さて、神隠しと言う言葉を知っているだろうか。
俺はよく知らない。ジブリ系の映画を見てるときに隣で見てた知り合いに教えてもらった位でこんなもんか程度の知識だ。わからなければグーグルさんに聞いて欲しい。
まぁ言葉からある程度どのような現象かは推測出来るだろうと思っている。出来なかったらやっぱりグーグルさんに頼ってほしい。
あなたが思い浮かべた神隠しが正解だ。でもやっぱり分からないときはグーグ(ry以下略。
さて、神隠しだ。この現代社会にはとても馴染めない上、すでに紙の上の幻想に近い神隠しに、驚くことに遭遇してしまった。
3年程働いた某運搬業者を辞めた折りに出掛けた東北バイク旅【温泉もあるよ】の途中に寄った、古びた鳥居付近で俺は遭遇してしまったのだ。
なぜ立ち寄ったかというと山の中を走っているとき偶然にも鳥居を見つけ、珍しいな。写メでも撮っていくかと思ったのだが、近くに寄ったのがいけなかったのか、木の枝に引っ掛かりながら、湿気った腐葉土を踏み締めながら、近付いている途中でやっぱりメンドイ帰ろうと後ろを向いた瞬間。恐らくその時だと思うのだが、藪の奥に見えたはずの整備された山道も自分が乗ってきたはずの二輪車も影も形も無く、代わりに石畳の道が出来ていた。
はっ?と目の前の光景が信じられず、目を擦る。
しかし掠れも歪みも消えもせず石畳の道はそこに存在していた。
おかしいだろ。幻が見える病に掛かっているわけではない。三半規管も正常で真っ直ぐ藪を抜けたことも証明出来る。ならばこれはあれなのだろうか?千尋さんが両親の食い扶持返す話や猫の国に行ってしまう話のような、所謂神隠し。
・・・・困ったかもしれない(実感はない)。
確証は無いが、これが神隠しならば何もせず帰るというのは無いと思う。
いや、そもそも信じてすらいないからまずは確証が必要である。
しからば探索だという考えに至るのは直ぐだった。
―――――
幸いにもと言って良いのかどうかわからないというか絶対に自分の頭を疑ってしまいそうだが、明らかに先程居た山道とは違うということだけは分かった。
何故ならば山が消えたのである。
これはもう後戻り出来ない予感がひしひしとしてきた。
いうなれば遭難である。
だが遭難ならばまともな遭難が良かった。
こんなジブリみたいな展開はおおいに御免被る。
もし仮にここが先程居た場所と同じ場所だったとしよう。
ならばなぜ、なぜここに神社があるのだろうか?
石畳の道を抜け、現れた石段の上に立つ鳥居。
朱色に塗られた鳥居の上部真ん中に見える神社の文字は間違いなくここを神社だと証明している。
先程居た場所は山も山。人気の無い山あいに伸びた道路だった。
そんなところに神社があるだろうか?
それもこんな荒れていない参道が残っているだろうか?
もしそうなら密かに人気なご利益ある神社なのだろう。
だが神隠しあったんじゃね?という寂しさから来るのか恐さから来るのか純粋な嬉しさから来るのか全く分からない興奮をしていた事で少し思考能力にかけていた俺は他の可能性を見いだして安心するということが出来ず、加速する恐怖に足元が浮きながらも石段を登り神社に近付いていく。
神社に足しげく通うというわけでは無いので本当にそうなのかは良く分からないが、至って普通だと思える神社だ。
正面賽銭箱と大きな鈴からぶら下がる太い紐。そこに行くまでの等間隔に並べられた石畳。
あえてこれが無いと思うならば、手を洗うだか口をゆすぐだかわからない水場が無いことだろうか。
その様子に少し安心と変な事に期待していた自分への呆れを込めて知らず詰まっていた息を吐き出す。
落ち着いて改めて神社の境内に向かい歩く。
吹いた少し寒い風をライダージャケットに受けながらなんかいい場所だなと感じるのは詫び錆びを感じる日本人だからなのかはさておきすっかり気の抜けた俺はどうせ神社に来たのだし賽銭でも放り込んで就職祈願でもして行こうかと思い至る。
あっ、そういえばメインの財布がバイクのバックパックの中だった。だが丁度旅の目的地を回った後で財布にある金は3000も無かったなと思いだし、神隠しなんだしそう簡単に帰れないしなと諦めた。高校時代よりの相棒TW250ともお別れかもしれない。
話が逸れた。
バイクに乗っていれば分かるが、大体財布はいつも二つ以上持つ。
理由としては大金を入れる財布は絶対に落としたく無いのでバックパック内だしそれとなく飲み物が欲しくなった時自販機等でジュースを買うためや駐車場での料金支払い等で小銭が欲しいから1000円程度を入れた小銭入れを常にジャケットのポケットに入れているのだ。
俺も例に漏れず小銭入れを携行する人間なので小銭入れを取りだし適当に100円を取りだし境内に設置されていた賽銭箱にほおり投げた。
カランという木に金属が当たる良い音を聞き、ジャラジャラと鈴を鳴らす。
柏手を打った時、いきなり賽銭箱の奥にある戸が開かれた。それはもう勢い良くバコンと開いたからビクリと反応してしまい、後ずさってから戸を見ると、コスプレとしか思えない高校生くらいだと思える少女。
格好だけみると巫女さんかなーと思うが、巫女服とセーラー服を適当に混ぜたような服の上さらに腋丸出しである。
それがかなり様になってるし似合っている事と少女自体の可愛さ?美しさ?も相まって言葉を忘れた。
9割9分は驚きだったが。
「あなた今お賽銭入れた?」
「はっ?」
彼女が何を言っているのかは直ぐに理解したが何故そんな事を言い出したのか理解できずアホな声を上げてしまう。
「入れたの?入れてないの?」
高圧的。というよりも必死な様子ととてつもない眼力にさらに一歩後ずさる。
「い、入れました」
その答えに何を嬉しいのか急に少女が笑顔になる。
「お茶でも如何ですか?お客様」
「はっ?」
いきなり上客をもてなすかのように柔らかい笑みを放つ(ようは営業スマイル)少女にまたしてもアホな声を出してしまう。
片方は困惑し片方は柔らかいが一発で作ってるなとわかる笑みを作るという、まるで住宅地の往来でいきなりセールスマンに商品を勧められたかのような、不気味な空気が漂い、しばし沈黙が流れる中、これいろいろ聞く所かな?と思い立ち目の前の少女に話掛ける事にした。
「えーと、じゃあ頂きます」
いや、話を聞けよ。と思ったかもしれないが、話を聞くからにはゆっくりしたいからであり。決して生まれてこのかた彼女が居たのは高校時代で高三夏から現在までの4年と少しの間女性との接点が無く、美少女にお茶しましょ?と例え営業スマイルで言われたとしても断れる気が起きる訳がないわけでは無く、そう。決して他意があるわけではないのだ。そうだ。
―――――
通された。というよりは御神体?というのだろうか?鏡が正面に据えられている先程コスプレ巫女さん(仮)が開けた扉の向こう側。
いや、ここに参拝客を入れてお茶をしてもいいのだろうか?と素人にもこれ違ってないかと心配になる場所に通された。
「・・・・」
コスプレ巫女さん(仮)はお茶を淹れてきますということで、置かれた座布団の上に腰掛ける。
あっそうそう聞く内容を吟味しておかねばなるまい。
というか如何に美人さんにお茶を入れてもらえるとはいえ信用しすぎじゃなかろうか?昔の童話でもいきなり現れた親切な人は人を食べる奴だと相場が決まっている。
もしかしたら彼女もその類い・・っていかんいかん。発想が現実離れしてきた。そう、例えばアンビリバボーで取り上げられたようにテレポートとしか考えられない現象にあってしまい、彼女は田舎の過疎化で人気の無い神社が苦肉の策で二次元にありげなコスプレ巫女服を名物とした神社の娘さん。そう。そしてこれから始まるのは一方的な搾取。酒を飲まされ酔い潰れた所に持ってこられる借用書類。そして気づけば億単位の借金がつもり、一つまた一つと腹の中から臓器が消えるという・・・・。
こえー。想像力こえー。
なんだその一番可哀想な人を想像しようぜ!というスレタイが出来そうな話は!いや、多分そのスレでは友達居ない奴が一番可哀想って俺らじゃんで芝を生やした奴が優勝することだろう。
いや待て。緊張と興奮で思考がぶっ飛んでる。
「お待たせしました」
ぶっ飛んだどうでもいい思考をする中巫女さんが戻ってきてお茶と相成る。
―――――
「幻想郷・・ですか」
座布団に正座しお茶を飲みながら語られたこの場所の説明はまさしくジブリ式神隠しの証明とも言えるものだった。信じられないし子供らしく信じたい気持ちもあるが実際目の前で浮かばれたり、掌にエネルギー弾なんか作られてみるとあっさり信じてしまう。そんな自分を少し奇妙に思ったりもするが、見せられたものの説得力は確かにあったので特に不思議には思わない。
ただ、今まで感じてきた常識。例えば人は科学に頼らねば空は飛べないといったものが根底から崩される。そう、一種の賢者モードに入っている。
今までにない世界を見てしまい呆然としているのだ。
「ええ、外の世界から幻想になった者達が集う場所。・・らしいわ。あなたは結界の揺らぎに取り込まれた外来人ってわけ。帰りたければ直ぐに帰れるわ」
そんなに直ぐに帰れるとは更にも拍子抜け。もっとこう壮大なストーリーを期待していただけあって逆に期待外れというか・・英雄願望でもあるのか俺?
「帰りたいですけど、ちょっと色々見て回りたいですね」
妖怪、神様、幽霊。まず間違いなく外じゃ拝めないだろう。すぐに帰れるならば少し見て回りたい。
「あなた、闘えるの?」
「えっ?」
闘うの?
「闘えない人間が行けるのなんか人里くらいよ?」
抜かった。
それはもう学校のテストでよく確認せず丸一日掛けて暗記した内容が実は範囲が全く違うくらいに抜かった。戦闘能力必要なのか・・。あっ、幻想郷なら陰陽師いそう・・。
「闘えないなら里にいる退治屋を雇う事も出来るわよ?」
顔色を見て察してくれたのか救済案を出してくれる。めっちゃいい子だな。
「金あんまりないんです・・」
「それなら、しょうがないわね」
金持良くなきゃ世界は見て回れんとは世知辛い。
でもそれが世間。
巫女さんに護衛してもらうというのはアリなんだろうか?
「巫女さん」
「なに?護衛はやらないわ」
ですよねー。とその言葉に項垂れる俺だが、巫女さんはお茶を一口呑んで一呼吸置くとまたしても営業スマイルをこちらに向ける。その笑顔に嫌な予感がひしひしと背中を打った。
「あなた、知っているかしら?神さえ動く、どんなエネルギーより人を動かす原動力を」
賽銭と営業スマイル。唐突にその単語が+され勝手に=記号が付き解が導き出される。先ほどのことを思い出せばすぐに察しがついた。
ようは・・。
遠回しに金要求されたー!!
えっ、なにこれ?巫女さんが守ってやるから金寄越せってかなり酷い。
最初の行き過ぎた予想が当たるかも知れない。
身ぐるみはがされて外の世界に出されて、裸で歩いて逮捕の連鎖が来るの?
あっ、ここは断っとく?
「そして、ここは神の居る幻想郷で更に今居るここは神社。後は、わかるでしょ?」
その言葉に俺は途端に恥ずかしくなる。
そっか。神頼みがある場所なんだもんな。
勘繰ったりなんかして恥ずかしい。
やっぱり少し興奮しているらしい。もしくは恐怖を無理矢理奮い立たせているか。
「そうですね、神様居ることですし」
疑って悪いことをしたという罪悪感も込め、小銭入れを取り出しつつ、立ち上がって出入口の賽銭箱に向かう。
そしてまた抜かった。
正座なんか久しぶりで足がもつれたのだ。
「うわっ」
おっとっと、とたたらを踏みながらも大股で進んで行く体。
崖は直ぐに見えた。
この場所に上がるまでの賽銭箱の後ろの数段の階段である。
あっ、これは当たる。
一回車で事故った事があるが、当たる前にこれは当たるなと思うのだが、それと似ていた。
バランスを崩す体。
受け身を取ろうとつき出す腕。
落ちる体。
一直線に向かう体の行き先は賽銭箱。
結果導き出される答えは。
バキッ
成人男性一人分の体重と重力を賽銭箱のほそーい木の棒が支えられる訳もなく、約10本。そんな音を立てて俺の体と一緒に賽銭箱の中に吸い込まれて行った。
一方俺の体は賽銭箱の縁に肋骨と頭部を強く打ち、今日あった事が全部夢であればいいなと目が覚めたら白昼夢で済んでればいいなと走馬灯が走るかの如く考えながら意識を闇に落としていった。
ただひとつ気になるとすれば巫女さんがどんな表情で俺が賽銭箱の中に突っ込む所を見ていたのか気になった。
ごめんなさい!
―――――
俺1「どうよ」
俺2「いや、賽銭箱壊すのは可哀想だって」
俺3「むしろセクハラしろよ」
俺4「むしろ腋触れよ」
俺5ガタっ「ねぇよ!!」
俺6「なぁ・・人を縛り付けるものって何だとおもう?」
俺1~5「金」