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[2970] 【完結】マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-(マブラヴ+電脳戦機バーチャロン)
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2016/03/20 10:18
―前書き―
 本作品はアージュ原作のゲーム『マブラヴ オルタネイティヴ』及び、セガ(株)のアーケードゲーム『電脳戦機バーチャロン』の2作品を基に書いた二次創作作品です。 本作品をご覧になる前に、いくつかの注意点があります。

・この作品には数多くのオリジナルキャラやメカニック/世界設定、及び作者の独自解釈が満載されています。 

・『あらゆる可能性に満ちた世界が無限に存在する』という平行世界の解釈に基づいているため、多少本編とは異なるストーリーが展開があります。

・作者の知りうる古今東西あらゆるネタが、露骨にorこっそりと物語の中に混じっています(特にSTGネタ多し)。

・読み終わった後に感想を書いたりすると、作者が喜んだりヘコんだりします。

それでは、虚空の向こう側に広がる世界へ・・・

2012/07/14 短編追加しました。



[2970] 第1話-出会い-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2016/01/02 14:54
― 世界は並んでいる ―

その事を電脳暦の人類が始めて知ったのはVCa4年に勃発した戦役“オラトリオ・タングラム”がきっかけだった。 『無数に存在する平行世界を因果を引き寄せ、この世界の未来を思うがままに変えられる』という時空因果律制御機構“タングラム”の存在が、第8プラント『フレッシュ・リフォー』盟主リリン・プラジナーと第4プラント『TSCドランメン』盟主アンベルの2人による開戦直前の対談の中で公の物とされた。 こうして人々は“未来”という賞品を求め、何時終わるとも知れない戦いを続けたのである。
 時は流れVCa9年末、ムーンゲートに巣食う負の思念体“ダイモン”によって囚われの身となっていたタングラムを開放するという偉業を成し遂げた英雄“チーフ”、彼と共にダイモン戦役を走り続けたイッシー・ハッター軍曹が、突如発生した時空の歪みに飲み込まれて行方不明になってしまう。
だが慌てて2人の後を追ったオリジナル・フェイ・イェン『ファイユーブ』の力を借りて無事に帰還。 その時彼らが目撃した歪みの向こう側にあった異世界の体験談は、平行世界という存在を改めて電脳暦の人々に認知させる事になったのである。






「どうして・・・私の理論は間違っていない!間違っていない筈よ!」

薄暗い部屋の片隅で、研究者らしき1人の女性が悲観的な声を上げ、怒りと悲しみ、そして悔しさに任せて振り上げた拳をデスクに叩きつける。
 デスクにあるコンピューターには、常人には到底理解できない数式や文字の羅列が延々とモニターの中を泳ぐように流れている。 悔しさに打ちひしがれるのも疲れて椅子にもたれかかった時、その女性は部屋の中に誰かがいることに気付いた。

「ああ。 そこに居たのね、社・・・」

自分の名を呼ばれ、1人の少女が無言のまま女性の前に姿を見せる。 社と呼ばれた少女の頭には、ウサギの耳を模したカチューシャを付けている。 そしてそれがピコピコと動くのを見て、女性はハッと我に返った。

「待たせて悪かったわね、行きましょうか」

そして彼女の手を取り、先程まで死んだ魚のような目に輝きを吹き込ませながら部屋を後にする。

「(絶対に私の理論を完成させる・・・! そう、世界は繋がり、並んでいるのだから・・・)」

助手の少女、社霞と共に国連軍太平洋方面第11軍、横浜基地副指令である香月夕呼は横浜基地の最深部へ向かう。 彼女もまた、この世界で平行世界の概念を知る人物であった。


マブラヴ -壊れかけたドアの向こう-
#1 出会い


・ AM10:32 横浜市某所


「ん・・・ ここは、元の世界に帰れたのか?」

何も無い筈の空家の一室、そこで1人の少年が目を覚ます。 そしてその身を起こし、窓の景色をぼんやりと眺める。 窓の外に見えるのは、何の変哲も無い閑静な住宅街の一角だった。

「良かった・・・帰って来られたのか」

それを見た少年、白銀武は何かから解放されたかのようにホッと胸を撫で下ろす。 どこにでも居そうな少年である彼が、窓の外の風景を見ただけで安堵の表情を浮かべるのか、それには理由があった。

― そう。 彼は1度、世界を渡った経験がある。

 白銀武。 私立白陵大学付属柊学園の学生である彼は、幼馴染の鑑純夏やその仲間達と共に、何不自由無い生活を過ごしていた。 しかしある日、いつもの様に登校しようと家を出た瞬間、状況は一変する。

― 人一人見当たらない、瓦礫だらけの街。
― 純夏の家を押し潰している、ゲームから飛び出したような巨大ロボットの残骸。
― まるで特撮かSF映画に登場する秘密基地の様な、物々しい装飾が施されている柊学園。

ようやく正門に辿り着いた武だったが、門番に拘束され牢屋に閉じ込められてしまう。 そしてその時、柊学園にて物理教師を務めている香月夕呼と出会い、彼女によって、自分が元居た世界から、未知の地球外生命体“BETA”と戦争をしているこの世界に飛ばされたという事実を知らされる。
 幸いにもこの国連軍横浜基地の副指令であった彼女の計らいにより、武は第207訓練部隊に編入。 そこで彼は、元の世界ではクラスメイトであった人物達と出会い、人類側の主力兵器“戦術歩行戦闘機(略称:戦術機)”のパイロット“衛士”になるべく、共に訓練に励む事になる。
 そして元の世界で散々遊んでいたロボットゲーム『バルジャーノン』にて培ってきたテクニックを応用した事で戦術機操縦の才能を開花させ、仲間達から一目置かれるようになる。 その途中に降り掛かった様々な事件やアクシデントを乗り越え、いよいよ衛士になれると思っていたその時、武達に残酷な事実が告げられる。

『本日12月24日2359時を持って、極秘作戦『オルタネイティヴ計画』は次の段階に進む事になった』

―オルタネイティヴ計画―

 人類がBETAに打ち勝つべく、遥か以前から計画されていた極秘作戦。 その第4段階である『オルタネイティブⅣ』の総責任者が、武が唯一“この世界”で頼りにしていた香月夕呼その人だったのだ。 慌てて彼女の元へ向う武。 そこでは研究に失敗し、酒に溺れていた夕呼の姿があった。

『あたしは聖母になれなかった、でも・・・それでも世界は並んでいる・・・』

『オルタネイティヴⅤ』発動によって地球を去る直前に夕呼が最後に言い残した言葉が、彼女と霞、そして武を支えとなってくれた少女、御剣冥夜を送り届けた武の胸に突き刺さる。 そして絶望的な戦いをただがむしゃらに繰り広げている最中に意識が途切れ、こうして“この世界”を歩き、柊学園のある場所へ向っている。

「(しっかし、本当に俺は“元の世界”に帰って来られたのか? 町並みは変わってないみたいだけど・・・)」

 学校へ向う最中、それだけが武の頭の中を巡る。 家を出て反射的に純夏の家を確認したが、彼が目覚めた家同様、そこは誰も住んでいない空き家だったのだ。
 『世界はあらゆる可能性で繋がり、無限に並んでいる』という夕呼の言葉の意味が正しければ、ここも“元の世界”とは違う別の世界なのかもしれないのだ。
 あれこれ思考を巡らせている内に、武は柊学園の正門前に辿り着く。
「あれ・・・ ここって柊学園だよな?」

小高い丘を登り切って、その先に見える光景に武は己が目を疑った。 建物の屋上に設置されたレーダーらしきアンテナの数々、正門であった場所に設置されている検問所と頑丈なゲート。 そして門前には『国連軍横浜基地宿舎』と書かれている。 そして案の定、武が覗き込むような怪しい動作をしていたが為、それを見た警備兵2人に呼び止められてしまった。

「おい! そこのボウズ、さっきから何をしている」
「見たところ学生のようだが、見学なら身分証を見せてもらえないか?」

 警備兵にそう問われた武は、もはや役に立たないと思っていた柊学園の生徒手帳を提示する。 それを拝見した直後、兵士二人は互いに顔を見合わせながら、目の前にいる武を凝視した。
 確かに武がいる場所は、彼がいた”元の世界”ならば柊学園が存在している場所だ。 だがこの世界には、そのような名前の学校は存在しない。
 それらがもたらす答えはただ一つ。 目の前にいるこの青年は、異世界から何らかの手段でやってきた人間だということになる。 このまま彼を放置しておく訳には行かない。 そう悟った兵士二人は己が持つ突撃銃の銃口を武に向ける。
 セーフティが解除する音を聞いた武は、反射的に両腕を後ろに向け、無抵抗をアピールする。 そして兵士の一人が銃を突きつけたまま、武に近寄りこう告げた。

「悪いようにはしない。 しばらくの間、君の身柄を拘束させてもらう」


「(それにしても、連れて来られたのが牢屋じゃなかったのは意外だったな・・・)」

 “前の世界”のように牢屋にぶち込まれると思いきや、宿舎の空き部屋に案内された事に武は拍子抜けする。 勿論、彼の持ち物は全て没収され、部屋の外にはさっき自分をここへ連れてきた門番が見張りをしているし、ここで暴れても何一つ得をしない。
 そんな事を考えながら畳に大の字に寝そべっていると、急に部屋のドアが開く音が聞こえ、武は慌てながらも瞬時に起き上がって正座する。 開いたドアの先には、スカイブルーの国連軍制服を身に纏う、青紫色の長髪を靡かせた少女が立っていた。

「ここの居心地はどう? 白銀武君」
「は、はあ・・・ どうして俺の名前を?」
「あなたの身元を調べる為に、この生徒手帳を見たからね。 あ、持ち物は後で返すから安心して」

そう言って彼女は、柊学園の生徒手帳を武に返す。

「残念だけど、調べた結果あなたの身元及び“白銀”の姓の付く人間はこの国に存在しないわ。 コレは私の推測なのだけれど、あなたは・・・」
「俺が、この世界の人間じゃないって事でしょう?」
「あら、自分でも分かっていたの?」
「ええ。 “前の世界”でも、一番世話になった人に同じ事を言われましたから」

武に自分がどんな状況に置かれているか理解している事を言われてしまい、それを説明するはずだった少女―霜月菫は少し驚いた表情を浮かべた後、自己紹介と今後の予定を武に伝える。

「それなら話が早いわ。 私の名前は霜月菫、今後の処遇が決まるまで、あなたの身柄は私が引き受ける事になったわ。 よろしくね」
「はあ、よろしくお願いします・・・」

菫のペースに載せられるがまま返事をする武。 そんな彼を見て、菫は部屋に入る前に外の門番から受け取ったバッグを武に渡す。

「その格好じゃ怪しまれるからコレに着替えて。 私は外で待っているから、終わったら言ってね」
それだけ言うと、菫は得意気に微笑んだ後に部屋を出る。
「(考えても埒が明かない、夕呼先生の時みたいに、今はこの人に付いていこう!)」

とにかく行動をするしかない。 そう覚悟を決めた武は柊学園の制服を脱ぎ、菫が用意してくれた国連軍の戦闘服に袖を通した。


・ 翌日 AM9:01 国連軍横浜基地 正門通り


「おはよう、昨日はよく眠れた?」
「ええ何とか・・・ これから俺はこれからどうなるんですか?」
「しばらくはここで訓練生として生活してもらうわ、他に行くあてもないでしょ?」
「はい。 それに“前の世界”では、霜月さんと同じ国連軍にいましたから、軍隊生活には慣れっこですしね」
「それは好都合じゃない、なら余計頑張ってもらわないとね。 後、私の事は名前で呼んでも結構よ」

 春の暖かな日差しと共に桜の花びらが舞い散る横浜基地、その正門から真っ直ぐ伸びる道を歩く菫の後を、スカイブルーの国連軍制服を着た武が受け答えしながら後を追う。 あの唐突な出会いから一夜明け、武は菫と彼女の上司であるケイイチ・サギサワ技術大尉の計らいで、元の世界に返る手段が見つかるまでこの横浜基地の訓練生として生活することになった。 優々と先を歩く菫に、武が話しかける。

「それで菫さん、これから何処へ行くつもりなんですか?」
「あなたが居た“前の世界”がどんな物か私の上司が興味を持ってね、その話をあなたにして貰いたいのよ」
「要するに事情聴取って事ですか?」
「正解。 でも安心して、ブリーフィングルームの1室を貸し切ったから、あなたが話す事は私以外誰にも聞かれないわ」

この世界でも大いに利用されてしまうのか、そう思った武がため息をついた瞬間、彼らの上空を巨大な何かが通り過ぎて行く。 耳をつんざく轟音に耐えながら見上げた瞬間、武は思っていた事を無意識の内に声に出していた。

「嘘だろ・・・? まさか、この世界にも戦術機があるのか!?」
「戦術機?」
「はい。 『戦術歩行戦闘機』、俺が“前の世界”で乗っていた人型兵器の名です」
「ふぅん、それがあなたの世界で使われている人型兵器なんだ」

そう言いながらほくそ笑む菫を見て、僅かながらに恐怖を感じる武。 そんな彼に、菫は優しい口調で話しかける。

「予定変更よ。 あなたの話しの前にまず、この電脳暦の世界の事を一からあなたに教えてあげるわ」
「電脳暦、それがこの世界の年号なのか?」
「その通りよ。 ようこそ、異世界の来訪者さん・・・」


1.5話へ続く・・・

-あとがき-
 改めて始めまして、『マブラヴ 壊れかけたドアの向こう』をArcadiaに投稿させて貰っている麦穂です。 
 本SSの武は2ループ目と言う状況に加え、何の因果かバーチャロンの世界に放り出された事から始まりますが、実はこのテンプレは、先にstr(すてあ)氏が投稿されたクロスSS、『MUV-LUV/O.M.R.second』で先に用いられている物なんです。 そして私が本SSを書いたのも、str(すてあ)氏の作品を読んだ事が切っ掛けでした。
 そうしている内に自分にもチャロンとのクロス物が書けないかと思い、序盤は2番煎じながらそのテンプレを拝借して書いている内にここまでのボリュームになってしまいました。 それもこれもstr(すてあ)氏の作品と出会わなければ、自分はこの作品を書いていなかったでしょう。
 2010年1月の時点でようやくこの物語も半分を越える事が出来ました。 str(すてあ)氏の今一度感謝の意を送り、このまま完結まで突き進みたいと思います。



[2970] 第1.5話-教練-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2016/01/02 14:54
・ AM9:24 国連軍横浜基地 第37ブリーフィングルーム


「さて白銀君、どこら辺から話せば良いかしら?」
「そうですね、とりあえずこの世界の歴史について教えてくれますか」

 空調の音が微かに聞こえる、薄暗いブリーフィングルームの一室。 最低限の照明が灯されている場所に、菫と武の二人が向かい合って座っている。
 この“電脳暦の世界”について教えて欲しいという武の注文に対し、菫はここに来る前に用意していた数枚の書類が挟まっているバインダーを武に渡した。

「用語や年表は中の書類に書かれているから、読みながら聞いてね」
「はい・・・!」

 武の返事を聞いた後、菫は自分の住む世界について話し始めた。


マブラヴ –壊れかけたドアの向こう-
#1.5 教練


 電脳暦。 それは人が己の限界に気付き、未来への歩みを止めてしまった時代。
主権国家の代わりに企業国家群が新たに地球圏を統治し、人々が満たされ尽くしたまどろみの生活を只過ごしていた世界。
 だが人間何よりも欲深く、罪深き生き物だ。 放棄した筈だった“戦争”という物を、“限定戦争”という形でもう一度呼び戻してしまったのである。

「そんな・・・! 戦争を見世物にして、それを商売に使っていたんですか!?」
「そうよ。 今は基本ルールと使用する兵器のレギュレーション、それに関する国際協定が設けられて完全なスポーツとして定着しているけど、それまでは白銀君の言う通り『人と人の殺し合いである戦争を、商売に利用していた』のよ」

 平和とも思えたこの世界で平然と行われていた愚行を知り、武は未だ驚きを隠せないでいる。 だがそんな彼にはお構い無しに、菫は話を続けた。
そうして『全てが消費される社会』の中で、人類はついにパンドラの箱を開くことになる。
 VC84年、地球圏最大の企業国家”DN社”が、月面にて人類起源ではない謎の遺跡『ムーンゲート』とその深奥にある正体不明の結晶体『Vクリスタル』を発見。 DN社は直ちに遺跡の研究計画である『Vプロジェクト』を発動。
 そして“プラント”と呼ばれる9つの研究機関による研究が進み、そこから得られたオーバーテクノロジーを元にまったく新しい兵器が誕生することになる。

「それが、俺がさっき見た“バーチャロイド”っていう巨大ロボットなんですね?」
「ええ。 VRについて詳しい事は後で話すけど、『見栄えがよくて、直接的な残虐性は皆無に等しい』事が求められた限定戦争にとって、VRは最適な道具だったのよ。 でも、DN社の当初の目論みは思いがけない事件で崩れ去る・・・」

 圧倒的な性能を限定戦争で遺憾なく発揮したVRはその強さ故、それを独占的に保有するDN社相手にどこの企業国家も手出しできずにいた。 DN社とその企業軍である“DNA”は、実質的に地球圏最強の力と権力を手に入れる事が出来たのである。
 だがVCa0年、突如としてムーンゲートが覚醒し、制御不能に陥る事態が発生。 更にその直前にDN社の最高幹部の一人だった『アンベルⅣ』の策略によって全プラントが売却され、DN社は大混乱に陥っていた。 このまま暴走が止まらなければ膨大なエネルギーがムーンゲートから放出(後に太陽砲と呼称)され、予想も付かない災害が起こるであろうと予測されていた。
 しかしアンベルがDN社を去る前に言い残した言葉が、この危機を回避する大きなヒントとなっていた。

― ムーンゲートの目覚めは突然に始まり、私は人々に最高の舞台を用意する。 そして物語は劇的に、かつ雄大に幕を開ける・・・ ―

 『地球圏に迫る最大の危機を、英雄達によって救われる』という、映画やドラマの中でしか描かれなかったシチュエーションを前に、倒産寸前のDN社は最後の威信をかけてムーンゲートの暴走を停止させる『オペレーション・ムーンゲート(通称:OMG)』が発動された。

「その事件をきっかけに、オーバーテクノロジーがこの世界の人たちに知れ渡る事になったんですね?」
「ええ。 結果的にムーンゲートの暴走を食い止められたのだけど、結局DN社は崩壊。 その企業軍だったDNAや、他のプラントが後に独立していったのよ。 だけど、この戦いは単なる始まりに過ぎなかったわ」

 そうして菫は、引き続いてOMG以降の電脳暦世界の歴史を語り始める。

- VCa2年、VRを保有する軍事組織“RNA”の出現と、両者を支援する8つのプラントの冷戦構造。
- VCa4年、加速する第2世代VR開発と、時空因果律制御機構“タングラム”を賭けた大戦役『オラトリオ・タングラム』の開戦
- VCa8年、火星と木星のVクリスタル発見と、それを巡るシェア争いの激化。

 そしてVCa9年、長年に渡ってリリンらと敵対していた人類最大の敵“ダイモン”という存在が明らかになる。
 太古の昔にムーンゲートを作り、Vクリスタルの制御方法を確立していた古代人達の負の思念体であるダイモンは、ネットワーク主軸で構成されている電脳暦世界のシステムに介入。 目先の利益しか追求しない人々を言葉巧みに欺き、自らの渇きを潤していた。

「思念体って、まるで幽霊みたいな言い方ですね」
「むしろ亡霊と言った方が正しいかもしれないわね。 前々から彼らの存在を知っていたリリン・プラジナーはそれに対抗するべく、表向きは火星戦線の治安維持を目的とした特装機動部隊『MARZ』を設立したのよ」

 実体を持たず、電脳虚数空間と呼ばれる異空間に巣食うダイモンはその内部に『事象崩壊要塞』を構築し、電脳暦の世界を滅ぼそうと企んでいたが、MARZの勇者によりタングラムは解放され、世界は大きな変革期を迎えることになる。

- 開放されたタングラムによるダイモンの消滅。
- 一連の戦いの影響と変革、大きなダメージを被る事になったプラント及び企業国家群。
- 疲弊した企業に変わって、世界中で復活した“主権国家”達。

「そして現在は、ダイモン戦役から2年後のVCab年。 色々有ってまだ落ち着いてないけど、21世紀初頭の世界情勢に逆戻りしているのよ」
「あ~、ここってそういう世界なんだ。 俺が“元いた世界”と対して変わらないジャン・・・ってえええっ!?」
「なにを今更驚いているの? この世界の事を教えてくれって言ったのはあなたじゃない。 さあ、今度はあなたが見た世界の事を話してもらいましょうか?」

 菫が話してくれた内容の整理に頭をフル回転させながら、武は自分が今まで体験した事の全てを菫に話し始めた。

- “元の世界”で、何不自由ない学園生活を送っていた事。
- “前の世界”に飛ばされ、自分の力の無さに悔しさと悲しみで涙を流した事。
- どうして自分がこんな境遇になってしまったのか、その原因と思い人を探している事。

「なるほど。 ここの世界を含めて、あなたは2回平行世界を渡っているのね?」
「はい。 どうしてこの世界に飛ばされたのか、俺にも良く分からないんです」

 お互いに全てを話し終えた後、どうして自分が電脳暦の世界に飛ばされた理由が分からない武は、深いため息と共に首を傾げる。 落ち込む彼に、菫は席を立ちながらこう告げた。

「気を落とすのは早いわ。 あなたが諦めない限り、そういった事は時間が勝手に解決してくれるんだから」
「そ、そういう問題なんですか!?」
「ええ。 『人生は、一寸先が闇だから面白いのだ!』って、父がそう言っていたからね。 さて、時間も時間だしお昼でも食べに行きましょうか」

 何だか夕呼先生の時と同じように、菫に流されているような気がする。 そんな事を考えて再びため息を吐きながら、武は菫の後を追って食堂へ向かった。


・ PM12:16 国連軍横浜基地 食堂


「どう、少しは落ち着いた?」
「はい。 さっきの話のおかげで頭の方もお腹一杯になりましたよ」
「ふふっ、それだけ言えるのなら大した物だわ」

 昼食を取りに多くの兵士や職員達で賑わう昼の食堂。 そのテーブルの一角に座る菫が向かいの席に座っている武に微笑む。 その直後に防音設計の窓が震え、轟音と共に1機のVRが演習場の方へと飛び去って行く。

「まったく、お昼時は跳躍禁止だって決められているはずなのに。 ん・・・?」

 突然の騒音によって静寂を邪魔された事に憤りを露わにする菫。 その一方で武は目の前を通り過ぎて言った鋼の巨人に見とれてしまい、それが通り過ぎてもなお窓の外を眺め続けている。
 それを見た菫は、悪魔の囁きが如く武に問いかける。

「乗ってみたい? VRに」
「えっ・・・?」
「さっきから気になっているんでしょう? 私的は、素直な返答がほしいんだけどね?」
「はい。 どちらかといえば、乗ってみたいですね~!」

 自分が思っていた事を菫に言われ、愛想笑いを浮かべながら正直に答える武。 それを聞いた菫は、父親譲りの威厳を漂わせながら彼に指示を告げる。

「正直でよろしい。 では白銀訓練生に命じます、30分後に今から私が教える場所に集合しなさい」
「えっ?菫さん、それってどういう・・・」
「返事はどうしたの! 返事は!」
「りょ・・・了解!」

“前の世界”での軍隊生活が染み付いているせいか、反射的に復唱する武。 こうして菫のマンツーマンによる、武のVR搭乗訓練が始まった。


・ PM12:46 横浜基地 第3演習場


 旧市街跡地を利用した広大な演習場に、武が乗るMBV-04-10/80adv『テン・エイティ アドバンス』が膝立の姿勢からゆっくりと立ち上がる。 人類初のVRであるMBV-04/G『テムジン』の簡易量産型であり、advは第3世代VRに搭載されているフィルター回路の実験機として大量に生産された機体だ。
 VRとしては最弱の部類だったが、そのコクピットの中で武はVRという人型兵器の性能を、文字通り肌で感じていた。

「(凄ぇ、凄ぇよ! 戦術機以上に俺の思い通りに動いてくれる・・・!)」

 フットペダルを踏み込んで前進しながら、武はVRに乗る直前に菫から受けた座学の事を思い出す。
最初に教わったのは、VRの心臓部とも言えるパーツ“Vコンバーター・ユニット”だ。 コクピット・ブロックと一体になっているこのユニットは、内部にある“Vディスク(Vクリスタル質と呼ばれるVクリスタル由来の物質を、ディスクに塗布した物)”に機体のデータをインプット。
 そして車のエンジンをかけるように高い負荷を与えると、その機体が実体化するという“リバース・コンバート現象”が起こる。 いうまでも無く、今日のVRは全てこの方法を用いて生産されている。
 次にVRを操縦する上で最も重要な部分が、“MSBS(マインド・シフト・バトル・システム)”というOSだ。 『人間の精神を原動力に、兵器の制御を行う』というコンセプトから開発されたこのOSは、 “人馬一体”の言葉通りにパイロットの思考を機体制御へ反映させる事が可能だが、その特性上長時間や過度の使用は精神に高い負担が掛かってしまう。
 高速かつ正確な照準を定め、武は上空に浮遊するターゲットボールを次々に撃ち落して行く。

『次、ターゲット数8! 今度は攻撃をしてくるよう設定したから注意しなさい!』
「了解!」

 菫の指示に復唱した後、武はテン・エイティを空高く跳躍させる。 自走ロケット砲から散布された8基のターゲットボールが次々に飛来し、武のテン・エイティに瞳のようなレンズから糸の様に細いレーザーを浴びせる。

「甘い!」

 そう叫んだ武はフットペダルを全開に踏み込み、爆発的に跳ね上がるスラスターの推力を利用してレーザーを回避。 間髪入れずに右手に装備するによるフルオート一斉射で、ものの数秒でターゲットボールを全機撃破する。
 その空中機動を見て、流石の菫も思わず舌を巻いた。

『中々やるじゃない。 さあ、その調子で次のエリアへ前進よ!』
「はい! ありがとうございます!」

 上機嫌に褒めて来る菫に答えつつ、綺麗な着地を決める武。 甲高いVコンバーター駆動音を轟かせながら、テン・エイティが隣の第4演習場へ駆け抜けていった。


・ PM15:36 横浜基地 購買部


「白銀君、あなた本当にVRの操縦は初めて?」
「え、まあ・・・  “前の世界”で同じ様な人型メカを動かしていたけど、VRの操縦はあれが初めてですよ」

 購買部の一角にある簡素なテーブルとパイプ椅子に座り、購買で菫に奢ってもらったコーヒー牛乳で一服しながら武が訓練の感想を話す。 その向い側には、端末を前に先程行った訓練データの整理に従事する菫が座っていた。
 修羅の如く行っていたタイピングを突然止めたかと思うと、菫は肩の力を抜いて武に訓練結果を告げる。

「う~ん・・・正直言って異常ね。 特に空中でターゲットボールの攻撃を回避と同時に打ち落とすなんて、そこら辺の新米パイロットに出来る芸当じゃないわ・・・」
「マジですか・・・」

 そう武の言葉を聞いた後、菫は無言のまま、コレが証拠だと言わんばかりに整理中の訓練データが映る端末の画面を見せる。 驚異的な反応速度と各種機動、的確な射撃と近接攻撃。
 そして異常に高い数値を叩き出した適性値。 自らが生み出した記録を武が読み終えたその時、端末を自分の手に戻しながら菫が言う。

「これで実感した? 横浜基地最強の訓練生君」
「俺が、訓練生最強・・・!?」
「うん。 今日の訓練でここの記録全部、あなたに塗りかえられちゃったわ」

 自分がVRパイロットとしてトップクラスの実力を持っていることを知り、武の脳裏に“前の世界”で体験した記憶が蘇る。 他のメンバー達が次々と酔いと操縦感覚に手こずる中、何故か自分だけがダントツの成績を叩き出していたのだ。
 もしかしたら自分にはそういった類の才能があるのかもしれないと、武は自分の持つ能力を改めて認識する。

「でも気を付けなさい。 浮かれていると、直ぐに他の子達に追い抜かれちゃうわよ」
「はいっ!」

 自分の腕を過信するなと、釘を刺すように言う菫に力強く答える武。 そしてこの休憩の後、菫と武の個人授業は夜遅くまで続いた。


・ 武の回想


 俺が電脳暦の世界に飛ばされ、菫さんの出会いから2日が経った。 菫さんの訓練時の態度は時には厳しく時に優しい所を見ると、“前の世界”のまりもちゃんを思い出す程だ。 でも彼女のお陰でこの世界の生活に馴染む事が出来たし、“元の世界”で散々遊び倒した『バルジャーノン』のテクニックが、何故かそのまま生かす事が出来るVRの操縦もかなり上達してきた。
 このままここの世界で暮らそうかと考えたけど止める事にした。 あの狂った世界の何処かで純夏が俺を待っている、そう思えてならないからだ。
そして完熟訓練が完了し、晴れて正式にこの世界のVRパイロットとなった時、菫さんの口からとんでもない提案を聞かされる。

「正式配属おめでとう、早速白銀君に任務を与えるわ。 内容は『機動自衛隊富士教導隊メンバーとの模擬戦』よ。 勿論、私も一緒に行くから安心して」

この時、衛士としてVRパイロットとして大きく成長する切っ掛けをくれる人物と出会う事に、俺はまだ気付かずにいたのだ。


―  “緑葉の旋風”の異名を持つ、1人のVRパイロットとの出会いを・・・ ―


第2話へ続く・・・





-あとがき-

どうも、作者の麦穂です。 2話へと続きを読む前に、ここで少しこのSSにおけるVO側の世界観を話したいと思います。

 まず電脳暦の時代は、『マーズ』本編より後の時代。 そこにおける“限定戦争”は大きく形を変え、本物のスポーツに近い形で行われています。 そして企業国家による支配が弱まり、地球圏では再び“国家”と“国境”という概念が蘇っています。

 VO側の世界観が何故このような原作と大きく異なるのかと言うと、実はこのSSを書く為にこの設定を作ったのではなく、2004年当時に私が書いていたバーチャロンSSにおける設定と世界観をそのまま流用しているからなんです。
 特に“限定戦争”における設定は、『ゾイド新世紀/ゼロ』の“ゾイドバトル”や『機動武闘伝Gガンダム』の“ガンダムファイト”が相当影響しており、『(例外もあるが)基本的に人が死なない戦い』という、現実の格闘技と同じシチュエーションに当時の私は凄い衝撃を受けました。

 そしてバーチャロンの世界でもその設定が使えないかと思い、本SSで菫が語った
『世界の国々で繰り広げられる、VRによるスポーツ』としての世界観を構築して行った訳です。 そして彼女を初めとするオリキャラ達も、そのSSを書いていく過程で次々に生み出されていきました。

『あらゆる可能性が、それこそ無限に存在する』、平行世界と同じ概念を持つ2次創作の世界。 ならば『こんな世界が存在しても良いのではないか?』と思い、本SSを執筆しました。

 私が思い描く『マブラヴとバーチャロンの世界と物語』を読んで、楽しんでいただけたら幸いです。



[2970] 第2話-挑戦-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2010/01/28 10:59
・ Vcab年4月某日 AM10:03 機動自衛隊 富士駐屯地 正門前


「すっげー、横浜基地の門より立派だ」
「ほらほら白銀君、ボーっとしていると迷子になっちゃうわよ」
「あっ、はい!」

 桜舞い散る正門を凛とした表情で潜り抜けてゆく菫、それから数秒遅れて、“前の世界”における横浜基地のそれより立派な正門に見とれていた武が慌てて彼女の後を追いかける。
 ハンガー地区から往来する大型輸送車や正門を出入りする多くの車両に注意しながら、2人は横浜基地のそれより二回りも大きなメインストリートを進んでいく。

「そういえば菫さん、俺のVRはどうしたんですか? 確か模擬戦をするはずでしたよね?」
「模擬戦はここの機体を使うから、そのつもりでいてね」

 そう言って菫は目を通しておけとばかりに、懐から取り出した『陣武』の仕様が記載されているファイルを後ろ手に武に渡す。
 MBV-30/80C 『陣武』。 VCaa年末に日本が始めて開発に成功したVRであり、同時期に世界各国が開発・運用している『第4世代VR』と呼ばれているカテゴリーに属する機体である。
 第6プラント開発の第3世代VR『景清』とよく似たサムライ然とした機体デザインを持ち、腰部のスラスターと背部Vコンバーターの脇に設けられた拡張マウントは、高い機動性と汎用性を与えている。
 加えて第4世代型VRは第2世代VRのVRの独自機能であった特殊装甲“Vアーマー”の再装備を実現しており、その繊細な外見とは裏腹に平均以上の防御力を誇る。
 そして何より、陣武のシルエットは武が乗り込んでいた帝国軍製戦術機のシルエットのそれと非常に似通っていたのだ。
その事に気付いた武は、すぐさまこの事を菫に問いかける。

「あの~菫さん? このVRって、戦術機とそっくりなんですけど・・・」
「そうなの? まあ良かったじゃない、かえって機体に愛着が湧くかもしれないわよ」

 軽くあしらわれてしまった事に、少々いじける武。 そして模擬戦前のブリーフィングにて、意外な展開が彼を待ち受けていた。


マブラヴ –壊れかけたドアの向こう-
#2 挑戦


・ AM10:15 富士駐屯地 第5ブリーフィングルーム


 機動自衛隊。 Vca9年に勃発したダイモン戦役後、世界各国同様に主権を回復させた日本が再建した防衛組織である。
 それまで陸海空と存在していた自衛隊だったが、VRという全く異質なカテゴリーの兵器を扱うべく発足した。 その一方で、かつて在日米軍基地だった場所は菫が所属する国連平和維持軍の管轄地となり、相互的な交流も盛んに行なわれている。
 そして今回武が参加する演習も、その一環として行なわれるようになったのだが・・・

「抜き打ち? 俺も今回の合同演習に参加する筈じゃなかったんですか?」
「本当はそうなる予定だったんだけどね、突然向こうがそうさせてくれって要望があったのよ」

 横浜基地に存在するブリーフィングルームの一角。 そこで菫から模擬戦の変更を知らされた武が首を傾げる。 一応本来の模擬戦内容を読みながら、武は今回の相手となる教導隊メンバーについて菫に質問を投げかけてみた。

「そういえば菫さん、俺が戦う相手はどんな人達なんです?」
「広報用の記録映像ぐらいなら見せてもらえるかもしれないから、ちょっと掛け合ってみるわね」

 資料を取り寄せてもらえないか、部屋を後にする菫。 やはり相手の情報は直前まで秘密だろうと思っていた武だったが、記録メディアをどっさり抱えて帰ってきた菫を見て、驚きの余り彼女に茶を吹きかけそうになったのは言うまでもない。

「(凄ぇ・・・ VRって、こんな風にも動けるのか・・・!)」

 菫さんが持ってきてくれた映像資料を眺めていく内に、武は映像に映るVRの動きに魅了されていた。 流れるような攻撃に、全く無駄が無い動き。 そしてそれを可能とする、一糸乱れぬチームワーク。
 そして菫による、教導隊『リーフ・ストライカーズ』各メンバーの説明が始まった。

 最初は『リーフ・ストライカーズ』の隊長を務める苗村孝弘。 階級は外国の軍隊で大尉に相当する一尉。 天才的な操縦技術の持ち主で、乗機のSBV-305/G 『叢雲』でフィールドを疾駆する様は、他国のVRパイロットや観客達から『緑葉の疾風』と呼ばれ注目を浴びているらしい。

 2人目は孝弘の幼馴染でもある早峰美雪。 階級は中尉相当の二尉。 狙撃は百発百中の腕前を誇り、彼女に狙われて逃れられた者は現段階で数えるほどしかいないとまで言われている。

「(純夏、お前は本当にあの世界に居るのか・・・)」

 そして“幼馴染”と言う言葉を聞いた瞬間、武の脳裏に純夏の笑顔が反射的によぎったのは言うまでも無い。

 3人目は石川佑哉。 『リーフ・ストライカーズ』の影のリーダーと言われ、階級も孝弘より1つ上の三佐(小佐相当)。 実質彼が隊長、又は他の部隊の指揮官を務めるべきなのだろうが、何故彼がサブリーダーの地位で満足しているのかは、正直な所本人に聞いてみないと分からないだろう。

 最後は花月桜花。 階級は美雪と同じ二尉。 由緒正しき神社を実家に置く三姉妹の長女で、妹達も自衛隊のパイロットとして活躍しているらしい。 メンバー随一の近接戦闘能力の持ち主で、菫の説明によると彼女とは従姉妹の関係だという。
 なるほど、顔付きや色こそ違うが桜色の長髪が菫に似ているわけだ。 遺伝子という物は恐ろしいなと武は納得する。

「え~と、コレなんてボスラッシュですか?」
「う~ん、しいて言うならデスレーベルかしら?」
「どっちみち、俺は地獄を見るんですね・・・」

 菫もこれ以上言う言葉が無く、部屋一帯にどんよりとした沈黙が最後まで漂っていた。


・ AM11:30 富士駐屯地 第1演習場


『準備は良いわね? 白銀君』
「はい! システム異常無し、いつでも行けます!」

 インカム越しに聞こえる菫の問いに、ゲート前に立つ陣武のコクピットに座る武が力強く答える。 本来彼が参加するはずの演習は既に終わり、いよいよ抜き打ちテストが行われようとしていた。

「(覚悟は出来た、俺の腕があの4人に何処まで通用するか・・・)」

 会話ウインドウの中で静かに頷く菫を見て、武は思わずツインステックを握る力を強める。 相手がどんな精鋭だろうと、ここまで導いてくれた菫に答えなくてはならない。 その思いと勇気だけが、今の白銀の原動力なのだ。

「(悩んでいても仕方はない。 今までの菫さんの教えと、自分の腕を信じるんだ!)」

 カウントダウンが始まり、武は腹に力を込めて肺に十分な酸素を詰め込み、一泊置いて静かに息を吐く。 頭に被るHMDのゴーグル、そこに映る演習場ゲートはさながら地獄の一丁目の入り口に見えた。

『ゲットレディ・・・!』

 演習開始を告げる菫の号令と同時に、武は精鋭4人が待つ演習場ゲートを潜り抜けて行った。 


第3話に続く・・・



[2970] 第3話-疾風-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2010/01/28 11:51
・ AM11:37 富士演習場 第1演習場 第1エリア


「(そろそろ接敵してもいい筈なんだけど・・・)」

愛機である陣武を前進させながら、武は『リーフ・ストライカーズ』のメンバーとの遭遇に供える。 演習場に入場して7分が経過し、何処から彼らが現れてもおかしくない状態だ。 索敵範囲を最大まで引き上げ警戒しながら進んで行く内、ついにVRの反応を捉えた。

「えっ、もう目視出来る距離だぞ!?一体何処に・・・!」

機影が見える位置まで来たはずなのに、その姿が全く見えないことに困惑する武。 だがレーダーには、敵機を表す赤い光点が確実に存在している。 そしてそこには草木や花を植えたばかりのように、こんもりと土が盛られていた。

「(オイオイオイオイオイ!? まさかあそこで隠れていますって言うんじゃなかろうな!?)」

なんてベタ過ぎる隠れ方だろう。 ダンボール一つで敵基地に潜り込む伝説の傭兵でも、こんな真似は絶対にしないはずだ。
 そんな事を思いながらも、武は銃剣ユニットが装着されている75ミリ突撃砲をその土山に向ける。 すると観念したのか、教導隊のパイロットの方から武に話しかけてくる。

「いや~、悪い悪い。 久しぶりのタイマン勝負だったから、せっかくだから格好良く登場してみようと地面に潜ったんだが・・・」
「あ・・・いえ、こちらこそすいません。 待たせたら悪いかなと思って・・・」

ばつが悪そうに話すパイロットに対し、こちらも律儀に答える武。 そして盛った土の部分が一気に膨れ上がったかと思うと、墓場から這い出てきたゾンビの如く1体の重量級VRが姿を現す。
 XBV-714/S 『震電』。 両肩に装備されたレーザー砲により絶大な攻撃力を誇る重量級VRの代名詞、ライデンとは対象的な防御重視の装備を持つ、機動自衛隊の実験機だ。
 その両肩にある多目的シールド『バインダー・ロータス』は、防御のみならず機動制御や内蔵レーザー砲による支援攻撃等、あらゆる距離や戦闘状況にて効果を発揮する。 そのパイロットである佑哉が、試合前の挨拶とばかりに武に声をかける。

「地獄の富士演習場一丁目にようこそ。 俺の名は石川佑哉、お前の相手になる『リーフ・ストライカーズ』のサブリーダーさ」
「いきなりそんな人と相手だなんて、イジメとしか思えませんが・・・」
「まあそんなに緊張するな。 俺はあの生真面目バカと違って、ちゃんと手加減はするよ」

そう言った後、佑哉は機体にこびり付いた土砂を叩き落とし、一歩踏み込んで殴り合いの構えを見せる。 対する武が再度突撃砲を構えると、佑哉は彼に向かって叫んだ。

「いくぜ白銀! 抜き打ちテスト第1ラウンド、スタートだ!!」
「はいっ!!」

群青と銀白のブラストを輝かせながら、2体の巨人が富士の大地を駆ける。



-マブラヴ 壊れかけたドアの向こう-
#2.5 緑葉の疾風


 演習場に舞う風と土煙、それらを舞い上げるスラスター炎の残滓とそれに炙られた大気が陽炎を立てる。 陣武が放つビーム弾の濁流が、震電に向って吸い込まれていく。 対する佑哉は左手のボムを投げつけ、爆風で相殺、捌き切れなかった弾はシールドで防ぐ。 それら一連のパターンを2度3度繰り返し、武は相手となる震電の鉄壁の守りを実感する。

「くっ、やっぱり近づかないとダメか!」
「そんな豆鉄砲じゃ、俺の震電にかすり傷1つ付かないぞ!」

今度はバインダーに内蔵するレーザー砲のカバーが開き、光の帯が武の陣武に向けて放たれる。 レーザーを用いた攻撃は集束率の高さから攻撃力は高いが、エネルギー消費とVコンバーター負荷の関係上、静止した状態でしか発射が出来ない。
 相手がライデン系だという震電の機体特性を掴んだ武は、カバーが開いた時点で彼の視界から逃れ、レーザーを回避する事に成功する。

「逃げるだけなら簡単だけど、このままじゃ・・・」

制限時間の詳細は一切知らされておらず、それまで逃げ続けていられる保証はない。 覚悟を決めた武はスティックを一段と強く握り締め、震電に向って突っ込む。

「いいねえいいねえ! やっぱりVRのバトルはガチンコの格闘戦だよなぁ!」
「その通りですね、ですが俺は負ける気はサラサラありませんよ!」

剣どころかナイフ一本出さず、文字通り素手による格闘戦の体勢で震電が構える。 対する武はブレードを展開したライフルを構え、すれ違い様に斬り伏せようと間合いを詰める。

「どぉりゃああああっ!!」
「せえぇぇい!!」

勢いに任せてブレードを水平に振る武と、フィールドを纏った拳を突き出す佑哉。 その一撃は互いの雄叫びと共に衝突し、青白い放電と衝撃波を周囲に撒き散らしながら硬直状態に陥る。 この力の平衡状態を突破し、相手を地に伏せさせた方が勝つ。
そう直感した武は、スティックをへし折れんばかりに前に倒す。

「俺は、俺は前に進む・・・! こんな所で、いつまでも立ち止っている訳にはいかないんだああぁぁっ!!」

武の雄叫びと同時にVコンバーターが唸りを上げ、ブレードから一段と眩しい閃光が放たれる。 力の均衡が一気に崩れた反動によって、武と佑哉双方共に後ろへと弾かれる。 武より先に態勢を立て直した佑哉の震電だったが、再び殴りかかってくるかと思いきや何もしてこない。
それに震電に対し困惑する武の耳に、佑哉の声が届く。

「ゲームセット。 お前の勝ちだよ、白銀」
「えっ、まだ勝負は付いてない筈じゃ・・・」
「菫さんから聞かされた事をもう忘れたのか? 今回の抜き打ちテストのルールをもう一度思い出してみろ」
「相手を戦闘不能にするか、制限時間内まで生き残る?」
「そう、お前はそのルールのうち1つを達成した。 さて、ここはもういいから早く奥のエリアへ行け。 抜き打ちテストはまだ終わってないぞ!」
「はい! ありがとうございます!」

制限時間内まで生き残る。 佑哉との勝負に夢中で、その事を忘れていたことに失念するも、相手をしてくれた佑哉に礼をする。 次のエリアへと進む武へ、佑哉はさりげなくアドバイスを送る。

「あ~そうだ、試合の残り時間は80秒まで表示されないから注意しろよ」
「(だから菫さんは、あの時あんな事を・・・!)」

試合前に告げた菫の言葉の意味が、今の佑哉のアドバイスでようやくわかった気がした。 僅かな時間ながら、自分にさり気無い助言をしてくれた菫に例を告げようと誓いながら、武は次のエリアへ機体を走らせる。
そしてそれを眺めながら、自機のステータスチェックをしていた佑哉は、その結果を見てコクピットの中で我が目を疑った。

「右手のアクチュエーターとフィールドジェネレーターが破損寸前!? 一体何をやったんだ、あいつは・・・」

コクピットの中でそう呟く佑哉の目には、右腕が真っ赤に染まったステータス結果が映っている。 ボロボロに破損したマニピュレーターと合わせて、この演習の後に整備班長にこってり絞られる事を予想し、彼は深く溜息を吐いた。


・ 富士演習場 第1演習場 第2エリア


「そんな・・・2人がかりだなんて聞いてないぞ!」
「何も必ず1対1で戦うとは言ってないわ。 これも一つの勉強よ!」
「そうそう、多人数相手の状況を経験するのが、この第2ラウンドの目的だからねっ!」

第2ラウンドの舞台となる第1演習場第2エリアにて、入場した早々武は怒涛の近接ラッシュと正確無比な狙撃の洗礼を受ける。 『リーフ・ストライカーズ』きっての近接の鬼、花月桜花と、まだ見ぬリーダー苗村孝弘のパートナーである早峰美雪が、第2ラウンドにおける武の相手だ。
桜花が駆る女武者を模した第4世代VR『御巫』が、得物の薙刀で執拗に武を追い詰める。 回避しようと後方へ下がるろうとするも、その進路先に美雪が乗る第4世代VR『八雲』が放った狙撃が横切り、武の頬に冷や汗が伝う。

「まともに花月さんと近接戦はキツイ、かといって距離を取ると早峰さんに狙い撃ちにされる・・・!」

目の前で次々に繰り出される薙刀のラッシュを裁きながら、武は左手にコンバートしたボムを真上に放り上げ、炸裂した閃光によって桜花に対して目暗ましを作る。 間髪入れずに回避方向へ次弾を放り投げ、プラズマが渦巻く爆風の中へ駆け込む。
 プラズマ粒子の爆風を放出するボムの特性を利用し、美雪による狙撃からのダメージを軽減する戦法。 再び突撃をしようと準備する桜花の御巫を見て、武はある事に気付く。

「(まさかあの突撃、途中で曲がれないのか?)」

接敵して早々の1回目、そして先ほど凌いだ2回目も、桜花は真っ直ぐに薙刀を突き立て、闘牛のように突っ込んで来た。 もしかしたら美雪の援護狙撃も、その突撃を確実に当てさせる為なのかもしれない。

「(時間も迫っている、次に桜花さんが同じ攻撃を出した時が勝負だ)」

そうと決まれば行動あるのみ。 狙撃によって回避の邪魔をされないよう、ダッシュと同時にロングレンジランチャーを腰だめに構える美雪の八雲にボムを投げつける。 同時に武の移動先に向って、桜花の御巫が本日三回目の突撃を敢行する。
速度も突入するタイミングもバッチリ、某アナウンサーもびっくりのジャストミートコースだ。

「はあああっ!!」
「その手には・・・もう乗らない!」

神速の神速の勢いで薙刀を突き出す御巫に対し、武は並行移動や後退ではなくジャンプで回避。 意表を突かれた桜花は、何もない空間を突くという失態を犯す。 そして彼女が上を見上げた時、突撃砲をこちらに向けて滞空している陣武の姿があった。

「美雪!狙撃はどうしたの!?」
「わかっているけど、彼の位置が・・・!」

上空の武に向けて射撃をしようとした美雪が躊躇った事に、桜花は武と彼女との方角を確認してハッとする。 武は太陽を背に出来る位置へと移動し、そこで上空へとジャンプする事で桜花の突撃を回避。
同時に降り注ぐ日光を活用してその先に待つ美雪の狙撃から補足されないようにしたのだ。

「(そうか、さっき移動していたのはコレを狙って・・・!)」

そう気付いた桜花が上を見上げると、突撃砲をこちらに構える陣武の姿。 『最後まで頑張ってね、白銀君』と美雪が囁いた瞬間、ペイント弾の種が2人の機体に花開いた。


・ 富士演習場 第1演習場 第3エリア


「アンタが、『リーフ・ストライカーズ』のリーダーか?」
「ああ。 俺が機動自衛隊教導隊『リーフ・ストライカーズ』隊長、そしてこの抜き打ちテスト最後の相手、苗村孝弘だ」

辿り着いた演習場の最深部、そこで対面する2機のVR。 連戦による疲労が隠せないでいる武の問いに、彼の最後の相手となる『リーフ・ストライカーズ』リーダー、苗村孝弘が静かに答える。

「お前の素性は、霜月少尉から聞かされた。 電脳暦とは違う異世界から来たそうだな?」
「はい! 菫さん・・・いえ、霜月少尉には色々と感謝しています」
「まだ不慣れな事があるだろうが、それは何よりだ。 だが白銀准尉、お前はこれからどうする気だ?」
「えっ・・・」

その言葉を聞いた武は、自分は今何をしているんだという思いに駆られる。 この世界に来て、VRに乗って、それで何をしようというのだろうか。

「俺は、この世界にとどまる気はありません。 俺には、前の世界でやり残してきたことがありますから」

 そうだ、もう迷う事なんか無い。 自分はあの壊れかけたドアの向こうにある世界を救うために。 そこに存在している筈の最愛の人を見つけ出すために。 そしてそれを成し得るための力手にするためにこの世界に留まっているだけなのだ。 武が全てを伝えた後、それを聞いた孝弘の口が静かに開く。

「こんな夢のような世界に迷い込んでも、自分の目的を見失わないで行動出来るのは正直凄いと思う。 さながら、“時空の旅人”って所かな? そんな旅人が、VRを軽々動かせるなんて誘っているにも程があるってもんだ」
「まさか、公園のトイレにホイホイ誘われて、そのまま<以下自主規制>って事ですか?」
「あ~、一応言っておくが、そっちの性癖はないから安心してくれ。 時間も惜しいし、そろそろ・・・」

そう言った後孝弘は、叢雲の右手にあるライフルが左腕にあるシールドに収める。 最初武は武器を格納したのかと思ったが、その考えが間違いである事を思い知らされる。 シールドと左腕を繋ぐジョイントが解除されたかと思うと、VRなら軽く両断出来そうな大剣が叢雲の手に握られていた。
それを見た武も、耐久力が限界に近付きつつあるブレードを構え、最後の戦いに望む。

「それじゃあ始めるか! 最終ラウンド・・・ゲットレディ・・・!」
「ゴーッ!」
武と孝弘、2人の掛け声を合図に、ブーストの花が開いた。


・ PM3:43 富士駐屯地 第5ブリーフィングルーム


「お疲れ様、白銀君。 最後は残念だったわね」
「はい。 苗村さんと最初に切り結んだときまでは良かったんですが、その後急に全身の力が抜けて・・・」
「長時間連続でエース4人と戦ったら誰だってそうなるわよ。 でもあそこまで戦えるなんて、感動しちゃったわ」

 再び訪れたブリーフィングルーム。 そこで抜き打ちテストの反省を述べる武に、菫が微笑みながら労いの言葉をかける。 あの最終ラウンドは武の敗北に終わった。 といっても武が孝弘に叩きのめされたのではなく、これ以上は戦闘は認められないと菫に判断され、不戦敗という形で終了した結果だった。
 彼が乗る陣武唯一の武装であった突撃砲は銃剣パーツを含めて耐久率が限界に達し、加えてVRのOSであるMSBSは、作動している間パイロットの精神力を著しく消耗する。
 最終戦の時点で武の精神バイタルがレッドゾーンに入りかけていた事に気付いた菫が、あわててテストの中止を孝弘に伝えたのだった。 まだだるさが残る体を引きずる武に、菫が今後の方針を彼に伝える。

「勝負の結果は残念なことになっちゃったけど、私の上司、ケイイチ・サギサワ技術大尉があなたに興味を持ってくれたわ」
「それじゃあ・・・」
「うん。 今やっている研究のついでに、あなたに協力するって連絡があったの。 そこで私は大尉を迎えにいくために、横浜に戻る必要があるの」

夕呼とは分野こそ違うが、研究者という心強い味方が加わることに、喜びを隠せない武。 そして菫は、今後の予定と共に新たな課題を武に伝える。

「そういうことだから、その間白銀君には『リーフ・ストライカーズ』の特別訓練を受けてもらうわ」
「えっ・・・?」
「返事はどうしたの?」
「はっ! 白銀准尉、特別訓練に参加します!」

菫の顔を見ながら、武は苦笑いと敬礼で答えた。

第4話に続く



[2970] 第4話-異変-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2010/01/28 12:09
火星、見捨てられていた、赤の星・・・


 太陽系4番目の惑星であり、ギリシャ・ローマ神話双方の神の名を冠する赤き荒野に覆われた星。 旧世紀末期から月に継ぐ人類第3の故郷とするべく、地球と同じ環境に整えるテラフォーミング計画が開始される。
だが電脳暦という時代の閉塞性、そして同時に行われた限定戦争の場として使われた為、不完全な環境のまま長らく放置されていた。
 それが一変したのは、VCa9年に勃発したダイモン戦役終結直後である。 ダイモンによる拘束から開放された“時空因果律制御機構タングラム”と、木星へ向かって飛来するVクリスタル“ジュピター・クリスタル”の力により、人工的な湖や海しか存在しなかった火星は地球と同様の水と緑あふれる星へと変貌した。
 光の尾を引きながら飛ぶクリスタルが火星の軌道上を周回し、通過した部分が青く染まる所を目撃したある宇宙艦船の艦長は、こう呟いたという。

『タングラムの奇跡が起きた』と・・・

そしてVCab年、人類第3の故郷として正式に機能し始め、平穏を取り戻しつつあった火星に、新たな危機が襲い掛かろうとしていた。
虚空から姿を現し、異形の塔から這い出る存在によって・・・


― マブラヴ 壊れかけたドアの向こう ―
#4 異変


・ 現地時間 AM11:03 火星 エリシウム平原上空


「こちらアイビス1、以前目標に変化はなし」
『HQ了解、そのまま監視を続けてくれ』
「アイビス1了解。 しかしこんな不気味な物、何時出来たんだ・・・?」

 地球と同じ大気組成によって作り出された火星の青空、その上空を戦闘組織“RNA”に所属する可変VR、YZR-8000γ マイザーガンマが、突如エリシウム平原に現れた巨大な構造物の周りを優々と飛行しながら見張る。
 最初にこの異形な塔を発見したのは、現地で働く地質調査のスタッフ達だ。 明らかに人類が作った物で無いそれに危機感を抱いた彼らは最寄りに駐屯していたRNAに通報、それを受けたRNAは直ちにいかなる事態に対応できるよう、偵察能力に優れたマイザータイプ一機を張り付かせている。
 監視開始から約1時間経過したその時、マイザーを操るパイロットが塔に起こる異変に気付く。

「アイビ1よりHQ、塔の根元から何かが湧き出している! 凄い数だ!」
『HQ了解。 目視で確認次第、詳細を伝えろ』

 自分が未知の領域に踏み入れている事を実感しながら、徐々に塔へ接近するマイザー。 かつて、人類を影から蝕んでいた負の精神体“ダイモン”は、2年前に特装機動部隊“MARZ”に所属する1人の戦士によって滅ぼされ、VCab年の今現在、人類を直接脅かす者は存在しない。
 では、目の前にある塔から湧き出し蠢く“それ”は何か? その答えが出た瞬間、彼は通信機越しにいるRNA司令部に向って叫んでいた。

「アイビス1よりHQ! 今すぐに軍を出動させろ! 他の軍からも応援をよこせ!!」
『アイビス1、何があった!? 一体何が起こっている!』
「エイリアン・・・! 火星に・・・火星にエイリアンがやって来た!!」

現地時間1209:建造物を偵察していたRNA所属のマイザーガンマ、建造物から湧き出す異形の生命体を確認。 火星全域に非常事態宣言を発令。 同時に火星に駐屯する全軍隊へエリシウム平原への出動要請がRNAより申請される。

現地時間1215:国際戦争公司がRNAの要請を受諾。 監視中のマイザーガンマが敵生命体のレーザー攻撃により被弾、合流したRNA・DNA両軍と交戦開始。 さしたる被害無しに塔へ押し返す。

現地時間1259:MARZの出動により、確認された敵生命体の殲滅と巣と思われる塔の制圧に成功。 第8プラント『フレッシュ・リフォー』率いる各プラントが敵生命体と塔の調査を開始。

 この戦いが、まだ見ぬ異世界で“BETA”と呼ばれる生命体と、電脳暦世界の人類との初の戦闘となった。 そしてこの事件が地球にいる武に大きな影響を与える事を、彼はまだ知らない・・・


・ 1週間後 AM10:05 陸上自衛隊 青木ヶ原演習場


「ほら白銀! グズグズしてると置いて行くぞ~!」
「ま・・・待ってくださいよ~」

 鼻を擽る樹木の香りと、そこから放たれる湿気が漂う富士の樹海。 その中を陸自の戦闘服に身に纏う孝弘が進み、その後を国連軍から支給されたコバルトブルーの野戦服を着た武が追いかける。 あの抜き打ちテストから一週間が経ち、武は菫が横浜へ戻っている間、孝弘達『リーフ・ストライカーズ』の特別訓練を受けていた。
 VRのOSであるMSBSは人間の精神が原動力。 すなわちパイロットの精神状態が良好な程、VRが持つ性能を限界まで引き出す事が理論上可能となる。 
 それだけに訓練内容は、とにかく武の精神スタミナを増強させる事にあった。 手ごろな休憩場所を見つけた孝弘が、武に声を掛ける。
「よ~し! ここで一旦休憩!」
「は、はあぁ~っ・・・」

 その声を切っ掛けに今まで溜めていた堰が切れたのか、孝弘の号令と同時に武は近くにある石に座り込む。

「流石のお前でも、樹海ウォーキングはキツいか? 白銀」
「ええ。 まさかこんな所を歩かされるとは思いませんでしたよ・・・」
「異世界で戦争していたとは聞くが、実戦経験はあるのか?」
「有るにはあるんですけど、記憶がハッキリしないんですよ」

 BETAと戦っていたのかと問いかける孝弘に、武は力強く頷く。 だが身体は覚えているとよく言ったもので、前の世界でBETAと戦っていたという事実を告げている事は確かだ。 もう二度と仲間を失いたくないという武の思いを、孝弘は彼の透き通った瞳から感じ取った。

「まあ、それを考えるのはまた後だ。 とりあえず、皆の所に戻ろう」
「はい!」

先程まで喉を潤していた水筒をリュックに戻し、二人は元来た道を戻っていった。


・ AM10:35 機動自衛隊 富士駐屯地 第4VRハンガー前


「孝弘! ケイイチ君から連絡があったわ、直ぐに来て!」
「わかった! 美雪、後は頼むぞ!」
「ええっ!? ちょっと、苗村さ~ん! あだだ・・・!」

 ハンガーに戻った早々、その入口から美雪が来る。 彼女の慌しさにピンと来た孝弘は、疲労しきった武を美雪に任せ、一目散にハンガーの中へ走る。 そして小さなモニターが備わっている端末のスイッチを入れると、待ちかねたとばかりの笑顔を見せる眼鏡を掛けた青年の姿が映った。
 ケイイチ・サギサワ。 国連軍第7軍ペリリュー基地所属のVR研究者兼テストパイロットで、第4世代VRの基礎理論を打ち出したことで、ダイモン戦役後に一躍有名になった人物だ。 そして孝弘達の乗るVRや装備する武装も、全て彼が手掛けている。

「久しぶり~、機体の調子はどうだい? 苗村君」
「ああ。 ちゃんとウチの整備班の板野が、君の分まで整備してくれているよ。 それで、緊急の知らせって?」
「どうやら、僕の悪い予想が当たったみたいだ」

 ケイイチのその一言に、孝弘の表情が急に険しくなる。 そしてケイイチは、真っ先に自分に知らされたある事件の事を語り始めた。

「今から一週間前、火星のエリシウム平原に正体不明の建造物が突如出現し、そこから湧き出してきた人類起源外生命体と交戦。 最初に発見したRNAを始め、火星の軍隊総出でこれの殲滅に成功した」
「まるで映画みたいな事件だな。 何処かの企業が生体兵器の実験でもしたのか?」
「まあダイモンの仕業ではない事は確かだね。 公式発表はまだ無いけど、各プラントや企業がそこの調査に躍起になってるらしいよ」
「で、そのエイリアンどもはどんなゲテモノッぷりなんだ? 記録映像とかは当然あるだろう?」
「う~ん・・・ 一応送るけど、後悔しないでよ?」

 ケイイチの一言に一抹の不安を感じつつ、孝弘は送られて来た映像ファイルを再生する。 空からの撮影だろうか、赤き火星の大地を轟かせながら進む異形の生物達の姿が映し出される。 まるでSF映画に出て来るエイリアンがそのまま画面から飛び出してきたような外見に、流石の孝弘も息を呑んだ。

人間の頭部を模したであろう特徴的な尾を持ち、果敢にもVRに殴り掛かろうとするタイプ。
上空を飛ぶVR隊に向って、次々とレーザーを放つ大小2種類のタイプ。
サイのような角は無いが、その頑丈そうな殻を武器に突進をして来るタイプ。
羽は無いものの、そのシルエットにハチやアリをといった昆虫をイメージさせる一番大型のタイプ。
そしてそれらの下を這いずり回り、隙あらば次々にVRへ飛び掛ってくる小型のタイプ。

 こんなおぞましい生き物達を人が生み出す事が出来るのか? それらが湧き出す異質な塔を、人が気付き上げるだろうか?
答えは否だ。 この映像を最初に見たケイイチでさえ、始めの内は嫌悪感で頭が一杯だった程なのだから。 何より徒党を組んで襲い掛かるエイリアンの数が異常すぎる。
 それにいくら生体兵器プラントがあるからといって、あんな数を短時間の内に大量に作れる訳が無い。

「もしかしたらこのエイリアン達、白銀君が居た世界と関係があるんじゃないかな?」
「俺も同じ考えをしていた所さ、本人に見せたらどんな顔をするか・・・」

 互いの考えが一致し、モニター越しに頷きあう孝弘とケイイチ。 間違いない。 あのエイリアン共は武が存在していた“前の世界”、あるいはそれに近い平行世界からやって来た。
 どのような手段を用いてこの電脳暦の世界にやって来たのかは、今後のプラント技術者達の調査・研究で明らかになるだろう。
 ずれかかっているメガネを掛け直し、ケイイチは今後の方針を孝弘に話す。

「まあプラント連中の調査は始まったばかりだし、僕も自分なりのやり方で調べてみるよ」
「わかった。 白銀の奴も、もう少し鍛える必要がありそうだ、かなりのハイペースでな」
「君の言う事は洒落にならないからちょっと怖いな~。 また何か分かり次第、真っ先に君に伝えるよ!」
「ああ、ケイイチ君も頑張れよ!」

 ケイイチとの別れの挨拶を済ませた後、通信モニターの画面が漆黒に染まる。 それを確認した孝弘は、この事を武に伝えるべくハンガーを後にした。

「(やれやれ、また忙しくなりそうだな・・・)」


・ PM4:06 富士駐屯地 第4VRハンガー


「そんな!? 奴らが、BETAがこの世界にも現れたなんて・・・」
「確かな話さ、近々このニュースが世界中を駆け巡る事になる」

 天窓から差し込む日差しが弱くなりつつあるハンガー内、そこに武を呼び寄せた孝弘は躊躇いもなく彼に今回の一件を話す。  突然のBETA出現に混乱状態になっている武に、孝弘はその続きを話す。

「安心しろ、エイリアンは全て現地の軍隊が片付けた。 今頃は人間の方が、奴らの巣に殺到していると思うぜ」
「えっ、本当ですか!?」
「ああ、少なくともお前が“前の世界”に帰る頃には、手土産ぐらいは作れそうだってケイイチ君は言っていたな」

 “前の世界”へ帰る際の手土産。 それは電脳暦世界にやって来たBETAと、その巣である“ハイヴ”のデータ。 ここで調べたBETAの情報を“前の世界”に居る天才科学者、香月夕呼に渡す事が出来る。

「(そうすれば、俺は・・・俺はあの世界を変えられるかもしれない)」

 夕呼が打ち出したとされる謎の計画『オルタネイティヴ計画』を完成させ、地球上の殆んどがBETAに蝕まれているあの世界を救える。 自分が平行世界を行き来する身体になってしまった理由を彼女に調べてもらい、そして“元の世界”に帰る方法を見つけてもらうのだ。
 ようやく掴む事が出来た希望の光に、武の目が輝きに満ち溢れてゆく。

「お願いします苗村さん! 俺が“元の世界”に帰る為に、力を貸してください!」
「ああ! ・・・と言っても、ケイイチ君の協力が必要不可欠になるから、もう少し時間は掛るかもしれないがな」
「そ・・・そんな~」
「まあ果報は寝て待てと言う事だ。 焦り過ぎると、大切な物も気付かない内に見落とす事になる。 さあ、みんなの元へ戻るぞ!」
「はいっ!」

 互いにやるべき目標を胸に秘め、ハンガーを後にする孝弘と武。 そして2日後、武は合流したケイイチと共に地球軌道上に漂う宇宙への架け橋、オービタルステーションへと向った。


・ 2日後 グリニッジ標準時間AM10:09 月面基地


 青く輝く地球を背に、コバルトブルーに色塗られたケイイチが乗るマイザーナブラ、それに案内されて後ろで立っている武の陣武が、白き月の大地に降り立つ。 異世界への旅立ちを前に、どうしても連れて行きたい場所があるというケイイチの言葉に、人生初の宇宙体験に胸膨らませていた武は即座に承諾した。
 初めての空間機動と月の低重力に戸惑いながらもケイイチの案内の元、武は月面遺跡『ムーンゲート』の内部へと足を進め、最深部の一歩手前の場所へと辿り着く。

「さあ、着いたよ白銀君。 全ての始まりの地へ」
「スゲェ、洞窟の奥が光ってる・・・ ん?あれは・・・」

 巨大な洞窟内をこうこうと照らす光の招待に気づいた武は、頭にかぶるHMDの光学機能を選択。 遮光フィルターモードに設定して光り輝く物体の正体を見ようとする。
 全高4メートル弱、全幅2.8メートル程度の巨大な結晶体の姿が、陣武のセンサーで光学処理されて武の瞳に現れる。 そのまま微妙な明暗を見せる8面体の結晶を眺めていると、ケイイチが話しかけてきた。

「見てごらん白銀君。 あれが“Vクリスタル”、世界と世界を繋ぐ、鍵のかかった扉さ」

 それは電脳暦の人類が開けたパンドラの箱。 VRを始めとする数々のオーバーテクノジーの起源。 電脳暦84年、地球圏を支配していた企業国家“ダイナテック・ノヴァ社(DN社)”が月に人類起源ではない建造物と、その最深部にある正体不明の結晶体を発見した。 それが月面遺跡“ムーンゲート”と“Vクリスタル”である。
 調査が進む内に、Vクリスタルは発見当初、現場作業員に頻発していた精神干渉作用(バーチャロン現象)を引き起こす他、通常空間と異なる異空間“電脳虚数空間”とを繋ぐ門の役割を担うことがわかった。
 更に遺跡内を探索していたチームが巨大ロボットの頭部と思われる構造体を発見。 バルバスバウユニットと名付けられたそのユニットから得られた数々のオーバーテクノロジーを用いて、人型戦闘兵器“バーチャロイド”が誕生することになる。

「クリスタルの活性値も高くはないみたいだし、一度降りてみようか」

 Vクリスタルの活性値が精神干渉を及ぼさないレベルだと確認した後、マイザーナブラの胸部ハッチが静かに開き、パイロットスーツと宇宙用のHMDを身に纏うケイイチが遺跡の地面に降り立つ。
  こちらに向けて手招きする彼を見て、武も恐る恐る地球の1/6の重力が掛る地面へと降りる。 そしてケイイチと共に、Vクリスタルが肉眼ではっきりと見えるところまで辿り着いた。
 その中へと吸い込まれそうなほど透き通った輝きを見せるクリスタルに手をやりながら、ケイイチの口が開く。

「『次元のトンネルとも言えるCISを通じて、Vクリスタルはこの世界とは違う並行世界への扉を開く』 この言葉はダイモン戦役後、第8プラント総帥リリン・プラジナーと第4プラント総帥アンベルⅣ、対立していた2人のリーダーが改めて世に提唱した理論さ」
「それじゃあ、俺は前の世界に・・・」
「勿論。 しかも前の世界どころか、君が居た元の世界に帰る事だって可能だよ。 ただしそれを実現するにはVクリスタルの活性度を制御する存在、“時空因果律制御機構『タングラム』”が必要なんだ」

 時空因果律制御機構『タングラム』。Vクリスタルと共鳴して無数にある並行世界から様々な因果を取り込み、個人レベルでの運命をも自在に変えてしまう唯一無二の存在。 創造主であるリリン・プラジナーの手によって自我を植え付けられて間もない頃にCISへ放逐され、MARZの手によってダイモンの手から解放された後も人類の行く末を見届けている。
 この期に及んで何故タングラムが人類に協力を申し出る様になったのかはケイイチにも確たる予測は出来なかったが、プラントからの協力がなければ武が居た“前の世界”へ送り返すことは不可能だ。 自分等の裏で各プラント勢力が動いている事を感じながら、ケイイチは遺跡内を眺めている武に声を掛ける。

「いつ活性が起こるかわからないし、そろそろここから退散しようか」
「はい! ん・・・?」

 ケイイチに呼ばれ、自分の機体へ戻ろうとしたその時、武は通路の隅に光る何かを見つける。 手に取って見ると、大きさこそ手のひら大に収まるサイズだが、形はVクリスタルのそれと同じだ。 すぐさま武はケイイチに報告。 すでにVRに乗っていたケイイチは、センサー越しに武と彼の手にあるクリスタルを確認する。

「コレはまた、すごい物を見つけたね・・・」
「そんなにヤバい物なんですか?」
「ヤバいも何も、君が手に持っているのはVクリスタルだよ。 まあそれ位の大きさなら精神干渉のレベルも強くは無さそうだし、何かに使えそうだから持って帰ろうか」
「え、ええ・・・」

 そう話すケイイチに、武は本当に大丈夫なのかと少々不安になる。 とはいえ持っていて気分が悪くなったわけではないので、ここは彼の言う事を信じながら陣武へ戻り、武達の母艦となる最新鋭の特装艦『フィルノート』へ戻って行った。


―役者はそろった、リハーサルも終えた。 舞台と小道具も準備して、後は役者の演技次第。 ―
―さあ、もうひとつの“あいとゆうきのおとぎばなし”の始まりだ・・・―

第5話へ続く・・・



[2970] 第5話-来訪-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2010/01/28 11:22
・ 西暦2001年5月 AM6:31 日本帝国 国連軍横浜基地 B19フロア


「はぁ・・・ この基地に来て未だに進展無し、私もヤキが回ったわね・・・」

 電脳暦ではない何処かの世界、薄暗い地下深くにある研究室、そこで一人の女性が宿題に詰まった子供のように愚痴をこぼす。 彼女の名は香月夕呼。 この国連軍横浜基地の副指令であり、同基地で進められている極秘計画『オルタネイティヴⅣ』の最高責任者でもある。

「(アラスカで実戦テストが行われる予定の新型武器も、所詮はお遊び程度だからねぇ・・・)」

 そう思いながら、夕呼は机の上に置いてある温くなったコーヒーを啜る。約束の期限が迫る中、彼女に残された時間は余りに少ない。 そして、人類全体に残された時間も・・・

「ん・・・? おかしいわねぇ、故障かしら?」

 そんな事を考えながら机に寝そべりながら、ふと夕呼は目の前にあるコンピューターのモニターの異変に気が付く。 そのモニターにはG弾が残した重力偏重を観測したデータが映し出されていたのだが、数値の急激な変化を見せた事に夕呼は衝動を抑えきれないまま自身の感想を声にした。

「いや、この反応は・・・まさか!?」

 夕呼が見つけた時空の歪み。 それは電脳暦世界からやって来た艦隊が、この世界にやって来た瞬間を捉えた物であった。


・ 同時刻 地球軌道上


 太陽の光に照らされて青く輝く地球、その後ろには無限の星の海が広大に広がっている。 その一角が突如として光に覆われ、円状に広がって行く。 そして一瞬の閃光の後、その光の穴から数隻の艦艇が現れる。 孝弘たちを乗せた艦隊が、電脳暦世界からやって来たのだ。
 先鋒を務める国連軍所属の特装艦『フィルノート』のブリッジにて、ケイイチは旅行先に辿り着いた子供のように興奮する。

「CIS(電脳虚数空間)を抜けた! 苗村君、無事に通り抜けたよ!」
「無事も何もケイイチ君、あのゲートはプラントの連中とタングラムが開けてくれたんだろ?」
「あはは~、そういえばそうだったね・・・」
「はぁ・・・一応ケイイチ君は国連軍代表なんだから、しっかりしてくれよ?」

 ため息混じりに忠告する孝弘に対し、興奮から覚めたケイイチは照れ笑いを浮かべて誤魔化す。国連本部からの通達がケイイチに届いて更に一週間、電脳暦世界の誰より先に“こちらの世界”の人類にファーストコンタクトを取る為、タングラムが生成したゲートを越えてこの世界へやって来たのだ。
 慌ててブリッジに駆け込み、目の前に浮かぶ青き星を見た武が呟く。

「帰ってきたのか・・・」
「ああ、タングラムの選んだ通路が正しければ、俺達はお前が居た“前の世界”の西暦2001年5月前後に辿り着いているはずだ」
「5月だって!? 俺が飛ばされた時より5ヶ月前って事か」
「そしてシロガネ准尉、君の存在がこの世界にとっても、我々にとっても切り札という事を忘れないでほしい」

 後ろから聞こえた声に武が反応し、振り返った先にはいかにも堅物な軍人という雰囲気を漂わせる男が艦長席に座っている。

「私がこのフィルノートの艦長、シュバルツ・クーゲベルクだ。 このような事態につき合わせて、すまないと思っている」
「いえ! こちらこそ准将殿を始め、異世界の皆さんが協力してくれる事に感謝いたします!」
「ふふふ。 そう言ってくれると、私も艦長としてやりがいがあるという物だ。 よろしく頼むぞ、異世界の旅人よ」
「はっ!」

 敬礼する武に、先ほどの強面な表情とは一転、クーゲベルクは笑顔で静かに頷く。 異世界とのファーストコンタクト、そして武にとって2度目の戦いが始まろうとしていた。


2001年5月某日0646:軌道上で作業中の“箱舟”建造チームが所属不明の艦隊を発見。 2機の戦術機らしき機影が地球へ降下していくのを確認。
同日0659:落下予想地点は国連軍横浜基地と断定。 横浜基地にデフコン1発令。


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう -
#5来訪


・ AM6:47 日本帝国 国連軍横浜基地 中央司令室


「指令、遅くなりました」
「おお、待っていたぞ香月副指令」

 管制官やオペレーター達が忙しなく動き回る横浜基地の心臓部、基地指令であるパウル・ラダビノッドが声をかけた先に、息を切らしながら司令室に入る夕呼の姿があった。

「ピアティフ中尉、現在の状況は?」
「目標は大気圏を突入中、落下コースは依然として変化ありません」
「(ふぅん・・・ どうやらココに落ちてくる物体は、ただの隕石じゃないみたいね)」

 専属オペレーターであるイリーナ・ピアティフの説明を受けた後、この横浜基地に落ちてくる物体の正体を、夕呼は必死で模索する。
 老朽化した人工衛星の落下? あるいは地球外に存在するBETAが放った新たな巣“ハイヴ”のコア? それとも抵抗勢力による差し金か?
いや、どれも違う。 ほんの数秒に渡る思考の末、あらゆる可能性を浮かび上がらせた夕呼の脳が出した結論がこれだ。
 じゃあアレは何だ? 大気圏を突破し、この基地に目掛けて真っ直ぐに落ちてくる2つの物体は?

「どちらにせよ指令、ここに落ちて被害が出る前にあれを迎撃する必要がありますわね」
「うむ、基地にデフコン1発令! 戦術機部隊は即時スクランブル、直ちに迎撃体勢に入れ!!」

 ラダビノッドの号令の後、けたたましいサイレンが鳴り響き、司令室を含む基地全体が祭りの準備のように忙しくなる。 極東エリアの防衛を一手に担う横浜基地総出による出迎えの準備がされている事を、当の孝弘、ケイイチ、武の3人は知る由も無かった。


・ 同時刻 横浜基地上空


「さあ二人とも、もう直ぐ大気圏を抜けるよ!」
「耐えろ白銀ぇぇ! あと少しだぁぁ!」
「はいぃぃ・・・っ!」

 大気圏を突破し、減速を続けるケイイチの乗るマイザーナブラ、そして孝弘と武が乗り込む叢雲が、大気と言う床に敷かれた雲の絨毯を物凄い勢いで突き抜けて行く。 いくら慣性制御が使えるからと言って、Vコンバーターの負荷軽減の為に多様は出来ない。
 それに、来たばかりの“この世界”で何が待ち構えているか分からない、いかなる自体に対応するべく戦力を抑える必要がある。 高度と速度を確認したケイイチが、合図を出すべく腹の底から力を込めて声を出す。

「苗村君、白銀君! 後は・・・君達の仕事だ!」
「了解! 行くぞ白銀ぇ!!」
「はいっ!」

 再突入ユニットとして役目を果たしていたマイザーナブラを離れ、排除された耐熱ユニット共に降下を始める孝弘と武。 各部のスラスターによる逆噴射を断続的に行い、更なる減速を続けながら、横浜基地へと降下する。

「建物が見えた! さあ、現地の人型兵器がお出迎えだ!」
「あれは、戦術機・・・!」

 鼓膜を突き破らんとする孝弘の怒号に、武は基地からVRと同じ人型のシルエットをした機体がこちらに向かっている事に気付く。 それは彼が乗り親しんでいた機体である“戦術歩行戦闘機”略して戦術機と呼ばれる人型兵器だった。
 迎撃に上がったF-4 ファントム4機が手にする36ミリライフルから、次々と劣化ウラン弾のシャワーを2人に向けて浴びせてくる。

「絡まれる前に、一気に基地に向うぞ!」

 孝弘は自由落下に加えてブーストを噴射、最大加速で4機のF4達をすり抜け、数多くの対空火器が待ち構える横浜基地へ向かって滑り込む。

『な・・・何だあの速さは!? うわああっ!』
『ガルーダ4! HQへ、所属不明機(アンノウン)がそっちに行ったぞ!』

 司令部への報告もつかの間、先頭を取っていた1機のF4がすれ違い様に頭部と武器を撃ち抜かれる。 僚機達がそのフォローを行う隙を突いて、孝弘は地上に群がる戦術機部隊に向ってライフルを向けながら、基地の正門前に着地する。

「うわあああっ! なんだこりゃああああっ!?」
「あんな緑色した戦術機、見たこと無いぞ!? 何がどうなってるんだああああっ!?」

 着地点に居た門番2人が驚きの声を上げる中、孝弘は外部スピーカーをオンにして言い放った。

「香月博士は居るか? 居るなら彼女に地球を救う“切り札”を持って来たと伝えろ!」


「(一体どういうつもり!? 名指しで私を呼び付けるなんて・・・!)」

 突如として現れた緑色の戦術機の言葉に、横浜基地は時間が止まったかのように静まり返る。

―軌道上に現れた所属不明の宇宙艦隊
―同時に横浜基地に降下してくる隕石らしき物体
―そして今、目の前に居る緑色のカラーリングが目を引く謎の機体

 “要因”という名の糸切れが複雑に絡み合い、“確信”という1本に纏った糸が夕呼の中で紡がれる。 その糸が綻びる前に、夕呼はピアティフに指示を出す。

「ピアティフ中尉、急いで外部放送に繋いで」
「副指令、大丈夫なのかね?」
「奴の狙いは私です。 それに彼とコンタクトを取れば、彼が言った通り本当に『地球を救う“切り札”』が手に入るかもしれませんわ」
「背に腹は代えられんか・・・ 良いだろう、」

 度量の大きいラダビノッドに礼を告げた後、夕呼は基地全てのスピーカーに繋がっているインカムに向って口を開いた。

『こちらは国連軍横浜基地副指令、香月夕呼よ。 聞こえていないとは言わせないわよ、緑色の戦術機のパイロット』
「(おっ、本人自らご登場とはね・・・)こちらは機動自衛隊所属、苗村孝弘三佐です」

 互いに聞き慣れない言葉を耳にしつつも、会話を続ける孝弘と夕呼。 下手をすれば一触即発の状態の中、次の一手を決めたのは夕呼だった。

『それで本当なのかしら? 地球を救う“切り札”を持って来たって言うのは』
「本当ですよ。 ただしそれを持っているのは俺ではありません」
『はぁ? どういう意味よ』
「とりあえず、出迎えの連中を下げてくれませんか? 続きはそれからお話します」

 夕呼の基地内放送によって撤収する戦術機や兵士達の姿を確認した後、ケイイチと武に交渉成功の報告を送る孝弘。 「とりあえず橋頭堡は確保」と、シートにもたれかかる孝弘は心の中でそう呟いた。


・ AM8:04 横浜基地 正門前


「・・・その話、本当なの?」
「本当ですよ 12月24日、それが夕呼先生に課せられた『オルタネイティヴⅣ計画』完成までの期限です」

 孝弘と地上へ合流したケイイチ、そして“前の世界”で武を拘束した門番2人が見守る中、武は正面ゲートまで赴いた夕呼に、“前の世界”で体験してきた全てを語る。 自分らが原因である先の騒動も、『戦術機による奇襲におけるスクランブル訓練』であると彼女がラダビノットに説明した事で事態の収拾を図った。
 だが今は武の証言以上に、夕呼は彼の連れである2人が持ってきた土産に興味を引いていた。

「はぁ・・・あたしは教え子を持った記憶は無いんだけどね。 ケイイチ・サギサワ、それに苗村孝弘だっけ? あんた達が持ってきたこのデータ、何時何処で手に入れたの?」

 半信半疑で武から手渡されたディスクをぴろぴろと仰ぐ夕呼に、ケイイチは自分達の世界で起こったある事件について話し出す。

「僕らの世界における丁度2週間前の事です、火星のエリシウム平原に“この世界”に多数存在している化け物どもの巣が突如出現しました。 そのデータは、占領後の巣からプラント技術陣が収集した物です」
「へぇ~、BETAがあんた達の世界にも現れたって言うの?」
「BETA、それがこいつらの名前ですか・・・」
「そうよ。 現在も人類・・・いや、地球そのものを貪り尽くそうとしているわ」

 そして夕呼は、孝弘とケイイチの二人に“この世界”の歴史について語り始めた。

 西暦1944年、大日本帝国 連合国に対し降服。 第二次世界大戦は終結し、広島・長崎にも原爆が投下される事は無かった。 この出来事は孝弘達のいる電脳暦以前の時代や、武が居た“元の世界”の歴史と比べて一番大きな相違点だ。 そしてこの後、人類最大最悪の出会いが始まる・・・
 1958年、探査機を送り込んだ火星にて生物らしき影を撮影。 更に翌年には月に建設中の高級月面基地『プラトー1』が火星で確認された物と同じ地球外生命体と遭遇、戦闘に入る。 これが後に“サクロボスコ事件”と呼ばれる、人類と地球外生命体との戦争の始まりだった。 この事件の後、それらは“人類に敵対的な地球外起源生命体”の略称である“BETA”と呼ばれるようになる。
 1973年、中国のウイグル自治区の町カシュガルに、BETAの拠点ユニットである『ハイヴ』が落着。 以降、そこから湧き出すように拡散したBETAは中ソ連合軍による核攻撃を物ともせずにユーラシア大陸に拡散、その侵略エリアを急速に広げて行く。
 1998年、BETAの圧倒的物量を前に後手後手の対応しか出来ない人類側は、対に日本上陸を許してしまう。 僅か一週間足らずという驚異的なスピードで、帝国の首都である京都を含む近畿地方まで侵攻し、日本人口の1/3を飲み込んだ。 そして、この時点における世界人口は10億程度に激減している。
1999年、BETAの魔の手が遷都先の東京まで及ぼうとしていた矢先、帝国と米軍を中心とした国連軍が本州奪還作戦である『明星作戦』を決行。 建設途中であった『横浜ハイヴ』に対し米軍が開発し特殊爆弾であるG弾を投下し、からくも勝利を収める事が出来たのだった。

「とまあ、大雑把に話すとこんな感じかしら? メガネ君以外の2人は、情報の量に頭が混乱しているみたいだけどね」
「ええ、おおよそ検討は着きました。 後、メガネは余計です」

 概要を話し終えた夕呼の言葉に対し、トレードマークであるメガネのズレを直しながらケイイチが頷く。 その後ろでは武と孝弘の2人が、頭から湯気を立ててうなり続けていた。
 足組みを変えながら、夕呼はケイイチ達にこの世界に来た目的を問う。

「で、あんた達がこの世界に来た理由は何? まさかそこの白銀を連れてくる為だけにここに来た訳じゃないでしょう?」
「確かに白銀君を連れてくる為というのは当たっています。 ですが香月博士、それは目的の内の2割にも入りません」
「じゃあ、何だって言うのよ?」

 夕呼の鋭い視線が注がれる中、メガネから鋭い光を放ちながらケイイチは答える。

「僕らの目的は『異世界を越えた侵略に対する対応策の構築』、そして『白銀君が並行世界を渡る事になった理由の調査』です。 その為にはこの世界で“平行世界”の概念を理解している、香月博士の協力が必要不可欠。 ですから、我々もあなたに最大限のサポートをするつもりです」
「ふ~ん、私達の代わりにBETAを殲滅させてくれるとでも? アンタたちの世界(トコロ)は知らないけれど、この世界の国連はタダの一枚岩の組織じゃないわよ」
「それは承知の上です、そして『我々と香月博士の活動を妨害する全ての存在』に対しても、同様の対応を取らせていただきます」

 そう夕呼に告げたケイイチは懐に忍ばせていた通信機を取り出し、送信ボタンを押す。 無論、夕呼はそれを見逃すはずが無く、鋭い眼光でケイイチを睨みながら、ケイイチにそれを問う。

「あんた、今何をしたの?」
「宇宙(うえ)で待機している仲間への合図ですよ。 ここは博士に1つ、貸しでも作ろうかと思います」
「貸しって・・・まさかアンタ達!?」

 自信に満ち溢れたケイイチの言葉と、彼らがこれから何をするか瞬間的に悟る夕呼。 “前の世界”でも見せた事が無い夕呼の驚き様に、武は思わず息を呑む。

「そのまさかですよ博士。 手始めに、我々の手でハイヴの1つを制圧して見せましょう」

 そう告げた後、彼女に負けず劣らずの不敵な笑みを見せるケイイチ。 そして、夕呼がピアティフ中尉からの緊急報告を聞かされることになるのは、その直後の事だった。

2001年5月某日0815時:軌道上の移民船建造チームが、更なる大規模な艦隊を確認。
0836時:未確認艦隊、地球へ降下。 予想地点はフランス、リヨンと推定。
0908時:フランス、リヨン近郊に降下した未確認艦隊、降下と同時にまた未確認の人型兵器を排出。 同地点に存在する甲12号目標『リヨンハイヴ』に向けて進撃を開始。

―そして、異星の怪物に蝕まれる異界の地球に、鋼の電脳騎兵が舞い降りる・・・―


第6話に続く・・・



[2970] 第6話-反撃-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2010/01/28 14:03
・ AM9:15 横浜基地 中央司令室


「未確認部隊は甲12号目標に向けフランス領土を依然東進中、母艦と思われる艦隊は大西洋で待機中!」
「現地部隊の通信に全く応じず、かなりの混乱が生じています!」

 突然の武達の来訪、ケイイチによるハイヴ撃滅宣言とユーラシアに舞い降りた未確認の軍団。 更に舞い込んできた複数の事態に夕呼を始め、情報が錯綜する基地の司令室には朝から怒号とオペレーターの報告が絶えず飛び交っていた。

「先程の演習といい、今日は何かと忙しい日だな副指令」
「そうですわね。 ひょっとしたら彼らのお陰で、地球上からハイヴが1つ消えるかもしれませんわ」

 隣に居るラダビノッドにそんな愛想を付いてみるものの、夕呼は一抹の不安が拭えないでいた。 本来ならすぐさま自分のラボへとんぼ返りして、ケイイチの首を締め上げてでも事の詳細を吐かせたいつもりでいた。
 だが当人であるケイイチは詳細を言おうともせず、そうこうしている内に司令部へ召集され、こうして苛立ちを抑えながら司令室に立っているのである。

「(本気でハイヴ一つ潰す気みたいね、あのメガネ。 いいじゃない、同類のよしみでこの喧嘩買ってあげようじゃないの・・・!)」

ケイイチも自分と同じ“破天荒とかを超越した研究者”であると悟ると、夕呼は野心に満ちた表情で戦域モニターを見つめていた。


・ 同時刻 B19フロア 香月ラボ


「大丈夫なんですかケイイチさん! ハイヴを潰すなんて、そんな大それた事を夕呼先生に言っちゃって・・・」
「そうだぞケイイチ君。 白銀の言うとおり、本当に大丈夫なのか?」

 あれから門番2人に拘束され、夕呼の手によって彼女のラボへと缶詰状態にされた孝弘、ケイイチ、そして武の三人。 自分らの行動が本当に正しかったのかと疑問に感じる武に、ケイイチは落ち着いた口調で話しかける。

「そう心配する事は無いよ白銀君。 僕らの世界にやって来たBETAの研究解析は、こうしている間にも続いている。 そのデータは今来た派遣部隊にも行き渡っているだろうし、降下直前に現地部隊に対してハッキングに成功したそうだからね」
「は、ハッキングだって!? 夕呼先生に内緒でそんな事して、大丈夫なのか・・・」 
「おいおい白銀君、僕らの世界の科学技術を今まで見ていないなんて言わないだろうね?」

 そんな武の心配をせせら笑いつつ、ケイイチは何処からか取り出した自前の携帯端末を、先程の通信機を接続させながら話を続ける。

「彼らの網に引っ掛かるどころか、痕跡も残さず根こそぎデータを奪う事だって可能だよ。 この世界の技術は中々の進み具合だけど、電脳暦の物と比べると文字通り『10年早い』ね!」
「そういった事に関しては、ケイイチ君は本当に厳しいなぁ。 それで、増援の連中がハイヴを潰せる確立は?」
「100%確定だね。 さて、僕らの力がどのくらいの物なのか、夕呼博士にご披露してあげようじゃないか!」

 自信に満ちた宣言と共に、エンターキーを叩くケイイチ。 モニターには増援部隊であるDNA・RNA合同特別派遣隊の中継映像が映し出されていた。


― マブラヴ 壊れかけたドアの向こう ―
#6 反撃


・ AM9:42 フランス 旧ボルドー市郊外


「敵前衛、依然として時速80で距離10000まで接近!」
「全機、兵器使用自由。 フロントライン全機、突撃体制でスタンバイ!」

 一面が荒野と化したユーラシアの大地を、赤褐色のカラーリングをした人型兵器達が列を成して進む。 だが、それらはこの世界で活躍する“戦術機”と呼ばれる人型兵器ではない。
 VR(バーチャロイド)、電脳暦で実用化され、限定戦争と呼ばれる終わりなき宴の為に生まれた人型兵器。 先鋒であるケイイチの連絡によってやって来た戦闘興業組織『DNA』・『RNA』に所属するVR部隊が、BETAによって荒野に変わり果てたフランスの大地を疾駆する。
 斥候を努める1機のRNA所属のVR、RVR-30 アファームド・ジ・アタッカーが、ついに醜悪極まりない奴らの姿を捉えた。

「敵前衛、目視で確認! ハッキングしたデータより、種類は突撃級BETA『ルイタウラ』と断定!」
「よし! DNAの連中の砲撃を合図にフロントラインは突撃開始! セカンドラインはフロントの援護と撃ち漏らしの片づけだ!」

 指揮官の言葉を胸に、部下達はそれぞれの戦いに供える。 そして後方から湧き起こる轟音と砲弾が自分らの上を追い越した瞬間、指揮官は叫んだ。

「馬鹿に数が多いが食われるな!食い尽くせ! 久しぶりの大宴会だ、思う存分平らげろ!!」
『了解!!』

 合図と共に、RVR-68 ドルドレイが左腕のドリルを構え、高出力の防護フィールドを纏わせて突撃。 超回転により金色の粒子を撒き散らすそのドリルは戦車砲を弾き返す突撃級の外殻を易々と貫き、突撃時の加速に物を言わせて奥に群れ成す要撃級BETA『メデューム』をボロ雑巾のように引き裂き、その下に無数に蠢く戦車級BETA『エクウス・ペディス』を轢き潰しながら仲間達の進路を確保する。

「突入成功! 前衛のBETAはほぼ壊滅状態です!」
「フロントはそのまま突撃を続行! さあ野郎共、食べ残しの後始末だ!」

 オゾン臭が漂うビームの放火と、それらに穿たれたBETAの肉片が焼け焦げる香ばしい匂いが辺りを包む。 押し寄せる何千何万のBETAを本当に食べるかの如く、RNAの猛攻は続いた。


・ AM10:08 横浜基地B19フロア 香月ラボ


「うん、今の所は順調みたいだね」
「凄え・・・BETAがゴミみてーに倒されて行く・・・」
「あそこにいる人達は皆、伊達に鉄火場は踏んでいない猛者だよ。 相手がエイリアンだろうと構わず戦う。 DNAとRNA両軍共に、そういう人選を行ったはずだからね」

 モニター越しに繰り広げられるVRとBETAの戦い、それを目の当たりにして興奮が武は抑えきれず、ケイイチは彼の様子を見てニコニコと笑みを浮かべるばかり。
 だが一人だけ、孝弘だけがこの状況を完全に受け入れずにいた。 “友達”ではなく“同僚”の口調に切り替え、孝弘はケイイチに話しかける。
「本当に大丈夫なのか? ケイイチ君」
「何がだい?」
「香月博士とのコンタクト、本来は武1人で行うべきじゃなかったのか? それに、今ヨーロッパでやっているDNA・RNA連合軍も、本当に勝てるんだろうな?」
「『最悪の事態を考慮し、それを回避するべく行動する』、軍人と、空気の読める政治家の常磐文句だね。 だが僕は軍人の前に一技術者だ、自分の理論と技術には絶対の自信がある。
 それに、今回のコンタクトと攻略作戦は、国連とプラントの総意で決められたんだ。 もう僕一人でどうこう決められるわけじゃないよ」

 そう答えるケイイチが見せた、悲しみと後ろめたさが混じる微笑み。 メガネの奥から発せられる視線を受け取った孝弘は、それ以上問いかける事を止めた。 彼もただ笑っていられない立場に存在し、部下や仲間の為に苦悩したであろう事を感じたからだ。
 それでもケイイチに抱く疑念は晴れず、孝弘は残るハイヴ攻略について再び問いかける。

「分かったよ・・・ それはそれとして、作戦の方は大丈夫なんだろうな?」
「成功率100%って言ったはずだよ? 今頃、上の司令部では大騒ぎになっているだろうね」


・ 同時刻 横浜基地司令室


「未確認部隊、BETAと接敵! も・・・物凄い勢いで押し進んでいます!」
「後方に待機していた別の部隊も移動を開始しました! 凄い速度です!」

 ケイイチの予想は的中し、VRの活躍に横浜基地の司令室は再びお祭り騒ぎの様相を呈していた。 その中で夕呼は、見慣れない機体達が持つ武装、そして驚異的ともいえる移動速度に注目していた。

「(あの機体の移動速度、戦術機じゃ到底出せないレベルね。 それに武装も、あたし達の科学レベルを数段越えてるじゃない・・・!)」

 やはりケイイチの言うとおり本当に異世界から来たと言うのか、そんな考えばかりが何度も夕呼の頭の中を駆け巡る。 そして彼女が気付いた時、無意識なのかそれとも本能か、出入り口の方へ足を運んでいた。 それに気付いたラダビノッドが、司令室を出る寸での所で彼女に声をかける。

「待ちたまえ副指令、どこへ行くのかね?」
「ええ、ちょっと私の研究室へ。 彼らの秘密が分かるかもしれない鍵を、うっかり置いて来てしまいましたわ」

ラダビノッドの制止を振り切り、そのまま夕呼は自分のラボへと直行した。


「それは、僕らの貸しを受け入れると言うわけですね?」
「そうよ。 だから今すぐ、あの人型兵器について教えなさい!」

 武と孝弘が見守る中、鬼の形相をして戻ってきた夕呼がケイイチに問い詰める声が研究室内に響き渡る。 あの人型の秘密は間違いなくケイイチが握っているという確信があるせいか、その口調と態度は先程のケイイチに負けず劣らずの物となっていた。 困り顔を見せながら、ケイイチが言い返す。

「はぁ・・・白銀君や苗村君も居るのに、どうして僕が?」
「アンタが一番効率的だからよ! 他の2人に一から説明させていたら日が暮れちゃうわ!」
「「そ、それはごもっともで・・・」」
「(確かに、俺達の中でVRの事を詳しく他人に話せるのはケイイチ君しか居ないからなぁ・・・)」
「(うんうん。 電脳暦の世界に来てまだ日が浅い俺に、アレを先生に説明しろって言うのが無茶な話だよ・・・)」

 自分達はそんな目で彼女に見られていたのかと、武と孝弘の2人は肩を落として落ち込む。 そうしている内に2人の話は進み、手持ちのデータを夕呼に渡しながらケイイチはVRの基本概念を説明する。
 依然としてモニターには、襲い来るBETAの群れを食い尽くす様に圧倒しているVR達の姿があった。

「ライブ映像を見て分かると思いますが、VRの特性の1つに“慣性制御”と言う物があります。 つまり、一瞬で最高速に到達し、その逆で最高速からの急停止も可能なんです。」
「はぁ!? そんな事をしたら、中に乗ってる人間がミンチになるじゃない!」
「確かに通常兵器でそれを行えばそうなるでしょうね。 ですがVRの場合、コクピットを包むように展開される“ゲートフィールド”と呼ばれるフィールドで保護されている事で、容易に実現出来るんですよ」
「まあ、中には重力制御で浮遊移動したり、飛行も出来る機体もあるからな」

 それが当たり前と言わんばかりに話すケイイチと孝弘に、夕呼は言葉を失う。 こちらの世界では研究もろくに進まない慣性制御や重力制御というテクノロジーを、電脳暦の世界では用意に使用できると言うのだ。
 そして次々にケイイチの口から語られるVRの基礎特性は、あらゆる意味で夕呼を大いに震え上がらせる物だった。

―人間の精神力を原動力に、文字通り人馬一体のレスポンスを発揮するOS『MSBS』―
―弾薬補給無しに射撃が出来る光学兵器を始めとする、化け物じみた火力を誇る兵装―
―そして無尽蔵のエネルギーと“実存力”をもたらすVRの心臓部『Vコンバーター』―

 地球上に居るBETAを一掃し、かつこの世界の軍隊を簡単に捻り潰せるだけの戦力を持っている。 自分達の持つ力にそう結論付けたケイイチの言葉に、夕呼はこの星の運命を掛けた大博打をしようと決意した。


「フロントラインがハイヴ入り口まで1000を切ったぞ!」
「ハイヴ突入一番乗りはもらった、続けーっ!」

 前方から次々に押し寄せてくる突撃級や要撃級を押しのけ、Vコンバーターから甲高い駆動音を轟かせながらハイヴに向かうRNAのVR達。 後方からは追い付いたDNAのVR、SAV-326-D/9 グリス・ボック達がミサイルの雨を降らし、バリエーション機であるSBV-328-B シュタイン・ボックの部隊がRNAを援護するため前面に躍り出て、8問のビーム砲で戦車級が群がる地面を耕す。
 その内の1機が、RNAスコードロンのリーダー機に声を掛ける。

「小さい奴は俺達と後ろに任せて早く行け!」
「了解した、貴官らの援護感謝する!」

 RNAの代表として敬礼を送った後、掃射を再会するシュタイン・ボックを背にコマンダーが前進する。 そして本日3回目になる砲撃支援に向かって、地上から生えて来た光の束が突き刺さる。 その光景に戦場にいる全ての兵士、そしてそれを見守る横浜基地の面々が息を呑んだ。
 ついに一番厄介なタイプのBETAが姿を現したか、スコードロンの隊長は眼前に聳え立つ異形の塔を見ながら唇を噛み締める。

「なんて命中率だ、ミサイルだけではなく、砲弾も打ち落とすとは・・・!」
「支援砲撃は全弾撃墜! サイドウイングから光線属種を確認したとの報告入りました」
「先行するフロントラインに連絡! 急いで奴らを片付けさせろ!」

 そう命じながら、部下を引き連れてフルスロットルでBETAの群れの中へ突入。 無数に襲い掛かる戦車級をR-21 ガンランチャーで掃除し、続いて殴りかかる要撃級をマチェットで切り裂く。
 そして肉塊で出来た壁を掻き分けた先には、右腕のクローランチャーの火炎放射で光線級BETA『ルクス』と重光線級BETA『マグヌス・ルクス』を炙るドルドレイの姿があった。

「急げ!奴らがエネルギーをチャージしている間に全部仕留めるんだ!」
「了解! 小隊長、目玉焼きは半熟で?」
「黒コゲでもいい! とにかく焼いちまえ!」

 重光線級を焼き払うドルドレイ達に檄を飛ばした直後、自分も追い付いて来た機体と共にありったけの弾丸を撃ちまくる。 火炎放射の熱風が当たりに立ち込め、倒されたBETAの肉片と死骸が辺りに散在する。
 だが30秒足らずの再チャージ時間までに全滅させる事は出来ず、光線属種の再照射を許してしまった1機のドルドレイがレーザーの照射の洗礼を受ける。 巻き上げられた粉塵の影響で機影は見えず、横浜基地の司令部に絶望的な空気が漂う。 しかし・・・

「何だ? そんな程度か?」

 もうもうと上がる土煙の中から聞こえてきた人の声に、夕呼はもとより司令室にいた全ての者が言葉を失った。 戦術機を容易く蒸発させる程のエネルギー量を持った光粒子の濁流の直撃を受けても、このカニような機体はピンピンしているのだから。
 そして右腕のクローアームが重光線級の照射膜を掴んで火炎放射、ゆっくり時間を掛けてローストに仕立てる。 更に左腕のドリルを発射し、レーザー照射を終えた他の重光線級を挽肉に変えた。

「俺のドルドレイに傷付けやがって・・・ 死んで詫び入れろやコンチクショー!!」

 機体を汚されたパイロットの怒りの叫びと共に、ムクムクと巨大化するドルドレイ。 ライデンのレーザーにも耐え切る超重装甲を生み出すVコンバーターのエネルギーは、このような芸当も可能なのだ。
 そのまま怒りに任せて大暴れする彼を見た僚機のドルドレイ達も次々に巨大化、勢いに任せて光線属種は数分もしないうちに根絶やしとなる。

「司令部から連絡が来た! DNAの連中がでかい花火をぶち込むぞ!」
「了解! あの様子ならフロントの奴らは心配する必要は無いですね」
「来たっ!」
「聞いてのとおりだ、全機衝撃と爆風に備えろ!」

 コマンダーのパイロットが僚機に伝えた後、後方のグリス・ボック隊から放たれたICBMの群れが、地上にそびえ立つハイヴの地表構造物へ一直線に飛ぶ。 ドルドレイ隊が散々暴れまわってくれたお陰で光線属種のレーザーに撃墜される心配は消え、飛行能力を持たないBETAにはあれを落とす手立ては無い。
 そして、この不思議な戦いに見入られた全ての人々が見守る中、リヨンハイヴが炸裂する光の渦に飲み込まれていった。


・ PM17:25 横浜基地 B19フロア 香月ラボ


「先程母艦から連絡がありました。 敵ハイヴの反応炉破壊に成功したようです」
「あっそう。 まあ、とりあえずおめでとうと言っておこうかしら」
「あれ、以外に呆気無い返事ですね」
「あんな物見せられて今更驚く気力も無いわ、今頃上の司令室は宴会を始めている最中でしょうね。 はぁ・・・アンタたちのお陰で、余計やる事が増えちゃったじゃないの・・・」

 ケイイチからリヨンハイヴ制圧の報を聞き、そう愚痴をこぼした後に夕呼はラボの天井を見上げて大きく溜め息を吐く。 実際にリヨンハイヴ陥落の報は横浜基地のみならず世界中を駆け巡り、国連幹部や各国軍隊の人間を驚愕させた。
 だが夕呼だけはその事実に素直に喜べず、今後次々に接触して来るであろう異世界の住人達と、どう付き合うかという事を必死に考えていた。

「1つだけ質問させて。 ハイヴを落とした連中は、アンタ達と同じ所属なの?」
「今回ハイヴを攻略した部隊は、全て“プラント”と呼ばれる旧統治機関をスポンサーに、独自運営している組織の軍隊です。 更に言えば僕と白銀君は国連軍の所属ですが、苗村君は日本の自衛隊に所属しているんですよ」
「ジエータイ? まあこの世界の日本帝国軍と同じ組織だと思っておくわ」
「そう言って頂けると、説明する手間が省けて助かりますよ。 それにしても207訓練小隊の件、白銀君はともかく苗村君まで参加させちゃって大丈夫なんですか?」

話がひと段落着いたところで、ケイイチはこの場に居ない武と孝弘のことについて切り出す。
 夕呼の計らいにより、武と孝弘の2人は、豊富な軍隊経験を買われて副教官と言う形で同隊に配属される事になった。
 さらに、2人同様に『リーフ・ストライカーズ』メンバーも教官補佐として編入され、夕呼の盟友であり207訓練小隊の担当教官を務める神宮司まりも軍曹は苦い表情を見せたが、仮にも副指令である夕呼の命令には逆らえる訳も無く、渋々それを受け入れた。
 その時まりもが見せた表情を思い出しながら、夕呼はケイイチに話しかける。

「そんな心配する必要は無いんじゃない? 本人達は結構楽しんでいるみたいだしね~」
「そう上手くいきますかねぇ・・・」

 楽観的に話す夕呼に、あのときのまりもと同じ表情を浮かべるケイイチ。 そしてそれを見て笑いのツボを突いたのか、再び夕呼が笑い出すのだった。


2005時:母艦フィルノートが相模湾に降下、先行したケイイチら3人と合流。

翌日0502時:欧州国連軍がリヨンハイヴ完全陥落を確認、未確認部隊は中東方面へ移動。 アラビア海に展開している所を衛星写真で確認される。

0510時:アメリカ合衆国、未確認部隊に米軍に編入させようと交渉を持ちかけるも失敗。 2番手のソ連も同様の結果に終わる。


7話へ続く・・・



[2970] 第7話-変革-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2010/01/28 14:56
・ 2001年5月下旬 AM10:25 横浜基地 射撃演習場


「よし!御剣達は先に戻って銃の点検作業。 珠瀬、鎧衣! 次はお前達の番だ!」
「「はいっ!」」

 まりもの号令の後、射撃訓練を終え、銃の手入れに戻る御剣冥夜、榊千鶴、彩峰慧の3人。 彼女たち207B分隊メンバーは、武が居た“元の世界”において彼のクラスメイトとして存在し、“前の世界ではそのギャップに慣れるまでかなり苦労した。
 そんな中、まりも共に武は1人の訓練生に目を付けていた。 先日の射撃練習にて、驚異的な命中率を見せ付けた珠瀬壬姫の事である。

「珠瀬~、ちょっと良いか?」
「なんですか? 白銀准尉」
「お前は狙撃が得意なんだよな?」

 戦場で息を殺しながら身を潜め、目標を確実にしとめていく狙撃手は、敵に回すと厄介以外の何者でもない存在だ。 だが味方の場合は仲間達のピンチを救い、そこから活路を作り出す力がある。
 “元の世界”では弓道、“前の世界”では射撃技能に優れていた彼女が、この世界でも同じかどうか確かめようとする武の問いに、自身なさげに壬姫が答える。

「はい、射撃は皆さんの中で一番だって言われています」
「じゃあ珠瀬、あそこの標的をど真ん中で撃ち抜けるか?」

 そう言って武は、射撃場の一角へ指差す。 距離にして500メートル程の先に、人型を模した形状をする標的があった。

「どうだ珠瀬、やれるか?」
「・・・やってみます!」

 見ているこっちまで笑顔になりそうな明るい表情と返事を武に返した後、壬姫は黙々と狙撃の準備を始める。 銃の手入れを終えて戻ってきた冥夜達が見たのは、スコープを取り付けた突撃銃を構え、うつ伏せのまま微動だにしない壬姫の姿。
 準備を終えて狙いを定めていたその時、壬姫の隣に忍び寄る人物が1人。 突撃銃の銃身にそっと手を添えながら、その女性は壬姫に話しかける。
「ねえあなた、これを使ってみたら?」
「えっ?」

 そう言った女性―早峰美雪が抱えているのは、電脳暦世界でも現役で使われている対物狙撃銃M82『バーレット』。
 使用弾薬12.7ミリ×99弾、装弾数10発、全長144センチ、重量13キロを誇るこの銃は、テロ等の特殊任務において敵を超長距離から障害物ごと狙撃することを目的とした代物だ。

「狙いは必ず頭か心臓。 弾丸は1発しか入ってないから、しっかりね!」
「はいっ!」

 美雪のアドバイスと共に受け取ったバーレットの銃口を、標的の頭部に向けて壬姫はじっくりと狙いを定める。 そして腹にずしんと来る衝撃と、M82のマズルブレーキから激しく炎が噴き出し、周囲に砂煙が立ち込める。

「さすが壬姫さん! ど真ん中に命中だ!」
「(美琴の言うとおり、何時見ても凄いな。 “前の世界”で高高度から落下してくるHSSTもぶち抜くわけだぜ・・・!)」

 美琴の歓声に言葉を武も標的を確認すると、眉間の部分に丸い孔が開いていた。 イメージ通りの狙撃が成功した事に驚く壬姫に、再度美雪が笑顔で話しかける。

「ねっ、簡単でしょ?」


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#7 変革


 突然にして来訪した異世界“電脳暦”の人類、そして彼らが持つ兵器によるリヨンハイヴ殲滅の報は全世界を駆け巡った。 人々は来訪者が持つ力を敬い、恐れ、憧れ、感謝し、妬み。 彼らに対する興味の内容は人それぞれだったが、絶望に満ち溢れていたこの世界にとって、一筋の光となりうる存在だという共通の認識を抱いていた。
 そしてこの世界を訪れた電脳暦の人類もまた、異世界という新たな新天地に心躍らせていた。 その世界で発達している文明や技術に触れ、電脳暦世界に新たな繁栄を手に入れる。 これを狙ってプラントは勿論の事、各国家や巨大企業は我先にと異世界進出への動きを活発化させていた。
 そして、その橋頭堡に1番乗りした国連軍特務派遣部隊の面々の存在が、“この世界”の横浜基地に対し大きな変化を与えていた。


・ PM12:05 横浜基地 食堂


「不味い、ゲロ不味い。 いくら軍隊だからって、この味は無いだろ」
「贅沢言うな、俺達の居た世界とは全く違うんだから。 あんまりグチグチ言ってると、ほれ・・・」

 昼食の合成鯖ミソ定食に対し、愚痴をこぼしながらそれを口へと運ぶ佑哉。 それに付き合う孝弘は、箸でカウンターの方を指す。 そこにはこの横浜基地食堂の長であり、(ある意味で)この基地最強の肝っ玉母さん、京塚志津江臨時曹長が鬼の形相とオーラを立て佑哉を睨んでいた。
 BETAによる地球侵略により動植物が激減、このため人類は侵略による全滅より先に飢餓による滅亡を心配しなければならなくなり、そのための苦肉の策として編み出されたのが、今佑哉の食べている合成サバミソ定食を始めとする合成食料や培養野菜で作られた食事なのだ。
 京塚の怒りをこれ以上買わないよう、佑哉は小声で孝弘に話しかける。

「そう言われてもよ、こりゃカンメシやパックメシ(自衛隊におけるレーションの通称)のほうがマシだぜ・・・」
「俺達の食いモンは全部、この世界で言う天然物で作られているからな。 後、ケイイチ君はそれを俺達の世界に持ち込む気らしいぞ。」

 見てくれは悪くは無いし栄養価も有るのだが、肝心の味はというとそれを食べた佑哉の顔を見れば明らかだ。 実際、食料自給率100%を維持しているアメリカ出身の兵士たちは国連軍の合成食に不満を漏らしているという。
 だが、この世界で何の変哲も無い技術を、夕呼は思いもよらない方法で活用したのだ。

『私達の世界で食べられている合成食の技術、アンタ達の世界で使ってみたらどう?』
『そうですね、味はともかくあの合成食は省資源で栄養価も有る。 僕らの世界で食料自給の低い国、そこで飢餓で困っている人々を救うにはもってこいの代物ですね。
 それで、そのカードを対価に僕らに何を求める気ですか?』
『そうね~、とりあえずアンタたちの使っている人型兵器、バーチャロイドだっけ? アレに関わるデータと交換しましょうか』

 その言葉を聞いて、ケイイチの眉間がピクリと動く。 難攻不落のBETA拠点であるハイヴを攻略した人型兵器、VRのデータを夕呼が欲しがるのは当然だろう。 そして本来なら断固断るべきはずのこの取引に対し、ケイイチは戦術機のデータを付け加えた上で承諾してしまったのだ。

「おいおい、仮にも俺たちのテクノロジーをあっさり渡しちゃって良いのか?」
「考えても見ろよ佑哉、VRの心臓部のVコンバーターは何から作られる?」
「・・・なるほど、そういう事か」

 オーバーテクノロジーの結晶ともいうべき兵器であるVRを作り上げるには、その起源であるVクリスタルとそれに由来する技術が必要不可欠だ。 仮に存在したとしても月と火星はBETAが既に支配され、アース・クリスタルが存在する南米もこの世界の人類には調査を行えるほどの余裕はない。 それを踏んで夕呼の要求を呑んだケイイチに、孝弘と佑哉はある種の恐怖を覚えた。
 VRそのものを作る事は出来ないとはいえ、夕呼達がBETA由来の技術を用いて、VRのそれに近いモノを作り上げる可能性も否定できない。 そんな議論が2人の間で細々と交わされる中、合成玉露を啜った佑哉が、再度愚痴をこぼしてくる。

「お茶すらも合成とは、この世界の連中がBETAに勝てない理由が分かる気がするな」
「まあラムネは本物らしいだから、それで我慢すればいいだろ。 それより神宮司軍曹が言っていた演習の話だが・・・」
「あぁ、香月博士に頼みを入れて白銀も参加するらしいな」

 一通り佑哉が食べ終えた所で、孝弘は彼に先程まりもから聞かされた“統合戦闘技術演習”の事を話す。 国連軍において、一定以上のカリキュラムを受けた衛士候補の訓練生達が乗り越える最大の関門であり、内容は『戦術機から脱出し、徒歩で指定の脱出ポイントに到達』というものだと言う。

「白銀の話だと、207Bの面子は今回の演習に落ちたから、“前の世界”で出会った時も訓練生のままだと言っていたな」
「つまり、この演習で彼女たちを合格させれば。 白銀の行動力も広がるってことだな?」

 鯖味噌をほぼ間食した佑哉の問いに、合成焼き鮭定職を半分ほど残したままの孝弘が頷く。 彼が演習に参加すれば、207訓練B分隊の合格率を飛躍的に高まるはずだ。 残りの合成味噌汁を飲み干し、食器を戻そうと席を立とうとする佑哉に、孝弘がにやけた顔で話しかける。

「皿洗い程度は覚悟しとけよ、それぐらいの暴言をこの食堂で口にしたんだからな」
「ぐっ・・・! わかったよ・・・」

 やや緊張しながら、負のオーラが漂うカウンターへ向かう佑哉。 そして京塚のおばちゃんに怒鳴られながらいそいそと食器洗いをしている彼の姿を、昼食を取りに来た武達が目撃したのは言うまでもない。


・ 2001年 6月上旬 AM8:53 小笠原諸島 硫黄島


「上陸は成功、ここまで順調か・・・」
「白銀准尉、もたもたしていると、集合場所に遅れますよ」
「さ・・・さあ皆、急がないと軍曹のこわ~い顔を見る事になるぞ~!」

 潜水艇から泳いで上陸し“前の世界”における演習との相違を確認している中、分隊長である千鶴がフラフラしている武に声をかける。 慌てて上官らしい態度で接する武だったが、半年ほど時期が早めであるにもかかわらず、“前の世界”の序盤とあまり違いが見られない事に安堵した。

「(コレまでの経験と、苗村さん達に富士の樹海で教わった陸戦技術があれば・・・行ける!)」

 207Bメンバーを合格させるという自分のポジションが責任重大であることを感じつつ、武達はまりもの待つスタート地点へ向う。 そしてスタート地点にて待っていたまりもが、武ら207B分隊メンバーに演習の内容を話し始めた。

「戦闘中に戦術機を放棄せざるを得ない状況となり、そこから味方の勢力圏まで脱出するというのが今回の演習内容だ。 作戦期限は6日、それまでここに居る全員が無事に目標地点に辿り着ければ合格となる。 何か質問は?」
「苗村大尉が見当たりませんが、何かありましたか?」

 演習内容も以前体験した物となんら変わり無いことに気付いた武は、先程から姿を見せていない孝弘の所在をまりもに尋ねる。

「大尉なら基地で別の任務に赴いているので、ここには来ていませんよ。 もしかして、寂しくなったのでは?」
「い、いや・・・ 任務なら仕方ないな、あはは・・・」

 そう言って微笑むまりもに、武は多少引きつった顔で愛想笑いを浮かべる。 彼らがこの演習に参加していたとなれば、自分が経験した内容とかなり異なっていただろう。 邪魔な要素は一つでも少なくした方が良いと思っていた武は、再度心の中でホッと胸を撫で下ろした。

「では、訓練生各位は白銀准尉の監督の元、合格目指して各自全力を尽して欲しい、以上!」
『了解!』

 まりもの号令に復唱し、各々島の奥へ向けて出発する207メンバーの面々。 横浜に帰ったら何かしら面倒な事が待っているだろうなと武が思いながら、2回目となる彼の総戦技演習が始まった。


・ 6月某日 AM0:45 横浜基地 基地司令部


 当直の人員を除いて、人気が薄まっている横浜基地の司令室。 そこで作業をしている女性オペレーターに、一人の男が声をかける。 男の名はパウル・ラダビノッド、この横浜基地の最高責任者兼司令官である。
 突然の指令の来訪に、彼女を含め司令室にいる全員が驚く。

「君、悪いが席をはずしてくれるかな?」
「基地司令!? こんな時間に、一体どうされたのですか?」
「ちょっとした約束事があってな、他の者にも出て行ってくれるよう伝えてくれるか?」

 上官の頼みを断る事も出来ず、下手に理由も聞けないので足早に司令室を去るオペレーター達。 そして一人残ったラダビノットの前にある管制モニターに、フィルノートのブリッジに居座っているシュバルツの姿が映し出される。

「始めまして、私は国連軍特務派遣部隊の指揮官を務めるシュバルツ・クーゲベルク准将であります。 突然かつ強引な来訪に、まずは謝罪させてもらいます」
「国連軍横浜基地指令、パウル・ラダビノット准将です。 副指令から話を聞き、未だに半信半疑のままですが、時空を越えて来訪してきたあなた方を歓迎いたします」

 時と場合が違っていたら、歴史的な瞬間となるべき時間を、ラダビノットとシュバルツの2人は緊張した面持ちで挨拶を交わす。 電脳暦世界の技術、資源、そして戦力。 BETAとの戦いで全てを失おうとしているこの世界で、それらを欲しがらない者など存在しないだろう。
 そしてその一端がこの横浜基地に集結しているとなれば、大国達はBETA殲滅より先にここを手中に収めようと躍起になって襲い掛かってくるはずだ。 それを一番気にかけているラダビノットは、今後の交渉方針をシュバルツに伝える。

「我々としても、あなた方との相互の技術提供を即座に行いたいものですが、そう簡単には行きません」
「と、言いますと?」
「あなた方の技術を狙って、他国がこの基地を襲撃しかねないからです。 これはあなた方フィルノートだけではなく、昨日甲12目標『リヨンハイヴ』を攻略したそちらの同胞にも同じ事が言えます」
「ふむ・・・ つまり現段階では積極的なコンタクトが出来ないと仰る訳ですな?」

力強く唸った後のシュバルツの言葉に、無言で頷くラダビノッド。 残された手段は、横浜基地へ送り込んだ孝弘達と、夕呼が目に付けている武を通じてやり取りをする以外に無い。

「様々な制約があるとはいえ、今後ともよい付き合いが出来ると期待していますよ。 ラダビノッド指令」
「ええ。 こちらからも、この世界の力になってくれると切に願います。 クーゲベルク艦長」

 フィルノートとの特別回線が遮断され、フィルノートとの交信に成功したラダビノッドは、ここで自分の手が震えている事に気付く。

「( この私が恐怖していたとはな、慣れない事はするものではないか・・・)」

 それから程無くして、統合演習に赴いた207訓練小隊はめでたく全員合格し、武たちは新たなステップへと進む事になる。

-その流れは劇的、かつ雄大に・・・-



第8話へ続く



[2970] 第8話-開発-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2010/01/28 15:00
・ 2001年6月中旬 AM8:54 横浜基地 宿舎


「ん・・・うほぉお゛お゛っ!!? 」
「ひっ・・・」
「あっ! 違うんだ霞、これは・・・」

 点呼ギリギリの時刻に気付き、奇声と共に慌てて飛び起きる武。 そしてそれを見て驚いた少女、社霞が軽い悲鳴を上げる。 それを見た武は彼女を落ち着かせながら、未だにハッキリしない脳を働かせて今日の予定を思い出す。 そうして身支度をしようとする武に、霞がある一言を紡ぐ。

「合格、おめでとう・・・ございます」
「それは皆に言ってくれ。 さあ霞、早いとこ夕呼先生の所へ戻った方がいい、俺もこれから皆の訓練に付き合わないと・・・な」
「はいっ!」
 
 勇気を振り絞って霞が自らの思いを伝えてくれた事に、嬉しさを感じる武。 そして霞が部屋を立ち去った後、時間が迫っている事に気付いた武は手早く着替え、皆が待つ教室へ向けて走り出した。


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#8 開発


 戦術歩行戦闘機、英訳の頭文字を取ってTSF、一般には戦術機という略称で呼ばれているそれは、圧倒的な物量を持つBETAに対抗しうる現行人類の主力兵器だ。 戦術機が誕生する以前、BETAとの戦いには航空戦力を中心とした既存の兵器で事足りていたのである。
 しかし、後に光線属種と呼ばれるタイプのBETAが出現。 これにより物量を武器とするBETAを抑えられなくなり、人類はユーラシア大陸の大半をBETAに支配を許す事になる。 そして各地に作り出されたBETAの基地ともいえる建造物“ハイヴ”の内部は、非常に複雑な地下構造をしており、既存の兵器による制圧は不可能と言われていた。
 それに対抗するべく開発中だった宇宙作業用ユニットを原型に、3次元機動と汎用性を追及して開発されたのが戦術機である。 そして横浜基地のシミュレータールームにて、207B分隊の面々がまりもと武の2人がかりによる指導の元、操縦訓練前の座学を行なっていた。

「初期に投入された戦術機パイロット、これを和訳して衛士というが、その大半は航空機パイロットだ。 高い操縦技術を生かしてという理由だったのだが、御剣、彼らの初陣における平均生存率は知っているか?」
「20分程度でしょうか?」
「・・・8分だ」

 質問に答えた冥夜を含めた207メンバー全員が、まりもが告げた残酷な値に言葉を失う。 “前の世界”にて一連の講義は聞いていた武だったが、改めて聞くとBETAとの戦いの厳しさを思い知らせてくれる。

「この数値は当時の人類を震撼させた。 その後、衛士になる者には専門の教育カリキュラムが用意されるようになった。 お前たちがこうして適切な衛士の訓練と教育を受けられるのは、先人たちが積み重ねてきた犠牲と苦労の結晶だと言う事を忘れるなよ」
『はい!』

 まりもの講義に答える、衛士強化服姿の207分隊の面々。 彼らが身につけている99式衛士強化服(訓練生仕様)は、戦術機の機動によって身体に掛るGを軽減させる他、生命維持など様々な機能を持ち合わせたパイロットスーツだ。 性能は申し分ないのだが、何よりその見た目が着用を躊躇する原因だろう。
 特に大部分が半透明の衝撃吸収素材で出来ている女性用のそれは、着用している本人の羞恥心を煽る以外の何者でもなく、電脳暦世界からやって来た孝弘達にはさぞかし目の保養となったと言う。
 当然ながら孝弘はその最中に美雪によって何処かへ連れて行かれ、佑哉は血相を変えてやってきた桜花にみぞおちに一発お見舞いされる目に遭った。 VRに関しては天才的な技術を持つ彼らだったが、人型と言う以外は概念が全く違う今回ばかりは役が回ってこなかったようだ。
 各々酷い目に遭いつつ、PXに非難していた孝弘と佑哉を見つけたケイイチが声をかける。

「いたいた、こんな所で油売っていて良いのかい?」
「ケイイチ君か・・・ 戦術機だっけ? 白銀と違って、アレの操縦は俺たちには関係ないはずだろ?」
「ところがそうでもないみたいだよ~? 騙されたと思って、僕について来てよ」

 そういって微笑むケイイチを見て、孝弘はある種の脅威を感じる。 間違いない。 こうして彼が笑いながら話題を吹っかけてくる時、その裏でトンデモナイ研究や実験の類に協力させられるのは目に見えている。 だが彼らは美雪と桜花に追われている身であり、あろうことかケイイチは『OKサイン出してくれないと、2人に君らの位置を知らせちゃうよ?』と抜かす始末である。

「(どうしても俺達を参加させたいらしいな・・・)」

 脅迫とも聞き取れるケイイチの言葉に悪態付く孝弘ではあったが、廊下の方から自分達を探している声が聞こえてくる。 また彼女達につかまって面倒な事になるのはゴメンだ、そう思った孝弘達はやむなくケイイチの言うとおり、武と207Bの隊員達が訓練を行なっているシミュレータールームへと向かった。


・ 横浜基地 シミュレータールーム


「失礼するよ、神宮司軍曹」
「何だ!今は訓練中だぞ・・・ってサギサワ大尉!?」

 入室してきたケイイチ達とは気付かず、訓練生に対する口調で話しかけてしまったまりも。 慌てて敬礼をするが、とき既に遅し。 だがケイイチはそんな事を気にするそぶりも見せず、前後左右に躍動するシミュレータ機を眺めながら彼女に話しかける。

「それで、今シミュレータを動かしてるのは誰だい?」
「白銀准尉です、自ら訓練生たちの見本になると、先ほどから篭りっぱなしで・・・」

 困り果てた顔でケイイチに言った後、まりもがため息を付きながら武が乗り込んでいるシミュレータを眺める。 彼が操る97式戦術歩行高等練習機『吹雪』が仮想空間の中を舞い、所々に現れるターゲットに対し的確な射撃、時には短刀による近接攻撃で撃破する。 衛士としての技量は勿論の事だが、まりもは武が見せる特異な機動に首を傾げていた。
 光線属種BETAによって無効化された航空戦力の代替物として開発された戦術機であったが、光線属種が放つレーザーの前ではその装甲は無力に等しく、加えて照準が正確無比であった事から戦術機で大空を飛ぶという事は出来ない状態で居るのだ。
 だが目の前に映る武の吹雪はそんなものが始めから存在しないかのように、レーザー照射を受ける危険のある高度を優々と飛び続け、更にターゲットを撃墜してゆく。 未だに武の行動パターンが理解出来ないで居るまりもに、ケイイチが隣から声をかける。

「これが白銀君の戦い方か。 ここに来て始めて彼の動きを見るけど、良い感じじゃないか」
「しかし大尉、あの機動は実戦にはとても向いているとは・・・」
「第二世代以降の戦術機は、機動力によって回避主体の戦闘を行なうと聞いたけど?」

 確かに武の取る機動は、それまでの戦術機動にある範疇からかなり逸脱した物だ。 だがあの柔軟な機動を全ての衛士が行なえたら、戦場で死ぬ衛士の数は激減できるだろう。
 そして白銀がその持ち主だったとしたらと考えたまりもは、ケイイチにある策を伝える。

「確かに。 そう考えると、白銀准尉の機動はこれまでの戦術機動とは異なる、新たな対BETA戦闘の方法を編み出す切り口になりますね」
「僕もそう思っていたところさ。 多分、白銀君本人も薄々感じているだろうしね」

 恐らく今の訓練を終えたら、武は夕呼の所に戦術機の性能向上について話に行くはずだ。 そんなことを予想していたケイイチに、孝弘と佑哉がぞれぞれ口を開く。

「だけどケイイチ君、特別なのは白銀だけじゃないぜ」
「ああ! 他のメンバーも、磨けば光り輝く逸材ばかりだ。 そうですよね?軍曹」
「ええ。 白銀准尉が色々としてくれているお陰で、隊の結束も強くなっているようですしね」

 まりもが微笑んだ先に、武の操縦技術に魅了されている207B分隊の姿。 そしてその一人一人が、それぞれ得意とする分野と技能を持っている。

- 常に沈着冷静、近接戦闘のセンスと勝負に挑む真剣さはメンバー随一の冥夜。 -
- スタンドプレーが過ぎるのが玉にキズだが、その場にあった行動をする彩峰 -
- 様々な状況に対し的確な指揮を出し、最小限の被害で勝利を掴む榊 -
- あがり症持ちだが、それを差し引いても優秀すぎるほどの狙撃技能を持つ珠瀬 -
- 豊富なサバイバル知識と、誰とでも打ち解ける正確の持ち主である美琴 –

 そして“元の世界”では彼女達とクラスメイトの関係で、各々の特徴と扱いに関して熟知している武。 バラバラだった隊員達が手を取り、共に力を合わせて任務を達成する事こそがまりもや孝弘達教官陣と、武が見たかった物がもうすぐ現実になろうとしている。

「ボやっと見てないで、お前たちもシミュレータに搭乗だ! 白銀准尉から、手取り足取り教えてもらえ!」
「「「「了解!」」」」

 武の操縦センスに見とれている冥夜達に、いつもの鬼教官の口調で指示を出すまりも。 モニターには依然として、仮想の大空を優々と舞う武の吹雪があった。


・ PM12:13 横浜基地 食堂


「さぁ~昼だ昼だ! おなか空いたね~!」
「ねえ晴子、講義終わったばかりなのに元気なの?」
「そこら辺をキッチリ分けるのが、あたしの心情だからね。 茜、急がないとカウンターが埋まっちゃうよ?」

 午前中の座学を終えた207A訓練小隊のメンバーである柏木晴子と、彼女に腕を引かれている涼宮茜が、賑やかになりつつある横浜基地の食堂兼PXに訪れる。
 まりもに代わって彼女達の面倒を引き受けた佑哉と桜花の指導が答えたのか、昼食を食べる機満々な柏木に対して一緒にいる茜はかなり意気消沈している。

「おばちゃん、合成オムライス一つ」
「私は合成力うどん定食ね」

 午後の分もあるので今のうちに食べて力を付けておこうとカウンターに向い、京塚のおばちゃんにメニューを注文する2人。 その直後、茜はある変化に気付く。

「ねえ晴子、オムライスって今までのメニューにあったっけ?」
「う~ん、言われて見れば・・・」

だが改めて2人がメニューを見ると、確かに『合成オムライス』と書かれている。 それだけではない。 二人が頼んだメニューに加えて合成ハヤシライス(サラダ付き)、合成レバニラ定食、合成スパゲッティ・ミートソース等、本来一人で食堂を切り盛りしている京塚が作らない、あるいは作れないであろう洋食系のメニューが大幅に増えているではないか。
 出来立ての合成オムライスとうどん定食を持ってきた京塚に、晴子がメニューについて問いかける。

「はいよ! 合成オムライスと合成力うどんお待ち! ケチャップはそこにあるから、自由にかけなよ」
「おばちゃん、何時の間にオムライスなんて作れたの?」
「ああ。 異世界だか何だかしらないけど、こないだ新任の教官さんたちが来ただろ? その子達が色々と教えてくれたのさ」
「えっ? それってまさか、私達の教官をやってる・・・」
「そうそう! 確か美雪ちゃんと桜花ちゃん、そんな名前だったねぇ~」

 そう志津江が口にする名前に、2人は心当たりがあった。 それは他でもない、自分達の教官を務めている女性士官の名前である。 あの2人がここまでの料理スキルを持っていたことに少し驚くも、これも異世界に暮らしていた彼女たちだからこそなのだろうと思っている最中、志津江の声が2人の耳に届く。

「ホラ、いつまでもそこにいると後ろがつっかえちまうだろ?」
「「は・・はいっ!」」

 だが、これで昼の楽しみが増えた事には変わりはない。 次回に頼むメニューを考えながら、茜と晴子はつかの間のランチタイムを満喫したのだった。


・ PM17:22 横浜基地 武の部屋


「う~ん! 今日もお疲れさん、俺の身体~!」

 本日の指導を終え、クタクタに疲れた武が自室のベッドで背筋ををグッと伸ばす。 総合戦技演習に合格し、本格的に衛士として成長していく皆の姿に、武は楽しくて仕方がなかった。
 加えて電脳暦世界の人々も協力的であり、世界各国との関係構築はまだ時間がかかるものの、こちらの方からも十分なバックアップを受けている。

「(このまま上手くいけば、俺達はBETAに勝てるかもしれない・・・!)」

 絶望の一端に見えた、希望という名の輝き。 もうすぐそれを掴み取る事が出来ると思うと、嬉しさのあまり顔もにやけるというものだ。 そんな彼の部屋に、一人の人物が迫る。

「白銀君~? そこに居るか~い?」
「その声は・・・サギサワ大尉ですか?」

 拍子抜けするほどの楽しげな声が、ドアの向こうから届く。 武がドアを開けると、書類が挟まったバインダーを携えたケイイチの姿があった。

「いやぁ~良かった、色々と君に伝えなきゃいけない事があるからね」
「俺に? 一体何です?」

 そう武が聞くと、ケイイチは持っていたバインダーを彼に手渡す。 そしてそれに挟まっていた書類を読み進める武の目付きが真剣になっていくのを見て、ケイイチはニッコリと微笑みを浮かべる。

「サギサワ大尉! これって・・・!」
「うん、207メンバーが乗る戦術機、吹雪のカスタムプランだよ」

 横から入ってくるケイイチの小話をBGM代わりに、武は書類を読み進めていく。 書類にはケイイチの言葉どおり、近日207訓練部隊に配備される97式戦術歩行高等練習機『吹雪』、その隊員達全員のカスタムプランが記載されていた。

「(流石ケイイチさん、皆の戦闘スタイルに最適のカスタマイズを施している)」

 更に詳細なデータに目を通していくうちに、武の鼓動と感情が高まってゆく。 どうやらB分隊の方から先に改造を施すらしく、そのための図面や詳細な兵装のデータが記載されていた。

左腕に装備する短刀の代わりに長刀ホルダーを装着し、最大3本の長刀を装備可能な御剣機。
 各関節部を徹底的に強化し、散弾砲やEU軍の戦術機が使用しているスパイクシールド等肉弾戦装備が施された彩峰機。
 頭部に高精度の情報処理ユニットを搭載し、更にノイズキャンセラーやECMメーカー等電子戦装備が充実している榊機。
 腕部にクライミングアンカーやセンサーボム、マシンピストル型のチェーンガンと大型ナイフ等変則的な戦闘が可能な鎧衣機。
 頭部に高精度センサーを装着し、夕呼の計画から拝借した長距離用電磁速射砲を装備する珠瀬機。

「基本的に、B分隊の機体を改造するんですね?」
「B分隊の子達は皆、君と親しくなっているみたいだからね。 そっちが上手くいけばA分隊の方にも、同様のカスタマイズを施す予定さ」
「ユニットや武装は全部外付けか・・・」
「うん。 イザという時には強制排除して、通常の吹雪になる事も出来る。 故障や破損で使用不可能になった時は、ただの死重量(デッドウェイト)になるからね」

 ケイイチの話に、当然の機能だろうなと武は思う。 生死を掛けた戦場の中で使えない装備をそのまま持っているというのは、どんな我慢大会だよといつの間にか心の中で突っ込んでいた。 そしてそれらの機材や費用は、全部電脳暦側の勢力が受け持つという太っ腹さだ。

「それで夕呼先生達は、このプランにOK出したんですか?」
「『金と材料はアッチ持ち』って話を聞いたら、すかさず司令部が出したらしいよ。 当の博士は、ちょっと不機嫌そうだったけどね」
「その時の先生の顔が目に浮かぶ・・・ん?」

 そう苦笑しながら最後のプリントに目を通した瞬間、戦術機の改造とは別の計画に武は気付く。 一つは跳躍ユニットに関係する何か。 もう一つはそれらとは別の、ソフトウェアに関わる何かだ。
 再び自分を見て微笑むケイイチに、武は内容について質問する。

「サギサワ大尉、これは?」
「一つは電気推進システムを採用した跳躍ユニット、そしてもう一つは戦術機に搭載するOSの開発立案さ」
「お・・・新型OSの開発ですか!?」
「君もうすうす感づいているだろ? 自分の操縦技術では戦術機の能力発揮がアレで限界だって」

 ケイイチの言葉に、武は強く頷く。 “前の世界”ではバルジャーノン仕込みの操縦で皆を驚かせていたし、VRでもそれらから培ってきた操縦テクニックで菫達をアッと言わせた事もあった。 そんな技能の持ち主だからこそ思う。

- 自分の操縦方法を皆が出来る様になれば、生き残れる確立が高まるのではないか・・・ -

「一番手っ取り早い方法はMSBSを乗っける事だけど・・・ 出来ないよなぁ~」
「だから君の行動パターンを元にしたOSを、香月博士と共同で作ろうと思うんだ」
「俺のパターンですか?」

 そうしてケイイチは、武と話を交えながら新OSと跳躍ユニットの要点を練り上げていった。
 まず武が行なう戦術機とVRの操縦には、ある種の共通点が存在していた。 先行入力とコンボ入力、そしてキャンセル動作である。 これらの動作はバルジャーノンにおいて幾多の対戦をこなしてきた武にとって自然と出来ることであり、テレビゲームという概念が存在しないこの世界においてそういった概念が通用しないのは当然だった。
 そして電子工学と機械工学の塊である戦術機にそれらを取り入れれば、それらの動作が実現できるのではないかとケイイチと武は踏んだのだ。

「仮に今の戦術機OSがMSBSVer.3.3相当の物だとすると、君の概念を用いた新OSはVer.5.66クラスの品になるだろうね」
「もしそうなったらスゲェ進歩じゃないですか! あっ、この跳躍ユニットに使われる電磁推進って何です?」

 現場に居る技術屋の仕事の半分は説明なのかなと思いながら、武はケイイチの話を聞く。 もう一つは跳躍ユニットに電気推進システムを取り入れるという計画だ。 電気推進というのはプラスマイナスの電極の間に放電を起こさせ、そこに推進剤を注入し、高温高圧になったそれを後方へ送る事で推力を得るという推進方式だ。
 従来跳躍ユニットに採用されていたのロケット・ジェット混合推進に比べ、小型軽量かつ即応性に優れているという利点がある。 加えて戦術機の直接的な動力源である燃料電池ユニット、その燃料である水素を共用する事で跳躍ユニット分の燃料を積む手間がなくなるのだ。

「僕らの世界じゃ、宇宙用の機器は勿論、大気圏内用のタイプも実用化されているからね。 宇宙用と比べるとちょっと燃費が悪いのが欠点だけど・・・」
「それを使うかどうかは、夕呼先生達の最良に掛っている訳ですね」
「跳躍ユニットはともかく、OSはガチで提案するつもりだよ、君からも博士に売り込みしてくれるかい?」
「勿論です! 俺の力で一人での衛士が生き延びられるのなら、土下座してでも先生に取り入ってもらいますよ!」
「それを聞いて安心したよ。 それじゃあ、これをまとめて司令部に提出しに行くから、これにて失礼するよ」

 そう行って部屋を後にするケイイチに、後で礼を言っておこうと武は思う。 元々OSの件はもう少し後になってから夕呼に話す予定だったのだが、ケイイチの助力もあってかなり早まった。
 何事も、切っ掛けさえあれば物事は加速するのだなと思いながら、武は時間ギリギリの夕食を取る為に部屋を後にした。


6月19日:新OS開発計画承認。 207訓練部隊を同OSの開発部隊に選出。
6月20日:207B分隊、帝国軍より提供された97式『吹雪』搬入直前に伴い、カスタムプランのデータを導入させた仕様でシミュレーター訓練開始。


第9話に続く



[2970] 第9話-攪拌-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2010/01/28 18:45
・ 7月3日AM6:37 神奈川県 旧柊市街


「(本当に、柊町は瓦礫だらけだな・・・)」

 瓦礫だらけの風景に変わり果てた柊町の中を、武が操る4輪駆動のバギーが走る。 ケイイチらの母艦であるフィルノートは沿岸に停泊しており、武は双方の伝令役として双方を行き来するのが一つの日課となっていた。 駅前を抜け、桜並木が続く基地入口の坂道へ。 ここを登りきれば基地正面ゲートへ一直線、そこに立つ門番二人に部隊証を見せれば、大手を振って横浜基地にご入場だ。
 だがゲートに近付くに連れて、行きの時とは違う門番二人の変化に武が気付く。

「あれ? あの二人、あんなゴツイ格好してたか?」

 ゲートを守っているのは“前の世界”で武を連行したあの兵士2人。 だがその二人は国連の野戦服ではなく、かといって衛士強化服とも強化外骨格とも違う、何かを身に纏っていた。
 とはいえ別人ではない事に変わりはない。 武は部隊証と外出許可証を準備しながら、彼らが待つゲートへと乗り入れる。

「白銀武准尉です。 フィルノートへの連絡から戻ってきました」
「おお! 誰かと思えば、異世界から来た准尉殿じゃないですか!」
「早速、副指令にいいように使われているみたいですね。 ・・・確認しました、どうぞお通り下さい」
「ありがとう。 ところでそれ、何を着てるんだ?」

その質問を聞くやいなや、2人はニヤリと笑って得意気に話し出した。

「これですか? 早朝に歩兵部隊と、機械化歩兵部隊要員に急遽召集がありましてね。 そこでコイツが俺達に支給されたんですよ。 確か名前は・・・」
「サギサワ大尉だろ、もう忘れたのかジェフ」

 そう指摘を受けた黒人の方の門番、ジェフ伍長が『そういやそうだったな』と言うと、彼の片割れであるリン伍長は笑って返す。

「まあともかくその大尉さんから、この多目的強化装甲服を貰ったのさ」
「これを着ていればちょっとした力仕事も楽々出来るし、兵士級BETA相手なら肉弾戦も出来るらしいぜ。 本当、異世界の技術万々歳だよ!」
「ああ! これが異世界の技術ってんなら、奴らと協力してBETAに勝利する事も夢じゃなくなってきたぜ!」
「そ・・・それはよかったですね・・・ じゃ、俺はこれで・・・」

 これ以上道草を食ったら、また夕呼から何を言われるか分からない。 目の前でテンションが鰻上りでいるジェフとダンの二人に、自分から話題を振ったことに心の中で謝りながら、武は基地の中へ入って行った。


・ AM7:03 横浜基地 戦術機ハンガー


「大尉~! このパーツは何番機ですか~!」
「そっちのスコープはB5番機! その長刀用パーツはB2番機に回して!」
「はいっ!」

 轟音と共に作動する大型クレーンや機材、慌しく動き回る整備員達。 工場独特の臭いが漂うその一角でその騒音に掻き消されないよう、整備班員の一人が大声で班長のケイイチに尋ね、それを聞いたケイイチは負けじと指示を送る。
 搬入された吹雪が10機、その中で207Bに割り当てられた5機に強化パーツを装着する作業を彼らは行なっていた。 そして、偶然近くを通りかかった武に気付いたケイイチが声をかける。

「朝早くからお疲れさま。 博士にだいぶ絞られたようだね~」
「ええ。 フィルノートでも菫さんにも色々言われましたよ、『ウチの隊長に迷惑かけてない?』って・・・」

 そう言葉を交わした後、互いに苦笑いを浮かべる武とケイイチ。 彼の部下である菫もこの世界に来て、フィルノートで武に各種情報を横浜基地へ伝える役目に就いている。
 やはりケイイチは夕呼とは違うタイプの研究者らしく、自分から積極的に作業を行なっているらしい。
 ケイイチの作業服や顔のあちこちに、軽い汚れが見えることが何よりの証拠だ。

「強化パーツ、もう完成したんですね。 これから皆の吹雪に装着を?」
「うん。 ついさっき博士がここに来たけど、『もう保護シート剥がしちゃったの!? あたしが破りたかったのに~!』って言って出て行っちゃったね」
「“前の世界”でも、先生がそんなこと言ってましたよ。 クセなのか、あれ・・・?」
「それより白銀君、時間は大丈夫なのかい?」
「時間って・・・げっ!!?」

 ケイイチに指摘され、武は慌てて辺りに時計がないか探し出す。 そして詰め所で見つけたそれを見ると、既に午前の訓練時間が迫りつつあった。

「す、すいません! そろそろ俺、訓練指導に行かないと・・・」

 ケイイチに礼をした後、一目散に207の皆が待つ教室へ向けて走り出す武。 そして彼が去った後、ケイイチはハンガーの奥をじっと見つめていた。

「さて、アレはどうしようか・・・ どう見ても『訳アリ』って感じだけどね」

 ケイイチの視線の先には吹雪と同じ日に搬入されていた、濃紫に色塗られた戦術機の姿があった。


マブラヴ –壊れかけたドアの向こう-
#9 攪拌


・ AM9:42 横浜基地 シミュレータールーム


「04より02へ! そっちに行ったよ、追い込んで!」
「了解!」

 仮想空間の市街地に鳴り響く銃声、それらはヒトが持つ物ではなく、ヒトが操る人類の刃、戦術機が保持する突撃砲から発せられた音だ。 2号機の美琴から報告を受けて、廃ビルの陰に隠れる吹雪2号機-冥夜が返答する。
 相手は茜率いる207A分隊、搭乗機体はこちらと同じ97式吹雪だ。 接敵を警告するアラームと同時に、左方から美琴が追い込んだ敵機が36ミリの有効射程圏内に入る。

「(当たれっ!)」

 冥夜は36ミリを指きりバーストで射撃。 徹甲弾に設定された砲弾がしなる様な弾道で、市街地を匍匐飛行する吹雪目掛けて飛翔する。  それに気付いた敵機が加速。 冥夜の攻撃は、1発も命中せずに終わった。

「おのれ・・・逃がすか!」

 ここで逃がしたら、他のA分隊機と合流し連携を仕掛けてくるかもしれない。 冥夜はマス目のように敷かれた道路を主脚で疾走し、敵の吹雪を射撃で追い立てながら追撃をかける。 だが奴は、冥夜の予想を超えた斜め上の行動を取ってきた。

「何っ!? 追いかけられているのに、戻って来ただと!?」

 冥夜が漏らした言葉どおり、敵機は宙返りと同時に機体を反転。 反撃こそしないものの、こちらに向けて突っ込んで来る。 照準を定めていくうちに、冥夜は前方に交差点があることに気付く。

「この一直線の場所なら、銃を使うまでもない!」

 冥夜は機体に加速を命じ、跳躍ユニットの噴射炎が一段と強くなる。 突撃砲を格納し、主兵装を長刀に切り替え。 先に交差点を抜ければこっちのもの、逃げ場の無くなった奴を長刀で切り捨てるだけだ。 冥夜機が交差点に指しかかろうとしたその時、彼女と相対していた訓練生-築地多恵が身を潜めていた僚機に向って叫ぶ。

『今だっ! 光ちゃん!直美ちゃん!』
「えっ・・・!」

 突然オープンで聞こえた相手の声、そして交差点の左右から同時に出現した、麻倉直美と高原光が駆る2機の吹雪。 ロックされる寸前までレーダーにも反応しないことから、今まで主機出力を落として待ち伏せしていたのだろう。

「どうやら罠にはまったのは、私の方らしいな」

そう悟った瞬間、冥夜の機体は3方向からの銃撃を受けて沈黙した。


「状況終了! 全員シミュレーターから降りて集合!」

 まりもの号令と同時に、シミュレーターを降りたAB双方の訓練生たちが彼女の前に集まる。 どちらが勝ったのかは、各分隊メンバーの表情を見てしまえば、何も知らない人が来ても一目で分かるだろう。
 一部始終を観戦し、ある程度の予想はつけていた武もこの結果に落胆せざるを得ない。 戦闘データをまとめているまりもに代わって、演習後の評価を下すべく武の口が開く。

「とりあえず、皆お疲れ様。 今回は勝ち負けではなく、個人の技能とチームワークを見させてもらった。 まずA分隊の方からだが・・・」

 そうして武は、今回の模擬戦で見た各訓練生たちの行動パターンや癖、そして技能について、自分なりの評価を下す。

 まずA分隊リーダーの涼宮茜。 指揮能力は中々のものだが無鉄砲な部分があり、自らのポジションを忘れて前面に出るという悪い癖がある。 こうした癖にはそれなりの理由があり、本人に聞いてみたところ一足先に任官した先輩に憧れており、その先輩がポジションにいる突撃前衛を狙っているからだ。
 指揮官が前に出るのは悪いことではないが、それは限られた条件の中だけだと、武は彼女に言い聞かせておいた。

「はいっ! あの人に一日でも早く追いつけるよう頑張ります!」

 次に柏木晴子。 何を考えているかわからない飄々とした性格だが、本人曰く色々と考えているという。 しかし常に場の空気を読み取り、仲間達に対し的確なサポートを繰り出してくれるのが彼女の強みだ。
 だからと言って表面だけでは、本当に他者に対して意思疎通がとれない事があるので、たまには自分を出してみてはどうだと武はアドバイスしてみた。

「む~・・・ 難しい注文ですけど、努力してみます!」

 高原光と麻倉直美。 本来は別々に評価を下すべきなのだろうが、そのコンビネーションの高さは武の衛士魂を十分燃え上がらせるほどだったので2人一緒に評価をする事になった。 前衛の高原が突破口を切り開き、後衛の麻倉がそれを助けるという理想的なポジションとなっている。
 二人仲良く戦うのもいいが、他のメンバーにも気を配るよう指導した。

「はい! 光だけでなく、隊の皆と共に・・・」 「日々精進するつもりです!」

 最後に築地多恵。 模擬戦で冥夜を罠にはめるという手柄を取った彼女だが、ある重大な欠点(?) が存在する。 彼女、茜にべったりなのだ。 後から聞いた話によると、友人とかそういうレベルではなく、恋愛感情に近い物らしい。
 武はベッタリも度が過ぎると彼女に迷惑をかけるぞと忠告しておいた。

「そんな~ 茜ちゃんとの縁を切れって言うんですか~?」
「いや、そういう意味じゃ・・・」


 一通りA分隊の評価を済ませた所で、武は敗北したB分隊の方を見る。 武の視線がこちらに向いたと気付くや、全員ばつが悪そうな表情を浮かべる。
 武とまりもの期待に答える事が出来なかった、2人の指導が無駄になってしまった。 それだけの事が彼女達の頭に残っているのだろう。 そんな彼女たちに構わず、武は教官として評価を下す。

「悔しいのはわかるがこれも結果だ。 色々と悔しい気持ちが残っていると思うが、これだけは分かって欲しい。 特にい・・・じゃなくて榊と彩峰!」
「はっ!」 「・・・はい!」
「ついでに言うと今回の敗因はお前達にある。 あの時自分達が何をしていたのか、よく思い出してみろ」

 武の言葉を聞いた2人は互いの顔を見つめ合うものの、直ぐに榊が嫌悪感を表しながら視線を逸らす。 彩峰はさほど興味はないみたいだが、榊に対する感情は最悪の状態だろう。
 そもそもの原因は演習中、彩峰がB分隊リーダーである榊の言う事を聞かず、勝手な行動を取った為だ。 彼女が動いた影響でA分隊チームに付け入られる隙を与えてしまい、結果各個撃破という形で敗北したのだ。
 与えられた命令を徹底的に・・・いや、絶対優先させることを第1に置き、自分の指示を聞かない無能な部下は要らないと主張する榊。
 対して自分のおかれている状況を把握して最適な行動を取る故に、マニュアル通りに命令を下す無能な指揮官は要らないと彩峰は言い張る。

「(やっぱり俺が何とかするしかないのか・・・)」

 今にも火花が飛び出んばかりに睨み合う榊と彩峰を前に、武は呆れ顔を見られまいと手で覆う。 2人の犬猿ぶりは今に始まったことではなく、“前の世界”でもそうだったし、“元の世界”でも度々衝突することがあった。 例えるなら水と油のような、消して相容れぬ関係なのだ。
だが・・・と、武は思う。

「榊、彩峰。 どうしても協力して戦えないというんだな?」
「いえ白銀准尉! そもそもの原因は彩峰が私の命令に背いたのが・・・」
「そっちこそ、意味もない命令を無駄に出すのは止めたら?」
「・・・もういい、分かった。 お前らがそこまで言うのなら」

決して交わらない水と油が馴染むのは、界面活性剤という、どちらにも馴染む物質を加えた時のみ。 ならば・・・

「お前ら2人、荷物まとめてとっとと実家に帰れ。 」
自分が、白銀武がその役目を担えば良いのだと。
「は・・・? 仰る意味が・・・」
「いいから黙って家帰れっつってんだよこのメガネ! 与えられた命令に従うんじゃなかったのか! それと彩峰!お前も何時まで『私には関係ない』って顔してんだよ!パイオツでかいから許されるのは俺以外の男相手位だ!」

 我慢の限界を越えた結果始まってしまった説教の最中、そろそろ自分でも何を言っているのか分からなくなってきた武。 そして説教の標的は2人に留まらず、それを見守っていた冥夜、壬姫、美琴の3人にも向けられる。

「悪いのは2人だけじゃないぞ、お前らもだ!」
「えっ!? どうしてボク達も?」
「もちのロン! 我が道を行く御剣!気弱な珠瀬!空気読まない鎧衣! ろくにコミュニケーションも取り合わないごった煮みたいな小隊、あの海○雄○先生も口にしないぜ!」

 そのままノリと勢いに任せて『軍曹を呼べ!』と叫びそうになる武だったが、寸前の理性で踏みとどまる。 どのような理由であれ、互いの素性を詮索しない。 それが“前の世界”における、207B分隊の暗黙の掟だった。
 だが武が隊に入った影響によって、メンバーの協調と信頼を築き上げる事が出来た。 それなら訓練生である今のうちに、この暗黙のルールをなくしてしまえばよいと武は考えたのだ。
 そして“最高にハイ”な状態と化した武は最後の畳み掛けに出る。

「互いに気に入らない事があれば、理解し合うまで殴り合いのケンカでもしろってんだよ! あ″ぁ!?女同士だからそんな野蛮な事は出来ねえだと? やかましい!! 最前線に行けば便所や風呂も一緒なんだよ! ましてや男女の整列云々なんて関係ねえ!」

 そこまで言った時点で武は、ふと“元の世界”で行なわれた球技大会を思い出す。 榊が所属するラクロス部の存続とまりもの有明強制参加を掛けて、夕呼率いるD組とラクロス勝負をすることになった武達。 彩峰が協力的な姿勢を見せず、武の説得によって参加はしたがリーダーの榊と意見が衝突。
 このままチームがバラバラのまま試合に挑むのかと誰もが思ったその時、ブチ切れた武が今のように皆を叱り付けた事でまとまりを見せ、運命の決勝戦にて彩峰と榊が共闘を見せ、B組に勝利する事が出来た。 そして“前の世界”の総戦技演習をクリアしたときに言われたまりもの言葉。 ここで始めて自分は皆を引き付ける力があるのだと気付いたのだ。

「お前らは・・・何か目的があって軍に入ったんじゃないのかよ!?」

 武の止めの一言に、B分隊の面々はハッとした表情を浮かべる。 自分達は誰かに言われるがままに軍に入ったのではない、人類の為、故郷を守る為、BETAを倒す為にここに居る。 だからこそ、仲間達の脚を引っ張るわけには行かない。
 先ほどまでの陰湿な雰囲気が消え去った榊と彩峰が、再度顔を見合わせる。

「・・・どうしたの榊、帰らないの?」
「冗談。 私は分隊長なのよ、こんな事で躓いていられないわ」

 皮肉めいた表情で問う彩峰に、負けじと答える榊。 それを見て安堵の表情を浮かべる冥夜ら3人を見た後、同じ様な気持ちで居た武の口が開く。

「よし! ならもう一回、B分隊に俺を加えて模擬戦だ!」
『はい・・・えっ!?』

 A・B分隊の声をすると同時に、制服に手を掛ける武。 制服が地面に落ちた時、そこには正規兵仕様の衛士強化服を身に纏う武の姿があった。 まりもからヘッドセットを受け取り、そのままシミュレーター筐体へと乗り込む。

「白銀准尉のセッティングが開始次第、模擬戦を開始する。 全員搭乗!」
『了解!』

 まりもの号令に押され、207メンバー全員が慌ててシミュレーターに乗り込む。 そして武の準備完了の合図と共に、シミュレーター模擬戦の第2ラウンドが始まった。


・ AM10:04 特装艦フィルノート 士官室


「(白銀君、ちゃんと私が話した事を向こうに伝えてくれたかしら・・・?)」

 雑用を終えて自室に戻った菫が、疲れからかまだ午前中にもかかわらずベッドに身体を預ける。 武の存在を交渉材料にケイイチ達を横浜基地へ送る事に成功し、今は彼を通してこの世界の技術や情報を手に入れる事に成功した。 こちらが提供した技術もこれといった違和感や批判が出る事も無く、横浜基地とフィルノートクルーの関係はおおむね良好といえよう。
 だが、それ以外はというと、正直微妙な状態だった。 多少強引だったとはいえ自分達はこの世界の横浜基地とコンタクトを取り、相互的なやり取りを行ったうえで現在の関係を築くことに成功した。
 だが同時期に訪れ、リヨンハイヴを殲滅したDNA・RNA連合はどうだろうか。 あの戦闘は電脳暦世界の技術力、特にVRを初めとする強大な軍事力を見せ付けるために行ったものではないだろうか。
 そして現地-ヨーロッパで戦っている現地軍との接触を望まず、あまつさえ交渉に出てきた米ソ両国とのコンタクトをも拒んでしまった。 これではもう、この世界の人類を敵に回してしまったようなものだ。
 それでも拒否された米ソ両国が攻勢に出ないのは、彼らが持つ戦力を恐れているからだろう。

「(無理もないわね。 あんな戦力差で戦争なんかしたら、結果なんてたかが知れているわ)」

 そこまでの所で自分なりの考察を一旦止め、仰向けに寝転がりながら菫が声に出さず呟く。 更に衛星軌道上には補給、連絡ルート確保を目的とした艦隊が駐留している。
 空より遥か上の宇宙を押さえられている以上、向こうは何も出来ないはずだ。 今の所問題は無いと悟り、さあひと眠りしようとしたその時、端末の呼び出しアラームが鳴り響く。

『霜月少尉、至急ブリッジにお越し下さい。 クーゲベルグ艦長がお呼びです』

 艦長直々の呼び出しとは、只ならぬ予感を感じる菫。 案の定、端末の画面に表示された文章に目を通した瞬間、先ほどまで溜まっていた眠気が嘘のように吹き飛んだ。

「・・・っ!?これは・・・!」

 その内容とは、電脳暦世界の各国が本格的に動き出した事を告げるものだった。 


同日、電脳暦世界1105:国連を通じて世界各国が平行世界への援助を提案。

電脳暦世界1659:アメリカ軍強襲型宇宙空母『ジョン・S・マケイン』CISゲート突破。 異世界への同国へ交渉開始。 ロシア連邦、中華連邦、日本国の特務派遣団もこれに続く。



[2970] 第10話-訪問-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2010/01/28 15:09
・ 7月7日 AM7:04 日本帝国 東京 帝都城


 朝の日差しが降り注ぐ帝都城、武が元いた世界や電脳暦の日本では俗に皇室の人々が住まう“皇居”と呼ばれる建物の最深部。 薄暗い照明の中、背広姿の男が最重要の情報を携えある人物の元を訪れていた。

「それで、他国の状況はどうなっておりますか?」
「は。 現在異世界から来た来訪者と名乗る一団は欧州の支援を積極的に申し出ており、欧州国連軍や各国亡命政府は受け入れを準備しているとの事です」

 男の報告を聞いた後、やはりそう出るかと女性はふっと息を吐く。 ヨーロッパを始めとするユーラシア大陸は、既にBETAの手中にある。 それらを一日でも取り戻したいと願う彼らの思いは痛いほど理解できる。
 その為には異世界の援助だろうと何だろうとお構い無しという事か。 そこまで考えた所で、女性は次に疑問に思った事を男に話してみる。

「欧州の対応は概ね分かりました。 では米国やソビエトはどのような対応をしていますか?」
「詳細な事はこれから調べなければ分かりませんが、それぞれ交渉に乗り出そうとしているのは確かでしょうね。 先の一件もありますし・・・」

 失われた国土と勢力を立て直すのに躍起なソ連と、戦後の支配を目論み戦力を拡大しつつあるアメリカ。 それぞれの思惑が錯綜する中、女性はこの国の代表として決断を迫られている。
 それが本当に正しいのかどうか、彼女は目の前に居る男に助言を求めた。

「では鎧衣、我が国は・・・私はどのような決断を行えば良いと思いますか?」
「殿下、それならば・・・」

 そうして日本帝国情報省課長の鎧衣左近は、日本帝国征夷大将軍である煌武院悠陽に対し、今後の事に関する助言を始めた。


7月7日:日本帝国政府、異世界に存在する日本国政府からのコンタクト受諾。
翌日 電脳暦世界:日本国政府、日本帝国への技術的支援を決定。 国連と共に先行させた自衛官4人に続き、特派員1人を派遣。


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#10 訪問


・7月10日 AM8:09 横浜基地 武の部屋


「なるほど・・・ つまりオルタネイティヴⅣ計画の内容は、君も詳しい事は知らないわけだね?」
「ええ。 最近夕呼先生に聞いてみたら『一人の子供が、人類に夢と希望を与える計画』って言ってました」
「子供? 博士の隣にくっついている、あの子が秘密兵器なのかい?」
「いや、霞はそんな大それた子じゃ・・・」

 そこまでケイイチに言葉を返した時点で、武の口が急に止まる。 確かに、極東最大の国連軍基地、それに国連が計画している『オルタネイティヴⅣ』の遂行場所だというのに、なぜ霞のような少女が夕呼のそばに居るのか。 そして武が最深部で見た人間の脳髄、あれはどのような関係が有るのだろうか。 気になる事は多々あるが、今は見える範囲でそれを調べていこう。
 そう思った武は、先日の一件をケイイチに問う。

「それでケイイチさん。 電脳暦世界の人達が、この世界に進出しているって言う話は本当なんですか?」
「本当の事さ。 僕らの世界の持つ技術や戦力は、向こうから見れば喉から手が出るほど欲しい物だ。 何より・・・」
「電脳暦世界の人達はそれを武器に、この世界で一旗上げようと目論んでいるからですね?」

 武の言葉に、その通りだと答えたケイイチがコクリと頷く。 BETAによる侵略の危機に瀕する異世界の国々に手を差し伸べて援助を行なう事で、電脳暦世界での地位や利益を得ようというのだ。
 これが以前の企業国家なら国連や1国のみに支援を集中する事も出来たかもしれない。 だが今回名乗りを上げたのはダイモン戦役の後、プラントと企業国家の支配力が弱体化した隙を狙って、再び世界中で復活した主権国家政府だ。
 それぞれの国が己の私欲と野望に駆られて行動を起こす以上、この世界の日本、そしてこの横浜基地に影響を及ぼすのではないかと不安に思う武に、ケイイチが声をかける。

「安心して白銀君。 僕は本心でこの世界を救いたいと思っているし、フィルノートのクルー達も同じ気持ちで居るよ」
「そう言ってくれると、本当に心強いですよ。 ところでケイイチさん、この世界の日本にはそういう人はもう来たんですか?」
「う~ん、もう来てもいいはずなんだけどなぁ。 もしかしたら、皆には内緒で来ているのかもしれないよ?」

 帝国政府からの公式発表が依然として無いことに首をかしげる武とケイイチ。 そして2人が噂する異界の日本からの使者が、帝都城に居る悠陽の元を訪れていた。


・ 同時刻 東京 帝都城 謁見の間


「時空を越え、はるばる異世界から私達を助けに来てくださった事、心より感謝いたします」
「礼には及びません。 住む時空は異なりますが、同じ日本人同士。 助け合うのは当然の事です」

 蝋燭のそれを模した照明が、ぼんやりと謁見の間に居る2人を照らす。 1人は日本帝国における最高権限者である悠陽、そしてもう1人は電脳暦世界から日本帝国へ交渉にやって来た特派員少女、秋月椿。 年齢的にも外観的に大差無いが、異 世界との交渉という重大な役目を背負って、こうして自分と対等な場にいる彼女に悠陽は個人的に強い興味を抱いた。 

「しかし、異世界からの使者が女性とは。 私としては、てっきり殿方が来るのかと・・・」
「異世界の日本では、適材適所の精神が徹底していますから。 それに女同士、交渉以外の話題でも話が弾むと思いませんか?」

 椿の言葉に安心したのか、そうですねと答えながら悠陽が微笑む。 確かに外交でも使者が女性相手なら会話もしやすいだろうし、更に社交的な性格の場合はなおさら進展するだろう。
 しかし、歴史の影に女ありと古くから言われているように、その裏ではあらゆる策を張り巡らせ、それを実行に移そうと企む、魔女のような女性も存在する。

「さて殿下、よりよい関係を築き上げる為に具体的な話を始めましょうか?」
「そうですね、では・・・」

 彼女が・・・椿がそのような人物で無ければいいが。 そう悠陽は思いながら、椿との交渉を続けた。


・ AM10:16 横浜基地B19フロア 香月ラボ


「あの~夕呼先生?」
「なによ?」
「呼ばれたのは俺だけのはずじゃないんですか? 何でサギサワ大尉まで・・・?」
「いやね、VRっていう兵器の事を詳しく聞こうと思って彼も呼んだのよ。 無論、戦術機とVR両方に乗ったことがあるアンタと一緒にね」
「そうそう、この前は途中で有耶無耶になっちゃったしね」

 夕呼の発言の後、部屋の奥で答えるケイイチは、これから始まる説明に必要な機材の準備を霞と共に始めている。 確かに自分もVRに関わるテクノロジーについて菫からは詳しく教わってないし、戦術機とVRという似て非なる人型兵器に乗った経験がある。
 それぞれの違いについても、この2人からきっちり聞いたほうがいいだろうと武は思った。 そうしている内にケイイチと霞が準備完了し、スライド画像や映像資料を交えてケイイチが説明に入る。

「今スライドに映っている画像は、初のVRであるMBV-04Gテムジンと、同じく初めて開発された戦術機F-4ファントムのスペックと対比図です」
「どっちも第1世代機で初めて開発された機体だって言うのに、随分シルエットが違いますね」
「当たり前でしょ~? そもそも設計思想が違うんだから」

 この期に及んでお前は何を言っているんだと冷たい視線を向ける夕呼に対し、武は愛想笑いで誤魔化す。 夕呼の言うとおり、同じ第1世代でもVRと戦術機でその設計概念や運用法も大きく異なる。
 かたや重装甲で受け止めるという、原始的なコンセプトを持った対BETA戦初期の機体。 かたや限定戦争という見世物の戦争の為に、汎用性主体で開発された機体。
 その性能は言うまでも無く、オーバーテクノロジーを元に作られたVRの方に軍配が上がる。 まあ、異世界同士の兵器を比べろというのがどだい無理な話だ。 ここで夕呼は、最初に開発された2機のVRに注目する。

「当初は今言ったテムジンに加え、その支援機であるHBV-05 ライデンの2機が基幹機種になるはずだったのよね?」
「ええ、ですがライデンの装備する対艦レーザー砲が非常に高価になってしまい、28機程度しか生産できなかったんです」

 当初のVR編成においては、前衛の04テムジンと、後衛の05ライデンによる支援という図式が計画されていた。 しかしケイイチの説明どおり、予想以上に高コストになってしまったライデンは極少数しか生産できず、そのため別の支援型VRを開発せざるを得なくなってしまった。

「で、そのライデンの穴を埋める為にSAV-07 ベルグドルが開発されたんですね?」
「ああ、アンタの世界じゃ『電気冷蔵庫』とか散々な言われようだって、白銀から聞いたわよ」
「事実ですけどね・・・ ところで白銀君、何処でそんなこと覚えたの?」

 そう言ってくすくすと笑う夕呼に対し、眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに眼鏡を掛けなおすケイイチに、武は菫から教わったと素直に答える。 確かにベルグドルはその上半身にミサイルといった火器や管制装置を満載た影響で、重心バランスが劣悪になってしまったのだ。
 しかしテムジンの1/7という低コストということもあり、DNAの主力機であるテムジンよりも大量に生産されたのだった。 その後バランス重視の重戦闘VRであるHBV-10ドルカスが開発され、一方テムジンも偵察型のTRV-07バイパー系、格闘型のMBV-09アファームド系へと派生し、更には簡易量産型であるテン・エイティも存在する。

「F-4ファントムとF-5タイガー、これら第1世代戦術機は自身の装甲でBETAの攻撃を防ぎきるというコンセプトから開発されたわ。 それでもBETAの攻撃を防ぎきれなかったし、人類に必要なのは『盾』ではなく『剣』だった。 そこで対照的に、機動性を向上させた第2世代戦術機が開発される」

 F-15 イーグルやSu-27 ジェラーブリクといった名が挙がる第2世代戦術機は、機体の軽量化や電子制御の向上による機動力の強化が特徴だ。 コクピットや各部関節、ジェネレーターといった重要な箇所に装甲を集中させ、その装甲も軽量かつ強固な物が採用されている。
 そしてこの段階に入ってから、戦術機同士の戦いも視野に入れた設計がされている事だ。 BETAという共通の敵が現れてもなお人類同士の争いがされようとしている事に、武は深い悲しみと憤りを覚える。

「BETAの侵略で人類が、地球が滅びかけているのにそんなことを考えるなんて、やっぱり俺は納得できませんよ・・・」
「やっぱ人間って、つくづく欲張りな生き物よね~。 ハイヴに眠るお宝を独り占めしたいが為に、人間同士の戦争も視野に入れてるんだから。 それに人間同士の戦争なら、あんた達の方が一枚上手じゃなかったかしら?」

 夕呼の言葉を聞かなかったのか、あるいはあえて無視したのか、ケイイチはその部分には触れずに第2世代VRの説明に移る。

「いよいよお出ましね、リヨンハイヴを陥落させた張本人達に・・・」
「第2世代VRの性能は、第1世代と比べて天と地の差があります。 その1つが、Vアーマーと呼ばれる防御機構です」

 あのフランスでの戦いの一部始終を、夕呼は忘れる事が出来なかった。 戦術機なら容易く蒸発する出力のレーザーをまともに喰らっても、平気で戦闘を続けていたVRがいた事を。
 それを実現したのが、第2世代VRが共通して装備する防御機構『Vアーマー』の存在だ。 通常はコクピット及びVコンバータの周囲に展開されているゲートフィールドを防御に転用し、実体弾や光学兵器による攻撃を無効化あるいは軽減が可能であり、これにより第2世代VRの防御力は飛躍的に高まったのだ。

「ここで重要なのはVアーマーにはいくつかの特性があることです」
「特性?」
「まず一つ目は“剥離”。 Vアーマーは無限に展開される物ではなく、被弾によって徐々にその効果が薄れていきます」
「まあ当然よね。 じゃああの時、カニみたいなVRが重光線級のレーザー照射を続けて受けていたら撃破されていたって事ね?」

更にケイイチはVアーマーが弾く事の出来ない攻撃、すなわち極端に高出力な射撃兵装、至近距離の被弾と近接戦闘が存在し、更にはアーマーを中和させる攻撃が第2世代VRに備わっている事を説明する。

「物事に絶対なんて有り得ないのは、何処の世界でも同じなんですね。 それで大尉、他の特徴は?」
「後は機体によってVアーマーの強度が違う事ですね。 あの時レーザーを防ぎ切った機体はRVR-68 ドルドレイ、最強クラスのVアーマーと装甲を持つ重突撃型VRです」
「なるほど、道理で受け止められる訳だわ・・・」

 一連の話を聞き終え、夕呼はう~んと唸りながら頭を抱える。 ミサイルやナパーム等の重火器を満載した支援機、グリス・ボックや派生型のシュタイン・ボック。 装備次第で様々な状況に対応出来る第2世代型アファームド系列。
 一応、ケイイチはバル系列やエンジェラン、スペシネフといった特殊機の存在を話さなかったが、それを差し引いても第2世代VRの性能は、先の戦いでフェイズ5クラスのリヨンハイヴを制圧出来たという事実で証明済みだ。
 これ以上追求しても無駄だと悟った夕呼は、第3世代戦術機について話を切り出す。

「第3世代戦術機は、207訓練小隊が使っている97式高等練習機『吹雪』を始めとする最新機種よ。 第2世代機で確立した技術を導入して、性能の向上を図っているわ」

 アメリカ軍のF-22ラプターや帝国軍の94式不知火、EU軍のEF-2000タイフーン、ソビエト軍のSu-47ベルクトといった第3世代戦術機は夕呼の説明どおり、第2世代で培った技術の延長線上にある戦術機だ。
 制御系に光通信を用いて反応性、操縦性を向上させ、軽量強靭な新素材による装甲の導入で更なる機動性の向上と、まだまだ開発途上なもののその可能性は未知数だ。
 一方でVRの第3世代機の方はというと、第2世代機のそれと比べ性能が大幅に弱体化しているとケイイチは話した。 それは新たに限定戦争の場となった火星に由来する。

「VCa8年に火星でマーズクリスタルが発見されてからは、火星でも限定戦争が行なわれるようになりました。 そこで起きたある現象に、火星で戦うVRパイロット達は悩まされる事になります」
「悩まされる?」
「マーズクリスタルによる、Vコンバータへのジャミング現象です。 それで火星では、第2世代以下のVRは機能不全や大幅な性能低下を引き起こします」
「その対策として製作されたのが、アンタ達の隊が装備している第3世代VRって訳ね?」
 
 どうやらVクリスタルはそれぞれ固有の精神干渉波を持っているらしく、それらが地球圏で作られたVコンバータの機能を阻害するというのだ。 そこでVコンバータに阻害効果を軽減するフィルター装置を取り付け、火星の環境に合わせて新設計された一連のVRを第3世代VRとして実用化したのだ。

「後に地球でもある研究者による実験の影響でジャミング現象が発生するようになり、VRの世代交代が急速に進みます。 現在ではフィルター装置が更に発展したお陰で、第2世代以下のVRが再び稼動可能になりました」
「へぇ~、そっちの世界でも無茶な事する人間は居るのね~」
「それ、夕呼先生に言われたくないだろうな・・・」

 学者先生同士の話には、あまり口出ししない方が良い。 夕呼の殺気に満ちた視線を浴びながら、武は今日また一つ賢くなったなと心の中で頷く。 と、ここで夕呼はVRに関わる重要な要素を思い出す。

「そういえば白銀、VRって何で動いてるか知ってる?」
「えっ? Vコンバーターですけど」
「それは前に聞いたわ! そうじゃなくて具体的にジェネレーターとかメインリアクターとか、もっと明確な動力源は何か聞きたいのよ!」
「それも今から説明しますよ。 社君、次のデータを持ってきてくれ」
「はい」

 霞から手のひらサイズのメモリーチップを受け取り、ケイイチは画像データを表示させる。 スクリーンには第2世代型VRの代表格、テムジン707のVコンバータユニットの画像が映っていた。

「え~と、今映っているのがテムジン707のVコンバータユニットです。 オレンジ色の部分がコクピットブロック、その後ろがVコンバータ本体で構成されています」
「で、肝心の動力源は?」
「実はVRには、動力源といった装置が一切見当たらないんですよ」
「何ですって!? だったらVRはどうやって製作するのよ!」
「これを見ればよく分かりますよ」

 ケイイチの操作と同時に、スクリーンに映るVコンバータが唸りを上げ、バーコードのような輪がユニットを包む。 どうやら霞がケイイチに渡したデータは一種のシミュレート映像のようで、VRが製造される過程を描いた物らしい。
 そうしている内に、ユニットの周りに設計図のようなものが現れたかと思うと、それらがワイヤーフレームとなって機体のパーツを形作る。 更にそれらが実体化しパーツごとに鮮やかに彩色されたかと思うと、まるでプラモデルの様に各パーツが接続され、テムジン707という機体が完成した。
 あまりに馬鹿げた、それで居て滑稽なその光景に、夕呼と武は言葉を失う。

「これが“リバース・コンバート”。 Vプロジェクト最大の成果にして、VRを製造出来る唯一の方法です」

 初期開発時はCIS突入艇と呼ばれ、Vクリスタルの模造品として作られたVコンバータ。 その内部に収められているVディスクに機体の設計データを書き込み高い負荷を掛けると、その機体がVコンバータを核に実体化する現象がリバース・コンバートと呼ばれる現象だ。
 コンバートする際には電脳虚数空間から材料を取り寄せてVRを具現化せしめている為、実質的な材料はVコンバータユニットを製造する分と封入するVディスクに塗布するVクリスタル質だけということになる。
 最後はVコンバータおよびVRの制御用OSであるMSBS(Mind Shift Batlle System)。 人間の精神と兵器の制御系を直結するという、VRが生まれる前から理想的なシステムだ。 VRが基本的に人型のフォルムをしているのも、パイロットが自らの体の如く動かせるようにという理由に尽きる。
 全ての話を聞き終えた後、夕呼は真っ白に燃え尽きたボクサーが如く、座っていた事務用のイスにもたれ掛かっていた。

「こんな魔法みたいなのがアンタ達の常識な訳? もう付いて行けないわよ・・・」
「まあ『十分に発達した技術や科学は、魔法と区別が付かない』って言葉もありますから。 それに最近の観測では、僕ら電脳暦世界以上の科学力を持った平行世界もいくつか確認されています」

 ケイイチの言葉に、真っ白だった夕呼が敏感に反応する。 世界は無限に存在し、そして繋がっている、そう提唱したのは他ならぬ自分なのだから。
“この世界”では電脳暦世界の住人がたまたま訪れ関わってきたように、平行世界に於ける他の“この世界”には彼ら以上の力と知恵を持つ者達が干渉し、援助し、 あるいはBETAもろとも自分たちと敵対・・・いや、最初から武一人しか訪れていない世界があるのかもしれない。 そう解釈した夕呼は、今置かれた状況とその今後について考えるべきだと判断した。
 無限に存在する確立時空の事を一々考えても、余計に脳細胞を傷めるだけだと悟ったからだ。

「そうね、今更グダグダ言っても始まらないわ。 ん・・・?」

 そう夕呼が言い終えた後、司令部に接続されている内線電話のベルが鳴る。 数度の受け答えをした後、武とケイイチにこれから始まるある事について伝える。

「そろそろ例のショーが始まるみたいね。 2人とも、早く行かないと良い場面を見逃しちゃうわよ?」
「じゃあ白銀君、お言葉に甘えて行こうか」
「はい!」

 夕呼に、ラボを後にする武達。 そして夕呼はケイイチから受け取った、データをまとめながら第1演習場の様子をモニターで眺める。

「さて、彼女達は何処まで頑張れるかしらね・・・」

 モニターに映るUNブルーに塗られた戦術機。 それは夕呼直属の部隊であるA-01、通称『ヴァルキリーズ』の衛士達が駆る不知火だった。 横浜基地最強と噂される特殊部隊の相手、それは・・・

第10話に続く



[2970] 第11話-疾駆-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2010/01/28 18:49
・ 2001年7月14日 AM10:45 横浜基地 第1演習場


『ヴァルキリーマムより各機、作戦開始』
「ヴァルキリー1了解。 さて、向こうはどう出るかな・・・?」

 司令部からオペレータを行っている涼宮遥の報告に特務部隊A-01、通称『伊隅ヴァルキリーズ』のリーダーである伊隅みちるが返答する。 既に各メンバーは所定のポイントで待機しており、後は作戦開始の合図とみちるの号令を待つだけだった。
 先鋒を務めるヴァルキリーズの2番手、速瀬水月がみちるに声をかける。

「大尉、なぜ直ぐに移動しないのですか?」
「相手は戦術機とは次元が違う人型兵器だ。 速瀬、いつもの様に突っ込んだら、直ぐにやられるかもしれないぞ」
「あはは、そりゃ~そうですよね」

 余りにも分かりきった事をみちるに指摘され、眉間に軽くしわを寄せている彼女に対し愛想笑いを浮かべる水月。 その時、レーダーに反応。 どうやら相手も動き始めたようだ。  みちるや速瀬の目付きが、勇猛な戦乙女のそれへと変わる。

「宗像は私と来い! 速瀬は威力偵察、ついでに敵を誘い込め。 だが私が指示するまで撃つなよ?」
「ヴァルキリー2了解!」「ヴァルキリー3了解!」
「風間は後方で狙撃体勢、威力偵察中は私と宗像の支援を優先しろ」
「ヴァルキリー4了解」

 みちる機の隣に立つ不知火に乗る宗像美冴、そして彼女達より少し後ろに居る風間梼子が返答したのを合図に、みちるが号令を放つ。

「では始めようか、全機続け!」

 肩に描かれたUNの文字が眩しく輝く蒼の不知火4機が、朽ち果てたビル街に飛び込んでいった・・・


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#11 疾駆


「センサーに感有り。 皆、来るよ!」
「花月は一撃離脱で先行! 佑哉は花月のカバーだ!」
「リーフ4了解!」「リーフ3了解~!」

 美雪からの索敵報告が出ると同時に、リーダーの孝弘は矢継ぎ早に指示を出す。 だが、先行する佑哉のVR、震電と桜花の御巫の動きはVRのそれと疑うほど遅い。 苦渋の表情を浮かべる孝弘。 それもそのはず、彼ら『リーフ・ストライカーズ』が乗るVR全ての機体に、ケイイチによってリミッターが課せられているのだ。
 圧倒的なVRの性能を見せ付けて、この世界の人類にこれ以上余計な刺激を与えないという配慮による物だ。 そしてリミッターの度合いは、自分たちの相手であるヴァルキリーズ、彼女たちが乗る不知火と同じ第3世代戦術機と同レベルの機動性に制限されている。

「(まったく、ケイイチ君も無理難題を仰る・・・)」

 自分達の乗っているVRが、他世界にとって見ればそれほどすごい物なのかと全員が痛感する。 例えるなら、旧世紀に放映していたスポ根アニメの特訓において、筋力養成ギプスを付けられているような感じだろうか。
 余計な考えを巡らせている内に、先行した2人が水月の不知火と遂に接触する。

「ゲッ! 2人掛りなんて聞いてないわよ!」

 そう愚痴を漏らしながら87式突撃砲を構える水月ではあったが、みちるからの命令を思い出してトリガーを引こうとした指を戻す。 攻撃が出来ない以上、このまま突っ込んでも意味が無い。
 水月は目の前にある交差点を起点として、『尻尾巻いて戻る』という選択肢を選ぶ。

「あいつ逃げるぞ、追撃するか?」
「待って、どうせ追いかけても後続が待ち伏せしてるだけだわ。 ここは・・・」
「あっ・・・おい!」

 ここで桜花の御巫が派手に噴射跳躍。 御巫は空高く舞い上がり、粘土細工にも見えるビルが眼下を軽く望む場所にまで上っている。 自ら存在をアピールするとは、何を考えているんだろうと佑哉が思ったその時、36ミリチェーンガンの心地良い発砲音が聞こえてくる。

「(来たっ・・・!)」

 ペイント弾が飛来してきた時には、桜花は既に回避行動を行なっていた。 だがリミッターが設定されている故の加速の遅さに、彼女は内心舌打ちをする。 直撃コースを通る弾は予め構えていた薙刀で弾き飛ばし、御巫は再び廃ビルの森へと消えていった。

「外されましたか・・・ それにしても凄いですね、近接兵装で我々の射撃を弾くとは」
「感心している場合じゃないぞ、直ぐに移動だ宗像。 もたもたしていると、奴の仲間が私と貴様を狩りにやって来るぞ」

 まさか自分を囮に使って、自分と宗像の位置を知らせるとは。 次の合流ポイントへ移動しながら、みちるは彼らの大胆な行動に宗像とは違った度合いで感心していた。 百発百中の命中率を誇る光線属種が存在するかもしれない対BETA戦では、高高度の跳躍は自殺行為に等しい。 それ故に衛士たちは、跳躍による回避や機動を極端に嫌う傾向にあり、それは対人戦闘においても同じだ。
 しかしそういった概念が無い電脳暦世界の人間なら、そのような事はお構い無しに跳躍を始めとする空中機動を兵器で行なえる。 先日行なわれた207訓練小隊に対する武が行なったレクチャーを見ても、彼の動きは空中機動を含めて自分が知りえない摩訶不思議なものだった。 アレを全ての衛士が行なえたら、人類はBETAの魔の手を緩める・・・いや、逆に打ち勝つ事も出来るかもしれない。
 そんな淡い希望が出来た彼女の網膜ディスプレイに、同じく合流ポイントに移動中である水月の顔が映る。

「速瀬か!? 丁度いい、予定を早めて奴らを迎え撃つ。 いいな!」
「了解! 大尉と宗像で3対2、十分ですよ!」

 やる気満々な水月の声を聞いて、みちるはフッと鼻で笑いながら、本格的に相手チームと戦闘を行なうと決意する。 3機の不知火が集結しつつある事に気付いた佑哉は、セーフティを演習モードに切り替えながら桜花に問う。

「今度は集まり始めてるぜ、今度こそ仕掛けるか?」
「勿論! 時間を稼いでいる間に、苗村君達が来てくれるわ!」

 双方合意の上、突撃を開始する2人。 桜花は水月に、佑哉は宗像とそれぞれの不知火に標的を定め、残るみちる機には目も暮れず街路を突っ込んでくる。

「速瀬、宗像! どうやら奴らの獲物は貴様たちのようだ。 来るぞ!!」

 みちるがそう叫んだ瞬間、佑哉の震電は装備する75ミリ重突撃砲を発砲。 桜花の御巫は薙刀を突き立て更に加速。 それぞれの標的である水月と宗像目掛けて襲い掛かる。
 それに対し宗像は射撃で、水月は長刀を選択装備し対抗。 双方の火線が路地伝いに交わり、長刀と薙刀の刃が重なり鋭い火花を散らす。 唯一マークを逃れたみちるが後方の風間の元へと戻ろうと思った瞬間、彼女の叫びとロックオン警報がコクピット内に響いた。

「大尉! 危ない!」

 乱戦中に飛来し、みちる機を掠めた演習出力の荷電粒子ビーム弾。 それらはビルの路地という路地を抜けた先、その奥から美雪が駆る八雲から放たれた物だった。
 すかさず風間が狙撃で応戦、そして残るのは、目の前にいる孝弘の叢雲のみ。 近接戦闘モードに変形した可変ランチャーの切っ先を向ける新緑の機体、それに乗る孝弘がみちるに声をかける。
「さあ隊長さん、俺達も始めようぜ!」
「いいだろう。 我らヴァルキリーズと戦術機の強さ、とくと味わうんだな!!」

ENTRY TEAM:UN SpecialTeam A-01 VS JSDF VR AggressorTeam
BATTLE STAGE:YOKOHAMABASE No.1 exercise field

GET READY・・・?


・ 演習開始5分前 横浜基地 屋上


「こんな屋上に呼び出すなんて、白銀准尉は何を考えているのかしら・・・?」
「分からぬ。 だがあの人の事だ、何か考えがあるのだろう」

武が居た“元の世界”では学校の校舎となっていた建物の屋上に、207訓練小隊のAB分隊双方のメンバー全員が集まっている。 突然武からの放送でこんな所に集められて、不可解な彼の言動に榊は不満を露わにする。
 冥夜は一応の答えを返して見せるが、やはり榊の言うとおり武がどのような理由で自分らを此処へ呼び出したのか皆目見当が付かなかった。 すると、メンバー中一番野生のカンに優れた美琴が、屋上に流れる空気の異変に気付く。

「ねえ壬姫さん、どうも変じゃない?」
「ん~、もう直ぐ夏ですからね~。 熱いはずですよ~」
「そうじゃなくて~! 何かこう、空気というか臭いというか・・・」
「どうしたのだ鎧衣、私には何も・・・っ!?」

美琴の言葉に触発されるように、冥夜もこの横浜基地に漂う異変に気付く。 そして一足遅れて聞こえてくる、戦術機の跳躍ユニットが奏でる爆音と異質な駆動音が辺りに響き渡った。
 彼女がその方向へ振り向いた時、既に他のメンバー達はフェンスにへばりつく様に第1演習場を眺めていた。 始めて見る戦術機とVRの戦闘機動に高原と麻倉コンビが思わず声を上げる。

「あれが、一人前の衛士の動きなんだ・・・」 「私達も、いつか必ず・・・!」

2人が目撃したのは先行する水月機だった、続けて柏木と築地が展開を始めるリーフ・ストライカーズのVRを目撃する。

「おっ、アッチも動き出したみたいだよ」 「茜ちゃん茜ちゃん! あの戦術機、緑に青色、一番先はピンク色だよ~!」
「わかった! わかったから落ち着いて多恵~!」

自衛隊標準カラーの緑色をした、孝弘と美雪の叢雲と八雲。 藍色をした佑哉の震電に、兵器らしからぬ桜色が色塗られた桜花の御巫。 興奮のあまり飛び掛る築地を押さえながら、茜はなんとかしてくれとアイコンタクト。 それに気付いた慧が『・・・了承』と小さく答えた後、築地をわきの下から抱えて捕まえる。
 そして始まる模擬戦闘、演習場を疾駆する戦術機とVR、相容れぬ2つの機動兵器が見せる流麗な戦術機動に、一同は驚きと感動を覚える。 そして徐々にエキサイトしていく彼女たちの前に、皆を此処へ導いた武とケイイチが姿を現す。

「やあ、早速模擬戦に見取れちゃってたみたいだね」
「待たせて悪かったな、皆」
「白銀准尉!? それに、サギサワ大尉も!?」

突然の来訪に最初に気付き、千鶴は慌てて敬礼しようとする。 しかし、そうしていたら良い所を見逃してしまうとケイイチはそれを咎めた。 一秒でも長く、自分達にあの戦いを見せたいのだろうと思い、彼女は再び演習場を見やる。
 振り向いた次の瞬間、空中高く舞い、みちる達による下からの砲撃を回避する御巫の姿が見えた。 皆がおおっ!っと、さらに歓声を上げる。
「凄ぇだろ? どっちも光線級がいるBETAとの戦いじゃあ、絶対出来ない機動をしているんだ」
「だけど、あの自由自在な動きをすべての衛士達が行うことが出来たら・・・」
「戦場で生き延びる確立が、飛躍的に高まる・・・?」

紡ぐように言う茜の答えに、静かに頷く武とケイイチ。 『回避できない』や『立ち回れない』といったケースでは、相手の行動や周囲の状況に対して行動する選択肢が存在しないという事だ。 逆に自機の挙動や行動の制限をなくしてしまえば、それだけ危機から逃れる確立が高まる。
 そして一人前の衛士は、それらの行動を何時何所で行うかを瞬間的に判断し、実行するセンスとスキルが求められるのだ。

「そしてそれを戦術機で実現できるOSを、ここにいる皆で作っているんだ」
「えっ?」 「じゃあ私達って・・・」
「そう、すでに君達は、次世代OSのテストパイロットになっているって事さ。 これが全世界の戦術機や衛士たちに広まれば・・・想像は付くよね?」

 そうなれば自分達は、人類の勝利という夢を実現できる発明品を作るかもしれない。 近接戦闘に入った8機の戦術機とVRを見ながら、207のうら若き乙女達は皆、胸のときめきを止められずにはいられなかった。


・ AM11:04 日本帝国 帝都城 謁見の間


「・・・王手のようですね」
「っ! ぐぬぅ・・・!」

 悠陽の声にハッとし、椿は将棋盤に置かれた自軍の駒を見ながら唸る。 5回、それは椿が悠陽との将棋で負けた回数だった。 自分の出方を柔軟な思考で読んでいるのか、それとも将軍という人を導く立場にあるように、他人をコントロールする力でも備わっているのだろうか? だが今も徐々に彼女に追い詰められ、黒星が6つ目になろうとしているのは紛れも無い事実だ。
 打てば打つほど悠陽に追い詰められる。 椿は足掻く様に彼女から取った持ち駒も使ったが、それらもすべて悠陽に取り返されてしまった。
 そして王将以外の駒を動かした瞬間、椿は見た。 勝利を確信して黒く微笑む、悠陽の姿を・・・

「これで詰み、のようですね。 椿さん?」
「・・・参りました」

この期に及んで負けを認めない女ではない。 悠陽の勝利宣言に、椿は素直に深々と頭を下げた。


「あ~っ悔しい! 向こうの世界に帰るまでに絶対殿下を負かしてやるんだから~!」
「仕方ないですよ。 殿下はそうしたことに関しては無敵の強さを誇るそうですから」

 帝都城の一角に用意された仮住まいにて、椿は世話役である斯衛軍少尉、七瀬凛に先ほど行った悠陽との将棋の勝負について愚痴をもらす。 そして七瀬からその強さの秘密を聞くと、椿は余計に悔しさを露にした。

「何それ!? じゃあ私は殿下に勝負を挑んだ時点で負けだったって事!? あ~! 森○将棋で鍛えていたと思っていたのに~!」

 『ゲームの思考と、人間の思考を同じにするなよ』と誰もが思うところだが、この世界ではコンピュータゲームという概念が無いため、凛はただ椿の愚痴に愛想笑いを浮かべるしかなかった。 すると、ふすまの向こうから男の声が聞こえて来る。
 誰かと思って凛が確認すると背広姿の男、鎧衣左近の姿があった。

「急に失礼するよ、秋月椿さん」
「七瀬さん、あなたは外で待っていて」
「はい・・・」

 見張りとして凛を外へ生かせた後、部屋には鎧衣と椿の2人だけとなる。 彼がもし自分を狙って来た刺客だとしたら、とっくにふすま越しに銃で狙うなりしているだろう。
 それに、先ほど彼の顔を見た凛の反応も気になる。 もしかしたら彼は帝国政府の重役なのかもしれないと椿が思う中、鎧衣のほうから話を始める。

「どうだい、この世界の居心地は。 殿下との会談もあるし、中々骨が折れるだろう?」
「いえ、そうでもありません。 私達のいる日本で無くなってしまった物が、ここには当たり前のようにありますから」

 大和魂といった概念が、すっかり過去の物になってしまった電脳暦の日本。 対してそれらがごく普通に存在し、人々の中に生きているこの世界の日本。 どちらも同じ“日本”だというのに、時空の隔たりと歩んできた歴史とでこうも違ってくるのかと彼女は痛感する。
 元々古風な家柄で生まれ育ってきた椿だったが、屋敷から一歩外へ出るとコンクリートジャングルと化した東京の街。 それこそ武が居た“元の世界”と変わらない、いたって平穏な世界が彼女の暮らす日本なのだ。
 この世界に足を踏み入れた最初は堅苦しい雰囲気やギャップに戸惑ったものの、椿が直ぐに順応できたのはそうした理由があったからだ。 それを椿から聞くと、左近は軽く笑って答える。

「ははは、慣れというのは怖い物だね。 それよりここの斯衛軍に置いてあった見慣れぬ機体、あれは君の物かな?」
「ええ。 既に帝国政府の許可は貰っていますし、自分の身は自分で守るよう心がけていますから」

 左近が帝都城に駐留する斯衛軍ハンガーで見た、赤い武御雷に似た謎の戦術機。 それは日本政府が椿の護身用として彼女と共に送り込んだ第4世代VR、RGV-00 『菊一零式』。 横浜基地にいる桜花が乗るVR『御巫』の原型機であり、こちら側の日本製戦術機、特に斯衛軍専用機である『武御雷』と同じく近接戦闘能力と機動性重視のコンセプトで開発されている。
 既に帝国政府より向こう側の世界の人型兵器を預かるという話を聞いていた左近は、あえてこの話に触れない事にした。 そして、椿に会いに来た最大の理由である1つの話題を持ち出す。

「ところで秋月さん。 シロガネタケルという男を知っているかね?」
「勿論知っていますよ。 私がここに来る理由になった、異世界の旅人の事ですね?」

 武の存在については椿も十分に認知しており、彼が電脳暦世界に来たお陰で自分が交渉役として異世界の日本へ赴く羽目になった原因を作った男だ。
 しかも最初に彼を保護したのは国連で働く親戚の菫であり、彼女が武を可愛がっているという噂を聞いた時には、驚きの余り口に含んでいた茶を噴き出してしまったほどだ。 どうして左近が武に興味を抱くのか椿は疑問に思ったが、そんな彼女を尻目に左近は話を続ける。

「何でそんなことを聞くのか、という顔をしているね? 実は彼についていろいろと嗅ぎ回っている輩がいるようなんだ」
「それは・・・どういう事です?」
「そうだな・・・君達の言葉で言えば、この世界にも『白銀武』という人物は存在する。 いや、存在していたというのが正しいかな?」

 その言葉を聞いて、椿はハッっとした表情を浮かべる。 左近の言葉通りなら、この世界に存在していた白銀武は、何らかの理由で既に死んでいるという事だ。 そして自分らと同伴してきた白銀武は、鳴り物入りに横浜基地でよろしくやっているというではないか。
 一連の出来事もあり、平行世界という概念に気付く人間も多くなってきたが、まだそれを認めない人々もいる。 特に厳格な風潮となっている日本帝国の場合、大多数が認めない側になっているだろう。 それ故に、横浜にいる武の存在に気付き、彼について色々と詮索してくる者もいるはずだ。

「要するに詮索している連中を私の口で説得して、納得させればいいんですか?」
「出来ればそうして貰うと有り難い。 その人物の特定は済んでいるから、最悪シロガネタケルにこの事を知らせて彼自身が対応してもらう」
「横浜へ余計な面倒を持ち込んでもらう前に、ここで片付けておきましょう。 それで鎧衣さん、その人物は?」

俄然やる気になってきた椿を見て、本当に商社マンに転職しようか考える左近。 そして呼び戻した凛を含めて、3人の秘密会議が始まった。


・ 同時刻 横浜基地 第1演習場


『ヴァルキリー2、被弾。 管制部直撃により、大破と認定』
「(なっ・・・!? 速瀬真っ先にやられたとは・・・!)」

 突如舞い込んだ遥からの通信に、みちるは己が耳を疑うとともに周囲の状況を改めて把握する。 あのまま水月は桜花が駆る御巫と近接戦闘にもつれ込んだ挙句、薙刀で袈裟斬りにされたようだ。
 速瀬も切り込む直前まで撃ち込んではいたのだが、依然として敵機には射撃によるダメージ判定は無かった。 恐らく彼女の機体の至る部分に装着されている増加装甲が十分に機能しているためだろう。
 みちるは3対4の状況になったにもかかわらず、落ち着いた口調で後方の梼子と連絡を取る。

「風間、聞こえるか?」
「何でしょうか、大尉」
「速瀬を仕留めた敵を集中的に狙え。 どうやら奴は加速時に若干のラグがあるようだ」
「ヴァルキリー4了解! ヴァルキリー3と連携して仕留めます!」

 ラグがあると言う事は、パイロット側が攻撃に気付いても回避にコンマ数秒たりとも隙が出来る。 そこを自分の狙撃で撃てというみちるの真意に気付いた梼子は、復唱の後早速行動に移す。
 つい先刻までは自分も、相手チーム最後尾にいる美雪を牽制していたが今は後回しだ。 ビル街を縫うように移動した梼子は御巫を補足。 美冴になった事を確認した後、梼子は悟られぬよう物陰から照準を定める。

「桜花! 狙撃来るぞ!!」
「っ!?」

 佑哉の怒鳴り声を聞いた桜花は、そこで初めて自分が梼子に銃口を向けられている事に気付く。 VR2機相手でも臆さない美冴と自分の機体の重さに苛立っていたせいで、梼子の存在など微塵も感じていなかったせいだ。
 回避しようとする桜花だったが美冴の的確な射撃で妨害され、思うように加速が出来ない。 そして彼女が次に見たのは、梼子機が装備する支援突撃砲の銃口から輝くマズルフラッシュだった。


・ PM12:04 横浜基地


「いやはや、まさか決着付かず引き分けとは・・・」
「リミッター付与のせいで機体性能はほぼ同じ、後はパイロットの熟練度で勝敗が決まるから仕方ないわ」

 昼食を終え、午前中に行なわれた模擬戦の結果について話す桜花と佑哉。 その向かいには孝弘と美雪が座り、追加で何を食べるでもなく2人の話を聞いている。
 佑哉と桜花の言うとおり、ヴァルキリーズとの市街地模擬戦は制限時間切れによる引き分けに終わった。 損害はヴァルキリーズ側には水月、リーフ・ストライカーズ側には桜花と良チーム1機ずつと、正に痛み分けといえる状況だった。
 VRという異質な兵器に臆することなく、自分達に挑んだヴァルキリーズのパイロット達はどのような人物なのか。 そう孝弘が思案していたその時、みちるが彼らの元に訪れる。

「失礼だが、『リーフ・ストライカーズ』という部隊員を探しているのだが・・・」
「えっ? それって俺達の部隊名ですけど」
「そうか、君らが私達と模擬戦を行なった相手か。 私は特殊部隊A-01隊長の伊隅みちるだ。 よろしく頼む」

 駄目元で探しに来た早々、一発目で当たりを引くと言う事態に、みちるは何か運命じみた物を感じる。 彼ら4人から、異世界にまつわる様々な話を聞く事が出来た後、今回の模擬戦で彼らの機体にリミッターを掛けられていた事実を、みちるは始めて知る事になる。

「なるほど。 VR本来のスペックを相手にしていたら、私達は文字通り瞬殺だった訳か・・・」
「はい。 リミッターが付けられていたのは俺達にも内緒だったみたいで、立ち回りに苦労しました」
「しかし制限されていると言う割に、中々の立ち回りだったな。 流石異世界のエースと言った所か?」

 デタラメと言うべきVRの性能を戦術機と同じレベルにまで封じられ、尚且つそれらを知らされないまま模擬戦を行ない互角の戦いを演じて見せた孝弘達に、みちるは感心する。

「そうですね。 VRは一部の機体を除いて長距離飛行が出来ないので、少し羨ましかったですよ。 だったら・・・」
「『その自由度の高い動作を、戦術機の操作系に組み込んだらどうだ?』と言いたいんだろう?」

 やはり彼らも同じ事を考えていたのだな、自分が言った答えに驚く孝弘達を前にみちるは彼らも素その筋では同類と認めざるを得ない。

「その通りです。 既に『XM1』と名付けられた次世代OSが、207訓練小隊でテストを行なっているそうです。 開発指揮は香月博士と・・・」
「白銀武だろう? 噂は聞いている」

 流石は特殊部隊の隊長だと思いながら、満ちるに頷き答える孝弘。 対する彼女も、夕呼と共に次世代OS開発に勤しんでいる武に興味を抱いていた。 従来のOSでも同世代機を圧倒する動きを見せ、完成した次世代OSを搭載した物に乗ったらどのような超絶機動を見せてくれるのかと、みちるは気になって仕方が無かったからだ。
 もうすこし彼らと話したい事もあったが、自由な時間が残り少ない事にみちるは気付く。

「すまない、そろそろ時間だ。 私も色々やる事があるからな、これで失礼する」
「そうですか。 本来は俺達の方から出向く筈だったのに、お手数かけてすみません」

 4人と敬礼を交わし、みちるはそのまま食堂を後にする。 模擬戦の雰囲気と特殊部隊の所属から、みちる達ヴァルキリーズがこれまで数多くの困難な任務を遂行してきた事は直ぐに想像付く。
 では自分達はどうなのだろうか? ダイモン戦役後に再編された世界各国の軍隊。 ご多分に漏れず日本でも防衛力を測るために、適性の高い国民をVRパイロットとして採用する計画が実行された。
 そうした中で孝弘達は自衛隊にスカウトされ、厳しい訓練と課題を4人の絆と力をあわせて乗り越え、こうして異世界の地で任務を行なっている。 MARZやプラント主導による審判が介入してから、『人間同士が殺し合う』という嘗ての限定戦争のスタイルは消失し、スポーツ競技としての道を歩み始める。
 そうした背景があったために、孝弘達はこれまで一度も『殺し合いをする場所』という意味での戦場に立った事は無い。 仮にこの世界の人類と敵同士になり、みちるを始めとする横浜基地の皆を、果たして自分は撃つ事が出来るのだろうか?

「(俺も、青臭いガキの一人なのか・・・?)」

 焦点の定まらない瞳で孝弘は、合成緑茶が注がれた湯飲みの水面を見る。 自分自身に出した問いの答えは、まだ見付かっていない。

12話に続く



[2970] 第12話-懐疑-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2010/01/28 21:08
・ 7月31日 AM9:47 横浜基地 シミュレータルーム


「チェックポイント2、クリア。 マイナス0.2セカンド」

 レシーバーから聞こえるピアティフ中尉のアナウンスに、シミュレータ筐体の中にいるまりもは思わず口元を緩ませる。 網膜ディスプレイには仮想空間に作られた市街地フィールドが広がり、その至る所に数多くの球体・・・練習用の標的機(ドローン)が浮かぶ。
 そしてドローンの攻撃圏内にまりも機が入ったかと思うと、先ほどまでフワフワ浮いていたドローン達が一斉に襲い掛かってくる。 あるドローンは馬鹿正直に銃撃を浴びせかけ、あるドローンは徒党を組んで体当たりを行なう。

「やはり的は的だな、単調すぎてつまらん!」

 そう吐き捨て、ドローンの群れに突っ込むまりも機。 突貫するドローンはフルオート改造型の支援突撃砲で撃墜し、銃撃に対しては急加速と制動を駆使した小刻みな機動で回避。 それを繰り返しているうちに、周囲のドローンはあらかた片付けた。
 索敵を行ないながら前進するまりもの顔に、脂汗がにじみ出ていた。

「(反応が過敏すぎる。 本当にこいつは第1世代機か!?)」

 一見すると撃震とよく似た、第1世代戦術機特有の鈍重なシルエットを持つまりもの機体。 だが機体各所や頭部に“尖り”が入ったデザインをしており、腰部に装着されたプラズマジェットエンジンが、第1世代機とは思えない機動性をその機体に与えている。
 F-4JE2 『銀鶏(ぎんけい)』。 それがシミュレータの中でまりもが操る戦術機の名前だ。 人類初の戦術機F-4『ファントム』、その帝国斯衛軍仕様である『瑞鶴』に、電脳暦世界の技術を融合した初めての戦術機でもある。
 とはいえ銀鶏はシミュレータ内のみ存在する機体であり、現役時代から乗り親しんだ撃震との性能差に、まりもは跳躍ユニットと機体動作の敏感さを手懐けるだけで手一杯の状態だ。 そんな最中、ピアティフとは別にケイイチがまりもに向ってアナウンスする。

「ドローンとのお遊びはここまで。 次はこれを相手してもらうよ、神宮司軍曹」
「了解。 っ、これは・・・!」

 周りに居たドローン達が突然消え失せたかと思うと、新たに2機の敵影がレーダーに映し出される。 赤く輝く光点の隣に表示される形式番号を見た瞬間、まりもは息を飲む。 ケイイチが転送した2機の機体、それは戦術機ではなくVRだったからだ。
SAV-07-D ベルグドルとMBV-04-10/80 テン・エイティ。 かつてのDNAにおいて普及していた第1世代VRであり、それぞれライデンとテムジンの簡易量産型と言うべき機体である。 この間行なわれた市街地模擬戦のようにリミッターを付与していると思うが、それでも戦術機である銀鶴で相手になるのか、まりもは一抹の不安を感じていた。
 テン・エイティが銀鶏と距離を詰め、後方のベルグドルはそれを援護する為にナパームボムを投擲し、右手に持つグレネードガンを連射して来る。

「(典型的なフォーメーション、なら付け入る隙はある!)」

 まりもはナパームの爆炎とグレネードの弾幕を掻い潜りながら突撃砲を乱射、後方にいるベルグドルにこれ以上射撃をさせまいとする。 ここで接近してくるテン・エイティがボムを投げつけ、弾丸を相殺することでベルグドルを援護する。
 そして近接レンジに入ったテン・エイティは、右手のビームガンにビームソードを形成し、銀鶏の機体に斬りかかろうとする。

「ちっ!」

 まりもは装備兵装から短刀を選択、右肘のナイフシースから取り出しそれを左手に構える。 勢いに任せ、ビームソードを振り下ろすテン・エイティ。 そして互いの刃が交わった瞬間、ビームの超高温によって短刀に施された対ビームコーティング剤がプラズマ化し、辺りには閃光に包まれる。

「(このままでは後方の奴に狙い撃ちにされる、どうすれば・・・!)」

この状態もそう長くは持たないと悟ったまりもは、何か打つ手は無いのかと模索する。 すると、火器管制コンソールに見知らぬ言葉があった。

「オーバー、ウエポン・・・?」

 コンソールの片隅に書かれた文字を、まりもはつぶやくように読み上げる。 この機体に装備された機能なのだろうか?それとも兵装なのだろうか? 得体の知れない存在がこの機体に宿っているということに不安を覚える彼女だったが、今はそのような考えをしていられない。
 視線でコンソールを操作し、まりもはその機能を発動させる。

「えっ・・・?」

 一瞬何が起こったか、まりもは理解するまでに数秒の時間を要した。 銀鶏が握っていた短刀の刃から光が溢れ、テン・エイティのソードを互角に受け止めているではないか。 どういったカラクリかは知らないが、チャンスは今しかない。
 光り輝く短刀で敵機のソードを払い、反動でよろめくテン・エイティの首筋に一気に突き立てる。
 おそらくコクピットブロックにまで貫通したのだろう、数秒もがいた後にテン・エイティの機体はその機能を停止。 シミュレータ内とはいえ始めて戦術機でVRを撃破したことに、まりもは驚きを隠せなかった。
 残りは後方に居るベルグドルただ1機。 相方が撃破されたと知るや、両肩の大型ランチャーからミサイルを放ってくる。

「電気冷蔵庫風情が・・・」

 ベルグドルは機動性もそれほど良くは無く、近接攻撃方法は殴り合いをする以外無いに等しい。 何より頭部の火器管制ユニットと、両肩にミサイルランチャーを担いでいるのでとても安定性が悪い。
 このため常に集団で行動して火力で圧倒する他、テムジン等のMBVの支援役として後方にいる必要があるが、今回は運が悪かった。 跳躍ユニットのノズルからプラズマ化した推進剤を噴出させながら、まりもの銀鶏がベルグドルに迫る。

「私の道を阻むな!」

 袈裟斬りにされたベルグドルが、断末魔の火花を散らしながら仮想空間の地に伏した。

マブラヴ ~壊れかけたドアの向こう~
#12 懐疑


「お疲れ様~。 いいデータが取れたよ軍曹~」
「(間違いない。 彼は夕呼と同じだわ・・・)」

 シミュレータプログラムを終えて筐体から降りるまりもに、ケイイチが満面の笑みを浮かべながら近付く。 対して先ほどからのシミュレータ漬けで疲労の色が隠せないでいる彼女は、彼の無邪気な笑顔を見て溜息を付いた。
 他人をホイホイと使い倒すケイイチの言動と性格に、ふと腐れ縁である夕呼の高笑いする様がまりもの脳裏を過ぎる。

「さて大尉、あの戦術機について色々教えてもらいましょうか?」
「わかりました。 種明かしとかはもっと後にしようと思いましたが・・・」

 これ以上機嫌を損ねて協力を拒否されては困ると思ったのか、ケイイチはまりもにシミュレータの機体について話し出す。
銀鶴は他の戦術機には無い、特殊な機能と装備を2つ持ち合わせている。 1つは開発中の次世代OS『XM1』と、跳躍ユニットの換装による機動性の向上と操縦性の柔軟さ。 そしてもう一つが、『オーバー・ウエポン』と呼ばれる特殊攻撃能力だ。
 通常、戦術機に搭載されている跳躍ユニットは、短距離の加速にはロケットエンジンを、長距離の跳躍・飛行にはジェットエンジンを用いるハイブリット方式だ。 この場合、速度が変化した時に動作させるエンジンの切り替えラグが生じてしまう。
 そこで銀鶏では、そうしたラグを無くすために噴射速度やタイミングを自由に調節出来る電気推進ユニット、俗にアークジェットやプラズマジェットエンジンと言われる推進装置に換装されているのだ。
 吸入した空気と水素を混合した所に放電する事でプラズマ化させ、それをノズルから噴出させることで推進力を得るという仕組みだ。

「元々宇宙機用の推進システムなんですが、僕らの世界ではジェットエンジンのノウハウを加えた大気圏内用の物も実用化されているんですよ」
「元は宇宙用? ならユニットを換装すれば、戦術機は宇宙でも運用が出来るのですか?」
「将来的にはそうなりますね。 といっても当面は、地球上での戦いがメインになりますが」

 航空宇宙に関わる技術でも、異世界ではそこまでのレベルに達しているのかと痛感するまりも。 そして彼女は銀鶏に関わるもう一つの要素についてケイイチに質問する。

「サギサワ大尉、『オーバー・ウエポン』とはどのようなシステムですか?」
「平たく言えば『火事場の馬鹿力』を、戦術機で再現してみたって感じです」
「はあ、馬鹿力・・・ですか?」

 人差し指をこめかみに押し当てて考え込むまりもに、ケイイチは更に説明を行なう。 戦術機の動力源は燃料電池ユニット、水素と酸素を化学反応させ電気エネルギーを取り出す装置だ。
 それらの反応を強制的に促進させ、その時に発生したエネルギーで武装を強化させるシステムが『オーバー・ウエポン(OW)』であるとケイイチは話した。

「実際に軍曹がシミュレータで使ったナイフもそうですが、支援突撃砲もOW発動中はリニアガンになって威力が増します」
「確かに、支援突撃砲とは違う銃身の形状でしたね」
「ただし、対応した武装を装備しないとその能力を発揮できないのと、専用の動力ユニットへの換装や使用時の負荷の高さからあまり乱用できないのが難点ですけどね」
「それでも今の人類には必要な力です。 この機体も、あの子達が作るOSも・・・」

 必ず207の少女達を一人前の衛士に育てる、モニターに映る銀鶏の機体を眺めるながら、まりもは嘗ての戦友達に思いを馳せていた。


・ AM10:37 横浜基地 戦術機ハンガー


「うわぁ~! ボク達の吹雪、さっそく改造作業が始まってるよ!」
「私の吹雪は長刀が最大3本装備可能、榊の吹雪は索敵と情報処理重視か・・・」
「当然ね、私達のそれぞれの技能を元に改造されているのだから」
「・・・榊が地獄耳になった」

 そうボソリと小言で呟く慧に気付き、千鶴は彼女に向って物凄い形相で禍々しい念を注ぐ。 ハンガーでは冥夜達207B分隊が駆る吹雪各機の改造作業が着々と行なわれ、彼女達は着座調整や細かいコンディションの注文に訪れているのだ。
 開発中の新OS『XM1』の能力も相まって、機体性能は通常機より最大40%向上すると夕呼から聞かされた彼女達は驚愕した。
 そしてもうすぐ、その機体を自分の手で動かせる。 そう思うと武でなくてもワクワクしてくるものだ。 そんな彼女達の元に、作業に立ち会うためにハンガーを訪れた武とケイイチが現れる。

「約束の時間じゃないのにもう来てるなんて、やっぱり吹雪の事が気になるか?」
「じゃあ白銀君、僕は現場監督してくるから後はよろしくね」

 そういい残し整備スタッフの元へ向うケイイチ、残った武は冥夜達に今後のスケジュールについて話し始めた。

「さて、お前ら207B分隊の吹雪が、搭乗する衛士それぞれの技能に基づいて改造される事は知っているはずだな?」
『はい!』

 武の問いに、はっきりとした返事を返すB分隊の少女たち。 武の言うとおり、衛士それぞれの技能を生かした装備が、ケイイチの指示の元取り付けられている最中だ。

-チームを取りまとめる千鶴機は、センサー類を満載した頭部ユニットとシールドにもなるレドーム。
-長刀による近接戦闘を得意とする冥夜機には、左腕に長刀を収納できる大型シース。
-肉弾戦を得意とする慧機には、関節部の強化と腕部内蔵型ビームソード。
-状況判断と行動に優れる美琴機には、機体各所にワイヤーアンカーとマチェット。
-天才的な狙撃技能を持つ壬姫機には、高精度のFCSと頭部の狙撃スコープ。

 それぞれの得意とする戦法や距離に会わせた装備やセッティングをまりもや武が考案し、ケイイチに夕呼が武器の設計を担当し、それが現実の物となってハンガーで形作られている最中だ。

「ただ改造した場合、各機体の癖や弱点が一段と強く出ることになる。 つまり・・・」
「更に、衛士同士の連携が求められるわけですね?」
「ああ。 だから今後の訓練は一層厳しくなるぞ、覚悟しておけよ?」

 武の忠告に、力強く答える壬姫。 改造にあたってB分隊が選ばれた理由、それは単に性能強化だけではなく、武が言った部隊連携の向上も狙っているのだ。
 B分隊の連携度はA分隊のそれに及ばない。 だが前の説教タイムの影響で改善はしているし、今回の改造吹雪が更なる促進となるだろうと武は期待しているのだ。

「そういえば御剣、ハンガーの一番奥の機体。 アレには乗らないのか?」

 そう武に言われ、冥夜は陰気な面持ちでハンガーの奥を見る。 そこには紫の光沢が鈍く輝く、異形の戦術機が鎮座していた。
 タイプ00R、 零式戦術歩行戦闘機『武御雷』。 帝国軍と独立し、将軍家の護衛を担う斯衛軍が運用する特別仕様機。 その近接攻撃能力と機動力は、他国のそれを圧倒する性能を持つ。 そんな希少価値の高い機体が、国連軍基地に搬送されたのか。 何を隠そうこの武御雷、冥夜のために送られてきたというのだ。
 だが当の本人はそれに乗る事を拒み、改造した吹雪に搭乗する事を選んだ。 訓練生なのだからそうした計らいは要らないのかと武が考えている最中、孝弘達『リーフ・ストライカーズ』の面々がハンガーを訪れる。

「やっぱりハンガーはどこの世界も変わらないな。 ケイイチ君が居座る訳だ」
「白銀君、作業は進んでる?」
「サギサワ大尉からは形だけでも付けておくと。 今日中には、皆に調整作業を行なってもらいます」

 珍しそうに改造中の吹雪を眺める孝弘と、美雪へ今後の予定を話す武。 するとそんな彼らを他所に、佑哉が武御雷の存在に気付いた。

「おっ、ハンガーの奥にケイイチさんの資料に載ってた戦術機があるぜ。 確か名前は・・・ブライシン?」

 それを口にした瞬間、佑哉のみぞおちに拳がめり込む。 打ち込んだ瞬間に衝撃波らしき何かが見えるほどのそれを放ったのは、鬼のような形相をしている桜花その人だった。

「アンタねぇ・・・資料にローマ字で読みがな付いてたでしょうが! それ読まないで、何勝手に名前付けてんの? 馬鹿なの?アホなの?
 私の実家が神社なの知ってて言ってるでしょ!? もしかして喧嘩売ってるの!?」

 物凄い剣幕で怒涛の問い詰めを行なう桜花。 その後佑哉は生気の無い表情をしながら、ふらふらした足取りでハンガーから出て行ってしまった。 それでも収まらないのか、桜花はハンガーの隅でホワイトボードを無理やり持ってくると、おもむろに武達に説明を始めた。

「いい!? 武御雷は『建御雷之男神(たけみかづちのかみ)』とも書く日本神話の神様で、雷や武神として茨城県にある鹿島神宮で祀られているの。 他にも・・・」

 他の神話の神との関係図をホワイトボードに書き綴りながら、熱く日本神話について話し続ける桜花に武達は圧倒された。
 しかし調整の時間だとケイイチに呼ばれ、武は恐る恐る声をかける。

「あの~花月さん? そろそろ皆調整に行かなきゃ行けないので、そのへんで・・・」
「あ・・・ ごめんごめん、ついムキになっちゃって。 さあ皆、早く調整作業に行かないと! ねっ!」

 武の呼びかけで我が帰ったのか、赤面しながらB分隊の皆を急かす桜花。 余りの彼女のテンパ具合に孝弘と美雪の二人が声に出さず笑い、冥夜達B分隊の皆も笑いながら、ケイイチの元へ句かって行く。

「(結局、今回も放置みたいだな。 お前・・・)」

ハンガーの天窓から差し込む光できらめく武御雷を眺めながら、武は調整作業を見守っていた。


「今日は調整作業ご苦労だった。 明日は早速実機を動かしてみるらしいので、頑張ってくれ」
『ありがとう御座いました!』

 武の解散の号令と共に、ハンガーを後にするB分隊の少女たち。 既に夕方5時、作業を終えたケイイチや孝弘達もハンガーを去っており、残っているのは武一人だ。
 それぞれの個性に合わせた改造と調整作業を終えた吹雪達を見上げる武の元に、どういう訳なのかハンガーへ戻って来てしまった冥夜が姿を見せる。

「まだハンガーにおられたのですか? 白銀准尉」
「ああ、それにもう5時を回ったし営業時間外だ。 俺のことは呼び捨てでもいいんだぞ?」
「いえ、一応上官ですから。 それより、私の戦術機の事でお話が・・・」
「さっき調整した吹雪に乗るって言いたいんだろ?分かってるよ。 吹雪は人数分搬入してあるし、武御雷に乗ろうがお前の自由だ」

 もう、俺のことをタケルとは読んでくれないのか。 いや、冥夜に限らずクラスメイトだった207招待の皆は自分の事を上官として見てくれている。
 それはそれで嬉しいのだが、武が望んでいたのはもっとありふれた事を笑って話せる対等な関係だ。 あの頃に戻る事は出来ないのか。 寂しさに暮れている武の耳に、また別の声が聞こえてくる。

「遅くなって申し訳御座いません、冥夜様」
「(この声は、まさか・・・!)」
「月詠・・・中尉」

 声がした方向へ武と冥夜の2人が振り向くと、そこには赤い斯衛の装束を着た一人の女性-月詠真那の姿。 そして後ろには彼女の部下である白の斯衛装束を着た神代巽、巴雪乃、戎美凪の3人が立っていた。
 彼女たち4人は“元の世界”では冥夜の身の回りを世話するメイドとして、“前の世界”でも今の状況のようにそれなりの主従関係があるのだという事が見て取れた。

「中尉、私達にどのような用件ですか?」
「冥夜様、斯衛の者はいかなる階級であろうとも、将軍家縁の方々に仕える身。 ですからそのような言葉遣いはお止めください」
「そうです冥夜様!」 「私達は!」 「武御雷搬入の事をお伝えしようとここに来ました!」

 冥夜が会いたくなかったのかそれとも運気が悪かったのか、どうやら月詠達は武御雷搬入後今まで一度も彼女に遭遇した事が無いらしい。
 そして既に吹雪に乗ることを決意した冥夜は、彼女らの説得に耳を貸そうとはしなかった。

「直ぐに搬出いたせ、訓練生の身では改造された吹雪でも荷が重過ぎる。 ましてやあの武御雷では・・・」
「しかし・・・! あの機体は冥夜様の為に送られた物、それを考えた方がどのようなお方か、冥夜様自身が一番良く知っているはずです」

 そう月詠に言われ、冥夜は苦い表情のまま唇を噛み締める。 なにか場を和ませる方法は無いかと武が考えていると、月詠が殺気を放ちながらこちらに近付いてきた。
 冥夜が割って入ろうとするも、神代達によって行く手を阻まれる。

「あ、今度は俺に用ですか? 月詠中尉」
「口を開いて良いと言った覚えは無いが? 白銀武」

 月詠に自分の名を言われた時点で、こりゃあパターン入ったなと武は悟る。 どうやらこの世界の白銀武も死んでいるらしく、それなのに自分がこの横浜基地にいるという事実に、月詠が不振がるのも無理は無い。
 今回も『死人が何故ここにいる』と追求されるかと思っていた武だったが、全く見当違いの言葉が彼の耳に入ってくる。

「事情は情報省の者から聞かされている。 貴様は私の範疇では理解できない場所、異界から来たそうだな?」
「はい、ですから俺はこの世界の俺・・・白銀武ではありません」
「どうやら本当らしいな、だが私は貴様を完全に信用した訳ではない。 それを忘れるな」

 月詠の忠告に、最低限の返事を返す武。 どちらかというとカタブツな彼女に、これ以上の言い訳は入らないと判断した為だ。
 それにさっきから神代達・・・通称3バカに囲まれながらこちらの様子を伺っている冥夜を、何時までも心配させるわけには行かない。

「だが冥夜様は貴様に強い信頼を置いているみたいだ、それだけは裏切ってくれるな」
「はい」

 それだけ言うと月詠は神代達を連れてハンガーから去り、拘束を解かれた冥夜が武の下へと駆け寄る。

「大丈夫でしたか准尉!?」
「心配しなくても、特に何もされては居ないさ。 ただ・・・」
「ただ・・・?」
「お前も知っているだろう? 俺がこの世界の人間ではない事、月詠中尉はそれを良く思ってないみたいだ」

 その言葉を聞いて、冥夜はハッとする。 自分達を指導していく中で、冥夜は白銀から放たれる何か後ろめたい気を常に感じていた。 もしかしたら彼は別の世界で、そこに存在している自分たちと知り合っていたのかもしれない。 それを確かめるべく、冥夜は駄目元で問いかけてみる。

「准尉、良かったら話してくれませんか?」
「良いだろう、お前にだけは話してやる」

 そうして武は、これまで自分が経験してきた事を冥夜に話した。 元の世界の暮らし。 異世界への転移。 そこで培ってきた軍隊経験。 人類の敗北と別れ。 そして電脳暦世界への転移とこの世界への来訪。
 全てを語り終えた武の目に、うっすらと目に涙を浮かべていた事に冥夜は気付いた。

「そうだったのですか。 前の世界で、訓練生として私達と共に、神宮司教官の下で・・・」
「ああ。 だからこうして上官として皆や神宮司軍曹と接する時、凄く違和感があったんだ」
「だから、あの時も私にあのような事を・・・」

 冥夜は月詠が来る直前、ハンガーで交わした武との会話を思い出す。 彼の言動も態度も、訓練以外は同等に接して欲しいという願いが込められていたのだと気付いた。 それを気づけなかった自分はとてつもない愚か者だ、そう心の中で冥夜は自分を責めた。

「だから冥夜、この世界を救うためにも力を貸してくれないか?」
「はっ、是非に及ばず!」

 だが彼の思いに答えるためにも奮闘せねば、そう決意した凛々しく返事をする冥夜。 そして武も、彼女達が任官するまでこのままの態度を続けようと誓った。 任官して正規兵となれば階級は少尉となり、そうなれば准尉である自分とは階級が1つ上だ。
 そうなれば対等とは行かないまでも、嘗ての関係を築けるだろうと武は思った。 そして冥夜も他のメンバーと合流する為にハンガーを後にし、再び武一人が残った。

「(待ってろよ純夏。 どんな事が待ち受けていようと、俺はお前に会いに行ってやる!)」

 濃紫の武御雷を前に、新たなステップへ向けて決意を改める武。 月詠に介入した人物とは誰か? この世界の純夏の行方は? オルタネイティヴⅣの真相とは?
 武の周りに様々な謎を残しながらも、207訓練小隊の任官の時は確実に迫っていた・・・


第13話に続く・・・



[2970] 第13話-配属-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2010/01/28 21:11
・ 2001年 8月某日 AM9:15 横浜基地 講堂


「手のひらを見たまえ、その手で何を守る?」

 元の世界では体育館として使われていた講堂にて、207小隊の乙女達に諭す様に話しかけるラダビノット指令の姿。 それ以外にも国連の高官達、そして武とまりもが彼女達の門出を見守っている。
 彼女達は自分の手を見た。 華奢な少女達のその手は、窮地に陥った人類を守り包む為にある。

「その手のひらを握りたまえ、その拳で何を討つ?」

 先ほどまで開いていた手を、今度はラダビノットの言葉と共に握りしめる。 彼女達の拳は、邪悪な異星の群集を粉砕する為にある。
人類と地球を守り、仇なすBETAと戦う。 それらはBETA対戦が勃発して以来、繰り返し唱えられてきた。 そして地球上からBETAを一掃するまで、この戦いは続く。
 その戦いを、自分達の世代で終わらせる。 絶望の闇に染まろうとしている世界を、自分達の力で光ある未来を取り戻すのだ。 階級証授与の後、ラダビノットが閉めの一言を紡ぐ。

「只今を持って、諸君らは国連軍の衛士となった。 人類と地球の未来の為、より

 一層努力し奮闘してくれる事を望む。 おめでとう!」
207メンバーの歓喜に満ちた声とそれを称える拍手が、講堂を包んで行った。


マブラヴ~壊れかけたドアの向こう~
#13 配属


『神宮司軍曹、白銀准尉・・・』
『今まで、本当にお世話になりましたっ・・・!』
「いいえ、これまでの少尉達の奮闘があったからこそです。 どうか胸を張ってください」

207訓練小隊解隊指揮を終え、各分隊を代表して千鶴と茜が武とまりもに礼を告げる。 対するまりもは、昨日まで階級が下だった207の少女たちを敬う態度で接していた。
 そう。 彼女達は正式に任官し、階級は少尉となったのだ。 上官と相対する以上、本心はどうあれ敬意は払わねばならない。

「おめでとうございます少尉殿! これからの活躍と武運をお祈りしております!」
「白銀さん・・・ ううっ・・・!」

 感動の余り泣きじゃくりながら武に答える壬姫。 彼女だけではなく、他のメンバーも目に涙を浮かべながら、卒業と任官を喜び合っている。 すると、今度は冥夜が武に近付いてきた。

「お世話になりました、白銀准尉」
「はい、御剣少尉もお元気で」

 一昨日にした会話が嘘のように、他人行儀で会話をする冥夜と武。 ハンガーでの一見以来、2人だけの秘密が出来た。 そして彼女は、自分の為に協力してくれると言ってくれた。
 なら武が納得するまで、部下と上官の関係を続けようと冥夜と約束した。 忠実すぎる位にそれをこなしてくれている冥夜に、武は複雑な心境に陥っていた。

「(せめて、階級が同じくらいに上がれば・・・!)」

 既に決めた事なのに、これで良いのかと自分の選択に迷う武。 すると突如として講堂の扉が開き、そこから人影が逆光に映し出される。 女性らしきシルエットなのは把握できたが、一体誰なのだろうかと武は目を凝らして詳細を把握しようとするが、聞きなれた声が聞こえてきた事で呆気無く解決する。

「白銀君、居る?」
「この声は・・・菫さん!?」

 講堂に居合わせた全員の視線も物ともせず、菫はずかずかと武の元へ近付いてくる。 そして彼女は武と目と鼻の先まで歩み寄ると、満面の笑みを見せながら武の手を取りこう告げた。

「おめでとう白銀君。 あなたの昇進が決まったわ」
「俺が・・・ですか? って、それを知らせにわざわざフィルノートからここまで!?」
「ちゃんとアポはとってあるから心配しないで。 はい、これがあなたの新しい階級章よ」

 菫が離した後の手のひらには、キラリと光る新たな国連軍の階級章。 准尉の上は少尉だからそれなのかと武は思ったが、その斜め上の答えを菫は口にする。

「あなたの新しい階級は特務中尉。 つまり2階級昇進ね」
「は・・・? 俺が2階級昇進? 一体どうして?」
「それだけの活躍と功績をしたって事じゃない? それに記憶が正しければ、あなたは一度死んでいるはずでしょ?」

 菫の言うとおり、今の武は異世界同士の交流の発端になり、双方に多大な影響を与
えているのだ。 それに前の世界では、朧気ながらBETAと戦っていた記憶が残っている。
 そして別の世界に転移してしまったという事は、あの世界で一度死んだのだろう。 それが電脳暦世界の国連に認められたのなら、2階級を飛び越す事も妥当だといえる。

「あと、あなたの階級には特務が付いているわ。 それがあれば、一時的にだけど少佐クラスの権限を使えるのよ」
『何ぃ~~~っ!!??』

 まさかの事実上4階級昇進という大出世を果たした事に、言葉を失う武と驚きの声を上げるまりも達。 自分が異世界を越えた存在であるという、イレギュラーな存在の為にこのような処遇を下したのかは定かではない。 だが、これでまた皆と一緒にいられる可能性は高くなる、そう思うと今回の大出世も悪くは無いと武は思った。

「ついに私より上官になっちゃったかぁ・・・ これからもよろしくね、白銀特務中尉!」
「いつものように白銀君で良いですよ、菫さん」

 控えめな返事をしながら、武は微笑みを浮かべる菫に敬礼を返した。


・ AM11:45 横浜基地 PX


「本当に凄いねタケルは! 本気を出せば左官クラスになれちゃうよ~!」
「ああ・・・ 本当に驚いたのは俺だけどな」
「でも鎧衣、いくら本人の許可が下りたからって馴れ馴れし過ぎるんじゃないの?」

 午後に行なわれる説明などの為に、食堂にて早めの昼食をとる207メンバーたち。 その中で美琴がいつもの口調で武を褒めちぎっていた。 上官である武に対してこの態度、普通なら頬を引っ叩かれるだろうが今回は違った。
 どうやら皆の配属先は決まっているのだが、どうやらそちらの受け入れがまだ出来ていないらしい。 そこで武を隊長に、207試験小隊として活動する事になり、新OS『XM1』の開発も変わらず続けられる。 そしてその際発せられた命令に、冥夜は半ば呆れながら口を開いた。

「まったく、武も無茶な命令を出す。 『俺の事は呼び捨てでもOK!』とはな」
「同感ね、逆に私達の方が気を使っちゃうわよ」
「でもそのお陰で、たけるさんともっとコミュニケーションが取れますよ」

 壬姫の言う事ももっともなのだが、千鶴は威厳の無い隊長の存在によって隊の規律が乱れてしまうのではないかと不安に思っていた。 しかし壬姫の言う通り、呼び捨て解禁後の皆は白銀と良好な関係を築けている。
 そして自分が考えている事を見越してのことだろうか、武は自分と茜を副隊長として任命した。 それが自分の能力を認めている上での判断なのだとしたら、まだ彼のことを信じてもいいのかもしれないと千鶴は思った。

「頼りにしてるぜ~、委員長?」
「べ・・・別に困った時は助けてあげるとか言ってないんだからね!」
「ふっ・・・ 照れるな照れるな」

 毎度の如く慧が横槍を入れ、それに怒る千鶴と彼女を止める為に周りが慌しくなる。 そして京塚のおばちゃんに皆が怒鳴られるまでの間、武は忘れかけた日常の感覚を楽しんでいた。


・ PM1:08 横浜基地 シミュレータルーム


「は~い皆、注目~」

 昼食の後、突然放送で夕呼にシミュレータルームへ呼ばれた武達207試験小隊。 説明の時間はまだの筈だろうと思いながら部屋を訪れると、武は着いた早々強化装備に着替えさせられ、そのままシミュレータ筐体の中へと押し込まれてしまった。
 不安げに外で見守る皆は、武の乗る戦術機が映るモニターに集中している。 そして夕呼の説明が、武のウォーミングアップと共に始まった。

「アンタ達の努力が実って、新型OS『XM1』がとうとう完成したわ。 今回はその最終テストを、発案者である白銀にやってもらう」
「副指令、特務中尉・・・白銀の相手は誰なんですか?」
「それは彼女から説明してもらうわ。 伊隅~、入って良いわよ~」

 夕呼がそう呼ぶと、シミュレータ室の外で待っていたみちるが入る。 彼女は今回の為に、事前に夕呼と打ち合わせをしていたのだ。
 同時にみちるは今後配属されるであろう、207メンバーの顔を見ておく必要があると思い、渋々彼女の頼みを受け入れた次第である。

「特務部隊A-01の隊長を勤める、伊隅みちるだ。 今後の説明で言われると思うが、貴様たち207実験小隊は私の隊に配属される事になる。 よろしく頼むぞ」
『はいっ!』

 フライング気味だが特務部隊への配属が決まった事で、気を引き締めながらみちるに返事をする207の乙女達。 そして夕呼に代わって、みちるが今回のシミュレータ戦闘の詳細について話し始めた。

「これから白銀が戦う相手、それは機動自衛隊教導部隊『リーフ・ストライカーズ』だ」
「その名前って私が訓練生の時、たけるさんの他に教わった人がいる部隊じゃないですか?」

 聞きなれた部隊の名前にいち早く反応した壬姫は、すかさずみちるに質問する。 彼女の狙撃技能に目を付けた美雪が、度々壬姫と会って個人授業を催していたのだ。 壬姫の質問にみちるは頷きながら話を続ける。

「その通りだ。 貴様らも見たと思うが、この間行なわれた市街地演習で、私と私の部隊が模擬戦を行なった相手でもある」

 屋上にて武とケイイチに呼び出され、その時目撃したヴァルキリーズとリーフ・ストライカーズの市街地演習を、207の全員は忘れられるわけが無かった。
 洗練された動き、無駄の無い連携。 あそこで戦っている人たちは、自分達より遥か遠くの次元にいると言う事を見せ付けられたような気がしたからだ。

「じゃあ、私達が作っている『XM1』って」 「まさか・・・」
「そうだ。 『XM1』は、戦術機にVRに近い機動特性を持たせ、白銀が行なっているあの戦術機動を再現させる為のOSなんだ」
「じゃあ、そろそろ始めましょうかね~」

 その最終テストを、発案者である武がこれから実証する。 そしてもの凄く楽観的な夕呼の声と共に、テストが開始された。


<XM1 GET READY・・・>

 シミュレータ筐体の中で、囁くように電子音で作られた声が起動完了を伝える。 武はフッと息を吐くと、自機の状態を再度確認し始めた。

「えーと、機体はF-4JE2『銀鶏』。 シミュレータで神宮司軍曹が使った機体と同じか」

 使用する機体、装備している武装、戦闘を行なうステージの設定等、武はこれから戦う状況の全てを把握し、再度頭に叩き込む。 それらの作業を終えて開始時間を待っていた時、秘匿回線で通信が入る。
 網膜に映る通信コンソールには、『リーフ・ストライカーズ』リーダー、苗村孝弘の顔があった。

『よう白銀、こんな形で再戦とは思わなかったぞ』
「苗村さん!? シミュレータ筐体には俺しか居ないはずなのに、どうして?」
『俺達はVRから直接接続って形でやるんだと。 システムの構築とかは、ケイイチ君が1日でやってくれたそうだぜ』

 今頃ケイイチは熟睡しているだろうなと想像しながら、武は後で彼に礼を言っておこうと誓う。 そして孝弘から、今回の模擬戦の詳細について説明が始まった。
テストの方法はこの世界に来る前、武と孝弘達が富士で行なった抜き打ちテストと同じ要領で行なうという。
 ただし今回は1対1の勝負、武の機体が戦闘不能と判断されるまで戦いは続く。 一通りの説明が終わった後、孝弘は武に別の話題を持ちかける。

「白銀、お前の探している人はもう見付かったのか?」
「すみません、まだ手がかりすら・・・」
「香月博士は、情報提供はしてくれないのか?」

 そう問いかける孝弘に、武は答える事を躊躇う。 前の世界において武は純夏の事を探してくれと夕呼に頼んだのだが、純夏は存在していないと言われた。
 だが、武はどうにも信じる事が出来ず、この世界でも同じ事を夕呼に頼んでは見たものの、はっきりとした返答が帰ってこないのが現状だ。
 そしてこの世界の自分は死んでいるという事実に、武はこの世界の柊町に何があったのか確かめる必要があると悟ったのだ。 悩みの色が丸見えの顔をする武に、孝弘は励ましの声を送る。

「まあ今は考えずにテストに集中する事だ。 失敗したら、人探しどころじゃなくなるぞ」
「はい!」

 そして夕呼の合図とともに、XM1の最終テストが開始された。


・ 同時刻 帝都城 謁見の間


「反乱の可能性・・・ですか?」
「はい。 前より帝国軍内部でそれらしき動きは察知していましたが、どうも最近活発になってきたようで」

 きょとんとした顔で問いかける悠陽に、左近は事の詳細を説明する。 その直ぐ脇で椿と凛が、2人の話を聞き逃すまいと耳を傾けていた。 左近が得た情報によると、帝国軍の内部で現状の政権や異世界の介入に快く思わない者達が結集し、現行政府を打倒するつもりでいるらしい。
 そうなれば一時的に日本の中枢に空白が出来、他国の介入を招く恐れもある。 そしてそうなった場合、真っ先に狙われるのが椿と悠陽の存在だ。 事に及ぶとなれば、2人はその目的において重要な人物に違いない。

「そんなことになったら、責任重大よね。 凛さん?」
「いえ、椿さんの護衛が私の使命ですから。 有事の際には好みに変えてもお守りします」

 はっきりと自分の決意を伝える凛に対し、椿は軽口が過ぎたかと反省する。 そして鎧衣達は対策を立てているのかどうか、椿は2人に聞いてみることにした。

「鎧衣さん、もしその者達が動いた場合の手立ては?」
「私は噂話を話すのは得意でね。 偽の情報で撹乱させている間に殿下を帝都城より脱出させ、然る場所へ護送する」
「私の身柄はどうなります? まさか、機体は持参しているから自力で逃げろと!?」

 左近の言葉を聞いて客人を蔑ろにしてないかとあせる椿に、すかさず悠陽がフォローを入れる。

「心配しないでください椿さん。 あなたの身柄は私の名を使ってでも守り抜きます」
「殿下・・・」
「そうなると、今のうちに対応策を練っておく必要がありますね」
「そうだね。 まず事が起きる直前には・・・」

 悠陽のお墨付きの一言に、ひとまず安堵する椿。 そして来るべき日に備え、謁見の間にいる4人の秘密会議は暫くの間続いた。



・ PM11:57 横浜基地 B19フロア 香月ラボ


「社の秘密を教えて欲しい?」

 そう素っ頓狂な声を出した夕呼の前に、武とケイイチの姿があった。 前の世界の時から霞は何者か疑問を抱いていた武と、彼の意見に同調するケイイチと共に、彼女の謎を知る唯一の人物であろう夕呼にその真相を聞こうとしたのだ。

「はい。 本人はどう思っているのか分かりませんが、霞は俺たちの仲間です。 
誤解を招かない為にも、ちゃんと彼女の素性を聴きたいと思ったんです」
「それにあなたみたいな科学者が、彼女みたいな子を伊達や酔狂で育てているわけには居ないでしょうからね」
「アンタたちって本当、何でもかんでも首を突っ込みたがるわね~。 仕方ない・・・」

 2人の知的好奇心の高さに呆れながらも、夕呼は霞の身の上について語り始めた。
 社霞という人間は、自然に生み出された訳ではない。 鋼鉄のゆりかごである人工子宮で生み出された、数多く存在していたクローンの一人である。
 母親に抱かれた事も無ければ、愛情を注がれて育った訳でもない。 ある1つの目的の為に、道具として造られた少女だった。

「会話を試みようと解剖しても、BETAがどんな存在か分からない。 ならESP能力者を使って、BETAの思考を読み取る。 それがオルタネイティヴ3計画よ」
「霞が、そんな境遇だったなんて・・・ それで、結果はどうなったんですか?」

 霞の出生の秘密を知り、武はこの世界で行なわれた人類の愚考に愕然とする。 唯一ケイイチだけは、この事実に怖いほど無反応だった。 時には非常な計算や決断を下さなければならない、科学者のなせる業だろうか。 戸惑いながらも問いかける武に、夕呼はオルタネイティヴ3の結果を伝える。

「BETAにも思考があるということ、そして人間を生命体と認識していないこと。 これが社の姉妹達を犠牲にして得た、オルタネイティヴ3の結果よ」
「たったそれだけの成果なんですか・・・?」

 武の言葉に、無言で頷く夕呼。 相手の思考を読み取るリーディングは、一定範囲内に収める必要がある。 そのためBETAの巣であるハイヴに向って、ESP能力者達は生存率6%という絶望的な突入作戦に借り出された。
 だが霞の場合は動員される前にオルタネイティヴ3が終了し、オルタネイティヴ4を指揮する夕呼が預かる事になったのだ。 無論それは慈悲や庇護ではなく、彼女の持つ高いESP能力を見込んだ上の事である。

「社に感謝しなさいよ。 アンタ達の言葉を信用したのは、社がリーディングして貰ったからなのよ」
「えっ? 夕呼先生はVRとかを見て、俺達の話を信じたんじゃないんですか?」
「僕らが敵対する可能性もあるからね。 その人の本心を探りたいのならそうするのが一番だよ」

 そう答えて見せたケイイチだが、彼自身は今まで霞を特別な目で見ないで居た。 というのも電脳暦の世界では、霞のような自然に生まれてきた人間は珍しくは無いからだ。 VRという兵器は日の精神とVRをリンクさせるという特性上、精神力が強い物ほどVRパイロットの素質が高くなる。 なら人工的に、それらを強化した人間を作ればよい。
 そうして作り出されたのがマシンチャイルドと呼ばれる、戦う為だけに作り出された人造人間だ。 他にも労働力確保のために、遺伝子操作を駆使して生み出された使役生物も存在している。 命を冒涜した行為は、何もこの世界だけで行なわれていない。 それを理解しているから、ケイイチは夕呼に何も言わなかったのだ。 武は彼女がいつもいる部屋・・・シリンダーの脳について聞こうとした時、夕呼が別の話題に切り替える。

「霞についてはここまで。 後、アンタたちに悪い知らせがあるわ」
「悪い知らせ・・・?」
「最近帝国で不穏な動きがあるっていうのよ。 まあ、異世界の介入とかもあったし、それに不満を抱かない奴はいないでしょうからね」

 先刻ここに忍び込んできた左近から得た情報を、夕呼は2人に伝える。 既に帝都の各部に潜伏しており、行動の時を待っているという。 そしてクーデターなどの事態が発生した場合、ここに駐留する電脳暦世界の人間達に何かあれば、その関係をこじらせてしまう危険性もあるのだ。 オルタネイティヴ4の遂行には、反対派や5推進派が介入する前に対応するしかないと夕呼は考えていた。

「とにかく連中は、来月あたりから本格的に動くらしいわ。 人間同士の戦いになる、それだけは覚悟しといて」
「「はい!」」

 釘を刺すような夕呼の言葉に、力強く返答する武とケイイチ。 前の世界で起こらなかった出来事が待ち構えていようとも、仲間たちと力をあわせれば乗り越えられる。 確かな決意を胸に秘める武にとってこの世界で始めての戦いが、直ぐそこまで迫っていた。



2001年8月上旬:国連欧州軍、横浜基地からフィルノートを経由して、電脳暦世界の欧州に戦力提供を打電。 電脳暦世界の国連はこの要求を受諾。 ロシア側が難色を示したものの、派遣部隊される欧州軍が選定される。 XM1完成。 香月夕呼はこれを対外交渉のカードに用いる戦法を活用する。

8月8日:第2次異世界派遣部隊、異世界に到着。 現地の軍と連携して、BETA間引き作戦に参加。 同時にリヨンハイヴ跡地確保の為、リベリア半島の奪還計画を提案する。

8月15日:電脳暦世界にて、中華連邦が異世界への派遣を国連に提出。 東南アジア諸国と連携した第3次異世界派遣部隊の結成に向け準備を始める。 日本は既に国連に戦力を提供しているので表向きな行動は避け、技術提供を主眼に日本帝国に対し援助を行っている。

8月17日:DNA・RNA連合軍、中東連合軍と合同でアラビア半島における間引き作戦に初参加。 第2世代型VRの圧倒的性能により、アンバールハイヴのモニュメント部分に多大な損害を与える事に成功。 BETAの対処能力を考慮し、作戦は古典的な突撃戦術と火力によるごり押しが殆どだった。

8月25日:アメリカ合衆国、CIAを通じて日本帝国のクーデターの情報を掴む。 混乱に乗じて東アジアの主権を復活させる為、クーデターの介入を決意。 ハワイ・グアムの基地に戦術機部隊を待機させる。

8月31日:電脳暦世界 戦術機を元にした第4世代VR開発計画『スティール・フェアリィ』を発動。 協力している間引き作戦の見返りとして、各国から戦術機のデータ入手に成功。 プラントも協力を申し出た事により、地球圏総出で開発が進む。

14話に続く・・・



[2970] 第14話-反乱-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2009/12/25 22:28
・ 9月11日 AM5:31 帝都某所


「集まったのはこれで全員か?」
「はっ、他の者は大尉の合図に呼応すると答えました」

 夜の闇が晴れつつある帝都の片隅で、数多くの者達が一人の男の前に集まっている。 彼の名は沙霧尚哉、帝国本土防衛軍帝都守備連隊所属の衛士である。 日本の現中枢である帝都、東京を守るべき衛士の筆頭である彼が、なぜこのような場所で部下達を呼び集めているのか? これからその理由が、本人の口から集まった者達に語られようとしていた。

「皆、私の我侭に付き合ってくれた事に、本当に感謝する。 先に始まった異界の者達との接触、帝国政府は煌武院殿下や国民の意思を伺う必要が無いかのように、即座に受け入れを表明した。 このような暴挙が許されて良いのか!?」

そのように沙霧が集まった者達に問いかけると、それに対する同意や政府に対する愚痴、彼に同調する声が沸いてくる。 その熱い志を感じた沙霧は、目尻に涙を浮かべながら彼らに答えた。

「有難う・・・! さあ、今こそ立とう。 我々が果たせずとも、後に続く者達を信じて!」
『おーーーっ!!』

沙霧の言葉に同志たちが雄叫びを上げ、行動を起こすべく散り散りにその場を去る。 その動向に気付く者は、その時には誰一人として存在していなかった。


・ 同時刻 横浜基地 B19エリア 香月ラボ


 今まで何時間ほど熟睡した事があるのだろうか、そう考えながら夕呼はキーボードを叩き続ける。 ヨーロッパで始まった大規模な共同作戦、その見返りとして向こう側の連中が要求してきた戦術機のデータだった。
 既にXM1は完成し、その後継といえるOS『XM2』の開発をヴァルキリーズも動員して行っている。 各国は向こうの兵器であるVRについて躍起になって解析しているようだが、所詮無駄な足掻きだと彼女は思った。

「(笑っちゃうわよね。 アレを使っている連中でさえ、その本質を完全には理解出来ないでいるっていうのに)」

もっともG元素というBETA由来の物質を用いた兵器を開発している自分達も、そういった意味では同じかという結論に、夕呼はタイピングを停めて苦笑する。 双方のパワーバランスは始めから決まっているような物だし、余程のバカではない限り迂闊に手出しする事は無いだろう。

「(もっとも、そうなった場合は一方的な虐殺が待っているわね・・・)」

そのようなバカが現れないよう祈りながら、夕呼は今後のプランをキーボードで書き綴る。 こちらの技術で作れるような物はさっさとパクってしまい、基地全体の戦力の底上げを図る。 そして鎧衣を通してオルタネイティヴ4完遂に必要な機材を米国から取り寄せて、頼みの綱である00を完成させる。
ここで夕呼は、00ユニットの素体について考えを馳せる。 この横浜を取り戻した明星作戦の後、自分がいる最下層のエリアで発見された、シリンダーに閉じ込められた人間の脳髄達。 その中でひとつだけ生体反応を放っていたのが、霞が度々立ち寄る部屋にあるシリンダーの脳なのだ。 そして彼女によるリーディングの結果、ある重大な事実が霞の口から知らされる。
-あの生きている脳は、ある人物を呼んでいる-
それが異世界からきた男である白銀武。 更に彼は、この世界と同じ状況だった前の世界で、ある人物を探していたという。
鑑純夏。 リーディングによって判明した、只一つ生きていた脳の名前。 更に自分は彼女を使って00ユニットを完成させなくてはならない。 鬼になり人類の未来のために計画を遂行するか、それとも人間のまま指を咥えながら地球が滅ぶのを待つのか。 葛藤に苦しむ夕呼の耳に、けたたましい警報音が入り込む。

<デフコン2発令! 基地の要員は速やかに持ち場に着き、指示あるまで待機せよ! 繰り返す・・・>
「あ~まったく! 言った傍から、もうその馬鹿が現れるなんて!」

そう吐き捨てながら夕呼は白衣を翻し、中央司令室へ足早に向った。


2001年9月11日AM6:00 :日本帝国、沙霧尚哉率いる部隊が決起。 電撃的奇襲により、各中枢機能を掌握。 榊首相以下、官僚達を拘束。

同日 AM7:04 :米国、日本帝国でクーデター発生を察知。 直ちに第66戦術機甲大体を始めとする鎮圧部隊を横浜基地に向け派遣する。

同日 AM7:43 :横浜基地、米軍受け入れを検討開始。 同時期に仙台臨時政府発足。 国連に援助要請。


マブラヴ~壊れかけたドアの向こう~
#14 反乱


・ AM7:51 横浜基地 中央司令室


「指令、遅くなりました」
「香月副指令か。 ピアティフ中尉、彼女に状況を説明したまえ」
「了解しました」

 何時にも増して騒がしい司令室を訪れた夕呼に気付き、ラダビノッドは傍に居たピアティフに現在の状況の説明を頼む。 沙霧率いる決起部隊は既に帝都の主要施設を制圧し、城下町に戒厳令を敷いて完全に支配化に置いている。
 このままの状態が長く続けば極東の防衛体制に大きな空白が生まれてしまう。 その隙を付いて米国を始めとする他国の介入が行なわれ、そうなってしまえばオルタネイティヴ4も取り潰されるかもしれない。 最悪のパターンを考慮しながら、夕呼は残る疑問についてラダビノッドに尋ねる。

「指令、フィルノートの連中は何か言ってきましたか?」
「いいや、横須賀にいるフィルノートを初め、電脳暦側の軍は沈黙を守っている。 巻き込まれるのを嫌っているのか、それとも我々が声をかけるのを待っているのか・・・?」

依然として異世界側の反応が無い事に唸るラダビノッドを見ながら、夕呼は今後自分達がどうのように立ち居振舞うべきかを考えていた。 特にこの横浜基地は、武を始めとする異世界の人々が少数ながら生活している。 今回のクーデターで、敵意の矛先が彼らにも向けられないとも限らない。
 それに左近の情報によれば、帝都城には向こうの日本からやって来た使者が滞在中と聞く。 決起した連中の理由が将軍の事を重んじてとなれば危害は加えないと思うが、過信するのは危険だ。 今出来る事を行なうべく、夕呼はラダビノッドに進言する。

「とにかく今は事情を彼らに説明して、早期解決に協力してくれるよう進言しては如何でしょうか?」
「そうだな、フィルノートに直接回線を開け! 大至急だ!」

ラダビノッドの言葉に、オペレータ達は大急ぎでフィルノートへの連絡を取り始める。 その間にも更新されてゆく戦況モニターを、夕呼は鋭い目線で睨み付けていた。


・ AM8:04 横浜基地 第6ブリーフィングルーム


「・・・と言うわけで、今回のクーデター事件が俺達207小隊の初陣になってしまった。 ここからはA-01隊長の伊隅大尉と神宮司軍曹から説明してくれるので、良く聞いておいてくれ」
『はいっ!』

 武の簡潔に言い終えた後、207メンバーの返事が一斉に彼の耳に入る。 最初はまりもによる状況説明が始まった。
 既に政府の各施設を制圧した決起部隊はその範囲を広げようと、戦術機まで用いて首都圏に点在する帝国軍各基地に対し攻撃を開始。 決起部隊の気迫に押され、帝国軍側はジリジリと追い詰められている。
 また帝都城では斯衛軍が鉄壁の防御を固めているものの、一触即発の状態で何時戦闘が始まっても可笑しくない。 そこまで聞いた時点で榊が、曇った表情でまりもに質問を投げ掛ける。

「軍曹、拘束されたと聞く閣僚達の身柄はどうなっていますか?」
「仙台臨時政府の発表によると、東京拘置所にてその身柄を拘束されているようです」

父が事実上の軟禁状態にあることを知り、俯いた状態のまま榊は何も話そうとしない。 元から仲が悪いとは言え、やはり血を分けた親子なのだなと感じながらまりもは感じた。
 そして途中からまりもに代わり、今度はみちるが今後の行動についての説明を始める。

「そういった事情から、貴様ら207小隊も出撃の可能性がある。 初めての実戦と言う事になるが臆する事は無い。 貴様らに与えられる任務は極簡単な物だし、我々A-01以外のエスコートが付いているしな」

それに加えて、フィルノートを始めとする異世界の助っ人も居る。 これだけの人員が自分達をサポートしてくれる事に、207の衛士達は彼らの施しに感謝するともに己の未熟さを噛み締める。

「作戦の詳細は、今後は私か神宮司軍曹を通じて伝えられる事になる。 貴様らはこのブリーフィングが終了次第、完全装備の上待機するように。 以上、解散!」

時間も切迫している。 みちるはそれだけ言うと解散の号令を告げて武達を連れて部屋を去り、冥夜達も強化服の着用のために足早に更衣室へと向った。


・ AM8:31 横浜基地 戦術機ハンガー


「全機実弾装填急げ! サギサワ大尉!207の97式はどうします?」
「A分隊は換装が間に合わないからC装備で出そう! B分隊の97は変更無し、このまま実戦に出す!」
「了解!」

 出撃に向け衛士や将兵達が気を引き締めている間、ハンガーでは一足先に戦場と化していた。 ハンガーに立ち並ぶ戦術機の足元やキャットウォークには、ガリバーを捕獲した小人よろしく整備員達が群がり、各機体の最終チェックを行なっている。
 特に207小隊の吹雪に関しては、改造を行なったケイイチ自ら陣頭指揮を執り、万全の体制で臨んでいる。 そんな彼の元に、強化装備姿の武が声を掛ける。

「ケイイチさん、あの・・・」
「『こんな出来事、俺の記憶に無い』って言いたいんでしょ?」
「ど、どうしてそれを!?」
「君の顔にそう書いてあるよ。 それに僕らがこの世界に来た時点で、君の知る前の世界の記憶は殆んど役に立たなくなっただろうしね」

スパナをクルクル回しながら話すケイイチに、武は素直に頷いた。 確かに彼らが来た事で、この世界の人類が救われる可能性が高まったであろう事は確かだ。 だが、その強大な力を持つ彼らに対し、不満を抱く勢力や人物もこの世界に存在するのも間違いない。
 事実今回の帝国で起こった動乱も、それに起因して発生した物であることは武も理解しているつもりだ。 先程まで器用にスパナを躍らせていた手を止め、真剣な面持ちでいるケイイチの口が開く。

「心配しないで、僕らの意地に掛けても207の皆を守るよ。 変な形で出会ってしまったけど、彼女たちも大事な仲間だからね!」
「ありがとうございます、ケイイチさん!」

万全のサポートを受けられる事に感謝し、武はケイイチに深々とお辞儀をする。 そしてこの直後、A-01及び207小隊に、遂に出撃命令が下った。


・ AM8:48 江ノ島近海 フィルノート VRカタパルト


「(厚木基地にクーデター部隊を確認、現地の帝国軍が交戦開始。 隊長達は箱根に警備任務へ出動が決定か。 いよいよね・・・)」

 コクピットのコンソールに表示されてゆく戦況を眺めながら、菫は静かに出撃の時を待つ。 沙霧居率いる決起部隊の襲撃から逃れるべく横須賀を離れたフィルノートは、江ノ島近海で陣を張りつつ、横浜基地から来るであろう協力要請を待つ。
 それさえあれば菫を始めとする実働部隊はこの海上を浮遊する鋼鉄の箱舟から一目散に飛び出し、窮地に立つ帝国軍の将兵達に手を差し伸べる事が出来る。 もう何時間もコクピットに缶詰にされている感覚に、菫は焦りと苛立ちがじわじわと込み上げて来るのを感じていた。

「(仕方ない。 もう一度、見直してみるか・・・)」

まだ出撃許可は当分下りない。 そう考えた菫は暇潰しよろしくコンソールを立ち上げ、乗機のステータスチェックを行なった。
MBV-747A/Mst-97 テムジン747A『霧積』。 それが今回、菫が乗り込んでいるVRの名である。
あらゆる戦況に応じて基本フレーム(テムジン747T)に装甲と武装を施すというテムジン747系の特長を生かして、標準機の747Aをベースにケイイチが菫のためにチューンした機体である。 その最大の特徴は何と言ってもその外観、機体各所に装着された装甲パーツのデザインだ。
そう、この機体は94式『不知火』のそれを元にしたデザインが施された装甲を装着し、戦術機のそれに外見を似せているのである。

「(戦術機に魅了されたのはいいけど、部下の機体を実験材料にしないでほしいわ・・・)」

ステータスに表示された機体のシルエットを眺めながら、菫は機体を改造した張本人であるケイイチに対し、憤りを通り越して呆れてしまう。 だがあの戦術機のデザインを再現した機体に乗れたことに、菫は感謝していた。 自分もまた、ケイイチと同じく戦術機に魅入られた人間なのだなと苦笑したその時、遂に発進許可を告げる通信がコクピットに流れてくる。

<横浜基地及び、仙台臨時政府の協力要請を受諾しました。 VRパイロットは直ちに出撃、クーデター派の襲撃を受けている厚木基地への救援に向ってください>

アナウンスが流れた瞬間、沸騰したかのように艦の各所や通信が慌しくなる。 発進シークエンスが再開され、定位リバースコンバート式のカタパルトが、静かな駆動音を上げながら菫の機体をフィールドで包み込む。
 どうやら直接現地へ転送して、連中の出鼻を挫くつもりらしい。 それを理解した菫は、ツインスティックを握りしめながら管制室に向って声を上げた。

「ガントレット1、霜月菫・・・行きます!」

背部マインドブースターを輝かせ、菫のテムジンが戦場へと繋がる、虚空の扉を潜り抜けていった。


・ 同時刻 神奈川県厚木市 帝国軍 厚木基地


「くそっ! 同じ機体だというのに押されている!?」
「馬鹿な、これが本土防衛軍の実力・・・!」

そう相棒からの言葉が聞こえた直後、隣で奮戦していたF-15J『陽炎』の脚部が爆ぜ、黒煙を上げながら地面に転倒する。 僚機を失い、残った94式『不知火』は怒涛の勢いで攻めて来るクーデター派の衛士達が駆る戦術機達に対し、そのプレッシャーに押されながらも奮戦していた。
 同じ人間、同じ日本人のはずだというのに何故戦わなければならないのか? だがそうした輩が敵となり、この基地を襲撃しているのは事実だ。 36ミリのトリガーを引きながら、衛士は葛藤に苦しむ。 そしてそれが、彼らの付け入る隙となってしまった。

「しまっ・・・!」

いい加減な照準の影響で敵機の接近を許してしまった事に、不知火の衛士は己の甘さを強く責める。 クーデター派の駆る不知火の長刀で突撃砲が両断され、次は自分が同じ運命を辿ろうとしたその時、太陽とは違う別の輝きが辺りに降り注ぐ。

「な、なんだこの光は?」

 照明弾かと思ったが、こんな朝からそんな物を使う馬鹿は居ない。 敵機もそれに気付いたらしく、見る見るうちに膨れ上がる光の球体に注意が逸れてゆく。 そしてその球体から閃光が走ったかと思うと、そこには鋼鉄の電脳騎兵-VRの姿があった。

「戦術機、なのか?」

確かに戦術機は音速に迫る速度を発揮し、戦場に駆けつける事が出来る。 だがあの不知火に似た機体はそれとは明らかに違う方法で、この厚木基地へ現れたのだ。 通信では彼と同じ心境に陥った仲間達が、何だアレはと口を揃えて言い合っている。
 言い合っているのは彼らだけではなかった。 正体不明機が現れたその光景を目撃したクーデター派の衛士達も、何事かと混乱している。 だが今の時点において、1つだけ分かっている事がある。

「この場で銃口を向けられた方が、アイツにとって“敵”だって事だ・・・」

不知火に乗った衛士の呟きを聞いた仲間も、会話ウインドウ越しに頷く。 そして彼の元に、目の前で中に浮く機体のパイロットから通信が入る。 ウインドウに映し出された顔は、今時衛士として動員されても珍しくない年齢の少女のそれだった。

「帝国軍の人?」
「あ、ああ・・・そうだ。 俺達は、帝国軍厚木基地の衛士だ」
「なら早く仲間を下がらせて、連中は私一人で相手をするわ」
「馬鹿な正気か!? ここを襲っている分でも中隊規模(戦術機14機)だぞ! それを・・・」

そこまで言って、不知火の衛士はこれ以上の発言を止めた。 その少女の目付きに、『それでも戦ってみせる』という姿勢と気迫が伝わってきたからだ。
 それに自分達もこれ以上戦闘を行なって、クーデター派の部隊に勝てるかどうかの状態だ。 ここで逃げるにしろ戦うにしろ、彼女が囮となってくれる事で時間稼ぎは出来る。 そう判断した衛士は、深呼吸をした後少女に話しかける。

「わかった、奴らを頼む。 ただし、やばくなったら逃げろ。 良いな!?」
「了解! 軽くあしらってやるわ!」

そう告げた直後、菫の駆るテムジン『霧積』がクーデター部隊に吶喊。 それに気付いたクーデター部隊も応戦を開始する。 たった一人の戦術機もどきに何が出来る。 そう思っていた不知火の衛士は、先程の会話で菫が言った一言を思い出していた。

「(あの少女VRとか言っていたな。 確かそれって・・・っ!)」

そう不知火の衛士が思ったその時、後方から閃光と爆発音。 彼女が撃ち漏らした敵機の追撃かと慌てて後方のセンサーに切り替えると、そこには信じられない光景が広がっていた。

『何をしている! 敵は戦術機一機だけだぞ!』
『ダメです、奴の動きに追随するどころか、捕捉さえ出来ません!』
『数はこちらの方が有利なのだ。 囲んで仕留めろ!』

 回線をうっかりオープンにしてしまったのかそれとも暗号化を忘れていたのか、不知火の衛士のレシーバーにクーデター派の衛士達が恐れ戦く声が聞こえて来る。
 クーデター部隊のF-4J『撃震』3機が長刀を構えながら、徒党を組んで菫の霧積に切りかかろうとする。 彼らの長刀が振り下ろされた瞬間に、霧積はその場で後退。 見事に空振りした撃震3機は、霧積の持つ長刀らしき武器で戦術機の弱点である胴体と腰部の付け根を切断され、重厚なシルエットを持つ上半身がドスンと地面に落下した。
間髪入れずに霧積は、突撃砲を構えて近付いてくる陽炎に対し、先程撃震3機を片付けた武器の先を向ける。
 そしてそこから夥しい量の光の弾丸が吐き出されたかと思うと、陽炎の両手両足が無くなっていたではないか。 達磨となった陽炎は続いて跳躍ユニットも破壊され、爆風に煽られた速度で地面と熱いキスを交わした後、霧積の足元でようやく止まった。

「何がどうなってやがる、それにあの動き、戦術機が出来る動きじゃないぜ。 あれが・・・」

仲間達との連絡と合流を急ぎながら、不知火の衛士は後方で繰り広げられている戦いに夢中になっていた。 クーデター派の連中が障害物を利用して挟み撃ちを行なうものの、霧積は曲がり角で直角に水平噴射跳躍を行って、あざ笑うかのようにそれらを切り抜けてしまうのだ。 そして長刀と突撃砲が一体になったような兵装は、接近戦から銃撃戦まで切り替え無しで行なう事が出来る。
 欧州で行なわれた異世界の軍隊による、ハイヴ攻略の映像もインパクトのあるものだったが、生でそれを見せ付けられてしまうのでは話が違う。 正に戦術機の理想体型があそこにあり、それを実演しているかのようだと思ったその時、一段楽した菫から再び通信が入る。

「衛士さん! もう時間稼ぎは終わった?」
「ああ、君のお陰で態勢を立て直す事が出来た。 直ぐに救援に・・・」
「大丈夫よ。 あらかた数は減らしたし、私の方も救援を呼んであるわ」

そう菫が言った直後、彼女同様に次々に空中からVRが姿を現す。 フィルノートから新たにVOX A-300”Age”ボックス『エイジ』と、同系列の支援機VOX J-500”Joe”ボックス『ジョー』がそれぞれ2機ずつ転送され、計4機の増援が厚木基地に降り立つ。

「ガントレット2と4は右から、後の2人は反対側から攻めて! 泣いて降服するまでね」
『了解!』

上陸部隊が用いる強襲歩行攻撃機『海神』を思わせるずんぐりした図体と裏腹に、自分が乗る不知火と同等かそれ以上の速度でボックス達が展開し、菫の指示通りに残存勢力を炙りだす。
 指示を出した菫の最後の言葉どおり、4機のボックス達は殲滅というよりも屈服させる態度で残り2/3となったクーデター部隊を圧倒する。 そこには助けられる敵は早めに降参させるという、菫の戦術思想が反映していた。
 例え後に裁かれるのが待っていると分かっていても、沙霧に同調した者達を殺さず生け捕りにしようとする姿勢に、不知火の衛士や厚木基地の将兵達は菫達の行動に感謝した。

「衛士さん、そろそろ連中を燻り出すのを手伝ってくれますか?」
「無論だ、ここは俺達の基地だ。 自分の基地も守れないようでは、帝国軍人の恥曝しだからな!」

そう菫に答えた後、部下達とともに奮戦する菫達の下へ急ぐ。 そして襲撃部隊の最後の戦術機が撃破され、コクピットから脱出した衛士達が投降した事で厚木基地は難を逃れる事が出来た。


・ AM10:37 神奈川県 小田原市 国道1号線


「ライネックスより207B、リーフス各機へ。 厚木基地を襲撃していたクーデター部隊は、全員鎮圧したそうだよ」
「本当ですか!? サギサワ大尉」
「ああ。 まだ帝都でも戦闘は行なわれてないみたいだし、今のところは大丈夫みたいだね」

武とケイイチのやり取りを聞いて、207Bの面々は吹雪の管制ユニットの中でホッと胸を撫で下ろす。 既に出動した時には厚木で戦闘が行なわれており、迂回に迂回を重ねてやっとの思いで武達は東海道五十三次の1つ、小田原へとやって来た。 編成は武達207B分隊と孝弘達リーフス、そして情報管制を努めるケイイチのマイザーが、彼らの上空を飛んでいる。
 更には夕呼の権限で臨時中尉の階級を与えられ、武の補佐としてまりもが加わっている。 無論彼女が乗る撃震もケイイチの手によってチューンされており、シミュレータで使用している『銀鶏』のスペックを時間が許す限り再現した機体に仕上がっている。
 目的地である箱根まで一直線。 そうすればひと段落出来そうだと思ったまりもは、長時間の移動で既に疲労が溜まっている冥夜達に檄を飛ばす。

「20700より全機、このまま箱根まで一直線だ。 私との訓練を思い出せば、必ず達成できる。 いいな!」
『はい!』

冥夜達の復唱に多少懐かしさを覚えながら、まりもは207B全員に短距離の噴射跳躍を指示する。 吹雪と撃震改に装着された電磁推進ユニットが、通常のそれとは違う噴射炎を放出し各機体を飛翔させる。 このまま何も無ければいいが、まりもを始め、武や孝弘はその事だけを気に掛けながら一路箱根へと向った。

同日AM11:14:横浜基地、米軍の受け入れ開始。 207小隊、箱根関所跡に到着。 警備任務を開始。 同時刻に厚木基地へクーデター派による2次攻撃が敢行されるも、菫達ガントレット小隊及び同基地の部隊により撃退される。


15話に続く・・・



[2970] 第15話-親縁-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2009/12/25 22:28
・ PM15:48 神奈川県箱根町 芦ノ湖 箱根関所周辺


「00より各機、関所跡に指揮所の設営を完了した。 以降は白銀中尉の指示に従って、警備任務を開始せよ」
「01了解。 というわけで皆、気を引き締めて行こう!」
『了解!』

 美しい紅色や黄色に染まり始めた箱根の山々と湖をバックに、武、冥夜、慧、千鶴、美琴、壬姫、そしてまりもと、207B分隊の面々が塔ヶ島城の周辺警備の為に展開している。 指揮所でまりもが状況の把握と情報収集を行っている間、武達が周辺の警備を行うという流れだ。
 見渡す限りの紅が広がっている幻想的な風景に武が魅了されている中、彼に秘匿回線経由で冥夜が話しかける。

「なんだ冥夜か。 秘匿回線まで使って、そうまでして俺に話がしたくなってきたとか?」
「こ、このような時に浮付いた事を申すでない! それよりサギサワ大尉達は何処へ向ったのだ? そなたなら何か知っていると思ってな」
「ああ、サギサワ大尉と苗村さん達なら・・・」

 自分の言った軽口に怒る冥夜を見て、武の口元が思わず綻ぶ。 だが何時までもそのような態度をされては困ると、武は冥夜に説明を始めた。
関所前から207小隊と別れた孝弘達は武達がいる場所より北にある、箱根神社の本宮で身を潜めているという。 そしてケイイチはその中間に位置する湖に着水し、武達との中継役を担っている。
 2度に渡る厚木での戦いを目の当たりにし、沙霧達がVRの戦闘力に少なからず興味を持った事は確かだろう。 そして将軍家縁の地に足を踏み込んでいるとなれば、彼らにどのような刺激を与えるか分からない。
 その為武達を前面に展開させ、何かあった時には孝弘達が彼らの援護に乗り出すことが、出撃直前のブリーフィングで決められていた。

「皆、今回の件と初陣で相当参っている、このまま悪化する事が無いと良いのだが・・・」
「そうだと良いけどな。 この事件、早々に終わらない気がするんだ」

 そう語る冥夜の重苦しく寂しげな表情に、只ならぬ雰囲気を感じる武。 そしてこの箱根にて、武にとって2度目となる大きな出会いが待ち受けていた。


マブラヴ 壊れかけたドアの向こう
#15 親縁


・ PM16:04 芦ノ湖沿岸 箱根神社本宮 境内


「厚木の方は大活躍したってのに、俺達は蚊帳の外か~?」
「所詮私達はここでは厄介者ってことよ。 これ以上VRが暴れまわって、この世界の人々がいつまでもニコニコしていられると思う?」
「それはそうだけどよ・・・」

 夕暮れの赤に染まりかけている空の下、神社の境内にパイロットスーツ姿の桜花と佑哉の姿があった。 乗機である御巫と震電は近くの茂みに駐機状態で隠してあり、ここに居ない孝弘と美雪はVRで周囲の索敵警備を行なっている。
 護身用の89式カービンの安全装置をチェックした後、桜花はまだ準備中でいる佑哉に声をかける。

「ここは苗村君達に任せて、私達は徒歩で湖沿いを見回りましょう」
「あ、待てよ桜花! 置いてくな~!」

 そそくさと境内を後にする桜花に気付き、慌てて彼女の後を追いかける佑哉。 ようやく遊歩道を歩く彼女の元まで追い付いた時には、芦ノ湖の湖畔が目の前に迫っていた。
 対岸や草木の茂みに気を配りながら、桜花はHMD内蔵ヘルメットに備わっているインカムで武達を呼ぶ。

「リーフ4より207001へ。 リーフ3と共に湖畔を徒歩で警戒中、そっちの様子はどう?」
「こちら白銀。 今は何も無いですね、ローテーションで休憩と警備をやってます」
「そう。 そっちまで歩いていく予定だから、付いたらお茶でも用意してね」
「了解っ! 神宮司中尉にも伝えておきます!」

 観光名所なのに、何故こうも気分が優れないのか。 武との通信を終えた桜花は、不快に感じながら遊歩道を歩いて行く。 すると

「なあ桜花、さっきの話の続きなんだけどよ・・・」
「何・・・? まだ同じ事を蒸し返すつもりなの?」

 無駄にドスの効いた桜花の声を聞いて、佑哉は彼女がえらく機嫌を損ねている事にようやく気付く。 自分がつくづく鈍感だということに、佑哉は今更になって後悔の念に晒される。
 こうなったら彼女のイライラが治まるまで待つしかない、そう思いながら桜花の後を歩いていると唐突に彼女の方から話しかけて来た。

「ねえ佑哉。 今回の出撃、あんたはどう思う?」
「別になんとも思ってねえよ。 今の俺達はこの世界の横浜基地に居候している身で、彼らの要請があれば協力するだけさ」
「一宿一飯の恩義って奴か。 あんたらしいわね」

 本当に佑哉は単純な奴だなと思う一方で、桜花は自分達の置かれた立場について考えていた。 仮にクーデター側がここを襲撃したとして、武達を守る為に自分達が行動すれば、日本政府から派遣されたエージェントを危険に晒すかもしれない。 だからと言ってそのタイミングで行動をしなかったら、武達の方に危害が及ぶことになる。

「私達って、もう白銀君達にとって邪魔者なのかな・・・?」

 二者択一の選択を迫られた時、自分はそれを即座に選べるのだろうか。 そして自分たちは出撃して本当に正しかったのかと桜花が考えを巡らせていたその時、再び武から連絡が入る。

「01よりリーフ4へ。 俺も遊歩道沿いを散策してみます、そっちで落ち合いましょう」
「分かったわ。 何かあったら直ぐにサギサワ大尉か、神宮司中尉に報告よ。 良いわね?」
「了解!」

 関所までの道のりはまだ長い。 桜花は先程までの疑念を振り払い、落ち葉の絨毯が敷き詰められた遊歩道を進んで行った。


「(くそっ! こんな事している場合じゃないのに・・・!)」

 国連支給のライフル片手に、武は焦る気持ちを必死で抑えながら遊歩道を早歩きで進んでいた。 人類一丸となってBETAと戦っているこのご時世に、何故クーデター等と言う人間同士の争いが起こってしまうのか、武には全く理解出来ずにいた。
 一歩進むたびにガサガサと枯葉を踏む音を立てながら歩く中、武は部隊内に漂う異質な雰囲気の事を思い出していた。

「(冥夜もそうだったけど、何処かみんなの態度がおかしかったな・・・)」

父親の身を案じている千鶴は勿論だが、国連職員である父を持つ壬姫、さらには一見関係していなさそうな冥夜や慧までもそわそわして落ち着きが無い様子だったのだ。
 このような事態の影響で彼女達が動揺しているのならそれでいいのだが、理由はそれだけではないらしい。 武がそれを聞こうにも、話題を切り出す糸口が見出せず仕舞いなのだ。 どうやって聞き出そうかと考えている所に、ケイイチから通信が入る。

「白銀君、ちょっと良いかい?」
「何かあったんですか?サギサワ大尉」
「何も無いと言うと嘘になるね。 さっき君と花月君達がいる中間地点、その森の中に生体反応が2つほどあるんだ」

 ケイイチがそう知らせた直後、識別不明を表す黄色の光点が2つ表示されたレーダーマップが網膜に映し出される。 詳しい話によると、神社で待機していた美雪の八雲が搭載する広範囲センサーが検出。 データリンクを通じて榊機と情報処理を分担して分析してみたら、そのような結果が出たとケイイチは話す。
 周囲は自分達しかいないこのエリアに、侵入者がいる事を知った武はより警戒心を高める。

「迷い込んだ民間人の可能性もあるし、クーデター派の兵士が破壊工作を仕掛けているのかもしれない。 向こうの2人と合流して、見てきてもらえるかい?」
「了解!」

 ケイイチの頼みに復唱した後、武は足早に網膜ディスプレイが指し示しているポイントへ向う。 自分を指し示す緑のポインターと徐々に近付き、あと数分で接触する所で武は遊歩道に立つ人らしき物体を見つける。

「(やっぱりいた!) こちら01、遊歩道に不審者を一人発見。 どうぞ」

 向こうに気付かれないように茂みに身を潜め、小声で現在の状況をまりも達に報告する。 遊歩道の向こう側から来る佑哉と桜花の連絡を待つ間、武は用意しておいた双眼鏡を用意し、遊歩道に佇む不審者を観察することにした。

「(冥夜!? いや待て、冥夜はさっきまで俺と話していた筈だ。 じゃああの人は・・・?)」

 双眼鏡のレンズ越しに見える女性の姿に、武はゴクリと生唾を飲み込む。 不審者とは到底思えぬその優美な佇まい。 湖の水面を悲しげに見つめる瞳。 後頭部で結っているものの、腰まで届くであろう深紫色の頭髪。
 何よりその女性は、今部隊で行動を共にする御剣冥夜にそっくりなのだ。 これが噂のドッベルゲンガーかと武が思っていると、その女性にスーツ姿の男が近づき何やら話を始めた。

「これで本当に、帝都での戦闘は収まるのでしょうか? 鎧衣」
「はい。 今頃血眼になって、殿下を探しているでしょう。 後は・・・」
「後は椿さん達が、時間稼ぎをしてくれるかどうかですね・・・」

 草木の茂みに隠れながら耳をすませる武は、会話の内容を必死で解読していた。 所々に帝都やクーデター派といった用語が聞こえるのだが、具体的にどのような話題を話しているのか皆目見当がつかない。
 合流する前に、身柄を押さえておくかと武が思っていたその時だった。

「何時までも隠れて盗み聞きは良くないな、シロガネタケル」
「げっ! 見付かった!?」

 突然こちらに向けて声をかけてくる左近に対し、武はギョッとした表情で彼を見る。 彼女に付き添っている護衛の割にはさっぱりし過ぎな態度。 そして左近が放つ雰囲気に武は心当たりがあった。
観念して姿を現した武に、左近は自慢の帽子をかぶり直しながら答える。

「私の娘が世話になっているね。 いや息子だったかな?」
「やっぱり、あなたは美琴の親父さんか」
「ご名答。 私は帝国情報省所属の鎧衣左近だ。 そしてこちらは日本帝国征夷大将軍、煌武院悠陽殿下だ」
「えっ・・・」

 左近の紹介に対し、仮にも帝国の実質的なトップが、どうしてここに居るのかと武は思わず目を疑った。 そして冥夜と瓜二つの少女がそのような役職についている疑問に対し、武は1つだけ自信を持てて言える答えがあった。

『冥夜にはね、双子のお姉さんがいたんだって。 でもお姉さんが事故でなくなって、それで冥夜が御剣家の当主候補に・・・』

 記憶の奥底から蘇る、窓越しで聞いた純夏の言葉。 この世界に存在する人物は、その殆んどが元の世界と同じだ。 そして純夏の話を信じるならば、目の前に立つ征夷大将軍こそが、冥夜の双子の姉という事になる。
 果たして冥夜にこの事を伝えるべきか悩んでいる最中、遊歩道の反対側からようやく桜花と佑哉が合流する。

「白銀君~!」

 武の元に駆けつける2人もこの状況に気付いたらしく、構えていた銃を下ろして近付いてくる。 そして武が事情を説明した後、空いている手を腰に当てながら桜花やれやれと悟った顔で言う。

「どうやら私達、とてつもない当たりくじを引いちゃったみたいね」
「それとも、とんでもねえハズレくじか?」
「ふふふ・・・ 果たして私達はどちらなんだろうねぇ?」

 佑哉に続いて、左近も桜花に相槌を返す。 それを見た悠陽は口元を押さえながら微笑み、武もホッと一安心と肩の力を抜いた。

「祐哉は神社に戻って、苗村君達にこの事を伝えて、私が白銀君と一緒に2人を指揮所に連れて行くわ」
「ああ、俺は頭使うの苦手だからな、頼んだぜ!」

 状況を完全に読み取った桜花は、武と後ろにいる祐哉に指示を出す。 元来た道を一人さびしく戻って行く祐哉を後に、武と桜花は左近と悠陽を連れて関所へ向かった。


・ PM16:28箱根関所 指揮所


「では鎧衣課長、現在帝都で起こっている小競り合いは、もうすぐ収まると?」
「ええ。 今頃は決起派と帝国軍、斯衛軍が三つ巴になって各地の離宮へ向かっているはずです」

 関所に設置された仮説テントの中でそう訪ねるまりもに、落ち着いた様子で左近が答える。 クーデター派の狙いはここにいる悠陽であり、将軍である彼女の意向が政府に反映されていないという事実に、それを憂いた者達が立ち上がったというのが、今回起きてしまったクーデターの原因でもある。
 帝都城の堀を挟んで睨み合っていた決起軍と斯衛軍との間で小規模の小競り合いが始まったのをきっかけに、帝都各地で戦術機や機甲部隊まで用いた戦闘が散発的に行われている。 そのターゲットが悠陽である以上、城に留まっていたら街と民衆にも被害が及ぶ事になる。
 そこで悠陽は左近と共に、この箱根にある塔ヶ島城まで脱出したというのだ。 武と桜花がそのやり取りを見守る中、卓上に敷かれた地図を眺めていた左近の口が開く。

「これは殿下の頼みでもあるのでね。 民を戦いに巻き込ませたくないという願いから、私が情報を流したんですよ」
「そうですか、それで殿下自ら囮役を・・・ 鎧衣課長、我々は今後どのように動けばいいのですか?」

 国連軍の参加に対し、臨時政府が提示した条件は将軍の絶対な安全の確保。 その目標がここにいる以上、自分達はどの様に動けばいいのかを、彼女を連れてきた左近に聞くというのが筋だというものだ。
 左近は『う~ん』とあからさまに考えるような仕草をした後、武達に今後の方針を伝える。

「私はこの後、やらなくてはならない事があるのでね。 神宮司中尉、あなた方は殿下ともに安全な場所へ避難していただきたい」
「鎧衣さん、その場所に心当たりは?」
「いけないなあ白銀君、君は聞けば何でも答えが返ってくると思っているのかい?」

 やはり横浜基地へ護送するべきだろうか? だがそうなるとここへ向かっているクーデター部隊や帝国軍、さらにはどさくさ紛れに介入している米軍との戦闘に巻き込まれる危険性がある。
 厚木基地も董達による鉄壁の守りが維持されているとはいえ、何時また襲撃を受けるか分からないという状況だ。 候補地がことごとく消され、途方に暮れていた武の脳裏にひとつの明暗が浮かび上がる。

「フィルノート・・・! あそこに行けば!」

 確かに江ノ島から部隊を展開させている異世界の艦船なら、沙霧らの追撃にあっても撃退可能な戦力を持っているだろう。
 それに、背後で色々と企んでいるであろう米国の思惑通りにさせない効果もある。 武の提案に誰もが賛成かと思っていたその時、今まで後ろで話を聞いていた桜花が割って入る。

「確かにその案には私も賛成するわ。 煌武院殿下、貴女はそれで納得しますか?」
「私は・・・」

 初めて桜花を見たときもそうだったが、彼女の顔は帝都城にいる秋月椿によく似ていると悠陽は思った。 髪の長さは2人とも共通しているが、桜花は桜色、椿は緋色と髪の色は明らかに異なる。
 そして雅で穏やかな性格だった椿に対し、目の前にいる桜花は将軍である悠陽に対してもハッキリと自分の主張を通す性格のようだ。 まるでコインの裏表のような違和感に戸惑いながらも、悠陽は己の責務を全うするため桜花の問いに答える。

「私が不甲斐ないばかりにあなた方を、このような争いに巻き込ませてしまった事には本当に申し訳なく思っています。
 ですが私も鎧衣と同じく、己に課せられた使命を成し遂げなければなりません。 花月さん、この私に力を貸してくれますか?」

 戦場に自らの身を晒すことで、沙霧ら決起軍を説得する。 それが今の悠陽に課せられた指名。 人類同士の愚かな争いを止め、仇成すBETAに立ち向かう為に。 それを聞いた桜花は、胸の支えが取れたかのように、ほっと息を吐く。

「それを聞いて安心したわ、疑いながら護衛するのは不快以外の何者でもないですから」

 そう言って微笑む桜花を見て、緊張の糸が解れた悠陽が微笑むのを切っ掛けに、テント内が笑いに包まれる。

「そうと決まれば話は早いね。 では、殿下をよろしく頼むよ」
「「「はいっ!」」」

 そして左近の一言を合図に、悠陽護送作戦の火蓋は切って落とされた。


・ PM20:04 箱根関所


「すみません。 戦術機は本来一人乗りだから、こうでもしないと殿下を乗せられないんです」
「構いません白銀、今の私は荷物と同じ。 気遣う必要はありません」

 そう悠陽に言われながら、武は緊張した面持ちで彼女を固定しているハーネスの締め付けを調整する。 仮にも一国家の最高権力者・・・所謂ボス、首領と呼ばれるべき人物を吹雪の管制ユニットに同乗させているのだ。
 いくら本人から気遣いなど不要と言われてもどだい無理な話だと、武は心の中で突っ込みを入れる。 締め過ぎず緩め過ぎずと四苦八苦している内に、まりもから声がかかる。

「どうだ白銀、殿下の様子はどうだ?」
「はい。 今、酔い止めの薬を飲んでいただいているところです」

 強化装備も着ていない悠陽にとって、跳躍するだけでも体に負担が掛かる。 加えて戦術機は恐ろしく乗り心地の悪い乗り物だ。 効果が有るかどうかはわからないが、酔い止めの薬を飲んで置いた方が足しに成ると思い、武は悠陽に酔い止めを渡したのだった。
 一通り服用が終わったところで、今後の予定についてのブリーフィングをメンバー全員で行う。

「厚木基地の救援が一段楽して、現在フィルノートは沿岸部を移動中だよ」
「じゃあ、俺達はそこまで移動する必要がありますね」

 武の言葉に、網膜ウインドウに映るケイイチが頷く。 事情を把握したフィルノート艦長のシュバルツは、厚木は菫達に任せて悠陽の収容を快く引き受けた。 無論横浜基地にもこの事が伝えられ、夕呼の自信満々な説得により臨時政府は悠陽のフィルノート収容を承諾したという。

「(以外にアッサリ決まったな。 やっぱり夕呼先生が絡んでいるのか・・・?)」

 クーデターの魔の手から悠陽を救出し、この世界の人々に対し自分達が味方だと言う事を改めて提示する。 それが夕呼やシュバルツの狙いであり、アメリカやオルタネイティヴ5派を牽制する意味もあるのだろう。
 それにしてもこの短時間でそれだけの仕事をこなす夕呼に、武はつくづく感心していた。

「そうなると白銀機を護衛しながら、母艦が指定するポイントに移動する。 この流れであっていますか?」
「大正解だよ榊君。 そして追撃してくるクーデター部隊は、出来るだけ相手にしないでね」
「『彼らに集中するあまり、タケ・・・白銀中尉の護衛に専念出来なくなる』という事ですか?」

 続いて質問してくる冥夜にも、ケイイチは正解だよと微笑みを返す。 作戦の流れを皆で確かめ合い、自分の役割と目的を頭に叩き込む。 そうする事で単独行動に陥った場合でも、自分を見失わずに任務を続けることが出来るという菫の教えを、武はこのブリーフィングで実践していた。
続いてまりもが、各々のポジションについて冥夜達に説明をする。

「作戦開始以降は、白銀機を中心に円周防御で行動。 榊は白銀の後ろに追随して索敵と電子戦を担当だ」
「はい!」
「御剣と彩峰は前方側面を、珠瀬と鎧衣は後方側面を担当しろ」
「「了解」」
「「了解っ!」」

 そしてまりも機は白銀機の前に位置し、彼の補佐と陣頭指揮を行う。 フィルノートまで送り届けるまで確実に自分を守ってくれる、的確なポジション配置だと武は感心する。

「僕は皆の上空を飛んで情報管制、苗村君達は各ポジションのサポートでどうだい?」
「それは賛成だけど、誰がどこのサポートをするんだ?」
「じゃあ、私からリクエスト良いですか?」

 ケイイチが出した提案に、誰よりも早く飛び付いたのは壬姫だった。 今回の出撃において誰よりも不安な面持ちでいた彼女だけに、孝弘達のサポートを何より欲しているのだろう。
 断られたら即泣き出しそうな目をしている壬姫に、美雪が声をかける。

「じゃあ、鎧衣さんと珠瀬さんのサポートは私がやるわ。 2人でデータリンクを行えば、狙撃精度も上がりそうだしね」
「あっ、ありがとうございます!」

 美雪が後方のサポートに事に、壬姫は素直に感謝の言葉を述べる。 珠瀬機には87式支援突撃砲を改造した電磁速射砲を装備しており、加えて頭部ユニットには狙撃用の高精度スコープを搭載している。 彼女達の狙撃があれば、簡単に近づくことは出来ないはずだ。
 後ろの守りが決まったことをきっかけに、佑哉が慧を担当し、桜花は冥夜を、そして孝弘は千鶴と武のサポートをする事が足早に決まる。 そして出発直前、武が皆に向けて訓示を述べる。

「皆! 殿下をフィルノートに送り届けて、誰一人欠けることなく横浜基地へ・・・皆で柊町に帰ろう!」
『了解!』

 気合のこもった全員の復唱とともに、7機の戦術機と5機のVRが伊豆を目指して発進した。



[2970] 第16話-炎談-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2009/12/25 22:28
・ PM20:43東京都町田市 東名高速道路跡


「何? 殿下は帝都を既に脱出しているだと?」
「はっ! 既に情報を察知した帝国軍や斯衛軍は、関東一帯の離城に急行中です」

 高速道路跡を併走する同志からの報告を聞き、今回の事件の首謀者である沙霧尚哉の顔に困惑の色が浮かぶ。 将軍が自ら逃げおおせる事など有り得ない、殿下はきっと何かお考えなのだ。 そう自分に言い聞かせながら、沙霧は『烈士』と腰に書かれた黒き不知火を跳躍させる。

「厚木基地の制圧に向かった部隊はどうなっている」
「それが、戦域突入の数分後に通信が途絶えてしまい・・・」

 沙霧が厚木基地襲撃の為に送り込んだ部隊は、彼に賛同した者の中でも特に優秀な衛士達だった。 その彼らが失敗したとなると、もう厚木基地の攻略は諦めるしかない。

「(手練れの者達が、腑抜けた政府を守っている連中などに負けるとはありえない。 この仕業はやはり・・・!)」

 国連と帝国政府に協力し、厚木基地の守りを固めている菫達に対して沙霧の胸中には強い怒りが湧き上がる。 自分達の都合で勝手にこの世界に現れ、自分達の目的を邪魔するばかりか現政府の勢力を増長させようとしている。
 悠陽と直接謁見を交わしたという人物もそうだ。 異世界の日本が持つ技術を提供すると言っているが、その所業はまさしく沙霧が嫌う米国そのものだ。

「(やはり私が、この国を正さなければ・・・!)」

 行く先に待つのは修羅と死出の道。 それでも己が信念を貫くべく、沙霧は箱根へと進路を向けた。


・ 同時刻 帝都城 謁見の間


 どれ位の時間が経っただろうか。 自分以外誰も居ない謁見の間で、椿は自分が動くに相応しいタイミングを今まで伺っていた。 もう悠陽は箱根に居る国連軍の衛士らと、無事に合流出来たのだろうか? そして左近は、帝都から戦火を遠ざけるために情報を流したのだろうか?
 窓の1つも無いこの場所では、己が目を持って外の様子を見ることは出来ない。 だが体に伝わってくる戦闘特有の振動と音が収まってきた事に、椿は自分も行動するべきだと悟り、1人席を立つ。

「よしっ!」

 両側の頬をパシッと叩いて気合いを入れた後、椿は左近から貰ったスーツケースを片手に、謁見の間を後にした。


マブラヴ ~壊れかけたドアの向こう~
#16 炎談


・ 帝都城 斯衛軍詰所


「あっ、椿さん!」

 詰所を訪れた椿に気付いた凛が、我先にと声を掛けながら近付く。 悠陽が脱出したという情報を切っ掛けに帝都での戦闘は収まりつつある。 凛達斯衛は、帝国軍と共に周辺の治安維持と事態の収拾を行っている最中だ。

「ところで凛、その格好は?」
「えっ? 私の強化装備がどうかしましたか?」

 凛のこれが普通ですと言わんばかりの態度に、初めて強化装備を見た椿は言葉が出ない。 何しろVR用のパイロットスーツでも、胸と腰周りを強調させるようなデザインは無いのだ。 それにヘルメットではなく、顎周りにはインカムであろうヘッドギアを装着している。
 色々と突っ込みたい衝動を抑えながら、椿は今後の段取りについて話す。

「私のVRはもうここに運んできた?」
「ええ、殿下直属の命が出ていますから。 後は椿さん次第でいつでも出せます」

そう凛が告げた後、椿は駐車されている戦術機搬送用トレーラーを見る。 トレーラーの荷台で寝かされその上から保護シートが掛けられている機体は、斯衛軍が運用する戦術機ではない。

「(あれが椿さんの機体『菊一零式』か・・・)」

 保護シートを剥がされ、斯衛の衛士達の前に姿を見せたVRの名を、凛は心の中で呟く。 今回のような緊急事態に陥った時、椿が自分を守れるようにと託された機体だという。 そして武達の元に居る桜花のVR、『御巫』の原型機でもある。
 鮮やかな紅色のカラーリングに、自分らが運用する戦術機『武御雷』と同じ甲冑武士のようなシルエット。 だが機体の各所で淡い燐光を放つセンサー類や頭部のスリットが、それが戦術機ではない事を物語っていた。
 手持ちの火器は一切見当たらないものの、腰部には日本刀そのままの武装が装備されているのが見える。 後は椿が乗り込むだけとなった時、当の彼女はスーツケースを地面に置き、おもむろに止め具を外そうとする。

「さて、鎧衣さんに貰ったこれ、ここで開けてみましょうか?」
「えっ? ここで開けちゃうんですか!?」
「このまま持っていても邪魔なだけでしょ? それに何が入っているのか、今の内に確かめたいしね」

確かに大型のスーツケースを、そのままコクピットに入れていては邪魔なだけだ。 だからと言って、せっかくの貰い物をこのまま手放してしまうのも勿体無い。 こんな時でも自分のペースを崩さない椿に呆れながらも、凛は彼女がケースを開ける様子を見守る。 ケースの中には凛が着用しているものと同じ、零式強化装備が入っていた。

「ねえ凛、これなんて罰ゲーム?」
「椿さん、そういう文句は後で鎧衣さんに言ってください」

 開封して数秒に渡る沈黙の後、言葉を交わす2人。 ケースに入っていた強化装備の色は赤。 それは月詠真那と同じ、上級武家出身の衛士に与えられる色だ。

「VRに乗って操縦するだけなら、平服でも構わないんだけど・・・」

 異世界の人間がこれを着る事はかなりに顰蹙を買うことになるだろう。 それにいくらVRが平服のままで乗れるといっても、慣性制御の範疇を超えたGから身を守るべく、パイロットスーツを着用した上で乗るのが好ましい。
 それにしても、菊一のカラーリングが同じ赤だったのは単なる偶然か、それとも左近が全てを見越した上で用意してくれたのだろうか。 どちらにせよ分かっているのは椿がこれを着て、VRに乗らなくてはならないという事だ。

「凛、私を更衣室に案内してくれる?」
「あっ、はい!」

 今までの遅れを取り戻すかのように、椿は凛と共に強化装備に着替える場所へと走った。


・ PM21:04 静岡県 伊豆スカイライン 山吹峠付近


 左近から悠陽を任され、箱根を出発した武達207B小隊。 熱海を経由して伊豆スカイラインに沿って移動を行っており、現在は悠陽の体調を鑑みて小休止を行っている最中だ。

「白銀、殿下の様子はどうだ?」
「大丈夫です。 ここまで来る間にも、何回か休憩を行ったお陰で持ってくれています」

 武の言うとおり、峠を越える度に要所ごとに何度も休憩を行っている。 それまでに敵が襲ってくることも考慮されたがそういった兆候は全く無く、ケイイチや孝弘達のバックアップもあって余裕を持って移動することが出来たのだ。
 武の報告の後、まりもは横浜基地から伝えられた情報を彼に伝える。

「横浜から入った情報によると、伊豆半島に上陸した米軍がこちらに向かって北上しているそうだ」
「彼らと合流できれば、フィルノートとの合流ポイントまで一直線ということですね?」
「そうだな、だが最後まで油断はするなよ」

 いつもの鬼教官の顔と態度をまりもが見せた後、武は彼女との通信を終える。 続いて悠陽と視線を合わせ、彼女に話しかける。

「殿下、外の空気でも吸いますか?」
「白銀、今の私は荷物と同じと言ったはずですよ?」
「では、お言葉に甘えて・・・」

 武はコンソールからハッチを操作。 開放した吹雪の前面ハッチから管制ユニットがせり出し、満点の星空の下に2人の身が晒される。

「綺麗な空ですね」
「ええ、とても今日本で内戦が起こっているとは思えないですよ」

 戦術機とVRの駆動音がする以外は、辺りは全くの静寂に包まれている。 この場所にいるだけなら、クーデターという非常事態になっていると誰が気付くだろう。 本人はまず口にしないし、そのそぶりも見せては居ないが、悠陽の体力は消耗しつつあるのは武の目でも明らかだった。
 これで小休憩が無ければ、悠陽はとうに乗り物酔いで参ってしまっているだろう。 それほどに、戦術機の機動時に掛かるGの影響は計り知れないのだ。 肌寒い空気を肌で感じながら、悠陽の口が開く。

「白銀、先ほど私の事を冥夜と呼んでいましたね?」
「え、ええ。 殿下が俺の仲間、御剣冥夜にそっくりでしたから」
「それもその筈です。 冥夜と私は、双子の姉妹なのですから」

 やはりあの時話した純夏の言葉は嘘ではなかった。 更に悠陽は自分達が生まれて間もない頃に引き離され、悠陽は煌武院家へ、冥夜は御剣家へと引き取られた事を武に教えてくれた。

「そういえば殿下、花月さんと知り合いなんですか?」
「えっ・・・?」
「いや、ブリーフィングの時も花月さんの事、気になっていたみたいですし」

 桜花に対する態度がぎこちなかった事を武に見抜かれ、思わず赤面する悠陽。 そして観念した彼女は、武に帝都城の一件を話した。

「親戚だって!? 花月さん、そんなこと一言も・・・」
「知らない筈です。 『自分がこの世界に来ることは、彼女には内緒にしている』と、椿さんは言っていましたから」

 些細な偶然から巡り合ってしまった、双子の姉妹と瓜二つの親戚。 これも何かしらの因果や運命というものが、自分達に作用しているのだろうか。 そんな事を武が考えていると、悠陽が一つの頼みを話す。

「白銀、どうか私と共に沙霧を・・・あの者をどうか救って欲しいのです!」
「殿下・・・?」

 そう語る悠陽の目じりに、僅かながら涙が溜まっていた事に武が気付く。 道を外れてしまったならば、可能な限りの対話によって引き戻すことが出来るのではないかと悠陽は考えているのだ。

「つまり殿下は自ら沙霧大尉を説得して、この騒乱を治めるつもりなのですね?」
「はい。 そして可能であるなら、彼の身柄は椿さんに託そうと思っています」

 仮に沙霧が素直に降伏したとして、これだけの騒ぎを起こして唯で済むわけが無い。 彼に賛同したもの全てに罪と罰を科するのならまだしも、沙霧一人に押し付けた場合なら死刑もありえる。 それにBETA戦の要である戦術機、それを操る衛士の中でも超一流である彼を、ここで失うのは余りにも惜しい。
 そこで悠陽は沙霧が降伏した後に椿に身柄を引き渡し、この世界の法が届かない電脳暦の世界へ送還する案を、出発前に左近や椿に伝えたのだ。

「椿さんもこちらに向かっていますが、その前に私達が沙霧の身柄を押さえる必要があります」
「わかりました。 皆と相談してみましょう」
『なんだよタケル~ そうならそうと言ってくれれば良かったのに~』
「み、美琴っ!?」

 悠陽の願いに答えるべく、武は彼女とともに事の次第を部隊全員に話そうとしたその時、突如美琴の声と共に彼女の顔が通信ウインドウに映る。

「さっきから会話が筒抜けですよ、通信をオープンにしたまま気付きませんでした?」

 続けて壬姫に促された武がコンソールを見ると、確かに通信がオープンチャンネルのまま固定されている。 つまり今までの悠陽との会話が、ここに居る全員に筒抜けだったということだ。
 穴があったら入りたいとはこの事だろうか、赤っ恥をかいて言葉を失う武に、ケイイチが声を掛ける。

「まあ、お陰で僕らに説明する手間が省けたわけだしね」
「まったく、白銀中尉は警戒心が足りませんよ」
「・・・激しく同意」

 生真面目に階級付けで返す千鶴に、珍しく彼女に同調する。 冥夜だけは、姉との再会で動揺しているのだろうか返事は返ってこない。

「そんな感じなんですが、よろしいですか? 神宮司中尉」

 一部始終を黙って聞いていたまりもは、武にそう聞かれて唸りながら頭を抱える。 ただでさえ悠陽を護送する重大な役割があるのに、クーデターの首謀者を殺さず生け捕りにしろと言うのだ。

「(まあ夕呼ならこれを聞いたら、真っ先にやれと言うでしょうね)」

 異世界の軍と協力し、クーデターの首謀者を拘束する。 抜群の宣伝文句に、あの夕呼が飛び付かない訳が無い。 反対する気も失せたまりもは、しぶしぶ武と悠陽に進言する。

「仕方ないですね・・・ ただし拘束不可能と判断した場合、彼の撃破が有り得ることを覚えておいてください」

 新OS搭載の改造吹雪6機とまりもの撃震、そして虎の子とも言える5機のVR。 初陣の冥夜達を差し引いても、これで拘束に失敗する方が無理な話だろう。 それに、フィルノートに合流すれば可能性も格段に高まるはずだ。
 悠陽の体調もある程度回復し、移動を再開しようとしたその時、突如レーダーに不明機を示す黄色の光点が多数映し出される。 そして同時に、207小隊全機に不明機からの呼びかけが聞こえてきた。

<こちら、米軍第66戦術機甲大隊、指揮官のアルフレッド・ウォーケン少佐だ。 貴官らは国連軍か?>
「あれは・・・米軍機?」

 まりもの呟きと共に、ウォーケン率いる部隊が武達の周りに展開する。 猛禽の名を冠する戦術機F-22『ラプター』のメインセンサーが、武達の姿を鋭く捕らえていた。


・ PM21:31 帝都 東京拘置所前


「拘置所前に居る決起軍に告ぐ、おとなしく抵抗を止めて直ちに投降しなさい!」

 拡声器で増幅された凛の声が拘置所の周りに響き渡り、そこを固める決起軍が一斉に声が発せられた方向を向く。 そこには凛達斯衛軍の戦術機部隊、その一歩下がった所には彼女達に随伴する椿が乗る菊一の姿があった。

「(まあ、素直に聞き入れてくれる連中じゃないと思うけどね・・・)」

 引き続き凛が降伏勧告をしている間、菊一のコクピット内で椿は今身に着けている強化装備を観察することにした。 平均的なプロポーションの身体を包む特殊素材は防弾防刃、耐熱耐衝撃に優れるという、まさに夢の素材で出来ている。 そして甲冑のようなパーツ類は生命維持機能やデータ蓄積・フィードバックを行い、衛士が戦術機を操縦し易くするための工夫が徹底的になされている。
 因みにVRのHMDと干渉するためにヘッドギアは装着してないが、本来はそれで戦術機からの視界確保や通信を行うという。

「(さらに脱出装置との合体機能、ここまで便利すぎて笑っちゃうわね)」

 BETAとの戦争が始まった事を切っ掛けに、ここまでの技術進歩があった事が垣間見える事に椿は苦笑する。 だが機能的に申し分ないこの強化装備を、電脳暦世界に導入しようかと思ったその時、凛達と決起軍の双方に動きが見え始める。

「えっ、もうやる気なの!?」

 アラートに促されて椿が正面に視線を向けると、そこには互いに抜刀し短刀や長刀を向け合う斯衛軍と決起軍の姿。 どうやら交渉は失敗したらしく、泣く泣く実力で排除する方向に凛達は打って出たようだ。
 この期に及んでも銃器の類を一切使わないのは、“サムライ”の血が色濃く残っているこの世界の日本ならではなのだろうか。 そう椿が思ったその時、スーパーカーボン製の刃と刃が切り結ぶ甲高い音と共に、決起軍と斯衛軍の間で戦闘が始まってしまう。
 そして乱戦を潜り抜けた1機の撃震が、長刀を振りかざして椿に襲い掛かってきた。

「誰だか知らんが、貴様も斯衛の手を貸すのか!」

 菊一目掛けて振り下ろされる長刀を、椿は反射的に機体に装備された短刀で受け止める。 自ら説得を試みるも、完全に頭に血が上っているのか相手は全く聞き入ってくれない。 防戦一方の彼女に、それに気付いた凛が声を掛ける。

「しっかりしてください椿さん! 殿下との約束はどうなったんですか!」
「っ!?」

 あの子の言うとおり、自分はここで躓いている訳には行かない。 沙霧を捕まえ、電脳暦世界へ連れて行くという悠陽との約束を果たさなければならないのだから。

「そうね。 こんな所で時間を食っていたら、殿下に笑われるわ・・・ねっ!」

 凛にそう返した後、椿は切り結んでいた刃を力任せに払いのけ、撃震の喉元に短刀を突き立てる。 刃が突き刺さった箇所から鮮血の如く火花とオイルが噴き出し、椿は管制ユニットが収まっている胸部を思い切り殴りつけた。
 耐G機能を付けている強化装備であろうと管制ユニットへ直に打ち込まれた衝撃まで受け止めきれず、衛士はそのまま気を失う破目となった。

「な、なんて戦い方なの・・・?」
「戦術機を、直接ぶん殴った・・・!」

 横目でそれを見ていた凛のみならず、周りの衛士全てが椿の戦いに釘付けだった。 戦術機の部位の中でもデリケート極まりないマニピュレーターで、直接戦術機を殴りつけるなど初めて見たからだ。
 周囲の視線を一線に浴び続ける椿の菊一は、次に腰の両脇に添え付けられた鞘に手を伸ばす。

「『大波』、『細波(さざなみ)』起動!」

 音声コマンドの認識が完了し、セーフティが外された鞘から二振りの日本刀その物と言える長刀が抜かれ、右手に長めの『大波』、左手に短めの『細波』が菊一の手に握られる。
 その独特の構えを見た凛は、ごくりと生唾を飲んだ。

「(あれはまさか、二刀流の構え!?)」

 人型兵器で当て身に二刀流と、この人はどこまで自分達の常識を打ち破るのだろうか。 そう凛が考えていると痺れを切らした決起軍の陽炎が3機、再び椿に斬り掛かろうとする。

「あらあら、女の子1人に3人掛かりなんて、ちょっと大げさじゃない?」

 椿は『大波』を持つ菊一の右手を大きく振り、戦術機サイズの扇子で扇いだかのような旋風を巻き起こす。 横一列で向かってきた3機の陽炎は風に煽られ、互いの距離も災いしたのか接触を起こしながら各々体制を崩す結果となる。

「今よ凛! 思いっきり叩き斬りなさい!!」
「はい!!」

 椿の合図に返事をした凛の武御雷が、水平噴射跳躍で後ろから敵機に接近。 それと同時に椿も前方から一気に距離を詰める。 すれ違い様に椿は陽炎達の脚部を薙ぎ払い、凛は頭部を一閃の元に刎ね飛ばす。

「ナイス凛!やっぱり斯衛の衛士だけあるわね!」
「椿さんこそ、私達の知らない戦い方ばかりして、気が抜けませんよ」

 戦闘不能となった決起軍の陽炎を尻目に、凛と椿は互いの活躍を褒め合う。  2人の戦いを見て怖気づいてしまったのか、決起軍の行動が乱れ始めてきた。  勝機を確信した椿は、凛に突入を促す。

「さあ、一気に片付けて榊首相達を助けに行くわよ!」
「はい!」

 互いに頷いた後、白と赤の機体を疾駆させる2人の乙女。 凛と椿の活躍と斯衛の衛士達の奮闘を前に、拘置所が決起軍の手から開放されるのは時間の問題だった。



22:13 東京拘置所に拘束されていた榊首相以下閣僚達が、斯衛軍により救助される。 これ以降、首都圏での決起軍の動きが鎮静化。
22:24 帝国軍小田原基地に、決起軍らしき戦術機部隊の襲撃。 苦戦しているとの報告の後、同基地からの通信途絶。

17話に続く



[2970] 第17話-信念-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2009/12/25 22:29
・ PM22:47 伊豆半島 伊豆スカイライン 亀石峠料金所


「殿下、もう直ぐの辛抱です」
「良いのです白銀、私に構わず・・・!」

 ウォーケンら米軍のサポートの元、ようやく亀石峠までやってきた武達。  しかし悠陽の体調は芳しくなく、これ以上移動を続けていたら精神的にも体力的にも持たないと、武は苦痛の表情を浮かべる悠陽を見ながら感じていた。

「(どうする、このままだと殿下が・・・!)」

 もう少し休憩を延長してもらうよう、ウォーケンに進言してみるか? だがこの戦いを長引かせてしまえば、こうして救援に来てくれている米軍にも被害が出てしまう。
この世界の日本では過去の経緯から何かと反米感情が強いが、そんなことに関係なく彼らには何もないままお引取りしてもらいたいと武は思っていた。

「白銀中尉、殿下の具合はどうだ?」
噂をすればなんとやらで、悠陽の身を案じるウォーケンの声が武の耳に入ってくる。 彼に悠陽の容態を伝えると、網膜ディスプレイに映るウォーケンは直ぐに苦渋の表情を浮かべた。

「そうか・・・ ならばもう少し休憩時間を延長するのはどうかね?」
「お気持ちはありがたいですが、これ以上時間を消費して少佐達に被害を出すわけには・・・」
「いや、ここは殿下の体力の回復を待つのを優先させよう。 その間は我々の威信にかけても、君達を必ず守る」

 その武人としての立ち居振る舞いを見て、少なくともこの人だけは信じてもよさそうだと武は思った。 それと同時に出撃直前に、夕呼が自分に継げた言葉を思い返す。

『今回の任務、最後の最後まで油断しないことね』

 今回の米国の支援行動も、まるで始めから仕組まれていたかのような流れであったことは、武にも理解できた。 ならば最新鋭機を駆るウォーケンの部隊に、そういった輩が居ても可笑しくは無い。
 夕呼の言葉が本当にならないと良いがと願っていたその時、ハンター隊の一人がウォーケンに報告する。

<リーダー、先ほどからオダワラ基地に連絡を入れているのですが、応答がありません>
『懐を突いて追撃に来たか? よし、ヒート隊とスパイク隊を各峠に配置させ、防衛ラインを構築しろと伝えろ』
<了解!>

 冷静に状況を見極め、的確に部下達に指示を出すウォーケン。 指示を受け取ったヒート隊とスパイク隊が、迅速に武達の来た道を戻って行く。 また戦いが始まるのか、どのような理由であれ人類同士が戦うことに武は深い悲しみを覚えた。
 悠陽の容態を案じながらそんな感傷に浸っていると、ケイイチからの通信が入ってきた。

「久しぶりに戦術機に乗った感覚はどうだい? 白銀君」
「特に違和感はありません。 それよりも、殿下の体調が・・・」
「むしろここまで持ってくれたのが凄いよ。 流石、一国を背負うお姫様といった所かな?」
「そういう言い方は・・・ でもこのままだと、確実に殿下の体力が尽きますよ」

 そう告げるケイイチの顔には、いつものような楽観的な雰囲気は無かった。 要人護衛という上、この先何がおきるか分からないという状況に、彼も何時までもヘラヘラしていられないというのだろうか。

「クソッ! せめて今乗っている機体がVRなら、殿下の負担を減らすことが出来るのに・・・!」

 息も絶え絶えな悠陽の前で、思わず本音を漏らす武。 標準で慣性制御が備わっているVRなら、戦術機と同等の機動を行ってもパイロットへの負担は少ない。 もしこの場で乗り換えることが出来るのなら、悠陽にこれ以上の消耗させることなく護送が可能だ。 そんな彼の一言に、ケイイチと孝弘がハッとした顔で声を上げる。

「「そうか、その手があったか!!」」
「えっ・・・!?」


マブラヴ 壊れかけたドアの向こう
#17 信念


「殿下、気分はどうですか?」
「白銀? ここは・・・」

 武の声に促され、朦朧としていた悠陽の意識が現実へ引き戻される。 依然として戦術機のコクピットの中だろうと思っていた彼女だが、未だに虚ろな視界に戦術機のそれとは明らかに異なるレイアウトに気付く。 そんな悠陽に、武が今の状況と今後の手はずを伝える。

「今俺達は吹雪から苗村1尉のVR、『叢雲』のコクピットに居ます。 加速度病の進行は、VRの慣性制御で戦術機より格段に抑えられるはずです」
「乗り換え? これに乗っていた衛士は、それを行う事を許したのですか?」
「ええ。 元々この作戦も、彼らが持ちかけてきたんですよ」

 先ほどのケイイチと孝弘の顔を思い出し、武は声を上げて笑いそうになるのを必死で堪える。 叢雲本来のパイロットである孝弘はケイイチのマイザーナブラに搭乗し、そこから武へのサポートを行うと言う。 無論乗っていた吹雪は自立制御で随伴させ、最悪身代わりに使うと武は説明した。

「そうですか。 米軍側にはこの事を?」
「一応ウォーケン少佐のみに伝えました。 敵に感づかれないように他の隊員たちには、今まで通りの任務をさせるそうです」

 そしてこの機体をどこまで自分のものに出来るか、武はそれが気がかりだった。 孝弘とケイイチのサポートの元、機体セッティングは自分が前に乗っていたテムジンに近い設定にしたが、個人に合わせたカスタマイズが施されているこの機体を完全に操るのは不可能に近い。
後は自分に秘められたパイロットとしてのセンスに掛けるしかないだろう。

『さあ、ランデブーポイントまであと少しだ。 行くぞ!』

 ウォーケンの号令の元、米軍と207小隊は移動を再開した。


『沙霧大尉、伊豆の亀石峠から移動を始めた部隊が確認されました。 また米軍が伊豆の各所で防衛ラインを固めているそうです』
「そうか・・・」

 紅蓮の色で浮かび上がる小田原の街、その中にこの惨状を引き起こした鋼の巨人が立ち尽くす。 はたして自分の行動は本当に正しかったのか、小田原基地を襲撃した後になって沙霧の中に消えかけていた疑念が再び燻り出していた。
 日々激化するBETAとの戦い。 前線と後方、そして司令部や政府との温度差。 消耗し、最低限の生活を強いられ疲弊する国民達。 それらを正すために、皆にその事を知らせるために自分達は立ち上がった。

「(私の成そうとしている事は、本当に正しいのか・・・?)」

 だが実際はどうだ、国内に要らぬ混乱を与えたばかりか米国までも介入させてしまった。 自分達の行動が逆にこの国を陥れている事に、沙霧は今更になってようやく気付き始めていた。 それでも、ここまで付いてきた部下達を裏切るわけには行かない。 沙霧は彼らの忠義に感謝しながら、通信に向かって声を上げる。

「ならその先に殿下が居る! 全機、私に続け!!」

 腰部アーマーに“烈士”のマーキングが塗られた漆黒の戦術機達が、おぼろ月が浮かぶ夜空を舞った。


・ PM23:37 伊豆半島 氷川峠周辺


『熱海峠で網を張っていた米軍部隊が決起軍に突破された! 我々の目論みに気付いたらしい。奴ら、形振り構わずこっちに向かって突っ込んでいるそうだ!』

 まりもから伝えられた情報に、小隊の誰もが肩を震わせる。 多勢を従える米軍部隊に正面から挑み、それを突破した決起軍の精鋭達がこちらに接近中だというのだから当然のことだろう。 ようやく叢雲の操縦感覚を掴みながら、武はこの戦いにどう決着をつけるか悠陽と共に考えていた。
 VRである叢雲の性能ならば沙霧率いる決起軍の戦術機部隊を相手にしても、いとも容易く全滅させられるだろう。 だが、それは悠陽の望みではない事は武も承知していた。

「(このまま戦闘になったとしても、何とかして沙霧大尉を説得に持ち込まないと!)」

 叢雲の性能に物を言わせて取り巻きを一蹴し、悠陽による説得によって沙霧に降伏させるのが武と悠陽の間で決めた作戦だった。 あと少しで氷川峠に到達しようとしたその時、広域レーダーを搭載した吹雪を駆る千鶴が声を上げる。

「決起軍、米軍の防衛ラインを突破! 全速力でこちらに向かっています!」
「全機01を中心に円周防御、敵機が発砲してきた場合は独自に応戦しろ!」

 沙霧らに悟られないよう、まりもの指示通りに武達が乗っていた無人の吹雪を取り囲むフォーメーションを取る。 ウォーケン達も白銀達を護るべく、さらにその外側を囲み鉄壁の守りとする。 そして後方に位置するラプターが敵機の接近に気付いて応戦、チェーンガンの発砲音が伊豆の山中に鳴り響く。

「これ程の力、なぜBETA相手に生かそうとしないのだ!」

 決起軍の予想以上の進撃速度を目の当たりにしたウォーケンは、憤りと共に率直な意見を言葉にする。 BETAという共通の敵を前にして、人類同士で争うなど愚の骨頂だ。
 だが、もし自分が日本人として生まれていたら、切迫した状況でいるこの国の事を憂い、彼らと同じ行動をしていたのかとウォーケンは考えてしまう。

『リーダー! 隊長機らしきシラヌイが・・・!』
「何っ!?」

 それを最後に途切れる部下の通信。 ウォーケンが見たのは、沙霧が駆る不知火が武たち目掛けて吶喊する姿。 自分達の銃撃をあたかも存在しないが如く動き回り、徐々にその距離を縮めて行く。

「なんて奴だ、性能の劣る機体で我らのラプターに追い付くだと・・・!」

 現行最新鋭の戦術機、F-22A“ラプター”は、元々対戦術機戦闘を主眼に置いて開発された機体だ。 敵のレーダーに察知されにくいステルス能力、アフターバーナー無しで音速飛行する事が出来るスーパークルーズ機能など、BETA大戦後における米国による世界支配を見越してのスペックが備わっている。
だがステルスは敵に発見されてしまえば何の役にも立たず、スーパークルーズ機能も護衛という今の状況では使えない。 “戦術支配戦術機”という異名通り、ラプターという戦術機は『攻める』為の機体であって『守る』為の機体ではないのだ。
 いかなるスペックであろうと運用と衛士次第で戦術機の効力は左右されるとウォーケンが悟った時には、全てが遅かった。

「まずい! 207各機、決起軍のシラヌイが一機そっちに行ったぞ!」

 前を行く武達に通信を送った後、ウォーケンは沙霧を追うべく機体を加速させる。 沙霧の不知火は依然として、武達に向かって跳躍ユニットを輝かせながら突き進んでいる。 長刀マウントのロックが外れ、それを左手に装備した沙霧の不知火が207小隊の後方に迫る。 冥夜達207小隊には目も暮れず、沙霧の不知火は無謀にも武の乗る叢雲を狙っていた。

「(嘘だろ!? 俺と殿下がこいつに乗っている事に、もう気付いたのか!)」

 このまま皆を振り切って応戦するべきか? だがそれを行えば同乗している悠陽にまた負担を強いてしまい、皆に要らぬ世話をかける事になると迷っていたその時、凛とした声で悠陽が告げる。

「白銀、迷う必要はありません。 貴方の成したい事、それは私と共に沙霧を止めることでしょう?」
「殿下・・・」
「ならば、恐れず行動しなさい」
「はいっ!」

 悠陽の助言で迷いを振り切った武は、叢雲の機体を力強く跳躍させる。 そして空中で後ろに向き直った後、まりも達に向かって叫んだ。
「俺が奴の相手をする! 皆は指定のポイントまで先に行ってくれ!」

『ちょっ・・・白銀中尉!』
『どういうつもりだタケ・・・白銀中尉!』
『そうだよ中尉、その機体には殿下が乗ってるんだよ!』

 千鶴と冥夜、美琴が武の発した言葉に驚く中、まりもだけは彼の真意を見抜いていた。 戦術機とVR、異界の機械を使いこなす事が出来る今の彼ならば、必ずやり遂げてくれると信じていたからだ。

「了解した。 だが、一つだけ我々と約束しろ」
「何ですか? 神宮司中尉」
「必ず、殿下と共に我々の元に戻れ! いいな!」
「了解っ!」

 皆の願いを体現したとも言えるまりもの言葉に力強く答え、元来た道を戻る武。 そしてまりも達を追いかける沙霧の前に、叢雲の機体が立ち塞がった。

「貴様は・・・!」
「さあ、もうこんな下らない事は終わりにしようぜ! 沙霧大尉!」


 通信と外部スピーカーで呼びかける声に、思わず足を止めた沙霧は目の前に立つ新緑の機体を睨む。 同志達はウォーケンら米軍の足止めを食らい、ここにいるのは沙霧ただ一人。 それでも自分達の邪魔をする者は実力で排除し、悠陽を奪還しなければならない。 長刀を構えながら、沙霧が吼える。

「そこを退け! 貴様ら異世界の人間も、米国の肩を持つというのか!」

 おそらく沙霧は本来のパイロットである孝弘に向けて言ったのだろうが、今叢雲に乗っているのは武と悠陽だ。 だが、異世界の人間という意味では武もそれに含まれる。 彼の問いに対し、武は己の中にある答えを持って沙霧に答えた。

「違う! 俺はあんた達がやっている事を止めたいだけだ! 世界中の人達がBETAと戦っている時に、どうして人類同士で殺し合わなくちゃいけないんだ!!」
「なら貴様に問う! BETAと戦うが為に他国に追従し、その結果日本が大国に隷属する事を認めるのか!」
「それは・・・ぐっ!?」

 武が見せた一瞬の動揺を、沙霧が見逃す筈は無かった。 跳躍ユニットのノズルから眩い噴射炎を輝かせ、間合いを詰めた沙霧の不知火は叢雲めがけて長刀を振り下ろす。 武は反射的に左腕にラック兼シールドで受け止め、激しい火花と閃光が広がる。

「貴様には分かるまい! 人類の奉仕という大儀に溺れ、この国は徐々に腐り始めている! だから我々が逆賊共を討ち、民にその事を知らしめなければならんのだ!」
「だからといって、こんな事をやって良い筈はないでしょう!!」
「どの道我々は後戻り出来ん、邪魔をすると言うのなら・・・!」

 シールドで長刀を押しのけ、反動で沙霧との間合いを取る武。 そう告げた沙霧は長刀を再び構え、武を突破しようとしている。 ここで彼を止めなければ、もう後はない。 悠陽と視線を合わせて互いに頷いた後、武は思いの丈をぶつけた。

「ああそうさ! 所詮俺は異世界から来た人間だ。 あんたの言っている事はまったく理解出来ないし、賛同もしない!」
「何だと・・・! 確たる信念も忠義を尽くす者も無く、貴様は何を信じて戦っている!」
「そんなの決まっている! 俺は・・・俺を信じてくれている仲間のために戦っているんだ!」

 武の声を聞いて、沙霧は後方で足止めをしてくれている同志達の顔を思い浮かべた。 彼らもこの国の内情を憂い、自分を信じてここまで付いて来たのではないか?

「私は・・・」
『ならばその答え、私に預けてくれないでしょうか?』
「その声は、まさか・・・!?」

 疑念に次ぐ疑念に思考が止まりかけた沙霧の耳に、聞き覚えのある声が届く。 そして目の前にいる叢雲のコクピットハッチが開き、そこには武と悠陽の姿があった。 武に支えられながら立つ悠陽は、将軍らしい毅然とした態度で沙霧に話しかける。

「沙霧大尉。 この日本の現状を憂い、それを正すべく行動を起こした事、貴方のその信念と忠義を私は認めます。 ですが・・・」
「その術は外道、全て承知の上です・・・」

 不知火の前部ハッチを開放し、二人の前に姿を見せながら沙霧は悠陽の言葉に答える。 知らなかったとはいえ将軍である悠陽が同乗している叢雲に攻撃を仕掛け、それでいて彼女に直接説得を受けているのだ。 沙霧の表情は平静を保ってはいるが、もう戦闘を行う気は無いように武には見えた。 悠陽の説得の後、沙霧は何かを決意した表情で口を開く。

「殿下、同志達の処遇、どうかよろしくお願いします・・・」
「分かりました。 政威大将軍の名に掛けて、最善を尽くしましょう」

 事実上の降伏宣言を告げながら、悠陽に対し深々と頭を下げる沙霧。 これで人類同士の無意味な戦いは終わる、そう武が安心していたその時だった。

『白銀ぇ! 今すぐその場を離れろ! 早く!!』
「苗村さん!? あれは・・・!」

 インカムから聞こえる、鼓膜を破らんばかりの勢いで叫ぶ孝弘の声。 するとラプ
ターが1機、こちらに向かって急接近して来る。 そしてそれが手にする突撃砲の銃口が自分達に向けられていることに気付き、武の背筋が凍った。

「殿下、ご無礼を!」
「えっ? きゃっ・・・!」

 女の子らしい悲鳴を出す悠陽をコクピット内に引き戻し、彼女を再び膝元に座らせ急いでハッチを閉じる武。 直後、劣化ウラン製の36ミリ砲弾が武の叢雲に、そして沙霧の不知火に降り注ぐ。

「ぐああああっ!!」
「沙霧大尉っ!!」

 銃撃の雨に成す術も無く穿たれる沙霧機を見た悠陽の叫びが、叢雲のコクピットに虚しく響く。 そして同時に、米軍側にもこの事に驚き叫ぶ人物がいた。

『ハンター2! 何故撃った!? 答えろハンター2!!』
「『最後まで油断するな』って、この事だったのかよ!」

 沙霧の生死も分からぬままその場を離れ、まりも達の元へ向かう武の脳裏に、出撃前の夕呼の言葉が蘇った。 自体を混乱に陥れた張本人であるハンター2は、ウォーケンの呼びかけに応答せず、ただ跳躍ユニットのホバリングで空中に静止している。 

『貴様、自分が何をしたのか分かっているのか!! 返答によっては・・・!』

 返答によっては撃墜する。 そうウォーケンが言おうとしたその時、雷にも似た閃光がハンター2を貫いた。

『テスレフ少尉!』

 ウォーケンが衛士の名前で呼びかけるも、ハンター2が黒煙を吹きながら山中に墜落していく。 そしてハンター2、イルマ・テスレフを仕留めた閃光は、今度は武達に容赦無く襲いかかった。

「(あいつも捨て駒だったのか!? )」
「大丈夫か白銀! こちらは無事、フィルノートに合流出来た」
「神宮司中尉!」

 遥か上空にいる敵からの攻撃を避け続けている中、無事にフィルノートと合流したまりもから通信が入る。 事の次第を伝えた後、

「何っ!? 米軍機が殿下を狙った!?」
「それを行った機体も撃墜されました、今は黒幕と思しき未確認機からの攻撃を受
けつつ、そちらに合流しています」

武の報告を聞いたまりも達に戦慄が走る。 クーデターの混乱に乗じて、米国が極 東における勢力拡大の為にこのような芸当をするとも限らない。 そうでないとしても、現に武と悠陽はBETA以外の敵に襲われていることは事実なのだ。

「こちらからでは敵を補足出来ません、神宮司中尉達の方で分かりますか?」
「榊!上空に向けて最大感度で指向索敵だ!」
「了解!」

 まりもの命令に復唱し、千鶴は自機の肩に装着されたレドームを夜空に向ける。 美雪の八雲と並ぶ探知能力を持つ索敵システムがここぞとばかりにフル稼働し、武を襲う敵の正体を掴む。

「何これ? VRじゃない、戦術機・・・?」

 網膜に映し出される赤外線センサーの画像を睨みながら、千鶴はメガネと並ぶトレードマークである眉毛を歪ませる。 そのシルエットはまるで大根のような大型の跳躍ユニット腰に備え、手にはスナイパーライフルらしき武器を持っていることが分かる。 千鶴にはその機体が、まるで裏切り者、邪魔者を的確に始末する殺し屋に見えた。

「恐らくこうなる事を予測して、今まで隠れていたのか・・・ やってくれるね!」
「どうするケイイチ君、俺の叢雲の武器じゃあの高度まで届かないぞ」

 武と悠陽を乗せた叢雲を狙撃している未確認機は、レーザー照射危険空域ギリギリの高度にいる。 本来のパイロットである孝弘の言う通り、叢雲に搭載されている兵装は中~近距離メインのものばかりであり、空の彼方に居る敵をぶち抜くといったことは到底不可能だ。 だが今の自分達にはそれを行えるジョーカー、それも2枚持っていることに武は気付く。

「珠瀬君、君の力が必要だ」
「わ、私ですか・・・!」
「君の吹雪が装備する電磁狙撃砲なら、白銀君と殿下を襲っている敵を楽々狙撃できる。 早峰君も付いているから、きっと上手くいくよ」
「分かりました、やってみます!」

 状況やターゲットは違えど、遠くの敵を狙い撃つというシチュエーション。 武は“前の世界”で見た、壬姫によるHSSTの狙撃を思い出していた。 体育座りに近い座り方で狙撃体勢を取る八雲から、美雪が壬姫に声を掛ける。

「まだ私達に気付いていない、今のうちに仕留めるわよ! 珠瀬さん!」
「はいっ! 『オーバーウエポン』、作動!」

 魔法の呪文といえる壬姫の声に音声認識システムが作動し、戦術機の駆動音が一段と強くなる。 ケイイチが開発したオーバーウエポンシステムにより、ジェネレーターから発せられた莫大なエネルギーが装備する75ミリ電磁狙撃砲に溜まってゆく。
 チャンスは一回のみ、失敗すればこちらにも攻撃が来る。 千鶴の索敵データに導かれ、MAXチャージと同時に頭部スコープが敵機の姿を捉えた。 皆を、そして武を守りたいという願いと共に、壬姫はトリガーを引く。

「この一発で・・・」
「決めます!」

 銃口から強烈な閃光と稲妻が迸り、電磁的に加速された弾丸が夜の闇を切り裂く。 それと同時に美雪の八雲もビームランチャーを発射。 2つの閃光は寸分の狂いも無く未確認機を一撃の下に貫いた。


23:00 煌武院悠陽無事に国連軍部隊に護送された、収容先の特装艦フィルノートにて降伏の呼びかけを敢行。 この報を聞いた決起軍は即時、帝国軍に対し降伏。 クーデターは終結する。 尚、クーデター首謀者、沙霧尚哉は表向きには戦死と発表。

23:15  フィルノート艦載機、未確認機の残骸を発見。 パイロットは既に死亡しており、調査の目的で回収され、後に横浜基地で調査解析される。


・ 2日後 横浜基地 PM6:30 地下19F 香月ラボ


「はい先生、報告書上がりました・・・」
「遅いわね~ アンタ以外の面子は昨日のうちに出してたわよ?」

 他の207メンバーより一段と厚い報告書を、武は一足遅れでそれを夕呼に提出する。 成り行きから悠陽を同乗し、更にはVRへ乗り換えという前代未聞な事を成し遂げてしまったのだ。 それ故にまとめる報告の量も山ほどあり、時間内に完成せずにこうして深々と頭を下げながら提出する事は仕方の無い事だった。 一段落したところで、武は自分と悠陽を狙った未確認機について夕呼に問いかける。

「そう言えば、たまと早峰さんが落とした機体について、何か分かりましたか?」
「幸いにも、回収した残骸の大半が原形をとどめていたから調査は捗ったわ。 もっとも、あのメガネ君が色々やってくれたお陰だけどね」

 そうして夕呼はプロジェクターとスクリーンを用意し、未確認機に付いての説明を始めた。 映し出されたデータの殆どが、ケイイチが編集したものだった。

「コレがアンタと殿下を襲っていた戦術機よ。 ご丁寧にメガネ君、SR-71“ブラックバード”という名前まで付けちゃったみたいね」

 CG処理で復元された黒い戦術機に付けられたその名前は、武が居た元の世界ではアメリカ軍の超音速偵察機の名前であった事は、尊人から聞いた話から朧気に知っていた。

「最大の特徴はこの馬鹿みたいに大型の跳躍ユニットよ。 機体を構成するチタン合金製の装甲もあって、SR-71は桁違いの機動性と航行能力を持つとされているわ。
 加えて表面にF-22のそれより上質なステルス塗料が塗布されているの。 榊の吹雪が装備する索敵システムがあの時一発で補足出来たのは、正に奇跡に近いわね」
「サギサワ大尉達も気付かなかった訳だ・・・ それで、何処の所属なんです?」
「乗っていた衛士が死んじゃっていたから聞き出しようが無いけど、あたしには心当たりが大有りね・・・」

 苦い表情をしながらため息を付く夕呼を見て、武はこの事件の黒幕は米国内に巣食うオルタネイティヴⅤ派の仕業であると気付く。
 沙霧のクーデターをいち早く察知した連中はそれを利用し、日本が主導して行うオルタネイティヴⅣを阻止するつもりだったのだろう。 それなら悠陽と自分を襲ったハンター2や、このSR-71の事も説明が付く。

「それに、機体は米国のロックウィード社製だって事も、あのメガネ君が解析しちゃったしね~」
「そ、そこまで突き止めちゃったんですかあの人!?」
「『平行世界を渡れるほどの技術レベルを持つ僕らを舐めないで頂きたい!』とムキになっちゃって、まだまだあいつもアンタと同じ子供ね~」

 データを渡された時に言われた台詞を彼の口調を真似して言った後、夕呼は武を見ながらニヤニヤと笑う。 彼女も彼女で、こちらの勢力を伸ばす良い交渉材料が出来たと喜んでいるのだろう。 
無論、向こうも素直に認めようとはしないだろうが、敵に回せば恐ろしい以外の何者でもない交渉能力を持つ夕呼ならば、それ位の障害は切り抜けて見せるだろうと武は思った。

「もう行きなさい。 皆と夕飯、待ち合わせてるんでしょ?」
「はい! 白銀特務中尉、報告書提出完了! 仲間達の夕食へ合流します!」

 もう用済みだと掌をひらひらさせる夕呼に、武はビシッとした態度で挨拶を交わした後に部屋を後にする。 彼の去る姿を、夕呼は羨ましそうな表情で見ていた事に、武は気付くことは無かった。

次回に続く・・・



[2970] 第17.5話-幕間-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2009/12/25 22:31
- 時を、少しだけ遡る。 クーデターが終息し、悠陽が帝都へ戻った頃の時間に・・・ -


 どれ程の時間が経過したのだろうか。 戦闘による銃砲の演奏はとうに止み、跳躍ユニットの轟音さえ聞こえない。 装甲はズタズタに切り裂かれ、各種部位はもはや原型をとどめていない1機の戦術機が、静寂が戻った伊豆の山中にその骸を晒している。

「どうやら私は、死神にすら拒まれたようだな・・・」

 火花燻る管制ユニットの中で、シートに体を預けている沙霧がぽつりと呟く。 神の加護か悪魔の悪戯かは分からないが、あれだけの銃撃を受けたにもかかわらず生存していたのだ。
 しかし生きていたからといって、もう彼には帰る場所も無い。 それに致命的なものではないものの、手傷を負っているのは確かだ。 このまま愛機の不知火と共に朽ち果てようかと、沙霧が思っていたその時だった。

『まだ死んでないわね? 沙霧大尉!』
「(女の声?)」

 銃撃によって空いた隙間から、自分に向けて外部スピーカーで呼びかける女性の声が聞こえてくる。 もうこの国にとって用済みである自分に、何の用があるのかと沙霧が考えていると、突如期待が大きく揺れる。

『通信が使えないのかしら? 仕方ない。 月詠中尉、手を貸してくれますか?』
『無論だ。 巴達は散開して周辺警戒に当たれ。 我々以外の誰一人、このエリアに入れるな!』
『『『はっ!』』』

 どこかで聞いた声が僚機に指示を出すと同時に、機体の揺れは徐々に大きくなる。
 そして金属がひしゃげ千切れる音と共に、目の前に無い筈の外の風景が広がっている。 こじ開けられた不知火の前部ハッチから、淡く輝く2機分のメインセンサーの燐光が沙霧の目に入った。

「やっぱり生きてた! 月詠中尉、傷の手当てをするから降車の準備して!」

 額から血を流しつつも、呆気にとられた沙霧の顔を確認した少女、秋月椿はさも嬉しそうな声を上げたのだった。


マブラヴ ~壊れかけたドアの向こう~
#7.5 幕間


「一体何のつもりだ? 私を助けた所で、何の特にもならないというのに・・・ぐっ!」
「何時までもグチグチ喋らない! そして動かない!」

 予め持ってきた救護セットを使い、強化装備姿の椿が沙霧の手当てを行う。 傍らでは斯衛軍の衛士である月詠真那が椿の手助けをし、更に周りでは彼女の部下である神代、巴 、戎の3人が乗る白い武御雷が周辺の警備に当たっている。

「(月詠中尉も来ているとは、この小娘は何者だ・・・?)」

 満身創痍の自分の前に突如として現われ、真那と共に介抱してくれている椿に沙霧は淡い興味を抱いた。 逆賊となった自分を殺す訳でもなく、かといって政府に引き渡すつもりも無いらしい。

「まったく! 貴方のお陰で、あと少しだった殿下との交渉が中断されちゃったじゃない!」
「交渉・・・?」
「ええそうよ! まあ、大凡の事は話し終えちゃったから、そう気にするほどじゃないけどね」

 蜂起する前に異世界の日本から使者が派遣され、政府首脳および悠陽と会談を行っていると聞いたが、その人物が悠陽と同い年くらいの娘だったことに、沙霧は驚きを隠せないで居た。

「月詠中尉もいるとは、逆賊となった私を討ちに来たのか?」
「私は椿殿の付き添いでここにいる。 別に大尉を討ちに来た訳でも、責めるつもりも無い」

 同じ日本を愛するもの同士でも、行く道を違えばこうも変ってしまうのか。 治療が終わり、持参した医療用シートに横たわる沙霧を見ながら真那は思った。 未だに残る痛みに耐えながら、沙霧は自分を助けた理由を改めて椿に尋ねる。

「もう一度聞く、何故私を助けた?」
「う~ん、一つは殿下との約束を守るためね」
「約束だと?」
「ええ。 クーデターの首謀者となれば、確保された後に死ぬのは目に見えている。 それなら生きている内に、私が暮らす電脳暦の世界へ亡命させようと殿下は考えたのよ」

 クーデターなどという大罪を犯し、鎮圧され捕まってしまえば首謀者である沙霧はその責任を問われ処刑される。 だが彼がBETAと戦う刃である戦術機の技量が1、2を争うほど高く、このような人材は他にいないと言われているのも確かなのだ。

「情報省のおじ様たちは、貴方が事を起こす前に捕まえるつもりだったらしいの。 でも私がこの世界に来たせいで、それが出来なかった・・・」
「せめてもの罪滅ぼし、それが2つ目の理由か?」
「いいえ、それは違うわ」

 そう言いながら椿は立ち上がり、菊一零式にくるりと振り向きながら話を続けた。

「私が貴方を助けたもう一つの理由。 それは単純に、貴方に興味を持ったからかな?」
「興味だと?」
「殿下の言う通り、確かに貴方は日本を愛するが故に、クーデターというとんでもない方向へと道を進めてしまった。
 私はそこまで日本に・・・殿下に対して純真になれた貴方が、とても羨ましく思うの」

 何故羨ましいだと沙霧が聞こうとしたが、椿が最後に見せた寂しげな表情を見て思い止まった。 同じ民族、同じ国家だからと言って、政情や国民性まで全く同じとは限らない。 彼女も異世界の日本で生まれ暮らし、そうした深く黒い内面も見てしまった一人なのだろうか。
 ましてや自分と違って椿は女性だ、絶対的な発言力や権限では男性に打ち勝つ事は難しく、それで味わった苦しみも多いだろうと沙霧は思った。 秋の風に促されて彼女の紅く長い髪がふわりとなびく。 そして沙霧の方に向き直った椿は、彼に手を差し伸べながらこう告げた。

「だから私と共に来て。 貴方がこの世界で出し切れなかった勇気を、私に分けて欲しいの!」

 自分はこの国を窮地に陥れた反逆者、もう必要とされていない筈だった。 だが彼女は自分を、沙霧尚哉という人間を心の底から欲している。 それに気付いた時、沙霧は彼女の手を力強く握っていた。

「いいだろう。 殿下への忠義、しばらくの間貴様に預ける!」

 この世界を離れ、遠き異界の地へ赴く事が決まった沙霧の姿を見て、真那は彼に生きる目的が出来た事に少なからず安堵した。

「(次に会う時は、共に背中を合わせて戦う時だ。 沙霧大尉・・・)」

 しばしの別れを噛み締めながら、真那は星が瞬く夜空を見上げた。


2001年 9月13日:日本帝国、異世界の日本との交渉終了。 同日中に特使が異世界に帰還する。 (特使と共にクーデター首謀者である沙霧尚哉大尉、極秘裏に異世界へ亡命)


・ 9月14日 AM9:12 横浜基地 食堂


「『プロジェクト・バルジャーノン』?」
「XMシリーズを作る前、君が『戦術機バルジャーノン化計画』って言うのを話していたと、香月博士から聞かされてね。 新型機の開発もあわせて、正式なプロジェクトとして始める事にしたんだ」
「技術大尉に感謝しろよ白銀? 貴様が編み出した新OSが、早く世界に広まる事になるんだ」

 クーデター事件も表面上は一段落し、平穏が戻りつつある横浜基地。 その食堂にて武、ケイイチ、みちるの3人がテーブルの一角を占拠し、外から見るには何やら妖しげな話を行っている。

「俺のOSが、世界に・・・!」
「貴様だけじゃないぞ。 私達A-01の皆で作ったOSが、BETAを駆逐する原動力になるかもしれないんだ」
「それに最初に言った通り、VRの技術を使った戦術機の開発も同時にやるんだ。 あのXMシリーズの機能を最大限生かすには、それなりの性能を持った機体が必要だからね」

 戦術機の操作性を大幅に上げる次世代OS、XMシリーズは確かに画期的だ。 だが既存の戦術機で出来るのは、性能の底上げ程度が限界だという。
 ならばXMシリーズの搭載を前提に新規設計した機体ならば、驚異的な性能を発揮するとケイイチは考えているのだ。

「そういえば伊隅大尉、オルタネイティヴⅣの内容は香月博士から聞かされてますか?」
「すみませんサギサワ大尉、それについては絶対に他言無用と副司令から釘を刺されているんです」

極秘の計画だから当たり前か。 みちるにオルタネイティヴⅣの説明をあっさり断られたケイイチは、粗末なパイプ椅子に体を預けながら周りを眺める。
 まだBETAがそう呼ばれる前に計画されたオルタネイティヴⅠ。 BETA大戦が始まり、彼らの生態調査を行ったオルタネイティヴⅡ。 ESP能力者を用いて、BETAの思考を読み取る試みが行われたオルタネイティヴⅢ。
 これまで3つの計画が行われたものの、どれも満足な結果を出せずにいるオルタネイティヴ計画。 その4段階目であるオルタネイティヴⅣは、夕呼の指揮の元に行われている。 女狐と陰口を言われる彼女が、どのような計画を推し進めているのか。 ましてや武もその計画の最重要項目に位置づけられているらしく、彼が見たというシリンダーに入れられた脳髄も関係しているのだろうか。

「(結局、あの気まぐれ博士が話してくれるのを待つしかないか・・・)」

 ぬるくなり掛けた合成緑茶が入った湯飲みを手に取り、声に出さずに夕呼に毒づきながらケイイチは溜め息を吐いた。


・ 横浜基地 地下19階 ケイイチの部屋


自室に戻り、脇目も振らずにデスクにある端末の電源を入れるケイイチ。 システムが立ち上がった端末の前に座り、キーボードを黙々と叩き作業を始める。

「(BETAの最大の脅威は無限とも思える物量、伊隅大尉はそう言ってたね・・・)」

 食堂を去る間際、みちるが告げた言葉をケイイチは思い出す。 現在確認されている8種類のBETAの能力は、対処法をきちんと知っていればそう恐ろしい相手ではない。
 だがいくら銃でミンチに仕立てようが、剣でスライスしようが、クラスターで粉微塵にしようが、気化弾頭で吹き飛ばそうが、核で焼き尽くそうが一向に減る事の無いその数。 ハイヴから無限に出現し、地平線を埋め尽くすほどの物量がBETAにとっての武器なのだ。
 かなり大雑把な言い方だが、互いに使う兵器の性能が同じ場合、数の多い方が必ず勝利するという“ランチェスターの法則”というのがある。 だが人類側の戦力数は絶対的に少なく、このまま従来の消耗戦を行っていれば人類滅亡は確定だろう。

「となると僕らの世界の技術を使って、この世界の戦力を徹底的に増強させるしかないのか・・・」

 第2次世界大戦におけるドイツ軍は、圧倒的な性能を持つ兵器を開発するというコンセプトを持っていた。 所謂『一騎当千』の考え方であるが、物量に勝る連合軍側に徐々に押し戻され、結局は敗北という末路を辿っている。
 ならばVRを始めとする電脳暦世界の技術を用いて、この世界の戦力を驚異的に向上させようとケイイチは思っていた。 それこそ『英雄』と呼ばれて久しいMARZの戦士、チーフが異世界で目撃した、勇気ある者達が駆る巨人達の様に。

「(それに僕達はそれを実現できる扉を開く、カギを既に持っているしね)」

 そう心の中で呟くケイイチの口元が緩み、キーボードを打つ指をピタリと止める。 バックライト特有の輝きを放つモニターには、計画の概要と戦術機らしい兵器が表示されていた。


PROJECT VALGERN-ON PLAN#01
CODE NAME:Kaiser...



次回に続く・・・



[2970] 第18話-往還-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2009/12/25 22:31
・ 2001年9月16日AM7:56 横浜基地 香月ラボ


「教えてください先生! 一体、オルタネイティヴⅣって何なんですか!?」
「うっさいわねぇ、出て行けって言ってんでしょう!!」

 その日ケイイチが武と夕呼の怒号を聞いたのは、開き始めたラボの扉からだった。 ドアが完全に開き、ケイイチの目に飛び込んできたのは、夕呼がぶちまけたであろう書類が散らばっている床。 そして机を挟んで対峙する、切羽詰った表情の武と夕呼の姿だった。
 2人を止めようとするケイイチだったが、床の上に散らばる書類、その中の一枚に書かれた数式が偶然にも彼の目に留まる。

「この数式、どこかで見覚えがあるぞ・・・!」

 その一言に、一触即発だった二人の視線がケイイチに注がれる。 そしてデスクを飛び越えた夕呼が、親の仇を見付けた様な形相で彼の胸倉に掴み掛かった。

「ちょっとそれどういう事!? その数式はあたしだけが知っている理論の一部なのよ!!」
「ちょ・・・博士、首絞めてます首・・・!」

 二人の押し問答を他所に、武はケイイチが見つけた書類の数式を眺める。 そしてそれは、彼にも見覚えのあるものだった。

「俺も知ってる・・・ この数式、元の世界の夕呼先生が書いていた奴じゃないか!?」

 武の呟きも夕呼は勿論見逃さず、ケイイチを掴んだまま詰め寄り、もう一方の手で武の胸倉を掴む。

「メガネだけじゃなくてアンタまで・・・! 知っているのなら教えなさい! さあ! 早く!! 今すぐに!!!」
「無理無理無理・・・! あの時も朧気に長めていただけで、よく覚えてないんですよ~!」
「・・・っ! そうよね。 御免なさい、つい取り乱しちゃったわ・・・」

 武の一言で我に返った夕呼は、慌てて2人の胸倉を掴んでいた手を離す。 そして散らばった書類を集めて机に戻ると、武とケイイチにある話を語り始めた。

「早速だけどアンタ達、ちょっと“おつかい”に行って貰おうかしら?」

 ニヤリと悪魔の笑みを浮かべる夕呼に、武とケイイチの顔が恐怖で引き攣る。 そして彼女から言い渡された“おつかい”の内容は、案の定とんでもない物だった。


マブラヴ ~壊れかけたドアの向こう~
#18 往還


・ AM12:15 横浜基地 食堂


「副司令からの特別任務?」
「ああ。 何でも夕呼先・・・副司令が探していた物が、苗村さんやケイイチさん達が住む世界、電脳暦世界にあるらしいんだ」

 突然の武の報告に元207メンバーが驚く中、誰よりも早く千鶴が事の詳細を問い質す。 他のメンバーも昼食を口に運びながらも、武の話に耳を傾けていた。 そして、この話題に一番首を突っ込みたがっていた美琴が会話に加わる。

「戦術機よりも凄い兵器を作れる世界だからね~、ボクも向こうの世界に行ってみたいな~」
「あのなぁ美琴、俺は旅行や遠足で行くわけじゃないんだぞ」

 楽観的な事を言う美琴に対し、ため息を吐きながら答える武。 武にとっても電脳暦世界に身を寄せた時間はあまり長いものではなく、ほぼ未開の世界といっても過言ではない。
 そこへ戻って夕呼の研究を完成させるカギを見付けろと言うのだから、彼女から頼まれた“おつかい”がどれ程難しいのかは想像にし難い。 向こうに行ったらどのように行動しようかと武が色々と考えている中、合成親子丼を載せた盆を持つケイイチが近付き声を掛ける。

「そう心配しなくて良いよ白銀君、あっちは僕らのホームグラウンドだから」
「ケイイチさん!」
「それに僕もタイミング良く、向こうの世界に用があるしね。 あ、敬礼は別にいらないよ」

 武の声でケイイチに気付いた千鶴や冥夜達が彼に向かって敬礼するも、ケイイチはそれをやさしく咎める。 彼も夕呼と同じく、身内での堅苦しい礼儀事は嫌いらしい。
 そして武の隣の席に座りながら、ケイイチが今回夕呼から言い渡された“おつかい”について皆に説明を始める。

「香月博士が言うには僕が住む電脳暦の世界に、オルタネイティヴⅣを完成させるカギが存在しているらしい。 今回は僕と白金君で向こうに赴き、それを手に入れて戻ってくるのが今回の特別任務の内容さ」
「という事は、サギサワ大尉にとっては里帰りみたいなものですね」
「そうだね涼宮君。 さっきも言ったけど、僕も『プロジェクト・バルジャーノン』を進めるべく、一旦電脳暦世界に帰ろうと思っていた所さ」
「例の新型戦術機開発プロジェクトですね?」

 茜に続いて晴子の問いかけに、ケイイチと武は力強く頷く。 BETAと切羽詰った戦争をしているこの世界では、本格的に計画を進めるにはどうしても時間と人員が足りない。 そこで電脳暦世界でも協力者を募り、進んだ技術を取り入れて開発を行おうとケイイチは考えているのだ。
VRというオーバーテクノロジー由来の異質な兵器が生み出されてから10年弱、その間に世代交代が3回も行われている程の開発スピードだ。 それを利用しない手はないと、ケイイチの話を聞き終えた207の乙女達は思っていた。

「とにかく、俺とケイイチさんが居ない間、ケンカとかしないでくれよ~?」
「合点承知。 ただし、榊の態度次第・・・」
「な、なんですって~~~!!?」
「ケ・・・ケンカはだめですよケンカは! 武さんもさっき言ってたじゃないですかー!」

 慧と千鶴が発端となって、騒がしくなる食堂の一角。 案の定2人の言い争いに巻き込まれる武だったが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。  電脳暦世界へと旅立つ事になれば、直接彼女達の顔が見れるのはしばらく出来なくなってしまうからだ。
 だから武は、こんな状況でも皆とのふれあいを大切にしたかった。 純夏が居ない寂しさを紛らわすように。

「あんたたち! これ以上騒ぐってんなら外でやりな! 他の人達が迷惑してるじゃないか!!」
「「はい・・・」」

 結局慧は晴子に、千鶴は茜に止められ、とどめとして京塚のおばちゃんによる一喝により幕を閉じたのだった。


・ AM11:08横浜基地 HSST打ち上げカタパルト


『打ち上げシークエンス最終フェイズに移行。 マイザーナブラは、射出位置で待機してください』
「了解」

 管制官に促され、武とケイイチを乗せたマイザーナブラがスラッシャー形態のまま、空の彼方へと続く道の入口に足を進める。 無敵の性能を誇るVRでも地球の重力圏を突破するのは難業であり、横浜基地にあるHSST用の打ち上げカタパルトと、ナブラ本体に装着された追加ブースターを用いて宇宙に飛び立つ事になった。 出発までまだ時間がある事を利用して、ケイイチが後部座席に座る武に話しかける。

「207組の皆には、もう挨拶は済ませたかい?」
「ええ、俺の居ない間は、伊隅大尉達が面倒を見てくれるそうです」
「それは良かった。 苗村君や菫君も居るから、僕らが帰る頃には見違えるほどに成長してるだろうね」

 武が不在の間、207組の面倒はA-01の先輩達と菫や孝弘といったメンバー達が見ることになった。 XMシリーズの更なる熟成や、“プロジェクト・バルジャーノン”による新型機開発に向けて、彼女達はより厳しい訓練を受ける事だろう。
 しかし、彼女達なら乗り越えられると武は信じていた。 関わった世界や時間は違えど、武にとってはかけがえの無い仲間達なのだから。

『カタパルト準備完了、後はそちらの判断で射出可能です。 では、旅の無事を祈ります!』
「・・・だそうだよ。 それじゃ白銀君、博士の“おつかい”に行こうか!」
「はい!」

 電磁レールに稲妻が走り、マイザーナブラの機体が最大限加速された状態で空へ打ち上げられる。 そしてブースターが点火し、白い尾を引きながら武とケイイチは蒼穹の彼方へと舞い上がる。 その光景を207の乙女達は基地舎の屋上から、マイザーの機影が見えなくなるまで見送っていた。

「(武、必ず帰ってくるのだぞ・・・!)」


・ PM1:48 横浜港 特装艦フィルノート


「(先日起きたクーデターの首謀者は死亡・・・な訳ないわね。 椿め、体の良い部下を手に入れたみたいじゃない・・・)」

 一度は廃墟と化し、微々たるものだが復興の手が加えられている横浜港。 そこに停泊するフィルノート艦内の一室でデータを漁っている菫は、自分の親戚が取った行動に思わず苦笑する。 彼女は『罪を憎んで、人を憎まず』をモットーとし、どのような手段を用いてもより良い人材を掻き集める人間だ。
 この世界で反逆者の烙印を押され、なおかつ人型兵器の扱いに長けた武人である沙霧は、彼女にとっては絶好の標的に違いなかっただろう。 彼女が再びこの世界の地を踏むかどうかは定かではないが、何か事を起こす事は間違いないと菫は思った。

「さて、大尉が出掛けている内に仕上げないと・・・」

 そう呟いて資料のウインドウを閉じた菫は、別のデータとそれをまとめる報告書が書かれたワープロソフトを立ち上げる。 そこには欧州戦線で収集されたBETAに関するデータと、ケイイチと共に独自にまとめた考察が書かれていた。
“敵を知り、己を知れば百戦危うからず”という諺の通り、ケイイチは武と共に旅立つ直前、夕呼のオルタネイティヴ計画と平行して、独自にBETAの調査を行う事を菫に任せていたのだ。
 電脳暦の人類が出会った、ダイモンに継ぐ新たな異質の存在であるBETA。 異世界の地球に突如として襲い掛かり、人類を圧倒しその勢力を更に増大させつつある脅威の敵。 どちらの世界の人間達も奴らを排除する事に躍起になり、その本質については一部の人間を除いて少しも探ろうともしないのだ。

-奴らは一体何者なのか?
-どのような理由で地球にやってきたのか?
-なぜ人類を生命体と認めないのか?

 過去のオルタネイティヴ計画の結果から得た答えは、必ずしも全てではない。 だから菫は、その答えを更に突き詰める事を重視することにしたのだ。 レポートを書き進めようとしたその時、部屋の端末に連絡が入る。 それは、艦の外で番をする警備兵からだった。

『霜月少尉、少尉に面会したいと横浜基地の衛士が来ていますが。 如何いたしますか?』

 報告の後、はるばるフィルノートを訪れた衛士の姿が映し出される。 三編みで纏められた髪型と顔に掛かる大きなメガネから、菫はそれが誰なのか直ぐにわかった。

「分かったわ、私の部屋に案内して」



「ごめんなさいね。 せっかく挨拶に来てくれたのに、お茶の一つも出せないなんて」
「いいえ、私の方こそ、突然押しかけたようなものですから」

 門前払いされるどころか、アッサリと艦内への入場を許可された事に疑問を抱く千鶴。 だがそれも目の前で微笑む菫を見て、無駄な事だったと気付かされた。 武が不在の間、207組の面倒を見ることになった菫に対してせめて挨拶はするべきだと思い、単身千鶴は彼女の元を訪れている。
 どのように切り出したら良いのか千鶴が迷っていたその時、菫の方から彼女に話しかけてきた。

「あなたのお父さん、無事に救出されたそうね」
「えっ、ええ・・・ 一時はどうなる事かと思いました」
「帝国の世情が落ち着いたら、もう一度会ってみたら? きっと喜ぶ筈よ」
「はい・・・」

 俯きながら答える千鶴に、父親との仲が悪いなと菫は悟る。 だがどの程度の仲であろうと、親子という絆は決して断ち切ることは出来ない。 ましてや真に千鶴の事を考えてくれるのは、他ならぬ肉親なのだから。
 部屋に篭り始めた陰湿な雰囲気を取り払うべく、菫は話題を変えて自分の研究について話す事にした。

「ねえ榊さん、BETAってどういう敵なのかは、もう座学で聞いた?」
「はい。 各種BETAの画像と基本データ、対策などは伊隅大尉から教わりました」
「そう。 じゃあ見せても大丈夫ね・・・」

 そう呟いた菫は、急に今までお留守にしていた端末を操作する。 モニターには何処かの戦場で撮ったのだろうか、土煙を巻き起こしながら大地を突き進むBETA群の映像。
 更には目と鼻の距離にまで接近した各種BETAの画像が数点、モニターに表示される。

「これは・・・!」
「欧州で私達の世界から来た軍と、この世界の欧州国連軍が共同作戦を行っているのは知ってるでしょう?」
「BETAの勢力拡大を防ぐために、過去最大級の間引きが行われていると聞いています。 もしかしてこれは・・・」
「察しが良いわね榊さん。 この映像と画像は、そこから送られてきた物なの」

 しかし何時見ても、つくづくBETAは醜悪な姿をしていると千鶴は思う。 みちるの座学で初めてBETAの姿形を見せられた時は、彼女も他のメンバー同様吐き気を催す程の嫌悪感を味わったのだ。

「見れば見るほど気持ち悪いわね、とても生き物とは思えないわ」
「ええ。 こんな奴らが、沢山の命を奪ったかと思うと・・・!」
「でも、もしコレが本当に生き物じゃないとしたら?」

 そう問いかける菫の、決して誇張でも冗談でもないという気迫に、自分は来てはいけない所に来てしまったのかと思い、千鶴は息を呑む。

「ここからは私が思いついただけの戯言を話すから、余り真に受けないでね?」
「はい・・・」

 そう軽口を叩く菫だったが、千鶴は気楽に利く余裕など無かった。 それまでのBETAに対する常識を覆す概念、果ては禁断の領域へ踏み込んでしまった錯覚さえ感じてしまうと思ったからだ。
そんな不安を千鶴が抱えている中、菫の考察が語られる。

「結論から言わせてもらうわ。 BETAは、あれは生命体と呼べる代物じゃない」
「BETAが・・・生命体じゃない!?」

 菫の言葉に、千鶴は思わず耳を疑う。 ただがむしゃらに人を喰らい、我が物顔で地球の大地を蠢くBETAが生命体ではない? 今まで聞いた常識を打ち破る答えについて千鶴が質問をしようとするが、逆に菫の方から彼女に問いかけてくる。

「榊さん、“自動人形(オートマタ)”って聞いた事がある?」
「いいえ、始めて聞く言葉です」
「簡単に言うと大昔に作られたからくり人形ね、予め与えられた命令や機能で仕事を行う機械の事よ」
「まさか霜月さん、BETAはまさか・・・!」
「貴方の思った通りよ。 私は、BETAが『異星人が作り上げた作業機械』に見えて仕方ないの」

 核心に至った千鶴の顔を見て、菫は静かに頷く。 言われて見れば確かにそうだ。 仮に菫が提唱する通りBETAは異星人が創造した“機械”であるのなら、外見や感情、生殖機能と言った物は邪魔以外の何者でもない。
 必要なのはあらゆる環境に耐えうるボディと、与えられた命令をただ実行する位の知性で十分なのだ。

-要撃級の頑強な腕部と突撃級の突進は、硬い岩石を砕くため。
-要塞級の溶解液と光線種のレーザーは、要撃級と突撃級では破壊出来ない岩盤に対処するため。
-そして無数に存在する小型種は、大型種には出来ない精密な作業を行うため。

 ハイヴの周辺一帯は地形が変わることや、長大かつ広大なハイヴ地下坑道を作り上げてしまうBETAの外見を見ると、グロテスクの一言では語れない要素が次々に出てくる。
 胸糞悪いが、あの外見をある種の“機能美”だと言えなくも無いと千鶴は思った。

「霜月さん、これを誰かに見せた事は?」
「そうね・・・しいて言うなら、私にこのレポートを作らせたサギサワ大尉くらいかしら?」

 菫の言葉を信じるのなら、このレポートはケイイチ以外誰にも見せていない。 ならばこの世界でこれを見たのは、自分が初めてということになると千鶴は悟る。

「香月副司令にも、コレを見せるつもりですか?」
「そこまで気付いているのなら話が早いわ。 榊さん、このレポートを横浜基地へ持ち帰ってくれるかしら?」

 突然の菫の頼みに、千鶴はゴクリと喉元を鳴らす。 この世界の対BETA戦略を根本から揺るがすかもしれない彼女の文章を手土産に、横浜基地へと戻れというのだ。

「何も横浜で見せびらかせと言ってる訳じゃないわ。 それに、私のレポートを真に受ける人間なんて、この世界ではごく限られているしね」
「それはそうですけど・・・」

 そう楽観的に話す菫に対し、やはり千鶴は一抹の不安を拭えない。 結局、彼女は菫からデータやレポート書類を渡され、横浜基地へ帰って行ったのだった。


・ AM8:48 横浜基地


「榊。 もう挨拶は済ませたのか?」
「伊隅大尉に、神宮司中尉?」

 横浜基地に戻り、夕呼のラボへと続く廊下を歩いている千鶴に声が掛かる。 彼女が声のした後ろを振り向くと、そこにはまりもとみちるの姿があった。

「珍しいわね、榊が夕呼に用があるなんて。 それで、その手に抱えてる書類は?」
「あっ、これは・・・」

 まりもに菫からの手土産を指摘され、返答に困る千鶴。 不審に思ったまりもは、おもむろに彼女からそれを取り上げてみちると共に目を通す。

「(これは・・・!)」
「(馬鹿な、こんな事があってたまるか!)」

 みちるもそうだが、まりもに至っては長年にわたってBETAとの実戦を積み重ねてきた衛士だ。 それまで抱いていたBETAという宇宙人が、単なる有機型の作業機械に過ぎないという菫の仮説に、2人は間違い無く大きなショックだろうと、血相を変えながらレポートを読む2人を眺めながら千鶴は思った。 そして一通り読み終えたみちるが、何時になく真剣な眼差しをしながら口を開く。

「榊、これから副司令にそのレポートを渡しに行くのか?」
「ええ。 それが霜月少尉との約束ですから」
「なら私達も同行しよう。 これを読んだ夕呼が、どんな状態になるのは予想が付くからね・・・」

 そう話すまりもが深刻な表情を見せた事に、千鶴はただならぬ危機感を覚える。 2人でもかなり驚いた菫のレポートを、長年BETAを研究してるであろう夕呼が読んだらどのような反応が返ってくるのか想像が付かないからだ。
 とはいえまりもとみちるの2人が同行する事になり、自分だけ標的にならなくて済んだと思いながら、千鶴たちは夕呼が居るラボへと向かった。


・ 横浜基地 B19フロア 香月ラボ


「(まったく・・・ あのメガネにして、この部下ありなのかしら?)」

 千鶴達が戦々恐々とした面持ちで見守る中、顔の血管が浮き出そうな表情をしながら、夕呼が菫のレポートを読み漁っている。 『BETAそのものが地球外生命体ではなく、宇宙人に作られた作業機械』という菫の仮説を読んだ彼女が見せた反応は、千鶴達が予想していたものとは裏腹に穏やかな物だった。
 寧ろ夕呼は、こうした発想が出来る異世界の人間に少なからず関心を抱いていた。 月の遺跡からそれこそ魔法のような技術を手にし、つい最近までダイモンと呼ばれる“遺跡に巣食う亡霊”という存在と戦っていたのだから思いつかない訳が無いと思っていた。

「それで榊、書いた当人は補足とかアンタに言ってなかった?」
「現状ではその仮説が実証できる証拠が不十分であり、もし自分の仮説が本当なら今後の戦略にも影響が出るかもしれないと、霜月少尉は言っていました」

 千鶴の伝言通り、もし菫の仮説が正しいと証明された場合、対BETA戦略そのものを変えなくてはならない。 『プロジェクト・バルジャーノン』も、そうなった場合に必要な兵器の開発を行うための計画なのかもしれないのだ。

「ご苦労様、もう下がって良いわ。 後ろであたしを慰める用意をしていた2人もね」

 そう夕呼に言われ、結局出る幕が無かったまりもとみちるがビクリと肩を震わせる。 そして何事も起こることなく安堵する千鶴と共に、夕呼のラボを後にする。 3人に手を振りながら見送った後、夕呼はもう一度菫が作ったレポートにもう一度目を通し始めた。

「とりあえず、今は白銀達が帰って来るのを待つしかないわね・・・」

 事を起こすのは、人類の希望となるカギが手に入ってから。 菫のレポートを読み漁り続けながら、夕呼はそう呟いていた。


2001年9月17日:武とケイイチ、電脳暦世界へ無事に帰還した事がA-01にフィルノートの菫経由で伝えられる。 また、18日未明には実証試験機、F-4J+『銀鶏』がロールアウト。 神宮司まりも臨時中尉の乗機としての運用が決定する。

同日 電脳暦世界:イギリス、戦術機の設計を流用した第4世代VRのリバースコンバートに成功。 機体名は旧世紀に同海軍で運用されていた戦闘機から、『ヴィクセン』と命名される。 今後、異世界にて実戦テストを行う予定。



[2970] 第19話-密航者-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:eecec45a
Date: 2009/12/25 22:32
・ 9月下旬某日 AM10:37 横浜基地 第1演習場


 コンクリートが朽ちて鉄筋が剥き出しになったビルの残骸、ひび割れ荒れ果てたアスファルトの道路。 もはや人の住めなくなった死の街の一角に、コバルトブルーに色塗られた鋼鉄の巨人が身構えている。

「さあ、どう出てくる・・・?」

 ロールアウト仕立ての性能実証試験機、F-4EJ2『銀鶏』の管制ユニット内で、まりもは口元を緩ませる。 網膜に映し出されるレーダーには、自分を取り囲むように赤いマーカーが幾つも表示されている。 取り囲むのは元207訓練小隊の乙女達だ。
 そして左右のマーカーが自分に向かって急接近したかと思うと、ロックオンされた事を知らせる警報が鳴り響く。

「来たっ!」

 鋼の装甲を超えて伝わる殺気。 それが放たれる方向へ、まりもは両手に持つ突撃砲の銃口を向ける。

「はあああっ!」
「貰った!」

 廃ビルを飛び越しながら、冥夜と慧の吹雪が長刀で同時に切りかかろうとする。 対するまりもは挟み撃ちで襲い掛かる2人に、歓迎とばかりにペイント弾を浴びせる。 その洗礼に対し、冥夜と慧は水平跳躍と直角反転を組み合わせた機動により路地を疾駆し、銀鶏の銃撃を回避する。

「くっ!」
「見た目は撃震なのに、なんて速さ・・・!」

 廃ビルの陰に機体を隠しながら、慧が銀鶏の反応速度に毒付く。 シミュレーターで見た戦術機が、今こうして自分達と相対している。 電脳暦世界の技術を取り込んでいるそれを操っているのが彼女達の恩師であり、訓練生時代のみちる達から“狂犬”と呼ばれ恐れられた神宮司まりもその人なのだ。

「どうした御剣、それに彩峰! 他の連中も、もう怖気付いたのか?」

 周りにいるヴァルキリーズの新米達に、まりもは罵る様に声を上げて挑発する。 これがみちるや水月のような心身ともに鍛え上げられ、経験の豊富な先輩衛士ならば通用しないだろう。
 だが彼女達は、それらを鼻で笑ってあしらう程成長していなかった。 再び鳴る警報と同時に、まりもの視界に2つの機影が見える。

「ほう? 高原に朝倉、それに涼宮まで来たか」

 2人で駄目なら3人でと踏んだのだろうか、先頭を並走する茜と光の吹雪、その後ろには直美機が支援突撃砲を構えてまりもの銀鶏に迫る。

「(涼宮と高原の2人で撹乱させ、朝倉が仕留める寸法か。 だが・・・!)」

 3方向に散った吹雪に対し、まりもは迷わず直美の吹雪を標的に選び追撃する。 跳躍した後の着地や、茜達を相手にしている隙をコソコソと狙われるのは気分が良い筈は無い。
 撃震と同じ重厚なシルエットを持つ銀鶏が、吹雪と同程度のスピードで追いかけてくる姿に直美は息を呑む。

「じょ、冗談でしょ!?」

 そう叫びながら急速後退しつつも、直美はガンマウントに乗せている突撃砲で牽制射撃を仕掛ける。 まりもと正面から戦って勝つとは到底考えていない。 それならせめて逃げ続けて、仲間達に攻撃のチャンスを作りたい。
 その一心で直美はペダルを踏み込み、まりもの追撃から逃れ続ける。

「(ドンピシャ! 晴子達が張っているエリアまで来られた!)」
「何っ!?」

 ミイラ取りがミイラになるとはこの事だろうか、そう失念しながらまりもは四方八方から迫る銃撃を避ける。 どうやら直美を追いかけている内に、晴子や壬姫達が潜伏しているエリアに入ってしまったようだ。
 壬姫達の射撃のスキルが高い事もあり、銀鶏でも回避には一苦労させられる。 それでもまりもの表情は一切焦りの色を浮かべない。

「(私とした事が、彼女達を甘く見すぎていたか。 だが・・・!)」

 直進した先にある交差点で、地面を蹴ったと同時に噴射で強制的に直角方向へ曲がる銀鶏。 所謂“バーティカルターン”と呼ばれるVRの機動特性の一つを再現して見せたまりもだったが、それもひとえに武が発案したXMシリーズの恩恵によるものだった。

「今のは危なかったが、私に一太刀入れるにはまだ早い!」

 そう晴子達に告げた後、まりもは銀鶏に更なる加速を命じる。 まだ模擬戦は始まったばかり、自分の持つ知識と技術を彼女達に伝えきるまで倒れるわけには行かないのだ。 遠い昔に失った戦友達の意思と共に、まりもの銀鶏が演習場の空を舞う。
 ヴァルキリーズの誰もが武達の帰りを待ち侘びながら、来るべき決戦の日に向けて鍛錬を続けていた。


マブラヴ 壊れかけたドアの向こう
#19 密航者


・ PM12:34 電脳暦世界 パラオ共和国 国連軍ペリリュー島基地


「んあ・・・ 俺、何時の間にか昼まで寝てたのか・・・?」

 陽炎が立ち昇るコンクリートの地面、これでもかと降り注ぐ灼熱の日差し。 地元の人間でも茹だる様な暑さとは無縁の部屋、空調が行き届いた基地の宿舎の一室で武は目を覚ます。 武達が向こう側の世界へと旅立った“ゲート”を通り、無事に電脳暦世界へと帰還した武とケイイチ。
 その後ケイイチの出身地兼ホームベースであるぺリリュー基地へと向かった武だったが、手続きや報告を立て続けに行い、旅の疲れも相まって用意された部屋に案内されたと同時にベッドに突入。 そんなこんなで帰還初日を終え、武は今まで眠りこけていたのだった。

「今まで誰も来てないみたいだし、もう一眠りしようか・・・」

 再び布団に潜り込もうとしたその時、武は布団の中がやけに暖かい事に気付く。 そして下半身には、何かが乗っている感覚。 恐る恐る布団の中を覗いて見ると、水色の長い髪をした少女が一人、すやすやと寝息を立てて眠っていた。

「ちょっ・・・!?」

 いつの間に入ってきたのかと、驚きの声を上げそうになる武。 この世界の国連軍の制服を身に着けているが、果たして彼女は何者なのか。

「(とりあえず、今はケイイチさんに会わないと。 もう昼だから、あそこに居るはず!)」

 眠っている彼女を起こさない様にしながら、武はケイイチに会うべく一目散へ食堂へ向かう。 すると・・・

「おっ、ようやくお目覚めかい? 白銀君」
「白銀さん、寝坊過ぎです・・・」

 なぜ、彼女がここにいるのだろう? そう自分に問いかける武は、驚きのバロメーターを超越した余り言葉を失う。 昼食を楽しむケイイチの隣には、彼と同じく昼食の鯖味噌定食を頂いている、社霞の姿があったのだから。


・ PM13:24 ペリリュー基地 ケイイチの部屋


「一体どう言う事なんですかケイイチさん!? 俺の部屋にいつの間にか女の子が寝ているし! さらには霞が付いて来ているし!」
「まあまあ落ち着いて白銀君、今から一つずつ説明するから・・・」

 起きて早々2つ続けてサプライズを体験した武が、異様に高ぶったテンションのままケイイチを問い詰める。 それ対してケイイチは全く動じず、いまだ興奮収まりきらない彼を霞と共になだめながら説明を始めた。
 まず武が不思議に思ったのは、何故この場所に霞が居るのか。 出発前に彼女の姿を見掛けなかったので、てっきり夕呼の元に居るのかと武は思っていた。
 だが出発直前にケイイチの手によって霞はマイザーナブラの内部に潜伏しており、2人が機体から立ち去ったところを見計らって抜け出していたと言うのだ。 無論、霞がここへ来る事は、武以外の人員には通達済みである。
 普段は感情を表に出さず、人前では常に夕呼の後ろに立つような霞に密航するような動機なんて見当たらない。 こんな事を霞に行わせるのは、後にも先にもあの人しか居なかった。

「やっぱり、夕呼先生の仕業か・・・!?」
「うん。 彼女のESP能力を、こっちの世界で活用できないかって博士に言われてね」

 VRに対する適正値は、かなり乱暴に言えば個人の精神力に左右される。 つまり軍人としての素質を抜きに考えれば、他人の精神を読み取り、自分のイメージを相手に送り込むが出来る霞もVRパイロットの素質があるという事なのだ。

「まあエンジェランみたいな機種もあるから、そう心配しなくていいと思うよ」

 そうケイイチに言われても、武の胸中にある不安は簡単には取り払われない。 そんな中で部屋のドアが開き、武と一緒に寝ていた少女が姿を現す。 だがケイイチはそれが当たり前のように、彼女に声をかけていた。

「丁度良い所に来たねフーリエ。 社君にここの案内をして貰いたいんだけど、引き受けてくれるかい?」
「は~い! 任せて下さいマスター!」

 フーリエと呼ばれた少女は元気良く答えた後、霞の手を引いて部屋を後にする。 霞と同じくらいの背丈や薄紫色をした長髪もあってか、武には2人が双子の姉妹のように見えた。 部屋に居るのが武とケイイチだけとなったその時、ケイイチは武が2番目に気にしていた事について口を開く

「君の布団に潜り込んでいたあの子、僕が作ったマシンチャイルドなんだ」
「マシンチャイルドって、夕呼先生の話に出ていた?」

 VRの精神同調や負荷に耐えうるべく生み出され、全盛期には消耗品的な扱いを受けていた人造人間。 だがフーリエは最初からマシンチャイルドとして作られた訳ではなく、ケイイチが以前から進めていたとある研究から生まれた存在だという。

「フーリエは、僕が研究していた“量子AI”の第1号なんだ」
「量子AI?」

 聞きなれない用語が出てきた事に戸惑う武に、ケイイチは彼女が生まれた経緯について語り始めた。
 電脳暦の世界でも『人と同じ思考を持つ人工知能』、即ち機械に“自我”を持たせる事は未だに実用化されていなかった。 それを実用化せしめたのは、やはりVクリスタル由来のオーバーテクノロジーだったのである。
 Vプロジェクトの第一任者であるプラジナー博士や、その娘との言えるオリジナル・フェイ・イェン『ファイユーブ』の言を借りるとするのなら、VRにも“自意識”という概念が存在するという。 巨大ロボットであるVRが勝手に喋ったり動いたりする光景は想像し難い物だが、パイロットが長期にわたって乗り込む機体には所謂“クセ”という物が出来るため、彼らの仮説も安易に否定するべきではないという声も上がっているのも事実だった。

「その仮説に則って、僕はOT由来の技術でようやく実用化した量子コンピューターを利用してAIを作ろうと思ったんだ」
「それが、霞を連れて行ったフーリエって子なんですね?」

 武の問いに、黙って頷くケイイチ。 半導体にVクリスタル質を練りこませて完成させた電子回路“Vプロセッサ”、ケイイチはそれを用いて数多くの女性の思考データを移植し反映させた、自ら考えて行動する新たなAIを作成する事に成功する。 それがフーリエと名づけられた、0と1の世界より生まれし電子の妖精だった。
 だがいくら人を超えうる知性と感情をもってしても、籠の中にいる鳥のように仮想世界へ閉じ込められている訳にはいかない。 だからこそフーリエは『人間の身体が欲しい』とケイイチに願った。 そしてケイイチは彼女の願いを叶えるべく、医療用の培養臓器とチタン合金の骨格等で形成された特性のマシンチャイルドのボディを用意した。
 だから武が朝に見たように、彼女は呼吸もするし体温もあるのだという。

「人の形をした、人を超える可能性を秘めた存在、それがフーリエなんだよ」

 そう語るケイイチの表情は、武にはまるで娘を思う父親のそれのように見えた。 いや、事実そうなのかもしれない。 いくら機械の身体と頭脳を持っているからといえ、フーリエの思考は人間と大差無い。
 そうして彼女と接している内に、何時しか家族に近い感情が芽生えてしまったのではないかと武は納得する事にした。 あらゆる物で満たされた電脳暦の世界、向こうの世界や元の世界と技術が進み過ぎているのは当たり前なのだ。
 一々何かに驚いていてはこの先精神が持たないと判断した武は、この先何があろうと全てを受け入れて納得する事を心に誓った。 向こうの世界を救う“カギ”を手に入れる度は、まだ始まったばかりなのだから。


・ PM13:43 ペリリュー基地 ハンガー街


「はーい社さん! ここがVRを直したり格納したりするハンガーエリアです!」

 整備員達の喧騒と作業の轟音に負けないくらいの声と共に、フーリエが霞を連れてハンガー街を歩く。 既にフーリエの存在はこの基地でも周知の事実らしい。
 彼女の姿を見た整備員達が笑顔で手を振り、そして班長に拳骨で殴られハンガーの中へと引きずり込まれるというパターンを何度も繰り返していた。
 だが今回は彼女のみならず、異世界からの客人である霞を連れている。 その子ウサギのような風貌も相まって、彼女達はこの基地におけるアイドルの様相を呈していた。 ハンガーエリアの中間に差し掛かったところで、今まで無言のままで居た霞の口が突如として開く。

「あの、フーリエさん・・・」
「はーい、何ですか~?」

 おどおどした霞の問いかけに対し、フーリエは相変わらずのテンションと笑顔で答える。 何故、この子は自分にこうまで接してくれているのだろうか。 ただの案内としてじゃなく、この子は自分と居る事を心から楽しんでいる。 それは自身に備わったESP能力を使って、心を読まなくても分かる程だ。

「霞って、呼んでいいですよ・・・」
「霞さん・・・はい! ではそう呼ばせて頂きますね、霞さん!」

 そう言って笑い掛けるフーリエに答えるかのように、霞も何時しか微笑むようになっていた。 彼女といれば、不思議と楽しい事が待っていると思えてくる。 今まで夕呼や武位しか話し相手がいなかった霞にとって、始めての友達が出来た瞬間だった。 そしてハンガー街を抜けた2人の目に、空と同じ青色の水面が映る。

「霞さん、海ですよ海!」
「これが、海・・・」

 風に混じる潮の香りに、霞は武との約束を思い出す。 横浜基地から見えるあの海へ、いつか一緒に行こうと彼は言った。 その願いを先に叶えてしまった事に、霞は申し訳無さで胸が張り裂けそうになる。
 その事で急に表情を曇らせた霞にフーリエが戸惑っていると、ハンガー街から何者かがこちらに向かって走ってくる。

「霞~っ!」
「白銀・・・さん?」

 恐らくケイイチや近くの兵士から、自分達の居場所を聞き出してここまで来たのだろう。 武の顔からは滝のような汗が頬を伝い、まるで酸欠になったかのような荒い呼吸を見せている。 そして一通り呼吸が落ち着いた後、武は霞に約束の件について謝る。

「ごめんな。 お前と海を見に行く約束、こんな形で叶えてしまって」
「いいんです。 今こうして、武さんと海を見ていますから・・・」

 向こう側の世界に返ったら、改めて横浜の海を見に行こう。 そう霞と再度約束した武は、3人で目の前に広がるミクロネシアの海を、暫くの間眺めていた。


・ PM17:48 ペリリュー基地 第2ブリーフィングルーム


「さて、香月博士の探している例の数式。 あれは量子転送の基礎となる演算式らしいんだ」
「量子転送だって? 一体、夕呼先生は何を考えているんだ・・・」

 茜色に染まった空が見えるブリーフィングルームの一室、そこでケイイチの口が語る、夕呼の捜し求めている数式の正体。 武自身、今までその数式がどういった物なのか気にもしなかった。 それが世界を救うための重要な“カギ”だと言うことは理解しているのだが、具体的に夕呼が動使うのか検討が付かなかったからだ。
 だがケイイチは、方向性こそ違うが夕呼と同じ学者先生の分類にはいる人間だ。 彼女がこれから何をするのかも、少し考えればすぐに分かってしまう。 ケイイチは少々躊躇いながらも、考えた末に出来た自分の仮説を武に話し始めた。

「横浜基地の地下で君が見たという“シリンダーに収められた脳髄”、あれはまだ『生きている』」
「脳だけになっているのに、あれが生きているって言うんですか!?」
「社君のESP能力を使ったから、それが分かったのかもしれないね。 おそらく香月博士はあれを使って、フーリエのような『人の形をした生命体』を作ろうとしているのかもしれない。
そうして作った人間で、BETAに対する諜報活動を行わせる。 コレが僕の推測した、オルタネイティヴⅣの概要さ」

 オルタネイティヴⅢの遂行によって、その体構造が炭素で構成されているBETAは同じ炭素系生命体である人間を生命体だと認識していないことが判明した。 ならばBETAに認識してもらえるような、非炭素系生命体を創造すればいいのではないか?
 擬似生体や高度な電子機器が普及しているあの世界ならば、それも不可能ではない。 ケイイチの推測こそあれ、人知を超えた計画を夕呼が行っている事実に武は言葉を失う。 そして同時に、武は認めがたくもある真実に気付いてしまった。
 BETAと戦い続けているあの世界には、立場は違えど冥夜やまりも、壬姫に千鶴、慧に美琴、そして茜や晴子といった柊学園のクラスメイト達が存在している。 だが一人、武にとって最愛の女性があの世界にはいなかった筈だった。 いや、彼自身心の中でその真実を否定し続けて、彼女はこの世界に存在しなかったと決め付けていたのかもしれない。

「ようやく分かりましたよケイイチさん。 あの脳みその正体は、純夏だ・・・!!」

 何故今まで気付かなかった? 何時から変わり果てた姿になってしまったのか? 心の中で答えの見つからない問いをくり返した武は、自身の最も大切な、最も愛する幼馴染の名前を震える声で紡いだ。


・ PM21:27 横浜基地 第7ブリーフィングルーム


「・・・以上が、『プロジェクト・バルジャーノン』における今後の活動方針です。 サギサワ大尉と白銀中尉が戻ってくるまでに、MXシリーズのアップデートさせる事が私達の至上課題となります」

 数々の演習をこなし、疲労困憊するヴァルキリーズとリーフ・ストライカーズの面々の前で、菫がケイイチが自分に託してくれた資料を読み上げる。 ただ一人、千鶴だけがどこか落ち着かないまま彼女の話を聞いていた。

「(あの人は、いつ話すのかしら・・・)」

 以前自分に聞かせてくれた、BETAが『異性人が創造した機械』という仮説。 この世界の人間でそれを知っているのは、後にも先にも夕呼とまりも、そしてみちると自分だけ。
 この話を皆が知れば、どのような反応を示すのだろうか? それを知った上で、BETAとどう戦えばいいのか? そう考え続けていた千鶴に、菫が声を掛ける。

「どうしたの榊さん? 今更私の髪に寝癖でも見つけた?」
「い、いいえ。 何でもありません、ただ・・・」
「ただ?」
「あの事は、皆に話さないんですか?」

 千鶴のその一言に、同席しているまりもとみちるの眉がピクリと動く。 一方で他の面々は、何事かと首をかしげている。 千鶴の言葉のみで全てを悟った菫は、まりもに視線を送りながら口を開く。

「話してもよろしいですね? 神宮司中尉、伊隅大尉」

 まちもとみちるの2人が自分の仮説を知っている事は、成り行きからそれを漏らしてしまった千鶴から既に聞かされている。 菫の問いに、みちるとまりもの2人は揃って首を縦に振る。 それを確認した彼女は、先ほどの説明以上に真剣な表情で告げた。

「皆、これから話す事は他言無用よ。 良いわね?」
「しつもーん、どうして他言無用なんですか~?」
「鎧衣さん、それは話を聞いたら分かるわ」

 納得いかないと眉を潜ませる美琴を他所に、菫はあの時千鶴と同様にBETAに対する仮説を語る。 話が進むたびにヴァルキリーズの皆が驚きの顔を見せて行く様は、第3者が見ていればさぞ可笑しく見えた事だろう。
 また彼女達だけではなく、孝弘達も少なからず驚きの顔を見せている。 全てを語り終えた後、真っ先に食って掛かったのは水月と彼女を慕う茜だった。

「こ、こんなのありえないわ!」
「そうよ! どう見ても奴らは生き物じゃない!」
「地球の常識で図るのなら、確かにBETAは生き物と言えるのかもしれません。 でも涼宮さん、それに速瀬中尉、BETAは月や火星、ひいては太陽系の外からやってきた存在ですよ?」

 それだけにBETAは人類の創造の範疇では測れず、自分の仮説もその可能性の一つに過ぎないと菫はさらに説明した。 だがそれをもってしても2人は納得せず、菫は頭を抱えながら答える。

「いずれにせよ今述べた話は、あくまでも私の仮説です。 ですがBETAの対処能力は、我々の方でも危惧しています」

 月を攻め落としたBETAが地球に飛来し、人類と本格的な戦闘が始まった当時は、航空戦力による攻撃が通用していた。 だが新たに出現した光線種の出現により、現在ではBETAが居る戦場において空を舞う航空機は存在しなくなってしまった。
 この事からBETAには非常に優れた対処能力を持ち、過去に行われていたハイヴ攻略戦においては、前回行った戦法が通用しない事例もあったという。 リヨンハイヴ戦の後もBETAがVRに対する対策を取らなかったのも、ハイヴのコアを破壊した事で各ハイヴにVRの情報が伝達されなかったためだと菫は付け加えて説明した。 彼女の話が終わると同時に、茜の姉である涼宮遙が菫に質問をする。

「つまり、BETAは何らかの手段を用いて、世界中に存在する各ハイヴと連絡を取り合っているわけですね?」
「はい。 その手段が分かれば、BETAに我々の持つ技術を漏洩せずに済むかもかもしれません」

 超情報化社会である電脳暦の世界では、自分に有益な情報をいかにして手に入れ活用するかに掛かっている。 それは過去の限定戦争においてもご多分に漏れず、直接的な戦闘の裏ではハッキングや妨害工作といった、熾烈な情報戦が行われていたという。
 これ以上BETAに人類側の情報を渡さない事、それがこの戦いにおける最も重要な課題であると菫は最後に告げた。

「私からの説明は以上です。 後は、伊隅大尉にお任せします」

 そう言って一礼し、菫は自分の席であるパイプ椅子に戻る。 そして今度はみちるが皆の前に立ち、今後のシミュレータや実機訓練の日程について話し始める。 まだ寝かせてはくれないみたいだ。 この部屋に居る誰もがそう思うほどのブリーフィングは、夜遅くまで続いた。


次回に続く



[2970] 第20話-雷翼-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2015/09/22 22:24
・ PM12:05 電脳暦世界 日本国 東京都千代田区 国立量子力学研究所


「なるほど、それで私が作ったあの数式が必要なわけね」
「はい。 お願いします、岡崎教授」

 研究所の一室にて、ケイイチがその部屋の主に頭を下げる。 その頭の先には彼より少し年上の女性、量子力学の権威である岡崎は少々渋るような仕草をした後こう答えた。

「あの式は、基本的な部分があるだけで全体としては未完成なの。 だから、今のままでは数式は渡せないわ」
「そうですか・・・ 数式の最適化には、どれ位かかりますか?」
「1週間、時間を頂戴。 それである程度完成に近づけて見せるわ。 後は、向こうの世界にいる香月って博士のがんばり次第って所ね」

 そうケイイチに告げると、岡崎は研究者らしい不敵な笑みを浮かべる。 学会の中ではそれなりに名を馳せている彼女だが、その本名や素性は一切分からず、ケイイチでさえも『岡崎教授』と呼ぶしかない始末である。
 それでもケイイチはフーリエを作った際に用いた量子転送技術を彼女に請い、対する岡崎からは各種機材の調達や修理の依頼をされたりと、相互的に助け合っている関係なのは確かだ。

「さあ、後の事は全部私に任せなさい。 外で待っている子と一緒に、他にもやる事があるんじゃないの?」
「そうですね。 では教授、後はよろしくお願いします」

 施設の外で待っている武の事を思い出したケイイチは、足早に研究室を後にした。


・ PM2:07 神奈川県横須賀市 国連軍横須賀基地


「ヨーロッパへ向かう?」
「数式の事はもう教授に頼んでおいたからね。 その間僕らは、新型戦術機の開発をするのさ」

 数式の一件を岡崎教授に任せた後、即座に横須賀へとトンボ返りして来た2人。 その基地社屋の屋上にて、ケイイチが武に次の予定を伝える。
 夕呼に渡す数式が出来上がるまで一週間、その間に武とケイイチはBETAの物量に対抗しうる性能を持つ戦術機の開発のヒントを、世界中jから集めて回らなければならないという。
 ケイイチの持つ人脈の深さに感心しながら、武は詳しい話を聞きだす。

「ヨーロッパって事は、ケイイチさんはそこに心当たりが?」
「うん。 君と同じ境遇の人がアイスランドにいてね、その人に協力してもらうのさ」
「俺と同じ境遇? それってどういう・・・」
「それは行けば分かるよ。 さて善は急げ、早速現地へ行くよ!」

 ケイイチの一言に、武はその意味を直ぐには理解できず首をかしげる。 そうこうしている内に現地へ出発となり、そして武はケイイチの言葉が本当であった事を思い知らされる。




マブラヴ 壊れかけたドアの向こう
#20 雷翼


・ PM8:54 アイスランド レイキャビク近郊 国連軍基地 滑走路


「そろそろか・・・」

寒風吹き荒ぶ中、滑走路に立つ一人の女性士官、セネス・クロフォードはそう呟きながら夜空を見上げる。 横須賀から入ったケイイチの連絡から約6時間、そろそろ彼らの乗るマイザーがここへやって来る筈なのだが、依然として彼女の目には星の海で瞬く星しか見えていない。 骨折り損かと社屋に戻ろうかと彼女が思ったその時、端末に管制官からの連絡が飛び込んでくる。

『少佐、サギサワ大尉の機体を確認しました。 着陸許可を求めていますが・・・』
「彼に伝えてくれ、『貴官の来訪を心より歓迎する』とな」

 そう管制官に伝えた後、セネスは星空の彼方を眺める。 そして甲高いコンバーターの駆動音と共に、武とケイイチを乗せたマイザーナブラがガイドライト煌く滑走路に降り立った。


・ PM9:21レイキャビク近郊基地 中央ブリーフィングルーム


「・・・と言うわけで、今回僕達らに協力して貰うセネス・クロフォード少佐だ」

 ケイイチに紹介してもらったセネスの顔を見て、武は本当にこの人が女性、いや人間であるか疑ってしまう。 彼女の中性的な顔立ちや体格、更には制服に男性用のボトムを着用している。
 そして白人より白く、まるで生気の無い肌や髪の色。 そんな武の心境を読み取ったのか、セネスは武に問い質す。

「どうした? 私の顔に何か付いてるのか?」
「い・・・いいえ! そうではありませんが・・・」
「気にするな。 私と初対面の人間は、皆お前のような顔をする。 私の肌と髪の色は、生まれつきのもの。 いや、“蘇った”時のものか・・・」

そう言いながら過去を振り返るような表情をするセネスに、武は何か彼女と通じる
物があると感じた。

「サギサワ大尉、しばらく白銀中尉と話したい。 すまないが暫く席を外してくれないか?」
「分かりました、部屋の外にいるので終わったら言ってください」

 セネスにそう促され、ケイイチはやけに素直に部屋を出て行く。 もしかしたら彼は、自分とセネスをあわす為にこの地を訪れたのかもしれない。

「(もしかして、少佐は・・・!)」

 そう武が悟ったその時、セネスは己の記憶が持ちうる、すべての思い出を武に語り始めた。

私は、電脳暦世界の人間ではない。 それが話しの最初に、セネスが武に告げた一言だ。 そして彼女自身、真っ当な生まれ方をしていない人間だという。
 彼女の居た世界は“ヴァスティール”と呼ばれる、冥王星軌道で回収された異性人が作ったであろう兵器。 それを解析したオーバーテクノロジーによって、繁栄の絶頂にある世界で暮らしていた。

「“ヴァスティール”から得られたオーバーテクノロジーは、それは凄いものばかりだった。 0/1相転移エンジン、モノポール超導体理論、時空ポテンシャル連結理論。 それまで人類が知りえなかった技術を用いて、私は“死ねない兵士”としての道を歩む事になった・・・」

 エースパイロットの思考と記録をトレースし続け、本人が戦死した時点でクローンを培養してその者を蘇らせる技術。 セネスもまた軍でそれを志願した者の一人であり、オリジナルの彼女は当の昔に戦死し、現在は2回目の再生を得たクローンの身体なのだという。

「どうして私がこのような肌の色をしているのか、分かっただろう?」
「オーバーテクノロジーを用いても、クローニングは完璧では無い・・・?」
「未知の技術を手に入れて、少し弄くっただけで制御出来たと驕るのは人間の業なのかもしれない。 そして私がいた世界の西暦2150年、全てが始まった・・・」

 そしてセネスが居た世界でも電脳暦世界と同様に、人類が手にしたオーバーテクノロジーを発端とする戦いが始まった。 ヴァスティール・テクノロジーを解析する為に生み出された人工知能“ガーディアン”が、自ら生み出した兵器群と共に突如として人類に対し宣戦布告をして来たのだ。 電子機器を操るガーディアンの能力と戦力により、最初の戦役にて人類は総人口の1/3の犠牲者を出してしまう。

「自ら生み出した罪は、自らの手で償うしかない。 絶望的な状況の中、私は第222特殊部隊“サンダーフォース”の部下達と共に、ガーディアンを破壊する作戦に出撃した」

 セネスの口から語られる、彼女自身が体験した戦いの話を、武は食い入るように聞いていた。 ガーディアンの拠点である人工島“バベル”への突入。 宇宙での追撃戦とヴァスティール・オリジナルとの対決。 ガーディアンの居城である戦艦『ジャッジメント・ソード』中枢への突入と、ガーディアンとの邂逅。
 そうして全ての戦いを乗り越え、大破した機体と共に宇宙を彷徨うセネスにガーディアンからの最後のメッセージが送られる。

「ガーディアンは、ヴァスティール・テクノロジーを手に入れた人類が、その力に溺れて自ら滅びの道を歩むのではと危惧していた」
「じゃあガーディアンは、人間にそれを捨てさせる為に自ら悪者を演じたということですか!?」
「今考えれば、シロガネ中尉のいう通りなのかもしれないな。 事実、あれだけの戦いを行った地球圏には、ヴァスティール・テクノロジーは痕跡程度の物しか残らないだろう」

 そして最後のヴァスティールの欠片であるセネスの機体にも、再び人類の手に渡らぬように封印を行わなければならない。 セネスは機体のシステムと共に人工冬眠に入り、行く先も分からず宇宙を眠りながら放浪し続けた。
 そうしている間に何時しか時空を越え、ダイモン戦役が終わった直後の電脳暦世界に流れ着き、MARZに保護される。 機体と共に保護されたセネスは、機体に秘められた技術を守らせてくれと頼んだ。
 そうしてセネスの願いを受け入れたMARZ司令部は、再び発足した国連軍にセネスを在籍させ、電脳暦世界で広まるであろうヴァスティール・テクノロジーの監視を任命した。

「結局、私はガーディアンの願いを叶える事は出来なかった。 だが過ちを繰り返さないように、ヴァスティール・テクノロジーを拾ったこの世界の行く末を見守る。 それが、私に与えられた使命だと感じているよ」
「使命ですか・・・」

 全てを語り終えたセネスに対し、武はどのような言葉を掛けたら良いか分からなかった。 同じ時空を越えた者の間に、ここまでの差があるとは。 前の世界でも仲間が支えてくれた自分とは違って、彼女はずっと一人で幾度となく戦火に身を投じ、そして今も彼女だけの戦いを続けているのだ。 そんな武の哀れむような顔を見て、セネスは笑顔を見せながら武に言う。

「中尉、たった一人で宇宙を彷徨い続けた私が、こうして笑顔を見せていられると思う?」
「自分の運命を、受け入れたからですか?」
「ああ。 そうで無ければ私はとうに自分を見失い、壊れていただろうな」

 そう自信無く答える武に、セネスは笑顔のまま頷く。 武自身、“前の世界”に飛ばされた当初は現実を否定し、ひたすらそれから逃れようとしていた。
 だが、ひとたびそれを認め受け入れた途端、彼は類まれなる素質を持った戦士としての道を歩み始めていた。 そして今度こそあの世界を救いたいという一心で、多くの仲間達に支えられてここまでやって来た。 あのシリンダーに封じ込められた脳が、純夏だったという受け入れがたくも残酷なる真実。 逃れる事の出来ない現実を突きつけられ、自分はまた逃げるのか。

「(いや、俺はもう逃げる気は無い・・・!)」

 そう心の中で呟いた後、武はニヤリと口元を緩ませる。  あの世界を救う、それが自分に与えられた使命。 BETAの牢獄に捕らえられている純夏を助け出す、それが自分に与えられた宿命。
 それを実現するには更に多くの人々の協力を請い、強大な戦力でBETAや人類を相手にしなければならない。 武がそう考えを巡らせていたその時、セネスは懐から何かを取り出しそれを武の手のひらに乗せる。 それは、何らかのデータが入っているだろう、光学ディスクが収められたケースだった。

「少佐、これは?」
「私がこの世界に来て研究を始めた、無人機に関するデータだ。 向こうの世界では、それが一番必要になるだろうと大尉が言っていたからな」

 30年以上BETAと戦い続けている向こうの世界では、総人口約10億にまで激減している。 人類がBETAに対抗しうる戦術機、それに適応出来る人間や衛士に対する 教育や鍛錬には多大な時間がかかり、なによりBETAの物量の前ではその数は風前の灯に等しい。
 そこでケイイチは戦術機の操縦を、AIに任せてしまおうと考えた。 そう、彼はXMシリーズとそれに対応する戦術機の開発と同時に、戦術機の無人化を推し進めようと画策しているのだ。 その技術の根源は、他でもないセネスがいた世界の物、すなわち“ヴァスティール・テクノロジー”に他ならない。
 だがBETAが生体タイプの機械であるという菫の仮説がある以上、BETA各個体を統括する上位のBETAに無人機のコントロールを奪われるという可能性も否定できない。 それは、元居た世界にて“ガーディアン”にコントロールを乗っ取られた無人兵器達と戦った経験を持つセネスが、一番危惧していることだった。

「ケイイチさんも、この事を?」
「自ら人工知能を作り上げてしまう程の彼なら、もう気付いているだろう。 確かに無人化を行えば、向こうの世界で行われている戦いがより楽になる。 だがどんな状況や困難でも、必ず打ち勝ち乗り越える力を持つのは、他でも無い人間だということを忘れるな」
「はいっ!」

 セネスの忠告に、武はディスクを手にしたまま敬礼で答える。 そして武達はセネスが手配してくれた部屋で、一夜を明かした。


・ AM10:03 レイキャビク近郊基地 第1演習場


「どうした? 君の実力はその程度では無いだろう!」
「くっ、なんて速さだ・・・!」

 演習場に響き渡る轟音と共に、武が乗るテムジン747Aが尻餅の体勢で地に付く。 HMD越しに見える武の眼前には、セネスが駆る既存の機種と全く異なるシルエットを持つ機体が槍のような兵装を向けている。
 レーダーにはただ『PHOENIX』とだけ表記されている光点が彼女に居る場所に表示され、はたしてあの機体をVRと分類しても良いのかと武は距離を取りながら思う。
 そもそも何故この2人が模擬戦を行っているのか? それは早朝、セネスが朝イチで武に模擬戦を申し込んだからなのだ。 当然階級が下である武に断る権利などあるわけが無く、何より今回の模擬戦をセネスが申し込んだのも、武が真にその技術を渡すに相応しいのか見極める為だった。
 武の動向に対し、セネスのPHOENIXは再び槍を武機へ向ける。 その先端は銃口らしき開口部があり、その内部は光り輝くエネルギーの塊が今にも飛び出さんとしていた。 武はスライプナーMk6を、ニュートラル・ランチャーモードでバースト射撃。
セネスの照準を乱すための牽制として放ったが、それを嘲笑うかのようにセネスのPHOENIXは右にあるシールドらしい円盤、そこから発生させたフィールドで荷電粒子の弾丸をいとも簡単に防いだ。

「ちっ、攻防一体の装備って訳か!」

 槍の先端から次々に放たれる光子の噴流を回避しながら、武はセネスの機体に対し愚痴を漏らす。 光線級が放つレーザーとは明らかに異なる、ラグタイム0の収束レーザー照射。 実戦出力ならばライデンのレーザー以上の威力を持つであろうそれを、武はVRの機動力とMSBSの即応性に物を言わせて、ギリギリのところで避け続けている。
 加えて牽制射撃をあっさり受け流したシールド。 どちらもこの世界とは違う、彼女が元居た世界の技術、“ヴァスティール・テクノロジー”を用いて作られているのは間違いない。
 『封印を解いてしまった者は、いつか再びそれを封印しなければならない』 もし“ヴァスティール”の技術がこの世界で暴走した時、自らの命を持ってそれを葬り去る覚悟がある。 セネスの覚悟に気付いた武は、スライプナーの切っ先を向けながら無意識に叫んでいた。

「俺にだって、あの世界に守りたいものや譲れないものがあるんだ!!」
「そうか・・・ ならば私に勝ち、その先へ進んで見せろ!!」

 武はスライプナーをブリッツセイバーモードへ移行。 銃身に荷電粒子の刃が形成され、青白い光を放つ。 対するセネスもPHOENIXが装備する槍のような装備を翳し、光子で構成された刃が放電と雷鳴と共に砲身を包み込む。
 それはもはや槍ではなく、巨大な剣と呼べる物だった。 セネスのPHOENIXが雷の剣『サンダーソード』を持ちながら突きの体勢で構え、武のテムジンもスライプナーを大きく振りかぶる。 泣いても笑っても、勝つか負けるかはこの一撃で決まる。 そして、セネスのPHOENIXが全速力で武のテムジンに迫った。

「はああああっ!!」
「うおおおおおっ!!」

 距離計の数値が急激に減り、それに伴ってPHOENIXの機影が徐々に大きくなる。 迫り来る相手、振り下ろされる刃。 模擬戦といってもそのどれもが自分の機体を狙い、実戦であればその命を狩り取ろうとしているのは間違いないのだ。
 そしてそれから逃れる術は唯一つ。 相手の攻撃を受け流し、必殺の一撃を相手に叩き込むしかない。 演習場に巻き起こる旋風、交差する剣。 そして一瞬の閃光の後に、ギャラリーの目に映ったのは腹部にセイバーの一撃を貰い崩れ落ちるセネスのPHOENIX。 その傍らにはサンダーソードが左肩に突き刺さり、力無く立ち尽くす武のテムジンの姿があった。


・ PM13:00 レイキャビク近郊基地 飛行場


「待ちたまえ、白銀中尉!」
「クロフォード少佐? おっと!」

 模擬戦後、この基地を去るべくマイザーナブラが待機している滑走路へ向かう武に、セネスが声を掛ける。 後ろを振り向くと、彼女が何かをこちらに向けて投げるのが見えた。 反射的にそれをキャッチした武の掌には、昨日手渡されたディスクとは異なるデータチップ型の記録媒体があった。

「少佐、このチップは?」
「君は模擬戦で私に勝った、そういう事だ」
「ですが少佐、あれは俺が勝ったとは思えません・・・」

 手渡されたチップを再度確認しながら、武はあの模擬戦が自分の勝利だったのか疑問を抱いてしまう。 あの模擬戦の終了時、互いに割り当てられた耐久値は双方共に0%。
 早い話引き分けという結果至った訳なのだが、それに対して自分に褒章を与えるセネスに武は不思議でたまらなかった。 

「終了時の被弾個所を思い出してみろ。 私はコクピットがある腹部に、君は左肩に攻撃を受けた」

 あの時セイバーの刃が実戦出力ならば、PHOENIXのコクピットに居るセネスもろとも、機体の脇腹を抉っていただろう。 そしてセネスは、こうも付け加えて武に言った。

「それに、あの時フィールドに立っていたのは君のテムジンだ。 地に跪いた私に、勝者と呼ばれる所以も気品も無い」

 セネスも戦士の端くれだけに、戦闘や勝敗に関しては彼女なりの流儀があるのだろう。 彼女の言葉を素直に受け止めた武は、セネスの思いが詰まったチップをグッと握り締めながら答えた。

「ありがとうございます少佐。 このデータ、大切に使わせて頂きます!」
「例はいらないよ。 さあ行け。 守りたい者が、君にも居ると言っていただろう?」
「はいっ!」

セネスに別れの敬礼をし、武はケイイチが待つマイザーナブラの元へ向かう。 そして、セネスを初めとする基地の将兵達が見守る中、武とケイイチを乗せたマイザーナブラが、天空の彼方へと飛び去って行った。


「あのクロフォード少佐相手に勝つなんて、流石白銀君だね」
「本当の意味で勝てなかったのが、唯一心残りですけどね」

 レイキャビク基地に別れを告げて早1時間、2人はイギリスへ向けて大西洋の空を飛んでいる。 その最中、武はセネスから受け取ったデータチップの事をケイイチに伝えると、早速それを見てみようとケイイチは言い出したのだ。

「えっ、今ここでですか!?」
「僕の機体に不可能なんて無いさ。 さあ、早くデータチップを渡しておくれ~」

 目を輝かせるケイイチに促され、しぶしぶデータチップを渡す武。 データチップは携帯端末の記録媒体として用いられているタイプの為、セッティングは難なく行われる。 武が座る後部座席、そこに設けられたモニターに内容が表示されると同時に、ケイイチが歓喜の声を上げた。

「これは凄い! 少佐も太っ腹な事をするもんだ!」
「俺が貰ったコレって、そんなに凄いんですか?」
「凄いも何も、少佐が以前から研究していたVコンバーターに代わる動力源の実証データだよ! もう完成させていたなんて・・・!」

 興奮冷めやらぬケイイチはしばし放置しておく事にして、武は自分がモニターに映し出されるデータを再度眺める。 モニターには先程の模擬戦で、セネスが乗っていたPHOENIXの後ろ姿。 そしてその背中にはどの世代のVコンバーターと形状が異なる円筒形の装置が、機体とは別の色で強調して表示されている。 これがケイイチの言う、Vコンバーターに代わる、新たな人型兵器用の動力源なのだろう。
 “メガドライヴ”。 それがセネスのPHOENIXに搭載されていた、Vコンバーターとは全く異なる動力源の名前だった。 Vコンバーターに内蔵されているVディスクに機体のデータを書き込み、強大な負荷を掛ける事で具現化する現象“リバース・コンバート”を用いて生み出されるVR。 正に魔法と言える手法で製造され、慣性制御を初めとする既存の兵器を圧倒する性能を持つ人型兵器だ。
 だがPHOENIXの場合はその限りではなく、既存の技術を用いて建造された機体に、メガドライヴが装着されているという。 そしてPHOENIXと相対した武は、この装置が持つ機能にすぐに気付いてしまった。

「まさか、メガドライヴの機能って・・・!」
「『既存の技術で建造された人型兵器に、VRの特性を付加する装置』・・・と言った所だろうね」

 VRでない人型兵器が、VRと対等に渡り合える力を持たせることの出来る禁断の筒。 もしこれが戦術機に搭載されたとなれば、その力を用いてBETAに一矢報いる事が出来るかもしれない。 だがそれは電脳暦世界と向こうの世界のパワーバランスを乱し、新たな争いの火種に繋がるかもしれない。
 救いか滅びか、自分の選択で、二つの世界はどちらかの道に進んでしまう。 そんな事を武が心配していると、データを漁っていたケイイチが何かに気付く。

「白銀君、これって君に当てたメッセージじゃないのか?」
「えっ・・・?」

 ケイイチの声と共に、モニターに映し出されるメッセージ。 それを読んだ瞬間、さっきまで武が抱えていた悩みが一気に消え去った。 おそらくあのデータを見た自分がこうなる事を予測して、セネスがこのメッセージを入れてくれたのか。 今となってはもう分からないが、最後まで自分を支えてくれた彼女に、武は感謝の念を抱かずには入られなかった。

「さあ、急いでペリリューへ帰ろう! この一週間、最後まで忙しくなりそうだ!」
「はいっ!」

- 人よ、戦士よ、あなたの前に祝福を・・・ -

人類の守護者にして、殺戮者たる機械が最後に残し、その遺志を受け継いだセネスの言葉を心に抱き、武は霞達が待つペリリュー基地への帰路へ付いた。



[2970] 第21話-錯綜-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2009/12/25 22:33
・ 2001年9月末日 AM12:17 横浜基地 食堂


「電脳暦世界の人達に対する感情、ですか?」
「ええ。 白銀君を切っ掛けに、私達がこの世界に介入して約4ヶ月。 榊さんを含めたこの世界の人々が、私達異世界の人間をどう思っているのか気になってね」

 昼食を終えて一段落していた中、長い机の対面に座る菫の質問に対し、千鶴はどのような回答を返したら良いか困ってしまう。 確かに電脳暦世界による介入と協力により、BETAとの戦いがより心強くなった事は千鶴も理解しているつもりだ。 とりあえず、今は自分の意見を述べておこうと思い、千鶴は口を開いた。

「私個人としては、菫さん達が来てくれた事にとても感謝しています」
「ありがとう。 でも他の子達、特に香月副司令は私達の事をどう思っているかしらね?」
「それは・・・」
 
 菫の放った一言に、千鶴は深く考えてしまう。 今この時も前線で戦っている以外の人間、即ち広報で指揮に当たっている各国の軍司令部や、その国々の政府の椅子に座っている者達は、この事をどう思っているのだろうか?
 おそらく、肯定的な考えを持っているものは殆ど居ないだろう。 圧倒的な軍事力を背景に、見ず知らずの人間に『助けてやろう』と言われて『ハイお願いします』と全てを鵜呑みにする馬鹿な連中が、この世界の何処にいるのだろうか?
 だが下手に歯向かえば、電脳暦の人類が開けたパンドラの箱、それにより生み出された人型機動兵器“VR”によって蹂躙されるのは目に見えている。 またVR以外にも向こうの科学技術は数段上を行くものばかりで、この世界で最も力を持つ米国ですらも迂闊にケンカを売れないのが現状なのだ。

「他の皆はともかく、香月副司令達にはあまり快く思われてない事は確かね」
「そうですよね。 下手をすればBETAより恐ろしい存在を敵に回す事になりますから」
「それはごもっともね。 だけど榊さん、私達の方だって言いたい文句が山ほどあるのよ」

 超情報ネットワークとそれによって成り立つ電脳暦の社会、それらを管理運営していたのが企業国家と言う存在だった。 企業国家の支配が進むにつれて、人々の中にあった民族や国家という概念は薄れ去り、この事からより円滑に、より効率的に人類社会の繁栄が進んだ。
 その事もあってか、ダイモン戦役後に企業国家の勢力が衰え、再び主権国家という概念が蘇った現在の電脳暦。 国家同士の確執はそれほど表面化せず、寧ろ世界情勢の安定を望まんと、各国が協調の道を歩んでいるのだ。

『BETAという侵略者が地球を襲っているにもかかわらず、何故人類同士で争っていられるのか?』

 それが、再び“国家”を取り戻した電脳暦の人々が放った意見である。 特にこの間起こったクーデターが良い例だろう。
 沙霧の演説に対して、菫にはそれがただの憂国や愛国の名を借りた、ただの我が侭な主張だと言う事に既に気付いていた。 いや、企業国家の長期に渡る統治により、ナショナリズム等といった主義や思想を一度無くした過去があるから言える事なのかもしれない。 そんな彼女の言い分に、千鶴は自分でも気付かない内に菫に謝罪していた。

「すみません・・・」
「別にあなたが謝る事じゃないわ。 あなたのお父さんもだって、今は必死になってこの国を立て直そうと頑張っているじゃない」

 クーデターの終結後、悠陽は解放された榊首相らと共に戦渦に巻き込まれた帝都の復興、そして各帝国軍基地の戦力立て直しを図っている。 一方で介入した米軍は借りの一つも作れぬがまま渋々日本を後にし、夕呼には武達を襲撃した戦術機をネタにされたことで、逆に思わぬ貸しを作らされてしまったのだった。

「起きてしまった事は仕方ない。 大事なのはこれから如何するかでしょう?」
「そうですね。 白銀中尉達、今頃向こうで何をしているんでしょうか?」
「適当に資材集めか、資金集めでもしているんじゃないかしら? 彼はそうそう投げ出して逃げる子じゃないわ、ゆっくり帰りを待ちましょう」

 コーヒーモドキの入ったカップを、菫は傍に置いてある合成クリームと人工甘味料を入れてかき混ぜる。 XM2の完成、そしてXMシリーズの集大成であるXM3の開発という、菫や千鶴達の新たな任務が始まろうとしていた。


マブラヴ 壊れかけたドアの向こう
#21 錯綜


- 我々は宇宙、そして時空の向こう側に広がる、新たなるフロンティアを開拓する –

 その宣言が高らかに上げられたのは、一昨日電脳暦世界に存在する有力企業、その代表者たちが集う総合的な会議が終わる間際の事だった。 地球圏を支配していたプラントに追従し、ダイモン戦役を得て疲弊した企業達は、その勢力の回復を図ろうと必死になっていた。
 そんな時に舞い込んだ、白銀武を発端とする平行世界の発見と進出。 儲けの手段が失われつつあった中に飛び込んできたサプライズに、地球圏全ての企業が起死回生のチャンスがやって来たと思っていた。
 異星の侵略者であるBETAと戦う異世界の地球圏、そこに救済の手を差し伸べればセールスポイントは大幅にアップする。 また向こうの世界で使われる技術は、戦術機や一部の物を除いて旧世紀と同レベルの物ばかり。 自分達が持つ技術力もって、BETAと互角以上に戦える兵器を開発し、それを売り込めば新たな市場が開拓出来る。
 北米のクレスト・インダストリアル、欧州のミラージュコーポレーション。 世界に名だたる企業達がその底無しの野心と商売人の根性を原動力に立ち上がり、現在ではもはや昼夜を問わず新型戦術機やそれを用いた各種兵器の開発を行っている。
 そして武とケイイチの2人もまた、その計画の一端を担う存在だった。


・ 電脳暦世界 PM3:51パラオ 国連軍ペリリュー基地 第7ハンガー


「Vフライホイール?」
「ああ。 君が少佐から貰ったチップからメガドライヴのコアに関するデータが見付からなくてね。 仕方なくVコンバータの原理を応用したそれを、ドライヴにある円筒形状のパーツの中に入れることにしたんだ」

 外から来る潮風が入り込み、基地の整備士や職員が何度も通りを行き来するのが見えるハンガー詰所。 そこでは“メガドライヴ”のデータ解析を終えたケイイチが、武にその結果を話している最中だった。
 メガドライヴの装置自体はこの電脳暦世界の技術で比較的簡単に製造が可能だった。 だがセネスから渡されたチップからは、ドライヴの核となるパーツのデータがどうしても見付からなかったとケイイチは話す。

「クロフォード少佐、最後の最後で意地悪な事をしてくれましたね・・・」
「でも、これで戦術機もVRと同等の戦闘力を手に入れられるんだよ。 まあ、メガドライヴの稼働には外部からのエネルギー供給が必要で、活動時間に制限があるのが欠点だけどね」

 試行錯誤の末ケイイチは、Vクリスタル質を円筒形状に加工したメガドライヴのコア、“Vフライホール”を発案する。 これならセネスが乗っていたPHOENIX同様、戦術機もVRと同じ機動特性を得ることが出来るのだ。
 もしかしたらデータが存在しなかったのは、『その核となるパーツを電脳暦世界の技術で作って見せろ』という、セネスからの最後の挑戦状だったのかもしれないが、今となっては彼女の真意を聞き出すことも出来ない。

「各プラントの支援も受けられそうだし、僕らが向こうに帰る前にはヴァルキリーズ分のドライヴ本体の調達は間に合いそうだ。 後は・・・」
「Vフライホイールの材料を、何処から調達するか。 ですよね?」
「ふふん、白銀君も色々と分かってきたみたいだね~?」

 武の言葉に対し、ケイイチは悪戯を思いついた子供の様な笑いを返す。 Vフライホイールの原料は南米に存在するTSCドランメン管轄地、その一部である禁制領域『シバルバー』で採掘されるVクリスタルの1種“ワイルド・クリスタル”を触媒として用いると言う。 フライホイールにエネルギーを供給して回転させ、VRのコンバータ同様、慣性制御やエネルギーの増幅を行う仕組みらしい。
 と、ここで武はある重要な事に気付いた。 何故ケイイチは、ここまで物事を急速に進めていられるのか? そして彼に協力する人物や組織がこれほどまでに多いのか? 進捗程度が恐ろしいほど早過ぎる事に疑問を感じた武は、その事について話題を切り出す。

「それにしても、よくプラントの協力まで受けられますね」
「僕だけじゃない。 この地球圏全体が、個々の思惑はどうであれBETAを倒そうと必死になっているんだ」
「異世界に居るBETAをわざわざ倒すって・・・どういう事です?」

 その言葉の真意を直ぐには飲み込めない武に対し、ケイイチはダイモン戦役の経緯と、最後に起こった出来事について語りだした。

 Vクリスタルの制御方法を編み出し、月面遺跡“ムーンゲート”を創造した古の知性体。 滅びさった彼らの残留思念は何時しか怨念と妄執の塊となり、何時しかその存在を知る人間達に“ダイモン”と称されるようになった。
 実体を持たず情報を操る力を有していたダイモンは、情報を主体にやり取りされる電脳暦の世界には正に天敵と言える存在であり、巧みな情報操作によって人類社会を影から操って行った。
 そして、第8プラント『フレッシュ・リフォー』総帥である少女、リリン・プラジナーが設立した特装機動部隊“MARZ”は、来るべきダイモンとの決戦に備えて結成された組織だったという。 やがて表面化したダイモンとの戦いは熾烈を極め、彼らの目的が時空因果律制御機構“タングラム”を用いて電脳暦世界の滅亡を誘発しようとしている事が判明したその時、MARZに所属する一人のパイロットと1機のテムジンが電脳虚数空間に突入する。

「それがこの世界の英雄、チーフだったんですね?」
「結局彼の手によってタングラムが解放され、ダイモンの消滅に成功。 これで全てが終わった、そう思っていた・・・」

 チーフと同時に虚数空間から飛び出した1つのVクリスタル。 それが火星の軌道を回るうちに、テラフォーミングが不完全だった火星が瞬く間に地球と同じ環境へ変貌してしまったのだ。 気付かぬままに自分達を滅ぼそうとしていたダイモンの消滅、そしてタングラムが起こしたであろう火星の奇跡に歓喜し酔いしれていた人々に、チーフからタングラムが残したメッセージが伝えられる。

- 敵は、危機は、ダイモンだけに留まらない。 -

 英雄の口から語られたタングラムのメッセージ。 そしてこの後に異界へと飛ばされ、チーフが体験した戦いの記録は、電脳暦の人々を震撼させた。 この無限に広がる外宇宙、まだ見ぬ時空の彼方からダイモンと同等、それ以上の力を持つ敵が今後人類の前に現われないとも限らないというのだ。
『自らの運命は自らの手で掴み取る』 タングラムが最後にチーフに伝えたこの言葉を体現するかの様に、人々はその為の戦いを始めようとしていたのである。

「そんな矢先に君がやって来たんだからねぇ、これも運命って奴なのかな?」
「運命ですか・・・」

 そう呟きながら、武はハンガーの外を眺める。 金、善意、利権、目的や理由はそれぞれ違えど、この世界の人々が全力を持ってBETAと戦う覚悟でいる。 だがそれとは対照的に、それらがあるが故にまとまる事が出来ない向こう側の世界を思い出すと、武はやるせない気持ちになった。
 気を落としている武に気付き、ケイイチが声を掛ける。

「白銀君、この世界と向こうの世界、人間の欲深さは余り変わらないと思うよ。 ただ一つだけ、向こうの世界に足りないものがある」
「足りない物、ですか?」
「“英雄”が存在していないんだ、世界を纏めるに足る絶対的な存在がね」

 ケイイチの言葉を聞き、武はあの世界で繰り広げられた、BETAとの主要な戦いを思い出す。 規模や場所はどうであれ、どの戦いも人類が圧勝したと言う記録は無い。 BETAという無限に等しい数の敵と、先の見えない戦いを続けて負け続けてきたあの世界の人類が、何処に希望を感じると言うのだろうか。

「英雄が居なければ、誰かが英雄になれば良い。 その役目は君が適任だと、僕は思っているんだ」
「俺が・・・英雄ですか!?」

 ケイイチが放った一言に、武は驚きの声を上げる。 確かに冥夜を初めとする元207組からは慕われているし、みちるや水月といったヴァルキリーズの先輩達からも、次世代のエース候補として期待されている。
 だがそれを通り越していきなり英雄になれとケイイチに言われたのだから、最終的な予想はしていたにしろ、余りに急な事に理解の範疇を超えた展開に武は困惑していたのだ。
 だがその時、その迷いを吹き飛ばすかのように、最愛の少女の言葉が武の脳裏を掠める。

『それでこそ、カッコイイ武ちゃんだ!』
「(純夏・・・!?)」

 脳髄だけの姿となった純夏を、BETAの牢獄から救い出す。 それは子供の頃に読んだ、おとぎ話のシチュエーションその物ではないか。 愛する女一人救えないで何が英雄だ、何が救世主だ!
 何時しか武の心には、新たに勇気の炎が灯り始めていた。 武のその様子を見て、ケイイチも不敵な笑みを見せながら口を開く。

「ふふん、やる気になってきたみたいだね」
「勿論ですよ、純夏を救えないで英雄なんて名乗れませんから!」

 二の腕に手を当て、ニヤリと笑う武。 そして2人は霞とフーリエを連れ、Vフライホイールの原材料であるワイルド・クリスタル採取の為、一路南米へと飛び立った。


・ 同時刻 旧サウジアラビア アンバールハイヴ勢力圏内


 熱帯のそれとは異なる、全てを焼き尽さんばかりの日差し。 如何なる植物をも根付かせぬ、広大な砂の台地。 生命が生き抜くには余りにも過酷な状況であるサウジの砂漠を、悠然と突き進む物体が存在していた。
 宇宙からの侵略者であるBETA、そしてそれらを狩り尽くさんと砂の大地に息を潜め、攻撃の合図を待つ鋼鉄の巨人達の姿があった。

『マルコ7よりマルコ1へ。 こちらに向けて前進中のBETA群を確認。 やはり我々の後ろにある、スエズを目指しているようです』
「マルコ1了解。 マルコ7、光線種の存在は?」
『自分がまだ撃たれてないのが、今のところはいないという何よりの証拠ですよ。 ・・・それに、奴らの上げる土煙で視認はほぼ不可能です』
「だろうな。 それで? 後方にいるDNAのドンガメ共は、ちゃんと支援してくれるんだろうな?」
『連中だって、給料分の仕事はしてくれますよ。 あとは中東連合の戦術機部隊が、我々のペースに何処まで付いてくれるかですね』

 上空を飛行する偵察担当のサイファーからの報告を聞き終え、待機状態にある鋼の巨人- アファームド・ザ・チーフコマンダー -のコクピットに座るRNA所属の部隊長は、部下達と共にBETAの間引き作戦の開始を待つ。
 部隊長率いる、VR10機前後で構成されたRNAの標準的な攻撃型スコードロン数個が前衛に。 その後方からDNAのボック系で構成された部隊が火力支援を行うという、最初にリヨンハイヴを攻略した時と同様の陣営だ。 ただあの時と違うのはこちらの世界の軍隊、即ち戦術機というVR以外の兵器を有する物達と共闘していると言うことだ。

「(あんな機体で30年以上も、あのゲテモノ共と戦っていたのか・・・)」

 彼らがVRと張り合うには余りにも力不足な機体で今回の作戦に参加している事に、部隊長は『自分達の世界は自分達で守る』という意地と気迫を感じ取る。 そうしている内に、BETA群が砲撃射程圏内に入ったと、再びマルコ7から連絡が入る。
 部隊長もといマルコ1はマルコ7へこちらに戻るよう指示を出した後、彼の周りで待機中の部下達に向けて、通信に向けて力強く喋る。

「さあ野郎共! 楽しい楽しいハンティングの準備は出来てるな! 今回DNAの連中は支援のみで、獲物を取られる心配は無し!
 フランスで奴らにお株を奪われた鬱憤を、ここでたっぷり晴らしてみせろ!!」

威勢良くまくし立てるマルコ1に呼応するように、通信回線から部下達の雄叫びが聞こえて来る。 そしてスコードロン最前列に位置するドルドレイ5機で構成されたターナー隊が、待ちきれないのかマルコ1に突撃許可を求めて来た。

『ターナー1よりマルコ1! もう先走ろうと我慢できない奴も居る、攻撃開始の合図はまだか!?』
「焦るな。 着弾まで後、3・・・2・・・1・・・」

 魔法の呪文のようなカウントダウンをマルコ1が唱えると、彼らの上空を大量のミサイル、そして砲兵が放った砲弾が、砂塵の向こうに飛び去って行く。 その数秒後、目の前の砂塵が獏炎と轟音に包まれ、ようやく後方から中東連合の戦術機部隊が追い縋って来た。
 それと同時に、マルコ1は全ての部下達に叫ぶ。

「皆待たせたな! ターナー隊は先行して攻撃開始! 故郷の親御さんの顔に、泥塗るような真似だけはするんじゃねえぞ!」
『了解っ!!!』
「全機、俺に続けっ!!」

 マルコ1の合図と共に、部下達が乗る第2世代型アファームドやライデンが待っていたとばかりに戦場へとなだれ込む。 既に先行したターナー隊のドルドレイが暴れ回っており、BETA側の前衛だった突撃級は自慢の装甲殻に、綺麗な穴をくり貫かれるという醜態を晒していた。
 そして東西新旧の機体が入り乱れている中東連合の戦術機部隊も、彼らに負けずとBETAに対して攻撃を開始。 中東戦線における第2次BETA大規模間引き作戦『サンドサイズ・セカンド』が、こうして幕を開けたのだった。



2001年9月末日:中東戦線、第2次大規模間引き作戦『サンドサイズ・セカンド』作戦発動。 中東連合とRNA主体による本格的な共同作戦が開始される。 尚DNA側は欧州戦線の支援を強化していたため、今回の作戦には砲撃支援のみに留まる。

同日:同作戦の開始を受けて、国連は電脳暦世界に所属する、全ての軍隊との連携強化のための条約作成を発案。 各国政府はこの案に賛同し、兵力、技術及び居住提供に関する項目の作成が始まる。

同日、電脳暦世界:企業連、戦術機及びVR用の武器の開発に着手。 欧州戦線向けとして36mmチェーンガン内臓の戦闘槍や面制圧用のロケットランチャー等の開発が開始。

2001年10月1日:香月夕呼、戦略兵器XG-70の機体調達開始。 鎧衣左近の協力により、調達はスムーズに行われる。



[2970] 第22話-交差-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2009/12/25 22:33
・ 2001年10月2日 AM10:57 旧サウジアラビア アンバールハイヴ勢力圏内

熱狂が、戦場を支配していた。

 『サンドサイズ・セカンド』が始まって2日。 その戦いに参加するRNA所属の兵士達と、彼らが駆るVRの連日に渡る活躍。 それは共に戦っている中東連合の将兵達でさえ、誰もが凄惨な光景に目を疑い、口を揃えてこう呟いた。

『我々でさえ、ここまでエグイ真似はしない』と・・・

 一つ、また一つとその鋼の手に握られた刃を振るう度、火器の銃口が火を噴く度に醜悪な“モノ”の欠片と体液が機体に付着。 それでも構わず、ただ獲物を求めてBETAを食い尽くすRNAのVRたちの姿があった。
 地べたに群がる戦車級や小型種はボムやグランド・ナパームで容易く焼き払われ、要塞級に対してはお返しとばかりに集団で包囲し、それぞれが持つ獲物で一斉に切り刻むという、まるで市場で行われる大型魚の解体ショーさながらの様相を呈している。
 特にBETA側の中核戦力である突撃級と要撃級は格好の標的であり、アファームドが装備するビームトンファーやマチェットで原形を留めないほどに切り刻まれたり、ドルドレイによるドリルやファイヤーボールの洗礼を受けたり、ライデン(ここではRVR-75 ライデンⅡの事を指す)のレーザー照射を受けて消し炭にされたりと、その容赦の無い仕打ちに衛士達も哀れむほどだった。
また連日の戦いによるのかロクに機体洗浄もしておらず、赤色を貴重としたRNAのカラーリングが判別出来ないほど汚れながらも戦闘を継続している機体もある。
 それほどまでにRNAが激情的な戦いを見せるのは、オラトリオ・タングラムが始まる以前から、物量に勝るDNAに対抗するべく構築された近接戦闘主軸の戦術と、それに見合ったVRの開発思想が生み出した結果だった。

「こちらマルコ5、Vアーマー21%減衰! まだまだやれますぜ!」
「その意気だ! 他の連中も自分の機体を棺桶にしたくなければ、ステータスチェックを怠るな!」
『了解っ!!』

 部下達の状況報告が次々に舞い込む中、スコードロンの隊長を努めるマルコ1は目の前で殴りかかろうとする要撃級目掛けて右手に持つダキアス・ガン・システムの弾丸を叩き込む。 弾丸は要撃級の中央部に被弾し、被弾の反動でひるんだ所を更に左手に握られたマチェットの刃を、その頭とも尻尾とも付かない部位目掛けて振り下ろす。
 それは“斬り付ける”と言うよりも“叩き付ける”と言った方が相応しく、事実その一撃をモロに食らった要撃級は車に轢かれたカエルが如く、豪快に内部器官と体液を辺りに撒き散らし沈黙した。

「マルコ2、ここは任せる! マルコ5!ラルフ3と4は俺について来い! ゲテモノ共の後続を足止めに行くぞ!!」
『YES! BOSS!!』

 そして更なる獲物を仕留めるべく、マルコ1はライデンⅡ1機と第2世代アファームドの中でも近接格闘に秀でたアファームド・ザ・バトラー2機を引き連れ、未だDNAのボック部隊による支援砲撃が降り注ぐエリアへと突入する。
 それはVアーマーと言う特殊装甲を備える、第2世代VRだからそ出来る荒業だった。 その様子を目撃した中東連合の旧式戦術機、MIG-23『チボラシュカ (NATOコード:フロッガー)』に乗るシリア軍所属の衛士は、その行動に思わず声を漏らす。

「く、狂ってやがる・・・!」

 彼も神が与えた聖なる大地を汚し続けるBETAに対し、我が命と引き換えにしても戦う覚悟がある。 だから彼は、余所者がこの地を守るためにそうまでして戦うなど信じられなかったのだ。 だが彼らとVRの活躍によって、自分達の被害や消耗が最小限にとどまっているのは事実なのだ。

「(神よ、彼らの前に武運と祝福が訪れん事を・・・!)」

 そう心の中で彼らに祈りを捧げながら、衛士は36ミリのトリガーを共に戦う仲間と共に、倒すべき相手であるBETAに向けて引き続けた。


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#22 交差


・ 2001年10月4日 AM8:37 国連軍横浜基地 A-01専用ブリーフィングルーム


「戦術機とVRの融合、ですか・・・!?」
「そう。 それがサギサワ大尉と、白銀君が考えている『プロジェクト・バルジャーノン』の最終目的よ」

 朝一のブリーフィングルームにて、菫はヴァルキリーズの面々に自分らが行っている『プロジェクト・バルジャーノン』の真相を明かす。 菫自身もこの結論に至ったのはつい先刻の事であり、皆をここに呼んだのもそれを一刻も早く伝えるためだった。
 事の詳細を聞くべく、茜が質問を投げかける。

「どうしてあの2人は、そんな事を思い付いたのでしょうか?」
「まあ本人に聞くのが一番だけど、皆も薄々気付いているんじゃない?」
「今の戦術機の性能では、BETAに勝てない・・・?」

 壬姫の呟きに頷く菫を見て、彼女達は自分達が乗る戦術機とVRの相違を改めて思い返す。 見かけは大体同じな人型兵器、だがその開発経緯や設計思想、運用法も全く異なる。 そして両者には、決定的と言える違いが存在する。 それは紛れも無く、戦術機とVRの“性能差”だった。
 現在中東で行われている作戦『サンドサイズ・セカンド』や、先のリヨンハイヴ攻略戦もそうだが、圧倒的なスピード、火力、装甲を発揮し、この世界の人々にVRという全く異次元の兵器の存在と力を見せ付けた。 そしてそれを見た人々は異世界の人間達が持つ技術に恐れはしたが、同時に誰もが同じ感情を抱いていた。

『あの技術と力があれば、人類はBETAをこの地球から駆逐できるのに』と・・・

 VRに及ばないとしても、この世界に存在する技術の粋を集めて最強の戦術機を生み出して見せる。 そう思って計画に取り組んでいた矢先の一報に、流石のみちるもただ困惑しているようだった。 これまで行われた計画の推移を纏めながら、菫は話を続ける。

「皆も実機演習で何度も味わったと思うけど、神宮司中尉の銀鶏も元々はVRの機動を再現できるか、検証するためにあるのよ」
「じゃあ、今ボク達が作っているXMシリーズもそうなんですか?」
「あのOSの概念は、白銀君が暮らしていた“元の世界”で培ったものらしいから、厳密には違うわね」

 それを聞いて、冥夜は武から聞いた“彼が救えなかった世界”の話を反射的に思い出す。 ただの遊びにまで、コンピューター技術が使われていると言う元の世界で武は生まれ育っており、そして彼はループする前の世界でBETAとの絶望的な戦いを繰り広げていた。
 この世界、そして電脳暦の世界と全く異なる人型兵器の知識や特性、操縦概念を持つ彼ならば、その概念を用いて戦術機とVR、そのどちらとも異なる兵器を開発することを思い付いても不思議ではないと冥夜は思った。 そして菫は部屋の照明を落とし、何時ものようにプロジェクターを用いた説明に切り替える。 スクリーンには作っている本人である武ですら見たことも無い、人型兵器の姿が映し出される。
 それを目にしたみちるは今までの沈黙を破り、皆が思っていることを口にした。

「これは・・・! 霜月少尉! この機体は一体何だ!?」
「VRとも戦術機とも異なる、次世代の人型機動兵器。 私達や白銀中尉が目指す、
BETAと戦う新たな力。 私は『ガーディアン・レギオン』、略して“GR”と呼んでいます」

 菫の放った呼称を聞いた後、ヴァルキリーズの面々は呆然とスクリーンに映る機体を見つめる。

- GR-01 『カイゼル』 -

 皇帝という名に相応しいデザインをした、白と青のカラーに色塗られた機体。 それは武が元の世界で散々遊びまくっていたゲーム、『バルジャーノン』で慣れ親しんだ愛機そのものだった。


・ 同時刻 電脳暦世界 南アフリカ 禁制領域『シバルバー』


「こちら白銀、ワイルド・クリスタルを確認。 回収作業に入ります」
『至って順調だね白銀君。 そのままベースまでよろしく頼むよ』

 ケイイチに了解と返答しながら、武はテムジンの左手で褐色の結晶“ワイルド・クリスタル”を掴む。 鬱蒼と生い茂るアマゾンのジャングル。 かつて南米一帯は第4プラント『TSCドランメン』の支配領域であり、現在もこの地域だけはその管理が任されている。 その理由はこの地域に、地球に存在するVクリスタルの一種“アース・クリスタル”が存在しているからなのだ。
 クリスタルの影響下にあるこの地域は、アース・クリスタルを介して出現する幻獣『ヤガランデ』の遭遇や強力な精神干渉に見舞われる確率が高い。 それを恐れた物達が警告の意味を込め、いつしか武が居るこの場所を『禁制領域』と呼んで立ち入りを硬く禁じているのだ。
 それらを自由に操ることが出来たダイモンは倒された後は、シバルバーは安定を取り戻している。 しかしそれらの災厄が全く無くなったと言えず、現在も厳重な管理が必要な場所である事には変わりは無い。 周囲を警戒しながら、武はケイイチが示した回収ポイントへと、乗機であるテムジン747Aを移動させる。
 ポイントに移動した武の視界には、古代文明の民が築き上げたであろう巨大な遺跡。 そこでキャンプを設置している国連軍の隊員達の姿が見えると共に、インカムを付けたケイイチから通信が入る。

『これで10個目、ヴァルキリーズは15人だから2/3はクリアしたね』
「これなら、今日中にはドライヴの材料は集まりそうですね」
『そうだね。 だが油断しちゃ駄目だよ。 このワイルド・クリスタルも、今になっては貴重な資源になり始めているからね』
「えっ? こいつって、Vクリスタルの出来損ないってわけじゃないんですか?」
『時間も余裕があるし、詳しい事はフーリエと社君が教えてくれるよ』

 休憩時間のついでとして、武はフーリエと霞からワイルド・クリスタルの説明を受ける事にした。
 ワイルド・クリスタルは武が想像していたVクリスタルの出来損ないではなく、正確には亜種という推測がなされているらしい。 チーフの記録によると、これは禁制領域に展開されている結界から脱出する為に必要なアイテムらしく、ワイルド・クリスタルを複数回収した時にアース・クリスタルと共鳴を起こし、ヤガランデの幻影が出現。 救援に駆けつけた白虹騎士団のテムジンと共に撃破したとある。

「まさかチーフの時みたいに、これを沢山集めていたらヤガランデが出るんじゃないのか!?」
『それは心配ないと思います。 チーフさんの時はダイモンの介入もありましたし、現在はそう心配する程じゃないですよ』

 フーリエによる説明を更に聞いたところ、ダイモン戦役後、シバルバーに張られていた結界が急速に弱まり、現在のようにある程度自由に行き来する事が可能となった。 これもVクリスタルに纏わる負の事象を操るダイモンが、チーフによって倒されたと言われているがその原因は定かではない。
 結果的にヤガランデが出現した記録はダイモン戦役後一度も確認されておらず、無用の長物となりかけていたワイルド・クリスタルも、資源としての活用法が模索され始めているのだ。

『だから気を付けてください。 私達が集めたクリスタルを、奪おうとしている人達も居るみたいですから』
「分かった。 このままクリスタルを集めて、皆でペリリュー島に帰ろう!」
『はいっ。 白銀さんを信じて居ます・・・』

 必ず目的を果たして、あの世界に数式と完成したメガ・ドライヴを持って帰る。 霞の囁きに頷きながら武は、再びテムジンをジャングルの奥へと走らせた。


・ AM11:08 横浜基地 屋上


「帰る? 電脳暦世界にですか?」
「ああ。 通知が来たのはクーデターの後、今までのゴタゴタが災いして、今まで話せず仕舞いさ」

 元の世界では武達が昼食でよく集まっていた基地の屋上。 そこで孝弘が冥夜に、自分達がもうすぐ電脳暦世界に帰らねばならぬと言う事実を告げる。 そもそも孝弘達がこの世界に派遣された理由、それは特使である椿に万が一の事態が発生した場合、その救出の為にケイイチや菫達に付いて行ったのだと言う。
 結局クーデターでは守るべき対象である椿が活躍してしまい、彼女が無事に帰った事で孝弘達の任務は終了。 お役御免となった4人は残された時間を、冥夜達207組の戦闘指導に回そうと決めていたのだ。 全てを話し終えた孝弘に対し、冥夜は何故自分にその事を告げた理由を問いかける。

「そうだったのですか・・・ ですが苗村1尉、何故私だけにその事を話したのですか?」
「御剣だけじゃない。 今頃他のメンバー達にも、皆から説明がされている所だろう。 君をここに読んだのは、白銀が気に掛ける程のパイロットがどんな人物なのか、じっくり見たかったから・・・かな?」
「なっ・・・!?」

 孝弘が放った突拍子も無い理由に、冥夜は顔をほんの少しだけ赤らめながら声を上げる。  突然武の前に現われ、彼を取り巻く全ての環境を変えてしまった財閥のお嬢様、そしてそれを切っ掛けに武と純夏、そして皆の絆を深めてくれた存在。 それがあの時武が語ってくれた、“元の世界”における御剣冥夜という存在だった。

「君の事については、後で白銀から聞いたよ。 大変だったな・・・」
「ええ。 たけ・・・白銀中尉が帰ってきたら、礼を言わねばなりませんね」

 悠陽の双子の妹という身分に関係無く、一人の人間として見てくれる武が冥夜は何よりも嬉しかった。 そしてここにも、そんな縛りに捕らわれずに接する異世界の人間が居る。 そして自分も、一人の衛士としてこの国を守る為に戦うと誓った。 滑走路に降り立つ大型輸送機の姿を眺めながら、孝弘は帰還のスケジュールを冥夜に話す。

「おそらく白銀とケイイチさんがここに戻る頃には、もう俺達は向こうに帰っているだろう」
「じゃあ白銀中尉達とは、擦れ違いという事に?」

 武と別れの一言も交わせぬまま孝弘達が去ってしまう事実に、義を何より大事にする冥夜は後ろめたそうな顔をする。 だが孝弘は眼下に広がる荒野を見ながら、冥夜にこう言った。

「そんな顔をするなよ。 これが最後の別れって訳じゃないし、戻った後の任務については未だ聞かされてすらない」

 つまり戻った後に与えられるだろう任務の内容によっては、孝弘達が再びこの世界を訪れる可能性があるということだ。 電脳暦世界の国々がこちらへの進出を行おうとしている中、日本だけが何もせず指をくわえ見ている訳が無い。

「まあ、残りの時間で俺達が持つ技能全てを教える事は出来たから、それだけは満足かな。 御剣、白銀の事を頼んだぞ」
「はっ!」
「もしかするとアイツは、双方の世界にとって本当に“特別”な存在なのかもしれない。 これまでのことを考えると、本当にそう思えるよ・・・」

 そう呟いた孝弘は、廃墟の向こうに広がる海を名残惜しそうな表情で眺め続けていた。




2001年10月5日未明:苗村孝弘以下、機動自衛隊メンバー4名、電脳暦世界へ帰還。 以降は次の指令が下されるまで、富士駐屯地で待機となる。

10月6日:香月夕呼の元に、電脳暦世界に向かった武達から数式回収及び、ヴァルキリーズ全員分のメガドライヴの調達が完了したと報告が入る。 XG-70の横浜基地搬入完了。

同日:企業連、異世界への本格介入を開始。
 アラスカ、ユーコン基地で実施中の新型戦術機開発計画『プロミネンス計画』に、電脳暦世界由来の技術導入を提案。 兼ねてより電脳暦の技術を欲していた各国は、即答に近い形でこの案を受諾。 技術監修はエムロード社、バレーナ社が中心となって行う事が決定。
また基地にて日本帝国、米国共同の『XFJ計画』に対しては、キサラギ重工と有沢重工が優先的に協力すると発表。

同日:霜月菫、GR-01“カイゼル”のデータをケイイチの下へ転送。 帰還直前にVクリスタルを原料とするVフライホイールを搭載した“オリジナル・メガドライヴ”による、リバースコンバート試験を予定。



[2970] 第23話-前夜-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:13021c28
Date: 2009/12/25 22:33
・ 電脳暦世界 AM10:37パラオ共和国 国連軍ペリリュー島基地より東150キロ地点


雲一つ無い青空と、それに染まったかのような景色が広がるミクロネシアの海。 見渡す限りの“蒼”の中を、2機のVRが水しぶきを上げながら、追いつけ追い越せと言わんばかりの熾烈なデッドヒートを繰り広げている。
 前を行くのは武のテムジン747、だが今回は海上での空中戦と言う事でフレックス・アーマーを装着したF型となっている。
 刺々しいシルエットをした武のテムジンを追いかけるのは、これまた刺々しい機体デザインをした空中戦型VR、YZR-8000H マイザーイータだ。 濃紺に塗られた機体を操る対戦相手の傭兵、オッツダルヴァが武に対し罵る様に話しかける。

「ハッ! 噂を聞いて手合わせしてみれば、ただ逃げるだけの臆病者か!」
「っ! 誰が臆病だって・・・!」

 彼の言い分を否定するように、747Fの武装であるマルチ・アンカーMk2のビームバルカンを叩き込む武。 だがオッツダルヴァのマイザーはそれを軽やかに回避、反撃とばかりに装備するパワー・ランチャー“レブナント16”で牽制射撃を行う。
 高機動戦闘が主軸のマイザー、それも実戦経験が豊富な傭兵相手では流石の武も分が悪い。 だから彼は相手の挙動やクセ、ひいては相手の弱点を見抜こうと今まで回避一点張りの戦いを行っているのだ。 何時終わるとも知れない追いかけっこの中、遂に武はこの試合の決め手となる一筋の光明を見つける。

「(もしかしてこいつ、後ろは全く警戒していない・・・?)」

 VR同士の試合、“限定戦争”は1対1の真剣勝負が基本スタイルだ。 だが通常のスポーツ競技とは異なり、協力者による乱入や待ち伏せが発生するケースも珍しくない。
 幸いここは武にとってはホームと呼ぶべき場所なのでそういった可能性は低いが、オッツダルヴァはそれらを警戒すること無く、ひたすら目の前に居る自分を倒そうと夢中になっている事に武は気付いたのだ。

「(残り時間も少ない、一か八かやってみるか!)」

 武はスロットルを全開、747Fの機体が限界まで加速されて行く。 対するオッツダルヴァのマイザーも逃がさんとばかりにスピードを上げ、パワー・ランチャーの砲口を向けながら追いかける。 空中機動におけるテムジンとマイザーの速度の差は歴然であり、案の定直ぐに追いつかれてしまう。 

「悪いがこの勝負、俺がもらっ・・・ 何っ!?」

 照準が定まり、止めの一撃をお見舞いしようとトリガーを引こうとしたその瞬間、目の前に閃光。 そして、いつの間にか武のテムジンが視界から消えていた。 そして、焦りを隠せないオッツダルヴァの耳にロックオン警報。 後方には武のテムジンが、チャージが完了したマルチ・アンカーを構えていた。

「当たれっ!!」

 青白い拡散レーザーが、水の飛沫のようにマイザーに向けて放たれる。 後ろを全く警戒していなかったオッツダルヴァのマイザーは回避のタイミングを完全に失い、その一撃をモロに食らう羽目になる。 爆発と濛々と立ち込める煙、勝利を確信していた武だったが、思いもよらぬ通信が舞い込んでくる。

「ふっ、急減速を活用して俺の後ろを取るとはな・・・ だが起死回生の一撃も、この俺の前には役に立たなかったようだなぁ?」
「くっ! ここまでなのか・・・!」

 余裕が見えるオッツダルヴァの言葉に対し、敗北を覚悟する武。 だが決着をつけようと構えるマイザーに、ある異変が起こった。 マイザーの背面に存在するブースター、それが爆発音がしたと思ったらもくもくと黒煙を立ち上らせているのだ。
 そして先程の威勢は何処に消えたであろう、オッツダルヴァの焦りに満ちた声が聞こえて来た。

「くっ! 出力低下だと! 今の攻撃でメインブースターがイカれたのか・・・!」

 オッツダルヴァの言葉通り、彼のマイザーは見る見るうちにその高度を落として行く。 VRの力の源であるVコンバータ、そこから発生する過剰エネルギーを排出する機構“マインド・ブースター”が、先程の武の攻撃により破壊、または不調を来たしたのだろう。
 安全装置が働いた事でコンバータの出力が激減し、もはや地球の重力に抗えぬほど慣性制御機能が低下しているのだ。

「馬鹿な!? この俺が、こんな結果で負けるだと・・・! 認めん、絶対に認めんぞ・・・!」

 なおも高度を下げるマイザーから、オッツダルヴァの叫びが聞こえてくる。  VRが戦闘不能になったと見なされれば、それは即ち彼の負けとなる。 彼のマイザーの色と同じ青色の海へと墜落する様子を、武は追撃をする事無くそれを見届けていた。





マブラヴ –壊れかけたドアの向こう-
#23 前夜





・ AM11:06ペリリュー基地 第9ハンガー待機所


「いや~流石白銀君だ! 最近の強豪揃いの一人だった彼相手に、あんな方法で勝っちゃうなんて!」
「ただのまぐれですよ。 あそこで決着が付いていなかったら、あの時海に落ちていたのは俺の方でした・・・」
「まあ運も実力の内だと思って、素直に喜びなよ。 それに今回の賞金で、開発資金のノルマはめでたく達成されたんだからさ」

 試合が終えて武を待っていたのは、基地で試合を見ていた隊員達の笑顔と賞賛の嵐だった。 一躍スターとなった事で取材やらなにやらで揉みくちゃにされた後、武はハンガー待機室にてデブリーフィングをケイイチと行っていた。 何故白銀があのような試合に臨んだのか、それはメガドライヴや新型戦術機開発に必要な資金を確保するためであった。
 ダイモン戦役後、それまで“殺し合い”を見世物としていた限定戦争という存在は大きく変革を遂げ、かつて菫がしてくれた説明通り明確なルールとMARZによるジャッジが存在する。 その激しくも紳士的な戦いは、見る人々全てを魅了する。 そしてこれまで注目を浴び続けた武がその世界に足を踏み入れたとなれば、誰もが彼の活躍を見逃す筈は無かったのだ。

「今までの試合でトップクラスの相手達ともやり合えた訳だし、白銀君は相当強くなって来てるよ」
「そうですね。 ですがケイイチさん、まだ俺達にはやるべき事がありますよ」

 武の言葉に、ケイイチはそうだねと笑顔で答える。 武に挑んだ人物は先刻相手をしたオッツダルヴァのような傭兵だけではなく、文字通り世界各国からその挑戦状が叩き付けられた。 だが武が“バルジャーノン”で築き上げた対戦根性は半端ではなく、世界中のエース達と戦った事でその操縦テクニックは、向こうの世界に帰る前日となった今ではもはや別次元と呼べるレベルまでに昇華していた。 そしてその原動力は、あの世界で待っている純夏にある。
 どのような結果になろうと彼女に会い、自分の思いを伝える。 それが彼女に対する愛情なのか、それとも別の感情なのかは分からない。 ただ彼女に会わなければならないと言う事が、今の武を動かしているのだ。 デブリーフィングも一通り終ったので昼食に向おうとする武達の前に、ここまで走ってきたのか息も絶え絶えなフーリエが現われる。

「白銀さん! 霞さんが・・・!」
「どうしたフーリエ! まさか、霞に何かあったのか!?」

 彼女に何か大事があれば、夕呼に会わせる顔が無い。 武はケイイチと共に、フーリエが案内する場所へと走った。


「なあ、あの霞って子、シミュレータもこれが始めてだったよな?」
「ああ、その筈だが」
「じゃあ何でその子がエンジェランを使って、俺達2人を相手に引けを取らない戦いをしてるんだ?」
「俺が知るかよ・・・」

 そう言葉を交わした2人の国連軍パイロットは、シミュレータ越しに対峙する1機のVRを見つめる。 仮想空間に再現されたのは、ミクロネシアの海と少々の島々。 そんな常夏の雰囲気に似つかわしくないVRが、優雅に海上を浮遊している。
 TA-17B エンジェラン『化鳥』。 リリン・プラジナーの父であり、オーバーテクノロジー研究の神様とまで呼ばれた、プラジナー博士自ら生み出したVR『エンジェラン』と呼ばれる系列の一つである。
 本来エンジェラン系は遠距離からのサポートを行うのだが、この『化鳥』は近接戦闘能力を改善し、単独での戦闘もある程度対応する。 そしてそれを動かしているのは、紛れも無い霞だった。
「あれは・・・!」

 何時もより騒がしい食堂、そこに置かれた大型モニターに映し出される光景を目撃した武は、余りの衝撃に言葉を失った。 戦闘に関しては全くの素人である霞のエンジェランがフィールドを疾駆し、相手のボックスタイプ2機をいとも容易く翻弄しているからだ。
 エンジェランは装備する杖から氷で形成された竜を召還し、相手に向って体当たりを命じる。 そしてボックスが氷竜を回避した先に向けて、これまた杖から氷弾を放ち的確にヒットさせて行く。
 その光景は豪快さの欠片も無いが、堅実な最小限の動作で相手を追い詰める霞の戦闘スタイルは、別の意味においての美しさと怖さを感じさせる。

「ケイイチさん、何故霞がシミュレータに!?」
「ぼ、僕だって知らないよ・・・ フーリエ、社君に何があったんだい?」
「えっと、実はですね・・・」

 ひょっとしてケイイチの仕業かと思って彼に問いただそうとするも、当のケイイチもこの事態については知らないらしい。 ケイイチの言葉に促されて、フーリエがこれまでの経緯を武達に話し始めた。
 そもそもの発端は昼食前、霞がフーリエに告げたある一言が原因だった。 霞に感化されて注文するようになった鯖の味噌定食に、フーリエが持つ箸が触れようとした瞬間、霞がある頼みをしてきたのだ。

『自分も、VRに乗ってみたい・・・』

 武の今までの活躍に触発されたのだろうか、これまで物静かな面持ちで居た彼女がそんな発言をした事に、フーリエも驚いたと言う。 確かにVRの操縦自体は簡単なのだが、各パイロットの個性に合わせて最適化が施されていたり、乗り込む機体の系列によって操縦レスポンスが左右されたりする。
 それならばとフーリエは霞をシミュレータールームに案内し、動かす機体を自ら選択するように告げた。 そして霞がシミュレータで選択したのはエンジェラン、それもMARZといった一部の組織にしか配備されていない『化鳥』と呼ばれるタイプの機体だった。
 そして事もあろうにトレーニングに来たパイロットと鉢合わせしてそのまま模擬戦へとなだれ込み、現在の状況が出来上がってしまったという。

「一応基本操作は教えたんですけど、まさか霞さんがあそこまで動かせたなんて」
「同感だね。 それにあの動き、まるで・・・」
「人形か、機械みたいだ・・・」

 自分が思っている事を武が先に呟いた事に気付き、ケイイチは静かに頷く。 彼女もオルタネイティヴⅢの過程で生み出された存在、言わば生まれながらにして戦う事を宿命付けられているような物だ。 夕呼に出会うまでに刷り込まれただろう戦闘衝動が、今の彼女を動かしているのかもしれない。

「フーリエ、今の戦闘は記録に残るのかい?」
「えっ? はい、一応シミュレータ内のレコードには残りますけど」
「後でそれを回収して僕の方に持ってきてくれ、これは香月博士の良い手土産になりそうだ・・・」

 そうフーリエに告げたケイイチは、再び武と共にモニターを眺める。 モニターには依然として、2機のボックスを翻弄し続ける霞のエンジェランが映っていた。


・ PM11:30 ペリリュー基地 第9ハンガー


「(時間は間違ってないと思うけど、何処に居るんだ・・・?)」

 すっかり人気が無くなったハンガー街、その内の一つに忍び込むようにして入る影が一人。 あの後武は指定した時間にこのハンガーへ来るようにと言われ、こうしてコソ泥よろしく足を運んでいるのだ。

「まさか霞に、あんな才能があったなんて・・・」

照明も付いておらず真っ暗なハンガーの中で、昼の出来事を思い出した武が呟く。 霞の素性については夕呼から既に聞かされていたが、まさかあれ程の力を秘めていた事には武も素直に驚いていた。
 VRの原動力が人の精神力ならば、人の心を読めるほどのキャパシティを持つESP能力者、つまり霞ならばあれだけの芸当が出来ても不思議ではない。 そう武が納得していたその時、ハンガー内の照明が一斉に点灯する。
 眩しさの余り視界が白1色となり、次に武の視界に飛び込んできたのは、ハンガ
ーの中央に鎮座する1台のメガドライヴだった。

「待っていたよ白銀君!」
「ケイイチさん? それに、このメガドライヴは一体・・・?」

 同時にハンガー内のスピーカーからケイイチの声が流れ、反射的に武はハンガーの中を見回す。 すると案の定2階にある詰所から、インカムを装着したケイイチが姿を見せた。
「何って、君へのプレゼントさ。 香月博士のお使い完了記念って事でね」

 ケイイチの言葉に、武はもう一度目の前にあるメガドライヴをじっくりと眺める。 確かに見た目はヴァルキリーズ全員に用意されたドライヴと同じだが、その前面には人が乗れるよう戦術機の管制ユニットを模したコクピットブロックが存在している。 まるでVコンバータとコクピットブロックからなるVRの心臓部“CIS突入艇”と同じ構成なのだ。
 これに乗れと言うのかと武が思っていたその時、ケイイチから今度は直接声が掛かる。

「いいから、早くそれに乗ってみてくれよ! その“オリジナル・ドライヴ”の起動試験が、向こうに戻る僕らに残された最後の仕事だからさ!」
「オリジナルだって・・・? まさか、これは・・・!?」

 そう呟いた武は胸の鼓動が段々と強く、そして速くなっていく事に気付く。 そして彼の鼓動に答えるかのように、コクピットブロックのハッチが静かに開いた。 そのまま吸い寄せられるように中へと潜り込み、武はシートに身体を預ける。
 ハッチが閉じ、静寂と暗闇が武を包み込む。 そして各種計器が淡い光を放ち、Vフライホイールの駆動音と共にそれは始まった。


-  Reverse Convert Sequence -

Boot System… ok

V-Flywheel Access check… ok

Reverse Convert Sequence Loading… ok


GR-01 [Kaiser] Convert Ready?


 正面のモニターパネルに、次々に浮かび上がる文字の羅列。 最後のシステムの問いに、武は迷わずYESと答える。 そしてそれを見守るケイイチは、2つの世界の人型兵器が融合した新たなる存在が生み出される瞬間、この目でしかと見届けようと武が乗るドライヴを凝視していた。
 駆動音が一段と強くなり、慣性制御の力を得たドライヴがふわりと宙に浮き始める。 そしてある一定の高さに達した時、ドライヴとコクピットを中心に設計図らしき物がホログラフの様に映し出される。 その設計図からワイヤーフレームがせり出し、人型の形を作り出してゆく。

「この調子なら・・・いけるぞ!」

 リバース・コンバート。 VRの心臓部であるVコンバータに負荷を掛ける事で発動する、VRが生まれる為の儀式と言える実体化現象だ。 そしてメガドライヴの構造や原理は、Vコンバータとほぼ同じ。 ならばVフライホイールの材料にVクリスタル質を使用すれば、コンバータ同様にリバース・コンバートが出来るとケイイチは考えていたのだ。
 自分の仮説が正しかった事に、ケイイチは胸の高鳴りを抑える事が出来ない。 それは、ドライヴに乗り込んでいる武も同じだった。

「(この機体は、カイゼル!?)」

 コンバートの真っ只中、パネルに表示される機体の図面を見た武は思わず我が目を疑う。 それは元の世界で散々やり込んで来たゲーム『バルジャーノン』、その中でも特に彼が愛用していた機体その物だったからだ。 武が驚いている間にも、コンバートは少しずつ確実に進行する。
 虚ろなワイヤーフレームだった機影から、機体を構成するパーツが次々に実体化。 更に白一色だったパーツ達に色が付き、青と白を主軸としたカイゼルのカラーリングに染まる。

「さあ、最後の仕上げだよ」

 ケイイチの囁きと同時に、実体化したカイゼルのパーツがプラモデルよろしく次々に組みあがり、遂にカイゼルのリバース・コンバートが完了する。 出来上がったばかりの機体が重量感の欠片も無く、ふわりとハンガーに着地した。

Reverse Convert Sequence -
All Complete!

「(終わったのか・・・?)」

 コンバートの終了を告げるモニターを見た武は、安堵の溜め息と共にシートに体重を預ける。 ここを出れば、間違いなくあの見知ったデザインが等身大の姿で存在しているだろう。
 何故ケイイチがカイゼルの事を知っているのか、ここを出たら彼に聞く事が山ほどありそうだと思ったその時、突如として緊急事態を告げるサイレンが鳴り響く。

<国籍不明のVRが当基地に向けて接近中! 各員は速やかに持ち場についてください! 繰り返します・・・>

 既にデータリンクの接続が確立されているのか、カイゼルのコクピットに居る武の元にも通達が届く。 そして外に居るケイイチから指示が届く。 

「今直ぐに動けるのは君のカイゼルだけだ。 白銀君、先に行って不明機を足止めしてくれるかい?」
「了解! 言われなくてもそうしますよ!」

 基地の居住区には霞とフーリエが居る。 仮にも非合法組織やならず者までもVRを保有しているご時世、もし不明機がそうだとしたら彼女達も巻き込まれる危険がある。 ろくに調整もしないままのとんだ初陣だと思いながら、武はカイゼルを発進させた。


 星空が天に浮かぶ漆黒の海、その闇の中をそれと同じ色をしたVRが飛沫を上げながら水面を疾駆する。 星空のかすかな光に照らされた機影は、まるで時代劇か何かに出てくるような鎧武者の外見をしている。 その腰には1振りの日本刀を模した武器が装備されており、正に血に飢えた落ち武者に相応しい。
 第六工廠八式壱型『景清』。 それが武達の居るペリリュー基地を襲わんとしているVRの名。 それも洗練された近接戦闘能力を持つ“火”と呼ばれるタイプだ。 景清がこの基地を狙う目的は何か? 何故ここまでの接近を許してしまったのか?
 分からない事は山ほどあるが、唯一つだけ分かっているのはこいつを基地に行かせてはならないと言う事だ。 パラオの島々を抜け、ようやくペリリュー島の姿が見えようとした時、 景清に乗るパイロットの耳に敵の接近を告げる警報が入る。

「こちら白銀、不明機の存在を確認! 景清タイプです!」
『奴に接近戦は自殺行為だ! 中距離をキープして!』
「了解っ!」

 ケイイチのアドバイスに復唱した後、武はカイゼルの右手にあるスマートガンの銃口を、黒い景清に向ける。 機体自体もロクに調整も行っていない、言わば“箱出し”の状態。 唯一の武器であるスマートガンも、どのような性能を秘めているのか分かるはずも無かった。

「(それでもやるしかない。 信じてるぜ、カイゼル・・・)」

 操縦桿をグッと握り締め、新たな愛機が動いてくれる事を祈る武。 スマートガンの射程圏内まで後数秒、照準は依然として黒い景清を捕らえ続けている。

「(行けっ!!)」

 照準を再三確かめ、武はトリガーを引く。 プラズマ粒子で構成された弾丸がスマートガンから放たれ、真っ先に景清へと襲い掛かる。 だが次の瞬間、景清は武の予想を遥かに超えた行動を行う。
 カイゼルの射撃を確認後、景清は腰に備わった刀“焔乃剣”を抜く。 そして速度を維持したまま居合いの構えを見せ、すれ違い様にプラズマ弾を両断して見せたのだ。

「なっ・・・!?」

 その常識を大きく逸脱した景清の対応に、流石の武も度肝を抜かれる。 これが中継されていたのであれば、視聴率は沸騰した湯のように湧き上がっていた事だろう。 だが初段による迎撃が失敗した今、武には中距離を維持したまま戦うしか選択肢が存在していなかった。

「こいつ、あの時のマイザーより速い!」

 後退と牽制射撃を繰り返しながら、武は必死に目の前に迫る景清の対処法を模索する。 景清はかつて、平安時代末期に実在したと言う平家の武将“平景清”、その怨念を回収した第6プラントの技術者であるアイザーマン博士によって開発されたVRだ。
 VCa8年辺りにロールアウトして2年ばかり経過した現在でも運用している部隊は多くは無く、その詳しい性能や特性などは不明瞭な部分が多い。
 このまま悪戯に逃げ回っていたら確実に追い詰められてやられてしまう。 そう唇を噛み締めながら思っていたその時、武の脳裏に先程景清が見せた居合いの光景がフラッシュバックする。

「(あの剣捌きは、もしかして・・・!)」

 あの抜刀と居合いの構え、そして現在の立ち回り。 それは日本帝国軍の戦術機が見せる近接戦のそれとほぼ同一の物だ。
 先ほどから全周波数帯で呼び掛けを行っているが、黒い景清は一言もこちらに返答していない。 だが武にはその景清のパイロットが、向こうの世界の日本と縁がある人物だという事に気付いた。
 武も全周波数帯を使って、目の前に居る景清に向かって呼び掛けを試みる。

「景清のパイロット、聞えているんだろう!? 返事をしてくれ!」

 数度に渡る武の呼び掛けも聞えないように、景清はひたすら武のカイゼル目掛けてひたすらに斬りかかる。 一か八か、武は自分の推論を使って景清に向かって再度呼び掛けを試みた。

「あんたが見せた構えや立ち回り、俺は心当たりがある。 あんた、向こうの世界にある日本と関わりがあるのか?」

 その告げた瞬間、悪鬼が如く刀を振り回していた景清の手が止まる。 そして程なくして、武達に一通のテキストデータが送られる。 そのテキストには、非常に簡潔な文章で次のように書かれていた。

<白銀武との勝負を望む>


・ ペリリュー島 司令部


「不明機、依然として洋上で静止中。 武さんに攻撃をする気配はありません」
「マスター、一体あの景清の目的は何でしょうか・・・?」

 眠い目を擦りながら手伝っているフーリエと霞の報告を聞いた後、ケイイチは景清が送ったメッセージの真意を模索する。 景清の目的がこの基地の襲撃ではない事に多少安心はしたが、国際戦争公司に申請も届けない状態で勝負を挑むなど、いわばボランティア感覚で試合を行うようなものだ。

「(だけど、それが奴の目的だったとしたら・・・)」

 そう、あの景清は褒賞も名声も必要としていない。 ただ己の威信と誇り、信念をかけた戦いを武に望んでいるのかもしれない。 そう悟ったケイイチは、武のカイゼルに向けて回線を開く。

「この際だ白銀君、彼の願いを叶えてあげようよ」
『ケイイチさん、奴の言い分は信じられるんですか?』
「このまま断って暴れられたら困るしね。 それに、彼は確かな“武士道”の持ち主と見受ける。 僕らが勝てば、素直に引き下がってくれるさ」

 ケイイチの言い分と景清が依然として待っている事に、武はその願いを叶えようと決める。 射撃の構えを解き、スマートガンを近接格闘戦モードにシフト。 煌々と輝く青白いプラズマブレードが、スマートガンの銃身を包み込む。

「勝負は一対一、相手に決め手の一撃を加えた時点でそのものの勝利とする! そ
れで納得してくれるかい?」

 臨時の審判としてルールを告げるケイイチに対し、黒い景清から『了解した』とテキストで再び返事が来る。 そしてケイイチの号令が下り、カイゼルと景清はまるで磁石のように急接近。 互いの刃がかみ合い弾け合う度に、夜の海に稲妻のような閃光と轟音が鳴り響く。
 かれこれ時間にして5分弱続けているのだろうか、当事者である武にとってはそれが何倍もの長さに感じる。 だが彼は、それを苦痛とは感じていなかった。

「でえいっ!!」

 景清の斬撃を受け止め回避し、そして一撃を見舞うだけ、武の精神が研ぎ澄まされてゆく。

「そりゃあっ!!」

 正直、目の前に居る景清は強い。 今までの試合で戦ってきた各国兵士や傭兵よりも、数段上を行く程だ。
だが、今の武の目に恐れや焦りの色は無い。 『俺より強い奴に会いに行く』という、ゲーセンで培った概念、バルジャーノンをやっていた頃の楽しさが今の武を支配しているのだ。 もっとあの景清と戦っていたい、もっと激しく全ての者を魅了する戦いがしたい。
 そう武が思っていたその時、再び攻撃の手を止めた景清から、3度目のテキストメッセージが送られて来る。

<礼を言う、白銀武。 武運を祈る・・・>
「えっ・・・? あっ!」

 メッセージに目を通していた後、武の目に映ったのは景清の姿が、徐々に夜の闇へと溶けて行く光景だった。 そして微弱な放電を残して、景清の機体は完全にその姿を消す。 それを観察していたケイイチは、そのカラクリが何であるかを見抜く。

「光学迷彩!? フーリエ、各種索敵は!」
「駄目です! 景清の反応ロスト。 完全に見失いました・・・」

 “試合を中継し、観客を魅了させる”事が最優先される限定戦争の世界では、各種ステルス技術はほぼナンセンスな無用の長物と言って良い存在だ。 だが中にはアファームドJ(T)typeXやボックス“ユータ”のような、特殊作戦に参加する目的でステルス技術を盛り込まれ開発されたVRも存在する。
 あの黒い景清も、そのようにして作られたのだろうか。 だが、それを知る術はもう無い。 基地を襲う脅威が消えた事は確かだ。 ケイイチは警報解除を要請すると同時に霞に指示を出す。

「社君、白銀君を呼び戻してくれ」
「・・・分かりました」
「最後の最後で、後味の悪い勝負をしたね・・・」

 帰還する前夜に起こった小さな騒動はこうして幕を閉じ、カイゼルと共に基地へ戻った武を待っていたのは、再び歓声と祝福の嵐だった。
 そして完成した数式と少々の手土産と共に、武達はフーリエと基地の人々に見送られながら電脳暦世界を後にし、皆が待つ世界への帰路に付いた。


2001年10月7日:Vクリスタルを材料に用いたオリジナル・メガドライヴによる、GR-01“カイゼル”のリバース・コンバートに成功。 翌日8日未明、所属不明の景清『火』の基地襲撃に実戦投入。 交戦の後、景清は撤退。
 回収した数式データと各種備品を携え、武、霞、ケイイチの3名は同日中に電脳暦世界より帰還。


・ 夜明け前 太平洋某所


『どう? 上手く撒けた?』
「ああ。 しかしこの世界の技術は、つくづく驚かされるな」
『そのステルスシステムは河城技研が開発したばかりの自信作よ、効果は抜群だったでしょ?』

 北マリアナ諸島に浮かぶとある無人島。 ロクに人も寄り付かない島の上で膝を落として待機状態にある、あの黒い景清の姿があった。
 武のカイゼルとの一騎打ちの後、各種センサージャマーとセットになっている光学迷彩システムにより、この地まで撤収していたのだ。 そして通信モニターの向こうで微笑む秋月椿が、景清を今まで操っていた沙霧尚哉に話しかける。

『それで、菫のお気に入りの子はどうだった?』
「成長している、クーデターの時よりずっとな」

 そう答えながら、沙霧はクーデター戦で相対した緑色の機体を思い出す。 武の居場所に関しては彼の試合の中継を把握していたし、カイゼルに乗っているパイロットはあの時と声が同じだったため、特定は容易いものだった。
 だが乗っていた機体や条件が異なっていたにも関わらず、終始武に一太刀入れる事すら出来なかった。 それは武の成長の度合いが、自分の予想を遥かに超えていたのだと沙霧は悟る。

「彼なら、あの世界を変えられるかもしれんな・・・」

 自分はあの日本を変えることが出来なかったばかりか、逆に貶める様な行動を行ってしまった。 だが武なら、その力を持って正しき道を人々に示してくれるのかもしれない。

『他の人に見付かると厄介だわ、急いで戻ってきて!』
「そうだな、これより帰還する」

 椿に急かされ、景清が夜明け前の空に舞い上がる。 一度は生まれ育った国と世界を捨てた、憂国の烈士。 しかし現在は、帰る場所とそれを待つ人がいる。
 何時しか新たに守るべき者が出来ていた事に、沙霧は嬉しさで口元が緩む。 今の自分とこの表情を、彼女が見たら何と言うだろうか。

「(白銀、慧の事を頼む・・・)」

 この戦いが終わったら、何時か彼女に会いに行こう。 そう心に誓いながら、沙霧はペダルを全開に踏み込む。 新たな一日を告げる朝日が昇り、その光が朝瀬を跳ぶ景清の機体を優しく包み込んでいた。



[2970] 第24話-安息-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2010/01/01 23:35
・ 2001年10月9日 AM10:23 横浜基地 B19フロア 香月ラボ


「賽は投げられた、か・・・」

 昼か夜か、時間の感覚すら曖昧になる薄暗い研究室。 モニターの薄明かりに照らされた夕呼が呟いたのは、戻った武から数式を受け取り、彼らに00ユニットの事を伝えた後だった。 BETAに捕らわれ脳髄だけの姿となった、純夏の新たな器にして人類の切り札。
 その完成の目処が立った事で、夕呼は始めて武とケイイチにオルタネイティブⅣの全容を話したのだ。 数式の編纂と自分用に最適化するための作業で、彼女は現在まで寝ていない。 だが天才と称される夕呼と言えど、これ以上脳細胞を消耗させたくは無かった。 タイピングを止め、おもむろにデスクに上半身を預ける。

「私も馬鹿ね。 オカルト染みた研究は、向こうが上だって事を忘れてたわ・・・」

 そう再び呟きながら、夕呼はデスクの上に置かれているカプセル状の入れ物を虚ろな目で見つめる。 その中には淡い輝きを放つ、正八面体の結晶が収まっている。
 この世界を訪れる直前に武が月面遺跡“ムーンゲート”で発見し、そのまま肌身離さず持ち歩いていた小さなVクリスタル。 00ユニットの概要を聞き終えたケイイチは、それを活用して欲しいと夕呼に提案してきたのだ。
 Vクリスタルには活性化した時に周囲に居る人の精神力を吸収するという、所謂“バーチャロン現象”が存在する。 ただ武の持っていたこのクリスタルは純度が低く、それほどの現象を起こす事は無かったのだが、それでも武が興奮状態の時に彼の精神を逐一吸収していた事が、ケイイチの調査により明らかになった。

「つまり今のこれは、白銀の記憶が詰まった一種の『メモリー』。 あのメガネは、確かそう言っていたわね」

 Vクリスタルに封じ込められている武の記憶を用いて、00ユニットに移植された純夏の人格安定を行う。 何より00ユニットと同じく平行世界とリンクする能力を持つ、Vクリスタルを使わない手は無い。 そう思った瞬間、もう枯渇しきっていた筈のアイデアの泉が、再び湧き始めるのを夕呼は感じた。

「(白銀達はアタシに、希望と言う名の贈り物をくれた。 だから、アタシはアタシの成すべき事をするだけ。 そうよ、こんな所で立ち止まるような女じゃないでしょう!? 香月夕呼!!)」

 武達に託された希望の欠片を、ここで無駄にしてなるものか。 そう自分に渇を入れるように言い聞かせ、夕呼は根性と言う名のエネルギーを燃焼させ作業を再開した。


マブラヴ -壊れかけたドアの向こう-
#24 安息


・ 同時刻 横浜基地 第1演習場


「A03、エンゲージ! MD搭載型吹雪、2機確認!」
「02珠瀬! 狙撃位置にはもう移動した?」
「こちら02 移動完了、何時でも撃てます!」
「03! どっちでもいいから敵を誘い込んで! 敵を02の斜線上に誘導するのよ!」

 銃声と機械音、そして跳躍ユニットの轟音が鳴り止む事の無い演習場。 Aチームリーダーである菫が、ナンバー02の壬姫、そして03の光に矢継ぎ早に指示を出し、自身も乗機であるテムジン『霧積』でビル街から銃撃を繰り返すBチームの吹雪に対し牽制射撃を加える。 武とケイイチ、そして霞の3人が戻って早2日、ヴァルキリーズの207組はその帰りを祝う暇も無く、早速メガドライヴを搭載した吹雪による実機訓練を行っていた。
 戦術機の性能をVRと同等に引き上げる魔法の筒“メガドライヴ”。 その力を目の当たりにした彼女達は初めこそ動作はぎこちなかったが、今までのXMシリーズ開発の成果もあり、時間が経過するごとに見違えるほどの操縦テクニックを見せ付けていた。 そして光の誘いに乗ってしまった哀れな獲物が、珠瀬の射線上に入る。

「02今よ!」
「当たれっ!!」

 珠瀬機が手にする狙撃ライフルから、突撃砲とは比べ物にならない初速でペイント弾が放たれる。 緻密な照準と光による的確な追い込みにより、標的となった美琴の吹雪に見事命中した。  2人の連携が美味くいった事に、菫も舌を巻いた。

「ビューティホー・・・!」
「菫さん、今のは?」
「戯言なんか気にしないで前を見る! まだ戦闘は終わってないわよ!」
「はいっ!」

 まるで外人のような菫の褒め言葉に、壬姫は思わず首を傾げる。 だが今は訓練の最中、うかうかしていたら自分が敗因を作りかねない。
 後でこっそり聞いてみようと思いながら壬姫は片目を閉じ、新たな獲物を仕留めるべく照準のサイトを睨み付けた。


・ AM10:41 横浜基地 戦術機ハンガーエリア


「ん? どうしたの2人して、成果は上々だったじゃないの?」
「あの~菫さん、さっきの喋り方はなんだったんですか?」
「そうですよ、何か外人さんの真似っぽい感じでしたけど・・・?」

 演習の一回戦を終えて、テムジンの機体を降りた菫の元に真っ先にやって来た壬姫と光。 あの時菫が褒めた言葉の口調が、よほど気になって仕方なかったのだ。 それを知った菫は、ふと思い出し笑いを浮かべながら口を開いた。

「実はあの言葉はね、ある人の受け売りなのよ」
「受け売り、ですか?」
「休憩ついでに、少し私の昔話を聞いてくれる?」

 そこまで言われたからには聞かないわけには行かない。 壬姫と光の2人は、菫の体験談を聞くことにした。
 それは菫がケイイチの部隊に配属される前、電脳暦世界の横浜基地に居た2年ほど前に遡る。 ダイモン戦役の後、蘇った世界各国の軍隊が相互的に協力することで組織されている、電脳暦世界の国連軍。
 だが地域ごとにその規模や戦力はまちまちであり、特に兵士の錬度はほぼ雲泥の差と言って良いほどに開ききっていた有様だった。

「そこで各国軍に在籍している実戦経験や軍歴の長い人が、各地方から来た国連軍兵士に教練を施すシステムが導入されたの」
「それって、一種の交換留学みたいなものですか?」
「そんな所ね。 で、横浜に居た私は一人身でイギリス陸軍の特殊部隊、通称『SAS』の教えを請う事になったの」

 当時の菫はVRの技能は問題なかったのだが、陸戦における戦闘技能に関しては多少気がかりな部分が残っていた。 まだ人手が多いとは言えない国連軍では、VRパイロットでも生身の状態で警備任務に赴くことも少なくない。
 ましてやVRを脱出する状態に陥った場合、生き残るためには陸戦の技術や知識が求められるのだ。 壬姫と光は、訓練生の時にまりもから教わった知識や技能、そして総戦技演習の意味を改めて思い知る。
 そこで陸戦のスペシャリストと言える特殊部隊、それも世界各国に存在する特殊部隊のモデルとなったイギリスのSASに白羽の矢が立ち、菫は彼らに世界最強と謳われる職人技を直に教わる事になったのだ。

「その時の教官が、SASの一小隊長を勤める“キャプテン”ことプライス大尉よ」
「それ・・・神宮司中尉よりも厳しいんですか?」
「勿論よ。 とにかく訓練が厳しくてね、何度へこんだか分からないわ・・・」
「ひえ~・・・」

 当時の光景を思い出したのか、光の問いに菫は苦笑いを浮かべながら頷く。 特殊部隊だけあってその訓練カリキュラムは非常に厳しいものばかりであり、女性である菫に対しても容赦が無いものばかりだったと言う。
 菫の口から語られる数々の無いように、壬姫は思わず涙目で声を上げた。

「でもあなた達みたいに、一緒に過ごした仲間がいたから乗り切れたのかもしれないわね」

 プライスから叱責を貰う度に挫けそうになった菫であったが、一緒に教練を受けていたSASの新入り隊員であるソープ准尉(当時)の励ましもあり、彼との協力で訓練をこなす事が出来たのだった。

「菫さんが言った言葉は、その人達の受け売りなんですか?」
「残念だけどハズレ。 あの言葉は、訓練の最後に出会った人の、いわば口癖みたいな物ね」

 菫の話によるとあの喋り方は、訓練カリキュラムの最終段階の教官として出会ったプライスの師匠とも言うべき人物、マクミラン大尉の喋り方を真似たものだと言う。
 ギリースーツを纏って身を潜め、確実にターゲットを捌いていく彼の姿を目の当たりにした菫は、子供の頃見たテレビ番組の気ぐるみマスコットの事を思い出してしまったと、笑いながら壬姫と光に話した。

「大尉は狙撃と潜入のエキスパートでね、とにかく必要な時以外の会話をしないのよ」
「それで、いつの間にかその人の口癖が?」
「そうね。 今の私がここにいるのはあの人達に出会えたからなんだって、感じるようになったわ」

 武を導き、そして今まで支えてきた菫にも、過去に同様の事があった。 その事実を知った壬姫達は、まりもやみちる達ヴァルキリーズの先輩達の事を思い浮かべる。
 自分達も何時の日かヴァルキリーズの志を受け継ぎ、そうして後輩達を導き支える日が来るのだろうか。 そう2人が思っていたその時、ハンガー内にまりものアナウンスが響く。

<もう十分に休憩はしたな? 今度は私と大尉らも加わり、再度模擬戦闘を行う。 全機搭乗!>
「さあ、昔話はこれでおしまい。 次も全力で勝ちに行くわよ!」
「「はいっ!」」

 菫の激励に、壬姫と光は快活な声で答える。 そして菫のテムジンに続いて、2人の吹雪がメガドライヴの甲高い駆動音を轟かせて発進した。


・ 翌日 10月10日 PM2:07 横浜基地B19フロア 香月ラボ


「先生・・・このドアの向こうに、本当に純夏が居るんですね?」
「本当に居るかどうかは、自分の目で確かめなさい」
「はい・・・!」

 そう夕呼と軽く言葉を交わした後、武は彼女のラボからのみ行くことが出来る、あのシリンダーの部屋へと続くドアを開ける。 数式を持ち帰り、夕呼に渡した武に語られた真実。 やはりあのシリンダーに浮かぶ脳髄は、紛れも無くBETAの捕虜となった鑑純夏の成れの果てであった。
 そして今、00ユニットとして復活を遂げた純夏に会える。 圧縮空気が開放される音がした後、ドアが横へとスライドする。 1秒ほどで開ききるドアだったが、武にとってはその動作すら何十倍にも長く感じる。 青白く輝くシリンダーの前に国連軍の制服を着た、武が探し求めた少女の後ろ姿があった。

「純夏・・・?」

 胸の鼓動が更に速まるのを感じながら、武は恐る恐る声を掛ける。 擬似生体技術を総動員して夕呼が開発した00ユニットのボディは、端から見れば見紛うことなく人間のそれと同じだった。
 それは移植された純夏が自分の身体が生身のそれと違う事にギャップを感じ、彼女の精神が崩壊する事を防ぐためだ。 ドアが閉まると同時に、武の声を聞いた純夏がくるりと彼の方を振り返る。

「タケル・・・ちゃん?」

 やっと会えた、何度この時を待ちわびた事か。 だが武は緊張の余り、目の前に居る彼女に同言葉をかけてやればいいのか分からなかった。 その様子に気付いたのか、逆に純夏の方から話しかけてきた。

「まったく、タケルちゃんはとんだ恥ずかしがりやさんだな~!」
「う・・・うるせぇ! 俺がここまで来るのに、どれだけ苦労したと思ってんだ!」
「ふ~ん、どうせ夕呼先生に散々こき使われてきたんじゃないの~?」
「い、言わせておけば~!」

 純夏の挑発に乗っている内に、武は今までの緊張が嘘のように解けている事に気付く。 やはり自分には純夏の存在が必要なんだ、そうして純夏と何度も軽口を交わすごとに、武はそれを強く実感していた。 

「タケルちゃん、聞いてくれる? 私が、あんな姿になった理由を・・・」
「ああ・・・ 全部聞いてやる」

表情に陰りを見せながら、純夏は脳髄の姿になった経緯を武に話し始めた。

- この世界の武と過ごした日々の事 -
- BETAの横浜襲来と、この世界の武が自分を庇って死んだ事 -
- BETAに捕まり、あらゆる実験により散々弄ばれた事 -
- そしてその実験の果てに、脳髄だけの姿になってしまった事 -

 純夏が全てを語り終えた時、武は溢れる涙を止めることが出来なかった。 暮らしている世界は違えど、幼馴染があのような仕打ちを受けて動じない人間など存在する訳が無い。
 何より武は、そんな彼女の苦しみに、そして彼女の存在に気付いてやれなかった事を悔やみ、嗚咽を漏らし続けたのだ。
そんな武を純夏は責める事も無く、慰めている彼と同じく目に涙を浮かべながら話を続けた。

「この身体で目を覚ました時、『タケルちゃんを殺したBETAに復讐する』事だけ考えていた。 でも夕呼先生にこのクリスタルを渡された時、タケルちゃんの記憶が私の中に流れ込んで来て、そんな考えがふっと無くなっちゃったの」

 そう言いながら純夏は、夕呼から受け取ったVクリスタルが入ったカプセルを武に見せる。 そのクリスタルには、武の記憶とも言うべき残留思念が封じ込まれている。 そして夕呼やケイイチの予測通りに、純夏がそれをリーディングした事で彼女の人格が劇的に改善したのだ。

「私、全部知っちゃった。 タケルちゃんが前の世界で頑張ってた事、タケルちゃんが個々とは違う別の世界に飛ばされた事。
タケルちゃんが・・・今まで私を必死に探してくれて、私に会う為に頑張ってくれて・・・ だから、だからっ・・・!」
「純夏・・・」

 武を慰めていた筈なのに、何時の間にか純夏は泣きじゃくりながら武に自分の思いを伝える。 先程とはうって代わり純夏を慰めながら、武も思いの丈を口にした。

「俺さ、2つの世界を見て、いろんな人達に出会ってここまで来た」
「うん。 タケルちゃんがここまで頑張ってきたのは、私が知ってるよ」
「今になって思う、これは俺の人生に与えられた運命だって。 だから、俺はこれから自分に訪れる出来事全てを受け入れるって決めたんだ」

 “前の世界”の悲しき別れ、滅びの道を行く人類。 “電脳暦世界”の新たな出会い、異世界の介入。 そして“この世界”の純夏の真実と再開。 大きな力の中で振り回され、自分の力ではどうする事も出来ない。 だから武は目の前の事実から逃げず、全てを受け入れながら前に進む事にした。 そう彼に教えてくれた、一人の気高き女戦士のように。

「だからどんな世界にいようと、機械の身体になったって構わない。 俺はお前を愛している! 俺には純夏が・・・お前が必要なんだ!!」

 武の口から告げられる事実上の告白、それを聞いた純夏は再び大粒の涙を流す。 そして堰が切れて声を上げて無く純夏を武は力の限り抱きしめる。
 互いの存在を確認するように、もう二度と離れ離れにならないように・・・


2001年10月9日:00ユニット完成、XG-70のレストア完了。 香月夕呼、佐渡島ハイヴ攻略作戦案を国連総会に極秘で提出。 ヴァルキリーズ、シミュレーターによるハイヴ突入訓練開始。
 無人戦術機開発計画、F-108 レイピアをベースに行う事が決定。 データ収集機及び各種オプションの開発を開始。



・ 2001年 10月10日 12:30 横浜基地 屋上


「はい! タケルちゃん、あ~んして!」
「あ~ん・・・」

 今頃食堂が人でごった返しているであろう、横浜基地の昼下がり。 その屋上にて純夏から差し出された合成ウインナーを、大口を開けていた武はそれをほお張る。 奥歯で噛むごとに肉汁が口内に広がり、その味覚が舌を介して武の脳に伝達される。 そして武は、純夏の手料理の評価を、

「うん、美味いじゃないか」
「でしょ! 京塚のおばちゃんにお願いして、食堂の厨房で作ったんだよ!」

 武の評価が好評だった事に、純夏は満面の笑みを浮かべる。 純夏は朝一番に京塚に頼んで厨房を使わせてもらい、今武と共に食べている弁当を一生懸命に作っていたのだ。
 流石に材料は培養野菜と魚肉を元に作られた合成肉が主だが、京塚の指導と純夏の技量によってとてもそれらで作られているとは思えないほど武は感じたのだ。 

「こうしていると、皆でお弁当食べてた時を思い出すね」
「ああ。 今は忙しくて、皆でこうする事が出来ないのが残念だけどな」

 武の言葉に、純夏はうんと答えて頷く。 やっと純夏と再開出来たと思ったら、どう言う訳だか急に訓練の頻度が増えたのだ。 それに内容もハイヴ突入といった、よりBETAとの実戦に近いものばかりだった。 それに夕呼やケイイチも、なにやら忙しそうな雰囲気を醸し出している。
 オルタネイティヴⅣの中核となる存在である00ユニット、つまり純夏の完成によって計画は更なる段階へと進んでいのだろうか。 BETAとの決戦の日が近づいている事を薄々武が感じていた中、屋上に出るドアの隙間からいくつかの鋭い眼光が2人を覗いていた。

「白銀中尉、食堂に来ないと思ったら、こんなところで2人きりとは・・・」
「鑑純夏、彼女は一体何者なの・・・?」

 2人で昼食を楽しむ光景に対し、ドアの隙間からそれを覗く光と直美は嫉妬の念を抱く。 突如としてヴァルキリーズに編入し、現在進行形で武といちゃついている純夏に対して、嫉妬の炎をメラメラと燃やしているのだった。

「まあ、任務に支障が出ない程度にしてもらいたいけど」
「ふっ、自分もああして貰いたいくせに・・・」
「な、なんですって~!?」
「ちょっと千鶴さん、気付かれちゃうから騒がないでよ・・・!」

 それは元の世界ではクラスメイトだった千鶴達も例外ではなかったが、唯一冥夜だけが冷静だった。 
気付かれない程度に騒ぎ立てている他のメンバーを他所に、冥夜はハンガーでの武の話を思い出す。 彼にとっては異なるこの世界、自分を始め武の身近に居た人々が存在していたのに、唯一それを確認出来なかった人物がいると、武は最後に語っていた。

「(よかったな、タケル・・・)」

 彼が探していた想い人と再会した事に、冥夜は祝福の言葉を心の中で唱える。 このまま武は、自分達が踏み入れる事の出来ない領域へと行ってしまうのか。 そして何時か、元の世界に帰ってしまうのではないか。
 別れの日が確実に近づいている事を冥夜が感じていたその時、後ろから声が掛かる。

「あら? お昼も食べずに、皆してなにやってるの?」
「す・・・菫さん!? うわあっ!?」

 声がした方へ皆が振り向いた先には、この世界とは違うデザインの国連軍制服を身に纏った菫の姿。 それに気を取られ美琴が、誤ってバランスを崩して屋上へ続くドアに手をかけてしまった。

「バカ! ドアは完全に閉まってな・・・」

 千鶴が静止しようとするが、もう手遅れだった。 よろめいた美琴が全体重をドアに預けてしまい、更にそのドアは所謂“半開き”の状態。 そこに後ろ背にしていた慧、そして光と直美を巻き込んでドアが外に開いてしまった。 そして、ドアの外には・・・

「何やってるんだ? お前ら?」
「え・・・いや、あははは・・・」
「鎧衣、早くそこをどいて・・・」

 押入れにしまい損ねて、雪崩れ込んだ布団のような様相を呈しているドア付近。 そこで仰向けに倒れた慧に覆いかぶさっている美琴が、武と純夏に愛想笑いを浮かべる。 勿論、さっきから皆で武を覗いていたなんて本人に言える訳が無い。
 互いの間に漂う沈黙、それを打ち破ったのは他でもない菫だった。

「いやね、白銀君達が楽しそうにお弁当食べているって、柏木さんから聞いたのよ。 ねっ?」
「は、はい! 皆を連れてドアの前まで来たのは良かったんですが、出るに出られなくて・・・」

 ヴァルキリーズのメンバー中、場の空気を読む事に関しては天下一品の晴子。 そんな彼女を信じて菫はこの状況を打開する一言を放つ。 2人の掛け合いが功を奏したのか、純夏がタケルにこう言った。

「な~んだ、そうならそうだって言えばいいのにね。 ねぇタケルちゃん!」
「ああ、皆も昼食ってないんだろ? なら一緒に食べようぜ、純夏の奴多く作りすぎて困ってたんだ!」
「あ~! タケルちゃん『これくらいの量俺ひとりで平らげてやる!』って言ってたくせに、嘘付いたな~!」

 純夏の願いが一つ叶った事を嬉しく思いながら、武は誘いの言葉を冥夜達に掛ける。 元の世界で見慣れた、クラスメイト達との屋上での昼食。 武と純夏の目の前で蘇ろうとしている、皆と楽しく語り合った懐かしき日々。
 この時を大切にしようと思いながら、武は騒がしくも楽しいランチタイムの続きを満喫する事にした。


-あとがき-
『人と機械が融合した00ユニットは、新たな生命と呼べるのか・・・?』
どうもこんばんは、設定集買ってヒャッホイ読みながら年を越した麦穂です。 24話投稿しました。
今回は遂に純夏との再開。 シリアスなシーンを書く時は、いつも筆が遅くなるのは何故なのだろう?
そして菫の昔話にCoD4ネタが入っているのは、書いている時にプレイ動画を見たからに違いない。



[2970] 第25話-精錬-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2010/01/28 21:09
私が最初に知った感情、それは<恐怖>だった。
 それは私の生まれながらにして持つ能力で見ることが出来た、私と関わった全ての人が持っていた感情の“色”だった事。 その意味を理解したのは、その色を読み取ってから少し後の事だった。
 他人の思考を読む能力、それは普通の人達には夢のような力なのかもしれない。 他人の心を読み取る事で、つながりが消えてしまうのが私は怖かった。
 だけど、ESP能力者と知った上で私と出会い、恐怖の色を見せなかった人達も確かに居た。
一人は私を選んでくれた香月博士。
もう一人は異世界から来たサギサワ大尉と、異世界で出会ったフーリエさん。
そして、最後の一人は・・・


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#25 精錬


・ 2001年 10月10日 PM12:45 横浜基地 A-01専用ブリーフィングルーム


「・・・以上が香月博士と共同開発中の、無人戦術機の概要です。 使用機体の詳細は渡した書類に記載されていますので、各自確認してください」

 武達がのんきに屋上で昼食を楽しんでいた頃、ブリーフィングルームのデスクに座っているみちる達は、各々手に取った書類の内容を目でなぞって行く。
 衛士の犠牲を最小限に抑えつつ、戦闘の高効率化を目指すと言う戦術機の無人化計画。 厄介事が持ち込まれるのはヴァルキリーズの性か、みちるはふとそんな事を思い苦笑しながら、書類を読み続けた。
無人機のベースとなるのは、XG-70の護衛機として開発された戦術機F-108 “レイピア”だ。 XG-70同様、G弾の実用化により開発が中止されていたそれをオルタネイティヴ計画権限で接収し、現存している機体を元にデータ収集用の有人試作機を作り、その後無人機の量産を行うという。
 そんなケイイチの話に対し、真っ先に突っかかってきたのは他ならぬ水月であった。

「お言葉ですがサギサワ大尉、無人機なんて何の役にも立たないと思うのですが」
「ならば速瀬中尉、無人機が何故役に立たないか説明できますか?」
「うぐっ・・・! そ、それは・・・その~」
「ほう? 速瀬には少し難しい質問だったようだな」
「ぐぬぬ・・・!」

みちるに更に駄目だしされ、ぐうの音も出ない水月は小声で唸りながら黙り込む。 ケイイチが言うに無人機が役に立たないのは、搭載されるAIが人間のように柔軟な思考能力を持っていないからだという。
 つまり人間の衛士の場合は『与えられた任務に加え、その場に最適な行動や対応が出来る』のに対し、AIの場合は『与えられた命令をこなす』位しか出来ないのだ。 その無人による制御の限界、利便性や運用が疑問視され無人型の戦術機は普及していない。

「僕が考案する無人機システムは『ある程度の自律機動が行え、更に母機となる戦術機と連動して行動する』という具合です」
「つまり部隊連携の一端として、無人機を組み込むと言うわけですね?」
「ええ、反応速度はMX3用の演算装置で十分なパフォーマンスが得られますしね」

 遙の的を得た発言に、ケイイチは話を続ける。 通常は有人機部隊に追随し、戦術データリンクと連動した自律的な戦闘を行うというのが、ケイイチの思い描く無人機システムの概要だった。 一通り自己流の解釈を見出したところで、みちるは

「しかしサギサワ大尉、AIの思考パターンのモデルは誰になるのです?」
「AIに関しては、ヴァルキリーズ全員の戦闘データも勿論使用します。 後の基本となるAIパターンの開発は、社君からのデータ提供で作成する予定です」

 ケイイチの口から霞の名が出た瞬間、みちる達が驚きの声を上げる。 衛士でもない霞が無人機のデータ収集を行うなど無謀、いや愚行にも等しい。 流石の彼女もこれだけは我慢出来ないとばかりに、みちるは声を荒げてケイイチに講義した。

「ちょっと待ってくれサギサワ大尉! 彼女は衛士でもないし、ましてや戦術機にも乗った事が無いんだぞ!?」
「彼女はオルタネイティヴⅢで生み出された存在です。 香月博士の元に居なければ、いずれ彼女も衛士として戦っていたでしょう。 それに彼女もひょっとすると、白銀君と同じ才能を持っているかもしれません・・・」

 そう言うと同時にケイイチは電脳暦世界で霞が見せた、VR同士によるシミュレーター戦の映像をみちる達に見せる。 霞が操作するエンジェラン『化鳥』が敵VR2機を翻弄している光景、それは普段は物静かな梼子と美冴でさえも、目の色を変えてスクリーンを凝視させる程だった。

「これがあの子の能力って、冗談でしょ・・・!?」
「機動も照準も、なんて速さ・・・」

 あれほど異を唱えていた水月、そして何かと夕呼に、ひいては霞と接する事が多い遙も彼女が秘める能力に驚愕する。 ケイイチが言った武と同じ才能、だが霞のそれは彼のように熱く激しいものではなかった。
 相手を高速かつ的確に補足し、攻撃する際の躊躇いが一切無い。 そして相手を追撃も、慈悲の欠片すら見当たらなかった。 普段は感情を表に出さないだけに、その冷酷とも言える霞の戦いぶりにこの場に居る誰もが身震いする。

「『重力異常を起こすG弾に頼らず、BETAに有効な戦法を確立させる』 伊隅大尉、あなたはそう言いましたよね?」
「そうだ。 G弾の運用させない、つまりはオルタネイティヴⅤをさせない為に、地球上のBETAを駆逐する方法を世界に見せ付ける。 それが我々ヴァルキリーズの使命だ」
「ならばありとあらゆる手を使って、それを見出さなくてはならない。 そうでしょう?」
「それが例え、異世界由来の技術でも・・・」

 みちるの問いに、ケイイチは力強く頷く。 00ユニットやG弾も、元を辿ればBETA由来の技術を研究解析した結果誕生した物だ。 ならば銀鶏やカイゼルのように、電脳暦世界を初めとする異世界の技術を導入した機体が生み出された事も必然の様にみちる達は思えた。
 圧倒的な物量で迫るBETAに対抗するならば、我々人類は圧倒的な性能を持つ兵器を開発して立ち向かう。 00ユニットとメガドライヴは、それを実現できる一つの回答なのかもしれない。 だからこそそれらがBETAに対し有効である事を、自分達の手で世界に掲示しなければならないのだ。
 そして先程の映像を見て活気を取り戻したのか、水月が声を張り上げながらケイイチに言う。

「良いじゃない、その話乗ったわ!」
「ほぉ? 速瀬、さっきまで無人機は使えないと言っていた割には、随分乗り気じゃないか?」
「手柄を横取りされるのが、ちょっと癪ですけどね。 でも、これでBETAをぶっ潰せるのなら、何だってやってやりますよ!」

 みちるの横槍に、苦笑いを浮かべながら答える水月。 確実に近づきつつあるBETA反抗作戦、それに備えた彼女達の戦いは既に始まっていた。


・ PM6:47 横浜基地 地下90番ハンガー


「凄ぇ、横浜基地の地下にこんな空間が・・・」
「どう? 横浜基地最深、最大規模のハンガーの空気を吸った気分は?」
「機械油と鉄の臭い、ケイイチさんが好きな空気ですね」

 そう夕呼に言われた武は、自分が居るハンガーの巨大さに改めて息を呑む。 横浜に所属する者なら誰もがその存在を噂し、真偽無き情報に恐怖する幻の場所。 選ばれた者のみが足を踏み入れる事を許される聖域へ立ち入った事に、武は興奮冷めやらぬ状態だった。

「これに、純夏が乗るのか・・・?」
「そうよ。 あれが人類の切り札、XG-70。 改装後は『凄乃皇』と呼ぶことになったわ」

 夕呼が指差した先には、とりわけ巨大なハンガーの奥にこれまた巨大な機体が、神輿のように鎮座していた。 武御雷と同様に、古来より語られし日本の神の名が付けられたそれは、G段が実用化される以前に行われていた“HI-MAERF計画”と呼ばれる対BETA決戦兵器開発計画によって生み出された物だった。
 BETA由来の物質である、G元素を燃料に用いた抗重力発生装置“ムアコック・レヒテ機関”による慣性制御機動と、それによって発生する力場である “ラザフォード・フィールド”による防御力。 そして莫大な過剰出力を利用した荷電粒子砲による、在来兵器とは桁違いの火力を有している。
 これをもってHI-MAERF計画の基本コンセプトである『単独侵攻、単独制圧』という、夢のようなスペックを発揮する筈だった。

「まあ、ラザフォード場の制御不足による事故が相次いで、挙句にG弾が作られちゃった事で結果的にお蔵入りされちゃったけどね」
「それがどうして、こんな所で組み立てられてるんです?」
「00ユニットが完成したからに決まっているでしょ。 量子電導脳を持つ鑑なら、自分の身体のように扱えるわ」

 そう話している内に、見上げるほど近くまで凄乃皇に近づいた二人。 そして武は広大なハンガーの一角に、純白に色塗られた戦術機を見つける。 その傍らにはXG-70の専属スタッフと共に作業を行う、コバルトブルーのツナギを身に纏ったケイイチの姿があった。

「ケ、ケイイチさん!? それにその機体は、戦術機・・・なんですか?」
「ちょっとヤボ用でね、今から色々と説明するよ」
キリの良い所で作業を終わらせた後、軽快にタラップを降りて武と夕呼の元へ向うケイイチ。 凄乃皇もそうだが、武は彼が整備していた機体に激しく興味を抱いていた。
 兵器とは言い難いほどの“白”に満ちた機体のカラーリング。 吹雪のような流麗さと無骨さを併せ持つ骨格。 そして本来は兵装担架システムがある背中には、天使や神話の翼人を思わせる翼、それを模したようなパーツが備わっている。

「へぇ、もうここまで仕上げたの。 流石、時空を越えた整備士ってだけあるわね」
「こっちのメカニック達と仲良く慣れたお陰で、戦術機の構造について色々と教わりましたからね。 後は背中のフローターの調整が終われば、何時でも出せますよ」

 報告を織り交ぜながら、ケイイチはあの機体のデータが記載されているであろうクリップボードを夕呼に渡す。 武は2人の会話であの機体について何か分かるかもしれないと思ったが、そのような高望みは叶う筈も無かった。
 やはり正攻法で行くしかない、武はケイイチから直接聞き出すことにした。

「あの~ケイイチさん、結局あの機体は何なんです?」
「あはは、無視してごめん。 あれはF-108/ANG“エンジェリオ”、無人機データ収集用に開発された、メガドライヴ搭載型戦術機さ」
「無人機データ収集、それにメガドライヴ搭載機って・・・!」

純白のカラーリング通りの名前、そしてカイゼルと同じメガドライヴ搭載機だと分かり、武は更なる胸の高鳴りを感じる。 ケイイチは事情を知らない武の為に、無人機システムとこの機体の概要について説明を始めた。
 G弾の実用化によって中止されたHI-MAERF計画にて開発されていたのは、何もXG-70だけではない。 エンジェリオのベースとなった戦術機F-108“レイピア”も、XG-70の護衛機として開発され、XG-70と同時に開発が凍結されてしまうという悲しき運命を背負った機体だった。 だが00ユニットの完成、同時期に持ち上がった無人戦術機開発計画に伴い、そのベースとしてレイピアに白羽の矢が立ったのだ。
 凄乃皇という神の名前が付けられたXG-70、そしてそれを守護する機体であるとして“エンジェリオ”の機体名が与えられ、さらにデータ収集のモデルとして霞がこの機体に乗ると言う事実を知り、武は何かの宿命だろうかと感じてしまう。

「フローターが天使の羽っぽく見えるし、悪くないネーミングだと思うけどなぁ?」
「悪くは無いですけど・・・」

 そう言ってケイイチに苦笑いを浮かべながら、武は改めてエンジェリヲの機体を眺める。 恐らく背中のスラスターは、跳躍ユニットでは実現しきれない姿勢制御、つまり本来衛士ではない霞が戦術機を動かしやすいように設けられたのだろう。
 ましてやエンジェリオは、VRに凄乃皇、カイゼルと同じ慣性制御能力を持つメガドライヴ搭載機だ。 XMシリーズの完全版と言える専用OS“マスターシステム”ならば、旧来のそれと比べて遥かに操縦し易いだろう。
 出来る限り霞に負担を掛けたくはないというケイイチ達の心意気に、武は言葉に出さぬまま彼に感謝した。 そしてケイイチは凄乃皇のほうを向きながら、夕呼にとんでもない事を言ってきた。

「そうだ博士、凄乃皇の方も手を加えたいんですが。 やらせてもらえますか?」
「ん~・・・ やっても良いわよ」

 あの腰が重たい事で有名(?) な夕呼が即答した事に、それを目の当たりにした武は驚愕する。 だがそこは夕呼と言うべきか、凄乃皇の改装を許可する条件をケイイチに伝える。

「但し! あんた達の世界の技術詰め込みすぎて、原形留めない程の大改造をするのだけは止めて頂戴! 後、必ずその仕様を鑑と私に伝える事。 良いわね!?」
「イエス、マム!」

 早速XG-70のスタッフを招集するケイイチを見て、本当に承知したのかしらと夕呼の呟きを耳にした武であったが、後の火種になりそうなので聞かなかった事にする。 魔女の釜と呼ばれるこの横浜の地下深くで、反撃と言う名のスープが徐々に煮詰まり始めていた。


2001年 10月10日:F-108/ANG“エンジェリオ”ロールアウト。 社霞臨時曹長による、AIユニットのサンプリングを開始。
 ケイイチ、XG-70に対する、補助動力系統の新設及び小規模の武装化を夕呼に提案。 改装後はXG-70c“凄乃皇参型”と改名される予定。


・ 2001年10月11日 AM9:07 横浜基地 第1演習場


「システム、ブート完了。 メガドライヴ、正常稼働中。 エンジェリオ、起動しました」
『社臨時曹長へ、そのまま指示あるまで待機よ』
「・・・了解」

 菫からの指示に復唱し、初めて袖を通した専用強化服の着心地に戸惑いながらも、霞は網膜に投影される演習場の風景を眺める。 武達は何時もこのような殺風景な場所で、訓練を行っているのだろうか。
 そんな事を思い浮かべながらシートに霞が身体を預けていると、再び菫が今回のテストの概要について説明を始める。

『今回は当基地に所属する、衛士2人と模擬戦を行うわ。 使用機体はF-4J“撃震”、メガドライヴは搭載されていない通常の機体よ』
「はい・・・」

 霞に説明をして行く内に、菫はこの感覚がどこかで感じた事のあるものだなとデジャブを感じる。 ああそうだ、これは自分と会って間もない頃の武と同じだ。
 彼と出会い、彼を導き、そして彼は自分を追い越し、再会した純夏と共に遥かなる高みへと駆け上がろうとしている。 彼女もそうであって欲しいと願いながら、菫はインカムの向こう側にいるに霞へ言葉を送る。

『余り緊張しないで。 白銀君達の真似でもいいわ、思いっきり飛び回りなさい!』
「はいっ・・・!」

 彼女から少しだけ勇気を受け取り、霞を乗せた白き天使が横浜の空へ舞い上がった。


「俺は左から行く、ミハルは右を頼む!」
「了解だカイ! 新型だか何だか知らないが、叩きのめしてやろうよ!」

 模擬戦開始の合図と同時に、UNブルーに色塗られた撃震2機が演習場の廃墟を縫うように進む。 それを操る衛士2人は、武がいた“前の世界”にて彼らに突っかかってきた人物だ。
 この世界では今回に至るまで武らと面識が無かった彼らだったが、統合仮想情報演習システム、通称“JIVES”を用いた模擬戦には快く引き受けてくれた。 だから相手がルーキーであろうと新型だろうと、全力で相手をする。 カイとミハルの2人は模擬戦の前にそう心に決めていたのだ。
 そして、ほぼ同時に2機のセンサーが霞の機体を補足する。

「捕らえた! ミハル、仕掛けるタイミングを合わせろよ!」
「そっちこそ、ヘマしないでよ。 カイ!」

 カイとミハルは訓練生時代からの付き合い。 それだけに衛士として互いの癖は全て知り尽くしていると言ってよい。 こうして軽口を交わせながら攻撃を仕掛けられるのも、2人の間に強固な信頼関係が成り立っているからなのだ。 水平跳躍から歩行に切り替え、街路に建ち並ぶ廃ビルを背にしながら徐々に接近する。
 霞の機体は現在カイの撃震が背にしている廃ビル、そこを曲がった主街路に居る。 反対側に位置しているミハルも、同じように突撃砲を構えながら攻撃のタイミングを伺っている。
チャンスは一度、攻撃のタイミングは2人同時。 それを逃せば自分かミハル、どちらかが撃墜される。 手に汗握る緊張感、それで居て心地よい感覚を2人は感じる。 そして・・・

「いくぞっ!!」
「喰らえっ!!」

 そしてほぼ同時のタイミングで、ビルから機体を乗り出す2機の撃震。 だが同時に2人を待っていたのは、地獄の穴のように見える銃口が、こちらを向いている光景だった。 そして間髪入れず、ロックオンアラートがカイとミハルの耳に入る。

「何っ!?」
「ちっ・・・!」

 長年に渡る衛士の本能がさせたのか。 2人は即座に機体を廃ビルの陰に戻し、そして安全圏まで退避させる。 相手が発砲しなかったのは、初心者ゆえのミスか、それとも引き金が引けないと言う甘さが残っていたのだろうか。

「どういう事だカイ! 私達のタイミングは完璧だった筈なのに!」
「俺が知るか! だがあそこで奴がトリガーを引いていたら、俺達は今頃蜂の巣だったぜ」

 だがあそこで撃たれていたら、自分達は確実に撃破され敗北していただろう。 体温調節が効いているはずの強化服を着用していても、カイとミハルは寒気を感じずにはいられなかった。

「こういう時は慌てたら負けだ! 一度体勢を立て直してもう一度・・・」
「カイ! レーダーを見ろ!」

 切羽詰ったミハルの声に押され、網膜に映し出されるレーダーを見たカイの顔が青ざめる。 敵を表す赤い光点が、尋常ではない速度で此方に近付いてくる。
 そしてカイとミハルの耳に再び、あの忌わしい警告音が届いた。


「撃震2機、また二手に分かれました」
『二兎を得て一兎も得ずよ。 まずは狙いを片方に絞って!』

 ここまでは上手く行っている。 そう思いながら霞は菫の指示通り、2機いる撃震の内の片割れ、ミハルが乗る機体を標的に定める。 あの時、カイとミハルの撃震の挟み撃ちを予測出来たのは、霞が他人の心に介入出来るESP能力が備わっていたからに他ならない。 そして迎撃に成功し、トリガーを引かなかったのも、短時間で模擬戦が終わってしまうことを防ぐ為だった。
 結果的に彼らを挑発してしまった事になってしまったが、むしろ本気になってくれた方が好都合だ。 カイゼルと同様にメガドライヴを搭載しているエンジェリオ、その性能をもってすれば第1世代機が徒党を組んできたとしても血祭りに上げられるだろう。
 だが霞の目的は、カイとミハルの2人に勝利する事ではない。 彼らと戦う事で機動や回避、攻撃の特性をAIに自らの手で覚えこませなくてはならない。 だからこそもっと彼らを追い掛け、追い詰め、足掻いた末に見える高みへと辿り着かなくてはならない。
 右手に専用武装として用意された、88ミリビームガンポッド『ラッシュアワー』、そして左腕には87式突撃砲を構えながらミハルの撃震に迫る。

「く・・・来るなぁーっ!!」

 いくら逃げても、霞のエンジェリオは執拗に追いかけて来る。 その恐怖に耐えられなくなり、ミハルは36ミリを浴びせ掛ける。 だがいくらトリガーを引き続けていても、シミュレーターで再現された仮想の弾丸は一発も命中する事は無かった。
「どうして、どうして当たらない!?」
まるで此方の動きを読まれているようだ、霞からの反撃を必死に回避しながらミハルは思う。 そして彼女の言うとおり、霞はリーディングによってミハルの射撃を見切っていた。
 そしてそれを的確に回避出来たのは、エンジェリオの背中に装着された“イナーシャル・フローター”がもたらす驚異的な運動性の恩恵によるものだった。

「(フローター正常稼動中、ラザフォード・フィールド安定度許容範囲内)」

 計器に表示された情報を暗唱しながら、霞は目の前で突撃砲を放ってくるミハル機に集中する。 エンジェリオの専用装備としてケイイチが開発したイナーシャル・フローターは、XG-70の動力源であるML機関、その燃料として使われるG元素“グレイ・イレブン”を用いた簡易ラザフォード・フィールド発生装置だ。
ML機関のようにG元素を直接反応させず、通常は結晶体であるそれを触媒として用い、メガドライヴとの共鳴作用により始めて動作する。
 無論簡易の肩書きがあるとおり、ML機関のそれと比べると発生するラザフォード・フィールドの強度はそれ程ではない。 だが、姿勢制御として用いるには十分すぎる出力を有している。
 そしてマスターシステムの操縦性。 ミハルの反撃を回避して行く内に、霞はあの時のシミュレータに乗った時以上の一体感を感じていた。

「くそおぉっ!!」

 これは夢だ、何かの悪い夢だ。 そう言い聞かせながらミハルは、37式のトリガーを引き続ける。 目の前に迫る白い機体はこちらの攻撃を一方的に、しかも嘲笑うかのように回避し続ける。 そして向こうの攻撃は、まるで予知でもしているかのように先回りされ正確無比な射撃を当てて追い詰めてくるのだ。
 これを悪夢と言わずどう例えればいいのか、ミハルは分からぬままひたすらに撃ちまくった。

「こうなったら近接戦だ。 サポートは任せたよカイ!」
「おうよ! こう言う時は臆病な方が丁度良いぜ!」

 もう奴に射撃は通用しない。 そう悟ったミハルはカイに援護を頼み、自身は長刀による近接攻撃を仕掛ける。 それを見た霞は、インカムで菫に報告を行う。

「エネミー02、近接格闘戦に移行。 エネミー01は後方から支援を行うようです」
『ようやく本気になったわね、01の位置に気を配って!』
「はい!」

 リーディングが出来るのは1人まで、多人数のリーディングを行おうものなら例えESP能力者でも精神に悪影響が出てしまう。 そのような状態でミハル機の近接攻撃を如何にかしながら、後ろで突撃砲を構えるカイ機をも相手にしなくてはならない。
 霞は左手の突撃砲を手放し、担架システムの機能も有しているイナーシャル・フローターの収納スペースから折り畳み式のソニックブレードを取り出して、ミハル機の突貫に供える。
 そして細めの路地からミハルの撃震が飛び出し、予想通りと言うべきか長刀を振りかぶってエンジェリオに向って突っ込んで来た。

「うわあああああっ!!」

 そのミハルの雄叫びに、思わず霞はその闘志に圧倒されそうになる。 だが、彼女は屈するわけには行かない。 武のように強くなりたい、純夏のような快活さが欲しい。 そしてこのエンジェリオと共に、出来る事なら彼らと共に戦いたい。 霞はその目標の始点に立ったばかりなのだ。

「(だから、だから私は・・・!)」

 右手にガンポッド、左手にソニックブレードを構える霞。 超振動によって対象を破断するブレードの刃はJIVESで再現されており、ミハルからはまるで蜃気楼の様に見えているだろう。 跳躍ユニットからロケットブースターの炎を輝かせ、ミハルの撃震が目と鼻の先まで近づいてくる。
 そして近くにはカイの撃震も、狙撃のチャンスを伺っているはずだ。 霞はミハルの撃震に全神経を集中させる。

「だああああっ!!」
「っ・・・!」

 吶喊時の加速と共に振り下ろされる撃震の長刀。 それを霞はソニックブレードで弾き、反対にブレードで胸部を水平に薙ぎ払った。 網膜に映し出されたミハルの撃震は、『コクピット被弾、大破』の判定を受けて沈黙する。 だがこれで終りでない事は、霞は十分承知していた。

「くっ、よくもミハルを!」

 相方を撃破されて冷静でいられるほど、カイは出来てはいなかった。 突撃砲を放ちながら、霞のエンジェリオに捨て身の突撃を敢行する。 霞はガンポッドの照準を撃震に合わせ、無言のままトリガーを引いた。


・ PM12:37 横浜基地 PX


「いや~まいったね! まさか副司令にくっ付いている子が、あれを動かしていたなんて」
「ねえ、何処で戦術機の操縦を教わったんだい? やっぱり副司令から?」

 多くの将兵で賑わう食堂のテーブルの一角に、あの模擬戦で戦ったカイとミハル、霞と両者のオペレーターを勤めた菫が、笑顔を交えながらランチタイムを楽しんでいた。 あの後白い機体、エンジェリオを操っていた霞と対面した時、カイとミハルは驚愕するしかなかった。
 だが副司令である夕呼は自他共に“魔女”と呼ばれている。 そんな彼女が保護者なのだろうから、霞も唯ならぬ人物である事に違いないと2人は思った。 そして菫が無人機開発の剣に付いて話すと、カイはなるほどと悟ったような顔を見せながら口を開いた。

「そうか、俺達もBETAと戦う為の手助けになったって事か・・・」
「ですが今回だけではデータは十分なものにはなりません。 実機、シミュレータ問わず、AIのモデルとなる社さんの戦闘データがもっと必要なんです」

 菫の言葉に、カイとミハルの2人は互いに見合わせた後同時に頷く。 彼らも詳しい事までは知らないが、特殊部隊であるヴァルキリーズが数多くの過酷な任務を遂行している事は理解しているつもりだ。 その目的はBETAの駆逐、ひいては人類の勝利に繋がる。
 自分達もそれを目指して国連軍に入隊した。 だが刻々と悪化するBETAとの戦いに、絶望と憤りがこみ上げて来たのだ。 どうせ自分達の力では如何する事も出来ない、人類の勝利など蝦夷らごとに過ぎない。 武が前の世界で経験した出来事とは彼らの鬱憤が限界に達し、そのはけ口を特別扱いされる207Bの訓練生を相手に求めた結果だったのだ。

「もし俺達で良ければ、データ集め手伝うぜ」
「本当ですか・・・!?」
「ああ。 ヴァルキリーズのお譲ちゃん達ほどじゃないけど、今回見たいなヘマは見せないつもりさ」

 恐る恐る尋ねる霞に対し、ミハルは微笑みながら頷く。 一度は諦め掛けた、人類の勝利という夢。 それをこのような形で叶えられる事が2人にとっても予想外の事だったのだ。
 後は夕呼達がOKを出せば、2人の協力によってデータ集めが大いに捗るだろう。
思いもよらない人物が味方になってくれた事を武が知ったら、一体彼はどんな顔をするだろうか。 霞と菫は楽しみで仕方なかった。

2001年 10月11日:F-108/ANG エンジェリオによる無人機データの蒐集開始。 また模擬戦闘に参加した衛士2名が協力を上申、香月夕呼により受理される。
 またエンジェリオを元に無人戦術機の機体開発開始。 生産は電脳暦世界で行われ、各戦術機メーカの技術者達が監修の為に現地入りする予定。





-あとがき-
『正に、鬼神の如しだな・・・』
 委員長の声の人が「スクライド」のシェリスの声を演じてた事に驚き、更に「ガン×ソード」にてその人が演じるキャラが、武ちゃんボイスの子を(性的な意味で)喰っていた事に更に驚いた事がある麦穂です。25話投稿しました。

 今回は無人機システムの開発話、無人機が否定される理由は『やはり人間の思考を持たない故に、的確な状況判断が行えない』という理由に尽きると想うのです。
「戦闘妖精雪風(OVA版最終話)」のフリップナイトや、「グラディウス」、「R-TYPE」におけるオプション、フォース&ビットデバイスのように、有人機を追随しその支援を行うと言うのが、私の思い描く無人戦術機のスタイルです。

 そしてAIのサンプルとなる霞と、データ収集機のエンジェリオの模擬戦。 機体のモチーフはかつてテックジャイアンに連載されていた『ASSAULT ARMOROID Angelio』の後半に登場する主人公機がモチーフになっています。(原作の機体名は”オ”じゃなくて”ヲ”です!)

 そして模擬戦の相手となる、カイとミハル。 ULでもALでも不憫な扱いだった彼らを、どうにかしてプラス面に持って行きたい! と言うわけで、本SSでは衛士として、データ収集の協力者として登場させました。 この2人も沙霧同様、今後もちょくちょく出す予定です。



[2970] 第26話-銑鉄作戦(前夜編)-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:1d011025
Date: 2021/10/30 20:51
・ 2001年10月15日 AM9:10横浜基地 A-01専用ブリーフィングルーム


「おはよう。 さて、朝一で皆に伝えなければならない事がある」

 もうすっかり馴染んだA-01の朝礼、そこで武はみちるのこれまでに無い真剣な表情を目にする。 隣にいる純夏を初め、ヴァルキリーズのメンバーも何事かとみちるに視線を集める。

「本日未明、国連第11軍司令部より極東国連軍全軍に対し、佐渡島ハイヴ制圧作戦が発令された」
「「「「・・・っ!?」」」」

 みちるの言葉を聞いた瞬間、全員に緊張と戦慄が走る。 遂に来るところまで来たのか、武はそう感じながら、皆と共にみちるの説明を聞き続ける。 話によれば無論この知らせは帝国軍側にも通達されており、国連主導の元ハイヴ攻略を行うと言うバンクーバー協定に基づいた、国連軍と帝国軍との共同作戦となる。
 そしてオルタネイティヴⅣ直属の特殊部隊であるヴァルキリーズ、それに所属している武達にはハイヴを攻略する以外に、更なる任務が課せられることになる。

「佐渡島でうようよしているBETAの大半は帝国軍に任せるとして・・・ アンタ達には00ユニット、つまり鑑と彼女が乗る機体を守る事にあるわ。 と言うよりもこの作戦自体、今まで開発された新型兵器の見本市になると言っても過言じゃないのよ」

 そしてみちるに引き続き、夕呼自らその説明が始まった。


マブラヴ -壊れかけたドアの向こう-
#25 銑鉄作戦(前夜編)


 戦術機の性能を底上げするXMシリーズ、異世界の兵器であるVRと戦術機のハイブリッド機であるカイゼル、そしてその申し子と言えるメガドライヴとマスターシステム。 異世界の技術を導入した兵器達が、果たして実戦に耐えうることが出来るのか?
 オルタネイティヴⅤやその他の対抗勢力に見せ付けるための意味合いも込め、そのテストが佐渡島を舞台に大々的に行われる。 そして、その中核を担う兵器の画像がスクリーンに投影された時、それを既に知っている純夏や武意外は例外なく驚愕の声を上げた。

「まず1つ目が、鑑が乗る事になる機動要塞XG-70c“凄乃皇参型”よ。 元々こいつはXG-70b“凄乃皇弐型”として改修が行われてたけど、電脳暦世界の技術で更に強化されたわ」

 ここで武は、ケイイチの姿が見当たらない事に気付く。 恐らく今も地下の90番ハンガーでカイゼルや凄乃皇、エンジェリオの整備をぶっ通しで行っているのだろう。 基本的な凄乃皇のスペックに続き、夕呼は凄乃皇参型で新たに追加された機能について説明を始めた。

「サギサワ大尉からの提案で本来の動力源であるML機関に加え、補助動力源として対消滅炉“PCエンジン”とメガドライヴがセットで搭載されたわ。 これで万一ML機関が動作不良に陥っても、最低限の移動出来るようになったって事ね」

 これの搭載を提案したケイイチから聞いた所よると、電脳暦世界で宇宙艦船用の動力機関として開発された動力機関らしく、名前にあるPCとは『陽電子と原子核の外にある電子の衝突』つまりは対消滅の事を指しているらしいと、夕呼は皆に説明した。
 武にはその名前が、元の世界にて尊人から聞いた話にそんな名前があったような気がしたが、今は大事なブリーフィングの最中なので忘れる事にした。

「次に近接防御用の武装として、120ミリ電磁投射砲を2門搭載しているわ」

 スクリーンに映し出される凄乃皇の巨大な機体、その両脇にある2つの砲が強調されて表示される。 これは元々“試製99型電磁投射砲”として帝国軍に技術提供を行っていた武装であり、そのコアユニットや一部の構造材にはG元素が使われているという。
 それをG元素によって動く凄乃皇に搭載するのは、当然の帰結なのかもしれないと武は思った。

「凄乃皇の説明はこれ位で良いわね? 次はこいつよ」

 凄乃皇に代わってスクリーンに映し出されたのは、対物ライフルのような火砲。 だがそのサイズは、人間ではなく戦術機が扱う事を想定した大きさだ。 そして武は、その巨砲に見覚えが有った。

「“試作型1200ミリ超水平線砲”、ハイヴに対する砲狙撃用に開発された特殊兵器よ。 本来はお蔵入りしていた武装だったけど、在庫処分ってことで使う事にしたわ」

 それは紛れも無く前の世界で武が見た、壬姫によるHSST狙撃で使われた物だった。 この世界でも存在しているとは思っていたが、まさかこんな形で使うとは思っても見なかったのだ。 そして夕呼は、この砲にまつわる小話を始めた。

「とはいえ、今までホコリかぶったままでいたこいつを、そのまま使うわけじゃない。 サギサワ大尉を介して、向こうの世界の企業達にこいつの強化案を模索してもらっているわ」

 あのプライドの高い夕呼が、自ら電脳暦世界の協力を要請した事に、武は正直驚いた。 いや、これ位しないと本当にBETAに勝つことが出来ないのだろう。 それに電脳暦世界はこの世界と比べ物にならない工業力と資源を持ち合わせている、それを最大限に利用しない手はないと夕呼は考えたのだろう。
 その超水平線砲の強化に関しては、有沢重工、レインメタル社、オットー・メララ社、ボフォーヌ社等、電脳暦世界で火砲開発に定評のある企業達が行っていると言う。

「その中でも有力な案が、強化した砲身部分に電磁気による加速機構を組み込むって話よ。 これで3発程度だった銃身の耐久性を克服すると共に、威力の増強も行えるって訳」

 更にスケールダウンした量産型を各戦術機母艦に搭載し、上陸時にはレーザー種に対し全くの無防備となってしまう弱点を補っている。 国連軍だけではなく帝国軍をも巻き込む、正にこの作戦が新兵器の見本市である事を物語っていた。

「まあ午後に改めて説明するから、今は忘れて訓練に専念して頂戴」
夕呼の能天気な言葉に、大丈夫なのかと誰もが疑問に思ってしまう。 だが武は、彼女が伊達や酔狂でそういう事を言う人間でないのは十分承知していた。 

「副司令の言うとおりだ、朝のブリーフィングはここまで。 各自所定の時間にシミュレータールームに集合!」
「「「了解っ!!」」」

 伊隅の締めの言葉と指示の後、全員の復唱が部屋に木霊する。 誰もが待ちに待った佐渡島の奪還、人類の勝利に繋がる戦い。 その為の歯車がようやく音を立てて回り始めた事を武は強く感じながら、純夏や仲間達共に部屋を後にした。


2001年10月15日:国連第11軍司令部より、極東国連軍全軍に対し佐渡島ハイヴ攻略作戦発令。 作戦決行は10月22日の予定。
 香月夕呼、電脳暦世界の企業に、1200ミリOTHキャノンの強化及び量産型の生産を要請。 各企業は全力を持ってこれにあたり、ダウンスケール版の量産が急ピッチで進む。

2001年10月16日:無人戦術機F-108/Kn“レイピアナイト”ロールアウト。 有人機仕様にした2機が横浜基地に先行導入され、エンジェリオとの最終テストを開始。


・ 2001年10月17日 AM11:07 横浜基地最深部 90番ハンガ-ゲート前


「ほら武ちゃん! 早く早く~!」
「(純夏の奴、00ユニットの身体を手に入れて更に凶暴になってないか?)」

 疲労の色を見せず通路の先を進む純夏に、午前中の訓練を終えて体力の消耗極まる武はそんな事を考える。 まあ彼女に振り回されるのは今に始まった事ではないし、こんなことを口にしたら彼女の鉄拳が飛んでくるので黙って付いていく事にした。
 そうして辿り着いた90番ハンガーの前、本来ならば厳重なセキュリティが掛けられている筈のゲートが、純夏が端末に手をかざした途端あっさりと開いてしまった。 それは純夏の魂が封じ込められた00ユニットの心臓部、平行世界レベルでの演算を可能とする量子電導脳の驚異的な能力によるものだ。
 さらに武が発見した小さなVクリスタルがメモリーとして機能し、その負担を軽減している。 彼女にとって電子ロックを解除する事は、武の両親から貰った合鍵で彼の家に入る事と同じ位雑作も無い行動なのだ。 そうして入ってきた2人に気付いた夕呼とケイイチが、武と純夏の元へ足早に近付く。

「随分グロッキーねぇ白銀。 移動前最後の訓練だけあって、伊隅の指導はさぞ厳しかったんでしょうね?」
「いいえ夕呼先生! タケルちゃんは、この位でダウンするような男じゃないです!」
「あははっ、鑑君の言うとおりだね。 さあ、色々と説明した事があるから付いて来て」

 夕呼とケイイチの後を追い、改修を終えた凄乃皇参型の前へ行く武と純夏。 相変わらずの巨体を見せ付けるその両端に、先日の説明にあった120ミリ電磁投射砲が装着されていた。 更にその傍には一回りほど野太い銃身を備えた、改良型1200ミリOTHキャノンの姿があった。

「そういえば、エンジェリオの機体が見当たりませんね、俺達とすれ違いですか?」
「ええ。 社は演習場でテストを行っているわ、新型に乗れてはしゃいでいるお2人さんと一緒にね」

 ハンガーの天上を指差しながら、夕呼がエンジェリオの行方について語る。 つい先日に量産型エンジェリオと言えるF-108/Kn“レイピアナイト”が完成し、その有人仕様機を電脳暦世界から先行して送ってもらったのだ。
 有人機として調整された2機のレイピアナイトには、無人機開発に協力しているカイとミハルが搭乗する事となり、早速実機による性能テストを行っている。 そしてOTHキャノンの量産型も、向こうの世界で24時間体制の量産が行われていると夕呼とケイイチは説明した。

「本当、余裕しゃくしゃくよねぇ・・・」
「これも僕らの意地って奴ですよ、『BETAを倒す』と言う意味では、オルタネイティヴⅤの連中も同じでしょうがね」

 軌道上に建設中の宇宙船で脱出し、ありったけのG弾を用いてBETAを殲滅する。 それがオルタネイティヴⅤ派の人間達が考える人類勝利のシナリオ。 絶望的な状況の果てに、彼らはそのような策に至ったのだろう。
 だが、BETAを殲滅したところで待っているのは、重力異常により緑が蘇らない不毛の大地だ。 その結果を、夕呼らオルタネイティヴⅣを主導する人間達には認めるわけは行かない。 地球を捨てるにしろ、BETAごと焦土と化すにしろ、それは出す物を全て出した後の最後の手段なのだから。

「でも、最後に勝つのはアタシ達の意地。 そうだと思わない?」
「そうですね、何せ僕ら平行世界の人々のバックアップがありますからね。 ここにG弾を撃ち込まれない限り、負ける事はありませんよ」

 本当にそうならないといいんだけどね。 そう思いながら夕呼は、神輿が如く鎮座する凄乃皇参型を見上げた。


・ PM12:44 横浜基地屋上


 清涼な風と、程よい強さの日差しが降り注ぐ横浜基地の屋上。 純夏が加わって以来、207組のランチタイムは決まってこの場所になるようになった。 午後には出撃前最後となる、ハイヴ突入訓練が行われる。
 シミュレーターで見たBETAの醜悪な姿、異星から来た侵略者との実戦を控え、皆の心の中には一抹の不安が残っている。 だからこそ、この限りある平穏な時間を大切にしたい。 だが・・・

「はいタケルちゃん! あ~ん」
「あーん・・・」

 目の前にいるバカップル2名、そろそろ結婚間近と言わんばかりの様相を呈している武と純夏に、皆は呆れて物も言えずにいた。  207の乙女達は、少なからずとも武に対しては一定の好意を抱いている。 だがあの間には何者も踏み込むことが出来ない、2人だけの領域が構築されている事を、武と接する時間が最も長い冥夜達は悟ってしまったのだ。
 だが流石にもう見てられないと、千鶴が咳払いをした後2人に自重するよう試みる。

「あのー白銀中尉、そういう事は2人きりの時にしてください」
「・・・だそうだぞ。 俺もいい加減、恥ずかしくなってしたし」
「そ、そうだね・・・」

 恋は盲目とよく言うが、本当に言葉通りの光景が見られるとは思わなかった。 そんな事を思っている最中も、演習場の方で戦術機の駆動音が聞こえて来る。

「社さんも、私達の為に頑張ってるんだね」

 壬姫がそう呟いている間にも、不規則な感覚で鋼の巨人達が激突する音が鳴り響いてくる。 AIユニットの調整目的の模擬戦だが、メガドライヴとフローターのサポートがあっても霞に掛かる負担は大きい。
 そして今後搬入されるであろう無人機の調整作業を考えると、作戦に間に合うかどうかという状態になってしまうだろう。 今回の作戦に投入される兵器の殆どが、ぶっつけ本番といっても過言ではなかった。
 得体の知れない新兵器が実戦で使えないことは、ルーキーの彼らでも理解できる。 だが異世界の助力を借りてまでも投入するという事は、そうしなければならない程人類は切迫しているのだろう。

「でもOTHキャノンは、ボク達の中で射撃が上手い壬姫さんが撃つんだよ。 何も心配する事は無いって!」
「そ・・・そうですか?」

 美琴におだてられた壬姫の頬が、まるで林檎のように赤らむ。 あの野太く強化された1200ミリOTHキャノンの射手にはやはりと言うべきか、ヴァルキリーズ1の狙撃スキルを持つ壬姫が選出されたのは周知の事実だ。
 そして各戦術機母艦に搭載される量産型OTHキャノンの射手にも、帝国軍において選りすぐりの衛士達が担当するという。 上陸前の無防備な状態をカバーするという重要な役目を任されたのだから、緊張するなというのが無理な話だろう。 そんな壬姫に対し、美琴に続いて武と純夏が励ましの声を掛ける。

「美琴の言う通り、たまの狙撃はヴァルキリーズ1だ。 だから不安も皆の期待も砲弾に込めて、トリガーを引けばいいのさ!」
「たけるさん・・・」

 誰の目も気にする事無く、自分を信じてその役目を全うすれば良い。 そんな事を武に言われたような気がして、壬姫は今まで取り付いていた不安が徐々に取り払われる感覚がした。 そして

「だからみんなも約束してくれ。 今回の作戦を必ず成功させて、皆でこの横浜基地に帰ろう!」
「「「おーっ!!」」」

 誰1人欠けること無く、佐渡島ハイヴを攻略する。 基地の屋上に、武の願いを聞き入れた仲間たちの声が木霊した。


2001年10月17日深夜:量産型OTHキャノンが帝国軍へ搬入。 先陣を務める戦術機母艦への搭載作業が突貫で行われる。
 クーゲベルク准将、電脳歴世界代表として佐渡島ハイヴ攻略に参加すると国連第1軍司令部と横浜基地に通達。 ラダビノット司令および11軍司令部はこの通達を受諾。 作戦前日にフィルノートは横浜港から新潟沿岸へ移動する予定。


・ 2001年10月18日 PM9:37 横浜基地 PX


「あっ、菫さん。 それに伊隅大尉に速瀬中尉も、こんな時間に何を?」
「どうした白銀、さすがのスーパーエースも怖気づいて眠れなくなったか?」
「どうせなら、あたしが添い寝してあげても良いけど?」
「いえ、遠慮しておきます・・・」

 出発前の緊張からか中々寝付けず、散歩ついでに基地を歩き回っていた武が、申し訳程度の照明が光る食堂に集まっているみちる達を見つける。 彼女達は武と同じ経緯ではないらしく、何か目的があって集まっているようだった。
 流石に水月からの誘いは断ったが、彼女達がなぜここにいるのか聞くと、水月の隣に座る遙がその理由を武に話した。

「実はね、霜月少尉から異世界の事を色々説明してもらっているのよ」
「まあ、手のいい尋問みたいな感じね」

 皮肉たっぷりの菫の言葉に、テーブルに座るみちる達が苦笑する。 横浜基地にいたフィルノートクルーの殆どは出撃準備のために艦に戻り、この基地に残っているのは菫とケイイチ位になっていた。 この世界より遥かに進んだ技術を持つ電脳歴世界に興味を抱き続けていたみちる達は、その世界で生まれ育った菫に色々と話して貰っているのだ。
 菫の口から語られる、数々の電脳歴の話。 この世界の常識をひっくり返す異世界の技術、文化、その他諸々の話にすっかり魅了されてしまったのだ。

「・・・とまあ、私達の世界については一通り話しましたけど。 白銀君、どうする?」
「そうですねぇ、じゃあ電脳歴以外の世界について何か知っていますか?」

 なぜそこで話を自分に振るのかと思いながらも、武はこの世界でもなく電脳歴世界でもない、第3の並行世界の事について聞いてみることにした。 無限に存在する並行世界、時空を渡るほどの技術を持つ菫達が、それらについてどこまで知っているのかどうか今まで気になっていたからだった。

「大部分がチーフの記録だけど、良いのね?」

もしかしたら、セネスがいた世界の話も聞けるかもしれない。 武の頷くのを見た菫は、自身が知りうる並行世界の事について話し始めた。
 チーフ。 名前以外の素性は明らかとなっていない、電脳歴における人類の脅威であったダイモンを倒し英雄と称された伝説のVRパイロット。 戦後一時期行方知れずとなっていた彼だったが、その理由は突如発生した時空の歪みに巻き込まれ、同僚のハッターとともに並行世界に迷い込んでいたという。
 そしてその時に彼が体験した様々な出来事が綴られた自伝は、菫を含む多くの人々に衝撃を与えた。

戦術機やVRと同サイズながら、計り知れないスペックを秘めた人型兵器。
下手な高層ビルより大きく、驚異的な力を発揮する鋼鉄の巨人達。
そしてそれらを悠々と格納する、人類の方舟といえる超巨大艦船。
電脳歴世界のそれをも優に超える、魔法と呼べるような技術類。

「(ふふ・・・ きっと副司令の事だから、さぞ細かい突っ込みが押し寄せてくるだろうな)」

 そうした菫の話を聞いたみちる達は、やはりというべきか開いた口が塞がらない状態でいた。 それと同時にみちるは、再び苦笑いを浮かべていた。 今の菫の話を夕呼が聞いたら、どんな顔を見せるのかと考えると、面白くて仕方なかったからだ。
 異世界から来る侵略への対抗策の確立、そしてこの世界以外の並行世界への進出。 果たさなければならない責務が、菫やケイイチ達にもある事を武は改めて思い知らされた。

「なら尚更、今回の作戦は成功させないといけませんね!」
「そうだな、期待しているぞ白銀」
「あんたの暴れっぷり、楽しみにしてるわよ~?」

 白銀の差し出した掌に、みちる、水月、遙。 そして菫が手を乗せて気合入れの掛け声を上げる。 そしてヴァルキリーズの乙女達は、戦場に赴くべく横浜基地を後にした。


2001年10月19日 未明:ヴァルキリーズ、横浜基地を出撃。 同時刻に、フィルノートは新潟沿岸部へ向けて移動を開始。 凄乃皇および無人戦術機部隊は、横浜基地より直接現地へ向かう予定。 翌20日には、同部隊の移動が完了する。

2001年10月21日:香月夕呼、本作戦を『銑鉄作戦』と命名。 国連軍艦隊および参加する帝国軍部隊、佐渡島周囲に展開完了。




-あとがき-
『向こうがシルフで、こっちがJAMに。 か・・・』
『違いない、イタチごっこだよ・・・』

 『トップをねらえ2』では宇宙怪獣に対抗する度に、それと似た形に進化した無人バスターマシンが登場し、『R-TYPEFINAL』では「バイドを持ってバイドを制する」果てにB系列が開発される。
 G元素を利用した兵器が存在する以上、いずれオルタの世界もそんな感じなってしまうのか、そう思ってしまった麦穂です。
 今回の26話は、佐渡島ハイヴ攻略戦直前の横浜基地の面々をお送りしました。 メカ本で改めて確認したのですが、凄乃皇弐型の左右にあるパーツって、一体何が入ってるんでしょう?



[2970] 第27話-銑鉄作戦(前編)-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:13021c28
Date: 2010/02/01 13:59
・ 2001年10月22日 AM9:50 佐渡島ハイヴ勢力圏内 作戦旗艦『最上』ブリッジ


-佐渡島近海、波高シ-

そう銑鉄作戦を指揮する重巡洋艦『最上』に打電したのは、真野湾方面からの上陸を予定しているウィスキー隊、その砲撃支援を担当する戦艦『信濃』の指揮を務める安倍艦長からだった。
彼を初めとする帝国軍艦隊の将兵達は、佐渡島がBETAの手に堕ちる姿に涙を呑んで見届けていた物達だ。 日本を散々蹂躙したBETAに対する積年の恨み、そして不毛の大地とかした佐渡を取り戻すべく誰もが異様な闘志を持って今回の作戦に望んでいる。
そしてそれは打電を受け取った最上艦長、小沢提督の傍らにいる夕呼も同じであった。

「作戦開始まで後10分、いよいよですな。 香月副司令」
「ええ。 それに今回は心強い味方がいる、必ず勝ちますわ」

 ブリッジに設けられた通信席には、帝国軍のオペレーター達に混じってピアティフと遙が武達との連絡を取り合っている。 そして佐渡と新潟県を挟んだ海域にはフィルノートが戦闘体勢を整えており、凄乃皇の進行ルートの確保とウィスキー、エコーの両隊の支援を担当する事になっている。
 この作戦の主役はあくまでこの世界の人間達だ、先陣を切る事も無く、唯BETAと彼らの戦いを見届けてその手助けを行う。 それは欧州や中東で活動している、同じ電脳暦世界の者達と比べると決して華やかなものではない。 そしてフィルノートが保有する第3世代型VRは、第2世代型のような圧倒的な性能を持ち合わせてはいない。
 それでもクーゲベルグ艦長率いるフィルノートのクルー達は、粛々とそれを受け入れた。 プラントとは競争意識も対抗意識も無く、ただ目の前で困っている人を『助けたい』という一心が、彼らを動かしていたのだから。

「(必ず勝つわ、必ずね・・・!)」

 雲ひとつなき晴天の青き空、その向こうにそびえ立つBETAの居城を、夕呼は鋭い目線で睨みつける。 そして作戦開始時刻の午前10時、国連宇宙軍による軌道爆撃が開始された。


マブラヴ –壊れかけたドアの向こう-
#27 銑鉄作戦(前編)


・ 新潟県沖AM10:05 特装艦フィルノート VRカタパルト


『国連宇宙軍、軌道爆撃を開始しました。 光線種による対レーザー弾迎撃を確認後、各艦による制圧射撃が開始されます』

 テムジン747『霧積』のコクピット内で出撃の時を待つ菫が、データリンクで送られてくるピアティフの報告を無言で聞き続ける。 過去にわたる多大な犠牲の元に確立されたハイヴ攻略戦術、その第1段階である軌道爆撃。 そして光線種の迎撃後、第2段階となる徹底的な面制圧が行われている。
 電脳歴世界の海軍ではもう存在しない戦艦による砲撃、そして軌道上からの爆撃という新旧入り混じった兵器の攻撃を見た菫は、その迫力に圧倒されていた。 だが地形が変わろうかと言わんばかりの砲撃を叩き込んでも、BETAの数は一向に減らないような錯覚がした。
 BETAは圧倒的な物量が最大の武器であるという、横浜基地を出る直前にみちるが言った忠告が改めて菫の心に突き刺さる。 まさかVRの力を持ってしても、BETAには勝てないのか。 そんな不安が込みあがろうとしていたその時、HMDの通信ウインドウにケイイチの姿が映し出される。

「ずいぶん緊張してるね菫君。 対BETA戦の初陣に、やはり緊張しているのかな?」
「そういう大尉こそ、楽観的過ぎるんじゃないですか?」
「『如何なる時でも平常心』が僕のモットーって、もう知らない訳じゃないだろ?」
「それはそうですけど・・・」

 ケイイチが人をおちょくった態度を自分に見せるのは何時もの事だが、せめてこういう時位は自重して欲しいものだと菫は思う。 だがこれが、ケイイチなりに自分を励ましているのだろうと感じていた。
 きっと両津湾沖で出撃を待つ207組にも、みちるや水月といったヴァルキリーズの先輩達が同じ事をしているだろう。 そう考えた菫の顔に不思議と笑みが浮かんだ時、ケイイチが再び口を開いた。

「さあ菫君、僕達と白銀君達が気付きあげた成果、皆に見せ付けてやろうじゃないか!」
「はい!」

菫が答えたその時、遂にウィスキー艦隊による上陸が開始された。


・ AM10:31真野湾沖 戦術機母艦『高尾』 甲板


『スティングレイ隊が上陸成功した!』
『・・・と、その前にお前の出番だ、奴らに派手にブチかましてやれ!!』

 佐渡の島影が徐々に近付き、もう自分はBETAが支配する戦場へ足を踏み入れてしまったのだと、その衛士は実感する。 だが自分は、むざむざ奴等のエサになるつもりはない。 そう思いながらF-4J『撃震』を駆る女性衛士は、甲板の前部CIWSが存在していた場所に設置された巨砲に取り付き、その狙いを佐渡島に蠢くBETAに向けていた。
 試製430ミリ 電磁衝撃砲。 1200ミリOTHキャノンを元に量産され、高尾を始めとする戦術機母艦に搭載されている大型砲の名前だ。 事実上の輸送船である戦術機母艦は、上陸時にはほぼ無防備の状態で光線種の迎撃前にその身を曝す事になる。
 無論直前には帝国軍海兵隊のA-6J『海神』による強襲上陸が行われ、沿岸部にたむろするBETAの掃除と上陸地点の確保が行われるのだが、やはりBETA全てを捌ききれるほどの火力には限界がある。
 そこで各戦術機母艦に搭載されたこれを用いて、その穴埋めと上陸部隊の支援を行おうと言うのだ。 

「(データリンクは、攻撃命令はまだなの・・・!)」

 トリガーに指をかざしながら、衛士は発砲許可が出されるのを待つ。 すでに海神が強襲上陸に成功し、その持てる火気の全てをBETAにぶちまけている最中だ。 彼らが光線種を捕捉次第、その座標データがデータリンクを通じて彼女の撃震や、他の母艦で電磁衝撃砲を操作している衛士達の元に転送される。

『スティングレイ1よりHQ! ポイントS-52-47に重光線級を確認した! 支援砲撃を!』
『HQ了解。 各母艦の衝撃砲射手は、支援砲撃を開始せよ』
「(来たっ!!)」

 HQの指示と共に電磁衝撃砲の最終安全装置を解除し、母艦から供給される電力が眠れる巨砲を覚醒へと導く。 そしてデータリンクによって照準が自動的に導き出され、拡大されたスコープには一つ目の怪物“サイクロプス”さながらの重光線級BETA『マグヌス・ルクス』の姿が映る。
 奴らの狙いは百発百中、この距離で狙われたら回避はほぼ不可能だ。 母艦もろとも海の藻屑にならない方法はただ一つ、この砲を用いて奴等を根こそぎ吹き飛ばす以外に無い。 今までの恨み、そして今も抱く憎しみを砲弾に込めながら、彼女はトリガーを力強く引いた。

「喰らえっ!!」

 装填された砲弾が装薬の発火と共に飛び出し、銃身に発生した電磁場が更なる破壊の力を与え、空気との摩擦によって発光するほどの初速を得た砲弾が佐渡へ向けて飛翔する。 そしてほかの母艦から放たれた砲撃も、今まさに照射を行おうとしていた重光線級の群れに吸い込まれ、直撃した重光線級は跡形も無くなった。
 そしてS-11を調整した砲弾である広域制圧弾頭が炸裂し、周囲にいる小型種もろとも根こそぎ吹き飛ばす。 自分が放った一撃がこれ程の威力だったのかと、女性衛士はしばし呆然としていた。

『よっしゃあっ! 初弾命中、よくやった!』
『ざまあみろBETA共! その調子でやっちまえ!』

 通信に飛び込む仲間からの通信により、彼女はようやく我に返った。 自分の手でこの艦の、仲間達の危機を救ったのだという事実に、女性衛士は計り知れない達成感に包まれた。 そして間髪入れずに、HQから更なる指示が舞い込む。

『衝撃砲射手は支援砲撃を継続。 光線属種を優先的に殲滅後、上陸を開始せよ』
「了解っ!」

 必ずBETAから、あの佐渡島を取り戻してやる。 その誓いを胸に抱きながら、彼女はスコープを睨みつけ、トリガーを引き続けた。


・ 同時刻 両津湾 戦術機母艦『大隈』


「珠瀬、こちらも始めるぞ! 準備はいいか?」
「はいっ!」

 みちるの呼びかけに、大隈の甲板上で1200ミリOTHキャノン改を構える壬姫が答える。
97式改『晴嵐』。 それが彼女と207の乙女達に与えられた、異世界の技術を融合して完成した吹雪の新たなる姿。 戦術機にVRの特性を付加するメガドライヴ、それを搭載した吹雪を元に更なる強化改造がされた機体だ。
 当初は彼女達もみちる達が現在乗っている、メガドライヴ搭載型不知火で本作戦に臨む予定だった。 だが不知火の機体調達が間に合わず、加えてドライヴの換装作業にも時間が掛る事から、すでにメガドライヴの搭載を終えた吹雪を実戦仕様機に改造する事が、夕呼とケイイチの間で決められたのだった。
 幸いにも吹雪は帝国軍にて、実戦にも運用されている事からその信頼性は折り紙付き。 加えて207組はXMシリーズ開発から吹雪に慣れ親しみ、機体特性も十分に把握している事が、晴嵐として生まれ変わらせる十分な理由となった。
 壬姫が操る晴嵐の頭部、911クーデターでもその精度を見せつけた超高精度センサーが妖しく輝き、遅れて両津湾沿岸部に現れたBETAの姿を捉える。 そして艦隊による支援砲撃が始まると同時に、みちるは壬姫に向って叫んだ。

「撃てっ!!」

 みちるの号令と共に、壬姫はOTHキャノン改のトリガーを引く。 並の艦砲より巨大な砲弾が赤熱化しながら次々に空を付き抜け、S-11弾頭の炸裂により両津湾に跋扈しているBETAを大小の区別無く吹き飛ばしてゆく。
 その光景を目の当たりにしたエコー部隊の将兵達が得た衝撃は計り知れず、『核兵器でも使ったのか!?』と最上に問い合わせる位だった。 壬姫の功績にわっと皆の歓声が上がり、みちるは彼女達に今回の任務を確認する。

「全員よく聞け。 珠瀬とエコー艦隊の制圧射撃が終了次第、我々はこの大隈から発進する。 発進後、進路上のBETAを駆逐しながら旧新穂地区へ移動。
A-02・・・つまり凄乃皇の進路ルートを確保するのが我々の最初の仕事だ」

 だから今の段階で浮かれるのはまだ早いぞと、みちるは皆に釘を刺す。 帝国軍側は目立った損害はなく上陸に成功し、現在は旧河原田本町と旧八幡新町を中心に防衛線を構築。 BETAの陽動を行っている。
 ヴァルキリーズに課せられた使命、それは両津湾沿岸のBETAがあらかた片付いたら上陸を開始し、純夏が乗る凄乃皇の進行ルートを確保する事だ。 万全の対策と優先的な砲撃支援が受けられるとはいえ、BETAとの戦いでは何が起こるか分からない。
 そのことも含めてみちるは、ヴァルキリーズの長として皆に説明を行った。

「私達はチームだ、決して己の能力の過信と油断はするなよ。 何か質問は?」
「大尉、白銀中尉のポジションが決まっておりませんが」

 お言葉に甘えてと、早速冥夜が武のポジションがいまだに決まっていない事をみちるに言及する。 いや彼女のみならず、それはヴァルキリーズの誰もが気になっていた事だった。
 今まで説明できない理由があったのだろうが、『軍隊の任務内容や機密は、その日その時のみに明かされる』という暗黙の了解がある以上、それは仕方のない事だった。
 そしてしばしの沈黙の後、ようやくみちるの口から武のポジションが明かされる。

「白銀は我々と行動を共にするが、場合によっては独自の行動を取るよう、副司令から言われている」
「「「っ!?」」」

 みちるの言葉に皆が驚く中、冥夜が乗る晴嵐の背後、そこに立つカイゼルに乗る武は無言のままでいた。 というのも、武は今みちるがした話を夕呼本人から既に聞いていたからだった。 メガドライヴの搭載を前提に作られたカイゼルの性能は未だ未知数であり、パイロットである武ですら十分に知り尽くしてはいないのだ。
 この作戦がハイヴ攻略と同時に凄乃皇を初めとする各種新兵器の実用試験と言う目的がある以上、カイゼルがBETAに対し何処まで暴れられるかを試す必要があるのだ。

「白銀、貴様の識別ナンバーはA-03、コールサインはブレイブ1だ。 いいな!」
「了解!」

 みちるが与えた武の肩書きが、即座にヴァルキリーズ全員のデータリンクに登録される。 勇気と言う意味を持つコールサインの如くBETAを打ち倒す力となれと、武は彼女にそう言われたような気がした。
 そして皆を乗せた機体が甲板へとせり上がり、遂に出撃の時が訪れる。

「よくやった珠瀬! 貴様のお陰で、エコー部隊も被害ゼロで上陸出来そうだ」
「はい!」

みちるに返答すると同時に、冷却材が放出され、銃身から湯気が立つOTHキャノン改に珠瀬は感謝の言葉を心の中で唱える。 そして必ずあなたの元に帰って見せると心に誓い、壬姫は担架システムから支援突撃砲を取り出し、佐渡にそびえるハイヴを睨み付ける。

『HQへ、エコー全艦載機、発進準備よし!』
『HQからエコーへ、全機発進せよ! 繰り返す、全機発進せよ!』
「行くぞ! ヴァルキリーズ、全機発進っ!!」
「「「了解!!」」」

一段と気合が篭ったみちるの号令と共に、A-01の戦術機達が佐渡島へ向けて飛翔する。 跳躍ユニットを輝かせて飛ぶ皆の姿を見届けた後、武は夕呼達がいる最上へ向けて叫んだ。

「ブレイブ01よりヴァルキリーマムへ。 白銀武、発進します!」

 唸りを上げるメガドライヴ、咆哮を轟かせる電磁推進ユニット。 凄乃皇と並ぶ人類の希望となるかもしれない機体が、武と共に空を舞った。


2001年10月22日 1045時 
『銑鉄作戦』は、予想以下の損耗率でフェイズ3に到達。 帝国軍は戦線を維持したままBETA陽動を継続。
ヴァルキリーズ、旧新穂地区到達。 周辺のBETA排除し、A-02『凄乃皇』の進路ルートの確保に成功。 また同地点にて、フィルノートから先行発進したケイイチと菫に合流する。

1047時
オービットダイバーズ支援の為、VOXボブで構成された突撃部隊がフィルノートより発進。 ハイヴ入口の周辺掃討と索敵を行った後、降下したオービットダイバーズと合流し突入する予定。


・ AM11:27 佐渡島ハイヴ 第12層N19広間


「ザウバーよりCP、第12層N19広間を確保した! 損害はゼロ! 繰り返す、損害はゼロだ!」

 地獄の入口のようにも思えるハイヴの横坑。 薄暗く発光するその坑内を、無事降下を終えたオービットダイバーズ所属のF-15E『ストライク・イーグル』の部隊が、VOXボブのエレメントと共に突き進む。
 別の突入ルートでも彼らと同じ編成となっており、報告通りザウバー隊は損害無しのままここまで到達する事が出来たが、ハイヴの最深到達記録を更新するにはまだ程遠い。 必ず自分達がハイヴを制圧し、その記録を打ち破ってやる。
 ザウバー隊のリーダー機、ザウバー1の衛士がそう思っていると、彼の部下から拍子抜けした声が掛る。

「しかし隊長、ここまでアッサリ進めるなんて不気味ですよ」
「それだけ、地表の陽動が十分に効いているという事だ。 それに今回は、頼れる助っ人が付いているからな」

そう部下に告げながら、ザウバー1は自分達の前後をフォローする2機のVOXボブをチラリと見る。 VOX-240“Bob1” VOXボブ1号。 第3プラント『アダックス』が開発した第3世代VR、VOXシリーズの重突撃形機体だ。
 海神と同じく人型にとらわれない、ずんぐりしたシルエット。 開発コンセプトとなったドルドレイを参考にした強固な装甲、まるでラジオペンチのような外観を持つクローランチャーと、VOXボブの象徴とも言える巨大なドリルを装備している。
フィルノートから出撃した彼らモール突撃隊の活躍によって、突入口の確保と周辺にいたBETAの殲滅に成功。 またウィスキー部隊の陽動が機能していることから、ハイヴ内でBETAと遭遇する機会は数えるほどしかなく、遭遇したとしても戦車級以下の小型種のみで、思わず彼らも拍子抜けしてしまったほどだった。
 今の会話を聴いていたのか、ザウバー隊に随伴するVOXボブの1機、モーラ3のパイロットが返答する。

「中々粋な事言ってくれるじゃないか、礼を言うぜザウバー1」
「ああ、だがハイヴ突入はここからが本番だ。 覚悟してくれよ?」

VRの性能があるからといって、彼らも自惚れてはいない。 Vアーマー展開能力の無い第3世代VRは、例えBETAに徒党を組んで襲われてしまったらひとたまりも無い。 それに彼らとて、こんな異世界の穴倉で死にたくは無い筈だ。
 地上へのデータリンクが確立した事を確認し、最深部を目指そうとしていた正にその時、部下の一人から音紋センサーに感有りとザウバー1に報告が入る。 センサーから算出された推定個体数が4万以上、更に音源が横抗が無い場所から出され、それが移動している事にザウバー1は気付いた。

「これは・・・横抗を掘りながら移動している!?」
「リーダー! ここは一時引・・・!」

部下が撤退を進言しようとした瞬間、彼らがいる広間の一角が崩れる。 そしてその崩落した場所から、湯水のごとく大小のBETAが湧き出てくる。

「やはり増援か! モーラ3、頼む!」
「了解だザウバー1。 モーラ4、工兵部隊出身の本領発揮だ!!」
「おうよ!! 俺達が伊達や酔狂で、こんな機体に乗って無いってことを見せてやろうぜ!」

ザウバー1の合図と共に、モーラ3はモーラ4とアイコンタクト。 そして2機のVOXボブはBETAをザウバー隊が引き付けている間、なんとその場で自慢のドリルを用いて横抗を掘り始めたのだ。 ドリルによって削られた内壁が機体に降り注ぐ中、モーラ3がザウバー1に脱出を提案する。

「このまま穴掘って撤収だ! ザウバー1、それまでもってくれよ!」
「ああ! またお天道様の光を拝めるよう、努力するつもりだ!」

崩落した穴から出てくるBETAに集中砲火を加え、瞬く間に死骸の山を気付きあげてゆくザウバー隊。 BETAが短期間で築いた横抗の内壁は予想以上に強固なものであり、BOXボブが装備するドリルで突破出来るかは彼らにも分からなかった。

「あともう少し・・・あと少しなんだ! ブチ抜けぇーっ!!」

 それでもモーラ3と4はがむしゃらに、ドリルを内壁に押し当て内壁を掘り続ける。 必ずザウバー1の機体に答え、彼らを無事地上へ脱出させるために。 そしてその願いがようやく通じたのか、ハイヴ内壁を突破。 モーラ4が先行して地上への道を一気に掘り進むと同時に、モーラ3がザウバー隊に向けて叫んだ。

「モーラ3からザウバー全機へ、内壁を突破した! これから拡張作業に入る、もう少し持ちこたえてくれ!」
「聞いていたなザウバー各機、あと少しの辛抱だ。 オービットダイバーズらしく、気張って行けよ!!」
「「オーッ!!」」

BETAを食い止める戦術機達と脱出路を掘るVR2機の闘志と熱気で、異様なテンションに包まれるN19広間。 その光景はBETAの増援に遭遇した他の広間でも繰り広げられ、ハイヴ突入制圧は失敗したもののモーラ隊の活躍により損害はほぼ皆無という、ありえない戦闘記録が残ったのだった。


・ AM11:43 佐渡島 旧上新穂地区


『ヴァルキリーマムより各機へ。 ハイヴ突入作戦は失敗、突入した全部隊は現在モーラ隊と共に地表へ撤退中。 作戦はプランBに移行、A-02の砲撃を持ってハイヴ無力化を試みる』
「やはりこの作戦、凄乃皇参型の出番が必要だな・・・」
「そうですね。 突入部隊が全員生還出来ただけでも、素直に喜ぶべきでしょう」

周辺に存在していたBETAの掃討を終え、最上にいる遙の報告を聞いたみちるとケイイチが、やはりそうかという面持ちで互いに言葉を漏らす。 2人の呟きを聞いたヴァルキリーズの皆や、武も同じ想いだった。
 だからこそ人類の希望となるだろう凄乃皇を、ヴァルキリーズの名に懸けて護衛する。 武もそれに乗る純夏を絶対守り通すと心に誓ったその時、みちるより新たな指令が下る。

「全員よく聞け。 A-02 『凄乃皇参型』は予定通り横浜を出撃し、順調に佐渡島へ向かっている。 我々はこのまま凄乃皇の進行ルートを維持し、その障害となるBETAを排除する。
 我らヴァルキリーズの仕事は始まったばかりだ、油断するのは基地に帰ってからにしろ!」
「「「了解!」」」

みちるに復唱を皆と共に返し、武は目の前にそびえ立つBETAの居城、地球侵略の象徴ともいえるハイヴを睨み付ける。 突入したオービットダイバーズは各々無事に脱出し、最寄りに展開しているウィスキー、エコー双方の部隊へ合流しているという。
 第3世代型とはいえ、VRを持ってしても突入に失敗した事実に、武は改めてハイヴ戦闘の困難さとBETAの武器は物量だという事を思い知らされる。 そうやって落ち込む彼に、ヴァルキリーズと合流したケイイチが声をかける。

「まあリヨンハイヴの場合は、怒涛のゴリ押しが上手くいったから攻略出来たって感じだしね。 それより僕が気になるのは・・・」
「横抗以外の場所を移動していたという、BETAの増援ですね?」

 武の回答に、ケイイチは無言で頷く。 ザウバー隊が感知したという移動する震源。 ハイヴの周辺に地下構造を縦横無尽に張り巡らしているBETAが、わざわざ新たな横抗を掘って地上を目指す事をするのだろうか。
 ケイイチの推測を聞いた武も、この増援がハイヴ内に残っていたBETAだけじゃないなと、密かに思っていた。

「それで伊隅大尉、急ごしらえで装着したメガドライヴの調子はどうだい?」
「良好ですよ。 部下達がこれを先に使っていると思うと、少し悔しいですけどね」

 はにかみ笑いを浮かべながら、みちるはケイイチに自機の感想を伝える。 みちるを始め、ヴァルキリーズの先輩達が乗る不知火には、晴嵐と同様メガドライヴが搭載されている。 作戦前に晴嵐の改装と同時に矢継ぎ早に不知火へ搭載されたが、みちる達の熟練度の高さと直接VRとの模擬戦を経験したことも相まって、207の皆以上にその期待を使いこなせている。
 装備する武器は従来と同じだが、それでも慣性制御による柔軟な機動と、OSであるマスターシステムの迅速な操縦反映は凄まじいものがある。 周辺警戒と共に戦域に散布された補給コンテナを回収する水月や美冴が、2人の会話に割り込む。

「おかげでこの子達に、いくつかの獲物を持ってかれちゃいましたよ。 まあ、これから取り戻せば良い話ですけどね!」
「若いほど順応度があると言いますが、どうやら本当のようですね。 大尉」

 皆の成長を楽しむように語る水月と美冴に、武達は自分達の成果が一つ形になったのだと実感し、皆笑顔を浮かべていた。 だが広域策敵を行っていた梼子の報告で、その笑顔はすぐに消え去る事となる。

「大尉! ハイヴから出現したBETAの増援が、こちらに向かっています!」
「何っ!?」

 すぐにみちるは戦域データを表示させ、自分達の現在位置、そしてウィスキー部隊の状態をチェック。 陽動を行っているウィスキー部隊は依然健在だというのに、ハイヴより現れたBETA達は一目散にここへ向かっているのだ。
 今回の戦いは、敵も味方も何かが可笑しい。 みちるの頬を冷や汗が伝う。

「まさか、凄乃皇の存在を気付かれたっていうの!?」
「そんな事、BETAにしか分からないよ」
「彩峰今良い事言った! ここで騒いでいても、何も始まらないよ!」
「ならボク等がやる事は、もう決まってるね!」

 千鶴、慧、晴子、美琴の会話を聞いたみちるは頬の汗を拭い、少しばかり混乱していた自分を恥じた。 そうだ自分達は異世界の介入という、イレギュラーな事態を既に目の当たりにしているのだ。
 もうこれ以上驚く事は無いなと思いながら、みちるは新たな指示を皆に下す。

「全機、周辺の補給コンテナを速やかに回収! その後砲撃開始地点の新穂ダム跡に移動、防衛線を構築し凄乃皇到着まで時間を稼ぐ!」
「「「了解!」」」

 みちるの指示に復唱した後、ヴァルキリーズの全員は速やかに周辺に点在する補給コンテナを回収。 同時にみちるはこちらに向かうBETAを少しでも減らすべく、最上へ砲撃要請を行った。


・ AM11:47 重巡洋艦『最上』ブリッジ


「副司令、A-01より支援砲撃要請が出ています」
「ピアティフ中尉、全艦隊にA-01の要請を最優先処理させなさい」
「了解。 HQよりウィスキー、エコー全艦隊へ。 即座に指定座標へ向けて砲撃を開始せよ。 繰り返す・・・!」

 そうピアティフに指示をした後、夕呼は『よろしいですわね?』と小沢提督に改めて問う。 上陸したエコー、ウィスキーの両部隊が求めている支援砲撃を、事実上ヴァルキリーズが独り占めしようというのだ。
 ウィスキー、エコー両部隊の将兵達を危険に曝してしまう夕呼の頼みに対し、小沢提督は『当然です』と返してそれを承諾する。 全てはヴァルキリーズ、ひいてはオルタネイティヴ計画の為に。 それを承知の上で、夕呼も苦渋の決断を下したのだろう。
 せめて異世界の援軍が間に合ってほしいと願いながら、自身も最上のクルーたちに砲撃開始の号令を出した。


・ 同時刻 新潟県沖 特装艦フィルノート

『HQよりフィルノートへ。 佐渡島に展開している全艦隊が、A-01への支援攻撃を開始します』
「砲撃の穴埋めを行うぞ。 全VRは直ちに発進、ウィスキー、エコー部隊へ遊撃支援を開始する!」

 ピアティフからの報告を聞いたクーゲベルクは、ハイヴ突入に失敗したモーラ隊の雪辱を晴らすべく遊撃隊の出撃を命じる。 彼の一声に、ブリッジは瞬く間に騒がしくなり、カタパルトからはVOXタイプやテムジン747系のVR隊が次々に発進して行く。
 そして周囲から沸き起こる砲声。 座標修正を完了した艦隊が、A-01の支援砲撃を行ったのだ。

「最上に通達! 我々もA-01に対し支援砲撃を行う!」

 オペレーターが最上に事の次第を伝えると同時に艦に搭載されている大小の砲が蠢き、みちるが指定した座標へ砲口が向く。 後は最上にいる夕呼と小沢提督のOKサインが出れば、いつでも発射出来る状態だ。 最上からの返事を待つ間、砲撃の第一陣が飛来する。
 そして着弾まで後数秒と迫ったその時、ハイヴの根元から忌まわしき閃光が走った。

「支援砲撃、レーザー照射で迎撃されました!」
「最上から回答来ました! 『直ちに砲撃されたし』です!」
「奴らの照射インターバルの隙を突く、撃てーっ!!」

 光線種の照射インターバルは最大でも約40秒程度。 一次砲撃を終えた艦隊が再装てんしている今、即応で撃てるのはこのフィルノートしかない。
 夕呼らの状況判断の早さに舌を巻きながら、クーゲベルクは咆哮を上げた。


・ AM11:56 新穂ダム跡 凄乃皇砲撃開始地点


「大尉、フィルノートからの第二次支援砲撃が来ます!」
「助太刀感謝します。 サギサワ大尉」
「いえいえ。 礼を言うなら艦長達に言ってください」

 梼子からの報告を聞き、谷の向こう側にいるBETAが砲撃で吹き飛ばされる光景を眺めながらみちるがケイイチに感謝の言葉を述べる。 そして艦隊の支援が受けられずにいるウィスキー、エコー両部隊には、フィルノートから発進したVR隊が救援に向かっている。
 また一つ彼らに返すべき借りが出来てしまったなと思っていると、ウィスキー部隊の支援に向かう遊撃隊のリーダー、ライデン512E2を駆るハーモニー1から通信が入る。

『こちらハーモニー1。 サギサワ大尉、発進後はあなたの指示に従えと、艦長から通達されています』
「了解ハーモニー1。 作戦の大筋通り、君達はウィスキー主力部隊の支援だ。 もう自重する必要は無いだろう、派手にやってくれ」
『了解! モーラ隊の汚名、我々が返上して見せますよ!』

 通信ウインドウに映るケイイチに敬礼し、ハーモニー1率いる遊撃隊はそのままウィスキー主力部隊を目指す。 佐渡島の荒野を疾駆する彼らの姿が霞むほど遠ざかった頃、みちるから新たな指示が飛ぶ。

「よし! 砲撃を逃れた光線種の掃討に向かうぞ! 白銀と霜月少尉を前衛に、新穂ダム跡の谷を突破する!」
「「「了解!!」」」

 レーザーをも無効化する凄乃皇のラザフォードフィールド、だが照射を受けるとそれを生成する凄乃皇の動力炉であるML機関に多大な負荷が掛かってしまう。 それを未然に防ぐべく、残存する光線種を一体でも多く狩らなければならない。
 佐渡を取り戻そうと必死に戦っている帝国軍の将兵達や、この戦闘を高みで見物しているであろうオルタネイティヴⅤ派の連中に、凄乃皇の無様な姿を見せる訳には行かない。
 そして凄乃皇に乗る純夏を守る為に、武と戦乙女達はBETAが押し寄せる谷へ飛び込んでいった。






-あとがき-

『命令(オーダー)は唯一つ(オンリーワン)、”見敵必殺(サーチアンドデストロイ)”。 以上』
『認識した、我が主(マイマスター)』

 F-4Rから派生したはずなのに、どうしてMIG-23/27はF-5っぽい外見なのかと何時もメカ本読むと首をかしげてしまう麦穂です。 27話投稿しました。
 今回は佐渡島ハイヴ攻略戦その1、上陸からオービットダイバーズが突入する辺りまで。 オルタ本編では使わなかったOTHキャノンをどう活用しようかと考えた結果、上陸前の砲撃用になりました。
 そしてずっと前から温めておいたハイヴ突入戦。 『地中で戦うなら、ドリルを持って臨めば良いじゃな~い』という某フランス貴族的な発想の元、ドリルで穴掘って脱出という流れに。
 はるか昔地中に潜む怪獣相手に、エアーポンプ一丁で挑んだ某ドリラーのお父さんは凄く偉大だと思うんだ・・・



[2970] 第28話-銑鉄作戦(後編)-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:88d6555b
Date: 2010/02/03 14:46
・ 2001年10月22日PM12:17 佐渡島 旧高瀬地区


「畜生キリが無い・・・! 隊長、支援砲撃はどうなってるんです!?」
「まだおかわりには時間が掛るとさ、クソッタレ!」

 旧高瀬地区に構築された防衛線、そこでBETA相手に奮戦するクラッカー1が女性らしからぬ愚痴を漏らす。 武達に砲撃を優先させている為に艦隊による支援砲撃要請は受理されず、各母艦に搭載されていた電磁衝撃砲も弾切れの状態。 オービットダイバーズの突入失敗の後、再びハイヴから湧き出たBETAの増援が、撃震4機で構成されたクラッカー小隊の目前にまで迫って来ている。
 戦術機の持つ火力でもジリ貧になる状況にクラッカー3の衛士、伊隅あきらは引き攣った顔をしながら36ミリのトリガーを引き続けていた。

「来るなぁーっ!!」

 同じ衛士として活躍する、姉のまりかやみちる程ではないにしろ、彼女も死の8分をくぐり抜けBETAと戦った経験がある。 あきらはそんな姉達のように強くなりたいとは思っているものの、BETAに対する恐怖は簡単に拭い去る事は出来ずにいた。
 圧倒的なBETAの数を前に、本当にこの作戦は成功するのかとあきらが思ったその時。 クラッカー2が要撃級の接近を許してしまい、その前腕部で殴打を受ける。

「ぐああっ!」
「02、大丈夫!?」
「こんなダメージ、かすり傷にも入らないぜ!」

 クラッカー2の反撃により、殴打をした要撃級は36ミリの応酬で沈黙。 だが彼のダメージも口で言ったほど軽くは無く、次にもう一発喰らってしまえば後が無い状態だった。 そして今度はクラッカー4が、銃撃を物ともせず突っ込んで来た突撃級の体当たりをまともに喰らってしまう。

「しまった、駆動系が・・・!」
「せっかく、せっかくここまで来たのに・・・ くそぉーっ!!」
「うわああああっ!!」

 突き飛ばされて転倒したクラッカー4のダメージはクラッカー2以上で、しかも機体フレームが歪んで脱出すら出来ない状態だった。 佐渡の奪還も適わずに、ここで自分達はBETAの餌になるのか。 そんな絶望感が小隊内を包み、あきらとクラッカー1の雄叫びがBETA蠢く戦場に木霊する。
 そして新たに出現した突撃級が、クラッカー4を轢き潰そうとした瞬間、同時に2方向から通信が入った。

『『そこの小隊! 全員その場から一歩も動くなっ!!』』
「っ!?」

 突如2人の声があきらの耳に飛び込んだかと思うと、クラッカー4目掛けて突っ込んでいた突撃級が横殴りの砲撃を受けて横転する。 更に周囲にいたBETAが、後方からの銃撃で瞬く間にその数を減らしていく。
 攻撃のした方向をあきら達が振り向くと、そこには思いもよらない援軍が来ていた。

「斯衛部隊が、どうしてここに・・・!?」
「さらにあれは、噂に聞く異世界からの援軍か!」

 後方を見たあきらの眼に入ったのは、硝煙を上げた突撃砲を構える斯衛部隊の武御雷達が。 そしてもう一方には、突撃級を吹き飛ばした一撃を見舞ったハーモニー1が駆るライデン512E2が、同じく煙を吐くバズーカを肩に構えていた。
 周囲に一般兵仕様である黒の武御雷が展開する中、斯衛の長を努める蒼の武御雷が話しかけてくる。

「危うい所だったな。 そなた達、まだ動けるか?」
「救援感謝します。 ですが部下の機体が擱座し、衛士も重傷です・・・」

 蒼色の武御雷の呼びかけに、クラッカー1は感謝の言葉と被害を報告する。 クラッカー4の衛士は致命傷こそ免れたものの、早急に応急処置をする必要な容態だ。 その報告に真紅に包まれた武御雷に乗る、月詠真那が続けて指示を出す。

「ここは我等斯衛と、異界の援軍に任せよ。 貴様達は負傷者を連れて、一旦下がれ!」
「了解! クラッカー2、手を貸せ! クラッカー3はその間、斯衛と共に撤収までの時間を稼げ!」
「「了解!」」

 真那の命令とクラッカー1の指示に従い、クラッカー2はクラッカー4の衛士を救出する為の作業に入る。 そして彼らの作業が終わるまでの時間稼ぎを任されたあきらは、その最中に異世界の兵器、VRの活躍を目の当たりにしていた。
 オープン回線からは、斯衛と同時に駆けつけたハーモニー隊の交信が聞こえてくる。

『ハーモニー1より各機、どうやらここで最後のようだ。 ハーモニー9はファランクス一斉射。 その後は全機兵器使用自由、思う存分奴らを調理しろ!』
『『『了解っ!!』』』

 ハーモニー1の指示と同時にVOXジョーの肩口にある左右のハッチを開き、そこから大量のマクロミサイルを発射。 ナパーム弾頭が炸裂し、あきらの目の前は灼熱の炎一色に染まる。
 更には後衛のVOXマリコによる猛烈な弾幕射撃により、BETAの大小の区別無く粉砕していく。 そして遠くに見える要塞級がミサイルの応酬で陥落していく様を見て、あきらは救援が来たのはここだけではないと悟った。
 おそらく大隊規模だった物が救援の度に小隊規模で抜けていき、最後に彼らの小隊が自分達の前に来たのだろう。 あきらの撃震の傍にポジションを移動し、右腕のアームガンシステムで猛烈な支援射撃を行うVOXマリコのパイロットが彼女に話しかける。

『ここは私達に任せて、あなたも擱座機の救出に向かって!』
「はいっ! 救援感謝します、お陰で助かりました!」

 通信ウインドウに映る女性パイロットに敬礼し、あきらもクラッカー4の救助に向かう。 そしてクラッカー4の衛士を救助してあきらの撃震に収容した最中、蒼の武御雷が真那に次の命令を下す。

「月詠、ハーモニー隊と共に前進。 前線を押し上げるぞ」
「はっ。 クレスト2より大隊各機、鶴翼複五陣で前進せよ!」
「では参るぞ。 皆の物、我に続けぇい!!」

 まさしく鶴の一声に相応しい号令により、斯衛の武御雷達が一斉に跳躍し前進する。 前を塞ぐBETAは武御雷の長刀により斬り捨てられ、またはハーモニー隊の猛火により撃ち破られる。
 彼らの無事を祈りながら、あきらは同乗させたクラッカー4を搬送するべく、ウィスキー部隊の母艦が待つ真野湾へと後退していった。


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#28 銑鉄作戦(後編)


・ 同時刻 上新穂ダム跡


「白銀君、あなたの力、改めて見せてもらうわよ!」
「それはこっちのセリフですよ、菫さん!」

 先陣を進む武と菫が言葉を交わし、それぞれが持つ得物を前方から接近する突撃級に向ける。 スマートガンとスライプナーMk5の銃口から放たれた荷電粒子で形成された弾丸は突撃級の甲殻を容易く貫徹し、谷に侵入したBETAの前衛は経った2機の活躍により瞬く間に全滅した。
 それを確認したみちるは部下の戦乙女達を引き連れ、2人が築き上げた死骸を匍匐飛行で飛び越えながら指示を送る。

「全機、このままフォーメーション<ウォー・ヘッド1>で目標まで吶喊! 雑魚には構うな!」
「「「了解!!」」」

 メガドライヴ搭載機用に考案された新たなフォーメーションを維持し、ヴァルキリーズの戦術機達が谷を越え無数のBETAがひしめく戦域へと躍り出る。 武と菫が作り出した道に立ちはだかるBETAを迎撃後衛のみちると美冴の指示の元、突撃前衛の水月、冥夜、慧、光が一番手に切り裂く。
 千鶴と茜、多恵の強襲掃討が前衛をサポートし、砲撃支援の壬姫、柏木、直美と制圧支援の美琴と梼子が、前衛と中衛の死角に回り込もうとするBETAを的確に排除して行く。
 その一糸乱れぬフォーメーションの美しさに、一番後方で彼女達の戦いを見物していたケイイチが舌を巻いた。

「(流石は伊隅大尉達だ。 エースだけあって、ドライヴ搭載機にもう順応している)」

 こういう事は実戦で慣れさせるのが一番なのだろうかと、データを眺めながらケイイチは思う。 特に水月の場合は、後輩達が一足先にメガドライヴの能力をものにしていた事に対抗心を燃やしていたこともあるだろう。
 自分が手掛けた機械が十分に機能している事に、ケイイチはこれ以上に無い優越感を味わっていたその時、先を行く武と菫から通信が入る。

「ブレイブ1よりヴァルキリーズ全機、目標の重光線級を確認しました! 」
「でも重金属雲の濃度が薄い。 私達は周囲にいる要塞級を排除するから、伊隅大尉はフィルノートに支援砲撃要請を出して!」

 菫の提案を聞いたみちるが、直接フィルノートに支援要請を出す。 光学兵器と人間との付き合いは電脳歴世界の方が長く、そのための対抗手段も数多く考案されている。
その一つがナノマシンを用いた、光学撹乱膜弾頭と呼ばれるものだ。 AL弾頭とほぼ同じ仕組みであり、濃密なナノマシンの霧を周囲に散布。 またはそれが封入された弾頭が炸裂し、レーザーや荷電粒子ビーム等の光学兵器を減衰させる効果を持つ。
 即座にフィルノートからの砲撃が行われ、AL弾とは正反対の白い霧が戦域を包む光景が見える。

「よし、小隊に散開して重光線級を片っ端から叩く! 白銀達にこれ以上、手柄を独り占めさせるな!」
「了解! あいつだけに、良い思いをさせてたまるもんですか! A小隊、私に続けっ!!」

 みちるに続いて水月が冥夜と慧を引き連れ、74式長刀を手にして重光線級の一群に向けて吶喊する。 そして中衛と後衛のチームもみちると美冴の指揮の下、それぞれの得物を手にしながら相当を開始した。


「これで・・・5つ!」

 天高く跳躍するカイゼルが手にする、スマートガンの銃口が要塞級の頭部へ狙いを定める。 次々に放たれたビーム弾が頑強な表皮を貫き、落下時の勢いを用いてビームブレードを展開したスマートガンを振り下ろし、止めの一撃を見舞う。
 このパターンで要塞級を屠って5体目、戦域には重光線級を守ろうと更に集結しつつある要塞級達を前に、武は一歩も引く事は無くカイゼルと共に立ち向かっていた。 地面に蠢く戦車級を左手からコンバートしたボムで吹き飛ばして着地地点を確保し、馬賊撃ちの要領でスマートガンを連射し、近付く要撃級を一掃する。
 そして次の要塞級を見定めながら武は、自分の思い描いた通りに機体が動く事に興奮を隠せなかった。

「(これが、カイゼルの力・・・!)」

 多数の戦術機を持ってしても撃破が困難だという要塞級を、カイゼルはいとも容易く仕留める事が出来る。 一方で菫のテムジンも、要塞級が持つ武器らしい武器である衝角を巧みに回避し、手にするスライプナーの射撃で要塞級を確実に撃破して行く。
 その無駄のない堅実的な戦いを見ていた武は、自分を導いてきた彼女が確かな実力の持ち主である事を痛感する。 負けじとスマートガンを撃ち込む中、重光線級を掃討している最中であるみちるから通信が入る。

「2人とも、無事か!」
「はい! 白銀君と共に脱出ルートを確保している最中です! 大尉、重光線級の掃討は!?」
「時間いっぱいまで粘るつもりだったが、そろそろ弾薬が限界だ。 悔いが残るが撤収に入る、白銀、霜月! それまで持ちこたえろ!」
「「了解っ!」」

 百戦錬磨のヴァルキリーズとて、一度に捌けるBETAの数にも限界はある。 それに凄乃皇の戦域突入時刻も迫っている、重光線級を全て狩れなかった事は心残りだったが、凄乃皇の砲撃にみちるは全てを託す事にしたのだ。
 武と菫が守った帰路を、ヴァルキリーズの乙女達が感謝の言葉と共に通過して行く。 そして最後に通過した梼子が、2人に声をかけた。

「2人とも良くやったわ! さあ、防衛ラインへ戻りましょう!」
「はい! 行きましょう、菫さん!」

「ええ。 帰ったらあなたの活躍、たっぷり鑑さんに伝えてあげるわ!」
 支援砲撃が上空を通り過ぎる中、武と菫は殿を努めながら新穂ダム跡へ撤収した。


・ PM12:47 新潟県沖


「ヘイローマムよりA-02へ、間もなく佐渡島だ。 怖いBETA共は、伊隅大尉と白銀達が片付けている。 だから鑑、安心して進め!」
「はいっ!」

 新潟沿岸部に設置された、第2防衛ラインの指揮所。 そこから通信を送るまりもの報告に、専用強化服姿の純夏が快活な声で答える。 彼女は参型に改修された際、凄乃皇に新設された管制ユニットのシートに座って操縦している。
 それは00ユニットの能力により、ほぼ思考だけで操縦出来てしまう純夏には必要無い物だ。 だが純夏本人が機体を操縦する実感が欲しいと申し出た事と、搭載している火器の最終セーフティは物理的に必要であるとして、新規開発された全天周型の管制ユニットを搭載しているのだ。

「(社さん達の想いが詰まった機体、大事に使わせてもらうわ・・・!)」

 プラズマ跳躍ユニットから噴射円を吐きだして飛行する6機のF-108/Kn“レイピアナイト”が、神に付き従う天使が如く凄乃皇を護衛している。 その胸部にはAIユニットの証であるセンサー類が光り輝き、その機体が完全に無人で作動している事を証明していた。 搭載されたAIは、これまで収集した霞の思考パターンをベースに、ヴァルキリーズの衛士達の戦闘データを配合している。
 自分の身体をこの有様に変え、この世界の武を殺しただけではなく、異世界にいる武をも巻き込んだきっかけを作ったBETAを、絶対に許さない。 皆の努力と苦労が詰まった機体と共に、純夏は目の前にそびえるハイヴを睨み付ける。
 そしてML機関に誘引され、上陸地点に集まって来た残存BETAを確認した彼女が、無人機達に音声コマンドで命令を下す。

「A-02よりヘイロー全機、前方にいるBETAを攻撃! 殲滅後、フォーメーション<エスコート・タイム>で前進する!」

 純夏の指示を認識したAI達が、彼女の指定した標的に向けて一斉に行動を開始する。 有人機では到底不可能な速度で戦域に突入し、人間が耐えられるGの限界を越えた機動にBETAが付いていける訳が無く、レイピアナイトが手にするAMWS-21で次々に肉塊へと変貌を遂げる。

「(これが、衛士という束縛から解放された戦術機の姿か・・・!)」

 今の今まで無人機の運用に否定的だったまりもが、凄乃皇から送られてくる映像とデータの前に絶句する。 有人機の限界を越えた速度での機動、機械ならではの照準精度と躊躇いの無さ。 もしこの技術が全世界に普及するようになれば、衛士の犠牲は本当に最小限に・・・ いや、BETAとの戦いに人間が戦場から消える日が来るかもしれない。
 だが逆を言ってしまえば、BETAとの戦いには人間は必要ないという事になる。
 このBETA大戦の行く末が見えてしまうようで、まりもの心に虚しさが走った。 だがそうなろうとも、この戦力はBETAを駆逐するために必要な存在だ。 無人機達による掃討を終えた事を確認すると、まりもは純夏に更なる指示を伝える。

『よくやった鑑! さあ、白銀中尉がいる合流ポイントはすぐそこだ!』
「了解! 荷電粒子砲、発射準備に入ります!」

 純夏を乗せた凄乃皇が、レイピアナイト達と共に佐渡島の地に上陸を果たす。  人類の鉄槌である荷電粒子砲、発射の為に蓄えられた膨大なエネルギーが、凄乃皇胸元に幾多の稲妻を走らせている。
 チャージは順調に進み80%に達した時、遂にヴァルキリーズの不知火や晴嵐、そして武を乗せたカイゼルの姿が見える。 合流に無事成功し、ラザフォードフィールドを展開して浮遊する凄乃皇の勇士に、誰もが驚嘆の声を上げた。

「遅いぜ純夏!」
「違うよ~! 武ちゃん達が早すぎるんだよ~」

 出会ったと同時に始まった武と純夏の痴話喧嘩を目の当たりにした皆の笑い声が、ヴァルキリーズの通信回線内に響き渡る。 これでヴァルキリーズ全員が集結した。 誰一人欠ける事無く、絶対この作戦を成功させてやる。
 そう誰もが思ったその時、レーザー照射警報と共に遙からの通信が入る。

『ヴァルキリーマムより各機、A-02にレーザーが低出力照射されています!』
「何っ!?」

 谷の向こう側をみちるが眺めた先には、仕留め損ねた重光線級達がその照射膜を凄乃皇に向けていた。 その間には、レーザーを減衰させるものは何一つ存在しない。

「皆下がって! ここは私が!」
「その言葉、信じるぞ鑑!」

 うかうかしていたら自分達もレーザーの餌食になる、凄乃皇のラザフォードフィールドの防御力と純夏の言葉を信じながら、みちるは皆に退避を命じる。 そして完全に目標を捕捉した重光線級は、凄乃皇に対して最大照射を見舞う。
 瞬間、閃光に包まれる凄乃皇。 並の戦術機ならチリも残らず蒸発させるレーザー、その集中照射を受けてもなおA-02のマーカーが消失することは無かった。 それどころか凄乃皇が、谷に向けて移動をしているのだ。
 ラザフォードフィールドでレーザーを受け流し、凄乃皇の姿勢制御を行う純夏の苦渋の声が聞こえて来る。

「うあああっ・・・!」
「頑張れ純夏! 凄乃皇なら・・・お前ならこの位乗り切れるはずだ!!」

 例えるなら消防車の猛烈な放水を、この身一つで受け止めているような感じだろうか。 凄乃皇ほどの巨体が擱座しようものならオルタネイティヴⅤ派からの失笑を買い、復帰する際にはヴァルキリーズの皆にまで迷惑が及ぶ。
 それに大切な彼氏の前で、みっともない姿は見せられない。 そして武の応援が、必死に耐える純夏に燻ぶっていた何かを一気に燃え上がらせた。

「こんのおおおおおっ!!」

 遂にレーザー照射を耐え抜いた純夏が、雄叫びと共に凄乃皇のもう一つの武器のセーフティを解除する。 凄乃皇の機体左右に添え付けられた120ミリ電磁投射砲がガクンと鎌首をもたげ、谷の向こう側で押し寄せようとするBETAの姿を照準センサーが捉える。
 荷電粒子砲のチャージは既に完了し、その過剰エネルギーが投射砲へ流れ込み、セーフティを解除したと同時に発射態勢に移行する。 網膜ディスプレイに映し出されると発射準備完了の表示を確認した純夏は、両手に握る操縦桿のトリガーを引いた。

「す・・・凄ぇ!」

 先程のレーザー照射に勝るとも劣らない膨大な閃光が辺りに迸り、武はその光景に言葉を漏らす。 フレミングの法則に従い、膨大な電力により運動エネルギーを得た砲弾が、光のそれにも達しよう速度で重光線級を貫く。
 その砲弾は重光線級を粉微塵にするだけでは飽き足らず貫通後も飛翔し、発生した衝撃波は戦車級以下の小型BETAを吹き飛ばした。 群がるBETAを蹴散らしながら谷を抜け、凄乃皇の管制ユニットの中央に設けられた荷電粒子砲のトリガーがホップアップする。
 そのグリップを握り締めた純夏が、遂に荷電粒子砲の発射を宣言する。

「A-02よりヴァルキリーズ全機へ、荷電粒子砲を撃ちます!」
「ヴァルキリーズ全機、発射まで30秒以内に安全域へ退避だ!」

 発射された荷電粒子から一定範囲内は、強力な電磁場が発生する。 かといって真後ろも荷電粒子砲の反動を受け止めるために、ラザフォードフィールドが集中する為に退避は不可能。 純夏とみちるの指示に従い、武達はレイピアナイトを前面に置いた横隊陣形を取る。
 そしてカウントがゼロになろうとした時、凄乃皇に随伴する武が力の限り叫んだ。

「ぶちかませぇ、純夏ぁっ!!」
「うおおおおおおっ!!」

 雄叫びと共に、2つあるトリガーを押し込む純夏。 そして彼女の咆哮が形になったかのように、加速されたプラズマの噴流がハイヴ目掛けて凄乃皇から吐き出される。 一段と強い閃光が皆の視界を包み込み、フィードバックでも相殺しきれない振動が伝わって来る。
 そして視界を取り戻した時、そびえ立つハイヴのモニュメントが佐渡島から消え失せていた。


- ハイヴが、砕けた・・・ -


 そう呟き涙を流したのは、作戦前に最上に電文を送った信濃艦長、安倍その人であった。 凄乃皇の放った荷電粒子砲により、BETAの居城であるハイヴのモニュメントが黒煙を上げて崩れ落ちて行く様に誰もが涙を流し雄叫びを上げていた。
 まだ人類には負けるわけにはいかない。 遂に人類は、BETAを打倒する力を手にしたのだと・・・ そしてその光景は、佐渡島で戦う全ての者達の闘志を燃え上がらせるには十分過ぎる物だった。

「これは今までに無い好機だ! 全機、VRと共に進め!!」
「ああ、今日こそ佐渡島を取り戻すんだ!!」

 各防衛線で奮闘していたウィスキー部隊の衛士達が、ハーモニー大隊のVR達と共に次々に前線を押し上げて行く。 撃震が36ミリと120ミリによる銃撃のメロディーを奏で、不知火が長刀を手にしにて空を舞い、部隊の戦車や装甲車がBETA小型種を次々に撃破する。
 艦隊からの砲撃と、ハーモニー隊のVRが放つ砲弾、ミサイル、光学兵器により、佐渡島は一種のカーニバルの様相を呈していた。 そして凄乃皇から2発目の荷電粒子砲が放たれ、佐渡島ハイヴのモニュメントは完全に消失する。

「(凄い・・・!)」

 負傷したクラッカー4の衛士を無事に搬送し終え、甲板に立つ撃震の管制ユニットの中であきらが言葉を漏らす。 小隊の機体は隊長機と自分を除いて、これ以上の戦闘続行は不可能な状態だ。 隊長達はクラッカー4の衛士に付きっ切りの為、 彼女はもう戦場への復帰は出来ない。 この甲板で立ち尽くしているだけなのか、そうあきらが落ち込んでいたその時、母艦の艦長から通信が入る。

『クラッカー3、聞こえているか?』
「艦長、どうされたのですか?」
『うむ。 艦首にある電磁衝撃砲の射撃を、君がやってくれないだろうか?』
「えっ・・・?」

 そう艦長に言われたあきらは、緒戦にその威力を見せ付けた電磁衝撃砲を見る。 その砲には操作を行う戦術機がおらず、その砲口は黒煙を上げる佐渡島に向けられている。

『発射担当の機体がレーザーにより大破してな、今まで射手がいなかったのだ。 そして甲板には、無傷でいる君の撃震がいる』
「ボクが、あれを撃つ・・・」

 呆然とするあきらに、艦長は静かに頷く。 既に砲弾の補充は完了しており、後は戦術機が取り付き、衛士は指定する座標に合わせて砲を操作すれば良い。 自分の助けを必要としている者達があそこにいる、佐渡島を取り戻そうと必死になって戦っている仲間達がいる。
 勲章も名声も要らない、自分が今出来ることをやるんだ。 そう心に決めたあきらは、甲板を移動しながら艦長に告げる。

「了解! クラッカー3、衝撃砲による支援砲撃を開始します!」

 伏せの姿勢で横たわるあきらの撃震、そのマニピュレーターが衝撃砲のグリップを力強く握る。 即座に火器管制とのリンクが確立され、データリンクによる砲撃指定座標が次々に表示される。
 その中に、一際BETAに接近を許してしまった小隊が表示されていた。

「(躊躇ったら、負けだ・・・っ!!)」

 即座にその座標を選択し、撃震の機体がそこへ向けて衝撃砲を向ける。 微調整を行い、あきらはトリガーを押し込む。 彼女の想いが込められた砲弾が、音速を超えて日本海の空を舞う。
 そして凄乃皇によって壊滅状態のハイヴに、生還を果たしたオービットダイバーズとモーラ隊が再度ハイヴに突入。 一度失敗した汚名を返上するかのような怒涛の戦いを繰り広げ、2時間後に反応炉の破壊に成功する報告が最上に伝わる。
 武が始めて平行世界を渡った同じ日に、この世界の人類は歴史的な勝利と佐渡島を取り戻した。



・ 10月22日 PM8:48 横浜基地 香月ラボ


「とりあえずお疲れ様。 あそこから抜け出すの、大変だったでしょう?」
「ええ。 でも先生のお陰で、ヴァルキリーズはみな無事に帰還出来ましたよ」

 佐渡島ハイヴ攻略成功により、未だに人々の興奮が冷める事は無い。 横浜基地でも例外では無く、上の食堂ではヴァルキリーズに対し、基地を上げての祝賀パーティが行われているだろう。
 そこを抜け出してわざわざ礼を告げにやって来た武に対し、夕呼の口が開く。

「アタシはアタシの成すべき事をしただけよ、なんてたってアタシは頭脳労働者だからね。 それに、戦術機や純粋なメカニックはメガネの方が上よ。 後で彼の方にも礼を言っておきなさい」

 夕呼の全てを掛けて、完成させた00ユニット、そしてケイイチと共同で作り上げた新たな装備。 2人の活躍が無ければ、武達は佐渡の戦いであれほどの勝利を手に入れる事は出来なかっただろう。
 とはいえ天才と呼ばれる夕呼もやはり人間だ。 速く上に行ってはっちゃけたい気持ちを抑えながら彼女は、武に反応炉破壊前に純夏が行ったリーディングの結果を武に告げる。

「霜月少尉の言うとおり、やはりBETAはハイヴ間で情報をやり取りしている事が解ったわ。 更に鑑はリーディングで、ハイヴの地下茎構造のマップも手に入れた」
「凄い、それじゃあハイヴの攻略が以前にも増して容易になったじゃないですか!」
「加えて、あんたの戦術機動がBETAに対して最も有効だと記録で解ったのよ。 作戦成功の報告が入って以降、『A-01の機体をウチに持ってきてくれ!』って、欧州やアジアの連中が五月蝿くって仕方ないわ」

 これで人類の勝利という言葉に、また一歩近付く事が出来た。 そう思った武だったが、一つだけ気掛かりだった件を夕呼に問いかける。

「最後に夕呼先生、その菫さんが進めているっていうBETA研究、どう思っています?」
「BETAが異星人の作った機械って話ね? アタシもちょっと、気になって調べているんだけど・・・」

 そう告げた後、頭髪をわしゃわしゃと掻き毟りながら夕呼は考え込んでしまう。 最初こそ菫のレポートに驚愕し、否定的だった夕呼だったが、改めて読み直してみると納得出来る部分も存在していた。
 その作業や目的を成す“機能”さえ持っていれば、“外見”などどうでも良く、作った人間に与えられた“命令”に忠実に従い、作業や目的の際に発生した“障害”に“対処”する。
 BETA達にある特徴は、皮肉にも人間が作る機械にも通じる部分がある事に夕呼は気付いてしまったのだ。

「そうね、明日にでも彼女とサシで話す必要が出てきたわ。 でもその前に・・・」
「あの~、夕呼先生・・・?」
「とりあえず祝杯ね! さあ、食堂に行くわよ白銀~!」
「はいっ!」

 考えなければならない事が、まだ山ほどある。 だが今だけはそれを忘れて、皆と共に宴を思う存分楽しもうと武は思った。


2001年10月22日 1405:銑鉄作戦は佐渡島ハイヴのモニュメント、及び反応炉破壊により成功。 同日夕方、日本帝国および国連は佐渡島の奪還を正式に発表。
香月夕呼、次世代OS“XM2”を、横浜基地経由で全世界に配布する事を発表。

電脳歴世界:銑鉄作戦の成功を機に、介入中の並行世界を『オルタネイティヴ界』と呼称する事に決定。



28.5話に続く・・・


-あとがき-
『(イナーシャル・キャンセラー、全開・・・!) よぉ~し、やってみる!!』
 新作アーマードコアのサイズが全高5m程度と知り、『遂にACも、炎の匂いが染みついてむせる時代が来たか!』とwktkしている麦穂です。 今回の28話は、ハイヴ攻略戦の後半+その後のデブリーフィングです。
 ちなみに本SSの佐渡島ハイヴ戦の作戦名に付けられている”銑鉄”、鉄鋼炉で溶かしたばかりで不純物が非常に多い状態の鉄の事を言い、最近のPV等で甲20号ハイヴ攻略作戦に付けられた”錬鉄作戦”に掛けた作戦名でもあります。
 尺の長さ、パート毎のテンポやらを考えて書いていたら、思ったよりもアッサリした回に。 そんな訳で次回の29話との間に、0.5話的な番外編を挿入する予定です。















[2970] 第28.5話-証人-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2010/02/11 11:37
・ AM7:47 電脳歴世界 日本国 東京都某所 秋月邸


「佐渡島ハイヴ、攻略に成功したみたいね」
「・・・そのようだな」

 その気になれば大宴会が出来そうな広さを誇る椿の実家の座敷、対面で座る沙霧と椿がそう言葉を交わしながら朝食を口に運ぶ。 異世界で繰り広げられた佐渡島の戦いは電脳歴世界でも大きな波紋を呼んでおり、今もちゃぶ台に置かれている携帯テレビに映るニュースはそれに関わる話題で持ちきりである。
 おかずであるサンマをちまちまとほぐしながら、椿は静観を決め込もうとする沙霧に問いかける。

「あら? 以外に喜ばないのね」
「本来ならそうしたい所だが、生憎私はそういう身分ではないからな」

 箸を置き、神妙な面持ちのまま沙霧が答える。 仮にも彼はオルタネイティヴ世界の日本で反乱を起こし、そして汚名を着たままこの電脳暦世界に逃亡してきた罪人だ。 そんな今の自分に祖国の勝利を祝う資格など無い。
そんな沙霧に対し、椿はサンマをほぐし続けながら言う。

「あのねぇ、何時まで世捨て人を気取っているつもり?」
「いや、そんなつもりでは・・・」
「こうしている今も、殿下はあなたがやった事の後始末をして、あなたと2度も戦った白銀武は佐渡島で活躍したって言うのに、ここで燻っていて良いの?」
「私は・・・」

 途中から声を強くする椿の言葉に、沙霧は南洋の海における武との戦いを思い出す。 襲撃者を装い、景清で仕掛けてきた自分に対し、武はペリリュー基地を守ろうと必死に戦っていた。
 あのクーデターの時だって自分は祖国である日本、ひいては悠陽の為に戦っていたではないか。 だが今の自分には、悠陽に対して忠義を尽くす資格があるのだろうか。

「大丈夫。 きっと殿下は心のどこかで、あなたの事を許している筈よ」
「・・・そうだな。 なら私は、私の忠義を貫くまでだ。 君と共にな」

 椿の励ましで活気を取り戻したのか、先程まで止めていた箸を沙霧は再び動かす。 そして2人が食べ終わるのを見計らったかのように、椿が持つ携帯端末が鳴り響く。 ネットワークの向こう側にいる相手との会話を終えた椿が、沙霧に今日の予定を告げた。

「例の人が意識を取り戻したわ。 さあ沙霧大尉、仕事に行くわよ!」
「うむ・・・!」


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#28.5 証人


・ AM9:08 東京都某所 蓬莱クリニック


「それで八意先生、彼女の容態は?」
「身体の方の治療は終わったわ。 あとは記憶に多少混乱が見られるけど、気にするほどじゃないわね」

 都内にある私立病院の長い廊下を、椿と沙霧は院長の八意と共に歩く。 個室病棟、更には集中治療室へと進み、その中の一つである個室のドアの前で八意は足を止める。 彼女は懐からカードキーを取り出してセンサーに通し、それを認証した電子音が鳴る。
 そしてスライド式のドアが静かに開き、部屋の中のベッドで寝る人物に八意が声を掛けた。

「具合はどうかしら? イルマ・テスレフさん」
「はい、おかげさまで・・・ 」

 端から見れば互いに異なる国の言葉をしゃべっている2人だが、2人の耳にはイヤホンのような翻訳機が付けられている。 無論、沙霧と椿も其れを身に着けており、言葉の壁を気にすることなく会話が出来るのだ。 照明が点いて互いの姿を確認した沙霧とイルマが、何故お前がここにいると言わんばかりに驚きの顔を見せる。
 恐らく彼女も自分と同じように、ほとぼりが冷めた頃に椿によって救出されたのだろう。 八意に続いて、沙霧は殺気が篭った声でイルマに話しかける。

「貴様は、あの時の米軍機に乗っていた衛士か?」
「そうよ。 あなたと殿下の交渉を台無しにした、ハンター2の衛士はこの私。 といっても、あのときのことは余り覚えてないけどね・・・」
「覚えていないだと!? 貴様、あれだけの事をしておきながら、どう言う事だ?」

 自分も人の事が言えないと自覚しながらも、沙霧は問わずにはいられなかった。 あの時自分と悠陽の交渉が成功していれば、ここまで事態がこじれる事は無かったのだから。 このまま力ずくで聞き出そうかと沙霧が憤慨していたその時、八意がイルマの治療中に気付いたある事を話し出す。

「その事なんだけどね沙霧さん。 彼女、催眠暗示を受けた形跡があるのよ」
「催眠暗示だと? まさか・・・!」
「そう。 彼女は自分の意思で、交渉を破綻させた訳じゃないって事よ」

 八意に続いて椿の推測に、沙霧はハッとする。 自分達の世界では、BETAとの戦闘による恐怖や精神的ショックを軽減する為に“後催眠暗示”というものが存在する。 程度は様々だが最も強力な後催眠暗示を受けた場合、意識が朦朧とし状況判断が低下する事も有る。
 それを用いればイルマのように、戦術機に乗っている衛士を操って行動させることもあながち不可能ではない。 苦渋の表情を浮かべながら、イルマは現在の心境を話す。

「結局、私も大国の捨て駒として使われたって訳よ・・・」

 彼女はBETAによって滅ぼされた北欧の国、フィンランドからの難民出身だ。 父親はBETAとの戦争でとうに戦死し、市民権の入手と残された家族を養うために米国軍に入隊した。 彼女意外にも、苦しい生活から抜け出そうと軍に志願した難民出身の衛士は数多く存在しており、実際に前線に送り出される米軍の戦力の大半がそういった事情の持ち主なのだ。
 自分達を保護してくれた国に忠を尽くしたつもりが、向こうからは捨て駒程度にしか見られていなかった。 そう悔しさと憎しみを露にするイルマの目に、薄っすらと涙が浮かんでいる。 そんな彼女に椿は、ある提案をイルマに打ち出す。

「だからテスレフ少尉、その悔しさを違う方向で晴らしてみたらどうかしら?」
「えっ・・・?」

 そうして椿は沙霧と共に、自分が編み出した武達に対する支援計画について、イルマに全てを話した。 悠陽との会談を終えた椿は、余程の事が無い限りあの世界に行く事は無い。 沙霧もあの世界では罪人であり、もうあの世界へ戻る事は出来ない。
 そしてイルマもおめおめと戻れば、米国の諜報部に抹殺される運命が待っているだろう。

「私達の世界では、通常の技術で戦術機を強化する計画が進んでいるわ。 あなたには、その手伝いをして貰いたいのよ」
「つまりテストパイロットとして、私をスカウトしたいって事ね?」
「ええ。 もし受け入れてくれるのならここにいる沙霧大尉と同様、あなたの身の回りの保障はするわ」

 自分が提供した情報や行動が、自分を捨てた連中に対して一矢報いる事が出来るならそれで良い。 それに彼女のいう言葉の真偽は、沙霧が隣に立っている事で十分証明出来た。
 このまま誰にも真実が伝わらずに死んでたまるか、そう決意したイルマは椿に対し力強く頷いた。

「じゃあ八意先生、引き続き彼女の治療をお願いします」
「ええ、私のプライドに掛けて彼女を治すわ。 じゃあテスレフさん、また後で来るわね」

 とりあえず今は休息と治療が必要だ。 彼女達が部屋から去った事を確認すると、イルマは八意の言う通りにそのまま深い眠りに付いた。


・ 2001年10月29日 横浜基地 B19フロア 香月ラボ


「新種の超大型BETAによる増援?」
「はい。 あの作戦で最初にハイヴに突入したモーラ隊とオービットダイバーズが、新しい横坑を掘削しているらしい音源を感知しています」

 銑鉄作戦の成功により直接的なBETAの侵略が薄まり、一段落を迎えた横浜基地。 地下の夕呼の研究室では、独自にBETAの調査を行っていた菫が更なる資料と共に報告を行っている最中だった。
 ハイヴへの突入に失敗した後、文字通り湧き出るように出現したBETAの増援。 さらに生還した突入部隊の証言や記録から、それらは本来佐渡島ハイヴに残っていたBETAではないのではと菫は語ったのだ。 彼女の推測に対し、夕呼はふんと鼻息を立てながら自分の意見を口にする。

「さらに採取された音紋と振動パターンは、トンネル掘削用シールドマシンと同じ・・・ となると佐渡島の増援は、地中を高速で進むBETAの未確認種がやったって事になるわね」
「はい。 私達はその可能性を第一前提に、現在更なる調査を行っています」

 現在確認、分類されているBETAは8種。 だがBETAが異性人の作り出した作業機械という菫の仮説が正しいのなら、まだ人類が確認していないBETA種が存在していても不思議ではない。
 人類が勝利するには更にBETAを“知り”、それを成した上でBETAを“制する”方法を見付けなくてはならない。

「決めたわ。 これからアタシもあんたの仮説に則って、BETAについて調べてみる」
「ほ、本当ですか!?」
「こんな重要な時に、アタシが嘘を言うと思ったの? 共同研究って形で、いずれ国連に提出するけど、それでも良いわね?」

 自分の仮説が夕呼に認められた事に、菫は驚きの余り声を上げる。 そんな彼女に、夕呼は更に小言を付け加えて言った。

「まあ、上司のメガネ君に、グダグダ言われないように頑張りなさい。 アタシも、出来る限り力になるわ」
「はいっ!」

 これでまた、武の望みを叶えられるかもしれない。 世界規模で人類の反抗作戦が始まろうとしている水面下で、菫と夕呼の戦いが始まろうとしていた。


・ 一週間後 電脳暦世界 AM9:43 秋月邸


「『メタルマッドネス』計画?」
「それが新たに行われる、新型戦術機開発計画の名か・・・」

 治療を終えたイルマも加わり、椿と沙霧は3人で4畳程度の茶の間でちゃぶ台を囲む。 イルマと沙霧が呟いたとおり、オルタネイティヴ世界から招いた技術者の監修の下に新たな戦術機の開発が始まろうとしている。
 2人に合成品ではない本物の緑茶を出した後、椿は計画の概要を話し始めた。

「どうやら銑鉄作戦が切っ掛けで、向こうの技術者達に火を点けちゃったらしくてね。 それで、資源も環境も整っている私達の世界で行おうって決まったのよ」

 G弾によりBETAを殲滅し、戦術機による掃討及びハイヴの制圧を行う米国の対BETA戦略。 加えて戦後の覇権を狙う同国の思惑の結果、ラプターという明らかに対人戦闘を目的とした戦術機が誕生してしまった。 そんな戦略に嫌気がさした米国の各メーカー技術者や、G弾の運用に疑問を唱える米軍内部の少数勢力が電脳暦世界の企業や国々に協力を要請した事が、一連の開発計画の発端となった。
 椿から一通りの説明を聞き終えた沙霧が、その計画の名に思わず眉間にシワを寄せる。

「しかし計画名の意味が『鋼鉄の狂気』とは、これは何かの皮肉なのか?」
「あら? 科学者は目的の為なら手段を選ばず、悪魔に魂をも売るって聞いたけど?」
「第二次大戦時のロケット研究者の言葉ね。 でも、私達の世界で名の知られたメーカーの殆どが参加しているのを見ると、本当にそう思えるわ・・・」

 北米はノースロック・グラナン社にボーニング社、そしてラプターを開発したロックウィード・マーディン社。 日本帝国からは富嶽重工、光菱重工、河崎重工。 ソ連からはミコヤム設計局、スフォーニ設計局。
 欧州からはF-2000“タイフーン”を開発計画である『ECTSF』に携わった企業達が。 そして東アジアや中東からはIEIや審陽等、人類の刃たる数々の戦術機を輩出した企業達がこぞってこの計画に参加しているのだ。 企業達は電脳暦世界の既存技術を、あわよくばこの機会に手に入れてしまおうと考えているのかもしれない。
 イルマや椿の言葉どおり、悪魔に魂を売ったかのような企業達の行動に沙霧は驚愕するも、椿に今後の行動について質問する。

「それで椿、我々はどの勢力に組するつもりなのだ?」
「それはね・・・」

 沙霧の問いに対して椿はm彼とイルマを呼び寄せて2人にそれを耳打ちで話す。 それを聞いて驚きを顔を浮かべる2人に、椿は小悪魔のような笑みを浮かべるのだった。


電脳暦世界:“メタルマッドネス”計画始動。 オルタネイティヴ界の各国戦術機メーカーのスタッフや軍関係者を招き、双方の世界の既存技術のみによる新型戦術機の開発が始まる。
ロックウィード・マーディン社及びボーニング社が同計画の一番手として、自社が開発したF-15シリーズとF-22の強化を電脳暦世界の企業に提案する。


・ 2001年11月3日 AM10:12 横浜基地 PX


「天元山が噴火するですって?」
「はい。 今となってはもう関係ないと思っていたんですけど、一応報告しようと思って・・・」

 佐渡島での活躍により一躍脚光を浴びる事になった武の口から、前の世界での出来事が語られる。 天元山の一件は忘れてはいなかったのだが、ここ最近は忙しそうな夕呼に合えるタイミングが見付からず、今まで話せずにいたのだという。 そんな武に対し、夕呼は呆れた表情で答える。

「はぁ、今度からは優先して話に来なさいよ。 それで前の世界で、11月中に起きた出来事はそれくらい?」
「後は11日に、佐渡島のBETAが新潟に上陸したくらいですかね」

 佐渡島の方は先日の銑鉄作戦が成功したことにより、BETAが新潟に上陸する事は無くなった。 そして天元山の方なのだが、その山が存在する中部地方は火山活動が最近活発になり、その麓では難民キャンプでの暮らしに絶えられなくなった人々が住み着いている。
 政府は何とかして避難させようと思っているのだが、肝心の住民は断固としてキャンプに戻るのを拒否し、軍を出動しようにも銑鉄作戦の後始末やらで忙殺されているのが現状だ。 これをどう扱おうか夕呼が考えようとしたその時、菫が研究室に入ってくる。

「菫さん? どうしてここに」
「どうしてって、副司令に新しいデータ届けに来たんだけど。 ん、副司令・・・?」

 彼女の言うとおり、菫の手には独自に行っているBETAの調査資料が書かれた紙がある。 そして菫の姿を見た夕呼は、半ば条件反射的に天元山の件の対応策が浮かんだ。

「丁度良かったわ霜月少尉。 あなたに一つ、頼みたいことがあるんだけど・・・」
「えっ・・・?」

 不敵な笑みを浮かべる夕呼の顔を見て、菫はまた面倒な事が待っているなと悟っていた。


2001年11月3日:香月夕呼、天元山町への災害特別部隊の派遣を行うと、同日中に帝国政府へ通達。 帝国政府はこれを受理。
4日未明、霜月菫少尉を筆頭とする派遣部隊が現地に向う。


-あとがき-
『何故だ!? 何故貴女ほどの英雄が、マフィアなどに身を窶す!?』
『教えてやるとも、スタラニフ。 お前が誇りを見失ったように、我々は誇りから見捨てられたのさ』

 卒論提出+引越し+職探しの三重イベントが近日中に待ち構えて、部屋の隅でガタガタ震えている麦穂です。
 今回は29話へのつなぎ回。 救助されていたイルマの復帰とBETA新種疑惑、そして次回の天元山への前フリです。
 オルタ本編で見せたイルマのあの行動、当初は命令されてそれに従ったのかと思っていたのですが、メカ本にて催眠暗示による可能性があるという記述があり、それをネタに書いてみました。 そして彼女を治療したゲストキャラ、八意先生の元ネタは勿論あの人です。
 



[2970] 第29話-同郷-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2010/02/21 00:22
・ 2001年11月5日 AM11:35 旧天元山町


「お婆さん、どうしても難民キャンプに戻りたくないんですか?」
「いいや、あたしゃ戻らないね! どうせ老い先短いんだ。 せめて最後くらい、自分の生まれ育った場所で死なせておくれよ!」

 噴煙が微かに立ち込める天元山の麓に、一番近い場所に建つ古民家。 その家の主であり、避難先のキャンプから抜け出してきた老婆は、断固として菫の説得を断り続けている。
 夕呼の命によりこの地を訪れて早2日。 到着早々行った菫達の説得により、不法滞在していた住民は徐々にそれを聞き入れてくれるようになったが、この老婆だけは断固として説得を拒み続けているのだ。 相手は不法に危険区域に住居している人間、本来ならば強制的に退去させる事も可能だが、菫とてそんな手荒な真似はしたくない。
 途方に暮れる菫の元に、副隊長として彼女のサポートを任された冥夜が近付いて来る。

「霜月隊長、ご老人は説得を聞いてくれましたか?」
「駄目ね。 かと言って無理やり連れて行くのも嫌だし、一体どうすれば・・・ ん?」

 説得に手間取っていると冥夜に話していたその時、菫は老婆の態度が急に怖気付いた事に気付く。 何事かと思っていたその時、その老婆は突如として許しを請うような口調で冥夜に対し土下座をした。

「お願いでございます! どうか、どうかこの老いぼれの願いを聞いてください!!」
「お・・・お婆さん!?」


マブラヴ -壊れかけたドアの向こう-
#29同郷


・ PM12:17 旧天元山町災害対策本部


「光~、菫さんと御剣が帰って来たよ!」
「ホントだ。 説得は上手くいったのかな?」

 旧天元山町から少し離れた場所にある、災害対策本部として帝国軍が設置した仮設基地。 そこにいる光と直美のコンビが、滑走路に着陸する菫のテムジン『霧積』と冥夜の晴嵐を発見する。 彼女達も冥夜と同様、菫率いる派遣部隊のメンバーとして選出され、不法滞在者の説得を終えて一足先に戻っていたのだ。
 駐機を終えてハンガーから出た菫と冥夜に駆け寄る光と直美が、説得の結果を聞く。

「どうでした、菫さん?」
「もうちょっと時間が掛かりそうね。 でも御剣さんがいなければ、あのお婆さんを説得できなかったかも」

 そう光に語る菫の言葉に、珍しく冥夜が驚きの表情を見せる。 政威大将軍である悠陽と双子の姉妹の関係である冥夜。 この世界の日本人ならば、そんな彼女の説得を拒否できる筈も無い。
 結局あの老婆はもう少しこの地にいさせてくれと冥夜と菫に懇願し、結局冥夜がそれを承諾したため説得は次回に持ち越しになってしまった。 だが逆を言えば冥夜の一声次第で、何時でもあの老婆を説得出来ると言う事になる。 武の記憶によれば、まだこの時期の天元山は小康状態を保っているという。
 まだ十分に余裕がある事に安堵する菫達に、迷彩柄のBDUジャケットを着用した帝国軍の衛士が話しかけてくる。

「なあ、あのハンガーに置かれた戦術機・・・じゃなくてVRって、911クーデターの時に厚木基地に来た機体かい?」

 銑鉄作戦でのヴァルキリーズの活躍と名前は、更なるスポンサーを募る事を模索する夕呼とケイイチによって誇張や情報検閲は成されたものの、絶望の淵から世界を救う女神として世界各国に轟く事になった。
 それは帝国軍でも例外ではなく、佐渡島ハイヴを潰した英雄である彼女達を知らない物は存在しない。 彼もそんな自分達の運気にあやかりたくて話しかけたのだろうか? そんな事を考えながらも、隊長として菫が応対する。

「そうだけど、あなたは誰?」
「やっぱり忘れて当然か、あんな情けない所も見られたしな・・・・」

 そう物悲しそうに言った青年の表情に、菫は何か引っかかるものを感じる。 そして彼女が当時の記憶を模索していた途端、彼が何者なのかを思い出す。

「あ~っ! あなた、あの時の不知火に乗ってた衛士さん!?」
「や、やっと思い出してくれたか・・・」
そう菫に大声で指摘された元A-01所属の衛士、鳴海孝之中尉はほっと胸を撫で下ろした。


「そうでしたか。 鳴海中尉って、元ヴァルキリーズのメンバーだったんですね」
「それならば、涼宮中尉や速瀬中尉とも知り合いなのですか?」
「ああ。 あの2人とは訓練校からの付き合いでな、遙が怪我をしたせいで一足先に俺はヴァルキリーズに入る事になったんだ」

 仮説基地に申し訳程度に設置された食事スペース。 金属パイプと合成樹脂で作られたテーブルの1つを菫と冥夜、直美と光、そして孝之の5人で囲んでいる。 そして昼食時の会話を通して、彼が自分達と同郷の人間だと言う事が判明したのだ。
 そして孝之は同郷のよしみとして、菫や冥夜達に何故自分がここにいるのかを語り始める。

「横浜基地になっている場所。 皆はもう知っていると思うけど、元はあの基地はBETAのハイヴを土台に建設されている」
「はい。 香月副司令のおられる研究所を初めとする地下施設類も、元は地下茎構造をそのまま利用していると聞きます」

 冥夜が言った補足に、孝之はこくりと頷く。 1998年7月に始まったBETAの本土侵攻は九州上陸から留まる事を知らず、僅か一週間で日本の総人口の3割を飲み込んだ挙句、3ヵ月後には横浜まで壊滅し、ハイヴを建造されると言う惨状に至った。
 だが翌年の8月、アジア方面では最大規模のハイヴ攻略作戦“明星作戦”を決行。 米軍が独断で投下した2発のG弾により、帝国市民に決定的な反米感情を植え付けてしまったもののハイヴ攻略は成功。 その跡地に現在の横浜基地が建設され、夕呼が主導するオルタネイティヴⅣが開始されたのだ。

「俺はその明星作戦に参加して、しぶとく生き残った悪運強い一人なのさ」

 そう皮肉めいて語る孝之に、冥夜達は何と声を掛けて良いのか分からずにいる。 そして孝之はあの忌まわしき横浜の戦いを、まるで神に懺悔を唱えるかのように皆に話し始めた。



『これ以上、俺達の街で・・・誰も死なせたくないんだぁーっ!!』

 銃砲撃の轟音と金属が軋む音、大地を踏み鳴らす轟音、オープン回線に響き続ける怒号と悲鳴、死肉を貪り食う咀嚼音。 地獄の一丁目に相応しい荒野に変わり果てた柊町を、UNブルーに色塗られた一機の不知火がBETAの群れに向けて疾走する。
 これ以上、奴らの好きにさせない。 自分の帰りを待つ遙や水月のためにも、必ずこの横浜を取り戻してみせる。 その一心であの時の孝之はぶちまける様に突撃砲を撃ち、力の限り長刀で薙ぎ払っていく。
 だが突如として飛び込んできた上官の声が、怒りで満ち溢れていた孝之の心を静めていた。

『後退しろ鳴海! 米軍が軌道上からハイヴ攻略用の新型弾を投下した、そこは効果範囲だぞ!!』
『何っ!?』

 だが我に返ったことが、先程まで研ぎ澄まされた孝之の反射能力を鈍らせる。 次に孝之の耳に飛び込んで来たのは、BETA接近を示す警告音。 そして要撃級の鋭い前腕の一撃が、孝之の不知火に容赦無く襲い掛かった。

『ぐっ・・・!! がっ!!』

 管制ユニットを揺さぶるほどの衝撃と、狂ったように鳴り響くステータス警告。 米軍がハイヴ目掛けて投下した、新型弾頭の炸裂までさほど時間が無い。 転倒した不知火の管制ユニット、操縦桿を握る手と腕の感覚が無くなり、ペダルを踏む足も重く感じる。 頬には汗や涙ではない何かが伝わり、軋むような痛みが孝之の身体に電撃が如く走る。
 このまま処置をしなければ、確実に命を落とす状態に孝之は陥っている。 だが絶体絶命な状況でも、彼は諦めるつもりは毛頭無かった。 自分の無事を祈る遙と水月、彼女達の約束と想いを果たすために、自分はまだ生き延びなくてはならないのだから。

『(死んで・・・たまるかよ・・・!)』

 孝之共々不知火の機体を喰らおうと、次々に群がり始める戦車級。 だがその一角が36ミリ弾の直撃で爆ぜ、跳躍ユニットの全力噴射で吹き飛ばされた。 跳躍ユニットからロケットモーターの噴射炎を巻き上げながら、満身創痍の不知火が再び柊町を舞う。
 そして全速で後退する不知火の後ろで、後に“G弾”として知れ渡る五次元効果爆弾が超臨界反応に達し、それによって生まれた黒球が横浜ハイヴを飲み込んで行った。



「俺が覚えているのはそこら辺までだ。 目を覚ました時には、帝都にある軍病院のベッドの上にいた」

 そう孝之の話を聞き続けた菫達は、彼の体験したことにただ驚愕し絶句していた。 自分達とは比べ物にならない地獄を目の当たりにし、それでいて生還した男が目の前にいるのだから。
 英雄という言葉は彼の方が相応しいと皆が思っていたその時、孝之は明星作戦の後の出来事について語り続けた。
 G弾の炸裂から辛うじて逃れる事が出来た孝之は、直ちに帝都の軍病院に搬送された。 彼の治療に当たった医師は『五体満足な衛士は、九-六作戦以来だな』と告げたという。 見た目の外傷はそれ程でも無いが、やはり要撃級の一撃は想像を絶するものがあり内臓に深刻なダメージが残っていたのだ。
 そして香月夕呼の手により、後に00ユニットに使用される人工臓器を移植され、治療前と変わらないまでに快復したのだ。

「移植手術をした時点で香月副司令は、もう俺がA-01の激務に耐えられないと分かったんだろうな。 退院後は副司令の推薦で帝国軍に入り、あの厚木での騒動の後にこっちへ飛ばされたのさ」
「そうでしたか。 要らぬ詮索をしてしまい、申し訳ありません・・・」
「構わないさ。 ただBETAと戦って死に損なって、左遷された一人の衛士が、ここにいるってだけのことだよ」

 全てを語り終えた孝之の顔は、出すものを出したかのようにすっきりしていた。 国連の特殊部隊であるヴァルキリーズの機密は絶対、それだけに同郷の人間である冥夜達と出会えた事が心強いのだろう。
 菫は銑鉄作戦における皆の活躍を交えながら、孝之に労いの言葉を送る。

「そんな事無いですよ。 中尉が戦ってくれたお陰で、今の御剣さん達がいるんですから」
「そうですよ鳴海中尉! 作戦前に速瀬中尉が、『アイツや白銀よりも暴れて見せるわよ~!』って、意気込んでいました!」
「涼宮中尉も移動前、まるで誰かの帰りを待っているかのように星空に祈っていましたよ」

 光と直美が告げた言葉に孝之の涙腺が緩み、頬を涙が伝った。 ヴァルキリーズを去っても尚、水月は自分の分まで戦い続け、遙は横浜に自分が戻ってくるのを今でも待っているのだと。
 命と言う名の輝きが消えぬ限り、3人の心と絆は決して壊れる事は無いのだと孝之は悟る事が出来た。
 涙をジャケットの裾で拭いながら、孝之は皆に礼を告げる。

「すまない。 またカッコ悪い所、見せちまったな・・・」
「いいえ。 あの時厚木で戦っていた鳴海中尉、とてもカッコ良かったですよ」

 孝之の顔に笑顔が戻り、それを確かめた皆も釣られて微笑む。 そしてヴァルキリーズの先輩である彼を新たに加え、残りの住人達の説得が続けられた。


・ 電脳暦世界 PM3:37アメリカ合衆国 ウェーク島


「どうしたテスレフ少尉! クーデターで我が同志達に見せた、あの動きは何処に行った!?」
「くっ、わかってはいるけど・・・!」

 体中に伸し掛かる上昇中のGに耐えながら、イルマはチェイサーとして随伴している沙霧に答える。 沙霧の景清『火影』が追い駆けるのは、それはオルタネイティヴ世界から来た技術者達により作られ、白とアースブルーに色塗られた鋼鉄の巨人。
 VRより一回り大きい17メートル前後の全高を持つその機体の背中には、VRの心臓部といえるVコンバータやカイゼルのようなメガドライヴが一切見当たらない。
 それはイルマが乗るXF-36が、オーバーテクノロジーを一切用いずに作られた異世界の人型兵器、戦術機である事を物語っていた。 F-15/ACTV“アクティヴ・イーグル”を模した大小4基の跳躍ユニットが、“ストラマ”と名付けられた戦術機を青空へと力強く飛翔させる。
 『メタル・マッドネス』計画に電脳暦世界側の人間として参加し、久々に戦術機の管制ユニットの座席にイルマは座っていた。 網膜ディスプレイから見える視界は雲一つ無い青空と、群青の海が広がっている。
 そしてオペレータを務める椿から、演習プログラムの追加報告が入る。

『フォーカスマムよりフォーカス1へ。 ここからは競合機とJIVESで模擬戦闘よ。 “メタル・マッドネス”計画に最初に参入した強化案の機体みたい。 気を付けてね』
「フォーカス1了解」

 椿の報告を聞いたと同時に沙霧の景清が遠ざかり、イルマはJIVESを起動させて模擬戦の準備を行う。 JIVESモードで作動するFCSが瞬時に自機の装備状況をチェックし、現在使用出来る兵装が網膜ディスプレイの片隅に表示される。
 この機体と同時開発されたXAMWS-27 試作重突撃砲をストラマの右マニピュレータがしっかりと保持し、襲来してくるであろう競合機に備える。
そしてレーダーの光点表示と、ロックオン警報が鳴ったのはほぼ同時だった。

「上から!?」

 ストラマのいる更に上空から、まさに天からの裁きと言わんばかりに、シミュレーターで形作られた砲弾がイルマ機目掛けて降り注ぐ。 ストラマの跳躍ユニットが一段と唸りを上げ、イルマは3点バーストで撃ち込まれる砲弾を水平跳躍でやかに回避する。
 後部センサーが捉えた敵の機影、それを確認したイルマが何故今まで相手を捕捉出来なかったのか納得する。

「F-22・・・ これも、何かの因縁なのかしら」

 回避を続けると同時に、背中の兵装担架システムに格納されているAMWS-21の対空射撃で反撃を行いながら、イルマはあの猛禽類の爪からは逃れられないのだと悟る。 反転してF-22の改良型らしき戦術機にストラマの機体を向き直らせ、ブルパップ式ではない外見を持つ重突撃砲の銃口を、こちらに向けて降下して来る敵機に向ける。
 相手の挙動を警戒しながら、イルマは最大望遠でその機体を観察する。 腕部の大型シース、脚部のスーパーカーボン製のスタビライザーブレードが機体に装着されている。 それは欧州やソ連、日本帝国で開発された戦術機の特徴と同様に、BETAとの近接戦闘を意識した物だ。
 恐らくあのラプターはこのストラマと同じく、対BETA専用に再設計されたのだろう。 いや、あの状態こそBETAに対抗するべく生み出された人類の刃、戦術機たるラプター本来の姿なのかもしれない。 そして唐突にそのラプターから、米軍の秘匿コードで通信が掛かる。
 誘っているのかとイルマは用心しながら解読コードをサブコンソールに打ち込み、そのラプターとの回線を繋ぐ。 そして通信ウインドウに表示された顔に、イルマは驚きの余り口を閉じる事を忘れてしまった。

『久しぶりだなテスレフ少尉。 生きているとは薄々感付いてはいたが、まさかこのような場所で再開しようとは・・・』
「あなたもこの計画に参加しているんですね? ウォーケン少佐・・・」

 9.11クーデターでは第66戦術機甲大隊の指揮を務め、イルマの上司であったアルフレッド・ウォーケン少佐。 そんな彼が何故こんな異世界で、F-22の変異種とも言える機体に乗っているのか。
 イルマがその事を問いかけようとした正にその時、ホバリング状態のFB-22“ストライク・ラプター”に乗るウォーケンが、ここに来た理由を彼女に話す。

『まさか私が、生き残っていた君を始末しに来たと思っているのか?』
「違います! ただ・・・」
『安心したまえ。 君があのような事をするような衛士でないことは、私がよく知っている』

 あの後ウォーケンも、イルマが出来心で悠陽と武を襲ったのではないと気付いたのだろう。 そして彼は今まで、行方をくらませていたイルマの身を案じていたに違いない。
 奈落の底まで堕してしまった自分を、心配してくれた事にイルマが感謝していたその時、任務中見せていたのと同じ厳しい剣幕をするウォーケンの口が開く。

『少尉、私は私の意志でこの世界を訪れ、このラプターをBETAと十二分に戦える機体に仕上げるつもりだ。 その為なら、君と手合わせする事も厭わない。 君もそうじゃないのか、テスレフ少尉!』

 ウォーケンがそう言い放ったと同時に、ストライク・ラプターの腕部にある大型ナイフシースから、短刀と長刀の中間的なサイズのブレードを取り出し、その切っ先をイルマのストラマに向ける。 今は模擬戦の相手同士、再会を喜び合うのは後にして、互いに全力を出し合おうというウォーケンの意図なのだろう。
 それを汲み取ったイルマも、背中に担架されているXCIWS-2試作長刀を取り出し構える。

「そうですね少佐。 ならば私もこのストラマを預かる身として、全力であなたの相手をします!」
『その意気だ。 来い、テスレフ少尉!!』

 ウォーケンの言葉を合図に、イルマのストラマが4基の跳躍ユニットを全開に噴かし、ストライク・ラプターに斬り掛かる。 まるで先程の会話の続きを楽しむかのように、イルマとウォーケンが操る2機の剣が踊り、跳躍ユニットの轟音と切り結ぶ金属音がウェークの海に響き渡った。


電脳暦世界:『メタル・マッドネス』計画で先行開発されたFB-22“ストライク・ラプター”及び、XF-36“ストラマ”の近接模擬戦闘を開始。
日本帝国、97式改『晴嵐』の通常仕様機をロールアウト。 ソ連の設計局共同開発による試作TSF、I-21やMIG-1.44と共に『メタル・マッドネス』計画の模擬戦闘訓練に参加予定。


・ 2001年11月6日 PM9:08 横浜基地最深部 90番ハンガー


「冥夜に菫さん、それに朝倉と高原は大丈夫かな・・・?」
「ああ見えても菫君は僕の部下だよ。 そして御剣君達も、もう一人前の衛士じゃないか」
「そうだよ~。 タケルちゃんと違って、御剣さん達はしっかりしてるから大丈夫だって!」

 菫や冥夜達の帰りを待つ横浜基地、その最深部にある90番ハンガーでは武と純夏、そしてケイイチの3人による秘密の作戦会議を行っていた。 広大な地下空間の中には3人以外にも、凄乃皇の整備スタッフがラストスパートとばかりに作業を進めている。
 銑鉄作戦を成功に導き、佐渡島を人類の手に取り返した功労者である凄乃皇参型。 その機体は中央のブロックを残してほぼ分解されてオーバーホールの状態にあり、次の作戦の時までそのコンディションが最高まで保たれている。
 一方で武のカイゼルも、機体の回りには何やら数々のパーツが置かれ、ケイイチにより更なる強化が成されるようだ。 夕呼からここに来るようにと言われた武と純夏が、ケイイチにその理由を尋ねる。

「それでケイイチさん、話って何です?」
「もう2人は聞いたよね? 菫君と博士が提唱した、BETA未確認種の話」
「佐渡島のBETA増援はそいつの仕業だって、夕呼先生が言ってました」

 純夏の答えに、ケイイチが何時もの様に頷く。 既に菫と夕呼の徹底した解析結果から、佐渡島でBETA未確認種には“母艦(キャリアー)級”と戦術分類名が付けられていた。 そして更に過去のデータを引っ張り出したところ、地下からの大規模奇襲や侵攻の際にも同じような振動パターンと音紋が観測されていた事が判明したのだ。
 今後行われるユーラシアや欧州での戦いでも、今回のようなBETAの増援が何度発生しても不思議ではない。 そういった事情を踏まえてケイイチは武と純夏に、この90番ハンガーへわざわざ呼んだ理由を告げる。

「それで今回思い切って、カイゼルと凄乃皇を大幅に強化しようと思ってね。 衛士である君達に意見を聞こうと、ここに来て貰ったのさ」
「武ちゃんのカイゼルと・・・」
「純夏の凄乃皇を強化する!?」

 銑鉄作戦でハイヴのモニュメントを、地表にいるBETAもろとも吹き飛ばした凄乃皇。 そしてそのお膳立てを行うために、障害となるBETAを怒涛の勢いで排除していったカイゼル。
 あの戦いで2機が秘めていた性能が凄まじいものだと実感していたのに、それに更なる強化を施そうと言うケイイチの提案に武と純夏は驚きを隠せない。

「まず鏡君の凄乃皇は、香月博士が考案していた強化プランと、僕の考えたプランを融合させた新たな仕様になる予定さ」
「だから中央のパーツ以外は、殆どが取り外されているんですね。 やっぱりあれは、ただのオーバーホールじゃないって事か・・・」

 そう呟いた武にケイイチが手渡した携帯端末の画面には、CADソフトで描画された凄乃皇の新たなる姿が映し出されていた。 巨大な凄乃皇のボディに “手足”と呼べるパーツが新たに設けられ、まるで巨大な戦術機と言っても過言ではないシルエットをしている。
 武の隣にいる純夏も興奮しながら、彼が持つ端末の画面を眺めていた。

「XG-70e“凄乃皇五型”。 見ての通りランディング用の脚部と、通常武装を内蔵した腕部を取り付ける予定さ」
「すっご~い・・・ 火力も参型とは桁違いにアップしてるよ」

 ケイイチの解説に暢気な声を上げる純夏だったが、改めて凄乃皇五型と呼ばれる機体のスペックに目を通した武の背筋に、ゾクリと得体の知れない感覚が走る。
歩行ではなくラザフォードフィールドによる浮遊推進機能を持つ凄乃皇五型の脚部。 その形状を見た武は、かつてケイイチから聞かされた話を思い出す。 凄乃皇五型の脚部は、メガドライヴ制作の為に電脳暦世界に戻った武が訪れた禁制領域、“シバルバー”に出没していたという破壊の幻獣『ヤガランデ』に良く似たものだった。
 新たに設けられた両腕部には参型にも搭載された120ミリ電磁投射砲や1200ミリOTHキャノン改等、対人戦闘ではオーバーキルといわんばかりの凶悪な兵装が多々搭載されている。
 それは対BETA決戦兵器と言う肩書きが無ければ、正に狂気の沙汰と思われかねない物だった。 武は自分が先程まで感じていた感覚は、BETAを殲滅するためなら何だって行う人間に対する“恐怖”だったのだとようやく気付く。

「凄乃皇の改装についてはまた追々説明するとして・・・ 次はカイゼルの方だね」
「凄乃皇と比べると全然変わってないね、タケルちゃん悔しい~?」
「べ・・・別に悔しくなんかないぞ!」

 とは強がってみたものの、実際には純夏の茶化しに対して、武はしっかり落ち込んでいたりする。 次にケイイチが端末に表示させたカイゼルのCADデータには、劇的な変化を見せた凄乃皇と比べて真新しいパーツの類は一切装備されていなかったからだ。
 せめてシステムの強化位なのかと武がひねくれていると、ケイイチは再び端末を操作し表示を切り替える。 画面には小さな凄乃皇参型を着込んだかような、重厚感溢れるユニットを装着するカイゼルの姿が映っていた。
 左上端にはこのユニットのコードネームだろうか、“アーマードライナー”と小さく表示されていた。

「ケイイチさん、これは?」
「AL-130“スプーキー”。戦術機単体に限界までの武装と、スピードを付加する兵装システムの一号機さ」

 確かにカイゼルは戦術機単体としては、最強の部類に入ることは間違いない。 だが物量を最大の武器とするBETAとの戦いではその持ち前の火力では対処し切れない事が、銑鉄作戦の戦闘データから判明したのだ。
 そこでケイイチは9.11クーデターで撃破し回収した戦術機、SR-71“ブラックバード”が装着していた跳躍ユニットに目を付けた。 千鶴の手によって補足されるまでの間に米軍やクーデター部隊、そして武達を長時間にわたって監視していた、あの長距離巡航能力を利用しない手は無い。
 カイゼルの各部に設けられたハードポイントに重火器と対レーザー加工の増加装甲を装着し、後部にはミサイルコンテナと一体化させた大型跳躍ユニットで、長大な航続距離と機動力を確保する。
 一定以上のダメージや動作不良の発生、または任意によって強制排除も可能というのが、ケイイチが考案していたスプーキーの概要だった。

「既にフィルノートでカイゼル用の1機が完成させたから、後は搭載する装備について白銀君に聞いておこうと・・・ん?」

 今後の予定についてケイイチが話そうとしたその時、彼の端末に夕呼からのホットラインを知らせるアラームが鳴る。

『はぁ~いサギサワ大尉。 急な頼みがあるんだけど、ちょっと良いかしら?』
「夕呼先生・・・?」

 端末のスピーカーから聞こえる声とは裏腹に、武が見た画面に映る夕呼の顔は何時に無く真剣な表情を浮かべていた。

次回に続く・・・




-あとがき-
『こいつぁシモンの・・・! 大グレン団の・・・! 人間の・・・!! いや、このオレ様の魂だぁ!!! テメェ如きにぃ、食い尽くせるかあああっ!!?』
 卒論提出が終わりました麦穂です。 29話は天元山での同郷人との出会いと『メタル・マッドネス計画』での再会劇、そして凄乃皇&カイゼルの強化立案の3点です。
 天元山で菫一行が偶然出会った、明星作戦から”運良く”生還した孝之さん。ニコ動のアージュ十周年PVを観て以来、アニメ版君のぞからあった孝之のイメージが大きく変わりました。 構想が成されているであろう『OPERATION ZERO』で、どの様な生き様を見せてくれるのか楽しみですね。
 2つ目は電脳暦世界で再会したイルマとウォーケン。 両者が乗る戦術機は、どちらも現実世界で計画されている機体がモデルになっています(邪神様のほうは微妙ですが・・・)。 いあ! ストラマ! ストラマ!
 3つ目は凄乃皇とカイゼルの強化提案。 メカ本によると凄乃皇(特に四型)のデザインは、マクロス7と宇宙戦艦ヤマトのメカ達を参考にしているそうで、実際手足が付いてもおかしくないデザインだなと納得し、本SSでもそれを採用してみました。 
 その一方で、カイゼルの方は某GP03的な装備を用意してみました。 ネーミングは現実世界で”空飛ぶトーチカ”とまで呼ばれた、あのガンシップの名です。 そして終盤で夕呼先生がなにやら企んでいるようですが、それは次回のお話に・・・ 



[2970] 第30話-日食(第一夜)-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2010/03/12 10:55
・ 2001年11月6日 PM10:58 柊町 特装艦フィルノート VRカタパルトデッキ




「システム起動完了。 カイゼル、スプーキー共にコンディション、オールグリーン!」

 銑鉄作戦における影の功労者たる、フィルノートのカタパルト。 そこにはケイイチが作った拡張兵装システム『スプーキー』を装着したカイゼルが固定されており、管制ユニットに座る武が発進準備を終えた事を管制室に伝える。
 何故彼がフィルノートに移動して、カイゼルと共に出撃しようとしているのか。 それを説明するには90番ハンガーに武と純夏が呼ばれ、ケイイチの端末に夕呼の連絡が入った時まで遡る必要がある。


-約1時間前 横浜基地最深部 90番ハンガー-


「アラスカの国連軍基地が、テロリストの襲撃を受けている!?」
『そうよ。 アタシの元にもついさっきその連絡が来てね、こうしてアンタ達に連絡を入れたって訳』

夕呼からの知らせに声を上げて驚く武は勿論の事、ケイイチも眉間にシワを寄せる。 テロリストに選挙されたと言うアラスカ州ユーコン基地は、BETAに対抗しうる新型戦術機を開発する為に、世界各国の衛士達がその垣根を越えて集っている一大拠点だ。
電脳暦世界で行われている戦術機開発計画『メタル・マッドネス』に対抗心を燃やし、この世界を訪れた電脳暦世界の企業達と共同で、追い付け追い越せのペースで戦術機開発を行っていた矢先の襲撃。
 ケイイチと同様に不機嫌そうな顔を見せる夕呼が、ユーコン基地を襲ったテロリストについて語る。

「先刻出した声明から、ユーコンを占拠した連中はキリスト教恭順派と難民開放戦線と判明したわ。 奪取した機体だけでなく持ち前の戦術機を用いている事からも、大きな組織がバックに付いているわね」

米国にも欧州やユーラシアから、BETAとの戦火から逃れて来た難民達が苦しい生活を続けている。 そうした者達に焚き付けて戦力を提供し、ユーコンを襲わせた者がいるというのだ。 G弾を信奉する米国やオルタネイティヴⅤ派が糸を引いていると夕呼は予測していたが、生憎現在の段階ではそれを立証する証拠が探せない。
ただ一つだけ間違いないのは、この日本から離れた辺境の地で、再び人類同士の争いが行われているという事だ。 一通りの概要を聞いた後、武は夕呼にその対応を尋ねる。

「それで夕呼先生、俺達にどうしろと? ここまで話を聞かせておいて、まさか放置しろとは言わないでしょう?」
「そうね。 向こうには凄乃皇参型に搭載された、電磁投射砲の試作型が置いてあるのよ」

 凄乃皇参型に搭載され、G元素を構成材料として使用している120ミリ電磁投射砲。 夕呼の話ではその試作機とも言える、“99型電磁投射砲”がユーコン基地にあると言うのだ。
 夕呼の技術協力により帝国軍が戦術機用の兵装として試作したそれは、8月にカムチャッカ地方で行われた実戦テストで、それを運用したユーコン基地の部隊が華々しい戦果を上げた。
 その強力な火力を、帝国以外の国が欲しがらない筈は無い。 何より夕呼は自分の手がけた研究成果を、どさくさに紛れて誰かに横取りされるのが大嫌いなのだ。

「白銀、アンタは今からサギサワ大尉が開発した追加兵装『スプーキー』を装着したカイゼルで現地に急行。 ユーコン基地の試験部隊を救援し、電磁投射砲を確保しなさい。
 ついでに、テロリストも一掃しちゃって構わないわ」
「い、今からですか!?」

端末の向こうで驚きの声を上げる武に対し、当然だろうと夕呼がフンと顎をしゃくり促す。 幸い武がいるの場所は、彼の愛機であるカイゼルが格納されている90番ハンガー。
 強化装備に着替えてフィルノートに移動するまで手間が掛かるが、スプーキーの巡航速度で十分取り戻せる。 そうと決まれば善は急げと、ケイイチが武と純夏の2人に今後の算段を伝える。

「僕は出発の準備をさせるよう、フィルノートに伝えに行く。 鏡君は白銀君の準備の手伝ってくれ!」
「アイアイサー! さあタケルちゃん、脱いだ脱いだ~!」

 純夏によるハンガーでのストリップを辛うじて回避した武は、整備スタッフから手渡された予備の強化装備を手にし、純夏が使用している特設の更衣室へと向った。


「(純夏、あんな所で着替えていたんだな・・・)」

 ケイイチから貰ったマニュアルで微細なセッティングを続けながら、武は純夏が案内してくれた彼女専用の更衣室での着替えを思い出す。 更衣室の中は床と天井に粗末な換気口と、ロッカーがあるだけの非常に殺風景な風景。 だがその空間には純夏が使った事を物語る、支給品のシャンプーの甘い香りが立ち込めていた。
 例えその身体が機械であっても、恋人の前ではいつも綺麗でありたいという純夏の気持ちを武が改めて実感していると、夕呼とケイイチから連絡が入る。

『どう白銀、5000キロの長旅の準備は出来たかしら?』
「あっ、はいっ! セッティングは完了、後は先生のGOサインが出れば・・・!」
『それは結構。 後でサギサワ大尉も向わせるから、思う存分暴れてらっしゃい! あ、本来の目的は忘れちゃ駄目よ』
「了解!」

 事実上のGOサインが夕呼から出された事を確認し、武はフィルノートの管制室に発進シークエンスの開始を伝える。 カイゼルを打ち出すエネルギーが甲高い音を立てながら充填され、リニアカタパルトのレールに先走りした放電が走る。
 発進タイミングの譲渡が武に移されたその時、艦長のクーゲベルクが武に激励の言葉を掛ける。

『我々に出来る事はここまでだ、健闘を祈っているぞ。 白銀中尉』
「了解! ブレイブ1、白銀武・・・行きます!」

 スプーキーと一体化したカイゼルの機体がレールの上で加速し、電磁投射砲の弾丸よろしく横浜の空へ飛び出す。 そして射出速度を維持したまま長距離巡航ブースターが作動し、窮地に陥るユーコン基地へ向け、長い長い飛行機雲を引きながら飛び去って行った。


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#30 日食(第一夜)


・ 2001年11月7日 AM5:59 アラスカ州ユーコン基地


「連中、急に大人しくなったな。 アタシ達を追い掛けるのは諦めたのか?」
「さあな。 ヤケになって飛び出した俺らを狩ろうと待ってるか、シラミ潰しに探してんじゃねえのか?」

 横浜のそれと比べて、一段と寒さが厳しいアラスカの大地。 戦術機ハンガーとしても機能する大型資材置き場の中で、アルゴス試験小隊所属のタリサ・マナンダルと彼女の同僚であるヴァレリオ・ジアコーザが、互いの愛機の中で言葉を交わす。
 テロ集団はユーコン基地の中枢部を奇襲に近い形で襲撃し、指揮系統の頂点を制圧された事で末端の将兵達は大混乱に陥ってしまった。
 タリサとヴァレリオの2人も多分に漏れず、テロリスト達が操る戦術機部隊の攻撃をやっとの思いで振り切り、この格納庫に身を潜めているのだ。

「しかし、襲撃を受けたのが演習前で助かったな。 こうやってスクランブルが出来なければ、俺らは今頃・・・」
「そうやって、過ぎた事をウジウジ言う奴は嫌いだよVG。 大切なのはこの状況をどうやって切り抜けるか、そうじゃないの?」
「そうだったなタリサ。 こんな弱音を吐くなんて、俺らしくないな」

 しんみりとしたヴァレリオの答えを聞いた後、タリサは格納庫の外に広がる吹雪を獲物を探す狼が如く睨み付ける。 熱源探知による発見を避ける為に彼女の乗機であるXFJ-01b“不知火弐型  試験2号機”と、ヴァレリオのF-15/ACTV“アクティヴ・イーグル”は共にジェネレーター出力は最小限に抑えている。 加えて吹雪による視界の悪さも相まって、2人は今まで追っ手の発見から逃れていられるのだ。
 だがこの吹雪も何時までも続く筈は無く、装備している武装もスクランブル時に流されるがまま持ち出し、追っ手を振り切る際に弾薬の半分を使用した突撃砲がそれぞれ一丁。 それが尽きた場合に残された武器と言ったら、不知火弐型の両腕とアクティヴの両膝にある短刀くらいしかない。  アラスカから脱出するにしても、搭載された分の燃料では途中で海へ墜落するのが関の山だ。
 この時期におけるアラスカでは、日の出まで後3時間程度。 このまま隠れた末にテロ集団に発見されるか、闇夜に紛れて見方と合流し、窮地を脱するかのどちらかしかない。
 自分達の前に掲示された選択肢を前に、ようやく調子を取り戻したヴァレリオが口を開く。

「よしっ! そろそろ、ユウヤ達を探しに行くか!」
「ああ! ずっと逃げ隠れしていたなんて知ったら、アイツに笑われそうだしね。 行くよVG!」

 タリサの不知火弐型が左マニピュレータで格納庫の巨大な扉を開き、続いてヴァレリオのアクティヴ・イーグルもピークに達した風雪の前にその機体を晒す。 そして2機は主足による歩行で、一途ユーコン基地へと戻って行った。


・ 同時刻 アラスカ アリューシャン列島空域


 時速1000キロに達しようとする速度で航行する、鋼鉄のゆりかご。 対レーザー加工が施されたハニカム装甲に包まれたカイゼルの中で、仮眠から目覚めた武が自動操縦を維持した状態でシステムチェックを行っていた。
 半自動操縦に切り替えてスプーキーを操りながら、ユーコン基地救援作戦を立案した夕呼の手腕と計算高さに武は舌を巻く。

「流石夕呼先生だ、到達予測時間の誤差範囲内に到着している」

 彼が今までオートパイロットで航行している間に睡眠導入剤で強制的に眠りに付いたのも、カイゼルの衛士である武がアラスカまでの移動に要らぬ体力の消耗を抑えるためだ。
 既に機体はアラスカの入り口であるアリューシャン列島を通過、あと数十分でテロリスト達が占領するユーコン基地へ突入する。 武はFCSコンソールを開き、スプーキーに搭載されている兵装を再度確認する。
多数の敵戦術機との交戦を予見して、スプーキーの側面ユニットには夕呼が調達したGAU-8『アベンジャー』36ミリガトリングガンシステムが。 そしてエンジンユニットと一体になっている後部のコンテナミサイルユニットには、ケイイチが用意したマイクロミサイル弾等がたんまりと搭載されていた。

「ははは・・・ ここまで来ると、何と戦っているか忘れちゃいそうだな」

 ハイヴの単機制圧も可能ではないかと思わせるほどのスプーキーの重武装ぶりに、それをチョイスした夕呼とケイイチに、武は乾いた笑い声を上げながら恐怖を感じる。 だが武はこのスプーキーが、平行世界との接触により加速した狂気の産物だと思いたく無かった。 それを認めてしまえば純夏が乗る凄乃皇や、自分が乗るカイゼルも同等の存在になってしまうからだ。
 これ以上霞や純夏のような、倫理や生命の尊厳を無視した存在を生み出したくない思いで夕呼やケイイチに協力していた筈だったのに、結果的に武は双方の世界の技術力を暴走させようとしているのだ。 そして自分は、その持て余した力の一つを人類に向けようとしている。

「俺がやっている事は、本当に正しいのか・・・?」

 そうコクピットの中で呟く武が新たな葛藤に苦しんでいる内に、匍匐飛行で疾走する機体はユーコン基地の圏内に進入していた。 遠くにはテロ集団との戦いによるものだろうか、いくつかの爆発と空へ伸びて行く曳光弾の軌跡、そして基地施設を照らす炎と煙が確認出来る。
 それを見た武の脳裏に、自分の帰りを待ってくれている純夏の顔が浮かぶ。

「(そうだよな。 またウジウジして帰ったら、純夏に笑われちまう・・・)」

 何時までも取れない自分の青臭さに、武は苦笑いを浮かべる。 ここを訪れた目的は電磁投射砲の安全確保と、ユーコン基地を守るためにテロリスト達と戦っている将兵達の救援。 奴らが己の持つ正義と力を振りかざすのならば、自分も自分が持つ正義と信念を貫き通して戦わなくては成らない。 難民の身を案じて行動を起こした彼らの心情は理解出来ても、それを訴える為に行ったのはテロと言う名の暴力。
 それは沙霧が起こした9.11クーデターと同じく、武の正義が絶対に許さない行動だった。

「(だからもう少しだけ、俺の我儘に付き会ってくれ。 カイゼル・・・!)」

 フットペダルを押し込み、スプーキーのメインエンジンが一段と強く唸る。 二つの世界が生み出した申し子と共に、武は戦火燻るユーコン基地へと突入した。


・ AM7:08 ユーコン基地 第2演習区 市街地戦闘エリア


「ハウンド1よりハウンド全機へ。 ユーコンの負け犬共はこの演習区域に潜入した、これから奴らを燻り出すぞ」

 主脚で微速前進を続けながら通信で指示を出した直後、了解の復唱が一斉に返った事にハウンド1の口元が思わず緩む。 小型軽量かつ低コストな第2世代型戦術機であるF-16“ファイティング・ファルコン”の2個小隊という、極めて変則的な編成で行動する彼らハウンド隊の衛士達は、このユーコン基地の所属ではない。
 逆に言えばユーコンの将兵達からは、彼らは招かれざる客、つまりはイレギュラーと認識されている。 そう。 このユーコン基地を襲っているテロリスト集団の一部隊、それがハウンド隊の正体だった。
 そして今、手負いの状態であるユーコンの衛士達が駆る戦術機部隊を、市街地戦を想定したこのエリアに追い詰めている最中なのだ。 F-16のマニピュレータが、手にするWS-16C突撃砲の銃口を廃ビル街の通りへと向ける。 周囲には対人戦闘のセオリーであるECMが展開され、レーダーの情報を鵜呑みにする事は出来ない。 頼れるのは阻害されながらも僚機から伝達されるデータリンクからの情報、そして己が持つ衛士としてのカンやセンスだ。
 4つ目の交差点に差し掛かったその時、遂に僚機がここへ逃げ果せたユーコン基地所属の機体を捉える。

『ハウンド3からハウンド1。 ユーコンの負け犬を発見しました、現在交戦中です!』
「ハウンド3、牽制して追い込め。 ハウンド4と8はサイドを抑えろ、退路を封じて纏めて仕留め・・・!」

 そう部下に命じた瞬間、ハウンド4がいる場所で銃声と爆発が鳴り響く。 そしてその場所からもうもうと上がる黒煙を見たハウンド1は、ハウンド4が撃破された事を瞬時に悟った。 包囲に先んじて味方がやられた事に、回線がどよめきの声一色に染まる。

『隊長! ハウンド4が!?』
「手負いの犬ほど凶暴と言う事か。 全機突入、ハウンド4の仇を取れ!」
『了解っ!!』

 部下達の復唱と共に、ハウンド1は匍匐飛行を開始。 2小隊分の跳躍ユニットから噴き出す噴射ガスと高速移動による衝撃波により、辺りは轟音と舞い上がった土煙に包まれる。 そしてハウンド4がいた場所から、1機の戦術機が噴射跳躍によりその姿を見せる。
 純白のカラーリングが施された94式 “不知火”、戦術機の開発や強化改装を手掛けるユーコンにおいて改造された機体なのだろうか、オリジナルとは異なるパーツが機体各所に見られる。 奴がハウンド4を血祭りに上げた張本人に違いない。 ハウンド4の無念は、貴様の命で償ってもらおう。 怒りと復讐心を弾丸に込めながら、ハウンド1はWS-16Cの狙いを定め、36ミリのトリガーを引く。

「ハウンド2と3は俺に続け! あの白い奴を仕留める!」
『了解!』

 チェーンガン特有の駆動音と共に吐き出された弾丸に対し、白い不知火は肩口に装備されているスラスターを噴射して軽やかに回避。 背部マウントに装備する突撃砲がグンと作動し、自律射撃で反撃してくる。 だがあの白い不知火と対峙しているのは自分だけではなく、撃破されたハウンド4を除く3機のF-16が奴を追い詰めている。

「孤立させてしまえば、数で上回る我々には勝てまい!」

 いくら強化された機体と言えど、衛士のスタミナを切らした上で徒党を組んで襲いかかれば流石のエースとて対処は出来ないだろう。 Bチームは白い不知火とこのエリアに逃げ込んだ、別の機体の追撃に向かわせている。 ハウンド2と3が牽制射撃を浴びせる中、十二分に狙いを付けたハウンド1が放った120ミリ弾が不知火の背中に命中。
 五月蠅く弾を吐き続けていた背中の突撃砲が爆発し、バランスを欠いた白い不知火の機体が高度を下げ、廃ビルが一段と群がるポイントへと不時着して行く。 だが、ハウンド1はそれで攻撃を終えた訳ではなかった。

「止めを刺すぞ! 奴が落ちた地点へ一気に跳躍する!」

 必ず奴に引導を渡してやる、ハウンド1のF-16が跳躍ユニットを唸らせ飛翔し、ハウンド2と3もそれに続く。 墜落かそれに近い状態で着地をしたならば、もうまともに戦える事は出来ない。
 そして武装も突撃砲を失い、残るはナイフシースにある短刀位だ。 もはや、奴が自分達に勝てる要因は残っていない。 かつて“ヴァイパー”と非公式の愛称通り、自分達のF-16の毒牙に奴はかかるのだ。 白い不知火がいるポイントまで最後の跳躍をしようとしたその時、突如としてロックオン警報がハウンド1が座る管制ブロック内に響き渡る。

「何だ、新手か!?」
『隊長! 正面から多数の熱源! ミサイルです!!』

 部下の声と同時にレーダーを見ると、自機の前方がBETAと対峙した如く無数の熱源反応に覆われている。 そして高速に飛翔するそれは、広域制圧用に開発されたマイクロミサイル。 弾頭に鈍く光るシーカーが見つめるのは、間違いなく自分達だという事をハウンド1は悟った。
 迎撃を行っても、BETAのように無数に襲いかかるミサイルをすべて落とす事は出来ない。  そして、機動回避も既に手遅れだった。

「くっそおおおおおおっ!!!」

 成す術も無く悲鳴を上げる部下達と共に、ハウンド1のF-16は降り注ぐミサイルが咲かせる爆炎の中に消えていった。


「しまった、あの不知火まで巻き添えにした!?」

 眼前に広がる光景を前に、スプーキーを減速させる武はトリガーを引いた事を今更になって後悔する。 武が個の演習場に差し掛かったその時、ユーコンの所属らしい白い不知火が撃墜されて行く様を目撃した武は、反射的にそれを取り囲もうとしている3機のF-16目掛け、スプーキー後部に装備された『ヘッジホッグ』多目的誘導弾システムのマイクロミサイルを放ってしまったのだ。
 助けるつもりが逆に止めを刺してしまった事に顔を青ざめる武に、ノイズ混じりに通信が入って来る。

『オ・・・オイ、勝手に人を殺すんじゃねえよ・・・』
「その声は・・・!」

 ビル街を覆っていた煙が晴れると、そこには墜落した筈の白い不知火が健在であるとその姿を武に見せ付ける。 傍らには武のスプーキーから放たれたマイクロミサイルの洗礼を受けたF-16が3機、どれも致命的なダメージを負った状態で地に伏している。
 それでも中の衛士達が生存していたのは、彼らが悪運強い運気の持ち主なのだろう。 そう武が思っていると、通信ウインドウに不知火の衛士の顔が映る。 ディスプレイに映る彼の顔は東洋人のそれ、だが外見で彼が日本人であると安易に断定する事は出来ない。
 本当にユーコン基地の衛士かどうか武が尋ねようとしたその時、逆にその衛士がデータを転送と同時に身元を口にし始めた。

『救援感謝する。 俺はアルゴス試験小隊所属、ユウヤ・ブリッジス少尉だ。 そちらの所属は?』
「自分は国連軍横浜基地特殊部隊A-01所属、白銀武中尉です。 同基地の香月副司令の命により、救援に来ました!」
『シロガネって・・・ 中尉、 アンタはまさか!?』

 武が自己紹介を返すと、通信ウインドウに映るユウヤの顔色が、急に変化する。 それは人気絶頂の芸能人のプライベート姿を目撃してしまったかのような、憧れや驚きの類の感情が含まれていた。
 データリンクとIFFが2人の機体間で成立し、武から送られてきたデータを確認したユウヤが再び驚きの声を上げる。

「こいつは凄いサプライズだぜ。 “シルバー・スレイヤー”が、俺達を助けに来たとは!」
「へっ? シルバー、なんだって?」

 所謂“通り名”と呼ばれる言葉がユウヤの口から出た事に、それを耳にした武の思考が一瞬停止する。 カイゼル単機で次々に要塞級を屠る、銑鉄作戦における武の勇姿。 その映像は夕呼の手によって世界中に配信され、それを見た数多くの衛士達に通り名を付けられてしまったのだ。
 自分達の影響力が既に世界へと広まっている事を、武はアラスカの地において始めて実感する。

「ブリッジス少尉、現状説明をお願い出来ますか?」
「はっ! ・・・と言っても、自分の知る限りの情報だけですが」

 まだ周辺に、テロリスト機が潜伏しているかもしれない。 廃ビル街の直ぐ上を低速で飛ぶ武と共に演習場を移動しながら、ユウヤは現在のユーコン基地の状況を武に話し始めた。

「テロリストの襲撃を受けた時、自分は演習前の準備をしていたため、そのままスクランブル発進しました。
 自分が所属するアルゴス試験小隊のメンバーも出撃したのですが、奴らの猛攻と混乱により散り散りに・・・」
「この演習場までは少尉一人で?」
「いえ、統一中華戦線の崔亦菲中尉と同行していました。 彼女も俺と同じように、奴らの追撃を受けている筈です」

 ユウヤと同じく次世代の戦術機開発に意欲を持つ衛士が、先程の彼と同じ状態に陥っている。 それを知った武は、マイクロミサイルの残弾を確認しながらユウヤに告げる。

「分かりました、俺が先行してその人を助けます。 ブリッジス少尉は補佐を!」
「了解! 佐渡の英雄と、肩を並べて戦えるとは光栄ですよ!」

 満身創痍でありながらも勇ましく答えるユウヤに笑顔で頷いた武は、緊急加速用のロケットモーターを点火。 排ガスの尾をなびかせる武のスプーキーが、ユウヤの不知火弐型と共に演習場を疾風の如き速度で飛んだ。


『何だぁ、あのデカブツは!? まるで空飛ぶ棺桶だぜ!』
『ハウンド5より小隊各機、目標変更だ。 ハウンド1の仇を討つぞ!』

 ユウヤを襲っていたハウンド隊の片割れを率いるハウンド5が、急速に接近して来る大型未確認機の接近を察知する。 手負いのユーコン所属機の追撃を止めたかと思うと、一同に彼らの迎撃へ向かう。
 それを目の当たりにしたバオフェン実験小隊の隊長、崔亦菲は土壇場で目標を変えた彼らの態度に怒りを露にする。

「(あいつら、散々弄んでおいて・・・!)」

 あぐらを掻くような体勢で転倒したまま、まるで蜘蛛の目のようなデザインをするJ-10“殲撃10型”の頭部装甲ラウンドセンサーが、跳躍するF-16を睨み付ける。 そして手にする82式戦術突撃砲のトリガーを引こうとした亦菲だったが、微かに残っていた平常心がそれを静止させた。
 多勢に無勢と言う、テロリストとの一方的なまでの戦闘を辛うじて乗り切った彼女の機体は、ユウヤの不知火弐型以上に機体のダメージが深刻だった。 特に突撃砲を持つ右腕部が被弾損傷し、照準精度が急激に落ちている。

「畜生・・・っ!」

 このまま反撃を行っても奴等に止めを刺されるだけ。 そう悟った亦菲が、悔しさで唇を噛み締めながらテロリスト機が去って行くのを見届けていたその時だった。

『馬鹿な!? 棺桶が速くて硬いなんて、聞いた事な・・・うあああっ!!』
『アベンジャーが、こっちを向いた・・・ひいいいいっ!!?』

 オープン回線から濁流のように聞こえてくる悲鳴、そしてほぼ同時に消失する敵機のマーカー。 網膜に淡々と表示される情報に戦慄した亦菲は勿論だが、“それ”と遭遇したテロリスト達も自分達に何が起こったのか直ぐには理解できなかっただろう。
 接敵と同時。 それが4機のF-16が不明機と交戦出来た時間であり、撃破されるまでの時間だった。 奴らの断末魔の声からその機体は、圧倒的な火力と速度を持っていると断片的ながら理解出来た。

「何だ、あれ・・・?」

 推進ユニットから重低音を奏でながら、武のスプーキーが殲撃を高速でフライパス。 その姿を見た瞬間、管制ユニットの空気が重たくなったかのような息苦しさを亦菲は感じる。 120ミリでも貫徹する見込みがなさそうな装甲版に塗られたカラーリングから、あれはどうやら国連軍所属らしい。
 本当にあれを味方と信じていいか彼女が困惑していたその時、ユウヤの不知火弐型が亦菲の前に着地し、同時に彼から通信が入る。

「無事か、崔中尉! 周辺の敵はあらかた片付けた!」
「ユウヤ!? それにあのデカブツは一体・・・?」
「白銀武中尉だ! 佐渡島の英雄が、俺達を助けに来てくれた!」

 差し伸べられた不知火のマニピュレータをしっかり掴み、殲撃の機体を起こしながら亦菲はユウヤが告げた朗報に耳を疑う。 異世界の軍勢と共に現われ、この世界の対BETA戦闘に革命をもたらし、銑鉄作戦を成功に導いた英雄。 その男が今、自分達を救おうとはるばる日本から来訪してきたというのだ。
 普通ならタダのデマだろうと軽くあしらう所だったが、目の前を飛び去っていったあの機体が武の機体だと気付いた亦菲は、ユウヤの言う事が本当である事を悟った。
 ユウヤに守られながら、機体のステータスをチェック行う亦菲の口が開く。

「へぇ、それは凄い話じゃない?」
「でしょう? 中尉、まだ機体は動きますよね?」

 そうユウヤに問われた亦菲は、勿論とはにかみ笑いで答える。 ステータスチェックの結果、右腕のアクチュエータ以外、思っていた以上の損傷はしていない。 それに、ろくに銃が使えないのなら近接戦闘で勝負すれば良いだけの話だ。
 近接戦闘を重視しているが故の殲撃のタフさに改めて感心しながら、亦菲は背部担架システムから77式長刀を殲撃の手に装備させ、快活な声でユウヤに言った。

「行くよユウヤ! もたもたしてると、手柄を皆持って行かれちゃうよ!」
「了解っ!」

 武の突入により、ユーコン基地の各所で燻り続ける煙から新たな爆発が轟き始める。 武の後を追い、はぐれた仲間達の無事を祈りながら、ユウヤと亦菲の2人は演習場を後にした。



2001年11月6日夜:白銀武、テロ組織による襲撃を受けているユーコン基地救援のため、横浜基地より緊急発進。 翌日早朝に同基地に到着し、現地部隊と協力して電磁投射砲の捜索とテロ部隊の掃討を開始。



-あとがき-
『やっぱ戦闘は、白兵でねえとなぁ!!』「ほざけよ!!」

 花粉が飛び始めてペースが落ちそうな麦穂です。 今回はアラスカ編その一、横浜からはるばる飛んできた武とユウヤとの遭遇のお話です。
 実はオルタ本編プレイより先にTEを読んでいた事もあり、一番書きたかった話でもあります(と言っても連載分が追えなくなった今は、単行本待ちですが・・・)。



[2970] 第31話-日食(第二夜)-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2010/03/19 18:48
 極寒の辺境の地に、鉄の嵐が吹き荒れていた。
 何者も寄せ付けぬ装甲に身を纏い、照準に入る全てに破壊と死をもたらす重火器を携えた武のスプーキーが、韋駄天をも凌駕しよう速度でユーコン基地中心部に躍り出る。
 新旧入り混じるテロリスト達の戦術機が、彼を撃墜せんと己が持つ火砲を次々に撃ち放つ。 だがスプーキーに施された装甲はそれらを容易く弾き返し、側面に搭載されたGAU-8『アベンジャー』の掃射でテロリスト機が徐々にその数を減らして行く。
 カイゼルに搭載されたマスターシステムの処理速度が、高速下での的確な射撃を実現しているのだ。 そしてそれを操る武が、視界に入る新たな敵機へ向けて躊躇う事無くトリガーを引く。

「これで、13機目・・・!」

 ユウヤと亦菲を襲っていた時から数えていた、テロリスト機の撃破カウントを唱える武。 アベンジャーから放たれた36ミリ弾の雨がテロリストのF-4に降り注ぎ、タングステンで作られた弾頭が第1世代機の重厚な装甲を嘲笑うかのように貫く。
 弾丸の雨に曝され無残な姿へ変貌したF-4は、武が通り過ぎると同時にガクリと膝を落とし、7そのままうつ伏せに倒れる。 彼等に対する感傷や憐れみを抱く暇も無く、武は新たな獲物を捕捉しトリガーを引き続けていた。

『なんて火力と速度だ、だが・・・!』

 武の一方的な蹂躙に、攻撃を受けた当初はうろたえていたテロリスト達。 だが彼が操るスプーキーの弱点を見抜いた中隊のリーダーが、即座に部下達にそれを伝える。

『奴の進行方向へ火線を集中させろ! あの図体だ、そう簡単に小回りは出来ない!』

 超長距離巡航と最高速度を重視した、SR-71“ブラックバード”の跳躍ユニット。 他の跳躍ユニットと比べ、旋回性能と即応性に劣るそれをスプーキーのメインスラスターとしているため、おのずと直線的な機動になってしまう。
 リーダーの指示を聞いたテロリスト達の戦術機が、即座に武のスプーキーへ集中砲火を浴びせる。 36ミリ弾が装甲のスキマへノックするようになり、120ミリ弾の炸裂がカイゼルのコクピットを揺らす。 自慢だったスプーキーの装甲には弾痕が目立ち始め、これ以上の被弾は航行にも支障が出てしまう。
 このまま弾薬に引火して、カイゼルもろとも木っ端微塵になるのは御免だ。 武は音声認識をオンにして、コマンドを強化装備のインカムに言霊のように唱える。

「スプーキー緊急パージ! パージ後は機体の保護を最優先に、安全圏まで全速離脱!」

 武の音声コマンドを認識した電子音が鳴り響き、カイゼルを固定するロックが次々に解除される。 スプーキーの前面を覆っていた装甲ユニットが炸裂音と共に強制排除され、リアクティブ・アーマーを全身に装着したカイゼルの姿が露出した。

『撃て撃てっ!! 我々の邪魔をした報いを受けろ!』

 装甲を脱ぎ捨てた本体の姿を見て、我先にと武を仕留めようとするテロリスト達。 だが再びスプーキーからマイクロミサイルが一斉に放たれ、空中で炸裂するよう設定されたミサイルの爆炎がそれを阻む。
 そしてその煙の中から、スマートガンを構える武のカイゼルが颯爽と現れた。

「これ以上、お前達の好きにさせてたまるかぁ!!」

 荷電粒子の刃を身に纏ったスマートガンが、武の叫びと共にテロリストが駆るF-16に渾身の力で振り下ろされる。 そしてその一撃が、反撃の狼煙となった。


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#31 日食(第二夜)


・ 2001年11月7日 AM7:16 アラスカ 国連軍ユーコン基地中心部


 氷雪に包まれたアラスカの大地。 Vコンバーターのそれに似て非なるメガドライヴの駆動音が鳴り響き、カイゼルの機動により巻上げられた氷雪がパウダースノーとなって、戦いの場に似合わぬ幻想的な光景を作り上げる。
 スプーキーからパージした直後に斬り伏せたF-16を皮切りに、武のカイゼルは単機で次々とテロリスト達の戦術機を血祭りに上げていく。

「あれが佐渡島の戦いを勝利に導いた、“シルバー・スレイヤー”の戦いなのか・・・」

 36ミリ弾がしきりに自機をかすめ飛ぶ銃撃戦の中、JAS-39“グリペン”に乗る欧州軍から派遣された若き衛士が、武の戦いを目撃してポツリと言葉を漏らす。
 異世界より来訪した旅人。 BETAを駆逐し、人類を勝利に導くとされる救世主。 そして日本帝国で行われた、佐渡島ハイヴ攻略作戦では異世界の人型兵器と共に数多の要塞級を葬り、人類の切り札とされるXG-70を守り抜いた英雄。
 それだけの偉業を成し遂げた人間が今目の前に存在している事に、グリペンの衛士は憧れと同時に、武に対する恐怖と言う感情が生まれていた。 オープン回線からは、武の叫びが聞こえて来る。

「だりゃあああああっ!!」

 入り組んだビル街の四方八方から、カイゼル目掛けて銃撃を加えながら肉薄してくるテロリスト機。
 マニピュレータに持つ短刀を突き立て突進するF-5に対し、カイゼルはスマートガンの速射形態であるザッパー・モードで応戦。 小刻みに発射されるパルスビームで全身を穿たれたF-5は、突進時の体勢とスピードのまま地面にスライディングをして沈黙する。
 それと同時にレーダーに映る赤い光点が2つ、武のカイゼルを挟み込むように移動を開始する。 機体照合。 F-16“ファイティング・ファルコン”と、MiG-29OVT“ラストーチカ”。
 もう見飽きたF-16はともかく、ミグの方は何かと真新しい風格を見せていることに武は気付く。

「まさか奴ら、機体を強奪したのか!?」
「クソッ! 何て事をしやがる・・・」

 先程のグリペンの衛士ではない、中東連合に所属するF-14Ex“スーパートムキャット”の衛士2人がその機体を確認して叫ぶ。 そして彼らの言うとおり、あのミグ29は東欧州社会主義同盟所属のグラーフ実験小隊が所有・運用している戦術機だった。
 おそらくテロの決行と同時に、闇討ちなり何なりで本来の衛士達から奪い取ったのだろう。 手段をも選ばないテロリスト達に対し、武の中にある怒りのボルテージがみるみる上昇する。

『ヒャッハー!! 流石の英雄も、俺達のコンビネーションには適うまい!』

 小型軽量の共通点を持つF-16とミグ29の特性、それを最大限生かした高速機動による対人撹乱戦術。 一体多数の戦闘経験が無い衛士ならば、対処の仕様も無く翻弄された挙句撃破されるだろう。 だが武の戦闘能力は、テロリスト2人の予想の桁を大きく超えていた。
 大型の搬送車両が楽に通れる幅を持つ道路、そこが武の息の根を止める処刑場。 互いの突撃砲でカイゼルをそこに移動させ、道路の両端にF-16とミグがタイミングを伺う。

『このまま死ねぇ! シルバー・スレイヤー!!』

 奪ったミグ29に乗るテロリストの叫びと同時に、2機の戦術機がそれこそ弾丸のようにカイゼルに吶喊する。 だが武は諦めが付いたのか、その場をピクリとも動こうとしないではないか。 恐らく2人のテロリスト達の脳裏には、勝利の二文字が浮かび上がっていた事だろう。
 F-16が最後の加速に入ろうとしたその時、被弾により幾つかのリアクティブ・アーマーが剥離したカイゼルの右腕がゆっくりと動いた。

『ひっ・・・!』

 銃口を向けられている事にF-16のテロリストが気付いた時には、もう手遅れだった。 スマートガンから放たれた高エネルギー弾が、確実にF-16の右大腿部を射抜く。
 果てしなき破壊のエネルギーを与えられた荷電粒子の噴流はF-16の大腿部の装甲を貫通したばかりか、その後ろにある跳躍ユニットをも貫いていた。 跳躍ユニットに蓄えられていた燃料が狂ったかのように膨張燃焼し、爆発音が周囲に轟く。
 爆発の衝撃でバランスを崩したF-16は肩部装甲をビルに引っ掛け、数回の高速スピンを披露したまま地面に口づけを交わす事になった。 フィギュアスケートに出てそれを披露していれば、確実に高得点間違い無しだっただろう。

『よくも相棒を・・・!!』

 相方が撃破された事に激昂するテロリストが、ミグ29の両腕部に内蔵されたモーターブレードを展開し、武のカイゼルに背後から迫る。 相手は後方、先程のように振り向いてF-16のようにした射撃が行える事は不可能。
 今度こそやられる。 その場に居合わせたユーコンの将兵の誰もが思ったその時、戦術機の常識を疑う光景が彼らの前で展開される。

『ミンチになって死ねやぁ!!』
「誰がなるかぁ!!」

 カイゼルの右足が一歩下がったかと思うと、腰の跳躍ユニットが前後逆の方向を向く。 電磁推進が最大出力で作動し、放出されるブラストの反動を利用してカイゼルがその場で時計回りに1回転。 そしてモーターブレードを振り下ろそうとしたミグの頭部には、カイゼルの左マニピュレータが食い込み、そしてそのまま殴り飛ばしたのだ。
 カイゼルの拳でミグのフレームが悲鳴を上げる音。 雨細工の様に砕け散った、頭部センサーのカバーや金属片が地面に落ちる音。 標的に届く事の無かった、モーターブレードの駆動音。 そして殴り飛ばされたミグが地面に打ち付けられた衝撃が辺りに響き渡る。

「馬鹿な、戦術機が直接パンチしただと・・・!?」
「しかも超新地旋回って、化け物か奴は・・・?」

 一瞬訪れた静寂に割り込むように、統一中華戦線所属の殲撃10型とF-CK-1“経国”に乗る衛士2人が、負けず劣らずのコンビネーションで呟き合う。 BETAとの近接戦闘を生業とする同国の戦術機でも、機体に装着されたブレードベーンを用いない、文字通りの意味で肉弾戦を行う事はまず有り得ない。
 精密機械の塊である戦術機の中でも、特にデリケートなマニピュレータそのものを武器として用いるなど、イレギュラー以外の何者でもない。 だが、武のカイゼルはさも普通であるかのようにそれをやってのけた。
 目撃したユーコンの衛士達の血肉が沸きあがろうとしたその時、カイゼルのコクピットに3たび警報が鳴り響く。

「ブレイブ1、後ろだ!!」
「しまった・・・!?」

 グリペンの衛士の声が耳に届いたと同時に、武は戦術機の死角と言える後方危険円錐域(ウェラフル・コーン)に、敵機の進入を許してしまった事に気付く。
 戦場では最後まで油断をするなというみちるの教えを失念した事に恥じながら、武が被弾を覚悟したその時だった。 突如として放たれた36ミリ弾が、武を狙っていた敵機を撃破したのだ。
 放たれた先には、無限大をかたどったエンブレムを付けた、漆黒のF-22の姿があった。

「黒いラプター・・・ 米軍か!?」

 それを見付けた武が言うと同時に、同様の機体がコウモリのように俊敏な動きでテロリスト達を次々に狩って行く。 そして武の危機を救ったラプターの衛士が、彼に話しかけてくる。

「自分は米軍第65戦闘教導部隊“インフィニティーズ”所属、レオン・クゼ少尉です。 異世界から来訪した英雄、白銀武中尉とお見受けしますが?」
「ええ。 少尉のお陰で助かりました、ありがとうございます!」
「いえいえ。 佐渡島の英雄の力になれた事、とても光栄ですよ」

 そう言って微笑むレオンを見て、武に張ってあった緊張の糸がようやく緩む。 そしてインフィニティーズによる掃討が終わりかけた頃、武の後を追っていたユウヤと亦菲の2人が彼の元に合流した。


2001年11月7日:ユーコン基地を占拠していた、テロリストの首謀者が突如として逃亡。 以降は各施設を占拠するテロリストらの掃討戦に移行し、同日中に全ての基地施設の奪還に成功する。

翌日8日:武、試製99型電磁投射砲を擁するアルゴス試験小隊と合流。 帝国斯衛軍から派遣されていた篁唯依中尉らの奮闘により、同兵装が安全であった事を確認する。 同日午前中に、武の補佐としてケイイチが同基地を来訪する。


・ 2001年11月8日 AM5:57国連軍ユーコン基地 アルゴス小隊戦術機ハンガー


「テロリスト鎮圧、大活躍だったそうじゃないか白銀君。 僕も間近で見たかったなぁ・・・」
「いやぁ、結果的に夕呼先生の頼みが後になったので、完璧とは言いがたいですけどね」
「それでもこの大規模な基地で、911クーデターと同程度の被害に抑えられたんだ。 自分の持つ力を、もう少し誇っても良いんじゃないかな?」

 そう武に告げたケイイチが、ハンガーに並ぶ鋼鉄の巨人達を眺める。 広大なハンガーの内部で武と彼の元に合流したケイイチは、2人きりのデブリーフィングを行っていた。
 ケイイチの瞳に映るのは、日米の技術の粋が詰まった2機の不知火弐型を初めとするアルゴス小隊の戦術機。 そしてその傍らには彼らが守り通した99型電磁投射砲が、防護シートに身を包んで厳重に保管されていた。
 目的は成し遂げたものの、未だにその達成感を得ていない武。 シートに包まれた投射砲を彼が眺めていたその時、ハンガーの扉が少しだけ開き、隙間から誰かが問い掛けて来る。

「あの~サギサワ大尉、そろそろ時間ですけど・・・?」
「ああ、そうだったね。 ローウェル軍曹、皆をここに入れてもらえるかい?」

 そうケイイチに言われた男が、了解と返答したと同時にハンガーのゲートを一気に開放する。 開いた扉の外に微かに明るくなり始めた空が広がり、その下にはアルゴス小隊の衛士達の姿があった。
 見合った全員が互いに敬礼を交わす中、扉を開いたヴィンセント・ローウェルと武が最初の挨拶を交わす。

「改めまして国連軍横浜基地所属、白銀武中尉です。 横浜基地の香月副司令の命により、試製99型電磁投射砲の安全確保に参りました!」
「国連軍ユーコン基地、アルゴス試験小隊所属、ヴィンセント・ローウェル軍曹です。 同隊一同を代表して、白銀中尉らにお礼申し上げます!」

 先程の戦闘を物ともしない生き生きとした彼らの目線に、武はこのユーコン基地が別の意味での最前線なのだと知る。 そしてヴィンセントに続いて、褐色の肌をした中東系の男がケイイチに向けて口を開いた。

「アルゴス実験小隊を預かる、イブラヒム・ドゥールです。 白銀中尉の活躍により、我々も最小限の被害で済みました。 改めて礼を言います」
「僕らも予想外でした。 白銀君が出会った衛士が、電磁投射砲を運用していた隊だったとは」
「これ以上の立ち話は疲れるでしょう。 基地の歓楽街に案内します、話の続きはそこで・・・」

イブラヒムを初めとするアルゴス小隊の面々と共に、移動を開始する武とケイイチ。 戦いの傷跡が残るユーコン基地のオアシスにて、朝食を兼ねた交流の続きが行われる事となった。


「じゃあ篁中尉は、電磁投射砲を任されて帝国から派遣された訳ですね?」
「ええ。 日米共同で行われている戦術機開発計画“XFJ計画”、その一環としてという形ですが」

 テロリスト達との戦いから幸いにも被害が抑えられた、ユーコン基地の大食堂。 一日の活力を付けるべく多くの将兵達が訪れる場所とは異なる個室で、テーブルに座る武の問いに唯依が答える。
 ユーコンの危機を救った白銀の姿を見ようと、将兵達がBETAの如く殺到する事を考慮したイブラヒムが、各国軍の高官やVIPをもてなすこの場所へ案内したのだ。
 そして武とケイイチは、夕呼の技術提供により帝国軍が試作した、試製99型電磁投射砲がアルゴス試験小隊に持ち込まれた経緯を知る。
そもそもの始まりは、武がこの世界に来た5月まで遡る。 世界各国が共同で行う、次世代戦術機開発計画『プロミネンス計画』。 その一環として日本が考案した次期主力戦術機開発計画『XFJ計画』遂行の為、テストパイロットとして抜擢されたユウヤと、メカニックマンであるヴィンセントがユーコン基地を訪れていた。
 日米のハーフの生まれによる経験から、日本にコンプレックスを持っていた当初のユウヤ。 そこから発生した、日本側の開発主任である唯依との確執。 対BETA戦術の違いから来る、戦術機操縦の違和感。 そして一種のライバル関係といえる、ソ連軍衛士との対立。
 あらゆる試練がユウヤに襲い掛かるも、その経験の中でアルゴス小隊メンバーとの絆を深め合い、XFJ計画の結晶と言える不知火弐型が完成に近付いて行った。 唯依の話がひと段落付いた所で、すかさずタリサの口が開く。

「それを決定付けたのが、8月にカムチャッカで行われた投射砲の実戦テストさ。 あの時のユウヤは、本当にカッコよかったねぇ」
「ああ。 何処かのちんちくりんとは違ってな~」
「何だとVG・・・っ!?」

 ヴァレリオの一言を聞いて、歯をむき出して唸るタリサ。 そこを今まで静観していたステラ・ブルーメルが母国スウェーデンに降る氷雪が如き視線を送り、2人を牽制する。 その様子を見た武は、どうやら彼女が2人の暴走を食い止める役目をしている事に気付く。 世界中から選りすぐりの衛士が集まるユーコン基地ならではの光景を堪能しながら、武は唯依の話の続きを聞いた。
 そうして行われた、99型電磁投射砲の実戦テスト。 ユウヤの初の対BETA戦でもあった1回目の戦闘では、ほぼ完璧と言えるほどの記録とインパクトを関係者に与えていた。
 大小の区別無くBETAを粉砕して見せた電磁投射砲と、そしてそれを見事操ったユウヤの射撃。 何時しか唯依は不知火弐型の衛士である彼がXFJ計画の要である事を認め、そしてユウヤもあれだけ嫌っていた戦術機による近接格闘戦を取り入れるようになった。 この遠征が終われば、皆は“戦友”という固い絆で結ばれる。 誰もが悟っていたその時、突発的なBETAの上陸が始まった。
 BETAの上陸を許した責任を擦り付け合う、ソ連軍の将校達。 指示を請うことも出来ないまま、その場の判断で応戦する兵士達。 混乱に陥るカムチャッカの前線基地で、ユウヤ達アルゴス小隊は電磁投射砲と共に脱出を試みる。

「とはいえあんなデカブツだ、そう簡単に運べる物じゃない。 そうした俺達の脱出を支援してくれたのが、護衛として随伴していたソ連軍のジャール大隊だった」
「口は悪かったけど、いい奴らだったな・・・」

 そう呟くように言うユウヤとタリサの脳裏に映るは、自分達の護衛に付いたジャール大隊の女隊長の姿。 一人の戦士として、そして隊の母親でもあった彼女の戦いは、ユウヤ達の心に強く刻まれたと言う。
 そうして大体の経緯を語り終えたところで、タリサとヴィンセントが武達に今後の予定を聞こうとする。

「ところで、中尉達は何時までここに? まさか、直ぐに帰っちゃう訳無いですよねぇ~?」
「そうですよ。 世界中の戦術機が集まるこのユーコン基地、見て行かないと損ですって!」
「ケイイチさん、どうします?」

 夕呼の命であった99型電磁投射砲の安全は確保した武が、それ以降の行動は特に言われてはいない。 このまま2人のおだてに乗って、ユーコン基地にしばらくいようかと武が思っていた時、ケイイチが一枚のデータディスクをイブラヒムが座るテーブルの前に差し出す。

「そうですね。 私も香月副司令から、直々の指令を下されていることですし・・・」
「大尉、このディスクは?」
「現在世界中に配布されているXM2、その追加パッチが入ったインストールディスクです。 横浜からの手土産ですので、今後の活動に役立ててください。 そして・・・」

 突然贈られてきたプレゼントにイブラヒム達が驚くのを見て、悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべるケイイチ。 そして彼はアルゴス小隊の皆や武に、夕呼から託されたその目的を口にした。

「単刀直入に言います。 香月副司令が遂行するオルタネイティヴⅣに、貴方達アルゴス小隊の力を貸して欲しい!」

次回に続く・・・




-あとがき-
『市街地の真ん中で、2号機が暴走レイバーをどつき回しています。 その割には効果は無いようですが・・・ あ、今蹴りを入れました。 続いてドロップキック! 何とかしてください・・・!』

TEの残りの単行本が出ないかと待ちながら職を探す準備をする麦穂です。 今回は引き続いてアラスカ編その2、テロの終息とアルゴス小隊との合流です。
 戦闘パートの部分は、脳汁垂れ流し状態で一気に書き上げました。 やはりどんなロボでも最終的には、拳と拳の肉弾戦になると思うのですよ。



[2970] 第32話-日食(第三夜)-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2010/03/28 16:02
~ 私は月まで飛ぶ事の出来るロケットを作りたかった。 その目的が果たせるのならば、悪魔にでも魂を売り渡していただろう・・・ ~
-20世紀に存在した、あるロケット技術者の発言より-


 そして電脳暦と呼ばれた時代、人類は自ら発見したオーバーテクノロジーにより、巨大な繁栄を謳歌する。 その極みたる形が、Vクリスタル由来の技術から生まれし巨人“VR(バーチャロイド)”だった。
 慣性の法則を無視した機動力、従来の陸戦兵器を凌駕する火力と装甲、人の思考をダイレクトに反映させる操縦性。 その圧倒的な戦闘力に酔いしれた人類は、次々に開発されたVRを究極の消費たる娯楽である“限定戦争”のツールとして、そして商品として大いに利用した。
 そして電脳暦世界を訪れた武によって開かれた異世界の扉。 その向こうにある平行世界に存在していた人型兵器、“戦術歩行戦闘機”の姿を目の当たりにした電脳暦の技術者達は、幼稚とも言えるその性能を見下し、嘲笑した。
だが、彼らは忘れていた。 いや、彼らは自らの持つVクリスタル由来の技術を過信し、愚かにもそれを自分の物であると奢っていたのだ。 そして少数の理解ある者達は、その事に気付いていた。
 VRもまた、Vクリスタルがもたらすオーバーテクノロジーに依存して作られていると言う事に。 そして電脳暦の人類はかつて『XMU計画』と呼ばれるプロジェクトにおいて、戦術機と同じような人型兵器を開発しようとした挙句、挫折した事に・・・
 そしてケイイチもまた、その驕りに気付く事が出来たVR技術者の一人であった。


マブラヴ~壊れかけたドアの向こう~
#32 日食(第三夜)


・ 2001年11月8日 AM10:04 国連軍ユーコン基地 アルゴス小隊ハンガー


「では『XFJ計画』で生み出された不知火弐型、あなた方はそのデータを求むと言うのですか?」
「はい。 現行の不知火では、先程説明したメガドライヴの恩恵を十分に引き出せない。 皆さんが開発した不知火弐型ならば、それが可能ではないかと思ったのです」

 朝食を終えて、ハンガーへととんぼ返りした武達。 外では復旧作業が行われる中、ケイイチが夕呼から託された目的の詳細をアルゴス小隊の皆に話す。 それは、彼らが開発する『XFJ計画』の結晶である不知火弐型のデータを、オルタネイティヴ計画権限により横浜基地にいる夕呼に提供して欲しいと言うものだ。
 戦術機にVRと同様のスペックをもたらすメガドライヴ。 それを搭載した戦術機を駆るヴァルキリーズの活躍が、この間行われた銑鉄作戦で世界に轟いた事は記憶に新しい。
 だが作戦が終わって帰還した機体をチェックしたところ、驚くべき事実が明らかになる。 みちる達の乗る不知火が、稼動ギリギリの段階まで消耗していたのだ。
 冥夜達の乗機である晴嵐は、前もって吹雪に駆動系の強化を施しておいたので、ドライヴによる慣性制御機動にも十分耐え抜いた。 だが作戦直前になって急遽ドライヴを搭載する事となった不知火の方には、それを行える時間が無かったのだ。

「メガドライヴがもたらす力は確かに強大だが、その分機体に致命的な負荷を与える。 そこで僕と香月副司令は、それに耐えうる戦術機の選定を行っていたのです」
「そして、私達の不知火弐型に白羽の矢が立った・・・?」

 自分達の協力を欲する理由を悟った唯依の問いに、その通りとケイイチが強く頷く。 日本が進めているXFJ計画において大幅に強化された不知火弐型ならば、メガドライヴの能力を最大限に発揮出来る。 そして同系の機体ならば、みちる達の慣熟期間も大幅に短縮可能だ。
 ケイイチの話を聞き終えた武が、思わず自分の感想を言葉を漏らす。

「不知火弐型をヴァルキリーズに導入か・・・ 夕呼先生、ちゃんと伊隅大尉の事も考えていたんですね」
「あの人がそう考えていない方が異常なんだよ白銀君。 下手をすると凄乃皇のML機関を小型化して、戦術機に搭載する事も視野に入れているかもね」

 慣性制御による戦闘機動の有用性、そしてそれを持つ機体と持たざる機体の優位性は、今まで武が遭遇してきた戦いで周知の事実だ。 そして“天才”と言われる夕呼ならば、メガドライヴのコアであるVフライホイール、その原料にこのBETA由来の技術であるG元素を利用する発想を、彼女が思い付かない訳が無い。
 この世界で夕呼の事を知る人間、そして彼女と敵対する人間達は恐怖と侮蔑の意味を込めて“女狐”と呼ぶ。 だがケイイチは彼女がそのような異名で計れるスケールではない事を、今までの言動から思い知らされていた。

「(間違いない、彼女は狐ではなく、豹だ・・・!)」

 その麗しい容姿と話術で相手を惑わし、相手の動きをいち早く捉えて嗅ぎ回り、敵と見なせばその鋭い牙と爪で刈り取る。 ケイイチにはラボの椅子で踏ん反り返る夕呼が、木上から得物を見定める豹の姿と重なる気がしてならなかった。
 自分が彼女の策略のコマとして使われている事に気付き、ケイイチの背筋が震えたその時、ヴィンセントが右手を上げて発言を求める。

「つまり不知火弐型をBETA戦の機会が多いヴァルキリーズに導入する事で、戦力の底上げと実戦データの収集を行うわけですね」

 ヴィンセントの的を得た発言に、アルゴス小隊の面々も思わず納得する。 帝国軍より先にヴァルキリーズが弐型を導入し、その有用性を見せ付ければ未だに純国産という3文字に縋り続ける軍部の勢力を黙らせる事が出来るだろう。 そしてそれは、自分をアラスカに送り届けた唯依の育ての親である巌谷榮二の願いである事に、当の彼女はまだ気付いていなかった。
 状況を完全に飲み込んだイブラヒムは、武達にその要求の答えを告げる。

「用件は概ね分かりました。 ですが我々の一存で、それを承諾する事は出来ません」
「それは承知の上ですドゥール中尉。 僕達はそれが住むまで、ここに滞在するつもりです」

 死傷者が多数出た、テロリストとの戦い。 ユーコン基地の傷も簡単には癒えそうにも無く、例えオルタネイティヴ計画権限を使用しても、その承認には時間が掛かってしまうという。
 武達がしばらく留まる事を知り、タリサとヴァレリオの2人が喜びの声を上げる。

「英雄のご滞在とは、こいつはビッグニュースだぜ!」
「なら早速、基地の案内を・・・っ!?」

 そう言って強引に武の手を取ろうとするタリサだったが、再びステラからの冷たい視線が突き刺さり断念する。 そして昼を挟んでアルゴス小隊の面々による、ユーコン基地の案内が始まった。


・ PM5:21 国連軍横浜基地 香月ラボ


「そう、弐型の導入承諾はもう少し時間が掛かるのね。 それよりもどう? 世界中の戦術機と衛士が集まる、ユーコン基地の居心地は?」
『そうですね。 機械好きの僕としては、天国に最も近いところですよ』

 報告を聞き終えた夕呼の問いに対し、モニターの向こうにいるケイイチが満面の笑みを見せて答える。 横浜の比ではない規模を誇るユーコン基地を見て周り、多少疲労の色は顔に表れてはいるものの、ケイイチにとってはこの位は許容範囲内のようだ。

「それはよかったじゃない。 それよりも白銀とカイゼルは無事なんでしょうね?」
『途中でパージしたスプーキーも回収されて、アルゴス小隊で整備させて貰っていますよ。 僕のマイザーもハンガーに入れて貰っているので、ハンガーが窮屈になりましたけどね』

 アルゴス小隊の衛士達が駆る戦術機やその予備機や多数の修繕パーツ、そして突然の客人である武とケイイチの期待も格納した事で、同部隊が受け持つハンガーがパンク寸前に陥ってしまったのだ。 だがそのような状態でもヴィンセントを初めとするメカニック達の意地により、ケイイチが手渡した資料を元にカイゼルは彼らの整備を受けている。
 そして最も損傷が激しいと思われたユウヤの不知火弐型は、破損した担架システムと駆動系統の交換で事無きを得た。 皮肉にも人類同士の戦いである今回の件を通して、不知火弐型の性能が更に実証されてしまった事に、ユウヤも苦笑いを浮かべたと言う。

『それで香月博士、弐型を導入した暁にはメガドライヴの搭載を?』
「当然でしょう? 但し今回搭載するドライヴのコアは、アタシが考えた物を使わせてもらうわ」

 自分の予想通りの事を夕呼が言って来た事に、本当に彼女が“女豹”の様な女だという事にケイイチは戦慄する。
 G元素を直接反応させる技術は、既に凄乃皇の動力炉として確立させている。 そしてそれを触媒として用いる方法は霞の戦術機であるエンジェリオ、その姿勢制御として装備しているイナーシャル・フローターで実現させたではないか。 恐らく夕呼はG元素をドライヴに内蔵する、フライホイールの素材として利用しようと考えているのだろう。
 フローター同様に外部からのエネルギー供給で微小なラザフォード・フィールドを発生させ、その余剰エネルギーをフライホイールに保存する。 そして回転しているフライホイールでジェネレーターを作動させ、生み出した電力を他の兵装や電磁推進に回す事が出来るのだ。
 そう語り終えた夕呼の顔は自信に満ち溢れ、逆にケイイチは彼女に対し恐怖すら抱き始めていた。 まるで彼の反応を楽しむかのように微笑みながら、夕呼が端末の向こうに話しかける。

「どう? アタシとしては中々の理論だと思うけど?」
『いやはや香月博士・・・ あなたは研究者でなくても、戦術機の技術屋として食べていけますよ』
「悪いけど転職はしないわ。 それにアタシ、油臭い所に長くいるのは嫌いなのよね~」

 この人と武だけは、絶対に敵に回してはいけない。 とてつもない敗北感を味わいながら、ケイイチは夕呼に一礼した後、回線を切断する。 何も映さなくなったモニターには、やれやれと言わんばかりに呆れる夕呼の顔が反射していた。

「やれやれ意地張っちゃって、白銀もあいつもまだ子供ねぇ・・・」

 人生の先輩としての風格を見せながら、夕呼は誰もいない部屋でポツリと呟いた。


・ 同時刻 横浜基地 食堂


「白銀中尉や御剣さん達、大丈夫なのかな~?」
「そんなに心配する事じゃないわよ鎧衣。 白銀中尉の元にはサギサワ大尉が向ったし、御剣に、朝倉と高原には菫さんが付いているじゃない」
「そうそう、白銀達なら何とかなるって!」

 夕食後の一時に美琴が遠方へ向った武達を案じて思わず漏らした一言に対し、千鶴と晴子が何も問題はないと彼女をなだめる。 天元山へ冥夜達が向って3日目、白銀がアラスカへと旅立ってから2日経つ。 残された千鶴達は日々の訓練をこなしながら、彼らの帰りを今かと待ち続けているのだ。
 銑鉄作戦の成功を機に、国連上層部ではオルタネイティヴⅣの有用性と戦果が、ようやく評価されるようになった。 それを成就できたのも武が異世界の軍勢と共に、この世界にやって来たからに他ならない。 それから欧州や中東でも異世界の軍隊との関係が急速に良くなりつつあり、現地では銑鉄作戦を参考にしたBETA反抗作戦が急ピッチで計画されつつある。
 千鶴達の言葉でようやく不安を取り除く事が出来た美琴が、新たな話題を持ち出す。

「そういえば伊隅大尉達の不知火は、何時になったら直るんだろうね~?」
「まだ時間がかかるみたい。 お姉ちゃんから聞いた話だと、白銀中尉がアラスカに行った事もそれに関係するらしいし・・・」

 CPオフィサーである遙を姉に持つ茜が、美琴の問いにいち早く答える。 急なメガドライヴの搭載により、みちる達の不知火は未だ稼動不可能な状態に陥っている。 だが世界各国が戦術機の開発を行っているアラスカのユーコン基地には、それらを解決するヒントがあるらしいのだ。
 茜の情報源である遙でさえも詳しい情報はもたらされておらず、愛機を失って機嫌が悪いであろう水月達に直接聞けたものではない。 それに佐渡島ハイヴから蒐集したデータの解析も、まだ完全ではない。
 ヴァルキリーズのコンディションが改善され、次なるハイヴ攻略の指令が夕呼の口から出されるのは、当分の先の話になるだろうと皆は思っていた。

「おおぅ!? じゃあ茜ちゃんと、もっと一緒にいられるわけですね~!」
「そ、そうね・・・ だからって多恵、余りくっつかないでよー!」
「あわわ・・・ 他の人が見てますよ~!」
「築地、まさかの発情期・・・?」

 それを見て慌てる壬姫や慧からの突っ込みも気にせず、多恵は茜にじゃれ付く子猫よろしく頬擦りを仕掛け、茜はそれを必死に阻止する。
 横浜の戦乙女達に与えられた、束の間の休息と小さな戦い。 武達が無事に帰ってきてくれる事を祈りながら、千鶴達は各々の部屋へと戻って行った。


・ PM7:21 国連軍ユーコン基地 アルゴス小隊ハンガー


「こうして眺めてみると、戦術機のデザインは機能美が極まった形なのかな・・・?」

 夜の闇を振り払うように微かな明かりが灯る、アルゴス小隊のハンガー。 その中にただ1人いるケイイチが呟きながら、改めてアルゴス小隊の戦術機を眺めていた。
 それぞれ純白と濃紺に色塗られた2機の不知火弐型、F-15“イーグル”の改修機であるアクティヴ・イーグル。 追加パーツで機体を強化するという共通のコンセプトを持ちながら、原型機の違いでガラリとデザインが変わる事に、ケイイチは大いに興味を引かれていた。
 第1世代戦術機の無骨なスタイル、第3世代戦術機のスマートさと、その中間を併せ持つ第2世代のデザイン。 そのどれもが人類の敵であるBETAと戦う為に、そして最大の効率と最小限のロスを抑えるために生み出されたデザインなのだ。
 初めから大衆の娯楽の為に作られた兵器であるVRとは、別次元の美しさが戦術機にはある。 そうケイイチが感じ始めていた時、巨大なハンガーの扉がゆっくりとスライドし、人が通れるほどの隙間が空く。 そしてそこから、背広姿の1人の男が現れた。 自分に向けて歩み寄るその男に、ケイイチは声を掛ける。

「こんな時間にこんな場所で、一体何の用です? ここの本来の主達なら、今は歓楽街にいますけど?」
「いえ、用があるのはアルゴス小隊の皆さんではなく、あなたですよ」

 武を初めとするアルゴス招待の面々は、今はユーコン基地の歓楽街にて今までの憂さを晴らしている頃だろう。 その名を口にするとは、ユーコン基地の関係者か? そうケイイチが考えていると、その男は懐から一枚の名詞を取り出し彼に渡す。
 それに書かれた男の素性に、ケイイチは何時に無く真剣な眼差しと声で答えた。

「この世界の企業の人・・・?」
「はい。 XFJ計画の技術顧問としてボーニング社から派遣されました、フランク・ハイネマンと申します。
あなたもこの基地の危機を救ったという白銀中尉と同じく、異世界から来た人間とお見受けしますが?」
「そうだけど、ここを救った白銀君ではなく僕に接触するとは、あなたは余程の変わり者のようですね?」
「そうですね。 それと、ここに駐留していたあなた方の同胞は、先程全員無事が確認されましたよ」
「そうですか。 でも、わざわざそれを僕に告げに来たわけじゃないでしょう?」

 兼ねてよりプロミネンス計画に協力している、電脳暦世界から来た技術者達。 彼らの無事を知らせながら微笑むハイネマンに、ケイイチは思わず息を呑んだ。
 自分達が白銀と共に来訪して以来、電脳暦世界の技術を欲する者達は後を絶たない。 そして自分はVR開発に関わる技術者であり、ハイネマンはそれを何よりも欲するこの世界の技術者で、それにこのハンガーにはケイイチと彼の2人のみだ。
 手荒な真似をしてでも情報を引き出すには絶好の機会、一体彼の目的は何だとケイイチが思考を張り巡らせていたその時、ハイネマンの口が開く。

「あなた方に、これを託そうと思いまして・・・」
「これは・・・?」

 ハイネマンは再び懐に手を忍ばせ、一枚のディスクが包まれたケースをケイイチに手渡す。 ケイイチの手が掴んだ光学式ディスクのケースラベル、そこには『LOST TSF YF-23』という文字だけが刻まれていた・・・


次回に続く・・・




-あとがき-
「ハイスクールのランチ2回、おごったぞぉ!」
「俺は13回おごらされたぁ!」
「しっかり数えてんじゃ・・・ねぇよ!!」

どうも麦穂です。 今回はアラスカ編その3と、ヴァルキリーズ留守番組のその頃、そして最後に現れたハイネマンとケイイチのアヤシイ(?)取引です。
 TE本編ではカムチャッカ遠征を強引に進めたりしている、何かと曲者なハイネマン。
 そんな彼ですがHJで掲載されたYF-32とYF-22のコンペの話を読んで以降、『もしかして彼はYF-23の開発に関わっていたのでは?』と思うようになり、あの言動も自分の研究成果を捨てた人間に対する復讐に見えてくるのは、ただの私の気のせいなんでしょうか・・・?



[2970] 第33話-日食(第四夜)-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2010/04/12 19:01
・ 2001年11月10日 AM5:28 天元山麓 帝国軍災害対策本部


「ふんっ・・・! はあっ!」

 冷たく湿り気を帯びた空気が漂う、本部近くにある川原。 そこでBDUジャケットを羽織った冥夜が、愛刀の代用として持って来た木刀を、霞をも両断しよう勢いで振るい続けている。 悠陽の妹として生を受け、そして引き取られた御剣家でその素質を磨かれて来た冥夜にとって、朝一に行う素振りは物心ついた時から欠かさずに行って来た日課だ。

「(まだだ、まだ足りぬ・・・! 武に近付くには、この程度では・・・!)」

 誰にも頼らずに自分の力で鍛錬を続け、そして己の限界を伸ばし続ける。 BETAと相対するようになった今では、その魔の手から民と国を守る為に精進を続けるようになっていた。
 起床時間までまだ十分にある、そう思いながら冥夜が素振りを続けていたその時、絨毯の様に敷き詰められた川の砂利を踏む音が聞こえる。

「霜月さん・・・!?」
「あっ、邪魔しちゃったかしら・・・?」

 素振りを止めて音のした方へと冥夜が視線を向けると、そこには同じくBDUジャケットを着た菫が立っていた。 彼女も朝の空気を吸う為にこの場所に来たのだろうか、素振りを再開しようとして木刀を振り上げようとした冥夜に菫が声を掛ける。

「白銀君の事、ずっと考えていたでしょ?」
「っ!? 何故それを・・・!」
「顔にそう出ているわよ。 どんなに隙を見せないよう気を使っていても、人は何処かで見せているものよ」

自分が正にその典型例であることを知り、蒸気が噴出しそうなほど顔を赤らめる冥夜。 だがそれが冥夜の良い所だと、菫は付け加えて言った。 自分の心の内を完全に閉じ込める事が出来る人間などまず存在しない。 そして冥夜も姉である悠陽、そして武という存在を心の拠り所としているのだ。 そこまで聞いた所で、冥夜はその問いを菫に返してみる。

「では霜月さん、あなたは誰を思いながら・・・ 何を守るために戦っているのですか?」
「そうねぇ・・・ あえて言うなら、やっぱり白銀君のため・・・かな?」

そう答える菫の透き通った瞳を見て、その言葉が決して偽りのものではない事を冥夜は悟る。 菫自身も武と出会った当初は、彼の言い分を半信半疑で聞いていた。 だが仲間達を守れなかった悲しみ、そして最愛の人を見つけられなかった後悔の念を語る武の目には、一転の曇りも無い。
情を引かれたのか、それとも彼に対する哀れみか。 理由は定かではないが、何故か菫は彼の言い分を信じてみようという気になった。 そして彼の導くままに、菫はこうして異世界の大地に立っている。

「でもそれは、恋愛とかそういう感情じゃない。 白銀君が自分の意思で、元の世界に帰る。
 私はそのための手伝いをしているに過ぎないわ」
「タケルが、元の世界へ帰る・・・」

 そうだ、武はこの世界の人間ではない。 彼は言わば時空の旅人、この世界で成すべき事を成し遂げた後、彼にとって何気ない日常が待つ元の世界に返ってしまうのだ。 もう分かっていたつもりだったのに、いざその事を考えると冥夜はどうしたらいいのか分からず、何時もの彼女らしからぬ困惑した表情を見せる。

「私は、私はどうすればよいのだ・・・」

武に対する思いと葛藤に苦しむ冥夜に、菫は彼女の持っていた竹刀をおもむろに取り上げる。 そして菫が次に取った行動を見た瞬間、冥夜はそれまでの葛藤を忘れ、思わず息を呑んだ。

「それは、突きの構え・・・」

 川のせせらぎと、2人を横切る冷たい風。 それを思い切り吸い込んだ菫が、竹刀のグリップをしっかり握り締める。 前を見据えるのは未だに晴れない朝の霧。 そして左足を前に出しながら、菫は手にする木刀を神速の勢いで突き出した。

「はあっ!!」

 辺りに木霊する掛け声と共に、木刀にこびりついた湿気が飛沫として辺りに散る。 自分の素振りより遥かに鋭く、大気をも動かさんばかりの一撃を繰り出す菫の姿に、冥夜は圧倒された。
 まるで『自分の意を貫き通せ』と、それを見ている自分に訴えているように、そして菫自身にも言い聞かせているかのように。

「(ありがとう御座います、霜月さん。 これで横浜に帰ったら、タケルに自分の思いを伝えられそうです・・・)」

木刀を手渡しで返す菫に、冥夜は心の中で彼女に感謝の言葉を紡ぐ。 そして程無くして起床した光と直美、孝之が見た冥夜の顔は、怖い位に清々しいものだった。


マブラヴ~壊れかけたドアの向こう~
#33 月食(第四夜)


・ 2001年11月10日AM10:03 アラスカ 国連軍ユーコン基地 第2演習場


「ホラホラVGっ! チンタラ飛んでいると、白銀中尉に足元すくわれるよ!」
「お前が先行し過ぎなんだよ! お前に振り回されるこっちの身にもなれってんだ!」

 テロリストとの戦いを辛くも免れた、ユーコン基地の第2演習場。 その中を不知火弐型2号機に載るタリサと、アクティヴ・イーグルで彼女に追走するヴァレリオが軽口を交わしながら水平噴射跳躍で移動している。
 ユーコン基地全体を巻き込むあれだけの戦いを繰り広げたにも拘らず、アルゴス小隊を初めとする被害の少ない他の国々の実験小隊は、それらを物ともせず運用テストを再開している。
 あのような悲劇が起こってしまったのも、BETAという異星からの侵略者が訪れた事がそもそもの始まりだ。 終わらない戦い、疲弊する人々、今まで燻らせていた諸々の感情、そしてそれを利用した者達によって今回のテロが起こってしまったのだ。
 自分達が手塩に込めて作り上げた戦術機によってBETAを駆逐し、一刻も早くこの忌まわしき負の連鎖を断ち切ってみせる。 その情熱と使命を胸に、タリサとヴァレリオは朽ち果てたコンクリートのジャングルの中を疾走する。

「タリサよぉ、そんなに急がなくてもいいんじゃないのか? 今は欧州と東側の連中が踏ん張っているだろ?」
「まったくVGはつくづく楽観的だねぇ。 ユウヤ達が採取した戦闘記録、見てなかったの?」

 そうヴァレリオに呆れながら、タリサは先日閲覧したカイゼルのデータを思い出し、強化服を着ているにも関わらず寒気を覚える。
 ユウヤがようやく追い付いた時には、既に基地中心部のテロリスト機をほぼ壊滅させた武のカイゼル。 惜しくもその一部始終を映像として残せなかったものの、目撃した他国の衛士からの証言、そして合流後に収録された記録映像から、その戦闘能力の高さを見せ付けられた。
 外見は戦術機のそれだが、中身は異世界の兵器であるVRのそれに近いカイゼル。 確認されている中で最強の衛士と、最強の戦術機の組み合わせ。 まともな衛士ならその話を聞いただけで、即座に不戦敗を申し出るだろう。

「(さて、今のアタシが何処まで戦えるか・・・)」

だがタリサとヴァレリオは、今回の演習への参加を拒む事は無かった。 いや、彼女達はこの状況を寧ろ歓迎していた。 この基地の危機を救い、現在確認されている中で最強を誇る衛士と戦術機と手合わせが出来る。 勝てる見込みなど万に一つも無い、だが武とカイゼル相手に何処まで戦えたかで、己の力量を見極められる事が出来るのだ。
 それは一足先に武相手に戦っている欧州軍、そして東欧州同盟軍の衛士達も同じ気持ちで望んでいるのだろう。 胸の高鳴りが抑えきれないタリサは、濃紺の不知火弐型を更に加速させる。 新造エンジンが内包された跳躍ユニットから放たれる噴射炎の輝きが増し、そのままコンクリートジャングルから一面荒野が広がるエリアへと機体を飛翔させる。
 遅れて廃ビル街から飛び出たヴァレリオの視界には、異世界に技術により開発された試作武器を装備し、JIVESによる架空の銃撃を繰り出す欧州軍のEF-2000“タイフーン”の姿が映っていた。 それを見たヴァレリオが、再び楽観的な言葉を発する。

「ほ~らタリサ、俺の言ったとおりろ? やっぱのんびり行った方が良かったんじゃないか?」
「・・・いや、もう遅いよ」

タリサがそう返したその時、1機のタイフーンが突風に煽られたかのように体勢を崩し転倒する。 データリンクで伝えられた情報では『コクピット直撃 大破』と表示されている。 それは即ち、あの機体がカイゼルの餌食となったことを意味していた。 そしてオープン回線からは、それと対峙する欧州軍衛士達の悲痛な叫びが聞こえてくる。

『畜生っ! 何故だ、何故一発も当たらない!?』

欧州軍の銃撃を物ともせずにカイゼルは大地を駆け、横へ水平跳躍移動をすると共にスマートガンの3点射撃を繰り出す。 放たれた架空の荷電粒子弾は現実と同様の軌道を描き、全弾が標的であるタイフーンの左脚部へと命中する。
 全高18メートル程度を誇る戦術機。 人間と同様に歩行も行い、大地に立つための重要な部位への被弾がいかに致命的な事であるか、衛士やそれを志す者ならば当然の知識。 JIVESによる『左脚部アクチュエーター機能停止』の判定が出されたそのタイフーンは、転倒こそ免れたもののガクリと膝立の姿勢のまま戦わざるを得ない状態に陥る。
 被弾した機体の救援とカバーに入るべく、もう1機のタイフーンが携行型に再設計されたGAU-8を撒きながら、被弾機の傍に近付く。 その瞬間、武のカイゼルがわき目も降らずに急加速し、カバーに入った機体もろとも、2機のタイフーンを切り伏せる。
 その一部始終を遠巻きに観察しながら、カイゼルの動きを完全に目で追えなかった事に、タリサとヴァレリオは戦慄した。

「VG、降参するなら今の内だよ?」
「そ・・・そういうタリサだって、声震えてるじゃねぇか。 お前こそ、排泄パックが満タンになる前に、白旗挙げたらどうだ?」

 ヴァレリオに下ネタを降られた事でムッとするタリサだったが、確かにそうだなと心の中で同意する。 あんな光景を見せ付けられてしまったら、それまで沸き上がっていた闘志も一気に冷めてしまいそうだ。
 だがタリサが感じる高揚感、そして血液が沸騰するような身体の疼きは、それで収まるものではなかった。 ヴァレリオに対し、タリサはニヤリと笑って見せる。

「それ、何の冗談だい? 逆にアタシの戦闘機動で、白銀中尉を翻弄してみせるよ!」
「それでこそだタリサ。 じゃあ早速、それを披露してもらうぜ!」

 彼女の様子を見て安心した表情を見せるヴァレリオの返事と同時に、2機の跳躍ユニットが轟く。 そして爆発的なロケットモーターの炎を輝かせ、不知火弐型とアクティヴ・イーグルが戦域に突入した。


・ 同時刻 国連軍横浜基地 香月ラボ


「さて、どこから整理したらいいものか・・・」

 デスクに積まれ、さながら壁を形成する数々の書類。 今にも崩落しそうな紙の山の中で、夕呼が膨大な情報を前に愚痴をこぼす。
 武達が遠方の任務に赴き、みちる達の機体も使用不可能。 だからこそ、こうして部屋に蓄積された情報整理を行おうと思っていた彼女だったが、いざ積み重なった紙の山を目の前にして絶望し、こうしてデスクに突っ伏している。

「せめて鑑か社を連れて来る・・・ いや、鑑はダメね。 あの子がいたら整理どころか仕事が増えそうだわ・・・」

手伝いに呼んだ純夏が紙の山を派手に吹き飛ばす惨事を想像し、夕呼は深く大きな溜息を吐く。 だが、このまま脳細胞をアイドリングさせている訳にもいかない。 書類の山は後でみちるたちを読んで整理させようと考えながら、夕呼は目の前に置かれた書類に目を通す。
『音はすれど姿は見えず』という形であったが、銑鉄作戦で確認されたBETAの新種“母艦級”。  彼女が手にするそれは、菫が編集した母艦級のデータをさらに夕呼がまとめ、先日国連本部へ正式に提出したレポートだった。

「まったく、何処まで増えるつもりなのかしら・・・」

このレポートを読んだ国連と、各国軍の高官達の顔が青ざめる姿を想像しながら、吐き捨てるように夕呼が言う。 今後行われるハイヴ攻略作戦にて、母艦級による大規模増援が行われないと断言は出来ない。
 そして『BETAは異性人が作った機械』という菫の仮説を前提とするのなら、その対処は機械的に行われるのだ。 突入部隊が遭遇したBETAの増援も、佐渡に居るBETA個体数の減少を感知して行ったに違いない。

「やはり今後は、無人型の戦術機を前面に押し出すべきかしら・・・?」

そう呟きながら夕呼は埋没を免れたパソコンを起動し、凄乃皇参型の護衛に付いた無尽戦術機F-108/Kn“レイピアナイト”のデータを画面上へ引っ張り出す。
 霞専用機であるF-104/ANG“エンジェリオ”を基に作られ、ぶっつけ本番で投入された銑鉄作戦において見事純夏の凄乃皇とヴァルキリーズを支援して見せた史上初の無人戦術機。
 だがあの時においてレイピアナイト達は、『凄乃皇とヴァルキリーズを護衛しろ』という単純な基本ロジック、そして純夏による的確な指示が功を奏して活躍したに過ぎない。

「ふふふ、さながら鑑は“人形遣い”って所かしら?」

我ながら言いえて妙な独り言だと思いながら、夕呼は微笑む。 人間と同じリアルタイムの状況判断や思考が出来る能力を持つ機械は、レイピアナイトを操った純夏だけ。 00ユニットがそうであるように、ハイヴ突入戦に対応できるAIを生み出すには、やはり人間が必要なのだ。
 人を必要としない無人機である筈なのに、元が人間であったAIを乗せるなど本末転倒。 だが“死の8分”という言葉があるように、手塩にかけて育てた衛士が初陣で戦死してしまう可能性もある。 それこそ夕呼が最も嫌いな『無駄』という2文字に当てはまる事だった。

「あ~もう! 天才のアタシがここまで悩むなんて~!」

両手で頭を抱え込みながら、無人機と有人機、双方のメリットに苦しむ夕呼が声を上げる。 何か手はないかと脳細胞をフル稼働させて考えていたその時、昨日ケイイチから送られまだ閲覧していないファイルの存在を思い出した。
 機械に関してはバカのように興味を抱いているあのメガネの事だ、用意したXM2のアップデート版と電磁投射砲の安全を確保した代償として手に入れたデータに違いない。 そう鷹をくくりながら夕呼は、ケイイチとの間で作った暗号解除用のパスワードを入力する。
 そして開いたファイルのデータを見た瞬間、彼女は思わず我が目を疑った。

「(これはYF-23のデータ!? アイツ、一体向こうで何をしたの・・・!)」

 かつて米軍の主力第3世代戦術機の座を掛けて、現在のF-22“ラプター”と競った試作戦術機YF-23“ブラックウィドウⅡ”。 夢敗れて歴史の裏に葬り去られる機体の図とスペックがモニターに写っている事に夕呼は息を呑む。
 あのケイイチが脅しを行ってまでデータを手に入れる性格ではないし、この世界にコネが無い彼がお蔵入りされた実験機のデータなど到底手に入れられる訳が無い。

「(なるほど、企業の連中が彼に横流しを・・・)」

ユーコン基地が戦術機の見本市だということを失念していた夕呼は、自分の迂闊さを失笑する。 東西様々な国と企業が凌ぎを削り、幾多の陰謀が水面下で蠢くあの場所なら、電脳暦世界の人間であるケイイチに情報を横流しするものが存在しても不思議ではない。
一体誰が何の目的で、ケイイチにこのデータを託したのかは分からない。 だが対人戦を重点に置いたF-22とは対になる、対BETA戦を主眼に置いたYF-23のデータは、今の夕呼には正に天の助けに等しい物だ。 次第に夕呼の脳内には、朧気ながらも戦術機の形をしたシルエットのイメージが浮かび上がってゆく。

「・・・よしっ!!」

武とケイイチが不知火弐型のデータを手に入れるまでに、この機体をベースに“究極の対BETA戦術機”を考えてみせる。 そう決心の声を上げた夕呼は、内線電話の受話器を力強く掴み取った。


・ AM10:12 国連軍ユーコン基地 第2演習場


「そのエリアを抜けたら、いよいよ作戦領域だ。 気を抜くなよ、ブリッジス少尉」
「分かっているよ中尉、ベストを尽くすつもりだ」

純白の不知火弐型を操り、タリサ達が通った道を辿るユウヤ。 通信ウインドウに映る唯依の顔と共に聞こえる彼女の忠告にさわやかな笑顔で返すと、唯依は顔を赤らめ彼女らしからぬぎこちない表情を浮かべる。
 カムチャッカでの遠征以来、2人の間には戦友とはまた異なる別の感情が芽生え始めていた。 だがその片鱗を見せているのは任務ではないプライベートな時間のみであり、任務中はこうして上官と部下の関係を維持している。 それでもユウヤと唯依との間には、深い信頼関係が築かれている事も確かだった。 そのまま何も言えないままでいる唯依に、ユウヤは今まで気になっていたことを尋ねる。

「ところで中尉、一つだけ聞きたい事があるんだが・・・」
「時間が無いから簡潔に済ませろ。 それで、その聞きたい事とは?」
「イーニァとクリスカが無事かどうか知りたい。 中尉なら何か知っているんじゃないかと思ってな」

ユウヤの口から出たその名前に、唯依は “紅の姉妹(スカーレット・ツイン)”の異名を持つ、あのソ連軍衛士達の顔が脳裏に浮かぶ。 ユーコン基地に在籍するソ連軍の中でも格段の装備と人材を有するイーダル実験小隊に所属していたあの2人は事あるごとにアルゴス小隊と対立し、そして現在では互いに高みを目指しあうライバルの関係となっている。
カムチャッカ遠征において、専用機であるSu-37UBを駆って多大な戦績を残した彼女達が、テロリスト相手に早々死ぬ訳が無い。 寧ろ唯依自身、ユウヤの言葉をきっかけに彼女達の消息が気になり出した。
 だが今は任務中で、自分はユウヤのオフィサーを勤めている。 今すぐにでも確めに行きたい衝動を抑えながら、唯依はユウヤにその答えを告げる。

「すまないが、私にも彼女達の事は知らされていない。 とにかく、今の貴様は目の前の相手に集中しろ」
「ああ。 これが終わったら、探しに行ってみようぜ」

唯依の言葉に落胆する事無く言い返すユウヤに、静かに頷く唯依。 まるで氷のような冷徹な性格を持つ彼女達も、今の自分と同じ感情をユウヤに抱いているのではないか。 そう唯依が考えている内に、ユウヤの不知火弐型が市街地エリアを抜ける。

「一体、白銀中尉はここで何をしたんだ・・・! はっ、タリサとヴァレリオは!?」

まるで魂を抜かれたかのように停止している、東西欧州軍の戦術機達。 その中にはタリサの不知火弐型と、ヴァレリオのアクティヴ・イーグルの姿もあった。

「タリサ! ヴァレリオ! 無事か!?」
「ユウヤか? 悪いな、見ての通りアタシ達はこのザマさ」
「まったく、主役は遅れてくるものだと思っていたけど、お前は遅すぎだぜ・・・」

 武との戦いで疲弊しているのか、2人の声に活力は無い。 そして目の前にはユーコンを襲っていたテロリスト達を圧倒的な力で捻じ伏せ、そして今も模擬戦に参加している総勢10機を制した衛士と機体が、正に英雄の風格を漂わせて立っている。

「(何を今更、中尉の強さを見たのはこれが初めてじゃないだろ・・・?)」

 無意識に操縦桿を握る手が震えていた自分に言い聞かせながら、カイゼルに向けて87式突撃砲を構えるユウヤ。 同様にカイゼルも、スマートガンの切っ先を純白の不知火弐型へと向けたその時、武から声が掛かった。

「待っていましたよ、ブリッジス少尉」
「俺を待っていたって、どういう事ですか? 白銀中尉」

 そう言い返したところで、ユウヤは今自分が置かれている状況にハッとする。 もしかすると、武は自分との一対一の決着をしたかったのではないか。 あのカイゼルの性能ならば、今の状況を作り出す事など雑作でもない。 そしてタリサより不知火弐型と触れ合っている衛士は、他でもないユウヤだった。
 全てを悟った彼は突撃砲を格納したかと思うと、74式長刀に持ち替えて構える。 ここに来る前はあれほど嫌っていた近接戦闘、今となってはそれを積極的に望むとは皮肉だなと思いながら、ユウヤは武に言い放つ。

「分かったよ中尉。 俺とこの弐型が出来る全てを、アンタにぶつけてやるよ!」

 唯依の武御雷と戦った時と似た、全身の水分が沸騰するかの様な高揚感を感じるユウヤ。 そして跳躍ユニットからロケットモーターの炎を噴出させながら、純白の不知火弐型が武のカイゼルに吶喊した。



[2970] 第34話-日食(第五夜)-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:8571ad39
Date: 2010/04/30 07:41
・ 電脳暦世界 アメリカ合衆国 国連軍ウェーク島基地上空


 一年中その景色を変える事が無い、常夏の孤島であるウェーク。 宇宙の果てまで透き通っているかのような蒼穹の空を、猛禽の名を与えられた1機の戦術機が悠々と舞う。
 戦域支配戦術機と謳われたF-22“ラプター”、その強化型であるF-22B“ストライク・ラプター”を駆るウォーケンの目には、故郷の世界と何ら変らない地球の海が広がっている。

「(我々の世界も、このようであって欲しいものだが・・・)」

 浜辺に寄せては返す波、そして島の大地を吹き抜ける風。 それらは全て同じ地球の水と空気によって起きている筈なのに、何故あの世界の人類は一つにまとまれないのか。
 その答えを見出す事が出来ないウォーケンは、シートに座したまま苦虫を噛み潰したような苦渋の顔を浮かべる。 そして彼から考察の時間を奪うかのように、管制室から試験開始を告げる通信が舞い込む。

『コントロールセンターよりハンター1へ、これより無人機を発進させる。 指揮権の以降後、直ちにテストを始めてくれ』
「ハンター1了解。 無人機とのデータリンク確立後、JIVESによる実働テストを開始する」

 ウォーケンが返答すると同時に、すぐさまウェーク基地の滑走路から4機の戦術機が大空へと飛び立つ。 洗練された第3世代型戦術機のシルエットをしているが、同じ世代であるウォーケンのストライク・ラプターや欧州開発のそれとはまた違ったシルエットをしていた。
 やや丸みを帯びた装甲に身を包み、全身の彼方此方には近接戦闘用ブレードエッジを装着している。 両手や背部マウントには従来の突撃砲より長砲身な、ライフルタイプの銃火器を装備している。
 そして戦術機の“顔”といえる頭部モジュールは、丸みを帯びた前頭部に神話の怪物“サイクロプス”を思わせる、巨大なメインセンサーが備え付けられていた。

「(あれが本当に、対BETA戦闘の切り札となるのか・・・?)」

 こちらに接近して来る4機の心無き鋼鉄達の人形を前に、ウォーケンは疑問を抱きながら彼らの指揮権を自分へと切り替えるべく、的確かつ迅速にコンソールを叩く。
 MQ-1“プレデター”。 それが今回ウォーケンと共に実働テスト行う事になった、無人戦術機の名前だ。 オルタネイティヴ世界における、30年近くに渡るBETAとの戦い。 その過程で生まれた戦術機という兵器とそのパイロットである衛士は、人類の勝利のためには必要不可欠な存在となった。
 だがその一方で、数多の戦いにより疲弊した人類は戦術機の配備数よりも、それを操縦する衛士の確保に追われる日々が続いた。 加えて従来のカテゴリーに収まらない兵器である戦術機は、その難解な操縦性と劣悪な負荷も相まって極少数の選ばれた人間、つまり“衛士”でしか操縦出来ない。 この2つの事実が戦術機による戦力構築を阻む、最大の要因となっていた。
 銑鉄作戦でXG-70と共に試験投入された、無人戦術機F-108/Kn“レイピアナイト”は、それに対する一つの回答だったのだ。
 『衛士が不足しているのなら、衛士を必要としない戦術機を作れば良い』。 技術という物に何処までも貪欲な技術者達は、そうしてレイピアナイトのコンセプトを推し進めた無人戦術機、プレデターを開発したのだ。
 4機のプレデターが自分の傍で待機していることを確認し、ウォーケンは管制室に言う。

「これよりMQ-1の実働テストを開始する」
『了解した、健闘を祈る』
「ハンター1よりパペット全機、JIVES起動。 全機即応体制」

 用意されたテストプログラムに則り、JIVESの起動をプレデターに命じるウォーケン。 直後、テキストログに4つ『YES MY MASTER』の表示がされた後、無人機側で搭載されているJIVESの起動が完了する。 同時にストライク・ラプター側でもJIVESが作動し、シミュレーターで再現された大小のBETA達が、ウェーク島に次々に上陸する様子がウォーケンの網膜に映りこんだ。
 テスト内容を頭の中で半数をした後、ウォーケンは追随音声コマンドを有効にして2機のプレデターに命令を下す。

「戦闘レンジは中距離をキープ、フォーメーションはエレメントを維持。 滑走路を最終防衛ラインと設定」

 ウォーケンの読み上げる音声コマンドを元に、戦闘準備を整える4機のプレデター達。 そして、コマンドを終えたウォーケンの『行け』という一言と共に、エレメントを組んだプレデター達が行動を開始する。 そしてウォーケンは、銑鉄作戦で繰り広げられたそれと等しい光景を目の当たりにする。

「(っ、何だあの速さは・・・!? )」

 号令と共に、凄まじい勢いで所定のポイントへと急行するプレデター達に、ウォーケンは我が目を疑う。 強化装備を着用していても、間違いなく衛士の身体に致命的な負担を与えるレベルの空中機動を披露しながら、4機のプレデターが所定のポイントへと移動する。
 そして仮想のBETA達を補足したプレデター達が、両手と背部マウントに装備した40ミリ速射砲で次々にそれらを射抜いて行く。 目前に迫る要撃級や、戦車級以下の小型種BETAは例外なく40ミリ弾の一斉射で薙ぎ払われ、突撃級や要塞級といった硬い種に対しては、関節部への集中砲火によりその動きを止める。

「なんという性能だ。 銑鉄作戦のそれ同じ、いやそれ以上か・・・!」

 BETAを全く恐れず戦い続けるプレデターに対し、ウォーケンはそれまで抱いていた無人機への疑念が一気に吹き飛んでしまった。 このプレデターを前面に押し出せば、無駄に衛士を死なすことなくBETAとの戦いを優位に進める事が出来るかもしれないと。
 システムで用意されたBETAの半数を捌き終えたところで、管制室から新たな以来が送られる。

『CPよりハンター1、次は近接戦闘のテストを頼む』
「ハンター1了解。 パペット2と4は、戦闘レンジを近距離に変更。 パペット1と3はその支援に当たれ」

 最初の命令を出した時と返答が返ってきた後、エレメントの片方を務めるパペット2と4が腕部格納式のブレードを展開し、仮想のBETAの群れに突っ込む。 人間以上の反射で要撃級の殴打や突撃級の突進を回避して斬撃を繰り出し、飛び掛ってくる戦車級を横薙ぎに両断し、あるいは頭部に搭載された12.7ミリ機銃を叩き込んで裁断する。
エレメントの片方であるパペット1と3は死角に存在するBETAを的確に排除し、パペット2と4の支援を一糸乱れずに行う。
 こうして4機のプレデターは無人戦術機の可能性を見せ付けるかのような成績を残し、JIVESを用いた初回の実働テストを終了した。

「(彼女が見ていたら、一体何を思うか・・・?)」

 このテストの一部始終を見ているであろうイルマは、この心無き人形を受け入れるだろうか。 無人機に対する複雑な思いを胸に秘めながら、ウォーケンはテストを終えたプレデターを引き連れ基地へと帰還した。


マブラヴ~壊れかけたドアの向こう~
#34 –日食(第五夜)-


・ 2001年11月10日 AM10:21 アラスカ 国連軍ユーコン基地 第2演習場


「うらあっ!!」

 もう何度目になるのか分からない刃のぶつかり合いを通じて、ユウヤと武は自分が操る機体との一体感を感じる。 それは機体に搭載されたXMシリーズ、そしてマスターシステムの恩恵によるものなのか、それとも各々が持つ衛士としての才能なのかは分からない。 だが自分の頭で思い描いた動きが、機体に100%反映されている事だけは紛れもない事実。
 既に撃破判定を受け、機能停止した機体内にいるタリサやヴァレリオ達、そして彼らの機体のセンサーを通じて中継される映像をユーコン基地の将兵達が見守る中、ユウヤと武の決闘が行われていた。

「っ・・・! うおおおっ!!」

 反動を利用し、ユウヤの不知火弐型が右手に構えた74式長刀で突きを繰り出す。 対して武は反射的にカイゼルの上半身を動かし回避。 跳躍ユニットの勢いに任せた弐型の鋭い一撃が、カイゼルの右肩装甲を擦り盛大に火花を散らす。
武を仕留め損ねた、ユウヤは突きを繰り出した勢いのまま直進。 次に訪れるチャンスに備え、カイゼルから一目散に離れて距離を取ろうとする。

「逃がすかっ!」

 武はスマートガンを構え、ユウヤの弐型に向けて数回に渡り3点射撃を放つ。 だが流石のユウヤも早々当たってくれる筈も無い、掠りこそしたものの、有効打は一発たりとも無かった。 やはりここは戦術機の花形、近接戦闘で勝負を決めるしかない。 そう思って追撃を始めた武だったが、不知火弐型の背部マウントからの牽制射撃に阻まれ、近付く事は容易ではない。
 そして間合いを立て直したユウヤが機体を反転させ、カイゼルに長刀の切っ先を突き付けながら武を挑発する。

「どうです? 中尉が欲しがる不知火弐型の力、存分に味わいましたか?」
「ブリッジス少尉こそ、何時までも逃げに徹していたら、俺には勝てませんよ?」

 再び一色触発の状態に陥った事に、停止した戦術機のコクピットで見守るタリサやヴァレリオ達。 その様子はユーコン基地にも配信されており、将兵の誰もがその模擬戦闘、いや決闘に目を奪われていた。
それはユウヤのオフィサーを務める唯依も同じ事だった。
 彼女は武と戦っているユウヤの姿が、かつて演習中に乱入した自分と手合わせした時と同じ状態であるという事に気付いていた。

「(あれがユウヤの本気。 いや、まだその先がある・・・!)」

 2人の決闘が映るモニターを食い入るように見詰める唯依は、ユウヤが持つ衛士の可能性がこんなものではないと悟る。 米軍譲りの射撃技能と、そして日本製戦術機を通じて培った近接戦闘術。 銃と刀という対極の存在である武器と扱い方を、今のユウヤはそれらを完全なる物にしているのだ。
 不知火弐型が跳躍ユニットを出力全開にして突っ込み、袈裟斬りを見舞う。 それをジャンプして上空で逃れるカイゼルを、ユウヤは左手に持つ突撃砲の120ミリで追い立て、そのまま勝負の場は空中へもつれ込む。 ジネラル・エレクトロニクス社製のエンジンノズルからロケットの噴射炎が迸り、弐型に青き空を舞う力を与える。

「中尉のさっきの言葉、そっくり返すぜ!」

 カイゼルの後ろ背目掛け、ユウヤは間隔を空けながら36ミリを放つ。 先程とは正反対の状況に追い込まれた武だったが、カイゼルに搭載されたメガドライヴの力に物を言わせて急上昇。 追われる立場から再び逆転し、ユウヤの頭上を取るポジションとなる。

「ハッ! 上を取られた位で、俺がビビると思ったか!」

 そう武に吐き捨て、ユウヤはスマートガンから放たれる荷電粒子の雨を突き進む。 弐型の肩に搭載されている機動補助スラスターがユウヤの意に従って幾度と無く噴射を行い、不知火の流麗なボディラインと頭部のブレードアンテナ、腕部ナイフシースによる空力特性も相まってイメージ通りの回避機動を実現してくれる。

「ちっ・・・! これならどうだ!」

 弾幕を切り抜けたユウヤに驚きはしたものの、武はスマートガンをブレードモードへ移行。 そのまま長刀を突き出し接近するユウヤの不知火弐型に対し、天狗の団扇で旋風を巻き起こすかの如く、その刃を大きく水平に薙ぐ。
 弐型が繰り出した長刀の先端と接触し、火花と金属音が当たりに響く。

「ぐっ! まだまだぁ!」

 カイゼルに長刀を弾かれた反動で体勢を崩すも、ユウヤは左手の突撃砲のトリガーを引く。 対する武は銃口を見た瞬間回避機動を開始。 発砲と同時にカイゼルが後ろにのけぞり1回転、そして跳躍ユニットから逆噴射で地上へ急降下し、慌ててユウヤがそれを追う。 高度な3次元機動が行える戦術機らしい回避方法に、中継を見た将兵達の歓声がユーコン基地を包み込む。
  一方が刃を振るえばもう一方は銃を撃つ、空中地上を問わずに繰り広げられる鋼の舞踏。 人類の剣である戦術機、それが持つ新たな可能性に誰もが目を奪われ、そして魅了されていたのだ。

「ぐうううっ・・・!」
「おおおっ・・・!」

 地表スレスレで機体を引き起こした2機がそのまま地上を全速で滑走し、押し潰さん程の加速Gに武とユウヤが互いに呻き声を上げながら耐える。 直接網膜投射されているはずなのに、2人の視界に表示されている計器類がぼやけて見えた。
 先ほどまでの激しい近接戦闘と空中機動によって、自覚出来るほどまで体力を消耗していたらしい。 それでも目の前にいる相手を見据えながら、互いに向き合ったカイゼルと不知火弐型がそれぞれの得物を構え対峙する。

『さあVG、いよいよだよ』
『ああ。 次の一撃で、最後になるな・・・』

 眼前で繰り広げられた2人の戦いをずっと見守っていたタリサが呟き、ヴァレリオが頷きながらそれに答える。 互いに向き合い刃を付き付けるユウヤと武、2人のどちらかが仕掛けた時点で決着が付く。 自分たちは雌雄を決するその時を、目を離さずに最後まで見届けなければならない。
 そうタリサとヴァレリオの2人が決意した時、カイゼルと不知火弐型の跳躍ユニットのノズルから、ほぼ同時に噴射炎を発した。

『行ったぞ!』

 タリサが声を上げる間にも、2機の間が猛烈な勢いで狭まって行く。 互いの手に握られる刃が接触し、ギリギリと金属が擦れる音と振動が管制ブロックに伝わる。
もう何度目かもわからない鍔迫り合いに入って数秒、機体異常を知らせる警告音と表示がユウヤの目に飛び込む。
 腕部のアクチュエーターが遂に悲鳴を上げ始め、長刀でスマートガンを受け止める弐型の腕の震えが大きくなって行く。

「ま・・・負けるかああぁぁっ!!」

 雄叫びを放つと同時にユウヤはフットペダルを力の限り踏み込み、跳躍ユニットの推進力によりカイゼルを力ずくで押し出そうとする。

「(この推力は、本当に戦術機か・・・!?)」

 衛士としての意地、そして愛機と共に一太刀を加えてやろうというユウヤの気迫に、武は圧倒されていた。 だが、自分に敗北は許されない。 カイゼルはスサノオと並ぶオルタネイティヴⅣの象徴、それが敗北するとなれば夕呼の計画を阻害する。 それに武の中に宿る衛士としてのプライドが、絶対に負けるなと言い聞かせてくる。
 雑巾に残った水を絞りきるかのように、武もフットペダルを踏み込んだ。

「うおおおおおっ!!」

 唸りを上げてからプラズマ炎を噴出する電磁推進ユニット、弐型の長刀との摩擦により火花を上げるスマートガンの銃身。 純粋な力と力のぶつかり合いを、誰もが息を呑んで見守っている。 そして永遠に続くかと思われた鋼の舞踏が、遂に終焉の時を迎える。
 突如、武の網膜にステータス異常の表示。 同時に左のプラズマ推進が急に咳き込み始め、推力のバランスが崩れる。

「もらったぁー!!」

 この機を逃すかといわんばかりに、ユウヤは跳躍ユニットのリミッターを開放。 力の均衡が崩れ、後手に回ったカイゼルに最後の力を振り絞って長刀を振り下ろす。 だが武も諦めてはいない。 メガドライヴを最大駆動させて体勢を強引に立て直し、スマートガンの切っ先を弐型に向けて突き出した。

「「届けぇーっ!!!」」

 もう交わる事の無い2つの刃が空気を切り裂き、互いの装甲にほぼ同時に到達する。 そしてJIVESによる『アルゴス1及びブレイブ1 管制ユニット直撃 大破』の判定が出た瞬間、今一度ユーコン基地に大きな拍手と歓声が包み込んだ。



・ AM10:38 国連軍横浜基地 A-01専用ブリーフィングルーム


「どう伊隅、あんた達が乗る予定の不知火弐型の性能は?」
「機体の方は申し分ありません、そして白銀相手に引き分けに持ち込んだ衛士の腕も確かですね。 条件が同じなら、さぞ見物だったでしょう」

 スクリーンが照らされた薄暗い部屋の中、アラスカでの一騎打ちを見物していたみちるが、夕呼に対し意見を述べる。 ケイイチの用意した回線により、武とユウヤの決闘を終始見ていたヴァルキリーズの先任達。 スクリーンに映し出されたその映像は、数多の戦場を潜り抜けている筈のみちる達をも唸らせるほどの物だった。
 異次元の性能を持つカイゼル相手に、あの不知火弐型は対等と行かないまでも懸命に戦った。 それだけの事実を見せ付けられたら、自分達があの戦術機を新たな搭乗機として選定しない訳が無い。
 そして弐型がヴァルキリーズに導入された暁には、後輩達が乗る晴嵐と同様にメガドライヴを装着し、より強大な力を手にしてBETAと戦えるのだ。 そして向こうの世界では、新たに開発された無人型戦術機のテストが着々と行われているという。
 カイゼルを初めとする超高性能戦術機によるハイヴ攻略と、無人機による戦力の確保及び有人機の補佐。 この2つが夕呼とケイイチが思い描く、戦術機の未来像なのだろうとこの部屋にいる全員が思っていた。 弐型の導入が知らされ一段落した所で、機嫌の良さが顔に一番出ている水月が言う。

「はぁ~、ようやくあの白銀をとっちめる事が出来るわけね!」
「水月、相手を間違ってるよ~」
「そうだぞ速瀬、私達の敵はBETAだ。 そんな事を後輩達に言ったら、大顰蹙を買うぞ?」

 遙と美冴によるダブル突っ込みを喰らい、さらにみちるの頷きが止めを刺す。 梼子がその様子を微笑みながら見ていた。 早くメガドライヴ搭載型の不知火弐型を手に入れ、後輩達に一刻も早く先輩としての示しをつけなければならない。
 この機体が早急に調達できるかどうか、早速みちるが夕呼に問い詰める。

「副司令、肝心の弐型の調達は目処が立っているのですか? 帝国の方も御剣達が向かっている天元山や、銑鉄作戦の後始末が続いている筈ですが・・・」
「伊隅ぃ、アタシを誰だと思っているのよ? 目的の為なら何でも利用する、アタシの性格を知らない訳じゃないでしょう?」

 夕呼に返されたみちるは、改めて彼女の持つコネと情報網の幅広さを認識する。 そして彼女の不敵な笑みを見た瞬間、夕呼が何処で弐型の調達を行うかを即座に理解した。
そう。 夕呼は不知火弐型の生産を、帝国をけしかけて電脳暦世界の日本に委託させようというのだ。
 帝国軍の各種装備の生産拠点を東南アジアに置いているとはいえ、弐型のような新型機の生産にラインを割く余裕は無い。 だが電脳暦世界に存在する日本の協力を得ることが出来たなら、こちら側での生産力を損ねることなく、弐型の調達を行う事が可能となるのだ。
 それに向こう側では無人型戦術機を含む、新たな戦術機開発計画『メタル・マッドネス』が行われており、帝国の技術者達が使者として派遣されている。 自分の野望の為には異世界をも利用する夕呼の方針に、遙達は驚きを隠せない。
 戦術機のスペック追求と無人化による戦力増強、そして純夏による諜報の3段構え。 それはもはやオルタネイティヴ4の範疇を逸脱した、オルタネイティヴ計画の新たなる段階への始まりを意味していた。


・ PM7:48 アラスカ 国連軍ユーコン基地 歓楽街


「やはりここにいたか、ブリッジス少尉」
「お前こそ、随分悪運強かったみたいだな」
「当然だ。 私とイーニァが、あのような俗物共に屈するものか」

 大小様々な飲食店や商店が入り乱れ、リルフォートの愛称で親しまれるユーコン基地の歓楽街。 そこで一人一服しているユウヤに、彼と同じBDUジャケット姿の女が声を掛ける。
 東西冷戦の壁を越えたライバルが無事である事に、クリスカ・ビャーチェノワは普段の冷徹な雰囲気からは想像も出来ない、優しさに満ちた表情を見せた。
 アラスカに着任して早々、互いの自覚無しに出会っていた2人。 そして運命の悪戯なのか、東西を代表する試験衛士としてユウヤは、クリスカと彼女の妹分であるイーニァと幾度と無くその腕を競い合って来た。
 最初に出会った時に感じた、クリスカの殺気と闘志にユウヤは惹かれ、クリスカもまたイーニァが懐く人間であるユウヤに惹かれて行く。 そうしていく中で生まれた絆は、東西冷戦という境界を超えた絆として、ユウヤにとってはアルゴス小隊の仲間達と同じ位に無くては成らない存在だった。 
 何時もならクリスカの隣にいるイーニァがいない事に気付いたユウヤが、彼女の行方をクリスカに聞く。

「ところでイーニァはどうした? まさか置いてきたのか!?」
「違う! 貴様の模擬戦を無理して見たせいで、今は医療施設で眠っているんだ」

 イーニァの事になると途端に態度が豹変するクリスカに、毎度のことながらユウヤは驚かされる。 話によるとテロリストとの戦いで多大な体力を消耗させ、ソ連軍の医療施設で療養していたイーニァだったがユウヤと武の一騎打ちの話を聞いて抜け出し、観戦にふけった末に衰弱して倒れたところを再び担ぎ込まれたのだという。
 彼女をこのような目に合わせたユウヤ達に当初のクリスカは憤りを感じていたものの、同時にイーニァにそこまでの行動をさせる彼らに、彼女はますます興味を抱いていたのもまた事実だった。 そして今目の前に、その激闘を演じた衛士の片方が存在している。
イーニァの傍に居る時間も惜しい、クリスカはせめてもの思いで武に関わる事をユウヤから聞き出そうとする。

「最後にひとつだけ聞かせてくれ、貴様と戦ったあの衛士は何者だ・・・?」
「白銀中尉の事か。 彼は正真正銘、特別な衛士だよ」

 直接刃を交えた筈であるユウヤが、どのような理由をもって武の事を特別だと思ったのか、クリスカは彼の返答をいまいち理解出来ないでいた。
そしてイーニァの元に帰るべく背を向けた彼女に、ユウヤはそれを止める魔法の言葉をポツリと口にする。

「だけど彼と戦って、一つだけ分かったことがあるぜ」
「何だそれは?」
「例え異世界の人間だろうが、大切な何かの為に戦っているってことさ」

 余りにも単純で、それでいて最も純粋な理由。 そう全てを悟ったかのような顔で答えるユウヤを見て、クリスカはそれだけ分かれば十分だと思っていた。 その気持ちは自分もユウヤも、そしてBETAと戦う全ての人々が持っている者なのだから。

「ふっ・・・ 貴様と同じく、つくづく単純そうな奴と見えるな・・・」
「それは俺達も同じだろう? クリスカ・・・」

 向き合って微笑み、目線で別れの挨拶を交わす2人。 そして一人残ったユウヤは武の健闘を称えるように、手にするジョッキを無数の星が瞬く夜空へ仰いだ。


2001年11月10日:電脳暦世界で本格的な無人戦術機、MQ-1“プレデター”の実働テスト成功。 高速データリンクによる遠隔操縦システムの構築と平行し、実戦配備への準備開始。

同日:国連軍ユーコン基地司令部、武の救援によるテロリスト鎮圧の謝礼として、横浜基地へ不知火弐型のデータ提供を行うと発表。
 白銀武とケイイチ・サギサワは、11日明朝を持って横浜基地へ帰還予定。


-あとがき-
「ツバロフ技師長、モビルドールも兵士も扱うのは人間です。 もう少し人間を評価し、人間を愛して欲しいものです」
 どうも麦穂です。 今回をもって遂にアラスカ編完結。 ウォーケンらによる無人戦術機の実働テストと、戦い終わったユウヤとクリスカとの語らいです。 最後の最後で、ようやくクリスカを出せた・・・
  そして今回登場したプレデター。 頭部イメージは実機のノッペリした機首に、でかいカメラレンズが付いている感じです。
 家から投稿しようとすると403エラーが出るのは、これも業者荒らしの影響か・・・



[2970] 第35話-乾坤-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:b2685a8a
Date: 2010/06/19 18:39
・ 2001年11月12日 AM8:37 天元山 非難指定区域


「朝倉さんと高原さんは、鳴海中尉の指示に従って! 私は御剣さんと、お婆さんの救出に行くわ!」
「了解っ!」

VRのコクピット越しでも感じる事が出来る大地の震え、その源である天元山の噴煙を見ながら菫は晴嵐に乗る光と直美に指示を出し、テムジン747『霧積』のシートに座る自身も冥夜を引き連れあの老婆の元へ急行する。
一昨日から急に活発になり始め、兆候を見せていた天元山が遂に噴火の時を迎えた。 人間が行う砲撃のそれとは、比べ物にならない轟音と煙。 噴火口からは灼熱に煮え滾るマグマが溢れ、硫化水素等の有毒ガスを含む瘴気と高温の蒸気が、地面に走る亀裂から絶え間なく噴出する。
 無論、VRも戦術機も気密は十分に確保されているが、何が起こるのが分からないのが災害の現場だ。 細心の注意を払いつつ、菫はテムジン『霧積』を老婆の待つ場所へ跳躍させる。

「隊長! また噴火が始まりました!」
「っ・・・! ペースを上げるわよ!」
「了解っ!」

 冥夜の声と同時に再び大規模な噴火が始まり、空高く打ち上げられた噴石が次々に山の周辺に降り注いで行く。 その光景を目の当たりにした菫は、一刻の猶予も無いと悟りテムジンに加速を命じる。
 開放したVコンバーターから光が溢れ、マインドブースターの噴射と共にテムジンの機体が猛烈な勢いで空を駆ける。 冥夜も晴嵐の電磁推進ユニットの出力を上げ、菫の後を追って跳躍する。 そして空を飛ぶ2人の眼下には、が広がっていた。
 この天元山の噴火もBETAに大地を蹂躙され、それを打倒する人類が未だにまとまりきれない事に対して、地球が訴えているかのように思えてくる。 この世の終りとも思えるほどに荒れ果てた大地を目の前にした冥夜が思ったその時、何かの接近を警告するアラームが晴嵐の管制ユニット内に鳴り響く。

「くっ、噴石が・・・!」
「このまま突破するわよ! 自分に落ちてきそうな奴だけ、叩き落しなさい!」

 そう指示を出す菫に復唱した冥夜は、目の前に降り注ぐ噴石を突撃砲で次々に撃ち払う。 火口から噴き出される噴石は、軽自動車ほどの大きさもある。 落下速度のついたそれに直撃したら、流石の戦術機やVRもタダでは済まない。
 前を進む菫のテムジンも、主兵装のスライプナーとマインドブースターに増設された兵装担架システムにマウントされた突撃砲で、進路上に降り注ぐ噴石を次々に裁いて行く。 そしてかやぶき屋根で覆われた、あの老婆の住居が、霧のように空中に漂う火山灰の中から現れる。

「私が時間を稼ぐから、御剣さんはお婆さんの救助をお願い!」
「了解!」

電磁推進ユニットからプラズマ炎が噴出し、冥夜の晴嵐が老婆の家へ向う。 そして菫のテムジン『霧積』が空中に留まり、冥夜が救助を行っている間、飛来する噴石を迎撃する。
 冥夜の網膜に映る老婆の家は、この渦中の中でも目立った損傷は見当たらない。  果たして老婆は無事なのか? 最悪の事態になっていないことを祈りながら晴嵐が着地し、降車した冥夜は一目散に玄関へと走った。

「ご無事ですか!」
「へ、兵隊さん・・・」
「ここはもう危険です、一刻も早く私と避難して下さい!」

出会った当初は断固として避難に応じなかった老婆、だが将軍である悠陽の妹、つまり冥夜ならば説得に成功すると菫は思ったのだ。
 引き戸を開放した冥夜が家の中に入ると同時に、中に入る老婆がか細い声で答える。 噴火の衝撃で腰を抜かしてしまったのか、老婆は身動き一つ取れない状態で居た。
 外で奮闘する菫とて、BETAが如く無数に降り注ぐ噴石の相手を長くはしていられない。 冥夜は身長に老婆を背負い、自分の機体へ戻りながら菫に報告する。

「こちら御剣、お婆さんを無事確保しました!」
「よし! このまま脱出す・・・!」

 冥夜の報告を聞いた菫の喜びを打ち砕くかのように、天元山が三度目の咆哮を上げる。 それは彼女達が今まで見た中では最大級の噴火だった。 一刻も早く、この場から立ち去らないといけない。
 鼻を捥ぐ様な硫黄の臭いに耐えながら老婆を収容した冥夜が、晴嵐と共に飛び立とうとする。

「御剣さん、上っ!!」
「くっ・・・!?」

切羽詰った菫の呼びかけと同時に冥夜が見上げた先には、軽自動車ほどの大きさがある噴石が、まだ冷え切らないマグマを滾らせながら空を舞っている。 そしてそれは確実に、冥夜達が居る場所に目掛けて落下していた。

「(当たれっ!!)」

 機動回避も間に合わない。 ならば噴石を破壊するしかないと菫はテムジンを急速旋回させ、手にするスライプナーを放ちその巨石を射抜こうとする。 だが救出の間に行った迎撃によりエネルギーが急激に低下した為、本来の威力が得られないまま命中する。
 亀裂、それが3発のビーム弾による成果。 もはや冥夜と老婆の2人は、晴嵐の機体もろとも噴石の餌食となってしまうのか。 そう菫が思ったその時、冥夜はとんでもない事を彼女の前でしてみせる。

「御剣さん、何を・・・!?」

 この場所で死にたいという老婆の願いを叶える為か、それとも『生きたい』という人間の本能が冥夜をそうさせたのか。 ナイフシースから置き換えられた腕部の担架システムから74式改 重斬刀を取り出し、晴嵐が目の前に迫る噴石に対して居合いの構えを見せている。
 そして冥夜が何をしようとしているのか、直ぐ分かった菫は息を呑んだ。

「(あの亀裂目掛けて長刀を叩き込んで、そのまま斬るつもり!?)」

先ほど自分が放った銃撃は、あの巨大な噴石に対しては決定打とならなかった。 だが長刀による後一押しが決まれば、あの噴石を破壊し窮地を脱する事が出来る。 だがその為には、菫が入れた亀裂に、正確に長刀の刃を捻じ込まなければならない。
失敗すれば死が待っている。 紙一重で分かれる境界線が、冥夜の前に迫っているのだ。 その境界を生存の方へと向う方法は、冥夜自身に委ねられている。
活目せよ。 菫は自身の魂にそう言い聞かせた。 一人の衛士の、戦士の生き様をこの目に焼き付けるべく。

「はあああああっ!!!」

 冥夜の雄叫びに呼応するように電磁推進ユニットが甲高い唸りを上げ、晴嵐が噴石に激突しかねない速度で舞い上がる。
 オーバーウエポンが作動。 重斬刀の刀身に凄乃皇のそれと同じ荷電粒子の光が宿り、何者をも切り裂く雷の神剣となる。
 ただ一点を見つめ、あの朝に見た菫の一閃を思い出しながら、冥夜は亀裂目掛けて神速の勢いで刃を叩き込んだ。
 割れろ。 そして砕けろ。 言霊のような冥夜の一撃が叶ったのか、大きく真っ二つに割れる噴石。 そしてその合間を、火の粉を纏わせながら神々しく舞う晴嵐の姿があった。 バイタルで老婆も無事健在であることを確認した菫が、やれやれという口調で話しかける。

「さあ、急いで脱出するわよ!」
「了解!」

彼女もまた、武や自分に感化されたのだろうか? この世界に自分達がもたらした変革を実感しながらも、菫は仲間達の待つ基地へ帰還した。


2001年11月12日:国連所属の特別派遣部隊が、天元山麓に在住していた老婆の救出に成功。 同部隊は15日を持って災害派遣の任を終了し、翌16日に横浜基地に帰還予定。

同日:香月夕呼、国連及び帝国政府を通じて異世界の日本に対しオルタネイティヴ計画の協力を要請。 日本国政府は即座に受理し、防衛省を通じて各企業に新型戦術機開発を依頼。



マブラヴ~壊れかけたドアの向こう~
#35 乾坤


・ 2001年11月13日 PM1:07 国連軍横浜基地 食堂


「やっぱりあたしも、武御雷しか思い当たりませんねぇ・・・」
「速瀬もそう思うか。 ううむ、他に良い例が無いものか・・・ 」

 テーブルに突っ伏して降参の意を示しながら答える水月に、それを聞いたみちるは唸り声と共に顎に手をかけながら苦悩の表情を見せる。 夕呼が目指している『YF-23を元にした、究極の対BETA戦術機』のアイデアを練れと当人から言い渡されたものの、その答えが見付からずにいた。
 こう言う時に武やケイイチが居てくれればと思ったみちるだったが、直ぐにその考えを自身の脳から消去する。 アラスカでの任務を終えて帰還した早々、2人は夕呼から新たな別命を受けてそれを遂行している最中なのだ。
 夕呼直々の件である以上、時が来るまで後輩達にも相談する事すら出来ない。 かといって従来の戦術機の常識や概念しかもっていない自分達では、革新的な案が何一つ打ち出せない。 もはや八方塞かと誰もが諦めかけていたその時、正に救いの天使といえる存在が彼女たちの前に現われる。

「腹減ったぞ~! さぁて霞ちゃん、何食べよっか?」
「いつもので、お願いします・・・」

 夕呼の雑用に付き合わされ、少し遅い昼食を取りに来た純夏と霞の声。 それを聞いたみちる達は、即座に2人を自分達のいるテーブルへと案内する。  オルタネイティヴⅣの中核である00ユニットそのものである純夏、オルタネイティヴⅢで生まれたESP能力者という霞。
 機密の塊以外の何者でもなく、尚且つ武と夕呼に深い接点を持つ2人ならば、何かしらの助言を得られると思ったのだ。 上司を煽てる下っ端サラリーマンのように、水月と遙が純夏達の注文を京塚のおばちゃんに伝えている間、みちるは今回の一件を2人に話す。

「・・・というわけなんだが。 2人は良い案を持っていないだろうか?」
「う~ん、戦術機の無人化は向こうの世界で進めているって、夕呼先生が言ってましたし・・・」
「だが無人機の場合、複雑かつ迅速な戦闘は不可能だ。 ハイヴ突入のような作戦には、必ず人間が乗った戦術機が必要になるからな」

みちるの言うとおり、現在異世界の協力により実用化されつつある無人戦術機は、有人機と比べるとあらゆるメリットが存在する。 だが無人機は与えられた命令に従うのみで、自分で考え行動する事はしない。 無人機はあくまでサポート役であり、BETAと直接決着を付けるのは他ならぬ人間なのだ。
 だからこそ、それを理解している夕呼達は、武のカイゼルのような性能を持つ戦術機を生み出そうと躍起になっている。 自分が持つアイデアで、それを少しでも早く生み出せるかもしれない。 純夏とは必死になって考えたが、結局出てきたのはみちる達と同じ答えだった。

「やっぱり武御雷・・・ですかね?」
「はぁ・・・ やはり鑑も、同じ日本人だという事か・・・」

 00ユニットとはいえ、その中に宿る魂は人間のそれである純夏を過信しすぎた事に、みちるは思わずため息を付く。
 確かに皆が最善の案として挙げる武御雷は、日本の技術を結集して開発された現行最強クラスを誇る戦術機だ。 だがその圧倒的な性能は万全の補給と整備、そして将軍や皇帝を守護するために鍛え抜かれた衛士が存在して初めて成立する。
 そしてそうした扱いの難しさから来る膨大なコストも馬鹿にならず、帝国において斯衛軍以外に武御雷が配備されていないのは、こうした理由があるからなのだ。
もはや打つ手無しと誰もが諦めかけたその時、霞が放った一言で皆を取り巻く空気が一変する。

「でも、香月博士が目指しているのは、武御雷ではありません・・・」
「っ!?」

箸を置いた霞の一言に、誰もが彼女を注視しながらハッと気付く。 そうだ。 自分達は武御雷を作るわけではない。 それを超えた新たな世代、幾千万のBETAを跳ね除け進軍する鋼鉄の巨人を生み出すきっかけを作るのだ。

「そういや武御雷は機動性と近接戦闘を意識しすぎて、重火器は装備できなかったような気が・・・」
「じゃあ欧州軍のF-2000やラファールを参考にすれば・・・」
「いや、射撃と近接戦闘のバランスを重視するならソ連機も捨てがたいぞ」
「メガドライヴの搭載も考慮するなら、電磁投射砲といった特殊な武装も考慮しなければいけませんね・・・」

皆が持つ発想の泉から膨大な量のアイデアが噴出し、それぞれの意見が交差しまだ見ぬ機体の形を作って行く。 この流れを作った霞に誰もが感謝しながら、夕呼に提出するアイデアが纏められて行った。


・ 同時刻 電脳暦世界 日本国 東京都内某所 秋月邸


「・・・と言う訳で、わが国も正式にオルタネイティヴ計画に協力する事になりました」
「横浜の女狐め、とうとうこの世界にまで手を出してきたか・・・」
「沙霧さん、それは白銀君の件からでしょう? 既に防衛省を通じて各企業に依頼が行って、大騒ぎになってるわ」

 長く広い客間にて告げられる椿の報告に、負けじと沙霧も直球の感想を言い返す。 ウェークで着々と無人機や新型機の実用化試験が行われている中、夕呼の手によってこの世界の日本に舞い込んだオルタネイティヴ計画の協力要請。 それをよりスムーズに行うために、向こうの世界に赴いた事がある椿が陣頭指揮役として選ばれ、こうして自身の家で沙霧と共に会議を行っているのだ。
 この出来事を快く思っていない沙霧の苦い顔を見ながら、椿は事の概要の続きを彼に話し続ける。 そし夕呼の協力に耳を傾けた日本の企業は、どれも錚々たる物だった。
戦術機用の火器を24時間体制で生産している有澤重工。 同様にラインをフル稼働させ、XMシリーズ用のアビオニクス一式を急ピッチで生産するキサラギ製作所。
中でもお家芸である光学技術を武器に、異世界の市場進出を目論む河城技研が協力の一番手を名乗り出た事が、椿にとって衝撃的だった。
 先に述べた2社とは異なり、河城技研は勢力も人員も遠く及ばない。 だが同社には2社には無い先進的な光学技術を持ち、光線種の放つレーザーに対し、非常に有効な対応策を編み出すことが出来るかもしれないのだ。 先の銑鉄作戦でフィルノートが佐渡島に放った光学撹乱膜弾頭も、そもそもは河城技研が生み出した代物を急遽転用したである。
 夕呼の声により集まった電脳歴世界の企業達の振る舞いに、当然ながら沙霧が不満を椿に漏らす。

「ふん。 所詮この世界の日本も、目先の利益しか追求しない愚者の集まりだということだな」
「そんなこと言わないでよ。 中には本当にあっちの世界で暮らす人達を思って、香月副司令に協力している人もいるかもしれないじゃない」

 そんな沙霧の言い分に対し、椿も表情を曇らせながら言い返す。 確かに沙霧の言うとおり、電脳歴の世界ではそうした人間が多い。 それはこの世界の日本も例外ではなく、新たに発足した政府も企業からの助言を受けながら行政を行っているのが実情だ。
 そうした損得勘定に関わらずに、企業達が夕呼の協力を受け入れた理由はただ一つ。 それは自分達の世界の日本には無い物が、オルタネイティヴ世界の日本にあるという“憧れ”を抱いていたからなのだ。
 電脳歴世界の日本人達が失ってしまった、気高さ、潔さ、そして“サムライ”と呼ばれた戦士としての生き様に魅せられたのは、何も椿だけではない。 そして“ダイモン”という異質な存在との戦いを水面下で行っていた当事者として、異世界でBETAという異形の侵略者との戦いに苦しむ人々を救いたい。 そんな一心から、企業達は夕呼の協力を引き受けたのだ。

「どんな理由や目的や思惑があっても、人を助けることには変わりない。 それだけは間違ってないんじゃないかしら?」
「むぅ、そう単純なものなのだろうか・・・?」
「細かい事は行動しながら考えればいいわ。 さあ、早速出かけるわよ!」

 そう言い放った椿は強引に沙霧の腕を取り、そのまま彼を誘うように邸宅を後にする。 そして二人は夕呼の計画に協力している、ある企業の元へと向かった。


・ PM3:27 国連軍横浜基地 90番ハンガー


 鼻腔を擽るように漂う金属とオイルの匂い、常に耳に入り続ける金属音と作業員達の声。 その渦中にただ一人、純夏は改装されつつある凄乃皇の姿を見上げていた。
 力で徹底的に捩じ伏せるにしろ、襤褸雑巾のように情報を引き出すにしろ、自分と武がBETAに勝利するための切り札だという事実は夕呼達から散々言われている。 そして自分が載る事になる凄乃皇五型も、力による暴力という究極の形と言ってよいだろう。
 凄乃皇の機体の中でもひと際目立つ正面には、出力や効率が30%向上した荷電粒子砲。 その脇に揃えるは佐渡島で壬姫が放った1200ミリ電磁衝撃砲。 そして新たに増設された左右のアームモジュールには、電脳歴世界の宇宙艦船が搭載する430ミリ集束荷電粒子砲が5門、人間の手と指を象って備え付けられている。
 更には全身に近接防御用の40ミリ速射砲と大小のミサイルランチャーと、一国の軍隊と渡り合えるような桁違いの火力を有している。

「(だけど、その性能を実現するには・・・)」

その力の源はBETA由来の物質。 自分を散々弄んだBETAが生み出したG元素こそが、凄乃皇の唯一の原動力なのだ。 そして自分の身体である00ユニットも、他ならぬBETA由来の技術が導入されている。
 憎むべきBETAの技術で、自分の存在を維持させている。 その事実と矛盾に唇を噛みしめていたその時、純夏の耳に最愛の男の声が届く。

「こんなところにいたのか、純夏」
「タケルちゃん!」

 武の声に振り向き、その姿を見るや純夏は周囲の目もくれず、突撃級のように彼の胸に飛び込む。 武は周囲の嫉妬の目線を気にしながらも、自分の胸の飛び込んだ最愛の人を力一杯抱きしめる。 そして生まれ変わろうとしている凄乃皇に目をやり、それを眺める純夏に言う。

「凄乃皇、何だか凄い事になってるな」
「うん、本当に私が動かして良いのかって思っちゃうよ」
「おいおい、凄乃皇を動かせるのはお前だけなんだぜ。 少しは自信を持てよ純夏」

 そう言って励ましたつもりだったが、依然として不安そうな表情を見せる純夏を見て、武はため息を吐く。 自分のカイゼルもそうだが、凄乃皇はBETAを打倒する究極の存在として生み出された。 その強さは佐渡島で行われた銑鉄作戦で実証され、今や凄乃皇は誰もが認める人類の切り札として更なる活躍が期待されている。
 それがこの世界の技術と、異世界の技術の総力を挙げ、新たな姿に生まれ変わろうとしているのだ。 つまりはそれを操る純夏こそが、この世界で最強の衛士と言う事になる。 予備機無し、一回の出撃における稼働時間も短い。 そして凄乃皇の運用には、戦術機の一部隊にも匹敵するであろう多大な人員と費用と時間が必要になる。
 そうした多くの人々の希望を一手に引き受ける純夏に、多大なプレッシャーを課せられていない訳が無いのだ。 純夏の不安を取り払える事が出来るのは、自分以外この世界には存在しない。 武は先日のアラスカでの出来事を思い出しながら、純夏に励ましの言葉を紡ぐ。

「俺さ・・・ 夕呼先生の任務で、この間までアラスカに行ってただろ?」
「うん、色々あったんだよね・・・」

夕呼の命によって向かったアラスカへの単機救援、そこで武が繰り広げた戦いの一部始終を純夏は忘れた訳ではなかった。 武の活躍によって撃退されるテロリスト達と、窮地を救われたユーコン基地の将兵達。 それ見ていた純夏にとっては彼を更に頼もしく、誇らしく、そして憐れみを感じていた。
 BETAと言う共通の敵が存在していながら、なぜ人類は一つになれないのか。 テロリスト機に向かってスマートガンを振り下ろすカイゼルが、それに乗る武がそう叫んでいたような気がしてならなかったからだ。 このまま武が元の世界を離れても、この世界の人類は変わらぬままなのか。 純夏がそう思ったその時、武がその続きを話す。

「でもさ、一緒に戦ってくれたユーコンの人達、模擬戦をしたアルゴス小隊の皆を見ていくと、まだ希望があるって思えるようになったんだよ」
「タケルちゃん・・・」

そう。 あの時カイゼルの勇姿を見た東西の衛士達が、一丸となってテロリスト達を迎え撃った。 武の存在を切っ掛けに、確かにユーコン基地は一つとなったのだ。 自分の存在と行動によって、この世界の人類に変革をもたらす事が出来るかもしれない。
 それに気付いた武は人類の勝利という夢の実現が、決して不可能ではないと改めて悟ったのだ。 生命力と活力に満ちた瞳を見せながら、武は純夏にある宣言をする。

「所詮俺は夕呼先生達の言うとおり、この世界では異端の存在だ。 何時になるのか分からないけど、俺は元の世界に帰らないといけない・・・」
「異端って、そんなこと言わないでよタケルちゃん! だったら私の方が・・・」
「だから決めたんだ。 その時が来るまでに、一人でも多くの人が笑って暮らせる世界を作ろうって」

自分の言葉を遮ってまで言い放った武の宣言に、戦慄した純夏の背がゾクリと震える。 間違いない。 彼は伊達や酔狂ではなく、心の底から本気で言っているのだと。 自分やヴァルキリーズの皆が笑って暮らせる世界を作るためなら、武は命を掛けてでもカイゼルと共にそれを実現させるつもりなのだ。
 夕呼に異端者- イレギュラー —と呼ばれたならば、自らが歪ませた全ての物を正してからこの世界を去る。 武の覚悟を理解した純夏は、そっと武を抱き寄せる。

「タケルちゃんって、変なところで頑固だよね」
「それはお互い様だろ? 純夏」

互いの命の鼓動と体温を感じ合いながら、武と純夏はこの時間が永遠に続いてほしいと願い続ける。 だがシンデレラに掛けられた魔法が0時の鐘と共に消え失せてしまったように、二人の別れの時が確実に迫っていたのだった。


・ PM4:47 電脳歴世界 長野県某所 河城技研オフィス


「へぇ~。 じゃあこの機体に搭載するメガドライヴのコアは、向こうで採れた物質を使用するのね」
「ええ。 XG-70cの動力源と同じG元素、反応時に坑重力特性を持つグレイイレブンを含有したコアを搭載します」

 液晶ディスプレイに表示された計画プラン、それを元に説明する河城技研の技術者の説明を、椿と沙霧は食い入る様に聴き続けていた。 夕呼の要請により、究極の対BETA戦用戦術機の開発が始まったものの、VRと大きく異なる人型兵器の開発に案の定苦戦を強いられていた。
 そうした中で戦術機の衛士であった沙霧の経験等を聞きたいと河城技研から椿へお声が掛り、こうしてはるばる長野の本社オフィスを訪れている。 一通りの説明を聞いたところで、椿の口が開いた。

「まあ、細かいコンセプトやら要求は向こうが言ってくるでしょうね。 それより、これから開発する機体の名前は、もう決まっているの?」
「色々案が出ているのですが、これだと思う物が見つかって無いんですよ」

 そう技術者から聞いた椿は右腕を自身の額に添え、しきりに何かを考え始める。 名前と言う物は、人や物に限らず他の存在に認知される上で最も重要な要素の一つだ。 現にチーフも本人を見た物は極少数だが、ダイモンの魔の手から人類を救った英雄として、電脳歴にその名を轟かせている。

「(帝国軍の戦術機におけるネーミングは、自然現象と神話の神々の名前。 ここは後者を取りたいけど、何か良い名前は・・・?)」

 武のカイゼルという機体名も人類の指標、あるいはBETAを打倒するために人々を束ねる“皇帝”となれという意味合いを込めて、名付けられたに違いない。
 だが海神、凄乃皇、そして武御雷。 八百万居ると言う日本の神様の中でも、有名所の名は既に使われている。  自身の眠れる脳髄をフル回転させ、椿はこれからカイゼルと並ぶ、もう一つの人類の指標となるであろう機体の名前を必死に探す。
 そして椿の脳裏に正にお告げの如く、この長野の地に纏わる強大な神の名前が浮かぶ。

「あった・・・あったじゃない! 武御雷とタメ張った神様が、この長野に!」
「椿、それはまさか・・・!」

 椿の喜びようを見た沙霧も、彼女が何を閃いたのかはすぐに分かった。 神話においてタケミカヅチと激戦を繰り広げた末に敗れ、諏訪と呼ばれたこの地で服従を誓った神。 戦いに敗れた神の名前を用いるなど、縁起が悪い以前の問題だ。
 だが、椿はそういった思惑でその名を選んだわけではなかった。 椿が暮らす電脳歴世界の日本は、一度企業と言う存在に敗れた。 そしてオルタネイティヴ世界の日本も、BETAにその国土を蹂躙された過去を持つ。 一度は敗れた神の名を用いる事で、どちらの日本にも過去に刻まれた敗北と後悔の念を討ち払ってほしいという、椿の願いが込められているのだ。
一度は表情をゆがませた沙霧も、その真意に気付いて椿らしいと苦笑を浮かべる。

「それで、機体名は何にするつもりだ?」
「ふふっ、あなたももう分かってるくせに」

そう呟いた後に技術者の許可を取り、沙霧に頬笑みを返しながら端末のキーボードを叩く。 華麗なタイピングが行われた後、新型機の形式番号の後にその神の名前が刻まれていた。

2001年11月13日:電脳歴世界、開発を依頼された戦術機YF-23/AL4の名称を“武御刀(たけみなかた)”と命名。 ベース機体及び武御雷、カイゼルの実戦データを下地に開発が行われる。





-あとがき-
『今の幻想郷に神様は必要ないぜ、神社は毎日のように行ってるけどな』
『信仰が失われた神社は唯の小屋、貴女は一度・・・神の荒ぶる御霊を味わうといい!』

 どうも、フォースの360移植の報に悶絶した麦穂です。 今回は天元山のラスト。 凄乃皇改修最中の武と純夏の語らい。 そして第2のカイゼルとなりうる新型機の名前決定です。
この機体とその名は、カイゼルを登場させると決めた以前、このSSを書き始めた当初からそのアイデアが生まれていました。
 そして今になって、満を持してのお披露目。 機体デザインのイメージは、『武御雷より荒々しく、禍々しく』という感じです。



[2970] 第36話-神威-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:21e62beb
Date: 2010/08/07 15:06
2001年11月15日 AM11:27 旧ノルウェー H08 ロヴァニエミハイヴ勢力圏内


『全部隊、所定の配置完了。 観測済みのBETA群は依然前進中』
強化装備のインカムに届く、HQの淡々とした報告。 それは霧の中を進む国連欧州軍のEF-2000“タイフーン”擁するウインド中隊、その1機に乗る新米女性衛士の耳にも届く。
 出撃前に受けた後催眠暗示をもってしても、今回が初陣となる彼女の不安と恐怖は到底拭い去ることはできない。 30年以上に渡って地球の大地と人類を文字通り食いつぶして来たBETAが、この白い闇の向こうから襲いかかって来るのだ。
 体温調節が行われているはずなのに、全身から出る汗でまとわりついて仕方ない。 そんな妙な感覚に戸惑っていたその時、先頭を進む中隊長から声が掛る。

「どうしたルーキー? もうじきBETAと戦えるからって我慢出来ないってか?」
「ち・・・違います!」

セクハラまがいの中隊長の言葉に、彼女は頬を赤らめながら反論する。 その初々しさと生真面目な回答に、周りの先任衛士達の笑い声が響いた。 だがこの発言も、自分の緊張を解すための千人達の配慮である事に気付き、彼女は今までの緊張から脱する事が出来た。

「しかし隊長、例の連中は信用できるんでしょうか?
「司令部が信じたからこその今回の作戦だ。 それに、目の前で困っている人を見過ごせないのが、人間ってもんだろ?

 後衛のポジションにいる部下の一人が投げかけた質問は、隊の誰もが思っている事を体現した物だった。 今回の作戦は表面上では、北欧エリアにおける大規模な間引き作戦。 だがその実態は先の銑鉄作戦と同じ、異世界の軍隊と協力して行われる第2のハイヴ攻略作戦なのだ。
 それに備えて以前から行われていた、官民問わず水面下で行われていた異世界同士の交流。 そして銑鉄作戦の成功と各地で計画されている反攻作戦の先駆者として、彼らは後戻りできない質に赴こうとしているのだ。
 事前の交流を得ているとはいえ、異世界の人々と完全に打ち解けた訳ではない。 不要か邪魔と判断されたら、BETAもろとも攻撃の対象に入るのでは? そうした疑念がウインド中隊の衛士達の奥底に風呂のカビのようにこびり付いていた。

『おいおい衛士さんよぅ、少しは俺達を信用しても良いんじゃないのか?』
『そこの中隊長さんの言うとおりだぜ。 俺達もこんな異界の荒野で、ゲテモノ共の腹の中に納まるのは真っ平ゴメンだ』

 だがそんな彼らの心境とは裏腹に、中隊の後ろを追従する2機の第3世代VR、VOX A-300 ボックス“エイジ”と、VOX D-102 ボックス“ダニー” に乗るパイロット達から声がかかる。 2人は電脳歴世界の欧州より派遣されて来たシンフォニー大隊に所属しており、今回の作戦ではこの様に」戦術機一個中隊につき2機随伴して行動しているのだ。
 どうやら自分が抱いていた心配は無駄のようだったな。 彼らの言い分を聞いたウインド中隊の隊長は、ほっと胸を撫で下ろす。 無数のBETAが蔓延るこの世界の戦場では、何が起こるか分からない。 故に無敵の性能を誇るVRと言えど、その性能を過信する事は出来ないのだ。
 そして彼らが得るであろう富と名声も、この戦いを生き延びて初めて得る事が出来る。 だからVOX2機のパイロット達も、決して楽観してこの戦いに臨んでいるわけではないのだ。
 自らが持つ全ての力と能力を尽くして生き残り、必ずこの戦いに勝利する。 そんな空気がウインド中隊に漂っていたその時、HQから新たな報告が届く。

『展開中の全部隊へ。 砲兵隊と同時に、新型ミサイルによる事前攻撃を行う。 データリンク上に表示される射線上に入らぬよう注意せよ』

報告から程無くして、砲兵隊操る自走砲の方向が後ろから響き渡る。 同時にウインド中隊の衛士達の網膜には報告にあった新型ミサイルの軌道が表示される。 おそらくは地上スレスレを滑空するタイプのものだろうか、中隊長は部下達に軌道に入らないよう気を配りながら、隊列を維持するよう命じる。

「「来たっ!」」

 最後尾を進むウインド12の衛士と片方のVRパイロットが叫んだ瞬間、後方から空気を切り裂く砲弾が飛来する音。 それと同時に黒く塗られた巡航ミサイルが、ウインド中隊を目にも止まらぬ速さで追い抜く。

「まるでコックローチだぜ・・・」

 BETAという餌に向かっているかのような巡航ミサイルの挙動、それを見たウインド4の衛士が偶然にも自分達を追い越したミサイルの名称を呟く。 そして砲兵部隊が放った砲弾を撃ち落とすレーザーの閃光が上空に迸り、超低空を巡航する第一波が先陣を突き進む突撃級の群れに正面から突き刺さる。
並の砲弾以上の速度と、超硬質の徹甲弾頭の直撃をもらった個体はその頑強な装甲殻が粉々に砕け散る。 また一部のミサイルはクラスター弾が詰まったコンテナを切り離し、放出された子弾が突撃級の後ろに続く要撃級や小型種に降り注ぐ。 その光景は、まるでゴキブリが死する前に卵嚢を排出するそれそのものだった。 第一波の巡航ミサイルの着弾後も、光線種の迎撃能力を上回る砲撃を砲兵隊が彼らの頭上を通り越す中、シンフォニー大隊司令部から2機のVR宛てに指示が送られる。

『コックローチの第一波散布が完了。 展開中のシンフォニー各機は第2波攻撃を開始、小型種BETAの浸透を阻止せよ』
「だってよ、どうする相棒?」
「そりゃあ決まってるぜ。 俺の機体に詰まったこいつを、あいつらに御馳走してやるのさ!」

指令を聞いた2人の掛け合いが終わると同時に、ボックス“ダニー”の両肩に備わるミサイルランチャーが勢い良く開き、その中に装填された巨大なミサイルがこれまた勢いよく放たれる。
 砲兵隊の地道な活躍によりレーザーの洗礼を受ける事のなかったそれがBETA小型種が密集する地点まで飛翔したかと思うと、内部に詰まったクラスター弾頭がポップコーンよろしく飛び散り、小型種のみならず要撃級までも紅蓮の炎と無数の破片を受け、次々に巨大な骸と化して行く。
 たったの2発でこれから戦うBETAの量を大幅に削減したミサイルの名称が、そのまま『ポップコーン』だという事実をウインド中隊の衛士が知るのは、もう少し先の事であった。 そしてウインド中隊の隊長が、部下達に陣形の確認を伝える。

「全機、フォーメーション“ウォー・ヘッド2”で前進! 随伴するシンフォニー隊の支援を受けつつ、我々は一路ロヴァニエミハイヴへ向かう!」
『了解っ!!』
「では行くぞ! ゲットレディ・・・」
『ゴォーッ!!!』

 ウインド隊の衛士とシンフォニー隊のVRパイロット双方の咆哮と共に、12機の鋼鉄の騎士と2機の電脳騎兵がBETAが跋扈する戦場へと突入する。
 そして彼らの行動開始と同時に、史上2度目となる異世界共同のハイヴ攻略作戦、『オペレーション・メタルスラッグ』が開始された。


2001年11月15日  銑鉄作戦の教訓を元に、H08 ロヴァニエミハイヴ攻略を目的とした『オペレーション・メタルスラッグ』開始。 両世界の技術による最新兵器が惜しげも無く投入され、VRと戦術機の部隊連携により同日中にハイヴ反応炉の破壊に成功。

11月16日 香月夕呼、『因果律量子論に基づいたG弾が並行世界に及ぼす影響』という仮説を秘密裏に国連に提示。 電脳歴世界の火星に出現したハイヴの事例を前面に押し出し、G弾の使用禁止及び解体と凄乃皇とメガドライヴの原料となるG元素の確保に乗り出す。


マブラヴ -壊れかけたドアの向こう-
#36 神威


 2001年11月18日 AM10:43 国連軍横浜基地 データベースルーム


「新型機の名称は“武御刀”に決定か。 まったく、対抗意識むき出しなネーミングね・・・」

オペレーション・メタルスラッグの成功で再び基地が活気付いている中、申し訳程度の照明が点灯する横浜基地の電算室一角で、新型機の名前を知った菫が皮肉ったように呟く。
 横浜に帰って早々、夕呼の口から語られた電脳歴世界での戦術機開発。 それを聞いた菫は一目散に電算室に掛け込み、自分達が得た実戦データを今まで貪るように整理検証していたのだ。
 機体を作るだけの機材、資源、技術は電脳歴世界には十分に揃っている。 後はそのノウハウと情報さえあればカイゼルのような機体を作る事が出来る。 そして付けられたばかりの名前から、帝国の武御雷を参考に作る事は明白だ。
 この世界を訪れた頃からの記憶と経験を総動員させながら、菫はキーボードを突撃砲の発射速度が如く叩き続ける。

「(求めるのはカイゼルのような究極の汎用性、それを最大限引き出す武装を考えないと・・・!)」

30年に渡るBETAとの戦いの中で、戦術機の武装は確かに合理的かつ利便性に富んだ物が生み出されている。 だが自分の乗るテムジンが持つスライプナーや、カイゼルのスマートガンのような一つであらゆる戦いが出来る戦術機用の武器が、今の今まで開発されていないのだ。 それは『万能は無能である』という一種の呪いのような概念が、この世界の技術者達に定着していたからだった。
だが菫は思う。 戦車のように大地を駆け、戦闘機のように大空を舞う。 兵器に纏わる一般常識からすれば、戦術機やVRのような人型機動兵器こそがそれから逸脱した“不完全”な兵器なのではという事に。  そしてその不完全さを少しでも取り払うべく、パイロット達や技術者達が己の全てをかけて戦っている事に。
 VRパイロットであり、技術者の上司を持つ自分もそんな彼らの力になれる筈だ。 その一心で画面中の資料に目を通していたその時、菫は武御刀に相応しい逸材を見付ける。

「・・・BWS-3 グレートソード?」

モニターに煌々と表示される型式番号を、無意識の内に呟く菫。 モニターに映るのは戦術機の身の丈程もある、巨大な剣の姿。 それは欧州戦線で開発された近接戦闘用武器の中でも、所謂“キワモノ”と呼ばれる代物であった。
帝国軍機が用いる74式長刀は明らかに“斬る”というイメージだが、このBWS-3の場合はその巨体さからくる重量を生かして、斧のように対象を”叩き割る”意味合いが強い。 加えてメインのグリップのほかに両側にサブグリップを設ける事で、“突き”に特化した使用も可能だ。
 この武装は英国軍に採用され、熟練衛士が用いれば要塞級を撃破できる真価を秘めている事から、『要塞級殺し(フォートスレイヤー)』の愛称で呼ばれ、突撃前衛の装備として親しまれて来た。
 だがそのサイズから来る扱いの難しさとEF-2000の配備による戦術の転換、つまり射撃と固定近接武装による高機動戦闘が主軸となった事で、現在は同武器の生産は行われていない。 だが前線で戦う熟練衛士達からの評判は衰える事は無く、現在でも使い続けている部隊があると言う。
 アーカイブから見つけた映像資料を眺めている内に、菫はこの大剣が自分が見知った武器とよく似ている事に気付く。

「これ、射撃機能があれば707や747のスライプナーと同じになるのかしら?」

 BWS-3を構え、突撃を敢行する英軍のF-5E“トーネードIDS”の記録映像を眺めていた菫が、無意識の内に感想を呟く。
 1機のF-5Eが握るBWS-3の切っ先が要撃級へ水平に食いこみ、そのまま横方向へ力任せに薙ぎ払う。 続けざまに要塞級の衝角を巧みに回避して大きく跳躍したもう1機のF-5Eが、振り下ろしたBWS-3の刃でその醜い頭部を一撃の元に両断する。
 その光景が菫には、唯一の手持ち武装であるスライプナーで戦うテムジン707と747の姿と被って見えてしまったのだ。 そして菫はアーカイブを掘り進むうちに、欧州戦線が運用する独特の戦術機用武器の存在とその概念を知る事になる。
ユーラシア内陸部に数多くのハイヴが存在する欧州での戦いでは、海軍による支援砲撃は射程距離に限界がある。 一方の陸軍も機甲部隊では迅速に展開する戦術機に付いていけず、また過去の戦いでその戦力が疲弊していた。
そこで欧州の各国軍隊は、戦術機に重火器を装備させて展開速度と火力の充実を図る“オール・TSFドクトリン”という概念が生み出されていた。 画面に映し出された軽機関銃のようなデザインをしているMk57支援砲も、その申し子と言うべき代物である。

「これよ・・・これならいけるわ!

 武御刀の為にあるかのような概念を見付けられた事に、菫は嬉しさと興奮、そして自信の脳内から溢れ出すアイデアを抑えられずにはいられなかった。 即座に彼女は自身が持つ端末を立ち上げ、BETAの物量に負けない位のアイデアをメモ帳アプリに書き留めて行く。 そしてアプリあらかたまとめた菫は端末を脇に携え、一路夕呼がいるB19フロアのラボへ向かった。


同時刻 横浜基地 シミュレータールーム


「(敵機確認、12時方向、タイプ97改、突撃前衛装備2機・・・)」

 網膜に投影される情報を声に出さず復唱し、強化装備姿の霞が愛機に命じるようにフットペダルを踏み込む。 霞機の接近に気付いた2機の晴嵐が、廃ビル街から身を乗り出して応戦。 舐めるように掃射される36ミリの嵐を、霞が操るエンジェリオはその間を縫うように回避する。
 両肩に備えるイナーシャル・フローター、G元素をエンジェリオの機体が軽やかに空中へ舞う。
 右手に持つ88ミリガンポッドの銃口が、標的となった1機の晴嵐に向けられ、霞は何の躊躇いも無くそのトリガーを引く。 極めて短い感覚で放たれる大量の荷電粒子の弾丸を浴びた晴嵐が、全身の装甲を無残に穿たれた姿を晒しした直後に爆散。 そして霞はもう1機の晴嵐にも掃射を行い、同じ運命を辿らせる。
 わずか数秒で2機の晴嵐を瞬殺した霞は、まだビル街の奥に潜む敵機を討つべく前進を開始する。 進軍速度を上げようとしたその時、新たな敵機がレーダーの光点として表示。 強襲掃討と迎撃後衛、4機の晴嵐が各々の突撃砲をエンジェリオに放つ。

「フローター能力限定解除。 ソニックブレード起動」

 霞の口から紡がれる音声コマンドを認識したエンジェリオが、ガンポッドを腰部マウントへ格納すると同時に両腕に折り畳まれていたソニックブレードを展開。 イナーシャル・フローターの材料に練りこまれたG元素の触媒がエネルギー供給により活性化し、青い燐光を放ちながらその出力を増してゆく。 そして一際眩い輝きが放たれ、エンジェリオがブレードを突き立て吶喊を敢行した。
 フローターから発生する微弱なラザフォードフィールド、その恩恵を最大限に受けた機動を駆使して霞は銃撃掻い潜り間合いを詰める。 そして肉眼では捉えられぬ速度で振動するハイパーカーボン製の刃が、先頭にいる晴嵐に突き刺さった。
 慣性ブロックが収まる部位に直撃。 鮮血のように吹き出る火花を浴びるエンジェリオの頭部センサーが、歓喜しているかのように怪しく輝く。 そして右腕のブレードに晴嵐を突き刺したまま2番目に近い晴嵐を睨み付け、頭部に搭載されているパルスレーザー砲を放ち撃破する。
 その一方的と言うに相応しい戦いを、始終見届けている者達がいた。

「エンジェリオ、敵部隊の半数を撃破。 損害はほぼゼロのまま、想定より早いペースで続行中です」

 シミュレータールームの管制室に、一切の感情がこもらない機械のような遙の報告が響く。 その隣に立つ夕呼はそれを聞きながら、モニターに移るエンジェリオの姿を無言で見つめていた。 他者の精神を読み取る異能の力、オルタネイティヴ3の過程で生み出された”生ける人形”。 あれが霞本来の姿なのだろうかと、現行の保護者である夕呼は思う。
 彼女の乗機であるエンジェリオ開発の際に、オルタネイティヴ3で運用されていた特殊偵察機、F-14AL3『マインドシーカー』のデータを参考にしている。 そして現在のソ連では、霞の姉妹の生き残りが衛士として戦場に赴いていると聞く。

「(霞を出撃させると聞いたら、アイツは何て言うかしらね・・・)」

 霞が持つ潜在能力と、カイゼルと並ぶ性能を持つエンジェリオを持ってすれば、華々しい戦果を叩き出す事は間違いないだろう。  だが彼女の実戦投入を武は許すのだろうか、分かりきった答えに夕呼は遙に見られぬよう苦笑する。 そう夕呼が考えている合間にも、霞が操るエンジェリオが後衛の晴嵐へ襲い掛かる。 そうして白き天使の舞踏は、全機撃破まで続いた。


・ 2001年11月17日 横浜基地 B19フロア 香月ラボ


「これがフィルノート経由で向こう側から送られて来た、『武御刀』の機体概要です」
「ご苦労様ピアティフ中尉、下がって良いわよ」

 ピアティフから渡された一枚の封筒を受け取った夕呼がそう告げ、ピアティフは軽い敬礼をした後に部屋を立ち去る。 エアー式の気密扉が閉じられたのを確認した夕呼は即座に封筒の封を切り、その中身を確認する。 中には数枚の書類と、そのほかのデータが納められているだろう光学ディスクが入っていた。

「(まったく、書類を封筒に入れて送ってくるなんて、変な所でローテクね・・・)」

 これも超情報化社会である電脳暦世界における情報漏洩防止策なのだろうか、そんな事を思いながら夕呼は封筒から取り出した書類に目を通し始める。
 『極秘』と判が押された表紙を捲った一枚目には、まだ仮の段階であろう機体のシルエットが描かれている。 なるほど名前が名前だけに、やはりそれは武御雷と瓜二つだった。 所詮は模倣かと思いながら、次のページに目を通した夕呼の目付きが豹変する。

「っ・・・! 奴ら正気なの・・・!?」

 何処までも自分達の常識を逸脱している異世界の技術に悪態を吐きながら、夕呼は残りの書類を読み進める。 2枚目は各部位の詳細図となっており、そこには戦術機というには過剰すぎる武装の数々が表記されていた。
 腕部に内蔵された即応展開型高周波ブレードや、武御雷のそれを発展させたクローマニピュレーター、さらには脚部からつま先に至るまでハイパーカーボン製のブレードエッジが備わっている。 全身凶器に相応しい近接兵装を身に着けている武御刀だったが、夕呼を驚愕させた要因はそれだけではなかったのだ。
 胸部両脇に内蔵された近接防御用パルスビーム砲、状況や目的に合わせさまざまなオプションを搭載可能な肩部モジュール、 そして夕呼をもっとも驚かせたのは、頭部モジュールに小型の荷電粒子砲を内蔵している事だった。 しかもご丁寧に、口を象った開閉システムまで備わっている。
 元来、光学を始めとする各種センサー、通信や情報処理を司る機材が満載している戦術機の頭部モジュールに、武装を施すという概念はご法度に近いものだった。 武装を搭載するスペースの確保や、動作時における精度の低下がその理由である。
 いくら対電磁シールドが施されていようと、荷電粒子砲をそんな部位に配置した電脳暦世界の技術者達に夕呼は呆れる気力すらなかった。

「まあ、荷電粒子砲にしたってアタシ達のとは違うだろうし。 今更驚く必要も無かったわね・・・」

 異世界との技術力の差は、すでに知っている筈なのに。 夕呼は先程の自分に対して苦笑せざるを得ない。 他にも武御刀には、駆動部分には電磁伸縮炭素帯の概念を推し進め、人間の筋肉を模した『電磁伸縮炭素筋(カーボニック・マッスル・アクチュエーター)』を採用。  そしてカイゼル、エンジェリオに搭載されている魔法の機関『メガドライヴ』。
 菫が考案している専用武装と併せ、この超攻撃的な戦術機をヴァルキリーズの誰が扱えるのか。 今の夕呼の思考はただ一点に絞られていた。

「さて、面倒事は増える前に処理しないとね」

 そう呟きながら書類と別に納められたデータディスクをデスクのパソコンにセットし、夕呼は武御刀の更なるデータの閲覧を始める。 残された時間はそう多くは無いかもしれない、そう思いながら夕呼は自身の指を疾風の如き速さでキーボードを叩き続けた。

2001年11月18日:電脳暦世界、01式全領域型戦術機『武御刀』のスケルトン完成。 引き続き内装品および兵装開発に着手。
 同日、各戦線で行われた間引き戦闘とオペレーション・メタルスラッグで蒐集された情報から、人類の戦闘行動に対するBETAの対処能力が一定基準の範疇で行われることが判明。 基準の詳細及びVRに対する対処行動については現在調査中。
国連欧州軍、ユーラシア奪還に向けて大西洋上にギガフロート『アトランティス』の建造を、電脳暦世界の協力を得て行うと発表。

-あとがき-
「記憶喪失ぅ!? アンタバカの癖に、何ややこしい症状に見舞われてるの!? バカの癖に!」
「やめろジミー! バカはバカなりに、バカな悩み抱えてんだ!!」
 お久しぶりの麦穂です。 今回の36話は北欧に存在するロヴァニエミハイヴ攻略戦冒頭、シミュレーターによる霞の対戦術機戦、そして徐々に明らかになる武御刀の全容です。
固定兵装が充実している武御刀ですが、それらをオミットさせることで武御雷のような高機動近接戦も可能となっています。




[2970] 第37話-演者-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:b635f3ec
Date: 2010/10/08 22:31
・ 2001年11月19日 AM9:57 国連軍横浜基地 ブリーフィングルーム

「・・・以上が各戦線で確認されたBETAの情報だ。 ここからは霜月少尉が最新情報を直々に説明してくれる」
「はい。 では最初に、各BETA個体の能力から・・・」

 スクリーンの反射した光で薄暗く照らされるブリーフィングルーム、そこでみちるに続いて菫がこれまでの戦いで収集し編纂したBETAの情報を、粗末なパイプ椅子に座っているヴァルキリーズの全員に発表する。 そして菫の口から最初に語られたのは、各BETA固体の情報についてだった。

「過去の戦闘記録、私達が参加した銑鉄作戦、そして間引き作戦が継続されている各戦線から、光線種の射程と照射時間には一定の限界があることが判明しました」

 地球上の空から航空機の姿を消し、微小な砲弾をも撃墜するBETA光線属種。 AL弾頭や電脳暦世界側のALナノマシン弾頭の運用により対処がしやすくなったものの、その脅威は到底拭い去ることは出来ない。 そんな光線種に対する対処法になるかもしれない情報が見付かったと言うのだ。 冥夜達が食い入るようにプロジェクターを見つめる中、菫は話を続ける。

「この結論の根拠となるのは、光線種BETAが一定範囲内に入らない限り迎撃行動に移らないこと、またレーザーの最大照射時間が長くても数十秒程度に限られている事です」
「つまり奴等のレーザー照射は、無限に行われるわけではないと?」
「はい。 BETA固体のエネルギー源は恐らくG元素、それをもってしてもレーザー照射に必要なエネルギー量は膨大でしょう。 また照射時に発生する熱エネルギーによる自壊を防ぐという意味もあるでしょうね」

 凄乃皇の荷電粒子砲も、G元素とそれを反応させる炉であるML機関が無ければ発射不可能なエネルギー量を必要とする。 また光線級や重光線級にある尾や鰭のような部分は、レーザー照射時に発生する熱の排出のためにあるのではと推察されている。
 この事から菫はBETAの肉体が炭素系生命体と同じである以上、その技術力をもってしても大気中でも減衰しない大出力のレーザーを長時間に渡って照射する事は不可能だと考えたのだ。

「この世界の技術で光線級のレーザーを直接防ぐ手立ては、G元素の反応で発生するラザフォード・フィールドのみ。 そしてそれを展開可能な機体は、私達が保有する凄乃皇だけです」
「そして光線属種が存在している戦場では、高度を取った跳躍飛行が不可能になるばかりか、支援砲撃の効果が激減する。 光線属種のレーザーを無効化する方法を見つけるのが、今の我々に与えられた課題だ」

 こうしている間にも世界では、異世界の軍と協力した間引き作戦が展開されている。 彼らの負担を少しでも和らげるために、この課題の答えを見出さなくてはならない。 彼女たちの心に使命感という炎が静かに、それでいて力強く灯っていた。


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#37 演者



・ AM10:47 横浜基地 地下最深部 90番ハンガー

「で、白銀君は誰が良いと思う?」
「えっ? 俺はもう純夏がいますけど」
「そうじゃなくて、武御刀のパイロットはヴァルキリーズの誰が良いのって聞いてるのよ?」

 天井から降り注ぐ照明の光に照らされるカイゼルの前で、菫は武御刀の衛士は誰が相応しいか武に問いかける。 ご多分に漏れず、開発が進む武御刀の衛士はヴァルキリーズの中から選ばれる事になった。
 しかし武にカイゼル、純夏に凄乃皇、そして霞にはエンジェリオという専用機が存在しているし、みちる達にはメガドライヴ搭載型不知火弐型の支給が予定されている。 となると残された選択肢に、衛士としての可能性を秘めた207組にスポットが当たるのは当然の帰結だった。
 そんな菫の問いに対し、武は207組の顔を思い浮かべながら答える。

「そうですねぇ、俺もいろいろと考えてはいるんですけど・・・」

 菫の期待に答えられない事にため息を漏らす武。 一癖も二癖もあるメンツばかりの207組の仲間達から1人、武御刀の衛士を選べといわれて武が迷わない訳が無い。
 だが射撃が得意な壬姫を乗せるのは近接戦闘よりの汎用機である武御刀には少々偏りすぎだし、彩峰の場合も肉薄ともいえるレベルなので少々不向きだ。 直美、光、多恵、茜、晴子の5人のポジションは中衛なので適性はあるかと思われるが、積極的に前に出ないポジションなので疑問が残ってしまう。

「(委員長は戦闘より指揮が向いてるし、美琴に至っては戦闘スタイルが俺には理解不能だ。 となれば・・・)」

 -やはり、冥夜か-

 武が消去法で辿り着いた武御刀の衛士候補、それは陰陽の”陰”に当たる機体と同じ存在である、御剣冥夜その人だった。 もはやここまで偶然が重なって来ると、まるで誰かが自分達の運命を操作しているのではないかとさえ思える。
 そして答えが出た後に武が菫の顔を見ると、彼女も自分と同じ表情をしてこちらを見ていた。 おそらく彼女も同じ結論だったのだろう。 そして行動を起こそうとする武より早く、彼女の口が開いた。

「白銀君も気付いたみたいね、早速本人の元に行って見ましょうか」
「はい!」


・ PM1:04 横浜基地 屋上


「私が、新型機の衛士の候補に?」
「ああ。 俺と菫さんの予想が正しければ、夕呼先生から通達が来るはずだぜ」

 昼下がりの基地社屋の屋上にて、武と菫に呼ばれた冥夜は事の次第を聞かされる。 新型機の衛士という思いもよらない事態に対し、話を聞き終えた直後の冥夜は複雑な表情を隠せないでいた。 だがそんな彼女の態度を気にすることなく、菫は話を続ける。

「武御刀の開発コンセプトと元207小隊各員の戦闘能力、それらを吟味した結果あなたが適任されたの。 決して贔屓とかの理由じゃないから安心して」
「ですが他の皆を差し置いて、私だけというのは・・・」

 ”前の世界”と同様に、特別扱いされることを何よりも嫌う冥夜。 この状態が続けばたとえ命令であっても、冥夜は武御刀の搭乗を断固として拒否するだろう。 悠陽から送られてきた、紫の武御雷を拒んだように。
 その可能性を断ち切るべく説得しようとする武だったが、彼より先に冥夜に声をかけた人物がいた。

「新型の衛士は御剣が適任。 私もそう思う」
「慧!? 何時からそこに?」
「休み中にくつろごうとしたら白銀達が来た。 だから最初からここにいる」

 そう武が声をかけた先には、今まで屋上の出入り口の上で3人を見物していたであろう慧の姿。 そして彼女の手には、今や食堂の人気メニューとなった合成焼きそばパンが握られている。
 おそらくここで昼を頂こうとした所に武達が現れ、そのまま彼らの話を聞いていたのだろう。 パンを包むビニールを剥がしながら、自分の意見を口にする。

「アレの衛士には御剣が適任、私はそう思う」
「でも彩峰、近接戦闘だったらお前も得意なはずだろう?」
「近接でも御剣とは距離が違うし、長刀を使うのは余り好きじゃない」

 近接戦闘と一口に言っても、拳や鈍器で殴ったり、刃物による切断や刺突したりと大きく分けて二つある。 慧の場合は前者であり、彼女が現在乗る晴嵐もそのようなカスタマイズとチューンが施されている。 そして長刀による近接戦闘を主眼とした武御刀のコンセプトに、彩峰は自身の戦闘スタイルと噛み合わない事に気付いていた。
 何より千鶴と張り合う時以外にも自分の意思と主張は絶対に曲げない慧が、武御刀の衛士に冥夜を推薦した事に武は驚いた。 これまでの戦いと経験が彼女をそう動かしたのかは分からない。 だが合成焼きそばパンをほおばる直前に見せた慧の表情は、いつものクールさを感じさせない穏やかな物だった。
 冥夜は言葉こそ口にしないものの、神妙な面持ちで慧に頭を下げる。 冥夜らしい感謝の表し方に、慧は親指を立てた左手で答えた。


・ 2001年 11月21日 PM3:48 ハンガリー共和国 ブダペストハイヴ勢力圏内


「敵BETA群前衛、距離8000まで接近!」
「VR隊の砲撃後、我々も光線級掃討の為に彼らの後に続く! 気を引き締めろよ!」

 直後に舞い込む部下達の『了解!』の復唱を聞き終えた後、東欧州社会主義同盟軍の一中隊を率いる指揮官衛士は、目の前で繰り広げられる戦闘を食い入る様に見る。 彼が参加してもう何度目になるか分からない今回の間引き作戦も半ばに入り、協力者たる電脳暦世界の助っ人達によって彼の部隊は損害という損害なしに戦闘を継続していた。
 彼らの乗るMIG-27も、異世界の技術の導入により第3世代機に迫る性能を発揮してくれている。 そして突撃級を主とするBETAの前衛が距離5000にまで迫った時、最前線で正しく目もくらむ閃光が迸った。

「砲撃着弾を確認! 凄ぇ、一発で殆どを薙ぎ払っちまった・・・」
「先輩、光線級が味方についたらこんな感じなんでしょうかね・・・?」

 配属されたばかりの新米衛士のつぶやきに、中隊長は思わず頷いていしまう。 
最前線で突撃級を横隊陣形で迎え撃つVR隊、それを構成する第3世代型VR HBV-512E2”ライデン512E2”の放ったレーザーが猛スピードで迫る突撃級を一撃の下に一掃したのだ。
  120ミリ弾を軽く弾いてしまう突撃級の装甲も、元来対艦戦闘用として開発されたライデンのレーザーにかかれば障子紙に等しい。 そして発射態勢こそ取るものの、光線級のレーザー照射でみられる低出力照射といった予備動作がライデンには無いのだ。 狙われたら回避は不可能という砲撃、自分たちに向けられていないという事実に改めて気付いた中隊長は、部下たちに悟られないよう背筋を微かに振るわせる。 それを見た小隊長の一人が、彼に声をかける。

「どうしました中隊長? アレを見て思わず武者震いですか?」
「あ・・・ああ! 今まで俺たちを悩ませたレーザーを味方が撃っているんだ、興奮しないわけがないさ」

 声が裏返りながらも中隊長が答える最中、初回の砲撃を終えたライデン達が重量級とは思えぬ速度で散開。 肩に担ぐバズーカランチャーの砲口から爆炎が吹き出るたびに先程の砲撃を逃れたBETA達が粉砕されて行く。
 取り回しや弾薬調達の問題から、戦術機用であれ程のサイズを持つ武装はMk57中隊支援砲や開発中の99型電磁投射砲位しか存在していない。 だが眼前のライデン達は軽々と撃ちまくり、あまつさえそれで要撃級を殴打して撃破しているのだ。

「なんというか、我々の常識とはかけ離れた戦いをしますね」
「異世界の人間だからな、センスも違うだろう」

 そう。 彼らはVRという彼らの剣を最大限に生かす戦闘スタイルに則って、こうしてBETAと戦っているに過ぎない。 それを自分達の常識に当てはめてもまったくの見当違いというものだということに中隊長たちは気付いたのだ。 BETAの前衛が半減したところで、ライデン部隊から通信が入る。

『御膳立ては終わったぜ。 さあ、奥に突っ立っている目玉野郎共を潰しに行くぞ!』
「了解した、貴官らの協力に感謝する!」

 中隊長が前進準備を命じると同時に、配下のMIG-27が待っていたとばかりに跳躍ユニットを唸らせ、得物を前へ突き出す。 そして彼の号令と同時に、鋼鉄の騎兵達が以前数を減らさぬBETAの海に飛び込もうとしたその時、突如として大地が激しく轟く。

「これは・・・!」
「音紋照合ネガティブ! BETAの増援です!」
「詳細解析急げ! VR隊にもこの事を伝えろ!」

 衛士として今までに無い経験を味わうも、中隊長は取り乱すことなく部下達へ陣形の変更と襲来してくるBETAの規模を割り出すよう伝える。 フェイズ5ハイヴの地下茎構造の到達半径は約30キロ。 彼らがいる場所はそこから遥か離れた最外縁部であり、地下茎による侵攻は先ず有り得ない。

「(もしや、この振動は・・・!?)」

 振動の詳細解析が進む中、中隊長は先に行われた銑鉄作戦の事例を思い出す。 地下茎以外の場所で確認された、BETAが移動する振動。 時と場所は違えど、彼らが今目の当たりにしている状況はあの事例とほぼ同じなのだ。 そして案の定、部下の口から出た結果は中隊長の予想通りとなる。

「中隊長、結果が出ました!」
「報告しろ!」
「佐渡島で確認された音源と一致! 未確認種によるBETAの増援が、間も無くここに来ます!!」

 そう部下が報告し終えた瞬間、爆発のような轟音が辺りに響き渡り、眼前の土砂が間欠泉のように吹き上げられる。 そして降りしきる土砂の中彼らが見た物は、地中から天高く聳える巨大な肉の柱だった。
 兼ねてより噂されていた未確認種BETA、それを初めて目の当たりにした中隊長は、反射的に号令を下した。

「全機、フォーメーション<ノーザン・ライツ>で展開! 中から奴らが出てくる前に仕留めろ!!」
『了解っ!!』

 中隊長は蓋らしき物が開き始めた肉柱の頂上に向けて照準を定め、MIG-27が両手に持つ突撃砲が同時に火を噴く。 要塞級が2、3体軽く収まる程の図体をしているあの未確認種、本体に攻撃を加えるよりもから湧き出るBETAに狙いを集中したほうが適格だ。
  そして他の部隊もその存在に気付いたのか、砲弾やミサイルの類があちこちから吸い込まれるように未確認種へと降り注いで行く。

「おらおらおらっ! 新装備の味はどうだ!」
「出し惜しみは無しだ、たっぷり喰らいな!!」

 歩兵用のDshk38重機関銃を象ったデザインをした40ミリ重支援砲、それを装備する後衛のMIG-27が次々に未確認種から湧き出るBETAを撃破する。 A-10”サンダーボルトⅡ”が装備するGAU-8を参考に開発されたこの重支援砲は、オリジナル同様機体の肩に大容量のマガジンを搭載し、長時間の支援射撃を可能としている。

「良い調子だ、このまま押しとどめろ!」
「砲兵隊からの支援砲撃来ます! 着弾まで2・・・1・・・今!」

 未確認種の頂上から溶岩の如く、破砕されたBETAの肉片が次々に迸る。 要請しておいた支援砲撃、更にはライデン隊の攻撃も加わり、未確認種が爆炎と閃光に包まれてゆく。 耐久限界を超えたのか、消し炭と化したBETAと共に崩れ落ちる未確認種の姿と共にこの戦いは終わりを告げた。
 華々しい戦果を得た事実とは裏腹に、誰一人欠ける事無く帰路を行く中隊長は素直に喜ぶことが出来なかった。

「(これからのBETAとの戦いには、あんなのも出てくるのか・・・)」

 希望の光を微かに遮る暗雲に、中隊長は不安の色を隠せない。 そしてこの戦いが単なる始まりに過ぎない事に、彼らは気付くことはなかった。


2001年 11月21日:ブダペストハイヴ勢力圏内における間引き戦闘中、東欧州社会主義同盟軍の舞台が新種BETAを確認。
 出現前の振動パターンが銑鉄作戦で確認された物と一致。 戦闘記録を得た横浜基地司令部は同新種を”母艦(キャリアー)級”と命名し、対策を検討中。

同日:大西洋上に建設中の人工島『アトランティス』の基礎部分が完成。 未完成部分が覆いながらも、早くも補給基地として機能を開始する。



[2970] 第38話-流動-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:8776c573
Date: 2011/06/22 21:18
・ 2001年11月24日 AM10:52 アメリカ合衆国 アラスカ州 国連軍ユーコン基地 第1演習場


「ユウヤ、そっちに1機行ったぞ!」
「任せろ! 俺一人で仕留める!」

 アクティヴ・イーグルを駆るタリサの呼びかけ、それに答えたユウヤの不知火弐型が跳躍ユニットを唸らせ迎撃を開始する。 軽快に匍匐飛行でアラスカの大地を駆ける弐型の先には、濃紺の電磁波吸収剤含有塗料に色塗られたF-22A”ラプター先行型”が、AMWS-21の銃口をこちらに向けて交戦の構えを見せている。
 発砲。 ユウヤは弐型の肩にあるスラスターを小刻みに吹かし、着弾と照準を左右に反らしながらラプター先行型に迫る。

「姿が見えてれば、ステルスなんか意味無いんだよ!」

 そう言い放ったユウヤは、弐型の手が持つ新兵装の銃口をラプター先行型に向け、ためらいも無くトリガーを引く。 JIVESで再現された弾丸とマズルフラッシュは、紛れも無く99型電磁投射砲のそれだった。
 01型携行型電磁投射砲。 それがユウヤの不知火弐型に与えられた新兵装の名である。  99型電磁投射砲の欠点であった取り回しの悪さが改善され、通常の突撃砲と同じサイズでありながらそれ以上の火力を実現している。
 これも武達を通じて得た電脳暦世界の技術の賜物であり、アルゴス試験小隊に限らず各国の試験部隊もこぞってその技術を手に入れ活用している最中だった。 BETAとの戦いにおいて別の意味を持って最前線であるユーコン基地、その本来の役目が最大限に発揮されているのだ。 
 超高速で迫るペイント弾を回避出来るはずも無く、返り討ちにあったラプター先行型のボディに黄色い塗料の花が咲く。 敵機撃破判定の報告を受けたユウヤの耳に、新たな敵の到来を告げる警告音が届いた。

「っ、いよいよ親分のお出ましか!」

 濃紺の左肩に描かれた”無限大”を意味するエンブレム。 それ同じ名前を冠した教導部隊を率いるリーダーであり、ユウヤ最大のライバルと言える衛士が駆るラプター先行型が、正に得物を見つけた猛禽類の様に上空から接近する。
 そしてそのラプターにはやはりと言うべきか、ユウヤの弐型が装備するそれと似た、中型のライフル的な重火器を装備していた。

「新しいオモチャを作って楽しんでいるのは俺達だけじゃないってことかよ、レオン!」
「そういう事だ。 お楽しみはこれからだぜ、ユウヤ!」

 互いに銃口を向け合い、ほぼ同タイミングでトリガーを引く二人。 それがテロリスト達の襲撃により凍結されていた統合戦闘演習『ブルーフラッグ』再開の合図となった。

マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#38 流動


・ 同時刻 日本帝国 国連軍横浜基地 90番格納庫 作業員詰所


「先行型とはいえF-22が相手、ブリッジス少尉は大丈夫か・・・?」
「大丈夫だって、彼の強さは君が一番知っているはずだろう?」

 徐々に真の姿に変わりつつある凄乃皇が鎮座する90番格納庫。 その片隅にある詰所でケイイチと武の二人がノートパソコン程度の端末を用いて、アラスカで繰り広げられるユウヤ達の活躍を観戦している。
 既にJIVESの演出効果が施されている端末モニターに映し出される、ユウヤの不知火弐型とレオンのラプター先行型の手に汗握る決闘。 それを食い入るように見つめる武とは裏腹に、ケイイチは楽観した面持ちでモニターを眺めていた。
 それもその筈、携行型電磁投射砲のデータを提供したのは、他ならぬケイイチだからである。 アラスカにおいて武とユウヤとの一騎打ちを終えて横浜に戻る間際に、ケイイチはアルゴス小隊のデータベースに一定の時間が過ぎると公開されるようデータを仕掛けていたのだ。 しかもご丁寧に設計図以外にも、電脳暦世界からの材料調達の方法やその連絡先まで記載して。
 その後唯依とイブラヒムがケイイチの置き土産に気付き、半信半疑で活用した結果、完成した投射砲が不知火弐型の右手に握られているのである。
 牽制射撃を掛けようとする弐型に気付いたレオンのラプターが、1テンポ早く回避行動を取る。 超高初速を誇る電磁投射砲の銃撃を回避する方法は撃たれる前に相手を仕留めるか、それが出来なければ相手の狙いを妨げるかの2択しかない。 小刻みに連射される牽制射撃を一通り回避すると、反撃とばかりにレオンも愛機が装備する得物の狙いを不知火弐型に定める。
電磁投射砲と同じコンデンサーへの甲高い充電音が響き、銃口の先端から凄乃皇のそれと同じ燐光が迸り、閃光と共に幾多もの光弾が放たれる。 その映像を見た武は、あの装備が如何なる物か即座に気付いた。

「せ、戦術機サイズの荷電粒子砲・・・!」

 この世界ではまだ絵空事とまで言われた戦術機用の荷電粒子砲、だがJIVESによる再現とはいえ現実の物としてレオンのラプターが装備し、それを不知火弐型の上方から掃射しているではないか。 
 まさかケイイチがアルゴス小隊へ送ったデータが流出したのか。 そう武が思っていると、先程まで楽観していたケイイチの表情が一転して険しい物となっていた。

「やっぱり、この世界にいろいろと手助けしているのは僕らだけじゃないって事だよ」
「ケイイチさん、それはまさか電脳暦世界の企業が・・・!」

 やはりそうだったかと悟った武の言葉に、ケイイチはモニターを見続けながら頷く。 この世界に電脳暦世界の介入が始まって約半年、あの魔法のような技術を手に入れようと、自分達と同じように世界各国が水面下で暗躍していようと不思議ではない。
 無論それはこの世界で最大級の戦力と規模を誇る米国とて同じであり、その結果があの携行型荷電粒子砲なのだろう。 無人機を取り入れた”数”の戦いと、最新鋭機と装備による”質”の戦いという、対BETA、人間を問わない理想の戦闘ドクトリンを形成しつつある。 この期に及んでまだ戦後の支配を見据えているのか。 人間の底無しの欲深さに、武は思わず眉をひそめる。

 「そう目くじらを立てなくてもいいんじゃないかな? 本音はどうであれ、あの携行型荷電粒子砲が量産されたら、より有利にBETAと戦える訳だしね」

 確かにケイイチの言うとおり、凄乃皇に始まった荷電粒子砲があそこまで小型化されたのは技術的には革命にも等しい事だ。 他にも通常の戦術機に対応したプラズマ推進式跳躍ユニットや各種兵装が開発され、一部の前線では既にそれらの試験運用が始まっている。
 このまま急速な技術進歩が進めば何が待っているというのだろうか。 ルビコン川を渡るような、パンドラの箱を開けるような得体の知れない不安と恐怖を武が感じていた時、妙に古臭い詰所のドアがガチャリと音を立てて開く。

「あー、武ちゃんこんな所にいた! みんなが武ちゃんの事探してたよ」
「皆が俺を? どういう事だ純夏」

 詰所に入ってきた純夏の呼びかけに首をかしげた武だったが、すぐに皆が自分の事を探していた理由を思い出す。 今日のシミュレーター訓練にて、武はヴァルキリーズの皆にメガドライヴ搭載機の機動特性について教える事になっているのだ。

「すまん純夏。 ケイイチさん、後はお願いします!」

 慌てて詰所を飛び出してシミュレーター室へ向かう武の背を見て、クスクスと笑う純夏。 何時になるとも知れぬ次の戦い、その束の間の日常を楽しむ2人の姿を見るケイイチの眼鏡が鈍く光っていた。 そして詰所を去ろうとする純夏を、ケイイチは鋭い声で呼び止める。

「鏡君。 白銀君について、一つ君に伝えたい事がある」




・ 同時刻 横浜基地 香月ラボ

「そうですか、私たちのデータがお役に立てて光栄です」
「お陰で私も天に昇る気持ちだ。 今は母艦級BETAの残骸回収と調査に全力で当たっている」
「各戦線でも新兵装や機体のテストは上々だ、あまりにも事が運びすぎて今すぐにでも反抗作戦を行いたいくらいだよ」

 薄暗い自室の端末で何者かと会話をしている夕呼の顔が、モニターのバックライトに淡く照らされる。 モニターには国連や各国軍上層部の面々が映し出されており、所謂『多人数チャット』の進化版とも言うべき形式で、夕呼は彼らと密会を行っているのだ。
 そして今回の内容は先日確認された母艦級BETA『メガワーム』の対処、今後の対BETAの動向予測及び電脳暦世界の住人達とどう付き合うのかという議題が上がっている。 実際に母艦級と遭遇交戦した東ドイツ軍幹部に続いて、今度は国連の英国代表の男が口を開く。

「MBV-747A『テムジン747A』でしたかな? あの機体の戦い方は、我が英軍のそれと非常に相性が良い」

 大柄なBWS-3を近接戦武装として装備する英軍のF-2000は、古来の騎馬を思い起こさせる機動打突戦術を取り入れている。 そのため似た形状の武装を装備し、中距離主体の戦闘スタイルを持つテムジン系列がこの男はお気に入りのようだ。 また現地で戦う衛士とVRパイロットとの交流も進み、欧州戦線ではもう背中を預けながら戦っている間柄となっている部隊も存在する。

「やはりVRや異世界の力は、今の我々には必要だ」
「左様。 今はBETAとの戦いに勝利し、生き残る。 それが今の我々に与えられた課題であり使命なのだ」

 このままこの状態を維持したまま異世界の技術を元に新たな兵器開発を行い、来るべきユーラシアのBETA駆逐に望む。 それが今回の密会にて欧州各国の代表者達が口を揃えて出した答えだった。 どのような形であれ、世界は安定を望む。 やはり自分の持論は正しかったと夕呼が心の中で納得していたその時、発言を通知するチャイム音がインカムを通じて夕呼の耳に入る。

「その結論に至るのは早計ではないでしょうか? 欧州代表の方々」
「ほう、やはり貴方もG弾の魔力に憑かれておいでかな? 米国代表」

 皮肉がたんまりと込められた西ドイツ代表の返答に、欧州各国の面々の注目が米国代表の男に注がれる。 凄乃皇とは別のベクトルで生まれた、G弾によるBETAの殲滅を目論む米国。 自国内に大量のハイヴを抱え、BETA由来技術により戦後において巻き返しを企むソ連。 今なお水面下で続いている東西冷戦の当事者たる2国にとって、欧州各国の動向を放置してはいられないし、何より面白い訳が無い。 そして彼らの矛先は、案の定夕呼に向けられる。

『それよりもドイツ代表、異世界の技術を独占し私欲を肥やしている、横浜の香月副司令の方がG弾より危険な存在ではないでしょうか』
「同感ですな。 横浜基地が保有する戦力は、あまりにも過剰すぎる」

 米国に続いてソ連代表にバッシングの駄目出しを食らったことに、さすがの夕呼もムッと眉を顰める。 だがここで怯んだら奴等の思う壺。 自他共に認める頭脳と口先を武器に、夕呼の反撃が始まる。

「お二方の言い分はよく分かりました。 ですが私どもが入手した電脳暦世界の技術は、既にこの世界に浸透して来ています。 そして彼らの技術は火星圏と木星圏、その気になれば銀河の彼方へと進出出来る可能性を秘めているのです。
 この地球だけではなく、月や火星にもBETAが蔓延っている事実を、お二方はお忘れになったのですか?」

 それを聞いた米ソ両国代表の顔色が変わりうろたえる様を見て、夕呼はしてやったりといった表情でほくそ笑む。 BETAやハイヴはユーラシアのみならず、BETAとの戦いが始まる切っ掛けとなった月面や、その存在が確認された火星にも無数に存在しているのだ。
 それらのBETAを駆逐するとなれば、もはや国同士の軋轢は障害以外の何物でもない。 そして夕呼に便乗するように、英国代表が再び口を開く。

「香月副司令のいうとおり、我々はユーラシアの戦いが終われば次は月や火星、ひいては太陽系の各所に存在しているであろうBETAを駆逐しなくてはならないのだ」
「そうだ。 かの世界が持つ技術力は、今後の我々の世界にとって大いなる財産となるのかもしれないのだぞ?」

 ドイツ代表の発言に、他の欧州各国代表が賛同の声を上げる。 それは自分達より遥か進んだ技術力を持つ世界の住人が向こうから会いに来た、ならばこれを有効利用する手はないと踏んでのことだった。

「それとも米ソの両国は、彼らと戦いを挑んで勝てる算段でも御在りかな?」
「無論持っていますわよね? それで勝てなかったら、お二方の国の面目が地に落ちてしまうどころか、貴重な国土が灰燼に化す可能性もあるわけですもの」

 夕呼のとどめの一言に、米ソ両国の代表は口を閉ざし沈黙する。  これまでの戦いから、VRが戦術機を遙に凌駕する兵器であることはこの場にいる誰もが承知している。 それに対して喧嘩を挑むなど狂気の沙汰だ。
 ましてや彼らの後方支援部隊は地球衛星軌道上に24時間体制で待機しているのだ。 空の上を抑えられている以上、事を起こした段階で真っ先に部隊を送り込まれ鎮圧されてしまうだろう。
 沈黙を続ける米ソ両国代表を軽蔑の眼差しで見つめた後、夕呼は話の本題となるBETAのついて話をする。

「さて、いよいよ本題となる母艦級BETAですが、交戦した部隊のデータから要塞級を含む多数のBETAを輸送できる能力を持っていることが確認されています」
「ふむ。 それに地下深くから出現したとなると、ハイヴの建設や活動範囲の拡大の役目を担っているのかもしれんな」

 これまで謎となっていたBETAがハイヴの新設する方法、もし母艦級BETAが新しく生み出された反応炉と、作業分のBETAを目的地まで輸送し建設を行うとなれば合点が行く。 そしてその能力を再度見たフランス代表が、夕呼に的を射た発言をした。

「もし香月副司令の予想が正しければ、この母艦級は地球全土を活動範囲にすることが出来るのではないか?」

 フランス代表の発言に夕呼が頷くのを見て、画面に映る各国代表の顔が青ざめ、一斉にどよめきの声を立てる。 これが事実だというのなら、BETAは海よりも深い大深度地下を経由して世界中の何処にでも出現できるということになる。
 そうなれば人類側が定義する対BETA防衛線などまったくの無意味であるし、オーストラリア等の後方支援国も決して安全ではないと言う事になる。 やはり人類に残された時間は、あまりにも少ない。 この場において明らかとなった事実に誰もが絶望を抱く中、夕呼はそれを打ち破る秘策を提示する。

「だからこそ私達は、向こう側の連中に足元を見られないよう団結する必要があるのです」
「ほぉ・・・ 香月副司令、やはり・・・!」
「ええ、奴らが望んで中継したがるような作戦を、既に考案中ですわ」

 藁をも掴む思いで詰め寄るフランス代表に、自信に満ち溢れた表情で夕呼は答える。 そして時を同じくして、驚愕の事実を伝えられた人物が90番格納庫いた。

「そんな・・・!? それは本当なんですか、サギサワさん!」
「僕が言った事は、すべて香月博士が提唱した説だから間違いないと思う。 そう。 君や僕達の前に存在している白銀君。 あれは・・・」

 物語の終わりは何時も突然、そしてそれまでの流れは早く激しく。 この世界と武との別れの時は、着実に近づいていた。




[2970] 第39話-急転-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:8776c573
Date: 2011/08/06 16:59
・  2001年 11月 30日 AM10:24 国連軍横浜基地 第1演習場


「ねえ彩峰? 今やってる演習で、私達が勝てると思う?」
「・・・さあ。 勝てるかどうかは私達と相手のやる気次第」

 瓦礫と半壊したビルが立ち並ぶ第1演習場、その一角でエレメントを組む千鶴と慧が全周警戒を行いながら
簡潔に言葉を交わす。 他の207メンバーも演習場内に散り散りになり、現在は二人のようにエレメントを組み、
演習場の各所に潜伏している。
 このままの状態を維持するか、それとも自ら打って出て仲間達が連動して行動を起こしてくれるのを信じるか。 隣に居る慧が行動を起こす前にと千鶴が考えていたその時、いくつかの跳躍ユニットの噴射音と銃声が演習場の静寂を打ち破った。

「誰か見付かった・・・!」
「あっ! 彩峰!?」

 千鶴の静止の声を振り切るかのように、彩峰の晴嵐が音がした方角へ飛び立つ。 やはりこうなるのかと思いながら千鶴もその後を追い、爆発と共に煙が立ち上るその場所を最大望遠で観察する。 そこには1機の晴嵐の頭部を掴み、廃ビルへ叩き付けている濃紫色の戦術機の姿に、千鶴は思わず息を呑む。 そして機体が叩き付けられた衝撃で気を失っていた光が、息も絶え絶えに千鶴達に声を発した。

「逃げて榊・・・! この機体は、普通じゃない・・・!」

 朦朧とした意識で喋っているであろう光の声、そして目の前に広がる光景に千鶴の顔が恐怖で引き攣る。 本来はデリケートな部分である戦術機のマニピュレータ、それに近接武器も持たずに直接格闘戦で晴嵐を撃破する。 その事実が、あの機体が通常の戦術機ではないことを十分に語っていた。

「彩峰、今の聞いたわね」
「・・・聞こえてる。 私だって、無策で突っ込むほど無鉄砲じゃない」

 網膜に映る互いの顔がこくりと頷き、千鶴と慧は演習場内に身を潜めている仲間達と合流する目的で二手に分かれる。 電磁推進ユニットから鮮やかな噴射炎を輝かせ、2機の晴嵐が廃ビルの隙間を縫うように進む。     互いにフォロー可能な距離を無意識に保っているのは、2人の日頃の相性から来るのだろうか。 そして濃紫色の戦術機は、千鶴を新たなターゲットとして追撃して来た。 警報が管制ユニット内に鳴り響く中、千鶴は慧に新たな指示を送る。

「食い付いて来た、彩峰! 見殺しにしないでよ!」
「そっちこそ、手を抜いてすぐにやられないでよね」

 慧の応答を聞いた後、千鶴はフットペダルを踏み込み機体を加速させる。 今回の演習における彼女達の相手、それはこの日初めて公開された戦術機『武御刀』と、その衛士である御剣冥夜だった。



マブラヴ -壊れかけたドアの向こう-
#39 急転


・  同時刻 横浜基地 中央司令室


「武御刀、高原機を撃破。 同時に榊機と彩峰機を補足、追撃を開始しました」
「そう。 ピアティフ中尉、データはどんな些細な事も記録して頂戴」


 了解というイリーナの復唱を聞いた後、夕呼は中央司令室のメインモニターに移る武御刀の姿を食い入る様に見つめる。 G元素を用いたメガドライヴを搭載し、武のカイゼル以上の力を秘めし機体。 そしてその性能を最大限発揮するべく、ヴァルキリーズの中から選ばれた冥夜。
 このハードとソフトの組み合わせによる、旧207小隊全員を相手にした模擬戦闘がどのような結果をもたらしてくれるのか。 夕呼だけではなく横浜基地の全員、そして中継を通じてこの戦いを視聴している誰もが固唾を呑んで見守っていた。
 武御刀の背部に添え付けられているメガドライヴが駆動し、G元素を原料に用いたフライホイールが蓄積されていた慣性エネルギーを放出。 甲高いドライヴの駆動音と共に、武御刀の機体が跳躍ユニットを使わずにフワリと宙に浮く。

「来る・・・!」

 冥夜の攻撃を千鶴が察知したと同時に武御刀の跳躍ユニットが火を噴き、慣性エネルギーの解放と相まって驚異的な速度で千鶴の晴嵐に迫る。 今撃たないと確実に狩られる。 反射的に突撃砲を武御刀に向け、照準もままならぬままトリガーを引いた千鶴だったが、射線上からは武御刀は忽然と姿を消していた。

「彩峰! そっちに行ったわよ!」
「・・・もう追いかけられてる」

 怒号にも等しい千鶴の呼びかけに何時もの口調で答える慧だったが、内心はそうではなかった。 BETAを相手にしていないのにも関わらず、ただ未知から来る恐怖だけが彼女の心を蝕んでいたのだ。 鎧武者のような勇猛さを彷彿とさせる武御雷のそれとは違う、まるで鬼のような禍々しさを持つ機体デザイン。 そして何の武装も保持せずに光の晴嵐を撃破せしめた戦闘力。 そしてそれを行ったのは、自分達と共に戦い、そして乗り越えてきた仲間である冥夜だという事実。
 まるで人が変わったような彼女の所業に、冥夜を知る誰もが己が目を疑っていた。 いや、今の冥夜は本当に人が変わっているかもしれない。 晴嵐の跳躍ユニットの出力を限界まで出しながら、武御刀の追撃を必死で逃れながら慧は思った。

 「(あれは・・・鬼だ!)」

 此方を睨み付ける武御刀を見つめながら、慧は心の中で叫んでいた。 BETAに屠られた数多くの人々の怒り、憎しみ、悲しみ、怨念。 それらの不の感情が具現化した姿があの鋼鉄の悪鬼であり、そして今の自分達は、その鬼に捧げられた生贄なのだと。

「・・・だからって!」
「止めなさい彩峰! 一人で勝てる相手だと思っているの!?」

 千鶴の静止など耳に届かない慧はフットペダルを踏み込み、電磁推進ユニット全開で捨て身の吶喊を仕掛ける。 例え207全員が束になってかかったとしても、今の冥夜と武御刀に適う訳がないと彼女は気付いてしまった。
 どうせ負けることが決まっているのなら、せめて一太刀決めてから。 突撃砲を付き立てながら吶喊する慧の思考回路は、その目的を達成することだけに切り替わっていた。
 トリガーを引き、発砲。 機体に掛かる慣性や反動を吸収するメガドライヴの恩恵により、寸分の狂い無くペイント弾の群れが武御刀に吸い込まれて行く。 対する武御刀はメガドライヴに蓄積されていた慣性エネルギーを開放。 航行速度へ瞬時に移行し、容易く銃撃から逃れる。

「逃がさない・・・!」

 何時までも機械任せにしていたら無駄弾を増やすだけ。 慧はFCSのオートエイミング機能をカットし、手動による照準で武御刀に狙いを定める。 その予想は的中し、高速で移動する武御刀に徐々に射線が乗るようになった。 そしてその様子を見た千鶴は、残っている207メンバー全てに向けて叫ぶ。
「全機兵器使用自由! 一気にたたみ掛けるわよ!」
『了解っ!』

 千鶴の一声を合図に、待っていたとばかりに瓦礫のそこかしこから晴嵐が跳躍ユニットの輝きと共に飛び出し、己が得意の間合いと得物で冥夜に挑む。 美琴機が誘導弾の一斉射撃で追い立て、茜と多恵のコンビが慧のサポートへ急行し、直美と晴子が射撃を駆使し回避ルートを抑える。
 何もかもが不利な状況で、一人の独断先行から最善の作戦行動を立てる千鶴。 その手腕と成長を垣間見たみちるは、思わず口元を緩ませた。

「(やるようになったな榊、お前、いや、お前達なら・・・)」

 電脳暦世界の技術がこの世界に導入され、戦術機を基点に対BETA兵器の開発が日進月歩の勢いで進んでいる。 それをもたらす切っ掛けを作った武は勿論の事、彼の指導を直に受けた207の面々はその概念を受け入れ、衛士となった今ではそれらを積極的に活用している。
 外部の環境に適応した生物のみが生き残るという有名な学説を信じるならば、自分達はそれに適応できずに表舞台を退く部類に入るのだろうなと、みちるは痛感していた。 だがこの永遠とも思えるBETAとの戦いが、自分や彼女達の世代で終わらせることが出来るかもしれない。 そういう考え方もあると思うと、みちるは不思議と悔しさを感じなかった。

「(この戦いが終わったら、アイツに会いに行くかな・・・)」

 今もこの同じ空の下で戦い続けるであろう想い人を馳せながら、みちるは激戦が繰り広げられているモニターを眺め続けた。


・ 同時刻 横浜基地 B19フロア 純夏の部屋


 常夜灯に照らされるベッドの上で、純夏は先日ケイイチから告げられた事実から逃れようと布団の中で蹲っていた。 自分との再会を夢見て、平行世界の壁を越えてまで愛にきてくれた武が、通常の存在とはかけ離れた状態であるという事実。 

「どうして、タケルちゃんは確かに”そこ”にいる。 それなのに・・・!」

 何度もその可能性を否定しようとした、何度もその真実を覆そうと考えた。 だが自分の知力では到底夕呼やケイイチのような結論にたどり着くことは出来ない。 そして彼をそのようにしてしまったのは、他ならぬ自分であるという罪悪感に、純夏は心が押し潰されそうな感覚を感じた。 だが、それでも逃れられぬ事実であることには変わりは無い。 まるで許しを請うかのように、純夏はケイイチの口から聞かされた武の真実を呟いた。

「あのタケルちゃんが、無数の平行世界から集められた存在だなんて・・・」

-その真実を説明するには、11月24日の90番格納庫へ、少し時を遡らなければならない。-



「それは本当なんですか、サギサワさん!」
「僕が言った事は、すべて香月博士が提唱した説だから間違いないと思う。 そう。 君や僕達の前に存在している白銀君。 彼は数多の平行世界から掻き集められた”白銀武”という存在の集合体だ」
「そんな・・・! タケルちゃんが・・・!?」

 ケイイチの口から語られた、あまりにも残酷な真実に純夏は言葉を失う。 自分を探すために苦しみ続けた彼が、もはや普通の存在ではないというのだから無理も無い。 その理由を彼女が問いただそうとした時、ケイイチが一足早くそれを語り始めた。

「この世界の白銀君はBETAに殺され、君も脳髄だけの姿にされてこの横浜ハイヴの深部に囚われの身となった。 そして横浜ハイヴ攻略戦でG弾が使用された時、ある現象が起きたんだ」
「それは・・・?」
「G弾の詳しい事は、僕らの技術力でも完全には解明出来ていない。 ただ一つ分かっていることは、炸裂した際に発生する膨大なエネルギーが、他の平行世界まで伝播して何らかの影響を及ぼすという事だけなんだ」
「他の世界に影響って、タケルちゃんがこんな世界に飛ばされたのはそのせいだって言うんですか!?」
「それもあるけど、G弾のエネルギーに加えて、脳髄だけとなった君の思念が上乗せされて、白銀君はBETAが存在する平行世界に飛ばされたんだよ」
「私が、私のせいでタケルちゃんが・・・!?」

 武をこのような運命に巻き込んだのは他ならぬ自分。 純夏は藁をも掴む思いで、ケイイチに更なる真相を聞き出そうとする。 苦渋の表情を純夏に見せながら、ケイイチは話を続けた。

「G弾のエネルギーと『白銀君に会いたい』という君の強い思念が合わさって、この世界に隣接する平行世界の扉が開き、白銀君に関わる因果が少しずつ流れ込んで来た。 これが最初にBETAの世界に白銀君が飛ばされた原因だと、香月博士は推測している。
 そして博士は君の願いが達成されない限り、この因果と輪廻の呪縛は解き放たれることは無いと付け加えていた」
「じゃあタケルちゃんは何故、サギサワさんの世界に飛ばされたんですか?」
「”力”を欲したいと願ったからさ」
「えっ・・・?」

 ケイイチが告げた答えに、純夏はきょとんとした表情を浮かべる。 だが自分の願いが武を呼び寄せたという夕呼の仮説を思い出すと、あながち彼が冗談を言っているとはいえない。

「君が白銀君を求めたように、白銀君もまた自分が皆を救えなかった事を悔やんでいた。 そして彼が死ぬ度に、、また最初に飛ばされた時間からやり直すことになる。 だけど、因果というものに”イレギュラー”があるのなら、今回がまさにそれさ。
 彼の『皆を守る力が欲しい』、その一つの強い願いが虚数空間に残ったG弾のエネルギーに作用し、僕らの世界につながる扉を開いた。 僕らの世界の火星にBETAのハイヴが出現したのも、その副作用じゃないかと僕は考えている」

 ケイイチの推測によると、武が元の世界で遊んでいたゲーム『バルジャーノン』、それらが持つ世界観や機体が内包する因果が、武を電脳暦世界へと導いたというのだ。

「白銀君と君が再会出来た事で、彼を縛っていた因果のループは一応断ち切られた。 だけど、あらゆる世界の”白銀武”の集合体である彼の存在は、あまりにも不安定だ」
「じゃあ、このままじゃタケルちゃんは・・・」

 この先の答えは分かっているはずなのに、それなのに純夏は尋ねられずにはいられない。 ケイイチは伝えることを一瞬躊躇うものの、その答えを純夏に告げた。

「・・・このまま彼の願いが成就された時、白銀君は間違いなくこの世界から消滅する」

 武との辛い別れが確実に迫っていることを知って以来、まるで底なし沼に嵌ったかのような絶望感に打ちひしがれたままでいる純夏。 そんな彼女の心に呼応するかのように、ユーラシアの各戦線ではある異変が起こり始めていた。

・ 2001年 11月30日 PM4:08 ハンガリー共和国 ブダペストハイヴ勢力圏内

『セガール6よりセガール1へ、新たなBETA増援を確認!』
『踏ん張れセガール6、今支援砲撃要請をした。 着弾まで160セコンド!』

 大小様々なBETAが跋扈する相変わらずの戦場、そこではセガール中隊のVOX系VRがそれぞれの得物でBETAを粉砕して行く。

「クソッ! 戦車級を捌ききれない・・・!」
「落ち着けデミトリ4! 今フォローに向かう!」

 傍らでは東欧州同盟のMIG-23やMIG-27、更には虎の子のMIG-29”ファルクラム”やSu-27”フランカー”が36ミリ弾を浴びせ続けている。 戦術機とVR、2つの世界で生み出された鋼の巨人が共に背を預け、この硝煙と血肉の匂い漂う戦場を戦っている。
 上の連中が何を企んでいようが関係ない、必要なのはどうやってこの地獄を共に切り抜け、そして生き残るか。 何時しか彼らのように前線で戦う衛士とVRパイロットの間には不思議な絆と信頼が生まれていた。
 要請していた支援砲撃が予定通りに着弾し、濛々と立ち込める煙の中からそれを耐え抜いた要塞級の巨体が姿を現す。

『要塞級4体健在! おい衛士さんよ、コイツはどうやって倒す!?』
「足と胴体の間接を狙え! 衝角と溶解液に気を付ければ、アンタらにとってはただのデカイ的だ!」
『了解! 派手にぶちまけてやるぜ!』

 おそらく要塞級との戦闘はこれが始めてなのだろう。 デミトリ1の助言を聞いた1機のVOXジェーンがダッシュを開始。 行く手を遮ろうとする小型種を踏み潰しながら、固まって前進する要塞級へ肉薄する。 要塞級の腹部に備わる衝角がにゅるりと伸び、鞭のように触手をしならせVOXジェーンに襲い掛かる。

『虫に刺されるのは、もうコリゴリなんだよぉ!!』

 昆虫的な外観を持つ要塞級を見て過去のトラウマが掻き立てられたのか、ジェーンのパイロットがそう叫びながら右腕のチェーンソーを射出。 要塞級の本体と衝角を繋ぐ、長い触手をいとも簡単に切断する。 そして切断した部分から溶解液が噴出し、これで要塞級は巨体で踏み潰す以外の攻撃手段を失った。
 戻ってきたチェーンソーを回収したVOXジェーンは、両肩のハッチを開放。 本来は面制圧用のマイクロナパームを懐目掛けて発射する。
 至近距離でナパームが炸裂し、要塞級の頑強な表皮が砕けて醜悪な内臓部分が露となる。 VOXジェーンは左腕に備わっているクローアームから放たれるファイヤーボールを叩き込まれ、要塞級の1体が崩れ落ち沈黙した。

『奴ばかり独り占めさせるな! 名を上げたい奴は、俺に続け!』
「余所者に負けてたまるか! デミトリ全機、フォーメーション”ティアーズ・シャワー”! とことん蹴散らせっ!!」

 撃破された要塞級が崩れ落ちるのを皮切りに、セガール隊のVOX数機が要塞級の群れに突入。 先行して1体を仕留めたVOXジェーンと共に次々に周辺のBETAを血祭りに上げる。 対してデミトリ隊も戦車級といった小型種に標的を絞り、セガール隊の活動を支援する。 自分達が駆る機体が出来る事を理解し、両陣営のパイロット達は互いに声をかけるまでも無く、阿吽の呼吸で行動に移している。
これも戦士の本能がなせる業なのか、それとも互いの対抗意識が生み出した末の奇跡なのか。 戦場に存在するBETA固体が半分になろうとしていたその時、スウェイキャンセラーでも軽減できないほどの揺れがデミトリ隊とセガール隊を襲う。

「これは・・・!」
「振動パターン一致、隊長! 母艦級が来ます!!」
「母艦級の口が開いたらそこにありったけ叩き込め! 奴らの増援を許すな!」

 更なるパターン解析の結果、複数の母艦級が侵攻中だという。 部下たちの復唱を聞き終え、母艦級の出現に備えてデミトリ隊が展開。 それを聞いていたセガール隊の面々も周囲のBETAを片付けながらフォーメーションを調整する。 そして地響きが最高潮に達した時、舞い上がる土砂と共に最初の母艦級が姿を現した。

「出てくるぞ、食い残しは絶対に許さん!!」
『ハッ、特盛り上等ォ!!』

 母艦級の口が開き、そこから夥しい数のBETAがあふれ出ようとする。 そこへ全ての機体の得物が一斉に火を噴き、まるで歓迎するかのように銃弾砲弾を雨あられと浴びせかける。 この母艦級が最後ではない、戦場にいる全てのBETAを殲滅させるまで戦い続ける。 絶望を焼き払うかのような闘志を燃やしながら、各々の衛士とVRパイロットはトリガーを引き続けた。

・ 2001年12月1日 AM8:04 横浜基地地下最深部 90番格納庫

「カイゼルの更なる強化、ですか?」
「うん。 皆の機体が良くなっているのに、君だけカイゼルのままだとあんまりかなと思ってね」

 凄乃皇五型への改装が後一息となり、作業員達が人一倍走り回る90番ハンガー。 その一角に固定されているカイゼルの前で、ケイイチがまた新たな話題を武に持ちかける。 カイゼルの強化は先のアラスカ救援の際に武装ユニット”スプーキー”を装着した事で終わっていたのではないか?
 期待のスペック的でも衛士の技量的でも、まだまだ207の皆には劣ってはいない。 己が持つプライドを壊すつもりかと、武が眉間にシワを寄せた。

「何も君が弱い何て言ってないよ。 スプーキーは追加装備にして見ればサイズが大き過ぎるし、投棄してしまえば素のカイゼルに元通りさ」

 確かにカイゼルが装着したスプーキーはその圧倒的な火力と防御力で、ユーコン基地を襲撃していたテロリスト達を瞬く間に鎮圧して見せた。 だがサイズの大きさから敵機の集中砲火を受けた他、小回りが利かないといった欠点も露呈させてしまう。
 百発百中の光線級の前に躍り出たら、ただのデカい的になる事必死だ。 ケイイチが持ちかけようとする内容を、武が先に口にする。

「じゃあ今度は、カイゼルそのものを?」
「ご名答。 凄乃皇のように全面改装とまでは行かないけど、単機でハイヴ制圧出来る程の性能を持たせるつもりさ」

 ケイイチの話によると、カイゼルの機体各所にリアクティブアーマーの要領で追加装備を施すつもりらしい。 カイゼルがそこまでの強化を施される事を聞き、武は驚きと共に多少の恐怖を感じていた。
 対BETA、対戦術機のどちらにおいても、VRに準ずる性能を持つカイゼルはこの世界の希望と言うべき機体だ。 それだけでも十分な強さを示しているのに、 これ以上何を強くするというのだろうか?
 凄乃皇の件もそうだ。  銑鉄作戦でその勇姿を世界に見せ付けた凄乃皇参型でも、ハイヴ制圧に十分な性能を有しているというのに、五型では過剰すぎる性能を予定しているではないか。

「(一体、ケイイチさんと夕呼先生は何と戦うつもりなんだろう。 だけど、俺は・・・!)」

 それでも、仲間たちを守るための力が欲しい。 武は固定されているカイゼルの機体を見上げた後、ケイイチに強化の件を頼むと頭を下げた。

・ 同時刻 食堂

「あっ、霜月少尉!」
「あら、皆揃って遅めのご飯かしら?」
「ええ。 先程まで実機訓練をしていたので・・・」

 食後の余韻を楽しむ菫の耳に、壬姫が呼ぶ声が届く。 声のした方を見ると、訓練を終えて一段落した千鶴達の姿。 最初に声をかけた壬姫は勿論だが、菫に答える千鶴の顔も疲労の色が隠せない。
 一体どの様な訓練を行っていたのか菫が問いかけようとすると、後ろにいた美琴の口が開く。

「それにしても凄かったよね~冥夜さん。 ボク達が束になってかかっても、結局一発も被弾しなかったんだよ」
「一発も・・・!? それで、御剣さんは今何処に?」
「演習を終えて真っ先に香月副司令の元に行きましたよ」
「・・・本当、無茶し過ぎ」

 晴子と慧の言葉に、菫は武御刀の性能と、それを駆る冥夜のポテンシャルが自分の想像以上だった事に、驚きの余り生唾を飲み込む。  武御刀の実機試験を兼ねた演習はまだ指で数えるほどしかなく、冥夜自身も殺人的な機動力と破壊的な武装を持つ武御刀の性能を扱いきれてはいない。
 だが207小隊全員を相手にするという無謀極まりない状況を前にしても、冥夜は一度も被弾判定すら出してないというのだ。 そして彼女達が次々に語る冥夜と武御刀の勇姿を聞いた菫に、ある一つの願望が浮かぶ。

-彼女と手合わせしたい-

 他のメンバー同様に武に触発され、専用機である武御刀の支給という大きな変革を得ている冥夜。 そんな彼女と戦えば自分も更なる極みへと進むことが出来るかもしれないと、菫は考えていたのだ。 彼女の行方を追うべく配膳トレーを手に席を立つ菫に、光と直美が声をかける。

「何処行くんですか? 菫さん」
「まさか、御剣さんの所に?」
「ええ、ちょっと彼女と話したいことがあってね」

 そう告げると年上と思えぬ無邪気な笑顔を見せ、菫は食堂を後にする。 彼女の真意が掴めぬまま、慧以外の皆はきょとんとした表情を浮かべるばかりだった。


・ 同日 AM8:27 横浜基地地下 香月ラボ

「ご苦労様。 それで、いい加減あの機体にも慣れたかしら?」
「はい。 これまでの皆との演習で、武御刀の特性も大分掴めました」
「そう。 でも気を付けなさい、あの機体は衛士をも殺す可能性を秘めているからね」

 機体内で収集されたレコードを夕呼に渡した後、冥夜は機械だけでは解からない報告を夕呼に告げる。
 彼女達がラボで二人きりになるのはこれが初めてではなく、冥夜は実機演習後必ず自分の下へ直接データを渡すよう夕呼から厳命されている。 そして同時にこの報告は、簡易的なカウンセリングも兼ねているのだ。
  慣性エネルギーを制御するメガドライブを搭載してもなお軽減できないG、装備された数々の武装を状況に合わせて制御する等、武御刀の衛士である冥夜には通常の戦術機の操縦とは比較にならない負担が掛かっている。 そして更に常に緻密な調整が行われて来た武のカイゼルや霞のエンジェリオと異なり、武御刀は極めて短期間で実戦に使えるように仕上げなければならない。
 そうした精神的なプレッシャーにも冥夜は耐えなければならず、夕呼はこのカウンセリングに衛士であるまりもやみちるにも協力を仰いでいる。 冥夜の消耗とノルマの達成というキワドイ均衡をかろうじて保ち、武御刀が完成してくれればと夕呼が思っていたその時、インターホンから彼女を尋ねる声が聞こえてくる。

「香月副司令、お話があるのですが宜しいですか?」
「香月先生~、凄乃皇のシミュレータ結果持って来たよ~!」

 菫の声に続いて、なんとも間の抜けた純夏の声が聞こえてくる。 監視カメラには部屋のドアの前に立つ、純夏と菫の姿。 夕呼はため息を吐きながらドアのロックを解除し、二人を中へと呼び寄せる。

「鏡、ディスクはあたしのデスクに置いといて。 で、霜月少尉の用件って?」

 大事な時に邪魔するなという夕呼の表情に、純夏はそそくさと凄乃皇のシミュレーションデータが収まった光ディスクを置きに行く。 一方の菫は夕呼の鋭い視線に晒されながら、冥夜をチラリと見て自身の願いを口にする。

「はい。 御剣さんの武御刀と、実機による模擬戦闘をさせて欲しいのです」
「御剣と貴方が模擬戦? 正気なの?」

 武御刀と冥夜の調整がまだ終わっていないという矢先に、コイツは何を言っているんだと疑心に満ちた表情を見せる夕呼。 しかしそう頼み込む菫の目に曇りは無く、その瞳の輝きには武と通じるものがあった。 そして武御刀が、VR相手に何処まで通用するか試してみたいという願望が夕呼の中に生まれ始める。 

「私からもお願いします。 白銀中尉をここまで導いた者の実力、今ここで試してみたいのです」
「御剣、アンタまで・・・!」

そして彼女の願望を加速させるように、今まで沈黙を貫いていた冥夜も菫との模擬戦を望む。 双方合意の上、自分の興味を満足できる状況が出来上がっている。 職権乱用と罵られても良い、自分はこれから行われる戦いの行く末を見たいだけだ。 二人の熱意に押された演技をしながら、夕呼は菫と冥夜に答える。
「仕方ないわねぇ・・・ 今回だけ特別よ?」
「本当ですか有り難うございます!」
 夕呼の許しを得ることが出来て、感謝の言葉と共に胸を撫で下ろす菫。 そして敬礼を済ませたあと、彼女は早急に部屋を後にする。 その様子をデスクから見守っていた純夏には、能力制限が掛けられているため彼女達の心の内を読む事は出来ない。 だが菫を見送る夕呼の表情は、やけに嬉しそうだった事に気付いていた。




2001年12月1日:国連上層部、プタベストハイヴ勢力圏における戦闘結果から、母艦級BETAの対処法を確立。 VR隊との連携を強化すると同時に、メガドライヴ搭載型戦術機の開発と量産を世界各国のメーカーに通達する。
同日:香月夕呼、対BETA戦テストを考慮した武御刀のデモンストレーションの協力を、国連軍アラスカ・ユーコン基地へ秘密裏に依頼する。 



[2970] 第40話-激突-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:8776c573
Date: 2011/09/13 00:08
・ 2001年 12月3日 AM7:07 アメリカ合衆国アラスカ 国連軍ユーコン基地


「どうしたブリッジス! あの時見せた貴様の気迫は、とうに消え失せたか!!」
「ぐっ・・・!!」

 スーパーカーボン製の刃が激しくぶつかり合う音が響く、ユーコン基地の演習場。 一面の雪と氷に包まれる演習場にて、ユウヤの不知火弐型と唯依の武御雷が一対一の模擬戦を繰り広げていた。 鋼の巨人が剣を振るい、跳躍ユニットで疾駆する度に地面にある霜や雪が舞い上がり、ある種の美しさを醸し出す幻想的な光景が広がる。
 あの時、唯依が演習中に乱入して一騎打ちとなった際に感じたあの感覚が、今では全く感じ取れないことに、ユウヤは長刀を受け止めながら焦りと苛立ちを覚える。

「・・・らあっ!!」

 跳躍ユニットの推力に任せて押し出し、武御雷の体勢を崩した後に間合いを離す。 彼女の得意な戦闘スタイルに付き合う必要は無い、ユウヤは背部ラックから突撃砲を取り出し、御家芸である射撃の腕を見せ付けるように武御雷に向けて撃つ。 対して唯依は長刀を構えたまま、銃撃を回避しながらユウヤの不知火弐型へ間合いを詰めて行く。

「そんな射撃で、私を止められるとでも思っているのか!」
「なんの!」

  空気を切り裂かんばかりの勢いで長刀を振り下ろす唯依に対し、肩のサブスラスターを噴射し横方向へ回避。 そのまま超低空を水平噴射跳躍へと移行する不知火弐型の姿は、まるで氷上を滑るスケートの様だった。 そして先程とは打って変わって、今度はユウヤが唯依の武御雷へと迫る。

「らあっ!!」

右手にある長刀を振り下ろし、武御雷がそれを長刀で受け止める。 だが片手で扱う分、鍔迫り合いの状態では長くは持たないだろう。 しかしユウヤにとってはそれが、長刀を扱う唯依に対する唯一の策であったのだ。 左腕に持った突撃砲の銃口が、山吹色の武御雷の胴体へと向けられる。

「・・・しまった!?」

 ユウヤの次の行動を悟った唯依だったが、既に手遅れだった。 突撃砲から放たれたペイント弾が、武御雷の機体を紅色に染め上げる。 そして状況終了を告げるダイアログが表示されると同時に、CPにいるステラから通信が入る。

『アルゴス0、大破と判定。 状況終了です、二人とも帰還して下さい』
「・・・だってよ。 先に行ってるぜ中尉」

 そうユウヤが言い残した後、不知火弐型が基地へと戻ってゆく。 ユーコンの空へと舞い飛ぶ純白の機体は、正に天使か精霊のような美しさを放っていた。

「あの時から、ずいぶん変わったな。 ユウヤ・・・」

 ユウヤの不知火を見届けながら、唯依は囁くように呟いた。


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#40 激突


・  AM7:35 ユーコン基地 アルゴス小隊戦術機ハンガー


 ハンガーに固定された武御雷、開放されたコクピットハッチから現れた唯依がキャットウォークへと足を運ぶ。 眼下には帝国軍から派遣された専属の整備スタッフが、自分の機体へ駆け寄る姿が見える。 だが唯依には何時もの演習とは違う、特別な雰囲気をハッチを出た時から感じていた。

「(何だ・・・? 他の整備員達も慌しく動いている、マナンダル少尉達の演習予定は無いはずだが?)」

 整備員だけではない。 それ以外の基地要員も兵士級の様に、何かに一目散に向かっているではないか。 一体、ユーコン基地で何が起ころうとしているのか。 唯依は情報を知るべく、偶然に近くを通りがかったヴィンセントを呼び止める。

「ローウェル軍曹! 一体この騒ぎは何だ!?」
「丁度良かったですよ篁中尉! 中尉達が模擬戦をやっている間に横浜基地から凄い客が来たって連絡があって、皆それを見に行こうとしてるんですよ」
「横浜から客人だと・・・?」

 にわかに信じがたい話だとヴィンセントの答えを聞いて眉を潜ませる唯依だったが、戦闘準備でもないのにこの騒ぎようを見て彼の言い分が嘘ではないことを悟る。 それに横浜基地の客人となれば、また武のような凄腕の衛士が来たのかも知れない。 事の真相をこの目で確かめるべく、整備班から受け取ったウォーニングジャケットを羽織った唯依はヴィンセント共にハンガーの外へと向かう。
 耐寒耐熱機能を持つ強化装備を着ていなければ凍えてしまいそうな寒さの風を頬に受けながら、唯依とヴィンセントは我先にと走っているユーコン将兵達の後を追う。 世界各国の戦術機ひしめくハンガーエリアを抜け、そのまま滑走路があるエリアへと辿り付いた。
 唯依は再度辺りを見回すと、1機の大型輸送機に人々が群がる光景が見えた。 戦術機を厳重に内包しているコンテナが輸送機の後方から下ろされ、同時にその衛士と思われる女性が滑走路に降り立つ。

「ん? あの顔、どこかで見たような・・・?」
「中尉、あの人知ってるんですか?」
「いや、私の思い過ごしだったようだ。 気にするな」

 そうヴィンセントに言ってみせる唯依だったが、あの女性の顔は確かにどこかで見た事があると、自身の記憶が囁いてくる。 遠巻きにしか見ることが出来ないが、あの物の立ち居振る舞いから日本人、それも斯衛に属する者であることは間違いない。
 そう推察を立てながら唯依が眺めていると、その人物はなんと自分達のほうへ歩いてくるではないか。 周囲の視線が一斉に唯依達に集まる中、その女性衛士は敬礼をしながら名乗りを上げた。

「お初にお目にかかります。 自分は国連軍横浜基地、特務部隊”ヴァルキリーズ”所属の御剣冥夜少尉であります。 アルゴス小隊所属の篁唯依中尉とお見受けしますが」

 唐突に行われた冥夜の自己紹介にキョトンとした表情を見せるも、すぐに凛とした表情に切り替えて応対する唯依。 彼女の話によると、横浜で開発された新型戦術機をこのユーコン基地で模擬戦闘を行う為に、ここを訪れたというのだ。
 既に手続きは両基地間で済ませており、事情を知った者達が歓迎の為に滑走路へと向かい、このような大騒ぎとなったのである。 詳しく話を聞くべく場所を変えようと思ったが、ここで唯依は話のさなかに浮かんだ一つの疑問を冥夜に問いかける。

「お話は分かりましたが、御剣少尉以外と模擬戦を行う相手はどうするのですか?」
「それについては心配要りません。 もうすぐここに来るはずですから」

そう彼女が言い終えた瞬間、明らかに自然のものではない閃光が滑走路にいる唯依と冥夜達を照らす。 そしてその光が一段と強く瞬いた後、そこには不知火を模した菫のVR、テムジン747『霧積』の姿があった。
 横浜に駐在する彼女の母艦フィルノートから、定位リバースコンバートカタパルトによってこのユーコン基地へと瞬時に移動して来たのである。 正に魔法ともいえる異世界の技術を改めて目の当たりにし、呆然と立ち尽くす唯依達を尻目に、冥夜は顔色一つ変えずにこう告げた。

「これから数日間、よろしくお願いします。 篁中尉」



・ PM4:07 国連軍ユーコン基地 歓楽街”リルフォート”



「・・・それでは! 横浜基地からの客人の来訪を祝して・・・」

『乾杯~っ!』

 ヴァレリオの音頭と共に、テーブルを囲むアルゴス小隊メンバー、そして冥夜と菫が持つ杯が心地よい音を立ててぶつかり合う。 冥夜と菫の模擬戦闘を行うために横浜からやって来た冥夜と菫の歓迎会が、リルフォートの一角で行われていた。 『奴らに関わるな』と戒厳令でも敷かれたのか、あれほどの騒ぎを起こしたにも関わらず二人がいるテーブルに近寄る輩は誰一人としていない。
 酒とその摘みも程よく進んだところで、ヴァレリオが二人に話しかける。

「いや~横浜基地と聞いていましたが、まさか二人が白銀中尉の知り合いだったとは!」
「はい。 中尉には戦術機の指導を始め、色々とお世話になっています」
「ほほぉ~。 麗しの二人が今回ユーコンを訪れたのも、何か理由があるのですか?」
「ええ。 私のテムジンと御剣さんの新型機、その異種格闘戦をご披露して差し上げますわ」

 ノリノリなヴァレリオの質問に答える菫の言葉を聞いて、ユウヤはあの時武と行った模擬戦闘を思い出す。 戦術機でもVRでもない、全く異質な機体との戦い。 戦術機とこれほどに無い一体感を覚えたあの感覚を、武との一戦で感じることが出来た。
 そして今回行われるであろう冥夜と菫の戦いを見届けたならば、更なる高みへと進むヒントを得られるかも知れない。 二人の姿を眺めながらユウヤがそう思っていた中、今度はヴィンセントが矢継ぎ早に話題を繰り出す。

「御剣少尉の機体はまだ秘密として、霜月少尉のテムジンは偉いカスタマイズぶりですね~!」
「ええ。 パイロットの負荷軽減や消費エネルギーの改善。 戦術機を模倣した機構や武器、数え上げたらキリが無いほどの改造を、私の上司に施されているわ」


 電脳暦世界の技術はこのユーコン基地でも盛んに導入されており、無人型戦術機や新開発の兵装試験をカムチャッカ戦線で逐一行っているという。 菫のテムジンも度重なる改造により、もはや別の機体と言っても差し支えないほどに変貌している。 それは勿論、BETAと言う全く異質の敵を戦うためにあった。 中身が半分に減ったジョッキを持ちながら、タリサが話しかける。

「なんだ、アンタ達なら楽勝かと思っていたのに」
「本当は短期で終わらせる予定だったらしいわ。 だけど私達の世界が、電脳暦の社会がそうさせてくれなかったのよ」

 それまで遭遇したことのない物量、そして回避が困難な光線級のレーザー。 この世界に来訪した当初はVRそのものの性能で押し切ることが出来ていたが、母艦級が確認されて以降はVRでも対処しきれないほどの数のBETAが戦場に溢れ出るようになったのだ。
 更にマスコミによる報道、プラントや企業の強引な進出、それらによって生じたオルタネイティヴ世界の人々との軋轢。 様々な理由や利権が絡み合って足枷となり、電脳暦世界の軍隊単独による短期決戦はもはや不可能になってしまったのだ。  低アルコールのビールを軽く口に含ませた後、菫は自分の主観を皆に話す。

「私は二つの世界の接点をより多く作ることが、この状況を打開する有効な手段だと思っているわ」
「もしそれが出来なければ?」
「この世界は、私達の世界の手によって食い潰されるでしょうね。 さながらBETAのように・・・」

 そう尋ねたステラに虚ろな表情で返す菫を見て、彼女の言葉が嘘ではないことを見抜いた冥夜は戦慄した。 そしてそれを口にした菫自身も、最悪の結末を想像し背筋を振るわせる。
 -命も戦いも、イデオロギーも所詮は商品に過ぎず、その場の欲を貪る事で刹那の安堵を得続ける- MARZとの戦いの最中、ムーンゲートを築き上げた知性体の妄執であるダイモンは限定戦争とそれに興じる人類をそう罵った。 理念も目的も思想も無く、ただ己の利益と欲求を満たす為に行われる戦い。
 それはダイモンが倒され、再び”国家”という概念が蘇った現代の電脳暦でも、その貪欲さは色濃く残っている。 特に先の戦いで疲弊し、己の存亡に掛かっている企業やプラントにとっては尚更の事だ。 そうした状況の中で発見したオルタネイティヴ世界は、彼らにとって最高のフロンティアに見えたことだろう。
 BETAとの戦いに疲弊した国々に手を差し伸べ、己の利益へと繋げて立て直しを図る。 勢力を建て直した先にどの様な行動を行うかは明白だ。 彼らはオルタネイティヴ世界の市場へと参入し、その先進的な技術を武器に瞬く間に急成長を遂げたのである。 既に北米や欧州の市場の約半分が、電脳暦世界の企業に吸収されてしまっているのだ。 更に十八番である情報戦を駆使し、自分達の都合の良い方向へと無理にでも持っていこうとする。
 このまま彼らの暴走を許せば、菫の言う通りにこの世界そのものが電脳暦世界における”商品”と化してしまう。 先程までの勢いはとうに消えうせたタリサが、ジョッキを静かにおきながら呟く。

「アタシ達、一体何と戦ってるんだろうな・・・」
「少なくとも今の所、私達の敵はBETAに違いないわ。  白銀中尉や香月副司令も、そうならない様に頑張っている最中だしね」
「なら、仲間は多いことに越したことは無いな!」

 ヴィンセントの締めの一言に、皆が微笑み頷く。 二つの世界を結ぶ絆を深める為の仲間が、新たに増えた瞬間。 そして彼らを祝福するかのように、リルフォートの上空をタイフーンとマイザーデルタの各小隊が飛び去っていった。


・ 2001年 12月4日 AM10:07 国連軍ユーコン基地 第1演習場


『CPより全機、模擬戦の開始位置到達確認。 指示あるまで待機してください』
「ガントレット1了解」
「ブレイブ2了解」

 凍りついた砂塵が吹き荒ぶユーコン基地の演習場、そこにブレイブ2のコールで呼ばれた冥夜が、武御刀のコクピット内でHQにいるステラに返答する。 血の色のような赤く鈍い輝きを放つメインセンサーを経由して見える視界、先が霞んで見えないほどの広さを誇る演習場の果てには、ガントレット1のコールで呼ばれた菫のテムジン747『霧積』が、自分と同じように待機しているはずだ。
 そもそも何故この二人がこのユーコンで模擬戦を繰り広げるのか。 ただの戦術機同士の模擬戦なら、横浜基地でも十分に事足りる。 だが、今回ばかりは勝手が違うのだ。
 静止状態から機体によっては音速以上に達する慣性制御能力を持つVR、そしてメガドライヴによってVRと同じ特性を擬似的に再現したカイゼルやエンジェリオ、武御刀といった機体は従来の戦術機では次元が違う機動力を持つ。  もし100%の出力で戦闘機動を行ったら、横浜基地における演習場の広さではあっという間に演習場を飛び出し、そのまま場外乱闘を起こす結果になるのだ。 だがリミッターを描けた状態では、本来の性能を見極めることが出来ない。 そこで夕呼は前回のテロ鎮圧支援で借しを持たせているユーコン基地に、協力を要請したのだ。
 広大なアラスカを基地にしているユーコン基地ならば、それらが多少暴れまわっても問題無いほどの敷地面積を誇る。 現にVRを保有する電脳暦世界の軍隊やそれに関係する企業たちは、真っ先に環境の整ったこのユーコンへ入植しているのだ。
 理由はどうであれ、自分はここで菫と戦い武御刀の有効なデータを夕呼に提供する。 だが今回のユーコン基地への出張はそれだけに留まらないのでは? 目の前に広がるアラスカの景色を眺めている冥夜に、ステラから新たな通信が舞い込む。

『CPより全機へ、まもなく模擬戦開始です』
「ブレイブ2了解」

 完結に復唱を返し、冥夜はブートメニューよりJIVESを起動。 メガドライヴに内包されたフライホイールが静かに回りだし、慣性エネルギーの蓄積を開始する。

『3・・・2・・・1・・・スタート!』

 武御刀の全力機動による戦いはこれが初、この荒ぶる戦神がどのような力を秘めているのか。 得体の知れない期待と高揚感に促されるままに、冥夜はフットペダルを全力で踏み込んだ。


「(前方5000、もう捕捉されてるか・・・)」

 アラスカの白い大地を疾駆する、テムジン747『霧積』。 ヘルメットと兼用しているHMDに、ロックオンアラートと機体照合の結果が表示され、シートに座る菫の目が何時になく真剣なものとなる。
 TSF-TYPE01(YF-23/AL4)、機体名称『武御刀』。 オルタネイティヴⅣにおいてYF-23を元に開発され、カイゼルや凄乃皇を除けば間違いなく現行最強とも言われるスペックを秘めた機体。 それが菫の相手であり、それを駆るのは冥夜だ。
 無論菫はケイイチの指揮の元、VRによる試験や模擬戦は数え切れないくらい行っているし、この世界に来てBETAや戦術機との戦いも切り抜けた。 それでも今回の戦いにおいて、必ず勝てるという保障は見当たらないし、イメージすら湧かない。 距離計の値が小さくなるにつれ、菫の緊張は反比例して大きくなる。

「さて、最初は何時仕掛けてくるのかしら?」

 緊張を解す意味も込めて、武御刀の機影を眺めながら呟く。  1対1の模擬戦において菫は、決して自分から仕掛けない。 相手の出方や癖を知り、そうした中に出来る隙を見つけて反撃に転じるのが彼女の戦い方だ。 だが距離計が3000を切ったのに射撃が来ないと言うことは、どうやら冥夜は最初から近接戦闘に持ち込むつもりらしい。 スライプナーMk6の銃身を、青白い荷電粒子の光が包み込む。 そして武御刀の手にしている、カイゼルのスマートガンより長大なマルチランチャーの銃身が、同様の光を放っていた。

「勝っても負けても、恨みっこ無しよ!」
「望むところ!」

 両者の刃が交差し、閃光と衝撃が走る。 武を導いた者、そして武に導かれた者の真剣勝負が火蓋を切って落とされた。



 誰も彼もが、モニターの向こうで繰り広げられている戦いに魅了されていた。 CPとして座しているステラ、その隣にいる唯依とイブラヒムが、冥夜と菫の戦いにモニターから目を逸らせずにいた。 その状況に陥っていたのは3人だけではなく、リルフォートを始めとするユーコン基地各所に設置された特設モニターにより、ユーコンにいる全ての将兵が、横浜からやって来た余所者の戦いを食い入るように見つめている。
 JIVESによる画像処理がなされた二人の戦い、それを見た誰かが、こう呟いていた。

「なんという美しさだ・・・」

 白き舞台の中を2機の機体が跳躍ユニットの炎で流麗なラインを描き、互いが手にする剣で切り結ぶ。 刀身に纏う荷電粒子の光が弾け、巻き上がる砂塵と相まって幻想的な風景を演出する。 何秒かの鍔迫り合いの後、距離をとった射撃戦に移行。 飛び交う荷電粒子の弾丸は、さながら夜空に消え行く流星のようなはかなさを感じさせる。
 生身の人間と見間違うかのような2機の動き、Vコンバーターとメガドライヴの駆動音、金属の軋み。 戦いの中で見られる全ての動作が美しく見え、そして悲しくもあった。 VRと戦術機、経緯は違えど両者は戦いの為、敵となるものを殺し滅ぼす為に生み出された道具に過ぎないのだから。
 互角の戦いを繰り広げる二人の機体から送られてくる膨大なデータに、普段は冷静沈着で通っているステラが言葉を漏らす。

「信じられません。 あれを動かしているのは、本当に人間なのでしょうか」
「だが我々はその衛士二人に実際に会っている。 信じられないと漏らすのは野暮という物じゃないか?」
「そうですね、戯言を言ってすみません。 ドゥール中尉」

 そうイブラヒムに謝った後、再びCP業務に戻るステラを見た唯依も、彼女と同じ気持ちでいた。 武のカイゼルと同様の存在が、再び目の前で戦っている。 時空を越え、出会った人類達が生み出した英知の結晶、そして新たな可能性を自分は目にしている。

「(あいつも、ユウヤも同じ気持ちなのだろうか・・・)」

 観戦とは別の高揚感を感じながら、唯依はメインスクリーンを見つめていた。


・同時刻 ユーコン基地 アルゴス小隊戦術機ハンガー


「おっしゃそこだ! 押せ押せ~!」
「あ~惜しい! どっちも負けるな~!」
「さあさあどっちに掛ける! 乗るなら早い者勝ちだぜ!」

 一方、アルゴス小隊の戦術機が格納されているハンガーでも、ユーコン基地各所とは桁違いの熱気と興奮に包まれていた。 特設モニターの正面に陣取るタリサとヴァレリオが声援を送り、アルゴス小隊担当のメカニックマン達も参入し、更にはヴィンセントが彼らの掛けを取り仕切っていたりと、町内会の祭りのような様相を呈していた。
 だがユウヤだけは、その喧騒に交わる事無くモニターを見続けている。 今の自分にはない物、初めて唯依と対峙した時に得ることができた戦術機との一体感、あの感覚を再び得るためのヒントが、この模擬戦に秘められているのかも知れない。
 まるで瞬きすら忘れてしまったかのような集中力で、ユウヤはテムジンと武御刀の戦いを凝視し続けていた。

「(何処だ、今の俺に足りないものは何処にある・・・!)」

 もう何度目になるか分からない鍔迫り合いを解き、牽制射撃を放ちながら距離をとる菫のテムジン。 マインドブースターに追加された担架システム、そこに搭載された突撃砲が火を噴き、スライプナーの射撃と併せて猛烈な弾幕を展開する。
 それを物ともせず、多少の被弾は覚悟の上で冥夜の武御刀が跳躍ユニットとメガドライヴを唸らせ、瞬間的な跳躍をもって弾幕の中へと飛び込む。 突きの構えで手にするマルチランチャーの切っ先は、間違いなくテムジンのコクピットへ向けられていた。 勢いを保ったまま吶喊する武御刀の姿に、ユウヤの脳裏にある記憶が蘇る。

「(この気迫は、アイツらと同じ・・・!?)」

 モニターからも伝わる武御刀の気迫に、ユウヤは”紅の姉妹(スカーレット・ツイン)”と呼ばれた、ソ連軍の衛士二人の事を想起した。 おおよそ普通の人間とは思えない戦術機の操縦技術、そして姉にあたるクリスカが時折見せていた殺意とも思えるような気迫。
 その素性はユウヤは知らないが、戦術機越しでも感じることの出来た気迫は、彼女達が一流の訓練を受けた衛士であることは十分に予想できる。
 だが、まだ足りない。 あの一体感を得る条件に辿り着くには、もう一段階踏み込んだ何かを掴まなければなれないのだ。 それを見つけられず苛立つも、ユウヤは二人の戦いを食い入る様に見つめ続ける。
 先程から状況が一転し、今度は菫のペースに冥夜が飲まれる形となる。 スライプナーからは小刻みにビームが放たれると同時に、背部の突撃砲と併用して武御刀を追い立てる。 先程展開した弾幕の様な乱雑な射撃は鳴りを潜め、より正確かつ的確な射撃をヒットさせていく。 そして先程のお返しとばかりに間合いを詰め、菫のテムジンが突きの構えでスライプナーを勢い良く繰り出す。 最初の突きはギリギリ回避できた冥夜だったが、そこから振るわれた横薙ぎのスライプナーが戦術機の弱点である腰部の括れに直撃した。
 よろめく武御刀の姿に冥夜に賭けていた整備員たちの悲観の声が、同時に菫に賭けていた整備員たちの歓声が轟く。

「あーもう! 賭けやるんなら別のところ行ってきなよ。 落ち着いて観れないじゃない!」
「あれ~? そういうタリサだって、模擬戦みてギャーギャー騒ぎっぱなしじゃん。 人の事言えるのかな~?」
「う・・・うるさい!」

 タリサとヴァレリオが場外乱闘を始めるのを他所に、ユウヤは少しずつだが二人の戦いに秘められた”何か”を見出し始めていた。 先程の二人の近接戦闘を見る限り、演技や手加減といった物が一切存在していない。 その激しさは、嘗て唯依が自分に向けて言い放った”ごっこ遊び”の範疇に収まらない、一歩間違えばどちらかが機体諸共死傷するようなレベルだ。
 そして其れに気付いた瞬間、ユウヤは今まで見出せなかった答えにようやく辿り付く。

「これだ!!」

 急に大声を上げて立ち上がるユウヤに一同が驚き、ハンガー内がしんと静まり返る。  BETAや衛士が駆る戦術機との、命を懸けた戦い。 生きるか死ぬかの境界線に立たされたギリギリの状況のみでこそ、あの一体感を得る事が出来るのだと。
 先程までとは生き生きとした表情でモニターを見るユウヤに、タリサとヴァレリオは唖然とする。 モニターにはいよいよ大洲目となった武御刀とテムジンの戦いが映っていた。


 どの位、彼女と刃を交えたのだろうか。 どの位、弾雨の中を突き抜けたのだろうか。 コクピットシートに座る菫の息遣いは荒く、頬からは滝のように汗が滴る。 VRのOSであるMSBSの長時間の稼動により、菫の精神はかなり消耗している。 それは武御刀に乗る冥夜も同じことであり、武御刀の殺人的な機動によるGにより疲弊していた。
 思考が鈍り、視界がぼやけ掛けても尚、両者は操縦桿を握る力を緩めようとせず、半ば衛士としての維持と本能で戦いを続けていた。

「どう御剣さん! まだ行ける?」
「無論だ! 茶番だ何だと言われようと、私は勝つ!」
「上等! 最後まで付き合ってあげるわ!」

 威勢のよい言葉を放ち合う二人だが、それも疲弊した今の自分を見抜かれたくないが故の発言。 次で勝負が決まる。 演習場を疾駆しながら、そう冥夜と菫は悟っていた。 決めるのは勿論、近接戦闘による一撃。 二人の最後の闘志に答えるかのように、2機のセンサーが強く煌めく。
 ハーモニーを奏でるようにVコンバーターとメガドライヴが唸り、己の得物をそれぞれ構える。 泣いても笑ってもこれが最後の一撃、悔いは残さぬように両者共に最大出力による突進を始めた。

『はああああっ!!』

二人の雄叫びと共に2機の機体が重なり、すさまじい衝撃と共に砂塵が2機の周りを包み込む。 ユーコン基地の将兵達が固唾を呑んで中継を見守る中、もうもうと立ち込めていた煙が晴れてゆく。
 そこにはマルチランチャーの刃が肩の付け根に食い込んでいる菫のテムジン。 そしてスライプナーの突きを紙一重で回避し、マルチランチャーを振り下ろしたまま動かずにいる冥夜の武御刀の姿があった。
 両機体のステータスを確認したステラが、淡々と模擬戦の結果を告げる。

『模擬戦闘終了。 ガントレット1、機体に致命的損傷と判定。 よってブレイブ2、御剣少尉の勝利です』

 ステラが結果を言い終えた瞬間、ユーコン基地に二人の健闘を称える拍手が響き渡った。


・ PM6:30 ユーコン基地 アルゴス小隊戦術機ハンガー


 模擬戦を終え、デッキに固定された機体から降りる冥夜と菫を待ち受けていたのは拍手と歓声の嵐。 一連の戦いはユーコン基地のみならず横浜基地でも中継が行われており、それを見た全ての人々が熱狂し、二人の技量と機体性能の高さを大いに称えた。
 特に冥夜の武御刀の注目は予想以上であり、カイゼルと並び戦術機の新たな可能性に技術者たちは心躍らせた。 課せられた任務を終えて一段落した二人は、詰所にてささやかな祝杯を挙げていた。

「流石白銀君が見込んだだけあるわね、私も思わずムキになっちゃったわ」
「いえ、武御刀が力を貸してくれたお陰です。 それより、菫さんの機体を損傷させてしまって・・・」
「気に病む必要は無いわ。 修理はここにいる電脳暦世界の人が協力してくれるみたいだし、大尉もこの機に何かするかもしれないしね」

 グラス片手に冥夜に告げる菫は、とても嬉しそうな表情を浮かべる。 かつてより抱いていた望みを達成出来、その実力が確かな物である事に、菫はとても満足しているのだ。 対する冥夜も同様に、武を導いた菫の実力が偽りではないという事実に安堵している。
 このまま何もなければ横浜に帰るだけ、そう思っていた二人がいる詰所に、タリサが緊迫した表情で飛び込んでくる。

「御剣少尉、霜月少尉、大変だよ!」
「マナンダル少尉? そんなに慌てて、何があったの?」
「それが・・・!」

 息切れしながら話すタリサの説明に、二人の顔から笑顔が消える。 その内容はユーコン基地とソ連軍、そして横浜基地によるエヴェンスクハイヴ攻略作戦の発動だった。


2001年12月3日:ユーコン基地、ソ連軍、横浜基地共同によるエヴェンスクハイヴ攻略作戦を発動。 発動と同時に夕呼は支援部隊を派遣すると同時に、ユーコン基地に滞在する冥夜と菫に同作戦に参加するよう通達。



[2970] 第41話-境壊-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:8776c573
Date: 2011/09/29 13:41
・ 2001年12月7日 AM10:37 ソビエト連邦領内 エヴェンスクハイヴ勢力圏内


『無人戦術機部隊、BETA前衛と接触。 ALコロイド弾、一斉射準備完了』
『同時にロシア連邦軍VR隊、支援砲撃を開始。 ソ連軍も同伴して初期攻撃の準備中です』

 遠方に広がる戦いの炎を眺め、HQオペレーターの報告を聞きながら、冥夜は武御刀の管制ユニット内で深く
息を吐く。 ”オペレーション・ボーダーブレイク”と名付けられたエヴェンスクハイヴ攻略作戦の発案から決行まで、僅か4日。 事を起こす案を出すだけでも大事なハイヴ攻略戦を短期間の準備で行おうとしていることに、タリサから話を聞いた当初の冥夜は幻聴だと思っていた。
 だが実際は遠方で繰り広げられる無人機部隊の奮戦を眺めながら、こうして出撃の時を待っている。 この異質かつ異様な状況が成立しているのは、やはり電脳暦世界の支援があったからに他ならない。 ユーコン基地から抽出された部隊は各々が開発した新型武装を携え、ソ連軍は電脳暦世界から来訪したロシア連邦軍と共同で、祖国の領土奪還の一歩を踏みしめようと血気盛んな勢いで作戦に望んでいる。
 国連との共同作戦とはいえ、米国と並ぶプライドの高さに定評のあるソ連が異世界の助けを借りるとは、余程BETAに追い込まれ疲弊しているというのだろうか。 それとも彼らに自国領土に点在するハイヴ制圧を行わせ、そこに眠るG元素を独占することで米国と同様に世界の覇権を握るつもりなのだろうか。 あるいは菫が言っていた様に彼らに協力している異世界の国、つまりロシアがソビエトを吸収してしまうかもしれない。
 要らぬ推測を立てて作戦に集中していなかった自分を恥じていると、隣のテムジンに乗っている菫から声が掛かる。

「佐渡島以来の実戦ね、緊張してない?」
「大丈夫です。 後催眠暗示処置も済ませてきましたし、何より・・・」
「『横浜で待っている皆の元へ、必ず生きて帰ってみせる』でしょ? 顔に出てるわよ」

 自分が思っていた事を菫に言われ、冥夜はふっと笑みを浮かべる。 先の模擬戦で互いの絆を深め合った二人が、この作戦における要である事は言うまでも無い。 戦術機とVR、互いが互いを模した2機の共闘によりBETAを蹴散らしハイヴを落とす。 それを世界に見せ付けることで、互いの世界に生まれた軋轢や境界を破壊する。 横浜基地が決めたというこの作戦名には、そうした意味が密かに込められているのではないか、冥夜と菫は思っていた。
 無人戦術機による先制攻撃が行われた後、ソ連軍戦術機部隊とロシア軍VR部隊による浸透作戦が開始される。 ライデン系で構成されたロシア軍部隊が次々にBETAを焼き払い、近接戦闘に優れたソ連軍のミグシリーズが押し寄せる小型種を切り刻む。

「なんていうか、異世界の連中でも変わらないところってあるんだな・・・」
「ああ。 お前らしくないセリフだが、まったく同意見だぜ・・・」

 その苛烈なロシア軍の戦いぶりを見て、タリサの呟きにヴァレリオが同意する。 戦車級以下の小型種は火器を使うまでも無くVRのダッシュで轢き潰し、例え至近距離であってもバズーカやレーザーを躊躇無く撃ち、要塞級に至っては集中砲火で原形を留めないほどに破壊するのである。 重戦闘を売りにしているライデンの系譜だがまさかこのような運用をされるとは、今は亡き第5プラントの技術者達は思っても見なかっただろう。
 そしてまた1機のライデン512Aが、飛び掛ってきた戦車級を掴んだかと思うと、そのまま握り潰した。 噴出した体液が鉄黒色の機体に付着し、更に地面へと投げ捨てた残骸をまるで煙草を踏み消すように、近くを通る兵士級や闘士級ごと踏み潰す。 あまりのエグさに、それを目撃したソ連衛士すら『恐ろしい奴らだ』と漏らしたほどである。
 やがて光線級のレーザー照射が確認され、支援砲撃と共に放たれたALコロイド弾から散布されたナノマシンの霧が戦場を包む中、後方でアルゴス小隊を指揮するイブラヒムから通信が入る。

「お膳立てはカムチャッカのときと同じくソ連軍が行ってくれる。 我々アルゴス小隊は霜月少尉と御剣少尉を軸に展開し、他のユーコン基地の部隊と共にハイヴへ進撃する。 アルゴス小隊各員は、最後まで二人をエスコートし、全員帰還せよ」
『了解!』

 イブラヒムの指示が終わると、ユウヤ、タリサ、ヴァレリオ、ステラの四人が力強く復唱する。 ユウヤを除いた3人はBETAとの激戦に明け暮れ、このユーコンに生きて流れ着いた経緯を持つ。 そしてユウヤもカムチャッカでの死闘を切り抜け、尚もBETAと戦える素質を持っている。 そして、この戦いの主役は他ならぬ自分達だ、今更何を遠慮する必要がある。 作戦の直前にケイイチから託された新装備のステータスを眺めながら、菫が操縦桿を握り締めたその時、HQから新たな指示が下る。

『初期攻撃終了、ユーコンの各部隊はハイヴへ進撃を開始せよ。 繰り返す、全部隊は進撃を開始せよ』
「アルゴス1より各機、フォーメーション”キングス・マインド”で前進!」

ユウヤの指示と仲間達の復唱と共に、6機の巨人が曇天の空を舞った。


マブラヴ -壊れかけたドアの向こう-
#41 境壊


・ AM10:53 国連軍横浜基地 中央司令室


「御剣少尉、霜月少尉、アルゴス小隊の護衛の下目標へ進行中。 全軍の消耗率は3%以下です」
「分かったわ、引き続き監視と報告をお願い」

 作戦の様子を報告するピアティフに返答しながら、夕呼は指令室のメインモニターに映るテムジン『霧積』と武御刀の姿を見守る。 現地のソ連軍とユーコン基地を巻き込んだ、エヴェンスクハイヴ攻略作戦。 これまでに開発された新型機や新武装の実戦テストを兼ねた、佐渡島以上の見本市と言っても差し支えない規模で行われている。
 そして夕呼率いる横浜基地も、武御刀というジョーカーの実戦テストとして参加させている。 冥夜と武御刀が何処まで暴れられるか見物だが、この作戦にはもう一つの目的が夕呼達にはあった。
 
「下の準備は進んでいるの?」
「各センサーの配置はサギサワ大尉の指揮の下、ヴァルキリーズが順調に行っています。 ハイヴ突入には十分間に合うとのことです。 もしもの事態に備え、基地守備隊やフィルノートにも待機してもらっています」
「そう。 後は御剣達次第ね・・・」

 更なるピアティフの報告を聞き、夕呼はメインモニターとは別の画面を鋭い目で見つめる。 オペレーション・ボーダーブレイクにおけるもう一つの戦いが、この横浜基地でも行われていた。


・ 同時刻 横浜基地最深部 反応炉ブロック


「こちらヴァルキリー5、センサー設置完了! サギサワ大尉、初期設定は?」
「今皆にデータを送ったから、その通りにセッティングしてくれ! 涼宮中尉、ここの反応炉のステータスは?」
「はい、現在のところは以上ありません」

 青い燐光を放つ反応炉の周りで、ヴァルキリーズの戦術機が世話しなく機材を設置していく。 そしてそれらを一望できる制御室から彼女達を見守りながら、陣頭指揮にあたるケイイチと彼のサポートを担当する遙の姿があった。 みちる達が乗る不知火は完全に改装を終えていなかったが、生身の歩兵では時間が掛かるであろう機材の設置を軽々とこなして行く。
 それは戦術機という兵器が人型という形を取り、繊細なマニピュレーターを与えられ、尚且つそれを制御するOSと衛士がいるからこそ実現出来る芸当だった。 最後の装置を設置したヴァルキリー5、茜がケイイチから転送された数値を入力し終えると同時に、制御室にいるケイイチとアカネに報告を送る。

「ヴァルキリー5よりヴァルキリーマムへ、センサーユニットの設置と初期設定終了しました」
「ご苦労様。 センサー精度に影響の出ない範囲で、そのまま待機していてくれ」
「あのーサギサワ大尉、差し支えなければ今回の目的を教えて欲しいのですが・・・」
「そうだね。 でも柏木少尉、発言は涼宮少尉の後にした方が良かったかもしれないよ?」

 そうケイイチに諭されて晴子が通信ウインドウを見ると、途中で復唱を止められムッとした茜の顔が映っていた。 ゴメンゴメンと愛想笑いを浮かべて誤る晴子の姿に皆が苦笑いを浮かべる中、ケイイチは本作戦の趣旨について皆に説明を始めた。

 オペレーション・ボーダーブレイクのもう一つの目的、それは”BETAの通信方法を探ること”である。 大陸規模で展開するBETA達の通信方法や指揮系統は昔から模索されて来たが、依然として決定打となる説が生まれていないのが現状だった。 そこで夕呼とケイイチが注目したのはG元素、特にグレイ・イレブンによって発生させる事が出来る抗重力場の存在である。
 通常の動力機関では浮上すら出来ない凄乃皇の巨体を、易々と宙に浮かべるムアコック・レヒテ機関。 爆心地を中心に、永続的な重力異常を引き起こすG弾。 慣性エネルギーを吸収放出することで、別次元の機動性を戦術機に与えるメガドライヴ。
 これらの現象を引き起こすグレイ・イレブンを用いて、BETAは各ハイヴ間の通信を行っているのではないかという仮説を立てたのだ。 そこまで話した所で美琴が、ケイイチに質問を送る。

「質問~! じゃあ具体的にBETAは、G元素を使ってどうやって通信してるんですか? 電磁波の類は観測されていないんですよね?」
「良い質問だね鎧衣君。 BETAは”重力波”を発生させて、各ハイヴと連絡を取り合ってると、僕と香月博士は睨んでいるんだ」

 重力波という聞きなれない言葉に、首をかしげるヴァルキリーズの面々。 本来はブラックホールや超新星爆発と言った天体規模の現象で放出、観測される『空間の歪み』であり、進んだ電脳暦世界の技術でも完全な観測と立証には至っていない。
 だがBETAが宇宙より飛来してきた存在である以上、彼らを生み出した異星人達がそれらを活用しているとは否定できないのだ。 そしてBETA他の星の資源を使ってG元素を作り出し、それらを本星へ向けて送り出しているのは、G元素によってもたらされる恩恵で、彼らが文明を維持しているに違いないだろうとケイイチは蛇足として語った。

「皆に反応炉の周りに置いて貰った装置は、香月博士の理論で作った観測装置さ。 もっともそれだけでは精度が足りないだろうから、凄乃皇のML機関もアイドリングさせて、その変化も一緒に観測する」
「じゃあ、御剣さん達がエヴェンスクハイヴを攻めているのも」
「うん。 御剣少尉と菫君があそこを攻めることで、この基地にある反応炉が何らかの変化を出すかもしれない。 それを僕らが観測するんだ」
「だけどその為だけに、冥夜さんや菫さんを危険に晒すなんて・・・」

 反応炉がハイヴの中心であり、これもBETAであるかもしれない以上、エヴェンスクハイヴで行われている戦いの情報が各ハイヴへ伝達されるかもしれない。 もし夕呼やケイイチの仮説が立証できたのなら、BETAに対する諜報を主目的とするオルタネイティヴⅣは大いなる成果を上げる事となる。
 だがその為だけに、現地で戦っているソ連軍やユーコン基地の衛士達、作戦で共闘している電脳暦世界の軍を危険に晒している。
 必要となる犠牲が出ることに胸を痛める壬姫の言葉を聞いて、207組の皆は暗い表情を浮かべる。 だが、そのような態度を許さぬみちるが、彼女達に向かって吼えた。

「貴様ら、何を落ち込んでいる!」
『伊隅隊長!?』
「BETAとの戦いで犠牲が出ることは誰だって覚悟の上だ、だから副司令やサギサワ大尉を責める事は、絶対に許さん! それに・・・」
「それに?」
「私の部下が、そう簡単に死ぬ訳が無いだろう!!」

 最後の方で本音が見えたみちるの力強い言葉を聞いて、通信の向こうで武が笑う。 その様子にムキになる満ちるの様子に、何時しかヴァルキリーズ全体に笑いが広がって行った。
 これ以上、任務の度に部下の死を見届けていたくない。 ヴァルキリーズの長としての威厳を皆に見せているみちるの、彼女なりの甘え方なのかもしれないと武は思った。

「ああ。 だから俺達も頑張ろうぜ! 冥夜と菫さんの為にも!」

 必ず帰って来ると信じている。 誰もが武の言葉に頷きながら、作戦の成功と二人の帰還を願っていた。



・ AM11:43 ソビエト連邦領内 エヴェンスクハイヴ勢力圏内 ハイヴ


『グリード1よりアルゴス1へ。 今のところ、このゲートから出現したBETAの増援は無い。 奴らの巣の中で思う存分暴れて来い!』
「アルゴス1了解。 アンタ達の分までしっかり暴れて見せるぜ!」
『頼んだぜ。 こっちが片付いたら、俺達もすぐに行くからな!』

 ハイヴの入り口付近でBETAを掃討するロシア軍のライデンにエールを送られ、ユウヤ達アルゴス小隊が冥夜と菫を引き連れハイヴ内部に突入する。 ユウヤ達にとっては初めてとなる実戦のハイヴ突入。 シミュレーター上で何度も行っているし、今回入るのも若いハイヴだが何が起こるか分からない。
 虎の子である冥夜と菫を守りつつ、反応炉の破壊を達成してみせる。 胸の置くから込み上げる闘志を感じているのはユウヤだけではなく、BETAに故郷を奪われた他の3人も同じであった。 既にユウヤ達以外にもユーコン基地所属の部隊がハイヴへの突入に成功し、軌道上から降下してきたオービットダイバーズも加わり、我先にと最下層部へと進撃していく。

「センサーに反応! 前方より突撃級!」
「私達が道を作るわ! 皆は小型種と撃ち漏らしの始末をお願い!」

 ユウヤ達の返事を聞くと同時に、冥夜の武御刀と菫のテムジン『霧積』が前衛に立つ。 ご挨拶とばかりに両者が手にするビームランチャーが最大出力で火を噴き、何も知らずに突進してきた突撃級を根こそぎ吹き飛ばした。 自慢の装甲殻が融解し、断末魔の痙攣を見せる突撃級の残骸を戦車級を初めとする小型種がすり抜け、2機の元へ殺到する。

「そうはさせるかよ! アルゴス全機、兵装使用自由! ブレイブ2とガントレット1をカバーだ!」
「蹴散らしてやる! 行くよVGっ!」

 ユウヤの号令の元、作戦前にメガドライヴを搭載したアルゴス小隊の戦術機が、手にする電磁投射砲で冥夜と菫を援護する。 同じ36ミリの弾丸でも、やはり炸薬で射出するそれより破格の威力を誇っていた。 タリサとヴァレリオのアクティヴ・イーグルが持つ突撃砲タイプが小型種を蹴散らし、後方に控えるステラのイーグルが装備するライフルタイプが突撃級や要撃級を一撃の下に貫く。
 そしてユウヤの不知火弐型が2機の隣に立ち、エンジェリオと同じビームガンポッドで迫るBETAを捌いて行く。 BETAの勢いに衰えが見えたところで、トリガーを引く指を戻さぬままユウヤが叫んだ。

「全機、このポジションを維持! 噴射跳躍で一気に行くぞ!」
『了解!!』

 タリサとヴァレリオを先頭に、ユウヤ達は淡い光が放たれる横坑を怒涛の勢いで突き進む。 一方で地上でソ連軍とロシア軍が行っていた掃討戦がほぼ完了し、暇を持て余した部隊がHQの指示の元、次々にハイヴへと突入する。
 様々な新要素が盛り込まれたハイヴ攻略戦は、いよいよ最終局面に入っていった。


・PM11:52 横浜基地司令部

「地上におけるBETAの。 一部のソ連軍とロシア軍VR隊はハイヴに突入し、先行した部隊と合流しています」
「重力波観測の準備は?」
「何時でも出来ると、先程サギサワ大尉から連絡がありました」

 ピアティフから作戦の進捗状況と観測準備の報告を聞き。 夕呼は衛星軌道上から中継されるエヴェンスクハイヴの戦いを、司令室に居合わせた者達と共に見守っていた。 リアルタイムで送られてくる武御刀の戦闘データも良好な物であり、研究者冥利に尽きると夕呼は胸の高鳴りが抑えられないでいた。
 突入した一部の部隊は既に最下層に到達しようとしており、BETAの反応炉が何らかの動きを見せるのは時間の問題。 母艦級を増援として呼び寄せるにしても、何らかのコンタクトを行う必要がある。

「(必ず観測しなさいよ・・・!)」

 願っても無いチャンスを逃したくは無い。 地下で観測を始めているヴァルキリーズとケイイチ達が上手くやってくれる事を、夕呼は祈っていた。


「サギサワ大尉、センサーが重力波らしき波長を検知しています!」
「ビンゴだ! 香月博士にデータをリアルタイムで転送してくれ、これから面白くなるぞ!」

 現地部隊がエヴェンスクハイヴ最深部へと近づきつつある中、横浜基地の最深部に設置されたセンサーがエヴェンスクハイヴの反応炉から重力波らしき波長を検知する。 遙の報告にまるで薬でも決めたかのように興奮するケイイチが矢継ぎ早に指示を出し、夕呼のいる司令室へ即座にデータが転送されて行く。
 同時にどの方角から波長が来たのか、それ突き止める逆探知の結果が制御室のモニターに映し出され、遙がそれをケイイチに伝える。

「発信源は、やはりエヴェンスクハイヴの反応炉からのようです」
「ここの反応炉に変化は?」
「まだ変化は見られません。 重力波の発信も行われていないようです」
「変だな、ハイヴ間で連絡するならここの反応炉も重力波を出す筈なのに・・・」

 自分が思い描いていたBETAの情報システムとは大きく外れた結果に、ケイイチは唸り声を上げ考え込む。 人間が作るネットワークの場合、各端末やそれらの情報を統括するとサーバーといった機器は、有線無線を問わず網目のようなネットワーク網が築き上られている。 だが、今回の場合では、エヴェンスクハイヴの反応炉が重力波を発信したのに対し、横浜基地にある反応炉は依然として重力波を発信しないのだ。
 遙が心配そうに見守る中、司令室にいる夕呼から声が掛かる。

『それはアレね。 BETAの情報網がアンタの考えている形式じゃ無かったってことね』
「悔しいですけど、今回は僕の負けみたいですね。 香月博士」
「あれ~? アタシは勝負したつもりはこれっぽっちも無いわよ~」

 直接回線を用いて話しかけてきた夕呼の言葉に、図星だったケイイチは頭に鈍い痛みを覚える。 夕呼の予想はケイイチとは対照的に、オリジナルハイヴを中心とする箒型のネットワーク構造であると説明した。 つまり、なんらかの異常が認められたときにオリジナルハイヴへ連絡を取り、そこからの対処法が出来次第各地にあるハイヴへと伝達される方式なのである。
 超情報化社会である電脳暦世界の中で組まれ育ったケイイチが、そうした原始的な発送に至れないのはまさに当然の結果であったと言えるだろう。 そこまで分かったところでケイイチは、夕呼が次の目標を何処に定めているかを悟り、驚愕の余り頬から冷や汗が伝う。

「じゃあ香月博士、次の目標はまさか・・・」
『その話はそこまでにしなさい。 これから良い物が見られるわよ・・・』

 夕呼に促され、司令室から送られてくる中継映像を眺める遙とケイイチ。 そこにはヴェンスクハイヴ最深部へと突き進む、冥夜と菫、そしてアルゴス小隊の映像がノイズ交じりに映っていた。


・ 同時刻 ソビエト連邦領内 エヴェンスクハイヴ最深部 


『HQよりアルゴス小隊へ、どうやら君達が一番最深部に到達しているようだ。 健闘を祈る』
『残念だけどお前らに先を越されちまったな、だから俺達の分まで・・・きっちり反応炉をぶっ潰して来い!!』
『そのまま進め! 最早貴様らに、怖い物は無い筈だ!!』

 Hqと共闘する突入部隊の衛士達からの激励を一身に受け、迫り来るBETAを押しのけて突き進むユウヤ達。 地上の陽動と掃討戦が功を成したのか、これまでの道中で遭遇したのは小型種ばかりで大型種は片手で数える程度だ。 後は最深部にある反応炉を破壊すれば、残存BETAは近隣のハイヴへ向けて撤退を始めるだろう。
 これまで通ってきた中でも最大規模の横坑を進むユウヤ達。 そして遂に、青い光を放つBETA反応炉の元へとたどり着く。 その禍々しい姿に、ユウヤが思わず呟く。

「これが、BETAの反応炉か・・・!」
「さあ、仕上げは任せたよ! お二人さん!」

 ウインク交じりに告げるタリサに冥夜と菫が無言で頷き、反応炉越しに位置する場所へ移動した後、各々の愛機が手にする剣を構える。 テムジン『霧積』が手にするスライプナー、そして作戦前にケイイチから送られたシールド型特殊兵装『マイティ・スプライト』が合体し、一本の巨大な槍となる。
 一方冥夜の武御刀も砲撃形態となっているマルチランチャーを刀の如く構え、長く伸びた銃身から荷電粒子を纏わせる。 同時にユウヤ達も反応炉を囲むような陣形を取り、出現するBETAに備える。

「一発で決めるわよ、御剣さん!」
「元より承知の上!」

 両者の得物が一段と強く輝き、Vコンバーターとメガドライヴが唸りを上げ、2機が反応炉へ吶喊する。 テムジンの槍が反応炉の根元を貫き、武御刀がその刃で光り輝く部位を一刀の元に薙ぐ。 断面からODLと同じ液体が噴出し、反応炉の光がみるみる衰えていく。
 そして蝋燭の灯が消えかの如く反応炉の輝きが失われると、地上やハイヴ内に残っているBETAが大規模な移動を始めた。

『残存BETA、ヴェルホヤンスクハイヴ方面へと移動中! アルゴス小隊がやってくれたぜ!』
『一匹たりとも逃がすな、この戦域で全て潰せっ!!』
『ヒャッハー!! お掃除の始まりだぁー!!』

 ハイヴ攻略の一報に、将兵達の指揮とテンションが一気に沸点へと到達する。 エヴェンスクハイヴ攻略作戦は、銑鉄作戦以上の大勝利に終わった。


・ 2001年12月7日:エヴェンスクハイヴ攻略作戦『オペレーション・ボーダーブレイク』が成功。 ソ連軍、同ハイヴ後周辺の戦域を完全確保。 同作戦で実戦テストを行った新兵装の評価は良好、各軍事メーカーが人工島『アトランティス』で生産を行い、前線へと配備される予定。

・ 12月8日:合衆国国防省、無人戦術機の集中投入によるハイヴ制圧ドクトリン『レミングス』を考案。 MQ-1 ”プレデター”の改良型であるMQ-1C”ウォーリア”、後継機種となるRQ-4”グローバルホーク”の開発、F-15を無人化した”グレイイーグル”の開発を開始。 開発に当たって電脳暦世界よりバレーナ社、レイレナード社の技術提供を受ける。


・ 2001年12月10日 AM5:24 日本帝国 国連軍横浜基地 香月ラボ


「作戦が成功してすっかり有名人じゃない。 どう、そっちの様子は?」
『お陰でマスコミのインタビュー攻めで、対人恐怖症になりそうですよ。 ああ、御剣さんと武御雷の実戦テストも、アルゴス小隊の皆さんのお陰で無事に終わりました。 詳しいデータは、直接お渡しします』

 作戦が終わって3日後の早朝、ラボにある通信ウインドウには愚痴も混じりに語る菫の姿、そしてそれを見てニヤニヤと笑う夕呼の姿があった。 作戦を終えてユーコン基地へと帰還して早々、ハイヴ攻略の立役者となった冥夜と菫、そしてユウヤ達アルゴス小隊は時の英雄として注目を浴びた。 その活躍のダイジェストが双方の世界のマスコミにより盛大に伝えられ、特に冥夜と菫は格好の標的となった。
 だが冥夜は日本帝国を纏め上げる煌武院悠陽の妹であり、その存在を政治的利用されることを恐れた菫がインタビューを一手に担ったのだ。 元々ケイイチの元でテストパイロットという表には出ない役職が災いしたか、菫はBETAのような物量で取材を行うマスコミ達の対応に今まで追われ、あの時戦っていたときよりも疲労困憊したと夕呼に語った。

「とにかく、作戦参加お疲れ様。 アンタ達のお陰で、ハイヴ間の通信方法も判明したわよ」
『いえ、副司令が開発した武御刀とサギサワ大尉が送った装備、それにアルゴス正体を始めとするユーコン基地の支援があったから出来たんです。 私と御剣さんは、協力者として参加したに過ぎません』
「でも、そうなった状況を作ったのはアンタと御剣の模擬戦があってこそよ。 もっと胸を張っても良いと思うけど?」

 冥夜と菫を派遣して武御刀の性能を見せつけ、その作戦をダシにハイヴ間の通信方法を見つける実験を行った。 必要の為の犠牲が出ていることに、鉄のハートを持つと揶揄される夕呼でも流石に罪悪感を感じていた。
 だが今までの業が生んだ咎を受けるのなら、せめて地球上の・・・いや、太陽系からBETAを駆逐してからでも遅くは無い。 だからこそ、彼女は歩みを止めないのだ。
 その後も菫の報告を大体聞き終えた後、夕呼は今後の予定を菫に伝える。

「アンタ達は早急にこっちに戻ってきなさい。 こっちで得た情報はその時話すわ」
『了解しました。 横浜に戻れるのを楽しみにしています』

 そう告げて菫との会話が終わり、スタンバイ状態に移行したウインドウには一面漆黒に染まり何も映さなくなる。 デスクのシートに身体を預けた後、夕呼の意識は後で霞と純夏に起こされるまで、深い深い夢の中へと沈んで行った。


・ 2001年12月10日夜:ユーコンの将兵に見送られ、御剣冥夜と霜月菫が横浜基地へと同日中に帰還。
・ 翌日12月11日:香月夕呼、オペレーション・ボーダーブレイクで得た各ハイヴ間の通信方法とネットワーク形式の研究結果を国連に提示。 それにあわせて最大の脅威となるオリジナルハイヴ攻略作戦を立案。
・電脳暦世界12月:河城技研、エネルギーカートリッジを用いた戦術機用の携行型レーザーライフルが完成。 日本帝国軍へ優先的に導入して運用試験を行った後、国連軍への導入を予定。



[2970] 第42話-運命-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:8776c573
Date: 2013/12/31 20:51
・ 2001年12月13日 早朝 日本帝国 国連軍横浜基地 香月ラボ


「次の目標は、オリジナルハイヴ!?」
「副司令、本気でそう考えているのですか?」
「本気じゃなきゃアタシが言うはずないでしょう? まあ、どうせ後で伊隅達にも話すつもりだしね」

 冥夜と菫が戻って3日、激戦の疲労が取れぬ間も無く突然夕呼に呼ばれた二人は、彼女の口から語られた言葉に二人は己が耳を疑う。 エヴェンスクハイヴの攻略成功に沸き立つ今のタイミングで、敵の本陣を一気に潰そうと言う夕呼の言い分に、流石の二人も正気を疑ってしまったのだ。
 だがそう語る夕呼の顔に偽りであるという面持ちはサラサラ無く、自分達が戦っている間に行われたと言う実験で、喀什のそれを早急に潰さなくてはならない理由が分かってしまった故に、夕呼達は作戦を立案したのだろう。 明らかになったBETAのハイヴ間ネットワークの概要を、夕呼は二人に説明する。

「要するにBETAは、あるハイヴが手に入れた情報をオリジナルハイヴへ一旦送り、それらを総括した情報をオリジナルハイヴから全てのハイヴへと送信する方式・・・所謂”箒型構造”である事が、此間の作戦中にやった実験で分かったの」
「つまりオリジナルハイヴを潰せば、世界中にあるハイヴが情報網から孤立するって事ですね」
「そうね。 これ以上まどろっこしい戦いを続けて、アタシ達人類側の情報を逐次漏らすわけにはいかないわ」

 度重なる間引き戦やハイヴを得て、BETA側の対処もより顕著になっている。 ただでさえ多い物量の増大や、母艦級による増援がその良い例だろう。 もし何らかのミスで人類側が戦闘に敗北すれば、オリジナルハイヴを通じて世界中のハイヴへと伝わり、電脳暦世界の戦力でも太刀打ちできないレベルになるのは明白だ。 それに、この世界の国々、そして電脳暦世界の人々に生まれた確執や軋轢が足かせとなり、まとめて彼らやBETAに滅ぼされると言う事態になりかねない。
 そうなる前に人類側の全ての戦力を持って、オリジナルハイヴという地球上におけるハイヴ間ネットワークを破壊する。 それが夕呼の思い描くシナリオだった。
 そして、それらを早めなければならない理由がもう一つあると夕呼が話した時、それに気付いた菫がその答えを言う。

「・・・白銀君ね?」
「そうよ。 アイツはもう、そう長くこの世界には居られないわ」

 人類を勝利に導く切り札の一つにして、世界を纏め上げるにたりうる英雄である武。 彼がこの世界に別れを告げる時が、一刻と近づいているのだった。


・ 2001年12月13日:国連、オリジナルハイヴ攻略作戦を承認。 作戦決行は12月下旬を予定し、同日以降は間引き戦以外の大規模な戦闘は極力避けるようにとの通達が全部隊へ出される。


マブラヴ -壊れかけたドアの向こう-
#42 運命


・ 2001年12月14日 AM10:57 横浜基地 シミュレーター室


「B小隊各機、このままでは押し切られるぞ!」
「グズグズしてると、凄乃皇に置いて行かれるわよ。 蹴散らしなさい!!」

 仮想空間に形作られたハイヴの坑道を、みちる達ヴァルキリーズの面々が純夏が操る凄乃皇五型を導き進撃して行く。 シミュレーター戦にあたって、みちる達の乗機はユウヤの弐型を原型に改良を重ねた”不知火参型”に設定され、207組もフィードバック改修を受けた晴嵐の設定で望んでいる。 電脳暦技術との混血機ならではの戦闘力、そしてそれらを扱う衛士のテクニックによって、従来とは次元が違う戦いを繰り広げていた。
 先頭を進む武が、新たなる敵集団の接近を伝える。

「ブレイブ1よりヴァルキリー1へ! BETAの新手が接近中!」
「ブレイブ1は下がって合流! 凄乃皇と連携して殲滅するぞ!」
「了解っ!」

 淡く光るハイヴの内壁をえぐりながら旋回し、武のカイゼルがみちる達の元へと急ぐ。 武の視界には各々の得物を構えるヴァルキリーズの機体、そして前腕部の収束荷電粒子砲を前ならえの姿勢でチャージを始めている凄乃皇五型の姿が映っていた。
 突撃級の姿が望遠ではっきり見える距離に達した瞬間、何時にもまして力強いみちるの号令が下る。

「攻撃開始!!」

 凄乃皇の砲撃を合図に、カイゼルのスマートガン、不知火参型や晴嵐の携行型電磁投射砲、壬姫の晴嵐が装備する携行型レーザーライフルから閃光が迸り、前方から迫り来るBETAに向けて砲弾と光芒が殺到する。 過剰とも思える攻撃の前に突撃級の装甲殻も飴細工のように溶けて砕け散り、小型種は原型を留めず焼き払われるか衝撃波で四散して行く。
 襲来してきたBETAの8割を減らした所で、みちるが指示を飛ばす。

「よし、フォーメーションを維持したまま前進! 鑑、撃つ時はちゃんとコールするのを忘れるなよ?」
「了解っ!」

 再びカイゼルが前衛と共に前に躍り出て、その後ろを残存BETAを相当しながらみちる達が凄乃皇を引き連れて前進する。 初回のオリジナルハイヴ攻略のシミュレーター戦は、ほぼ無傷を保ったまま成功と言う形で終了した。


・ PM12:07 横浜基地 PX


「よしっ! 最初の訓練は大成功だったな」
「私達ヴァルキリーズはもう怖い物無しだね!」

 昼時になり、基地の将兵で賑わうPX。 そこに上場の結果に終わったハイヴ突入訓練の結果に、武と純夏、そしてヴァルキリーズの皆が昼食を楽しんでいた。 無敵の性能を見せ付ける凄乃皇五型、そしてそれを守護するヴァルキリーズの連携。 純夏の言うとおり、最早今のヴァルキリーズの前に敵は居ないのかもしれない。
 そう誰もが思ったその時、配膳トレーを携えたみちるが声をかける。

「そうとは限らんぞ鑑。 今回のシミュレーター訓練は擬装横坑や、母艦級の増援と言った状況設定が反映されていない。 それに今のヴァルキリーズはどれ一つ欠けても、互いに不利になる条件になる脆弱さを持っている」
「純夏の凄乃皇に、俺のカイゼル。 そして皆の一つが欠けてもか・・・」

 そう呟いた武がふとテーブルの方を見ると、皆が笑顔で返事をしてくれた。 凄乃皇は確かに強力だが、ラザフォードフィールドによる防御は動力源とそれを操る純夏に多大な負荷を掛けてしまう。 もし消耗の末に凄乃皇がハイヴ内で行動不能になってしまえば、皆まとめてBETAに屠られる結末が待っているだろう。 カイゼルも戦術機としては破格の性能を誇るが、単機で無数のBETAを相手にするのは些か無謀すぎる。
 凄乃皇を中心としたフォーメーションを組み、カイゼルによる遊撃行動で突破口を作り前進する。 それがみちるが思い描くヴァルキリーズの姿。 さらに冥夜の武御刀が加われば、武の負担が減らせると考えているのだ。 机に置いた配膳に手をつけようとみちるが箸を伸ばしたその時、配膳トレーを携えた菫と冥夜が訪れる。

「ずいぶん賑やかですね伊隅大尉。 ところで空いてる席、まだ残ってますか?」
「ああ、少しつめれば確保できそうだ。 榊、何処か空いてる椅子を持って来てくれないか?」
「はいっ!」

 みちるの命に千鶴が即座に座席の確保に向かい、『ボクも行くよ!』と美琴も彼女の後を追う。 同時に皆が菫と冥夜が座れる程度のスペースを作り、それを見た菫がヴァルキリーズの連携振りに舌を打つ。 そして座席を持ってきた千鶴と美琴に礼を告げ、二人はようやく食事にありつける事となった。
 定番メニューである合成鯖味噌を口へ運びながら、菫が会話に参加する。

「凄いですね、大尉の一言で皆が機敏に動くなんて」
「これも日頃の訓練の賜物って奴だよ。 そういう霜月少尉は、部下の扱いに困った経験があるようだが?」
「ええ。 向こうの世界で待っている仲間の指揮に手を焼いたことがありまして・・・」
「少尉のようなキレ者ばかりかと思ったが、お互い苦労するな」

 菫の話を聞いたみちるが、彼女の奮闘振りを想像して思わず笑みがこぼれる。 難癖のある上司と同僚が居ると聞いて、昔の自分を重ねたのだろう。 だがそのような者達であっても、背中を預けて戦い続ければ愛着や仲間意識が出来ていくのは何処の世界も同じ。
 それを知って安心したみちるは、菫に手を差し伸べながらこう告げる。

「この戦い、必ず成功させるぞ!」
「はい! 私達も可能な限り協力させてもらいます!」

 これから始まる最大の戦いを前に、揺るがぬ誓いと共にみちるの手を握る菫。 武を笑って元の世界に返すため、菫の最後の戦いが始まった。


・ 2001年12月14日:横浜基地、オリジナルハイヴ攻略に向けて国連に戦力の抽出を要請。 電脳暦世界の協力もあって、かなりの戦力が用意出来ると予想。

・12月16日:米国、人工島『アトランティス』で生産されるメガドライヴの原料に用いられるG元素を、G弾の一部を解体することで提供。 生産されたメガドライヴは世界各国の戦術機に均等に分配される予定。

・12月18日:ヴァルキリーズ、不知火参型、晴嵐改乙型への改修完了。 米国、FB-22”ストライク・ラプター”実戦配備開始。 アルフレッド・ウォーケン少佐率いる部隊が同機及び無人型F-15、UAF-15”グレイ・イーグル”の運用を開始。


・ 2001年12月20日 PM10:05 横浜基地 90番格納庫


「遂に完成したね、凄乃皇五型・・・」
「ああ。 人類の英知が詰まった、俺達の希望だ・・・」

 改装を終え、遂に現実の物となった凄乃皇五型の姿に、武と純夏はその威容に息を呑む。 オリジナルハイヴを含む全てのハイヴへの単機突入、単機攻略を可能とする人類の最終兵器。 全身に装備された過剰とも思える凶悪な武装が、その肩書きを確かな物にしている。
 着々と進む作戦準備だが、唯一人それを喜べない者がいた。 最初の呟きから一切声を発していない武に、純夏が尋ねる。

「どうしたのタケルちゃん? 浮かない顔しちゃって」
「ん? ああ・・・ もうすぐこの世界を・・・皆と別れるんだなって思うと、ちょっと寂しくなってな」
「そうだね、夕呼先生達も言ってるし・・・」

 そう遠くない未来、この世界と同等の平行世界の残滓で構築された今の武はこの世界から消滅する。 それが夕呼とケイイチが下した結論であり、純夏が知りうる残酷な結末。 そして良からぬ動揺を皆に与えない為、この事を知っているのは夕呼以外にみちると冥夜、そして菫くらいである。
 この合間見えた二つの世界にとって、武の存在はイレギュラー以外に他ならない。 それが本来あるべき因果に戻り、平行世界の安定を取り戻すのならやむを得ないと、武は自らの運命を受け入れていた。
 だが・・・冥夜を初め、この世界で知り合った全ての人々と別れてしまうのは、やはり寂しいなと武は語る。

「俺の存在が消えて、それを覚えてくれている人がいるとも限らない。 俺が”存在した”という事も、無かったことになるだろうからな」
「タケルちゃん・・・」
「分かってるけどさ、分かってるけど・・・!」

 純夏を助けるため、この世界を救うために多くの仲間と共に戦って来たが、結局は一人になってしまう。 武の心は皆に忘れ去られてしまうかもしれない恐怖と不安、そして悲しみに潰されそうになっていた。 爪が喰い込み、血が滲まんばかりに強く握られた彼の拳を、純夏の手が優しく包み込む。

「大丈夫、タケルちゃんが居なくなっても、私はタケルちゃんを絶対に忘れない・・・!」
「純夏っ・・・!」

 あの時とは逆の形で、堰が切れた武が純夏の胸元で嗚咽を漏らす。 互いの存在を確かめ合うように、二人は互いの身体を強く抱きしめ続けていた。

・ 2001年12月20日:オリジナルハイヴ攻略作戦『オペレーション・レイフォース』は12月24日に決行予定。
 同日:フィルノート、横浜基地よりインドネシアを経由して移動開始。 インド洋に展開する国連軍艦隊と合流予定。


・ 2001年12月23日 PM4:38 横浜基地 90番ハンガー


「いよいよだね、オリジナルハイヴ攻略戦」
「ああ。 俺達は遂に、ここまで来たんだな・・・」

 完成した凄乃皇五型を前に集う、戦乙女の称号を関した衛士達。 作戦前のブリーフィングを待つ武と純夏が漏らした言葉に、集結しているヴァルキリーズ全員が頷く。
 あらゆる状況を想定したシミュレーターによる突入訓練は数え切れないほど行った。 そして最後に必要となる、想定外の事にうろたえない度胸と勇気も兼ね揃え、今のヴァルキリーズには文字通り最強の部隊となっていた。
 そしてその最強の部隊を纏め上げるみちると、オルタネイティヴⅣ計画最高責任者である夕呼が、ブリーフィングを行うために武達の前に立つ。

「全員揃ったな? 早速作戦前最後のブリーフィングを行うが、その前に貴様らに告げたいことがある」

 意味深なみちるの発言に、その場に居合わせた全員が息を呑む。

「万全の準備を整えているとはいえ、オリジナルハイヴを直接攻略する本作戦は生還の可能性は100%保障出来ない。 この作戦に参加する事に怖気付いた者は、直ちにこのハンガーを去れ!」

 人類の命運を担う作戦に、心に迷いや揺らぎを持つ者を参加させる訳には行かない。 だがオルタネイティヴ計画直属と言う名目上、彼女達に選択権などある訳が無い。
 彼女達の覚悟と気迫を確認したみちるは、改めてブリーフィングを始めた。

「今回の目標はもう知っての通りだが、喀什にあるオリジナルハイヴ。 その最深部に位置する反応炉”あ号標的”の完全破壊にある」

 夕呼の解説を交えたみちるの説明を借りるなら、作戦概要は次のような手筈となっていた。
 作戦の第1段階、ユーラシアの最外縁部に存在する全てのハイヴに攻撃を開始。 ただしこのハイヴへの攻撃はあくまで陽動であり、効くかどうかは分からないがBETAの情報ネットワークをパンク状態にさせる目的もあると夕呼が補足を加えた。
 ある程度のBETA増援を確認したところで、作戦は第2段階へ移行。 第1段階の時点で武達は衛星軌道上で待機し、米軍を中心に構成された降下部隊が武達より先にハイヴへ降下。 突入口を確保した後、G元素生成プラントである”い号目標”へ目指して突入する。
 この世界の軍事バランスを大きく傾けるG弾やメガドライヴの原料となるG元素、それが大量確保できる機会が巡って来たとなれば、現行最大戦力を誇る米国が断らない理由は無いだろう。

「後はアンタ達が降下突入して、あ号標的を撃破すればめでたく作戦完了。 以上が『オペレーション・レイフォース』の概要よ」

 後戻りの出来ない、人類最大の作戦。 もしこの作戦に失敗したら、それはオルタネイティヴⅣの失敗を意味し、オルタネイティヴⅤへの移行を意味する。 最悪の事態を予想し不安に思う武の予想通りの事を、夕呼は蛇足として口にした。

「あ~そうそう。 もしアンタ達が失敗した場合、G弾の集中投入による作戦に変更されるわ」

 とても軽口ではいえないような事実を語る夕呼に、ヴァルキリーズの誰もが息を呑む。 爆心地を中心に広範囲に重力異常を起こすG弾。 それをユーラシア全域で大量に使用するとなれば、地球環境にどれほどの悪影響を及ぼすか見当がつかない。 更に夕呼は、それも唯の茶番に過ぎないと言う情報を武達に伝える。

「これはサギサワ大尉の書き置きからの情報だけどね、G弾は重力異常だけではなく、”この世界”と接する平行世界にも影響を与えることが分かったのよ。 そしてこの世界と電脳暦の世界は、白銀が来た事により思った以上に隣接しすぎている」
「じゃあ、その状態でG弾を大量に使ってしまったら?」
「最悪、この世界の事象が伝播し、電脳暦世界もBETAの脅威にさらされることになるわね」

 白銀が電脳暦世界に現れたと同時に、火星に出現したBETAのハイヴ。 BETAが存在しないこの世界において、それはタングラムが事象を書き換えない限りはイレギュラー極まりない事態だ。 そして原因を突き止めていく内に、G弾には隣接する平行世界の事象にも影響を与えるということが判明したのだ。
 重力異常だけではないG弾の副作用に、夕呼の前に居る誰もが驚愕する。 そして夕呼は、ケイイチの書き置きから知らされた衝撃の事実を、顔色一つ変えず話し始めた。

「当然、電脳暦世界の連中は見過ごすわけにはいかない。 だからオルタネイティヴⅤ派がG弾を使用する前、アンタ達が作戦に失敗したと分かった時点で、米国を初めとする全ての国に対し宣戦布告を行うそうよ」
「全世界に宣戦布告するって、それじゃあまるで・・・!」
「そう。 アンタ達が失敗すれば、奴らがこの世界を支配してくるって事。 さながら”国家解体戦争”って言えばいいのかしら?」

 G弾の使用阻止を名目に、プラントを中心とした戦力が米国に対し総攻撃を仕掛ける。 そのような事態が発生すれば、G弾の矛先はBETAだけに留まらない。 二つの世界に蓄積された軋轢が一気に決壊し、世界中を巻き込んで血で血を洗う大戦争へと発展して行くだろう。
 そして技術力の差による絶対的戦力差により、勝敗の結果は誰もが予想する通り。 この世界はBETAに代わり、新たな市場に飢えた電脳暦世界の企業による絶対的な支配下に置かれてしまう。 神話や伝承で語られる、全てを紅蓮の炎で焼き尽くす最終戦争が、いまや現実の物となっているのだ。
 だがそうした話題を軽口交じりで話す夕呼を見て、自分達が絶対成功させてくれると彼女が信じている事に武達は気付いた。

「だからアンタ達はこの作戦を絶対成功させて、アタシの元に帰って来なさい!」
『了解っ!!』

 夕呼の激励に、敬礼と復唱を持って答える武達。 そして作戦前の身辺整理の為、皆はハンガーを後にした。


・ PM6:39 横浜基地 PX

 夕食前の時間帯だというのに、人っ子一人居ないPX。 申し訳程度の照明が当たる座席に、武が一人座っていた。
 基地の将兵は後方待機に掛かる準備の為に夕食どころではなく、その影響なのか京塚のおばちゃんも姿が見当たらない。 もっともおばちゃんは正式な職員ではないので、不測の事態に備えて帝都の方へと一時退避しているのかもしれない。
 それに営業時間外であっても、簡単な軽食や飲料は備え付けられた自動販売機で用意することが出来る。 身辺整理を一足先に済ませ、作戦前の静寂を満喫していたその時、聞き覚えのある声が武の耳に届く。

「出撃前の整理はもう済ませたのか? さすが、人類最強の衛士と言ったところだな」
「神宮司少佐、それに月詠中尉まで!?」
「久しぶりだな、白銀中尉」

 突然のまりもと真那の来訪に、武は驚きを隠せない。 今までの多忙さからまりもとは余り顔を合わせていなかったし、真那とは銑鉄作戦以来の再開だった。 しかし何故、二人が一緒に居るのだろうか。
 そう武が疑問に思っていると、まりもの隣にいる真那がその理由を話してくれた。

「実は香月副司令に頼まれて、前からメガドライヴ搭載機の顧問として帝国軍に顔を出しているんだ」
「夕呼先生の頼みで? それで姿を見かけなかったのか」
「だがそのお陰で、帝国軍のメガドライヴ搭載機を操る衛士達の腕は格段に向上しているのだ。 少佐を責めないでやってくれ」

 大西洋上の人工島『アトランティス』で生産されたメガドライヴは世界各国に供給され、帝国軍も例外ではなかった。 だがメガドライヴを搭載した戦術機は、OSによるサポートを受けているとはいえ操縦性が通常機のそれ以上にピーキーな代物となり、このままは実戦で性能を発揮することが出来ないと、国防省は頭を抱えていた。
 そこで白羽の矢が立ったのが、かつて帝国軍に在籍した過去を持ち、現在は国連軍横浜基地でメガドライヴ搭載機”銀鶏”の衛士を勤めるまりもだったのだ。 この帝国側の要望に対し夕呼も彼らに利子付きで貸しを作るべく承諾。 まりもは愛機である銀鶏と共に帝都へと向かったのだ。
 そこでの出来事を、まりもは笑みを浮かべながら語り始める。

「今はメガドライヴを搭載した不知火を運用している、ウォードック隊の4人の衛士を養成しているわ。 衛士になって日は浅いけど、あの時の207小隊の様に飲み込みが早いわね」

 例え自分が居なくなっても、いつか自分を越える衛士が現れて必ずや地球上のBETAを駆逐してくれる。 その衛士になるかもしれない者達をまりもが育てているかも知れないのだ。 話を聞いている内に笑顔を浮かべていた武に、まりもが彼女なりの命令を彼に下す。

「だから白銀、必ず生還して私の教え子に会いに来い!」
「了解!」

 まりもと真那に敬礼を返した後、皆の元へと向かうべく席を後にする武。 戦士の風格が漂うようになった後姿を、二人は最後まで見届けていた。


・ 2001年12月24日未明:オリジナルハイヴ攻略作戦『オペレーション・レイフォース』開始 作戦開始と同時に、ユーラシア最外縁部にあるハイヴへの陽動攻撃を開始。 電脳暦世界からの救援部隊として、アイデルスター級強襲母艦”ブレイジングスター”と”パルスター”が衛星軌道上に到着。
同時刻: 企業・プラント連、オルタネイティヴⅤ発動阻止作戦『オペレーション・スローターアワー』実行部隊が衛星軌道上に集結。 『オペレーション・レイフォース』失敗と同時に、各国中枢部を攻撃予定。



[2970] 最終話-終結-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:8776c573
Date: 2013/12/01 02:33
・ 2001年12月24日 AM6:27地球 衛星軌道上

『先行した米軍部隊は、全機無事降下成功。 突入口の確保に入りました!』
『各地域の前線は現在も維持を継続中!』

 青く美しく輝く地球を眺めることが出来る、絶景スポットたる衛星軌道上。 そこに集結したHSSTの艦隊の中に、作戦の切り札たる凄乃皇五型、そして再突入仕様のスプーキーを纏ったカイゼルと武御刀の姿があった。
 作戦は第2段階へ移行し、先行して降下した米軍部隊は無人戦術機を展開させ、ハイヴ突入口の確保を始めている。 オリジナルハイヴ周辺のマップに表示された米軍機のマーカー、それらが向かう最初の目標こそ、”SW115”と呼ばれるオリジナルハイヴへの入り口である。
 衛星から中継される映像からは、ロールアウトしたばかりのFB-22A”ストライク・ラプター”、そして無人化されたF-15であるUAF-15”グレイ・イーグル”が次々と降下地点のBETAを屠る姿が見える。 有人機では不可能な速度でグレイ・イーグルのエレメントが要塞級に肉薄し、携行型の電磁投射砲で的確に急所を撃ち抜き無力化する。
 またストライク・ラプターも高周波振動長刀を手に、要撃級の一団に向けて吶喊。 斬り捨てた要撃級の赤黒い体液が機体に掛かり、名前の如く返り血に濡れながら得物をついばむ猛禽類のように思える。 たとえG弾を使わなくとも、自分たちにはこのような強大な力を持っていると、世界に見せ付けているかのようだった。
 だが、この作戦の主役は彼らではなく、他ならぬ自分達。 『主役は遅れてやってくる』とは、よく言ったものだなとカイゼルの管制ユニット内で武が思っていると、みちるから通信が入る。

「地上の梅雨払いがもうすぐ完了する。 貴様ら、覚悟は出来ているな!」
「大丈夫ですよ大尉。 遙と一緒にアイツに会うま・・・」
「速瀬、そういった話題は作戦中に口にするな。 戯れた事を抜かしていると・・・死ぬぞ」
「りょ・・・ 了解!」

 戦いの前に恋話をした者には確実に死が訪れる。 前に菫から言い聞かされた事を思い出しながら、みちるは作戦に集中するよう水月を諭す。 一方の水月も只ならぬみちるの気迫に押され、粛々と復唱を返した。 これから地獄の一丁目に向かおうとしているのに、浮いた話などしていられない。 それにこの作戦に生き残らなければ、孝之に二度と会うことができないのだから。
 グリップを握る力を強め、何時もの突撃前衛長らしい表情を取り戻す水月。 そして想い人を奪い合う宿敵にして親友の声が、強化装備のインカムに聞こえてくる。

『HQよりヴァルキリーズ、SW115周辺のBETA掃討完了。 直ちに降下を開始せよ』
『全艦減速開始! これよりオリジナルハイヴへ降下する!』

 14人の戦乙女を内包した再突入カーゴ、それらを積載したHSSTの軍勢がオリジナルハイヴ目掛けて降下する。 直前に降下した艦隊によるAL弾やALコロイド弾による爆撃によりレーザー照射には万全の策を施しているが、それでも撃墜されないと言う保証は何処にも無い。 HSSTが撃墜されてしまえば、積載されている機体も仲良くお空のお星様になってしまうだろう。
 だが降下中のHSSTには、それを凌ぐべくある秘策が用意されていた。 先陣を切るHSSTのクルーが、低出力レーザー照射を受けていることを報告する。

『重光線級の照射を感知! 此方を狙っています!』
『全艦、ALミスト展開! 彼女達を送り届けるまで持ち堪えるんだ!』

 艦隊指揮官の指示と共に、大気圏を突入するHSSTが艦の各所から煙のような物を発生させる。 光線属種のレーザーを減衰させるALコロイド、それをHSSTの表面から散布することで、少しでもレーザー照射に耐えられるようにしているのだ。 ヴァルキリーズをオリジナルハイヴへ送り届ける為に、一秒でも長く照射に耐えてくれれば良い。 クルー達の精一杯の願いに答えてくれたのか、一回目の照射で撃沈されるHSSTは1隻も無かった。
 カーゴをパージする予定高度へ徐々に近付くが、無常にもレーザー照射の第2波を告げる警報が鳴り響く。

『第2照射来ます! 目標は・・・我々ではありません!』
『まさか凄乃皇か!?』

 第5戦隊旗艦を務めるシャイローの艦長が気付いた時には、凄乃皇は重光線級のレーザーの集中砲火を受けていた。 レーザーはラザフォードフィールドで防げるので直接的な被害は無いが、照射を受けた分だけ純夏とML機関に負荷が掛かってしまう。
 これから突入するオリジナルハイヴ内では何が起こるか予測できず、それゆえ攻略の要である純夏を消耗させる訳には行かない。
 何か策を思いついた武と冥夜が、網膜に映る通信ウインドウを通じて互いに頷き合った。

「行くぜ冥夜!!」
「承知した!」

 2機を包むスプーキーのロケットモーターが火を噴き、武と冥夜の二人が艦隊に先んじて降下する。 二人が先に降下し、スプーキーに搭載された兵装を持って重光線級を殲滅するつもりなのだ。 その真意を察したみちるの声が、二人に向けて叫んだ。

「白銀! 御剣! SW115だ、突入に遅れるなよ!!」
「人類を・・・頼むぞ!!」
「駆逐艦乗りの意地と誇りに掛けて、皆を降下させてみせる! だから行けぃ、シルバー・スレイヤー!!」
「フランスを・・・ユーラシアを取り戻してくれ!!」
『了解!! 艦長達も、武運と祝福を・・・!』

 ノイズ交じりに聞こえるみちる、そして艦隊クルー達の激励に復唱し、武と冥夜の機体が地球へと降下する。 未来と言う名の贈り物を皆に託すため、武の最後の戦いが始まった。


マブラヴ -壊れかけたドアの向こう-
#Final 終結


・ 同時刻 インド洋沖 特装艦”フィルノート”

『先行突入した米国軍部隊は、順調に”い号目標”へ向け進行中!』
『SW115周辺の重光線級が降下艦隊にレーザー照射中!』

 泥流のように流れるオペレーター達の戦況報告、そして遥か彼方のインドの大地から見える閃光と煙。 定位リバースコンバート(FRC)カタパルトに固定されたテムジン747『霧積』、そのコクピットに座る菫は静かに出撃の時を待っていた。
 澄み切った地球の海を思わせる国連軍のカラーリング、所謂”UNブルー”に色塗られた機体の右腕にはテムジンの系譜たる装備である”スライプナーMk6”が。 兵装担架システムを再現した背部のフレキシブルアームには携行型電磁突撃砲を、そして左腕にはスライプナーとの合体機能をもつ多目的シールド”マイティ・スプライト”が用意されている。
 本来は747Hのような重装備を施しておきたい所だが、ハイヴ攻略の必勝法が何よりスピードだと言うことを考慮すると、これくらいの装備が妥当だろうと菫は判断したのだ。 それに武達には、純夏が駆る凄乃皇五型という動く要塞がある。 自分達の同行も蛇足ではないかと感じ溜息を漏らす菫の耳に、隣のFRCカタパルトで同じく待機しているケイイチから声が掛かる。

「緊張しているのかい?」
「いえ、私達が出なくても勝てるような気がして・・・」
「そんな事言って良いのかい? 君は白銀君が元の世界に帰るまで、最後の瞬間まで見届けるんだろう? それに僕らはヴァルキリーズと同行して、オリジナルハイヴの状況をリアルタイムで中継する役割があるしね」
 偵察型VRとして生み出されたバイパー系列、その系譜として開発された第3世代型VR”マイザー”。 それをケイイチ自ら改造した”マイザー∇(ナブラ)”を通じて、横浜基地に居る夕呼の元へハイヴ内の情報を直接送ろうというのだ。 ケイイチがVRに乗っての出撃は、9.11クーデター以来となる。 生きて帰れる保証の無いこの任務を申し出たのもケイイチだったし、何より彼は菫と同じく武の行く末を見届けたかったのだ。
 武の事を考えている事は彼女と同じか、そうケイイチが思っていたその時、オペレーターから新たな報告が舞い込む。

『重光線級、凄乃皇にレーザー照射を集中!』
『ブレイブ01、ブレイブ02、急速に地上へと降下していきます!』

 間違いない。武と冥夜の二人が先に地上へ降下し、凄乃皇と純夏を消耗させる重光線級を殲滅するつもりだ。 二つの流星が地上へと降り注ぐ姿を目撃した菫が、シュバルツ艦長に向けて叫んだ。

「艦長! 発進許可を!」
「許可する。 必ず生きて帰って来るがよい!」

 MSBSが起動し、背中のVコンバーターが甲高く唸りを上げる。 オペレーター達が唱える発進シークエンスが、まるで魔法の呪文のように聞こえた。
 そしてオールグリーンのコールと共に、ケイイチと菫が呪文の締めというべき言葉を口にする。

「ライネックス1、マイザーナブラ、出るよ!」
「ガントレット1、テムジン『霧積』、行きます!」

 転送座標は、オリジナルハイヴ突入口であるSW115。 発進の合図と共に、FRCカタパルトに形成されたゲートへ飛び込んで行った。


・ AM6:40 オリジナルハイヴ SW115周辺

「邪魔だぁーーっ!!」

 荒野の果てまで響かんばかりの雄叫びと共に、武を乗せたカイゼルを内包したスプーキーが突き抜けんばかりの勢いで戦場を飛翔する。 側面に展開された4門のGAU-8が轟音と共に弾幕を張り、進路上に存在するBETAを大小関係なく粉砕して行く。 目指すは降下中の艦隊及び凄乃皇を狙う重光線級、監視衛星から得たデータリンクに導かれるがまま、武はスプーキーに更に加速を命じるべくフットペダルを踏み込む。
 武の闘志に反応するかように、スプーキーのロケットモーターに更に燃料が注ぎ込まれ、軽い衝撃と共にスプーキーが更なる速度域へと到達する。 それは戦術機の跳躍ユニットでは成しうる事が出来ない領域、音の速度を越えようとしていた。 最早止められる者等誰も居ない武の視界に、上空に向けてレーザーを照射する重光線級の姿が見える。
 それを見た武は音声コマンドを起動し、スプーキーに眠る新たな装備を呼び覚ます呪文を唱えた。

「アベンジャー、ワイドモードに変更! レールキャノン、展開!」

 武の音声入力に呼応して4門のGAU-8を保持するアームが動き、扇状に展開して広範囲のBETAを掃討する。 そして後部ユニットから2門の電磁投射砲の砲身がせり出し、カイゼルの頭部を挟み込むような形で展開する。 99型のそれを遥かに上回る砲身長を誇る電磁投射砲は、広い射角を持つGAU-8とは対照的に前方に存在する目標しか射撃出来ない。 だが武はレーザー照射に夢中になっている進路上の重光線級に向けて、躊躇い無くトリガーを引いた。
 砲口から迸る閃光と電撃、そして小型種を軽く吹き飛ばすほどの衝撃が戦場を駆け抜ける。 長大なレールと膨大なエネルギー投入により、極限まで加速された砲弾が重光線級の硬い表皮を嘲笑うかのように引き千切り、射線上に存在する他の重光線級も纏めて薙ぎ払った。 一発、また一発撃つ度に天空へ伸びるレーザーの数が減り、緩いカーブを描きながら連射することで広範囲に展開していた重光線級を一気に減少させる。
 分離された再突入カーゴが地表へ降り注ぎ始める中、武と同様に重光線級の殲滅に当たっていた冥夜の声が彼の耳に入る。

「タケル! 私の方は片付けてきたぞ」
「冥夜か、俺の方ももう直ぐカタが付く、突入口の確保を頼む!」
「了解した! タケルも急ぐのだぞ!」

 推進剤と残弾が心許無くなったスプーキーと分離し、プラズマジェットの噴射炎を輝かせながら冥夜の武御刀がSW115へ向かう。 一方の武は残弾を全て用いて最後の重光線級の集団を潰した後、スプーキーを纏ったままSW115へと向かった。
 遥か上空から降り注ぐ再突入カーゴの破片に注意しながらカイゼルを疾駆させていると、センサーに2つの空間反応を検知する警告が鳴り響く。

「(この反応は、サギサワ大尉と菫さんか!)」

 そう武が悟った時には、太陽の如く輝く光球が空中に出現し、一瞬の閃光と共に2対のVRらしき機影がカイゼルの前に姿を現す。 レーダーに『FRIEND』と表示された機体は、まごうことなくケイイチのマイザーナブラと菫のテムジン『霧積』であった。 武が作ったであろう景色眺めながら、二人が武に声をかける。

「今頃来てすまないね。 君一人でこれだけのBETAを平らげるなんて、やはり英雄はこうでなくっちゃ!」
「流石白銀君ね。 もう直ぐ皆も降りてくる頃だし、SW115へ行きましょ!」
「はいっ!」

 ケイイチと菫を引きつれ、SW115へ近づく武だったが、突如として周囲が薄暗くなる。 まだカーゴの破片が残っていたのかと肝を冷やす武だったが、その不安も聞きなれた声と共に消え失せた。 武達の周囲に現れた影、それは上空から無事降下してきた凄乃皇による物だったからである。

「タケルちゃ~~~ん!!」
「純夏! それに皆!」
「よくやった白銀! 貴様と御剣のお陰で、全機無事に地上へ降下したぞ!」

 純夏の呼ぶ声と同時に、みちるが誰一人欠ける事無く地上へ降りたという報告が武の耳に入る。 ここまでにおいて全員の無事に安堵する武だったが、みちるの次なる指示を耳にし意識を改めた。

「行くぞ! SW115より、全機オリジナルハイヴに突入する!!」
『了解!』

 戦いは、また始まったばかりだ。 スプーキーを分離し、身軽になった事を喜ぶかのようにカイゼルが喀什の空を舞う。 この世界の運命を託された武とヴァルキリーズが、あ号標的が待つオリジナルハイヴへと突入した。


・ AM7:28  国連軍横浜基地 中央司令室

「ヴァルキリーズ全機、SW115よりオリジナルハイヴ突入確認!」
「ピアティフ中尉、サギサワ大尉との直通回線はどう?」
「データリンクは今のところ良好です、映像をサブモニターに回します」

 数多くのオペレーター達がひしめく中央司令室、そこでは夕呼や遙、そしてラダビノットを初めとする横浜基地のトップ達がモニターに映るヴァルキリーズの戦いを見守っていた。 佐渡島の戦いで密かにリーディングによって手に入れていたハイヴのマッピングデータを頼りに、武とヴァルキリーズの衛士達は怒涛の勢いで”あ号標的”への最短ルートを突き進んでいる。
 順調過ぎる、唯一つの不安が夕呼の心に絡み付いていた。 既に中階層に到達したヴァルキリーズを前に、BETAのリーダーであるあ号標的が何らかの対処を打たない筈は無い。 それに夕呼が気に掛けていたのは電脳暦世界の連中だ。 前線で戦う将兵はともかく、軌道上に待機している艦隊が怖いほどの沈黙を保っている。 唯一向こうの国連から派遣されてきた”パルスター”と”ブレイジングスター”が、積極的にVR隊の増援を各地に転送しているくらいだ。

「さぁて、クリスマスのプレゼントは、誰に手渡されるのかしらね・・・」

  やはりケイイチが残した書き置き通り、最悪の事態が起こってしまうのか。 そう思いながらモニターの墨に表示された日付を眺めた後、誰にも聞こえないような声で呟いた。


・ オリジナルハイヴ内  第1隔壁周辺

「鎧衣! ”門級”の開放作業は進んでいるか!」
「今開閉剤を注入しています! 完全に開放するまで、後180秒です!」
「よし! 珠瀬と朝倉は鎧衣をカバー、残りの物は凄乃皇を全力で死守しろ!」

 美琴の報告と全員の復唱を聞き終えた後、みちるも凄乃皇を守るべく不知火参型を跳躍させて移動する。 オリジナルハイヴに突入し、”あ号標的”に続く横坑に設けられている”門級”と呼称された隔壁を前に、ヴァルキリーズがそこを突破しようと奮戦していた。
 凄乃皇のML機関に引き寄せられた大量のBETAが、皆が来た道を辿って次々とヴァルキリーズへ襲い掛かる。 ヴァルキリーズ各機に搭載された火砲、そして凄乃皇五型の全身に搭載された近接防御用のパルスレーザー砲が迫り来るBETAの群れを迎撃するが、それでも追い付かないほどの物量が凄乃皇やヴァルキリーズを飲み込もうとしていた。

「皆、射線上から離れて!」
「っ! 全機、凄乃皇の射線上から退避しろ!」

 純夏の呼びかけと同時に、凄乃皇五型の両腕に装備された5連装荷電粒子砲が動き、10の砲門が後ろから津波の様に押し寄せるBETAへ向けられる。 純夏のコールと共に、粒子加速器から生み出された荷電粒子の濁流が一斉に放たれ、佐渡島の時と同じように無数のBETAを根こそぎ吹き飛ばしてしまった。

「まだまだぁ~~~!!」

 純夏の雄叫びと共に砲撃は止まる所を知らず、1門ずつ連射される荷電粒子砲の応酬がBETAを次々と飲み込んで行く。 そして運良く其れを逃れた固体も、ヴァルキリーズの制圧射撃により瞬く間に無残な肉片へと化して行った。
 そして壬姫と直美の護衛を受けて隔壁の開放作業に入っていた美琴が、隔壁完全開放の報告を皆に伝える。

「3・・2・・1・・・ 伊隅大尉! 隔壁開放完了しました!」
「よし! 鑑、今の内に隔壁を通過しろ! 鎧衣は続けて隔壁の破壊準備だ!」
『了解っ!!』

 純夏たちの復唱の後、ML機関とメガドライヴの力を借りた凄乃皇五型の巨体が音も無く浮き上がり、完全開放した隔壁へと一目散に向かう。 そして閉塞剤を注入するよう機材とS-11をセットし、美琴の晴嵐が殿を任せられた武と冥夜と共に閉まり始める隔壁を通過した。
 隔壁が閉まり終えた直後に聞こえて来るS-11の炸裂音を聞きながら、武が激励の言葉を送る。

「やったな美琴! タイマーセットも完璧なタイミングじゃないか!」
「そんな褒めないでよ~、照れちゃうじゃないか~」
「だがそなたのお陰で、横坑から来るBETAを食い止められたのだ。 もっと胸を張るがよい」
「いやいや、張るほどボクに胸なんて~」

 武と冥夜のおだてに乗ってしまったが故に、うっかり墓穴を掘るような発言をしたことに気付いた美琴の顔面が青ざめる。 その一部始終を目の当たりにした皆が笑い声を上げ、あのみちるも口元を緩ませていた。
 初めて目に見えた自分の成果に美琴のテンションが最高潮に達していたその時、機体に高精度センサーを装備する千鶴と梼子が、新たなBETAの来訪を皆に告げる。

「前方に新たなBETAの集団を確認! 」
「凄乃皇の荷電粒子砲掃射後、突撃前衛は近接戦闘で掃討に入れ! 出来る限り弾薬を節約するんだ!」
『了解!!』

 再び凄乃皇の腕部荷電粒子砲から光が迸り、BETAの大群を灰燼へ帰す。 そして水月、光、慧の3人が残存しているBETAを長刀で次々と斬り捨てていく。 

「グズグズしてると、速瀬中尉達に片付けられちゃうわよ白銀君!」
「はいっ! 行くぜ冥夜!」
「承知!」

 菫の声に導かれるように、カイゼルと武御刀がテムジン『霧積』に誘われ水月達と共にBETAを狩り始める。 三人の機体は共通して弾切れを心配することの無い光学兵器をそれぞれ装備し、その長所を生かすべく射撃を主体とした戦闘を繰り広げていた。
 ビームに穿たれ、もんどりうって沈黙する突撃級を見た水月が、冷やかすように武達に語りかける。

「あ~あ、あんた達だけそんなハイテクな武器使えるなんて、ホント羨ましいわ~!」
「僻まないでくださいよ速瀬中尉、私達の機体の方が低コストですから副司令達も喜んでますって!」
「・・・数が多けりゃ結局変わらない」

 慧と光になだめられてフンッと鼻息を荒げつつも、水月は目の前に居る要撃級を長刀で切り伏せる。 高周波振動長刀の切れ味に惚れ惚れしながら、水月が二人に指示を飛ばした。

「仕方ないわねぇ、なら性能の違いが戦力の決定的差じゃない事を、白銀達に見せ付けてやろうじゃない!!」
「了解っ!」
「・・・右に同じ」

 水月の指示に応え、彼女と共に颯爽とBETAの群れに飛び込む慧と光。 そして彼女達が作り上げた血の絨毯に沿って、凄乃皇が幽雅に通過して行く。
 あ号標的が鎮座する大広間(メインホール)、それに繋がる第1隔壁まで目前に迫っていた。


『ああ! ジャン・ルイがやられた!!』
『落ち着けジーン、君が指揮を引き継ぐんだ!』
『くそっ!毎度毎度数が多すぎるぜ!』
『ならプランBで行こうぜ』
『で、そのプランBってのは?』
『あぁ? そんなもんねぇよ! 行くぜ!!』

 戦乙女に導かれ、凄乃皇の巨体がハイヴの奥深くを進む。 00ユニットとしての力により最早世界中のネットワークを意のままに操れる純夏は、ネットワークを通じて自分達と共に戦う戦士達の声を聞いていた。
 自分達の故郷を取り戻そうとする者、死んだ仲間の仇を打とうとする者、残された家族を守るために戦う者。 その理由はまさしく十人十色であるが、こうして人類が一つにまとまって戦っている事を知り、一時的だが武の望む世界が出来上がっていることに純夏は嬉しく思った。
 武が去った後も、この状態が続いてくれる事を純夏が願っていると、遂に二つ目の隔壁の前にヴァルキリーズと凄乃皇が到達する。

「出番だ鎧衣! 一つ目の隔壁より手早く空けてしまえ!」
「了解!」

 みちるの指示に復唱した美琴の晴嵐が、開閉剤の詰まったドロップタンクを背負って隔壁を制御する門級BETAの脳へと開放剤の注入を開始する。 同時に壬姫と直美が展開し、美琴を守るべく弾幕を抜けて来たBETAを片っ端から撃破する。 並外れた射撃技能をもつ二人だが、壬姫の技能は恐るべき芸当を見せ付けていた。
 壬姫の晴嵐の頭部に設けられた、超高精度スコープが要撃級の尾にある歯茎までクッキリと映し出す。 壬姫のか細い指がトリガーを引き、河城技研から供与されたレーザーライフルのマズルから閃光が煌めく。 開発者の名を取って『唐沢1型』と命名されたレーザーライフルから放たれた高密度の光子が、スコープに入った要撃級を一撃の下に射抜いた。
 唐沢1型から役目を終えたエネルギーカートリッジが即座に排莢され、リロードを確認した壬姫が次の目標を見定める。 狙いを定める速さと精度は、世界最高峰と呼ぶに相応しいレベルであった。 まとめて2体を葬るのは当たり前、直美が4体撃破すれば、壬姫はその倍を上回る。
 そのインチキまがいの技量の秘密を探ろうと、直美は壬姫に問いかけた。

「珠瀬さん、何でそんなに早く狙撃できるの?」
「う~ん、秘密です!」
「ああ、そう・・・」

 即答で拒否された直美は装備する120ミリ電磁速射砲をバーストに切り替え、その憂さを晴らすように小刻みにBETAを撃ち払う。 これも彼女がもつ才能だろうなと納得したところで、美琴の報告が舞い込んできた。

「此方鎧衣! 隔壁の完全開放を確認!」
「今だ鑑、早く突破し・・・っ!?」

 みちるが純夏にそう伝えようとした瞬間。 突如として横坑全体、いやハイヴそのものが蠢いているかのような強烈な振動がヴァルキリーズを襲う。 そして隔壁前の内壁が突如決壊したかと思うと、濛々と上がる土煙の奥に見たくも無いあのBETAの姿があった。

「母艦級!?」
「来ると思っていたが、こんな所で現れてくれるとはな!!」

 あ号標的の命を受け、武達を排除するべく送られた母艦級BETA”メガワーム”。 隔壁にも似た開口部がゆっくりと開き、そこから要塞級を含む大量のBETAが放出される。
 既に凄乃皇は主砲のチャージに入っており、腕部の荷電粒子砲はもう使用出来ない。 他に使用出来る武器と言えば、機体各所に配置してあるS-11弾頭ミサイル位だ。 だが其れを使うとなれば、強烈な爆風でヴァルキリーズの皆を巻き込んでしまう。 今の自分に何も出来ないのか純夏が思考を張り巡らせていたその時、再び衝撃と共に横坑の壁が崩れた。
 母艦級とは異なるBETAの増援が、擬装横坑から現れたのかと誰もが思った。 だが同時に聞こえてくる声に、武は聞き覚えがあった。

「ヴァルキリーズ、ここは我らに任せてもらおう!」
「先行した米軍機、それにこの声は・・・ウォーケン少佐!」

 濃緑色に塗られた機体の右肩に見える、米国軍所属を現す国籍マーク。 そして従来の戦術機と一線を凌駕する、鋭利かつマッシブなシルエット。 ”い号標的”に向かった筈の米軍部隊を指揮するウォーケンが駆るFB-22A”ストライクラプター”が、吹き飛ぶ破片と共に颯爽と武達の前に現れる。 突然の助っ人の出現に、半信半疑のままみちるがウォーケンに尋ねる。

「ウォーケン少佐! どうして貴方がここに!?”い号目標”の制圧はどうなったんです!?」
「何、探検していたらちょっと道に迷ってね」

 そう応えるウォーケン機に随伴している無人型F-15”グレイ・イーグル”が彼の命を受け、有人機を遥かに上回る機動で母艦級から放出されるBETAの群れに突っ込む。
 2機のグレイ・イーグルが両手に持つ電磁突撃砲が金切り音を奏でる度に、凄乃皇とヴァルキリーズに迫るBETAがこれまた凄い勢いで肉片へと仕立てて行く。 そして片方のグレイ・イーグルの支援を受けながら、1機のグレイ・イーグルがBETAの群れに吶喊。 両腕に内蔵されたモーターブレードで、次々にBETAを切り刻んで行く。
 思いもよらぬ救援が現れてくれた事に対し、皆の歓声が通信に溢れる。 そして攻撃を無人機に任せたまま、ウォーケンが皆に状況を伝える。

「”い号目標”は制圧済みだ。 これは行き掛けの駄賃だよ」
「そうですか、救援感謝します!」
「そう思っているのなら前へ進め! そして生きてまた会おう!」

 そう告げた後にフッと笑いかけるウォーケンに対し、武達は感謝の言葉をそれぞれ継げて隔壁を突破する。 ヴァルキリーズの全員が通過した直後に、閉塞剤が注入され続けた隔壁が遂に閉鎖される。 其れを確認したウォーケンは、愛機が装備する120ミリ電磁速射砲で門級の脳を破壊しBETA達の追撃を防ぐ。
 後に残されたのは、破壊されるか命令が変更されるまでBETAを狩り尽くそうとするグレイ・イーグルのエレメント。 そしてウォーケンのストライク・ラプターと、その相手であるBETAの軍勢だけだった。

「さあ、もう少しだけ私に付き合ってもらうぞ、ケダモノ共・・・!!」

 覚悟を決めたかのように呟いたウォーケンのラプターが速射砲を構え、跳躍ユニットとメガドライヴを唸らせBETAの軍勢に向けて突撃して行った。


・ AM7:53 オリジナルハイヴ最深部 大広間手前横坑

「全機、最後の補給完了!」
「よし! 大広間へ前進する!」
『了解!!』

 何度行われたか分からないみちるの指示とヴァルキリーズの復唱が通信に木霊し、ヴァルキリーズの機体と凄乃皇が”あ号標的”へと向かう。 その中で武は、今まで自分の身の周りに起こった出来事を振り返っていた。
 ”元の世界”での平和な暮らし、”前の世界”で培った知識と技能、そして”電脳暦世界”と”2度目の世界”で出会った仲間たちと純夏との再開。
 それらの出来事が全て昨日や一昨日に起こった出来事のようにも思え、その全てがあるからこそ今こうしてカイゼルのコクピットに乗り最後の決戦に臨んでいる。

「(なんていうか、最後まで夕呼先生にガキ臭い所を見せちまったな・・・)」

 自分が夕呼に青臭さを振り返り、武は思わず苦笑する。 凄乃皇の主砲チャージは90%に達し、あと少しでチャージを完了する。 最大出力による凄乃皇の主砲をあ号標的にお見舞いし、その直上にある主縦坑から脱出する。 其れが夕呼が発案した、『オペレーション・レイフォース』の幕引きだった。
 前に進むにつれて、ハイヴ壁面が放つ光が強さが増して行く。 そして一際巨大な大広間の中心に、地球上のBETAの頂点である、重頭脳級BETA”あ号標的”の姿が見える。 そして向こうも武達の存在を確認したのか、玉座に当たる部分から大量の触手を持って歓迎する。
 凄乃皇目掛けて迫り来る触手の姿は、まるで日本神話における八岐大蛇の様にも見えた。

「伊隅大尉!」
「全機、凄乃皇を絶対死守だ! あの触手を凄乃皇が喰らったらひとたまりも無いぞ!」
『了解っ!!』

 G元素を生成しそれを使用するBETAの事だ、恐らくあの触手はラザフォードフィールドをも貫通するに違いない。 何時もの自分らしくない常識に捕らわれぬ発想に笑みを浮かべながら、みちるは皆と共に迫り来る触手を電磁速射砲で迎撃する。

「全く、最後まで油断が出来ないわね!」
「仕方ないさ。 ダイモンの兵器もかなり手強かったと、チーフの記録にあったしね!」

 凄乃皇の傍で迎撃を行っているケイイチが言ったその時、カイゼルと武御刀が前に躍り出て、楽しむかのように触手を切り裂いて行く。
 その光景を見た菫には、武と冥夜の二人がBETAと舞踏を踊っているかのように見えていた。 一度しか見ることの出来ない壮大な舞踏、それをこの目に焼き付けるべく菫も前に出てあ号標的の触手を迎撃する。
 そして誰もが待ち構えていた言葉が、純夏の口から紡がれる。

「主砲、フルチャージ完了!」
「遠慮は要らん、ぶちかませ鑑!」
「っ!? あれは!? 大尉・・・!」

 凄乃皇が今まさに主砲を発射しようとしたその時、晴子があ号標的の玉座部分にエネルギーが集中している事に気付く。 みちるに報告しようと口を開いたその時には既に手遅れだった。 次に武が目にしたのは、あ号標的から放たれた一条のレーザーが、ラザフォードフィールドを解除していた凄乃皇の前面を貫く光景だった。
 行き場を失ったエネルギーが暴走し、凄乃皇の自慢の武器である荷電粒子砲の片方が爆発により喪失する。

「何っ!? レーザーだと!! 鑑、大丈夫か!」
「平気です! ただ荷電粒子砲のチャージをやり直す必要があります!」
「あ号標的以外にBETAの反応あり、奴の内部から出現してきます!」

 鑑に続いて梼子の報告どおり、あ号標的の内部に正体不明のBETAの存在が確認できる。 どうやらアイツが凄乃皇を怯ませたレーザーを放った張本人だろう。 生物の出産における破水と同じように反応炉と同じ青く光る液体があ号標的から溢れ、そこから現れた新種のBETAの姿に、みちるがおもわず呟く。

「アレは、まるで戦術機ではないか・・・!」

 みちるの言葉は、其れを見たヴァルキリーズ全員の感想を体現していた。 人型のシルエットを持つ全身は鎧の様に突撃級や要撃級の装甲殻で覆われ、腕に相当する部分にブレードを兼ねているであろう放熱板とレーザー照射膜。 そして装甲殻の継ぎ目からは、戦術機の物であろう機械の部品が露出していた。
 おそらく従来のBETAの機能を集約させ、人類側の兵器情報を取り込んだことであ号自ら作り上げた物なのだろう。 今までのBETAの能力から見れば、底知れぬ力を秘めている事は明らかであった。 マイザーナブラによって映像が夕呼の元へと送られ、即座に彼女が”化身級(アバター)”と命名する。 

「白銀、鑑の凄乃皇がもう一度荷電粒子砲のチャージを行う。 其れまで奴を・・・”化身級”を食い止められるか?」

 部下の命を預かる隊長だが、時として無謀な命令を部下に下す事もある。 そして目の前に居る新種のBETAを相手にしろと武に命令するみちるは、自分が今ヴァルキリーズの長であると言う状況を激しく呪った。
 だがそんな彼女に反し、武は笑ってそれに答える。

「要するに、純夏を全力で守れってことでしょう?」
「そういう事だ、行け白銀!!」
「了解!!」

 カイゼルの電磁推進ユニットが、メガドライヴが何時に無く甲高い唸りを上げる。 そしてあ号の触手が飛び交う中、カイゼルが化身級に向けて吶喊した。

「珠瀬ぇ! 白銀を全力でサポートだ!あいつに近づく触手を全て落とせ!!」
「了解!」

 武の勇姿に、みちるも指揮に熱くなる余り、まるで怒鳴るように壬姫に武の支援を命じる。 そして彼女達はカイゼルと凄乃皇に迫る触手を撃ち落す最中、とても口で説明出来ない光景を目の当たりにした。
 あえてその戦いを例えるなら、『美しく、そして余りにも悲しい』と皆は言うだろう。 カイゼルと化身級は互いに致命的となる攻撃を繰り出し、それらを紙一重で回避し合う。
 カイゼルの機体は幾度と無く化身級が放つレーザーを回避した事で塗装が変色し、全身が銀色に輝いているようだった。 この戦いが永遠に続くかと思われたその時、再び鑑からチャージ完了の連絡が入る。

「お待たせ! 改めて、凄乃皇の主砲を撃つよ!!」

 純夏の報告、それは武に唯一の隙を作るのに十分だった。 闘士級のような化身級のマニピュレーターが、カイゼルの左腕をいとも容易くもぎ取る。

「タケルちゃん!」
「なにやってんだ純夏! 俺にかまわずアイツを撃て!」
「でも・・・!」

 悲痛の声を上げる純夏に反し、武は自分が怖いほどに冷静だったことを自覚していた。 武の体から溢れるパラポジトロニウム光、武がこの世界に居られるタイムリミットが、この時になって遂に訪れてしまったのだ。 このチャンスを逃して消えてしまったら、皆がどうなるのか分からない。
 光はますます強くなり、ついにはカイゼルの機体からも発せられるようになった。 そしてその光を見た瞬間、純夏は全てを理解した。
 半ば目じりに涙を浮かべる純夏に、武は最後の願いを純夏に言う。

「頼むよ純夏、最後の最後くらい、俺のわがままを聞いてくれよ・・・!」
「・・・うんっ!」

 大切な人をこんな形で送り出すのは、正直純夏は忍びなく思っていた。 だが、このような結末も決着も、他ならぬ彼が決めたこと。 トリガーを引くタイミングは彼が教えてくれる。 主砲のグリップを強く握り締め、純夏は銀色に輝くカイゼルを見定めた。

「さあ・・・行くぜあ号標的! これがお前に見せる、俺の最後の大技だ!!」

 化身級との硬直を解いた武のカイゼルがスマートガン、そして機体全てのリミッターを解除する。 荒れ狂うプラズマ炎がカイゼルの跳躍ユニットから噴出し、メガドライヴに蓄積された慣性エネルギーを全て放出して吶喊する。 スマートガンの刀身は化身級の胴体を貫くが、カイゼルは勢いを止めず、そのままあ号標的へと突き進む。

「うおおおおおおおっ!!」

 銀色の光の中、武は力の限り叫ぶ。 メガドライヴのホイールが放電するほどに回転し、跳躍ユニットのノズルは赤熱化し己をも焼き尽くそうとする。 だが、武とカイゼルは化身級を刺したまま、あ号標的目掛けて一筋の槍となって突き進んでいた。 自らを滅ぼす存在に、一矢報いろうと化身級が最後の足掻きに出る。
 カイゼルのコクピットを射抜くべく、腕部のレーザー照射膜に光が溢れる。

「そうはさせるもんですか!!」
「タケルの行く道を、邪魔させはしない!!」

 だがその足掻きも、冥夜の武御刀と菫の狙撃により両腕を喪失した。 パラポジトロニウム光の輝きは最高潮に達し、迫り来る触手もまるでラザフォードフィールドのように弾き飛ばしてしまった。
 スマートガンの切っ先があ号標的の玉座に突き刺さったその時、武は力の限り叫んだ。

「撃てぇぇぇぇっ!! 純夏ぁぁぁぁぁっ!!」
「うわあああああっ!!」

 武の最後の願いに応えるべく、咆哮を上げながら純夏は主砲のトリガーを引く。 腕部の其れとは比較にならない濃密な荷電粒子の濁流があ号標的を包み、その存在を消滅させて行く。
 そしてその中には、止めを刺された化身急と、白銀の光に包まれているカイゼルの姿があった。

「ざまあみやがれBETAめ。 人類を・・・無礼るな!」

 崩れ去るあ号と化身級の姿を見届けながら、中指を立ててそう呟く武。 そして彼の意識は、閃光の中へと消えて行った・・・


2001年12月24日:ヴァルキリーズ、オリジナルハイヴ最深部に存在する”あ号標的”の破壊成功。 この世界の人類に未来と言う名のクリスマスプレゼントを手に入れた。  ヴァルキリーズ、白銀中尉を除き当日中に全員帰還。
 米軍部隊、G元素生成プラントである”い号標的”制圧成功。 ヴァルキリーズと共にオリジナルハイヴを脱出し、高純度のG元素を採取し帰還する。





・ 2002年 1月14日 AM6:24 横浜基地郊外


 G弾により植生を失いながらも、横浜基地の郊外にある丘に力強く聳え立つ一本の木。 かつて『ここで告白した恋人たちは必ず結ばれる』という伝説があるこの丘で、国連軍の制服と着た純夏は今なお荒廃した廃墟が広がる横浜の町を眺めていた。
 『オペレーション・レイフォース』の成功により、世界情勢は大きく変革した。 夕呼達の予想通り、オリジナルハイヴを破壊しBETAの情報ネットワークを寸断したことで、各地のBETA対処能力が非常に緩慢になったのだ。 そして米軍が回収した高純度のG元素により、人工島 『アトランティス』でメガドライヴを初めとするG元素応用兵器が大量生産されることが決まり、いずれ行われる大陸奪還の原動力となるに違いないだろう。
 『人類の勝利』という言葉がいよいよ現実味を帯びてきたことを感じている中、純夏の後ろから聞きなれた仲間の声が聞こえて来る。

「あ、こんな所にいた!」
「一人でどうしたのだ? 皆、そなたの事を探していたぞ」

 純夏が振り向くと、同じく国連軍の制服姿の冥夜と菫の姿。 オリジナルハイヴ攻略の立役者として、横浜基地のエースたるヴァルキリーズは世界中から賞賛の声を浴びる事となった。 当然全世界のマスコミがこのネタを逃すはずも無く横浜基地へ殺到し、大量の報道陣と機材車両が正門へ押し寄せる様は、さながらBETAの襲撃かと門番コンビが見間違えるほどだったと言う。
 あ号標的をこの世から消滅させた純夏の凄乃皇五型も、修復作業と更なる強化改修が全力で行われている。 無論、みちる達が搭乗した不知火参型や晴嵐は帝国軍の次期主力機候補として、メガドライヴといった機材や量産の為の予算調達が帝国で行われていると言う。
 全ての事柄が順風満帆で進んでいる中、丘に佇んでいる純夏の顔はどこか寂しげだった。 心当たりを知る冥夜が、彼女にそっと尋ねる。

「・・・タケルの事か?」
「うん。 タケルちゃん、ちゃんと元の世界に返れたのかなって・・・」

 冥夜が問いかけると同時に一際強く冷たい風が3人の間を通り、顔に掛かった髪を手のひらでどかしながら純夏は答える。
 あ号標的を撃破した後、純夏はカイゼルの残骸を早急に回収してオリジナルハイヴより脱出。 横浜基地に帰還した後、機体は夕呼の手により徹底的に調査された。 驚くべき事に、あの荷電粒子砲の直撃を食らっても、化身級にもぎ取られた左腕以外、カイゼルは傷一つ付いていなかったのだ。
 恐らく武が消える直前に機体から発せられたパラポジトロニウム光と、リミッター解除によるメガドライヴの慣性エネルギー放出により、ダメージを免れたと言うことなのだろう。

『まったく、アイツは最後の時まで特別だったようね・・・』

 奇想天外なカイゼルの解析結果を目の当たりにし、苦笑を浮かべながら言った夕呼の姿を純夏は思い出す。 そして誰もが予想したとおり、開かれたコクピットに武の姿は居なかった。 武の存在は正しくこの世界から消滅し、その残滓は虚数空間に拡散して、本来あるべき世界へと回帰していく。 だが武の予想とは反して、彼が関わった自称と記憶は人々から消えることは無かった。
 理由は分からない、ただ皆の脳裏に武との出会いと別れの全てが残っている。 これも彼が成しえた奇跡なのかと思いながら、菫の口が開く。

「カイゼルは、あの後どうなるの?」
「今のところは90番格納庫に置いておくと、夕呼先生が言っていました」
「そう。 でもあのまま放置しておくほど、香月博士は甘くないわね」

 化身級の戦いの末、装甲が剥げ落ちて銀色に輝くカイゼルは今も、まるで墓標のようにハンガーに固定されている。 だがあの夕呼の事、いずれは修復して運用するだろう。 その時は武の後継者たる衛士が、あのコクピットシートに座るに違いない。 
 オリジナルハイヴを潰しても、依然としてユーラシア大陸には無数のBETAがひしめいている。 その戦いの中で、自分達が何処まで生きられるのかは分からない。 それでも人類の剣たる戦術機を操る衛士として、未来の為に戦い続けてみせる。 彼が残した贈り物を、最後まで守り抜くために。

「またね、タケルちゃん・・・」

 再び強い風が吹き荒ぶ中、純夏は武との別れの言葉を紡ぐ。 居るはずも無い武の返事が、風に乗せて聞こえたような気がした。











・ 何処かの確立時空より 柊町市街地

「はぁ、今日はエライ一日だったな~」
「タケルちゃん、散々な扱いだったもんね」

 白陵柊学園からの帰り道、今日の出来事を振り返り溜め息を付く武の隣を、彼の幼なじみである純夏がその隣を歩く。 朝起きたら謎の女の子二人が寝て早々純夏に殴られ、その二人とロシアからの転校生が自分達のクラスの一員になったり、保険医の夕呼から”恋愛原子核”と認定され、帰りに立ち寄ったゲームセンターで茜のお姉さんとその彼氏達とバルジャーノン勝負を繰り広げたりと、それは目が回りそうなほど忙しい一日を繰り広げたのだった。
 ぶつぶつと愚痴を漏らし続ける武に微笑みながら、純夏は朝から気になっていた事を尋ねる。

「そういえば武ちゃん、夢を見たって言ってたけど、どんな夢を見たの?」
「あー、そういや見たっけな~」

 純夏の突入で目を覚ますまで、武はある夢を見ていた。 そこで数多くの仲間達と出会い、バルジャーノンに出てくるようなロボットに乗って戦い、地球を侵略する異形の生命体と戦い勝利する夢。 それは余りにも鮮明の様で曖昧で、現実のようで幻想が入り混じったかのような、そんな夢だった。
 こんな内容の夢を話したら、純夏は大笑いしてただの作り話だよと否定するだろうか? でも、話さずには居られない。 武は少し考えるそぶりを見せた後、純夏にその夢の話を隅から隅まで話す事にした。

- かくして、神話の英雄は語り紡ぐ・・・ -

「うーん、何処から話せばいいのかな~」

-それは・・・ -

「う~む、どうしようかな~?」
「えー、もったいぶってないでよタケルちゃ~ん!」

- とてもおおきな、とてもたいせつな・・・ -

「も~、早く話してよ~!」
「わかったわかった! まずは・・・」

- あいとゆうきのおとぎばなしを・・・ -

[完]



[2970] あとがき
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:8776c573
Date: 2011/10/06 01:21

 ・・・と言うわけで、『マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-』、遂に完結と相成りました。 最初に第1話を書いた文章ファイルの作成日時が2007年9月と、かれこれ4年もダラダラ書き綴っていたんですねぇ・・・

 その間に、マブラヴは様々なオルタの派生作品が発表されたり、バーチャロンもオラタンとフォースがXBOX360で配信&発売されたりと色々ありました。  一時は全く話が浮かばず、他のジャンルに逃げて筆を置いていたりと色々ありましたが、せめて最後まで書き切ろうと思いキーボードを叩き続け、ようやく最終話までこぎつけた次第です。

 今後は長編は書かず、各話の誤字やらを直しつつ、気が向いたら後日談や外伝でも書いてみようかなと思っています。

 最後に、この作品を読んでくださった全ての皆さん、作品を投稿する場所を設けて下さったArcadia管理人の舞さん、本当に有り難うございました。



[2970] DayAfter#1
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:8776c573
Date: 2019/06/01 08:27
・ 2002年3月下旬 AM10:43 日本帝国 横浜基地 第1演習場


 春の兆しが目覚しい青い空、その下に鉄筋とコンクリートで形成された廃墟ビルが立ち並ぶ、横浜基地演習場。数多の衛士達が腕を磨いたその場所に、1機の鋼の巨人が降り立つ。
 そのボディは国連軍所属であることを証明するコバルトブルーで色塗られ、大きく突き出た肩のアーマーはスミレの花を思わせる紫色に塗られていた。 この世界で普及している人型兵器『戦術機』とは、明らかに異質な巨人のコクピットに座る霜月菫の耳に、管制室から話しかけて来るオペレーターの声が入る。

『ガントレット01へ、模擬戦開始地点への移動を確認。 3分後に開始します』
「ガントレット01了解」

 オペレーターである涼宮遙への返答を終え、菫はふっと息を吐きHMD越しに見える、朽ち果てたコンクリートジャングルを眺める。 武やヴァルキリーズの皆が死力を尽くし、BETAの中枢たる”あ号目標”を撃破した戦いから早3ヶ月。 世界は未だに人類同士の欲と業が入り混じる状態でありながらも、BETAの駆逐という標語を御旗に着実に纏まりつつある。
 階級が一つ上がって中尉となり、今こうして愛機であるテムジン747A/T94『霧積』に乗り、この横浜の大地に立っていられるのも、あの男の存在と活躍があってこそ。 人類の救世主、銀色の英雄と人々から希望の視線を注がれても、背中を合わせて戦ったヴァルキリーズの衛士達にはその本心をさらけ出した一人の男。 そして、たった一人の恋人を捜し求め、彼女が笑っていられる世界を作るために己が存在を捧げた男。
 この先どのような出会いと別れが待っていようと、記憶からは後生永遠に忘れることが出来ない男の顔を思い浮かべながら、菫は表示されるカウントダウンに視線を合わせる。 デジタル表記のカウントは、既に30秒を切っていた。

「(MSBSver7.7、システム起動。 機体コンディション、オールグリーン。 全兵装、演習モードにセット!)」

 コンソール前面に設けられた操縦桿を握ると同時に、菫は己の闘争心が湧き上がって行くのを全身で感じる。
 Vrの制御OSであるMSBSが同調性を上げるため、菫の精神を興奮状態にさせているのだ。 このOSの恩恵によって、VRパイロットは文字通り『人馬一体』としてVRを操縦できるのだが、その動作特性ゆえに長時間の仕様はパイロットの負担を招く。
 そして『GET READY』のシステムボイスが菫の耳に届いた瞬間、演習開始のカウントがゼロとなる。

「さあ、いっちょ腕試しと行きますか!」

 マインド・ブースターから青白い輝きを放ちながら、菫のテムジンが横浜の青空へと舞った。


マブラヴ 壊れかけたドアの向こう Day After
after#1 後日


「12時方向に目標確認! 207A01、エンゲージ!」
「207B01、エンゲージ! 茜、予定通りに頼むわよ!」
「了解!」

 廃ビル街を這うように噴射跳躍で進む2機の晴嵐、その片方に乗る茜の復唱を聞き終えた後、千鶴は自機が装備する4丁の突撃砲を展開。 先行して攻撃を仕掛ける茜機を援護する体制を整える。 今回の模擬戦における敵は、菫が乗るテムジンただ1機。 だが彼女の実力と機体の性能は、茜も自分、そしてヴァルキリーズの誰もが知っている。 接敵を告げる警報音が鳴り、両肩が紫に色塗られたテムジンの姿が徐々に鮮明となる。 相方である茜が仕掛けるタイミングを作るべく、千鶴は36ミリのトリガーを引いた。
 両腕と兵装担架に装備されたそれぞれの突撃砲が火を噴き、JIVESにより画像処理されたペイント弾が飛翔する。 だがロックした時点でも菫のテムジンは微動だにせず、回避のそぶりすら見せようとしない。 だがその疑問は、テムジンの左腕に装備されているある物を見た瞬間解けることになる。

「っ!?」

 菫のテムジンの左腕に装備されている特殊装備『マイティ・スプライト』が青白い光を放ったかと思うと、その目前が蜃気楼のように歪む。 そして致命傷コースを飛ぶペイント弾は、その見えない壁に遮られてしまった。 臆する事無く射撃を継続する千鶴だったが、テムジンに対し決定打が与えられないことに眉間に皺を寄せる。

「フハハハハ! 重光線級のレーザー砲撃をも防ぐフィールドが、そんな豆鉄砲で抜けると思うてか!」
「ちっ・・・!」

 ヘッドセットから聞こえる菫の挑発が耳障りと感じつつも、千鶴はトリガーを引き続ける。 この状況を察した茜が、必ず仕掛けるはず。 それまで自分は一歩も引く訳には行かない。 36ミリのマガジン残量が1/3を切ったその時、テムジンの背後から茜の晴嵐が跳躍ユニットを全力噴射しながら迫るのが見えた。

「もらったわ!」
「甘いっ!!」

 残弾を惜しんだ千鶴の銃撃が止むと同時に、菫のテムジンがコンパスのような脚使いで急速旋回。 茜機が振り下ろす長刀を、右手に持つテムジンの伝統装備”スライプナーMk6”の銃身で受け止める。 そして戦術機のそれを模した背部の兵装担架ユニットが鎌首をもたげる様に動き、搭載された突撃砲の銃口が茜の晴嵐に向けられる。

「くっ!」

 刃の切り結びを突き放すように解いた茜は全力で回避行動。 跳躍ユニットからプラズマジェット噴射、搭載されたメガドライヴから放出された慣性エネルギーと相まって急速後退。 後退する茜機を追い立てるように突撃砲が発砲され、軌跡をなぞる様にペイント弾の花が地面に咲き誇る。
 そして回避した先に移動していた千鶴と合流したが、状況は接敵する前に状態に戻ってしまった。

「ごめん千鶴、しくじったよ!」
「気にする事は無いわ茜。 でも、今の手はもうあの人には通用しない・・・!」

 本来なら最初の連携攻撃で速攻撃破を狙ったのだが、それが失敗した以上別の策を考えるしかない。 幸いにも菫のテムジンは迎撃された地点から一歩も動く気配はなく、自分達が再び仕掛けてくるのを待ってくれている様だった。
 上等だ。 そこまで舐められてしまっては、自分達も本気を出さざるを得ない。 千鶴と茜は通信ウインドウに移る互いの顔を見て頷きあったあと、突撃の準備を行う。

「行くわよ茜! 私達の腕前、見せ付けてあげましょう!」
「ええ! 中尉に思う存分味わってもらうじゃない!」

 2機の晴嵐の跳躍ユニットが唸りを上げ、菫のテムジンの前に躍り出る。 対する菫も待ってましたと言わんばかりにマイティ・スプライトとスライプナーを構え、正面から迎え撃つ。 千鶴の銃撃に合わせ、菫と茜の機体が刃を重ねるごとに鳴り響く金属音は、観戦者にとってはまるで演奏をしているかのようである。
 そして3人による鋼の演奏会は、模擬戦の時間が尽きるまで続いた。


・ AM11:48 横浜基地 戦術機ハンガー


「あっ、千鶴さ~ん!茜さ~ん!」
「鎧衣・・・」
「ごめん、かっこ悪いとこ見せちゃったね」

 模擬戦を終えて、ハンガーの隅で機体を見上げる強化服姿の千鶴と茜の元に、PXで観戦していた美琴が声を駆けながら近寄る。 彼女が間近で見た2人の顔から、明らかに疲労の色が見て取れる。 それは普段の模擬戦や、演習を終えた時とは比較にならない物だった。
 正直なところ、先程の模擬戦は千鶴と茜の完敗だった。 第1世代VRとほぼ同等のスペックを有する晴嵐2機が、たった1機の菫のテムジン747相手に1つも傷を与えられず仕舞いだったからである。
 何が? 自分達には、何が足りないというのだ? 自分達と菫とでは、何が違う?  あの人に勝つには、何処まで高みに上り詰めればいい? 機体を降りてから千鶴と茜は、各々答えの出せぬ問いを延々と心の中で出し続けていた。
 そうして2人からヘドロの如くドロドロとした、禍々しい気迫が漂ってくる。 それを感じた美琴は、これ以上2人を精神的に追い詰めさせないよう、フォローの言葉を口にする。

「まあまあ、参加したのが千鶴さんと茜さんだったから、菫さん相手にあそこまで戦えたんだよ。 ボクが参加してたら、最初の反撃でやられちゃってると思うなぁ~!」

 そう語りながら愛想笑いを浮かべる美琴だったが、2人の落ち込みようは彼女一人で回復できるほど甘くはなかった。 心の中で必死にSOSを打つ美琴の耳に、救いが来たと悟った声が届いた。

「貴様ら、そんな所に立っていたら整備兵の邪魔になるぞ」
「伊隅大尉!?」

 ヴァルキリーズ筆頭たるみちるの声が聞こえてきた瞬間、今まで俯いていた2人も顔を上げ、美琴の後ろにいる彼女の姿を注視せざるを得ない。 自分達の醜態は、ご多分に漏れずみちるも見ていたはずだ。 怒りの雷が落ちるであろうと3人が覚悟していたその時、みちるの口から意外な言葉が出てくる。

「貴様らが負けるのも無理は無い。 霜月中尉は向こうの世界における、横浜基地のエースだからな。 今回の模擬戦も、元々は彼女が考案した物だ」
「えっ、霜月中尉が?」
「そうだ。 向こうの世界の国連軍では、ごく当たり前に行われている訓練だそうだ」

 2体1という不利な状況の模擬戦を、自らが望んで行った菫の行動に驚きを隠せない千鶴に対し、みちるは静かに頷く。 ダイモン戦役後、企業国家の支配から脱した地球圏の情勢安定の為、発足後即座に活動を開始した国連軍だったが、急ごしらえ故の戦力の絶対的不足に悩まされていた。
 そこでダイモン戦役中、1対多数の戦闘を数多く行っていたMARZの戦術を参考とした独自の戦術を考案。 世界各地から才能有る人材や資材を手当たり次第掻き集め、現在では各国正規軍や企業軍を圧倒しうる戦力を保持するに至るのだ。
 そして菫も電脳暦世界における、横浜基地のエースとして活躍している1人である。

「悔しいが対人戦闘の技量は、我々より霜月中尉の方が上だろう。 今回の模擬戦も、彼女が自分自身を強くする為に行ったのだと私は思う」
「何故そうまでして、あの人は強くなろうとするんですか?」
「白銀が守った世界を、守り続けるためだ」

 確信を突いたみちるの言葉に、千鶴と茜、そして美琴がハッとする。 今思い返すと模擬戦における彼女の戦い方は、自分たちと共にオリジナルハイヴに突入し、あ号標的を直接撃破した伝説の衛士、白銀武が行っていたそれと瓜二つだったからだ。 彼と最初に出会い、彼をこの世界に導き、そして彼の帰還を見届けた唯一の人間。 そんな彼女が彼の意思を受け継ぐ事を志してもおかしくは無いとみちるは悟ったのだ。

「恐らく中尉はBETA以外の新たな敵を、既に見据えている」
「BETA以外の敵って、まさか・・・!」
「涼宮が考えている通りだ。 今後の世界情勢次第では、我々はまた人間を相手に戦うことになるかもしれん」

 オリジナルハイヴによるBETAの対処能力が弱体化した事で、今後の世界各国はユーラシア大陸における反抗作戦の動きを強めていくだろう。 そして国土を取り戻した国々が、元あった国境線通りに仲良く分け合うという微笑ましい光景は恐らく無い。 ハイヴに眠るG元素、そしてBETA由来の技術を巡って人類は三度互いの首を絞めあうことになるのだ。
 自分達の行いが、結果的に争いの火種を撒いた。 その事に気付いて罪悪感を感じる千鶴たちに対し、みちるは何時もらしくない優しい態度で語りかける。

「だから霜月中尉は、貴様らに対してあのような模擬戦を仕掛けたのだろう。 それに、争いの道を辿るとまだ決まった訳では無いしな」

 そうだ。 今後の人類が団結してBETAを駆逐して行けるかどうかは、夕呼や自分達の行動に掛かっている。 その為にも衛士として、さらに己を磨き続け無ければならないのだ。 未来への不安と期待を胸に3人が抱いていたその時、みちるが何時もの口調で語り始めたことに背筋を凍らす。

「まあそこはそれとして・・・ 榊!涼宮!鎧衣! 模擬戦で基地の人員に醜態をさらした罰として、昼の前に貴様らはグラウンドを20週してこいっ!!」
「りょ・・・了解~っ!」
「何でボクまで~!?」

 みちるの怒号に泣く泣く復唱し、強化装備のまま千鶴と茜、そして巻き添えを食らった美琴がグラウンドへと駆け出す。 だがこれが何時ものヴァルキリーズなのだなと、3人は嬉しく思った。


・ PM4:53 横浜基地 地下90番ハンガー


 日が陰り、夕暮れが横浜の大地を紅く染める。 それらとは無縁の世界、昼夜問わず人工の光により照らされる横浜基地の地下深くに存在する90番ハンガー。 4番目となるオルタネイティヴ計画の拠点として機能し、人類の希望を収めた宝物庫の内部に、国連軍の制服を身に纏う菫の姿があった。
 午後におけるヴァルキリーズ相手の模擬戦を全てやり終え、事後処理の後にこの場所を訪れていた。 腰にまで届きそうなほどの長さの髪がハンガーの照明に照らされて、紫色の艶を出す。 そして広大なハンガーを歩いて菫が向かった先は、武の乗機であり世界初の第4世代戦術機『カイゼル』が係留されている場所だった。

「本当、何時までこうしておくつもりなのかしらね・・・」

 ガントリーに固定されたカイゼルは、まるで慰霊碑や墓標如くその姿を晒している。 あ号標的とそれを守護する化身(アバター)級BETAへ荷電粒子砲諸共吶喊し、その濁流に飲まれたカイゼル。 だがあ号標的と化身級と共に心中し消滅するはずだった機体は、メガドライヴのオーバーロードにより展開された強靭なラザフォードフィールドにより防護され、辛くも原型を留めた状態で回収されたのだ。
 トリコロールで色塗られていた筈の塗装は全て剥がれ落ち、どこぞの燃え尽きたボクサーのように灰色一色と化している。 破壊された左腕は肩部ユニットからごっそりと撤去されており、スマートガンも銃身が半ばからへし折れた状態のまま右手に握られている。 そしてこれを駆る衛士である武は、既にこの世界に存在しない。
 このまま静かにハンガーに繋がれたまま余生を送るであろうカイゼルの機体を見上げていたその時、後ろから見知った女性の声が聞こえてくる。

「こんな所にいましたか。 皆探してましたよ」
「鑑さん・・・?」

 菫が振り返ると、そこには赤い髪を結ぶ大きな黄色いリボンが目立つ純夏の姿。 どうやらヴァルキリーズ皆の頼みを受けて、自分を探してここまで来てくれたらしい。 そしてめぼしい場所を巡った末に、この90番ハンガーまで辿り付いた訳だ。

「ごめんなさい。 でも、一日これを見ないと落ち着かなくて・・・」
「私も、タケルちゃんが乗っていたこの機体を、ずっと眺めていたいと思う時がありますから」

 菫の謝罪を聞いて、そう帰した純夏もまた武が乗っていたカイゼルを見上げる。 極めて近く、限りなく遠い時空の彼方から現れ、BETAの牢獄から自分を救い出してくれた勇者。 そして、今はもう手の届かないところへと帰還した最愛の男。 そんな武と出会い導き、その別れを見届けた菫に対し、純夏は少し悔しさと同時に羨ましく思っていた。

「菫さんは、向こうの世界でタケルちゃんと初めて出会ったんですよね?」
「ええ。 」
「もしよかったら、話してくれませんか? 菫さんが見た、タケルちゃんの事を」

 之も一つの節目だ。 純夏の頼みを聞いた菫はそう思いながら、この世界にやって来るまでの武について語り始めた。 彼がむしゃらに、この世界を救いたいと思っていた事。 純夏を探し、この手に抱くために戦い続けてきたこと。 そうして話を全て聞き終えた純夏の顔は、やはりそうだったのかと安堵した表情を浮かべていた。

「やっぱり、最初から最後までタケルちゃんらしいですね」
「そうね。 後にも先にも、白銀君は特別だったわ」

 それ故に、未だに彼の事が忘れられない。 それ故に武が己が存在を掛けて守ったこの世界で暮らし、それを守って行きたいと思った。 新たな目標を見出した菫は、微笑みながら純夏に語りかける。

「だから私は、白銀君みたいにこの世界を守って行きたいの。 鑑さん、協力してくれる?」
「はいっ! タケルちゃんに笑われないように、私も頑張ります!」

 互いに宣言するように言い合った後、向かい合って笑う純夏と菫。 そしてもう一度、二人はカイゼルの機体を見上げる。 彼女達にエールを送るように、照明に照らされた機体が銀色に輝いていた。



[2970] DayAfter#2
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:8776c573
Date: 2019/06/01 08:28
・ 2002年 4月某日 AM9:34 国連軍ユーコン基地 第1演習場


 冷たく澄んだ空気が漂うユーコンの大地、横浜基地のそれと似て非なる配置がされた鉄筋コンクリート製のビルの影に、1機の戦術機が身を潜めている。 機体は往年の乗用車を思わせる白と黒のツートンに色塗られ、各所に配置された青色のセンサーが得た景色と情報が、管制ブロックに座る衛士にリアルタイムで送られる。
 BETAとの戦いで颯爽と前線に飛び出し、人類が持つ最強の刃として戦場に君臨する戦術機が、何故自らその身を隠すような体勢でいるのか。 それにはただ一つの理由があった。

「チッ、94サードなら良い所までいけると思ったんだがな・・・!」

 網膜に投影される索敵データを睨みつけながら、横浜基地のヴァルキリーズのそれと同じ仕様に生まれ変わった不知火参型を駆るユウヤ・ブリッジスが、舌打ちと共に小声で愚痴を漏らす。 米軍時代から慣れ親しんだ、対人相手の模擬戦闘。 だが今回のそれは何処か可笑しい内容であり、そして現在自分が置かれている状況に対して、そう言わざるを得なかった。
 接敵警報、どうやら向こうが先に自分を見つけたらしい。 レーダーに表示される赤い点が、戦術機のそれとは比べ物にならない速度で接近してくる。 ユウヤはフットペダルを踏み、不知火参型を動かそうとしたその時、管制ユニットに激しい衝撃が走る。

「ぐあっ!?」

 網膜に映される外部映像にノイズが走り、警告音と共にシステムが即座に被害箇所を伝えてくる。
 先手を取られた事を悟ったユウヤは即座に回避行動を取る。 そして再び接敵警報が鳴ると同時に、JIVESで生み出された仮想の弾丸がユウヤの不知火に飛来してきた。

「(遊んでいるつもりかよ、この野郎・・・!)」

 制限高度ギリギリまで飛翔して回避しながら、発射源へと突撃砲を向けるユウヤ。 その銃口の先には、異世界で生み出された人型機動兵器の1機、RVR-20-A”アファームド・ザ・ジャガー タイプA”の姿があった。
 そう。 今回の模擬戦におけるユウヤの相手、それは他ならぬバーチャロイドだったのである。


マブラヴ 壊れかけたドアの向こう Day After
after#2 調停


 事の発端は、ユーコン基地に駐留する電脳暦世界の企業、それらと契約しているVRパイロット達からの要望からだった。

『我々と君等の親睦を深めるため、メガドライヴ搭載型戦術機との模擬戦を申し込みたいのだが、如何かな?』

 横浜基地が生み出したメガドライヴとマスターシステムにより、戦術機はVRと同様の機動性能とそれを制御しうる操縦方法を手に入れたオルタネイティヴ世界の人類。 そんな彼等に対し、ユーコンに身を置く電脳暦世界の人々は驚愕すると同時に嫉妬の感情を抱いていたのだ。
 ムーンゲートのオーバーテクノロジー等に一切依存せずに、奴等は戦術機という人型兵器を生み出した。 そして挙句に果てに、VRに近づこうとするという神経を逆撫でする様な真似を行っている。
 こんな事は認めない。 BETAという共通の敵がありながら互いをすり減らしあっているお前達に、我々に追いつく事自体おこがましい。 最強なのは我々が生み出したVRだ、それ以外の何がある。 その努力も希望も、ここで微塵に砕いてくれる・・・!
 そうした私怨に近い形で、彼等はユーコン基地に模擬戦を挑んできたのだ。 異世界との外交を悪化させたくない故に無下に断ることも出来ず、ユーコン基地司令部はハイヴ制圧実績を持つアルゴス小隊を参加させることにしたのだ。
 そして案の定ユウヤが劣勢のまま、模擬戦が現在進行形で進んでいるのだ。 上空から放たれる不知火参型の銃撃を、アファームドJAは持ち前の機動力で難なく回避する。

「どうしたぁ? いくら強化しても、デク人形の戦術機さんはそれが限界ですかぁ~?」

 オープン回線から聞こえて来る、こちらを嘲笑するアファームドJAのパイロットの声。 まるで弱い物いじめを行ういじめっ子のような口調に、流石のユウヤも眉間にシワを寄せ不快感をあらわにする。 だが奴の言う通り、メガドライヴを搭載した戦術機でも、VRとの絶対的な性能差はどうしても埋める事が出来ない。
 それでもユウヤは唯依やアルゴス小隊の皆から授かった戦闘技術、そしてエヴェンスクハイヴ攻略戦での経験を総動員させ、ここまで一度の被弾無く立ち回って来れた。
 回避した先に突撃砲の銃口を向け、再度ユウヤは36ミリのトリガーを引く。 だが結果は先程と変わらず、アファームド系列特有の地上機動力で容易に回避されてしまう。 対して相手は反撃するそぶりも見せず、完全にユウヤを舐め切った態度を見せている。
 この時唯依や武達と出会う前のユウヤだったら、その挑発に乗って惨敗する未来が待ち受けているだろう。 だが今のユウヤは違う。 相手の動きを一瞬たりとも見逃さず、反撃の時を粘り強く待っているのだ。 そのチャンスは、VRの性能に自惚れから生まれる隙にある。

「(だったら・・・!)」

 プラズマジェット式の跳躍ユニットから青白い噴射炎を吐き出し、不知火参型の機体が前に躍り出る。 アファームド系列の弱点は、空中機動性能が余り高くは無い。 先程から奴が跳躍を躊躇っているのはそれが理由かもしれないとユウヤは見抜いたのだ。 ならばそのシチュエーションに奴を持ち込ませ、必殺の一撃を叩き込めば勝機はある。 ユウヤは装備している全ての突撃砲で36ミリを浴びせかけるように撃ち、アファームドJAが上空に逃げる時を狙う。

「今だっ!!」

 回避先がビルに阻まれたアファームドJAがジャンプしたのを見た瞬間、ユウヤは右の兵装担架システムから長刀を取り出し、一気に距離を詰めて斬りかかる。 予想通りアファームドJAの空中機動性は鈍く、攻撃のチャンスは今しかない。 だがその切っ先が届こうとしたその時、空中で振り向いたアファームドのセンサーがユウヤを嘲笑うかのごとく鈍く光った。

「くっ・・・!?」

 アファームドJAは左腕に収納されていたターミナス・マチェットを左手に持ち、掬い上げるような斬り払いで不知火参型の一撃を一蹴したのだ。  マチェットをかろうじて長刀で受け止めたものの、弾かれた反動で不知火参型の機体が瓦礫と土煙を立てて演習場の地に伏せる。 管制ブロック内に衝撃が走ると共に鳴り響く警告音、表示されたステータスは機体の各部が赤く表示されている。 そしてユウヤの目には、コチラにガンランチャーの銃口を向けるアファームドJAの姿があった。

「さっきのはヒヤッとしたが、所詮はデク人形だな! これからじっくり嬲ってやるよ」

 最早これまで、このまま奴に一矢報いる事も出来ずに敗北するのか。 ユウヤの心中に諦めの文字が浮かび上がってきたその時、太陽のそれではない閃光が差し込んだかと思うと、アファームドJAのパイロットが驚愕した声を上げる。

「こ、この光は・・・?」
「て、定位リバースコンバート・・・!?」

 VRを母艦から発進させると同時に、瞬時に戦場へと転送する電脳暦世界の技術。 その光景が今まさに目の前で行われている事に、ユウヤもまた驚愕していた。 このような状況で一体誰がやって来るのだろうか、そしてその者は自らの味方に回るのかそれとも敵なのか。
 上空に浮かぶ光球から一段と激しい閃光が瞬いた後、転送されたVRの姿がユウヤ達の前に姿を現す。 そしてインカムから聞こえてくる声に、ユウヤは聞き覚えがあった。

『諦めるにはまだ早いわよ、ユーコンのトップガンさん!』

 網膜ディスプレイに表示される通信ウインドウ、そこにはテムジン747H/T82『翔鶴』に乗る霜月菫が静かに微笑む姿が映っていた。


・AM10:17 ユーコン基地 管制室


「一体、あの機体は・・・?」

 演習中に突如発生した不明機の乱入、その事態にユーコン基地の管制室は蜂の巣を突く大騒ぎとなっていた。 その渦中でユウヤを見守っていた唯依は、結果的にユウヤを救った不明機体についてこの場にいる者達の感想を体現するかの如く呟く。
 管制室の大型モニターに映る機体の外観は、かつて自分が初陣で乗った戦術機、82式”瑞鶴”のそれと瓜二つの重厚なシルエットをしていると気付く。 だが先程の登場の仕方も含め、それが戦術機ではない異世界の兵器、VRであることは明らかだ。 そして、このような改造を施し、それを乗りこなす者達を唯依は知っていた。 専属オペレーターの一人であるニイラム・ラワヌナンドが、唯依に新たな情報を知らせる。

「篁中尉、横浜基地からデータが転送されてきました」
「横浜基地から?」
「はい。 あの不明機が現れた直後にです。 サブモニターにデータ表示します」

 そう唯依に告げたラワヌナンドがキーボードを叩くと、それは紛れも無くユウヤを助けた機体のワイヤーフレームと各種データが、管制室のモニターの一角を埋め尽くすように表示される。

-MBV-747H/TYPE82 テムジン747H/T82『翔鶴』-

 モニターに表示される機体名とスペックに目を通しながら、唯依は747Hと呼ばれるテムジン747の重装備型を元に、瑞鶴を模したアーマーを装着していると確証する。
 747H本来の装備に加えて、本来ナイフシースが設けられている腕部には、ソ連軍機が装備するモーターブレードを模したであろう近接武器が。 さらに左右の肩部ユニット側面には87式突撃砲がそれぞれマウントされており、此方側の技術も含めて徹底的に火力と防御力を増強されているようだ。

「もしかすると、あの機体に乗っているのは・・・!」

 そう唯依が呟いた瞬間、テムジン747H/T82『翔鶴』が今までユウヤをいたぶっていたアファームドJAに、クラウド・スラップMk1の銃口を向ける。 そして彼が受けた痛みをそのまま返すかのように、迸るエネルギー弾がアファームドJAへ放たれた。


「な・・・何の真似だ!?」

 定位リバースコンバートまで用いて戦術機を庇う様に乱入し、更に自分に攻撃を仕掛けてきたテムジン。 対するアファームドJAのパイロットは反射的に回避を成功し、殺気に満ちた視線で睨みつけながら吼えた。 そして彼は、自分に銃口を向け続けるテムジンの姿を、ユウヤを追い詰めた時とは一転した鋭い目つきで観察する。
 この世界のデク人形もとい戦術機を模したアーマーを着装し、それを染めるのは地球を思わせる青き国連カラー。 そして国連軍VRパイロットのエースにのみ許された、肩部アーマーを彩る青紫色のパーソナルカラーが目に入った瞬間、アファームドJAのパイロットは全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。

「まさか、テメェは・・・」

 最後まで言い終えることを許さないかのように、再びテムジン747H/T82『翔鶴』が持つクラウド・スラップMk1から閃光が迸る。 だがそれは先程とは違ってシミュレーターが生み出した幻像であり、アファームドJAのパイロットはそれ容易に回避。
 追撃から逃れるために障害物となる廃ビルの陰へと移動し、背中合わせの状態で身を隠す。

「(間違いねぇ、あいつは・・・!)」

 荒い息遣いがコクピットに響き渡り、今まで参加したどの戦いよりも比べ物にならないプレッシャーが彼を襲う。 接敵警報。 廃ビルの合間を縫うように、奴が急速接近してくるのをセンサーが検知する。
 機体の左手に握られたターミナス・マチェットの刀身が鈍く光り、アファームドJAが迎撃の構えを見せる。 距離計が2ケタを切った瞬間、アファームドJAのパイロットは覚悟を決めた。

「おらあっ!!」

 アファームドJAが通路方向へと急転回し、その勢いを加えてマチェットを水平に振る。 予想通り、その眼前には菫が駆るテムジン747H/T82『翔鶴』の姿。 乾坤一擲の思いで振られたマチェットの刃は、アファームドJAのパイロットの予想ならテムジンの胸部装甲に食い込んでいる筈だった。 だがその手ごたえは感じられず、それどころか目前にいたはずのテムジンの姿が忽然と消えていたのだ。
 そして次の瞬間、情報からの接近警報が、アファームドJAのコクピットに鳴り渡る。

「はああっ!!」
「しまった・・・!」

 クラウド・スラップMk1を構成する二つの銃身の間に仮想の刃が形成され、落下速度に乗じた猛烈な勢いで菫はそれを振り下ろす。 仮想の刃がアファームドJAの機体を抉るようにヒットし、致命傷判定を喰らったアファームドJAの機体はその場に膝を付く体勢で機能を停止した。
 余りにも唐突な、なんとも呆気無い模擬戦の終わりに、戦いを見ていた誰もが言葉を失っていた。 そしてアファームドJAのパイロットはコクピットの中で、自分を負かした菫の負の通り名を呪詛を掛ける様に口にした。

「畜生、よりにもよって何でお前が現れるんだ。 ”横浜のニオイスミレ”め・・・!」


・ PM12:04 ユーコン基地 アルゴス小隊戦術機ハンガー


 菫の乱入により今回の模擬戦は無効となり、ハンガーに帰還した不知火参型の管制ブロックからなんともいえない表情をしたユウヤが、キャットウォークに乗り移る。 下では今まで彼の戦いを見守っていたアルゴス小隊メンバーの顔が見え、その中には唯依の姿もあった。
 ハンガーを取り巻く喧騒の中、唯依は不知火参型の隣にある予備機用ハンガーに固定された、テムジン747H/T82『翔鶴』の機体を見上げていた。

「(なるほど、やはりこの機体は・・・)」

 基地管制室のモニターで見た時もそうだったが、このテムジンは斯衛軍の82式戦術機『瑞鶴』に瓜二つなシルエットをしていると唯依は感じていた。 異世界の人型兵器たるVRのスマートさとはいささか不釣合いな印象を持つが、これも異世界に身を置く彼女なりのやり方なのだろう。
 コクピットハッチが開き、衛士強化服とは全く異なるデザインをしたパイロットスーツを身に纏った人物が、唯依達の前に姿を現す。 そしてVRの頭部を模したHMDヘルメットを脱ぐと、長い髪と共に菫の顔があった。 ヘルメットを持つ反対の手で髪をさっとかき分けた後、菫は隣のキャットウォークで此方を眺めているユウヤを見る。 対するユウヤは、なぜ彼女がここに居るのだという驚きの顔を見せている。
 ハンガーを包む喧騒に負けないくらいの声量で、キャットウォーク越しにユウヤは菫に問いかけた。

「霜月少尉、何故アンタがここに!?」
「弱い物虐めは見過ごせない性格なの。 それに今の階級は中尉ですから、呼び方に気を付けないと・・・」

 そう菫に言われてユウヤがキャットウォークの下を見ると、眉間にシワを寄せて此方を睨む唯依の姿。 規律云々にうるさい彼女に見られてしまったが最後、後で口うるさい説教が待っている事にユウヤは冷や汗を垂らした。

「それじゃ、詳しい話は後でね。 ブリッジス少尉」

 そう告げた菫を載せたキャットゥオークがグンと動き始め、アルゴス小隊の皆が待つ下へと降りて行く。 そしてユウヤもため息をつきながら、整備員に下ろしてもらうよう頼んだ。


・ PM2:07 ユーコン基地 アルゴス小隊ブリーフィングルーム


「まず初めに、ブリッジス少尉の模擬戦闘に水を差すような事をして、この場でお詫びします」

 ブリーフィングが始まると同時に、菫の口から出たのはユウヤらアルゴス小隊に対する謝罪の言葉だった。 確かにあの模擬戦からユウヤやユーコン基地のメンツを守ったとはいえ、要らぬ混乱を生んでしまったのは確かだからだ。 しかし、誰も菫を責める者はいない。 武の存在をきっかけとして出会った彼女とアルゴス小隊の間には、既に深い絆が出来上がっていたからだ。
 それに仲間の危機を救うのは、戦友として当然の事。 最後尾に座るヴァレリオが、軽口を交えながら菫に返事をする。

「いやぁ~、麗しの霜月中尉がこのユーコンに再び来るのは大歓迎ですけどねぇ~!」

 そう継げたヴァレリオが感じるのは、ツララが勢い良く落ちるかの如き冷たく鋭い視線。 それを感じる方をそっと見ると、ジトッとした目で睨み付けるステラとタリサの姿。 小言で謝る彼を他所に、イブラヒムが本題を切り出した。

「しかし霜月中尉、今回あなたがここに来たのはブリッジス少尉を助けるために、わざわざ横浜基地から駆けつけて来た訳ではあるまい?」
「はい。 今回私がこのユーコンに再び来た理由は、大きく二つあります」

 そうして菫は、このユーコンの地を再び踏む事になった理由と経緯を話し始めた。
 1つ目は『ユーコン基地に駐留する、企業連所属のVR部隊の監視及び矯正』である。 BETAの地球侵略の中枢たるオリジナルハイヴ攻略に成功した後、世界各地に分布するハイヴ及びBETAの活動が急激に落ち込んでいた。 当然世界各国はユーラシアの奪還に向けて、戦力の建て直しや新たなる新戦力の開発に乗り出す事になる。 そしてそれらは、この後方基地にして最前線であるユーコンで行われる事になるのだが、そこには従来には無い勢力が駐留していたのだ。

「それがユウヤと戦った、企業連の部隊って訳か。 リルフォートで聞いた話だと、”傭兵”って奴等なんですよね?」
「ええ。 マナンダル少尉の言う通り、企業連のVRパイロット達は私がいる電脳暦世界、そこに存在する企業と契約した傭兵で構成されています」

 どの国家の軍隊に所属せず、直接依頼人やPMCと呼ばれる民間軍事企業に雇われ、依頼人からの任務を遂行する。 それが傭兵と呼ばれる、金と戦いに飢えた戦士達である。
 こと菫が暮らしていた電脳暦世界においては、傭兵という存在は珍しくは無い。 そもそもダイモンとMARZの戦いが終結する以前の電脳暦世界は、”国家”という概念は無く、巨大企業が世界を支配していた。 各企業が企業軍を保有しそれに所属する人間達は、旧時代の定義なら全員傭兵と当てはめる事が出来るのだ。
 だがダイモンの駆逐を節目に地球圏では再び主権国家が蘇り、電脳暦世界は大きな変革を迎える事となった。 ”国”という概念が蘇った事で、その国と民を守る”国軍”という存在が再び結成されたのである。

「つまり、霜月中尉が仰る傭兵というのは・・・」
「ええ、現行の電脳暦世界における傭兵とは、依然として各企業に所属し続けている兵士の事を指します」

 隣に立つ唯依の問いに、菫は頷きながらそれに答える。 あの時ユウヤと戦ったアファームドJAのパイロットも、そうして企業と契約してこの世界にやってきた者の一人なのだ。 そして菫は傭兵が持つ、最大のデメリットを説明する。

「皆さんのように国家に属している軍人とは違い、傭兵は報酬の為に任務を遂行します。 そして残念な事に、時として彼らは報酬や破壊的衝動を求めるが故に凶行に走る事も少なくありません」

 忠義も信念も無く、任務遂行と引き換えにもたらされる多額の報酬を目当てに、あるいは破壊と殺戮の飢えを満たすべく、傭兵達は国際法を逸脱した犯罪を行う事も珍しくは無い。 加えて彼らを制御する義務がある企業も、半ば彼らを使い捨ての道具と見なして放置するケースもあるという。
 そうした蛮行を制するべく、電脳暦世界に蘇った国連は菫のようなVRパイロットを集結させ、世界情勢の安定化に向けて行動を開始しているのだ。 その任務は、このオルタネイティヴ世界においても変わる事は無いのである。

「皆さんも既に理解している通り、メガドライヴの搭載を持ってしても戦術機とVRの性能差は十分に埋められません。 そして、VRに対抗する兵器は同じVRのみ。 彼らの増長を防ぐ事が、ユーコンを訪れた理由の一つです」

 そう告げて、唯依に負けない程の凛とした顔を見せる菫を見て、ユウヤの脳裏にかつてユーコンの窮地を救った武の顔が蘇る。 そして彼女も同じ、武という存在に魅入られた者なのだと悟った。 菫の話が終わった事を確認した唯依が、意地悪そうな表情でユウヤに語りかける。

「丁度良いじゃないかブリッジス少尉。 VRとの戦い方を、彼女から優しく手解きしてもらう絶好の機会だぞ」
「そうだぞユウヤ。 今度またアイツにふっかけられても、性能が全てじゃないって事を見せ付けてやれよ!」
「あ~あ。 美人二人に色々とレクチャーとは、そっちの方でもトップガンですか。 羨ましいですなぁ~」

 唯依に続いてまくし立てるタリサとヴァレリオに対し、苦笑いで応えるユウヤ。 そんな彼らを眺め微笑んだ後、菫はもう一つの理由を話すべく口を開いた。

「もう一つの理由ですが、こちらは篁中尉とブリッジス少尉の二人に後でお話します」
「私と少尉にですか?」
「はい。 なので私がここで皆さんに語れるのはここまでです」

 そうユウヤ達に告げた後、菫は懐から取り出した一枚の紙切れを唯依に手渡す。 そして彼女の耳に、菫はそっと囁いた。

「それじゃ始めましょうか。 ”特訓”を・・・」


・ 二日後 AM9:37 ユーコン基地 第二演習場


 第一演習場に隣接する第二演習場。 演習に使う頻度は第一演習場でないにせよ、ここでも人類の未来をになう戦術機と衛士を養う立派な土壌の一つなのだ。 市街地を模したコンクリート製の障害物の間を、欧州連合軍所属の戦術機F-5E”トーネードADV”2機がGWS-9突撃砲を構えながら前進する。
 欧州戦線で開発された第3世代機F-2000”タイフーン”の雛形にもなった第1世代機F-5”フリーダムファイター”の近代化改修を施し、第2世代機相当のスペックを持つのがこのトーネードADVであり、このユーコン基地でも欧州連合軍の部隊が更なる発展を目指そうと運用されている。
 戦術機編成の最小単位であるエレメントの隊形で、足並みをそろえて障害物の隙間を移動する最中、ダガー2のコールを持つトーネードADVが敵機接近を察知する。

『うわっ! 回りこまれた!?』
『焦るなダガー2、近接戦くらい対処して見せろ! いざという時は俺が援護する!』

 戸惑うダガー2を諭しながら、後方に居る同僚のダガー1はレーダーや戦域情報を手早く確認する。 相手は異世界の国連軍が運用するVRが2機。 ただし今回は戦術機と同等のスペックに制限した上で挑んでいるという。 機体スペックが同じなら、最後は乗り手の腕がものを言う。 ダガー1は機体姿勢を低くして身を隠し、前方のダガー2に仕掛けてくる敵を狙い撃つ構えを取る。
 接近警報と同時に聞こえてきた、甲高い射撃音。 標的とされたダガー2が主脚によるステップを駆使し、反射的に上方から飛来してきた攻撃を回避した。 第一世代機特有の無骨な頭部モジュールが、攻撃を仕掛けてきた敵機の姿を睨む。

『敵機画像照合・・・第二世代型VR、MBV-707J”テムジン707J”と判明!』
『気をつけろダガー2、ヤツの相方が近くにいる!』

 ダガー2に忠告を送りながら、ダガー1も姿を晒した敵機を食い入るように視線を向ける。  背中に搭載されたマインドブースターを輝かせながら空中を跳ぶ機体は、国連所属機を表すUNブルーを基調に、かつてオラトリオ・タングラムと呼ばれた戦いで生み出された当時のカラーパターンに身を包んでいる。
 -見世物-としての戦争の為に生み出された人型兵器であるVR、その始祖であるテムジンの名を受け継ぐ直系の機体。 欧州戦術機の始祖であるF-5の直系機を操る衛士としては、これほど因果且つ相応しい相手はいない。 我ながら感慨深いなと思いながら、近接戦を仕掛けるダガー2を支援するべく、ダガー1は突撃砲の照準を定める。

『おらあっ!!』

 着地間際のタイミングを狙い、ダガー2は腕部に装備されたブレードを展開して、猫が爪で引っ掻くように斬りかかる。 対するテムジン707は右手に握る主武装”スライプナーMk4”を構え、刃にも槍にもなるその銃身でブレードを受け止めた。 その直後、テムジン707のパイロットから音声のみで通信が入る。

「軽い軽い! そんなネコパンチみたいな近接で、俺は倒せないぜ衛士さんよぉ!」
『な・・・何を~!』

 相手の煽りにまんまと嵌り、右に左とブレードの連打を繰り出すダガー2。 そんな彼を見かねてダガー1が支援しようにも、両者の距離が密着しすぎて誤射してしまう状況だ。

『距離を開けろダガー2! むざむざやられに行く気か!?』
「その通りだぜ、片割れさん!」
『っ!?』

 突然通信に飛び込んでくる声と、同時に管制ブロック内に鳴り響くアラート。 どうやらテムジン707は自分達を引きつける囮役を演じ、彼の僚機であるもう1機は自分を狙っていたのだと悟る。 アラートが知らせた方向をダガー1が視線を向けると、テムジンによく似たVRがこちら目掛けて急接近する様子が見えた。
 跳躍ユニットのノズルからロケットモーターの炎が噴出し、瞬間的な加速で敵VRの突撃を回避する。 そしてセンサーが捕らえた機影から、敵機の詳細が網膜ディスプレイの情報欄に記載された。 MBV-04-10/80adv”テン・エイティアドバンス”、人類初のVRであるMBV-04-G”テムジン”の簡易量産型として開発されたテン・エイティの近代化改修機である。
 改修が成されたとはいえ、性能は現行のVRより大幅に劣る旧式機で挑むとは、よほど自分の技量に自信があるのだろうか。 ダガー2の様子を視界に入れながら、ダガー1の口が開く。

『お前が俺の相手か・・・?』
「そういう事、お手柔らかに頼むぜ!」

 そう言いながらニードル2のコールを持つテン・エイティのパイロットは、主武装のCGS-typeb2/eの銃口をダガー1に向ける。 そして挨拶とばかりに、最大出力でのみ放つ事ができるレーザーを見舞った。


・ ユーコン基地 管制室


「ダガーチーム各機、耐久値65%以下に到達。 ニードルチームもほぼ同等の値です」
「う~ん、一進一退か・・・」
 オペレーターを務めるフェーべの報告に菫は眉間にシワを作りながら、モニターに映し出される模擬戦を眺める。 『各チームの機体に耐久値を定め、0%になれば行動不能』という特殊条件による模擬戦闘。 開始して数十分経過したが、未だに決着に至る様子は見られない。
 これもVRの戦闘力を戦術機と同じスペックに制限した上での結果だが、何よりも双方のパイロットの技量により、互角といえる戦況を実現している。 機体を操る人間が加わる事で真の性能を構成するとはいえ、やはりVRの性能がオーバーテクノロジーに依存しているのだと菫は思い知らされる。
 そして、それと似たような物を感じていたのは隣にいる唯依も同様だった。

「どうやら中尉の世界における衛士の技量も、相当のものですね」
「ええ。 我々は”世界の平和”の為、負けは許されませんから」

 負けは許されない。 その言葉を聞いた唯依は、彼女も自分同様に大切な何かを背負いながら戦っているのだと悟る。 そして今演習場で激戦を繰り広げているニードルチームのパイロット達、ダガーチームの衛士達も、自分達と同じ”守りたいもの”があるから戦っているのだろう。

「お前にも、そういうものがあるのか? ユウヤ・・・」
「ん? 何か言いましたか篁中尉?」
「い・・・いえ!? 別に何も・・・」

 呟きをしっかり聞かれてしまい赤面する唯依に、菫はクスクスと口に手を当てて笑う。 モニターに映し出される残り時間は、あと十数秒に達していた。


・ 翌日 PM9:02 ユーコン基地 アルゴス小隊ブリーフィングルーム


「ではお願いします、霜月中尉」
「はい。 私がユーコンを訪れた理由、それはこのデータを篁中尉達に届ける事です」

 唯依の言葉を合図に始まった、ユウヤ、唯依、そして菫による3人だけの秘密会議。 菫が操作するモニターには、1機の戦術機らしい人型兵器のワイヤーフレームが映し出される。 その画像を見て、最初に声をあげたのは唯依だった。

「霜月中尉、この機体は・・・!」
「篁中尉の思っているとおりです。 この機体はNTSF-X”震電弐型”。 日本帝国軍の次期主力戦術機となる、第4世代戦術機です」

 菫の口から知らされる事実に、ユウヤは勿論唯依も驚きを隠せない。 現在ヴァルキリーズやユウヤが乗る不知火参型は、メガドライヴという特殊装備に無理をして改修を施した機体であり、性能の限界が見えてくるのは明らかだった。 そこでメガドライヴ搭載を前提に開発されたのが冥夜が乗る武御刀だったが、此方は冥夜専用の調整がなされているので、他の衛士が操るのは到底不可能な機体になってしまった。
 ならば、量産を前提とした武御刀を開発すればいい。 その結論に達した帝国軍上層部は、横浜基地と共同で新たな第4世代戦術機”震電弐型”の開発を決定したのだ。 しかし、門外不出であるはずのデータが、何故菫を通じて自分達の下に送られたのか。 その疑問を感じたユウヤが、菫に質問する。

「霜月中尉、そんな大切なデータを、何故あなたが持っているんです?」
「帝国の幹部の人が先行公開として、このデータを横浜に持ってきたのよ。 そして香月副司令が、このデータを篁中尉に届けるようにと私に託したって訳」
「それじゃあ・・・」

 瞳が輝く唯依に、菫は無言で頷く。 この瞬間、国連軍アルゴス小隊が”XFJ計画”に続いて、この震電弐型の開発計画の主任部隊に任命されたのだ。 寝耳に水の出来事に開いた口が塞がらないユウヤに、菫が語りかける。

「これは私から個人的な頼みなんだけど・・・ ブリッジス少尉、あなたに震電弐型の開発衛士をお願いしたいの」
「俺・・・いや自分にですか!?」
「ええ。 日米の技術を結集して生まれた不知火弐型を手がけたあなたなら、必ずこの未知の機体も乗りこなせるわ」

 そう願う菫の脳裏に浮かぶのは、この世界を守って去った武の姿。 何処までも馬鹿で、何処までも無鉄砲で、だけどこの世界を救うという純粋な願いの元に戦った一人の男。 そして今、彼の後継者に成りうる素質を持つ衛士の一人が、目の前にいる。 自分がユウヤに言っていることはもはや願いではなく、命令や強制にも等しい者なのかもしれない。 それでも、二度とないチャンスを逃すわけには行かないのだ。
 そんな菫の思いを汲み取ったのか、ユウヤは首を縦に振りながら答えを言う。

「光栄だ中尉、また94サードみたいな機体に乗れるかと思うと楽しみだ!」
「では、彼の監修は私以外にはありませんよね?」

 ユウヤに続いて何時もらしくない口調で答える唯依に、菫は微笑む。 正式な発表は後日に行われるだろうが、これからどのような苦難が二人を待ち受けていようとも乗り越えられると菫は思った。

「だから・・・人類の夜明けを迎えるために、共に戦っていきましょう!」
「はいっ!」
「おう!」

 誓いの言葉とともに差し出される菫の手に、唯依とユウヤ、合わせて3人の手が重なる。 異なる国、異なる世界の垣根を越えて生まれた絆の先に、果たしてどのような結末が待っているのか。 その物語は、また別の機会で語る事にしよう。



[2970] 人物集/用語集
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a
Date: 2013/12/01 01:49
[人物集]
人物紹介(マブラヴside)
御剣冥夜他、207Bの面々は設定はそのままなので、説明を割合させていただきます。

・   白銀武
ご存知、時と世界線を越える主人公。 階級は准尉から、ヴァルキリーズに配属されている現在は特務中尉。 BETAの存在する異世界に飛ばされるならまだしも、それ以外の異世界に飛ばされるという経験をする。
 バルジャーノンそっくりの人型兵器、VRの性能に魅了され、これであの世界を救えると悟り、最初に出会った菫に協力を申し出る。

・ 麻倉直美
国連軍横浜基地207訓練小隊A分隊の衛士訓練生。  ヴァルキリーズ配属後の階級は少尉。
同部隊所属の高原光とは幼馴染であり、抜群のコンビネーションを発揮する。 狙撃を除いた射撃技能に優れ、味方に的確な支援を行う。

・ 高原光
国連軍横浜基地207訓練小隊A分隊の衛士訓練生。  ヴァルキリーズ配属後の階級は少尉。
 麻倉直美とは腐れ縁の仲。 近接戦闘のスキルに長け、突撃前衛を目指す茜とは良きライバル。

・ 築地多恵
国連軍横浜基地207訓練小隊A分隊の衛士訓練生。 ヴァルキリーズ配属後の階級は少尉。
 同分隊隊長である涼宮茜には愛情に近い何かを持っており、常に彼女の周りを付きまとっている。

・ 七瀬凛
 日本帝国斯衛軍所属の衛士で、階級は少尉。 先に斯衛軍衛士となった兄を慕っており、それに関係する事になると見境が無くなる、所謂”ブラコン”属性の持ち主が唯一の弱点だが、それ以外は冷静沈着な完璧少女として振舞っている。
白の武御雷に搭乗。

・ 鳴海孝之
 かつてヴァルキリーズに所属していた衛士で、階級は中尉。 遙や水月とは同期だが彼女達が総戦技演習の事故で任官が遅れてしまい、一足先にヴァルキリーズに配属。 明星作戦に参加した際にG弾の投下を目の当たりにし、九死に一生を得て生還するも重傷を負う。
 復帰後は帝国軍厚木基地に配属され、9.11クーデター後は天元山で不法住居者の避難活動をしていた。


人物紹介(オリジナルside)

・ 霜月菫(しもつき すみれ)
 国連軍太平洋方面第7軍、ペリリュー基地所属のVRパイロット。 階級は少尉。 電脳暦世界に迷い込んだ武を保護し、彼が持つVR操縦の才能にいち早く気付いた人物。
傍から見れば気さくなお姉さんだが、周囲に流される事無く自分の信念を貫こうとする、悪く言えば”カタブツ”な性格。 暴走しがちな上司に頭を抱えながらも、仕事をこなす努力家でもある。

・    ケイイチ・サギサワ
 国連軍太平洋方面第7軍、ペリリュー基地所属のVR研究者。 階級は大尉。 太平洋の島国パラオ出身の日系人で、菫の上司。
 自らの乗機であるマイザーを改造し、Vクリスタル由来の新素材技術『Vマテリアル』を発案するなど、その実力は確かなもの。 並行世界の存在、そして武を通じて知った異世界の兵器である戦術機や技術にも、強い興味を抱いている。

・ 苗村孝弘(なえむら たかひろ)
 機動自衛隊のVR教導隊『リーフ・ストライカーズ』のリーダーを務めるVRパイロット。 階級は一尉。 幼い頃からゲームセンターに設置されている民生用のVRシミュレーターにハマっていく内に、本物のVRパイロットの道を志すようになる。
 チーム内のポジションは遊撃指揮。 中距離主体の機動遊撃戦を得意とし、同じスタイルで戦う武に強い興味を抱いている。

・ 早峰美雪(はやみね みゆき)
 機動自衛隊のVR教導隊『リーフ・ストライカーズ』のメンバー。 階級は二尉。 苗村孝弘とは幼馴染の関係であり、彼の後ろを追いかけていくうちにそのままパイロットになってしまった。 チーム内のポジションは広範囲索敵と狙撃支援。 千里眼ともいえる索敵力と百発百中の狙撃で進むべき道を見つけ導く。

・ 石川佑哉(いしかわ ゆうや)
 機動自衛隊のVR教導隊『リーフ・ストライカーズ』のサブリーダー。 階級は三佐。 孝弘とは腐れ縁の関係で悪友。 本来は別部隊の隊長を務めているのだが、本人の希望によりリーフ・ストライカーズのメンバーとしての活動も行っている。 チーム内のポジションは遊撃格闘。 自ら砲火の前に躍り出て、至近距離における射撃や格闘で突破口を切り開く。

・ 花月桜花(はなつき おうか)
 機動自衛隊のVR教導隊『リーフ・ストライカーズ』のメンバー。 絵に描いたような大和撫子で、しばしば脱線しがちなメンバー達を止めるストッパー兼まとめ役。 チーム内でのポジションは突貫前衛。 幼少の頃から鍛え上げられた薙刀術の腕前は、襲い掛かる全ての敵を文字通り薙ぎ払う。

・ 秋月椿(あきつき つばき)
 異世界の日本である日本帝国と交渉のため派遣された、日本政府のエージェント。 文武両道の完璧お嬢様で、事実上の日本帝国代表である煌武院悠陽との数少ない話し相手となっている。 気品と風格に溢れた異世界の日本を何よりも気に入っている1人。

・ フーリエ
 ケイイチの助手を務めるマシンチャイルド(人造人間)。 外見は14歳程度。 元々ケイイチが行って居た『自我を持つ人工知能』の研究から生まれた量子AIであり、マシンチャイルドのボディを手に入れた現在は現実世界の生活を楽しんでいる。 生体タイプのボディを使用しているので、通常の人間と同じように食事をとったりする。



・人物紹介(他作品ゲストside)


・ セネス・クロフォード
 国連軍大西洋方面軍、レイキャビク基地所属の技術仕官。 階級は少佐。 彼女も武と同様“時空を越えた者”の一人であり、真の素性を知る物は国連上層部でもごく限られている。
元の世界では第222特殊部隊“サンダーフォース”の隊長を務め、暴走した人工知能“ガーディアン”の破壊作戦に参加。 その戦いの最後に、宇宙から飛来してきたオーバーテクノロジー“ヴァスティール・テクノロジー”を封印して欲しいとガーディアンに託され、ヴァスティールの技術が詰まった乗機“ヴァンブレイス”と共に人工冬眠に入る。
 そして広大な時空の果てを漂流した末に電脳暦世界に到来し、保護される。 その後、再び封印を解かれてしまったヴァスティール・テクノロジーの行く末を見守りながら、新たな使い道を模索している。

元ネタ:テクノソフト制作のSTG『サンダーフォースⅤ』の主人公、セネス・CTN・クロフォードより


・ シュバルツ・クーゲベルク
新造特装艦『フィルノート』艦長で、ドイツ出身。 部下思いのよき指揮官であり、常に自分の信念を通し続ける豪傑。 現役時代は欧州戦線で数々の武勲を挙げており、“首領”の愛称で親しまれている。
 時々『死ぬがよい』や『・・・と言いたいところだが』などの物騒な言葉や無理難題を押し付ける所があるが、それが冗談なのか本気なのかは定かではない。

元ネタ:弾幕STG『怒首領蜂(CAVE)』シリーズよりシュバルリッツ・ロンゲーナ大佐

・ 岡崎教授
 量子力学研究の第一人者。 本名は不明で、同僚達からは“教授”と呼ばれている。 量子転送技術を専攻で、夕呼が喉から手が出るほどほしい数式を生み出した張本人。 本名や素性に謎が多い人物だが、超が付く程の甘党で、イチゴに練乳をたっぷりかけて食べる程度らしい。

元ネタ:同人STG『東方Project(旧作)』より、岡崎夢美

・ 八意先生
 椿が保護したイルマを治療した、蓬莱クリニックの院長。 医療用ナノマシンを用いて患者を治療する医師であり、カウンセリングや外科手術もお手の物。 プラントから捨てられたマシンチャルドや使役生物を保護して病院で働かせている一方、怪しげな研究や実験を行っていると言う噂も・・・?

元ネタ:同人STG『東方Project』より、八意永琳

用語解説(バーチャロン公式side)
これらはあくまで公式の物で、本SSとは設定が異なる場合があります。

電脳暦(Virtual Century)
略してVC。 巨大企業達がもたらした超情報化社会の影響によって、主権国家に代わって企業が世界を統一する時代。 年号は16進数で数えられる。
 人類が自らの可能性を閉ざしてしまった閉鎖的な世界であり、後述の限定戦争等、ありとあらゆる社会活動が商業的、消費的なものにになっている。

限定戦争
 電脳暦の世界において、従来の戦争を放棄するも依然として人々に残る破壊衝動・闘争本能、そして企業間における対立を解決させるべく生み出されたシステム。 『娯楽・見世物としての戦争』であり、各企業が戦力、開催地、放送権を独占し、それを活用することで多大な利益が得られた。
 参加する兵士にも戦果に応じて報酬と栄誉が与えられるが、それには基本的人権を放棄した後(殺されても文句は言えない状態)、企業軍と一定期間の契約の元、一般社会から隔絶された戦場で戦い続けなくてはならない。

<技術>
ムーンゲート
VC84年に月面で発見された、人類起源外の巨大建造物。 最深部にVクリスタルが安置されている。 また、調査中に発掘された頭部らしき人型構造物(後のバル・バス・バウ)が、VR開発の遠因ともなった。

Vクリスタル
月面遺跡“ムーンゲート”最深部にて発見された、正八面体をした結晶体。
実空間と電脳虚数空間、更には異世界への通路を開き、事象の転送を行う機能を持つ。 また人の精神を吸収する作用を持ち、後に“バーチャロン現象”と名づけられ現場の作業員達から恐れられた。
またVクリスタルは地球や火星、木星でも発見され、それぞれアース・クリスタル、マーズ・クリスタル、ジュピター・クリスタルと呼ばれる。

バーチャロイド(VirtuaRoid)
 限定戦争にて使用されている、人型機動兵器。 元々は『見た目が派手で、尚且つ残虐性が露呈しにくい』という、限定戦争のニーズから発案された“XMU計画”で人型兵器の開発が行なわれるも、技術力不足により頓挫してしまう。
しかしVC84年、月で発見された古代遺跡“ムーンゲート”から得られたオーバーテクノロジーによって実用化された。 火力、機動性、装甲など、あらゆる在来兵器を凌駕する性能を持つ。

Vコンバータ
バーチャロイドの背中に付いている、Vクリスタルの機能を模倣しようとした結果生まれたVRの心臓部。 内包するVディスクにVRのデータを書き込み、強い負荷を掛けることで起きる実体化現象“リバース・コンバート”を利用することでVRは製造される。
これ以外にも激しい機動(ダッシュ・ジャンプ)を行った時に、パイロットの意思とは関係なくVコンバータの内部機構が露出し強制冷却を行う自律放熱反応など、一種のブラックボックスと言える代物になっている。
 因みにその外観は、初代の機体はセガサターン、2作目の『オラトリオ・タングラム』の機体ではドリームキャストと、セガが発売したゲーム機がデザインされている。

MSBS(Mind Shift Battle System)
バーチャロイドの操縦およびVコンバータの制御に用いるOS。
 『人間の思考をダイレクトに機械の制御系に反映させて制御を行う』というコンセプトの元に開発された。 それ故に使用中はパイロットの精神に多大な負担を与え、開発初期にはVクリスタル同様バーチャロン現象が相次いて発生したという。
尚、実際のゲームとの対応は以下の通りになっている。
Ver.3~(初代)
Ver.5~(オラトリオ・タングラム)
Ver.7~(フォース)
Ver.8.5(マーズ)

タングラム
天才少女リリン・プラジナーが開発した、時空因果律制御機構。 Vクリスタルと共鳴し、平行世界から任意の事象をこの世界に持ち込むことで、個人から世界全体までの運命をも左右する。 

<組織>
DN(ダイナテック・ノヴァ)社/DNA
 電脳暦に存在した最大規模を誇る企業、ならびにその企業が保有する軍隊。
 月面で発見したムーンゲートで得たオーバーテクノロジーを秘匿独占していたが、幹部の一人であるアンベルⅣの暗躍よりプラントが売却され、 さらに追い討ちをかける形でムーンゲートが暴走。
 鎮圧作戦である“オペレーション・ムーンゲート”に成功するも、その時には既に衰弱していたDN社は崩壊し、残ったDNAは独立法人として限定戦争市場に参入している。

RNA
VCa2年にDNAの前に立ちはだかった謎の軍事組織。 それまでDNAが独占していたと思われた兵器であるVR、しかもDNAのそれより高性能な第2世代型を保有していた。 同年にオーストラリアで行なわれた“サンドサイズ戦役”以降、DNAと熾烈を極める争いを繰り広げる。

プラント
ムーンゲート発見後、オーバーテクノロジーの発掘と調査の為にDN社が発足させた自治組織。 同時にVRを生産開発する工廠の役目も持っている。
最初期の0プラントを皮切りに細分化され、DN社崩壊後はそれぞれ独立。 己の勢力拡大の為に他のプラントと対立・抗争を起こす事がある。

参考書籍:角川書店 電脳戦機バーチャロンマーズ パーフェクトブック


用語解説(SSオリジナルside)
XMシリーズ
武が提案した『元の世界でプレイしていたバルジャーノン、ひいてはVRの機動特性を再現する』というコンセプトを元に開発された、戦術機用OSシリーズ。
 最初期に開発されたXM1と普及型のXM2は、従来の戦術機のコンピュータにそのままインストールが可能で、旧来のOSに比べ最大57%の即応性の向上を実現している。
性能向上型であるXM3では搭載するコンピュータもセットでスペックアップされ、ソフトと一体となった状態での換装により飛躍的なパフォーマンスを発揮する。

オーバーウエポン
戦術機に搭載されているジェネレーターを一時的にオーバーロードさせ、電磁速射砲などの特殊な武器の威力を上昇させる機能。 試験的に横浜基地で運用されている電磁兵装や光学兵装の威力アップに繋がるが、ジェネレーターに多大な負担をかけるため、使用回数は限られている。

元ネタ:STG『サンダーフォースⅤ』より、同名のシステムから

メガドライヴ
戦術機にVRと同じ特性を持たせるべく開発された、慣性エネルギー制御機構。 機体に掛かる慣性エネルギーをコアであるフライホイールに蓄積・放出する事でVRと同じような機動や攻撃、防御が実現出来る。
 その性質上、ドライヴの効果が100%の状態で出撃するには事前にフライホイールを回しておく必要があり、慣性エネルギーの蓄積量が低いときは戦術機のジェネレータ出力で回して補うことも可能。
最初はVクリスタル質を利用したフライホイールをコアとして用いていたが、オルタネイティヴ世界で量産された時はG元素を含有した素材をしている。

元ネタ:1988年にセガが発売したゲーム機+『機動戦士ガンダム00』のGNドライヴ

マスターシステム
 戦術機用のOS『XMシリーズ』の流れを組む、メガドライヴ搭載機にセットで用いる専用OS。 衛士の操縦思考をリーディングし、プロジェクションによって操縦系統に反映させることで、驚異的な反応速度と適応率を実現する。

元ネタ: 1986年にセガが発売したゲーム機

PCエンジン
大型宇宙艦船用の動力源として開発された対消滅炉。 PCとはPositron Coreの略であり、陽電子による対消滅反応を利用して莫大なエネルギーを生成する。 ML機関が停止した場合の非常用動力源として、メガドライヴとセットで凄乃皇に搭載された。

元ネタ:1987年にNECが発売したゲーム機

河城技研
 電脳歴世界の日本に存在する、光学技術を専門とする新興企業。 光を乱反射させるナノマシンを機体表面に散布する光学迷彩システムを実用化し、町工場クラスの規模から一躍有名となり発展を遂げた。 他にもレーザー加工機械や義眼等、光を扱う分野のシェアを伸ばしつつある。

元ネタ:同人STG『東方Project』より、河城にとり

クレスト・インダストリアル/ミラージュ・コーポレーション/キサラギ製作所
 電脳歴世界にその名を轟かせる巨大企業。 クレストは北米、ミラージュは欧州、キサラギは日本に本拠地を置く。 プラント及び企業国家による支配の一翼を担っていた企業であり、主権国家が復興した現在もその影響力は衰えていない。

元ネタ:アーマード・コア3より、同名の企業組織



[2970] メカニック設定
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721
Date: 2013/04/12 22:27
-MuvLuv side-
・ F-4JE2 銀鶏
 F-4J改『瑞鶴』に、電脳暦世界の技術を取り入れて改造した機体。 これにより機動性が第2世代と同等のものになった。 軽量かつエネルギー供給により硬化する素材が、バイタルパート中心に新たに装着されている。


・ SR-71 ブラックバード
 アメリカ中央情報局(CIA)直属の諜報部隊が運用する、戦略歩行戦闘機。 開発はロックウィード・マーディン社。 開発当初はBETAに対し、核兵器等を用いた一撃離脱戦法を主眼において開発されていたが、G弾の実用化により対人戦闘における諜報・偵察機として仕様が変更された。
 改装後は試作型の狙撃用レールガンを装備、偵察における外敵や鉄砲玉の排除に用いる。


・ FB-22/A ストライク・ラプター
ロックウィード・マーディン社がF-22に、本格的な対BETA戦闘能力を付加させた『真の戦域支配戦術機』。 各部関節強度と跳躍ユニットの強化を始め、近接格闘戦に対応するべく腕部のベイオネットシース、脚部のブレードエッジの追加。 兵装積載量の増加が図られている。
 その反面、ラプター本来のステルス性能は改修前と比べて30%程低下し、ラプターの重装備型としての運用が検討されている。

■武装
XAMWS-24 試作突撃砲
XCIWS-3 ベイオネット


・ XF-36 ストラマ
 『メタル・マッドネス』計画において、『究極の対BETA用戦術機』を目指してボーニング社を中心に開発した多用途歩行戦闘機(MSF)の一号機。
 既存のそれより豊富なオプションパーツや武装を装備することで、あらゆるポジションに対応することをコンセプトに開発されている。
 F-15/ACTVと同様、4基のプラズマジェット式の跳躍ユニットを搭載し、優れた3次元機動を実現している。

■兵装(新規開発)
XAMWS-27 試作重戦闘システム(40ミリチェーンガン/150ミリ速射砲)


・ MQ-1 プレデター
 レイピアナイトからのデータを反映して、新規開発された無人戦術機。 レイピアナイトから洗練された丸みのあるフォルムと無人機の運用に適した兵装を持ち、頭部の大型メインセンサーが特徴。
 運用には指揮所や有人機からの命令、または衛士によるシミュレーター経由の遠隔操作を必要とし、有人機のサポートを担う。

■武装
頭部12.7ミリ機銃:2
MRC-40 40ミリ 機動速射砲
腕部 高周波振動式フォールディング・ブレード


・ XG-70c 凄乃皇参型
 アメリカのHI-MAERF計画に基づいて開発・建造された戦略航空機動要塞XG-70を接収した夕呼が、本来の開発プランであったXG-70b“凄乃皇弐型”のデータに加え、電脳暦世界の技術を取り入れて完成した試作型戦略機動要塞。
 補助動力源として対消滅炉『PCエンジン』とメガドライヴを搭載し、万一ML機関が動作不良に陥っても慣性制御による移動が可能。 また近接防御用として、120ミリ電磁速射砲を搭載している。

兵装
大口径荷電粒子砲:1
120ミリ電磁速射砲:2


 XG-70e 凄乃皇五型
 凄乃皇参型に通常攻撃能力を付加した、戦略重機動要塞。 かつて凄乃皇弐型の強化プランであった凄乃皇四型のコンセプトを推し進めた形で開発され。 凄乃皇の機体に文字通りの『手足』が追加されている。 追加された脚部はランディングギアと、随伴戦術機が消費する武器弾薬、推進剤を収納する補給コンテナの役割を持ち、腕部にはマニピュレータを模した5連装荷電粒子砲を搭載した武装プラットホームとして機能する。
 また、特定の場所にラザフォードフィールドを集中展開する機能も追加され、これにより荷電粒子砲の収束拡散がある程度行うことが出来る。 メガドライヴも高純度且つ大容量の物が2機搭載され、巨体に見合わない機動性を発揮する。
 スペック上、ハイヴへの単機投入単機制圧が行える機体だが、機体及び00ユニットの消耗を考慮すると戦術機の随伴が望ましいとされる。

■武装
機体中央部:改良型大口径荷電粒子砲
両腕部:5連装 370ミリ集束荷電粒子砲
肩部:2700ミリインパクトレールキャノン
機体各所:36ミリ近接防御用レーザー速射砲 各種ミサイルランチャー(S-11弾頭)
ラザフォードフィールドジェネレーター


・ 1200ミリ 電磁衝撃砲(OTHキャノン改)
 横浜基地で埃を被っていた1200ミリ超水平線砲が、電脳暦世界の火砲メーカーの手によって生まれ変わった物。 炸薬により行われていた砲弾の加速機構をコイルガンのそれと同じ方式に変更し、それに合わせて銃身の耐久性強化が施され3発以上の連射が可能となった。
 理論上は衛星軌道に浮かぶ目標も狙撃可能であり、広域殲滅用に調整されたS-11を砲弾として使用する。


・ 試製430ミリ 電磁衝撃砲
 1200ミリOTHキャノンをダウンサイズして開発された、揚陸時の無防備状態の対策案として開発された特殊兵器。 戦術機が運用する武器の中では最大級を誇り、発射機構や砲弾はOTHキャノン改と同じ仕様となっている。


・ AL-130『スプーキー』
 銑鉄作戦で採取されたカイゼルの戦闘データから、同機体の火力増強を計るためにケイイチが開発した、“アーマードライナー”のコードネームを持つ拡張兵装システム。
 機体を挟むように前後と側面の3つのユニットと、各部を覆う対レーザー装甲で構成され、SR-71の跳躍ユニットを模倣した後部の航行ユニットを軸に、前面と側面のユニットに作戦目的に応じた武装を装着する。 各ユニットは被弾や弾薬切れ、動作トラブルの際には強制排除が可能。

■武装(ユーコン基地救援時)
前部:耐熱耐弾型リアクティブ・アーマー

後部:マルチミサイルランチャーシステム『ヘッジホッグ』:1基

側面部:GAU-8 36ミリガトリングガンシステム『アベンジャー』:2門





-Virtual-ON side(小説オリジナル機体)-

・ MBV-747A/Type94 テムジン747A/T94『霧積』
 異世界の人型兵器、戦術機の特徴を研究するべく、菫が乗るテムジン747Aを改造したカスタムVR。 94式戦術機『不知火』をモチーフにしたアーマーシステムを装着しており、背部のウエポンマウントや腕部ナイフシース等が再現されている。
■武装
スライプナー Mk6
兵装担架システム:2基
腕部ナイフシース:2ヶ所


・ MBV-747H/Type82 テムジン747H/T82『翔鶴』
 帝国斯衛軍の戦術機『瑞鶴』を模した、重装甲重装備型のアーマーシステムを装着した機体。 各部アーマーにはVアーマー展開システムが備わっており、第二世代VRが展開するVアーマーを短時間ながら発生させることが可能。
 武装はクラウド・スラップ Mk1を中心に面制圧重視を重視した武装が施されており、フル装備時には単機で一個中隊規模の火力を持つ。

・兵装
クラウド・スラップ Mk1
ダスターボムMk1
KLS-24 ショルダーランチャー
92式自律誘導弾システム
腕部MALS-C22 フォールディング・チェーンソー
肩部多目的兵装担架システム:2(長刀・突撃砲)


・ 第六工廠八式壱型 景清『火影』
 景清『火』をベースに、いくつかのマイナーチェンジが施されたカスタムVR。 河城技研により開発された複合ステルスシステムを搭載し、光学迷彩のみならず熱源センサーの撹乱やレーダージャミング機能によりあらゆる索敵網を掻い潜ることが可能。


-another side-
・ PHOENIX
異世界の人間、セネス・クロフォードが自分専用に独自に開発を行った人型兵器。 機体そのものは既存の技術で建造されているが、“メガドライヴ”と呼ばれる慣性制御ユニットを装着し、セネスが持つ“ヴァスティール”の技術も融合させた事で、VRと対等に戦えるほどの性能を持つ。

■武装
超高出力集束レーザー砲『サンダーソード』
異相次元防護フィールド・ジェネレーター


・ GR-01カイゼル
武が元の世界でハマッていたアーケードゲーム『神攻電脳バルジャーノン』の主人公機を再現した機体。 オリジナル・メガドライヴとXMシリーズの完全版と言える専用OS“マスターシステム”を搭載。 また戦術機とVR双方の規格に適合している為、驚異的な汎用性と拡張性を誇る。

■武装
X-MRWS0スマートガン(ブラスターモード/ザッパーモード/バスターモード/セイバーモード)
S-11 ハンドグレネード
ラザフォード・フィールド・ジェネレーター


・TSF-TYPE01(YF-23/AL4) 01式『武御刀(たけみなかた)』
 ハイネマンを通じてケイイチが手に入れたYF-23のデータを下に、『究極の対BETA戦闘用戦術機』を目指して、夕呼が電脳歴世界の日本に開発を依頼して誕生した全領域型戦術機。
 G元素を含有するコアを用いたメガドライヴと、マスターシステムによる繊細かつ高速な戦闘機動が可能であり、特にリミッターを解除したそれは殺人的なものとなっている。 また専用の複合兵装システムにより、距離を選ばない戦闘が可能。
 武御雷ではおまけ程度であった、マニピュレーター部のブレードエッジが完全なものとなり、スペック上では武器が無い状態でも戦闘が可能。
■武装
・頭部 55ミリ集束荷電粒子砲
頭部に内蔵された固定装備。 内臓火器としては破格の威力を持つが、エネルギー消費が莫大な上、反動の抑制にメガドライヴの慣性エネルギーを消費するので、使用する機会は少ない。

・X-MRWS01/a試製01型 複合兵装システム『アメノハバキリ』
 BWS-3を原型に開発された専用兵装。 通常の速射モードと近接戦闘モードの他、広域制圧射撃形態であるバスターライフルモードと、その状態から近接格闘戦を行うバスターソードモードの4つの形態を持つ。

機体各所 ハイパーカーボン製ブレードエッジ


・ F-108/ANG エンジェリオ
 F-108レイピアをベースに無人戦術機の開発データ収集機及び、それらの母機として開発された試験機。 AIデータのサンプルである社霞の事実上の専用機であり、メガドライヴ搭載機。
 衛士としての訓練を積んでいない彼女の為に、背中にG元素を触媒として動作する簡易ラザフォードフィールド発生装置“イナーシャル・フローター”が装着されている。 カイゼル同様、VRと戦術機の規格を併せ持ち、あらゆる武器や装備が可能。

■武装(専用)
PBGP-88 88ミリ パルスビームガンポッド『ラッシュアワー』

元ネタ:テックジャイアン連載のSTG『ASSAULT ARMOROID Angelio』の後半主人公機より


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