――ライジング大陸。
この広大な大陸には無数の国家が存在している。
中でも強大な――そう、列強と呼ばれる国となると三ヵ国に絞られる。
ロイハルト王国、アルフォード帝國、そしてシュバルトゥ連邦。
そのどれもが強大な領土・人民・そして兵力を持っていた……
大陸暦6655年、神話の中にしか存在しなかった"魔王"が復活。
これにより、大陸は魔物で溢れかえった……
交通網は遮断され、いかなる強大国と言えど物流が制限されてしまえば経済の低迷は必然だった。
魔物により侵攻された領土を回復すべく、かの三国は奮闘するが、戦えば戦うほど物資も兵も乏しくなる一方であった。
人類の滅亡は時間の問題――見たくも無い事実を突きつけられた各国の首脳部はここで決断する。
勇者の大規模召喚及びその兵力を持ってして、魔王を強襲し滅亡せよ――と。
最早、後の無い三国は大規模な人狩りを行い、それと引き換えに彼等――VRMMORPG『Rising,Sun』のプレイヤー達の召喚に成功した。
混乱する召喚プレイヤー達は、その場に居合わせた国王、総統、首相の言葉"魔王を滅ぼせば元の世界に戻れる"との言葉を信じた。
プレイヤー達は『召喚したのだから戻す事も可能』と信じ、召喚側は『魔王の力は強大故、例え勇者といえども多大な犠牲は免れぬ。例え残ったとしてもこちら側で権力・富・名声を与え懐柔すれば良し』と考えて。
だが、ここで誤算が生じた。
VRゲーム登場時から稼動し続けていた『Rising,Sun』。召喚されたプレイヤーの多くは高レベルに達していたのだった。
彼らは個々にして圧倒的な戦力を誇り、尚且つその総数は優に万を超える。魔王が討伐されるのにそう月日は掛からなかった。
戦死者0名(但し、事故死傷者除く)で魔王討伐という輝かしい戦果を引っさげて戻ってきたプレイヤー達を迎えたのは――戻る世界が無いという残酷すぎる現実であった。
大規模召喚――それは、『現実世界に生きる人間』を召喚するのではなく『現実には存在しない存在』を召喚し、この世界に具現化する。所謂"コピー&ペースト"だったのである。
そう、彼等プレイヤーはVRMMORPG『Rising,Sun』のデータをコピーし、具現化された存在。
現実世界に戻ろうとも、そこには本来の自分が悠々と生活しており戻る事は出来ない。
いや、そもそも彼等の戻るべき現実世界など最初から存在していなかったのである。
必死に隠蔽されていたこの真相が何処から漏れたかは分からない。
しかし、漏れたこの真相はあっという間にプレイヤー達に広がっていった。
現実世界に戻る、この一点だけを目指して一致団結していた彼等の結びつきが綻びるのに、そう時間は掛からなかった。
ある者は、それでも帰還する方法を模索し。
また、ある者は帰還を諦めこの世界に溶け込んでいった。
だが、それは少数に過ぎなかった。
例え現実世界に帰還する方法が見つかったとしても、そこには自分の居場所は無いという事実からは逃れられなかったのである。
しかし、現実世界で生きていた記憶があるのは事実。故郷を求めるのは人の性で在り、決して捨てきれるものではなかった。
戻る事は叶わず、この世界で生きるしかない――絶望の淵にいた彼等が下した結論。
それは、この地に現実世界と同等の技術・文化を持った国を再現する事だった。
CLI-MAX
Episode:06
薄暗い廃墟の中、俺は木製のボロイ椅子に手足を拘束され、目の前で喜々して下らねぇ悲劇をベラベラと喋るこの馬鹿に付き合わされていた。
持っていた武器――っても、残ってたのはベレッタM92FSだけだったが――は没収され、今は奴の手のなかにある。
「なるほどねぇ。で、その後テメェ等はその現実世界と同等の国をここに建国する為に頑張ってきたってか?」
「そうさ!僕等を陥れた国々を襲撃し、召喚に必要な技術・物資を確保した!でもね、ここでひとつの問題に当たっちゃったんだよ」
「……”人”と”物”の違いだ。違うか?」
「その通りさ!良く気が付いたね?うん、やっぱり君は優秀だ」
「じゃなきゃ、俺達が選ばれる理由がねぇからな。実在する、つまり質量がある物は無理。だったら、仮想現実からコピペするしかねぇ。人なら殆どのVRゲームなら詳細に作り込んであるさ。特にマクベス社はな?だが、物に関しては未だ唯の”絵”が殆どだ。件のマクベス社にしたって、稼動してんのは、ライジングとクライだけだ。なら、お前等が求めるのは必然的にクライって訳だ。なんせ、”究極のミリタリー・シミュレーター”だからな?拘り様がハンパネェってのは有名だかんなぁ……一般ユーザーはクソ少ねぇけど」
「正解、だよ。僕等は手当たり次第に召喚したよ。映画、ゲーム、アニメ、ネット上の写真に動画、そしてVRゲーム……でも、殆どが駄目だった。2次元媒体から召喚しても、そのまま。ペラペラの摩天楼が具現化しても全く意味が無かったよ。VRゲームにしてもそうさ。まともにデータを持たない物を具現化しても、耐えられない。折角、ニューヨークをモデルにした大都市を具現化しても、あっという間に崩壊したよ。一緒に召喚されたプレイヤー諸共、ね?」
ニヤニヤと笑いながら此方の様子を伺うクソ野郎。
ふざけてんじゃねぇぞ、馬鹿野郎!大体、さっきの話からすると召喚には多くの命が必要なんだろうが!
テメェ等の召喚失敗にどれだけ犠牲にしやがったんだ、このタワケは!?
「何、ニヤニヤ笑ってんだコノ野郎。テメェの話じゃ、召喚する為に命を犠牲にする必要があるんじゃねぇのか?」
「そうだね?これまでにざっと50万程かな?でも、気にする必要は無いさ。僕等を裏切ったんだから、それ位の犠牲は払ってもらわなきゃね?」
「……本当の魔王ってのは、テメェ等の事じゃねぇのか?」
「まさか!僕達だって馬鹿じゃ無いさ。召喚に使ったのは旧政府側の人間だよ。所謂、貴族とかの特権階級って奴さ!今まで散々民衆から搾り取ってきたんだ。当然の報いって奴さ」
「それに託けて、その特権階級を犠牲にアホみたいに召喚魔法使いまくってきたテメェ等に報いが無いってか?寝言は寝て言えよ。やってる事はそいつらと同じじゃねぇか!」
「同じ?嫌だなぁ、勘違いしないでよね。僕等が同じ!そんな訳が無い!僕等は!圧制から!民衆を!救った英雄なんだよ!」
声を荒げながら、奴は拳を振るう。
一発一発が重く、当たる度に血飛沫が飛び散った。
「分かるか!この大陸は完全に!僕等によって解放された!領土も!政府も!今はそんなもの存在しない!完全なる自由な世界!誰も苦しまない、そんな世界を彼等に与えたんだ!その代わりに僕等が理想とする国を造ろうとして、何が悪い!」
最後の一撃――渾身の力を込めて振るわれたそれは、見事に俺の顔面を撃ち抜いた。
「――ハァ、ハァ、ハァ……もう、分かっただろう?君達は、僕等に叶わない。僕達に従うのならば、この世界で生きていけるんだよ?戻るべき場所が無いんだ。いい加減に強情張るのは止めてよね」
椅子は粉々に砕け散り、血塗れで横たわる俺を、肩で息をしながら見下すクソ野郎。
ハァ?テメェ等の軍門に下れだぁ?国を滅ぼし、無政府状態にしやがったこいつ等の元でか?
ふざけんじゃねぇぞ?幸いにも、現実世界に支障はねぇんだ。やりたい様にやらせてもらうぜ、馬鹿野郎!
「――を――るな」
「ん?なんだい?あぁ、ごめんごめん。ちょっと、殴りすぎちゃったかな?」
体中が痛むが、歯を食いしばって立ち上がる。
ポタポタと血が滴り落ちるが、そんなん関係ねぇ。
一歩、前へ進む度に脇腹に激痛が走るが、それがどうした。
拳を握れば、腕の傷が開いて血が吹き出たが気にしない。
「ははは、まったく、凄いねぇ君って奴は。そんな血塗れでまだ僕に歯向かうのかい?」
右腕を突き出すクソ野郎。魔法、使うつもりか?別に構わんよ。
「日本人を――」
「ファイヤ――」
拳を振りかぶると同時に、野郎の手が光る。
「無礼んなぁ!」
「アロー!」
思いっきり振りぬいた俺の拳は――
「どれだけ粋がったとしても――この世界で、レベル無しのお前が!僕に!歯向かう事なんて出来やしないんだよ!」
奴の放ったファイア・アローによって吹き飛ばされていた。