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[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 【完結】
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/09/10 21:09
2011/06/23 前書き

過去二作の完結編です。
前回上げたものが、自分の中で納得できずに削除。
再度、書き直しました。

クロス作品
【学園黙示録 highschool of the dead】
【CANAAN】
【428 封鎖された渋谷で】
【スーパーストリートファイターⅣ】
【BLACK LAGOON】



BLACKLAGOON×CANAAN ~二挺拳銃×闘争代行人~
Street Fighter IV ×Batman 殺人蜂×蝙蝠

上記の続編です。




2011/09/10 後書き


最後まで見ていただきありがとうございました。
感想等なにかあれば、書いていってくださればと思います。



[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 ep1
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/06/21 23:58


Side 毒島冴子


2年前……。

「な、なあ……お、お願いだよ。お金なら上げるからさ?ね?一回でいいんだ」

 闇夜の中で、長くストレートな髪をし、スタイル抜群としか言い表すことができない、凹凸のある体をした美少女……毒島冴子は、男に壁にと追いやられていた。
 冴子は部活終了後の帰り道に、路地にと通りかかったところ、このスーツを着た男は突然、襲いかかり、こうして夜の住宅街の壁際にと追いつめている。ビチビチと、二人を薄暗く照らす電灯の音、そして男の荒い息と声だけがこの場所を支配していた。

「き、君だってこういうの…い、嫌じゃないだろう?なぁ?」

 スーツを着た男は、そういって冴子の制服の上から平均値から見ると大きいその胸を強く掴む。制服の上からもわかるその胸の揺れ、男は荒い息をこぼしながら、彼女にと顔を近づけた。彼女は声を出さないように頬を染め、息を漏らす。だが、それは決して、この男に胸を掴まれた女としての反応ではない。彼女の目の前にいる明確な『敵』として存在していることに興奮しているのだ。彼女は、学校の部活帰りということもあり、その背中には、竹刀があった。冴子が、これを握れば、この男はたちまち制圧できるだろう。剣道のただの模擬戦とは違う、戦い。

「ふぅ……ふぅ……」
「や、やっぱり興奮しているんだよね?ね?やっぱり今時の高校生なんてみんな……」

 冴子は、男の声を聞きながら、ひじ打ちを食らわす。
 突然の反撃に、驚いたのか、痛みもあったのだろう、男は、ゴホゴホと苦しそうな表情を浮かべながら、ふらつきながら、後退していく。逃がしはしない……逃がすはずがない。冴子は、竹刀を取り出し、強く握りしめた。息が荒くなってくる。気持ちが高鳴る。胸が張り裂けそうになる。冴子は、竹刀を握りしめ、強く男にめがけ振り下ろした。

「い、痛いっ!痛いいいいい!!ひぃ、ひいい……ち、血が出てるぅ……は、早く病院に電話しないと……は、早く!」

 目の前で、額から流れ出る血を両手でぬぐい、それを見て奇声を発する男。冴子は、そんな男を見下していた。彼は敵だ。間違いない、彼は私を襲おうとしたのだ。だから、私はそれに裁きを与え……違う。私は、ただ戦いたいだけだ。弱く、そして、脆いものを……一方的に叩きつぶす。

「ああああああああああ!!!!」

 私、毒島冴子には、ドロドロにへばりつく、暗い暗い闇があった。
 いつか、そう……いつか、解き放たれたいと、闇の中にいる私が私に訴え続ける。


 そう……いつか。



「冴子さん、冴子さん?」

 冴子の目の前で声をかける一人の男子。名前は、小室孝。
 学年では、冴子の後輩にあるが、冴子のことを気にかけてくれる1人だ。彼女自身も、彼には密かな想いを抱いている。彼自身、気が付いているかもしれないが。そして、彼がいるからこそ、闇の自分自身を抑えつけることが出来ている。

「今度のクリスマス、みんなで渋谷にいきませんか?」
「いいのかい?その、私で?」

 彼には、幼馴染の宮本麗という女子がいる。彼女もまた、彼に惹かれている一人だ。よって、冴子と彼女は恋敵となる。

……こんな私が、人を愛することなど、出来るはずもないというのに。

冴子は、彼の誘いに心を弾ませている自分自身を笑った。

「ああ、麗たちも一緒で。大人数でいったほうが楽しいと思ったので」
「プ……アハハハ。わかった、予定は開けておくよ」
「やった!きっと、みんなも喜びます」

 こんな言葉を投げかけてくれる孝の存在こそが、冴子にとっては、なによりも代えがたい存在だった。何よりも……。冴子は、教室から出ていく彼を見えなくなるまで眺めていた。彼が視界から消えると、冴子の耳に入ってくる声。それはクラスメイトが携帯で聞いているニュース音声だ。

『米本国で起きた、ウイルステロ事件の続報です。今回のテロの死傷者はホワイトハウスのゲイル報道官によると、現在のところ100人を超えるとの見通しを発表しました。また、今回のテロ事件を、渋谷ウイルステロ事件、上海国際会議爆破事件の実行犯とされる国際テロ組織『蛇』と断定し、今後、同盟諸国と協力して、『蛇』に対しての攻勢を強めることを呼びかけていくと……』


・・・・・・。


・・・・・。


・・・・。


学園黙示録×CANAAN 

Episode1  聖なる夜×崩壊する街


・・・2XXX年12月24日
日本、首都東京都千代田区
地下鉄中央コントロールセンター

sideカナン



 コンクリートの空間の中に響き渡る足音が聞こえる。


 彼女……カナンは、その手に銃を握ったまま小走りでその地下の広い空間を走っていた。日本の対テロのために施されたその施設は、今や外部からの侵入者を防ぐための要塞となっている。敵の侵入を防ぐために、地下の中央制御室に向かうためには、地下施設の迷路のような道を通っていく必要がある。その場所に正しく進む道は、地下鉄関係者の一部しか知られることはなく、警察関係者が、知るのには時間がかかることだろう。それは、現在進行形で起こっている人質事件をより一層悪化させるだけだ。


二時間前……地下鉄コントロールセンターはテロ組織により、ジャックされた。


『武装集団は、マスクを施し、顔を隠しています。クリスマスケーキの配達と称して施設内に侵入。コントロールセンターの責任者であるセンター長をその場で射殺。その後、人質全員を、目隠しをして監禁。日本政府に対して20億円の身代金を要求しています』


日本政府のエージェントである夏目の連絡の後、カナンは単独で人質奪還に向けて動き出す。人質の人数は、全部で13名。負傷者2名、既に死亡しているのが3名。敵の数は、全部で11名。その中の一人が青白く輝いている。それはもう何度も感じたことのある殺意と狂気、そして死を連想させる色、匂い。

「……」

 白い髪を揺らしながら、カナンは、身軽に動きながらその入り組んだ道をまるで前から知っているかのように迷うことなく走っていく。それこそ彼女にしかない特殊な力『共感覚』によって得たものである。彼女の力の源である、それは……、視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚の五感を共有して認識できるということである。普通の人間でも、それが出来ないものはいない。だが、カナンの場合はそのすべての5感を共有することが可能なのだ。

だからこそ……。

 このような迷路のような場所でも、犯人のいるべき殺意を色で認識し、それを追っていく。カナンは、その共感覚に慣れ、使いこなしている。カナンは示された道を進んでいく。それは、殺意によりつけられた匂いの跡……。

カナンの前、コントロールセンターの扉が見えてきた。

カナンは、両手で握った銃を前にと向けて走りながら、銃を放つ。弾丸はまっすぐ飛びながら、対テロ用の防弾扉にと吸いこまれていく。銃弾は防弾扉にと弾かれるが、間髪いれず同じ場所に…寸分のずれもなく撃ちこまれる銃弾。それでも防弾扉が壊れることはない。だが、その為に構築された精密な機械は少しの狂いでも、故障を誘発する。カナンの目には機械の内部構造が見えている。防弾扉は自動ドアのように開かれる。

「!」

 扉が開かれた瞬間、銃声とともに、扉の前で待っていた覆面の武装テロリストたちは、銃を放つ。無数の弾丸が飛び、銃声が轟く。だが、その無数の弾丸は空を切る。カナンを狙っていた者たちの視界にはカナンは映し出されてはいなかった。次の瞬間……テロリストたちの真下から銃声が轟き、扉の前で待ち構えていたテロリスト数人が、そのまま、床に赤い血を噴き出しながら、前のめりに崩れ落ちる。

「……」

 カナンは扉が開く前には既に滑りこんでいた。自動ドアが開くタイミングなどすべてを把握したうえでの行動。テロリストたちが銃を握り、トリガーを引いた瞬間には、カナンの体は低く床を滑りながら、部屋にと入りこみ、彼女の引き金がひかれ、テロリストたちは完全な死角となっている真下からの攻撃を叩きこまれてしまっていたのである。

「……」

 カナンは、滑り込みながら、既に次の標的を見つけていた。正面にいたテロリストの一人の脳天に狙いを定め、撃ち抜きながら、体を起こすのと同時……振り返りながら、自分にと銃を向けていた相手に、銃を向ける。

「……久し振りだな、カナン」
「アルファルド……」

 カナンがそう告げた女は、マスクをしたまま、笑みを浮かべている。カナンの目には、アルファルドの表情、感覚がわかっていた。アルファルドは銃を握っている手を、自分のマスクにとかけ、マスクを脱ぐ。マスクを床にと落とし、頭を振りながら髪の毛が乱れ落ち、銃さえ握らなければ大人らしい美少女が現れる……それは、国際テロ組織『蛇』その首領。カナンはアルファルドを見つめ、動じない表情で口を開ける。

「お前を捕まえる」
「フっ……ふふふ、捕まえるか。面白い……殺すではなく、私を捕まえると?」

 アルファルドは、銃を向け合ったまま、半歩身を引く。

「見下げ果てられたものだな」

 アルファルドは、自分を殺すことではなく生かしたまま捕まえると言うカナンに笑ってしまった。殺すことは簡単だ。だが、生かして捕まえるというのは相手の抵抗を無力化することが条件となってくる。それだけ難易度は大幅に上がるものだ。だが、カナンはそれを容易くやってのけるという……。それだけの自信がカナンにはあるのだろう。

「……何を企んでいる」

 カナンのまっすぐな瞳がアルファルドに向けられる。アルファルドは、その目を見返しながら、銃を向けたまま、笑みを浮かべる。その笑みは、すべてを見下したような小馬鹿にしたような笑い。

「計画を実行に移す。この世界を、地獄にと変える。私の見えている景色を皆にも教えてやるのさ」

 アルファルドはそういうと、引き金を引いた。銃弾が、カナン目掛け放たれる。カナンは半歩身を反らし、それをかわすと、同じように銃を撃つ。アルファルドは、カナンの攻撃を、身を低くしてコントロールセンターのテーブルを遮蔽物にしてかわす。カナンは、銃の弾を確認しながら、アルファルドの動きを探る。だが、彼女に自分の共感覚が利かないことをカナンは知っている。アルファルドは自分に殺意を抱いてはいない。いや、人の殺害など彼女にとっては、息を吸うのと同じ……。

「誰も、私を止めることなどできない」

 アルファルドは、銃を握り、テーブルの上にと乗り、カナンが隠れているであろう遮蔽物を狙い撃つ。カナンは、遮蔽物から飛び出し、銃をアルファルドに向けて放つ。アルファルドは、カナンが放った銃弾を掠るものの、距離を縮めてくる。

「!?」

カナンは、アルファルドの今まで感じ得たことのない威圧感を知った。距離を縮めたアルファルドにカナンは、片手にナイフを握り、アルファルドの首筋にと切りつける。アルファルドは、そのナイフを寸での所で避ける。そして、握った銃をカナンにと向け放つ。カナンはそれをまた避ける。だが、それは彼女の服を掠め、彼女に赤い血を流させる。カナンは、歯を噛みしめ、再度、膝を床につけながら銃をアルファルドにと向ける。アルファルドもまた、直立した姿勢で、カナンにと銃を向ける。

「「……」」

 至近距離で2人の動きは止まる。どちらもこの距離では避けられないだろう。カナンとアルファルドは、視線を交錯させる。

「何を……考えている」
「フ……撃ってみるがいい、カナン」

 アルファルドの笑みを見ながら、カナンはアルファルドが何か考えていることをすぐに察する。しかし、アルファルドはカナンが最初から気づくことに知っていたかのような、素振りだ。

「全員動くな!!」

 カナンとアルファルドは、その声を横で聞きながら視線を逸らすことはなかった。地下鉄のコントロール室にと突入したのは警察のテロ対策特殊部隊である。彼らは、黒いマスクに、防弾チョッキ、そしてその手には銃を構え、カナンとアルファルドを狙い定める。

「……」

 アルファルドは、カナンを見据えたまま、銃を握っている手を上にと上げた。カナンもまた、同じように両手をあげる。二人は、そのまま特殊部隊にと銃を取られ、拘束される。カナンは、アルファルドの計画を知ることが知ることが出来ずに、その表情は険しい。彼女が何の計画もないまま、こう易々と捕まる筈がない。

地下鉄、人質事件は、死傷者を出しながらも、アルファルド逮捕により解決にと進んでいく。




Side 大沢ひとみ


同日、日本
東京都渋谷区渋谷駅ハチ公前


 大沢ひとみは、あの日……ここから見える立体交差点で一つの物語のクライマックスを見ることが出来た。目の前で、1人の男の言葉に集まった男達が、巨大な敵にと立ち向かい、勝利する瞬間を……。彼らは決して警察でも何でもない。誰のためでもない、仲間のため、友人のため。それだけで、命がけで戦った……。ひとみは、その光景を今でも目に焼き付けている。

「ひーとーみ?」

 鏡に映る自分の顔がひとみの顔を覗き込む。大沢ひとみの姉である大沢マリア。一卵性双生児……所謂、双子姉妹の間柄である二人。双子と言えば、主に二つに分かれるという。性格が正反対、そして一緒にいようとはせず、自分の道を見つけようとするもの。もう一つは、互いに依存し合い、支え合い、いつまでも一緒にいようとするもの。二人の間柄でいえば、きっと前者にあたるだろう。大沢マリアは、記者として世界中をいつも飛びまわっている。大沢ひとみは、勉強して、父親である大沢賢治のウイルス研究の基礎なんかを学んでていたりする。それ以外にもマリアは明るくて、ひとみにはないものをいっぱい持っている。私はあんまり外に出なくて……。

「でも、よかったの、今日は?私と一緒なんかで……ひとみには彼氏がいるわけだし」

 ひとみの耳元でそう囁くマリアに、ひとみはマリアのほうを照れながら振り返る。

「あ、亜智とはそういうのじゃないよ!!」
「フフ……そうやってムキになるところが可愛いな~~」
「もう!私、姉さんと同じ顔だってわかってる?」

 遠藤亜智……大沢ひとみの目の前で一つの奇跡を起こした男。たった1人で、巨大な悪と戦い、そして勝利を手に入れた、勇敢で優しい人……。ひとみにとって、大切な人。今日という日は、きっと彼と過ごすのが普通のことなんだと思う。だけど、いつも国外を飛び回っているマリアが、年末戻ってきて久し振りに一緒に過ごせる……それがひとみには嬉しくて、こうして久し振りに姉妹一緒にクリスマスを過ごそうと思ったのだ。ひとみにとっては、マリアは亜智と同じくらい大切な人であるというのは、疑いようのないことだから。

「なんだか、変な感じだね」
「え?」
「だってさ……色々な世界を見てきて、日本にあって世界にないもの、逆に世界にあって、日本にないものとか……気がついたりしちゃって」

 マリアが見た世界……、それはきっと、かけがえのないものなのだろう。ひとみもマリアの写真展には足を運んだ。そこで見た写真はどれも生活感があり、今にも動き出しそうな写真ばかりだった。あの上海での国際会議場の時にも、マリアは現場にいた。写真があったから……。ひとみは事件のことは聞かなかったし、マリアもひとみには何も言わなかった。ひとみにとってはマリアがいてくれるだけで、よかったから、それでいい。

「姉さんは、すごいよ……本当に。私には全然わからないことばかりで敵わないな」
「そんなことないよ!ひとみだって、私なんか全然わからないこと勉強して……私には敵わない……」

 大勢の人々が立体交差点を行き来する中、ひとみとマリアもはぐれないように身を寄せ合いながら、わたっていく。周りの通り過ぎて行く人々が視線を瓜二つの二人にと向ける。もう慣れっこだ。

「ま、今日は難しいこと忘れて、いっぱい遊ぼう?」
「うん!」

 二人はお互いに顔を見合わせて笑みを浮かべ合った。マリアがひとみの手を掴み、駆け出していく。ひとみもまたしっかりとマリアの手を握りしめて、一緒になって渋谷スクランブル交差点を駆け出していくと、誰かとぶつかる。

「きゃあ!!」
「ね、姉さん!す、すいません……」

 マリアは、その顔を大きな胸の中にと埋めもがいている。ひとみは、慌ててマリアの手を引っ張り、顔をそこから離した。ひとみは、目の前の美しい女性と頭を下げる。目の前にいた女性は、笑顔で二人を見つめる。

「大丈夫だったかい?」
「は、はい……」

 その女性は、瓜二つの二人を見ると、少し驚いた表情を浮かべる。そして、笑み一つで性格の異なる中のよい姉妹であることを感じ取っていた。

「クリスマスイブに、女二人というのは、仲がいいのだね?」

 髪の毛の長い、凛とした女性は清楚で、それでいて、妖艶な雰囲気を漂わせる大きな胸はひとみにとっては羨ましいものであった。それはきっと隣にいるマリアもそうだろう。その女性は、1人でクリスマスイブの町並みを歩いていたのだろうか。

「久しぶりに、姉が帰ってきたもので」
「なるほど。良きクリスマスを……」
「ええ、貴女も……」

 信号が赤になりそうになって、ひとみとマリア、そしてその女性は自分達の進行方向にと進んでいこうとする。マリアは、歩き出したその女性のほうにと振り返る。

「私は、大沢マリア、こっちはひとみ……貴女の名前は?」
「私は……毒島冴子」

 人ごみにまみれて消え入りそうな中で微かに聞こえた声。ひとみは、マリアのほうを見る。どうして、わざわざ名前を聞いたりしたのかと。マリアは、ひとみのほうを見て

「人間、出会いは大事なんだから。一期一会っていうでしょ?」

 確か、カナンとの出会いもそうであったことをひとみは思い出す。
 カナン……マリアの友人であり、アルファルドの宿敵。マリアが狙われたのも、自分が襲われたのも、彼女が少なからず関わっている。そうだからだろうか、ひとみ自身は、あまりカナンにいい気分はしない。

「……さ、行こうか?」
「うん」



Side 加納慎也

同日、日本
渋谷駅、スクランブル交差点。

 交差点では、多くの人々が信号を待ちながら、周りの友人達と話をしながら、その日常の、ありきたりな普通という生活を謳歌していた。恋人と手をつなぎ、これから行くべき場所を考えながら歩く男女の列が並んでいる。中には、サラリーマンが、疲れた表情で欠伸をしながら信号を眺めている。そんなありきたりの日常を過ごす者たちには、普段より警察官が多いことに少しだけの違和感を覚えることぐらいしかできなかったのだろう。いや、このクリスマスイブということで混雑が予想されるということで配置されているというぐらいしか想像できていないのかもしれない。パトカーに乗っていた茶色のコートを来た男は、車の中で暖房をつけながら、無線を握る。

「こちら加納。爆弾処理係は既に到着、地下鉄は緊急停止をしており、現在内部で解体作業に当たっている」

 無線から聞こえてくる捜査本部のエリート組からの声を聞きながら、加納は、無線を切る。

地下鉄占拠事件……。

 渋谷駅地下鉄構内に、爆弾を仕掛けたという連絡が、地下鉄を占拠した犯行グループから警視庁にともたらされた。

「まったく、今日はクリスマスイブだっていうのにな」

 暇な奴らもいるな……きっと犯人は、女にもてない奴が、クリスマスを潰すためにやったんだなと、加納は思いながら、大きく息を吐く。彼は窓の外から、交差点に目をやる。数年前、そこでは奇跡が起きたのを思い出す。渋谷ウイルステロ事件。爆弾を止めた若者達の光景が今でも目に浮かぶ。

「……あいつら、どこでなにしてんだろう」

そんな物思いにふけっていると、無線が鳴った。寒々しい夜の中、加納は、無線を握りスイッチをいれる。

「どうした?」
『爆弾が爆発しました!繰り返します、爆弾が爆発……』
「なんだと!?爆音は特には聞こえなかったが……」

 先ほどの会話で気がつかなかったというのか、だが、それにしては、随分と静かだった。やはり悪戯だったのか?加納は、無線の次の言葉を待つ。無線音には雑音が紛れ始めていた。俺は、無線を無意識に強く握る。

『こ……ち……イ、イルス……』
「なんだ!?聞こえないぞ!」
『ば……け………』

 後部座席に座っていた宮本は、外にと出て、警戒線が敷かれている地下鉄の出入り口にと歩いていく。周りの警官たちは何も知らないのだろうか……。宮本は、明るくついている電気の明かりを見ながら、唾をのむ。

「おい!何があった!応答しろ!」

 車内で叫ぶ加納。
 無線から音は聞こえなくなっていた。加納は、舌打ちをしながら、無線から手を離して車内から出ようとする。だが、その途端、無線からはブツブツと音が聞こえる。加納は、慌てて、車にと身を戻し、無線を掴む。

「おい!なにがあった?」
『……ブツ……ブツ』
「!?」
『…………あ』

『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』

 加納は思わず、無線を離してしまう。

 車内から飛び出してしまう。加納は、息を切らしながら、立ちあがり、無線を握りしめる。だが、そこからはもう音が聞こえなくなっていた。加納は、別の無線を使って内部との連絡を取ろうとする。だが、どれも不通だ。車内から飛び出した加納は、周りで、様子をうかがっている警官達を見る。

「全員、聞いてくれ!」

 彼はパトカーの上に飛び乗り、大きな声で怒鳴りながら、周りの警官達を注目させる。彼は焦っていた。何かが起こったのは確かだろう。だが、周りはまだ多くの一般市民、何も知らない人々が何も知らずに日常を過ごしている。パニックになれば、それこそ、大変なことになる。現在、地下鉄構内は、入口を一つにして、内部と外部の入り口を一つにと絞っている。そう、渋谷駅地下鉄構内への入り口は、この目の前にある所だけである。

「内部で爆弾があった。内部の状況は不明、連絡も取れない。以後、応援部隊を呼ぶまでの間。この扉を交代制で守り、他の物は、市民達を冷静に避難させてほしい。全員、銃を携帯し、何かあった場合は、必ず無線、携帯で報告すること……では、早速、隊をわけて……」

「加納刑事、本庁から連絡です。すぐに連絡をくれと」
「こんなときに……」

パトカーの車に乗り込み、携帯を押す。携帯はすぐに通話状態にとなった。聞こえてきた声は、好きになれない本部長の瀬古だった。瀬古は酒特有のしゃがれた声で、いつもよりも早口で言葉を続ける。しかも後ろの方では電話が鳴り響き、非常に混乱した状況であることがわかった。

『加納か!地下鉄を占拠していた連中を拘束した!』
「やったんですか!?」
『ああ、犯人は、自分を蛇の組織だと言っている』
「蛇……まさか!?アルファルドが!」

 脳裏にと浮かぶ少女の姿。
 長い髪の毛を風に揺らしながら、彼女は敵である俺達の前で堂々と味方であることを演じ続けた。カナンと名前を偽りながら、彼女の戦いは、きっと、あの場にいた誰よりも優れており、そして冷酷身慈悲に判断を下す。渋谷ウイルステロ事件、上海国際会議テロ事件、東南アジアウイルス事件、米国本土におけるテロ事件……その幾多にもわたるテロ事件に暗躍する存在が、再度、この地を訪れたというのか。

「俺が行きます!俺はあいつのことを知っている!」
『ああ、だからだ。すぐに警視庁に向かってくれ。奴の目的をはかせるんだ』
「了解しました」

 加納は携帯を助手席にと投げ捨てながら、後の処理を、別の刑事にと任せて、車を走らせる。加納は、サイレンを大きく鳴らしながら、走らせていく。寒い夜空の下……、闇だけがただ深まっていく。



Side 小室孝

同日、日本
大沢ひとみ達がいた数分後、東京都渋谷区渋谷駅ハチ公前

 肌寒さがしみる、夜の渋谷駅ハチ公前にて、孝は、今日のクリスマスパーティという名目で呼び出された腕を組み苛立つ宮本麗、ため息交じりの眼鏡娘、高城沙耶、たくさんの人を前にして、おどおどしている平野コータと一緒に、毒島冴子を待っていた。パーティー会場は、高城持ちだ。なんせ金持ちだし、今回の企画は、麗と高城の二人が計画したらしい。珍しい組み合わせだ。

「そろそろ、来ると思うんだけどな、冴子さん」
「置いていきましょう?遅れるような人は待ってられないもの」
「おいおい、時間までまだ15分以上あるぞ?」
「常に、大隊は、5分前集合が原則なのであります!」

 孝は、明らかに不機嫌な麗に、自分が何をしたのかわからずに、困惑気味である。高城は、そんな女心を理解できていない孝に、なんといってやればいいのかわからないでいた。

「孝って最低」
「なんでそうなるんだよ!?」

 沙耶の言葉に、孝は、沙耶を見て答える。沙耶は、そんな孝に詰め寄りながら、

「いい?知らないことは罪なのよ?わかる?あんたは、そんなんだから…」
「おいおい、勘弁してくれよ、折角のクリスマスなのに説教は」

「すまない、遅れてしまったな」

 孝たちの前に現れる冴子。
 その容姿は、彼女に似合った……というよりかは、冬なのに、胸元の露出の激しい服である。コータと、孝は、どこをみていいのかわからない。女性陣は、大きくため息をつきながら、男二人を持ってかれてしまうのではないかという不安に駆られていた。

「それじゃ、行くわよ?」

 沙耶を先頭に引っ張られながら、孝たちは、渋谷駅前から離れていく。今日はクリスマス、めいいっぱい楽しむつもりで、孝は、その人ゴミの中を歩きだす。スクランブル交差点の前、大きな音をあげたパトカーが、走っていく。

「なにかあったのかしら?」

 麗の言葉を横に聞きながら、これから起こる惨劇を、孝たちは知る由もなかった。スクランブル交差点が青になり、歩き出す孝達の背後、駅の方角から、その戦慄の幕開けの悲鳴が奏でられる。











[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 ep2
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/06/25 23:58



Side キャミィ

12月24日
米軍横須賀基地


『……新しい情報が入ってきました、渋谷駅周辺で大規模な暴動が発生しました。まだ詳細は不明ですが、多数の死傷者が出ているという情報もあります。付近の方々は落ちついて現場から避難してください。警視庁は、まだ情報については未確認としていますが……』

 テレビを見ていた、黒いコートに身を包み赤いベレー帽をかぶった、1人の金髪の女。その女の前にと現れ、敬礼をするスーツを着た米軍人。彼女もまた、席を立ち、敬礼を返す。彼女……英国特殊部隊所属キャミィは、米軍の将軍とともに歩き出す。あたりは、様々な人間が慌ただしく行ききしている。それは混乱の様相を映し出していた。

「少しばかり遅かったようだ。先ほど、東京都の渋谷駅地下鉄構内で爆発が起きた」
「……爆発」
「その数時間前に、テロ組織『蛇』と名乗る者たちが地下鉄コントロールセンターを占拠。人質数人を射殺したが、爆発のすぐ前に日本警察に取り押さえられ、今は警視庁に身柄を移送中だ」
「爆発規模は?」
「規模は問題ではない」
「?」

 何か物が歯に挟まったような言い方に、キャミィは司令官のほうを見る。司令官は、困惑した表情で、言葉を続ける。

「我々の情報では、現在日本警察と交戦しているものは、既に息絶えたはずの人間だと、そう情報が届いている」
「……生きた屍と?」
「まったくもって映画の世界のような話だが、実際に事実として、起きてしまっている。奴らに噛まれたものは、同じように奴らとなり、人間を襲い、食し、数を増やす」
「渋谷駅にはまだ多くの人間がいる……」
「我々にはどうすることもできない。一刻も早く、アルファルドを拘束する必要がある」
「しかし、日本警察に拘束された以上、問題はないはずでは?」

 司令官は足を止める。

「アルファルドは、かつて二度捕まっている。だが、そのどれもが脱出している。どれも部下の手で。敵は残念ながら、政府内にも潜伏し、だれも信用できない状態となっている」
「……わかりました。司令官の信用を裏切らないためにも、現地に向かいます」
「すぐに特殊部隊を派遣する」

 キャミィは司令官に敬礼をすると、足早に、その場から去る。

 横須賀基地では、既に臨戦体制が整えられており、多くの兵士が、銃を握り辺りを走り、位置についている。キャミィはその中、待機しているヘリにと向かう。米国の都市で出会った、大沢マリアの母国。願わくば、彼女がこの地に戻ってきていないことを……。キャミィは目を閉じそう唱える。ヘリの扉が閉まり、闇の中、飛び立つ。




学園黙示録×CANAAN

Episode2 蛇×蜘蛛




Side アルファルド


同日
東京都千代田区警視庁……。


 武装した警官隊によって、警視庁内にと連行されていくアルファルド、そしてカナン。警視庁内では、連行してきた警官隊とは別のヘルメットをかぶった警官隊が二人を護衛するかのように、防弾盾などで守りながら歩いていく。警視庁内では、既に、東京都内で発生した大規模な暴動での報告を受け、既に夜も更けているが、あちこちで声が聞こえ、緊急の放送が鳴り響く混乱した状態が続いている。カナンは、何が起きたのか……その状況がまだわかってはいない。だが、アルファルドの抵抗をしないまま、捕まったことが、彼女には何か裏があると、共感覚ではなく、何度も彼女と戦った経験と勘で察していた。

「待て、待ってくれ!」

 連行する警官隊にと走ってやってくる男。

 大柄な警官隊の隙間から、アルファルドは、その男を見る。彼女は、その男が見たことがあった。確か……渋谷での一件でいた、日本の警察だった。男は、アルファルドとカナンたちを取り囲む警官隊の指揮官に話をする。男は、その際に視線をこちらとカナンにと向けた。

「待て、こっちはテロリストじゃない!俺が保証する!」

 カナンに向けて、男は強く言い放ち、解放を求める。アルファルドは、取り囲まれながらも立ち止まったその状況で、周りにと視線をやる。警視庁の玄関内にまでは、やってこれた……。本当ならば、もう少し中を案内してほしかったが、我儘もいえないだろう。

「……舞台の幕は上がった」
「!?」

 カナンがアルファルドの言葉に、周りからの気配の変化……共感覚で咄嗟に反応し、その身を周りの男にと思いっきりぶつけ、押し倒す。それと同時に、警視庁玄関前で銃声が響きわたる。警官隊が咄嗟に銃を握り、撃ってきたテロリストにと構えようとするが、その警官隊は、真横からの強烈な膝蹴りで、身を宙に浮かせ、床にと倒れる。突然の銃撃と、至近距離からの攻撃で、アルファルドを取り囲んでいた警官隊は、一気に総崩れとなる。警官隊の仲間であるヘルメットで顔を覆った一人が、膝を宙に浮かせ、その膝をピンクの気に染めながら、アルファルドを囲む警官隊を、蹴り上げていく。アルファルドは、自由になった片腕で倒れている警官隊の銃を握り、こちらにと狙いを定めようとする警官を撃つ。

「アルファルド!!」

 アルファルドの視線の先には、カナンがいた。彼女もまた咄嗟に倒れている警官の銃を握り、手錠でつながれている腕で、アルファルドにと狙いを定め放つ。その銃弾は確かにアルファルドにとめがけまっすぐと飛んでいく。だが、その銃弾はアルファルドに命中する前に、床にと落ちる。アルファルドの前にと立つヘルメットをかぶった警官は、そのヘツメットを脱ぎ捨て、その顔を晒した。

「は~い。残念だったねぇ?カナンちゃん?」

 バイバイと手を振り、黒く長い髪の毛を振りながら、片目を輝かせる女……アルファルドの配下であるハン・ジュリがそこにはいた。彼女は、警官が撃つ銃を、彼女の体から発するピンク色のオーラで、彼女の体を貫く前に、勢いをなくし、地面にと落とす。アルファルドは、笑みを浮かべ、カナン目掛け銃を放つ。カナンは、身を反らし、アルファルドの銃弾をかわす。それはジュリにとっても驚きの光景である。

「へ~、あいつ面白ぇじゃん、遊んでいってもいいよなぁ?」
「好きにしろ」
「フフフフ、ひひひひひ……これだから、あんたと一緒にいるのはやめられねぇ」

 アルファルドは、ジュリを置いて数人の部下とともにエレベーターにと乗り込む。カナンは、エレベーターにと乗り込んだアルファルドにと銃を向け、アルファルドと視線を交錯させ、銃を撃つ。だが、その銃は、ピンクのオーラにより、消されてしまい、そのまま扉は閉まってしまっていた。残されたジュリ、そしてカナン。たかが数分の出来事……警視庁の玄関前は、血まみれとかしている。カナンの手錠を外す一人の男。

「すまない、俺がもう少し早くついていれば……」
「貴方は?」
「俺は、加納慎治……日本警察だ。お前のことは大沢マリアから聞いている」
「マリアから?」

 マリアは久し振りに聞いた彼女の名前に、その表情が変わる。加納は、混沌とする警視庁内を眺める。あちこちで銃声が響きわたり、悲鳴が聞こえる。そして、その中……エレベーター前では、腕まわし、準備運動をしながら、警視庁の特殊部隊用の防弾チョッキなどを脱ぎ捨てる女……ジュリの姿。ジュリは、立ち上がるカナンを獲物を見るような視線で眺める。髪の毛をまとめ上げ、上半身は胸だけを覆い、後はその肌を露出させている。白い歯を見せながら、ジュリは、カナンを見定める。

「準備はいいか?カナンちゃん?ぶち殺される準備はぁ?」

 カナンは目を赤く灯しながら、一歩前にと出る。



 エレベーター内ではアルファルドが、手錠を外し、片腕にしっかりと血を通しながら、銃を握り動きを確認していた。そして視線をエレベーターの回にと移す。音が鳴り、エレベーターがゆっくりと開く。場所は、警視庁の心臓部、地下中央指令室。警視庁が東京都23区内で起きた事件等を集め、指示を出している場所である。最新設備が施され、その場所は、核シェルターもついている場所だ。アルファルドは、夜勤体制で、警察職員が少人数になっているその場所に足を踏み入れる。警備員が、慌てて部外者を追いだそうと走ってくる。

「お、おい、君、ここは……」
「……」

 銃声が、場内に響き渡り、男は壊れた人形のように崩れ落ちる。周りからは突然の銃声に言葉を失い、何人かの警官が銃を抜こうとする。だが、一般市民を守る警官と、対軍のために訓練さてたテロリストではその腕も、経験も違う。警官の銃もまた。テロリストが持つMp5では、歯が立たず、再度、銃声が鳴り響き、その場にいた抵抗勢力を一掃する。

「死体を片づけろ。掌握を開始」

 アルファルドの指示のもと、銃をぶら下げながらテロリストたちは、死体の足を握り引きずりながら、施設のコンピューターにと手をかける。アルファルドは、前にある画面を見る。そこに映し出されるのは、現在の警視庁内の様子である。銃を持つテロリストにより、警察職員は、武器を確保しようと銃などの武器庫にと向かっている。扉を開けようとした所で、その場面を映し出している画像が乱れて消える。アルファルドは、無言で状況を確認しながら、携帯を繋げる。

「時間通りに……」

 アルファルドは、携帯でそう一言だけ告げると、切る。そして画面を新たに切り替える。そこには、エレベーター、警視庁玄関前の映像が映し出されていた。ハン・ジュリ……、かつては国際テロ組織に所属していた彼女。だが、そんな彼女の凶暴性は、その彼女が所属していたテロ組織では抑えられなかった。だから、アルファルドは引き抜いた。ジュリの凶暴性を生かせる場所、利用できる場所を与えてやる。計画に支障をきたさなければ、幾らでも使い道はあるものだ。映像の中のカナンは、銃弾も効かないような相手に対して、その片手にナイフを握りながら、対峙している。

「フフフ……化け物同士、どちらが勝ち残れるかな?」

 アルファルドは、片方しかない腕でなくなった腕を抱き4告げる。その目は、まるで遊んでいる子供のように無邪気かつ、子供にはない凶悪な殺意が込められた眼であった。




Side 毒島冴子


同時刻……。
渋谷駅100m範囲、ビル建物内


「……暫くはここで潜んでいたほうがよさそうだな」

 冴子は、その手に警棒を手にして、窓の外を眺める。窓の外では走りながら逃げるものたちと、それを追いかける者たちで大混乱と化している。

 渋谷駅周辺での悲鳴後、目の前の会社員が血まみれの女子高生に噛みつかれ、血を噴き出し、倒れた。助けに行った男性は、倒れた会社員男性に噛まれ、大量出血。それを警官が発砲し、二人の頭部を貫通、殺害する。だが、撃った警官も飛びかかってきた数人の女子高生に襲われた。一発目の銃声で、渋谷駅前は、大混乱になった。孝たちとともに移動しようとした、冴子は、駅から逃げる多くの人たちに巻き込まれはぐれてしまった。彼女は、孝たちを捜そうとしたが、まずは武器を見つけることを優先し、落ちていた警棒を拾い、混乱する道を避け、一旦、建物内に避難したのであった。

「どちらにしろ、あまり長居はできないだろうがな」

 毒島は、警棒を手にし、そのスカートの端を破く。彼女の綺麗な太腿が、晒されるが、彼女は気にも留めない。スカートで戦うのは邪魔であるし、動きがとりずらい。こういうときは身を軽くするのが一番である。後は、警棒……正直これでは殺傷能力に欠ける。出来るならば、木刀などの類がほしいが。

「フ……何を私は言っているんだ」

 そこで冴子は、壁にもたれながら、自分に笑った。
 自分は、この状況下で戦うことを考えているのだ。そう、普通の人間であれば、逃げ出すことしか考えないだろう。友人を捜しに行ったとしてもそれは、自衛のためであり、自分のように進んで戦うことを考えはしない。

「やはり、私はおかしいのかもしれないな……」

 自分の額を窓ガラスに押し付けながら、冴子は、つぶやいた。

「だれか、いますか?」

 振り返った先、冴子は警棒を握り、声を出したものを見る。それは、茶髪の髪の毛の少女、彼女は警棒を握り、構える。だが、その少女は、どこかで見たことのある顔であった。それは、そう……孝達と出会う前にあった双子の姉妹の一人。

「あ!貴女は!!えーっと……」
「毒島冴子だよ、大沢マリア……だったかな?」

 笑顔で答える冴子は、その目を一瞬で変え、警棒を彼女の背後にと突きつける。警棒は、背後にいた生きた屍の口の中を貫いた。だが、それでも動こうとする<奴ら>に、大沢マリアは慌ててその場から離れる。冴子は、警棒を引き抜くと同時に、前にと蹴る。<奴ら>は、そのまま、バランスを崩し、後ろにと倒れ、階段を転げ落ちていく。やはり、ここも安全ではないようだ。一度、体勢を立て直すために、古着などの入っていた棚を、扉を閉め、<奴ら>が入ってこれないようにバリケードにして設置する。

「すいません……あ、ありがとうございます」
「かまわないさ、これも何かの縁だよ。ところで……姉妹は?」
「妹とは……途中ではぐれてしまって」

 同じ……自分と一緒ということか。
 どちらにしろ、そうなれば、ここで助けを待っているわけにはいかないだろう。この状況が日本全国で起きていれば、助けの望みは薄い。

「……状況としては、私たちは、噛めば感染し、同じ<奴ら>になってしまう状況にある。ここにいれば襲われる心配はないだろう。だが、姉妹は捜せない。君はどちらをとる」
「……決まってます、妹を捜します!ひとみだって……私を捜しているはずだから」
「双子の姉妹というのは、絆も人一倍なのかもしれないな」

 自分には、自分を理解してくれるものはないない。
 冴子は、マリアを羨ましがりながら、閉ざしていた扉を開ける。

「私から離れるな、君を安全なところまで連れていく、約束だ。」
「はい!」

 冴子は、扉を開け、建物の階段を下りていく。その際も、足音をたてないようにしながら、静かに下りていく。階段を下りてき、一階にと降りていく。外と建物を隔てるガラスの扉の前、大きな道路には、何人かの<奴ら>が歩いている。だが、ここを突破しなければ、孝や、マリアの妹の元にはたどり着かないだろう。この建物の中で、<奴ら>の動きを見ていたが、<奴ら>は音に反応するものである可能性が高い。よって、相手が大量にいようと、その音を殺していけば、ある程度の脅威をを減らすことはできる。とはいっても、力は普通の人間以上にある。彼らの距離に入ってしまい、掴まれてしまえば、逃げ出すことは容易ではない。

「問題は、どこに目的の人物がいるかどうかだ。何か思い当たる場所は?」
「ひとみのいる場所……おそらく、KOFの場所じゃないかな」
「わかるなら、其処に案内してもらえればいい」
「わかりました」

 冴子は、頷くと、外にと足を踏み出した。周りは、無数の<奴ら>がさまようように歩いている。冴子は、警棒を握り、マリアを背後に置きながら、歩き出す。どちらにしろ、この武装では、戦うことはできない。無駄な戦闘は避けて進むしかない。

「案内は任せる」
「は、はい!」

 冴子は、周りの建物を眺めながら、歩き出す。
 彼女の手前、進行方向、こちらのほうに顔を向ける<奴ら>、冴子は警棒を伸ばし、片手を伸ばして、奴らの頭を突く。バランスを失い、後ろに倒れる。その間に、二人は、進んでいく。、<奴ら>はその動きは並みの人間以下。よって、音とその距離間を誤らなければ、問題はない。

「……だが、これでは心もとない。もっと、もっと強い武器があれば」

 冴子は、警棒を握りしめながら、つぶやいた。
 その手にある感触……木刀、いや、刀……。それで、思う存分に、邪魔立てする目の前の『敵』を無力化する。冴子は、飢えを感じながら、ただ歩き続ける。



Side カナン



「退屈してたんだよ、よわっちぃ奴ばかりで。だから、お前みたいな奴見ちまったら、フフフフ……疼いちゃうんだよね、私の左目がさぁ」

 ジュリの片目が輝くと、彼女の周りに強い気が集まっていく。カナンもまた赤く眼を灯しながら、彼女の動きを探る。ジュリは、左足に気を溜めこみ、カナン目掛け足を蹴りあげる。カナンはそれを避ける。彼女の足はコンクリートの床を打ち砕き、その破片と共に、彼女のピンク色の気がカナンを襲う。カナンは彼女の攻撃を避けたが、その気の残骸による、弾き飛ばされる。

「あ~~あ~~わりぃ、わりぃ、ちょっと本気だしちまったかなぁ?」

 ジュリは、謝る仕草を見せて、倒れているカナンを見る。カナンは動かない。その様子を呆然と眺めている加納。ジュリは、首をかしげた。

「もしかして殺しちまったか?ったく、なんだよ。折角楽しめると思ったのに期待外れかよ?」

 ジュリは、カナンから振り返り、エレベーターにと向かう。残念と肩を落としながら、だが、その背後では既に立ち上がっていたカナンがいる。

「憎悪」
「あん?」

 振り返ったジュリは、カナンが何を言っているのかわからない。カナンは、白髪の髪の隙間から、その赤く灯った瞳でジュリを見つめる。ジュリはその視線が自分のすべてを見透かすようなそんな瞳。

「哀しみ、怒り、苦しみ、それらの様々な人に抱いている感情が、すべて憎悪になっている。だから貴女は誰を憎んでいるのかわからない。ただすべてが憎い……」
「ふ、フフフフ、ひゃははははは。お前は、なんだ?心理カウンセラーかよぉ?それがお前の能力だとしたら随分とお粗末だな?ああ?」

 カナンは、片手に銃を握り、片手にナイフを握り、ジュリにと近づく。ジュリは、目を細め、この命知らずを殺すことだけを考える。片方の脚を、背中につくのではないかというほどに下げ、一気に蹴りだす。ピンク色の気と共に、まっすぐカナン目掛け、床を削り、空気を吹き飛ばす。

「カナン!!」

 思わず声を上げる加納。

「……わかりやすくて、助かるよ。感情をそこまで露わにして」

 ジュリは、その声のほうを見る。カナンは、銃を向けジュリにと告げた。ジュリは、確かにカナンに狙いを定めたはずだ。なぜ?ジュリは、舌打ちをしながら、宙にと飛び上がる。目が輝き、彼女の足がピンク色にと輝く。

「何が何だかわからねぇーが、避けれねーように全部吹っ飛ばしてやらぁ!!」

 カナンは目を見開く。

 彼女はまっすぐこちらにと突っ込んでくる。銃を放ち、動きを止めようとするが、銃弾は彼女には効かない。カナンは咄嗟にその場から床を蹴り上げ離れる。ジュリの蹴りが、床を抉り。それは先ほどの蹴りの比ではない。床を削った先ほどの気ではなく、今度のは、壁を貫くような蹴り。コンクリートがまるでまるで木の板のように、粉々になり、宙に巻きあがらせる。ジュリは、コンクリートをぶち抜きながら、その視線はカナンを追っている。宙にと浮きながら、カナンは銃をジュリにと向けていた。放たれる銃弾。ジュリの目が輝き、ジュリは片手を銃弾にと向ける。それは、弾かれ消される。

「何度やっても同じだっつー…!?」

 ジュリが、伸ばした腕を引くと、目の前にはカナンの姿。

「こいつ……吹き飛ばしたコンクリートを足場にして私に突っ込んできたのかよ!?」
「銃がだめなら、至近距離で!!」

 ナイフを握った腕を伸ばす……切った感覚はあった。だが、それは浅いもの。ジュリは、目を細め、痛みに耐えながら、飛び込んできたカナンを膝打ちする。カナンの体は宙にと舞って、コンクリートの床にと叩きつけられる。

「くはあっ……」

 思いっきり、吐きながら、カナンは四つん這いになり、大きく息を吐く。

「てめぇ……やってくれたじゃねぇーかよ!」

 ジュリは、腰回りを切りつけられ、そこから流れる血を手でぬぐいながら、カナンを睨みつける。カナンは、虚ろな意識の中で、ジュリが再度ピンク色のオーラで身を包む様を見る。

「粉々にしてぶっ殺してやる!」

 ジュリは、再度、飛び上がり、その足に気を集中させる。今度こそはずしはしない。その体の骨と肉が滅茶苦茶に砕け散るのを思い浮かべ、一気にカナンごと床を抉ろうと狙いを定める。だが、そのジュリの真横から、現れた影……。

「キャノンスパイク!!」
「!?」

 ジュリは攻撃を止められ、その長い脚の蹴りを、まともな防御も出来ずに受けてしまう。彼女は、そのまま、壁にと叩きつけられ、崩れ落ちる。その露出の高い軍服を身にまとった女……キャミィは、ジュリが、倒れている間に、カナンのもとにと駆け寄る。

「大丈夫か?」
「……あ、あぁ」
「あんな化け物相手に一人で戦う勇気は認めるが……。とにかく、一度、ここから引くぞ」

 キャミィは、カナンにと告げる。カナンは、なんとか立ち上がる。キャミィは、ジュリに警戒するように銃を向けている男にも目をやる。

「そっちの男もだ」
「わ、わかった……」

 キャミィはカナンと加納を連れて、警視庁玄関から外にと出ていく。キャミィは、やはり、こうなってしまったかと強く、拳を握りしめる。長官が告げていた通りの結果。アルファルドは、自ら、この警視庁という場所を私物化するために、わざと捕まった。そして、彼女の駒にはジュリ。元SIN構成員がいるということ。厄介な奴が敵に加わった。

「くっ……うぅ……」

 カナンは、そのまま意識を失ってしまう。



Side 大沢ひとみ



「姉さん……姉さん……」

 すがるような声で、周りを見渡すひとみ。彼女は、姉であり大沢マリアとはぐれてしまい、途方に暮れていた。渋谷では、それこそ突如現れた<奴ら>により、多くの人間が、襲われ、そして<奴ら>として、再び人を襲う……その悪循環が繰り返されていた。ひとみは、姉であるマリアが仲間になっていないことをただ願いながら、必死に探していた。折角の、クリスマスなのに……。

「私が、私が……呼びだしたりしなければ、こんなことには」

 ひとみは、マリアの休みの日を利用して、こうして出かけてしまった……そのせいで、巻き込んでしまったことに、罪悪感を感じずには居られなかった。マリアに何かあれば、それは自分のせいだ……ひとみは、そう強く思いながら、逃げ回る人の流れの中で、必死に姉の名前を叫びながら、捜そうとしていた。だが、彼女の正面からは雄たけびと共に、<奴ら>が迫っていた。

「!?」

 血まみれの<奴ら>は、逃げ惑う人間対に襲いかかり、皮膚を、腕を、足を、体を食いちぎり、引きちぎっている。それは、とても現実の光景とは思えない。ひとみは、震えながら、立ちつくす。

「何やってるんだ!逃げろ!」

 ひとみの腕を掴んだのは、黒髪の男子。ひとみは、恐怖におびえながら頷くだけだった。

「孝!人助けなんかしてる場合じゃない!」

 彼の名前は、孝というらしい。彼の名前を呼んだ女の子は、怒鳴り散らすように言いながら、その手には、掃除用具の箒が握られている。それを手にして、迫りくる<奴ら>の武器にしようとしているのか。

「どっちにしろ、地下鉄沿線から奴らが出てくるようじゃ、東京都の渋谷区内は危険ね。この場合、考えられる安全な場所は……東京都の主要政府機関が存在している、千代田区内、皇居、警視庁ね」

 眼鏡をかけていた女の子が、そう告げる。

「ちっ……冴子さんの行方も分からないまま、逃げるしかないのか」
「孝!この状況じゃ、捜すなんてできない!!今は、逃げることを考えるしかないわ!」

 捜す状況じゃない……。
 その言葉は、姉であるマリアを捜していたひとみにとっても、胸に残る言葉だった。周りからは悲鳴が響き続ける。ひとみは、意を決して、その屍の中にと向かおうとする。諦めるわけにはいかない。それは、もう十分知った。教えられた、あの渋谷の事件の時に。だから、諦めない。どんなことがあっても。

「おい!どこにいくんだ!!」

 孝が、ひとみの手を握り、離さない。

「私は、姉さんを捜す!!」
「……俺も、大切な人を捜している」

 孝は、ひとみを掴んだまま、うつむきながらつぶやき、ゆっくりと顔をあげた。

「君の姉さんのことを教えてくれ。一緒に探しだそう」
「……」

 ひとみは、自分の気持ちをわかってくれた彼の言葉が嬉しかった。



12月24日時刻は、21時15分。

血まみれのクリスマスイブは、いまだに終わらない。










[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 ep3
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/07/02 23:33





Side アルファルド


12月24日 
東京都千代田区警視庁 地下中央コントロールセンター
現在は、テロリスト『蛇』によって完全に制圧された場所となっている。

イスに座り、正面に映し出される映像を眺めるアルファルド。

「……英国人か」

 そこには、ベレー帽をかぶった金髪の女が、ジュリに対して攻撃を仕掛けているところだった。突然の奇襲に、ジュリは、気を失った……その間、カナンを連れて、彼女達は警視庁から脱出することとなったのである。ジュリは、苛立ちながら、画面を見つめる。

「キャミィ。忌々しい英国の特殊部隊だ」
「なるほど。まぁいい……連中は逃げた。脅威を排除したことに変わりはない」
「おいおい、放っておくのかよ!!こっちは、獲物を横取りされた揚句に、やられちまったんだぞ!!ふざけんなっ!ぶち殺さなきゃ気が収まらねぇ!!」

 荒れるジュリをアルファルドは一瞥しながら、画面を変える。そこに映し出されていたのは、刀を握り、<奴ら>を切り裂く一人の少女。目の前に迫りくる敵を一網打尽にする長い髪をなびかせるその女は、目を細め、どこか笑みを浮かべている。

「なんだこいつ……」
「平和なこの国にもいるんだな、私達と同じ血を持つものが」
「あん?どういうことだ?」
「フ……、しかも……」

 画面に映る刀を振う女の背後をついていく、見かけた顔の女……。これはまさしく運命であると言える。カナンを追い詰める存在を『二人一緒』に発見してしまうとは。

「アルファルド様、日本国首相との電話準備整いました」
「……わかった」

 アルファルドは、マイクのスイッチをいれる。
 ジュリは、機嫌悪そうに、テレビ画面を眺めた。そこでは髪の毛を乱したアナウンサーが必死になって原稿を読んでいる。


『……12月24日東京都渋谷区渋谷駅地下鉄構内で発生した暴動は現在も続いており、政府は、東京都都民に避難命令を宣言し、政府の対策本部を、お台場に設置、避難民もお台場に誘導しているとのことです。尚、警察だけでは事態収拾が困難として、自衛隊を要請しました。現在、横須賀基地から、自衛隊が出発しており……』


「……ああ、貴方が日本国、内閣総理大臣だな?」

 その隣では、アルファルドが、笑みを浮かべ、口を開けた。






学園黙示録×CANAAN

Episode3 夕闇に立つ剣士×闘争代行人の光






Side 毒島冴子


「はぁ……はぁ……」

 それは軽い準備運動で流す汗、そして整った息遣い。

 体は、まだまだ動くし、とても調子がいい。手には警棒の代わりに、刀が握られ、刀を振れば、血がコンクリートにと飛び散る。冴子は、背後にいる大沢マリアがついてきているかを確認しながら、刀を握ったまま、走り出す。目の前に現れる<奴ら>の首をはねる。噛まれなければ、感染はしないし、問題はない。冴子は、その力強い太刀裁きで、敵を切り裂いていく。そのたびに心が高揚していく。


 興奮……する。


 刀は、道路で倒れていたヤクザと思われる人間から拾った。抵抗しようとしたが途中で力尽きたのだろう。刀としては、まぁまぁではあるが、それでも警棒というものよりよっぽど、頼りになるし、私向きだ。私は、私達の道を省くものをすべて打倒していく。すべては生き残るために。そうだ、私たちは生き残るために戦っているんだ。

『……』

 目の前にたつ大柄な会社のスーツを着た年老いた男。それもまた<奴ら>である。私の前、血を零しながら、歩いてくる<奴ら>。私は、その男が、あの私を襲おうとした輩とかぶる。私は、強く首をはねてやる。抵抗も出来ず、そのまま、コンクリートに潰れるように倒れる。私は、大きく息を吐き、刀を振り、血をコンクリートにと飛ばす。



「さ、冴子さん?」



「ん?どうした?」

 振り返った冴子の前には、怯えた表情のマリアがいた。まだ、どこかに敵がいるのか……そう思い周りを見渡す。だが、<奴ら>はいない。

「な、何度か呼んでたんですけど、聞こえませんでしたか?」
「ああ、すまない……」

 自分で驚く。

 どうやら、戦いに集中しすぎてマリアの声が聞こえていなかったようだ。冴子は、自分が怖くなる。抑えていたあの痴漢を叩きつぶした時の感情が甦ってくる。冴子は、腕を強く握りしめて、大きく深呼吸する。戦いを欲してしまっている。それは自分の限りない欲望。

 マリアの前に立つ冴子は『怖かった』それは味方であっても……。舌舐めずりをして、目をぎらつかせ、次の獲物を捜している。そして、こんな彼女の目を持ったものをマリアは知っていた。

「……アルファルド」

 マリアはポツリとつぶやいた。
 幾度ともなく、自分やカナン、ひとみ、お父さんである大沢賢治を追い詰め、苦しめたその女の名前。彼女の瞳と冴子の目は似ていた。狂気に満ちたその目。マリアは背筋に寒気が走る。

「マリア?」
「は、はい。あの……これを」

 それは、電気屋で売られているテレビから流れている報道番組である。慌てふためいた表情で、アナウンサーが、避難地域を告げている。千代田区、渋谷区、新宿区……。

「お台場が安全な地域となるのか」
「でも、ひとみたちも、無事ならここに向かってるかもしれない」
「そうだな、孝も……きっと」
「そうすれば、こんな地獄からも出ていける」

 そういうと、マリアは、ポケットからカメラを取り出し、写真を撮った。その撮り方から彼女が、カメラマンであることを冴子は気がついた。このような戦場でも彼女は取り乱しはしない。普通なら、混乱し、泣き出す者がいても不思議ではない。

「そうだな、行こう……マリア。君の道は、私が作り出そう」
「……冴子さん、強いんですね」
「強いかどうか……それは、この状況下では、体力、技術的なものとは違う。精神的なものでなければいけない」

 冴子は、マリアに優しく告げる。
 そう……精神的に強くなければ、この狂気に飲みこまれる。現実とはかけ離れた世界に飲みこまれる。冴子は、マリアとともに歩き出す。自分が飲みこまれないように……。ただ戦いに身を置けば、すべてを忘れられる。


「……」


 血がコンクリートに闇の中飛び散る。

「はあああっっ!!!!」

 冴子は雄たけびと共に、目の前の障害を切り裂く。

 すると、建物から飛び出してくるスーツ姿のサラリーマン風の男……。腕を血にまみれさせたその男は、、建物の中から現れた<奴ら>に噛まれ追いかけられていたようだった。マリアは思わず声を上げる。男を聞いた<奴ら>はこちらにと視線を向けた。冴子は、握った刀で、表情一つ変えず、切り捨てる。

「た、助かった……」

 道路に倒れていた男は、大きく息を吐きながら、顔を青白くさせて、冴子とマリアを見る。マリアは手当てをしようと近づくが、そのマリアの前にと手を伸ばす冴子。

「冴子さん?」

 マリアの問いかけに、冴子は視線をその倒れた男にと向けたまま、握った刀を倒れている男にと向ける。

「え?」
「……噛まれたものは、<奴ら>になる。残念ながら、今ここで貴方を救う手段はないし、その時間も猶予もない」
「は!?お、おい、ふざけんなよ!俺はあいつらになんかなりたくねぇし、こんなところで死にたくもないんだ!助けてくれ!お願いだ!」

 すがりつくように冴子にと近づく男。

「そ、そうだよ、冴子さん。なんとかして助けてあげよう?まだこの人は人間なんだから」
「私は、マリア……君を助けると約束した。毒島家の女が約束をたがえることはない。そして、その約束遂行のためには、あらゆる障害は、排除しなくてはいけない」
「冴子さん!?」

 マリアが冴子を止めようとするが、冴子は、刀を握ったままマリアを振り切り進んでいく。倒れている男は怯えながら、冴子を見つめている。

「お、おい、本当に俺を切るのかよ!?俺はまだ人間で、生きてるんだぞ!殺人になるんだぞ!それがわかっているのかよ!?できるわけねぇーだろ、お前みたいな高校生のガキが!」
「……すまない」

 冴子は、そのまま、男の首をはねた。
 男の体は、コンクリートにと沈み、溢れでた血が、コンクリートを流れていく。マリアは視線を逸らす。

「嫌ってくれてもいい。だが、私も、そしてマリア、君も生きてなすべきことがあるのだろう?」

 彼女は……冴子は、マリアにそう告げる。

 マリアは、うつむきながら、『うん』と頷いた。マリアは、冴子のしていることに従うしかなかった。生きるためには……冴子の行うことは必要なことなのかもしれない。冴子の決断力、それはカナンにも通じる。アルファルドの狂気と、カナンのようにぶれない決断力と実行力。マリアは、冴子のその力に、頼れると思っていた一方で恐怖を感じてもいた。



流れる沈黙。



「……」

 とうとう生きている人間にも手をかけてしまった。冴子は、自分の手を見つめながら嘲笑する。こんな血まみれの姿で、自分は孝たちの元にと出迎えてもらえる立場なのだろうか。自分の中の闇が解放されていくのがわかる。そして、それに心酔しはじめている自分もいるのだ。





Side キャミィ



 予期せぬ事態というのは、常に起こるものである。それは、秘密結社シャドルーやS.I.Nとの攻防でも十分知っているつもりではあった。だが、今回のような最悪なケースはあまりない。警視庁は既にアルファルドの支配下に置かれ、その手下には、元S.I.N、そして、自分や春麗を倒したハン・ジュリがついている。増援の見込みはないとはいえ、日本の首都圏である東京は、今や<奴ら>が徘徊する無法地帯と化している。今の仲間といえるのは、警視庁の刑事であるという加納、そして、このジュリと戦っていた白髪の少女、カナン。

「くっ……ま、マリア」

 その意識がはっきりまだしていないカナンから漏れた言葉に、キャミィは、その名前を持つ少女を思い出す。それは、米国で出会った日本の女性記者。同じ名前を持つ少女か。

「すまないな、助かった」

 加納は、眠っているカナンを見つめたまま、イスにと座る。
 キャミィは車を走らせ、近くの病院にと駆け込んだ。病院は、既に誰もいなくなっており、何人かの<奴ら>がいたが、それらはすべて排除し、カナンには点滴等の処置をキャミィは施していた。

「応急処置だ。しかし……ジュリとの戦いで、ほぼ無傷なこの女。何者なんだ?」
「……俺も詳しいことは知らない。だが、アルファルドを追っている味方ではある」
「素性もわからない者を信じろというのか?」
「それは、あんたもそうだ」
「な!?私は……」

 キャミィは大きな声をだそうとするが、それを手でジェスチャーし、声の大きさを落とせと示す加納。キャミィは、加納の動きを見て、立ち上がり、大きな声を出そうとしたのをやめ、イスにと座る。

「どちらにしろ、相手は蛇のアルファルド、そしてあのジュリっていう女。カナンの力があったほうがことは有利に進む。違うか?」
「……確かに、この状況下では、少しでも味方は多いほうがいい」

 キャミィは、渋々、加納の言葉に同意する。


「……お前は、誰だ?」


 ベットの上から聞こえた言葉に、キャミィと加納が視線を向けた。ベットの上、ゆっくりと起き上がろうとするカナン。痛みが走るようだ、加納がすぐにカナンを支える。カナンは視線をキャミィにと向ける。キャミィは、彼女を見つめ、頷いた。

「私の名前は、キャミィ。英国の諜報員だ」
「アルファルドを捕まえに来たのか?」
「……当初の目的では。だが、状況が変わった」

 キャミィはイスに座ったまま、腕を組み話を続ける。

「アルファルド率いる蛇は、警視庁を制圧。さらに、東京都内は、蛇の細菌兵器だと思われるものにより、人間が死んだ状態で徘徊し、生きた人間を襲っている状態だ。警視庁に出向き、奴らを捕まえるのは至難の技だろう」
「そうか……そうなった場合、上海の二の舞になる可能性があるな」
「上海?」

 カナンの言葉に黙って聞いていた加納が、声を出す。カナンは何も言わずに、キャミィのほうを見た。キャミィは顔をあげて、カナンと加納を見る。

「おそらくは、米国政府は、上海国際会議でも行おうとしたB案、都市部における限定的な爆撃を行うだろう」

 上海国際会議で行われた蛇によるテロでは、米国の最新鋭ステルス爆撃により、各国首脳ごと爆撃をしようとした……それが、米国政府のやり方である。カナンは、それを己の力を使いとめることが出来た。だが、あれはまぐれだ。二度やれと言われて成功する可能性は低いだろう。

「……東京がなくなるっていうのか」
「これ以上の犠牲者を出さないためには仕方がない」
「だが、そうなればアルファルドの思うつぼだ」

 テロリストに対する強硬的なメッセージという意味で、その爆撃という手段は正しいのかもしれない。だが、アルファルドは、そんな手段など別に怖いなどとは少しも思わない。テロリストにより、国際会議がめちゃめちゃにされたという彼女からのメッセージのほうが大きいということを知っているからだ。しかも、彼女に他のテロ組織から多額の武器の売買が行われたという話も聞いた。

「避難が完了していない現在では、都市部の爆撃はまだ難しいはずだ。今の内に、アルファルドを捕まえる」

 キャミィは、立ち上がり、告げる。

「私も行く」

 カナンもキャミィにと告げた。
 キャミィは、カナンを見つめる。彼女としては、怪我をしているはずの彼女が足手まといにならないかを考えていた。

「……貴女が何と言おうと、私は行く。アルファルドのことは熟知しているつもりだ」
「わかった。だが無理はするな。相手が相手なだけに私もいちいち構ってはいられない」
「言ってくれるね……わかった」

 カナンは、そういうとベットから起き上がる。痛みはまだあるが、戦闘に支障が生じるほどではない。それに、今はここで、とどまっている場合ではない。これ以上、悲劇を重ねないためにも、そしてアルファルド自身のためにも、彼女を止める。

「俺も……」

 加納が言葉を続けようとしたが、キャミィの鋭い視線が加納を貫いた。加納の言葉が止まる。

「貴方は、東京都から外にと出るべきだ」
「待ってくれ!警視庁の建物構造は俺が一番わかっている!なにかしら役には立つはずだ!」
「……彼の言うことにも一理あるよ」

 カナンの言葉に、キャミィは小さくため息をつく。

「……まったく、好きにしろ」

 キャミィはそういうと部屋から出ていく。カナンは、キャミィの何も言えない表情を思い出しクスリと笑みを浮かべ、ベットから降り立つ。思わず倒れそうになるカナンの体を支える加納。

「大丈夫なのか?お前に何かあったら大沢マリアに申し訳が立たない」

 加納の言葉にカナンは加納から体を離し立ち上がる。

「マリアだって今もどこかで戦っているはずだ。彼女の戦場で。私は、そんな彼女に負けたくない。私は私の戦場で戦う」

 カナンは加納の目を見ずに告げる。

 加納は、カナンとマリアの絆の強さが並大抵のものではないことを知った。カナンというテロリストとただのカメラマンであり記者である大沢マリアの間には、大きな隔たりがある。それは世界が違うというレベルでの壁。だがそれでも、二人が互いを思いやっているというのは、それを乗り越えるだけのことがあったからなのだろう

「おい、何をやっているんだ?置いていくぞ!」

 キャミィの言葉が聞こえ、カナンと加納は顔を合わせて部屋の扉を開けて追いかけていく。




Side 大沢マリア



 沈黙が二人の間には続いていた。
 マリアは、その空気を変えようとした。彼女は自分のために行動してくれている。マリアは、自分にそう言い聞かせ、戦闘を歩いていく冴子の前にと駆けだした。冴子は、突然前にと飛びだしたマリアに足を止める。マリアは振り返り、冴子を見る。

「冴子さん?今、何時?」
「そうだな……今は、子の刻、12時を回ったところだな」

 マリアの問いかけに、冴子は答える。マリアは、前にあるコンビニを指差した。

「お腹すかない?」
「そういえば……孝たちと食事と言って結局食べれていなかったな」

 冴子は、そこで、この混沌とした暴力の世界から一瞬、元の日常にと戻れた気がした。冴子は、コンビニの中を見て、そこに<奴ら>がいないことを確認すると、ゆっくりと扉を開ける。中には誰もいないようだった。おそらくは、逃げたのだろう。それか、<奴ら>となり生きたものを追いかけていったのか……。どちらにしろ、食糧は豊富にある。

「泥棒……かな」
「この状態だ、仕方がない」

 冴子は、マリアにそう告げるとパン類を手にし、袋から開け口にと加える。

「美味しい……」

 マリアは小さな声でそう漏らした。冴子は隣で、美味しそうに食事をするマリアを見つめながら、自分は、おにぎりを頬張る。マリアは、冴子が食事をする姿を見つめ、頬笑んだ。彼女は、ふと気がつくと鼻歌を歌っていた……。それは、カナンがよく歌っていた歌。

「……♪……♪」
「……綺麗な歌だな」
「私の大切な人がよく歌っていたんです」

 マリアは、冴子の問いかけに答える。

「妹君の?」
「いえ、中東に行ったときに知り合った……戦争の中で、懸命に生き抜いている私の、友達がよく……歌っていたんです」
「なるほど……。マリアのその冷静さは、そういった経験からのものか」

 冴子は納得したように告げた。彼女の、この誰もが発狂するような状況での冷静な行動は、冴子も見習うことがあったからだ。

「……冴子さん」
「?」
「冴子さんは、その私の友人に似ています。自分の行動に、迷いもなく、生きるために、目的のために、障害を排除する。私は、そんなはっきりと行動することができない。だから羨ましいなって、正直にそう思います。だけど……冴子さん、私は……そのために、何かを失ったり、犠牲にしたりすることは……よくないと思います」

 マリアは、冴子を見ることなく告げる。

「違うな、マリア」

 その言葉に、マリアは冴子のほうを見た。冴子は、自分の手を見つめながら、体を震わしていた。

「私は……、私の欲望をただ抑えているだけなんだ。マリアの友人とは違うよ。私はもっと、どうしようもない人間だ……」
「ううん、冴子さんは、そうやって自分をしっかりと認識できている。だから、冴子さんは、冴子さんが思っているほど、酷い人間なんかじゃない。自分の闇と向き合って、戦っているんだから」

 自分の罪を、闇を、マリアが認めて許してくれる。冴子は、その言葉に、救われる気がした。冴子は、向き直りマリアを正面から見つめた。

「……マリア、ありがとう」

 冴子は、そういうと、彼女の隣から離れ、窓の外を見る。ガラスの窓に何匹か<奴ら>がこちらにと近づいている。ここも、安全ではない。先を急がなくては……。冴子は、刀を握る、熱い息を漏らしながら、自分の胸の中からわき上がる黒い欲望。だけど、それを冴子は、力とする。自分はマリアとともに生きる。そのために、その欲望さえ、力と変えよう。

「……行こう、マリア」

 そう言った冴子の背後で電話が鳴る。それはコンビニの電話のようだった。マリアが振り返り電話を見つめ、少し戸惑いながらも受話器をとる。もしかしたら、救助隊からの連絡ではないかと、そんな淡い期待を込めながら……。

「……もしもし」

 マリアの問いかけに、受話器の向こうから声が聞こえた。


『大沢マリアだな?』


 その声は……。

「……アルファルド」

 戦慄……、マリアは受話器を握ったまま、声を失った。かつて、何度も自分や、カナン、ひとみ、お父さんを窮地に追いやった人間。アルファルドは受話器の向こう側で、微笑んでいる。

『お前の妹は私のところにいる。家族を取り戻したければ、警視庁にと来い』
「ひとみ!?ひとみがいるの!?」

 そのマリアの動揺した言葉に、冴子は振り返る。何か異常事態が起きていることを冴子は察した。マリアは、受話器をその手から落とす。冴子は、マリアにと駆け寄った。マリアはその目に涙を浮かべ、崩れ落ちる。冴子は、マリアを抱えることしかできなかった。外を彷徨い歩く<奴ら>から見られるようにして、マリアは、小さな声で嗚咽を漏らしながら、冴子にすがることしかできなかった。










[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 ep4
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/07/09 22:50






Side 大沢ひとみ


「お前の妹は私のところにいる。家族を取り戻したければ、警視庁にと来い」

 アルファルドは、受話器を握りながらそう告げると、その鋭い視線を床に倒れ、その手足を縛られている、黒髪の少女にと移す。受話器を握り、大沢マリアと瓜二つの容姿であるひとみの前にと電話の受話器を寄せる。

『ひとみ!?ひとみがいるの!?』

 愛する姉さんの声が聞こえる。本当は喋りたい、怖くて怖くて仕方がないから。姉さんが生きてくれていたことも嬉しくて。だからこそ、自分のせいで巻き込みたくない。今日のクリスマスは、自分が姉さんと一緒に過ごす特別な日だったのに。自分のせいで、こんな目にあって、さらに迷惑をかけるなんて、絶対にできない!

『ひとみ?ひとみ!』
「強情なのは、姉譲りのようだな……」

 アルファルドが合図を送ると、ジュリがひとみの髪の毛を掴み、引っ張り上げる。激痛が走り、ひとみは、目に涙を浮かべ、悲鳴をあげてしまう。ジュリは、髪の毛を離し、大きく息を吐くひとみの声を、受話器越しにアルファルドはマリアに聞かせた。

『やめて!アルファルド、お願い……ひとみに酷いことしないで……』
「ふ、フフフ……警視庁で待っている。急いだ方がいい。お前の大切な妹に会えなくなるかもしれないからな」

 アルファルドは受話器を切る。
 ジュリは、大声で笑いながら、床に這いつくばるひとみを眺める。

「あ~あ~、喋っちゃって。あんな悲鳴あげちゃったら、きっとお姉ちゃんは、心配で心配でたまらなくて、来ちゃうだろうなぁ~~」

 ジュリは、倒れているひとみにと腰をかがめて挑発している。ひとみは、涙を流しながら、ただうつむくことしかできなかった。アルファルドは、ひとみを見下すように、イスにと座る。ひとみは顔をあげ、目の前に座るアルファルドを睨みつける。二人の視線が交錯する。






学園黙示録×CANAAN


Episode4 隻腕の蛇×迷える剣士





Side 大沢マリア



「なにがあったんだ?マリア!」

 嗚咽を漏らすマリアを支えながら毒島冴子は問いかける。マリアは、涙を流しながら、顔を上げて冴子を見る。マリアは、冴子を見つめると、少しずつ話を始めていく。

「……い、妹が、ひ、ひとみが……捕まった」
「妹君が?一体誰に!?」
「……アルファルド」

 冴子は、その名前をテレビで聞いたことがあった。渋谷ウイルステロ事件、上海国際会議でのテロ事件等。世界各国でテロ活動を行っている凶悪なテロ組織『蛇』を指揮するもの。それが、マリアの妹をさらった?冴子は、にわかに信じられない。だが、マリアのような純粋な少女が、嘘をつくようにも思えない。

「妹君は、どこに?」
「ダメ!冴子さんには関係ない!!私一人で……」

 マリアは、冴子を見つめて告げる。
 冴子は、笑みを浮かべマリアの肩を掴む。

「私は、君を助けると約束した。最初は<奴ら>から君を守り抜くことだった。それが少し変わっただけのことだ」
「そんなの……アルファルドは<奴ら>と違う!」
「今更、私を一人にするというのも酷いとは思うが?」
「でも……」

 マリアは自分たちのことに、冴子を巻き込むことが嫌であった。アルファルドは、自分を邪魔するものに容赦はしないだろう。そして、冴子さんは、戦うつもりだ。そんなことをしてもし冴子さんに何かあったら……。

「真正面から行くつもりはない……妹君を含めて、みんなでこの場所を脱出する」
「……」

 マリアはゆっくりと頷く。

 冴子は、刀を握り、コンビニの出入り口にと向かっていく。どちらにしろ、このような事態を引き起こした相手を誰かが打倒さなければ、この地獄は永遠と続いていく。そして、それを撃ち破れれば、逆に、この地獄を終えることが出来るのだ。冴子の手に力が入る。おかしな話だ。自分は、これからアルファルドという凶悪なまでのテロリストと対峙をしているというのに、気持ちが高鳴っている。

「……私は、戦うことに興奮しているのか。命のやり取りをすることになるかもしれないというのに」

 コンビニから足を踏み出し、冴子は、自分の手を見つめ告げる。

「冴子さん?」

 問いかけたマリアのほうを見て、冴子は、笑みうを浮かべる。

「行こう……場所は?」
「……警視庁」

 冴子は、頷き、刀を握ったまま道を急ぐ。
 本来捕まえるべきであろう組織、その中で一番の重要な役割を持つ場所を、手中に収めている。相手がどれほどのものかは容易で想像が出来る。冴子は、急ぐ。それは、マリアの妹を助け出すため……自分の心の中でそう言う裏では、アルファルドという存在に強く興味が湧いていた。まだ夜が明けない寒さが身にしみる空の下、割れた商品ケースのガラスの向こう、大きな液晶テレビでニュースが流れている。


『……12月24日20時から東京都内各地で発生した、大規模な暴動事件の続報です。避難先のお台場で、首相は、先ほど記者会見を発表し、自衛隊からの救出活動を開始したと発表。また、今回の大規模暴動事件は、テロリスト『蛇』によるウイルステロ事件であることを明かしました。今回のウイルスは、人間の凶暴性を上げ、無差別に攻撃するように仕向けるものであるとのことです。いまだ、東京都内には多くの逃げ遅れたものたちがいるとされ、自衛隊の一刻も早い、救助が待たれます』




side アルファルド



「……日本政府には、なんて注文つけたんだ?」


 ジュリは、周りでパソコンなどを弄っているテロリストたちの中、1人、アルファルドの隣で、背を伸ばしながら、準備運動をしている。キャミィに攻撃をされた痛みもあるのか、たまに、目を細め痛みに耐えている。アルファルドは、ジュリを見ることなく、東京都内の各地に配備された監視カメラを眺めていた。逃げ出そうとして捕まり、体を食われる男。噛まれた彼氏を置いて逃げようとする彼女。その彼女もまた、別の<奴ら>に捕まり悲鳴を上げている。人間の脆い感情現れ、皆、自分の命のために、他者を陥れている。助けようとして、食われてしまうものもいるようだが……。

「別に、彼らには何も求めないさ。まあ、テロリストの体裁として、身代金2000億円、逃走用のヘリを警視庁屋上に用意し、羽田空港に燃料満タンのジェット機を用意しろと言ってはいるが」
「アハハハ、随分とありきたりなテロリストじゃねぇーか」
「私が求めるのは、この地獄絵図を世界中に見せつけることだ。日本のマスコミは優秀だよ、世界中に恐怖を知らせてくれる」

 アルファルドは、床に倒れている大沢ひとみを見る。

「かつて、お前たちは、私の計画を打ち破り、渋谷を救った」
「……」

 アルファルドと出会うきっかけとなった渋谷ウイルス事件。大沢マリア誘拐に伴い、ひとみが、解放するための身代金を受け渡しを行うよう告げられた。あの事件がすべての始まり。あの事件で、自分達の人生は変わったと言っていいだろう。それは結果、最良の結果で、終えることが出来た。

「お前たちが守った街は、今、目の前で崩れ落ちている」

 ジュリが、倒れているひとみをイスに座らせ、画面を見せる。

 画面に映る光景。

 それは、まさにアルファルドが言ったような地獄絵図としか言いようがない光景だった。渋谷は、完全に<奴ら>の巣と化し、逃げ惑う人々は無慈悲に食い殺されている。ひとみは、視線を逸らすが、ジュリにより、それさえ出来ない。頭を抑えつけられて、無理矢理、その光景を見せられる。ひとみは、涙を浮かべながら、何も言うことが出来なかった。

「自分の境遇が不幸だと思うか?」

 アルファルドはモニターからひとみにと視線を移す。
 ひとみは何も答えられなかった。

 答える気力が彼女にはなかった。

「不幸なのは、ここにいる人間たちだ。世界の凄惨な状況に目にも向けず、社会という機械に取り込まれ、己の欲望を殺されている。哀れだな、自分の能力を発揮できぬまま、飼い殺しにされる。自分の居場所を見つけられぬまま…」
「……これが、貴女の求めている居場所だとでもいうの?」

 ひとみは、虚ろな目でアルファルドに問いかける。先ほどまで友人だった、家族だった、恋人だったものたちが怪物となり、襲いかかり、殺される。こんな地獄が、求めている場所だというのか。

「フ……アハハハハハ」

 アルファルドは、ひとみの問いかけに、大きく、声をだして笑う。それは、部屋の中でよく響いた。アルファルドは、ひとみのほうを見ると襟首をつかみ、自分にと顔を向けさせる。その表情は狂気に満ちていた。

「お前達にはわからないだろうな。生まれながらにして周りすべてが敵であるという環境。信じられるものなど何もない。私には、それが普通で、それが居場所なのさ。今更、それを否定などさせない。私にはそれでしか生きることが出来ないのだからな!」

 アルファルドは、ひとみの襟首から手を離す。

「ジュリ」
「……ちょうどいいタイミングだぜ。お客様、ご到着だ」

 モニターが切り替わり、映し出された映像。
 そこには、警視庁玄関前に姿を現す、大沢マリアの姿であった。ひとみは、目を見開き、縄で縛られた体を前のめりに出す。

「ね、姉さん……だめ、ダメぇ!!来ちゃダメ!!」

 ひとみは、大声をあげながら、モニターに向かって叫ぶ。その声は、マリアに届くはずもない。ひとみは、何もできない自分の無力さに、テーブルに顔を伏せ、すすり泣く。

「丁重に、迎えてやれ」

 アルファルドの言葉に、数人のテロリストが頷き、部屋を出ていく。アルファルドは、モニターに映る大沢マリアの様子を眺める。




Side カナン


「……マリアの光が見える」

 カナンは、立ち止まり、そうつぶやいた。

「何をしているんだ?早くしろ!」

 キャミィが、足を止め、カナンのほうにと振り返り言う。病院の目の前に止めていた車両は、既に多くの<奴ら>に取り囲まれてしまって、乗ることが出来ない。しかも、車の音に集まったのか、病院周辺は、既に<奴ら>に取り囲まれていた。キャミィたちは、病院内の薬物を用い、簡易的な爆弾を作成、それを囮として脱出を図ろうとしていた。

「マリア……」

 カナンは、再び走り出す。

 病院から外にと投げ出された爆弾は、大きく光を放ちながら、辺りの<奴ら>を巻き込み、大きな音を響かせた。炎が、<奴ら>にとつき、手足を吹き飛ばした。カナンたちは、その中を、走り抜けていく。

「おい、車はどうするんだ?このまま走っていくのか!?」

 加納の言葉に、キャミィは、いまだ集まってくる<奴ら>を排除すべく、走りながら体勢を低くし、飛び上がる。そのまま、<奴ら>の頭を蹴り飛ばし、首をヘシ折る。カナンと加納は銃を握り、頭を向かって撃ち抜く。

「どっちにしろ、このままでは危険だ!」
「わかっている!」

 キャミィは、乗り捨てられている車を発見すると、其処に向かって走り抜く。危険がないかを即座に見て、ガラスを割り、ドアを開け、乗り込む。

「な、慣れているな」
「いいから早く乗れ!」

 キャミィの言葉に、加納が後部座席にと乗り込む、カナンは、キャミィがエンジンをかけようとしている中、近づいてくる<奴ら>を正確に撃ち抜いていく。だが、数が数だ。

「急いで!弾がもたない!」
「やっている!」

 キャミィが、車を弄りながら、エンジンをかけた。カナンは音を聞くと、すぐに車にと乗り込み、窓ガラスを開けたまま、銃を撃つ。キャミィはアクセルを踏み、そのまま、その場から走り抜ける。振り返ったカナンの視界には燃え盛る炎と、こちらにと燃えながら、追いかけようとする<奴ら>がいた。カナンは大きく息を吐く。

「なんとか脱出できたね」
「……まったく、無茶を考える。病院の出入り口に手製爆弾を使って道を開けようとするなんて」

 キャミィは、カナンの発案した作戦に冷や冷やさせられたことを、愚痴っている。キャミィは、運転をしながら、カナンをフロントガラスで見る。

「さっき、マリアといったな」
「あ、うん……」
「それは大沢マリアのことじゃないのか?」
「マリアのこと知っているの!?」

 マリアの話題に食いついたカナンの表情は、先ほどまで、淡々と銃で対象を撃ち抜いていた存在とは思えない少女の表情だった。

「まさか、英国軍人が、大沢マリアのことを知っているとは……。あの子は一体どこまで有名人なんだ?」

 加納は、苦笑いを浮かべながら、あのくったくのない少女のことを思い出す。どこまでも純粋で、強い心を持っている少女であった。

「……この間、米国で知り合った。まさか、そのとき言っていた奴がお前だったとは」
「そっか。マリアの知り合いなら……貴女はいい人なんだね」
「そこで判断するのか?……それよりも、それじゃ今まで悪い奴みたいな言い方だが?」

 キャミィの鋭い睨みに、カナンは笑って答える。マリアは変わらないと、カナンは安堵した。シャムを失い、アルファルドを盲目に追う中で出会ったときと同じ。何も変わらない。マリアと出会って、光を取り戻して、カナンは復讐心から解き放たれたのだから。




Side アルファルド


「来たわよ、アルファルド。約束通り!」

 アルファルドの前につれてこられた大沢マリア。マリアは、ヘルメットを被ったテロリスト一人に拘束された状態で、この部屋にと連れてこられた。ジュリが腕を組み大沢マリアを眺めている。マリアは、そんなジュリに決して怯えることなく、まっすぐジュリの奥……アルファルドを見ていた。

「しかし、本当に瓜二つだな。並んだらみわけがつかねぇ」
「……ひとみはどこ」
「けっ、この威勢のよさも姉妹同じか?」

 ジュリは、吐き捨てるようにいいながら、テロリストに顎で指示をする。テロリストは、縄で縛られた状態のひとみを連れてくる。マリアは取り囲んでいるテロリストたちを気にもとめず、ひとみを抱きしめた。ひとみは、疲れ切った表情で、マリアの肩に頭を乗せる。

「姉さん……ごめん、私……私」
「何も言わなくていい……貴女がいてくれれば、私はそれだけでいいから」

 マリアは、ひとみの体を包みながら優しくつぶやいた。

「感動の再会のところわりぃーけどよ。こっちは、こっちでやることがあるんだ?」

 ジュリは、目を輝かせながら、二人にと告げる。マリアは、ひとみを庇うように自分の背にとやる。ジュリは首をかしげる。

「アハハハハ、無駄な抵抗だってわかってやってるのかよ?こんな取り囲まれた状況で、何かお前たちにできるっていうのだ!?あぁ??」

 ジュリは、ケラケラ笑いながら、マリアとひとみを見る。マリアとひとみを取り囲むようにしているテロリストたちの手に握られた銃が、マリアとひとみを狙っている。マリアはそれでも決してひとみから離れようとはしない。

「ひとみ、目を閉じていて」
「……」

 マリアの言葉に、ひとみが、ゆっくりと目を閉じ、マリアもまた目を閉じた。ジュリはその二人の行動に、意味がわからなかった。だが、ジュリの視界で、赤い血が飛び散るのを見た。ジュリが視線を移すと、ヘルメットを被ったテロリストが、その手に刀を握り、取り囲んでいたテロリストの一人の腕を切り落としていた。

「てめっ!!?」

 ジュリが声を荒げる中、テロリストが銃を放とうと、そのヘルメット被った兵士に狙いを定めようとする。だが、次の瞬間、ヘルメットを被った兵士は、マリアとひとみを中心にして、弧を描くように刀を回す。

「伏せろ!」

 そのヘルメットを被った女の声に、マリアとひとみは、その場でしゃがむ。二人を取り囲んでいたテロリストたちは、首から血を噴き上げ、あたりを潜血に染めていく。ヘルメットをその場で、脱ぎ捨てる兵士……毒島冴子。長い髪の毛が舞う中、彼女の足は、既に次の獲物を捉えるために踏み出されていた。その素早さに面喰ったジュリの奥……微笑むアルファルドにと。

「アルファルド!!その首、貰い受ける!」
「……フ」

 アルファルドにと抜いた刀。アルファルドは、コートを舞わせながら、冴子の一太刀を、身を返し避ける。冴子は、咄嗟に、刀の向きを変えて、真横にと切りつける。だが、それもまたアルファルドは、足を大きく広げ、身を低くしかわす。彼女の髪の毛の数本が、切られ、宙を舞った。

「くっ!!」

 目を細める冴子。

「速度、技の切り替え、どれも天性の才能だ……だが」

 アルファルドは、姿勢を戻すと、冴子の軸足を蹴りつける。バランスを失った冴子は、そのまま、倒れそうになる。だが、握っている刀を手離しはせず、アルファルドに再度、真横に切りつけようとした。その時、頭に当たる冷たい感触。冴子の握っていた刀が止まる。

「お前と私とでは圧倒的に違うものがある」

 冴子の額に当てられていたのは、アルファルドが握っている銃である。冴子の刀は、アルファルドの首を狙っていたが、その刃は止まっていた。アルファルドは、微笑みながら冴子を見つめる。冴子の脳裏には死の一文字が浮かんだ。目を開けたマリアもまた、絶望の表情が浮かんでいる。ジュリは、微笑みながら、その引き金の引かれる音を待っている。アルファルドは、白い歯を見せて、口を開けた。


「……お前と私とでは、経験値の差が桁違いなのさ」


 銃声が室内にと響いた。














[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 ep5
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/07/15 23:56







Side 毒島冴子


 銃声が轟く中、毒島冴子は、自分に痛みが走らなかったことに戸惑いを覚えた。目の前で、自分を見下ろす女……アルファルドの握っている銃からは、薬莢の匂いがする。事実、彼女の放った銃弾は、冴子のわずか隣に放たれ、床にめり込んでいた。アルファルドは、銃を握ったまま、冴子と視線を絡ませる。

「自分が殺される寸前だというのに、笑っているのか?」
「え?」

 冴子は、そこで自分の顔がどうなっているかを知る。冴子は、身を震わし、怯えていると自分で感じていた。だが、それは違った。
 それは武者震い、そして……これは歓喜。自分よりはるかに強い相手に出会えたことに対する喜び。自分より強いものを打ち倒したい願望。

「やはり、お前は……私と同じ血を宿しているようだな」
「どういうことだ!?」

 冴子が問いかける。アルファルドは、目を細め、微笑む。

「戦いたいか?」
「な……に?」

 アルファルドは、銃を冴子から離すと、冴子にと背を向けた。冴子は、立ち上がり刀を握ったままアルファルドの背中を見る。

「このまま、私を殺せば、お前はまたいつもの何不自由ない平和、暴力などない、ただいつもと同じ生活を繰り返すことになる。退屈で、無感動、なんの刺激もない普通という名の生活、人生がお前を待っているだろう」
「!」
「だが、お前が望めば……そんなお前を拘束する日常から解き放とう」

 振り返ったアルファルドは、冴子と対峙する。
 冴子は明らかに自分が動揺していることがわかった。

「何を言っているの!?アルファルド!!」

 マリアが大声をあげる。
 冴子は、その言葉に一瞬、現実にと引き戻された。何を考えているんだ。相手は、テロリスト。自分がその仲間になるなどと……ありえない。冴子は自分の理性に働きかける。

「本当に、お前はそれでいいのか?あの甘美な刺激を、二度味わえなくなっても」

 耳元に囁かれる悪魔の声。
 冴子は、身を震わした。かつて、アダムとイブは、悪魔サタンが蛇に化けた姿で、禁断のリンゴを口にし、天界から追放された。今、目の前にいる女は、間違いなくそれだろう。人間の姿を借りた蛇。悪魔であるということ。アルファルドは、冴子から身を離す。


 冴子の脳裏にあの暴漢を叩きつぶした時の記憶がよみがえる。

<奴ら>になりかけた人間を、殺した時の記憶が呼び覚まされる。

 マリアとひとみを守るために、テロリストを刺殺した感触が残る。


 アルファルドと対峙し、戦った時の胸の高鳴り……。

 冴子は、膝を落とす。

「……冴子、さん?」

 マリアは、冴子が膝をついたことに、目を見開き、彼女の名前を呼んだ。冴子は、マリア達に背を向けたまま、床を見つめ、握っていた刀をその手から落とした。

「……」

 アルファルドは、冴子を見下ろしたまま、白い歯を見せて笑う。小さく最初は、声が聞こえない笑い声だったものが、徐々に大きく部屋に響き渡るような声で……。





学園黙示録×CANAAN

Episode5 もう一人の闘争代行人×堕ちた剣士




Side カナン


「問題は、どうやって侵入するかだ」

 キャミィが、警視庁の建物を眺めながら、振り返り加納を見る。

「建物内部、後周辺は監視カメラが設置されていて近づけばすぐに、接近したとばれてしまう。そして、おそらく奴ら……アルファルドがいる場所は、地下にある非常時に情報が集まるコントロールルームになるだろう」
「爆撃されても、地下なら安全というわけか」

 キャミィは、苦々しく答える。
 カナンは、そんな二人のやり取りを見ながら、一度目を閉じて、ゆっくりと目を開けた。その瞳は赤く輝いている。

 共感覚……。

 カナンは、銃を握りながら警視庁の内部構造を見定めようとする。そこでカナンは、光の感覚を感じ取った。それは、その場所に彼女の大切な者がいることを示している。

「……マリア」
「なに!?」

 キャミィが、カナンの言葉に目を向ける。カナンは、確かに其処に感じ取った。大沢マリアの光の痕跡。

「よくも……こんなに事件に彼女は巻き込まれる」

 米国での事件を思い出し、キャミィは、言葉を漏らす。カナンは、加納の方を向いた。

「ここから先は、私とキャミィで向かう」
「だが……」
「貴方がいけば死ぬ。間違いなく」

 カナンの鋭い視線に、加納は、何も言い返すことが出来ずに頷く。加納は、警視庁の裏からの出入り口を、カナンとキャミィにと伝えた。そして、警視庁の建物の別の階層から、現在の状況を伝え、増援を送ってもらうように誘導をするということを決めた。カナンとしては、相手が人質、しかもマリアが関わっているということでより慎重になる必要があった。その場合、加納を守りながらの戦いは、かえって危険であると判断した。それに、加納は警視庁の人間だ。この建物構造を理解し、助けを呼べる可能性は高い。

「死ぬなよ……二人とも」
「元々、そんなつもりはない。これくらいの修羅場はくぐりぬけている」

 キャミィはそう答え、警視庁にと足早に向かっていく。その背中を見るカナンは加納を見て

「二人で、いや……マリアともう一人の、同じように光る子がいる。その子も合わせて必ず戻る」
「わかった。俺は俺でやることをやってみる」

 カナンは、加納にそう告げると、キャミィを追うようにして、警視庁の建物にと向かった。あちこちに監視カメラがあることは理解している。キャミィとカナンはそれらを転がっている無人の車を影にしながら、近づいていく。


「……それで、作戦はあるのか?」


 キャミィの問いかけに、カナンは、瞳を赤く灯しながら

「残念だけど、ここ以外の道は排気口のダクトぐらいしかないかな。それに、対テロ用の施設だから、外からの侵入に対しては、隙間がほとんどない」
「そんな施設が簡単に敵の手におちるとはな……奴らはどうやって、侵入した?」
「警察にまぎれて……」
「なら、相手の手をそのまま返してやるか……」

 キャミィは、周りを見渡し、敵の偵察の兵士がいるかどうかを探る。それらから敵の姿を借りようと考えた。だが、カナンの共感覚は、別の事実を感じ取っていた。それは血の匂い。誰かがここで、誰かを殺害している。それはマリアの光の痕跡線上にあった。マリアが誰かを殺し、建物内にはいった……いや、それは考えられない。可能性はあるだろう。だが、その考えをカナンはすぐに否定した。それは、マリアという存在を知っているカナンだからこそ、得た結論だ。

「マリアと一緒に誰かが、中に入った」
「……マリアが中に入ったのは連れてこられたのではなく自発的に向かったのか?」
「もしかしたら、マリアも、誰かが捕まっていて助けに行った……」
「マリアなら考えられるな」

 キャミィは、マリアの心優しい一面を思い出し答える。米国での事件において、マリアは、記者として、犯罪者に自分から直接インタビューを行ったことがある。彼女のその度胸と、常人では考えつかないような行動力には、自分だけではなく、犯罪者であるはずの人間にも、考えを変えさせるような、そんな影響力を持った不思議な存在であるといえる。

「……別の案でいく」

 カナンは立ち上がり、キャミィにと告げる。

「なに?どうするつもりだ?」
「私の後ろについてきて……、道を作り出す」

 カナンはそういうと銃を握りながら走っていく。キャミィは、突然走りだしたカナンを慌てて追いかけていく。カナンは、銃を向け、監視カメラから発する視線を視覚で、聴覚で捉え、その場所を特定し、銃を放つ。カナンは、それを繰り返しながら、警視庁の玄関にと入っていく。警視庁に入ってもカナンは、的確に監視カメラを撃ち抜いていく。

「それが、お前の力か……」

 エレベーターの前にと来たカナン達。
 キャミィは、カナンの力を見せつけられ、思わず声を漏らす。

「この力でも、私はあの禍々しい目を持つ女には勝てなかった。あの女を止めた貴女の力が必要だ」
「ジュリのことか……。お前に頼られるのは悪い気はしないな」

 キャミィはそう告げながら、エレベーターを二人で見つめる。エレベーターの数字が上がってくる。カナンはそこに多くの敵兵士がいることを察知する。キャミィとカナンは、目配せをしながら、頷く。



Side アルファルド



「監視カメラ、B-2、A-3沈黙」
「警視庁内の玄関前のものもすべて破壊されています」

 建物な中で飛び交う声に、アルファルドは全く興味がなさそうに、イスに座りながら、鼻歌を歌っている。そんなアルファルドを見つめるジュリ。

「なあ、上の連中始末していいのか?」
「好きにしろ」

 アルファルドは一言答える。ジュリは、笑みを浮かべながら腕を鳴らし、不意打ちとはいえ、ダメージを受けた借りを返そうと部屋から出ていこうとする。そんな中、部屋の中で大きな声が響いた。

「アルファルド!!」

 それは、縄で縛られている大沢マリアである。彼女の隣では、疲れ切った表情のひとみが、マリアと同じように縛られて床に座っている。マリアはアルファルドを睨みつけ、大きく息を吐いている。アルファルドはその言葉に、ようやく、鼻歌を止めて、マリアのほうを見る。

「……何が目的なの!?また私達?なら、私が人質でも何にでもなる。だからもうこれ以上関係のない人を巻き込むのは……」
「お前たちはただのおまけだ」

 アルファルドは、マリアに告げる。マリアは、アルファルドのその言葉に呆然としながら、モニターのほうにと向き直る。

「私はただビジネスをしているだけにすぎない。今回は、新しい兵器の公開だ。なんせ、どこの国家も実際の力を見たがっているものだからな」
「なにをいって……」

 マリアには、アルファルドが何を言っているのか理解できなかった。ビジネス?これが、これだけ多くの人間が巻き込まれているというのに。それがただの仕事だというのか?マリアの目の前ではアルファルドが、ノートPCを打ちこんでいる。

「お前達に見せてやろう。本当の世界の現実という奴を」

 アルファルドの前、モニターから声が聞こえてくる。

『アルファルド、今回の薬……買わせてもらうぞ』
「さすがに早いな。隣国での騒ぎに過敏に反応したか?」
『なんとでもいうがいい。口座はいつものところでいいのだな』
「ああ、将軍……。日程等は後ほど」

 モニターからの声が途絶える。アルファルドはモニターを眺めながら、

「今のは北朝鮮の将軍だ」
「アルファルド様、エジプト、イスラエル、アフガニスタンからも今回の薬を買うと連絡が来ています」
「なんで?目の前でこんなに人が死んでいるのに……わかっていないの?」

 マリアは、モニターに映し出される様々な国家、テロ組織が、薬を手に入れようとアルファルドに売買を申し込んでくる様を聞いている。東京の惨状を見ているはずだ。それを見ながら、わかっていながら……。

「これがお前達が、平和と呼んでいる裏の真実の姿だ」

 アルファルドは振り返り、マリアを見る。

「世界は常に紛争と戦争に満ちている。小規模な戦争によりガス抜きが果たされ、結果、過去二度に渡る世界大戦は防げている。テロだってそうだ。我々は必要悪であり、我々を妨げることは、世界を絶望に満たすことと同じだ」
「そんな……世界で起きている戦争は、紛争は、仕方がないというの!?」
「そうだ。調整された人口削減、戦争は実に使い勝手がいい」

 アルファルドは、何も言えないマリアとひとみを見下しながら告げる。そんな中、一人の部下が、アルファルドのもとにとやってくる。

「アルファルド様、夏目と名乗る女から電話が」
「……」

 アルファルドは携帯を手にする。
 夏目…偽名ではあろうその女の名前。正体は日本政府の諜報部の女スパイだ。

『お久しぶりです。アルファルド……』
「日本をここまで実験場にしたことに対しての抗議の電話かな?私を利用し利益を手に入れていたことは知っている。だから、今度は私がお前達を利用する番だ」
『残念ですが、貴方のような一人のテロリストに負けたとあっては国の威信にかかわりますので』
「それならどうする?お前の自慢の闘争代行人は、私をもう何度殺し損ねているのかな?」
『……安心してください。今回は別の代行者を用意していますので』
「別の……?」
『どうぞ、じっくりと楽しんでください』

 夏目の淡々とした口調の電話が切れる。
 アルファルドは、受話器から手を離す。

「どうした?なにかトラブルか?」

 ジュリがアルファルドにと声をかける。
 アルファルドは、画面を見ているテロリストの兵士を見た。

「上に行った部隊はどうなった?」
「まだ、敵を把握はしていないとのことですが……うっ、銃声です。応答せよ、敵対勢力の数は?相手は誰だ?」

 アルファルドが、通信機のイアホンを耳にと当てる。耳元から聞こえてくるのは銃声のみ、それも、やがて静まり返る。何者かはわからないが、こちらにと近づいてくる者がいる。監視カメラを壊し近づいてきたカナンたちは、こちらと極力戦闘を避けようとしているのだろう。だが、こいつとは違う。

「エレベーターが動いています!」
「エレベーター前の監視カメラをモニターに映し出せ!」

 アルファルドの正面モニターに映し出されるエレベーター前の映像。テロリストたちが、エレベーター前にと並び、銃を構えている。その様子を、アルファルドだけではない、マリア、ひとみ、ジュリが眺めている。やがて、エレベーターが開く。そこに現れた人間。ヘルメットを被り銃を持っている。テロリストたちは銃を放ち、その人間を撃ち抜く。だが、その抵抗もせず、ただ銃を食らっているその謎の敵に、違和感を覚えたとき、ヘルメットが銃の衝撃で飛び、既に息絶えたテロリストの一人の顔が現れる。

「!?」

 瞬間、エレベーターは爆発。
 監視カメラは一気に爆風で吹き飛び映像には何も映らなくなる。その爆音と、振動は、部屋内で様子を見ていたアルファルドたちにも伝わる。

「舐めやがって、人質がいることを知らないのかよ!」

 ジュリは舌打ちをしながら、壁にもたれながら、吐き捨てるように告げる。マリアとひとみは互いを庇い合うようにして、衝撃に耐えた。アルファルドだけは、イスから立ち上がり既に映らなくなった監視カメラを眺めていた。

「……なるほど。面倒な奴を放り込んでくれたな」

 アルファルドは、そう告げると、振り返り監視カメラを眺めているテロリストたちを見る。

「作戦を繰り上げる。順次、施設から撤退準備。外国との売買は続行。最低限のものさえあればいい、後は破棄しろ」
「おいおい、逃げ出すっていうのかよ!?」
「此処は戦場になる、大事なものを破壊されるよりかは、どかしておいたほうがいいだろう」
「はあ?っていうか、誰が来たんだよ。キャミィとそのカナンって奴じゃないのか?」

 さっきから淡々と指示を出しているアルファルドに、ジュリは面白くなさそうに声を荒げる。そんなジュリの肩を掴み、アルファルドは、ジュリの耳元に口を寄せた。ジュリは突然のことに驚く。

「この混乱に乗じて、奴らも来るだろうな。……お前の憂さ晴らしが出来そうな展開だ。期待をしているぞ?ジュリ……」

 アルファルドの言葉に、ジュリは、目を細め、頬を染めると大きく息を吐き、アルファルドから体を離す。アルファルドは、ジュリの体からピンク色の強いオーラを放つを見ながら笑みを浮かべ、背後から足音が聞こえてきたほうにと視線を変えた。そこに立つ影を見て、アルファルドは、白い歯を見せる。

「……」
「……似合っているぞ、冴子」

 マリアとひとみの視界の中に映り込んだのは、黒いライダースーツに身を包み、その手には、日本刀が握られている。長い髪の毛をなびかせながら、冴子は呆然とするマリアを見ることなく、アルファルドにと歩いていく。



Side カナン



「ゴホゴホ……」

 キャミィは、まだ燃えている炎の中、大きく穴が開いたエレベーターの残骸をかき分け、廊下にと姿を現す。それに続いてカナンも降り立つ。

「どこのバカだ!こんな堂々と敵に宣戦布告をして、静かに侵入をしようとしてエレベーターをこじ開けて、外壁を下りていった私たちの苦労は……」

 キャミィは、ぶつくさと文句を言いながら、爆発の跡を歩いていく。どうやら、エレベーター内には、倒した敵をのせ、其処に大量の手榴弾を持たせ、銃を撃たせ爆発させたのだろう。

「……こんなことをするのは、彼女しかいない」
「知っているのか!?」

 カナンの言葉にキャミィは振り返り、カナンを見る。カナンは頷くと後ろを見る。するとエレベーターが、ゆっくりと開き、そこから一つの影が姿を現す。黒い髪に、冬だというのに、薄着の恰好。おそらくは、銃撃戦に備えて身を軽くすためなのだろう。中国人系の彼女は、口から煙草の煙を吐きながら、その両手には、拳銃が握られ、彼女の愛銃であるカトラスがある。彼女は、ゆっくりと歩きながら、カナンとキャミィを前にして立ち止まる。

「……久し振り、レヴィ」














[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 ep6
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/07/22 23:19





Side カナン


 その名前を呼ばれた相手は、カナンのほうにと視線を向けると、銃の握り手をカナンの頭にと殴りつける。驚いたのはキャミィだ。

「お、おい!!いきなり何をするんだ!?」
「てめぇ!?どうして、あの蛇女が死んでないって私に言わなかったんだ!?ああっ!?」

 頭を抑えているカナンに、レヴィは怒鳴りつけながら、煙草を吐き捨てる。カナンは頭を抑えながら、涙目になりつつレヴィを見る。

「で、でも……どうしてレヴィが、此処に?」
「夏目とかいう女に、日本にアルファルドがいるって聞いてな。金も出すとか言うし、事件を知ったのは飛行機でだ。あの女の名前がニュースに流れたときはそれこそ、ハンバーガーの肉が、ネズミの肉だと知ったときほど驚いたぜ」
「なんなんだ、この下品な女は?」

 あまりのことに、呆然とするキャミィ。レヴィは振り返りキャミィを見る。

「なんだ、カナン?いつからお前はこんな売春婦と一緒にいるようになったんだ?」
「ば、ばいしゅん!?」

 突然の言葉にキャミィは目を見開く。

「あ、レヴィ……彼女は英国の特殊部隊でキャミィって……」
「聞き捨てならないぞ!今の言葉を訂正してもらう!!」
「そんな恰好でいる奴が売春婦じゃなきゃ、ただの変態だ!」

 睨み合う両者を、カナンが割って入る。

「と、とにかく……レヴィも目的は……」
「あの蛇女を棺桶に縛り付けて、海にたたき込んでやることだ」
「こいつ、本当に頼りになるのか?」
「少なくとも、裸より恥ずかしい格好の奴よりかは役に立つだろうぜ」

 売り言葉に回言葉が飛び交う中、三人は、アルファルドがいるであろう部屋にと向かう。


この戦いを止めるために。

目的を果たすために。

宿敵を打倒すために。





学園黙示録×CANAAN


Episode6 毒・蛇・蜘蛛×二挺拳銃・殺人蜂・闘争代行人





Side アルファルド


「ようこそ」

 扉が開かれた先、アルファルドがイスに座りながら、カナン、キャミィ、レヴィを出迎える。アルファルドの隣には、ジュリ。そして、もう一人は、黒いライダースーツを着た毒島冴子。アルファルドは、現れる三人を見ながら、立ち上がる。既に、部下達は下がらせている。どちらにしろ、この三人を仕止めるのは相応のものでなければ無理だ。

「お前がほしいのは、これだろう?」

 アルファルドが立ちあがりイスをどかすと、その背後には、倒れている大沢マリア、そして彼女と瓜二つの大沢ひとみがいた。カナンは険しい表情で、アルファルドを睨んでいる。アルファルドは、そんなカナンを見つめ笑みを浮かべる。

「誰だ?あれは?」
「私の友達だ」

 カナンの言葉をレヴィは聞いてふ~んと頷く。レヴィは先ほどからアルファルドしか見てはいない。ロアナプラで仕止め切れなかった相手。以前、ロアナプラを舞台に繰り広げられた、蛇との戦い。船上にて彼女を撃ったのはレヴィ。仕止めたはずだったが、彼女はこうして立っている。レヴィとしては、決着をつけるべき相手だ。

「蛇女、私には興味無しか?折角、墓をつくってやったのに台無しだ、私がしっかりと埋めなおしてやるぜ」
「相変わらずだな、二挺拳銃。前も言ったがお前に付きまとわれて喜ぶような趣味は持ち合わせてはいないぞ」

 レヴィの言葉を返すアルファルド。

「なんだ?あの女が、エレベーター吹っ飛ばしたクソ女か?」
「蛇女の趣味は、ヘンテコなもん頭にくっつけた奴がお好みみたいだな」
「んだと!?このビッチ。ぶっ殺すぞ!?」

 ジュリはレヴィの挑発に感情丸出しになり、睨みつける。

「ジュリ……お前を止めるのは私だ。これ以上は好きにはさせないぞ」
「安心しな、てめぇーには、さっきの借りがあるからな?言われなくても……てめぇーは殺害確定だ!!」

 キャミィは静かな声で、対するジュリに告げる。


「……カナン」


 アルファルドの前でカナンを見つめるマリア。
 カナンは、大切そうに妹であるひとみを庇うマリアを見つめ

「妹を助けにきたんだ?」
「うん……」
「大丈夫」

 カナンは力強く言うと、銃を握りしめ、目を灯す。

「すぐに助け出す」
「そういうわけにはいかない……」

 カナンの目の前、マリアとカナンを妨げるように、冴子がたつ。彼女は刀を握りながら、カナンと対峙する。

「冴子さん!!ダメ!」

 マリアは、冴子の後ろ姿を見ると大声をあげる。

 アルファルドは、それらの光景を見渡しながら、銃を握った腕を上げる。それに呼応されるかのように、レヴィもまた二丁拳銃を向け、カナンも銃を向ける。キャミィは、腕を前に出し構え、ジュリは片目を輝かせ、気を放つ。冴子もまた、刀を前にと出し、構えた。


「始めよう……闘争の時間だ」


 アルファルドが引き金を引くと同時に、レヴィも放つ。アルファルドは、瞬時に身をかわし、レヴィもまた、身を低くして、銃の飛び交う弾道から身を避ける。アルファルドは、身をかわしながら、隣から姿を消し、宙を舞うジュリを見た。

「アハハハハハハ!!!!」

 彼女のピンク色に輝く脚は、キャミィを狙い、キャミィはそれを避ける。だが、彼女の足は、キャミィの先ほどまでたっていた場所を抉るように、粉々にする。キャミィは破片を両手で防ぐのが精いっぱいだった。

「くそったれ、また化け物みたいな奴が敵かよ!?」

 レヴィはそう叫びながら、ジュリの攻撃により粉砕した、床の破片を身を床に転がしながら、交わす。室内は一気に戦場となり、アルファルドは、その中を走り、レヴィを狙う。そんなアルファルドをけん制するかのように、銃を放つカナン。

「レヴィ!」
「わかってる!!」

 カナンの言葉に答えレヴィは、物陰から身を出して、二挺拳銃でアルファルドを狙う。だが、彼女が貫いたのは、アルファルドのコートだけである。アルファルドは、レヴィの足元を蹴り、バランスを崩す。レヴィは、崩れ落ちながら、拳銃をしっかりとつかみ、アルファルドを撃つ。アルファルドは咄嗟に、銃を握ったまま、片手で、全身支える逆立ちをして身を返し、レヴィの銃弾から身を守る。

「相変わらずの曲芸師っぷりだな、蛇女!」
「私に会いたかったのだろう?もっと楽しませてくれ」

 逆立ちから、体勢を立て直したアルファルドは、薄着になり、素肌を晒しながら、銃でレヴィを狙う。レヴィもまた、立ち上がり、アルファルドに対抗するようにして銃を放つ。レヴィは、アルファルドの銃撃から身をかわすようにして、室内を走っていく。室内に轟く銃声。レヴィはアルファルドに確かに狙いを定めているが、まるで銃弾がアルファルドを避けるかのように、当たる気配がない。

「ちっ……」
「ひゃっほぅ!!」

 レヴィは、突然の殺気に、体が無神経に反応して、身をかがませる。打撃はよけた。だが、その足から放たれるオーラは、レヴィを掠め、彼女の数本の髪の毛をかき消す。

「はあっ!!!」

 キャミィが、レヴィの頭上で、ジュリの胴体を前蹴りし、距離をとる。レヴィは苛立ちながら、立ち上がり、自分を狙ったジュリに対して銃を放つ。ジュリは、そんなレヴィの銃弾を、目からピンク色の光を灯し、手を前に伸ばす。レヴィの銃弾は、そのオーラに包まれると、まるで壁にぶつかったように凹み、床にと落ちる。

「残念」

 ジュリは、自分のピンク色に輝く瞳を指差し、告げる。

「おい!コスプレ女!なんなんだ、あいつは!?」

 背中合わせになりながら背後にいるキャミィにと問いかけるレヴィ。キャミィは、目の前に迫るアルファルドをにらみながら

「奴の片目から放たれる力は、鉛玉じゃ防がれてしまう。奴を倒すには、その身に拳を叩きつけるしかない」
「なるほど、それじゃ私とは相性が悪いな」
「先ほどまでの威勢はどこにいった?二挺拳銃」
「うるせぇ……ここはお互い、相性がいい奴同士で先にケリをつけたほうが勝ちって言うのでいこうぜ?」
「こんな状況でよくもまあ……」

 キャミィは苦笑いを浮かべながら、こんな状況下でも、楽しく話をしている自分に驚いてしまう。背中合わせになっていたレヴィの腰が曲がる。キャミィは、レヴィの曲がった背中に、自分の背中に体重をかけ、彼女の背中の上で一回転すると、レヴィと対峙をしていたジュリにと相手を変える。レヴィもまた腰を戻し、アルファルドにと銃を向ける。

「不思議な奴だな、お前は」

 アルファルドはレヴィを見つめながら、告げる。

「私やカナンが通ってきた闘争というものを、戦うという意味を、純粋に楽しんでいる」
「へっ……。表面上はビジネス、平和、色々な言葉で人間は取り繕っていやがるが、結局のところは……自分で求めたもの。狂気的な快楽ってやつさ」
「フ……なるほどな」

 アルファルドを見つめ、レヴィは二丁拳銃を交互に放つ。



Side カナン



 部屋中に響き渡る銃撃の音、室内で響きわたるジュリの気の攻撃。その中、冴子は刀を握って、マリアとひとみを、背後に置き、彼女達を庇うようにして立っていた。そんな冴子と対峙するカナン。カナンは、銃を握ったまま、ジュリの色を見定めようとしていた。

「貴女がカナンか……」

 冴子は、日本刀を握りながら、カナンにと向ける。

「青が半分……迷っているのか?」
「迷う……そうだな、迷っていた時もある」

 冴子は、大きく足を踏み出すと、日本刀を真横にと振り、カナンの身を切り裂こうとする。カナンはそれを後ろにと飛び避ける。だが、冴子はカナンの動きを読んでいる。避けたカナンに対して、冴子は刀を握る手を変え、その刀を今度は真上にと振り上げる。カナンは、なんとかそれを寸での所でかわすが、カナンの白い前髪の数本が切れる。カナンは、後ずさりながら、銃を向ける。

「ダメ!!」

 マリアの声に、引き金にかけようとした手が止まる。冴子は、それを好都合として、刀を、上から下、左から右と振るう。カナンはそれをなんとかかわしながら、銃で狙いを定めようとする。

「マリア!彼女は……」
「私を助けてくれたの!冴子さんは!!でも……アルファルドに」

 マリアの声を聞きながら、カナンは目を細める。冴子の色は様々な色が混じっていた。憎悪、哀しみ、怒り、苦しみ、歓喜……。こんな混ざり合った色はカナンは見たことがなかった。しかも、そんな様々な感情がまるで爆発している状態だというのに、冴子の表情は落ち着き、的確に自分を仕止めようとする。

「くっ……こいつ、一体」
「戦わないのか?私が、マリアや妹君である大沢ひとみを、助けようとしたから?甘いな、そのために自分の命を捨てるつもりか!」

 冴子は、刀を振りながら、カナンを壁際にまで追い詰める。カナンは冴子の影を見ながら、目を灯す。このまま、負ければ返ってマリアとそして妹であるひとみが危機に陥る。カナンは、銃を握り、引き金を引いた。カナンの動揺を冴子は感じ取っていた。冴子は日本刀を握り、弾丸を切り捨てる。

「!?」

 カナンは、その驚くべき行動に、面喰う。冴子は、そのままカナンを狙い日本刀で切りつける。カナンは壁から身をかわし、床を転がりながら、再度、銃口を向ける。冴子は、日本刀を振り、カナンを見下ろす。

「もっとだ……もっと、もっと!!」

 冴子は、倒れているカナンに対して、切りつける。カナンは、冴子の攻撃を床を蹴りつけて、身を宙に舞わせ、避ける。カナンは、そのまま両足で着地をすると、腕を伸ばし、冴子に向けて銃弾を放つ。勿論、彼女の命まで奪う気はない。冴子は、そんなカナンの銃弾を再度、刀で両断する。

「ふっ……ふふふふ」

 口元を歪め、冴子は、刀を振り、カナンから離れないように足を踏み出し、ついていく。銃は遠距離での攻撃では適しているが、近距離であれば、刀の殺傷性の高さの方が上である。それを冴子はわかった上で、カナンをつけ狙う。

「くっ!」

 カナンは冴子から距離をとろうと銃を構える。だが、至近距離では、かえって銃の狙いが定めずらい。

「はあっ!!」

 冴子が、真横に刀を振った。カナンはそれを両足で耐えながら、腰を逸らし避ける。カナンは、すぐに身を立て直し、冴子の頭に自分の頭をあてる。冴子は、その痛みから、距離をとった。カナンとしては距離をとれたことは有効である。

「はあ……はあ……はあ……」

 熱い息をする冴子。

 彼女の目は、完全に戦いに飲まれていた。色も青で覆われ、周りが見えなくなっている。彼女は刀を強く握りながら、カナンを見定めている。その瞳は、狂気に満ちている。刀を握ったまま、大きく息を吐く。いつでも攻撃を仕掛けられるように整える。

「……マリア、本当に彼女は、一般人なのか?」

 カナンの問いかけに、マリアはその様子を隠れながら見つめながら頷いた。

 どうかしている……。

 これほどの戦闘に対して、天性の才能を持った人間がいることなど、早々にはない話だ。しかも、彼女はいまだに成長段階にある。自分と戦うことでそれが開花しているようにさえ感じる。

「……狂気に飲まれれば、自分を殺すことになる」
「元々、私の中に隠れてあったものが解放されているだけだ」

 冴子は、一気に距離を詰めてくる。カナンは、彼女の動きに合わせて、銃を放つ。冴子は、まずは刀を横にして弾丸を真っ二つにし、次の弾もまた、彼女の動体視力の中で、はっきりと捉えられ、銃弾を刀で弾き飛ばす。接近戦……カナンは、冴子の共感覚で動きを読み取り、冴子の縦横無尽に振りかざされる刀を、髪の毛をなびかせながら、体の向きを変えて、避けていく。

「アルファルドに屈するな!」
「黙れ!私はけして、屈してなどはいない!!」

 冴子は、カナンと戦いながら、その動きをさらに速めていく・

「……戦うことで、さらに腕が上がっているのか。なんていう奴だ」

 カナンは、冴子の胴体に蹴りをいれ、冴子と距離をとる。冴子は、一瞬身をひるませるが、片手を床につき、足を広げ体勢を維持しながら顔だけはしっかりと前を見て、大きく口を開ける。

「私は……はぁ……もっと……はぁ……強くなれる。自分を解放し……はぁ……苦しみから……取り除かれる」

 冴子は、再度、カナンにと向かおうとした。
 カナンは銃を冴子にと向ける。これ以上、彼女に対して、本気を出さないのはかえって危険だ。彼女は強くなり続けている。いずれは、飲み込まれるほどに。

「「……」」

 二人が、再度銃と、武器を強く握りしめ、勝負をかけようとした時、室内にあるモニターから音が響いた。それは、戦っていたレヴィ、キャミィ、ジュリ、アルファルドたちも動きを止めるものだった。



『聞こえるか!?』



 その声に冴子の表情が変わる。

「た、孝…?」





Side 小泉孝


 小泉孝は、他のメンバー宮本麗、高城沙耶、平野コータ、そして加納とともに警視庁内での放送室にいた。孝たちは、警視庁にと武器になるものを探し出そうと玄関に入ったところを、蛇のメンバーに見つかり、大沢ひとみを拘束された。彼女を助けようとした所、孝たちは場で銃で脅され、殺されそうになる。そこで、本当ならば、終わっていたはずだった。だが、蛇のテロリストが、誤っていたのは、自分は学生に絶対に負けないという考えもってしまっていたことにあり、大沢ひとみを他の仲間にませ、1人で始末をしようとした、絶対的な慢心にあった。麗は、もっていた掃除用具の棒で、腹部を突き、怯んだところ、銃をコータにと奪われ、撃ち殺された。後は、警視庁内の建物内に立ち帰り、大沢ひとみを助け出そうと考えていた。そこで起きたのが、レヴィが起こした爆発にある。そして、様子を身に玄関を見た際、現れたのは加納であり、今ここに至るわけだ。

「聞こえてるわ!孝!」

 麗が合図を送りながら、放送室のマイクを握り、孝は言葉を続ける。

「テロリスト共、この建物には、既に<奴ら>が押し寄せてきている!逃げ場所はなくなるぞ!大人しく、人質を解放しろ!そうしなければ、お前たちは<奴ら>に殺される!」

 孝がマイクを握り力強く言っているブースの外で、沙耶は腕を組みながら

「人質を解放しろっていうのは意味がわからないわね……」
「ま、まあ、いいんじゃないんですか?」

 コータは、苦笑いを浮かべながら告げる。

「どっちにしろ<奴ら>があの爆発音で、集まってきているのは事実だ。俺たちも、これ以上ここにいるのは危険だ。急いで、建物から出るぞ!」
「今更、間に合うかどうか、疑問だけど」

 沙耶は、窓の外を見つめ、集まり始めている黒い<奴ら>の集団を眺めていた。

「どちらにしろ、連中もあれほどの数の連中を相手にはできないはずだ」
「ああ、そして、刑事さんの言うことが正しければ、下にいるテロリストと戦う連中は、大沢ひとみを助けてくれる。そういうこと?」
「ああ」

 加納は、信じていた。
 あの二人の言葉を、あの二人を。
 ブースから出てくる孝。表情をすっきりとさせた彼は、手にした銃を握りながら、待っていた麗、コータ、沙耶、加納を見る。

「行きましょう、俺達にはまだやらなくてはいけないことがあります」
「はぁ、まったく女がこれだけいるのに、また毒島先輩?」
「い、いやだって……」
「大丈夫でしょう、ほら、冴子さんは強いですし」

 コータの言葉に、孝は頷いた。



 今の彼らには思いもしないだろう。

 捜している彼女が、この今いる巨大な蛇の塔の真下で…、今まさに、テロリストと共に、刀を振いながら戦っていることなど。髪の毛を舞わせながら、刀を握り、大きく息を吐きながら、冴子は、飢えた獣になっているということに。













[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 ep7
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/07/29 23:11




Side 毒島冴子


『テロリスト共、この建物には、既に<奴ら>が押し寄せてきている!逃げ場所はなくなるぞ!大人しく、人質を解放しろ!そうしなければ、お前たちは<奴ら>に殺される!』

 聞こえてくる懐かしい声。
 彼の声は、電話越しでも学校でも聞いた。それなのに、酷く懐かしい声だ。冴子は、孝の声を聞き、安堵した。彼らが生きていることが心配でたまらなかった。それだけが気がかりだった。そして、その心配は解消され、自分の中での不安要素はゼロとなった。これでいい……これで。

「……ふ、ふふふふふ」

 冴子は、うつむきながら、笑みを浮かべる。
 カナン、そして背後で隠れている大沢ひとみ、マリアが冴子を見た。冴子は、顔を上げ、笑みを浮かべている。そんな笑い声が木霊す中、アルファルドが、部屋の扉の向こう……レヴィが破壊したエレベーターの方角を見る。

「どうやら、放送にあったように、<奴ら>が集まってきているようだな」
「なんだ?逃げるのかよ?」

 アルファルドの言葉にレヴィが告げる。アルファルドはあくまで戦いを求めるレヴィを見つめる。

「もう少し、遊んでいたかったのは本心だが。これ以上は計画の支障になる」

 アルファルドは、それだけ告げると、レヴィたちがやってきた出入り口とは別の出入り口にと歩き出す。レヴィは銃を向けた手を下ろす。これだけ無防備にされると撃つ気も失せる。いや、例え撃ったとしても、そんな勝利は何の価値もないということを悟ったのだ。

「命拾いしたな?お前ら?」

 ジュリもまたアルファルドを追いかけるようにして、出入り口にと歩き出す。だが、彼女の場合は、殺気を抑えることはせずに、臨戦体制のままだ。アルファルドは振り返り、冴子を見る。

「冴子」
「……」

 冴子は、歩き出す。その足取りを見つめるマリア。

「冴子さん!!」
「アルファルド」

 冴子は、マリアの言葉を無視しアルファルドにと声をかける。アルファルドは冴子を見つめたまま、彼女の言葉を待つ。

「彼女達は足手まといになる、おいていくべきだと思うが」
「……好きにしろ」

 アルファルドは、目を閉じ答え、部屋から出ていく。それを追いかけるジュリ。冴子もまた部屋を出ていこうとする。だが出る寸前、立ち止まり、マリア、ひとみを見ることなく、口を開ける。

「マリア、約束は果たした」
「冴子……さん」

 冴子は、そのまま部屋を出ていく。マリアとひとみの前で、彼女は、アルファルドを追いかける。その場に残されたカナン達は、戦闘で破壊されたその部屋に立ちつくす。




学園黙示録×CANAAN

Episode7 生きる者×生きた屍



Side キャミィ


「おいおい、私たちもさっさと脱出しようぜ!さすがに、<奴ら>大勢に囲まれたら、弾がもたない!」

 キャミィの後ろでそう騒ぎ立てるレヴィ。キャミィはその中、戦闘で破壊された中、資料や、壊れていなかった奇跡的に残っているPCを弄っていた。マリアとひとみ、カナンは、部屋の扉にバリケートを張っている。おそらくは、すぐにやってくるだろう<奴ら>の攻撃に備えてだ。キャミィは、彼らの目的を明確にしたかった。アルファルドがこれだけの大規模な作戦を立てているのだ。大沢姉妹が聞いたという、新薬の売買だけであるならば、それこそ、どこかの国の奥地でやれば済む。なぜ東京という場所なのか……。

「もう少しでデータがでるんだ」
「ったく、私はどうなってもしらねーぞ!」

 レヴィは、扉の前で様々な瓦礫を置き、バリケードになっている扉を見ながら焦りを隠しきれない。キャミィはそれでも冷静に、PCを操作し、データを見ている。そこに映し出される画像、データはキャミィにとっては、恐るべきものだった。アンブルームの実験。人体実験の出来ごと。消えた村、感染後数時間で発症し。致死率が90%を超える生物兵器。

「なんだこれは……」
「それが、上海でばら撒かれたウイルスだよ」

 キャミィの隣で、そのデータを眺めていたカナンが告げる。

「なるほど、諸外国がアルファルドを恐れるわけだ。こんなものが戦争に使われれば、たちまち、国が滅びる」
「それが奴の狙いだ。世界に疑心暗鬼を広がらせる……アルファルドは世界の敵でありながら、誰も彼女に手を出すことはできない」

 キャミィはカナンの言葉に息をのむ。
 蛇……アルファルドの話は聞いてはいたが、やっていることは世界征服を狙う秘密結社シャドル、S.I.Nと同程度の連中だ。いや、世界征服などというわかりやすく全世界からも支援を得られる明確な敵と違い、蛇は、世界から支援を得ているテロリストといえる。よっぽどやりにくい。おそらくは、ジュリもそこに目をつけたのだろう。

「ご相談は、終わったか?お二人さん。なんだったら、一緒に墓の相談も合わせてどうだ?」
「あいにくだが、私はまだ死ぬ気はない……」

 キャミィは、そのノートPCを手に取り言う。扉がドンドンと物音を立てている。おそらくは<奴ら>がやってきているのだろう。バリケードがあるとはいえ、これがいつまでもつかなどはわからない。

「彼らは、その相談に入りたいようだね」
「冗談、こっちはまだぴんぴんしてるんだ。死体は黙って寝ていてもらわなきゃ困るぜ」

 カナンの言葉にレヴィは答えると銃を握ったままアルファルド達が出ていった出入り口にと警戒をしながら、進んでいく。カナンとキャミィは、レヴィを先頭に立たせ、マリアとひとみを守るようにしながら、進んでいく。

「さっきの女……あれはなんだ?」

 レヴィの言葉に、マリアは、うつむきながら

「私を助けてくれて、ここまで一緒に連れてきた人で……」
「なら、なんでアルファルドと一緒にこっちを襲ってくる?」

 マリアは、なんとなくだが、少ない時間で冴子が、自分の闇を抱えていることを知った。おそらく、その闇を、アルファルドに捕まれたのだろう。彼女を助け出すことはできないのだろうか。このまま……。

「カナン……冴子さんを、助けてあげてほしい」
「一度、闇に堕ちた奴を引きずり上げるのは、無茶な話だ」
「……レヴィ。彼女は私が相手をする」
「カナン、あんまり私情をはさむなよ?倒せるものも倒せなくなるぞ」

 レヴィは、振り返り鋭い視線をカナンにと向ける。カナンはレヴィを見つめ頷いた。そんなカナンの視界の中、入り込んできたのは<奴ら>だ。カナンは、銃弾を撃ち込み、脳天を吹き飛ばす。

「レヴィ!伏せろ!!」

レヴィは振り返って、襲ってきた<奴ら>を踏みつける。

「野郎!ざけやがって!!」
「まずいな、ここも安全ではないということか……、マリア、ひとみ。離れるなよ」
「「うん」」

 キャミィは、ノートPCをマリア、ひとみ達に渡して、蛇の目的などのデータの解読を行ってもらいながらあちこちに気を配る。道は複雑だが、それはカナンの共感覚により、迷うことなく進むことが出来ている。問題は、この道がどこに進んでいるかということだ。アルファルドたちが向かったことから、それが地獄の一丁目ではないことは確かだが。

「まずいな」

 カナンが立ち止まり、後ろを振り返る。

「どうした?」

 キャミィがカナンの方を振り返り問いかける。カナンは前を見てキャミィを見る。

「バリケードが破かれた。連中が迫ってくる」
「……」

 レヴィ、キャミィ、カナンの三人の視線が交わり、マリアとひとみが鏡合わせのように互いを見る。最初に口火を切ったのはレヴィだ。

「……いそげ、急げ急げ急げ急げ!!」

 それを追いかけるようにしてキャミィとカナンがマリアとひとみを引っ張りながら走っていく。後ろを振り返るキャミィ。連中の脚は、速くはないはずだ。だが、背中に感じるプレッシャーは、大きくなっていく。もうすぐ今まさに、手を伸ばせば届くかのような距離にいるのではないかとさえ感じる。

「扉が見える!おいカナン!あれが出口か!?」

 カナンはそこで、目を見開く。

「レヴィ!待って!」

 レヴィは、カナンの言葉を聞く前に扉を開けた。そこに広がる光景……。それは、大きな巨大なトンネルである。そして、そのトンネルには電車の線路が通っている。そして、周りには、血まみれの死体がいくつかあり、そして、ちらほらと<奴ら>が彷徨っている。レヴィは、銃を握りながら、そこがプラットホームであることを知る。白い明るい光が辺りを照らしている。

「こんなところに地下鉄の駅があるというのは情報ではないな」

 キャミィは、駅を見渡しながら、駅にあるはずのものがないことを知って大きくため息をつく。広い駅のホームをひとみとマリアは、呆然と立ち尽くしていた。

「ここは政府専用の脱出用の地下鉄ホームか……」

 日本政府が、緊急対策用に設置した地下鉄の路線。対テロ、または震災用に設置されたものであったのだろう。だが、それは、皮肉にもそのテロリストによって運用されてしまったことになる。おそらくは、最初の地下鉄占拠事件は、この路線を知るため、または既に知っており、活用するために襲ったのだろう。

「政府高官が、首都圏脱出に使用する場所は……」
「そんなのは、決まっている。空港だ」

 レヴィがタバコに火をつけながら、告げる。

「なるほど……ここから一番近い空港は、羽田空港。首都圏昨日は完全にマヒしている、彼女たちの逃走を妨げることはできない」
「このままだと、私たちは三人そろって奴らが高跳びする様を、黙って眺めていなくちゃいけないということだな。なんだったら、見送りにでも行くか?」

 レヴィは、キャミィにと視線を送る。
 無論、キャミィとしてはみすみす、彼らが逃げる様子を黙って眺めているつもりはない。だいたい、まだ自分たちは彼女たちの目的さえいまだにつかめきていないのだから。

 そんな中、銃声が響く。

 振り返ったキャミィとレヴィ。そこには、カナンが銃を握り、血まみれの中、動き出していた死体の頭を撃ち抜いていた。此処も安全ではない。急いで移動しなければ……キャミィがそう指示を出そうとした時だった。

「これって……」

 それは大沢ひとみの声だ。
 彼女は、キャミィの元にPCを持ってくる。それは、アルファルド達が残したPCである。そこに書かれていることに目をやるキャミィ。

「なんだ、これは……」

 そこには驚くべきことが書かれていた。

『……我々が開発したウーアウイルスは、最終段階に入りつつある。ウーアウイルスは、感染者を死に至らしめるだけでなく、遺伝子を変質させる効果があることは既に、過去の実験で証明されている。だが、現在の実験体の数では、この遺伝子の変質までの過程すべてを証明し、応用し兵器に転用するのは難しい。以上のことから、多くの人間を実験体として徴収する必要がある。そのために、我々は、もっとも効果的に、ウーアウイルスの実験が行える周りを海で囲まれた島を候補として選択した。

ニューヨーク(米国)、お台場(東京)……』

「そんな……お台場って、今……」

 マリアは言葉を失う。

「確か、日本政府の緊急対策本部と、東京都民の避難先となっているな。周りを海で囲まれ、<奴ら>の侵入を防げるのに適している……その思惑が逆に奴らに狙われたわけだ」
「なんとか、なんとかしないと!!」
「今更、どうするんだ?私たちが行ったところで、ウーアを止めることはできねぇー。それとも全員を脱出させるか?誰も私たちの言葉なんか耳にはしない、それこそアーメンハレルヤ、神なんていうのがこの世にいなきゃ無理な話だ」

 レヴィは、ひとみの言葉に、嘲笑するように告げる。キャミィはそんなレヴィの言葉に苛立つが事実。自分の力ではこの状況をどうすることもできない。

「私たちは無力だ」

 キャミィは、拳を握りしめながら告げる。

「こんなところで、絶望にふけってる場合かよ?その前に、私たちは死体に地獄に送られちまうぜ?」
「そんなことはわかっている!大声を出すな!奴らがくるだろう!?」
「うるせぇ!コスプレ女!てめぇーこそ、でかい声をだすなっ!!」
「貴様っ!また私の服装をバカにしたな?」
「あーあー、なんとでもいってやる!お前はコスプレの売春婦だ!!毎日男どもに股を広げてやがるのさ!」
「やはり、お前はここで私が……」
「お~お~、やってやろうじゃねぇーか!」

 睨み合うキャミィとレヴィの間を割って入るカナン。それと同時に、キャミィとひとみが、レヴィをひとみが引きはがす。

「ここで喧嘩していても……」
「何にもならないと思うんだけど……」

 苦笑いを浮かべながらひとみとマリアは交互に告げる。そんな中、カナンが自分たちが先ほど出てきた扉のほうを見た。カナンの目が赤く灯る。

「来る……」
「くそったれ!走るしかねぇーのかよ!!」

 カナンの言葉にレヴィと、キャミィは、マリア、ひとみを連れてホームから降り、線路の上を走りだす。それと同時に、扉が開かれ湧きだすように<奴ら>が溢れだしてくる。どうにかして、この場所から脱出、もしくは外に出なければアルファルドたちに追いつけない。それどころか。この地獄の坩堝で、<奴ら>と追いかけっこをしなくてはいけなくなる。そんなとき、カナンの携帯に着信が入った。



Side 夏目



「お疲れ様です。首尾はどうですか?」
『貴女か……。今、それどころじゃ、あっ!れ、レヴィ!?』
『おいこらぁ!!眼鏡女!!どうなってんだ!?』

 夏目はレヴィの大きな声が聞こえる受話器から耳を離しながら、あちこちで炎が上がっている、東京都内を上空から眺めていた。既に時間は、4:00になろうかとしていた。もう少しで夜が明ける。

「その様子ですと、アルファルドには逃げられたようですね」
『逃げられたもくそもねぇ!!あいつら列車で逃げるなんてきいてねぇーぞ!!おい、このクソ女!いい加減に……お、おい!』

 レヴィの次に変わったのはキャミィである。

『貴女が、カナンやレヴィをアルファルドに差し向けたんだな?』
「キャミィ……英国特殊部隊隊員。アルファルドを捕縛するという作戦内容がこうも変わってしまったのには、心中御察しします」
『……今更、そんなことを言っても始まらない。なんとかしてアルファルド達の足を止めたい。後、お台場にはウーアウイルスの爆弾が仕掛けられている可能性が高い。至急、民間人の避難を』
「お台場には、既に数十万人の避難民が押し寄せています。近隣の自衛隊艦船に乗せるのにも時間がかかりすぎます」
『なら、爆薬が仕掛けれている可能性があるところを捜索するしかない』
「人手が必要です。それに自衛隊は、現状の維持で手いっぱいの状態。捜索部隊は編成しますが、それでも、見つけられるかどうかは賭けです」
『ウーアウイルスの色を見出せば問題はない』

 キャミィから次に変わったのはカナンである。

「上海国際会議での、貴方の空爆を阻止した力ならばそれも可能でしょう。ですが、貴方が、お台場に来れば、アルファルドたちを止める戦力が減ります」
『……アルファルドの考えはそこだろう。私と上海で対峙した時も、あいつは同じ手段を使った。自分を追いかけるか、マリアを助けるか……二者択一』
「ならば、今回は……アルファルドを追いかけるか、東京都民100万人の命をかけるということですか」

 夏目の問いかけに、カナンは黙る。

「時間はあまりありません……。アルファルドが飛行機を奪取し脱出後、ウーアウイルスによる避難場所であるお台場の爆破テロというのが最悪のシナリオとなります。羽田まで、政府の地下鉄では、30分ほどで、到着します」

 夏目の言葉に、電話口からざわめきが起こった。

 夏目は、日本政府のエージェントとして、使命を帯びている。それこそ、現在の首相の首がすげ変わってでもアルファルドによる日本首都壊滅は防がなくてはいけない。自衛隊は、既に鎮圧行動に移っており、アルファルドに手を回す余裕はない。あったとしても、彼女の背後にある米帝、英国率いる国家群と対する力は残念ながら今の日本にはまだない。歯がゆいが、今は彼女たちテロリスト…闘争代行人に頼るしかないのだ。

『わかった……』

 カナンは重々しく口を開いた。



Side アルファルド



 揺れ動く地下鉄の車内。
 政府専用車両ということで、内部は様々な高性能の通信システムや、豪華な客席が取り付けられていた。その席に座るアルファルド。そんなアルファルドの隣に立ちながら、時計を眺めるジュリ。

「さぁ、奴らはどっちを選ぶかなぁ。東京都民100万人、それか元凶の私たちか」

 ジュリの言葉にアルファルドは思い返す。
 カナンは、常に自分を追ってきた。自分に戦いを教え込んだシャムを撃った時、彼女はシャムよりも自分を追いかけた。そして中国でも……。奴は、マリアの生存を確信し、自分を追い続けた。

「……おそらくは、私たちだろうな」
「おいおい、お台場に集められた人質には目もくれねーっていうのか、あそこでウーアウイルスが広がれば、あそこにいる人間は死滅、もしくはアンブルームなんていう化け物になっちまうんだぞ?」
「それが、奴らだ。まあ、来たところで……返り討ちにすれば問題はないだろう?」

 アルファルドが、ジュリのほうを見つめる。ジュリは、アルファルドの視線に、胸を震わせながらアルファルドの耳元で小さな声で、頬を染めながら囁く。アルファルドは、そんなジュリの心を手玉に取りながら、その視線は、今……暗闇の中で刀の光を輝かせながらまるで踊るように戦う少女を眺めていた。

「はあ、はあ、はあ……」

 血にまみれながら、冴子は、アルファルドの前にと立った。
 冴子は、先ほどの放送の声で、一瞬、闇から振り返り、光を見ようとした。だから、改めて、彼女には、餌を与えた。アルファルドは、血に濡れた彼女を見つめる。
 彼女の背後には、噛まれて<奴ら>になり果てた、かつての部下たちの死体が転がっていた。アルファルドは、自分に陶酔するジュリの髪の毛を撫でながら、冴子を見つめる。

「……ふ、ふふふ……アハハハハハ」

 アルファルドは、走りゆく地下鉄の中で、笑みをこぼす。


















[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 ep8
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/08/05 22:40






Side 小泉孝


「はぁ、はぁ……麗、沙耶、コータ、加納さん……みんないるか!?」

 警視庁屋上…ヘリポート。

 一行、5人は、放送室にて地下にいるであろうカナンたちに<奴ら>の接近の危機を知らせた後、自分たちも逃げようと一階を目指したが、既に一階は都心部から集まった<奴ら>によって脱出不可能な状態にあり、こうしてただひたすらに、上にと上ってきたのだった。勿論、此処にきて脱出する方法はない。だが、この状況を撮影しているであろう報道ヘリ、もしくは、自衛隊のヘリが駆けつけてくれるかもしれない、そんな僅かな希望にすがりながら、孝たちはここまで逃げてきたのだった。

「なにか、扉を止めるためのバリケード的なものはないの!?」

 沙耶が、周りを見渡しながら、大声を上げる。

「沙耶さん、そんなものを捜している場合じゃないみたいですよ」

 コータは、握っているショットガンを扉から湧き出てきた<奴ら>の一団に放つ。その銃弾は、<奴ら>の手足、胴体を抉り、後ろにいた<奴ら>をまとめて破壊する。

「弾があまりない……」
「此処まで来るのに使ってしまったから……」

 加納と、孝は顔を見合せながら残った弾の数を眺める。

「そこでグズグズしている男二人!戦うのよ……こんなところでまだ死にたくないでしょ!?」

 沙耶は、残っている銃を握りながら、コータとともに扉から湧き出てくる<奴ら>に対して銃を放ち続ける。孝は、銃を手に取り、次々と出てくる<奴ら>に鉛玉を撃ちこんでいく。加納は、その間に携帯を手にして電話をかけた。なんとか応援を……このままでは、全滅だ。

「くそ!!もうこれが最後だ」

 麗に弾を渡すと、孝は苦々しそうに言葉を放つ。麗は、装填しながら、銃を握る。

「孝と死ねるなら……いい」
「麗……」
「ずっと一緒だったから……幼稚園のころからずーっと。だから、最後まで……ね?」

 麗は、孝のほうを見て笑顔で告げた。




学園黙示録×CANAAN

Episode8 攻める者×守る者



Side 大沢ひとみ



「「私たちが行きます」」



 その声に振り返るカナン、レヴィ、キャミィ。
 マリアとひとみはしっかりと手を握り合いながら、電話口に告げる。

「カナンに場所を教えてもらえれば、爆弾の解除とか、そんなのは大丈夫。誰にだってできる。それに、カナン?ひとみはこう見えても、渋谷での爆弾を止めたんだよ?」

 マリアはカナン達を見ながら優しく告げる。

「そんな危険なことをさせるわけにはいかない……。マリア、君たちは……」

 キャミィがマリアの肩を掴み、説得しようとする。マリアがこういった風に行動するのは、知っている。それが彼女の良いところであり、悪いところでもあるのだから。だからこそ、彼女のブレーキを自分が行わなくてはいけない。爆弾の場所はわかるかもしれない。だが、その先は……アルファルドが爆弾護衛のために部下を配置している可能性はある。

「……頼める?マリア、ひとみ」
「おい!カナン、お前、自分がやろうとしていることがわかっているのか!!」

 走りながら、レヴィは、背後に迫る<奴ら>に銃を放ち、少しでも足を遅らせようとしていた。キャミィを見つめマリアは、笑みを浮かべた。

「ありがとう、キャミィ。でもね、私も、役に立ちたいんだ。それがどんな些細なことでもいい。だから、三人は、アルファルドの元に行って」
「……マリア」

 キャミィは、マリアの言葉にもうそれ以上何も言えなかった。彼女の自分を見る鋭い目に、彼女の強い意志を感じたからだ。

『話はまとまったようですね。どちらにしろ、みなさんを回収し、お台場により、羽田空港にとヘリで向かいます。脱出経路をメールします。合流は今から5分後です。では、よろしくお願いします』

 送られてくるメールを見るカナン。レヴィは、銃を放ちながら、

「カナン、道誘導は任せるぜ。私が後ろ、コスプレ女が真ん中だ。」
「……わかった。みんな、ついてきて!」

 カナンはそういうと、暗い地下鉄の線路の上を走りだす。彼女は、レヴィの前を通り過ぎ、レヴィの後ろにと向かっていった。突然、逆走を始めたカナンに、レヴィが振り返った。その表情は呆然としている。

「おい!?どこにいくんだ?」
「いや……脱出経路がこっちらしいんだ」
「そっちは地獄の一丁目だぞ!!」
「時間がない!急いで」
「無視か!!ちっくしょぉ!!こうなったら……」

 レヴィは服から取り出しだ、手榴弾をカナンの前にと投げる。カナンは、レヴィの投げられた目の前にと飛んできた手榴弾を、蹴り、前の方で揺れ動きながら近づいてくる<奴ら>の一団にと飛ばす。爆音とともに、<奴ら>を吹き飛ばす。

「音で、連中が集まってきたぞ!」

 キャミィの言葉通り、音により、こちらにと近づいてくる<奴ら> レヴィは後ろを守りながら、キャミィは掴みかかろうとする、<奴ら>の足を蹴り飛ばし、膝をついたところを首を蹴り、へし折る。カナンは、的確に前にいる<奴ら>の額に銃を撃ち込み、道を切り開いていく。やがて見えた非常口を見つけ、扉を開けて中にと入る。キャミィもまた、大沢姉妹とともに出入り口にと入る。

「レヴィ!急いで」

 レヴィは、一番最後に、こちらにと雪崩れ込もうとする<奴ら>の一人の口の中に手榴弾を咥えこませた。

「死人も腹が減るだろ?こいつの味は刺激的だぜ!」

 そういうと、咥えこませた<奴ら>の顔を蹴り、倒す。レヴィは、扉を閉め、そのままカナンたちとともに、目の前にある階段を昇る。それと同時に、爆音と地響きがした。一行は階段を上りながら、地上にと向かう。

「……ったく、無茶苦茶だな?相変わらずお前は」

 レヴィが、前を走っているカナンにと告げる。

「それはお互い様だよ、レヴィ」
「けっ……、それでこの階段を昇りきればゴールか?」

 やがて見えてくる、光。
 一同が光にと走り込んでいき、扉を開けた。

「ここって……」
「うん。地下鉄の駅だね……こんなところに繋がっているなんて」

 ひとみとマリアが話をする中、周りを警戒するカナン、レヴィ。やはりここにも<奴ら>がうようよしている。もはや東京は完全に<奴ら>の巣窟となっているようだった。

「穴の中はこりごりだ。さっさとでるぞ!」

 レヴィの言葉にうなずきながら、彼女たちは、地下鉄の外にと出る。外にと出た彼女たちの前……風と共に、まばゆい光を放つヘリが道路にと降り立つ。後ろのハッチが開き、そこから姿を現す眼鏡をかけたスーツを着た女……夏目は、風になびく髪の毛を抑えながら、カナンたちをみる。

「こちらです!急いで!!」

 全員が乗ったのを確認すると、ヘリは飛び上がる。レヴィはようやく無事な場所にと確認すると大きく息を吐く。こんな死者の街はごめんこうむりたい。キャミィは、夏目を見ると、情報を伝えようと話を始める。アルファルド率いる敵戦力の情報。軍人として、情報は命にかかわることだというのが分かっているからだ。そして、カナンは、緊張の糸が切れたのか、イスに座りぐったりとしているマリアを見る。そんなマリアが身を預けるように隣で意識を失うように目を閉じる。その隣にいるマリアの双子の妹であるひとみはカナンを見つめ、口を開ける。

「……助けてくれてありがとうございました」
「お礼なんかいらない。私は、ただ自分が大切な人を守っただけだから」

 カナンは、ひとみの言葉に首を横に振り答えた。

「私は……貴女が嫌いです」
「知ってる……色でわかるから」

 カナンはひとみを見つめながら、その共感覚の目でひとみの色を知った。それは最初に出会ったときから知っていた

「姉さんは、貴女に惹かれている。追いかけて……だけど、貴女の前にあるのは危険なことばかり。こんな姉さんだから、貴女の隣に立ちたくて、無理をして、危険なことに巻き込まれて……」
「……マリアのことが好きなんだね」

 ひとみは、カナンの言葉に頷く。

「姉さんは……貴女に憧れてる。貴女が必要だから……」
「大丈夫……私は、負けない」

 カナンは静かに……だが、はっきりと答える。

「……私もマリアが必要だし、マリアは、ひとみのことが必要。そういった繋がりが、いっぱいあって、私達の関係は、人間はみんな繋がり合っていると思う。そういった糸を切って、失わせる奴らを私は許さない。そして、そんな奴らにこれ以上、糸を切らしはしない」
「……貴女がいない間は、私が姉さんを守る。私だって、いつまでも守られてばかりじゃイヤだから……」
「お願いするよ、ひとみ」

 二人は視線を絡ませ、笑みを浮かべる。カナンは、ひとみの色が、嫌いという一色だけではないということも知っていた。もしかしたら、ひとみは自分にとってもいい友人になれるかもしれない。カナンは、そんな未来の可能性も感じていた。

「!?」

 そんな矢先、カナンは、ある別の色を感じ取った。それは、この街に吹き荒れる死の色に対して、しっかりと生きている色……カナンは立ち上がり、操縦席にと向かった。




Side 小泉孝



「まずいです。これ以上は……」

 コータの声が響く。
 <奴ら>の死体を壁にしながら、孝たちは銃を撃ち続けていた。麗は、銃よりも銃剣である剣の部分を用いて、<奴ら>の頭を貫き、仕止めていく。こんなとき、冴子さんがいてくれれば。彼女の至近距離での剣術であれば、弾に頼るしかないこの状況でも、なんとかなったかもしれない。

「くそ……」

 思わず声を漏らす孝。

「孝?」

 麗は、孝の方にと振り返った。孝は、<奴ら>を睨みつけながら、吐き捨てるように告げる。

「こんなところで死んでたまるか!!死ねるか!!まだまだやりたいこと、山ほどあるんだ!!こんなところで……死んでたまるかっ!!」

 孝の咆哮の直後、背後から銃声が聞こえ、彼らの前、襲いかかろうとしている<奴ら>の頭が吹き飛び崩れ落ちる。振り返った彼らの前、そこには、二丁拳銃を握るレヴィ、そして、カナンの姿があった。

「ヘリポートに着陸させて……」

 カナンの指示の元、ヘリがヘリポートにと降り立つ。

「早く乗って!!」

 孝は、麗達を先にヘリに向かわせながら、銃を向け、加納、そしてコータとともに、襲い来る<奴ら>を撃ち抜いていく。そんな3人をカバーするレヴィとカナン。

「よく頑張ったなガキ共。ここからは大人の出番だぜ!」

 レヴィは、コータと孝に告げながら、二丁拳銃で<奴ら>を次々と撃ち抜いていく。そして、そのまま、レヴィは、カナンとともにヘリにと乗り込んだ。レヴィは、飛び立つヘリの中で、人差し指をヘリポートに群がる<奴ら>に向けて立てた。

「警視庁が……」

 加納は、群がる<奴ら>を眺めながら、その異常な光景に呆然とする。日本の首都を守る治安機構の最高峰が、まさに魑魅魍魎に覆われ、その機能を失っている。悪夢以外の何物でもなかった。飛び立ったヘリの中から見る東京もまさに、壊滅的な状況だ。死傷者が何千人、何万人に上るかもわからない……。拳を加納は強く握りしめた。

「刑事さん」

 加納に声をかけた孝、そしてコータ。

「まだ、俺たちは生きています。生きていれば、復興だって、なんだってできる。今は自分が出来ることをやりましょう」
「……ああ、まだ事件は終わってはいない。俺も俺が出来ることをするさ」

 そんな三人の背後では、警視庁で、蛇のテロリストに連れされらてしまっていた、ひとみが無事であったことを、麗と沙耶が笑みを浮かべ、喜んでいた。「よかった……」そう言う言葉が漏れる中、孝は振り返り、皆が笑顔になっていることに、安堵した。ただ、今、此処にいてほしい人は未だに見つかっていない。

「冴子さんも無事でいるといい」

 漏れる言葉。

 それを耳にしたカナン、キャミィ、レヴィ、そして大沢マリア、ひとみ。彼女たちの表情が一瞬強張った。孝が冴子を捜しているということを彼女たちは知った。そして、その彼女は、今……テロリスト『蛇』の仲間として、アルファルドとともに動いている。

「大丈夫だよ、冴子さんは剣道部で、その実力は全国レベル。生きているさ」
「そうそう、孝は冴子さん冴子さん、うるさい!」

 コータと麗が、孝の肩を叩いて告げた。孝は、そんな二人の言葉に心を軽くする。



Side キャミィ



「……みんな、聞いてほしい」

 キャミィの言葉にその場にいる一同が視線を向けた。

「今回の事件。敵を打倒すべく挑んだ者、偶然に巻き込まれた者……経緯はどうあれ、私たちは、今この事件に巻き込まれ、そしてこの場所にいる」

 地下鉄占拠事件において、アルファルドを捕まえるべく、夏目からの依頼を受け、単身、アルファルドに挑んだカナン。
 アルファルド逮捕を受け、英国から彼女の身柄を受け取りに向かった際、警視庁を占拠され、カナンと加納を救った形になったキャミィ。
 夏目の依頼を受け、以前の事件で仕止め切れなかったアルファルドを自らの手で仕止めるためにこの国に再度訪れたレヴィ。
 渋谷ウイルス事件の解決の功労者であり、アルファルドを知る者として、今回の事件を止めようとした刑事、加納慎治。
 渋谷でのウイルスにより変貌した<奴ら>に巻き込まれた小泉孝、宮本麗、高城沙耶、平野コータ。
 アルファルドにと捕まり、カナンたちをおびき寄せるための人質となった大沢マリア、ひとみ。

「事件はまだ終わっていない。今、政府、および東京都民の緊急避難先となっているお台場には、ウーアウイルスの爆弾が設置されている。そして、それを仕掛けた犯人は、羽田から脱出を図ろうとしている」

テロ組織『蛇』の首領であり、今回の事件の首謀者であるアルファルド。
S.I.Nから『蛇』にと移り、世界の破滅を嘲笑うハン・ジュリ。

……アルファルドの闇に魅入られた毒島冴子。

「私たちは、アルファルドを捕まえに、羽田にと向かう。そして、大沢マリア、ひとみには、カナンから爆弾の設置された場所を教えてもらい、それを無力化してもらう。だが、アルファルドがどういった爆弾を設置したか分からない以上、彼女たちだけでは危険が伴う」
「……最後まで言わなくてもいいですよ、英国軍人さん」

 コータが、キャミィの重々しい言葉を遮り、言葉を告げる。

「ただ、貴女は命令してくれればいい。僕は、それについていくだけです」
「ちょっと、デブオタが何かっこつけてんのよ!?ここまできたんだから、私たちも行くわよ!」

 コータを小突き、沙耶が隣から腕を組んで声を上げる。

「……孝」
「ああ、俺たちの手で、この危機が救えるかもしれないっていうなら、やらせてくれ!」

 同じように麗と孝も声を上げる。
 そんな協力者達の声に、マリアとひとみも嬉しそうに、その4人を見る。

「俺は警官だ。事件解決まで、この子たちを守り、そして日本の治安を守る義務がある」

 加納もまた、少年少女達に負けず劣らず、声を出して、キャミィにと視線を向けた。そんなやり取りを見ながら、カナンは笑みを浮かべ、キャミィを見る。レヴィはため息交じりに……。

「まったく、暑苦しい連中だぜ……」
「そういうレヴィも嫌いじゃないでしょ?」
「うるせぇーよ。ほら、コスプレ女。どうするんだ?」

 レヴィの言葉に促されて、キャミィは大きく頷いた。ヘリの中、静まり返った一同の前で、キャミィは、全員の顔を見る。立場、環境それぞれ異なる者たち。だが、今、自分たちは同じ目的のために、ひとつになる。
 キャミィが腕を伸ばし、全員が円を組み、片腕を伸ばし、拳を握り、全員の拳を円の中心にと集めた。仲間……それが束の間のものであっても、悪いものではない。キャミィは、かつて、力強い仲間と共に戦い、シャドルーやS.I.Nを倒してきたときの記憶がよみがえる。


「みんな……生きて、そしてまた会おう!」


 キャミィは力強く、言い放った。













[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 ep9
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/08/12 23:19






Side 高城沙耶


 ……孝はきっと何も知らない。


 高城沙耶は、大沢姉妹、コータ、麗、加納、そして孝たちが、ヘリから降りた後、最後までヘリにとどまっていた。沙耶はたまに自分で気がつかなくてもいいところまで、気がついてしまう自分の感性に苛立つ。
 あの時……。毒島冴子の話題が出た際、明らかに、大沢姉妹、そして、この場に残る三人の女たちの雰囲気が変化した。毒島冴子を彼女たちが知っている可能性。毒島冴子が、<奴ら>に成り果てていた。No……。毒島冴子が<奴ら>に成り果てていた場合、それは驚愕という感情ではなく、哀しみである。

 このヘリに残る三人の感情は、驚愕であった。

 で、あるならば……。彼女たちは戦っていた中に、その名前の人物がいた可能性があげられる。そう、『蛇』というテロリストという中に……。


 沙耶は振り返り、残った三人の女に目をやる。


「約束して」

 その言葉に、キャミィ、レヴィ、カナンが視線を向けた。

「この事件を起こした連中を、姿形なく、叩きつぶして……」

 沙耶の言葉に、キャミィはゆっくりと頷いた。
 沙耶は、同じように頷いて、ヘリから降り立った。ヘリは、扉を閉めて飛び立つ。向かうべき場所……羽田空港。おそらくは、決戦の場所となるだろう。クリスマスの朝。それは、明るい朝なのか……それとも地獄絵図なのか。

「サンタがもしいるなら……奇跡を起こしなさいよ」

 飛び立つヘリを眺めながら、沙耶は、心の中でそう唱えた。




学園黙示録×CANAAN

Episode9 絶望の孤島×狂気の空港



Side 大沢マリア


「凄い人……」


 お台場は、道路上にも溢れた人でいっぱいになっていた。皆、<奴ら>に恐れてここにとやってきたのだろう。だが、そんな場所さえ、危険な場所にとなり果てていた。この場所にあるのは、ウーアウイルスの爆弾。それが爆破してしまえば、この場所にいる数十万人は感染。そして、数時間後には、全員が発症、ほとんど人間が死亡し、そして僅かに残った人間は、アンブルームという、人間ではない存在になり、実験動物となる。

 マリアは見た。

 そんな人の不幸を、ビジネスと称して、金のやり取りをするものたちを。そんな人たちがいる世の中……。本当に、そんな世の中が必要なのだろうか。様々な世界を飛び回っていたマリアは、そこで世界の現実を眺めながら、その戦争と貧困の影で、それを酒の摘みとして美味しい思いをしている人たちには反吐が出そうだった。

「姉さん?」

 周りを見渡しながら走っていたマリアの前、ひとみが声をかける。

「……ん?」
「大丈夫?さっきから何度か呼んだんだけど……」
「あ、うん……ごめん、大丈夫だから」

 マリアの手を握るひとみ。

「姉さんは、私が守るから……行こう」
「……ありがと。でも、私も、ひとみを守るんだから」

 マリアの周りには、マリアのことを大切にしてくれる人がいっぱいいた。お父さん、ひとみもそうだけど、カナンや、キャミィだって。本当は、そんな必要がない世界が訪れてほしい……。そのためにも、今、カナンは戦っている。



Side 加納慎治


 爆弾が仕掛けられているのは、現在、日本政府の緊急対策本部が設置されている、フジテレビ庁舎内。カナンが指摘したのはこの場所だ。それを知らずに、政府官僚、政治家は、ここで指示を出している。避難民まとめて、ウーアに感染すれば日本の政治は壊滅するだろう。だが、そんなことを言ったところで信じてくれるとは思えない。加納は、フジテレビ庁舎内に入る前でついてきた小泉達を合図を送り止める。

「ここから先は、重火器を持った子供じゃ入れない」
「なるほど、一理あるわね。だったら、作戦をきかせてもらおうかしら?刑事さん」

 沙耶が、加納に声をかける。
 加納は、自衛隊員が検問を行っている前を誰かと話をしている、黒髪のどこかで見たことのある女警官を見つけた。確か……あの女は。加納は、孝たちに、その場で待つように告げると、木の陰から飛び出しす。

「お前、もしかして南リカ……じゃないか?」

 加納の言葉に振り返った小麦色の肌の女、髪の毛を縛りながら、その手にはライフルが握られている。加納がなぜ知っていたのか、それは彼女が、日本警察の中で五本の指に入る狙撃手だからである。

「あら、渋谷ウイルス事件の救世主……生きていたのね」
「お互い様だな」

 様子を見ていた小泉孝たちは、そこで南リカと話をしていたのが、自分たちの学校の保健の先生である鞠川静香である。

「先生!?」

 麗の発した声に、静香とリカが振り返った。加納が額を抑える中、一行が静香とリカに見えるように姿を現す。その格好はまさしく、今から戦場に出向くような禍々しい姿である。静香は、手を振りながら、麗たちのほうにと掛けていく。リカは、ため息をつきながら、加納のほうを見た。

「なにあれ?もしかして、あれが今世界を騒がせているテロリストだなんていわないでしょうね」
「違う!いや、あのな……」

 そこで加納は、リカに話を聞かせる。
 クリスマスイブに起きた、事件の真相を。
 テロリスト『蛇』……地下鉄占拠事件……<奴ら>……警視庁の占拠……羽田空港……そして、フジテレビでのウーアウイルス。

「なるほど、本当に間抜けな政府。危機管理能力の低さは、平和ボケした老人たちに国営をゆだねている私たちにも責任があるのかしら」

 リカは、テレビ局庁舎を眺めながら、呆然と告げる。

「どっちにしろ、このままじゃ全員死ぬことになる。中に入って、装置を止める、もしくは破壊したい」
「わかったわ。そこの子供たちが入れるように誘導すればいいのね。ちょっと待ってなさい」

 そういうとリカは、その場から立ち去り、すぐに戻ってきた。その手に合ったのは、警察のSAT用の制服である。

「これなら、銃を持っていても問題ないでしょう?」

 リカはどこかのりのりに答える。
 どうやら、ずっと、役人たちのお守をさせられていたことに、ストレスが溜まっていたらしい。リカは、ライフルを握りながら、制服を孝たちにと渡す。彼らたちは、そのまま制服にと身を通していく。

「爆弾の場所はこちらでわかっている。後は、頭が固い連中にどうやって説得させるかだな」

 加納はリカにと問いかける。
 そんな矢先、上で音が響いた。それは明らかな銃声音。リカは、真上を眺める。そんな彼女の背後に、重たい肉体が、鈍い音を立てながら、地面にと落ちた。テレビ庁舎の建物の球体部分からは、いまだに音が響いている。その音を加納だけでなく、孝たちが呆然と聞いていた。

「説得する手間は省けたわね。行くわよ、少年兵の諸君」

 リカは、着替え終わった孝達を見て、走りだした。



Side アルファルド



 羽田空港地下……。
 政府高官脱出用緊急ホーム。

「定刻通りか……、なんの妨害もなかったのは、少々期待外れだったな」

 アルファルドは、時計を眺めながら、ホームにと降り立ち、歩き出す。ホームには誰もいない。同じように、その後ろをジュリと、冴子があるいていく。後は、羽田空港から脱出をして、その後、お台場でウーアウイルスを爆破。お台場に集まる、数十万人の人間を感染させる。その中から、優良種であるアンブルームを、後続部隊が確保。再度、実験を続ける。今回の事件での死体を再利用する薬での莫大な利益とともに、蛇の世界に対する脅威と恩恵はゆるぎないものとなる。

「すべてがすべて、うまくいくとは思ってはいないんだがな」
「……彼女たちが、このまま指を咥えているとは思えないが」

 冴子が、アルファルドに問いかける。
 アルファルドは歩きながら、振り返り冴子を見る。

「何の用意もなしに、お台場に爆弾を置いていると思うか?」
「……」

 アルファルドは、再び前を見ながら笑みを浮かべた。
 カナンの力なら爆弾を隠そうが無意味だろう。だから、堂々とわかる場所に置いてやった。そして、そこまでは問題はない。何も……。

「カナンの共感覚は、敏感だ。だからこそ、お台場に集まる様々な、人間達の感情、ざわめきは、奴の共感覚に雑音として混じる。正確な情報がそこから読み取れることが出来るかどうか……」

 アルファルドは、淡々と告げながら、エレベーターにと乗り込む。冴子の表情は、一見、冷静沈着に見える。あれだけ、<奴ら>を殺したのだ、途方もない飢えを持った獣といえど、少しは、腹が膨れただろう。

「……ここから脱出した後、どこに向かうんだ?」
「そうだな、幾つかあるアジトのどこかにと身を潜ませるか」
「だったらよぉ!久し振りに、ラスベガスでぱぁ~~っとしようぜぇ!ゴールドコーストでもいいな!」

 ジュリが嬉しそうにアルファルドにと声をかける。冴子はそんな言葉をただ聞いていた。彼女はテロリストがそんな大国に遊びに行けることに驚いてはいないようだった。この前も話した通り、蛇は、世界各国に恨まれながらも、必要とされる存在。よって、アルファルドが、求めれば、どんな国にもフリーパスで行くことが出来る。それが、蛇という存在。
 アルファルドの前、エレベーターがゆっくりと開いた。開かれたエレベーターの前……。そこには、スーツを着た米国人、そして軍服に身を包み、銃を構えたものたちがいる。彼らは、アルファルドたちを見ると、銃を構え、狙う。その動きに、冴子は鞘を握り、刀を抜こうとした。

「……手を出すな、冴子」

 アルファルドの言葉に、隣にいたジュリが笑みを浮かべ、舌舐めずりをした。

「わざわざ、横須賀から来てくれるとは、嬉しい限りだな?」
「……お前が日本警察に捕まったと聞いて、英国特殊部隊兵を動かしたんだが、まったくの無駄なことだったな」

 姿を現したのは、横須賀基地の在日米軍の将軍である。キャミィを指示し、アルファルド拘束の命を出した将軍。彼もまたアルファルドとつながりを持つ男の一人だった。

「余興としての楽しみが増えたことに関しては感謝しているよ、最後まで退屈しないで済みそうだしな」

 アルファルドは目を閉じつぶやく。
 将軍は、アルファルドの言葉に首をかしげ、アルファルドの隣にいたジュリ、そして冴子の視線は、しっかりと将軍の背後にと向けられていた。それに気がついた将軍もまた振り返った。そこに立つ3つの影。

「おっかしいなぁ、キャミィ?あれはどーみても、軍隊だよな?あの国旗からすれば米軍だ。もしかして、テロリストが米軍の服をはぎ取って使っているだけかもしれねぇーけど」

 レヴィはキャミィの肩に、肘をのせて、煙草を咥えながら告げる。キャミィは、顔をあげて、呆然としている将軍を見る。

「貴方が言っていた、仲間にも内通者がいる。それは事実のようでしたね」

 キャミィは、鋭い視線で将軍を見ながら、その視線を、将軍の背後にいるアルファルド、冴子、ジュリにと向けた。アルファルドは、笑みを浮かべた。

「やはり、私を狙うか……カナン?」
「貴女を止める……そして、彼女を助け出す」

 カナンはアルファルドから、冴子にと視線を移した。冴子は、そのカナンの視線に驚きを感じたが、表情に現すことなく、刀を握る。アルファルドは、真ん中でおどおどしている将軍を見下しながら、歩き出す。

「アルファルド!」
「……止めたければ来るがいい」

 カナンに告げるとアルファルドはジュリと冴子とともに、飛行機が待っているであろうターミナルにと進んでいく。追いかけようとするレヴィ、カナン、キャミィ。だが、そんな彼らの道を塞ぐ将軍。彼は、銃を抜いて三人にと向ける。焦った表情の将軍。

「蛇と繋がり、さらには、私たちの邪魔をする。貴方に、世界を守る軍人としての資格はない」

 はっきりと告げるキャミィ。将軍は、銃を握った腕を震わす。

「これは、世界の意志だ!!お前達のようなテロリストや、ただのいち軍人にはわからん!」
「世界の意志なんて御大層なもん並べてる奴に、ろくな奴はいねぇーよ。な?」

 レヴィの言葉に、カナンとキャミィが頷く。

「初めて三人で意見があった。っつーわけで、邪魔立てするなら、ぶち殺すぞ?」

 笑顔で告げたレヴィは、二丁拳銃を構え、カナンは目を赤く灯し、キャミィは、腕を握り構えた。将軍の絶叫と共に、銃声が響きわたる。




Side 小泉孝



 広がる光景に、孝たちは絶句した。テレビ庁舎の球体の建物は、政府の特別対策本部が置かれてある場所だ。それこそ、内閣の首相が現場で指揮を執る場所であり、対テロに置いては、それこそ、もっとも安全な場所でなくてはいけない。だが、その場所は今や変わり果てていた。扉を突き破った幾つもの弾の穴が、外の光を通している。そして、床には、血まみれの男達の姿があった。リカは、壁際から膝をついて、鏡を使い、状況を判断する。

「どうやら、中からの砲撃。弾の穴から見て、ガトリングガンのような大型火器の可能性が高いわね」
「どうしてそんなものが、中に?」
「カナンは言っていた。アルファルドは、政府高官様々な連中に組織のメンバーが紛れている。おそらくは、日本政府の中にもいたんだろうな」

 リカは、加納の言葉を聞きながら、つけていたサングラスをとると、それを試しに、扉の前……射線上にと投げる。サングラスは、射線上であろう、扉の前を滑るように転がっていく。

「どうやら大丈夫なようだな」

 赤外線などで、そこに触れた相手を無差別に発砲する機関銃。もしくはそれに似たものであると判断した加納は、リカのサングラスに銃が反応しなかったことで、安心であると判断した。だが、それを見ていた孝は妙な違和感を覚えていた。あの部屋の向こうからの禍々しい気配。

「待ってください!」

 孝の言葉に、加納は、孝のほうを見た。

「わかるか少年」
「お、おい?どういうことだ?むこうは撃ってこない……銃弾が切れたか、もしくは、気づいていないか」
「あんたの話が正しければ、ウーアが拡散する場所に兵士は置かない。よってあの中にいるのは、兵士ではない。無人兵器の可能性が高いだろう。そして、その兵器は、普通のものじゃない」

 リカは、そうつぶやきながら、大きく息を吐いて、壁際からライフルを出して、顔をのぞかせた。

「!!」

 機動音とともに、強烈な銃撃の嵐が襲い掛る。リカは身を引いて、壁を削るかのような、銃撃の嵐に身を引く。

「な、なんだ!?急にどうしたんだ!?サングラスじゃ反応もしないのに……一体!」

 加納の言葉を聞きながら、孝は、その銃撃をする兵器は、赤外線でもなく、音でもない別のものを関知し、攻撃してくるものであることを知った。

「……あんまり時間がないっていうのに!」

 コータは、銃を握りながらやるせない気持ちで苛立つ。それは、他のメンバーもそうだ。沙耶は、腕を組み考えながら、その兵器を分析する。

「音でも、物でもない……人間の匂い?」
「それを確かめようにも、人間から出る匂いを消すことはできない。だいたい、それでは設置した人間も餌食になる」
「そんなことはわかっているわ!」

 マリアの言葉に、沙耶は怒鳴る。驚いたマリアは、後ろにいるひとみの体に、身を下がらせる、そんな矢先、彼女のポケットから落ちる携帯。マリアは、慌てて携帯を拾う、開かれた携帯の絵……そこにはカナンが映っている。

「……カナンを待ちうけにするのってどうなの?」
「い、いや、これは……」
「姉さん、もしかして……」
「え!?ちょ、ちょっと!わ、私とカナンはそんなんじゃ……」
「まだ何も言ってないよ、姉さん……」

 そこで、マリアはカナンを見て気がついた。
 カナンの持つ能力……共感覚。人間の持つ五感を共有することが出来る能力。もし、それを持つ兵器があったとしたら……。

「……ひとみ、お願いがあるの」
「え?」

 突然呼ばれたひとみは、はっとしてマリアを見た。マリアは大きく深呼吸をしながら、ひとみの手を掴み、立ち上がる。

「お、おい!?どうするつもりだ?」

 孝は、突然のマリアの行動に声を上げる。銃撃が止まってはいたが、だが、あの扉の向こうに強力な兵器があるのは間違いない。そして、それは今も尚、こちらを狙っている。楯である壁から、扉までは、およそ10m 全力で走っても、遮蔽物がここからないため、狙い撃ちは間違いない。

「何か考えがあるのか?」

 加納の言葉に、マリアは頷いた。

「此処で待っていてください。私たちが、止めます……お願いできる?ひとみ」
「……もちろん」

 ひとみもまた頷いて、マリアの手をしっかりと握った。
 二人は、ゆっくりと壁際から、廊下にと向かって歩き出す。


















[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 ep10
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/08/19 22:29





Side 大沢ひとみ


 ひとみは、渋谷の駅前にいた。


 一緒にいたマリアの手を繋ぎながら、がむしゃらに逃げていた。地下鉄から這い出してくる<奴ら>は、渋谷の109や、繁華街に逃げようと道路の真ん中を走ろうとする者たちに襲い掛っている。

「どけ!どくんだよ!!」
「ひぃ!?お、押さないで、押さないでって…ぁあああ!!」

 皆、自分が助かるために、周りの人間を自分の助かるための壁にして、<奴ら>に噛まれたものは、<奴ら>にとなり果てる。それを映画でみて知っているのか、友人だろうが、親だろうが、恋人だろうが、襲い掛り、<奴ら>になる前にと、撲殺されていく。

「待て!お、俺はまだ人間だ!やめてくれ!殺さないでぇ!」
「ああああ!!助けてぇ!たすけ……ひぎいい!!」

 そこには、血も涙もすべて悲鳴と絶叫とに変えられていく。

 気がついたら、手が離れていた。ひとみは、慌てて周りを見渡した、人の波の中でマリアを捜した出すことは不可能に近い。皆、前の人間を突き飛ばし、先に、先にと走っていく。

「姉さん!!姉さん!!」

 ひとみの精一杯の言葉さえ、怒号と悲鳴にかき消されていく。
 不安と、絶望……。

「ひとみ?」

 顔を上げた先にはマリアが笑顔で立っていた。その服は、汚れ、血や泥が混じっている。でも、マリアは、ひとみの手をしっかりと握りながら、ゆっくりと歩き出す。二人は、ゆっくりと射戦上になっている壁際にと足を踏み出そうとした。そのとき、マリアは、ゆっくりと、ひとみの体を抱きしめる。

「ね、姉さん!?」
「しぃー……いい?ひとみ、ただ私の話を聞いてほしい。そのままゆっくりと歩きながらね」




学園黙示録×CANAAN

Episode10 剣士の求める闘争×姉妹の求める日常




Side 大沢マリア


「ごめんね……」

 マリアの言葉に、ひとみは、首をかしげる。
 二人はゆっくりと歩きながらも、その視野には、お互いしか映し出されてはいなかった。自分と瓜二つの存在、自分の分身……、家族よりもずっと近くて、大切な存在。

「いつも、私、家から飛び出しちゃって……お父さんのこと、ひとみに全部任せちゃって……」

 マリアは、ひとみの肩を掴んで、優しくそう告げる。ひとみは、ただマリアに合わせるように、横に歩いていく。

「本当は、私が家にいて……ひとみには、もっと外で、彼氏とか友達とかと遊びたいんだろうなって……」
「そんなことない」

 ひとみは力強く告げる。

「私は、今の研究が好きだし。お父さんから色々と教えてもらって、あの渋谷の事件のようなことがまた起きた時、それを止められるような存在になりたい。私の血液の中に、その種があるのなら、それはきっと、私に課せられた運命だから」

 マリアは、そんなひとみの言葉を嬉しく思う一方で、自分に架せられた十字架のように、ひとみが思ってしまっていることに、かなしみも感じた。あの事件で、親子の絆は戻り、様々な人たちと出会えた。だが、すべてがいいことばかりではない……、私達親子は、それこそ……。

「でも、もし、こういって…姉さんが、まだ自分を責めるのなら……」
「ん?」
「一緒に食事でもしよう?たまにでいい……姉さんの外で見た世界を色々と聞きたいから」
「ひとみ……」

 ひとみは、マリアをしっかりと見つめたまま、笑みを浮かべる。

「私にはカナンみたいに強い力はない。でも、私はカナンなんかよりもずっと、姉さんのことが好き。それに、姉さんのことは……なんだって知ってるから」

 ひとみの言葉に、マリアも同じように笑みを浮かべた。
 私たちは、一卵性双生児……。お母さんのお腹の中ではひとつだった存在。だから、私たちは、離れていても一緒。ずっと、ずっと……。

「……そのためには、まずは、この危機を逃れないとね」

 マリアは視線を横にと向けた。血まみれの床……、其処に横たわる死体。なるべく見ないようにしながら、マリアは、黒い球体にと目をやる。その球体の左右に取り付けられている巨大なガトリングガン。この武器は、人間の感情によって操作される。敵意を向けたものを無差別に襲うのだ。今、自分たちは、この武器のもとまで来た。後は、解除すれば。マリアは視線を戻す。ひとみは、少し不安な表情をしている。自分だってそうだ。ひとみがないなければ、此処まで感情を抑えてくることはできない。

「ひとみ……もう少し、もう少しだから」
「……うん」

 マリアとひとみは、赤い血にまみれた池の中で、黒い球体の前に置かれたパソコンにと手を伸ばす。そこに表示された数字。それは爆発までの時間……。



Side キャミィ



「はあっ!」

 銃を構えるテロリストになり下がった軍人に対し、キャミィはバク転、側転を行い、銃撃を避け、そのまま相手の顔を太ももで挟み、首の骨を折る。崩れ落ちる兵士、キャミィは、既に次の相手を狙っていた。そんなキャミィを狙っていた別の兵士、だが、その兵士は後頭部を撃ち抜かれる。

「軍人っていうのは、テロリストとあんまりかわらねぇーもんだな?」
「軍人もテロリストも同じ人間ということに変わりはないからね」

 背中合わせになりながら、レヴィとカナンは銃を撃ち続ける。周りで銃を握る兵士たちは、彼女たちの素早い攻撃に翻弄されていた。カナンは、敵の色を察知し、銃を放とうとする兵士達を狙い撃つ。レヴィは、今までの戦いで培った勘と、二挺拳銃を用いて、周りにいる兵士を撃ち抜いていく。カナンが、レヴィの背中に自分の背中を強く押して、レヴィの背後にいる敵を撃ち抜けば、今度はレヴィが、カナンの背中を強く押しつけ、二階にいた狙撃手を撃ち抜く。二人は円を書くように回りながら、敵を撃ち抜いていく。二人の連携攻撃は、元々チームを組んでいたかのような、素早さだ。

「腕を上げたね、レヴィ」
「こっちは、いつも、銃撃の嵐なんでね、傘じゃおさまらねぇーから、腕が必要なんだ」

 レヴィとカナンは、そんな会話を話せるほどの余裕を見せている。
 二人の銃撃で、混乱する兵士達を襲い掛るのは、二人の銃撃を避けるように俊敏に動き、足首を、肘を、脇腹を蹴り上げ、攻撃を繰り出すキャミィ。

「こんなものか?」

 キャミィは、足首を蹴り、バランスを失わせるだけしかしない。すぐ次の目標にと向かう。仕止めるのは、真ん中で踊っている二人に任せる。キャミィ、カナン、レヴィの動き、キャミィを狙った兵士は、その後頭部を確実にカナン、もしくは、レヴィに撃ち抜かれ、二人を狙おうにも、キャミィに邪魔をされ、カナンの色ですぐにわかってしまう。

「た、たった三人に、私の部隊が何を戸惑っているんだ!?」

 将軍は、銃を抜いて、カナンとレヴィの背中合わせの状態を崩そうとする。だが、その瞬間、カナンとレヴィは、同時に、伸ばした腕を揃えて、将軍にと向けた。響きわたった銃声が、失せ、そのまま、静けさが空港にと広がった。将軍は周りを見渡す。そこには、血が、床を流れながら自分の足元にまで届こうとしていた。

「まさか……全滅?この短時間でか……何者なんだ、お前たちは!?」

 その言葉に、レヴィは笑みを浮かべる。

「コスプレ女と愉快な仲間たちだな」
「なっ、こ、コスプレ!?」

 呆然とする将軍を前にして、キャミィが腕を鳴らしながら、将軍の前にと立つ。

「おしまいです。国を守るはずの貴方達が、アルファルドに屈した時点で、テロリストになり下がった」
「……ふざけるな!!我々は、国防のために、奴と手を組んだんだ!」

 銃を握りながら、将軍は、後ずさる。
 レヴィは、そんな将軍を狙い撃とうとするが、カナンが、押しとどめる。キャミィは、憐れんだ目で将軍を見つめる。

「この世界は、戦争により育まれ、そして、科学技術の発達、アフリカ、中東諸国の内紛によって、我々大国は、戦争という危機から身をしのいでいるんだ!自国内の平和を守って何が悪い!何が悪いというのだ!!」
「……自国のために、他の諸外国はどうなってもいいという考え、同じ人間であるというのに……私は、そんな考えを持つものを許さない」

 キャミィの脳裏に浮かぶ、様々な人種の人間達。
 だが、その人間たちは皆、同じように笑い、怒り、哀しむ。それがただの勝手に引かれた国という名の境界線で、生死を分け隔てられることなどあってはならない。あっていいはずがない。

「ふ、フフフ……なんとでもいうがいい!世界は、かわりようがない!いつまでも……!」

 そんな将軍の背後で光る眼……。
 キャミィは息をのむ。

「ん?」

 振り返った将軍は、そこに歯を剥き出しにした<奴ら>がたっていることに気がついた。将軍は、そのまま、頭を噛み砕かれた。悲鳴をあげるまでもなく、膝を落とす。キャミィは、無慈悲に、食われた将軍に呆然とする。

「キャミィ!」
「死にたくなきゃ走れ!」

 カナンとレヴィの言葉に、キャミィは走る。振り返れば、<奴ら>は群れをなして、歩き続けている。おそらくは銃撃戦の音につられてきたのだろう。三人は、空港内を走っていく。キャミィの表情を見たカナン。

「……気にする必要はないよ、キャミィ」

 カナンの言葉に、キャミィはカナンを見る。

「全員が全員、彼のような考えじゃない……」
「ああ、そう信じたい」

 キャミィはそう告げながら、長い通路の先のホールを見た。
 広がった通路の先……そこから飛び出してくる、ピンク色の気に、三人は散りながら、避けた。ピンク色の気に触れたものは、燃え上がっている。遮蔽物にと身を隠しながら、顔を出す三人。ホールの真ん中にたち、腕や足を、伸ばしている女……ジュリ。片目を輝かせながら、舌舐めずりをする彼女。

「しつけぇーよなぁ、まったくよぉ……もう、お前たちの出番は終わりなんだって。いまどき、正義のヒーローとか、はやんないぜ?」

「それには同感だ」

 ジュリの言葉に、レヴィが答える。

「……私は正義を語るつもりはないし、それを語れるだけの資格もないだろう。ただ、これは任務であり……お前のせいで、傷ついた姉妹の仇をうたせてもらうだけだ」

 次に告げたキャミィは、立ち上がりゆっくりと歩きながら、ジュリの前にと向かっていく。ジュリは、ふ~んと頷きながら、キャミィを見定める。それこそ、獲物を狙う獣のように。キャミィは拳を握り構えた。

「レヴィ、カナン……お前たちは先に行け」
「……やれんのかよ?コスプレ女」

 キャミィの言葉に、レヴィが答える。キャミィはジュリから視線を逸らすことはせずに、微笑む。

「いつまでも、私をその名で呼ぶお前に一撃を食らわすまでは、死ぬに死ねないな」
「その言葉、忘れるなよ」

 レヴィは、キャミィの背中を見つめ、一瞥すると走りだす。
 そしてカナンもまた、キャミィの背中を見つめる。

「キャミィ、貴方には助けられた……そのお礼をさせてくれ」
「律儀な奴だ……。アルファド、そしてあの少女を頼む」
「わかった」

 カナンもまたレヴィを追いかけるように走りだす。キャミィは、自分はつくづく、事件に巻き込まれやすく、それと同時に、心強い仲間と出会えることに感謝した。キャミィは、ジュリを再度見つめる。

「そろそろいいか?遺言も済んだことだしなぁ?それに、てめぇには、警視庁での恨みがあるんだ。そう簡単には殺さねぇ、ジワジワと…」
「ごたくはいい」
「あぁ?」

 ジュリの言葉を遮るように告げたキャミィ。

「かかってこい……」

 ジュリは片目を輝かせ、ピンク色の気を全身に行き渡らせる。やはり、計り知れない強さだ。だが、負けるわけにはいかない……。それこそ、自分が信じた仲間たちのためにも、今も別の場所で戦っている、大沢マリアたちのためにも……。



Side 毒島冴子


 冴子は廊下の前で足を止める。それと同時に歩いていたアルファルドもまた振り返った。この先は、あの軍人が用意をしていたジェット機が用意されている。それに乗り込めば、すべて終わる。東京は、ウーアウイルスが蔓延し、お台場周辺は死の街となり、被験者を回収後、米軍による爆撃で、東京は壊滅。ウーア感染者拡大を防いだ米軍の功績は世界で称えられ、日本政府も感謝状を出す。そして、世界の敵として蛇は、さらに世界各国からの敵としてみなされる。テロは、世界の鬱憤を吐き出すことになり、戦争という巨大な殺戮を未然に防ぐこととなる。平和のための犠牲……。

「どうした?」

 アルファルドの言葉に、冴子は、通路の奥を見る。

「……敵が来る」
「そうか。どこまでも執拗な奴らだ。止められるか?」
「無論」

 アルファルドは笑みを浮かべながら、歩き出す。そんな足音ともに、通路の奥から聞こえてくる足音を冴子は聞いていた。闇の奥から見えてくるその姿。冴子は、刀を抜き、構える。

「……私は修羅。敵を打倒し、その快楽に身をゆだね……」

 影から見えた、光。
 二人の女。
 一人は、黒髪、もう一人は白髪の女……警視庁内で自分と戦った奴だ。

「……レヴィ、先に行って!」
「大丈夫なのかよ!?」
「相棒を……信じてほしいね」
「ったく、急いでこねぇーと、終わらせてるからな?後でひがむなよ!」

 レヴィは二丁拳銃を抜き、冴子に向けて放つ。冴子はそれを刀で弾き落とす。カナンもまた銃を抜き撃つ。冴子は二人の攻撃に防御に徹することしかできない。その間に、レヴィは、冴子の隣を通り過ぎる。

「くっ……」
「わりぃな、サムライ女!!」

 レヴィの言葉を後ろで聞きながら、冴子は、目の前で立ち止まったカナンを見る。刀を握りながら冴子は、カナンと対峙する。

「……マリアを守ってくれたんだってね。ありがとう」

 カナンは冴子にそう告げる。
 冴子は、その言葉に動じることはない。

「私は約束を守っただけにすぎない……」
「そっか。マリアは、いつも色々なことに首を突っ込むから……キャミィや、貴方や、私も、それに巻き込まれた一人なのかもしれないね」

 カナンは、冴子に向けてまるで友達同士の会話のように話をしてくる。冴子は、刀を握ったままだ。

「……貴女の色は、様々な色にまみれている……迷いの色」
「迷ってなどいない!」

 冴子は、カナンの言葉に、大きな声を放った。それをカナンはそのどこまでも見透かすような瞳で、自分を見てくる。冴子は、震えた。カナンの目は、自分をどこまでも見られているようだ。それこそ、見られたくない過去の記憶さえも……。

「見るな……」
「……」
「見るなっ!!」

 冴子は、刀を抜き、カナンにと切りかかる。カナンは、冴子の刀を身を逸らしかわす。彼女には自分の動きがまるで見えているようだ。冴子は、それによってさらに動揺する。カナンを見る冴子。カナンはいまだに、冴子を見ている、その澄ました目で……。

「見るなっ!!!私を見るなっ!!」

 冴子は刀を振りながら、カナンを追い詰める。
 カナンは、冴子の刀の動きを淡々とよけていく。冴子が動きを止め、額に流れる汗を、拭った。息を大きく吐きながら、その目はしっかりとカナンを視界におさめていた。敵から視線をそらせば死に直結する。それを冴子は、精神がかき乱されても、体にしみ込んだ戦いの基本として無意識に行っていた。

「はぁ……はぁ……」

 カナンは、息ひとつ切れずに、冴子と一定の距離を保ったままだ。

 強い……。

 カナンから視線を外し、床を見つめながら冴子は思う。それこそ、警視庁の地下で奇襲した際、自分の攻撃をすべて避け、反撃に転じたアルファルドと同じ力……いや、もしかしたら、それ以上の力を持って……。冴子は、刀を握りしめる。そんな強い奴を、見下したい。詰り、憐れみ、そして、悲痛な目を晒せて……。

「はあ……はあ……」

 息を切らしていた声は、徐々に、速くなり、それは混迷の息切れから興奮に満ちた声となっていく。顔をあげた、冴子の表情は、目を見開き、白い歯を見せ…狂気に満ちていた。体勢を低くしながら、刀を鞘にと仕舞い抜刀術の構えをし……獲物を狩る眼でカナンを見る冴子。












[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 ep11
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/08/27 01:33






Side アルファルド


 聞こえてくる足音。

 それが誰なのか、アルファルドはわかっていた。だから、アルファルドは、彼女を出迎えるべく、青いコートを身に包み、後ろを脱出用のジェット機の出入り口にして立っていた。その手にはしっかりと銃を握って……。

「やはり、お前か……レヴィ」
「なんだ?まるで私が来ることを待っていたような言い草だな」

 立ち止まったレヴィは、銃を構えたまま、アルファルドと対峙する。

「私は、お前が嫌いじゃない。その考え方といい……私も、シャムでなく、最初にお前のようなものと出会えていたのなら、きっと未来も変わっていたのだろうな」
「なんだ?全世界を敵に回すような女とは思えねぇな?それとも、ウイルスで頭でもやられちまったか?」

 アルファルドは、白い歯を見せるレヴィを見つめた。
 自分がすべてに苛立ち、世界を破壊する過程での暴力を、彼女はただの日常として、行っている。同じ暴力という行為を彼女は、生活の一部として行っている。自分もそんな簡単な理由で、暴力を用いることが出来るなら…。羨ましい話だ。だが、そんな暴力は何も生み出さない。ただの日常……世界を変えるためにこそ、暴力は必要だ。それも大きく、凄惨であればある程に……。

「……レヴィ、私と共に来い」
「はあ!?」

 アルファルドの言葉に、レヴィは思わず聞き返す。

「私が、お前を本当に生かせる場所にと連れて行こう。ただの港町での戦争ごっこじゃない。本当の戦争の場所を提供しよう。お前の腕が存分に生かせる場所。お前の一撃で、世界が変わるような場所にな」

 レヴィは目を細め、アルファルドを見る。

 静まる日の出前の空港のホール内で、レヴィは微笑んだ。




学園黙示録×CANAAN

Episode11 刻まれる時間×蜘蛛の糸




Side 大沢ひとみ


 刻一刻と、刻まれる赤い時計の数字。

 響く携帯……マリアは、携帯のメールを見る。
 そこに書かれているのは、高城沙耶からのものだ。マリアは、メールを開く。

『爆弾の解除を教える。写メを送って』

 マリアは黒い球体の前に置かれたパソコンを写真で撮り、それを沙耶に送信する。マリアとひとみは、刻まれる時計を見て、焦りを感じていた。マリアは、その感情が、危険なものであることがわかっていた。焦りは、やがて苛立ちにと変わり、その負の感情をこの兵器が感じ取れば、零距離での射撃で、木っ端微塵となる。だからこそ、マリアは、ひとみの手を握り、その感情を打ち消そうとする。

「ひとみ……」
「姉さん……」

 二人は互いを強く思いながら、しっかりと前にあるパソコンを見つめる。その時計の数字はどんどんとその数を減らしていく。写真を撮る音が聞こえた。マリアは、それを送信する。あまり周りを見ることはできない。周りが、どういった状況にあるのか、それは考えたくもない。すぐにメールが返ってくる。

『電話は可能?』
「精神的に強い起伏があると、おそらく兵器が作動する。それさえ気をつければ平気」

 メールを送信するとすぐに電話がかかってくる。マリアは、その電話を耳にと当てた。

『お疲れ。今は大丈夫?』

 沙耶は、落ちついた表情で、声をかける。あくまで動揺させないためだ。まずは、兵器を無力化しなくてはいけない。

『時間が少ないから、ばく……解除を優先するわね。装置としては……』

 沙耶の指示を元に、マリアがパソコンを弄る。

「……そ、それで?」
『次は……』

 マリアは息を乱しながら、パソコンを操作する。汗をかきながら、震える指。ひとみは、その様子を見て、マリアが動揺していることに気がついた。黒い目の前の球体。それに取り付けられた、巨大な機銃が動く。

「!?」

 ひとみは、咄嗟に、マリアの体を抱きしめ、地面に押し倒した。近くで、音が響いた。発射音?マリアは目の前で、ひとみをどかそうと必死にな表情でもがいている。ひとみも自分は撃たれることを覚悟していた。だが、痛みは襲ってはこない。振り返ったひとみの前、巨大な銃口は、自分たちとは別の方向を狙っていた。

「まさか!!」

 体を起こしたひとみは、壁に隠れているはずの、自分達を待っているはずの仲間達にと視線を移した。銃撃の嵐で、砕け散った扉の向こうにはっきりと映る廊下。巨大な建物を支える柱から流れ出る赤い血に、ひとみは絶句する。

『……作業を続けて』

 電話口から聞こえる声。
 ひとみはそれを耳に当て、聞いていた。その声は、先ほどと変わらない沙耶の声

「なにが……」
『なんでもないから!!なんでもないから……続けて。お願い』

 沙耶の声に、ひとみはマリアのほうを見る。マリアもまたひとみを見つめ、頷き、時を刻み続けるパソコンにと手を戻した。



Side キャミィ


 爆音と、煙が立ち上る中、床を転がるキャミィ。

 煙の中から、姿を現すジュリは、片目を輝かせながら、笑みを浮かべキャミィにと向かい歩いてくる。ジュリの戦闘力は、やはりかなりのものだ。キャミィは、立ち上がり、構える。ジュリは、腰に手を当てて、そんなキャミィを見下すような視線で、眺めている。

「本当に、お前は哀れだよ。私を追いかけ…追いついて、最終的には私に叩きつぶされる。また立ちあがり、追いかける。わからねぇかな?私とお前とでは、絶対的な力の差があるんだってなぁ?」

 ジュリは、やれやれと首を横に振りながら、余裕に満ちた表情でいた。

「哀れなのは、どちらだ……」
「ああ?」

 キャミィは、ジュリにと向かい、足を踏み出す。キャミィは、ひじ打ち、そして、得意の蹴りでジュリにと攻撃を仕掛ける。

「家族を殺され、その憎悪のまま、世界を破壊しつくそうとする……私には、お前がただの怒りをコントロール出来ない子供のように思える」

 キャミィの足を、ジュリは、片手で防ぐと、その足を掴み、ホール内の壁にと叩きつける。それも尚、足を掴んだまま、数回、壁にたたきつけ、宙にとキャミィを投げ捨てる。キャミィは、そのまま、地面にと落ちる。

「ガキ扱いとは、とことんバカにしてくれるなぁ?」

 吐き捨てるように告げるジュリの視界の中で、キャミィは、両手に力を込め、流れる血を感じながら身を起こす。

「くそったれな、社会のためのガス抜きをして!」

 立ち上がろうとしたキャミィの体を蹴りあげるジュリ。キャミィの体は転がり、痛みに思わず、唾を吐き捨てる。

「殺してもいい人間をブチ殺して何が悪いんだっ!?」

 ジュリは転がったキャミィの体を再度蹴り飛ばす。キャミィは、そのまま壁にたたきつけられ、崩れ落ちる。ジュリは、体に纏うピンク色の気を放ちながら、キャミィにと歩いていく。

「民衆を守る軍人が、民衆を殺す武器を、群がるようにほしがってやがるんだぜ?お前の言っているのは、ただの理想だ!この世界は、もうとっくに壊れてるんだからなっ?あはははははははは」

 ジュリは甲高い声で笑う。
 その笑い声は、ホール内で響き渡る。ジュリは、邪魔なイスや、植えられた木を、ピンク色の気を持った蹴りで吹き飛ばし、キャミィを捜す。

「親を殺され、目を失って、社会は私に手を差し伸ばすこともせず、巨大な組織だから、相手が悪いと言って見離した。そんな、ふざけた連中に何を託せるんだ?だったら、私がそんなふざけた世界をぶっ壊してやる!アルファルドは、私に新たな世界を見せてくれる……ひ、ひひひ……だからっ!てめぇーらみたいな偽善者に、邪魔なんかさせるわけぇーだろうがぁっ!!」

 背中を壁によりかけながら、キャミィは座るように倒れていた。ジュリは、そんなキャミィを見つけると舌舐めずりをして、大きく足を上げる。その上げた右足はピンク色の気がまばゆい光を放っている。

「!?」

 軸足を払われる、ジュリは、思わずバランスを崩してしまう……その腹部を、強烈な刺激が襲い、ジュリは床を転がっていき、両足で踏ん張りながら、体勢を維持する。

「確かに……この世界は、もう壊れているのかもしれない。だが……」

 立ちあがったキャミィは、唾を吐き捨てながら、なんとか立ち上がる。汗と、血と、そんな恰好のいい姿ではないが。キャミィを待っているものたちがいる。カナン、レヴィ……マリア、ひとみ……。彼女たちに啖呵を切り、皆でまた会おうなどといったのは自分だ。その言ったものが、いないなどありえない。それに、彼女たちがいる限り……。

「この世界を、お前たちの手で幕を下ろすことは許さない」
「ぷっ……ひゃははははは、まだそんなふざけた言葉を言う元気があるなんてなぁ、私、無意識に手加減しちまったか、それとも恐怖で訳わからんなくなっちまったかぁ?」

 ジュリは、腰に手を当てて、大きく口を開けて笑いながら、キャミィを再度見返す。キャミィは、鋭い目つきで、ジュリを見つめる。

「それに、これ以上……私から何も奪わせない」

 キャミィは秘密結社シャドルーに洗脳されていた際、同じような境遇におかされた女戦士がいた。ジュリは、S.I.Nとして施設を強襲。彼女たちを奪った。キャミィは、ジュリと戦い……敗れ去り、キャミィの目の前で、救いたかった妹達を救うことが出来なかった。

「言いたいことはそれだけかよっ!」

 ジュリは、ピンク色の気を纏った足をキャミィにと勢いよく蹴りつける。だが、その足は空を切る。キャミィの姿が一瞬にして消えたようにジュリには思えた。次の瞬間、ジュリの体は、衝撃と共に、天井を見ていた。

「なっ!?」

 キャミィはしゃがみこみ、ジュリの軸足に対して体勢を低くした状態で、自らの体を地面と平行にさせ、体を回転させながら両足で、ジュリを蹴りつけた。バランスを失ったジュリの体を、キャミィは片手で、自分の体を支え天高く蹴りあげる。

「……キャノンスパイク」

 ジュリは、宙を舞いながら、反撃に転じようと、体勢を立て直そうとした。だが、そのジュリの頭を、キャミィは、両足で挟みこむ。そして、そのまま、今度は地面にと叩きつけられた。

「ぐはっ!!」

 思わず声が漏れるジュリ。
 キャミィは、ジュリを挟んでいた足を外して、バク転して、ジュリにと向き直る。ジュリは、そのキャミィの動きに、呆然とする。先ほどとは別人だ。無茶苦茶な動きをしてくる。ジュリは、立ち上がり、唾を吐き捨てた。

「なめんな……なめんなっ!!」

 ジュリは、苛立ち…目を輝かせながら、全身にピンク色の気を覆わせ、キャミィに向けて、気を放つ。それらは分散し、キャミィにと目掛け、放たれる。それらは、床に触れれば。床を削るほどの力を持っている。だが、キャミィは、そんなジュリの攻撃がまるでないものかのように、身を逸らし、側転し、腰を曲げ、かわしていく。

「な、なんなんだ……なんなんだよ、おめぇはっ!!」

 目の前にと迫るキャミィにと怒鳴り散らすジュリ。
 ジュリの目の前にと迫ったキャミィは、ジュリを蹴りあげる。ジュリは、両腕をクロスさせてキャミィの攻撃を防ごうとした。だが、キャミィの足は、クロスさせて攻撃を防ごうとした両腕を蹴りあげていた。防ごうとした腕を外されて、身を露わにしてしまうジュリ。目の前には、蹴りあげた足を、地面にと下ろしながら、もう片方の足が、自分の目の前にと迫る光景。

「!?」

 その蹴りは、ジュリの腹部を貫いた。ジュリは、そのまま床を転がり、壁にと叩きつけられる。

「て、てめぇ……うぶっ、げほげほっ……」

 思わず床に吐き出すジュリ。
 四つん這いになりながら、ジュリは、拳を握りしめる。こんなことがあっていいはずがない。自分は、今まで勝ち続けてきた。どんな立場でいても、春麗、ガイル、そして、このキャミィという女。どんな奴だって自分には敵わない。そうだったはずだ……それが、どうして、こんな何の能力ももたない女に……。

「うぜぇ、うぜぇ、うぜぇ!!てめぇ……ぶっ殺す!ぶち殺してやるっ!!」
「……」

 ジュリは、片目を輝かせ、周りの残骸を、竜巻のように絡め取り、宙にと巻きあげていく。キャミィは、それと対峙しながら、拳を握りしめる。ジュリは、全身をピンクの気に包みながら、狂気に満ちた表情を浮かべた。

「ひ、ひひ……ひひひ……しね、死ねっ!!みんな死ねっ!私の、私を邪魔するものは、みんなっ!!みんなあああああっ!!!!」

 光が包み込む中、巨大な光と爆発音が、周りを包み込んだ。
キャミィは、自分の身が宙を舞うのを感じながら、頭にあったのは、今も尚、戦っているであろう者たちのことだけ。そして、彼女たちなら……安心できる。そんな風に思ってしまう、昔では考えられない自分に、キャミィは笑ってしまった。


Side レヴィ


 振動と大きく響いた爆音を合図に、カナンは二挺拳銃を抜き、アルファルドに向け放っていた。アルファルドは、それを知っていたかのように、身を逸らしかわす。レヴィは、二挺拳銃を握りながら、アルファルドを睨みつける。

「舐めんなよ、蛇女」
「……ロシア人の女のようにうまくはいかないか」

 アルファルドは、銃を同じようにレヴィにと向けながら笑みを浮かべる。

「姐御のことか?」
「人間は皆、心のどこかに、理性というリミッターを持っている。それは人間が、社会という名を構築するために得たブレーキのようなものだ。ロアナプラで出会った戦争に取りつかれたロジア人女。家族を殺されながら、誰も彼女を救おうとしなかった、そんな行き場のない怒りをもったジュリ。そして内に眠る暴力を常に抑え込んでいた毒島冴子。皆、私が救ってやった」
「だとしたら、今すぐ、新興宗教の教祖をやることをお勧めするぜ。そっちのほうが、よっぽど、平和的だし、金も稼げる。お前の女を誑かす能力なら、きっと、凄い信奉者が集まるだろうな」

 一昔前の自分なら……飢えた獣だったころの自分なら、アルファルドに惹かれただろう。レヴィは、そんなことを呆然と考えていた。きっと、そうならなかったのは、アイツのせいだ。まったく……良かったのか悪かったのか。レヴィは、アルファルドを見据えながら、自分を笑った。夏目からの誘いを受け、この女を追いかけようとした時、ロックは、自分を止めた。それを振り切り、レヴィはこの地にと訪れた。もしかしたら、自分は、ロックがいない時の自分に無意識に戻りたかったのかもしれない。

だが、ダメだ。

 カナンや、キャミィなんかといると、どうしても、そんな仲間だなんていう言葉を思い出してしまうから。別にそれでもいい。今、目の前にいる蛇女を倒すことが出来るのなら、そんな『仲間』だなんていうものが力になるのなら、そんなものに身を預けるのも、悪くはない。

「……なぁ、アルファルド?」

 アルファルドにと問いかけるレヴィ。

「かつての私にあったもの。今は、なくなっちまって、わからなくなっちまったから……ききてぇんだが、今のお前の力の源っていうのはなんなんだ?」

 レヴィの問いかけに、アルファルドは、ゆっくりと目を閉じ、同じようにゆっくりと開けた。

「……あいつに言わせれば、孤独だな」
「なるほど……思い出せた」

 束の間の沈黙……。

「それじゃ、始めるとするか」
「ああ……」

 やっぱり、似てるな。
 レヴィは、アルファルドと対峙をし、歩きながらふと思った。過去の自分の強さ、そして今の自分の強さを比較できるチャンスだ。レヴィは、足を強く踏み出し、引き金を引いた。












[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 ep12
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/09/03 00:40





Side 小泉孝


どうしてこうなってしまったのだろう。


<奴ら>が現れて?
テロリストが現れて?
テロリストを生み出すような世界だから?
そんな世界を構築している大人たちがいるから?
なら、その大人達を支えているのは?

誰のせいでもない。
俺たちにだって、責任がないわけじゃない。
だから……、命をかけて、この世界を、この街を、大切な人を守りたい。

「はぁ……はぁ……」

 流れ出る血を、抑えながら、孝は、鉄の柱に隠れていた。大沢マリアとひとみは、互いを信じ、想い合うから、あの感情を読み取る無人兵器から身を守っている。だが、彼女たちだって人間だ。心が揺れ動くこともある。彼女たちがいなくなれば、万事休す。だから、そのために、感情が大きく揺れ動く、自分たちが、的になる。それしか手段はなかった。

「平野、刑事さん、無事か?」
「あはは……な、なんとか」
「こっちもだ」

 孝たちは、壁際で涙ぐむ……麗や、沙耶を見ながら親指を立てる。流れ出る血は、その量を増やしながら、俺は意識をなんとか保ちながら、今日の渋谷駅でみんなで待っていた時のことを思い出していた。あの時のまま、冴子さんと出会い、楽しいクリスマスを過ごしていたら……どんな一日になったのだろうと。

 この世界に、神様などいないだろう、信じたこともない。
 だけど、今は…信じたい、願いたい……。
 どうか、自分たちに、奇跡を。


 だって、今日はクリスマスだろう?





学園黙示録×CANAAN

Episode12 狂気の剣士×闘争代行人




Side カナン




「……色が変わった」


 刀の切っ先をカナンにと向ける冴子に、カナンは答えた。カナンの瞳に映る冴子の姿。それは、今まで様々な混じり合った色ではない。はっきりとした色が、浮かんでくる。それは殺意の色……青。冴子は、一気に距離を詰める。その切っ先は、まっすぐとカナンの首を狙う。横一線の攻撃。カナンは、それを後ろに、飛び回避する。その瞬時の攻撃に、銃で迎え撃つ暇さえない。

「逃げろ……」

 冴子は、つぶやきながら、その勢いに乗った刀を両手で速度を押し殺し、すぐに次の斬撃にと移る。カナンは、冴子の攻撃に、応戦する暇がなかった。冴子は、カナンを逃がすまいと追い詰めていく。カナンは身を返し、冴子の突きをかわす。

「くっ……」
「逃げろ、逃げろ……」

 冴子は、笑みを浮かべながら、突きだした刀を横にと向け、避けたカナンを追う。カナンはしゃがみこみ、冴子の攻撃を再度避ける。冴子は、横にと線を描いた刀の動きを止め、しゃがみこんだカナンの頭にと、刀を振り下ろす。逃げ場所を、徐々に奪っていく冴子の攻撃の仕方だ。カナンは、咄嗟にと前にと飛び出す。


前……それは、冴子の体がある。


 カナンは、冴子の腰にと腕を巻きつけ、抱きつくようにして冴子の動きを止める。冴子は、刀から離した空いた片手でカナンの白いストレートの髪を掴み、自分の顔の前にともっていく。痛みに顔をゆがめるカナン。冴子は、その表情を見つめると、目を細め、頬を染める。

「痛いか?とてもいい顔だ」
「……自分に負けるな」

 抵抗する素振りに冴子に、カナンは冴子にと問いかける。冴子は、首をかしげながら

「私は、今満ち足りている。ああ、そうさ……私を縛り付けていたもの、すべてから解き放たれ……とても気持ちがいい」

 カナンは、自分の額を、冴子のに顔にとぶつける。頭突きは、レヴィから教わった。相手の隙を突き、もっとも効果的であると。冴子の手が緩み、カナンは、冴子から距離をとる。冴子は、頭を抑えながら、手につかんだ、抜けたカナンの白い髪の毛を宙に舞わせながら、刀を振り、その髪の毛を切り刻む。

「……私はお前をつれて帰る。それが、マリアとの約束だ」
「ふ、ふふふふ」

 冴子は、笑みをこぼしながら、対峙するカナンが銃を向けるのを見る。

「出来るものならやってみるがいい」

 冴子は、最初よりもさらに速度を上げて、カナンを襲い掛る。カナンは、銃を放ちながら、後ろに飛びながら、距離を保とうとする。だが、冴子は、それらを刀で真っ二つにと切り裂きながら、距離を詰めていく。

「私を楽しませてくれ、カナン!」

 カナンは、冴子の声が耳元で聞こえ、即座に、冴子の色を読み取り、銃を放つ。冴子は、銃の弾丸を切り裂く。足を止められてはいるが、弾丸には、限界があり、刀には、限界がない。とくに、冴子のような腕であれば、そう簡単にはこぼれが起こることはない。

「以前と戦ったときとは、別人のようだ」

 迷いがなくなった彼女がこれほどのものとは……。カナンは、冴子の攻撃を避けながら、銃を放ち彼女の動きを止めようとする。だが、彼女は、それを切り裂き、カナンをどこまでもおいかけてくる。空港の床に火花を散らせながら、刀を、カナンにと向け、下から、上にと突き上げるように切りかかる。カナンはバク転をしながら避ける。冴子は、追いかけながら、縦横無尽にと切りつける。

「フ……ふふふふ」

 しかも、彼女の表情は、歓喜の笑みを浮かべており、カナンを追いかけ回すことに明らかに興奮していた。カナンは、彼女の狂気に、驚いていた。そんな中、突然、冴子の足が止まる。

「?」

 カナンは、逃げ回っていた足を止め、冴子を見る。冴子は、刀を振り、床に血を拭い捨てる。カナンは、その血に自分の体を見る。カナンは避けているつもりでいたが、彼女の体には無数の傷がついていた。服も幾つも傷跡が残り、切り刻まれている。カナンは、膝を床にと落とし、大きく息を吐く。避けていたはずだった……距離をとり、しっかりと確実に。だが、冴子の速度は、徐々にあがっていった。だからこそ気がつかなかった。

「ジリジリと削り取られる気分はどうだ?」

 冴子は、カナンを見下ろしながら告げる。
 カナンはゆっくりと立ち上がる。

「……嘘だ」
「なに?」

 カナンは、銃を冴子にと向ける。

「貴女は、自分が解き放たれたと言った。だが、それは嘘だ!!」

 カナンの言葉に、冴子の色が揺らぐ。



Side アルファルド



 銃声が響く中、ホールの中では、アルファルドとレヴィの戦闘が始まっていた。銃弾は、ホール内のガラスを砕き、床に響くように割れる。レヴィはアルファルドを追うように銃で撃ち続ける。アルファルドは、そんなレヴィの懐に飛び込み、床を滑りこむ。アルファルドを狙ったレヴィの銃を握った伸ばした腕を、蹴り、レヴィのカトラスが手から離れ、床を滑る。舌打ちをしたレヴィの前、アルファルドが銃を自分にと向け、レヴィもまた、アルファルドにと銃を向けた。

「たとえドラックに頼っていても、お前の不機嫌な気持ちは、消えはしない!」
「またカウンセラーか?必要なのはお前の方だぜ、蛇女」

 レヴィは、腕を前にと突きだし、銃を放つ。アルファルドは、腰をかがめ、レヴィの脇腹を、強く蹴り飛ばす。レヴィは、その衝撃に顔をゆがめながら、腰を転がる。レヴィは、転がりながら、即座に体勢を立て直し、アルファルドを眼で追う。

「ようは、世界観の問題だ」

 アルファルドは、まっすぐ、こちらにと向かってくる。レヴィは、かがんだまま、銃を放ち、アルファルドの動きを止めようとする。アルファルドは、レヴィの銃弾がどこにくるかわかっているかのように、避けながら、レヴィにと向かってくる。レヴィは立ち上がり、アルファルドにと走って向かっていく。二人は衝突するように、銃同士をぶつけ合わせ、互いを狙う。

「誰もが、私のようになる」
「蛇女!人間は、お前のように弱くはない」
「弱い?私が?」
「ああ、弱いな。自分を律することもできねぇー奴は、駄々っ子のガキと同じだ」

 レヴィは、そう言い放つと、アルファルドは、音を鳴らす銃同士のぶつけ合いを前に、顔をレヴィにと近づけ合う。

「お前は!自分が気にいらないものをぶっ潰したいだけなんだよ!すべてが思い通りに行くことなんかありゃーしねぇ!それがわからねぇーお前はただのガキだ!」

 至近距離で、引き金を引く二人。
 二人は、銃を中心にしながら、回るようにして、放たれる銃弾を避けていく。銃弾が、床に突き刺さり、火花を散らせながら、二人は、離れながら銃を撃ち合う。銃を避けながらも銃を放ち合う。レヴィの体に突き刺さる痛み……。

「ちっ……さっきの蹴りがきいてんのか」

 レヴィは、目を細めながら、アルファルドが笑みを浮かべている表情を見る。

「……永遠に我慢し無理をすること、そんな人生に何の意味がある?」

 アルファルドは、レヴィが痛みを抱えていることを知り、距離を詰める。レヴィは、後銃撃を避けながら、もう片方の銃……カトラスを捜す。

「みんな、そんな矛盾の中で生きているんだ……。我慢をして、無理をしながらな。なんでか、お前にはわからねぇーだろうな」

 息を乱しながら告げるレヴィをアルファルドは追いかける。体を回転させ、銃を避け、放つ。それは、レヴィの体を貫通した。レヴィは、床に転がりながらも、その先にある、カトラスを握りしめる。

「……お前のような奴に、抵抗している人間が、今も、色々なところで戦ってる。みんな誰に感謝されることもなく、命をかけてな。だけど、そいつらは世界のためとか、そんなことは欠片も思ってねぇ」

 血が流れる中、レヴィは、顔をあげる。
 アルファルドは自分を見下ろしながら、立っていた。

「お前から説教されるとは思ってなかったな?」
「うるせぇ!!」
「……だが、結果はどうだ?私を求める人間もいる」
「あの、発狂女と、どっかの日本人か……」
「代表的なものは。だが、それ以外にもいるはずさ。胸にため込んだものを吐き出す、きっかけを求めている者たちが……」

 レヴィは、かつてこの地に訪れた際に、自分達と同じように、生と死の境目で刀を握り、戦った男を思い出した。彼らは、決してヨルダンや、イスラエルにいたわけではない。平和の代表である日本にいた。そんな地でさえも、アルファルドのいう、混沌を、血を求める人間がいる。

「お前にはわかる筈だ、そういった人間たちが闇に染まったら、もう戻れない」
「……染まっていればな?」
「フ、フフフフ………」

 アルファルドの笑みに対し、レヴィは目を細め……にらみを利かせながら、立ちあがった血に濡れた二挺拳銃は、目の前の蛇と対峙する。




Side 毒島冴子



 廊下に響くカナンの声に、冴子は、握っていた剣を震わせる。

 頭の中に駆け巡る一瞬の記憶……。

 それは、学校にと通う自分の姿、登下校道を、歩きながら、自分を追いかけるように走ってくる孝、そして、彼のクラスメイト。冴子は、そんな彼らを見て、笑いながら心地よい風が通る道を歩いていく。

 剣道部として一人、オレンジ色に染まる道場で竹刀を振う。そんな姿を見ながら、腕を組み、私を見る宮本麗。彼女は、棒術でかなりの腕があると言っていた。勝負をしたいと、彼女は言ってきた。勿論、それだけの理由でないことを冴子は知っていた。

 からっきしダメな、機械に関しては、平野君に力を借りたこともある。高城沙耶には、孝のことで、麗と決着をつけるようになどというアドバイスを受けたこともある。

 学校生活。

 今の冴子にとってはどうでもいい、どうでもいい……はずの記憶。だが、それが、電流のように、自分の頭の中を駆け巡った。冴子は、膝を落として、片手で頭を抑える。目を閉じ、痛みをこらえながら、冴子はカナンを見る。

「冴子……」
「私は……これを求めている!!」

 片手で頭を抑えながら、顔を歪める冴子は、刀を握り、カナンを見る。カナンの眼には、冴子の色が、再度混乱を現していた。

「負けるな!貴方なら……戻ってこれる!」
「黙れっ!!」

 冴子は、足を踏み出し、切りかかる。カナンは、銃を放ち、冴子の動きを止めようとする。冴子の視界にはしっかりと、カナンの放った銃弾が捉えられていた。真っ二つにとして、冴子は、カナンを追う。だが、今度はカナンも逃げてばかりではない。カナンは、冴子の刀をしゃがんで避け、胴体を蹴ろうとする。冴子は、その動きを読み取り、蹴ろうとした足を、膝で、叩きおとす。だが、カナンは、今度は身を回転させ、冴子の両足を、横にと蹴り、バランスを失わせる。

「くうっ!!」

 冴子は、床に倒れると、目の前に迫るカナンを見る。

「私は……もう、元には戻れない!あの生活も、すべて、私は捨てた……捨てたんだ。私には、この血に飢えた世界でしか生きていくことができない。私は、敵を葬り、苦しむ姿を見て、笑っている。元々、壊れているんだよ!私は!」

 冴子は、立ち上がりカナンにと切りかかる。冴子は、カナンに反撃の隙を与えないように、腕を振り、カナンを追い詰めていく。髪の毛を乱しながら、カナンは、冴子の心がますます、混乱に満ちていくのを知る。

「はああっ!!」

 冴子は、頭の中にかかった靄を切るように刀を振り続ける。カナンはそれを避けながら、軸足を、踏みつけた。カナンにとって、混乱した彼女の心は読めなくても、カナン自身が経験した戦闘で、冴子を止めることが出来る。冴子の動きを止めたカナンは、冴子を見た。

「壊れている……貴女はそう言った。だが、本当に壊れている人間が、マリアを助け、友人からの声に反応するはずがない!」

 軸足を抑えられたことで、動きが止まった冴子。そんな冴子に対して、カナンは大きな声で、冴子に怒鳴りつけた。冴子は、目の前で自分を必死に説得しようとするその少女を眺めながら、自分の闇を見せた際、必死になって、それは違うと言ったマリアとカナンの姿が重なった。

「……貴女は、自分を誤魔化しているだけだ。壊れてなんかいない、ただ……自分を偽っているだけだ、逃げているだけだ!!」

 カナンの言葉に、冴子は、顔をうつぶせる。

 なぜ、彼女はここまで自分を止めようとする?それがマリアの意志だからか……。放っておいてくれればいい。私は人を殺した。そんな私が孝達のもとに帰れる資格などないのだ。狂気のままでいれば、何も考えなければ、苦しむことも……なかったのに。

「冴子、貴女には……まだ様々な人との糸が繋がっている、そうじゃないのか」

 冴子は、刀を振う。
 カナンは冴子から、距離をとった。冴子は、追撃をせず、刀を振り、血を払う。前髪を垂らした奥の目が光った。

「カナン……、決着をつけよう」

 冴子は、刀を構えながら、カナンを見つめる。
 カナンの視界に移る冴子の姿は、凛とした美しさがあった。そして、その色は、ギラついた青色はなくなっていた。

「……冴子」

 カナンは言葉を放とうとした、だが、冴子の眼は、そして色は、カナンに思いを伝えていた。廊下は、血が飛び散り、空が、少しずつ明るくなりだしていた。二人は、距離を保ち、動かぬまま、互いの武器を、握っていた。


地平線から漏れた光。
光が、二人を照らした。


冴子は、距離を詰め、刀を振った。
そして、大きな銃声が、廊下にと響き渡る。













[28479] 学園黙示録×CANAAN 彷徨う剣士 最終話
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2011/09/10 21:05





Side 加納慎治



光に照らされたテレビ庁舎内。
太陽の光に照らされたパソコンの中に映し出されていた時計が止まっていた。

マリアとひとみは、もたれるように、その場で崩れ落ち、大きく息を吐きながら、こちらにと駆けてくる加納を眺める。その背後では、大きな声を上げながら、孝や、コータにしがみつく沙耶や麗の姿が浮かんでいた。

「……姉さん、私達できたんだね」
「うん……ありがとう、ひとみ」
「ううん、姉さんがいてくれたから……できた」

 二人は、寄り添いながら、目の前の眩しい朝日を眺める。
 後は……カナンが、冴子さんを連れて帰って来てくれれば、孝たちが、喜んでくれることだろう。それで、すべてがうまくいく。

 周りから、声が聞こえ出す。

 それは、警察や自衛隊の人たちだろう。彼らは、私達を前にして、慌てた様子で、私達をゆっくりと連れて行く。加納は血まみれになりながら、安堵した表情を浮かべている。私たちは、ゆっくりと歩きながら、廊下にと出る。そこには、柱にもたれながら、麗や、沙耶に見守られている孝とコータがいた。

「よくやったな、二人とも」

 孝は、マリアとひとみを見て、笑みを浮かべる。マリアは、笑顔で答え、ひとみは、沙耶にありがとうと告げた。二人がゆっくりと歩き出し、自衛隊員にと連れて行かれる。加納は、二人を見送りながら、倒れている孝にと手を伸ばした。

「お前もだ……自分から、囮になろうだなんて無茶なことしやがって」
「へ、へへ……。冴子さんも含めて、みんなでクリスマスを……祝うって約束しましたから……」

 隣に倒れているコータも笑みを浮かべ、孝の言葉を聞きながら沙耶にどつかれている。そんなやり取りの中、麗は、手を差し伸ばす。

「本当に、バカ……なんだから」

 麗が差し伸ばした手を掴まない孝。

「たか……し?」

 麗は、そこで孝が、目を閉じていることに気がついた。疲れてしまっていたのだろうか……麗は、しゃがみながら、孝の頭を撫でる。孝の体が、柱から崩れ落ちる。




学園黙示録×CANAAN

最終話 彷徨う剣士





Side 毒島冴子


 空港の廊下は太陽の光に照らされ、二人の立ち位置は、反対にと変わっていた。一瞬で決着はついた。冴子の刀には血がつき、それが、床にと滴り落ちている。冴子は、それを見つめながら、勝利を得たと思った……だが、次の瞬間、視界が歪み、足に力が入らなくなり、そのまま、床にと崩れ落ちた。重たい音が廊下に響く。


暗転……。


 闇の中、冴子は切れかかっている電灯の下……しゃがみ込み、喚いている痴漢を見下しながら、立っていた。その手には竹刀が握られており、痴漢の背中に竹刀を叩きつけている。笑みを浮かべ……楽しかった、歓喜に震えていた。何度も叩きつける中で、地面にと転がる割れた痴漢の眼鏡。その割れた眼鏡に映った私の瞳からは、涙がこぼれていた。


泣いている……そうか、私は歓喜に震えながらも、本当は怖かったのだな。


 恐怖を認めることが出来ず、弱い自分を他の者たちに見せたくなくて……。歓喜に、自分は浸っていると、思い込んだ。強い自分を守りたくて、誰にも、自分の気持ちを打ち明けることをしなかった。……私は誰も信じようとしなかった。

……えこ……冴子!!

 その言葉に、冴子は、ゆっくりと視界を開けた。
 そこには、白髪の少女、カナンが私を見つめていた。

そうか……私は、負けたのか。

 冴子は、不思議と悪い気分ではなかった。自分より強いものを素直に称えたかった。そして、冴子は、割れた窓ガラスから、涼しい風が入ってくるのを感じながら、カナンを見つめる。カナンの表情は、哀しみに満ちていた。それは、ただの一般人が、自ら戦いに入り、そして、自滅していく姿を見てのことだろう。

「……そんな顔をするな」

 冴子は、カナンを見つめながら、ゆっくりと口を開ける。

「悪を倒したんだ。もっと喜べ……」
「私は……」
「お前の……言うとおり、私は弱い。だから自分の闇に負けた。私を慕ってくれている、そんな者たちに頼ることも、支えてくれていることも信じることも出来ずに……」

 冴子は、自分の記憶の中に、思い出の中にいた者たちに申し訳なく想う。自分とカナンの差は、そこだろう。カナンは、マリアというものに支えられ、そして信じていた。それだけじゃないだろう。あの二挺拳銃、そして英軍の女とのかかわりもそうだ。カナンは孤独ではない。誰かに想われている、それが彼女の強さだ。

「……諦めるな」

 カナンは、冴子を見つめながら大きく言葉を放つ。

「気がつけたんだろう?お前は!一人じゃないって!!気がつけたんなら、また同じ過ちを繰り返さなければいい!だから、諦めるな!何度だってやり直せる……」
「……どこまでも、お前たちは」

 それは、カナンだけではない。
 彼女と同じように自分に訴えかけてきた大沢マリア。闇に堕ちていた自分を必死にその手を引こうとした。敵に情けをかけるなど……。冴子は、床に倒れたまま、カナンの言葉、マリアの言葉を思い出していた。そんな冴子の耳に、聞こえてくる足音。

「……」

 冴子は、重い体をゆっくりと近くにあった刀を握り、それを支えに体を起こす。
 カナンは、血にまみれた冴子が、ゆっくりと身を起こす姿を黙って眺めていた。冴子は、カナンに背中向けながら、冴子は、大きく息を吐きながら、なんとか立ち上がる。

「行け」

 冴子は、後ろにいるカナンに告げる。冴子の視界には、こちらにと近づいてくる<奴ら>の姿があった。戦いの音に吸い寄せられてきたのだろう。数は、かなりのものだ。

「お前が守りたいものを……守るがいい」
「……約束だ」

 カナンは、冴子の背中を眺めながら、声を上げる。冴子は、その声を聞きながらも、カナンのほうを見ることはしない。

「生きて……、私達のもとに帰ってくるんだ」
「……」

 カナンはそれだけ告げると、振り返り走り出す。遠ざかる足音を聞きながら冴子は、迫る<奴ら>を見る。冴子は、両足を踏ん張り刀を握る。近づく<奴ら>にと切りかかる。首を跳ね飛ばし、前蹴りをして、敵を近づけさせないようにしながら、集団で迫る<奴ら>が伸ばした手を纏めて切り捨てる。

「……」

 <奴ら>の体を切り裂きながら、冴子は、痛みに思わず膝をついてしまう。滴り落ちる血が、廊下を濡らす。自分を取り囲むように、迫る<奴ら>。冴子は、顔をうつむけながら、大きく息を吐く。

「ここまで……か」
「約束、忘れたのか?冴子……」

 その言葉に、ゆっくりと顔を上げる冴子。その声は、はるか遠くに聞いたことのある声だった。太陽の逆光で顔は影になって見えない。冴子は、それでも、それが誰なのかわかった。手を伸ばす、彼の手を握りしめ、立ち上がる冴子。

「……そうだったな、生きて戻らないといけない……約束があったな」

 冴子は、自分にと手を伸ばした<奴ら>の首を切り落とす。その場で崩れ落ちる<奴ら>。冴子は立ち上がり、垂れた前髪をの奥にある強い瞳で、<奴ら>をにらみつける。



Side レヴィ


 走るカナン。

 廊下を抜けた先……、空港のホールは、銃弾の跡があちこちに残っていた。カナンは、目を灯しながら、誰かいないかを捜す。銃声も聞こえないということは、戦いは終わってしまったということか。カナンは、視界に、色を見つけた。

「レヴィ!」

 走り寄ったカナンの前には、倒れているレヴィがいる。カナンは、レヴィに声をかけ続ける。そんなカナンの頭に痛みが走る。レヴィは、カナンに頭突きをくらわしていた。頭を抑えながら、涙目でレヴィを見るカナン。

「何勝手に、殺してるんだ?」
「お、おもってない……」
「油断したぜ……ったく、蛇女に一発風穴を開けてやろうと思ったのに!」
「大丈夫?」

 心配するカナンの頭を再度、頭突きをしようとしたレヴィ。だが、それは空を掠める。

「こんなときに、共感覚はずりぃーぞ!」

 動きを読んだカナンに、レヴィは不平を言いながら、互いに、血にまみれた状態で、笑みを浮かべ合う。確か、ロアナプラでも、そうだったか。レヴィを見たカナンは、深くうなずき、立ち上がる。レヴィは、そんなカナンを見上げると、カナンに銃を差しだす。

「……カトラス」
「私の代わりにもっていってくれ。このまま、蛇女に何もできないのは、歯がゆいからよ」
「返しに来る」
「当たり前だ、戻ってこなかったら……また頭突きをくらわしに捜しまわってやる」

 カナンはカトラスを受け取り、そのまま振り返らず走っていく。残されたレヴィは、カナンの走っていた後に、点々と残された血痕を見た。レヴィは、拳を握りしめながら、壁際に背中を押しつけながら、ゆっくりと立ち上がる。太陽の光が漏れる中、彼女は建物の影に立ち、聞こえてくる足音に、ふと視線をやる。数は、かなりのものだ……生きている人間の影ではない。

「ったく、やっぱりくるんじゃなかったな、こんな国」

 一つだけとなった銃を握りながら、彼女は、壁に背中を押し付けたまま向かってくるものを見る。徐々に見えてくるその姿に、レヴィは壁から背中を離し、両足で立ちながら、銃を構える。

「どうした?肩でもかそうか?」

 隣から聞こえた声に、レヴィは顔を向ける。そこには、傷だらけのキャミィがいた。レヴィは、血の混じった唾を吐き捨てながら、前を見る。

「ふざけんな、コスプレ女に、助けられたなんて……口が裂けてもいえるかよ」
「フ……、それだけ口が叩ければ十分だ」

 二人は並びながら、向かってくる<奴ら>にと対峙する。


Side アルファルド


 ジェット機内にて、アルファルドは、時計を眺めながら、いつまでたっても、部下からの連絡が来ないことに、決着がついたことを察した。本来ならば、ウーアウイルスによる爆発が聞こえる時間帯だ。また、あの大沢マリア、ひとみがやってくれたということになる。だが、別に拘っているわけではない。また暫くは、上下した株価や、テロに躍起になる国際組織に武器売買を行いながら、計画でも進めるだけだ。幾らでもチャンスはあり、幾らでも、私に味方をするものは存在する。

「アルファルド!!」

 そうだ……こいつら以外を除けば。

 目の前に立つカナンは、大きく息を吐きながら、カトラスをアルファルドにと向ける。アルファルドは、カナンを見る。

「……二挺拳銃じゃ私は仕止め切れなかったな、その分、あの剣士は役に立ったようだ」
「貴女も、レヴィを殺せなかった……」

 アルファルドはその言葉に目を細め、銃を抜き、カナンにと向ける。

「私は負けない」

 カナンは表情を崩すことなく、いつもの冷静さを保ちながらはっきりと告げる。アルファルドは、そんなカナンを眺めながら、「なぜ?」と問いかけるように、首をかしげた。カナンは、アルファルドの目を見つめながら、口を開ける。

「孤独の貴女にはわからない。私には、キャミィや、レヴィやひとみ……マリアがいる」

 カナンには見える。
 カトラスを握るカナンの手をしっかりと支えるレヴィ、もう片方のナイフを握る腕を支えるキャミィ。そしてその背後では、自分が立っていられるように支えてくれる、ひとみとマリアの姿。自分が立っていられるのは……彼女たちのおかげ。

「いないものの力など頼りになるわけがない」

 アルファルドは嘲笑うようにカナンにと告げる。

「なるよ……私の胸の内にある想いが、記憶が、力になる」
「……どこまでもふざけた奴だ!」

 アルファルドは声を荒げながら、引き金を引くのと同時に、カナンもまたその引き金を引いた。




Side 毒島冴子






・・・・・・


・・・・


・・・



 雪が、暗い空から舞落ちる。

 渋谷駅前は、イルミネーションに彩られながら、明るい光で街を飾っている。人の波に、流されながら、冴子は、長い髪の毛を靡かせ、道を急いでいた。肌寒い中、周りの人ゴミをかき分けていく。冴子は、ハチ公前にとやってくると、辺りを見回しながら、捜していた。戸惑った表情だった冴子は、肩を叩かれた。振り返った彼女は、嬉しそうに笑みを浮かべる。








登場人物

CANAAN

カナン
アルファルド
大沢マリア
夏目

428 封鎖された渋谷で

大沢ひとみ
加納慎治

スーパーストリートファイター

キャミィ
ジュリ

BLACKLAGOON

レヴィ

学園黙示録 High School Of The Dead

毒島冴子
小泉孝
高城沙耶
平野コータ
宮本麗
鞠川静香
南リカ






「……はぁ、はぁ」

 大きく息を吐きながら、冴子は、意識を覚醒させる。陽の光が、窓から差し込む中、彼女の前には、まだ多くの<奴ら>が群れを成して、近づいてくる。周りを血の池にしながら冴子は、周りに誰もいないことを知る。笑みを浮かべた彼女は、手に握られた刀に力を込め、迫りくるものたちを睨みつける。




end




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