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[29968] 【ネタ】 IS ~時の流れは何処へ~ (IS二次創作 シュタゲ風の設定あり)
Name: 空城◆1e903e03 ID:c5e8dfd4
Date: 2011/10/02 20:18
*初めに
この作品は、IS インフィニット・ストラトス の二次創作ですが、原作の設定を意図的に変えている部分があります。ご了承ください。

また、最初のうちは、オリキャラしか登場しません。原作キャラの登場はもう少しお待ちください。












「この世にね、時間なんて言うものは存在しないんだよ。

ただ、そこには変化があるだけ。
因果と確率によって世界が変化していく様子を理解しやすくするために、人が時間という概念を生み出したに過ぎないんだ。

だから、タイムパラドックスなんていう議論は、本質的に無意味なんだよ。
未来や過去といった存在も所詮は人が生み出した概念でしかないんだから。
過去にも未来にも行けるわけがない。

でもね。

変化する前の存在に、変化した後の存在が干渉することはできるんだ。
変化した後の存在の干渉を、変化する前の存在が受けることはできるんだ。

化学の授業で、平衡状態について習ったことがあるだろ?
例えば、密閉された空間に水を置いておくと、最初、水はどんどん蒸発して水蒸気になっていくけど、やがて水蒸気が増えてくるとその一部は再び水に戻り、最後には蒸発する水の量と水に戻る水蒸気の量が等しくなり、見かけでは変化しなくなる。
これは、変化する前の存在である水に、変化した後の存在である水蒸気が干渉していると言えるだろう?
水だけならどんどん蒸発してやがてはなくなってしまうのに、水蒸気の働きによって途中でそれが止まるのだから。

まぁ、これはあくまでも比喩にすぎないけど、それでも変化する前の存在に変化した後の存在が干渉することは確かに可能なんだ。
そう、十分前の自分という変化する前の存在に、今の自分という変化した後の存在が干渉する、といったことでもね。

私の言うことを妄言だと断じるかい?
それも良いだろう。
何を信じるかは人それぞれだ。
私は単に一つの仮説を述べているにすぎないのだから。

けど、私に言わせれば、時間という概念はまやかしに過ぎない。

因果律が、過去から未来へと時間の流れにそってのみ作用するなど、誰が決めた?
そもそも、もしそうだと仮定したら、なぜ現代物理学では確率でしか物事を表せないなどという考えが主流になっている?
因果律が過去から未来という決まった方向にのみ働くのなら、過去を全て観測すれば未来は全て解るはずではないか?
現実的にはそんなことは不可能だとしても、理論としてはそうなるはずだろう?
だが、実際には、理論においても確率でしか表せていないじゃないか。

前提条件が間違っているのだよ。
因果律は未来から過去へも作用する。
観測不可能な未来からの作用があるからこそ、現在を確定させることができず、世界を確率でしか表すことができない。

繰り返し言うことになるが、時間というものは本来なら存在しない。
世界には、ただ変化があるだけで、時間というのはそれを観測するために人が作った概念にすぎない。
未来や過去といったものも、変化の後と変化の前に対して人が名付けただけ。
だから、因果律が未来から過去へ作用するのもある意味で当然なんだ。
極論すれば、世界から見た場合、未来も過去も同じような存在なんだから

変化する前の存在が変化した後の存在に影響を与えるように、変化した後の存在も変化する前の存在に影響を与える、与えることができるんだ。

時間を遡って過去に行くことはできない。でも、変化する前の存在に影響を与えることはできる。
過去に行って歴史を変えることはできない。でも、今から見て昔の現象に影響を与えることはできる。

もしそれで昔の現象に影響を与えて歴史を変えたとして、今はどうなるのか?って。
今が変われば、歴史を変えるということも起こらなくなるはずで、矛盾が起こると言いたいのか?

初めに言ったはずだよ。
時間というものが本質的には存在しない以上、タイムパラドックスの議論は無意味だと。

結論から言うとね、変えられた歴史が私たちの歴史となる。
例えば、昔の現象に影響を与えて、坂本龍馬の暗殺を防いだとしよう。
その場合は、坂本龍馬が暗殺されなかった歴史が今の歴史となる。
当然、坂本龍馬の暗殺を防ぐために、昔の現象に影響を与える、なんてことは起こらなくなる。だけどそれで良いんだ。
【もし坂本龍馬が暗殺されたら、未来において昔の現象に影響を与えて坂本竜馬の暗殺を防ごうとする動きが発生する】という未来から過去への因果がたしかに存在するのだから、そこに矛盾なんていうのは起こらない。

タイムパラドックスの議論って言うのはね、あくまでも、因果が過去から未来への時間軸にそってのみ働く、という前提の話なんだ。
未来から過去への因果を認めてしまえば、そこに矛盾は起こらなくなるんだよ。
過去が未来を決めるだけでなく、未来も過去を決めるのだから。

私が何を言っているか解らない?
ま、仕方がないね。私は説明するのが下手だから。

でも、君たちは自分の意思で、私の研究成果を知りたくて、ここに集まった。
ならば、私の言うことを理解しておいた方が良いよ。
私の研究成果は、この考えが元になっているのだから」






さぁ、世界を滅ぼそう。

さぁ、秩序を混沌と入れ替えよう。

さぁ、今の私を消し去ろう。



亡霊が囁く。

それは消え去った世界の悲鳴。











はっ、と意識が覚醒する。

目を開ければ、薄暗い天井が見えた。
カーテンの隙間からまっすぐに延びる光が、既にお昼であることを示していた。

「夢、か」

もう何度見たかも分らぬ夢。
世界を滅ぼしたいと願い、その末に時間と言う概念を破壊してしまった、哀れな女の人生。

何で私がこんな夢を見るのか?
推測はできるが、本当の所は分らない。いや、分りたくない、と言うべきか。
だから、私は『運悪く異世界の亡霊に取りつかれてしまったんだ』と考えるようにしている。
彼女の人生を夢として見せつけられる以外、実害はないのだから、それでいいのだ。

むしろ、この夢を通して天才と呼ばれていた彼女の記憶を見続けたおかげで、天才の知識を子供のころから手に入れられたと考えれば、プラスな面の方が大きいかもしれない。
これの御蔭で、小学校から今まで、一度も勉強で困ったことがないし、テストも殆ど満点だ。
やっぱり、何事もポジティブに考えないとね。

そんなことを考えながら、ベッドから起き上がり、パソコンの前に座った。
電源を入れ、寝る前に書きあげたレポートを確認の為に開く。
レポートの表題は『外部端末を利用した思考及び認識の拡張』。

宿題として出された中学校一年生の夏休みの自由研究である。
…というのは、勿論嘘だ。
ま、自分にとっては夏休みの自由研究みたいなものだが。

内容は、ぶっちゃけてしまえば、夢の中で彼女が作ったとある機械の基礎理論のパクリだ。
彼女が生み出した斬新な理論を、私なりに分り易く纏めてみたのがこのレポートである。

これを専門家に見せることで、あの夢が本当にあったことなのか、それとも私が生み出した妄想なのか、それを確認しようと思ったのである。
もし、専門家がこれを認めれば、あの夢は現実にあったことなのだ、と考えざるを得ないし、もし、専門家がこれ中学生の妄言として処理してしまえば、やっぱり夢は夢に過ぎないのだと安心することができる。

問題は、これを何処の誰にどうやって読んでもらうか、と言うことだが、今の日本にはその為にちょうど良いところがあった。
完成してからまだ数年しか経っていないIS学園である。

ISことインフィニット・ストラトスは、この世界にいろんな意味で衝撃をもたらしたパワードスーツだ。あらゆる兵器を上回る性能や女性しか扱えないという異常性で世界に大きな混乱を撒き散らしたといってもいい。

そしてこのISの注目すべき特徴の一つが、操縦者の意志を読みとって動くということである。
それまでの脳科学では、脳波を読みとってその精神状態を推測する程度のことしかできなかったのに、このISは操縦者の思考が読みとれるのである。脳科学者に取ってみれば、これ以上ない格好の研究対象だ。

そんな訳で、IS学園には世界レベルの優秀な脳科学者が多数在籍しているのだ。
『外部端末を利用した思考及び認識の拡張』というレポートの真偽を判断してもらうにはまさにうってつけの場所と言えるだろう。

そして幸運なことに私にはIS学園への伝手があった。というか、伝手があったからこそ、こうやってレポートを書いたのだが。
私の姉がIS学園に生徒として通っているのである。しかも本人の自己申告を信じるなら、先生方からも好かれている優等生として。何でもクラス代表をやっているとか。

ま、そんな立場の姉だから、先生にレポートを渡すことも可能だろう。たぶん。
渡せなかったら、別の方法を考えれば良いだけだしね。




レポートを印刷して、さて、姉に渡すか、と考えたところで、お腹が「ぐ~~」と鳴った。
パソコンの時計を見れば、時間は二時を過ぎていた。

「そりゃ、お腹も減るか」

そう呟きつつ、パソコンの電源を切り、レポートを持ってリビングに向かう。

トントントンと階段を下りて、ガチャっとリビングの扉を開けると、そこでは想像通り姉が紅茶を飲みながらテレビを見ていた。

「今日は随分と遅かったわね」

姉がこちらを見るなりそう呟く。

「レポートの最終確認をしていたら、寝るのが遅くなっちゃって。
私のお昼ご飯は残っている?」

「トースターの中に朝食のパンが、コンロの横に昼食の冷やし中華がおいてあるわよ。
レポートってのは、アレ?
脳科学の先生に渡せって、貴方が言ってた?」

台所に行くと、そこには姉の言葉通り、パンと冷やし中華があった。
女の子としては大食いの私でも、流石にこれを一食では食いきれないぞ…

「パンと冷やし中華って、そんなに食べられないよ…どうすんの、これ。
レポートはそれだよ。
先生に渡せそう?」

「私が怒られるような内容じゃないでしょうね?
そのレポート」

テーブルの上に私が置いたレポートを手にとって、パラパラと捲った後、姉はそう尋ねた。
どうやら、ちら見しただけで、内容を理解することは諦めたらしい。

「どうだろうねぇ」

私はそう返事をした。
そもそも真偽を確認する為に見てもらう訳で、相手の反応がどうなるかなんて言うのは分らないのだ。

「どうだろうね、って貴方、渡すのは私なのよ!」

私、怒っています、という様子で姉が言う。

「先生から怒られたら、全部私の責任にしちゃっていいよ。
妹がどうしてもって言うから仕方なく、みたいな感じで」

「渡さないっていう選択肢もあるのよ?」

レポートをポイ捨てするような仕草をした後、そんなことを言ってくる姉。
仕方なく私は説得材料其の一を使うことにした。

「受験の時、小学生の妹に家庭教師をやってもらった、ていう恥ずかしい過去を写真付きでばら撒かれたいんなら、それもいいんじゃない?」

効果は抜群だ。
私の言葉に姉は大いにうろたえた。

「くっ、あんたの教え方が分り易いのがいけないのよ!」

でもって、姉の口からはそんな言葉が出てきた。
というか、怒るのはそこなのか…。

「いや、怒ることじゃないでしょ、それ。
ともかく、レポートの件はお願いね」

「分ったわよ。はぁ~。
新学期が始まったら、先生に渡すわ。
どうなっても知らないわよ」

「それだけなら大丈夫でしょう。
思考を読み解く装置自体はすでにISで実用化されている訳だし、もしそのレポートの内容が真実だったとしても大した騒ぎにはならないはずだよ」

ISが公開されてから既に数年。流石に、思考を読み解く方法に関して、その機能や理論が不明のままということはないだろう、そういう判断だった。

「…ま、あんたがそう言うなら、そうなんでしょうね。
全く、なんで私の妹はこんなのになってしまったのかしら?」

「流石に、その言い方は酷くない?」

悲しげな表情を見せながら、そう言う。
とはいえ、殆どが演技だが。女性は自らを演じる存在なのだ。

「姉を脅すような妹は、こんなのって言葉で十分よ」

そういって、姉は大きなため息をついた。
まったく、失礼な姉である。私は説得しただけだと言うのに。




後からは思えば、このときの私はまだ幼かったのだ。
どうしようもないほどに、幼かったのだ。
そして、亡霊をめぐる争いは、表舞台に上がる。




シュタゲやってたら、なぜかISの二次創作を書きたくなった。
これはそんな作品です。
たぶん、途中で更新停滞します。




[29968] 第二話 ~エリス博士~
Name: 空城◆1e903e03 ID:c5e8dfd4
Date: 2011/10/02 21:16
姉にレポートを渡してから、一ヶ月後。
始まりは姉からのメールだった。

『貴方、あのレポートに、何を書いたのよ!
担任に呼び出されるは、学園長直々に質問されるは、大変だったんだからね。
帰ったら、覚えておきなさい!!』

そんな内容のメールが来たのだ。

え?何で?

それが私の正直な感想だった。

あのレポートは、確かに斬新な内容ではあるが、基礎理論が中心になっている為に、内容そのものはそれほど高度なものではない。
しかも、内容の大半がISという存在で既に数年前に実用化されているものである。
仮に、あのレポートに書かれていることが真実だったとしても、それほど大事になるとは思えなかったのだ。

それとも、もしかして、ISにおける思考の読みとりなどといった部分はまだ解明されていなかったのだろうか?
既に、何機ものISが量産されている以上、流石にそれは無いと思うのだが…



でもって、数日後。
私が家で学校に行く準備をしていると、ピンポーン、という音が来客を知らせてきたのである。

門に付けられた監視カメラの映像を見れば、そこには二人の女性が。

「おはようございます、どのようなご用件でしょうか?」

インターホン越しにそう尋ねる。

『IS学園に所属している滋野命と申します。
瀬田遥さんが書いたレポートに関してお話したいことがあるのですが、お時間は大丈夫でしょうか?』

わーお。どうしよう。
中学校に行かないと行けないので、大丈夫じゃないです、とか言ったらどうなるんだろう?

私は現実逃避ぎみにそんなことを考えてしまった。

まさか、IS学園の人が直接来るとは…
何?あのレポートって、そんなにヤバかったの?

『今、忙しいようでしたら、また後でお伺いしますが』

私が黙ってしまったからか、暫くの沈黙の後、そんな言葉が聞こえてきた。

「いえ、大丈夫です。
今、鍵を開けますね」

そう言った後、玄関に向かい、鍵を開ける。
ガチャ、ガチャ、という鍵の音が玄関に響いた。

「どうぞ、お入りください」

扉から顔を出し、来客に直接そう告げる。
そして、私は2人をリビングへと案内するのだった。




「それで、どのようなご用件なのでしょうか?」

お客様2人にお茶を出した後、リビングの席についてそう尋ねた。

こうして近くで見てみると、なかなかに印象的な二人である。
インターホン越しに滋野と名乗った彼女は、化粧っ気が殆どないのに、キリっとした雰囲気のある黒髪、黒目のキャリアウーマンといった様子の女性だ。
もう一人は、何と金髪緑眼の白人女性である。しかも白衣を着ている。他人の家に行くのに白衣を着ていく人なんて初めて見たよ。

「コノ、レポートハ、ホントウニ、アナタガ、カイタノ?」

片言の言葉で白人の彼女が、私が姉に渡すように頼んだレポートを持ちながら尋ねてくる。

おお、外人さんに話しかけられるなんて、あの夢の中の出来事を除けば初めてだ。
なんか、ちょっと感動。
うん、ま、現実逃避なんだけど。

「…はい、そのレポートを書いたのは私です。
あの、それに関して何か問題があったのでしょうか?」

恐る恐る私は尋ねた。
正直なところ、心臓はバクバクである。
あの夢の真偽を確かめたかっただけなのに、どうしてこうなった。

「コレハ、ジュウサンサイノ、ニンゲンガ、カケルヨウナ、ナイヨウデハナイ」

能面のような表情で白人の女性がそんなことを言ってくる。
いや、外人だから私が表情を読めないだけか?

「え、え~と、そう言われましても」

いや、本当に、こういうときは何て言えば良いんだ?
部屋の中を気まずい沈黙が流れる。

よく観察したら、この白人女性、なんだか苦虫を噛み潰したような表情をしている?
というか、滋野さん?も溜息を吐くだけじゃなくて、どうにか助けてほしいんですが。

うう、こんな重い空気、耐えられないよ…。

「私の部屋に、それを書くのに使ったパソコンや試料がありますが、御覧になりますか?」

この雰囲気をどうにかしようと悩んだ末に、私が出した言葉がそれだった。

私が書いたと言うのが信じられないのなら、証拠を見せれば良い。
パソコンにはバックアップと共に使用した履歴が残っているのだ。
それを見せれば、私が一からそのレポートを書いたという言葉も信憑性がでるだろう。

そう考えたのである。

とはいえ、私がそのレポートを書いたと証明する必要はなかったのだが…
ま、これが場の流れと言うやつなのだろう。

「アンナイシテ!」

私の言葉を聞いた白人女性は、ガタっという音を立てながら立ち上がり、そう言った。

「私からもお願いしていいかしら。
もし本当に貴方があのレポートを書いたと言うのなら、それはとても凄いことなのよ」

滋野さんも、白人女性の行動に呆れた表情をしながら、そう言う。

はぁ~。失敗したなぁ。あのレポート、そんなにすごい内容だったのか。
私は心の中で溜息をついた。

部屋の中を他人に見せるのには抵抗があるが、仕方がない。
私は、2人を二階にある自分の部屋へと案内することになったのだった。





六畳ほどの部屋に、ベッド、本棚、テーブル、パソコンデスクなどが所狭しと置かれている私の部屋は、お世辞にも広いとは言えない。
友達などを呼んだ時も、大抵皆が座る場所はベッドの上とかだ。

そんな訳だから、部屋の中では自然と、白人女性がパソコンの前に座り、私と滋野さんがベッドの上に座ることとなった。

「ごめんなさいね」

部屋に入って、暫くした後、滋野さんが唐突に謝ってきた。

???…私はその言葉に首を傾げた。
何に対して謝られたのか、分らなかったのだ。

「突然押し掛けてしまったことは申し訳ないと思っているわ。
でも、彼女にとって、あの研究は自分の人生をかけたものだったのよ」

私の反応を見て、滋野さんはそう言った後、説明を始めた。

「あの娘、エリスっていうんだけど、脳科学の学会では、数十年に一度の天才って呼ばれていて、将来はノーベル賞を貰うこともほぼ確実視されているっていうぐらい凄い人だったのよ。

でも、そんな評価は、ISの登場で脆くも崩れ去った。

ISという、人の思考を読み解いて理解する機械の誕生は、当時、時代の最先端を行っていた彼女の研究すら、時代遅れの遺物に変えてしまった。

まあ、それだけなら、ISの最新技術を取り入れた新しい究をまた始めればいいだけだから、それほど問題じゃなかったんだけどね。

彼女は、ISの機能を解析できなかったのよ。

彼女だけじゃない、私たち脳科学者の全てが、ISに搭載されている『人の思考を読み解くシステム』を解析できなかった。

人の思考を読み解くシステムの基幹部分はISコアの中に予め作られていた、というのも原因だったわね。
数百個しかない貴重なコアを解析する機会は、天才と呼ばれた彼女にもなかなか巡って来なかったのよ。

でも、そんなことは、世間の評判には関係がなかった。

彼女の評価は、それまでの天才というものから一転して、ISの機能を解析できなかった凡人というものになってしまった。

それが彼女には我慢ができなかったのでしょうね。
彼女はその後も我武者羅にISコアの研究を続けた。

泥沼にはまった、そう言っても良いかもしれないわね。

彼女は意地になって、ISの機能を解析しようとして、ISコアを研究の為に借りようと無理をするたびに、その評判を落としていった。

最終的には、国からの援助も打ち切られたそうよ。
それでも彼女はISコアの機能を解明するということを諦めきれなくて、それまで所属していた大学をやめて、IS学園にやってきた。

でも、そこまでしても、ISを研究するには最高の環境であるIS学園においても、彼女はISに搭載された『人の思考を読み解くシステム』を解明することができなかった。

そんな時に、貴方のレポートがやってきた」


滋野さんはそこで一度言葉を区切り、白人女性、エリスというらしい、の方をみた。
彼女は、悔しげに顔を歪めながら、泣きそうな表情をしながら、私のパソコンの履歴をあさっていた。

つまり、私は自他共に天才と認められていた彼女ができなかったことを、あの夢があるとはいえ、一カ月でやり遂げてしまったことになるのか。

罪悪感で、胸が痛む。
これでは、まるで、私が彼女の努力を嘲笑っているようではないか。

彼女のことを見ていられなくて、私は視線を彼女から外した。

嫌な沈黙が流れる。


そして、滋野さんが再び口を開いた。

「貴方のレポートは、それまで謎だった、機械を通して人の思考を読み解く方法を、これ以上ないほど分り易く説明していたわ。
私たち、脳科学者が、どんなに頑張っても、できなかったというのにね。

まあ、でも、そのままだったら、たぶん、それほど真剣には取り扱われなかったでしょうね。
いくらなんでも、書いたのが中学生というのは信憑性がなさすぎた。

けど、そのレポートを受け取った先生が、そこで一芝居打ったのよ。
このレポートはとある大学院生から提出されたものだってね。

貴方のレポートには、名前は入っていても年齢や所属は書かれて居なかった。
所属が書かれていないことは疑問に思われていたようだけど、それで何とかなってしまったのよ。

逆に言えば、そういう経緯があったからこそ、今、エリスみたいに、中学生の貴方があのレポートを書いたということを信じられない人が沢山生まれてしまったのだけどね。

そして研究所はこのレポートを巡って、大騒ぎになった。

こんなのは嘘だ、とレポートの内容を否定する人もいれば、レポートの通りにやってみて実際に装置が作れるのかどうか検証しようという人もいた。

そして、実際にレポートに書かれた理論に従って装置を作ったら、ノイズも多かったとはいえ、本当に人の思考や認識を読みとれてしまったよ。
限定的にだけど、人がイメージしていることを映像化することさえ、成功したわ。

まあ、短時間でそこまで作れたのは、ISに搭載されている機器があったからこそだけど。

あの時の研究所の空気は何とも言えないものだったわ。

ブラックボックス化されていたISの機能を一部とはいえ模倣できた喜び。
自分たちがどんなに頑張っても分らなかったシステムを部外者が簡単に解決してしまった悔しさ。

皆が皆、複雑な感情を抱いていたわ。

特に、エリスの場合はそれが酷かった。
彼女の場合は、この研究でそれまでの人生を狂わされてしまったようなものだからね。
それまでの名誉を否定されることになった原因であり、故郷を捨ててまで自分の手で解明したかった研究。
それが他人の手でいとも簡単に成し遂げられてしまったとなれば、冷静ではいられなかったのよ。

そして、実はそのレポートを書いたのが中学生であるということが知らされた。

私たちは、まず、他の人が書いたレポートを貴方がコピーしたんじゃないか?ということを疑ったわ。
レポートを持ってきた貴方の姉にも直接確認したし、貴方の周りにあのレポートを書けるような人が居るかどうかも調べた。

でも、結局、分らなかったのよ。
貴方の身近な人に脳科学に関わる人なんて居なかったし、あのレポートに書かれていた参考文献は全て、貴方が県立図書館を経由して借りていた。

で、そんな状況にイライラしてたエリスがついにキレちゃったのよ。
貴方に直接会って確かめるってね。

IS学園としては、もう少し調べてから、せめて何らかの証拠が出てから、貴方に接触するつもりだったようなんだけどね。

これが、私たちが、今日、貴方に会いに訪れた理由。

だから、もし、エリスのことを思うのなら、彼女に本当のことを教えてあげて。

それが今の彼女に一番必要なことだと思うから」

その言葉を最後に滋野さんが口を閉じる。

はぁ~、と私は溜息をついた。

何で、あの夢のなかの発明品をレポートに纏めただけで、こんなに大事になってしまったのだろう?
こんなことは想像していなかった。

本当のことって言ったって、あの夢の話を信じてもらえるのか?
まだ、私が自分で考えたと言った方が、信憑性があると思うぞ。
心の中で、そう愚痴る。

誰もが無言のまま、ただ、エリスがカタカタとパソコンをいじる音だけが、部屋の中に響く。

そして、無限にも思える時間の後、やがてパソコンやキーボードの音が止まった。

私と滋野さんが同時にエリスの方を向く。

彼女は、泣いていた。
うぅ~と呻き声を上げながら、顔を歪め、涙を流していた。

滋野さんがエリスの側に駆け寄り、ハンカチでその涙を拭きながら、彼女のことを抱きかかえた。

「It was true that she said. She wrote the report. … 」

かすれた声で震えながら、彼女の言ったことは本当だった、このレポートを書いたのは彼女だ、とエリスが呟く。
そんな彼女の背中を、滋野さんが優しく落ち着かせるようにゆっくりと撫でていた。

私は、そっと視線を逸らす。
罪悪感が重く圧し掛かってくる。
私が何も考えずにレポートを提出してしまったせいで、彼女があんなになってしまったのだ、と見せつけられたのだ。
彼女の姿は、百の言葉よりも雄弁に私の過去の行いを責め立てていた。

だから、その罪悪感から逃げるようにして、私は覚悟を決めざるを得なかった。
これに耐えられるほど、私の心は強くなかったのだ。

「エリスさん、貴方にお話ししたいことがあります」

私の言葉を聞いて、エリスさんの鳴き声が止まった。
彼女は顔を上げて、こちらを見る。

「始まりは、夢でした。
 ……………」

そして私は彼女たちに告げた。

幼いころから、1人の女性の人生を夢として何度も見たこと。
その女性は、世界を憎んでいて、世界を滅ぼす為に様々な発明を行ったこと。
でも彼女はそのことを周りの人間には悟らせず、単なる天才科学者として振舞っていたこと。
夢の中では、最終的に、時の流れをかき乱す?ことで彼女が世界を滅ぼしたこと。
その夢が現実にあったことなのか、それとも私の妄想にすぎないのか、それを確認する為に夢の中での彼女の発明品の一つの基礎理論をレポートに纏めて、姉を通してIS学園に渡したこと。

などなど、全てを2人に話した。

話し終わった後、エリスさんの表情に浮かんでいるのは困惑だった。
突然こんな話をされたのだから、無理もない。

「ま、信じる、信じないは貴方達にお任せします。
これに関しては一切証拠がありませんから。
そちらでどうとでも判断してください」

気まずくなって、なんとなくそんなことを言ってしまう。

そんな私の様子を見て、エリスさんは、ふっ、と微かに笑った。

「アリガトウ、ワタシノタメニ、ソンナハナシヲ、シテクレテ」

あれ?やっぱり私の言葉、信じられてない?
彼女を慰める為に、嘘を言ったと思われた?

ま、まぁ、別にそれでも良いのかな?
ちょっと、ショックだけど…。

「ねぇ、遥さん。
このパソコンをお借りしても良い?
あのレポートを貴方が書いたという証拠がIS学園としては欲しいのよ」

落ち込んでいる私に、滋野さんがそんなことを尋ねてくる。

…? 
なんだか気のせいかもしれないけど、彼女、少し浮かれているような?

「別に良いですけど、重くないですか?
それに、私としては、別にあのレポートを私以外が書いたということにしてもらっても構わないのですが…」

私の部屋のパソコンは自作のディスクトップで、ハードに色々詰め込んでいるから、ぶっちゃけ重い。
女性の腕力で運べるかどうかは、ちょっと疑問だ。

「重さに関しては大丈夫です。私は鍛えていますから。
レポートに関しては、ここまで大騒ぎになってしまった以上、今更、ごまかすというのはちょっと…
状況的に、貴方以外が書いたとは考えにくいですからね」

マジか…。
まぁ、仕方がない、と思って諦めるしかないのかなぁ。
なんか変なことに巻き込まれそうで嫌なんだけど。

はぁ~、どうなっちゃうんだろう?




こんな感じで私たちの出会いは終わった。

この出会いの先に何が待っているのか、残念ながらこの時の私にそれを知る術はなかった。







これを書いてたら、なんかすっげータイムリーなニュースがあってびっくり
興味がある人は【夢が撮られちゃう?! 米研究員ら、脳活動から映像復元】でググって見ましょう。
最近の科学技術は、ほんとSFの領域に入りかけていますよね。


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