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[29918] 【ネタ】奥様はIS学園で学園ヒーローをするそうです。(TS転生サンレッド微クロス)
Name: くくり◆24f58f99 ID:3b0270e9
Date: 2011/09/26 18:14
原作知識なし特殊能力ありTS主人公。



[29918] プロローグ 
Name: くくり◆24f58f99 ID:3b0270e9
Date: 2011/09/28 05:35
奥様はIS学園で学園ヒーローをするそうです。



「来年。君と籍を入れようと思う。でも、高校ぐらい卒業しておきたい?」

工藤美緒は何時もどおりに夕食後の後片付けをしていると居間でテレビをみている男にそう問われた。


中学三年、来年16歳。

16歳と聞くと何を思い浮かべるだろうか?

酒、タバコ、運転免許、賭博、それらは禁じられておりまだまだ未熟な子供な年齢であると思う。

男性はそうだ、まぁバイクの免許ぐらいは所得可能である。

女性では少し違う。

16歳になると結婚、つまり18歳以上の男性と夫婦になれるのだ。

16で結婚する女性、いや16はまだまだ女の子といってもいいし、少女という言い方でもいい。
16歳で嫁ぐ、現代で見ればとても稀である。

今時は高校を出て18歳そこから大学に専門学校に短大、就職と数知れない未来への分岐点が広がっていくのだ。

まぁ結婚していても子供さえ作らなければ、別に学校なんて行けるし、また子供が居たとしても行けないこともない。

だが。

「結婚して俺の奥さんになって専業主婦になってこの家で生涯俺の家で家事をして美味しい味噌汁をつくってくれないかい?
 そして籍をいれたらすぐ子供も欲しい、最初は君に似た女の子が欲しいな」

プロポーズだ。

しかも専業主婦になって欲しい、子供も作ろうという言葉つき。


工藤美緒はこの言葉どおり行けば全ての可能性を閉じ、この居間でテレビをみながら16の少女にプロポーズするという
大変、次元的に常識と掛け外れた言動を行なう男の奥さんになり子供を作って17には出産、子育てに従事するいっぱしの大人の女性になれというのだ。

工藤美緒はその言葉に対しただ一言、すこし額に冷や汗を流しながら

「……は、早くない?」

そう返すことしかできなかった。







プロローグ




私こと工藤美緒は大変、不可思議というか奇運というか困難というか物語的というかそういう人生を宿命付けられた人間だった。


テンプレTS転生特殊能力付き、という結構最近食傷気味な感じの。


神様にはあったことがない、インフルエンザが悪化し、脱水症状でそのままお亡くなりになり、気付いたら日本の一般家庭の家に生まれた女の子。

死ぬ最後の記憶はインフルエンザで職場を休み、8畳の居間に布団を敷いて、寝ながらアニメの天体戦士サンレッドをみているのをおぼろげに覚えている。
丁度神奈川県で働いていた私は、深夜にこのアニメを発見し、大いに嵌り、インフルエンザが蔓延する時期にアニメに出てくる場所を巡るのを趣味にしていた。

別に聖地巡礼とかそういうのじゃない、アニメに出てくる定食屋とか本当にあんのかなぁ、あったら、さば味噌定食食べたいなぐらいのノリである。

友達そう話したら、「お前オタク?なのか?」という反応をされた。

ちょっと傷ついた。でも、天体戦士サンレッドのオタクってまぁ珍しいのかなーぐらいの微妙な気分だったのは覚えている。


考え事が大いにずれている感じがするが、概ね大体死んだら女の子でしたーぐらいでいい。

元々は男だったために股間についてる凸が凹になり空洞となり凸ポジションに気遣うこともなくなり。

凸の皮に毛が挟まり痛い思いをする必要もなくなり、あの痛みが懐かしいけど虚しい気持ちになる。

今も銃弾が交差する戦場のど真ん中で銃器を持たない非戦闘員の気持ちになる。

8歳で初潮を迎えた瞬間に大変なことになったこともある。

そう大変なことになった。


あの時私は覚醒したのだ、TS転生というものに魂に虚無的な絶望を抱えた私に、ある権能が宿ったのだ。


初潮で太腿から滴る我が鮮血に怖気を感じ、自らの子宮を実感した時、3LDKの我が家が大火災に見舞われた。

ちょっと普通じゃない女の子、近所にはもっと普通じゃない女の子が住んでいたので
まぁなんとか深く考えず在るがままに我が子の成長を見守っていけばいいかと私に接していた両親はその時焼け死んだ。

まるで太陽の炎、燃え上がる世界。


不死鳥の炎。

コロナの力。



世界が炎に包まれ気付いた時。











私はファイヤーバードフォームになっていた。







可愛いウサギのパジャマをきたまま、背中から大変な熱量が吹き出るツバサを纏っていたのだ。

両親は一瞬にして燃え上がり、この世から居なくなった。

私は人間が燃える臭気に耐え切れず口から夕食に食べていたパスタを吐き出しながら。

混乱しながら泣き喚いた。


気付くと私は緊急病院に担ぎ込まれていた。

そして、謎の大火災により一つの家がまるで狙われるように燃え上がり焼失した。


私が混乱のまま必死に燃え上がる炎を制御し被害を最小限にとどめ様とした
結果、宇宙から地球を観測する衛星機が日本のある一点から成層圏にまで火柱が立ち上るのを記録した。


日本S県謎の一家焼失事件として世界的な事件となった。

その事件は様々な憶測を呼んだ。


膨大な熱量が発生したにも関らずたった半径10数メートルの民家一軒のみにしか被害が行かなかった謎。


そして一瞬にして酸素さえもなくなる炎の中ただ一人生き残った少女の謎。







気付くと私は病院のベッドにいた。



気付くと、私が正気に戻るまでの一ヶ月私は精神異常をおこしたままずっと病院のベッドに隔離されていたらしい。

隔離、という言葉に少し違和感を感じるがまさしく隔離という言葉が相応しい扱いを私は受けていた。

謎の災害に生き残った私は某有名大学病院のベッドで様々な検査を受けていたのだから。

目覚めた後、知った事実はとても重かった、両親の死亡、全てを失った私。


そして自らの裡にある両親を燃やし尽くした記憶と実感。


理不尽すぎる我が身の上


そして力。


私はそれから以降口を紡ぎ目を閉じ耳を塞ぎ、自らの心さえも塞ぎ病院のベッドの上で白雉と成り果てた。



食事も取らずただ絶望の果て自らの生の意味さえもわからず命を捨てる、その時私はそう選択した。

が、一人の男が私を救った。

それは私の従兄弟にあたる人だった。


親類は皆、私を諦めていたらしい。

言葉も返さずただ、ただ一人ベッドで俯き人形となった私を救うのを諦めた。

いや救うことを不可能と悟っていた。


ただ一人の男だけは違った。

男は私を救う気はなかった救えるとも思わなかった。

男はとても優しく義理人情にあふれた青年だった。

親類の女の子が謎の事件で両親を失い孤独となり、正気を失い、ただの呼吸するだけので生きる気力を失った人形に対し、ただひたすら優しかった。

根気強く、私がいる病院に毎日通い、虚ろな私に懸命に話しかける青年。

可哀想な女の子を心配し、世話を買い出た一人の青年。


私の体は衰弱し、どんどんと死へと進み始めた時、私は思った。

どうして、この目の前の人はこんなに優しくしてくれるのだろう。

意識の淵に一瞬そう考えた時、私は正気に戻った。

その時の私は正直直視さえも辛い状態だった。

口から鼻から目から汚い液体をただらし、ストレスで頭髪も抜け落ち、骸骨のようにガリガリに痩せ果てた亡者のような姿。

だがこの優しい青年はどんなに醜くくても見るのも辛いグロ画像な私をみてもただ、可哀想だから優しくし続けた。

わたしは正気に戻りしかし、体が衰弱して思うように回らない口で疑問を発した。

「なんで、やさしくしてくれるの?」

と。

青年は数ヶ月間無反応となった私の始めての反応に目を見張り、ナースコール目をやりそしてすぐ私に視線を戻し、こういった。

「だって可哀想だから、俺でも俺だけでも傍いてあげたかった」と


その言葉を聴いて信じれない思いを抱いた。

こんな人が本当にいるのか、と。

まるで神様みたいじゃないか、と。




おもわず神様と口に出していたらしい。


青年は軽く微笑んで

「ううん、違うよ、親戚のお兄さんだよ」


といってナースコールを押した。




神様にはあったことがない、しかし親戚のお兄さんは私にとって神様以上の存在となった瞬間だった。

そして私の胸のうちに生命力の炎が燃え始めた。


そして泣いた。

醜いまま汚いまま泣き叫んだ。

生きたい、親を殺してても生きたい、醜くても生きたい、この人がいるこの世界に生きたいと泣いた。





私はその日本当に生まれ変わったのだった。




それから私が立ち直り退院するまで一年の月日を要した。


それが私に居間でテレビを見ながらプロポーズした35歳の男性との出会いだった。


わたしは正気に戻ってからリハビリの一年間を親戚のお兄さんが見守る中順調に過ごした。


それはありえないほどの回復、奇跡ともいえる復活とも言えるほどの順調なリハビリだった。


胸のうちに炎が宿った私は驚異的だった。

担当していた医者は私に匙を投げていたそうだが、抜け落ちた頭髪も生え始め、食欲を見せ始め、一日一日に見る見る回復していく。

医者は頭を抱えて「まるで君の献身的な愛の力の奇跡だ」と親戚のお兄さんに言ったらしい。

お兄さんは一年間仕事を休みずっと私の傍に居てくれた。

私は悪く言えば依存的にして狂信的な感情を親戚のお兄さんに抱いた。

お兄さんが傍に居ないとぽろぽろと涙を流し始めるぐらいに。

お兄さんが居ないと生きれないと思うほどに。


リハビリ終了後、宙に浮いた私の引き取り先はお兄さんじゃなかったら死ぬと大声で喚くほど。


親類達は全員それに対し賛成を示した。

親戚のお兄さんはまぁ僕しかいないだろうと頷いて私を家族にしてくれた。


そしてある気の利いた親戚はお兄さんの両親の養子とせず三親等に入らないような戸籍に入れてくれた。


親戚全員大体と未来を予測し始めていたらしい。

お兄さんの両親はお兄さんに「責任とって守り続けなさい、貴方が救ったんだから」といった。



それから6年の月日が経った。

世界はISという存在に大きく形を変えていたが、私には何も関係なかった。

お兄さんとの6年間が私の全てだった私の人生だった。









「私もさ、お兄さんと結婚したい一生傍に居たいよ、でも……早くない?」

私は考え事から現実に身を戻し洗い物をしながら答える。

居間でテレビを見ている親戚のお兄さん…工藤貴仁は耳を赤くして

「早くない、早くない、だって俺35だもん、そろそろ結婚しても可笑しくないよ」

「いやさ…私まだ15だよ世間体的に不味くない?」

「………世間体なんてとっくの昔に俺の目の前から走りさってるよ」

「そうかも」

「世間体は俺のことロリコン扱いだよとっくの昔に」

「ごめん……………」

12の頃には肉体関係迫りまくった私が世間体とか言えるわけがなかった。

前世の男性の知識を生かしあの手この手でお兄さんに迫った私。

未成年に対する淫行に恐れ慄きながらも私の手からまだ逃げ切っているこのお兄さん。

今では周囲から立派なロリコンとして認められている。

「病院だとさ……俺みんなから生暖かい目で見られてるのしってる?」

私とお兄さんの出会いと関係はお兄さんが勤めている病院では有名だ。

たった一人の少女を生涯看護し続けるナースマンとして。

「美談扱いだからいいじゃない」

「よくない!未だにいつ君に手を出さないかと皆が待ちわびてんだぞ………でも犯罪だろ」

「じゃあ、手を出す?」

私は洗い物を一時中断し居間でテレビを見ているお兄さんに抱きつく。

お兄さんは額から汗を流しながら顔を顰める。

「…………犯罪だろ」

「いまさら気にしなくても」

「……母さんがさ、婚前交渉したら通報するって言ってんだよ」

「捕まっても心情的に罪に問われないって、だって愛してるし」

「世間は認めません」

「ええー」

「母さん、産婦人科医だから、いろんな不幸な出産見てるし、本当に結婚して生活基盤しっかりしてなかったら確実な避妊なしでの性交は駄目って言い張ってるんだよ」

「だったら、コンドームとかピルは?」

「コンドームは100パーじゃないし、ピルはあんまり体によくないから駄目、つうかそんなにしたいのか君」

「さっさと女の幸せとやら実感したい、お兄さんと一つになりたい」

「くぁwせdrftgyふじこl!!」

お兄さんは無理矢理立ち上がり逃げようとする

だが逃さん。


「離れて!まじ離れて!暴走する!勃起したから!危ない!」

「暴走しよーよ、一つになろうよ、アクエリオンしようよ」

「君さ!あのCM見る度にこっちみるなよ!!食卓に居合わせてる両親が「手を出したら解ってんだろうな手前」ってみんだぞ!!」

「ああっ!だから結婚ね!!世間的に結婚したらOKだからね、してもいいしね!!もう我慢の限界なんだー!じゃあ来年しよ結婚!!」

「そんな軽く言うことか!!」

「テレビみながらプロポーズするヤツには十分だよね」

「冗談だったの!君が制服エプロンで洗い物してるの見て思わずムラムラしていってしまったの!!」

「それでも結婚まで待てるお兄さんが凄い」

その後、夜勤明けで帰ってきたお兄さんのお母さんに私たちは説教を受けましたとさ。

結局私は16になったら結婚はしてもいいそうです。


でも高校は通うことになった。








「って感じになった」


「な…なん…だと…」

「奥様は女子高生…だと」

その話を幼馴染の織斑君と五反田君に話すと驚愕していた。

そりゃそうだ。

「工藤まじ結婚すんのかーありえねー!!」

「千冬ね…いやなんでもない」

「でも籍だけね、結婚式は成人式のあとの予定」

私はにやりと笑いながら薬指の指輪を掲げる。

「まぁ、そうなるだろうと思ってたけどな…貴仁さんへのお前のべったり具合みると」

「でも学校はどうすんの?」

「藍越にするよ、君らと一緒の」


























完璧に一夏にフラグの立たないオリキャラ投入してみた。














[29918] FIGHT1 ヒーローは巻き込まれるからヒーロー
Name: くくり◆24f58f99 ID:3b0270e9
Date: 2011/10/01 19:57
「今朝のさっと一品!」

「えっ朝からカツ丼!?」

「今朝の一品はカツ丼です、昨日つくったでカツを味を着けた炒めたたまねぎと卵で閉じてご飯に乗せるだけ!!」

「いやぁ受験っていても俺がうけるんじゃないし………昨日の夕飯カツだったじゃない」

「いいの、夫婦は同じもの食べて頑張るの!」

「まぁ、いいか……でも朝からはカツ丼は重い…」


FIGHET1


今日は待ちに待った藍越学園受験日

受験票持った、筆記用具持った、ポケットティッシュ持った、ハンカチ持った、弁当持った、参考書もった。

よし準備万端と玄関のドアを開ける。

今日の天気は晴れ。

太陽が燦燦と私を照らす。

その太陽は私の力の源である。

忌々しい記憶しかない私の力だが、湧き上がる力は燦然と胸の中で輝いている。

「美緒ちゃーん」

家から出てすぐに背中から私を呼ぶ声がして振り向くと

「あ、山田さんどうしたんですか朝から」

「今日受験って聞いたから…これキットカット桜咲くバージョン、受験で頭使うから糖分補給にこれ食べて。3個あるから、一夏君と弾君にもあげてね」

丁寧にキットカットを山田さんが手渡してくれる。


「ありがとうございます」

わたしはその親切さに笑みがこぼれた。

私にキットカットをくれたのはご近所に住む山田さんだ。
お兄さんの所に暮らし始めてからなにかと私の面倒見てくれるおじさんだ。
職業はお料理教室の先生らしく私に美味しい料理の作り方を教えてくれる人でもある。

彼はこの周辺住民にとって主婦のカリスマとして有名であり、この街で家庭料理で彼の腕をを越えるものはいないとされるらしい。

幼馴染の一夏も彼を師として崇めている。


「美緒ちゃんもこんなに大きくなって、もう高校生になるのね、早いなぁ」

「それに今年の16の誕生日には奥さんにもなるんだ」

「そうなの!?貴仁さんと結婚するの!?早いね!?」

「うん、受験だからつけてないけど、ほら婚約指輪」

私は制服の胸ポケットからエンゲージリングを取り出して見せる。

私が笑顔でリングを見せると山田さんが突然泣き出した。


「どうしたの山田さん!?」

「ううん…うれしいの私、美緒ちゃんがこんなに大きくなって…そして幸せになってくれて…私うれしい」

「ありがとう山田さん、でもこれからだよ幸せになるのは、受験今日だし」

私はおいおいと泣き始める山田さんに少しびびる、この人凄い人情家でも有名なのだが少し涙もろいのがたまにきずだ。

初めて会ったとき結構強面なので少し怖かったけど私をみて突然泣き出したのをみてもっと怖かった。

「レッドさんがかよ子さんと結婚して、かよ子さんの実家の婿養子に入ってから真面目に香川県で働いてるの聞いた時なみに嬉しいの私」

「烈人さんとかよ子さんかぁ、あの時私も結婚式に参加させてもらったけどかよ子さん綺麗だったなぁ」

二年前に山田さんがご好意で結婚を夢見ている私を連れてってくれた結婚式。

何故か初めて会った烈人さんが私をみて驚いていたのは覚えている。

まぁ山田さんの知り合いってだけで結婚式に参加した中学生見たらびっくりするかな。

「高校受かったら教えてね美緒ちゃん、盛大にお祝いパーティーするから」

「うん、ありがとう山田さん」

「がんばってねー美緒ちゃん!」

私は頭を下げてお礼し山田さんと別れる。



私は周囲から祝福されているのを実感しとても幸せな気分で歩きはじめる。



山田さんやご近所の方々には大変お世話になっている。

街の商店街の人たちも親切でよくオマケしてくれるし。


みんな私の成長を見守ってくれたいい人たちだ。

そんな彼らにまだまだ恩返しは出来ないけれど、せめて立派にならないと。

そう決意を抱いて歩きはじめる。






そんな工藤美緒の後姿をみてまだ山田は泣いていた。

「ううう……よかったー美緒ちゃんがあんなに幸せになってくれて」

山田こと悪の秘密結社フロシャイム川崎支部将軍のヴァンプは泣いていた。

「ヴァンプさま、これ」

そういってヴァンプの後ろからハンカチを差し出すのはフロシャイムの戦闘員一号
黒タイツにジーパンにトレーナー姿のごくごく普通の出勤前の戦闘員の格好だ。

「ううありがとう一号くん、でも君も泣いてるじゃない君が使いなよ」

「当たり前じゃないですかヴァンプ様、だって美緒ちゃんがあんなに幸せそうに…」

「そうだよね……そうだよね、ご両親がさ、あんなことになってさ、美緒ちゃんもあんなふうになってしまって、私達ではどうすることもできなくてさ……うう」

「そうですよね。そうですよね……」

説明しよう、二代目サンレッドとしての力に覚醒した工藤美緒のあまりの境遇に涙したヴァンプ将軍は密かにフロシャイム内で工藤美緒後援会を立ち上げ密かに
彼女が健やかに成長できるよう見守っていたのだ。


美緒は確かにサンレッドの力を持つがごく一般人。

彼女が自らの高いヒーローの素質で両親を亡くしていてそれゆえヒーローや悪の組織との戦いに巻き込むのは可哀想。

なのでフロシャイムの社内通信でもこの情報は全国各地に行き渡り
工藤美緒には怪人たちは悪の怪人としての正体を明かしての接触は禁止とされている。

でも地域社会の住民交流は許可されているので

故にヴァンプは山田という偽名を名乗っているのだ。




「でも大丈夫かなぁ美緒ちゃん、受かるといいなぁ」

「一号君、美緒ちゃんなら絶対受かるよ、美緒ちゃん凄く頭いいもの」

「そうですよね、小さい時から利発で礼儀正しくて思いやりもあるいい子でしたもんね」

「うん、面接もばっちりだよ、中学生になってから貴仁さんの負担にならないように新聞配達して半分は自分のお小遣いにして半分は家計に入れていたもの」

ちなみに工藤美緒が今お世話になっている工藤家は美緒が家計に入れているお金を、そのまま美緒のために作った口座にいれている。

「うんうん、この前の修学旅行の時にもご近所さんにもお土産を欠かさず買ってきてくれたいい子ですもんね」

「ほんと、レッドさんに爪の垢を飲ませてあげたいぐらいヒーローの素質があるいい子だよ」

「あんなことがなければヒーローになって欲しかったですよね」

元某K県のご当地ヒーローであったサンレッドは結局ヒーローを廃業し現在、奥さんのかよ子の実家の香川にいるためK県のヒーローは今いないのだ。

よって地域の住民と親交を深め、美緒の成長を見守るのが現在のヴァンプ将軍の世界征服活動なのだ。

「でもヒーローとの戦いがないから寂しいですよね」

「この前山口支部の加勢にいったじゃない」

「あー山口県に兄弟戦士アバシリンが出現したから加勢にいきましたね」

説明しよう!

兄弟戦士アバシリンとは元々北海道のご当地ヒーローであるが、ある時、酔った勢いで北海道の悪の怪人を皆殺しにしてしまい、それからは全国各地の怪人達を獲物と定め各地で怪人達を殺戮する
最悪のヒーローである。

「あれは嫌な事件だったね……加勢に行ったのはいいけど、みんな皆殺しにされかけて逃げたらムキエビさんが逃げ遅れて……」

「まぁ死なない人だし……あれから強化されて再生怪人シェリンプになったからよかったんじゃないですか」

「でもあれはないよね……最近女尊男卑の社会に対し怒りを感じたからって怪人達に八つ当たりするなんて…
それにいくらISっていう凄い物が出来たって結局女性と男性はお互い支えながら尊重しあうのが大事だよね、うん、わたし女尊男卑の問題を今度地域振興会の議題にしてみよう」

女尊男卑の社会になってからもまだ悪の組織とヒーローとの壮絶な戦いは続いていた。













「あれ、織斑君がいない……」

受験会場に辿り着いた私は参考書を読んでいた。

すると幼馴染の織斑君がいないことに気付いた。

受験開始まであまり時間がない、もしかして、寝坊?

私は参考書を鞄にしまい会場の外に出ると受付で預けていた携帯電話を取りに行く。

藍越学園ではカンニングを防ぐため携帯電話は受付に預けるのが義務付けられている。

ISが世界に広まると同時に世界の科学技術は引き上げられ携帯電話も結構高性能機が出始めているためである。


「うーん受付の人に聞いたけど、織斑君まだ会場に来てないみたい、どうしよう」

とりあえず、携帯で電話を掛けてみる

すぐに3コール目で掛かる。

織斑君は相当焦ってるらしく吐息が荒く要領が掴めないが

「はぁ!?迷った!?」

受験会場の建物内で迷ったらしい。

しかたない


「私迎えに行くからなるべく動かないで、うん大丈夫、私会場内把握してるから」

私は本気を出せば半径10キロ圏内の物音を聞き分けることが出来るのだ、建物内で織斑君の心音を察知するなんて造作もない。

そして本気を出せば新幹線ぐらいのスピードで走ることも簡単。

まだ受験まで時間はある、いざとなれば織斑君を背負って走れば間に合う。

「よし、いくよ」

私の胸の炎が燦然と燃え上がり始める。

胸の内の炎が私の体を通常の人類の規格を遥かに超える力を与えるのだ。

「わかった、あっちだ」

これは織斑君の足音と心音だ。

「でも動かないでっていったのに……もう」

織斑君の位置は受験会場からどんどん遠ざかってるのだ。

私は急がず焦らず、周囲に衝撃波を発生させない程度の速度で走り始めた。








織斑一夏は迷った先でISを発見し近づいていた。

幼馴染の工藤が探しに来てくれるとはいえ、なんとかしなきゃいけない、という気持ちが足を動かし
いつのまにか関係者立ち入り禁止と書かれた場所に入り込んでいた。

「IS……「みつけた、織斑君」工藤。」

柔和で柔らかい声に振り向くと幼馴染の工藤が後ろにいた。

走って此処まで来たのだろう、若干髪と制服が乱れているが汗一つかいていない。

あいも変わらずの抜群の運動神経だ。

昔から異常なほど運動神経と体力が優れていたのだ工藤は。

一度中学の夏休みに新聞配達を紹介してもらったが、新聞配達先でもその抜群の運動能力を発揮しており
自分の担当区画をすぐ終わらせ、他の担当区画の人の手伝いをするほどである。

弾が言うには貴仁さんがいなければ、学校内で彼女にしたい女性NO1であるらしい。

今時女尊の世の中でも老若男女誰に対しても礼儀正しく思いやりの心を忘れない、日々近所の山田さんと一緒に地域振興会に参加し街のボランティア活動を推し進め
その素晴らしき良識さで街のモラル向上に一生懸命な街のアイドル。

容姿も心の綺麗さ滲み出たかのように柔和な美人。

貴仁さんという男性一人を小さい頃からずっと思い続け、身持ちも堅く、今時ありえないほどのヤマトナデシコ。

曰く、男の夢を結集したような女性らしい。




それが彼女だ。

「うわ、ごめんな工藤……お前も受験なのに」

俺がそういうと工藤は苦笑して。

「困った時はお互い様だよ、いまからでも受験に間に合うし大丈夫だよ…ってIS?」


「ちょっと気になってさ………」

俺がISに触れようとすると

「ちょっと、勝手に触っちゃ駄目だよ、そして此処立ち入り禁止場所」

しかし

「あ………」

彼女の注意は間に合わず思わずISに触れてしまった。

「動いた…………」











織斑君を見つけるとそこはIS学園での受験で使われる予定のISが設置された場所であった。

ISって世界に数少ない凄いパワードスーツであり個人のお金では買えない、国家的に見ても大変貴重な物であり
まず一般人は滅多に触れることが出来ないものである。

学生の受験で使用される物とはいえ勝手に触るのはまず禁止されているだろう。

下手をしたら厳重注意ではすまない。


ただでさえ今の世論は女尊に傾いているんだから、普通の男の織斑君が触ってもしなにかあったら、大変な目にあうことは間違いなし。


それに織斑君も私も受験の内心点にこの問題行為が響き、受験合格できなくなるかもしれないのだ


「なのに…なんで織斑君勝手にIS動かしてるの!?国の物なんだよ公共物品なんだよ!?勝手に使っちゃ駄目でしょ!犯罪になるかも!?」

「男が動かしてるとかじゃなくて!?そっち!?」

「もう、さっさとそれから離れなさい」

「うわ、工藤!いきなり後ろから引っ張るな」

少し力の加減を忘れ織斑君をひっぱたので織斑君が転びそうになる。

このままだとISに派手にぶつかってしまう、仕方ない、と

バランスを崩す織斑君を抱きしめ

そして私もついついISに触ってしまった。



「痛いって工藤、一旦くっつくのやめてくれ」

織斑君はISにへばりつき私は織斑君の背中越しにISに触れていた。

「うわ……」

貴仁さん以外の男性との密着は鳥肌が立つほど気持ちが悪いので
私はすぐ織斑君から体をよけたがその瞬間。

「なんか傷つくぞその反「あなた達!なにしてるの!?」

後ろのドアが勢いよく開かれ

私は最悪の予想をたて思わず

「終わった……」

と溜息を吐いた。


予想通り
開かれたドアの傍に受験の係員の人たちが立っていた。


そこから男の織斑君何故ISを動かしてるのか、という係員の驚愕。

今この瞬間からとてつもない国家に関わる問題が発生したらしい。



結局、私は周囲の混乱に巻き込まれ藍越学園の受験を受けることができなくなってしまった。



「どうしょう……貴仁さん助けて…」




勢い良くわたしの幸せな未来の予定が崩れたのを感じた。












次回、史上初の男性のIS操縦者と受験失敗の少女。










あとがきというか説明








ヴァンプ様の偽名は声優ネタ。

ムキエビさんマジムキエビ。

ヴァンプ様マジカリスマ



[29918] FIGHT1.5 全寮制!? そして現れるハカセ。
Name: くくり◆24f58f99 ID:3b0270e9
Date: 2011/09/28 05:34
「今朝の一品…はぁ」

「今日ぐらいゆっくり休めばいいのに」

「朝ごはんは一日の活力だよお兄さん…今朝は豆腐のそぼろご飯!
 昨日の夕飯の余った豆腐を潰して卵と一緒に炒めて和風だしの粉末に塩コショウ醤油。最後に香り付けにごま油少々、青海苔を振りかけてご飯に乗せて完成!」

「美味しいよ美緒、ちょうどいい味加減でご飯が進むよ」

「ありがとう…でもなんでかなぁ私のは凄いしょっぱい」

「うわぁ泣いたら駄目だ美緒、多分なんとかなるんだから、そんなに泣くな」

「よく考えたらさ、もしこのまま高校通えなかったら……しょうがないけどバイトとかするよね…あんな大問題に関わった私って面接で受かりづらいかも」

「大丈夫だって美緒ならどんなところでもバイトできるって、学校も定時制とかあるし通信教育もあるし、大検受ければ高卒扱いになるし大丈夫だって」

「ううん、違うの、私普通の女子高生とかやってみたかった………」

「美緒………」

「やっぱり人は社会に出るまでやっておきたかった、ってことはないようにしたほうがいいんだよ。
大人になったら権利と義務は増えるけど経験できないことは沢山増えるんだから」

「………」

工藤貴仁は自分の半分もまだ生きていない少女のあまりにも悟りすぎている発言に硬直して押し黙った。

「……ごちそうさま」








FIGHT1.5 全寮制!? そして現れるハカセ。


織斑君がISを起動してから世界は驚愕に包まれ、私はその事件の目撃者として煽りを受け結局受験することができなかった。

誰のせいでもない、誰にも予想のつかない事故だったんだから…。


私は結局追加募集の学校を探し始めることにした。

藍越が第一志望だったけど、どうにもならないことはしょうがないのだ。

落ち込んでてもしょうがない、できることがあるなら何でもしたい。


だから、私はとりあえず中学校の担任教師に相談しに中学校に朝早くから向かった。









「大変申し訳ない、うちの愚弟が迷惑を掛けた」

学校に行くとすぐに校長室に案内され、しばらくすると、幼馴染の織斑君の姉の織斑千冬さんが頭を下げ謝ってきた。

なんと千冬さんはIS学園で働いているらしい。
何処で働いてるかわからない、と織斑君は言っていたけど、まさかIS学園の教師とは。


「いいですって、あれは国家的な大事件だったんだし、偶然でしょうがないことじゃないですか…千冬さんが謝ることじゃないですよ」

「いや、いくら国家的な一大事でも元々はうちの愚弟が受験会場を間違えた所為だ、君はただの被害者だ…でだ、IS学園としても救済措置をとりたいと考えている」

「救済措置ですか」

「今現在、世間は大変賑わってる、あまり事実だといえ口にはしたくないんだが……君も昔あの事件で大分騒がれただろう?
今回の事件も重なって君の周りを嗅ぎまわる輩が現れるかもしれん。
それでな、IS学園はいかなる国家にも帰属しない一つの独立組織だ。だから君もIS学園に入学してみないか?IS学園に所属すれば一切君にいかなる機関の追求はこないだろう。」


「IS学園に私が………でも試験うけてないですよ私?」


「そうでもないよ、君もあの時、ISに触れただろう、その時のデータである結果が出たんだ」

「ある結果ですか」

「君は学園内でも稀に見る高い適正値をたたき出したんだ。君には素質がある」

今回学園に入学してくる生徒の中でも私は適正値ではトップクラスだったらしい。

「え…と」

「元々普通科の高校志望だった君には本当に突然な話で悪かった、君に私達の意向を押し付けるつもりもない。
我々が最大限の力を使えば元々の志望高校は転入可能だ、しかし今現在様々な機関、マスコミが動いている。
すぐには出来ないだろう。だから現状でに君に我々が出来るのはコレが精一杯なんだ、それでも君の人生を変えてしまった責任は取るつもりだ」

「ええと、いきなりで結構私も混乱はあるのですけれど、色々私も頼みたいことがあるんです」

「なんだ?」

「とりあえずIS学園のパンフレットください、あとよろしければ色々相談に乗ってください」

「勿論だ。IS学園の教師として有望な君には私としても力を尽くしてあげたい、それに近所のお姉さんとしてもな」

「ありがとうございます!千冬さん!」

「あと、一夏から聞いたんだが……5月に貴仁さんと結婚するのだな、おめでとう」

「ありがとうございます嬉しいです、あと千冬さん」

「なんだ」

「今一番大変なのは織斑君だと思いますから、優しくしてあげてくださいね」

ドナドナとIS学園の関係者に連れられていく時、明日僕は、肉屋さんに並ぶのか、みたいな顔していたし。

「本当に君はいい子だな」

「ううん、貴仁さんほどじゃないですよ」

「ふっ早速惚気るのか」

「事実、ですよ」

私なんてあの良識の権化には叶わない、未だに手を出してこないし。

そういうと

「はははっ本当に小気味が良いな君は、ほら私の携帯番号だ」

そう言って、千冬さんは電話番号を手帳に描きページを一枚千切ったのを私に手渡しながら朗らかに笑った。


隣にいた眼鏡を掛けた人はまるでムキエビが直立して歩いているのをみた、という顔をしていた。











とりあえず中学校に行って相談してきた事を貴仁さんや貴仁さんのお母さんとお父さんに電話で伝えてから家に戻ると


「どうだったんだい!?美緒ちゃん!」

「どうだったの美緒ちゃん!」

「どうだった美緒!」

家族全員揃い踏みだった。

家族全員時間休とって帰って来たらしい、忙しい医療一家の工藤家では大変珍しいことだった。

ちなみに貴仁さんは看護士、お父さんは緊急病院のドクター、お母さんは貴仁さんが勤める病院の産婦人科の先生。

みんな忙しいのにわざわざ心配して私の為に休みまでとってくれて本当に嬉しい。

「ただいま義父さん、義母さん、お兄さん、なんか………私IS学園に入れるかも」

「IS学園にっ!?」

「ISの学校!?凄いわ美緒ちゃん!」

「凄いよ美緒!」


IS学園といったら現在の日本、いや世界最高の女子高校だ。

今時の女の子にとってIS学園に入学するというのは人気のある夢の一つだ。

IS学園は狭き門でありどの県内の学校でもトップクラスの学力を持ち、生活面、素行面でも優秀な女子中学生でなければ入れない学校だ。

少しでもラインを外れたら入学不可能な学校だ。

それを無試験で入れるとなれば、家族全員驚くであろう。



「うーんとパンフレットとか資料とか一杯貰ってきたから、皆みてみる?」


IS学園の資料は居間のテーブルを埋め尽くすほど頂いてきました。

家族全員で一冊一冊協力してIS学園について調べていくと

「福利厚生、うわ、入学後の学園独自の銀行口座に加入可能って凄いわ、金利とか普通の十倍以上じゃない」

「へえ、格安で様々な施設が借りれるんだ、お父さんの知り合いで警察官とか自衛官しってるけど此処まで凄いのは初めてみた」

「美緒みて、病気、怪我の場合、最先端の医療を受けることができるんだって、凄いよ」

「卒業後の進路案内も凄いよ、卒業後殆どの大学をAO試験のみでで入学できるし、ほぼ進学率100パーだし、求人率すごい、計算したら就職率600パー超えてるじゃないか……凄い」

IS学園を卒業した学生は即ち世界でも最もレベルの高い学校を卒業したという御墨がつくのだ。

IS学園の生徒が入社するということは企業は優秀な人材を100パーセント得られること他ならないのだ。


「学校の食堂も凄いな、ほぼISの連盟の加入国家の、ほぼ世界各国の料理が食べられる」

「もし国家代表とかにでもなったら……」

「凄いよ美緒!」

「凄いわ美緒ちゃん!」

「凄いぞ美緒ちゃん!」


「ちょっと、みんな落ち着いて…コレ見て」


私が一番目に付いたのは学校生活のしおりにある全寮制という一文字

あらゆる国家機関からの不干渉を貫くため学生は皆、学生寮で暮らすことが前提と書かれている。




「全寮制か……」

「全寮制……」

「全寮制ね」

「私、貴仁さんに毎日朝昼夜のご飯作ってあげたいし、みんな仕事で普段忙しいでしょ?家事とか出来なくなるよ?
それに、貴仁さんの傍に毎日いれないし……土日休みの日には家にも帰ってこれるけど、みんなの休みって滅多に合わないでしょ?通常勤務体制じゃないし」

わたしにとって貴仁さんは全てであるけど、貴仁さんの両親も本当に大切な人たちで、いつも忙しそうな二人にも私が出来ることを色々してあげたいのだ。



「…………お母さん達は無理だけど、貴仁ならどうにか出来るわ、私貴仁の勤務先で一番古株だから、病院のスタッフに掛け合えば看護士一人の勤務のシフト変更ぐらい余裕よ。
貴仁の年間108日の公休日数全部土日に振り分けてあげる、そしたら土日に家に帰ってきたら一緒に居られるでしょ?」


「賛成だ、お父さんも貴仁の勤務先の医者は殆ど知り合いだからなんとか掛け合ってみる」

「母さん、父さん………私事の都合で勝手にそんなことして良いのか?」

「黙りなさいロリコン、言うとおりにしなさい。とりあえずお父さんは病院に戻るよ」

「黙れロリコンナースマン!……お母さんも病院戻るよー」


もう50代後半の二人だが、キビキビと仕事先に向かう。


「病院で更に生暖かく視られるんだろうな、俺」

「あはは………」




お兄さんも病院に戻るらしく、私は玄関でお見送りをする。


「母さん父さんは乗り気だから一応一言言っておく……俺は、美緒が選んだ選択だったら絶対賛成するから、美緒には自分の望む選択をして欲しい」

「ありがとうお兄さん、愛してる」

玄関で靴を履いている貴仁さんに近づき唇と唇を合わせた。

一瞬の交差。


「はい、いってきますのキスだよ」

「あ、ファーストだよね?今の」

私の行為に反撃としてお兄さんは顔を真っ赤にしてからかってくる。


「はずれ。私が12だった時の夏にしたでしょ?」

「え……そう、だっけ?」

「うん、三年前の8月の中旬頃だったかな、兄さん酷く酔って帰って来たじゃない?その時」

あれはちょっと酒臭かった。

「………うん、そうか、とりあえず、俺も病院戻るよ、そうか…そうか、もう既に後戻り出来なかったのか俺」

悲しそうに靴を履くと彼は仕事先に向かった。


ドアも自分の気分を表現するように「ぱたん」と静かに閉め出て行った。


それを見送ると思わず、爆笑した。


「ははっドアを!?「ぱたん」!?「ぱたん」って!?あははははっ!」



35にもなってピュアというか、良識的過ぎるというか。



「ほんと、可愛いなぁ」


得がたい人だ、貴仁さんは

絶対にずっと傍にいたい。

彼との離別を想像するだけで私は泣く事が出来るのだ。


「でも「ぱたん」って本当に最っ高!あははははははっ!」


ひとしきり私は笑うと


とりあえず早速、千冬さんに電話をしてみることにした。





















「私だ」

「もしもし、工藤です。千冬さん、少しよろしいですか?」

たった2コールで千冬さんは電話に出てくれた。

電話取るの早いなぁ。


「工藤か、どうかしたか?」

「家族達はIS学園入学は賛成なんですけど……ちょっと伺いたいのですけれど。
IS学園ってIS専門の学校なのは当たり前ですけど、極論で言えば兵器の扱いかたを習う軍学校なんなんですよね?…将来的にもし、もしですけれど、最悪の事態が起きた場合ってどうなるんですか」

ISは一般的にはスポーツ競技の種目のために運用され、平和利用が目的だが、代理戦争の側面も大きい。


本当の最悪が起きれば、学園の生徒は自分の国が所有するISという兵器の操縦者となり。
同じ机で一緒に学校生活を行なってきた他の国のクラスメイトと殺し合うという可能性は絶対にない、とは言い切れない。


やはり、少し不安もある。


その懸念について伺うと


「はぁ、本当に私のファンとか言うミーハーなうちの生徒達に君の爪の垢でも飲ませたいな」

「ISって世界的に見ても優秀な人たちが入る学校ですよね?」

IS学園に入るのはISの運用を習う特殊な学園だ、それぐらい、ちょっとマイナスな方向に考えれば誰でも考え付くだろう。

「そうだが、基本的に皆優秀でもまぁ例外というものはどこにでもある、そうだな……君が懸念することは可能性0とは言っては置く、そんなのアイツが許さんよ。安心しろ」

「あいつって、束さんのことですか?」

「ああ、『呼ばれて飛び出てじゃじゃーん!』た、束!?」

「束さん!?」

『お久しぶりーんみっちゃん!元気だった!?うんうん元気だよね!そうだよねぇ!?』

突然の割り込んできたのは何時もハイテンションで何故か力が抜ける声。

私の恩人の束さんだった。

てゆうか、電話って三人で話せるものなのか。

「あ、はい元気です、束さんは元気でした?」

『もう元気だよ!元気百倍束さんだよ!聞いたよ!?IS学園入るんだって!?』

「束……お前工藤を?」

多分続けたい言葉は「認識」してるかってところだろうか。


『うん、昔から束さんはみっちゃんの悩み事を聞いてきたオネエさんだったのだー!!凄い!?あとちーちゃん、一回電話切ってくれる!?みっちゃんに個人的な相談があるんだ!』

「いいか工藤?終わったら掛けなおしてくれ」

「あ、はい」

千冬さんはすぐに通話を切ってしまった。


『むふふー、多分みっちゃんの心配しながらモヤモヤしてるなちーちゃんは!!それをムラムラに変えて!うん最高!!』

相変わらず意味不明なハイテンションだ。

「それで個人的な相談ってなんですか?束さん」

『相変わらず実に率直だねえ!?素直だね!?束さんの周りのみんなは素直じゃないツンデレさんばっかりだから本当に素直で可愛いみっちゃんにはもうちゅっちゅしたいよ!?』

「貴仁さんで間に合ってますから………」

『で、相談!!みっちゃんに眠るスーパーパワーについて!!』

「相談………サンレッドの力……ですか」

『うん、みっちゃん凄いでしょ、てゆうか私の作ったIS使わなくても個人では多分、世界最強でしょ?イージス艦とかパンチ一発で簡単に沈められるでしょ?』

「あんまり好きじゃないですけど」

『あれだけの力をあまり好きではない!はっはー!相も変わらず面白いねみっちゃんは!でね、頼みたいことがあるんだ!それはー!絶対その力はバレたら駄目って頼み!』

「ばれたらまず危険なのはわかってますけど……なにかあるんですか?」

『私の作品をさぁ勝手に使って悪ーいことにしてる悪の組織があってさ、亡国企業っていうんだけど』

「ファントム、タスク?」

『うん!……昔さ色々みっちゃんの力について、調べてあげたでしょ?』

「あの時は、本当に助けてもらいました」

近所にもしISを作るほどの天才がいなければ、私は未だにあの力が何かわからなかっただろう。


『いえいえ!太陽という人類からすれば限りなく無限に等しいパワーの片鱗を持つ体を調べさせて貰って、束さんの好奇心も大変満足だったよ!』

「代わりにあの約束は必ず果たします」

『いや、駄目。約束って、もし箒ちゃんやいっくんやちーちゃんに何かあったとき力を貸してくれるって約束だったよね?うんそれ駄目!』

「駄目……って。もしかしてその亡国企業という組織に関係してることですか?」

『うん、そうなんだー聞いたよ?、みっちゃん夢の最初の第一歩叶えたって。本当におめでとー!』

「はい、5月に結婚します。ありがとうございます」

『でも、もしIS以上の個人の力がばれたら、みっちゃん多分また独りになるよ?夢壊れちゃうよ?一番大切な人とずっと一緒にいるのが夢なんでしょ?』

「……知ってます」

『てゆうか世界中から狙われる。本当にあの手この手でどんな手を使ってでもね。亡国企業ってどこにでも湧く害虫なんだよ、それに世界各国の政府も危険だよ?
束さんとしてはもう、あんなふうになったみっちゃんはもう絶対見たくないんだよねー。私の様な鬼才天才の末路もあれかな?って気持ちになるし』



もしちーちゃんも箒ちゃんもいっくんもいなくなったら私はああなるなーとのこと。


束さんは6年前の私が正気を失い、全てを投げ出し自らの諦観の中死んでいく姿は、自分が想像できる最悪の姿その通りだったらしい。



「…既にわかりきってることです。6年前、本当に生きようって決めたとき、とっくのとうに私はこの力を持って生きることに自然に覚悟を決めていました。
どんなことがあってもこの力は私の力で何かの所為にしたりするのはやめる、と」

あの時背負うと決めた罪、だれも罰はくれない、だけどあの時のことを片時も忘れた事はない。

突然おきた初潮という女性の機能、実感した、身に宿る精神にとっては異質な現実。


そして気持ち悪い、こんなことがあって良いのか、なんでこんな目に会うんだ。


そう思い


あの時、願ったのだ。


目の前の理不尽など全て消えてしまえ、と。


それが罪、いたずらに自らの理不尽なほどの力で理不尽を犯した罪。


あの時の芽生え始めた心を食い尽くす毒は決して消さない。


胸の裡で燃やす炎は私の意志のみで燃え上がるという事実は忘れない。





『ヒーローだなぁ!流石だよ!……だからみっちゃんのその覚悟に束さんも一つ保険を掛けたいおきたいの』

「保険?」

『みっちゃん、変身ヒーローになりたくない?』




[29918] FIGET1.9 春休み、ヒーローの過去の強敵とは!?
Name: くくり◆24f58f99 ID:3b0270e9
Date: 2011/10/01 21:27
FIGET1.9 入学前の春休み

中学校の卒業式も終わり、別れと出会いの季節の春。

美緒は結局IS学園に進学することに決めた。


入学までの春休み、やはり休みはゆっくり寝ていたい。



だが、工藤美緒の朝は早い。

ちなみに初代サンレッドは現役時代お昼に起きていた。

美緒は太陽が顔を出す前には目覚める。

目覚ましも使わず4時20分に起床。

軽く顔を洗って歯を磨き、パジャマからジャージに着替え、4時30分にはまだ寝ている家族を起こさないように家を出る。



「今日の日出時間は4時45分か、春になってきたなぁ」

美緒は最近買ったウォークマンで癒し系ケルト音楽を聞きながら近所の公園まで早歩きで向かう。

近所の公園は遊具が全て撤去され、砂場とベンチしかない公園だった。

危ないから、とか言うけど、これはあんまりだと思うなぁ、などと最近の社会の有体に文句をつけ、軽く体操を始める。

ラジオ体操1番2番3番全てをしっかりとこなす。

体操は身を入れてやれば結構な運動となり、体の筋が伸び体が柔らかくなり怪我をしにくくなる。

あとは足りない部分の補強運動を行い、公園の敷地から出て歩き始める、大股で腕はしっかり振るウォーキング。

5分程度歩いたら、どんどん足の運びを速くし、走り始める。

朝焼けの綺麗な光を浴び、気持ちのよい朝風を受けながら誰もいない早朝の街の景色を見ながらフォームに気をつけて走る。

10キロほど走るとまた先ほどの公園に戻り体操をして家に戻る。


その頃には家に戻りうがい手洗いを済ませると時計の針が5時25分を指している。

家の浴室に向かい、湯沸し機のスイッチを押し、お風呂に湯を沸かし始める。

軽くタオルで汗を拭き、誰もいない居間で静かに、柔軟体操始める。

一通り、柔軟、ヨガ、バストアップ体操などを20分ほど行なう。

そしてお風呂に入るのだがその前に水を一杯、塩を1舐めし、水分塩分を補給してから脱衣所に向かい、服を脱ぎ始める。

繊細な生地の下着とジャージは分けて洗濯籠にきちんといれる。

ブラジャーなど女性の下着は男性の下着に比べると生地が繊細な物が多いので長持ちさせたいのならそれなりの扱い方が求められる。

そしてお風呂、お風呂に電動歯ブラシ、洗顔用の泡立てを持参し、浴室に入りまずは体を洗う。

しっかり体を洗うボディソープは糸瓜で泡立たせ、泡が肌理細やかになったら全身をくまなくこすり始める。

力強くこすりすぎると肌荒れの原因となるので注意しながら洗う。

それでいてしっかりと体を磨いていく。

女性器は言わずもながら、特段しっかり彼女が洗うのは胸の谷間、の胸の下。

美緒が女性になって見る分には良いけど、胸って大きいと結構めんどくさいと感じていた。

「夢なんかつまってない……所詮、脂肪だよこんなの」

型崩れには気をつけなきゃいけない、あせもはかきやすくなる、どんなに暑い日でもブラジャー着用。

理解は出来るが集まる男の視線。


本当に溜息が出る。



現在15の女性ながら既にDカップ。

ちなみに本人の過去の趣向としては手の中に納まるくらいが至高だった。

体を泡だらけにするとシャワーで流す、泡を流し終わると、シャワーの水流を強くし、首筋のリンパが集まる部分などにシャワーを当てる。

こうすると新陳代謝が良くなる。

次に歯磨き、1分間に3万回振動する電動歯ブラシで歯を磨く、歯を一本一本丁寧に磨く。

これにも気を使い、電動歯ブラシは歯に強く当てずに磨く、あまり強く歯ブラシを当てると歯の形が悪くなるからだ。

ちなみに美緒は生まれてこのかた二度目の人生で虫歯0、歯並びも大変美しい。

それでも半年に一回は歯医者に行ってチェックしてもらう。

歯の病気の怖さは良く知っているのだ。

故に前世の教訓を最大限に活用。

そして歯を磨くと口内の歯磨き粉をしっかりうがいで落とし、次に顔を洗う。

この頃には浴室内の熱で温まり美緒の肌全ての毛穴は開いている、泡立てで女性用の洗顔剤をしっかり泡立たせ、顔を優しく洗う。

これを6年前からしっかりやるようになってからは彼女の顔には毛穴汚れ、ニキビ一つない、白く綺麗な赤ん坊のようなしっとりとした肌になっていた。

これまた洗剤を全て綺麗に落とすと次に髪を洗う。

貴仁さんの母のお勧めのシャンプーで髪を一本一本を意識しながら丁寧に洗う。

そしてリンスも同じ工程を行なう。

美緒の頭髪は肩にかかるくらいなのでそこまで時間はかからないが、一般男性の10倍はかけている。

髪を洗い終えると、30分間の半身浴、本来1時間が望ましいのだが、そこまでやる気が起きない。

既に失われた自分の愛棒に虚無を感じながらの30分の半身欲を終えると風呂から上がる。

お風呂から上がると体を拭きバスローブを着て、髪をドライヤーではなくタオルを使ってしっかりと乾かす。

ドライヤーは時間がない時に使うものであり、理想的な髪の水分量を保ちたいのならタオルで髪の根元までしっかりと拭くのがいいらしい。

その後、脱衣所に設けられた洗面台に向かい、洗顔後のケア。

化粧水を手に含ませなじませるように顔につけていく。

ちなみにコットンでつけるとコットンの繊維で肌が傷つくので絶対手で行なう。

次に美容液。美容液とは、保湿や美白、リンクルなどの有効成分が入っているものをさす。

肌にハリを出す、シワやしみを防ぐなど、種類によってさまざまな美容液、主に使用するのはしみを防ぐタイプ。

美容液は顔にたっぷりと塗り、塗りながら顔にマッサージを行なう。

そして指の腹を使って、やさしくなじませていく。

乾燥しがちな目元や口元などは、多めにつける。


そろそろいい加減にしたくなってくるがまだまだ地獄は終わらない。


最後に乳液。

洗顔後に化粧水、美容液、乳液という順番で使い、最後に油分の入っている乳液で潤いにフタをするのだ。


手のひらに乳液をとり、顔全体になじませていく。

この時肌の状態によって、使用量を調節するようにしなければならない。

力を入れずにやさしく、下から上へ、内から外へとゆっくりとのばしていき完成。


本当は此処からメイクの時間がスタートするが、美緒はナチュラル志向なのでしない。

最低限のお洒落で口にリップを塗り、バスローブを脱ぎブラジャーをつける作業が始まる。

順序は簡単。

1、鏡の前に立つ。

2、ブラジャーの肩紐を両腕に通す。

3、90度にお辞儀をしたまま、ブラジャーのアンダー部分を胸の下にあてる。

4、カップの下のアンダー部分を胸の下にシッカリと押し当てたまま、顔のほうにブラジャー全体を移動させ、アンダーの位置が数センチ上になるようにする。

5、限界までアンダーの位置を上げた状態で、ホックを留めます。

6、お腹のお肉、背中や脇の下のお肉などをカップの中に入れ込みます。

7、ここで、お辞儀を戻して、立ち姿勢にします。

8、いつもは下乳なはずの場所がアンダーバストになってるので、違和感あるかも知れません
いつもよりアンダーが苦しく感じるかもしれません(胴体は上にいくほど太くなるため)が、ケアし続けると胸は上に引っ越してくれます

9、余った肩紐を、縮めます。


10、後ろに手を回し、背中側のアンダーだけ下に少し下げます。こうすると胸がツンと上を向きますし、締め付けが少し和らぎます。カラダの前側のアンダーを下げないよう、気をつけてください

11、鏡で下記をチェックします。
『脇の下がすぐにブラジャーになっているか(距離があると脇肉になっちゃいます)』
『真横からみてバストトップが肩と肘の中間にきてるか』


以上。


簡単です。

ちなみに美緒は余分なお肉がないので6の工程は省きます。



着替えると、ローズティーを淹れ、ゆっくり飲みながら居間で朝のニュースを見る。


これも一つの美容法であり、美緒は長年ローズティーを愛飲し続け、美緒の体臭は華やかな薔薇の良い香りがするようになった。

やっぱり男だったら綺麗な嫁が欲しいよね、全てはお兄さんのために、という感じで自己研鑽を欠かさず行なう美緒であった。






「おはよー美緒ちゃん、お母さんにも一杯頂戴」

「おはようございます、義母さん、今淹れますね」

既に時刻は6時半前、貴仁の母が起きてくる。

二人で並んで座り、ニュースを見ながら朝の一時を楽しむ。

貴仁の母はローズティーを飲む美緒の姿をみて、羨ましそうにみる。

「本当にいいなぁ貴仁は。また朝早くから起きて頑張ったんでしょ?もしお母さんが男だったら絶対美緒ちゃんと結婚して、美緒ちゃんと毎日ラブラブしたいわー
これが全部うちの貴仁の為だなんて……貴仁には勿体無いわ」


「貴仁さん以外の人の為だったら、ここまでしません」

「うわ、でた美緒ちゃんのお惚気、でも若い時から美容に気を使うのは偉いわ、元がいいし、家に来た小さい時から始めてるからそこらへんの子とは段違いよ本当に、目指せ絶世の美女って感じ?」

「こういうのは積み重ねですから」

「もうねー、本当に貴女は貴仁の為に頑張る子よねぇ、お小遣いもクリスマスも誕生日もお年玉も何が欲しいの?って聞いたら殆ど自分磨きの用の物か家事の道具に使ってるわよねー、たまにはゲームでも買ったら?お母さん職場の若い子達と休み時間にモンハンやるのよー。楽しいわよ?」


「うーん、ゲームですか?……私ってそういうの貴仁さんが持ってるので満足しちゃうから、あんまり欲しいって思わないんですよね」

「えー、未だにプレステと64とスーファミだけで遊んでる貴仁の?あの子職場の周りみんなPSPなのに一人小さい時に買ってあげた初代ゲームボーイで未だにポケモン赤緑の子よ?」



15歳の美緒と35歳の貴仁はよく二人でぷよぷよ、マリオカート、スマブラ、ゴールデンアイをやっている。

母と父もやるが主に60代近くの夫婦二人はモンハンをよくやっている。


この家族、コミュニュケーションの一環がゲームである。


「このまえポケットの方プレゼントされましたよ今、貴仁さんは赤、私は緑で一緒にやってます。通信が楽しいです」

「…………金銀、お母さんが買ってあげようか?」

「………ちなみにお兄さんは青が欲しいそうです」

「ロリコンの癖に感性が古臭いわよね貴仁は……つき合わせてごめんなさいね」

「楽しいですから」

「はいはいお惚気、お惚気、でもね、いい加減貴仁を携帯ショップに連れてってあげてね?
未だに写メとか赤外線機能無しの携帯使ってるんだから、物持ちが良いっていっても限度があるわ。「10年以上使ってるよこれ」とか職場で自慢げにしてるの見てて凄く恥ずかしいもの」


「バッテリーとか何度も嬉しそうに変えてるから、多分あれは……趣味かな?」

「あれよね、筆箱とか小学生の時に買ったのをずーっと大人になっても使い続けるタイプ、良いことなのよ?でも貴仁もそれなりに収入もあるんだから、もう少し出し惜しみしないでもらいたいわ。趣味は貯金、図書館通い、釣り、散歩って、一番お金が掛かるのが釣り……ギャンブルもタバコもやらないし、酒は付き合い以外だと飲まないし、うんうん本当、貴仁ってつまらないのよねー、釣り道具もお父さんのお下がりだし、あんまりお洒落もしないし」

「でも、ギャンブルはたまにするらしいですよ?この前お兄さんと競馬場にデートで一緒に行きましたし」

「えっ競馬場でデートって何!?」

「1レース上限600円で私がお弁当作って持って、会場の芝生にシートを引いてゆっくりとお弁当食べながら4レースぐらい楽しみました、あとイベントでポニー触ったり犬を触ったり」

「………」

「結構家族連れの方とか多くて、親がレースに熱くなって子供が暇をしてるので一緒に遊んだりしてました、楽しかったですよ、基本的に馬券は堅実に狙ってるのでちょっと増やしたら次のデート資金として持ち越せますし」

多分オッズ1.5とかの単勝ねらい。

「………15の女の子とするデートじゃないわそれ。普通はこう……社会人の財力を生かして女の子をドレスアップさせて夜景が綺麗なレストランでディナーとかそういう」

「ディナーですか……あっ!先週、結構高い天麩羅とお蕎麦のお店連れって貰いました、天蕎麦凄い美味しかったです、こだわりで天麩羅は胡麻油で揚げる店らしくて」

「それでも二人で1万円行かないでしょ?」

「あっはい、私とお兄さんは同じ天蕎麦で、えーっと大体6000円でした、もう凄い贅沢でした、そのあとお兄さんの車でドライブして楽しかったですよ?」

「ドライブって勿論あの車よね?黒いデミオ。こうなるのをわかってればもっと格好つけて車とかデミオとかビッツとかじゃなくてBMWとかフェラーリに乗って欲しかった……息子に凄い車買ってあげるのお母さんの夢だったのに」

「お兄さん、ガソリン代の1円2円で一喜一憂するから、高燃費の車は好きじゃないって言ってました、お兄さんって本当に堅実でいいですよね」

「まぁ、将来を考えるのなら浪費癖がなくていいわね。家の貴仁は」


こうして、しばらく将来の姑と嫁の朝の一時が過ぎていく。

結局美緒は貴仁と居られればそれだけで楽しい、という話に落ち着くことになる。

別にデミオとかビッツが悪いと言う話ではない。

貴仁はよくミイラの格好をした人と低燃費車の車の良さで語り合っているという。

1リットルで何キロ走れるとかそういうしょうもない感じの話で盛り上がるらしい。



そして7時にはみんなで朝ごはん。

家族がそろってる日は家族全員で食卓を共にするのが工藤家の決まりである。


今朝は美緒と嫁と料理するのが嬉しい姑が作ったご飯である。



「今朝の一品!」

「今日の朝はお母さんと美緒の合作です」

「今日の朝ごはんはお母さん直伝、甘い玉子焼き、鮭の焼き魚、近所の山田さん手作りのぬかづけと豆腐と若布の味噌汁です」

「あと、昨日コロッケを作った時のあまったお芋で煮っ転がし作りました」


「「おおっ、豪華!」」

ぬかづけと聞いた辺りで貴仁と貴仁父は朝からテンションが一気に上がる。

そしてニュースをお共に皆で美味しく朝ごはん。

「ちょっとお父さん、醤油かけすぎ、ちょっとにしなさい」

「お兄さんはお塩かけすぎ、元々焼く時に軽くお塩振ってるんだから、塩味で食べたいならそのまま食べてよ」

和気藹々、平穏な朝ごはん。

『昨夜、動物園からライオンが二頭脱走しましたが、たまたま周辺を通りがかった、二三力(ふみちから)さんによって取り押さえられ、事なきを得たようです…
 あっ失礼、放送に間違いがありました、二三力(ふみちから)さんではなく、ニシカ、ニシカさんでした、大変申し訳ありませんでした』

ニュースもこれといって大きな事件もなく、平穏である。






ちなみに説明しよう、ニシカとは古代インカ帝国で門番をしていた怪人である。

怪力だが身が軽くバランスが優れている怪人である。




「あら凄いわね」

「あ、ニシカさんって山田さんの所の人じゃない?」

美緒がそう言う。

「ああ、なんでも胃がわるいかもしれないから病院に検査にきてた人ね」

「ああ、あの非常に体格の良く、堅そうな筋肉を持つ青年だね、検査は二回目だったが、どこにも異常はなかったらしいよ」

「胃とか腸とかの病気って本当に悪くなってから気付くものだから何もなくてよかったわねぇ」

「そういえば、美緒は今日はどうするの?夜一人だけど」

俺は今日、夜勤泊まりだけど、と貴仁は美緒に聞く。

私たちも、と貴仁の母と父。


「今日は蘭ちゃんと一緒にお買物に行くよ、蘭ちゃんは来年受験でIS学園目指してて、私も入学の前にISの勉強したいから都心で参考書を一緒に買いに行く」

夜はそのまま五反田さんちの定食屋で食べるよ、と美緒は言う。

「IS学園決まった時になんか凄い分厚い本来てなかった?あれだけじゃ駄目なの?」

「うん、結構あの本、専門用語とか多いから参考書も必要かなって思って」

「お母さん、家に図書券余ってなかったか」

「うんあったあった、美緒ちゃん後で渡すから使いなさい」

「いいよ、義母さん達が使ってよ」

「いいの、元々美緒ちゃんが勉強で本を買うとき渡してって、姉さんがくれたんだから」

「ありがとう義母さん、あ、叔母さんにもお礼の電話するね」

「そうだ、私も山田さんに電話して美緒の合格祝いのパーティーのお礼しないと。帰り道は気をつけてね美緒ちゃん、去年ストーカーにあったこともあるんだから」

「わかりました義母さん」

こうして朝の食事を終えると。

美緒以外は皆出勤。

いってらっしゃいのキスを交わす美緒と貴仁をからかう貴仁の母、父という1シーンがあったが、これは省略しよう。









かよ子さんの実家にヴァンプは電話を掛ける。


「もしもし内田さんですか、山田です、レッドさんいらっしゃいますか?」

「誰だよ山田って。てゆうかヴァンプじゃねーか」

ちなみにヴァンプの偽名の山田は本人が市役所で名前を本当に変えた。

「住民票ではヴァンプじゃなくて山田なんだから、山田って名乗りますよ、かよ子さんのご両親が電話に出るかもしれないんですから」

「お前、住民票って……あったのか」

「そりゃありますよ。昔、確定申告してるって言ってたじゃないですか、ところでどうですか仕事は」

「仕事の方は結構楽だな、俺さ元々手先器用だし体力あるから疲れねぇし」

元天体戦士サンレッドの現在、塗装会社に勤めている。

今ではとび職のちょっとガラの悪いにーちゃんである。

何気に凄く似合っている。

「うんうん、嬉しいです私……レッドさんが真面目に働いてて。あとかよ子さんの実家はどうですか」

「おう香川マジ最高。うどんが美味しいのなんのって、知ってるか?香川だと缶コーヒーより安い金でうどんが食えるんだぜ?吉野家みたいな感じでうどんのファーストフード店があってよ」

「そうなんですかー。で、実家の方は」

「いまいったじゃねえか香川はいいって」

「実家のかよ子さんのご両親とは、どうですか?」

「……」

「どうなんですか?」

「……………気まずい、つうか気疲れするわ。川崎に居た時の方が気が楽だったわ」

婿養子で嫁の実家暮らしのレッドは疲れた声でそう言う。

「そんなことはどうでもいいんですけど、美緒ちゃんのことで報告があって」

「てめぇ、まじ腹立つな……で、あの子がどうかしたかよ?」

「実は5月に結婚するんですよ」

「はぁっ!?ってあの子まだ中学生じゃねぇか!?早すぎるだろうがオイ!?っていうか結婚できんのかよ!?」

「いやぁ、本当にお目出度いですよぉ5月の誕生日で16になったら貴仁さんと籍を入れるんですよ」

「貴仁って誰だよ!?」

「美緒ちゃんの親戚のお兄さんです。今年で35の看護士の方ですよ、珍しい歳の差婚ですよね」

「それって、なんだ…あの子大変なのか、35のおっさんと結婚させられるって」

「違いますよ、お二人本当に仲が良くて、もういつもラブラブなんですよ」

「まじか………」

今時の子はそんな感じなのかぁ、と感慨深くなるレッド。

「美緒ちゃん、あとIS学園に今年入学するんですって、いやー鼻が高いですよ、私」

「なんでお前の鼻が高くなるんだよ」

「小さい時から美緒ちゃんが健やかに育つように私後援会を結成しまして、美緒ちゃんが大きくなるまでずっと見守ってたんですよ、主に有志の怪人達の力で街の治安維持をして、美緒ちゃんを守ってました」

「悪の組織が街の治安維持とかいうなよ!!」

「いやぁ、やっぱり自分の組織の区域の平穏を保つのも悪の組織のリーダーの仕事の一つですよ、組織って乱れると一気に崩れますからね」

「………てかなんで俺に電話してきた、まさかあの子の近況報告だけか?」

「いえいえ、美緒ちゃんのことで相談があって」

「なんだよ、言って見ろよ」

「美緒ちゃん相当可愛いでしょう、今時の子では珍しいぐらい礼儀正しいし、男の子に人気があるんですよー。だから16にもなるし、痴漢とかそういうの気をつけなきゃいけない年頃でしょ、去年なんか軽いストーカーに会いましたし。レッドさん前ヒーロー協会から武器のテスト任されてたでしょう?ちょっとヒーロー協会の連絡先教えてくれませんか、ちょっと美緒ちゃんや弾くんの妹さんの蘭ちゃんにも護身用の武器をプレゼントしたいなぁって思うんですよ私」


「……って突っ込みどころ多すぎだろ!!」

「だってレッドさんのところの武器凄いでしょ、どうせならちゃんとしたものをあげたいじゃないですか」

「通販とかの催涙スプレーで十分だろ!?中学生に何を持たせる気なんだよお前は!?」

「女性でも確実に100%痴漢を撃退できる道具に決まってるじゃないですか」

「………お前、悪の怪人と痴漢を同レベルで見てないか?つうかあの子に護身用の道具とかいらないだろ、俺と同じぐらいつぇえんだからよ」

「美緒ちゃんをレッドさんと一緒にしないでください!あの子は普通の女の子なんですよ!?」

「いやいや、マジ必要ねぇだろ、例のストーカー、あの子にボコボコにされたらしいじゃねぇか、トラウマになるぐらい。かよ子から聞いたぞ」

去年の夏、美緒に目をつけていたストーカーは学校帰りの夕暮れに美緒を背後から襲おうとした。

ストーカーは美緒が運動神経が良いのを知っていたので確実に襲えるように、スタンガンで失神させてから美緒を意のままにしようとしたそうだ。

美緒が狙われたことに気付いたフロシャイムの怪人達は美緒を助けようと出撃。





男のスタンガンが美緒の背中に届く前に

綺麗に顔の正中線を狙った美緒の学生鞄の角が男の顔面に抉りこむように決まる。

男はもんどりうって倒れ、スタンガンは男の手から離れる。

そのスタンガンを美緒は拾い、男の足に片手で押し当てながら冷静にもう一つの片手で携帯電話で警察に連絡。

警察が来るまでの間、男は起き上がろうとするたびに静かにスタンガンでしびれさせ続けられたという。

ちなみに美緒を助けに出撃した怪人はそのままトボトボとテンションを下げながら帰る。

「いやぁ小さいつってもよう、女ってコエェよなぁ。俺でも15分間も人にスタンガンあて続けねぇよ、イエローかっての」

俺だったらワンパンだね、というレッド。

痴漢なんて触りたくない美緒は基本的に痴漢などに襲われたさい、撃退には手軽な鈍器を好む。

他のパターンでしつこく横暴な男に絡まれたさい、普段持ち歩いている折り畳み傘でサンレッドの人外スピードを生かした無音の瞬間連続急所攻撃を行なう。

絡んだ男は周囲の人から見ればまるで、いつのまにか痛み苦しみ倒れ伏してるように見えるらしい。

しかも頭の良い美緒は人が何処を殴られたら痛くて苦しいかをよく知っているので的確に狙う。

やられる男達には精神的な後遺症以外残さない徹底振り。

いつもそれを見ている怪人達は見守る必要なくない?とドン引きするらしい。

長年過去にレッドに瞬殺されてきた怪人達はその光景を見て

「やっぱり可愛い女の子でもレッドはレッドだよ、るろ剣の九頭龍閃みたいな連続攻撃だったし」

「あ、お前もそう思った?……でも折角助けに来たのに、また瞬殺だよ。たまには可愛い女の子を助けて感謝されてみたいのによぉ」

そのうち、ケンカ屋のレッド、ムエタイ使いのブルー、反則魔のイエロー、そして無音攻撃の二代目レッド、とか呼ばれそうな感じ。

「な、いらねぇだろ、つうか今女のファッションで流行ってるISとか言うのだって多分あの子なら素手でやれるんだから必要ねぇだろ」

現行最強兵器のISをファッション呼ばわりするレッド。

「……じゃあ、蘭ちゃんに護身用の道具あげます、催涙スプレー」

「ああ、そうしとけ……って蘭ちゃんって誰だよ!?」

あいも変わらず、悪の組織と正義の味方の友人付きあいは続いていた。









大きな書店を求め、都心に出た美緒と蘭の二人は楽しくお喋りしながら歩いていた。


「ああもう鬱陶しいよね、ナンパって」

「そうですねー美緒先輩」

「好きでもない見も知らない他人に厭らしい視線で「女」として見られると本当に気分悪くなるよね、暑い日でも露出少なくしないと駄目だし」

「美緒先輩の場合逆にそこらへんがこう、男の欲をかき立てるんじゃないですか?」

「ないない、ああいう人たちって基本ある程度可愛ければ誰でもいいんだよ。だから蘭ちゃんもあんまり露出の多い格好しちゃ駄目だよ、そんな短いスカートの服なんか着ちゃって……織斑君好きなんでしょ?そういう格好するときは好きな人の前だけにしときなさい」

「あ、やっぱりわかります?」

「あんな露骨な態度出てたらわかるよ、鈴もそうだけど、わかり易過ぎだよ」

「ふぅ……一夏さんってもてますよね」

「うん、結構もててたみたいだね、受験であんなことになって卒業式に織斑君出られなかったせいで卒業式に告白できなくて落ち込んでた子とか多かったね」

「ライバル多いなぁ……でも美緒先輩はいいですよねー。なんていったって5月に結婚ですし」

「まぁね、でもね、今となっては落ち着いたけど私も昔はライバルがいたんだよ?」

「えっ初耳です」

「それがさ、私が12の頃くらいにさお兄さんの元カノさんが家に遊びに来たんだよ、あれは………本当に最強のライバルだった、相手は大人だし、私なんて今も子供だけど、あの時はまだ小学生だったし、本当に焦った」

「……それは危なかったですね」

「本当………あの時は正直もの凄く泣きそうになったよ、元カノさんは結婚適齢期の人だったから、もし、よりを戻されたらそのまま結婚してただろうし」

もしお兄さんが結婚したらどうしよう、傍に居られなくなったらどうしよう、どうしようと本気で悩んだ日々。

だからこそ美緒は貴仁を追い詰めるように肉体関係迫った。

既成事実を作って貴仁をどん底に落とそうとしたのだ。

「でも勝ったんですね」

「………なんというか、私その、譲って貰ったというかなんというか…………多分私、女として完全に負けてるよ。貴仁さんの元カノさん、リカさんって言うんだけど、私のことをなんか気に入ったらしくて、逆に応援してくれたし」

あの時の自分は本当に卑怯な手を使う人間だった、と美緒は思う。

リカさんと二人きりになった時泣き落としも使おうとしたし、本当に最低だった。

私は対等に戦えなかったし、最初から対等に戦おうとしなかった。

人の罪悪感を利用しようとしたりして、本当に最悪だった。

思い出すだけで、自分に反吐が出る。

あの時の記憶は自身の暗黒面の一つである。

が、ある意味自身の心の転換期だった。

狂信的な貴仁への想いが解け、貴仁への想いが本当の恋心に変わった時期でもあった。

相手の事を本当に思いやるのが本当の恋心なのだと、とても陳腐だが、美緒は理解した。


説明しよう、ちなみに解りやすくエロゲーで言うならヤンデレバッドエンドからハッピーエンドへの移行である。

エロゲーで一番難しいヤンデレ解除である。

現在の美緒と貴仁の関係はエロゲーで言うならハッピーエンド後の後日談の様なものである。











美緒と貴仁の元カノ、遠藤理香さん(32歳)は今でもたまに美緒と二人で遊ぼうと家に来る。

家族以外で美緒と貴仁の結婚を一番祝福したのが彼女である。

美緒が純粋に尊敬してる人でもあり、一番逆らえない恩人であり、女性としての美緒の偉大な師匠でもある。








「なんか複雑……ですね」

実際に一番複雑なのは貴仁である。

そりゃあ過去に付き合ってるんだから勿論肉体関係もあっただろうし。

元カノの目の前で盛大に幼い女の子に迫られてたし。

下手をしたら一番バッドエンドだったのは貴仁である、社会的に。

ちなみに貴仁にとってはあの時の記憶は未だに黒歴史である。

別に貴仁自身は何も悪くないのに。


「私はもういいんだけど、お兄さんがさ、私がリカさんと買物に行った話とかすると、もの凄い複雑そうな顔するんだよね、冷や汗流しながら」

「それは、そうですよね」

「リカさんってあっぴろげで明るい綺麗な人でさ。その……えっちの時の話とか、普通に教えてくれるし」

「うわぁ、やばいです!大人です大人!」

「うん本当に大人……どこにお兄さんの性感帯があるとか、どこを責めると悦ぶとかの生々しい話とか」

「きゃあ!凄い凄い!過激です!」

「職業は女子高校の保健室で養護教諭やってる人で、経験豊富で生理の相談とか乗ってくれるいい人だよ、今度蘭ちゃんに紹介しよっか?すごい為になるよ」

「先生!大人な話、私も聞きたいです!」

「でもすごいエロい人だから、蘭ちゃんカルチャーショック受けるかもよ」

「うわ!楽しみです!」

「うん、こういう話って女の子はなるべく早く知らないと駄目だよね、来週遊ぼうって誘われてるから来る?」

「行きます行きます!やった!」

「じゃあ、とりあえず連絡して置くね?」

「ふふふふ、これで一夏さんゲットへの道のりが一歩前進です」

「いいけどさ、あんまり話を真に受けてそれを実行しないでね」

「勿論ですって!」

うん、ちょっと鈴には悪いけどいいかなーと思うが、まぁ人の恋愛だし、と何気に酷いことを考える美緒であった。





次回、IS学園入学。

やっと我等のフラグ王が現れ、女の園に爆撃を開始。

立ち上がれ、サンレッド!学校の風紀はお前が守るんだ。






あとがき

ISの話ぜんぜん出てなくてすんません。




[29918] FIGET2.1 奥様はショートホームルームを続行したいそうです。ヒーローは安全パイ
Name: くくり◆24f58f99 ID:3b0270e9
Date: 2011/10/05 05:56
俺こと織斑一夏は大変な目に遭っている。

なんというか、針の筵というか、卒業式で「卒業生起立!」で間違って立ってしまった在校生のようなとても心細い複雑な気持ちになる。

幼馴染の工藤は「商業高校とかそういうこともあるらしいから、まぁ大丈夫だよ」と気軽に言うが全然気は楽にならない。

旧友の五反田弾は「うらやましい」とか適当なこと言うが全然気は楽にならない。

俺以外全員クラスメイト女。

IS学園は基本女子高なんだ。

なんで俺はこんなところにいるんだよ。

藍越高校受験の時に俺が迷っちまって間違ってISを動かした所為なんだけどさ。

ちらりと廊下側の席に座ってる工藤をちらりと見る。

なんか凄く楽しそうに、クラスメイトの自己紹介を見ている俺の幼馴染の工藤美緒。

左手の薬指にはきらり、と輝くシルバーリング。

俺が巻き込んだせいで一緒に藍越に受験できなかったのだが、俺の料理の師匠である山田さん主催の合格パーティーの時に俺が謝ったら

笑って一つ返事で許してくれた良いやつだ。

昔からよっぽどの事がない限り怒らない穏やかなやつで気心を知れてるだけに、今の俺にとっては入学してこのクラスに決まってから2つの救いの1つである。

それに俺と女子が話してるとき昔から工藤がそれに混じるとギスギス感がなくなるから、それも加味して考えると、凄い助かる幼馴染だ。

だから、助けてくださいと視線を送る。

そして俺の視線に気がついたのか工藤は苦笑し始める。

巻き込んで本当にすまなかったけどマジ助けてくれ、とこっそりと手を合わせる。

すると工藤が手を合わせる姿があまりにも滑稽だったのか苦笑を深くし、窓側の席の方にすっと指を指し示す。


そして俺はまたちらりと横目に窓側に視線を移すと6年ぶりに再会するもう一人の幼馴染の篠ノ之箒がいる。

どうやら箒の方に頼れ、ってことなのか?

しかし、何が気に障ったのか箒に救いの視線を投げかけるとすぐにふい、と視線をそらされる。

そうしてまたもう一度工藤の方に視線を投げると

工藤は今度、教壇の方に指を指し「マ・エ」と口パクで言う。

前?

「織……君、織斑一夏くんっ!」


「は、はいっ!?」

うわ、声が裏返ってしまった。


どうやら知り合いに助けを求めることに没頭するあまり、自分が次の自己紹介か忘れていたらしい。。







FIGHET2.1 奥様はショートホームルームを続行したいそうです。ヒーローは安全パイ。 





どうやら私や篠之さんに助けを求めるのに夢中で自分が次の自己紹介ってことに気付かなかったみたいだね。

どんまい。

工藤美緒はクラス31名の内30名の女子として、純粋にIS学園一年一組の初ショートホームルームを楽しんでいた。

こうゆうただ新しい出会いって若いうちにしか楽しめないものだよなぁ
社会だと面接で学歴とかである程度先入観が既に周囲に広まってるからこういうのは学校入学最初にしか味わえない、と思いながら

頑張って自己紹介する、既にある程度の先入観と期待バリバリの視線でクラスメイト全員から銃撃されている、幼馴染の織斑君を見た。





「えー……えっと、織斑一夏ですよろしくお願いします」

必死に織斑君が第一声を吐く。


お、ちょっと詰まったけど噛んだりしてない凄いな。

喋り方にヤケクソも入ってない、うん。

私だったらああいう立場に絶対立ちたくないなー織斑君がんばれ、がんばれと心の中で応援する。




「えー…………」


「よろしくお願いします」のあとから

早くも言葉に詰まってる……

うわ、どうしよう、趣味とか日課とかすぐに言いなさい織斑君。

えー……とかがあんまり長い間続いたあとの悩み貫いた言葉ってあんまり面白くないのが8割だから、さっさと趣味が料理ですとか言うんだ。

趣味が料理ってあんまりはずれなのない趣味の中でも上位だから、さっさと言うんだ。

ましてや、女の園、中々好印象だから。

これで趣味がサボテンの飼育とか、意味の解らない受け狙いをしたら、空気が白けるから、さっさと近所で毎月行なわれる料理会に参加してて、その中でも出し巻き卵が料理会に参加している奥様方の中でも群を抜いて綺麗に作れる、とかでもなんでも言うんだ。

あーっムズムズする。

クイズミリオネアのみのさんの長い沈黙ばりにムズムズっとする。これでCMに入られたら、他局にチャンネル変えるぐらいムズムズする。

あ、こっちに悲愴なほどの助けてって目線が来る。


私は織斑君の視線になにかしら言うべき言葉を思いつきがあると見て取れたので目線で頷く。


そして即

「以上です!」

と織斑君が言う。


え?

長く続く、「えー……」を無理矢理ずっぱり切ったよ。


あ、あーあ。

期待感が外れたのかガタッとしたクラスメイトが何人かいた。

私はあーあ、だよ。

優しそうな眼鏡の先生が涙浮かべている。

あの先生、結構緊張すると噛むタイプの人みたいだから自分の苦い経験でも思い出してるのかな。

私もああいう苦い経験があるから、なんか恥ずかしくなってくる。


これ以上先みれないよ。

なによりも次に自己紹介する私を含めたおの次の五十音のクラスメイトが全員ハードル上げられたんだよ。

織斑君の後ろの子頑張って。

このちょっと微妙な空気を変えてください。


と、思ったら、織斑君の頭を教室に入って来た織斑君の姉の千冬さんが硬そうな黒い出席簿を縦にして、しかも角で叩いた。


結構痛そうだけど、私は報われたような気持ちになった。

姉弟のやりとりが始まり

スタジオを白けさせたお笑い芸人のネタをちゃんと拾って笑いに変えてくれた先輩芸人のような光景を感じて私はほっとした。




でも千冬さんが来たらなんだか皆興奮しだした。

ああ、ISの世界大会優勝者でしたね千冬さんは

すごい皆騒いでる。

私はその様子を見て隣のクラスから「うるさい」とか苦情来そうだな、とか考えてしまい。またムズムズしてきた。




結局入学して最初のショートホームルームは私はムズムズしてるだけで終わった。





ショートホームルームは潰れ、そのまま一時間目の授業が始まった。

私は、自己紹介楽しみだったのに、と思いながらIS基礎理論Ⅰと書かれた教科書を開いた。

織斑君はトリに持っていけばよかったのに、自己紹介って次の機会って設けられるのかな、とか考えながら一時間目の授業を真面目に受けた。





一時間目が終わり、休み時間、クラスメイトが牽制しあっている。

うわ。

誰が男子に話しかけるかって牽制してる。


緊張感あふれてるなぁ、学校初日ってもっと初々しいのが普通なのになぁ。

この初々しさは商業高校の入学最初の休み時間にクラス一名だけ男子がいても変わらないものだと思うのに。



「ねえ、工藤さんだっけ」

牽制をやめて私に話しかけてくれる子が居た。

黒髪に赤い髪留めがワンポイント入って。中々お洒落な子だ。


「あ、初めまして工藤美緒です夜竹さゆかさんでしたっけ?」

「え、うん初めまして、あ、名前わかるの?」

「うん、ちょっと珍しい苗字だな、って思ってたから覚えちゃった」

なんとなく夜竹ってなんか昔話のかぐや姫っぽいから覚えてた。

さゆかって名前もさやかって名前と似てるけど、一文字違いで大分柔らかい印象の名前になって可愛らしいので覚えた。

「やっぱり珍しい?それよりもちょっと聞きたいんだけど良い?」

「うんなに?」

「織斑君の視線が工藤さんの方になんだか行ってたからちょっと気になって、知り合いなの?」

「うん昔から家が近所でずっと学校一緒だったから、友達かな」

「え、嘘ー!?」

「え、何々!?」

私の後ろの席に座っている、相川さんも話に加わる。

あ行なのにく行の私の後ろの席の相川さんだ。

そういえばなんで私一番前なんだろう、とふと思った。

「幼馴染!?じゃあさ、気になってるんだけどその薬指にある指輪って………もしかして織斑君から貰ったやつ!?」


どうやら私の左手薬指に輝くシルバーリングに気がついたのだろう。
なんだか相川さんがあらぬ勘違いをし始めみるみると悲しそうになってくる。







「ええっ!?まさか!?」

夜竹さんもやっぱり織斑君が学園一人の男子だからお近づきになりたいんだろうなぁ、悲鳴交じりの驚愕を声にする。

二人の表情の変わり具合が凄い。


最初に友達って言ったのになぁ。

黙ってても面白そうなんだけれど


貴仁さん以外の人と勘違いをされるのは嫌なので


「え、違うよ」

即効否定する。

「じゃあ、なんで指輪つけてるの!?」

制服の改造自由だけど、アクセサリーは駄目だよね?と相川さんが尋ねてくる。


「自己紹介に言うつもりだったんだけど………私、来月結婚するんだ、そしてこれは婚約指輪、ちなみにちゃんと学校から許可とってるからこれは違反じゃないよ」


「結婚!?」

「誰と!?」

「工藤貴仁って人と」

「だれ!?」

「うーんと……親戚のお兄さん、看護士やってる人」

「えーっ嘘!?」

「早っ!!本当!?」

「本当、本当、来月工藤美緒は結婚して工藤美緒になりますってね、あ、苗字変わんないや」

「えっ本当なの!?」

「なにー?なにー?私にも教えてほしー」

そして牽制せず盛り上がってる私達に気になったのか制服の袖がぶらぶらしてて可愛らしい、のんびりとした子がやってくる。

「なになに!?」

と私の後ろの子も話しに混ぜてと話に参加する。


これから私に激しい質疑応答が始まるのだけど話題の種にはなるのかな、と初めて会う人たちとお喋りを始める。

初対面の人たちと喋り始め、やっと入学最初の学校の休み時間の初々しさを感じ、笑みがこぼれる。

せっかく学校に入ったんだから、高校生活だ、学校へ行くのは5割は友達に学校の友達に会うのが楽しいからって理由だと思う。だから友達は多く作りたい。

さ、私に対する質問が終わったらこの4人に自己紹介でもしてもらおう。




ちなみに私の爆弾発言で数人が牽制をやめてこっちの話に参加する間に織斑くんは篠ノ之さんにつれられて教室を出て行った。

結局休み時間中、大部分の人は牽制を止め、私に多くの質問が来る。

話題は私の結婚の話と織斑くんについて。

皆なんだか、ライバルじゃないのね、とか、安パイだ、よかったー彼女じゃなくて、とかで皆、気安く話しかけてくるようになった。

まぁ私が織斑君の最大の情報源だしね。


どうやら友達はまだだけど、知り合いは一杯つくれたみたいだ。

質問ばっかりで疲れるけど。




どうやら入学最初の出だしはまずますかな、と思う私であった。


























あとがき

すごい短いですが、今回一旦区切ります。




決闘までいくかなぁ


超ロースピード展開ですが、次回もお楽しみに。



ちなみに一番前の席のど真ん中、ワンサマー君の一個席を挟んで主人公が廊下側の端に座っています。


千冬さんがちょっとだけ安パイ配置。






次回


クラスメイト同士の決闘!?でもクラスで私だけ結婚してます、いいえそれは婚約です。





[29918] FIGHT2.5 寿司、天麩羅、鉄火丼。奥様はいい加減。
Name: くくり◆24f58f99 ID:3b0270e9
Date: 2011/10/08 04:47
「ただいま」

工藤貴仁は夜勤明けで疲れた体を引きずるように朝に自分の家に帰ってきた。
普段自家用車で勤務先の病院に通勤する彼だが、あまりにも忙しさで疲れ果て、病院に車を置きタクシーを使って帰るほど疲労していた。

現在、午前6時頃、6時半には美緒が朝ごはんを作る時間だったはずだと思い。


美緒は料理はとても上手だが、いつも朝ごはんに前日の残り物を使う悪癖がある、夕食にすき焼きだった場合、次の日の朝は卵とじ牛丼とか平気でやるのだ。
昨日は自分が好きなハンバーグだったから、今日の朝は残ったひき肉で作ったそぼろ丼とかやるんだろうな、そう思い
あまりにも疲れてるので今日の朝ご飯は軽くして貰おう、と貴仁は考えた。


「美緒って……いないのか、そういえば」

母と父は自分よりも忙しい人なので普段居ないことが多いが美緒はまだ学生で登校していない時間帯だからまだ居るだろうと思っていたが
そういえば昨日、早めに登校したいから朝の6時には家を出ると言っていたな、と思い当たる。


今日はIS学園に入学してから初の授業。

昨日は入学式でギリギリまで入寮せず、家で過ごしていたが
IS学園に今日から入寮して平日はもう帰ってこないのだ。

「土日には帰って来るんだろうけど………平日帰って来ても、もういないのか」


家の中は静かで自分以外いない。
早朝で、外からの音もスズメがちゅんちゅんと鳴く音ぐらいしか聞こえない。
普段であるなら、台所で鼻歌を歌いながら楽しそうに料理をする美緒の姿が見えるはずなのに。




快くIS学園に送り出してあげた貴仁だったが、なんだか寂しい。

今でこそ恋人だが、最初はあまりにも歳の差があるのでちょっとしっかりした娘みたいな扱いで一緒に生活していた。

今でもその気持ちが若干残っている。

だからいざ離れてみると、子供離れできない親の気持ちがわかる気がした。

どんな時間にも家に帰ったら、学校とアルバイトがない限り

「お帰りなさいお兄さん、ご飯にする?お風呂にする?それとも…………そのまま寝る?」

とか言って出迎えてくれるのだ。

ご飯はしっかり作ってくれるし、お風呂に入った後は疲れた箇所を丹念に「お客さん、何処が疲れてますか」とか言いながら本で勉強したらしい
本格的な手もみマッサージをしてくれるし、寝るときもいつも洗いたての枕カバーとシーツでベッドメイクしてくれて布団に入ると洗い立ての良い匂いがするのだ。

まさに至れりつくせりである。

前に一度

「別にいいのに。美緒も忙しいんだからそこまでしなくてもいいよ」

と言ったことがあるが

「お兄さん、料理もインスタントしか出来ないし、しかもインスタントラーメンの麺をいつも煮過ぎて不味くつくるって奇跡を起こすし、お風呂もいつも浴槽一杯に沸かしちゃうし
洗濯は洗濯物と洗剤を適量いれてボタン押すだけなのにいっつも洗剤を大目に入れて無駄遣いするし、洗濯終わっても干すの忘れて洗濯機に入れっぱなしにするし……
凄く気になって眠れない、だから私に任せて」

とガンとして拒否され、完全にこの至れりつくせりを味わっていた。

頑張りすぎて疲れないのかな、と思うが、正論なので黙るしかない。

自分は家事が極端に向いていない、らしい。


この前料理でインスタントラーメンを作るときご飯と卵を2個一緒にを投入して美緒に「なにその外道食い」とか怒られたし。

「いやラーメンのスープが卵とご飯によく合って美味しいんだよ、具が一杯で凄い合理的だよ」と言うがいつも自分がそうした料理をすると怒られる。

「見てて凄い気分悪くなるからそれやるの禁止、卵はまだいいけど、ご飯をいれるのは麺を食べ終わった最後にしなさい、うわ…ご飯、スープを全部吸収してる………」とドン引きされた。

それを結婚して美緒と同い年くらいになる娘を持つ友人に話したことがあるが

「夢でもみてんのか……そんな嫁も娘も、現実にいねえよ、朝は自分でパン焼いてくってるわ。
寝る前に勝手にシャワー浴びてるよ、洗濯物は娘と一緒にすると嫌がられるよ…つうかそんな外道な食い方やめろ」

「いや、本当だよ」

「……………もういいよ、ロリコン、さっさとお縄につけよ。あと………まじで外道な食い方やめろよな」

と言われたことを思い出す。

じゃあそこまで言われたら俺も頑張るしかないな、と疲れた体を引きずりながら

「たしかカップラーメンがあった筈だ、あれなら確実に俺でも美味く作れる、最後にご飯投入して食べよう」

台所に向かう。






すると

「そぼろ丼に肉団子汁にひき肉入りの野菜炒め………張り切ったんだな美緒」

いり卵がご飯に載せられその上にずっしりとハートマークでそぼろが並べられている。
そぼろに赤が少し混ざっているので、ピリ辛な味付けなのだろう、ご飯によく合いそうだ。

肉団子汁は中華スープベースに肉団子と昨日ハンバーグの種で余らせたたまねぎの微塵切が混ざり、たまねぎがスープに煮溶け始め、大変美味しそうであり
野菜炒めは昨日の付け合せのキャベツのザク切と彩りとしてニンジンの細切が混じっていて炒められたひき肉がそれに絡み、野菜炒め自体だけでもご飯が進みそうだ。

全て台所に丁寧にラップされ並んでいた、どうやらレンジでチンして食べて、と言うことらしい。

更に料理が盛り付けられた皿の横に小さなメモが残されていた。

そのメモにはただ簡潔に、各料理のレンジで温める時間が書いていた。

「そぼろ丼2分30秒、肉団子汁3分、野菜炒め2分か………全部一緒に入れて6分ぐらいでいいかな」

工藤貴仁35歳、これでも立派な看護士である。

仕事ではしっかり患者をお風呂にいれたりできる人だが、自分のことになると結構適当になるおっさんである。







FIGHET2.5 寿司、天麩羅、鉄火丼。奥様はいい加減。


セシリア・オルコットは大変機嫌が悪かった。

せっかく代表候補生となりIS学園に入学し、自分の華麗に彩られる人生を歩み始めたというのに、同じクラスに男性がいたからだ。
努力した、それは苦ではなかった、その努力が実り自分の故郷で多くの人に認められ、ISの専用機を貸与されるまで至った。

俗に言うエリート街道?

違う、私が今まで努力して歩いてきた道のりがそう言われるだけであり、まだまだ満足していない。

もっともっと自分の才能を伸ばすためにこの日本にやってきた、ただの代表候補生ではなく国家を背負う代表になり、そして名誉あるオルコット家を今は亡き両親の代わりに守る。

ただそのためにやってきた。


IS学園はそのように努力し続ける人間が来るべき場所だとセシリア・オルコットは思っていた。

なのに、ただISを唯一動かせる男性操縦者、という幸運だけで自分と同じ学校に入学した人がいる。

他のクラスメイトはいい、IS学園入学という、それなりに厳しい壁を乗り越えた人たちなのだから。


なのにIS唯一の男性操縦者は幸運だけでこのIS学園に入った、そしてその大きな機会に恵まれて起きながら全然努力をしていない様に見える。

二時間目、クラスの殆どの人間が当たり前の様にわかる授業内容も全然理解していない。

入学前に渡された参考書を間違って捨てたから全然解らない?

そんなの言い訳にならない。

IS学園に入学するとわかっていたのだから、ISについてある程度学ぶのは当たり前だ。




それが強制でもありえない幸運に恵まれた人間の義務だとセシリアは思っている。

その機会に恵まれなかった者のためにも。


イギリスの貴名家に生まれ、そのことに誇りを持ち、ノブレスオブリージュを体言してきたセシリアにとって織斑一夏という男の嫌々ながらやっている、という態度に腹が立ってしょうがないのだ。

だから発破を掛けるつもりでもあり、自分のイラつきを押し付けるつもりで、二時間目の休み時間に話しかけてみた。

貴女は、私と同じ場所に立ってこれから先、この学園生活していくのだと、わからせるためには自己紹介をしたが

まさか、私の立場である代表候補生という地位がどのようなものか、今の世の中で殆どの人がしっているその常識を知らない。

なんだこの男は、情けなくないのか、そう思い、なんだか自分がヒートアップしてるのがわかりつつも言葉は止まらなかった。

私だけIS学園の入試で教官との模擬戦を打ち破ったと、その自身の話を聞かせると


この男も入試で教官を打ち破ったのだという。



なんだ、それは。



運と機会に恵まれ努力せず才能だけで私が立っている今の場所にいるのだというのか?


と、ますます自分の機嫌が悪くなってきたのを感じた。






イギリス人のクラスメイトに絡まれた二時間目の休み時間を終え、織斑一夏は三時間目の授業に向かっていた。


「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

現在3時間目の授業。この時間は1,2時間目と異なり、山田先生ではなく千冬姉が教壇に立って教えている。

基礎もまだなのに実践とは、俺にとってはまだ早すぎる、と必死にISの参考書を捲り始める。

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

突然何かを思い出したらしい千冬姉が思い出したことの内容を話す。
クラス代表か・・・・クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席など、簡単に言えばクラス長のことだ。ちなみにクラス対抗戦は
入学時点での各クラスの実力推移を測るものらしい。今の時点でたいした差はないが
競争は向上心を生む。1度決まると1年間変更はないからそのつもりで努力せねばならない。

らしい。




千冬姉の説明によって教室中が静かにざわめく。

へぇなんだか面倒そうだな、と俺は思った。

ま、どうせ優秀なやつがやるんだろ、俺関係ないよな、と

「はい。織斑くんを推薦します!」

「私も織斑くんを推薦しまーす!」

え?

「では候補者は織斑一夏……他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」

「お、俺!?」

思わず


立ち上がろうとするが、今立ち上がればもれなく千冬姉の体罰が待っている。

そうだ冷静になれ、冷静になるんだ、どうして俺なのかと小一時間周りに問い詰めれるぐらい冷静になるんだ。


今現在の勉強についていけないんだから、俺は今の授業についていくための補修で忙しい、そんなのやる暇がない、とかを盾にすれば――


「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか? いないならこいつで決めるぞ。」



そうそう、他に居ないんだから仕方――― 

ちょっ


「ちょっ、ちょっと待った!」

「自薦他薦は問わないと言った。他薦された者に拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」


強引すぎねぇか千冬姉。
普段喋ってても、断言する言い方が多くね?

拒否しづらいし。


そこが良い所かもしれないけどさ。



「待ってください! 納得がいきませんわ!」

デスクを叩きながらセシリア・オルコットが立ち上がった。

さっき絡んできたけど、助けてくれるのか、と期待する。

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ! 
わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえと仰るのですか!?」


「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。
それを、物珍しいからという理由で極東のサルにされては困ります!
わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!!」


「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」


「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」

おいおい、言いすぎだろ、典型的な日本人の俺でも怒るぞ、いい加減言いかえさないと、と思う。

そして



















「ねえ、オルコットさん、この前行った寿司屋、美味しかった?」

俺の幼馴染の工藤が相も変わらず、柔和で、聞き取りやすい声質でいきなり脈絡もなく発言した。

「ええ、大変美味しかったですわ!イギリスに居た時も何度か口にしましたが、やはり日本で食べると違う、そう思いました!あれは目から鱗が落ちる思いでしたわ!ジャパニーズスシ、大変素晴らしい文化だと思いますわ!!」

「魚だけに?」

「はい魚だけに―――って工藤さんではないですか!?」

「はい工藤美緒です、お久しぶりですオルコットさん。そういえばオルコットさん……目から鱗、とか語彙が多いし、相変わらず日本語上手だよね?発音も綺麗だし。
この前あった時も寿司屋行ったら最初に何食べるの?って聞いたら寿司屋の板前の実力は玉子と光り物で解るので玉子と光り物から食べますって言うし、日本文化に相当詳しいね」

工藤が笑いを堪えるように言った。

他のクラスメイト達は最初の敵対的な視線を緩め



「工藤、こいつと知り合いなのか?」

「知り合いっていうか、この前都心に出かけた時に道に迷ってたから道案内した。
美味しいお寿司屋さん探してたみたいだから、よくウサちゃんが食べてるあの店に連れて行った」


「ああ、あの馬鹿高い店か、なんか可愛い兎がいる………っておまえ」

俺は工藤からセシリア・オルコットに視線を戻して言う。


「な、なんですの?」


「さっき散々島国とか日本馬鹿にしてたくせに思いっきり日本観光してんじゃねぇか!?つうかイギリスも島国だろ!?」

「そ、そんなことはありまえせんわ!」

「ありまえせんわ?ありえませんわ……だろ」

「くっ…!」

セシリア・オルコットが顔を赤くする。

それを見てますます工藤が笑いを堪える。

他のクラスメイト達はセシリア・オルコットに対する最初の発言による敵対的な視線を緩め、今はとても生暖かい目で彼女を見ている。

「そういえば京都どうだった?行ったって言ってたよね?」

工藤が笑いを堪えながら悪戯っぽい顔をして嬉々として口を挟む。

「京都はいいですね、私としては清水寺が良いものでした!、あんな建築物が全て木で出来ているなんて!ユネスコ世界遺産なだけありますわ!って……すいません工藤さんちょっと静かにして貰って構いませんか?」

工藤の御蔭でいける、そう思った俺は畳みかける。

「はっ!俺がサーカスをやるならお前はお笑い芸人だな!」

「なんですって!?」

「いや、面白くってさ」

「面白い!?このセシリア・オルコットに向かって!?ふざけんるんじゃありませんわ!」

「いや、十分面白いだろお前」

「なんですって―――この「おい、お前等黙れ」あう!」

セシリア・オルコットが千冬姉に出席簿で叩かれ

「痛!………ってなんで殴るんだよ千冬ね――――痛って!」


俺も叩かれた。

しかも二度。


すげえいたい。


「今、何の時間だと思ってる、授業中だぞ私語は慎め……それともう忘れたか?織斑。私は織斑先生だ、小学生かお前等は、くだらないことでグダグダと………それと工藤」


つかつかと千冬姉が工藤に近づき無言で工藤の頭を出席簿で叩く。

「お前もだ」

「はい」

痛そうなそれを微塵にも表情に浮かべず、粛々として受ける工藤。


千冬姉は教壇に戻ると溜息を一つ吐き

「お前等のせいでよけいな時間を食った。この時間でクラスの代表の話をまとめておかなければいけない、でだ、オルコット、織斑、今のところ候補に挙がってるのはお前等二人だ」

「なんで俺も―――「また叩かれたいか?何度自薦他薦は問わないと言った?」……はい」


「もう時間が押している、私が決めてやる、お前等二人は1週間後の月曜。放課後、第3アリーナでISで模擬戦を行なえ、それで勝った者がクラス代表者になれ、これでいいだろう?」


うわ、なんか大変なことになってきた。



「それは解りやすいですわ!さすがブリュンヒルデ!名案ですわ!これは決闘ですわね!?イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわ!
あなたのようなふざけた男に私がどんなに優れているか教えてあげて差し上げましょう、せいぜい私を馬鹿にした事を後悔させてあげますわ。
すぐに無様に私に負けて、そして残り三年間の学校生活憂き目をみるといいですわ……でも流石にそれではあまりにも可哀想なので、ハンデくらいさしあげましょうか?
五分も立たない内に負けたとあっては、男の面目も立たないと思いますし」


馬鹿にするようにこちらを挑発するセシリア・オルコット。


「はぁ?んなもんいらねぇよ、逆にそっちこそいらないのか?」

こちらも負けじと挑発し返す。


瞬間、クラス内に笑いの渦が広がった。


「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

他のクラスメイトがそう言う。



「だからなにさ。お互いが本気でやらないと真剣勝負にならないっての」


クラメイト達は俺に対し、本気でやめときな、ハンデをつけてもらいなよ、と言う。


なんだか、闘争心に火がついた気がした。
クラス代表とかどうでもいいが負けたくない、俺はそう思った。












工藤美緒は溜息をついた。



相手は代表候補生で彼はISが使えるただの一般人。明らかに代表候補生の勝利で決闘は終わる。

美緒はISというものをテレビで見ていたので多少は代表候補生のことは理解している。

オリンピックで言うならオリンピック代表候補みたいなものだ。

素人の織斑君は分が悪すぎる。



散々場を確信犯でかき回した美緒は自分の狙いが思わぬ方向に行ったことに少し落ち込む。

織斑君がクラス代表に決まりそうになり、凄い嫌そうな表情を浮かべていたので、少しは援護してあげようかな、と思いきや

オルコットさんが突然織斑君に絡み、最初の部分は少し、過剰な発言もあったが、まぁ正論だった。

途中、日本を馬鹿にする発言で、クラスメイト達が非難の目でオルコットさんを見始めた。

あ、これはまずいかな


入学前にあった時、オルコットさん礼儀正しくしっかりと物事に感謝できる良い子だったので
このままだと、オルコットさん苛められるかも、あんな良い子が言葉どおり取られ誤解されて苛められたらちょっと後味が悪い、そう思い

場の悪い空気を変えるつもりで半ば確信犯で口を挟んだ。

そしたら面白いようにオルコットさんは乗り、クラスの空気も「あ、なんかあの子面白くて可愛い」ぐらいになってきたのに




結局この有様。


織斑君もオルコットさんもお互い敵対意識している。




しかも、織斑君も他のクラスメイトのハンデ等々の発言で静かだが熱くなって来てる。




うーん、せっかくの学校生活だし空気が悪いのは嫌だなぁ、そう美緒は思った。

そもそも美緒自身、男尊女卑という社会風潮に対し

「ハイハイ、トレンド、トレンド、どうせマスコミの策略」

と、ニュースや新聞で取り上げられた様々な男尊女卑化の進み具合を横目にみていた。

でも、痴漢冤罪とか前世より多くて、しかも冤罪だとしても有罪になりやすくなっていやだなぁ
貴仁さんの一緒に電車に乗ったら絶対手をしっかり繋いでおこう、などと普段過ごしていた。


もっとも、女性の中でも非常識な人が男性に対し理不尽な事をしていたら、それを完璧な正論で論破して、注意するぐらいはしていた。


美緒は悩む。

このままだと織斑君とオルコットさんが仲が悪くなりそうだ、と。

どちらとも友達として仲良くしていきたい美緒は

「あ」

似た様なことが織斑君に関係することが何度かあったと思い出し。

「ほっとこう」

すぐに結論が出た。

結論は放置。

こと織斑君に関し、こういことで悩む必要が全くなかったことに思いついたのだ。

昔、五反田君ととっくに結論つけてた。


「うわ、なんか織斑君とあの子言い合いしてるよ……」

「ほっとけ、ほっとけ……どうせフラグが立つまでの過程に過ぎないから」

「フラグ?……ああっ!わかる!」

「だから大丈夫だろ」

「そんなことが現実に…………いや、あるかも。今までの結果を考えると」

的な事を話したことがあった。



うん


よし、私は精々学校生活を楽しもう。


なかなか楽観的に考える美緒であった。















あとがき


セシリアはチョロい子としてクラスメイトに可愛がられる運命になりました。


可愛いよねチョロい子。


追記 少し更新が遅れます、ちょっと北の大地から博多にいくので


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