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[28302] とある原子崩しの喪失【禁書・完結】
Name: 凍月◆f66d21b9 ID:59327312
Date: 2011/06/19 15:14
とある魔術の禁書目録の二次創作小説です。以下注意点

・新約の少し前から始まる話です。新約のネタバレを含みます。
・むぎのんの話です。
・アイテムは浜面の嫁的な要素を含みます。
・後半になるにつれ原作改変を含みます。
・幻想殺しも一方通行も出てきません。
・コメディ的なやりとりが主ですが、最後にバトルが少しだけあります。
・短期連載です。6話で終わります。
・PSP版麦のんシナリオのネタを含みます。
・むぎのん愛してる。


6/19
後書き追加しました。
読んでくれた人、感想くれた人、ありがとうございます



[28302] とある原子崩しの喪失1
Name: 凍月◆f66d21b9 ID:59327312
Date: 2011/06/15 21:23
かつての私はきっと
目にも見えない、何かを求めていたのだろう。
形すらない、正体もわからない、ただ高いところにある何か。
空に輝く小さな星にさえ届く腕が、欲しかった。



とある原子崩しの喪失1



学園都市での、ある日の昼過ぎ。
早朝からのバイトを終えて自分のアパートに帰宅した浜面仕上が見たものは
自分の部屋で寝転がって、雑誌を興味なさげにめくっている女だった。
別に同棲相手などではない。むしろこんなツッコミを入れる相手だ。

「なあおい麦野……人の家に勝手に入るなって何度言えばわかるんだよ。せめて携帯に連絡入れてからにしろよ」
「あ、おかえり。浜面こんな時間まで何してたのよ。おっせーっての」
「ガン無視かよ!?」

彼女の名は麦野沈利。
学園都市第四位の超能力者(レベル5)、原子崩し(メルトダウナー)である。
ふわふわとした長髪。すらりとした長身を、シンプルなジーンズとYシャツに包んでいる。
ただしその顔は1/3ほどがナイロン製の眼帯に覆われ、左腕は合成樹脂性の薄っぺらな義手である。
何故、超能力者である彼女が、無能力者のチンピラである浜面の部屋に勝手に入っているのかといえば

「うっせえな。いいだろ同じアイテムなんだからよ。浜面のものはみんなのもの、みんなのものはみんなのものだよ」
「集団リンチ的ジャイアニズムきたこれ!」

第三次大戦の終結からしばらく経過している。
しばらく前に浜面たちはロシアから学園都市に帰還し、絹旗も含めてアイテムを再結成していた。
とはいえそれは、以前のような暗部組織ではない。
上層部や電話の女から仕事が来るわけではないし、そもそも学園都市の暗部は第三次大戦を境に全て解散してしまったという(絹旗談)
現状、アイテムはちょっとしたサークルでしかない。
どこに届けているわけでもなく、これといった活動をしているわけでもないので
ただの仲間と言った方がわかりやすい。
故に浜面の部屋の鍵を強奪し、あまつさえそれを複製してアイテムメンバーにばら撒いたりしても
麦野曰く、仲間としては当然らしい。
そんなわけで、浜面の部屋は一種のたまり場と化していた。麦野がこうして無断で入ってくるのも、既に何度も繰り返された光景である。

「いいじゃん、掃除してやってるんだからさ。洗い場ゴミタメになってたわよ、私が来てなかったら」
「そりゃそうだけどよ。それって結局、お前らが快適に過ごすためだよな? なんかよくわからん小物とか雑誌がどんどん増えてるんだが」
「人に掃除させておいて文句か浜面ぁ! 随分えらくなったもんだなあ」
「わ、わかったわかった悪かった」
「どうせ飯まだだろ? 冷蔵庫に適当に入れておいたから、食べていいよ」
「……」

確かに腹が減っていたので浜面が小さな冷蔵庫を開けてみると、中にはコンビニのシャケ弁当が二つ鎮座していた。
ちらりと麦野を見ると得意そうなドヤ顔だった。ここで『シャケ弁もう飽きた』などと言ったら血を見るだろう比喩抜きで。
「ありがとよ」と礼を言いながら、電子レンジにシャケ弁二つを放り込む。温めている間に麦茶を入れ、まずは一息に飲み干す。
ちゃぶ台に麦茶とシャケ弁を二つずつ置く頃には、麦野も起き上がってあぐらをかいていた。
もぐもぐと食べる。味はどうしようもなく普通のシャケ弁だったが、麦野は「んー、まあまあかな」と割と幸せそうだった。
食事の間、何とはなしに雑談を交わす。

「つーかよ。暗部が消えたって言うなら、お前学校行けよ。滝壺や絹旗はフツーに登校してるだろ」
「やだ。半年近く顔出してないもん。めんどい」
「登校拒否か! レベル5の癖にそれでいいのかよ!」
「はあ? レベル5なんてまともに学校に学校通ってる奴の方が珍しいわよ」
「それでいいのかって感じだが、お前が言うとすげえ説得力あるわ」

それに、とシャケの切り身を箸で摘んで麦野が補足する。

「私、原子崩し使えなくなったから。厳密にはもうレベル5じゃないし」
「ぶはあっ!?」

浜面はその場で、口に含んでいたご飯粒を盛大に噴き出した。
真正面には上機嫌の麦野。
その後に起きた惨劇については割愛する。





「シャケを食べる時にはね。誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃダメなのよ。独り静かで豊かで……」
「ふあい」

ティッシュを鼻に詰めて、浜面がテーブルを布巾で拭き掃除する。
麦野はキッチンスペースで、ダメになったお互いのシャケ弁を未練ありげに見つめていたが、思い切るように生ゴミ入れに放り込んだ。
ぶつぶつと不貞腐れながらちゃぶ台に戻る。

「で、どうしてくれんの?」
「どうするって……どうするんだよ?」
「なんでてめえが聞くわけ? 寿司屋でサーモン食い放題とかさあ、けじめのつけ方があるでしょ?」
「それ回転寿司じゃん! 飯に関してはホントやっすい女だなお前」
「はあ? 人のこと安い女とか浜面ブチコロシ確定ってことでいいわけ?」
「いででででそっちじゃねえ! 飯は奢る、奢るからまずは落ち着いて話をしようぜ!」

アイアンクローで体を持ち上げられて浜面が悲鳴を上げる。
片腕隻眼になろうとも、麦野の素手戦闘力が浜面を圧倒しているのは変わりがないらしい。一体どういう必要があって、この女がプロレスラー以上の体力をしているのか、浜面は常々疑問だった。
さておき。手を放してもらった浜面は、ちゃぶ台の前で真剣な顔をして座りなおす。
ちなみに麦野は、これからどこの店で浜面に奢らせるのか、頭の中で学園都市シャケMAPを開いて検討していた。

「能力が使えなくなったって……マジか?」
「ん? ああ、うん」
「うん、っておい……何時からだ?」
「えーと……ロシアから戻ってきた時にはもう使えなくなってたわね」
「でも滝壺と一緒に俺を援護した時は使えてたよな、原子崩し」
「ああ。あれがラスト、打ち止め。ジュースの最後の一滴みたいなものだったみたい」
「……マジかよ」

割とあっさりと答えられ、浜面が頭を抱える。
麦野が能力を失った原因を考えてみたが、思い当たり過ぎるものがあった。
体晶だ。
第三次大戦の最中、浜面をロシアまでストーキングしてきた麦野は、あろうことか滝壺専用の劇薬である体晶をメチャクチャ痛そうな方法で飲み下した。
結果、麦野の原子崩しは破滅的な威力で放出されたものの、それはほんの数十秒の間でしかなかった。
あれは自爆のようなものではなかったかと、今更になって浜面は思う。
麦野はある程度、ああなるとわかっていて体晶を服用したのではないのかと。
お互い、生きてて本当に良かった。

「いや待てよ? 体晶については、あのあとエリザリーナ独立同盟で治療してもらったろ?」
「あー。なんかクソまずい薬草を怪しげな儀式で不気味なババアに無理矢理飲まされたわね」
「お前命の恩人の国家元首様に失礼すぎだろ!?」
「まあ、あれでなんとか体は動くようになったわね。初めて民間療法スゲエと思ったわ」
「でも能力が使えなくなったって……滝壺はむしろ逆に成長を再開したんだぜ?」
「個人差。そんなことで確実に能力成長するなら、学園都市の学生みんな体晶飲ませてロシアに送り出せよ」

お腹をさすりながらどうでも良さそうに麦野が言う。腹が減ってるアピールらしい。
どうやらこのレベル5(元?)にとって、能力云々よりも昼食のシャケメニューの方が重要らしかった。
さすがに、浜面も麦野の態度に不審を憶えはじめる。
浜面の知る麦野とは、レベル5であることに高いプライドを持つ女王様的な存在だった。
だからこそ二度三度と自分を追いかけてきたはずなのに……と。
能力を失いなどすれば、どんなヒスを起こすかわかったものではない。むしろ原子崩しを失った麦野など想像も付かなかった。
しかしどうやら、これは事実らしい。いや、もしかして麦野に担がれてるだけなのか?

「だから学校も行きたくないの。能力開発授業受けたら一発でばれちゃうし」
「なるほどな、だから登校拒否か……って、それってニートしてたいから適当に言ってんじゃないだろうな?」
「ニートの定義に学生は含まれねーよ。勉強し直してこいレベル0」
「能力使えないならお前だってレベル0だろ!」
「ん? ああ私まだ書類上はレベル5だから。報告してないし」
「え、なんで?」
「学園都市ってさあ、能力強度によって奨学金が支給されるのよね。レベル5だったら、まあそれなり。だから能力測定とか受けたくないの」
「お前は、はした金の奨学金で苦学している全てのレベル0に頭を下げて謝れ」
「そんなことよりはまづらあああああ。いい加減腹が減ったんだけどさあ」
「そんなことって……いやまあいい、わかった。ファミレスにでも行こうぜ」
「そうね。途中でシャケ弁買ってこ」
「いい加減持ち込みやめろ」




結局、昼飯は近所のファミレスで済ませた。麦野はサーモンクリームパスタ、浜面はかけそばである。
当たり前のようにドリンクバーを往復するのは浜面の役目だ。それは五人だろうが四人だろうが二人だろうが不変である。
テーブル席の向かいに座ってシャケの点数をつけている麦野を前に、浜面はずっと考えていた。
体晶をあおり、能力を失った。この因果は、考えてみれば当然である。滝壺を治療するためにどんな苦労をしたかを思えば、身動きに支障がないだけマシなのだ。
だが、滝壺と同じ治療法で完治したと安易に思いこんでいたのは浜面の落ち度だ。
麦野の言う通り、個人差というものだろう。特にこれはレアケースなのだ。
その上で、これからどうするか。
浜面は第三次大戦の最後に、素養格付(パラメータリスト)という、学園都市と交渉するための材料を手に入れている。
それを使って自分を含めたアイテムの安全を保証しているわけだが……交渉次第では新たな条件を引き出せるかもしれない。
例えば麦野の治療だ。
ただ、得体の知れない学園都市に対してこれ以上の要求は危険だし、治療できる場所があるのかどうかも疑問符が付く。
(素養格付を奪ったエージェント曰く、滝壺に関しては学園都市の能力開発を以てしても限界があったようだし)
となると、まず次善の策としては……

「なあ、麦野。またロシアに行くか?」
「は、はあ? はああ? な、なにいってんのよあんた。滝壺はどうするのよ」
「え、なんでここで滝壺が出てくるんだ」

突然真っ赤になった麦野を不審に思いながら、浜面は自分の考えを説明した。
治療するなら学園都市の研究機関がまず適切だが、これは能力の喪失がバレてレベル5を取り消されてしまう危険性がある。
それならいっそ、一度症状を看てもらった相手に相談するのはどうだろうか。
とりあえずは国際電話だが、なあに麦野だったらクマに遭おうが素手でぶちのめせるさHAHAHA!
そこまで自分の考えを説明したところで、麦野がなにやら興味なさげにしているのに浜面は気付いた。
くしゃくしゃにしたストロー袋に水滴を垂らして遊んでいる。しかも大して面白くもなさそうだ。
ストロー袋を観察したまま、麦野が呟く。口調はなんでもないのに、浜面はやけに脇の下に汗をかくことになった。

「浜面はさ」
「お、おう」
「私が能力を取り戻した方がいいと思ってるんだ?」
「え、いや……だって麦野はレベル5だろ?」
「まあ、そうだったかもね」
「それに奨学金の件もあるし、表で生きて行くには何時までも不登校って訳にはいかないだろ? つか、レベル5じゃない麦野なんて想像も付かないっていうかだな……」
「ねえ、今の私を」

何故だかしどろもどろになった浜面に、麦野は何かを言いかけてやめた。
代わりにそっぽを向いて窓の外を眺め始める。視線の先には空しかない。
浜面にとって、麦野は何よりレベル5だった。
能力者の頂点、乱暴で傲慢、敵にすると恐ろしいが味方にすると頼りになる、アイテムの司令塔にしてクイーン。
それが突然、無能力者になったとしたら、戸惑うのも当たり前だろう。

「麦野? 麦野さーん?」
「……まあいいわ」

しばらく拗ねていた麦野だったが、小さく息を付いて顔を戻す。
つい以前の癖でファミレスに来てしまったが、その選択を麦野はやや後悔しつつあった。
スラリとした長身に、ナイロン製の眼帯とメカニカルな義手の麦野はかなり目立つ。仲間内では既に慣れていたが、外に出てしまえばそうではない。
ましてや、男と二人で深刻な顔を付き合わせていれば、どう思われるかわかったものではない。さっさと話を切り上げにかかる。

「わかった。わざわざロシアまで行かなくても、手近な研究所でいいでしょ。体晶関連なら霧ヶ丘付属かな。あそこなら滝壺も通ってるはずだし」
「あ、ああ……って、いいのかよそれ? 能力測定することになったら」
「一応口止めはするつもりだけど。ばれたらばれたでその時でしょ」
「……」

あっさりと言われて浜面が絶句する。
一応、確認するように呟いた。

「まさか口封じに皆殺し、虐殺ショーって事か……?」
「手始めにてめえを口封じしてやろうかあ? とりあえず浜/面ってことでオーケイ?」
「すみませんでしたあ! ……けどよ、麦野はそれでいいのか?」
「なにが?」
「……レベル5、第四位でなくなっても」
「別に。レベルとか序列なんてどうでもいいわよ」

結局その日、麦野の能力についての話はそれで終わった。
浜面が動揺のあまり「お前は誰だ、本物の麦野をどこにやった!」などと叫びだし
麦野がテーブルを足場にしたシャイニングウィザードで顎をかち上げ黙らせたからである。
今日も学園都市は平和だった。



[28302] とある原子崩しの喪失2
Name: 凍月◆f66d21b9 ID:d21e32cf
Date: 2011/06/15 21:23
レベル5であることとか、序列だとか
下らない理由でこだわっていたんだなって、思う。
学園都市230万人の目標と羨望であること、なんて。そんなことは考えたことはなかった。
自分より下の人間は、全て等しく見下すだけだった。
私はただ、上を目指すために上を目指していた。
自分の価値はもっと優れているという実感がほしかった。
自分の限界を認めたくはなかったのだ。




とある原子崩しの喪失 2




「はあああああ!? え、ちょ、ちょっと超超待ってください麦野。どういうことですか超浜面ああああ!」
「だよなー。やっぱこういう反応だよな、普通」
「絹旗動揺しすぎよ。どうでもいいけど、意味もなく浜面に腕十字かけるのやめたら?」

ある日の学園都市。
放課後になってすぐ浜面の部屋までやってきた絹旗は、そこにいた麦野から
「あ、昨日浜面にも話したけど。私、原子崩し使えなくなったから」などとあっさり言われてぶっ飛んだ。
浜面がぶっとんだ翌日である。
ちなみに絹旗が放課後、浜面の部屋に寄るのは鍵を手に入れてから毎日の日課だった。
別に色気めいた話があるわけでもなく、2,3人で下らない話をしたりビデオ鑑賞をするだけだ。
部屋に不釣り合いな、多機能な再生機器や大型テレビを持ち込んだのも彼女である。
今日もレンタルビデオショップの袋を持参していたが、それは浜面に腕拉ぎ十字固めをかける際に放り出されていた。ハングオーバー消えた花婿と史上最悪の二日酔いとかいうC級臭が半端ないタイトルが覗いている。

「ぐほっ、締まってるぞ絹旗! ギブギブ!」
「の、能力が使えなくなったって、どうなるんですかアイテムは!? せっかく再結成したのに解散なんて超いやですよ私は! 能力なくなったら麦野なんてただの年増じゃないですか!」
「よーし絹旗そこでじっとしてるにゃーん」

○麦野 vs 絹旗+浜面●
4分27秒;ムーンサルトプレス。
そんなわけで絹旗も落ち着き、三人でちゃぶ台をあぐらor女の子座りで囲む。麦茶は浜面が用意するのが様式美。
浜面と絹旗が超深刻な顔をしてるのに反して、麦野からは(面倒くさいなあ)という態度が見え見えだった。
その上で、まずは浜面からロシアであった出来事を中心に、原因と思われることが語られる。

「はあ? 体晶飲んでアタックしたら能力使えなくなったって麦野は超バカですか?」
「ま、まあそれは認めるわ……若気の至りって奴よ」
「一月も経ってないからな?」
「というか、ライバルとの決戦でドーピングして能力強化!って超死亡フラグじゃないですか。DCS!DCS! よく生きて帰ってこれましたね麦野」
「映画とごっちゃにすんな」
「そういえばなんでこの場に滝壺さんがいないんですか。セッティングは浜面の役目でしょう!」
「俺はお前らのマネージャーかよ。でも確かに最近、滝壺あんまりこねえよな。メールは返ってくるんだが……」
「研究と学校で忙しいみたいよ。今日霧ヶ丘付属に行ったけど、滝壺とちょっとだけ話したわ。能力のことも伝えておいたから」
「ああ、もう行ったのか。で、どうだった?」
「もしも口止めの代償に不埒な真似を要求されたら私に言ってくださいね。物理的に何とかしますから」
「絹旗てめえはピンク映画の見すぎじゃないの? 別に何も要求されなかったわよ。つか霧ヶ丘付属に乗り込みたいならレベル一つ上げてけ」
「で、検査……したんだよな。結果はもう出たのか?」
「うん。体晶の成分はもう完全に抜けてるってさ」
「「……え?」」

浜面と絹旗がそろってきょとんとする。ちょっと待て、今なんて言った。
仲がいいな、と麦野は思う。きっとこの二人は似たもの同士なのだろう。中学一年生に精神年齢で並ばれてる浜面の立場はないが。

「逆にものすごい勢いで食いつかれちゃったわよ。体晶をどうやってここまで綺麗に抜いたんだって」
「待て待て待て待て」
「適当にロシアの民間療法とか答えておいたら、なんか担当がロシア出張に行くとか言い出してたけど。これって喋っていいんだっけ?」
「そんなことは超どうでもいいんです」
「じゃあなんなのよ」
「体晶が原因じゃなかったのかよ!?」
「体晶が超原因じゃなかったんですか!?」
「サラウンドで怒鳴らなくても聞こえるってーの。ホント仲いいなてめえら」

とりあえず身を乗り出した二人の顔を押しのける。ついでに麦茶を飲ませて少し落ち着かせた。
浜面と絹旗が動揺したのは、原因が体晶だと完全に決め付けていたからである。それならロシアに行けばいいと、心のどこかで保険もかけていたのかもしれない。
だが原因不明となると事態はさらに悪化する。最悪、治療法など存在しないかもしれない。
いよいよこれを使うしかないか、と浜面は懐の素養格付を意識した。ほんの小さなデータチップだが、ずっしりと重い気がする。

「少なくとも、体晶の副作用じゃあないってさ。あのババアの仕事は確かだったわけね」
「だから国家元首様をババア呼ばわりすんな」
「じゃ、じゃあなんで麦野は能力を超いきなり使えなくなったんですか?」
「んー……あのヤブ研究者はなんか」
「なんか? なんて言ってたんだ?」
「パーソナルリアリティの崩壊じゃないかってさ」




自分だけの現実(パーソナルリアリティ)
能力者が持つ独自の感覚で、超能力を発動するための土台。
『手から炎を出す可能性』『他人の心を読む可能性』など、現実の常識とはズレた世界を観測し
ミクロの領域で現実と置き換えることで、自然現象ではほぼありえない現象を発動する。
高位の能力者ほど、強固なパーソナルリアリティを保有していると言っていいだろう。
他人とは違うものが見えていると言う意味で、ある意味精神病である。
レベルが高い能力者ほど人格が破綻しているというのは、学園都市を代表する都市伝説だった。
(麦野を見ていると信じたくもなる)
パーソナルリアリティとは、突き詰めれば超個人的な価値観に帰結するものであり
学園都市の能力開発で最も重視され、かつ取り扱いが難しいものでもある。

「無能力者の浜面や、変な実験で引き出された絹旗にはピンとこないかもしれないけど、能力が使えなくなるなんて、そう珍しいことでもないのよ」
「え、そ、そうなんですか?」

唐突に、浜面の部屋で麦野先生による超能力講義が始まっていた。
ちなみに今日の麦野の服装は、レースのブラウスにロングスカート。眼帯と義手さえ気にしなければ女教師に見えないこともない。
浜面はカジュアルなシャツに作業ズボン。絹旗は中学のセーラー服で、スカートを限界まで短く改造してあった。

「特に環境や人間関係の変化が原因になることが多いらしいわね」
「うーん、そんなことでか?」
「たとえば絹旗、てめえ中学で友達いないだろ?」
「え、はあっ!? な、なんですかいきなり! いくら麦野でも、根拠のない言いがかりは超やめてください!」
「だってあんた、授業終わったら毎日すぐこの部屋に来るじゃん。友達いるなら放課後つるんだりしてるでしょ」
「絹旗、そうだったのか……言ってくれれば」
「浜面ごときに超哀れみの目で見られた!? 麦野、この精神的超苦痛どうしてくれるんですか!」
「でも否定はしないのね。で、仮に絹旗が学校で友達作って、放課後遊ぶようになると、能力が使えなくなる可能性もあるの。ごく稀にね」
「え、そう……なのか? まさにそんなことで、だな」
「絹旗の私たちしかない人間関係に、同程度のものが突然出現するわけだからね。しかも関係性の全く違う。価値観が変化するのは当然でしょ」

さすがに(元)レベル5というべきか、麦野の説明はよどみない。
ただし約一名の心を的確に抉る正確さも持ち合わせていた。教材にされた側はたまったものではない。

「そう、そうです! だから私が教室で馴染めなかったり、休み時間は机に突っ伏してるのも、この窒素装甲(オフェンスアーマー)を失わないためなんですよ! アイテムのためなんです!」
「もういい……もういいんだ、絹旗……休めっ……」
「浜面なんで泣いてるんですか、今までで超最大の屈辱です!」
「逆に言うと、絹旗のその『身内に依存して他人に過剰に壁を作る』っていう性質が、能力の窒素装甲に直結している可能性もあるわけだしね」
「あー、なるほどなあ」
「さっきから超好き勝手言いすぎですよ麦野! 誰が友達のいないマイナー趣味で甘えたがりのガキですか! そして浜面もなんで超納得の表情なんですか!」
「え、違うのか?」
「浜面超ぶっ殺す!」
「いだだだだだだっ!」
「あーあ」

浜面をすばやく引き倒し、窒素装甲STFが極まった。最近見た映画の影響か、プロレス技に凝っているらしい。
仲良くじゃれあう二人を麦野はジト目で眺めながら
(あー、また胸当ててるし。露骨過ぎでしょ絹旗、当てるほど無いけど。やっぱストレス溜まってるのかな)
などと適当に観察していた。
浜面の頭蓋骨と靭帯に適度なダメージを与えたところで、各自ちゃぶ台の定位置に着き直す。

「ま、話を戻しましょ」
「だな。絹旗、やっぱり同年代の友達がいたほうがいいよな?」
「超ブッ殺してほしィンですかクソ浜面ァ! そもそも私には浜面達がいれば超充分なンですよ!」
「うわーマジギレしちゃったー。おっかないわねー大能力者(レベル4)様は」
「すまん絹旗! からかったのは謝るし気持ちは嬉しいからそのちゃぶ台を置いてくれ! あと麦野煽るな!」

麦茶を浜面が入れなおし、今度こそ麦野先生の授業再開。

「でもま、レベル4ともなればパーソナルリアリティも相当強固だし。そう簡単には崩れないはずだけどね」
「そうですか……ふう」
「よかったな、絹旗」
「逆に、能力が強すぎると環境を『変えたくない、変えられない』って意識が働くっていう説もあるわね」
「能力に意識が左右されるのかよ。ちょっと無能力者(レベル0)で良かったと思ったな」
「つまり私がクラスで組み分けする時に必ず余るのもクソッたれの暗闇五月計画のせいってことですね!」
「よーし二人組を作れー。原因を他になすりつけても結果は変わらないわよ、絹旗」
「ぐうっ……でも、麦野の場合は超崩壊しちゃったわけですよね」
「そうね」
「でもパーソナルリアリティの崩壊だとか、そんなおおごとが麦野に起こっていたようはとても見えないんだが」
「ですね。確かに前よりは超丸くなった気がしますけど」
「崩壊っていうよりも変質かな。どっちにしろ、前みたいに原子崩しが使えなくなったのは確かよ」
「「……」」

一同沈黙する。
麦野は、語るべきことを終えたが故の沈黙。ぼんやりと、考え込む二人を眺めている。
浜面は、これからどう事態を打開して行くか、その手段を考えるが故に沈黙。
絹旗は、腑に落ちない点をなんとか形にするための沈黙だった。
最初に沈黙を破ったのは浜面である。

「あのよ。滝壺なら……どうにかできないのか?」
「?」
「あー」
「たしかあの女が言ってたんだ。滝壺の能力が正当に進化すれば、他人のなんとかなんとか場に干渉して、パーソナルリアリティを直接操作できるって」
「AIM拡散場ね」
「すごっ! 滝壺さん成長したって言ってましたけど、超凄いじゃないですか! レベル5ものです!」
「だろ? じゃあさっそく連絡を……」
「待って。確かに滝壺の能力ならパーソナルリアリティを直接いじれるかもしれないけどさ、あくまで成長可能性の話だから。それが出来るなら即、レベル5認定よ?」
「ってことは、まだ無理っぽいってことですかね。でも浜面にしては超有望そうな案です」
「一応メールで聞いておくぜ」
「でも滝壺さんがレベル5ですか。なんだか超実感湧きませんね。何位ぐらいになるんでしょう?」
「4位じゃないかな。私の代わりに」
「えっ?」
「……そう、なのか?」
「序列ってのは学園都市の研究にどれだけ貢献するかで決められるから。もしも滝壺がレベル5になったら、超能力開発には随分貢献するでしょ。今の話みたいにね。ただ超電磁砲も電子機械系の研究でかなり貢献してるみたいだから、4位ぐらいじゃないかしらってこと」
「で、でも麦野は……」
「なんで私が能力を失ったことがばれないかっていうとね、実験依頼が何も来ないからなの。調べてみたら『原子崩しに関する研究プロジェクトは全て終了した』だってさ。つまり私は学園都市にとってもう用済みなの。浜面は知ってたわよね?」
「……でなきゃ体晶なんて渡されないよな」
「……」

自分のことを用済みと語る麦野の口調は、ひどくあっけらかんとしたもので
絹旗や浜面の重い雰囲気が、まるで場違いのように感じられた。
だが、一番辛いのは麦野のはずなのだ。
学園都市の最高峰であるレベル5でありながら、一切の期待をされず、捨て駒にされ、挙句能力を失った。
屈辱ここに極まる扱いだし、ましてや麦野はプライドの塊のような面がある……はず、なのだが。
その本人は「ところで絹旗が借りてきた映画見る? うわなにこれ、タイトルだけでもうお腹一杯だわ」などとレンタルディスクをつまんでいる。
絹旗には、それがどうしても腑に落ちないし、納得できなかった。

「麦野はそれで超いいんですか」
「またそれ?」
「もしも私が突然能力を奪われたら、どんなくそったれな経緯で身につけたものでも、超納得できません! ましてや麦野はレベル5じゃないですか! なのになんで……」
「絹旗」
「なのになんで、そんな超納得してるんですか!」

そう。
麦野は、自分が能力を失うことに、最初から納得しているようにしか見えなかった。
泣きそうなのを堪えているようにはどうしても見えなかった。
麦野沈利という人間から、原子崩しという強大な力が失われたはずなのに、不自然なほどに自然だった。
レベル5がそんなに軽いものだったなどと、絹旗にはとても納得できない。もっと巨大な喪失があるべきなのだ。
オチはあるんだけどね、と麦野は心の中で小さく呟いた。

「二人はさ、星を落とそうと思ったことはある?」
「は?」
「麦野! 今はそんな話をしてる訳じゃ……」
「そういう話よ。摩訶不思議なパーソナルリアリティのお話。私のそれはね、空に輝くお星様を、自分の手で叩き落とすことだったの」

原子崩し(メルトダウナー)
学園都市でおそらく最長の射程を持つ遠距離射撃能力である(異論は認める)
とはいえ射程の限界はせいぜい、10km前後。星どころか月にすら届かない。届くわけがない。
天使の力でも持たない限り、星までの距離は遠すぎる。

「なんという超殺伐メルヘン。麦野らしいっていえば超らしいんですが」
「まあたしかにガキの頃、屋根に登って星を掴もうとしたこともあったけどよ……」
「まさにそれよ。私の場合、要するに自分の上に何かいるのが我慢できなかっただけなのよね」
「麦野っぽい話になってきましたね。私の上にいる奴は超ゆるさねえヒャッハー!」
「それはもしかして麦野の真似なのか」
「でもさ」

絹旗の頭を拳でぐりぐりと挟みながら麦野は言う。

「そういうのが下らないって思えちゃったら。それは能力をなくしたって仕方ないでしょ」
「……」
「イタイイタイイタイ……」
「意識の変革が、パーソナルリアリティの変質に繋がった。要はそういうことだし、それだけよ。体晶はただのきっかけ。前の自分に戻りたいとも思わないしね」

ぽいと麦野が絹旗を放り出す。
以前の麦野。傲慢なレベル5であり、目上に際限のない敵愾心を燃やし、過ちを絶対に許さず、フレンダを惨殺した、以前の麦野。
たしかに以前の麦野と今の麦野とは違う。角が取れ、丸くなった。浜面を殴ることもあるが、それもじゃれ合いの域を出ない。
無闇に能力を振りかざすこともなくなったし(実は使えなかったのだとしても)その必要もなかった。
ついでにファミレスにシャケ弁を持ち込むこともなくなった。
仲間内で隙を見せることも多くなったし、それは気を許しているということだ。
新生アイテムの一員としての麦野沈利。
それはたしかに、歓迎するべき変質だったのかもしれない。
おずおずと、絹旗が申し訳なさそうに口を開く。麦野に極めてプライベートなことを吐露させてしまったという負い目があった。

「その……もしかして私達は超迷惑でしたか?」
「心配してくれたんでしょ? ありがと」
「う゛ーあー!」

絹旗が頭を抱えてごろごろ転がりだす。自分のガキっぽさがつくづく嫌になったらしい。
それを生ぬるい目で見守っていた麦野だったが、浜面にも頭を下げられて苦笑した。

「わりい。俺も色々無神経でよ」
「いいわよ。あ、一つだけ確認したいんだけど。別に能力がなくたって、私はアイテムでいられる?」
「当たり前だろ。ていうか別に暗部の仕事受けてる訳じゃないし、急いで取り戻す必要もなかったよな」
「ん、ありがと」
「超その通りです!」
「あ、復活した」
「考えてみれば原子崩しなんて仕事がなければ使う機会ないし、使い道も超ないですからね! 汎用性の欠片もないし、誤射も超怖すぎます。ビームに何度巻き込まれそうになったかわかりません! つまり原子崩しなんて超不要ってことです!」
「よーし浜面、これから絹旗のパンツ脱がすからそっち持って」
「おう。これでいいか」
「ちょ、なんでそうなるんですか!? 今私超いいこと言いましたよね!? 大体こういうのは超浜面の役目で、ちょ、いやあああ!」

このあと能力を使って抵抗した絹旗は「大人げねーなレベル4様は」「だから友達できないのよ」などと言葉責めされ、しくしくと部屋の隅で泣いていた。
学園都市は今日も平和である。



[28302] とある原子崩しの喪失3
Name: 凍月◆f66d21b9 ID:d0b4f5bd
Date: 2011/06/12 08:51
どうして私の原子崩しは、他のレベル5に比べてあんなにも不安定だったのか。
わかってしまえば答えは簡単だ。
私は常に、限界を超えた出力で能力を放射していたのだから。
星を落とすという、ただそれだけに固執して、私は自分の限界を無視していた。
自分の限界というものが、こんな地べたにあるのだと絶対に認めようとはしなかった。
能力が不安定なのも当たり前だ。
私はたとえ自らが吹き飛んだとしても、頭上の星を叩き落としたかったのだ。
馬鹿な女だったんだなと思う。
それは今も、だけれど。



とある原子崩しの喪失 3



その日の学園都市は雨だった。
朝から一定の勢いで降り続け、昼前になっても雨が止む気配はない。どうやら今日は一日雨の日らしかった。
こういう日にバイトが休みだったのは幸運である。
浜面はちょっとした幸運を噛みしめながら、朝から自分の部屋で寝転がり雑誌を読んでいた。
そろそろ腹が減ってきたが、出かけたくねえなあ、となどと思っていると、いきなり部屋のドアが開いた。
ノックもなしに入ってきたのは、渡り廊下で傘を閉じて水を切る麦野である。

「ただいまー」
「おかえり、ってお前の家か」
「これ、生ものだけ冷蔵庫に入れておいて」
「喜んで!」

麦野が持参したビニール袋を受け取り、シャケやら野菜やらを冷蔵庫に収めていく。よっしゃこれで一食浮いた!と心の中でガッツポーズ。
これを一般的に餌付けという。
麦野は外出用のコートを脱ぎ、壁のハンガーにかけた。
下に着ているYシャツが、湿気を吸ってしっとりと肌にはりつき、麦野の豊満な体のラインが露わになっていた。
(お、おおっ! なんてけしからん! けしからんぞ神様ありがとう!)
冷蔵庫に食材を収めながら、ちらちらと振り向いて麦野の体躯を盗み見る浜面。
本人は露骨にならないよう気をつけているつもりだが、後ろから見るとまるわかりである。
麦野はそしらぬ顔で、ボリュームを失った髪をいじっていたが、部屋の隅にある化粧台に座り「浜面ぁ、ドライヤー」と注文をつけた。
乾かせ、ということらしい。
(やれやれ、しかたねえなああああああ!)
麦野の体を至近距離から観察する絶好のチャンス到来である。再度の幸運を感謝する浜面。テンションがだだ上がる。
勢い込んで冷蔵庫の前から立ち上がろうとするが、立てない。
(なに?)
なんと、ズボンの前が突っ張っているために、しゃがんだ状態から立とうとすると股間に痛みが走るのだ。何故突っ張っているかは御察し下さい。
(ぐっ、しまった……だがっ、麦野は化粧台に座って背中を向けているっ! 多少不格好でも近づく間は問題ない!)
前屈みになってよろよろと立ち上がり、股間を心持ち庇いながら麦野の元に向かう浜面。だが

「はーまづらあ。なに粗末な×××盛り上げてるにゃーん?」
「な、なにいっ!? 馬鹿な、見えていないはずだっ!」

と、そこで浜面は気付く。
化粧台。もちろんこんなものは浜面の私物ではなく、アイテムメンバーが持ち込んだものである。故に注意が薄くなっていた。
いつの間にか化粧台の三面鏡が開いているっ!
鏡越しに、裂けるように嗤う麦野の表情を目撃してしまい、浜面は自分が最初から罠にかけられてたことを悟った。
惨劇は割愛する。




「浜面あ! もっと丁寧に扱えよ。乙女の髪はてめえの××毛とは違うんだぞ!」
「そんな言葉を口走る乙女がいてたまるか!」

化粧台に座った麦野の髪に後ろからドライヤーをかけ、ブラッシングする浜面。
その顔はぼこぼこに腫れているが、結局ドライヤーをかけることになっていた。
麦野は生き生きと浜面を罵倒するが、元々小器用な男である。ブラッシングも言うほどひどくはなかった。
手持ち無沙汰になった麦野は脚を伸ばして、浜面が読んでいた雑誌を脚繰り寄せる。行儀悪い真似はやめましょう。
麦野が手にしたのは電子工学系の怪しげな裏情報雑誌だった。

「あれ、てっきりバニー雑誌かなにかだと思ったけど」
「エロ本だと思うなら普通に見るなよ」
「で、なにこれ?」
「電子ロック関係の雑誌。そっち方面はさっぱりだったんで今勉強なんだよ」
「ふーん。まあ程々にね」

沈黙。

「いやちょっと待て、いまお前大変失礼な勘違いしやがっただろ!?」
「? 別に責める筋合いなんてないわよ。浜面の技術にはお世話になったしね。でもアンチスキルに捕まったりしたら……」
「車上荒らしや車泥棒のためじゃねえ!」
「え、それじゃあ銀行強盗とか研究所に忍び込むとか……」
「ちっげええー!」

どうやら麦野は本当に親切で忠告していたらしく、顔をきょとんとさせていた。
未だ犯罪者扱いされていたことに若干ショックを受ける浜面だが、ATM強盗などやっていたスキルアウト時代を思えば自業自得である。
懇切丁寧に現在の展望――ロードサービスなどの合法的開錠方面へ進む考えを説明すると
麦野は本気で感心したようだった。

「へえ、浜面にしては割と真剣に将来考えてるのね」
「そりゃ皮肉か?」
「全然。将来の事なんて、私達の方がよっぽどなにも考えてないでしょ」
「まあ、麦野の場合はいきなり環境が変わりすぎたからな。仕方ねえよ」
「そういうことじゃないわよ。前だって、自分の小さなプライド満たすことしかか考えてなかったもの」
「んじゃ、今は?」
「今は……」

ブラッシングを受けながら、ちらりと麦野が鏡越しに浜面の顔を見る。ほんの小さな仕草だった。
そのまま二人とも喋らず、柔らかい雨の音だけが部屋の中を支配する。
「もういいわよ」と麦野が立ち上がった時には、彼女の髪はふわふわとしたボリュームを取り戻していた。
そのまま麦野は手早く昼食の支度に取りかかる。今日のメニューはシャケとイクラの海鮮親子丼だ。
浜面の生活費ではごちそうの類に入る。こう見えて麦野は料理も堪能だった。




「ところで麦野は最近なにやってんだ?」
「んー?」

昼食が終わったあと、床に寝転がってくつろぐ二人。こんな天気ではどこかに出かける気にもなれなかった。
浜面は電子ロックの裏情報雑誌を眺めてはわからない点を麦野に質問していたが、ふと思いついて近況も聞いてみた。
何しろ現在、麦野は詐称レベル5の登校拒否生徒である。将来の展望に繋がることでもしてればいいのだが。

「ご飯作ったり買い物したり昼寝したり運動したり散歩したりゲームしたりネットしたりかな」
「遊び歩いてるだけじゃねえか!」
「あ、それから浜面の部屋でごろごろしたり」
「それはすごく良く知ってる現在進行形で」
「あとはそうねー。研究所に行ってメンテ受けたりかな」
「? ああ、義手とか義眼のか」
「まあね。他にも色々埋め込んでるし。あ、そうそう」
「……」

麦野沈利はサイボーグでもある。
浜面との二度の死闘で負った重傷を補うための措置であり、決して自ら望んでそうなったわけではない。
ロシアで麦野の体を抱いた時、浜面が腕に感じたのは女の子らしい柔らかさではなく、ごりごりとした異物だった。
その感触を掌に思い出すたび、浜面は罪悪感と共に、麦野を幸せにしてやらないといけないと強く感じる。
そんな浜面の気持ちを知ってか知らずか、麦野は雑誌のようなものを部屋の隅から持ってきた。でかでかと部外秘閲覧マークが付いている。

「これ、通ってる研究所が自作したサイボーグ用パーツカタログなんだけど」
「そ、そんなもんあるのか。ファッション雑誌かよ……ってたかあ!? 桁7つからがデフォルトですか!?」
「自作カタログって言ったじゃん。流通してるものでもなし、全部オーダーメイドだもの」
「今なら手術費無料ってのもちらほらあるな。なんか通板雑誌みたいなノリだ」
「なんか資金繰りが大変らしいわよ。大金と時間かけて開発したものが、理事会の意向で量産化されずにボッシュートされたとか」
「悲惨だな」
「『なぜだああ! 潮岸氏が生きてさえいればこんな事にはならなかったはずなのに! 絶対にゆるさんぞ第一位いいい!』とか叫んでるのがいたわね」
「ふーん……うげ、なんだこの腕。イソギンチャクかなにかか?」
「管状の副腕ね。15本で1セット。能力出力の端末を増やしたいあなたに、だってさ。制御用の副脳も増設しないと」
「こんなもん誰だって封印するだろ。その研究者は頭がおかしい」
「それについては完全に同意。まあ第一線の研究者なんてみんな頭がおかしいんだけどね」

二人で寄り添うように寝転がって、カタログを床におきぱらぱらとめくる。
肩が付き合うが仕方ない。仕方ないと言ったら仕方ない。
中身はおおむね、世界の珍百景義肢版という風な、奇妙奇天烈な機能とデザインを持ったものばかりである。
さすが学園都市製と言うべきか。

「でさ。なんか技術革新したみたいだし、ひと揃い買ってみようかなって思うんだけど」
「マジで言ってるのか? こんなもんつけたら今度こそ正真正銘のモンスターになっちまうじゃねえか」
「それはどういう含みがあるのかにゃーん、浜面ちゃん」
「いやいやいやいや。つーか金あるのか? たしか、仕事が何もこないとか言ってただろ」
「アイテム時代に稼いだ分がまるまる残ってるから何とかなると思うけど。この中にも適度に使えそうなものがあるんじゃない? 単純に小型高機能化でもいいんだしさ」
「そんな大人しいものがあればいいんだけどな……」
「つーわけで選んでみてよ、浜面」
「え、なんで俺なんだ? 麦野が身につけるものなんだし、スペックの項目も理解不明だぞ。怪しげな紹介文ぐらいしか判断基準がないんだが」
「別にいいのよ、それで。参考意見にする程度だし」

それに、と麦野は付け足した。
冗談を口にするような口調で、実際にそれは冗談だった。
ほんの少し、笑ってさえいた。

「私をこんなにしたのは浜面なんだから、少しぐらいは責任取ってよね」
「わかった」

否も応もない。




「すげえな。義眼にレーザー仕込んであるぞこれ。もはや感覚機器じゃねえと思うんだが。どんな情熱だ」
「あ、この義眼ワンセグ機能付きなんだ。無線内臓でネット対応、撮影機能もあるのね。携帯かよ」
「こっちは顕微鏡クラスの拡大機能に磁気情報の読み取りを……いらねえ!」
「これすごいわね。眼球部分を押し込むと手榴弾になるんだって。愉快な自殺用かしら」
「お、これいいんじゃねえの。低光量、赤外線、紫外線、電磁線、望遠、射撃補助、映像投影の7点セット。今ならサンキュッパの398万円……ってだからたっけえんだよ!」
・・・
「火炎放射器に散弾銃、PDWに拳銃に対空ミサイルまであるじゃん。今時の義腕って兵器プラットフォームと勘違いしてねえ?」
「とりあえず武器内臓は除外だ除外。それで大分減りそうだな」
「肘からブレードとか手首から先を無線で飛ばせるとかもやめてよね」
「ロケットパンチは男のロマンなんだけどなあ……」
「ごっついけど粒子砲まであるのね。これつけたら原子崩しごっことかできるかな?」
「自虐ネタ過ぎるだろ……!」
・・・
「他はとにかく軽量化路線でいって。今ちょっと重すぎるから」
「大変だな。どれくらいあるんだ?」
「90kgちょい……ってはまづらああああ! なに乙女の体重聞き出してるんだよおおおお!」
「嫌なら答えるなよ! それにほら、パーツのせいで体重重いんだろ? 仕方ないじゃねえか、な?」
「(元々ちょっと重めだったんだけどね……)」
「(つーか体重があるのはそのパワーのせいじゃねえのか)」
・・・
「ところでなんで一揃い買おうと思ったんだ?」
「ほらこれ」
「なになに。『購入額が一千万円を超えたお客様に、今なら第一位をも倒せるスペシャルオプションをプレゼント!』って胡散くせええええ!」
「ちょっと興味あってにゃーん。なんか、どっかの研究者一族にハッキング仕掛けたとか言ってたわね」
「典型的な詐欺だろ。そもそも、本物だったらハッピーセットのおもちゃみたいな扱いするわけねえから」
・・・
「あ、オプションで特殊メイクとかあるんだ」
「お、これなら俺でも出せそうだな……一週間しか保たない上に、それでも高いが」
「なんで浜面が金出すことになってるわけ? そんなに顔のいい女を連れ歩きたいの?」
「お前こそナチュラルに連れ歩くことになってんだよ。いや、麦野って割と人目気にするタイプだろ」
「ああん?」
「この前のファミレスでも居辛そうだったし、学校行かないのもそのせいかなってふと思ってな。いつまでも毎日だらだらしてるのもまずいだろ」
「てめえは私の母親かパーンチ」
「げふっ!」

パンチと言いつつ肘打ちが浜面の背中に決まった。突っ伏してぴくぴくと痙攣する。
しばらくじゃれ合っていた麦野だが、ふとカタログとは全く違うことを呟いた。

「ところで最近、滝壺とはどう?」
「あー。学校が忙しいみたいでメールと電話のやりとりばっかだな。部活始めたって言ってたぜ。AIM拡散場浴部とかなんとか」
「それ他に浮気されてるパターンじゃねえの?」
「うおおおおい嫌なこと言うなよ!? 俺の滝壺に限ってそんなことある訳ねえだろ! つうか霧ヶ丘は女子高だ!」
「私も通ってたからわかるんだけどさ……霧ヶ丘ってマジ……レズ、多いよ」
「たきつぼおおおおお!」
「(嘘だけど。むしろ常磐台の方が多いらしいし)」
「ま、まあちょっと寂しいけどさ。学校生活が充実してるのはいいことじゃねえか」
「ぼっち絹旗みたいに放課後すぐ一人で帰ってくるよりはね」
「もう許してやれよ。あと登校拒否に比べれば絹旗の方がずっと偉いからな」
「そういうてめえの学校はどうしたんだよ、元スキルアウトの浜面さんよお!」
「わかった、俺が悪かった。この話題はもうやめようぜ」
「そうね……」

こんな平日に部屋でごろごろしている二人が話しても、お互いを傷つけるだけの話題である。

「これ買ったら、どっか行こうか。特殊メイクも試したいし」
「いいな。滝壺にも連絡して、たまにはアイテム全員で集まらないとな。どこ行く?」
「墓参り」
「……っ」
「そろそろ行っておかないと。ずるずる後回しにしすぎちゃったわ」
「いいのか?」
「うん」

かつてのアイテムメンバーにして、麦野がその手で引き裂いた、フレンダ。
アイテムを再結成するに当たって、彼女の喪失は避けて通れない話題だったはずだ。
だが、これまで誰も言及しようとはしなかった。
それが麦野に対する優しさと気遣いであると、麦野自身もわかっていた。
もう、甘えていられる時間は終わらせないといけない。

「なあ麦野」
「なに、浜面」
「困ったことがあったら、なんでも相談しろよ。仲間なんだからさ」
「じゃあ浜面がトラブルの時に私達を頼らなかったらブチ殺し確定だからね」

結局その日は一日雨は降り止まず、何も起きなかった。
今日も学園都市は平和である。





おまけ(数日後)

「はまづらあああ!」(ブオッ)
「おう、どうした麦野。なんで腕突き出して止まってるんだ?」
「あっれー。第一位をぶっ殺す機能とやらで浜面を殴ってみたのに、なにも起きねえな」(ブオッブオッ)
「お前なに恐ろしすぎることしてるの!? 俺が蒸発したらどうするつもりだったんだよ! つか繰り返すな!」
「なにこれ。ぶっ殺すどころか、パンチが全部寸止めしちゃってるじゃない」
「な、なんて優しい機能なんだ。まさに麦野にこそ必要な機能じゃねえか……そうか、わかった! 学園都市第一位をも倒す力……それは愛ってことだな!」
「つっかえねー。パラメータリセット。オラッ!」(バキッ)
「げばあ!?」
「よし、これでいいわね。他にも論文もらったけどこーなってくると微妙だわ」
「と、いうか俺を殴る必然性はどこにあったんだ……」
「そこに浜面がいたから」
「登山家的動機!?」



[28302] とある原子崩しの喪失4
Name: 凍月◆f66d21b9 ID:3bfb113d
Date: 2011/06/15 21:26
私はきっと、超電磁砲にはこの先も勝てないだろうし
第二位にも、滝壺にも、勝てないままだろう。
そしてきっと一生、何度やっても浜面には敵わないのだと思う。
能力だとか、相性だとか、そんなものは要素でしかなく
単純にそれが私の、器の限界なんだと思う。
私には、もうこれ以上の成長はないし、ここから上に行く可能性もない。
それを認めたとき、とても重い荷物をやっと降ろせた気がする。
私の限界はここでいい。
この場所でいい。



とある原子崩しの喪失 4



ある休日の学園都市。
麦野は定期検診を受けるため、霧ヶ丘付属研究所に来ていた。
霧ヶ丘女学院は、能力開発で常磐台中学と並び称される、学園都市の名門女子高である。
特異な能力者を多く有し、また能力者でなくても一芸入試が認められている。
別の敷地にある付属研究所もまた、特異な能力の開発を専門にしていた。
厳重なセキュリティに守られてはいるが、こちらは男子禁制ではない。

(しっかし、いつも思うんだけど研究所っていうより教会みたいなところね)

幾つかある棟は三角屋根に真っ白な壁で、十字架はどこを探してもないが、代わりに霧ヶ丘の校章が目立つところに刻まれている。
大窓にはめ込まれた鉄格子は宗教的なデザインをされており、ステンドグラスを彷彿とさせる。
敷地内は塵一つなく掃除されており、よほど防音対策をしているのか、大きな物音が響くことも滅多にない。
墓場が並んでいたとしても違和感なく受け入れられるような雰囲気であり、実際そういう側面もあるのだ。
特異な能力を取り扱うせいか、研究者の中にはオカルトにかぶれてしまったものもいるという。

(ていうか他人事じゃないんだけど)

検査は午前中で終わっていた。
体晶についての主任研究員はロシアに旅立ったまままだ戻ってこない。戦争直後なだけに妙なごたごたに巻き込まれてるのかもしれない。
検査は助任研究員に行ってもらったが、結果は例によってシロ。体晶の影響は認められず。
ついでに自分だけの現実(パーソナルリアリティ)についてのカウンセリングを、プライバシーが保たれているという名目の相談室(という名の懺悔室)で受けたが、退屈な時間だった。
一応、原子崩し(メルトダウナー)の喪失についてはまだ他には漏れていないようだ。
ただ、もし上層部にばれていたとしても、単に泳がされているだけかもしれない。7人しかいない超能力者(レベル5)が公に減るというのは、いかにも面目が悪い。

(ま、滝壺がモノになるまでかな)

原子崩しの喪失までもが上層部の仕組んだことだとは思えない、が。
穏便に交代されるなら、能力だけを吐き出させられているという第二位よりは大分マシだろう。
ロシアで戦った学園都市の特殊部隊のことを思いながら、その身の上に同情する。
最近サイボーグ技術が躍進したのは、もしかしたら第二位の未元物質(ダークマター)のおかげかもしれなかった。
学園都市への貢献度で序列が決まるとはよく言ったものである。

(要するに序列に応じた貢献が終わるまでは解放されないって事ね……四位で良かったわ)

昔の自分とは正反対のことを思う。むしろ四位の肩書きすら煩わしい。
これが第一位だったりした日には、能力を失っても無理矢理に復帰させられ、どんな化け物と戦わされていたかもわからない。
そんな、役にも立たないことを考えながら中庭を散策していると
ふと、見知った顔をベンチに見つけた。近寄り、声をかける。

「滝壺ー」
「なに、むぎの」

ベンチに浅く腰掛け、ぼうっと上空を眺めていたにも関わらず
滝壺は、声をかけてきた麦野に対して、ずっと傍にいたかのように返事をした。膝にノートサイズの情報端末を乗せている。
服装はいつもの通りピンクのジャージである。今日は休日だから家から着てきたのだろう。いや、霧ヶ丘女学院の授業も指定ジャージで受けてはいけないわけではないが。
滝壺理后。大能力者(レベル4)『能力追跡(AIMストーカー)』
そして現在、最も有望とされているレベル5候補。
だが何より、麦野にとっては新生アイテムの仲間であり、浜面仕上の恋人だった。

「なにしてたの?」
「AIM拡散場浴」
「つまり休憩中ね」

ベンチの隣に座る。こうして話すのはしばらくだった。
毎日ごろごろしているだけの麦野と違って、最近の滝壺は忙しいらしく、浜面の部屋にもほとんど来てない。
横に座って観察してみると、肌はかさつき、髪はばさばさ。目の下にはうっすらとクマもできている。
なるほど、たしかに忙しそうだ。だが、学生生活を送っているだけにしては少し疲れすぎである。
とはいえ、麦野にはその理由が既に見当付いていた。

「滝壺。最近何してるの?」
「学校にかよってる。むぎのもそうした方が、いいと思うよ」
「うっせえな。あんまりこっちに来ないけど、そんなに忙しいの?」
「部活に入った、から」
「今日は休みじゃない。ここで何してたの?」
「休みの日も、部活はあるんだよ、むぎの。ここには、体晶の治療と能力の開発にきた、だけ」
「滝壺」

滝壺は上空を見上げたまま、麦野と話す。
まるで、他の感覚が肥大化するあまり、視界を使うということを忘れてしまったようだった。
麦野はため息をつき、滝壺の襟首を掴んで自分の方を向かせた。思った通り焦点は合っていない。まるで人形のようだった。
こういう症状には見覚えがある。

「滝壺。そういう嘘は外面を取り繕って言うもんだ。明らかに実験のしすぎよ。てめえこの研究所に通い詰めてるだろ」
「嘘なんて付いてないよ、むぎの」
「部活に入ったなんて嘘だろ?」
「嘘なんて付いてないよ、むぎの」
「じゃあ一人部活かあ! そういえば浜面がAIM拡散場浴部だとか言ってたなあ。なるほど部活動中だったわけか。邪魔しちゃったわねえ滝壺ちゃん!」
「むぎの」
「あ、怒っちゃった? ごめんねー。友達なんてできるわけないもんね。昼飯はどうしてる? もしかして便所飯? なんかそういうオーラが出まくりなのよね!」
「私は一人じゃない」
「嘘付けどこのエア友達だよ名前言ってみろよ。クラスメイトの名前なんて出してみろ、本人確認取った時の他人を見る目ほど辛いものはねえからな!」
「私はいつもはまづらと一緒にいる」

問い詰めるうちにヒートアップしつつあった麦野だったが
滝壺の視線の焦点が、彼女に合うと高揚は一気に冷えた。
別に何らかの能力を使われたわけではない。滝壺の目と言葉が、正真正銘の本気だったからだ。

「私はいつもはまづらと一緒にいる。今も第六学区で映画を見てた。きぬはたも一緒。上演は『ジェイソンX 13日の金曜日』。昨日のはまづらは、第五学区で講習会を受けてた。電子技師講習だった。一昨日は雨でバイトも休みだったから一日部屋にいた。むぎのもいたから知っているはず」
「あ、うん。そうだね……ごめん、引いたわ」
「誤解が解けて嬉しい。私はいつもはまづらと一緒にいる。睡眠時間を除けば一日に18時間前後。肉体の位置など些細な問題」
「……体晶なしよね?」
「そう。はまづらのAIM拡散場はとても小さいから捕らえるのが大変。むぎのやきぬはたと一緒にいると掴みやすい。距離も2,3学区が限界」

よく見ると滝壺が膝に乗せたノートサイズの端末には、学園都市の地図と映画館の上演情報が提示されていた。
能力で座標を確認し、携帯端末でその座標情報を検索、どんな建物でなんのイベントが行われているかを確認する……
考えてみれば、ベンチに浅く腰掛けてわずかに上空を見ている滝壺の姿勢は、映画館のシートに見えないこともない。
そういえば昨日、絹旗がC級映画のパンフレットを見ながら浜面部屋でごろごろしていた。
(あーあ、やっちまったなあ絹旗。窒素装甲に介入されて一週間肛門を強制封鎖とかされてもしらねえぞ)
擁護する気ゼロである。なにしろ麦野にも無断の犯行だ。
と、滝壺の体が不意にガタガタ震え始めた。視線はまたあらぬ方向を向いている。

「映画館できぬはたとはまづらの二次元座標が半分重なってる……どういうことなの……」
「きぬはたあああああ!」

上映内容を鑑みるに、恐怖シーンでどさくさ紛れに抱きついたというあたりだろうか。
急いで携帯で警告しようとしたが、映画館では電源を切るというマナーを守っているらしかった。このままでは絹旗最愛の危険が危ない。
気にくわないのは麦野も一緒だったが、アイテムのリーダーとして仲間を見捨てるわけにはいかなかった。今度こそ。

「落ち着きなさいよ滝壺、子供のやることでしょ。映画の内容が怖かったから抱きついちゃっただけよ」
「そう……かな。そう……だね。怖かったなら、仕方ないね」
「うんうん」
「はまづら、私も怖い」

滝壺が麦野の反対側にそっと手を回して抱きつく。全く何もない空間である。どうやらそちらに浜面が座っている設定らしい。
なんだか麦野は泣けてきた。
(はまづらあああ! 恋人放っておいて中学生とデートってのはどういう了見だ! あとでぶちのめし確定だからなぁ)
さておき、問題は滝壺のストーカー行為だろう。盗撮相手と会話するようなものに近い。相当追い詰まってる感がある。
今まで周囲の人間は皆、滝壺理后は執着心のあまりない人間だと思っていた。
だがその能力、AIMストーカーを発生させるパーソナルリアリティを考えれば、むしろ全く逆だったのではないだろうか。

「なあ滝壺。とりあえず現実と戦わない?」
「むぎのが何を言っているのかわからない」
「ていうか、映画館デートなら本人直接誘って直接行けばいいだろ。なんでこんなところで一人オナ……」
「一人じゃない、私はいつもはまづらと一緒にいる」
「OK訂正。えーとなんで遠隔デートしてるのよ」
「それは……部活と学校が忙しくて」
「矛盾してるんだよ滝壺ぉ! 一人部活の日光浴に忙しいもクソもあるか。これを認めないならてめえはメンヘラストーカーに大決定だからなあ!」
「うっ……」
「ていうか質問を変えるわ。なんでそんな必死に能力鍛えてるの?」
「……」
「いや、もっと変えるわ。ねえ滝壺、浜面を守ってるのはあんたなの?」
「っ」

滝壺がほんの少しだけ息を呑んだ。
嘘が下手だな、と麦野は思う。まあぼっちじゃ仕方ない。
ちなみに先程からの罵倒は、ほとんど麦野にそのまま返って来かねない内容ばかりだった。滝壺以外からは「お前が言うな」と突っ込まれていただろう。特にストーカー認定。
さておき。

「なんかおかしいと思ってたのよね。浜面は学園都市からかなり執拗に命を狙われてた。それこそロシアの奥地に使い捨てとはいえレベル5を派遣するぐらいにね。
 それだけの作用に対して素養格付だけで逆脅迫って、いかにもバランスが悪いでしょ。別に浜面の努力が無駄だなんて言わないけどさ。
 飴と鞭じゃないけれど。浜面を殺すデメリットに加えて、浜面を活かすメリットがあれば天秤はもっと安定する。
 で、滝壺。てめえは今最も有望なレベル5候補で、能力研究者垂涎の超希少種で、嘘の用事で恋人に会えないほど忙しい。
 だからあんたは『実験に協力する代わりにアイテムメンバーの安全を保証させている』という推測がいとも簡単に成り立つわけ。
 なにか反論は?」
「ひとつだけ」
「どうぞ」
「私にも友達はいる……AIM拡散場浴部のもう一人のメンバー……」
「そこかよ! 心底どうでもいいわ。つーか実在したんだその部活。2人だと部活っていうより同好会じゃない?」
「転校していって連絡ないけど……ひめがみは、私の友達だった」
「しかも過去形」

麦野はため息をつく。予想した通りだった。いや、AIM拡散場浴部とかいう怪しげな部活の存在は別にして。
クソ鈍感野郎の浜面は別として、あの絹旗ですら滝壺の忙しさになにかを感じているだろう。
(それを浮気デートに利用するのだから、本当にアイテムはいい根性をした連中の集まりである)
なにしろ滝壺の行動は『自分だったらこうするかもしれない』というパターンそのものなのだ。
あらゆる意味で、麦野に何かを言う資格はなかった。

「……」
「(かたかた)」

滝壺が端末を叩いて座標を検索しだす。どうやら浜面と絹旗は、映画を終えて移動したらしい。
画面に表示されたのは、第六学区のスウィーツショップ。いかにも女子中学生が好みそうな、女同士かカップル御用達の店である。
間違いなく絹旗の趣味主導だろう。浜面の嫌がる顔が目に浮かぶ。

「……そう、ここなんだ。別にいいよ。はまづらのお勧めは、なにかある? ……はまづらも、はじめてなんだ。うん、わたしもはじめて」
「店のウェブメニュー開いて虚空に話しかけないでくれない? マジで怖いから」
「っ!」

と、エアデートで曲がりなりにも幸せそうだった滝壺が、不意にカッと目を見開いてガタガタ震えだした。
まるで体晶でもキメたような様子である。能力が超高精度で行使されていた。

「どうして、はまづらときぬはたの顔が、そんなに近いの……どういうことなの……」
「きぬはたあああ! てめえカップル専用パフェを頼みやがったなっ!」

一つの器に二つのスプーンが刺さったあれだ。取り皿もないため、2人で食べるには顔を突き合わせるほかない。
とりあえず絹旗は後でオシオキ確定ネ☆
それはそれとして、滝壺の目つきがやばいことになっていた。能力関係なく。

「……きぬはたを殺して私も死ぬよ」
「ちょっと待ちなさい。カッとなってそれやると後で死ぬほど後悔するからやめておいた方がいいわよ」
「……」

恐ろしい説得力だった。
麦野の完璧実体験からの忠告は、なんとか滝壺を落ち着かせることができた。
まあ話を戻そう。浮気デートの監視よりはまだ建設的なはずだ。
自分の協力と引き換えに、チームの安全を保障させるという滝壺の行動は、麦野のバランス感覚で考えても妥当な行動ではある。
(上層部のどこのレベルまでに話が通っているかを把握しておかないと厄介ごとになる可能性もあるが)
だが、何かを言う資格がないとしても、浜面の思いを知るならば、言っておかなければいけないこともあった。

「あのバカはさ。滝壺にそういう地獄から抜け出して欲しくて、あれだけの無茶をしたんだろ? てめえが自分で戻ってどうするんだよ」
「はまづらは、私を全力で助けてくれた。だから今度は、私の番。私は守られるだけの人間でいたくない」
「(ま、そりゃそうよね)」
「もしも私に、はまづらやみんなを守れる力があるのなら。私は化け物になったって、構わない」
「あー、そっちは……思い上がるなよレベル4」

自分がアイテムを守ると
真剣な顔で決意を口にした滝壺を、今度の麦野は一笑した。

「てめえのAIMストーカー。研究者は調子のいいこと吹いてるだろうが、言うほど万能じゃないだろ。
 第一位をも倒せる能力といったって、しょせんそれは理論値だ。理論値でいいなら、私だって星を叩き落せるし、第二位は創造主様になってる。
 他人のAIM拡散場に干渉する、確かにレアな能力だけどさ。言い換えれば、能力者はみんな自分のAIM拡散場には干渉できるってことだろ?
 となりゃ、あとは演算能力の綱引きだ。実際、第二位は乗っ取れなかった。土台の力で負けてたんだよ。
 滝壺、てめえの能力は、どんな能力者にも必ず作用するが、格上には必敗。そして能力者以外には手が出ない。その程度でしかねえよ。
 それに色々条件があるんじゃないか? この距離で絹旗を探知できても、この距離から干渉はできないんだろ? できたらとっくにやってるもんな。
 ついでに、味方のパーソナルリアリティを弄くって好きな能力を与えたところで、演算能力を弄れないんじゃ片手落ちもいいところだし。
 たしかに能力開発には便利だろうけどよ、そりゃ学園都市にいいように使われて搾り取られるってことじゃねえか。レベル5なんてみんなそんなもんだけどな。
 一応のレベル5として言わせてもらうよ。レベル5になったってろくなことはねえよ」
「むぎのが、それを、言うの?」

滝壺がキレた。
天変地異級に珍しいことである。
激昂するのではなく、言葉と視線が底冷えする。
麦野を責め、糾弾するようなまなざしだった。

「どうして、むぎのは、嘘をつくの?」
「はあ? なんのことですかにゃーん。ちょっと心当たりが多すぎてわからないわ」
「能力が、使えなくなったって」
「ホントだよ。原子崩しはもう撃てないし、撃ちたいとも思わない」
「むぎのは、逃げた」

糾弾であり、泣き言だった。
滝壺は、言ってはいけないことを言おうとしていた。
キレたのは一瞬で、今はもう、惨めに俯いている。
とても、いずれレベル5になる少女には思えなかった。

「むぎのが、守ってくれない、から。私が、レベル5になるしか、なかった」
「……」
「私は、はまづらが思うほど、綺麗な人間じゃない。嫉妬もするし、恨みもする。はまづらが他の女とはなしてると、凄くいやな気分になる」
「それはすごくわかるわ」
「きぬはたも、むぎのも、死ねばいいって思うこともある。仲間なのに。私は、そんな人間。はまづらも、きっと、私の本性を知ったら嫌になる」
「まあ、今の絹旗はそう思われても仕方ないかもしれないけどさあ」
「だから、私はせめて、能力ではまづらの役に立ちたかった……私は、二人みたいに、うまくしゃべれないから……」
「(あのバカ)」

たしかに。浜面は滝壺のことを理想の彼女と持ち上げることが多かった。
それは大抵、絹旗や麦野からの迫害に対するあてつけではあったのだが
滝壺が、まともに受け取ったとしても不思議はない。
そして、能力を使って常時恋人を監視したり、浮気相手をぶち殺したいなどという衝動は、たしかに理想の彼女とは程遠いだろう。
この件に関しては浜面が悪い。絹旗共々、あとでヤキ入れ確定である。

「でもさ、それで恋人関係を維持したからって、何になるの? 本当の自分を見てもらわなきゃ、付き合う意味なんてないじゃない」
「そう言って、むぎのは私とはまづらを別れさせ、奪い取る作戦。その手には乗らない」
「滝壺お。てめえいい加減言っていいことと悪いことがあるよなあ?」

もはや疑心暗鬼モードに入った滝壺。違う意味でのレベル5だ。
がしがしと頭をかく麦野。ここは誰かが大人にならないといけない場面のようだった。

「アイテムのリーダーとして約束するよ。誰も浜面に手は出さないし、出させない。絹旗にはあとでヤキ入れておくからさ」
「むぎの……」
「つーか何? あんな童貞XXX野郎、滝壺以外に欲しがる奴なんているの? あいつがモテるなんてキモい想像は、本人だけがしてればいいだろ。頼まれたって願い下げだよ」
「むぎの……ごめんなさい」
「は? 謝られる意味がわからないんだけど。あー、もう泣かないの。よしよし」

ぼろぼろと涙を流し始めた滝壺の、頭を撫でて慰める。
ずきずきと胸が痛む気もするが、そんなものは気のせいだ。
滝壺理后の人生は、今まであまりに幸薄かった。
そろそろ、いい加減幸せになってもいいだろう。
少なくとも、好き勝手に生きてきた自分よりは。

……と、いい話になりそうなところで
突然滝壺が体を跳ねさせ、携帯端末を叩き、ガタガタと震え始めた。

「どういうことなの……どうして個室サロンにはいるの……二人で個室サロンを借りて一体何の用事があるの……わからない………わからないよ……」
「きぬはたああああ! てめえブチコロシ確定だからなああ!」

個室サロンとは、学園都市特有のサービス業の一つで、言ってしまえばカラオケボックスを豪華にしたようなものに近い。
客は時間ごとに部屋を借り、その中で自由に遊んだりパーティを開いたりできる。
自由な空間を商売にしているわけだが、一歩間違うと性犯罪の温床になる危険性も指摘されているため、用法用量を守って使用しましょう。
学園都市はまだ平和である。



[28302] とある原子崩しの喪失5
Name: 凍月◆f66d21b9 ID:3bfb113d
Date: 2011/06/15 21:24
こんな体で、抱いてくれなんて言えないし
大体あいつには、もっと抱いて気持ちのいい相手がいる。
そうなると、あいつのためにできることはほんの少ししかなくて
こうなってさえ判るのは、私という人間はただ、壊すことしか能のない人間なんだってことだった。
能力があっても、なくても、私にはなにかを壊すことしかできない。そう生まれついたとしか思えない。
この先、何事もなく穏やかな日々が続くなら、私という人間にできることは何もない。
でも、この先波風が立つのなら
私は、あいつの邪魔をするもの全てを壊して、そして消えるべきなのだろう。




とある原子崩しの喪失5




ある日の学園都市。
7時頃にバイトを終えて帰宅した浜面仕上は
部屋に上がり込んでいた麦野沈利に、いきなり右ジャブ→左アッパー→右背足回し蹴りのコンビネーションでぶっ飛ばされた。
玄関開けたらその間わずか二秒の早業である。

「ぶほらっ!? てめえいきなり何しやがるんだ麦野おお!」
「てめえの胸に聞いて見ろよこの×××野郎が!」

なんのことだよ、と呻きながら立ち上がった浜面は、今更になって麦野の顔が特殊メイクで復元されていることに気付いた。
眼帯のバンド部分も偽装された精巧なものである。以前の麦野しか知らなければ、違和感もないだろう。
流石の学園都市製だ。
ついでに左手も、生身を模したものに差し替えられている。今日の服装は長袖のブラウスにロングスカート。
左腕部分が少し凹んでいるのを除けば、彼女がサイボーグだと気付く人間はそういない。

「へー。それが特殊メイクって奴か。一瞬ビビッたぞ」
「は? この超美少女の尊顔のどこにビビる要素があるの? 畏れ多いなら判るけど」
「美少女ってそんな歳かよ」
「私は現役女子高生(登校拒否中)だってんだろうが! 気にしてるんだからあんまりそのネタやめてよ……」
「あ、いや、すまん。まあ麦野は間違いなく美人なんだからそれでいいじゃねえか。な?」
「そんなおざなりに褒めたぐらいで私が誤魔化され……って誤魔化してるんじゃねえよ浜面ああ!」

てれてれと頬をかいてた麦野だが、我に返って無理にテンションを元に戻した。
そう、今の彼女は滝壺からの糾弾者である。
ちゃぶ台に座って足を組み、たんたんと目の前の床を叩いて催促する。行儀悪いのでやめましょう。
空き腹を抱えながら、仕方なく浜面はその場に正座した。
最近は、夕食を麦野が作る習慣がすっかり定着していた。胃袋を握られていては抵抗しようがない。これを餌付けという。

「さて。それじゃてめえが昨日の休みになにしてたか、洗いざらい吐いてもらおうか」
「な、なんの話だよ」
「しらばっくれるんじゃねえよネタは上がってんだよロリ面があああ! てめえ絹旗の言ってたことと食い違ったら、下水に流す時につける重りを一個ずつ増やしていくからなあ」
「流すこと確定!? っていうか絹旗になにか聞いたのか? そういや今日はどうしたんだ、あいつ。たいてい飯時まで粘ってくのに」
「なに食わぬ顔で部屋に来たから、ドラム缶に詰めて貯水池に放り込んでおいたわ」
「お前は鬼か!?」
「絹旗だったら死にしないわよ。それよりてめえ自身の心配をするんだな、はまづらあ!」

ちなみに能力が面倒だったため、飲み物に睡眠薬を混入しての犯行だった。
水中にも窒素は溶け込んでいるらしいから、たとえドラム缶に穴が空いていても何とかなるだろう、多分。
(窒素装甲の分類が気流操作系であることはこの際置いておく)
しかしそんな能力を持たない浜面が同じ目に遭えば土左衛門になること確定である。
どうやらこれはいつものヒスとは違うようだと、浜面は居住まいを正した。なにを責められているのかはさっぱりだったが、気合いを入れて昨日のことを思い出す。

「そうだな、まずは……あ、滝壺には秘密にしてくれよな」
「てめえは本物のクズだな」
「いきなりかよ!?」

浮気をしておいて恋人の友人に頼んだのが口止めでは、そう罵られても仕方ないだろうが
被疑者はあくまで故意の犯行ではなかったと主張するつもりらしかった。

「いや、ほら。最近滝壺とあんまり会えてなかったろ? だから今度、時間合わせてデートでもしようかと思ってな」
「へえ」
「で。ちょうどそこにいた絹旗に相談してみたら、なんかデートの予行演習に付き合ってやるって話になったんだ」
「あんた馬鹿でしょ。ハゲタカの下で全裸で寝ころぶ類の」
「さっきからどういうタイミングで責められてるんだ……で、昼過ぎに待ち合わせして映画館に行って、クッソ下らない映画を見たな」
「ちなみに怖かった?」
「いや一応SFホラーの類だったんだが、チープすぎてむしろ笑えた。なんでか絹旗はやたら怖がってたけど。やっぱ子供っぽいところあるよな、あいつ」
「微笑ましそうにしてるところ悪いけど、手玉に取られてるのはそっちだから」

アイテムメンバーの中で、ある意味一番純真なのは浜面かもしれなかった。女に夢を見すぎである。
(その童貞臭さのせいで、滝壺はイメージ守るのに苦労しているわけだ)
浜面も人並以上にどろどろした欲望は備えているが、そんなものは全員標準装備なので問題ない。

「で、その後は絹旗の要望でケーキしか出さないような喫茶店に行ったな」
「スウィーツショップね。何頼んだの?」
「え、いや。普通にショートケーキを……」
「ネタは上がってるっつってんだろうが浜面ああ!!」
「わかったわかった! あれだ、予行演習ってことでカップル専用パフェとかいうの奢らされたよ。ほとんど、食ったのは絹旗だけどな」
「素直に言えばいいんだよ。あんたさあ、その時点でなにか思わなかったわけ?」
「うーん。まあ練習とはいえ、絹旗相手に『あーん』やるのはちょっと恥ずかしかったな。しかも文句つけられるし」
「おいまて今なんつった」
「いや絹旗が」

『どうせ練習なんですから恋人同士の超定番、あーんをしてください。わ、私は超嫌ですけど、奢ってもらった手前は義理で付き合うのも仕方ないというか。さっさとやらないと浜面の口にこれを超無理矢理ねじ込みますよ!』
とのことらしかった。きたないさすが絹旗きたない。
ちなみにこの時点で一度限界に来た麦野は、浜面に前蹴りをぶち込んでしまっている。失敗失敗、てへ。

「いってえな!?」
「ごめんごめん。まだ我慢しようと思ってたんだけど、ちょっと限界だったわ。で、その後は?」
「絹旗が予約してた個室サロンで、時間まで遊んでたよ。カラオケとか屋内射撃場でな」
「あのさ。絹旗は置いておくとして、それも予行演習だったわけよね。てことは滝壺を個室サロンに連れ込んでなにするつもりなのよ」
「なにもしねーよ!? いやでもさ、実は衣装部屋っていうのがあって……」
「そこでバニーとか言い出したらてめえの×××もぎ取って滝壺と別れさせるからね?」
「清く正しい男女交際に努めることを誓います!」

片手を高々と上げて選手宣誓する浜面。させたのは麦野だが。
反面、彼女は心のどこかでホッとしていた。やはりというか、滝壺と浜面はまだ恋人としての一線を越えていないらしい。
絹旗のような積極性を持っていなければ、それは無意味な安堵ではあったが。

「で、絹旗とは何もなかったんだろーな」
「何があったって言うんだよ?」
「XXXだよXXX! てめえの小汚いXXXを絹旗の小便臭いXXXに突っ込んだかって聞いてるんだよ!」
「ぶほっ!? アホか! あらゆる意味でお前はアホか!」
「アホはそっちだ! 予行演習だあ? てめえはわ、私が全裸でのしかかってきても『予行演習だから』って言われりゃ納得するのかよ?」
「んなわけねえだろバカ! お前は何を言っているんだ!?」

盛大に吹き出す浜面。この期に及んで、何故自分が責められているか(どんな疑いをかけられているか)やっと理解したのだ。
勿論浜面にとっては(少なくとも主観では)根拠のない濡れ衣もいいところである。
正座を崩して麦野に食ってかかる。

「俺には滝壺がいるし、絹旗に手を出すわけないだろ? あいつは仲間だし、そもそもまだ子供じゃねえか」
「仲間っていっておきながら結局ガキ扱いかよ。大した仲間意識だなあ。絹旗が聞いたら泣くぜ」
「お前どっちの味方なの!?」
「私はバカな男の敵で、バカな女の味方よ。ていうかもういい、わかったから」

おもむろに立ち上がった麦野が浜面の後ろに回り込み、片腕をねじり上げながら首に腕を回す。
チキンウイングフェイスロックが極まった。(相手の肩と首を同時に極める複合関節技)
「いててててて!! ギブギブ!! つうか背中がいってえ! なんかごりごり当たってるぞ!」としばらく騒いでいた浜面だったが、しばらくするとぐったりと横たわった。
一応これで仕置き完了である。



仕置きが終わった後は食事になる。
今日は麦野特製のサーモンカレーである。麦野が試行錯誤の末に完成させた自慢の一品だ。
ゲテモノの類だが味は美味い。彼女のシャケにかける飽くなき欲求はどこから来ているのだろうか。
ちゃぶ台に皿とコップが二つ並び、お互いに手を合わせる。

「いただきます」
「いただきます」

しばらく食事。食器が触れあう音と咀嚼音だけが部屋を支配する。
特にシャケを食べる時、麦野は環境が落ち着いていないとアームロックを極めてくることが多々あった。
麦野がこの部屋に入り浸るようになってから、その程度の約束事が成り立つ程度には時間が過ぎている。
いつしか彼女が食事の準備をするのは当たり前になっていて、浜面も腹が減っていても手ぶらで帰ってくるようになっていた。
学園都市第四位、職業家事手伝いと胸を張って言えるだろう。綺麗好きなので、部屋の洗濯や掃除も麦野が自分で行っている。

「ごちそうさま」
「ごちそうさま。うまかったぜ」

食事が終わったあとは麦野が食器洗いをし、浜面は風呂を入れたり思い思いに過ごす。今日は雑誌を取りだしてごろんと転がった。
浜面がセキュリティの裏情報雑誌を眺めていると、洗い物を終えた麦野が「あ、そうだ」と自分の手荷物からなにかを持ち出してきた。
ごろんと床に置かれたのは、精密な部品で構成された金属の固まりである。

「はいこれあげる。パーツのおまけに研究所でもらってきたの」
「なんだこれ。結構重いな。錠前……か?」
「研究所で使ってる超精巧なアナログ錠だってさ。ロードサービスだっけ? 練習用に使えるかなって」
「おう、サンキュ。電磁式じゃないなら今の俺でもなんとかなりそうだしな。幾らぐらいするんだ?」
「お金なんていいわよ。その代わり、滝壺デートに誘うなら楽しませてあげなさいよ」

浜面があくまで仲間として絹旗と遊んでいたというのなら、それを責める権利は麦野にはない。
麦野がいない間にあの二人は(兄妹的な意味で)ずいぶん仲良くなっていたようだし、映画ぐらいで目くじらを立てるつもりもない。
(絹旗は完全に狙っていたので有罪)
そもそも浜面に真偽を問い質すべきなのは滝壺だ。
滝壺本人がビビリ、かつ壮絶に嫉妬しているため、麦野が仕方なく代行しただけである。
その嫉妬も、要は彼女に自信がないから発生しているわけで、きちんとデートすれば案外収まるだろうと麦野は踏んでいた。

「元からそのつもりだよ。絹旗からお勧め映画のチケットも貰ったしな」
「お前絹旗の言うこと真に受けるのすこしやめなよ。あからさまに死亡フラグでしょそのフリは」
「いや、これは俺も予告は見たけど面白そうだったんだよ。SFアクションで戦場のラブロマンス的な」
「まあ頑張りなさいよ」

実際は兵士二人が延々とバカな掛け合いとアクションをし、ヒロイン役は顔見せ程度というコメディ戦争映画だったので大爆死だ。
絹旗自身は心底面白いと評しており、別に滝壺と浜面のデートをぶち壊してやろうという意図があったわけではない、多分。

ふと、空気が湿る。
声のテンションがほんの少し、下がった程度の違い。
あぐらをかいて、錠前をいじっていた浜面が顔を上げる。その表情は不審気だ。
麦野から、以前のような空気が漂っていた。

「本当、頑張りなさいよ。あんたは私を捨てて滝壺を選んだんだからさ」
「……」

それは浜面が今までおこなってきたことであり、麦野がロシアで糾弾したことだ。
つまり事実である。
浜面仕上は麦野沈利を撃ち、捨てて、滝壺理后を選び、助けた。
なにかのボタンが掛け違っていたのなら、それは逆になっていた可能性もある。
だがそれはただの夢想だ。
浜面が一番に優先するべき存在が、滝壺理后であることは変わらない。
ただ、それでも仲間と戦いたくないという浜面の我が儘で、新生アイテムは結成された。
今のアイテムは暗部組織でもなければ、サークルでもない。
最大の役割は、お互いの関係性をリセットするための枠組みであること。
それを必要としたのは、麦野と、浜面だ。今のアイテムは、この二人のためにある。
絹旗と滝壺が所属しているのは、体裁を取り繕うためと、義理のようなものだ。
アイテムにいる限り、以前のことは水に流すのが不文律だった。

「フレンダの墓参り、次の休みにでも行こうか。あんたたちのデートに被っちゃうかもしれないけどさ」
「……麦野は」
「うん?」
「麦野はやっぱり、今でも俺のこと、恨んでいるのか?」
「ぶっ」

深刻に聞かれて、思わず吹き出してしまう麦野。全く見当違いの話だった。
腕のことも目のことも、レベルや序列と同じだ。今の彼女にとってはどうでも良いことだった。
いや、それは嘘か。やはり体については未練がある。押しつけても、ごつごつと痛いだけの体。
こんな体で抱いてくれとは言えない。
それが未練と言えば、未練だ。
ただ、それをこの男に話しても仕方ないし、話せない。
だから麦野は違う話をする。

「星の光ってさ。ずうっと遠くにある恒星の光が、何百年も掛けて地球に辿り着いたものらしいわね」
「ん? ああ、なんかで聞いたことあるな、それ」
「だからさ。私がいくら腕を伸ばしたって、それが辿り着くのは何百年も後の話で。中には、とっくに無くなっている星もあって」
「……」
「結局、私の願いは最初から叶わなかったのよね」

星を叩き落とすという、彼女だけの現実(パーソナルリアリティ)。
その終焉を、彼女は自分自身で呟いた。そこに未練はない。
それで話も終わりだった。

「浜面。今日はもう帰るわ。デート、頑張りなさいね」
「ん……なんか、今日はいろいろ済まなかったな」
「ばーか。てめえのケツぐらいてめえで拭けっての」

そうして彼女は、男の部屋を後にする。
かんかん、と音を立てながら安っぽい階段を下りていく。
外に出てから、学園都市の暗い夜空を見上げた。地上の光に邪魔されてはいたが、ちらほらと星は見える。

麦野は両目を閉じて、星の光が地上に届くまでにかける時間を想起する。
それはきっと、人間にとっての一生と同じだけの長さ。
冷たい宇宙を旅するのは、ひどく暗い穴の中を無限に落ちていく感覚に似ているのだろう。
長い長い時間をかけて辿り着いた先でも、誰の目に触れることもなく、報われることなく終わるのかもしれない。
それでも、今ではない、いつかに
一縷の希望を、彼女は待てる気がした。

今はそれだけでいい。



[28302] とある原子崩しの喪失6
Name: 凍月◆f66d21b9 ID:3bfb113d
Date: 2011/06/16 19:33
かつての私はきっと
目にも見えない、何かを求めていたのだろう。
形すらない、正体もわからない、ただ高いところにある何か。
空に輝く小さな星にさえ届く腕が、欲しかった。

レベル5であることとか、序列だとか
下らない理由でこだわっていたんだなって、思う。
学園都市230万人の目標と羨望であること、なんて。そんなことは考えたことはなかった。
自分より下の人間は、全て等しく見下すだけだった。
私はただ、上を目指すために上を目指していた。
自分の価値はもっと優れているという実感がほしかった。
自分の限界を認めたくはなかったのだ。

どうして私の原子崩しは、他のレベル5に比べてあんなにも不安定だったのか。
わかってしまえば答えは簡単だ。
私は常に、限界を超えた出力で能力を放射していたのだから。
星を落とすという、ただそれだけに固執して、自分の限界を無視していた。
自分の限界というものが、こんな地べたにあるのだと絶対に認めようとはしなかった。
能力が不安定なのも当たり前だ。
私はたとえ自らが吹き飛んだとしても、頭上の星を叩き落としたかったのだ。
馬鹿な女だったんだなと思う。
それは今も、だけれど。

私はきっと、超電磁砲にはこの先も勝てないだろうし
第二位にも、滝壺にも、勝てないままだろう。
そしてきっと一生、何度やっても浜面には敵わないのだと思う。
能力だとか、相性だとか、そんなものは要素でしかなく
単純にそれが私の、器の限界なんだと思う。
私には、もうこれ以上の成長はないし、ここから上に行く可能性もない。
それを認めたとき、とても重い荷物をやっと降ろせた気がする。
私の限界はここでいい。
この場所でいい。

こんな体で、抱いてくれなんて言えないし
大体あいつには、もっと抱いて気持ちのいい相手がいる。
そうなると、あいつのためにできることはほんの少ししかなくて
こうなってさえ判るのは、私という人間はただ、壊すことしか能のない人間なんだってことだった。
能力があっても、なくても、私にはなにかを壊すことしかできない。そう生まれついたとしか思えない。
この先、何事もなく穏やかな日々が続くなら、私という人間にできることは何もない。
でも、この先波風が立つのなら
私は、あいつの邪魔をするもの全てを壊して、そして消えるべきなんだろう。

フレンダ。
あんたは私を恨んでいるだろうし
私だって、恨まれて仕方ないことをたくさんしてきたけど
支払いはいくらでもしてやるから
どうか、私達を守ってほしい。




とある原子崩しの喪失6




フレンダの墓参りを終えてからしばらく、後。
麦野は一人、第六学区を歩いていた。
フレンダの墓参りを済ませた後にアイテムメンバーで帰る途中、不良とのごたごたで浜面が行方不明になったのである。
ついでだから浜面を探すゲームでもしようかという話になって、その場で散開。
変な子供に絡まれたりしながら、麦野は散歩感覚で歩いている。
ちなみに、一番探すのが遅かった人間への罰ゲームはバニースーツで浜面に奉仕である。絹旗からの案だ。

(あのさあ、絹旗。お前最近ちょっと露骨に狙いすぎじゃねえの? その歳で寝取り趣味なの?)

などと麦野は思ったりもしたが、口には出さないでおいた。
滝壺が能力を使用すれば距離次第で一発検索なのにそれを禁止しなかったし、最下位狙いゲームと化してしまっている。
待ち合わせのファミレスでも、自作自演でパンモロを見せるなど、最近の絹旗のアプローチは留まるところを知らない。
その矛先が浜面でさえなければ、生ぬるく見守っていられたのに。
先日ドラム缶に詰めた状態で貯水池に放り込まれてたが、全く懲りていないようだった。

(滝壺に丸々筒抜けって教えてもいいけど、そうしたら今度は滝壺相手にビビリそうだし)

背伸びして大人ぶっていても所詮絹旗はガキである。四六時中監視されているという圧力は、意外と深刻なストレスになる。
滝壺は滝壺で、割とヤバい。能力を使ったストーカー行為に拍車がかかっている。
絹旗が刺激するからということあるだろうが、根本的な理由は実験の連続でストレスが溜まっているからだろう。
彼女の能力が急激に成長しているのは麦野も肌で感じられるが、心まで急に成長はできない。
こんな時こそ、恋人がいるんだから頼ればいいと思うのだが

(浜面を守るって意気込みすぎなのよね。自分の価値が不安だからなんだろうけど)

それでもって、当の浜面は行方不明である。
先程から浜面情報を収集しているのだが、どうも何らかの形で厄介ごとに巻き込まれつつあるらしい。
とはいえ可能性であって確証はない。まだ緊急事態と断言するほどではなかった。
妥当な対応としては、浜面探しを中断して連絡することだが、それは逆にも浜面にも言えることだ。
あちらの携帯が使えないなら、こちらから電話しても無駄だし。
あちらの携帯が無事でかつ、連絡がないのなら
浜面は自分のトラブルに、アイテムメンバーを巻き込まないようにしているということになる。

(てめえ舐めてんのか浜面あああ! 何のためのアイテムだってんだよ!)

なので麦野も、意地でもこちらからかけたりはしない。負けた気がするからだ。
ここまで総合してみる。
絹旗:色ボケのマセガキ
滝壺:不安定なストーカー
浜面:問題を抱え込む無能力者

(すっごいな新アイテム、バラバラじゃん。まあ私も全然ダメダメなんだけどさあ)

ビジネスライクな部分がなくなり、付き合いが深くなるのも良し悪しだ。
お互いのエゴがむき出しになり、ぶつかり合うことで瓦解する関係性もよくある。アイテムもそうなるかもしれない。
ただしこれは、司令塔である麦野が統率を取れていない事にも原因があるだろう。
絹旗はまあ、適当にシメておけばいい。なんだかんだ言って可愛いし。
滝壺に対してはどうしても負い目と劣等感を感じてしまう。そんなものを抱いても仕方ないと判っているのだが。
浜面に至っては何をいわんやである。
表面上、取り繕ってはいるが。新アイテムの内情は割とドロドロだ。
こういう時に、フレンダの軽いノリは役に立っていたんだなと気付いたりする。後悔先に立たずだ。
これからどうやっていくか悩みながら、麦野は適当に街を歩いていく
と、不意に携帯が鳴った。
着信音からして浜面ではない。表示を見ると滝壺からだった。
浜面探しの途中経過か、それともズバリ浜面を確保したのか。
そう思って携帯を耳に当てるが、聞こえてきたのは滝壺の切羽詰まった警告だった。

『むぎの。どう、しよう。むぎの』
「あー……とりあえず事情を話しな」




現在、もっとも有望なレベル5候補である滝壺理后。
その能力は『能力追跡(AIMストーカー)』であり、将来的には他人のパーソナルリアリティを自由に操作し、能力者を量産することが期待されている。
極端に言えば学園都市の能力開発機能を全て代行可能ということになり、その将来性は莫大なものになる。
(どうせそう都合良くは行かないだろうと麦野は踏んでいるが)
滝壺はその将来性を盾にして、霧ヶ丘付属研究所(ひいては統括理事会のメンバー)と交渉し、アイテムの安全を保証させていた。
浜面が上層部に対して、素養格付で行っていた交渉と合わせて、新アイテムの政治的位置はある程度安定していたはずだ。
だが、この数時間でなにかが変わった。
滝壺に対して、霧ヶ丘付属から『今すぐアイテムと手を切り、当研究所に保護されること』との、強制めいた通達があったのだ。
それこそ、暗部組織が解散していなければ適当な部隊でも派遣しかねない勢いで。
滝壺がなんとか霧ヶ丘付属から聞き出したところによると
ついさっき、アイテムの政治的立場が急激に悪化、解体命令が出たのだという。
必要とあらば、殺害も許可するレベルで、だ。
そうなるに至った理由、原因は不明。
その中で霧ヶ丘付属は流れを掴み、滝壺だけでも確保するため、急遽連絡をよこしたのだ。
(実際は、浜面と一方通行の接触によって引き起こされた、『新入生』の陰謀なのだが、麦野達には知る由もない)

ただ、否応なくわかることもある。
束の間の平和は終わったのだ。


「……どう、しよう。むぎの」
「落ち着け、滝壺」

滝壺の声は柄にもなく狼狽していた。
命の危険に動揺しているのではない。そんな危険はアイテムの仕事で、ロシアでの逃避行で、幾らでも越えてきたはずだ。
彼女を動揺させていたのは、平穏だった。
ここしばらくの、曲がりなりも平和だった時間が終わってしまったこと、やっとできた居場所を失うかもしれないこと、それが滝壺を狼狽させているのだ。
麦野は迷わなかった。
大きなストライドで、滝壺のいる方向に見当をつけて歩き出す。
ついでに絹旗にコールを入れるが、反応がない。舌打ち。
この時、絹旗は既に首魁の一人である黒夜海鳥と交戦状態に入っていた。

「敵が来る。バラバラに分散しているのはまずい。まずは合流するぞ。そっちのGPSデータを送っておいて。
 無能力者のあいつが一番やばい。浜面に滝壺から連絡、通じなかったら能力でサーチしろ。体晶は使うな。
 私は絹旗を回収しに行く。余裕があったらこっちもサーチしておいて」
『でも、麦野は、原子崩しが』
「あ」

路地裏に入った麦野が、ふと気配を感じて視線を上げると
3階ほどの高さに、きらきらとまたたくものが幾つも見えた。
携帯電話に呟く。

「なんかこっちに来た。肩書きだけでもレベル5だから後回しにされると思ったのに」
『むぎのっ!』

原子崩しの喪失がばれているなら、まだ良い。
もしも、麦野が学園都市第四位原子崩し(メルトダウナー)であるという前提で来たのなら
敵は、それを間違いなく上回るだけの戦力を投入してきているということだ。
時間稼ぎだけの雑魚である可能性もあるが、それを祈るには、彼女が見つけてしまったものは剣呑すぎた。
上空をもう一度確認する。きらめきの正体は、掌ほどの三角形の光沢のある板に、高速振動する羽をつけた自律兵器。
それが十数機は群れている。おそらくは偵察、観測用だろう。
その光沢に、麦野は見覚えがあった。彼女自身がかつて愛用していた、拡散支援半導体(シリコンバーン)だ。
視線をそちらに合わせたまま、携帯に話す。

「滝壺。絹旗が連絡に出ないから、浜面を回収した後はそっちもお願い。最悪、霧ヶ丘付属に避難しな」
『むぎのは……むぎのは、どうするの?』
「私は」

麦野沈利は目を閉じた。
ここしばらく入り浸っていた小さな部屋と、他愛のないやり取りが脳裏を過ぎる。
あの部屋では、彼女はレベル5でも罪人でもなかった。
自分にはそんな時間を過ごす資格がなかったのに、それすら忘れて、ただの女として過ごした日々。
恥知らずだと罵られても、幸せだったのには変わりない。
壊すことしか能がなくても
壊すことが、好きなわけではないのだ。

彼女は携帯を頬に当て、胸の中のものを一息に吐き出した。



「あのさ滝壺。私やっぱり浜面に惚れてるわ。愛人枠でいいから入れてくれない?」



返事を待たず即座に携帯の電源を切った。

静寂。
人気のない路地に、偵察ロボットのぶぶぶぶぶ、というかすかな羽音だけが届いている。
麦野はうつむき、肩を震わせ、顔を真っ赤にし、苦笑いしながら呟く。
今のはまったく後先を考えていない、発作的な行動だった。

「あーあ……なに言ってんだろ、私」

直後。
間にある建物の壁を軒並み溶解させ、人間の胴体ほどもある青白い光の奔流が、彼女に叩きつけられた。




人気もなく暗い路地裏が、凄まじい閃光で照らし出されている。
その光源は、軽自動車ほどもあり、通路の幅をほぼ占有する駆動鎧だった。
駆動鎧といっても二足二腕ではない。形状を率直に表すなら、象ガメが近いだろう。
甲羅に当たる部分には、全体を覆う黒い装甲板と一体化した形状の、巨大な砲身が備えられている。駆動鎧の全長とほぼ同じ長さで、砲口はバレーボールほどもある。
太い四足にはローラーが格納されているが、現在は足裏からのアンカーによって地面へ完全に固定されていた。
また、後部には一抱えほどもある箱が二つ、搭載されている。自律兵器のプラットフォームだが、現在は一つが空っぽになっていた。
そして路地を目映く照らす光源は、砲身から放射される青白い輝き――――粒機波形砲だ。
胴体に刻印された、この機体の存在意義は
『FIVE_Over,Modelcase_"MELTDOWNER"(ファイブオーバー、モデルケース・メルトダウナー)』
文字通り、原子崩しを純粋な工学技術で再現、上回ることを目的とした駆動鎧である。
その設計思想は長距離砲撃。
あらゆる障害物を貫く大出力の電子線を、搭載した自律兵器群のナビゲートにより10km単位の距離でほぼ確実に命中させることが可能とされる。
(これは実際の運用における、原子崩しと能力追跡のコンビネーションを参考にしている)
また、自律兵器群は波形砲を反射する特殊な半導体で構成されており、あらかじめ射線に設置しておけば曲射も可能となる。
もはや砲撃というよりも狙撃に近い。しかも超精密な、障害物を全て無効化し、主力戦車をも貫く狙撃である。
ロシアの広大な原野で威力を発揮するものと期待されていたが、投入の前に戦争は終了してしまった。
その後『新入生』によって徴収され、アイテムへの襲撃に使われている。
ケースメルトダウナーが対アイテムに投入されたことには理由がある。
一つは、アイテムに所属する滝壺理后の能力追跡を考慮して、能力者が避けられたこと。
二つ目は、オリジナルの原子崩しを、対応するファイブオーバーで打倒することの意義。
三つ目は、麦野自身が能力をあまり応用しないレベル5だったからだ。
ファイブオーバーはたしかにスペック上の数字ではオリジナルを圧倒しているものの、応用能力まで再現できていないという指摘があった。
例えばケースレールガンは、間違いなくオリジナルの超電磁砲よりも高速高サイクルでレールガンを連射可能であり、これは恐ろしい殲滅力を持つ。
だが元々、超電磁砲は多彩な能力の応用が評価されているレベル5であり、直接対決した場合の結果は不確定である。
しかし原子崩しは、戦闘においては射程と威力を強みとするレベル5であり、応用能力はほとんど評価されていない。
そして波形砲については、射程、出力、持続時間、精度全てに於いてケースメルトダウナーが凌駕している。
故に、遠距離からの出力勝負に持ち込めば、たとえ一時的に防がれたにしろ、ほぼ確実に勝てるという目算があり
その上で、駆動鎧の新入生は、分厚い装甲板の中で目を剥いていた。

(どういうことだ……とっくに限界を超えているはずだぞ?)

既に、波形砲の照射は十数秒に及び
それは間違いなく、10km以上先にいるオリジナルに命中し続けている。
少なくとも、遠隔操作の自律兵器が送ってくるデータはそう示している。
十数秒の照射。
これはケースメルトダウナーの限界照射時間に近いと共に、既に要塞さえ貫くだけの火力を叩き込んでいることを示していた。
ましてや、オリジナルの防げる限界などとっくに超越しているはずだ。
にも関わらず目標は健在。
それどころか、駆動鎧の内部で砲身温度の限界を知らせるアラートが鳴り始めた。

(ちっ。一旦攻撃中止だな)

光が途切れる。
照射を中止したケースメルトダウナーは、冷却のために装甲各部を開いて蒸気を噴きだした。
高圧高温となった冷却剤であり、これだけでも兵器になりかねない。実際、蒸気の触れた壁がドロドロに溶けてしまった。
新たな冷却剤を充填しながら、新入生は麦野の周囲に配置した自律兵器からのデータを分析する。不可解な点は他にもあった。

(目標地点周囲の環境は変化していない……あまりにも変化が少なすぎる!
 粒子同士があれだけの長時間ぶつかり合ったなら、周辺温度はとっくに数百度を超えているはずだ。
 それに目標周辺に散乱している物体はなんだ。砲撃前にはそんなものはなかったはず。
 シリコンバーンの盾でも用意して砲撃を防いだのか。いや、これだけ長時間の照射に耐えられるわけがない)

それでもまだ、新入生には余裕があった。
オリジナルがどんな手段で攻撃を防いだにしろ、まだお互いの間には10km以上の距離がある。
これは即ち、ケースメルトダウナーの間合いだ。オリジナル単独では、この距離で必中を狙える精度はない。
目標が原子崩しの噴射で接近してきたとしても、こちらを有効射程に捕らえる前に、離脱するなり砲身冷却が完了する計算だった。
故に

(消えっ!?)

自律兵器の送ってくるデータから、オリジナルの反応が一瞬で消失した時、新入生はパニックに陥った。
離脱した、のではない。
目標付近に散布した自律兵器からのデータ全てから、煙のようにオリジナルの反応が消え失せたのだ。
後に残るのは大穴の空いた壁と、残骸が散乱する路地裏のみ。
完全なロスト。
こんな事態は有り得ないはずだった。
楽な任務のはずだったのだ。
原子崩し(メルトダウナー)は第四位とはいえ、実際の戦闘能力は頭打ちとされていた。なにしろ無能力者相手に何度も負けているのだ。
『新入生』が箔をつけるにはうってつけのターゲットであり、だからこそ『狩猟が解禁』されると同時に出撃したのだ。
だというのに、事態は最初から最後まで、新入生の理解を超えていた。

オリジナルが消えてから約1秒後、ケースメルトダウナーの後方で、がごん、と妙な音がした。
その時初めて、駆動鎧の新入生は、砲撃直後で本体のセンサーがまともに働いていないことに気付いた。
慌てて足裏のアンカーを解除し、旋回させる。
新手か? 通りすがりの一般人にしろ、他のアイテムメンバーが駆けつけたにしろ、抹殺することには違いない。
だが、違った。

「ふぁいぶ、おーばー、もでるけーす、めるとだうなー……へえ。機械が私を、超えたって?」

暗い路地裏の先
ほんの5m程の距離に、麦野沈利が凄絶な表情で嗤っている。
新入生は装甲の中で、今度こそ悲鳴を上げた。




0次元の極点というらしい。
サイボーグのパーツを一揃い買い換えた時に、サービスとしてもらった論文。死んでしまったバカな研究者の書いたものだ。
1次元を切断することで全てに接する0次元の極点を作りだし、それを基点にしてあらゆる場所への瞬間移動を実現させるという狂った内容。
既存のテレポーターと違って、重量制限や距離制限はなし。欲しいものはあらゆる場所から取り寄せ、いらないものは全て宇宙の果てにすっ飛ばすことが可能、ということだったが。
そんなものは学園都市の論文にありがちな、理想的な数字だけを羅列したものでしかない。
実際やってみると、座標を変換するというよりも門を開く感覚に近く。動かせるものしか入れないわ、門は1秒ちょいで閉じるわ、取り寄せなんて精度も時間も足りなさすぎだし、縮尺がでかすぎてkm単位が限界だし、演算が面倒で撃ち合いの最中にはとても使えない。
撃たれた角度から、経験で当たりを付けて門を開いてみたけれど、ちょうどの距離になったのは奇跡に近かった。
がごん、と私のくぐってきた門が閉じ、地面に転がって鈍い音を立てる。
そこには、全身から高温の余熱を発する黒いロボット――――いや、駆動鎧がいた。
音に反応して、路地裏の半ばを占有する、砲台を載せた象ガメが、壁を擦りながら意外と素早く旋回する。
なんかのゲームでこんなモンスターがいた気がする。ポ○モンだっけ?
その際、胴部の刻印が義眼の暗視機能で読みとれた。
『FIVE_Over,Modelcase_"MELTDOWNER"』
洒落ている。

「ふぁいぶ、おーばー、もでるけーす、めるとだうなー……へえ。機械が私を、超えたって?」
『GI、A、ああああ!』

返答は、恐怖に引き取ったノイズ混じりの音声。
麦野が凄絶に嗤い、右手指先と背後4点に、青白い光点が灯った。踏み込む。
同時。ケースメルトダウナーの周囲に、ばぢんっと紫電が走る。
金属弾丸、そして粒子兵器を防ぎ、逸らすことを目的とした強力な磁場障壁である。
砲身冷却はまだ完了していないが、この磁場障壁は、最大出力なら第四位の原子崩しでも突破不能な強度に設定されている。
至近距離で撃ち合ったとしても、原子崩し相手なら負ける要素はない。ファイブオーバーというのはそういう存在だ。
そして、麦野沈利から飛んできたのは『そんなものではなかった』。



がきんっ、と

1.25秒後、一切なんの抵抗もなく、ケースメルトダウナーの砲身と四肢は、透明な結晶の刃で分断された。




「……なんて、ね。いいんじゃないの、別に。あんたにやるわよ、メルトダウナー」

ふ、と
凄絶な表情をあっさりと消して、麦野がおちゃらけた。
空中に浮いていた透明な結晶が、重い音を立てて地面に突き刺さる。
ケースメルトダウナーの胴体は、とっくに地面に転がっていた。
戦闘不能。駆動鎧の機能が失われたというよりも、その使い手が心を折られていた。
この学園都市においてすら、得体の知れない、未知に触れて。
駆動鎧の新入生は、今ようやく、レベル5が化け物と言われている理由を思い知った。
別に、大したことはないんだけどさ、と麦野は言う。
その口調は、本当になんでもなさげだった。

「私の限界は、ここでいい。もうこれ以上の成長はないし、ここから上に行く可能性もない。それを認めたら、少し違う景色も見えた。ただそれだけよ」

進化の、行き止まり。
言いかえるなら、完成形。
これが麦野沈利の能力の、行き着く果てだった。
彼女自身も知らないことだが、これはイギリスの地で第二王女が、天使の力を借りて行使したものと同じ理(ことわり)である。
全次元切断現象。
結晶の刃は、あくまで副産物。上位の次元を切断した時に発生する、三次元での残骸に過ぎない。
彼女の灯す光点は、なぞった空間の次元をまとめて切断し、1.25秒後に残骸結晶がその間隙を埋める。
ケースメルトダウナーの粒機波形砲は、着弾点の空間ごと切断され続けた。
10kmを一瞬で移動した0次元の極点は、次元を切断することで露出させた。

「滝壺にさあ、レベル5の義務を果たしてないって、怒られちゃったわよ。AIM拡散場の規模でバレバレだったんでしょうね」

つまりはこれが、オチだった。
原子崩しを使えなくなったのは本当だ。だが、無能力者と言えば嘘になる。
彼女がレベル5であることは変わらなかったのだから。
そんな嘘を付いて、恥知らずにも、麦野がレベル5の義務を滝壺に押しつけたのは
レベル5ではない一人の人間として、あの部屋でごろごろしていたかったからだ。
絹旗にも滝壺にも、なにかを言う資格はない。

「私の限界は変わらない。これからも私は、第一位や第二位や第三位には、滝壺にも、浜面にだって勝てないんだと思う」

限界は変わらない。
彼女が次元を切断し得る射程はたったの5m。
全次元を切断するはずの能力も、上下に数次元ずつが限度。
理論的には無限の万能性を持つはずである0次元の極点も、様々な制約に縛られてでしか開けない。
彼女は成長したのではなく、変質しただけだ。とっくに限界は迎えていた。
もはや原子崩しは撃てない。以前の彼女には戻れない。

「でもさ、負けないよ。あいつが生きて、無事なら、私に負けはないんだから」

夜空の星は落とせなかった。
ここから先に進歩はなく、ここから上に道はない。
それで構わないと認めたとき、彼女は原子崩しを喪失した。
代わりに手に入れたのは、皮肉にも、更なる破壊だった。
後には何も残らない。この世界から、本当になにかを消し去ってしまう、残酷な力。
彼女の適性は、たとえそう望まなくても、壊すことにしかなかった。
それでもいい。
それでもいいと認めたのだから、彼女は既に『原子崩し(メルトダウナー)』ですらない。


『原子喪失(ディスインテグレート)』



「って、あんたらみたいなクズに何語ってんだろ。次にそのツラ見かけたら、生きたまま太陽に放り込んでやるからな」

装甲板に一発蹴りを入れ、麦野は踵を返して歩き出した。
このレベルの脅威が敵に回っているならば、アイテムとしての結束が絶対に必要だ。連絡の取れない絹旗も気になる。
あんなことを言ってしまった手前、滝壺と顔を合わせるのが気恥ずかし過ぎるが仕方ない。
携帯を確認し、滝壺から送られてきたGPSデータを確認。幸い、周囲が開けた場所のようだ。
麦野の背後に灯った4つの光点がなぞるように次元を切り裂き、0次元の極点を介して直径2m程の門を開いた。
空間断面が結晶化する1.25秒より前に、麦野はその中に飛び込む。
一歩間違えれば宇宙に飛び出しかねない危険な能力だが、その足取りに迷いはなかった。
それよりもっと、遙かに、重要なことがあるのだ。


さあ、とりあえず
愛する男を見つけて、本気でぶん殴ろう。
こんなレベルの脅威に狙われて、連絡もしない薄情なあいつを。



[28302] あとがき
Name: 凍月◆f66d21b9 ID:3bfb113d
Date: 2011/06/20 12:28
あとがき代わりのガールズトーク
原作=とある魔術の禁書目録及び新約
本編=とある原子崩しの喪失


「というわけで新生アイテム超集合してみたわけですけど」
「本編のネタをグダグダ雑談しながら解説していくわね」
「……でも、はまづらがいないね」
「あいつは爆発させておいたわ」
「浜面超爆発しろ!」
「……そう」


・全次元切断能力
「とりあえず超強引な展開からいきましょうか」
「そうね。まあ元ネタは、18巻のイギリス第二王女様がずばずば振るってた奴ね」
「……どうして、それをむぎのが?」
「んー、発想の問題なんだけど。『0次元の極点と全次元切断って似てるんじゃないか?』→『切断で0次元作れるなら全次元も切断できるはず!』ってことでくっつけてみたの」
「どんだけ超強引なんですか」
「それにもともと、全次元切断術式が物理法則臭かったしね。上位次元を切断すると3次元に断面ができるとか」
「……残骸物質は、白い物体じゃなくて水晶だったね。なにか意味あるの?」
「ううん、ないよ? 強いて言うならイメージの問題。薄い水晶ですぱぱーんって斬るのって格好いいじゃない」
「実際は光点を作って、それでなぞるように次元を超切断してるんですけどね。このあたりは原子崩しの名残でしょうか」
「残骸物質に固有の性質を持たせようとも思ったけど、尺の問題もあるしやめておいたわ。重力に反発するとかね」
「そこまでいくと未玩物質っぽくなってきますしね」
「……武器には使えないの?」
「無理。身体能力は人間レベルだもん。王女様みたいな真似は肉体的にもスーパー強化されてたからできた芸当でしょ」



・0次元の極点
「でもさ。考えてみたら0次元の極点ネタも判る人って少なくない?」
「……PSPとある禁書ゲームの、むぎのシナリオだね」
「ぶっちゃけあれは超クソ……まあゲームの批評はさておき、プレイした人は原作を読んでる人よりも確実に少ないですよ」
「まあ、ググるかプレイ動画を見るか、ゲームやればわかると思うから。ここで詳細は話さないでおくわ」
「本来は超無敵の能力なんですよね?」
「……でも本編だと、いろいろ制限があったね」
「演算能力の限界があるもの。ざっと羅列するとこんな感じ」
・重量の制限(開くことのできる門の大きさが最大で直径5m)
・スケール過剰(銀河のあらゆる点に繋げることができるため、逆に地点の特定が難しい。km単位の移動が限界で、準備時間の増加や精度不足を引き起こす)
・持続時間の制限(1.25秒で次元切断面は結晶化するため、その間に通過しなければフレ/ンダになる)
・とりよせの不可能(門を開くという形式のため、動いているものしかくぐれない。遠距離から個体を狙うには精度が決定的に不足している)
・残骸物質が残る(次元を切断するために、門が閉じた後は、入口出口両方に残骸物質が発生する)
「これは超ひどい」
「……特に精度の不足と準備時間が問題だね」
「仕方ないじゃない。本来は星と星との間を渡り歩く能力なんだから」
「距離制限がないからそういう真似も超可能かもしれませんが、その場合は『星間移動(スターウォーカー)』とでも超名乗るんですね。そしてマスクを被ってコーホー」
「あんた超大作嫌いじゃなかったの?」


・強さ議論的なもの
「ついでに麦野の強さ議論的なものもしてみましょうか」
「ん? 変わってないよ、以上」
「超はやっ!」
「……本編でも言ってたね。むぎのの限界は変わっていない、変質しただけ」
「強いて言うなら接近戦に強くなって遠距離に弱くなったかな。射程5mだもん」
「超遠距離操作型から超近距離パワー型に! つまり麦野ACT2ってことですね!」
「切り替え自由じゃないからな?」
「……でも、次元を切断できるってすごくないかな」
「能力の特異性と強さは全然、別の話でしょ。それを言うなら第二位が一番すごいはずだし」
「第一位と第二位は普通に次元切断に超対応しかねないし、第三位に発動速度と多彩さで負けてるのは変わらないですよね」
「……そして、私に女として負けて、はまづらには惚れたが負けってことだね」
「HAHAHA、超オチが付きましたね」
「あのさ、前より更にフレ/ンダしやすくなったんだけど試してやろうか?」


・ケースメルトダウナー
「……新約で登場した、ファイブオーバー・モデルケース・レールガンの、むぎの版だね」
「実際あってもおかしくないですよね」
「というか他がベクトル操作に物質創造、心理操作に正体不明だもん。純工学的には無理があるでしょ」
「粒機波形高速砲も相当、怪しげですけどね。荷電粒子砲でも良かったんじゃ?」
「あー、それは考えたんだけど。下手に検証されてる分、電力射程精度消耗あらゆる点で問題が出ちゃうのよ」
「……レーザーは?」
「あれ原則的に見えないじゃない。避けきれないイメージが強いし」
「とにかく、個人的にはああいうびっくりドッキリメカは超好きですよ。ファン○ルついてますしね」
「……構造的にはりふれくたー○っとじゃないかな」
「本来の用途はナビゲートだからな? でも欠陥もあるのよね。粒機波形砲が不安定で、移動しながら撃てないとか」
「うわあなんですかそれ。超欠陥兵器じゃないですか。下手すると超暴発ですか?」
「……そんなところまでむぎのに似なくていいのに」
「うっさい」
「ケースレールガンは連射速度の代償に精度が犠牲になってますし、超反対の仕様なんですね」


・アイテムは浜面の嫁
「ていうかさ、冷静に考えて、あんなバカに女三人が惚れてるとか有り得ないでしょ」
「全くですね。浜面は私達の超使いっ走り。それ以上でもそれ以下でもありません」
「……そもそも、はまづらの嫁は私。重婚は犯罪だし、嫁が複数は有り得ない」
「ちょっと待ちなさいよ。たしかに付き合ってるかもしれないけど、嫁ではないでしょ」
「一線を越えるどころかキス止まりですしね」
「……ほぼ同義。いずれそうなる未来は確定的に明らか」
「いやいやいや、将来的にどうなるかは判らないわよ。結婚しているわけでもなし」
「案外滝壺さんの超ストーカー行為が原因であっさり別れたりするかもしれませんしね」
「……ああん?」
「うわあ滝壺が正ヒロインとしてやっちゃいけない顔を」


・AIMストーカー滝壺
「……そもそもこんな書かれ方は不本意。原作の私は温厚で素直クールな美少女。夫の後は3歩下がる、理想的な大和撫子」
「超素直毒舌の間違いじゃないでしょうか」
「百歩譲ってそれが正しいとしても、ストーカー設定は矛盾しないんじゃねえ? 原作でも相当、嫉妬深い節があるし」
「能力で既にストーカー名乗ってますしね。どんなパーソナルリアリティなのかって話ですよ」
「……二人とも勘違いしている。この世界において、交際相手に能力を使うのは愛情表現。他のヒロインも、噛み付きや電撃を駆使している。つまり私がはまづらに能力を使用するのも、愛」
「そっかー。サーチ系だからそのまま監視になっちゃうんだねって、開き直んな」
「その理屈で行くと、麦野は浜面を殺したいほど超愛しすぎですね」
「浜面に頻繁に大能力振りかざす誰かさんもね」
「……むぎのは許す。でもきぬはたは許さない」
「超なんでですか!?」


・きぬはたの扱い
「……むぎのは色々我慢しているし、可哀相だから、許せる部分もある。でもきぬはたは、なんなの? 死ぬの?」
「超殺人予告!?」
「あー。それは私も思った。あんたさあ、彼女持ちにコナかけて、仲間内で気まずくなるとか思わないわけ?」
「真剣に聞かれても超困るんですけど。んー……まあ、なんとかなるかな、と」
「……なんとかって、なにが? 私からはまづらを寝取れるとか、そういうことなの? 死ぬの?」
「いやいや。私だってガチで寝取ろうとか、超結婚したいとか(今はまだ)考えてる訳じゃないですよ。ただ私だって、年頃ですからそういうことには超興味あるんです」
「カッコ内は見なかったことにするわ」
「浜面と遊ぶのは……あまり認めたくないですけど楽しいですし、その延長線上で、ちょっとそれっぽいこと体験したいってだけですよ。超ライトな気持ちです」
「それって別に浜面でなくてもよくね?」
「うーん、まあそうかもしれませんけど……他に適当な相手もいないし、浜面相手にするのは超気楽なんですよ。滝壺さんなら許してくれるっていう甘えはありましたね」
「ぼっちが手近で妥協か」
「……きぬはたの言い分は判った」
「超わかってもらえました? じゃあこれからもそんな感じでよろしくということで」
「……その上で許せない、絶対に」
「ええええええ! というかなんで今回私はネタ担当なんですか、ぼっち扱いですし!」
「フレンダポジが移動したんじゃないかな。浜面いじめても可愛くないし」


・『原子喪失(ディスインテグレート)』むぎのん
「ぶっちゃけた話、美化何百%超ですか。あの乙女チック生物」
「……出番の差もありすぎる。私なんて、直接出られたのは1話だけ」
「私も1話しか出てないですよ。最後なんて既に吹っ飛ばされてる扱いでしたし」
「いいじゃんそもそも私の話なんだから。それに新約で私の出番ほとんど無かったし」
「……私なんて、もっとない。むぎのは絵が3枚もついた。私は後ろに小さく乗ったのと集合絵で、2枚」
「私はストーリーにも噛んで、超メイン級で3枚でしたよ」
「……メインヒロインなのに、この扱いはおかしいと思う。断固抗議する」
「あー、まあメインヒロイン級はエア化される傾向にある作品だしね」
「正妻面が超うざいというか」
「……さっきからきぬはたばっかりひどいこと言ってる気がするんだけど、気のせいなのかな」
「あわわわ……で、でもこの話。新約で麦野が原子崩し撃ってないから超ギリギリ成り立つわけですけど、賞味期限は新約2巻が出るまでですよね」
「現時点で成り立ってるかどうかも微妙だけどね。ちなみに一番手こずったのは能力名だったわ」
「厨二力が超貧弱貧弱ゥ!」


・サイボーグ研究所
「本編でもちょっと出てましたけど補足しましょう。超設定レベルの話ですが」
「私が通ってたのが、原作で黒夜海鳥を支援してた研究所っていう設定ね」
「……パーツカタログでイソギンチャクみたいな腕があったね」
「いくら超強くなれるんであっても、あんなものつける気にはなれません」
「第一位対策として木原君の論文と木原神拳のデータ漁ってきて、その一部が私のところに来たって話」
「……0次元の極点論文はきはらくんが書いたものだからね。PSP参照」
「ところでですね。義手に木原神拳を超インストールすれば本当に第一位の防御を破れるんでしょうか? 能力柄ちょっと興味があります」
「さあ。私は無理じゃないかなって思ってるけど」
「その心は? あ、攻撃する前に倒されるとかいうのはなしで」
「返しの方向。第一位の反射方向が180°に設定されてるなら、反対側に拳を返せばいいけどさ。90°に設定されてたら自分で自分の手首折っちゃうわよ。
 第一位の演算パターンを完全に把握してないと、使いものにならない技術でしょ」
「……愛がなければ役にたたないんだね」
「でもあいつには第一の演算パターンが超移植されていましたから、そういう意味では分があったんじゃないんですか?」
「あーなるほど。その組み合わせなら条件は満たしてたかもね」
「……愛があったんだね」
「私にもその演算パターンは移植されてるわけですから、超やめてください」
「……第一位を愛するきぬはたを、私は応援しているよ」
「超ライバルを排除にかかった!?」



・霧ヶ丘付属研究所
「……私やむぎのが霧ヶ丘女学院の生徒であること、霧ヶ丘付属が、霧ヶ丘女学院の付属研究所であるというのは創作設定」
「滝壺の能力のレアさから考えて、霧ヶ丘女学院在籍の可能性は割とあるけどね」
「あれ、後者はどうなんですか? 名前もろかぶりなんですけど」
「……詳細は不明。ただ、霧ヶ丘付属は第一位も所属していたこともある、地獄の釜の一つ」
「敷地内に死体処理場があるとかいう噂だからね。女学院の付属研究所としてはちょっとどうよ」
「じゃあ本編の滝壺さんもそんな目に遭ってたんですか?」
「……実験は過酷だった。本編で私がちょっと壊れていても、全てそのせいだということで、ひとつ」
「いや、あれは素だろ」


・フレンダ
「もうちょっと話に絡むかと思いましたが、超スルーでしたね」
「あのさ、すごく正直に言っていい?」
「……どうぞ」
「フレンダは嫌いじゃなかったし後悔もしてるけど、私にとっては浜面のほうが大事なの」
「うわあ。超うわあですよ。自分がぶっ殺した仲間にそれですか?」
「……薄情だね、むぎの」
「別にどうでもいいとはいわないけどさあ。普通に後悔してるし。でも今の私に優先順位つけるなら、ダントツトップがあるってだけよ」
「これだから超病んでる女は信用できないんですよ」
「でも別の意味で後悔はしてるわ。新生アイテム、ギスギスし過ぎでしょ」
「なんだかんだでムードメーカーだったわけですか。あたま空っぽというのが超役に立つこともあるんですね」
「……うっかりはちべえだね」



・愛人宣言
「あー」
「っていうか有り得ないでしょう、なんで超最初から負けを認めてるんですか。戦うなら超勝つ気でやる、略奪愛万歳ですよ」
「……それは宣戦布告と受け取っていいのかな、きぬはた」
「うっさいなあ。どうせ滝壺には勝てないんだから、負けない戦い方が良いに決まってるじゃない」
「本当に何なんでしょうこの負け犬麦野は。それで滝壺さん的には愛人超OKなんですか?」
「……あ? 駄目に決まってるよ」
「ええええええ! ちょ、ちょっと滝壺さん、本編の全てを超否定しないでくださいよ!?」
「しかもまたすごい顔してるし……ねえどうしてもだめ?」
「……はまづらは私のものなんだよ? それをどうして他人と共有しないといけないの。むぎのも自分だけの人を見つけるなら応援できるよ。人のものに手を出すなんてきぬはた並だよ」
「うわあ、私の扱いが気になりますが超正論です」
「関係ねえよ! カァンケイねェェんだよォォォ! こんな体にされて、あいつ以外の一体誰を愛せるっていうんだよ! 私に選択肢なんてねえんだよォ!」
「……その厚化粧なら大丈夫だと思うよ。それにむぎのは完全に自業自得。はまづらのせいにするのは筋違いだよ。それを愛人なんて、おこがましいとは思わないのかな」
「入れてくださいお願いします」
「超土下座!? 麦野、そこまで……そこまでですか……なんだか超感動です」
「……本当に申し訳ないっていう気持ちで胸がいっぱいなら、たとえ原子崩しの上でも土下座ができるはずだよね」
「いやいやいや、滝壺さんどれだけ超鬼畜なんですか。それ肉が焼けるどころか骨まで蒸発しますから」
「やるわ」
「麦野ぉぉぉぉぉ!?」



・結局
「結局、超原子ゲザったんですか?」
「今の私は原子崩し出せないから無効になったわ」
「喪失しておいて超良かったですね、ってオチがそれですか」
「……だいたい本編のネタはこんなところだね」
「本当に超gdgdでしたね」
「……ここまで読んでくれたあなたを、私は応援しているよ」
「今更綺麗な滝壺に戻っても遅いんじゃねえの?」
「とにかく、これにて『とある原子崩しの喪失』は超終了です」
「「「おつかれさまでしたー」」」

「……あ、一つ言い忘れていた」
「なに、滝壺?」
「……題名だけど、ハルヒは関係ないよ」
「超今更すぎ!?」


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