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[29056] 夏の怪談。一話完結形式
Name: 茨城の住人◆7cb90403 ID:751ff757
Date: 2011/08/01 06:33
 



 今から話すのは、私が大学で知り合った友人の体験した恐ろしい話です。





 【バスルーム】




 東京の大学に通うためにど田舎から上京してきた俺は、偶然に不動産屋で見つけた格安のアパートを借りることになった。

 アパートは家具の一通り揃ったレオパレスだったんだが、これが安い安い。相場の半値だった。当時の俺はその理由を特に聞きもせず、すぐ近くに電車が通っていたから、その騒音分家賃が下がっているんだろうと決めつけてたんだな。

 で、そのアパートで生活を始めてから一か月が経って。その頃学校での生活にも慣れてきた俺には、ふとした時に鏡で見る自分の顔が、別人のものになったかのような錯覚に陥る現象が起こっていたんだ。

 初めは一人暮らしを始めてから、実家にいたときとは全く異なる食生活を送っていたから、そんな環境の変化によって顔の形が変わってきてしまったのだろうと楽観的に捉えていたんだが、五月のゴールデンウィークになって帰省した時、家に帰ってドアを開けた俺に母親が言ったんだ。

 「あんた誰や?」

 ってな。俺は母親が冗談でそんなことを言っているのだと思ってそのまま家に上がろうとしたんだが、母親は「入ってくるな!」と本当に俺のことが誰だか分からないといったようなリアクションをした。ここで俺は母親に「何言ってるん?」と声をかけたんだわ。

 そしたら、母親は「あれ?○○の声やね。近頃目が悪くなったのかもしれない」って自分の調子がおかしいみたいだって言って、その日は寝込んじまった。母親が寝て少しして親父が帰ってくると、親父もまた母親と同じようなリアクションをして、俺のことを誰?と言いやがる。

 さすがに気持ち悪くなった俺は、寝不足で目蓋とかにクマができていて、それで両親が他人と間違えるほどに俺の顔の印象が変わっちまったのかと思って毎日早寝早起きをしてみたりした。でも、寝不足が原因では無かったらしく、結局ゴールデンウィーク中には両親の反応は変わらなかった。

 んで、きまずいゴールデンウィークを過ごして実家からアパートに帰った俺は、実家での精神的な疲れを癒すために久しぶりにシャワーだけじゃなく湯船に浸かろうと浴槽に水を溜めたんだ。




 湯船を掃除してから、浴槽に備え付けの蛇口を捻ってお湯を溜めるんだが、この時に妙なもんを見つけた。すごく長い髪の毛だ。俺の髪よりも二十センチくらい長かったと思う。俺は入居してから浴槽の蛇口を回したりしていなかったから、前の入居者の髪の毛が抜けて蛇口に偶然引っかかっていたくらいにしか考えていなかったと思う。

 異変が起きたのは俺が身体を洗い終えて浴槽に入った時だった。その時の俺は久しぶりの風呂だったせいか、浴槽のお湯熱いなーって思って冷水でお湯を少し冷まそうかなと思っていたんだ。でも唐突に視界の端で何かが通り過ぎたんだ。びっくりした俺はしばらくキョロキョロしたんだが、その日はそれから何事もなかった。その日は、な。

 一週間が経って、そんな視界の端で何かが通り過ぎただなんてことを忘れてしまった頃。また、それが起こった。今度は、湯船に浸かっていた時ではなく、ただたんにシャワーを浴びている時だった。背後に何かの気配を感じて軽く振り返ったんだ。すると、風呂場の曇りドアに外側からべッタリと人の手が押し付けられていた。俺はそれを見た瞬間に悲鳴を出しそうになった。手の数は二つで、俺がビビッて固まっている間、そいつはうねうねと踊りを踊るかのようにうねっていた。

 でも、何かの手が見えたのは俺が硬直してからただの三分間で、俺は後からあれは金縛りか幻か何かの一種だと考えるようにした。てーか、そう考えないとシャワー浴びれなかった。夏場だったから一日でも入らないと臭くなるし。次の日からは、その曇りドアにおかしいものも映らなかったからな。

 だが、それも三日間の短い話で、三日後に、今度は足のようなものが曇りドアの天井付近に不自然にうねうねしているのを俺は見つけてしまった。それからは毎日だった。足や手だけじゃなく、女の髪の毛の塊みたいなもの、白い和服のようなもの。とにかく色々だった。しかも、その曇りドアに変なものを見る頻度とその時間はどんどん増えていった。

 もうね、俺は正直そんなことにも慣れてしまったんだと思う。あまりにも何度も起きるし、実害はなかったから。そのうち、シャワーを浴びれば見えるのは当たり前、日によっては、その怪現象が一時間も続く日があっても耐えることができるようになっていた。でも、さすがの俺もそんな状態(手や足が曇りドアでうねうねいったり、女の顔がこちらを覗き込んでいる)なのに、その最中に曇りドアを開ける気にはなれなかった。



 それで、そのことを俺は友人のA君(ここでは実名を伏せてA君と呼ばせてもらいます)に何気なく喋ったんだ。そうしたら、A君の顔は突然真っ青になった。聞くところによると、そいつはA君の故郷では有名な霊で、その名をのろろけさんというらしい。のろのけっていうのは、呪い、と鈍いってのが掛かった名前で、ノロまな呪いということらしい。大まかに俺がA君から聞いたのろのけさんについての教えは三つ。

 一つ、のろのけさんに呪われた人間はのろのけさんにジワジワと身体を乗っ取られる。

 一つ、のろのけさんが現れているときに風呂場の扉を開けてはならない。

 一つ、のろのけさんは身体をばらばらにされて死んだ人間の怨嗟が集合して現れた怨霊である。



 俺は、その話を聞いて呼吸が止まったかのように感じた。俺は昨日の内にのろのけさんの足と頭を同時に見ていたからだ。そういえば、最初の頃はのろのけさんの身体が曇りドアに写る時、のろのけさんの身体の一部分の数は一度現れるにつき一か所だったのが、その頃はもう二か所が常になっていた。俺はA君の故郷でそうしたのろのけさんのような霊に詳しいお坊さん紹介してもらい、大学の授業を休講してそのお坊さんのいるお寺に駆け込んだ。

 お寺に入るなり、お坊さんは俺の姿を見ると怒ったように「どうしてここまで放っておいた!」と怒鳴った。すぐさま俺はお坊さんにお祓いをしてもらった。しかし、こののろのけさんというのは、すぐに祓えるような霊ではないらしく。俺はその日から三週間もの間、お寺でじっと念仏を唱え、お坊さんにお祓いをしてもらうという生活を送った。

 俺はお坊さんのおかげで霊は祓うことができたが、こうしてお祓いをしてもらった今思うのは、俺の顔を見て両親が俺のことが誰だか分からなかったり、どんどんのろのけさんを見る頻度と時間が長くなったのは、やはり俺がのろのけさんのことを放置したことにより、少しずつ俺とのろのけさんが入れ替わり始めていたからなのだと思う。あれからはもう、俺はのろのけさんを見たことはないが、いまでも俺は風呂に入る時ついつい曇りドアにのろのけさんの手がベッタリと張り付いていないかを確認してしまうのだ。



[29056] ホテルの一室
Name: 茨城の住人◆7cb90403 ID:751ff757
Date: 2011/08/28 01:37



 ホテルの一室


 この夏休み、多くの人が旅行に行くなり出張に行くなりでホテルに泊まったことだろうと思う。これから話すのは、そんなホテルで知人が遭遇した心霊現象にまつわる物語だ。

 俺は今年で三十歳になるサラリーマン。二流大学を卒業し、大手の下働きをする中小企業に無難な就職を遂げた俺は、今年の八月にある恐ろしい体験をした。それは出張先のビジネスホテルに泊まった時のことで、正直言ってかなり参った。

 出張先は茨城県の水戸市。ホテルは水戸駅を南口から出てすぐのところに建っている何度か外壁を塗り直したであろう跡の目立つホテル。その時の俺は大学へ入学すると共に離れた故郷の茨城に帰ってきたこともあり、半ば仕事でというよりも帰省のために出かけたという意識が強かったね。仕事のスケジュールに余裕があれば実家に顔を出しておこうかと考えたほどだった。まあ、結果だけ言うと実家への顔出しは叶わなかったけれども。だとしても、久しぶりの帰郷はかなり俺を油断させていたんだろうと思う。

 と、ぐだぐだ言ってもしょうがない。チェックインを済ませて、ホテルの鍵を渡された俺は、鍵に記された405という番号に従ってホテルの四階五号室に入った。中は喫煙可の部屋だったこともあり、煙草を吸わない俺にはキツイ環境だったが、すぐ慣れるだろうとポジティブに考えて俺はすぐに部屋の匂いを意識から外した。部屋に入ってすぐ右手にはトイレ付きのユニットバス、部屋の奥には右手にベット、左手に机。そしてドアから入って真っ直ぐ視線を向けた先には、水戸市の全貌を眺める……まではいかないが、そこそこ良い景色を眺めることができる窓があった。

 繰り返しになるが、ひさびさの茨城の空気で童心に帰っていた俺は、つい修学旅行中の中学生なノリで、部屋に入ってすぐ右手のユニットバスの向かい側、左の壁に掛かっていた一輪の向日葵を描いた絵を外して裏を覗いてみた。

 「まさか、お金が貼り付けられたりしちゃったり――――っ」

 独り言を呟きながらくるっと絵をひっくり返した俺は途端、絶句した。

 「う、わ……」

 目に飛び込んできたのは絵の裏に張り付けられた無数のお札だったのだ。擦れて読めない文字があったり難しい漢字がいっぱいでお札に書かれていた文字の意味を理解することはできなかったが、少なくともこれが何らかのお祓い的な意味を持つものだということにはすぐさま考え至った。

 見てはいけないものを見てしまった心地で俺はそーっと絵を元の位置に戻し、その日は気を取り直し、仕事の相手先の会社へと仕事に出た。けっこう充実した仕事ができたから、ホテルに帰ってくるまでお札のことは忘れていたと思う。

 ま……ホテルの部屋に戻ってきたら速攻思い出して鳥肌立ててビビったけれども。しかし、俺はこうしたお札がホテルの部屋に貼られていることは、あまり珍しいことではないということを知っていた。まさか、絵の裏にびっしり貼られている様子を思い描いたことはないけど、現実的には、ベットの裏によく貼られているという話はよく聞く。そこなら客に滅多なことでは見つけられないから、ということらしい。らしいと表現が曖昧なのは、それがただ単に知り合いから聞いた嘘とも本当ともとれるような噂話の類いの情報がリソースだからだ。

 しかし、理屈でよくあることだと自分を誤魔化しても怖いモンは怖いんだ。俺は背後の気配へと意識を張りつつ、さっとシャワーを浴びてすぐ寝ることにした。照明を落として、テレビはつけっぱなし。目をきつく瞑って、なんとか寝てしまおうと思った。

 (寝れない)

 だが、いつまで経っても俺は意識を落とすことができずに二時間もの時間を空費してしまっていた。しかも、夏場でホテルの厚い布団に包まっているというのに、寒気に襲われて背筋をゾッとさせて震えていた。必死に仕事のことを考えたりして、お札のことを忘れて熟睡したいと思っていた、思ってはいたが、どうしても頭から離れなかった。お札を見た時の光景が何度もフラッシュバックして、もう気がどうかしてしまいそうになっていた。

 (……っ)

 そんな恐慌状態に陥っていた俺を、突如金縛りが襲った。天井を見つめる形で固まってしまった俺は、一切手足を動かすことができず、唯一動かせる目をギョロギョロ動かす。大学生の頃に合宿所で味わって以来の金縛りに、俺はこの現象が脳がびっくりして起こっているだけのものなんだと暗示をかけて対抗しようと試みた。でも、それでも駄目だ。大学生の頃に経験したものとはものが違った。体が硬直すると同時に、足音が聞こえてきたのだ。

 音は部屋の外の廊下から聞こえてくるようだった。コツ、コツ、コツ。とハイヒールの踵が廊下のカーペットを押し鳴らす音。目を動かして時計の時刻を確かめると、二時三十分を回ったところだった。普通こんな時間に女性が、しかも遠慮なくハイヒールを鳴らして歩くだろうか。ハイヒールの足音は、廊下をしばらく行き来していたようだったが、しばらくして俺の部屋の前で止まった。

 コツ、コツ、コツ。

 「……か……あ……」

 言葉にならない声をなんとか上げる。ハイヒールの足音は、今度は俺の部屋の入口から聞こえてきた。音はちょうど裏にお札の貼られた絵の所で止まっているようだ。



 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。




 ずっと絵の所で足踏みをしているのか、足音と俺との距離はそこから動かなくなった。

 (音が、大きくなって……)

次第に足音が大きくなっていることに気が付いた。ハイヒールを鳴らしている何かは、イライラし始めたのか強く床を踏み鳴らし始めたのだ。対して俺は、目を強く瞑ってうろ覚えのお経を必死に唱えた。




 「……あ、あれ?」

 いつの間にか意識を失ったのか、カーテンの隙間から太陽の明かりが差していた。いつの間にか金縛りも解けており、俺はそうっと起き上がって廊下の方を見に行こうとした。
 と、床にあの向日葵が描かれた絵が落ちているのを俺は見つけた。ガラスが割れてしまっていたので、俺はフロントに行って絵の額が壊れてしまったことを伝えようと部屋を出た。

 「ああ、また出ました?」

 フロントで受付をしていた初老の男性は開口一番にそう言った。

 「よく出るんですよ、あなたの泊まっている部屋。ですから、数十年前にお坊さんを呼んでお札を貰ったりしていたんですけれども……。そうですか、また出ましたか。怖い思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」

 「は、はぁ……そもそもなんであの部屋には幽霊なんかが?」

 俺はあの部屋で心霊現象が起こる頻度などよりも、何故そんなものが起こるようになってしまったかの原因が知りたかった。

 「よくある話で、女性が自殺したんですよ。あなたの部屋で。駆け落ちの末に結局捨てられ、その末にということのようです」
 「……なるほど」
 「ここ数年はそういった現象は起きなかったのですけどね。おそらく、そろそろお札の効力が無くなってきてしまったのでしょう。また、お坊さんを呼ばないといけないですね」
 「できるだけ、早くお願いします」
 「分かりました。宿泊費はいりませんので」
 



 それから俺はすぐに荷物を畳んでホテルから出た。久しぶりの帰郷はこうして幕を閉じ、なんとも後味の悪いものとなってしまった。しかし、俺はお札のおかげで命拾いしたものだ、と。ほっとした思いで本社のある東京へとトンボ返りの途中の新幹線の中で物思いに耽るのだった。この話を聞いていただいた人には、ぜひともすぐにお寺に行ってお札を貰ってきて欲しいと思う。絶対、とは言わないが、あなたの住む土地にも何らかの霊が漂っているかもしれないのだから。




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