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[29186] 【ネタの書きなぐり】IS×逆シャア インフィニットストラトス×機動戦士ガンダム 逆襲のシャア
Name: BBB◆e494c1dd ID:62c2f512
Date: 2011/08/20 05:14
一夏の中の人的にユニコーンが結構見られますが、逆襲のシャアも悪くない
 ネタ的にどっかにクロスしたものがあるでしょうが一人ではなく二人ではどうだ!
 多分後に書き足します






 0 【途切れぬ確執】







「ちぃ!」

 白と赤が第三アリーナの空中を駆ける。
 一瞬で視界の外へと消え、構えたライフルからなでしこ色のビームが赤に向かって放たれた。

「いい加減にしろ!」

 ビームライフルを放った白のIS、赤のISはそれを回避して黒にカラーリングされた長大なビームショットライフルで応射。
 明るい黄色のビームが白のISの傍をかすめる。

「いい加減にしろだと! 元は貴様が原因だろうが!」
「俺は断っただろう! それを貴様が無理強いした!」

 なでしこ色と黄色のビームが飛び交い、どちらもそれに当たる事はない。

「もう突っかかってくるな!」
「忘れろと言うか!」

 ISでも類を見ない超高速機動、ISを起動しハイパーセンサーで知覚を補佐していなければ呆気無く見失う。
 だが互いにどちらに動いたか、素早く認識して予測を交えた機動と射撃。
 ビームでビームを相殺し、PICにスラスターを吹かせつつビームサーベルを引きぬく。

「引き摺られ過ぎているぞ!」
「私が私でない証拠などこにある!」
「だったら! この体はどう説明する!?」

 白のISが持つなでしこ色のビームを放つサーベルと、赤のISが持つ黄色のビームを放つサーベルが激突しつばぜり合いの閃光を放つ。

「ならばこの記憶こそどう説明する! なぜ私は貴様を知っている!! この思いは! 説明してみせろ、アムロ!!」
「シャアめ!」

 二度三度の切り結び、互いに振り抜いた腕。

「記憶があるからと言って俺たちがそのままな訳がないだろう!?」

 白いIS、全身装甲型の「νガンダム」は頭部バルカンを打ち放ちながら後退する。

「記憶があるからこそ私だと断言するのだ!」

 赤いIS、全身装甲型の「サザビー」は上昇してバルカンを避け、腹部拡散メガ粒子砲を浴びせ掛ける。

「屁理屈を! 記憶があるからどうだって言うんだ! 俺たちが本人だって言うなら、そのままの姿で無ければ何の意味もない!!」
「では本人でなければ何とする!? 記憶は! そしてこの感覚は!」

 PICとIS各所にあるスラスター、サブスラスター、マイクロスラスターを活用して従来のISをはるかに超える機動で空中を弾かれたように駆けるνガンダム。
 それに追撃を掛けるのはサザビー、バックパックのスラスターや装甲に仕組まれた姿勢制御スラスター、更に全身にも姿勢制御スラスターが取り付けられ肩にもはフレキシブルショルダースラスター。
 νガンダム以上の推力を持って迫り、狙いを付けたビームライフルのトリガーを引き絞る。

「そこだ!」
「甘い!」

 νガンダムは飛来するビームを左手のサーベルで弾き逸らし、そのまま左腕のシールド裏に取り付けられているビームキャノンで撃ち返す。

「なぜ認めん!」
「違うからだよ!」

 話は平行線、そして戦闘も平行線。
 モンド・グロッソでも滅多にお目に掛かれない超高等技術のオンパレードに観客席にいる生徒たちは視線が釘付け。

「す、すげぇ……」
「こ、これが白き流星に赤い彗星……」

 その観客席の中でIS学園のみならず、各国政府関係者などから注目されている存在にイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットが呟く。

「二年生や三年生って皆あんなのなのか?」
「そんな訳無いよ、あの二人が異常……じゃない、すごいだけなんだよ」

 世界で唯一の男のIS操縦者、織斑 一夏が聞けばフランスの代表候補生、シャルロット・デュノアが途中で咳をしながら返した、

「……ただの噂かと思っていたが、それにあの白い方もかなりやる」

 普段から一夏の事を除き表情を変えないドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒが少しだけ表情を歪めて言う。
 次回のモンド・グロッソのブリュンヒルデ最有力候補にも挙げられるだけの事はあったかと、繰り広げられている空中戦に下を巻いた。

「アムロ・レイにキャスバル・ソム・ダイクンだっけ? 実際に見てみると納得だわ」

 白と赤の二機のISを眺めながら中国の代表候補生、凰 鈴音が腰に手を当てつつ頷いた。

「日本の代表候補生にジオン共和国の代表か……、途轍もないな」

 どんな攻撃をしたか、どのような回避や防御を行ったか、多くのことを見逃しながら篠ノ之 箒が感嘆。
 それは自由時間の恒例になっている二人の他者には理解出来ない口論を交えた模擬戦。
 高度な戦闘であるが故に二人の模擬戦はほぼ全てが映像として記録され、他のIS操縦者に参考とされるほどのもの。
 この動きはあの動きを誘発させるものだろう、こっちの動きは牽制して戦術の幅を狭める攻撃じゃないか? など議論されることも少なくはない。
 それだけ高度な戦いを繰り広げる二人は異常、噂になるのも頷けるほどである。

「ええい! 堕ちろ!」
「させるか!」

 縦横無尽、時には直角以上の角度で曲がりぶつかり合う。
 サザビーがビームトマホークを投擲し、νガンダムがビームサーベルで叩き落す。
 その時にはサザビーは拡散メガ粒子砲を撃ち放って、右手のビームショットライフルをνガンダムが避ける方向を読んで撃つ。
 νガンダムは迫る拡散メガ粒子砲を急上昇して避け、その上昇途中に左腕のシールドを飛来するビームの射線上に投げる。
 ビームとシールドが接触し、シールド裏に搭載してあったミサイルが爆発、発生した爆煙で互いの姿が見えなくなるも。

「そこ!」
「やらせん!」

 視界の効かない爆煙の中で的確に捉え、至近距離でのライフルの打ち合い。
 爆煙の右からはνガンダムのビームが、左からはサザビーのビームが突き抜けていく。

「貴様はなぜそうも!」

 ビームのぶつかり合いで爆煙が吹き飛び、現れるのはビームサーベルでつばぜり合いを行う赤と白。

「貴様こそ! エゴばかり押し付けて!」
「そう言う貴様は他者にその力を利用されているだけではないか!」

 切り結ぶ、互いの右手にあるビームライフルを向け、銃口が重なる。
 トリガーを引くのは同時、ビームが砲身間近の至近距離でぶつかり、互いにその余波でビームライフルが爆散、弾けるビーム粒子がシールドバリアーに干渉して大きく減衰する。

「いつ利用された! 日本か!? それとも親父か!? 違う! これは俺が決めたことだ!!」

 二人はそれを織り込んだ上でビームサーベルを振るう。
 異なるニ色がぶつかり合い、閃光と共にビーム粒子が干渉し合う。
 サザビーは右手の袖からもビームサーベルを取り出し、νガンダムに斬りかかるも振り下ろされた右手のビームサーベルをνガンダムは半身で避け。

「サーベルのパワーが負けている!? 馬鹿な!」

 サザビーはパワーダウンを起こしたわけではない、なのに左手のビームサーベルは今にもνガンダムのビームサーベルに押し切られそうになっていた。

「ちぃっ!?」
「貴様は!」

 ついには押し切られ、ビームがサーベルに接触し焼き斬られててサザビーは素早く手放す。
 サーベルが爆散し振り下ろされたサーベルを辛うじてサザビーは避け、返しに右のビームサーベルを横薙ぎに振るがνガンダムは急上昇で避けるついでにサザビーの顔に蹴りを入れる。

「ええい!」

 シールドバリアーに蹴りを阻まれつつνガンダムはそのまま上昇、背部にマウントしてあるニューハイパーバズーカでサザビーを狙い打つ。
 それに対しサザビーは上体を仰け反らせたまま僅かに後退、その直後に弾頭が通りすぎた。
 すぐにスラスターを吹かせてサザビーは追いかける。
 その間にνガンダムは宙返り、バズーカの砲口をサザビーに向けて狙い放つ。

「アムロ!」

 サザビーはバズーカを迎撃出来ないと判断して、スラスターを吹かして紙一重で避ける。
 その時には上体を大きく仰け反らせていたνガンダム、バズーカをパージしながらサザビーへと頭を向け。

「当たれ!」

 頭部バルカンの掃射、狙いはサザビーではなくバズーカの弾。
 空を切るバルカンは狙い通りにバズーカの弾頭へ、サザビーが爆発範囲外に逃れる前に届いた。
 強烈、巻き込まれれば稼働不可能になるほどの威力を持つ爆発。

「読まれたか!」

 それをシールドで防いで、爆風で大きく損壊して使い物にならなくなったそれを投げ捨てるサザビー。
 ビームサーベルを横に構えたままサザビーは突っ込み、νガンダムは迎え撃つ。

「パイロットの意思で変わるのならば!」

 νガンダムの振り下ろしとサザビーの横薙ぎ、二本のビームサーベルの軌道が重なり接触、閃光を放つ。

「ちぃっ!?」
「やはりISなど信頼できんか!」

 増大したビームサーベルの出力、競技用のリミッターを掛けられ変動するはずのない数値が限界値を超えていた。
 その高威力のサーベル、当たれば絶対防御さえもを貫く軍用兵器と変わらない代物。

「シャア!」
「アムロ!」

 互角となったビームサーベルでの切り結び、弾ける粒子が二機を彩った。





 結局戦いに勝敗はつかなかった、二人の戦いはいつものことであり、いつものとこであるから教師たちが駆けつけその戦いを終わらせる。
 なにせ競技ではなく殺し合いになっているのだから絶対に止めなくてはいけない、二人の戦いがどこかで始まればすぐに連絡が入り教師たちが駆けつけることとなっていた。
 しかし生徒よりも数段上の技量を持つ教師たちでも割って入れるものではなく、織斑 千冬でさえも辛うじてというレベル。
 戦いになる理由はいつも決まっていた、「相手が気に入らない」「相手が悪い」と自分が悪く無いと主張する。
 実際はキャスバルがアムロに突っかかってきて相手をしてやっている、と言う状態になっていた。

「なぜわからん! 貴様のその力は誰かに使われるものじゃない!」

 金色のわずかにウェーブが掛かった長い髪の女性、同年代と比較して高い身長。
 切れ長の目は他の者に冷静で大人びた印象を与え、整った鼻筋や輪郭がそれを助長させる。
 名はキャスバル・ソム・ダイクン、IS「サザビー」の操縦者。

「だから自分で使っているだろう! それを貴様は勘違いをしてるだけだ!」

 声を荒げるキャスバルに声を返すのはくせっ毛で茶色のショートヘア、日本人にみられるやや幼い顔つきの女性。
 キャスバルよりも頭半分ほど低い、同年代の少女たちと同程度の身長。
 名はアムロ・レイ、IS「νガンダム」の操縦者。

「だったらなぜ代表候補生を受けた!」
「それを貴様が言えたことか!」

 いつも通り散々叱られた後職員室から出る二人。

「私は違う、自分で志願した!」
「俺だってそうだよ! 貴様は利用するかされるかしか考えちゃいないんだろう! だから他者を見下して!」
「私の立場でそれを考えるなと言うか!」
「違う! 考えすぎだと言っているんだよ!」

 大声で二人は口論、周囲から注目を集めるが構わず続ける。

「シャア! もうあの時のことだけに拘るな!」
「拘ってはいない! だが忘れることなど出来はしない!」
「ふざけるな! 拘っていないならなぜ俺に付きまとう!」
「それは貴様だからだ、アムロ! 貴様がアムロでなければ関わってはいない!」
「拘っているだろ! 小さいヤツ!」
「貴様が居なければこうなっては居なかった!」

 その口論の末、掴み合い殴り合いに発展してまた職員室へと二人は戻ることになった。




















 記憶ありニュータイプのままTS、アムロちゃんとキャスバルちゃん、セイラさんがソムだったんでキャスバルもなんとなくソムに、キャスバルの女性形などわからんがな
 アムロは日系人、シャアはジオン人? ジオン共和国人か
 アムロ日本代表候補生で簪涙目、二人が居るせいでIS学園最強と唯一の国家代表を名乗れない楯無涙目
 νガンダムとサザビーは第2世代機でありながら第4世代機相当の能力持ち(装備の換装無しでの全領域・全局面展開運用能力)、空間戦闘、重力下戦闘、低高度空中戦、水中戦闘にIS本来の活動場所の無空力宇宙空間、更には専用装備なしで大気圏突入能力も備える逸品
 νガンダムはパッケージでヘビーウェポンシステムとか胸熱、サザビーのパッケージは……うん、しかたないね
 共にファンネルなし、サイコミュ兵器に相当するのはBT兵器しかないけど持ってきたらセシリア以上に上手く動かしてファンネルを交えて高機動ドックファイトとかしちゃうからセシリア涙目、シャア辺りがイギリスと交渉なり情報奪取なりして取り付けそうな気もする、そうすればセシリアと接点ができるね
 νガンダムは逆シャアの時とは違って急造品ではなく時間を掛けて作った専用機、そもそもISが専用機だし
 アムロは二年生、シャアは三年生と想定、一夏たちと同学年じゃないし二人とも互いのことばっかりで事を終えるからIS本編に早々関わらないはず
 アムロは整備科、コンピューターとか機械いじりとか普通に無事な親父のおかげか普通に興味が湧いて整備科へ、整備科ってことで布仏姉妹と接点ができるか、それにテム・レイが技術者としてそれなりに有名なアナハイムのIS開発部長でデュノア社のライバルというか普通に負けているとかの関連でシャルロットと接点ができるかもしれない
 シャアはジオンの軍人、階級は大佐で首相の娘だから普通に扱いづらい、同じ軍人ってことでラウラと接点が出来るな、国が違えと上の階級の人物に不敬な態度は取らんだろうし
 箒と鈴音との接点は思いつかなかった、ニュータイプで二人の焦りとか感じ取りそうではあるが
 というかアムロとシャアの戦闘での会話はニュータイプ通信、アニメやゲームでの戦闘速度はオールドタイプである視聴者に合わせたものであるから実際は超速い、逆襲のシャアかISの戦闘シーンの速度を二倍か三倍速いしてみたら恐ろしさが分かるはず(PS3ガンダム戦記のアバンタイトルは遅いがガンダムの恐怖を、ガンダムとジオングの動きが超速いガンダム ザ ライドとか)
 これの七年後とかバナージとかが出てくるんだろう、ISはその仕様上ロボとかメカと親和性高くていいね



[29186]  1 【その境界線の先に立ち】
Name: BBB◆e494c1dd ID:51f4faa7
Date: 2011/08/25 06:09
 1 【その境界線の先に立ち】






「二重三重では足りない体制を敷いていたが暴走したと」
『……はい、何らかの手段で暴走するように書き換えられたそうです』
「きな臭いな、それで今シルバリオ・ゴスペルは破壊され搬送中か」
『その通りです、シルバリオ・ゴスペルのISコアは凍結処理にされるのが先ほど決定致しました」
「妥当だな……」

 通信に耳をかたむけるのはキャスバル、IS学園の一角にある三年の教室がある廊下の壁に背を預ける。

「しかし、上は何を考えている」

 国家代表候補生、専用機持ちとは言え競技など度外視した完全な軍用ISの暴走に対して生徒たちを向かわせる。
 ラウラ・ボーデヴィッヒはドイツ軍の軍人、こう言った事態にも対処できるだけの訓練と能力を備えているだろう。
 だが他の、特に唯一の男のIS操縦者である織斑 一夏は、実戦どころかISを扱った時間さえも少ない初心者中の初心者。
 いくら専用機持ちとは言え狩り出すのはずいぶんとお粗末な話、現に織斑 一夏は命に関わる大怪我を負った。
 その後白式がセカンドフェイズに移行したおかげでシルバリオ・ゴスペルを打ち倒すことが出来た、そうでなければ代表候補生皆死んでいた可能性も大いにあったが。

「……怪しいな」

 どうにもキャスバルには苦戦の末織斑 一夏のセカンド・フェイズと代表候補生たちが連携してシルバリオ・ゴスペルを打ち倒した、と言う状況には見えなかった。

「……それに篠ノ之 束の新型、テストには十分か」

 篠ノ之 束の妹、篠ノ之 箒が扱う『紅椿』、今キャスバルがハイパーセンサーを介してその時の映像を見る限りかなりの性能を有しているのが分かる。
 高機動で空を駆けシルバリオ・ゴスペルと打ち合う、その姿はサザビーの機動力と同等かそれ以上、伊達に第4世代と言うわけではない。
 この紅椿一機あればシルバリオ・ゴスペルを倒せた、それだけの能力は十分にあるとキャスバルは見た。

「如何せんパイロットがあれではな……」

 しかし戦闘のどれをとっても及第点に届かない、戦いという物を知らない子供だから仕様がないかもしれない。
 六対一と言う状況、五機を囮にして本命の一撃を叩きこむと言う戦術を採ってやっとの撃破。
 臨海学校に同伴する教師の中には生徒たちよりも優れた技術を持つ元代表候補生や日本の代表であった織斑 千冬もいた。
 他にもっといい手を採れただろう、だというのにこれなのだからキャスバルは怪しんでいた。

「いや、今気にするべきはこんなことではないか」

 裏に何かがあると気にはなるが、どうこうするものではないと意識を切り替える。
 新たな情報を得たら伝えるように言ってキャスバルは通信を切った。
 気に掛けるべきことはISに搭載されるオールレンジ攻撃用兵器の出来、アナハイムが試作運用している『ビット』。
 それを操作するイメージ・インターフェイスの調整がやっと終わり、ようやくサザビーに取り付けることが出来るようになったとのこと。
 無ければそれでいいのだが、有るのならば状況次第で装備しておいた方が良い。

 サザビーはジオン共和国のIS技術者によって、ジオン共和国首相の娘として、ジオンの赤い彗星として相応しい能力を備えたIS。
 実際の製造はアナハイム・エレクトロニクス社に任せられ、設計通りの仕様で造り上げられた。
 そもそも軍用としての設計であるために兵装も強力なものを装備しており、ビームショットライフルは絶対防御ごと撃ち抜く破格の威力を持ち。
 近接用のビームサーベル、ビームトマホークも一撃でIS操縦者ごと絶対防御を切り裂く威力。
 腹部に取り付けられている拡散メガ粒子砲も非常に強力、至近距離ならばエネルギー全快のシールドも余裕でぶち抜く。

 それでいて全身にあるスラスター類によって極めて高い機動性と運動性を誇り、なおかつシールドが消失していても生半可な実弾兵器をシャットアウトする強固なISアーマーを備える。
 そこにオールレンジ兵器であるビットが取り付けられれば、キャスバル本人の技量も相まってサザビー一機で十機のISを相手取り完勝を収めることが出来るとシミュレーションで弾きだされた。
 死角が無くなる、シミュレーション通りであればまさに敵なしと言える強さではあったが、キャスバル本人はそうは思っていない。
 ビットが取り付けられるのは何もサザビーだけではない、アムロ・レイが駆るνガンダムにも装備されることになっていた。
 それは奇しくも二人の記憶にあるあの世界であった出来事と似ていた。

 ビット自体の構想はジオンの方で有ったのだが、現実的に考え不可能に近いものであり構想のところで止まっていた。
 だがISの登場、技術革新でそれらは一気に進んで今に至り、オールレンジ兵器としてISに取り付けることが出来るようになった。
 そこで完成したオールレンジ兵器をアナハイムに流したのはキャスバル、ジオンの技術者がイギリスに劣る訳ではないが国力の差は簡単に覆せるものではない。
 そもそも国家の威信を掛けた代物であるために、注ぎ込んだ資金や技術者はジオンの倍以上に達しているだろう。
 ジオン共和国としては別に絶対に完成させる必要があるものではなかったため、なおかつビット無しでも世界最高峰の実力を持つキャスバルが居たためにあまり危惧していなかった。

 しかしながら近年同じ構想の兵器が開発されていると情報を手に入れ、実験の段階まで進んでいると聞きつければそれなりに危機感を出す。
 そこで難のある製造等をアナハイムに委託し、開発はジオン側で進めてようやく形になった矢先、イギリスがBT兵器と称して実験機に搭載して運用し始めた。
 半ば意地でもあったのか、遅れた分より優れた物として出せばいいとBT兵器を上回る性能へと引き上げた。
 その結果が高性能化による調整の難航を招いてしまったが、スペック上では全ての面でBT兵器同等以上と言う性能と相成った。
 無論そこにはキャスバルが要求する性能もあったがための高性能化。

 ニュータイプとしての脅威的な直感力と洞察力にたとえ敵味方が狭い領域で入り乱れていても把握できる空間認識能力。
 肉体的にもニュータイプというのは尋常ではなく、特に反応速度は速く、他者から見て最初から知っていたような動きに見えるほど。
 それらのおかげでIS自体がついて行けないという問題を生んでいた、それを解決したのはνガンダムとサザビーであり、尋常ではない反応速度を見せるキャスバルについていけるよう高性能化を図られたのがファンネル型ビットであった。

 その一応の完成を見せたファンネル型ビットの実験の目処が立ち、当然テストパイロットのキャスバルはビットの適性についてアムロ・レイにも検査を受けさせてみてはどうかと言った。
 結果アムロにも高い適性が見えたために、キャスバルと同様にテストパイロットとして選ばれた。
 キャスバルがやったことと言えばビットの製造をアナハイムに委託する事と、ビット適性の検査をアムロにも受けさせたらどうかと提案した事。
 もとよりキャスバルはアムロにその適正があると確信しており、事実数値上ではアムロの方が高い数値を示し軽い嫉妬を覚えていた。
 イメージ・インターフェイスやビットは元からあったために、あの世界でサイコフレームを横流しした時よりすんなりいった。
 そもそもνガンダムの設計はアムロ・レイとその父、A.EのIS開発部長テム・レイによって行われ、ビットの搭載も考慮されていたのでνガンダム自体に大した改修は行われない。

 とりあえずはあの世界のνガンダムとサザビー、サイズや操作方法が違えどほぼ完璧に再現したと言える出来であった。
 そこにビット、ファンネルと言っていいオールレンジ兵器が搭載されればキャスバルが望む形でアムロとの雌雄を決することが出来る。
 あの時負けたのはナナイ・ミゲルの思念により意識を逸らされ、その一瞬の隙にアムロにしてやられた。
 あれがなければまだやりようはあった、そう考えキャスバルはよりあの世界の状態に近づけようと望む。

「……感傷だな、だがそれもいい」

 確かに記憶に引き摺られているだろう、だからこそはっきりさせたかった。
 私はシャア・アズナブルなのか、キャスバル・ソム・ダイクンなのか。
 内に秘めるこの思いは必ずや成さねばらない、それが決定付けるものであるとキャスバルは確信していた。

「……あの」
「……ん?」

 物思いにふけっていたところに、声を掛けられて視線を向けるキャスバル。

「何かな」
「はい、もうすぐ授業が……」
「それは不味い、遅れると何かと文句を言われてしまうな。 少々考え事をしていて助かった、また同じ光景を見たら声を掛けてくれると助かるよ」
「は、はい!」

 キャスバルが軽く微笑むと同学年の少女は嬉しそうに頷いた。
 三年生の中では凄まじいほど人気があるキャスバル、大人びたその容姿に似合う落ち着いた言動、IS学園で順序を決定付けるISの操縦技術は抜きん出ている。
 更にアムロとの戦いで見せた激しい激情は人間味を溢れさせる、そんな事も相まって熱狂的なファンも居る始末。
 キャスバルもそんな人物のあしらい方も上手く、優しくするため強い求心力を持っていた。
 そんなキャスバルもアムロに固執して、アムロから見れば情けない奴にしか見えないのだから相手にしたくないと思われている。

「それじゃあ行こうか」

 胸を張って廊下を進むその姿は、アムロを除いて情けない奴には見えないキャスバルだった。





 それから授業が終わり放課後、IS学園の一角、アナハイムが借り受けている専用の整備室にキャスバルは足を運んでいた。
 ISを展開してファンネルコンテナの取り付け、接続から動作確認まで行い、ジオンとアナハイムの技師たちの目の前で六基のファンネルを操ってみせた。

「……まだ反応が悪いな」
「……イメージ・インターフェイスに遅延が見られますね、調整します」
「頼む」

 ほぼ女性のみのIS学園に考慮して、女性技師ばかりの整備室。
 この調整が終わればアリーナで動かす予定になっている、おそらくは今頃アムロもファンネルの取り付けを行っているだろう。

「……調整終わりました、どうでしょうか?」

 その言葉を聞いてキャスバルはファンネルを動かす、先程よりも鋭く反応して飛ぶファンネルたち。

「悪くない、これなら何とかなる」
「もう少し煮詰めたいのですが、実働データが無いと完璧に合わせられません」
「その実働データとやらを今から取ってこよう」

 ISを待機状態にして、上手く量子化されたのを確認してキャスバルは足をアリーナへと進めた。

「ほう」

 キャスバルが第二アリーナに到着すれば、アリーナ内で模擬戦を繰り広げている者たち。
 六機のIS専用機、今年入ってきた一年生たちが声を荒らげつつ五機のISが一機のISを追いかけていた。
 口論を交えたそれは少年、世界で唯一の男のIS操縦者である織斑 一夏を攻め立てるものだった。
 それにほうほうの体で逃げ回っている少年、本気で攻撃をしている訳ではないがなんとなく直感で少年は悪く無いと感じ取ってキャスバルは動く。
 すぐにピットへ移動し、ピットゲートを開放、カタパルトに乗って一気にサザビーが加速していく最中。

「ファンネル!」

 三基ずつ収めた左右のファンネルコンテナからキャスバルの意思に反応してとファンネルが飛び出していく。
 ピットから飛び出し高速で五機のISに迫り、高速で切り返しながら周囲を飛び回る。

「……反応が惜しいな、戦闘では辛うじてと言うところか」

 いきなり現れ周囲を飛び回る赤い物体に多少なりとも困惑して足を止める五機のIS、それを見たキャスバルはファンネルを呼び戻してコンテナへと収める。
 サザビーのハイパーセンサーには六基のファンネルの状態が示され、跳び回ってごくわずかに消費したエネルギーが100%まで充電されたと表示されていた。

「あ、貴女は!?」
「感心しないな、競技規定では一対複数での物はなかったはずだが」
「……そちらこそ感心できません、ダイクン大佐」
「それはすまなかった、一機のISを複数のISで追い回すなど普通では考えられない状況だったからな」

 五対一と言う試合など競技規定には存在しない、基本一対一で他には二対二と言った数の上では同等になるものしか無い。

「今のはBT兵器!?」

 周囲を飛び回ったものの正体、それはイギリスの代表候補生が駆るブルー・ティアーズが持つBT兵器と同等の代物。
 イギリスのみが持つ第三世代兵器「BT兵器」をイギリスではない他国、ジオン共和国の国家代表操縦者が扱っていることにセシリア・オルコットが驚く。
 国家の軍事機密を他国のIS操縦者が扱っているのだから驚きもする、それを前にキャスバルは一言。

「勘違いはしてもらいたくはないな、これは『ファンネル』。 ジオンの第三世代兵器、BT兵器とは別物だと思ってもらって構わない」

 事実イメージ・インターフェイスを用いているが構造的には別物であり。
 ファンネルとブルー・ティアーズ、片方の開発に関わった者がもう片方の中身を見れば別物と断言するほど構造は違う。

「そんな事!」
「確かに、やっている事は差ほど変わりはしない」

 そう言ってキャスバルはサザビーの基本状態である全身装甲を解除し、一般的なISの搭乗者を見せる状態に移行させる。
 額にはU字にも見える赤いアンテナとその上に斜め上後方に伸びる角、腰回りには太ももまでしか無い赤いISアーマーのフロントスカート、その左にはト音記号風にアレンジされたCDの文字。
 肩には斜め上に伸びるISアーマーに覆われたフレキシブルショルダースラスター、前腕部分には外側には厚みのある丸みを帯びたガントレット。
 膝から下は裾広がりのようにISアーマーに覆われたスラスターが顔を覗かせている。
 非固定浮遊部位が一切見られない、全体的に見て至ってシンプルで余計な飾りを省いたかのような姿。

「同じコンセプトの装備が何故存在しないと言えるのか聞かせてほしいな」

 キャスバルはその姿でセシリアを見て、手振りを交えて問う。
 ISとは特殊な存在、ISで無ければ実現しなかった代物はいくらでもある。
 IS自体がそうであり、たった一機で戦車数百台、戦闘機数十機以上と言う破格の戦果を期待できる強力な物。
 ならばより機能性を求め、攻撃の威力が低ければ高くなるように、射程が短ければ長くなるように。
 BTもファンネルもその延長上に過ぎず、射撃、自走、遠隔操作と複数の要素を組み合わせた結果遠近問わず全方位から攻撃を加えられるオールレンジ兵器として結実したもの。
 言ってしまえば両方オリジナルであり、技術を盗んだ盗まれたと言う話ではなかった。

「少なくともこのファンネルはジオンが独自に開発したものだ、それだけは信じて欲しい」
「……分かりました」

 まかり間違ってもイギリスから盗んだものではないと、真摯に言うキャスバルにセシリアはしこりを残したまま頷く。

「それで少年、五機のISに追いかけられてどう思う」
「え? それはまぁ……、いきなり追いかけられるのはちょっと」

 いきなり話を振られて理由を言わずにいきなり銃口などを向けられるのは気分がイイものではない、頭を掻きつつそう言葉を濁しながらの一夏。
 それを聞いて他の五人はそれぞれがバツの悪そうな表情を浮かべる。

「だったら話し合いから始めてはどうかな? ISを振り回して追いかけている姿は見ていて気持ち良いものではない」

 これがISを使っていない校内での追いかけっこなら青春をしているで終わるのだが、オモチャにしては度が過ぎるISを振り回すのはナンセンス。
 軍用の側面を持つISだと認識していない、まさに子供の言動にキャスバルは少々呆れた。

「自分たちの立場、それを意識して動くべきだと覚えていて欲しい」

 六人の内の四人は国家のIS操縦者代表候補生。
 代表候補生だとそれなりに知られ、普段の言動がそのまま国のイメージとしてつくかもしれない。
 国家の代表になろうとするならば、大衆の注目を集めることと同じ意味でそれは学園内でも適用される。
 ならば人目を気にして動く必要もある、国家代表とはモンド・グロッソに出るだけではなくプロバガンダの意味合いも含まれている。

「……いかんな、小言が過ぎたようだ」

 いつの間にか国家代表から代表候補生たちへの説教になっていたことに気が付き、六人に謝るキャスバル。
 小言を言う事になるとは私も年を取ったか、いや、それが大人の責務ということか。

「………」

 そんな事を呟くキャスバル、六人とは2つほどしか離れていない年の先輩が年を取ったかと呟く姿はどこか可笑しさを感じさせられるもの。

「すまなかった、失礼する」

 そんな事は露知らず、あっさりと踵を返してキャスバルはアリーナの端に移動しようとするが。

「大佐、自分に訓練を付けてもらえないでしょうか」

 キャスバルの前に移動してきて留めたのはラウラ。

「ほう、訓練か」

 無論ラウラには思惑がある、実際に目にしたサザビーの動き、もし敵対することになれば祖国に対してどれほど脅威になるか推し量るもの。
 それだけではない、噂の域を出ないが第一回モンド・グロッソのブリュンヒルデである織斑 千冬よりも強いと言う話もある。
 ラウラはそれが気に食わない、敬愛する教官よりも強いなどと、実際に体感した教官の強さと同等以上などとは到底信じられなかった。

「良いだろう、ただ機械的に動くターゲットよりは誰かが動かすISの方がまだましか」

 実働データから実戦戦闘証明の方が得られる物が大きいだろうと判断し、キャスバルはラウラの申し出を受ける。

「では……」
「後ろの君たちもどうかな、私としては数が多いほうがいいのだが」
「でもそれじゃあ……」

 先ほどキャスバルが言った様に、競技規定には一対複数と言う数的不利になるようなルールはない。
 それを自分から申し出るのは、当然何らかの意味があってのこと。

「ファンネルの動きを確かめたい、さすがに六人以上になると数が合わないので困るが、どうだろうか」

 一人に付き一基、それで対応するとキャスバルは言う。

『……ねえ、この人私たちのこと舐めてない?』

 キャスバルの申し出は、六人の相手はファンネル一基で事足りると言われているようなものだと鈴音が五人に向けて通信で呟く。

『私達のことを見下していますわね、それにBT兵器の制御にどれだけ集中しなくてはいけないのかわかっていらっしゃらないんでしょうか』
『フン、例え上級生でも容赦する必要などあるものか、舐められたならその分思い知らせてやればいい』

 挑発染みた提案にメラメラと火が付いた鈴音、セシリア、ラウラの三人。

『うーん、でも実際の動きを見てるとそう思っても不思議じゃないと思ったけど……』
『だが六対一は流石に……』

 一夏たち六機の内、第三世代機が三機、性能を底上げされている第二世代機のカスタム機、そして世界にたった二機しか存在していない第四世代機が二つ。
 操縦者も代表候補生に最近メキメキと実力を伸ばしてきている一夏と箒、戦力としては一国を相手取れる戦力である。
 それを一機、一人でしかもオールレンジ兵器一基ずつで対応すると見下しているようにしか取れないもの。

「あのー、そのファンネルって壊れても……」
「構わんよ、ある程度の予備はある」
『だそうだ、落とされても問題ないようだしやってみてもいいんじゃないか?』
『動かす間もなく撃ち落としてやるわよ!』
『……問題としないなら、いいのか』
『……確かアナハイムだったかな、ちょっと気になるし僕もやってみるよ』

 血気盛んな三人に一夏の賛同、それについ乗ってしまった箒とシャルロット。

「いいですよ、先輩」
「助かる、準備は?」
「いつでも」
「ええ、すぐにでもやれますわ」
「ならばはじめようか」





 移動してAピット側にはキャスバル、Bピット側には六人。
 六対一、数の戦力比で見れば絶望的と言える。
 だがキャスバルにはそんな堅苦しい雰囲気を纏ってはいなかった。

「時間だ」

 軽く言う姿、その時にはラウラが大型レールカノン「ブリッツ」を、セシリアが特殊レーザーライフル「スターライトmkIII」のトリガーを引き絞っていた。

「ファンネル!」

 だが既にキャスバルはその射線上から退避し、背部のファンネルコンテナから六基のファンネルを射出していた。
 加速しながらスラスターカバーを展開しビーム砲身を伸ばす、ファンネルはそれぞれ違う軌道を描いて一人一基で向かっていく。
 それを見てそれぞれが迎撃、否、撃墜を狙った行動。

「甘いな」

 斬撃や銃弾をファンネルは機敏に回避し、応射のビームを放った。

「ぐっ! 速い!?」

 迫ってくるファンネルに向かって飛び、雪片弐型を振り抜いた一夏は盛大に空振りし、避けたファンネルは一夏の手痛い一撃を食らわせる。
 放たれたビームは白式のシールドバリアーに接触し、シールドエネルギーを減らす。
 驚いたのは一夏だけではない、それぞれがファンネルを撃墜する意思を持った一撃を放ち、その全てをファンネルたちは別々の軌道を描いて回避した。
 その機動性はブルー・ティアーズの物とそう変わりないのだが、まるで攻撃が来るのがわかっているように軽やかに動いてビームを返してくる。

「どうしてビットがあんなに動かせるんですの!?」

 セシリアもビットのブルー・ティアーズを飛ばし、迎撃に向かわせるもファンネルを狙ってレーザーを放ち、ファンネルはそれを回避と同時にビームを撃ち返してブルー・ティアーズを撃ち落とす。
 一対四、サザビーのファンネルは数の優位は見る間に崩してセシリアへと撹乱機動を取りながら迫る。
 明らかに機動力が違うように見える、だが数値上はそれほど差がないと言うのに全くと言って良いほど動きを予測できなかった。

「これ拙、うわっ!」

 狙い打つには小さく、その上ジグザグに動くファンネルを捉えられず、シャルロットはせめて弾幕の偶然を狙ってのマシンガンを放つ。
 だがそれすらもビーム砲身を向けたまま大きく旋回しつつ、シャルロットを狙い打つファンネル。
 なんとか回避するもすぐにファンネルは追ってシャルロットを狙い打つ、今度は避けきれずシールドバリアーに接触を許してしまった。

「こいつら動きすぎでしょ!?」

 面での攻撃でファンネルを落とそうと龍咆の拡散衝撃砲を放つ鈴音だが、ファンネルは距離を取って鈴音から離れていく。
 その間に双天牙月を量子展開で呼び出し、手元で連結させて振りかぶる。

「こんのぉー!」

 高速回転する手首と連動して回転する連結された双天牙月、一つの円盤に見えるほど回転させてファンネルに向けて投げつける。
 弧を描きファンネルに迫るも、一発ビームを撃ち出して双天牙月の軌道を逸らす。

「いっけぇぇぇぇぇっ!?」

 その時には四門の拡散衝撃砲を放った、それぞれの砲身を僅かにずらして、ファンネルと予測できるその回避領域へと叩きこむ。
 小さく狙いにくいファンネルは点の攻撃には強いが、面の攻撃には弱い。
 一瞬で範囲内から離脱出来る推力か、攻撃に耐えれるだけの防御力を持つか、そのどちらも持たなかったファンネルは回避行動を取らず許す限りのビームの連射を行った。
 赤い炎の散弾がファンネルと交差し、そのダメージでファンネルは爆散し、鈴音に向けて放たれたビームはきっちりと全弾撃ちこまれて甲龍のシールドエネルギーを大幅に削っていた。

「追いつけるのに当たらないっ!?」

 箒は鈴音がファンネルを落とす光景を余所目に、尽く攻撃を避けるファンネルに苦戦していた。
 右の雨月による刺突のレーザー、左の空避による飛ぶエネルギー刃、狙い放つも繰り出した時にはファンネルは既に射線上には居ない。
 白式同様極めて高い機動力を誇る紅椿の速度はファンネルの機動力を上回るも、箒が気づかない巧みなキャスバルの誘導により今一歩の所で距離を取られる。
 箒がダメージ覚悟で突っ込めば空中を滑るように横に移動して、紅椿に対して決して直線的に動かずビームを撃ち放つ。

「この動きは一体!?」

 紅椿は現行のISの中で最も高い性能を持つ、技術も何もないその機体スペックだけのゴリ押しでも大抵の相手は落とせる。
 だが今相手取るファンネルはその性能を持ってしても撃ち落とせない、まるで箒の動きが全て見透かされたように回避して攻撃を加えてくる。

「くそっ、なんで!」

 紅椿は箒の意思を汲み取り、取りたい動きを完璧に行っている。
 だというのにファンネルには届かない、箒はなんとか動きを抑えようと紅椿の展開装甲を稼働させ、背部非固定浮遊部位を切り離してビットとして放つ。

「いけっ!」

 旋回しながら紅椿のビットはファンネルへと向かう、その迎撃でビームを放たれ、それを回避させた時には次射のビームでビットの一基が撃ち落とされる。

「やっぱり!」

 読んでいる! キャスバル・ソム・ダイクンはこっちの動きを完全に捉えている!

「ならば!」

 全力全開、ビットを大きく旋回させながら紅椿をファンネルへと向かって飛翔させる。
 前面に展開装甲のエネルギーシールドを開き、まるで体当たりのようにファンネルへと突き進む。

「これでぇぇぇっ!!」

 ファンネルがビームを放ちつつ回避機動を取るも、即座に紅椿の軌道修正、ファンネルの機動力を上回る加速で捉えた。
 ビームを弾く前面に展開された強固なエネルギーシールドによる体当たり、まさに紅椿の高い性能に頼った全力全開の突貫でファンネルを轢き吹き飛ばした。
 そうでもしなければファンネルを落とせなかった、砕けて落ちて行くファンネルの残骸を見た後箒は顔を上げる。
 その先にはファンネルを無視してキャスバルへと向かっていくラウラの姿。

「羽虫など!」
「残念だろうが」

 ブリッツを撃ちながら、サザビーを捉えようと加速するも。

「毒蜂だ」

 ラウラの周囲を旋回していたファンネルがビームを放ち、シュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーを減らす。

「邪魔だ!」

 左手を向けてファンネルに向かってワイヤーブレードを複数放つ。
 急な角度変更をしながらファンネルに向かって飛ぶが、動きながらのファンネルは簡単に撃ち落とす。

「この動き、インコムにも似ているな」

 ワイヤーブレードをファンネルの囮に使い、キャスバルへと迫るラウラ。
 だがキャスバルが操るファンネルはそれを許さない、ワイヤーブレードを回避してビームを走らせ、ラウラへと直撃させる。

「くっ!」
「ファンネルを撃ち落としてからにしたほうがいい」

 回避と攻撃を同時に行うファンネルは、どう足掻いてもラウラに無視させない。
 ラウラがキャスバルへと至るにはファンネルを叩き落さねばならず、無視すれば鋭い一撃がラウラの背中に突き刺さる。

「小賢しい!」

 更にワイヤーブレードを追加で放つ、それぞれが時間差でファンネルへと殺到するも、すり抜けてラウラへと迫りながらビームを放つ。
 本体と繋がって複雑な軌道を描くワイヤーブレード以上に複雑な軌道、あっさりとラウラはファンネルの接近を許し、目前でビーム砲身の中に光が宿るが。

「小賢しいと言った!」

 翳していた左手が、手が届かない位置のファンネルを捉えていた。
 パッシブ・イナーシャル・キャンセラーを発展させたアクティブ・イナーシャル・キャンセラーによる『慣性停止結界』。
 ぐるりとファンネルの向きが無理やり変えられ狙いがラウラから外れる。
 ファンネルの推進力では到底逃れられず、大きく弧を描きラウラの目前をワイヤーブレードが通り過ぎてファンネルを串刺しにして破壊する。
 そのまま停止結界を解除して機能しなくなったファンネルを放り投げる。

「第三世代兵器だったか、接近戦では無類の強さを発揮できるか」

 その能力にキャスバルは感心し、未だ余裕たっぷりのその姿にラウラは不快感を表す。

「これで落とされたファンネルは三基、いや、四基か」

 キャスバルが見据える先には一夏が瞬時加速を用いてファンネルに接近し、すれ違い様に雪片弐型を振るって両断していた。
 未だ無事なファンネルはセシリアとシャルロットに向かっているファンネルのみ、その他のファンネルは破壊され使い物にならない。

「では訓練を始めるか」

 その一言でキャスバルの姿を隠すようにサザビーは全身装甲を纏っていく、その間にファンネルを呼び戻してコンテナに収納する。
 構成される腹部拡散メガ粒子砲、胸を置い隠す前に伸びる胸部装甲、頭部にはヘルメットのような形で覆われて鼻や口元にも赤い装甲。
 黒く彩られた目元は緑色のハイパーセンサーが灯る。

「実戦だろうな」
「勿論です」

 睨むようにラウラがサザビーを見る。

「手加減は不要と見える、本気で行かせてもらおう」

 先に動くのはラウラ、弾かれたように迂回しながらワイヤーブレードを射出。
 キャスバルはビームショットライフルを連射し、弧を描くワイヤーブレードを全て撃ち落として後退。
 チャージが終わっていないファンネルを射出し、腹部拡散メガ粒子砲をチャージ。
 ラウラはブリッツを後退するキャスバルに向け放つも、キャスバルの上空にあったファンネルがそれを撃ち落とす。

「なにっ!?」

 余りにも呆気なく通常では考えられない事をやってのけるキャスバルにラウラだけではなく、他の五人も驚く。
 驚きの余り次の動きに遅れを生じさせた隙をキャスバルは見逃さず、腹部拡散メガ粒子砲をラウラへと浴びせかけた。

「っ!」

 迫る黄緑のビームの波に全力で上昇し回避行動を取るラウラ、その瞬間にはファンネルがラウラの周囲に付いていた。
 後方斜め上からのビームを一撃、シュヴァルツェア・レーゲンのシールドバリアーはそれを防いでエネルギーを消費。
 舌打ちをしながらファンネルに向けてワイヤーブレード、それを呆気なくすり抜けてファンネルは砲身をラウラに向けたまま旋回。
 次の瞬間にはラウラの下方からもう一基のファンネルからの一撃、意識の死角からの一撃を避けれずまたもシールドバリアーに接触。
 そしてラウラはたった二基のファンネルの檻に閉じ込められた。

 一基の相手をすればもう一基が死角から撃ち込み、なおかつ攻撃を読んで動かされるファンネルを撃ち落せず回避も虚しくラウラは蜂の巣にされる。

「もっと周囲に気を配るといい」

 ファンネルに気を取られすぎてキャスバルの声に振り返るラウラが見たものは、目前に迫った明るい黄色の光であった。
 避けることが出来ず限界を迎えていたシュヴァルツェア・レーゲンのシールドバリアーはビームショットライフルの射撃で撃ち抜かれ、絶対防御を発動させられて落下していくラウラ。
 それをすぐに抱き留めたのは一夏、キャスバルも武装を解除して一夏のもとに向かう。

「筋は悪くない、ファンネルの動きも見えていたようだ。 だが見えるだけでは駄目だ、それに君は一点に集中しすぎた」

 ラウラは意識は失っておらず、一夏の腕の中でキャスバルを見た。

「ファンネルの動きの予測は彼女のBT兵器を参考にしたな? はっきりと言えば彼女と私とでは運用方法に違いがある、その違いをもっと速く認識して切り替えるべきだった」

 ファンネルを使っている時は本体は動けない、そんな物が意識の中にあったのではないか? そう問われてラウラは頷いた。

「意識の割り振り方をもっと学ぶといい、君たちは未だ発展途上、これから更に強くなれるだろう。 無論、精進し続けたらの話ではあるが」

 そう言ってキャスバルは一夏を見て。

「彼女を頼めるかな」
「はい」
「では頼む、ファンネルを四基も壊されるとは思っていなかった。 これでは叱られてしまうな」

 ふっとキャスバルは笑ってピットへと戻っていく、その後すぐに箒たちも一夏の傍に寄ってきた。

「……完敗ですわ」
「あんなに動くだなんて思っても見なかったよ」

 ファンネルを撃ち落せなかったセシリアとシャルロットが残念そうに呟く。
 特にセシリアはがっくりと肩を落として溜息、自身よりも遥かに卓越した制御を前に自信を失っていた。

「装備の違いって奴でしょ、それにしても一基であんだけしてやられたんだから、六基全部を相手にしたら速攻で落とされるんじゃないの?」
「確かに、一基に手間取るだけで先ほどのラウラ以上の目に遭うのは間違い無いだろう」
「……これほど簡単にしてやられるとは」
「と言うか、瞬時加速で奇襲掛けなきゃ落とせる気がしなかったぞ」

 それぞれがオールレンジ兵器の恐ろしさと、それを操ってみせたキャスバルに畏怖を覚えた六人だった。

「……ラウラ?」
「なんだ?」
「……いや、何でもない」

 一夏の腕の中のラウラは一夏に擦り寄る、それに気が付いた他の四人がまた騒ぎ出すのは当然であった。

「一夏! ラウラは私が運ぶ!」
「そうだね、僕もそれがいいと思うよ」
「なんなら私でもいいわよ? 一夏に運ばせると碌な事にならないし」
「ええ、ここは一夏さん以外の方が運んだほうが賢明ですわ」
「なんで俺がラウラを運んだら碌な事にならないんだ?」
「わざわざ手間を掛けることもない、それに私は一夏に運んで欲しい」

 一夏がラウラを抱えるポーズは俗にいうお姫様抱っこ、するりとラウラは一夏の首へと腕を回す。

「この高さで落ちるのは危険過ぎるからな」
「ああ、そうだな」

 危ないことにかこつけて一夏とスキンシップを図るラウラに、冷ややかな視線を向ける四人であったがラウラは全く気にしない。
 当のラウラは一夏のぬくもりを感じつつ、先ほどの戦いを思い出していた。
 確かに実力はかなりのもの、アリーナで眺めた時にはまだ何とかなると思っていたが実際に対峙すれば新たな装備と相俟って凄まじい強さ。
 はっきりと言えばセシリアのBT兵器よりも数段厄介、性能的にはそれほど変わらないだろうが制御する人物の質が違う。
 それにファンネルはまだ完璧ではない物言い、物自体は完成はしたが微調整が済んでいないだろう代物であれだけの動き。

 完全なものになればどれほどのこうかを発揮するのか、そもそも本当にキャスバルは本気を出していたのか。
 底の見えぬキャスバルに僅かながらも恐れを抱いたラウラだった。




















 なんかクソ長くなったんで分け
 時系列的には三巻と四巻の間?
 アムロ以外には強いシャア、子供なんて余裕ですよ
 宇宙世紀シャアかIS世界キャスバルか、一応どっちつかず状態
 ファンネルのお話、全方位から迫り来るビームは避けれまい! それにプラス本体の射撃が混ざります、アムロとシャア変態すぎる
 アムロちゃん出番なし、このシャアは大尉を想定したけどなんか違う気がする
 つーかビット扱えるセシリアは普通に凄い部類だけど、アムロとシャアが変態的な能力で霞んで見える
 だからこそセシリアとアムロの接点が出来そう、ビットの扱い方云々
 基本的にアムロとシャアは武装を量子化していない、バズーカを背中にマウントしていたりする、その分機体に回して武器とかの出力上げてそう

 ヤイヤー・ブレード修正、一体どんな武器なのか



[29186]  2 【ミステリアス・レイディの次】
Name: BBB◆e494c1dd ID:51f4faa7
Date: 2011/11/23 03:25

「あーむろちゃん、いるかなー?」

 二年生の整備科、専用の教室として使われるそこに顔を出したのは水色の髪、肩口で整えられているセミロング。
 整備科以外の生徒では見慣れない機材が幾つも置かれた室内で、機材の向こう側から上げられたのは水色髪の少女よりも短い茶色のくせっ毛。

「楯無か、何の用だ?」
「何の用だって冷たいなぁ」
「こちらにも都合があるんだ、いつも付き合ってあげる訳にはいかないよ」

 アムロは楯無を見据えながら立ち上がる、同じ教室にいる生徒たちも顔を上げて廊下から顔を出した人物を見た。

「ちょっとね、他の子には頼めないし」
「……わかった、行くよ」
「会長、あまりレイちゃん引っ張りまわさないでくださいよー?」
「勿論よ」

 今は学園祭中、アムロにも楯無にもやる事はある。
 楯無、更識 楯無はIS学園の生徒会長でいつもよりもやることは多い。
 だと言うのに自分の足でわざわざアムロを迎えに来た、その顔はいつもと変わらないがその仮面の下には危惧が見え隠れしていたのをアムロは感じ取った。

「何があった」
「誤認であって欲しいけど、IS学園に入っちゃいけない存在が入ってきたかもしれない」

 国立IS学園は国立の名の通り国が管理する学園、それに各国のIS操縦者候補も居る事からそれなりに厳重な警備が敷かれている。
 二十四時間体制で動体や熱源センサーに光学機器などで不審な人物の接近などを監視する、学園祭中の膨れ上がった外来客にも適用され一人一人確認がなされる。
 指名手配などされた人物が確認されればすぐにでも監視され、同一人物であると確認され次第確保するようになっている。
 楯無はその中で引っかかった人物が確認されたと、簡潔にアムロへ伝える。

「映ってたのはほんの僅かだけ、それ以降は全く映ってないのよ。 はっきりと言って映らなさ過ぎて逆に怪しいわ」

 IS学園中に設置してあるセンサーや光学機器、監視カメラから逃れるようにして動いている。
 そしてそれらから逃れて移動する女は世界で唯一の男のIS操縦者の近くにいる。
 怪しいなんてものじゃない、すぐさまIS学園から蹴り出したほうがいろいろな面で安全ではないかと思える。

「保安などには?」
「多分IS操縦者、情報が正しければね」
「ならば教師にも伝えたのか?」
「ええ、でも無理かな」

 表事じゃないから、とISを扱える教師たちでも捕らえられないだろうと楯無。

「……工作員か」
「うん、捕まえるどころか見つけることすらできないんじゃないかな」

 IS学園の教師たちは主に国家代表や代表候補生たちで占められており、代表候補生になった時点で軍事教練を学ぶことになっている。
 そして実際に軍に所属して活動したとしても見付けることすら出来ない、相手は秘密裏に動くことを専門にする工作員で対工作員の対処を学んでいない軍人など簡単に撒ける。
 アムロとて記憶にあるあの世界で内偵をしていた時もあった、その当時行方をくらましていたシャアの動向を探り、シャアの居場所に繋がりそうな人物を尾行したこともある。
 その時の尾行は何度も撒かれそうになり、ニュータイプとしての直感などで辛うじて追いかけられた経緯があった。

「わかった、何をすれば良い?」
「支援かなぁ、もし危なくなったら、ね?」
「了解した、それでどんな人物なんだ?」

 センサーや監視カメラを避けて織斑 一夏に近づく女、当然警戒を抱かせるものがこれ以前にあったあったはずだとアムロは言う。

「一言で言えば秘密結社かなぁ、テロもする奴らの集まり」
「テロ、か。 目的は織斑 一夏かそのISか」
「多分ね」

 カツカツと二人は速めの歩調で廊下を歩く、その途中で多くの生徒達とすれ違い。

「あ、かいちょー! お暇でしたら寄ってってくださいよー、勿論アムロちゃんも!」

 二年生の出し物が並ぶ廊下で、同じ二年生であるからIS学園で有名な二人に当然と言って良い掛けられる声。

「ごめんねー、今から大事な用事があって、その後に寄らせてもらうわ」

 するりと隣にいたアムロの腕に自分の腕を回してアムロの肩に頭を寄せる、その様子を見て。

「きゃー! デートですか!」
「女同士でそれはないだろう、第一そんな甘酸っぱいものじゃないよ。 楯無も余りふざけるんじゃない」
「もー、これだからアムロちゃんは」

 楯無はノリがわるいなぁ、と苦笑しながらアムロの腕から離れる。

「用事が終わったら寄らせてもらうよ」
「はーい、待ってるよー」

 呼び込みの二年生に楯無とアムロは軽く手を振って廊下を歩み出す、その後も何度も声を掛けられ、その都度後で寄らせてもらうと断る。

「全く、アムロちゃんは人気者ねぇ」
「それを君が言うか?」

 後者から出ながら苦笑してアムロが言う、いつも飄々としていながらも明るく元気のよい楯無。
 物事もはっきりと言い放つことが多いが、それに嫌味を感じさせない口の良さ。
 人付き合いも良く上級生や下級生にも人気のある、文武両道で生徒会長に相応しい優れた人物。
 その楯無が人気があると言うアムロも、相手に優しさを向けて接する人間であり。
 余程のことで無ければ溜息を吐きつつも、しょうがないなと頼みを聞き入れる。
 人当たりも悪くないため、そう言った点で同級生からは楯無ほどではないが人気があるアムロであった。

「推測が当たってかどうか、当たってたら誘き寄せたいのよ」

 だから協力してほしいな、と楯無は言う。

「わかった、どうやって誘き出す?」
「考えがあるわ、合図を出すまでアムロちゃんは待機ね」

 そう言って楯無はにっこりと笑みを浮かべた、





 その後、楯無とアムロは別れることになった。
 と言っても一定の距離まで離れただけで、何かあればすぐにでもISで駆けつけられる距離。
 楯無が考えた作戦は織斑 一夏の周囲をかき乱し、接触しやすい状況を作り引っ張り出すという物。
 おそらくは狙われているだろう人物を囮に使うなど危険極まりないが、他に誘き寄せる方法がないためにしょうがなく認めたアムロ。
 楯無の言い分ではすぐに助けに行けば問題なし、と少しどころか結構ないい加減さであった。

「……まったく」

 とりあえず今楯無が周囲を騒がしている間、アムロは第四アリーナの一室で待機していた。
 第四アリーナでは演劇が行われるようで、それに楯無は一枚、いや、それ以上に噛んでいるらしい。
 耳を傾ければアリーナの方向から歓声のような音が聞こえる、それよりももっと確かな『気配』を感じていた。
 始まったのだろう、大きくなる歓声と気配。
 それを感じながらアムロは待機していた、じっと待ち楯無からの合図を待つ時間はどれほど掛かるだろうかと考えた矢先。

『アムロちゃん、動いたわ!』

 楯無からプライベート通信が入り、ステルスモードのままアムロは動き出す。
 通信と共に情報、ハイパーセンサーに第四アリーナの見取り図とその上に浮かぶ赤い光点が一つ。
 赤い光点は織斑 一夏を示し、第四アリーナのフィールド真中付近から端へ、そのまま第四アリーナの廊下へと移動していく。

『彼だけが逃げ出した可能性は?』
『フィールドのセットからは出ないように厳命したから、あの子の性格だとしっかり守ってくれるでしょうね』

 性格を見抜き、一人ではフィールドから出ては行かないだろうと当たりを付けた楯無。
 それが当たっていれば織斑 一夏が一人でフィールドの外に出ることはない、となれば破るだけのものが今の織斑 一夏にはある。

『あの五人かと思ったけど全員確認済み、フリーエントリー組でもないかな?』
『ちゃんと確かめてから言ってくれ』
『まあ言ってみれば分かるわ』

 またアリーナの見取り図に新たな光、青い光点が点って移動を始めていた。

『合流しましょう、追いかけつつね』
『了解した』

 アムロは駆け出し、赤い光点の後を追いかけ始めた。
 赤い光点は廊下を移動し続け、とある場所、更衣室で移動が止まった。
 息を殺しつつも更衣室に接近し、追いかけてきた楯無と合流。

『おまたせー、待った?』
『状況を考えてから言ってくれ』

 まるで待ち合わせに遅れてきたような物言いで楯無が更衣室付近で合流した。
 見取り図の赤い光点は未だ更衣室にあり、拡大して更衣室だけで見れば赤い光点は急に動いたり止まったりしている。

『これはやっちゃってるわね』

 楯無が足音どころか衣服の擦れる音さえ消して更衣室のドアまで近づく。

『……ロックされている、まさかシステムにまで干渉しているのか?』

 更衣室のドアは電子ロックで鍵を掛けられ、生徒どころか教師でさえ入ることはできないだろう。

『あの女を引きつけるわ、アムロちゃんはその間に中に入って潜んでね』
『……わかった』

 カギを開ける手段がある、更衣室の中でよからぬことが行われ織斑 一夏及びそのISが危険になっているはずだと楯無。
 アムロと楯無、二人で掛かれば制圧も出来ようがその制圧の最中に何らかの予期せぬことが起きるかもしれない。
 出来るだけ織斑 一夏とそのISを無事のまま事を終わらせたいと楯無はアムロに言う。
 だからアムロは頷き、それを見た楯無は微笑んでドアへと手を当てる。
 それだけで音もなく鍵が開き、楯無はアムロを見た。

『それじゃあ作戦開始』

 楯無がミステリアス・レイディを起動させて身に纏う、一瞬で終わるIS展開の後にアクア・クリスタルと呼ばれる非固定浮遊部位から水が溢れ出して瞬時に形作る。
 それは更識 楯無と瓜二つの水人形、それをドアを開いて更衣室に入らせる。
 更衣室の中はそれなりに乱れており、ロッカーが幾つも倒れ備え付けの椅子も割れていたりしている。
 アムロもステルスモードでνガンダムを展開、二人はPICによる音もない機動で更衣室に忍び込む。

 アムロの姿は無駄なエネルギーを抑えるために、ISアーマーの展開を控えたもの。
 額には金色に光を反射するV字型のアンテナと根元近くで角度を変えるV字アンテナを重ね、それを支えるミッドナイトブルーの留め。
 同じくミッドナイトブルーの無骨な胸部ISアーマーに、膝下から包む白と、ふくらはぎ部分もミッドナイトブルーに塗装されたISアーマー。
 白色の肩部ISアーマーの左には三角形にも見えるAを一筆書きしたような赤いパーソナルマーク、腰部には太ももまでしかない白のフロントスカート。
 背部には少し前に取り付けられたフィン・ファンネルが六基、まっすぐに伸びたものが二基と途中で折り曲げられたのが四基、ファンネルラックに取り付けられてある。

 周りが見えていないのか、更衣室のドアが開いたことにすら気が付いていない織斑 一夏と工作員であろう女。

『とりあえず私だけでやるわ、先輩で生徒会長の威厳を後輩に見せてあげなきゃいけないし』
『……わかった、だが危ないと感じたらすぐにでも割って入るぞ』
『きゃ、アムロちゃん頼もしい~』

 ここでもふざけたように言う楯無に、アムロは軽くため息を吐く。
 その間にも織斑 一夏は蜘蛛のようなISの脚で蹴飛ばされ、壁に叩きつけられていた。

『それじゃ』

 そう言ってドアの前に立たせていた楯無の水人形が動き出した。
 通信を介して水人形に言葉を通し、その声に二人が反応して振り向く。
 その隙に楯無は二人に接近、ドアの前にいる楯無が水人形だとは気が付かずに女は楯無を殺すと宣言して襲いかかる。
 突っ込む女は多脚ISの脚で水人形を貫いた、その隙に本物の楯無は接近して織斑 一夏のすぐそばを通りぬけ。

「手応えがないだと? まさかこいつは……、水か!?」
「ご名答、正解者にはプレゼントを上げなきゃね」

 既に女の背後へと到達していた楯無、慌てて振り向く女に呼び出していたランス『蒼流旋』でなぎ払った。
 強かに蒼流旋を叩きつけられた女は吹き飛び、列をなして並ぶロッカーを幾つもふっ飛ばしながらも急停止させた。

「ちっ、なんなんだてめぇはよ!」
「あら、自己紹介が遅れたわね。 名は更識 楯無、そしてIS『ミステリアス・レイディ』よ。 覚えておいてね」

 女がIS『アラクネ』を動かす前に、楯無は蒼流旋を持つ右腕を引き絞ってPICにてアラクネへと突っ込む。
 楯無の全長を超える大型ランスの表面に水が高速で螺旋を描いて、触れる物を全て破砕するドリルのようになった蒼流旋を遠慮無く突き出す。

「ぐおあっ!?」

 女は奇声を上げながらも辛うじて蒼流旋を避け、突き出された蒼流旋はロッカーを巻き込み一瞬で粉々に砕いた。

「出血大サービスってやつなんだから、プレゼントを受け取ってほしいわね」
「……ふざけやがって、ぶっころしてやらぁ!」

 そのセリフに笑いながらも楯無は迎え撃つ、アラクネの脚先が割れるように開いて銃身を覗かせる。
 複数の脚から放たれる銃弾に、楯無はアクア・クリスタルから水のヴェールを展開。
 水のヴェールに突き刺さる弾丸は一発も突破することはなく、水のヴェールの中で完全に停止する。
 銃撃が無駄なら直接引き裂いてやる、そう思ったのか二つの脚からカタールを取り出して腕に持ち。
 四脚は射撃モードのままで残る四脚を格闘モードにして楯無に向かって突っ込み、ビーム・クロウを繰り出す。

 それに対して楯無は蒼流旋と水のヴェール、そして足までも使ってその攻撃を軽やかに凌ぐ。
 己の攻撃が完全にいなされている光景に女は苛立ち、なんとか蒼流旋か水のヴェールを無効化しようと苦心する。
 女は射撃モードにしていた四つの脚を格闘モードにしてビーム・クロウで斬りかかる。
 さすがの蒼流旋や水のヴェールとはいえ、超高熱のプラズマ化しているビームを防ぎ切ることは出来ない。
 八脚のビーム・クロウと両手のカタール、計十もの攻撃でラッシュを掛け、まずは水のヴェールを吹き飛ばす。

「あらら、これはまずいかも」

 危機感が全く見えない楯無の声、次々と絶え間なく繰り出される攻撃を凌いでいたが時折通る攻撃によりシールドバリアーが限界を迎えて消える。

「余裕こきやがって! さっさと死にやがれ、ガキが!」

 蒼流旋や足も使って何とか凌いでいた楯無であったが、ついに限界を迎えてアラクネの装甲脚が蒼流旋に突き刺さり、無理やり蹴飛ばす。

『楯無!』
「まあいっか、折角だから見せ場は作らないとね」

 伸びるアラクネの脚が蒼流旋を蹴り飛ばされた楯無を捕らえ、一気に女の前に引き寄せられた。

「けっ、手こずらせやがって!」

 防御を突破し武器を破壊して楯無を捕らえたことで、勝利を確信したのか女は動きを緩め表情に笑みを浮かべる。

「楯無さん!」

 それを見た女に痛めつけられて床に伏せたままの一夏は叫んだ。

「大丈夫大丈夫、一夏くんは強く願っていなさい。 一夏くんが今最も望むことをね」

 明らかに不利な状況に楯無は一夏へと笑ってみせる。

「この状況でも余裕ぶっこけるとは大したタマだな、てめぇ」

 常に飄々としていた楯無に、女は呆れを通り越して感心した。
 だからと言って見逃してやる理由にはならない、こいつのISコアも奪っちまうか? とすら考える女。

「こっちで決めてもいいけどね、それじゃあちょっとつまらないのよ」
「ああ? 何言ってんだてめぇ?」

 カタールを構える女は楯無の言葉に耳を傾けた。

「勘違いしているようだから一つ教えてあげる、『私が一人で来た』なんて一言も言ってないわよ?」

 ──警告! 未確認ISの接近を

 アラクネが警告を出す、だがそれを全て伝えきる前にビームの発生音を女は耳にした。
 引き抜かれたのはビームサーベル、一夏の前を高速で通り過ぎた白と黒のISがビームサーベルを持つ右手を振り下ろした。
 一閃、更衣室の床を巻き込んでアラクネの右側に揃う装甲脚を切り裂いて落とす。
 勢いそのままにシールドを構えたまま体当たり、アラクネをシールドバリアーごと押し出しながらロッカーの列を吹き飛ばす。

「があ!?」

 シールドから顔を覗かせ、アラクネに向かってバルカンを放つ。

「こ、こいつ!?」

 シールドバリアーがバルカンを防ぎ、残る脚を射撃モードにして撃ち返そうした時にはビームサーベルが銃身をなぎ払っていた。
 そのままバルカンを放ちながらνガンダムは床に足を付き、音を立て削りながら減速を掛ける。
 そして足で床を蹴り出して右へと飛び、女は指で練り上げていたエネルギー・ワイヤーをνガンダムが飛ぶ前までの位置へと投げつけていた。

「なんっ!?」

 余りにもあっさりと見切らたことに女、オータムは驚きを隠せない。
 少なくともアムロからは見えない位置、エネルギー・ワイヤーを練っていた手は女の体の影になっていた。
 だというのに初めからわかっていたように回避を取り、νガンダムはアラクネの左側面を取って残る脚をビームサーベルで切り落とす。
 振り向こうとするもシールドによるバッシュ、強打によってシールドバリアーは打ち抜かれてアラクネは殴り飛ばされる。

(何なんだよこいつはぁ!?)

 なんとか体勢を立て直そうとするも、それよりも速くνガンダムはアラクネに迫る。
 シールドを構えて覗かせる、緑に光ったνガンダムのデュアルアイ。
 顔の見えない余りにも無機質な眼光がアラクネを捉え、オータムの背筋に悪寒を走らせる。
 それはオータムに撤退を決意させ、目前でビームサーベルを振り上げていたνガンダムを見た。

(今っ!?)

 アラクネのISコアを抜き出して、自爆をセットした抜け殻をνガンダムに押し付けて爆発させ、その隙に逃げ出すタイミングを図った。
 だがνガンダムは腕を振り下ろさずに、アラクネを見ながら後方へと急速に加速して下がり。

「爆発するぞ!」
「くそがっ!」

 それすらも見切られ、悪態を付きながらアラクネのISコアを抜き出して自爆を命じた外装をνガンダムへと突っ込ませる。

(一体どうなってやがる!?)

 PICにて全速でνガンダムへと突っ込んでいくアラクネの外装、それを尻目に全力でオータムは駈け出して逃げ出す。
 νガンダムは光を放ちながら迫るアラクネの外装に向かって後退から前進へ、空中で体勢を変えながら足を蹴り出した。
 ガゴンッ、と鈍い金属音を立てて吹っ飛ぶアラクネの外装、νガンダムは左腕を振りつつ蹴った反動のまま再度後退し、更衣室の壁に叩きつける前に大爆発を起こした。
 上がるのは閃光と爆炎と衝撃波、わずかに遅れて爆煙が更衣室内に広がる。

「……無茶するわねぇ」
「ああ、よくやるよ」

 爆発の威力はISのシールドバリアーを消し飛ばし、絶対防御すら貫通していただろう破壊力。
 生身のままだと爆発に巻き込まれずとも衝撃波で吹き飛ばされて死ぬ可能性もあった、それを許容した上での脱出。
 それに関して無茶だと、よくやると呆れた。

「……ッ、あの女は!? 白式が!!」

 大爆発、爆発する前の室内が更衣室であったなど一目見てわからないような有様の衝撃から一夏は我に返る。
 無論一夏に傷一つ無い、アムロが爆発すると警告を出した時には楯無が自身と一夏を余すことなく水のヴェールで包んでいたので無傷。
 当然その前にオータムに蹴られた跡などはあるが、爆発による怪我は一切ない。

「白式のコアが、取られちまった!」

 今にも走りだして水のヴェールを突き破りそうに叫ぶ一夏。

「逃しちゃいないさ」

 それに返して言ったνガンダム、アムロは煙や埃で一杯になって視界が効かない室内の一点を振り返って見る。

「ちゃんと捕まえてる、流石アムロちゃん」

 うふふと笑いながら楯無は一夏に向けて言う。

「丁度いいわ、一夏くん」

 あの女、オータムを捕らえていると言う言葉に一夏は安堵して楯無を見た。

「何ですか?」
「一夏くんにとってIS、白式はどんなものなのかしら?」
「え?」
「まあ本気で心配するものだっていうのはわかったけど」

 にこっと笑いかけて一夏を見る楯無、その鮮やかな笑顔に一夏は軽く頬を染めながら顔を逸らす。

「……多分、大事なものなんだと思います。 どう言う風に大事かって聞かれたらちょっと答えられないですけど、失くしちゃいけないような存在かなって思ってます」

 頬を指で掻きつつ答える一夏。

「だったら覚えておきましょう、ISとその操縦者は繋がってるの。 だから呼んであげましょう、大事に大事にね?」
「大事に、呼んであげる……」

 人差し指を立てて笑顔のままの楯無は言う、専用機となったISと操縦者は剥離剤<リムーバー>如きで引き離せない。
 だから呼んであげましょう、それにISは答えてくれると。
 それを聞いて一夏は頷き、左手で右手首を掴む一夏。
 少しずつ晴れていく煙の向こう、アムロが一度見た方向に視線を向けて瞼を閉じる。
 一夏は強く願う、戻って来いと、白式のコアに強く呼びかける。

「……来い、白式。 戻って来い!!」

 瞬間、光を放って一夏の右手に菱形立体のコアが浮かんでいた。

「……白式」

 呟いた時にはコアが光の粒子となって一夏を包み、剥離剤によって引き剥がされる前の状態まで戻った。
 それに対して良かったと、一夏は呟いた。





 その後駆けつけた教師や警備員に不審者が侵入し、ISを使って生徒を襲い、ISコアを強奪しようとした所を防ぎ捕縛したと説明し。
 νガンダムの左手甲から打ち出されたトリモチ・ランチャーを当てられ、更衣室の壁に縫いつけられたまま気絶しているオータムを引き渡す。
 当然手のうちにあったアラクネのISコアは没収され、オータムは持ち得る情報を洗いざらい吐くことになるだろう。

「こまるなぁ、アムロちゃんは」

 本来なら色々と事情聴取を聞かれる立場である二人ではあるが、楯無は対暗部用暗部「更識家」の当主であるために手を回してアムロに掛かる負担を打ち消した。
 少なくとも学園祭が終わるまで今回の事件は持ち上げない、そう方が付いてから校舎に戻る混雑する帰り道で楯無が呟く。

「一体なにが困るんだ?」
「確かにアムロちゃんの実力を買って付いてきてもらったんだし、隠れたままで終わるのは面白くないかなって思ったんだけどね」
「悪い癖を直してればそうなってただろ?」
「だからって全部かっさらっちゃうなんて困っちゃう娘ね」
「……全く、なんで俺が責められなくちゃならないんだ?」

 軽く肩をすくめてアムロは言う、それを見てうふふと楯無。

「まあとりあえずアムロちゃんにはお礼をしなくちゃね、なにか欲しい物とか……アムロちゃん?」

 楯無が話を振った時にはアムロは足を止め、晴れ上がっている空、それも遠くを見つめていた。

「……この感覚、一人ではなかったか!」

 生徒から外来の客までごちゃまぜになっているその場で、アムロはνガンダムを展開して装着する。
 瞬間飛び上がって右手に構えるビームライフルを、左手でライフル上部の取っ手を握って支えトリガーを引き絞った。






「くっ!」

 織斑 一夏が襲撃された、耳聡くその報を聞きつけたラウラ・ボーデヴィッヒは己の役職にかこつけて護送することを取り付けた。
 ラウラ自身にも襲撃犯に聞きたいことがあった、さすがにその場での尋問は無理であったが護送先にて行うことも約束させていた。
 今この時一夏と離れるのは色んな意味で苦しいことだが、嫁にする予定の一夏が襲われたなど例え義理姉になる予定の千冬が許してもラウラは許さない。
 それほどまでの怒りが持っていた、それに共感したのがセシリア・オルコットであった。
 こんな事許されることではないとラウラにも負けないほど怒りを持って護送を申し出て、射撃戦用のISで有ることから広範囲のセンサー有効半径にて襲撃犯奪還を察知出来るよう付き添う。

「そんな、まさか!?」

 襲撃犯を奪い返そうと、もしかすると護送車に襲撃を掛けてくるかもしれない。
 その予測は当たり、高速で接近してくる機影を超高感度ハイパーセンサー「ブリリアント・クリアランス」で捉えた。
 ラウラに警告を掛けた時には超長距離からの狙撃、辛うじて反応し身を捻って飛んできたレーザーをラウラは回避する。
 狙撃には狙撃を、スターライトmkIIIのロングレンジ用スコープからの映像をハイパーセンサー越しに捉えた姿にセシリアは声を漏らした。
 それはBT二号機『サイレント・ゼフィルス』、まかり間違ってもこんな場所に存在するはずのない、イギリス本国で実験運用されているはずのISがそこに居た。

『何をしている! 撃て!』

 ラウラの声に我に返って、照準を合わせて引き金を引くセシリア。
 スターライトmkIIIの銃口から光が飛び出して空を切る、超高速で飛ぶ光の弾丸はサイレント・ゼフィルスを穿つかと思われた瞬間。
 ブルー・ティアーズと同じくビット型のBT兵器、『シールド・ビット』が射線上に割り込んで光の弾丸を弾いた。

「くっ!」

 狙撃を遮るシールド・ビット、邪魔ならば同じBT兵器で撃ち落とせばいいとブルー・ティアーズを射出したその時には狙撃で撃ち落とされた。
 縦横無尽に空を駆ける超高速機動の最中に、精密射撃でブルー・ティアーズを撃ち落されたことに驚く。
 だがセシリアは驚くだけで動きを止めることはない、自分が出来ないことを相手が軽やかにやってのける様は既に見ている。
 砕かれた自信は己に課した訓練と、一夏から掛けられた優しい言葉でそれ以前よりも逞しくなっていた。
 BT兵器制御中に動けないと言う欠点を努力の訓練である程度緩和出来た、流石に自身も戦闘に参加できるほどの制御は身についてはいないが動かしながらも回避運動を取れる位にはなった。

 だがそれを見せる前にビットのブルー・ティアーズが落とされたこと、相手はBT兵器を柔軟に制御しながら本体も攻撃を加えてきている事にセシリアは唇を噛む。
 どうしてこうもオールレンジ兵器を扱う相手が尽く自分よりも上なのか、再度自信がへし折れそうになりながらもセシリアは飛来する光の弾丸に対して回避行動を取る。
 そして高速で迫るシールド・ビットが六基、三基ずつに別れてセシリアとラウラに襲い掛かった。
 上下左右前後三百六十度、周囲を飛び回ってビームを放ってくる。
 あっという間に二人はシールド・ビットの対応に追い込まれ、サイレント・ゼフィルスはそれを尻目に悠々とライフルを護送車に向けて撃ち放つ。

 その一撃で運転席を撃ち抜き動きを止めさせ、護送車に取り付いて取り出したナイフで天井を切り裂く。
 中に居たのは拘束服を着せられたオータム、こじ開けられた天井を見上げてサイレント・ゼフィルスを見た。

「迎えに来たぞ、オータム」
「ちっ、呼び捨てにすんじゃねぇ!」

 声を張り上げるオータムを掴み引っ張り上げ、浮き上がるサイレント・ゼフィルス。
 イギリスの代表候補生にドイツの遺伝子強化素体<アドヴァンスト>、どちらも取るに足らない殺す価値もないIS操縦者。
 つまらん任務は完了した、さっさと帰ろうとした瞬間。

 ──警告、高熱源反応の接近

 サイレント・ゼフィルスの警告を聞き、身を翻した。

「おわぁ!?」

 直後なでしこ色のビーム弾が直前に居た場所を通り過ぎた。

 ──警告、高熱源反応の

 先ほどの警告よりも速く回避行動を取る。

「──チッ」

 だがほんの僅かにシールドバリアーに接触、シールドエネルギーを削り取る。
 セシリアとラウラを弄んでいたシールド・ビットを一基ずつ呼び戻し、ビームが飛来した方向へと構えさせた瞬間。

 ──警告、高熱源反

 一基のシールド・ビットが吹き飛ぶ、スターライトmkIIIの一撃を弾いたシールド・ビットが粉々に吹き飛んだ。
 それは直撃コースだった、シールド・ビットが無ければ直撃を食らっていた。
 しかも自分の動きを読まれていた、ごく短い時間差の射撃で回避方向に合わせた物。
 それは回避する方向を読まれていたことに違いはなく、狙撃を行った存在がかなりの実力者だと証明していることでもあった。

「───」

 それに対して殺意がもたげる、こんなつまらない事で自分が直撃を貰いかけるなどと。
 ビーム弾が飛来した方向を見ながらすぐにセンサーを確認、射撃戦用のサイレント・ゼフィルスに狙撃を挑んでくるヤツはどんなISを操っているのかと確認するも。

 ──索敵完了、センサー有効範囲内に確認できるISは二機です。

 感知したISは二機、その反応はセシリアのブルー・ティアーズとラウラのシュヴァルツェア・レーゲンのみ。
 その他のIS反応は無し、平均的なISのセンサー範囲よりも圧倒的に広いサイレント・ゼフィルスのセンサーを持ってしても感知できないIS。

 ──警告、高熱源反応の接

 ステルスモードかと考えた矢先、飛来するなでしこ色のビーム弾。
 大気を切り裂く轟音を持ってサイレント・ゼフィルスを脅かす、これはステルスモードではない。

「──サイレント・ゼフィルスの射程を超える狙撃型IS?」

 シールド・ビットを犠牲にしてビームを防ぎ、飛来した方向を見る。

「うぐ、て、めぇ……」
「………」

 振り回されて呻くオータム、それを無視してサイレント・ゼフィルスはビームが飛来した方向へは反対へと飛び去っていく。





 PICとスラスターで加速しながら、ビームライフルを極小の動作で動かしてトリガー。
 ビームライフルを最大出力モードで撃ち放つ、銃口から飛び出るビームは通常モードの物よりも二回り以上も大きなビーム弾。
 大気圏内でのビームの使用は大きな減衰を起こして飛ぶほどに威力が低下する、それを大出力で放って力尽くで射程を伸ばす。
 それを持って超遠距離射撃を実現し、アムロは目視を出来ないセンサー範囲外の相手を勘だけで狙い撃つ。

「敵意が増大する? 来るのか」

 アムロは敵意が自分へと向いていることを感じ取る。

「これは……」

 ビームライフルを撃ちながら更に加速する。

「引いたか」

 敵意が遠ざかっていく、だが感じ取れなくなるまで向けられている敵意が弱まることは無かった。
 それから数十秒ほど高速で飛行し、センサーに二機のISを捉えた。
 見れば無残にも破壊された護送車、そして傍に佇む二機のISを見た。

「やられたか」

 一目見ればわかる、襲撃犯が連れ去られたと。
 アムロは護送車の傍に降り、二人に声を掛けた。

「無事か?」
「……貴女は」
「二年のアムロ・レイだ」

 装甲を解除して顔を見せる。
 ラウラとセシリアは渋い顔をしている、おそらくは襲撃犯を奪還に来たISにしてやられたのが響いているのだろう。

「平和ボケしたか、こちらと同じで一人だけじゃなかったようだ」

 楯無に通信を入れながらアムロは呟く、各国を敵に回しかねないIS学園襲撃を行う相手。
 明らかに普通ではない事をやる辺り、相当危険な存在かと再認識するアムロであった。














 五巻最後の方をメインに
 アラクネのISコアボッシュート
 この後十蔵さんと楯無が話して驚異的なアムロの能力を再認識、エムは少し悔しげにスコールに報告して内心アムロブッコロを考えるはず
 今度はシャアが出番なし、アムロを感じ取ったけど外まで感じ取れかったんで出ていかなかった、それか学園祭のなんかしてたか
 アムロがいきなりνガン出してビームライフル撃ったのはイベント扱いになりました

 基本MS系の顔見せ姿はMS少女そのまま、ISの原型といっていいかも
 シャアの言葉はブーメラン、バズーカ好きなアムロ
 出番が一向に無い千冬姉さんは近接が頭一つ以上飛び抜けているだけで、射撃も十二分も出来るかと、格闘部門で優勝したからって総合のブリュンヒルデになれるわけでもなさそうですし



[29186]  3 【掴み取れ、乙女の凱歌】
Name: BBB◆e494c1dd ID:9538ebba
Date: 2011/11/23 05:38
「はぁ……」

 深くため息を付きながら、一人廊下を歩くのは金髪の少女。
 一部縦ロールにしているその長い髪の揺らし、アリーナ使用時間ギリギリまで訓練しての帰り道。
 国家の代表候補生としてのプライドと、度重なる敗北を経験してきての特訓。
 それらを経ても、敗北を重ねて精神的、肉体的疲労と己の軟弱さにため息を吐いていた。

「一体どうしたら……」

 その少女、セシリア・オルコットは悩んでいる。
 伸び悩んでいると言い換えてもいい、それほどまでに負けが込んでいた。
 その筆頭が好意を抱く男性、織斑 一夏。
 エネルギー兵器を尽く無効化する白式には、兵装の殆どがエネルギー兵器のブルー・ティアーズでは相性が悪いどころではない。
 またISとしての基本性能差、なにより最近の織斑 一夏の目覚しい成長も拍車を掛けていた。

 無論好いた男だからと言って手を抜いてやるほど代表候補生は優しくはない、しかしそれでも勝てないのが現実。
 織斑 一夏の回りにいる専用機持ちのライバルたちの中で一番勝率が低いのも確か、それを覆すために特訓に励むが効果の程は目に見えてこない。
 更には少し前に奪われた姉妹機との一戦、鮮やかなビット捌きの謎の操縦者との戦いも完封された。
 手掛かりがない、強くなるための切っ掛けを掴むことが出来ない。
 それらを理由にこれまでの人生の中で一番落ち込んでいた。

「……はぁ」

 体が重い、気分も優れない。
 訓練の疲労もあるが、精神的なものも大きくセシリアの疲れを増加させていた。
 どうしたらいいのか、どうやったら勝てるのかと、暗闇の中で手探りをすることすら億劫になりそうだった。

「……君、前はしっかり見ないとぶつかるぞ」

 物思いに耽っていた所に声を掛けられ、はっとして目の前で肩を掴んでいる存在にセシリアは気が付いた。

「も、申し訳ありません……」
「ん? 君はあの時の」
「え?」

 そう言われてセシリアが目の前の生徒、アムロ・レイを見た。

「あの時は……、非常に助かりましたわ、レイ先輩」
「いや、君たちが無事だったのだから」

 アムロはセシリアとすれ違いながら瞳を見る。

「何か悩んでいるようだが、あまり気にし過ぎないほうがいい。 周りが見えなくなる」

 一度軽く肩を叩いて、アムロは歩いて行く。
 そう言われて振り返り、口を開いた。

「……お待ちを!」

 呼び止めてられて、振り返るアムロ。
 アムロは日本の代表候補生で、言わば未来の国家代表と言うライバルになり入学した当初のセシリアならここで呼び止めはしなかっただろう。
 しかしながら、今のセシリアは助言を欲していた。
 縋り付くほどではないが、どうにか現状を打開できないかと実力者の言葉が欲しかった。

「……少しお話が」
「……分かった、付き合うよ」

 アムロが向かっていたのはアリーナ、アナハイムから送られてきた新装備のテストに行こうとしていた所。
 新装備とは言え、既存の技術で作られたものであるために機密にするほどではないためにアリーナ。
 それにすぐさまテストしなければいけないと訳ではないので、なんだか思いつめているセシリアの様子に話を聞くことを承諾したのであった。

「ここでは場所が悪いだろう、購買部にでも移動しようか」
「……いえ、呼び止めておいて申し訳ないのですが、先輩は今からアリーナに行かれますの?」

 セシリアはアリーナからの帰り道で、アムロはセシリアが来た方向へと進んだことからの推測。
 それにアムロは頷いて、セシリアの言葉が合っていることを話す。

「ああ、新装備のテストでね。 急ぐものではないし、君の話が終わってからでも問題ない」
「……でしたら、一つご教授願えませんか?」

 アムロのアリーナの使用申請は通り、これからアリーナ内でのIS起動を認められている。
 共同で使用する生徒を追加で申請しておけば、大きな問題にはならないだろうと判断。

「……そうだな、俺に教えられることで、それにテストがてらでいいなら」
「はい、お願いします」

 そう言ってセシリアは頭を下げる、それはイギリスの代表候補生が日本の代表候補生よりも劣っているという一つの証明となるもの。
 だがセシリアが頭を下げる人物は国家代表確実で、次期モンド・グロッソ総合優勝の候補に挙げられる人物。
 ついでにセシリアが見たアムロとキャスバルの戦闘が自身の遥か上で行われていることをわかっている、それゆえに低頭。
 そうしてセシリアはアムロと共に、再度アリーナへと向かった。





 ピットから二機のISが飛び出してくる、先に姿を現したのは白と黒のカラーリングのνガンダム。
 それに続いたのは青と白のカラーリングのブルー・ティアーズ、アリーナの中央付近で二人は相対して空中で留まる。

『それで、話とは?』

 νガンダムからの通信、それを傍受してセシリアはνガンダムを見つめた。
 以前見たその姿とは違い、大きくなっていた。
 本体の全長はおそらく変わっていない、ただ装備しているもので大きくなっていた。

(あれは追加装甲? それに背中のあれは一体……)

 スターライトmkIIIよりも全長は短いが、右手は全長の三分の二はあるだろう長砲身の大型ライフルを持ち、左には大きなWとVを重ねたようなシールド。
 外から見ても大型の丸い砲身が見え、盾でありながら武器を内蔵した多目的複合の物。
 それらを持つ本体、明らかに増やしたと見える厚みのある胸部と腰の追加装甲、脚部にも外側側面にスラスターの機能が付いた装甲が見える。
 顔の左右、肩の部分には丸みを持つ弾頭が見えるミサイルランチャーを備え。
 一番目を引くだろう背中には、まるで広げかかった翼のように板状の物が付いている。

『……聞こえているか?』
「っ、聞こえております」
『そうか、なら話を聞かせて欲しいのだが』

 そう言いながらアムロはνガンダムの姿を確認していた。
 それはνガンダム専用のパッケージ『ヘビー・ウェポン・システム』、機動性を損なわず重装甲重火力化を目的として機能強化を行ったもの。

「……実は、最近伸び悩んでおりまして」

 負けていることなどを控えて掻い摘んで説明する、どうにかして技術を磨けないかとセシリア。

『それはオルコットの動きを見てみないとなんとも言えないな』

 もっとも、アドバイスするにもどこがどう拙いのか、足りないのかは実際見てからでないと出来ない。

「……それなら、模擬戦をお願いしたいのですが」
『わかった、こちらも動きを確かめなければならないからうまく動けないかも知れないが』

 アムロはセシリアの提案を了承し、そうして二人は模擬戦を開始する。

「では」
『ああ、いつ始めてもらっても構わない』

 通信が切れて訪れるのは静寂、時間にして数秒のそれはセシリアの行動によって打ち破られる。
 スターライトmkIIIを構えてνガンダムに照準を合わせようとした時には、既に目標はスラスターを吹かせて射線上から退避していた。
 逆に銃口をを向けられてセシリアはスラスターを吹かせて後退、そのまま再度狙いを定めようとするもアムロはジグザグに動いて一度足りとも射線上に乗らない。

(見掛け騙しにも程がありますわっ!)

 内心声を上げるセシリア、いかにもな重装甲化で機動力の低下を予想できる風貌でありながら、動きは十二分に切れており捉えることを許さない。
 牽制を兼ねて引き金を引くが、返ってくるのは太く鋭いビーム。
 身を捻りながらの回避を試みて上昇、すぐに飛来した二発目のビームがシールドバリアーに干渉した。

(くっ、なんて正確な!)

 一気に減衰するシールドエネルギー、その威力は後一発でブルー・ティアーズのシールドバリアーを限界ギリギリまで削り取る威力。
 その上的確な射撃を受け、二射撃目が本命であることに舌を巻く。

『足を止めるんじゃない!』

 叱咤と共に飛来する三発目のビームが脇を掠め、否が応でも回避を強要してくる攻撃にPICとスラスターを全開にして動く。
 その間にもνガンダムはブルー・ティアーズの周囲を旋回しながら距離を詰めようと迫る。

(重火力、重装甲、高速度、高機動! 弱点は稼働時間の短さと見ましたが……ッ!)

 νガンダムが次に放つ攻撃、肩のランチャーから飛び出るのはミサイル。
 灰色の尾を引きながら邁進してくるミサイルに、セシリアはビットのブルー・ティアーズを解放する。
 それぞれが砲身の向く方向へと飛び散り、姿勢制御によって向きを変えてミサイルを捉えた。
 本体であるセシリアは更に後退しながらブルー・ティアーズに発射を命じ、量子変換にてロングライフルの「ブルーピアス」を左手に取り出す。

「これでっ!」

 大型のライフルを二丁、狙撃は難しいと見て大雑把にあたりを付けて交互の射撃でνガンダムを狙うも、その隙間を縫って太いビームが返ってくる。
 その間にミサイルがブルー・ティアーズのレーザーで撃ち落されて爆煙を上げ、その周囲に立ち込める煙によって互いの姿は目視出来なくなる。
 それでもビームは正確にセシリアへと飛来する、有り余る破壊力を絞って競技用にまで貶めた一撃はそれでもなお簡単にISを稼働不可能に追い込むほどのもの。
 ならば避けるしか無い、そうでなければあまりにも容易く落とされる。
 今己が出し得る全力で攻撃と回避、それでもなお大きな隔たりのある力の差は埋められない。



 一方爆煙を挟んで発射と同時に空となったミサイルランチャーを量子化して収納したアムロは、セシリアの動きを捉えていた。
 ハイパーセンサーによる探知ではなく、操縦者本人の能力である拡大した認識能力によって把握する。
 知る者が二人しか居ない、一概にして超能力とも言われる神憑り的な予感。
 それを持ってハイパー・メガ・ライフルの銃口は、爆煙の向こうで動くセシリアを捉えていた。

(仕上がりは悪くないが、威力が高すぎる……)

 細かくライフルを握る右手の人差し指が動く、ここに来てアムロはハイパー・メガ・ライフルのタイミングを感じ取る。
 競技用に定められていた威力を更に下げるようνガンダムに意思を送り、絞られて細くなるビームの弾丸が爆煙を貫いてセシリアの脇を掠めるように狙う。

(……これではシールドのメガ粒子砲はもっと威力があって撃てないな)

 もとよりアナハイムが作るISの外装は軍用の代物、νガンダムも例外ではなく軍用として作られたもの。
 多くのISに見られる操縦者本人の姿が見える状態とは違い、操縦者を僅かにも見せない全身装甲型なのはより操縦者の安全を高めるためのもの。
 更に詳しく言えばバリアーの消失により装甲に守られていない操縦者に攻撃が当たった際の絶対防御の発生、それによる多量のエネルギー消費を抑え離脱なり反撃なり行うための処置。
 しかしながら全身をISアーマーで覆うとなるとそれなりのエネルギー消費となるが、背面にプロペラントタンク、増槽を取り付けISコアのエネルギー消費を抑えるものもあるため会敵までの消費を抑えることが出来る。
 通常のISよりもエネルギー消費が多いとは言え、アムロの技量もあって並の相手なら底を突くどころかハイパー・メガ・ライフルの三発で稼働不可能状態に追い込むことが出来る。

 そのアムロが例外的に全力を持って当たらなければ落とされる相手は、今のところキャスバルただ一人しか居ない。
 ならば今対するセシリアへの動きは手加減に他ならず、まさに教練と言える動きでハイパー・メガ・ライフルを連射し、回避に夢中にならざるを得ないセシリアを追い詰めていく。

「牽制でも良い、相手に一方的な行動をさせるな!」
『っ……』

 セシリアは回避に専念するあまりビットはミサイルを撃ち落としてから一度も射撃を行なっていない、ただセシリアの周囲で追従するだけのオブジェクトに成り下がっている。
 アムロの声にセシリアは何とかビットやライフルのトリガーを引き、狙いは定まっていないがアムロが居る方向へと射撃を行う。
 それに対してアムロはハイパー・メガ・ライフルの射撃を止め、飛んでくるレーザーなどを回避して攻守を交代させる。

「攻撃と回避は一体と考えろ、片方だけに注力するんじゃない!」

 強い口調でアドバイスを次々と送りながら、アムロとセシリアは模擬戦を続けていく。
 アリーナの空を翔るνガンダムとブルー・ティアーズは縦横無尽な軌道を描く。
 セシリアの攻撃にアムロの回避、アムロの攻撃にセシリアの回避、ただひたすらそれだけを行なっていく。
 そうして十分、二十分とセシリアは一人で行なっていた特訓の疲労も重なり、大きく呼吸を繰り返しながら何とかアムロのアドバイスを反芻しながら動く。

「大分調子が上がってきたようだな」
『ハァ……ハァ……ハァ……』

 声が返ってくることはなく、ただ呼吸を繰り返すセシリアの息遣いだけがアムロの耳に入る。

 攻撃、回避、攻撃、回避、攻撃、回避、攻撃、回避、攻撃、回避……、攻撃! 回避!

 セシリアはただ頭の中で反芻し続ける、ビットを動かし、構えるライフルのトリガーを引き、迫り来る攻撃に身を捻る。
 そこに戦術なんてものはない、どの方向に攻撃を避けて、そこからどのような反撃を行うか、それを考える時間すら無く引っ切り無しに攻撃が飛来する。
 避けて撃つ、撃って避ける、射撃戦の基礎を延々と繰り返す。
 しかしセシリアの攻撃はアムロに掠ること無く、逆にアムロの攻撃は辛うじて、ギリギリ回避できる位置に飛んでくる。
 アムロから放たれる圧力は見た目以上に重圧が伸し掛かる、当てられない攻撃に脇を掠める鋭い反撃はセシリアは大きなプレッシャーを受けた。

 それこそ、今までセシリアと戦った者たちの誰よりも大きなモノ。

(そろそろか)

 そんな、ただ必死なセシリアをアムロはトリガーを引きながら見つめる。
 その動きは洗練されてるとは言いがたい、無論同年代の中で飛び抜けた実力を持つ国家の代表候補生でも必死な機動を、何の苦もなく行えるアムロが異常なだけ。
 しかしながらその動きは模擬戦開始からの機動よりも滑らかであった、アムロがアドバイスを掛ける度に少しずつ良くなっていく動き。
 素人目では分からないだろう、僅かなものではあるが洗練され始めている。

「……オルコット、ビットの恐ろしさは知っているか」

 通信越しにアムロは問いかけるが、変わらずセシリアの荒い呼吸しか聞こえない。
 だがその視線はアムロをしっかりと見据え、セシリアが体験した他のオールレンジ攻撃用兵器の脅威。
 手も足もでなかった悔しさが、その視線に乗る。

「それなら、その恐ろしさを身に付けるんだ!」

 そうアムロが言うと同時に、νガンダムのバックパックに収納されている左背部のフィン・ファンネルが解放される。
 νガンダムの上方へと六基、白と黒のカラーリングがされた板状のフィン・ファンネルが飛ぶ。
 そして順次射出されたフィン・ファンネルからコの字に折れ曲がって、攻撃形態へと変形する。
 フィン・ファンネルに搭載されるスラスターとAMBAC、能動的質量移動による自動姿勢制御によってセシリアへと頭を向ける。
 散開するフィン・ファンネルは、セシリアを中心として旋回しながら包囲していく。

 その速さは尋常ではない、高出力で高瞬発力を持つνガンダムの推力に付いていけるだけのパワーがある。
 よほどスピードに特化した物でなければ安々と追いつき、周囲を包囲して十字砲火を浴びせられるだろう。
 その上ブルー・ティアーズやサザビーのファンネルとは違う、開放型メガ粒子偏向機を搭載するフィン・ファンネルはより強力なビームを放つことが出来る。

「オルコット、確かにビットのブルー・ティアーズとフィン・ファンネルは色んな面で違いがあるだろう」

 見る間に迫ったフィン・ファンネルの対処、ブルー・ティアーズと共に攻撃を放ち撃墜しようとセシリアは奮闘する。

「だが、その役割は変わらない。 そしてオルコット、君はその役割を、利点をしっかりと理解しているのか?」

 迎撃も虚しく、あまりにもあっさりと包囲を許し、砲火に曝されるセシリア。
 それでもアムロは声を発し続ける。

「分かるだろう? 今のその状態がビットの恐ろしさだ」

 オールレンジ攻撃用兵器、超長距離から送り込める、ミサイルに匹敵するどころか上回る速度で迫り航続距離にして数十キロと言う驚異的な物。
 当然スペック上それを可能としても、操縦者がそれを行えなければただのカタログスペックにしか過ぎない。
 アムロやキャスバルならば可能だが、そのような使い方をすることは無い。
 最も真価を発揮するのは目視出来る距離での運用、そしてその真価とは『敵機を360度、どの方向からでも攻撃を加えられる』こと。
 アムロはそれを理解して、敵機がビットを繰り出してきたら優先的に撃墜する。

 如何なアムロとは言え、優れたニュータイプか強化人間が操るファンネルに囲まれれば一溜まりもない。
 現に記憶の中にある戦いで、ファンネル搭載の新型モビルアーマーとファンネル搭載のモビルスーツにやられかけたことがあった。
 その時は機転によりなんとか逃れたがそれほどまでにオールレンジ攻撃用兵器は強力な武器であり、セシリアはそれを上手く使いこなせていない。
 辛うじてアムロの声を拾いながら必死に迎撃を行うセシリア、フィン・ファンネルはそれを避けると同時に撃ち返してダメージを与えていく。

「……よし、模擬戦はここら辺で切り上げよう」

 それを見てアムロは模擬戦の終了をセシリアに告げた。
 出力を絞っていたとは言え、何発もシールドバリアーに接触を許せば大きくエネルギーを消費する。

『ハァ……ハァ……ハァ……』

 汗を流し返事すら出来ずただ呼吸を整えようとするセシリア、模擬戦の時間が経てば経つほどにセシリアは激しく動くことを強要された。
 PICがあるとは言え避けるために全力を尽くせば疲れもする、数分ほど掛かり落ち着くのを待ってからアムロは再度声を掛けた。

「今の模擬戦で分かっただろう、オルコットに足りないものが」
「……はい」
「もうそろそろ時間だ、とりあえずアリーナから出て詳しく話そう」

 それに頷くセシリア、アムロと共にピットへと戻り更衣室で汗を流してアリーナの外。
 近くの自販機に移動して、一つ飲み物を買ってから傍のベンチに座る。

「今さっきの模擬戦を俺の視点で見よう、チャンネルは627で」

 それを聞いてアムロの男口調に疑問を抱きつつセシリアは承諾し、模擬戦のアムロの視点を直視映像でリンク。
 映ったのは自分の姿、音声までも全て再生される。
 その映像を見ながら時に高速、時に低速でアムロが指摘する注意点を聞くセシリア。

「攻撃に移る際オルコットは足を止めている時間が長い、これじゃあ良い的にしかならない」

 模擬戦開始から数分の映像、ライフルを構え狙いを付けトリガーを引く、相手であるアムロの視点で見れば隙であることが分かる。
 しかしセシリアのそれは十分に速い、平均以上の速度での動作、それでもなおアムロは『大きな隙だ』と指摘する。

「いや、狙いを定めて撃つまではいいんだ。 問題は静止している時間、これが長すぎる」

 時間にして一秒もないだろう、だが高速で機動するISにとってそれは十分に長い。
 そこからさらに映像を早送り、アムロがハイパー・メガ・ライフルで執拗に攻撃を加え始めたところ。

「……確かに静止した状態で狙う方が命中率は上がるだろう、だがそれだけでは頭打ちになる。 必中ではないのだから、動きながらの銃撃と静止した状態での命中率を同じに高めたほうが良いな」

 相手との距離がある場合ならブルー・ティアーズの仕様上セシリアの方に分がある、だが基本的に戦闘はアリーナの中で行われる。
 基本的に高機動戦闘になりやすいISにとってはアリーナは狭すぎる、それはセシリアのブルー・ティアーズにとっては不利にならざるを得ない。
 これが百発百中なら問題はないが、現実はそうでなく回避されたりして接近を許している場合が多かった。
 故に移動しながらの射撃、それの正確性を高める訓練を課した方がいいと助言。

「素質はある、訓練していけば当てられるようになるさ」

 そう言って映る映像には、ハイパー・メガ・ライフルのビームを避けながら応射するセシリアの姿。
 一発足りともアムロには当たっていないが、狙い自体はなかなか良く、並の者なら被弾している銃撃もちらほら見られる。

「それとビットだな、使い方がなっちゃいない」

 次に映るのはアムロが撃ったミサイルを、ブルー・ティアーズが撃墜して上がった爆煙が無くなった頃の映像。
 ビットのブルー・ティアーズを展開しているセシリアの姿を捉えて一時停止。

「……わかるか?」
「……はい」
「ここも」
「……確かに、しっかりと分かりますわ」

 高速で流れる映像を所々で止め、その度セシリアの全体姿を拡大して映す。

「オルコットのビットは常に傍に追従させている、射撃させる時も左右に並べているか、オルコットの前方に並べているだけだ」

 アムロが指摘するのはオールレンジ攻撃用兵器であるブルー・ティアーズを、セシリアの傍から離して動かしている光景が一つもない事。

「難しい事だとは理解している、だがこの使い方ではビットの特性を生かしきれない」

 先にアムロが言った『敵機を360度、どの方向からでも攻撃を加えられる』と言う性能、それを一度も発揮していない。
 無論セシリアは模擬戦中回避と攻撃で手一杯でそれをする余力が無かったが、最初の余力があった時にもしていなかった。

「………」

 正確に言えば出来なかった、余力があろうと敵機を360度、どの方向からでも攻撃を加えられると言う機動をセシリアは行わせることができない。
 それがセシリアにとって悩みの一つであり、特訓を課す一つの理由でもある。
 当然アムロが言うように、それは非常に難しいことに他ならない。
 確かにセシリアはビットのブルー・ティアーズの適性はAであるが、それはBTシステムの適正であり、ビットを操る適性とはまた違うもの。
 ビットを動かすために最も必要なものはBTシステム適正ではなく、『空間認識能力』に他ならない。

 動かすだけなら空間認識能力だけで済むが、戦闘機動となるとまた別の能力が必要となる。
 それは『並列情報処理能力』、複数の物事を認識して的確に処理する能力。
 例えばビットがそれぞれ別の方向に飛び、ある一基のビットが敵機へと攻撃、その間に別のビットが敵機の死角に回りこむ。
 そのようなことを同時に行わせること、その動作を認識して行わせるために必要なのが『並列情報処理能力』。
 それがなければ精々一斉射撃程度のことしか出来ず、自由自在に飛び回せることなどできない。

 だからといってセシリアに並列情報処理能力がない訳ではない、ある程度個別にビットが動いていた。
 それを見てまだ才能を磨ききっていないかとアムロは判断する。

「これに関してはビットを動かし続けるしかないだろう、……オルコットはあまり意識していなかったんじゃないか?」

 そう言われて、セシリアは返事をすることは出来なかった。
 単純にファンネル型ビットと分類されるファンネルやビットのフィン・ファンネルとは違い、ブルー・ティアーズは『BT兵器』と言う名称が付けられている。
 第3世代型ISにはイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載がなされている、ブルー・ティアーズもその中の一機。
 BT兵器のブルー・ティアーズは、νガンダムのフィン・ファンネルやサザビーのファンネルとは大きく違う点があった。

 それはBTエネルギー高稼働率時にのみ使える偏向射撃、それは言葉通り撃ち出したビームやレーザーの軌道を任意に折り曲げるもの。
 確かに偏向射撃だけでも物にすれば非常に強力なものとなる、セシリアが行なっていた特訓の内容もこれの習得に偏り、ビットの基本的な動きが疎かになっていた。
 もしアムロやキャスバルがISのブルー・ティアーズを駆り、BTシステム適性を持っていればファンネルやフィン・ファンネルよりもより驚異的なものとなっていたはず。
 そしてセシリアは、その二人が扱えない物を扱える才能を秘めている。

「ビットのブルー・ティアーズは他のビットとは違い特殊な能力があるんだろう、だがそれを使わなくても有効な攻撃手段になることは模擬戦で分かっただろう?」
「……はい」

 現に撃ったビームを曲げられないフィン・ファンネルであっても、それはかなりの脅威をもつ。
 そこにビームの偏向が加われば、さらなる優位性を確立できる。
 そのためにはビットの基礎、有効な使い方を物にする方がブルー・ティアーズを効率的に使いこなせるための一歩じゃないかとアムロは言う。

「足を止めないことと、ビットの軌道をある程度自在に操れるようになること、これだけでオルコットは現状を打破できると思う」
「……それは、相手がエネルギー系統の武器を無効化出来ても勝てると?」
「範囲によるな、周囲にシールドバリアーとは違うエネルギーを無効化出来る領域を作られれば難しいが、特定の場所でしか無効化出来ないなら十二分に対処は可能だ」

 全周囲から攻撃を加えられるという利点、特定の部分でしか無効化できないのならこれが大いに効果を発揮する。
 そう告げられたセシリアは、あっという間に頭の中で一夏に完勝する光景を想像した。

「……感謝いたしますわ、先輩」

 それだけでやる気が漲り、疲れた体もなんのそのと立ち上がってアムロに礼。
 アムロに指摘されたことが出来るようになれば、奪われた姉妹機であるサイレント・ゼフィルスにも互角に渡り合える。
 少なくとも一方的にしてやられることはなくなるはず、そう考えてよりやる気が湧く。

「……気が晴れたようだな」

 先ほどとは打って変わって、目に力が篭ったセシリアを見てアムロ。

「この御礼はいつか必ずさせて頂きますわ」
「いや、それほどのことじゃない。 オルコットがビットを自在に操れる姿を見せてくれるだけで十分さ」

 そのために教示したのだから、成果を見せてもらうことが礼になるとアムロ。

「ええ、必ずや! それでは失礼しますわ」

 そう言ってセシリアは意気揚々と廊下の奥へと消えていった。

「青春か……?」

 ニュータイプとは言え、相手の内心を読み取れるわけではない。
 正確に言えば高いニュータイプ能力を持つ者同士であれば意思の疎通が出来るが、そうでなければ相手の動きを先んじて感じ取る程度のことしかできない。
 単純にセシリアの顔に浮かんだ感情から読み取っただけ。
 とりあえず、教えたことが競技の外で使われないことを願いつつ、アムロもアナハイムの専用整備室へと歩き出した。









 νガンダム ヘビー・ウェポン・システム ダブル・フィン・ファンネル装備型、シャアの思惑なんぞ知ったこっちゃねぇとνガンダムの機能強化、おかげで燃費がますます悪く
 セシリア強化イベント? ビーム曲がったら大変なことになる、使い手がこれだと残念だけどワンオフアビリティ除いて持つ性能はヒロインズの中で一二を争うんじゃなかろうか、流石に紅椿がビームより速く動けるとかだったらお手上げだけど
 六巻前編、後半はシャアが来る!

 と言うかイメージ・インターフェイスを機体操作に使え……ないかぁ、体を動かすより先にISが動くのはキツイか、サイコフレーム的なものに出来るかと思ったけど難しそうだ
 機動戦士ガンダムUC EP4は配信されてるけどBDで見るか……、懐かしい機体が出るようだしじっくりと
 ところでユニコーンをIS化したら「IS-D」とか搭載されちゃうの? メガ・バズーカ・ランチャーに匹敵するらしいビームマグナムとか明らかにオーバーキル、そう考えたらISユニコーンの仮想敵機がνガンダムにしか思えなくなってきた


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