戦闘用レプリロイドでないはずのゲイトの腕は、アイゾックの首を根元から引きちぎっていた。
頭部の喪失に伴い、制御を失った体は崩れ落ち唯の鉄屑へと成り下がる。
文字通りゲイトに命を握られた状況で、それでもアイゾックは高笑いを続ける。
「ハハハハハハッ! ワシを殺したところで手遅れじゃ! ゼロは必ず貴様を殺す!!」
自身の誇る最高傑作。
最高にして最強、最悪の戦闘用レプリロイド。
二度にわたって失敗したが、生き続ける限りチヤンスは訪れる。
いつか必ず、今度こそゼロは奴を破壊するだろう。
そしてこの醜い世界を、邪魔なレプリロイドたちを、全てを破壊しつくして無に帰すのだ。
「貴様だけではない! 奴も、世界もなにもかもじゃ!! ゼロは必ず全てを破壊す―――」
アイゾックの言葉はそこで途切れる。
ゲイトがその手に掲げていた首を無造作に握り潰したのだ。
砕け散り周囲に飛散する破片を踏み潰し、転がっているアイゾックのボディも蹴り飛ばす。
「面白い。ゼロの解析は終えていたつもりだったが、どうやらまだ不完全だったようだな」
ハイマックスはゼロのDNAから生み出した。
ゆえにゼロの行動パターンは熟知し、あらゆる性能でゼロを上回っていたはずだ。
それが、あえなく敗れ去った。
おそらくは組み込まれたプログラムを超えた動きに、ハイマックスが付いていけなかったのだ。ゼロのプログラムを知り尽くしていなかったが故の敗北といえる。ハイマックス自身も改良する必要があるだろう。
しかし、ゼロの破片の一部では、得られる情報量もたかが知れている。なんとか本体を捕らえて直接解析する必要がある。
その先に待ち構えているであろう新たな境地を思い描き、ゲイトは自己陶酔した笑みを浮かべる。
「お前の最高傑作とやらも、エックスも―――『悪魔』も全てを掌握して、頂点に君臨するのも悪くない」
自身がアイゾックの、そして悪魔の操り人形に過ぎなかったことを、今の彼は知る由もない。
~あとがき~
はひ ぁクリメ し//// ,,//ー、
っ ゃ│リぃぇ //// _r''´ :;:;:;l ̄/ ̄`ー、 _
は││っぃぇ (/// / ;:;:;:;:∠∠_, Y´ `ヽ
ぁ.││スぃぇ //// >_. ニ-´/⌒ヽ ヽヽ、 /´ ̄ ̄`ヽ}
│はスマぃ∫ |/ ヘ <_;:Y。y;:;ヽ゜_ソ;:;ゝゝ i _-ー―-、}
│っ ぅ ぁ ∫ |/ / ', / ン´ `>┐r'/ ゝ-ー- ノ
│は !! ぁ N / ',/ /⌒ 7 ヒl | | │l l│
っっ \ / .ハ | | _Y r´ ̄ ̄`ヽ
―――――`⌒/ ハイ| | // i ´ ̄ ̄ ̄`i
///// / ハ小 |、// iー――-、ノ
///// ./_r-,-―'ハノ`丶┐Yレ_,-ー´ >-――←、
//// / ̄ -´ ̄ ̄ ̄ ̄/  ̄ ̄ ̄ヽ