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[27113] 神木・蟠桃の木の精霊(ネギま本編アフター・超鈴音)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2012/03/15 18:39
神木・蟠桃の木の精霊(ネギま本編アフター・超鈴音)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『神木・蟠桃の木の精霊』(しんぼく・ばんとうのきのせいれい)は、週刊少年マガジン・2003年13号(同年2月26日発売)より連載を開始した『魔法先生ネギま!』、日本の漫画作品の、フライング再構成型二次創作。投稿開始時期はチラシの裏2010年9月14日、赤松健板移動2010年10月21日、本編オリジナル完結は2011年1月21日。現当スレッド、神木・蟠桃の木の精霊(本編アフター・超鈴音)で続編を投稿中。

注:2011年4月9日以降、新規にお読み頂ける読者様は神木・蟠桃の木の精霊(ネギま本編アフター・超鈴音・自然発生版)以降に追投稿した自然発生版に目を通される事を推奨致します。尚、あくまでも推奨です。

目次[表示]
1 作品概要
   1.1 基本設定
     1.1.1 転生版
     1.1.2 自然発生版
   1.2 物語
     1.2.1 火星テラフォーミング編
     1.2.2 魔法世界編
     1.2.3 本編完結編
     1.2.4 魔法・魔法世界公表世界編
     1.2.5 未来編
     1.2.6 別ルート編
     1.3 沿革
2 作品内局所設定
  2.1 魔法・魔法世界公表世界編
3 解説
  3.1 作風
  3.2 本作の特徴と注意
  3.3 転生版と自然発生版の相違点
    3.3.1 転生版
    3.3.2 自然発生版
4 脚注
5 参考文献

作品概要[編集]
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基本設定[編集]
本作は、『神木・蟠桃の木の精霊(本編完結・超鈴音)』を経て、魔法・魔法世界が現代地球世界に公表され、その中で展開していく両世界を舞台にスタートする。

転生版[編集]
1神木・蟠桃の木の精霊=転生者。
2機動戦士ガンダム00要素・設定を擦り合わせる形での神木及びネギ・スプリングフィールドの魔改造要素有り。クロスでは無い。
3原作学園祭編で中心人物となる超鈴音が未来に帰ると死亡する(本作ではその阻止という形で進行)。
4地球(旧世界)で魔法行使可能とする為の「魔力」を麻帆良学園都市に存在する神木・蟠桃が生成している。テイルズオブファンタジア、テイルズオブシンフォニアの世界樹ユグドラシルの要素・設定を擦り合わせ。クロスではない。
5魔力と魔分という概念が異なる。
6魔法世界≠人造異界。
7近衛近右衛門は近衛近衛門で表記統一。

自然発生版[編集]
1神木・蟠桃の木の精霊=自然発生者。
2機動戦士ガンダム00要素・設定を擦り合わせる形での神木及びネギ・スプリングフィールドの魔改造要素有り。クロスでは無い。
3原作学園祭編で中心人物となる超鈴音が未来に帰ると死亡する(本作ではその阻止という形で進行)。
4地球(旧世界)で魔法行使可能とする為の「魔力」を麻帆良学園都市に存在する神木・蟠桃が生成している。テイルズオブファンタジア、テイルズオブシンフォニアの世界樹ユグドラシルの要素・設定を擦り合わせ。クロスではない。
5魔力の源を何らかの多様変異性素粒子と捉え、作中では魔分と略して呼称する。
6魔法世界≠人造異界。
7近衛近右衛門は近衛近衛門で表記統一。

物語 [編集]
・火星テラフォーミング編については『神木・蟠桃の木の精霊(本編完結・超鈴音)』を参照
・魔法世界編については『神木・蟠桃の木の精霊(本編完結・超鈴音)』を参照
・本編完結編については『神木・蟠桃の木の精霊(本編完結・超鈴音)』を参照

魔法・魔法世界公表世界編 [編集]
魔法世界が火星と同調し、世界は新たな変革の時を迎える。国連総会で魔法と魔法世界の存在が地球に公表され、一方で魔法世界はこれまでにない環境変化に対応しなければならなかった。その状況下において、自重すること無く超科学を用い火星問題に取り組み出す超鈴音、その彼女に協力しようと動くネギ・スプリングフィールドと彼自身の地球世界におけるこれからの思索。魔法世界編で成長したネギ・スプリングフィールドの元生徒達のそれぞれがどこまでかは分からないが続いていく。

未来編 [編集]
時は2014年7月17日、天真爛漫なハイスペック5歳児が主人公の魔法が世界に公表されてから早10年以上が経過した未来の話。5歳児には関係ないけど世間ではもうすぐ夏休みだよ。

別ルート編[編集]
感想掲示板に要望を書きこんで頂けると増える可能性があります。現在宮崎のどかルートを考慮中です。

沿革 [編集]
本作は「気のせい」による通算一作目、いわゆる処女作に当たり、転生版本編完結まで130日間を要した。その後、勝手な妄想の元に当本編アフターの投稿が続く。ある時感想掲示板で指摘を受け、転生版を自然発生版へと修正を加える作業を敢行、その過程でのモチベーション維持及び本スレッドに追投稿した際の暫定的諸事情回避の為に小説投稿サイト「小説家になろう」で突発的にユーザー登録、「小説家になろう」内「にじファン」において修正毎に投稿を行った。修正完了の結果、本スレッドでも追投稿を行ったが、スレッド分割の提案を受け、個人的事情も相まって神木・蟠桃の木の精霊(ネギま本編完結・超鈴音)と当スレッド、神木・蟠桃の木の精霊(ネギま本編アフター・超鈴音)の分割に至る。
(尚、「にじファン」様における魔法先生ネギま!の投稿禁止の措置に伴い「にじファン」様においては削除致しました)

作品内局所設定 [編集]
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魔法・魔法世界公表世界編[編集]
1南北が逆転(ヘラス帝国、アリアドネー、メガロメセンブリア、北に集中していた大陸が全て南半球)。
2自転周期が24時間から24.6229時間へ増加。
3公転周期が365日から686.98日に増加(火星での日数換算にして669.601日)。
4火星の暦を地球での2003年9月1日時点で同じく2003年9月1日に同期(公転方向は同じ為、季節にズレが出ないように)。

  地球、日本時間2003年9月1日3時43分=火星、オスティア時間2003年9月1日0時0分

5火星の一ヶ月を56日間に変更。

2003年
  9月~12月まで全て56日間

2004年
  1月=56日 2月=56日 3月=56日 4月=56日 5月=56日 6月=55日
  7月=56日 8月=56日 9月=56日 10月=56日 11月=56日 12月=55日

2005年
  1月=56日 2月=56日 3月=56日 4月=56日 5月=56日 6月=55日
  7月=55日 8月=56日 9月=56日 10月=56日 11月=56日 12月=55日

……以後、年間670日と669日を交互に繰り返す。

参考:本編完結編以降の凡その火星(魔法世界)都市位置関係
                          21時               0時                                   9時
                                          龍山山脈     盧遮那      セブレイニア

                                             桃源             ケフィッスス



                                       アル・ジャミーラ                             ブロントポリス
                テンペ                            アンティゴネー
 タンタルス

                                                              ケルベラス
                                             エルファンハフト  モエル           グラニクス

                    クリュタエムネストラ
                                オレステス
                                         オスティア                     ゼフィーリア
                                  トリスタン
  ノクティス・ラビリントゥス       メガロメセンブリア                                              シレニウム
フォエニクス                          エオス

                                    ヴァルカン  ニャンドマ ノアキス                     アリアドネー

                    ボスポラス
                   アルギュレー大平原                             ヘラス

解説[編集]
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作風[編集]
投稿開始当初は余り時間を掛けたく無かった為、適当に短編で済ますつもりであったが、話を書いていくに従い、一応の終わりは見えているものの次第に長文化、更に思いの外執筆に嵌り現実生活を非優先、結果、どういう訳か全体的に状況解説などが多い淡々とした雰囲気になった。ただでさえ、淡々としているにも関わらず随所に「仕様も無いネタ」「仕様も無いメタ発言」をばら撒き、その「程度」の結果、感想掲示板では読者様達が非常に有り難い事に空気を読んで下さっているのか、はたまた、それらに突っ込みを入れようとする気力を完全に削り取ったのかは不明だが、それらに対する言及は殆ど無く、一言で言えば「淡々としすぎて何とも言えない」ようだ[1]。この点については自然発生版では修正を行った為ある程度の改善を果たした。原作が萌え路線とバトルなどの燃え展開であるのに対し、それを一切無視するかの如く終始淡々とし、前述の要素が相当程度希薄化、敢えて良く言うなら「あっさり」した作風になった。但し、ネギ・スプリングフィールド界隈においてはその限りではない。他に、機動戦士ガンダム00を1期2期劇場版と録画映像を何度も見た結果、ガンダムの機体というよりも太陽炉とGN粒子の輝きに心奪われ無理矢理本作にその要素を入れてしまう始末。技名に関しても会話文で叫ばせるのが個人的に微妙、更には厨二病を慢性的に発病している為、テイルズシリーズにおける画面上部に技名が表記されるのを意識し「―○○○―」と囲う事になった。その割には戦闘描写はやはり、何とも言えない。加えてジャンルで分類するならば、超鈴音の超科学が必須という点でSFに相当するかもしれない。

本作の特徴と注意[編集]
1現在転生版、自然発生版それぞれ30万字程度です。
2原作に限らずその他諸々全般に渡りWikipedia等を参考にしています。
3一部人名・地名等に実名を使用していますが、作中の出来事・人物達とは何の関係もありません。
4感想掲示板で疑問点(明確でも曖昧でも、予想などでも)等について書き込みを頂いた場合、ネタバレでも気にせず普通に回答していますので、もし遡る場合にはご注意下さい。往々にして気にして頂いた事について一切考えてなかったという場合もあります。

転生版と自然発生版の相違点[編集]
両方共、神木の精霊による状況解説部において内容に違いは殆ど無い(転生版に修正を一部掛けた程度に過ぎないという関係もある)。
とりわけ、75話採取ツアーの太陽炉に関する件の会話が両者で大分異なります。

転生版[編集]
何者かの力によって(主に作者の都合で)魔改造神木と神木の精霊が転生発生。機械的印象が強い。メタ発言、仕様も無いネタ有り。修正前でもある為、一気に読むと矛盾点が見受けられる。転生に際して全部の知識を入れられているというよりはほぼ原作から読み取れそうな情報しか保持していない為、例えばアルビレオ・イマとのやりとりが不自然。設定に不備がある。転生シーンを経ている為、原作キャラクターに対する神木の精霊の説明が心苦しい部分がある。神木の精霊は最初から超鈴音が好きであり、人間が好き。神木の精霊はどう見ても超鈴音に尻に敷かれている。それでも既存の読者様にはお読み頂いており、本当にありがとうございます。

自然発生版[編集]
どういう訳かは分からないが、時空連続体の歪みか何かで神木の精霊が魔改造神木と共にどうにかこうにか自然発生。植物的印象が強く、機動戦士ガンダム00の「らしい」要素を素で備えている。ベースの性格は転生版と大体同じだが「メタ発言」「ふさげた発言とそれに付随する他の登場人物達との会話」「地の文での極めて個人的一般人的感想」が無くかなり淡白。横文字に慣れておらず度々「いわゆる」「超鈴音風に言うと」などと発言する。修正後である為、矛盾点と設定不備が改善している。純正の精霊であり、原作に限定しない事まで当然の事として把握している部分がある為、その関係でアルビレオ・イマと狸度合いが被る。同じく純正の精霊である関係で、原作キャラクターに対する説明に心苦しさが無い。それぞれの人間を打算的に捉えている。超鈴音でさえも好きというよりは「好きにして欲しい」という傾向が強い。超鈴音の方が寧ろ積極的に話かけてくるようにすらなっている風であり転生版に比較するとその力関係は拮抗気味。結果としては、転生版に比較するとより自然、より淡白になっている。

脚注[編集]
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1.arcadiaを語るスレ39⇔より。「展開が淡々としすぎて何ともいえんわ」恥ずかしながら本作のタイトル検索をした所、この一文で全てを表現していると思いました。

参考文献[編集]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・機動戦士ガンダム00- Wikipedia -
・魔法先生ネギま! - Wikipedia -

……以上、転生版と自然発生版2つについてそれぞれ解説するに当たり、上手く自力で書くのに迷った結果、Wikipedia風仕様の前書きと相成りました。



[27113] 66話 メガロメセンブリア元老院(転生版)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:49
極秘裏に地球、麻帆良学園へと飛んだクルトは、再びその日のうちに火星、新オスティアに戻り、リカード達と情報の整理をした。
その後、高位の治癒術師による治療を受けたという記録を作った上で、クルトとリカードは魔法世界暦での10月11日におきた完全なる世界に端を発する事件の報告を行う為に、首都メガロメセンブリア、メガロメセンブリア元老院議会へと出向く必要があった。
10月11日の墓守り人の宮殿での作戦行動はメガロメセンブリア元老院議会にいちいち伺いを立てていた訳もなく、実際そんな余裕も無かったのであるが、完全に事後報告という形になったからである。
また、それと同時に今回の緊急事態を受けて、首都メガロメセンブリアから凡そ1日半かけて高速艇を飛ばし、新オスティアに正式な調査団も到着していた。
予めクルトは本国へと情報の取捨選択をしながら伝えるべき事を伝え、最優先事項として廃都オスティアの旧ゲートポートの稼働状況の再確認、旧世界への調査団の派遣、その要石の他所への移転計画の迅速な立案等を挙げていた。
何故再確認なのか、と言えば、今回の件での時間的余裕が無いという点でやむを得なかった面の強い独断行動とオスティア信託統治領の総督であるクルトがその立場によって擁する部隊はメガロメセンブリア本国直轄の部隊では無い為、それの監査という目的をこの調査団は含んでいるからである。
この調査団とも情報の共有を図った上で、調査団は廃都オスティアへと向かい、それと入れ替わるように、クルトとリカードの2人は部下を引き連れ、新オスティアから1日弱、高速艇を飛ばし首都メガロメセンブリアへと飛び、メガロメセンブリア元老院議会に姿を現した。

「ジャン=リュック・リカード議員、クルト・ゲーデル議員、到着されました!」

円形に席の並ぶ元老院議会室へと通じる大きな扉が開かれ、係りの者が2人の到着を知らせる。
およそ300人で構成される元老院であるが、その議員達はようやくかという風体でざわめき、それにとりわけどうするでもなくクルトとリカードは自身の所定の席へとそれぞれ向かった。
直前までの議題内容は墓守り人の宮殿の一件から、地球が見えるようになったという事態に関する所まで幅広いものであった。
クルトとリカードが首都メガロメセンブリアに来るまでに廃都オスティアに送られた調査団からの公的な情報も勿論既に元老院には送られており、依然として魔力の濃度が高い事から、ゲートの開通は週単位ではなく、日単位で行き来可能で、後はゲート使用許可さえ降りれば、地球へと行けるという事は把握されていた。
現在ゲートが廃都オスティアという位置的には非常にアクセスの悪い場所にしかないという状況の元、調査団を送るのとほぼ同じぐらい、要石を別のゲートポートに移し替える事も重要性を帯びているのは明らかであった。
そんな中、一連の出来事に直接関与していたクルトとリカードの登場は議会側としても待ちかねていた事であった。
そして元老院議長はクルトに報告を求め、それに従いクルトは円形に囲まれた中心に出て報告を行った。
クルトが述べた内容はと言えば、まずクルト自身と高畑・T・タカミチらが墓守り人の宮殿に先行し、完全なる世界と戦闘を行い、結果としてネギ・スプリングフィールドの死亡という結果までの一連の流れについてであった。
それでも、詳しい戦闘そのものについては触れず、造物主の掟の存在については無かったものとして話され、リライトによって消された者達が元に戻った詳しい事情についても不明、恐らく完全なる世界を排し、その計画を阻止した事が原因であろうというものとして報告された。
ナギ、アリカ、ゼクトの3名の問題については言うまでもなく触れていない。
また、黄昏の姫御子については質問を受けたら答えるというつもりでクルトは触れなかった。
黄昏の姫御子が世界の終りと始まりの魔法にとって鍵となる存在であるのは元老院で知らないものはいないという常識レベルの話である為、こればかりは寧ろ質問をされる事を予定したものだった。
更に、墓守り人の宮殿の一件の後高畑・T・タカミチらは廃都オスティアのゲートを使用して旧世界へと戻った事までを述べ……報告は終了となった。

「悠久の風の高畑・T・タカミチらが廃都オスティアのゲートで旧世界へ移動したというのは重大な問題なのでは?」

「そうだ、後で報告すれば良いというものではない。いくらゲーデル議員がオスティア信託統治権総督であるとしても、オスティアはメガロメセンブリアの統治領下に変わりない。越権行為ではないのか」

「国際協定違反の問題もあるだろう」

クルトの報告が終わった途端あちこちから問題を指摘する声が飛び交い議会はざわめき始める。

「ゲーデル議員、説明を」

騒がしくなり始めた所で議長がクルトに説明を要求した。

「……分かりました。ゲートポートの使用についてはメガロメセンブリアからは私、帝国からはテオドラ第三皇女殿下、アリアドネーからはセラス総長による三ヶ国の承認の元許可したものですので協定には違反していません。その点については後ほど確認をすれば済む問題です。よって私の独断で決めた訳でもありませんので、越権行為には該当しないでしょう。以上です」

議会中央の証言台で、ゲートポート使用については問題にはならないとした見解をクルトは示す。

「三ヶ国承認……それならば国際問題にはならないでしょうな」

「問題にならないのであれば……」

メガロメセンブリア内だけの問題であれば追求を行うこともできただろうが、ヘラス帝国とアリアドネーが絡んでいるとなると、途端に容認の方向に意見が動く。

「……異議のある者はいないとして、三ヶ国承認の件については確認を取るものとする。他の質問があれば引き続き質疑を続ける」

議長が次の質問へと促し、それに対しすぐに質問が出る。

「黄昏の姫御子について言及されなかったが存在しなかったのですか?」

「ああ、これはこれは、私とした事が忘れていました。黄昏の姫御子も高畑・T・タカミチらと共に旧世界へと向かいました」

敢えて挑発するかのようにおどけた風にクルトは証言して見せた。

「馬鹿な!黄昏の姫御子までも旧世界に行かせたというのか。アレの重要性が分からない訳ではあるまいに」

「そうだ!黄昏の姫御子さえいればこの世界が!」

黄昏の姫御子を旧世界に行かせたという証言に一部の議員達が過剰な反応を見せた。
……その一部の議員というのは魔法世界の崩壊の真実を知る者達であり、クルトとも情報を共有していたからこそのこの反応であった。

「そう、黄昏の姫御子さえいればこの世界が……救われる……でしたね」

クルトはその言葉を自ら引き継いで議会全体に聞こえるような声で答えた。

「一体何の話か?」

「知らぬぞ」

「どういう事だ?」

意味深な発言にその情報を知らない議員達が再びざわめき始め、クルトに過剰反応した議員達は図られた、という表情を見せた。

「ゲーデル議員、説明は可能か?」

「ええ、勿論です。……それでは、この元老院議員でも一部の者しか知りえない魔法世界の真実について……公開する事に致しましょう」

「ゲーデル!貴様ッ!」

「魔法世界の真実?」

「ゲーデル議員の証言中である。静粛に」

議長が声を荒らげる議員に黙るように言い渡し、再び議会は静まったが……リカードは慌てた様子の議員の姿を見て笑いを堪えるのが大変という状況であった。

「人造異界の存在限界・崩壊の不可避性について……という論文があるのをご存知でしょうか。これは各地にもありますが、一般に出ているものは全て本物ではありません。本物が保管されていたのは……旧ウェスペルタティア王国でした。20年前にメガロメセンブリアがオスティアを信託統治領とした時に極秘裏に入手されたのです。それによれば魔法世界は……」

クルトは静まり返った議会の中淡々と魔法世界が魔力の枯渇という問題によって滅びるという真実について話し、それによって旧世界出身の純粋なメガロメセンブリア本国の人間6700万人以外は幻として魔法世界の終わりと共に消滅する事を明かした。
説明が終わった途端、一部の者の間でその話が隠されていた事についての追求にまで発展し、クルトに初めに過剰反応した議員達にもその追求が及び、議会は紛糾したが、変わらず証言台に立ち続けていたクルトは一瞬議論が収まった時を狙って再び発言をした。

「この魔法世界の問題は黄昏の姫御子の力があれば解決できる……と目されていました。ですが、どうでしょう、それら全ては最早何の意味もないという事が今や明らかになったのではありませんか?信じがたいですが、間違いなく旧世界、地球がある宇宙空間に、この魔法世界という異界が、火星へと出てしまった事はある事実を意味しているのではないでしょうか?魔法世界が消滅せずに火星に出たからには……果たして崩壊は起きるのでしょうか?……勿論、これには確認が必要でしょうが」

クルトが黄昏の姫御子の質問から始まり、魔法世界の真実を明かし、更に現状の魔法世界について、あからさまな作り笑顔で締めくくった発言は、明らかに誰もが理解できるある一つの可能性を示していた。
そう、それは勿論、魔法世界は最早崩壊する可能性は限りなく低く、それに従い黄昏の姫御子の重要性も限りなく低くなっているのではないか……という事である。
ここまで至った段階で、何故クルトが黄昏の姫御子をあっさり旧世界へと向かわせたのかを、過剰反応した議員達はようやく理解したのだった。
議会はクルトによる突然の情報公開によって、一層ざわめき、混乱を極めたが、議長の仕切り直しによってこの日何度目かという静寂を再び取り戻した。
クルトの発言によって目下、一番重要な事は墓守り人の宮殿の事ではなく、黄昏の姫御子でもなく、大異変の起きた魔法世界そのものの現状把握と地球との関係という問題に議題が移ろうか……というその時であった。

「いやはや、それにしてもネギ・スプリングフィールドが死亡したというのは残念でしたな」

「ああ、誠に残念な事よ。英雄の息子が死ぬ等とは」

「全くですなぁ」

一部議員達が今まで触れられていなかったネギ・スプリングフィールドの死亡について残念だといいながらも、どことなくスッキリし、安堵した様子で感想を漏らしたのである。
この一部議員達は6年前に地球の英国、ウェールズの村へと悪魔を召喚し送り出し、同時にネギ達をフェイト・アーウェルンクスが偽造した映像から積極的にゲートポート同時多発破壊テロ事件の犯人へと仕立て上げた者達であり、彼らにとって英雄の息子が、英雄の息子として世間に公的に現れ、自分達のした事が表沙汰になる事が、直接始末せずしてありえなくなったのであるから、それは安堵の一つもするというものであった。
クルトはそれに対して表面上はどうとも思わないという風を装っていたが、内心はその全く逆であり、密かに拳をきつく握りしめてその場は堪えたのであった。
例え弾劾を行ったとしても、現状では元老院でネギの問題を取り上げて議会をかき乱す行為はタイミングが悪く、また、クルト自身これまでのオスティア総督であるからこその度々の権限行使によって強く主張をすることもできないというのが実情であった。
因みにクルトがネギ達の国際指名手配を恩赦で削除した行為に関して追求がなされない理由は、ネギ達の指名手配そのものでは名前が公表されず、映像と顔写真だけであった為、自分からあれがネギ・スプリングフィールドだという前提で話す事は、どうしてそんな事を知っているのか、という自らが追求される隙を作ってしまう為、元老院全体に暗黙の了解がなされていたからである。
また、国際指名手配したことによる世論の反応にも事情があった。
年端もいかない子供ばかりの面々に全てのゲートポートを破壊されたと大真面目に報道するのは勝手であったが、ゲートポートの警備はそんなに薄いのか、というメガロメセンブリアそのものの信用に傷を付けるという結果を引き起こしていた為、2ヶ月程して報道そのものも殆ど行われなくなった頃にクルトが指名手配を削除したのは寧ろ元老院にとっても都合が良かったからであった。
……その後、そんなクルトの心情とは関係なく議会は時間の経過と共に進んで行った。
地球側との付き合い方について、魔法使い達は全員火星側に引き上げ完全に孤立主義を取るべきだ、とする派閥と、最早魔法世界の存在を隠せなくなった今、魔法の存在の秘匿を貫く事は現実的に不可能であり、地球側と公的に交流を持つべきだとする派閥に意見がニ分し、再び議会は紛糾したのである。
孤立主義派の意見が根強いのは、魔法の存在が地球で公になれば、魔法都市国家メガロメセンブリアの存在、ひいてはメガロメセンブリア元老院の存在が明らかになり、今までの秘匿の為の認識阻害魔法を筆頭としたやり方が地球でどうあっても好意的に取られる筈もなく、組織そのもの、元老院議員達自身の地位に揺らぎが生じる可能性を恐れての理由が大きい。
今までは秘匿に関連する内密な処理等も自己正当化できていたが、地球での魔法公開となれば、それが破綻するのである。
所謂そういった問題のある情報公開は可能なかぎり早期かつ禍根無く図られるべきであり、逆に後々隠していた場合、立場は間違いなく悪くなるであろうが、それを実際に行いたくない、情報を明かしたくない、そもそも議論するまでもなく魔法の公表は許せないという心理が一部の者達に働いているのである。
クルトは積極的な地球側との関与の意思については表に出さないようにしながら、実状から言って魔法世界の存在を公表するのはやむを得ないという立場での主張を行った。
近衛近衛門からメガロメセンブリア本国の立場を明らかにして欲しいという要求を受けていたクルトであったが、不審に思われるような迂闊な発言をすることはできず、リカードもそれとなく後押しする形で援護したが、議会の流れを魔法公表容認の方向へ誘導する、というのが限界であった。
他にも、そもそも魔法世界がどうして火星に出たのかという原因について探る調査の必要性、日照不足の可能性と火星の公転周期による環境変化の問題についても議論は発展し、やはりネギ・スプリングフィールドの問題を扱っているどころの話ではなかったのであった。
……ひとまず、日単位で行き来できるゲートポートから旧世界へ間もなく向かわせる調査団が情報を持って戻ってくる事を待って状況を見るという結論に留まり、ゲートの要石についても早急に移転計画を立案する必要がある事については、オスティア総督であるクルトが主導する事となった。
更に、唯一稼動しているゲートの接収というのは、当然メガロメセンブリアだけの問題ではありえず、三ヶ国会議の開催をする必要性についても言及され、これもオスティア記念式典から日が浅い事を考慮して、開催地もオスティアが第一候補として挙げられたのだった。
その交渉役にはまたしても主席外交官であるリカードが選出されたが、これは元老院としてはリカードに暗に問題を起こさないように上手く纏めて来い、という思惑があったのはほぼ間違いないであろう。
この日の元老院議会が終了した後、クルトとリカードは余計な接触は行わなかったものの、プライベート通信でのやりとりは行い、現状で孤立主義が根強いが、必ず魔法世界は地球と関係を持つ必要が今後出てくる為、それを見据えての下準備へと取り掛かったのだった。

『しっかしクルトよぉ、お前とこうも協力することになるなんて思わなかったぜ。ついこの間まで殆ど通信もした事無かったってのにな』

『……私もです。三ヶ国会議、よろしくお願いします』

『おうよ、任せとけ。セラス達がまた来るんだから知らない奴と話すよか余程マシだぜ。……しっかし、あの糞ジジィ連中ネギの事喜んでやがって……マジで虫唾が走るぜ』

『ええ……いつか必ず公の場に引きずり出して見せますよ』

『あいつらには俺も前からイラついてたからな。そん時は協力するぜ』

『盗聴の可能性は万が一にも無いとは思いますが、これぐらいにしておきましょう』

『そうだな、また明日、七面倒な元老院でな』

『いくら面倒であっても重要な事には変わりありません。我々に立ち止まっている時間はありません。最善を尽くすのみです』

『その辺はお前変わんねぇな……。あんま根詰めてっとそのうち皺だらけになるぜ』

『余計なお世話です……。ではまた明日』

具体的に潰す、といった発言は通信では行われなかったがクルトとリカードの双方、想う所は同じであった。
通信を終えたクルトはその後、打てる対策は全て行うと言わんばかりにひたすら仕事をし続ける生活へと突入する事となった……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

無事……ネギ少年が私達によって復活を果たした所で、ここでこれまでの間の事を振り返る事にしよう。
……大発光から程なくして、日本政府は勿論、各国から公的な調査団、また各国の魔法協会も予定通り麻帆良入りをした。
そして神木の調査が詳細に行われたか……と言えば、例によって神木を傷つける事なかれという認識阻害をしているために幹に刃物が入ったりすることはなかった。
これは正直認識阻害が効かない体質の人間がいなかった事を喜ぶ他なかった。
それでも落ち葉の採取ぐらいは行われ、生物学者達の中でも植物学を専門とする人々が神木の写真をあらゆる角度から飽きる事なく終始撮り続け、結果定点カメラまで設置されとうとう神木が観測される側となった。
つまり、木からインターフェースでの直接出入りは当分不可能となった……のは当然であるがこれは仕方ない事なので今はどうでもいい。
……他には麻帆良の土地柄、地質そのもの、気候の調査等まで幅広く科学的に行われ、この調査には麻帆良大の理系学部の教授陣も上がりに上がったテンションで参加していた為、夏期休業期間であるのをいい事に各大教室、講堂等が積極的に解放され、連日それぞれの見解について議論が繰り広げられ9月の終わりまではやりたい放題できると言わんばかりであった。
樹齢を知りたいからといって伐採されたりしない限り、もう何でも好きにしてくれれば良いと思う。
因みにこれは政府機関関係者達の動きである。
……実際はこれに加え、麻帆良外の日本人達は勿論の事、海外からも「Oh!! This is SINBOKU!! Great!!」等と叫びに現れた、全く以てただの暇を持て余した一般外国人の方々が麻帆良祭でもないのに入ってくるという現象が起き、経済的に麻帆良はいつもよりも更に潤い、超包子もここぞとばかりに儲けたのだが……これはまた余談である。
そして世界各国のニュースは必ずといっても良い程にこの麻帆良の調査について連日報道されるようになり、しばらくの間そんな日々が続いた。
一方、各国魔法協会関係者は科学的調査が延々と行われているのをよそに、麻帆良教会、日本魔法協会支部に集結した。
近衛門達は恐らく神木の発光の影響で魔法世界が火星に出現したと見て間違いない……いや、近衛門は知っているから白々しい事この上ないのだが……として、また麻帆良の地下に隠されていたオスティアの空中王宮に繋がるゲートポートが稼働している事から、火星に移動する事は可能であり、この2週間程、メガロメセンブリア本国と連絡を取れなかった問題は解決するだろうという旨を報告した。
そのゲートポートから地球へ帰還してきた当のタカミチ君は、魔法世界での出来事についての報告を行い、完全なる世界が20年前の大戦の再現をしようとしていた事を明らかにし、魔法使い達は皆非常に驚いた。
因みにゲートポートを使用して戻ってきた件については魔法世界三国の許可をうけたという事について軽く触れた為特に問題とはならなかった。
それ以上に現状、今後の問題が山積みでありそんな細かい事を気にしているどころではなく、知っている人達にとっては最早何の意味もないが、魔法による神木の調査、麻帆良地下に広がる空間についての調査、麻帆良含め世界各地の魔分溜りの調査を行う必要があり、更に、各国政府高官の一部の魔法を知っている人々から魔法世界と目される地表が火星に見られるようになった事に関しての対応方針、現状の詳細情報の催促を求める圧力がかかっている為、早急にメガロメセンブリア本国と連絡を取り、その見解を明らかにする必要もあった。
そして……それぞれの勢力が動き出し、そのおよそ2日後、火星からメガロメセンブリア本国の正式な調査団が地下ゲートを通じて現れてからというもの本格的に事態は動き出した。
到着した本国調査団との情報共有が行われ、その調査団の一部は得た情報を携えゲートが再び自動で開いた際に、本国へと情報を伝える為に火星へと戻った。
ようやくメガロメセンブリア本国は魔法世界が火星に出てきた理由が麻帆良の神木の影響であるという事、地球側でも火星が見えている事での混乱状況を確認し、連日今後の対応指針についての具体的な議論が始まったのである。
私達としては神木・扶桑で無理矢理メガロメセンブリア元老院議会をピンポイントで隔地観測する事も不可能ではないと言えば不可能ではなかったのだが、ネギ少年の関係で無駄な出力は回していられなかった為、メガロメセンブリア元老院の機密データへと超鈴音のプログラムで難なく侵入し基本的にはそこから情報を得た。
期待していた通りクルト総督は情報の取捨選択は完璧であったようで、私達の事とグレート・グランド・マスターキーについては一切漏れておらず、完璧であった。
ただ、一つ仕方ないことではあったのだが、ネギ少年の死亡が元老院に知られたというのは少し……というか割と面倒な事になるのはまたすぐ後にしておこう。
元老院は孤立主義の勢力が根強く、地球の魔法使いは全て火星に呼び戻せば良いという意見まで出ている程であったようだが、神木の重要性を鑑みるにそれは流石にあり得なかった。
クルト総督を始めとする若手元老院議員達は、最早現状の維持は不可能な段階に来ている以上、メガロメセンブリアもそれに対応せざるをえないと強く主張し、隠し続けて双方に不幸な誤解が生じるよりも前に、地球へ魔法世界の存在の公表をメガロメセンブリア側からするべきだという方針に持っていったようだ。
この後数日間で唯一残る空中王宮のゲートの要石の摘出、移転作業も迅速に行われ、結果、首都メガロメセンブリアのゲートの要石として換装された。
これには連合、帝国、アリアドネー三ヶ国による会談が行われた上で、現状連合のみが地球に魔法使いのコミュニティを形成している以上、要石は連合が使うのが今後を考えれば有益だとして意見が纏まったという背景がある。
実際、ヘラス帝国の首都と麻帆良のゲートを繋がれても火星から現れるのは角のある人々ばかり……というのは、まだ時期尚早だと思う。
魔法世界の存在の公表に向けて地球側も少し遅れて動きを見せ始め、地球各国政府首脳陣とメガロメセンブリア本国使節との会談を執り行うための根回しが開始された。
これには各国魔法協会がそれぞれの政府へ、タカミチ君が所属する悠久の風や四音階の組み鈴を始めとする国際NGO団体は国連へと働きかけを急ピッチで進めた。
つまり、偶然にも都合の良い事に、メガロメセンブリアの声明を伝える場として、今年2003年の9月23日が開催日である国際連合総会通常会期の場を利用しようという意図なのである。
これならば魔法使い側で綿密なスケジュール調整をせずとも、全世界へと魔法世界の存在を同時に公表可能な場を確保できるという訳である。
そういう意味でも、クルト総督達が孤立主義で凝り固まった議員達の全く理に適わない主張を制して魔法世界の存在の公表へと方針を決めたのは非常に大きかった。
……と、以上が地球と火星との間で繰り広げられていた大体の出来事である。
そんな2つの惑星の各国際事情を見つつも私達はネギ少年の収集に当たっていた訳だ。
麻帆良の小・中・高校はゴタゴタした麻帆良の中でも新学期を迎えない訳もなく、一部魔法先生達が出張するという現象が起きて自習になったりすることはあれど、学生達は相変わらずの朝の登校風景を繰り広げた。
超鈴音は1度雪広グループに出向き、予てより計画していた今後必要な物資リストとそれが開発可能な施設、研究機関についての紹介を求めるという事があったが、要するにまずは火星のテラフォーミング最終段階という訳だ。
流石に人工衛星となると開発基盤となる施設が無ければ不可能である為当然の事であった。
コストは完全度外視であり流石の雪広グループ……社長さんもこれには驚いていた。
何と言っても人工衛星一基の開発から製造までの費用は100億程であり、それをロケットで打ち上げるとその倍はかかる事になる訳であるから、今までの超包子の企画とは資金的規模は比べ物にならないレベルの話なのだ。
打ち上げ自体は優曇華で直接宇宙空間に放出すればいい話なのでその辺の費用は考えなくても構わないのだが……そもそも優曇華で打ち上げるのかどうかという問題もあるが、いずれにせよこれはまだ、先の話である。
……そして、9月22日月曜日、無事復活を果たしたネギ少年は、神楽坂明日菜を始めとする大事な人達と再会する事ができ……今に至る。
さて、死亡したとされていたネギ少年が突然戻ってきた事は皆を喜ばせたのは相違ないが……そう、既にネギ少年は死亡した存在となっているのである。
麻帆良での扱いでは退職という事になっているが、魔法使いの修行という点では、サヨの時と異なり、公にはされてはいないとはいえ魔法世界のそれもメガロメセンブリア元老院で死亡認定を受けた以上、一応その下部機関である麻帆良学園の元、公に再び3-Aの教師ができるか……というと大問題なのだ。
ネギ少年自身は教師に戻りたいという意思は強いのだが……非常に難しい。
因みにナギ達の存在は未だ隠されているので麻帆良からウェールズに帰郷する時は強力な認識阻害をかけ、再び麻帆良に来た時も同様であったが、既に例の国連総会の為に魔法使いの多くがニューヨークに飛んでいるためそれ程の必要性は無いという状況であった。
ナギも死亡として周知され、アリカ様も死亡扱い、と来てネギ少年は元老院で死亡認定という訳で……なんともまあ既に存在しない筈の家族みたいな様相を呈しているのは、スプリングフィールド一家ぐらいであろう。
しかし、教師云々の問題よりも前に、ネギ少年は行くべき場所、戻るべき場所があった。
……皆と再会を果たしたネギ少年は、3-Aの元気を失っていたが、サヨが「鈴音さんがネギ先生を見つけたらしいです!場所は世界樹広場だそうです!」等とこれで引っかかるのは寧ろ頭が弱いだけだろうという書き込みをSNSで行った事でまさか単純にも再び元気を取り戻した女子中学達によってもみくちゃにされある意味病み上がりにしては酷い扱いを受けた。
その被害はナギとアリカ様にも向かい、ナギには格好良いと言い、アリカ様には凄く綺麗だとかお姫様みたいだ……とか実はそれ本当だからという率直な感想を最初は漏らしていただけだったが……とうとう年齢はいくつか……と聞いてしまったのだ。
気持ちは分かるが事情が事情なのでそればっかりは軽い気持ちで聞くのは良くないのだが……ナギ本人は特に考えもせずに普通に答えてしまったので……まあ、騒ぎになった訳だ。
あまりにも若すぎると。
しかし、その途端孫娘達がキャーキャー言っている女子中学生達の口を後ろから塞ぎ、無言のオーラを放ち黙らせるという手段に出た。
彼女達にしてみればまさに空気読めとしかいいようがないので事情を知らない女子中学生達はサッパリ分からないという風であったが、黙る他無かった。
それでも性懲りも無く早乙女ハルナと朝倉和美はナギとアリカ様に絡もうとした為……長瀬楓がどこから出したのか、手早く猿轡をされてお縄になっていた。
南無。
ともあれ、落ち着いた所で孫娘達はとにかく紛れもないネギ少年が戻ってきた事を非常に喜んだが、何故ここにいるのか、という事について超鈴音にやはり聞いた訳だ。

「ネギ坊主が戻てきただけでは不十分かナ?それでも知りたいと言われると……私も今回ばかりはとてもとても困る。これは話せないヨ」

……と、ナギに言ったのと大体似たような事をいつになく真剣な表情で言い、要するにネギ少年が戻ってきた事を素直に喜べば良く、これ以上事情は気にするなと回答したのである。
孫娘達はその超鈴音の様子にエヴァンジェリンお嬢さんに超鈴音に構うなと言われていたことと合わせて、本当にこれは触れてはいけないのだと理解してくれたらしい。
3-Aの少女達はネギ少年にいつ担任に戻ってくるのかとしきりに聞いていたが「ちょっと分からないです、すいません」としかネギ少年は言えなかった。
元々午後であった為、すぐに日が暮れ始めこの日ナギ達は再びのエヴァンジェリンお嬢さんの誘いによって麻帆良のホテルではなく、お嬢さんの自宅に招かれ、当然ネギ少年も一緒であった。
客間にてネギ少年達はようやく一家団欒を実現する事ができ、当のネギ少年がそれを現実だと認識できたのか、その途端嬉しさの余り涙を流し始め……それにつられて神楽坂明日菜、アリカ様、ネカネさんと波及して行った。
気が済むまで泣くと良いと言いながらアリカ様は今まで無茶ばかりしていた実の息子を抱きしめ……収まるまでのしばらくの間、ずっとそのままの状態が続いた。

「……もう……大丈夫です。母さん、ありがとうございます」

「も……もう良いのか?ネギよ」

「はい……それに、もうすぐ誰かここに来る気がするので」

「だ、誰か来る?」

「なんでそんな事分かんだ?ネギ」

「えっと……なんとなく……そんな気がしたんです」

「ネギ、何よそれ」

……と、ネギ少年は意味深な事を言い出した訳だが、当たっている。
そう、ザジ・レイニーデイがエヴァンジェリンお嬢さんの自宅すぐ近くへと歩いて来ている所であったのだ。
恐らくこれは……革新した影響であろう。
ネギ少年の言った通り、インターホンがすぐに鳴り、ナギは「ホントに来たな!」と単純に驚き、茶々丸姉さんがその応対に出た。

「………………」

「ザジ……さん。どうされたのですか?」

「………………」

相変わらずの無言を茶々丸姉さんにも貫くそのこだわりはやっぱり良くわからない。
そこへお嬢さんも顔を出した。

「……ザジか。話でもあるのか?」

「…………」

コクリとザジは頷いて返した。

「……そうか。上がると良い」

「マスター。では、ザジさんどうぞ」

「…………」

無言を貫いたままザジは家に入り客間に案内された。

「ぼーや、どうも用があるらしい」

「…………」

「サジさん……こんばんは」

ザジは無言で微笑み、ネギ少年はザジの姿を見ても特に驚く事も無く席から立ち上がりザジの前に進みでて挨拶を返した。

「……こんばんは、ネギ先生」

ナギ達は現れた人物がそういえばさっき端のほうで見た……かもしれないという感じであったが、ザジとネギ少年の間に独特の空気が広がった事で特に言葉が出てこなかった。

「ネギ先生、ウェールズへ行きましょう。プレゼントがあります」

ようやくザジは用件を話し始めた。

「プレゼント……ですか?」

「はい。石化魔法の解呪……です」

「そ、それは!」

流石に話の内容までは直観で理解はできないらしい。

「えっ!」  「それって!」  「まさか!」

これにはネギだけではなくアーニャ、神楽坂明日菜、ネカネさんも驚き思わず声を上げた。

「あの石化魔法解けるのか!?」

「…………」

ザジは頷いて返し、肯定した。

「ザジさん……」

「ネギ先生、話はこれだけです。……ウェールズへ行く日が決まったら教えてください」

「は……はい、ありがとうございます。ザジさん。でも……どうして」

「プレゼントです」

「……そう……ですか。……ザジさん、この前は、ありがとうございました」

「……どういたしまして、ネギ先生。失礼します」

あの時……というのは恐らく例のアーティファクトか何かの事なのだろう。
ザジは退出の意思を示し一礼した後玄関へと足を向けた。

「ま、待って!」

「………………」

それを呼び止めたのはアーニャだった。

「わ……私のお母さんとお父さんは……元に……戻るの?」

「…………」

小刻みに震えながらもアーニャはザジを見据え問いかけ、それに対しザジは微笑みながら頷き肯定を示した。

「そ……それじゃっ」

アーニャはザジの頷きを見て、両親が元に戻るという事を想い、目に涙を浮かべた。
ザジはそのアーニャの様子を優しげな表情で一瞥し、再び足を玄関へと向けて歩き出した。
それに釣られ、ネギ少年達も玄関まで付いて行き、軽く会釈を返したザジはそのまま女子寮へと戻っていった。
……ネギ少年、アーニャ、ネカネさんにしてみればウェールズの村人達の石化が治るというのは、最後の心残りも解決するという事であり、感慨深いものがあったと思う。
それでも話自体は村人達が助かるという明るいものであるため、一同はすぐに元気を取り戻し、ネギ少年がザジに墓守り人の宮殿突入後に完全なる世界のレプリカに閉じ込められた時に助けられたという話をしだし、そこから芋づる式に違う話へと移っていき、客間では和やかな会話が夜寝る前まで続いた。
そんな、そろそろ寝る準備をしようかという時、徐にナギがネギ少年に問いかけた。

「ネギ、何か欲しい物とか無いか?ほら、誕生日プレゼントなんてもう10年分も溜まってるんだぜ?」

……なるほど、恐らくザジのプレゼント発言に感化されたのだろう。

「……欲しい物ですか。僕は今、父さん、母さん達と一緒にいられるだけで、凄く幸せで……それで、充分です」

「そ、そうか?そう言われる俺も嬉しいし幸せなんだ……だぁーっ!!そうじゃなくってだな!俺がネギに渡したいんだよ!アリカもそうだろ!?」

「う……うむ。そうじゃ、ネギ、何か欲しい物は無いか?遠慮しなくて良いぞ?」

何やらソワソワとネギの両隣から声をかけるナギとアリカ様は初々しいとしか言いようがない。

「え、えっとっ」

ネギ少年も2人が自分に対して何かを渡したいのだという事を理解し、何か欲しい物を慌てて考え始め、あたふたし始めた。
そんな様子を見てエヴァンジェリンお嬢さんは苦笑せざるをえなかった。
少ししてネギ少年がハッとした顔をしたと思えば、何かを思いついたらしい。

「ね、ネギよ、何か思いついたか?」

「言ってみろ?」

「あの……僕総督に父さんと母さんの映画を見せて貰ったんですけど……その、京都へ……僕も、家族旅行に、行きたいです」

「…………」

「…………」

そう言い出したネギ少年にナギとアリカ様の2人は声が出ず、それどころかまた小刻みに震え、目は潤みだした。

「あ……も、物じゃないと……駄目ですか?」

その2人の様子にネギ少年はまた慌て始める。

「そうではないっ……そうではないのじゃ、ネギ」

「駄目じゃない。駄目じゃないぜ……。ネギ……ホントに……ホントに家族旅行がいいんだな?」

「は……はい」

「ああ……分かったぜ。京都と言わずどこへでも連れていってやるよ!もちろんアスナも一緒だぜ?な、アスナ!」

「う、うん!私も行くわ、ネギ!」

「そうじゃ、ネギ、どこでも、何日でも構わぬから安心するのじゃぞ」

「……はいっ!ありがとうございます!父さんっ!母さんっ!アスナさんっ!」

ネギ少年は満ち足りた表情で3人に答え、ナギ、アリカ様、神楽坂明日菜もそれに対し満面の笑みを見せた。
……何とも……こうしてみると、ネギ少年を助けられて本当に良かったと、そう、思わずにはいられない。
サヨがネギ少年にこれから毎日が待っていると言ったが、まさにその通り、スプリングフィールド一家の生活は、時間はかかったが、全てはこれから……なのであろう。



[27113] 67話 第58回国連総会・生中継
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:49
昨日ネギ坊主が皆と再会できてから一日。
ネギ坊主達はザジサンとイギリス行きの飛行機に乗るのは決めたようだけど、出発は明後日の予定らしいネ。
それにしてもネギ坊主がメガロメセンブリアで死亡扱いになているというのは、ネギ坊主の魔法使いの修行を意味する、日本で教師をする事、というのを続けるのは難しいだろうナ。
逆に生きているという報告をしても厄介な事になただろうから……避けては通れない問題ネ。
一応、ネギ坊主の事についての内容は3-A以外のコミュニティには漏れないように細工してあるから情報漏洩は問題ないヨ。
……今日、私はさよと久々に学校に登校しているが、ネギ坊主が戻て来た事で、今まで3-Aにしては暗い雰囲気だたらしいのだが、もういつも通りのように見えるネ。

「美空、端末はどうだたかナ?まだ感想を聞いていなかたから教えて欲しいネ」

隣の美空にはそういう約束だたからネ。

「もうスゲー役立ったよ?役立ったからあんなんあればそりゃ通信には事欠かないわで便利だよ間違いなく。でも、超りん……超りんマジ謎多すぎるから。で……全部知ってたんスか?」

「ハハハ、便利すぎたみたいだネ。うむ、一般への普及は逆に先送りにするかナ。参考になたヨ、美空。質問だが……予想はしていた事もあたが、私にも正確なことは何一つ分からなかたというのが答えになるヨ」

「あー、まあ、そう言うか、うん。……昨日超りんが言ったとおり素直に喜んどくことにするよ」

「それが良いネ」

「あと一つ、知ってそうだから聞くけど、今晩国連総会の生中継があるから見とけって言われたんだけど超りんはどう思う?」

「私は別に困ることは無いネ。明日からの日々を私は寧ろ歓迎するヨ」

「そうかそうかー。そう言われると私がとやかく言う事でも無いし、超りんと同じで別に困らないからいいかって感じスね」

「しばらくは美空の嫌な面倒事があるかもしれないがそのうち慣れる筈ネ」

「あははははー。正直今なら大抵のことはそんなに面倒でも無いと思えそうな自分が怖いよ」

「それを慣れと言うんだヨ」

「あー……なるほど。手遅れだったわ……」

「手間が省けて良かたナ、美空」

「そりゃどうもー」

……美空と他愛の無い会話をしたが、美空の言た通り、火星の方は、間もなく今晩、ニューヨークで開催される国連総会で魔法世界の存在を公表される事になているから、リアルタイムで中継を見る予定ネ。
ハカセとさよと女子寮で3人揃てテレビを見るのは久しぶりかナ。
学校が終わて私はこれから何をするかと言えば、今後の為にやること、やりたい事はいくつもあるが、まずは魔分有機結晶の生産をまた開始する事が一つ。
プリズムミラー方式の人工衛星の一号機の開発、その為の予定を立てる事、関連企業に対しての部品の発注、SNSでの一括共通内容情報発信、ハッキング対策の強化、火星の植生変化の監視と対応、もしもの食糧問題に対応しての植物工場の計画、砂漠の緑化、環境変化の前に火星の貴重植物の採取、地球と火星両者での特許取得、超包子の火星への進出、食事文化の融合、魔法と科学の融合、その学問の体系化、優曇華の改造研究……休んでいる時間は無いナ。
国連総会の生中継は丁度午前0時ぐらいから始まるからそれまで結局今日は魔法球の中で計画を立てつつ、魔分有機結晶の生産をまた始めて過ごしたヨ。
ハカセも昨日に引き続き連日籠ていた工学部から早めに寮に戻てきたからさよと一緒に夕飯を食べて、3人で夜中になるまで待つ事にしたネ。

「珍しいですね。国連総会って普通は生中継なんてしませんし。それにどこの局も朝ニュースで見るように勧めるなんて火星の地表変化と関係することでもあるんでしょうか?今直前で丁度その話がされてますけど」

放送局側も生中継を流す事は決定しているが、何故生中継を流す事になたのかについて議論するという不思議な現象が今直前討論でされていた所ネ。

「その可能性は高いですよね」

ハカセには魔法世界の存在を話した事はあるが、それだけだから火星が魔法世界だとは結びつかないカ。

「何か重大発表でもあるのかもしれないネ」

「……超さんと相坂さん達は今回の件に関係していたりするんですか?」

ふむ、怪しさ満点だからそう思うのは当然カ。

「どうだろうネ。ハカセ、悪いがそれは答えにくいヨ」

「はー、分かりました。はっきりとは言えないんですね。1年の時に超さんの計画を聞いてからその後しばらくして計画が変更になった事関連だと、私はそう思うことにします」

「そう思うのは自由ネ。助かるヨ。一つ言えば、私の計画は本質的には変更されなかた、そういう事だヨ」

「……という事は、あー!!なるほど!そういう事なんですか!それはもう世紀の重大事件じゃないですか!」

火星が魔法世界だと確信したようだネ。

「この生中継で答え合わせですね」

「さて、いよいよ、始まるようだヨ」

「どこも見るように勧める訳ですね」

[さて、今回何か発表があるのでしょうか。それでは、第58回国連総会、生中継でお送りします]

画面が国際連合総会会議場に移て、同時通訳で生中継が開始されたネ。
……今回は国連総会の事務総長の演説の後に、各国の一般討論演説に入る前に重要な発表があるという説明がされたヨ。

「コフィー・アナン事務総長の演説ですね」

準備ができたのか緑色の床の壇上に事務総長が上がて来たネ。

[過去12カ月は、共通の問題や課題に集団で立ち向かうことを信ずる私達にとって、非常に辛い日々でした。多くの国において、またもテロリズムが罪の無い人々に……]

「……普通ですね」

……今回の国連総会は元々核兵器の廃絶についてが主な論点だから当然の流れではあるナ。

「これからですよ、葉加瀬さん」

「そうですね。……でも重要な話の筈なのに日本の出席者は小泉首相ではなく川口外務大臣なんですね」

「日本自体今も混乱しているから首相が国を離れる余裕はないと思うヨ。他国も首相の出席率はそこまで高くないからネ」

火星の件が発表されたら本国ですぐに何らかの検討が開始されるレベルの話だからそのほうが動きやすいからなのだろうけどネ。
……しばらく事務総長の演説が続いたヨ。

[……世界は変化したかもしれません。しかし、こうした目的は今尚意義も緊急性も失っていません。私達は常に、これらの目的を視野の中にしっかりと据えておかなければならないのです]

「今回の国連総会の内容としては一区切りついたみたいですが……」

[……今回の国連総会についての演説は以上です。……先月、非常に重大な世界的事件が起こりました。火星が地球と同じく青い星になったという事です。ここで、私は国連に新たな国家を迎える事を提案します。国連はこれまでその国家から陰ながらの支援によって最も危険な地域での活動も可能としてきたのです。……実は異世界というものは、存在しました]

「おおおおお!!異世界なんて非常識な発言が事務総長から出るなんて何かテンション上がってきますね!」

「何か無意味に楽しくなってきますよね!」

「その気持ち、分かるヨ!」

新時代が来た!という感じネ!



『あぁぁりえねぇぇぇぇぇえ!!!!!』



……窓から何か聞こえるナ。

「……今何か聞こえませんでしたか?」

「千雨サンの声だたネ」

ご愁傷様だネ。

「長谷川さん最近ストレス溜まってるみたいでしたからね、発散できたでしょうか?」

「……そうだと良いネ」

国際連合総会会議場はざわついているし、携帯を見れば、SNSの更新がこの時間帯では未だかつて無い程に行われているナ。
画面が切り替わたままで放送局ではどうしているか気になるがきっと混乱していると思うヨ。
事務総長が壇上から降りるのと交代で何人か……高畑先生もいるが、出てきたナ。
箒を持ている人もいるネ。

「あ、高畑先生出てきましたね」

「所謂魔法先生で悠久の風というNGOに所属しているとは知っていましたけど……テレビに映っていると不思議な感じがしますね」

「……コミュニティはもう炎上しているようだヨ」

デスメガネが何故出ているのか、と麻帆良全体のコミュニティではそんな感じになているナ。

「……あ、本当ですね」

「明日も学校あるのを忘れて今日は皆徹夜になりそうですね」

「ハカセ、私達にとってはいつもの事ネ」

「あー、そうでした。つい忘れてました」

「習慣化してますからねー」

高畑先生が話す訳ではなく、代表の魔法使い……あれはまほネットのデータベースで見た記憶だと確かアメリカの魔法協会のトップの人だたかナ。

[議長、事務総長、御列席の皆様、まず、ハントゥ・セントルシア共和国外務大臣閣下が、第58回総会議長に就任されたことを心より御祝い申し上げます。また、カバン・チェコ共和国元副首相兼外務大臣閣下の第57回総会議長としての御努力に敬意を表します。イラクの復興及び安定の確保に粘り強く取り組んでこられた、デ・メロ特別代表をはじめとする国連職員の方々が卑劣な爆弾テロの犠牲となられたことに、メガロメセンブリア政府を代表し、心より哀悼の意を表します]

「メガロメセンブリア政府と来ましたかー」

「普通の一般討論演説のような導入だネ」

「でもメガロメセンブリア政府って言い方は凄く新鮮ですよね」

[地球全市民の皆様、私達はメガロメセンブリアという国家に所属しております。メガロメセンブリアが正式な国土を有する場所はこの地球の隣の惑星、火星であります。……こちらの映像をご覧下さい]

控えていた高畑先生達がホログラム映像を空間に映しだして……火星、魔法世界の地図だネ。
中継映像もそれに合わせてズームされたヨ。

「これが魔法世界の地図ですかー」

[火星……私達は魔法世界と呼称していますが、この魔法世界にはこのメガロメセンブリア本国を盟主とする国家群の集合であるメセンブリーナ連合、他にアリアドネー、ヘラス帝国という2つの国家が存在します。全地球市民の皆様、魔法世界、と呼称しましたが、この魔法世界では『魔法』というものが冗談ではなく、日常的に使用されているのです。次の映像をご覧下さい]

料理、掃除、治療、箒、飛空艇等々の映像が順次切り替わて紹介されていくヨ。

「おおー!何だかさも普通ですと言うように魔法の存在が地球に公表されましたね」

「あっさりしているが私の目的はこれで達成されたネ」

「他に公開する方法って言っても穏便に行くならこんな感じにしかならないですよね」

[これらは決して合成ではありません。この場でも魔法の実演をさせて頂きたいと思います。箒による浮遊です]

控えていた魔法使いの人が持ていた箒に跨て……。

―浮遊!!―

飛んだヨ。

[物理法則を無視していますが……これは手品ではありません。魔法、という確かな技術の一つなのです]

「私は知ってますからいいですけど……それでも、テレビを通している以上合成だと疑う人はいるでしょうね」

「その為に全世界に同時に発信してその誤解を無くそうとしているのだけどネ」

[……これが魔法であります。誤解無きように申し上げますが、私達魔法世界人は決して今まで火星に隠れ住んでいた訳ではありません。これまで永きに渡り魔法世界はこの地球の存在する宇宙から位相を異にしたれっきとした異界、として存在していたのです。しかしながら、先月8月27日、地球全12箇所の同時発光現象という天変地異と時を同じくして、魔法世界は火星の地表へと定着したようなのです。これは私達も予期せぬ事であり、現在も調査中の事項であります]

「話している人がスーツを着ている普通の人間なので、何だか実感が全然沸かないですね」

「それは実感を持て欲しい所ネ」

[……メガロメセンブリア本国の人口は約6700万人、ほぼ100%が人間で構成されています。……そして、魔法世界には亜人種と呼称される人類が存在するのです。彼らは先に上げたアリアドネーとヘラス帝国に多く住んでいますが、メセンブリーナ連合でも何ら私達人間と変わらない生活をしています。次の映像をご覧下さい]

半獣人、獣人、ヘラス族の人達と順に映像が映しだされたヨ。

「こ……これは衝撃的です!宇宙人と紹介しても良いぐらいには!」

その場合には……宇宙人は、実はいました、ぐらいかナ。

「今まで宇宙人予想をしていた地球人もこれにはテンション上がるだろうネ」

日本人の勝利で終わりそうだけどネ。
でも、所謂オンラインゲームのキャラクターメイキングではありがちだから意外と普通ではあるかもしれないナ。

[この彼らの映像も、重ねて申し上げますが、合成ではありません。ご覧の通り、魔法世界は地球とは確かに異なってはいますが、人々が変わらぬ日常を過ごすという点で何ら一切の違いはない、という事をご理解頂きたいのです]

やはり国連総会という場で地球に一斉公表するのは良い方法だだナ。
亜人種については公的な統一見解が無いと、余計な誤解が生まれかねないからネ。

[これまで魔法世界は異界、として存在して来ましたが、地球と魔法世界の行き来はゲート、と私達が呼称している地球の全12箇所に存在するポイントから定期的に時空間を超えて移動する事で可能でした。そして現在、魔法世界は火星へと定着しましたが、依然として行き来は可能です。但し、最近魔法世界側で事件が発生した事により、魔法世界側のゲート11箇所のうち10箇所は使用不可能となっている為、残る一箇所のみからしか行き来はできない状況であります。また、魔法世界側各ゲート復旧の目処は早くて2005年5月の予定です。一方、地球側のゲート12箇所のうち11箇所は調整の問題と魔法的問題に関係する事情から使用不可能であり、こちらの再稼働予定日は不明の状況であります]

「ああー、分かってましたけど、星間移動用のロケット開発は意味なかったですね……」

ハカセ達は工学部でロケット開発に手を出し始めていたようだからナ……。

「ハカセ、科学の発展にとて意味がないという事は無い筈ネ」

「えー、まあNASAでも技術の転用は行われていますから分からなくもないですけど……こうロマンがですね」

「気持ちは分かるヨ」

代表の人はこの後もしばらく淡々と説明を続けたヨ。

[……そして私達メガロメセンブリア所属の者は皆殆どが地球由来の人間であり、魔法使い、なのです。メガロメセンブリアに限定にされない事ですが、魔法使いは地球で古代ローマの昔から歴史の表に出ることなくこれまでその存在を秘匿し続けて来ました。その理由は多岐に渡ります。魔法という技術そのもの性質の問題、また中世ヨーロッパで起きた魔女狩りという歴史的事象……これは表向きには実際に魔法使いが存在したという事は伏せられていますが、これには実際に少なくない数の魔法使いが犠牲になったとされています。更に、この現代社会では魔法と言えば非常識と思われる環境下、社会的混乱を起こさない為には地球では秘匿するべきだという暗黙の了解があったのです。メガロメセンブリアに限定されないと述べましたが、地球と魔法世界の行き来が可能になったのはゲート技術が用いられるようになったここ数百年の間にすぎません。古代ローマの昔から存在した魔法使いですが、今でこそ魔法使いの殆どがメガロメセンブリアに籍を持っていますが、純粋な地球に住む人類として存在していた時期も確かにあったのです。しかしながら、この歴史に関しては魔法世界でも完全な解明は進んでいません。また、ゲート技術自体が魔法世界で全世界に公表されたのもここ100年の事に過ぎません。そしてこの100年の間に亜人種の地球への流入がほぼ無かった事には様々な制限があったからに他なりません。……私達が今回この場を借りて、全地球市民の皆様に私達の存在、魔法世界の存在の公表をするに至った経緯には、地球から火星、魔法世界が観測可能、また、魔法世界から地球が観測可能という状況、そして既にこのニューヨークの存するアメリカ合衆国が打ち上げた火星探査機2基が4ヶ月後に火星に到着する避け得ない事実を始めとして、ひいては今後起こり得る混乱を可能なかぎり避ける為であることをご理解頂きたいのです。また、これまで魔法世界は地球と何ら変りない環境でしたが、火星に定着した事で環境変化が起きました。太陽光不足、1年のサイクルの凡そ1.8年への延長等がその最たるものであります。これらについては可及的速やかな対策を取る必要がありますが、場合によっては地球の科学技術力を借りる必要があるかもしれないのです。この点についてもご理解頂きたく思います。……続きまして、事務総長のお言葉にありました通り、私達のこれまでの地球での活動についてこの場を借りて公表させて頂きたいと思います。次の資料と映像をご覧下さい]

「完全に魔法世界のプレゼンテーションですね」

「国連総会の核関連の問題は何処へやらという感じだが、仕方ないネ」

表示された資料は悠久の風、四音階の組み鈴等の国連NGO関連の公的には伏せられていた活動内容が記されていたヨ。
紛争地帯での人命救助、災害復興支援、テロ組織への介入行為等が殆どだが、表立って地球の戦争には第一次世界大戦も、第二次世界大戦も、その後の戦争のいずれにも直接介入はしていないという点について何度も強調されたネ。

[……以上が私達の活動の実態です。これまで世間に広く魔法の存在を知られずに活動をすることが可能であった事には各国に存在する魔法協会による支援と魔法そのものによる情報処理という事情があったのは紛れもない事実であります。……時にこれらの方法が、地球の各国家の法律、また、人権から逸脱、無視した行為を取る方法であったことは否定できません。次の資料を御覧下さい]

これを公開しなければ意味が無かたのだが……勿論全てとはいかないだろうが、きちんと公開したナ。
表示されたのは、各国魔法協会による、この麻帆良のような自治区としか表現できない拠点としての土地の確保という事実に始まり、情報の改竄行為、この現代地球で最も利用頻度の高い認識阻害という魔法の存在、予期せず魔法を知てしまた人に対する最終手段としての忘却魔法の使用等だたネ。
これはこれから波紋を呼ぶことは間違いないし、麻帆良でも学園長に説明要求がされるのも時間の問題だが避けては通れない道だナ。

「超さん、麻帆良にも認識阻害が使用されているのは分かるんですが、麻帆良ってそれだけではない気がするんですけど……どうなんですか?」

「ハカセもそう思うカ。私が思うにこの麻帆良という土地は何らかのまさに非科学的力、魔法の根源的なものが働く場所と言ても過言ではない筈だヨ。麻帆良では事故による重傷者が殆ど出なかたり、凶悪事件の発生率が極端に低かたり、麻帆良で生活すると何らかの秀でた才能に目覚めやすいのもこの土地そのものに何らかの力があると考えないと説明がつかないからネ」

霊脈が集中しているからとは言え、翆坊主もこの点についてはいつも呆れている部分があるからナ……。
そもそも神木・蟠桃がどのように生まれたのかについても、自然発生したとしか言いようがないと言ていたからネ。
しかし、まあ平和だから良いと思いますよ、でいつも翆坊主は済ませているから然程気にはしていないようだけどナ。

「やっぱりそうですかねー。ロボットが暴走するのは日常茶飯事ですけど、大怪我した人なんて出たこと無いですし。科学者としては信じ難い事ですが、運が良いだけでは到底説明できないですよね」

「とにかくここは何か他とは違う、恵まれた場所だと思うヨ」

[以上のように、止むを得ないという理由だけでは決して容認できない行為を私達がしてきたことは紛れもない事実です。この判断については国際社会に任せる他ありません。批判を受けるのも避け得ない事であると認識しています。そしてこれら私達の活動はメガロメセンブリアにおける基本理念であり、魔法世界全体の総意ではないことはご理解下さい。一つ、私達のの風習について述べさせていただきます。……一定の活動を行い、何らかの形で社会に貢献した魔法使いはその活動を評価されマギステル・マギと呼称される称号が授与されるという風習が古くからメガロメセンブリアには存在します。そして実際に魔法使いの卵達の多くはそれを将来の夢として抱く事が多いのです。これには私達の教育による影響が関与していることは否定できません。ですが、そもそもマギステル・マギとは決められた形のあるものではありません。基本理念としては個々人それぞれが目指す自身のこうありたいという理想の姿を目指してそれに向けて邁進するというものなのです。マギステル・マギとして認められる事は確かに私達の間では重要な意味を持ちますが、例えある個人の活動がマギステル・マギとして認められないとしても、それは自身が納得すればその時点で紛れもなくその個人にとってのマギステル・マギの一つの形なのであります。これを子供に教えるにあたり、正義という言葉を使用する事が多いのですが、わかり易さを重視しているだけにすぎません。メガロメセンブリアという国の基本思想というのはこのようなものですが、地球の各国家、社会における思想との間で誤解を生じ易い点であると考え、このような説明を致しました]

実際にネギ坊主ぐらいの年齢だと正義で分かりやすく教えられているらしいからナ……確かに誤解を招きやすい点だネ。
杖一本で色々できてしまうというのは特に子供にとっては正義に使うべきだ、とでも教えないと善悪の判断がつかないうちは何をしでかすかわからないからナ。

「あー、なるほど、偏った理念の場合、下手すると偽善とかそういう批判をうけやすそうですよね」

「そういう事もあるだろうネ。……魔法という力を持た人々にとって、その力を制御するのには確固とした自身の目標を持つ事は大事だと思うヨ」

「結局はなりたい自分になるために頑張るって事ですよね」

「……そういう事だネ」

「そのマギステル・マギの称号というのもノーベル賞みたいな感じなんですかね」

「ノーベル賞との比較はまた難しいと思うが、そのような感じだと考えて良いだろうナ。災害復興支援で活動した魔法使いだと差し当たりノーベル平和賞というのは適用できそうではあるネ」

[議長、今後の日程におきまして、第58回国連総会の本来の議題とは異なりますが、火星、魔法世界についての議論の場を設ける事をメガロメセンブリア代表として提案します。……以上をもちましてメガロメセンブリア代表として、すべての国連加盟国、全地球市民の皆様に向けて、演説を終えたいと思います]

……これで、一段落だネ。
メガロメセンブリアの人達は壇上で一礼して降りて行たヨ。
中継映像での国際連合総会会議場の全体の様子が映されたが、どうにも唖然としている人達がいれば、ざわざわしている人達もいるという状況だナ。
ふむ……これからに期待だネ。

「……何だか本当に未知との遭遇、異文化交流でしたね。これから先が楽しみです」

「ハカセ、これからの楽しみと言えば、人工衛星を作る事にしたヨ」

「ええっ?今度人工衛星作るんですか!?」

興味湧いたみたいだネ。

「さっき太陽光不足と言ていたからネ。それで、種子島に一緒に行くカ?」

「い、行きます!絶対行きましょう!JAXA、それも種子島宇宙センター、一度行ってみたかったんです!」

テンション上がて来たナ、ハカセ。

「でも鈴音さん、その前に東京の調布ですよね?」

さよの言うとおり、JAXAの本拠地は調布航空宇宙センターだからまずはそこだネ。

「まあ、そうなるかナ。でも来月上旬には何らかの目処は立たせたい所ネ」

雪広の社長サンが協力してくれる事になているヨ。

「……でも、いくら超さんが作ると言っても流石に人工衛星規模となっては計画自体通るものなんですか?」

「通してもらうヨ。費用は私が全額出す予定だからネ」

「えー?えっと、超さん、100億ぐらいしますよね?」

「うむ、100億はするだろうナ。でも大丈夫ネ。その資金はあるヨ」

「私考えてませんでしたけど……超さん今どれくらい持ってるんでしたっけ……」

「複数基作る余裕が充分あるぐらいには持ているヨ。その前に、試作基をとにかく一基作てみないことには始まらないからネ」

「鈴音さん、女子中学生、個人で人工衛星に全額投資……また大変になりそうですね」

うむ……さよの言うとおりだろうネ……。
またメールが殺到したり、ハッキングが増えたり、最終的には命を狙われる事になるのだろうナ……。
……ネギ坊主達のように一度死亡した事にした方が余程楽かもしれないが……それはそれで問題があるからあり得ないが、少なくとも国籍はそろそろ日本に変えた方が良いナ。
麻帆良に跳んで来た時は、ここの魔法先生達の対応策として、中国と日本の両方にハッキングを仕掛けて私が中国からの留学生だという情報を捏造したが、翆坊主と会てすぐに計画を変更した事で今は寧ろ中国からの留学生にしている方が今後も麻帆良、日本を本拠において活動するのだから色々と都合が悪いヨ。
しかし既に私自身が作成した個人情報を今更無かた事にすることは難しい以上、正規の方法で乗り越えるしかないが、残念ながら日本国籍取得の要件を私は一切満たしていないというのは問題だナ。
未成年、5年以上住んでいない、住所も……女子寮では駄目だからネ……。
学園長と雪広の社長サンに話をしてみるカ。

「それも承知の上だヨ。予定としてはプリズムミラー方式による太陽光の集光の可能な人工衛星を作る予定ネ」

「やっぱり一般的な人工衛星とは違うんですね」

「普通の人工衛星も一基ぐらいは打ち上げて良いかもしれないけどネ。ハカセ、一部設計図はできているから見るカ?」

「もうできてるんですか!是非見せてください」

「分かたネ。……これで良いヨ」

パソコンの画面にプリズムミラー方式の人工衛星の設計図の一部を表示したネ。

「おおー!確かにこれは工学部で全部作るのは流石に無理ですね」

「色々な企業から特注で部品の作成を依頼する必要があるからネ。工学部でもある程度部品を作る事もできるだろうが、今回は規模の大きさから外部の力を借りるヨ」

私の未来技術を基盤にして作ろうにも、今までのような小物や元々あるものを弄る、プログラムレベルならばまだしも、まず人工衛星では部品数が多すぎて設備の用意から困難ネ。
それにもし未来技術を基盤にして作たとしても、全世界に知られる事が想定される人工衛星が現行の技術水準でメンテナンス不可能では私の後々の手間が増えるだけだからナ。
数基までは種子島で完成させてそれが問題なく実際に稼働するのが確認できれば、クルト総督に説明した通り、また麻帆良に人工衛星の部品の搬入と、その組み立てを専門にする施設を建ててそこにダイオラマ魔法球と作業用にプログラムした田中サン達を配備すれば量産体勢に入れると思うネ。

「いやー燃えてきました!」

「人工衛星は燃え尽きたらおしまいですよ!」

「さよ……言てみたかただけだと思うけど、そういう意味ではないヨ」

「あははー、分かってますよ」

……本当に歴史上これ以上はないと言えるような大事を成したというのに、こうしていると全く緊張感というか、そういうものと無縁なさよや翆坊主といて、私も大分感覚が鈍て来た気がするナ……。
……とにかく、私はこれからもやるべき事、やりたい事を行い続けるのには変わらないネ。



[27113] 68話 想いは心の裡に
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:49
タカミチ君含むメガロメセンブリアの代表者一団からの衝撃の発表から数時間。
日本での日付は9月24日となった。
……今日の未明、当然と言えば当然ではあるが、地球全体は驚愕に包まれたのは言うまでもない。
そんなニュースがあったからと言って、平日の学校、企業が休みになる等という事はなく、学生達、社会人達は眠い目をこすりながらも、皆無駄にハイテンションでそれぞれの場所へと向かっている所だ。
……メガロメセンブリアによる演説は全ての情報を開示したという訳ではなく、概要……というものであったが、それでも新たな青い星には既に人類が住んでいたとなれば地球人類が純粋に驚くのとは関係は無い。
しかもそれがただの星ではなく、魔法が日常的に使われ、純粋な人間以外までもが住む星なのであるから騒ぎは尚更大きくなる訳だ。
……あの後、国連総会は、予定を急遽変更する訳にもいかず、そのまま各国の一般討論演説に突入し、そんな生中継がテレビで流れているのを横目に超鈴音達は、人工衛星の事について話ながら登校時間になるまでずっと起きたまま終始ハイテンションであった。
これが若さか……といった所であろうか。
……因みに今日中にタカミチ君から正式に超鈴音にSNSに対してメガロメセンブリア、魔法世界関連の統一された情報を公表する為の協力が要請される筈なので、そうなればタカミチ君達が用意した特設ページが満を持して公開され、それに合わせてSNSのあらゆる宣伝バナーにそのページを見るように強く、しつこく推奨される事になっている。
そのページでは、メガロメセンブリアの歴史、地理・自然、人口、言語、法・政治体系、安全保障・治安維持、生活・文化、教育・科学・魔法・技術、経済・産業・交通……等、国連総会では話されなかったが重要な事も含め地球人にとっては気になる事だらけの情報を得る事ができるらしい。
更にメガロメセンブリアだけではなく、魔法世界そのものの地理・自然・動植物、またアリアドネーやヘラス帝国についても許可を得ている範囲内での情報開示が行われる予定だそうだ。
勿論、奴隷公認法や賞金首と言った魔法世界独自の制度もきちんと記載されることになっているため……はっきり言って世論は荒れる、荒れるというか、実際の所もう本当に、荒れ狂うしかないだろう。
魔法使いには確かに地球でNGOとして活動している人達がいる。
しかし、彼らの本国が魔法世界、メガロメセンブリア本国であるとすれば、先に問題を解決すべきは魔法世界の事……にも関わらず、奴隷公認法を始めとしてそちらの解決を地球側の認識からすれば改めるべきだと思われる事を蔑ろにし、地球の問題にあろうことか介入していると取れるのである。
これは非難の対象になる可能性が非常に高い。
実際の所、メガロメセンブリアに籍を持っていると言っても、魔法使いにとっては魔法使いの集まる拠点、コミュニティというものが存在するというのは非常に重要なのだ。
実生活の殆どが地球側に根ざしている魔法使い達も存在している……例えばネギ少年の生まれたウェールズの村等はその典型であるし、日本で言えば呪術協会もメガロメセンブリアの傘下ではないから厳密には違うが、そういう場、というものは必要であろう。
孤立した魔法使い、というのは「そもそも自分さえよければ何をやっても良いじゃないか」という発想を魔法、という力を持っているだけに、その可能性は十分にあり、その点で各国に魔法協会が存在するというのは魔法使い達にとって自治を可能とし、一定の規律が取れる事を意味する為、あった方が明らかに良いのである。
それこそ、魔法協会が無ければ、魔法の秘匿を破ればオコジョ刑というのは、一般人に対して魔法を隠し、不用意にその存在を教えないように、という自律的な意味合いだけではなく、魔法を悪用して勝手な事をして、バレなければそれまでだが、もし一般人にバレて、最悪「魔法使いという存在は全て危険だ!」という認識をされる事を避けるという意味も持ち、結果として魔法使い達自身の身を守る事にも繋がるのだ。
そもそも始動キーを用いたギリシア、ラテン系魔法の発祥は地球であるのに、何故地球では魔法がこれまで秘匿され、魔法世界ではオープンであったのだろうか。
魔法世界はその隆盛からして魔法が常に自然の中心……浮遊岩や多種多様な原始的魔法を操る魔法生物の存在はその最たるものであるが……にあり、魔法世界人の宗教的、民族的思想には全て魔法の存在が当然の如く常に大前提として置かれている。
対して地球で魔法の行使が可能となったのは恥ずかしながら……というと何を言っているのかと思われなくもないが、神木・蟠桃……要するに私が、5003年前にこの地球に何の脈絡もなく自然発生した事に起因する訳で、当然地球の生物には根本的に魔分等というものは必要ないし、無くても全く問題なく、魔法生物の数というのもひなた荘で「みゅーみゅー」言っているたまちゃんがいるにしても種族数は非常に少なく、当然魔法を操る生物等というのもそれに合わせて少ない。
地球では、時間の経過と共に魔分散布による魔分濃度が高まり、人間にも魔分容量が形成され、魔分濃度の高くなった霊地で影響を受け何らかの奇跡……要するに魔法を行使できる人間がちらほら現れ、そんな中古代ローマで体系的な魔法がいち早く成立したが、それでも宗教や人々の思想には魔法の存在は当然前提に置かれはしなかった。
……先天的に魔法の存在した魔法世界と余りにも後天的に魔法が形成された地球……結果、既にこれまで現実地球で魔法が秘匿されて来たのは、紛れもない事実。
話が逸れたが、NGOとして魔法使い達が地球の問題に介入している事を非難するというのは……地球生まれ、地球育ちの魔法使い、魔法世界生まれ、地球育ちの魔法使い……等が実際におり、地球に根ざして生きている魔法使いが同じ地球人として地球で役に立とうという意思を持っている人がいる事を考えれば……別に特におかしくは無いだろう。
メガロメセンブリア本国に籍が登録されてはいても、地球の生まれた国の人間であるという意識の方が強いというのは十分にあり得ることであるし、自然と言えるのではないだろうか。
そういった活動を可能にしやすくするという点で、魔法協会という組織力が大いに役立っている。
各国魔法協会はメガロメセンブリア本国の下部機関とは言っても、完全に一枚岩ではあり得ず、麻帆良のみならず大体どこもがかなりの自己裁量が認められているという点で、魔法協会=100%メガロメセンブリア本国と考えるのは極端すぎる……と私は思う。
間違いないのは、あると非常に便利だという事であろうか。
……でなければそもそも魔法協会が存在する筈もないのだが。
魔法協会が各国に一定の土地を確保して存在できているのは別に国に無断で占有している訳ではなく……確かに麻帆良はほんの100年程前の事であるが、ヨーロッパは昔も昔からであるし、アメリカは新大陸として土地が開拓されてからすぐの事であったり、隠れてはいたが、元々馴染んでいた面はあるし、正規の手続きは取られているので強硬な排斥運動が起きるという事も無いだろう。
一般的な大使館と比較してやはり規模は大きいが、各国の法律には従い、税金は収めているし、ある意味メガロメセンブリアはメガロメセンブリアという国でありながらも地球の各国でもある、という見方も……絶対に無理、とは言い切れないのではなかろうか。
マギステル・マギについて説明されていたが、本当に子供は漠然と、それを目指す事が多いが、実際麻帆良の魔法使い達を見ていれば分かることだが、全員が全員NGOの活動をしている訳が無い。
魔法使いとは言っても麻帆良の人で言ってしまえば、明石教授のように教職で働いている人達もいれば、麻帆良内の企業に勤務している人達もいるし、勿論外部で働いている人もおり、魔法を日頃使っているかというと、現代日本の社会人と同じくパソコン等の魔法関係無しの機器に触れている時間の方が圧倒的に長い。
メガロメセンブリア本国で見ても、出入り口としてのゲートポートの受付で働く人達はいるし、魔法世界の企業で普通に勤務する人達、警察もあれば消防もある……正直魔法が生活に混じっているかどうかの違いぐらいしか無い。
そういう例を指してあれでマギステル・マギの一つの形だ、と典型的な魔法世界育ちの魔法使い見習いの子供に言ってもそうは認めないだろうが……実際そんなものである。
理念なのだから。
高音・D・グッドマンがよく志高く「偉大なる魔法使い」を目指すと声高に言っているのは地球生まれ、地球育ちの魔法使いにしてみればあの年齢で未だああもキラキラしているのは寧ろ珍しく、本国首都で育った子供にとってもあのテンションは珍しい方だと思う。
ネギ少年は田舎育ちで常識に疎かった事はあるが、もし高音・D・グッドマンぐらいの年齢に育っていれば、彼女程キラキラしている事も恐らく無かったであろう。
それもネカネさんを見れば分かることなのであるが……彼女はNGOとして活動している訳でもなく、ウェールズで落ち着いているので……明日ウェールズに戻るのだが。
……さて、今朝明けての通常放送に切り替わった各テレビ局のニュースは何度流したら気が済むのかという程に国連総会で流された魔法世界関連の映像を繰り返し放送するという有様であった。
また、日本魔法協会支部がこの麻帆良に存在することが同じく早朝に政府から公式発表がなされ、既に麻帆良学園都市内の独自メディアは勿論、外部のメディアが続々集結し、ここに特ダネがある!と言わんばかりにカメラとアナウンサーがガンガン増えている所である。
彼らは麻帆良に住む人々にインタビューを試み「ここに日本の魔法協会があると知ってどう思われましたか?その前に本当に魔法は存在すると信じますか?」であるとか、何を思ったのか「魔法使いの方いますかー!!?」と大声で叫ぶ人達までいる有様である。
前者の質問に対しては急いでいる学生達は「遅刻するからまた後でー!!」だとか「そりゃ驚いたよ!」とマイペースにスルーされる事も多かったが、話したくて堪らない学生は「ここが魔法使いの拠点だったら俺も魔法使いになれるんすかね?そしたら俺もリアル超能力者じゃん!」とドヤ顔でカメラに向かって調子に乗っている者もいた……のは仕方ないだろうか。
演説で言っていたが、魔法というのはやはり一つの技術にすぎない為、超能力だ何だと喜ぶな、とまでは言う気はないが自重はして欲しい所ではある。
少なくとも、今回のような形で公表された以上は、魔法を一般人が習得できるようになるには、魔法の取り扱いに関する国際法……なんてものがまとまらない限りは無理であろうし、まずは各国家レベルで魔法の研究機関が公的に開設されるか……もしかしたら、この麻帆良であれば、メガロメセンブリア本国の大使館のようなもの兼日本政府直轄の最大の魔法機関に収まる形でそうなる事もあるかもしれない。
当然このような事態は予期していた為、今日この後、麻帆良教会、もとい日本魔法協会支部で近衛門がその姿を現し、日本魔法協会の代表として声明を発表する事になっている。
女子中等部の学生達に焦点をもう少し当ててみれば、学校に着いて早々の会話の殆どは、タカミチ君が魔法使い……正しくは魔法使いではないのだが、そうであった事で、魔法使いの先生が他にもいるのではないかという話で持ち切りであり、朝のホームルームまで騒がしい限りであった。
そんな中、3-Aの明石裕奈が教室の後ろで爆弾宣言をしていた。

「私のお父さん魔法使いだったんだよ!!」

「ゆーなのお父さんがっ!?」

「じゃあ裕奈も魔法使いになるの!?」

「今までお父さん教えてくれなかったから分かんないけど、これは私将来決まったかもしれないッ!」

「「「おおー!!」」」

……である。
キリっとした顔で人差し指を天井に向けて突き出し、自分の将来は魔法使いかもしれないと調子に乗って宣言する彼女は誰がどう見ても元気一杯であった。
それに群がる他の3-A生徒達も調子の良さでは似たようなものなのであるが……。
明石教授はメディアに露出してそれが原因で知られるよりは自分の口から言えるときに言っておこうという形で朝電話を娘にかけたらしい。
そんな騒ぎを席からホッとしたように春日美空が後ろを振り返りながら見ているのは自分が魔法生徒であることが明石裕奈にバレてはいなかったという事であろうか。

「美空、安心するのは早いと思うヨ?」

「超りん……あのさ……表情から心読むのやめないか?」

早速左隣の席の超鈴音に突っ込まれているのであった。

「美空ちゃん、頑張ろな」

そんな所を春日美空の後ろの席の孫娘が後ろからこっそり春日美空に声をかけた。

「このか……このかはマジ頑張って。私もいつか後を追うだろうけどさ」

何とも尊い犠牲を払ったかのような表情をして春日美空は答えた。

「えー!酷いえ、美空ちゃん!」

……実際魔法生徒であるのがバレるのが一番最初になるのはこのまま行くと孫娘で確定である。
何と言っても、この後メディアで声明を出す近衛門の孫娘なのであるから、魔法使いなのではないか、と聞かれるのは最早時間の問題である。

「そう言わず諦めるんだ、このか……」

春日美空はゆっくり孫娘の肩に手を置き諭しにかかる。

「う、うちは負けないえ」

勝ち負けの問題ではない。

「……美空ちゃん、このか、何やってんのよ……」

そんなやりとりをコソコソしている2人を横目に神楽坂明日菜がやや呆れた顔をして突っ込みをいれた。
そう、神楽坂明日菜が学校にとても久しぶりに出てきたのは昨日の事であったが今日で2日目である。
神楽坂明日菜はネギ少年達がウェールズへと行くのにはついていかないのでしばらくは普通に登校する予定だそうだ。
実際の所、彼女はネギ少年から離れたく無いらしいので付いていく気は満々であったのだが……ネギ少年に「アスナさん、僕は授業できないですけど学校にはしっかり出席して下さい。麻帆良に戻ってきたら必ず旅行に行きましょう」と両手を握られた状態で真剣な表情で諭された結果「ネギ……分かったわ。絶対、約束よ」と答えた結果現在に至る。
姉弟のようでそれ以上の良くわからない関係になっている気がするが、姉弟という関係の上位版という事で認識すればよいだろうか……いや、やはり良くわからないがうまい言葉が見つからない。

「……だってさ、このクラスにバレたら絶対面倒じゃんか。朝倉が寮の部屋に押しかけてくるよ?」

春日美空が神楽坂明日菜の耳元で小さく呟く。

「それは……分かるけど……うーそうね、このか、頑張って」

何と、あっさり同室の仲間を見捨てるという暴挙に出た。

「アスナまで酷いー!超りん、何か方法無い?」

「……このかサン、頑張るネ。応援するヨ」

「超りんまで……」

「だけど、明日菜サン、同室の時点で騒ぎに巻き込まれるのは避けられないと思うヨ」

「あ……そうだった……」

どこか思慮が足りないのは相変わらずらしい。

「フ……迂闊だったな、アスナ」

「う……ま、まだよ。このか、私まだしばらくエヴァンジェリンさんの家に泊まるわ!」

「それずるいー!」

因みにエヴァンジェリお嬢さんは当然と言うべきか、わざわざ騒がしい麻帆良の現状へと姿を見せる筈もなく、今日も不登校である……というか、大学院卒なのだから実際通う必要性は最早最初からそもそも無い。
そんなコソコソしているやりとりを更に後ろの席の綾瀬夕映は自分はどうなるのだろうか……と微妙な表情をし、長谷川千雨は明石裕奈の宣言に「夢じゃないとか……マジありえねぇ……しかも明石の奴魔法使いの娘とか……」と呟き心底疲れている様子である。
彼女はそろそろ現実を受け止めて良いと思う。
別に生活の何かがいきなりガラリと変わる訳でもないのだし、そもそも長谷川千雨自身の電子関連の技術力自体ハッキリ言って十分ありえないレベルであることを認識して良い。
一方春日美空の前の席に座る宮崎のどかは4人がコソコソしているそのやりとりを気にしながらソワソワしていたが、綾瀬夕映のアイコンタクトで落ち着きを取り戻した。
他の面々はと言えば、サヨはぼーっとしながらもクラス全体を観測しているようで、長瀬楓は何事も無いようにニンニンし、龍宮神社のお嬢さんはやれやれと言った表情で教室の後ろの騒ぎを一瞥し、ザジ・レイニーデイはいつも通り無表情を貫き、桜咲刹那は孫娘がやや涙目状態なのを酷く気にしながらも周りに聞こえてしまうような声で話かける訳にもいかずそれを我慢し、古菲は明石裕奈の父親が魔法使いだったことに純粋に驚いてその輪に入って騒ぎ……いや、まほら武道会に教授はいたのだが覚えていないのか……葉加瀬聡美はパソコンを持ち込み目の色が変わった状態で依然作業中、茶々丸姉さんは我関せずを貫いている……大体こんな感じであろうか。
……なんだかんだ、いつもと何も変わらないような気がする。
世界の歴史で言う超鈴音が強制認識魔法を発動させた世界も、日常生活が根本的に脅かされたという事は無いのだろうからこんなものかもしれない。
因みに龍宮神社のお嬢さんと小太郎君はネギ少年が復活してからすぐに、隠密レベルを最高にして夜中寝静まった頃にサンタクロース宜しくではないが、こっそり治療を済ませてあるので何ら問題はない。
……そんなこんな授業は始まり、時は昼近くになる頃、所変わってネギ少年、ナギ、アリカ様は図書館島を訪れていた。

「クウネルさん、お久しぶりです。ゼクトさん、改めて初めまして、ネギ・スプリングフィールドです」

ネギ少年がナギとアリカ様の前に立ち、空中庭園でいつも通り寛いでいたクウネル殿とゼクト殿にはっきりと挨拶をする。

「これはこれは、ネギ君、ご無沙汰です。……お帰りなさい。困難な旅だったそうですね」

「改めてフィリウス・ゼクトじゃ。ネギよ、助かって何よりじゃ」

2人はゆっくりとネギ少年達の方向を向いて挨拶を返した。

「はい、ありがとうございます」

「3人共どうぞ好きな席にお掛け下さい」

「はい」

「ああ、そうするぜ」

「失礼する」

クウネル殿とゼクト殿が横に並んで座り、その向かい側に3人はネギ少年を間に挟んで腰掛けた。

「……ネギ君が来ましたし、少しまたこの前と同じ話をしましょうか」

「ああ、頼むぜ、アル」

「お願いします」

「ワシは茶を淹れてくる」

「頼みます、ゼクト。では……」

クウネル殿が先に空気を読んで話題を決定し、先月ネギ少年不在で行われた答え合わせの話が再び語られた。
途中話し手がアリカ様に代わり熱心にネギ少年に話しかけたりした……相変わらず初々しいと言ってもまだ僅か3日目だから当然か。
ネギ少年はクウネル殿とゼクト殿が一体何者なのかを直接聞くことができて心底納得したようだった。
そして遠い親戚だという事がわかりネギ少年が不思議な感じがすると呟いて、クウネル殿がこれからも好きなときにここには来て良いとそれに返したりしていた。

「ウェスペルタティアの血族の清算をさせる事になってしまい、苦労をかけて済まなかった……ネギよ」

そんな所、アリカ様が唐突に切り出した。

「いえ、母さん……確かに大変なのは大変でしたけど、僕は……僕がアマテルさん……ご先祖様と直接対峙……話せて良かったと思っています」

「……そ、そうなのか?」

「ネギ、お主アマテルと……話したのか?最早通じるとは思っておらなかったのじゃが……」

ゼクト殿も興味を持ったが、どうやらネギ少年はやはり始まりの魔法使いと対話したらしい。

「はい、えっと……最後にぶつかりあった時、互いを理解し合える、幻想空間……のような場所に僕とご先祖様は跳んだんです」

「ふむ、あの太陽道とやらの効果か」

「多分そうだと思います。そっか……これは僕の口からしか……。あの……アマテルさんがどういう想いを抱いていたのか……聞いて、下さい」

「……うむ、聞こう」

「ネギ君、それは是非お願いします」

ゼクト殿とクウネル殿が真剣な表情してネギ少年に続きを求めた。
仮にも生みの親……と言ったところだろうか。

「はい。……ご先祖様は、美しい魔法世界をこの世の誰よりも、誰よりも、大事に思っていました。それと同時にその魔法世界への道を開いた事で魔法世界が滅びに向かう原因を作ってしまった事をずっと永い間苦しみ続け、全て自分の責任だと一人で抱え込んでいたんです……。僕が視たアマテルさんは、凄く疲れきった様子で泣きたいのに涙が出ない……そんなとても辛い表情をしていました」

「……アマテルは悲しんでおったのか」

「……私達が生まれた時からアマテルは表情、感情の分からない高魔力源体の姿でしたが……心中はそうだったのですね……」

「あいつ……泣いてたのか。俺も戦ったが……それは分からなかったな……」

「ネギ……それでネギはどうしたのじゃ?」

「……ご先祖様に、ひとりで抱え込まずに僕にそれを引き継がせて欲しいと……休んでください、とそう伝えました。言葉でうまく言うのは難しいんですけど……あの時感じたアマテルさんの想いは、今も僕の……ここに、しっかり残ってます」

ネギ少年は右手を自分の胸の辺りに当て、何やら思い出すような表情をしてそう答えた。

「……今までの話で分かった父さんと母さんの事や……色々素直に全て許せるとは言い切りにくい部分もありますが……でも、僕は、純粋なご先祖様の想い……これは絶対忘れずに大切にしたいと思います。僕はご先祖様と分かり合えて……分かり合えたのが、末裔である僕で良かったと……そう、思います」

……ネギ少年というウェスペルタティアの末裔とその始祖が本当の意味で分かり合い、脈脈たる連鎖を終える事ができた……というのは、ネギ少年本人が言うとおり良かった……のであろう。

「そっか……ネギ、良く頑張ったな。俺じゃきっとまた力任せにぶっ飛ばしてただけだったろうし、俺には分かり合うなんてできなかったろう……。その想い、ずっと大事にしろよ」

「はい、父さん」

「……アマテルもネギに想いを伝えられて良かったときっと思っておるじゃろう」

「ネギ君、アマテルの想い、聞かせてくれてありがとうございます」

「僕も誰かに知って貰いたかったので、伝えられてよかったです」

「本当に……良く成長したな……ネギ。私は苦々しく思っていただけじゃが……辛かったのは先祖も同じだったのじゃな……。ゼクトの言うとおり、ネギに想いを伝えられて良かったと必ずやそう思っておるじゃろう」

「はい……そうだと良いです。母さん……僕は、僕を最後に信じてくれたご先祖様に顔向けできるよう、これから何か出来る事をこの手で探したいと思います」

ネギ少年は開いた右手を握りしめて決意を秘めた目をして、そうアリカ様に伝えた。
……果たしてネギ少年は何をこれから先見つけられるのだろうか……楽しみにしておこう。

「うむ……そうか。ネギなら、必ずや見つけられる筈じゃ」

「くーっ!ホント立派になったなぁ、ネギ!」

ナギが何か感動してネギ少年の頭を無造作に……ナギの基準で撫で始めた。

「とっ、父さん、ちょっとっ、痛いです」

「ナギ、主、もう少し優しくできぬのか!」

「あ、悪ぃ……」

アホだ……。

「……本当に……鳥頭とは大違いじゃな」

ゼクト殿が茶を啜って、一息置いて出した答えはこれだった。

「お師匠……そりゃないぜ……」

「フフフフフ」

そしてそんなやり取りをクウネル殿は楽しそうに見る……と。
兎にも角にも、そんな日常の訪れたウェスペルタティア一族の一幕であった。
その後、ネギ少年、ナギ、アリカ様の3人は話もそこそこに図書館島を後にして、丁度近衛門達が必死にメディア対応をしている頃、明日英国はウェールズへと行く準備に入った。
しかしどうも、アーニャとネカネさんの2人を加えたその一団にあの切り替えの良くわからない普段無表情なザジ・レイニーデイも同行する……というのは異色な気がするが、彼女自身の意思であるし、これでようやくウェールズの村の人々も……であり、何にせよ喜ばしい事には違いないだろう。



[27113] 69話 日帰り温泉
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:49
近衛門達の記者会見は、報道陣に対してこれでもか、という程丁寧に対応がなされ、終わるべくして終わった。
声明発表よりも記者団に対する一つ一つの質問に対応している時間の方が遥かに長かった。
報道関係で起こり得る誤解と言えば、放送される際に何故か記録された映像に妙なカットが施されて繋がれ、通して見てみると声明を発表した側の意見の筋がズレたものになるという現象が起きる事等があるのだが……そうならないことを祈りたい。
因みに、予想通り、ニュースを知った朝倉和美が発端となり孫娘は3-Aから追い掛け回される羽目になったのは言うまでもないが、孫娘が3-Aの他の魔法生徒について言及する事は無いという毅然さを見せた為、久しぶりに運が良いと言わんばかりに春日美空は面倒事をこの日は逃れた。
が……いつまで続くか超鈴音にしてみれば寧ろ見物であろう……いや、私も似たようなものだが。
報道関係としては、今夜は各放送局とも番組内容を昨日までから急遽変更し、緊急討論が行われるそうだ。
大体何が話し合われるのかは予想がつくが、賛否両論と言った感じになるのは間違いないだろう。
……そんな事とは無関係に太陽も落ちかかる頃、小太郎君はエヴァンジェリンお嬢さんの家を訪れていた。
発端はネギ少年がエヴァンジェリンお嬢さんの家から電話をかけて呼んだからである。
細かい事だが、後々死亡扱いになっているネギ少年の携帯電話関連で突っ込まれるような事が無い様、ネギ少年が今まで持っていた携帯電話は使用されていない。

「よ、来たで、ネギ。エヴァンジェリン姉ちゃん、上がらせてもらったで」

「あ、コタロー、待ってたよ」

「ああ、今日は、押しかけは来ていないから安心しろ」

ネギ少年は明日出発の為準備していたのを一旦やめ、小太郎君に向き直った。

「お、明日行く準備か」

「うん。故郷の村の皆の石化と、おじいちゃんに会いにね。……コタロー、この前話す時間無かったから」

「分かっとる。丸く収まったっちゅう事でええやん」

「……ありがとう、コタロー」

「そんで、ネギはこれからどないするんや?ここで教師続けられんようになったからにはそのままウェールズに戻るんか?」

「この先の事はまだ……分からないかな。一旦ウェールズに戻るけど、またすぐに麻帆良に戻ってくるよ。でも……そうだね。僕は……何か出来る事を探したいんだ」

「……次の目標やな。んー、ほな、その探し物見つける時、旅に出たりするんやったら、その時は俺も呼べや。……今度こそ最後まで横にいたるで。相棒やからな」

なるほど……成長したのはネギ少年だけではない、という事のようだ。

「コタロー……うん、旅か。そうだね、旅に出るその時は必ず、そうしよう」

「おう!」

「うん!」

拳と拳を軽くぶつける2人は本当に良いコンビそのものである。

「ちょっと!聞いてれば何勝手な話始めてんのよ!子供2人で旅なんてできると思ってるの!?」

そこへ割り込む人物約1名。

「あ、アスナさん」

「アスナ姉ちゃん、こういう時は口挟むなや……。今すぐ旅に出る、なんて一言も言ってへんやろ。決意表明や、決意」

小太郎君が軽く息をつき、神楽坂明日菜に言葉を返した。

「う……ご、ごめん、コタロ。また危険な事しだすのかと思ってつい……」

「何だ何だ?2人とも旅に出たいのか?」

更に旅という単語を聞きつけたのかナギ登場。

「父さん」

「あー、何やホンマ似とるな」

小太郎君は神楽坂明日菜とナギを交互に見て言った。

「お、俺とネギの事か?どの辺だ?」

「ナギ、今のはどう取っても私とナギの事よ……。しかも何か否定できない……」

本人も自覚はあったらしい。

「あ?俺とアスナか!」

ナギは右手をポンと左手に打ちつけて納得したらしい。

「父さん、旅というのは、さっき僕が言った出来る事を探す、っていう事で、いつか世の中を見て回って探す時はコタローと一緒に行こうという話です」

どんどんズレて行きそうになる前にネギ少年が話を戻した。

「おー、そういう事か。おう、旅はいいぜ。俺も旅して色々覚えたしな」

「……ナギの場合は魔法学校が嫌でとりあえず飛び出しただけだろうに」

さも正当だと言わんばかりに語るナギだったがエヴァンジェリンお嬢さんに容赦無く突っ込まれた。

「そ、そこは良いだろ別に」

「小学校中退……俺は折角入れてもろてるんやし……無いな。行くなら夏、冬、春休みやな!」

まず小学校中退という言葉自体……日本には義務教育というものがあってですね……という次元の問題である。
確かに旅と言っても何年も回らなければいけないという理由も無いし、長期休暇を活用という手があるか。

「小学校中退なんてちょっとありえないものね」

「せや、何で魔法学校っちゅうんは小学生の年で終わりなんや?ナギさん年で言うたらホンマに小学校中退やんか。魔法世界にはアスナ姉ちゃんぐらいの年の学校あったで」

「そっか……ナギの学歴って小学校中退って感じなのよね……今は文字通りじゃないと思うけど」

「フ……大学院卒には遠く及ばないな」

まさに小学校中退とは軽く12年以上要する年数が違う。

「そこはだな、魔法学校と日本の小学校は違うんだぜ。色々とさ……細かいことは知らねぇけど」

ナギは……説明に窮した。

「ナギ……」

「ウェールズの魔法学校は卒業したら、特定のお師匠様の元に付いて修行する、という慣習があるのよ」

見かねた様子で少し離れたところで準備をしていたネカネさんがフォローに入った。

「ほ、そうなんか」

「流石ネカネだな!って事で俺もお師匠はいるし、問題ないな」

途端に元気になった。

「最終課題クリアできなかったけど、僕もマスターがいるから……いいのかな」

「ま、その辺は今後の世界の成り行き次第だろうさ」

「そうですね。まさか魔法使いの存在が公表される事になるなんて思いもしませんでしたけど」

「ホントよ……私まだお師匠様決まってもいないのに……」

アーニャもついに作業を中断し会話に入ってきた。

「きっと見つかるわよ、アーニャ」

「う……うん。ネカネお姉ちゃん」

「高畑先生達が頑張ってるし、きっと大丈夫よ」

「そうですね、アスナさん。タカミチと総督達なら大丈夫です」

「だな。で、さっきの話だけどよ、2人共どっか冒険行きたくなったら俺が連れてってやるからな!」

旅が勝手に冒険に変わっているのだが……。

「父さん!」

「ホンマか!」

「約束するぜ!」

「ナギ!何勝手に決めとるんじゃ!」

大声で言った為に、アリカ様もとうとう反応した。

「大丈夫だぜ、アリカ。何ならお師匠とアルも一緒にも声かけっからよ。あの2人どうせ暇だろうしよ」

「な、何故私が数に入っておらぬのじゃ!」

え……そこですか。

「だって男の冒険だぜ?」

「説明になっておらぬ!」

「あ……気が付かなくて悪ぃ。安心しろ、アリカ、寂しいなら俺がどこへでも連れてってやるからよ」

「う……うむ」

会話は……成立したらしい。
流石スプリングフィールド夫妻。

「「「…………」」」

対してお嬢さん、神楽坂明日菜、アーニャは少々呆れたような表情であった……。

「……ネギ、2人の時は行ける範囲で行こうや」

「……うん、そうだね、コタロー。見て回るだけなら大丈夫だし」

小太郎君は小さい声でネギ少年に話しかけ、ネギ少年もそれに落ち着いて返答した。
きっと……この2人ならきちんとした旅の計画を立てられる事だろう。
……この後、小太郎君はエヴァンジェリン邸を後にし、呪術協会支部へと帰っていった。
少しザジ・レイニーデイに目を向ければ、もう準備万端、後は寝て起きるだけ、という様子であった。
というか、もう寝てた。
そして翌朝、ザジはエヴァンジェリン邸に姿を現し、そのまま一行に入り、空港へと向かってウェールズへと旅立っていった。
ウェールズ到着はイギリスからの時間も含め、こちらの時間で夜、という頃であろう。
そんな9月25日、海をまたいだニューヨークでは国連総会2日目が引き続き行われ、早くも今回の通常会期の期間延長が決定されていた。
予定通り核関連の話し合いが行われるのだが、その1週間の間に各国でそれなりに意見を纏め、その後改めて魔法関連について議論が行われるそうだ。
魔法協会が存在していない国も多くあるので準備の時間は必要であろう。
さて……再び麻帆良に目を戻せば、今度はザジを欠く3-Aは昨日に引き続き、てんやわんやで時間は過ぎて行ったが、放課後、ある2人が神奈川県へと向かった。
そう、まだ桜咲刹那は真っ黒い刀をある所に返しに行っていなかった。
桜咲刹那は詠春殿に魔法世界から帰還して割とすぐにその事を報告したのだが、その際「落ち着いたら刹那君が直接素子君の所に返しに行くと良いでしょう」と言われた為もあるが、これまで丁寧に女子寮に保管されたままであったのだ。
放課後、桜咲刹那は孫娘を伴って埼京線、麻帆良学園都市中央駅から一時間程かけて東京方面へと出て、横須賀線に乗り換えた。
セミクロスシートのドア傍の2人掛けの席を確保し、孫娘はあからさまに、桜咲刹那は見た目にはそれ程でもないが、楽しそうにしていた。

「ひなた荘ほんまに行くことになるなんて思わんかったなぁ。せっちゃん連れてってくれてありがとな。皆に追いかけられて大変だったんよ」

「滅相もありません。お助けすることができず……申し訳ありません」

「せっちゃん、謝る事なんて無いえ」

「はい……」

因みに刀は剥きだしで運ばれる訳も無く、箱に入れられて網棚の上に置いてある。

「世の中大変になったけど、ネギ君戻ってきて良かったなぁ」

「はい、本当に良かったです」

「超りんに聞くのはもう無しやけど、せっちゃんはどう思う?うちどうなっとるんか全然思いつかなかったえ。超りん、ずっと麻帆良にいた筈やのに」

「そうですね……。超さんは謎が多すぎて……。科学で解決できる事では無い筈ですし……私にも全然分からないです。ただ、そういえばザジさんのお姉さんという人が、超さんの未来がどうとか……と言っていたのですが、もしかすると……」

「……未来から来たんかなぁ?」

「はい……しかし、流石にありえないと思います」

「うー、分からんなぁ」

両手を頭に当ててウンウン唸ってみるも孫娘は分からなかったらしい。
まあ、未来人は本当に合っているのだが……それよりザジ姉はそんな事をポロっと言っていたのか……。

「……分かりませんね」

「分からん事は置いといてや。せっちゃんは高校上がっても麻帆良に一緒にいてくれるん?」

「は、はい。無論です。中学卒業後もお供します」

「はぁ~、嬉しいなぁ。ほな、高校の女子寮は同じ部屋になるとええな」

「!」

桜咲刹那は孫娘の発言に突然ビクッとした。

「ど、どうしたん?せっちゃん、今ビクッ!てしたえ?」

「い……いえ、何でもありません。女子寮の部屋、高校になれば移るのでしたね。忘れていました」

「せっちゃんはうっかりさんやなぁ」

別にうっかりでも無いと思うが……。

「お、お嬢様、今から向かうひなた荘も女子寮だと聞きましたね」

無理に話題変えたな……。

「あ、そやったなぁ。うちもうっかりしてたえ」

改めて、それもうっかりではないと思う。
そんな個人的感想はともかく、孫娘は自分の頭を軽く左手で触れ、うっかり、を表した。
……そんなに混んでいない時間帯であるのもそうだが、孫娘がいる空間はどうもポワポワした空気になるのは最早結界と言って差し支えなさそうである。
2人はそのまま電車に揺られ、途中路面電車に乗り換え通算1時間程で、神奈川県日向市ひなた町に到着した。
調べた地図通りに2人はひなた荘に向かって歩みを進め、その場所に到着してみれば、その大きさを見渡し、しばし口を開けた。
近年一度立て直しがされた事によりまだまだ真新しいひなた荘であるが、結構広い。

「……思ってたのよりもずっと大きいなぁ」

「えぇ……大きいですね」

2人は気をとりなおして、ひなた荘の玄関へと入り、桜咲刹那が声を出す前に孫娘が先に声を上げた。

「すいませーん!どなたかいらっしゃいませんかー?」

……しかし、広いため、なかなか返答が帰って来なかった。
と……思えば、ドタドタと足音を上げて……頭には変な物を被り、左手には謎の機械を持った人が現れた。

「魔法使いか!?」

ビシッと2人を右手で指さしていきなりとんでもないことを言い出したが……中身は例のインド人風の人である。

「えー!何でばれ」

「お嬢様!」

「むぐ!」

孫娘は思わず何故バレたのかと叫び声を上げそうになったが、桜咲刹那に口を抑えられた。

「お!確かモトコの親戚やないか!」

寧ろあなたが何者だ、と言わんばかりの格好のカオラ・スゥはそう言って、被り物を取って素顔を現した。

「か、カオラさん」

その拍子に桜咲刹那は孫娘の口から手を離した。

「カオラはん!」

「おー!ウチの事覚えとったか!」

「スゥ……何だ騒がしい……今日は教授達が揃って都合で休講になって大学が休みだというのに……」

そんな所へ目的の人物が現れた。

「モトコ!」

「も、素子様!お久しぶりです!」

「素子はん!お久しぶりです!」

「ああ、詠春さんの……木乃香さんと刹那さんか。よく来たな、今日はどうした?」

「は、はい。素子様にお渡しするものを持って参りました」

「私に……?わざわざ刹那さんが?」

「こちらです……」

桜咲刹那は背中に縛って固定していた箱を降ろし蓋を開け、丁重に両手で持って素子さんに渡した。

「あー!モトコの刀や!」

「あ……あぁ……これはわざわざ済まない。戻ってきて良かった……。ありがとう。礼を言う。……姉上に言わなくて済んだな……。いや、しかし、どうしてこれを刹那さんが?」

本音が混ざっていたな……。

「はい……先日盗んだ犯人に遭遇し、戦闘の結果取り返したので……お返しに上がりました」

「ま、まさか……盗まれていたのを知っていて……犯人を探してくれていたのか?」

「いえ……詳しい事は事情があって話せないのですが、ただの偶然の結果です」

偶然というには……色々大変だったとしか言いようがないと思うが……。
因みに、月詠という例の戦闘狂はゲートを使っていない事は間違いないので、観測した結果墓守り人の宮殿にその姿は無かった事からすると、まだ魔法世界をうろついている筈だ。

「そ……そうか。かたじけない。わざわざ直接ここまで足を運んで貰って……時間があるなら少し休んでいくと良い」

「ここの温泉にも入っていくとええで!」

「お、お気になさら……あ、お嬢様、どうなさいますか?」

「素子はんとカオラはんがこう言ってくれてるし、素直に上がらせてもらおう?」

「お嬢様がそういうのであれば、素子様、失礼致します」

「ああ、別に私がここの主でも無いから気にしなくて良い。それに今日は浦島はいないから温泉も安全だ」

「「?」」

……それは……何というか、うん。
2人は知らなくて良いと思う。
2人は玄関からひなた荘へと上がり、カオラ・スゥの強い勧めによりまずは温泉へと案内された。
時刻は6時少し前、丁度太陽が落ちかかる夕焼けが見える頃であった。
因みに……これ完全に覗きになっているのだが、改めて言うが、私には最早今更、である。

「みゅー」

そしてこの声はと言えば、温泉にいた、たまちゃんである。

「あ、たまちゃんや!元気にしてた?」

「みゅー?」

「たまちゃんは……魔法世界に行って思いましたが……どうも魔法生物みたいですね」

たまちゃんは孫娘に確保され頭の上に乗せられた。

「あー、そう言われるとそうやね!あ、女子寮のお風呂も広くてええけど、ここの温泉もええなぁ」

「はい……和風で本山を思い出しますね」

「オスティアで入った大浴場も広かったなぁ」

「あれも広かったですね。懸賞金が無くなっていたお陰で安心して入れましたし」

「そうやったなぁ。何かつい最近の事やのに夢みたいや」

「地球と比べるとどうしても、あちらのほうが夢のように見えてしまいますね」

「でも、そのうち身近になるんやろか?」

「世の中次第ですね」

「さっきカオラはん何で魔法使いか?なんて最初に言ったんやろ?」

「何故でしょうね……驚きましたが」

「みゅー」

それは多分テンション上がってただけだと思う。
とりあえず人を見れば魔法使いか聞いて確認したくなる症候群的な。
少しの間、2人はゆっくり温泉に浸かっていた……。

「よー!2人の所、邪魔するで!」

と、カオラ・スゥ再び、である。

「スゥ、今入らなくても」

「カオラ、お客さんいるんでしょ?」

前原しのぶさんは高校から丁度帰ってきた所らしい。

「モトコもしのぶも麻帆良に住んどる人の話気になるやろ?魔法使いの本拠地やで!」

「そ……そう言われると」

「そういう事か」

3人は孫娘達の近くに落ち着いて、温泉に入った。

「温泉気持ち良いです、おおきに」

「ありがとうございます」

「そうやろ!ここに住めば毎日入れるでー!」

「アクシデントも多いがな……」

「みゅー!」

「でや、2人は魔法使い見た事あるんか?」

まほら武道会の認識阻害は……どうやら完璧だったらしい。
この認識を解く方法としては……一つ。

「えっと……」

「それは……」

「スゥ、木乃香さんは近衛家の方だから……そもそも日本の魔法使いだ。昨日のテレビでも出ていただろう、近衛近衛門理事というのは木乃香さんのお爺さんだ。それに私の神鳴流も妖魔を滅する仕事をしているが、それは日本の陰陽術師、魔法使いの仲間のようなものだ」

素子さんの自己判断であっさり解決した。

「え!?」

「何やて!?」

「後はこの前のまほら武道会、あれには魔法使いが多く出ていた。気がついて……ああ、例の認識阻害か」

他人から指摘されたから認識阻害解けたな……。

「まほら武道会……魔法……おお!!ほんまや!言われてみるとそうやな!あれ魔法やったな!」

「あー!……そう言われると!」

「って……済まない。話してはいけなかったか?」

「い、いえ、素子様のお知り合いであれば」

「まほら武道会来とったし大丈夫や」

「むむむ、認識阻害っちゅうんは凄いな」

カオラ・スゥが唸り始めた。

「認識阻害は過去の出来事になったとしても、魔法なら魔法と、予め自分が知っているか他人から教えらない限りは基本的には認識できないようにする魔法ですからね……。特にまほら武道会の物は強力なものだったかと」

そう、故に認識阻害とは阻害対象の事を知ってしまえば何の事はない、効果をなさなくなるのである。
例えばネギ少年が一般的な杖で飛行する際の認識阻害をかけているとすれば、魔法使いが存在すると知っていて、ネギ少年が魔法を使っていると認識できれば、問題なく気づけるのだ。
つまり基本的に条件さえクリアできれば……勿論認識阻害自体程度の差はあるのだが、認識阻害は意味を成さない。
因みに神木で自動発動させている「神木に害をなす事なかれ」と付随的に「神木の存在に疑問を感じないように」という私が自信を持って強力と言える認識阻害……いや、これは思考操作も入っているのだが、乗り越える条件は、私やサヨの事を幽霊……等ではなく神木の精霊だときちんと認識している事である。
だからエヴァンジェリンお嬢さんは神木に対して攻撃魔法を放とうと思えば放つ事ができる。
要するに、私達が正体を明かさない限りは神木の認識阻害の条件を突破できる人間は増えないという事である。
そもそも認識阻害自体、発動している側から他者にアプローチをかけるという行為によって効果が薄まるという性質があるのだが……。
そして、この条件だからこそ、ある人が麻帆良の外では神木の樹皮を採取しようと心に決めても、範囲内に入るとその傷つける事ができなくなり、範囲外に出ても何故樹皮を採取できなかったのか……と過去の出来事になってもそう認識すらできず、何だかよく分からないが殆ど気にならない、という状態にできるのである。
更に、他者から何故樹皮を取ってこられなかったのかと、その人物が指摘されても、原因は何故だか良く分からない……という不自然だが要領を得ない返答程度しかできず、いずれにせよ神木の認識阻害を抜くことはできない。
しかし、認識阻害の範囲外からなら、樹皮を採取するのは無理だが、明確な意図を持っていれば神木に攻撃を仕掛けるのは可能という欠点はやはり伴うのだが……。
また……他者からの指摘という点についてだが、普通の認識阻害は他者からの指摘を受けるとすぐに解けるようになっている。
その例が今のカオラ・スゥと前原しのぶさんである。
その点でも、神木の認識阻害は群を抜いているのだ。

「せっちゃん、認識阻害ってそうだったん?」

「そうですよ」

「ふーむ、ほな、麻帆良で使うとる認識阻害はどないなもんなんや?」

「……そう言われると良く分からないんです」

「……うちも、分からんなぁ……一体何やろ」

「はー、魔法知っとっても分からんへんのか。テレビで解くって言うとったけど、それ待ちやな」

麻帆良一帯に展開されている認識阻害で主柱となっているのは「麻帆良の中で見えるものは、麻帆良の外で見えるものと違和感無く普通に感じられるように」という内容である。
元々麻帆良学園ができた1890年当初はあの認識阻害はかけられてはおらず、麻帆良教会ぐらいと後は魔法使い達が個人的に使用しているぐらいだったのだが、例によって土地そのものの影響で学園の生徒達全体の才能の開花というかどうもおかしな発展が進み、学生が多くいるだけあって、それがあからさまに麻帆良の外とズレた水準になった頃から、魔法使い達がこの認識阻害をかけるに至ったのだ。
かけていなかったら今頃、いるだけで凄い人になれるかもしれない土地!みたいな文句で人口密度が異常な事になって、常に混乱していたに違いない。
当然、魔法協会としては困るどころの話ではない。
ただ、弊害としてはそのような混乱は避けられたものの、科学が進歩した現代においては軍事研や航空部と言った辺りの活動が彼らにとって普通と認識できているが為にどう考えてもやりすぎに思える面があるという事である。
今すぐに認識阻害を切れない理由には、切るとあまりにも危険だから、という理由がある。
切る際には、麻帆良内のあらゆる活動を一旦禁止にする必要があるだろう。
でないと、航空部で驚きの連続が起きて事故が発生しかねないわ、軍事研の演習でミスが発生し麻帆良の住人が恐怖に怯える等……色々起こりかねない。
正直な所、麻帆良の認識阻害は魔法使い、一般人関係なく全員認識阻害がかっていたほうが、それなりの弊害も伴ってはしまうものの認識阻害が全くかかっていない状況よりは、都合が良いのである。
勿論、魔法使いの場合は一般人に比べて認識阻害の影響を受ける度合いにある程度差は必要だ。
そう、魔法使い達が麻帆良の認識阻害を抜けているか……と言えば、実はその多くは抜けていない。
魔法とは直接関係無い、特殊技能や特殊技術の氾濫している麻帆良で度々起こる出来事に対しては、魔法使い達でも認識阻害が無ければ、当然異常だと感じるのであり、常に驚愕の出来事の連続では精神的負担もあるし、認識阻害に完全にかかっている一般人達との間で認識感覚に余りにも差ができすぎてしまい、一般人が普通だと思っている中での適切な対応能力が寧ろ阻害されてしまう可能性があるのだ。
……麻帆良の認識阻害の内容は先の通りなのだが、その抜ける条件は大量に存在し、かと言って1つ条件を満たすと全部が抜けられる訳ではなく、その条件の分だけ限定的に抜けるというかなり複雑なものだったりする。
例えば広域指導員としてのタカミチ君の行動は……あれは明らかにタカミチ君自身認識阻害を抜けられていない。
一番クリアされているものは、「麻帆良の中で見えるものは、麻帆良の外で見えるものと違和感無く普通に感じられるように」というものの下位内容として含まれる「麻帆良は他所とは、違う」という事ぐらいであり、これは裏関係を知っているというのが一つの条件である。
これによって、会話の中で、主柱の認識阻害のお陰で反応として、麻帆良内でのある事象に対して「変ですね」ではなく大体「凄いですね」という発言になるのだが、それを聞いて「麻帆良は他所と比べると特殊な部分があるからね」という反応ができる。
しかし、だからといってタカミチ君が広域指導員で無音拳を使ったとしても彼自身が違和感を覚える事にこれは影響しない。
そういう意味では長谷川千雨は……あの複雑な条件を全て抜いているという点では本当に特殊体質なのである。
超鈴音にしても、実は茶々丸姉さんを1-Aに当時入れたのは、超鈴音自身、茶々丸姉さんを学校に入れるという事自体に違和感を覚えていないからできた……事なのだ。
長谷川千雨と同じであれば、茶々丸姉さん自体にエヴァンジェリンお嬢さんが個人的に認識阻害をかけているとは言っても、学校に入れるという事はあり得なかった筈である。
言ってみれば、全部の認識阻害を抜いていると言って良いのは、長谷川千雨、私、サヨぐらいだけだ。
近衛門やエヴァンジェリンお嬢さん……今となっては超鈴音でも過半数は抜けてはいても全部は抜けていない。
というか、それぐらいでないと、長谷川千雨のように疲れると思う。
まあ彼女はありえない、ありえないとばかり言って、外は外、麻帆良は麻帆良でこういう日常なのだ、と受け入れなかったという事にも……こういうと酷な話ではあるが少しばかり問題があると思う。
彼女が一つだけかかっている認識阻害……というには語弊があるがそれは、前にも述べたことだが彼女自身の電子関係の技術である。
異常な水準にあることを認識すべきと言ったが、あれは彼女自身にとって当たり前の事なので、変だと思う事自体がそもそも無いのであろう。
以前超鈴音がその事について指摘をしても、本人に変化が無かったのは、彼女自身が流した面もあるが、結局は認めなかったという一点に尽きる。
そういう訳で、魔法の存在が公表され、あれは認識阻害という魔法だったんだ、という事をようやく知れたからには、長谷川千雨には一括して全部魔法だったのか、で納得して受け入れてもらいたい所である。
因みに超鈴音が長谷川千雨の技術に対して指摘ができたのは元々オーバーテクノロジー持ちという事で何もしなくても技術関連についての結構な数の条件を満たしており、未来技術からの比較という形で無意識に相対的に彼女の技術水準を計れたからである。
……話が随分認識阻害に偏ってしまったが、ひなた荘を訪れた孫娘と桜咲刹那は温泉に浸かりながらカオラ・スゥ達と話を続けていた。

「木乃香はどんな魔法使えるんや?」

「うちは治癒魔法が得意なんや。ちょっとしたすり傷や切り傷ぐらいならすぐ治せるえ」

「おおー!それは医者いらずやな!」

「んー、でも、科学医療は治癒魔法ではできひん事ができるってうちは教わったえ。例えば……特に癌は難しいんや」

「白血病のようなものは治癒魔法という特性上治療は無理なんだそうです」

「一つの技術、と言っていただけあって、万能ではないという事だな」

「何だかそういうの色々面白そうですね」

「しのぶはまずは受験勉強をやらんとな」

「わー!分かってます!」

要するに、治癒魔法はその時点での状態において治療するという特性が強く、癌細胞のようにそれがそうであるものとして増えるものに対しては効き目が無いのである。
それこそ過去の状態へと戻す、情報を読み込む、といったような効果を持つ孫娘の3分間まではOKのあのアーティファクトのようなものでなければ難しいという訳だ。

「大学受験か……うちら大学まで上がれるからなぁ」

「エスカレーターですからね……」

「国立にそんな事は無いんです……」

気がつけば前原しのぶさんの受験事情に話が移っていた。
孫娘達にしては割と年の近い年上の女性と話すという機会は新鮮だったのか、楽しそうであった。
しかし、そんなに長い間いる訳にもいかず、そこそこにして、2人は温泉から上がり服を着直して、少しお茶を飲ませてもらった後、再び麻帆良に帰る事になった。

「素子はん、カオラはん、しのぶはん、今日はおおきに」

「素子様、カオラさん、しのぶさん、今日はありがとうございました」

「そんなに気にしなくて構わない。こちらこそ刀を持ってきてくれて助かった」

「ここは旅館やから今度は泊まりにくるとええで!」

「はい、また来て下さい。先輩達も歓迎すると思います」

「おおきに。ほな、またいつか皆で!」

「では、失礼致します」

互いに挨拶を交わし、孫娘と桜咲刹那は既に日が落ちた中、路面電車の駅へと向かい、行きとは逆の道をたどり出した。

「せっちゃん、ひなた荘、ええとこやったな。今度は泊まりにいこな?」

「はい、お嬢様。是非そうしましょう」

「アスナ達も誘ったら楽しそうや」

「そうですね」

「身体あったか、あったかやね」

「はい」

「せっちゃんの心は?」

「こ、心ですか!?……それは、はい。心も温かいです」

「うん、良かったえ」

そんなこんな会話しながら、2人は身体も心もポカポカと2時間かけてこの日ゆっくり麻帆良への帰路へと……ついたのだった。



[27113] 70話 第二形態
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:50
ネギ達がロンドンを経て、ウェールズへと到着したのは、現地時間9月25日の夕方の事であった。
一行はロンドンで待機していたメルディアナ魔法学校関係者の手配したワゴン車に乗り込み、ウェールズへと向かった。
道中、普段混雑していない筈の山道にも関わらず、車の数が明らかに増えている事に一行は驚いたが、原因は当然、国連総会で魔法の存在が公開されたことであった。
しかし、メルディアナ魔法学校へ向かう為に続く道の途中のある村に至った所で検問が敷かれており、一般人と覚しき人々はそれ以上先に進めないようになっていた。
それを尻目に一行は検問を問題無く通過し、メルディアナ魔法学校へと行くことができたが、ネギ達が予想していた時間よりも到着は遅れた。
検問が敷かれている理由は無論、余計な混乱を避ける為の配慮である。
因みに、メルディアナ魔法学校がイギリス魔法協会も兼ねているかというとそうではなく、魔法協会は魔法協会でイギリスの地方行政区画で言えばウェールズではなくイングランドに別にある。
日も暮れてようやくメルディアナ魔法学校に到着した一行はそのままネギがネギであるとバレないよう、ネギの祖父であるメルディアナ魔法学校校長と校長室にて再会した。

「おじいちゃん、ただいま帰りました」

一行の中から1人前へ出て、ネギは帰還の言葉を述べた。

「おお……。話は聞いたが……本当にネギか……良く、良くぞ戻った。大変な旅となってしまったようじゃが、頑張ったな、ネギ」

死亡した筈のネギが戻ったという話を聞いてはいたが、見るまでは実感の無かったネギの祖父は、それまでの意気消沈したような表情からようやく解放され、安堵した。

「はい、心配かけて、ごめんなさい」

「儂の方こそ、配慮が足りなかった……済まなかったな……」

「おじいちゃん……」

ネギの祖父はネギに近づき頭に手を置き、優しく撫でた。
……その場にはしばらく穏やかな静けさのみが残った。
そして切り替えるように、残りの者達も挨拶をし、急にウェールズへとまた戻ってきた理由、ザジがここへ来ている理由の話へと入った。

「で、親父、こっちのザジ嬢ちゃんが村の皆の石化を解いてくれるらしいぜ?」

「そ、それは真か!?あの石化は最高位の術師でも神術級の魔法でなければ解けない筈」

「……ご安心下さい。必ず石化は私が解きます」

それに対してザジが答える。

「しゃ……しゃべった……」

「アーニャ、そういう事言わないの」

「あ……ネカネお姉ちゃん、つ、つい……」

ここに来るまでザジは殆どジェスチャー、それも酷く簡単なもので頷くか首を振るによるイエスかノーばかりが殆どであった為、ようやくまともに話した事にアーニャは驚いたのである。

「そ……そうか。ザジさん、お嬢さんは何者か聞いてもよいか?」

その場では特に魔力の一切感じられないザジを見て思うのも無理は無い。

「ザジさんは……」

「私は、魔界出身の魔族です。位も高い方です」

ネギが説明しようかという所をザジがはっきり自分で正体を明かした。

「あー、そうだろうってのはネギが言ってたから分かってたが、やっぱそうなのか。でも全然分かんねぇな」

「うむ……魔族であったか。なるほど、高位の魔族であればあの石化も解けるのも合点が行く。……お答え感謝する」

「……お気になさらず」

ザジは軽く一礼し、返答した。

「今からすぐにでも解くことはできますが……どうされますか?」

「そうじゃな……急な話で驚きだが……明日まで、待ってもらえるじゃろうか」

「構いません」

「重ねて感謝する」

「おじいちゃん!何で今じゃ駄目なの!?」

石化を戻すのを明日に回すという話になり、一刻も早く両親達に逢いたいアーニャはそれに語調を強めて言い放つ。

「それはじゃ、アーニャ。村の皆を今戻してもここのメルディアナの者達が驚いて混乱する。外も騒がしい状況では良くない。対応が取れるまで我慢して欲しいのじゃ」

「アーニャ、気持ちは私も良く分かるわ。でも、まだ少しだけ我慢しましょう?」

「……う……うん……分かったわ……」

「……うむ、長旅で疲れておるじゃろうし、今宵ゆっくり休むと良い」

「ああ、そうするぜ」

「はい、おじいちゃん、そうします」

「ネギ、一つ、ドネットにも顔を見せては貰えんか?ドネットも酷く落ち込んでおってな……」

「はい、それはもちろんです!」

「それが良いわ、ネギ。ドネットさん、自分の力不足のせいだと落ち込んでいたから」

「ああ、では頼むぞ」

……そしてこの後ネギは、校長室に呼ばれたドネットにも顔を見せ、謝罪をされるという事もあったが、何はともあれ見る見るうちにドネットの表情は良くなったのだった。
この夜、一行は魔法学校に泊まり……そして、翌日。
村の者達の石化が解除されるとなると、既に村が6年前に燃えて残っていない以上、生活の為の受け入れ場所が必要となる。
更に、村を襲撃させたのがメガロメセンブリア元老院の一部勢力であるという既に得た情報を念頭に置けば、石化した筈の村の者達が元に戻ったとなれば、その件が広まってしまうのは良くない。
いつまでも永遠に隠し続ける等というのは当然不可能である以上、誰も知らない所に匿っておくというのも後々面倒になる。
しかも、魔法の存在が公表された今となっては、戸籍関係を今まで通りあっさり用意するという方法で処理するというのもありえない。
ただ、運が良いのは、村の者達の戸籍は残っており、現在も、少なくとも生きてはいるという扱いになっている事であった。
結局どうする事になったかと言えば、元々交流のあった近くの村に住む者達で懇意にしていた者達各所に連絡を早急に回し、暗黙の緘口令を敷いた上で、その者らが用意できる空き家等の手配が行われたのである。
検問が敷かれている時点で、一般とも厄介な状況になっているのみならず、メガロメセンブリア本国に対しても今はできるだけ伏せなければならない、という経緯から魔法協会に情報が漏れないようその準備には慎重を期されたが、村の者達が戻る旨を聞いた者達は、そういう事なら、と全力で動いたのである。
結局明けて朝すぐに石化解除はされず、午後4時頃、最低限の用意はできたと言える状態になった情報が入ってようやく、ネギ達はメルディアナ魔法学校の立ち入り禁止の部屋へと螺旋階段を降りて向かった。
両開きの重々しい扉の鍵が開かれ、室内に廊下からの光が挿し込み、石化した者達の姿が顕になった。
アーニャとネカネはとりわけ緊張した面持ちで部屋に足を踏み入れ、非常に落ち着いた様子のザジに期待をかけるような想いを目に浮かべて見つめていた。
全員が部屋に入り、部屋の扉が再び閉じられると共に、それぞれが「火よ灯れ」による明かりをつけた所、ザジが言葉を発した。

「そのまま、後ろに下がっていて下さい」

「わかりました、ザジさん。お願いします」

ザジ以外の者はネギに続き、ザジに分かった旨を伝え、ザジとの間に間を置いて、後ろに控えた。

「では……始めます」

ザジがそう言葉を紡いだ途端、ザジの雰囲気がガラリと変わり、身体の内から湧き出すような膨大な魔力が溢れ始め、それと同時にプレッシャーまでもが際限無く膨れ上がり始め、ネギ達はそれを否応なしに感じ、緊張が張り詰めた。

「あ、あの時と同じ……」

「…………」

次の瞬間、ザジは不意にゆっくりと床面から浮き上がり、その頭には2本の角と背中には下に垂れた漆黒の翼が現れる。
更に続けてその背後にザジを覆うように目を閉じた女性の頭部のみが中心に見える巨大な漆黒の造形物が出現した。
女性の頭部が見えているその左右には両翼数メートルに及ぶ漆黒の翼が広がり、その中程の部分からは4本爪の2本の太い腕が地に向けてぶらさがっていた。
しかし、ネギ達から最も見えたのは、更にその巨大な漆黒の造形物の背後に展開された、どことなく完全なる世界の紋章に似た魔法陣であり、それを見たナギとアリカは咄嗟に息を飲んだ。
ただ、円形の魔法陣の左右に翼が伸びているのはほぼ同じであったが、完全なる世界の紋章が魔方陣の下部に三方向に別れて伸びる尻尾のような部分が無く、魔方陣の中に描かれている図形も細長い竜の尻尾のようなものでは無く、5つの頂点を結ぶ星型が描かれているという点が異なっていた。
そしてザジの背後の造形物の純白の女性の口が大きく開かれ、キィィンという甲高い音と共にそこに白く輝く光球が見る見るうちに形成されて行き、最高潮に達した瞬間。
全てを飲み込む光線が左から右へと全ての石像を薙ぎ払うように、一閃した。

「きゃっ!」  「ぬっ!」  「うわっ!」

余りの眩しさに思わず両手を顔の前に上げ、目も瞑りながらネギ達は声を上げて……感じられる閃光が収まったように思われて徐に再び目を開けた先に見えたのは……。

「しまっ!……こ、ここは!」  「こ、ここは!?あ、悪魔は!?」  「なんだ!?」  「一体!?」

石化が解け、色彩を取り戻した、杖を持った村の人々の姿。
ザジの背後に浮かんでいた物は既にその場に姿は無く、残すはザジ本人に現われている角と翼が徐々に引いていく所であり、ネギ達の視界を遮るものは無かった。
スッと地に降り立ったザジはそのままネギ達に振り返りサーカスでの演目を終えたかの如く、恭しく一礼をし、ネギ達に手で村の者達の元へ歩くように手で促した。

「お母さんっ!お父さんっ!」  「お父様っ!お母様っ!」  「スタンさんっ!」  「皆っ!」  「ま、真に……」  「大したもんだな!」

真っ先にアーニャとネカネは両親の元へ飛び込み、ネギはスタンの名を呼び、アリカは村の者達全員へ、ネギの祖父は皆が本当に戻った事に感動し、ナギはザジに対してこの状況に感嘆を表した。
村の者達は皆、今さっきまで悪魔の大群と戦っていた筈だったという記憶に混乱を見せたが、既にその場が違う所だというのに気づき、落ち着きを取り戻した。
薄暗い中、ココロウァ夫妻はいきなり飛び込んできた赤毛の少女に一瞬動揺を見せたが、何度もお母さん、お父さんと泣きながら声を出す少女が誰であるのかを悟り「アーニャ」と一言心を込めて呼んだのだった。
ネカネはその姿に然程変化は無かった為、ネカネの両親である、こちらのスプリングフィールド夫妻はネカネをそのまま受け止めていた。

「スタンさん、お帰りなさい」

「お……おぉ……もしや、ネギなのか?」

スタンは最初に声をかけて近づいて来た少年だけに目を凝らし、ネギであるかどうか自然に尋ねた。

「そうだぜ、スタンの爺さん!」  「そうじゃ、スタン」

「な、ナギ!?アリカ!?お前達まで!」

続けて名を呼んだ2人の人物の姿を見て、スタンは大層仰天した。
そんな中ネギの祖父とザジは未だ薄暗い為扉を開け放ち、外の光を取り入れた。
そこに丁度、螺旋階段の上から、幾つもの足音が響いてきて、息を切らせて予め今日の事を知らせていた何人かの魔法使いが現れ、先程の異常な魔力反応は何かと慌てて尋ねたが、ネギの祖父が「案ずることはない。村の者達は皆無事に戻った」と落ち着いて言葉を返した。
今まで一切音がする事も無かった部屋からはこれ以上に無い程賑やかに人々の声が漏れ聞こえ、間もなく、明るい廊下へと皆ゾロゾロと出てその姿をようやくはっきりと確認する事ができた。

「スタンさん、あの時の事、僕はずっと……ずっとお礼を言いたかったんです。スタンさんのお陰で僕は、今こうして、ここにいます。あの雪の日の夜、助けてくれて……ありがとう……ございましたっ……」

「何じゃ……礼儀正しくなりおってからに。……儂にとっちゃついさっきの事じゃが……あのいたずらばっかりしておったお前がこんなに成長していたのじゃ……あの悪魔に一矢報いてやった甲斐があったわ」

「スタンさん……」

「はーっ!口の減らねえじいさんだなぁ!素直に喜べよ!」

「お前なんぞ、いきなり現れたと思えば何も変わっとらんじゃろうが!馬鹿もんが!」

「あ?いいじゃねぇか!元気な証拠だろ?つか馬鹿って何だよ!」

「馬鹿じゃろうが!子供の顔も見んで勝手にどっかに行きおって!」

「あー!?俺だってなぁ!」

途端にナギとスタンの言い合いが始まり、最初に話しかけたネギはその言い合いがどんどんエスカレートしていく様子を止めようかどうかオロオロし始めた。

「……あ……あの……母さん、止めなくていいんですか?」

「案ずるな、ナギとスタンはいつもこうじゃった。直に終わる」

「そ……そうなんですか?」

「うむ、そうじゃ」

アリカは放っておけばそのうち終わるだろうというのを、安心させるようにネギに笑いながら語りかけた。
実際言葉を早口で捲し立てあったナギとスタンだったが、アリカの言うとおり、いつのまにか仲が良さそうになって言い争いは自然と解決した。
その後、スタンだけでなく、ネギ達は他の村の者達にも挨拶を順にしていき、互いの無事を喜び合った。
……程なくして村の者達が皆大体状況を掴めた所で、ネギの祖父がその場を纏めに入った。
石化を解除したのがザジであることはザジが言わないようにこっそり頼んでいた為に伏せられ、今回の件で口外してはいけない事を一つずつ知らせ、この後の動きについても説明がなされた。
そして、一旦解散となり用意していた通りの手筈で動き出した。
ココロウァ夫妻はウェールズでアーニャが住んでいる家へ、ネカネの両親もネカネが住んでいる家へとこの日は向かい、6年越しの家族団欒を果たす事ができた。
別れる前、アーニャとネカネはザジに深く感謝を忘れずに述べ、ザジは無言ながら笑顔でそれに返し、家族の元へとどうぞ、と手で指し示した。
そして校長室にて、ネギはザジに真剣な表情で改めて感謝をしていた。

「ザジさん、村の皆を、ありがとうございました」

「礼には及びません。プレゼント、満足頂けましたか?」

「はい、それはもう。言葉では表しきれないぐらいに……」

ネギとザジは互いにとても穏やかな笑顔で言葉を交わした。

「……それは良かったです。ネギ先生、これでまた新たに、前へと進めると良いですね」

「!!…………はい、もちろんです。僕はこれからも前に、進みます」

「ネギ先生、頑張って下さい」

「はい、頑張ります!」

こうして、ネギにとって心の根底に最後まで重い重い枷となっていた、メガロメセンブリア元老院が差し向けた悪魔の襲撃によって引き起こされた村の者達の石化という出来事は、ネギにとってはこれからも忘れられはしない事に変わりはないが、一つの区切りがついたのであった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ウェールズの村の人々はザジのあの派手すぎる第二形態で無事全員石化を解除された。
ネギ少年達はあの後3日間ウェールズに滞在し、ザジがいるからという事もありいつまでもいられない……いや、ザジ・レイニーデイが中学校に通う意義というのを考えると、はっきり言って急ぐ必要等ないような気がするのだが、まあそういう事で、ネギ少年一家とザジはアーニャ、ネカネさん達とは別れ、再び日本は麻帆良へと、ロンドン・ヒースロー空港から成田へと飛んでもう間もなく戻ってくる所である。
日付は9月30日、時差の関係であちらでは数時間のズレがあるが、今日が丁度国連総会の元々当初の核軍縮関連について討議がされる予定の最終日である。
因みに、この数日の間で春日美空も魔法生徒バレを果たし、面倒事に巻き込まれるのは結局孫娘とわずかにズレた程度となった。
原因はシスターシャークティがテレビに魔法協会の人間としてテレビに映っているという情報を朝倉和美が入手してしまった事で、そのシスターシャークティが出入りする礼拝堂に春日美空はいつもいるという事から「春日も魔法使い?魔法使いなんでしょ?ねぇ、私に話してごらんよー!!」とどこまでもしつこく追い回された結果、この上なくうんざりした顔をして白旗を上げるに至ったのである。
しかも「美空でも魔法使いやってるんだったら私でも魔法使いなれそう!!」と周りが何故か喜びだし、それはある意味春日美空にとってはどうにも不名誉な気がしてならない……。
そんな所、超鈴音は「早かたネ、ミソラ」とこっそり言い「ははは、マジ、一時の平穏だったわ。儚すぎる……」と死んだ魚のような目をして答えていた。
南無。
さて、少し視点を広く取れば、麻帆良に張られている認識阻害について「そんなモノは解除するべきだ!」という世論が後を絶たないという現象が起きるべくして起きたのだが、やはり正直この辺り、麻帆良の認識阻害についての説明がうまく行き届かなかったとしか言いようが無い。
もちろん、よく知らずに、思考を操作して洗脳まがいの事をしているんだ、という勝手な思い込みを持たれている人達がいる限り仕方のない事ではあるのだが……。
前にも述べたが、解除するのはどうにも逆に危険な可能性がある。
これまで麻帆良の学園結界の定期メンテナンスは年2回20時から24時にかけて行われていたが、これは学園「結界」であって、認識阻害とは関係無い。
学園結界は電力を併用しているが、認識阻害の方は純粋に魔法のみなので、そういう訳なのだ。
勿論、認識阻害は近いうちに解除されることは決定しているので、現在目下、認識阻害を解除するとどうなるかという事について、せめて麻帆良内には徹底した周知が行われ、解除した折に麻帆良内で事故が起こらないようにと準備がされている。
既に先月の時点から日本政府も麻帆良入りをしており、その日時の最終決定には政府も関与する事となるそうだ。
また、この数日で麻帆良内にメディアが多く入り、麻帆良について色々報道がなされた訳だが、技術レベルの違いに麻帆良外の大学、企業が愕然としたのは言うまでもない。
凄くショックを受けた人が続出したそうだ。
それもその筈、これまで超鈴音と葉加瀬聡美がはっちゃけたせいもあるが、各技術それぞれが元々おかしかったが、とりわけ報道された田中さん達に対する反応が酷い。
各所から「あれは本当に自律可動しているロボットなのか!?」や「現行技術から言ってありえない!」という研究者達の嘆きが聞こえてくる有様である。
ネットでは某技研工業が開発した世界初の二足歩行ロボットが後ろに(笑)をつけて呼ばれるようになってしまった。
……実際仕方ない面はある。
サヨが超鈴音達に渡した動作プログラムは要するに私達が技術提供元であり、はっきり言って至高のテクノロジー、もといオーバーテクノロジーもいいところである為、それを動作パターンに取り入られ最適化されている田中さん達はまさにどこかの州知事さんが主演の映画の如く動きまわるのと全く遜色が無いのである。
この情報は今までSNSは超鈴音が、通常の情報系は麻帆良の専門機関が処理していたのだが、それもできなくなった今、瞬く間に日本どころか世界に出回り、世界のロボット業界は震撼した。
「何だアレは、ロマンがありすぎる」と。
とりわけ佐藤さんは女性型であるという事から無駄に人気が出た……。
超鈴音は今年の3月頃、ロボット関連企業に投資しようか……と考えていたのだが、実は結局しておらず、正直これは余計な敗北感を与えずに済んだと思われる。
そんなロボットを作った麻帆良大工学部の人々は超鈴音を含め、基幹技術については公表する意思がある事を声明発表した。
これによって、ロボット業界の人々は震撼したかと思えばすぐに狂喜乱舞し、テンションが上がったと言えよう。
意思はある、というのは、また例によって、技術格差の酷さから、技術の取り扱いについて取り決めが法的にきちんとされないと危険すぎるからである。
当然、その旨についても言及された為、ロボット業界は各政府に対して魔法世界云々もいいが、こっちにも目を向けてくれと言わんばかりにアプローチを始めたのだった。

《正直隠すの無理だとは思ってましたけど……大丈夫ですか》

《いやー!無理だたネ!麻帆良内に浸透させ過ぎたヨ!大丈夫か、と聞かれれば、大丈夫ではないが、何とかなると思うとしか言いようがないネ》

何か凄い投げやりだ……。

《ですよね……》

《しかし、あの画期的動作プログラムについてはまだ公表する気は無いからまだマシな方だヨ。あれは私にとてもオーバーテクノロジーだしネ》

《ええ、急激に技術進歩しすぎると危険ですし、碌な事にならない可能性がありますから》

《麻帆良でさえロボットの暴走はよくあるのだからとてもではないが簡単に情報は公開できないヨ。それに動作プログラムの方は超包子でも使ているだけに、勝手に公開という訳にはいかないしネ》

《そうでしたね。実に真っ当な技術の使われ方ですけど、動作プログラムは流石に無理ですよね……》

《悪用方法はいくらでもあるからナ。それに情報が出たせいで、ただでさえ、ハッキングが増えているのに、更に急激に増えだしたのは勘弁して欲しいネ。メールの確認はプログラムが必要かどうか自動で振り分けるからいいが、それでも数が増えすぎだヨ》

超鈴音のメールボックスの容量がどれくらいか、なんて気にしてはいけない。

《ハッカーの中には突破できるかどうか腕試しているような人もいましたよね?》

《うむ、いるネ。他所でやて欲しいヨ。私も余り大きな声では言えないが》

《あーはい……それ分かります》

私達もハッキングはよくしているが、人間ではないから法に触れてないという事で、言い訳しておこう……。

《しかし、田中サン達は全部一旦回収しておけば良かたのかもしれないが、今更撤収という訳にもいかなかたから諦めるしか無いネ。これで外部がやる気を出してくれる事に期待するヨ》

《そうであってくれると良いですが。……この1ヶ月を思えば、麻帆良の専門機関の情報処理がいかに優秀なのか》

《電子精霊は魔法使いが現代化に合わせて、独自に開発した技術としては特に素晴らしい物の一つネ》

《ええ、お陰で今まで麻帆良に限って言えば完全な陸の孤島を呈していられた訳ですから》

電子精霊は使用者にもよるが、やたらイメージが可愛かったりする事があり、そんなもので情報操作をされていたと分かれば、気が抜ける人が続出しそうだ。

《ふむ、このまま麻帆良が他の魔法協会の拠点とは明らかに違うと知られる日も近いだろうネ》

《他の魔法協会の拠点と比べるまでもなく、麻帆良は土地の影響か、特殊能力や特殊技術を備えた人材・組織が多すぎる事ですね。今はまだまだ、魔法のせいでそうだ、と思われているようですが、そのうち違うのがはっきりするでしょう》

《そうなると、関係が悪化しそうなのが日本とメガロメセンブリア、日本と地球の他国が今のところ可能性が一番高そうだナ》

あり得なくはないというのがなんとも……。

《麻帆良の土地を巡って争いなんて、人気があるのは結構ですが、程々にして欲しい所です》

《この件には私は介入できないから、悪くはならないようにと信じて見守るだけネ》

《まだスタート地点のようなものですし、しばらくは不安定なのは仕方ないですね。……私も同じく、これまで通り見守るのみです》

《うむ、憂いていても意味が無い。魔法が公表されたからには、それを最大限活用してやりたい事を実現してみせるヨ!》

超鈴音にはやりたい事、やる事が際限無くあるので、少なくとも暇になる事は無い。
私にできるのは、協力を頼まれたらそれを手伝う事等や……後は、超鈴音を狙う刺客に目を光らせる事。
例の組織は彼らに取ってこの予想外の世界情勢にどう動きを見せてくるかはまだ分からないし、一切油断はできない。
いずれにせよ目下、次のこの1週間である程度国連で魔法関連について議論が纏まる事を期待するとしよう。



[27113] 71話 寿司進化論
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:50
あー……ほんっとマジ一瞬だったー。
朝倉しつこすぎる。
全速力で走って逃げた所でアレだからね、教室に戻ればすーぐやってくるし。
しかも何か私が魔法生徒で魔法使えるなら誰でも魔法使いなれそうって皆楽しそうにしてるけど、それ……どうよ。
このかがやってると難しそうみたいなイメージが、私でもってんなら自分もできるって言いたいんスか……。
あれだよ、魔法なんて難しさの問題じゃないスからね。
魔力容量無いと魔法無理なのは事実だけどさ。
大体毎日魔法使うのかって言ったら私なんか……まー、あれだ、イタズラ魔法とかボイスチェンジで遊んだり……することもあったりするけど、絶対必要っていうのでもないし、ゆーな達が「将来魔法使いになりたーい!」とか喜んでるのは、もう全然分かってないスね。
ゆーなのお父さんは娘に魔法使いだっていうの話したらしいけど、杖も本も特に渡してないらしく、このかに「何か教えてー!」ってせびってた被害が私の所まで来たのはマジ勘弁。
面倒な事になりそうだったから、杖とか本は今全部私の魔法生徒バレの元凶のシスターシャークティの所に……皮肉な話だけどそこ以外無いから預けてある。
お陰で女子寮の部屋に朝倉達に押し入られて家探しされた時「春日!今度こそ杖は杖!?箒はー!?」って言われても「そんな物は無いッ!!」って言ってやった。
ははは!一泡吹かせられたぜッ!
……まー、そんな訳で疲れた、うん。
そんな私を気遣ってか同室の五月が作ってくれるご飯美味い……泣いてもいいか。
五月はマジ幸せの化身。
で、じゃあそういやこのかは杖とかどうしたのかってこっそり聞いたら予めエヴァンジェリンさん所とか、桜咲さんとたつみーの部屋、後はこのかの師匠の所にそれぞれ預けてあったらしい。
つか、その時このかの師匠があのクウネルさんだったの今更聞いたんだけど……驚いたわ。
てっきりじじぃかと思ってたし。
実際クウネルさんは治癒魔法の腕は凄いらしい。
腕の骨折でも詠唱一発その場で後遺症無く治るとか、どんだけ。
それはともかく……今日から10月に入って、魔法が公表されてからはえーっと……9日目か。
まだまだこれからスね……。
はー、まあ魔法使いだってのがバレたからって今のところ、それこそついこの間までいた魔法世界の拳闘大会とかのやたら殺傷力のある魔法とかは不用意に映像で公開されてないから、変に喧嘩売られたりしなくて済んでるし特に生活に変わりは無いんスけどね。
いや、変わったと言えば、まぁ、あれだ、陸上部かな……。
私陸上部で足速いから実は!なんて勿体ぶらなくてもエース!なんだけど、魔法使えるって知られて「実は魔法のお陰で速いの?」とか周りに聞かれたのは……あれは困ったなぁ。
ネギ君達じゃあるまいし、部活で自分に魔力供給して走ったりなんかしてないから。
皆には魔力供給だとか身体強化なんて言っても意味不明だろうから「魔法で補助してまでわざわざ毎日陸上部で走っても達成感なんて無いから使ってない」って答えといた。
皆もそれで「ごめん美空……普段適当な所あるのに、走ってる時はいつも生き生きしてるし、それなのに魔法使ってなんか無いよね」と分かってくれたんだけど、何か寧ろ私が言葉返しにくい雰囲気になったのは何故。
というか、判定基準に私が適当ってのが入ってるのがまた気になるんスけど……それは敢えて突っ込まなかった。
まー、そんな感じで、ここ最近を振り返りつつ、今日の授業も終わったー!!
ネギ君の姿が教壇から消えてしずな先生が担任になってから1ヶ月経ったけど、何か慣れたなー。
委員長がいつもホームルームの時危なそうだったのが懐かしいスよ。

「はい、皆さん、世間は色々大変ですが、既に告知はされているように、10月10日から今年も去年に引き続き4日間体育祭は行われますから体調管理には気をつけるようにね」

「「「はーい!」」」

鳴滝姉妹はいつも元気だなー。
あれ……今年のウルティマホラは超りん噛んでるのか……?

「超りん、今年のウルティマホラは超りん絡んでんの?確か要項に名前は載ってたけど……」

「私も忙しいから、去年程ではないがスケジュール管理には今年も一応協力しているヨ。でも段取りは去年の経験があるからほぼ実行委委員会任せネ」

「あー、そっかそっか。でも忙しいって……例の田中さん達の事スか?」

「それも含めて、色々ネ」

私麻帆良祭でめっちゃ追いかけられたからアレの怖さは良く覚えてるけど、そういや麻帆良は凄いとは思っても、明らかに変じゃ?とかは思わなかったからなー。
ニュースではっきり出て気づいたけど………認識阻害改めてスゲー。
確か情報系の対策って魔法協会は勿論、他複数の専門機関で対策取ってるって聞いた事あるけど、シャットアウトしまくってたんだな、ずっと。
地味すぎるけど……凄く大事だったんだなー。

「あー、超りんの場合あちこち所属してる所あるから忙しいのはいつもの事か」

「その通りネ」

「で、運動がてらにウルティマホラには出ないの?」

「今年は遠慮しておくヨ。古もそうだしネ」

「はははー、くーちゃんはなぁ……」

魔法世界で修行してた所見たけど、最早インフレしすぎで、ウルティマホラに出るまでもないって感じだもんなー。
あれだよ、拳一発で大岩が割れるんスよ……そんなの一般人喰らったらどうなるかなんて分かりきってるわー。
気を使わないっていうならまだアリかもしれないけど、格闘技系だとその辺がな……気の扱いも一応修行の成果って事だし。 
地球の格闘技これから魔法世界の拳闘大会の映像とか流出したらどうなるんだろ。

「……美空、ルールがあってこそ、競技というのは楽しめるのだから早々変わらないヨ。いずれは変わるかもしれないけどネ」

おいおい……超りん、だから心を……。

「またかーって……そうスね。確かにルールは大事だわ」

楓と短距離走やったら泣けるしな……。
長距離瞬動術だっけか、あれでスタートの段階で足に気を溜めとけば?……かな、世界新記録どころの話じゃないし。

「それでは、今日のホームルームはここまでね。今日の掃除は4班の人達忘れないでね。それじゃ雪広さん、お願いします」

「はい、先生。起立!」

おっと……終わってたか。
席から立ってと……。

「礼!」

私は精神的に大分疲れてるけど皆は元気に挨拶して今日も学校は終わり。
体育祭も近いし今日も部活行くかー!
……ってその前に私4班だから掃除だ。

「美空、またナ」

「おう、超りん、またね」

運動部系の皆は体育祭近いからすぐに教室を後にしていった。
超りんは……あの様子だと今日は葉加瀬と工学部って訳じゃないみたいスね。
そして我らが班長のアスナは……。

「じゃ、さっさと掃除終わらせよっ!」

「そやね!」

「はいです」

「りょうかーい」

「ああ」

アスナ、このか、ゆえ吉、長谷川さんで組まれたこの4班ももう長い事変わってないなー。
にしてもアスナやたら元気いいな今日。
一方長谷川さんは……この前より少し元気になってるか。
教室の長机を手分けして下げーの、箒で掃きーのと。

「アスナー、何か今日いいことあったのか?」

「えー?それはね!……ひみつ!」

清々しすぎる笑顔で答えるのを拒絶されたし。

「はぁー!?」

「ふふふふ」

不気味だぞ……。

「美空ちゃん、帰ってくるんやよ」

「あ、なるほど」

このかがこっそり通りがけにそう言って教えてくれたけど、そういう事か。
ネギ君達が戻ってくるんスね。
って事はザジさんもか……一体何者というか何用でーって、あの墓守り人の宮殿でザジさんの姉が現れたって事だったらしいと楓達はそう言ってたから……また何か特殊能力持っててそれ関係かねぇ。
あの時ネギ君いなかったから真相は良くわからないスけど。

「…………」

「……長谷川さん最近疲れてたみたいだけど少し良くなった?」

「春日か……ああ少しな」

どうも少し元気になったのは、例のロボット関係の報道がされてからなんだけど……。

「良かったスね」

でー、結局アスナが異常に働いて、掃除は本当にさっさと終わった。

「それじゃ掃除終わりー!!このか、ゆえちゃん、美空ちゃん、長谷川さん、またねっ!」

「ほななー!」

「はいです」

「ちゃんと前見ろよー!」

「大丈夫よー!!」

……また馬鹿みたいな速さで走ってったなー。
廊下は走るなと……まああの様子じゃ無理か。
長谷川さんもさっさと帰っていった。

「ゆえは良いん?」

「ご家族がいるですし……行くならのどかもと」

「ほうか~」

ネギ君に想いを寄せているのは相変わらずみたいスねぇ。
接点が激減してるからどうなるんだか。
……ま、それはそれとして。

「じゃ、私も陸上部行ってくるよ!」

「行ってらっしゃい、美空ちゃん」

「行ってらっしゃいです」

よーし!体育祭で1位取るぞー!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今日放課後、私は久しぶりに、五月さんが常駐している超包子に働きに来ています。
外来の人が増えているので今稼ぎ時なんです。
色々騒がしいですけど、経済的には潤いますから。
火星の方は隔地観測を無理やりしてもいないので、放っておいて大体大丈夫ですし、魔法世界の情勢自体はまほネットに介入して走査してまとめて情報収集するので問題ありません。
計算を手伝う必要も、鈴音さんが今日は雪広グループに行くのでこちらも問題ありません。
外国の方のお客さんでも私言葉は普通に話せるので対応できますし、役に立っているんです!
……と、言ってもまだ部活動中の時間ですし、企業も仕事が終わっている時間帯でもないので……まだ忙しくありません。
そんな所へ、やってきたのは……珍しい人達でした。

「いらっしゃいませ!」

「お嬢さん、注文よろしいですか?」

「ふむ……ここが超のやっておる店か」

「はい!いかがなさいますか?」

こうして直接話すのは私は初めてですね。

「では……」

「ワシは……」

……何か……注文3時のちょっとした腹ごしらえなのかと思えば結構多かったです。

「以上でお願いします」

「はい、承りました。五月さん、注文入りました!」

「はい!」

早速五月さんと一緒に手分けして調理を始めてできたそばからカウンターに座ったクウネルさんとゼクトさんの前に出して行きました。
もぐもぐと良く噛んで次々ゼクトさんは皿を空にして行き、クウネルさんは流れるような動作でいつの間にかこちらも皿を空にして行きました。

「いかがでしたか、ゼクト?」

「うむ、満足じゃ。とても美味い」

「それは良かった。ここは超さんの友人が直に調理している店だそうですから。お嬢さん……合っているでしょうか?」

「はい、合っています。料理満足して貰えたみたいで嬉しいです」

「できれば、よく差し入れ、感謝しているとお伝え下さい」

「はい。鈴音さんに伝えておきます」

「……なるほど、やはりもう一人は貴女でしたか」

クウネルさんとゼクトさんが私に視線を向けて来て……。

《念話で失礼します。初めまして。私はアルビレオ・イマ、クウネルとお呼び下さい》

ゼクトさんにも繋がっているみたいですね。

《はい、初めまして、クウネルさん、ゼクトさん。私は相坂さよと言います》

《既に知っておるようじゃが、ワシはゼクトじゃ。お初にお目にかかる》

《さよさんがもう一柱という事でよろしいでしょうか?》

《はい、そういう事です》

《……この場で念話であまり深くは話すのは遠慮しておいた方がよさそうですね》

《そのようじゃな》

《では、さよさんももし宜しければ私達の住処へどうぞいらして下さい》

《……はい、ありがとうございます。鈴音さんが行く時に一緒に付いていく事にします》

《その時はお待ちしています》

……たったこれだけで念話によるクウネルさんとゼクトさんとの会話は終わりでしたが、ここではやっぱり話し辛かったですね。
2人は「また来ます」と言って超包子を後にしましたが、観測してみた所、今度は違う店へと向かっていったのですが、麻帆良巡りをしているらしいです。
というか……クウネルさんは……。

《先月頃からいつでも出られる体勢に入っていたんですが、どうやら今日出てみる気になったそうです》

あー、丁度のタイミング。

《そうだったんですか。私はクウネルさんとは直接の関わりを持つ必要無かったので確認してませんでした。まほら武道会で姿は見られていましたし、私の事に気づいているのは当然ですよね》

《そうですね。クウネル殿が今日地上に出てきてサヨと会ったのは、超包子で働いていたからこその偶然ですが》

《このまま会わないという可能性もあったんですよね》

《あくまで可能性ですが、既に今更です。珍しい事ですし、あの2人の様子を視るというのも面白いかもしれませんね》

《ゼクトさんが確か地球に不慣れなんでしたよね?》

《ええ、独特の感性を持っているようです》

《視る余裕はあるので、って当たり前ですけど、視てみますね。キノもそういうからには視るんですよね?》

《勿論です》

やっぱり。
……と、いう事で、超包子で働き続けながら2人を観測して追跡してみましょう……。

「ゼクト、最初の一軒目で食べ過ぎではありませんか?」

「問題ない。次の蕎麦というのは軽いのじゃろ」

「ええ、確かに中華料理程はもたれませんが」

「ならば問題あるまい」

「蕎麦には醤油ですからゼクトは気に入るでしょうね」

「詠春の鍋で使っておったアレか」

2人は麻帆良の蕎麦屋さんに入って行きました。
まだまだ時間帯的に混んでいないので入ってすぐ席に着いた2人でしたが、ゼクトさんはメニューの多さにどれを選べばいいか迷っていました。
……というか、さっき選ぶのが面倒だったから適当に沢山頼んだのでは無いですよね……。
クウネルさんもいたのでそれは無いと思うんですけど。

「アル……こんなに色々あるとは聞いておらぬぞ……。食べきれぬではないか」

あれ……やや頬を膨らませているんですが……そこがちょっと鈴音さんに似ていますね。

「私も全てのメニューを把握していませんよ。出て来たのも3ヶ月振りですし。それより、ここは一つ頼むのに留めておくのが良いと思いますよ」

「むむ……どれが良いじゃろうか……」

「では……私はこのざる蕎麦寿司セットにしましょう」

「何、寿司じゃと?」

ゼクトさんが寿司という単語に異様に反応しました。

「ほら、これですよ。蕎麦がメインですが、それに寿司がついてるのです」

クウネルさんが該当ページのメニューをゼクトさんに指を指して見せました。

「ほう、なるほど、一つで2度美味いという訳か。侮れんな。ならばワシもそれにしよう」

それ意味違いますよ……。

「フフフ、ではそうしましょうか」

結局2人共ざる蕎麦寿司セットを注文し、少しして届き早速食べ始めました。

「ほう、蕎麦とはこういうものか。しかしこれは醤油か?」

「醤油は入っていますよ。これにはだし等他の物も入っているのです」

「だしとな?」

「ええ、それによってこの蕎麦にあったつゆになっているのでしょう」

「奥が深いようじゃな。このあっさりした味わい、良いものじゃな」

「この音を立てて食べるというのが重要だそうです」

「食べるだけではなく音も楽しむという事か。風流じゃの」

そんな事を話しながらズズズッと蕎麦を食べているのですが……何か、凄く面白いです。

「さて、寿司じゃが……これはマグロとやらか?」

「ええ、マグロです。こちらは醤油で食べるものですよ」

「刺身の前に寿司を食べる事になるとはの……」

「刺身の方がよかったのですか?」

「刺身、寿司と順に段階が上がるのではないのか?」

何ですかその進化論みたいな話。

「段階があるとは私も初めて知りました。しかし気にしなくとも、それぞれ刺身は刺身、寿司は寿司で味わいがあると思いますよ」

「ふむ、そうか。では、食べるとしよう」

「フフ、そんなに構えて食べるのもゼクトぐらいのものでしょうね」

「むぐ……うむ、美味いな。……アルは詠春の所で食べた事があるのじゃろう?」

「ええ、それはもう、頂きましたよ」

「詠春の所に行けば色々食べられそうじゃの」

「たかりに行きますか?ナギ達は京都旅行に行くと言っていましたが……水を差すつもりはありませんがおこぼれには預かれそうですね」

「ふむ、食事に同席するぐらいは許されないものかの」

「京都ならば、寺や……色々と風景も楽しむことができますよ」

「写真で少し見たが……アル、座標は?」

「気が早すぎですよ、ゼクト。道中を省くのではなく、新幹線に乗って行くというのはいかがですか?」

「鉄の蛇じゃったか」

「蛇という程曲りはしませんが」

明らかに普通とは違う会話してますね……この2人。
原因の殆どは……キノが思ったとおりゼクトさんですけど。

「ふむ、各地を巡るというのも悪くは無いな」

「日本だけでも北海道から沖縄まで見所は多いかと」

「しかし、ワシは一切金を持っておらぬ」

「……言うと思いました。問題ありませんよ、私はこれでも蓄えがあります」

「アルに頼ってばかりというのも良くないの」

「働いて稼ぎますか?」

「うむ、それも暇な今良いかもしれぬ」

暇というには魔法使いの皆さん人手が足りなさそうな状況ですけど……。

「しかし、ゼクトのその姿では、どうでしょうね……」

見た目子供ですからねー。

「姿を変えればよかろう」

「おや、これはこれは……もう少し悩むかと思ったのですが」

「今まで使った試しが無かったが、あるものは使うに限る」

「一度も使った事が無いだけに思いつかないかと思ったのですが、流石ゼクトです」

「当然じゃな」

「では……そろそろ店を出るとしましょうか」

「うむ」

クウネルさんが話を一旦区切り、勘定を済ませ、蕎麦屋を後にして、その後、2人はラーメン、牛丼と次々店を跨いで行き……あれー、良く食べられますねー。

「ゼクト、働くと言っても何を?」

「それは考えておらぬ。これから考えればよかろう」

「……そうですね。どうも、ゼクトがそのままの姿で働く姿を想像してしまうのでイメージが湧きませんね」

「ワシもできるなら姿を変えずに済むならその方が楽じゃ」

「学園長に言えば、警備員にはすぐになれそうではありますが、状況が状況ですからね」

「……協会がどうなるかによるじゃろう」

丁度2人が歩いているとたこ焼きの屋台がありました。

「おや、たこ焼きですね。買って行きましょうか」

「任す」

分かってましたけど完全に食べ歩きでしたね。
クウネルさんがたこ焼きと2パック買い、今日はそのまま図書館島の方角へと戻り出しました。
たこ焼きを2人で食べながらゆっくり歩いて行くのですが、何故か親子には全く見えないので周囲から浮いて見えます。

「誰が考えたか知らぬが、タコを入れるという発想は素晴らしいの」

「あちらの祭りではたこ焼きはありませんからね。ゼクトにとっては新食感でしょう」

「似たような物は食べた覚えはあるが、違うものじゃな」

「文化の違いとは興味深いものです」

2人はたこ焼きを道中食べ尽くし、そのまま図書館島へと続く桟橋を渡り切る……という所でした。

「あ!せん……くーねるはん!それにゼクトはんも!」

近衛さんが綾瀬さん、宮崎さんと早乙女さん達と図書館島から逆に、部活を終えて帰ろうとしていた所、クウネルさんに気づいたのですが……今完全に先生と言おうとしましたね。

「これはこれは、このかさん、今日は図書館探険部ですか?」

図書館島の地下を探険する部活……まだ今のところ活動中ですが、本格的に政府が入ってきたらどうなるのでしょうか。
本を保管しているのに水に浸かっていたりするエリアもあるのですが、それは魔法なので保存状態には問題ありませんけど、普通の人が見たら疑問点ばかりですよからね……。

「えー!ちょっとこのか!誰このイケメン!知り合いなの?こっちのネギ君ぐらいの男の子も」

早乙女さんが一瞬でテンション上がりました。
綾瀬さんと宮崎さんは空気を読んで初めて会った振りをしています。

「おやおや、元気の良いお嬢さんですね」

「えっと……ハルナ、こちらはくーねるはんとゼクトはんや。うちの……おじいちゃんの知り合いやよ」

「あ、学園長の知り合いかー。じゃあ、やっぱ、魔法使い?」

早乙女さんの口元がニヤッとしたのですが……完全にスイッチ入っちゃいましたね。

「それはどうでしょうかね。どう見えますか?」

「うーん、何ていうか、そのローブ、魔法使い!って感じします!」

「服装だけで相手の事を判断するのは早計ですよ……と言いたい所なのですが、魔法使いであることは認めましょう。このかさんがこの後追求されるのも悪いですしね」

「おおー!やっぱり!で、今から図書館島に行くのは何の用ですか?」

「少々ここの蔵書に用がありまして」

蔵書に用があるどころか住み着いてます。

「あー、意外と普通ですね」

「図書館ですから」

「そのままじゃな」

「お嬢さん方、些か先を急ぎますので気になる事もあるかもしれませんが失礼させて貰います」

「ほな、くーねるはん、ゼクトはん」

「うーん、色々聞きたい事あるんだけどなー。ま、今日はもう帰らないといけないし仕方ないか」

早乙女さんにしては諦めが早く、クウネルさんとゼクトさんはそのまま図書館島へと入り、戻っていきました。

「で、このか、あの2人一体何?最近図書館島、魔法使いだった先生達の出入り多いって聞くけど本当に蔵書に用があるだけなの?」

「うちもおじいちゃんに紹介されただけで良く知らないんよ」

「んんー?ほんとかー?このこのー、正直に言ってごらんよ」

「あーん!うち帰るー!!」

早乙女さんに動きを封じられてジタバタしながら、帰ると声を出し、綾瀬さんと宮崎さんが早乙女さんを止めに入り、なんとか収まったのですが……結局近衛さんが追求を免れるなんて事は……無かったです。
頑張ってください。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

雪広グループとまた打ち合わせをして、人工衛星の開発に協力を得られそうな企業のリストは受け取たし、私の他の今後の企画も少し提案してきたが、雪広グループは元々裏の事情を理解してくれていたからやはり心強いナ。
私はそれで今日は女子寮に戻たのだが、翆坊主から通信が入たネ。

《超鈴音、長谷川千雨に認識阻害の話をしてみてはどうでしょうか?彼女、麻帆良外の反応が自分と同じであったことに少しばかり溜飲が下がったようですが、ますます疑問と違和感が膨れ上がっていると思われます》

《千雨サンか……。そうだナ。千雨サンは未だ3-Aの一人一人に素を見せていないからこのかさんと美空がその話を切り出す筈も無いし、逆に千雨サンから聞く筈も無いカ》

《認識阻害を完全に無視しているのが彼女と私、サヨと言っても過言ではないとはいえ、接触するには私は論外ですし、サヨも微妙です。ここは交流もあり、事情も知っている超鈴音以外適役はいないかと。私にしてはお節介だとは思いますが》

《翆坊主にしては確かにお節介だナ。しかし、私のクラスメイトでもあるし、魔法に悪い感情を持たれるのも良くない……その千雨サンの体質について話してみる事にするカ》

《超鈴音、それではお願いします》

《任せるネ。魔法球に入る前に行てくるヨ》

私も少し声を掛けておこうかと思たが、忙しくて後回しにしていたからナ。
常に緊急でもないのだらから、時間を割くぐらい何程の事でも無いヨ。
……千雨サンの部屋のインターホンを鳴らして。
……また出てこないつもりかナ。
お、扉が開いたヨ。

「……超か。何かまた用か?」

「そんな所かナ」

「じゃ、入れよ」

「邪魔するネ」

何度も入た事があるが、特に変化は無いナ。

「今度は何だ?まさか超も例の魔法使いだって言うんじゃねーだろうな」

魔法は使えるから魔法使いと、単純に言ていいかは難しい所だネ。

「私は科学者だヨ。だが、魔法の事を知らないという訳ではない」

「……結局それかよ」

「千雨サンは麻帆良に張られているという認識阻害という魔法についてどう思うネ?」

「私には全く効果無いようなはた迷惑な欠陥魔法ってとこだな」

酷く不機嫌な様子だが……無理も無いカ。

「そうか……心当たりはあたが、やはり千雨サンには効果が無いように感じられていたカ。効果が無いと感じられたのは魔法の精度のせいだと思うカ?」

「それは私に問題があるって言いたいのか?」

そう思う所は千雨サンもあるのだろうが、更に不機嫌そうな顔になたネ。

「問題があるかないかという事について話すつもりは無いが……千雨サンは恐らく単純に認識阻害が効かない体質である可能性が高いヨ。それもほぼ100%ネ」

「おい、ちょっと待て、体質だって?何だよその都合の良い体質はよ。そんな事言われたって公表された情報にそんなの載ってなかっただろ」

「非常に珍しい体質、例外と言ても過言では無い。千雨サンがその体質であるという前提で話をするとして、今まで千雨サンは周りがおかしいと思た事はあるのだろう?」

「そりゃおかしい事だらけだろ!特にお前とかな、超。何だよこの前のニュースは」

「千雨サンにとてはおかしいかもしれないネ。麻帆良の外の人達にとてもネ。でも私にとては当たり前の事ネ。私は、他の人とは違て私の技術について、認識阻害に関係なく当たり前だと、麻帆良の内外関係なくそう言う事ができる」

「なっ!?当たり前?超の技術や麻帆良全体の異常性はあの魔法使いって奴らの仕業なんじゃねーのかよ。前超の依頼を受けた時もそんな事言ってたような気がするけどよ」

翆坊主が気にしていただけに誤解しているナ……。

「それは違うネ。魔法使いの科学技術力は私程高く無い。私の技術が魔法使いの魔法による恩恵だというのはありえないヨ」

「……その言い方だと、お前が世界で一番科学技術力が高いって言ってるようにしか聞こえないぞ……」

「そうだヨ。はっきり言て私の科学技術力は地球、火星の両惑星において現時点で最も高い」

未来人なのだから当然だけどナ。
これは千雨サンに言ても特に問題は無いだろう。

「おいおい……本当にはっきり言うな……」

「事実だからネ。そもそも私の技術は科学一辺倒なのだから魔法というある意味言てみれば正反対のような物の影響だというのはそもそも変だとは思わないカ?私はそんな技術を持ているからか、麻帆良の外に出ると命を狙われる事が多くてネ」

「突然命に関わる話かよ……ッチ……非日常的すぎて私の堅実な現実感が微妙に揺らいでくるな……。まあ……普通に考えて見ればありえるか。ん……って事は」

「そう、麻帆良は警備レベルも高いし、認識阻害を含め情報処理もされているというのは、私にとては寧ろ好都合で、必要でもあたヨ」

「麻帆良に守られてたって事か……」

「そうだネ。私は地球では今の所麻帆良でしか安心して生活はできないと思うヨ。千雨サンにとては麻帆良は妙な場所かもしれないが、麻帆良に住む、私を含めて、特殊技能、特殊能力を持つ人々にとては、麻帆良は知らず知らずのうちに安全な場所になているんだヨ」

「……何が言いたいのか少し分かってきたな……。要するに、麻帆良は認識阻害があった方が良くて、認めたくはねーけど、超の言うとおり私がその認識阻害の効かない体質ってのを持っている特殊なケースだってのは間違いなさそうだな……」

「千雨サン……千雨サンも麻帆良に守られていたという事には気づいているかナ?」

「は?私も守られてるって?どうして私みてーな一般人が」

「常識人だと思ている割に自分に自覚は無いようだネ……。千雨サン自身のプログラミング技術やハッキング技術、それは前にも言たが……充分一般人離れしている。外に出ればすぐに引手数多だヨ。最大手OS会社もすぐに飛びつく程にネ。現時点で世界一の科学技術力を持ているこの超鈴音が保証するヨ。それに千雨サンのネットアイドル界での活躍も、自身の写真だけでなくプロフィールに女子中学生だというのを公開して、多少の情報操作をしているにしても……あれだけの人気があるにも関わらず、悪質なストーカーの一人も現れず、この住んでいる女子寮の事を特定される事も無いのは、麻帆良、魔法使いと専門機関が常に水際でそういう案件を防ぎ、麻帆良内での事自体にも自治をしている、その保護を受けているからだヨ」

長々話してしまたが、千雨サンの表情がどんどん変化していたネ。

「!!…………言われてみれば……確かにただの女子中学生に簡単にあちこち突破できるなんておかしいじゃねーか……。ネットの方の個人情報だって全部自分で処理してるし、普段は眼鏡かけてるから大丈夫だと思ってたが……そんな訳、ねーよな……。実際何も無かったから勝手に安心してただけって事かよ……。でも、私のプログラムやハッキング技術は魔法なんてモンじゃなくて私が自分で得た物だってのは自覚があるってのに……何だこの違和感は……」

「そうだヨ。千雨サンの技術は千雨サン自身の力で手に入れたものネ」

「それは……本当、なんだな?」

「断言するヨ。人の才能を伸ばす魔法なんて都合の良い物はありえない。もしそんな魔法があるならわざわざ地球のこの麻帆良ではなく、あのメガロメセンブリアという国の首都がある魔法世界でやればいいだけで、ここで魔法使いがそんな魔法を使て無用な混乱を招くような事をする理由が無い。彼ら自身が混乱を招かないようにという配慮をしての行動なのだから、逆にもしそうだとしたら余りにも矛盾しているヨ」

「……それもそうか……魔法は関係無いってのはわかったが……。じゃあ……一体この麻帆良って何なんだよ……」

「それは私にもはっきりした事は分からないヨ。恐らく原因は土地そのものだと思うネ」

「土地?」

「麻帆良にいる、特に麻帆良で育つ人々は何らかの才能に目覚め、伸びる事が多い。これは他所ではありえない事ネ。魔法使いが直接的関与をしていない以上土地そのものに原因があると考えないと説明がつかないヨ。科学者としてはこんな非現実的な事を言うのは変な話だけどネ」

「全くだな……そんなそれこそ奇跡みたいな魔法みたいな力が土地にあるなんてよ……」

「千雨サンの両親が千雨サンを麻帆良に入学させたのは全部エスカレーターというのもあるが、そういう噂を聞いた事があるというのも一つの理由ではないかナ?」

「確かに私も麻帆良は良いって勧められて……調べてみれば設備は整ってるし、寮室で生活できるし、受験はしなくて良いし……あー、やっぱ何だかんだ麻帆良に染まってんだなぁ……」

「別に悪い事では無いと思うヨ」

「そうだろうけどよ……最大の誤算は私が認識阻害の効かない体質だったってことか……。でも何で魔法使いの先生達がいるってのに私にその話をしに現れたのが、超、お前なんだ?」

「ふむ……これはネタバレなのだが、この認識阻害は麻帆良の魔法使い達にも精神的に負担にならないよう全部ではないがきちんと効いているから気づかないのではない、気付けないんだヨ。私が気づけたのはクラスメイトとして先生達よりは身近な存在だし……それと、少し受信した電波で聞こえてきたお節介のお陰ネ」

「……はーッ……何度目か分かんねーけど、そういう事か。で、何か?超は火星人だからってマジで電波でも受信……火星って、ちょっ……冗談抜きにお前まさか魔法世界って奴の出身じゃねぇだろうな?」

「残念ながら、それは違うナ。私の秘密はこの世界にも匹敵する機密事項だから教えられないヨ」

「前と同じ事言ってんじゃねーぞ……」

「ハハハ、それ以上の詮索は無用だヨ。私が魔法に詳しいのも含めてネ。本題は千雨サンの違和感と疑問を解決する事だたのだが……どうかナ?」

「ああ、スッキリしたよ。私の普通の中学生活を返せと言いたいとこだが……麻帆良だったらどっちにしろ世間での普通じゃなかったろうしどっちに転んでも同じか。誰にも話さなかったのも……本当に嫌なら先生に、駄目だったら学園長にでも相談すれば良かったんだしな」

「認識阻害の効かない例外的な体質の人に対する配慮がされていなかたというのは紛れもない事実だと思うけどネ」

「ま、何言っても今更だな。もうすぐ認識阻害解除するんだろ。せいぜい驚きやがれっての」

「ハハハ、今後の麻帆良に一番適応できそうなのは千雨サンになりそうだネ」

「皮肉すぎるだろ……」

「ふむ、これぐらいかナ。ただ、千雨サン、私は忙しいが話を聞く時間ぐらいはあるし、教室でも話はできる。3-Aの皆は個性が濃すぎるのは私も認めるけど、皆は基本的にアレだからネ。後は、千雨サン次第だと思うヨ。さて、お節介はここまでだネ。千雨サン、お邪魔したヨ」

「はっ……本当にお節介だな。まあ……その……何だ……ありがとよ」

「フフ、礼には及ばないネ」

……これで千雨サンに少し変化があるかもしれないし、それともこれまで通りかもしれないが、私は前者の方を期待しているネ。

《超鈴音、ありがとうございました》

《翆坊主に礼を言われる事でも無いだろう?まさか罪悪感でも覚えたのカ?》

《感情のコントロールにかけては自信ありますから。私自身にとって特に意図も無くただの善意で活動するのは避けるべきことですが、それでも……全く無いと言えば嘘になりますかね》

《相変わらず人間臭い精霊だネ》

結局間接的に関わっていると思うのだけどナ。

《それは褒め言葉と受け取っておきます》

《さて、私は作業に入るヨ》

《何か手伝いが必要であればいつでもどうぞ》

《私は特別扱いだナ、翆坊主?》

《ええ、特別ですから》

《……よく言うヨ。必要になたら遠慮せず言うネ》

似たようなやりとりは前にもした事あるナ。

《了解です》

比べる事はできはしないが……この「私」はきっと……恵まれているのだろうネ。



[27113] 72話 超林サッカー
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:50
10月1日を少し振り返ろう。
ネギ少年達は再び麻帆良に戻り、エヴァンジェリンお嬢さんの家で神楽坂明日菜が学校を終えて一目散にやってくるまで待って再会した。
その後、スプリングフィールド一家はずっとエヴァンジェリンお嬢さんの家に滞在しているのもどうか、という事で麻帆良内にホテルを借りて滞在する事になったのである。
ネギ少年達は話をした結果、神楽坂明日菜にとって中学最後の体育祭が近い事から、京都旅行は10月中旬以降となった。
ナギとアリカ様にとっても、麻帆良の体育祭が見られるのは、きっと楽しめると思う。
一方、クウネル殿とゼクト殿は図書館島から地上へと出て、あちこち店に入って食べ歩きをしていた訳だが、多分この2人はネギ少年達が詠春殿の住む総本山に行く時は本当にちゃっかりタイミングをあわせて現れそうである。
勿論、その辺事前に連絡は入れておく事はするだろうが。
そしてもう一つあの日、長谷川千雨に認識阻害の説明をするよう私が超鈴音に頼んだ訳だが、流石というか、誤解と違和感はきちんと拭われ彼女は自身の口から言った通り、スッキリした様子であり、何よりである。
さて……今日はそれから数日が過ぎ、10月8日。
国連総会で1週間に及んだ、火星、魔法世界、魔法協会……と魔法関連に関する議題が討議され、各国の迅速な努力の甲斐あって現時点での一応の決着が着いた。
全部が全部丸く収まった訳では到底無いのだが、かと言って、魔法、魔法世界の存在という世紀の大事件について地球の世論はそんなに議論にダラダラ時間をかけるのを大目に見る程、まったりしてはおらず、寧ろ1週間で何とか済ませたという方が正しいかもしれない。
これにはクルト総督らが頑張っていた事もあり、メガロメセンブリア側から国連総会へ纏まったプランの提案がなされたというのはやはり大きかったであろう。
まず、メガロメセンブリアは事務総長が提案した通り、国際連合に加盟を果たし、193ヶ国目の加盟国、それも火星に存在する国というまさに異例中の異例となった。
主権を持った国家としてメガロメセンブリアは認められ、国際連合安全保障理事会の召集、そしてその安保理と総会で国際連合加盟国としてあっという間に承認されたのである。
これは私も驚いた……というか違和感しかない。
2006年にはモンテネグロが加盟する筈であり、更には地球に存在する中華民国を差し置いているというのが……これは何なのだろうか。
因みに、モルモル王国は以前から国際連合に加盟しているので、193ヶ国目なのである。
数が違うとか思うかもしれないが、そこはお分かり頂きたい。
そして、めでたく地球の殆どの国に外国として認定されたメガロメセンブリアは、魔法協会のある各国と個別に会談し、各国首都に大使館に似たような形式のメガロメセンブリア出先機関を置く取り決めをした。
既に存在する魔法協会自体も、限りなく大使館に近い権限を有した総領事館に似たような形式の機関として認定される事となった。
ややこしい事になっているが、そもそも大使館というのはその国の首都に置かれるものである。
例えば麻帆良の魔法協会は当然埼玉県にあり、首都東京ではないので、首都以外に置かれる総領事館のような扱いにするしかなく、結果、東京にメガロメセンブリア大使館のような出先機関が設置される事が決定した訳だ。
しかしながら似たような形式の出先機関というだけあって、正真正銘厳密な意味での大使館でも総領事館というものでもない。
何しろ本当に大使館としてしまうと亡命希望者が突然沸いて出てくる可能性があり、無用な騒ぎを招くからである。
実際にもし本当にそのまま大使館にしてしまえば、十中八九その場の適当なノリか本気かはともかく「ちょっと魔法世界の国の民になってくるわ」と入り込む輩が出る可能性は充分ありそうだ。
似たような形式についての厳密な説明は省くが……魔法協会については、要するにメガロメセンブリアとその対応国の主に監査に重点を置いた暫定的共同管理扱い、と言った感じになったと言えば良いであろうか。
まあ……大体予想した通りである。
結局の所、細かく決めるのには余りにも時間がなさすぎたという事なのであるが。
魔法協会だけに言及したが、それ以外の魔法関連機関の扱いに関しては、各国国内でそれぞれ決める事になり、例えばメルディアナ魔法学校であればやはり領事館に……これまたあくまでも暫定的であるが、似たような形式になることとなったそうだ。
これらが特に目立った反対も無くかなりスムーズに取り決めが行われたのは、結局の所やはり、各国共魔法という力を有する事ができるというその点に依るところが強いのだろう。

次に、魔法そのものの取り扱いに関してどうなったかと言えば、メガロメセンブリア側から、現時点地球上での原則使用禁止にすべき魔法についての提案がなされ、ニューヨーク条約(地球上での特定魔法行使に関する国際条約)として締結される事が決定し、原則使用禁止になる魔法の筆頭については既に全世界に公表された。
第一に、他者に直に特に影響を及ぼし、他者の人権を著しく損ねる心身操作系魔法はその殆どが原則使用禁止となった。
具体的には、忘却・読心・幻術・自白・洗脳・魅了・夢見・身体操作・人払い等である。
……実に挙げるだけで使用を避けるべきだと丸分かりの魔法だらけである。
身体操作には……例は悪いが、女性の胸を大きくする……結局は制御できずに破裂するという無意味なものなのだが、こういう類の物や頭を一時的に良くするがその後1ヶ月は思考能力が著しく落ちる魔法のようなものが含まれる。
これらに加え、追加的に広域認識阻害魔法も原則使用禁止となる事が決まった。
そのため、言うまでもなく麻帆良の広域認識阻害は使用禁止となるのだが、個人が自身単体について使用する事に関しては容認される事となった。
これは今後要人警護において利便性から使用される可能性を考慮しての事である。
ただし、箒使用時における認識阻害は現状禁止であったりと、細かい部分で条件がいくつか伴う。
第二に、他者に対する攻撃魔法は原則使用禁止となった。
これ以外にも、電子精霊による情報操作系魔法の使用を容認される範囲の決定、幻術魔法の使用が容認される範囲の決定、箒での飛行魔法の行使についての取り決め、転移符を始めとする単体転移、強制転移魔法の問題、本契約及び仮契約の扱いの問題等についても今後内容が詰められていく予定である。
電子精霊を例にとれば、情報操作は言論の自由を明らかに損なうであろうし、他国の機密情報の漏洩問題などのマイナス面があるが、所謂一般的な水準での情報検索的な意味合いでは作業の迅速化を図れるものであり、情報漏洩の防止を目的とした活用も当然できる。
国によっては国家レベルでの使用を行いそうな国も……ありそうだし、要は使い方次第であろう。
とにかく、原則使用禁止の魔法は定められたものの、情報ソースがメガロメセンブリア側の情報開示だけである為、地球側にしてみればやはり公正性に欠けるのである。
結果、これを地球側各国が正しい判断をする為には、地球各国が国有の魔法関連機関を持つ必要があり、それの設置も不可欠だという事に関しては合意に至ったが、人員的問題から、すぐに魔法の技術公開をメガロメセンブリア側が対応するのは不可能であるため、今後も持続的な議論の場を設ける事が決定した。
魔法使い主体の国連NGOの活動に関しては、以上の原則使用禁止魔法の規定を順守する前提で、今後も引き続き行われる事になり、その活動内容は今後公表される事にもなった。
但し、攻撃魔法については、対テロリスト、対魔法使いである場合や紛争地帯での自衛手段としては、例外的にその使用を容認される扱いとなる。
これまで魔法使いが地球で魔法を秘匿する為に行って来た魔法による処理行為に対する批判は当然あった。
しかし、メガロメセンブリア、魔法使い側がそれらにできる対応は非常に難しいものがある。
例えば、メガロメセンブリアが国の立場で賠償金を払うにしても、国家に対してか、個人に対して払うべきなのか微妙であるし、仮に個人に払うとしても、魔法の存在を知ってしまった個人に対して使用した忘却魔法に伴って失った記憶に関する損害賠償額の算定は無謀であるし、そもそも魔法を秘匿しなければいけないというルールに従ってのやむを得ない行動に対して金銭による賠償が果たして妥当なのかという問題がある。
更に、戦争賠償の観点からすると、メガロメセンブリアが国として地球側に金銭を払うということはメガロメセンブリアの国庫からの支出という事になり、その源泉である税収の殆どは地球に来たことも無い魔法世界人達の労働によるものなので、メガロメセンブリア国民に対して負担を課す形になる事にも問題がある。
更に魔法の技術公開、提供という事で賠償するにしても、既に前述した通りの予定で決定されている。
結局メガロメセンブリアが取れるのは、誠心誠意地球市民に対して謝罪し、感情を逆撫でしないようにするというのが次善策であろう。
実際世論は荒れていても、各国家は前述した通り既に実利を優先した対応をとっているので、なるようにしかならないのであるが……。
その一つの例として挙げられるかどうか微妙かもしれないが、ロシア連邦魔法協会は既にロシア連邦政府と提携し、毎年1万2千件以上も起きる森林火災に対して協力する方向で話が個別に進んだ。
魔法の存在が公表された今、公然と現場に箒で飛んでいき、延焼を防ぐ為に火災の中心から周りの木々を除去する事も、小規模であれば直接の消火も魔法によって迅速に行う事も可能だろうから、という事らしい。
ただ、現状人員不足はどうしようもない問題であるが……。

魔法世界、火星については、現状対応すべき事としては、ゲートについての件がほぼ全てであった為、魔法世界の文化については公開されたものの、それについて世論はともかく、国連の場で詳しく言及されることは無かった。
ゲートポートとはまさしく、空港のようなもの……星間扉港とでも言ったら良いのだろうか、そういうものであるが、空港とは決定的に違う点がある。
惑星間を飛び越えるという点は勿論だが……それは除外するとして、基本的に空港というのはその空港が存在する国に属しているものであり、決してある国が他国の領土に空港を建設し、その所有権を有するという事は無い。
しかし、ゲートはと言えば、形式としてはメガロメセンブリアが他国に建設した星間空港的なものとなっているのである。
更に、ゲートは一定規模の魔分溜り無くしてはありえず、その数は地球上でたった12箇所しかない。
メガロメセンブリアが加入した国連には地球上192ヶ国も加盟国がありながらゲートの存在する国の数は中国に3箇所ある為実質10ヶ国しかなく、分布率に換算すればたったの5.2%なのである。
各国魔法協会はゲートの有無に関わらずあちこちに存在しており、特にヨーロッパには大抵存在するが……そうであっても、ゲートを有する国とそうでない国とでは格差が発生するのは避け得ないであろう。
それにゲートは、ゼクト殿のような技術があった上で、更に通常よりもゲート周囲が高魔分濃度でも無い限りは人為的に可動させる事は不可能であり、ゲートの開く日というのは不定期かつ自動的に決定される。
その為、飛行機を飛ばすといったように、意図して可動せられるものとは異なり、ゲートの利用については空港に比べ遥かに制限が多い。
しかしながら、現在地球で可動しているゲートはまだ麻帆良だけである。
この点、私が世界11箇所にまだ魔分供給を完了しきっていないという事情とメガロメセンブリアに移転された旧ウェスペルタティア王国空中王宮の要石との接続が地球側11箇所のゲートの要石と行われていないという事情が絡む。
魔分供給に関しては、行ってはいるもののやけに早く回復させてしまうのは不自然なので、ある程度一定速度に留めてあちらのゲートの事情も考慮した上でゆっくり行っている。
因みに地球側11箇所のゲートの要石とメガロメセンブリアゲートの接続はすぐ行えるかというと、魔分溜りが無い以上要石の調整も不可能であったりする。
……結局、ゲートについては、麻帆良のゲートがメガロメセンブリアとの行き来の為のテストケースとして扱われる事になり、国連においては現状で日本とメガロメセンブリアが明らかな2国間限定での通商を目的としたやり取りをしないという事が暫定的に定められるに留まった。
そして麻帆良のゲートの管理は引き続きノウハウのある魔法使い、メガロメセンブリア側が行わざるを得ないので、予定としては魔法世界側のゲート10箇所の本格的復旧の2005年5月までに、制度制定に向けてこちらも持続的に議論を行う事になった。
ゲートを有する国家と有さない国家の関係については、ゲートが本格的に全復旧すればその差がはっきりしたものとなるであろうが、現状これも持続的に会談を行う方向性に決定するに留まった。
魔法世界そのものの社会に対する世論については時間経過と共にある程度見解の醸成が行われていくであろうが、完全に星を隔てているだけあって関与は困難であり、国連としても最優先事項でもないので、これは現状見送りとなった。
もう一つ、魔法世界側の火星定着による環境変化対応について、科学技術が必要かもしれないと国連総会でメガロメセンブリア側が演説したが、これには今後通商への足掛かりとなるのが目に見えている為、技術力に自信のある各国家は現在魔法世界の抱えている環境変化に端を発する問題解消について協力する意思がある事を明らかにした。
よって、今後各国家、企業が動きを見せ始めると思われるが……言うまでもなく超鈴音が近いうちにやらかす事になる。
最後に、通貨問題であるが、ドラクマの貨幣価値の設定について、今まで通り日本で言えば100円=10アスというレートのままで据え置く訳には行かないという問題がある。
しかし、これには、現状すぐに通商が行われない事から、その調整に関しても徐々に議論が詰められていく事が決定されるに留まった。
恐らく最終的には地球の為替市場へのドラクマ参入を目指すのだろうが、逆に魔法世界側では今までドラクマだけの単一通貨市場であった状況に、地球式の為替市場のシステム導入を行わなければいけない為、安定するのにはそれ相応の時間がかかるだろう。

……さて、既に少し触れたが、現在地球で唯一のゲートが可動しているここ麻帆良はどうなるかといえば、魔法協会の扱いについては前述の通りであり、日本政府から外務省の人達が正式にやってくる事になった。
それに当たって、外務省では、魔法世界・メガロメセンブリア局が新たに設置される事も決定した。
麻帆良学園都市の学園結界や、情報漏洩に対するブロックについては近衛門達魔法使いが引き上げる訳にもいかないので、その管理は引き続き行われる予定である。
ただ、学園長がメガロメセンブリアの人間でもある近衛門である事は問題がある為、学園運営に関しては日本政府から同じく人員が派遣される事も決まった、
彼らは麻帆良学園の監査も兼ねるのは言うまでもない。
つまり、今まで無茶ぶりな事をたまにしていた近衛門は自重しなければいけないという事なのであるが……致し方ないだろう。
更に細かく見ていくと、麻帆良は外部とも、他の魔法使いの拠点ともやはり違いすぎ、色々問題がある。
戦前から造られたものとはいえ、麻帆良地下に広がる巨大空間はもはや建築基準法を引き合いに出して云々する次元の問題を超えている。
麻帆良教会の地下の魔法協会ですら、地下30階もあるのである。
寧ろ建築会社にしてみればその掘る技術を教えて欲しいというレベルであろう。
もっと酷いのは問題のゲートが存在する図書館島のやたら広い地下空間であり、普通だったら天井が崩落してもおかしくない部分があるが、魔法的処理がされて保持されているだけに地球の基準で判断する事自体無理がある。
一般的居住空間の地下室としては防水、防湿、換気、採光、排水、避難経路などが問題となるのであるが……真面目に図書館島に当てはめるだけでアホらしい。
防水、防湿どころか、湖になっている場所はあるわ、クウネル殿とゼクト殿の住処は滝のエフェクトだし、自然光の採光問題は心配しなくても明るく、換気も同様、排水も同様……避難経路なんて無いどころか、場所によっては明らかにダンジョンと化していて、果ては例の竜種の彼女が闊歩して「キュキュー」と鳴いている有様なのだから……。
……これで日本政府と共同管理やらゲートポートのテストケースというには正直ハードモードすぎると思う。
クウネル殿とゼクト殿が住んでいるあの空間もどうなるのかサッパリである。
住所登録なんてされていないし、あれは不法滞在になるのだろうか……まあ実際不法滞在に限りなく近い何か状態なのだが。
ここで麻帆良の魔法関連ではなく、一般に目を向ければ、まず、麻帆良は日本屈指の企業である雪広グループによってカバーされているシェアが過半を越え、他幾つかによってほぼ完璧に占有されている状況である。
しかし、認識阻害が切られ、情報処理も無くなる今後起こる事が予想されるのは、他企業の麻帆良への苛烈な参入競争であり、それに付随して地価があり得ないことになり……結果、麻帆良の住人が困りそうだ。
またその逆の動きと言っては何だが、特殊技能・特殊技術を有する人々の引き抜き合戦も凄まじいことになりそうである。
しかも、国内に限らず世界レベルの規模で……。
麻帆良が無駄に混乱し、活動も阻害されるような気がするのだが……きっとこの辺りは総合的な国益を考慮して、日本政府が対応策を取ることを期待したい。
……そして、麻帆良の広域認識阻害の解除日は10月14日、体育祭終了日の翌日に決定した。
体育祭前に解除するのはタイミングが余り良くないという事もあり、体育祭終了日の翌日10月14日であれば全学校レベルでテンションの高い生徒達も疲れているし、振替休日となる事情から、この日なら妥当だろうという決定である。
当然麻帆大航空部、図書館探険部、軍事研、ジェット推進研究会等の危険性がありそうな団体の活動は、仮に行われるとしても絶対、活動規模を相当程度縮小する事が要求される事になっている。
その後徐々に規模を元に戻す事になるであろう。

さて……以上が大体の所であるが、何はともあれ、まず先に2003年度体育祭の開幕である。

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10月10日、それは中学最後の体育祭の始まり……なんてね。
去年から体育祭は根本的に改革されたせいで、種目がやたら多い訳だけど、今まさに私はグラウンドのトラックでスタートしようとしてる訳よ。
4クラスのうちから1クラスを選出する予選を軽くこなして、100m決勝を6クラスで争う。
スターターの先生が空砲を虚空に構え……。
いつも通り行けば問題無い!

「位置について!よーい」

鳴った!!今だッ!地面を蹴る!
……よっし!スタートは成功!
このまま先頭を行くスよ!

「美空ちゃーん!頑張ってー!!」

「春日!今年も頼むよ!」

「美空!突っ走れー!!」

皆の応援!期待に応えるよ!
このグラウンドはカーブ無いから突っ走るだけ!
あと30mぐらいっ!一気にラストスパートッ!
20!……10!ゴールライン間近!
よっしゃ!ゴールッ!!
ゴール過ぎても急には止まれなーい……って今年も学年1位の座は頂きだね。
3連覇達成っと。

「はっ……はっ……はぁっ……ふー……」

[只今の中学3年クラス対抗陸上100m決勝の結果発表です!1位、3-A春日美空!]

「よっしゃぁぁ!流石春日!足の速さでは期待を裏切らない!」

「おめでとー美空!」

「美空ちゃん、3連覇おめでとー!」

[……2位3-G、遠藤冬美!……3位3-R、東堂茜!……4位……]

朝倉テンション高いなー。

「はいはーい!皆ありがとー!」

まー、ぶっちゃけ6クラスの決勝出場した殆どうちの陸上部だったりするんだけどね。
正直うちのクラスだとアスナの足の速さも半端無いんだけど……って言ったら魔法世界行った皆大体そうか。
ゆえ吉でもあれだよ、戦いの歌使ったらあの子かなりの速度で走れるからね。
つーか……今思えばアスナが別に部活にも入って鍛えてる訳でもなく、新聞配達やってるからってのもあんま関係なく足速かったのは、無意識のうちに気か魔力使ってたからっぽいなー……。
で、この後、即席の表彰台に上がって私は優勝トロフィー貰った。
このトロフィー、結構小さいんだけど、後で返さなくていいっていう奴だから、私の私物になるんだわ。
3連覇したって事実もそうだけど、やっぱ形として分かるってのは嬉しいね、うん。
皆の所に戻れば、テンション高いせいで軽く胴上げされたりしたけど、体育祭の予定は詰まりに詰まってるからすぐに次の種目に入った。
鳴滝姉妹の二人三脚は双子って時点で反則な気がするし、くーちゃんのハードル走も飛び越えるっていうか全部大股ジャンプみたいな感じだったりアスナの24クラス一斉3000m走も……もう何がなんだか……。
去年より速くなってるもんだから2位との差が開きすぎて開きすぎて……せめてもの救いは学校内競技には外で騒がしい報道機関が入ってこないって事かね。
んでもってサクサク競技が進んで行って、アキラの競泳でプールに移動もしたりして……その後棒高跳びとか三段跳びとかの学校外競技にも移動した。
外に出た途端、カメラ担いだ報道関係者がうろうろしてるんだけど、やたら上の方にカメラが向いてると思ったら、超包子の飛ぶ屋台と移動用コンテナ?を撮影してるらしい。
そういや去年も飛んでたもんなー。
んで、今年も楓が出る学校外競技に行ってみたら、楓の奴報道関係いるのも気にせずやりおった。

[選手番号65番、麻帆良女子中等部3年A組、長瀬楓!]

「拙者の番でござるな」

楓がポールを構えて助走しーの……。
ポールを地面につけて反動で上がりそのままバーを超えるだけ、じゃなかった。
二段ロケットみたいに更に加速して上にあがったし。
その高さバーの約2倍ちょい。
マジスゲー。
あれでもセーブしてるんだろうけどさ。

「あー、やっちゃいましたねー楓さん」

「はははー、やっちゃったスねー」

「見事な棒高跳びネ!」

「流石楓アル!」

「「楓姉すっごーい!!」」

「今の棒高跳び以前に棒無くても飛び越えられそうだったろ……。棒高跳びはそういう競技じゃねー」

長谷川さん、それ言ったらおしまいスよ。
んでも、長谷川さん最近クラスで前に比べると主に超りんとか話すようになってその関係で私も普通に話したんだよなー。
前は大体丁寧語で話す他所他所しい感じだったんだけど、素って感じの話し方だったから寧ろ馴染みやすかったスね。
で、楓は自業自得でその後やたら報道関係者に追い掛け回されたんだけど「その程度では拙者は捕まえられないでござるよ!」とか言って寧ろ忍者っぷりをいかんなく発揮してた。
いいのか、これで。
まー、そんなこんな、時間も時間になったから皆で適当に昼ごはんを取って、午後の競技に別れた。
今年のクラス対抗団体球技の種目はサッカー、ドッジボール、バレーボールの3つがあって、私はサッカー。
メンバーは超りん、さよ、くーちゃん、アスナ、ゆえ吉、のどか、ハルナ、ザジさん、長谷川さん、亜子、それと私の11人。
楓とかたつみーは身長が高いからバレーボールで、ドッジボールは復活ルール無しだけど、エヴァンジェリンさんと茶々丸と桜咲さんが負ける訳ないからどれも鉄壁スよ。
サッカーの戦力はっていうと、超りん、さよ、くーちゃん、アスナ辺りがガチだから大丈夫と思う。

「それでは、3-A対3-Cの試合を始めます。両クラス共に礼!」

「「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」」

フォーメーションはDF4人、MF4人、FW2人。
GKはザジさん、DFはGKから見て左から順にゆえ吉、のどか、さよ、長谷川さん、MFも左から順にハルナ、私、アスナ、亜子、FWは超りん、くーちゃん。
多分普通見たらディフェンスが薄そうに見える感じだと思うんだけど、さよは地味に身体能力が高いし、他は図書館探険部2人もいるし侮れないスよ。
実際GKが一番無口なザジさんでいいのかって言うのは微妙だけど、多分ゴリ押しでなんとかなると思う。

「よーし、頑張るわよ!」

「もちろん!」

3-CのFW2人がセンターサークルの中に入って……キックオフ!
超りんとくーちゃんが速攻でボールを取りに走る。
けど、最初から超りんとくーちゃん2人は警戒されてたみたいで、すぐに一旦ボールが後ろに下げられた。
私達MFは2人がどんどん追いかけてくからそれに合わせて前進して3-CのFW、MFを警戒。
DFまでボールが下がった所でロングパスをハルナ側に飛ばして攻勢に出てきた。
ハルナがカットしようとしたけど3-Cの構成は運動部系で抜かれた。
マズーって事で私がカバーに入って、カット……ってゆえ吉足速ッ!
3-CのFWは予想外のゆえ吉の速さに驚いてテンパッた所をあっさりゆえ吉がボール取った。

「美空さん、パスです!」

「おう!」

ゆえ吉は素早くボールを蹴って、私が受け取る。
超りんとくーちゃん2人は余裕そうに前に上がったまま。
3-CのFW、MFが寄ってくる、けど!

「アスナ!前進!」

「分かったわ!」

まずドリブルで前進。
戻ってくるFWはまず追いつけない、MFを1人抜いて、新手が寄ってくる前に……。

「アスナ!」

同じく誰も追いつけそうに無い右前方のアスナの目先にパス!

「ナイス!」

アスナはそのまま残りのMFが進路妨害してくる前に堂々と真ん中を突っ切る。

「くーふぇ!」

アスナはくーちゃんの頭上辺りにパスを浮き球で出した。

「任せるアル!」

それをこっち側に身体を向けてるくーちゃんは、地面を左足で蹴って空中に飛び上がりながら……右足で綺麗なオーバーヘッドキックを繰り出した。
強烈に蹴り出されたボールは斜め上空から、相手ゴールに突き刺さるように直撃。
一点獲得は幸先いいけど、あっちのGK絶対やりたくねー!!

「よーし!!流石くーふぇ!」

「やったアル!」

「この調子で行くヨ!」

いつまでもはしゃいでいられないって事で、また相手側のキックオフで試合再開。今度は直接超りんとくーちゃんを駄目元か分かんないけど突破しに来た3-CのFWだけど……真っ向からでは分が悪すぎた。
超りんが鮮やかな足さばきでボールを掻っ攫って、くーちゃんにパス。
そのまま2人は速攻で突撃してった。

「古!」  「超!」

私達もそれに合わせて上がる。
あっさり抜かれた相手のFW2人の後に控えるのは、MF。
2人ずつで超りんとくーちゃんに対応してきた。
けど、なんだアレ!
くーちゃんが超りんの前方、相手MFの頭上辺りにボールを蹴り上げる。
そこを超りんが高く跳躍して空中で身体を無駄に横回転させながら、ダッシュしてたくーちゃんの目先に凄いボレーパス。
くーちゃんは地面につく前に左足で地面を踏みぬいて右足を大きく伸ばす。
ボールは吸い込まれるように右足に当たり、今度はもっと高く浮かび上がる。
着地した超りんとくーちゃんは、ボールが落ちてきそうな所に更に急速接近して2人で一緒に跳躍。
そのまま息を合わせたまま、2人は足を空中で同時に振り抜いて。

― チャイナ・ダブルアタック!!! ―

強烈なボレーシュートが斜め上空からゴールセンターに直撃。
ゴール!もう一点!
一連の流れが鮮やかすぎてまたキーパーは一切反応できなかった。
てか技名叫んでたけど、なんだそのネーミング。
トスとスパイクみたいな感じだったけど、バレーボールはここじゃないスよ。

「おおー!流石超りんとくーふぇ!」

「すごいなぁー!!」

「映画のサッカーみたい!!」

「あれッスね。超りんサッカー的な」

ってか、超りんの中国拳法の流派って北派少林拳とか何とかだったような。

「古!やったナ!」  「超!やったアル!」

ハイタッチしてるのはいいけど、いつ打ち合わせしてたし。
練習の時あんな事やってなかったろ。

「あいつらリアルでやってんじゃねーぞ」

それともリアルでできてる事が凄いのか。

「でも炎を纏ったボールは出たりしないでしょうね」

「できたら大問題だよ……」

……それで、この後の試合はっていうと、まあ、アレだ。
調子乗った超りんとくーちゃんの動きは機敏すぎて、隙あらばボールを掻っ攫って相手ゴールにシュートを叩き込む。
ロングパスで私達の守備をやりすごそうとした所で、薄いと思われた長谷川さんの所にはアスナが走りまわり、その後ろの亜子は元々運動能力高いし、さよも言うまでもない。
あー、要するに私達3-A強すぎだった、うん。
試合は圧勝、その後の24クラストーナメントも、他クラスに当たる度に負ける事無くガンガン勝ち進み、たまに飛び出す超りんサッカー目当てに負けたクラスが観客に移ってエンターテイメントとしてやたら盛り上がった。
試合時間が体育祭用に15分間じゃなくて、90分だったらだるかっただろうけど、時間短くて良かったスよ。
爽快に優勝して今年も獲得したトロフィーを適度に振り回し、皆で喜んでた所にやってきたのは……。

「皆さん、優勝おめでとうございます!」

「圧勝だったな、アスナ!」

「優勝おめでとう」

「ネギ!ナギ!アリカ!」

アスナが一番最初に速攻で反応した。

「ネギ先生!」  「ネギ君!」  「ネギ坊主!」  「ネギ先生!」

もう先生じゃないんだけどねー。

「いつから来てたの?」

「実は午前中から来てました」

「えっ、全然気づかなかった」

「はい、気づかれないようにしてたので」

「あ、そういう事ね。応援ありがとう」

認識阻害か。

「はい!」

「あ、じゃあ、この後バレーボールとドッジボールの皆とも合流するんだけど……」

アスナがネギ君達と話し込み始めた。
事情を知っている組は4人の会話に割り込まないんだけど……事情知らない組は長谷川さん、亜子、ハルナの3人だけ。
ハルナは突っ込もうとしたいみたいだけど、私達が動かないから「え?そういう空気?」みたいな顔してゆえ吉とのどかとコソコソ話し、亜子はネギ君のお父さん見たまま微妙に顔赤くして見とれてるみたいなんだけど……いや、既婚者だからね。
しかも、色んな意味で限りなく一般人からは遠い人スよ。

「この前もよく分からなかったが……神楽坂とネギ先生達ってどういう関係なんだ?」

「少なくとも赤の他人ではない関係だろうネ」

「それ全然答えになってねーよ」

赤の他人どころか親戚スからねー。

「亜子、顔赤くしてどうしたんだー?」

ハルナ、ラブ臭検知したのか。

「へっ!?ううん、何でもあらへんよ!」

頭を必死にブンブン振るのは逆効果だと思うぞ、亜子。

「はっはーん、なるほど、分かった!略奪愛かー!」

「ち、ちちち、違う!!絶対違う!」

「じゃあ、ネギ君の成長予想でもしたのかー?」

げっ……出たー。
柿崎の言ってた逆・光源氏計画的な発想じゃんか。

「それも違うー!」

「んー、私のセンサーに狂いは無いんだけど。およ?……ゆえとのどかからも反応を感じる、感じるぞー?もしかして私の今の発言に反応した?」

「ち、違うよっ!」

「い、いい加減にするです、ハルナ」

ああー、のどかとゆえ吉も露骨に顔が赤くなって……ハルナ、その辺にしとけー。

「じゃあ、皆、移動しよう!」

アスナ達話し終えたみたいで、移動する事になった。
そのお陰でハルナの暴走もやっと止まった。
体育館の中のバレーボール組の結果は……いわずもがな、こっちも優勝。
もちろん、ドッジボールも同じく優勝。
今年もエヴァンジェリンさんの同級生のお姉さん達は応援来てた。
初日は個人競技もクラス対抗団体球技も制覇したって事で、今回も超包子で西川さん達含め、一緒に打ち上げをした。
超包子自体も、今日の儲かり具合は相当だったんだとか。
打ち上げ中に朝倉がネギ君達に「今後の予定は?」とか聞いて、あともうしばらくは滞在するとは答えてたけど、まだはっきり決まってはいないみたいね。
ナギさんの場合、死亡説が流れただけだから、魔法世界行くっていう手段もあるだろうけど……どっちにしろ今は世間の状態がアレだから魔法使いは動きにくいっていうのが真理っぽいな。
ネギ君達は打ち上げ始まって1時間ぐらいして先に帰ったから、いつも最後にとる写真には一緒に写らなかった。
多分写真に残るとマズいからって事なんだろうな。
結局8時過ぎまで騒いで皆で女子寮に帰ってみたら、テレビがまた凄い事になってた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今年の体育祭、去年と大きく違う点は特になかったのですが、誰の目にも違う事がありました。
それは、外部の人達、報道関係者が麻帆良に来ている事で、より賑やかというか……体育祭初日から半日遅れぐらいでまた、ニュースで騒ぎになっていました。
例えば、超包子の屋台と飛行機能付きコンテナは人員輸送の関係もあって、何度も飛ばしたんです。
外部からすれば、ありえないですよね。
特に空飛ぶ屋台なんて。
それに平然と乗り込み、次の競技に向かう学生達の光景がニュースで流れました。
それだけならまだしも、去年体育祭を根本的に改革しただけあって、通常ではありえない競技があちこちでやっている様子や、そのレベル自体のおかしい様子も、流れました。
反響は本当に色々でした。
打ち上げを終えて寮に戻ってテレビをつけて見た時の事ですが……。

「楓サンの棒高跳びが出たナ」

「出ちゃいましたね」

「出ましたねー」

[こちらの映像、CGでは無く、全て本物です。では一体どこの映像なのかと言いますと、今話題の麻帆良学園の体育祭の様子です。では、早川信行解説員お願いします]

[はい、先日から話題の尽きる事の無い麻帆良学園ですが、情報規制をしていた理由について……]

解説員の人が麻帆良の事情について話し始めました。

「よくこんな番組を放送しますよね」

「とても日本国内で起きている出来事の扱いとは思えないネ」

「今流れた映像はネットではもう随分前から騒ぎになって炎上してたみたいですね」

「某所の掲示板は私達が関与しているSNSとはまた違う形でいつも安定した祭りになていて反応が分かりやすいナ」


【魔法】麻帆良学園都市に常識的ツッコミを入れるスレ83【都市】

566:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:23 ID:???
  麻帆良の連中は化物か!?

567:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:27 ID:???
  飛ぶ屋台に平然とゾロゾロ入っていくの笑えるwwww

568:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:31 ID:???
  近く空港だから良く買うが超包子の肉まんマジうまいぞ

569:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:32 ID:???
  永遠の美少女エヴァ様が体操服着てる所見に行ってくるか
  
570:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:35 ID:???
  どう見てもオリンピックです、ありがとうございました

571:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:39 ID:???
  砲丸投げは無いわ

572:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:41 ID:???
  ラーメン吹いた

573:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:42 ID:???
  俺も麻帆良に入れば良かった

574:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:45 ID:???
  >>568
  禿同
  100円であのボリュームと味はヤバイ

575:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:48 ID:???
  けっこう日本新記録出てね?

576:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:52 ID:???
  スレの消化速度が非常識な件

577:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:55 ID:???
  落ち着くんだ、これは現実じゃない

578:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:57 ID:???
  これは明日も祭りだなwww

579:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:01 ID:???
  ( ゚д゚)

580:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:03 ID:???
  どこから突っ込み入れればいい?

581:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:05 ID:???
  この後まだ謎の格闘大会があるらしいぞ

582:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:07 ID:???
  あの飛ぶ屋台のジェット姿勢制御装置に興味出た

583:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:08 ID:???
  魔法使い以外に忍者も住んでるとかマジ魔窟すぐるwww

584:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:12 ID:???
  超鈴音って本当に中国人留学生なのか?

585:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:16 ID:???
  重力下であの動きは神
  俺麻帆良大工学部受験するわ

586:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:19 ID:???
  マジで合成じゃないとかwwww

587:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:21 ID:???
  >>569
  俺も突撃するぜ!

適当に抜粋して見てみるだけでこんな感じなんですけど、書き込みの速度が速すぎて自分の言いたい事言ってどんどん流れてくだけだったりします。
……何故か3-Aの事が定期的にポロポロ出てきてるのが気になるような。

「超包子の宣伝を勝手にしてくれる人が増えて助かるネ」

「確かにそうですね。特に今日は超包子の単語がかなり頻出してます」

「ジェット推進研究会の技術も高く評価されてるみたいですし、これは来年もしかしたら予算増えるかも」

[……今後も麻帆良学園の動向は目が離せない事となるでしょう]

……というような事がありました。
民放の局であると、街頭で麻帆良学園の映像を流して、その反応をインタビューするなんていう番組があり、唖然とする人、驚愕する人、笑い出す人、引いてしまう人等、その反応は様々でした。
初日は今年も3-Aらしい感じで無事に終わりましたが、その後2日目、3日目、4日目はどうなったか、見てみましょう。
体育祭としての2日目は残っている競技を消化しつつ比較的楽に終わり、3日目は学年対抗のリレー、綱引き、棒倒しのような競技を中学のグラウンドでやったり、学校外では学校対抗の超大規模騎馬戦、綱引き、玉入れ、玉転がしのような競技が皆のこれでもか、という応援の中でしっかり行われました。
一方ウルティマホラはウルティマホラで2日目の小学生の部はネギ先生と小太郎君がいないのでかなり普通で、3日目の予選と4日目の本戦も、古さん、鈴音さん、私も出ていないので更に結構普通……だったんですが、それでもニュースではレベルが高いと言う話で持ち切りでした。
あからさまなトトカルチョもまた話題に火を付けたりもしました。
因みに疲労回復の術式は効果を去年より弱めて、今年もこっそり発動させ、カモフラージュの為の機械も同じく適当に置いておきました。
少なくとも、今回の体育祭期間中までは認識阻害が掛かっていた為、疲労回復施設を異常だと思う人もおらず、回復術式自体は映像で撮影もできないので、そんなに問題にはなりませんでした。
麻帆良にとって、という意味で……変化らしい変化があったのは体育祭後の翌日、麻帆良の認識阻害が解除されてからでした。
10月14日、認識阻害が解除されたその日、周知されていた通り、麻帆良は全域的に活動規模が普段よりもかなり縮小されました。
それでも日常生活はいつもどおりするので、女子寮の中で皆朝普通に起きて朝食を取り、振替休日らしく、部屋でゴロゴロしてる人もいれば、外に出て遊びに行く人もいました。
学校の部活は休日で当然無いので、大学系列のサークルに入っていない限りは遊びに出るのが殆どでした。
3-Aでは柿崎さん、釘宮さん、椎名さんのチア3人組が「せっかくの休みだから遊びいこー!」と支度をして女子寮から飛び出したんですが、その時観測をしてみた所、3人の反応は違いがありました。

「あれー、ニュースでやってたけど、やっぱ田中さんってどうなってるんだろ?おかしくない?」

「うんうん、凄く現実にあり得ないって感じ。作った超りんがいくら天才でもこれはちょっと……」

柿崎さんと釘宮さんが女子寮の周囲巡回をしている田中さんを出掛けに見て足を止めて深く考え込み始めました。

「えー?そうかなー?別に良くない?」

それに対して、椎名さんは殆ど違和感を覚えてはいませんでした。

「桜子、変とか異常すぎるとか思わない?だってこれSF映画の再現みたいなものだよ?」

「んー、凄いとは思うけど、アリじゃないかな?私はSFの中の話って意外と実現するんだなーって思うよ」

椎名さんは口元に人差し指を当て、首を傾けてみて少し考えてみたようですが、充分田中さんの存在を受け入れられるらしいです。

「認識阻害っていうのが解除されたからだと思うけど、桜子みたいに脳天気だったら変わらないんじゃない?」

「……そうかもね。それじゃそろそろいこっか」

「うん!しゅっぱーつ!」

椎名さんの様子に釘宮さんと柿崎さんは少し苦笑いしましたが、考えても仕方ないという事で遊びに繰り出して行きました。

《キノ、今の見てましたか?》

《3人の、特に椎名桜子が田中さんに対して認識阻害が切れても耐性があったことですね》

《はい、あれってやっぱり……》

《そうです。椎名桜子は小学生の頃から麻帆良に通っていますが、柿崎美砂と釘宮円は中学から麻帆良に通い始めましたから》

《つまり椎名さんが培った常識は素の麻帆良寄りという事ですね》

《そういう事です。雪広あやかと神楽坂明日菜も似たような事になるでしょう。強烈な違和感を覚えるのは中学・高校以降麻帆良に入ってきた人達が大半になると思います》

《椎名さん達幼少組は将来困ったりしないんですかね?》

《今までの例から言うとそこまでの弊害はありません。麻帆良育ちの人は最終的に麻帆良内の企業に就職することが多いというのもありますが、心の許容範囲が広がるというぐらいで、麻帆良の外での生活に適応できないという事はないです。とある対象を異常と早々に認識しなくなるので、忌避感や拒絶感が薄れ……よく言えばおおらか、少し変えれば天然っぽくなるぐらいでしょうか。麻帆良外の生活に適応できなくなるどころか、寧ろ環境への順応性は確実に高くなる筈です》

《んー、確かに椎名さんはそういう事で深刻に困ったりはしなさそうですね》

《もちろん個人差はあるとは思いますが》

《じゃあ麻帆良寄りの人を除外すると、鈴音さんが言ってたように長谷川さんが外部から麻帆良に入ってきた人の中で一番今までと同じように生活を続けられる事になりそうですね》

《実際そうなると思いますよ。今日は騒ぎになりそうな団体の活動は知っての通りですのでまだ大丈夫の筈ですが、明日、明後日と日を重ねて活動規模が元に戻るにつれて、あちこち混乱すると思います》

《それは……仕方ないですよね。事故が起こらないよう祈ります》

航空部の人が「一介の大学生がどうして飛行機を操縦できているのか」と強く疑問を感じて「もしかしたら自分は突然操縦できなくなるかもしれない」と平常心が崩れたりすれば、本当に飛行機が墜落するかもしれませんから細心の注意が必要です。

《……それはそうとして、ネギ少年達は金曜の午後から京都旅行に行くことにしたそうですが、私達が注意しなければならないのは今週末超鈴音が麻帆良から出て調布に行く事ですね》

《はい!私と葉加瀬さんも行きますけど、周囲の観測はしっかりやりますよ!》

《ええ、私の方でも行うので、もしも、等というのは潰しましょう》

《もちろんです!》



[27113] 73話 なまえをよんで
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:50
10月17日金曜日、その日アスナは帰りのHRが終わるとすぐにクラスの友達に元気よく挨拶をして、誰もが驚く勢いで学校を後にし、女子寮へと戻っていった。
寮のロビーに駆け込んだアスナは一目散にエレベーターのボタンを押し、軽くその前で足踏みをしながら、エレベーターが降りてくるのを待つ。
その到着を知らせる音と共に中に乗り込み閉じるボタンを右手で押し、左手で6階のボタンを押す。

「着いたら早く着替えないと。あぁ、もう自分で階段上がった方が早かったかも」

ブツブツ言いながらアスナは鞄から鍵を取り出す。
そしてエレベーターの目的階への到着と共に、再び勢い良く飛び出し643号室を目指した。
握っていた鍵で部屋を開け、すぐに部屋に飛び込む。
アスナは靴を勢いに任せて脱ぎ、鞄を床に降ろし、制服を脱ぎ始める。
脱いだ制服を片付け、今度はすぐに今日の朝用意して出しておいた服に素早く着替え始める。

「うーん、これでホントに良いかしら?」

アスナは着てみたものの、その服で良いのか気になりだし、自分の姿を鏡に見てそう呟く。

「ううん、そんな時間もう無いし、いいわよね!よーしっ!」

自分で秋に合わせて選んだ落ち着いた色彩の服の組み合わせに納得し、アスナは無性に嬉しそうな表情で軽く両手で足を叩き、最後にコートに袖を通す。
二段ベッドの横に用意しておいた鞄を肩にかけて玄関へと急ぎ、外出用の靴に履き替える。
そのままドアを開け、部屋から飛び出し、後ろを振り返って忘れずに鍵を閉める。
廊下を移動し、まだ動いていなかったエレベーターに再び乗り込み1階のボタンを押し、閉じるボタンを押す。

「えーっと、3時38分……うん、間に合うわね!」

アスナは腕時計を見て、麻帆良学園都市中央駅に集合する時刻に間に合う事を確認する。
そして、到着を知らせる音と共にエレベーターが開き、再び勢い良く飛び出し駅を目指して一路走りだした。
ポツポツ寮に戻って来始めた学生達と入れ違うようにアスナは髪飾りの鈴から音を鳴らしながら道を駆け抜け、遠くにある3人が手を自分に向けて振る姿が視界に入り、更に速度を上げる。

「お待たせーっ!!……少し待たせちゃった?」

「大丈夫ですよ、アスナさん。僕達も今来た所です」

一瞬息を切らせてアスナが遅れた事を言うが、ネギがそれに落ち着いて笑顔で答える。

「おし、アスナも来たし、行くか!」

「そうじゃな」

「うん!」  「はい!」

スプリングフィールド一家は麻帆良学園都市中央駅の改札を通り、大宮行きのホームに向かい、丁度良く到着した電車に乗り込んだ。
電車に揺られる事20分程、大宮駅に到着し時刻は16時6分。
一行は隣の新幹線ホームに移動し、15分発東京行きの新幹線に乗り換えた。
25分程の時間だが、2人席の片方を回転させ、荷物棚に鞄を上げ、そこで4人はようやく座席に着いた。

「えっーと……ネギ、私の隣で良いの?」

自然と座ってしまったものの、アスナは自分がネギの隣に座って良かったものかと、アリカとナギの顔を見てから、ソワソワしつつ隣の席のネギに確認した。

「?……はい、アスナさん。もちろんですよ?」

質問の意図が分からずネギはアスナの顔を見ながら少し首を傾けたが、アスナの隣で何ら問題無いと答えた。

「そ、そう。ならいいんだけど……」

「アスナ、気を遣わなくて良いぞ。それに東京につけばすぐにまた乗り換えじゃ」

「あ、そっか」

「なんだアスナ、緊張してんのか?」

「緊張はしてないわよ!」

的外れな事を聞いて来たナギに対し、アスナはやや呆れて突っ込みを入れた。

「でもアスナ、さっきからずっとソワソワしてないか?」

「えっ?そ、そんな事は」

自覚が無かったアスナはナギにそう言われて焦るが、そのアスナの右手をネギが両手で触れた。

「!」

突然手を触れられアスナは驚いて身体をビクっと震わせる。

「アスナさん。僕、アスナさんとこうして旅行に行けて……すごく嬉しくて、今楽しいですよ」

ネギは穏やかな微笑みを浮かべ、アスナの手に触れたまま、落ち着いて想いを言葉に表した。

「ね、ネギ……。うん……私も嬉しいわ」

アスナは少しばかり顔を赤くしたが、一息つきネギと同じで自分も嬉しい事を素直に口に出し、それによってすぐ落ち着いた。

「はい、アスナさん」

ネギはアスナが落ち着いた事を感じ取り、アスナの手を握っていたその両手を自然に離した。

「ね、ネギよ、私と行くのは……?」

「お、俺はどうだ?」

ネギとアスナの分かり合った様子に、当のネギの両親はネギの言葉に自分たちが含まれていない為か、思わず席から身を乗り出して問いかけた。

「は……はい。母さん、父さんと行けるのもすごく嬉しいです」

ネギは両親が顔を突然近づけて来た事に驚いたが、当然嬉しい事を伝えた。

「そ、そうか、嬉しいか。うむ、私も嬉しいぞ」

「おう、俺も嬉しいぜ」

その言葉を聞いて安心したのか、ナギとアリカは身体を元に戻し、背中を座席に預けた。
それから程なくして車内アナウンスが流れ、一行は荷物を降ろし、席を元に戻して、東京に到着すると共に新大阪行きの新幹線に乗り換えた。
今度も座席はネギとアスナ、ナギとアリカで向い合って座る事となった。

「んー、そういえば私放課後すぐに旅行に行くのって初めてね。どうせなら朝から休んでも良かったんだけど」

「元担任でもある僕が行きたいって言い出した事で……それに学校はやっぱり行った方が良いです。中間テストも近いですし」

「うー……日本ならまだネギも小学校通ってる筈なのに元担任って言われると……凄く変な感じするわ。しかも中間テストなんてあったわね……」

アスナはネギの言葉を聞いて眉間に手をあてて悩むように答えた。

「勉強がんばれよ、アスナ!」

「ナギには言われたくないわよっ!」

「アスナさん、何かわからないことあったら、聞いてくださいね」

「だ、大丈夫よ。分からない事があったら自分で調べて解決するから」

「……遠慮しないで下さいね?僕アスナさんに迷惑かけっぱなしでしたし……役に立てる事は」

「ネギ!そういう事考えなくていいの。ホント子供らしくな!……ううん……ごめん何でもない。……じゃあ、どうしても分からない事あったらその時は聞くわね?」

アスナは年下から物を聞くのは何だか恥ずかしい為、ネギの申し出を断ろうとしたが、ネギが普通の子供らしくない原因を思うと……とてもではないが断る事はできなかった。

「……はいっ!」

「……ところで、ネギ、以前京都に行った事があると言っていたが、その時の話を聞かせてくれぬか?」

アリカはネギがアスナに対して一瞬返答に間を置いた事から、話題を切り替えるべく、ネギに3月の時の事を話して欲しいと言い出した。

「3月の時の事ですね、はい。もちろんです。あの時は今日と同じように出発したんですけど、まず最初学園長先生から頼まれて……」

ネギは3月に京都へと行った時の事を詳しく話し始めた。
桜咲刹那、近衛木乃香の仲の事を葛葉に相談した事、近衛詠春に親書を渡した事、翌日ナギの別荘に案内されて麻帆良の地図を貰った事、刹那と木乃香の仲が良くなった事、皆でエヴァンジェリンの発表会を見に行った事、その後少しばかり観光もした事……覚えている事をネギは一所懸命に身振り手振りを加えながら3人に話し、ネギはその話す事自体嬉しそうな様子であった。
3人は終始微笑み、たまに相槌を打ちながらその話にしっかり耳を傾けて聞いた。

「そっか、詠春も言ってたが、別荘そのままだったんだな。詠春も律儀な奴だぜ」

「久しぶりにあそこへ行くのも良いかもしれぬな」

「ああ、そうだな。行ってみるか」

「私も行ってみたいわ」

「僕もまた行きたいです」

「じゃ、決まりだな!」

……そしてスプリングフィールド一家は道中話し続け、東京を出発してから2時間と20分程、時刻は19時11分、新幹線は京都駅へと到着した。
改札を出た後、京都駅ビル内の造りを目にしてナギとアリカは驚きの声を上げた。

「おおー?京都駅ってこんなだったか?」

「私が来た時はこれ程立派ではなかったな」

2人は辺りを見回しながら呟いた。

「1994年に平安遷都1200年を記念して改築をしたんだそうです」

京都駅ビルは1994年に平安遷都1200年の記念事業の一環として改築され1997年に現在の4代目京都駅ビルが完成した。
地上16階高さ60m、地下3階、東西の長さは470mに及ぶ鉄道駅の駅舎としては日本でも有数の規模である。

「1994年……か。10年以上も経ってたらそりゃ建物も変わるか」

「10年以上……そうじゃな」

ナギが失踪したのは1993年、丁度京都駅改築の前年、アリカの失踪した年でもある。
2人は時の流れをひしひしと感じ、やや目を細めて少しの間遠くを見るようにしていた。
ナギとアリカが気を取りなおし、一行はタクシー乗り場へ、今日のメインとも言える宿に移動するべく向かった。
タクシーのトランクに荷物を入れ、ナギが運転手の横、残りの3人が後部座席に乗り込んだ。

「お客さんどちらまで?」

「あー、八坂神社南門前の祇園畑山までで」

「はい、分かりました。八坂神社南門前ですね」

タクシーの運転手はナギの言葉ですぐにどこかを理解し、車を出した。

「……今日は祇園畑山で一泊されて明日から京都観光ですか?」

運転手は一行を見て今晩泊まり、翌日土曜の朝から京都を見て回るのだと思い、ナギに話しかけた。

「ああ、その予定だ」

「そうですか。良いですね、家族旅行。是非京都をお楽しみ下さい。祇園畑山からだと清水寺も徒歩ですぐですからね」

「へー、そうなんだ。どの辺りに泊まるか知らなかったけど、清水寺まで徒歩でいける所なのね」

アスナは旅館に泊まるとは聞いていたが、具体的にどの辺なのかまでは知らなかった。

「天候次第ですが、明日早く起床すれば清水寺から朝日を見る事ができると思いますよ」

「あ、それ素敵!」

「そうだな、早起きするか!」

京都駅を出てから15分程、タクシーは八坂神社南門前に到着した。
一行は運転手に挨拶をして降り、そのまま旅館、祇園畑山の門をくぐり石畳を登った。
門、石畳、木造……純和風の造りで非常に落ち着いた雰囲気の旅館である。
中に入れば玄関で仲居さん2人が出迎え、予約名を尋ね、チェックインへと移った。

「ナギ・スプリングフィールドで予約している」

「はい、ナギ・スプリングフィールド様ですね。本日はようこそお越しくださいました。お部屋は404号室となります。こちらが鍵です。……丁度19時30分になりますので、本日のご夕食はご予約通りでこのまますぐ部屋にお運びしても宜しいでしょうか?」

「ああ、構わない。それで頼みます」

夕食開始時刻限界ギリギリに到着した為、一行が部屋に入るとすぐに、食事も運ばれる事となった。
一行は4階の部屋まで階段で上がり、中に入った。
中は玄関から見るに清涼感が漂い、開放感もあり、結構広いという印象を受ける。

「ひろーい!……うーん!京都旅行に来たって感じしてきた。魔法世界で泊まった所はどこもかしこも殆ど洋風だったし」

アスナはこれぞ和室という和室に荷物を置き、コートを掛けた後、床に寝転がり、身体をおもいっきり伸ばし、畳の感触を堪能し始めた。

「そうですね。僕も3月の時以来です」

ネギはそう言いながら既に開けられていた障子の奥の間に歩みを進め、もう暗くて良く見えないが窓ガラスを通して外に目を向けた。

「さあ、ネギ、アスナ、飯だぜ飯!京料理だ!」

ナギは腹が減ったと言う様子で夕食が運ばれてくるのを今か今かと待っていたが、噂をすればというべきか、丁度最初の料理が運ばれて来た。
京野菜を用いた前菜から始まり、湯葉のお吸い物、新鮮な魚を用いた刺身の盛り合わせ、茸類と川魚の程良い焼き物、山芋の煮物、山海の珍味を数種バランス良く取り合わせた八寸、つややかな炊きあがりの御飯、湯気がほんのりと立ち上る味噌汁、そして季節の果物。
旬の素材が使われ、秋の季節を映した京料理会席はその味わいと言えば素晴らしいものであったが、それぞれの料理に用いられた器の形、塗りの美しさ、それらが料理の味を更に引き立てていた。
ネギ達は次々と運ばれてくる料理を食べながら各々「とても美味しい」と互いに笑顔で会話を交わし、満足した様子で京料理を堪能した。
部屋で食事を楽しむ事ができるというのも旅館ならでは、衆目を気にせず一家団欒する事ができたと言えよう。

「はぁ~、美味しかった」

「はい、美味しかったです」

「うん、満足だ」

「久方ぶりの京料理、良いものじゃ」

4人は揃って茶を飲んで一息つき、しばらくの間食事の余韻に浸っていた。
その静けさの中、アリカは向かいの席のネギを見て言った。

「その、突然なのじゃが……ネギよ、もっと砕けた言葉遣いで話してはくれぬか?」

「え……?」

言葉通り突然の話にネギは虚を突かれた顔をする。

「あ、俺もそれ気になってたんだ。いちいちですとかますとか俺達に付けて話さなくていいんだぜ、ネギ。俺も付けてないし」

アリカの言葉に反応するようにナギも気づいたようにネギに同じような事を言った。

「え、えっと……はい、その方が良いなら、分かりました。母さん、父さん」

ネギは困惑したような顔をしながらぎこちなく答えた。
しかし、分かったという言葉と裏腹にその言葉遣いに変化は無かった。
思わずナギとアリカとアスナはズルっとするが、再び気を取り直す。

「ネギ、変わってないわよ……。そこは、うん、分かった、母さん、父さん……とかでしょ?」

ネギはアスナの言葉を聞き、頭の中で何度か反芻するような様子をして、口を開いた。

「はい、わか……分かりました、アスナさん!」

瞬間、ゴンッ!という音をたてて「これは駄目だ」と呆れたような目をしたアスナの頭が机にぶつかった。

「あ、アスナさん、大丈夫ですか!?」

突然の事にネギは隣のアスナのリアクションに驚く。

「……うん、大丈夫よー」

アスナは机に頭をのせたままネギに言葉を返す。
頭をゆらりと上げ、アスナは更に言葉を続けた。

「もー……。良い?ネギ。私に対しても言葉遣いは変えていいから。アスナさんって呼ぶのもやめてその代わり……あれ、それはちょっと駄目かも……ううん、駄目じゃな……あーよく分からない!」

始めは真剣な表情でネギの目を見て言ったアスナだったが、自分の名前をさん付けで呼ぶのもやめて良いと言おうとした所で、やや顔を赤くし、何やら頭を抱えて悩み始めた。

「あ、あの、アスナさ?……さ……さー……。あ!……アスナおね」

ネギはまたさんを付けて呼ぼうとした所、今度は思いとどまり、さん付け以外に何かあるかと思案し、思いついたように言葉を発したが。

「それ以上は駄目ッ!」

「っ!?」

クワッとした顔でアスナはネギが全部言い終わるのをその口を鼻もろとも無理やり手で強烈な力で塞ぎ、遮った。

「んー!んー!」

「それは駄目!良くわからないけどそれは絶対駄目なのっ!」

アスナはきつく目を瞑って首を勢い良く振りながら尚、ネギの呼吸を妨げ続ける。
それに対してネギはバタバタしてくぐもった声を上げる。

「おーい、アスナ、ネギ苦しがってるぞー」

「落ち着いて手を放すのじゃ、アスナ!」

「あっ!?ご、ごめん、ネギ!大丈夫!?」

その言葉にアスナはようやく気がつき、慌ててネギの顔から手を離した。

「はっ……だ、大丈夫です。ちょっと驚いただけで」

開放されたネギは息を吸って答えた。

「はぁ、良かった……」

アスナはしぼむように力を抜いて座った。
そこへナギがマイペースに呟く。

「なんだ?アスナはネギにお姉ちゃんって呼ばれるのは嫌なのか」

「イヤー!何かそれは本当にだめーッ!」

お姉ちゃんという単語を聞いた瞬間アスナは、今度は自分の耳を塞ぎ、激しく首を振って叫び声を上げ始めた。

「おおっ!?」  「ええっ!?」

アスナの反応にナギとネギは思わず驚く。
一方アリカは何かに気づいたのか、席からスッと立ち上がり、素早くアスナの元に向かい、耳を塞ぎながら荒れ狂う両手を掴んで離し、耳打ちをした。

「アスナ、ひとまず私と浴場に行くとしよう」

「…………うん」

その言葉を聞きアスナは一瞬で落ち着きを取り戻し、小さく頷いた。

「ナギ、ネギ、私達は湯に浸かってくる事にする」

「ああ、分かった。なら、ネギ、俺たちも行くか!」

「はい!」

4人はそれぞれ準備を整え、部屋から出て階段を降り、地下1階、大浴場へと向かい、それぞれ女湯、男湯へと別れた。
服を脱ぎ、浴場への扉を開ければ、大きなガラス張りの先に白砂利の敷き詰められた庭、その前に檜でできた長方形の風呂になみなみと湯が張られているのが見えた。
アリカとアスナはまず身体をしっかりと石鹸で洗い、髪も洗う事にしたが、両者共に長い髪である為、互いの髪を丁寧に洗い合った。
シャワーを掛けて泡をきちんと洗い流し、湯に足を差し入れ、腰、そして肩まで湯船の端に浸かった。
他の客もいたが、丁度すれ違う形になり、浴場にはアスナとアリカだけがいるという状態であった。
そして先にアリカが口を開いた。

「アスナ、アスナはネギの事を……どう見ておる?」

「ど……どうって……」

互いに顔を直接は見ず、前を向いたまま会話を続ける。

「アスナはネギの事を好いておるか?」

アリカは呟くような声で尋ねた。

「それは……好きよ。ネギは私にとって大切だから」

「そうか……。好きは好きでも、私がネギを好きであるのとは違う類の好きなのではないか?……アスナは時々ネギに恋をしておるようにも見える」

「アリカがネギを好きなのと私がネギを好きなのは違う事ぐらい分かってるわ。でも……それを言葉で表すのは凄く難しいの。それに……こ……恋って言われても……ネギは私よりも4つも下のまだ11歳ぐらいの子供だし……」

アスナは首まで湯船につかり、最後の方は口をブクブクさせながら言った。

「……それもそうじゃが……ネギの生徒達を見た限り、はっきり恋をしておる者もいたように私は思えた」

「のどかとゆえちゃんね……。しかものどかに至っては告白までしてたわね……」

「はっきり言って私は……ネギを渡したくない」

アリカは真剣な表情で言い切った。

「へ!?あ、アリカ……?何をいきなり言って……」

その言葉にアスナは虚を突かれた顔をして驚く。

「私は、まだ……ネギと一月として共に過ごしておらぬ。目覚めれば我が子が死んだと聞かされ、過去の映像を見れば年に合わぬ急激な成長をし……奇跡のように戻って来た。本当に良かったっ……。こうして旅行に来れておる事もまだ夢のようじゃ……」

アリカは思わず目を潤ませながら語り始めた。

「アリカ……」

「私は毎晩寝る時、次起きた時にネギがいなくなっておるかもしれぬと……そのような考えがよぎって怖いのじゃ……。ネギはどうやって戻ってきたかについて一切話さぬし、私とナギも聞けぬ。じゃが……それがどういう意味なのか分からず、怖い」

「アリカ……。私も同じ。ネギがまた突然目の前で消えちゃうんじゃないかって怖くて堪らない。まだあの時の事を夢に見る時があって、この2週間近く女子寮で寝起きした時は朝起きてネギが近くにいないから余計に怖くて身体が震えたわ」

「アスナもそうか……。私とネギはまだ会ったばかりと全く変わらぬ。言葉遣いも先程言わねば変えようとも考えておらなかった。アスナが先に新幹線で子供らしくないと言おうとした時には一瞬表情を翳らせたっ……。どこかまだあの子は私達との間に心に距離を置いておるっ……」

アリカは一筋の涙を流し、遠くを見るような目をして言った。

「……私はネギが部屋に居候し始めて一緒に生活して、勉強一生懸命教えてくれたし、授業をしてたからその時も一緒……修行し始めてからはもっと長くいられた。それで……その後私は攫われちゃったけど……その間ずっと私を守る為に頑張ってくれててっ……最後には命と引きかえに私を助けてくれるような子なんだからっ……。これから一緒に、傍に、できるだけ、いれば良いんだと思う。心の距離は私達から……あの子に自覚が無いんだから、近づくしかないのかも」

アスナもアリカに釣られるように目を潤ませながら言った。

「そうじゃな……。私は……親しげにネギと話す者を見ると羨ましいと思う……我ながら醜いものじゃ……。先に新幹線でアスナの手をネギが自然に握った時も羨ましかったのじゃぞ?」

「え、あ……あー、うん。あの時正直言うと私ちょっと……凄く嬉しかった」

アスナは新幹線での出来事を思い出し、少し恥ずかしがりながら言った。

「むむ……私もネギに手を握ってもらうか……しかしどう頼んだら……」

アリカは悩みだした。

「いや、そこはアリカが握るべきなんじゃないのっ?」

アスナは呆れた顔をして思わず突っ込みを入れる。

「大体アリカにはナギがいるじゃない!」

「う……そ、それは関係無い。な、ナギは夫なのだから当然じゃ。それに私が言いたいのは普通に手をつなぐのではなく、あの時のネギの雰囲気で握って……貰いたい……握りたいというか……そのじゃな……」

今度はアスナではなくアリカが首まで湯に浸かり、ブクブクとし始める。

「えーっと……あの時のネギなんだけど、あれは以前のネギには無かった感じなのよね……」

「そうなのか……?」

意外な事を聞いたとばかりにアリカはアスナを見て尋ねた。

「うん、前よりもっと落ち着いてるの。……何ていうか……全部分かってくれてるっていう感じで、不思議と私も落ち着けたわ」

「アスナが言うならそうなのじゃろうな。一体ネギに何があったのか……。それはそれとしてじゃ、話が逸れたが、アスナはお姉ちゃ」

「だからそれは何か駄目ッ!」

アリカが言おうとした言葉の上からアスナは再び大きな声を出してそれを遮った。

「アスナ、ここでは静かにせねば……」

「ご……ごめん」

「ふ……つまりじゃ、アスナはネカネと同じように呼ばれるのが嫌であるのは、やはりネギに恋をしておるからじゃな」

「う……うぅ……そう言われると違うとは言い切れないのが……けど、私いいんちょ達とは違う筈なのにー……」

今度はアスナが悩み始めた。

「否定しないならばそれで良い。ならばはっきりしておこう、アスナ」

アリカは凛々しい顔をしてアスナを向いて言った。

「え?何を?」

突然の発言にアスナは間の抜けた顔をする。

「もし今後ネギの恋人になりたいと言うならその時は私を説得しなければ、絶対に交際は認めぬ。以上じゃ」

アリカははっきりと言い切り、その言い切った顔はどことなくいたずらっぽい表情をしていた。

「な、何言い出すのよ。それに、だから私はネギに恋なんか」

「言うたな、アスナ?ネギに手を出さないと、そう言うのじゃな?」

ズズっとアリカはアスナに顔を近づけ確認する。

「うっ!……う……分かったわ。今の無し。でも、まだよ、まだ!だってまだ11歳の子だもの!」

認めたと思えばすぐに慌ててアスナは言い訳を始める。

「左様か。じゃが、今の私の言葉は変えぬぞ」

「……って言うことは……他の皆はこれから子供を溺愛予定のアリカが姑……いやいや何言ってるのよ。というか、それネギが誰か連れて……来た時は……うわー!!」

ブツブツとアリカに聞こえない声で言った後、アスナは突っ込みを入れようとしたが、自爆した。

「あ、アスナ……何と恐ろしい事を言おうとするのじゃ……」

アリカはアスナの言葉を聞きガタガタと温かい湯船の中で震え始める。
そこへガラッという音と共に他の客が丁度入ってきた。
その客は2人の奇妙な様子に一瞬ギョッとしたが、何も見なかったと華麗にスルーし、風呂桶と椅子を出して、身体を洗い始めた。

「えっと……そろそろ上がる?」

「……そうじゃな」

明らかに見られてしまったので、2人は恥ずかしがりながらいそいそと湯船から上がり、素早く浴場から出て身体を拭き、服を着て、じっくり髪を乾かした。
そして部屋に戻るべく、階段を上り始める。

「私ネギにアスナって呼んでもらう事に決めたわ」

4階の廊下に着いたとき、ふと、アスナが言った。

「うむ……それが良い」

アリカは落ち着いてそれに返答した。

「アリカはアリ母さんとか呼んでもらったら?」

今度はアスナがいたずらっぽく言った。

「アスナ……何故そのような縮め方をする」

アリカは突然立ち止まり、アスナの左肩を右手できつく掴み、顔を俯かせて言った。
その身体からは何とも言いがたいプレッシャーが放たれていた。

「い……嫌だなぁ、冗談よ冗談。アリカは母さんでいいじゃない!」

アスナはギギギッと首だけ後ろに向けながらハハハと乾いた声で笑いながら言った。
その言葉でプレッシャーがすぐに止まった。

「……それも何だか寂しいのじゃが……アスナは名前で呼んでもらえるというに……。アスナはやはりおねえちゃ」

「だからそれは駄目ッ!」

突如アスナは右手でアリカの左肩をガシッと掴み語調を強めて言った。
アリカも右手をアスナから離していないため互いにギリギリと肩を掴みあっている状態であり、傍から見ると何をやっているのか、という有様であった。
……数秒して、2人は我に返り、廊下一番奥の部屋へと向かった。
ドアには鍵がかかっておらず、もうネギとナギは戻っているというのが2人は分かり、そのままドアを開け、中に入った。

「よぉ、戻ったか!アリカ、アスナ。ほらネギやってみろ!」

「は……うん!おかえり……お……おふ……おふくろ、アス」

少々言葉が不自由な感じでぎこちなくネギはアリカとアスナに声を掛け……ようとした。

「主は見てないうちに勝手に何をネギに教えたのじゃッ!!」

「いでぇっ!!」

アリカは驚きの速さでネギをスルーしてナギに接近し、ナギの頬を平手打ちし、錐揉み回転をさせながら畳に倒した。
更にアリカは間髪おかずネギの目の前に移動し、ネギの両肩に手を置いてゆっくり話しかけた。

「良いか、ネギよ。私の事は母さんと呼べば良い。あるいは、アリカ母さんと名前を母さんの前に付けて呼んでも構わぬ、分かったか?」

ネギは目を穿つような視線をアリカから受け、答えた。

「は、はい、母さん」

「違うぞ?今のは、う、うん、アリカ母さん、じゃ」

アリカはニコニコしながらネギに言い直しを求めた。

「……う、うん、アリカ母さん」

誘導されるようにネギはアリカの言葉を復唱した。

「う……うむ、それで良い。何度呼んでも構わぬからな」

実際に言われた事でアリカは嬉しそうな顔をしながら、念押しをする。

「はい、母さん!」

良いと言われた事でネギは大層嬉しそうな表情をして元気に答えた。

「…………」

アリカはその言葉を聞いた瞬間パタリと膝立ちの状態から横に畳へ倒れた。

「か、母さん!?」

「あ、案ずるな……こ、これから徐々に変えていけば良い」

すぐに上体を起こしアリカはネギに答えた。
ナギはまだピクピクとして倒れたままである。
その言葉でネギはホッとした所、今度はアスナが声を掛けた。

「ね、ネギ、私の呼び方なんだけど……さん付けをやめて、アスナって呼んでもいいわ」

「ネギよ、アスナはさん付けのまま呼んでも構わぬぞ?」

そこへアリカが揚げ足を取るような発言をする。

「え?」

「ちょっ!アリカは黙ってて!」

それに痺れを切らし今度はアスナがネギの両肩に手を置き、話しかけた。

「はい、ネギ、私をアスナ、アスナって普通に呼んでみて?」

「は、はい、アスナさ!」

「はい、駄目ー!もう一回」

アスナはネギがまず了解したという意味で呼ぼうとした所から、口を塞いでやり直しを要求した。

「では……あ、アスナッ!」

再びアスナはネギの口をタイミング良く塞いだ。

「そう、それよ!じゃあ、もう一回!」

無理やりであるが、アスナはアスナと言う部分だけに留めて呼ばせた事に少しばかり頬を緩め、ネギに練習をさせ始めた。
ネギはアスナの謎のテンションに困惑しながらもそれに答えた。

「あ……アスナっ……」

「その調子よ!じゃあ、今度は続けて3回!」

アスナはネギの口を抑えるべく右手を待機させ、さんという言葉が再び出るかもしれない所、反射的に右手を一瞬動かして、さんキャンセルをさせた。
……ネギの視線はアスナの右手に釘付けであった。

「アスナ……アスナ、アスナ!」

「う……うん、それで良いわ。でもそんなに何度も呼ばなくてもいいわよ。……恥ずかしいし」

「ええっ!?」

ネギは3回連続正しく呼べた事に最後思わず語調が強くなっただけだったが、当の呼ばせた本人は3度も自然に呼ばれた事で少し顔を赤くして、横を向き、聞こえない声でボソっと「恥ずかしい」と矛盾した発言をしながら言った。

「あ~、いてー!折角ネギに言葉遣いを風呂で教えて実践させてたっていうのに。つーか、もう英語で話せばいいだけじゃね?」

そこへナギがようやく復活し、真理をついた発言をした。

「それは言わない約束なの!」

「そんな約束してないだろ!?」

アスナがナギに暗黙のルールを説き……メタな会話が交わされた。
それからは長いことネギの普通の年上に対しては一律丁寧語で話す癖を、少なくともナギとアリカとアスナは、自分達は例外にすべく、ネギの目を穿つような視線で見つめながら、実践自然会話の練習が繰り広げられたのだった。
ネギは反射的に「はい」というのを「うん」と変えられ「ます」「ました」「です」「ですよ」等を何気ない会話の中でポロッと出ないように矯正させられた。
練習中、ネギはぎこちない話し方になり、どうにもあどけなさの残る子供のようなしゃべりになった為、ナギは爆笑し、アリカは更に熱心に教えようとし、アスナは声には出さないが不覚にも可愛いと思ったのだった。
それでも、当のネギは終始楽しそうな顔をしていた。
そして4人は布団を並べて敷いて眠りにつき、一夜明けて10月18日。
早朝、4人はやや肌寒い朝の中、祇園畑山から出て、八坂の塔を途中眺めながら昔話でも有名な三年坂を通り、清水寺へと足を運んだ。
6時になると共に、入館料を払い、急ぎ本堂舞台へと向かい、6時少し過ぎに日の出を見ることができた。
舞台左手から見える日の出と共に、暖かな色合いの光が辺りに差し込む。

「あー!いい朝!早起きした甲斐あったわ!」

アスナは舞台手摺の所で両手を掲げて伸びをしながらパタパタと動かす。

「ああ、いい朝だな!」

「そうじゃな」

「うん!」

それに続くように手摺に腕を置いていたナギ、アリカ、ネギが答えた。
しばらく朝日を眺めていた4人は音羽の滝へと向かう為に本堂舞台を後にし、歩きながら会話を始めた。

「もしかしたらここに修学旅行、皆で来てたかもしれないのよね。ちょっと不思議」

「3-Aの皆さんとも来れたら良かったんだけど……」

「でも、イギリスも楽しかったわ。他のクラスは絶対行かない所だったし、色々含めても良い思い出」

「あはは、色々含めて……ですね……じゃなくて、だね」

「ふふ、その調子じゃ、ネギ」

「昨日あんだけ頑張ったのにネギ、起きた瞬間また戻ってるんだもんなー」

ナギは両手を頭の後ろに組みながら歩みを進める。

「つ、つい癖で……ごめんなさい、父さん」

やや申し訳なさそうにネギはナギに謝る。

「そこはごめん、父さんな?ってか謝ることじゃないから気にすんな!」

「いや、謝るときは丁寧な方が良いじゃろう」

すかさずアリカが突っ込みを入れる。

「細かいことはいいだろ別に」

「あー、先が思いやられるわね」

アスナもこのやりとりに大分疲れたのか軽く溜息をついて言った。

「が、頑張るよ!アスナ」

「!!……たまに不意打ちなんて……ネギ、やるわね……」

名前で呼んでと言ってから一夜、呼ばれる当のアスナも慣れていなかった。

「そ、そうですか?」

「って言った傍から」

「あ!しまった!」

ネギはうっかりした、という様で口元に手をあてた。
音羽の滝……それは右から健康・学業・縁結の効果があると言われる水の流れる場所。
全て飲むと効果が無くなるとも言われている。
4人は長い柄杓をそれぞれ手に持った。

「じゃあ僕は一番右を……」

最初に迷わず動いたのはネギであった。
ネギは水を掬い、そのまま口に含んだ。
その様子をナギとアリカは普通に見ていたが、アスナだけは一瞬「あっ!」というような顔をしていた。

「じゃ、俺も一応一番右にしとくか!」

「ナギは常に健康じゃが……私も一番右にしよう」

続けてナギとアリカも柄杓で水を掬い、ネギと同様にそれを飲んだ。
一人残ったアスナは、あっさり飲んでしまった3人を見て慌て始め、3つあるうち一番左をチラチラと見つつも、結局は健康の水を選んで飲んだ。
その様子にアリカは気づかない振りをしていたが、音羽の滝を後にする時に軽くフッと微笑んでいた。
しばらく清水寺境内の門、堂、院や塔をあちこち見て回った後、一家は宿に戻り、部屋で再び旬の食材をふんだんに用いた朝食を楽しんだ。
そして9時過ぎ頃、一家は一泊過ごした思い出のできた旅館を仲居さんに見送られながら後にし、まだ見ていなかった八坂神社を見て回り、そのまま東に進み、円山公園へ向かった。
円山公園の枝垂れ桜は当然春ではないので見頃とは程遠かったが、風情ある景色を一緒に見て回るだけで一家には充分であった。
4人は広い道では並ぶ順番を替えながら手を繋いで仲良く歩いた。
円山公園を通り、非常に巨大な知恩院の門が見え、それをくぐって先へと進み、更に青蓮院へと足を運んだ。
そんな所、不意にナギが口を開いた。

「ここからもうちょっと行けば詠春の所だが、先に別荘寄っとく……ってあー、鍵無いんだった。夕方行くって言ってあるし、まだ他回るか」

別荘に寄るとは言ったものの、鍵が無いのでひとまず後回しになった。
そして知恩院に入り、行きとは違う道を通り、円山公園、そして朝行きがけに横目に通っただけの高台寺に寄り、臥竜廊という開山堂と御霊屋を繋ぐ龍の背に似ていると言われる美しい屋根のある道も歩いた。
再び二年坂と三年坂の近い所に来て、アリカが「先は開いておらなかったが地主神社にも寄らぬか?」と提案して縁結びの神様で有名な地主神社へと一家は向かった。
本殿前に10m程離れて置かれている2つの守護石、願掛けの石、恋占いの石。
片方の石から反対側の石へ目を閉じて歩き、無事に辿りつければ恋の願いが叶うと伝えられている。

「アスナ、挑戦してみてはどうじゃ?」

アリカはややいたずらっぽくアスナに試してみてはどうかと尋ねる。

「え……えーっと、じゃ、じゃあ試しにやってみるわ!」

アスナは一瞬迷ったがナギとネギが「アスナやるの?」という間の抜けた顔をしているのを確認し、深く考えてないならと試すことにした。
アスナは片方の石に平静を装って近づき、立った。
片方の石の前から反対側の石までその距離10m。
アスナは反対側の石を確認して目を瞑り、いざ歩こうという時。

―瞬動!!―

アスナは集中して足に気を集め……縮地の域での瞬動で一直線に反対側の石まで、無事、それはめでたく辿りついた。

「よしっ!」

アスナ本人は目を開けてうまくいった事を確認し、軽くガッツポーズをして喜びを顕にした。

「おお!何だ今の!」

「今あの子瞬間移動しなかった?」

「すごーい!」

「かっこいー!」

「もう一回やってー!」

しかし、他の人達もいる中、堂々と瞬動を思わず使ったのは配慮不足であった。
親子連れで来ていた子供が「もう一回やって!」と騒ぎたて始め、わらわらと周囲の人々が集まってしまい、アスナは困った。

「あ……し、しつれいしまーすっ!!」

アスナは恥ずかしくなり顔を伏せ、加減することなくその場から全速力で走り去り、あっという間に地主神社から飛び出して行ってしまった。
周囲の人々はその余りの速さに唖然として一体何者だったのかとザワザワしたが、やがて各々散っていった。

「余程成功させたかったのじゃな……アスナ」

「流石アスナ、完璧な縮地だったな!」

「一歩で辿りつくのは……歩いたって言うのかな……」

3人はそれぞれ思い思い言葉を述べた。

「ってアスナ、どこまでいっちまったんだ?」

ナギが我に返って言った。

「あの速度だとかなり遠くまでのような……」

「電話を掛ければ良かろう」

アリカは、そう言いながら本名ではない名前でつい最近手配した携帯でアスナの携帯へと電話を掛けた。

「……アスナか。どこまで行ったのじゃ?…………そうか……いや、構わぬ。うむ……ゆっくり戻って来ると良い。私達もそちらに向かう。……ではな」

アリカはアスナと電話を終え、携帯を仕舞った。
3人はアスナが戻ってくるであろう道を歩いて進み、途中程なくして向かい側からアスナが戻ってきたのを確認し、合流した。

「勝手に離れてごめんなさい……」

アスナは素直に謝った。

「気にせずとも良い」

「気にすんな。瞬動までしたってことはアスナ、もしかして好きな奴いるのか?」

もしかして、という確認を拡大解釈すれば、現状の確率的には真理を突いた質問であった。

「あ……」

それに対しネギは何かを思いあたる節があるとばかりに少し声を出した。

「ち、違うの!縁結びだからそのうちそういう出会いがあるかもってやっただけよ!」

アスナはナギの言葉、そしてネギの反応を見て大慌てで勢い良く腕を振り回しながらナギの質問に対しては否定して答えた。

「はー、そういう事か。まあアスナは女子中学だもんな。いい出会い、あると良いな!」

「僕てっきり……。うん、アスナなら絶対良い出会いがあるよ!」

ネギはアスナの今後を応援すると言わんばかりに、しかも口調も完璧に言い切った。

「う、うん、ありがとう。ナギ、ネギ。あはは、あはははは」

アスナはお礼を言いつつも、微妙な空笑いをして、その場を流した。
丁度時刻も昼を過ぎたという頃であった為、4人は近くの店に入って昼食を取った。
午後、一家は時間を見て、まだ余裕がある事から嵐山方面へと足を運ぶ事にし、車で30分程東から西へと移動した。
元々ナギとアリカは来たことがあるし、ネギもそれなりに既に観光をしていた為、どこか絶対に見に行きたいという事も無く、特に予定は詰めていなかったのだ。
法輪寺からスタートし、嵐山を象徴する桂川に架かる全長155mの橋、渡月橋を渡り、広い遊歩道があり雄大な庭園が見物の天龍寺、石段を登って見る事ができる多宝塔のある常寂光寺、二尊院、宝筺院、清涼寺と順に巡っていった。
一つ残念ながら、まだ紅葉の時期には1月程早く、葉の色は殆ど変わっていなかった為、鮮やかな美しい景観を見る事はできなかった。
それでも、ネギとアスナは来たことが無い所であり、4人は歩き続けても早々疲れず、道を元気良く歩きながら会話も楽しむ事ができた。
時刻は夕方、再び4人は車で東に40分程移動し、炫毘古社の入り口に到着した。

「アスナ、ここが詠春の家だ」

「家って……どう見ても鳥居じゃない」

アスナは呆れながら言った。
確かに目の前に見えるのは伏見稲荷神社に似た鳥居、であった。

「3月以来……ここがこのかさんの実家だと知った時は驚いたな」

「あ、そっか、ここがこのかの実家でもあるのね!って広っ!」

「アスナ、驚くのはまだまだだぜ。この後階段上がって千本鳥居、その後幾つも屋敷が建ってるからな」

「中はもっと凄いって事ね」

「そういう事だ。よし、行くぜ!」

そして4人は最初の鳥居をくぐり、階段を登った後、実際千本以上ある鳥居の並ぶ道を進み続け、屋敷入り口に辿りついた。
そこへ巫女さんが2人出迎えに現れ、ナギ達を確認し一礼し、4人は中へと案内された。
アスナは最初の一つ目の屋敷の入り口を通り抜けてから、かなりの広さに驚き、辺りをキョロキョロ見回した。
相当奥まで進んだ所で、他と比べるとやや小さな屋敷に上がるように促され4人は靴を脱ぎ、中に入った。
屋敷の中に入れば4人にとってよく見覚えのある人達が出迎えた。

「ナギ、アリカ様、ネギ君、アスナ君、ようこそいらっしゃいました」

最初に出迎えたのは近衛詠春。

「お先にお邪魔しています、皆さん」

「うむ、先に失礼しておる」

「アスナー!ネギ君!いらっしゃい!」  「アスナさん、ネギ先生、こんばんは」

順にアルビレオ、ゼクト、近衛木乃香、桜咲刹那であった。

「「え!」」

思わずネギとアスナは予想外の人物の姿に声を上げた。

「よお、詠春、今日は世話になるぜ。ってお師匠とアルは何か来るとか言ってるのは聞いてたが、もう着いてたのか。しかも詠春の娘も……何で?いや、別に実家なんだからいいだろうけど」

「それは……」

「ワシが転移魔法を使ってまとめて移動してきたのじゃ」

詠春が後ろを振り返って答える前に、ゼクトがあっさり答えた。

「あー、そういう事。あ?でもお師匠新幹線乗るって言ってなかったか?」

「乗ったぞ。昨日来るときに一度な。科学とやらであれだけ速いのはなかなかじゃった。じゃがワシには合わぬ」

「実は私達昨日の午前中から京都に一足先に来ていまして、あちこち巡って色々食べたりもした後、結局ここに顔を出した所、詠春に今日このかさん達も連れてきてくれないかと頼まれたのです。そこでそういう事ならと私達は一旦麻帆良にゼクトの転移魔法でパッと戻り、改めて今日このかさん達と共にパッとまたやってきたという訳です」

アルビレオがスラスラと足りない説明を補った。

「はー、まあ、お師匠なら余裕か」

感心したようにナギは言った。

「陸路の移動手段を完全に無視してるわね……」

アスナは眉間に手をあて、結局新幹線を無視した移動方法をどうなのかと思案する。

「いつまでも入り口で立っていては何ですから、まずは荷物を置いて自由に座って下さい。荷物と上着は運びますので」

「おう!」

「世話になるな」

「お邪魔します、詠春さん」

「お邪魔します、このかのお父さん、このか、刹那さん」

詠春の勧めに従い、4人は荷物を下ろし、上着を脱ぎ、タイミング良く現れた巫女さんがそれらを別の部屋に丁重に運んでいった。

「アスナ、うちの家大きくて引いた?」

木乃香は座布団に座ったアスナに尋ねた。

「ううん、そんな事無いわよ。ちょっと驚いただけ」

アスナは小さく首を振る。

「それよりこのかと刹那さんも来てるならメールしてくれても良かったのに」

続けてアスナが言った。

「昨日寮の部屋帰った時アスナの靴が嬉しそうに転がっとったし、邪魔するのはあかん思うたんやよ」

木乃香はクスっと笑いながら言った。

「靴が嬉しそうに転がるってね……あー、揃えなかったのは確かだけど」

木乃香の表現にアスナはやや呆れた顔をして返した。

「んー、じゃあ今晩は皆で御飯食べるのね」

「アスナ、4人だけで食べる方が良かった?」

木乃香は少し申し訳なさそうな表情をして尋ねた。

「ううん、そんな事無いわ。クウネルさんとゼクトさんが来るのも元々聞いてたし」

アスナは大きく首を振って言った。

「ほうかー。良かったえ!今日は鍋がメインなんよ。何でも父様達の思い出なんやて」

木乃香はアスナの反応にほっとして顔をほころばせる。

「へー、そうなんだ。鍋、良いわね!」

「もうすぐ用意できるから待っててな」

「うん!」

一方、ネギはナギとアリカと一緒に詠春、ゼクト、アルビレオとアスナ達の横で話していた。
詠春がネギに、無事に戻って来たことに良かったと言い、ネギはそれに返したりしていた。
少ししてナギに勧められネギはアスナ達の方に向かい、改めて木乃香と刹那に一礼して挨拶をした。

「このかさん、刹那さん、こんばんは。今日はお世話になります」

「ネギ君、いらっしゃい!ほな、座って座って」

「ネギ先生、こんばんは」

木乃香はネギにアスナの隣に、余っていた座布団を引っ張って置き、座るように勧め、刹那は落ち着いて挨拶を返した。

「ありがとうございます、このかさん。それで……刹那さん、僕は残念ですがもう先生ではないので先生というのは……」

勧めに従いネギは座布団に腰を下ろし、少し困った顔をして刹那に言った。

「あ……そうですね。失礼致しました。ネギせ……せ……」

刹那は言われた事に気づき、改めて名前を呼ぼうとしたが……詰まった。

「あははは!刹那さんもネギとおんなじ!!」

アスナは刹那の様子に思わず吹き出した。

「え?え?」

刹那はそれに対して疑問の声を上げる。

「た、確かに」

「えー?何なん?同じって」

木乃香はよく分からず、首を傾げる。

「それはね、昨日の夜、ネギが私達に……」

アスナは昨晩の出来事を簡潔に木乃香と刹那に説明した。

「そういう事なんか。それでネギ君は話せるようになったん?」

木乃香はアスナからネギの方を見て尋ねた。

「まだ間違える事もあるんですけど、少しは良くなりました」

ネギは謙虚に言った。

「んー、ネギ君うちにもそれ分かるように丁寧語無しで話してくれへん?」

木乃香は口元に人差し指を近づけた状態で思案し、ネギに言った。

「え、えっと……」

「ネギ!私に何か聞いてみて」

微妙に困っているネギにアスナが切り出した。
ネギはその言葉でアスナの方を向き、一瞬考えて、口を開いた。

「アスナ、今日は……楽しかった?」

首を少し傾げながら尋ねる様はやや控えめな印象を受ける聞き方であった。

「う、うん……楽しかったわよ、ネギ」

改めて聞かれたアスナ自身はまた心の準備ができていなかった為、一瞬虚を突かれたが、すぐに顔をほころばせ笑顔で答えた。

「えー!?なんやそれー!!ネギ君かわいいー!!」

「…………はい」

数秒の間を置いて木乃香はプルプル震えながら大声を上げ、刹那は呆気に取られつつもつい思わず木乃香の言葉に短く同意の声を漏らした。

「しかもアスナ、呼び捨てにしてもらったん何かズルいえ!あーん、ネギ君、うちもこのかって呼んで何か言ってくれへん?」

木乃香はテンションが上がり、立て続けに言った。

「ええっ!?」

「あー、ちょっとそれはやっぱ駄目ー!!ネギ、やらなくて良いわ!」

アスナは木乃香のテンションを見て思わず、ネギにやらなくて良いと言った。

「え!?」

「えー!アスナのけちー!!減るものやないのに!!」

すぐに木乃香はアスナの言葉に反応し、頬を膨らませて異議を唱える。

「減るのよ!!」

しかし、アスナは勢いで自明な事すら強い語調で否定してみせた。

「減るんっ!?」

「減るんですかっ?」

これには木乃香と刹那も驚いた。

「え、えーっと……」

良くわからない状況になり、ネギは混乱し始める。

「あらあら、随分楽しそうね、このか。皆さん、本日はようこそいらっしゃいました。料理の用意ができましたよー」

そこへ巫女服を着た木乃香の母、近衛木乃葉が現れ料理が用意できた事を告げた。
それに続くように後ろから同じく数人の巫女が現れ、大きな鍋と他様々の料理を運んできた。

「あ、母様!」

「奥様!」

「このかのお母さん!?」

「こ、このかさんのお母さん!」

手早く準備が進められて行く中、木乃葉はまずナギ達に丁重に挨拶をして一礼をした。

「ナギさん、アリカさん、お久しゅうございます。ご無事で何よりでした」

「ああ、久しぶりだな。ちょっと色々あってな」

「久方ぶりじゃ、木乃葉殿。心配をかけて申し訳ない」

ナギとアリカは木乃葉に答え、それぞれ礼をした。

「あー、詠春は老けたが木乃葉さんは変わってないな」

ナギはあっけらかんとして言った。

「まあ、ありがとうございます」

木乃葉はそれに自然に受け答えた。

「ナギ……言いたいことは分かるが、一言余計だ……」

詠春は微妙な表情をして呟いた。
木乃葉はアルビレオとゼクトにも挨拶をした後、今度はアスナ達の方にやってきてにこやかな笑顔で挨拶をした。

「初めまして、アスナさん、ネギ君。このかの母の近衛木乃葉です。今日はゆっくりしていって下さい」

木乃葉は、このかとどことなく似た顔立ちで、長く艶やかな黒髪が特徴的な容姿であった。

「初めまして!神楽坂明日菜です!いつもこのかにはお世話になってます!」

「は、初めまして。ネギ・スプリングフィールドです。前期まで1年間このかさんのクラス担任をしていました」

ネギとアスナは背筋をピンと伸ばして木乃葉に挨拶を返した。

「こちらからも、うちのこのかと刹那さんをよろしくお願いします。ネギ君は3月の時、会わなくてごめんなさいね」

「は、はい!こちらこそ!」

「い……いえ、お気になさらず」

アスナとネギはそれぞれ言葉を返した。
……そして、丁度食事の準備が整い、囲炉裏の真ん中に大きな鍋が置かれ、それを囲むように人数分、10個の膳も用意された。
ナギから時計回り順に、アリカ、ネギ、アスナと来て、刹那、木乃香、木乃葉、詠春、そしてアルビレオとゼクトで一周である。
宴の音頭を詠春が取り、早速食事が始められた。

「しかし、昔山の中で鍋を囲んだ時が懐かしいな」

詠春が最初に切り出す。

「ええ、あの時は詠春が自慢気に鍋を奮って鍋将軍に昇格した時ですからね。では……フフ……詠春、知っていますよ、日本では貴方のような者を『鍋将軍』と呼び習わすそうですね」

突然アルビレオがわざとらしくセリフを述べ始めた。

「今日からお前が鍋将軍だ!……にしてもお師匠入れて囲んで鍋食うのってすげー久しぶりだな」

ナギが肉を食べながら詠春の方を向き、大きな声で言った。

「全て任す。好きにするが良い。……そうじゃの……むぐ……うまい」

ゼクトがそれに続き、良く通る声で言い、ひたすら素早く箸を動かし次々と口に運んでゆく。

「なに、そういう流れなのか?んー……嬉しくないなぁー」

思い出すように詠春はあえて露骨に嬉しくなさそうな顔をして言った。

「つかあの時ラカンが途中でじゃまして来たが、いねーな」

「あの馬鹿がおっては食べる量が無駄に減るだけじゃ。ん……おお、刺身に寿司と頼んだ通り出してくれるとはありがたい」

ゼクトの元にゼクト様専用と堂々と明記された膳が新たに運ばれてきて、そこには新鮮な刺身と脂の乗った寿司が幾つも用意されていた。

「あー!何だそのお師匠専用って!」

ナギはそれを横目に見て思わず声を上げる。

「このかさん達を連れてきた報酬と言った所ですよ」

アルビレオは流れるような動作で食べながら解説した。

「役得じゃな。……これはトロか……はぐ……」

ゼクトはナギにお構いなしに、専用膳に箸をつけ始め、醤油に少しつけては次々と口に運んで行く。

「そうそう、ラカンがいた時と言えば……」

紅き翼組は、本人達だけに分かる昔話を始め出したが、その一方ネギはアリカとアスナに挟まれ会話をしながら落ち着いて食べ、アスナはちょくちょく刹那と木乃香と会話しながら、木乃香は木乃葉と会話しながらそれぞれ食事を楽しんだ。
しばらくして、ナギがネギ達にも分かるように昔の事を話し始めたが、途中から話し手がすぐにアルビレオに移り、ネギ達はその整った話を興味津々聞いたのだった。
2時間程して大方食事も終わり、鍋も片付けられた。
その後、食後茶をゆっくりと飲みつつ、程良い所で、女性達は木乃葉の呼びかけで揃って浴衣に着替えつつ、温泉に入りに向かった。
広間に残った者達は円を囲んでゆっくりとポツポツ会話をし、ネギはナギに寄せられその膝の上で落ち着いていた。

「そっか……紅き翼でもういないのはガトウだけなんだよな……。あ、ネギ、この話別にいいか?」

ナギは下を向きネギに問いかける。

「うん、父さん」

ネギはそれに対し首を上げナギの顔を見て答えた。

「タカミチとも話して無かったが、ガトウを襲撃した犯人って分かってるのか?」

ナギが尋ねた。

「俺はその時既にここで落ち着いていたからな……ガトウの事はタカミチ君から後で聞いた」

詠春が神妙な面持ちで答えた。

「私もその前から図書館島の地下でしたから……詳しいことは何も」

「ワシは記憶が無いからの」

続けてアルビレオとゼクトが答える。

「そっか……完全なる世界なのかメガロメセンブリアか……どっちなのかはっきりしないんだよな……」

「では一つ……私の考えを言いましょう。アマテルはまず、ナギとガトウが救出したアスナさんを連れていくのを黙って見過ごしましたし、ガトウ亡き後、タカミチ君がアスナさんを麻帆良まで連れてきた後は一切の手出しが無かった事を考えると、ゼクトの身体を乗っ取って活動していたにしても、アーウェルンクスシリーズやデュナミスが活動していたにしても、力量から言って麻帆良の学園結界を抜けないということはあり得ません。どちらかというと学園長が管轄する麻帆良だからこそ手を出せなかった……と考えるのが妥当かと」

「つまり、メガロメセンブリアの線が濃厚という事じゃな」

「はー、結局それか。あの元老院のじじぃの連中、俺はマジで虫唾が走るんだよな」

ナギはうんざりした顔をして言った。

「ま……またメガロメセンブリア元老院……」

思わずそれにネギが呟く。

「あ、クルトとリカードは別だぜ?」

思い出したようにナギがネギに念押しする。

「それは分かってるよ、父さん。でも……メガロメセンブリア元老院が犯人だとすると……ガトウさんってアスナさんを連れてたのが直接の原因なのかな……?」

ネギは腑に落ちない表情をして疑問を呈した。

「ん?元老院の奴らもアスナの事嗅ぎまわってたからそうじゃないのか?」

「なるほど、ネギ君の言うとおりかもしれませんね……。余り結論に変わりは無いかもしれませんが、ガトウはメガロメセンブリアの非常に優秀な、捜査官でしたから……知りすぎたからという理由で……という事は充分ありえます。そうであれば、当時の戦闘力のタカミチ君だけになった状態でアスナさんと一緒にいてもその後襲撃が無かったという事にも一応説明がつきます。ガトウはナギと別れて以降、元老院にとって相当都合の悪い、何らかの情報を入手していたのかもしれません」

アルビレオがネギの疑問に答えた。

「確かに筋は通っているが、憶測の部分が多すぎるな」

詠春は納得したものの、難しい顔をして断定はできないと言った。

「ええ、まさに死人に口なし、です。残念なことですが……」

アルビレオはやや重苦しく言葉を吐いた。

「やり切れねぇな……。なあ、ネギ」

頭を軽く掻きむしり、ナギは不意にネギに呼びかけた。

「父さん?」

ナギはネギを膝から下ろし、向かい合う。

「……今すぐのつもりは無いが、俺、そのうち魔法世界にまた行っても良いか?」

ナギはいつになく真剣にネギに尋ねた。

「ガトウさんの事……その他も色々だね……。うん、勿論だよ、父さん。僕の父さんは、あちこち世界を飛び回っているのが父さんらしいと思う。僕は今麻帆良のゲートを通るのは無理だけど、父さんが行くと言うなら僕は応援するよ」

ネギはナギの目を見て、しっかりとその想いを言葉に表した。

「そっか。ありがとよ、ネギ。わがまま言って悪ぃな。よし、魔法世界行ったその時は、ネギとアリカが隠れないで済む、ネギとアリカが普通に生活できるようにも、どうするべきかはまだ良く分かんねぇけど、頑張ってくるからな!」

ナギはネギの頭に手をのせて、不敵な笑みをして宣言した。

「う、うん、ありがとう、父さん!」

ネギは目を輝かせ、ナギに言った。

「フフフ、少し前よりも親子らしくなりましたね」

アルビレオが楽しげに言った。

「お、そうか?」

途端にナギは素直に嬉しそうな顔をする。

「うむ、ワシもそう思う」

ゼクトも肯定した。

「ナギ、俺にも出来ることがあったら言ってくれ。今度はここを守ってるだけではなく、少しは手伝える筈だ」

詠春がナギに言った。

「おう!詠春、その時は頼むぜ!」

「ああ、任せろ」

ナギは詠春と拳と拳を軽くぶつけた。
その様子をネギは何やら感慨深く見ていた。

「皆さん、そろそろお風呂に入ってはいかがですかー?」

「温泉気持ちよかったわよー」

丁度そこへ、木乃葉達が戻ってきて、にこやかにナギ達も湯に入ってはどうかと勧めた。

「女性達はもう上がったようですが、私達はどうしましょうか?」

その呼びかけを聞いて詠春がナギ達に尋ねた。

「そろそろいいんじゃないか?」

「うむ」

「私も構いませんよ」

「では、案内しましょう」

それぞれが答え、詠春が最初に立ち上がり、浴場へとナギ達を案内した。
温泉は大人数で入れる仕様になっているだけあり、非常に広いものであった。
ナギ達はまずは椅子を並べて身体を洗い、ナギは「今日も頭洗ってやるからな」と言ってネギの頭をややがさつであったがしっかり洗っていた。
ネギは以前の風呂嫌いも殆ど改善しており、泡が入らないように目を閉じて落ち着いていた。
各々泡を洗い流して湯船に足を入れ、腰、肩まで浸かった。
ネギはふぅーと息を一度ついた後、右隣のナギではなく左隣の首まで湯に浸かっているゼクトにある質問をした。

「あの、ゼクトさん、転移魔法って難しいですか?」

「む、そうじゃな……」

突然問いかけられてゼクトは少し思案する。

「お、ネギ転移魔法に興味あんのか。確かにできたら便利だもんな。一応距離は短いが俺も出来無い事はないんだが」

会話に入るようにナギが言った。

「そうなの?」

ネギは意外な顔をしてナギを見た。

「ナギは勘でやるから転移魔法は駄目じゃ。転移先が大雑把すぎて危険じゃからな。大体アンチョコ見ながらで安定して転移出来る訳なかろう」

ゼクトは冷静にナギの言葉を軽く一蹴した。

「そりゃないぜー、お師匠」

ナギは少しばかり嘆いた。

「事実じゃ。じゃがネギはあの技法ができるのだから充分習得は可能じゃろう。緻密な座標計算ができるならば問題無い」

「そ、そうなんですか?」

ネギは希望を持った目で問いかけた。

「……尤も、転移魔法と一口に言っても、自己転移・他者転移・範囲指定転移、短距離・長距離、基盤魔法も属性ゲート構築型か即時瞬間移動型かで難易度も様々じゃ。影、水場を利用するゲートは開通先に制限があるだけに比較的転移魔法では簡単な部類に入るが、即時瞬間移動型……仮契約カードの召喚機能はその類型じゃがあれを術者が自力展開するのは難しい。転移魔法の習得は困難じゃが、便利なだけに、魔法転移符のような即時瞬間移動型の術式を予め刻みこみ行き先も使用者の曖昧なイメージでもうまく発動するような魔法具が生産されておるのじゃ。重要なのは術式の深い理解と実際のその術式実行技術、後は空間認識能力と演算能力次第じゃな」

ゼクトは淡々と説明をした。

「そういう訳で、いくら呪文を唱えるだけで大体発動できてしまうナギでも、こればかりは適当すぎて無理という事です」

アルビレオはニコニコしながら人差し指を立てて言った。

「アルもかよ……。否定できないのが辛いぜ……」

「安心しろ、ナギ、俺も転移はできない」

詠春が慰めるように、しかし、わざとナギに言った。

「詠春は魔法使いじゃねーだろ!」

ナギが突っ込みを入れる。

「ナギは置いておいて、ネギ君ならゼクトの言うとおり、問題ないでしょう。エヴァもゲート構築型短距離・長距離転移は得意ですし、魔法書も持っているでしょうから教えてくれるのではないですか?まあ、ゼクトの方が網羅範囲は広いですが。後は学園長でしょうか。もちろん、今言った通り、転移魔法術式構築理論に関する魔法書を読んで完全独学という方法もありますが、その場合はどれを覚えるかきちんと決めてやらないと収拾がつかなくなるので気をつけてください。大体挑戦する人の殆どが断念しますし、良くても少しずつ時間をかけて術式を埋め込んでいけば作成できる魔法転移符作成技術習得で落ち着くのです。慣れれば儲かるでしょうが、終日魔法符と向かい合い続ける必要がありますし、途中少しでも間違えたりすると最初からになってしまうので大変です」

アルビレオが流れるようにスラスラと言った。

「へー、魔法転移符も作るの大変なんですね。もう太陽道は使わないと決めているので、まずはゲート構築型から挑戦してみたいと思います。影の転移はコタローもできるし……。ゼクトさん、クウネルさん、ありがとうございます。マスターにも聞いてみます」

ネギはゼクトとアルビレオに礼を述べた。

「ふむ、はっきりと聞いておらなかったが、あの命に関わる技法を使わぬと決めたのは良いことじゃな」

ゼクトがネギの言葉を聞いて、納得する。

「はい」

「……俺も聞いてなかったが、太陽道ってのは使わないって決めてたのか。ネギ、後でそれ、アリカとアスナにも言ってやってくれないか?……心配してるからよ」

ナギはネギに安堵したような表情で語りかけた。

「そっか……そういえば言ってなかったね。うん、分かった。母さんとアスナにもちゃんと言うよ」

「ああ、頼むぜ」

ネギの答えに対し、ナギはネギの頭をポンポンと撫でて言った。
そこへ不意にアルビレオが怪しげな笑みを浮かべながら詠春に言った。

「詠春、男の子が欲しくなったりしませんか?」

「いきなり何を……俺はこのかがいればそれでいい」

詠春は無難に受け答えた。

「おや、流石詠春、堅いですね」

アルビレオはおどけて言った。

「それより、魔法転移符の話で思い出したが、地球で世界規模に展開しているらしい全貌不明の組織の事は知っているか?」

悪乗りしようとするナギを察知し、詠春は話題を切り替えた。

「お、なんだそれ?」

「全貌不明の組織……?」

ナギとネギは初めて聞いたと言う。

「魔法転移符を始めとして、幻術薬、結界符、人払い符と言った魔法具をアンダーグラウンドにやりとりして用いている基本表で活動し裏に関与している組織の事ですね」

アルビレオが説明した。

「初耳じゃな」

「そ、そんな組織があるんですか」

「はー、地球も相変わらず問題が絶えないもんだな」

「暗殺もやっているらしく、こちらでも西日本には警戒の目を光らせてはいるんだがな……裏に関与しているか判別がつかず対処しづらい」

詠春が悩ましげに言った。

「ええ、そのようですね。元より捕まれば本国で即実刑の魔法使い達がどこかで隠れて魔法転移符などの生産を行って主にそういった組織に供給しているそうです」

「難儀な事じゃな」

「そりゃ厄介だな……。転移で急襲、即転移で逃走なんて碌でも無い事ができるじゃねぇか」

ナギが顔をしかめて言った。

「あ、暗殺……」

「うちのこのかも今後狙われるかもしれないが、タカミチ君から聞いたが、大変なのは超君だろうな……」

詠春も顔をしかめて呟いた。

「詠春、それは」  「む?」  「ち、超さんが?」  「超の嬢ちゃんだって?」

咄嗟にアルビレオが釘をさそうとするが、遅かった。

「あ、しまったな……。超君の事はここで言っては駄目だったか」

詠春が気まずそうな顔をして言った。

「リラックスして口が緩みましたね、詠春。それは彼女の本意ではないでしょう」

軽く溜息をついてアルビレオが言った。

「ど、どういう事なんですか?超さんが大変って。超さんは僕の恩人なんです。詠春さん、クウネルさん、教えてくださいっ」

ネギは血相を変えて詠春とアルビレオに問いただす。

「ネギ君、落ち着いて考えてみて下さい。超さんの技術力、世界での知名度を」

「あ……。そういう事ですか……。考えればすぐ分かる事なのに……いつも超さんに色々お世話になってたのに、気付かなかった……」

ネギはすぐに落ち着きを取り戻し、湯船に再び浸かり、やや気落ちする。

「超さんは元からあまり自分の事を話しませんが、余計な心配をかけないようにしているのでしょう。実際彼女は対処できるだけの能力もあります」

「あ、あの、超さんは実際に狙われた事って」

「ネギ君、それは守秘義務というものでお答えしません。とは言ったものの、私も詳しい事は知りませんので、その話はタカミチ君の方が知っているでしょう」

アルビレオは実際詳しい経緯を知らないので回答できないと言った。

「そ、そうですか……」

《ですが、ネギ君、超さんには彼の者達がついていますから、大丈夫です》

アルビレオは続けてネギに念話をかけて、ある存在の事に言及した。

《あ……そうでしたね。ありがとうございます、クウネルさん》

《いえいえ。これ以上はお互い聞かないでおきましょう》

《はい!》

「あー、超の嬢ちゃんが邪魔だと思ってる奴らがいるって事か……。で、ネギ、やっぱ超の嬢ちゃんは恩人だったのか」

ナギはネギに問いかけた。

「う、うん……。でも、これだけはこれ以上話せないんだ。ごめんなさい、父さん」

ネギは申し訳なさそうに言った。

「いいや、気にすんな。超の嬢ちゃんから話さないように言われてるんだろ?」

「うん……」

「なら、今度改めて礼を言いに行くからよ。それぐらいは良いだろ」

ナギはネギに深くは聞かず、礼をしに行くと言った。

「う、うん。それぐらいなら……」

「ナギ、超さんはそういうのをあまり好まないタイプの人ですから、程々にしておいた方が良いです。超包子の肉まんを褒める等するのが良いと思いますよ」

アルビレオがナギに軽くアドバイスをした。

「そうなのか……ってそんなんでいいのかよ!」

ナギが突っ込みを入れる。

「そんなんで、ではありませんよ。あれだけ熱心に世界に広めようとするのですから、彼女にとって超包子の肉まんには非常に強い思い入れがあるのだと思います。それを褒めるというのはそれだけで意味がある筈です」

冷静にアルビレオは答えた。

「はー、そういうもんか。分かった、参考にするぜ、アル」

「ええ、絶対にという事はありせんから好きにしてください。ところで、ネギ君、先程話しませんでしたが、条約で転移魔法の規制はまだ決まっていませんので、その点も少し考慮しておいた方がいいですよ」

アルビレオはネギに転移魔法についての話題を再び振る。

「あ、はい、そうですね。分かりました」

「まあ、考慮とは言ってもそういう事があるかもしれない程度ですが。もし規制されるとしても、魔法転移符の扱いがまず決められない事には始まらないでしょうね。地球62億人から見れば、単独転移魔法を行使できる術者の数は、まさに例外中の例外と言える程度の一握りにしかすぎませんから。事実上の規制無しと言っても過言ではないでしょう。ただ国境を意図して越えたり、私有地に勝手に入り込んだりして、問題になった場合は普通の法律が適用される事になると思いますが」

アルビレオが再び解説を行った。

「む……では、そのうち外国に飛ぶ時には気をつけねばならぬの」

ゼクトは少し面倒そうに言った。

「ゼクト、それどころかまず地球では出入国が問題ですよ。日帰りで行き来するなら構わないかもしれ……構わなくは全くありませんが。実際私とゼクトが今住んでいる所も住所登録されていないですから、不法占拠のようなものですし色々問題があったりしますよ。一応ゼクトの戸籍は即席で用意できましたが」

少々困った顔をしてアルビレオが言った。
それに対し詠春とネギは思わず微妙な顔をした。

「地球とは細かい事に拘るのじゃな。魔法世界はかなり自由だというに」

「その分魔法世界は地球よりも物騒な事が遥かに多いという弊害があります。さて、ネギ君はどう思いますか。地球と魔法世界、どちらが正しいでしょうか」

アルビレオは突然ニコニコしながらネギに質問した。

「……どちらが正しいと言う事はできないと思います。地球も魔法世界もそれぞれの形で成り立っていて……どちらが優劣というのは絶対的尺度で比べる事はできない、僕はそう思います。ただ、一つ一つの事象を取って考えるなら、その上で、そういった事について忘れずに常に考え続けて行く事が重要だと思います」

ネギは一瞬間を置いた後、はっきりと言った。

「なるほど、ネギ君はそういう考えですか。文化の相対性という観点から、それが孕む問題についても考え続ける。原則的に全ての文化に優劣が無く、平等に尊ばれるべきという事を理解しているのは大事なことです。私もネギ君と同じような考えです。この問題については議論が絶える事はないでしょう」

アルビレオは良く出来ました、という表情でネギに言った。

「はい!」

「あー、言ってることは俺にも分かったぜ」

ナギもとりあえず納得したような様子で言った。

「分かってもナギはいつも勢いと勘で動くだけじゃからな」

「お師匠!たまには俺だってなぁー!」

「フフフフ」

ゼクトとナギの言い合いが始まりそれをアルビレオが笑って見守る。

「ナギとゼクト殿は変わらないな。……さてと、そろそろ上がらないか?」

「はい!」

「そうだな!」

詠春の提案で、ナギ達は湯船から上がり、身体を拭き、服を着て浴場を後にした。
一旦広間に戻った所、木乃葉達はおらず、荷物が運ばれた部屋に顔を覗かせてみれば、既に布団が並べられていたその上で、羽織りを着た彼女達5人は円を囲んで話しをしていた。
顔を覗かせた詠春達に木乃葉達は気づき、互いに挨拶を交わした。
そのままそれぞれ部屋に別れるかという時、木乃葉が「縁側で星空を見ませんか?」という提案をし、それに皆賛成し、一同は星空のよく見える縁側に座布団を持って移動した。
大人達は星空を眺めながら木乃葉が用意してきた月見酒を飲んでゆっくり過ごし、子供達もゆったりと酒の代わりに茶を飲んで過ごしていた。
少しして幅のある縁側の為、2×2になるように木乃香と刹那が座布団ごと後ろに回りこんで移動し、ネギに話しかけた。

「なあ、皆も言うとったけど、ネギ君はこれからどうするん?」

「そうですね……。一応ネギ・スプリングフィールドは死亡した事になって違う戸籍をなんとか用意して貰ったんですが……」

呟くようにネギが言った。

「えー!?じゃあ、今ネギ君の名前ってどうなっとるん!?」

木乃香はネギが話す途中で驚きの声を上げた。

「えっと、名前はそのままで苗字が適当……じゃないんですけど、ちゃんとあります」

ネギは微妙な顔をして言った。

「え、苗字教えてくれないん?」

木乃香がショックを受けた顔をした。

「あー、このか、クラスの皆に言わないって約束できる?」

アスナが助け舟を出した。

「もちろんやよ!そんな問題ある名前なんか?」

木乃香はそんな人に言えないような名前でないだろうと思っている為、意外そうな顔をし、刹那も同様の顔をする。

「3-Aにとっては誤解を招くわね……絶対」

もしバレたら、どうなることやらという様子で、アスナは眉間に皺を寄せて言った。
木乃香は何か凄いことが聞けるかもと思い、喉が乾いたのか茶を口に丁度含んだ。

「僕の名前は……ネギ・S・F・マクダウェルになってるんです」

「ブーッ!!」  「ええ!?」

木乃香はギリギリで湯呑みに顔を抑え、口に含んだ茶を吹き出し、刹那は驚きの声を上げた。

「けほっ、なんやそれー!いいんちょが聞いたら発狂するえ?」

「だから言ったのよ……。しかもこのか口にお茶……」

アスナは木乃香が吹き出した事に若干呆れつつ言った。

「……実際イギリスにはマクダウェルという苗字は存在するので変ではないですし、ミドルネームにスプリングフィールドの頭文字も入れてありますし、マスターと同じという事で僕自身は気に入ってます」

「あ、せっちゃんありがとな。……そうなんかー。うん、全く関係無い名前よりはええな」

木乃香は刹那に差し出されたハンカチで口周りについた茶を、とても上品に、拭いながら言った。

「そうですね、私もそう思います」

木乃香と刹那はネギの説明に同意した。
そこへゼクトと2人で少し離れた所にいたアルビレオが会話に割り込みをかけた。

「どうせなら私の偽名のように、ネーギル・サンダース、あるいはネギルド・マクドナルド等でも良かったと思いますよ。私にもライバルが増えますし」

「そ……それはちょっと……」

「なにそれ……」

「…………ライバルって……」

ネギは頭を抱え、アスナと刹那は訳の分からない名前の案に対し困惑した。

「くーねるせんせ、その名前の方が目立つえ?」

「フフフフ、冗談ですよ」

「ややわー!」

木乃香とアルビレオは慣れていると言わんばかりのやり取りを勝手に繰り広げた。

「刹那さん、このかとクウネルさんっていつもこうなの?」

アスナが刹那に顔を近づけてこっそり尋ねた。

「は、はい……たまに私も同行する時は大体似たような感じで……」

刹那自身はまだ慣れないといった雰囲気を醸しだして言った。

「そ、そうなんだ……。まあ、うまく行ってるならいいんじゃない?」

2人は半笑いしながら言葉を交わした。

「あれ、それでネギ君は名前変わってこれからどうするんやったっけ?」

木乃香は思い出したように首を傾げて言った。

「はい、名前を変えてもらいましたが、僕は麻帆良学園では結構目立ってましたから、麻帆良学園で表に出て活動するというのは、今は無理です。だから麻帆良学園に通うという事も無いので……結局まだはっきりとは決まってないんです。ウェールズに戻って生活するというのも一つの方法だとは思うんですけど……」

「それは寂しいなぁ。アスナも嫌やろ?」

「う、うん。それはね」

自然に木乃香は答え、同意を求められたアスナは一瞬虚を突かれたが、肯定した。

「魔法の勉強についてはまだまだ僕は覚えたい事、やりたい事、研究してみたい事があるので普通に麻帆良で滞在する分には問題無いと思います。さっきも転移魔法についてゼクトさん達から聞いて、それの習得も考えてるんです」

「え、何、またいきなりね、ネギ。どうして転移魔法を?」

今聞いたと言う様子でアスナがネギに尋ねた。

「いつか旅に出る時に長距離転移ができたら、いつでもすぐ……アスナの所、父さん母さんや皆の所にだって戻ってこられるなって、そう、思ったんだ」

ネギは俯いた状態から顔を上げアスナを真っ直ぐ見て、心の裡を伝えた。

「そ……そういう事なのね。うん、ネギ、できるようになると良いわね」

アスナは穏やかな笑顔でネギを後押しする言葉を贈った。

「うん、頑張るよ、アスナ」

「あーん!やっぱアスナずるいー!ネギ君、うちにもその言葉遣いで話してくれへん?コタ君やアーニャちゃんだと思って言ってみればええだけやよ!」

木乃香が両手を振って羨ましいと騒ぎ始める。

「お、お嬢様」

「そ、そう言われても……」  「ネギ、やらなくて良いわ!」

刹那は木乃香の様子にあたふたし、ネギは困惑し、アスナはネギにまた念押しした。

「むー、せっちゃんも言って欲しくない?」

邪魔が入ったとばかりに木乃香は刹那に同意を求め、多数派を結成しようとする。

「わ、私ですか?」

急に話を振られて刹那は驚く。

「いや、だったらまず、木乃香は刹那さんの言葉遣いを直すのが先よ!」

ここぞとばかりにビシッとアスナが核心を突く。

「あ!それもそうやね!せっちゃん!うちの事このちゃんって呼んで?言葉遣いも楽にしてええんよ!」

木乃香はそれも一理あると思い、刹那に顔をズイッと近づけ頼んだ。

「お、お嬢様!?」

それに対し、急に顔を近づけられ刹那は思わず後退する。

「言えてないえ!……うーん、癖になっとると大変かもしれんなぁ」

「うん、そうなのよ。反射的なものだから何度も練習しないと」

木乃香は一旦刹那から離れ、それにアスナが乗るようにして言葉を重ねる。

「あ、アスナさんまで……」

嫌な予感がしたのか刹那は更にジリッと後退する。

「刹那さん、頑張ればできるようになりますよ!」

ネギが両腕を身体の前に構え、底抜けに明るく、刹那を応援した。

「ね、ネギせ……ネギく……駄目ですーッ!!違和感が酷くて私には言えません!」

刹那はネギにトドメを刺され、顔を真っ赤にして激しく首を振って髪を振り乱しながら、寝所の方向へと勢い良く走り去っていった。
これには一瞬大人達も何事かとそちらの方向に目を向けた。

「このか、これは刹那さんかなりの重症なんじゃないの?」

「うーん、うちが抱えとる問題は思うとるより大きいかもしれへんなぁ……」

アスナと木乃香の2人は同時に腕を組み、顎には片手を当て、目の前の問題について深く検討し始めた。
それからしばらくして息を切らせながらトボトボと刹那が帰還し、座布団に再び腰を下ろした。

「はぁ……ただいま戻りました」

微妙にぐったりした様子で刹那が言った。

「おかえり、せっちゃん。せっちゃん、この茶碗どう思う?」

木乃香は刹那が戻ってくるまでの間に用意した茶碗を刹那に見せた。
どういう流れか分からず刹那は疑問に思いながらも茶碗を受け取ろうと手を伸ばした。

「……このちゃんッ!?」

刹那が「……この茶碗ですか?」と普通に言おうとした所をアスナがタイミング良く後ろから素早く口を塞いだ。
結果、口を塞がれた事によって出た「ん」だけが無駄にうわずったが、確かに「このちゃん」と聞こえた。

「わー、うまく行ったえ!アスナ!」

木乃香は喜びの声を上げて思わず拍手もする。

「思ったとおりね!」

アスナは計画通り、とキリッとした顔で木乃香に返答し、刹那の口からもういいか、と手を離した。

「こんなダジャレな方法でいいのかな……」

ネギは微妙に呆れるように言った。

「何だか私……やりきれないですっ……」

解放された刹那は喜んでいいのやら怒っていいのやら分からず、両手を床につけてガクッと気落ちした。

「せっちゃん、元気出して?ほら、この茶碗どう思う?」

木乃香は性懲りも無く、刹那の顔の元に茶碗を差し出した。

「もう引っかかりませんっ!」

とうとう刹那は叫び声を上げた。
……何だかくだらないようなくだらなくないような事をやっているなと、大人達はその様子を見て微笑みつつも、時間は過ぎて行き、頃合いになってそれぞれ用意された寝所へと向かった。
スプリングフィールド一家4人は寝る前に、ナギがアリカとアスナの2人をネギの前に正座で座らせ自分もアリカの横に座ってネギを促した。

「母さん、アスナ、僕はもう太陽道は使わないと決めているから、安心して下さい。それで、今まで言ってなくてごめんなさい」

ネギはハッキリと宣言し、今まで言っていなかったことを謝った。
その言葉を聞いたアリカとアスナは肩から力を抜き、空気が抜けるようにその場に脱力し足を崩して楽になった。
2人は安堵したかのように溜息を漏らし、その目から一筋の涙が流れた。

「……そうか、ならば安心じゃ……。ネギ、無茶はせぬようにな」

先にアリカがネギに落ち着いて言った。

「ねっ……ネギ、ごめんねっ、私の為に危険なものを使うことになって……。もう絶対、無茶しちゃ駄目よっ」

アスナは一度涙が流れてから涙が止まらなくなり、次々と目に大粒の涙を浮かべながら、自分の手でその涙を拭いながら言った。

「母さん、アスナ……うん、約束するよ」

ネギは太陽道を使わないという事を言うだけでアリカとアスナがここまで反応するとは思わず、ネギ自身も釣られて目に涙を浮かべながら約束の言葉を述べた。
しばらくして落ち着いた後、一家は並んで布団で休み……そして翌日。
朝起きて一同は温泉に軽く入った後、朝食を昨日と同じく広間で取った。
その朝食での会話中に、ナギが詠春に別荘の鍵を貸して欲しいと言い、詠春は元々所有者はナギの家だろうと言って、朝食後鍵をナギに渡した。
陽もすっかり昇った頃、スプリングフィールド一家は4人で一旦総本山から出て、道なりに少し歩き、目的の場所についた。
ナギが玄関の鍵を開け、中に入った。

「おー、全然変わってないなー」

ナギが感動したように言った。
開放感のある1階から2階の天井までの吹き抜け、壁には大量の本が収められていて、梯子で登り降りが可能になっていた。
キッチンや風呂、トイレ、寝室は奥の部屋。

「懐かしいものじゃな。前と変わっておらぬ」

アリカは感慨深そうに言った。

「へー、ここが別荘なのね」

アスナは天井を見上げたままくるりと一回転しながら言った。

「3月に来た時は、まさか父さん、母さん、アスナとここにまた来られるなんて思ってなかったな……」

ネギは以前来たときの事を思い返すようにして呟くように言った。

「これからは時間さえあればいつでも来られるからな!4人分のスペースはリビングに取り過ぎてるせいで無いが、少しリフォームすれば充分住めるぞ」

「うむ、そうじゃな」

「何か別荘っていいわね」

ナギ、アリカ、アスナは明るい顔をしてそれぞれ言い、その姿をネギは嬉しそうに見ていた。
埃が積もっている為、4人は掃除をする事にした。
高い本棚の上の隙間等普通には手の届かない所はネギとナギが浮遊術で飛びながら雑巾を掛け、それ以外の所をアリカとアスナで手分けして行った。
その途中アスナが写真立てを見つけて3人に呼びかけた。
作業を中断し、4人は一階のリビングに集まり、その写真立てに顔を覗かせた。

「おおー、懐かしいな。俺ちっせー。お師匠とアル変わってねー」

ナギが素直に思った感想を述べた。

「ねえ、やっぱりこれ……ガトウさんよね……?」

アスナは写真の中で右側を向いて立って映っている中年の男性を震える指で示した。

「ああ……そうだ」

「そう……やっぱりそうなのね……。ガトウさん……ガトウさんだけはもう戻ってこない……」

アスナは自然と目を潤ませて言った。

「ガトウ……。残念じゃな……」

アリカもガトウの協力に何度も助けられた事に想いを馳せ、震えるアスナの肩に腕を回してそっと抱きしめた。
その様子をナギとネギは静かに見守り続け、しばらくしてアスナはようやく落ち着いた。
そして一度深呼吸をしてアスナは3人に言った。

「……ガトウさんはもういないけど、私の心のなかにちゃんと生きてるわ。私が忘れない限りガトウさんはいなくなりはしない」

「……そうじゃな」

「……そうだな」

「うん……想いは心の裡に生き続けるよ」

ネギはアスナと同じく、ある人物の事に想いを馳せ、胸に手をあてて言った。

「そうね、ネギ」

そして、再び一家は掃除を続け、昼頃になった所で総本山に戻り、ナギは詠春に別荘を管理してくれていたことに感謝した。
昼食を広間で取りながら、一行は午後どこに出かけるかを話し、木乃香が太秦シネマ村に行きたいと言い出した事で、車で30分程、昨日ナギ達が行った嵐山の少し手前の太秦シネマ村まで向かった。
空気を読んだのか、ゼクトとアルビレオは「後で念話しますので」と言い、2人でシネマ村内の主に食事処を巡りに別行動へと移っていった。
シネマ村というだけあって、時代劇で実際に使用される撮影用施設が立ち並ぶ為、江戸、日本橋、吉原等の町に来たというような感覚を楽しめる。
一行はあちこち気ままに歩きまわりながら会話を楽しみ、時には衣装コーナーで着物に着替えたりして過ごした。
ネギ達がハッとしたのは、ロケーションスタジオの映画撮影の裏側について説明するコーナーにて、超鈴音の開発した三次元映像撮影器が紹介されていた事であった。
「今日本で最も話題の麻帆良学園都市の天才、超鈴音が開発したこの三次元映像撮影カメラ、これによって映画撮影の幅は無限の可能性を見せたのでござそうろう!」……等と侍の服装をした人が大仰に説明していたのである。

「何か……凄い変な感じするわね……」

「流石超りんやなぁ」

「もう超さんの名前を知っている人は世界でもかなりの数に上るでしょうね……」

「超さん……」

と、アスナ達は自分達が良く顔を合わせる超鈴音について、改めてその知名度を高さを認識したのだった。
三次元映像撮影器はまだ普及し始めて数ヶ月、個人で私的保有をするのは規制が厳しい為まだまだ一般人にとっては珍しく、そのコーナーには、実際に以前の撮影方法と違ってどんなことができるようになるのか等が分かりやすく実演もされていたので、多くの人が集まっていた。
言いだしっぺの木乃香も充分堪能した所で、一行は太秦シネマ村を後にした。
その後、スプリングフィールド一家は帰りも新幹線で帰る為、その時刻まで何か良いところはあるかということで、詠春が「あそこが良いです」と言い出し、車が出された。
着いた先は、京の舞の施設であり、ネギ、木乃香と刹那は3月に行った事のある場所であった。
中に入ってみれば、あちこちにエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルがその美しい金髪を煌めかせながら華麗に舞っている姿が写ったポスターや映像も流れており、ある意味一行にとっては確かに良い場所であった。
太秦シネマ村に引き続き、身近な知り合いがプッシュされている事に「麻帆良って一体なんだろう……」とネギが呟いたのは真理を突いていたと言えよう。
そうこうしているうちに時間はあっという間に過ぎ、スプリングフィールド一家は京都駅まで送られ、ここで互いに挨拶を交わし、詠春達、ゼクトとアルビレオと別れたのだった。
一家は18時32分の新幹線に乗り込み、東京方面へと向かった。
アスナは携帯で幾つも取った写真を3人に見せながら、今回の家族旅行の復習をし、4人の会話は途切れる事なく東京まで続いたのだった。
東京で再び新幹線に乗り換え、大宮へと約25分、そして埼京線に乗り換えて麻帆良へと帰ってきた。
時刻は丁度22時前。
アスナの帰る女子寮とナギ達の行く方向が途中まで同じ方向だった為、4人は送って行く形で一緒に歩いた。

「ネギ、2泊3日だけだったが、初めての家族旅行、どうだった?」

街明かりのお陰で表情が分かる中、ナギがネギに尋ねた。

「はい!父さんと母さんとアスナと行けて、凄く、凄く楽しくて、嬉しかったよ!」

ネギは満面の笑みでナギ達に言った。

「そっか、それは良かった!俺もネギとアスナとアリカと一緒に行けて楽しかったぜ」

嬉しそうな顔でナギはそれに答えた。

「私もじゃ。まるで夢のような旅行じゃった」

アリカがしみじみと言った。

「私もよ。こんな素敵な家族旅行初めて。凄く楽しかったわ」

アスナが続けて言った。

「……父さん、母さん、また今度も旅行、一緒に行ってくれる?」

女子寮への分かれ道が見えて来た所でネギが尋ねた。

「おう、必ず一緒に連れて行ってやるぜ!」

「当然じゃ。ネギがいなければ家族旅行にならぬじゃろ。必ず行く時は一緒じゃぞ?」

ナギとアリカがそれぞれネギに次も旅行に必ず行こうと約束した。

「うん、ありがとう!」

ネギは、感謝の言葉を述べた。
……そして、分かれ道でアスナは3人と別かれ、一人女子寮への帰路へと着いた。
つい一昨日出た時と逆に女子寮の中を行き、643号室の前につき、ドアノブに手を掛けた。
鍵がかかっていないのを確認し、アスナは中へと入った。

「おかえり、アスナ!」

出迎えたのは、驚いた?というような顔をした木乃香であった。

「ただいま、このか!」

アスナはすぐに靴を脱ぎ、部屋に上がった。

「ホント、転移魔法って便利ねー」

感心したようにアスナは服を着替えながら言った。

「そうやね。パッと行ってパッと戻ってこれるのは便利や。……でも、普通に戻ってきたアスナは今凄く嬉しそうな顔しとるえ?」

木乃香がアスナの様子に言及する。

「うん、そりゃ私、今凄く嬉しい気持ちで一杯だもの!」

アスナは満面の笑みで、心の裡を表現した。

「ほな、良かったね、アスナ」

木乃香も釣られるように顔をほころばせ、言葉を返した。
そして2人は、仲良く話をしながら、また明日からの学校に備えてベッドに就いたのであった。
その眠りについたアスナの顔は、翌朝起きるまでずっと……ずっと幸せに満ちていた。



[27113] 74話 脅威、それは千里眼
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:50
麻帆良の広域認識阻害が解除されてから5日目、10月18日土曜日。
ここ数日で何がどう変わったかと言えば、椎名桜子と柿崎美砂、釘宮円のように「まあ少し感覚が違うんだねー」ぐらいで済んだ者達もいた一方、もう何度目かの説明になるが、事故発生の危険性のある部活、研究会に所属する者達の反応は大きく2つに分けられる。
一つは幼少組に多い傾向なのであるが、自分達がやってることを純粋に凄いと強く実感できるようになりテンションが寧ろ上がったタイプ、もう一つは麻帆良後期転入組に多い傾向であるが、今まで何も気にせず、普通に、麻帆良外では大分ありえない事をやっていた自分自身に混乱、引くという反応を見せるタイプである。
まだ活動再開から3日目であるが、図書館島探険部を例に上げれば、前者は「こんなリアル冒険者な気分が味わえる部活は他所では絶対ありえない」と、図書館島探険部では標準装備と化している自前のワイヤーを縁に引っ掛けて魂の叫び声を口に出しながらシューッ!とハイテンションでガンガン下層に潜っていく生粋の麻帆良っ子(大学生)達に対し、それを「それは……ねーよ……俺もできるけどさ……あ?」と言った引きながらも複雑な表情で見て、崖になっている場所で足が竦んだり竦まなかったりする後期転入組(大学生)と言った様相を呈している。
ハイテンションだと調子に乗りすぎて怪我をしそうであるのと、精神が不安定で無理してやっても怪我をしそうという……まあありえるとは予想はしていたが、現実になった訳だ。
軍事研の演習はまだまだ規模は縮小されているが、実弾を使用していないとは言え普通に歩兵武器であれば拳銃やライフル……以下略、機甲兵器だと……戦車の操縦といったりするものは……もう説明しなくてもいいだろうか。
極めつけというと何だが、やはり麻帆良湖に小型空母的なものまで配備されているというのは……確かに麻帆良祭でリアル海戦ゲームなんていう正直結構危険なイベントをやっていたので今更なのだが、常識が戻った今となってはもはやカオスと笑ってごまかせる次元を通り越して戦争を始めるつもりなのかとも取れなくもないあたり……どうなることやら。
もう一つ、昨日ようやく麻帆良大航空部と工科大複葉機研は同時に麻帆良上空での飛行許可が大学敷地内限定で出たのだが……その前の2日間を振り返ろう。
彼らはそれぞれ、飛べるようになる昨日まで複葉機群の整備に余念が無く、生粋の麻帆良っ子(大学生)達はニヤニヤしながら点検作業を何度も繰り返したり、編隊飛行のパターンがαだかβだかγだか⊿だかは知らないがそれらの確認等をずっとし続けていたりと変に嬉しそうな様子であった……。
そして昨日、いざ飛行解禁となり、麻帆良大航空部を例にとれば、現部長七夏・イアハートは小型プロペラ複葉機ヒッツ・スペシャルを駆り以前と変わりない曲技飛行をやってのけたり、複葉戦闘機でドッグファイト……空中戦闘機動(ACM)訓練で、巴戦……単機での機動訓練は勿論、同精鋭部員達との複数機で一矢乱れぬ隊列を組んでの機動訓練等も見事やってのけた。
七夏・イアハートは流石生粋の麻帆良人というべきか、彼女の飛行技術は独立行政法人航空大学校に外部の大学課程を2年以上修了して入学したての人と比べるまでも無いレベルであり、就職先にははっきり言って困らないというか寧ろスカウトが確か既に大分前から来ていた筈だったと思う。
とにかく、彼女の未来は明るい事だけは事実である。
当然航空部に限らず麻帆良大工学部を始めとし、各研究会、部活の事はテレビでもう散々流れた後なのであるが……麻帆良のどこかしらの学校への入学に関する問い合わせが、情報統制が切られてからというもの止むことがなく、各学校事務職員達はメール、電話対応等にもう飽き飽きしている。
そんな事にもどこ吹く風と、本日午前8時、超鈴音は調布航空宇宙センターへと雪広グループの手配した車に本社から麻帆良大工学部の教授、お兄さん達数人、葉加瀬聡美、サヨと共に例の黒長い車、当然VIP用特殊装甲仕様に乗り込み4台編成で出発する事になった。
護衛には葛葉先生、神多羅木先生、龍宮神社のお嬢さん……と珍しい事に瀬流彦先生と来て、雪広グループの精鋭エージェント部隊……中には忍者もいるという早々崩される事は無い鉄壁の布陣が付いている。
当然サヨ、そして私が観測している訳で、葛葉先生、龍宮真名、今回は神多羅木先生と瀬流彦先生にも端末が渡されていて通信はいつでも可能な状態である。
今回は例の組織を誘き出すことが目的ではないので、護衛をきちんと済ませ無事にまた麻帆良に戻れればそれで100点である。
それにしても、先生の護衛が少ないと思うかもしれないが、正直今かなり魔法先生達、魔法使い達は皆主に日本政府対応その他諸々で忙しいので仕方がない。
タカミチ君も未だにニューヨークで相変わらず仕事中であり、未だ帰ってくる気配は無い。
……とまあ色々大変なのであるが、護衛されている側の人達ははっきり言ってテンションがおかしい。
というのも、超鈴音がプリズムミラー方式の人工衛星の開発企画書と仕様書を麻帆良大工学部で広域認識阻害解除前に発表して、それを実際超鈴音が「作るヨ!」と当たり前の如く宣言したからである。
結果、火星の太陽光不足緩和計画はJAXAと麻帆良大学連携主体で行われ、強力なバックアップに雪広グループが加わる事に……今もう間もなくこれからなる予定である訳だ。
出発するに当たって雪広グループ本社前に待機していた4台の黒長い車は目立ち、相変わらず報道機関系がたむろしている為、麻帆良から出る際にはこれからどこに行くつもりなのか、とインタビューがしつこかった訳だが、全部雪広グループの社員達にブロックされていた。
ここ最近麻帆良はもはや妖魔が云々よりも産業スパイの出現率が前よりも酷く、特に麻帆良大工学部の研究室に忍び込もうとする輩の発生率が急上昇しているが超鈴音の主要な活動拠点なだけあって、田中さん達はうじゃうじゃいるわ、警備員さん達と日本政府の配慮によって埼玉県警からも警察官が派遣されてきておりその巡回も厳しい為、今の所完全防衛中である。
尤も、一番おかしいと目されている田中さん達自体の捕獲を狙った者も現れているが、そもそも一般人に捕獲できる訳も無く、破壊してせめて部品だけでも持ち帰ろうとしても認可の無い銃器を持ち込んだ日には、学園側が即座に感知して捕まるので、寧ろ侵入が困難になるという結果に終わり、そういう訳でそういう事も無い。
田中さん達の専用ポッドが配備されているターミナルそのもののセキュリティはどうかと言えば、もし不審人物が何かしようとすれば、即座に充電待機中の田中さんがギュピーン!と目を赤く光らせながらポッドから続々と飛び出すのでその辺も抜かりは無い。
話が逸れたがそんなこんな……車でおよそ1時間、麻帆良を出た複数の黒長い車は調布航空宇宙センターへと一路進んだ。
4台中前から2番目の車両に超鈴音、葉加瀬聡美、サヨ、教授、葛葉先生、龍宮真名という感じで6人が乗り込んでいる。
葛葉先生と龍宮真名以外の4人は車内で打ち合わせを続け、但しサヨは常時観測状態。
龍宮神社のお嬢さんと葛葉先生は、警戒はしていたが、少しの間端末で通信をしていた。
2人が会話……通信だが……するのははっきり言って魔法世界から戻ってきてからではかなり久しぶりである。

《葛葉先生、ネギ先生には会ったか?》

《……つい先日会いました。学園長からネギ君の滞在先に訪ねるよう勧められて直接》

流石というか葛葉先生はネギ君に呼び方が変わっている……。

《そうか。私はネギ先生……いや、なるほど、葛葉先生の言うとおりもうネギ君か……どうも、慣れないな。……姿を見た時は驚いたよ》

《戻ってきたとだけ聞かされましたが、実際に見て私も驚きました》

ネギ少年の滞在先に訪問した際には感極まったのか葛葉先生は珍しく涙腺を緩ませ、ネギ少年の頭をまほら武道会以来になるが思わず撫でながら「良く無事に戻ってきましたね……」と一言述べていた。
流石に抱きしめはしなかったが……多分ナギとアリカ様がいなかったら抱きしめていた可能性は高かったと思う。

《魔法世界で亡くなった筈が何故麻帆良にいきなり現れて戻ってきたのか全く分からないが、真相を知っているのが目の前にいていつも通りやっているのを見ると変な感じがするよ》

《全くです。超鈴音の詮索は一切するなと言われているので推測しかできませんが、今回の行き先からしても全てを知っているのは間違いないでしょう》

《……太陽光不足を緩和するための人工衛星を作ると聞いたが、いくらなんでも準備が良すぎる。そもそもこの端末にしても技術力がおかしい》

《……あなたのクラスのザジ・レイニーデイの姉だったらしき者の発言を覚えていますか?》

孫娘達も言っていたがまたその話か。

《……ああ、確か超の未来がどうとか言っていたな。あの発言を考えると……超は火星人と冗談のように言っているが……実は魔法世界が崩壊した後の未来の火星からやってきたのかもしれないな……到底信じ難いが》

《私も信じられませんが……そう考えた方が筋の通るような事ばかりですから本当に未来人なのかもしれません》

大正解です。
まあ、それが分かったからなんだという話ではあるが……。

《それもそうだな……だが超に聞いた所で火星人だという以外何も言わないだろうから結局護衛の私には関係の薄い話だな》

《……それは私も同じです。学園側として2度と生徒の命を狙われるような事を許す訳にはいきません》

《護衛中に話しかけて済まない。報酬分きっちり働くよ》

《……では通信を切ります》

因みに、龍宮神社のお嬢さんは学園側からと超鈴音からの双方から報酬を受け取っていたりするが……正直そんなに貰ってどうするのだろうか。
魔法世界側では、完全なる世界との戦いでネギ少年達が相対した事は非公式情報になっているので誰が突入メンバーにいたかは一般人には一切漏れていないのだが、はっきり言って、その作戦に直接参加した葛葉先生や龍宮真名達にはそのうち情勢が落ち着いたらクルト総督からメガロメセンブリア代表、ひいては魔法世界代表として改めて報酬が支払われると思うが、恐らく相当な金額になるであろう。
……さて一方、前から3番目の車両で工学部のお兄さん達4名の護衛に入っている神多羅木先生と瀬流彦先生も端末の使用に慣れるという形で少し会話をしていた。

《神多羅木先生、葛葉先生から聞いてましたけどこの端末凄いですね》

《ああ、念話ではないというのがな……傍受されないらしいが》

《僕これ全然どうなってるかわからないですよ。何者なんでしょうかね、超君。数学の授業では常に当てれば一発で答えてくれて助かってますが……つい去年頃までは素性の怪しさから魔法使いとしては警戒してた筈が、今や麻帆良学園、雪広グループ、極めつけに日本政府からも最重要人物指定される事になって、一転最優先護衛対象になっているのは不思議ですよ》

《学園長は知っているんだろうがな……。入学初日の自己紹介で火星人とふざけて名乗ったという話を高畑が言っていたが実は我々も知らない魔法世界の極秘機関の出身という線もあるかもしれないな……だがこの科学技術は魔法世界ではまずありえない……分からん》

《そうなんですよね……。魔法世界の科学技術がこれだけ凄かったら世話ないですよ》

《いずれにせよ、実際に銃撃されたのが一回、シアトルでわざとおびき寄せて襲撃未遂が一回、修学旅行は別口だったが……今回も気を抜けない》

《質量兵器ならなんとか障壁貼れば……と思ってますけど、緊張してきました。それより、何で僕なんですかね……》

《人員不足だ。諦めろ》

《はぁ……そもそも魔法世界が火星に出てくるなんて……もう、わからないですよ》

《俺も分からん》

……なんて微妙に瀬流彦先生は愚痴のような嘆きを神多羅木先生にしていた。
車の隊列を道行く人は一体何かと注目してはいたが、特に何事も無く、一団は調布航空宇宙センターの門を通り無事到着した。
超鈴音が今日麻帆良を出る事自体は雪広グループがあちこちの各関連企業に調布航空宇宙センター集合の予定を伝えていた為、どこからか外部に情報が漏れていてもおかしくなかったのであるが……まあ良いことだから気にしない。
4台は駐車場に到着し、そこから各員降りて必要な資料を持ち、迎えと案内に来たJAXAの職員に連れられ、門からすぐ見える白い横長の3階建、事務棟1号館、2階の講堂へと向かった。
会議を始める予定時刻10時まで時間があり超鈴音達はJAXA職員の人達に挨拶して準備をしつつ、その間続々と雪広グループが声をかけた企業からやってきた人達も講堂に集合した。
途中、超鈴音が瀬流彦先生にゴニョゴニョ話しかけ、先生は「え?それ僕がやるのかい?」とそんなの聞いてないよ?という顔で言い「魔法使いが言た方が説得力があるだろう?」なんて超鈴音は返し、神多羅木先生に「瀬流彦、やれ」と言われて……結局引き受けてくれた。
そして開始時刻10時、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の職員の皆さん、理事長から始まって研究開発本部の皆さん、調布航空宇宙センター管理部の方、大学等連携推進室の方、宇宙利用ミッション本部の衛星システム開発統括の方……そして今回の人工衛星開発に超鈴音が必要と考えたプリズムのような精密光学部品の量産加工、NC自動旋盤、超精密切削加工等々を行っている関連企業の皆さんが揃いに揃った中、発表が始まった。
JAXAの司会進行役の方から、まず理事長からの挨拶……と進んでいき、麻帆良大工学部の教授、雪広グループの社員、そして超鈴音が、完璧な口調で挨拶をして、いざプリズムミラー方式人工衛星についてのプレゼンテーションの始まりである。
タイピン型マイクロホンを服にとりつけた超鈴音が話し始めた。

「今回、火星の太陽光不足緩和を目的としたプリズムミラー方式人工衛星の開発企画について発表させて頂きます」

……口調に違和感再び。
工学部のお兄さん達は「超りんの本気モード発動!」とか小声で何か言ってるが……それはおいておこう。
この発言で講堂に集まっている皆さんは火星問題にもう取り組むのかと驚きつつも、道理で関連企業が揃っている訳だと納得していた……が、プランだけあっても一体完成にどれだけ時間がかかると思っているんだ、という表情の人達が多数であった。

「開発と言っても、研究段階から行う必要はありません。既に人工衛星の各部品設計図、仕様は完成しています。正常に稼働できるかどうかについてもスパコンでですが、シミュレートも行っています。では、早速まずはプリズムミラー方式人工衛星の詳細についての映像・資料をご覧下さい」

いきなり研究を行う必要は無く、もう作るだけと超鈴音が言い出したことで前述の人達は一転驚いた。
それに構うこと無く葉加瀬聡美、教授と4人のお兄さん達がパソコンを操作しつつ三次元映像再生機を起動させ、人工衛星の完成予定図の立体投映を行い、スクリーンにはおおまかな分解パーツの投映がされた。
同時に雪広グループの社員さん達とサヨが、用意していた冊子を講堂内の皆さんに素早く配り始めた。
投影された総全長数十mに及ぶ人工衛星の完成予定図は現行の人工衛星とは似てもにつかないというか、普通は両翼か片翼に伸びているソーラーパネルの中心の箱のような本体がメインである筈が……プリズムの変形って何って感じであり、人工衛星の本体から発電用のソーラーパネルと一緒に伸びているプリズムがメインとしか言いようがないぐらい……良く動く。

「ご覧の通り、目的は太陽光の集光ですので可変展開可能な巨大なプリズムの製造が必須です。また、長期間の稼働に耐えうるフレーム、精密な光センサー、複数基連動で稼働させることを想定した……」

……超鈴音の独壇場である。
その後もその他の仕様についても解説が行われ、火星の気象状況を本体で観測する事によって最適にプリズムを可変させる制御プログラムやらなんやらも搭載すると話が進んで行き、聞いている皆さんは驚きつつも「冗談言ってるのか……」みたいな人達もいた。
しかし、続けて超鈴音の機構部品の詳しい仕組み等についての解説がされ始めた辺りで、それを聞きながら実際手元に配られた資料の該当ページをその分野の人達が読めば「これは……実現できる」と納得できるものであった。
しかし、制御プログラムとかそういう辺りは公開しなかったのだが、田中さん達の精密すぎるプログラムのニュースから皆さんはその技術レベルに一切疑問は無かったようだ。
因みに発表しなかった事に、実は超鈴音は人工衛星本体の宇宙線による損耗対策に魔分有機結晶を利用する事を考慮しているのだが、それはここではまだ早い。

「……組み立ては種子島宇宙センターで行いたいと考えています。問題は打ち上げですが、地球で本格的運用をする訳ではありませんが、一基目はまず地球で実験します。ですが、二基目以降は火星に運びます。その方法については、魔法協会の瀬流彦さんから説明をして頂きます」

瞬間、超鈴音が普通に言った魔法協会という単語を聞いた皆さんはざわつき、呼ばれた瀬流彦先生は若干引きつった顔をしながらも、普通のマイクを受け取り、仕事モードに切り替わり、簡単な自己紹介をした後、凛々しく説明を始めた。

「総全長数十mに及ぶと超鈴音さんから説明がありましたが、魔法には質量封印というものが存在しており、それを使用する事で、人一人で容易に運ぶ事が可能な大きさにまで圧縮する事が可能です。その為、ゲートを通して火星に運ぶ際には問題ありません」

質量封印というのは空間魔法に分類されるが、ゲートポートで杖・刀剣類の転送の際、全部専用の箱にしまわれるアレである。
箱が大事なのではなく、術式が施されている封印紙が重要である。
瀬流彦先生は真面目に解説してくれたのだが、皆さん「そう言われてもね……」という表情をしていた。
まあ、仕方がないと思う。
その後JAXAの司会進行役の方が一応魔法使いかどうか証明してくれないかという事で瀬流彦先生は携帯杖を出して浮遊を使い小物を浮かしていたが、マジックだと疑った人も多分いると思う。
とりあえず、瀬流彦先生は居心地悪そうだった。
しかし、強面サングラスの神多羅木先生が堂々出てきてしまうよりはマシだと思う。
正直な所、神多羅木先生は本当にただのSPにしか見えないし。
再び解説が超鈴音に戻った。

「火星での打ち上げは魔法世界側の技術力次第ですが、長距離転移魔法というものが存在するらしく……最悪、ロケットと発射台自体あちらで用意する必要も出るかもしれませんが、当プリズムミラー方式人工衛星の初号基の完成と打ち上げ自体にも時間がかかる為、その点は今後メガロメセンブリア魔法協会との交渉を進めて行きたいと考えています」

わざとらしく長距離転移魔法なんてものがあるらしい、と言ったが、普通に転移魔法を使用すると思う。
モルモル王国のカオラ・スゥが科学で実現したアンチグラビティシステムは超鈴音も当然その技術があるので、方法はどうとでもなるだろう。
実際一番重要な部分なのだが、講堂の皆さんにとっては既に今までの人工衛星の仕様の説明でもう充分ですという感じなので特に突っ込みもなかった。
さて、JAXAは独立行政法人であるため、資金源は主に日本政府と一部民間からの収入で成り立っている。
日本に直接寄与しない今回の超鈴音の計画する人工衛星の開発費用諸々はどこから出すのかという話については、一応雪広グループが全面出資するという事でその場は落ち着いた。
しかし、実際雪広グループは営利企業である為、そんなおいそれと100億単位で出す訳も無く、今回の真の出資者はやはり超鈴音である。
魔法公開の日にサヨ達が有名になりますねとか話をしていたが、まあこれ以上炎上するネタを増やす必要もないとそういう配慮だ。
長々発表していた為に、時刻は13時過ぎになっていて、第一部はひとまず以上という事で皆さん事務棟1号館から出て、少し歩いた厚生棟の食堂で昼食を取ることになった。
昼食には超鈴音達も行った訳だが、各所の個別アプローチや質問が半端では無かった。
普通にJAXAで働いている皆さんにしてみれば、研究段階をすっ飛ばされた上、提示してきた物はおかしい技術水準であったりとショックな事ばかりなのであるが、今回の開発にあたり当然JAXAには技術供与という形になるので、早々落ち込んでいられないという所であろうか。
中には「麻帆良のある日本で働いていてある意味良かった……」と呟いている方もいた。
これで超鈴音が「NASAでやるヨ!」なんて言ってたら真逆の反応だったかもしれないが……。
NASAの宇宙センター所在地は殆どが東海岸であり、私達が割と楽に隔地観測できる半径10006kmの範囲外なので都合が悪かったり、麻帆良側のフォローと雪広グループの支援が得られにくくなるという弊害があるのでそもそも選択としてありえなかった。
午後何が行われるかと言えば、各企業を呼んだからにはそれぞれとの契約を行う必要がある訳で、完全に書類作業と化す。
そして全ては順調か、と思えたのだが……サヨと観測しつつ、怪しい奴はいないかーと虱潰ししていたらとんでもないものを発見した。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

午後に入って、3時少し前、雪広グループの社員さん達が主導で契約関連の処理を行ってくれている間、キノと観測をしていたのですが……また来た……という感じです。

《随分また強行手段で来ますね……あの組織は》

《本当に迷惑ですよ、もう》

《麻帆良の情報は報道機関が常駐しているだけに、午前中に超鈴音が麻帆良から出たのはすぐに情報が出てしまったのが原因でしょう》

鈴音さんの情報ぐらい全部シャットアウトしてくれればいいのに……。

《それで……どうしましょうか?伝えようにも、全部伝えるとまた私が凄く怪しくなっちゃいますよ……》

《しかし……やむを得ません。後手に回ると最悪なパターンですし、今回は関係ない人にも被害が出る可能性が高いです。葛葉先生達に話をして構いません》

《はぁ……そうですね。わかりました、葛葉先生達に話します!》

《お願いします、サヨ》

《了解です!》

最初に発見したのは明らかに監視者っぽい人1人だったんですが、探してみると他数名……通信を傍受してみたらどう見ても特攻目的の自動車複数台が集結中でした……。
自動車はどうも転移で自動車ごと遠くから直接現れたみたいなんですが……コストの高い範囲型転移符まで使ってくるという事は今回もかなり本気で命取りに来てるみたいです。
まあ……鈴音さんの命が目的だから当たり前なんでしょうけど……放っておくと帰りの大泉インター辺りか首都高速4号新宿線辺りでつけられて特攻、転移逃走、時限爆破の流れを喰らうのが目に浮かびます。
ジャックな海外24時間番組じゃないんですからあっさり死ぬ感じの話はやめて欲しいです……。
しかも車の中には今回魔法使いまでいて……最悪爆弾ごと直接飛んでテロをしかけてくる可能性もありそうです……。
とにかく、動かないと。
私は今暇なので、葛葉先生達も壁際で待機中なので近づいて……。
あ……一番手前側の葛葉先生が私にすぐ気づいて端末を操作しました。

《相坂さよ、何か見つけたのですか?》

《はい……。かなりマズいものを……》

《説明できますか?》

《はい、任せてください》

《神多羅木先生、瀬流彦先生、龍宮真名、緊急事態のようです》

回線開いてくれました。
私は丁度葛葉先生の隣に到着です。
葛葉先生から今呼んだ順番に先生と龍宮さんが壁に並んでいます。

《緊急事態?》

《な、何ですか、葛葉先生?いきなり》

《相坂、また何か見つけたんだな》

神多羅木先生は表情変わりませんけど、瀬流彦先生は動揺して、龍宮さんは仕事モードに切り替わりました。

《はい、そうです。龍宮さん。……結論から最初に言うと、このまま帰ると途中か、もしくは直接爆弾テロをされる可能性があります》

《ば……爆弾テロだって?》

《神多羅木先生、瀬流彦先生、先に説明しておきますが、相坂さよは非常に強力な透視・千里眼の持ち主です。質問は後にするとして、相坂さよ、説明を続けて下さい》

《はい、わかりました。現在帰り道で私達が通る可能性の高いルート上に8人監視者と思われる人物のうち5名が周回、3名が図書館等で待機中、また現在接近中の爆弾を積載した車両が6台あります。恐らく大泉インター入り口か首都高速4号新宿線に入る辺りでつけられる可能性が高いと思います》

《は……それはまた、例の組織は余程超を消したいらしいな》

龍宮さんが少し目を見開き、瀬流彦先生は凄く嫌な顔をしました。
鈴音さんは存在自体がある意味殆どの科学技術研究機関に対して喧嘩売ってるようなものですからそれが元で収益を上げている企業にしてみれば邪魔なのも仕方ないですが……。

《葛葉……強力な透視・千里眼というには能力が高すぎる気がするが……早期発見できたのは僥倖だな》

神多羅木先生はサングラスを押さえて言いました。
少し呆れてるみたいです。

《はい、私もそう思います。……襲撃を受けるのを待つよりこちらから処理しに行った方が良いと思いますが……神多羅木先生はどう思いますか》

《処理しに行った方が良いのは間違いないが、ここから我々が単独で出れば動きがバレて直接爆弾をこの施設に、抜けた所に転移させられる可能性がある。前回シアトルの件は葛葉から聞いただけだが、あちらもこちらに何らかの能力者がいると想定していると考えた方が良いだろう。ここは外部……警察に協力を要請してはどうだ。三鷹警察署もここからすぐの距離だ。流石に組織も大々的に日本警察に喧嘩を売ってまで仕掛け、存在をわざわざ明るみに出して来はしないだろう。逮捕できるなら良し、転移で逃走するなら今回確実な護衛が目的である以上それでも良い》

あー、警察ですか。
確かに日本警察相手取ってまで仕掛けてはこないでしょうね。

《警察……確かに超鈴音の重要性から言って動いてくれるでしょうね。まだ時間も掛かりそうですし……表には表、ですか。私は神多羅木先生の案に同意します》

《僕も神多羅木先生の案に賛成です》

《私も賛成だ》

《私もそれでお願いしたいですが……私の能力はどう説明するんですか?》

《安心しろ、相坂。説明ならどうとでもなる。まだ政府も魔法関連の能力者の追求はできはしない》

神多羅木先生……お願いします!

《はい、ありがとうございます!》

《行動開始だ。葛葉は雪広のエージェントに説明とできれば帰り道のルート変更の打ち合わせを、瀬流彦は地図を用意して相坂から位置を聞け、龍宮は超の護衛を引き続き頼む、俺は麻帆良学園に連絡を入れて警察の出動を要請する》

《分かりました》  《了解です、神多羅木先生》  《了解した、神多羅木先生》

相談がもう終わり……葛葉先生と神多羅木先生はすぐに行動に移りました。

《サヨ、私も近衛門殿に事情を連絡して上手くやっておきます》

《分かりました!》

瀬流彦先生は持ってきていたノートパソコンを開いて、周辺地図を出してくれました。

《相坂君、千里眼持ちって初めて知ったけど……いや、今はそれどころじゃないね。どの辺りか教えてもらえるかな?》

《任せてください。まず最初に完全待機に入っているのが東京外環自動車道大泉インター入り口付近の駐車場に一台……それと環八通り、都道311号線の都道14号線へ折れる所にあるフォークス高井戸東店の駐車場の奥に一台。犯人と思われる人物は一人が客として店に入っていて、後部座席にもう一人隠れています》

《……ほ、本当に詳しいね。続けて》

《はい、他は……》

……この調子で組織の人の位置を伝え、待機中監視者の位置……そして周回中の監視者の人物の巡回ルート、後はそれぞれの服装を伝えていきました。
全部伝え終わった後、丁度神多羅木先生が戻ってきて、携帯電話が警視庁ともう繋がっているらしく、私達は場所を移動しました。
少しの交渉の結果瀬流彦先生が地図上にマークしたポイント入りの画像を作成して、警視庁に送りました。

《ふぅー、転移符を使ってくる場合の動きの可能性も伝えましたしとりあえずは、警察の動き待ちですね》

《ああ、そうだな。相坂、情報提供感謝する》

《いえ、当然の事です》

《本当に助かったよ、相坂君。よくよく考えてもこんな広範囲複数ヶ所の同時把握なんて、普通はありえないからね》

瀬流彦先生は手で頭を掻いて一先ずは終わりか、という感じでホッとしてます。

《普通なら気づくこと無く確実に後手に回っていただろうな……。警察も特定方法には詮索してこなかったから安心していい》

《ありがとうございます!引き続き遠見しますね》

《頼むよ、相坂君》

その後観測し続けた所、まずは調布航空宇宙センターから北数分に位置する三鷹警察署から徐々に刑事さん達が出動して行き、待機中監視者のいるポイントに接近、周回している監視者に対してはその周回ルートの範囲外から通信を取り合いながら徐々に接近・包囲、覆面パトカーは組織の車が停車している駐車場へと出動して行きました。
少し遅れて目黒区大橋に位置し、爆発物処理班を保有する警視庁第三機動隊は出動準備を整え始め、三鷹警察署からの要請待ちに入りました。
葛葉先生は雪広グループのエージェントさん達と話を済ませ帰りの道は当然変更、そして事務棟一号館の警戒を厳にし始めました。
そして4時過ぎ、覆面パトカーはそれぞれ指定ポイントについた所で三鷹警察署に連絡を入れ、刑事さん達は監視者の後を遠くから尾行し始めました。

《今から監視者に対して職質を行うそうだ。相坂、車両の方に注意を向けておいてくれ》

《はい、神多羅木先生》

魔法使いが待機している車両は……直接転移の用意はできているみたいですが、指定先まではピンポイントに2階にはなってないようです。
とすると、ここに飛んできたとしても、予め信管を抜いておいて爆破テロ……と言ったことは仕掛けられないので充分対処可能です。
会話を盗聴した感じだと「麻帆良の者がいるから先走った行動は控えろ」や「JAXAを直接狙うのは都合が悪い」というのが聞こえたので、あちらにとっても最終手段らしいです。
……1人の刑事さんが監視者に後ろから近づき、職務質問を行いました。
監視者は片手をポケットに入れた状態で振り向きました。
この寸前監視者は耳に取り付けた外からは見えない小型通信機で司令車両の人物に定期連絡をしていました。
監視者は職務質問に対し普通に答えたのですが、それに対し刑事さんは寧ろ変に思わせるぐらいあっさり追求をやめ、接触を終えました。
職務質問をした刑事さんは監視者を追い越して歩いていき、監視者も同じ方向へと進んで少ししてからまた司令車両へ通信をかけました。
盗聴してみた所……。

『何かあったのか。定期報告はさっきしたばかりだろう』

「刑事に職務質問を受けたが、気味が悪いぐらいあっさり引き下がった。報告しておく」

『……了解した。一旦ルートを変更して付近から離れろ。そのまま警戒しつつ6の所に交代に向かえ』

「了解」

……監視者は通信を終えて周回ルートから外れて行きました。
司令車両は残りの7人のうち交代させる予定の待機中の監視者に連絡を入れました。
……ここは私の出番ですね。

《神多羅木先生、どうやら東部図書館で待機している監視者が動くみたいです》

《ああ、分かった》

神多羅木先生はすぐに三鷹警察署に再び電話をかけ、私の言った事を伝えてくれました。
三鷹警察署からはその東部図書館で待機していた監視者をマークしていた刑事さんに今度はすぐに連絡が行き、外に出た段階で再び職務質問をかける事になりました。
司令車両から連絡を受けた6と呼ばれる監視者の人は読んでいた本を何食わぬ顔で戻し図書館から出ていきました。
そして出てほんの一分、マークしていた刑事さんがその監視者に職質を行い、前と同じく、深く追求せずにそのまま見逃すという事を行いました。
結果、その監視者はすぐに頃合いを見て司令車両に連絡を入れました。

「こちらも刑事から職務質問を受けたが、同じく気味が悪いぐらいあっさり引き下がった。指示を頼む」

『何?……偶然ではなさそうだな……。分かった、全体に一斉通信を入れる。4の交代には入らずそのままルートから外れろ』

「了解」

司令車両の人は一旦通信を切り、一斉通信を入れました。

「全員に通達。警察がこちらの動きを察知している可能性がある。周回中の1、2、3、5は尾行されていないか確認、待機中の7、8も一旦外に出て尾行されるか確認せよ。各車両で店に入っている者はすぐに車に戻れ」

計画通り!って感じですね。
これは神多羅木先生に言わなくても警察の人が対処してくれる筈です。
周回中だった監視者の人達は尾行を確認しに動きましたが、刑事さん達は寧ろここぞとばかりに職務質問に入り、またあっさり見逃しました。
多分この警察の人達の動きは……キノが学園長先生に何か伝えたからかもしれませんね。
刺激しなければ組織も強硬手段に出たりはしない……とでも言ったのかもしれません。
残りの監視者6人はそれぞれ職務質問された事で、全員が尾行されていた事を司令車両に報告しました。
結果、もう一度一斉通信が行われ……。

「完全に警察に動きがバレている。麻帆良の者の中にいると思われる遠見の能力者が原因の可能性が高い。この不自然な警察の動きは意図的なものだ。あえて強硬手段に出て警察を刺激するのは都合が悪い。既に対策も取られていると考慮すれば、捕まる前に撤退すべきだ。車両組はすぐに発車し、頃合いを見て車両ごと転移、1から8も各自頃合いを見て多重転移で撤退せよ」

……はぁー、帰ってくれるらしいです。
助かりました。

《キノ、追い返せましたね!》

《はい、捕獲はあちらが爆弾を所持している時点で危険すぎますし、超鈴音関係なしに掃討作戦を敢行するならともかく追い返せただけで今回は充分でしょう》

《やっぱりキノが学園長先生に何か言ったんですか?》

《ええ、まあ一応。サヨと同様にズルい観測能力でサヨが神多羅木先生達に伝えられない情報も伝えておきました。近衛門殿と話した結果、組織側は転移符を持っているのに、警察側がそれに対抗手段を持っていない事を考えると刺激せず追い返せればそれで良いという見解に至ったので……そういう事です》

《そうですかー。はい、私一応千里眼能力者であって、盗聴能力まである事にはなってないので話しにくかったです》

《……だろうと思いました。とにかく、今回はこれで終わりですね》

《はい!》

……その後警察の人達が追跡しつつも、最後には組織の人達は皆続々と転移して帰っていきました。
機動隊の人達の待機は意味なかったですが、組織は自爆テロをする意思は無いですが転移符がある時点で危険でしたからこれで良かったと思います。
結局私達は調布宇宙センターには5時過ぎまでいて、各企業とも契約は行われ、JAXAでも人工衛星の開発には全面協力してくれる事になりました。
帰りは一応行きとルートは変えましたが、黒長い車4台でまた列になって麻帆良まで戻りました。
そんな時車の中で鈴音さんから端末で個人通信がきました。

《さよ、翆坊主から特に連絡も無かたが、先生達が動いていた以上今回組織に動きはあったのだろう?》

《はい……ありました。でも、上手く追い返せたので大丈夫ですよ》

《分かたネ。詳しくは聞かないでおくヨ……と言いたい所だが、私自身も対策を考えたいから戻たら後で話して貰えるかナ?》

あはは、やっぱりそうですよねー。

《そう言うと思いました。了解です、麻帆良に戻ったら話しますね》

《お願いするヨ。……今日は人工衛星開発の件も上手く纏またし、次は麻帆良から出なくてもできる開発を進めるとするかナ》

《最近少し放置気味だった魔力炉ですか?》

《そうだヨ。公開は当分できないが開発はしておきたいからネ》

《完成楽しみにしてます。手伝える事あったら言って下さいね》

《うむ、それと凄い物ができそうだから楽しみにしておくと良いヨ》

《はい!》

魔分がある空間でなら半永久稼働するものを作るって前から言ってましたけど……それと凄い物って何か他の物も作るみたいですね、本当に楽しみです。



[27113] 75話 採取ツアー
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:50
翆坊主とさよから聞いてみれば、街中のような脇道に逸れる事が困難な高速道路辺りで爆弾を積んだ車両ごと突っ込み本人達は転移で脱出しつつ爆破を仕掛けてくるつもりだたらしいネ。
……帰てくれたのは助かたが、こうなてくると私自身魔法が使えて銃弾や爆弾の衝撃ぐらい障壁で防げることを明らかにした方が下手な攻撃はやめてくれるかもしれないが、それはそれでまた違う碌でも無い方法で仕掛けてくるだけだろうから解決策にはならないナ。
もし翆坊主とさよがいなければ……と考えるのは、今まで翆坊主とさよがいることを前提で動いてきたのだから意味が無い。
今回の護衛の体勢にしても、翆坊主とさよがいるからこそ、わざわざ最初から警察に護衛を頼もうともしなかたのだからネ。
地球で動き辛いのは間違いないが、これから私がするのは殆どが火星対策だから究極的には麻帆良内での安全さえ確保されているならばそれで良い。
昨日は一昨日調布航空宇宙センターに行たばかりで、一日中工学部で今後の詳細予定を詰めたヨ。
工学部で作成可能な部品は全て工学部で製造するが、特殊な精密部品、プリズム同士等の接合系フレーム、高効率スラスターその他各部……色々ある。
これでも極力オーバーテクノロジーにはならないよう現行技術でできる水準に配慮したつもりなのだが、最終的にはソーラーパネルの自体の性能向上やスラスターを純粋電力のみで稼働するアンチグラビティシステムの搭載で代替、魔分有機結晶(MOC)で基礎フレームのコーティング……まだまだ改良したい所ネ。
まあ私の思い描く通りにすると最早地球での人工衛星の枠から外れてしまうから当分不可能な話ネ。
かなりの部分の部品が特注になるから初号基の完成は最低でも数ヶ月かそれ以上……少なくとも来年になるだろうネ。
普通年単位の所をこれだけ短く済ませているのだから充分だと思うべきカ。
……それまでにダイオラマ魔法球を私が極秘で使うのではなく、工学部の一角で公的に使えるようにして、その中で大学の敷地という制約を無視できるようにしたい。
初号基の完成から2号基の完成まで再びどれだけ時間がかかるかは、とにかく初号基次第だが、いつまでも組み立てを種子島で行う訳にはいかないからネ。
因みに昨日の時点でもうJAXAが今回の人工衛星開発を行う事を公式発表したから既にニュースになたヨ。
そして今日は10月20日、放課後、例の物質のサンプルを持ってエヴァンジェリンの家に来た。
翆坊主から予め聞かされていたから分かていたが、既に午前中からネギ坊主とその両親がまた来ていてダイオラマ魔法球の中にいる。
昨日旅行から帰てきたネギ坊主は、今度は転移魔法の習得を目指すつもりらしいが、保護者同伴……というとネギ坊主の場合は少し複雑だから……しばらくは互いに傍にいるべきなのだろうネ。
翆坊主が中にいたエヴァンジェリンだけ呼んで家の中に戻て来てくれたから、鉢合わせはしていない。

「茶々円から来ると聞いていたが今日の要件は何だ?いつもは通信で済ませるだろうに」

怪訝な顔をしているが、確かにここずっと通信で済ませていたから珍しいナ。

「一つ見せたいものがあてネ。この結晶を見て欲しい」

ケースに入れてきた5cm程のMOCを出して見せる。

「ん……魔力……いや、純粋魔分で加工した結晶か。見たことが無いがまた新しい発明か?」

魔分で加工している事をすぐ分かてくれるのはエヴァンジェリンぐらい……後はネギ坊主もカ。

「新発明ではなく、これは以前火星の映像を見せた時に少し見たと思うが、火星の軌道上に散布していた粒子の結晶版だヨ」

「ああ……あれか。なるほどな」

「話を続けるヨ。この結晶、魔分有機結晶、略称MOCと呼称しているのだけど、重要なのはこのMOCの性質ネ。散布に使用したのは生物に有害な各種放射線の遮断能力が高い素材である事が理由なのだが、MOCは触れてもう分かたと思うが魔法的利用も可能だ。魔分を供給・展開すれば超硬度の外壁に利用できるし、加工の仕方次第では逆に魔分を完全密閉する事もできると思うネ」

「……つまり圧縮魔分の容器でも作るつもりなのか?」

「その通り。エヴァンジェリンに頼みたいのはダイオラマ魔法球の、適正異空間形成・保持、環境循環維持、時間操作等の、中に入て生活するには必須の要素を全て除いた、まさしく超高密度魔分圧縮保存容器の作成ネ」

「やはりそうか。確かに出回っている占い等に使われる水晶球程度ではその容量はたかがしれているな。欲しいのはダイオラマ魔法球作成の空間操作を応用した魔分の大量詰め込みだけができる魔法球でいいんだな?」

「それで間違いないヨ。色々実験したいから複数個欲しい。その間私はMOCの理想的加工法を考えておこうと思うのだが……エヴァンジェリンもMOCの作り方は知りたいかナ?」

「応用は効くようだから私も興味はあるが……材料に何を使っているかによるな」

「材料は……色々だネ。説明すると長くなるヨ。生産にも機械的設備が必要ネ。教える事は可能なのだが、エヴァンジェリンに余り合わないと思うから……一応聞いてみたんだヨ」

「……要するに面倒だという事か。分かった。私も一応聞いておくが……ただの魔力球を何に使うつもりなんだ?」

「よく聞いてくれたネ。エヴァンジェリン。宇宙空間でも半永久稼働可能な動力機関の開発に利用するつもりだヨ」

「宇宙空間で使う?……既にあの巨大な華があるのに必要あるのか?」

「安全で長期間単体運用可能な有人宇宙船を一から作るのは科学者としては大きな夢でネ」

「はぁ……科学者の夢とやらには際限が無いのは分かった。魔力球を作るのは良い。ベースになるただの水晶球も幾つか持っているからこの前のまほら武道会の様な用意はしなくて良い」

含みのある顔をしているが……分かているという事カ。

「助かるネ。少し問題のある方法でまほネットで魔法球を買たから同じ方法で買うのは都合が悪い。そもそもまほネットの物流自体今滞っている所だから困ていた所だヨ。報酬は金銭で必要な分だけ払うが、MOCはどうするネ?」

「金銭は余り必要ないが……一応水晶球と加工労働分ぐらいは適当に請求するか。MOCは適当にいじれる分だけ渡してくれれば良い。私としては例の華に乗って宇宙旅行でもしてみたいんだがな」

「金銭とMOCについては分かたヨ。華、あれも優曇華と名前をつけたのだが、あれで宇宙旅行をするのも、優曇華自体に単体ワープ機能をまだ搭載していないから残念ながら無理ネ。今は火星の海底に沈めてあるヨ」

「あー……予め宇宙に出しておかなかったのか」

残念そうな顔しているナ。
まあ私も残念なのだけどネ。

「例の作戦時に必要でネ。それと魔法世界の動向を視るのに優曇華はまだまだ必要なんだヨ。魔法世界は軌道上の観測能力は高いから下手に今更打ち上げるわけにもいかない。結局ワープ機能をつけるまでは無理という事ネ」

「そういう事か……。ならそのワープ機能をつけるまで待つとするよ」

「それは任せて欲しいネ。話はこれで終わりだからネギ坊主が出てこないうちに失礼するヨ」

「ああ、分かった。魔力球が出来次第連絡する」

「助かるネ。引取りには前と同じく田中サンを行かせるヨ。では邪魔したネ」

……これで研究がまた一つ進められるヨ。
人工衛星の開発は動きだしたし……この後前回以来会っていないクルト総督にネギ坊主の件を報告して少し交渉しに行くついでに、放置しているとマズそうな火星の植物採取、植生変化の調査へ魔法世界に行てみるかナ。

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超鈴音が凄い物を作るというのは要するに、超高密度密閉魔力球に開発中の半永久魔力炉を接続でもして、魔力濃度が限りなくゼロに近い宇宙空間でも超長期間運用可能な動力機関を搭載した宇宙船を作るという事だった。
どっかのドライブに引けを取らないチートさな気がする。
というか木星まで優曇華を飛ばして、粒子加速器で加速したトポロジカル・ディフェクトとやらを木星中心部に撃ち込んだらアレは本当にできるのだろうか。
高重力だけなら重力魔法がある時点で地球でも実現できるが宇宙空間で採取しなければならないという要件を満たすにはやはり木星でないと不可能かもしれない。
まあ……必要かどうかは分からないし、発電に関しては超鈴音の魔力炉でいくらでもできそうなので擬似なドライブの方が向いているかもしれない。
気になってきたが……超鈴音はこの夢物語のような話を知っているのだろうか。

《超鈴音、凄い物がどういうものかは分かりましたが……時に、重粒子を蒸発させる事なく質量崩壊させ、陽電子と光子を発生させる事でエネルギーと特殊なニュートリノを発生させる技術はあったりしますか?》

《ハハハ、いきなり何を言い出すかと思えば、翆坊主にしては珍しく具体的な質問だナ。私は科学については地球、火星の双方で現時点で一番詳しいネ。そんな事を言うからには魔力……魔分がもしかしてそのニュートリノと似ているとでも言いたいのかナ?》

げ……この自信満々な言い方だと……まさか……。
まあ……ネギ少年の件ではっきりしたというか……やたらと神木がそれっぽかったり……超鈴音のアーティファクトがアレだった時点で……ね。

《いえ、全然》

寧ろ詳しい事は一切合切何のことやらサッパリだ。

《おや、そうなのカ。てっきり知ていて聞いてきたのかと思たのだけど。私の光学迷彩コートやまだ作ていないがアンチグラビティシステム、兵器にはビーム兵器、ナノマシンなんてものやそれ以外にもまだまだ色々あるのだが、前者3つはどういう原理か分かているカ?》

あー……まさか重力低減とか光学迷彩やらビーム兵器って……。

《いえ……全くと言っていいほどに》

《いつも視ている割にはそれだからいつまでも翆坊主なんだヨ》

え……何その論理。

《今の3つにはどれもある素粒子を利用しているネ。アンチグラビティシステムは重力子、光学迷彩には光子、ビーム兵器にも光子を使ているヨ》

いやいやいや、今普通に重力子って言ったけど発見されたの?って所からなんですが。
正直超鈴音は何かオーバーテクノロジーなものを作りだすとすぐ何やってるかサッパリわからなくなるものだから……。

《翆坊主の言ている特殊なニュートリノは木星で位相欠陥を利用して発生させられるものだろう。火星でも特殊な加速器、始動機があれば生成は可能と目されていたがそこまではまだ技術力が足りなかたと思うネ》

く……詳しすぎる……。
いや……という事は超鈴音の未来でも作成はできていなかったという事か。
まあ……できていたらリアル大宇宙航海時代な感じになっていたのだろうからそれもそうだろうが。

《いやぁ、もう何か重力子なんて普通に言われると流石に焦るんですが》

《うむ、確かにこの時代では発見されていないからネ。翆坊主は私の時代の事を知ているだけで……時間軸の枠の外から来たと言ていただけあってやはり知ているのは歴史だけなのカ》

《ええ、その理解で合っています》

《ふむ、また考えても結局は意味の無い事になりそうだネ。話を戻すが、魔分はある意味、夢の素粒子と言えるネ。私のいた火星では例外を除けば完全に魔力が枯渇していたが、火星の技術の源流は魔法が元なのは間違い無いネ。もし魔法が存在していなかたとしたら結果が出るまでに壮絶な時間を要する事になていたと言われる程に、魔法を元にして行われた科学的研究の成果はめざましいものだたと聞いているヨ》

《なるほど、100年にしては異常な進歩だと思っていましたがそういう事ですか。魔分は私が言うのも何ですけど、確かに夢の素粒子だというのは同意できます》

そういえばゲートポートでは重力波が云々と言われたりしているし……そういう所から重力子が発見されてもおかしくはないか。

《分かてもらえたようだネ。まあ翆坊主の言た特殊なニュートリノが魔分に似ているのかどうかは私も半分冗談だたのだけど、魔法でできる事を一つ一つ科学で実現していく事は科学者としてやる気が出るヨ。翆坊主に言われて私も思い出したぐらいだが、その特殊なニュートリノの生成もいつか時間ができたら取り組んでみたいネ》

冗談だったのか……。
その割にはなんというか……超鈴音の場合、時間さえあれば本当に作ってしまいそうだ。

《超鈴音ならいつか実現できると私は思いますよ》

《麻帆良最強頭脳の名にかけて!と言ておくヨ。……話は変わるが翆坊主、今から魔法世界に行こうと思うのだが転送を頼めるかナ?》

《はい、わかりました。クルト総督に接触する予定ですか?》

《そんな所ネ。地球よりも火星の方が気ままに外出できそうだし気分転換になると思うヨ。ところで行くとしても女子寮についた時点であちらのメガロメセンブリアは今何時かナ?》

《ああ、そうですね。…………午前2時半頃です》

《僅かでも自転に差があるとこれだからネ……。総督の所は後回しにするカ。先に少し植物採取にでも出かけるヨ》

《了解です》

通信を切った後、超鈴音は再び女子寮に戻って来た。
サヨは今超包子で働いているから……私が行こう。

《サヨ、超鈴音が火星に行くそうなので、私も火星に転移します。こっちはお願いします》

《エヴァンジェリンさんへの依頼終わってたんですね。分かりました、ちゃんとみておきます》

《はい、それでは》

改めて時間を確認すると……麻帆良が今16時半頃で、メガロメセンブリアは2時半頃。
火星の自転周期は24.6229時間だから地球とは1日に約37分ずつズレる。
今日で火星と魔法世界が同調してから地球基準で54日目、厳密には52日21時間40分程であり、魔法世界の感覚では51日13時間30分程という差が発生している訳だ。
当然公転周期もズレている為、地球的季節変化に換算すると全て約1.8倍にする必要がある。
……それはともかく、ポートをオスティア近海の海底に沈んでいる優曇華に開通し、超鈴音を転送し、私も神木・扶桑ではなく優曇華に転移した。

「さて……翆坊主、メガロメセンブリアが2時半だとすると丁度良くケルベラス大樹林が12時頃だネ」

時間の流れる方向が逆になっているから……そうなのだが……いきなり凄いとこ行くな、また。

《いきなり大樹林ですか?》

「夜中に行くよりマシだヨ。それに熱帯の気候が徐々に変化するかもしれなから、貴重な植物と……それと竜種の肉に興味があるヨ」

おいおい……。

《……止めはしないでおきます。ケルベラス大樹林なら逆にアーティファクトを使っても誰かに見られる事も観測と併せてほぼ無いですから》

「私もそう思ていたネ。優曇華をケルベラス西岸に移動するヨ。アデアット」

そう言って超鈴音は操縦球に乗り込み優曇華を発進させた。
オスティア近海からボレアリス海峡を抜け、斜めに動く事になったが最高速度で動かさなかったにしても2分で着いた。
直線移動距離なら6000kmと言った所だ。
超鈴音はアーチの中に入り、前に色々運び込んでいた探険用の装備に着替え、かさばらずに重ねて運べる容器も幾つもきちんと持って準備が整った。
帽子も被り……何だか見た目が……世界の不思議……発見な人形みたいな感じである。
狙ってるのだろうか。

「魔獣など恐るるに足りないネ!行てくるヨ」

《視ていますが気をつけて行ってきて下さい》

―魔法領域 展開―
  ―転移門―

予めフィールドを張ってから超鈴音はケルベラス大樹林の真っ只中へと転移していった。
実際超鈴音が言った通り、ケルベラス大樹林は以前の超熱帯状態の時よりは気温が下がっている。
魔分濃度が地球に比べると非常に濃いのは相変わらずだが、その不思議効果というか、この約50日間で急激に気温が下がったりという事は無い。
魔法世界はケルベラス大樹林のように広大な大自然の所もあるが、それに引けを取らないぐらい広大な砂漠もある。
原因は気温が高すぎる事だ。
どれだけ時間がかかるかは知らないが地質改善を行っていけば今までオアシスが無ければ不毛の大地だった所も、植物が生育する事も可能になると思う。
実際食糧事情に関連する問題で超鈴音がクルト総督に交渉しようとしている事の一つに砂漠の緑化も入っている。
さて、転移した超鈴音はというと視野拡張をフルに活用しその場で止まりつつ、植物の探査を開始した。
私が優曇華から観測して伝えてもいいかもしれないがそれでは折角大自然に来た意味というものを考えると勿体ないのでやめておく。
……非常に危険ではあるが。
軽く観測するだけでもあちこち貴重な植物……地球からすれば全部貴重なのだが、それらが生えており、超鈴音は大体それらの位置を把握したのか、まずは近場から転移を使わずにとても速い浮遊術で飛んでいった。
大樹林というだけあるのか、寧ろデカ過ぎるだろうという植物だらけであり、木と木の間を縫って太い枝にぶつからないように上下、右へ左へとギュンギュン進んでいくのは……何だか楽しそうである。
大樹の根本に生えていた一つ目の植物を発見した超鈴音は、そのすぐ近くにゆっくり着地し、透明な保存用容器を一つ取り出し、スコップ等使わずして根の張っている土ごと浮遊でごっそり浮かせて採取を完了した。
どう見てもアロエだったが。

《これはバルバロスアロエだヨ!薬用にも使えるし食べる事もできる。臭いもそれなりに良いネ。次行くヨ》

随分イロモノみたい名前な印象を受けるが……流石東洋医学研究会の会長をやっているだけはある。

―強制転移―

って優曇華に送ってくるのか。

《この調子で送ってくるつもりですか?》

《そうだヨ?できればアーチの中に入れて欲しいのだが……》

どうやら自重する気は無いらしい。

《了解です。珍しく少し身体取ってきます》

浮遊させても良いのかもしれないが、こういう時ぐらいしか使う機会がないので使っておこう。
一旦神木・蟠桃に戻り、サヨにどうしたのか聞かれたが、事情を説明しつつ10歳児版のインターフェイスに軽く2年振りぐらいに入り再び優曇華に戻った。
と思ったらもう2つ容器が転がっていた。
両手で抱えてアーチの中に運びこむだけの、とても簡単な作業。
そして少しすると新たにタワシのように小さな花びらが無数に逆だった花がついた植物が一つ転送されて来た。
花びらの色は彼岸花のように真っ赤だ。

《今までのはアーチの中に運んでおきましたので》

《戻たカ。今のはケルベラスアザミだヨ。蕾が食用で薬用にも使えるし見た目も悪くないだろう?》

ケルベラスとついているから固有植物か。

《そうですね、鮮やかに赤い色が観賞用としてもいけそうです》

《実際観賞用だヨ。次行くネ》

なんと。

《熱帯なら熱帯の植物しかないかと思えばかなりデタラメな群生してますよね……》

《そういう意味でもケルベラス大樹林は危険地帯以上に生命の宝庫ネ》

地球だったら北のほうにしか生えてない見た目のものが普通に生えてたりして違和感がありすぎる。
次に超鈴音が見つけたのは……流石に持ち帰れそうにない物だった。
普通の低木である……がデカイ。

《天々烏薬カ。漢方薬原料として有用なのだが……雌雄別株だから片方だけでは栽培もできないナ。重要な根だけ少し採取していくネ》

そう言って超鈴音は地面を掘り始め、木に影響が無いような部分だけを少し採取し再び転移で送ってきた。
その後も飽きること無く次々と植物を採取しては送って来続け、竜種がいたりするのだがその辺りは避けるように転移で進んだりして作業は順調であった。
途中持ち合わせの容器が無くなった為一度補給に戻ってきたりもしたが、そんなこんな、なかなか良いものを超鈴音は手に入れた。

《アルテミシア!この葉は外傷にはかなりの効果があるヨ》

先端が3つに分かれ真ん中が特に大きい葉が特徴的な植物である。

《どうも少し堅そうなヨモギ科の葉みたいな感じですね》

《うむ、翆坊主、地球の植物に分類するならヨモギ科が正しいヨ》

おお、合ってた。
しかし、それなりに貴重そうな薬草がヨモギ科と言われると途端に貴重な感じがしなくなる不思議。
超鈴音は慣れたように転送して来た。
容器に入っているから良いが、この土をアーチの中で解放すると色々細菌とか危険があるような気がする……が、超鈴音がきちんと対策を取ると思われる。
いつまでやるのかと思っていたが、結局3時間以上に渡って、ケルベラス大樹林の採取ツアーは行われた。
途中イクシールの原料になるものは見つからなかったとぼやいていたが、確かこちらのまほネットを走査したデータだと軽く100万ドラクマする薬だったような。
大型モンスターは一体どころかうじゃうじゃいた訳だが……超鈴音は帰りがけ最後に、出かける前に言っていた事を実行した。

《竜種の肉がどれほどのものか少し狩りをしてくるヨ》

《実戦らしい実戦は久しぶりな気がしますが気をつけて下さい》

《今まで温めてきた武装をとくと味わえ!という感じネ》

まだあるんだよ!のアレか。
というか竜種がどれほどのものか、ではなくて、あくまでも肉がどれほどのものかというのが何とも……竜種逃げて。
超鈴音は今までに視界に入っていた竜種でどうも目をつけていたらしいものの所に転移でその背後に移動した。
図書館島の彼女よりは小さく体長12m程度、色合いは同じの翼竜種、ただし、魔法種であった。
翼竜は樹林の間を慣れたように飛んで獲物を探し回っていた所だった。
そんな所に先制攻撃を仕掛けたのは超鈴音。

―断罪の剣群!!! 来たれ 14振!!―

発動と共に、以前練習していた武装の初実戦投入である。
初期は光属性の魔法で形成した剣だったのだが、断罪の剣へとバージョンアップである。
超鈴音の前に一本全長1mの断罪の剣が14本並んで出現。

「行けッ!」

掛け声と共に超鈴音が両手を振り、断罪の剣は7本ずつに分かれ、翼竜の翼目がけて左右から挟みこむように襲い掛かった。
竜種の障壁は常時張られていたが、それも虚しく盛大に障壁は貫通され翼には14の穴が開き……地上に落ちていった。
何か……オーバーキルではないだろうか。
標的となってしまった翼竜は痛みでつんざくような咆哮をしたが、超鈴音には効果無し。
落ちながらも翼竜は首だけ振り向いて攻撃を仕掛けた下手人に炎を吐こうとする。

―瞬時転移―

が、近衛門の高速転移を研究していただけあって、超鈴音は翼竜の懐に瞬間移動した。
続けて超鈴音がそれぞれの指をクンッと動かした瞬間、先程突き抜けた断罪の剣のうち10本が急速ターンして竜種の首を……あっさり貫通した。
そのまま重量感のある音を辺りに響かせながら翼竜の巨体は地に落ちた。
遅れるようにして計24箇所の穴から血が出始めた。
精神強化されている時点でこういうのを見ても特に動揺もしない。
超鈴音は断罪の剣を全て解除し魔法領域のみの状態に戻った。

《図書館島の竜種に似ているからと思て目をつけたが……一瞬だたネ。竜種を一方的に倒せても、地球での麻帆良外での活動のしにくさには何の変化も無いのだから困たものだヨ。さて……竜種の肉が欲しいという理由だけで命を奪た訳だが、無駄にする事なく持ち帰るヨ。一つ封印魔法を覚えていて正解だたネ》

超鈴音は浮遊で竜種の巨体を浮かし翼と尾をうまくコンパクトになるようにし……。

―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―
   ―凍てつく氷柩!!―

翼竜の身体は巨大な氷の棺の中に閉じ込められ……まあ実際既に死体だからピッタリだが。
要するに超瞬間冷凍で肉を痛める事無く、かつ巨大な冷凍庫も必要ないという訳だ。
火星にかけるための幻術魔法の開発の合間にエヴァンジェリンお嬢さんから封印魔法を教わっていたのがここに来て活用された。
得意な火の属性とは違うがアーティファクト的にも殆ど不可能はない。
そして超鈴音はその巨大な氷塊を送ってきた後すぐに優曇華へと帰還して来た。

「今日は普段ではかなりありえない新鮮な体験ができたヨ。収穫も多い」

「凄い大物もありますしね」

「さっきも思たが翆坊主が呼吸をして会話するのは久しぶりだナ」

「私もそう思ったところです。この翼竜はどうするんですか?アーチに入れておくよりは……」

「そうだネ。魔法球に転送してもらえるかナ?」

「了解です」

食べるのが目的なのだから持ち帰らないと、という事だ。
超鈴音が浮遊でポートまで氷塊を移動させ、ポートを起動させて超鈴音と共に女子寮の魔法球まで移動し、そのまま超鈴音が丁度良い場所まで運び一旦放置した。
再び私達は優曇華へと戻り、メガロメセンブリア時間は……午前6時前だが、恐らく総督は起きている筈だ。

「それではクルト総督に会いに行くとするカ」

超鈴音はそう言って操縦球に乗り込み再び優曇華をケルベラス西岸付近海底から発射させ2分強。
去り際にグラニクスから離れたとあるオアシスを試しに観測してみたらカオスなものが見えたが今回はスルー。
オレステスやトリスタン辺りには海峡があるがその海底も海底を通り抜け、メガロメセンブリア近海に到着である。
観測を行った所、クルト総督はメガロメセンブリアでの拠点と思われる執務室で朝早くから仕事中であった。

「遠隔結界を張ります」

反応が感知されないよう直接執務室に結界を張った。

「頼むヨ」

超鈴音は目にコンタクトを入れ。

―転移門―

あちらに到着した。
その執務室のクルト総督の様子はと言えば……光の転移門が出現したことに驚いた。

「突然訪ねて申し訳ないネ、クルト総督。今日は報告と少し話しておきたい事があって来たヨ」

非常に警戒していたが出てきたのが超鈴音であった為、クルト総督はすぐに警戒を解き執務机の椅子から立ち上がった。

「約2ヶ月ぶりですね、超さん、ようこそ。少々驚きましたが、どうぞそちらに掛けてください」

「失礼するヨ」

クルト総督は来客用の席に超鈴音を促し自身も向かいの席に着いた。

「報告……というと、ネギ君の事でしょうか」

呟くようにクルト総督が言った。

「その通りネ。ネギ坊主は少し時間が掛かったがきちんと助けられたヨ。全て元通りと言ても問題無い」

「……そうですか……それは良かった……」

気が抜けたのか総督は眼鏡を指で押さえながら、ソファの背もたれに軽く体重を預けた。

「……メガロメセンブリアの公表の結果も地球では今の所順調だし、上手く行ていると思うネ」

少し間を置いてから超鈴音が話し始めた。

「それはどうも。実際には元老院では一部強烈な反対を受けた事もあり、それを無理やり押し通したのでこちらは順調という訳には行きませんでしたが……結果が出ている以上問題ありません。……少し話をという事ですが、聞かせて下さい。人工衛星の話は既にこちらにも伝わっています」

麻帆良のゲートの要石とメガロメセンブリアのゲートの要石の接続調整の甲斐あって地球・魔法世界間のまほネットは復旧し両世界間の通信も元通りである。

「話が早いネ。まずはその人工衛星なのだが……」

超鈴音は人工衛星の完成予定時期と2号基以降の打ち上げについての話から始め、これから冬場に向けて食糧問題が発生する可能性・地域について話し合い、それに伴い植物工場の技術を活かせる事をまず始めの目的とした火星での超鈴音の活動拠点についての交渉、地球でのまほネットの流通が滞っている現状精霊祈祷エンジン等に使われる魔法動力機関の部品やその他諸々の魔法具の購入についての交渉……とクルト総督も余り時間をかけていられないので、それぞれ簡潔に話を詰めた。
総督は超鈴音の拠点確保には協力してくれるとの事で、とりあえずは、また今度詳細を詰めるという事で、クルト総督の次回都合が良い時と超鈴音の予定が合う日を決め今回はそれまで、となった。
……そして超鈴音は再び転移門で優曇華に帰還してきた。
そんなに時間はかからなかった……というか総督にそんなに時間が無いようで、観測した感じ総督には山のように仕事があり、元老院議会も今日もまたあるらしく……とにかく忙しい。
私達は優曇華でいつもの最も深いオスティア近海海底に移動し、超鈴音は直接魔法球へ、私は蟠桃に戻り、インターフェイスを元に戻した。
麻帆良の時刻は21時を示す頃。
サヨも超包子から戻ってきており、超鈴音は夕食を取りながら、魔法球で本日最後の事である。

「鈴音さん、この竜……食べるんですよね?」

翼竜の封印された氷塊を前にサヨ、夕食を持ちこんで食べている超鈴音という微妙な光景である。
一応竜種の死体の前なのであるが……そういうのはどうでもいいらしい。

「そのつもりだヨ。ゼクトサンにできるだけ早いうちに竜種の食べ方を聞きに行こうと思うネ。今月の頭にさよはクウネルサンとゼクトサンに会たという話だが、丁度良いし、一緒に行くカ?」

「目的は竜種の食べ方を聞きに行く事ですか……。でも、そうですね、私も一緒に行きます」

「決まりだネ」

「はい!それにしてもこの竜倒すとき、危険はなかったんですか?」

寧ろ翼竜にとって超鈴音が超危険だったと思う。

「ほぼ一瞬で決着がついたから危険は無かたヨ。凍結する方が時間かかたぐらいネ。始めての実戦らしい実戦にしてはあっけなかたが、こんなものかナ」

「キノ、映像は……」

《ありますよ、視てましたから。神木に戻ったら確認すると良いと思います》

《はい!それじゃあ後で確認しますね》

《楽しみにすると良いヨ!とは言いがたいけどネ》

《後は優曇華のアーチの中に色々ケルベラス大樹林で採取してきた植物が入ってますから、そんな感じでしょうか》

《ふむ、そちらの方が面白いだろうナ》

《うーん、私も一緒に行けばよかった気がしてきました》

《次も近いうちに集めに行こうと思ているから機会はあるし安心するネ》

《じゃあ、次はキノの代わりに私がついていきます!》

《そういう事なら、了解です》

そういえば前にも似たような事あったような……。
神木の映像を渡すとか渡さないとかそんな話だっただろうか。
まあ……そうこうしてこの日も無事に終わりを迎えたのだった。



[27113] 76話 カイタイ。カイボウ
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:59
場所は火星、魔法世界、グラニクス……その町から離れた砂漠を渡った先の遺跡のような建物が存在するオアシスでの事。
ラカンはオアシス内の桟橋でゴロゴロしようかと思ってふらついていた所、ある人物が視界に入り反射的に攻撃を仕掛けた。

―そよ風烈風拳!!!―

「みゃんッ!!このっ変態!!いい加減やめるですー!!」

暦のスカートがめくれ上がり、寸前の所で暦はそれを抑えた。

「はぁー?だったらいい加減スカートやめればぁー?」

鼻をほじりながらわざとらしくラカンが言った。

「もうすぐ調と焔がズボンを買ってくるの知ってるくせにぃーッ!!」

そのふざけた態度に暦が怒る。

「えー?何だってー?全然聞こえないなぁー!?」

今後は両耳をほじりながらラカンが言った。

「くぅーっ!大体、あなたがフェイト様の水晶を強奪するからいるだけで!!」

更に煽るような態度に暦は更に怒りのボルテージを上げる。

「いやー?何かきれいな水晶あるなーと思って拾って持ち帰って来たら嬢ちゃん達が勝手についてきただけだろ?ほら、あそこに飾ってあるし」

ラカンは桟橋の先端に置かれている水晶を顎で示した。

「キーッ!!よくもぬけぬけとそんな事が言えますね!!」

両手を振り上げ暦がその場で地団駄を踏む。

「がっはっは!!何の事だろうなぁー?」

そこへ丁度出かけていた2人が戻ってきた。

「ジャック・ラカン……またやっているのですか……」

「変態め……」

「おー、ようやくお戻りか」

目を閉じたままながら呆れた表情の調と相変わらずツインテールで、軽蔑したような視線を送る焔。

「調!服はっ!?あ!」

暦が涙目で調に訴えかける。

「見ての通りです。一応何着か買ってきました」

調と焔のコートの下、足元には確かにズボンが見えた。
調は買ってきた衣服の入っている袋を暦に軽く掲げて見せた。

「わ、私にもっ!」

―そよ風烈風拳!!!―

「そぉい!!」

「うにゃんッ!!」

暦が素早く調の元に接近しようとしたところをラカンが素早く攻撃を仕掛け、スカートを再び捲り上げ、暦は叫び声を上げた。
暦は反射的にギリギリでまた抑え、そのまま調から袋を掻っ攫い建物の中へと走り去っていった。

「あー、これで捲れるのは環の嬢ちゃんだけかー。ノーパンだからこれは変わらねぇな」

ややつまらなさそうにラカンが言った。

「貴様……」

「ジャック・ラカン、ふざけてばかりいますが、何故私達に構うのですか」

調がラカンに改まって尋ねた。

「あー?別にただの気まぐれだ。俺はアイツに用がある。そもそも嬢ちゃん達は勝手にここにいるだけだろ」

ラカンは暦に言った時と同じく桟橋の先端に置かれているフェイト・アーウェルンクスの封印されている水晶を顎で指し示した。

「……またそれですか。フェイト様に変な事をしようとしたら許しませんよ」

調は溜息をつき、忠告するように言った。

「逆に聞くがぁ……嬢ちゃん達はいつまでアイツの傍にいるつもりなんだ?」

ラカンは少しばかり真剣な表情で尋ねた。

「いつまででもだ」

これに対しては焔が答えた。

「はー、一途なもんだな。ま……ぼーずみてーに死んでないだけまだ望みはあるわな」

ラカンは少し遠い目をして言った。

「…………」

「……やはり、ネギ・スプリングフィールドは死んだのですか」

調が一瞬置いてラカンに尋ねた。

「ああ、ぼーず以外は皆旧世界に帰った。見送った俺が言うからには間違いない」

「…………」

調は無言で返した。

「……旧世界からのこのこやってきて我々の計画を邪魔した報いだ」

焔が沈黙を破るように吐き捨てるように言った。

「そう言うけどよ、嬢ちゃん達の計画が成功してたら今頃この世界は消えてたんだろ?そんな事言えんのも今があるからだろうに……そこんとこどうよ?俺はあの完全なる世界ってのに送られたみてーだがそこでの記憶は全然ねぇぜ?理想郷だかなんだか知らねーけどよ」

ラカンは焔が心の底から言っているのではないことを分かった上で問いかけた。

「醒めなければっ……そこで幸福に永遠に暮らせた筈だ!何故か魔法世界が消えることが無くなったが、この世界は以前のまま何一つ改善されていないではないかッ!!私達のような戦災孤児も減りはしない!!環境が変化してもっと酷い事になるかもしれない!!」

焔はラカンの言葉に対し強い語調で返した。

「あー、ピーピーピーピー良く喚く元気があるな。そりゃ喚いているだけじゃ何も変わるわけねぇだろ?現実ってのは元からずっとこういうもんだ。動物の自然状態、見てりゃわかんだろ、弱肉強食。あいつらは世界に文句を言う事もねぇ。それをぐちぐち考えてっから人間ってのは厄介なんだ。そりゃ夢みてーな皆幸せに、しかも永遠だぁ?そんな世界があるから来ねえかって言われたらついていく奴はごまんといるかもしんねぇが、早々そんな都合の良い話が転がってるかっての。そんな若いうちから諦めてんじゃねーぞ」

ラカンは吐き出すようにつらつらと台詞を述べた。

「ッ…………」

それに対し焔は返す言葉が出なかった。

「ハッ、今の俺の柄にもねぇ話は珍しいぜー?得したなっ!」

途端にラカンはまたわざとらしい表情に戻る。

「なにがっ!」

そのふざけた言い方に再び焔は怒った。

「ま……最後にどうするか決めるのはいつだって自分自身だ。ずっと喚いてたけりゃ喚いてりゃ良い。それで納得出来るなら言う事は何もねぇさ。そんじゃ俺は昼寝すっから」

「…………」

ラカンは有無を言わさず桟橋の中間地点にあるドームの所へ行き昼寝を始めた。
その移動していく後ろ姿を調は何か思う所あるような表情をしながらも無言を貫いた。

「暦達の所に行きましょう」

「分かった」

少しして調が口を開き、2人は暦、環、栞のいる建物へと移動して行った……。
……時を遡れば、魔法世界で流星現象が始まった頃、リライトで完全なる世界に送られて戻ってきた調は1人で持つには大きいフェイトの封印水晶を抱え、墓守り人の宮殿の中層部で気絶していた暦、焔、環が一箇所に集められて放置されているのを発見したのだった。
調は3人の気を取り直させた後、フェイトの状態と現状について自分の分かる範囲で説明し、計画が完全に失敗した事を告げた。
3人はそれぞれに反応を見せ、共通して自分達の仮契約カードが失効していないことに安心はしたが、アーティファクトが召喚できなくなった事にはすぐに気がついた。
しかしながら、最早いつまでも墓守り人の宮殿にいる訳にもいかず、その場を後にしたのである。
計画が失敗した時の事を考えていなかった為4人には特に行く宛も無かったが、新オスティア、メガロメセンブリアの方面に行けば捕まる可能性がある為、シルチス亜大陸からエルファンハフト、モエルを経由し陸路伝いに移動を続け、ゼフィーリアへと向かった。
4人は栞が恐らくオスティアで復活しているとも予想はしていたが、オスティアに行くのは自殺に等しく、既に栞が捕まっている可能性も考慮し、仕方なく移動していったのだった。
道中フェイトの封印水晶を、人目を避けて運ぶのに苦労しつつも、4人いることを利用し、交代で街に寄るといった方法で踏破していった。
ゼフィーリア近郊に着いた時、それまでに各自考えていた今後の動きを4人は話し合い、このまま放浪を続けグラニクスの方角に向かうか、対岸に渡りアリアドネーに向かいフェイトの封印を解く方法を探すという2つの選択を考えた。
4人にとってフェイトの封印解除は重要な事であった為、アリアドネー行きは是非取りたい選択であったが、完全なる世界の構成員であった事情と、アリアドネー総長がネギ・スプリングフィールド達と共にいた事を考慮すると、何事も無く受け入れられるとは到底考えられなかった。
ゼフィーリアに至るまでにかなりの日数が経過しており、そんな中、暦が意を決して一人でもアリアドネーに向かってみると言い出した丁度その時、件の人物が現れたのである。
ジャック・ラカンは栞を連れており、突然4人の元に現れた瞬間フェイトの封印水晶をかっぱらい、4人が狼狽えた所「いいもん見っけー!あー、俺今からグラニクスから外れた所にあるオアシスまで行こうかなぁーッ!?」とわざと聞こえるように大声を上げて、そのまま確かにヘカテス、グラニクスの方角へと勝手に行ってしまったのである。
ラカンに連れられる形で来た栞は4人と再会を微妙な形で果たす事になったが、栞は4人にそれまでの経緯を話し出した。
オスティア総督府でリライトから復活した栞は、同時にすぐ傍で同じく復活したクレイグ、アイシャ、リン、クリスティンに取り押さえられるような形になったのだが、栞本人は訳がわからず話にならず、そこに総督府のテラスで復活を果たしたラカンが現れ「この嬢ちゃんは俺に任せてくれねぇか、それとこの事も内緒で頼むぜ」と言った事でメガロメセンブリアに突き出されるような事は回避したのだった。
ラカンは総督府から混成艦隊に連絡をした後、ネギ達の滞在していたリゾートホテルとは別のホテルに部屋を取り、そこで栞を休ませた。
その後ラカンはネギを欠いた旧世界から来た一行を見送った後、ふざけてはいるものの栞の事を気にかけ、特に深くは何も言わずに栞を連れて旅に出た。
ラカン自身もフェイトの残りの部下4人がどこに行ったかを考慮するとアリアドネーの方角に向かったと考え、調達とは異なりノアキスの方角に進む形で移動したが、それなりに日数をかけてアリアドネーの方角に進んでも調達の情報が得られなかった為、エルファンハフト付近へと戻ってみた所、そこでようやく4人の足跡を見つけたのである。
それからそれを急ぎ足で追うようにしてラカンと栞は移動して行き、ゼフィーリア近郊にてとうとう追いついたのであった。
栞はそれまでの間でラカンの事を多少なりとも理解していた為「変態ですが、悪い人ではありません。ラカンさんの言った通りグラニクスに向かってみませんか?」と4人に提案し、いずれにせよフェイトの水晶を変態に取られたままでは大変だという事で追いかけ……そして現在に至る。
基本的に最低でも一日に何度もスカートをめくられ、酷い時には下着まで脱がされる被害にあったが、スカートをはかなければ良いという結論に至り、調と焔がグラニクスまで服を買いに出かけていた所、この日戻ってきたのである。
ラカンが桟橋の先端に置かれているフェイトの封印水晶の近くのドームで昼寝を始めた一方、調達5人は改めて話し合いをした。
……それは最初に調が「……ここはジャック・ラカンに私達がアリアドネーで受け入れてもらえるよう頼んでみてはどうでしょうか」と言い出した事から始まった。
焔と環は特に考えず反射的にすぐ反対したが、それに対し栞は賛成し、調が続けてどうしてそんな事を言い出したのか理由を説明した。
ラカンが栞を自分達の元に連れてきた事、ある意味安全であるこのオアシスでフェイトの封印水晶を置いておける事、先のラカンとの会話から考えて、きちんと頼めば対価は要求される可能性は高いが何かしらの協力はしてくれるだろう、というのが調の考えであった。
……大事なのは自分達の意思をはっきり示す事である、と。
それから5人は一応の意見一致に落ち着き、揃って昼寝をしているラカンの元に向かった。

「ラカンさん、昼寝中失礼ですが起きてください」

「……んー、何だぁ?」

栞が寝ているラカンを揺さぶって起こした。

「ジャック・ラカン殿、頼みがあって参りました。聞いてください」

調が畏まって切り出し、ラカンを起こした栞は4人が横一列に並んだその端に移動した。

「……真面目な話みてーだな。いいだろう。聞いてやる。言ってみな」

ラカンは上体を起こし、5人を順に見てからかなり真剣な表情で言った。
それに対して、5人は互いに顔を見合わせ、同時に息を吸い、頭を下げ……ラカンに言った。

「「「「「私達がアリアドネーに入れるよう力を貸してください!!」」」」」

しばし沈黙が続き、5人はゆっくり頭を戻した。

「……少しは前に進む気になったみてぇだな。ま、来るとしたら多分そう来ると思ってたぜ。セラスが受け入れるかどうかまでは俺の知る所じゃねーが、俺からセラスに口添えはしてやるぜ」

ラカンは面白い、というニッとした顔をして答えた。

「……ありがとうございます、ジャック・ラカン殿」

調がそれに対して返した。

「あー、それにフェイトの奴は今まで何十人だったか覚えてねーけど、アリアドネーに嬢ちゃん達みたいな子を今まで送ってたんだろ?多分なんとかなるだろうよ」

シリアスが苦手なラカンはすぐにはぐらかし始めた。

「私達を除いて57人です」

暦が答えた。

「はー、結構な事だな。で、動機は何だ?やっぱアイツの封印を解く方法を探す事か?」

ラカンは桟橋の先端を指差して言う。

「正直に言えば、今の最大の動機はその通りだ」

これには焔が答えた。

「はっ、正直なのはいいこった。ありゃあ最上級の封印魔法だ。あんま時間かけすぎてっと俺が我慢できなくなって無理やり壊しちまうから頑張れよ!がはははは!!」

ラカンは最後に豪快に笑い声を上げた。

「なっ!?壊すなんてふざけるなですーッ!!」

ラカンのデタラメな力でやられたらたまったものではないと暦が叫び声を上げた。
続けて焔も怒りの声を上げたが、最終的には5人揃ってラカンに改めて礼を述べ、アリアドネー受け入れについての口添えを頼んだのだった。
しかし、またしてもシリアスを壊したくなったのか、ラカンは、対価はパンツで払え等と冗談を言いだし、すぐに揉めたりもした。
実際にはラカンはフェイトの封印を解除できそうな人物に、実は生きていた妖怪じじいという心辺りがあったのだが、それについては今ここでは必要ないだろうと、言及することは無かった。
その後、ラカンにしては珍しく「グラニクスにちょっくら行ってくるか」とすぐに出かけて行き……その目的と言えば一つであった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

翼竜の冷凍保存から3日、10月23日。
超鈴音とサヨは図書館島の地下へと向かった。
サヨは身体をパージして精霊体で向かい、超鈴音は例によって結界を張った上で転移門で直接移動した。

「やあ、また来たヨ。クウネルサン、ゼクトサン」

《こんにちは、改めて初めまして。クウネルさん、ゼクトさん、相坂さよと言います。よろしくお願いします》

「おや、ようこそ、超さん。こちらこそ改めて初めまして、さよさん。私はアルビレオ・イマ、そのままクウネルとお呼び下さい」

何がそのままなのだろうか。

「よく来たの、超。さよ殿、改めて、ワシはフィリウス・ゼクトじゃ」

《あ、普通にさよで大丈夫です》

「ならばそう呼ばせてもらうとしよう」

「……今日も挨拶だけではなさそうですが、超さん、今日は何でしょうか?」

「うむ、いつも通り肉まん持て来たから食べながらでも話を聞いて欲しい」

超鈴音は持ってきた肉まんをテーブルの上に出した。

「これはどうも」

「いつも済まぬな」

クウネル殿とゼクト殿はそれぞれ一つずつ肉まんを手に取り食べ始めた。
一方超鈴音は端末を操作し、写真を出した。

「今日はこれを見てもらいたいのだが、見ての通り一匹翼竜を狩って来たネ」

「ほう!なかなか美味そうなトカゲじゃな」

ゼクト殿のテンションが上がった。

「フフフ、随分簡単に捕ってきたように言いますね」

「実際殆ど苦労はしてないヨ。本題に入りたいのだが、ゼクトサン、この翼竜のオススメの食べ方……それと詳しい各部位の処理方法もあれば教えて欲しいネ」

「うむ、分かった。……殺した後すぐに凍結封印したようじゃが、トカゲ肉の処理には血の処理が肝心じゃ。説明するが良いか?」

あくまでもトカゲらしい。

「お願いするヨ!」

「この場合じゃと丁度首で仕留めておるから、まず逆さにして……」

ゼクト殿によるトカゲ肉調理講座が始まった。
血抜きをした後、各部位の適切な切断位置についての説明に移り、所謂牛肉で言う……肩、肩ロース、サーロイン、ヒレ、ばら、かたばら……等と言った部位の竜種版について解説をしてくれた。
とはいったものの、竜種にそもそも詳しい肉の部位に命名なんてされてる訳も無く、翼膜の肉ぐらいは分かるが、翼の付け根の脇のある部分の肉がどうとか、規格が無い為かなり面倒な説明になった。
竜種の討伐は魔法世界では行われているものの、食用として一般普及していないのは、当然普通は簡単に狩る事が不可能であるという事は勿論、狩れたとしても、魔法で倒せば、雷系なら肉自体が感電火傷してしまったり、火系なら当然焦げるし、氷系の封印魔法ではなく攻撃魔法だと氷槍弾雨のような槍ならまだしも、吹雪系の魔法であれば凍傷で肉がやはり痛むとかそういう事情が絡んだりするので、綺麗な状態で竜種を倒すのは難しいものなのである。
難しいという割には、超鈴音は超威力の断罪の剣でほぼ急所一撃で胴体に余計な傷を一切付けることなく倒したが、あれは火炎袋のような内蔵系の構造に興味があるから傷つけないようにという理由が絡んでいると思われる。
超鈴音にとって、竜種を実際に解体・解剖するというのは初めてなので実際に竜種の内蔵がどうなっているのか見ることに興味は尽きない筈だ。
また、以前ゼクト殿が言っていたが、ものによっては美味いというだけあって、全ての竜種が美味いという訳でもないというのが食用として成立しない理由なのだろう。
ゼクト殿としても、竜種を常に無駄を残さず食べるという事も無いらしく、全ての部位について詳しい話が聞けた訳ではなかったが、少なくともあの巨体のどこから順に手を付けて行けば良いのかという手順については分かったのだった。

「ふむ、説明してくれてありがとネ。実際にゼクトサンに捌いてもらいたいとも思うが科学者として研究目的の解剖もしてみたいから自分でやてみるヨ。解体して各部位に切り分けたら、お礼に料理してまた持てくるネ」

「おお、それは楽しみじゃ。超よ、一つできればしゃぶしゃぶとやらにして食べてみたいと思っているのじゃが……」

「それなら、例の柔らかい部位の肉を薄切りにして野菜と鍋も用意してくるからここで食べれば良いヨ!」

「真か。それはありがたい」

「フフフ、久しぶりの竜種の肉ですね」

何だかんだクウネル殿も楽しみにしているらしい。

「タレも合いそうなものを用意してくるから期待して欲しいネ」

《わー何か本当に美味しそうですね!》

「確実に美味い筈じゃ」

「さて……それなりに処理に時間もかかりそうだから、このまま作業に入るとするかナ。次来る時を楽しみにしてくれると良いネ」

《少ししかお話しませんでしたが、また来ますね》

「はい、またの訪問をお待ちしています」

「いつでも来ると良い」

「では失礼するヨ」

《失礼しました》

……そして超鈴音とサヨは女子寮へと戻り、サヨは身体に戻り、超鈴音と共にゼクト殿から聞いた話で翼竜の解体にあったら良さそうな道具を買いに麻帆良の街に出かけて行った。
巨大な翼竜を解体するだけあって、かなり大きめの容器等を幾つも購入し、店の人は何に使うのかという表情をしていたが、超鈴音を見て、多分何かまたするんだろうと思ったと思われる。
が、完全に今回は個人的趣味である。
再び女子寮に戻り、魔法球の中に移動した2人は、そのまま買ってきたばかりの道具と共に氷塊の前までやってきた。
十数m四方にブルーシートを敷き、その上に大きい容器をいくつも並べ、他に切り分けた肉を置ける台も用意していざ始まりである。

「始めるネ」

超鈴音は浮遊を使って氷塊を浮かし、翼竜の首が地面に向くようにした。

―解除―

瞬間、凍てつく氷柩による封印が解かれ、翼竜は死んだ直後の状態に戻り、そのまま首と翼から血を流し始めた。
首から流れる血は用意していた容器にどんどん溜まっていったが、翼の方は最初血がビニールシートにこぼれ、超鈴音が適切な位置に容器を浮遊で移動させてそれの回収も進めた。
ゼクト殿が言っていた通り血抜きにしばらく時間をかけて行い、大きすぎて邪魔かつ切断しても問題ない部位の解体を進めた。
頭、首、両翼、両足、尾は断罪の剣でスッパリ切断し、解剖をする予定の臓器が詰まっている胴体がスッキリした状態になった。
それぞれ新たに敷かれたビニールシートの上に各部並べられ、頭、両翼、両足、尾、そして胴体の調査はまた後でという事で再び凍てつく氷柩による封印が行われた。
残ったのは首の部分であり、まず首の表皮・鱗をそぎ落とす作業から入り、中心に骨があるのがはっきり分かる肉の状態にした所でまた封印となった。
それから、両足と尾の処理も同様に行われ、頭と両翼はスルーし、胴体の解剖へと移った。
開腹を行い、火炎袋、心臓、胃、腸、肝臓……と一つ一つ切除して行った。
写真はとらなくていいのかというと、私達がいるので既にあらゆる角度からのMRI画像はいつでも、という感じである。
作業は直接触れて行うかと言えばそんな事も無く、超鈴音は断罪の剣をメスのような形状にして複数本出し、遠隔操作でサクサク解剖を進めた。
内蔵の各部位全ての処理が終わった後、またもや全て再封印し、残すは肉塊と言うべきか、胴体の竜肉へと取り掛かった。
まずはまた表皮・鱗の切除から始め、その後ゼクト殿から聞いた話の通り、肉質の違う部分で次々に切り分けて行き、切り出された肉は用意していた台にガンガン並べられて行った。
……総評してみれば、剥ぎとりどころか、完全解体・解剖という感じで、鱗つきの立派な翼竜の皮や翼爪は何か別の用途でまた使えそうな感じの素材になり、各種臓器はまた今度詳しく調査できるであろうし、何と言っても目玉と言える肉が、山のように取れた。
普通に考えて食べきれないが、封印魔法があって良かったと言う他ない。
超鈴音がじっくり見ていた時間を含め、全作業魔法で短縮して3時間近くかかったが、何はともあれ、竜肉祭りの準備は整った。

「いやー、これはなかなか面白かたヨ!私も竜種を解剖するのは初めてだからネ。ついつい時間をかけてしまたナ」

「鈴音さん見てて楽しそうでした。でもこんなに食べれる竜肉が取れると何か本当に楽しくなってきますね」

「うむ、今日はやめておくが、次は実際に調理にして食べる所までやるヨ!」

「はい!」

とりあえず、仮にも超鈴音(14)で中学3年生の少女の筈なのだが、竜をとことん解剖してハイテンション状態というのは最早ツッコミを入れてはいけないのは間違いなさそうだ。



[27113] 77話 協力と依頼と計画と
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:24

「……むぐ……久方振りのトカゲ肉は美味い。このタレも絶妙じゃ」

「フフフ、トカゲ肉でしゃぶしゃぶをするなんて滅多に無い事でしょうね」

「贅沢なような、贅沢じゃないような。見た目は普通のお肉でも、味は凄く濃厚でいてかつ柔らかいというか」

「一般的感覚からすれば、珍味を得る為に命を危険に晒しているようなものですから贅沢という基準で言うのがそもそも……という感じはしますが」

「ふむ、食用としては相当素晴らしい素材だと思うネ。翆坊主は久しぶりの食事だと思うがどうかナ?」

「非常に美味しいです。……一つ言えば、美味しいには美味しいですが、久しぶりに食べる料理がいきなり竜肉というのが何とも比較しにくすぎるのが難しい所です」

「普段から定期的に身体に入って食事を取ればいいんですよ」

「ははは、積極的に何かを食べたいという程の意思は普段あまりないもので。それに、植物系坊主にして食物連鎖の頂点の生物を食べているというのが何とも笑えない話な気がします」

植物系坊主て何ネ。

「フフフ、確かにその通りですね。さしずめ食虫植物、いえ、食竜植物と言ったところでしょうか」

「クウネル殿、言いたい事は分かりますがそれはあまり語呂が良くないですよ」

「じゃあ私は植物系女子ですね!」

「植物状態みたいな言い方に聞こえるヨ」

「実際私達は植物ですが」

……こんな感じで竜肉と野菜、鍋、調味料各種を図書館島地下に持ち込んでしゃぶしゃぶをしているヨ。
翼竜を解体してから3日、10月26日。
予め死後硬直が解けて丁度良い状態の肉になた所で再保存したものを用いて食べている。
狩てきたのは良いのだが、やはり食べきれる量ではない上、氷結封印魔法が役立てはいるものの全部食べきるにはかなり時間がかかりそうネ。
五月にも竜肉の調理法について話をしたい所なのだが、一体どこから持て来たか、何の肉なのか言わないといけない、言わないとしてもいつか五月が普通に口にするかもしれないと考慮すると問題があるから、当分秘匿しておくしかない。
しかし、これだけ美味となると珍味として一般に認識されればいずれ乱獲されるのは間違いないと思うが、まだ先の話、今は考える必要は無いネ。
……ゼクトサンは話をするよりも竜肉を食べるのに忙しいらしく、せっせと肉をしゃぶしゃぶしているヨ。

「そうでした、超さん、近いうちにナギが改めて超さんに礼に向かうと先日の家族旅行で言っていましたよ」

「むぐ……そう言っておったの」

「……ふむ、礼カ。分かたネ、そのうち来ると思ておくヨ」

「私達としてはネギ少年の件は当然の事でしたので深い事を考えずに手打ちにしてもらいたい所ではありますが。それより詠春殿が口を滑らせてネギ少年とナギに例の組織の件の話が伝わった方がどう絡んでくるかですね」

聞いてはいなかたがやはり見ていたのカ。

「おや、やはり見ていましたか。組織の話が出そうになった時点で私が詠春を止めておけばよかったのですが」

「気にしなくて良いヨ。知たなら知たで仕方ないネ」

「しかし、あの組織、早めに潰した方が良いのではないですか?」

「……それは私も同意見だヨ。組織自体はトカゲの尻尾どころかアメーバのような形態のせいで、どこかを叩いても殆ど効果は無いのは分かているから、根本的な魔法具の供給元の魔法使いを摘み出すのが一番の方法だと思うネ。あまり放置していると組織の側が魔法使いから秘密裏に魔法を教わるという可能性もあるから早めに対策は打たないと、とは思ているヨ」

魔法使いを発見するのは翆坊主達がいる時点で障害ですらないが……問題はその情報をどうするかネ。

「単純にモグリの魔法使いを見つけるだけであれば、私達が本気出せば済む話なのですが、それを警察に教えた所で、情報ソースは何だと言う話になるのがネックです」

こういう時翆坊主達の力は制限的なものがあて辛い所だナ。

「……超よ、ならばワシがそやつらを摘んで来るというのはどうじゃ?」

依頼する気は無かたのだが……確かにゼクトサンなら……。

「フフフ、超さん、ゼクトは旅行資金の為に今仕事を探している所なのです。個別契約をしてはいかがですか?」

仕事探しカ……。
ゼクトサンなら今後魔法研究機関で引く手数多になる可能性を確実に秘めているのだけどネ。

「そういうつもりで話題にしたつもりは無かたのだが、そういう事なら依頼させて貰てもいいかナ。普通に探す仕事とはまるでかけ離れた仕事になるけど」

「うむ、その依頼承ろう」

「ゼクトサン、お願いするネ」

「ゼクト殿、協力感謝します」

「食事中だけど、善は急げ、詳細に入らせてもらうネ」

「分かった。聞こう」

「翆坊主達がゼクトサンに魔法使いの位置情報を伝えた後の処理は……」

……ゼクトサンが魔法使いを捕獲した後は、麻帆良に転送するのではなく、各国魔法協会に、逃亡中魔法使いの証拠か現場で見つけた確たる証拠を添えて直接送るという方法を取てもらうようにするという話をしたネ。
麻帆良で処理するとなれば、学園長や今はいない高畑先生の負担が増えるだけだし、ゼクトサンの存在を明かす必要も無い。
基本表の組織とはいえ裏の部分は秘密裏に処理してしまえば、そのうち情報が伝わてあちらの動きを縮小させていく事もできる筈ネ。

「……報酬はそれで良いかナ?」

「そこまで多くなくて良いぞ。寧ろ旅費程度でワシは充分じゃ」

「ははは、ゼクトサンがそうは言ても、普通に依頼するならこれぐらいの額は当然、状況も状況だから受け取て欲しいネ。楽しい旅行をすると良いヨ」

「ゼクト、普通に溜めておくという手段もありますから貰っておけるものは貰っておくと良いですよ」

「……ならばそうしよう」

「見つけ次第私から伝えに伺いますが、流石に地球も広いので探すのにそれなりに時間がかかりますがよろしくお願いします」

半径1万mを超えたその向こうは隔地観測というものだから仕方ないナ。

「あい分かった。潜伏者の確保は任された」

「必殺!仕事人って感じですね!」

「殺してはいけませんが。あえて言うなら確定仕送人でしょうか」

「キノ殿、それもあまり語呂が良くないかと」

「……素直に同意します、クウネル殿」

「フフフ、お互い様ですね。……ところでまた話を変えますが、魔法世界側の人達はネギ君が生きている事を知らないのですよね?」

「一応クルト総督にはこの竜肉を狩る時に会いに行たから伝えておいたヨ。他の人達は、私は知らないし、総督が伝えるか、高畑先生が魔法世界に麻帆良のゲートを通て行た時にでも伝えるか、それは2人次第だと思うネ」

「なるほど、そうですか。ゲートを使わない火星に行ける方法が具体的にどういうものなのか私は知りませんがネギ君を実際に会わせるのは……やめておいた方が良いでしょうね」

「ええ、ネギ少年には私達に火星側に行く技術があるのはハッキリとは言っていませんが、分かっているのは間違いありません。ですが方法が世界からすれば異常すぎますので、この人なら良いか、あの人もまあいいか等とやっていると良くないので使用者は超鈴音だけにしておくべきだと思っています」

「それもそうですね。例外は増やさない方が良いでしょう」

「そういう事ネ。……しゃぶしゃぶも大分食べたが、ここでまだ出していなかたとっておき、ドラゴ肉饅の味見もして欲しいネ」

「ドラゴ肉饅ですか、それはなかなか語呂が良いですね」

「うむ、頂くとしよう」

「しばらくは竜肉料理が楽しめそうです!」

さよ達は体重を気にしなくて良いが、私は少し気にしないといけないネ。
調べてみたら栄養価も高く、食材としては素晴らしいが、脂質の高さは避けられないヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ゼクト殿の善意の申し出から、流れで依頼するに至り、組織に魔法具を供給している魔法使いの摘みとり作成が水面下で始まった。
この数日で国内の魔法使いではなく、あえて外国から攻めてみた所、詳細に観測し、間違いなく逃亡中の犯罪者魔法使いである事を確認した上で、中国にてまず一人を特定した。
そしてその日のうちに、位置情報を伝え、ゼクト殿が転移魔法で直接急襲し、鮮やかな手際で無力化、転移符作成と流通させていた証拠と見て間違いないものと潜伏場所の情報を付けて、中国魔法協会に送りつけてくれた。
その後すぐにゼクト殿は何事もなかったかのように図書館島の地下に戻ってきた。
まさに、仕事人である。
一方送りつけられた中国魔法協会の人達は誰が送ってきたかは知らないが、逃走中魔法使いが現れたとなれば逮捕しない訳が無かった。
どう考えても違法捜査のようなものなのであるが、中国魔法協会の人達が違法捜査をした訳でもないし、犯人が自分から転がり込んできたとでもする等方法はいくらでもあるので問題ない……と思いたい。
さて、組織の摘みとりは重要な事であるが、それとはまた違う重要な事に、日本政府が動きを見せた。
国連の方でメガロメセンブリアが結んだ地球上での特定魔法行使に関する国際条約として、簡単に言ってしまえば魔法使いは魔法を悪用しませんという宣誓に近いものが定められた訳だが、その次の段階として来年度第59回国連総会で国際魔法条約の調印が予定されており、今度の日本政府の動きはそれに付随したものである。
各国には既にメガロメセンブリアからメガロメセンブリアで施行されている魔法関連の法律が参考として提供されており、それを元に、各国それぞれ魔法の法整備を進めていこうという訳である。
そこで、法務省が魔法法とその他現行の法律各種の改訂原案、そして文部科学省が特定独立行政法人魔法総合研究所法案というものの原案作成に乗り出した。
極めつけに魔法省なんていう……正直本当に魔法が無かったら正気か、と言いたくなるような省庁も早めに設置すべきという動きが出ている。
早過ぎると思うかもしれないが、はっきり言ってこれは各国どこが一番早く法整備できるかがある意味鍵なので寧ろ競って行われている。
イギリスでは簡単な魔法を何か一つでも良いから子供のうちから練習できるようにして魔法に慣れ親しむようにすべきだという、単純にそうは言うがどうなのかという意見も出ていたりするのだが、あくまでも調印予定の国際魔法条約の範囲内で法案を整備する必要があるので、その辺の調整は重要である。
結果、日本ではあちこちの大学、例えば例の青山素子さんの通っている東京大学法学部の教授陣が集まり、メガロメセンブリアの法律に目を通し「ザルですねぇ、現代日本じゃ通用しませんよ」等と好きな事言いながら魔法法の案を出し合っている。
まあ「箒で飛びます」なんて言われても人間が自力飛行する事なんて普通ありえないので、それに航空法を引き合いに出すのかどうかとか揉めるのは分かる。
魔法法の立案担当者には魔法使いで法務省に勤務していた人が含まれているのだが、忙しすぎるのとあちこちからの質問攻めで過労死しそうであり……健康に気をつけて欲しい。
文部科学省所管の特定独立行政法人魔法総合研究所は何故独立行政法人なのかと言えば、研究に協力してくれる魔法使いをそもそも外部から雇う形になる事が一つ。
そして筑波研究学園都市に多数ある研究機関からそれぞれ人員の派遣をスムーズにできるようにする為であろう。
例えば文部科学省所管の理化学研究所や経済産業省所管の産業技術総合研究所等はどちらも独立行政法人であるが、絡んでくるのは絶対に間違いない。
理化学研究所は「物理学」「化学」「工学」「生物学」「医科学」など基礎研究から応用研究まで行なう日本で唯一の自然科学の総合研究所であり、産業技術総合研究所は「ライフサイエンス」「情報・通信」「環境・エネルギー」「ナノテク・材料・製造」「地質・海洋」「標準・計測」の6分野を主軸に、日本の産業のほぼ全分野を網羅している研究所である。
さて、超鈴音が所属しているこれらに関係ありそうなものといえば「ロボット工学研究会(葉加瀬聡美と完全掌握済み)」「東洋医学研究会(会長)」「生物工学研究会」「量子力学研究会(量子コンピュータは超鈴音の掌の上)」である。
……麻帆良は、いや、あえて、超鈴音は、日本の研究所を刺激しすぎたと思う。
今の所、活動を邪魔するなと言う事で超鈴音に報道関係者のインタビュー等は行われてはいないが、どこに所属しているかとか何をやっていたかぐらいは情報が出ている。
三次元映像技術を公開した時点で充分脚光を浴びていた訳だが、田中さんが出て、葉加瀬聡美所属のジェット推進研究会が主導で作った姿勢制御装置が出て、果ては既に独立行政法人JAXAで人工衛星の開発技術もあると言い出し、その中でサラッと麻帆良の保有するスパコンで簡単に計算したなんて……世界最高のスパコンは私達なのだが、言ったりもした。
JAXAはもう済んだが、この2つの研究機関、特に後者にいかに精神的ダメージを与えるであろうか、又は与えたかといえば……。
理化学研究所では次世代スーパーコンピュータ開発実施本部があるのに、麻帆良のスパコンの方が現在開発計画しているものよりも性能が既に高いのというオチが待っている。
そして産業技術総合研究所では人工知能、ソフトウェア、セキュリティ、ロボット工学、半導体、ナノテクノロジー、カーボン系素材……おお、なんという大ダメージ。
まあ……それでも「日本で研究できるだけマシ」と海外の研究機関は口を揃えて言うのだろうが。
麻帆良学園は確かにメガロメセンブリアの下位組織ではあるが、登録上は日本の学校教育法にきっちり基づいていて設置されている為、日本に所属しているのは間違いない。
……話が大分逸れたが、兎にも角にも特定独立行政法人魔法総合研究所は原案を作成中の段階ではあるものの、設置するのは確定しているので、既に麻帆良に建設が予定されており、世界樹広場裏手の草原の奥、森があるのでそこを整備して建設予定地にする計画が動き出している。
今後は研究機関だけでなく、国立魔法学校(小・中・大)も設置する計画が出るのだろうが、公平な教育の機会等という議論で問題になるのは目に見えていながらも、世界から遅れを取るわけにはいかず設置しないわけにはいかないという微妙な状況になると思われる。

さて、そんな日本の動きはそこそこにして、所変わってスプリングフィールド一家はというとエヴァンジェリンお嬢さんの家の隣にでも家を建てたいなんて事を考えているのであるが……それはまあ好きにしてもらうとして、超鈴音達の中間テストもいつも通り終わり、11月1日、この日もネギ少年とその両親はエヴァンジェリンお嬢さんの家の以前から等速になっていた別荘にやってきて転移魔法の勉強をしていた。
ナギは勉強の合間にネギ少年と軽い、本当に軽い組み手……浮遊術有りで軽く体術で打ち合うのが好きなようだが、アリカ様がネギ少年の助けになるようにと色々魔法書で参考になる箇所を集めたりしている傍ら、アリカ様からナギもネギ少年の近くで何やら無理やり一緒に勉強させられている。
ネギ少年自身はまほら武道会のような稽古を付けてもらいたいと思っているようだが、ナギと特にアリカ様的には激しい戦闘はさせるべきではないと思っているのが軽い組み手に留めている事の原因である。
実際、本気で戦闘をすると大分……まほら武道会の頃とは無詠唱ルールを考慮しなくても状況が違う……というか、ナギの戦闘スタイルが力任せなデタラメだとするとネギ少年の戦闘スタイルは殴って大丈夫という格闘系の技というより断罪の剣のような対人相手ならば寸止め前提な技や殲滅系の魔法が多い為正直やりにくすぎると思う。
……一方、家主であるエヴァンジェリンお嬢さんはと言えば、同じく別荘の中で超鈴音に依頼された魔力球に魔分を詰め込められるようにする為の空間処理の作業をしていた。
お嬢さんの優先度的にはサークル等のほうが高いのでずっとという訳ではないが、そういう時は家を茶々丸姉さんとネギ少年達に任せて外出することが最近パターン化してきている。
とりあえずエヴァンジェリンお嬢さんは時間がある時にはやるという形で少しずつやっていたのであるが、ネギ少年は転移魔法の勉強の合間に、ついに聞いてみたのである。

「マスター、ここ数日そうですけど、また新しくダイオラマ魔法球を作ってるんですか?」

「いや、これはダイオラマ魔法球ではなくただの魔力球だよ。……幾つか作る予定なんだが……誰に依頼されたかは分かるか」

「超さん、ですね」

「それ以外に私に依頼してくる者もいないから簡単すぎるな。研究に使うらしい。詳しく知りたかったら直接聞くといいだろうさ」

「……そうですね、分かりました」

ネギ少年は少し思うところがあるらしい。

「それより、転移魔法の方はどうだ?付き添いがいるから殆ど見ていないがもう少しか?」

「今それぞれの術式を分類別にして整理している所です。でも一応短距離・ゲート構築型ならもうすぐできると思います」

「わざわざ分類別にしてどうするんだ?あんな数だけはある分野の本を」

「自分なりにもっと分かりやすく工夫ができると思うのでその為です。クウネルさんが言っていたんですが、魔法転移符の作成は確かにとても大変なのが分かったので、これから今後魔法を使う人達が増えるかもしれない時に、転移魔法を自力展開するのは難しくても、転移符の作成にももう少し効率的な方法が見つけられればと思ったんです。それと関係する事で、今魔法転移符を使って犯罪に利用している人がいるという話もクウネルさんから聞いて、例えば、転移符を量産できるようになれば個人で隠れて作成している人達は転移符の値段が下がって儲からなくなりますし、量産型は犯罪に利用できないよう識別番号のようなものをつけて一般普及させたらどうか……そういう事を考えているんです。もちろん詳しく知らないですが今の転移符の市場への混乱も考えないといけないと思ってます」

……それは一理ある。
量産できるようになれば救援活動系等を始めとしてかなり役に立つのではないだろうか。
運送系に使うとひんしゅくを買いそうだが。
ただ量産するとなると結局魔法工学的な何かが必要になると思うが……。

「なるほど、確かにそれは役に立つな。転移符は作成の手間が省けるようになれば、個人でコソコソ作って売る奴も減る。ぼーやの言うとおり既得権を握っている連中は混乱して嫌がるだろうが社会全体にとってはプラスだろうさ。ははは、ちゃんとマギステル・マギをやっているじゃないか、ぼーや」

「い、いえ、僕はそんな。ただ、ちょっとした思いつきです」

「何事もひらめきが大事さ。ぼーや、何かをしたそうな顔をしているから言わなくても今からにでもそうしそうが、超鈴音の研究に協力したいと言ってみてはどうだ?これから超鈴音はずっと忙しいだろうからぼーやのような人材にはいくらでも仕事があると言うだろう」

「はい、僕も今マスターがやっているのが超さんから頼まれた事だって言うのが分かって、そう思った所です」

「なら話は早いな」

「はい!」

ネギ少年の虹彩が輝いた。
傍受しよう。

《ネギです。超さん、通信で突然ごめんなさい》

《おや、ネギ坊主か、どうしたネ?》

《超さん、僕にも超さんの仕事の手伝いをさせて下さい!》

とても率直な発言。

《……エヴァンジェリンから聞いたカ。ふむ……ネギ坊主から手伝てくれるというなら私も頼みたい事はあるのだが、ネギ坊主は本当にそれでいいのカ?》

《はい、もちろんです。今の僕にできることの一つは近い未来の為に魔法の研究をもっとする事だと思うんです》

《……そういう事なら、分かたヨ。早速だが今ネギ坊主は転移魔法の習得をしているらしいネ?》

《はい、そうです》

《単刀直入に言うヨ。惑星の自転を計算に入れた長距離転移魔法、魔法陣の開発をしてもらいたいネ》

《長距離転移魔法ですか》

《そう、人工衛星の打ち上げ用に最適な転移魔法が必要ネ。現在開発中のものは太陽同期軌道で打ち上げるから普通の長距離転移魔法で問題無いのだが、将来的に性能を更に格段に上げた人工衛星、それ以外の用途の人工衛星も含めて、それを地球同期軌道、距離35,786kmまで一発で飛ばせるぐらいの転移魔法が欲しい。現行魔法世界でも必要がないせいで転移魔法の距離は1万kmまでしか存在していないからネ》

火星の端から端まででその距離だからそういう事になる。
ゼクト殿の限界転移距離がどれ程かは知らないが、もし1万kmなら2度使わないと地球の反対側までは行けない訳だ。
最初から分かっていたが、ロケット産業に完全に喧嘩売ってる。
とは言っても地球で打ち上げる初号基は普通にロケットを使う訳で、無駄に資金がかかってしまうのだが……。
自転計算というのは転移させた瞬間に加速度も同時にかけられるようにしたい、という事なのだろう。
将来的には半永久魔力炉と魔法球を組み合わせた動力で逆行軌道、自転と逆方向を常に飛び続け太陽光を常に最適位置で追って飛ぶのがデフォルトなプリズムミラー方式か……もっととんでもない人工衛星を飛ばすのだろうが。
ネギ少年は戦闘力のインフレがやばかったがこれからは技術インフレの時代か。

《3万5千km……そうですね、確かにそんな長距離転移魔法は存在しないですね。分かりました。やらせてください!》

《研究に必要な資料は私から送るから気にしなくて良いヨ》

《ありがとうございます》

《もちろん転移魔法の開発だけずっとというのは協力してくれる以上他にも色々頼みたい事があるヨ。ネギ坊主はそもそもどれぐらい科学系の知識があるのか確認したいのだが、やはり魔法の術式構成と各魔法の行使に必要な水準かナ?》

《えっと、はい、そうですね。超さんや葉加瀬さんのような専門的知識はありません。超さんの魔法球で少し見せてもらった機械は全然分からないです》

流石にネギ少年にいきなり飛行機のエンジンの構造を説明しろなんて言っても無理なのは間違いない。

《ははは、大体分かたヨ。こちらも用意する必要があるから、今はまず転移魔法の習得を頑張ると良いネ。用意ができたら色々資料を送るヨ》

《ありがとうございます、超さん!》

《礼を言うのはこちらも同じだヨ、ネギ坊主、感謝するネ》

《では、今から転移魔法の勉強を続けますね》

《頑張るネ、ネギ坊主》

《超さんも頑張ってください!》

……それからというものネギ少年はより、まずは自分の転移魔法から、と研究に打ち込むようになった。
その証拠に記憶共有はできないが、資料をあちこちから集める作業は分身を魔分で作り作業の効率化を図っていて……アリカ様が、どれが本物かと慌てるという事があった。
ネギ少年の魔法開発力はものすごいというのは分かっているが、果たして科学技術も超鈴音や葉加瀬聡美と同じぐらいものすごいのだろうか。
2人のレベルに達するにはまず茶々丸姉さんに搭載されている量子コンピュータを普通に理解できるぐらい知識が無いと無理な訳だが……。
というか、量子コンピュータは本気でどうするつもりなのか……あれが世の中に真面目に出ると現行の暗号技術が崩壊する。
まあ、出したくなったら量子力学研究会で量子コンピュータを最後まで完成させてしまえばいいだけなのかもしれないが。
そんな事言い出すと既に使ってしまっているダイヤモンド半導体は何なのかとか、ネタが尽きることは無い。
当のネギ少年から協力すると言われた超鈴音はというと基本的に忙しい事には変わりないが、ネギ少年用に電子データで、研究用の資料とその他諸々の教材を選別し、エヴァンジェリンお嬢さんから魔力球の一個目……空間処理はしてあるのである程度詰めてはあるが後は好きに魔分を詰め込めば良いという状態のものを田中さんに受け取らせに行かせる際に、MOC5kgと一緒に持たせて送った後である。
しかもネギ少年が持っているノートパソコンではスペックが駄目という事で、新しい廃スペックパソコンごと送りつけた。
魔法式のウィンドウ表示は綾瀬夕映の世界図絵のようにいくらでもウィンドウが沸いてでるタイプであり、その点地球よりも性能は高いとも言えるのだが、超鈴音が送ったものはそれも全部科学でできているものである。
因みに超鈴音、葉加瀬聡美、サヨの女子寮の部屋では標準装備だ。
アリカ様は使いやすいと言っていたのはあのタイプの情報端末に慣れ親しんだ魔法世界人ならではの反応だろう。
そしてネギ少年に課題を出しつつも、超鈴音は11月4日21時、魔法世界の暦にして10月7日メガロメセンブリア時間午前6時に再びクルト総督と前回しておいた予定通り話をする為に、あちらへ行った。
……着いてみれば予想以上にクルト総督の準備が早過ぎて驚いた。

「早速ですが、私の管轄下にある新オスティアに、個人的に所有している家屋がありますのでそれを自由に使用して貰って構いません。住所は書いてあるとおり、鍵は魔法鍵式と物理錠の二通りです。魔法機械系部品等の発注はこの家からどうぞ。そして、こちらが超さんの魔法世界での戸籍、身分証明証、銀行口座になります。勝手ながら用意させてもらいました」

何というか……アレだ。
あちこちに家を持つというのは、どこぞの動く城的な感じな気がする。
そして、超鈴音は魔法世界での戸籍ももう確保した。
名前はリン・フェルミで、まあ前回適当に超鈴音が自分で言った名前をそのまま流用した結果なのであるが、本当に早い。
書類と家の鍵、戸籍、身分証明証、銀行口座を獲得した。
因みに戸籍に登録されている顔は幻術で変装する時のものを使用しているので、全くの別人である。

「もうこれだけの手配をしてくれて感謝するヨ、クルト総督。こちらからはまずドラクマの貨幣用に、現物を持て来たから確認して欲しい。後は頼まれていた通り、端末を5個だネ」

……と、超鈴音はアタッシュケースを開いて金の延べ棒をズラっと見せ、魔法世界の通常電源で動く端末5個を出した。

「……確認しました。ではこれを金地金売買契約として後ほど口座に振込みをしますのでこちらにサインをお願いします。リン・フェルミさん」

一瞬総督は少女が平然と持ってきた金色の輝きに思わず眼鏡がズリ落ちそうになったがあえてそれっぽく言い出した。

「分かりました、クルト・ゲーデル総督」

……超鈴音も口調をあえて変えて答え、書類に署名をした。

「ありがとうございます。端末についても感謝します。盗聴される恐れがあるのでこれなら気にせず済みます」

超鈴音としても、クルト総督に端末を渡しておけばわざわざ会いに行かなくても安全に話ができるようになるので好都合である。

「便利だというのはお墨付きを皆から貰ているから品質は保証するネ」

「私も以前見た時は驚きましたよ。……では、まだまだ時間がありますので詳細に入りましょう。前回の食料不足の件ですが殆どの地域が南になった為しばらくまた夏の時期に入りますので作物さえ選べば食料は問題ありません。今後冬に向けてこちらでも用意をしています。魔法球の農業利用というのは魔法球を所有している層から言って殆ど行われていませんが、植物工場という方法での対策案は助かります」

「こちらこそ、当分手に入れるのに時間がかかりそうな材料も手に入れられるようになるから助かるヨ。……植物工場の重要技術は予め手を打ておかないと意味が無い。予めまほネットを走査して調べてある程度は分かたヨ。それで科学技術の部分をどれだけ実際コスト面等の考慮もして魔法で代替できるか確認したいのだが……」

再び前回よりも詳しい話に突入した。
植物工場とは、内部環境をコントロールし閉鎖的又は半閉鎖的な空間で植物を計画的に生産するシステムであるが、超鈴音が提供するのは完全閉鎖型のタイプである。
完全密閉型の生産であるため、害虫や病原菌の侵入も無い。
植物の栽培には養液栽培か特殊培地栽培を用いるので、連作障害を起こすこと無く高速かつ連続して栽培することが可能なので一年が1.8倍に伸び太陽光の光量が減少した今後の火星では有効である。
全部科学でやろうとすると魔法技術で追いついていたり追いついていなかったりする魔法世界では無理があるが、ここで非常に有効性を持つのが環境循環魔法という魔法球であったり、図書館島の地下のカオス空間に使用されているアレである。
浮遊大陸オスティアを見ると地球人は皆驚くだろうが、あれの水源は一体どこからきているのか……答えは天然の環境循環魔法である。
新オスティアの水源は明らかに最終的に陸地の一番端から滝として流れ落ちている……のだが、ある程度高さを落ちると滝がいつの間にか地上に届く事なく……忽然と消える。
……とまあ不思議な事がある。
科学でやろうとするとかなりコストがかかるのだが、色々魔法で代替できるので、超鈴音の技術供与で最も重要なのは作物として収穫してしまう際に循環することのない栄養素、養液栽培と特殊培地栽培の為の、その原料の作成技術である。
無菌状態の維持には恐らく障壁魔法も利用したりするのだろうが、クルト総督がまほネットを開き、超鈴音が行う説明と質問を元に植物工場計画の擦り合わせを延々と行った。
わざわざクルト総督が行う事ではないような気もするが、超鈴音と直接まともに会えるのがクルト総督しかいないのだから仕方が無い。
最終的にはリン・フェルミという人物から供与された技術という事で普及を図る事になるだろう。
……そうこうして数時間朝日もすっかり登った頃、クルト総督は日曜日であるにもかかわらず他の仕事もある為、それまでとなり、超鈴音はそのままオスティアへの家へと転移で向かった。
その場所はというと、オスティアの中心街ではなく、新オスティア空港付近から少し離れた区画にある一軒家であった。
すぐ左右にも似たような家が並んでいる為庭なんてものは無い。
中には家具が必要最低限だけ置かれていたが、ほぼ空っぽと言っても差し支えない。
ただ、玄関の扉が非常に広い為、大きなものでも搬入する事ができるというのは、クルト総督の配慮だと思われる。

《一切居住している気配は無いのは当たり前かもしれないが、重要なのはこの場所と玄関のドアだからネ!》

《住む気が一切無いのがよくわかる発言ですね》

《少しずつリフォームする可能性はあるが、あくまでもクルト総督から暫定的に借りている場所だからいじる必要は無いヨ。それに地球と魔法世界が普通に行き来できるようになたら改めて超鈴音として拠点を確保する予定だからネ》

《リン・フェルミさんはそれを期にパッと消える訳ですね》

《クルト総督にしてみれば謎の人物との関係の情報は最終的に抹消したい筈だから互いに都合が良いヨ》

《ごもっともです》

《すぐにでもまほネットで精霊祈祷エンジン系の基盤素材を購入したい所だが、まだ振り込まれていないからまた今度ネ。後で確認が必要だナ》

《まほネットに介入して振り込まれたかどうか私が見ておきますよ》

《頼むネ、翆坊主》

重要な場所と特に重要な扉を確保した所で超鈴音はそれなりに満足したような雰囲気で優曇華を経由、女子寮魔法球へと帰還した。
そして、クルト総督と話し合った結果、一般使用可能技術の範囲内での植物工場の詳細設計についての整理をしつつこの日も無事終わりを迎えたのであった。



[27113] 78話 家族訪問
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:25
11月7日、麻帆良女子中等部3-A組。
朝倉和美はここ最近、世界的大事件ばかりがおきていて少々浮ついていたものの、クラスメイトに対して色々と追求の手を緩めようとは一切していなかった。
4限が終わり昼休み、先生が出て行った後、すぐさま和美は超鈴音の元に近づいた。

「超りん、聞きたい事があるんだけどいいかな?」

「懲りないネ、朝倉サン、私に対するインタビューは全面的に禁止になている事ぐらい知ているだろう?」

超鈴音は軽く一蹴した。

「いやー、これは超りんへのインタビューじゃなくて、ネギ君の事なんだけどそれも駄目?」

これは困った、という表情を浮かべながらも和美は諦めずに聞いた。
超鈴音の隣の席の春日美空はやや呆れたような顔をしていた。

「仕方ないネ……独り言なら聞こえる事もあるかもしれないヨ」

「さっすが、話が分かる。で……ネギ君について私達の3-Aコミュニティ以外で書き込むと全部すぐ削除されたり、個人的にブログを公開している他のクラスの友達でさえ、ネギ君に関する部分だけ表示されないようになってるのは……どういう事かなぁ……なんて気になってさ」

和美は超鈴音と美空の席に顔を近づけて一応配慮はしているのか小さい声で聞いた。

「……それについて朝倉サンはどう考えているのかナ?私に聞いてくるからには何かあるのだろう?」

「情報改竄は立派な犯罪なのはあえて考えない事にして……もしかしてネギ君とあの両親って誰かに狙われてる?」

「ジャーナリストとして気になるのは分からなくもないが……朝倉サンはそうだとして、どうするつもりなのかナ?」

「どうするって言われるとつらいんだけど……狙っている連中を調べるとかさ。なーんか巨悪の臭いがするんだよね」

美空は横で聞きながら更に面倒そうな顔をした。

「一つアドバイスするけど、これから変わて行く世の中、ジャーナリストとして迂闊な行動は自分の首を締めるヨ」

「うわー、きつい言葉だね」

和美は露骨に嫌な顔をして答えた。

「悪いけど、私はこれ以上話せないヨ」

「結局全然分からないかー。じゃー、春日、ネギ君ってやっぱ魔法使い?」

超鈴音はこれ以上答えられないという顔をした為、和美は表情を変えていた美空に尋ねた。
それに対し美空は生気の抜けたような目をして対応した。

「朝倉、私にも聞くなー。ただ、ネギ君の事を3-A以外で話すのはやめたほうが良いって言っとくよ。よく知らないけど要するに書き込みの件ってそういう事じゃ?」

「あーあ、夏休みどこ行ってたか知らないけど、ネギ君達に私もついていきたかったなー」

和美は悔しそうな顔をして言った。

「それは残念だったねー……朝倉」

美空は遠い目をして答えた。

「やっぱ少しぐらい話せない?」

「 無 理 」

美空は猫のような目をして言い切った。

「はぁー……これだけこのクラス、ネタだらけなのにどれもこれも聞けない事ばっかりで不完全燃焼だー。……ま、これで退散するよ」

ようやく諦めたのか、超鈴音と美空の席の前から和美は手をひらひらさせて去っていった。
一方すぐ今度はその後ろの席のアスナに和美を眼中に入れる事無く雪広あやかが近づき、ズイっと詰め寄った。

「アスナさん。今日も例の場所に放課後すぐ帰って行くおつもりですの?」

若干プルプル震えながらあやかは言った。

「い、いいんちょ……例の場所ってなんか変な言い方だけど……行くわよ」

その反応を見て気まずそうにアスナは答えた。

「で、でしたら……わ、私も一緒に行かせて下さいませんこと?」

その返答を聞き、やや興奮し始めながらあやかは頼んだ。

「う……どうしよう……ま、待って。じゃあ……メールして聞いてみるわ」

一瞬アスナは断ろうかと思ったが、あやかがもう我慢出来ないという雰囲気をダダ漏れさせていたため、とりあえずあやかを右手で制止するようにして、携帯を取り出そうとした。

「是非お願いしますわっ、アスナさん!」

しかし、あやかがアスナの両手を自分の両手で掴みそれを遮った。

「いいんちょ……メールできない」

若干呆れた顔をしてアスナが言った。

「はっ!……これは失礼。どうぞ連絡して下さい」

あやかはようやく気がついたかのようにアスナの手を離し、ようやくアスナはメールを打ち始めた。

「アスナ、ほな、うちとせっちゃんも行って良いか聞いてくれへん?」

そこへアスナの隣の席の近衛木乃香が便乗し始めた。

「はいはい、このか達もね、分かったわ」

「なっ!」

その言葉を聞いた瞬間あやかが奇声を上げた。

「ど、どうしたの、いいんちょ?」

それに驚いてアスナが指を止めて尋ねる。

「い、いえ……なんでもありませんわ」

あやかは残念そうな表情をして答えた。
その時丁度宮崎のどかが綾瀬夕映の元までやってきており、状況を2人で確認し、前の席のアスナに言った。

「あの、アスナさん、できれば私とゆえも一緒に行かせてもらっていいか聞いてもらえませんか?」

「ん?う、うん、分かったわ、のどか」

アスナは次々と人が増え始め、もうどうにでもなれとメールに名前を打ち込み始めた。

「ありがとうです」  「ありがとうございます」

「の、のどかさんと夕映さんまで……」

どんどん状況が悪くなっていくとばかりにあやかは呟いた。

「おーおー?のどか、ユエ、何やってんの?」

しかし、そこに状況を混乱させる者が現れた。
早乙女ハルナは夕映とのどかの肩に手を置いて怪しげな顔をして尋ねた。

「は、ハルナ……な、何でもないです」

「いやいや、何でも無いわけないでしょ。んー、いいんちょに、アスナ、のどか、ユエとくれば……さてはネギ君だねッ!」

ハルナはのどかと夕映から手を離し、一人ずつ指をさしながら最後にキリっとして言った。

「はーい、終わり。返信来たらメールで伝えるわ。さ、お昼にしましょ!」

アスナは面倒な人物が現れたとばかりに、サクッとメールを済ませ、携帯を閉じてポケットにしまった。

「わ、分かりましたわ」

そしてあやかは一旦自分の席に戻っていった。

「そやね。せっちゃん!せっちゃんもこっち来てお昼食べよ?」

「は、はい、お嬢様」

木乃香は桜咲刹那を手で招き、木乃香は真ん中の空いている席へと詰め、刹那はそれに従い木乃香の座っていた席に座った。
そして、のどかとハルナはというと、長谷川千雨が超鈴音達の所に行って空いた席がある為そこに座り、6人で昼食を取り始めたのだった。
……一方、教壇から見て一番右側の窓際の列にて運動部系の者達が同じく昼食を取りながら話をしていた。

「ゆーな、まだお父さんから魔法教えてもらったりできないの?」

佐々木まき絵が明石裕奈に尋ねた。

「んー、無理なんだってさぁー。それにお父さん今忙しくてあの麻帆良教会でずっと徹夜してるし」

酷くつまらそうに頬を膨らませて裕奈は答えた。

「そっかぁー。あれだよね、たしか、ぷらくてーびぎなーるとかそんな感じのを唱えるのから始めるんだよね?」

まき絵は人差し指を立てて適当に回しながらニュースで魔法使いの人が質問責めに窮して初心者用の始動キーだけ口にしていたのを朧げに覚えていたそれを口に出した。

「まき絵、プラクテ・ビギナルだけど、私一つだけ教えて貰った魔法があるよ!それはプラクテ・ビギナルArdescat!……だにゃー」

裕奈は思い出したように、かなり正しい発音で言った。

「わー、それが一番最初の魔法なん?しかもゆーな発音上手いなぁ」

「うんうん、発音上手いよ!プラクテ・ビギナル・あーるでスカっとかぁー」  「今のは良かったよ、ゆーな」

和泉亜子、まき絵、大川内アキラからそれぞれ裕奈は褒められ、裕奈は自慢気に返した。

「へっへー、ちょっとこれだけお父さんにね。……でも小さい頃お母さんに教えてもらったような記憶が何となく残ってるんだー」

「ゆーなのお母さんていうと、事故で亡くなってしもたっていう……?」

亜子が気まずそうに確認をする。

「うん、そう。飛行機の事故で……って聞いてたんだけど、お父さん今度またお母さんの事で話があるって言ってたから実は違ったりするかも」

裕奈は特に気にせず、明るく答えた。

「早くゆーなのお父さん、仕事漬けから解放されるといいな」

アキラが裕奈に言った。

「ホントホント。娘と仕事どっちが大事!?って電話で言っちゃおうかなー?」

イタズラっぽい笑みを浮かべながら裕奈が企み始めた。

「頑張ってるのにそれはお父さん可哀想やと思うよ」

亜子が苦笑いをして言った。

「うん、それは可哀想だからやめとく!」

裕奈は決心した。

「ところでアスナとネギ君達ってどんな関係なのかなー?なーんか聞いちゃいけない雰囲気みたいだけど気になるんだよねー」

突如まき絵が不思議そうに3人に問いかけた。

「ウチも気になるなぁ。アスナとネギ君のお父さんとお母さん凄く仲良いみたいやったけど、いつ知り合ったんやろ。アスナと小学生の頃から一緒の桜子はネギ君の両親一度も見たことないって言うてたし」

まき絵に続くように亜子も自分の疑問を述べた。

「それも気になるけど、ネギ君の両親のあの若さは何っていうのが私は気になったね!ネギ君のお父さん26だよ26!私のお父さん40過ぎなのに何この差!間にもう一人私が楽々生まれてこられるよ」

続けて裕奈が言った。

「ほんとだ……。私達とネギ君5歳ぐらいしか違わないのに……」

改めて驚いたようにアキラが反応した。

「16で子供ができて……一体どんな仕事してるんだろう。ネギ君も10歳で教師になったぐらいだからご両親も天才で小さいうちから働いていたのかな」

続けてアキラが憶測を述べた。

「それで天才同士の縁で恋が芽生えてめでたくゴールイン?」

裕奈がアキラの言葉を引き継ぐように言った。

「でもナギさん天才って感じはせんかった気がするんやけど」

亜子が率直に言った。

「あ!どっちかっていうとアスナみたいな感じだったよね」

これはピッタリだ、と言わんばかりにまき絵は思いつきを言った。

「失礼な気がするけど、そう言われるとそうだね」

否定はできないと、アキラはそれに苦笑いしながら同意した。

「分からない事ばっかりだにゃー。それにネギ君何で教師辞める事になったんだろ。卒業式まで一緒にいてくれたら良かったのに」

残念そうに裕奈が言った。

「ウチもそう思う……せやけど、年下の男の子がウチらの先生やるいうのは無理があるんやないかなぁ。認識阻害いうんがあった時は全然気にならんかったけど、今ネギ君が先生やっとると考えるとおかしい思う」

亜子はネギが自分達の教師をやるのはおかしいと改めて感じた。

「そうだね、日本では普通ありえないと思う。労働基準法もあるし」

アキラも亜子の意見に同意した。

「んー、私ネギ君好きだしまた会いたいなー」

まき絵が一瞬思案し、ぶっちゃけた。

「まき絵は変わらないね」

アキラはまき絵の素直な発言にまたかという顔をする。

「まき絵、ネギ君成長したらあのお父さんみたいなイケメンになるの間違いなさそうだし狙うなら競争率高いの覚悟した方が良いよー」

裕奈は諭すようにまき絵に言った。

「えー、私普段可愛いネギ君好きなんだけど」

しかし、それに反した答えをまき絵は言った。

「まき絵はかわいいもの好きやったなぁ」

……こんな会話がされている間、アスナの携帯にはネギから返信が有り、その内容はあやか、木乃香、刹那、のどか、夕映の5人なら許可も取ったのでマスターの家に来て下さいというものであった。
アスナはその旨を5人に送り、放課後の予定が決まった。
そして5限、6限といつも通り過ごし、帰りのHRも終わってすぐ、絡繰茶々丸も含む7人はエヴァンジェリン邸へと足を運んだ。
茶々丸が玄関を開け、6人を中に招き入れた。

「アスナ、このかさん、刹那さん、のどかさん、夕映さん、あやかさんこんにちは!茶々丸さんおかえりなさい!」

7人を最初に出迎えたのはネギであった。
それに続くようにナギとアリカも顔を出し、アスナ達に挨拶をした。
アスナ達もそれぞれネギとナギ、アリカに挨拶を返し、居間へと上がった。
木乃香と刹那は京都旅行で多少慣れた部分があった為、ナギとアリカに対しては柔らかく挨拶をしたが、のどかと夕映はかなり緊張し、対してあやかは改めて懇切丁寧に、それぞれ挨拶を順にしていった。

「あー、この前はあんまり話せなかったが雪広の娘さんは俺にこんぐらいの時に会ったことあるの覚えてるか?」

そんな中ナギは手をかなり低い位置に持って行き、あやかに尋ねた。

「ええ、お父様から先日そのように聞いたのですが、残念ながら覚えておりません。申し訳ないですわ」

あやかは流石に覚えておらず、残念そうにしながら謝った。

「そっかそっか。そうだよな、あの時確か3歳か4歳で一度会っただけだもんな。そんな気にすること無いぜ」

「はい、ありがとうございます」

あやかは一礼した。

「父さんやっぱりあやかさんに会ったことあったんだ」

ネギが少し思うところあるように言った。

「ん?ああ、一時期麻帆良に来て雪広の社長に世話になったことがあってな。で、やっぱりって何だ?」

ナギは一度も話した事が無かった筈だと思いネギに言った。

「えっと、例の時、夢の中で今みたいなやりとりを見た事があって……あ、そうか」

ネギは自分で言っていてある事に気づいた。
最善の可能世界で体験したあのビジョンはナギが失踪しなかったというものであり、現実のナギ失踪以前に会った事が仮に無かったとしても、可能世界の中でのそれ以降の時間軸でナギとあやかが会っている可能性は充分あるという事に。

「お……その話か」

「まあ!ネギ先生の夢の中で私はお父様に会ったことがあったのですか!なんだか感激ですわ!」

ナギはネギが言いにくいのを理解し、軽く対応したが、事情をよく知らないあやかは、ネギが夢のなかで自分とナギが会っているというものを見たというのを無性に喜んでいた。

「あはは、そ、そういう感じです」

あやかと話が噛み合っていないなと思いつつもネギは無難に受け答えをした。

「ところで、ネギ先生、先程アスナさんを何と呼ばれたか伺ってもよろしいですか?」

あやかは突然正気に戻り、ほんの少し前に耳に入った聞き捨てならない事をネギに確認した。

「……アスナの事ですか?」

ネギは少し首をかしげながら普通に聞き返した。

「?…………ネギ先生、申し訳ありません、このあやか、幻聴が聞こえるようです」

幾らか間を置いてあやかはフラっと立ちくらみをしつつも、自分の耳が悪いのだと、そう思い込んだ。

「だ、大丈夫ですか、あやかさん?」

「お?気分でも悪いのか?」

その反応にネギとナギが心配する。

「だ、大丈夫ですわ。ご心配には及びません」

あやかは帰って休むように勧められたらたまったものではないと、すぐに立ち直り、自分は元気だとアピールした。

「ネギ、いいんちょどうかしたの?」

そこへ主にアリカと木乃香達と話をしていたアスナが話に割り込んだ。

「あ、アスナ、あやかさんが幻聴が聞こえるって」

それにすぐにネギが答えた。

「!!!…… ア ス ナ さんッ!?……あ、あ、あ、あなた一体っ……ネギ先生に何をしたのですかっ!?」

ネギの言葉が再び耳に入り、あやかに電流走る。
数瞬して、ギ ギ ギ と首をある人物に向け、射程に捉えた瞬間、驚異的な速度であやかはプルプル震えながらターゲットを問い詰めにかかった。

「ちょ!?いいいいんちょ!べ、ベベ、べつに何もしてな」

アスナはガクガクと揺すられながら返答しようとする。

「嘘おっしゃいッ!」

しかし、全部言うことなく途中で否定された。

「あやかさん!落ち着いてください!」

慌ててネギがあやかに呼びかける。

「はっ!……し、少々取り乱してしまいました。このあやか、見苦しいところをお見せしてしまい、すみません、ネギ先生」

ネギとナギとアリカが見ている事にあやかは気づきすぐに行動を停止して、アスナから離れた。

「はぁ……はぁ……こんなところで揺すられ死ぬとこだったわ……」

解放されたアスナは息をついた。

「大丈夫、アスナ?」

「う……うん、大丈夫よ、ネギ。私頑丈だから平気」

心配そうにネギがアスナに尋ね、それに対してアスナが微笑んで大丈夫だと返した。

「……………………」

そのやりとりを見たあやかは今にも魂が口から抜け出そうな様子であった。

「いいんちょ、のどか、ゆえ、アスナはな、ネギ君に言葉遣い変えてもろて、名前も呼び捨てて呼んでもらうようにしたんよ」

そこへ木乃香が解説を入れた。

「な、なな、何ですって!?」

「そ、そうなのですか」

「そ、そうだったんだ」

あやかは再起動し、のどかと夕映も事情を掴んだが、あやかのテンションだけはすぐにハイに戻った。

「で、ではネギ先生、これからは私の事は」

「いいんちょっ!」

「なっ、邪魔をなさらないで下さいアスナさんっ!」

すぐにあやかはネギに接近し取り入ろうとしたが、アスナが2人の間にカットインに入り、それに対してあやかは憤慨し、ギャーギャー騒ぎ始めた。
ネギはオロオロしたが、その争いが止まる事はなく……周囲はしばらくそれが勝手に収まるまで放置する空気に入った。
そんな中アリカはこっそりのどかと夕映に近づき、アスナ達、ネギ達に聞こえない位置まで居間の隅に離れるようにして個人的に話しかけた。

「のどか、夕映よ、改めて、ネギの母のアリカ・スプリングフィールドじゃ。ネギが世話になった事、感謝する」

アリカは先程会った際の挨拶を改め、自分の名を名乗る所からやり直し、2人に一礼した。

「あ、改めまして、アリカ様、宮崎のどかです。ネギ先生には私の方こそお世話になりました」

「改めましてです、アリカ様、綾瀬夕映です。ネギ先生には私こそお世話になったです」

のどかと夕映もアリカに対し改めて自己紹介をし、ペコリと頭を下げた。

「今後ともネギとよしなに頼む」

「はいっ」  「はいです」

アリカはそれに返し、2人も返事をした。

「……………………」

「…………」  「…………」

そして会話が続くかと思えば……互いに沈黙に入ってしまった。
しかし、その沈黙を破ったのはアリカであった。

「……のどか、夕映よ……一つ尋ねても良いか?」

「は、はいっ!」  「はいです!」

いきなり質問が来て2人はビクッとして答え、アリカはそれに対して深呼吸をして本題に入った。

「…………あ……アスナから聞いたのじゃが、2人はネギを好いておるというのは真か?」

「…………」  「…………」

投げかけられた問……それは、まごうことなき直球。
のどかと夕映はまさかそんな事をネギの母から聞かれるとは思わず、一瞬間をおいた後、ボンッという音を立ててあっという間に顔を真っ赤にした。
2人はそれでも尚口をパクパクさせて声を発しようとするが……上手く声が出なかった。

「す、済まぬ、無理をして答えなくともよい」

2人の様子にアリカは慌ててフォローに入った。

「……わ、私はネギせん!」

「お、大きな声で言わなくてよいぞ」

アリカがフォローに入った瞬間一際大きく息を吸ったのどかは大きな声で宣言しそうになったが言い切る前にアリカがのどかの口を咄嗟に塞いで止めた。

「す、済まぬ。あちらに聞こえてしまいそうだったので、配慮が足りなかった」

すぐにアリカは申し訳なさそうな顔をしてのどかの口から手を離した。

「い、いえ、大丈夫ですっ」

アリカに触れられた事に何となく恥ずかしくなったのか、のどかは更に顔を赤らめて言った。

「……のどか、夕映よ……ネギを想うのは自由じゃ。私も人を好きになるという気持ちはよく分かる。……今日のようにこれからもネギに会いに来ると良い。ネギも喜ぶ」

アリカは真剣でいて、かつ優しい顔をして、のどかと夕映に語りかけるように言った。

「……は、はいっ、ありがとうございます」  「あ、ありがとうです」

のどかと夕映はアリカの言葉にしっかり答えた。

「うむ。して……その時なのじゃが……私とも少し話をしてくれるか?」

アリカは最後に一つ頼みをした。

「は、はいっ、喜んで」  「は、はいっ、もちろんです」

のどかと夕映はそのアリカの頼みに対して心から嬉しそうに返答した。
……そして丁度アスナとあやかの争いも沈静化しており、アリカはそれを見て2人にネギの元に行くように勧め、自らもネギ達の近くに戻って行った。
アリカの作戦は……詰まる所、のどかと夕映を自分で見るというもの。
もちろん、アリカは自分とネギの世界、特に魔法世界での立場は深く理解しているが、少なくともそれとネギを想う事は今考える必要は無いと思っていた。
のどかと夕映とアリカが戻った所、ネギ達はアスナとあやかの争いも止まり、改めてあやかが、聞くに聞けなかった話を丁度切り出していた。

「失礼ですが、お父様、ネギ先生ご家族とアスナさんはどのような関係なのか聞いてもよろしいでしょうか?」

あやかはナギに尋ねたのであるが、それに答えたのは後ろから近づいてきたアリカであった。

「……血縁関係で言えばアスナは私とネギの親戚にあたる」

「まあ、そうだったのですか!」

あやかは目を丸くし、手を口にあてて驚き、アリカに振り向きながら声を発し、続けて尋ねた。

「では、ネギ先生がアスナさんとこのかさんの部屋に住む事になったのはそれが原因だったのですか?」

「……すいません、あやかさん、それ以上は事情があって話せないんです」

あっという間に話せない領域に触れてしまい、ネギは困った表情で言った。

「いえ、そういう事であれば、気にしないで下さいな。……アスナさん、良かったですわね」

あやかはアスナに対し、優しげに言った。

「う、うん、ありがと、いいんちょ」

アスナは長年の付き合いのあやかに素直に礼を述べた。

「ええ、私もこれで、安心できましたわ」

しかし一転、あやかは何やら含みのある言い方で安心できると言った。

「……いいんちょ、それどういう意味よ?」

すぐにそれに勘づいたアスナがあやかに問いかけた。

「そ、それはもちろん、アスナさんとネギ先生が親戚ということは……その、いえ、何でもありませんわ。ホホホホ」

つまりあやかはアスナとネギの間に間違っても変な事は起きないだろうと安心したのである。

「そ、そう………………」

それに対し、アスナは有効な発言が思いつかず、ジト目であやかを見つめながら密かに右手はギリギリと握り締めていた。
それからしばらくあやかがネギの前期までの3-Aの担任をしていた事について話題を振り、主にネギへの愛が溢れてやまないだけはある詳しい話をしつつ時を過ごした。
その途中、ネギはあやかに聞こえないように念話をのどかと夕映に繋ぎ少しだけ話しかけていた。

《のどかさん、夕映さん、ごめんなさい。あやかさんには2人が、僕が魔法使いであることを知らない事になっているので……》

《い、いえ、気にしないで下さい》

《のどかの言うとおりです。いいんちょさんが先にネギ先生に会いに行きたいと言い出した時点で分かっていた事ですから》

《ありがとうございます。……念話で話し続けるよりもまた今度普通に話しましょう》 

《はい》  《はいです》

短く念話を済ませ、その後も魔法とは関係ない日常的な話をしていた所、あまり長居するのは良くないと思ったのか、あやかが時間を見て言った。

「では、そろそろ私はおいとま致します。またの機会に伺わせて頂きますわ」

そしてあやかは席から立ち上がり、優雅に一礼し、それに対しネギ達も応対した。
それに従い、アスナ達もこの日は帰る事にし、6人はネギ達に見送られてエヴァンジェリン邸を後にし、女子寮に戻っていった。
見送った後、ネギはある事を思い、一瞬だけ虹彩を輝かせ、つい最近ようやく自分用に用意したばかりの新しい携帯から、ある人達にメールを送った。
そして丁度ネギがメールを一括で送り終えた所、ナギが口を開いた。

「ネギ、そろそろ前言ってた超の嬢ちゃんに礼をしに行きたいんけどよ……」

「会いに行ける場所が無いんだよね」

ネギはナギが尻すぼみに言った意味を掴んだ。

「そう、それなんだよ」

「父さん、お礼しに行くこと、超さんに伝えても良いかな?超さんは予め言っておかないと忙しいし、僕もまた今度の事でも直接お礼言いたいと思ってるから……」

「そうだな……じゃあ頼めるか?」

「うん、分かった。じゃあ、今から聞いてみるね」

ネギはそう言ってまた一瞬だけ虹彩を輝かせた。

「……明日夕方に超さんの方からマスターにも用があるからってこっちに来てくれる事になったよ」

ネギは相談の結果をナギとアリカに伝えた。
超鈴音にメールで聞くのは超鈴音の時間を削る事になるので、一瞬で済む方法を取った。

「お?もう聞いたのか?何かネギの目が一瞬光った気がするが」 「ね、ネギよ、もう聞いたのか?」

ナギとアリカはあり得ない速さで通信が終わったらしき事に驚いた。

「うん、聞いたよ。まだ言ってなかったんだけど、父さんと母さんには説明するよ」

ネギはそう言って再び虹彩を輝かせ始めた。

《父さん、母さん、聞こえる?》

《おおっ、聞こえるぜ。って何だコレ。時間が止まってる感覚がするんだが》

《聞こえるぞ。じゃが、少し頭が痛い。それにネギの目が、ナギが言った通り光っておるのは……》

《これがマスターが僕に修行中に行ってくれていた通信法だよ。頭痛がするのは加速しているせいで……もう通信切るね》

ネギは虹彩を輝かせるのをやめ、続けて言った。

「母さん、虹彩が光っていたと思うけど太陽道を使っている訳じゃないから大丈夫だよ。この通信法の詳しい説明は難しいんだけど、これで短時間でも長く話すことができるんだ」

「そうであったか……ならば良い」

その言葉を聞いてすぐにアリカは動揺を収めた。

「はー、便利な通信だな。で、今ので通信したら、礼に行くつもりが結局超の嬢ちゃんから来てくれる事になっちまったのか」

ナギは通信法に感心しつつも、話題を戻した。

「うん、超さんは大学でも女子寮でも個人的に外部の人が尋ねてくるのは都合が悪くて、それにそういうのは気にしてないって言ってたよ」

ネギはナギが微妙な顔をしているため説明をした。

「アルの言ってた通りだな。そんじゃ、肉まん買っとくか!」

ナギは仕方ないかとケロリとした顔をして言った。

「うん!それがいいよ」

……そして翌日夕方、ネギ達は変わらずエヴァンジェリン邸の魔法球に午前からやってきて過ごしていたが、予定通り超鈴音がやってきた。
エヴァンジェリン邸の居間で、超鈴音はスプリングフィールド一家から改めて礼を受けたものの、超鈴音自身は、あまり気にかけなくて良いという風で話し続けた。
そこへナギが超包子の肉まんを出してきて、一緒に美味しそうに食べた。

「それだけ美味しそうに食べて貰えると私も肉まんも本望ネ。エヴァンジェリンが戻て来るのはもう少しかかると思うから……ネギ坊主、少し転移魔法の研究状況を実際に見せて貰ても良いかナ?」

「はい、もちろんです!僕も少し聞きたい事があるんですけど良いですか?」

「もちろんネ」

超鈴音の提案によって、一同は魔法球へと移動し、ネギが転移魔法の研究をしている塔の中央、テラスへと向かった。
机には大量に付箋のついた魔法書が幾つも置かれ、百は優に越えるかという枚数のメモが積み上げられ、そこには理論、術式の計算式、魔法陣等が所狭しとびっしり書きこまれていた。
また、巨大な黒板には一面びっしりと無数の矢印でフローチャートが描かれており、最終的に×印が書かれているものが幾つもあった。
超鈴音はネギに案内され、まず最初に黒板から見て、それから机の資料へと移った。

「なるほど、ネギ坊主はこういうアプローチをするのカ。参考になるネ。少し見せてもらうが……ふむ、ネギ坊主、この術式はここを迂回させて繋いで、後に出てくる計算式も纏めて当てるとこの部分だけ短縮できるヨ」

超鈴音は自分とはまた少し違った方法の研究方法に感心しつつ、一つ気になったものを手にとり、指をさしながらネギに提案をし、その説明をネギは真剣に聞いた。

「あー!はいっ!そうですね、これって……」

「考えている通りネ。新旧あちこちの本から取ているからだと思うが、旧年代の術式を活用する時に近代の術式と組み合わせる際には起こり得る現象だヨ。要するにこの部分は現代において証明された定理で、一発で置き換えられるネ。もちろん旧年代のものに合わせた方が良い場合も起こり得る。幅を持たせたい時は旧年代のファジーな術式の方が良いだろうナ」

「わー、参考になります!超さん、だとするとこっちのは……」

「おお、そうだネ!それは……」

超鈴音とネギは互いに顔を見ること無く、視線は机に固定したまま、メモを幾つも取り、魔法書を開いては、互いに術式の効率化について話しながら手を動かし紙に書き込みをし続け、黒板に戻っては検討し、×印を増やしながらも、今までになかった矢印をその分増やし、一番右端の結論もそれに従って増えて行った。
しばらくすると、会話が一切無くなり、逆に2人の手に持つペンとチョークは一切止まる事なく高速で動き始め、それを示すが如くカカカカカと規則的な音を立て始めた。
その最初のやりとりからナギとアリカは驚いていたが、会話が無くなったのは流石に何事かと身を乗り出そうとした所、ネギの虹彩が輝いている事が原因だと分かったのであった。

「なあ、アリカ、あれ付いていけるか?」

ふと、ナギがアリカに言った。

「私にも無理じゃ。超が世のニュースで騒がれる理由が良くわかったが、ネギも天才じゃな」

アリカは素直に言ったのだが、その内容は親馬鹿発言そのもののようなものであった。

「こうして見てると、ネギと超の嬢ちゃんって似てるなー」

ナギは驚くほど息がピッタリ合って作業を高速で続けている2人を見て思った。

「う……うむ……そう言われると似ておる」

アリカはその指摘に同意したが、複雑な面持ちであった。
丁度そう言った時、ピタリとネギと超鈴音の動きが止まった。

「これぐらいでどうかナ、ネギ坊主?」

「はい!違う方向性で考えてみるのは凄く参考になりました!」

「私もネギ坊主のアプローチ法は参考になたネ。これから利用させて貰うヨ」

ネギと超鈴音は両手を軽く叩き、チョークの粉を払いながら会話を交わした。

「超さん、それで僕の聞きたい事なんですけど……」

「科学の方の事かナ?今の話の中でネギ坊主の知らなかた数式が幾つかあたのが分かたが、その資料もパソコンに入ているヨ」

「はい!ありがとうございます!」

終わりかと思えばネギと超鈴音は、今度はもう一つの机に置かれているパソコンを開いて即座に立ち上げ、ネギが聞きたいものをウィンドウに次々と開いて行き、またしても会話が無くなり、2人は高速でウィンドウを操作し続けるのみとなった。
それでも流石に今度はそれなりに早めに終了し、ネギは超鈴音に礼を述べ、超鈴音はまた分からない事があったら聞くと良いと返していた。
そこへ茶々丸が茶を全員分運んできて一服し、ナギとアリカも再び会話に入った。

「ネギに転移魔法の研究を頼んで、魔法の話があれだけできるって事は超の嬢ちゃんはやっぱ魔法使いなのか?」

ナギはふと尋ねた。

「少し探知魔法を使えば分かるが私には一切魔力が無いから魔法は使えないし、メガロメセンブリア本国に属する魔法使いでも地球の土着魔法使いでもないヨ。とてもとても怪しい人物ネ!」

超鈴音はややおどけたように、自称怪しい人物だと宣言した。

「ははは!おもしれーな!だけどよ、一切魔力が無いってスゲー珍しくないか?それでいて魔法に詳しいって、あー、確かに怪しいな!」

ナギは面白いとばかりに笑い始めた。

「うむ……非常に謎じゃ」

アリカは全く良く解らないとばかりに悩んで言った。

「一つ頼みがあるのだが、私が魔法に詳しいことは私が自分からいつか言うかもしれない時まで口外しないで貰えるかナ?」

「はい、分かりました」  「約束しよう」  「おお、分かったぜ」

3人は超鈴音の頼みに了解した旨を言い、続けてナギが尋ねた。

「ところでよ、アルから超の嬢ちゃんが厄介な組織から狙われてるって聞いたんだが……」

「そ、そうです、超さん、僕も聞いたんですが」

ナギとネギはやや深刻そうな顔をして言った。

「ふむ……例の組織がどのようなものか話しておくが、あれはアメーバのような組織でどこかを潰しても解決にはならない。ナギ・スプリングフィールドがその姿を世に再び表すとしても、今の地球では動きにくいだろうし、組織も表が基本である以上、各国警察が動くのが筋だから気にしないで欲しいネ。麻帆良にいる限り私は安全だから生活に困りはしないヨ。この話はこれで終わりにして貰えると助かるネ」

超鈴音は、この件は干渉不要だと言った。
その言葉を受けてネギとナギは了承し、ネギは転移魔法の研究と科学の勉強も頑張ると言い、そこへ丁度茶々丸が、エヴァンジェリンが帰宅してきた事を伝えに来たので、互いに挨拶をして超鈴音は魔法球を後にした。
魔法球を出て、超鈴音はエヴァンジェリンと居間でMOCについて少し話をし、超鈴音が持ってきたまほネット通販リストの中で複数あるうちどの水晶球が魔法球の素材として良いか見て、エヴァンジェリンが選定するという作業を行った。
その際、魔法世界側に拠点を確保した事についても明かした為、エヴァンジェリンも欲しい物を幾つか超鈴音に話し、それの代理購入を超鈴音は了承したのだった。
……そして更に翌日11月9日、日曜日。
ネギが7日に送ったメールでエヴァンジェリン邸魔法球にその日午前中から徐々に集まったのはアスナ、小太郎、木乃香、刹那、のどか、夕映、長瀬楓、古菲。
本当は龍宮真名、美空、高音・D・グッドマン、佐倉愛衣も呼びたかったのであるが、以前からエヴァンジェリン邸の魔法球を使用していた面々に留めるようエヴァンジェリンと通信した際に言われた為、この集まりとなった。
揃った所でネギが最初に口を開いた。

「遅くなってしまいましたが、改めて言わせてください。……木乃香さん、刹那さん、のどかさん、夕映さん、楓さん、くーふぇさん、夏休みに魔法世界に同行してくれてありがとうございましたっ」

ネギは小太郎と茶々丸には以前に話を済ませているので、白き翼として魔法世界に同行してくれた残りの3-Aの者達に礼を述べた。
小太郎は予め大体そういう事を言うだろうという顔をして見ていたが、他の6人も分かっている、という表情をしてそれぞれ言葉を返し始めた。

「ネギ君、分かっとるえ。それに付いて行きたい言うたのはうちの方やよ」

「ネギくん、私も同じです。ネギ君自身が最後に戻ってきて下さっただけで充分です」

「ネギ先生、私こそわがままを言ってついて行かせて貰いました。魔法世界に私は行って良かったと思ってます。ネギ先生も無事で本当に良かったです」

「ネギ先生、私もです。あちらに行った事は貴重な体験でした。それにネギ先生が無事で何よりです」

「ネギ坊主、拙者も滅多に無い旅ができたでござる。旅の目的も達成でき、ネギ坊主自身が戻ってきたなら何も言う事はあるまい」

「ネギ坊主、皆の言うとおりアル。修行もできたし、まだまだ先がある事も分かったのは良い経験アルよ。アスナも取り返して、ネギ坊主が戻ってきたならそれで良いね!」

「はいっ!ありがとうございます!」

各々の言葉を一つ一つ心に染み入らせるように真剣に聞いたネギはもう一度感謝の言葉を述べ、その表情はスッキリとしたものになった。
それを見たアスナは、今度は自分の番とばかりに口を開いた。

「うん、ネギが言うんだったら私もお礼言わないとね。……みんな、私が捕まって、助けに来てくれて本当にありがとう」

アスナは心を篭めて、感謝の言葉をネギと同じく、述べた。
皆、アスナは同じクラスメイトで友達なのだから助けに行くのは当たり前だと言い、その後ナギとアリカもまた改めて感謝するという流れになった。
……一段落ついた所で、ナギは最初に小太郎に頼まれた事で、小太郎、古菲、楓の組み手の相手をしに行き、2日前魔法関係の話ができなかった夕映とのどかは自分からネギに近づいて話しかけていた。

「ネギ先生、できれば……これからも私達の魔法の先生をして欲しいのです」

「ネギ先生、私からもお願いします」

夕映とのどかはネギに頼み込むように頭を下げて言った。

「夕映さん、のどかさん……」

ネギは思ってもみない事を言われて驚いた。

「……だ、駄目でしょうか?」

夕映は顔を上げ、少し悲しそうな表情で尋ねた。

「そんな事無いです。……僕でよければ是非、やらせて下さい」

「あ、ありがとうですっ」  「ありがとうございます、ネギ先生」

途端に2人は陽が差したようにパッと明るい顔になった。

「はい!……ですが、これから日本で魔法を公的に学べるようになるには最低でもゲートが復旧して以降になります。社会がこういう状況になって僕が個人的に人に魔法を教えるというのはよく無いです」

「で、ではやはり……」

夕映の顔に陰が差す。

「夕映さん、のどかさん、2人はこれからどう魔法を使って、どうしたい、ですか?」

ネギは質問を投げかけた。

「どう……ですか」  「どう……」

2人はその質問に対して考え始める。

「この前クウネルさんに尋ねられた事なんですが、地球と魔法世界、どちらが正しいか、と言われたんです」

「地球と魔法世界……」

のどかが呟く。

「……その質問は社会そのもの違いについての話だったんですが、正しいかどうかの判断を除いて考えると、極論、地球は魔法の使われていない世界、魔法世界は日常的に魔法が使われている世界、という風に捉える事ができると思います。例えば、仮に将来、夕映さんが魔法世界のアリアドネーの魔法騎士団に入るなら、戦闘魔法を覚え、治安を守って行く事になるという事が考えられます。一方、これから魔法が普及していく地球で、魔法使いとして活動して行くなら、地球に合った魔法、魔法の使い方を普及させて行くということになるかもしれません。将来が特に不安定なのは地球の方です。地球がこれからどうなるかは僕にもわかりません。……今までは魔法を秘匿する事を優先にしていて出来なかった事もできるようになると思います。ですが、それと同じくして、魔法という使い方次第の力によって混乱、衝突、不幸も起きてしまうかもしれません。ただ、地球は魔法世界と同じようになる必要はないし、ならないと僕は考えています。地球は科学が発達している以上それと魔法との関係は切っても切り離せない筈です。……僕自身は今、魔法をもっと研究して、社会で広く利用しやすい魔法、役立つ魔法を開発したいと考えています。今まで僕は戦闘用魔法ばかり覚えてきましたが、これからはそれも最終的に生活に役立つ利用法へと転換する工夫をしていければ……と思っているんです」

ネギは長々と自分の思っている事を話した。

「……ネギ先生は色々考えているのですね」  「……うん」

夕映とのどかはネギの話を聞いて自分達も考えを巡らせ始めた。
ネギは2人が考え始めた所で、その答えを待つ体勢に入って……しばし。
のどかと夕映が今回ネギにこれからも魔法の先生をして欲しいと頼んだ理由の一つには、ネギとの関係性を強く保てる方法はネギが3-Aの担任で無くなった今、それはネギがこれからも魔法使いである以上、魔法であろうと考えた事にある。
夕映は魔法世界でアリアドネー魔法騎士団見習いまでになったとは言え、記憶喪失だったという事情もあり、そもそもまだ魔法に触れ始めて間もない方であり、ただ漠然と魔法使いというものに対する憧れを抱いていた面があり、具体的に何をどうしたいかという事までは考えてはいなかった。
それでもしばらく考え……先に口を開いたのは、夕映であった。

「ネギ先生、私もネギ先生の考えに賛成です。アリアドネーで魔法騎士団員として私は働きましたが、同じ人間が生活してはいても魔法世界と地球はやはり違うです。私はまだどう魔法を使って、何をしたいか、自分に何ができるかは分からないです。ですが、だからこそ、魔法についてより詳しく知り、魔法とはどういう存在なのかを考え、ネギ先生の言う混乱や衝突、不幸を避ける為、地球で魔法はどうあると良いか、どうあるべきかを考えて行きたいのです」

夕映は自分の考えを、ネギを良く見て伝えた。

「はい!それは凄く、夕映さんらしいです。魔法という存在そのものを考え、それを発展させて行くというのは僕も大事な事だと思います。……のどかさんはどうですか?」

ネギは明るい顔をして夕映に答え、のどかに尋ねた。

「……私は、ネギ先生の言う、地球に合った魔法というのを広める事をやりたいです。私も折角魔法が使えるので、小さな事でもいいです。何か、誰かの役に立ちたいです」

のどかは若干不安気にネギに言った。

「はい!優しいのどかさんなら必ず上手く魔法を人に伝えられると思います。……それで、僕が魔法の先生をする話ですが、魔法自体の勉強には地球で使われている数学や自然科学がとても役に立ちます。僕もつい昨日まで知らなかった数学の定理で研究が捗るという事がありました。具体的に詠唱呪文を教えるという行為は今の社会状況から言ってやるべきではありません。……そこで、唱えられる呪文を増やすようなものではなく、座学だけになってしまいますが、魔法と密接に結びつくものを僕が教えるというのはどうでしょうか?……結局英語の先生から、それ以外の教科の先生にもなるって感じになると思うんですけど……」

ネギは申し訳なさそうにしながら、そう、提案した。

「は、はいっ!ネギ先生、お願いするです」

「はいっ!ネギ先生、私にも勉強教えてくださいっ!」

対してその提案を聞いた夕映とのどかは満面の笑みで非常に嬉しそうにネギに教えて欲しいと、答えたのだった。
予想以上の反応にネギは驚いたが、それでいいならば、とこれからものどかと夕映の先生をすることを穏やかに微笑んで約束した。
詠唱魔法を教えて貰えはしないが、のどかと夕映はネギの授業を受けられるというだけで充分であった。
それから、3人はアスナ達が、ネギが研究している転移魔法の資料が大量に置いてある所で何やら話し始めた所に向かった。

「これ全部転移魔法の資料なのよね……前よりも増えてるような」

「ネギが自分で纏めている分が増えておる」

「これが全部……」

刹那は驚きの声を上げた。

「はー、こんな多いの研究しとるなんてネギ君凄いなぁ。それで、あの黒板に書いてあるのは何ですか?」

木乃香は一面びっしり文字と矢印で埋まっている黒板を指さしてアリカに尋ねた。

「このかさん、転移魔法には幾つか基礎理論があるんですけど、その黒板にはそれと術式構成とのあり得る組み合わせパターンを書いて、可能なかぎり相性の良い組み合わせを抽出するために、良くないと判断したものから順に消していく為の作業に使っているんです」

そこへタイミング良くネギ本人が戻り、木乃香に解説をした。

「あ、ネギ君、そうなんかぁ、うちは気が遠くなりそうや。のどか、ゆえ、何や嬉しそうやけど、ネギ君今転移魔法の研究してるんやって。これ全部その資料なんよ」

木乃香は振り返ってネギに気づき、のどかと夕映にネギが転移魔法を研究していることを軽く説明した。

「て、転移魔法ですか」

「凄く資料多いね……」

のどかと夕映の2人も、ここにあるのが全て転移魔法の資料と聞き驚いた。
そこへアスナがもう一つ別の机に置かれている見慣れないノートパソコンに気が付いた。

「ネギ、このパソコンどうしたの?」

「あ、それは超さんが僕に送ってきてくれたものなんだ」

素早くネギがそれに答えた。

「超さんが?」

アスナ達は意外な顔をした。

「うん、僕が超さんの手伝いをさせて欲しいと伝えたのが始まり。超さんが今取り組んでいるものにいつか、かなり長距離にでも飛ばせる転移魔法が必要だからできれば開発をして欲しいと頼まれて、その研究用の資料になりそうなものとして送ってきてくれたものなんだよ」

ネギは若干ぼかしてアスナに説明した。

「ね、ネギから協力するって言ったの?」

てっきりアスナは超鈴音がネギに頼んできたのかと思ったが、実際にはネギから協力を申し出ていた事に驚いた。

「詳しい事はやっぱり話せないんだけど、超さんには僕はお世話になってるから時間がある僕が協力出来ればって思ったんだ。でも超さんから頼まれた長距離転移魔法を開発するにはまず僕自身が転移魔法を自由に使えるようになってからだから本格的に協力できるようになるのはまだ先の話だよ」

超鈴音の事となると誰しも話しにくいというのは誰も彼もがそういう傾向であり、ネギは話せない事にやや申し訳なさそうにしながら更に詳しい説明をした。

「そうなんだー。前も言ったけど、転移魔法の習得頑張ってね、ネギ」

アスナは京都旅行の時最初にネギが転移魔法を覚えたいと言った理由を思い出し、どことなく嬉しそうにネギを応援した。

「うん!」

「あの……ネギ先生、超さんが開発して欲しいという長距離転移魔法というのはやはり人工衛星の打ち上げに使うためなのですか?」

夕映は一つの確認をネギにした。

「はい、そう使いたいと言っていました。超さんから頼まれたのは将来的に地球であればその軌道上、35,786kmまで、できれば転移させた際に加速度も加えられるなら、それも考慮に入れて、一度で飛ばせるものが欲しいんだそうです」

ネギは頼まれた長距離転移魔法の概要を説明した。

「3万5千km……とてつもない距離ですね」

夕映は遠いというのはわかるが逆に遠すぎて実感が沸かなかった。

「超りんそのうち宇宙にまで飛び出しそうやなぁ」

木乃香はスケールの大きすぎる話に思わずそんな事を言った。

「超さんならそれも可能にしてみせそうですが……」

「うーん、確かに超さんなら宇宙にも行くって本当に言い出しそうね……」

刹那とアスナがそれに対し、超鈴音なら不可能ではないと思えるのが怖いという様子で言った。

「ネギ先生、宇宙でも魔法って使えるんでしょうか?」

今度はのどかがネギに尋ねた。

「……それは……実際宇宙に行ってみないと分からないですね……」

ネギは完全な宇宙空間で果たして魔法が使えるかどうか答えはほぼ分かっていたが、それでも実際試してみないとわからないと思い、微妙に言葉を濁して言った。

「魔力は大気に満ちる自然のエネルギー、万物に宿るエネルギーと言われていますが、魔法は真空でも使えると本にある事からやはり万物に宿るエネルギー、宇宙空間でも使えるのではないですか?」

夕映がそれに対してネギに案を出した。

「夕映さん、真空は真空と言っても定義によるんです。絶対真空、空間中に分子が一つも無い状態というのは地上では実現不可能なので、魔法書に書いてある真空でも魔法は使えるというのは実際には文字通りではありません。また、現状存在している転移魔法での転移可能限界距離はおよそ1万kmですが、その距離でも大気圏の範囲としては外気圏と呼ばれる相当程度薄い大気があるのでやはり絶対真空での実験はできません。今までに魔法使いで宇宙飛行士がいないので、今後明らかになるかもしれませんね」

ネギは少し詳しい説明をした。
真空チャンバーと呼ばれる真空状態を作りだす機器の高性能なものですら、絶対真空に限りなく近い領域にまでしか近づける事はできない。

「そうなのですか……なるほど、勉強になるです」

夕映はネギに早速教わる形となり、納得したように頷いた。

「まだまだ分かっとらん事は多いんやなぁ」

「そうですね、世界にはまだまだ謎が一杯あると思います」

木乃香の呟きにネギが同意した。
その後も会話を続け、そこへひたすら組み手をしていたナギ達が一旦戻ってきて、ネギとアスナ、刹那もそれに加わったり、木乃香と既に覚えている魔法ならとのどか、夕映は持ってきていた杖で魔法の練習を久しぶりに思いっきりしたりと思い思いにやりたい事をしていた。
そんな中、アリカはネギ達が楽しそうにしているのを少し離れて見ていた所、遅れてやってきたエヴァンジェリンが声を掛け、茶々丸が入れた茶を一緒に飲みながらゆったりとその日の日曜を過ごしたのであった……。



[27113] 79話 神木発見
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:26
突然であるが、火星暦10月17日、とうとう火星の神木・扶桑が魔法世界人に発見された。
発見者はクルト総督が送ってきた調査員でも何でもない。
見た目は……なんというか、熊と言えるような毛深さ、野生味溢れるというか、巨漢だった。
亜人種的熊なのではなく、あくまでもイメージである。
荷物にはもしもの時に死なないようにと極地対策の魔法具もいくつも用意してきているようだったが、桃源から東に箒で飛び龍山山脈麓までは来たものの、その後あのとてつもない標高を徒歩のみで乗り越えてきた。
登山用ロープのザイル、岩の割れ目に打ち込む釘のハーケン、この2つを繋ぐための金属製の輪のカラベナ、ピッケル等……。
地球の登山で使われるのと大体同じようなものを使って、である。
ただ、魔分での身体強化は熟練しており、驚くほどザクザクと歩みを進めてきたので、本人には一切の疲れは見えなかった。
彼は龍山山脈でかなり高い位置に到達したときは大声で叫び声を上げるという荒々しさであったのだが、神木・扶桑を見た時は特に何も言わず、その何か珍しい物を見たかのような鋭い眼光だけが特徴的だった。
……落ち着いているように見えて、彼は意外と気分が高揚していたのか、神木・扶桑の映像を撮り、1日野宿した後、再び龍山山脈を越えて桃源へと戻り始めた。
あの男性の正体はというと……調べさせてもらった所、新オスティアにある魔法具店の店長であった。
店の方は今、店員のお姉さんが一人で切り盛りしているが「現在商品鑑定は受け付けておりません」という紙を貼り出しており現在は魔法具の販売だけしかやっていない……というのは超鈴音が幻術で変装をした上で少し買い物に出た時に知った。
通販で買っても良かったのだが、見てみれば普通に高純度の水晶球が売っているという事で超鈴音は先日オスティアの街へと繰り出し、買いに行ったのである。
因みに、その途中、魔法世界ならではの食材やお菓子も試しに買ったりとそれなりに楽しんでいて……やはりこういう事ができるのも、魔法世界ではまだ有名でなく命を狙われていないだけあって自由に行動ができるからこそ……であろうか。
そんなこんな店長さんが桃源への帰り道へと向かっている丁度その頃、地球暦11月18日、タカミチ君がようやく日本は麻帆良へと飛行機で戻ってきた。
国連での仕事も一段落し、後は現地のアメリカ魔法協会に任せ、タカミチ君は本所属の日本魔法協会へと戻ってすぐ一応報告に入った。
基本的にはこれまでも情報連絡は密に行っていたので、再確認という感じであったが、間違いないのは、国連でも日本でもどこも魔法使いの人達は忙しい、というこの一言に尽きる。
タカミチ君は、近衛門から直接勧めを受け、ネギ少年達が先月の中旬頃からホテル暮らしをやめ、現在借りて住んでいる家に訪問し、ネギ少年の無事な姿をその目で直接見ることができた。
タカミチ君はネギ少年に自分の力不足を謝ったが、ネギ少年はネギ少年らしいいつも通りの返答をしてその場を収めた後は、タカミチ君がこの3ヶ月程の間やっていた仕事について話せる範囲で聞かせて欲しいと頼み、タカミチ君はそれならば、と応えていた。
ナギがガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグの死の真相について尋ねたのだが、タカミチ君自身も犯人は一体誰だったのかは分からず、ガトウ氏が得ていたかもしれない何らかの情報というものにも心当たりは無いと答えた。
遺品……ガトウ氏の所持していた捜査ファイルは、当時タカミチ君自身がメガロメセンブリア捜査官ではない為権限が無く、メガロメセンブリアにとって機密性が高いという理由で、引き継ぐ事はできなかったそうだ。
タカミチ君自身その事に関しては「秘密裏にメガロメセンブリアにそれらの捜査ファイルが処理された可能性はあるかもしれない」と悔しそうな表情で言っていた。
その後、タカミチ君はゲートポートが丁度開通する日がその翌日であった為、結局麻帆良に2日だけ滞在し、今度は魔法世界へと星を跨いだ。
メガロメセンブリアでタカミチ君がすることと言えば、地球の国連でずっと仕事をしていた関係上、直接本国へこれまた一応報告に行くのと、クルト総督、リカード議員と直接話す為であった。
因みに、リカード議員には超鈴音の端末を「地球に部下を向かわせて近衛理事経由で特別に超鈴音に作成を依頼した」という説明を付けてクルト総督が渡したらしい。
……実際3人で詳しく何を話したのかまでは、地球側の隔地観測で隠れ潜んでいる魔法使いの捜索を優先して行っていたので……ブラジルの観測が正直かなり手間が掛かるというのは置いておくとして……知らないが、魔法世界は魔法世界で環境変化が激しいのでそれの現状把握等色々だと思われる。
タカミチ君がリカード議員に話すとすれば一応ネギ少年が生きていた……という事であろうか。
はっきり言って、とてもでは無いがネギ少年本人を見ない事には信じられないだろうが。
……そうこうしているうちに、追跡観測していた店長さんが桃源に帰還し「今まで見たこともない樹高50m程の極寒にも関わらず青々しい葉の茂る木が龍山山脈の向こう側に生えている」という発見情報を現地で報告していた。
この情報はまほネットに伝わり、店長さんが神木・扶桑の写真を収めていた画像も相まってメガロメセンブリアでは「地球に存在する例の神木・蟠桃に非常に良く似ているのではないか」とすぐに正解に辿りつかれた。
店長さんは寒い所、登山好きで有名らしく、彼の発見情報が嘘だと思う人は桃源の現地では少なく、第一発見者という感じでインタビューを受けていた。
魔法世界ではまだまことしやかに囁かれている程度なのであるが「旧世界の世界樹の奇跡」という噂は各地に広がっており、店長さんの不思議な木の発見の報は人々の注目を少なからず引いた。
……これに対し、いち早く動いてくれたのはタカミチ君である。
予てより頼んでおいた桃源の悪名高い黒幇組織の処理の件を「存在すると覚しき世界樹を黒幇組織が接収しないように先行して叩く」という名目の元に自然な形で実行に移してくれたのである。
タカミチ君はメガロメセンブリアの悠久の風所属として高速軍用艦に乗り、オスティアを経由することなく直接メガロメセンブリアから桃源へと飛んだ。
流石にオスティアを経由しないのと軍用艦レベルの精霊祈祷エンジンを搭載しているだけあって、2日半で着くというかなりの速さであった。
しかし、それでもその2日半の間に桃源自体に常駐している飛空艇が龍山山脈も何のその、世界樹を実際に見に行こうと山脈越えをしてやってきた。
因みに、神木・扶桑の周りの温度を適温にするであるとか、周囲の雪を溶かすなんていう環境改善を私達が行っているかというと、一切、全然やっていない。
そもそも、こんな辺鄙な場所に神木が来るようにしたのは、不用意に人々が麻帆良と同じように街を作り始めたりしないようにという理由からであり「神木の周りなら極地でも生活できる!」なんて勘違いされるような事をしたりはしない。
結果、続々到着した小型や中型の飛空艇群はというと飛空艇の中でないと寒いし、出る場合には魔分で身体保護をしていないとやってられないという事に関しては全員平等であった。
店長さんのような個人ではなく桃源の公式報道機関が神木・扶桑の姿を映像に収めたという事自体には意味があったと思うが「傷つけることなかれ」という認識効果は相変わらず発していたので、特に神木・扶桑が害されるという事は起きなかった。
……起きたらとてもではなく非常に困るのだが。
問題の黒幇組織であるが、タカミチ君の前では組織と呼ぶには全然脅威でもないレベルであり……特に解説するまでもなく瞬間的に壊滅した。
今まで放置していたのは脅威度がそこまで高くなくいつでも潰せるからという理由がメガロメセンブリア自体でもあったのだと思われる。
実際、問題はその後であった。
桃源はメセンブリーナ連合に属する規模としては小さい一国なのであるが、龍山山脈を越えたここ、神木・扶桑のある極地は一応領土であるが管理なんて全くしていない。
これから、明らかに重要であろう……実際重要どころではなく重力的にも必須な……世界樹を一体どこが管理するのかで揉めるのは当然の流れであった。
また、それだけに留まらず、これはメセンブリーナ連合だけの問題か……と言えば、アリアドネーもヘラス帝国も非常に重要と覚しき世界樹の近くに、いくら極地であるとはいえそれでも拠点を持ちたいというのは道理であり、メガロメセンブリアは既に地球の神木・蟠桃を中心に拠点を構えているのに2本目まで管理するのは不公平……的な話で更に面倒な事になっていった。
結果、魔法世界三大国家間において再び三ヶ国会談の開催が決定され、今回の開催場所は直接桃源となった。
……各国細かい調整をするのにやや時間を要し10月49日から「魔法世界の世界樹の扱い」を議題とする三ヶ国会談が開催されるに至った。
この三ヶ国会談、結論が1日やそこらで出るという事もなくある程度交渉に時間を要するような状況に入り始めたのだが……最終的な落ち着く結論は大体目に見えている。
三ヶ国共同管理しかない。
答えは単純であるが、それに伴うアリアドネー、ヘラス帝国の公的人員が桃源にどう拠点を構えるかという点、オスティアはメガロメセンブリア本国の信託統治領であったが、桃源はあくまでもメセンブリーナ連合に属する一国であるという辺りの調整に時間がかかる。
代表出席者は、メガロメセンブリアからはリカード議員、アリアドネーからはセラス総長と2人は前回と同じなのであるが、ヘラス帝国は今回テオドラ第三皇女ではなく、更にそれに桃源が入り、前回のウェスペルタティア王国の要石の移送の時のように事がスイスイ進まないのは無理も無かった。
アリアドネーからセラス総長が直々に出てきている、という事は世界樹が重要だというのを如実に表しており、それを受けて桃源としてはそう簡単にメガロメセンブリアの案を「はい、分かりました」と飲もうとはせずできるだけ自分達にとって有利、利益があるようにと主張をする為、議論はあっさりとは終わらなかった。

……さて、地球の日本、麻帆良はどうかというと、2学期の期末テストも修了し、12月20日に終業式も問題なく行なわれた。
この2ヶ月で当然というべきか、ネギ少年は転移魔法を自己・ゲート構築型・短距離~中距離転移と自己・即時瞬間移動型・短距離転移は見事習得した。
ゲート構築型に関してはもう一息距離がスッと伸びたらエヴァンジェリンお嬢さんの魔法球の雪山、砂漠系のアレで端から端まで飛べるであろう状況まで1ヶ月かかるか掛からないかのカウントダウンに入っており、これから長距離転移を実際練習するにあたって、どうするのかというのが問題になりそうである。
本人が言うには他者転移と範囲指定転移も覚えたいという事で、即時瞬間移動型を本格的に伸ばしていく必要がある……との事。
超鈴音の要する転移魔法はほぼ自己転移のみとなりがちなゲート構築型では不可能なので即時瞬間移動型を鍛えるのは当然と言えば当然である。
ネギ少年にしては寧ろ割と時間が掛かっているとも言えるような気がするが、それというのは、魔法の練習ではなく、研究自体ににかなり時間を費やしているのと、超鈴音が送ったノートパソコンで色々勉強していたり、宮崎のどか、綾瀬夕映……果ては神楽坂明日菜も交えた家庭教師的な事をしているからであろう。
当初ネギ少年の生徒は宮崎のどかと綾瀬夕映の2人であったのだが、その授業風景に神楽坂明日菜が危機感を持ったのかどうなのか「ネギ……あのね、私も一緒に勉強教えてもらっても良い?」と尋ねた事により、増えたのだ。
ネギ少年自身は「アスナが勉強好きになってくれると嬉しいな」と眩しい笑顔で快く了承し、神楽坂明日菜本人も嬉しそうにしていた所までは良かったのだが……まあ、要するに勉強の進捗度に問題があった。
ネギ少年が教えているのは全部が全部難しい事ばかりではなく、神楽坂明日菜も聞いているだけで理解できて身になる話も多かったのだが、数学や物理や化学となると途端に神楽坂明日菜は「???」を連発したのである。
結果、ネギ少年はこの手の分野に関しては、大体宮崎のどか、綾瀬夕映の2人に同時に授業をした後、神楽坂明日菜のまずは中学レベルからと手取り足取り教える事となり……本人は「この前、分からない事があったら自分で調べて解決するからって言ったのに結局教えてくれてありがとね、ネギ」とやや申し訳なさそうにしながらも優しく教えてくれるネギ少年に癒されていたように見えた。
しかし、必ずと言っていい程、度々アリカ様が「アスナ、そこは私が教えてやろう」と乱入してくるという事があったりするのであるが……平和なのは良い事だと思う。
小太郎君もあれからちょいちょい訪れては主にナギとネギ少年と神楽坂明日菜と、組み手……最近は以前に近い本格的戦闘訓練もそれなりの範囲でやったりと交流は少しずつ増えつつある。
因みにエヴァンジェリンお嬢さんはナギとは一切模擬戦もする気は無いようで、そもそも大体外出しているのであるが、たまにネギ少年、小太郎君の相手を軽くするぐらいに留まっている。
一方超鈴音はというと、魔法世界には一週間に2回は飛び、1回はまほネットで必要なものの注文を出し、2回目は注文した品物でオスティアの物流センターに届いたものを家まで配送してもらい受け取るというパターンを繰り返している。
その甲斐あってか、というべきか、超鈴音の魔法球の中は精霊祈祷エンジン系の部品や魔法世界の飛空艇の装甲等と言ったものが充実してきている。
クルト総督との植物工場の件に関しても着実に進展しており、魔法世界で運用できるようにカスタマイズを加えた植物工場の設計プランも纏まり既に総督に提供し終わった後であり、クルト総督も根回しを始めている。
ただ、やはり溶液と特殊培地の製造に関しては新規に準備が必要という事で超鈴音が魔法世界で流通している素材での作成法を考案するのにしばし時間を要し、完成した製造法についてもつい先日クルト総督に説明し、今度はその事業を実際に行える魔法世界の企業の選定作業中である。
また、植物工場は最低ラインに関しては公共性が必要ではあるが、余裕が出てしまえば営利性を持ったものとなるので、溶液と特殊培地に関しては特定の企業が独占するのは良くない、と同時にかといって無制限に広めてしまうというのも問題があったりとその調整はクルト総督次第である。
当然、食糧問題はメセンブリーナ連合だけの話ではないので、アリアドネーやヘラス帝国にも技術を広め、貿易摩擦が火種で戦争なんて事は起きないようにする必要もある。
再び地球側の状況に目を戻せば、人工衛星の各部品の製造進捗状況は特注プリズムが難航気味ではあるが、廃スペック部品については麻帆良で用意してしまうので、大体は順調であり、目処としては2004年初夏頃から可能な部品に関しては徐々に組み立て始められれば……という予定だそうだ。
エヴァンジェリンお嬢さんに超鈴音が依頼した、魔力球……魔分球、どちらでもいいが、既にその数は5基となっていて今後も増え続ける予定である。
MOCの加工法と半永久魔力炉は、他の作業が時間を喰っているせいでまだ試行錯誤の段階であるが、それなりに形は見えてきていると超鈴音は言っていた。
そして、日本が制定に動いている魔法法と特定独立行政法人魔法総合研究所法案については原案作成と法文化の作業を最初から並行して行っていた部分があったが、原案についてはそろそろ関係省庁や与党との意見調整に加え公聴会における意見聴取等が始まりそうである。
関係省庁や与党との意見調整と言っても、皆さんまだまだ魔法については分からない事だらけなので、そもそも意見調整なんてできるのか……という一抹の不安があったりするが、それについては近衛門達魔法使いが政府と連携して魔法についての情報知識の浸透を図るという対応が取られている。
……故に、絶対数の少ない魔法使い達は非常に忙しい。
ここで、一般の人々に目を向けるとどういう反応を世の中でしているかと言えば……例えば某掲示板を少し取り上げてみたい。


魔法に夢見る民の集うスレpart36

289:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:26:02 ID:1E0iHOw3
  魔法省設置とか何度聞いても吹くwww

290:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:26:04 ID:hA8YwbNP
  J・T・ローリングは先見の明があったな

291:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:26:56 ID:XIwbPxbU
  まだ完結してないのにマジで魔法使いがいたとか逆に困るだろ

292:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:29:21 ID:L2BSGjU3
  なんとかなるさ!

293:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:31:26 ID:+npujxxS
  続きは読みたいけど執筆し続けると魔法使いのイメージを損なうとか問題になりそうだな

294:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:33:19 ID:gH7M6PHM
  ファンタジーがいつの間にかリアルになっていたでござるの巻

295:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:35:47 ID:MKfatKfL
  俺今年やっと魔法使いになったんだが
  原因は分からないが魔法が使えない……
  どういうことなの?

296:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:41:56 ID:MbojxlEO
  もうそのまま妖精目指せよwww

297:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:43:49 ID:onEW8JiS
  >>295
  俺も使えるはずなのに何故か使えない

298:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:46:13 ID:gUtVC77v
  誰か言うと思ったw

299:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:47:51 ID:o1DHLg1c
  クソワロタ

300:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:50:04 ID:k351XO6t
  そのうち風評被害だとか文句言われんぞww

301:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:52:25 ID:SzGdsqw3
  >>295
  プラクテ・ビギナル!
  の後何か適当に何か言ったら魔法出るぜ、きっと
  諦めなければな……

302:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:53:52 ID:M9CImEnD
  傍から見たら痛い子すぎる絵が浮かんだ

303:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:55:01 ID:VlMqj0an
  あえて言おう
  もう子供ではないと

304:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:57:08 ID:gH7M6PHM
  大人なだけに夢がないな

305:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:58:12 ID:l1uVgNGb
  つか魔法学校日本にいつできんの?
  俺入りたいんだけど

306:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:03:47 ID:TsF+xeVL
  どーせ当分先だろ

307:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:05:33 ID:9laG5h1d
  とにかく箒で空飛びたいなぁ

308:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:13:45 ID:1sYkVp8O
  飛ぶのが野郎じゃないと下からスカートの中が見えるんですね
  わかります

309:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:17:40 ID:SzGdsqw3
  あえてスパッツに一票

310:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:18:53 ID:1E0iHOw3
  そこはドロワだろJK

311:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:23:14 ID:J7SeN0wC
  野郎もスカートという可能性はありますわよ?

312:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:29:42 ID:ItEW14kH
  おい、やめろ

313:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:33:49 ID:cmnVEuzq
  おっさんがスカートはいて並んで飛んでるの想像して死んだじゃねーか

314:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:35:24 ID:pxvObnoA
  スカートの話から離れろよwww


うん……何か間違えた気がするが……スレで軽く流されたJ・T・ローリングさんの世界的に有名な著書はキリスト教やイスラームの保守派・原理主義者の方々から批判を浴びた事がある。
理由としては神以外に由来する超自然的な力である魔術は罪だそうで、旧約聖書では、魔術が偶像礼拝や犯罪・安息日違反と並んで罪であると記されている。
さて、魔法が公開されて何か酷い事になったか……というと実際のところ強行手段的な動きは出ていない。
シスターシャークティ、春日美空、ココネ達や、ミッション系である聖ウルスラ女子高等学校に高音・D・グッドマンが在籍している事からそれなりに分かると思うが、宗教と魔法の関係は結構微妙なのだ。
それに各国魔法に手をつける事は最早決定事項である以上、声高に批判したり弾圧するという行動を取られるのは各国政府にとって非常に都合が悪いという事もあり更に微妙である。
……ともあれ、次に行こう。

【世界の本を】魔法少女ビブリオンの超リアル実写化を考えてみるスレ18【守るため!】

45:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:40:05 ID:TsF+xeVL
  ビブリオンの方が真の架空の魔法的な意味で本当にフィクションと化したな

46:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:43:31 ID:Xd+ZhqMa
  リアルさを追究するどころか現実だよ!!

47:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:44:43 ID:PPMcLdbN
  セットをちゃんと揃えればいける

48:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:46:35 ID:+L318sca
  夢が広がりすぎて夜も眠れない…

49:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:50:56 ID:3e9I4e5Z
  攻撃魔法がどんなのかによらね?

50:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:51:11 ID:2Xk3oWXO
  全然情報無いしな

51:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:52:03 ID:t+msT7CT
  無敵の呪文は

  「なんとかなるよ。絶対、大丈夫だよ」

  これに限る

52:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:54:05 ID:CkNPiSVb
  それは専用スレに行けと言いたい所だが
  もう……三年か……

53:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:56:00 ID:SzGdsqw3
  そういう意味の呪文ばっかりだったら癒されるぜ

54:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:56:09 ID:EXL8bJbp
  はにゃーん?

55:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:56:59 ID:30rzvX8i
  そんな事よりキャスト考えようぜ

56:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:59:18 ID:l2tlNr9G
  もともと実写化で起用される予定の新人が魔法覚えれば全部解決

57:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:01:36 ID:+FDmxwZk
  年齢詐称薬?とかいう見た目変えられるもの使って
  ベテラン女優を若かりし頃に戻して起用してほしいと思ったり

58:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:03:53 ID:t+msT7CT
  >>57
  そしてリアル合法ロリができるようになるんですね
  わかりますw

59:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:05:29 ID:z2w2HbgL
  昭和な髪型だったあの人達が現代風×若いで蘇ると思うだけで胸熱

60:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:06:10 ID:vOEdaYeG
  詐称って時点で犯罪臭いけどなw

61:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:08:46 ID:0yuxlVWG
  リアル魔法少女ならこの子どうよ?
  麻帆良の女子中通ってる本物の魔法使いらしい
  image-search.mahoo/sports/gallery/view_photo/1299565794021o.jpg
  左から2番目

62:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:12:42 ID:+FDmxwZk
  つ、釣りじゃない…だと…?

63:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:16:06 ID:+L318sca
  ビブリオンピンク向けだな

64:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:18:17 ID:zD3lar61
  釣りかと思ったら予想以上にレベル高くて吹いたw

65:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:19:46 ID:tbZ3POeS
  普通にかわええww
  名前は?

66:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:24:48 ID:KxLEv5CF
  可愛いのは同意だがマジで魔法使えんの?

67:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:28:53 ID:0yuxlVWG
  >>65
  愛衣と書いてメイと読むらしい

  >>66
  使えるかどうかは知らない
  麻帆良にいる魔法使い学生のうちの1人らしいって噂

68:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:34:16 ID:NwRvrKIW
  うはww
  マジでこの愛衣ちゃんって子が魔法使いだったら
  検閲削除され……ないか?ないのか?

69:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:35:43 ID:AxHNiErh
  この写真前に見たな
  魔法少女が混ざっていたとは……

70:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:37:45 ID:tbZ3POeS
  めぇぇぇいちゃぁぁぁぁぁぁん!

71:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:38:58 ID:z2w2HbgL
  電子精霊とやらの性能を見せてもらおうか!

72:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:42:00 ID:NwRvrKIW
  ぶっちゃけ電子精霊ってただの巡回監視プログラムだろ

  >>70
  一応言っておくが隣にTTRはいないぞ

73:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:43:41 ID:tnPJd2+c
  画像が消えるか
  それとも61が消えるのが先か

74:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:44:01 ID:8v5ziAkv
  61だな

75:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:53:33 ID:rVsB04X0
  悲しいけど、これ現実なのよね

76:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:55:09 ID:zD3lar61
  仕方ないね

77:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:05:48 ID:+L318sca
  61の事は忘れないぜ

78:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:08:39 ID:SQG7FNsA
  麻帆良のニュースサイトのものだから61はともかく画像は当分消えないけどな

79:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:09:29 ID:N27XU+KQ
  ところで攻撃魔法の話だけど
  ビブリオ・アクアラプソディー
  ビブリオ・スパイラルシュート
  とか普通に極太ビームじゃん
  もし似たようなのが実際あったとして威力やばくね?

80:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:14:32 ID:jlIl9Dcj
  単騎でTUEEEEEEできるー?

81:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:15:02 ID:rVsB04X0
  本を守る為にしてはいくらなんでも
  必死すぎるっていうのがオチだなwww

82:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:19:52 ID:SQG7FNsA
  攻撃魔法公開してない理由って
  本当にそういう大規模な魔法があるからだったりすんじゃね?
  
83:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:24:45 ID:gUtVC77v
  どっかの軍事政権が極秘で精鋭部隊でも作ったら
  第三次世界大戦起きかねないな

84:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:26:56 ID:+FDmxwZk
  まさに大惨事?
  まさに大惨事?

85:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:31:47 ID:LdeaGHr5
  うめぇww
  なんて言うと思ったか!
  しかもわざわざ2度も言うなw

86:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:34:19 ID:rVsB04X0
  ま、言いたくなる気持ちはわかる

87:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:38:34 ID:6Yc3Tjku
  あくまでもフィクションだったのに
  現実が絡むとすぐ殺伐とするのね


……因みに、ビブリオ・アクアラプソディーやらビブリオ・スパイラルシュートというのは、もろに雷の暴風の属性互換みたいな見た目をしている。
今はネタ程度で終わっているが、いつか本当に洒落にならないと言う日も近いかもしれない。
魔法を原子力と比較するのはどうかと言われそうではあるが、原子力の利用目的に平和利用(原子力発電)と軍事利用(核兵器)があるように、魔法もうまく使い分けて欲しいというか、比重としては平和利用に多く向けてくれるのがベストであろう。
……では、後もう二つ続けて見てみよう。
エヴァンジェリンお嬢さんと、既にネットでも超りん(ちゃおりん)の名で親しまれている超鈴音である。

【永遠の】エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(御年27歳)に浄化されるスレ159【美少女】

1:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:10:21 ID:Z4ojeq14
  永遠の美少女、Evangeline・A・K・McDowell(御年27歳)に浄化され、澄んだ心になる為の専用スレです
  浄化される事を目的としたスレにつき、常に落ち着いた対応を心掛けましょう
  適宜浄化し合う心遣いを重んじましょう

  ・次スレは>>900の人お願いします。無理なら無理と言ってレス指定を
  ・スレ立てできない人は>>880辺りから落ち着いて様子を伺い書き込まないこと
  ・スレ建てを行う際は重複を防ぐため、必ずスレ建てを行う旨をカキコして下さい

  前スレ
  【永遠の】エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(御年27歳)に浄化されるスレ158【美少女】
  yuzuri.NIchnet/test/readcgi/idol/1356683129/

  関連スレ
  【永遠の】Evangeline A. K. McDowellをおおいに盛り上げるスレ143【ロリータ】
  yuzuri.NIchnet/test/readcgi/idol/1366524682/
  【人間】エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの軌跡を記録するスレ98【国宝】
  toku.NIchnet/test/readcgi/rakugo/1162515478/

  退避スレ
  【お赦し下さい!】エヴァたんに我慢できずについハァハァしてしまうスレ367
  yuzuri.NIchnet/test/readcgi/idol/1362653498/

  たまに呟かれるエヴァ様からの福音(善き知らせ)
  tweeter.coom/EvangelineMcDowell

  エヴァ様の
  舞う姿見て
  生涯に一片の悔い無し
  
2:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:11:02 ID:1E0iHOw3
  1乙

3:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:13:38 ID:hA8YwbNP
  1字余り乙

5:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:14:48 ID:z2M1eF18
  スレ立て乙

6:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:14:59 ID:gH7M6PHM
  >>1字余りすぎ乙

7:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:15:41 ID:L2BSGjU3
  いつも神々しすぎる

8:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:16:22 ID:l1uVgNGb
  浄化されすぎて

      _|\∧∧∧MMMM∧∧∧/|_
      >                  <
    /\  ──┐| | \     ヽ|  |ヽ  ム ヒ | |
    /  \    /      /  | ̄| ̄ 月 ヒ | |
        \ _ノ    _/   / | ノ \ ノ L_  o o
      >                  <

9:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:17:01 ID:9laG5h1d
  浄化された  

10:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:17:49 ID:1sYkVp8O
  ああ……心あらわれるようだよ

11:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:18:36 ID:SzGdsqw3
  日本文化って素晴らしい

12:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:19:17 ID:3e9I4e5Z
  エヴァ様マジ天使

13:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:46:51 ID:RQ5nCZBQ
  口調とのギャップがたまらん

14:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:50:26 ID:zHdxqEYq
  質問なんだけど、生で見るのと映像で見るのとは
  違うって聞いたんだけどどう違うの?
  直接麻帆良に見に行った事ないから教えて欲しい

15:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:53:34 ID:zcaUxZS8
  >>14
  本当です
  生だと常に光の残滓みたいなものが見える
  そしていつかアレを瓶に詰めたい

16:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:54:17 ID:E9e2hWXe
  生と映像とじゃ天と地程の差があるよ 

17:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:56:22 ID:UQmvKxQj
  どんな宝石よりも美しいエヴァたんをクンカクンカしたいお

18:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:57:17 ID: PQgHggfl0
  >>17
  その欲望を浄化するッ!

19:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:57:46 ID: MysfsrSB0
  >>17
  その汚れた心、祓ってやんよ!

20:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:59:07 ID:5pIpN885
  >>19
  つ聖水
  
  これを使え!

21:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:04:19 ID:gGfG6lej
  >>17
  つ鎮静剤

22:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:07:40 ID:LTVSl8f6
  あの髪は世界の宝  

23:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:13:15 ID:t0KZIUFp
  >>14
  生は冗談抜きで後光が見える
  俺のばっちゃは拝んでた

24:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:15:59 ID:V9Hzfpnr
  生き仏と見間違えても問題ない
  あの輝きの先に浄土がきっとある

25:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:18:23 ID:zHdxqEYq
  >>15,16,23,24
  情報サンクス
  マジかー講演見に行きたいなー

26:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:27:09 ID:hRvM8tyt
  恒例の麻帆良祭は講演回数多いし
  座席に居座り続けるのはマナー的に無しだから
  意外と見れるよね

27:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:30:33 ID:Z4ojeq14
  >>26
  2004年は就職しようと思うbyTweeter

  福音来たと思ったらタイミング合いすぎ
  エヴァ様まさかの就職発言……

28:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:31:55 ID:OEWXuTbg
  な、なんだってー!?

29:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:34:27 ID:m9xSOPr6
  ホントだwww
  サークルどうなんのw

30:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:36:55 ID:LTVSl8f6
  就職発言キター!

31:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:40:26 ID:gGfG6lej
  労働基準法違反ですよエヴァ様!

32:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:43:05 ID:UQmvKxQj
  少女が働かないといけないなんて……世も末だな
  (´;ω;`)およよ……

33:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:45:49 ID:p9RvR87J
  雇用側は書類の27歳という数字に騙されてはいけないぞ!
  何よりも見た目が事実を物語っている

34:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:47:17 ID:Vhx1scz3
  多分雪広になる予定byTweeter

  就職先は雪広HDだそうです

35:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:48:29 ID:4Ar8qRLH
  や は り 雪 広 H D か

36:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:50:24 ID:eobDLR+p
  着物の売上伸びまくった原因だから当然ですな
  これからはCMに、テレビに進出すれば良いよ!

37:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:51:57 ID:Z4ojeq14
  先月から見るようになったアジエ○スのCMに
  エヴァ様ピッタリじゃ?

38:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:52:38 ID: E7Lnx6zrO
  >>37
  商品の宣伝にはならないだろwww

39:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:53:54 ID:p9RvR87J
  宣伝にならない同意ww

40:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:54:48 ID:RsJNpFpq
  でも……すごく……見たいですっ!  

41:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:55:35 ID: pimX761Z0
  言うまでもないな

42:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:58:53 ID: wyEm2EQu0
  いやマテ、エヴァ様はアジア人女性じゃないから
  商品のテーマに合ってないという致命的な問題があるぞ

43:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:59:44 ID: ztfDWdOyO
  >>42
  新しくEuropienceを作ればいいじゃない

44:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:01:29 ID:urmO/jQg
  >>43
  東洋美に回帰できてねーよwww

45:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:03:37 ID:GVMNRd5d
  ただの現状維持じゃんww

46:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:03:53 ID:eTLhxgG3
  エヴァ様程日本文化を大事にしている
  外国人女性はいないんだ
  なんとかしてよ花宝さん

47:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:05:48 ID:SpuSZF3l
  Evangenceで新しくブランド作れば良くね?  

48:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:06:27 ID:urmO/jQg
  いや、ここはあえて競合しないようにだな……

  「エヴァしゃんぷ」と「エヴァりんす」で分けて

  キャッチコピーは
  「エターナルビューティー 世界が愛でる髪へ」
  で、どうよ

49:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:09:52 ID: VPsYe/sz0
  >>48
  ちょwwwエヴァしゃんぷww
  その商品名子供向けだろwww
  でも可愛いから許す

50:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:11:45 ID:qFoUZW0+
  キャッチコピーとのギャップが酷いw

51:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:13:36 ID:bh01CltO
  超りんみたいな呼び方なノリで吹いたww

52:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:14:35 ID:qP0/SXCu
  エヴァ様の体臭がしそうな感じがプンプンする商品名に
  思わず俺用に買い占める自信がある

53:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:15:00 ID:HlLr/afE
  >>52
  俺の分は取っておいてねー

54:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:16:19 ID:QZD1JGtO
  お前ら一旦落ち着いて全員浄化されろww

55:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:18:33 ID: 0+tjlKvl0
  あれ…洗う時に使う商品だからいんじゃね…?

56:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:19:25 ID:bh01CltO
  間違いなく発売したら一石二鳥ですね

57:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:21:04 ID: YZ9Dftvj0
  本来の対象層と違う対象層の方が得した気分になる商品とかw
  だが、俺も出たら買うわ

……因みに、【お赦し下さい!】エヴァたんに我慢できずについハァハァしてしまうスレ……の方が数字で見て分かる通り伸びが異常であり、本来の退避スレはこちらになっている可能性があるが、要するにどうも自制できないらしい。
そういう割には生でエヴァンジェリンお嬢さんを見ると必ず浄化されて正気に戻るので、御用になった紳士は未だにいないとか何とか……。
間違いないのは、みんな良く訓練された住人達……という事だと思う。


【麻帆良】超鈴音の超人性について語るスレpart54【最強頭脳】

125:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:41:50 ID:B5UgdNxp
  はっきり言って弱点ない子だよなー

126:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:42:28 ID:lJxUXEaO
  研究ばっかで料理はできなさ…って思えば
  料理も超上手いって言う

127:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:43:18 ID:LSxNmFj8
  麻帆良では超包子の肉まん作ったのが超りんとその友人って逸話は有名だもの

128:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:44:02 ID:8v5ziAkv
  6月2日の新聞記事の写真の超りん超可愛いよ

129:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:44:03 ID:qlHg2Q+G
  髪下ろしてるのってそれ以外に写真無いよなw
  もともと写真自体少ないけど

130:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:44:11 ID:fSpPtaLY
  カラーじゃないのが実に惜しいっ

131:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:44:25 ID:WFbEFhpL
  ああ、一緒に最先端の研究できている麻帆良大工学部の連中が羨ましい!

132:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:44:30 ID:0Lm4dj3g
  俺は今年受かって見せる!

133:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:45:33 ID:iYUGIwTX
  まだ中三の子が大学の研究会牛耳ってるとか
  普段研究会はどう活動してるんだろw

134:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:45:53 ID:StEZZdJc
  それ言ったら東洋医学研究会は会長職ですよ

135:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:47:42 ID:SoS20T79
  素性謎すぎだけど日本に居てくれて良かったと思うw

136:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:47:56 ID:qlHg2Q+G
  >>132
  競争率十数倍は軽く越えるだろうから頑張れ

137:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:48:25 ID:fSpPtaLY
  工科大、国際大もヤバイって話らしいから今年麻帆良は私立最難関確定
  
138:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:48:31 ID:WFbEFhpL
  大学までエスカレーターとか小学生から通っている連中は得だよなー

139:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:49:23 ID:r//fpKpW
  >>135
  絶対とは言えないけどこれまでのスレの流れから
  超りん中国人じゃないのはほぼ間違いないよねw

140:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:49:48.29 ID:GZYBe48w
  もし中国人だとしたら中国は今頃世界一の技術大国になってた筈

141:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:49:57 ID:hw0eVAzZ
  ここで超りん宇宙人説を唱えてみる

142:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:51:08 ID:SoS20T79
  >>141
  火星があるじゃん

143:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:51:30 ID:StEZZdJc
  火星人、魔法世界人だとしたらわざわざ地球来る必要あんの?
  って話はもう散々したな

144:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:52:54 ID:JsNxvRxf
  一昨年の夏の南極の未確認飛行物体に実は乗っていたとか

145:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:53:01 ID:2WmVnEDV
  あれかwww
  何かあの子だとねーよwwとは言い切れないのがwww

146:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:54:21 ID:SoS20T79
  >>145
  だとすると、母星に宇宙船だけ送り返したって事にならないか?w

147:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:54:24 ID:qlHg2Q+G
  話がいつの間にか惑星レベルにwww

148:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:54:39 ID:fSpPtaLY
  それでそのうち宇宙艦隊が太陽系の果てからやってくるんだろw

149:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:54:59 ID:gnAf932W
  魔法どころの話じゃねーよw

150:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:55:53 ID:8v5ziAkv
  超りんは魔法使いじゃないのかな?
  JAXAに出かけた時魔法使いの先生が付いてったの
  ニュース映像確認したら後ですぐ分かったし関係はありそう

151:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:56:39 ID:jVl+BOP9
  いや、あの付いてったのは多分護衛だろ
  命狙われててもおかしくないし

152:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:57:06 ID:JsNxvRxf
  >>150
  魔法の勉強してたんだったら
  あんな技術力はまず身につけられないと思う

153:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:57:16 ID:pxvObnoA
  魔法関係無く、どう考えてもあの技術力は
  地球上のどこであっても身につけられないかと  

154:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:58:21 ID:irxPDjXz
  もう宇宙人だって言われた方が納得できるぞww

155:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:58:27 ID:StEZZdJc
  超人類って事でIQどれくらいなのかも気になるな

156:超名無しさん:2003/12/07(日) 19:01:04 ID:cRqbOQor
  そもそもIQじゃ超りんの超人性を正確に測定するのは無理そう

157:超名無しさん:2003/12/07(日) 19:02:27 ID:znF/TP6f
  超りんの話ばっかりだけど、超りんと一緒に研究してる
  葉加瀬って子も天才なんだぜ!

158:超名無しさん:2003/12/07(日) 19:03:13 ID:pxvObnoA
  ハカセwww

159:超名無しさん:2003/12/07(日) 19:04:05 ID:VIvYTXJC
  読んで字のとおりの良い苗字してるなw


……とまあ延々と好き勝手言うスレと化しているのだが、優曇華に乗ってやってきた宇宙人、宇宙艦隊なんていうのは流石に話が飛躍しすぎだと思う。
まあ、実際時間を跳躍しているので飛躍という点ではお互い様だろうか。
他には相変わらず【魔法】麻帆良学園都市に常識的ツッコミを入れるスレ【都市】は健在で、ここ最近はシーズンが近づくに連れ小・中・高・大学受験関連の話題が活発になってきている。
それと、何で某掲示板ばかり取り上げたのかとか気にしてはいけない。
……そんなこんな、12月21日日曜日、人によっては待ちに待っていた冬休みに突入である。



[27113] 80話 家庭訪問
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:26
12月21日日曜日朝、数日前に再び魔法世界から地球は麻帆良へと戻っていた高畑・T・タカミチは綾瀬夕映と共に、麻帆良を出発した。
数時間かけて向かう先は静岡県下田市にある綾瀬家。
電車での道中2人は時折話をしつつも、夕映は携えてきた本を読み、高畑はまだまだ山積みである仕事の書類を片づけるべく、ノートパソコンに向かいそれぞれ過ごした。
伊豆半島に入り、頻繁に海岸線を左手の車窓から臨むことができるようになってから、2人は時折その風景に目を移した。
12月も末とあって気温が低く、澄み渡る空と海のコントラストの美しさが良く映えていた。

「いい景色だね。夕方はきっと綺麗なのかな」

窓の外を見て高畑が呟いた。

「綺麗ですよ、高畑先生。私の名前はこの伊豆で夕焼け見える時間帯に生まれた事から、おじいさまが考えてつけてくれたです。夕日に映えるから、夕映と……」

夕映は読んでいた本から顔を上げ少し遠い目をして答えた。

「夕映君の名前は……そういう由来があったのかい。素敵な名前だと思うよ。おじいさまというのは……綾瀬泰造さんか」

「はい……私が小学校6年生の時に亡くなったです」

寂しげに夕映が言った。

「……蒸し返すようで済まないね」

高畑が謝った。

「いえ、私も少し景色を見て思い出しただけなので気にしないで下さいです。今頃のどかも葛葉先生と実家へ向かっているですが……私達が正式にその、生徒になって本当に良いのでしょうか?」

夕映は、やや微妙な表情をして高畑に確認した。

「うーん、僕としては学園長から聞かされた時は予想外だったんだけどね。あちらでの事情が事情だったし、夕映君とのどか君がいなければ今頃どうなっていたかも定かではない。それに今のこの世の中になったからこそ、ご家族にもきちんと話せるからね。夕映君自身はどうだい?生徒になるという件を受けてくれたけど」

高畑は軽く苦笑しつつ、すぐに真面目な表情をして尋ねた。

「願ってもない話です。私のやりたい事に必ずプラスになるですし、喜んで受けるです」

夕映は静かに答え、その目には輝きが宿っていた。

「……それは良かった。まずは本人の意志次第だったけれど、後はご家族への説明と説得だ。それで、やりたい事というのを聞いてもいいかな?」

高畑はホッとしてそう尋ねた。

「哲学的見地からこの地球で……これからアレがどうあるべきかを私は考え、様々な私と意見の異なる人達とも議論したいですし、それを世界に伝え、考えるという事の重要性を忘れずに続けていきたいのです」

夕映は心に決めたという様子で、はっきりと述べた。

「ははは、なるほど、夕映君は将来有望な新分野の哲学者になるだろうね。夕映君なら絶対なると期待しているよ」

高畑は予想外な夕映の答えに驚きつつも応援すると言った。

「はい、なってみせるですよ。高畑先生もお仕事頑張ってくださいです」

夕映はそれに対し、自信有りという様子で返した。

「ああ、もちろんさ。それじゃ、この後の仕事の前に、まずはお弁当を食べるとしようか」

「はいです」

……そして2人は買っていた駅弁を食べ、午後1時頃に伊豆急下田駅に到着した。
改札を出てすぐ、あちこちのホテルや旅館の従業員が宿泊客の出迎えをしている所を右手に進み、タクシー乗り場でその中の一つに乗り込み、運転手に行き先を伝えた。
車で進むこと40分程、目的の綾瀬家の門の前へと到着した。
雪広家とはさすがに比べられる規模ではないものの、屋敷と言える広さであった。
高畑が門でインターホンを押し、数秒して夕映の母親と思われる人物の声がその応対に出た。
2、3会話をし、門のロックが開けられ2人は中へと入った。
玄関まで続く石畳を歩き、再びインターホンを高畑が鳴らした。
すると待ちかまえていたかのようにその玄関が開けられ、そこに現れたのはおでこを隠すように前髪を伸ばし、夕映にもひけをとらない長さの紫がかった髪をした女性、夕映の母であった。

「お久しぶりです。夕映さんのクラス担任を2年の2学期まで勤めていた高畑・T・タカミチです。突然連絡しての訪問、申し訳ありません」

「ただいまです、お母さん」

高畑は一礼し、夕映は帰った事をまっすぐ母を見て報告した。

「こちらこそ、遠い所ようこそお越しくださいました、高畑先生。夕映……お帰りなさい。お父さんも待っていますよ。どうぞ、お上がりください」

夕映の母は高畑に対し丁寧に挨拶を返し、夕映に対しては少しばかり驚いて目を見張って見た後、すぐに表情を緩め優しげに言った。
2人は玄関で靴を脱いで上がり、高畑と夕映は夕映の母の言葉に従い上着を預け、高畑は夕映の案内に従い応接間へと向かった。
応接間で待っていたのは夕映の父親であり、再び高畑は挨拶をし、夕映は帰った事の報告を先程と同じくした。
そこへ、茶を淹れた夕映の母が応接間に現れ、4人は向かい合って席につき、話を始めた。

「夕映、麻帆良学園での生活はどう?母さんには、夕映が麻帆良学園に行く前とは見違えて見えるわ」

夕映の母は尋ねた。

「麻帆良学園に入って良かったです。おじいさまのいない日常などつまらないと思っていたですが、今は友達もできて毎日充実しているです。お父さん、お母さん、私を麻帆良学園に通わせてくれてありがとうです」

夕映は母の質問に対し、ハキハキと答え、その何かやりたい事を見つけたというような活力あふれる様子に夕映の両親は、嬉しそうにしみじみと頷いた。

「そう……それは良かったわ。おじいさまが亡くなってすぐの頃、夕映は毎日塞ぎこんでばかりいたものだから心配していたのだけど、大丈夫そうね」

「麻帆良学園に入学させたのは正解だったようだね」

……そして少しばかり、夕映とその両親は会話を交わし、その後高畑が今日訪問した理由へ関連する話へと入った。

「本日お伺いした理由ですが、改めて、自己紹介をするのであれば、私は国連NGO悠久の風所属の魔法使いであり、現在日本魔法協会にも所属しています」

「……やはり、そちらの話ですか。先生が国連総会の生放送に出ていたのは拝見しました。今日の用件は魔法……の話なのでしょうか?」

夕映の両親はどうしてこのタイミングで高畑がやってきたのか、その理由について一つの答えが出たと共に、何故夕映なのかと疑問を抱いた。

「はい、その通りです。それについて順を追ってお話します。落ち着いて聞いて下さい。本年度1学期、夕映さんのクラス、3-Aはイギリスが修学旅行先になったのはご存じかと思います」

「ええ、京都の予定が急遽変更になったとかで……特に反対も無かったと聞いています」

夕映の母は高畑の確認に対して肯定したものの、やや心配そうな表情をした。

「はい。私はこの修学旅行には同行していないのですが、ロンドンの後、次に向かったウェールズでの滞在先は……メルディアナ魔法学校、その膝元の村でした。もちろん、魔法に関しての情報は完全に秘匿できる体制を取っていたので、生徒達に気づかれないよう対策は万全でした。しかし2日目、村の宿で生徒達が郷土料理を調理中に予期せぬ事件が起きました。私達が悪魔と呼称している者達が群を成して現れる事件です」

神妙な面持ちで高畑の話に耳を傾けていた夕映の両親は悪魔という単語を聞いた瞬間、意味が分からない、と唖然とした。

「お母さん、お父さん、本当なのです。メガロメセンブリアが現在公表している情報にはそういった類の事は触れられていないですが、私は実際にその時見たです」

フォローするように夕映は高畑の話が真実であることを伝えた。

「……そ、そうか」  「じょ、冗談ではないのね」

そういわれたものの、夕映の両親はとりあえずの反応をするに留まった。

「冗談ではありません。まずは、経緯の説明を続けます。その悪魔襲来時、夕映さんは他数名の生徒と……」

高畑は夕映の両親に、報告書であった通りの事件経緯を説明した。
夕映を狙って悪魔が襲来したのではなく、恐らくメルディアナの防衛能力の調査と夕映とともにいた別の生徒が狙いであった事、夕映はそれに巻き込まれる形でその事件の首謀者を見て、相手にも顔を覚えられた可能性があり、本人への意思確認の結果、記憶消去という方法をとらなかった事。
それに対し、夕映の両親は夕映に本当に怪我をしなかったのか真っ先に尋ねた。

「私とのどかに怪我はなかったです。一緒に同行していたおばさんは私とのどかを庇ってくれたですし、一緒にいたとても強いクラスメイトが守ってくれて、救援にもかけつけてくれて……その後すぐネギ先生と葛葉先生も助けに来てくれたです」

夕映ははっきりと怪我はしなかった事を強調して言った。

「はぁっ……怪我はしなかったのね」

夕映の母は胸をなで下ろした。

「この件について説明する事ができず、本当に申し訳ありませんでした」

高畑の本格的な謝罪が始まった。

「……説明できないのは無理も無い。ですが、京都であればそのようなことは……」

怪訝な表情をした夕映の父がもし京都だったらという事に言及しようとした。

「それは今となってはどうなったかは分かりませんが、事件の首謀者の練度は極めて高く、狙いが生徒の1人であった事からどうなっていたかは定かではありません」

それに対し高畑が弁明した。

「あの、そもそもウェールズが1年間夕映の担任であったネギ先生の故郷だと聞いているのですが……それはどういう……」

夕映の母が疑問を呈した。

「その話も含めて、説明します。3-Aには要人が固めて集められています。例を挙げると超鈴音、雪広財閥の次女、学園長のお孫さん、中国武道の名門古家の長女、そして修学旅行で狙われた生徒などです。修学旅行の一件には、特に超鈴音君にある事情があり、予定通り日本で修学旅行を取り行うのは非常に危険な可能性がありました。申し訳ありませんが、その詳細については機密事項なので話せません。1人だけ連れていかないという訳にもいかなかったので、国外で最も安全性が確保できるのが、ネギ先生の故郷であり土地勘もあるイギリス、そしてウェールズでした。他の引率教員も特別に麻帆良女子中等部の教員ではない、私と同じ魔法使いの教員を数名選定するという体勢を取りました。10歳のネギ先生が何故そもそも3-Aの担任になったか、ですが、もうお気づきの通りネギ先生は魔法使い、それも見習いです。……魔法使いの修行というのは慣習的に精霊によってその個人にとって適切なものが決められ、それを遵守する事になっていて、その修行の内容としてネギ先生は教師をすること、と決定されました。この修行内容は全く前例の無いもので、結果、諸処の事情から魔法協会のある日本、麻帆良学園、そして赴任するクラスとして選ばれたのが、学園長の身内であるお孫さんのいる当時の2-Aでした。どう言い訳しても魔法使いの勝手な事情と思われても仕方無いですが、深くお詫びします。学園長からも手紙があるのでどうぞ覧下さい」

高畑は立て続けに説明し、それに夕映の両親が反応に困っているところ、更に一通の手紙を取り出し、すぐにその魔法郵便を再生した。
手紙には麻帆良学園学園長の近衛近衛門の縮小された姿が映り、綾瀬夫妻への謝罪の言葉が近衛門の声で述べられた。
夕映の両親は立て続けに高畑から色々と説明され、間髪無く魔法郵便が再生された事に更に驚いたが、超鈴音の三次元映像技術と似たようなものかと思い、それにはそれなりにすぐ慣れた。
手紙の導入は直接綾瀬家に出向く事ができず、映像でという事になった事への謝罪から始まり、高畑と同じくネギの件までであった。
そこで、ようやく夕映の父が口を開いた。

「……お気持ちは分かりました。公表できないからといって事情を隠されていたのは、やはり問題があると思いますが、ネギ先生の件を始めとして訴えるような事はしません。ネギ先生が担任になって、2年の3学期と3年の1学期、共に夕映は目に見えて成績も上がり、10歳で修行とはいえ、非常に優秀な先生だったようですしね、高畑先生?」

夕映の父は、夕映の成績の件について含みを持たせ、少し面白そうに言った。

「はは、これはお恥ずかしい限りです。……まずはご理解頂きありがとうございます。ですが、夕映さんの魔法の関係についての話はまだ、あります」

高畑は苦笑しつつも、ここからだ、と顔に少し陰を落とした。

「ま、まだ……?」

その何かがあるという言い方に夕映の母は再び不安を抱いた。

「……お母さん、お父さん、ここからは私が話すです。聞いて下さい。私とのどかは、修学旅行の後、魔法の事は他人に漏らさないと学園と約束したですが、ネギ先生にわがままにも、魔法を教えて欲しいと私達の方から頼んだのです」

夕映は大きく深呼吸をして、話し始めた。

「魔法を……?」  「まあ……」

突然の発言に夕映の両親は間の抜けた顔をする。

「この事は高畑先生達には断りもせず、勝手にした事です。ネギ先生は最初断ろうとしたのですが、このか、学園長のお孫さんともう1人も一緒に説得してくれて、先生ではあっても所詮10歳の子供を……その……丸め込むような形で……条件付きで魔法を教えてもらえる事になったのです」

夕映は徐々に居心地悪そうに微妙に言葉に詰まりながら説明した。

「ゆ、夕映……」

「…………」

夕映の母は微妙に呆れた顔をし、高畑も眉間に手を当てて沈黙を貫いた。

「い……今思えば魔法というものに惹かれて大人げない事をしたと反省しているですが……後悔はしていないです。ネギ先生から私とのどかは初心者用の杖と魔法書を借りてから、毎日勉強もきちんとして、寮室で魔法の練習をしたです。そして6月下旬麻帆良祭の後、私とのどかはネギ先生が行方不明のネギ先生のお父さんを探しに魔法世界へ行く旅に、他クラスメイト数名と共に協力する事にしたのです。これも私から協力したいと私の意志で言った事で、誰かに言われたからでは無いです」

夕映は弁解するように続きを話し始め、話はいきなり魔法世界へ行く事へと移った。

「ゆ、夕映、なんだか唐突だけどそれで本当に魔法世界に行ってきたの……?」

もう何がなんだかと、夕映の母はまさかと思いながらも尋ねた。

「……はいです」

「た、高畑先生……?」

夕映の父はその説明を求めるように高畑に目を向けた。

「重ねて、申し訳ないです。修学旅行の時よりも情報の漏れには細心の注意を払った上で、メルディアナの優秀な魔法使いもガイドに同行し、魔法世界側にも非常に頼りになる人物に迎えに来てもらう手筈を整え、6日間お忍びで、魔法世界でも最も治安の良いメガロメセンブリア首都周辺の観光を、夕映さんにとっては修学旅行で危険な目に遭わせてしまった意味合いも含めてして楽しんで貰えれば、という予定でした」

深く謝罪し、高畑は説明した。
それに合わせるように続けて夕映が口を開いた。

「高畑先生の言うとおり、メガロメセンブリア首都周辺を1週間程度見て回るにとどまる筈だったですが、メガロメセンブリアのゲートに到着した途端、私達は強制転移魔法というものに巻き込まれ、私はメガロメセンブリアに入る前にアリアドネーという国の町中に飛ばされたです」

「は?」  「え?」

訳が分からず、夕映の両親は混乱した。

「……その事件が国連総会でメガロメセンブリアが発表した際に、魔法世界側で起きたある事件です。2度目も裏目に出るとは思いませんでしたが、その事件も完全に想定外のものでした。事件の詳細はやはり機密事項に触れるので申し訳ありませんが説明できません」

高畑は更に謝罪を重ねた。

「は、はぁ……」

気の抜けた声が夕映の母の口から漏れた。

「話の続きを聞いて欲しいです。私の飛ばされたアリアドネーは魔法世界唯一の独立学術都市国家で、他の皆が飛ばされた場所の中では最も安全だったです。ただ、その代わり……ではないですが、私は事故で一時的な記憶喪失になったです」

「「き、記憶喪失!?」」

夕映の両親は、追い打ちをかけるような記憶喪失という言葉に驚きの声をあげた。

「今はこの通り、大丈夫ですよ。少し詳しく話すと、初級忘却呪文というものを練習中のアリアドネー魔法騎士団候補学校の生徒、コレット・ファランドールという人物と衝突したのが原因でした。彼女は今では私の大事な友達です。その時から記憶喪失になったので、今話すと記憶が無かった頃の自分を思い出して話すという感じがして妙な違和感があるですが……このまま私の話を聞いてくれるですか?」

夕映は安心させるように説明をし、両親が更に頭が痛そうなリアクションをしだしたのを見て、確認をした。

「……ああ、話してごらん」  「……聞かせて頂戴、夕映」

夕映の両親は気を取り直してそれに答え、続きを促した。

「はいです。記憶喪失の私はコレットに学校の医務室に運ばれて、先生と話した結果、自分が何者かを知るのに魔法に関係するのが手がかりになる気がしたので魔法騎士団候補学校で学べないか頼んで、入学手続きをして貰える事になったのです。実際にはその後すぐ、私が綾瀬夕映であるということがアリアドネーに飛ばされた時に一緒に持っていた自分の荷物で分かったです。その中にある特殊な通信機があったのですが……」

夕映は魔法世界で自分が体験した出来事を話し始めた。
他の仲間が魔法世界の各地に飛ばされていた事が判明するも、記憶喪失だった為に魔法騎士団候補学校の生徒を続け、皆をその場で待つ事になった事、魔法騎士団候補学校での2ヶ月近い生活、麻帆良祭後にきちんと修行をしていた為にその授業にはなんとか付いていけた事、しばらくして続々と仲間が到着し、木乃香も入学、奨学金で払われていた授業料は全て高畑が払ってくれた事、魔法騎士団員見習いにも選抜されオスティアに向かった事、記憶も徐々に戻り、そして魔法世界の秘密……例えば世界崩壊の可能性、アスナやネギの機密事項に触れる情報の部分等は取捨選択して、最終的には、ゲートでの事故が起きて地球と魔法世界の時間差が4倍以上開いていた為に地球には8月28日に帰ってきた事を順に話した。

「……お父さん、お母さん、私は魔法世界に行き、自分の目で世界を見れた事を本当に良かったと、自信を持って言えるです」

夕映の両親はその話を聞き終え、どう反応していいものやらと、しばし困った。
しかし、今目の前にいる夕映が以前とは見違える程成長し、生き生きとしている姿を見て、夕映の言葉は紛れもなく本当の気持ちなのだと理解し、少し目元を潤ませながらも何よりも無事でいてくれて良かったと、そう夕映に言った。
高畑はまた謝罪し、近衛門の最後には大体うまく収まる「勘」で行ってよしとなった一行の旅行についての説明には、流石に「学園長のただの勘でした」と言うわけにもいかず苦労したが、少なくとも修学旅行の件よりも、その謝罪の気持ちは綾瀬夫妻には伝わったようであり、夕映の両親は、夕映の魔法世界での授業料を高畑が全額払ってくれた事についても一応の礼を述べた。
そして、ふと曖昧になっていた事を夕映の母が尋ねた。

「高畑先生、ネギ先生は退職されたという事でしたが、それは責任を取られて、という事なのですか?10歳の男の子が教育実習生として夕映のクラスに赴任するという話を麻帆良学園から深く謝罪するような書面の内容で連絡を受けた時は保護者の間で話題になりましたが、雪広さんが真っ先に同意されたという事で、そういうことならと3分2以上の賛成に達したと聞いています。報告を受ける限りでは10歳とはとても思えない非常に分かりやすい授業で、クラス全体の成績も上がったのは既に周知の事実ですし、魔法使いの修行だったというのは多めに見るとしても、その魔法世界の件で退職というのは……」

「説明します。理由については責任を取ってという事で認識されて構いません。ですが、ここからは内密にお願いします。……ネギ先生の地球での公式の扱いは確かに退職ですが、魔法世界、メガロメセンブリアの公式での扱いは……死亡となっています」

高畑はとても言いにくそう口を開いた。

「し、死亡!?」

夕映の母は口元に手をあて驚きの声を上げた。

「はい、実際私達も……ネギ先生、地球での夏の一件でネギ・スプリングフィールドだけが死亡したのは間違いない事実と認識していました。しかし、1ヶ月程して9月の末、彼は奇跡的に私達の前に姿を現しました。正直一体どういうことなのかは私達にも分かりません。ですが、ネギ先生が死亡する原因となった魔法世界での事件は魔法世界にとってはとても重要な事で、それと関連してネギ先生の一個人としての機密性も色々な意味で非常に高く、現在はその事情から身を隠さざるを得ないという状況です。綾瀬さん、どうかネギ先生は退職した、という事でお願い致します……」

高畑は綾瀬夫妻に再び深く頭を下げた。

「お父さん、お母さん、私からもお願いするです」

夕映も高畑に続けて両親にそう真剣な表情で頼み、夕映の両親はネギには少なくともどうあっても話せない事情があるのだということだけは理解したのだった。

「詳しいことは話せないようなので分かりませんが、事情があるのは分かりました。口外しないとお約束します。しかしわざわざこの事を私達に話しに来た理由がまだあるように見受けるのですが……説明してもらえるのでしょうか」

夕映の父は、究極的には隠し続ければ良いだけなのに、何故それをわざわざ話にきたのかと疑問に思い、尋ねた。

「……ありがとうございます。日本魔法協会、麻帆良学園と日本政府の間で、現在水面下で進んでいる交渉ですが、2005年春に初の日本魔法学校がこのまま行けば麻帆良学園都市に設置される予定です。……単刀直入にお話しますと、夕映さんをメガロメセンブリアではなく、日本所属の魔法生徒として公式に認定したい……もちろん公表はしませんがそういう扱いにしたいと考えています。今日は綾瀬さんにこの話に伺いました」

高畑は今日の本題へと、とうとう入った。

「夕映を日本の魔法生徒に……?」

「高畑先生、詳しく聞かせていただけますか?」

夕映の両親はその詳しい経緯を尋ねた。

「もちろんです。……いずれ日本で魔法についての教育が行われるようになるのは避けられない状況となるというのはお分かりかと思いますが、魔法使いの間でこれまで行ってきた、いわゆる教育カリキュラムは、現代日本には適合しません。文部科学省に一例を提出はしましたが、そもそも魔法についての知識が無いためその判断も困難です。日本政府と日本魔法協会の見解では公募で日本魔法学校の生徒をいきなり集めても混乱しか起きないという共通認識に至っています。かといってカリキュラムを一方的に作成しても、それが本当に適切なのかどうかは実際に教育を行ってみない事には分かりません。そこで、適切なカリキュラム作成と魔法学校のテストケース試験運用を目的とした日本魔法学校に参加してくれる生徒を選定する必要が出てくるのですが、ここで元々一般人の夕映さんともう一人、宮崎のどかさんに正式な魔法生徒としてその学校に生徒の視点から協力して貰いたいという事です。まだ検討の段階ですが、授業としては夕映さんの場合、麻帆良女子高等部の授業が終わった後の放課後や、長期休業を利用して集中的に行う、という事になる予定です。確定ではありあませんが、ほぼ確実に、学費その他諸々は学校側全額負担、魔法学校の生徒としてその後魔法関係の進路に進む場合にはその全面的なバックアップの保証、生徒の安全についても全面的な保証を約束できます。魔法について全く知識の無い生徒だけで試験運用をしてもカリキュラム作成に膨大な時間がかかるのは間違いありません。ですが、日本政府としては無駄に時間をかけていられない以上、既に魔法に知識があり、魔法がどういうものなのか理解もある夕映さんを予め学校の設置前に魔法生徒に認定する事で、その入学に世間に対して妥当性を持たせた上でその後の魔法学校の運用に協力して貰いたいというのが大きな理由です」

高畑は再び説明をした。

「そ、そうなのですか……」

「……なるほど。それで、夕映は、どうしたいのかな?」

夕映の両親は驚くのにも慣れ始め、落ち着いた反応をした。

「はい、お父さん、お母さん。私はこの話、喜んで引き受けたいと思うです。この数ヶ月魔法に関与し、地球と魔法世界の違いを他の人よりは少しでも多く見てきた私のこの経験を活かしたいのです。……実はこの2ヶ月……高畑先生にも言っていないのですが、またネギ先生に無理を言ってのどかと一緒に中学では教わらないような勉強を教えて貰っているです。数学、化学、物理、生物、英語やラテン語などの言語、魔法と密接な関わりのある分野を中心に……何というかその、個人指導のような形で……教わっているです」

夕映は自分の気持ちをはっきりと言った後、ばつの悪そうにしながら、顔もやや赤らめて最近の状況を話した。

「そ、それは初耳だね……。ネギ君も流石だけど」

高畑はまたか、という風にズリ落ちかけた眼鏡を戻した。

「ゆ、夕映……」

この子は何をしているのか、と夕映の母はまたもや呆れたような声を出した。
それに対し夕映は両手で制止し、慌てて話の続きを始めた。

「ま、まだ話の続きがあるです!その授業をしてもらえないか頼んだ時、ネギ先生にこう聞かれたです。どう魔法を使って、どうしたい、かと。それに対して私は……私はまだどう魔法を使ってどうしたいか、何をしたいか、自分に何ができるかは分からないけれど、だからこそ、魔法についてより詳しく知り、魔法とはどういう存在なのかを考え、ネギ先生が質問の後に話してくれた魔法が地球で普及する事による起こりえる混乱、衝突や不幸を避けるためには、地球で魔法はどうあると良いか、どうあるべきかを考えて行きたい、と言ったです。この2ヶ月、ネギ先生達とはそういうことも議論しているのですが、私は言うなれば、現代の哲学に地球での魔法哲学というような分野を新たに切り開いて、それを研究し、社会に役立てる事ができればとより強く思うようになってきたです。私は正式に魔法生徒となる事は私がやりたい事にとって確実にプラスになると思うです」

夕映は徐々に落ち着きを取り戻しながら、自分の将来やりたい事について真剣に語った。

「……そう。夕映の気持ちは分かったわ。私は夕映が魔法生徒というものになるのに反対はしない。寧ろ、応援するわ」

「……しばらく見ないうちに見違える程成長したとは思ったがなるほど、そういう事か。……夕映はもうその年でやりたいことを見つけた、それはとても幸せな事だと父さんは思う。しかもそれが哲学と関係するというのだから夕映の大好きなおじいさまもきっと喜ぶだろう。夕映が魔法生徒になりたいと自分から願うのなら、私も応援しよう。ただ、怪我や病気、無理をしないようにだけは気をつけて欲しい」

突っ込み所はあるものの、夕映の両親は感慨深げに夕映が魔法生徒になることには同意をし、健康にだけは気をつけるように言った。

「そうね、健康にだけは気をつけるのよ」

「……ありがとうです、お父さん、お母さん。健康には気をつけるです。約束するです」

夕映は安堵して、感謝の言葉を述べた。

「ありがとうございます、綾瀬さん。ではこちらの……学園長から預かってきた契約書類に署名の上、夕映さんに麻帆良学園に提出して貰えれば結構です。この場ですぐに、という程の急ぎでもありませんので細かい条件も充分検討の上、お考え下さい」

高畑は礼を述べ、鞄からそれなりに分厚い書類を取り出して見せた。

「わかりました、高畑先生」

夕映の両親は高畑が出した魔法生徒と認定するための契約書類を受け取った。

「よろしくお願いします。……今日は突然の訪問失礼しました、私はこれで失礼させて頂きたいと思います」

高畑は麻帆良に戻る意図を示した。

「もうお帰りになるのですか?よければ夕飯だけでも」

それを夕映の母が引き留めようとする。

「お気遣い、ありがとうございます。ですが、実はまだ、仕事が残っているもので……はは」

高畑は丁重に断り、苦笑した。

「お忙しいのですね」

「そうですか、色々他に話もできればと思ったのですが、分かりました。今日はわざわざお越し下さりありがとうございます、高畑先生」

そういう事なら仕方がないと、夕映の両親はそれぞれ言った。

「いえ、こちらこそ。それで、夕映さんの麻帆良へ戻る際の電車の切符、指定券は明後日で取ってあります。どうぞお受け取り下さい」

高畑は更に封筒を取り出し、丁重にそれを渡した。

「これはわざわざ……どうもお手数おかけします。ありがたく頂戴します」

「はい……では、失礼します」

「ありがとうです、高畑先生」

……そして、高畑は綾瀬夫妻と夕映に見送られ綾瀬家を後にし、麻帆良へと一足先に仕事へと戻って行った。
その綾瀬家では、早速夕映の父が契約書類の確認に入り、一つずつ条件を確認し始めた。
夕映の母はそんな中、夕映に楽しそうに尋ねかけた。

「夕映、年下のネギ先生に無理ばかり言ってるみたいだけど、夕映にとってネギ先生はどういう人なのかしら。お母さん凄く興味あるわー」

「そ、それは、その……えっと、ネギ先生は年下ではあるですが……私は人として尊敬しているです」

夕映は突然の質問に答えに戸惑い、少し顔を赤らめた。

「あら?それだけかしら?」

夕映の母はニコニコしながら確認をした。

「そ、それだけです!」

夕映は顔を更に赤らめ、強い語調で言った。

「あらあら、顔が赤いわよ、夕映」

「う、そんな事は無いです!……お、おじいさまに報告に行ってくるです!」

夕映はそう言って顔を伏せたまま席を立ち、綾瀬泰造の仏壇が置かれている部屋へとパタパタと走り去っていった。

「まぁ、いつの間にか夕映は恋する女の子になってたのね」

夕映の母は楽しそうに夕映が走り去った後に呟いた。

「……あー、何だ、だが夕映は年下の男の子がタイプだったのだろうか」

夕映の父は娘の好みの男性のタイプについて一抹の不安を覚えた。

「それはどうかしら、私は実際にネギ先生に会ってみたいと思うのだけど」

「確かに……事情があるようだが、できれば会ってみたいね」

夕映の両親は互いに至る結論は同じ、ネギに会ってみたいという事であった。

「夕映に聞いてみましょうか?」

「はは、あまりからかわないようにな」

「うふふ、分かっています」

夕映の母は楽しそうに笑った。
当の本人はというと、綾瀬泰造の仏壇の前で、しばらくの間目を瞑ってきちんと報告をし、それを終えてから再び恐る恐る両親のいる間へ顔を覗かせて、サッとと中に入った。
何か面倒な事を聞かれる前に、と思い夕映は持ってきていた荷物の中にある杖を少しばかり自慢げに取り出し、両親に「実際に私が魔法を使うところを見てみるですか?」と尋ね、「是非お願いします、魔法使いさん」と夕映の母が頼んだ。

―プラクテ・ビギナル―
 ―火よ灯れ―

夕映の杖の先から明かりが灯る。

「すごいわねー、夕映」

「おーなんだか、ライターいらずだな」

夕映の両親は軽く拍手をしながらそれぞれ述べた。

「お父さん、次はそんなこと言わせないですよ!」

―浮遊!!―

今度は夕映は机に置いてあったペンを宙にフワフワと浮かして見せる。

「まー、マジックみたいね」

「ああ、本当に種も仕掛けもない、マジックみたいだ」

再び夕映の両親は拍手をしながらマジックみたいだと評した。

「ま、マジックの語源に遡れば間違ってはいないですが……微妙な気分です。いえ、別に魔法は自慢するのを目的に使う等以ての外、気にしないです」

夕映はそう言って気を取り直した。

「そうです、マジックというこの地球でのパフォーマンスの一形態一つを取っても魔法の社会に及ぼす問題の考察は非常に重要な事だと考えるです。私が思うに魔法が普及する事はマジックというものが……」

夕映は突如閃いたようにマジックが、魔法が普及することでどうなるかを両親に話し始めた。
マジックが何でも魔法を使っていると言われるようになってしまう可能性、それに対する対策として、今握っている魔法発動媒体の存在について説明し、その魔法を使うのに必須である魔法発動媒体を絶対に使っていないという事を示すか、それでも隠し持っていると思われてしまうかもしれない事から、マジック業界の種がある上でのパフォーマンスから、種が無いという前提の上でのパフォーマスへの根本的な方向転換を止む無く迫られてしまう事になる可能性などなど……マジックという一単語からこれでもか、と夕映は述べた。
冗談半分にマジックと言った夕映の両親は、いきなり夕映が真剣に話しを始めた事に一瞬驚いたが、言われてみれば社会的影響というのは考えに値すると言わんばかりに、血に流れる哲学気質を持ち合わせた家系とはかくあるのかとばかりに、夕映に分からない事を質問をしながらも、議論を交わし始めたのだった。
それから一応の結論が出た所で、聞くのを忘れていたと、夕映の母は「ネギ先生に直接会うことはできるかしら?」と尋ねたが「私が言える立場ではないですが……今はやめておいたほうが良いです」と気まずそうに答え「そういうことなら、いつか会えるようになる時を楽しみにしているわ」と夕映の母は返したのだった。
……そして時刻は夕方になり、この日伊豆では美しい夕日が見れた所で、綾瀬家は久しぶりに一家で食卓を囲んだ。
時間をかけて契約書類にくまなく目を通した結果、問題ない事を確認し、夕映の父はその契約書に夕映と夕映の母に見守られながら署名をした。
サインをし終わった所で、夕映は両親に感謝の言葉を述べ、頑張る事を宣言し、夕映の両親は改めて応援する言葉を贈ったのだった。
それから夕映は自宅で一夜を過ごし、翌月曜日は「うふふ」と笑みを浮かべた母に夕映は質問責めを受け、隙あらばネギの事について触れてくるそのしつこさに困りつつも、のどかや木乃香、早乙女ハルナなど、クラスメイトの話へとうまく話題を逸らして回避したりした。
……そうこうして過ごしたその翌日火曜日の昼頃、行きとは逆に電車に乗り、夕映は麻帆良へと魔法生徒になることについての契約書を忘れずに携えて出発した。
夕映は麻帆良に戻ってからはまずは女子中等部へと足を運び事務室で学園長宛として、その契約書類を提出してから、女子寮へと戻った。
冬休み期間中ではあるものの部活は活動している為学校は開いていた。
夕映はメールをやりとりしていたので予め知っていたが、まだ同室ののどかは帰ってきておらず、一人鍵を開け、慣れ親しんだ寮室へ入った。
……そして、夜にのどかが帰ってきた所で、2人は改めてお互い魔法生徒になる事を確認して喜びあい、実家で家族に魔法を見せた折りにはそれぞれ家族の反応が違った事などを話し始めた。
……宮崎家はというと、のどかが麻帆良女子中等部に入学する前はとても恥ずかしがり屋で、本ばかり読んでいた筈が、程良く明るく優しい、それでいてしっかりとして成長していた事に感動してばかりいて、葛葉はなかなか話に入れなかった。
ようやく話に入るという段階で葛葉はいつも通り話し始めたつもりであったが、特にのどかの母が葛葉に若干怖がる様子を見せた事で、葛葉はそれを気にかけて余計に謝罪すれば、のどかの母も「お気になさらず」とペコペコ何度もやりとりをした為更に話は進まなかった。
しかし、話が修学旅行の一件と、魔法世界に行った話に入った所でのどかがトレジャーハンターのクレイグ達とダンジョンに潜ったりしたことなどを話し始めるとのどかの両親の反応は一転した。
何だかファンタジーなお話を聞かされている気分になったのか、のどかの両親はすごく興味アリという様子で、特にのどかの母がワクワクしながら、もちろん娘の怪我については心配しながらも、真剣に聞いた。
それを葛葉は「ファンタジー好きの一家ですか……」と心の中でそう確信したのであった。
のどかが魔法生徒になる件についての話は、夕映と同じくのどかのはっきりとした自己主張の結果、宮崎家でも特に反対もなく、こちらも娘を応援する言葉を述べた。
葛葉が微妙に疲れた様子で、高畑と同じように宮崎一家に見送られて麻帆良へ帰った後、やはり特にのどかの母が目を輝かせて「ま、魔法見せてくれる?」とどちらが子供か分からない様子で娘に頼むということが始まった。
のどかは両親にじっと見られる中、少し恥ずかしながら、それでいて魔法を使う前には一呼吸して落ち着き「プラクテ・ビギナル・火よ灯れ」を実演して見せた。

「わー!!スゴいわ、のどか!魔法よ魔法!」

「のどかが魔法少女になるなんてなぁ……父さん何だかそれだけで感激しすぎて今日はもう興奮で眠れないかもしれないよ……」

のどかの母はハイテンションで拍手喝采し、のどかの父は何故か涙を流し始め、微妙な発言をし……綾瀬家とは全く違う反応であった。
続けて浮遊で小物を浮かせて見れば、またさらに盛り上がった。

「飛ぶという人類長年の夢がっ……現実にっ……」

「の、のどか、お母さん浮かせない?」

のどかの父は引き続き感動に浸り、のどかの母は期待するような目でのどかに尋ねた。

「そ……それはちょっと私はまだ無理で……でもアイシャさん達はできるんだよ。それに飛ぶのだったら箒、今日は持ってこなかったけどあれば」

のどかは少し残念そうに答え、箒があればという事を口走った。

「ちょっとテレビで見た箒みたいの買ってくる!のどか待っててね!」

「えっ!おかーさんっ!?」

全部言い終わる前にのどかの母は財布を持って一目散に部屋を飛び出して行ってしまい、ガレージにある自家用車に乗り込みかけた所でのどかが車の前で仁王立ちして立ちふさがり……なんとか止められた。
のどかは地球で売られている普通の箒ではダメだということをきちんと説明したが「デッキブラシでも頑張れば飛べないの?」と変なところでのどかの母は食い下がった。
「お母さん、それは映画の中の話!」とのどかは現実とフィクションの違いについて諭したのであったが、もう何が現実でファンタジーでフィクションなのかはのどかの母にとってはどれも似たようなものであったのかもしれない。
……そんな事をのどかは夕映に話し、夕映は「私の両親は結構冷めてたです」と少しむくれて言い、どっちが良いのかはともかく、何はともあれ、その夜2人の間では話に華が咲いたのだけは紛れもない事実であった。



[27113] 81話 人工流星
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:50
冬休みといえば、当然中学は学校の授業が行われない訳で、そうなると超鈴音達にとっては研究開発作業にここぞとばかりに打ち込める期間である。
そのため、工学部では人工衛星の必要部品の開発はもちろん、葉加瀬聡美が新たに考えつくロボットやジェット機構の構想・設計・開発プランも進み、相変わらず好き放題やっている。
一方、ここ最近加速度的に魔窟化が進行していく超鈴音の魔法球の中も歯止めがかかるという事はなかった。
精霊祈祷エンジン部品や障壁を展開する事が可能な軍用飛空艇にはほぼ必ず使われている魔法装甲は、バラされたり加工されたりして半永久魔力炉のパーツに当てられたり、超鈴音の本当に好きなように使用されている。
精霊祈祷エンジン自体も、品質向上の余地有りとして更なる改良を超鈴音は考えているということで、目先の一般普及向け技術にも取り組んでいる。
小型化を図れば、現状の飛行機は離陸する際に管制塔による指示で決められた旋回ルートを取らなくても、普通に必要な高度まで上昇する時は精霊祈祷エンジンを使用すればよく、その後ジェットエンジンで高速飛行、着陸の際には再び精霊祈祷エンジンを起動させてジェットエンジンを切れば騒音の軽減になると思われ……最終的には、飛行場の滑走路も現在ほど面積も要らなくなるのではないだろうか。
実際魔法世界で、精霊祈祷エンジンがゴゥンゴゥン音がするとは言え、都会の中でも飛空艇の発着所を普通に置けるのは、それでもかなり高性能な静音仕様であるからこそであり、これは地球でも近い将来充分ありえるだろう。
また、エヴァンジェリンお嬢さんが作成した魔分球は暫定的な加工法でのMOCを用い、それで表面を覆い魔分漏洩率の計測を実際にするなどして試行錯誤が重ねられている。
……因みに、私達はそれに協力しているのかというと、データ計測は主にサヨが随分前からやっているし……まあアーティファクトの演算能力強化のせいでそれすらも超鈴音は暗算でできるという事が往々にしてあったりもするのだが、後は魔分球に魔分を詰めるだけの作業と言った単純な時間短縮ぐらいになるような所での協力は普通にやっている。
……が、私達が素材に対する魔法的処理をやると、これからの社会で人々が自力で可能なレベルを遙かに越えてしまうので超鈴音の超オーバーテクノロジー化ドンと来い!というマッドな私的利用研究以外では、なんだかんだ寧ろ手伝うとよろしくないという事があり、そこそこにセーブする必要があったりする。
もう一つ、私達の重要な仕事と言えば、組織に魔法具を供給している問題の魔法使いを探す作業であるが、メガロメセンブリアに追われる身の西洋魔法使いに狙いを定めている今のところは順調で、合計16人をこの2ヶ月でゼクト殿の協力の元摘んだ。
もっとペースは上げられるだろうが、何事も急ぎすぎるというのは良くないので、ジワジワと術者を捕らえ、組織にしてみれば気がついたら魔法具を供給していた術者がポツポツ減っている……という状況になればという所だ。
もちろん、組織の構成員に魔法を教授しようと動いた魔法使いは見つけ次第早急に魔法協会に送っている。
問題は、土着系……例を挙げると東洋呪術系の術者だ。
元々裏社会だけあって……国によって伝統的裏組織自体の腐敗の度合いは異なるが、死蔵しているぐらいだったら転移符の一枚や二枚、人払いの呪符の一枚や二枚、売って金策を……という感じで裏から裏へと転売に転売を重ねられている事があり、そういう場合術者を摘んでも効果が無い。
しかし、魔法の存在が公表された以上、彼らもその国で今まで通りのスタンスから、なにがしかの方向転換を図る必要が……存亡をかけて、というと誇張表現のきらいがあるが、そういう事はあるであろうし、ある程度の自浄作用が働く事を期待したい。
さて、来る魔法学校設置に備え……まだ法案制定の動きも出ていない先行しての動きであるが、日本魔法協会と日本政府とで交渉した結果、利害の一致という面もあり、近衛門が非常に優秀でかつ人格的にもうってつけの人材を選定するという事で「宮崎のどかと綾瀬夕映の2人を予め魔法生徒に認定しておく」という話になったのだが、無事2人は両親の許可も取れ魔法生徒になった。
人格的にうってつけというのは……まあ、魔法に関わろうとし始めた当初の頃を思うとどうかとは思わなくもないが、今の2人であれば、きっと間違いはないであろう。
今回の件は水面下も水面下の事であり、日本魔法協会の人達でもまだ一部しか、宮崎のどかと綾瀬夕映が魔法生徒になったことを知らないが……一応2人が師事している設定になる先生は神多羅木先生になりそうだとか。
ネギ少年と魔法世界に行った3-Aの他の生徒は魔法生徒にならないのかというと、神楽坂明日菜は体質をバラすようなことはできないし、古菲は中国国籍であり、そこに遡ると魔法協会の管轄が違うので難しい……その前に相変わらずの修行好きが魔法の勉強をしたいと思っているかというと疑問しかなく、長瀬楓は日本の歴とした忍びの里、甲賀中忍である時点で魔法生徒に認定する必要も無い。
孫娘、春日美空、桜咲刹那は今更であり、龍宮神社のお嬢さんは若干特殊だが大差無い。
日本は麻帆良が他国と明らかに違うのは、イギリスのメルディアナ、アメリカのジョンソンのようにきちんとした魔法学校が存在せず、その後の師事制度しか存在しないという事であるが、ようやく魔法学校が設立されるのが現実味を帯びてきたと言えよう。
因みに春日美空と言えば、各国の魔法協会を飛び回って働いている母親から連絡があり「魔法世界行ったって学園から聞いたけど怪我無いの?あっち大変だったって資料で見たわよ」と尋ねられ「あー、私は大丈夫大丈夫」と答え「……はーい、ならいいわー。で、状況が変わったからあの約束無しね。意義は認めません。大体社会的にもー無理だから諦めて。その代わりウルスラ行かなくていいから。あとはシスターシャークティの言うことちゃんと聞いて、困った事あったらそれも相談すること。今忙しいから以上。春休みになったら休暇取ってそっち帰るから」と有無を言わさないしゃべりで娘を圧倒し「んー、うん?ってそんな!だったらせめて小切手返せ!」と春日美空は一瞬遅れてから反応したが「はいはいそれまた今度ー」と電話が切れたそうな。
「はー……はぁーっ!そんな事だろうと思ったよ……。まーみんなと高等部そのままあがって良いっていうのは悪くないけどさ」と髪をかきむしり、切れた電話にため息しながら受話器を戻していた。
……なんというか、この娘にしてこの母有り、という感じである。
その父親はというと、ここ日本政府で働いており、いわずもがな今非常に過労モードなのだが……多分そういう経緯で、春日美空は小さい頃から「魔法使いめんどくさー!」と思っていたのではないだろうか。
そんな面倒な事は嫌いな筈の本人はバリバリ働いている両親達よりも機密情報を知ってしまっているのを自覚している訳で……更に色々と微妙であろう。

ところで冬休みといえば、女子寮で恒例のクリスマス会があったのだが、今回3-Aは女子中等部としては最後という事で雪広あやかが、実家雪広邸に3-A全員と、それと、スプリングフィールド一家も招待して盛大に行われた。
間違いなく、狙いは後者だと言うのは言うまでもないだろう。
とりあえず、3-Aとしては、豪華タダ飯、ビンゴ大会やらカラオケ大会、その場のアホなノリでの突発企画など、やりたい放題騒げたので良かったと思われる。
隙を見ては雪広あやかがスプリングフィールド一家に、見た目は華麗に、内心必死にアピールをし、それに佐々木まき絵が特に深く考えず乱入し、神楽坂明日菜が見かねてそれに混ざりてんやわんやになった。
エヴァンジェリンお嬢さんは雪広義國さんと就職の関係もあって少し挨拶を交わし、超鈴音はもちろん、ナギも久し振りという事で同じく挨拶をしていた。
そして、そんなどんちゃん騒ぎの後、孫娘は宮崎のどかと綾瀬夕映が魔法生徒になる事を本人達から聞いて喜びつつも、ここ最近の2人を見て以前から思うところあったらしく、12月27日、メールを超鈴音に送り、「超りんに話がしたいんやけど、時間とれへんかな?」と連絡をして来た。
超鈴音はそれに対し「このかサンと明日菜サンの部屋に夜でよければ行くヨ」と返し、そう言うわけで、超鈴音はその夜、孫娘と神楽坂明日菜の寮室に顔を出した。

「遅くなたネ、このかサン。お邪魔するヨ、明日菜サン」

「ううん、気にせんでええよ、超りん。それより、うちから超りんの部屋行っても良かったのに」

「いらっしゃい、超さん」

「ははは、それには及ばないヨ」

……何と言っても見せられない物が多いから仕方ない。

「ほな、座って座って」

超鈴音は孫娘の勧めに従い、テーブルを挟んだ孫娘の向かい側の座布団に腰を下ろした。
神楽坂明日菜は少し離れた所で大きめのクッションを抱えて座っている。

「それで話がしたいという事だたネ?」

「うん……あのな、うち、将来はお医者さんになりたい思うんや。超りんは東洋医学研究会の会長もやっとるし、それで少し詳しいこと聞きたいな思て」

「……そういう事なら答えられる範囲で答えるヨ」

「ありがとな!それで、うち治癒魔法勉強しとるんやけど、医学の事は詳しいこと分からんのや。のどかやゆえ見とったらうちもこれから何やできることあるかな考えたら、やっぱ治癒魔法、お医者さんや。くーねるはんには良い治癒術師になれる言われとるんやけど、医療ドラマ見とると突然倒れた人が病院に搬送されて来て手術するとこあったりして、もしそういう時魔法は使えても患者はんがどういう症状なのか分からんと手遅れになるかもしれんし、勉強しないとあかんなって思うんや。怪我の治療の経験はあるけど、今までそれが殆どで、魔法薬みたいな薬の知識はまだまだで……」

話しているうちに孫娘は頭がこんがらがってきたらしい。
というか普通に魔法の事を超鈴音に言ってるのが何とも……まあ今までの事を思えば超鈴音が魔法を良く知らないと考える方がおかしいが。

「このかサンはどんな医者になりたいか考えはあるのかナ?」

「どんなお医者さんになりたい……うーん、何でも治せるお医者さんになりたいいうんは駄目なんかな?」

「ははは、大きく出たネ。駄目とは言わないヨ。どうせなら夢は大きい方がいいネ。それに今すぐに決める必要も無い。思うにこのかサンは医学を勉強したいがどこから手を付けたらいいのか分からないのかナ?」

「そう、それや!何から勉強したらええのか良く分からないんよ」

まさに、何が分からないのか分からない、といったような感じだ。
それに対し、ですよねー、という顔を神楽坂明日菜がした。

「中学3年で医学を勉強したいとなると分からないのも無理無いネ」

「でもその中学3年で超さんは会長やってるぐらい詳しいのよね……東洋医学研究会って大学の部なのに……」

確かに超鈴音が言えた義理ではない。

「お褒めに預かり光栄ネ。一つ言うなら、まずは英語、数学、生物、化学、物理の勉強を普通にすると良いヨ」

「ネギみたいなこと言うのね……ってネギに資料渡したのは超さんだったんだっけ……」

「やっぱりそうなるんかぁ。うちもネギ君の授業受けさせてもらおうかなー」

「ね……ネギに聞いてみてね……」

神楽坂明日菜は少し微妙そうだ。

「それは良いと思うヨ。それと、私は魔法についてもある程度の理解があるから敢えて言うが、このかサンなら今は是非東洋医学を学ぶと良いと思うネ」

ぶっちゃけたな……。
恐らく近衛の家的な意味で。

「そ、そうなん?」

多分ドラマ的なアレの方を勧められるかと思ったのだろう。

「このかサンは陰陽、五行、経絡と言った単語を聞いた事あるのではないカ?」

「ある、ある!それ勉強したえ!」

「それは東洋医学でも重要だから役に立つヨ。多分気を扱う時に学んだと思うが、経絡の経脈で言えば十二の正経、八の奇経、経別、絡脈で言えば主に十五絡脈とその他の絡脈、その中で更に細分化した孫絡、経筋。こういたものはこのかサンだからこそ今の日本で魔法の観点からも学ぶことができる筈ネ。西洋魔法でも東洋呪術でも大抵は怪我に対して即効性のある治癒魔法や魔法によて受ける石化のような状態異常の解呪などに目が行きがちだが、病気という日常で人々の身近にあるものは普段の健康、個人の自然治癒能力が大事だヨ。もちろん、実際魔法だからこそ、怪我を即効で治せる事は賞賛に値するネ。そして、医者になりたいのなら日本では医師免許を取らなければいけないのはこれからも当分変わらないだろうから、医学部に入って学ぶ時には必ずこのかサンがイメージしているような西洋医学を中心に学ぶことになるヨ」

「……ほうかー、うちが呪術協会で普通に勉強できるのはええ事なんか。しかもお医者さんになりたかったら医学部いって必要な勉強して資格取らなあかんのやもんね。……ほな、うち、今は東洋医学の勉強したいと思う。超りん、うち研究会入れるかな?」

「もちろん、このかサンが入りたいというなら歓迎するネ。生薬も数多く取りそろえているから魔法薬の知識と平行してそちらの方面でもきっと役に立つヨ」

「超りん、ありがと!」

これで孫娘も所属が増える。

「どういたしましてネ。ただ、もう少しだけ言うと、このかサンが医学部に入るのはきっと学園長は嫌がると思うヨ」

私も同意だ……。

「ん、なんで?」

本人は自覚無しらしい。

「医学部は6年制ネ」

「あー、曾孫の顔が見れないって嘆きそうね」

「はー、なんや、そう言うことかぁ。6年制いうことは……うん、卒業する時には24歳やね!」

孫娘は華麗にスルーした。

「に……24……何かリアルな数字ね……」

「20代の丁度半分ネ。しかも、魔法球で過ごし、魔法世界に行ていた人は……どうかナァ……?」

深く考えるようにつぶやいて言ったが、完全にわざとだな……。

「……あ……あ……」

「……うち……時間の流れ速い魔法球にはもう入りたくないえ……」

「え……エヴァンジェリンさんの言ってた意味が今頃身に染みて来たわ……」

ガタガタしているが……だから時間を速くする魔法球は、人間が使うのは私は嫌いだと……って直接言えはしないが。

「フフフ、冗談ネ。このかサン、次に東洋医学研究会に行く時は連絡するヨ。それと幾つか本も部屋にあるからまた持てくるネ」

時既に遅し、今更冗談ではもう済まないが。

「わ……わかったえ、ありがとな……超りん」

まだ動揺していた。
そんなことも気にせず超鈴音は2人の寮室を後にして、自室は魔法球へと戻ってアーティファクトを発動して作業に入ろうとした所。

《翠坊主、魔法球は怖いナ》

《ええ、怖いですね》

なんて白々しい会話。

《それにしても、皆、やりたいことがそれぞれ決まっていきますねー》

確かにサヨの言うとおり。

《そうだネ。ハカセも魔法総合研究所には入りたいと言ているが、私もできるだけ早くハカセと魔法工学の研究をしたいと思ているし、普通に入れるよう交渉はしてみるから多分大丈夫ネ。五月は料理人で店を持つのは前から決まているしナ》

《綾瀬夕映に宮崎のどか、そして孫娘、ですか。他は龍宮神社のお嬢さんが既によく働いていたりしますね》

《那波さんは保母さんですよ》

《朝倉サンは言うまでもなくジャーナリストだネ》

《彼女危ない情報を掴まないといいですが。あとは早乙女ハルナが漫画家、でしょうか》

《千雨サンも引く手あまただから問題ないナ》

《……こうしてみると、この先どうするのかはっきりしない人の方が少ないですね》

サヨも人のことを言えた義理ではないような気がしないでもないが。

《これから高校も3年あるネ》

……と、好き勝手人のことを言いつつ私達はまたそれぞれ作業に入った。
魔法医療の事自体を考えれば、義手や義足などの再生治療は地球にしてみれば喉から手が出るほど欲しい技術なのは確実であり、いずれは留学が行われるか、魔法世界から地球に技術者を招くという事になるだろう。
さて、孫娘はその後どうなったかというと、本当にネギ少年の授業に参加することになり、以前よりも呪術協会に通う回数が増え、それに従いまずは自分自身の身体で知ることからと桜咲刹那に気の扱いについても熱心に教わるようになり、超鈴音が勉強にと渡した本もきちんと読むという程のやる気を見せており、その後約束したとおり東洋医学研究会にも超鈴音と一緒についていった。
近衛門の孫娘ということで既に有名だったのか、超鈴音が連れてきたというのもあるだろうが、孫娘は歓迎された。
……そこで、言っていた通り保管されている生薬を見たり、東洋医学で主体となる診断法の四診についての解説を受けたりしながらも、所属メンバーに麻帆良大医学部医学科の学生が別にいても何ら不思議ではないのだが、実際普通にいた事に孫娘は驚いていた。
麻帆良の大学部の真面目な研究会、中学の同好会レベルような感覚で考えて侮る事なかれ。
医学部医学科は一学年定員100人程度であり、それが6学年なので麻帆良女子中等部一学年分と同じぐらいしか人数がいないので麻帆良の学生全体の数から見ると非常に希少である。
……と、同時にいかに超鈴音がどうかしているかが分かる。
3年前、超鈴音が東洋医学研究会にどう殴り込みをかけたかというと、最初に見学ですなどと言って下手に出て入り込む訳なく、堂々と研究会の教授に東洋医学の治療法について、従来とは比べものにならない統計的データを取ることが可能な非常に柔軟な分類法とその応用利用についての論文を提出して、当然隙のない説明もした上で、そう、やってしまったのだ。
東洋医学は個人の症状に応じて治療法を多彩に変化させていく為、その治療法の統計が取り辛く、研究が進み難いのであるが、その問題点を解消できる超鈴音がもたらした画期的方法は当時の研究会の人たちにとってどれほど驚きのものであったのかは想像に難くない。
その他にも超鈴音は、四診に分類されるうち、舌の色、舌を覆う苔状の舌苔と呼ばれる物を観察して診断・治療に役立てる舌診という方法において、その数百にも渡るパターンを全て把握しているというのを皮切りに他の面でもその特異性が一層引き立つのだから切りがなかった。
知識が未来からの産物とは言え、それを自分でも完璧に理解して運用できる麻帆良最強頭脳は流石という他ないだろう。

そうこうして年明けて地球歴1月3日、火星歴11月8日、アメリカの火星探査機スピリットが予定通り到着した。
……のだが、どうなったかというと……誠に残念なことに、大気圏で無惨にも燃え尽きた。
いや、当然アメリカがスピリットを設計した時の計算では火星の大気層は、私達がテラフォーミングを始める前の大気圧を想定しているわけで、当然今となっては火星は地球と同じ大気圧になっている為、摩擦が大きすぎて燃えるのも無理も無かった。
その日、魔法世界では数ヶ月前の夥しい流れ星とは全然違うが、一筋の燃え盛り輝く流れ星が見られたそうな。
打ち上げた当のアメリカとしては、以前から関係者各位は、予想はしていたのであるが、その成果が馬鹿高い流れ星一つのみとは実に酷い損失としか言いようがない。
それでも、到着直前には確かに火星が青い星になっていることを、実際に惑星間を飛んで直接確認した初の国家という点ではまだ慰められるだろうか。
魔法世界の存在が公表されていなかったら、素直に計算ミス扱いになったか、事故扱いになったか、撃ち落されたのか、きっと揉めたと思う。
しかしながら、地球歴1月24日、火星歴11月29日オポチュニティまで同じ運命を辿るであろうことが容易に想像できるだけあって、その虚しさと言ったら……。

さて、その火星は魔法世界へと目を移せば、神木・扶桑の近く……という程近くもないが、桃源で火星歴10月49日から開催されていた魔法世界神木会議にも一応の決着がようやく着いた。
2週間強を要した会議の結果、管理権に関しては体裁上桃源も含めた4ヶ国共同管理となり、優先調査権は独立学術都市国家アリアドネーが公正な情報公開を約束するという元で、得る事となった。
今回一番得し、これからも特をするのは桃源であるのは間違いない。
まず、アリアドネー、ヘラス帝国、そしてメガロメセンブリアの調査団が桃源を拠点に駐留するという時点で、それに関連してどうあっても金が落とされる。
アリアドネー、ヘラス帝国、メガロメセンブリア、どこも距離的には南半球から北半球の一番上と、距離的遠隔性があり、補給には桃源を利用しないわけにはいかないのだ。
桃源自体としては、神木・扶桑がどういう秘密があるのかについては興味が無いわけではないだろうが、調査が難航してくれた方が寧ろ好都合、そういう意味では神木・扶桑はまさに金のなる木であり、危険に晒されるという事は無いと期待したい所だ。
裏事情を見ればこの会議の中盤、神木・扶桑の情報についてはクルト総督が端末をリカード議員へと、そこから更にセラス総長へと渡す事ができた為、残念ながらテオドラ皇女殿下はいないが、私達以外に盗聴される事も無く、極秘通信会談が行われていたのだった。

《世界樹は確かに重要ですが、単刀直入に言いましょう。私は調査の必要性は殆ど無いと考えています》

《それは地球にあるものと同じだからという事?》

《それも一つの理由です。ほぼ間違いないのは、魔法世界が火星に出てきたのは地球の世界樹と魔法世界の世界樹が原因だという事ですが、そうだとしても、どうして世界樹にそんな事ができたのかを調べた所で何の役に立つのか、というのが私がそう考える別の理由です。今は環境変化への対応を優先する方が現実的です。ずさんな調査をして、魔法世界の世界樹はもっと環境の良い所に移した方がいいと勝手な結論を出して引き抜きでもすれば、この大地の重力が本来の火星のものになりかねない可能性も否定できない以上非常に危険です。他にも地球の世界樹が魔力溜りを形成しているというデータから魔力の生産そのものをしている可能性もあると考えれば尚更です。このような事態を引き起こした世界樹に、仮に何らかの意志があるのだとすれば、わざわざ極地に定着しているのは、人目につかないようにするため、要は放っておいて欲しいと言っているようなものだと私には思えるのですがどうでしょう?》

《ま、そう言われるとそうだな。俺としちゃ、別に世界樹はどうでも構わねぇ。ただ、俺が来ないと元老院のじじぃ連中の子飼いが出しゃばってくるから仕方ねぇ》

《環境変化への対応を優先すべきだというのは私も同意見よ。重力と魔力生産……世界樹が重要な事自体は変わらないけれど、確かに今急ぐ事でもないわね。それでも、学術都市国家のアリアドネーが動かないとヘラス帝国とメガロメセンブリアに今回は桃源も入れて揉める事になるだけでしょう。……結局総督はアリアドネーが調査の主導権を握る形で、その調査は程々にして欲しいと言いたいのかしら?旧世界の彼らが持っていたこの端末を渡してきたという事はこれから他にも話す必要のあることがあるのではない?その方がこちらとしても好都合だけれど》

《流石はセラス総長、その通りです。魔法世界全体で世界樹の調査にかける負担を最も少なく済ますにはアリアドネーに率先して動いてもらうしかありません。この端末の通信ですがご存じの通り、盗聴は現状では不可能ですから、いつでも集まらずにこうして触れているだけで会議ができるのは非常に便利でしょう。私から端末を依頼しましたが、タカミチによればこの端末の制作者は今魔法世界全体が抱えている環境変化の問題に協力する積極的な意志があるそうで、現在は太陽光不足を緩和するための人工衛星を開発しているという話は既にこちらにも伝わってきています。まだゲートを自由に行き来できる状況ではありませんから先の話になりますが、今回のような権利争いになった際に、対応が取りやすいでしょう》

《ええ、分かったわ。そういう事なら今回はこちらから積極的にこの会談、調査権を取るよう動きましょう。話はわかるけど、この端末の制作者、本当にこうなることを分かっていたようなタイミングの良さね》

それはもう犯行グループの一味ですから。

《全くだな。それでも、凄ぇ技術持ってて、魔法世界に協力するってんだから歓迎だろ》

《真偽の程は本人にいずれ会う機会があればその時に聞くしかありませんね》

《それもそうね。……話を戻すけれど、リカード、これから後数日適当にメガロメセンブリアを主張するのは頼むわよ》

《任せとけ。いきなり、はい、纏まりましたじゃ、済まねぇしな。だがまー芝居すんのも面倒だな》

《全体にとってはプラスだと確信はあるけれど、裏を合わせているのを感づかれる訳にはいかないわ》

《ま、今までも散々やってきたんだし、いつも通りだ》

《そう言うことね》

《セラス総長、冬場になった時の食糧問題など話し合いたい事はありますが、テオドラ皇女殿下に端末を送って貰ってからで宜しいですか?》

《ええ、それでいいわ。アリアドネーは魔法球の農業利用に動いている所だけれど、テオドラ皇女がいないとヘラスの動きが分からない。リカードから受け取った端末は必ず届くようにするわ》

《では、お願いします》

《よし、そんじゃ、また何かあったら連絡しろや。ってかクルト、お前働きすぎて倒れんなよ?》

《ご心配なく。未だにこの状態をまともに見ようともせず自己保身を臭わせるような発言ばかりしている元老院の年寄り共はこの際、距離を可能な限り引き離してしまった方が後々楽になります》

《はっ、それもそうだ。若いのが粗方お前側に付いたのは爽快だったもんな》

《さすがにどちらがまともな主張をしているかその程度の判断もできない人間の集まりであればメガロメセンブリアはいっそないほうが良いですよ》

《……相変わらずドロドロしてるようね》

《泥だけ掃きだせりゃいいんだけどよ。悪魔召還を立証できりゃ良いが、映像は意味ねぇし、そういうとこだけは上手くてうぜぇもんな》

《そういう物悪魔側に記録は残ってないのかしらね》

《……なるほど、それは調べてみる価値はありそうですね》

《は?どうやって?》

《恐らく高位の魔族に例の時に会ったという話はしたと思いますが、その妹が地球にいるそうです》

《聞いてみるという訳ね》

《……望みは薄いですが、可能性はゼロではないでしょう》

《はー、やれるこた何でもやってみりゃいいぜ》

《良い結果を期待させてもらうわ》

《ええ、となるとまたあちらに連絡をつける所からですが、やってみます》

……と、こういうやりとりがあった。
超鈴音の情報については予定通りという所で、問題は果たして魔界に悪魔召還の記録など残っているのかどうかだが、ザジ・レイニーデイに実際に聞いてみないことにはわからないし、そもそもただでさえ石化解除をしたというのにこれ以上協力してくれるかも定かではないだろう。
しかし、クルト総督とリカード議員は他にも、未だ決定的とはいえないが、追及材料になりそうな事件にいくつか目星はあるようなので、元老院問題も意外とそう遠くないうちに何らかの結果が出るかもしれない。



[27113] 82話 日々刻々
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:27
2005年1月8日、始業式も普通に執り行われ、とうとう麻帆良女子中等部3年A組最後の3学期が始まりました。
ネギ先生が担任でなくなってから、もうこれで5ヶ月目ですが、仕方ない事です。
ついこの前、近衛さんが第1回魔法生徒の会というものを部屋で開催していたのですが、やっていたのは綾瀬さんと宮崎さんの魔法生徒入りをお祝いする……おめでたいことなのかはちょっと微妙な気がしますが、それが内容でした。
美空さんも呼ばれていた為、その場でその話を聞いた時は「マジ?」と初めて聞いたよと驚いていました。
……鈴音さん、葉加瀬さん、私はどうかというと、当然魔法生徒ではありません。
そもそも、私たちは魔法生徒になる前に……私はともかく、鈴音さんと葉加瀬さんは魔法総合研究所に科学者として……鈴音さんは少し方法を考えた方がよさそうですが、入る筈なので必要ありません。
入る時の交渉材料としては人工衛星の件で既に十分すぎるのでそれも問題ないです。
私はというと……科学者でも無いですが、日の目の当たりすぎる所に出るのは問題があるので、魔法生徒入りもしないですし、魔総研にも入らないです。
それに、五月さんと超包子で美味しい料理を届ける、というのも重要な事だと思います。
来月で丁度一年になりますが、超包子はアメリカ西海岸を徐々に制圧して行った結果、東海岸、ニューヨークにも店が飛び火し、店舗数は30を越えました。
実際SNSを構築しただけあり、アメリカの広告バナーにはそこかしこに超包子の宣伝がされているのを見る事ができるので効果ありました、凄く。
問題は材料の購買先と輸送ルートだったのですが……流石は雪広グループ、全然平気でした。
日本国内も空港店舗から近場にもポツポツ店が出始めているので、その地域ではもうお馴染みになりつつあります。
ネット販売もやっているので、注文すれば日本各地で買えるのですが、やっぱり直に店で買うという方が売れ行きとしては良い感じです。
そうはいっても、一度食べた事があって、肉まんが好きな人にとっては忘れられない味なので、そういう人達はインターネットでリピーターと化しています。
また、大口の注文にも対応できるので、何かの集まりに超包子の肉まんを、という事もあるようで嬉しい限りです。
何となく鈴音さんはネギ先生の故郷のイギリスにも進出してみたいようなのですが、この際ヨーローッパ大陸を征服しに行く勢いで良いと思います。
そこまで今手が回らないというのが現状なのですが……。
雪広グループ超包子企画室メンバーの西川さん達の中にはちらほら結婚する人達も出始めていますが、特に退職したりということは無いです。
何といっても、雪広グループのそのあたりのサポートは充実しているので、女性でも安心して働けるんです。
次の雪広家当主が委員長さんのお姉さんであり、既に経営に参加しているのでこれからもそれは変わらないでしょう。
ところで、ネギ先生の家の建築計画が進み、建てたいと話していた通り、エヴァンジェリンさんの家の隣に同じくログハウス調の家を建てるということが決定したそうです。
麻帆良の建設業者が行うので数ヶ月以内には完成する予定とのこと。
建設といえば更に、麻帆良地下にあるゲートも、隠すには良かったのでしょうが、これから頻繁に使うには不便すぎるので、6つある魔分溜りの1つに移す計画がでています。
もちろん時間がかかる作業になるので当分は見送りですが、そのうち日本のゲートも魔法世界のように、ドーム型の建物に受け付けの人達がいたりする空港のような感じになる日も近いと思います。

……そして、地球歴1月24日、火星歴11月29日、やっぱりまた、火星探査機オポチュニティが流れ星になりました。
地球の先端科学技術を詰め込んでいるのですが、本当に呆気ないです。
その火星探査機が落ちた魔法世界はというと、突貫工事で神木の周辺に観測基地が建てられ始め、地球では見ない魔法的研究機材が沢山見られるようになりました。
寒いのに大変です。
食料や必要物資の輸送には龍山山脈を隔てていて、更には天候の影響も受けやすいので飛空艇でルートを繋ぐだけでもかなり苛酷な作業なのですが、皆さん頑張ってます
私達的には全然頑張ってほしいとはこれっぽっちも思いませんけど。
それよりも、重要なのは鈴音さんと裏でやりとりしているクルト総督……何だかこういう言い方はサスペンスな感じがしますが、それは置いといて、そのクルト総督とアリアドネーのセラス総長、ヘラス帝国のテオドラ皇女様の3人で3ヶ国秘密通信が行われた事です。
主に話し合われたのはやっぱり食料関係で、今どこもそれを見越したかのように魔法球の値段が前から高かった筈が更に価格が高騰しているらしく、大変だそうです。
だそうです、というには、まほネットのオークションでやりとりされているのを見ると落札価格が市価の5倍は普通、それ以上でも仕方がないという感じになってるは分かっていたので、今更ですね。
結構な割合で別荘らしい別荘利用から農業利用へとシフトし始めていて、南半球が冬になるのに備えて、人々も長期保存可能な食料の買い占めに動いているようで、少なからず混乱も起きているようです。
北半球はというとテンペテルラやケフィッススは砂漠が多く、元々人口も少なく、食べ物は港町で揚がる魚介類が主流、それに加えて個人飛空艇持ちの運送屋さんがここぞとばかりに依頼を受けてはあちこちに配達という事を行っているので、飛空艇のルートが確立している所では問題はそこまでではありません。
安定した飛空艇ルートが確立していない場所というと、例えばシルチス亜大陸は昔から紛争が耐えないという記録があります。
そういう所は、今はまだ食料は大丈夫ですが、そのうち略奪等も前よりも悪化して、より状況が悪くなるという事も残念ながら起こり得るかもしれません。
私達の行った火星、魔法世界同調計画はその火星に住む人達にとっては決して良いものだったと言えないと思います。
もう一度考えると、神木を魔法世界にゲートを通して植樹という方法が魔法世界にとっては一番良かったのかもしれませんが、そうした場合、延々と地球から魔法世界へと魔分を転送して世界を維持する事が私達の役目になり、本来の神木の存在理由の「とにかく魔分を生産し続け、魔法を世界に残す事」とは完全にはマッチしないので、許して下さいとは言いませんが、頑張って下さいとしか私達からは言いようがないです。
3人……3ヶ国での話は、クルト総督が急遽ツテのある技術者に食料の高速生産を可能にする方法の考案を依頼した結果、リン・フェルミという要するに鈴音さんから、そのプランを提供されたという事を話題に出し、養液と特殊培地を魔法的処理で大部分を代替した生成法で生産して、環境循環魔法を併用して実現するという事を説明してくれました。
現在試行錯誤の段階という感じでクルト総督は話していましたが、実際鈴音さんの提供プランを実現するには最初は試行錯誤にしかならないので間違いでは無いです。
丁度技術運用を実行する企業の選定も順次進んでいるところなので、直に具体的な動きが出る事でしょう。
この時何が重要かというと、リカードさんがいないという事でした。
セラス総長もテオドラ皇女様もメガロメセンブリアの内部事情を詳しく知る術も無く、リン・フェルミが誰なのかという事についてはクルト総督の後援者か、子飼いの研究者かと思った筈です。
少なくともクルト総督から提案してきたのが、具体的な食糧問題の緩和策であった事にセラス総長とテオドラ皇女様は特にやましい事、裏、罠があるという事も無いと捉えてくれたようでした。
やましいさ、裏、罠……罠は無いですけど、やましさと裏というとなんだか否定はできかねないような気がします……。
ややこしいですね。
結局、その時は植物工場のプランの大まかな説明をクルト総督が2人にして、それをアリアドネーやヘラス帝国の研究機関にも提案してはどうですか、という、プレゼンテーションのような形になっていたような気がします。
興味を持つ研究部署があれば、その技術供与も積極的にする意志がある、という事で営業活動は終わりました。
セラス総長もテオドラ皇女様も良い方法があるなら、目は通したいという事で詳しい資料を送って欲しいという事をクルト総督に言いました。
そしてその後、クルト総督はまほネット利用の送信ではなく、回線と接続していない記録媒体にそれなりに詳しい資料をインストールしたものを厳重な管理を徹底の上、アリアドネーに送り、そこから更にヘラス帝国に送るという形で2ヶ国にもリン・フェルミもとい鈴音式食糧事情緩和計画は伝わったのでした。

……更に、1月の末もあっと言う間に過ぎ、カレンダーも2月へと突入しました。
2月と言えば何かというと、中・高・大の受験シーズンです。
麻帆良の受験はというと、麻帆良中等部で言えば、2月の第一週ではなくそこから外れた週末に例年あっさり済ませてしまうので、私達の授業が休みにはなりもせず、在学生にはかなり無縁な筈なのですが、今年は恐ろしく受験者数が多く、受験申し込み者数が例年の数倍に膨れ上がっていた事で変化が起こりました。
2月平日の授業が数日はじけ飛び、各小・中・高校は同時に休校となるに至ったんです。
例えば麻帆良女子中等部1学年の700人超、実際には留学生枠とか色々あったりしてそれより少ないのですが、中学受験なのに倍率が10倍を越え、大学受験も真っ青な感じになり、女子中等部の校舎だけでは受験者を収容しきれず、麻帆良女子高等部の校舎も使い、更には麻帆良大学の教室も一部利用するという体制で試験が行われました。
当然高校もその逆が起きるので、校舎の融通のしあいで、本当に、休みが多発しました。
私達はそれを喜ぶべきだったのかというと、余りの混雑で、部活や同好会、研究会の活動はモノによりますが、ほぼ大多数が活動制限を受け、そもそも本来は授業をする筈でしたから、寮で待機、自習に励むべし、と通達が出たのでした。
まあそうは言っても女子寮のロビーでみんな騒いでたりしてましたけど。
中学受験には基本的にマークシートというものはなく、筆記が当たり前なのですが……その為先生達が手作業で行わなければならない採点用紙が山というより山脈という有様を呈してしまい、例えばただでさえ他の仕事で忙しい瀬流彦先生は「合格発表まで生きてられるかな……」と作業に取りかかる前から真っ白に燃え尽きていました。
今まで学校間はそれほど結びつきが強くはなかったのですが、今年度の受験シーズンを終えた後、麻帆良大系列、麻帆良芸大系列、麻帆良工科大系列、麻帆良国際大系列、聖ウルスラ系列……等々と学校間の垣根を越えて先生達の間に強い連帯感が誕生したのは……多分良いことだったのだと思います。
受験願書を先着で何名まで受け付けますという事にすれば苦労はしなかったのかもしれませんが、1人頭の受験料を考えてみましょう。
中学・高校受験の相場が2~3万、大学が3~4万です。
麻帆良女子中等部だけでも1億数千万を記録し、鈴音さん効果で超絶人気の麻帆良大工学部は1学部だけで10億に達しました。
……つまり、麻帆良は凄く潤ったという事です。
正直、数億止まりの麻帆良祭の比ではないです。
死線を乗り越えて頑張った先生達にはボーナスが出るのは間違いないでしょう。
他人事のような話のようですが、実際私達にもジワジワと関係してきます。
というのも、今回の一件は麻帆良女子高等部に高校受験で入ってくる同じく700人超の人達が全員例年より学力が高いという事を意味し、麻帆良女子中等部で勉強にあまり真面目に取り組んで来なかった場合、最初の中間テストでもの凄く順位が落ちて「!?」を連発すると思います。
しかも、いくら大学までエスカレーター式とはいえ、高校3年で選択できる志望学部は、高校3年間を通しての成績によって左右され、それが非常に重要なので、スタートから憂き目を見ることになりかねないのです。
……まあ、トップ4の鈴音さん、葉加瀬さん、私、委員長さんは抜かりないですよ。
近衛さんが行くかもしれない麻帆良大医学部医学科はそれこそ1つの高校当たり、1人ないし、2人までしか枠が無いのではっきり言って近衛さんが成績上位とは言っても推薦を取るのは相当にキツイと思います。
桜咲さんが一緒にお供したいと思っていても……外部受験という方法を取るにしても……こればかりは今までの成績を鑑みるに残念ながら難しすぎるのではないでしょうか。
ですが、桜咲さんも魔法生徒なので魔法学校の生徒になる可能性が近衛さんの護衛という意味でもほぼ確定なのですが、もしかしたら特例か何かは……起こり得るかもしれません。
もちろん、そのときになってみないとわかりませんけど。
魔法生徒といえば、明石さんはまだですが、明石教授の娘さんなので確実に魔法生徒入りして、魔法学校に入学する事になると思います。
……話がそれましたが、受験は受験であり、私達の中間テストが無くなる事はなく、テスト範囲が微妙に狭くはなりましたが、きちんと行われました。
麻帆良の小・中・高は繰り返しますが附属校なので女子中等部であれば中学卒業式を盛大に行い、長めの春休みというものは私達には存在しません。
3月の中旬まで普通に授業は行われ、19日の終業式で一応卒業証明書を渡されて終わりという事になります。
……そんな3月初頭、工学部で作業する事もできず、学校も無かった数日を経て、とうとう鈴音さんがMOCの加工法を確立しました。
その成果もエヴァンジェリンさんが作成してくれる魔分球と組み合わせて凄い事になりました。
通常透明な球体であるところ、今回の物は淡い桃色をした球体になりました。

「いやー、時間があるというのは良いことだネ」

「時は金なり、ですね」

《この魔分球、魔分漏洩率が0、01%とは、別の素材……水晶球自体と組み合わせていてこれですから驚異的な性能ですよ》

「うむ、私もかなりテンション上がて来たヨ。MOCそのものを水晶球の素材に使い、その上からコーティングをかければ魔分漏洩率0%も夢ではないナ」

「えっと、この魔分球はどうするんですか?まだ幾つかありますけど」

「半永久魔力炉の加速反応実験に普通に使えるネ。3基、5基と連結して中心に半永久魔力炉と接続、加速反応させてどれくらい出力が出るか試したい」

《超鈴音、そうしたら次は発電ですか?》

「ああ、その通りネ。茶々丸にも搭載している発電機構を使うつもりだヨ。超長距離航行用の宇宙船に使える夢の動力の完成も見えてきたナ」

半永久魔力炉が完成、小型化できたら茶々丸さんは完全自律稼働も行けるようになりそうですね。

《いよいよオーバーテクノロジー化もここに極まる、という感じがしますね》

「できたら世間に出せるんですか?」

「無理だヨ!魔力炉は普及させても良いが、段階を踏んで水準を上げていかないと発電機構は厳しい」

《この際、小惑星地帯に極秘コロニーでも作ればそういう事を気にしなくても研究できそうに思えますよ》

「ふむ、田中サン達を量産すればできなくは無いカ。モノに寄るが小惑星規模の重力発生なら電力で実現できるしネ。夢が広がて来たナ!」

《おぉ……冗談のつもりだったんですが、できるんですか》

「この私を誰だと思ているネ?」

鈴音さん自信有りみたいです。

《……ええ、重々承知しております》

「わー、そのうち宇宙要塞も鈴音さんなら作れそうな気がしてきました!」

《サヨそれは流石に……》

「うーむ、優曇華をコアユニットにして、適当に惑星の衛星を一つを乗っ取て、推進ユニットでも取り付けて改造しつくせばできそうだナ」

月を本当に盗んじゃうみたいな感じですか。

《どこのデス・スーパースターですか》

「アレ、弱点はちゃんと克服しておかないといけないですよね」

「安心するネ。サヨ、抜かりはしないヨ。まあその前に優曇華の改造も取り組んでいないし、やりたい事は山ほどあるナ」

《とにかく、まずはMOCがひとまずですね》

「そうだネ。半永久魔力炉も初期型モデルが来月にはできそうだから、もう一頑張りだヨ」

「はい!」

……それから、鈴音さんは、普段での活動は順調に、魔法球内では専ら半永久魔力炉の開発に力を入れるようになりました。
因みに、魔法世界に行く度にいつも一緒に採取ツアーに出かけては色々入手しているので、優曇華のアーチ内はこの5ヶ月目に入った今月現在ではかなりの植物宝庫になっていて、保全計画もきちんと並行して実行中です。
とはいっても、今は時間がないのでアーチ内時間を凍結することで保存する方法を取っていて、世話はしていなかったりします。
実際余りにも植物の種類がバラバラなので、仕方ないです。

……やや早足ですが、3月も刻々と日々過ぎていき、期末テストもこなし、3月19日、とうとう終業式……私達にとっては卒業式を迎えました。
この3-Aがそのまま女子高等部に3-Aのまま上がるということはありえないので、朝のHRではいつも騒がしい皆はこの日ばかりは落ち着いていました。
そのまま校庭に整列し、終業式としての流れが終わった後、卒業式へと移行し、国家斉唱の後、学園長先生の式辞となりました。
まだ始まったばかりなのに感極まって泣き始めた人達もいました。
卒業証書授与が完全に省かれている時点で盛大に行われはしないのですが、来賓祝辞、来賓紹介、祝電祝詞披露と関係者各位の方々の話もされ、委員長さんが卒業生代表として答辞をする前に……そういえばイベントがありました。

[[優等賞、授与]]

そうです、優等賞授与がありました。
因みにマイクで話しているのは新田先生です。

[[3-A組19番、超鈴音!]]

「はい!」

はい、当然です。
盛大な拍手が巻き起こり、先生達も拍手喝采です。
鈴音さんは壇上へと向かいます。

[[3-A組1番、相坂さよ!]]

あははー。

「はい!」

因みに葉加瀬さんじゃないのは体育の差です。
こうしてみると、2年目と3年目は特待生だったので1年目以外は授業料無料だったんですが、結局の所、私には殆ど意味はないです。

[[3-A組24番、葉加瀬聡美!]]

「はい!」

葉加瀬さんは体育だけはアレですけど、それ以外の教科は全て評定評価3年間マックスなので、委員長さんが食い込んできたりはしません。
超鈴音部屋が3年間通算18回1、2、3位を総なめにしたのはやっぱり前々から言われてましたが、学園始まって以来の快挙だそうです。

[[3-A組29番、雪広あやか!]]

「はいっ!」

更に一クラスで4位まで固めるのも学園以下略だそうです。

[[3-F組31番、渡瀬優子!]]

「はい!」

5人で壇上に並び、一人ずつ順に賞状を学園長先生からきちんとした手順を踏んで受け取り、関係者各位の方々にも一礼をしました。
鈴音さんと学園長先生は普通にやりとりし、特に含むような素振りも一切ありませんでした。
……そして私達は再び壇上から降りて元の場所に戻りました。
今度こそ、委員長さんが卒業生答辞をする為、再び壇上に上がっていきました。

[[卒業生代表、3-A組29番、雪広あやか。私達はこの……]]

しばらくの間、委員長さん渾身の言葉が述べられました。
……式も最後に差し掛かり式歌・校歌斉唱と皆泣きながら歌いました。
そして最後に、閉式の辞で締めくくられ、私達はそれぞれ各教室へと戻っていきました。
しずな先生がクラスメイト分の卒業証書を携え、クラスで全員分の授与を行い3-A最後のHRが行われました。
鳴滝姉妹が盛大に泣いているのが印象的でした……が、HRが終わった途端。

「さーさ、皆!写真撮りまくるよー!!並んで並んでー!!」

と、朝倉さんの切り出しで、あっという間に記念写真モードに移り、皆それぞれ持っているデジカメや携帯のカメラで写真を撮りあい、泣いた跡を目に残しながらも爽やかな笑顔をしていました。
そして、卒業の打ち上げはもちろん、超包子ですることになり、五月さんと私の常駐店を体育祭の時と同じように貸し切りでやりました。

「これで皆とはクラス変わっちゃうんだなー。さびしー!」

「んでも、高校の女子寮でまた幾らでも会えるよ?」

「それ言ったらおしましだよ」

チア三人組、柿崎さん、椎名さん、釘宮さんが言っているとおり結局会おうと思えば、女子寮で部屋に訪ねにいけば幾らでも会おうと思えば会えるんですよね。
部屋が知らない相手になる可能性はあるかもしれないですが。

「私達は高校も同じ寮室ですよねー」

「そうだネ。それぐらいの都合は付くヨ」

そうでないと凄く困りますしね。

「ちょっとだけ引っ越し面倒ですけど」

「こういう時の田中さん達ですよ」

「あはは、やっぱりー」

葉加瀬さんの言うとおり、結局は私達が運ぶ事は無いですね、正直。
女子高等部もクラス編成が3年間持ち上がりなのは中等部と同じなので、1度決まったらそれまで、できるだけ皆せめて近場のクラスにばらけるぐらいで済むと良いと思います。

「皆さん、ご卒業おめでとうございます!」

そんな中1人現れたのはネギ先生。
今日が卒業式というのを知っていたので、ちゃんと来てくれました。

「あ、ネギくーん!!」  「ネギ!」  「まあ、ネギ先生!!」

「ネギ坊主!」  「ネギ先生!」  「ネギ君!」

相変わらず佐々木さんと委員長さんの反応は早く、神楽坂さんが声を上げた段階で既にダッシュで接近し終わっているのは……愛のなせるわざなんでしょうか。
あっと言う間にもみくちゃにされ、再び写真大会へと移行、ネギ先生は夜遅くまで続く騒ぎにずっとつき合ってくれました。
しかも、ちゃんと1人1人に言葉を直接言いに来てくれる律儀さでした。

「相坂さん、ご卒業おめでとうございます!」

「はい、ありがとうございます、ネギ先生」

「最後まで担任勤められなくてすいません。相坂さんには麻帆良に来てすぐの夏休みの頃からずっとお世話になってて……それで、これからは力になれる事があったら是非言ってください。必ず協力します」

「ネギ先生と一緒にあちこち回ったのは楽しかったですから気にしないで下さい。もうしばらくしたら……ネギ先生が皆の力になると思うので、その時はお願いしますね」

「……はい、任せて下さい」

近い未来の事ですが、ネギ先生はちゃんと分かってくれています。

「こちらこそ、何か凄く困った時は遠慮せず相談して下さいね」

「ありがとうございます、相坂さん」

私はこう……ネギ先生とやりとりをしました。
ネギ先生なら多少の困難でも必ず乗り越えるので、早々私達の力が必要という事はなさそうですが、寧ろ鈴音さん経由での私達からの依頼ばかりがこれから増えて行く事になりそうです。
結局、この日は夜遅くまで私達は騒ぎ、お酒を飲んでもいないのにつぶれた人もいて、微妙に屍累々になりました。
ですが、その翌日は私達にとって非常に重要な日で、朝から女子寮の掲示板はものすごい人だかりができていました。
……何かというと、高校女子寮の部屋割りの発表と、同時にもうクラスも分かるという、間違いなく重大事項です。
高校の女子寮は既に卒業式が2週間近く前に終わっていて、女子高等部3年生は皆寮室から出終わっているので、受け入れ準備は完璧で、逆に私達もここを新しい女子中等部の入学生に明け渡す必要があるので素早く移動しないといけません。
わざわざ人だかりに突っ込まなくても、私はいつも通り観測で普通に把握しました。
結果、予定通り鈴音さん、葉加瀬さん、私の3人はまた同じ部屋、クラスは1-1に振り分けられました。
他には、近衛さんと桜咲さんの2人部屋、1-1。
神楽坂さんと美空さんの2人部屋、1-1。
綾瀬さんと宮崎さんの2人部屋、1-1。
楓さんと龍宮さんの2人部屋、1-1。
明石さんとくーふぇさんの2人部屋、1-1。
茶々丸さんも1-1です。
結局3-Aクラスの14人がそのまま持ち上がりで同じクラスになるという事態が起こりました。
女子高等部は1学年42クラス、各35名という……とんでもないマンモス高です。
ウルスラはここまで大きくないのでクラスもアルファベット形式なのですが……。
因みに、長谷川さんは早乙女さんとの2人部屋、1-2。
五月さんとザジさんの2人部屋、1-2。
……と、その他にも結構1-2には3-A出身者が多く在籍しています。
そんな中朝倉さんが1-26と大分遠くに飛ばされたのは確実に意図的だと思います。
見てわかる通り、完璧に1-1は魔法総合研究所と日本魔法学校を想定した構えになっています。
……階段やエレベーターが混み始める前に私達3人はいち早く引っ越し作業に入り、ほぼ最速で引っ越しを済ませました。
何といっても、面倒だったので殆ど魔法球に細かい機材も荷物も全て詰め、引っ越し用のボール箱の中にそれを入れて田中さんに運んでもらい、後を追いかけるだけと、移動だけは本当に楽でした。
ただ、その後特殊な改造をしてある馴染みの女子寮のセキュリティで過剰な物を全部処理し、私達の元の寮室の回線系を一般的な水準に戻すというのが厄介でした。
残しておくわけにもいかないのでやるしかなかったのですが、改めて、勝手に寮の部屋改造ってアリだったのか、と凄く微妙です。
部屋割りがわかった他の皆はというと、近衛さんはとても上機嫌、美空さんはやれやれという表情をして「あー、そゆことー。じゃ、アスナ3年間よろしくー」と一瞬で事情を理解して神楽坂さんに話しかけ、綾瀬さんと宮崎さんはホッとしたような感じ、楓さんと龍宮さんは暗黙の了解という雰囲気でした。

さて、これで3-Aも流れで終わり……みたいになりそうか、と思いきや、改めて委員長さんの発案で、雪広家保有の南の島にて2泊3日の打ち上げ旅行をしようと言うことで、全員を招待してくれました。
雪広家私有のエアポートから、エージェントの皆さんの厳重な護衛の元、情報も漏れていない為組織にも動きが無く、私達は安心して空を飛んで行く事になったのです。



[27113] 83話 枕投大会
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:28
ちょい久々の空の旅。
いいんちょの家の飛行機乗るのはこれで3回目か。
しかも今回は飛行場も雪広の私有だったしスゲー。
3-Aが終わりとか正直あんま実感無いスけど、私としては元々ウルスラ行く筈だったし、女子高等部にそのまま上がれただけいいスよ。
部屋がアスナと同じで、他関係者が全部揃ってるのは作為的なのはすぐわかったけどさ。
そんで今丁度飛行機の中で、アスナの隣。

「アスナ、このかと部屋分かれた事についてはどうよ?」

「え?うーん、ちょっと寂しいけど、今度は美空ちゃんが一緒じゃない」

微妙に恥ずかしい事言うな。
だけど重大な事気づいて無いな。

「ほほう、そんな気にしてないのね」

「それはクラスも同じで部屋もすぐ隣だし、このかは刹那さんと一緒の部屋で嬉しそうだから良いでしょ」

「いいかアスナ」

「なによ、いきなり」

「……私達のご飯は誰が作ってくれるんだ?」

死活問題なんだよ!
アスナはこのかが殆ど料理してて、私は五月に餌付けされてた。
しかも魔法世界でネギ君達の修行中に料理スキルを磨いたアスナは偽物だった。
確かに、アスナはサバイバル技術は高いけど、寮の部屋で、川魚を取ったりとか、山菜を集めたりとかそういうのは必要じゃない。
……ここからわかるのは、炊事能力の欠如!
五月の部屋結構遠いよ……。
夕飯は食堂でアリだけど、朝は自炊って決まってるのが、つらい。
多分このまま行くと超絶手抜き料理、毎日同じメニューとか、死ねる。
つか今まで毎日素敵すぎる朝御飯食べてたから一般水準以下の食生活に主に私が耐えられない。
しかも基本普通からしてみたら結構な頻度でかなり美味い料理食べてるから舌だけが無駄に肥えてて……。

「……えっと……私達で作る……の?」

疑問系で返すなー。

「……ですよねー。そこでだよ、アスナ。……アスナは練習すると料理上手くなる。実際に見た私が保証する。だから頑張って!」

「ええ!?美空ちゃんは?」

「私は本気出すの大変だからパス?」

「ちょっと何いってんのよー!」

あ、怒った。
ま、わざとスけどね!
ぐえっ、揺するな。

「アアースーナナナ」

「……ふつうにしゃべって良いわよ」

「……は。アスナ……ここは手っとり早くこの春休み中に五月に料理習うか。どうせなら美味い方が良いし」

習うなら先生は良いに限る。

「いままで同じ部屋だったくせに今更!?」

「いやー、優しい環境だとさ、ついね。HAHAHA!」

「HAHAHA!じゃないわよ。……はー、わかった。でもさっちゃんに習うなんてどうするのよ?超包子で習う訳にもいかないでしょ」

「お料理研にお邪魔すれば大丈夫大丈夫。初心者には優しいって話だし」

「たしかに、そう聞いた事あるわね」

「目標はできるだけ作れるメニューを増やす事スよ。毎日同じとか私が飽きて死ぬから」

「贅沢な悩みねー」

「幸せの化身と生活してたらそうなるって!私そんなに悪く無いから!」

「悪いと思ってる自覚はあるのね……」

「いやーまぁね。アハハハー」

……という感じで、私達は料理を春休みで覚える事を決意した。
で、ちょい小さめの声で聞いた。

「アスナ、ネギ君はどうしてんの?この春休みとか」

魔法生徒の会とか活動内容意味不明な場で聞いたけど、あれか、のどかとゆえ吉達はどんだけネギ君好きなんスか。
隣のアスナも怪しいし、モテる男の子は大変スねー。

「また旅行行こうって話だったんだけど、私が引っ越しとか高校入学で忙しいから延期になって、私達のこの卒業旅行と同じで今頃、ネギとコタロとナギ達……クウネルさんとゼクトさんで3日ぐらい日本のどこか適当に旅に出てる筈よ」

どこかって何その風来なんたらみたいな旅行は。

「ほほう。あれ、ネギ君のお母さんは?」

「エヴァンジェリンさんの家で普通に」

あー、エヴァンジェリンさんと茶々丸この旅行パスしたもんな。
そういやエヴァンジェリンさんは麻帆良の着物の着付け教室の先生になるとかって聞いたな。
まー多分それ以外にも舞とかも普通に続けるんだろうけどね。
魔法全然関係無いわー。

「なるほど。男だけで旅かー」

「前にネギとコタロ約束してたから、それでね」

「お、そうなんだ。さすが相棒」

今年小学6年生ってのは何か小太郎君のイメージにどうも合わないんだけど。
でも小学校中退とかぶっちゃけ無いから当然だけどさ。

「相変わらず修行修行言ってるのも変わらないわよ、コタロは」

「あー、そりゃ仕方ないんじゃ?」

あっちで馬鹿みたいに強いラカンさんを……最近はネギ君のお父さんもかな?……相手にした事ある小太郎としちゃ、まだまだって感じなんだろうし。
強くなってどうすんのかなーってのは気になるけど、例えば超りん狙って来るような奴らが魔法覚えたりしたら、その相手すんのはやっぱり魔法関係者以外にはいないから、必要とはされそうかな。
私はそういうの御免だけど。

「まー、そうよね」

……そんな感じでアスナと話したり、皆でトランプしたり写真撮ったり、タダ飯食べたりして過ごしてるうちに、飛行機は南の島に到着した。
なんつーか、テオドラ皇女様の魔法球の地平線の終わりが見えない版な感じの南国だった。
建物の造りは似てないけど、桟橋があったりするのは何となく似てる気がする。
この卒業旅行?……イベントもわざわざ考えてあって、冬休みのクリスマスパーティの拡大版みたいな感じ。
ぶっちゃけ、普通にバカンスしに来ただけみたいなものスね。
そんでもって豪華飯、豪華風呂と堪能し、夜はクラス全員が楽々どころか余裕すぎるぐらい入れる超大部屋に浴衣着用で集合。
洋式のふかふか絨毯の筈が何故かわざわざ中央部分に畳調の敷物を完備した上に布団が人数分……。
そして枕の山、山……枕投げ大会か?
つか配られたのそのまま受け取ったけど何で帯に出席番号と同じ数字が書いてあるんだろ。
しかも結び方指定されたし。

「はいはーい!今から枕投げ大会やるよ!!」

朝倉が司会ってのはもう完璧にはまってるな。
違うクラスなれて私は助かったけどね!

「朝倉ー!!ルールってあんのー!?」

ハルナか。
そういや枕投げってちゃんとしたルールとか私知らないわ。

「よくぞ聞いてくれたね!今回のルールは、バトルロワイヤルなのさ!」

「「バトルロワイヤルですかー!?」」

鳴滝姉妹、ビビってるけど多分考えてるのとは違うから。

「そう!枕投げをしながら、時には布団でそれを防ぎ、時にはその弾丸の雨の中を素早く駆け抜け、相手の帯、この出席番号の書かれた帯を取って最後まで残ったただ1人の勝ち!」

「「「おおーっ!!」」」

は?
いやいや。

「ちょい、朝倉、それ枕投げ関係無くない?」

「春日、細かい事気にしない!」

ビシっと指さされたよ。
帯、そういう事ね。

「禁止行為はこの部屋から出て隠れる事。後は何でもおっけー!何人かで共同戦線を張って協力、その後仲間割れ、単独で無双、布団に隠れて機会を伺う、どうぞご自由に!ただし怪我には気をつけて!それと帯取られたら壁際で邪魔にならないようにして!」

無茶苦茶だなー。

「何だよそれ……」

長谷川さんの呟きには同意スよ。

「しつもーん!優勝者には何か無いの?」

桜子か。
ラクロスって枕投げと通じるところがある……なんてことは無いか。

「もちろん、ありますわよッ!!だよね、いいんちょ?」

朝倉ノリノリだな。

「ええ、ありますわよ。まさかこんなルールになるとは思いませんでしたが……」

おまえが犯人か、朝倉。
いいんちょ微妙な顔してるぞ。
帯の取り合いとか女子だけじゃなかったらマジありえん。

「と、いうことだそうなので、豪華賞品もあるから皆張り切るようにっ!因みに早めに負けた人は優勝予想トトカルチョやるよ!」

そういうフォローもあるのね。

「「「「はーい!!」」」」

「で、今から3分間待ってやる!!いい?……3分で支度しなッ!!」

「「「「サーッ!!」」」」

混ざりすぎ。
ま……豪華賞品には興味あるね。
この手の場合、逃げ回るのが吉。
つーか、楓達がいる時点で真っ向勝負は無理だしな。

「お嬢様、お守りいたします」

「ありがとなー、せっちゃん」

って……そこ、忠誠心高すぎだから。
……でもってチア3人に運動部4人組に鳴滝姉妹、ゆえ吉+のどか+ハルナ、他、は共同戦線を組んだらしい。

「はい、時間!いざ、試合開始ー!!」

「「「いっけえええ!!」」」

手に予め枕持っておいて皆投げたい放題だー。
ぶっちゃけ、帯取るのと関係無いよね。
気絶狙いならともかくさ?

「ちょっ!」

何今飛んできた枕弾丸。
危ねー危ねー、あたったら気絶するわ!
誰が犯人だーってそんなのどうでもいい。
後ろを取られないように壁際でうまくやり過ごすか。

「あ、美空さん」

左にさよいたわ。

「ってさよか。あーえっと、一戦やる気?」

無駄に構え取ってみた。

「いえ、安心してください、後で必ず裏切りますから」

堂々と断言しすぎだろ。

「いや、全然安心できないから」

……とりあえず、固まっとく理由はないからガラっと空いたスペースに適当に距離取って待避。
反対側の長谷川さんにハカセ、ザジさん、五月もそんな感じか。
五月はこういう系の勝負とか好きじゃないしな。
で……問題の中心はっていうと……カオス。
チア3人VS図書館3人組。
運動部4人VSいいんちょ部屋3人。
たつみーVS楓。
くーちゃん+超りんVS桜咲さん+アスナ、その2人に守られるこのか。
鳴滝姉妹がいない……どっか布団に隠れてんな。
朝倉は司会だから元々参戦してなくて何かカメラもってやがるし、後はトトカルチョ目的だな多分。

「ハルナは突撃。のどかは私と挟撃です!」

「よーし!」

「分かった、ゆえ」

そんな会話してるように見えた瞬間、のどかとゆえ吉は本当に左右に分かれて桜子と柿崎の2人に牽制枕攻撃、そして本命は後ろにいるくぎみーを低姿勢から急襲。
ハルナは桜子と柿崎に突撃。
つかマジ逞しくなったな……。
くぎみーは足下から現れた2人に驚いてのどかを避けようとした所をゆえ吉に帯取られ、その2人に気を取られ後ろを振り向いた柿崎がハルナに帯を取られ……。

「帯ゲーット!!」

「きゃっ!」

……そのまま桜子もアウト!
チア3人の連携はどうした。
浴衣の前がはだけて下着が見えるのも何のその。

「あー!取られたー!」

当然だけど全然気にしない。

「くやしーっ!」

「帯の数を稼いでも意味はないです。次行くです!」

あ、向こうの壁際襲い掛かってった。
で、運動部4人といいんちょ部屋3人は延々と枕の投げ合い。
アキラといいんちょの枕のキレがヤバイな。
村上と亜子ビビって布団で防いでるから。
……そんで空気が終わってるのがたつみーと楓。
何アレ、枕マジ関係ないわ、分かってたけど。

「無手ならば拙者が有利でござるよ、真名」

「それは試してみないと分からないぞ、楓」

睨み合って……。

「いざっ!!」  「フッ!!」

 ―瞬動!!―    ―瞬動!!―

帯を巡る体術バトル始まった。
いや……ホント枕関係無いな。
好きにやってろー。
くーちゃん+超りんVS桜咲さん+アスナ、その2人に守られるこのかはっていうと……。

「超、アスナを頼むアル!」  「任せるネ!」

「古、行くぞ!」  「私は超さんの相手ね!」

「せっちゃん、アスナ、頑張りー!」

楽しそうスね。
微妙に桜咲さん仕事モードに口調なってるから。
超りんとアスナの2人の組み合わせって珍しいな。

 ―瞬動!!―

「貰うヨッ!」

「まだっ!!」

超りんが低姿勢瞬動の無駄遣いから入って、アスナの左脇から帯に右手を伸ばし、そこをアスナが左手で妨害。
超りんはアスナの左手にぶつかったのを利用してそのままスライディングに移行して後ろに回り込む。
その通りがけに超りんは更に左手をアスナの腰に伸ばし、再びアスナは左手ガード。
超りんは足に力込めたのか、急反発してアスナの右腰に向かって今度は勢いよく右手を伸ばす。

「はっ!」

「くっ!」

アスナは左方向に一気に体を振り向けて左手ガードを続けながら、ギリギリでその右手を背中越しにかわす。
超りんは滑るように、アスナの追撃をやり過ごし、しゃがんだ状態で、一旦アスナと距離を取り直して向かい合う。

「さすがは明日菜サン、いい反応だネ!」

「鍛えてるからね!今度はこっちからいくわ!」

 ―瞬動!!―

今度はアスナが超りんに仕掛け……。

「なっ!?」

超りんがしゃがんでいた布団のシーツを引っ張り上げ白いカーテンの壁にして目眩まし攻撃。
突っ込んだアスナは顔にシーツが直撃。

「甘かたナ、明日菜サン。帯は貰い受けたヨ」

アスナがもがいてる所を超りんがさっくり帯を取った。
してやったり顔だな、超りん。

「ぷはっ!……あっ、取られたー!」

「アスナさん!」

「刹那、よそ見するで無いアル!」

「しまっ!」

凄い打撃音が……。
あー、なにこのマジバトル。
で。

「このかサン観念するネ!」

「おやめくださいましー」

「良いではないカー!」

「あ~れ~!」

……そうでもなかった。
ギュルルっと帯取られて……このか、自分から回ってるだろ。

「お嬢様ーっ!!」

いやーていうか、枕投げのルールを誰か私に教えてください。
つか、朝倉カメラ持ってるのはあれか、この微妙にオヤジ思考なイベントの馬鹿騒ぎのカメラさんしたいだけなの?

「美空さん、帯を渡すです!」

宣戦布告来た。
何だゆえ吉、その帯の数は!

「ちょっ!御免被る、またな、ゆえ吉!」

逃げるぜっ!

「のどか!ハルナ!」

「うん!」  「春日待てー!」

追いかけてくんなーっ!
……漁夫の利……いやいや体力温存戦法もこれまで、適当にいいんちょ達の所に飛び込んで戦火を拡大させたりした。
そしたら鳴滝姉妹も沸いて出てきたり、何やかんや。
枕が飛んできたり投げ返したり、数分に渡る逃亡劇の末。

「美空殿、最早それまででござる。既に美空殿の帯はこの手の中なれば」

なぜそこに!

「な、何だとっ!おわっ!?」

ハラリって感じで浴衣がはだけた。
気がついたら楓に取られてたわ。
流石忍者。

「「楓姉、分身はずるいですよー!!」」

あ?
どれどれ……おいおい、16人かい。
そりゃ無理も無いわー。
殆ど楓に無双されてた。

「えーっともう生き残りいない?楓の優勝?」

……そうっぽいよなー。

「………………」

「ん?ザジさん?えー……まだ帯あったー!!?」

おお、朝倉のすぐ傍にザジさんいたのか。
しかも生き残ってるの?

「すごーい!」  「ぜんっぜん気づかなかったー」

「まあ、さすがはザジさんですわね」

いいんちょ、どう流石なんですか。

「これは失念していたでござるな……」

楓が目開けて驚いてるよ……。

「………………」

ザジさんがコクリと頷いて、一瞬の間に1人に戻ってた楓と距離を取って立った。

「これは思わぬダークホースの登場か!?熱い!さーさ、皆どっちが勝つか賭けるなら今だよ!!」

皆、楓超安定って事で賭けまくってー……。
最後に含むような顔で朝倉の元に行ったラッキー大明神の桜子が賭けたのは……ザジさんだった。
やべー、間違えたのか?
普通に楓に賭けたよ?

「いざ、尋常にしょーぶっ!」

朝倉のかけ声に従い。

「…………」  「…………参るッ!」

2人とも同時に接近、ぶつかりあ……あー?

「「「「消えたーっ!!?」」」」

ザジさん消えたー!!
なんか蜃気楼みたいに揺らいで消えたよ!?

「はは、これはやられたでござるな」

え?

「…………」

「うわっ!いつの間にまたザジさんそこに!?」

朝倉の横に気がついたらまたいたザジさんの手には楓の帯があった。

「大穴あったりぃー!!」

桜子だけ喜びの声上げたよ。

「「「「そんな…………」」」」

それに対して私含め他多数はがっくり。
ザジさんも凄いけど、桜子もスゲー。

「はい、優勝はザジさんに決定!!皆拍手拍手!!」

「「「「ザジさんおめでとー!!」」」」

「では私から優勝商品の贈呈を致しますわ」

いいんちょがタイミング良く包装された箱を持ってきた。

「…………」

ザジさんが頷いて受け取った。

「ザジさん、開けてみてください」

「…………」

包装をザジさんが開けて……出てきたのは本……か?

「A組3年間、主に朝倉さんが記録してきた写真を、こちらでまとめた、世界で唯一の特製アルバムですわ」

おお……確かにそれは豪華賞品だわ。

「えー、いいなーっ!!」  「私も欲しー!」

私もそれは欲しいわ。
女子中等部は学校で作る卒業アルバム無いし。

「ザジさん。気に入って頂けましたか?」

「…………とても気に入りました。大切にします」

「「「「しゃべったーっ!!?」」」」

ザジさんしゃべったー!?
しかも何か今までに見たことないぐらい嬉しそうな顔してる気がする!
……そんでもって、この夜、皆でそのまま布団の上で円になって集まって、そのアルバムをギュウギュウに詰めて囲みながら過去を振り返った。
修学旅行みたいに就寝時間の先生の見回りとか無いし、朝までずっと話したよ。
そっから眠くなって寝たりなんかして、目が覚めたのは昼頃。
朝ご飯兼昼ご飯を食べ、浜辺に行って皆でチーム組んでビーチバレーしたり、遊びに遊び尽くした。
2日目の夜は、3-Aの締めって感じで1人1人ちょっとずつ皆の前で話す事に。
朝倉が司会で「3-Aに言いたい事、自分の将来の夢、最近悩んでる事、ここに相手はいなくてもその人に愛の告白、何でもおっけーだよ!」って適当な事言ってたけど「出席番号順で行こうか」との事で、さよから。

「皆さん、私の初めての時の自己紹介って覚えてますか?私死んじゃったけど生き返って、このクラスで皆さんと一緒に3年間過ごせてすごく楽しかったです。私は3-A大好きです。これまで皆ありがとうございました。そしてこれからも、これからクラスが変わってしまう人もいますけど、高校3年間もよろしくお願いします!」

丁寧に頭を下げてさよが言葉を締めくくった。
すぐに皆拍手しだした。

「よろしくね!相坂さん!」  「さよちゃん、良い言葉!」

死んで生き返った件は華麗に皆スルー。
慣れたものスよ。
あえてそこ言ってくるさよもさよだけどね。
次ゆーな。

「えーと、こほん。 重 大 発 表 !!……私、魔法使いの娘でしたっ!」

知ってるわ。

「知ってるよー!」  「あー今更今更」  「お父さん交換しようよ!」

桜子意味不明。

「そこ!うちのお父さんは絶対あげないから!」

反応早っ。

「このファザコーン!」

「ファザコンで結構結構。それで、私も……3-A大好きっ!3-Aは永遠に不滅だにゃー!!」

絶対同窓会やり続けるから不滅スね、うん。
これは安心できる。
次、朝倉。

「この朝倉和美、悩み事が一つ。……私だけ左遷されたっ!!なぜ26組!」

わざとらしくおよよってすんな。

「どんまい、朝倉!」  「取材に来ればいいって!」

来んな!

「そういう事だから、私は皆の所にネタを求めに必ず取材にいきます!待っててね、よろしくっ!」

来んな!
その後もゆえ吉、亜子、アキラ、柿崎、アスナと続き。
私だった。

「春日美空、将来は魔法使いになります。もうどうしようもない意味でー……絶対」

「春日自慢かー!?」  「面倒なら代わってあげるからいつでも言ってよ!」

それ無理。

「美空ちゃん頑張って!」  「魔法見せてー!」

それも無理。

「そんな最近心にストレスを感じている私に元気をくれる皆!ありがとう!……ただし、朝倉はもう来んな!」

「それはできない相談だね、春日!」

ちくしょー!
茶々丸欠席、くぎみー、くーちゃん、このか、ハルナ、桜咲さんと来て。
まき絵。
普通にいつも通り天真爛漫な感じでしゃべって最後に言ったよこの子。

「私実はネギ君好きだったんだー!」

「「「「知ってるよ!!」」」」

そして桜子、たつみーと来て。
超りん。

「今まで皆にはいえなかた事があるが、この際だから言うヨ」

お?

「この超鈴音、実は地球から遠い遠い彼方の惑星の出身、火星人だたネ!!」

期待して損した。

「それも何度も聞いたって!」  「超りんホントは魔法世界から来たのー?」

「いやー、魔法世界ではないヨ。火星ネ火星。ははは!これからも皆、超包子をご贔屓に頼むネ!」

はいはい、宣伝お疲れ様。
楓。

「実を言わなくても拙者は忍者ではないでござる」

「「「「嘘だっ!!!」」」」

何だこれ。
鳴滝風香、鳴滝史伽の鳴滝姉妹は「実は私達小学生じゃないよ!」と連続して言ってきたけど、そういう流れにいつの間にかなってた。
ハカセ、長谷川さん、エヴァンジェリンさん欠席、のどか、村上と来て。
いいんちょ。
答辞を努めただけあって、長い演説に入り始めて皆で野次飛ばした。
で、最後に。

「私、実はある方への愛が止まりませんの。それは……そう、ネギ先生ですっ!!ああ、言ってしまいましたわ……このような場で失礼」

以下略。
五月。

「皆さん、私必ず自分の料理店を構えるので、その時は是非、食べに来てください。もちろん、これからも超包子でお待ちしてます。皆さん3年間ありがとうございました、そして、これからもよろしくお願いしますね」

抱負と営業なのに何故か滅茶苦茶和む不思議だった。
最後ザジさん。

「…………………………………………………………………………」

「まあ、これからもお願いしますわ!ザジさん!」

寧ろいいんちょが意味不明だった。
というか、翻訳しようよ!
……ってな感じで語りが終わった所で、1日目の夜と同じく、3-Aらしい騒ぎ方で過ごして、何か昼夜逆転してきてるけど、そのまま朝まで……。
そしてまた昼、3日目、起きて食事したら飛行機の時刻って事で、日本に帰った。
……こういう事ができるのもこれから少なくなると思うと寂しい部分はあるけど、これからはこれからでまた色々起こるんだろうと思う。
だけど、魔法世界の時みたいな事にはもう2度とならない事だけは祈るわ、本気で。
考えてみれば、今頃魔法世界じゃコレットさん、エミリィ委員長、ベアトリクスさん達はアリアドネー魔法騎士団候補学校を私達が中学卒業したように卒業してるんだろうな。
暦がおかしい事になってるのは微妙だと思うけど。
話してた通り戦乙女旅団に配属されたのか……ゆえ吉が一番気になってるだろうけど、今のところ一介の学生の私達程度じゃ世界間、星間通信はできる訳ないからやりとりもできない。
いつまたあっち行けるのか……行けなくてもせめて通信が自由にできるようになったら良いな。
……なんて考えて思いを馳せてみたんだけど、まず帰ってきて最初に私が頑張らないといけないのはアスナと話した通り、料理スキルの向上だった。

「五月先生、料理を、教えてください!」  「さっちゃん先生、お願いします!」

「料理に興味を持ってくれるのは嬉しいです。分かりました、いいですよ。頑張りましょうね」

「ありがとう!五月先生!」  「ありがとう!さっちゃん!」

こうして、幸せの化身の指導によって、私達の朝食は新たな変革の時代を迎えるのだった!
……なんて、適当言うだけなら良かったんだけどね。
ああ、何となく冷蔵庫開ける度に前から思ってはいたけど、五月の料理ってめっちゃ手がかかってるのがやってみて良く分かった……。
何気なくパクついてた一品一品が……こんだけ手をかけてるとは思わなかった。
そりゃ美味い訳だ。
春休み中、約束通りお母さんが休暇取って海外から戻ってきて、何か軽く一方的な質問責めを受けた後、協会からの指示には必ず従うように念を押されまくった。
まー、イタズラばっかしてる期間が長かったせいでそれをシスターシャークティにチクられてたから心配されるのはわかる。
これは私が悪かった。
でも、小切手返してくれなかった。
無念すぎる。
……で、そんなこんな春休みお料理強化週間も終わりが近くなって。

「美空ちゃん……今までずっとさっちゃんの作る朝御飯食べてたのよね?」

「イエス」

「メニューの数も味も落ちるのは我慢するしかないわね、もう」

「でーすーよーねー……」

「でも、この数日間付け焼き刃で練習したけど、大分マシになったわよね」

「うん、そこは私も手応えはあるよ。お料理研の人達、本当に優しかったし、何気に私達みたいな迷える子羊も沢山来てたし、頑張れたな」

「ホント幸せ空間だったわよね。って迷える子羊を導くのが美空ちゃんのシスター業でしょ!」

「いやー何の事やら分かりませんな。HAHAHA!」

「HAHAHA!じゃないわよ。……それじゃ、高校生活スタートね」

「そうスね」

そして2004年4月、私達は女子中学生改め、女子高生になりました。
新たな出会いが私達を待っている!……のかも。



[27113] 84話 麻帆良女子高等部1-1
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:28
魔法世界側に供与した植物工場の技術・計画案がアリアドネーとヘラス帝国にも伝わてから2ヶ月。
メガロメセンブリアでは溶液と特殊媒地の製造に成功して、施設の用意も具体的に進み始めているという事をクルト総督から聞いたし、この分なら今年の11月末辺り、後8ヶ月で突入する本格的な冬も、急ピッチで畳みかければ一定数の植物工場は間に合う。
一方、こちら日本では魔法法と魔法総合研究所法案も着実に進展していて、更に今月頭、とうとう魔法学校を開設する動きがニュースで報道されたネ。
それと同時に、主に中・高の学習指導要領にラテン語、梵字を盛り込む事をかなり前向きに検討する議論が文部科学省で始まった事も報道されたヨ。
また実際に、ラテン語についての自習は国をあげて大いに推奨するという事が発表された途端、ラテン語関係の書籍の売り上げが急速に伸びて来ているネ。
ラテン語と梵字を学習指導要領への導入が検討される、とは言ても、盛り込まれるのはほぼ確定で、ラテン語と梵字の教科書の作成もそれを踏まえて進められる筈だヨ。
……そして、私達はというと、もう女子高校生ネ。
この春休み中、付近の寮室に麻帆良に慣れていない雰囲気の見知らぬ人達を見ているが、確実に1-1のクラスメイトになるのは分かていても、軽く挨拶と寮の勝手を伝えたりぐらいで特に交流を持つという事はしなかたネ。
とはいても、私が誰か知られているせいで名前を名乗らなくても驚かれたが。
しかし、自己紹介と言えば、麻帆良女子高等部入学初日程打てつけの場も無い。
4月8日、皆でいつも通り遅刻しない程度の時刻に混雑の中を登校し、女子高等部3階上がてすぐの所にある1-1の教室に入たヨ。
麻帆良の登校が初めての人達は早めに席に来ているナ。
……座席表を見てみれば……高等部の最初は出席番号順で分かりやすい。

                      教卓

1列目(窓側)            2列目(中央)        3列目(廊下側)
相坂 さよ  明石 祐奈   日下部まりあ 近衛木乃香  二宮 桜  Angela・Rose
綾瀬 夕映 井上 真希   桜咲 刹那  進藤 志穂  葉加瀬聡美 服部 智代
宇佐見 雪 神楽坂明日菜 西華 香織  大道寺 奏  福山 奈々 松前 絵里
春日 美空 片桐 恵     龍宮 真名  超 鈴音    宮崎のどか 目白 黒子
絡繰茶々丸 Chloe・Carras 鶴川 天音  天童 琴美  百瀬 桃子 Natalia・Yudina
木之元 遙 古 菲      鳥居みゆき  長瀬 楓    王 香蘭

……分かていたけど、留学生増えたネ。
クロエ・カラス、アンジェラ・ローズ、ナタリア・ユーディナ、王香蘭。
それぞれ情報を掴んだ所、ギリシャ出身、アメリカ出身、ロシア出身、中国出身の、魔法使いネ。
なぜ入てきたかは考えるまでもないナ……。
しかもこのクラス、更に西日本の陰陽師の家系の出身者が多い。
進藤サンは進藤蘇芳サンの親戚で、陰陽師の修行は今までせず普通に暮らしていたらしく、鳥居サンと大道寺サンは、少しは心得有りという感じらしい。
都合が良いようだけど、実際3人は普通に受験して通たというのだから何も問題は無い。
結果として魔法生徒要員になる……魔法学校が設立される時に便利なのは分かるけどネ。
流石に明日菜サンの魔法無効化能力がバレるという事は、攻撃魔法でも使わない限りありえないし、そもそも中学3年間一緒の美空がそれを知たのも魔法世界に行てからだから少し警戒しておけば問題は無いネ。
とりあえず、龍宮サンが隣というのは楽だヨ。
席に向かた訳だが……後ろから感じる王サンの視線が痛いナ。

「また随分濃いクラスになたネ、龍宮サン」

「超が一番濃い癖に何言ってるんだ」

「おお、それは光栄ネ」

「それに、もう目をつけられているようじゃないか」

「いやー、私が怪しいと思われているのに自覚はあるから、今更だヨ」

「フ……」

酷く変わた空気のする1-1に大人しく座る事3分。
教室の扉を開けて入てきたのは……。
予め知ていたが、神多羅木先生と葛葉先生だたネ。
2人とも今までは男子高等部の先生だたのだが、女子高等部に移てきたヨ。
1-Aは学園長が仕組んだのだけれど、1-1は他色々な関係から結果的になたとしか言いようが無いナ。

「号令は……相坂、頼む」

「はい。起立!」

出席番号1番だからという理由だナ。
皆で席から立ち上がり。

「礼!」

それぞれ座り、始業式前のHR。

「まず俺が1-1担任の神多羅木だ。これからよろしく頼む」

「私が副担任の葛葉刀子です。これからよろしくお願いします」

サングラス+髭、SPに見える神多羅木先生に堅い雰囲気のある葛葉先生。
初めて見る人達は威圧感を感じずにはいられないだろう。

「それぞれの自己紹介といきたい所だが、略式の入学式と始業式が先だ。皆校庭に集合してもらう」

「人数が多いので速やかな移動を心がけるようにして下さい」

4000人超も在籍しているから集合するだけで時間がかかるネ。
先生の数も200を越すヨ。
指示通りに私達新入生は校庭に並んで、略式の入学式と始業式。
1-2と1-3に元3-Aが殆ど固まているから適当に手を振たりしたネ。
そして場所は再び教室。
葛葉先生は副担任だし、他の仕事もあるから神多羅木先生だけネ。
自己紹介の始まりだヨ。

「相坂さよ、出身中学は麻帆良女子中等部です。よく顔を出す所属は幾つかありますが、中でも超包子でよく働いているので、是非常駐店に来て下さい。因みに私一度死んだ事があるんですけど、生き返りました。皆さんよろしくお願いします」

お決まりの自己紹介だナ。
さらっと言たが、は?という顔をしながら拍手をしている人が結構いるヨ。

「よし、次明石」

《スルーされましたー!》

《構って欲しかったんですか?》

《皆の空気読む力が向上した結果ネ》

《何か……少し寂しいようで、少し良かったとも思う不思議です》

中学の時は朝倉サンが騒いだせいで空気が死んだが、残念ながら今回それも無いし流石に高校ともなると皆完全スルーだたネ。

「はい!私は明石祐奈、中学は同じく麻帆良女子中等部。部活はバスケ部!皆よろしくお願いします!」

「次、綾瀬」

「はいです。綾瀬夕映、中学は同じく麻帆良女子中等部です。所属は児童文学研究会・哲学研究会・図書館島探険部です。皆さんよろしくです」

次が井上サン。

「井上真希、中学は同じく麻帆良女子中等部ね。所属している部活はラクロス部です。これから皆よろしくお願いします!」

椎名サンと同じ部活で3-Iのクラス委員長もやていた筈だナ。
その次が宇佐見サン。

「えっと、う、宇佐見、雪と言います。出身中学は群馬県前橋市立第三中学校という所です。中学ではバレーボール部に入っていました。これからよろしくお願いします」

やっと外部1人目だネ。
緊張しているようだけど、今年の受験で入てきたという事は、頭は間違いなく良いだろうネ。
そして明日菜サン。

「神楽坂明日菜、中学はまた麻帆良女子中等部。部活は美術部です。皆、これからの高校生活3年間、よろしくお願いします!」

「次、春日」

「はい。えー、春日美空です。中学はまたここの女子中等部。部活は陸上部で専門は100m。……後から聞かれるのもアレなんで先に言っとくと、私はシスターで一応魔法使いだったりします。魔法見せて!とか魔法使いってどんな事してるの?とか聞かれても立場的に答えられないんで勘弁して下さい、お願いします!でも、それ以外はフツーに話せるんで、よろしくお願いします」

必死だナ、美空。

「……と言うことだから魔法についての追求はしないように頼む。因みに言っていなかったが、俺と葛葉先生は魔法協会にも所属している。春日と同様、魔法についての質問には答えられない事を理解してもらいたい。では次、片桐」

葛葉先生が微妙に青筋を浮かべている気がするが神多羅木先生はマイペースだたネ。

「は、はい。えっと、片桐恵と言います。出身は千葉で中学は三浦中学です。部活は入っていなかったので、これから麻帆良を色々見て回りたいと思っています。どうぞ、よろしくお願いします」

魔法使いの話が出ていきなりは動揺するのも無理無いナ。
続けて茶々丸。

「絡繰茶々丸です。出身中学は麻帆良女子中等部です。所属は茶道部です。皆さん、これからよろしくお願いします」

既に見た目は素で人間に見えるし、強力な認識阻害もかけているから大丈夫ネ。

「次、クロエ・カラス」

「ハイ!私はChloe・Carras。ジャパン、マホラの噂を聞いてギリシャから来た留学生です。カスガさんが魔法使いと言いましたが、私も同じく魔法使いです。マホラはとても面白い所だと思います。みなさん、よろしくお願いしますね」

美空が凄く驚いてるナ。

「次、木之元」

「はいっ!木之元遙です。出身は麻帆良女子中等部……」

続けて古、東京都の中学出身の日下部サン、そしてこのかサン。

「うちは近衛木之香。中学はここの麻帆良女子中等部や。中学の時は占い研の部長してました。今所属しているのは図書館島探険部、東洋医学研究会の2つ。それで、うちも魔法使いや。ほな、皆、よろしくお願いしますー」

次が刹那サン。

「桜咲刹那です。出身中学は麻帆良女子中等部。所属部は剣道部です。皆さん、お願いします」

簡潔だネ。
次が問題の進藤サン。

「進藤志穂です。出身は島根県で中学は出雲市立第一です。部活は私も剣道部でした。何か魔法使いの話が出てるんで一応言っておくと……実は私の家系は日本の古来の魔法使い……んっと安倍晴明って言ったら良いんですかね、あの陰陽師らしいです。聞いて驚きました。けど、詳しい事は私も良くわかってません!ともあれ、皆さん、よろしくお願いします!」

蘇芳サンに容姿が似ているという事はないが、剣道部というのは喋り方とは裏腹に何となく分かるナ。
刹那サンがハッとしたような顔しているネ。

「次、西華」

「はい。西華香織です。中学はここの麻帆良女子中等部で、所属は報道部。でー、このクラス見た感じ濃すぎて私には手にあま、あー、というか26組の朝倉和美とゆー報道部突撃班員とは違って私はかなり大人しいんで、クラスの皆さんにそんな深く追求はしないから、安心して下さい。ただ、一応このクラスの広報担当にはなると思うんでそこだけは頼みます。そういう事で、皆よろしくお願いします!」

「報道部に指定してあるルールだけは守ってくれ」

「分かってます。お任せあれ、先生」

「ああ。では次、大道寺」

「……はい。……大道寺奏です。出身は和歌山県、智越学園和歌山中学校でした。皆さん言っているので……私も陰陽師の家系です。殆ど普通の生活をしていましたが少しだけ心得もあります。部活は合唱部でした。麻帆良にはコーラス部があるそうなので入りたいと考えています。皆さん、どうぞよろしくお願いします」

大人しいタイプの人だネ。
続けて龍宮サン。

「龍宮真名、家はここの龍宮神社で麻帆良女子中等部出身、所属部は大学部のバイアスロン部だ。正月に巫女のバイトをやりたかったら言ってくれ。よろしく頼む」

刹那サン並に簡潔だナ。

「次、超」

私の番カ。

「はい。超鈴音ネ。中学は麻帆良女子中等部。所属はロボット工学研究会、量子力学研究会、東洋医学研究会、生物工学研究会、中国武術研究会、お料理研究会だヨ。人によては色々気になることはあるかもしれないが……時間がかかるから全部省くネ。それより、一番重要なことなのだが、皆、超包子をご贔屓にしてくれると嬉しいヨ!よろしくお願いするネ!」

火星人ネタは流石に外国の魔法使い留学生がいるから控えておいたヨ。

「次、鶴川」

「は……い。あっ、すいません。鶴川天音と言います。出身は神奈川県で……」

続けて、天童サンと来て。

「鳥居みゆきです。四国は徳島の出身です。中学は鳴門国立大学附属中学校でした。部活はソフトボール部でした。……実は私も陰陽師の家系の出身で、大道寺さんと同じで心得も少しだけあります。ニュースで麻帆良がこんな凄い所だというのを知りましたが実際に見てもっと驚きました。これからよろしくお願いします」

そして楓サン。

「拙者は長瀬楓。中学はここ麻帆良の女子中等部。さんぽ部なれば、麻帆良の案内なら任せるでざる。皆、よろしく頼むでござる」

口調に外部の人は皆驚いているネ。
そのまま二宮サンと続き。
アンジェラサンはアメリカ出身の魔法使いと言うことを述べたヨ。

「葉加瀬聡美です。中学はここの附属校で、所属はロボット工学研究会、ジェット推進研究会です。最近研究会の境界は曖昧になってきてるんですけどね。麻帆良大工学部では超さんとよく研究をしています。皆さんよろしくお願いします」

「次、服部」

「はい!服部智代、出身は秋田の秋田大学文化学部附属中学校で……」

更に福山サン、松前サン、のどかサン、目白サン、百瀬サンと来て。

「Natalia・Yudina。ナタリアとお呼び下さい。出身はロシア連邦共和国、また、魔法使いでもあります。部活……ではありませんがスキーが得意です。以後お見知り置きを。皆さんと仲良くできればと思います」

薄い金髪に青い瞳が特徴的だネ。

「最後、王」

「はい。王香蘭と申します。出身は中華人民共和国、その魔法使いです。今や世界的に有名な麻帆良で直に、皆様と、共に過ごせる事を嬉しく思います。どうぞ、よろしくお願い致しますわ」

お嬢様系だネ。
しかも髪型が私と被ているナ。

「……よし、自己紹介はこれで終わりだ。後は各自交流を深めるように。高校からの入学者で分からないことがあったら周りに遠慮せず聞け。この学校は3年間クラス替え無しでそのまま持ち上がりだ。基本的に部活、研究会の活動、生徒の自主性を大いに尊重する。では、このままクラスの委員を決める。司会は附属生の方がいいだろう。誰か1人代表で出てこい」

「あー、先生私やります!前委員長でしたし」

「ああ、頼むぞ、井上」

「はい!」

神多羅木先生が教壇から離れて扉側に移動、井上サンが出て来たヨ。

「それでは、この井上真希が司会担当します。にしても、このクラス3-A多いなー。……おっと失礼。クラスで決める必要のある委員はクラス委員長、書記、美化委員、図書委員、保険委員、給食委員が基本。因みにこの学校には給食無いので、給食委員というのは学食のメニューについて色々案を出したり、購買で買える食べ物の選定など決定をする委員なので参考までに。高校からはこれに加えて編集委員、選挙管理委員、麻帆良祭実行委員、体育祭実行委員、生活指導委員があります。説明すると編集委員会は報道部と連携して卒業アルバムの作成をするのが主な仕事。選管、麻帆良祭、体育祭は想像の通り、生活指導委員は生徒の生活の規律を保つ……というと聞こえはいいけど、注意したり、遅刻の違反キップ切ったりする仕事だから正直な所、あんまり良い顔されないです。あとは各委員会に学園総合委員が大体設置されているけど、それはその委員会内で決めるものなので気にしなくて大丈夫です。あと、この学校は報道部が放送と広報を一手に引き受けてるので放送委員会や広報委員会は無いです。他に修学旅行で写真係とかそういうのはその時で決めるんで。……以上でまずは立候補募集します。って事でまず私このままクラス委員長に立候補します」

慣れた手つきで黒板に全部委員とクラス委員長の所に井上サン自身の名前を書きながら説明してくれたヨ。

「井上さん、私図書委員に立候補します」

「待ってました。宮崎さん図書委員ー」

のどかサンは他クラスにも図書委員だた事を知られているネ。

「はーい、報道部員がいるからには編集委員は私が」

「それ来た、西華さん編集委員」

「ほな、うち書記やるえ」

「はいな、近衛さん書記、と。他いますかー?」

「給食委員、私立候補します」

さよか。

「えっと、おお、相坂さん……と。他はどうですかー?」

中学の卒業式で壇上に上がたから知ていて当然だネ。

「あ、私麻帆良祭実行委員会に立候補するよ!」

「ほいっと、明石さんね。あ、麻帆良祭実行委員だけに限らないですけど、自分もやりたい……っていうなら遠慮せず立候補して下さい。特にこの麻帆良祭実行委員はやりがいあるって話なので」

「あの……じゃあ私……」

……委員会決めは井上サンの司会の元、サクサク進んで行き、幾つか被てジャンケンになたりしたけど、無事に全部決またネ。

「司会助かった井上。……丁度このクラスの教科書配布の時間だ、3階ホールに出席番号順に並んで教科書を受け取りに移動してくれ」

「「「「はい!」」」」

神多羅木先生に従て教科書をホールで順に受け取り、教室に戻ては落丁の確認、問題なければ持ち帰る物以外はロッカーに仕舞て終わりネ。

「……今日はこれで終わりだ。明日、身体測定と健康診断を1日かけて行うから体操服を忘れないように気をつけろ。後で女子寮に戻ったら尿検査キットが届いているから各自一つずつ受け取って明日の朝保険委員に提出するように。因みに明日俺はいないから何かあったら葛葉先生に言ってくれ。この後クラス会をするもよし、度が過ぎない範囲で好きにすると良い。では井上、号令頼む」

「はい!起立!」

皆立ち上がって……。

「礼!」

神多羅木先生はそのまますぐに出て行たネ。

「あーっと丁度昼だけど、一つ聞いて下さい!」

井上サンが教壇にあがて何か提案するようだナ。

「SNSでこのクラスのコミュニティこの場で作りたいと思うんですけどどうですか?連絡網と個人間のやりとりにも使えるんで便利ですし。って開発者の超さん良いかな?」

開発者がいるというのは変な気分だろうナ。

「もちろんネ。どんどん使て欲しい」

皆も席から立ち上がてこのまま帰ろうとしたりはしていないネ。

「……んーと反対意見も無いみたいですね。じゃあコミュニティ今作成するのでちょっと待って下さい!」

……井上サンが携帯を操作する事少し。

「できました。MGHS1-1(2004年)に名前設定したんで検索して下さい。パスは1104です。全員登録し終わったら受付拒否に設定変更するのでお願いします」

携帯を持ていない人がいないみたいだから何も問題は無かた。
その後、クラス会を軽くやろうという事になり、私の方から超包子でやる事を提案してそのまま昼食兼クラス会に移行したネ。
サービスで全額無料にしたのだけど、超包子の味に慣れてない人達は「た、タダで本当にこんな食べていいの!?」と驚いていたヨ。
正直あやかサンが常に張り切ていた3-Aに慣れている私達としては大したことでも無いのだけどネ。
私とさよで主に料理を担当して大体クラスの皆に振る舞い終わた所で私達も落ち着こうとした所に美空がそっとカウンターに近づいて来たネ。

「超りん、何このクラス。大丈夫か?」

クラスの人の名前は分かていても実際自己紹介したらこのザマだたからナ。

「美空、大丈夫ネ。もう、なるようにしかならないヨ」

「あー、まーそうですよね。はっはー」

「それより美空は大学どうするか知らないけど、勉強は頑張らないと行きたい学部の枠取れなくなるから気をつけた方が良いヨ」

「んー?……別に大丈夫じゃ?」

「美空さん、油断しない方が良いですよ。今年外部から入って来た人達は、皆学業成績は全国トップレベルですから。中学の時の感覚のままだと……」

実際国立の附属中学の人が結構多かたしナ。

「げげー!そうか、全然考えて無かったわ。うわー高校の勉強かー。えー、でもあれじゃ?実は陰陽師だった3人とか私が言えた義理じゃないけど仕組み……じゃないの?」

うむ、美空の言えた義理ではないナ。

「それは無いヨ。皆きちんと試験を突破して入て来ているネ」

「マジ?いや何で超りんが断言できんの?」

「美空、折角私が貴重な答えを言たのだからそこは考えては駄目ネ」

「あー……はいはーい。りょうかい。思考停止しとくわ」

投げやりに手を振て反応返してきたヨ。

「あの……超鈴音さん、少しお話宜しいですか?」

来たカ。

「ほ?」

美空が抜けた声を出した。

「構わないヨ。王香蘭サン」

「ありがとうございます。春日さん、隣失礼致します」

「あ、どうぞー」

美空の隣のカウンター席に王香蘭サンが座たネ。

「(超鈴音さん、無礼を承知で伺いますが……貴女は本当に中国人なのですか?)」

中国語で話をしてくると思たネ。
美空が唖然としているヨ。

「(その通りだヨ。調べれば分かるネ)」

「(それは……そうなのですが……では何故母国の中国で研究を行わず、日本で研究を行っているのですか?)」

「(麻帆良の設備は世界でも最先端だからネ。ここ以上に良い所は早々無いヨ)」

「(……それは私にも分かります。ですが、麻帆良でさえここ最近の技術革新は急激だと聞いています。貴女程の能力があれば、中国であっても何ら問題は無いのではなくて?)」

「(それは今だからそう言える事ネ。私の発明についてのインスピレーションを実際に形にするには、ここ麻帆良で協力してくれた人達の柔軟な対応能力と全く新しい事に対しても偏見を持たない広い心が無くしては、今は無かたと断言できる。例えばハカセ、葉加瀬聡美は私にとて特にそう言える人物だヨ。ハカセとは麻帆良でなければ出会う事はありえなかった。母国に対して貢献すべきというのは分からないでもないが、私は世界全体に貢献したいと考えているのだけどそれでは王香蘭サンは不満かナ?SNSは実際その典型だと思うのだけどネ)」

「(……なるほど、良く分かりましたわ。私達立派な魔法使いは確かに世界全体に貢献するのが本分ですからね。……私も無用な詮索はしないようにと言われておりますので、この話はここまでにしておきます。お話ありがとうございます。貴女の中国語とても綺麗な発音ですわね)」

遠まわしに、中国人でもないのに中国語が上手いと言われているようだナ。

「(こちらこそ、理解してくれたようで助かるネ。王香蘭サンも綺麗な発音だヨ。それと、古とは話したかナ?)」

「(ええ、話しましたわ。古家の跡取り娘の噂はかねがね聞いておりましたが、イメージ通りの活発さでした)」

「(ははは、古はいつも元気すぎるぐらいネ。王香蘭サンは中国武術に心得はあるのかナ?)」

「(套路は一通り披露するぐらいはできますが、実戦できるほどではありませんわ)」

「(そうなのカ。気が向いたら中国武術研究会にも顔を出すと良いヨ。古も喜ぶ。私は最近忙しくて顔を出せていないのだけどネ)」

「(古菲さんにも先程誘われましたわ。4月中に体験に参加したいと思います)」

「(王香蘭サンが顔を出してくれたら他の部員もきっと喜ぶヨ)」

「(そうだといいのですが。……忙しいようですが、またの機会があればお話して頂けますか?)」

「(またの機会も何もこれから3年間同じクラスだからネ。気軽に話しかけてくれて良いヨ)」

「(私としては世界中で話題の貴女と話せる事を楽しみにしていましたので。是非そうさせて頂きますわ。それでは失礼致します)」

王香蘭サンは丁寧に一礼して他の皆の所へ行たネ。

「はー……何今のスゲー。ここ日本だよね?」

「美空、国際大附属ならこれぐらい日常茶飯事だヨ?」

「いやーまあそうなんだろうけどさ。こんだけ間近で理解できん話されてもってね」

おや、今度は古がこちらに近づいて来たネ。

「超!今何を王と話してたアルかー?」

流石古は打ち解けるのも早いナ。

「少し世間話をしただけネ」

「そうアルか。王が中武研来てくれると言ってくれたけど、超はやっぱり忙しいから無理アルか?」

「時間が取れたら必ず行くネ。しかし、もう古は私が相手するには強すぎるヨ。楓サン達でないと相手にならないと思うネ」

「そうかもしれないアルが……それは少し寂しいアル。超の長拳久しいからして……」

ふむ……確かに私も古とは久しいナ。

「古、今少し手合わせするカ?」

「おお!良いアルよ!」

「中国武術研究会の宣伝にもなるし丁度良い。卒業旅行では軽く遊んだだけだたしネ。すぐそちらに回るヨ」

「分かったアル!」

「おー、頑張れー」

「鈴音さん、くーふぇさん頑張って下さい!」

美空とさよの声を背に受けながらカウンターから出て、超包子の席の邪魔にならないところで古と向かいあう。
クラスの皆も何を始めるのかとこちらを注目し出したネ。

「今から中国武術研究会の軽いパフォーマンスをするヨ!」

「超、いつでも良いアルよ!」

「分かった。先に行かせてもらうネ!」

行くネッ!

 ―瞬動!!―

結局のところ……やはり古は恐ろしく強くなていた。
打ち合う度にほぼ一方的に私が削られたヨ。
気の練度が半端ではないから、私の拳はその気の纏だけで防ぎ切られるのに対し、私は全てダメージを受ける。
古も手加減はしてくれたから、手合わせらしい手合わせではあたのだけどナ。
お互い頃合いを感じて距離を取り直して一礼した。

「超、また手合わせするアル!」

「もちろんネ、古」

……クラスの皆はというと、高校からの人達は完全に引いていたネ。
でも、これが麻帆良だから慣れざるを得ないヨ!
クラス会もそこそこに解散していつも通り工学部に行き、そのまま翌日。
身体測定と健康診断なのだが……。

《うわーん、成長した身体用意するの忘れてましたーっ!》

《さよ、成長した数値がカードに記載されるのはまた来年にお預けだナ》

《というか、徐々に調整加えていかないと怪しすぎて駄目ですからね》

《ああ、そうですよねー。1日で1cm成長する訳にもいかないですから毎日微調整しないと駄目じゃないですか!》

尤もな話だナ。

《微調整で微成長を繰り返す以外に手は無いですよ。サヨは精霊ですから》

《そういうダジャレみたいの要らないですからね、キノ》

《翠坊主は相変わらずだネ》

《わざと、というよりは意識的に言うように心がけているだけです。気にしないで下さい》

《木だけに、とか思ったんですよね?どーせ》

《あー……バレました?》

《バレバレですよ!》

…………。

《話戻しますが、身体の調整取り組むなら自分でやって下さいね。サヨも私がやるより自分でやった方が良いでしょうし》

《それは分かってます。毎日ミリ単位よりも小さく微妙に背は伸ばし、他も成長させます!》

《頑張って下さい》

《はい、妥協はしないです!》

《さよはどれぐらいになりたいネ?》

《えーっと、とりあえず18歳ぐらいまではやりたいです》

《3年間頑張るネ》

《……はい》

どうも精霊がやる作業というのは地味で地道なものばかりだナ。
まあ精霊だからこそ、とも言えるのだけれど。
身体測定の結果私もまたこの1年で少し成長したヨ。
健康診断でも問題ある訳無かたが、クラス数が120超あると本当に1日使わないと健康診断は終わらなかたネ。
中学の時はもう少し早く終わたのだが。
大学は大学で学部毎にある指定日の都合のあう時間帯に行けばいいだけだから、この経験も後2回だけネ。
そして……その次の週から、高校の授業は普通に始まて、ハカセ、さよ、私は特に、問題無かたし、高校から入て来た人達も授業中に当てられてもほぼ答えられるし、宿題も問題無く解けていた。
私からすると変化があたように感じたのはやはり、明日菜サン、綾瀬サンの2人ネ。
ネギ坊主に勉強を教えて貰ているお陰と、自主的に勉強するようになた甲斐もあて、まき絵サンは既に隣のクラスだけれどバカレンジャーも最早別の意味で壊滅したナ。
明日菜サンと同じ寮室で生活しだした美空も「アスナ、もしかして偽物だったりする?」なんてふざけて冗談を言ていたぐらいでその変わりようは中学の時とは火をみるより明らかのようだたネ。
「アスナだってやればできるんだから私もやるかー」と美空自身も以前よりもそれなりに真面目に勉強するようになたのは良い事だと思うヨ。
ところで……。

《翠坊主、留学生4人の魔法使いとしての技量はどれぐらいなのか分かるカ?この際戦闘面で良いヨ》

瞬動を私と古が普通に使ているのを見て驚いていたぐらいだからある程度は分かるが。

《4人共魔法の運用能力は今の佐倉愛衣を下回るでしょう。実戦だと綾瀬夕映と相手すれば確定で綾瀬夕映が勝ちます》

《ふむ、それぐらいカ》

《まあ、ネギ少年達が普通ではないので、一般的魔法使い、それもまだ15、16では仕方ないでしょう。電子精霊使いなら戦闘能力はそれほど必要も無いですし》

《そうだネ。少なくともこれからの地球で魔法使いの一般水準が強すぎても困るからそれぐらいでいいだろうナ。それと、陰陽師3人は葛葉先生に引き連れられてから呪術協会に出入りし始めているようだけどどうネ?》

《大道寺奏、鳥居みゆきはそれこそ、そこそこですが、進藤志穂は今の所からっきしですね。進藤蘇芳さんの親戚なのかは関係あるかどうかは分かりませんが才能はあると思いますよ。本人も魔法自体には興味を持っているのでやる気も十分です。孫娘と自己紹介の時に神鳴流である事を名乗りはしませんでしたが桜咲刹那、2人も呪術協会の関係者という事で仲良くなってきているようです》

《ふむ、そうカ。魔法学校を設立するときに西洋魔法使いだけでは日本では関西呪術協会が黙ていないだろうから丁度良いだろうネ》

《ええ、その予定で梵字を学習指導要領に入れる動きが出ている訳ですし。しかし、東洋呪術も最初から魔分の使用に重点を置いてしまえば西洋魔法との繋がりがもっと増えると思うんですけどね

《東洋呪術の気を扱うというのは確かに習得難度という点でデメリットではあるがきちんとメリットもあるし一概には決められないヨ。体内の生命エネルギーを理解するというのは必ずプラスになる》

《その辺りが難しい所です》

《うむ。……さて、私は私でやることをやるヨ》

この数日、私が所属する研究会の門戸を叩く大学生の新1年生が多すぎて正直私としては面倒とすら思えてしまうのだが、工学部なら馴染みのお兄サン達が、東洋医学研究会は流石にそこまで多くはないからともかくとして、大体対応してくれているお陰でその余波をなんとか免れているヨ。
もちろん興味を持てくれているのはやぶさかではないのだが。

《了解です。こちらの術師の摘み出しもゼクト殿のお陰で順調に進み、ようやく組織の活動が徐々に鈍ってきています》

《私達が仕返ししているとは気づいてもいないだろうネ》

《それはもう。いくら千里眼でも限度があると思うのが普通ですから》

《それもそうだナ》

ただ、捕まえても意味がない人達が一定数いるというのはどうしようもないし、これまでに組織が貯め込んだ魔法具自体はそのままという事にも変わりは無い。
それでも、麻帆良にいる分には特に不自由もないから、私は私のやることをやるに限る。
半永久魔力炉もプロトタイプが完成するのももうすぐだし、改めて何か略称か、それらしい名前を考えるかナ。



[27113] 85話 ドライヴ
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:31
超鈴音達の新生活が始まった一方、雪広グループが経営している麻帆良郊外にある着物着付け(女性限定)教室で先生をするようになったエヴァンジェリンお嬢さんと言えば、一瞬で教室の受講生が増えるという現象が起きた。
お嬢さんとしてはそこそこ仕事をしようという程度の筈だったのであるが、噂を聞きつけたファンが増える増える。
ついでに受講生は各自持ち合わせたエヴァンジェリンお嬢さんグッズを両手に「サインお願いします!」と必ず言ってきていた。
着付け指導自体は、お嬢さんは以前からお手の物であり、2002年の麻帆良祭でも当時の2-A生徒達に指導していた時も口調はいつも通りではあるが非常に丁寧な指導であった訳で、受講生達の顧客満足度と言えば振り切れているのではないだろうか。
結果として……コース受講はあっと言う間に数ヶ月の予約待ち状態となり、今から申請してもお嬢さんに手ほどきをしてもらえるのはやはり稀少性あるものとなった。
迷惑な話「女装して行けば男でも申し込めますか?」「男の娘なんですけど……駄目ですか?」「差別は良くないと思います!」「エヴァ様との触れ合いの機会は公平にすべきだと自分は権利を主張します!」というネタなのかたまにマジなのか、そういう問い合わせやご意見(笑)もかなりの数増えているのが、着物部門のスタッフの人達としては「 ま た 男 か ……」と溜息の耐えない種となっているらしい。
因みにその勇者(笑)達は電凸の結果を某掲示板に書き込み、粘れた時間の報告や、雪広の対応セリフパターンの分析等を無駄に続けていたりする。
因みに、紹介はしない。
主にその仕事を行う傍ら、お嬢さんは就職の際に雪広のアパレル関係企業とも契約を行った結果とでも言うのか、そんなある日雪広の写真撮影スタジオを訪れた。
その場では明らかに写真を撮ります、と言わんばかりの用意がされていた。
幾人ものスタッフさんの中には……お嬢さんの同級生もいて、大量の夏向けと覚しき服一式をガラガラと引っ張ってきて見せた。

「これ全部今年の夏新作モデルとして出す服よ」

なに食わぬ顔でお嬢さんを背丈の問題でやや見下ろすような形で、彼女は言った。

「美幸……。で……何か、私に全部着てみせろと?」

事情を察したようにお嬢さんが美幸さんに怪訝な表情でやや上を向いて尋ねた。

「さっすが、エヴァ、話が早くて助かるわっ!この日をどれだけ楽しみにしてた事か!」

途端に両手をパン!とあわせてやや上体を左に傾けて反応した。

「は……まあ良い。分かった。どれから着ればいいんだ?」

「片っ端から行くわよ!もう組み合わせは全部決めてあるから任せて!」

美幸さんは速攻で一着を取りお嬢さんにビシっと突きつけて見せて言った。

「あ……ああ」

「さ、着替えたらすぐ写真撮影するからお願い」

美幸さんはお嬢さんの背中を押すようにして着替えスペースへとそのまま連行していき、他スタッフの皆さんはリストに従って服の組み合わせの用意とメイク係り、カメラさん、照明係さん、などなどとそれぞれの仕事に分かれて行動開始となった。
お嬢さんと言えば、舞関係で着る服は当然であるが、ゴシックロリータの服をよく好む。
お嬢さんは、スカートは非常に良く着るが、しかしながら一般的なパンツ系は着ず、特にジーンズやデニム系のパンツは全く着ないと言っていい。
例外と言えば、麻帆良女子中等部の体操服がショートパンツであるぐらいだったろうか。
しかしながら、今回はそんな事無視して、キュロット、ショート、レギンスパンツ等も数多く取りそろえられており、お嬢さんの趣味などというのは完全無視であった。
当然、お嬢さんは外国人女性とはいえ良くて14歳程度と言った外見、神々しさからその存在感的にもっと大きく感じる云々はさておき……なので、10代後半から20代前半女性向けのファッション誌だとモデルとしては無理がある……と思われたのだが……「エヴァは凛々しいから大丈夫」と、そんな道理簡単にこじ開けられた。
「年齢詐称薬があれば飲んで欲しいんだけどねぇー」と美幸さんがぼやきながらもお嬢さんをコーディネートして行き、流れるように細かい所も整えられ、写真撮影に回され、ガンガン撮られて行った。

「……なんて素晴らしい逸材……」

カメラさん(女性)が撮る度に唸り声をあげるのが印象的だった。
もちろん、ティーンズ向けの服も後からどっさりやってきて写真も撮られていた。
美幸さん含むスタッフさん達的には、お嬢さんがショートパンツを着る姿が新鮮すぎたようであるが、やはり本命はスカート系というべきか、実に様になっていた。
ウエストにリボン付きの白色フリルワンピースはカメラさん(女性)が写真を撮るのを一瞬呆けるぐらいで、横で見ていた美幸さんが両手を前に出してプルプル震えながら「だ、抱きついていい?」と興奮していた。
大丈夫だろうか。
お嬢さん的に面倒だったのは表情についての注文が激しい事で、可愛い系の服を着る時は特に笑顔について何度も細かく「もう少し、もう少しだけ表情をゆるめてくだ……あ、それは緩めすぎです」と頼まれて苦労していた……がこれから慣れるのであろうか。
夏物というだけあって、半袖カットソーやノースリーブカットソーなどと肌の露出が多い服が多かった訳であるが、普段舞台では露出が殆ど無いだけに、美幸さんは「この写真が雑誌に載ったら確実に男が買いにくるわね」とどこの情報ソースか気にしてはいけない気がしたが、断言していた。
雑誌を買いにくるのか、着ていた服を買いにくるのかは知らない。
時間をかけて行われた写真撮影も終わり。

「モデル料は契約通りだから安心して。雑誌できたら家に送るから」

「ああ、分かった」

正直金銭に殆ど興味無い時点でお嬢さんにしてみればモデル料がどうのとそんなに重要な事ではない。

「あーもう、どれぐらい反響出るか今から楽しみー。エヴァのファンって10代後半以降が多いけど、今回の10代前半向けの雑誌用の写真でより層が厚くなるかもしれないわよ」

今までがほぼ大学のサークルで活動していただけにその傾向は強い。

「どうだかな。……結果でも分かったら教えてくれればいいさ」

「もっちろんよ!」

……という訳で、その日のお嬢さんのモデル業は終わりとなり、実際に撮った写真が雑誌に載るまでしばらく、となった。
その結果と言えば、載った雑誌は売り切れ、海外からも注文があったり、果てはネットオークションで転売しようと試みる輩も現れたり、雑誌に載ったお嬢さんの腕や首周りの露出が高い写真が大量にアップロードされたりとか……というのはまだ先の話である。

さて、ネギ少年はというと、個人が発動する転移魔法はほぼマスターし、実際に小太郎君やナギ達と旅に出た際に北は北海道から南は鹿児島まで問題なく転移魔法を成功させていた。
更に、ネギ少年だけ先に遠くに飛び、そこから強制転移魔法で物をナギ達に転送するということも上手く行き、中距離はまさに完璧と言って何ら問題は無かった。
次にゼクト殿同伴の元で、実際に5000kmという魔法球では実験不可能な長距離転移魔法にも挑戦し、結果として日本から中国大陸に飛ぶという事も初挑戦ながら普通に成功させたのだった。
総評すれば、ネギ少年は転移魔法そのもの自体についての理解はほぼ十分という状態になったので、ようやく超鈴音が依頼した超長距離転移魔法+加速度付加可能版の術式開発に本格的に取り組み始める事となった。
その際ネギ少年は超鈴音にこれから開発に取り組む旨を粒子通信で報告し、超鈴音もそれに対して「よろしく頼むネ。定期的に進捗状況とその術式をこちらにも知らせて貰えるかナ?」と返し「はい、超さんの意見も聞きたいので、必ず送ります」ともう既に研究者同士のやりとりという感じであった。
その後普通に研究を始めだしたネギ少年であったが、そんなある平日高校の授業が終わった後、神楽坂明日菜がやってきた。
相変わらず研究を続けている事に神楽坂明日菜は苦笑しつつもネギ少年に「高校はどう、アスナ?」と尋ねられてから「私最近料理上手くなったわ」や「外国の魔法使いの留学生4人も来て、陰陽師の子も3人も……」と色々話していた。
そして時刻も夕暮れに差し掛かるという頃、ネギ少年が切り出した。

「アスナ、今からちょっと外いかない?」

「えっ?ちょっとって?」

突然の切り出しに神楽坂明日菜が動揺する。

「うん、ちょっと。行こう?」

「う、うん。それは別にいいけど」

「母さん、父さん、ちょっと外行ってくるね!」

ネギ少年はアリカ様とナギに出かける旨を伝え、神楽坂明日菜の手を取って魔法球の外に出ていった。
……当の手を取られた本人はやや顔を赤らめていた。
そして玄関で靴を履いた所、神楽坂明日菜はそのまま外に出ようとしたが、ネギ少年が引き留めた。

「アスナ、ちょっとここで目瞑ってくれる?」

「え?目瞑るって……なっ、何するつもりよ」

神楽坂明日菜は完全に勘違いをしたと思われる。

「見せたいものがあるんだ」

「は?」

見せたいものがあると言いながら目を瞑ってと言うのは、特にネギ少年が何かを隠し持っているようにも見えないので神楽坂明日菜にとっては意味不明であった。

「いいからいいから」

ちょっと楽しそうにネギ少年が勧めた。

「わ、分かったわよ。……はい、瞑ったわよ」

そして、ネギ少年は……。

―即時範囲転移―

転移魔法を発動し、玄関から神楽坂明日菜と共に消えた。
……転移した先は飛騨山脈、通称北アルプスの某山の山頂。
普通の登山道も無い場所に転移した為、他に人の影も形も何もありはしない。
要するにいるのはたった2人だけである。

「な、何?寒い……って!」

目を開けるといきなり景色が違って神楽坂明日菜は驚いた。

「いきなり、ごめん、アスナ。転移魔法使えるようになったって話したけど、丁度夕日が見れる時刻だなって思って」

「ね、ネギ……。ううん、ありがと。……合成」

―咸卦法!―

神楽坂明日菜は咸卦法で身体保護をし、ネギ少年は魔分で身体強化し、山頂での寒さを無視した。
空は丁度夕焼けに染まり、近くの山脈も夕日に照らされ、一面が暖かな色合いに包まれた中、その光景をなしている夕日そのものを2人は揃ってゆったりと眺めはじめた。

「……これを……見せたかったのね」

「うん……そうだよ。僕もここは初めて来たんだけど、座標は分かってたから」

「そう……きれいね」

「うん……アスナの髪と同じ色」

「へっ?それってど……ど……う、ううん、何でもない」

「?」

……ネギ少年は全然気にしてないが、会話から言うとネギ少年が神楽坂明日菜の髪を綺麗だと言ったようなものだろう。
一瞬動揺した神楽坂明日菜だったが、ネギ少年が特にそんな事考えている訳も無いかと思い至り、想像を振り払った。
そして2人は太陽が急激に落ちだし、沈み終わるまで一緒に並んでそれを見続けていた。

「……帰ろうか、アスナ」

「そうね」

そのままいれば、麻帆良では街の明かりで絶対見えない、満天の夜空が見えた筈であるが、流石にそういうわけにもいかないという事で戻ることになった。
そしてネギ少年は再び転移魔法を発動しエヴァンジェリンお嬢さんの家の玄関へ神楽坂明日菜と共に転移した。

「ネギ、連れていってくれてありがとね。すっごく良かったわ」

「うん、どういたしまして。僕もアスナと夕日見れて良かったよ」

「そ、そう?」

「うん!……それで、転移魔法って凄く便利だけど、使い方には気をつけないといけないなって実際に使えるようになってみて分かった。使いすぎもそうだし、使い方によっては悪いことにも使えてしまうから。でも、これで僕……いつでもアスナや父さん母さんのところには戻ってこられるよ」

京都への家族旅行の時の決意は果たされたという訳だ。

「……そうね。ネギ、旅に出たら、その時は、必ず戻ってきてね」

「うん、約束するよ、アスナ」

「約束よ。……それじゃ、私これで寮に戻るわね」

「気をつけて帰ってね」

「大丈夫よ」

そして……神楽坂明日菜は鞄を持ち、ネギ少年に玄関で見送られてそのまま寮へと戻っていった。
ネギ少年は魔法球へと戻ると「ちょっと外行ってくる」というのにはやや長かった事にアリカ様とナギが何かあったのかと聞いたりしたが「大丈夫だよ」とネギ少年は簡潔に返していた。
正直に飛騨山脈にパッと行ってきたとは言わなかった辺りネギ少年はどういう心境だったのかは分かりかねるが、心にしまっておきたいと、そういう事なのだろうか。
一方、当のまさにプライスレスなプレゼントを貰った形になった神楽坂明日菜はというと大層上機嫌に女子寮に戻った為に、春日美空に「アスナ、顔やばいよ?」と言われ「やばいってなによ!」と春日美空の言葉の選定を叱っていた。
「ま、ネギ君か」と春日美空は普通に正解を言い「うっ……ど、ど」と神楽坂明日菜が顔を赤くして言葉に困ったところ「はいはい、ごちそうさまー。でも夕食はまだ食べてないよ!」と相変わらず適当さは半端ではなかった。
……その後、神楽坂明日菜が美術部で新たに描き始めた絵がこの日見た夕日であった事はちょっとした余談である。
高校生活始まって、神楽坂明日菜以外はというと、孫娘達陰陽師関係者は週2回、呪術協会で東洋呪術を学び、ある時小学校から帰ってきた小太郎君とも進藤志穂、大道寺奏、鳥居みゆきの3人は知り合いになり、気の捉え方についてアドバイスを貰ったりしていた。
進藤志穂が驚いたのは何と言っても親戚の進藤蘇芳さんが関西呪術協会屈指の陰陽師であった事で「まさか蘇芳さんがそんなに凄い人だったなんて……」と言葉を漏らしていた。
4人の外国魔法使い留学生はというと、麻帆良を純粋に楽しんでいるようで、本当にあちこち麻帆良の部活やら研究会をこの4月の間は見学して回っていた。
その案内には長瀬楓がついて回ることもあり、更に隣のクラスの鳴滝姉妹も混じって「「ナタリアさんこっちですよー!」」等と正直余り今までと変わっていなかったもしれない。
体育の授業では彼女たちは結構自信があったようなのだが、麻帆良人達の運動能力は色々アレな為に超鈴音と古菲の手合わせを見たとは言え、改めてショックを受けていた。
もちろん、唖然としていたのは受験で高校から入ってきた人達も同じなのは言うまでもない。
認識阻害が残っていれば、違和感を感じる事も無かったのであるが。
……隣のクラスに目を移せば長谷川千雨は早乙女ハルナと同室になっており……まあ、早乙女ハルナには長谷川千雨がネットアイドルのちうである事はバレていて同室になって引っ越したその日に一悶着あった。
早乙女ハルナが、長谷川千雨がちうである事をニヤケながら「知ってるぞー」と言い、長谷川千雨はその瞬間早乙女ハルナにバレていたという事に「私の人生終わった……」というような表情をして完全に固まったのだ。
しかしながら、以前から知っていた割に、噂拡大マシーンである早乙女ハルナがその事を広めてはいなかったのであるから、長谷川千雨が直感的に悟ったような事は起きる事はなく「私が書いてる漫画の意見とか、締め切りやばい時手伝ってよ……ね、ちうちゃん!」というその一言により「要するに交換条件って事か……」と諦めたようにその条件を長谷川千雨は飲んだのだった。
何だかんだ、その他にも長谷川千雨は、早乙女ハルナが「千雨ちゃん、私も自分のホームページ持ちたいんだけど、作るコツとか教えてくれない?」と聞いたりしてきて、否定するのも嫌な考えがよぎる為「どんなレイアウトにしたいか言ってみろよ。その……何だ、大体の部分は作ってやるよ」と答えていた。
長谷川千雨としては「3年間コイツと一緒は本気でやべぇ……」とか思っていたようで実際寮室で1人になった時は声にまで出していたのだが、それもほんの僅かで考えが変わったようだ。
……それというのも、早乙女ハルナが書く漫画のジャンルがアレすぎて意見を求められた時に「ブッ!ちょ、おまっ!何書いてんだよっ!?」と吹き出しながら思わず大声を出した事が発端である。
早乙女ハルナは「まーまー。私、こういうの書きたかったんだけど、意見聞ける相手なんてここに ひ と り ……しかいないじゃん?」とニヤリと笑い「いや、私にも聞くなよ!」と長谷川千雨はおもいっきり突っ込んだりなんなりしているうちに、互いについてのアレな件は他所では黙っているという暗黙の了解をしあう事に落ち着いたのだった。
26組に左遷された朝倉和美はというと、めげずに宣言通り、1-1と1-2には普通に、流石突撃班員というべきか、乗り込んできた。
しかし、1-1に関しては同じ報道部員の西華香織が「朝倉、このクラス私の管轄だから、わざわざ来なくて良いよ」と相手をし「西華、さては買収された?」と朝倉和美はそれに聞き返し「んな訳あるか!このクラスは何かヤバイって私の勘が言ってんの!」と更に西華香織が言葉を乗せ「だからこそ、探究心が掻き立てられるんじゃないさ!せめて留学生に対しての取材は自由にやらせてもらうよ」……等と報道部員同士の語り合いが繰り広げられたとか何とか。
……そんなこんな各自それぞれ日々を過ごし、4月の末、とうとう例の物が形になった。

「プロトタイプの完成だヨ」

「やりましたね、鈴音さん!」

「うむ、これでまた一歩ロマンに近づいたネ!」

円錐型のフォルム、その上部と下部の2箇所にあるラインに一周、細かい穴が空き、そのラインで上層部、中層部、下層部の3層に分かれ、平常時はその2つのラインが緩やかにそれぞれ違う方向に回転し続ける、一見してかなりスタイリッシュな印象である。

《従来の魔力炉とは異なり魔分を魔分のまま利用する魔力炉。名前を考えたという事ですが……聞かせて貰えますか?》

「良くぞ聞いてくれたネ、翆坊主。そう、これこそ正式名称、半永久魔分圧縮加速反応炉。semi-Eternal Magical particle compression accelerated reaction Drive。略称EMドライヴ。半……永久魔分炉という感じだナ」

EMドライヴ……凄くそれっぽい感じの名前だ。
炉とくるとreactorやfurnaceというのもアリな気がするが個人的にはこれで寧ろ大賛成である。

「EMドライヴですかー。それっぽい感じですね!」

先に言われた。
イーエムでもそのままエムとそのまま呼称もできそうだが、まあどっちでも良い気がする。

《私もそう思います。分かりやすい略称なのも良いと思いますよ》

「そう言て貰えると考えただけはあたネ。既に実験で何度か稼働させているが、もう一度本稼働させてみるヨ」

「はい!」

超鈴音がEMドライヴを本稼働させると……徐々に2本のラインの回転速度が徐々に上がり、数分間かけてその回転が最高速に達する。
魔分が下部ラインから吸い込まれ、上部ラインから高密度圧縮された魔分が高速で放出されているのが、人間の肉眼でもなんとか見えるレベルで分かる。
放出されている魔分は魔法領域の様な感じの輝きを放っている。
EMドライヴ内部で高密度に圧縮され、加速している魔分の持つエネルギーは魔法世界での飛空艇に搭載される精霊祈祷エンジン一基で得られる出力の数倍に及ぶ。
基本的には周囲の魔分を吸収し再放出するが、高密度圧縮した魔分は工夫しさえすれば、いわゆる精霊砲などの用途でそのまま魔法的転用をする事もできるし、圧縮加速反応を利用する本格的な発電機構を内部に内蔵すれば発電も可能だ。
本稼働させていない時の最低限の半永久稼働の動力は緩やかな魔分の加速反応で発電し続ける装置によって賄われている。
メンテナンスをする為に完全停止させて、その後再び稼働させる時は、始動時に未来技術で超小型化を実現している蓄電装置に貯めてある電気が使用される。

「うむ……順調だナ。精霊祈祷エンジンが魔分を必ず消費するのに対し、このEMドライヴは一旦稼働させてしまえば、魔分そのものを一切消費せずに魔分を魔分のまま圧縮加速反応させる事でエネルギーを得続け、ドライヴ自体も稼働させ続ける事ができるのが最大の違いネ。後は、高密度の魔分球と下部ラインを直接接続すれば更に最大出力を上げられるし、放出される魔分もMOCでEMドライヴごと完全密閉する容器に入れて再び魔分球に魔分を循環させるようにすれば魔分の殆ど無い宇宙空間でも、ほぼ永久的に電気エネルギーならば得る事ができるヨ」

《これで優曇華を使わない方法での宇宙進出がかなり近くなりましたね》

「その通りネ。まだまだ改良の余地はあるが、これ一つで十分な電力を賄う事もできるようにしていくつもりだし、そのうち今魔法球と優曇華のアーチで幅を取ているソーラー発電用の機器も要らなくなるナ」

魔法球の中、優曇華のアーチ内は魔法的太陽光があるので、今まではそれを超鈴音は発電に使用していた。
当然未来技術なので電気変換効率は今世の中に存在するソーラーパネルと比較するとおかしな事になっている。

《そのソーラーパネルも大概どうかしてると思いますけどね》

「それもいつも通り誉め言葉と受け取て置くネ。核融合炉を作るのは面倒だたし、ソーラー発電で十分ネ」

《本当に現行の科学技術に喧嘩売ってますよね……》

地上の太陽を面倒の一言で片付ける辺り、本物すぎる……。

「いずれ実現するから、ほんの数十年早いぐらいの違いだけネ。それに自重はしている方だヨ」

まあ……そう言われればそうなのだろうが。

「んー、それにしても、まだEMドライヴだけって感じなのに何だかワクワクしてきますね」

「うむ、これだから研究はやめられないネ。これからはこのプロトタイプEMドライヴの性能を更に高めていくヨ」

「葉加瀬さんも絶対凄く興味あると思いますけど……やっぱりキツイですよね……」

「魔法球だけならエヴァンジェリンの家に預けている物をまた持てくればいいだけなのだが、研究自体は今魔法世界から部品を運んでくるのにここの神木とのポートが必須だからネ……。どこから入手してきたのか説明もなかなか厳しいし、下手にそういう事を話したり、実際に見てしまうとハカセ自身がもしもの時に危険に晒されかねないから残念ではあるが仕方ないヨ。魔法世界との国交ができて、本格的に魔法素材のやりとりが可能になる時には既に魔法総合研究所もできている事になるし、あと半年超待つぐらいはできるネ」

正直葉加瀬聡美に魔法球を使わせると、本当に一日中籠もって学校に行かなくなる可能性があるからそういう意味でも危険だと思う。
ただでさえ、工学部が第2の根城になっている訳でもあるし。

「そうですね、魔法総合研究所ができるのもあと数ヶ月ですし、それまでの辛抱ですね」

「ああ。……ところで各地魔分溜りの魔分状況はどうなているネ?恐らく秋頃には1基目の人工衛星が完成すると思うが、できれば2基目が完成する時には復旧させておいてくれた方が助かるのだけど」

《了解です。まだゲートは復活には至らない状態ですが、今年の国連総会で魔法使い達にとって数ヶ月以内にゲート復旧の目処が立つといえる状況にはしますので。2基目の完成前には復旧するように調整もしますよ》

「頼むネ。一気に供給してしまえば済む話だけれど、徐々にやらないと怪しすぎるのがネックだナ」

《ええ、まあその地道な作業はサヨの身体ではないですが、やはり、そういう事に耐性がある私達向けであるとも言えますからね》

実際この20日でサヨの身長は3ミリ、一日に0.15ミリずつ伸びている。
年間で5cmは伸びる計算である。

「誰にも背が伸びてる事まだ指摘されないので、上手く行ってると思います」

《今日もこの後やるんですよね》

「はい、もちろんです!」

「ふむ、確かに日々徐々に伸びていて普通には気づかないネ」

「この調子で頑張ります」

普通に生活していると人によっては身長が逆に縮んだりすることもある訳で、そんないちいち気づく人も早々いはしないだろう。
……と、サヨの調整成長話はここまでにして、EMドライヴのプロトタイプが出来上がった所で、ひとまずこれにてこの日は終わりである。



[27113] 86話 召喚契約
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:31
5月初頭、世間ではゴールデンウィークという連休。
麻帆良大学で専任教員として働き、日本魔法協会にも所属している明石は約半年前から劇的に忙しくなり、年末年始も関係なく働き詰めであったが、ようやく落ち着いて少し固まった連休を取る事ができた。
娘に対し、明石夕子の事で話しがあると言ってから、早半年。
未だに明石は、その話を娘にしていなかった。
明石は祐奈と共に命日ではないが、明石家之墓……明石夕子の墓参りに2人で訪れていた。
墓の掃除をし、供える花も水と共に取り替え、線香を上げて、2人で親と子は手を合わせた。
この時ばかりは「元気は最強。元気が最優先」と母に教えられて育った祐奈も口数少なく大人しくしていた。

「お父さん……今日ここに来たって事はお母さんの話やっとしてくれるの?」

祐奈は墓を見ながら落ち着いた低いトーンの声で尋ねる。

「……そうだよ、祐奈」

明石も墓を見ながら答える。

「もう、話あるって言ってから、半年も経ってるよ?」

祐奈は父の顔に視線を移しながらため息混じりに言う。

「それは、悪かった……ごめん」

明石は目を瞑り、軽く頭を下げた。
……半年……いくら忙しいとは言え、言おうと思えば言える時はいつでもあった。
ただ、明石としては話す場所に拘りたいという想いがあったのだ。
一瞬の間が空いた所、続けて口を開いた。

「……母さんが亡くなったのは飛行機の事故が原因ではないんだ」

「……ふぅー、やっぱりねー。そうだと思った」

祐奈は大きく息を吐く。

「母さんは政府……メガロメセンブリアのエージェントとしての任務中に……殉職したんだ」

続けて明石は重苦しく口を開き、その目はメガネが光に反射して祐奈からはよく見えなかった。

「……殉職……かぁ……。お母さんは魔法関係で死んじゃったって事なんでしょ?」

殉職という普段聞き慣れない言葉の響きに祐奈は複雑な感情を抱いた。

「ああ、そうだよ」

「……ねぇ……お父さん。……なんでお父さん今までそれ私に言わなかったの?」

祐奈は顔を地面に向けて俯きながら、訴えるように言った。

「…………本当に悪かった。もし、教えて、魔法について知って、祐奈まで失う事になったらと思うと……これまで……」

明石は娘とは反対に頭をやや空を見上げるようにする。

「……バッカだなぁー。……お父さんのバカ……。馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿っ!!」

娘は顔を伏せたまま、父の胸を両腕で叩き始める。

「………………」

「……言ってくれたって……良かったのにっ!!私は別にそんなのっ……平気だよっ!!」

「………………」

そのかすかな涙混じりの声と共に繰り出される一発一発は明石の心にも重く、重く響いた。
それをただただ、ひたすらに受け続けた父は、沈黙を貫いた。
……叩くのをやめ、父の胸に頭と両手をつけた状態でしばし止まり……深呼吸をした後、祐奈は右腕の袖で目元を擦り、顔を上げる。
その顔には泣いた跡がはっきり残って見えたが、笑顔がもう戻っていた。

「へへっ……今のはおしおきだよっ。……結構効いた?」

「ああ…………それはもう。このまま帰って寝たいぐらいには効いたよ」

互いに普段は滅多にはしない表情をして2人は言葉を交わした。

「なーにそれ。ま、お母さんの事はまだ許してあげないけど、今だけは許してあげるよ」

祐奈は片目を閉じて人差し指を立てて言った。

「厳しいなぁ……」

やれやれ、という風で、明石は頭を右手で軽くかいて困った表情を浮かべる。

「だらしないお父さんは甘やかしちゃだめだとゆーなさんは心を鬼にします」

祐奈は両手で目をつり上げて言った。

「それは怖い鬼だ。だけど……許してくれてありがとう、祐奈」

明石の表情が緩む。

「今だけだからねー」

「ははは」

明石の空笑いが響いた。

「でさ、お母さんはどういう任務だったの?国家存亡の危機を陰から救うみたいな事とか?」

祐奈は重くならないように軽く聞いた。

「任務については話せない……と普通は言う所だけど……この後、話すから。待たせている人達がいる」

「え?待たせてる人達?誰それ?」

聞いていないとばかりに祐奈は驚いた表情をする。

「会えば分かるから」

そうしてやりとりを交わした後、時刻は昼頃。
2人は寺を降り、近くの店で昼食をとり、次にとあるビジネスホテルへと向かった。

「何だ、お父さんと禁断の愛を育むのかと思ったら、ただのビジネスホテルかー。つまんなー」

祐奈は本当につまらなさそうな様子であった。

「…………そういうのやめないかな……祐奈。心臓に悪い。本当に、心配になるよ……」

偶然周囲に祐奈の発言を聞いた人がいなかったのは幸いであったかもしれない。

「これはサービスのつもりなんだけどなぁ。まあ、おしおきの つ づ き でもいいかも?」

「…………それは……きついなぁ……」

どちらの意味であろうが、心底明石は困ると、顔を手で押さえた。
そのままエレベーターに乗り、目的階にあがり、廊下を進みある一室に着く。
チャイムを鳴らし、ドアを開けに現れたのは祐奈も知る人の姿だった。

「こんにちは、明石教授、裕奈君。本日はどうも。入ってください」

「高畑先生!?」

祐奈は驚きの声を上げたものの、廊下での長居は無用という事で早々に2人は部屋の中へと招かれた。
しかし、再び祐奈は驚きの声を上げる事となった。

「ネギ君のお父さんまでっ!?」

「よー、明石教授に娘さん」

席に座っていたナギ・スプリングフィールドは片手を上げて軽く挨拶をした。
とりあえず、互いにそれぞれ挨拶を交わした所で、4人は席についた。

「結界も張ってあるので……話に入りましょう」

盗聴防止の結界を予め張ってあることを高畑が言った。
祐奈は結界という単語にいつの間にとつっこみを入れそうになったが、その高畑とナギがいるというよく分からない状況に声は出さなかった。

「祐奈、さっきの続きになるけど、いいかい?」

そして明石が娘に尋ねた。

「う……うん、もちろん」

「分かった。……落ち着いて聞くんだよ。母さん、明石夕子はこちらのナギ・スプリングフィールドが約10年前に失踪した当時、その捜査が任務だったんだ」

明石は隣の祐奈に目の前のナギを手で軽く示して言った。

「え……?お母さんがネギ君のお父さんを探しに……?それに失踪って」

突然の事に祐奈は理解が追いつかなかった。

「言葉の通りだよ、祐奈」

明石がそれを重ねて肯定し、ナギが説明を始める。

「俺はこの10年間近く封印されてたんだ。気がついたら10年後って感じにな……。年とってないのもそのせいだ。……言い訳にしかならないが、俺が封印されてなけりゃ、夕子さんが捜査に出ることもなかった筈だ。済まない」

ナギはやりきれない表情をして述べた後、頭を下げた。
……それに対し祐奈は、ナギの見た目がどうこうというのも気にならない訳ではなかったが、それ以上に母の話について、上手い言葉が見つからず、心中も微妙であった為、沈黙した。

「……………………」

「祐奈」

心配するように明石が娘に声をかける。

「大丈夫だよ、恨んだりなんてしないから。ネギ君のお父さんも気にしないで下さい」

一つ思い当たる節があり、祐奈は口を開いた。

「悪いな……」

ナギは苦い顔をして再び謝る。

「いえ、本当に気にしないで下さい。それに、ホントはお母さんが何の任務で殉職したのか話しちゃいけなかったのを私に話すって事は他に何かある、あるんですよね?」

空気を変えるかのような祐奈の質問に対し、答えたのは高畑であった。

「その通りだ、祐奈君。改めて、明石教授、祐奈君……僕とナギはこれから、明石夕子さんの殉職に関する事件を含め、その黒幕と思われる一派を追求するために、動くつもりです」

代表的な事件は10年前の明石夕子他複数名の殉職事件、ガトウ・カグラ・ヴァンテンバーグ暗殺事件、ウェールズの村悪魔召還事件であり、他にクルト・ゲーデル、ジャン=リュック・リカードらが個人的に掴んでいるその他複数の事件がある。

「高畑君、分かった。お願いしよう。ようやく……真相に近づけるかもしれないか……」

明石は予め以前に個人的にこの話を聞いていたが、改めて理解した。
対して、祐奈はある単語に反応を見せる。

「た、高畑先生、黒幕って?」

「祐奈、メガロメセンブリア元老院は知ってるよね?」

先に明石がそれに答える。

「う……ん。サイトで見たから。要するに日本の国会みたいな感じだよね?まさかメガロメセンブリア元老院が……黒幕?」

祐奈は意外そうに、父の顔を伺うように顔をして推測を口に出した。
しかし、またそれに対して説明をするのは高畑であった。

「そうとはまだ断言はできない。けれど、怪しいのは間違いない。明石夕子さんの殉職の件についてはメガロメセンブリア元老院の判断で麻帆良学園、日本魔法協会には詳しい情報は殆ど降りてこなかった。昔から都合の悪いことは公表しないのが元老院のやり方でね、明石夕子さんの件も何か裏がある可能性は否定できないんだ」

「はぁー、いかにも巨悪って感じですねー。そういうのって許せないなぁ」

祐奈は腕を組んで唸って言った。

「祐奈、それも元老院のあくまで一部の話だよ」

「う、うん……?」

「高畑君、ナギ、祐奈にも聞かせられる範囲でこれからどう動くのか尋ねてもいいかい?」

明石はまだ自分も聞いていない事について、2人に尋ねた。

「俺はまだメガロメセンブリアじゃ失踪した事になってるが、俺が復活したとなれば元老院は焦る」

ナギの言葉を引き継ぐように高畑が続ける。

「その動揺を起こすのがナギと僕だとすれば、その隙を突いて動くのがクルト・ゲーデル、ジャン=リュック・リカード元老院議員です。ここ数ヶ月で黒幕の一派は時代遅れの保守発言を繰り返してばかり、以前はそちらにただ靡いていた者達も旗色が悪いと離れつつあり、彼らの絶対的だった権威にはかなりの揺らぎが生じてきています。議会そのものも発言と票が以前より明確に割れ始めている今、これを期に一気に叩く作戦です」

ナギが復活したという事を知れば、黒幕の一派が最初に気にする可能性が高いのはウェールズの村悪魔召喚事件。
元々、ナギがいないからこそ、一部の者達が村を襲うという手段に出たのであり、実際にはその襲撃事件ではナギの姿が確認されたというのはあったにしても、その後ナギが再び現れる事が無かった事から、彼らはこれまで安心していられた。
しかし、ウェールズの村の襲撃に姿を表したナギが本当に完全復活をするとなれば、黒幕の一派は必ず焦りを見せ、ただでさえここ最近統制が乱れてきているのが更に悪化する可能性は充分にある。
その説明に明石が顎に手を当てて、

「なるほど……確かに今が絶好の機会か」

「うわー、ドラマみたいな話。ところで……ネギ君のお父さんって何者……いえ、有名人なんですか?」

祐奈はその作戦について、これから本当にやるのだとしても実感が一切沸かないという風で反応するも、ナギが何者かについて気になって尋ねた。

「あー、そっか。俺の情報出てないんだもんな」

ナギはそういえば説明していなかったと、気がついたように言った。
それに高畑は軽く苦笑しつつ、祐奈に説明を始める。

「わざわざ失踪者の情報出したりはしないですからね、ナギ。祐奈君、ナギは魔法使いの間ではサウザンドマスターという2つ名で有名なマギステル・マギで魔法世界では知らない人はいないという程の知名度があるんだ」

「ええー!?すごっ!じゃあネギ君も……あれ、その前にネギ君も魔法使い?」

その説明に祐奈は驚愕し、だとするならばネギは一体……とまた尋ねる。

「そうだよ、祐奈」

明石が簡潔に肯定し、祐奈は更に呆気に取られた顔をする。

「な!そんな凄い事今まで知らなかったなんて……。あ、それでネギ君も有名人なんですか?」

「それなんだけど……ナギの話と関係して、祐奈君にはネギ君の事について頼みたい事があるんだ」

高畑は祐奈の質問に対し今までより真剣な表情をする。

「な、何かな、高畑先生?」

祐奈は高畑の反応に少し気圧されるように聞き返す。

「……ネギ君の事については、魔法使いであることも含めて、今は退職して、麻帆良にもいない、という事でお願いしたい。特に同じクラスの外国人留学生4人の魔法使いの前では極力ネギ君の話自体をしないように頼む。普段元3-Aのクラスメイトとネギ君の話をするぐらいなら構わないけど、それ以外でネギ君の名字がスプリングフィールドである事だけは絶対に言わないで欲しい。ただ、1-1では可能な限り話に出すのも止めて欲しい」

ネギはメガロメセンブリア上層部では死亡したという事になっている。
しかし、ナギ・スプリングフィールドにネギ・スプリングフィールドという名の息子がいるという事は魔法世界、魔法使いのコミュニティではAランクの機密情報であり、多くの魔法使いはこの情報を知り得てはいない。
情報を教えられていない魔法使いが、ネギがナギの息子であるという事に行き着くには、ネギがスプリングフィールド姓である事を知り、実際に会ってみてその容姿が似ているという事から複合的に推定するというのがほぼ唯一の方法である。
日本は麻帆良といえば、ネギが10歳の先生として目立った事はあっても、魔法使いであることを知られた訳ではないし、扱いとしては退職したという事になっている為、仮に元3-Aの生徒がネギの事を話しているのを他人が聞いたとして、生きている前提での話は別におかしくはなく、寧ろ普通だ。
特に情報を漏らさないように気をつけるべき相手は、ネギが「あのネギ・スプリングフィールド」と知っていて、ネギが生きている事が不都合なメガロメセンブリア元老院のある一派の魔法使いに限られる。
現状、稼働しているゲートが麻帆良だけであり、その行き来を許される魔法使いも厳しい制限がある為、末端の人間が何食わぬ顔で調査をしに現れるという事はあったとしても、ゲートで世界間移動を試み、反対側に転移した段階で必ずその情報を記録されるので極めて難しく、逆に情報を明らかに知っている人間に関しては完全に顔が割れているのでその対応も十分に取れている。

「……あー、新学期入って忙しかったのもあるけど、そういえば皆ネギ君の事1-1で話してる所全然見た事ない気が。……話は分かったけど、理由は聞いても……?」

祐奈は言われてみればネギの話を聞いた覚えがないとばかりに思い出して言った。

「……端的に言うと、ネギ君の命に関わる。それも例の黒幕の件と関係が深いんだ」

「あ、あれぇー?……お……重い話だね、高畑先生。……分かった。今のことは約束します。ネギ君の事は話さないように気をつけます」

高畑の簡潔だがわかりやす過ぎる回答に祐奈は虚を突かれたような表情で、やや焦って答えた。

「ああ、頼むよ」

「俺からも頼むぜ」

高畑とナギは続けて祐奈に言った。

「はい、任せて下さい!」

はっきりと元気一杯に祐奈が席から身を乗り出すように言った所で、明石が別の話を始めた。

「……それで、祐奈。魔法学校が設置されるニュースについてこの前聞いてきたけど、来年度第0期生として入学する生徒の予定にはやっぱり祐奈も入っている」

「ホントに!?」

その話に祐奈は目を輝かせて父の顔を見る。

「本当だよ。実際に入るかどうかは祐奈の意志次第だけど、ここまでの話も含めて、どうしたい?」

食いつき方から言ってほぼ分かっていたようなものであるが、明石は敢えて尋ね、それに祐奈は一瞬間をおいて、

「……そんなの決まってるじゃん!入るしかないよっ!」

ついに完全に席から立ち上がって宣言した。

「…………やっぱりそういうだろうと思ってたよ」

「おー、元気だなー」

「はは、祐奈君らしいね」

明石と高畑は苦笑し、ナギは感心したように言った。

「元気は最強!元気が最優先ですから!」

祐奈は母から教わった言葉を返し、再び席に着いて続けて尋ねた。

「お父さん、その0期生って何人ぐらいになる予定なの?」

「20人から多くても30人、カリキュラム作成が目的だから0期生はそれぐらいかな。祐奈のクラスは魔法生徒が結構いるだろう?他には国際大付属、麻帆良芸大付属にもいる。元々麻帆良には男子の魔法生徒は1人もいなかった都合から0期生は高校生の女子クラスだけという事になるよ。再来年になったら男子も入る事になるだろうけど」

「へー、1クラス分はいるんだ。そっか、1-1はこのかに春日、陰陽師3人に魔法使い留学生が4人もいるもんね」

父の説明に祐奈は納得するように頷いた。
その後、祐奈は他にもいくつか質問……流してしまっていた、ナギの年齢の件を興味津々で追求したりしつつ、返答は適当にはぐらかされたものの、会話を交わし、そこそこの所で、挨拶をして父と共にそのビジネスホテルの一室を後にした。
……一方残った高畑とナギはというともう1人次に呼んだ人物を待っていた。

「タカミチ、わざわざ呼んでも聞くことなんてすぐ終わるんじゃないのか?」

「ま……まあ、そうですけど、聞きたい事があると連絡したら来てくれるという事にな……」

丁度そこへ、部屋のチャイムが鳴る。

「おっと」

高畑は席から立ちあがり急いでドアへと向かい、開けた。

「…………………………」

すると完全な無表情で高畑を見たまま沈黙を貫く人物が1人いた。

「やあ……ザジ君。よく来てくれたね、ありがとう。どうぞ」

「………………」

僅かに頭をコクリと動かしザジ・レイニーデイは招かれるままに部屋へと入る。

「よお、ザジの嬢ちゃん、元気か?わざわざこんな所まで悪ぃな」

ナギはまたも片手を上げてザジに挨拶をする。
対してザジはコクリと頷き、軽く首を横に振った。

「………………」

高畑とザジが席につき、しばし沈黙が流れ……。
唾を飲み込み、切り出したのは高畑。

「……ザジ君、聞きたい事の内容を言うよ。……悪魔召還の記録のようなものは魔界側に存在するか、存在するとしたらどういう形で存在しているのか、という事だ。勿論、協力してもらえるかどうかが一番重要なのは分かっている」

「……………………………………………………………私は協力しません」

長い沈黙の後、ザジの口から紡ぎだされたのは一言。

「…………そう……か……」  「……………仕方ねぇか」

その否定するような言葉に対し、遅れて高畑とナギは反応した。

「…………ですが……完全なる世界」

更に遅れて、ザジは補足するように単語を口に出し、思わずそれに対し2人が声を上げる。

「え?」  「お?」

「完全なる世界……アレに協力していた私の姉には少なからず協力するに足る道理があるかもしれません」

思わせ振りな発言に高畑は結論を促すように恐る恐る口を開く。

「それは……つまり……」

しかし、それをザジは遮った。

「先に……質問に答えましょう。悪魔召喚の儀式を行った召喚主の名前は魔界には全て記録されています」

質問について答え出したザジに対し、高畑とナギは口を挟まずに黙って聞き始める。

「召喚契約順守の対価の一つとして召喚主の名は未来永劫消えること無く魔界のある場所に刻まれ続けるのです。ただし、その特性上持ち出しは不可能です」

無表情でザジの説明が終わり、

「……そうか……答えてくれて感謝するよ」

「名前なんてわざわざ記録してんだなぁ」

高畑は、事実は分かったものの少し残念そうに、ナギは寧ろ記録がわざわざ残っているらしいことに感心した。

「……ところで、爵位持ち悪魔召喚のリスクはご存知ですか?」

「リスク……いや、知らないが……」

突然ザジに逆に質問をされ、高畑は戸惑うも否定する。

「召喚主の依頼内容によりますが、基本的に魂が対価になります」

ザジの淡々とした説明に対し、ナギが問いかける。

「それは命って事か?」

「はい。召喚主がある対象の殺害を望んだ場合はその契約の完了と同時に爵位持ち悪魔は問答無用でその魂を貰い受けます。ただし、望みがある対象の殺害ではなく、封印や呪いである場合には召喚主が死ぬ際には必ず魂を貰い受けるという後払いの契約になります」

「魂の後払い……」  「……魂か」

魂を対価とする契約、という話に高畑とナギは初めて知ったと複雑な表情で呟く。
それに対しザジは更に言葉を続ける。

「爵位持ち悪魔召喚の儀式は召喚主には名と魂という契約対価が存在する以上、因果応報、その契約に対しては、第三者は原則不干渉を貫くのが魔界の掟です」

「……悪魔召喚の記録は魔界で使われる為のものであって、僕達人間が利用するような事は想定していない、という事か」

高畑はザジがわざわざ悪魔召喚のシステムについて説明しだした理由を察して言った。

「……そういう事になります。あくまで魔界の掟ですので、それ以外の異界の者達の掟はそれぞれまた異なるでしょう。原則と言いましたが、私の姉が、私と同じように例外的な行動を取る……かもしれません。私は協力しませんが、私から姉に、話はしてみます。……それで宜しいですか?」

最後にザジは僅かに期待を持たせる事を述べ、話を締めくくった。

「あ……ああ、勿論、それで充分だ。感謝するよ」

「俺からも感謝するぜ。この前の事も含めて、ありがとな、ザジの嬢ちゃん」

最終的にまだ、何らかの望みが少なからず残っているという事に高畑とナギは少しばかり安堵して微笑みを浮かべ、ザジにそれぞれ感謝の言葉を述べた。

「……………………」

対して、ザジは一度だけ肯定するように頷き、スッと席から立ち上がり、一礼してドアの方向へと歩き出した。
慌てておいかけるように高畑とナギも席を立って、ドアへと向かう。

「今日はわざわざ来てくれてありがとう、ザジ君」

「気をつけて帰れよ、ザジの嬢ちゃん」

2人の言葉を背に受け、一瞬振り返って頷いてみせたザジはそのままからドアから出て去っていった。
残った2人は少しの間ザジが出て行ったドアを眺めていたが、一旦席へとまた戻り座った。

「何だか、ザジ君には、まず出来る限りの事は自分達でやれ、と言っているような雰囲気を感じましたよ」

まだまだだな、という風で高畑はそう言いナギもそれを聞いて同意する。

「あー、それは俺も分かるな。頼るなら最終手段にしろ、って感じに」

「……ですね。ナギ、確実にメガロメセンブリア元老院、何とかしましょう」

高畑はフッと息をつき、その決意をナギに述べる。

「ああ、絶対に何とかするぜ。10年馬鹿みたいに封印されてたからには、せめてそれぐらいはやらないとな」

ナギは両手を合わせ、これからだ、と同じく決意を述べる。
2人もこの部屋を後にしようと、高畑が立ち上がる。

「クルトも僕もネギ君にまだ借りらしい借りを返していないですからね。絶対です」

ほぼ同時にナギも席から立ち上がる。

「おう、頼むぜ、タカミチ」

「はい、ナギ」

そして、部屋には、互いの拳がぶつかり合う音が響いたのだった。



[27113] 87話 魔法少女
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:32
ゴールデンウィークも終わり、明石祐奈に説明を終え、極秘裏にナギとタカミチ君は動き始めた。
タカミチ君が超鈴音の端末を駆使し、主に地球と魔法世界の情報連絡役としてクルト総督やリカードさん達と連携し、ナギはタカミチ君から定期的に情報を受けながら、魔法世界での大々的な生存報告の際にどう動くかを柄にも無く真面目に検討する作業を行うことになった。
説明を受けた当の明石祐奈と言えば、母がメガロメセンブリアの関連で亡くなった事、しかもそれがネギ少年の父親の失踪についての調査であった事は複雑な部分が少なからずあったようだが、基本的に日常生活においては魔法生徒になれる事がほぼ確定した為元気すぎるぐらいであった。
ネギ少年の件を教室で口にする事だけは、言われた通り守った明石祐奈であったが、女子寮ではやめてくれとも言われていない為、同室の古菲に「くーふぇ、去年の夏休み何があったの?私魔法生徒になる事決まって、お父さんにそう言われたから大丈夫だよ!」と聞いていた。
魔法生徒になる事と、昨年の夏の一件には何の因果関係もないのは分かっていないらしい……。
古菲は昨年の夏休み、旅行に出ていたメンバーの1人であった事は元3-Aには周知の事実であり、尋ねる事には何らおかしな点は存在しないが、古菲の答えはといえば「そうアルか!んー、ネギ坊主の故郷から旅に出て……」と切り出しは良かった……良くはないが「うんうん!」と明石祐奈は相づちを打ったが「その後色々あったアルよ!」と自信満々な様子で頷きながら壮大な中略どころか最後まで以下略だった。
そもそも、古菲に尋ねる事自体期待するのが間違いの可能性があるが、その反応に明石祐奈は「端折りすぎっ!」と部屋でズッコケていた。
無理もない。
古菲は結局「このかか美空に聞くと良いアル!」と完全に説明放棄した為、仕方なしに明石祐奈は春日美空の部屋に行くことにし、インターホンを鳴らして部屋に入れてもらったのであるが……。

「お父さんに言われたけど私も魔法生徒になるよ、春日!」

「良かったね、祐奈」

「あー、そりゃおめでとーございまーす。……で?まさか魔法教えろとか?無理だからね?ゆーなもう部屋戻る?」

春日美空の対応はとても冷めていた。

「ちょっ、何それ。いや、私も魔法生徒になったから去年皆に夏休み何があったのか聞こ」

本題に入ろうとした明石祐奈であったが、遮られた。

「いや、それとこれと全然関係ないよ!つか、明石教授にそういう事聞くなって言われなかった?」

「えー、ネギ君の事を教室で話に出すなって事は言われたけど……聞くなとは言われてないにゃー」

言われてないし、だったらいいじゃんと言うような表情である。

「空気読んで。ぶっちゃけ言うと私が立場的に死ねるから。『お前は知りすぎた……消えてもらうぞ』ってドラマだと消されるぐらいに」

「み、美空ちゃん……」

非常に嫌そうな顔で春日美空は言い、それに対し神楽坂明日菜はやや呆れて、それは言い過ぎよ、という風であった。

「えー、そんなすごい事知ってるんだったら余計に知りたくなるじゃん!大丈夫!私誰かに言ったりしないし。それに、私のお母さんは……あ……」

「ん、どうしたの?いきなり元気無くなったけど」

明石祐奈は言葉を続けようとしたが、ようやく直感的に他人に言うべき事でないというのが理解できたのか、いつになく暗い表情になり言葉に詰まり黙り込んだ。
同じ魔法生徒だからと言って、夏の一件の事を他人に話せないのと同じように、同じ魔法生徒だからと言って、自分の母の事を他人に話せるかというと酷く躊躇する部分があったようだ。

「ううん。……話せないってこういう感じかー。確かに言いたくない事はあるね」

「あー、良く知らないけど多分それと同じ感じだから」

相変わらず適当だ。

「今日はやめとくよー。部屋戻るね」

……そう言って明石祐奈は部屋に戻っていった。
明石祐奈としてはナギとタカミチ君にあの場で話された事も普段は早々無い展開であり、話の内容が母にも関係する事であるだけに、無闇に他人に話すのも気乗りしないのは当然といえば当然であっただろう。
……このような事があったその後明石祐奈はというと、孫娘達にも少しは話しかけたものの、一週間もすると麻帆良祭実行委員の仕事が活発化し始めた為、それどころではない日々を送る事になった。
麻帆良祭実行委員とは、麻帆良女子高等部だけで話あえば良いかというとそうではなく、各学校高等部、大学部の実行委員会と合同であるため、麻帆良大の大講堂にかなり頻繁に出席する必要があったのである。
前夜祭について、初日の麻帆良祭パレード、各イベントのスケジュール調整や各出し物の場所の使用権等々、学生主体というだけあって、教員が口を挟む事は滅多に無く、実に忙しいものであった。
麻帆良祭に関連して、という程のものでもないが、認識阻害が切れてからの初の新入生達が入った今年はというと、部活・同好会・サークルにおいてはやはり変化があった。
まず、図書館探検部の入部者が例年に比べて減った。
これには地下にゲートポートがあるからという事も絡んではいるが、外部参入組からしてみれば、図書館島の地下は一般常識からかけ離れすぎており、単純に本が好きだからと行ってみれば、実の所ハードな探険が付き物で、しかも中々に危険だというのが体験入部で分かる時点で入るのを遠慮する人々が続出したのである。
本が好きなら、普通に文学系の同好会に入れば良いだけの事で、それでも実際に入った人達と言えば、探険がしたいという人ばかりであった。
他に、軍事研はそもそも大学の部であるが、武器がとても好きだという人々が行ってみるも早々入りはしないという現象が起きた。
というのも、軍事研の人々は見れば丸分かりなのであるが、かなり身体を鍛えており、その鍛錬含め諸々の活動がカオスである為、単純に兵器に興味があるからと入ろうとすると甘く考えていたものと違いすぎるという結果が待っており、見学だけで済ませた人々が増えた。
実際麻帆良郊外山間地に存在する訓練場は本物の軍関係基地の劣化版に近い部分があり、パラシュートからの着地訓練であるとか、隊を組んでの連携行動、仮想敵から見つからないよう狙撃手が狙撃ポイントを探すための例えば草場での匍匐行動訓練、地形に合わせての迷彩色の適切な選択訓練など……戦車、空母、飛行機、銃に憧れているだけで入るには無理がありすぎる。
大体それで断念した人達は比較すれば明らかに緩いと分かる麻帆良工科ミリタリー研の方に行った。
軍事研や航空部系の統制が厳格に取れている必要のあるものは、他の例えば同好会系の活動のように日々楽しむというより、活動全体に対して充実感を見いだせないとかなり辛い。
これが以前であれば、違和感をそこまで覚えないせいで「自分にもできそう」と安易に入って、実際しばらくすると何とか適応してしまうという事があったのであるが、そういう時代ももう終わりのようである。
一方、文化系の部活・同好会・サークルは活動自体に無理があるわけではないから例年と変動は無いのは当然であった。
問題は理系の超鈴音の所属する各研究会であるが、麻帆良工学部内のロボット工学研究会、量子力学研究会、生物工学研究会、そして葉加瀬聡美の所属するジェット推進研究会の人気は爆発的だった。
麻帆良大工学部や麻帆良工科大の新大学一年生達が殺到したというのは言うまでもないが、見学の人数が多すぎた為、大規模な説明会という形で各研究会の説明が行われた。
少し確認すると、超鈴音は今年で麻帆良4年目であり、中学1年次の時の大学生1年生は当然今年4年生、大学3年生は今年大学院修士2年、大学院修士2年生でさえ今年大学院後期博士課程3年という訳で、全然麻帆良から去っていない。
当時の後期博士課程1年生以降のみが去っているだけである……とは言っても、皆さん殆ど麻帆良系の企業に就職してしまうので去るという表現もおかしいのではあるが……。
その理由というのも、麻帆良で慣れすぎたせいで他に行きたくないという事情が絡む。
茶々丸姉さんの研究等は葉加瀬聡美の個人プロジェクトに超鈴音が加わる形という側面が強かったが、それ以外はほぼ学生の皆さんが協力してくれていた。
さて、後継の育成というのも当然非常に重要な事なので、新1年生が入れなかったという事はないが、残念ながらある程度各研究会共に人数制限がされ、現所属学生達……とりわけ、超鈴音と葉加瀬聡美が懇意にしている教授達のゼミ生達との面談が行われ、さながらゼミ面接そのもののような事がなされた。
とはいえ、これらの研究会の複数所属は今年の新1年生は原則不可になった事もあり、大体どこかには入れるという形にはなっていた。
……この3年で技術革新が進みすぎ、大学受験の勉強をしてきた新1年生にいきなり各研究会の研究内容を細部に渡って理解できるという事自体無理な話だが、結果として研究会に入った新1年生の殆どは、超鈴音が携わっていないプロジェクトの研究からまずは参加する事となった。
麻帆良の各高等部出身で、葉加瀬聡美と同類のような感じの1年生はいきなり参加でも問題無いという事はあるが、基本的には能力次第である。
ただ、実際技術漏洩の問題もあり、既に麻帆良大工学部がJAXAとの連携で人工衛星の開発に乗り出している点でも、政府との兼ね合いで、規制がある事については寧ろ当然という向きが強いのは幸いであったとも言える。
少なくとも、超鈴音の活動自体に直接的な影響が出るという事は殆ど無いと言って良い状態ではあったというのは間違いない。
最後に、中高各学校それぞれの部活動自体はほぼ例年通りであり、麻帆良女子高等部で言えば、陸上部、水泳部、バスケ部などのスポーツ、美術部、囲碁部、茶道部、華道部などの文化系において、何か混乱があったという事は無い。
問題があったのは大体認識阻害の関係で行きすぎてしまった部分がある各所に集中していたという訳だ。

さて、5月の段階から麻帆良祭実行委員会が動いていながらも、日々は順調に過ぎていく事には変わらない。
そんな中、一つ大変おめでたい事があった。
何を隠そう、葛葉先生の交際相手の方がプロポーズをしたのである。
超鈴音達が中学2年の2月にシアトルに行った時以前から付き合っていた雪広グループ社員の方である。
葛葉先生としては魔法協会の事は最早周知の事実であるため、隠す必要も無くなっていたのであるが、とにかくここ最近忙しく、碌に会えてもいなかったようなのであるが、葛葉先生の誕生日にプロポーズと来た。
葛葉先生としては「そう言えば今月私の誕生日でした……」とすっかり忘れかけていたのであるが、相手の方からの連絡が入り、何かあるのかと思えば……婚約指輪を渡され、プロポーズされたという訳だ。
普通にお祝いしてくれるのか……ぐらいであった所、虚を突かれた葛葉先生であったが、自然に嬉し涙を流して、そのプロポーズを受けていた。
その後、どうしたかというと以下略。
葛葉刀子、5月16日、今年29歳の誕生日でした。
心よりお慶び申し上げます。

《葛葉先生良かったですねー》

《それはもう、おめでたいですね》

《うむ、良かたネ。結婚式の時には私からも盛大にお祝いをするヨ。かなりお世話になているからネ》

《2年生の秋の終り頃からですよね、葛葉先生が鈴音さん周りで度々来てくれるようになったのは》

《銃撃事件、シアトル、修学旅行、JAXA、そして今年からは副担任と……そんな所ですね》

《学園長がそうなるようにしたというのが一番の原因である気もするが、私の方は実際かなり助かているからナ》

《超鈴音の件だけでなく、関西呪術協会の件、魔法世界での件などを思えば、その働きは充分すぎるぐらいでしょう》

《全くだネ》

《タイミングを見て、お祝いしようかな》

《サヨなら偶然見てましたー、なんて言えばいいだけですからね。多分葛葉先生は婚約指輪を学校につけて来はしないでしょうから》

《はい!》

《女子高等部につけてきたら確実に騒ぎになるネ》

《間違いなくなるでしょうね》

《挙式はいつになるんですかね?》

《1年が目処という所でしょう。ジューンブライドという言葉がありますが日本では11月や3月が最も結婚式が行われていますし、その付近になる確率は高いかと》

《日本は梅雨があるから仕方ないヨ》

《どんよりした天気で結婚式よりも気候も良くて天気の良い時の方がいいですよね》

……そんなこんな、他人の結婚事情について勝手に話をしていたりもしたが、実際に翌日葛葉先生が婚約指輪を付けてくる事は無く、平静を装っているようであったが、生徒側としてみると、どうも怜悧な雰囲気が少なくなったという印象を受けたらしい。
数日して、サヨと超鈴音が葛葉先生と廊下ですれ違い際に「おめでとうございます」と「おめでとうネ」言葉を発した事に先生が動揺したのは言うまでもないが、サヨが自分の目を指さして示し、超鈴音が口元に指を当てるジェスチャーをして意味は伝わったらしく、葛葉先生は「どうもありがとう」と少々恥ずかしげに答えていた。
葛葉先生はその後他の同僚の先生達にこの件が知られるという事もなく、結果として超鈴音とサヨのみが知っているという、普通はありえない状態になった。
……そうこうして5月の末に迎えるものと言えば、中間テストであり、超鈴音達はというと、高等部から入学してきた並み居る高学力者達を抑え、当然超鈴音は全教科満点、葉加瀬聡美はほぼ全教科満点、サヨも、ほぼ全教科満点で3位までの独占は中等部と何ら変化は無かった。
サヨに関しては、今まで中学生ばかりやってきていて、高校の授業には対応できないのではないかというと、記憶力に関しては考える必要性が無いので特に問題はない。
現代国語の記述式を自力でやるぐらいしか影響が出るものがない為、結果として3位を維持するに至る訳だが……逆に神木の精霊でありながら、わざとならともかく順位が悪いとそれはそれでどうかという部分はあるだろう。
麻帆良女子高等部1年全体を総合してみれば、やはり高等部から入学してきた生徒達が成績上位にがっつり食い込んだ関係で、中学時代に上の下、中の上程度の成績であった生徒達以下は軒並み順位が猛烈に下がり、ショックを受けていた。
そんな事全然気にしてない古菲や長瀬楓らはともかくとして、桜咲刹那は孫娘の進路の兼ね合いで結構ダメージを負ったようであり、高等部参入組がいながらにして中のやや上程度の維持を図れた春日美空は寮室で「マジめんどかったけど、超りん達に言われた通り勉強しといてホント良かったわー」と机に突っ伏しながら神楽坂明日菜に言っていた。
その当の神楽坂明日菜は「私も前より全体だと順位上がってるし、ちゃんと効果出てるみたい」と手応え有りげに答えていたが、ネギ少年という家庭教師は非常に優秀である。
相変わらず立場がおかしいとしか言いようがないが……。
綾瀬夕映もバカレンジャーという称号は影も形も残っておらず、普通に宮崎のどかと同じく成績上位に喰い込むという事を果たし……孫娘を凌駕した。
彼女も中々の鬼才である。
その孫娘も成績上位は上位であるが……医学部の推薦は枠が2つしか無い為、とにかく大変である。
……というのは身近に超鈴音がいるのに何を言っているのかという気がしないでもないが。
いずれにせよ、女子高生の学校生活にはこれからもテストというのが必ず付き纏う。

さて、再び話を戻せば、今年の麻帆良祭の出し物、1-1はどうなったのかと言えば……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

中間テストをなんとか乗り越えたけど、マジ超りん達が言ってたとおりだったわ……。
全教科テスト帰ってきた時、附属出身者は皆爆死気味で机に突っ伏してたからなー。
真面目に勉強してなかったら私も下の中辺りまでは落ちてたわ、絶対。
ま、そんなもんも終わって、今年も麻帆良祭の時期ってことでクラスの出し物を決める訳なんだけど……高校ってのもあって、先生は全然口出ししてこないスね。
神多羅木先生だからってのもあるんだと思うけど。
そういや葛葉先生最近柔らかくなった気がするな。
去年だったらネギ君が先生で司会やってクラスの出し物まで決めるとかそういう感じだったのが懐かしいなー。
アレってネギ君が決まらない事に悩む必要とかなかったんだけどね。
今ゆーなが前に出てて……。

「はい!私からは魔法少女喫茶を提案します!」

何だソレ。
え?皮肉?
高校1年で魔法少女とかもう無理じゃ?
それ以外にもこのクラス、リアル魔法使いいるの分かっててその提案かい、木之元。

「遙から魔法少女喫茶ーって何それ?説明説明!」

その場のノリでゆーなは黒板に書いたけど分からんよな。
同じバスケ部だからってやりとり軽いなー。
この前、魔法生徒になる事言ってきて、魔法世界での事聞いてきたけど、ゆーなのお母さんに何かあるらしい。
あの時いつもは見ないような暗い表情で驚いたわ。
でも、すぐ麻帆良祭実行委員で忙しくなったから元気になった。

「古今東西の魔法少女の格好をして、喫茶店。このクラス、本物の魔法使いが揃ってるんだし、このクラスが魔法少女やらなくてどうするの。この事他のクラスどこも知ってるんだし。客寄せには絶対使えるって!」

古今東西の魔法少女って何スか。
ただのコスプレ喫茶だろ。
でも、どうするもこうするもないと思うよ。

「おー、それは言えてるかも。でもそんなに魔法使いの格好って違う……の?春日」

突然話振られたよ。

「あー……私はシスター魔法使いだから、シスター服にはなる……よ、多分」

自分で言っといて意味分からんわー。
何だシスター魔法使いって。
そんな分類無いわ。

「陰陽師の服はあるえ」

このかー。

「ギリシャには、伝統的魔法使いの衣装ありマス」

「ロシアにも独自の衣装あります」

「中国にもありますわ」

「アメリカにも確かあるよー」

留学生達自重。
というかそれただの民族衣装だろ。
いや、アンジェラさん最後ノリで言ったけど、アメリカの魔法使いの伝統衣装って何?
しかも確かって。

「おお!あるんだ!なら、いけそうだねー」

「いけそうでよかったー。じゃあ、ゆーな、案はそういう事でお願い」

かなり突発的な思いつきだったぽいな……。
それにこのクラス、木之元じゃないけど、名字と名前交換するといろいろアレなんだよな……偶然だと思うけど。

「他に案はあったらじゃんじゃん言って!」

……と、他に普通にお化け屋敷、劇、ダンス、模擬店なんかが色々出たのはいつも通りで、複数案が出た中で多数決してみたら……。

「それじゃ、魔法少女☆喫茶にけってーい!」

わー、マジ超順当。
まあ、やることが衣装作る事ぐらいで、劇とかダンスやるんだったら5月中から話進めとかないと練習時間が足りなかっただろうし。
つか、どうせ魔法は使わないのに魔法少女とか詐欺だなー。
決定した事に神多羅木先生も葛葉先生は反対はしなくてそのまま本格的に企画が動き出した。

で……その後、結局私はシスター服で良いとかいう事になって、各留学生は日本に持ってきてた一張羅的服を披露。
王さんの中国服は豪華すぎて吹いた。
超絢爛豪華。
ナタリアさんの服はどうみても雪国の帽子って感じのアレで……クロエさんはどこの古代の哲学者……アンジェラさんは普通にスーツだった。
……実用的スね。
確かっていうのは間違いだったらしい。
この2ヶ月ちょいで仲良くなったこのか達呪術協会組は陰陽師の……巫女服のバリエーションみたいな服、で……超りん達は。

「何ソレ、超りん、ハカセ、さよ」

「宇宙服ネ!」

「なんで宇宙服になるのさ!?」

「宇宙魔法少女が着る服と言たら宇宙服しかないヨ!」

宇宙魔法少女って何。
色は全体的に白で統一されてるけど……マジ近未来的な格好だなー。

「春日さん、実際これ着心地良いんですよー。見た目の割に超軽量、密閉性は完璧、それでいて蒸れない特殊素材で作ってあって、気圧変化も可能です!」

両手グーパーさせながら語ってくれたよ。

「ハカセ、そういう機能性は聞いてないから」

テンションあがってるところ悪いけど、何作ってんの。

「そういわずに見るネ。ここのボタンを押すとヘルメットがこう降りてくるヨ」

首の辺りにあるボタン押したら無駄なSEと共に透明なメットが降りてきたー。

[気分は外宇宙航海時代ですね]

声わざわざスピーカーから出るんかい。

「飛躍しすぎだからね、さよ」

過去に航海時代はとっくに終わってるけどさ。

[後はカラーリングだネ]

もう好きにして。
実際、後茶々丸加えた4人は宇宙魔法使いってコンセプトで本当に宇宙服になった。
いいのか。
で、たつみーは……。

「なんで戦闘服?たつみー」

「ガンナー魔法少女にはきっとホルスターは欠かせないだろう。巫女服だと被るからな」

え、マジそういうノリなの?
しかもきっとって言う言い方が白々しいな。

「美空殿、拙者は恐らく、くの一魔法少女でござる」

魔法世界の時の格好と同じじゃん!

「いや、魔法少女つければいいってもんなの?隠す気一切ないだろ」

つか楓とたつみーの身長で少女とかそれこそ詐欺だろ!

「私は多分拳法魔法少女アル!」

ごめ、もう魔法少女って何。
ゆえ吉とのどかが、一般的魔法使いらしくとんがり帽子被ってローブ羽織ってるのがしょぼいコスプレに見えるぐらい濃すぎて何このカオス。
木之元達はマジでアレだ。
苦労してカード集めるさくらさんの話で出てた衣装を作って高校1年にして着るつもりらしい。
それやりたかっただけだろ!
アレ一応小学生だよ!?
他にビブリオン派もあるけどさ。

「いやー、これはメイド喫茶なんかより断然撮り甲斐あるー。流石の私もこれは撮らざるを得ないな。絶対卒アルに載せられるし」

宣言通り全然魔法使いの私達に追求してこない西華さんマジ感謝してるけど、この時ばかりはカメラでバンバン写真撮ってた。
にしても本当に卒アルに載ったら1-1カオスすぎるとか言われそうだなー。

「アスナは普通だな」

「私こういうの着たこと無かったし。美空ちゃんなんかいつも通りじゃない」

ゆえ吉達と同じ格好。
まー、あれだ、魔法世界で救出されて戻ってきた時のあのウェスペルタティア専用みたいな服着るわけないもんな。

「それ言われると返す言葉がないわ」

「大体美空ちゃんが適当にシスター魔法使いなんて言い出したから皆適当に魔法少女の前に何かつけてやる事になったのよ」

「それ都合よく解釈する方がどうかしてるから!」

……まあ、衣装はそんな感じで、喫茶店自体に出すメニューはっていうと、お茶関係は勿論だけど、超包子の肉まんがまた出てきて、今回はロシア出身ナタリアさんのピロシキも出す事になって他にも……何か郷土料理の店になった。
他クラスに比べると国際色豊かなのは事実だからおかしかない。
超りんはピロシキに興味ありまくりだったみたいで、ナタリアさん連れてお料理研に行ったのは流石だわ。
超包子のメニューに加える気なのかも。
隣の1-2は元3-A多いくせに珍しく5月中から話進めてたみたいで、村上が演劇部って事で魔法を題材にした劇をするらしく、鳴滝姉妹が妖精役っていうのを聞いて笑った。
1-1でやると捏造っぽくなるけど、他クラスならありだよなー。
見に行くか。
つか、今年どこも魔法系のネタを扱う出し物が多くて、普通のやった方が目立ったんじゃないかって思う。
……それにしても魔法って言うと今年はまほら武道会の話を一切聞かないんだけど……見送りみたいスね。
まー、攻撃魔法とかドンパチやるのを見せる訳にもいかないから仕方ないわな。
そのうちあっちの拳闘大会みたいのがこっちでも行われ……難しそうだな。
命落としても良い契約とか、地球じゃ絶対無理。
そもそも、攻撃魔法系って日本の憲法的にどうなんだろ。
全然分からん。
そんな事考えようと思っても一瞬で考えるのやめて、6月の下旬……いよいよ今年の麻帆良祭。



[27113] 88話 天空の島マホーラ
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:33
2004年6月18日金曜日、2004年度麻帆良祭初日。
スプリングフィールド一家は3人とも幻術薬を服用し、ネギとナギの赤髪は黒髪に、アリカの髪は茶髪に、特徴的な枝分かれした眉毛はそうは見えないよう見た目を変え、また全体的に元の顔の面影も変えた上で、更に認識阻害もかけて麻帆良祭へと繰り出した。
この年、例年とはっきり違うのは外から麻帆良へとやってくる人々の数で、初日の開幕パレードから麻帆良路上と言えば非常に混雑していた。
がやがやと喧噪の鳴り響く中、3人はいた。

「凄い人の数じゃな……」

「終戦記念祭みてーだな」

アリカとナギが目の前の光景を見渡すように呟く。

「父さん、終戦記念祭の時、僕達逆のこと思ったんだよ」

ナギの顔を見上げるようにネギが少し面白そうに言う。
それに納得するようにナギがうなずく。

「ああ、そっか、麻帆良祭見てからあっち行ったんだもんな」

「うん」

そのやりとりを見たアリカは口元まで言葉が出かかったがそれを押しとどめた。
終戦記念祭は前大戦が終結してから始まった祭典。
アリカは凡そ10年前封印されるまでの期間地球にいた為、旧ウェスペルタティア王国の元女王でありながらオスティアで行われていたその祭りに詳しくない。
当時のオスティアの民は今どうしているだろうか。
今目の前に見えている人々のように楽しそうに過ごすことができているのだろうか。
必ずそうでない者達がいるのに引き替え今私はこうして……とアリカの心は痛んだ。

「母さん、終戦記念祭の時、皆、お祭りを祝って、楽しそうに笑ってた。僕には、そう、見えたよ」

ふと、隣のネギが目の前を見ながらアリカに聞こえるように言った。

「……そう……であったか」

アリカはその言葉に一瞬目を見開いたが、すぐに思い詰めたような表情を緩め、吐息をついて言った。
親が子の面倒を見るのではなく、子が親の心を察するというのは複雑なものがあるが、それでも間違いなくアリカの心は安らいだ。

「お、アレすげーぞ!あっち見てみろよ!」

「うん、ホントだ!」

「……うむ」

パレードの行列遠くに見える物を無邪気にナギが指さし、ネギとアリカが続いた。
……少なくとも今はこの祭りを楽しもうと、アリカはそう思ったのだった。
パレードをひとしきり見た所で、一家は麻帆良祭のパンフレットを手に、人混みの中をはぐれないよう歩き始めた。
最初に向かったのは麻帆良女子高等部1-1。
ナギがいちいち呼び込みの女子生徒達に声をかけられたりしながらも、3階まで階段で上がり、目的地はそのすぐの所にある教室。
その看板には「魔法少女☆喫茶」と、書かれているのが目に入る。

「魔法少女喫茶かー」

「いらっしゃいませ!どうぞ中にお入り下さい!」

ナギが呟いた所、廊下で呼び込みをしていた1-1の生徒が素早く近づいて現れた。
天童琴美、黒いとんがり帽子にローブを羽織った魔法使いの格好をしていた。
その勧めに従い、3人は普通に教室の中に足を踏み入れる。
きっと同じような格好をした女子高生達がいるのだと無意識に思って。
その教室の中はといえば、内装は明るげな飾り付けが余す事なく施されており、麻帆良祭始まってばかりながらも、既に客も主に他クラスの者達が多いとは言え、入っており楽しげな会話が交わされていた。
が……。

「は?」  「えっと」  「……」

目に入ったのは巫女、シスター、絢爛豪華な中国衣装、昔の哲学者のような白い地面にまでつく衣装、雪国の帽子が特徴的な衣装、スーツ、完全な宇宙服姿、くの一、派手なアニメの魔法少女のコスチューム諸々……と入り口で無意識に構築したイメージを破壊して有り余る混沌がそこには広がっていた。

[3名様ですね、どうぞあちらのお席におかけ下さい]

何かスピーカーを通して聞こえるような声が横からすれば、至近距離に水色のカラーリングが施された宇宙服、メットの中を覗けばその顔は相坂さよであった。
何もわざわざ宇宙服姿の人が入り口で話しかけてくる事もないだろうに……と考える余裕も3人は無く、呆気に取られ、よく分からないまま勝手に足が動き、とにかく席についた。

「こちらがメニューになります。私からはピロシキをお勧めします。とてもオイシイですよ!」

金髪青目の整った容姿で、雪国の帽子を被ったナタリアがメニューを渡しに現れ、母国の料理の宣伝も抜かり無くした。

「あ、ありがとうございます」

メニューを手渡されたネギがそれに答え、ナタリアはニコニコと微笑んで戻っていった。
他の席にふと目を向ければ、各種魔法……少女……達の写真を撮ったり、一緒に写って楽しんでいる女子高生達が見受けられた。

「……まあ。ほら、何か頼もうぜ」

ぼーっとしていた所、ナギが一言。

「う、うん」

「……超包子の肉まんは慣れておるし、勧められたピロシキを試してみてはどうじゃろう」

考えるのを放棄したアリカは普通にピロシキを頼むことを提案した。

「僕もそれがいい。父さんは?」

「俺もピロシキが良いな。まだ昼にもなってないし。軽い方が良い」

あっさり頼むものを決めた所で、お茶に関しても同じように決め、近くを通りかかった魔法少女に声を掛けた。

「おっと、はい、ご注文お決まりですか?」

シスター姿の春日美空であった。
それにネギが簡潔に答える。

「ピロシキ3つに紅茶3つお願いします」

「承りました。少々お待ちくださーい」

丁寧なようで軽い返答で春日美空は裏手へと向かっていった。
幻術と認識阻害を掛けている事で正体に気づかれる事はまず無かった。
程なくして頼んだものが、すぐに運ばれて来て、3人は食べ始めた。
ピロシキとは東欧料理の惣菜パン。
大きさは幅6cmから13cmくらい、生地は鶏卵とバターを用いたパン生地、折りパイ生地、練りパイ生地など様々であり、揚げるタイプと焼くタイプがあるが、ロシアでは焼くほうが一般的。
具も多種多様であり、畜肉、魚肉、ゆで卵、フレッシュチーズ、米、カーシャ、ジャガイモ、茸、キャベツなどがが用いられる。
1-1で作られているピロシキは、超包子の肉まんの具材をベースにピロシキに合うようにアレンジ、つまり畜肉ベースの濃厚でジューシーな、それでいて飽きの来ない絶妙なバランスの仕上がりの物であった。

「あ、美味しい!」

「ああ、うめぇな!」

「うむ、美味しい」

慣れ親しんだ超包子の肉まんとはまた異なる味と食感のピロシキにそれぞれ素直に感想を漏らしながら3人はそれを味わった。
紅茶も飲んだ所で、アリカは徐にデジタルカメラを取り出し、写真を取り始めた。
最初に被写体に入ったのは宇中服、巫女……と数度撮りクラスの様子をカメラに納めた。
そのまま仕舞おうとした所で、声をかけられる。

「もし宜しければご家族でお撮りしますよ?」

またしてもそれは相坂さよであり、今度はヘルメットを開けた状態で話しかけて来て、唐突に通信をネギに繋いだ。

《神楽坂さん、呼んで貰えれば、呼んできますよ。今裏にいます》

《ありがとうございます、相坂さん。通信終わったらそう言いますね。ところでこの魔法少女喫茶って一体……相坂さんのその格好は……》

《これですか?宇宙服ですよ。宇宙魔法少女です!》

《う、宇宙魔法少女ですか……。何かよくわからないですけど、分かりました》

《深く考えても意味ないですから気にしないで大丈夫ですよ》

《あはは、やっぱりそういう店なんですね》

《はい!》

ネギの頭に直接届く通信が終わる。
アリカがどうするか確認を取ろうとネギとナギの方を向いた所、先にネギが口を開き、少し身を乗り出して、小さな声で言った。

「お願いします。できれば神楽坂明日菜さんを呼んで貰えますか?」

それにタイミングを合わせるようにさよが同じように身を乗りだし、応対する。

「はい、分かりました。少しお待ち下さい」

そう言ってさよは裏手に回っていった。
そのスムーズなやりとりにアリカとナギは怪訝な顔をしながらもそれは良い案だとネギに言った。
間もなく、魔法少女達が出入りする裏手への入り口から普通の魔法使いの格好をしたアスナが現れ、少し教室を見回す。
さよから「奥の席に座っている3人家族が呼んでいますよ」とだけ言われて背中を押されて出てきたものの、見てみれば知らないと答えられる容姿の3人家族がそこにはいた。
アスナは一度首を傾げ、不思議に思いながらも、さよに「いいからいいから」とまたしても軽く背中を押されその家族の元へと連れて行かれた。

「あの、私と写真を撮りたい……んですか?」

3人の前でアスナは一応尋ねる。

「はい。お願いします」

「良いか?」

ネギとナギが答える。

「あ!」

特徴的な気さくな返答に覚えのあったアスナはようやく気がついたのか口元に手のひらを当てる。
それにネギとアリカが微笑みながら一つ頷いて見せ、アスナも嬉しそうに頷いてネギの方へと回り、アリカはさよにデジタルカメラを渡した。
4人が位置についてカメラの方を向き、さよが声を出す。

「はい、撮りますよー!3…2…1」

カウントダウンと共にフラッシュの光が瞬いた。
さよは撮り終わった写真を確認して大丈夫そうだと見て、アリカに見せるようにして渡した。

「ありがとう」  「ありがとうございます」  「ありがとな」

3人はさよに感謝の言葉を述べ、さよは戻っていった。

「私も、またね」

アスナも小さい声でそう言い、軽く手を振ってその場を3人に見送られて去っていった。
そして、丁度頃合いと見て、一家は代金を出口で払って、魔法少女達に見送られて教室を後にした。

「あー、魔法少女っていうには何か変だったなぁ」

「父さん、考えても意味ないんだよ、きっと」

「じゃな」

ナギは正直に呟き、ネギがそれに悟ったように言い、アリカはしみじみ頷き、同意した。
次にどこへ行こうかという所、今度は隣の1-2で呼び込みの生徒が「天空の島マホーラ」というタイトルの劇を次に女子高等部の講堂で始めるという事を宣伝しているのを聞き、講堂へと向かう事にした。
やや薄暗い中、まだ満席という訳でもなく、一列空いている所に3人で座った。
ネギは講堂に入る際に手渡された1枚刷りのパンフレットを見る。
天空の島マホーラ……タイトルからそこはかとなくとある映画がネギの脳裏によぎるが、導入は、魔法の存在する世界、時は大航空時代で、シータンという少女(演:佐々木まき絵)が母(演:那波千鶴)と祖母(故人)から語られた「地上からいつも見えているが誰もいくことのできない巨大な天空の島」の話を聞き、いつか行ってみたいと夢見ながら日々平凡な毎日をセンブリーナ王国辺境の村で過ごす所から始まるというのが分かった。
また、その世界にはラース帝国、センブリーナ王国、リアードネ共和国の3つが存在し、その3国の中央に天空の島マホーラが浮かんでいるという設定になっている。
天空の島が天空の城と設定が明らかに違うのは、多分地球で公開されている魔法世界の情報の中に浮遊大陸オスティアがあるからだろうと思いながら、ネギはふっと微笑んだ。
数分のうちに続々と講堂に人が集まり、周囲の席も埋まった所で、アナウンスが入る。

[[これより、1-2組による天空の島マホーラの開演です]]

後ろから聞こえてきた拍手の音につられ、ネギ達も拍手をしだすと、同時に幕が上がる。
場面は煉瓦造りの家の中、母が裁縫をしながらそのすぐ近くにペタリと座るシータンに天空の島マホーラの話を聞かせている所。
母が口を開き、慈愛に満ちた声でシータンに話しかける。

「シータン、マホーラはね、人々がその昔土地を巡って争いを始めた為、精霊がそれに怒って陸ごと空に飛び上がって誰も行けないようになってしまったのよ」

シータンは母に擦り寄って近づくようにしながら、心配そうに問いかける。

「お母さん、それじゃあ、あのマホーラにはもう人は誰も行くことはできないの?」

母は裁縫の手を休め、シータンの頭を片手で軽く撫でて言う。

「……どうかしら。純粋な心を持った人ならもしかしたら行けるかもしれないわね」

その状態でシータンは目を輝かせ、両手を合わせて母に更に問いかける。

「わ、私はどうかな?行けるかな?」

「良い子にしてれば、もしかしたら、ね」

母は片目を閉じて言い、シータンの頭から手を離した。

「うん、私、頑張るよ!」

「ええ。それと、シータン……お祖母ちゃんから教わったおまじないは覚えている?」

母はシータンに問いかけ、それに怪訝にしながらも答えた。

「うん?覚えてるよ」

「……そう。……なら、シータンにはこれをあげるわね」

母は一つ頷いて、首にかけていた翠色の宝石のネックレスを取り外し、シータンの首にかける。
それにシータンは目を見開き恐る恐る尋ねる。

「お母さん……いいの?いつも肌身離さず付けてる大事なものでしょ?」

「……いいのよ。お母さんの代わりにシータンが持っていて頂戴。お母さんもこうやって渡されたのよ」

再び頭を撫でられながらシータンが尋ねる。

「そうなの?」

「そうよ」

「……うん、分かった。大事に持ってる!」

嬉しそうに、決意の籠もった目でシータンは答えた。
そこで……舞台が暗転。
ナレーターの朗読が入る。

[[シータンはその後も日々平穏に村で過ごし続けました。しかし、そんなある日シータンの母は突然シータンに旅に出るように言ったのです]]

舞台が再び照らされる。

「シータン、荷物は用意してあるから、明日、村を出て旅に行ってみなさい」

「え!いきなりどうして!?」

母の突然の提案にシータンは驚きの声をあげる。

「マホーラには、いつまでもここにいても、いけないでしょう?」

「そ……それはそうだけど。だったらお母さんも一緒に」

「それでは、いけないのよ。……シータン、やっぱり行きたくないかしら?」

母は諭すように言って聞かせ、シータンはそれに対して一瞬迷った後、口を開いた。

「う……ううん。行くよ!私旅に出る!」

暗転し……「そして翌日」という朗読と共に再び照らされる。
玄関にて動きやすいズボンに、膝まで丈のあるワンピースのような上着を着たシータンは背中にリュックを背負い、母と向かい合う。

「じゃあ、お母さん、行ってくるね!」

「行ってらっしゃい。最初は町に行ってみなさい」

「うん!行ってきます!」

そう言ってシータンは元気よく母に手を振り、玄関から出て舞台袖へと去っていった。
残った母は同じく振っていた手を降ろし、一言。

「これで……あの子はひとまず大丈夫。後は私も……」

母は徐に席につく。
一度暗転し「そして数日後」というナレーションと共に再び明かりが照らされる。
すると、けたたましい効果音が鳴り響き、舞台に4人の人物が現れ、玄関の戸を叩く。

「来たのね……」

そう母は呟いて玄関に向かい、戸を開く。

「失礼。私はラース帝国軍特務部隊所属、ハルカ大佐だ。貴女はクシャーナ殿でよろしいか?」

黒髪から2つのアホ毛が伸び、サングラスではないが眼鏡をかけ、軍服を着たラース帝国軍ハルカ大佐(演:早乙女ハルナ)が両手を腰にあて、仁王立ちして問いかける。
同時に、観客席にいる女子高生達が吹き出す音もした。
一方でネギはハルカ大佐の登場を見て少し考えた。
眼鏡、名前、ハルナさんは世界征服とかそういえば言ってたし……適役かも、と。

「そうですが……ラース帝国の大佐がこのような辺境に何の用でしょうか」

ハルカ大佐は仰々しく手を動かしながら母に尋ねた。

「とぼけられても無意味です。貴女が夢で未来を見通す魔法使いである事は承知の上。……お子は今どちらに?」

「……数日前自由な旅に出しました。行き先もあの子次第、今どこにいるかは分かりません」

ハルカ大佐は眼鏡を指で無意味に3回押し上げながら更に質問を重ねる。
また観客席から吹き出す音が聞こえる。

「やはり先手を打たれましたか。では……精霊石は?」

「……持たせました」

「仕方ありませんな。ご同行願えるかな?」

「拒否権は無いのでしょう」

母は瞼を閉じて言い、ハルカ大佐が部下に命令をする。

「フッ。連れて行きたまえ!」

「「はっ!」」

部下2人が母の両腕を捕捉し、そのまま家から出て、舞台から姿を消す。

「怪しいものが残っていないか探したまーえ!」

「はっ!」

ハルカ大佐の無意味に語尾の伸びる命令で残ったもう1人が家の中を探し始める。
そこで舞台が暗転。

[[ハルカ大佐によって、シータンの母は飛空艇へと連れていかれ、魔法を使う事のできない部屋に閉じこめられてしまいました。しかし、それから数日すると母の身体は煙を出して消滅し、実は偽物だった事が明らかになったのです。その事に大変ハルカ大佐は激怒し、てこずらせたな!と叫び、それからというものシータンと母の捜索を、密偵を各国に飛ばして行い始めたのでした]]

朗読を聞き、魔法の使えない部屋という単語にネギは、設定が意外に現実に則していると思わずにはいられなかった。
そして舞台のセットが切り替わり場面はとある森の中。

[[シータンは十分な旅費もあり、野宿する事にも抵抗は無く、最初の町に辿りついた後はそのままセンブリーナ首都の方角へ徒歩で向かっていました。そんな、とある森の中]]

シータンは道を歩いていると脇道に複数本の木をなぎ倒して、中型の飛空艇の先端部が着陸しているのが見えた。

「だ、大丈夫かなー?行ってみよう!」

そう言って、シータンはその方向へと進むと、一人の作業服兼パイロット服のようなものを着て目にはゴーグルを付けている少年がレンチを持って何かをしているのを見つけ、声をかける。

「あのー、大丈夫ですか?」

声をかけられ、つい少年は顔を上げる。

「ん?ああ、墜落したけど、修理すれば大丈夫。って誰?」

驚いて少年はゴーグルを手で目から頭にあげる。

「あ、私はシータン。今旅の途中で、丁度木が倒れているのが見えて」

シータンは簡単に自己紹介をし、それに少年も返す。

「へー、旅か。俺の名前はパーズ。シータンは旅ってどこか行くあてとか目的ってあんの?」

パーズ(演:釘宮円)は地面に胡座をかいて座ったまま、シータンに軽くハスキーな声で問いかける。

「パーズね。よろしく!それで旅の目的……私は天空の島マホーラにいつか行くのが夢かな」

シータンは挨拶をして、首を傾げながら少し恥ずかしげに答える。
それにパーズが驚く。

「え!?シータンもマホーラに!?」

「え?もしかしてパーズも?」

その反応にシータンも驚き、パーズが説明をする。

「ああ!俺は飛空艇であのデカデカと浮かぶ島、マホーラまで到達してみるのが夢なんだ。今こうして墜落してるけど」

「へー、そうなんだー。でも、どうしてマホーラまで?」

シータンの疑問に、パーズは両手を広げてさも当然とばかりに語り始める。

「そりゃ、飛空艇乗りの間じゃあれは目的の一つだからな。誰が最初に到達できるか競ってるんだよ」

納得したようにシータンが相槌を打つ。

「そっかぁー」

「シータンはどうして?」

そう問われ、シータンも地面に腰を下ろし、体育座りのような形で話し始める。

「えっとね、私はお母さんからよくマホーラの話を聞かされて育ったから、かな」

興味を持ったようにパーズはシータンに近づく。

「マホーラの話?それってどんなのだ?マホーラはいつも見えてるけど、話ってあんまり知らないんだ」

「私話せるけど……聞く?」

パーズは躊躇せずに頷き、思い出したように質問する。

「聞かせて欲しい。あ、それって長い?」

シータンも頷く。

「うん……結構長いよ」

「ならさ、もう少しだけ修理したら飛ばせるようになるから船の中で待ってろよ。偶然会ったのも何かの縁だ。飛空艇飛ばしながら話聞かせてくれよ」

パーズが提案し、シータンはそれに嬉しそうに答える。

「わー、ホント!?私飛空艇乗るのって初めて。じゃ、じゃあ、そうさせて貰おうかな」

「うん、すぐ修理済ませるから。ちょっと散らかってるけど、適当に場所作っていいからさ。中広いし」

そうして、シータンは飛空艇の中に入り、パーズが修理し始めた所で、再び暗転。

[[パーズが修理を終え、飛空艇を飛ばすと、シータンは初めて空を飛んだ事に喜び、その余り中で飛び跳ねたりもしました。そこへ、パーズがシータンを操舵室に呼び、パーズが舵を取っている横で、シータンは母と祖母から聞かされた天空の島マホーラの伝承と一つの歌を教えたのでした]]

場面はパーズの飛空艇の操舵室。

「へー!妖精が住んでるのかー。それにその歌、何かマホーラの行き方みたいな歌に聞こえるな」

パーズは舵に手を当てながら言う。

「え、そう?」

操舵室に椅子を置いて近くに座りながらシータンが答える。

「ああ、順番はバラバラだけど、初夏の満月、頂きを結び、風の絨毯、三つに割かたれし、とかはっきりはしないけど、風の絨毯何かは特殊な気流を意味してるんじゃないかって俺は思う」

両手を合わせてシータンが驚きの声を上げ、首を傾げる。

「パーズって凄いね!じゃあやっぱり行き方があるのかな?」

「シータンの話をじっくり考えたら見つかるかもな。まだ話に歌って他にもあるんだろ?」

パーズは顎に手を当てて言い、それにシータンが改まって尋ねる。

「うん!……それで、パーズ、一つ聞いても良い?」

パーズは顎から手を話して顔を上げるようにシータンを見る。

「ん、何だ?」

「どうして……どうしてパーズはまだ子供なのに飛空艇持ってるの?」

パーズはその質問に対し右手で後頭部に触れ、うっかりしてたという風に話し始める。

「ああ、そりゃ怪しいか。こう見えて俺はリアードネ共和国最大の飛空艇工房で働いててさ。古いのを廃艦するって話が出たときに全部修理する代わりに、こうして今俺が自由に飛ばしてるんだ。ボロだからまた墜落したんだけどな、ははは!」

「え!パーズってリアードネの人なんだ!そっかー、工房で働いてるから飛空艇持ってるんだね」

うんうん、と頷いてシータンは納得する。
パーズは舵を一旦放置し、くるりと身体をシータンに向け、問いかける。

「ああ。……シータン、俺からも聞くけど、マホーラに行きたいってのはどうする?」

「どうする……っていうと?」

パーズは左手を肩の辺りの高さまで上げて話し始める。

「マホーラに行くなら飛ばないと無理だろ?となると俺みたいに飛空艇技師兼飛空艇乗りでも無い限りはそれを叶える方法は無い」

それにシータンは少し思いつめたように頷く。

「うん……」

パーズは両手をパチンと勢い良く叩いて合わせ、再び両手を広げて見せて、シータンに提案する。

「そこでだ、シータンは今俺にマホーラについて色々な事を教えてくれた。その代金って訳じゃないけど、俺は今のこの飛空艇よりも頑丈で、その代わり小さい飛空艇を作ろうって考えてるんだ。それが完成したら……その、一緒に行ってみるか?」

その言葉にシータンは目を輝かせ、パーズの片手を握って言う。

「ほ、ホント!?うん、お願い!」

「ははは!じゃ、決まりだな!今その新型の為の部品買った帰りだったから、工房に戻ったら作り始めるから待っててくれよ」

軽く笑い声を上げ、パーズはシータンに両手で握られた片手を、自分のもう一方の手を更に乗せ、シータンに語りかける。
それに勢い良くシータンも言う。

「なら、私、その間手伝える事やるよ!」

「それなら、良いところあるから任しといて」

そして舞台が暗転。

[[……こうしてマホーラに行く約束をシータンとパーズはし、そのまま飛空艇はリアードネの工房へと戻りました。若くして飛空艇技師として才能あるパーズは色々な発明の甲斐あって資金もあり、パーズは自分で設計した小型の飛空艇を制作にとりかかり始め、シータンはパーズに紹介されて飛空艇工房の食堂で働く傍ら、母と祖母に聞かされたマホーラに関する伝承を紙に纏める作業を始めました。一方、ハルカ大佐はシータンの捜索を始めていましたが、リアードネに行った事を掴む事はできませんでした。それからしばらくして、シータンは母に手紙を出しました。しかし、返信が帰ってくる事はありませんでした……]]

そして場面はリアードネ飛空艇工房の一室。

「シータン、歌の解読は多分これでいい筈だし、本当に最低限の機能しかないけど、新型の飛空艇も完成した。それに初夏の満月も、もうすぐだ」

机の上に両手をつき、そこに置かれた紙を見ながらパーズがシータンに言う。

「うん。これで、マホーラに行けるかもしれないんだね!」

シータンは元気にそれに答え、パーズは顔を上げる。

「ああ、一緒にマホーラに行こう!」

「うん!私ホントはマホーラに行けるのはずっと先だと思ってたから本当に嬉しい!パーズ、ありがとう!」

シータンは腰の後ろで両手を組み、やや上体を倒し、パーズに礼を述べる。

「こちらこそ、シータンが色々知ってなきゃ、実際にマホーラに行こうと挑戦するのも無理だった。ありがとう」

パーズは自然に右手を出しながら言う。
その手をシータンは同じく右手で掴み握手をする。

「あはは、2人の力を合わせたお陰だね」

……それからの劇の流れはというと、出立の準備もほぼ整い、初夏の満月の夜を待つだけとなった2人はその残りの数日をいつもと同じように過ごしていた。
しかし、そんなある日の夜、リアードネ飛空艇工房に潜り込んでいたハルカ大佐の部下が、シータンを攫い、更に歌を解読して導きだしたマホーラへの行き方の方法の書かれた紙を盗み出してしまう。
部下がシータンとマホーラへの行き方の方法を記した紙を持ち帰ってきた事にハルカ大佐は喜んだが、もう一つ、精霊石が無い事に激怒した。
しかし、もう一度部下にリアードネに行かせるには初夏の満月の日までに時間無い為、シータンと一緒にいたパーズが追いかけてくる事を期待して、作戦を決行する事にした。
パーズの導き出したマホーラへの行き方とは、初夏の満月の日に3国のある地点のそれぞれにできるという特殊な気流に乗ってマホーラの上空頂上に到達する事ができ、そこからならマホーラに至る事ができるというものであった。
場面はハルカ大佐の乗る、ラース帝国の飛空艇、その名もゴリオシ、シータンが閉じ込められている一室。
用意してあった色々な服が机に積まれたままの所にハルカ大佐が現れ、両手を広げてシータンに話しかける。

「よく眠れたかな?おや、流行りの服は嫌いですか?」

「私をどうするつもりなの!?」

むすっとした顔でシータンはハルカ大佐に大声を出す。

「どうするもこうするも共にマホーラまで同行してもらうだけ」

淡々とした説明に、シータンは更に声を上げる。

「マホーラに行くならパーズと行くよ!」

そう言いながらシータンは船室の扉の方へ向かい、ハルカ大佐はそれを余裕を持って追うように身体をシータンの方に向ける。

「君も少女なら聞き分けたまえ」

「リアードネに帰して!」

シータンは扉をドンドンと叩く。

「あっはっはっは、どこへ行こうというのかね!このゴリオシは今空の上を飛んでいる。逃げ場など無いのだよ!」

ハルカ大佐はその様子を見て、仁王立ちで盛大に笑い声を上げる。
そして舞台は暗転し、セットが切り替わり、再び明転。
場面はセンブリーナ王国の女王の間。

「クシャーナ殿が見えました!」

舞台袖の所に立つ近衛兵が声を上げると共にシータンの母が、身体全体を覆うローブを着て現れ、道を進み、玉座の手前で片膝をつき頭を下げる。

「女王陛下、ご機嫌麗しゅう。この度は、飛空艇と部下をお貸し頂きたく参りました」

豪華な衣装を着た黒髪の美しい女王陛下(演:大河内アキラ)の隣に立つ完全に現代の秘書姿をした大臣(演:長谷川千雨)が問いかける。

「クシャーナ殿、何かあったのか?」

それに対し、シータンの母は下を向いたまま説明を続ける。

「はっ。ラース帝国のハルカ大佐なるものがマホーラを手中に収めんと動いているようなのです」

その言葉に女王は目を見開き、少し席から身を乗り出す。

「何、あのマホーラを?」

それに対し、シータンの母が答える。

「はい。予知夢を見ました。間違いはないかと」

「マホーラに行くというのか?」

その女王の問いかけに、シータンの母は一瞬間を置いて口を開く。

「……はい。マホーラへの至り方をお教えするのは申し訳ありませんが」

話す途中で、女王は扇を口元に当て、ピシャリと発言を遮り、結論を言い、人を呼ぶ。

「よい。詮索はせぬ。頼み通り、飛空艇と屈強な部下をつけよう。シーナ、ミーサ!」

すると、シータンの母が現れた方とは逆の舞台袖から2人の杖を持ったローブを羽織った人物が素早く現れ、玉座の付近で片膝をつく。

「「はっ!お呼びでしょうか、女王陛下!」」

女王は扇を前に開いて命令を下す。

「クシャーナ殿と共に、飛空艇で出立せよ」

「「はっ!お任せください!」」

シーナ(演:椎名桜子)とミーサ(演:柿崎美砂)が返答し、シータンの母が礼を述べる。

「お心遣い、感謝します、女王陛下」

女王が大臣の方を向いて命を下す。

「大臣、飛空艇の手配を」

大臣は頭を下げ、手で示して、シーナとミーサが出てきた舞台袖へと促す。

「承知致しました。クシャーナ殿、シーナ、ミーサあちらへ」

舞台袖の近くまで至った時、シーナが両手を振ってはしゃぐように言う。

「クシャーナ様、私、幸運を呼ぶ魔法が常に勝手に発動してるので、期待してて下さい!」

「それは。期待させてもらいましょう」

「私達、腕も確かですので、ご安心を」

フォローするようにミーサがシータンの母に言い、舞台袖へとそのまま去っていった。

[[こうして、シータンの母はシーナとミーサという女王陛下の選んだ屈強な部下と共に飛空艇に乗り、初夏の満月の夜、マホーラへと行くことにしたのです。他に同じようにマホーラへ行こうとする者達がいる中……時はその満月の夜]]

場面は小型飛空艇……見た目は完全に2人乗りのプロペラ機まがいの物にパーズが1人乗り込み、歌を解読して特定した通り、リアードネにあるポイントからマホーラへと向かう所。

「シータンをさらった奴らは必ずマホーラに行く筈だ。待ってろよ、シータン!」

そう言ってパーズはゴーグルを着用する。
小型の飛空艇が空を駆け抜ける演出が、舞台のスクリーンに投影された雲の映像で表現される。
小型飛空艇はそのまま勢いを増して進んでいく。

「やっぱり、本当に気流はあった!けど、荒い!でも、船体強度には自信はあるぞ!」

スクリーンには巨大なマホーラの島が近づいてくるように見え、更には一気にその横を越え、頂上からマホーラを見たような絵が映る。
その絵を描いたのはハルカ大佐こと早乙女ハルナ。
その映像全体の編集は長谷川千雨が行い、クオリティはかなりの物であった。
巨大な大樹が中心に聳えるのが目立つ、自然豊かな島。

「後は一気にっ!あ、あれはっ!?」

突如、ワイヤーで吊るされた3人の人物が現れる。

「きゃぁぁーっ!!」  「このままではっ!」  「飛空艇が壊れるなんてー!」

背景はマホーラの地上がどんどん近づいていく所。

「おーい!今ロープを投げる!これに掴まれ!!」

そこへパーズが小型飛空艇の中から3本のロープを的確に投げる。

「ら、ラッキー!!」  「流石シーナ!」

上手くロープに3人は掴まり、そのまま小型飛空艇へと手繰り寄せていく。

「しっかり掴まって、絶対手を離さないで!!」

そうパーズが叫ぶ。

「うわぁぁっ!!」  「落ちるよぉっ!!」

激しい効果音と共に、スクリーンの映像が急速に回転し、墜落したかのような演出が為される。
……これを見たネギは驚いていた。
違うには違うけど、何だか魔法世界の時の一件と似ている、と。
そして舞台は暗転、セットが切り替わる。
場面は満月と星々に照らされた幻想的な花畑。
パーズは席に突っ伏した状態で声を上げる。

「っ……いたた……」

小型飛空艇の翼部分に掴まっている形になっているシーナが声を出す。

「うぅん……あー死ぬかと思ったー」

ピクピクしながら、ミーサが前座席と後部座席の中間に身体をダラリとつけたまま声を出す。

「ま……まさかセンブリーナの飛空艇が大破するなんてっ……」

「……とにかく、マホーラには到着しました」

何故か、後部座席に何食わぬ顔で座っているシータンの母が言った。

「だ……大丈夫ですか?」

そう言ってパーズは飛空艇から降り立ち、ゴーグルを目から外し、3人を降ろす手伝いをする。

「ええ、大丈夫。ありがとう。あなたは……そう、あなたがパーズね」

手を取られながらシータンの母が言う。

「ど、どうして俺のことを?まさかシータンをさらったのは」

足をつけた瞬間にパーズは手を離し、距離を取る為に後ずさる。

「私はシータンの母。シータンをさらったのはラース帝国のハルカ大佐という者です」

パーズはその言葉に驚く。

「シータンのお母さん!?う、疑ってすいません」

「いえ、良いのです」

そのやり取りを意に介さないようにシーナとミーサは片手で遠くを見渡すような仕草をして声を上げる。

「いやー、綺麗な所ですねー!」

「ここがマホーラ!」

……そこへ舞台袖から背中には透明な羽、頭にはアンテナのようなものがついた、6人の妖精達が現れる。
とりわけ他の4人よりも非常に背丈の低い同じ容姿をした2人の妖精が前に出て4人の周りをスキップしながら同時に話しかける。

「「精霊石、精霊石の匂いだ!!」」

その突然の出現にパーズは驚く。

「な、何だ!?」

「僕達は由緒正しき森妖精!」」

「僕はユーパ!」  「僕はミトー!」

森妖精ユーパ(演:鳴滝史伽)、ミトー(演:鳴滝風香)はそれぞれ立ち止まってペコリと自己紹介をした。
その自己紹介に、やっぱり別の作品混じってるよね……とネギは思った。

「ほ、本当に、妖精」

驚いているパーズを尻目に、シーナとミーサは両手を身体に引き寄せてリアクションをし、シータンの母は落ち着いて言葉を述べる。

「可愛いーっ!」

「妖精なんて初めて見た!」

「マホーラの森妖精ですか」

そしてユーパがパーズを指差して言う。

「精霊石を持っているのは君だね!」

その指摘にパーズは首を傾げながらも作業服の懐から翠色をした石のついたネックレスを取り出して見せる。

「精霊石?もしかして……これの事?」

今度はミトーがそれに反応し、ぴょんぴょん跳ねながら言う。

「それだよ!それを持って、世界樹の元に行って欲しいんだ!」

それにパーズが後ろを振り返るようにして言う。

「世界樹って……あのデカイ木の事か」

ユーパがコクコクと頷く。

「そうだよ!あの木はとっても大事で今大変なの!」

そこへシータンの母が会話に割り込む。

「パーズ、精霊石はあなたが持っていたのね」

「ああ、はい。シータンが攫われた時、部屋の隅に転がってたんだ」

それにパーズは虚を突かれたものの、答え、一瞬考え込むようにして、シータンの母は口を開いた。

「……なら、精霊石はあなたがそのまま持っていて頂戴」

パーズはゆっくり首を縦に振った。

「わ……分かった」

そこへ、ユーパとミトーがまたぴょんぴょん跳ねながら声を発する。

「今、怖い人間達が別の方向から世界樹に向かってる!」

「世界樹への近道はこっちだよ!ついてきて!案内するよ」

急かされるようにして、6人の妖精達に背中を押され、パーズ達は世界樹へ続く道へと向かうように、舞台袖から去った。
そして舞台は暗転し、再びセットが切り替わり、大樹が非常に目立つように背景に加わる。
再び明転し、大樹の前に仁王立ちしたハルカ大佐と手を後ろ手に縛られているシータン、そして6人部下が立っている。

「さあ、リュシータンはいる!」

「私リュシータンじゃないよ!シータンだよ!」

「あとは精霊石を持ってノコノコやってくる所を待とうではないか!」

ハルカ大佐がシータンの発言を無視して高らかに宣言した所、舞台左袖からパーズ達が現れ、一瞬姿を表した妖精達はすぐに引き返していった。

「シータン!!」

「シータン!」

パーズとシータンの母がシータンを呼ぶ。

「パーズ!お母さん!?」

それに対しシータンが2人を見て声を上げるが、そのシータンの前にハルカ大佐が立ちふさがる。

「感動の再会のようですが、残念ながらそうはいきませんな!リュシータンを無事に帰して欲しくば、おとなしく精霊石を渡したまえ!」

右腕を前に出し、掌を上にして、招くようにして言う。

「な!」

「やはり精霊石が狙いですか」

それにパーズとシータンの母が一歩前進して言う。
ハルカ大佐は両手を広げ、高らかに上に掲げて言い放つ。

「当然!精霊石があれば世界樹、そしてマホーラを、ひいては世界をラース帝国の手中に収める事すらできる!」

それにシータンが声を上げる。

「そんな事の為にっ!」

「子供に何が分かる!さあ、精霊石を渡したまえ!リュシータンは命さえあれば良い。腕の一本程度無くなっても問題は無いのだよ!」

ハルカ大佐の言葉で部下の2人が動きナイフを出してシータンの首筋に付ける。
それに対し、パーズとシータンの母はさらに一歩だけ前進し踏みとどまる。

「くっ……」

冷静な声でシータンの母が言う。

「パーズ、渡してしまいなさい」

後ろに控えていたシーナとミーサが声を上げる。

「「クシャーナ様!」」

次の瞬間、パーズは精霊石のネックレスをハルカ大佐の方に振りかぶって投げつける。

「こんなものっ!」

そのパーズの行動にシータンが名前を呼ぶ。

「パーズ!!」

ハルカ大佐は腰を屈め、転がった精霊石を拾い上げて、パーズ達を振り返る事なく部下達に命令を下す。

「……聞き分けが良い。では、始末したまーえ!」

「「「「「「はっ!」」」」」」

そして、ハルカ大佐とシータンは世界樹の深部へと入っていくように舞台袖に去っていく。
入れ替わるようにハルカ大佐の部下6人が杖を構えてパーズ達に接近する。
それに直ぐ様シーナとミーサがシータンの母を守るように片手を広げ、もう片手に杖を構え、前に出る。

「クシャーナ様、お下がり下さい!」

「クシャーナ様は戦闘力皆無なのですから!」

そこへハルカ大佐の部下が杖を振りかぶって襲いかかる。

「はぁっ!」  「やぁ!」

「くっ」  「やられるか!」

シーナとミーサがそれを防ぎ、見かねたパーズが前に出る。

「俺も戦います!」

一歩下がっていたシータンの母がパーズを呼び止めるように声をかける。

「パーズ、隙を見てシータンの後を追いなさい」

それに首だけ振り返りパーズが聞き返す。

「シータンのお母さん!?」

シーナとミーサがハルカ大佐の部下6人が波状攻撃で襲いかかるのを都合よく防いでいる所、シータンの母は落ち着いて言う。

「あなたは私が夢で見たもう一人の運命の子供。歌の本当の意味があなたには分かる筈」

「わ……わかりました!」

パーズは首を縦に振り、すぐに前を向いて、戦列に参加する。

「プラクテ・ビギナル・シーナぐれいとぉ!」  「プラクテ・ビギナル・ミーサですとろーい!」

シーナとミーサはとりあえず技名を叫びながら戦い、ナレーションが入る。

[[……そして、激しい戦いが始まりました。シータンの母に先に行くように言われたパーズはその戦いの最中、隙をついて飛び出し、世界樹の深部へと向かったのです]]

そしてしばらく必殺技を叫んで杖で殴りあう中々まともな剣戟が繰り広げられ、パーズ1人だけがその場を去るようにした所でフェードアウトするように舞台が暗転。
セットが切り替わり場面は世界樹の深部。
ハルカ大佐はシータンの手の縄を解き、精霊石を無理矢理手に渡して言う。

「さあ、リュシータン、世界樹の再生を!」

大きく首を左右に振ってシータンが拒否する。

「やらないよ!それと私リュシータンじゃないよ!」

それにハルカ大佐がやれやれと首を振って説明を始める。

「何を言っているのかね。リュシータン・トエル・ウルティ・マホーラ。君の本名ではないか」

再びシータンが驚く。

「え!?」

饒舌にハルカ大佐は説明を続ける。

「私も古い秘密の名前を持っているんだよ。私の名前は、ロハルカ・パロ・ウルティ・マホーラ。君の一族と私の一族は、もともと一つの王家だったのだ。地上に降りた時、二つに分かれたがね」

納得したようにシータンは声を漏らす。

「そ、そうなんだぁー」

「まあ、そんな事はどうでもいい。今重要なのはこの世界樹。この世界樹は弱っている。その精霊石で再生させなければ、近いうちに枯れ、世界から魔法が失われる!それでも良いのかね?」

またしても両手を左右に大きく広げ、ハルカ大佐は説明した。
それにシータンは精霊石を両手で包みながら声を漏らす。

「そ、そんな」

そこへ、大樹のセットが一瞬仕掛けてある電飾によって発光し、同時にそこについている出入口から、植物をイメージしたような、それでいて清廉な服装の1人の人物が登場する。

『精霊石……精霊石の力を感じる』

ハルカ大佐が左手を大仰に前に出す。

「おお!世界樹の精霊のおでましではないか!」

シータンが驚く。

「あなたが世界樹の精霊!?」

シータンとハルカ大佐の目の前に現れた世界樹の精霊(演:雪広あやか)は閉じていた目を開け、シータンの方を向いて話しかける。

『……精霊石を持つ者よ、遙か昔に……教えた歌を歌って下さい。さすれば再び我は力を取り戻す事ができます』

「リュシータン!」

叱りつけるようにハルカ大佐がシータンの名を呼び、それにシータンは一瞬下を向き、すぐに顔を上げて決意を述べる。

「わ……分かった!私……歌うよ!」

そしてシータンは両手で精霊石を包みながら歌を紡ぎ始める。
同時にBGMも流れ始め、シータンの声は取り付けられているマイクで増幅され、場内に響く。
これを聞き、まき絵さん歌上手いんだなぁとネギは感心した。
すると、セット全体が後ろに取り付けられている電飾が徐々に点灯していく事で発光しはじめた事を表す。

「そこまでで十分!」

歌の途中でハルカ大佐が乱暴にシータンの手から精霊石を奪い取って、シータンを突き飛ばす。

「きゃぁっ!」

『に、人間!』

世界樹の精霊がハルカ大佐を睨むが、ハルカ大佐は大声で笑い、何やら呪文を唱え始める。

「あっはっはっは、今なら世界樹の主になることもできる!プラクテ・ビギナル・リテ・ラトバリスタ・ウルクスス・アリアロ」

「「させないぞ!!」」

突如、世界樹の精霊が出てきた所から、森妖精のユーパとミトーが飛び出し、ハルカ大佐の腕にしがみつく。
この様子を見て、何でもプラクテ・ビギナルを最初に言えば良いって物じゃない気が……とネギは感じていた。

「な、何だ貴様らは!離れたまえ!」

煩わしいとばかりにハルカ大佐が振りほどこうとし、世界樹の精霊が森妖精2人の名前を呼ぶ。

『ユーパ、ミトー!』

「「わぁっ!」」

ハルカ大佐に思いっきり振りほどかれ、森妖精2人は端に飛ばされ、動かなくなる。

「てこずらせたな!プラクテ・ビギナル・リテ」

再びハルカ大佐が呪文を唱え始めた所、パーズが現れ、石のような物を投げる。

「やめろーっ!!」

「ぐっ、例の小僧か!」

その石が当たり、ハルカ大佐は精霊石を取り落とす。
素早くパーズがシータンを呼ぶ。

「シータン、精霊石を!」

「う、うん!」

シータンが転がった精霊石を拾おうとした所、ハルカ大佐も掴みかかろうとする。

「小癪な!」

が、パーズがハルカ大佐を遮る。

「させるか!」

そのまま組み合う形で2人は立ち位置を少し変え、一旦離れたハルカ大佐が杖を腰から取り出してパーズに斬りかかる。

「魔法も使えぬ小僧が!プラクテ・ビギナル・ハルカブレイド!」

「ぐあぁっ」

切られたパーズは痛そうにして、そのまま場に崩れ落ちる。

「パーズ!」

心配する声を上げたシータンに、世界樹の精霊が呼びかける。

『眼鏡の悪い人間に良く効くおまじないを唱えるのです!』

「なんだそのピンポイントなおまじないは!」

ハルカ大佐が突っ込みを入れる。
一瞬虚を突かれたシータンは両手で精霊石を包み、呪文を叫ぶ。

「え!?……うん! パ ル ス ッ!!」

すると、スポットライトがハルカ大佐に集中し始め、ハルカ大佐は両手で目を抑え呻き声を上げ、ふらふらと動き始める。

「あぁぁ!!目が、目がぁぁぁ~っ!!うぐぁぁあぁっ!!」

そのまま目を抑えたまま、盛大な断末魔を上げ、ハルカ大佐はその場に倒れ、ピクリとも動かなくなる。
そしてすぐに、シータンはパーズの元に駆け寄り、その体を揺すり始める。

「パーズ!パーズ!目を開けてよ!」

しかし、パーズは全く動かない。

「そ……そんなっ……」

シータンは両手を目元に当て悲しみを顕にする。

『リュシータン、その者の両手に精霊石を握らせ、その上から両手で包むのです』

そこへ、世界樹の精霊がシータンに近づき助言をする。

「……う、うん!」

シータンは世界樹の精霊の方を振り返り大きく頷く。
そして、パーズにスポットライトが当てられ、明るく照らされる。
すると、パーズの身体が動きを見せ、シータンが名前を呼ぶ。

「パーズ!」

「し……シータン」

気を取り戻したパーズはゆっくりと上体を起こす。
瞬間、シータンはパーズに抱きつく。

「パーズ!良かった!良かった!」

「シータンこそ、無事で良かった」

それをパーズも受け止めて、互いの無事を喜び合う。
少しして、2人が立ち上がり、世界樹の精霊の方を向くと、世界樹の精霊が頷いて口を開く。

『リュシータン、パーズ、精霊石を手にもう一度歌を』

「うん!」  「ああ!」

シータンとパーズの2人は一緒に歌を歌い始め、それと共に、世界樹も再び発光を強め始め、スポットライトが世界樹の精霊を明るく照らす。

『……ありがとう、リュシータン、パーズ。これで我は力を取り戻し、しかも以前よりも元気になりました。2人の純粋な心のお陰です』

両目を開け、控え目に両手を広げ、世界樹の精霊は2人に礼を述べる。

「良かったね、世界樹の精霊さん!」  「良かったな!」

精霊の様子にシータンは両手を合わせて嬉しそうにする。
森妖精の2人もいつの間にか立ち上がり辺りをぴょんぴょん飛び回る。

「「戻った、戻った!!」」

落ち着いて、世界樹の精霊は口を開く。

『……これでマホーラは再び人の手の届かぬ、遙か天空へと上がる事ができます』

少し惜しそうにシータンが問いかける。

「あの、地上には戻ってこないの?」

『人間が争いをやめる……いつかその時、再び地上に戻るかもしれません』

シータンが頷く。

「そっか。……うん、分かった」

パーズが右手に力を込めるようにして、世界樹の精霊に言う。

「なら、そういう世の中になるよう頑張るさ!」

「私も頑張るよ、パーズ!」

世界樹の精霊は目を閉じて言葉を返す。

『……とても難しいでしょうが、その気持ち受け取りましょう。いつまでも、大事にして下さい』

「うん!」  「ああ!」

元気よく2人が返答した所で、シータンの母とシーナ、ミーサが現れる。

「シータン!」

「お、お母さん!」

反射的にシータンは母に抱きつく。

「良かった。……パーズも無事で」

シータンの母はシータンを撫で、パーズにも声をかける。

「ありがとう」

パーズがシータンの母に感謝した所で、世界樹の精霊が再びゆっくり目を開ける。

『……人間達よ、そろそろ、地上に戻る用意は良いですか?』

シータンとパーズが頷く。

「……うん、良いよ」  「良いぜ」

『……では、またいつの日にか、会う事があればまた』

世界樹の精霊はシータン達に軽く頭を下げ、森妖精の2人は元気よくその横で手を振る。

「「ばいばーい!!」」

「さようなら!」 「さよなら!」

シータン達も手を振りながら、舞台の照明がフェードアウトするように消えてゆく。
完全に舞台が暗転し、幕が下り、ナレーションが入る。

[[地上にシータン達が戻り、空を見上げると、マホーラは徐々に高く高く昇り始め、再び永きに渡り人の手の届かない所へ上がって行ったのでした。……いつの日にか、また手に届くその日まで]]

再び幕が上がると、花畑のセットを背景に、スクリーンには徐々に空高く上がっていくマホーラの島が見え、舞台には登場人物達が勢ぞろいし、全員で劇中で歌われた歌を合唱し……そして最後に一礼した。
それが終わると同時に、客席からは拍手と歓声が鳴り響く。

「まき絵かわいいー!!」  「まどかカッコ良かったよー!!」

「ちづるお母さーん!!」  「ハルカ大佐お疲れー!!」

ネギもそれに拍手を送りながら、再び幕が下りるのを見ていた。
世界樹の設定が実際の麻帆良の神木・蟠桃に近い上、本当に神木には精霊がいることをやや複雑に思っていた。

「はー、結構面白かったな」

ナギがあっさり感想を述べ、アリカも頷く。

「良い劇じゃった。演出も凝っておる」

「うん、楽しかった」

ネギが相槌を打った所で、ナギが思いついたように一つ言う。

「んー、もしかしたら、麻帆良の木にも精霊いたりすんのかもな」

アリカがふっと微笑む。

「……それはどうじゃろう。じゃが、おるかもしれぬな」

「あ、あはは、そ、そうかもしれないね」

……ネギは適当に空笑いしかできなかった。
そして、一家は講堂を出て、丁度昼頃であった為、屋台で気に入った物を買って食べて過ごした。
そんな中、3人は丁度アスナが美術部の展示コーナーにいる時間に近くなったのを見計らって、足を運んだ。
……美術部員が書いた絵がズラリと並び、それをゆっくりと眺めながら歩みを進め、そして目的の所へと辿りついた。
タイトルは「夕陽」とたった2文字、作者名には、麻帆良女子高等部1-1神楽坂明日菜と書かれた絵。
感心したようにナギが言う。

「おー、これがアスナの作品か。上手いなぁ」

アリカもそれを見て、山脈も描かれているその絵にどこかモデルがあるのかと少し気にする。

「うむ、綺麗な夕焼け……ここはどこじゃろうな。写真を参考にしたのか……」

「……うん、上手いね」

ネギは絵を見て落ち着いて一言。
この前転移魔法で一緒に行った時に見た景色をアスナは描いていたんだ。
そう心の中で思いながらネギは眺めていた。
そこへ絵を描いた本人が現れる。

「あ……」

先ほども見た3人に気づいてアスナは声を漏らす。
それに気づいた3人はアスナの方に顔を向けて感想を言う。

「よお、アスナ。見に来たぜ。上手いな」

「ああ、良い絵じゃ」

「うん、とっても綺麗」

「あ、ありがと。3人共」

アスナは少し恥ずかしそうにしながら、見に来てくれた事に礼を述べた。
そこへ、アリカが不意に尋ねる。

「ところで、この景色は何かを参考にしたのか?」

「え?……えっと」

アスナはその質問に途端に目を泳がせ始め、ネギに視線を下げる。
すると、タイミング良く、そう言えばという表情をしてネギは声を出さずに口だけ動かし「話してない」と伝えた。
アスナはすぐに目をネギから逸らし頬を少し指でさすりながら答える。

「うん、写真を参考にして……描いたの!?」

が、突如表情の変わったアリカがアスナの肩を掴み、通路端に引きずり寄せて背中をネギとナギに向け、コソコソ話すように頭をアスナに近づけて話しかけた。

「アスナ、ま さ か……ネギに手を出したのではなかろうな?」

頭が近すぎて顔が見えないものの、威圧感の漂うオーラにアスナは少し怖じ気付きながらも、否定する。

「しっ……してないわよっ」

「嘘じゃ。脈が上がっておる。体温も上がっておる。顔を確認すれば赤くなっているかどうかでわかるぞ。正直に吐くのじゃ」

瞬間、アリカは完全否定し、小声かつかなりの早口でまくしたてた。
アリカの左手はアスナの頬に密着しており、右手はアスナの右手首を完全に捕らえていた。
そのやりとりを後ろでネギとナギは不思議そうに見ていた。

「ね、ネギが4月に、転移魔法であの景色が見える所まで連れてってくれたのっ」

仕方なしにアスナは事情を明かす。
途端にアリカは拘束を緩めるが、再び力をこめる。

「あの時か。ネギが、と言ったがネギはあの時私達に何も話さなかったが、 本 当 に……何も無かったんじゃな?」

「本当にネギ言って無かったのね……。って何があるって言うのよっ。寒い所で夕陽見ただけなの!」

アスナは標高の高い山でどうしろと思わず突っ込みを入れた。

「いや……寒いところでなら尚更」

アリカの疑いはとどまる所を知らなかった。
ため息をつくようにアスナが適当に言う。

「……それはアリカの経験じゃなくて?」

「な、何をっ」

途端にアリカが動揺し、逆にアスナが驚いた。

「え、図星?」

「だ、断じてそのような事はっ」

そのコソコソ小声で話している所に、ネギが近づいて来て聞こえる声で言った。

「ごめんなさい、母さん、4月にパッとアスナと行った事があるんだ。確か大丈夫しか言ってなかったけど」

ネギの特に考えてもいないような普通にあっさりした説明にアリカとアスナは慌てて振り返り、アリカが口を開く。

「ね、ネギ。そうであったか。し、しかし、何故言わなかったのじゃ?」

少しだけ首を捻り、ネギは上目使いにアリカを見て尋ねる。

「うーん、何となく、かな。……駄目だった?心配させたなら」

「いや、別に駄目ではない。駄目ではないぞ」

アリカはネギの肩に両手を置きながら無駄に勢い良く否定した。
ネギはアリカのいきなりの行動に少し戸惑いながら答えた。

「う……うん。なら、いいんだけど。2人共少し顔赤いけど大丈夫?」

「大丈夫じゃ!」  「大丈夫よ!」

同時に2人は強い語調で肯定して答えた。
アリカとアスナはネギの反応を見るに、どうも無駄な事をしたとばかりに軽く息をついた。
そして3人でナギが間の抜けた顔で他の絵を見ている所に戻った。
3人はアスナとそこそこに、会話を交わした所で、互いに手を振って展示コーナーを後にした。
次に向かった先はエヴァンジェリンの発表会が行われている舞台。
エヴァンジェリンは雪広グループに就職したが、依然として大学での活動は続けている。
後継の者達の育成も行われていたので、エヴァンジェリンが抜けてもサークル自体は単体でも活動は可能ではあるが、やはりエヴァンジェリンが一度舞えば、それだけで人が集まるという事には何ら変わりは無い。
通のアルビレオに言われた通り、午後の部1回目が終わった所で会場に到着した3人は丁度席を離れる人々と入れ替わりに席について座る事ができた。
するとタイミング良くもう1人がナギの隣に現れ一声かけて座る。

「失礼」

「どうぞ、ってアルじゃねーか」

ナギが突っ込みを入れ、アルビレオは笑い声を出す。

「フフフ」

「こんにちは、クウネルさん」

「アルビレオも来たのか」

ネギとアリカも声をかける。

「こんにちは、皆さん。私は午前からいます。先ほどまでは交代で立見をしていましたが」

アルビレオはサラリと一日中いることを明かした。

「おお……あ、お師匠は?」

ゼクトの姿が無い事にナギが指摘する。

「一度ここで見た後、適当に祭りを巡ると言って1人で繰り出しましたよ」

その説明にナギは納得し、気になったことを尋ねる。

「そっかそっか。で、アルはずっと見てて飽きないのか?」

「はて、飽きる、ですか。これはこれは、なかなか面白い冗談を言いますね。フフフフフ」

アルビレオは口元にローブの袖を当てて再び意味心に笑い始める。

「あー、面白かったなら……良かったぜ。うん」

その反応を見て、流石のナギももう一度突っ込みを入れる気力を完全に削がれ、とりあえず考えないことにした。
ネギとアリカはそのやりとりに互いに顔を見合わせて少しばかり苦笑した。

「クウネルさん、良くわかりましたね。僕達の事」

ネギがアルビレオに話しかける。

「背丈と、言った通り来た3人家族で、私は予め知っているのですからそれだけで大体分かりますよ」

答えを素直にアルビレオは言い、ネギとアリカは納得する。

「なるほど、そっか」

「言われて見れば、そうじゃな」

そして一家にアルビレオを加えた4人は午後の部2回目が始まるまで20分近くの間、適当に話したり、次にどこに行くかなどを、パンフレットを見ながら話をして待った。
午後の部2回目が始まるアナウンスが流れ、最初はエヴァンジェリンではない大学生達が舞をしばらく披露した。
そして、満を持して、その金髪を煌めかせ、一度動けば光の残滓がこぼれおちるように、また、人によっては後光すら脳内補完で見えるエヴァンジェリンが登場する。
その登場と共に、観客は大いに沸き上がり、拍手や歓声が飛び交う。
しかし、和楽器での荘厳な演奏が始まると途端に会場は静まり返り、両目を閉じて静かに構えていたエヴァンジェリンがそれを開ければ、会場の人々の時間感覚が完全に失われる。
時間を忘れて見入ってしまうが故に。
その注目は全て舞台に集中し、エヴァンジェリンの舞が止まるまで、それを阻害するものは無い。
手、足、身体の全ての、所作一つ一つの流れるような動きに人々は心奪われた。
その舞に一区切りつき、演奏が止まった途端、観客は我に返ると同時に大喝采と大歓声を上げる。

「何度見ても良いものです」

「ああ、凄いのは俺にも分かるぜ」

「うん、何度見ても素敵」

「心洗われるような舞じゃな」

アルビレオが最初に感想を漏らし、ナギ達もそれに続いて言葉を述べた。
……そして、午後の部2回目の演目が終わるとより客席はより一層の盛り上がりを見せ、エヴァンジェリンへ歓声を送り、薄化粧をしたエヴァンジェリンは優雅に一礼して舞台から去っていった。
それと同時にアルビレオも席を立ち上がりナギ達に言う。

「では、私は買い物に行ってきますのでこれで」

「買い物?」

怪訝な顔をしたナギに対し、アルビレオが説明する。

「ええ、午前の部に撮られた映像がBlu-rayになって販売されるんですよ。並ばないとすぐ売り切れてしまいますので失礼」

そう真顔でさも当然とばかりに言い切って、アルビレオは返答を聞くこともなく、続々と観客達がある一箇所に向けて集まっていく場所へと去っていった。

「詳しいな……。またなー」

ナギはついて行けないとばかりに呟き、聞こえない事は分かっていても挨拶だけした。

「並ばねば買えぬというのは分かるが、行動が早い」

「同じような人達沢山いるし、仕方ないよ」

アルビレオの行動の速さにアリカは少し唖然としたが、周りを見れば同じような人々が大量にいる事を考えればおかしくはないとネギは言った。
時刻も午後を充分にすぎ、小腹が空いてきた所で、一家は通りがかりの屋台でたこ焼きなどを買って食べ、その後元教え子である3-A生徒達がいる各場所を巡ったり、通りがかりに面白そうな所を見つけては入ってみたりと麻帆良祭を純粋に楽しんだ。
この年、昨年執り行なわれた田中さん達から逃げる鬼ごっこは、外来の人々が多く認識阻害が無い事から混乱を招く可能性がある事から自粛されており、彼らが麻帆良内を駆けまわる姿を見ることはなかった。
夕刻になるとナイト・パレードもあり、電飾が綺羅びやかに麻帆良を彩る中、一家はフィアテル・アム・ゼー広場付近の建物の屋上喫茶の一角の席にてそれを見ていた。

「もう夜か。早いなー」

辺りを見回してナギが呟き、それにアリカが言葉を重ね、少し寂しそうに言う。

「あっという間じゃったな……」

「うん。でも、その分楽しかったよ」

ネギは嬉しそうな表情で、時が経つのが早いという事は、それだけ楽しかったという事を言った。
そのネギの言葉にナギとアリカは2人共同じように微笑む。

「ああ、そうだな!」

「そうじゃな」

「うん。それで麻帆良祭は今日が初日だけど、父さん、母さん。明日も明後日も、今日回れなかった所、一緒に……回ってくれる?」

ネギはそう、やや控えめに両親に問いかけた。

「勿論だぜ」  「勿論じゃ」

ナギとアリカは2人同時に答え、自然に身を乗り出して、ネギの頭を撫でた。
ネギは少しくすぐったそうに心の裡を口に出す。

「ありがとう。父さん。母さん」



[27113] 89話 振替休日
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/08/02 01:00
 2004年6月22日月曜日、麻帆良祭終了後の振替休日。
 まだ本格的夏に入る前、辺りは涼しさが感じられる、午後8時を回ろうかという夜。
 街明はあるものの、ボックス型超包子の常駐屋台でも灯りはついていた。
 その屋台は貸切で、ある教師達数人の姿があった。
「はぁー、本当に麻帆良祭無事、終わって良かったですね」
 瀬流彦がジョッキを置き、息をついて言った。
「あぁ、本当にな」
「全くだねぇ」
 神多羅木と弐集院がしみじみと相槌を打ち、明石が笑って言う。
「あー、瀬流彦君は中等部だから余計に大変かぁ。お疲れだね」
「えぇ、ありがとうございます。正直高等部に移りたいですよ……。中学生からの質問攻め始め、もうホント、勘弁して欲しいです」
 はぁ、と瀬流彦は遠い目をして大きくため息をついた。
「まだまだ若いんだ、頑張れ。実際高等部も大して変わらん」
「そうそう、来たら来たでどこも似たり寄ったりだから。特に今のこの状況だと仕方ないよ」
 そう二人が軽く言葉を返し、明石はにこやかに言う。
「その分、大学の講義時間外はずっと協会にいようと思えばいられるこっちは割と楽、という事になるかなぁ」
 呆れたように神多羅木が言う。
「……せめて、お前は自分の娘をどうにかしろ」
 明石は片手で頭に触れる。
「いやぁ、悪い。一時期収まったかと思ったんだけど」
「すぐに戻ったからな……」
 もう諦めてるが、という様子の神多羅木に、
「はは、早い事にもう女子高生だって言っても元気なのは相変わらずで」
 明石は困ったなと言い、ふと、カウンター越しにいる相坂さよの後ろ姿に声を掛ける。
「そうだ、相坂君。うちの祐奈、迷惑かけるだろうけど、これからも宜しくお願いするよ」
 さよは振り向いて元気な声を出し、
「はい! 任せて下さい。でも本当に先生達いつも大変そうですね。頑張ってくださいぐらいしか言えないですけど、是非今日はゆっくりしていって下さい」
 二三歩近づいてそう声を掛けた。
「ありがとう。そうさせて貰うよ」
 明石はジョッキを掲げて見せて言い、弐集院達も大体同じように返した。
 そこへ、瀬流彦がさよに問いかける。
「というか相坂君、確かに予約はしたけど、振替休日でも働いてるのは……何というか、疲れ無いのかい?」
 あぁ、と神多羅木も呟く。
「見慣れた光景で忘れてたが確かにそうだな……」
 さよは両腕を構えて元気さをアピールする。
「若いので大丈夫です!」
 相坂さよ、御年79歳。
「いいねー」
「羨ましい」
 おお、と弐集院と明石が言った。
「うーん、流石だなぁ……」
 瀬流彦は開いていた目を細めて呟いた。
 相坂君は超君と同じく暗黙の了解で深く追求するのは無しになっているから今更だけど、それにしても謎だらけだよなぁ……。
 高畑先生と葛葉先生の言だと、幽霊として出たり入ったりできる身体らしいから疲れないのは当然と言えば当然だろうけど。
 とは言っても、相坂君がいないと超君の護衛もままならない事は度々だし、間違いなく例の千里眼は麻帆良内では最高峰の捜査系能力。
 まあ、学園長直轄の問題だから、本国に情報が漏れないように僕らは気になっても、下手に口にしないように気をつけるしかない、と。
 そう心の中で瀬流彦がいつもの結論に落ち着いた所、明石が尋ねる。
「ところで、瀬流彦君達女子高等部の1-2の劇は見た? かなりの評判だったらしいってけど、何だかんだ裏方で忙しくて見てなくて」
「話は聞いてたけど僕も見てないなぁ」
 弐集院が見ていないと答えると、残りの二人は見た、と答える。
「俺は見たぞ」
「それなら僕も見ました。麻帆良の世界樹をジブーリの天空の城に混ぜたような話です。セットが異様に凝ってて見ごたえありましたよ」
 思い出すように瀬流彦が説明すると、明石が苦笑する。
「はは、やっぱりタイトルはソレ関係だったかー」
「確かあの劇、世界樹が魔力を生み出している設定になっていたな」
 言って、神多羅木はジョッキを口にする。
「あーなるほど。通説では世界樹は周囲の魔力を溜め込むと言われていたけど、魔法世界の件で寧ろその可能性は高いとも言われ始めてるし、あながち的外れではないよね。いずれにせよ、魔力を生産している事実を観測できていないから相変わらず懐疑的だけど」
 発想が凝り固まってないとそういう風に自然に考えられるんだねぇ、と言って弐集院は料理に箸をつけて口に運ぶ。
 もう少しで空になりそうなジョッキを揺らしながら見て明石が言う。
「魔素よりも小さい単位の発見でもされれば、その可能性を確定できる……とはいえ、今の今まで進展は無い。こっちでもあっちの寒い北極でも観測してる成果が出るのか……」
「ま、はっきりしたら麻帆良から調査員が減って少しは楽になるのは間違いないな」
 さっくりと神多羅木が結論を言った。
「ですね」
「それは言えてる」
「違いない」
 三人は軽く笑った。
 そう1-2の劇の話は流れながらも神多羅木は若干ホッとしていた。
 神木・蟠桃には本当に精霊がいるという事を神多羅木は二年前に知って、実際に挨拶も交わした事があるから。
 あれ以来俺は会っても見てもいないが……全部神木の精霊のやった事なのだろうというのは容易に分かるが……少なくとも俺の口からは絶対に言えんな……。
 度々議論になっても、知らないふりをしてやり過ごすのも難儀なものだな……。
 今もこの状況を神木の精霊は観ているのかもしれないが……しかし、相坂はやはり……。
 いや、やめておこう。
 神多羅木は気づかれない程度の小さな息を吐いた。
 魔法先生達にとって、魔法公表後初のの麻帆良祭は例年とは比較にならない程諸所の対応が必要になり、業務はそれに比例して増え、楽しいというより、とにかく疲れる前夜祭+三日間だった。
 それでも、この今年の麻帆良祭は例年に比べると落ち着いている方であり、敢えて言い換えれば、世間で言う一般的なものに近づいていた方ではあった。
 それでも、総動員数、資金効果は過去最高という新記録を打ち出し、それを祝った後夜祭の盛り上がり方は相当なもので、広域指導員としての業務に従事する教員達は行き過ぎた面を抑えるのに苦労をした。
 そんな流石の学生達も疲れ果てた振替休日、本来休みであるにも関わらず「授業がない」為に減ることはまずありえない魔法協会の仕事をこの日も日中していた上で、神多羅木達は、今こうしてようやく一息ついていたのだ。
 一方、三人の店員がいるカウンター越しの厨房で、そんな教師達の会話を、問題のある発言は自動的に他愛の無い会話に一般人には聞こえる魔法を無視して、さよはそれらを全部聞きながら働いていた。
 本当に先生達は大変そうで……。
 ふっと、さよはこの年の麻帆良祭を思い返す。
 1-1の魔法少女喫茶は一般的な魔法少女で客を期待させておき、中に入った瞬間に実際のイメージの違いで混乱させ、その間にメニューを注文させ、資金を稼ぐ事を狙ったもの。
 それも一重に、麻帆良祭では営利活動が認められているが故。
 不意をついて騙すようではありながら、実際料理は定番の超包子の肉まんに加え、ピロシキ、その他の料理も取り揃え、味そのものも文句なしの評判であった。
「あー相坂君、例のピロシキっていつメニューに入る予定か決まってる?」
 唐突に弐集院がさよに声を掛けた。
「あ、はい! ピロシキなら来月からメニューに入りますよ」
「来月か、早くて良いね。ありがとう」
 軽くやり取りを交わし、さよは思う。
 そういえば、弐集院先生が一緒に連れてきた、5歳の娘さん、もの凄く可愛いかったなぁ……。
 人見知りが激しいのかカメラを向けたら先生の背に隠れるようにしたり。
 つい調子乗って皆で完全包囲したら涙目になっちゃったのは、次に会ったらごめんね、ともう一度謝っておこう。
 今年の麻帆良祭で1-1のクラス資金は随分貯まって、今後のクラス会の費用もそこから色々捻出できるようになった一方で……。
 今回全然営利活動をせず、先生達の話題にもさっき出ていた1-2のパクリ感だだ漏れの天空の島マホーラは……何か……私達の存在的には上演やめてほしかった気が。
 設定は殆ど実際そのままで、バレてる訳じゃない筈だけど……。
 神多羅木にも劣らない程度に複雑な心境で、さよは春日美空と1-2の劇を見に行った時の事を思い出す。

 舞台の幕が閉まり、拍手が鳴り響いた後。
 さよの左隣に座る美空が若干呆れた目をして呟く。
「……あれだ、ハルナどんだけ原作好きなんだろ」
「3-Aの時も魔法世界の情報見てから暫くは、ラピ○タラ○ュタ言って騒いでましたねー」
 十分ありえそうではあったのかも。
「そうそう。ハルナがあっち行ったら大変だろうなー。ていうか、大佐のセリフを無理矢理無意味に言うシーン多くなかった?」
 美空は突っ込みどころが多すぎる、と早口で言う。
「多かったですねぇ」
 美空さん劇中我慢してた反動が……。
「だよね。秘密の名前言っといて『まあ、そんな事はどうでもいい』とかだったら何で言ったし! って感じだったわー」
 流行りの服は嫌いですか? ……なんて、しっかり見てないと印象に残らんだろーし全く笑えもしないってのにハルナの奴は……。
 まぁ、朝倉もこの前の枕投げ大会で「3分間待ってやる!」とか似たような事言ってたけど。
 オスティアの映像は確かに衝撃だから分からんでもない。
 この前、実際金曜にロードショーで放送もしてたり、魔法宅も放送したり……ってアレ局も狙ってやってんだろうなぁ。
 デッキブラシでは飛べないけどねー。
「ピンポイントなおまじないのシーンでは観客席からも叫ぶ声が……私もついつられて叫んでみたぐらいですから、人気は取れてると思いますよ」
 さよが言葉を返したのを聞いて、美空は咄嗟に思い返して言う。
「いや、マジさっきアレは驚いたよ。いきなり隣で狂ったのかと心配になったからね?」
 目がぁ! を会場が皆で叫ぶとかそんな打ち合わせは聞いてなかった。
 原作の大佐は落ちて死んだ筈だけど、この劇はアレだ。
 ハルナが断末魔の叫びを無駄に声を上ずらせて言ってそのまま即死ってのは……逆にインパクトあった。
 美空が腕を組んで続けて感想を言う。
「しっかし、配役が合ってるっていうか微妙にコンプレックス抉ってる気がしたんだけど、いいんだか……」
 美空につられるようにさよも苦い顔をする。
「あぁー、那波さんと釘宮さんは……」
 釘宮さんはハスキーボイスが何か好青年すぎてハマりそうだったけど、それを気にしている本人は……。
「それに、お母さーん! って終わった瞬間に叫んでる連中いたけど、恐れを知らぬ奴もいるもんだね……」
 千鶴にあの発言はアウトだろ……。
「……知ってる人は勇気いりますよね……」
「触れちゃ駄目スね……。まー、まき絵と鳴滝姉妹は本心からノリノリだったな」
 危険な話題を少し変えようと美空が言った。
「あの3人は可愛かったです。皆そうですけど。衣装は長谷川さんがかなり関わったみたいで、細部まで拘っていて良かったですね」
「うんうん。完璧にハマってたよなー。ぁ……あと、あれだ。何でもかんでもプラクテ・ビギナル言ってるの酷かったねぇ……色々な意味で」
 あ、さよって普通の魔法生徒じゃない……けど、いいや、今更だし。
 顔色ひとつ変えずにさよが答える。
「皆初心者用の始動キーって事ですよね。でも多分分かってて使ってると思いますよ」
「ま、そーだね。辞書引けば、まんまそう言う意味だっていうのは分かるだろうし」
 あ、普通に返してきた。
 何か一方的にベラベラ言っててさよに悪いけど突っ込み……足りないっ。
「ポンポン話変えてごめんだけど、意外と世界樹の設定、考えさせられたね。……あれが無いと世界から魔法が消えるとか、精霊がいるとか、ホントにあるだけにどうなのか気になる。火星がああなった原因は神木のせいなのは確実っぽいし。まー元ネタはnamucoの出してるゲームなんだろうけどさ」
 美空は頭の後ろで手を軽く組み、舞台の方を眺めるようにして言った。
 美空は気づかないながら、さよは一瞬完全停止する。
「う、うーん、どうなんでしょうね。精霊はいると思った方が夢がある気がします」
 さよは心の中で空笑いをしながら、素知らぬ振りで考え込むようなリアクションをして言った。
「ま、そうだね。もしいたらどんな精霊なんだろうなー」
 美空は手を戻した。
「いいんちょさんのやった感じの精霊はありそう、ですよね」
 ごめんなさい、隣にいる、こんな感じですっ!
 というか、キノが優曇華に最初つけてた大いなる実りってそのまま、あのゲームが元ネタだろうけど、偶然……?
 さよは慣れたように電子ネットワークに介入し、情報を引き出す。
 えーと、発売されたのは1995年12月15日、次に移植されたのが1998年12月23日。
 私が精霊になる前……あのゲームの事を知ってて「似てたからつけてみました」とか……暫定的になってて語呂が悪いとか言ってたし、いつも通り安易なのかも。
 美空が精霊の存在についてはやや無さそうという風に言う。
「まー、ホントにいたらスゲー偉い精霊だろうから、あんな感じかもね」
「んんー、そうかもしれませんね」
 すいません、実際は結構俗物的で……。
 キノは基本真面目だけどしばしばよく分からなくて結構適当で、特に私なんかただで映画見たり、書店に潜り込んで……ごめんなさい。

 と、1-2の劇を見て、さよは微妙な気分になったのだった。
 結局の所、人間の想像っていうのは意外に現実に起こり得ている範囲内にすぎないという事なのかも。
 魔分を普通に観測できるようになったら……いつか神木が魔分を生産している事がバレる事になるけど……そこは鈴音さん次第。
 EMドライヴは既存の精霊祈祷エンジンと違って魔分をそのまま反応させるから、公に出すことになったら順番から言って先に魔分の概念を必然的に発表する事になるけど……。
 現状では、魔分の概念自体は魔法界の間では理解されておらず、その次段階の魔素としての観測しかできてない為「神木・蟠桃は22年で魔力を大気中から集めている」として、神木・蟠桃は稀な魔法植物の一種として分類されている。
 仮に、神木・蟠桃が魔分を生産していなかったとしても、魔分溜りを形成するという点では利用価値が多い事には変わらないが。
 さよは視界に入っている神多羅木を見て、軽くいつも通り通信を繋ぐ。
《キノ、そう言えば、神多羅先生って、キノの事知ってますよね?》
《そうですね。既に二年以上経ってますが、特に今までどうということもないので、神木についての会話が出たところで、神多羅木先生が知らないふりをしてくれているのは助かる限りです》
《先生、地味に疲れてそうですね……》
《マイペースな神多羅木先生なら、と信じておくことにします》
《まぁ、どうしようもないですよね》
 やっぱり適当だ……。
《魔法先生達が大変なのは大変だとして、ネギ少年の事は見ていましたか?》
《勿論、見てました。ネギ先生も家族と一緒に普通の子供らしく麻帆良祭を回れてたみたいで良かったですね》
 生体年齢的には今年確実に12歳のネギ先生が先生でなくなっても、今は研究をするようになりだして、一部の、しかも年上の元生徒にハイレベルな個人授業をしていたりするのは、やっぱり普通の子供とはかけ離れているし……そういう意味でも。
《ええ、歳相応に、本来あるべき姿だと思います》
《これからも続くと良いですよね。ところで、やっぱり今年はまほら武道会は無理だったのは少し残念でした》
《同意です。私も個人的にまほら武道会が今年開催できなかったのは少々残念に思いました》
《世間の目が多すぎますしね……》
《メガロメセンブリアが積極的にこちらに出てくるようになった時点で、超鈴音も開催は諦めていましたが……とはいっても、そうなってくれないと重要な案件が進まなくなるので止むを得ないとしか言いようは無いので栓のない事です》
《去年の試合数は合計しても普通じゃありえない量ですし、そういう意味では丁度良いタイミングで達人の人々の技を記録しておけたのは、幸いだったかもですね》
《ええ、全く。超鈴音もそれを予想してあれだけ大量に試合数を確保できるようにしたというのも、少なからず動機にはあったでしょうしね》
 そこで、さよは超鈴音にも通信を繋げる。
《キノ、1-2の劇の世界樹の設定はnamucoのゲームを元にしてあるみたいですけど、それに出てくる大いなる実りと優曇華に命名される前の暫定名称が一緒ですね!》
《おぉ、それは私も気になたネ》
《あー……それが……何か?》
 さよのわざと振った質問に、精霊は極めて適当な反応で応えた。
 超鈴音が悪乗りする。
《優曇華のかつての暫定名称はソレを参考にしてそのまま適当につけたのかナ?》
《えー……ええ。その通りです。安易ですいません》
 精霊の投げやりな返答。
《似ているのカ?》
《似ていますよ。優曇華の方がリアルですが》
《当たり前ネ。まあ、どうせ、そんな所だと思たヨ》
 超鈴音は少し呆れた。
《そんな所でした》
《サヨ、作業に戻ていいカ?》
《勿論です!》
 超鈴音との通信が切れる。
《で、少し期待してたのかもしれないですけど、大して面白くはなかったですよね?》
 このやりとり、と。
《あー、正直に言うと……。えっと、微妙に怒ってます?》
《別に怒る事でも何でもないですが、まあ元々自分が撒いた種なので、芽が出たぁ! ……という所でしょうか》
 精霊は急激にテンションを下げた。
《私達植物なだけに……って上手くも何とも無いですね》
《……枯れそうなので、お互いここで止めておきましょう》
《……はい》
 精霊同士の不毛な会話は終了し、さよの時間感覚が元に戻った所で、神多羅木達は気の済むまで超包子で過ごしたのだった。


 彼らがようやく一時の休息についていたのとほぼ同じ頃。
 場所は麻帆良女子高等部女子寮の一室。
 スッキリした肩口までの長さの黒髪、穏やかそうな性格をした目元ながらも、集中して目には力の入った表情の進藤志穂は自分の机に向かい宿題をサクサク進めていた。
 そこへカーペットに正座し、卓袱台で教科書を凝視していた西華香織が痺れを切らして声を上げ、
「んぁー、分からない、分からないよー……。明日に回したい……」
 もう我慢の限界だとばかりに、ハイハイするように志穂に近づく。
「しほせんせー、宿題中の所失礼ながら、どうか私に数学なるものを教えて下さい」
 数秒の間。
 はたと志穂は右手を止め、
「んー。丁度終わったし良いよ。どれ?」
 自然に椅子から離れ、志穂も卓袱台に向かった。
「問2の(3)と、問3の(2)が……。応用がどうしてもこう」
 香織は苦い顔をして言い、志穂は計算過程を見ながら、
「えーと、途中までは合ってるから、問2はここをね……」
 香織の計算過程をパッと見て志穂はシャーペンで軽く書き込みをし始める。
 香織はそれを見ていくらか停止していた所、閃く。
「あ! そういう事!」
「分かった?」
「わかったわかった」
 香織はふんふん頷きながら途中で止まっていた計算の続きを書き込んで、そうそう、と志穂も相槌を打ち、香織の宿題も何とか終わる。
「あー終わったぁ」
 香織は卓袱台に両腕を伸ばし、頭も横にして乗せた。
「お疲れ」
 そこへ志穂がコップ二つと紙パックの飲み物を持って腰を降ろし、それぞれに注ぐ。
「ん、ありがとー」
「うん」
 二人はそれを一口飲み一つ息を吐いた。
「はぁー、麻帆良祭終わって通常授業に戻るのもう少し待ってくれないものかなぁ。振替終わったらすぐとか」
 志穂が苦笑して言う。
「残念だけど、そこは待ってくれそうにないね」
「だよねぇ……。ところで志穂はもう結構麻帆良慣れた?」
 志穂は少し上を見る。
「んー、慣れたら慣れたで駄目な気がするけど、適応はしてきた、かな」
 剣道はルールがあるからまだ良かったけど、協会での刹那さんの動きは……うぅん。
 香織もつられるように苦笑する。
「あー……確かに。去年例の認識阻害が消えた時、私達も結構大変だったからあんまり人のこと言えないけど、今年入学して来た皆最初驚いてばっかりで面白かったなぁ」
「驚きすぎで感覚麻痺しそうでした」
 言って、志穂はもう一口飲んだ。
「無理ない。特に1-1は色々おかしいし。世界的に有名な超鈴音が同じクラスで、魔法使いはうじゃうじゃいる……ってそれは志穂もか」
「ま、初心者陰陽師だけどね」
 割とあっさり志穂は流し、香織は微妙な表情で尋ねる。
「深くは聞かないでおくけど、修行……って言ったらアレだけど、楽しい?」
 志穂はその問いに即答する。
「正直スゴく楽しいよ。フィクションの世界の話が現実だったのは感動。練習自体は瞑想とか多いけど、元々剣道部だし辛くも無いし。何より木乃香達も一緒だしね」
 ハキハキとした表情を見て、香織は、ほぅと息を吐く。
「充実してますねぇ。ネタが逆に腐るぐらいあっても地雷だと分かってるから取り上げられない、そんな報道部員の私はかなり微妙だったり……」
「朝倉さんも懲りないし、って?」
「それも、だ……。あのパパラッチ、どうにかならないものか……」
 香織は遠い目をした。
 三年間一緒だった元クラスメイトは私が一番良く知っている! と性懲りも無く現れる朝倉和美の対応をするのももう諦めていいかな……ぶっちゃけ誰にも頼まれてはいないし……と、香織は、そう思った。
 志穂が徐に不思議そうに尋ねる。
「気になってたんだけど、なんで朝倉さんの取材ブロック頑張ってるの?」
 パッと目を瞬いて香織が指を立てて説明口調で言う。
「ん。それはだねぇ、報道部員ながら私は朝倉とは正反対というか、危険な匂いが分かるとでも言うのかなー。興味よりもそっちが勝る人間なんです。
 例えば、朝倉が仮に何か情報掴んだとして結局どこに持ってくるかって言うと、当然報道部で、しかも波及的に口づてに情報が広がるというおまけ付き。
 なんやかんや、結局瀬戸際で止めるのが一番だと思って、ブロックするのですよ」
「はー、そうなんだぁ。てっきり本当に学校から頼まれてるのかと思ってたけど」
「おぁ……そう思われてるとかちょっとショックです。まぁ、無い無い。学校側は内部生の性格・特徴を把握してるから、それが原因よ」
 香織は手を振りながら言い、少しばつの悪そうな顔をして志穂が言う。
「あーごめんね。基本的に自由すぎるぐらい自由だけどきちんと生徒見てるんだね、麻帆良って」
「麻帆良はこの学園で輩出される人材そのものが大きな強みっていうのは有名だからね。学校側把握しとくのは必然とも言えるんじゃないか、っていうのが私というか大体の人の見解だと思う」
 志穂は感心する。
「なるほどね」
「って言っても、どうも良い人材なんて言う言葉では収まりつかない吹っ飛んだ才能のある人がありえないぐらい多い実態が……何度も言ってる認識阻害が解除されたお陰ではっきりした訳だけど、まさに魔窟だよ、ここは」
 ホント驚いてばっかりだよ、と香織は上体を後ろに少しだけ倒し、両手を床に付けて言った。
「魔窟、かぁ。香織は麻帆良に入学したのはどう思ってるの?」
「……何だかんだ言って、大正解だと思ってる。こんな飽きるって言葉が全く似合わない所なんて地球上には他には無いでしょ」
 香織はスッキリとした顔で微笑んだ。
 その答えに思わず志穂もくすりと笑った。
「確かに」



[27113] 90話 超鈴展開
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/10/06 21:22
 スタジオには左側と右側に階段状の席が並び左側二段には芸能人、右側には麻帆良学園都市の生徒が集まっていた。
 画面は一度切り替わり、ナレーターの音声と共に色々な画像が流れる。
「魔法の存在が世界に公表されてから早数ヶ月! これまで各局では様々な麻帆良学園都市の姿を報道して来ました。そして7月も末、今回麻帆良学園都市の各校も一学期あるいは前期の終わりを迎え、新入生も麻帆良での生活には慣れた頃。夏休みも間近に迫り、これから……」
 テレビに映る番組の導入をコミックマーケットの関係でやたらと漫画関係の物で散らかった寮室で、微妙に疲れた様子の早乙女ハルナが椅子に逆に跨ってダラダラ座りながら言う。
「あーコレ、私も出てみたかったぁー」
「今のお前がそれを言うか。そもそもコレ、どっちかって言えば新入生メインの番組だろ」
 長谷川千雨がテーブルに肘をつけながらぼやいた。
 ハルナが指をさして言う。
「ほら、一応古参枠もあるんだし別に良いじゃん」
「古参枠ってな……」
 呆れた様子で言うと、番組は早速司会の進行と共に、麻帆良学園都市の朝の登校風景の映像が流れる。
 女子アナウンサーが学生達がダッシュする中カメラと一緒に走ってみたが途中で断念して息切れ混じりにマイクを持って言う。
「はぁっ、麻帆良の学生は毎日これで鍛えているのでしょうか。私にはっ、かなり、辛いです。あの満員の路面電車でも乗りたいぐらいです」
 右上の画面にギャル系の芸能人の一人が小さく映って呟く。
「これ映画の撮影じゃないんですよねー」
「散々見とるけど、まるで漫画の世界やなぁ」
 同じように小窓に映った関西弁の芸能人が腕を組んで唸ると、メイン画面に変な物が映る。
「楓姉、急いで急いで!」「楓姉、急いで下さーい!」
「任せるでござる!」
 麻帆良女子高等部の制服を着ている糸目の背の高い人物が小学生二人を抱えて建物から建物へとひょいひょい移動して行った。
 千雨が叫んでテーブルを叩く。
「ってオイッ! あいつらモロに映ってんじゃねーか!」
「あははははっ!!」
 アナウンサーは唖然としながらカメラにゆっくり顔を向ける。
「い、今のが有名なジャパニーズNINJA、楓さんの……ようです!」
 注・楓さんは忍者ではないでござると毎日言っているそうです。
 同時に画面下に赤字でテロップが流れ、
「ござるとか!」
 芸能人達の笑い声がする。
 千雨が眼鏡を取って何故か潤んだ目を拭う。
「あー、何かスゲー落ち着く。やっぱ笑って当然だよなぁ。慣れって怖ぇー……」
「楓達美味しいとこ持ってきすぎでしょ!」
 ハルナは指をさしたままゲラゲラ笑う。
「ひぃっ」
 そこへアナウンサーが横を過ぎ去る者達に驚く。
「すいませーん!」
「アスナ待ってー!」
「失礼致しました! お嬢様ー!」
 軽く自動車の速度で横を通りすぎていく三名、内一人はローラースケートにアナウンサーは目が点になり、
「はいすんませーん!」
 黒いシスター服を着た人物が少しだけ遅れて超包子の肉まんの入ったビニール袋を頭に乗せて片手で抑え爆走して行った。
 小窓に映る芸能人達が口々に突っ込みを入れる。
「何や速すぎるわぁ!」
「速すぎ速すぎ!」
「当たったら確実に事故ですよ今のは」
 失笑する赤縁眼鏡の芸能人の反応が真っ当だとばかりに千雨がげんなりする。
「あいつらもかよ……」
「アスナ達は仕方ないねー」
 それ程速くは無いにしても、学生達が走り過ぎる中、画面は一旦スタジオに切り替わった。
「新入生のみんなは、コレ、ついて行けてるの?」
 芸能人に尋ねられ、学生の一人がはにかみ気味に答える。
「えっと……慣れてくると、意外といけ、ました」
 その答えに他の新入生達もパラパラ頷き、古参の学生達も「その通り」と頷いた。
「慣れぇ!」 「慣れかぁ!」
 古参の白衣を着た学生が芸能人達の反応にコメントする。
「それが普通の反応だとは思いますけど、実際に麻帆良で生活していると大抵の事には変に動揺はしなくなります」
「それに毎回驚いてたら疲れますから」
 もう一人の古参学生が笑って言い、すぐさま突っ込みが入る。
「いやそりゃそうだけどさぁ!」
 軽い会話が交わされた後、一度仕切りなおしされ、司会が言う。
「ここで、先月盛大に行われた麻帆良祭の映像を振り返りたいと思います」
 ヘリコプターから撮られた開催のパレードの映像が流れる。
 パレードにはセットの上に3次元映像が投影されていたりと、技術的にも最先端。
「クオリティたっかー」
「流石は3D映像の本家」
 芸能人達が感心した声を上げる。
 スタジオに画面が戻り、芸能人の一人が手を出しながら言う。
「いやー、私もこれ行きましたよ。学祭とは思えないぐらい凄かった。めちゃめちゃ混んでたけどね」
「因みにどこが特に印象に残られました?」
「最初は軍事研のショーに興味があったんですけど、やっぱり生エヴァでしたね。見て良かったですよ」
 感慨深げに言う中、丁度VTRが流れる。
 エヴァンジェリンの公演の動画にスタジオが感嘆の声を上げる中、ニヤニヤしながらハルナが口元を抑える。
「ちうちゃんもコレには勝てませんなぁ」
「うっさいわ」
「そういやファンからちうが麻帆良の学生かもしれないって特定され始めてるんだっけ? 大変だねー」
 ハルナが追撃する。
「余計なお世話だっ!」
 鬱陶しそうに千雨が声を荒らげた。
 番組は麻帆良祭の映像もそこそこに、麻帆良の学生生活についての話に移行する。
 麻帆良学園都市の学生の授業は楽か辛いかという質問に対し、青と赤のボードで学生達が答える。
 新入生は全員青のボードで楽だと示し、古参学生達は赤いボードの割合がかなり多かった。
 司会に尋ねられ、新入生たちは揃ってそんなに勉強は大変ではないと答える中、中学の頃から麻帆良にいた高校生の一人が新入生達が座っている所を手で示し苦笑しながら言う。
「こちらの新入生のレベルが高くて僕は一気に成績下がりました。内部生は大体皆下がってます……」
「今後高校は大学の進学に関わってくるので特にシビアになると思います。因みに私は今年大学一年に上がったので助かりましたッ!」
 スッキリした顔でそう宣言する別の古参学生に会場には笑い声が起きるが、千雨とハルナは嫌そうな顔をした。
「超達が言ってたが、本当に現実になったからな……」
「私も成績中間だった筈がまさかの後半に。外部生頭良すぎー」
 司会が言うと、今度は画面に麻帆良学園都市各校の前年度比の受験倍率が出る。
 殆どの学校が10倍以上を記録しているデータにスタジオはざわめき、司会が言う。
「特に注目して頂きたいのが、麻帆良大学工学部の倍率でして、右上を御覧ください。なんと29.1倍です。この数値は東京大学の後期日程試験とほぼ同等であり、私立大学としては異常とも言える数値です」
「こんな倍率で受かった新入生のみんなは頭良いんやなぁ」
 感心して芸能人が言うと、千雨が言う。
「ま、こんな馬鹿みたいな倍率、最初から入れてただけマシか」
「お、ポジティブな発言ー」
 ハッと気がついてハルナが言うと千雨がばっさり切り返す。
「いつもネガティブみたいに言うな」
 続いて何かとお金の掛かる学生生活において、麻帆良学園都市ならではの学生アルバイトの活発さに話が移り、主に大学生が稼ごうと思えば色々な働き口がある事を説明して行った。
 そして部活、研究会やサークル活動に話が移ると学生達は各自ボードに所属名を書き込みスタジオ側に見えるようにした。
 一般的な運動系、文化系の部活から、かなりマイナーなものまで。
「図書館探検部っていうのは具体的にどんな事をしてるんですかぁ?」
 女性の芸能人が尋ねると、
「えー、本が大量にあるリアルダンジョンを攻略する部活です。トラップを解除する技術、回避する技術や確実にワイヤー技術が身につきます。あと疲れたら本も読めます」
 部員がドヤ顔気味に答えた。
「本はついで!?」
「あくまで図書館を探検する部活なので」
 ああー、と納得する会場の声が上がると、はいはいうちの部活ーと言いながらハルナが一冊雑誌を取り出して言う。
「最近この手の番組とか雑誌も増えたよねぇ。麻帆良のメディアが纏めたこの雑誌の特集なんかもさ」
 テレビを適当に見ている所に開いた雑誌を渡され千雨が受け取る。
「ん。……ここまで分かった麻帆良の秘密・魔法編って何だよこのサブタイトル……。って超科学編に超人編とかもあんのか」
 先のページも適当にめくって呆れながら千雨はふと魔法編のコラムの一つに目を通す。

【認識阻害魔法って何?】
 麻帆良学園都市全体に張り巡らされていたという認識阻害魔法だが、その効果は日常生活で使い方によっては相当便利な物のようだ。
 麻帆良の認識阻害が解除された事に対する一般の驚きの声は以前の特集でも取り上げたが、今回は粘り強い取材の末、魔法少女から回答を得る事ができた。
「認識阻害を使えば鏡、写真や映像には映りますが近くにいても人に気付かれなくなります。今みたいに質問責めにあったり、酷い時はハァハァ言ってるカメラを持った男の人につけられた事もあったので最近私は外での移動中はずっと使ってます。もう行っていいですか?」15歳・女
 最後はキレ気味で答えてくれましたが、魔法生徒と呼ばれる子達は苦労しているようです。
 強く生きて下さい。
 そして可愛いからと言ってストーカーは止めましょう。
 しかし、写真や映像には残るとしても人に気付かれないでいられるということはつまり某魔法ファンタジー小説の透明マントを身にピッタリ纏った状態になれるという事だ。
 色々犯罪行為に利用できる可能性も十分ある。
 認識阻害については説明せず、もし透明マントを持っていたらしてみたい事は? と試しに麻帆良の男子学生達に質問をしてみた所、様々なコメントが得られたが、その一部を除き大半が以下のようなものばかりであった。
A、立入禁止区域に入ってスパイ活動
A、スカートめくり!
A、あっ……女子高に入れんじゃん!
A、女湯で覗きとか? etc...
 どうやら確実に犯罪者が増えそうである。
 この記事を読んで似たようなやましい事ばかり想像したそこのアナタ。
 もし魔法が使えるようになったとしても一番最初に鍛えるべきはモラルである。
 
「閃いたの全部犯罪じゃねーか! くっだらねー!」
 千雨は続きにも文章があったがそこで思わず声を上げため息を吐いた。
「一個下の佐倉愛衣ちゃん可哀想だよねー。このか達はボディガードがいるけど」
「あー、私だったら不登校になる」
 千雨はこめかみに手を当てて言った。
「少なくとも女子寮に男子が忍びこむのは認識阻害できても無理だって超りんは言ってたから安心だね。逆に私は捕まる男子が見てみたいッ!」
 鼻息を荒らげてハルナが言うと、千雨の眼鏡がズレる。
「お前な……。まあ田中さんはそもそもロボットだし、生体センサーがついてるから認識阻害なんて関係無いんだろうな」
「科学の力は偉大ですなー」
「で、この後に超科学編があるって訳か」
 適当に千雨がめくると超科学編のページが出る。

【超鈴音の科学力は?】
 元々研究水準の高かったとされる麻帆良学園都市であるが、その中でも超鈴音といえば革新的な3D映像技術、SNSの普及、科学とは関係ないが超包子という有名中華屋台、果ては麻帆良学園都市内での研究水準の高さで最早世界的に有名になった。
 今回、彼女の本拠地とも呼べる麻帆良大工学部に取材に向かった。
 しかし、どう頑張っても直接彼女との個人的アポイントメントは取れず、仕方なく多くの警備員と警備ロボット田中さんシーリズが厳重に守りを固める麻帆良大工学部の付近で、工学部生達に質問を試みた。

Q、超鈴音の科学力はどれぐらいだと思いますか?
A、超りんの科学力は宇宙一ィィィッ!!
A、スカウターが軽く壊れるぐらい。
A、真面目に答えると、考えるまでもないです。発狂している世界の科学者や技術者のコメントを見れば分かりませんか?

Q、麻帆良の科学力をどう思いますか?
A、誇りに思います。
A、世界でナンバーワンの麻帆良で学べる事に感謝します。
A、異常すぎると誰が言おうがこれが現実。まさに研究者の聖地。
A、田中さんマジ強すぎ。
A、ハイレベルすぎてついて行けないと思う時もある。でも気にしません!

Q、超鈴音をどう思っていますか?
A、麻帆良最強頭脳改め世界最強頭脳。
A、世界一のワーカーホリック。何徹でも私はいけるヨ! って超りんが言ってました。
A、天才変態少女(頭脳的な意味で)
A、葉加瀬ちゃんを忘れないで下さい。
A、スパコンさよちゃんも忘れないで下さい。
A、愛してます。
A、一生付いて行きます。
A、この出会いこそまさしく運命! この想い超りんに届けェッ!
 
Q、学部卒業後の進路は?
A、麻帆良内の企業に就職するか、博士課程後期まで居残ります。例え親にジャンピング土下座をしてでも!
A、いつの日にか魔法科学なるものが実現するのをこの目で見るまでは死ねない。
A、麻帆良を離れるなんてとんでもない(笑)
A、麻帆良を離れるとか、ありえん(笑)

 千雨は頭を抱えて呟く。
「駄目だこいつら……」
「早くなんとかしないと……」
 ハルナがニヤニヤして合わせた。
「……おぃ」
 何かなぁ? という顔でハルナが言う。
「大分私達も息合って来たねー」
 千雨がジト目で否定する。
「嬉しくねーよ!」
「お、お? ツンデレ? ツンデレかー?」
 ハルナは無駄に嬉しそうに千雨の頬を突付いた。
「くそっ……このっ……」
 テレビでは新入生と古参学生で麻帆良に対する印象の違いについて話がされていた。
 新入生達は皆揃って驚いてばかりだというが、古参学生は違う意見を言う。
「麻帆良の情報が世界に発信されるのは嬉しいですけど、正直公表されてから。図書館探検部然り、航空部然り、軍事研然り、色々規制が厳しくなって前よりも窮屈になったと感じる事が多いです。警備も増えましたし、何だか物騒な街になったみたいなのも少し残念です。一つ話をすると、あの世界樹の発光する麻帆良祭の期間は過去死者重傷者が出た事が無いんですが、当然オカルトみたいな話なので、今年は規制で出し物もかなり駄目出しを受けたという話をあちこちで聞きました」
 なるほど、とスタジオ内が頷く中、眼鏡を掛けた芸能人の一人が言う。
「はぁー、なるほど。僕らは以前の麻帆良を詳しく知らないからねぇ。世界樹の話は初耳だけど……そうなの?」
 そう尋ねると、
「えー、はい、その情報は確かだそうです」
 司会は手元の資料を少し見て言った。
「へぇー! あの木、一体何なんですかね」
「きっと魔法の木ですよぉー!」
 ギャル系の芸能人がそう言うと、耳で適当に聞いていた千雨がぼやき、
「馬鹿っぽい答えの癖に大体それで合ってそうなのがな……」
 超人編のページを捲った。

【麻帆良の超人伝説】
 麻帆良と言えば、昨年の体育祭が報道され、その中で超人的な人達の姿を見た人は多いだろう。
 今回は麻帆良学園都市内で、超人的な人々に関する話を集めた。

・麻帆良裏山に鳴り響く轟音
 麻帆良学園都市には緑が多く、北側には自然豊かな山が多い。
 しかし、登山部に所属する部員が自主訓練がてら登った所、轟音が鳴り響き、双眼鏡で探してみると巨大な岩を素手で砕いている少女の姿が目撃されたという。
 どうやらその正体はウルティマホラでの優勝経験を持つ古菲さんらしい。
 この情報について、岩を砕いたという話の真偽を武術系のサークルに所属する学生達に尋ねてみると「菲部長ならできてもおかしくはない」という解答を大量に得た。
 しかし、最終的に「それ私がやったアル!」と古菲さん本人の自己申告が得られた。
 そんな力を持っているにも関わらず、手合わせをしたいと願う者達は後を絶たないそうだが、麻帆良魂とは恐れを知らないのかもしれない。

・ジャパニーズ忍者楓さん
 体育祭の映像で色々ありえない、仰天映像を見せてくれた長瀬楓さん(棒高跳びを決めた写真・上段左)であるが本人は「忍者ではないでござる」と断言している。
 しかし、忍者ではないのだとしたらこの忍び装束はコスプレという事なのだろうか(写真・下段左)。
 他にも建物の上から建物の上を移動する姿や世界樹の枝から枝を伝って上に登る姿が目撃されており、果ては分身が出せるらしい、体が小さくなるらしい、など情報を集めてみると楓さんには残念ながら、忍者である事を裏付ける情報しか集まらなかった。
 忍者にとって自身が忍者であることはどうあっても隠さなければいけない重大な秘密なの……かもしれない。
(写真提供者・報道部・朝倉和美さん)

 千雨はそこで目を細めた。
「コイツの仕業か……」
「私も写真撮っとけば良かったなー」
 勿体無い事をしたとハルナがぼやき、千雨が突っ込みを入れる。
「お前もそっち側かよ。にしても元3-A多すぎだろ。次の『秘技? 居合い切り』とかやっぱ、あ……葛葉先生だった」
「木乃香の護衛の桜咲さんは流石に載せられなかったんじゃないかなーと思ったり」
「かもな。今一載せて良い情報と悪い情報の区別が微妙な気がするが……まあ……大したこと書いてないか」
「そーなんだよねー」
 実際自分達の方がもっと色々知ってると千雨とハルナは思わずにはいられなかった。
 テレビは超鈴音の発表した世界に震撼を与えた物が簡単な映像で流れ、3D映像技術やSNSの話に移っていた。
「この中で何らかのSNSに登録されている方は挙手をお願いします」
 司会がそう言うと、スタジオにいる人物達は全員手を上げ、おおー、と客席からざわめきが上がった。
 出演者達がそれぞれSNSをどんな風に使っているのか、使ってみたらどんな事があったかなどが話され盛り上がる。
「このSNSに加え、3D映像技術や麻帆良で活動する超高性能ロボットなども開発した超鈴音さんですが、とうとう先日現在取り組まれている人工衛星の組み立てが始まりました。人工衛星の開発には通常数年かかりますが、これもまた異例の事態です。今回、スタジオには麻帆良大工学部でそのプロジェクトに参加されている学生さんがいらっしゃいます」
 司会がそう言い、打ち合わせ通りと言った様子で白衣を着た古参学生が片手を上げて言う。
「私です。今回、この人工衛星について説明を簡単にですが、させて頂きたいと思います」
 拍手が起き、画面に解説用の人工衛星の簡単な絵と日程表が映った。
「そもそも、この人工衛星はご存知の方も多いと思われますが、火星の日照不足を緩和するための物です。プリズムミラー方式と呼ばれており、太陽光をプリズムでできた反射翼を展開し採光した光の向きを変更させ、地表に降り注ぐ光量を増やす狙いがあります」
 人工衛星の絵に太陽光を火星の地表に変更させる矢印が表示される。
「人工衛星としてはかなり大きめの物なのですが、皆さん当然のように思われるのは、人工衛星一基ぐらいで惑星規模の光量不足をどうにかできる訳が無いという事だと思います」
 一瞬画面が戻り、出演者達は皆頷いてリアクションをし、学生が説明を続ける。
「その事については我らが超りんも分かっていまして、人工衛星の初号基は麻帆良、そして日本の技術力で実際に稼働させられるのかを実験する意味合いが大きいです。これが成功すれば今後徐々に改良を加えながら、宇宙開発関連技術自体の向上を図っていくというのが目指すべきステップになっています」
 芸能人の一人が感心して尋ねる。
「はー、つまり今の技術力じゃまだ足りないって事ね。ということはかなり先の事まで考えてるの?」
「はい、その通りです。これは私の予想ですが、行く行くは有人宇宙船の実現も訪れる日は近い……というより必然的に実現する、させる、と思います。科学だけでは資源やコスト的問題が響いてきますが、魔法の存在がある事で、かなり様々な問題のハードルが下がる、と想定されています。私達はまだ魔法については……」
 それを見ながらハルナが口を開く。
「魔法を完全に科学技術の一種みたいに捉えてるとか、ファンタジーっぽさ皆無だと思わない?」
 頬杖をつきながら千雨が言う。
「どう考えても夢は広がり続けてるけどな。正直私は火星どうこうより、地球も資源問題諸々色々あって宇宙開発は人間にはぶっちゃけ無理だろと思ってたけど……コレだからな……。超の奴がやる気でいる時点で出来るんだろうとしか思えなくなった」
 ハルナが指を立てる。
「あー、それ私も同じ。人類が外宇宙に進出ーなんて無理だと思ってた。一昔前のSF小説ってガンガン人類は宇宙に出て行く! って感じの話多かったけど、今そーいう話多くないし。ここに来て超展開ッ!」
「確かに超展開すぎるよな……」
 千雨は今更のように遠い目をして、魔法が公表された時にありえねー! と叫んだ時の事を思い出した。
 考えてみれば超鈴音に巻き込まれるような形で、色々通常では有り得ない手伝いをさせられたり、法外な報酬を貰ったりと記憶が蘇る。
「やべ……私も超だけに超展開の煽りを受けてた……とか全然うまくねーよ! アホかッ!」
 既に色々手遅れである可能性に気がついた千雨は声を上げて自分で突っ込みを入れた。



[27113] 神木・蟠桃の木の精霊(ネギま本編アフター・超鈴音・自然発生版)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 21:00
以下、自然発生版となります。



[27113] 66話 メガロメセンブリア元老院
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:37
極秘裏に地球、麻帆良学園へと飛んだクルトは、再びその日のうちに火星、新オスティアに戻り、リカード達と情報の整理をした。
その後、高位の治癒術師による治療を受けたという記録を作った上で、クルトとリカードは魔法世界暦での10月11日におきた完全なる世界に端を発する事件の報告を行う為に、首都メガロメセンブリア、メガロメセンブリア元老院議会へと出向く必要があった。
10月11日の墓守り人の宮殿での作戦行動はメガロメセンブリア元老院議会にいちいち伺いを立てていた訳もなく、実際そんな余裕も無かったのであるが、完全に事後報告という形になったからである。
また、それと同時に今回の緊急事態を受けて、首都メガロメセンブリアから凡そ1日半かけて高速艇を飛ばし、新オスティアに正式な調査団も到着していた。
予めクルトは本国へと情報の取捨選択をしながら伝えるべき事を伝え、最優先事項として廃都オスティアの旧ゲートポートの稼働状況の再確認、旧世界への調査団の派遣、その要石の他所への移転計画の迅速な立案等を挙げていた。
何故再確認なのか、と言えば、今回の件での時間的余裕が無いという点でやむを得なかった面の強い独断行動とオスティア信託統治領の総督であるクルトがその立場によって擁する部隊はメガロメセンブリア本国直轄の部隊では無い為、それの監査という目的をこの調査団は含んでいるからである。
この調査団とも情報の共有を図った上で、調査団は廃都オスティアへと向かい、それと入れ替わるように、クルトとリカードの2人は部下を引き連れ、新オスティアから1日弱、高速艇を飛ばし首都メガロメセンブリアへと飛び、メガロメセンブリア元老院議会に姿を現した。

「ジャン=リュック・リカード議員、クルト・ゲーデル議員、到着されました!」

円形に席の並ぶ元老院議会室へと通じる大きな扉が開かれ、係りの者が2人の到着を知らせる。
およそ300人で構成される元老院であるが、その議員達はようやくかという風体でざわめき、それにとりわけどうするでもなくクルトとリカードは自身の所定の席へとそれぞれ向かった。
直前までの議題内容は墓守り人の宮殿の一件から、地球が見えるようになったという事態に関する所まで幅広いものであった。
クルトとリカードが首都メガロメセンブリアに来るまでに廃都オスティアに送られた調査団からの公的な情報も勿論既に元老院には送られており、依然として魔力の濃度が高い事から、ゲートの開通は週単位ではなく、日単位で行き来可能で、後はゲート使用許可さえ降りれば、地球へと行けるという事は把握されていた。
現在ゲートが廃都オスティアという位置的には非常にアクセスの悪い場所にしかないという状況の元、調査団を送るのとほぼ同じぐらい、要石を別のゲートポートに移し替える事も重要性を帯びているのは明らかであった。
そんな中、一連の出来事に直接関与していたクルトとリカードの登場は議会側としても待ちかねていた事であった。
そして元老院議長はクルトに報告を求め、それに従いクルトは円形に囲まれた中心に出て報告を行った。
クルトが述べた内容はと言えば、まずクルト自身と高畑・T・タカミチらが墓守り人の宮殿に先行し、完全なる世界と戦闘を行い、結果としてネギ・スプリングフィールドの死亡という結果までの一連の流れについてであった。
それでも、詳しい戦闘そのものについては触れず、造物主の掟の存在については無かったものとして話され、リライトによって消された者達が元に戻った詳しい事情についても不明、恐らく完全なる世界を排し、その計画を阻止した事が原因であろうというものとして報告された。
ナギ、アリカ、ゼクトの3名の問題については言うまでもなく触れていない。
また、黄昏の姫御子については質問を受けたら答えるというつもりでクルトは触れなかった。
黄昏の姫御子が世界の終りと始まりの魔法にとって鍵となる存在であるのは元老院で知らないものはいないという常識レベルの話である為、こればかりは寧ろ質問をされる事を予定したものだった。
更に、墓守り人の宮殿の一件の後高畑・T・タカミチらは廃都オスティアのゲートを使用して旧世界へと戻った事までを述べ……報告は終了となった。

「悠久の風の高畑・T・タカミチらが廃都オスティアのゲートで旧世界へ移動したというのは重大な問題なのでは?」

「そうだ、後で報告すれば良いというものではない。いくらゲーデル議員がオスティア信託統治権総督であるとしても、オスティアはメガロメセンブリアの統治領下に変わりない。越権行為ではないのか」

「国際協定違反の問題もあるだろう」

クルトの報告が終わった途端あちこちから問題を指摘する声が飛び交い議会はざわめき始める。

「ゲーデル議員、説明を」

騒がしくなり始めた所で議長がクルトに説明を要求した。

「……分かりました。ゲートポートの使用についてはメガロメセンブリアからは私、帝国からはテオドラ第三皇女殿下、アリアドネーからはセラス総長による三ヶ国の承認の元許可したものですので協定には違反していません。その点については後ほど確認をすれば済む問題です。よって私の独断で決めた訳でもありませんので、越権行為には該当しないでしょう。以上です」

議会中央の証言台で、ゲートポート使用については問題にはならないとした見解をクルトは示す。

「三ヶ国承認……それならば国際問題にはならないでしょうな」

「問題にならないのであれば……」

メガロメセンブリア内だけの問題であれば追求を行うこともできただろうが、ヘラス帝国とアリアドネーが絡んでいるとなると、途端に容認の方向に意見が動く。

「……異議のある者はいないとして、三ヶ国承認の件については確認を取るものとする。他の質問があれば引き続き質疑を続ける」

議長が次の質問へと促し、それに対しすぐに質問が出る。

「黄昏の姫御子について言及されなかったが存在しなかったのですか?」

「ああ、これはこれは、私とした事が忘れていました。黄昏の姫御子も高畑・T・タカミチらと共に旧世界へと向かいました」

敢えて挑発するかのようにおどけた風にクルトは証言して見せた。

「馬鹿な!黄昏の姫御子までも旧世界に行かせたというのか。アレの重要性が分からない訳ではあるまいに」

「そうだ!黄昏の姫御子さえいればこの世界が!」

黄昏の姫御子を旧世界に行かせたという証言に一部の議員達が過剰な反応を見せた。
……その一部の議員というのは魔法世界の崩壊の真実を知る者達であり、クルトとも情報を共有していたからこそのこの反応であった。

「そう、黄昏の姫御子さえいればこの世界が……救われる……でしたね」

クルトはその言葉を自ら引き継いで議会全体に聞こえるような声で答えた。

「一体何の話か?」

「知らぬぞ」

「どういう事だ?」

意味深な発言にその情報を知らない議員達が再びざわめき始め、クルトに過剰反応した議員達は図られた、という表情を見せた。

「ゲーデル議員、説明は可能か?」

「ええ、勿論です。……それでは、この元老院議員でも一部の者しか知りえない魔法世界の真実について……公開する事に致しましょう」

「ゲーデル!貴様ッ!」

「魔法世界の真実?」

「ゲーデル議員の証言中である。静粛に」

議長が声を荒らげる議員に黙るように言い渡し、再び議会は静まったが……リカードは慌てた様子の議員の姿を見て笑いを堪えるのが大変という状況であった。

「人造異界の存在限界・崩壊の不可避性について……という論文があるのをご存知でしょうか。これは各地にもありますが、一般に出ているものは全て本物ではありません。本物が保管されていたのは……旧ウェスペルタティア王国でした。20年前にメガロメセンブリアがオスティアを信託統治領とした時に極秘裏に入手されたのです。それによれば魔法世界は……」

クルトは静まり返った議会の中淡々と魔法世界が魔力の枯渇という問題によって滅びるという真実について話し、それによって旧世界出身の純粋なメガロメセンブリア本国の人間6700万人以外は幻として魔法世界の終わりと共に消滅する事を明かした。
説明が終わった途端、一部の者の間でその話が隠されていた事についての追求にまで発展し、クルトに初めに過剰反応した議員達にもその追求が及び、議会は紛糾したが、変わらず証言台に立ち続けていたクルトは一瞬議論が収まった時を狙って再び発言をした。

「この魔法世界の問題は黄昏の姫御子の力があれば解決できる……と目されていました。ですが、どうでしょう、それら全ては最早何の意味もないという事が今や明らかになったのではありませんか?信じがたいですが、間違いなく旧世界、地球がある宇宙空間に、この魔法世界という異界が、火星へと出てしまった事はある事実を意味しているのではないでしょうか?魔法世界が消滅せずに火星に出たからには……果たして崩壊は起きるのでしょうか?……勿論、これには確認が必要でしょうが」

クルトが黄昏の姫御子の質問から始まり、魔法世界の真実を明かし、更に現状の魔法世界について、あからさまな作り笑顔で締めくくった発言は、明らかに誰もが理解できるある一つの可能性を示していた。
そう、それは勿論、魔法世界は最早崩壊する可能性は限りなく低く、それに従い黄昏の姫御子の重要性も限りなく低くなっているのではないか……という事である。
ここまで至った段階で、何故クルトが黄昏の姫御子をあっさり旧世界へと向かわせたのかを、過剰反応した議員達はようやく理解したのだった。
議会はクルトによる突然の情報公開によって、一層ざわめき、混乱を極めたが、議長の仕切り直しによってこの日何度目かという静寂を再び取り戻した。
クルトの発言によって目下、一番重要な事は墓守り人の宮殿の事ではなく、黄昏の姫御子でもなく、大異変の起きた魔法世界そのものの現状把握と地球との関係という問題に議題が移ろうか……というその時であった。

「いやはや、それにしてもネギ・スプリングフィールドが死亡したというのは残念でしたな」

「ああ、誠に残念な事よ。英雄の息子が死ぬ等とは」

「全くですなぁ」

一部議員達が今まで触れられていなかったネギ・スプリングフィールドの死亡について残念だといいながらも、どことなくスッキリし、安堵した様子で感想を漏らしたのである。
この一部議員達は6年前に地球の英国、ウェールズの村へと悪魔を召喚し送り出し、同時にネギ達をフェイト・アーウェルンクスが偽造した映像から積極的にゲートポート同時多発破壊テロ事件の犯人へと仕立て上げた者達であり、彼らにとって英雄の息子が、英雄の息子として世間に公的に現れ、自分達のした事が表沙汰になる事が、直接始末せずしてありえなくなったのであるから、それは安堵の一つもするというものであった。
クルトはそれに対して表面上はどうとも思わないという風を装っていたが、内心はその全く逆であり、密かに拳をきつく握りしめてその場は堪えたのであった。
例え弾劾を行ったとしても、現状では元老院でネギの問題を取り上げて議会をかき乱す行為はタイミングが悪く、また、クルト自身これまでのオスティア総督であるからこその度々の権限行使によって強く主張をすることもできないというのが実情であった。
因みにクルトがネギ達の国際指名手配を恩赦で削除した行為に関して追求がなされない理由は、ネギ達の指名手配そのものでは名前が公表されず、映像と顔写真だけであった為、自分からあれがネギ・スプリングフィールドだという前提で話す事は、どうしてそんな事を知っているのか、という自らが追求される隙を作ってしまう為、元老院全体に暗黙の了解がなされていたからである。
また、国際指名手配したことによる世論の反応にも事情があった。
年端もいかない子供ばかりの面々に全てのゲートポートを破壊されたと大真面目に報道するのは勝手であったが、ゲートポートの警備はそんなに薄いのか、というメガロメセンブリアそのものの信用に傷を付けるという結果を引き起こしていた為、2ヶ月程して報道そのものも殆ど行われなくなった頃にクルトが指名手配を削除したのは寧ろ元老院にとっても都合が良かったからであった。
……その後、そんなクルトの心情とは関係なく議会は時間の経過と共に進んで行った。
地球側との付き合い方について、魔法使い達は全員火星側に引き上げ完全に孤立主義を取るべきだ、とする派閥と、最早魔法世界の存在を隠せなくなった今、魔法の存在の秘匿を貫く事は現実的に不可能であり、地球側と公的に交流を持つべきだとする派閥に意見がニ分し、再び議会は紛糾したのである。
孤立主義派の意見が根強いのは、魔法の存在が地球で公になれば、魔法都市国家メガロメセンブリアの存在、ひいてはメガロメセンブリア元老院の存在が明らかになり、今までの秘匿の為の認識阻害魔法を筆頭としたやり方が地球でどうあっても好意的に取られる筈もなく、組織そのもの、元老院議員達自身の地位に揺らぎが生じる可能性を恐れての理由が大きい。
今までは秘匿に関連する内密な処理等も自己正当化できていたが、地球での魔法公開となれば、それが破綻するのである。
所謂そういった問題のある情報公開は可能なかぎり早期かつ禍根無く図られるべきであり、逆に後々隠していた場合、立場は間違いなく悪くなるであろうが、それを実際に行いたくない、情報を明かしたくない、そもそも議論するまでもなく魔法の公表は許せないという心理が一部の者達に働いているのである。
クルトは積極的な地球側との関与の意思については表に出さないようにしながら、実状から言って魔法世界の存在を公表するのはやむを得ないという立場での主張を行った。
近衛近衛門からメガロメセンブリア本国の立場を明らかにして欲しいという要求を受けていたクルトであったが、不審に思われるような迂闊な発言をすることはできず、リカードもそれとなく後押しする形で援護したが、議会の流れを魔法公表容認の方向へ誘導する、というのが限界であった。
他にも、そもそも魔法世界がどうして火星に出たのかという原因について探る調査の必要性、日照不足の可能性と火星の公転周期による環境変化の問題についても議論は発展し、やはりネギ・スプリングフィールドの問題を扱っているどころの話ではなかったのであった。
……ひとまず、日単位で行き来できるゲートポートから旧世界へ間もなく向かわせる調査団が情報を持って戻ってくる事を待って状況を見るという結論に留まり、ゲートの要石についても早急に移転計画を立案する必要がある事については、オスティア総督であるクルトが主導する事となった。
更に、唯一稼動しているゲートの接収というのは、当然メガロメセンブリアだけの問題ではありえず、三ヶ国会議の開催をする必要性についても言及され、これもオスティア記念式典から日が浅い事を考慮して、開催地もオスティアが第一候補として挙げられたのだった。
その交渉役にはまたしても主席外交官であるリカードが選出されたが、これは元老院としてはリカードに暗に問題を起こさないように上手く纏めて来い、という思惑があったのはほぼ間違いないであろう。
この日の元老院議会が終了した後、クルトとリカードは余計な接触は行わなかったものの、プライベート通信でのやりとりは行い、現状で孤立主義が根強いが、必ず魔法世界は地球と関係を持つ必要が今後出てくる為、それを見据えての下準備へと取り掛かったのだった。

『しっかしクルトよぉ、お前とこうも協力することになるなんて思わなかったぜ。ついこの間まで殆ど通信もした事無かったってのにな』

『……私もです。三ヶ国会議、よろしくお願いします』

『おうよ、任せとけ。セラス達がまた来るんだから知らない奴と話すよか余程マシだぜ。……しっかし、あの糞ジジィ連中ネギの事喜んでやがって……マジで虫唾が走るぜ』

『ええ……いつか必ず公の場に引きずり出して見せますよ』

『あいつらには俺も前からイラついてたからな。そん時は協力するぜ』

『盗聴の可能性は万が一にも無いとは思いますが、これぐらいにしておきましょう』

『そうだな、また明日、七面倒な元老院でな』

『いくら面倒であっても重要な事には変わりありません。我々に立ち止まっている時間はありません。最善を尽くすのみです』

『その辺はお前変わんねぇな……。あんま根詰めてっとそのうち皺だらけになるぜ』

『余計なお世話です……。ではまた明日』

具体的に潰す、といった発言は通信では行われなかったがクルトとリカードの双方、想う所は同じであった。
通信を終えたクルトはその後、打てる対策は全て行うと言わんばかりにひたすら仕事をし続ける生活へと突入する事となった……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

無事……ネギ少年が私達によって復活を果たした所で、ここでこれまでの間の事を振り返る事にしよう。
……大発光から程なくして、日本政府は勿論、各国から公的な調査団、また各国の魔法協会も予定通り麻帆良入りをした。
そして神木の調査が詳細に行われたか……と言えば、例によって神木自体の認識阻害の為に特に害は無い。
これは認識阻害が全く効かない体質の人間がいなかった事を喜ぶ他なかった。
それでも落ち葉の採取ぐらいは行われ、生物学者達の中でも植物学を専門とする人々が神木の写真をあらゆる角度から飽きる事なく終始撮り続け、結果定点カメラまで設置されとうとう神木が観測される側となった。
……他には麻帆良の土地柄、地質そのもの、気候の調査等まで幅広く科学的に行われ、この調査には麻帆良大の理系学部の教授陣も上がりに上がったテンションで参加していた為、夏期休業期間であるのをいい事に各大教室、講堂等が積極的に解放され、連日それぞれの見解について議論が繰り広げられ9月の終わりまではやりたい放題できると言わんばかりであった。
因みにこれは政府機関関係者達の動き。
……実際はこれに加え、麻帆良外の日本人達は勿論の事、海外からも「Oh!! This is SINBOKU!! Great!!」等と叫びに現れた、全く以てただの暇を持て余した一般外国人の人々が麻帆良祭でもないのに入ってくるという現象が起き、経済的に麻帆良はいつもよりも更に潤い、超包子もここぞとばかりに儲けたのだが……これはまた余談。
そして世界各国のニュースは必ずといっても良い程にこの麻帆良の調査について連日報道されるようになり、しばらくの間そんな日々が続いた。
一方、各国魔法協会関係者は科学的調査が延々と行われているのをよそに、麻帆良教会、日本魔法協会支部に集結した。
近衛門達は神木の発光の影響で魔法世界が火星に出現したと見て間違いない……近衛門は知っているから白々しい事この上ないのだが……として、また麻帆良の地下にあるオスティアの空中王宮に繋がるゲートポートが稼働している事から、火星に移動する事は可能であり、この2週間程、メガロメセンブリア本国と連絡を取れなかった問題は解決するだろうという旨を報告した。
そのゲートポートから地球へ帰還してきた当のタカミチ君は、魔法世界での出来事についての報告を行い、完全なる世界が20年前の大戦の再現をしようとしていた事を明らかにし、魔法使い達は皆非常に驚いた。
因みにゲートポートを使用して戻ってきた件については魔法世界三国の許可をうけたという事について軽く触れた為特に問題とはならなかった。
それ以上に現状、今後の問題が山積みでありそんな細かい事を気にしているどころではなく、知っている人達にとっては最早何の意味もないが、魔法による神木の調査、麻帆良地下に広がる空間についての調査、麻帆良含め世界各地の魔分溜りの調査を行う必要があり、更に、各国政府高官の一部の魔法を知っている人々から魔法世界と目される地表が火星に見られるようになった事に関しての対応方針、現状の詳細情報の催促を求める圧力がかかっている為、早急にメガロメセンブリア本国と連絡を取り、その見解を明らかにする必要もあった。
そして……それぞれの勢力が動き出し、そのおよそ2日後、火星からメガロメセンブリア本国の正式な調査団が地下ゲートを通じて現れてからというもの本格的に事態は動き出した。
到着した本国調査団との情報共有が行われ、その調査団の一部は得た情報を携えゲートが再び自動で開いた際に、本国へと情報を伝える為に火星へと戻った。
ようやくメガロメセンブリア本国は魔法世界が火星に出てきた理由が麻帆良の神木の影響であるという事、地球側でも火星が見えている事での混乱状況を確認し、連日今後の対応指針についての具体的な議論が始まった。
私達としては神木・扶桑で無理矢理メガロメセンブリア元老院議会を狙い撃ちするように隔地観測する事も不可能ではないと言えば不可能ではなかったが、ネギ少年の関係で無駄な余力は回していられなかった為、メガロメセンブリア元老院のネットワーク上に限定されるがその機密情報へ、電子精霊の真似事で難なく侵入し基本的にはそこから情報を得た。
期待していた通りクルト総督は情報の取捨選択は完璧であったようで、私達の事とグレート・グランド・マスターキーについては一切漏れておらず、完璧であった。
ただ、一つ仕方ないことではあったのだが、ネギ少年の死亡が元老院に知られたというのは少し……面倒な事になるのはまたすぐ後にしておこう。
元老院は孤立主義の勢力が根強く、地球の魔法使いは全て火星に呼び戻せば良いという意見まで出ている程であったようだが、神木の重要性を鑑みるにそれは流石にあり得なかった。
クルト総督を始めとする若手元老院議員達は、最早現状の維持は不可能な段階に来ている以上、メガロメセンブリアもそれに対応せざるをえないと強く主張し、隠し続けて双方に不幸な誤解が生じるよりも前に、地球へ魔法世界の存在の公表をメガロメセンブリア側からするべきだという方針に持っていった。
この後、数日間で唯一残る空中王宮のゲートの要石の摘出、移転作業も迅速に行われ、結果、首都メガロメセンブリアのゲートの要石として換装された。
これには連合、帝国、アリアドネー三ヶ国による会談が行われた上で、現状連合のみが地球に魔法使いのコミュニティを形成している以上、要石は連合が使うのが今後を考えれば有益だとして意見が纏まったという背景がある。
実際、ヘラス帝国の首都……にはそもそもゲートは存在しないがそこと麻帆良のゲートを繋がれても火星から現れるのは角のある人々ばかり……というのは、時期尚早。
魔法世界の存在の公表に向けて地球側も少し遅れて動きを見せ始め、地球各国政府首脳陣とメガロメセンブリア本国使節との会談を執り行うための根回しが開始された。
これには各国魔法協会がそれぞれの政府へ、タカミチ君が所属する悠久の風や四音階の組み鈴を始めとする国際NGO団体は国連へと働きかけを急ぎ進めた。
つまり、偶然にも都合の良い事に、メガロメセンブリアの声明を伝える場として、今年2003年の9月23日が開催日である国際連合総会通常会期の場を利用しようという意図なのである。
これならば魔法使い側で綿密な日程調整をせずとも、全世界へと魔法世界の存在を同時に公表可能な場を確保できるという訳である。
そういう意味でも、クルト総督達が孤立主義で凝り固まった議員達の全く理に適わない主張を制して魔法世界の存在の公表へと方針を決めたのは非常に大きかった。
……と、以上が地球と火星との間で繰り広げられていた大体の出来事。
そんな2つの惑星の各国際事情を見つつも私達はネギ少年の収集に当たっていた訳だ。
麻帆良の小・中・高校はゴタゴタした麻帆良の中でも新学期を迎えない訳もなく、一部魔法先生達が出張するという現象が起きて自習になったりすることはあれど、学生達は相変わらずの朝の登校風景を繰り広げた。
超鈴音は1度雪広グループに出向き、予てより計画していた今後必要な物資リストとそれが開発可能な施設、研究機関についての紹介を求めるという事があったが、要するにまずは火星のテラフォーミングの残り。
流石に人工衛星となると開発基盤となる施設が無ければ不可能である為当然の事であった。
費用は完全度外視であり流石の雪広グループ……社長さんもこれには驚いていた。
何と言っても人工衛星一基の開発から製造までの費用は100億程、それをロケットで打ち上げるとその倍はかかる事になる訳であるから、今までの超包子の企画とは資金的規模は比べ物にならない水準の話。
……そして、9月22日月曜日、無事復活を果たしたネギ少年は、神楽坂明日菜を始めとする大事な人達と再会する事ができ……今に至る。
さて、死亡したとされていたネギ少年が突然戻ってきた事は皆を喜ばせたのは相違ないが……そう、既にネギ少年は死亡した存在となっている。
麻帆良での扱いでは退職という事になっているが、魔法使いの修行という点では、サヨの時と異なり、公にはされてはいないとはいえ魔法世界のそれもメガロメセンブリア元老院で死亡認定を受けた以上、一応その下部機関である麻帆良学園の元、公に再び3-Aの教師ができるか……というと大問題。
ネギ少年自身は教師に戻りたいという意思は強いのだが……非常に難しい。
因みにナギ達の存在は未だ隠されているので麻帆良からウェールズに帰郷する時は強力な認識阻害をかけ、再び麻帆良に来た時も同様であったが、既に例の国連総会の為に魔法使いの多くがニューヨークに飛んでいるためそれ程の必要性は無いという状況であった。
ナギも死亡として周知され、アリカ様も死亡扱い、と来てネギ少年は元老院で死亡認定という訳で……なんとも既に存在しない筈の家族という様相を呈しているのは、スプリングフィールド一家ぐらいであろう。
しかし、教師云々の問題よりも前に、ネギ少年は行くべき場所、戻るべき場所があった。
……皆と再会を果たしたネギ少年は、3-Aの元気を失っていたが、サヨが「鈴音さんがネギ先生を見つけたらしいです!場所は世界樹広場だそうです!」等とこれで引っかかるのは寧ろ頭が弱いだけだろうという書き込みをSNSで行った事でまさか単純にも再び元気を取り戻した女子中学達によってもみくちゃにされある意味病み上がりにしては酷い扱いを受けた。
その被害はナギとアリカ様にも向かい、ナギには「格好良い」と言い、アリカ様には「凄く綺麗」や「お姫様みたい」だ……と本当の事も含め率直な感想を最初は漏らしていただけだったが……とうとう「年齢はいくつか」……と聞いてしまったのだ。
気持ちは分かるが事情が事情なのでそればかりは軽い気持ちで聞くのは良くないのだが……ナギ本人は特に考えもせずに普通に答えてしまったので……騒ぎになった訳だ。
あまりにも若すぎる……と。
しかし、その途端孫娘達が「キャーキャー」言っている女子中学生達の口を後ろから塞ぎ、無言の圧力を放ち黙らせるという手段に出た。
彼女達にしてみれば「空気読んで」としかいいようがないので事情を知らない女子中学生達は全く分からないという風であったが、黙る他無かった。
それでも性懲りも無く早乙女ハルナと朝倉和美はナギとアリカ様に絡もうとした為……長瀬楓がどこから出したのか、手早く猿轡をされてお縄になっていた。
……ともあれ、落ち着いた所で孫娘達はとにかく紛れもないネギ少年が戻ってきた事を非常に喜んだが「何故ここにいるのか」という事について超鈴音にやはり聞いた訳だ。

「ネギ坊主が戻てきただけでは不十分かナ?それでも知りたいと言われると……私も今回ばかりはとてもとても困る。これは話せないヨ」

……と、ナギに言ったのと大体似たような事をいつになく真剣な表情で言い、要するにネギ少年が戻ってきた事を素直に喜べば良く、これ以上事情は気にするなと回答した。
孫娘達はその超鈴音の様子にエヴァンジェリンお嬢さんに超鈴音に構うなと言われていたことと合わせて、本当にこれは触れてはいけないのだと理解してくれたらしい。
3-Aの少女達はネギ少年にいつ担任に戻ってくるのかとしきりに聞いていたが「ちょっと分からないです、すいません」としかネギ少年は言えなかった。
元々午後であった為、すぐに日が暮れ始めこの日ナギ達は再びのエヴァンジェリンお嬢さんの誘いによって麻帆良のホテルではなく、お嬢さんの自宅に招かれ、当然ネギ少年も一緒であった。
客間にてネギ少年達はようやく一家団欒を実現する事ができ、当のネギ少年がそれを現実だと認識できたのか、その途端嬉しさの余り涙を流し始め……それにつられて神楽坂明日菜、アリカ様、ネカネさんと波及して行った。
「気が済むまで泣くと良い」と言いながらアリカ様は今まで無茶ばかりしていた実の息子を抱きしめ……収まるまでのしばらくの間、ずっとそのままの状態が続いた。

「……もう……大丈夫です。母さん、ありがとうございます」

「も……もう良いのか?ネギよ」

「はい……それに、もうすぐ誰かここに来る気がするので」

「だ、誰か来る?」

「なんでそんな事分かんだ?ネギ」

「えっと……なんとなく……そんな気がしたんです」

「ネギ、何よそれ」

……と、ネギ少年は意味深な事を言い出したが、当たり。
ザジ・レイニーデイがエヴァンジェリンお嬢さんの自宅すぐ近くへと歩いて来ている所であった。
これは……進化した影響。
ネギ少年の言った通り、インターホンがすぐに鳴り、ナギは「ホントに来たな!」と単純に驚き、茶々丸姉さんがその応対に出た。

「………………」

「ザジ……さん。どうされたのですか?」

「………………」

相変わらずの無言を茶々丸姉さんにも貫くその動機は良くわからない。
そこへお嬢さんも顔を出した。

「……ザジか。話でもあるのか?」

「…………」

一つザジは頷いて返した。

「……そうか。上がると良い」

「マスター。では、ザジさんどうぞ」

「…………」

無言を貫いたままザジは家に入り客間に案内された。

「ぼーや、どうも用があるらしい」

「…………」

「サジさん……こんばんは」

ザジは無言で微笑み、ネギ少年はザジの姿を見ても特に驚く事も無く席から立ち上がりザジの前に進みでて挨拶を返した。

「……こんばんは、ネギ先生」

ナギ達は現れた人物がそういえばさっき端のほうで見た……かもしれないという感じであったが、ザジとネギ少年の間に独特の空気が広がった事で特に言葉が出てこなかった。

「ネギ先生、ウェールズへ行きましょう。プレゼントがあります」

ようやくザジは用件を話し始めた。

「プレゼント……ですか?」

「はい。石化魔法の解呪……です」

「そ、それは!」

話の内容までは直観で理解はできないらしい。

「えっ!」  「それって!」  「まさか!」

これにはネギだけではなくアーニャ、神楽坂明日菜、ネカネさんも驚き思わず声を上げた。

「あの石化魔法解けるのか!?」

「…………」

ザジは頷いて返し、肯定した。

「ザジさん……」

「ネギ先生、話はこれだけです。……ウェールズへ行く日が決まったら教えてください」

「は……はい、ありがとうございます。ザジさん。でも……どうして」

「プレゼントです」

簡潔に一言。

「……そう……ですか。……ザジさん、この前は、ありがとうございました」

「……どういたしまして、ネギ先生。失礼します」

あの時……というのは恐らく例のアーティファクトの事なのだろう。
ザジは退出の意思を示し一礼した後玄関へと足を向けた。

「ま、待って!」

「………………」

それを呼び止めたのはアーニャ。

「わ……私のお母さんとお父さんは……元に……戻るの?」

「…………」

小刻みに震えながらもアーニャはザジを見据え問いかけ、それに対しザジは微笑みながら頷き肯定を示した。

「そ……それじゃっ」

アーニャはザジの頷きを見て、両親が元に戻るという事を想い、目に涙を浮かべた。
ザジはそのアーニャの様子を優しげな表情で一瞥し、再び足を玄関へと向けて歩き出した。
それにつられ、ネギ少年達も玄関まで付いて行き、軽く会釈を返したザジはそのまま女子寮へと戻っていった。
……ネギ少年、アーニャ、ネカネさんにしてみればウェールズの村人達の石化が治るというのは、最後の心残りも解決するという事であり、感慨深いものがあった筈だ。
それでも話自体は村人達が助かるという明るいものであるため、一同はすぐに元気を取り戻し、ネギ少年がザジに墓守り人の宮殿突入後に完全なる世界のいわゆるレプリカに閉じ込められた時に助けられたという話をしだし、そこから芋づる式に違う話へと移っていき、客間では和やかな会話が夜寝る前まで続いた。
……そろそろ寝る準備をしようかという時、徐にナギがネギ少年に問いかけた。

「ネギ、何か欲しい物とか無いか?ほら、誕生日プレゼントなんてもう10年分も溜まってるんだぜ?」

……なるほど、ザジのプレゼント発言に感化されたという所か。

「……欲しい物ですか。僕は今、父さん、母さん達と一緒にいられるだけで、凄く幸せで……それで、充分です」

「そ、そうか?そう言われる俺も嬉しいし幸せなんだ……だぁーっ!!そうじゃなくってだな!俺がネギに渡したいんだよ!アリカもそうだろ!?」

「う……うむ。そうじゃ、ネギ、何か欲しい物は無いか?遠慮しなくて良いぞ?」

何やらソワソワとネギ少年の両隣から声をかけるナギとアリカ様は初々しい。

「え、えっとっ」

ネギ少年も2人が自分に対して何かを渡したいのだという事を理解し、何か欲しい物を慌てて考え始め、あたふたし始めた。
そんな様子を見てエヴァンジェリンお嬢さんは苦笑せざるをえなかった。
少ししてネギ少年が何か思いついた顔をした。

「ね、ネギよ、何か思いついたか?」

「言ってみろ?」

「あの……僕総督に父さんと母さんの映画を見せて貰ったんですけど……その、京都へ……僕も、家族旅行に、行きたいです」

「…………」

「…………」

そう言い出したネギ少年にナギとアリカ様の2人は声が出ず、それどころかまた小刻みに震え、目は潤みだした。

「あ……も、物じゃないと……駄目ですか?」

その2人の様子にネギ少年はまた慌て始める。

「そうではないっ……そうではないのじゃ、ネギ」

「駄目じゃない。駄目じゃないぜ……。ネギ……ホントに……ホントに家族旅行がいいんだな?」

「は……はい」

「ああ……分かったぜ。京都と言わずどこへでも連れていってやるよ!もちろんアスナも一緒だぜ?な、アスナ!」

「う、うん!私も行くわ、ネギ!」

「そうじゃ、ネギ、どこでも、何日でも構わぬから安心するのじゃぞ」

「……はいっ!ありがとうございます!父さんっ!母さんっ!アスナさんっ!」

ネギ少年は満ち足りた表情で3人に答え、ナギ、アリカ様、神楽坂明日菜もそれに対し満面の笑みを見せた。
……何とも……こうしてみると、ネギ少年を助けられた事は良かったと、そう、思う。
サヨがネギ少年にこれから毎日が待っていると言ったが、まさにその通り、スプリングフィールド一家の生活は、時間はかかったが、全てはこれから。



[27113] 67話 第58回国連総会・生中継
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:38
昨日ネギ坊主が皆と再会できてから一日。
ネギ坊主達はザジサンとイギリス行きの飛行機に乗るのは決めたようだけど、出発は明後日の予定らしいネ。
それにしてもネギ坊主がメガロメセンブリアで死亡扱いになているというのは、ネギ坊主の魔法使いの修行を意味する、日本で教師をする事、というのを続けるのは難しいだろうナ。
逆に生きているという報告をしても厄介な事になただろうから……避けては通れない問題ネ。
一応、ネギ坊主の事についての内容は3-A以外のコミュニティには漏れないように細工してあるから情報漏洩は問題ないヨ。
……今日、私はさよと久々に学校に登校しているが、ネギ坊主が戻て来た事で、今まで3-Aにしては暗い雰囲気だたらしいのだが、もういつも通りのように見えるネ。

「美空、端末はどうだたかナ?まだ感想を聞いていなかたから教えて欲しいネ」

隣の美空にはそういう約束だたからネ。

「もうスゲー役立ったよ?役立ったからあんなんあればそりゃ通信には事欠かないわで便利だよ間違いなく。でも、超りん……超りんマジ謎多すぎるから。で……全部知ってたんスか?」

「ハハハ、便利すぎたみたいだネ。うむ、一般への普及は逆に先送りにするかナ。参考になたヨ、美空。質問だが……予想はしていた事もあたが、私にも正確なことは何一つ分からなかたというのが答えになるヨ」

「あー、まあ、そう言うか、うん。……昨日超りんが言ったとおり素直に喜んどくことにするよ」

「それが良いネ」

「あと一つ、知ってそうだから聞くけど、今晩国連総会の生中継があるから見とけって言われたんだけど超りんはどう思う?」

「私は別に困ることは無いネ。明日からの日々を私は寧ろ歓迎するヨ」

「そうかそうかー。そう言われると私がとやかく言う事でも無いし、超りんと同じで別に困らないからいいかって感じスね」

「しばらくは美空の嫌な面倒事があるかもしれないがそのうち慣れる筈ネ」

「あははははー。正直今なら大抵のことはそんなに面倒でも無いと思えそうな自分が怖いよ」

「それを慣れと言うんだヨ」

「あー……なるほど。手遅れだったわ……」

「手間が省けて良かたナ、美空」

「そりゃどうもー」

……美空と他愛の無い会話をしたが、美空の言た通り、火星の方は、間もなく今晩、ニューヨークで開催される国連総会で魔法世界の存在を公表される事になているから、リアルタイムで中継を見る予定ネ。
ハカセとさよと女子寮で3人揃てテレビを見るのは久しぶりかナ。
学校が終わて私はこれから何をするかと言えば、今後の為にやること、やりたい事はいくつもあるが、まずは魔分有機結晶の生産をまた開始する事が一つ。
プリズムミラー方式の人工衛星の一号機の開発、その為の予定を立てる事、関連企業に対しての部品の発注、SNSでの一括共通内容情報発信、ハッキング対策の強化、火星の植生変化の監視と対応、もしもの食糧問題に対応しての植物工場の計画、砂漠の緑化、環境変化の前に火星の貴重植物の採取、地球と火星両者での特許取得、超包子の火星への進出、食事文化の融合、魔法と科学の融合、その学問の体系化、優曇華の改造研究……休んでいる時間は無いナ。
国連総会の生中継は丁度午前0時ぐらいから始まるからそれまで結局今日は魔法球の中で計画を立てつつ、魔分有機結晶の生産をまた始めて過ごしたヨ。
ハカセも昨日に引き続き連日籠ていた工学部から早めに寮に戻てきたからさよと一緒に夕飯を食べて、3人で夜中になるまで待つ事にしたネ。

「珍しいですね。国連総会って普通は生中継なんてしませんし。それにどこの局も朝ニュースで見るように勧めるなんて火星の地表変化と関係することでもあるんでしょうか?今直前で丁度その話がされてますけど」

放送局側も生中継を流す事は決定しているが、何故生中継を流す事になたのかについて議論するという不思議な現象が今直前討論でされていた所ネ。

「その可能性は高いですよね」

ハカセには魔法世界の存在を話した事はあるが、それだけだから火星が魔法世界だとは結びつかないカ。

「何か重大発表でもあるのかもしれないネ」

「……超さんと相坂さん達は今回の件に関係していたりするんですか?」

ふむ、怪しさ満点だからそう思うのは当然カ。

「どうだろうネ。ハカセ、悪いがそれは答えにくいヨ」

「はー、分かりました。はっきりとは言えないんですね。1年の時に超さんの計画を聞いてからその後しばらくして計画が変更になった事関連だと、私はそう思うことにします」

「そう思うのは自由ネ。助かるヨ。一つ言えば、私の計画は本質的には変更されなかた、そういう事だヨ」

「……という事は、あー!!なるほど!そういう事なんですか!それはもう世紀の重大事件じゃないですか!」

火星が魔法世界だと確信したようだネ。

「この生中継で答え合わせですね」

「さて、いよいよ、始まるようだヨ」

「どこも見るように勧める訳ですね」

[さて、今回何か発表があるのでしょうか。それでは、第58回国連総会、生中継でお送りします]

画面が国際連合総会会議場に移て、同時通訳で生中継が開始されたネ。
……今回は国連総会の事務総長の演説の後に、各国の一般討論演説に入る前に重要な発表があるという説明がされたヨ。

「コフィー・アナン事務総長の演説ですね」

準備ができたのか緑色の床の壇上に事務総長が上がて来たネ。

[過去12カ月は、共通の問題や課題に集団で立ち向かうことを信ずる私達にとって、非常に辛い日々でした。多くの国において、またもテロリズムが罪の無い人々に……]

「……普通ですね」

……今回の国連総会は元々核兵器の廃絶についてが主な論点だから当然の流れではあるナ。

「これからですよ、葉加瀬さん」

「そうですね。……でも重要な話の筈なのに日本の出席者は小泉首相ではなく川口外務大臣なんですね」

「日本自体今も混乱しているから首相が国を離れる余裕はないと思うヨ。他国も首相の出席率はそこまで高くないからネ」

火星の件が発表されたら本国ですぐに何らかの検討が開始されるレベルの話だからそのほうが動きやすいからなのだろうけどネ。
……しばらく事務総長の演説が続いたヨ。

[……世界は変化したかもしれません。しかし、こうした目的は今尚意義も緊急性も失っていません。私達は常に、これらの目的を視野の中にしっかりと据えておかなければならないのです]

「今回の国連総会の内容としては一区切りついたみたいですが……」

[……今回の国連総会についての演説は以上です。……先月、非常に重大な世界的事件が起こりました。火星が地球と同じく青い星になったという事です。ここで、私は国連に新たな国家を迎える事を提案します。国連はこれまでその国家から陰ながらの支援によって最も危険な地域での活動も可能としてきたのです。……実は異世界というものは、存在しました]

「おおおおお!!異世界なんて非常識な発言が事務総長から出るなんて何かテンション上がってきますね!」

「何か無意味に楽しくなってきますよね!」

「その気持ち、分かるヨ!」

新時代が来た!という感じネ!



『あぁぁりえねぇぇぇぇぇえ!!!!!』



……窓から何か聞こえるナ。

「……今何か聞こえませんでしたか?」

「千雨サンの声だたネ」

ご愁傷様だネ。

「長谷川さん最近ストレス溜まってるみたいでしたからね、発散できたでしょうか?」

「……そうだと良いネ」

国際連合総会会議場はざわついているし、携帯を見れば、SNSの更新がこの時間帯では未だかつて無い程に行われているナ。
画面が切り替わたままで放送局ではどうしているか気になるがきっと混乱していると思うヨ。
事務総長が壇上から降りるのと交代で何人か……高畑先生もいるが、出てきたナ。
箒を持ている人もいるネ。

「あ、高畑先生出てきましたね」

「所謂魔法先生で悠久の風というNGOに所属しているとは知っていましたけど……テレビに映っていると不思議な感じがしますね」

「……コミュニティはもう炎上しているようだヨ」

デスメガネが何故出ているのか、と麻帆良全体のコミュニティではそんな感じになているナ。

「……あ、本当ですね」

「明日も学校あるのを忘れて今日は皆徹夜になりそうですね」

「ハカセ、私達にとってはいつもの事ネ」

「あー、そうでした。つい忘れてました」

「習慣化してますからねー」

高畑先生が話す訳ではなく、代表の魔法使い……あれはまほネットのデータベースで見た記憶だと確かアメリカの魔法協会のトップの人だたかナ。

[議長、事務総長、御列席の皆様、まず、ハントゥ・セントルシア共和国外務大臣閣下が、第58回総会議長に就任されたことを心より御祝い申し上げます。また、カバン・チェコ共和国元副首相兼外務大臣閣下の第57回総会議長としての御努力に敬意を表します。イラクの復興及び安定の確保に粘り強く取り組んでこられた、デ・メロ特別代表をはじめとする国連職員の方々が卑劣な爆弾テロの犠牲となられたことに、メガロメセンブリア政府を代表し、心より哀悼の意を表します]

「メガロメセンブリア政府と来ましたかー」

「普通の一般討論演説のような導入だネ」

「でもメガロメセンブリア政府って言い方は凄く新鮮ですよね」

[地球全市民の皆様、私達はメガロメセンブリアという国家に所属しております。メガロメセンブリアが正式な国土を有する場所はこの地球の隣の惑星、火星であります。……こちらの映像をご覧下さい]

控えていた高畑先生達がホログラム映像を空間に映しだして……火星、魔法世界の地図だネ。
中継映像もそれに合わせてズームされたヨ。

「これが魔法世界の地図ですかー」

[火星……私達は魔法世界と呼称していますが、この魔法世界にはこのメガロメセンブリア本国を盟主とする国家群の集合であるメセンブリーナ連合、他にアリアドネー、ヘラス帝国という2つの国家が存在します。全地球市民の皆様、魔法世界、と呼称しましたが、この魔法世界では『魔法』というものが冗談ではなく、日常的に使用されているのです。次の映像をご覧下さい]

料理、掃除、治療、箒、飛空艇等々の映像が順次切り替わて紹介されていくヨ。

「おおー!何だかさも普通ですと言うように魔法の存在が地球に公表されましたね」

「あっさりしているが私の目的はこれで達成されたネ」

「他に公開する方法って言っても穏便に行くならこんな感じにしかならないですよね」

[これらは決して合成ではありません。この場でも魔法の実演をさせて頂きたいと思います。箒による浮遊です]

控えていた魔法使いの人が持ていた箒に跨て……。

―浮遊!!―

飛んだヨ。

[物理法則を無視していますが……これは手品ではありません。魔法、という確かな技術の一つなのです]

「私は知ってますからいいですけど……それでも、テレビを通している以上合成だと疑う人はいるでしょうね」

「その為に全世界に同時に発信してその誤解を無くそうとしているのだけどネ」

[……これが魔法であります。誤解無きように申し上げますが、私達魔法世界人は決して今まで火星に隠れ住んでいた訳ではありません。これまで永きに渡り魔法世界はこの地球の存在する宇宙から位相を異にしたれっきとした異界、として存在していたのです。しかしながら、先月8月27日、地球全12箇所の同時発光現象という天変地異と時を同じくして、魔法世界は火星の地表へと定着したようなのです。これは私達も予期せぬ事であり、現在も調査中の事項であります]

「話している人がスーツを着ている普通の人間なので、何だか実感が全然沸かないですね」

「それは実感を持て欲しい所ネ」

[……メガロメセンブリア本国の人口は約6700万人、ほぼ100%が人間で構成されています。……そして、魔法世界には亜人種と呼称される人類が存在するのです。彼らは先に上げたアリアドネーとヘラス帝国に多く住んでいますが、メセンブリーナ連合でも何ら私達人間と変わらない生活をしています。次の映像をご覧下さい]

半獣人、獣人、ヘラス族の人達と順に映像が映しだされたヨ。

「こ……これは衝撃的です!宇宙人と紹介しても良いぐらいには!」

その場合には……宇宙人は、実はいました、ぐらいかナ。

「今まで宇宙人予想をしていた地球人もこれにはテンション上がるだろうネ」

日本人の勝利で終わりそうだけどネ。
でも、所謂オンラインゲームのキャラクターメイキングではありがちだから意外と普通ではあるかもしれないナ。

[この彼らの映像も、重ねて申し上げますが、合成ではありません。ご覧の通り、魔法世界は地球とは確かに異なってはいますが、人々が変わらぬ日常を過ごすという点で何ら一切の違いはない、という事をご理解頂きたいのです]

やはり国連総会という場で地球に一斉公表するのは良い方法だだナ。
亜人種については公的な統一見解が無いと、余計な誤解が生まれかねないからネ。

[これまで魔法世界は異界、として存在して来ましたが、地球と魔法世界の行き来はゲート、と私達が呼称している地球の全12箇所に存在するポイントから定期的に時空間を超えて移動する事で可能でした。そして現在、魔法世界は火星へと定着しましたが、依然として行き来は可能です。但し、最近魔法世界側で事件が発生した事により、魔法世界側のゲート11箇所のうち10箇所は使用不可能となっている為、残る一箇所のみからしか行き来はできない状況であります。また、魔法世界側各ゲート復旧の目処は早くて2005年5月の予定です。一方、地球側のゲート12箇所のうち11箇所は調整の問題と魔法的問題に関係する事情から使用不可能であり、こちらの再稼働予定日は不明の状況であります]

「ああー、分かってましたけど、星間移動用のロケット開発は意味なかったですね……」

ハカセ達は工学部でロケット開発に手を出し始めていたようだからナ……。
だが、意味が無い訳ではない。

「ハカセ、科学の発展にとて意味がないという事は無い筈ネ」

「えー、まあNASAでも技術の転用は行われていますから分からなくもないですけど……こうロマンがですね」

「気持ちは分かるヨ」

代表の人はこの後もしばらく淡々と説明を続けたヨ。

[……そして私達メガロメセンブリア所属の者は皆殆どが地球由来の人間であり、魔法使い、なのです。メガロメセンブリアに限定にされない事ですが、魔法使いは地球で古代ローマの昔から歴史の表に出ることなくこれまでその存在を秘匿し続けて来ました。その理由は多岐に渡ります。魔法という技術そのもの性質の問題、また中世ヨーロッパで起きた魔女狩りという歴史的事象……これは表向きには実際に魔法使いが存在したという事は伏せられていますが、これには実際に少なくない数の魔法使いが犠牲になったとされています。更に、この現代社会では魔法と言えば非常識と思われる環境下、社会的混乱を起こさない為には地球では秘匿するべきだという暗黙の了解があったのです。メガロメセンブリアに限定されないと述べましたが、地球と魔法世界の行き来が可能になったのはゲート技術が用いられるようになったここ数百年の間にすぎません。古代ローマの昔から存在した魔法使いですが、今でこそ魔法使いの殆どがメガロメセンブリアに籍を持っていますが、純粋な地球に住む人類として存在していた時期も確かにあったのです。しかしながら、この歴史に関しては魔法世界でも完全な解明は進んでいません。また、ゲート技術自体が魔法世界で全世界に公表されたのもここ100年の事に過ぎません。そしてこの100年の間に亜人種の地球への流入がほぼ無かった事には様々な制限があったからに他なりません。……私達が今回この場を借りて、全地球市民の皆様に私達の存在、魔法世界の存在の公表をするに至った経緯には、地球から火星、魔法世界が観測可能、また、魔法世界から地球が観測可能という状況、そして既にこのニューヨークの存するアメリカ合衆国が打ち上げた火星探査機2基が4ヶ月後に火星に到着する避け得ない事実を始めとして、ひいては今後起こり得る混乱を可能なかぎり避ける為であることをご理解頂きたいのです。また、これまで魔法世界は地球と何ら変りない環境でしたが、火星に定着した事で環境変化が起きました。太陽光不足、1年のサイクルの凡そ1.8年への延長等がその最たるものであります。これらについては可及的速やかな対策を取る必要がありますが、場合によっては地球の科学技術力を借りる必要があるかもしれないのです。この点についてもご理解頂きたく思います。……続きまして、事務総長のお言葉にありました通り、私達のこれまでの地球での活動についてこの場を借りて公表させて頂きたいと思います。次の資料と映像をご覧下さい]

「完全に魔法世界のプレゼンテーションですね」

「国連総会の核関連の問題は何処へやらという感じだが、仕方ないネ」

表示された資料は悠久の風、四音階の組み鈴等の国連NGO関連の公的には伏せられていた活動内容が記されていたヨ。
紛争地帯での人命救助、災害復興支援、テロ組織への介入行為等が殆どだが、表立って地球の戦争には第一次世界大戦も、第二次世界大戦も、その後の戦争のいずれにも直接介入はしていないという点について何度も強調されたネ。

[……以上が私達の活動の実態です。これまで世間に広く魔法の存在を知られずに活動をすることが可能であった事には各国に存在する魔法協会による支援と魔法そのものによる情報処理という事情があったのは紛れもない事実であります。……時にこれらの方法が、地球の各国家の法律、また、人権から逸脱、無視した行為を取る方法であったことは否定できません。次の資料を御覧下さい]

これを公開しなければ意味が無かたのだが……勿論全てとはいかないだろうが、きちんと公開したナ。
表示されたのは、各国魔法協会による、この麻帆良のような自治区としか表現できない拠点としての土地の確保という事実に始まり、情報の改竄行為、この現代地球で最も利用頻度の高い認識阻害という魔法の存在、予期せず魔法を知てしまた人に対する最終手段としての忘却魔法の使用等だたネ。
これはこれから波紋を呼ぶことは間違いないし、麻帆良でも学園長に説明要求がされるのも時間の問題だが避けては通れない道だナ。

「超さん、麻帆良にも認識阻害が使用されているのは分かるんですが、麻帆良ってそれだけではない気がするんですけど……どうなんですか?」

「ハカセもそう思うカ。私が思うにこの麻帆良という土地は何らかのまさに非科学的力、魔法の根源的なものが働く場所と言ても過言ではない筈だヨ。麻帆良では事故による重傷者が殆ど出なかたり、凶悪事件の発生率が極端に低かたり、麻帆良で生活すると何らかの秀でた才能に目覚めやすいのもこの土地そのものに何らかの力があると考えないと説明がつかないからネ」

霊脈が集中しているからとは言え、こうも不思議な事があるものなのカ……しかし、そもそも神木・蟠桃がどのように生まれたのかについても、自然発生だというのだから今更だナ。

「やっぱりそうですかねー。ロボットが暴走するのは日常茶飯事ですけど、大怪我した人なんて出たこと無いですし。科学者としては信じ難い事ですが、運が良いだけでは到底説明できないですよね」

「とにかくここは何か他とは違う、恵まれた場所だと思うヨ」

[以上のように、止むを得ないという理由だけでは決して容認できない行為を私達がしてきたことは紛れもない事実です。この判断については国際社会に任せる他ありません。批判を受けるのも避け得ない事であると認識しています。そしてこれら私達の活動はメガロメセンブリアにおける基本理念であり、魔法世界全体の総意ではないことはご理解下さい。一つ、私達の風習について述べさせていただきます。……一定の活動を行い、何らかの形で社会に貢献した魔法使いはその活動を評価されマギステル・マギと呼称される称号が授与されるという風習が古くからメガロメセンブリアには存在します。そして実際に魔法使いの卵達の多くはそれを将来の夢として抱く事が多いのです。これには私達の教育による影響が関与していることは否定できません。ですが、そもそもマギステル・マギとは決められた形のあるものではありません。基本理念としては個々人それぞれが目指す自身のこうありたいという理想の姿を目指してそれに向けて邁進するというものなのです。マギステル・マギとして認められる事は確かに私達の間では重要な意味を持ちますが、例えある個人の活動がマギステル・マギとして認められないとしても、それは自身が納得すればその時点で紛れもなくその個人にとってのマギステル・マギの一つの形なのであります。これを子供に教えるにあたり、正義という言葉を使用する事が多いのですが、わかり易さを重視しているだけにすぎません。メガロメセンブリアという国の基本思想というのはこのようなものですが、地球の各国家、社会における思想との間で誤解を生じ易い点であると考え、このような説明を致しました]

実際にネギ坊主ぐらいの年齢だと正義で分かりやすく教えられているらしいからナ……確かに誤解を招きやすい点だネ。
杖一本で色々できてしまうというのは特に子供にとっては正義に使うべきだ、とでも教えないと善悪の判断がつかないうちは何をしでかすかわからないからナ。

「あー、なるほど、偏った理念の場合、下手すると偽善とかそういう批判をうけやすそうですよね」

「そういう事もあるだろうネ。……魔法という力を持た人々にとって、その力を制御するのには確固とした自身の目標を持つ事は大事だと思うヨ」

「結局はなりたい自分になるために頑張るって事ですよね」

「……そういう事だネ」

「そのマギステル・マギの称号というのもノーベル賞みたいな感じなんですかね」

「ノーベル賞との比較はまた難しいと思うが、そのような感じだと考えて良いだろうナ。災害復興支援で活動した魔法使いだと差し当たりノーベル平和賞というのは適用できそうではあるネ」

[議長、今後の日程におきまして、第58回国連総会の本来の議題とは異なりますが、火星、魔法世界についての議論の場を設ける事をメガロメセンブリア代表として提案します。……以上をもちましてメガロメセンブリア代表として、すべての国連加盟国、全地球市民の皆様に向けて、演説を終えたいと思います]

……これで、一段落だネ。
メガロメセンブリアの人達は壇上で一礼して降りて行たヨ。
中継映像での国際連合総会会議場の全体の様子が映されたが、どうにも唖然としている人達がいれば、ざわざわしている人達もいるという状況だナ。
ふむ……これからに期待だネ。

「……何だか本当に未知との遭遇、異文化交流でしたね。これから先が楽しみです」

「ハカセ、これからの楽しみと言えば、人工衛星を作る事にしたヨ」

「ええっ?今度人工衛星作るんですか!?」

興味湧いたみたいだネ。

「さっき太陽光不足と言ていたからネ。それで、種子島に一緒に行くカ?」

「い、行きます!絶対行きましょう!JAXA、それも種子島宇宙センター、一度行ってみたかったんです!」

テンション上がて来たナ、ハカセ。

「でも鈴音さん、その前に東京の調布ですよね?」

さよの言うとおり、JAXAの本拠地は調布航空宇宙センターだからまずはそこだネ。

「まあ、そうなるかナ。でも来月上旬には何らかの目処は立たせたい所ネ」

雪広の社長サンが協力してくれる事になているヨ。

「……でも、いくら超さんが作ると言っても流石に人工衛星規模となっては計画自体通るものなんですか?」

「通してもらうヨ。費用は私が全額出す予定だからネ」

「えー?えっと、超さん、100億ぐらいしますよね?」

「うむ、100億はするだろうナ。でも大丈夫ネ。その資金はあるヨ」

「私考えてませんでしたけど……超さん今どれくらい持ってるんでしたっけ……」

「複数基作る余裕が充分あるぐらいには持ているヨ。その前に、試作基をとにかく一基作てみないことには始まらないからネ」

「鈴音さん、女子中学生、個人で人工衛星に全額投資……また大変になりそうですね」

うむ……さよの言うとおりだろうネ……。
またメールが殺到したり、ハッキングが増えたり、最終的には命を狙われる事になるのだろうナ……。
……ネギ坊主達のように一度死亡した事にした方が余程楽かもしれないが……それはそれで問題があるからあり得ないが、少なくとも国籍はそろそろ日本に変えた方が良いナ。
麻帆良に跳んで来た時は、ここの魔法先生達の対応策として、中国と日本の両方にハッキングを仕掛けて私が中国からの留学生だという情報を捏造したが、翆坊主と会てすぐに計画を変更した事で今は寧ろ中国からの留学生にしている方が今後も麻帆良、日本を本拠において活動するのだから色々と都合が悪い。
しかし既に私自身が作成した個人情報を今更無かた事にすることは難しい以上、正規の方法で乗り越えるしかないが、残念ながら日本国籍取得の要件を私は一切満たしていないというのは問題だナ。
未成年、5年以上住んでいない、住所も……女子寮では駄目だからネ……。

「それも承知の上だヨ。予定としてはプリズムミラー方式による太陽光の集光の可能な人工衛星を作る予定ネ」

「やっぱり一般的な人工衛星とは違うんですね」

「普通の人工衛星も一基ぐらいは打ち上げて良いかもしれないけどネ。ハカセ、一部設計図はできているから見るカ?」

「もうできてるんですか!是非見せてください」

「分かたネ。……これで良いヨ」

パソコンの画面にプリズムミラー方式の人工衛星の設計図の一部を表示したネ。

「おおー!確かにこれは工学部で全部作るのは流石に無理ですね」

「色々な企業から特注で部品の作成を依頼する必要があるからネ。工学部でもある程度部品を作る事もできるだろうが、今回は規模の大きさから外部の力を借りるヨ」

私の未来技術を基盤にして作ろうにも、今までのような小物や元々あるものを弄る、プログラムレベルならばまだしも、まず人工衛星では部品数が多すぎて設備の用意から困難ネ。
それにもし未来技術を基盤にして作たとしても、全世界に知られる事が想定される人工衛星が現行の技術水準でメンテナンス不可能では私の後々の手間が増えるだけだからナ。
数基までは種子島で完成させてそれが問題なく実際に稼働するのが確認できれば、クルト総督に説明した通り、また麻帆良に人工衛星の部品の搬入と、その組み立てを専門にする施設を建ててそこにダイオラマ魔法球と作業用にプログラムした田中サン達を配備すれば量産体勢に入れると思うネ。

「いやー燃えてきました!」

「人工衛星は燃え尽きたらおしまいですよ!」

「さよ……言てみたかただけだと思うけど、そういう意味ではないヨ」

「あははー、分かってますよ」

……本当に歴史上これ以上はないと言えるような大事を成したというのに、こうしていると全く緊張感というか、そういうものと無縁なさよや翆坊主といて、私も大分感覚が鈍て来た気がするナ……。
……とにかく、私はこれからもやるべき事、やりたい事を行い続けるのには変わらないネ。



[27113] 68話 想いは心の裡に
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:38
タカミチ君含むメガロメセンブリアの代表者一団からの衝撃の発表から数時間。
日本での日付は9月24日。
……今日の未明、当然と言えば当然ではあるが、地球全体は驚愕に包まれた。
そのようなニュースがあったからと言って、平日の学校、企業が休みになる等という事はなく、学生達、社会人達は眠い目をこすりながらも、皆非常に気分が高揚した状態でそれぞれの場所へと向かっている。
……メガロメセンブリアによる演説は全ての情報を開示したという訳ではなく、概要……というものであったが、それでも新たな青い星には既に人類が住んでいたとなれば地球人類が純粋に驚くのとは関係は無い。
しかもそれがただの星ではなく、魔法が日常的に使われ、純粋な人間以外までもが住む星なのであるから騒ぎは尚更大きくなる。
……あの後、国連総会は、予定を急遽変更する訳にもいかず、そのまま各国の一般討論演説に突入し、そんな生中継がテレビで流れているのを横目に超鈴音達は、人工衛星の事について話ながら登校時間になるまでずっと起きたまま終始ハイテンションであった。
これが若さか……といった所であろうか。
因みに今日中にタカミチ君から正式に超鈴音にSNSに対してメガロメセンブリア、魔法世界関連の統一された情報を公表する為の協力が要請される筈なので、そうなればタカミチ君達が用意した特設ページが満を持して公開され、それに合わせてSNSのあらゆる宣伝バナーにそのページを見るように推奨される事になっている。
そのページでは、メガロメセンブリアの歴史、地理・自然、人口、言語、法・政治体系、安全保障・治安維持、生活・文化、教育・科学・魔法・技術、経済・産業・交通……等、国連総会では話されなかったが重要な事も含め地球人にとっては気になる情報を得る事ができるらしい。
更にメガロメセンブリアだけではなく、魔法世界そのものの地理・自然・動植物、またアリアドネーやヘラス帝国についても許可を得ている範囲内での情報開示が行われる予定だそうだ。
勿論、奴隷公認法や賞金首と言った魔法世界独自の制度もきちんと記載されることになっているため……はっきり言って世論は荒れ狂うしかないだろう。
魔法使いには確かに地球でNGOとして活動している人達がいる。
しかし、彼らの本国が魔法世界、メガロメセンブリア本国であるとすれば、先に問題を解決すべきは魔法世界の事……にも関わらず、奴隷公認法を始めとしてそちらの解決を地球側の認識からすれば改めるべきだと思われる事を蔑ろにし、地球の問題にあろうことか介入していると取れる。
これは非難の対象になる可能性が非常に高い。
実際の所、メガロメセンブリアに籍を持っていると言っても、魔法使いにとっては魔法使いの集まる拠点、コミュニティというものが存在するというのは非常に重要。
実生活の殆どが地球側に根ざしている魔法使い達も存在している……例えばネギ少年の生まれたウェールズの村等はその典型であるし、日本で言えば呪術協会もメガロメセンブリアの傘下ではないから厳密には違うが、そういう場、というものは必要であろう。
孤立した魔法使い、というのは「そもそも自分さえよければ何をやっても良いじゃないか」という発想を魔法、という力を持っているだけに、その可能性は十分にあり、その点で各国に魔法協会が存在するというのは魔法使い達にとって自治を可能とし、一定の規律が取れる事を意味する為、あった方が明らかに良いのである。
それこそ、魔法協会が無ければ、魔法の秘匿を破ればオコジョ刑というのは、一般人に対して魔法を隠し、不用意にその存在を教えないように、という自律的な意味合いだけではなく、魔法を悪用して勝手な事をして、露見しなければそれまでだが、もし一般人に露見して、最悪「魔法使いという存在は全て危険だ!」という認識をされる事を避けるという意味も持ち、結果として魔法使い達自身の身を守る事にも繋がる。
そもそも始動キーを用いたギリシア、ラテン系魔法の発祥は地球であるのに、何故地球では魔法がこれまで秘匿され、魔法世界では秘匿する事も無かったのだろうか。
魔法世界はその隆盛からして魔法が常に自然の中心……浮遊岩や多種多様な原始的魔法を操る魔法生物の存在はその最たるものであるが……にあり、魔法世界人の宗教的、民族的思想には全て魔法の存在が当然の如く常に大前提として置かれている。
対して地球で魔法の行使が可能となったのは神木・蟠桃……要するに私が、5003年前にこの地球に自然発生した事に起因し、当然地球の生物には根本的に魔分は必要ないし、無くてもそれほど問題はない。
魔法生物の数というのもひなた荘で「みゅーみゅー」言っているたまちゃんがいるにしても種族数は非常に少なく、当然魔法を操る生物等というのもそれに合わせて少ない。
地球では、時間の経過と共に魔分散布による魔分濃度が高まり、人間にも魔分容量が形成され、魔分濃度の高くなった霊地で影響を受け何らかの奇跡……要するに魔法を行使できる人間がちらほら現れ、そんな中古代ローマで体系的な魔法がいち早く成立したが、それでも宗教や人々の思想には魔法の存在は当然前提に置かれはしなかった。
……先天的に魔法の存在した魔法世界と余りにも後天的に魔法が形成された地球……結果、既にこれまで現実地球で魔法が秘匿されて来たのは、紛れもない事実。
話が逸れたが、NGOとして魔法使い達が地球の問題に介入している事を非難するというのは……地球生まれ、地球育ちの魔法使い、魔法世界生まれ、地球育ちの魔法使い……等が実際におり、地球に根ざして生きている魔法使いが同じ地球人として地球で役に立とうという意思を持っている人がいる事を考慮すれば……特におかしくは無い。
メガロメセンブリア本国に籍が登録されてはいても、地球の生まれた国の人間であるという意識の方が強いというのは十分にあり得ることであるし、自然と言えよう。
そうした活動を可能にしやすくするという点で、魔法協会という組織力が大いに役立っている。
各国魔法協会はメガロメセンブリア本国の下部機関とは言っても、完全に一枚岩ではあり得ず、麻帆良のみならず大体どこもがかなりの自己裁量が認められているという点で、魔法協会が100%メガロメセンブリア本国に等しいと考えるのは極端すぎる。
間違いないのは、あると非常に便利だという事。
……でなければそもそも魔法協会が存在する筈もない。
魔法協会が各国に一定の土地を確保して存在できているのは別に国に無断で占有している訳ではなく……確かに麻帆良はほんの100年程前の事であるが、ヨーロッパは昔も昔からであるし、アメリカは新大陸として土地が開拓されてからすぐの事であり、隠れてはいたが、元々馴染んでいた面はあり、正規の手続きは取られているので強硬な排斥運動が起きるという事も無いだろう。
一般的な大使館と比較してやはり規模は大きいが、各国の法律には従い、税金は収め、ある意味メガロメセンブリアはメガロメセンブリアという国でありながらも地球の各国でもある、という見方もできる。
マギステル・マギについて説明されていたが、本当に子供は漠然と、それを目指す事が多いが、実際麻帆良の魔法使い達を見ていれば分かることだが、全員が全員NGOの活動をしているという事は無い。
魔法使いとは言っても麻帆良で言ってみれば、明石教授のように教職で働いている人達もいれば、麻帆良内の企業に勤務している人達もいて、勿論外部で働いている人もおり、魔法を日頃使っているかというと、現代日本の社会人と同じくパソコン等の魔法関係無しの機器に触れている時間の方が圧倒的に長い。
メガロメセンブリア本国で見ても、出入り口としてのゲートポートの受付で働く人達はおり、魔法世界の企業で普通に勤務する人達、警察もあれば消防もある……魔法が生活に混じっているかどうかの違いぐらいしか無い。
そういう例を指してあれでマギステル・マギの一つの形だ、と典型的な魔法世界育ちの魔法使い見習いの子供に言ってもそうは認めないだろうが……理念というものはそういうものだ。
高音・D・グッドマンがよく「偉大なる魔法使い」を目指すと声高に言っているのは地球生まれ、地球育ちの魔法使いにしてみればあの年齢で志高くしているのは寧ろ珍しく、本国首都で育った子供にとってもあのテンションは珍しい方であろう。
ネギ少年は田舎育ちで常識に疎かった事はあるが、もし高音・D・グッドマンぐらいの年齢に育っていれば、彼女程にはなっている事も恐らく無かった筈だ。
それもネカネさんを見れば分かることなのであるが……彼女はNGOとして活動している訳でもなく、ウェールズで落ち着いている。
明日ウェールズに戻るが。
……さて、今朝明けての通常放送に切り替わった各テレビ局のニュースは国連総会で流された魔法世界関連の映像を繰り返し何度も放送するという有様。
また、日本魔法協会支部がこの麻帆良に存在することが同じく早朝に政府から公式発表がなされ、既に麻帆良学園都市内の独自メディアは勿論、外部のメディアが続々集結し「ここに特ダネがある!」と言わんばかりにカメラとアナウンサーが続々と増えている所である。
彼らは麻帆良に住む人々にインタビューを試み「ここに日本の魔法協会があると知ってどう思われましたか?その前に本当に魔法は存在すると信じますか?」であるとか、何を思ったのか「魔法使いの方いますかー!!?」と大声で叫ぶ人達までいる。
前者の質問に対しては急いでいる学生達は「遅刻するからまた後でー!!」だとか「そりゃ驚いたよ!」とマイペースに無視される事も多かったが、話したくて堪らない学生は「ここが魔法使いの拠点だったら俺も魔法使いになれるんすかね?そしたら俺もリアル超能力者じゃん!」といわゆるドヤ顔というものでカメラに向かって調子に乗っている者もいた。
演説で言っていたが、魔法というのはやはり一つの技術にすぎない為、超能力だ何だと喜ぶな、とまでは言う気はないが自重はすべき所。
少なくとも、今回のような形で公表された以上は、魔法を一般人が習得できるようになるには、魔法の取り扱いに関する国際法……などというものがまとまらない限りは無理であろうし、まずは各国家規模で魔法の研究機関が公的に開設されるか……もしくは、この麻帆良であれば、メガロメセンブリア本国の大使館のようなもの兼日本政府直轄の最大の魔法機関に収まる形でそうなる事もあるかもしれない。
当然このような事態は予期していた為、今日この後、麻帆良教会……日本魔法協会支部で近衛門がその姿を現し、日本魔法協会の代表として声明を発表する事になっている。
女子中等部の学生達に焦点をもう少し当ててみれば、学校に着いて早々の会話の殆どは、タカミチ君が魔法使い……正しくは魔法使いではないのだが、そうであった事で、魔法使いの先生が他にもいるのではないかという話で持ち切りであり、朝のホームルームまで騒がしい限りであった。
そんな中、3-Aの明石裕奈が教室の後ろで宣言していた。

「私のお父さん魔法使いだったんだよ!!」

「ゆーなのお父さんがっ!?」

「じゃあ裕奈も魔法使いになるの!?」

「今までお父さん教えてくれなかったから分かんないけど、これは私将来決まったかもしれないッ!」

「「「おおー!!」」」

自慢気な顔で人差し指を天井に向けて突き出し、自分の将来は魔法使いかもしれないと調子に乗って宣言する彼女は誰がどう見ても元気一杯。
それに群がる他の3-A生徒達も調子の良さでは似たようなもの。
明石教授はメディアに露出してそれが原因で知られるよりは自分の口から言えるときに言っておこうという形で朝電話を娘にかけたらしい。
そんな騒ぎを席から安心したように春日美空が後ろを振り返りながら見ているのは自分が魔法生徒であることが明石裕奈に知られてはいなかったという事であろう。

「美空、安心するのは早いと思うヨ?」

「超りん……あのさ……表情から心読むのやめないか?」

早速左隣の席の超鈴音に突っ込まれていた。

「美空ちゃん、頑張ろな」

そんな所を春日美空の後ろの席の孫娘が後ろからこっそり春日美空に声をかけた。

「このか……このかはマジ頑張って。私もいつか後を追うだろうけどさ」

尊い犠牲を払ったかのような表情をして春日美空は答えた。

「えー!酷いえ、美空ちゃん!」

……実際魔法生徒であるのが知られるのが一番最初になるのはこのまま行くと孫娘で確定。
何と言っても、この後メディアで声明を出す近衛門の孫娘なのであるから、魔法使いなのではないか、と聞かれるのは最早時間の問題。

「そう言わず諦めるんだ、このか……」

春日美空はゆっくり孫娘の肩に手を置き諭しにかかる。

「う、うちは負けないえ」

勝ち負けの問題ではないだろう。

「……美空ちゃん、このか、何やってんのよ……」

そんなやりとりを目立たないようにしている2人を横目にアスナがやや呆れた顔をして突っ込みをいれた。
アスナが学校に久しぶりに出てきたのは昨日の事であったが今日で2日目。
アスナはネギ少年達がウェールズへと行くのにはついていかないのでしばらくは普通に登校する予定だそうだ。
実際の所、彼女はネギ少年から離れたく無いらしいので付いていく気は満々であったのだが……ネギ少年に「アスナさん、僕は授業できないですけど学校にはしっかり出席して下さい。麻帆良に戻ってきたら必ず旅行に行きましょう」と両手を握られた状態で真剣な表情で諭された結果「ネギ……分かったわ。絶対、約束よ」と答えた結果現在に至る。
姉弟のようでそれ以上の関係になっているのかもしれない。

「……だってさ、このクラスにバレたら絶対面倒じゃんか。朝倉が寮の部屋に押しかけてくるよ?」

春日美空がアスナの耳元で小さく呟く。

「それは……分かるけど……うーそうね、このか、頑張って」

あっさり同室の仲間を見捨てるそうだ。

「アスナまで酷いー!超りん、何か方法無い?」

「……このかサン、頑張るネ。応援するヨ」

「超りんまで……」

「だけど、明日菜サン、同室の時点で騒ぎに巻き込まれるのは避けられないと思うヨ」

「あ……そうだった……」

どこか思慮が足りないのは相変わらず。

「フ……迂闊だったな、アスナ」

「う……ま、まだよ。このか、私まだしばらくエヴァンジェリンさんの家に泊まるわ!」

「それずるいー!」

因みにエヴァンジェリお嬢さんは当然と言うべきか、わざわざ騒がしい麻帆良の現状へと姿を見せる筈もなく、今日も不登校である……ではなく大学院卒である為通う必要性は最初から無い。
そのようなやりとりを更に後ろの席の綾瀬夕映は自分はどうなるのだろうか……というかのような微妙な表情をし、長谷川千雨は明石裕奈の宣言に「夢じゃないとか……マジありえねぇ……しかも明石の奴魔法使いの娘とか……」と呟き心底疲れている様子。
彼女はそろそろ現実を受け止めて良いのではないか。
別に生活の何かがいきなり根本的に変わる訳でもなく、そもそも長谷川千雨自身の電子関連の技術力自体十分一般から比較すると飛び抜けている事を認識した方が良い。
一方春日美空の前の席に座る宮崎のどかは4人の怪しいやりとりを気にしながらソワソワしていたが、綾瀬夕映の目配せで落ち着きを取り戻した。
他の面々はと言えば、サヨは適当、長瀬楓は何事も無いように「ニンニン」と微笑み、龍宮神社のお嬢さんはやれやれと言った表情で教室の後ろの騒ぎを一瞥、ザジ・レイニーデイはいつも通り無表情を貫き、桜咲刹那は孫娘がやや涙目状態なのを酷く気にしながらも周りに聞こえてしまうような声で話かける訳にもいかずそれを我慢し、古菲は明石裕奈の父親が魔法使いだったことに純粋に驚いてその輪に入って騒ぎ……まほら武道会に教授はいたのだが覚えていないらしい……そして葉加瀬聡美はパソコンを持ち込み目の色が変わった状態で依然作業中、茶々丸姉さんは我関せずを貫いている……大体このような感じである。
……いつもと何も変わらない。
因みに龍宮神社のお嬢さんと小太郎君はネギ少年が復活してからすぐに、夜中寝静まった頃にこっそり治療を済ませてあるので何ら問題はない。
……そうこうして授業は始まり、時は昼近くになる頃、所変わってネギ少年、ナギ、アリカ様は図書館島を訪れていた。

「クウネルさん、お久しぶりです。ゼクトさん、改めて初めまして、ネギ・スプリングフィールドです」

ネギ少年がナギとアリカ様の前に立ち、空中庭園でいつも通り寛いでいたクウネル殿とゼクト殿にはっきりと挨拶をする。

「これはこれは、ネギ君、ご無沙汰です。……お帰りなさい。困難な旅だったそうですね」

「改めてフィリウス・ゼクトじゃ。ネギよ、助かって何よりじゃ」

2人はゆっくりとネギ少年達の方向を向いて挨拶を返した。

「はい、ありがとうございます」

「3人共どうぞ好きな席にお掛け下さい」

「はい」

「ああ、そうするぜ」

「失礼する」

クウネル殿とゼクト殿が横に並んで座り、その向かい側に3人はネギ少年を間に挟んで腰掛けた。

「……ネギ君が来ましたし、少しまたこの前と同じ話をしましょうか」

「ああ、頼むぜ、アル」

「お願いします」

「ワシは茶を淹れてくる」

「頼みます、ゼクト。では……」

クウネル殿が先に話題を決定し、先月ネギ少年不在で行われた答え合わせの話が再び語られた。
途中話し手がアリカ様に代わり熱心にネギ少年に話しかけたりした……相変わらず初々しいと言ってもまだ僅か3日目。
ネギ少年はクウネル殿とゼクト殿が一体何者なのかを直接聞くことができて心底納得したようだった。
そして遠い親戚だという事がわかりネギ少年が「不思議な感じがします」と呟いて、クウネル殿がこれからも「好きなときにここには来て良いですよ」とそれに返していた。

「ウェスペルタティアの血族の清算をさせる事になってしまい、苦労をかけて済まなかった……ネギよ」

アリカ様が唐突に切り出した。

「いえ、母さん……確かに大変なのは大変でしたけど、僕は……僕がアマテルさん……ご先祖様と直接対峙……話せて良かったと思っています」

「……そ、そうなのか?」

「ネギ、お主アマテルと……話したのか?最早通じるとは思っておらなかったのじゃが……」

ゼクト殿も興味を持ったが、ネギ少年は始まりの魔法使いと話をしたとの事。

「はい、えっと……最後にぶつかりあった時、互いを理解し合える、幻想空間……のような場所に僕とご先祖様は跳んだんです」

「ふむ、あの太陽道とやらの効果か」

「多分そうだと思います。そっか……これは僕の口からしか……。あの……アマテルさんがどういう想いを抱いていたのか……聞いて、下さい」

「……うむ、聞こう」

「ネギ君、それは是非お願いします」

ゼクト殿とクウネル殿が真剣な表情してネギ少年に続きを求めた。
仮にも生みの親……と言ったところだろうか。

「はい。……ご先祖様は、美しい魔法世界をこの世の誰よりも、誰よりも、大事に思っていました。それと同時にその魔法世界への道を開いた事で魔法世界が滅びに向かう原因を作ってしまった事をずっと永い間苦しみ続け、全て自分の責任だと一人で抱え込んでいたんです……。僕が視たアマテルさんは、凄く疲れきった様子で泣きたいのに涙が出ない……そんなとても辛い表情をしていました」

「……アマテルは悲しんでおったのか」

「……私達が生まれた時からアマテルは表情、感情の分からない高魔力源体の姿でしたが……心中はそうだったのですね……」

「あいつ……泣いてたのか。俺も戦ったが……それは分からなかったな……」

「ネギ……それでネギはどうしたのじゃ?」

「……ご先祖様に、ひとりで抱え込まずに僕にそれを引き継がせて欲しいと……休んでください、とそう伝えました。言葉でうまく言うのは難しいんですけど……あの時感じたアマテルさんの想いは、今も僕の……ここに、しっかり残ってます」

ネギ少年は右手を自分の胸の辺りに当て、何やら思い出すような表情をしてそう答えた。

「……今までの話で分かった父さんと母さんの事や……色々素直に全て許せるとは言い切りにくい部分もありますが……でも、僕は、純粋なご先祖様の想い……これは絶対忘れずに大切にしたいと思います。僕はご先祖様と分かり合えて……分かり合えたのが、末裔である僕で良かったと……そう、思います」

……ネギ少年というウェスペルタティアの末裔とその始祖が本当の意味で分かり合い、脈脈たる連鎖を終える事ができた……というのは、ネギ少年本人が言うとおり良かった……のであろう。

「そっか……ネギ、良く頑張ったな。俺じゃきっとまた力任せにぶっ飛ばしてただけだったろうし、俺には分かり合うなんてできなかったろう……。その想い、ずっと大事にしろよ」

「はい、父さん」

「……アマテルもネギに想いを伝えられて良かったときっと思っておるじゃろう」

「ネギ君、アマテルの想い、聞かせてくれてありがとうございます」

「僕も誰かに知って貰いたかったので、伝えられてよかったです」

「本当に……良く成長したな……ネギ。私は苦々しく思っていただけじゃが……辛かったのは先祖も同じだったのじゃな……。ゼクトの言うとおり、ネギに想いを伝えられて良かったと必ずやそう思っておるじゃろう」

「はい……そうだと良いです。母さん……僕は、僕を最後に信じてくれたご先祖様に顔向けできるよう、これから何か出来る事をこの手で探したいと思います」

ネギ少年は開いた右手を握りしめて決意を秘めた目をして、そうアリカ様に伝えた。
……果たしてネギ少年は何をこれから先見つけられるのだろうか……楽しみにしておこう。

「うむ……そうか。ネギなら、必ずや見つけられる筈じゃ」

「くーっ!ホント立派になったなぁ、ネギ!」

ナギが感動してネギ少年の頭を無造作に……ナギの基準で撫で始めた。

「とっ、父さん、ちょっとっ、痛いです」

「ナギ、主、もう少し優しくできぬのか!」

「あ、悪ぃ……」

「……本当に……鳥頭とは大違いじゃな」

ゼクト殿が茶を啜って、一息置いて出した答えはこれ。

「お師匠……そりゃないぜ……」

「フフフフフ」

そしてそんなやり取りをクウネル殿は楽しそうに見る……と。
兎にも角にも、このような日常の訪れたウェスペルタティア一族の一幕であった。
その後、ネギ少年、ナギ、アリカ様の3人は話もそこそこに図書館島を後にして、丁度近衛門達が必死にメディア対応をしている頃、明日英国はウェールズへと行く準備に入ったのであった。



[27113] 69話 日帰り温泉
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:39
近衛門達の記者会見は、報道陣に対して非常に丁寧に対応がなされ、終わるべくして終わった。
声明発表よりも記者団に対する一つ一つの質問に対応している時間の方が遥かに長かった。
報道関係で起こり得る誤解と言えば、放送される際に何故か記録された映像に妙なカットが施されて繋がれ、通して見てみると声明を発表した側の意見の筋がズレたものになるという現象が起きる事などがあるそうなのだが……そうならないことを祈りたい。
因みに、ニュースを知った朝倉和美が発端となり孫娘は3-Aから追い掛け回される羽目になったが、孫娘が3-Aの他の魔法生徒について言及する事は無いという毅然さを見せた為、久しぶりに運が良いのか春日美空は面倒事をこの日は逃れた。
が……いつまで続くか超鈴音にしてみれば寧ろ見物であろう。
報道関係としては、今夜は各放送局とも番組内容を昨日までから急遽変更し、緊急討論が行われるそうだ。
恐らく意見は賛否両論となるのであろう。
……そのような事とは無関係に太陽も落ちかかる頃、小太郎君はエヴァンジェリンお嬢さんの家を訪れていた。
発端はネギ少年がエヴァンジェリンお嬢さんの家から電話をかけて呼んだから。
細かい事だが、後々死亡扱いになっているネギ少年の携帯電話関連で問題が無い様、ネギ少年が今まで持っていた携帯電話は既に解約されている。

「よ、来たで、ネギ。エヴァンジェリン姉ちゃん、上がらせてもらったで」

「あ、コタロー、待ってたよ」

「ああ、今日は、押しかけは来ていないから安心しろ」

ネギ少年は明日出発の為準備していたのを一旦やめ、小太郎君に向き直った。

「お、明日行く準備か」

「うん。故郷の村の皆の石化と、おじいちゃんに会いにね。……コタロー、この前話す時間無かったから」

「分かっとる。丸く収まったっちゅう事でええやん」

「……ありがとう、コタロー」

「そんで、ネギはこれからどないするんや?ここで教師続けられんようになったからにはそのままウェールズに戻るんか?」

「この先の事はまだ……分からないかな。一旦ウェールズに戻るけど、またすぐに麻帆良に戻ってくるよ。でも……そうだね。僕は……何か出来る事を探したいんだ」

「……次の目標やな。んー、ほな、その探し物見つける時、旅に出たりするんやったら、その時は俺も呼べや。……今度こそ最後まで横にいたるで。相棒やからな」

なるほど……成長したのはネギ少年だけではない。

「コタロー……うん、旅か。そうだね、旅に出るその時は必ず、そうしよう」

「おう!」

「うん!」

拳と拳を軽くぶつける2人は本当に良い相棒のようだ。

「ちょっと!聞いてれば何勝手な話始めてんのよ!子供2人で旅なんてできると思ってるの!?」

そこへアスナが割り込む。

「あ、アスナさん」

「アスナ姉ちゃん、こういう時は口挟むなや……。今すぐ旅に出る、なんて一言も言ってへんやろ。決意表明や、決意」

小太郎君が軽く息をつき、アスナに言葉を返した。

「う……ご、ごめん、コタロ。また危険な事しだすのかと思ってつい……」

「何だ何だ?2人とも旅に出たいのか?」

更に旅という単語を聞きつけてナギが登場。

「父さん」

「あー、何やホンマ似とるな」

小太郎君は神楽坂明日菜とナギを交互に見て言った。

「お、俺とネギの事か?どの辺だ?」

「ナギ、今のはどう取っても私とナギの事よ……。しかも何か否定できない……」

本人も自覚はあったようだ。

「あ?俺とアスナか!」

ナギは右手を左手に軽く打ちつけて納得した。

「父さん、旅というのは、さっき僕が言った出来る事を探す、っていう事で、いつか世の中を見て回って探す時はコタローと一緒に行こうという話です」

徐々に話が逸れて行きそうになる前にネギ少年が話を戻した。

「おー、そういう事か。おう、旅はいいぜ。俺も旅して色々覚えたしな」

「……ナギの場合は魔法学校が嫌でとりあえず飛び出しただけだろうに」

さも正当だと語るナギだったがエヴァンジェリンお嬢さんに容赦無く突っ込まれた。

「そ、そこは良いだろ別に」

「小学校中退……俺は折角入れてもろてるんやし……無いな。行くなら夏、冬、春休みやな!」

まず小学校中退という言葉自体……日本にはそもそも義務教育がある。
確かに旅と言っても何年も回らなければいけないという理由も無いのであろうし、長期休暇を活用という手がある。

「小学校中退なんてちょっとありえないものね」

「せや、何で魔法学校っちゅうんは小学生の年で終わりなんや?ナギさん年で言うたらホンマに小学校中退やんか。魔法世界にはアスナ姉ちゃんぐらいの年の学校あったで」

「そっか……ナギの学歴って小学校中退って感じなのよね……今は文字通りじゃないと思うけど」

「フ……大学院卒には遠く及ばないな」

小学校中退とは12年以上要する年数が違う。

「そこはだな、魔法学校と日本の小学校は違うんだぜ。色々とさ……細かいことは知らねぇけど」

ナギは説明に窮した。

「ナギ……」

「ウェールズの魔法学校は卒業したら、特定のお師匠様の元に付いて修行する、という慣習があるのよ」

見かねた様子で少し離れたところで準備をしていたネカネさんが助け舟を出した。

「ほ、そうなんか」

「流石ネカネだな!って事で俺もお師匠はいるし、問題ないな」

途端に元気になった。

「最終課題クリアできなかったけど、僕もマスターがいるから……いいのかな」

「ま、その辺は今後の世界の成り行き次第だろうさ」

「そうですね。まさか魔法使いの存在が公表される事になるなんて思いもしませんでしたけど」

「ホントよ……私まだお師匠様決まってもいないのに……」

アーニャもついに作業を中断し会話に入ってきた。

「きっと見つかるわよ、アーニャ」

「う……うん。ネカネお姉ちゃん」

「高畑先生達が頑張ってるし、きっと大丈夫よ」

「そうですね、アスナさん。タカミチと総督達なら大丈夫です」

「だな。で、さっきの話だけどよ、2人共どっか冒険行きたくなったら俺が連れてってやるからな!」

旅が冒険に変わっている。

「父さん!」

「ホンマか!」

「約束するぜ!」

「ナギ!何勝手に決めとるんじゃ!」

大声で言った為に、アリカ様もとうとう反応した。

「大丈夫だぜ、アリカ。何ならお師匠とアルも一緒にも声かけっからよ。あの2人どうせ暇だろうしよ」

「な、何故私が数に入っておらぬのじゃ!」

重要なのはそこだったらしい。

「だって男の冒険だぜ?」

「説明になっておらぬ!」

「あ……気が付かなくて悪ぃ。安心しろ、アリカ、寂しいなら俺がどこへでも連れてってやるからよ」

「う……うむ」

会話は……成立したスプリングフィールド夫妻。

「「「…………」」」

対してお嬢さん、神楽坂明日菜、アーニャは少々呆れたような表情。

「……ネギ、2人の時は行ける範囲で行こうや」

「……うん、そうだね、コタロー。見て回るだけなら大丈夫だし」

小太郎君は小さい声でネギ少年に話しかけ、ネギ少年もそれに落ち着いて返答した。
……この後、小太郎君はエヴァンジェリン邸を後にし、呪術協会支部へと帰っていった。
少しザジ・レイニーデイに目を向ければ、もう準備万端、後は寝て起きるだけ、という様子で……寝ていた。
そして翌朝、ザジはエヴァンジェリン邸に姿を現し、そのまま一行に入り、空港へと向かってウェールズへと旅立っていった。
ウェールズ到着はイギリスからの時間も含め、こちらの時間で夜、という頃。
そして9月25日、海をまたいだニューヨークでは国連総会2日目が引き続き行われ、早くも今回の通常会期の期間延長が決定されていた。
予定通り核関連の話し合いが行われるが、その1週間の間に各国でそれなりに意見を纏め、その後改めて魔法関連について議論が行われるとの事。
魔法協会が存在していない国も多くあるので準備の時間は必要であろう。
さて……再び麻帆良に目を戻せば、今度はザジを欠く3-Aは昨日に引き続き、大騒ぎして時間は過ぎて行ったが、放課後、ある2人が神奈川県へと向かった。
桜咲刹那はまだ漆黒の太刀をある所に返しに行っていなかった。
桜咲刹那は詠春殿に魔法世界から帰還してすぐにその事を報告したのだが、その際「落ち着いたら刹那君が直接素子君の所に返しに行くと良いでしょう」と言われた為もあるが、これまで丁寧に女子寮に保管されたままであった。
放課後、桜咲刹那は孫娘を伴って埼京線、麻帆良学園都市中央駅から一時間程かけて東京方面へと出て、横須賀線に乗り換えた。
セミクロスシートと呼ばれるドア傍の2人掛けの席を確保し、孫娘は見て分かる程に、桜咲刹那は見た目にはそれ程でもないが、楽しそうにしていた。

「ひなた荘ほんまに行くことになるなんて思わんかったなぁ。せっちゃん連れてってくれてありがとな。皆に追いかけられて大変だったんよ」

「滅相もありません。お助けすることができず……申し訳ありません」

「せっちゃん、謝る事なんて無いえ」

「はい……」

太刀は箱に入れられて網棚の上。

「世の中大変になったけど、ネギ君戻ってきて良かったなぁ」

「はい、本当に良かったです」

「超りんに聞くのはもう無しやけど、せっちゃんはどう思う?うちどうなっとるんか全然思いつかなかったえ。超りん、ずっと麻帆良にいた筈やのに」

「そうですね……。超さんは謎が多すぎて……。科学で解決できる事では無い筈ですし……私にも全然分からないです。ただ、そういえばザジさんのお姉さんという人が、超さんの未来がどうとか……と言っていたのですが、もしかすると……」

「……未来から来たんかなぁ?」

「はい……しかし、流石にありえないと思います」

「うー、分からんなぁ」

両手を頭に当ててしばらく唸ってみるも孫娘は分からなかったらしい。
未来人は本当に合っているが……とうやらザジ姉はそのような事を漏らしたようだ。

「……分かりませんね」

「分からん事は置いといてや。せっちゃんは高校上がっても麻帆良に一緒にいてくれるん?」

「は、はい。無論です。中学卒業後もお供します」

「はぁ~、嬉しいなぁ。ほな、高校の女子寮は同じ部屋になるとええな」

「!」

桜咲刹那は孫娘の発言に突然身体を反応させた。

「ど、どうしたん?せっちゃん、今ビクッ!てしたえ?」

「い……いえ、何でもありません。女子寮の部屋、高校になれば移るのでしたね。忘れていました」

「せっちゃんはうっかりさんやなぁ」

「お、お嬢様、今から向かうひなた荘も女子寮だと聞きましたね」

桜咲刹那は無理に話題を変えた。

「あ、そやったなぁ。うちもうっかりしてたえ」

孫娘は自分の頭を軽く左手で触れ、分かりやすく「うっかり」を表した。
……そんなに混んでいない時間帯であるのもそうだが、孫娘がいる空間はどうも緩い空気になるのは結界と言っても良いかもしれない。
2人はそのまま電車に揺られ、途中路面電車に乗り換え通算1時間程で、神奈川県日向市ひなた町に到着した。
調べた地図通りに2人はひなた荘に向かって歩みを進め、その場所に到着してみれば、その大きさを見渡し、しばし口を開けた。
近年一度立て直しがされた事によりまだまだ真新しいひなた荘、なかなかに広い。

「……思ってたのよりもずっと大きいなぁ」

「えぇ……大きいですね」

2人は気をとりなおして、ひなた荘の玄関へと入り、桜咲刹那が声を出す前に孫娘が先に声を上げた。

「すいませーん!どなたかいらっしゃいませんかー?」

……しかし、広いため、なかなか返答が帰って来なかった。
と思えば、激しい足音を上げて……頭には風変わりな物を被り、左手には謎の機械を持った人が現れた。

「魔法使いか!?」

2人を勢い良く右手で指さしてこのように尋ねたが……中身はインド人風の人。

「えー!何でばれ」

「お嬢様!」

「むぐ!」

孫娘は思わず何故分かったのかと叫び声を上げそうになったが、桜咲刹那に口を抑えられた。

「お!確かモトコの親戚やないか!」

カオラ・スゥはそう言って、被り物を取りようやく素顔を現した。

「か、カオラさん」

その拍子に桜咲刹那は孫娘の口から手を離した。

「カオラはん!」

「おー!ウチの事覚えとったか!」

「スゥ……何だ騒がしい……今日は教授達が揃って都合で休講になって大学が休みだというのに……」

そこへ今回の目的の人物が現れた。

「モトコ!」

「も、素子様!お久しぶりです!」

「素子はん!お久しぶりです!」

「ああ、詠春さんの……木乃香さんと刹那さんか。よく来たな、今日はどうした?」

「は、はい。素子様にお渡しするものを持って参りました」

「私に……?わざわざ刹那さんが?」

「こちらです……」

桜咲刹那は背中に縛って固定していた箱を降ろし、蓋を開け、丁重に両手で持って素子さんに渡した。

「あー!モトコの刀や!」

「あ……あぁ……これはわざわざ済まない。戻ってきて良かった……。ありがとう。礼を言う。……姉上に言わなくて済んだな……。いや、しかし、どうしてこれを刹那さんが?」

本音も混ざっていた。

「はい……先日盗んだ犯人に遭遇し、戦闘の結果取り返したので……お返しに上がりました」

「ま、まさか……盗まれていたのを知っていて……犯人を探してくれていたのか?」

「いえ……詳しい事は事情があって話せないのですが、ただの偶然の結果です」

偶然……である。
因みに、月詠という戦闘狂はゲートを使っていないのは間違いなく、観測した結果墓守り人の宮殿にその姿は無かった事為、まだ魔法世界を彷徨っている筈。

「そ……そうか。かたじけない。わざわざ直接ここまで足を運んで貰って……時間があるなら少し休んでいくと良い」

「ここの温泉にも入っていくとええで!」

「お、お気になさら……あ、お嬢様、どうなさいますか?」

「素子はんとカオラはんがこう言ってくれてるし、素直に上がらせてもらおう?」

「お嬢様がそういうのであれば、素子様、失礼致します」

「ああ、別に私がここの主でも無いから気にしなくて良い。それに今日は浦島はいないから温泉も安全だ」

「「?」」

……2人は疑問符を浮かべた顔をしたが、知る必要は無い。
2人は玄関からひなた荘へと上がり、カオラ・スゥの強い勧めによりまずは温泉へと案内された。
時刻は6時少し前、丁度太陽が落ちかかる夕焼けが見える頃。

「みゅー」

そしてこの声はと言えば、温泉にいた、たまちゃん。

「あ、たまちゃんや!元気にしてた?」

「みゅー?」

「たまちゃんは……魔法世界に行って思いましたが……どうも魔法生物みたいですね」

たまちゃんは孫娘に確保され頭の上に乗せられた。

「あー、そう言われるとそうやね!あ、女子寮のお風呂も広くてええけど、ここの温泉もええなぁ」

「はい……和風で本山を思い出しますね」

「オスティアで入った大浴場も広かったなぁ」

「あれも広かったですね。懸賞金が無くなっていたお陰で安心して入れましたし」

「そうやったなぁ。何かつい最近の事やのに夢みたいや」

「地球と比べるとどうしても、あちらのほうが夢のように見えてしまいますね」

「でも、そのうち身近になるんやろか?」

「世の中次第ですね」

「さっきカオラはん何で魔法使いか?なんて最初に言ったんやろ?」

「何故でしょうね……驚きましたが」

「みゅー」

ただの気分ではなかろうか。
とりあえず人を見れば魔法使いか聞いて確認したくなる症候群なのかもしれない。
少しの間、2人はゆっくり温泉に浸かっていた……。

「よー!2人の所、邪魔するで!」

カオラ・スゥ再び。

「スゥ、今入らなくても」

「カオラ、お客さんいるんでしょ?」

前原しのぶさんは高校から丁度帰ってきた所。

「モトコもしのぶも麻帆良に住んどる人の話気になるやろ?魔法使いの本拠地やで!」

「そ……そう言われると」

「そういう事か」

3人は孫娘達の近くに落ち着いて、温泉に入った。

「温泉気持ち良いです、おおきに」

「ありがとうございます」

「そうやろ!ここに住めば毎日入れるでー!」

「アクシデントも多いがな……」

「みゅー!」

「でや、2人は魔法使い見た事あるんか?」

まほら武道会の認識阻害は……完璧。
この認識を解く方法は……一つ。

「えっと……」

「それは……」

「スゥ、木乃香さんは近衛家の方だから……そもそも日本の魔法使いだ。昨日のテレビでも出ていただろう、近衛近衛門理事というのは木乃香さんのお爺さんだ。それに私の神鳴流も妖魔を滅する仕事をしているが、それは日本の陰陽術師、魔法使いの仲間のようなものだ」

素子さんの自己判断で解決。

「え!?」

「何やて!?」

「後はこの前のまほら武道会、あれには魔法使いが多く出ていた。気がついて……ああ、例の認識阻害か」

他人から指摘されたので。

「まほら武道会……魔法……おお!!ほんまや!言われてみるとそうやな!あれ魔法やったな!」

「あー!……そう言われると!」

「って……済まない。話してはいけなかったか?」

「い、いえ、素子様のお知り合いであれば」

「まほら武道会来とったし大丈夫や」

「むむむ、認識阻害っちゅうんは凄いな」

カオラ・スゥが唸り始めた。

「認識阻害は過去の出来事になったとしても、魔法なら魔法と、予め自分が知っているか他人から教えらない限りは基本的には認識できないようにする魔法ですからね……。特にまほら武道会の物は強力なものだったかと」

認識阻害とは阻害対象の事を知ってしまえば、効果をなさなくなる。
例えばネギ少年が一般的な杖で飛行する際の認識阻害をかけているとすれば、魔法使いが存在すると知っていて、ネギ少年が魔法を使っていると認識できれば、問題なく気づける。
つまり基本的に条件さえ乗り越えられれば……勿論認識阻害自体程度の差はあるのだが、認識阻害は意味を成さない。
そして認識阻害は発動している側から他者に接触する行為によって効果が薄まるという性質がある。
また、普通の認識阻害は他者からの指摘を受けるとすぐに解けるようになっている。
その例が今のカオラ・スゥと前原しのぶさん。

「せっちゃん、認識阻害ってそうだったん?」

「そうですよ」

「ふーむ、ほな、麻帆良で使うとる認識阻害はどないなもんなんや?」

「……そう言われると良く分からないんです」

「……うちも、分からんなぁ……一体何やろ」

「はー、魔法知っとっても分からんへんのか。テレビで解くって言うとったけど、それ待ちやな」

麻帆良一帯に展開されている認識阻害で主柱となっているのは「麻帆良の中で見えるものは、麻帆良の外で見えるものと違和感無く普通に感じられるように」という内容である。
元々麻帆良学園ができた1890年当初はあの認識阻害はかけられてはおらず、あっても麻帆良教会と後は魔法使い達が個人的に使用しているぐらいだったが、土地そのものの影響で学園の生徒達全体の才能の開花の為、急激な発展が進み、学生が多くいるだけあって、それが明らかに麻帆良の外と差のある水準になった頃から、魔法使い達がこの認識阻害をかけるに至った。
かけていなかったら今頃「いるだけで凄い人になれるかもしれない土地」などという文句で人口密度が非常に高くなり、常に混乱していたかもしれない。
魔法協会としては困るどころの話ではない。
ただ、弊害としてはそのような混乱は避けられたものの、科学が進歩した現代においては軍事研や航空部と言った辺りの活動が彼らにとって普通と認識できているが為に……どうにも行き過ぎの面がある事だ。
今すぐに認識阻害を切れない理由には、切るとあまりにも危険だから、という理由がある。
切る際には、麻帆良内のあらゆる活動を一旦禁止にする必要があるだろう。
でなければ、航空部で驚きの連続が起きて事故が発生しかねず、軍事研の演習で失敗が発生し麻帆良の住人が恐怖に怯えるなど……という事が起こり得る。
麻帆良の認識阻害は魔法使い、一般人関係なく全員認識阻害がかっていたほうが、それなりの弊害も伴ってはしまうものの認識阻害が全くかかっていない状況よりは、人々全体にとって都合が良い。
勿論、魔法使いの場合は一般人に比べて認識阻害の影響を受ける度合いにある程度差は必要。
魔法使い達が麻帆良の認識阻害を抜けているか……と言えば、実はその多くは抜けていない。
魔法とは直接関係無い、特殊技能や特殊技術の氾濫している麻帆良で度々起こる出来事に対しては、魔法使い達でも認識阻害が無ければ、当然異常と感じるのであり、常に驚愕の出来事の連続では精神的負担もあり、認識阻害に完全にかかっている一般人達との間で認識感覚に余りにも差ができすぎてしまい、果ては一般人が普通だと思っている中での適切な対応能力が寧ろ阻害されてしまう可能性がある。
……麻帆良の認識阻害の内容は先の通りだが、その抜ける条件は大量に存在し、かと言って1つ条件を満たすと全部が抜けられる訳ではなく、その条件の分だけ限定的に抜けるという複雑なもの。
例えば広域指導員としてのタカミチ君の行動は……彼自身認識阻害を抜けられていない。
一番乗り越えられているものは、麻帆良の中で見えるものは、麻帆良の外で見えるものと違和感無く普通に感じられるように」というものの下位内容として含まれる「麻帆良は他所とは、違う」という事ぐらいであり、これは裏関係を知っているというのが一つの条件である。
これによって、会話の中で、主柱の認識阻害のお陰で反応としては、麻帆良内でのある事象に対して「変ですね」ではなく大体「凄いですね」という発言になるが、それを聞いて「麻帆良は他所と比べると特殊な部分があるからね」という反応ができる。
しかし、だからといってタカミチ君が広域指導員で無音拳を使ったとしても彼自身が違和感を覚える事にこれは影響しない。
そういう意味ではウィリアムさんと長谷川千雨は……条件以前で全てを無視しているというのは本当に特殊体質。
超鈴音にしても、茶々丸姉さんを1-Aに当時入れたのは、超鈴音自身、茶々丸姉さんを学校に入れるという事自体に違和感を覚えていないからできた事でもある。
長谷川千雨と同じであれば、茶々丸姉さん自体にエヴァンジェリンお嬢さんが個人的に認識阻害をかけているとは言っても、学校に入れるという事はあり得なかった筈である。
全部の認識阻害を抜いていると言って良いのは、長谷川千雨、私、サヨのみ。
近衛門やエヴァンジェリンお嬢さん……今となっては超鈴音でも過半数は抜けてはいても全部は抜けていない。
実際そうでもないと長谷川千雨のように疲れてしまう。
彼女は常々「ありえない、ありえない」とばかり言い、外は外、麻帆良は麻帆良でこういう日常、と受け入れなかった事にも……こういうと酷な話ではあるが少しばかり問題がある。
彼女が一つだけかかっている認識阻害……というには語弊があるがそれは、前にも述べたことだが彼女自身の電子関係の技術であろうか。
自覚すべきという事だが、あれは彼女自身にとって当たり前の事で、変だと思う事自体がそもそも無いのであろう。
以前超鈴音がその事について指摘をしても、本人に変化が無かったのは、彼女自身が流した面もあるが、結局は認めなかったという一点に尽きる。
そういう訳で、魔法の存在が公表され「あれは認識阻害という魔法だったんだ」という事をようやく知れたからには、長谷川千雨には「一括して全部魔法だったのか」で納得して受け入れてもらいたい。
因みに超鈴音が長谷川千雨の技術に対して指摘ができたのは元々オーバーテクノロジー持ちという事で何もしなくても技術関連についての結構な数の条件を満たしており、未来技術からの比較という形で無意識に相対的に彼女の技術水準を計れたから。
……話が随分認識阻害に偏ってしまったが、ひなた荘を訪れた孫娘と桜咲刹那は温泉に浸かりながらカオラ・スゥ達と話を続けていた。

「木乃香はどんな魔法使えるんや?」

「うちは治癒魔法が得意なんや。ちょっとしたすり傷や切り傷ぐらいならすぐ治せるえ」

「おおー!それは医者いらずやな!」

「んー、でも、科学医療は治癒魔法ではできひん事ができるってうちは教わったえ。例えば……特に癌は難しいんや」

「白血病のようなものは治癒魔法という特性上治療は無理なんだそうです」

「一つの技術、と言っていただけあって、万能ではないという事だな」

「何だかそういうの色々面白そうですね」

「しのぶはまずは受験勉強をやらんとな」

「わー!分かってます!」

治癒魔法はその時点での状態において治療するという特性が強く、癌細胞のようにそれがそうであるものとして増えるものに対しては効き目が無い。
過去の状態へと戻す、情報を読み込む、といったような効果を持つ時間操作系の魔法でなければ難しい。
孫娘のアーティファクトはその類のもの……であった。
今はもうネギ少年との仮契約は失効しているので、アーティファクトを喚ぶ事は叶わない。

「大学受験か……うちら大学まで上がれるからなぁ」

「エスカレーターですからね……」

「国立にそんな事は無いんです……」

前原しのぶさんの受験事情。
孫娘達にしては割と年の近い年上の女性と話すという機会は新鮮だったのか、楽しそうであった。
しかし、そんなに長い間いる訳にもいかず、そこそこにして、2人は温泉から上がり服を着直して、少しお茶を飲ませてもらった後、再び麻帆良に帰る事になった。

「素子はん、カオラはん、しのぶはん、今日はおおきに」

「素子様、カオラさん、しのぶさん、今日はありがとうございました」

「そんなに気にしなくて構わない。こちらこそ刀を持ってきてくれて助かった」

「ここは旅館やから今度は泊まりにくるとええで!」

「はい、また来て下さい。先輩達も歓迎すると思います」

「おおきに。ほな、またいつか皆で!」

「では、失礼致します」

互いに挨拶を交わし、孫娘と桜咲刹那は既に日が落ちた中、路面電車の駅へと向かい、行きとは逆の道をたどり出した。

「せっちゃん、ひなた荘、ええとこやったな。今度は泊まりにいこな?」

「はい、お嬢様。是非そうしましょう」

「アスナ達も誘ったら楽しそうや」

「そうですね」

「身体あったか、あったかやね」

「はい」

「せっちゃんの心は?」

「こ、心ですか!?……それは、はい。心も温かいです」

「うん、良かったえ」

このように会話をしながら、2人は身体も心温か、2時間かけてこの日ゆっくり麻帆良への帰路へと……ついたのだった。



[27113] 70話 第二形態
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:40
ネギ達がロンドンを経て、ウェールズへと到着したのは、現地時間9月25日の夕方の事であった。
一行はロンドンで待機していたメルディアナ魔法学校関係者の手配したワゴン車に乗り込み、ウェールズへと向かった。
道中、普段混雑していない筈の山道にも関わらず、車の数が明らかに増えている事に一行は驚いたが、原因は当然、国連総会で魔法の存在が公開されたことであった。
しかし、メルディアナ魔法学校へ向かう為に続く道の途中のある村に至った所で検問が敷かれており、一般人と覚しき人々はそれ以上先に進めないようになっていた。
それを尻目に一行は検問を問題無く通過し、メルディアナ魔法学校へと行くことができたが、ネギ達が予想していた時間よりも到着は遅れた。
検問が敷かれている理由は無論、余計な混乱を避ける為の配慮である。
因みに、メルディアナ魔法学校がイギリス魔法協会も兼ねているかというとそうではなく、魔法協会は魔法協会でイギリスの地方行政区画で言えばウェールズではなくイングランドに別にある。
日も暮れてようやくメルディアナ魔法学校に到着した一行はそのままネギがネギであるとバレないよう、ネギの祖父であるメルディアナ魔法学校校長と校長室にて再会した。

「おじいちゃん、ただいま帰りました」

一行の中から1人前へ出て、ネギは帰還の言葉を述べた。

「おお……。話は聞いたが……本当にネギか……良く、良くぞ戻った。大変な旅となってしまったようじゃが、頑張ったな、ネギ」

死亡した筈のネギが戻ったという話を聞いてはいたが、見るまでは実感の無かったネギの祖父は、それまでの意気消沈したような表情からようやく解放され、安堵した。

「はい、心配かけて、ごめんなさい」

「儂の方こそ、配慮が足りなかった……済まなかったな……」

「おじいちゃん……」

ネギの祖父はネギに近づき頭に手を置き、優しく撫でた。
……その場にはしばらく穏やかな静けさのみが残った。
そして切り替えるように、残りの者達も挨拶をし、急にウェールズへとまた戻ってきた理由、ザジがここへ来ている理由の話へと入った。

「で、親父、こっちのザジ嬢ちゃんが村の皆の石化を解いてくれるらしいぜ?」

「そ、それは真か!?あの石化は最高位の術師でも神術級の魔法でなければ解けない筈」

「……ご安心下さい。必ず石化は私が解きます」

それに対してザジが答える。

「しゃ……しゃべった……」

「アーニャ、そういう事言わないの」

「あ……ネカネお姉ちゃん、つ、つい……」

ここに来るまでザジは殆どジェスチャー、それも酷く簡単なもので頷くか首を振るによるイエスかノーばかりが殆どであった為、ようやくまともに話した事にアーニャは驚いたのである。

「そ……そうか。ザジさん、お嬢さんは何者か聞いてもよいか?」

その場では特に魔力の一切感じられないザジを見て思うのも無理は無い。

「ザジさんは……」

「私は、魔界出身の魔族です。位も高い方です」

ネギが説明しようかという所をザジがはっきり自分で正体を明かした。

「あー、そうだろうってのはネギが言ってたから分かってたが、やっぱそうなのか。でも全然分かんねぇな」

「うむ……魔族であったか。なるほど、高位の魔族であればあの石化も解けるのも合点が行く。……お答え感謝する」

「……お気になさらず」

ザジは軽く一礼し、返答した。

「今からすぐにでも解くことはできますが……どうされますか?」

「そうじゃな……急な話で驚きだが……明日まで、待ってもらえるじゃろうか」

「構いません」

「重ねて感謝する」

「おじいちゃん!何で今じゃ駄目なの!?」

石化を戻すのを明日に回すという話になり、一刻も早く両親達に逢いたいアーニャはそれに語調を強めて言い放つ。

「それはじゃ、アーニャ。村の皆を今戻してもここのメルディアナの者達が驚いて混乱する。外も騒がしい状況では良くない。対応が取れるまで我慢して欲しいのじゃ」

「アーニャ、気持ちは私も良く分かるわ。でも、まだ少しだけ我慢しましょう?」

「……う……うん……分かったわ……」

「……うむ、長旅で疲れておるじゃろうし、今宵ゆっくり休むと良い」

「ああ、そうするぜ」

「はい、おじいちゃん、そうします」

「ネギ、一つ、ドネットにも顔を見せては貰えんか?ドネットも酷く落ち込んでおってな……」

「はい、それはもちろんです!」

「それが良いわ、ネギ。ドネットさん、自分の力不足のせいだと落ち込んでいたから」

「ああ、では頼むぞ」

……そしてこの後ネギは、校長室に呼ばれたドネットにも顔を見せ、謝罪をされるという事もあったが、何はともあれ見る見るうちにドネットの表情は良くなったのだった。
この夜、一行は魔法学校に泊まり……そして、翌日。
村の者達の石化が解除されるとなると、既に村が6年前に燃えて残っていない以上、生活の為の受け入れ場所が必要となる。
更に、村を襲撃させたのがメガロメセンブリア元老院の一部勢力であるという既に得た情報を念頭に置けば、石化した筈の村の者達が元に戻ったとなれば、その件が広まってしまうのは良くない。
いつまでも永遠に隠し続ける等というのは当然不可能である以上、誰も知らない所に匿っておくというのも後々面倒になる。
しかも、魔法の存在が公表された今となっては、戸籍関係を今まで通りあっさり用意するという方法で処理するというのもありえない。
ただ、運が良いのは、村の者達の戸籍は残っており、現在も、少なくとも生きてはいるという扱いになっている事であった。
結局どうする事になったかと言えば、元々交流のあった近くの村に住む者達で懇意にしていた者達各所に連絡を早急に回し、暗黙の緘口令を敷いた上で、その者らが用意できる空き家等の手配が行われたのである。
検問が敷かれている時点で、一般とも厄介な状況になっているのみならず、メガロメセンブリア本国に対しても今はできるだけ伏せなければならない、という経緯から魔法協会に情報が漏れないようその準備には慎重を期されたが、村の者達が戻る旨を聞いた者達は、そういう事なら、と全力で動いたのである。
結局明けて朝すぐに石化解除はされず、午後4時頃、最低限の用意はできたと言える状態になった情報が入ってようやく、ネギ達はメルディアナ魔法学校の立ち入り禁止の部屋へと螺旋階段を降りて向かった。
両開きの重々しい扉の鍵が開かれ、室内に廊下からの光が挿し込み、石化した者達の姿が顕になった。
アーニャとネカネはとりわけ緊張した面持ちで部屋に足を踏み入れ、非常に落ち着いた様子のザジに期待をかけるような想いを目に浮かべて見つめていた。
全員が部屋に入り、部屋の扉が再び閉じられると共に、それぞれが「火よ灯れ」による明かりをつけた所、ザジが言葉を発した。

「そのまま、後ろに下がっていて下さい」

「わかりました、ザジさん。お願いします」

ザジ以外の者はネギに続き、ザジに分かった旨を伝え、ザジとの間に間を置いて、後ろに控えた。

「では……始めます」

ザジがそう言葉を紡いだ途端、ザジの雰囲気がガラリと変わり、身体の内から湧き出すような膨大な魔力が溢れ始め、それと同時にプレッシャーまでもが際限無く膨れ上がり始め、ネギ達はそれを否応なしに感じ、緊張が張り詰めた。

「あ、あの時と同じ……」

「…………」

次の瞬間、ザジは不意にゆっくりと床面から浮き上がり、その頭には2本の角と背中には下に垂れた漆黒の翼が現れる。
更に続けてその背後にザジを覆うように目を閉じた女性の頭部のみが中心に見える巨大な漆黒の造形物が出現した。
女性の頭部が見えているその左右には両翼数メートルに及ぶ漆黒の翼が広がり、その中程の部分からは4本爪の2本の太い腕が地に向けてぶらさがっていた。
しかし、ネギ達から最も見えたのは、更にその巨大な漆黒の造形物の背後に展開された、どことなく完全なる世界の紋章に似た魔法陣であり、それを見たナギとアリカは咄嗟に息を飲んだ。
ただ、円形の魔法陣の左右に翼が伸びているのはほぼ同じであったが、完全なる世界の紋章が魔方陣の下部に三方向に別れて伸びる尻尾のような部分が無く、魔方陣の中に描かれている図形も細長い竜の尻尾のようなものでは無く、5つの頂点を結ぶ星型が描かれているという点が異なっていた。
そしてザジの背後の造形物の純白の女性の口が大きく開かれ、キィィンという甲高い音と共にそこに白く輝く光球が見る見るうちに形成されて行き、最高潮に達した瞬間。
全てを飲み込む光線が左から右へと全ての石像を薙ぎ払うように、一閃した。

「きゃっ!」  「ぬっ!」  「うわっ!」

余りの眩しさに思わず両手を顔の前に上げ、目も瞑りながらネギ達は声を上げて……感じられる閃光が収まったように思われて徐に再び目を開けた先に見えたのは……。

「しまっ!……こ、ここは!」  「こ、ここは!?あ、悪魔は!?」  「なんだ!?」  「一体!?」

石化が解け、色彩を取り戻した、杖を持った村の人々の姿。
ザジの背後に浮かんでいた物は既にその場に姿は無く、残すはザジ本人に現われている角と翼が徐々に引いていく所であり、ネギ達の視界を遮るものは無かった。
スッと地に降り立ったザジはそのままネギ達に振り返りサーカスでの演目を終えたかの如く、恭しく一礼をし、ネギ達に手で村の者達の元へ歩くように手で促した。

「お母さんっ!お父さんっ!」  「お父様っ!お母様っ!」  「スタンさんっ!」  「皆っ!」  「ま、真に……」  「大したもんだな!」

真っ先にアーニャとネカネは両親の元へ飛び込み、ネギはスタンの名を呼び、アリカは村の者達全員へ、ネギの祖父は皆が本当に戻った事に感動し、ナギはザジに対してこの状況に感嘆を表した。
村の者達は皆、今さっきまで悪魔の大群と戦っていた筈だったという記憶に混乱を見せたが、既にその場が違う所だというのに気づき、落ち着きを取り戻した。
薄暗い中、ココロウァ夫妻はいきなり飛び込んできた赤毛の少女に一瞬動揺を見せたが、何度もお母さん、お父さんと泣きながら声を出す少女が誰であるのかを悟り「アーニャ」と一言心を込めて呼んだのだった。
ネカネはその姿に然程変化は無かった為、ネカネの両親である、こちらのスプリングフィールド夫妻はネカネをそのまま受け止めていた。

「スタンさん、お帰りなさい」

「お……おぉ……もしや、ネギなのか?」

スタンは最初に声をかけて近づいて来た少年だけに目を凝らし、ネギであるかどうか自然に尋ねた。

「そうだぜ、スタンの爺さん!」  「そうじゃ、スタン」

「な、ナギ!?アリカ!?お前達まで!」

続けて名を呼んだ2人の人物の姿を見て、スタンは大層仰天した。
そんな中ネギの祖父とザジは未だ薄暗い為扉を開け放ち、外の光を取り入れた。
そこに丁度、螺旋階段の上から、幾つもの足音が響いてきて、息を切らせて予め今日の事を知らせていた何人かの魔法使いが現れ、先程の異常な魔力反応は何かと慌てて尋ねたが、ネギの祖父が「案ずることはない。村の者達は皆無事に戻った」と落ち着いて言葉を返した。
今まで一切音がする事も無かった部屋からはこれ以上に無い程賑やかに人々の声が漏れ聞こえ、間もなく、明るい廊下へと皆ゾロゾロと出てその姿をようやくはっきりと確認する事ができた。

「スタンさん、あの時の事、僕はずっと……ずっとお礼を言いたかったんです。スタンさんのお陰で僕は、今こうして、ここにいます。あの雪の日の夜、助けてくれて……ありがとう……ございましたっ……」

「何じゃ……礼儀正しくなりおってからに。……儂にとっちゃついさっきの事じゃが……あのいたずらばっかりしておったお前がこんなに成長していたのじゃ……あの悪魔に一矢報いてやった甲斐があったわ」

「スタンさん……」

「はーっ!口の減らねえじいさんだなぁ!素直に喜べよ!」

「お前なんぞ、いきなり現れたと思えば何も変わっとらんじゃろうが!馬鹿もんが!」

「あ?いいじゃねぇか!元気な証拠だろ?つか馬鹿って何だよ!」

「馬鹿じゃろうが!子供の顔も見んで勝手にどっかに行きおって!」

「あー!?俺だってなぁ!」

途端にナギとスタンの言い合いが始まり、最初に話しかけたネギはその言い合いがどんどんエスカレートしていく様子を止めようかどうかオロオロし始めた。

「……あ……あの……母さん、止めなくていいんですか?」

「案ずるな、ナギとスタンはいつもこうじゃった。直に終わる」

「そ……そうなんですか?」

「うむ、そうじゃ」

アリカは放っておけばそのうち終わるだろうというのを、安心させるようにネギに笑いながら語りかけた。
実際言葉を早口で捲し立てあったナギとスタンだったが、アリカの言うとおり、いつのまにか仲が良さそうになって言い争いは自然と解決した。
その後、スタンだけでなく、ネギ達は他の村の者達にも挨拶を順にしていき、互いの無事を喜び合った。
……程なくして村の者達が皆大体状況を掴めた所で、ネギの祖父がその場を纏めに入った。
石化を解除したのがザジであることはザジが言わないようにこっそり頼んでいた為に伏せられ、今回の件で口外してはいけない事を一つずつ知らせ、この後の動きについても説明がなされた。
そして、一旦解散となり用意していた通りの手筈で動き出した。
ココロウァ夫妻はウェールズでアーニャが住んでいる家へ、ネカネの両親もネカネが住んでいる家へとこの日は向かい、6年越しの家族団欒を果たす事ができた。
別れる前、アーニャとネカネはザジに深く感謝を忘れずに述べ、ザジは無言ながら笑顔でそれに返し、家族の元へとどうぞ、と手で指し示した。
そして校長室にて、ネギはザジに真剣な表情で改めて感謝をしていた。

「ザジさん、村の皆を、ありがとうございました」

「礼には及びません。プレゼント、満足頂けましたか?」

「はい、それはもう。言葉では表しきれないぐらいに……」

ネギとザジは互いにとても穏やかな笑顔で言葉を交わした。

「……それは良かったです。ネギ先生、これでまた新たに、前へと進めると良いですね」

「!!…………はい、もちろんです。僕はこれからも前に、進みます」

「ネギ先生、頑張って下さい」

「はい、頑張ります!」

こうして、ネギにとって心の根底に最後まで重い重い枷となっていた、メガロメセンブリア元老院が差し向けた悪魔の襲撃によって引き起こされた村の者達の石化という出来事は、ネギにとってはこれからも忘れられはしない事に変わりはないが、一つの区切りがついたのであった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ウェールズの村の人々はザジの派手な姿で無事全員石化を解除された。
ネギ少年達はあの後3日間ウェールズに滞在し、ザジがいるからという事もありいつまでもいられない……ザジ・レイニーデイが中学校に通う意義を考えると、急ぐ必要など無いが、そういう事で、ネギ少年一家とザジ・レイニーデイはアーニャ、ネカネさん達とは別れ、再び日本は麻帆良へと、ロンドン・ヒースロー空港から成田へと飛んでもう間もなく戻ってくる所。
日付は9月30日、時差の関係であちらでは数時間の差があるが、今日が丁度国連総会の元々当初の核軍縮関連について討議がされる予定の最終日。
因みに、この数日の間で春日美空もいわゆる魔法生徒バレを果たし、面倒事に巻き込まれるのは結局孫娘とわずかに差が出た程度となった。
原因はシスターシャークティがテレビに魔法協会の人間としてテレビに映っているという情報を朝倉和美が入手した事で、そのシスターシャークティが出入りする礼拝堂に春日美空はいつもいるという事から「春日も魔法使い?魔法使いなんでしょ?ねぇ、私に話してごらんよー!!」とどこまでもしつこく追い回された結果、この上なくうんざりした顔をして白旗を上げるに至ったのである。
しかも「美空でも魔法使いやってるんだったら私でも魔法使いなれそう!!」と周りが喜びだし、それはある意味春日美空にとっては……不名誉千万であろう。
そんな所、超鈴音は「早かたネ、ミソラ」とこっそり言い「ははは、マジ、一時の平穏だったわ。儚すぎる……」と死んだ魚のような目をして答えていた。

……さて、少し視点を広く取れば、麻帆良に張られている認識阻害について「そんなモノは解除するべきだ!」という世論が後を絶たないという現象が起きるべくして起きたが……麻帆良の認識阻害についての説明が余りうまく伝わらなかった事が原因。
もちろん、よく知らずに「思考を操作して洗脳まがいの事をしているんだ」という勝手な思い込みを持っている人々がいる限りはある程度やむを得ない。
これまで麻帆良の学園結界の定期メンテナンスは年2回20時から24時にかけて行われていたが、これは学園「結界」であって、認識阻害とは関係無い。
学園結界は電力を併用しているが、認識阻害の方は純粋に魔法のみであり、今まで切れた事は無かった。
認識阻害は近いうちに解除されることは決定しているので、現在目下、認識阻害を解除するとどうなるかという事について、せめて麻帆良内には徹底した周知が行われ、解除した折に麻帆良内で事故が起こらないようにと準備がされている。
既に先月の時点から日本政府も麻帆良入りをしており、その日時の最終決定には政府も関与する事となるそうだ。
また、この数日で麻帆良内にメディアが多く入り、麻帆良について色々報道がなされた訳だが、技術水準の違いに麻帆良外の大学、企業が愕然とした。
大層心に衝撃を受けた人が続出したとの事。
それもその筈、これまで超鈴音と葉加瀬聡美がやり過ぎたせいもあるが、各技術それぞれが元々麻帆良外より遥かに進んでいたが、とりわけ報道された田中さん達に対する反応がかなりのもの。
各所から「あれは本当に自律可動しているロボットなのか!?」や「現行技術から言ってありえない!」という研究者達の嘆きが聞こえてくるとか。
インターネット上ではとある某技研工業が開発した世界初の二足歩行ロボットが後ろに(笑)をつけて呼ばれるようになった……という事が話しの種にされている。
仕方ない面はある。
サヨが超鈴音達に適当に変換して渡したプログラムは私達が技術提供元であり、至高の技術、超鈴音風に言えばオーバーテクノロジーである為、それを動作に取り入られ最適化されている田中さん達は……話題になっている通り「どこかの州知事さんが主演の映画の如く動きまわる」……ものと全く遜色が無いと評されている。
この情報は今までSNSは超鈴音が、通常の情報系は麻帆良の専門機関が処理していたが、それもできなくなった今、瞬く間に日本どころか世界に出回り、世界のロボット業界は震撼したそうだ。
曰く「何だアレは、ロマンがありすぎる」と。
とりわけ佐藤さんは女性型であるという事から大変人気が出たそうだ。
超鈴音は今年の3月頃「ロボット関連企業に投資しようか……」と考えていたが、結局しておらず、余計な敗北感を与えずに済んだのかもしれない。
そんなロボットを作った麻帆良大工学部の人々は超鈴音を含め、基幹技術については公表する意思がある事を声明発表した。
これによって、ロボット業界の人々は震撼したかと思えばすぐに狂喜乱舞したそうだ。
意思はある、というのは、技術格差から、技術の取り扱いについて取り決めが法的にきちんとされないと危険すぎるからとの事。
当然、その旨についても言及された為、ロボット業界は各政府に対して「魔法世界云々もいいが、こっちにも目を向けてくれ」と言わんばかりに嘆願し始めたのだった。

《隠すのは無理だとは想定していましたが……大丈夫ですか》

《いやー!無理だたネ!麻帆良内に浸透させ過ぎたヨ!大丈夫か、と聞かれれば、大丈夫ではないが、何とかなると思うとしか言いようがないネ》

投げやりな雰囲気。

《そうなりますか……》

《しかし、あの画期的動作プログラムについてはまだ公表する気は無いからまだマシな方だヨ。あれは私にとてもオーバーテクノロジーだしネ》

《ええ、急激に技術進歩しすぎると危険ですしね。碌な事にならない可能性もあります》

《麻帆良でさえロボットの暴走はよくあるのだからとてもではないが簡単に情報は公開できないヨ。それに動作プログラムの方は超包子でも使ているだけに、勝手に公開という訳にはいかないしネ》

《……そうでしたね。真っ当な技術の使われ方ですが、動作プログラムは流石に無理と》

《悪用方法はいくらでもあるからナ。それに情報が出たせいで、ただでさえ、ハッキングが増えているのに、更に急激に増えだしたのは勘弁して欲しいネ。メールの確認はプログラムが必要かどうか自動で振り分けるからいいが、それでも数が増えすぎだヨ》

《いわゆるハッカーの中には突破できるかどうか腕試しをしているような人もいましたか》

《うむ、いるネ。他所でやて欲しいヨ。私も余り大きな声では言えないが》

《耳が痛いですね》

私達もハッキングはよくしているが、人間ではないから何ら問題はない。

《しかし、田中サン達は全部一旦回収しておけば良かたのかもしれないが、今更撤収という訳にもいかなかたから諦めるしか無いネ。これで外部がやる気を出してくれる事に期待するヨ》

《そうであってくれると良いですが。……この1ヶ月を思えば、麻帆良の専門機関の情報処理がいかに優秀か》

《電子精霊は魔法使いが現代化に合わせて、独自に開発した技術としては特に素晴らしい物の一つネ》

《ええ、お陰で今まで麻帆良に限って言えば完全な陸の孤島を呈していられた訳です》

電子精霊は使用者にもよるが、その精霊のイメージが可愛かったりする事があり……そういうもの情報操作をされていたと分かると、気が抜ける人も続出するかもしれない。

《ふむ、このまま麻帆良が他の魔法協会の拠点とは明らかに違うと知られる日も近いだろうネ》

《他の魔法協会の拠点と比べるまでもなく、麻帆良はそれこそ土地の影響か……特殊能力や特殊技術を備えた人材・組織が多すぎますからね。今はまだまだ、魔法のせいでそうだ、と思われているようですが、そのうち違うのがはっきりするのでしょう》

《そうなると、関係が悪化しそうなのが日本とメガロメセンブリア、日本と地球の他国が今のところ可能性が一番高そうだナ》

無くはない。

《麻帆良の土地を巡って争いなどというのは、人気があるのは結構かもしれませんが、程々にして欲しい所です》

《この件には私は介入できないから、悪くはならないようにと信じて見守るだけネ》

《まだ開始地点のようなもの、しばらくは不安定なのは仕方ないでしょう。……私も同じく、これまで通り見守るのみです》

《うむ、憂いていても意味が無い。魔法が公表されたからには、それを最大限活用してやりたい事を実現してみせるヨ!》

超鈴音にはやりたい事、やる事が際限無くあるのは知っている。
少なくとも暇になる事は無い。
私にできるのは、協力を頼まれたらそれを手伝う事や……後は、超鈴音を狙う刺客に目を光らせる事。
件の組織は彼らに取ってこの予想外の世界情勢にどう動きを見せてくるかはまだ分からず、油断はできない。
いずれにせよ目下、次のこの1週間である程度国連で魔法関連について議論が纏まる事を期待する。



[27113] 71話 寿司進化論
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:42
あー……ほんっとマジ一瞬だったー。
朝倉しつこすぎる。
全速力で走って逃げた所でアレだからね、教室に戻ればすーぐやってくるし。
しかも何か私が魔法生徒で魔法使えるなら誰でも魔法使いなれそうって皆楽しそうにしてるけど、それ……どうよ。
このかがやってると難しそうみたいなイメージが、私でもってんなら自分もできるって言いたいんスか……。
あれだよ、魔法なんて難しさの問題じゃないスからね。
魔力容量無いと魔法無理なのは事実だけどさ。
大体毎日魔法使うのかって言ったら私なんか……まー、あれだ、イタズラ魔法とかボイスチェンジで遊んだり……することもあったりするけど、絶対必要っていうのでもないし、ゆーな達が「将来魔法使いになりたーい!」とか喜んでるのは、もう全然分かってないスね。
ゆーなのお父さんは娘に魔法使いだっていうの話したらしいけど、杖も本も特に渡してないらしく、このかに「何か教えてー!」ってせびってた被害が私の所まで来たのはマジ勘弁。
面倒な事になりそうだったから、杖とか本は今全部私の魔法生徒バレの元凶のシスターシャークティの所に……皮肉な話だけどそこ以外無いから預けてある。
お陰で女子寮の部屋に朝倉達に押し入られて家探しされた時「春日!今度こそ杖は杖!?箒はー!?」って言われても「そんな物は無いッ!!」って言ってやった。
ははは!一泡吹かせられたぜッ!
……まー、そんな訳で疲れた、うん。
そんな私を気遣ってか同室の五月が作ってくれるご飯美味い……泣いてもいいか。
五月はマジ幸せの化身。
で、じゃあそういやこのかは杖とかどうしたのかってこっそり聞いたら予めエヴァンジェリンさん所とか、桜咲さんとたつみーの部屋、後はこのかの師匠の所にそれぞれ預けてあったらしい。
つか、その時このかの師匠があのクウネルさんだったの今更聞いたんだけど……驚いたわ。
てっきりじじぃかと思ってたし。
実際クウネルさんは治癒魔法の腕は凄いらしい。
腕の骨折でも詠唱一発その場で後遺症無く治るとか、どんだけ。
それはともかく……今日から10月に入って、魔法が公表されてからはえーっと……9日目か。
まだまだこれからスね……。
はー、まあ魔法使いだってのがバレたからって今のところ、それこそついこの間までいた魔法世界の拳闘大会とかのやたら殺傷力のある魔法とかは不用意に映像で公開されてないから、変に喧嘩売られたりしなくて済んでるし特に生活に変わりは無いんスけどね。
いや、変わったと言えば、まぁ、あれだ、陸上部かな……。
私陸上部で足速いから実は!なんて勿体ぶらなくてもエース!なんだけど、魔法使えるって知られて「実は魔法のお陰で速いの?」とか周りに聞かれたのは……あれは困ったなぁ。
ネギ君達じゃあるまいし、部活で自分に魔力供給して走ったりなんかしてないから。
皆には魔力供給だとか身体強化なんて言っても意味不明だろうから「魔法で補助してまでわざわざ毎日陸上部で走っても達成感なんて無いから使ってない」って答えといた。
皆もそれで「ごめん美空……普段適当な所あるのに、走ってる時はいつも生き生きしてるし、それなのに魔法使ってなんか無いよね」と分かってくれたんだけど、何か寧ろ私が言葉返しにくい雰囲気になったのは何故。
というか、判定基準に私が適当ってのが入ってるのがまた気になるんスけど……それは敢えて突っ込まなかった。
まー、そんな感じで、ここ最近を振り返りつつ、今日の授業も終わったー!!
ネギ君の姿が教壇から消えてしずな先生が担任になってから1ヶ月経ったけど、何か慣れたなー。
委員長がいつもホームルームの時危なそうだったのが懐かしいスよ。

「はい、皆さん、世間は色々大変ですが、既に告知はされているように、10月10日から今年も去年に引き続き4日間体育祭は行われますから体調管理には気をつけるようにね」

「「「はーい!」」」

鳴滝姉妹はいつも元気だなー。
あれ……今年のウルティマホラは超りん噛んでるのか……?

「超りん、今年のウルティマホラは超りん絡んでんの?確か要項に名前は載ってたけど……」

「私も忙しいから、去年程ではないがスケジュール管理には今年も一応協力しているヨ。でも段取りは去年の経験があるからほぼ実行委委員会任せネ」

「あー、そっかそっか。でも忙しいって……例の田中さん達の事スか?」

「それも含めて、色々ネ」

私麻帆良祭でめっちゃ追いかけられたからアレの怖さは良く覚えてるけど、そういや麻帆良は凄いとは思っても、明らかに変じゃ?とかは思わなかったからなー。
ニュースではっきり出て気づいたけど………認識阻害改めてスゲー。
確か情報系の対策って魔法協会は勿論、他複数の専門機関で対策取ってるって聞いた事あるけど、シャットアウトしまくってたんだな、ずっと。
地味すぎるけど……凄く大事だったんだなー。

「あー、超りんの場合あちこち所属してる所あるから忙しいのはいつもの事か」

「その通りネ」

「で、運動がてらにウルティマホラには出ないの?」

「今年は遠慮しておくヨ。古もそうだしネ」

「はははー、くーちゃんはなぁ……」

魔法世界で修行してた所見たけど、最早インフレしすぎで、ウルティマホラに出るまでもないって感じだもんなー。
あれだよ、拳一発で大岩が割れるんスよ……そんなの一般人喰らったらどうなるかなんて分かりきってるわー。
気を使わないっていうならまだアリかもしれないけど、格闘技系だとその辺がな……気の扱いも一応修行の成果って事だし。 
地球の格闘技これから魔法世界の拳闘大会の映像とか流出したらどうなるんだろ。

「……美空、ルールがあってこそ、競技というのは楽しめるのだから早々変わらないヨ。いずれは変わるかもしれないけどネ」

おいおい……超りん、だから心を……。

「またかーって……そうスね。確かにルールは大事だわ」

楓と短距離走やったら泣けるしな……。
長距離瞬動術だっけか、あれでスタートの段階で足に気を溜めとけば?……かな、世界新記録どころの話じゃないし。

「それでは、今日のホームルームはここまでね。今日の掃除は4班の人達忘れないでね。それじゃ雪広さん、お願いします」

「はい、先生。起立!」

おっと……終わってたか。
席から立ってと……。

「礼!」

私は精神的に大分疲れてるけど皆は元気に挨拶して今日も学校は終わり。
体育祭も近いし今日も部活行くかー!
……ってその前に私4班だから掃除だ。

「美空、またナ」

「おう、超りん、またね」

運動部系の皆は体育祭近いからすぐに教室を後にしていった。
超りんは……あの様子だと今日は葉加瀬と工学部って訳じゃないみたいスね。
そして我らが班長のアスナは……。

「じゃ、さっさと掃除終わらせよっ!」

「そやね!」

「はいです」

「りょうかーい」

「ああ」

アスナ、このか、ゆえ吉、長谷川さんで組まれたこの4班ももう長い事変わってないなー。
にしてもアスナやたら元気いいな今日。
一方長谷川さんは……この前より少し元気になってるか。
教室の長机を手分けして下げーの、箒で掃きーのと。

「アスナー、何か今日いいことあったのか?」

「えー?それはね!……ひみつ!」

清々しすぎる笑顔で答えるのを拒絶されたし。

「はぁー!?」

「ふふふふ」

不気味だぞ……。

「美空ちゃん、帰ってくるんやよ」

「あ、なるほど」

このかがこっそり通りがけにそう言って教えてくれたけど、そういう事か。
ネギ君達が戻ってくるんスね。
って事はザジさんもか……一体何者というか何用でーって、あの墓守り人の宮殿でザジさんの姉が現れたって事だったらしいと楓達はそう言ってたから……また何か特殊能力持っててそれ関係かねぇ。
あの時ネギ君いなかったから真相は良くわからないスけど。

「…………」

「……長谷川さん最近疲れてたみたいだけど少し良くなった?」

「春日か……ああ少しな」

どうも少し元気になったのは、例のロボット関係の報道がされてからなんだけど……。

「良かったスね」

でー、結局アスナが異常に働いて、掃除は本当にさっさと終わった。

「それじゃ掃除終わりー!!このか、ゆえちゃん、美空ちゃん、長谷川さん、またねっ!」

「ほななー!」

「はいです」

「ちゃんと前見ろよー!」

「大丈夫よー!!」

……また馬鹿みたいな速さで走ってったなー。
廊下は走るなと……まああの様子じゃ無理か。
長谷川さんもさっさと帰っていった。

「ゆえは良いん?」

「ご家族がいるですし……行くならのどかもと」

「ほうか~」

ネギ君に想いを寄せているのは相変わらずみたいスねぇ。
接点が激減してるからどうなるんだか。
……ま、それはそれとして。

「じゃ、私も陸上部行ってくるよ!」

「行ってらっしゃい、美空ちゃん」

「行ってらっしゃいです」

よーし!体育祭で1位取るぞー!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今日放課後、私は久しぶりに、五月さんが常駐している超包子に働きに来ています。
外来の人が増えているので今稼ぎ時なんです。
色々騒がしいですけど、経済的には潤いますから。
火星の方は隔地観測を無理やりしてもいないので、放っておいて大体大丈夫ですし、魔法世界の情勢自体はまほネットに介入して走査してまとめて情報収集するので問題ありません。
計算を手伝う必要も、鈴音さんが今日は雪広グループに行くのでこちらも問題ありません。
外国の方のお客さんでも私言葉は普通に話せるので対応できますし、役に立っているんです!
……と、言ってもまだ部活動中の時間ですし、企業も仕事が終わっている時間帯でもないので……まだ忙しくありません。
そんな所へ、やってきたのは……珍しい人達でした。

「いらっしゃいませ!」

「お嬢さん、注文よろしいですか?」

「ふむ……ここが超のやっておる店か」

「はい!いかがなさいますか?」

こうして直接話すのは私は初めてですね。

「では……」

「ワシは……」

……何か……注文3時のちょっとした腹ごしらえなのかと思えば結構多かったです。

「以上でお願いします」

「はい、承りました。五月さん、注文入りました!」

「はい!」

早速五月さんと一緒に手分けして調理を始めてできたそばからカウンターに座ったクウネルさんとゼクトさんの前に出して行きました。
もぐもぐと良く噛んで次々ゼクトさんは皿を空にして行き、クウネルさんは流れるような動作でいつの間にかこちらも皿を空にして行きました。

「いかがでしたか、ゼクト?」

「うむ、満足じゃ。とても美味い」

「それは良かった。ここは超さんの友人が直に調理している店だそうですから。お嬢さん……合っているでしょうか?」

「はい、合っています。料理満足して貰えたみたいで嬉しいです」

「できれば、よく差し入れ、感謝しているとお伝え下さい」

「はい。鈴音さんに伝えておきます」

「……なるほど、やはりもう一人は貴女でしたか」

クウネルさんとゼクトさんが私に視線を向けて来て……。

《念話で失礼します。初めまして。私はアルビレオ・イマ、クウネルとお呼び下さい》

ゼクトさんにも繋がっているみたいですね。

《はい、初めまして、クウネルさん、ゼクトさん。私は相坂さよと言います》

《既に知っておるようじゃが、ワシはゼクトじゃ。お初にお目にかかる》

《さよさんがもう一柱という事でよろしいでしょうか?》

《はい、そういう事です》

《……この場で念話であまり深くは話すのは遠慮しておいた方がよさそうですね》

《そのようじゃな》

《では、さよさんももし宜しければ私達の住処へどうぞいらして下さい》

《……はい、ありがとうございます。鈴音さんが行く時に一緒に付いていく事にします》

《その時はお待ちしています》

……たったこれだけで念話によるクウネルさんとゼクトさんとの会話は終わりでしたが、ここではやっぱり話し辛かったですね。
2人は「また来ます」と言って超包子を後にしましたが、観測してみた所、今度は違う店へと向かっていったのですが、麻帆良巡りをしているらしいです。
というか……クウネルさんは……。

《先月頃からいつでも出られる体勢に入っていたのですが、どうやら今日出てみる気になったそうです》

あー、丁度のタイミング。

《そうだったんですか。私はクウネルさんとは直接の関わりを持つ必要無かったので確認してませんでした。まほら武道会で姿は見られていましたし、私の事に気づいているのは当然ですよね》

《……そうですね。クウネル殿が今日地上に出てきてサヨと会ったのは、超包子で働いていたからこその偶然ですが》

《このまま会わないという可能性もあったんですよね》

《あくまで可能性ですが……既に今更。珍しい事ですし、あの2人の様子を視るというのも面白いかもしれませんね》

《ゼクトさんが確か地球に不慣れなんでしたよね?》

《ええ、なかなかに独特の感性を持っているかと》

《視る余裕はあるので、って当たり前ですけど、視てみますね。キノもそういうからには視るんですよね?》

《勿論です》

やっぱり。
……と、いう事で、超包子で働き続けながら2人を観測して追跡してみましょう……。

「ゼクト、最初の一軒目で食べ過ぎではありませんか?」

「問題ない。次の蕎麦というのは軽いのじゃろ」

「ええ、確かに中華料理程はもたれませんが」

「ならば問題あるまい」

「蕎麦には醤油ですからゼクトは気に入るでしょうね」

「詠春の鍋で使っておったアレか」

2人は麻帆良の蕎麦屋さんに入って行きました。
まだまだ時間帯的に混んでいないので入ってすぐ席に着いた2人でしたが、ゼクトさんはメニューの多さにどれを選べばいいか迷っていました。
……というか、さっき選ぶのが面倒だったから適当に沢山頼んだのでは無いですよね……。
クウネルさんもいたのでそれは無いと思うんですけど。

「アル……こんなに色々あるとは聞いておらぬぞ……。食べきれぬではないか」

あれ……やや頬を膨らませているんですが……そこがちょっと鈴音さんに似ていますね。

「私も全てのメニューを把握していませんよ。出て来たのも3ヶ月振りですし。それより、ここは一つ頼むのに留めておくのが良いと思いますよ」

「むむ……どれが良いじゃろうか……」

「では……私はこのざる蕎麦寿司セットにしましょう」

「何、寿司じゃと?」

ゼクトさんが寿司という単語に異様に反応しました。

「ほら、これですよ。蕎麦がメインですが、それに寿司がついてるのです」

クウネルさんが該当ページのメニューをゼクトさんに指を指して見せました。

「ほう、なるほど、一つで2度美味いという訳か。侮れんな。ならばワシもそれにしよう」

それ意味違いますよ……。

「フフフ、ではそうしましょうか」

結局2人共ざる蕎麦寿司セットを注文し、少しして届き早速食べ始めました。

「ほう、蕎麦とはこういうものか。しかしこれは醤油か?」

「醤油は入っていますよ。これにはだし等他の物も入っているのです」

「だしとな?」

「ええ、それによってこの蕎麦にあったつゆになっているのでしょう」

「奥が深いようじゃな。このあっさりした味わい、良いものじゃな」

「この音を立てて食べるというのが重要だそうです」

「食べるだけではなく音も楽しむという事か。風流じゃの」

そんな事を話しながらズズズッと蕎麦を食べているのですが……何か、凄く面白いです。

「さて、寿司じゃが……これはマグロとやらか?」

「ええ、マグロです。こちらは醤油で食べるものですよ」

「刺身の前に寿司を食べる事になるとはの……」

「刺身の方がよかったのですか?」

「刺身、寿司と順に段階が上がるのではないのか?」

何ですかその進化論みたいな話。

「段階があるとは私も初めて知りました。しかし気にしなくとも、それぞれ刺身は刺身、寿司は寿司で味わいがあると思いますよ」

「ふむ、そうか。では、食べるとしよう」

「フフ、そんなに構えて食べるのもゼクトぐらいのものでしょうね」

「むぐ……うむ、美味いな。……アルは詠春の所で食べた事があるのじゃろう?」

「ええ、それはもう、頂きましたよ」

「詠春の所に行けば色々食べられそうじゃの」

「たかりに行きますか?ナギ達は京都旅行に行くと言っていましたが……水を差すつもりはありませんがおこぼれには預かれそうですね」

「ふむ、食事に同席するぐらいは許されないものかの」

「京都ならば、寺や……色々と風景も楽しむことができますよ」

「写真で少し見たが……アル、座標は?」

「気が早すぎですよ、ゼクト。道中を省くのではなく、新幹線に乗って行くというのはいかがですか?」

「鉄の蛇じゃったか」

「蛇という程曲りはしませんが」

明らかに普通とは違う会話してますね……この2人。
原因の殆どは……キノが思ったとおりゼクトさんですけど。

「ふむ、各地を巡るというのも悪くは無いな」

「日本だけでも北海道から沖縄まで見所は多いかと」

「しかし、ワシは一切金を持っておらぬ」

「……言うと思いました。問題ありませんよ、私はこれでも蓄えがあります」

「アルに頼ってばかりというのも良くないの」

「働いて稼ぎますか?」

「うむ、それも暇な今良いかもしれぬ」

暇というには魔法使いの皆さん人手が足りなさそうな状況ですけど……。

「しかし、ゼクトのその姿では、どうでしょうね……」

見た目子供ですからねー。

「姿を変えればよかろう」

「おや、これはこれは……もう少し悩むかと思ったのですが」

「今まで使った試しが無かったが、あるものは使うに限る」

「一度も使った事が無いだけに思いつかないかと思ったのですが、流石ゼクトです」

「当然じゃな」

「では……そろそろ店を出るとしましょうか」

「うむ」

クウネルさんが話を一旦区切り、勘定を済ませ、蕎麦屋を後にして、その後、2人はラーメン、牛丼と次々店を跨いで行き……あれー、良く食べられますねー。

「ゼクト、働くと言っても何を?」

「それは考えておらぬ。これから考えればよかろう」

「……そうですね。どうも、ゼクトがそのままの姿で働く姿を想像してしまうのでイメージが湧きませんね」

「ワシもできるなら姿を変えずに済むならその方が楽じゃ」

「学園長に言えば、警備員にはすぐになれそうではありますが、状況が状況ですからね」

「……協会がどうなるかによるじゃろう」

丁度2人が歩いているとたこ焼きの屋台がありました。

「おや、たこ焼きですね。買って行きましょうか」

「任す」

分かってましたけど完全に食べ歩きでしたね。
クウネルさんがたこ焼きと2パック買い、今日はそのまま図書館島の方角へと戻り出しました。
たこ焼きを2人で食べながらゆっくり歩いて行くのですが、何故か親子には全く見えないので周囲から浮いて見えます。

「誰が考えたか知らぬが、タコを入れるという発想は素晴らしいの」

「あちらの祭りではたこ焼きはありませんからね。ゼクトにとっては新食感でしょう」

「似たような物は食べた覚えはあるが、違うものじゃな」

「文化の違いとは興味深いものです」

2人はたこ焼きを道中食べ尽くし、そのまま図書館島へと続く桟橋を渡り切る……という所でした。

「あ!せん……くーねるはん!それにゼクトはんも!」

近衛さんが綾瀬さん、宮崎さんと早乙女さん達と図書館島から逆に、部活を終えて帰ろうとしていた所、クウネルさんに気づいたのですが……今完全に先生と言おうとしましたね。

「これはこれは、このかさん、今日は図書館探険部ですか?」

図書館島の地下を探険する部活……まだ今のところ活動中ですが、本格的に政府が入ってきたらどうなるのでしょうか。
本を保管しているのに水に浸かっていたりするエリアもあるのですが、それは魔法なので保存状態には問題ありませんけど、普通の人が見たら疑問点ばかりですからね……。

「えー!ちょっとこのか!誰このイケメン!知り合いなの?こっちのネギ君ぐらいの男の子も」

早乙女さんが一瞬でテンション上がりました。
綾瀬さんと宮崎さんは空気を読んで初めて会った振りをしています。

「おやおや、元気の良いお嬢さんですね」

「えっと……ハルナ、こちらはくーねるはんとゼクトはんや。うちの……おじいちゃんの知り合いやよ」

「あ、学園長の知り合いかー。じゃあ、やっぱ、魔法使い?」

早乙女さんの口元がニヤッとしたのですが……完全にスイッチ入っちゃいましたね。

「それはどうでしょうかね。どう見えますか?」

「うーん、何ていうか、そのローブ、魔法使い!って感じします!」

「服装だけで相手の事を判断するのは早計ですよ……と言いたい所なのですが、魔法使いであることは認めましょう。このかさんがこの後追求されるのも悪いですしね」

「おおー!やっぱり!で、今から図書館島に行くのは何の用ですか?」

「少々ここの蔵書に用がありまして」

蔵書に用があるどころか住み着いてます。

「あー、意外と普通ですね」

「図書館ですから」

「そのままじゃな」

「お嬢さん方、些か先を急ぎますので気になる事もあるかもしれませんが失礼させて貰います」

「ほな、くーねるはん、ゼクトはん」

「うーん、色々聞きたい事あるんだけどなー。ま、今日はもう帰らないといけないし仕方ないか」

早乙女さんにしては諦めが早く、クウネルさんとゼクトさんはそのまま図書館島へと入り、戻っていきました。

「で、このか、あの2人一体何?最近図書館島、魔法使いだった先生達の出入り多いって聞くけど本当に蔵書に用があるだけなの?」

「うちもおじいちゃんに紹介されただけで良く知らないんよ」

「んんー?ほんとかー?このこのー、正直に言ってごらんよ」

「あーん!うち帰るー!!」

早乙女さんに動きを封じられてジタバタしながら、帰ると声を出し、綾瀬さんと宮崎さんが早乙女さんを止めに入り、なんとか収まったのですが……結局近衛さんが追求を免れるなんて事は……無かったです。
頑張ってください。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

雪広グループとまた打ち合わせをして、人工衛星の開発に協力を得られそうな企業のリストは受け取たし、私の他の今後の企画も少し提案してきたが、雪広グループは元々裏の事情を理解してくれていたからやはり心強いナ。
私はそれで今日は女子寮に戻たのだが、翆坊主から通信が入たネ。

《超鈴音……長谷川千雨に認識阻害の話をしてみてはいかがでしょうか。……彼女、麻帆良外の反応が自分と同じであったことに少しばかり溜飲が下がったようですが、ますます疑問と違和感が膨れ上がっていると思われます》

翆坊主にしては珍しいナ。

《千雨サンか……。そうだナ。千雨サンは未だ3-Aの一人一人に素を見せていないからこのかさんと美空がその話を切り出す筈も無いし、逆に千雨サンから聞く筈も無いカ》

《認識阻害を完全に無視しているのが彼女と私、サヨと言っても過言ではないとはいえ、接触するには私は論外ですし、サヨも勧められない……とすれば、ここは交流もあり、事情も知っている超鈴音以外適役はいないかと。私にしては大変お節介だとは思いますが》

《翆坊主にしては確かにお節介だナ。しかし、私のクラスメイトでもあるし、魔法に悪い感情を持たれるのも良くない……その千雨サンの体質について話してみる事にするカ》

《超鈴音、それではお願いします》

《任せるネ。魔法球に入る前に行てくるヨ》

私も少し声を掛けておこうかと思たが、忙しくて後回しにしていたからナ。
常に緊急でもないのだらから、時間を割くぐらい何程の事でも無いヨ。
……千雨サンの部屋のインターホンを鳴らして。
……また出てこないつもりかナ。
お、扉が開いたヨ。

「……超か。何かまた用か?」

「そんな所かナ」

「じゃ、入れよ」

「邪魔するネ」

何度も入た事があるが、特に変化は無いナ。

「今度は何だ?まさか超も例の魔法使いだって言うんじゃねーだろうな」

魔法は使えるから魔法使いと、単純に言ていいかは難しい所だネ。

「私は科学者だヨ。だが、魔法の事を知らないという訳ではない」

「……結局それかよ」

「千雨サンは麻帆良に張られているという認識阻害という魔法についてどう思うネ?」

「私には全く効果無いようなはた迷惑な欠陥魔法ってとこだな」

酷く不機嫌な様子だが……無理も無いカ。

「そうか……心当たりはあたが、やはり千雨サンには効果が無いように感じられていたカ。効果が無いと感じられたのは魔法の精度のせいだと思うカ?」

「それは私に問題があるって言いたいのか?」

そう思う所は千雨サンもあるのだろうが、更に不機嫌そうな顔になたネ。

「問題があるかないかという事について話すつもりは無いが……千雨サンは恐らく単純に認識阻害が効かない体質である可能性が高いヨ。それもほぼ100%ネ」

「おい、ちょっと待て、体質だって?何だよその都合の良い体質はよ。そんな事言われたって公表された情報にそんなの載ってなかっただろ」

「非常に珍しい体質、例外と言ても過言では無い。千雨サンがその体質であるという前提で話をするとして、今まで千雨サンは周りがおかしいと思た事はあるのだろう?」

「そりゃおかしい事だらけだろ!特にお前とかな、超。何だよこの前のニュースは」

「千雨サンにとてはおかしいかもしれないネ。麻帆良の外の人達にとてもネ。でも私にとては当たり前の事ネ。私は、他の人とは違て私の技術について、認識阻害に関係なく当たり前だと、麻帆良の内外関係なくそう言う事ができる」

「なっ!?当たり前?超の技術や麻帆良全体の異常性はあの魔法使いって奴らの仕業なんじゃねーのかよ。前超の依頼を受けた時もそんな事言ってたような気がするけどよ」

翆坊主が気にしていただけに誤解しているナ……。

「それは違うネ。魔法使いの科学技術力は私程高く無い。私の技術が魔法使いの魔法による恩恵だというのはありえないヨ」

「……その言い方だと、お前が世界で一番科学技術力が高いって言ってるようにしか聞こえないぞ……」

「そうだヨ。はっきり言て私の科学技術力は地球、火星の両惑星において現時点で最も高い」

未来人なのだから当然だけどナ。
これは千雨サンに言ても特に問題は無いだろう。

「おいおい……本当にはっきり言うな……」

「事実だからネ。そもそも私の技術は科学一辺倒なのだから魔法というある意味言てみれば正反対のような物の影響だというのはそもそも変だとは思わないカ?私はそんな技術を持ているからか、麻帆良の外に出ると命を狙われる事が多くてネ」

「突然命に関わる話かよ……ッチ……非日常的すぎて私の堅実な現実感が微妙に揺らいでくるな……。まあ……普通に考えて見ればありえるか。ん……って事は」

「そう、麻帆良は警備レベルも高いし、認識阻害を含め情報処理もされているというのは、私にとては寧ろ好都合で、必要でもあたヨ」

「麻帆良に守られてたって事か……」

「そうだネ。私は地球では今の所麻帆良でしか安心して生活はできないと思うヨ。千雨サンにとては麻帆良は妙な場所かもしれないが、麻帆良に住む、私を含めて、特殊技能、特殊能力を持つ人々にとては、麻帆良は知らず知らずのうちに安全な場所になているんだヨ」

「……何が言いたいのか少し分かってきたな……。要するに、麻帆良は認識阻害があった方が良くて、認めたくはねーけど、超の言うとおり私がその認識阻害の効かない体質ってのを持っている特殊なケースだってのは間違いなさそうだな……」

「千雨サン……千雨サンも麻帆良に守られていたという事には気づいているかナ?」

「は?私も守られてるって?どうして私みてーな一般人が」

「常識人だと思ている割に自分に自覚は無いようだネ……。千雨サン自身のプログラミング技術やハッキング技術、それは前にも言たが……充分一般人離れしている。外に出ればすぐに引手数多だヨ。最大手OS会社もすぐに飛びつく程にネ。現時点で世界一の科学技術力を持ているこの超鈴音が保証するヨ。それに千雨サンのネットアイドル界での活躍も、自身の写真だけでなくプロフィールに女子中学生だというのを公開して、多少の情報操作をしているにしても……あれだけの人気があるにも関わらず、悪質なストーカーの一人も現れず、この住んでいる女子寮の事を特定される事も無いのは、麻帆良、魔法使いと専門機関が常に水際でそういう案件を防ぎ、麻帆良内での事自体にも自治をしている、その保護を受けているからだヨ」

長々話してしまたが、千雨サンの表情がどんどん変化していたネ。

「!!…………言われてみれば……確かにただの女子中学生に簡単にあちこち突破できるなんておかしいじゃねーか……。ネットの方の個人情報だって全部自分で処理してるし、普段は眼鏡かけてるから大丈夫だと思ってたが……そんな訳、ねーよな……。実際何も無かったから勝手に安心してただけって事かよ……。でも、私のプログラムやハッキング技術は魔法なんてモンじゃなくて私が自分で得た物だってのは自覚があるってのに……何だこの違和感は……」

「そうだヨ。千雨サンの技術は千雨サン自身の力で手に入れたものネ」

「それは……本当、なんだな?」

「断言するヨ。人の才能を伸ばす魔法なんて都合の良い物はありえない。もしそんな魔法があるならわざわざ地球のこの麻帆良ではなく、あのメガロメセンブリアという国の首都がある魔法世界でやればいいだけで、ここで魔法使いがそんな魔法を使て無用な混乱を招くような事をする理由が無い。彼ら自身が混乱を招かないようにという配慮をしての行動なのだから、逆にもしそうだとしたら余りにも矛盾しているヨ」

「……それもそうか……魔法は関係無いってのはわかったが……。じゃあ……一体この麻帆良って何なんだよ……」

「それは私にもはっきりした事は分からないヨ。恐らく原因は土地そのものだと思うネ」

「土地?」

「麻帆良にいる、特に麻帆良で育つ人々は何らかの才能に目覚め、伸びる事が多い。これは他所ではありえない事ネ。魔法使いが直接的関与をしていない以上土地そのものに原因があると考えないと説明がつかないヨ。科学者としてはこんな非現実的な事を言うのは変な話だけどネ」

「全くだな……そんなそれこそ奇跡みたいな魔法みたいな力が土地にあるなんてよ……」

「千雨サンの両親が千雨サンを麻帆良に入学させたのは全部エスカレーターというのもあるが、そういう噂を聞いた事があるというのも一つの理由ではないかナ?」

「確かに私も麻帆良は良いって勧められて……調べてみれば設備は整ってるし、寮室で生活できるし、受験はしなくて良いし……あー、やっぱ何だかんだ麻帆良に染まってんだなぁ……」

「別に悪い事では無いと思うヨ」

「そうだろうけどよ……最大の誤算は私が認識阻害の効かない体質だったってことか……。でも何で魔法使いの先生達がいるってのに私にその話をしに現れたのが、超、お前なんだ?」

「ふむ……これはネタバレなのだが、この認識阻害は麻帆良の魔法使い達にも精神的に負担にならないよう全部ではないがきちんと効いているから気づかないのではない、気付けないんだヨ。私が気づけたのはクラスメイトとして先生達よりは身近な存在だし……それと、少し受信した電波で聞こえてきたお節介のお陰ネ」

「……はーッ……何度目か分かんねーけど、そういう事か。で、何か?超は火星人だからってマジで電波でも受信……火星って、ちょっ……冗談抜きにお前まさか魔法世界って奴の出身じゃねぇだろうな?」

「残念ながら、それは違うナ。私の秘密はこの世界にも匹敵する機密事項だから教えられないヨ」

「前と同じ事言ってんじゃねーぞ……」

「ハハハ、それ以上の詮索は無用だヨ。私が魔法に詳しいのも含めてネ。本題は千雨サンの違和感と疑問を解決する事だたのだが……どうかナ?」

「ああ、スッキリしたよ。私の普通の中学生活を返せと言いたいとこだが……麻帆良だったらどっちにしろ世間での普通じゃなかったろうしどっちに転んでも同じか。誰にも話さなかったのも……本当に嫌なら先生に、駄目だったら学園長にでも相談すれば良かったんだしな」

「認識阻害の効かない例外的な体質の人に対する配慮がされていなかたというのは紛れもない事実だと思うけどネ」

「ま、何言っても今更だな。もうすぐ認識阻害解除するんだろ。せいぜい驚きやがれっての」

「ハハハ、今後の麻帆良に一番適応できそうなのは千雨サンになりそうだネ」

「皮肉すぎるだろ……」

「ふむ、これぐらいかナ。ただ、千雨サン、私は忙しいが話を聞く時間ぐらいはあるし、教室でも話はできる。3-Aの皆は個性が濃すぎるのは私も認めるけど、皆は基本的にアレだからネ。後は、千雨サン次第だと思うヨ。さて、お節介はここまでだネ。千雨サン、お邪魔したヨ」

「はっ……本当にお節介だな。まあ……その……何だ……ありがとよ」

「フフ、礼には及ばないネ」

……これで千雨サンに少し変化があるかもしれないし、それともこれまで通りかもしれないが、私は前者の方を期待しているネ。

《超鈴音、どうもわざわざ》

《翆坊主にしては本当に珍しいが……まさか罪悪感でも覚えたのカ?》

《私自身にとって特に意図も無くただの善意で活動するのは避けるべきことですが、それでも……全く無いと言えば嘘になるでしょうか》

《以前より更に人間臭くなたナ》

結局間接的に関わていると思うのだけどナ。

《……それは褒め言葉と受け取っておきます。それに人間臭くなったのは……超鈴音とサヨのお陰でしょうね》

《それは良い事かもしれないナ、翆坊主。……さて、私は作業に入るヨ》

《何か手伝いが必要であればいつでもどうぞ》

《私は特別扱いだナ、翆坊主?》

《ええ、特別ですから》

《……よく言うヨ。必要になたら遠慮せず言うネ》

《了解です》

比べる事はできはしないが……この「私」は……本当に恵まれているのだろうネ。



[27113] 72話 超林サッカー
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:42
10月1日を少し振り返ろう。
ネギ少年達は再び麻帆良に戻り、エヴァンジェリンお嬢さんの家でアスナが学校を終えて一目散にやってくるまで待って再会した。
その後、スプリングフィールド一家はずっとエヴァンジェリンお嬢さんの家に滞在しているのもどうか、という事で麻帆良内にホテルを借りて滞在する事になっ。
ネギ少年達は話をした結果、アスナにとって中学最後の体育祭が近い事から、京都旅行は10月中旬以降となった。
ナギとアリカ様にとっても、麻帆良の体育祭が見られるのは、楽しめるであろう。
一方、クウネル殿とゼクト殿は図書館島から地上へと出て、あちこち店に入って食べ歩きをしていた訳だが、この2人はネギ少年達が詠春殿の住む総本山に行く時は本当に時機をあわせて現れそうだ。
勿論、その辺事前に連絡は入れておく事はするのだろうが。
そしてもう一つあの日、長谷川千雨に認識阻害の説明をするよう私が……超鈴音曰く珍しいと評される事を頼んだ訳だが……良いことかもしれないと言われた以上悪い気はしない。
その話し自体で、誤解と違和感はきちんと拭われ彼女は自身の口から言った通り、吹っ切れた様子であった。
さて……今日はそれから数日が過ぎ、10月8日。
国連総会で1週間に及んだ、火星、魔法世界、魔法協会……と魔法関連に関する議題が討議され、各国の迅速な努力の甲斐あって現時点での一応の決着が着いた。
全部が全部丸く収まった訳では無いが、かと言って、魔法、魔法世界の存在という世紀の大事件について地球の世論はそれほど議論に長々時間をかけるのを大目に見る程、遅足ではなく、寧ろ1週間で何とか済ませたという方が正しい。
これにはクルト総督らが頑張っていた事もあり、メガロメセンブリア側から国連総会へ纏まった案が提示されたというのは大きかったであろう。
まず、メガロメセンブリアは事務総長が提案した通り、国際連合に加盟を果たし、193ヶ国目の加盟国、それも火星に存在する国……まさに異例中の異例。
主権を持った国家としてメガロメセンブリアは認められ、国際連合安全保障理事会の召集、そしてその安保理と総会で国際連合加盟国として承認されたのである。
地球には加盟していない国……例えばモンテネグロや中華民国など……もあるのにそれを差し置いている。
因みに、モルモル王国は以前から国際連合に加盟しているので、193ヶ国目である。
数は間違いなく合っている。
そして、地球の殆どの国に外国として認定されたメガロメセンブリアは、魔法協会のある各国と個別に会談し、各国首都に大使館に似た形式のメガロメセンブリア出先機関を置く取り決めをした。
既に存在する魔法協会自体も、限りなく大使館に近い権限を有した総領事館に似た形式の機関として認定される事となった。
そもそも大使館というのはその国の首都に置かれるもの。
例えば麻帆良の魔法協会は当然埼玉県にあり、首都東京ではないので、首都以外に置かれる総領事館のような扱いにするしかなく、結果、東京にメガロメセンブリア大使館のような出先機関が設置される事が決定。
しかしながら似たような形式の出先機関というだけあって、正真正銘厳密な意味での大使館でも総領事館というものでもない。
何しろ本当に大使館としてしまうと亡命希望者が突然沸いて出てくる可能性があり、無用な騒ぎを招くから。
実際にもし本当にそのまま大使館にしてしまえば、十中八九突発的に「ちょっと魔法世界の国の民になってくるわ」などと入り込む輩が出る可能性はあるなどと言われているぐらいである事からして充分ありそうだ。
似た形式についての厳密な説明は省くが……魔法協会については、要するにメガロメセンブリアとその対応国の主に監査に重点を置いた暫定的共同管理扱い、と言った感じ……と言えば良いであろうか。
結局の所……未だ細かく決めるのには余りにも時間がなさすぎる。
魔法協会だけに言及したが、それ以外の魔法関連機関の扱いに関しては、各国国内でそれぞれ決める事になり、例えばメルディアナ魔法学校であればやはり領事館に……これまたあくまでも暫定的であるが、似た形式になることとなったそうだ。
これらが特に目立った反対も無くかなり順調に取り決めが行われたのは、各国共魔法という力を有する事ができるというその点に依るところが強いのだろう。
精霊冥利に尽きる。

次に、魔法そのものの取り扱いに関してどうなったかと言えば、メガロメセンブリア側から、現時点地球上での原則使用禁止にすべき魔法についての提案がなされ、ニューヨーク条約(地球上での特定魔法行使に関する国際条約)として締結される事が決定し、原則使用禁止になる魔法の筆頭については既に全世界に公表された。
第一に、他者に直に特に影響を及ぼし、他者の人権を著しく損ねる心身操作系魔法はその殆どが原則使用禁止。
具体的には、忘却・読心・幻術・自白・洗脳・魅了・夢見・身体操作・人払い等。
……現代の人権が尊重されている人間達にしてみれば使用を避けるべき魔法。
身体操作には……例は悪いが、女性の胸を大きくする……結局は制御できずに破裂するという無意味なもの……こういう類の物や頭を一時的に良くするがその後1ヶ月は思考能力が著しく落ちる魔法のようなものが含まれる。
これらに加え、追加的に広域認識阻害魔法も原則使用禁止となる事が決まった。
そのため、麻帆良の広域認識阻害は使用禁止となるのだが、個人が自身単体について使用する事に関しては容認される事となった。
これは今後要人警護において利便性から使用される可能性を考慮してとの事。
ただし、箒使用時における認識阻害は現状禁止であったりと、細かい部分で条件がいくつか伴う。
第二に、他者に対する攻撃魔法は原則使用禁止。
これ以外にも、電子精霊による情報操作系魔法の使用を容認される範囲の決定、幻術魔法の使用が容認される範囲の決定、箒での飛行魔法の行使についての取り決め、転移符を始めとする単体転移、強制転移魔法の問題、本契約及び仮契約の扱いの問題等についても今後内容が詰められていく予定だそうだ。
電子精霊を例にとれば、情報操作は言論の自由というもの損ない、他国の機密情報の漏洩問題などの負の側面があるが、所謂一般的な水準での情報検索的な意味合いでは作業の迅速化を図れるものであり、情報漏洩の防止を目的とした活用も当然できるものだ。
国によっては国家規模での使用を行いそうな国も……あるであろうし、要は使い方次第。
原則使用禁止の魔法は定められたものの、情報元がメガロメセンブリア側の情報開示だけである為、地球側にしてみれば未だ公正性に欠ける。
結果、これを地球側各国が正しい判断をする為には、地球各国が国有の魔法関連機関を持つ必要があり、それの設置も不可欠だという事に関しては合意に至ったが、人員的問題から、すぐに魔法の技術公開をメガロメセンブリア側が対応するのは不可能であるため、今後も持続的な議論の場を設ける事が決定した。
魔法使い主体の国連NGOの活動に関しては、以上の原則使用禁止魔法の規定を順守する前提で、今後も引き続き行われる事になり、その活動内容は今後公表される事にもなった。
但し、攻撃魔法については、対テロリスト、対魔法使いである場合や紛争地帯での自衛手段としては、例外的にその使用を容認される扱いとなる。
これまで魔法使いが地球で魔法を秘匿する為に行って来た魔法による処理行為に対する批判は当然あった。
しかし、メガロメセンブリア、魔法使い側がそれらにできる対応は非常に難しいものがある。
例えば、メガロメセンブリアが国の立場で賠償金を払うにしても、国家に対してか、個人に対して払うべきなのか……仮に個人に払うとしても、魔法の存在を知ってしまった個人に対して使用した忘却魔法に伴って失った記憶に関する損害賠償額の算定は無謀であり、そもそも魔法を秘匿しなければいけないという規則に従ってのやむを得ない行動に対して金銭による賠償が果たして妥当なのか……という問題があるそうだ。
更に、戦争賠償の観点からすると、メガロメセンブリアが国として地球側に金銭を払うということはメガロメセンブリアの国庫からの支出という事になり、その源泉である税収の殆どは地球に来たことも無い魔法世界人達の労働によるものなので、メガロメセンブリア国民に対して負担を課す形になる事にも問題があるとの事。
更に魔法の技術公開、提供という事で賠償するにしても、既に前述した通りの予定で決定されている。
結局メガロメセンブリアが取れるのは、誠心誠意地球市民に対して謝罪し、感情を逆撫でしないようにするというのが次善策。
実際世論は荒れていても、各国家は前述した通り既に実利を優先した対応をとっているので、なるようにしかならない。
その一つの例として挙げられるであろうものに、ロシア連邦魔法協会は既にロシア連邦政府と提携し、毎年1万2千件以上も起きる森林火災に対して協力する方向で話が個別に進んだとの事。
魔法の存在が公表された今、公然と現場に箒で飛んでいき、延焼を防ぐ為に火災の中心から周りの木々を除去する事も、小規模であれば直接の消火も魔法によって迅速に行う事も可能だろうから、という事らしい。
実際そういう事はあるだろう。
ただ、現状人員不足はどうしようもない問題である。

魔法世界、火星については、現状対応すべき事としては、ゲートについての件がほぼ全てであった為、魔法世界の文化については公開されたものの、それについて世論はともかく、国連の場で詳しく言及されることは無かった。
ゲートポートとはまさしく、空港のようなもの……言うなれば星間扉港……そういうものと捉えられるだろうが、空港とは決定的に違う点がある。
惑星間を飛び越えるという点は勿論だが……それは除外するとして、基本的に空港というのはその空港が存在する国に属しているものであり、決してある国が他国の領土に空港を建設し、その所有権を有するという事は無い。
しかし、ゲートはと言えば、形式としてはメガロメセンブリアが他国に建設した星間空港的なものとなっている。
更に、ゲートは一定規模の魔分溜り無くしてはありえず、その数は地球上でたった12箇所。
メガロメセンブリアが加入した国連には地球上192ヶ国も加盟国がありながらゲートの存在する国の数は中国に3箇所ある為実質10ヶ国、分布率に換算すればたったの5.2%。
各国魔法協会はゲートの有無に関わらずあちこちに存在しており、特にヨーロッパには大抵存在するが……そうであっても、ゲートを有する国とそうでない国とでは格差が発生するのは避け得ないであろう。
それにゲートは、ゼクト殿のような技術があった上で、更に通常よりもゲート周囲が高魔分濃度でも無い限りは人為的に可動させる事は不可能であり、ゲートの開く日というのは不定期かつ自動的に決定される。
その為、飛行機を飛ばすといったように、意図して稼働させられるものとは異なり、ゲートの利用については空港に比べ遥かに制限が多い。
しかしながら、現在地球で可動しているゲートはまだ麻帆良だけ。
この点、私が世界11箇所に魔分供給を徐々に行っているという事情とメガロメセンブリアに移転された旧ウェスペルタティア王国空中王宮の要石との接続が地球側11箇所のゲートの要石と行われていないという事情が絡む。
魔分供給に関しては、素早く回復させてしまうのは不自然なので、ある程度一定速度に留めて、魔法世界側のゲート事情も考慮して行っている。
地球側11箇所のゲートの要石とメガロメセンブリアゲートの接続はすぐ行えるかというと、魔分溜りが無い以上要石の調整も不可能。
……結局、ゲートについては、麻帆良のゲートがメガロメセンブリアとの行き来の為のいわゆるテストケースとして扱われる事になり、国連においては現状で日本とメガロメセンブリアが明らかな2国間限定での通商を目的としたやり取りをしないという事が暫定的に定められるに留まった。
そして麻帆良のゲートの管理は引き続きその管理知識のある魔法使い、メガロメセンブリア側が行わざるを得ないので、予定としては魔法世界側のゲート10箇所の本格的復旧の2005年5月までに、制度制定に向けてこちらも持続的に議論を行う事になった。
ゲートを有する国家と有さない国家の関係については、ゲートが本格的に全復旧すればその差が明確なものとなるであろうが、現状これも持続的に会談を行う方向性に決定するに留まった。
魔法世界そのものの社会に対する世論については時間経過と共にある程度見解の醸成が行われていくであろうが、完全に星を隔てているだけあって関与は困難、国連としても最優先事項でもないので、これは現状見送りとなった。
もう一つ、魔法世界側の火星定着による環境変化対応について、科学技術が必要かもしれないと国連総会でメガロメセンブリア側が演説したが、これには今後通商への足掛かりとなるのが目に見えている為、技術力に自信のある各国家は現在魔法世界の抱えている環境変化に端を発する問題解消について協力する意思がある事を明らかにした。
よって、今後各国家、企業が動きを見せ始めると思われるが……超鈴音が近いうちに動く。
最後に、通貨問題であるが、ドラクマの貨幣価値の設定について、今まで通り日本で言えば100円が10アスというレートのままで据え置く訳には行かないという問題があるそうだ。
しかし、これには、現状すぐに通商が行われない事から、その調整に関しても徐々に議論が詰められていく事が決定されるに留まった。
最終的には地球の為替市場へのドラクマ参入を目指す事になるそうだが、逆に魔法世界側では今までドラクマだけの単一通貨市場であった状況に、地球式の為替市場のシステムの導入を行わなければいけない為、安定するのにはそれ相応の時間がかかるそうだ。

……さて、既に少し触れたが、現在地球で唯一のゲートが稼働しているここ麻帆良はどうなるかといえば、魔法協会の扱いについては前述の通りであり、日本政府から外務省の人達が正式にやってくる事になった。
それに当たって、外務省では、魔法世界・メガロメセンブリア局が新たに設置される事も決定。
麻帆良学園都市の学園結界や、情報漏洩への対処については近衛門達魔法使いが引き上げる訳にもいかないので、その管理は引き続き行われる予定である。
ただ、学園長がメガロメセンブリアの人間でもある近衛門である事は問題がある為、学園運営に関しては日本政府から同じく人員が派遣される事も決まった、
彼らは麻帆良学園の監査も兼ねる。
つまり、今までたまに無茶な事をしていた近衛門は自重しなければいけないという事なのであるが……致し方ない。
更に細かく見ていくと、麻帆良は外部とも、他の魔法使いの拠点とも異なる為、色々問題がある。
戦前から造られたものとはいえ、麻帆良地下に広がる巨大空間は日本の建築基準法を引き合いに出して議論する範疇を越えている。
麻帆良教会の地下の魔法協会ですら、地下30階。
建築会社にしてみればその掘る技術を教えて欲しいというのが先かもしれない。
問題のゲートが存在する図書館島のやたら広い地下空間は、普通であれば天井が崩落してもおかしくないが、魔法的処理がされて保持されているだけに地球の基準で判断する事自体が無理。
一般的居住空間の地下室としては防水、防湿、換気、採光、排水、避難経路などが問題となるそうだが……真面目に図書館島に当てはめるのは無意味。
防水、防湿どころか、湖になっている場所はあり、クウネル殿とゼクト殿の住処は滝の循環、自然光の採光問題は気にせずとも明るく、換気も同様、排水も同様……避難経路は無いどころか、場所によっては明らかにいわゆるダンジョンと化していて、果ては竜の彼女が闊歩して「キュキュー」と鳴いている有様。
……これで日本政府と共同管理やゲートポートのテストケースというのは……できるのであろうか。
クウネル殿とゼクト殿が住んでいるあの空間もどうなるのかも分からない。
住所登録はされておらず、日本の法律に当てはめれば不法滞在になるのだろう……実際不法滞在に限りなく近い。
ここで麻帆良の魔法関連ではなく、一般に目を向ければ、まず、麻帆良は日本屈指の企業である雪広グループによってカバーされているその占有率が過半を越え、他幾つかによってほぼ完璧に占有されている状況。
しかし、認識阻害が切られ、情報処理も無くなる今後起こる事が予想されるのは、他企業の麻帆良への苛烈な参入競争、それに付随して地価が上昇し……結果、麻帆良の住人が苦しむかもしれない。
またその逆の動きとして、特殊技能・特殊技術を有する人々の引き抜き合戦も国内に限らず世界規模で行われる事になるであろう。
麻帆良が混乱し、活動も阻害されるかもしれないが……この辺りは総合的な国益を考慮して、日本政府が対応策を取る事を私としては超鈴音の事を考慮しても期待したい。
……そして、麻帆良の広域認識阻害の解除日は10月14日、体育祭終了日の翌日に決定した。
体育祭前に解除するのは時機が余り良くないという事もあり、体育祭終了日の翌日10月14日であれば全学規模でテンションの高い生徒達も疲れており、振替休日となる事情から、この日なら妥当だろうという決定だそうだ。
当然麻帆大航空部、図書館探険部、軍事研、ジェット推進研究会等の危険性が高い団体の活動は、仮に行われるとしても絶対、活動規模を相当程度縮小する事が要求される事になっている。
……そして、その後徐々に規模を元に戻す事になる。

さて……以上が大体の所であるが、何はともあれ、2003年度体育祭の開幕。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

10月10日、それは中学最後の体育祭の始まり……なんてね。
去年から体育祭は根本的に改革されたせいで、種目がやたら多い訳だけど、今まさに私はグラウンドのトラックでスタートしようとしてる訳よ。
4クラスのうちから1クラスを選出する予選を軽くこなして、100m決勝を6クラスで争う。
スターターの先生が空砲を虚空に構え……。
いつも通り行けば問題無い!

「位置について!よーい」

鳴った!!今だッ!地面を蹴る!
……よっし!スタートは成功!
このまま先頭を行くスよ!

「美空ちゃーん!頑張ってー!!」

「春日!今年も頼むよ!」

「美空!突っ走れー!!」

皆の応援!期待に応えるよ!
このグラウンドはカーブ無いから突っ走るだけ!
あと30mぐらいっ!一気にラストスパートッ!
20!……10!ゴールライン間近!
よっしゃ!ゴールッ!!
ゴール過ぎても急には止まれなーい……って今年も学年1位の座は頂きだね。
3連覇達成っと。

「はっ……はっ……はぁっ……ふー……」

[只今の中学3年クラス対抗陸上100m決勝の結果発表です!1位、3-A春日美空!]

「よっしゃぁぁ!流石春日!足の速さでは期待を裏切らない!」

「おめでとー美空!」

「美空ちゃん、3連覇おめでとー!」

[……2位3-G、遠藤冬美!……3位3-R、東堂茜!……4位……]

朝倉テンション高いなー。

「はいはーい!皆ありがとー!」

まー、ぶっちゃけ6クラスの決勝出場した殆どうちの陸上部だったりするんだけどね。
正直うちのクラスだとアスナの足の速さも半端無いんだけど……って言ったら魔法世界行った皆大体そうか。
ゆえ吉でもあれだよ、戦いの歌使ったらあの子かなりの速度で走れるからね。
つーか……今思えばアスナが別に部活にも入って鍛えてる訳でもなく、新聞配達やってるからってのもあんま関係なく足速かったのは、無意識のうちに気か魔力使ってたからっぽいなー……。
で、この後、即席の表彰台に上がって私は優勝トロフィー貰った。
このトロフィー、結構小さいんだけど、後で返さなくていいっていう奴だから、私の私物になるんだわ。
3連覇したって事実もそうだけど、やっぱ形として分かるってのは嬉しいね、うん。
皆の所に戻れば、テンション高いせいで軽く胴上げされたりしたけど、体育祭の予定は詰まりに詰まってるからすぐに次の種目に入った。
鳴滝姉妹の二人三脚は双子って時点で反則な気がするし、くーちゃんのハードル走も飛び越えるっていうか全部大股ジャンプみたいな感じだったりアスナの24クラス一斉3000m走も……もう何がなんだか……。
去年より速くなってるもんだから2位との差が開きすぎて開きすぎて……せめてもの救いは学校内競技には外で騒がしい報道機関が入ってこないって事かね。
んでもってサクサク競技が進んで行って、アキラの競泳でプールに移動もしたりして……その後棒高跳びとか三段跳びとかの学校外競技にも移動した。
外に出た途端、カメラ担いだ報道関係者がうろうろしてるんだけど、やたら上の方にカメラが向いてると思ったら、超包子の飛ぶ屋台と移動用コンテナ?を撮影してるらしい。
そういや去年も飛んでたもんなー。
んで、今年も楓が出る学校外競技に行ってみたら、楓の奴報道関係いるのも気にせずやりおった。

[選手番号65番、麻帆良女子中等部3年A組、長瀬楓!]

「拙者の番でござるな」

楓がポールを構えて助走しーの……。
ポールを地面につけて反動で上がりそのままバーを超えるだけ、じゃなかった。
二段ロケットみたいに更に加速して上にあがったし。
その高さバーの約2倍ちょい。
マジスゲー。
あれでもセーブしてるんだろうけどさ。

「あー、やっちゃいましたねー楓さん」

「はははー、やっちゃったスねー」

「見事な棒高跳びネ!」

「流石楓アル!」

「「楓姉すっごーい!!」」

「今の棒高跳び以前に棒無くても飛び越えられそうだったろ……。棒高跳びはそういう競技じゃねー」

長谷川さん、それ言ったらおしまいスよ。
んでも、長谷川さん最近クラスで前に比べると主に超りんとか話すようになってその関係で私も普通に話したんだよなー。
前は大体丁寧語で話す他所他所しい感じだったんだけど、素って感じの話し方だったから寧ろ馴染みやすかったスね。
で、楓は自業自得でその後やたら報道関係者に追い掛け回されたんだけど「その程度では拙者は捕まえられないでござるよ!」とか言って寧ろ忍者っぷりをいかんなく発揮してた。
いいのか、これで。
まー、そんなこんな、時間も時間になったから皆で適当に昼ごはんを取って、午後の競技に別れた。
今年のクラス対抗団体球技の種目はサッカー、ドッジボール、バレーボールの3つがあって、私はサッカー。
メンバーは超りん、さよ、くーちゃん、アスナ、ゆえ吉、のどか、ハルナ、ザジさん、長谷川さん、亜子、それと私の11人。
楓とかたつみーは身長が高いからバレーボールで、ドッジボールは復活ルール無しだけど、エヴァンジェリンさんと茶々丸と桜咲さんが負ける訳ないからどれも鉄壁スよ。
サッカーの戦力はっていうと、超りん、さよ、くーちゃん、アスナ辺りがガチだから大丈夫と思う。

「それでは、3-A対3-Cの試合を始めます。両クラス共に礼!」

「「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」」

フォーメーションはDF4人、MF4人、FW2人。
GKはザジさん、DFはGKから見て左から順にゆえ吉、のどか、さよ、長谷川さん、MFも左から順にハルナ、私、アスナ、亜子、FWは超りん、くーちゃん。
多分普通見たらディフェンスが薄そうに見える感じだと思うんだけど、さよは地味に身体能力が高いし、他は図書館探険部2人もいるし侮れないスよ。
実際GKが一番無口なザジさんでいいのかって言うのは微妙だけど、多分ゴリ押しでなんとかなると思う。

「よーし、頑張るわよ!」

「もちろん!」

3-CのFW2人がセンターサークルの中に入って……キックオフ!
超りんとくーちゃんが速攻でボールを取りに走る。
けど、最初から超りんとくーちゃん2人は警戒されてたみたいで、すぐに一旦ボールが後ろに下げられた。
私達MFは2人がどんどん追いかけてくからそれに合わせて前進して3-CのFW、MFを警戒。
DFまでボールが下がった所でロングパスをハルナ側に飛ばして攻勢に出てきた。
ハルナがカットしようとしたけど3-Cの構成は運動部系で抜かれた。
マズーって事で私がカバーに入って、カット……ってゆえ吉足速ッ!
3-CのFWは予想外のゆえ吉の速さに驚いてテンパッた所をあっさりゆえ吉がボール取った。

「美空さん、パスです!」

「おう!」

ゆえ吉は素早くボールを蹴って、私が受け取る。
超りんとくーちゃん2人は余裕そうに前に上がったまま。
3-CのFW、MFが寄ってくる、けど!

「アスナ!前進!」

「分かったわ!」

まずドリブルで前進。
戻ってくるFWはまず追いつけない、MFを1人抜いて、新手が寄ってくる前に……。

「アスナ!」

同じく誰も追いつけそうに無い右前方のアスナの目先にパス!

「ナイス!」

アスナはそのまま残りのMFが進路妨害してくる前に堂々と真ん中を突っ切る。

「くーふぇ!」

アスナはくーちゃんの頭上辺りにパスを浮き球で出した。

「任せるアル!」

それをこっち側に身体を向けてるくーちゃんは、地面を左足で蹴って空中に飛び上がりながら……右足で綺麗なオーバーヘッドキックを繰り出した。
強烈に蹴り出されたボールは斜め上空から、相手ゴールに突き刺さるように直撃。
一点獲得は幸先いいけど、あっちのGK絶対やりたくねー!!

「よーし!!流石くーふぇ!」

「やったアル!」

「この調子で行くヨ!」

いつまでもはしゃいでいられないって事で、また相手側のキックオフで試合再開。今度は直接超りんとくーちゃんを駄目元か分かんないけど突破しに来た3-CのFWだけど……真っ向からでは分が悪すぎた。
超りんが鮮やかな足さばきでボールを掻っ攫って、くーちゃんにパス。
そのまま2人は速攻で突撃してった。

「古!」  「超!」

私達もそれに合わせて上がる。
あっさり抜かれた相手のFW2人の後に控えるのは、MF。
2人ずつで超りんとくーちゃんに対応してきた。
けど、なんだアレ!
くーちゃんが超りんの前方、相手MFの頭上辺りにボールを蹴り上げる。
そこを超りんが高く跳躍して空中で身体を無駄に横回転させながら、ダッシュしてたくーちゃんの目先に凄いボレーパス。
くーちゃんは地面につく前に左足で地面を踏みぬいて右足を大きく伸ばす。
ボールは吸い込まれるように右足に当たり、今度はもっと高く浮かび上がる。
着地した超りんとくーちゃんは、ボールが落ちてきそうな所に更に急速接近して2人で一緒に跳躍。
そのまま息を合わせたまま、2人は足を空中で同時に振り抜いて。

― チャイナ・ダブルアタック!!! ―

強烈なボレーシュートが斜め上空からゴールセンターに直撃。
ゴール!もう一点!
一連の流れが鮮やかすぎてまたキーパーは一切反応できなかった。
てか技名叫んでたけど、なんだそのネーミング。
トスとスパイクみたいな感じだったけど、バレーボールはここじゃないスよ。

「おおー!流石超りんとくーふぇ!」

「すごいなぁー!!」

「映画のサッカーみたい!!」

「あれッスね。超りんサッカー的な」

ってか、超りんの中国拳法の流派って北派少林拳とか何とかだったような。

「古!やったナ!」  「超!やったアル!」

ハイタッチしてるのはいいけど、いつ打ち合わせしてたし。
練習の時あんな事やってなかったろ。

「あいつらリアルでやってんじゃねーぞ」

それともリアルでできてる事が凄いのか。

「でも炎を纏ったボールは出たりしないでしょうね」

「できたら大問題だよ……」

……それで、この後の試合はっていうと、まあ、アレだ。
調子乗った超りんとくーちゃんの動きは機敏すぎて、隙あらばボールを掻っ攫って相手ゴールにシュートを叩き込む。
ロングパスで私達の守備をやりすごそうとした所で、薄いと思われた長谷川さんの所にはアスナが走りまわり、その後ろの亜子は元々運動能力高いし、さよも言うまでもない。
あー、要するに私達3-A強すぎだった、うん。
試合は圧勝、その後の24クラストーナメントも、他クラスに当たる度に負ける事無くガンガン勝ち進み、たまに飛び出す超りんサッカー目当てに負けたクラスが観客に移ってエンターテイメントとしてやたら盛り上がった。
試合時間が体育祭用に15分間じゃなくて、90分だったらだるかっただろうけど、時間短くて良かったスよ。
爽快に優勝して今年も獲得したトロフィーを適度に振り回し、皆で喜んでた所にやってきたのは……。

「皆さん、優勝おめでとうございます!」

「圧勝だったな、アスナ!」

「優勝おめでとう」

「ネギ!ナギ!アリカ!」

アスナが一番最初に速攻で反応した。

「ネギ先生!」  「ネギ君!」  「ネギ坊主!」  「ネギ先生!」

もう先生じゃないんだけどねー。

「いつから来てたの?」

「実は午前中から来てました」

「えっ、全然気づかなかった」

「はい、気づかれないようにしてたので」

「あ、そういう事ね。応援ありがとう」

認識阻害か。

「はい!」

「あ、じゃあ、この後バレーボールとドッジボールの皆とも合流するんだけど……」

アスナがネギ君達と話し込み始めた。
事情を知っている組は4人の会話に割り込まないんだけど……事情知らない組は長谷川さん、亜子、ハルナの3人だけ。
ハルナは突っ込もうとしたいみたいだけど、私達が動かないから「え?そういう空気?」みたいな顔してゆえ吉とのどかとコソコソ話し、亜子はネギ君のお父さん見たまま微妙に顔赤くして見とれてるみたいなんだけど……いや、既婚者だからね。
しかも、色んな意味で限りなく一般人からは遠い人スよ。

「この前もよく分からなかったが……神楽坂とネギ先生達ってどういう関係なんだ?」

「少なくとも赤の他人ではない関係だろうネ」

「それ全然答えになってねーよ」

赤の他人どころか親戚スからねー。

「亜子、顔赤くしてどうしたんだー?」

ハルナ、ラブ臭検知したのか。

「へっ!?ううん、何でもあらへんよ!」

頭を必死にブンブン振るのは逆効果だと思うぞ、亜子。

「はっはーん、なるほど、分かった!略奪愛かー!」

「ち、ちちち、違う!!絶対違う!」

「じゃあ、ネギ君の成長予想でもしたのかー?」

げっ……出たー。
柿崎の言ってた逆・光源氏計画的な発想じゃんか。

「それも違うー!」

「んー、私のセンサーに狂いは無いんだけど。およ?……ゆえとのどかからも反応を感じる、感じるぞー?もしかして私の今の発言に反応した?」

「ち、違うよっ!」

「い、いい加減にするです、ハルナ」

ああー、のどかとゆえ吉も露骨に顔が赤くなって……ハルナ、その辺にしとけー。

「じゃあ、皆、移動しよう!」

アスナ達話し終えたみたいで、移動する事になった。
そのお陰でハルナの暴走もやっと止まった。
体育館の中のバレーボール組の結果は……いわずもがな、こっちも優勝。
もちろん、ドッジボールも同じく優勝。
今年もエヴァンジェリンさんの同級生のお姉さん達は応援来てた。
初日は個人競技もクラス対抗団体球技も制覇したって事で、今回も超包子で西川さん達含め、一緒に打ち上げをした。
超包子自体も、今日の儲かり具合は相当だったんだとか。
打ち上げ中に朝倉がネギ君達に「今後の予定は?」とか聞いて、あともうしばらくは滞在するとは答えてたけど、まだはっきり決まってはいないみたいね。
ナギさんの場合、死亡説が流れただけだから、魔法世界行くっていう手段もあるだろうけど……どっちにしろ今は世間の状態がアレだから魔法使いは動きにくいっていうのが真理っぽいな。
ネギ君達は打ち上げ始まって1時間ぐらいして先に帰ったから、いつも最後にとる写真には一緒に写らなかった。
多分写真に残るとマズいからって事なんだろうな。
結局8時過ぎまで騒いで皆で女子寮に帰ってみたら、テレビがまた凄い事になってた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今年の体育祭、去年と大きく違う点は特になかったのですが、誰の目にも違う事がありました。
それは、外部の人達、報道関係者が麻帆良に来ている事で、より賑やかというか……体育祭初日から半日遅れぐらいでまた、ニュースで騒ぎになっていました。
例えば、超包子の屋台と飛行機能付きコンテナは人員輸送の関係もあって、何度も飛ばしたんです。
外部からすれば、ありえないですよね。
特に空飛ぶ屋台なんて。
それに平然と乗り込み、次の競技に向かう学生達の光景がニュースで流れました。
それだけならまだしも、去年体育祭を根本的に改革しただけあって、通常ではありえない競技があちこちでやっている様子や、そのレベル自体のおかしい様子も、流れました。
反響は本当に色々でした。
打ち上げを終えて寮に戻ってテレビをつけて見た時の事ですが……。

「楓サンの棒高跳びが出たナ」

「出ちゃいましたね」

「出ましたねー」

[こちらの映像、CGでは無く、全て本物です。では一体どこの映像なのかと言いますと、今話題の麻帆良学園の体育祭の様子です。では、早川信行解説員お願いします]

[はい、先日から話題の尽きる事の無い麻帆良学園ですが、情報規制をしていた理由について……]

解説員の人が麻帆良の事情について話し始めました。

「よくこんな番組を放送しますよね」

「とても日本国内で起きている出来事の扱いとは思えないネ」

「今流れた映像はネットではもう随分前から騒ぎになって炎上してたみたいですね」

「某所の掲示板は私達が関与しているSNSとはまた違う形でいつも安定した祭りになていて反応が分かりやすいナ」


【魔法】麻帆良学園都市に常識的ツッコミを入れるスレ83【都市】

566:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:23 ID:???
  麻帆良の連中は化物か!?

567:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:27 ID:???
  飛ぶ屋台に平然とゾロゾロ入っていくの笑えるwwww

568:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:31 ID:???
  近く空港だから良く買うが超包子の肉まんマジうまいぞ

569:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:32 ID:???
  永遠の美少女エヴァ様が体操服着てる所見に行ってくるか
  
570:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:35 ID:???
  どう見てもオリンピックです、ありがとうございました

571:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:39 ID:???
  砲丸投げは無いわ

572:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:41 ID:???
  ラーメン吹いた

573:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:42 ID:???
  俺も麻帆良に入れば良かった

574:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:45 ID:???
  >>568
  禿同
  100円であのボリュームと味はヤバイ

575:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:48 ID:???
  けっこう日本新記録出てね?

576:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:52 ID:???
  スレの消化速度が非常識な件

577:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:55 ID:???
  落ち着くんだ、これは現実じゃない

578:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:03:57 ID:???
  これは明日も祭りだなwww

579:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:01 ID:???
  ( ゚д゚)

580:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:03 ID:???
  どこから突っ込み入れればいい?

581:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:05 ID:???
  この後まだ謎の格闘大会があるらしいぞ

582:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:07 ID:???
  あの飛ぶ屋台のジェット姿勢制御装置に興味出た

583:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:08 ID:???
  魔法使い以外に忍者も住んでるとかマジ魔窟すぐるwww

584:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:12 ID:???
  超鈴音って本当に中国人留学生なのか?

585:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:16 ID:???
  重力下であの動きは神
  俺麻帆良大工学部受験するわ

586:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:19 ID:???
  マジで合成じゃないとかwwww

587:名無しの常識人:2003/10/10(金)21:04:21 ID:???
  >>569
  俺も突撃するぜ!

適当に抜粋して見てみるだけでこんな感じなんですけど、書き込みの速度が速すぎて自分の言いたい事言ってどんどん流れてくだけだったりします。
……何故か3-Aの事が定期的にポロポロ出てきてるのが気になるような。

「超包子の宣伝を勝手にしてくれる人が増えて助かるネ」

「確かにそうですね。特に今日は超包子の単語がかなり頻出してます」

「ジェット推進研究会の技術も高く評価されてるみたいですし、これは来年もしかしたら予算増えるかも」

[……今後も麻帆良学園の動向は目が離せない事となるでしょう]

……というような事がありました。
民放の局であると、街頭で麻帆良学園の映像を流して、その反応をインタビューするなんていう番組があり、唖然とする人、驚愕する人、笑い出す人、引いてしまう人等、その反応は様々でした。
初日は今年も3-Aらしい感じで無事に終わりましたが、その後2日目、3日目、4日目はどうなったか、見てみましょう。
体育祭としての2日目は残っている競技を消化しつつ比較的楽に終わり、3日目は学年対抗のリレー、綱引き、棒倒しのような競技を中学のグラウンドでやったり、学校外では学校対抗の超大規模騎馬戦、綱引き、玉入れ、玉転がしのような競技が皆のこれでもか、という応援の中でしっかり行われました。
一方ウルティマホラはウルティマホラで2日目の小学生の部はネギ先生と小太郎君がいないのでかなり普通で、3日目の予選と4日目の本戦も、古さん、鈴音さん、私も出ていないので更に結構普通……だったんですが、それでもニュースではレベルが高いと言う話で持ち切りでした。
あからさまなトトカルチョもまた話題に火を付けたりもしました。
因みに疲労回復の術式は効果を去年より弱めて、今年もこっそり発動させ、カモフラージュの為の機械も同じく適当に置いておきました。
少なくとも、今回の体育祭期間中までは認識阻害が掛かっていた為、疲労回復施設を異常だと思う人もおらず、回復術式自体は映像で撮影もできないので、そんなに問題にはなりませんでした。
麻帆良にとって、という意味で……変化らしい変化があったのは体育祭後の翌日、麻帆良の認識阻害が解除されてからでした。
10月14日、認識阻害が解除されたその日、周知されていた通り、麻帆良は全域的に活動規模が普段よりもかなり縮小されました。
それでも日常生活はいつもどおりするので、女子寮の中で皆朝普通に起きて朝食を取り、振替休日らしく、部屋でゴロゴロしてる人もいれば、外に出て遊びに行く人もいました。
学校の部活は休日で当然無いので、大学系列のサークルに入っていない限りは遊びに出るのが殆どでした。
3-Aでは柿崎さん、釘宮さん、椎名さんのチア3人組が「せっかくの休みだから遊びいこー!」と支度をして女子寮から飛び出したんですが、その時観測をしてみた所、3人の反応は違いがありました。

「あれー、ニュースでやってたけど、やっぱ田中さんってどうなってるんだろ?おかしくない?」

「うんうん、凄く現実にあり得ないって感じ。作った超りんがいくら天才でもこれはちょっと……」

柿崎さんと釘宮さんが女子寮の周囲巡回をしている田中さんを出掛けに見て足を止めて深く考え込み始めました。

「えー?そうかなー?別に良くない?」

それに対して、椎名さんは殆ど違和感を覚えてはいませんでした。

「桜子、変とか異常すぎるとか思わない?だってこれSF映画の再現みたいなものだよ?」

「んー、凄いとは思うけど、アリじゃないかな?私はSFの中の話って意外と実現するんだなーって思うよ」

椎名さんは口元に人差し指を当て、首を傾けてみて少し考えてみたようですが、充分田中さんの存在を受け入れられるらしいです。

「認識阻害っていうのが解除されたからだと思うけど、桜子みたいに脳天気だったら変わらないんじゃない?」

「……そうかもね。それじゃそろそろいこっか」

「うん!しゅっぱーつ!」

椎名さんの様子に釘宮さんと柿崎さんは少し苦笑いしましたが、考えても仕方ないという事で遊びに繰り出して行きました。

《キノ、今の見てましたか?》

《3人の、特に椎名桜子が田中さんに対して認識阻害が切れても耐性があったことですか》

《はい、あれってやっぱり……》

《……そうです。椎名桜子は小学生の頃から麻帆良に通っていますが、柿崎美砂と釘宮円は中学から麻帆良に通い始めましたから》

《つまり椎名さんが培った常識は素の麻帆良寄りという事ですね》

《そういう事です。雪広あやかと神楽坂明日菜も似たような事になるでしょう。強烈な違和感を覚えるのは中学・高校以降麻帆良に入ってきた人達が大半になると思います》

《椎名さん達幼少組は将来困ったりしないんですかね?》

《今までの例から言うとそこまでの弊害はありません。麻帆良育ちの人は最終的に麻帆良内の企業に就職することが多いというのもありますが、言うなれば心の許容範囲が広がるというぐらいで、麻帆良の外での生活に適応できないという事はないです。とある対象を異常と早々に認識しなくなるので、忌避感や拒絶感が薄れ……よく言えばおおらか、少し変えれば天然……と言ったようになるぐらいでしょうか。麻帆良外の生活に適応できなくなるどころか、寧ろ環境への順応性は確実に高くなる筈です》

《んー、確かに椎名さんはそういう事で深刻に困ったりはしなさそうですね》

《もちろん個人差はあるとは思いますが》

《じゃあ麻帆良寄りの人を除外すると、鈴音さんが言ってたように長谷川さんが外部から麻帆良に入ってきた人の中で一番今までと同じように生活を続けられる事になりそうですね》

《実際そうなるでしょう。今日は騒ぎになりそうな団体の活動は知っての通りですのでまだ大丈夫の筈ですが、明日、明後日と日を重ねて活動規模が元に戻るにつれて、あちこち混乱すると思います》

《それは……仕方ないですよね。事故が起こらないよう祈ります》

航空部の人が「一介の大学生がどうして飛行機を操縦できているのか」と強く疑問を感じて「もしかしたら自分は突然操縦できなくなるかもしれない」と平常心が崩れたりすれば、本当に飛行機が墜落するかもしれませんから細心の注意が必要です。

《……それはそうとして、ネギ少年達は金曜の午後から京都旅行に行くことにしたそうですが、私達が注意しなければならないのは今週末超鈴音が麻帆良から出て調布に行く事ですね》

《はい!私と葉加瀬さんも行きますけど、周囲の観測はしっかりやりますよ!》

《ええ、私の方でも行うので、もしも、等というのは潰しましょう》

《もちろんです!》



[27113] 73話 なまえをよんで
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:44
10月17日金曜日、その日アスナは帰りのHRが終わるとすぐにクラスの友達に元気よく挨拶をして、誰もが驚く勢いで学校を後にし、女子寮へと戻っていった。
寮のロビーに駆け込んだアスナは一目散にエレベーターのボタンを押し、軽くその前で足踏みをしながら、エレベーターが降りてくるのを待つ。
その到着を知らせる音と共に中に乗り込み閉じるボタンを右手で押し、左手で6階のボタンを押す。

「着いたら早く着替えないと。あぁ、もう自分で階段上がった方が早かったかも」

ブツブツ言いながらアスナは鞄から鍵を取り出す。
そしてエレベーターの目的階への到着と共に、再び勢い良く飛び出し643号室を目指した。
握っていた鍵で部屋を開け、すぐに部屋に飛び込む。
アスナは靴を勢いに任せて脱ぎ、鞄を床に降ろし、制服を脱ぎ始める。
脱いだ制服を片付け、今度はすぐに今日の朝用意して出しておいた服に素早く着替え始める。

「うーん、これでホントに良いかしら?」

アスナは着てみたものの、その服で良いのか気になりだし、自分の姿を鏡に見てそう呟く。

「ううん、そんな時間もう無いし、いいわよね!よーしっ!」

自分で秋に合わせて選んだ落ち着いた色彩の服の組み合わせに納得し、アスナは無性に嬉しそうな表情で軽く両手で足を叩き、最後にコートに袖を通す。
二段ベッドの横に用意しておいた鞄を肩にかけて玄関へと急ぎ、外出用の靴に履き替える。
そのままドアを開け、部屋から飛び出し、後ろを振り返って忘れずに鍵を閉める。
廊下を移動し、まだ動いていなかったエレベーターに再び乗り込み1階のボタンを押し、閉じるボタンを押す。

「えーっと、3時38分……うん、間に合うわね!」

アスナは腕時計を見て、麻帆良学園都市中央駅に集合する時刻に間に合う事を確認する。
そして、到着を知らせる音と共にエレベーターが開き、再び勢い良く飛び出し駅を目指して一路走りだした。
ポツポツ寮に戻って来始めた学生達と入れ違うようにアスナは髪飾りの鈴から音を鳴らしながら道を駆け抜け、遠くにある3人が手を自分に向けて振る姿が視界に入り、更に速度を上げる。

「お待たせーっ!!……少し待たせちゃった?」

「大丈夫ですよ、アスナさん。僕達も今来た所です」

一瞬息を切らせてアスナが遅れた事を言うが、ネギがそれに落ち着いて笑顔で答える。

「おし、アスナも来たし、行くか!」

「そうじゃな」

「うん!」  「はい!」

スプリングフィールド一家は麻帆良学園都市中央駅の改札を通り、大宮行きのホームに向かい、丁度良く到着した電車に乗り込んだ。
電車に揺られる事20分程、大宮駅に到着し時刻は16時6分。
一行は隣の新幹線ホームに移動し、15分発東京行きの新幹線に乗り換えた。
25分程の時間だが、2人席の片方を回転させ、荷物棚に鞄を上げ、そこで4人はようやく座席に着いた。

「えっーと……ネギ、私の隣で良いの?」

自然と座ってしまったものの、アスナは自分がネギの隣に座って良かったものかと、アリカとナギの顔を見てから、ソワソワしつつ隣の席のネギに確認した。

「?……はい、アスナさん。もちろんですよ?」

質問の意図が分からずネギはアスナの顔を見ながら少し首を傾けたが、アスナの隣で何ら問題無いと答えた。

「そ、そう。ならいいんだけど……」

「アスナ、気を遣わなくて良いぞ。それに東京につけばすぐにまた乗り換えじゃ」

「あ、そっか」

「なんだアスナ、緊張してんのか?」

「緊張はしてないわよ!」

的外れな事を聞いて来たナギに対し、アスナはやや呆れて突っ込みを入れた。

「でもアスナ、さっきからずっとソワソワしてないか?」

「えっ?そ、そんな事は」

自覚が無かったアスナはナギにそう言われて焦るが、そのアスナの右手をネギが両手で触れた。

「!」

突然手を触れられアスナは驚いて身体をビクっと震わせる。

「アスナさん。僕、アスナさんとこうして旅行に行けて……すごく嬉しくて、今楽しいですよ」

ネギは穏やかな微笑みを浮かべ、アスナの手に触れたまま、落ち着いて想いを言葉に表した。

「ね、ネギ……。うん……私も嬉しいわ」

アスナは少しばかり顔を赤くしたが、一息つきネギと同じで自分も嬉しい事を素直に口に出し、それによってすぐ落ち着いた。

「はい、アスナさん」

ネギはアスナが落ち着いた事を感じ取り、アスナの手を握っていたその両手を自然に離した。

「ね、ネギよ、私と行くのは……?」

「お、俺はどうだ?」

ネギとアスナの分かり合った様子に、当のネギの両親はネギの言葉に自分たちが含まれていない為か、思わず席から身を乗り出して問いかけた。

「は……はい。母さん、父さんと行けるのもすごく嬉しいです」

ネギは両親が顔を突然近づけて来た事に驚いたが、当然嬉しい事を伝えた。

「そ、そうか、嬉しいか。うむ、私も嬉しいぞ」

「おう、俺も嬉しいぜ」

その言葉を聞いて安心したのか、ナギとアリカは身体を元に戻し、背中を座席に預けた。
それから程なくして車内アナウンスが流れ、一行は荷物を降ろし、席を元に戻して、東京に到着すると共に新大阪行きの新幹線に乗り換えた。
今度も座席はネギとアスナ、ナギとアリカで向い合って座る事となった。

「んー、そういえば私放課後すぐに旅行に行くのって初めてね。どうせなら朝から休んでも良かったんだけど」

「元担任でもある僕が行きたいって言い出した事で……それに学校はやっぱり行った方が良いです。中間テストも近いですし」

「うー……日本ならまだネギも小学校通ってる筈なのに元担任って言われると……凄く変な感じするわ。しかも中間テストなんてあったわね……」

アスナはネギの言葉を聞いて眉間に手をあてて悩むように答えた。

「勉強がんばれよ、アスナ!」

「ナギには言われたくないわよっ!」

「アスナさん、何かわからないことあったら、聞いてくださいね」

「だ、大丈夫よ。分からない事があったら自分で調べて解決するから」

「……遠慮しないで下さいね?僕アスナさんに迷惑かけっぱなしでしたし……役に立てる事は」

「ネギ!そういう事考えなくていいの。ホント子供らしくな!……ううん……ごめん何でもない。……じゃあ、どうしても分からない事あったらその時は聞くわね?」

アスナは年下から物を聞くのは何だか恥ずかしい為、ネギの申し出を断ろうとしたが、ネギが普通の子供らしくない原因を思うと……とてもではないが断る事はできなかった。

「……はいっ!」

「……ところで、ネギ、以前京都に行った事があると言っていたが、その時の話を聞かせてくれぬか?」

アリカはネギがアスナに対して一瞬返答に間を置いた事から、話題を切り替えるべく、ネギに3月の時の事を話して欲しいと言い出した。

「3月の時の事ですね、はい。もちろんです。あの時は今日と同じように出発したんですけど、まず最初学園長先生から頼まれて……」

ネギは3月に京都へと行った時の事を詳しく話し始めた。
桜咲刹那、近衛木乃香の仲の事を葛葉に相談した事、近衛詠春に親書を渡した事、翌日ナギの別荘に案内されて麻帆良の地図を貰った事、刹那と木乃香の仲が良くなった事、皆でエヴァンジェリンの発表会を見に行った事、その後少しばかり観光もした事……覚えている事をネギは一所懸命に身振り手振りを加えながら3人に話し、ネギはその話す事自体嬉しそうな様子であった。
3人は終始微笑み、たまに相槌を打ちながらその話にしっかり耳を傾けて聞いた。

「そっか、詠春も言ってたが、別荘そのままだったんだな。詠春も律儀な奴だぜ」

「久しぶりにあそこへ行くのも良いかもしれぬな」

「ああ、そうだな。行ってみるか」

「私も行ってみたいわ」

「僕もまた行きたいです」

「じゃ、決まりだな!」

……そしてスプリングフィールド一家は道中話し続け、東京を出発してから2時間と20分程、時刻は19時11分、新幹線は京都駅へと到着した。
改札を出た後、京都駅ビル内の造りを目にしてナギとアリカは驚きの声を上げた。

「おおー?京都駅ってこんなだったか?」

「私が来た時はこれ程立派ではなかったな」

2人は辺りを見回しながら呟いた。

「1994年に平安遷都1200年を記念して改築をしたんだそうです」

京都駅ビルは1994年に平安遷都1200年の記念事業の一環として改築され1997年に現在の4代目京都駅ビルが完成した。
地上16階高さ60m、地下3階、東西の長さは470mに及ぶ鉄道駅の駅舎としては日本でも有数の規模である。

「1994年……か。10年以上も経ってたらそりゃ建物も変わるか」

「10年以上……そうじゃな」

ナギが失踪したのは1993年、丁度京都駅改築の前年、アリカの失踪した年でもある。
2人は時の流れをひしひしと感じ、やや目を細めて少しの間遠くを見るようにしていた。
ナギとアリカが気を取りなおし、一行はタクシー乗り場へ、今日のメインとも言える宿に移動するべく向かった。
タクシーのトランクに荷物を入れ、ナギが運転手の横、残りの3人が後部座席に乗り込んだ。

「お客さんどちらまで?」

「あー、八坂神社南門前の祇園畑山までで」

「はい、分かりました。八坂神社南門前ですね」

タクシーの運転手はナギの言葉ですぐにどこかを理解し、車を出した。

「……今日は祇園畑山で一泊されて明日から京都観光ですか?」

運転手は一行を見て今晩泊まり、翌日土曜の朝から京都を見て回るのだと思い、ナギに話しかけた。

「ああ、その予定だ」

「そうですか。良いですね、家族旅行。是非京都をお楽しみ下さい。祇園畑山からだと清水寺も徒歩ですぐですからね」

「へー、そうなんだ。どの辺りに泊まるか知らなかったけど、清水寺まで徒歩でいける所なのね」

アスナは旅館に泊まるとは聞いていたが、具体的にどの辺なのかまでは知らなかった。

「天候次第ですが、明日早く起床すれば清水寺から朝日を見る事ができると思いますよ」

「あ、それ素敵!」

「そうだな、早起きするか!」

京都駅を出てから15分程、タクシーは八坂神社南門前に到着した。
一行は運転手に挨拶をして降り、そのまま旅館、祇園畑山の門をくぐり石畳を登った。
門、石畳、木造……純和風の造りで非常に落ち着いた雰囲気の旅館である。
中に入れば玄関で仲居さん2人が出迎え、予約名を尋ね、チェックインへと移った。

「ナギ・スプリングフィールドで予約している」

「はい、ナギ・スプリングフィールド様ですね。本日はようこそお越しくださいました。お部屋は404号室となります。こちらが鍵です。……丁度19時30分になりますので、本日のご夕食はご予約通りでこのまますぐ部屋にお運びしても宜しいでしょうか?」

「ああ、構わない。それで頼みます」

夕食開始時刻限界ギリギリに到着した為、一行が部屋に入るとすぐに、食事も運ばれる事となった。
一行は4階の部屋まで階段で上がり、中に入った。
中は玄関から見るに清涼感が漂い、開放感もあり、結構広いという印象を受ける。

「ひろーい!……うーん!京都旅行に来たって感じしてきた。魔法世界で泊まった所はどこもかしこも殆ど洋風だったし」

アスナはこれぞ和室という和室に荷物を置き、コートを掛けた後、床に寝転がり、身体をおもいっきり伸ばし、畳の感触を堪能し始めた。

「そうですね。僕も3月の時以来です」

ネギはそう言いながら既に開けられていた障子の奥の間に歩みを進め、もう暗くて良く見えないが窓ガラスを通して外に目を向けた。

「さあ、ネギ、アスナ、飯だぜ飯!京料理だ!」

ナギは腹が減ったと言う様子で夕食が運ばれてくるのを今か今かと待っていたが、噂をすればというべきか、丁度最初の料理が運ばれて来た。
京野菜を用いた前菜から始まり、湯葉のお吸い物、新鮮な魚を用いた刺身の盛り合わせ、茸類と川魚の程良い焼き物、山芋の煮物、山海の珍味を数種バランス良く取り合わせた八寸、つややかな炊きあがりの御飯、湯気がほんのりと立ち上る味噌汁、そして季節の果物。
旬の素材が使われ、秋の季節を映した京料理会席はその味わいと言えば素晴らしいものであったが、それぞれの料理に用いられた器の形、塗りの美しさ、それらが料理の味を更に引き立てていた。
ネギ達は次々と運ばれてくる料理を食べながら各々「とても美味しい」と互いに笑顔で会話を交わし、満足した様子で京料理を堪能した。
部屋で食事を楽しむ事ができるというのも旅館ならでは、衆目を気にせず一家団欒する事ができたと言えよう。

「はぁ~、美味しかった」

「はい、美味しかったです」

「うん、満足だ」

「久方ぶりの京料理、良いものじゃ」

4人は揃って茶を飲んで一息つき、しばらくの間食事の余韻に浸っていた。
その静けさの中、アリカは向かいの席のネギを見て言った。

「その、突然なのじゃが……ネギよ、もっと砕けた言葉遣いで話してはくれぬか?」

「え……?」

言葉通り突然の話にネギは虚を突かれた顔をする。

「あ、俺もそれ気になってたんだ。いちいちですとかますとか俺達に付けて話さなくていいんだぜ、ネギ。俺も付けてないし」

アリカの言葉に反応するようにナギも気づいたようにネギに同じような事を言った。

「え、えっと……はい、その方が良いなら、分かりました。母さん、父さん」

ネギは困惑したような顔をしながらぎこちなく答えた。
しかし、分かったという言葉と裏腹にその言葉遣いに変化は無かった。
思わずナギとアリカとアスナはズルっとするが、再び気を取り直す。

「ネギ、変わってないわよ……。そこは、うん、分かった、母さん、父さん……とかでしょ?」

ネギはアスナの言葉を聞き、頭の中で何度か反芻するような様子をして、口を開いた。

「はい、わか……分かりました、アスナさん!」

瞬間、ゴンッ!という音をたてて「これは駄目だ」と呆れたような目をしたアスナの頭が机にぶつかった。

「あ、アスナさん、大丈夫ですか!?」

突然の事にネギは隣のアスナのリアクションに驚く。

「……うん、大丈夫よー」

アスナは机に頭をのせたままネギに言葉を返す。
頭をゆらりと上げ、アスナは更に言葉を続けた。

「もー……。良い?ネギ。私に対しても言葉遣いは変えていいから。アスナさんって呼ぶのもやめてその代わり……あれ、それはちょっと駄目かも……ううん、駄目じゃな……あーよく分からない!」

始めは真剣な表情でネギの目を見て言ったアスナだったが、自分の名前をさん付けで呼ぶのもやめて良いと言おうとした所で、やや顔を赤くし、何やら頭を抱えて悩み始めた。

「あ、あの、アスナさ?……さ……さー……。あ!……アスナおね」

ネギはまたさんを付けて呼ぼうとした所、今度は思いとどまり、さん付け以外に何かあるかと思案し、思いついたように言葉を発したが。

「それ以上は駄目ッ!」

「っ!?」

クワッとした顔でアスナはネギが全部言い終わるのをその口を鼻もろとも無理やり手で強烈な力で塞ぎ、遮った。

「んー!んー!」

「それは駄目!良くわからないけどそれは絶対駄目なのっ!」

アスナはきつく目を瞑って首を勢い良く振りながら尚、ネギの呼吸を妨げ続ける。
それに対してネギはバタバタしてくぐもった声を上げる。

「おーい、アスナ、ネギ苦しがってるぞー」

「落ち着いて手を放すのじゃ、アスナ!」

「あっ!?ご、ごめん、ネギ!大丈夫!?」

その言葉にアスナはようやく気がつき、慌ててネギの顔から手を離した。

「はっ……だ、大丈夫です。ちょっと驚いただけで」

開放されたネギは息を吸って答えた。

「はぁ、良かった……」

アスナはしぼむように力を抜いて座った。
そこへナギがマイペースに呟く。

「なんだ?アスナはネギにお姉ちゃんって呼ばれるのは嫌なのか」

「イヤー!何かそれは本当にだめーッ!」

お姉ちゃんという単語を聞いた瞬間アスナは、今度は自分の耳を塞ぎ、激しく首を振って叫び声を上げ始めた。

「おおっ!?」  「ええっ!?」

アスナの反応にナギとネギは思わず驚く。
一方アリカは何かに気づいたのか、席からスッと立ち上がり、素早くアスナの元に向かい、耳を塞ぎながら荒れ狂う両手を掴んで離し、耳打ちをした。

「アスナ、ひとまず私と浴場に行くとしよう」

「…………うん」

その言葉を聞きアスナは一瞬で落ち着きを取り戻し、小さく頷いた。

「ナギ、ネギ、私達は湯に浸かってくる事にする」

「ああ、分かった。なら、ネギ、俺たちも行くか!」

「はい!」

4人はそれぞれ準備を整え、部屋から出て階段を降り、地下1階、大浴場へと向かい、それぞれ女湯、男湯へと別れた。
服を脱ぎ、浴場への扉を開ければ、大きなガラス張りの先に白砂利の敷き詰められた庭、その前に檜でできた長方形の風呂になみなみと湯が張られているのが見えた。
アリカとアスナはまず身体をしっかりと石鹸で洗い、髪も洗う事にしたが、両者共に長い髪である為、互いの髪を丁寧に洗い合った。
シャワーを掛けて泡をきちんと洗い流し、湯に足を差し入れ、腰、そして肩まで湯船の端に浸かった。
他の客もいたが、丁度すれ違う形になり、浴場にはアスナとアリカだけがいるという状態であった。
そして先にアリカが口を開いた。

「アスナ、アスナはネギの事を……どう見ておる?」

「ど……どうって……」

互いに顔を直接は見ず、前を向いたまま会話を続ける。

「アスナはネギの事を好いておるか?」

アリカは呟くような声で尋ねた。

「それは……好きよ。ネギは私にとって大切だから」

「そうか……。好きは好きでも、私がネギを好きであるのとは違う類の好きなのではないか?……アスナは時々ネギに恋をしておるようにも見える」

「アリカがネギを好きなのと私がネギを好きなのは違う事ぐらい分かってるわ。でも……それを言葉で表すのは凄く難しいの。それに……こ……恋って言われても……ネギは私よりも4つも下のまだ11歳ぐらいの子供だし……」

アスナは首まで湯船につかり、最後の方は口をブクブクさせながら言った。

「……それもそうじゃが……ネギの生徒達を見た限り、はっきり恋をしておる者もいたように私は思えた」

「のどかとゆえちゃんね……。しかものどかに至っては告白までしてたわね……」

「はっきり言って私は……ネギを渡したくない」

アリカは真剣な表情で言い切った。

「へ!?あ、アリカ……?何をいきなり言って……」

その言葉にアスナは虚を突かれた顔をして驚く。

「私は、まだ……ネギと一月として共に過ごしておらぬ。目覚めれば我が子が死んだと聞かされ、過去の映像を見れば年に合わぬ急激な成長をし……奇跡のように戻って来た。本当に良かったっ……。こうして旅行に来れておる事もまだ夢のようじゃ……」

アリカは思わず目を潤ませながら語り始めた。

「アリカ……」

「私は毎晩寝る時、次起きた時にネギがいなくなっておるかもしれぬと……そのような考えがよぎって怖いのじゃ……。ネギはどうやって戻ってきたかについて一切話さぬし、私とナギも聞けぬ。じゃが……それがどういう意味なのか分からず、怖い」

「アリカ……。私も同じ。ネギがまた突然目の前で消えちゃうんじゃないかって怖くて堪らない。まだあの時の事を夢に見る時があって、この2週間近く女子寮で寝起きした時は朝起きてネギが近くにいないから余計に怖くて身体が震えたわ」

「アスナもそうか……。私とネギはまだ会ったばかりと全く変わらぬ。言葉遣いも先程言わねば変えようとも考えておらなかった。アスナが先に新幹線で子供らしくないと言おうとした時には一瞬表情を翳らせたっ……。どこかまだあの子は私達との間に心に距離を置いておるっ……」

アリカは一筋の涙を流し、遠くを見るような目をして言った。

「……私はネギが部屋に居候し始めて一緒に生活して、勉強一生懸命教えてくれたし、授業をしてたからその時も一緒……修行し始めてからはもっと長くいられた。それで……その後私は攫われちゃったけど……その間ずっと私を守る為に頑張ってくれててっ……最後には命と引きかえに私を助けてくれるような子なんだからっ……。これから一緒に、傍に、できるだけ、いれば良いんだと思う。心の距離は私達から……あの子に自覚が無いんだから、近づくしかないのかも」

アスナもアリカに釣られるように目を潤ませながら言った。

「そうじゃな……。私は……親しげにネギと話す者を見ると羨ましいと思う……我ながら醜いものじゃ……。先に新幹線でアスナの手をネギが自然に握った時も羨ましかったのじゃぞ?」

「え、あ……あー、うん。あの時正直言うと私ちょっと……凄く嬉しかった」

アスナは新幹線での出来事を思い出し、少し恥ずかしがりながら言った。

「むむ……私もネギに手を握ってもらうか……しかしどう頼んだら……」

アリカは悩みだした。

「いや、そこはアリカが握るべきなんじゃないのっ?」

アスナは呆れた顔をして思わず突っ込みを入れる。

「大体アリカにはナギがいるじゃない!」

「う……そ、それは関係無い。な、ナギは夫なのだから当然じゃ。それに私が言いたいのは普通に手をつなぐのではなく、あの時のネギの雰囲気で握って……貰いたい……握りたいというか……そのじゃな……」

今度はアスナではなくアリカが首まで湯に浸かり、ブクブクとし始める。

「えーっと……あの時のネギなんだけど、あれは以前のネギには無かった感じなのよね……」

「そうなのか……?」

意外な事を聞いたとばかりにアリカはアスナを見て尋ねた。

「うん、前よりもっと落ち着いてるの。……何ていうか……全部分かってくれてるっていう感じで、不思議と私も落ち着けたわ」

「アスナが言うならそうなのじゃろうな。一体ネギに何があったのか……。それはそれとしてじゃ、話が逸れたが、アスナはお姉ちゃ」

「だからそれは何か駄目ッ!」

アリカが言おうとした言葉の上からアスナは再び大きな声を出してそれを遮った。

「アスナ、ここでは静かにせねば……」

「ご……ごめん」

「ふ……つまりじゃ、アスナはネカネと同じように呼ばれるのが嫌であるのは、やはりネギに恋をしておるからじゃな」

「う……うぅ……そう言われると違うとは言い切れないのが……けど、私いいんちょ達とは違う筈なのにー……」

今度はアスナが悩み始めた。

「否定しないならばそれで良い。ならばはっきりしておこう、アスナ」

アリカは凛々しい顔をしてアスナを向いて言った。

「え?何を?」

突然の発言にアスナは間の抜けた顔をする。

「もし今後ネギの恋人になりたいと言うならその時は私を説得しなければ、絶対に交際は認めぬ。以上じゃ」

アリカははっきりと言い切り、その言い切った顔はどことなくいたずらっぽい表情をしていた。

「な、何言い出すのよ。それに、だから私はネギに恋なんか」

「言うたな、アスナ?ネギに手を出さないと、そう言うのじゃな?」

ズズっとアリカはアスナに顔を近づけ確認する。

「うっ!……う……分かったわ。今の無し。でも、まだよ、まだ!だってまだ11歳の子だもの!」

認めたと思えばすぐに慌ててアスナは言い訳を始める。

「左様か。じゃが、今の私の言葉は変えぬぞ」

「……って言うことは……他の皆はこれから子供を溺愛予定のアリカが姑……いやいや何言ってるのよ。というか、それネギが誰か連れて……来た時は……うわー!!」

ブツブツとアリカに聞こえない声で言った後、アスナは突っ込みを入れようとしたが、自爆した。

「あ、アスナ……何と恐ろしい事を言おうとするのじゃ……」

アリカはアスナの言葉を聞きガタガタと温かい湯船の中で震え始める。
そこへガラッという音と共に他の客が丁度入ってきた。
その客は2人の奇妙な様子に一瞬ギョッとしたが、何も見なかったと華麗にスルーし、風呂桶と椅子を出して、身体を洗い始めた。

「えっと……そろそろ上がる?」

「……そうじゃな」

明らかに見られてしまったので、2人は恥ずかしがりながらいそいそと湯船から上がり、素早く浴場から出て身体を拭き、服を着て、じっくり髪を乾かした。
そして部屋に戻るべく、階段を上り始める。

「私ネギにアスナって呼んでもらう事に決めたわ」

4階の廊下に着いたとき、ふと、アスナが言った。

「うむ……それが良い」

アリカは落ち着いてそれに返答した。

「アリカはアリ母さんとか呼んでもらったら?」

今度はアスナがいたずらっぽく言った。

「アスナ……何故そのような縮め方をする」

アリカは突然立ち止まり、アスナの左肩を右手できつく掴み、顔を俯かせて言った。
その身体からは何とも言いがたいプレッシャーが放たれていた。

「い……嫌だなぁ、冗談よ冗談。アリカは母さんでいいじゃない!」

アスナはギギギッと首だけ後ろに向けながらハハハと乾いた声で笑いながら言った。
その言葉でプレッシャーがすぐに止まった。

「……それも何だか寂しいのじゃが……アスナは名前で呼んでもらえるというに……。アスナはやはりおねえちゃ」

「だからそれは駄目ッ!」

突如アスナは右手でアリカの左肩をガシッと掴み語調を強めて言った。
アリカも右手をアスナから離していないため互いにギリギリと肩を掴みあっている状態であり、傍から見ると何をやっているのか、という有様であった。
……数秒して、2人は我に返り、廊下一番奥の部屋へと向かった。
ドアには鍵がかかっておらず、もうネギとナギは戻っているというのが2人は分かり、そのままドアを開け、中に入った。

「よぉ、戻ったか!アリカ、アスナ。ほらネギやってみろ!」

「は……うん!おかえり……お……おふ……おふくろ、アス」

少々言葉が不自由な感じでぎこちなくネギはアリカとアスナに声を掛け……ようとした。

「主は見てないうちに勝手に何をネギに教えたのじゃッ!!」

「いでぇっ!!」

アリカは驚きの速さでネギをスルーしてナギに接近し、ナギの頬を平手打ちし、錐揉み回転をさせながら畳に倒した。
更にアリカは間髪おかずネギの目の前に移動し、ネギの両肩に手を置いてゆっくり話しかけた。

「良いか、ネギよ。私の事は母さんと呼べば良い。あるいは、アリカ母さんと名前を母さんの前に付けて呼んでも構わぬ、分かったか?」

ネギは目を穿つような視線をアリカから受け、答えた。

「は、はい、母さん」

「違うぞ?今のは、う、うん、アリカ母さん、じゃ」

アリカはニコニコしながらネギに言い直しを求めた。

「……う、うん、アリカ母さん」

誘導されるようにネギはアリカの言葉を復唱した。

「う……うむ、それで良い。何度呼んでも構わぬからな」

実際に言われた事でアリカは嬉しそうな顔をしながら、念押しをする。

「はい、母さん!」

良いと言われた事でネギは大層嬉しそうな表情をして元気に答えた。

「…………」

アリカはその言葉を聞いた瞬間パタリと膝立ちの状態から横に畳へ倒れた。

「か、母さん!?」

「あ、案ずるな……こ、これから徐々に変えていけば良い」

すぐに上体を起こしアリカはネギに答えた。
ナギはまだピクピクとして倒れたままである。
その言葉でネギはホッとした所、今度はアスナが声を掛けた。

「ね、ネギ、私の呼び方なんだけど……さん付けをやめて、アスナって呼んでもいいわ」

「ネギよ、アスナはさん付けのまま呼んでも構わぬぞ?」

そこへアリカが揚げ足を取るような発言をする。

「え?」

「ちょっ!アリカは黙ってて!」

それに痺れを切らし今度はアスナがネギの両肩に手を置き、話しかけた。

「はい、ネギ、私をアスナ、アスナって普通に呼んでみて?」

「は、はい、アスナさ!」

「はい、駄目ー!もう一回」

アスナはネギがまず了解したという意味で呼ぼうとした所から、口を塞いでやり直しを要求した。

「では……あ、アスナッ!」

再びアスナはネギの口をタイミング良く塞いだ。

「そう、それよ!じゃあ、もう一回!」

無理やりであるが、アスナはアスナと言う部分だけに留めて呼ばせた事に少しばかり頬を緩め、ネギに練習をさせ始めた。
ネギはアスナの謎のテンションに困惑しながらもそれに答えた。

「あ……アスナっ……」

「その調子よ!じゃあ、今度は続けて3回!」

アスナはネギの口を抑えるべく右手を待機させ、さんという言葉が再び出るかもしれない所、反射的に右手を一瞬動かして、さんキャンセルをさせた。
……ネギの視線はアスナの右手に釘付けであった。

「アスナ……アスナ、アスナ!」

「う……うん、それで良いわ。でもそんなに何度も呼ばなくてもいいわよ。……恥ずかしいし」

「ええっ!?」

ネギは3回連続正しく呼べた事に最後思わず語調が強くなっただけだったが、当の呼ばせた本人は3度も自然に呼ばれた事で少し顔を赤くして、横を向き、聞こえない声でボソっと「恥ずかしい」と矛盾した発言をしながら言った。

「あ~、いてー!折角ネギに言葉遣いを風呂で教えて実践させてたっていうのに。つーか、もう英語で話せばいいだけじゃね?」

そこへナギがようやく復活し、真理をついた発言をした。

「それは言わない約束なの!」

「そんな約束してないだろ!?」

アスナがナギに暗黙のルールを説き……メタな会話が交わされた。
それからは長いことネギの普通の年上に対しては一律丁寧語で話す癖を、少なくともナギとアリカとアスナは、自分達は例外にすべく、ネギの目を穿つような視線で見つめながら、実践自然会話の練習が繰り広げられたのだった。
ネギは反射的に「はい」というのを「うん」と変えられ「ます」「ました」「です」「ですよ」等を何気ない会話の中でポロッと出ないように矯正させられた。
練習中、ネギはぎこちない話し方になり、どうにもあどけなさの残る子供のようなしゃべりになった為、ナギは爆笑し、アリカは更に熱心に教えようとし、アスナは声には出さないが不覚にも可愛いと思ったのだった。
それでも、当のネギは終始楽しそうな顔をしていた。
そして4人は布団を並べて敷いて眠りにつき、一夜明けて10月18日。
早朝、4人はやや肌寒い朝の中、祇園畑山から出て、八坂の塔を途中眺めながら昔話でも有名な三年坂を通り、清水寺へと足を運んだ。
6時になると共に、入館料を払い、急ぎ本堂舞台へと向かい、6時少し過ぎに日の出を見ることができた。
舞台左手から見える日の出と共に、暖かな色合いの光が辺りに差し込む。

「あー!いい朝!早起きした甲斐あったわ!」

アスナは舞台手摺の所で両手を掲げて伸びをしながらパタパタと動かす。

「ああ、いい朝だな!」

「そうじゃな」

「うん!」

それに続くように手摺に腕を置いていたナギ、アリカ、ネギが答えた。
しばらく朝日を眺めていた4人は音羽の滝へと向かう為に本堂舞台を後にし、歩きながら会話を始めた。

「もしかしたらここに修学旅行、皆で来てたかもしれないのよね。ちょっと不思議」

「3-Aの皆さんとも来れたら良かったんだけど……」

「でも、イギリスも楽しかったわ。他のクラスは絶対行かない所だったし、色々含めても良い思い出」

「あはは、色々含めて……ですね……じゃなくて、だね」

「ふふ、その調子じゃ、ネギ」

「昨日あんだけ頑張ったのにネギ、起きた瞬間また戻ってるんだもんなー」

ナギは両手を頭の後ろに組みながら歩みを進める。

「つ、つい癖で……ごめんなさい、父さん」

やや申し訳なさそうにネギはナギに謝る。

「そこはごめん、父さんな?ってか謝ることじゃないから気にすんな!」

「いや、謝るときは丁寧な方が良いじゃろう」

すかさずアリカが突っ込みを入れる。

「細かいことはいいだろ別に」

「あー、先が思いやられるわね」

アスナもこのやりとりに大分疲れたのか軽く溜息をついて言った。

「が、頑張るよ!アスナ」

「!!……たまに不意打ちなんて……ネギ、やるわね……」

名前で呼んでと言ってから一夜、呼ばれる当のアスナも慣れていなかった。

「そ、そうですか?」

「って言った傍から」

「あ!しまった!」

ネギはうっかりした、という様で口元に手をあてた。
音羽の滝……それは右から健康・学業・縁結の効果があると言われる水の流れる場所。
全て飲むと効果が無くなるとも言われている。
4人は長い柄杓をそれぞれ手に持った。

「じゃあ僕は一番右を……」

最初に迷わず動いたのはネギであった。
ネギは水を掬い、そのまま口に含んだ。
その様子をナギとアリカは普通に見ていたが、アスナだけは一瞬「あっ!」というような顔をしていた。

「じゃ、俺も一応一番右にしとくか!」

「ナギは常に健康じゃが……私も一番右にしよう」

続けてナギとアリカも柄杓で水を掬い、ネギと同様にそれを飲んだ。
一人残ったアスナは、あっさり飲んでしまった3人を見て慌て始め、3つあるうち一番左をチラチラと見つつも、結局は健康の水を選んで飲んだ。
その様子にアリカは気づかない振りをしていたが、音羽の滝を後にする時に軽くフッと微笑んでいた。
しばらく清水寺境内の門、堂、院や塔をあちこち見て回った後、一家は宿に戻り、部屋で再び旬の食材をふんだんに用いた朝食を楽しんだ。
そして9時過ぎ頃、一家は一泊過ごした思い出のできた旅館を仲居さんに見送られながら後にし、まだ見ていなかった八坂神社を見て回り、そのまま東に進み、円山公園へ向かった。
円山公園の枝垂れ桜は当然春ではないので見頃とは程遠かったが、風情ある景色を一緒に見て回るだけで一家には充分であった。
4人は広い道では並ぶ順番を替えながら手を繋いで仲良く歩いた。
円山公園を通り、非常に巨大な知恩院の門が見え、それをくぐって先へと進み、更に青蓮院へと足を運んだ。
そんな所、不意にナギが口を開いた。

「ここからもうちょっと行けば詠春の所だが、先に別荘寄っとく……ってあー、鍵無いんだった。夕方行くって言ってあるし、まだ他回るか」

別荘に寄るとは言ったものの、鍵が無いのでひとまず後回しになった。
そして知恩院に入り、行きとは違う道を通り、円山公園、そして朝行きがけに横目に通っただけの高台寺に寄り、臥竜廊という開山堂と御霊屋を繋ぐ龍の背に似ていると言われる美しい屋根のある道も歩いた。
再び二年坂と三年坂の近い所に来て、アリカが「先は開いておらなかったが地主神社にも寄らぬか?」と提案して縁結びの神様で有名な地主神社へと一家は向かった。
本殿前に10m程離れて置かれている2つの守護石、願掛けの石、恋占いの石。
片方の石から反対側の石へ目を閉じて歩き、無事に辿りつければ恋の願いが叶うと伝えられている。

「アスナ、挑戦してみてはどうじゃ?」

アリカはややいたずらっぽくアスナに試してみてはどうかと尋ねる。

「え……えーっと、じゃ、じゃあ試しにやってみるわ!」

アスナは一瞬迷ったがナギとネギが「アスナやるの?」という間の抜けた顔をしているのを確認し、深く考えてないならと試すことにした。
アスナは片方の石に平静を装って近づき、立った。
片方の石の前から反対側の石までその距離10m。
アスナは反対側の石を確認して目を瞑り、いざ歩こうという時。

―瞬動!!―

アスナは集中して足に気を集め……縮地の域での瞬動で一直線に反対側の石まで、無事、それはめでたく辿りついた。

「よしっ!」

アスナ本人は目を開けてうまくいった事を確認し、軽くガッツポーズをして喜びを顕にした。

「おお!何だ今の!」

「今あの子瞬間移動しなかった?」

「すごーい!」

「かっこいー!」

「もう一回やってー!」

しかし、他の人達もいる中、堂々と瞬動を思わず使ったのは配慮不足であった。
親子連れで来ていた子供が「もう一回やって!」と騒ぎたて始め、わらわらと周囲の人々が集まってしまい、アスナは困った。

「あ……し、しつれいしまーすっ!!」

アスナは恥ずかしくなり顔を伏せ、加減することなくその場から全速力で走り去り、あっという間に地主神社から飛び出して行ってしまった。
周囲の人々はその余りの速さに唖然として一体何者だったのかとザワザワしたが、やがて各々散っていった。

「余程成功させたかったのじゃな……アスナ」

「流石アスナ、完璧な縮地だったな!」

「一歩で辿りつくのは……歩いたって言うのかな……」

3人はそれぞれ思い思い言葉を述べた。

「ってアスナ、どこまでいっちまったんだ?」

ナギが我に返って言った。

「あの速度だとかなり遠くまでのような……」

「電話を掛ければ良かろう」

アリカは、そう言いながら本名ではない名前でつい最近手配した携帯でアスナの携帯へと電話を掛けた。

「……アスナか。どこまで行ったのじゃ?…………そうか……いや、構わぬ。うむ……ゆっくり戻って来ると良い。私達もそちらに向かう。……ではな」

アリカはアスナと電話を終え、携帯を仕舞った。
3人はアスナが戻ってくるであろう道を歩いて進み、途中程なくして向かい側からアスナが戻ってきたのを確認し、合流した。

「勝手に離れてごめんなさい……」

アスナは素直に謝った。

「気にせずとも良い」

「気にすんな。瞬動までしたってことはアスナ、もしかして好きな奴いるのか?」

もしかして、という確認を拡大解釈すれば、現状の確率的には真理を突いた質問であった。

「あ……」

それに対しネギは何かを思いあたる節があるとばかりに少し声を出した。

「ち、違うの!縁結びだからそのうちそういう出会いがあるかもってやっただけよ!」

アスナはナギの言葉、そしてネギの反応を見て大慌てで勢い良く腕を振り回しながらナギの質問に対しては否定して答えた。

「はー、そういう事か。まあアスナは女子中学だもんな。いい出会い、あると良いな!」

「僕てっきり……。うん、アスナなら絶対良い出会いがあるよ!」

ネギはアスナの今後を応援すると言わんばかりに、しかも口調も完璧に言い切った。

「う、うん、ありがとう。ナギ、ネギ。あはは、あはははは」

アスナはお礼を言いつつも、微妙な空笑いをして、その場を流した。
丁度時刻も昼を過ぎたという頃であった為、4人は近くの店に入って昼食を取った。
午後、一家は時間を見て、まだ余裕がある事から嵐山方面へと足を運ぶ事にし、車で30分程東から西へと移動した。
元々ナギとアリカは来たことがあるし、ネギもそれなりに既に観光をしていた為、どこか絶対に見に行きたいという事も無く、特に予定は詰めていなかったのだ。
法輪寺からスタートし、嵐山を象徴する桂川に架かる全長155mの橋、渡月橋を渡り、広い遊歩道があり雄大な庭園が見物の天龍寺、石段を登って見る事ができる多宝塔のある常寂光寺、二尊院、宝筺院、清涼寺と順に巡っていった。
一つ残念ながら、まだ紅葉の時期には1月程早く、葉の色は殆ど変わっていなかった為、鮮やかな美しい景観を見る事はできなかった。
それでも、ネギとアスナは来たことが無い所であり、4人は歩き続けても早々疲れず、道を元気良く歩きながら会話も楽しむ事ができた。
時刻は夕方、再び4人は車で東に40分程移動し、炫毘古社の入り口に到着した。

「アスナ、ここが詠春の家だ」

「家って……どう見ても鳥居じゃない」

アスナは呆れながら言った。
確かに目の前に見えるのは伏見稲荷神社に似た鳥居、であった。

「3月以来……ここがこのかさんの実家だと知った時は驚いたな」

「あ、そっか、ここがこのかの実家でもあるのね!って広っ!」

「アスナ、驚くのはまだまだだぜ。この後階段上がって千本鳥居、その後幾つも屋敷が建ってるからな」

「中はもっと凄いって事ね」

「そういう事だ。よし、行くぜ!」

そして4人は最初の鳥居をくぐり、階段を登った後、実際千本以上ある鳥居の並ぶ道を進み続け、屋敷入り口に辿りついた。
そこへ巫女さんが2人出迎えに現れ、ナギ達を確認し一礼し、4人は中へと案内された。
アスナは最初の一つ目の屋敷の入り口を通り抜けてから、かなりの広さに驚き、辺りをキョロキョロ見回した。
相当奥まで進んだ所で、他と比べるとやや小さな屋敷に上がるように促され4人は靴を脱ぎ、中に入った。
屋敷の中に入れば4人にとってよく見覚えのある人達が出迎えた。

「ナギ、アリカ様、ネギ君、アスナ君、ようこそいらっしゃいました」

最初に出迎えたのは近衛詠春。

「お先にお邪魔しています、皆さん」

「うむ、先に失礼しておる」

「アスナー!ネギ君!いらっしゃい!」  「アスナさん、ネギ先生、こんばんは」

順にアルビレオ、ゼクト、近衛木乃香、桜咲刹那であった。

「「え!」」

思わずネギとアスナは予想外の人物の姿に声を上げた。

「よお、詠春、今日は世話になるぜ。ってお師匠とアルは何か来るとか言ってるのは聞いてたが、もう着いてたのか。しかも詠春の娘も……何で?いや、別に実家なんだからいいだろうけど」

「それは……」

「ワシが転移魔法を使ってまとめて移動してきたのじゃ」

詠春が後ろを振り返って答える前に、ゼクトがあっさり答えた。

「あー、そういう事。あ?でもお師匠新幹線乗るって言ってなかったか?」

「乗ったぞ。昨日来るときに一度な。科学とやらであれだけ速いのはなかなかじゃった。じゃがワシには合わぬ」

「実は私達昨日の午前中から京都に一足先に来ていまして、あちこち巡って色々食べたりもした後、結局ここに顔を出した所、詠春に今日このかさん達も連れてきてくれないかと頼まれたのです。そこでそういう事ならと私達は一旦麻帆良にゼクトの転移魔法でパッと戻り、改めて今日このかさん達と共にパッとまたやってきたという訳です」

アルビレオがスラスラと足りない説明を補った。

「はー、まあ、お師匠なら余裕か」

感心したようにナギは言った。

「陸路の移動手段を完全に無視してるわね……」

アスナは眉間に手をあて、結局新幹線を無視した移動方法をどうなのかと思案する。

「いつまでも入り口で立っていては何ですから、まずは荷物を置いて自由に座って下さい。荷物と上着は運びますので」

「おう!」

「世話になるな」

「お邪魔します、詠春さん」

「お邪魔します、このかのお父さん、このか、刹那さん」

詠春の勧めに従い、4人は荷物を下ろし、上着を脱ぎ、タイミング良く現れた巫女さんがそれらを別の部屋に丁重に運んでいった。

「アスナ、うちの家大きくて引いた?」

木乃香は座布団に座ったアスナに尋ねた。

「ううん、そんな事無いわよ。ちょっと驚いただけ」

アスナは小さく首を振る。

「それよりこのかと刹那さんも来てるならメールしてくれても良かったのに」

続けてアスナが言った。

「昨日寮の部屋帰った時アスナの靴が嬉しそうに転がっとったし、邪魔するのはあかん思うたんやよ」

木乃香はクスっと笑いながら言った。

「靴が嬉しそうに転がるってね……あー、揃えなかったのは確かだけど」

木乃香の表現にアスナはやや呆れた顔をして返した。

「んー、じゃあ今晩は皆で御飯食べるのね」

「アスナ、4人だけで食べる方が良かった?」

木乃香は少し申し訳なさそうな表情をして尋ねた。

「ううん、そんな事無いわ。クウネルさんとゼクトさんが来るのも元々聞いてたし」

アスナは大きく首を振って言った。

「ほうかー。良かったえ!今日は鍋がメインなんよ。何でも父様達の思い出なんやて」

木乃香はアスナの反応にほっとして顔をほころばせる。

「へー、そうなんだ。鍋、良いわね!」

「もうすぐ用意できるから待っててな」

「うん!」

一方、ネギはナギとアリカと一緒に詠春、ゼクト、アルビレオとアスナ達の横で話していた。
詠春がネギに、無事に戻って来たことに良かったと言い、ネギはそれに返したりしていた。
少ししてナギに勧められネギはアスナ達の方に向かい、改めて木乃香と刹那に一礼して挨拶をした。

「このかさん、刹那さん、こんばんは。今日はお世話になります」

「ネギ君、いらっしゃい!ほな、座って座って」

「ネギ先生、こんばんは」

木乃香はネギにアスナの隣に、余っていた座布団を引っ張って置き、座るように勧め、刹那は落ち着いて挨拶を返した。

「ありがとうございます、このかさん。それで……刹那さん、僕は残念ですがもう先生ではないので先生というのは……」

勧めに従いネギは座布団に腰を下ろし、少し困った顔をして刹那に言った。

「あ……そうですね。失礼致しました。ネギせ……せ……」

刹那は言われた事に気づき、改めて名前を呼ぼうとしたが……詰まった。

「あははは!刹那さんもネギとおんなじ!!」

アスナは刹那の様子に思わず吹き出した。

「え?え?」

刹那はそれに対して疑問の声を上げる。

「た、確かに」

「えー?何なん?同じって」

木乃香はよく分からず、首を傾げる。

「それはね、昨日の夜、ネギが私達に……」

アスナは昨晩の出来事を簡潔に木乃香と刹那に説明した。

「そういう事なんか。それでネギ君は話せるようになったん?」

木乃香はアスナからネギの方を見て尋ねた。

「まだ間違える事もあるんですけど、少しは良くなりました」

ネギは謙虚に言った。

「んー、ネギ君うちにもそれ分かるように丁寧語無しで話してくれへん?」

木乃香は口元に人差し指を近づけた状態で思案し、ネギに言った。

「え、えっと……」

「ネギ!私に何か聞いてみて」

微妙に困っているネギにアスナが切り出した。
ネギはその言葉でアスナの方を向き、一瞬考えて、口を開いた。

「アスナ、今日は……楽しかった?」

首を少し傾げながら尋ねる様はやや控えめな印象を受ける聞き方であった。

「う、うん……楽しかったわよ、ネギ」

改めて聞かれたアスナ自身はまた心の準備ができていなかった為、一瞬虚を突かれたが、すぐに顔をほころばせ笑顔で答えた。

「えー!?なんやそれー!!ネギ君かわいいー!!」

「…………はい」

数秒の間を置いて木乃香はプルプル震えながら大声を上げ、刹那は呆気に取られつつもつい思わず木乃香の言葉に短く同意の声を漏らした。

「しかもアスナ、呼び捨てにしてもらったん何かズルいえ!あーん、ネギ君、うちもこのかって呼んで何か言ってくれへん?」

木乃香はテンションが上がり、立て続けに言った。

「ええっ!?」

「あー、ちょっとそれはやっぱ駄目ー!!ネギ、やらなくて良いわ!」

アスナは木乃香のテンションを見て思わず、ネギにやらなくて良いと言った。

「え!?」

「えー!アスナのけちー!!減るものやないのに!!」

すぐに木乃香はアスナの言葉に反応し、頬を膨らませて異議を唱える。

「減るのよ!!」

しかし、アスナは勢いで自明な事すら強い語調で否定してみせた。

「減るんっ!?」

「減るんですかっ?」

これには木乃香と刹那も驚いた。

「え、えーっと……」

良くわからない状況になり、ネギは混乱し始める。

「あらあら、随分楽しそうね、このか。皆さん、本日はようこそいらっしゃいました。料理の用意ができましたよー」

そこへ巫女服を着た木乃香の母、近衛木乃葉が現れ料理が用意できた事を告げた。
それに続くように後ろから同じく数人の巫女が現れ、大きな鍋と他様々の料理を運んできた。

「あ、母様!」

「奥様!」

「このかのお母さん!?」

「こ、このかさんのお母さん!」

手早く準備が進められて行く中、木乃葉はまずナギ達に丁重に挨拶をして一礼をした。

「ナギさん、アリカさん、お久しゅうございます。ご無事で何よりでした」

「ああ、久しぶりだな。ちょっと色々あってな」

「久方ぶりじゃ、木乃葉殿。心配をかけて申し訳ない」

ナギとアリカは木乃葉に答え、それぞれ礼をした。

「あー、詠春は老けたが木乃葉さんは変わってないな」

ナギはあっけらかんとして言った。

「まあ、ありがとうございます」

木乃葉はそれに自然に受け答えた。

「ナギ……言いたいことは分かるが、一言余計だ……」

詠春は微妙な表情をして呟いた。
木乃葉はアルビレオとゼクトにも挨拶をした後、今度はアスナ達の方にやってきてにこやかな笑顔で挨拶をした。

「初めまして、アスナさん、ネギ君。このかの母の近衛木乃葉です。今日はゆっくりしていって下さい」

木乃葉は、このかとどことなく似た顔立ちで、長く艶やかな黒髪が特徴的な容姿であった。

「初めまして!神楽坂明日菜です!いつもこのかにはお世話になってます!」

「は、初めまして。ネギ・スプリングフィールドです。前期まで1年間このかさんのクラス担任をしていました」

ネギとアスナは背筋をピンと伸ばして木乃葉に挨拶を返した。

「こちらからも、うちのこのかと刹那さんをよろしくお願いします。ネギ君は3月の時、会わなくてごめんなさいね」

「は、はい!こちらこそ!」

「い……いえ、お気になさらず」

アスナとネギはそれぞれ言葉を返した。
……そして、丁度食事の準備が整い、囲炉裏の真ん中に大きな鍋が置かれ、それを囲むように人数分、10個の膳も用意された。
ナギから時計回り順に、アリカ、ネギ、アスナと来て、刹那、木乃香、木乃葉、詠春、そしてアルビレオとゼクトで一周である。
宴の音頭を詠春が取り、早速食事が始められた。

「しかし、昔山の中で鍋を囲んだ時が懐かしいな」

詠春が最初に切り出す。

「ええ、あの時は詠春が自慢気に鍋を奮って鍋将軍に昇格した時ですからね。では……フフ……詠春、知っていますよ、日本では貴方のような者を『鍋将軍』と呼び習わすそうですね」

突然アルビレオがわざとらしくセリフを述べ始めた。

「今日からお前が鍋将軍だ!……にしてもお師匠入れて囲んで鍋食うのってすげー久しぶりだな」

ナギが肉を食べながら詠春の方を向き、大きな声で言った。

「全て任す。好きにするが良い。……そうじゃの……むぐ……うまい」

ゼクトがそれに続き、良く通る声で言い、ひたすら素早く箸を動かし次々と口に運んでゆく。

「なに、そういう流れなのか?んー……嬉しくないなぁー」

思い出すように詠春はあえて露骨に嬉しくなさそうな顔をして言った。

「つかあの時ラカンが途中でじゃまして来たが、いねーな」

「あの馬鹿がおっては食べる量が無駄に減るだけじゃ。ん……おお、刺身に寿司と頼んだ通り出してくれるとはありがたい」

ゼクトの元にゼクト様専用と堂々と明記された膳が新たに運ばれてきて、そこには新鮮な刺身と脂の乗った寿司が幾つも用意されていた。

「あー!何だそのお師匠専用って!」

ナギはそれを横目に見て思わず声を上げる。

「このかさん達を連れてきた報酬と言った所ですよ」

アルビレオは流れるような動作で食べながら解説した。

「役得じゃな。……これはトロか……はぐ……」

ゼクトはナギにお構いなしに、専用膳に箸をつけ始め、醤油に少しつけては次々と口に運んで行く。

「そうそう、ラカンがいた時と言えば……」

紅き翼組は、本人達だけに分かる昔話を始め出したが、その一方ネギはアリカとアスナに挟まれ会話をしながら落ち着いて食べ、アスナはちょくちょく刹那と木乃香と会話しながら、木乃香は木乃葉と会話しながらそれぞれ食事を楽しんだ。
しばらくして、ナギがネギ達にも分かるように昔の事を話し始めたが、途中から話し手がすぐにアルビレオに移り、ネギ達はその整った話を興味津々聞いたのだった。
2時間程して大方食事も終わり、鍋も片付けられた。
その後、食後茶をゆっくりと飲みつつ、程良い所で、女性達は木乃葉の呼びかけで揃って浴衣に着替えつつ、温泉に入りに向かった。
広間に残った者達は円を囲んでゆっくりとポツポツ会話をし、ネギはナギに寄せられその膝の上で落ち着いていた。

「そっか……紅き翼でもういないのはガトウだけなんだよな……。あ、ネギ、この話別にいいか?」

ナギは下を向きネギに問いかける。

「うん、父さん」

ネギはそれに対し首を上げナギの顔を見て答えた。

「タカミチとも話して無かったが、ガトウを襲撃した犯人って分かってるのか?」

ナギが尋ねた。

「俺はその時既にここで落ち着いていたからな……ガトウの事はタカミチ君から後で聞いた」

詠春が神妙な面持ちで答えた。

「私もその前から図書館島の地下でしたから……詳しいことは何も」

「ワシは記憶が無いからの」

続けてアルビレオとゼクトが答える。

「そっか……完全なる世界なのかメガロメセンブリアか……どっちなのかはっきりしないんだよな……」

「では一つ……私の考えを言いましょう。アマテルはまず、ナギとガトウが救出したアスナさんを連れていくのを黙って見過ごしましたし、ガトウ亡き後、タカミチ君がアスナさんを麻帆良まで連れてきた後は一切の手出しが無かった事を考えると、ゼクトの身体を乗っ取って活動していたにしても、アーウェルンクスシリーズやデュナミスが活動していたにしても、力量から言って麻帆良の学園結界を抜けないということはあり得ません。どちらかというと学園長が管轄する麻帆良だからこそ手を出せなかった……と考えるのが妥当かと」

「つまり、メガロメセンブリアの線が濃厚という事じゃな」

「はー、結局それか。あの元老院のじじぃの連中、俺はマジで虫唾が走るんだよな」

ナギはうんざりした顔をして言った。

「ま……またメガロメセンブリア元老院……」

思わずそれにネギが呟く。

「あ、クルトとリカードは別だぜ?」

思い出したようにナギがネギに念押しする。

「それは分かってるよ、父さん。でも……メガロメセンブリア元老院が犯人だとすると……ガトウさんってアスナさんを連れてたのが直接の原因なのかな……?」

ネギは腑に落ちない表情をして疑問を呈した。

「ん?元老院の奴らもアスナの事嗅ぎまわってたからそうじゃないのか?」

「なるほど、ネギ君の言うとおりかもしれませんね……。余り結論に変わりは無いかもしれませんが、ガトウはメガロメセンブリアの非常に優秀な、捜査官でしたから……知りすぎたからという理由で……という事は充分ありえます。そうであれば、当時の戦闘力のタカミチ君だけになった状態でアスナさんと一緒にいてもその後襲撃が無かったという事にも一応説明がつきます。ガトウはナギと別れて以降、元老院にとって相当都合の悪い、何らかの情報を入手していたのかもしれません」

アルビレオがネギの疑問に答えた。

「確かに筋は通っているが、憶測の部分が多すぎるな」

詠春は納得したものの、難しい顔をして断定はできないと言った。

「ええ、まさに死人に口なし、です。残念なことですが……」

アルビレオはやや重苦しく言葉を吐いた。

「やり切れねぇな……。なあ、ネギ」

頭を軽く掻きむしり、ナギは不意にネギに呼びかけた。

「父さん?」

ナギはネギを膝から下ろし、向かい合う。

「……今すぐのつもりは無いが、俺、そのうち魔法世界にまた行っても良いか?」

ナギはいつになく真剣にネギに尋ねた。

「ガトウさんの事……その他も色々だね……。うん、勿論だよ、父さん。僕の父さんは、あちこち世界を飛び回っているのが父さんらしいと思う。僕は今麻帆良のゲートを通るのは無理だけど、父さんが行くと言うなら僕は応援するよ」

ネギはナギの目を見て、しっかりとその想いを言葉に表した。

「そっか。ありがとよ、ネギ。わがまま言って悪ぃな。よし、魔法世界行ったその時は、ネギとアリカが隠れないで済む、ネギとアリカが普通に生活できるようにも、どうするべきかはまだ良く分かんねぇけど、頑張ってくるからな!」

ナギはネギの頭に手をのせて、不敵な笑みをして宣言した。

「う、うん、ありがとう、父さん!」

ネギは目を輝かせ、ナギに言った。

「フフフ、少し前よりも親子らしくなりましたね」

アルビレオが楽しげに言った。

「お、そうか?」

途端にナギは素直に嬉しそうな顔をする。

「うむ、ワシもそう思う」

ゼクトも肯定した。

「ナギ、俺にも出来ることがあったら言ってくれ。今度はここを守ってるだけではなく、少しは手伝える筈だ」

詠春がナギに言った。

「おう!詠春、その時は頼むぜ!」

「ああ、任せろ」

ナギは詠春と拳と拳を軽くぶつけた。
その様子をネギは何やら感慨深く見ていた。

「皆さん、そろそろお風呂に入ってはいかがですかー?」

「温泉気持ちよかったわよー」

丁度そこへ、木乃葉達が戻ってきて、にこやかにナギ達も湯に入ってはどうかと勧めた。

「女性達はもう上がったようですが、私達はどうしましょうか?」

その呼びかけを聞いて詠春がナギ達に尋ねた。

「そろそろいいんじゃないか?」

「うむ」

「私も構いませんよ」

「では、案内しましょう」

それぞれが答え、詠春が最初に立ち上がり、浴場へとナギ達を案内した。
温泉は大人数で入れる仕様になっているだけあり、非常に広いものであった。
ナギ達はまずは椅子を並べて身体を洗い、ナギは「今日も頭洗ってやるからな」と言ってネギの頭をややがさつであったがしっかり洗っていた。
ネギは以前の風呂嫌いも殆ど改善しており、泡が入らないように目を閉じて落ち着いていた。
各々泡を洗い流して湯船に足を入れ、腰、肩まで浸かった。
ネギはふぅーと息を一度ついた後、右隣のナギではなく左隣の首まで湯に浸かっているゼクトにある質問をした。

「あの、ゼクトさん、転移魔法って難しいですか?」

「む、そうじゃな……」

突然問いかけられてゼクトは少し思案する。

「お、ネギ転移魔法に興味あんのか。確かにできたら便利だもんな。一応距離は短いが俺も出来無い事はないんだが」

会話に入るようにナギが言った。

「そうなの?」

ネギは意外な顔をしてナギを見た。

「ナギは勘でやるから転移魔法は駄目じゃ。転移先が大雑把すぎて危険じゃからな。大体アンチョコ見ながらで安定して転移出来る訳なかろう」

ゼクトは冷静にナギの言葉を軽く一蹴した。

「そりゃないぜー、お師匠」

ナギは少しばかり嘆いた。

「事実じゃ。じゃがネギはあの技法ができるのだから充分習得は可能じゃろう。緻密な座標計算ができるならば問題無い」

「そ、そうなんですか?」

ネギは希望を持った目で問いかけた。

「……尤も、転移魔法と一口に言っても、自己転移・他者転移・範囲指定転移、短距離・長距離、基盤魔法も属性ゲート構築型か即時瞬間移動型かで難易度も様々じゃ。影、水場を利用するゲートは開通先に制限があるだけに比較的転移魔法では簡単な部類に入るが、即時瞬間移動型……仮契約カードの召喚機能はその類型じゃがあれを術者が自力展開するのは難しい。転移魔法の習得は困難じゃが、便利なだけに、魔法転移符のような即時瞬間移動型の術式を予め刻みこみ行き先も使用者の曖昧なイメージでもうまく発動するような魔法具が生産されておるのじゃ。重要なのは術式の深い理解と実際のその術式実行技術、後は空間認識能力と演算能力次第じゃな」

ゼクトは淡々と説明をした。

「そういう訳で、いくら呪文を唱えるだけで大体発動できてしまうナギでも、こればかりは適当すぎて無理という事です」

アルビレオはニコニコしながら人差し指を立てて言った。

「アルもかよ……。否定できないのが辛いぜ……」

「安心しろ、ナギ、俺も転移はできない」

詠春が慰めるように、しかし、わざとナギに言った。

「詠春は魔法使いじゃねーだろ!」

ナギが突っ込みを入れる。

「ナギは置いておいて、ネギ君ならゼクトの言うとおり、問題ないでしょう。エヴァもゲート構築型短距離・長距離転移は得意ですし、魔法書も持っているでしょうから教えてくれるのではないですか?まあ、ゼクトの方が網羅範囲は広いですが。後は学園長でしょうか。もちろん、今言った通り、転移魔法術式構築理論に関する魔法書を読んで完全独学という方法もありますが、その場合はどれを覚えるかきちんと決めてやらないと収拾がつかなくなるので気をつけてください。大体挑戦する人の殆どが断念しますし、良くても少しずつ時間をかけて術式を埋め込んでいけば作成できる魔法転移符作成技術習得で落ち着くのです。慣れれば儲かるでしょうが、終日魔法符と向かい合い続ける必要がありますし、途中少しでも間違えたりすると最初からになってしまうので大変です」

アルビレオが流れるようにスラスラと言った。

「へー、魔法転移符も作るの大変なんですね。もう太陽道は使わないと決めているので、まずはゲート構築型から挑戦してみたいと思います。影の転移はコタローもできるし……。ゼクトさん、クウネルさん、ありがとうございます。マスターにも聞いてみます」

ネギはゼクトとアルビレオに礼を述べた。

「ふむ、はっきりと聞いておらなかったが、あの命に関わる技法を使わぬと決めたのは良いことじゃな」

ゼクトがネギの言葉を聞いて、納得する。

「はい」

「……俺も聞いてなかったが、太陽道ってのは使わないって決めてたのか。ネギ、後でそれ、アリカとアスナにも言ってやってくれないか?……心配してるからよ」

ナギはネギに安堵したような表情で語りかけた。

「そっか……そういえば言ってなかったね。うん、分かった。母さんとアスナにもちゃんと言うよ」

「ああ、頼むぜ」

ネギの答えに対し、ナギはネギの頭をポンポンと撫でて言った。
そこへ不意にアルビレオが怪しげな笑みを浮かべながら詠春に言った。

「詠春、男の子が欲しくなったりしませんか?」

「いきなり何を……俺はこのかがいればそれでいい」

詠春は無難に受け答えた。

「おや、流石詠春、堅いですね」

アルビレオはおどけて言った。

「それより、魔法転移符の話で思い出したが、地球で世界規模に展開しているらしい全貌不明の組織の事は知っているか?」

悪乗りしようとするナギを察知し、詠春は話題を切り替えた。

「お、なんだそれ?」

「全貌不明の組織……?」

ナギとネギは初めて聞いたと言う。

「魔法転移符を始めとして、幻術薬、結界符、人払い符と言った魔法具をアンダーグラウンドにやりとりして用いている基本表で活動し裏に関与している組織の事ですね」

アルビレオが説明した。

「初耳じゃな」

「そ、そんな組織があるんですか」

「はー、地球も相変わらず問題が絶えないもんだな」

「暗殺もやっているらしく、こちらでも西日本には警戒の目を光らせてはいるんだがな……裏に関与しているか判別がつかず対処しづらい」

詠春が悩ましげに言った。

「ええ、そのようですね。元より捕まれば本国で即実刑の魔法使い達がどこかで隠れて魔法転移符などの生産を行って主にそういった組織に供給しているそうです」

「難儀な事じゃな」

「そりゃ厄介だな……。転移で急襲、即転移で逃走なんて碌でも無い事ができるじゃねぇか」

ナギが顔をしかめて言った。

「あ、暗殺……」

「うちのこのかも今後狙われるかもしれないが、タカミチ君から聞いたが、大変なのは超君だろうな……」

詠春も顔をしかめて呟いた。

「詠春、それは」  「む?」  「ち、超さんが?」  「超の嬢ちゃんだって?」

咄嗟にアルビレオが釘をさそうとするが、遅かった。

「あ、しまったな……。超君の事はここで言っては駄目だったか」

詠春が気まずそうな顔をして言った。

「リラックスして口が緩みましたね、詠春。それは彼女の本意ではないでしょう」

軽く溜息をついてアルビレオが言った。

「ど、どういう事なんですか?超さんが大変って。超さんは僕の恩人なんです。詠春さん、クウネルさん、教えてくださいっ」

ネギは血相を変えて詠春とアルビレオに問いただす。

「ネギ君、落ち着いて考えてみて下さい。超さんの技術力、世界での知名度を」

「あ……。そういう事ですか……。考えればすぐ分かる事なのに……いつも超さんに色々お世話になってたのに、気付かなかった……」

ネギはすぐに落ち着きを取り戻し、湯船に再び浸かり、やや気落ちする。

「超さんは元からあまり自分の事を話しませんが、余計な心配をかけないようにしているのでしょう。実際彼女は対処できるだけの能力もあります」

「あ、あの、超さんは実際に狙われた事って」

「ネギ君、それは守秘義務というものでお答えしません。とは言ったものの、私も詳しい事は知りませんので、その話はタカミチ君の方が知っているでしょう」

アルビレオは実際詳しい経緯を知らないので回答できないと言った。

「そ、そうですか……」

《ですが、ネギ君、超さんには彼の者達がついていますから、大丈夫です》

アルビレオは続けてネギに念話をかけて、ある存在の事に言及した。

《あ……そうでしたね。ありがとうございます、クウネルさん》

《いえいえ。これ以上はお互い聞かないでおきましょう》

《はい!》

「あー、超の嬢ちゃんが邪魔だと思ってる奴らがいるって事か……。で、ネギ、やっぱ超の嬢ちゃんは恩人だったのか」

ナギはネギに問いかけた。

「う、うん……。でも、これだけはこれ以上話せないんだ。ごめんなさい、父さん」

ネギは申し訳なさそうに言った。

「いいや、気にすんな。超の嬢ちゃんから話さないように言われてるんだろ?」

「うん……」

「なら、今度改めて礼を言いに行くからよ。それぐらいは良いだろ」

ナギはネギに深くは聞かず、礼をしに行くと言った。

「う、うん。それぐらいなら……」

「ナギ、超さんはそういうのをあまり好まないタイプの人ですから、程々にしておいた方が良いです。超包子の肉まんを褒める等するのが良いと思いますよ」

アルビレオがナギに軽くアドバイスをした。

「そうなのか……ってそんなんでいいのかよ!」

ナギが突っ込みを入れる。

「そんなんで、ではありませんよ。あれだけ熱心に世界に広めようとするのですから、彼女にとって超包子の肉まんには非常に強い思い入れがあるのだと思います。それを褒めるというのはそれだけで意味がある筈です」

冷静にアルビレオは答えた。

「はー、そういうもんか。分かった、参考にするぜ、アル」

「ええ、絶対にという事はありせんから好きにしてください。ところで、ネギ君、先程話しませんでしたが、条約で転移魔法の規制はまだ決まっていませんので、その点も少し考慮しておいた方がいいですよ」

アルビレオはネギに転移魔法についての話題を再び振る。

「あ、はい、そうですね。分かりました」

「まあ、考慮とは言ってもそういう事があるかもしれない程度ですが。もし規制されるとしても、魔法転移符の扱いがまず決められない事には始まらないでしょうね。地球62億人から見れば、単独転移魔法を行使できる術者の数は、まさに例外中の例外と言える程度の一握りにしかすぎませんから。事実上の規制無しと言っても過言ではないでしょう。ただ国境を意図して越えたり、私有地に勝手に入り込んだりして、問題になった場合は普通の法律が適用される事になると思いますが」

アルビレオが再び解説を行った。

「む……では、そのうち外国に飛ぶ時には気をつけねばならぬの」

ゼクトは少し面倒そうに言った。

「ゼクト、それどころかまず地球では出入国が問題ですよ。日帰りで行き来するなら構わないかもしれ……構わなくは全くありませんが。実際私とゼクトが今住んでいる所も住所登録されていないですから、不法占拠のようなものですし色々問題があったりしますよ。一応ゼクトの戸籍は即席で用意できましたが」

少々困った顔をしてアルビレオが言った。
それに対し詠春とネギは思わず微妙な顔をした。

「地球とは細かい事に拘るのじゃな。魔法世界はかなり自由だというに」

「その分魔法世界は地球よりも物騒な事が遥かに多いという弊害があります。さて、ネギ君はどう思いますか。地球と魔法世界、どちらが正しいでしょうか」

アルビレオは突然ニコニコしながらネギに質問した。

「……どちらが正しいと言う事はできないと思います。地球も魔法世界もそれぞれの形で成り立っていて……どちらが優劣というのは絶対的尺度で比べる事はできない、僕はそう思います。ただ、一つ一つの事象を取って考えるなら、その上で、そういった事について忘れずに常に考え続けて行く事が重要だと思います」

ネギは一瞬間を置いた後、はっきりと言った。

「なるほど、ネギ君はそういう考えですか。文化の相対性という観点から、それが孕む問題についても考え続ける。原則的に全ての文化に優劣が無く、平等に尊ばれるべきという事を理解しているのは大事なことです。私もネギ君と同じような考えです。この問題については議論が絶える事はないでしょう」

アルビレオは良く出来ました、という表情でネギに言った。

「はい!」

「あー、言ってることは俺にも分かったぜ」

ナギもとりあえず納得したような様子で言った。

「分かってもナギはいつも勢いと勘で動くだけじゃからな」

「お師匠!たまには俺だってなぁー!」

「フフフフ」

ゼクトとナギの言い合いが始まりそれをアルビレオが笑って見守る。

「ナギとゼクト殿は変わらないな。……さてと、そろそろ上がらないか?」

「はい!」

「そうだな!」

詠春の提案で、ナギ達は湯船から上がり、身体を拭き、服を着て浴場を後にした。
一旦広間に戻った所、木乃葉達はおらず、荷物が運ばれた部屋に顔を覗かせてみれば、既に布団が並べられていたその上で、羽織りを着た彼女達5人は円を囲んで話しをしていた。
顔を覗かせた詠春達に木乃葉達は気づき、互いに挨拶を交わした。
そのままそれぞれ部屋に別れるかという時、木乃葉が「縁側で星空を見ませんか?」という提案をし、それに皆賛成し、一同は星空のよく見える縁側に座布団を持って移動した。
大人達は星空を眺めながら木乃葉が用意してきた月見酒を飲んでゆっくり過ごし、子供達もゆったりと酒の代わりに茶を飲んで過ごしていた。
少しして幅のある縁側の為、2×2になるように木乃香と刹那が座布団ごと後ろに回りこんで移動し、ネギに話しかけた。

「なあ、皆も言うとったけど、ネギ君はこれからどうするん?」

「そうですね……。一応ネギ・スプリングフィールドは死亡した事になって違う戸籍をなんとか用意して貰ったんですが……」

呟くようにネギが言った。

「えー!?じゃあ、今ネギ君の名前ってどうなっとるん!?」

木乃香はネギが話す途中で驚きの声を上げた。

「えっと、名前はそのままで苗字が適当……じゃないんですけど、ちゃんとあります」

ネギは微妙な顔をして言った。

「え、苗字教えてくれないん?」

木乃香がショックを受けた顔をした。

「あー、このか、クラスの皆に言わないって約束できる?」

アスナが助け舟を出した。

「もちろんやよ!そんな問題ある名前なんか?」

木乃香はそんな人に言えないような名前でないだろうと思っている為、意外そうな顔をし、刹那も同様の顔をする。

「3-Aにとっては誤解を招くわね……絶対」

もしバレたら、どうなることやらという様子で、アスナは眉間に皺を寄せて言った。
木乃香は何か凄いことが聞けるかもと思い、喉が乾いたのか茶を口に丁度含んだ。

「僕の名前は……ネギ・S・F・マクダウェルになってるんです」

「ブーッ!!」  「ええ!?」

木乃香はギリギリで湯呑みに顔を抑え、口に含んだ茶を吹き出し、刹那は驚きの声を上げた。

「けほっ、なんやそれー!いいんちょが聞いたら発狂するえ?」

「だから言ったのよ……。しかもこのか口にお茶……」

アスナは木乃香が吹き出した事に若干呆れつつ言った。

「……実際イギリスにはマクダウェルという苗字は存在するので変ではないですし、ミドルネームにスプリングフィールドの頭文字も入れてありますし、マスターと同じという事で僕自身は気に入ってます」

「あ、せっちゃんありがとな。……そうなんかー。うん、全く関係無い名前よりはええな」

木乃香は刹那に差し出されたハンカチで口周りについた茶を、とても上品に、拭いながら言った。

「そうですね、私もそう思います」

木乃香と刹那はネギの説明に同意した。
そこへゼクトと2人で少し離れた所にいたアルビレオが会話に割り込みをかけた。

「どうせなら私の偽名のように、ネーギル・サンダース、あるいはネギルド・マクドナルド等でも良かったと思いますよ。私にもライバルが増えますし」

「そ……それはちょっと……」

「なにそれ……」

「…………ライバルって……」

ネギは頭を抱え、アスナと刹那は訳の分からない名前の案に対し困惑した。

「くーねるせんせ、その名前の方が目立つえ?」

「フフフフ、冗談ですよ」

「ややわー!」

木乃香とアルビレオは慣れていると言わんばかりのやり取りを勝手に繰り広げた。

「刹那さん、このかとクウネルさんっていつもこうなの?」

アスナが刹那に顔を近づけてこっそり尋ねた。

「は、はい……たまに私も同行する時は大体似たような感じで……」

刹那自身はまだ慣れないといった雰囲気を醸しだして言った。

「そ、そうなんだ……。まあ、うまく行ってるならいいんじゃない?」

2人は半笑いしながら言葉を交わした。

「あれ、それでネギ君は名前変わってこれからどうするんやったっけ?」

木乃香は思い出したように首を傾げて言った。

「はい、名前を変えてもらいましたが、僕は麻帆良学園では結構目立ってましたから、麻帆良学園で表に出て活動するというのは、今は無理です。だから麻帆良学園に通うという事も無いので……結局まだはっきりとは決まってないんです。ウェールズに戻って生活するというのも一つの方法だとは思うんですけど……」

「それは寂しいなぁ。アスナも嫌やろ?」

「う、うん。それはね」

自然に木乃香は答え、同意を求められたアスナは一瞬虚を突かれたが、肯定した。

「魔法の勉強についてはまだまだ僕は覚えたい事、やりたい事、研究してみたい事があるので普通に麻帆良で滞在する分には問題無いと思います。さっきも転移魔法についてゼクトさん達から聞いて、それの習得も考えてるんです」

「え、何、またいきなりね、ネギ。どうして転移魔法を?」

今聞いたと言う様子でアスナがネギに尋ねた。

「いつか旅に出る時に長距離転移ができたら、いつでもすぐ……アスナの所、父さん母さんや皆の所にだって戻ってこられるなって、そう、思ったんだ」

ネギは俯いた状態から顔を上げアスナを真っ直ぐ見て、心の裡を伝えた。

「そ……そういう事なのね。うん、ネギ、できるようになると良いわね」

アスナは穏やかな笑顔でネギを後押しする言葉を贈った。

「うん、頑張るよ、アスナ」

「あーん!やっぱアスナずるいー!ネギ君、うちにもその言葉遣いで話してくれへん?コタ君やアーニャちゃんだと思って言ってみればええだけやよ!」

木乃香が両手を振って羨ましいと騒ぎ始める。

「お、お嬢様」

「そ、そう言われても……」  「ネギ、やらなくて良いわ!」

刹那は木乃香の様子にあたふたし、ネギは困惑し、アスナはネギにまた念押しした。

「むー、せっちゃんも言って欲しくない?」

邪魔が入ったとばかりに木乃香は刹那に同意を求め、多数派を結成しようとする。

「わ、私ですか?」

急に話を振られて刹那は驚く。

「いや、だったらまず、木乃香は刹那さんの言葉遣いを直すのが先よ!」

ここぞとばかりにビシッとアスナが核心を突く。

「あ!それもそうやね!せっちゃん!うちの事このちゃんって呼んで?言葉遣いも楽にしてええんよ!」

木乃香はそれも一理あると思い、刹那に顔をズイッと近づけ頼んだ。

「お、お嬢様!?」

それに対し、急に顔を近づけられ刹那は思わず後退する。

「言えてないえ!……うーん、癖になっとると大変かもしれんなぁ」

「うん、そうなのよ。反射的なものだから何度も練習しないと」

木乃香は一旦刹那から離れ、それにアスナが乗るようにして言葉を重ねる。

「あ、アスナさんまで……」

嫌な予感がしたのか刹那は更にジリッと後退する。

「刹那さん、頑張ればできるようになりますよ!」

ネギが両腕を身体の前に構え、底抜けに明るく、刹那を応援した。

「ね、ネギせ……ネギく……駄目ですーッ!!違和感が酷くて私には言えません!」

刹那はネギにトドメを刺され、顔を真っ赤にして激しく首を振って髪を振り乱しながら、寝所の方向へと勢い良く走り去っていった。
これには一瞬大人達も何事かとそちらの方向に目を向けた。

「このか、これは刹那さんかなりの重症なんじゃないの?」

「うーん、うちが抱えとる問題は思うとるより大きいかもしれへんなぁ……」

アスナと木乃香の2人は同時に腕を組み、顎には片手を当て、目の前の問題について深く検討し始めた。
それからしばらくして息を切らせながらトボトボと刹那が帰還し、座布団に再び腰を下ろした。

「はぁ……ただいま戻りました」

微妙にぐったりした様子で刹那が言った。

「おかえり、せっちゃん。せっちゃん、この茶碗どう思う?」

木乃香は刹那が戻ってくるまでの間に用意した茶碗を刹那に見せた。
どういう流れか分からず刹那は疑問に思いながらも茶碗を受け取ろうと手を伸ばした。

「……このちゃんッ!?」

刹那が「……この茶碗ですか?」と普通に言おうとした所をアスナがタイミング良く後ろから素早く口を塞いだ。
結果、口を塞がれた事によって出た「ん」だけが無駄にうわずったが、確かに「このちゃん」と聞こえた。

「わー、うまく行ったえ!アスナ!」

木乃香は喜びの声を上げて思わず拍手もする。

「思ったとおりね!」

アスナは計画通り、とキリッとした顔で木乃香に返答し、刹那の口からもういいか、と手を離した。

「こんなダジャレな方法でいいのかな……」

ネギは微妙に呆れるように言った。

「何だか私……やりきれないですっ……」

解放された刹那は喜んでいいのやら怒っていいのやら分からず、両手を床につけてガクッと気落ちした。

「せっちゃん、元気出して?ほら、この茶碗どう思う?」

木乃香は性懲りも無く、刹那の顔の元に茶碗を差し出した。

「もう引っかかりませんっ!」

とうとう刹那は叫び声を上げた。
……何だかくだらないようなくだらなくないような事をやっているなと、大人達はその様子を見て微笑みつつも、時間は過ぎて行き、頃合いになってそれぞれ用意された寝所へと向かった。
スプリングフィールド一家4人は寝る前に、ナギがアリカとアスナの2人をネギの前に正座で座らせ自分もアリカの横に座ってネギを促した。

「母さん、アスナ、僕はもう太陽道は使わないと決めているから、安心して下さい。それで、今まで言ってなくてごめんなさい」

ネギはハッキリと宣言し、今まで言っていなかったことを謝った。
その言葉を聞いたアリカとアスナは肩から力を抜き、空気が抜けるようにその場に脱力し足を崩して楽になった。
2人は安堵したかのように溜息を漏らし、その目から一筋の涙が流れた。

「……そうか、ならば安心じゃ……。ネギ、無茶はせぬようにな」

先にアリカがネギに落ち着いて言った。

「ねっ……ネギ、ごめんねっ、私の為に危険なものを使うことになって……。もう絶対、無茶しちゃ駄目よっ」

アスナは一度涙が流れてから涙が止まらなくなり、次々と目に大粒の涙を浮かべながら、自分の手でその涙を拭いながら言った。

「母さん、アスナ……うん、約束するよ」

ネギは太陽道を使わないという事を言うだけでアリカとアスナがここまで反応するとは思わず、ネギ自身も釣られて目に涙を浮かべながら約束の言葉を述べた。
しばらくして落ち着いた後、一家は並んで布団で休み……そして翌日。
朝起きて一同は温泉に軽く入った後、朝食を昨日と同じく広間で取った。
その朝食での会話中に、ナギが詠春に別荘の鍵を貸して欲しいと言い、詠春は元々所有者はナギの家だろうと言って、朝食後鍵をナギに渡した。
陽もすっかり昇った頃、スプリングフィールド一家は4人で一旦総本山から出て、道なりに少し歩き、目的の場所についた。
ナギが玄関の鍵を開け、中に入った。

「おー、全然変わってないなー」

ナギが感動したように言った。
開放感のある1階から2階の天井までの吹き抜け、壁には大量の本が収められていて、梯子で登り降りが可能になっていた。
キッチンや風呂、トイレ、寝室は奥の部屋。

「懐かしいものじゃな。前と変わっておらぬ」

アリカは感慨深そうに言った。

「へー、ここが別荘なのね」

アスナは天井を見上げたままくるりと一回転しながら言った。

「3月に来た時は、まさか父さん、母さん、アスナとここにまた来られるなんて思ってなかったな……」

ネギは以前来たときの事を思い返すようにして呟くように言った。

「これからは時間さえあればいつでも来られるからな!4人分のスペースはリビングに取り過ぎてるせいで無いが、少しリフォームすれば充分住めるぞ」

「うむ、そうじゃな」

「何か別荘っていいわね」

ナギ、アリカ、アスナは明るい顔をしてそれぞれ言い、その姿をネギは嬉しそうに見ていた。
埃が積もっている為、4人は掃除をする事にした。
高い本棚の上の隙間等普通には手の届かない所はネギとナギが浮遊術で飛びながら雑巾を掛け、それ以外の所をアリカとアスナで手分けして行った。
その途中アスナが写真立てを見つけて3人に呼びかけた。
作業を中断し、4人は一階のリビングに集まり、その写真立てに顔を覗かせた。

「おおー、懐かしいな。俺ちっせー。お師匠とアル変わってねー」

ナギが素直に思った感想を述べた。

「ねえ、やっぱりこれ……ガトウさんよね……?」

アスナは写真の中で右側を向いて立って映っている中年の男性を震える指で示した。

「ああ……そうだ」

「そう……やっぱりそうなのね……。ガトウさん……ガトウさんだけはもう戻ってこない……」

アスナは自然と目を潤ませて言った。

「ガトウ……。残念じゃな……」

アリカもガトウの協力に何度も助けられた事に想いを馳せ、震えるアスナの肩に腕を回してそっと抱きしめた。
その様子をナギとネギは静かに見守り続け、しばらくしてアスナはようやく落ち着いた。
そして一度深呼吸をしてアスナは3人に言った。

「……ガトウさんはもういないけど、私の心のなかにちゃんと生きてるわ。私が忘れない限りガトウさんはいなくなりはしない」

「……そうじゃな」

「……そうだな」

「うん……想いは心の裡に生き続けるよ」

ネギはアスナと同じく、ある人物の事に想いを馳せ、胸に手をあてて言った。

「そうね、ネギ」

そして、再び一家は掃除を続け、昼頃になった所で総本山に戻り、ナギは詠春に別荘を管理してくれていたことに感謝した。
昼食を広間で取りながら、一行は午後どこに出かけるかを話し、木乃香が太秦シネマ村に行きたいと言い出した事で、車で30分程、昨日ナギ達が行った嵐山の少し手前の太秦シネマ村まで向かった。
空気を読んだのか、ゼクトとアルビレオは「後で念話しますので」と言い、2人でシネマ村内の主に食事処を巡りに別行動へと移っていった。
シネマ村というだけあって、時代劇で実際に使用される撮影用施設が立ち並ぶ為、江戸、日本橋、吉原等の町に来たというような感覚を楽しめる。
一行はあちこち気ままに歩きまわりながら会話を楽しみ、時には衣装コーナーで着物に着替えたりして過ごした。
ネギ達がハッとしたのは、ロケーションスタジオの映画撮影の裏側について説明するコーナーにて、超鈴音の開発した三次元映像撮影器が紹介されていた事であった。
「今日本で最も話題の麻帆良学園都市の天才、超鈴音が開発したこの三次元映像撮影カメラ、これによって映画撮影の幅は無限の可能性を見せたのでござそうろう!」……等と侍の服装をした人が大仰に説明していたのである。

「何か……凄い変な感じするわね……」

「流石超りんやなぁ」

「もう超さんの名前を知っている人は世界でもかなりの数に上るでしょうね……」

「超さん……」

と、アスナ達は自分達が良く顔を合わせる超鈴音について、改めてその知名度を高さを認識したのだった。
三次元映像撮影器はまだ普及し始めて数ヶ月、個人で私的保有をするのは規制が厳しい為まだまだ一般人にとっては珍しく、そのコーナーには、実際に以前の撮影方法と違ってどんなことができるようになるのか等が分かりやすく実演もされていたので、多くの人が集まっていた。
言いだしっぺの木乃香も充分堪能した所で、一行は太秦シネマ村を後にした。
その後、スプリングフィールド一家は帰りも新幹線で帰る為、その時刻まで何か良いところはあるかということで、詠春が「あそこが良いです」と言い出し、車が出された。
着いた先は、京の舞の施設であり、ネギ、木乃香と刹那は3月に行った事のある場所であった。
中に入ってみれば、あちこちにエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルがその美しい金髪を煌めかせながら華麗に舞っている姿が写ったポスターや映像も流れており、ある意味一行にとっては確かに良い場所であった。
太秦シネマ村に引き続き、身近な知り合いがプッシュされている事に「麻帆良って一体なんだろう……」とネギが呟いたのは真理を突いていたと言えよう。
そうこうしているうちに時間はあっという間に過ぎ、スプリングフィールド一家は京都駅まで送られ、ここで互いに挨拶を交わし、詠春達、ゼクトとアルビレオと別れたのだった。
一家は18時32分の新幹線に乗り込み、東京方面へと向かった。
アスナは携帯で幾つも取った写真を3人に見せながら、今回の家族旅行の復習をし、4人の会話は途切れる事なく東京まで続いたのだった。
東京で再び新幹線に乗り換え、大宮へと約25分、そして埼京線に乗り換えて麻帆良へと帰ってきた。
時刻は丁度22時前。
アスナの帰る女子寮とナギ達の行く方向が途中まで同じ方向だった為、4人は送って行く形で一緒に歩いた。

「ネギ、2泊3日だけだったが、初めての家族旅行、どうだった?」

街明かりのお陰で表情が分かる中、ナギがネギに尋ねた。

「はい!父さんと母さんとアスナと行けて、凄く、凄く楽しくて、嬉しかったよ!」

ネギは満面の笑みでナギ達に言った。

「そっか、それは良かった!俺もネギとアスナとアリカと一緒に行けて楽しかったぜ」

嬉しそうな顔でナギはそれに答えた。

「私もじゃ。まるで夢のような旅行じゃった」

アリカがしみじみと言った。

「私もよ。こんな素敵な家族旅行初めて。凄く楽しかったわ」

アスナが続けて言った。

「……父さん、母さん、また今度も旅行、一緒に行ってくれる?」

女子寮への分かれ道が見えて来た所でネギが尋ねた。

「おう、必ず一緒に連れて行ってやるぜ!」

「当然じゃ。ネギがいなければ家族旅行にならぬじゃろ。必ず行く時は一緒じゃぞ?」

ナギとアリカがそれぞれネギに次も旅行に必ず行こうと約束した。

「うん、ありがとう!」

ネギは、感謝の言葉を述べた。
……そして、分かれ道でアスナは3人と別かれ、一人女子寮への帰路へと着いた。
つい一昨日出た時と逆に女子寮の中を行き、643号室の前につき、ドアノブに手を掛けた。
鍵がかかっていないのを確認し、アスナは中へと入った。

「おかえり、アスナ!」

出迎えたのは、驚いた?というような顔をした木乃香であった。

「ただいま、このか!」

アスナはすぐに靴を脱ぎ、部屋に上がった。

「ホント、転移魔法って便利ねー」

感心したようにアスナは服を着替えながら言った。

「そうやね。パッと行ってパッと戻ってこれるのは便利や。……でも、普通に戻ってきたアスナは今凄く嬉しそうな顔しとるえ?」

木乃香がアスナの様子に言及する。

「うん、そりゃ私、今凄く嬉しい気持ちで一杯だもの!」

アスナは満面の笑みで、心の裡を表現した。

「ほな、良かったね、アスナ」

木乃香も釣られるように顔をほころばせ、言葉を返した。
そして2人は、仲良く話をしながら、また明日からの学校に備えてベッドに就いたのであった。
その眠りについたアスナの顔は、翌朝起きるまでずっと……ずっと幸せに満ちていた。



[27113] 74話 脅威、それは千里眼
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:44
麻帆良の広域認識阻害が解除されてから5日目、10月18日土曜日。
ここ数日で何が変わったかと言えば、椎名桜子と柿崎美砂、釘宮円のように「まあ少し感覚が違うんだねー」程度で済んだ者達もいた一方……事故発生の危険性のある部活、研究会に所属する者達の反応は大きく2つに分けられる。
一つは幼少組に多い傾向で、自分達がやっていることを純粋に凄いと強く実感できるようになりテンションが寧ろ上がった類型、もう一つは麻帆良後期転入組に多い傾向で、今まで何も気にせず、普通に、麻帆良外では普通は無い事をやっていた自分自身に混乱、引くという反応を見せる類型である。
まだ活動再開から3日目であるが、図書館島探険部を例に上げれば、前者は「こんなリアル冒険者な気分が味わえる部活は他所では絶対ありえない」と、図書館島探険部では標準装備と化している自前のワイヤーを縁に引っ掛けて魂の叫び声を口に出しながら勢い良くハイテンションで続々下層に潜っていく生粋の麻帆良っ子(大学生)達に対し、それを「それは……ねーよ……俺もできるけどさ……あ?」と言った引きながらも複雑な表情で見て、崖になっている場所で足が竦んだり竦まなかったりと少々ややこしい後期転入組(大学生)と言った様相を呈している。
ハイテンションだと調子に乗りすぎて怪我をしそうであるのと、精神が不安定で無理してやっても怪我をしそうという……憂慮していた事が現実になった。
軍事研の演習はまだまだ規模は縮小されているが、実弾を使用していないとは言え普通に歩兵武器であれば拳銃やライフルなどなど、機甲兵器だと……戦車の操縦といったりするものは……私が説明する必要性はない。
極めつけというと、麻帆良湖に小型空母のようなものまで配備されていて、確かに麻帆良祭で「リアル海戦ゲーム」などという実際に結構危険な催し物が行われていたので今更ではあるが、常識が戻った今となっては最早「カオス」と一言笑ってごまかせる次元を通り越し、戦争を始めるつもりなのかとも取られる可能性も否定できないあたり……どうなるだろうか。
もう一つ、昨日ようやく麻帆良大航空部と工科大複葉機研は同時に麻帆良上空での飛行許可が大学敷地内限定で出たのだが……その前の2日間を振り返る。
彼らはそれぞれ、飛べるようになる昨日まで複葉機群の整備に余念が無く、生粋の麻帆良っ子(大学生)達は表情を酷く緩めながら点検作業を何度も繰り返し、編隊飛行のパターンがα、β、γ、⊿など詳細は分かりかねるがそれらの確認等をずっとし続けていたりと……以前と比較すると変ではあったが大変嬉しそうな様子であった。
そして昨日、いざ飛行解禁となり、麻帆良大航空部を例にとれば、現部長七夏・イアハートは小型プロペラ複葉機ヒッツ・スペシャルを駆り以前と変わりない曲技飛行をこなし、複葉戦闘機でドッグファイト……空中戦闘機動(ACM)訓練で、巴戦……単機での機動訓練は勿論、同精鋭部員達との複数機で一矢乱れぬ隊列を組んでの機動訓練等も見事やり遂げた。
お見事。
七夏・イアハートは流石生粋の麻帆良人というべきか、彼女の飛行技術は独立行政法人航空大学校に外部の大学課程を2年以上修了して入学したての人と比べるまでも無い水準だそうで、就職先には困らないどころか寧ろスカウトまでもが既に大分前から来ていた筈である。
とにかく、彼女の未来は明るい。
当然航空部に限らず麻帆良大工学部を始めとし、各研究会、部活の事はテレビで散々流れた後なのだが……麻帆良のいずれかの学校への入学に関する問い合わせが、情報統制が切られてからというもの止むことがなく、各学校事務職員達はメール、電話対応等にもう飽き飽きしている。
そんな事にもどこ吹く風と、本日午前8時、超鈴音は調布航空宇宙センターへと雪広グループの手配した車に本社から麻帆良大工学部の教授、お兄さん達数人、葉加瀬聡美、サヨと共に例の黒長い車、当然VIP用特殊装甲仕様に乗り込み4台編成で出発する事になった。
護衛には葛葉先生、神多羅木先生、龍宮神社のお嬢さん……と中々珍しい事に瀬流彦先生と来て、雪広グループの精鋭エージェント部隊……中には忍もいるという早々崩される事は無い鉄壁の布陣が付いている。
当然サヨ、そして私が視ているので……葛葉先生、龍宮真名、今回は神多羅木先生と瀬流彦先生にも件の端末が渡されていて粒子通信はいつでも可能な状態である。
今回は例の組織を誘き出すことが目的ではないので、護衛をきちんと済ませ無事にまた麻帆良に戻れればそれで文句は無い。
それにしても、護衛の先生が少ないかもしれないが、今魔法先生達、魔法使い達は日本政府対応その他諸々で忙しいので仕方がない。
タカミチ君も未だにニューヨークで相変わらず仕事中であり、未だ帰ってくる気配は無い。
……と色々大変そうにしているだが、護衛されている側の人達はテンションが高い。
というのも、超鈴音がプリズムミラー方式の人工衛星の開発企画書と仕様書を麻帆良大工学部で広域認識阻害解除前に発表して、それを実際超鈴音が「作るヨ!」と当たり前の如く宣言したからである。
結果、火星の太陽光不足緩和計画はJAXAと麻帆良大学連携主体で行われ、強力な後方援護に雪広ループが加わる事に……今もう間もなくこれからなる予定である。
出発するに当たって雪広グループ本社前に待機していた4台の黒長い車は目立ち、相変わらず報道機関系が屯している為、麻帆良から出る際には「これからどこに行くつもりなのか」とインタビューが執拗に行われたが、全部雪広グループの社員達に防がれていた。
ここ最近麻帆良はもはや以前の土地目当ての侵入者云々よりも産業スパイの出現率が前よりも酷く、特に麻帆良大工学部の研究室に忍び込もうとする連中の発生率が急上昇している。
しかし超鈴音の主要な活動拠点なだけあって、田中さん達は大量に居り、警備員さん達と日本政府の配慮によって埼玉県警からも警察官が派遣されてきておりその巡回も厳しい為、今の所完全防衛中である。
尤も、一番おかしいなどと目されている田中さん達自体の捕獲を狙った者も現れているが、そもそも一般人に捕獲できる事は無く、破壊してせめて部品だけでも持ち帰ろうとしても認可の無い銃器を持ち込んだ日には、学園側が即座に感知して捕まるので、寧ろ侵入が困難になるという結果に終わり……そういう事も無い。
田中さん達の専用ポッドが配備されているターミナルそのもののセキュリティはどうかと言えば、もし不審人物が何かしようとすれば、即座に充電待機中の田中さん達が特徴的な音と共に目を赤く光らせながらポッドから続々と飛び出す為……問題ない。
話が逸れたがそうこうして……車でおよそ1時間、麻帆良を出た複数の黒長い車は調布航空宇宙センターへと一路進んだ。
4台中前から2番目の車両に超鈴音、葉加瀬聡美、サヨ、教授、葛葉先生、龍宮真名という形で6人が乗り込んでいる。
葛葉先生と龍宮真名以外の4人は車内で打ち合わせを続け、但しサヨは常時観測状態。
龍宮神社のお嬢さんと葛葉先生は、警戒はしていたが、少しの間端末で通信をしていた。
2人が会話……通信だが……するのははっきり言って魔法世界から戻ってきてからではかなり久しぶり。

《葛葉先生、ネギ先生には会ったか?》

《……つい先日会いました。学園長からネギ君の滞在先に訪ねるよう勧められて直接》

流石というか葛葉先生はネギ君に呼び方が変わっている……。

《そうか。私はネギ先生……いや、なるほど、葛葉先生の言うとおりもうネギ君か……どうも、慣れないな。……姿を見た時は驚いたよ》

《戻ってきたとだけ聞かされましたが、実際に見て私も驚きました》

ネギ少年の滞在先に訪問した際には感極まったのか葛葉先生は珍しく涙腺を緩ませ、ネギ少年の頭をまほら武道会以来になるが思わず撫でながら「良く無事に戻ってきましたね……」と一言述べていた。
流石に抱きしめはしなかったが……多分ナギとアリカ様がいなかったら抱きしめていた可能性は充分にあったであろう。

《魔法世界で亡くなった筈が何故麻帆良にいきなり現れて戻ってきたのか全く分からないが、真相を知っているのが目の前にいていつも通りやっているのを見ると変な感じがするよ》

《全くです。超鈴音の詮索は一切するなと言われているので推測しかできませんが、今回の行き先からしても全てを知っているのは間違いないでしょう》

《……太陽光不足を緩和するための人工衛星を作ると聞いたが、いくらなんでも準備が良すぎる。そもそもこの端末にしても技術力がおかしい》

《……あなたのクラスのザジ・レイニーデイの姉だったらしき者の発言を覚えていますか?》

孫娘達も言っていた話。

《……ああ、確か超の未来がどうとか言っていたな。あの発言を考えると……超は火星人と冗談のように言っているが……実は魔法世界が崩壊した後の未来の火星からやってきたのかもしれないな……到底信じ難いが》

《私も信じられませんが……そう考えた方が筋の通るような事ばかりですから本当に未来人なのかもしれません》

大正解。
分かったからとどうという事も無いが。

《それもそうだな……だが超に聞いた所で火星人だという以外何も言わないだろうから結局護衛の私には関係の薄い話だな》

《……それは私も同じです。学園側として2度と生徒の命を狙われるような事を許す訳にはいきません》

《護衛中に話しかけて済まない。報酬分きっちり働くよ》

《……では通信を切ります》

因みに、龍宮神社のお嬢さんは学園側からと超鈴音からの双方から報酬を受け取っているが……彼女はそれをどうするのだろうか。
魔法世界側では、完全なる世界との戦いでネギ少年達が相対した事は非公式情報になっているので誰が突入メンバーにいたかは一般人には一切漏れていないのだが、その作戦に直接参加した葛葉先生や龍宮真名達にはそのうち情勢が落ち着いたらクルト総督からメガロメセンブリア代表、ひいては魔法世界代表として改めて報酬が支払われると思うが、恐らく相当な金額になるであろう。
……さて一方、前から3番目の車両で工学部のお兄さん達4名の護衛に入っている神多羅木先生と瀬流彦先生も端末の使用に慣れるという形で少し会話をしていた。

《神多羅木先生、葛葉先生から聞いてましたけどこの端末凄いですね》

《ああ、念話ではないというのがな……傍受されないらしいが》

《僕これ全然どうなってるかわからないですよ。何者なんでしょうかね、超君。数学の授業では常に当てれば一発で答えてくれて助かってますが……つい去年頃までは素性の怪しさから魔法使いとしては警戒してた筈が、今や麻帆良学園、雪広グループ、極めつけに日本政府からも最重要人物指定される事になって、一転最優先護衛対象になっているのは不思議ですよ》

《学園長は知っているんだろうがな……。入学初日の自己紹介で火星人とふざけて名乗ったという話を高畑が言っていたが実は我々も知らない魔法世界の極秘機関の出身という線もあるかもしれないな……だがこの科学技術は魔法世界ではまずありえない……分からん》

《そうなんですよね……。魔法世界の科学技術がこれだけ凄かったら世話ないですよ》

《いずれにせよ、実際に銃撃されたのが一回、シアトルでわざとおびき寄せて襲撃未遂が一回、修学旅行は別口だったが……今回も気を抜けない》

《質量兵器ならなんとか障壁貼れば……と思ってますけど、緊張してきました。それより、何で僕なんですかね……》

《人員不足だ。諦めろ》

《はぁ……そもそも魔法世界が火星に出てくるなんて……もう、わからないですよ》

《俺も分からん》

……瀬流彦先生は愚痴のような嘆きを神多羅木先生にしていた。
車の隊列を道行く人は一体何かと注目してはいたが、特に何事も無く、一団は調布航空宇宙センターの門を通り無事到着。
超鈴音が今日麻帆良を出る事自体は雪広グループがあちこちの各関連企業に調布航空宇宙センター集合の予定を伝えていた為、どこからか外部に情報が漏れていてもおかしくなかったのであるが……現在はそういう事は起きていない。
4台は駐車場に到着し、そこから各員降りて必要な資料を持ち、迎えと案内に来たJAXAの職員に連れられ、門からすぐ見える白い横長の3階建、事務棟1号館、2階の講堂へと向かった。
会議を始める予定時刻10時まで時間があり超鈴音達はJAXA職員の人達に挨拶して準備をしつつ、その間続々と雪広グループが声をかけた企業からやってきた人達も講堂に集合した。
途中、超鈴音が瀬流彦先生に耳元に向かって話しかけ、先生は「え?それ僕がやるのかい?」と虚を突かれた顔で言い「魔法使いが言た方が説得力があるだろう?」と超鈴音は返し、神多羅木先生に「瀬流彦、やれ」と言われて……結局引き受けていた。
そして開始時刻10時、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の職員の皆さん、理事長から始まって研究開発本部の皆さん、調布航空宇宙センター管理部の方、大学等連携推進室の方、宇宙利用ミッション本部の衛星システム開発統括の方……そして今回の人工衛星開発に超鈴音が必要と考えたプリズムのような精密光学部品の量産加工、NC自動旋盤、超精密切削加工等々を行っている関連企業の皆さんが揃いに揃った中、発表が始まった。
JAXAの司会進行役の方から、まず理事長からの挨拶……と進んでいき、麻帆良大工学部の教授、雪広グループの社員、そして超鈴音が、完璧な口調で挨拶をして、いざプリズムミラー方式人工衛星についてのプレゼンテーションの始まり。
タイピン型マイクロホンを服にとりつけた超鈴音が話し始めた。
現代生活に横文字は欠かせない。

「今回、火星の太陽光不足緩和を目的としたプリズムミラー方式人工衛星の開発企画について発表させて頂きます」

……口調が違う。
工学部のお兄さん達は「超りんの本気モード発動!」などと小声言ってい。
この発言で講堂に集まっている人々は火星問題に「もう取り組むのか」と驚きつつも「道理で関連企業が揃っている訳だ」と納得していた……が「プランだけあっても一体完成にどれだけ時間がかかると思っているんだ」という表情の人達が多数。

「開発と言っても、研究段階から行う必要はありません。既に人工衛星の各部品設計図、仕様は完成しています。正常に稼働できるかどうかについてもスパコンでですが、シミュレートも行っています。では、早速まずはプリズムミラー方式人工衛星の詳細についての映像・資料をご覧下さい」

いきなり研究を行う必要は無く、もう作るだけと超鈴音が言い出したことで前述の人達は一転驚いた。
それに構うこと無く葉加瀬聡美、教授と4人のお兄さん達がパソコンを操作しつつ三次元映像再生機を起動させ、人工衛星の完成予定図の立体投映を行い、スクリーンにはおおまかな分解パーツの投映がされた。
同時に雪広グループの社員さん達とサヨが、用意していた冊子を講堂内の皆さんに素早く配り始めた。
投影された総全長数十mに及ぶ人工衛星の完成予定図は現行の人工衛星とは似てもにつかない……普通は両翼か片翼に伸びているソーラーパネルの中心の箱のような本体がメインである筈が……プリズムの変形とは何ぞやと、人工衛星の本体から発電用のソーラーパネルと一緒に伸びているプリズムが主体と言わんばかりに……良く動く。

「ご覧の通り、目的は太陽光の集光ですので可変展開可能な巨大なプリズムの製造が必須です。また、長期間の稼働に耐えうるフレーム、精密な光センサー、複数基連動で稼働させることを想定した……」

超鈴音の独壇場。
その後もその他の仕様についても解説が行われ、火星の気象状況を本体で観測する事によって最適にプリズムを可変させる制御プログラムなどなど……も搭載すると話が進んで行き、聞いている人達は驚きつつも「冗談言ってるのか……」という表情の人達もいた。
しかし、続けて超鈴音の機構部品の詳しい仕組み等についての解説がされ始めた辺りで、それを聞きながら実際手元に配られた資料の該当ページをその分野の人達が読めば「これは……実現できる」と納得できるものであったようだ。
しかし、制御プログラムなどそういう辺りは公開されなかったのだが、田中さん達の精密すぎるプログラムのニュースからその技術レベルに一切疑問は無かったようだ。
発表しなかった事に、超鈴音は人工衛星本体の宇宙線による損耗対策に魔分有機結晶を利用する事を考慮しているのだが……まだ早い。

「……組み立ては種子島宇宙センターで行いたいと考えています。問題は打ち上げですが、地球で本格的運用をする訳ではありませんが、一基目はまず地球で実験します。ですが、二基目以降は火星に運びます。その方法については、魔法協会の瀬流彦さんから説明をして頂きます」

瞬間、超鈴音が普通に言った魔法協会という単語を聞いた皆さんはざわつき、呼ばれた瀬流彦先生は若干引きつった顔をしながらも、普通のマイクを受け取り、簡単な自己紹介をした後、一転凛々しく説明を始めた。

「総全長数十mに及ぶと超鈴音さんから説明がありましたが、魔法には質量封印というものが存在しており、それを使用する事で、人一人で容易に運ぶ事が可能な大きさにまで圧縮する事が可能です。その為、ゲートを通して火星に運ぶ際には問題ありません」

質量封印というのは空間魔法に分類されるが、ゲートポートで杖・刀剣類の転送の際、全部専用の箱にしまわれる物と同じ。
箱が大事なのではなく、術式が施されている封印紙が重要。
瀬流彦先生は真面目に解説たのだが、皆さん「そう言われてもね……」という表情をしていた。
仕方がない。
その後JAXAの司会進行役の方が一応魔法使いかどうか証明してくれないかという事で瀬流彦先生は携帯杖を出して浮遊を使い小物を浮かしていたが、マジックだと疑った人もいたようだ。
瀬流彦先生は居心地が悪そうであった。
しかし、強面サングラスの神多羅木先生が堂々出てきてしまうよりは良い。
神多羅木先生はいわゆるSPにしか見えない。
再び解説が超鈴音に戻った。

「火星での打ち上げは魔法世界側の技術力次第ですが、長距離転移魔法というものが存在するらしく……最悪、ロケットと発射台自体あちらで用意する必要も出るかもしれませんが、当プリズムミラー方式人工衛星の初号基の完成と打ち上げ自体にも時間がかかる為、その点は今後メガロメセンブリア魔法協会との交渉を進めて行きたいと考えています」

わざとらしく長距離転移魔法なんてものがあるらしい、と言ったが、転移魔法を使用すると超鈴音は言っていた。
モルモル王国のカオラ・スゥが科学で実現したアンチグラビティシステムは超鈴音も当然その技術があるので、方法はどうとでもなる。
実際一番重要な部分なのだが、講堂の皆さんにとっては既に今までの人工衛星の仕様の説明で「もう充分です」という様子で特に突っ込みもなかった。
さて、JAXAは独立行政法人であるため、資金源は主に日本政府と一部民間からの収入で成り立っている。
日本に直接寄与しない今回の超鈴音の計画する人工衛星の開発費用諸々はどこから出すのかという話については、一応雪広グループが全面出資するという事でその場は落ち着いた。
しかし、実際雪広グループは営利企業である為、そんなおいそれと100億単位で出す訳も無く、今回の真の出資者はやはり超鈴音。
魔法公開の日にサヨ達が「有名になりますね」などと話をしていたが、これ以上騒ぎになる種を増やす必要もないという配慮。
長々発表していた為に、時刻は13時過ぎになっていて、第一部はひとまず以上という事で皆さん事務棟1号館から出て、少し歩いた厚生棟の食堂で昼食を取ることになった。
昼食には超鈴音達も行ったが、各所の個別アプローチや質問が多かった。
普通にJAXAで働いている皆さんにしてみれば、研究段階を飛ばされた上、提示してきた物は大変格差のある技術であったりと衝撃を受ける事ばかりだったようだが、今回の開発にあたり当然JAXAには技術供与という形になるので、早々落ち込んでいられないという風にも見えた。
中には「麻帆良のある日本で働いていてある意味良かった……」と呟いている方もいた。
これで超鈴音が「NASAでやるヨ!」などと言っておたら真逆の反応だったかもしれない。
NASAの宇宙センター所在地は殆どが東海岸であり、私達が頑張れば隔地観測できる半径10006kmの範囲外の為都合が悪く、麻帆良側の配慮と雪広グループの支援が得られにくくなるという弊害があるので選択としては無かった。
午後何が行われるかと言えば、各企業を呼んだからにはそれぞれとの契約を行う必要がある訳で、完全に書類作業と化す。
そして全ては順調か、と思えたのだが……サヨと観測しつつ、怪しい奴はいないかーと虱潰ししていたら……発見した。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

午後に入って、3時少し前、雪広グループの社員さん達が主導で契約関連の処理を行ってくれている間、キノと観測をしていたのですが……また来た……という感じです。

《随分とまた強行手段で来たようですね……あの組織は》

《本当に迷惑ですよ、もう》

《麻帆良の情報は報道機関が常駐しているだけに、午前中に超鈴音が麻帆良から出たのはすぐに情報が出てしまったのが原因でしょう》

鈴音さんの情報ぐらい全部シャットアウトしてくれればいいのに……。

《それで……どうしましょうか?伝えようにも、全部伝えるとまた私が凄く怪しくなっちゃいますよ……》

《しかし……やむを得ません。後手に回ると最悪なパターンですし、今回は関係ない人にも被害が出る可能性が高いです。葛葉先生達に話をして構いません》

《はぁ……そうですね。わかりました、葛葉先生達に話します!》

《お願いします、サヨ》

《了解です!》

最初に発見したのは明らかに監視者っぽい人1人だったんですが、探してみると他数名……通信を傍受してみたらどう見ても特攻目的の自動車複数台が集結中でした……。
自動車はどうも転移で自動車ごと遠くから直接現れたみたいなんですが……コストの高い範囲型転移符まで使ってくるという事は今回もかなり本気で命取りに来てるみたいです。
まあ……鈴音さんの命が目的だから当たり前なんでしょうけど……放っておくと帰りの大泉インター辺りか首都高速4号新宿線辺りでつけられて特攻、転移逃走、時限爆破の流れを喰らうのが目に浮かびます。
ジャックな海外24時間番組じゃないんですからあっさり死ぬ感じの話はやめて欲しいです……。
しかも車の中には今回魔法使いまでいて……最悪爆弾ごと直接飛んでテロをしかけてくる可能性もありそうです……。
とにかく、動かないと。
私は今暇なので、葛葉先生達も壁際で待機中なので近づいて……。
あ……一番手前側の葛葉先生が私にすぐ気づいて端末を操作しました。

《相坂さよ、何か見つけたのですか?》

《はい……。かなりマズいものを……》

《説明できますか?》

《はい、任せてください》

《神多羅木先生、瀬流彦先生、龍宮真名、緊急事態のようです》

回線開いてくれました。
私は丁度葛葉先生の隣に到着です。
葛葉先生から今呼んだ順番に先生と龍宮さんが壁に並んでいます。

《緊急事態?》

《な、何ですか、葛葉先生?いきなり》

《相坂、また何か見つけたんだな》

神多羅木先生は表情変わりませんけど、瀬流彦先生は動揺して、龍宮さんは仕事モードに切り替わりました。

《はい、そうです。龍宮さん。……結論から最初に言うと、このまま帰ると途中か、もしくは直接爆弾テロをされる可能性があります》

《ば……爆弾テロだって?》

《神多羅木先生、瀬流彦先生、先に説明しておきますが、相坂さよは非常に強力な透視・千里眼の持ち主です。質問は後にするとして、相坂さよ、説明を続けて下さい》

《はい、わかりました。現在帰り道で私達が通る可能性の高いルート上に8人監視者と思われる人物のうち5名が周回、3名が図書館等で待機中、また現在接近中の爆弾を積載した車両が6台あります。恐らく大泉インター入り口か首都高速4号新宿線に入る辺りでつけられる可能性が高いと思います》

《は……それはまた、例の組織は余程超を消したいらしいな》

龍宮さんが少し目を見開き、瀬流彦先生は凄く嫌な顔をしました。
鈴音さんは存在自体がある意味殆どの科学技術研究機関に対して喧嘩売ってるようなものですからそれが元で収益を上げている企業にしてみれば邪魔なのも仕方ないですが……。

《葛葉……強力な透視・千里眼というには能力が高すぎる気がするが……早期発見できたのは僥倖だな》

神多羅木先生はサングラスを押さえて言いました。
少し呆れてるみたいです。

《はい、私もそう思います。……襲撃を受けるのを待つよりこちらから処理しに行った方が良いと思いますが……神多羅木先生はどう思いますか》

《処理しに行った方が良いのは間違いないが、ここから我々が単独で出れば動きがバレて直接爆弾をこの施設に、抜けた所に転移させられる可能性がある。前回シアトルの件は葛葉から聞いただけだが、あちらもこちらに何らかの能力者がいると想定していると考えた方が良いだろう。ここは外部……警察に協力を要請してはどうだ。三鷹警察署もここからすぐの距離だ。流石に組織も大々的に日本警察に喧嘩を売ってまで仕掛け、存在をわざわざ明るみに出して来はしないだろう。逮捕できるなら良し、転移で逃走するなら今回確実な護衛が目的である以上それでも良い》

あー、警察ですか。
確かに日本警察相手取ってまで仕掛けてはこないでしょうね。

《警察……確かに超鈴音の重要性から言って動いてくれるでしょうね。まだ時間も掛かりそうですし……表には表、ですか。私は神多羅木先生の案に同意します》

《僕も神多羅木先生の案に賛成です》

《私も賛成だ》

《私もそれでお願いしたいですが……私の能力はどう説明するんですか?》

《安心しろ、相坂。説明ならどうとでもなる。まだ政府も魔法関連の能力者の追求はできはしない》

神多羅木先生……お願いします!

《はい、ありがとうございます!》

《行動開始だ。葛葉は雪広のエージェントに説明とできれば帰り道のルート変更の打ち合わせを、瀬流彦は地図を用意して相坂から位置を聞け、龍宮は超の護衛を引き続き頼む、俺は麻帆良学園に連絡を入れて警察の出動を要請する》

《分かりました》  《了解です、神多羅木先生》  《了解した、神多羅木先生》

相談がもう終わり……葛葉先生と神多羅木先生はすぐに行動に移りました。

《サヨ、私も近衛門殿に事情を連絡して上手くやっておきます》

《分かりました!》

瀬流彦先生は持ってきていたノートパソコンを開いて、周辺地図を出してくれました。

《相坂君、千里眼持ちって初めて知ったけど……いや、今はそれどころじゃないね。どの辺りか教えてもらえるかな?》

《任せてください。まず最初に完全待機に入っているのが東京外環自動車道大泉インター入り口付近の駐車場に一台……それと環八通り、都道311号線の都道14号線へ折れる所にあるフォークス高井戸東店の駐車場の奥に一台。犯人と思われる人物は一人が客として店に入っていて、後部座席にもう一人隠れています》

《……ほ、本当に詳しいね。続けて》

《はい、他は……》

……この調子で組織の人の位置を伝え、待機中監視者の位置……そして周回中の監視者の人物の巡回ルート、後はそれぞれの服装を伝えていきました。
全部伝え終わった後、丁度神多羅木先生が戻ってきて、携帯電話が警視庁ともう繋がっているらしく、私達は場所を移動しました。
少しの交渉の結果瀬流彦先生が地図上にマークしたポイント入りの画像を作成して、警視庁に送りました。

《ふぅー、転移符を使ってくる場合の動きの可能性も伝えましたしとりあえずは、警察の動き待ちですね》

《ああ、そうだな。相坂、情報提供感謝する》

《いえ、当然の事です》

《本当に助かったよ、相坂君。よくよく考えてもこんな広範囲複数ヶ所の同時把握なんて、普通はありえないからね》

瀬流彦先生は手で頭を掻いて一先ずは終わりか、という感じでホッとしてます。

《普通なら気づくこと無く確実に後手に回っていただろうな……。警察も特定方法には詮索してこなかったから安心していい》

《ありがとうございます!引き続き遠見しますね》

《頼むよ、相坂君》

その後観測し続けた所、まずは調布航空宇宙センターから北数分に位置する三鷹警察署から徐々に刑事さん達が出動して行き、待機中監視者のいるポイントに接近、周回している監視者に対してはその周回ルートの範囲外から通信を取り合いながら徐々に接近・包囲、覆面パトカーは組織の車が停車している駐車場へと出動して行きました。
少し遅れて目黒区大橋に位置し、爆発物処理班を保有する警視庁第三機動隊は出動準備を整え始め、三鷹警察署からの要請待ちに入りました。
葛葉先生は雪広グループのエージェントさん達と話を済ませ帰りの道は当然変更、そして事務棟一号館の警戒を厳にし始めました。
そして4時過ぎ、覆面パトカーはそれぞれ指定ポイントについた所で三鷹警察署に連絡を入れ、刑事さん達は監視者の後を遠くから尾行し始めました。

《今から監視者に対して職質を行うそうだ。相坂、車両の方に注意を向けておいてくれ》

《はい、神多羅木先生》

魔法使いが待機している車両は……直接転移の用意はできているみたいですが、指定先まではピンポイントに2階にはなってないようです。
とすると、ここに飛んできたとしても、予め信管を抜いておいて爆破テロ……と言ったことは仕掛けられないので充分対処可能です。
会話を盗聴した感じだと「麻帆良の者がいるから先走った行動は控えろ」や「JAXAを直接狙うのは都合が悪い」というのが聞こえたので、あちらにとっても最終手段らしいです。
……1人の刑事さんが監視者に後ろから近づき、職務質問を行いました。
監視者は片手をポケットに入れた状態で振り向きました。
この寸前監視者は耳に取り付けた外からは見えない小型通信機で司令車両の人物に定期連絡をしていました。
監視者は職務質問に対し普通に答えたのですが、それに対し刑事さんは寧ろ変に思わせるぐらいあっさり追求をやめ、接触を終えました。
職務質問をした刑事さんは監視者を追い越して歩いていき、監視者も同じ方向へと進んで少ししてからまた司令車両へ通信をかけました。
盗聴してみた所……。

『何かあったのか。定期報告はさっきしたばかりだろう』

「刑事に職務質問を受けたが、気味が悪いぐらいあっさり引き下がった。報告しておく」

『……了解した。一旦ルートを変更して付近から離れろ。そのまま警戒しつつ6の所に交代に向かえ』

「了解」

……監視者は通信を終えて周回ルートから外れて行きました。
司令車両は残りの7人のうち交代させる予定の待機中の監視者に連絡を入れました。
……ここは私の出番ですね。

《神多羅木先生、どうやら東部図書館で待機している監視者が動くみたいです》

《ああ、分かった》

神多羅木先生はすぐに三鷹警察署に再び電話をかけ、私の言った事を伝えてくれました。
三鷹警察署からはその東部図書館で待機していた監視者をマークしていた刑事さんに今度はすぐに連絡が行き、外に出た段階で再び職務質問をかける事になりました。
司令車両から連絡を受けた6と呼ばれる監視者の人は読んでいた本を何食わぬ顔で戻し図書館から出ていきました。
そして出てほんの一分、マークしていた刑事さんがその監視者に職質を行い、前と同じく、深く追求せずにそのまま見逃すという事を行いました。
結果、その監視者はすぐに頃合いを見て司令車両に連絡を入れました。

「こちらも刑事から職務質問を受けたが、同じく気味が悪いぐらいあっさり引き下がった。指示を頼む」

『何?……偶然ではなさそうだな……。分かった、全体に一斉通信を入れる。4の交代には入らずそのままルートから外れろ』

「了解」

司令車両の人は一旦通信を切り、一斉通信を入れました。

「全員に通達。警察がこちらの動きを察知している可能性がある。周回中の1、2、3、5は尾行されていないか確認、待機中の7、8も一旦外に出て尾行されるか確認せよ。各車両で店に入っている者はすぐに車に戻れ」

計画通り!って感じですね。
これは神多羅木先生に言わなくても警察の人が対処してくれる筈です。
周回中だった監視者の人達は尾行を確認しに動きましたが、刑事さん達は寧ろここぞとばかりに職務質問に入り、またあっさり見逃しました。
多分この警察の人達の動きは……キノが学園長先生に何か伝えたからかもしれませんね。
刺激しなければ組織も強硬手段に出たりはしない……とでも言ったのかもしれません。
残りの監視者6人はそれぞれ職務質問された事で、全員が尾行されていた事を司令車両に報告しました。
結果、もう一度一斉通信が行われ……。

「完全に警察に動きがバレている。麻帆良の者の中にいると思われる遠見の能力者が原因の可能性が高い。この不自然な警察の動きは意図的なものだ。あえて強硬手段に出て警察を刺激するのは都合が悪い。既に対策も取られていると考慮すれば、捕まる前に撤退すべきだ。車両組はすぐに発車し、頃合いを見て車両ごと転移、1から8も各自頃合いを見て多重転移で撤退せよ」

……はぁー、帰ってくれるらしいです。
助かりました。

《キノ、追い返せましたね!》

《はい、捕獲はあちらが爆弾を所持している時点で危険すぎますし、超鈴音関係なしに掃討作戦を敢行するならともかく追い返せただけで今回は充分でしょう》

《やっぱりキノが学園長先生に何か言ったんですか?》

《ええ、まあ一応。サヨと同様に視てサヨが神多羅木先生達に伝えられない情報も伝えておきました。近衛門殿と話した結果、組織側は転移符を持っているのに、警察側がそれに対抗手段を持っていない事を考えると刺激せず追い返せればそれで良いという見解に至ったので……そういう事です》

《そうですかー。はい、私一応千里眼能力者であって、盗聴能力まである事にはなってないので話しにくかったです》

《……そうだろうと思いました。とにかく、今回はこれで終わりですね》

《はい!》

……その後警察の人達が追跡しつつも、最後には組織の人達は皆続々と転移して帰っていきました。
機動隊の人達の待機は意味なかったですが、組織は自爆テロをする意思は無いですが転移符がある時点で危険でしたからこれで良かったと思います。
結局私達は調布宇宙センターには5時過ぎまでいて、各企業とも契約は行われ、JAXAでも人工衛星の開発には全面協力してくれる事になりました。
帰りは一応行きとルートは変えましたが、黒長い車4台でまた列になって麻帆良まで戻りました。
そんな時車の中で鈴音さんから端末で個人通信がきました。

《さよ、翆坊主から特に連絡も無かたが、先生達が動いていた以上今回組織に動きはあったのだろう?》

《はい……ありました。でも、上手く追い返せたので大丈夫ですよ》

《分かたネ。詳しくは聞かないでおくヨ……と言いたい所だが、私自身も対策を考えたいから戻たら後で話して貰えるかナ?》

あはは、やっぱりそうですよねー。

《そう言うと思いました。了解です、麻帆良に戻ったら話しますね》

《お願いするヨ。……今日は人工衛星開発の件も上手く纏またし、次は麻帆良から出なくてもできる開発を進めるとするかナ》

《最近少し放置気味だった魔力炉ですか?》

《そうだヨ。公開は当分できないが開発はしておきたいからネ》

《完成楽しみにしてます。手伝える事あったら言って下さいね》

《うむ、それと凄い物ができそうだから楽しみにしておくと良いヨ》

《はい!》

魔分がある空間でなら半永久稼働するものを作るって前から言ってましたけど……それと凄い物って何か他の物も作るみたいですね、本当に楽しみです。



[27113] 75話 採取ツアー
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:45
翆坊主とさよから聞いてみれば、街中のような脇道に逸れる事が困難な高速道路辺りで爆弾を積んだ車両ごと突っ込み本人達は転移で脱出しつつ爆破を仕掛けてくるつもりだたらしいネ。
……帰てくれたのは助かたが、こうなてくると私自身魔法が使えて銃弾や爆弾の衝撃ぐらい障壁で防げることを明らかにした方が下手な攻撃はやめてくれるかもしれないが、それはそれでまた違う碌でも無い方法で仕掛けてくるだけだろうから解決策にはならないナ。
もし翆坊主とさよがいなければ……と考えるのは、今まで翆坊主とさよがいることを前提で動いてきたのだから意味が無い。
今回の護衛の体勢にしても、翆坊主とさよがいるからこそ、わざわざ最初から警察に護衛を頼もうともしなかたのだからネ。
地球で動き辛いのは間違いないが、これから私がするのは殆どが火星対策だから究極的には麻帆良内での安全さえ確保されているならばそれで良い。
昨日は一昨日調布航空宇宙センターに行たばかりで、一日中工学部で今後の詳細予定を詰めたヨ。
工学部で作成可能な部品は全て工学部で製造するが、特殊な精密部品、プリズム同士等の接合系フレーム、高効率スラスターその他各部……色々ある。
これでも極力オーバーテクノロジーにはならないよう現行技術でできる水準に配慮したつもりなのだが、最終的にはソーラーパネルの自体の性能向上やスラスターを純粋電力のみで稼働するアンチグラビティシステムの搭載で代替、魔分有機結晶(MOC)で基礎フレームのコーティング……まだまだ改良したい所ネ。
まあ私の思い描く通りにすると最早地球での人工衛星の枠から外れてしまうから当分不可能な話ネ。
かなりの部分の部品が特注になるから初号基の完成は最低でも数ヶ月かそれ以上……少なくとも来年になるだろうネ。
普通年単位の所をこれだけ短く済ませているのだから充分だと思うべきカ。
……それまでにダイオラマ魔法球を私が極秘で使うのではなく、工学部の一角で公的に使えるようにして、その中で大学の敷地という制約を無視できるようにしたい。
初号基の完成から2号基の完成まで再びどれだけ時間がかかるかは、とにかく初号基次第だが、いつまでも組み立てを種子島で行う訳にはいかないからネ。
因みに昨日の時点でもうJAXAが今回の人工衛星開発を行う事を公式発表したから既にニュースになたヨ。
そして今日は10月20日、放課後、例の物質のサンプルを持ってエヴァンジェリンの家に来た。
翆坊主から予め聞かされていたから分かていたが、既に午前中からネギ坊主とその両親がまた来ていてダイオラマ魔法球の中にいる。
昨日旅行から帰てきたネギ坊主は、今度は転移魔法の習得を目指すつもりらしいが、保護者同伴……というとネギ坊主の場合は少し複雑だから……しばらくは互いに傍にいるべきなのだろうネ。
翆坊主が中にいたエヴァンジェリンだけ呼んで家の中に戻て来てくれたから、鉢合わせはしていない。

「茶々円から来ると聞いていたが今日の要件は何だ?いつもは通信で済ませるだろうに」

怪訝な顔をしているが、確かにここずっと通信で済ませていたから珍しいナ。

「一つ見せたいものがあてネ。この結晶を見て欲しい」

ケースに入れてきた5cm程のMOCを出して見せる。

「ん……魔力……いや、純粋魔分で加工した結晶か。見たことが無いがまた新しい発明か?」

魔分で加工している事をすぐ分かてくれるのはエヴァンジェリンぐらい……後はネギ坊主もカ。

「新発明ではなく、これは以前火星の映像を見せた時に少し見たと思うが、火星の軌道上に散布していた粒子の結晶版だヨ」

「ああ……あれか。なるほどな」

「話を続けるヨ。この結晶、魔分有機結晶、略称MOCと呼称しているのだけど、重要なのはこのMOCの性質ネ。散布に使用したのは生物に有害な各種放射線の遮断能力が高い素材である事が理由なのだが、MOCは触れてもう分かたと思うが魔法的利用も可能だ。魔分を供給・展開すれば超硬度の外壁に利用できるし、加工の仕方次第では逆に魔分を完全密閉する事もできると思うネ」

「……つまり圧縮魔分の容器でも作るつもりなのか?」

「その通り。エヴァンジェリンに頼みたいのはダイオラマ魔法球の、適正異空間形成・保持、環境循環維持、時間操作等の、中に入て生活するには必須の要素を全て除いた、まさしく超高密度魔分圧縮保存容器の作成ネ」

「やはりそうか。確かに出回っている占い等に使われる水晶球程度ではその容量はたかがしれているな。欲しいのはダイオラマ魔法球作成の空間操作を応用した魔分の大量詰め込みだけができる魔法球でいいんだな?」

「それで間違いないヨ。色々実験したいから複数個欲しい。その間私はMOCの理想的加工法を考えておこうと思うのだが……エヴァンジェリンもMOCの作り方は知りたいかナ?」

「応用は効くようだから私も興味はあるが……材料に何を使っているかによるな」

「材料は……色々だネ。説明すると長くなるヨ。生産にも機械的設備が必要ネ。教える事は可能なのだが、エヴァンジェリンに余り合わないと思うから……一応聞いてみたんだヨ」

「……要するに面倒だという事か。分かった。私も一応聞いておくが……ただの魔力球を何に使うつもりなんだ?」

「よく聞いてくれたネ。エヴァンジェリン。宇宙空間でも半永久稼働可能な動力機関の開発に利用するつもりだヨ」

「宇宙空間で使う?……既にあの巨大な華があるのに必要あるのか?」

「安全で長期間単体運用可能な有人宇宙船を一から作るのは科学者としては大きな夢でネ」

「はぁ……科学者の夢とやらには際限が無いのは分かった。魔力球を作るのは良い。ベースになるただの水晶球も幾つか持っているからこの前のまほら武道会の様な用意はしなくて良い」

含みのある顔をしているが……分かているという事カ。

「助かるネ。少し問題のある方法でまほネットで魔法球を買たから同じ方法で買うのは都合が悪い。そもそもまほネットの物流自体今滞っている所だから困ていた所だヨ。報酬は金銭で必要な分だけ払うが、MOCはどうするネ?」

「金銭は余り必要ないが……一応水晶球と加工労働分ぐらいは適当に請求するか。MOCは適当にいじれる分だけ渡してくれれば良い。私としては例の華に乗って宇宙旅行でもしてみたいんだがな」

「金銭とMOCについては分かたヨ。華、あれも優曇華と名前をつけたのだが、あれで宇宙旅行をするのも、優曇華自体に単体ワープ機能をまだ搭載していないから残念ながら無理ネ。今は火星の海底に沈めてあるヨ」

「あー……予め宇宙に出しておかなかったのか」

残念そうな顔しているナ。
まあ私も残念なのだけどネ。

「例の作戦時に必要でネ。それと魔法世界の動向を視るのに優曇華はまだまだ必要なんだヨ。魔法世界は軌道上の観測能力は高いから下手に今更打ち上げるわけにもいかない。結局ワープ機能をつけるまでは無理という事ネ」

「そういう事か……。ならそのワープ機能をつけるまで待つとするよ」

「それは任せて欲しいネ。話はこれで終わりだからネギ坊主が出てこないうちに失礼するヨ」

「ああ、分かった。魔力球が出来次第連絡する」

「助かるネ。引取りには前と同じく田中サンを行かせるヨ。では邪魔したネ」

……これで研究がまた一つ進められるヨ。
人工衛星の開発は動きだしたし……この後前回以来会っていないクルト総督にネギ坊主の件を報告して少し交渉しに行くついでに、放置しているとマズそうな火星の植物採取、植生変化の調査へ魔法世界に行てみるかナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音が凄い物を作るというのは要するに、超高密度密閉魔力球に開発中の半永久魔力炉を接続するなどして、魔力濃度が限りなく0に近い宇宙空間でも超長期間運用可能な動力機関を搭載した宇宙船を作るという事であった。
しかし……超鈴音には一度も件の単語をはっきりと話した事は無かった。

《超鈴音、凄い物がどういうものかは分かりましたが……時に、魔分についてどういう捉え方をしていますか?》

《ん?……どういう捉え方といわれると……そうだナ、夢の素粒子と言た所かナ》

流石……と言った所か。

《なるほど……素粒子ですか》

《何ネ?突然そんな事聞いて来て》

《私が何故……魔分を魔分と呼称していると思いますか?》

《魔法の……素粒子、分子……略して魔分と見るネ。そこから来たのではないのカ?アーティファクトを使ていれば、魔分が素粒子である事ぐらいは分かるヨ》

《……そう言われるとそうでしたね。ええ、魔分は魔分で良いですが、魔分とはそもそも……多様変異性素粒子と呼べるものなのです》

火、水、雷、土、風などなど……どんなものにも多様に変異する素粒子。

《ふむ……なるほど、だからカ。昔からの儀式的感覚だとその理解は及ばないものだろうナ。それは言い得て妙だネ。……翆坊主、逆に私が構想している半永久魔力炉というのがどこから来ているものか聞くカ?》

どこから来ているか。

《聞きましょう。興味があります》

《うむ、いいだろう。基本的な事から一応話し始めるが、私の典型的な未来技術に光学迷彩コートやまだ作ていないがアンチグラビティシステム、兵器にはビーム兵器、ナノマシンなんてものやそれ以外にもまだまだ色々あるのだが、前者3つはどういう原理か翆坊主は分かているカ?》

《……素粒子だと言いたいのですか?》

《そうだネ。今の会話の流れからそう考えるのは良い。今の3つにはどれもある素粒子を利用しているネ。アンチグラビティシステムは重力子、光学迷彩には光子、ビーム兵器にも光子を使うヨ》

《未来でどのように技術が詳細に発達しているのかまでは分かりかねますが、とりわけ現代の地球では重力子は発見されていないですよね》

魔法世界では重力波の観測ができるので、もう間近であるそうだ。

《ああ、そうだネ。魔法世界だと重力波を感知できる技術が進んでいるからあちらはもう少しだけどナ。一つ技術史を話すと……私のいた火星では例外を除けば完全に魔分が枯渇していたが……火星の技術の源流は魔法が元なのは間違い無い。もし魔法が存在していなかたとしたら結果が出るまでに壮絶な時間を要する事になていたと言われる程に、魔法を元にして行われた科学的研究の成果はめざましいものだたと聞いているヨ》

《なるほど……そうだったのですか。100年にしては随分技術が進歩するものだと思う所はありましたが、魔法を科学的に研究した結果ですか》

《そういう事ネ。素粒子の話に戻るが、私の時代でも魔力……今はこうして魔分だという理解はできているが……そこでも何らかの素粒子だろうという推測はされていたんだヨ》

推測はされていた……か。
枯渇が影響していたのだろう。

《例外的にあった魔分でもそれには至らなかったと》

《うむ、それは無理だたネ。翆坊主にとては当たり前なのだろうけど、人間が魔分の素粒子を感覚で理解するのはとても難しいヨ。それこそギリギリで残ていた魔力だけでは研究する為の絶対量が足りないし、貴重な魔力を実用に回すのではなく研究する為に使用するなど正気の沙汰ではなかたネ。魔力は魔力の理解で使用するには充分だたからナ》

確かに、魔力は魔力で理解していれば魔法行使に関してはそれで充分だ。

《……なるほど……そういう事ですか》

《話が逸れてしまたが戻すネ。半永久魔力炉は火星でのある科学技術で理論とそれなりの知見に基づいた知識を作成の元にしているネ。ただ、そのある科学技術を完成させるよりは半永久魔力炉の方が作るのは相当楽だと私は分かているヨ。……だから取り組むのだけどネ。さて……そのある科学技術だが聞いて驚くネ》

……そのある科学技術とはいかに。

《期待します》

《それは同じく半永久機関。宇宙の卵と呼べる物ネ。その作成条件は木星という環境が一番良い。高重力、そして宇宙空間……この2つの条件を満たす木星に対し、粒子加速器で加速した位相欠陥……トポロジカル・ディフェクトというのだが、それを木星中心部に撃ち込み……後は採取する。その結果の反応としては、重粒子が蒸発する事なく質量崩壊、その際陽電子と原初粒子が放出され続ける……この原初粒子こそが多様変異性フォトン。その半永久的に発生し続ける原初粒子をエネルギーとして使用する、半永久機関……名づけて太陽炉。どうネ?》

《まるで私……神木のようですね。中々共通点がありそうで驚きに溢れる話です。しかもネギ少年の技法と語感が似ていて尚更。つまりそれの構想を利用して半永久魔力炉を作ろうというのですか》

《うむ、良い反応ネ。その通りだヨ。因みにトポロジカル・ディフェクトを使用しなくても特殊な加速器、始動機があればその原初粒子の生成は可能と故郷では目されていたが……そこまでは技術力が足りなかたヨ。詳しい話はこれで終わりネ。翆坊主、半永久魔力炉の完成、楽しみにしていると良いヨ》

《ええ、それはもう。楽しみにしています》

《麻帆良最強頭脳の名にかけて!と宣言しておくヨ。……話は変わるが翆坊主、今から魔法世界に行こうと思うのだが転送を頼めるかナ?》

これまた唐突な切り替えだ。

《……はい、わかりました。クルト総督に接触する予定ですか?》

《そんな所ネ。地球よりも火星の方が気ままに外出できそうだし気分転換になると思うヨ。ところで行くとしても女子寮についた時点であちらのメガロメセンブリアは今何時かナ?》

《そうですね。時間は……午前2時半頃です》

《僅かでも自転に差があるとこれだからネ……。総督の所は後回しにするカ。先に少し植物採取にでも出かけるヨ》

《了解です》

通信を切った後、超鈴音は再び女子寮に戻って来た。
超鈴音が随分熱心に色々話をしてくれたが、きっとその半永久機関も作ってみたいのではないだろうか。
それはさておき……サヨは今超包子で働いているから……私が行こう。

《サヨ、超鈴音が火星に行くそうなので、私も火星に転移します。こっちはお願いします》

《エヴァンジェリンさんへの依頼終わってたんですね。分かりました、ちゃんとみておきます》

《はい、それでは》

改めて時間を確認すると……麻帆良が今16時半頃で、メガロメセンブリアは2時半頃。
火星の自転周期は24.6229時間で地球とは1日に約37分ずつ差が出る。
今日で火星と魔法世界が同調してから地球基準で54日目、厳密には52日21時間40分程であり、魔法世界の感覚では51日13時間30分程という差が発生している。
当然公転周期も変化している為、地球的季節変化に換算すると全て約1.8倍にする必要がある。
……それはともかく、ポートをオスティア近海の海底に沈んでいる優曇華に開通し、超鈴音を転送し、私も神木・扶桑ではなく優曇華に転移した。

「さて……翆坊主、メガロメセンブリアが2時半だとすると丁度良くケルベラス大樹林が12時頃だネ」

時間の流れる方向が逆になっているから……そうなのだが……いきなりケルベラス大樹林か。

《いきなり大樹林ですか?》

「夜中に行くよりマシだヨ。それに熱帯の気候が徐々に変化するかもしれなから、貴重な植物と……それと竜種の肉に興味があるヨ」

食欲旺盛。

《……止めはしないでおきます。ケルベラス大樹林なら逆にアーティファクトを使っても誰かに見られる事も観測と併せてほぼ無いですから》

「私もそう思ていたネ。優曇華をケルベラス西岸に移動するヨ。アデアット」

そう言って超鈴音は操縦球に乗り込み優曇華を発進させた。
オスティア近海からボレアリス海峡を抜け、斜めに動く事になったが最高速度で動かさなかったにしても2分で着いた。
直線移動距離なら6000kmと言った所。
超鈴音はアーチの中に入り、前に色々運び込んでいた探険用の装備に着替え、かさばらずに重ねて運べる容器も幾つもきちんと持って準備が整った。
帽子も被り……何だか見た目が……これは……テレビで放送されている、世界の不思議……発見な人形のようだ。
狙っているのかもしれない。

「魔獣など恐るるに足りないネ!行てくるヨ」

《視ていますが気をつけて行ってきて下さい》

―魔法領域・展開―
  ―転移門―

予め魔法領域を張ってから超鈴音はケルベラス大樹林の真っ只中へと転移していった。
実際超鈴音が言った通り、ケルベラス大樹林は以前の超熱帯状態の時よりは気温が下がっている。
魔分濃度が地球に比べると非常に濃いのは変わないが、その効果の為、この約50日間で急激に気温が下がるという事は起きていない。
魔法世界はケルベラス大樹林のように広大な大自然の所もあるが、それに引けを取らないぐらい広大な砂漠もある。
原因は気温が高すぎる事。
どれだけ時間がかかるかは分からないが地質改善を行っていけば今までオアシスが無ければ不毛の大地だった所も、植物が生育する事も可能になるであろう。
実際食糧事情に関連する問題で超鈴音がクルト総督に交渉しようとしている事の一つに砂漠の緑化も入っている。
さて、転移した超鈴音はというとその視野を活用しその場で止まりつつ、植物の探査を開始した。
私が優曇華から視つけて伝えてもいいかもしれないがそれでは折角大自然に来た意味というものを考えると勿体ないのでやめておこう。
簡単に観測するだけでもあちこち貴重な植物……地球からすれば全部貴重だが、それらが生えており、超鈴音は大体それらの位置を把握したのか、まずは近場から転移を使わずにとても素早い浮遊術で飛んでいった。
大樹林というだけあり、巨大な植物が多く、木と木の間を縫って太い枝にぶつからないように上下、右へ左へと風をきるように進んでいくその姿は……何だか楽しそうである。
大樹の根本に生えていた一つ目の植物を発見した超鈴音は、そのすぐ近くにゆっくり着地し、透明な保存用容器を一つ取り出し、根の張っている土ごと浮遊で丸ごと浮かせて採取を完了した。
地球で言うアロエにそっくり。

《これはバルバロスアロエだヨ!薬用にも使えるし食べる事もできる。臭いもそれなりに良いネ。次行くヨ》

流石東洋医学研究会の会長をやっているだけはあるのか、その効能にも詳しいようだ。

―強制転移―

優曇華に送られてきた。

《この調子で送ってくるつもりですか?》

《そうだヨ?できればアーチの中に入れて欲しいのだが……》

断る事は無い。

《了解です》

力場を発生させて送られてきた植物入り容器を浮かせアーチの中へと入れる。
しばらくするともう2つ容器が現れ同じように処理をする。
そうして少しすると新たにタワシのように小さな花びらが無数に逆だった花がついた植物が一つ転送されて来た。
花びらの色は彼岸花のように真っ赤。

《今のはケルベラスアザミだヨ。蕾が食用で薬用にも使えるし見た目も悪くないだろう?》

固有植物。

《そうですね、鮮やかに赤い色が観賞用としてもいけそうです》

《実際観賞用だヨ。次行くネ》

そうであったか。

《地球ではまずない植生ですね》

《そういう意味でもケルベラス大樹林は危険地帯以上に生命の宝庫ネ》

地球であれば北のほうにしか生えてない見た目のものが普通に生えている。
次に超鈴音が見つけたのは……流石に持ち帰れそうにない物だった。
普通の低木である……が大きい。

《天々烏薬カ。漢方薬原料として有用なのだが……雌雄別株だから片方だけでは栽培もできないナ。重要な根だけ少し採取していくネ》

そう言って超鈴音は地面を掘り始め、木に影響が無いような部分だけを少し採取し再び転移で送ってきた。
その後も飽きること無く次々と植物を採取しては送って来続け、竜種がいたりするのだがその辺りは避けるように転移で進んだりして作業は順調であった。
途中持ち合わせの容器が無くなった為一度補給に戻ってきたりもしたが、そうこうして、なかなか良いものを超鈴音は手に入れた。

《アルテミシア!この葉は外傷にはかなりの効果があるヨ》

先端が3つに分かれ真ん中が特に大きい葉が特徴的な植物である。

《ヨモギ科の葉のようですよね》

《うむ、翆坊主、地球の植物に分類するならヨモギ科が正しいヨ》

正解であった。
貴重な薬草も普通に分類すればヨモギ科。
超鈴音は慣れたように転送して来た。
容器に入っているから良いが、この土をアーチの中で解放すると細菌の危険もあるが、超鈴音がきちんと対策を取ると思われる。
いつまでやるのだろうかという所、結局3時間以上に渡って、ケルベラス大樹林の……採取ツアーは行われた。
途中イクシールの原料になるものは見つからなかったと言っていたが、イクシールとはこちらの価格で100万ドラクマする万能薬。
大型の魔獣は一体どころか大量にいた訳だが……超鈴音は帰りがけ最後に、出かける前に言っていた事を実行した。

《竜種の肉がどれほどのものか少し狩りをしてくるヨ》

《実戦らしい実戦は久しぶりでしょうが気をつけて下さい》

《今まで温めてきた武装をとくと味わえ!という感じネ》

竜種がどれほどのものか、ではなく、あくまでも肉がどれほどのものか。
超鈴音は今までに視界に入っていた竜種でどうも目をつけていたらしいものの所に転移でその背後に移動した。
図書館島の彼女よりは小さく体長12m程度、色合いは同じの翼竜種、ただし、魔法種。
翼竜は樹林の間を慣れたように飛んで獲物を探し回っていた所だった。
そこに先制攻撃を仕掛けたのは超鈴音。

―断罪の剣群!!! 来たれ 14振!!―

発動と共に、以前練習していた武装の初実戦投入である。
超鈴音の前に一本全長1mの純粋魔分で構築された剣が14本並んで出現。

「行けッ!」

掛け声と共に超鈴音が両手を振り、断罪の剣は7本ずつに分かれ、翼竜の翼目がけて左右から挟みこむように襲い掛かった。
竜種の障壁は常時張られていたが、それも虚しく盛大に障壁は貫通され翼には14の穴が開き……地上に落ちていった。
全く障壁を意に介さない。
標的となってしまった翼竜は痛みで劈くような咆哮をしたが、超鈴音には効果は無い。
落ちながらも翼竜は首だけ振り向いて攻撃を仕掛けた超鈴音に炎を吐こうとする。

―瞬時転移―

が、近衛門の高速転移を研究していただけあって、超鈴音は翼竜の懐に瞬間移動した。
続けて超鈴音がそれぞれの指を僅かに握るようにした瞬間、先程突き抜けた断罪の剣のうち10本が急速反転し竜種の首を……軽々貫通した。
そのまま重量感のある音を辺りに響かせながら翼竜の巨体は地に落ちた。
遅れるようにして計24箇所の穴から血が出始めた。
超鈴音は断罪の剣を全て解除し魔法領域のみの状態に戻った。

《図書館島の竜種に似ているからと思て目をつけたが……一瞬だたネ。竜種を一方的に倒せても、地球での麻帆良外での活動のしにくさには何の変化も無いのだから困たものだヨ。さて……竜種の肉が欲しいという理由だけで命を奪た訳だが、無駄にする事なく持ち帰るヨ。一つ封印魔法を覚えていて正解だたネ》

超鈴音は浮遊で竜種の巨体を浮かし翼と尾をうまく纏まるようにし……。

―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―
   ―凍てつく氷柩!!―

翼竜の身体は巨大な氷の棺の中に閉じ込められた。
死体という点でも棺は合っている。
超瞬間冷凍で肉を痛める事無く、かつ巨大な冷凍庫も必要ない。
火星にかけるための幻術魔法の開発の合間にエヴァンジェリンお嬢さんから封印魔法を教わっていたのがここに来て活用された。
超鈴音はその巨大な氷塊を送ってきた後すぐに優曇華へと帰還して来た。

「今日は普段ではかなりありえない新鮮な体験ができたヨ。収穫も多い」

《凄い大物もありますしね。この翼竜どうしますか?アーチに入れるのか》

「そうだネ。魔法球に転送してもらえるかナ?」

「了解です」

食べるのが目的なのだから持ち帰らないと、という事。
超鈴音が浮遊でポートまで氷塊を移動させ、ポートを起動させて超鈴音と共に女子寮の魔法球まで移動し、そのまま超鈴音が丁度良い場所まで運び一旦放置した。
再び私達は優曇華へと戻り、メガロメセンブリア時間は……午前6時前だが、恐らく総督は起きている。

「それではクルト総督に会いに行くとするカ」

超鈴音はそう言って操縦球に乗り込み再び優曇華をケルベラス西岸付近海底から発射させ2分強。
去り際にグラニクスから離れたとあるオアシスを試しに観測した所混沌としたものが見えたが無視。
オレステスやトリスタン辺りには海峡があるがその海底も海底を通り抜け、メガロメセンブリア近海に到着。
観測を行った所、クルト総督はメガロメセンブリアでの拠点と思われる執務室で朝早くから仕事中であった。

《遠隔結界を張ります」

反応が感知されないよう直接執務室に結界を張った。

「頼むヨ」

超鈴音は目にコンタクトを入れ。

―転移門―

あちらに到着した。
その執務室のクルト総督の様子はと言えば……光の転移門が出現したことに驚いた。

「突然訪ねて申し訳ないネ、クルト総督。今日は報告と少し話しておきたい事があって来たヨ」

非常に警戒していたが出てきたのが超鈴音であった為、クルト総督はすぐに警戒を解き執務机の椅子から立ち上がった。

「約2ヶ月ぶりですね、超さん、ようこそ。少々驚きましたが、どうぞそちらに掛けてください」

「失礼するヨ」

クルト総督は来客用の席に超鈴音を促し自身も向かいの席に着いた。

「報告……というと、ネギ君の事でしょうか」

呟くようにクルト総督が言った。

「その通りネ。ネギ坊主は少し時間が掛かったがきちんと助けられたヨ。全て元通りと言ても問題無い」

「……そうですか……それは良かった……」

気が抜けたのか総督は眼鏡を指で押さえながら、ソファの背もたれに軽く体重を預けた。

「……メガロメセンブリアの公表の結果も地球では今の所順調だし、上手く行ていると思うネ」

少し間を置いてから超鈴音が話し始めた。

「それはどうも。実際には元老院では一部強烈な反対を受けた事もあり、それを無理やり押し通したのでこちらは順調という訳には行きませんでしたが……結果が出ている以上問題ありません。……少し話をという事ですが、聞かせて下さい。人工衛星の話は既にこちらにも伝わっています」

麻帆良のゲートの要石とメガロメセンブリアのゲートの要石の接続調整の甲斐あって地球・魔法世界間のまほネットは復旧し両世界間の通信も元通り。

「話が早いネ。まずはその人工衛星なのだが……」

超鈴音は人工衛星の完成予定時期と2号基以降の打ち上げについての話から始め、これから冬場に向けて食糧問題が発生する可能性・地域について話し合い、それに伴い植物工場の技術を活かせる事を、まず始めの目的とした火星での超鈴音の活動拠点についての交渉、地球でのまほネットの流通が滞っている精霊祈祷エンジンなどに使われる魔法動力機関の部品やその他諸々の魔法具の購入についての交渉……とクルト総督も余り時間をかけていられないので、それぞれ簡潔に話を詰めた。
総督は超鈴音の拠点確保には協力してくれるとの事で、とりあえずは、また今度詳細を詰めるという事で、クルト総督の次回都合が良い時と超鈴音の予定が合う日を決め今回はそれまで、となった。
その際超鈴音は一時的な名義用にどのような名前が良いか聞かれ適当に「リン・フェルミ」と答えていた。
……そして超鈴音は再び転移門で優曇華に帰還してきた。
時間はかからなかった……というか総督にそこまで時間が無いようで、実際総督には山のように仕事があり、元老院議会も今日もまたあるようで……とにかく忙しい。
私達は優曇華でいつもの最も深いオスティア近海海底に移動し、超鈴音は直接魔法球へ戻った。
麻帆良の時刻は21時を示す頃。
サヨも超包子から戻ってきており、超鈴音は夕食を取りながら、魔法球で本日最後の事である。

「鈴音さん、この竜……食べるんですよね?」

翼竜の封印された氷塊を前にサヨ、夕食を持ちこんで食べている超鈴音という微妙な光景である。
竜種の死体の前なのだが……そういうのはどうでもいいらしい。

「そのつもりだヨ。ゼクトサンにできるだけ早いうちに竜種の食べ方を聞きに行こうと思うネ。今月の頭にさよはクウネルサンとゼクトサンに会たという話だが、丁度良いし、一緒に行くカ?」

「目的は竜種の食べ方を聞きに行く事ですか……。でも、そうですね、私も一緒に行きます」

「決まりだネ」

「はい!それにしてもこの竜倒すとき、危険はなかったんですか?」

寧ろ超鈴音が竜種にとって超危険。

「ほぼ一瞬で決着がついたから危険は無かたヨ。凍結する方が時間かかたぐらいネ。始めての実戦らしい実戦にしてはあっけなかたが、こんなものかナ」

「キノ、映像は……」

《ありますよ、視てましたから。神木に戻ったら確認すると良いと思います》

「はい!それじゃあ後で確認しますね」

「楽しみにすると良いヨ!とは言いがたいけどネ」

《後は優曇華のアーチの中に色々ケルベラス大樹林で採取してきた植物が入っています》

「ふむ、そちらの方が面白いだろうナ」

「うーん、私も一緒に行けばよかった気がしてきました」

「次も近いうちに集めに行こうと思ているから機会はあるし安心するネ」

《じゃあ、次はキノの代わりに私がついていきます!》

《そういう事なら、了解です》

……こうしてこの日も無事に終わりを迎えたのだった。



[27113] 76話 カイタイ。カイボウ
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:45
場所は火星、魔法世界、グラニクス……その町から離れた砂漠を渡った先の遺跡のような建物が存在するオアシスでの事。
ラカンはオアシス内の桟橋でゴロゴロしようかと思ってふらついていた所、ある人物が視界に入り反射的に攻撃を仕掛けた。

―そよ風烈風拳!!!―

「みゃんッ!!このっ変態!!いい加減やめるですー!!」

暦のスカートがめくれ上がり、寸前の所で暦はそれを抑えた。

「はぁー?だったらいい加減スカートやめればぁー?」

鼻をほじりながらわざとらしくラカンが言った。

「もうすぐ調と焔がズボンを買ってくるの知ってるくせにぃーッ!!」

そのふざけた態度に暦が怒る。

「えー?何だってー?全然聞こえないなぁー!?」

今後は両耳をほじりながらラカンが言った。

「くぅーっ!大体、あなたがフェイト様の水晶を強奪するからいるだけで!!」

更に煽るような態度に暦は更に怒りのボルテージを上げる。

「いやー?何かきれいな水晶あるなーと思って拾って持ち帰って来たら嬢ちゃん達が勝手についてきただけだろ?ほら、あそこに飾ってあるし」

ラカンは桟橋の先端に置かれている水晶を顎で示した。

「キーッ!!よくもぬけぬけとそんな事が言えますね!!」

両手を振り上げ暦がその場で地団駄を踏む。

「がっはっは!!何の事だろうなぁー?」

そこへ丁度出かけていた2人が戻ってきた。

「ジャック・ラカン……またやっているのですか……」

「変態め……」

「おー、ようやくお戻りか」

目を閉じたままながら呆れた表情の調と相変わらずツインテールで、軽蔑したような視線を送る焔。

「調!服はっ!?あ!」

暦が涙目で調に訴えかける。

「見ての通りです。一応何着か買ってきました」

調と焔のコートの下、足元には確かにズボンが見えた。
調は買ってきた衣服の入っている袋を暦に軽く掲げて見せた。

「わ、私にもっ!」

―そよ風烈風拳!!!―

「そぉい!!」

「うにゃんッ!!」

暦が素早く調の元に接近しようとしたところをラカンが素早く攻撃を仕掛け、スカートを再び捲り上げ、暦は叫び声を上げた。
暦は反射的にギリギリでまた抑え、そのまま調から袋を掻っ攫い建物の中へと走り去っていった。

「あー、これで捲れるのは環の嬢ちゃんだけかー。ノーパンだからこれは変わらねぇな」

ややつまらなさそうにラカンが言った。

「貴様……」

「ジャック・ラカン、ふざけてばかりいますが、何故私達に構うのですか」

調がラカンに改まって尋ねた。

「あー?別にただの気まぐれだ。俺はアイツに用がある。そもそも嬢ちゃん達は勝手にここにいるだけだろ」

ラカンは暦に言った時と同じく桟橋の先端に置かれているフェイト・アーウェルンクスの封印されている水晶を顎で指し示した。

「……またそれですか。フェイト様に変な事をしようとしたら許しませんよ」

調は溜息をつき、忠告するように言った。

「逆に聞くがぁ……嬢ちゃん達はいつまでアイツの傍にいるつもりなんだ?」

ラカンは少しばかり真剣な表情で尋ねた。

「いつまででもだ」

これに対しては焔が答えた。

「はー、一途なもんだな。ま……ぼーずみてーに死んでないだけまだ望みはあるわな」

ラカンは少し遠い目をして言った。

「…………」

「……やはり、ネギ・スプリングフィールドは死んだのですか」

調が一瞬置いてラカンに尋ねた。

「ああ、ぼーず以外は皆旧世界に帰った。見送った俺が言うからには間違いない」

「…………」

調は無言で返した。

「……旧世界からのこのこやってきて我々の計画を邪魔した報いだ」

焔が沈黙を破るように吐き捨てるように言った。

「そう言うけどよ、嬢ちゃん達の計画が成功してたら今頃この世界は消えてたんだろ?そんな事言えんのも今があるからだろうに……そこんとこどうよ?俺はあの完全なる世界ってのに送られたみてーだがそこでの記憶は全然ねぇぜ?理想郷だかなんだか知らねーけどよ」

ラカンは焔が心の底から言っているのではないことを分かった上で問いかけた。

「醒めなければっ……そこで幸福に永遠に暮らせた筈だ!何故か魔法世界が消えることが無くなったが、この世界は以前のまま何一つ改善されていないではないかッ!!私達のような戦災孤児も減りはしない!!環境が変化してもっと酷い事になるかもしれない!!」

焔はラカンの言葉に対し強い語調で返した。

「あー、ピーピーピーピー良く喚く元気があるな。そりゃ喚いているだけじゃ何も変わるわけねぇだろ?現実ってのは元からずっとこういうもんだ。動物の自然状態、見てりゃわかんだろ、弱肉強食。あいつらは世界に文句を言う事もねぇ。それをぐちぐち考えてっから人間ってのは厄介なんだ。そりゃ夢みてーな皆幸せに、しかも永遠だぁ?そんな世界があるから来ねえかって言われたらついていく奴はごまんといるかもしんねぇが、早々そんな都合の良い話が転がってるかっての。そんな若いうちから諦めてんじゃねーぞ」

ラカンは吐き出すようにつらつらと台詞を述べた。

「ッ…………」

それに対し焔は返す言葉が出なかった。

「ハッ、今の俺の柄にもねぇ話は珍しいぜー?得したなっ!」

途端にラカンはまたわざとらしい表情に戻る。

「なにがっ!」

そのふざけた言い方に再び焔は怒った。

「ま……最後にどうするか決めるのはいつだって自分自身だ。ずっと喚いてたけりゃ喚いてりゃ良い。それで納得出来るなら言う事は何もねぇさ。そんじゃ俺は昼寝すっから」

「…………」

ラカンは有無を言わさず桟橋の中間地点にあるドームの所へ行き昼寝を始めた。
その移動していく後ろ姿を調は何か思う所あるような表情をしながらも無言を貫いた。

「暦達の所に行きましょう」

「分かった」

少しして調が口を開き、2人は暦、環、栞のいる建物へと移動して行った……。
……時を遡れば、魔法世界で流星現象が始まった頃、リライトで完全なる世界に送られて戻ってきた調は1人で持つには大きいフェイトの封印水晶を抱え、墓守り人の宮殿の中層部で気絶していた暦、焔、環が一箇所に集められて放置されているのを発見したのだった。
調は3人の気を取り直させた後、フェイトの状態と現状について自分の分かる範囲で説明し、計画が完全に失敗した事を告げた。
3人はそれぞれに反応を見せ、共通して自分達の仮契約カードが失効していないことに安心はしたが、アーティファクトが召喚できなくなった事にはすぐに気がついた。
しかしながら、最早いつまでも墓守り人の宮殿にいる訳にもいかず、その場を後にしたのである。
計画が失敗した時の事を考えていなかった為4人には特に行く宛も無かったが、新オスティア、メガロメセンブリアの方面に行けば捕まる可能性がある為、シルチス亜大陸からエルファンハフト、モエルを経由し陸路伝いに移動を続け、ゼフィーリアへと向かった。
4人は栞が恐らくオスティアで復活しているとも予想はしていたが、オスティアに行くのは自殺に等しく、既に栞が捕まっている可能性も考慮し、仕方なく移動していったのだった。
道中フェイトの封印水晶を、人目を避けて運ぶのに苦労しつつも、4人いることを利用し、交代で街に寄るといった方法で踏破していった。
ゼフィーリア近郊に着いた時、それまでに各自考えていた今後の動きを4人は話し合い、このまま放浪を続けグラニクスの方角に向かうか、対岸に渡りアリアドネーに向かいフェイトの封印を解く方法を探すという2つの選択を考えた。
4人にとってフェイトの封印解除は重要な事であった為、アリアドネー行きは是非取りたい選択であったが、完全なる世界の構成員であった事情と、アリアドネー総長がネギ・スプリングフィールド達と共にいた事を考慮すると、何事も無く受け入れられるとは到底考えられなかった。
ゼフィーリアに至るまでにかなりの日数が経過しており、そんな中、暦が意を決して一人でもアリアドネーに向かってみると言い出した丁度その時、件の人物が現れたのである。
ジャック・ラカンは栞を連れており、突然4人の元に現れた瞬間フェイトの封印水晶をかっぱらい、4人が狼狽えた所「いいもん見っけー!あー、俺今からグラニクスから外れた所にあるオアシスまで行こうかなぁーッ!?」とわざと聞こえるように大声を上げて、そのまま確かにヘカテス、グラニクスの方角へと勝手に行ってしまったのである。
ラカンに連れられる形で来た栞は4人と再会を微妙な形で果たす事になったが、栞は4人にそれまでの経緯を話し出した。
オスティア総督府でリライトから復活した栞は、同時にすぐ傍で同じく復活したクレイグ、アイシャ、リン、クリスティンに取り押さえられるような形になったのだが、栞本人は訳がわからず話にならず、そこに総督府のテラスで復活を果たしたラカンが現れ「この嬢ちゃんは俺に任せてくれねぇか、それとこの事も内緒で頼むぜ」と言った事でメガロメセンブリアに突き出されるような事は回避したのだった。
ラカンは総督府から混成艦隊に連絡をした後、ネギ達の滞在していたリゾートホテルとは別のホテルに部屋を取り、そこで栞を休ませた。
その後ラカンはネギを欠いた旧世界から来た一行を見送った後、ふざけてはいるものの栞の事を気にかけ、特に深くは何も言わずに栞を連れて旅に出た。
ラカン自身もフェイトの残りの部下4人がどこに行ったかを考慮するとアリアドネーの方角に向かったと考え、調達とは異なりノアキスの方角に進む形で移動したが、それなりに日数をかけてアリアドネーの方角に進んでも調達の情報が得られなかった為、エルファンハフト付近へと戻ってみた所、そこでようやく4人の足跡を見つけたのである。
それからそれを急ぎ足で追うようにしてラカンと栞は移動して行き、ゼフィーリア近郊にてとうとう追いついたのであった。
栞はそれまでの間でラカンの事を多少なりとも理解していた為「変態ですが、悪い人ではありません。ラカンさんの言った通りグラニクスに向かってみませんか?」と4人に提案し、いずれにせよフェイトの水晶を変態に取られたままでは大変だという事で追いかけ……そして現在に至る。
基本的に最低でも一日に何度もスカートをめくられ、酷い時には下着まで脱がされる被害にあったが、スカートをはかなければ良いという結論に至り、調と焔がグラニクスまで服を買いに出かけていた所、この日戻ってきたのである。
ラカンが桟橋の先端に置かれているフェイトの封印水晶の近くのドームで昼寝を始めた一方、調達5人は改めて話し合いをした。
……それは最初に調が「……ここはジャック・ラカンに私達がアリアドネーで受け入れてもらえるよう頼んでみてはどうでしょうか」と言い出した事から始まった。
焔と環は特に考えず反射的にすぐ反対したが、それに対し栞は賛成し、調が続けてどうしてそんな事を言い出したのか理由を説明した。
ラカンが栞を自分達の元に連れてきた事、ある意味安全であるこのオアシスでフェイトの封印水晶を置いておける事、先のラカンとの会話から考えて、きちんと頼めば対価は要求される可能性は高いが何かしらの協力はしてくれるだろう、というのが調の考えであった。
……大事なのは自分達の意思をはっきり示す事である、と。
それから5人は一応の意見一致に落ち着き、揃って昼寝をしているラカンの元に向かった。

「ラカンさん、昼寝中失礼ですが起きてください」

「……んー、何だぁ?」

栞が寝ているラカンを揺さぶって起こした。

「ジャック・ラカン殿、頼みがあって参りました。聞いてください」

調が畏まって切り出し、ラカンを起こした栞は4人が横一列に並んだその端に移動した。

「……真面目な話みてーだな。いいだろう。聞いてやる。言ってみな」

ラカンは上体を起こし、5人を順に見てからかなり真剣な表情で言った。
それに対して、5人は互いに顔を見合わせ、同時に息を吸い、頭を下げ……ラカンに言った。

「「「「「私達がアリアドネーに入れるよう力を貸してください!!」」」」」

しばし沈黙が続き、5人はゆっくり頭を戻した。

「……少しは前に進む気になったみてぇだな。ま、来るとしたら多分そう来ると思ってたぜ。セラスが受け入れるかどうかまでは俺の知る所じゃねーが、俺からセラスに口添えはしてやるぜ」

ラカンは面白い、というニッとした顔をして答えた。

「……ありがとうございます、ジャック・ラカン殿」

調がそれに対して返した。

「あー、それにフェイトの奴は今まで何十人だったか覚えてねーけど、アリアドネーに嬢ちゃん達みたいな子を今まで送ってたんだろ?多分なんとかなるだろうよ」

シリアスが苦手なラカンはすぐにはぐらかし始めた。

「私達を除いて57人です」

暦が答えた。

「はー、結構な事だな。で、動機は何だ?やっぱアイツの封印を解く方法を探す事か?」

ラカンは桟橋の先端を指差して言う。

「正直に言えば、今の最大の動機はその通りだ」

これには焔が答えた。

「はっ、正直なのはいいこった。ありゃあ最上級の封印魔法だ。あんま時間かけすぎてっと俺が我慢できなくなって無理やり壊しちまうから頑張れよ!がはははは!!」

ラカンは最後に豪快に笑い声を上げた。

「なっ!?壊すなんてふざけるなですーッ!!」

ラカンのデタラメな力でやられたらたまったものではないと暦が叫び声を上げた。
続けて焔も怒りの声を上げたが、最終的には5人揃ってラカンに改めて礼を述べ、アリアドネー受け入れについての口添えを頼んだのだった。
しかし、またしてもシリアスを壊したくなったのか、ラカンは、対価はパンツで払え等と冗談を言いだし、すぐに揉めたりもした。
実際にはラカンはフェイトの封印を解除できそうな人物に、実は生きていた妖怪じじいという心辺りがあったのだが、それについては今ここでは必要ないだろうと、言及することは無かった。
その後、ラカンにしては珍しく「グラニクスにちょっくら行ってくるか」とすぐに出かけて行き……その目的と言えば一つであった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

翼竜の冷凍保存から3日、10月23日。
超鈴音とサヨは図書館島の地下へと向かった。
サヨは精霊体で向かい、超鈴音はこちらで結界を張った上で転移門で直接移動した。

「やあ、また来たヨ。クウネルサン、ゼクトサン」

《こんにちは、改めて初めまして。クウネルさん、ゼクトさん、相坂さよと言います。よろしくお願いします》

「おや、ようこそ、超さん。こちらこそ改めて初めまして、さよさん。私はアルビレオ・イマ、そのままクウネルとお呼び下さい」

「よく来たの、超。さよ殿、改めて、ワシはフィリウス・ゼクトじゃ」

《あ、普通にさよで大丈夫です》

「ならばそう呼ばせてもらうとしよう」

「……今日も挨拶だけではなさそうですが、超さん、今日は何でしょうか?」

「うむ、いつも通り肉まん持て来たから食べながらでも話を聞いて欲しい」

超鈴音は持ってきた肉まんをテーブルの上に出した。

「これはどうも」

「いつも済まぬな」

クウネル殿とゼクト殿はそれぞれ一つずつ肉まんを手に取り食べ始めた。
一方超鈴音は端末を操作し、写真を出した。

「今日はこれを見てもらいたいのだが、見ての通り一匹翼竜を狩って来たネ」

「ほう!なかなか美味そうなトカゲじゃな」

ゼクト殿の目の色が変わった。

「フフフ、随分簡単に捕ってきたように言いますね」

「実際殆ど苦労はしてないヨ。本題に入りたいのだが、ゼクトサン、この翼竜のオススメの食べ方……それと詳しい各部位の処理方法もあれば教えて欲しいネ」

「うむ、分かった。……殺した後すぐに凍結封印したようじゃが、トカゲ肉の処理には血の処理が肝心じゃ。説明するが良いか?」

あくまでもトカゲと。

「お願いするヨ!」

「この場合じゃと丁度首で仕留めておるから、まず逆さにして……」

ゼクト殿によるトカゲ肉調理講座が始まった。
血抜きをした後、各部位の適切な切断位置についての説明に移り、所謂牛肉で言う……肩、肩ロース、サーロイン、ヒレ、ばら、かたばら……等と言った部位の竜種版について解説。
……とは言え、竜種にそもそも詳しい肉の部位に命名はされておらず、翼膜の肉程度は分かるが、翼の付け根の脇のある部分の肉がどう……と規格が無い為少々面倒な説明になった。
竜種の討伐は魔法世界では行われているものの、食用として一般普及していないのは、当然普通は簡単に狩る事が不可能であるという事は勿論、狩れたとしても、魔法で倒せば、雷系なら肉自体が感電火傷、火系なら当然焦げ、氷系の封印魔法ではなく攻撃魔法であれば氷槍弾雨のような槍ならまだしも、吹雪系の魔法であれば凍傷で肉がやはり痛む……と、そういう事情が絡むので、綺麗な状態で竜種を倒すのは難しい。
難しいという割には、超鈴音は高威力の断罪の剣で急所一撃で胴体に余計な傷を一切付けることなく倒したが、火炎袋のような内蔵系の構造に興味がある為傷つけないようにしたのだと語っていた。
超鈴音にとって、竜種を実際に解体・解剖するというのは初めてなので実際に竜種の内蔵がどうなっているのかを見ることに興味は尽きない。
また、以前ゼクト殿が言っていたが「物によっては美味い」というだけあって、全ての竜種が美味いとは限らないのが食用として成立しない理由なのだろう。
ゼクト殿としても、竜種を常に無駄を残さず食べるという事も無いらしく、全ての部位について詳しい話が聞けた訳ではなかったが、少なくとも巨体のどこから順に手を付けて行けば良いのかという手順については分かった。

「ふむ、説明してくれてありがとネ。実際にゼクトサンに捌いてもらいたいとも思うが科学者として研究目的の解剖もしてみたいから自分でやてみるヨ。解体して各部位に切り分けたら、お礼に料理してまた持てくるネ」

「おお、それは楽しみじゃ。超よ、一つできればしゃぶしゃぶとやらにして食べてみたいと思っているのじゃが……」

「それなら、例の柔らかい部位の肉を薄切りにして野菜と鍋も用意してくるからここで食べれば良いヨ!」

「真か。それはありがたい」

「フフフ、久しぶりの竜種の肉ですね」

クウネル殿も楽しみにしているらしい。

「タレも合いそうなものを用意してくるから期待して欲しいネ」

《わー何か本当に美味しそうですね!》

「確実に美味い筈じゃ」

「さて……それなりに処理に時間もかかりそうだから、このまま作業に入るとするかナ。次来る時を楽しみにしてくれると良いネ」

《少ししかお話しませんでしたが、また来ますね》

「はい、またの訪問をお待ちしています」

「いつでも来ると良い」

「では失礼するヨ」

《失礼しました》

……そして超鈴音とサヨは女子寮へと戻り、サヨは身体に戻り、超鈴音と共にゼクト殿から聞いた話で翼竜の解体にあったら良さそうな道具を買いに麻帆良の街に出かけて行った。
巨大な翼竜を解体するだけあって、かなり大きめの容器等を幾つも購入し、店の人は何に使うのかという表情をしていたが、超鈴音を見て、自分の理解できる事ではない……というような表情をしていた。
しかし、今回は個人的趣味。
再び女子寮に戻り、魔法球の中に移動した2人は、そのまま買ってきたばかりの道具と共に氷塊の前までやってきた。
十数m四方にブルーシートを敷き、その上に大きい容器をいくつも並べ、他に切り分けた肉を置ける台も用意していざ始まり。

「始めるネ」

超鈴音は浮遊を使って氷塊を浮かし、翼竜の首が地面に向くようにした。

―解除―

瞬間、凍てつく氷柩による封印が解かれ、翼竜は死んだ直後の状態に戻り、そのまま首と翼から血を流し始めた。
首から流れる血は用意していた容器に次々溜まっていったが、翼の方は最初血がブルーシートにこぼれ、超鈴音が適切な位置に容器を浮遊で移動させてそれの回収も進めた。
ゼクト殿が言っていた通り血抜きにしばらく時間をかけて行い、大きすぎて邪魔かつ切断しても問題ない部位の解体を進められた。
頭、首、両翼、両足、尾は断罪の剣で切断し、解剖をする予定の臓器が詰まっている胴体を残すのみとなった。
それぞれ新たに敷かれたブルーシートの上に各部並べられ、頭、両翼、両足、尾、そして胴体の調査はまた後でという事で再び凍てつく氷柩による封印が行われた。
残ったのは首の部分であり、まず首の表皮・鱗をそぎ落とす作業から入り、中心に骨があるのがはっきり分かる肉の状態にした所でまた封印となった。
それから、両足と尾の処理も同様に行われ、頭と両翼は後回しにされ、胴体の解剖へと移った。
開腹を行い、火炎袋、心臓、胃、腸、肝臓……と一つ一つ切除して行った。
作業は直接触れて行うかと言えばそういう事も無く、超鈴音は断罪の剣を医療用のメスのような形状にして複数本出し、遠隔操作で手早く解剖を進めた。
内蔵の各部位全ての処理が終わった後、またもや全て再封印し、残すは肉塊と言うべきか、胴体の竜肉へと取り掛かった。
まずはまた表皮・鱗の切除から始め、その後ゼクト殿から聞いた話の通り、肉質の違う部分で次々に切り分けて行き、切り出された肉は用意していた台に次々並べられて行った。
……総評してみれば、完全解体・解剖、鱗つきの立派な翼竜の皮や翼爪は何か別の用途で使えそうな素材になり、各種臓器はまた今度詳しく調査可能、本来の目的の肉が、山のように取れた。
普通に考えても食べきれないであろうが、封印魔法は便利である。
超鈴音がじっくり見ていた時間を含め、全作業魔法で短縮して3時間近くかかったが、何はともあれ、竜肉を用いたその祭りの準備は整った。

「いやー、これはなかなか面白かたヨ!私も竜種を解剖するのは初めてだからネ。ついつい時間をかけてしまたナ」

「鈴音さん見てて楽しそうでした。でもこんなに食べれる竜肉が取れると何か本当に楽しくなってきますね」

「うむ、今日はやめておくが、次は実際に調理にして食べる所までやるヨ!」

「はい!」

仮にも超鈴音は14歳で中学3年生の少女であるが、竜を余す所無く解剖してハイテンションというのは、中々猟奇的とも言えるが、活き活きとしている本人が見れたのは良いことだ。



[27113] 77話 協力と依頼と計画と
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:45

「……むぐ……久方振りのトカゲ肉は美味い。このタレも絶妙じゃ」

「フフフ、トカゲ肉でしゃぶしゃぶをするなんて滅多に無い事でしょうね」

「贅沢なような、贅沢じゃないような。見た目は普通のお肉でも、味は凄く濃厚でいてかつ柔らかいというか」

「一般的感覚からすれば、珍味を得る為に命を危険に晒しているようなものですから贅沢という基準で言うのがそもそも……という感じはしますが」

翆坊主が珍しく身体に入ている。

「ふむ、食用としては相当素晴らしい素材だと思うネ。翆坊主は久しぶりの食事だと思うがどうかナ?」

「非常に美味しいです。……一つ言えば、美味しいには美味しいですが、久しぶりに食べる料理がいきなり竜肉というのが……比較するものが無いのが難しい所です」

「普段から定期的に身体に入って食事を取ればいいんですよ」

「積極的に何かを食べたいという意思は余り無いもので。それに、超鈴音風に言えば植物系坊主でもある私が食物連鎖の頂点の生物を食べているというのはいかがなものかと」

植物系坊主て何ネ。

「フフフ、確かにその通りですね。さしずめ食虫植物、いえ、食竜植物と言ったところでしょうか」

「クウネル殿、言いたい事は分かりますが……それはあまり語呂が良くないかと」

「じゃあ私は植物系女子ですね!」

「植物状態みたいな言い方に聞こえるヨ」

「実際私達は植物ですが」

……こんな感じで竜肉と野菜、鍋、調味料各種を図書館島地下に持ち込んでしゃぶしゃぶをしているヨ。
翼竜を解体してから3日、10月26日。
予め死後硬直が解けて丁度良い状態の肉になた所で再保存したものを用いて食べている。
狩てきたのは良いのだが、やはり食べきれる量ではない上、氷結封印魔法が役立てはいるものの全部食べきるにはかなり時間がかかりそうネ。
五月にも竜肉の調理法について話をしたい所なのだが、一体どこから持て来たか、何の肉なのか言わないといけない、言わないとしてもいつか五月が普通に口にするかもしれないと考慮すると問題があるから、当分秘匿しておくしかない。
しかし、これだけ美味となると珍味として一般に認識されればいずれ乱獲されるのは間違いないと思うが、まだ先の話、今は考える必要は無いネ。
……ゼクトサンは話をするよりも竜肉を食べるのに忙しいらしく、せっせと肉をしゃぶしゃぶしているヨ。

「そうでした、超さん、近いうちにナギが改めて超さんに礼に向かうと先日の家族旅行で言っていましたよ」

「むぐ……そう言っておったの」

「……ふむ、礼カ。分かたネ、そのうち来ると思ておくヨ」

「私達としてはネギ少年の件は当然の事でしたので深い事を考えずに手打ちにしてもらいたい所ではあります。……それより詠春殿が口を滑らせネギ少年とナギに件の組織の話が伝わった方がどう絡んでくるかと」

聞いてはいなかたがやはり見ていたのカ。

「おや、やはり見ていましたか。組織の話が出そうになった時点で私が詠春を止めておけばよかったのですが」

「気にしなくて良いヨ。知たなら知たで仕方ないネ」

「しかし、あの組織、早めに潰した方が良いのではないですか?」

「……それは私も同意見だヨ。組織自体はトカゲの尻尾どころかアメーバのような形態のせいで、どこかを叩いても殆ど効果は無いのは分かているから、根本的な魔法具の供給元の魔法使いを摘み出すのが一番の方法だと思うネ。あまり放置していると組織の側が魔法使いから秘密裏に魔法を教わるという可能性もあるから早めに対策は打たないと、とは思ているヨ」

魔法使いを発見するのは翆坊主達がいる時点で障害ですらないが……問題はその情報をどうするかネ。

「単純に潜んでいる魔法使いを見つけるだけであれば……多少面倒はありますが私達がやれば済む話なのですが、それを警察に教えた所で、情報元はどこだ……という説明が難しいかと」

こういう時翆坊主達の力は制限的なものがあて辛い所だナ。

「……超よ、ならばワシがそやつらを摘んで来るというのはどうじゃ?」

依頼する気は無かたのだが……確かにゼクトサンなら……。

「フフフ、超さん、ゼクトは旅行資金の為に今仕事を探している所なのです。個別契約をしてはいかがですか?」

仕事探しカ……。
ゼクトサンなら今後魔法研究機関で引く手数多になる可能性を確実に秘めているのだけどネ。

「そういうつもりで話題にしたつもりは無かたのだが、そういう事なら依頼させて貰てもいいかナ。普通に探す仕事とはまるでかけ離れた仕事になるけど」

「うむ、その依頼承ろう」

「ゼクトサン、お願いするネ」

「ゼクト殿、協力感謝します」

「食事中だけど、善は急げ、詳細に入らせてもらうネ」

「分かった。聞こう」

「翆坊主達がゼクトサンに魔法使いの位置情報を伝えた後の処理は……」

……ゼクトサンが魔法使いを捕獲した後は、麻帆良に転送するのではなく、各国魔法協会に、逃亡中魔法使いの証拠か現場で見つけた確たる証拠を添えて直接送るという方法を取てもらうようにするという話をしたネ。
麻帆良で処理するとなれば、学園長や今はいない高畑先生の負担が増えるだけだし、ゼクトサンの存在を明かす必要も無い。
基本表の組織とはいえ裏の部分は秘密裏に処理してしまえば、そのうち情報が伝わてあちらの動きを縮小させていく事もできる筈ネ。

「……報酬はそれで良いかナ?」

「そこまで多くなくて良いぞ。寧ろ旅費程度でワシは充分じゃ」

「ははは、ゼクトサンがそうは言ても、普通に依頼するならこれぐらいの額は当然、状況も状況だから受け取て欲しいネ。楽しい旅行をすると良いヨ」

「ゼクト、普通に溜めておくという手段もありますから貰っておけるものは貰っておくと良いですよ」

「……ならばそうしよう」

「見つけ次第私から伝えに伺いますが……地球も広いので探すのにそれなりに時間がかかると思いますが、よろしくお願いします」

半径1万mを超えたその向こうは特に面倒らしいから仕方ないナ。

「あい分かった。潜伏者の確保は任された」

「必殺!仕事人って感じですね!」

「殺してはいけませんが。……敢えて言うなら、確定仕送人……でしょうか」

悩んだ成果がそれカ。

「キノ殿、それもあまり語呂が良くないかと」

「……素直に同意します、クウネル殿」

「フフフ、お互い様ですね。……ところでまた話を変えますが、魔法世界側の人達はネギ君が生きている事を知らないのですよね?」

「一応クルト総督にはこの竜肉を狩る時に会いに行たから伝えておいたヨ。他の人達は、私は知らないし、総督が伝えるか、高畑先生が魔法世界に麻帆良のゲートを通て行た時にでも伝えるか、それは2人次第だと思うネ」

「なるほど、そうですか。ゲートを使わない火星に行ける方法が具体的にどういうものなのか私は知りませんがネギ君を実際に会わせるのは……やめておいた方が良いでしょうね」

「ええ、ネギ少年には私達に火星側に行く技術がある事は直接言ってはいませんが、分かっているのは間違いありません。……ですが方法が世界からすれば異端ですので、例外を後から認めるのは避けるべき……使用者は超鈴音だけにしておくべきだと思っています」

「それもそうですね。例外は増やさない方が良いでしょう」

「そういう事ネ。……しゃぶしゃぶも大分食べたが、ここでまだ出していなかたとっておき、ドラゴ肉饅の味見もして欲しいネ」

「ドラゴ肉饅ですか、それはなかなか語呂が良いですね」

「うむ、頂くとしよう」

「しばらくは竜肉料理が楽しめそうです!」

さよ達は体重を気にしなくて良いが、私は少し気にしないといけないネ。
調べてみたら栄養価も高く、食材としては素晴らしいが、脂質の高さは避けられないヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ゼクト殿の善意の申し出から、流れで依頼するに至り、組織に魔法具を供給している魔法使いの捕獲作成が水面下で始まった。
この数日で国内の魔法使いではなく、外国から攻めてみた所、詳細に観測し、間違いなく逃亡中の犯罪者魔法使いである事を確認した上で、中国にてまず一人を特定した。
そしてその日のうちに、位置情報を伝え、ゼクト殿が転移魔法で直接急襲し、鮮やかな手際で無力化、転移符作成と流通させていた証拠と見て間違いないものと潜伏場所の情報を付けて、中国魔法協会に送りつけてくれた。
その後すぐにゼクト殿は何事もなかったかのように図書館島の地下に戻ってきた。
仕事人だ。
一方送りつけられた中国魔法協会の人達は誰が送ってきたかは知らないが、逃走中魔法使いが現れたとなれば必ず逮捕してくれる。
観測して人を特定するというのは中々骨の折れる作業ではあるが……まだ不可能ではないだけ余程良い。
組織の摘みとりは重要な事であるが、それとはまた違う重要な事に、日本政府が動きを見せた。
国連の方でメガロメセンブリアが結んだ地球上での特定魔法行使に関する国際条約として、簡単に言えば「魔法使いは魔法を悪用しません」という宣誓に近いものが定められたが、その次の段階として来年度第59回国連総会で国際魔法条約の調印が予定されており、今度の日本政府の動きはそれに付随したものである。
各国には既にメガロメセンブリアからメガロメセンブリアで施行されている魔法関連の法律が参考として提供されており、それを元に、各国それぞれ魔法の法整備を進めていこうという流れ。
そこで、法務省が魔法法とその他現行の法律各種の改訂原案、そして文部科学省が特定独立行政法人魔法総合研究所法案というものの原案作成に乗り出した。
更には魔法省という、現在刊行中の物語にも出てくる省庁も早めに設置すべきという動きが出ている。
早過ぎるようで、各国どこが一番早く法整備できるかがある意味鍵という事もあり、法的作業は競って行われている。
イギリスでは簡単な魔法を何か一つでも良いから子供のうちから練習できるようにして魔法に慣れ親しむようにすべきだ……という、単純にそうは言うが考慮する必要がある意見も出ているが、あくまでも調印予定の国際魔法条約の範囲内で法案を整備する必要があるので、その辺の調整が重要である。
結果、日本ではあちこちの大学、例えば青山素子さんの通っている東京大学法学部の教授陣が集まり、メガロメセンブリアの法律に目を通し「ザルですねぇ、現代日本じゃ通用しませんよ」などと好きな事を言いながら魔法法の案が出し合われている。
魔法法の立案担当者には魔法使いで法務省に勤務していた人が含まれているが、大変忙しく、ともすると方方からの質問攻めで過労死しそうであり……健康に気をつけて欲しい。
文部科学省所管の特定独立行政法人魔法総合研究所は何故独立行政法人なのかと言えば、研究に協力してくれる魔法使いをそもそも外部から雇う形になる事が一つ。
そして筑波研究学園都市に多数ある研究機関からそれぞれ人員の派遣の流れを円滑にできるようにする為だそうだ。
例えば文部科学省所管の理化学研究所や経済産業省所管の産業技術総合研究所等はどちらも独立行政法人であるが、必ず絡んでくる。
理化学研究所は「物理学」「化学」「工学」「生物学」「医科学」など基礎研究から応用研究まで行なう日本で唯一の自然科学の総合研究所であり、産業技術総合研究所は「ライフサイエンス」「情報・通信」「環境・エネルギー」「ナノテク・材料・製造」「地質・海洋」「標準・計測」の6分野を主軸に、日本の産業のほぼ全分野を網羅している研究所。
さて、超鈴音が所属しているこれらに関係ありそうなものといえば「ロボット工学研究会(葉加瀬聡美と完全掌握済み)」「東洋医学研究会(会長)」「生物工学研究会」「量子力学研究会(量子コンピュータは超鈴音の掌の上)」である。
……麻帆良……超鈴音は、日本の研究所を大変刺激した。
今の所、活動を邪魔するなと言う事で超鈴音に報道関係者のインタビューは行われてはいないが、どこに所属しているのか、と何を行っていたか程度の情報は出ている。
三次元映像技術を公開した時点で充分脚光を浴びていたが、田中さんが出て、葉加瀬聡美所属のジェット推進研究会が主導で作った姿勢制御装置が出て、既に独立行政法人JAXAで人工衛星の開発技術もあると言い出し、その中で軽く麻帆良の保有するスーパーコンピュータ、略してスパコンで簡単に計算したと言っていた。
JAXAはこのようにもう済んだが、この2つの研究機関、特に後者にいかに衝撃を与えるかと言えば……。
理化学研究所では次世代スーパーコンピュータ開発実施本部があるのに、麻帆良のスパコンの方が現在開発計画しているものよりも性能が既に高い。
そして産業技術総合研究所では人工知能、ソフトウェア、セキュリティ、ロボット工学、半導体、ナノテクノロジー、カーボン系素材……既に麻帆良では全部それらを越えている。
それでも「日本で研究できるだけマシ」と海外の研究機関は口を揃えて言う。
麻帆良学園は確かにメガロメセンブリアの下位組織ではあるが、登録上は日本の学校教育法に基づいていて設置されている為、日本に所属しているのは間違いない。
……話が大分逸れたが、兎にも角にも特定独立行政法人魔法総合研究所は原案を作成中の段階ではあるものの、設置するのは確定しているので、既に麻帆良に建設が予定されており、世界樹広場裏手の草原の奥、森があるのでそこを整備して建設予定地にする計画が動き出している。
今後は研究機関だけでなく、国立魔法学校(小・中・大)も設置する計画が出るのだろうが、公平な教育の機会などという議論で問題になる事が高確率で起こりそうでありながらも「世界から遅れを取るわけにはいかず設置しないわけにはいかない」と話は進んでいく事になる。

さて、日本の動きはひとまず、所変わってスプリングフィールド一家はというとエヴァンジェリンお嬢さんの家の隣にでも家を建てたいという事を考えているそうであり、それは好きにしてもらいたい。
超鈴音達の中間考査もいつも通り終わり、11月1日、この日もネギ少年とその両親はエヴァンジェリンお嬢さんの家の以前から等速になっていた別荘にやってきて転移魔法の勉強をしていた。
ナギは勉強の合間にネギ少年と軽い、本当に軽い組み手……浮遊術有りで軽く体術で打ち合うのが好きなようだが、アリカ様がネギ少年の助けになるようにと色々魔法書で参考になる箇所を集めたりしている傍ら、アリカ様からナギもネギ少年の近くで何やら無理やり一緒に勉強させられている。
ネギ少年自身はまほら武道会のような稽古を付けてもらいたいと思っているようだが、ナギと特にアリカ様的には激しい戦闘はさせるべきではないと思っているのが軽い組み手に留めている事の原因であろう。
実際、本気で戦闘をすると大分……まほら武道会の頃とは違う。
既に一般的に必要ない所まで戦闘力2人が戦うと、殲滅のし合いに近くなりそうであり、実際の所組み手で済ませるのが一番平和的である。
……一方、家主であるエヴァンジェリンお嬢さんはと言えば、同じく別荘の中で超鈴音に依頼された魔力球に魔分を詰め込められるようにする為の空間処理の作業をしていた。
お嬢さんの優先度的にはサークル等のほうが高いのでずっとという訳ではないが、そういう時は家を茶々丸姉さんとネギ少年達に任せて外出することが最近習慣化してきている。
とりあえずエヴァンジェリンお嬢さんは時間がある時にはやるという形で少しずつやっていたのであるが、ネギ少年は転移魔法の勉強の合間に、ついに聞いた。

「マスター、ここ数日そうですけど、また新しくダイオラマ魔法球を作ってるんですか?」

「いや、これはダイオラマ魔法球ではなくただの魔力球だよ。……幾つか作る予定なんだが……誰に依頼されたかは分かるか」

「超さん、ですね」

「それ以外に私に依頼してくる者もいないから簡単すぎるな。研究に使うらしい。詳しく知りたかったら直接聞くといいだろうさ」

「……そうですね、分かりました」

ネギ少年は少し思うところがあるらしい。

「それより、転移魔法の方はどうだ?付き添いがいるから殆ど見ていないがもう少しか?」

「今それぞれの術式を分類別にして整理している所です。でも一応短距離・ゲート構築型ならもうすぐできると思います」

「わざわざ分類別にしてどうするんだ?あんな数だけはある分野の本を」

「自分なりにもっと分かりやすく工夫ができると思うのでその為です。クウネルさんが言っていたんですが、魔法転移符の作成は確かにとても大変なのが分かったので、これから今後魔法を使う人達が増えるかもしれない時に、転移魔法を自力展開するのは難しくても、転移符の作成にももう少し効率的な方法が見つけられればと思ったんです。それと関係する事で、今魔法転移符を使って犯罪に利用している人がいるという話もクウネルさんから聞いて、例えば、転移符を量産できるようになれば個人で隠れて作成している人達は転移符の値段が下がって儲からなくなりますし、量産型は犯罪に利用できないよう識別番号のようなものをつけて一般普及させたらどうか……そういう事を考えているんです。もちろん詳しく知らないですが今の転移符の市場への混乱も考えないといけないと思ってます」

……なるほど、それは一理ある。
量産できるようになれば救援活動系等を始めとしてかなり役に立つであろうが、運送系に使うと困るところもある……と社会的影響は正と負両方ある。
ただ量産するとなると魔法工学とでも言える設備が必要になると思うが。

「なるほど、確かにそれは役に立つな。転移符は作成の手間が省けるようになれば、個人でコソコソ作って売る奴も減る。ぼーやの言うとおり既得権を握っている連中は混乱して嫌がるだろうが社会全体にとってはプラスだろうさ。ははは、ちゃんとマギステル・マギをやっているじゃないか、ぼーや」

「い、いえ、僕はそんな。ただ、ちょっとした思いつきです」

「何事もひらめきが大事さ。ぼーや、何かをしたそうな顔をしているから言わなくても今からにでもそうしそうが、超鈴音の研究に協力したいと言ってみてはどうだ?これから超鈴音はずっと忙しいだろうからぼーやのような人材にはいくらでも仕事があると言うだろう」

「はい、僕も今マスターがやっているのが超さんから頼まれた事だって言うのが分かって、そう思った所です」

「なら話は早いな」

「はい!」

ネギ少年の虹彩が輝いた。

《ネギです。超さん、通信で突然ごめんなさい》

《おや、ネギ坊主か、どうしたネ?》

《超さん、僕にも超さんの仕事の手伝いをさせて下さい!》

率直な発言。

《……エヴァンジェリンから聞いたカ。ふむ……ネギ坊主から手伝てくれるというなら私も頼みたい事はあるのだが、ネギ坊主は本当にそれでいいのカ?》

《はい、もちろんです。今の僕にできることの一つは近い未来の為に魔法の研究をもっとする事だと思うんです》

《……そういう事なら、分かたヨ。早速だが今ネギ坊主は転移魔法の習得をしているらしいネ?》

《はい、そうです》

《単刀直入に言うヨ。惑星の自転を計算に入れた長距離転移魔法、魔法陣の開発をしてもらいたいネ》

《長距離転移魔法ですか》

《そう、人工衛星の打ち上げ用に最適な転移魔法が必要ネ。現在開発中のものは太陽同期軌道で打ち上げるから普通の長距離転移魔法で問題無いのだが、将来的に性能を更に格段に上げた人工衛星、それ以外の用途の人工衛星も含めて、それを地球同期軌道、距離35,786kmまで一発で飛ばせるぐらいの転移魔法が欲しい。現行魔法世界でも必要がないせいで転移魔法の距離は1万kmまでしか存在していないからネ》

火星の端から端までが1万kmなのでそれは事実。
1万kmなら2度使わないと地球の反対側までは行けない。
宇宙に直接飛ばすという事は必然的にロケット産業に喧嘩売る事に繋がるであろうが。
しかし、地球で打ち上げる初号基は普通にロケットを使うという事で、初号基に関しては無駄な資金がかる。
自転計算というのは転移させた瞬間に加速度も同時にかけられるように、という事。
将来的には半永久魔力炉と魔法球を組み合わせた動力で逆行軌道、自転と逆方向を常に飛び続け太陽光を常に最適位置で追って飛ぶのが標準のプリズムミラー方式……いずれは更に進化したものを飛ばす事になるのであろう。
これからは魔法技術革新の時代に突入するのかもしれない。

《3万5千km……そうですね、確かにそんな長距離転移魔法は存在しないですね。分かりました。やらせてください!》

《研究に必要な資料は私から送るから気にしなくて良いヨ》

《ありがとうございます》

《もちろん転移魔法の開発だけずっとというのは協力してくれる以上他にも色々頼みたい事があるヨ。ネギ坊主はそもそもどれぐらい科学系の知識があるのか確認したいのだが、やはり魔法の術式構成と各魔法の行使に必要な水準かナ?》

《えっと、はい、そうですね。超さんや葉加瀬さんのような専門的知識はありません。超さんの魔法球で少し見せてもらった機械は全然分からないです》

流石にネギ少年も現代科学の機構をいちいち説明できる程詳しくは無い。

《ははは、大体分かたヨ。こちらも用意する必要があるから、今はまず転移魔法の習得を頑張ると良いネ。用意ができたら色々資料を送るヨ》

《ありがとうございます、超さん!》

《礼を言うのはこちらも同じだヨ、ネギ坊主、感謝するネ》

《では、今から転移魔法の勉強を続けますね》

《頑張るネ、ネギ坊主》

《超さんも頑張ってください!》

……それからというものネギ少年はより、まずは自分の転移魔法から、と研究に打ち込むようになった。
その証拠に記憶共有はできないが、資料をあちこちから集める作業は分身を魔分で作り作業の効率化を図り……アリカ様が、どれが本物かと慌てるという事があった。
ネギ少年の魔法開発力は目を見張るものがあるのは分かっているが、果たして科学技術も超鈴音や葉加瀬聡美と同水準になるのであろうか。
2人の水準に達するにはまず茶々丸姉さんに搭載されている量子コンピュータを普通に理解できる程度の知識が無いと無理な可能性がある。
時に、量子コンピュータと言えば、今の世の中に出れば現行の暗号技術が崩壊すると言われている。
社会的影響ははかりしれないが、超鈴音が出そうと思った時に量子力学研究会で量子コンピュータを最後まで完成させるのであろう。
それを言うと既に使ってしまっているダイヤモンド半導体はいかに……という事になるが。
当のネギ少年から協力すると言われた超鈴音はというと基本的に忙しい事には変わりないが、ネギ少年用に電子データで、研究用の資料とその他諸々の教材を選別し、エヴァンジェリンお嬢さんから魔力球の一基目……空間処理はしてあるのである程度詰めてはあるが「後は好きに魔分を詰め込めば良い」という状態のものを田中さんに受け取らせに行かせる際に、MOC5kg……超鈴音が考えた略称であるが魔分有機結晶は確かに長かったので無理もない……それと一緒に持たせて送った後である。
しかも超鈴音はネギ少年が持っているノートパソコンでは性能が駄目だという事で、超鈴音基準でのパソコンごと送りつけた。
魔法式のウィンドウ表示は綾瀬夕映の世界図絵のようにいくらでもウィンドウが沸いてでるタイプであり、その点地球よりも性能は高いとも言えるのだが、超鈴音が送ったものはそれも全部科学でできているもの。
因みに超鈴音、葉加瀬聡美、サヨの女子寮の部屋では標準装備。
アリカ様は使いやすいと言っていたのはあのタイプの情報端末に慣れ親しんだ魔法世界人ならではの反応であろう。
そしてネギ少年に課題を出しつつも、超鈴音は11月4日21時、魔法世界の暦にして10月7日メガロメセンブリア時間午前6時に再びクルト総督と前回しておいた予定通り話をする為に、あちらへ行った。
……着いてみればクルト総督の準備が非常に早かった。

「早速ですが、私の管轄下にある新オスティアに、個人的に所有している家屋がありますのでそれを自由に使用して貰って構いません。住所は書いてあるとおり、鍵は魔法鍵式と物理錠の二通りです。魔法機械系部品等の発注はこの家からどうぞ。そして、こちらが超さんの魔法世界での戸籍、身分証明証、銀行口座になります。勝手ながら用意させてもらいました」

超鈴音は魔法世界での戸籍をもう確保。
合わせて、書類と家の鍵、身分証明証、銀行口座も獲得。
戸籍に登録されている顔は幻術で変装する時のものを使用しているので、全くの別人。

「もうこれだけの手配をしてくれて感謝するヨ、クルト総督。こちらからはまずドラクマの貨幣用に、現物を持て来たから確認して欲しい。後は頼まれていた通り、端末を5個だネ」

……と、超鈴音はアタッシュケースを開いて金の延べ棒を平然と見せ、魔法世界の通常電源で動く端末5個を出した。

「……確認しました。ではこれを金地金売買契約として後ほど口座に振込みをしますのでこちらにサインをお願いします。リン・フェルミさん」

一瞬総督は超鈴音がが平然と持ってきた金色の輝きに思わず眼鏡が滑り落ちそうになったが、敢えてそれらしく対応した。

「分かりました、クルト・ゲーデル総督」

……超鈴音も口調を敢えて変えて答え、書類に署名をした。

「ありがとうございます。端末についても感謝します。盗聴される恐れがあるのでこれなら気にせず済みます」

超鈴音としても、クルト総督に端末を渡しておけばわざわざ会いに行かなくても安全に話ができるようになるので好都合。

「便利だというのはお墨付きを皆から貰ているから品質は保証するネ」

「私も以前見た時は驚きましたよ。……では、まだまだ時間がありますので詳細に入りましょう。前回の食料不足の件ですが殆どの地域が南になった為しばらくまた夏の時期に入りますので作物さえ選べば食料は問題ありません。今後冬に向けてこちらでも用意をしています。魔法球の農業利用というのは魔法球を所有している層から言って殆ど行われていませんが、植物工場という方法での対策案は助かります」

「こちらこそ、当分手に入れるのに時間がかかりそうな材料も手に入れられるようになるから助かるヨ。……植物工場の重要技術は予め手を打ておかないと意味が無い。予めまほネットを走査して調べてある程度は分かたヨ。それで科学技術の部分をどれだけ実際コスト面等の考慮もして魔法で代替できるか確認したいのだが……」

再び前回よりも詳しい話に突入。
植物工場とは、内部環境をコントロールし閉鎖的又は半閉鎖的な空間で植物を計画的に生産するシステムであるが、超鈴音が提供するのは完全閉鎖型のタイプ。
完全密閉型の生産であるため、害虫や病原菌の侵入も無い。
植物の栽培には養液栽培か特殊培地栽培を用いるので、連作障害を起こすこと無く高速かつ連続して栽培することが可能なので一年が1.8倍に伸び太陽光の光量が減少した今後の火星では有効であろう。
全部科学でやろうとするのは、魔法世界の技術力では対応不可能なものがあり魔法世界では無理があるが、ここで非常に有効性を持つのが環境循環魔法という魔法球や図書館島の地下の空間に使用されているもの。
浮遊大陸オスティアを見ると地球人は皆驚くだろうが、あれの水源は一体どこからきているか……答えは天然の環境循環魔法。
新オスティアの水源は明らかに最終的に陸地の一番端から滝として流れ落ちている……のだが、ある程度高さを落ちると滝がいつの間にか地上に届く事なく……忽然と消える。
科学でやろうとするとかなり費用が嵩むであろうが、色々魔法で代替できるので、超鈴音の技術供与で最も重要なのは作物として収穫してしまう際に循環することのない栄養素、養液栽培と特殊培地栽培の為の、その原料の作成技術。
無菌状態の維持には恐らく障壁魔法も利用したりするのだろうが、クルト総督がまほネットを開き、超鈴音が行う説明と質問を元に植物工場計画の擦り合わせを延々と行った。
わざわざクルト総督が行う事ではないのだが、超鈴音と直接まともに会えるのがクルト総督しかいないのだから仕方が無い。
最終的にはリン・フェルミという人物から供与された技術という事で……そこまで名前は出されないだろうが普及を図る事になるであろう。
……そうこうして数時間、朝日もすっかり登った頃、クルト総督は日曜日であるにもかかわらず他の仕事もある為、それまでとなり、超鈴音はそのままオスティアへの家へと転移で向かった。
その場所はというと、オスティアの中心街ではなく、新オスティア空港付近から少し離れた区画にある一軒家。
すぐ左右にも似たような家が並んでいる為庭は無い。
中には家具が必要最低限だけ置かれていたが、ほぼ空。
ただ、玄関の扉が非常に広い為、大きなものでも搬入する事ができるというのは、クルト総督の配慮だと思われる。

《一切居住している気配は無いのは当たり前かもしれないが、重要なのはこの場所と玄関のドアだからネ!》

《住む気が一切無いのがよくわかる発言ですね》

《少しずつリフォームする可能性はあるが、あくまでもクルト総督から暫定的に借りている場所だからいじる必要は無いヨ。それに地球と魔法世界が普通に行き来できるようになたら改めて超鈴音として拠点を確保する予定だからネ》

《リン・フェルミさんはそれを期に消える訳ですね》

《クルト総督にしてみれば謎の人物との関係の情報は最終的に抹消したい筈だから互いに都合が良いヨ》

《ご尤もです》

《すぐにでもまほネットで精霊祈祷エンジン系の基盤素材を購入したい所だが、まだ振り込まれていないからまた今度ネ。後で確認が必要だナ》

《まほネットに介入して振り込まれたかどうか私が見ておきましょう》

《頼むネ、翆坊主》

重要な場所と特に重要な扉を確保した所で超鈴音はそれなりに満足したような雰囲気で優曇華を経由、女子寮魔法球へと帰還した。
そして、クルト総督と話し合った結果、一般使用可能技術の範囲内での植物工場の詳細設計についての整理をしつつこの日も無事終わりを迎えたのであった。



[27113] 78話 家族訪問
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:46
11月7日、麻帆良女子中等部3-A組。
朝倉和美はここ最近、世界的大事件ばかりがおきていて少々浮ついていたものの、クラスメイトに対して色々と追求の手を緩めようとは一切していなかった。
4限が終わり昼休み、先生が出て行った後、すぐさま和美は超鈴音の元に近づいた。

「超りん、聞きたい事があるんだけどいいかな?」

「懲りないネ、朝倉サン、私に対するインタビューは全面的に禁止になている事ぐらい知ているだろう?」

超鈴音は軽く一蹴した。

「いやー、これは超りんへのインタビューじゃなくて、ネギ君の事なんだけどそれも駄目?」

これは困った、という表情を浮かべながらも和美は諦めずに聞いた。
超鈴音の隣の席の春日美空はやや呆れたような顔をしていた。

「仕方ないネ……独り言なら聞こえる事もあるかもしれないヨ」

「さっすが、話が分かる。で……ネギ君について私達の3-Aコミュニティ以外で書き込むと全部すぐ削除されたり、個人的にブログを公開している他のクラスの友達でさえ、ネギ君に関する部分だけ表示されないようになってるのは……どういう事かなぁ……なんて気になってさ」

和美は超鈴音と美空の席に顔を近づけて一応配慮はしているのか小さい声で聞いた。

「……それについて朝倉サンはどう考えているのかナ?私に聞いてくるからには何かあるのだろう?」

「情報改竄は立派な犯罪なのはあえて考えない事にして……もしかしてネギ君とあの両親って誰かに狙われてる?」

「ジャーナリストとして気になるのは分からなくもないが……朝倉サンはそうだとして、どうするつもりなのかナ?」

「どうするって言われるとつらいんだけど……狙っている連中を調べるとかさ。なーんか巨悪の臭いがするんだよね」

美空は横で聞きながら更に面倒そうな顔をした。

「一つアドバイスするけど、これから変わて行く世の中、ジャーナリストとして迂闊な行動は自分の首を締めるヨ」

「うわー、きつい言葉だね」

和美は露骨に嫌な顔をして答えた。

「悪いけど、私はこれ以上話せないヨ」

「結局全然分からないかー。じゃー、春日、ネギ君ってやっぱ魔法使い?」

超鈴音はこれ以上答えられないという顔をした為、和美は表情を変えていた美空に尋ねた。
それに対し美空は生気の抜けたような目をして対応した。

「朝倉、私にも聞くなー。ただ、ネギ君の事を3-A以外で話すのはやめたほうが良いって言っとくよ。よく知らないけど要するに書き込みの件ってそういう事じゃ?」

「あーあ、夏休みどこ行ってたか知らないけど、ネギ君達に私もついていきたかったなー」

和美は悔しそうな顔をして言った。

「それは残念だったねー……朝倉」

美空は遠い目をして答えた。

「やっぱ少しぐらい話せない?」

「 無 理 」

美空は猫のような目をして言い切った。

「はぁー……これだけこのクラス、ネタだらけなのにどれもこれも聞けない事ばっかりで不完全燃焼だー。……ま、これで退散するよ」

ようやく諦めたのか、超鈴音と美空の席の前から和美は手をひらひらさせて去っていった。
一方すぐ今度はその後ろの席のアスナに和美を眼中に入れる事無く雪広あやかが近づき、ズイっと詰め寄った。

「アスナさん。今日も例の場所に放課後すぐ帰って行くおつもりですの?」

若干プルプル震えながらあやかは言った。

「い、いいんちょ……例の場所ってなんか変な言い方だけど……行くわよ」

その反応を見て気まずそうにアスナは答えた。

「で、でしたら……わ、私も一緒に行かせて下さいませんこと?」

その返答を聞き、やや興奮し始めながらあやかは頼んだ。

「う……どうしよう……ま、待って。じゃあ……メールして聞いてみるわ」

一瞬アスナは断ろうかと思ったが、あやかがもう我慢出来ないという雰囲気をダダ漏れさせていたため、とりあえずあやかを右手で制止するようにして、携帯を取り出そうとした。

「是非お願いしますわっ、アスナさん!」

しかし、あやかがアスナの両手を自分の両手で掴みそれを遮った。

「いいんちょ……メールできない」

若干呆れた顔をしてアスナが言った。

「はっ!……これは失礼。どうぞ連絡して下さい」

あやかはようやく気がついたかのようにアスナの手を離し、ようやくアスナはメールを打ち始めた。

「アスナ、ほな、うちとせっちゃんも行って良いか聞いてくれへん?」

そこへアスナの隣の席の近衛木乃香が便乗し始めた。

「はいはい、このか達もね、分かったわ」

「なっ!」

その言葉を聞いた瞬間あやかが奇声を上げた。

「ど、どうしたの、いいんちょ?」

それに驚いてアスナが指を止めて尋ねる。

「い、いえ……なんでもありませんわ」

あやかは残念そうな表情をして答えた。
その時丁度宮崎のどかが綾瀬夕映の元までやってきており、状況を2人で確認し、前の席のアスナに言った。

「あの、アスナさん、できれば私とゆえも一緒に行かせてもらっていいか聞いてもらえませんか?」

「ん?う、うん、分かったわ、のどか」

アスナは次々と人が増え始め、もうどうにでもなれとメールに名前を打ち込み始めた。

「ありがとうです」  「ありがとうございます」

「の、のどかさんと夕映さんまで……」

どんどん状況が悪くなっていくとばかりにあやかは呟いた。

「おーおー?のどか、ユエ、何やってんの?」

しかし、そこに状況を混乱させる者が現れた。
早乙女ハルナは夕映とのどかの肩に手を置いて怪しげな顔をして尋ねた。

「は、ハルナ……な、何でもないです」

「いやいや、何でも無いわけないでしょ。んー、いいんちょに、アスナ、のどか、ユエとくれば……さてはネギ君だねッ!」

ハルナはのどかと夕映から手を離し、一人ずつ指をさしながら最後にキリっとして言った。

「はーい、終わり。返信来たらメールで伝えるわ。さ、お昼にしましょ!」

アスナは面倒な人物が現れたとばかりに、サクッとメールを済ませ、携帯を閉じてポケットにしまった。

「わ、分かりましたわ」

そしてあやかは一旦自分の席に戻っていった。

「そやね。せっちゃん!せっちゃんもこっち来てお昼食べよ?」

「は、はい、お嬢様」

木乃香は桜咲刹那を手で招き、木乃香は真ん中の空いている席へと詰め、刹那はそれに従い木乃香の座っていた席に座った。
そして、のどかとハルナはというと、長谷川千雨が超鈴音達の所に行って空いた席がある為そこに座り、6人で昼食を取り始めたのだった。
……一方、教壇から見て一番右側の窓際の列にて運動部系の者達が同じく昼食を取りながら話をしていた。

「ゆーな、まだお父さんから魔法教えてもらったりできないの?」

佐々木まき絵が明石裕奈に尋ねた。

「んー、無理なんだってさぁー。それにお父さん今忙しくてあの麻帆良教会でずっと徹夜してるし」

酷くつまらそうに頬を膨らませて裕奈は答えた。

「そっかぁー。あれだよね、たしか、ぷらくてーびぎなーるとかそんな感じのを唱えるのから始めるんだよね?」

まき絵は人差し指を立てて適当に回しながらニュースで魔法使いの人が質問責めに窮して初心者用の始動キーだけ口にしていたのを朧げに覚えていたそれを口に出した。

「まき絵、プラクテ・ビギナルだけど、私一つだけ教えて貰った魔法があるよ!それはプラクテ・ビギナルArdescat!……だにゃー」

裕奈は思い出したように、かなり正しい発音で言った。

「わー、それが一番最初の魔法なん?しかもゆーな発音上手いなぁ」

「うんうん、発音上手いよ!プラクテ・ビギナル・あーるでスカっとかぁー」  「今のは良かったよ、ゆーな」

和泉亜子、まき絵、大川内アキラからそれぞれ裕奈は褒められ、裕奈は自慢気に返した。

「へっへー、ちょっとこれだけお父さんにね。……でも小さい頃お母さんに教えてもらったような記憶が何となく残ってるんだー」

「ゆーなのお母さんていうと、事故で亡くなってしもたっていう……?」

亜子が気まずそうに確認をする。

「うん、そう。飛行機の事故で……って聞いてたんだけど、お父さん今度またお母さんの事で話があるって言ってたから実は違ったりするかも」

裕奈は特に気にせず、明るく答えた。

「早くゆーなのお父さん、仕事漬けから解放されるといいな」

アキラが裕奈に言った。

「ホントホント。娘と仕事どっちが大事!?って電話で言っちゃおうかなー?」

イタズラっぽい笑みを浮かべながら裕奈が企み始めた。

「頑張ってるのにそれはお父さん可哀想やと思うよ」

亜子が苦笑いをして言った。

「うん、それは可哀想だからやめとく!」

裕奈は決心した。

「ところでアスナとネギ君達ってどんな関係なのかなー?なーんか聞いちゃいけない雰囲気みたいだけど気になるんだよねー」

突如まき絵が不思議そうに3人に問いかけた。

「ウチも気になるなぁ。アスナとネギ君のお父さんとお母さん凄く仲良いみたいやったけど、いつ知り合ったんやろ。アスナと小学生の頃から一緒の桜子はネギ君の両親一度も見たことないって言うてたし」

まき絵に続くように亜子も自分の疑問を述べた。

「それも気になるけど、ネギ君の両親のあの若さは何っていうのが私は気になったね!ネギ君のお父さん26だよ26!私のお父さん40過ぎなのに何この差!間にもう一人私が楽々生まれてこられるよ」

続けて裕奈が言った。

「ほんとだ……。私達とネギ君5歳ぐらいしか違わないのに……」

改めて驚いたようにアキラが反応した。

「16で子供ができて……一体どんな仕事してるんだろう。ネギ君も10歳で教師になったぐらいだからご両親も天才で小さいうちから働いていたのかな」

続けてアキラが憶測を述べた。

「それで天才同士の縁で恋が芽生えてめでたくゴールイン?」

裕奈がアキラの言葉を引き継ぐように言った。

「でもナギさん天才って感じはせんかった気がするんやけど」

亜子が率直に言った。

「あ!どっちかっていうとアスナみたいな感じだったよね」

これはピッタリだ、と言わんばかりにまき絵は思いつきを言った。

「失礼な気がするけど、そう言われるとそうだね」

否定はできないと、アキラはそれに苦笑いしながら同意した。

「分からない事ばっかりだにゃー。それにネギ君何で教師辞める事になったんだろ。卒業式まで一緒にいてくれたら良かったのに」

残念そうに裕奈が言った。

「ウチもそう思う……せやけど、年下の男の子がウチらの先生やるいうのは無理があるんやないかなぁ。認識阻害いうんがあった時は全然気にならんかったけど、今ネギ君が先生やっとると考えるとおかしい思う」

亜子はネギが自分達の教師をやるのはおかしいと改めて感じた。

「そうだね、日本では普通ありえないと思う。労働基準法もあるし」

アキラも亜子の意見に同意した。

「んー、私ネギ君好きだしまた会いたいなー」

まき絵が一瞬思案し、ぶっちゃけた。

「まき絵は変わらないね」

アキラはまき絵の素直な発言にまたかという顔をする。

「まき絵、ネギ君成長したらあのお父さんみたいなイケメンになるの間違いなさそうだし狙うなら競争率高いの覚悟した方が良いよー」

裕奈は諭すようにまき絵に言った。

「えー、私普段可愛いネギ君好きなんだけど」

しかし、それに反した答えをまき絵は言った。

「まき絵はかわいいもの好きやったなぁ」

……こんな会話がされている間、アスナの携帯にはネギから返信が有り、その内容はあやか、木乃香、刹那、のどか、夕映の5人なら許可も取ったのでマスターの家に来て下さいというものであった。
アスナはその旨を5人に送り、放課後の予定が決まった。
そして5限、6限といつも通り過ごし、帰りのHRも終わってすぐ、絡繰茶々丸も含む7人はエヴァンジェリン邸へと足を運んだ。
茶々丸が玄関を開け、6人を中に招き入れた。

「アスナ、このかさん、刹那さん、のどかさん、夕映さん、あやかさんこんにちは!茶々丸さんおかえりなさい!」

7人を最初に出迎えたのはネギであった。
それに続くようにナギとアリカも顔を出し、アスナ達に挨拶をした。
アスナ達もそれぞれネギとナギ、アリカに挨拶を返し、居間へと上がった。
木乃香と刹那は京都旅行で多少慣れた部分があった為、ナギとアリカに対しては柔らかく挨拶をしたが、のどかと夕映はかなり緊張し、対してあやかは改めて懇切丁寧に、それぞれ挨拶を順にしていった。

「あー、この前はあんまり話せなかったが雪広の娘さんは俺にこんぐらいの時に会ったことあるの覚えてるか?」

そんな中ナギは手をかなり低い位置に持って行き、あやかに尋ねた。

「ええ、お父様から先日そのように聞いたのですが、残念ながら覚えておりません。申し訳ないですわ」

あやかは流石に覚えておらず、残念そうにしながら謝った。

「そっかそっか。そうだよな、あの時確か3歳か4歳で一度会っただけだもんな。そんな気にすること無いぜ」

「はい、ありがとうございます」

あやかは一礼した。

「父さんやっぱりあやかさんに会ったことあったんだ」

ネギが少し思うところあるように言った。

「ん?ああ、一時期麻帆良に来て雪広の社長に世話になったことがあってな。で、やっぱりって何だ?」

ナギは一度も話した事が無かった筈だと思いネギに言った。

「えっと、例の時、夢の中で今みたいなやりとりを見た事があって……あ、そうか」

ネギは自分で言っていてある事に気づいた。
最善の可能世界で体験したあのビジョンはナギが失踪しなかったというものであり、現実のナギ失踪以前に会った事が仮に無かったとしても、可能世界の中でのそれ以降の時間軸でナギとあやかが会っている可能性は充分あるという事に。

「お……その話か」

「まあ!ネギ先生の夢の中で私はお父様に会ったことがあったのですか!なんだか感激ですわ!」

ナギはネギが言いにくいのを理解し、軽く対応したが、事情をよく知らないあやかは、ネギが夢のなかで自分とナギが会っているというものを見たというのを無性に喜んでいた。

「あはは、そ、そういう感じです」

あやかと話が噛み合っていないなと思いつつもネギは無難に受け答えをした。

「ところで、ネギ先生、先程アスナさんを何と呼ばれたか伺ってもよろしいですか?」

あやかは突然正気に戻り、ほんの少し前に耳に入った聞き捨てならない事をネギに確認した。

「……アスナの事ですか?」

ネギは少し首をかしげながら普通に聞き返した。

「?…………ネギ先生、申し訳ありません、このあやか、幻聴が聞こえるようです」

幾らか間を置いてあやかはフラっと立ちくらみをしつつも、自分の耳が悪いのだと、そう思い込んだ。

「だ、大丈夫ですか、あやかさん?」

「お?気分でも悪いのか?」

その反応にネギとナギが心配する。

「だ、大丈夫ですわ。ご心配には及びません」

あやかは帰って休むように勧められたらたまったものではないと、すぐに立ち直り、自分は元気だとアピールした。

「ネギ、いいんちょどうかしたの?」

そこへ主にアリカと木乃香達と話をしていたアスナが話に割り込んだ。

「あ、アスナ、あやかさんが幻聴が聞こえるって」

それにすぐにネギが答えた。

「!!!…… ア ス ナ さんッ!?……あ、あ、あ、あなた一体っ……ネギ先生に何をしたのですかっ!?」

ネギの言葉が再び耳に入り、あやかに電流走る。
数瞬して、ギ ギ ギ と首をある人物に向け、射程に捉えた瞬間、驚異的な速度であやかはプルプル震えながらターゲットを問い詰めにかかった。

「ちょ!?いいいいんちょ!べ、ベベ、べつに何もしてな」

アスナはガクガクと揺すられながら返答しようとする。

「嘘おっしゃいッ!」

しかし、全部言うことなく途中で否定された。

「あやかさん!落ち着いてください!」

慌ててネギがあやかに呼びかける。

「はっ!……し、少々取り乱してしまいました。このあやか、見苦しいところをお見せしてしまい、すみません、ネギ先生」

ネギとナギとアリカが見ている事にあやかは気づきすぐに行動を停止して、アスナから離れた。

「はぁ……はぁ……こんなところで揺すられ死ぬとこだったわ……」

解放されたアスナは息をついた。

「大丈夫、アスナ?」

「う……うん、大丈夫よ、ネギ。私頑丈だから平気」

心配そうにネギがアスナに尋ね、それに対してアスナが微笑んで大丈夫だと返した。

「……………………」

そのやりとりを見たあやかは今にも魂が口から抜け出そうな様子であった。

「いいんちょ、のどか、ゆえ、アスナはな、ネギ君に言葉遣い変えてもろて、名前も呼び捨てて呼んでもらうようにしたんよ」

そこへ木乃香が解説を入れた。

「な、なな、何ですって!?」

「そ、そうなのですか」

「そ、そうだったんだ」

あやかは再起動し、のどかと夕映も事情を掴んだが、あやかのテンションだけはすぐにハイに戻った。

「で、ではネギ先生、これからは私の事は」

「いいんちょっ!」

「なっ、邪魔をなさらないで下さいアスナさんっ!」

すぐにあやかはネギに接近し取り入ろうとしたが、アスナが2人の間にカットインに入り、それに対してあやかは憤慨し、ギャーギャー騒ぎ始めた。
ネギはオロオロしたが、その争いが止まる事はなく……周囲はしばらくそれが勝手に収まるまで放置する空気に入った。
そんな中アリカはこっそりのどかと夕映に近づき、アスナ達、ネギ達に聞こえない位置まで居間の隅に離れるようにして個人的に話しかけた。

「のどか、夕映よ、改めて、ネギの母のアリカ・スプリングフィールドじゃ。ネギが世話になった事、感謝する」

アリカは先程会った際の挨拶を改め、自分の名を名乗る所からやり直し、2人に一礼した。

「あ、改めまして、アリカ様、宮崎のどかです。ネギ先生には私の方こそお世話になりました」

「改めましてです、アリカ様、綾瀬夕映です。ネギ先生には私こそお世話になったです」

のどかと夕映もアリカに対し改めて自己紹介をし、ペコリと頭を下げた。

「今後ともネギとよしなに頼む」

「はいっ」  「はいです」

アリカはそれに返し、2人も返事をした。

「……………………」

「…………」  「…………」

そして会話が続くかと思えば……互いに沈黙に入ってしまった。
しかし、その沈黙を破ったのはアリカであった。

「……のどか、夕映よ……一つ尋ねても良いか?」

「は、はいっ!」  「はいです!」

いきなり質問が来て2人はビクッとして答え、アリカはそれに対して深呼吸をして本題に入った。

「…………あ……アスナから聞いたのじゃが、2人はネギを好いておるというのは真か?」

「…………」  「…………」

投げかけられた問……それは、まごうことなき直球。
のどかと夕映はまさかそんな事をネギの母から聞かれるとは思わず、一瞬間をおいた後、ボンッという音を立ててあっという間に顔を真っ赤にした。
2人はそれでも尚口をパクパクさせて声を発しようとするが……上手く声が出なかった。

「す、済まぬ、無理をして答えなくともよい」

2人の様子にアリカは慌ててフォローに入った。

「……わ、私はネギせん!」

「お、大きな声で言わなくてよいぞ」

アリカがフォローに入った瞬間一際大きく息を吸ったのどかは大きな声で宣言しそうになったが言い切る前にアリカがのどかの口を咄嗟に塞いで止めた。

「す、済まぬ。あちらに聞こえてしまいそうだったので、配慮が足りなかった」

すぐにアリカは申し訳なさそうな顔をしてのどかの口から手を離した。

「い、いえ、大丈夫ですっ」

アリカに触れられた事に何となく恥ずかしくなったのか、のどかは更に顔を赤らめて言った。

「……のどか、夕映よ……ネギを想うのは自由じゃ。私も人を好きになるという気持ちはよく分かる。……今日のようにこれからもネギに会いに来ると良い。ネギも喜ぶ」

アリカは真剣でいて、かつ優しい顔をして、のどかと夕映に語りかけるように言った。

「……は、はいっ、ありがとうございます」  「あ、ありがとうです」

のどかと夕映はアリカの言葉にしっかり答えた。

「うむ。して……その時なのじゃが……私とも少し話をしてくれるか?」

アリカは最後に一つ頼みをした。

「は、はいっ、喜んで」  「は、はいっ、もちろんです」

のどかと夕映はそのアリカの頼みに対して心から嬉しそうに返答した。
……そして丁度アスナとあやかの争いも沈静化しており、アリカはそれを見て2人にネギの元に行くように勧め、自らもネギ達の近くに戻って行った。
アリカの作戦は……詰まる所、のどかと夕映を自分で見るというもの。
もちろん、アリカは自分とネギの世界、特に魔法世界での立場は深く理解しているが、少なくともそれとネギを想う事は今考える必要は無いと思っていた。
のどかと夕映とアリカが戻った所、ネギ達はアスナとあやかの争いも止まり、改めてあやかが、聞くに聞けなかった話を丁度切り出していた。

「失礼ですが、お父様、ネギ先生ご家族とアスナさんはどのような関係なのか聞いてもよろしいでしょうか?」

あやかはナギに尋ねたのであるが、それに答えたのは後ろから近づいてきたアリカであった。

「……血縁関係で言えばアスナは私とネギの親戚にあたる」

「まあ、そうだったのですか!」

あやかは目を丸くし、手を口にあてて驚き、アリカに振り向きながら声を発し、続けて尋ねた。

「では、ネギ先生がアスナさんとこのかさんの部屋に住む事になったのはそれが原因だったのですか?」

「……すいません、あやかさん、それ以上は事情があって話せないんです」

あっという間に話せない領域に触れてしまい、ネギは困った表情で言った。

「いえ、そういう事であれば、気にしないで下さいな。……アスナさん、良かったですわね」

あやかはアスナに対し、優しげに言った。

「う、うん、ありがと、いいんちょ」

アスナは長年の付き合いのあやかに素直に礼を述べた。

「ええ、私もこれで、安心できましたわ」

しかし一転、あやかは何やら含みのある言い方で安心できると言った。

「……いいんちょ、それどういう意味よ?」

すぐにそれに勘づいたアスナがあやかに問いかけた。

「そ、それはもちろん、アスナさんとネギ先生が親戚ということは……その、いえ、何でもありませんわ。ホホホホ」

つまりあやかはアスナとネギの間に間違っても変な事は起きないだろうと安心したのである。

「そ、そう………………」

それに対し、アスナは有効な発言が思いつかず、ジト目であやかを見つめながら密かに右手はギリギリと握り締めていた。
それからしばらくあやかがネギの前期までの3-Aの担任をしていた事について話題を振り、主にネギへの愛が溢れてやまないだけはある詳しい話をしつつ時を過ごした。
その途中、ネギはあやかに聞こえないように念話をのどかと夕映に繋ぎ少しだけ話しかけていた。

《のどかさん、夕映さん、ごめんなさい。あやかさんには2人が、僕が魔法使いであることを知らない事になっているので……》

《い、いえ、気にしないで下さい》

《のどかの言うとおりです。いいんちょさんが先にネギ先生に会いに行きたいと言い出した時点で分かっていた事ですから》

《ありがとうございます。……念話で話し続けるよりもまた今度普通に話しましょう》 

《はい》  《はいです》

短く念話を済ませ、その後も魔法とは関係ない日常的な話をしていた所、あまり長居するのは良くないと思ったのか、あやかが時間を見て言った。

「では、そろそろ私はおいとま致します。またの機会に伺わせて頂きますわ」

そしてあやかは席から立ち上がり、優雅に一礼し、それに対しネギ達も応対した。
それに従い、アスナ達もこの日は帰る事にし、6人はネギ達に見送られてエヴァンジェリン邸を後にし、女子寮に戻っていった。
見送った後、ネギはある事を思い、一瞬だけ虹彩を輝かせ、つい最近ようやく自分用に用意したばかりの新しい携帯から、ある人達にメールを送った。
そして丁度ネギがメールを一括で送り終えた所、ナギが口を開いた。

「ネギ、そろそろ前言ってた超の嬢ちゃんに礼をしに行きたいんけどよ……」

「会いに行ける場所が無いんだよね」

ネギはナギが尻すぼみに言った意味を掴んだ。

「そう、それなんだよ」

「父さん、お礼しに行くこと、超さんに伝えても良いかな?超さんは予め言っておかないと忙しいし、僕もまた今度の事でも直接お礼言いたいと思ってるから……」

「そうだな……じゃあ頼めるか?」

「うん、分かった。じゃあ、今から聞いてみるね」

ネギはそう言ってまた一瞬だけ虹彩を輝かせた。

「……明日夕方に超さんの方からマスターにも用があるからってこっちに来てくれる事になったよ」

ネギは相談の結果をナギとアリカに伝えた。
超鈴音にメールで聞くのは超鈴音の時間を削る事になるので、一瞬で済む方法を取った。

「お?もう聞いたのか?何かネギの目が一瞬光った気がするが」 「ね、ネギよ、もう聞いたのか?」

ナギとアリカはあり得ない速さで通信が終わったらしき事に驚いた。

「うん、聞いたよ。まだ言ってなかったんだけど、父さんと母さんには説明するよ」

ネギはそう言って再び虹彩を輝かせ始めた。

《父さん、母さん、聞こえる?》

《おおっ、聞こえるぜ。って何だコレ。時間が止まってる感覚がするんだが》

《聞こえるぞ。じゃが、少し頭が痛い。それにネギの目が、ナギが言った通り光っておるのは……》

《これがマスターが僕に修行中に行ってくれていた通信法だよ。頭痛がするのは加速しているせいで……もう通信切るね》

ネギは虹彩を輝かせるのをやめ、続けて言った。

「母さん、虹彩が光っていたと思うけど太陽道を使っている訳じゃないから大丈夫だよ。この通信法の詳しい説明は難しいんだけど、これで短時間でも長く話すことができるんだ」

「そうであったか……ならば良い」

その言葉を聞いてすぐにアリカは動揺を収めた。

「はー、便利な通信だな。で、今ので通信したら、礼に行くつもりが結局超の嬢ちゃんから来てくれる事になっちまったのか」

ナギは通信法に感心しつつも、話題を戻した。

「うん、超さんは大学でも女子寮でも個人的に外部の人が尋ねてくるのは都合が悪くて、それにそういうのは気にしてないって言ってたよ」

ネギはナギが微妙な顔をしているため説明をした。

「アルの言ってた通りだな。そんじゃ、肉まん買っとくか!」

ナギは仕方ないかとケロリとした顔をして言った。

「うん!それがいいよ」

……そして翌日夕方、ネギ達は変わらずエヴァンジェリン邸の魔法球に午前からやってきて過ごしていたが、予定通り超鈴音がやってきた。
エヴァンジェリン邸の居間で、超鈴音はスプリングフィールド一家から改めて礼を受けたものの、超鈴音自身は、あまり気にかけなくて良いという風で話し続けた。
そこへナギが超包子の肉まんを出してきて、一緒に美味しそうに食べた。

「それだけ美味しそうに食べて貰えると私も肉まんも本望ネ。エヴァンジェリンが戻て来るのはもう少しかかると思うから……ネギ坊主、少し転移魔法の研究状況を実際に見せて貰ても良いかナ?」

「はい、もちろんです!僕も少し聞きたい事があるんですけど良いですか?」

「もちろんネ」

超鈴音の提案によって、一同は魔法球へと移動し、ネギが転移魔法の研究をしている塔の中央、テラスへと向かった。
机には大量に付箋のついた魔法書が幾つも置かれ、百は優に越えるかという枚数のメモが積み上げられ、そこには理論、術式の計算式、魔法陣等が所狭しとびっしり書きこまれていた。
また、巨大な黒板には一面びっしりと無数の矢印でフローチャートが描かれており、最終的に×印が書かれているものが幾つもあった。
超鈴音はネギに案内され、まず最初に黒板から見て、それから机の資料へと移った。

「なるほど、ネギ坊主はこういうアプローチをするのカ。参考になるネ。少し見せてもらうが……ふむ、ネギ坊主、この術式はここを迂回させて繋いで、後に出てくる計算式も纏めて当てるとこの部分だけ短縮できるヨ」

超鈴音は自分とはまた少し違った方法の研究方法に感心しつつ、一つ気になったものを手にとり、指をさしながらネギに提案をし、その説明をネギは真剣に聞いた。

「あー!はいっ!そうですね、これって……」

「考えている通りネ。新旧あちこちの本から取ているからだと思うが、旧年代の術式を活用する時に近代の術式と組み合わせる際には起こり得る現象だヨ。要するにこの部分は現代において証明された定理で、一発で置き換えられるネ。もちろん旧年代のものに合わせた方が良い場合も起こり得る。幅を持たせたい時は旧年代のファジーな術式の方が良いだろうナ」

「わー、参考になります!超さん、だとするとこっちのは……」

「おお、そうだネ!それは……」

超鈴音とネギは互いに顔を見ること無く、視線は机に固定したまま、メモを幾つも取り、魔法書を開いては、互いに術式の効率化について話しながら手を動かし紙に書き込みをし続け、黒板に戻っては検討し、×印を増やしながらも、今までになかった矢印をその分増やし、一番右端の結論もそれに従って増えて行った。
しばらくすると、会話が一切無くなり、逆に2人の手に持つペンとチョークは一切止まる事なく高速で動き始め、それを示すが如くカカカカカと規則的な音を立て始めた。
その最初のやりとりからナギとアリカは驚いていたが、会話が無くなったのは流石に何事かと身を乗り出そうとした所、ネギの虹彩が輝いている事が原因だと分かったのであった。

「なあ、アリカ、あれ付いていけるか?」

ふと、ナギがアリカに言った。

「私にも無理じゃ。超が世のニュースで騒がれる理由が良くわかったが、ネギも天才じゃな」

アリカは素直に言ったのだが、その内容は親馬鹿発言そのもののようなものであった。

「こうして見てると、ネギと超の嬢ちゃんって似てるなー」

ナギは驚くほど息がピッタリ合って作業を高速で続けている2人を見て思った。

「う……うむ……そう言われると似ておる」

アリカはその指摘に同意したが、複雑な面持ちであった。
丁度そう言った時、ピタリとネギと超鈴音の動きが止まった。

「これぐらいでどうかナ、ネギ坊主?」

「はい!違う方向性で考えてみるのは凄く参考になりました!」

「私もネギ坊主のアプローチ法は参考になたネ。これから利用させて貰うヨ」

ネギと超鈴音は両手を軽く叩き、チョークの粉を払いながら会話を交わした。

「超さん、それで僕の聞きたい事なんですけど……」

「科学の方の事かナ?今の話の中でネギ坊主の知らなかた数式が幾つかあたのが分かたが、その資料もパソコンに入ているヨ」

「はい!ありがとうございます!」

終わりかと思えばネギと超鈴音は、今度はもう一つの机に置かれているパソコンを開いて即座に立ち上げ、ネギが聞きたいものをウィンドウに次々と開いて行き、またしても会話が無くなり、2人は高速でウィンドウを操作し続けるのみとなった。
それでも流石に今度はそれなりに早めに終了し、ネギは超鈴音に礼を述べ、超鈴音はまた分からない事があったら聞くと良いと返していた。
そこへ茶々丸が茶を全員分運んできて一服し、ナギとアリカも再び会話に入った。

「ネギに転移魔法の研究を頼んで、魔法の話があれだけできるって事は超の嬢ちゃんはやっぱ魔法使いなのか?」

ナギはふと尋ねた。

「少し探知魔法を使えば分かるが私には一切魔力が無いから魔法は使えないし、メガロメセンブリア本国に属する魔法使いでも地球の土着魔法使いでもないヨ。とてもとても怪しい人物ネ!」

超鈴音はややおどけたように、自称怪しい人物だと宣言した。

「ははは!おもしれーな!だけどよ、一切魔力が無いってスゲー珍しくないか?それでいて魔法に詳しいって、あー、確かに怪しいな!」

ナギは面白いとばかりに笑い始めた。

「うむ……非常に謎じゃ」

アリカは全く良く解らないとばかりに悩んで言った。

「一つ頼みがあるのだが、私が魔法に詳しいことは私が自分からいつか言うかもしれない時まで口外しないで貰えるかナ?」

「はい、分かりました」  「約束しよう」  「おお、分かったぜ」

3人は超鈴音の頼みに了解した旨を言い、続けてナギが尋ねた。

「ところでよ、アルから超の嬢ちゃんが厄介な組織から狙われてるって聞いたんだが……」

「そ、そうです、超さん、僕も聞いたんですが」

ナギとネギはやや深刻そうな顔をして言った。

「ふむ……例の組織がどのようなものか話しておくが、あれはアメーバのような組織でどこかを潰しても解決にはならない。ナギ・スプリングフィールドがその姿を世に再び表すとしても、今の地球では動きにくいだろうし、組織も表が基本である以上、各国警察が動くのが筋だから気にしないで欲しいネ。麻帆良にいる限り私は安全だから生活に困りはしないヨ。この話はこれで終わりにして貰えると助かるネ」

超鈴音は、この件は干渉不要だと言った。
その言葉を受けてネギとナギは了承し、ネギは転移魔法の研究と科学の勉強も頑張ると言い、そこへ丁度茶々丸が、エヴァンジェリンが帰宅してきた事を伝えに来たので、互いに挨拶をして超鈴音は魔法球を後にした。
魔法球を出て、超鈴音はエヴァンジェリンと居間でMOCについて少し話をし、超鈴音が持ってきたまほネット通販リストの中で複数あるうちどの水晶球が魔法球の素材として良いか見て、エヴァンジェリンが選定するという作業を行った。
その際、魔法世界側に拠点を確保した事についても明かした為、エヴァンジェリンも欲しい物を幾つか超鈴音に話し、それの代理購入を超鈴音は了承したのだった。
……そして更に翌日11月9日、日曜日。
ネギが7日に送ったメールでエヴァンジェリン邸魔法球にその日午前中から徐々に集まったのはアスナ、小太郎、木乃香、刹那、のどか、夕映、長瀬楓、古菲。
本当は龍宮真名、美空、高音・D・グッドマン、佐倉愛衣も呼びたかったのであるが、以前からエヴァンジェリン邸の魔法球を使用していた面々に留めるようエヴァンジェリンと通信した際に言われた為、この集まりとなった。
揃った所でネギが最初に口を開いた。

「遅くなってしまいましたが、改めて言わせてください。……木乃香さん、刹那さん、のどかさん、夕映さん、楓さん、くーふぇさん、夏休みに魔法世界に同行してくれてありがとうございましたっ」

ネギは小太郎と茶々丸には以前に話を済ませているので、白き翼として魔法世界に同行してくれた残りの3-Aの者達に礼を述べた。
小太郎は予め大体そういう事を言うだろうという顔をして見ていたが、他の6人も分かっている、という表情をしてそれぞれ言葉を返し始めた。

「ネギ君、分かっとるえ。それに付いて行きたい言うたのはうちの方やよ」

「ネギくん、私も同じです。ネギ君自身が最後に戻ってきて下さっただけで充分です」

「ネギ先生、私こそわがままを言ってついて行かせて貰いました。魔法世界に私は行って良かったと思ってます。ネギ先生も無事で本当に良かったです」

「ネギ先生、私もです。あちらに行った事は貴重な体験でした。それにネギ先生が無事で何よりです」

「ネギ坊主、拙者も滅多に無い旅ができたでござる。旅の目的も達成でき、ネギ坊主自身が戻ってきたなら何も言う事はあるまい」

「ネギ坊主、皆の言うとおりアル。修行もできたし、まだまだ先がある事も分かったのは良い経験アルよ。アスナも取り返して、ネギ坊主が戻ってきたならそれで良いね!」

「はいっ!ありがとうございます!」

各々の言葉を一つ一つ心に染み入らせるように真剣に聞いたネギはもう一度感謝の言葉を述べ、その表情はスッキリとしたものになった。
それを見たアスナは、今度は自分の番とばかりに口を開いた。

「うん、ネギが言うんだったら私もお礼言わないとね。……みんな、私が捕まって、助けに来てくれて本当にありがとう」

アスナは心を篭めて、感謝の言葉をネギと同じく、述べた。
皆、アスナは同じクラスメイトで友達なのだから助けに行くのは当たり前だと言い、その後ナギとアリカもまた改めて感謝するという流れになった。
……一段落ついた所で、ナギは最初に小太郎に頼まれた事で、小太郎、古菲、楓の組み手の相手をしに行き、2日前魔法関係の話ができなかった夕映とのどかは自分からネギに近づいて話しかけていた。

「ネギ先生、できれば……これからも私達の魔法の先生をして欲しいのです」

「ネギ先生、私からもお願いします」

夕映とのどかはネギに頼み込むように頭を下げて言った。

「夕映さん、のどかさん……」

ネギは思ってもみない事を言われて驚いた。

「……だ、駄目でしょうか?」

夕映は顔を上げ、少し悲しそうな表情で尋ねた。

「そんな事無いです。……僕でよければ是非、やらせて下さい」

「あ、ありがとうですっ」  「ありがとうございます、ネギ先生」

途端に2人は陽が差したようにパッと明るい顔になった。

「はい!……ですが、これから日本で魔法を公的に学べるようになるには最低でもゲートが復旧して以降になります。社会がこういう状況になって僕が個人的に人に魔法を教えるというのはよく無いです」

「で、ではやはり……」

夕映の顔に陰が差す。

「夕映さん、のどかさん、2人はこれからどう魔法を使って、どうしたい、ですか?」

ネギは質問を投げかけた。

「どう……ですか」  「どう……」

2人はその質問に対して考え始める。

「この前クウネルさんに尋ねられた事なんですが、地球と魔法世界、どちらが正しいか、と言われたんです」

「地球と魔法世界……」

のどかが呟く。

「……その質問は社会そのもの違いについての話だったんですが、正しいかどうかの判断を除いて考えると、極論、地球は魔法の使われていない世界、魔法世界は日常的に魔法が使われている世界、という風に捉える事ができると思います。例えば、仮に将来、夕映さんが魔法世界のアリアドネーの魔法騎士団に入るなら、戦闘魔法を覚え、治安を守って行く事になるという事が考えられます。一方、これから魔法が普及していく地球で、魔法使いとして活動して行くなら、地球に合った魔法、魔法の使い方を普及させて行くということになるかもしれません。将来が特に不安定なのは地球の方です。地球がこれからどうなるかは僕にもわかりません。……今までは魔法を秘匿する事を優先にしていて出来なかった事もできるようになると思います。ですが、それと同じくして、魔法という使い方次第の力によって混乱、衝突、不幸も起きてしまうかもしれません。ただ、地球は魔法世界と同じようになる必要はないし、ならないと僕は考えています。地球は科学が発達している以上それと魔法との関係は切っても切り離せない筈です。……僕自身は今、魔法をもっと研究して、社会で広く利用しやすい魔法、役立つ魔法を開発したいと考えています。今まで僕は戦闘用魔法ばかり覚えてきましたが、これからはそれも最終的に生活に役立つ利用法へと転換する工夫をしていければ……と思っているんです」

ネギは長々と自分の思っている事を話した。

「……ネギ先生は色々考えているのですね」  「……うん」

夕映とのどかはネギの話を聞いて自分達も考えを巡らせ始めた。
ネギは2人が考え始めた所で、その答えを待つ体勢に入って……しばし。
のどかと夕映が今回ネギにこれからも魔法の先生をして欲しいと頼んだ理由の一つには、ネギとの関係性を強く保てる方法はネギが3-Aの担任で無くなった今、それはネギがこれからも魔法使いである以上、魔法であろうと考えた事にある。
夕映は魔法世界でアリアドネー魔法騎士団見習いまでになったとは言え、記憶喪失だったという事情もあり、そもそもまだ魔法に触れ始めて間もない方であり、ただ漠然と魔法使いというものに対する憧れを抱いていた面があり、具体的に何をどうしたいかという事までは考えてはいなかった。
それでもしばらく考え……先に口を開いたのは、夕映であった。

「ネギ先生、私もネギ先生の考えに賛成です。アリアドネーで魔法騎士団員として私は働きましたが、同じ人間が生活してはいても魔法世界と地球はやはり違うです。私はまだどう魔法を使って、何をしたいか、自分に何ができるかは分からないです。ですが、だからこそ、魔法についてより詳しく知り、魔法とはどういう存在なのかを考え、ネギ先生の言う混乱や衝突、不幸を避ける為、地球で魔法はどうあると良いか、どうあるべきかを考えて行きたいのです」

夕映は自分の考えを、ネギを良く見て伝えた。

「はい!それは凄く、夕映さんらしいです。魔法という存在そのものを考え、それを発展させて行くというのは僕も大事な事だと思います。……のどかさんはどうですか?」

ネギは明るい顔をして夕映に答え、のどかに尋ねた。

「……私は、ネギ先生の言う、地球に合った魔法というのを広める事をやりたいです。私も折角魔法が使えるので、小さな事でもいいです。何か、誰かの役に立ちたいです」

のどかは若干不安気にネギに言った。

「はい!優しいのどかさんなら必ず上手く魔法を人に伝えられると思います。……それで、僕が魔法の先生をする話ですが、魔法自体の勉強には地球で使われている数学や自然科学がとても役に立ちます。僕もつい昨日まで知らなかった数学の定理で研究が捗るという事がありました。具体的に詠唱呪文を教えるという行為は今の社会状況から言ってやるべきではありません。……そこで、唱えられる呪文を増やすようなものではなく、座学だけになってしまいますが、魔法と密接に結びつくものを僕が教えるというのはどうでしょうか?……結局英語の先生から、それ以外の教科の先生にもなるって感じになると思うんですけど……」

ネギは申し訳なさそうにしながら、そう、提案した。

「は、はいっ!ネギ先生、お願いするです」

「はいっ!ネギ先生、私にも勉強教えてくださいっ!」

対してその提案を聞いた夕映とのどかは満面の笑みで非常に嬉しそうにネギに教えて欲しいと、答えたのだった。
予想以上の反応にネギは驚いたが、それでいいならば、とこれからものどかと夕映の先生をすることを穏やかに微笑んで約束した。
詠唱魔法を教えて貰えはしないが、のどかと夕映はネギの授業を受けられるというだけで充分であった。
それから、3人はアスナ達が、ネギが研究している転移魔法の資料が大量に置いてある所で何やら話し始めた所に向かった。

「これ全部転移魔法の資料なのよね……前よりも増えてるような」

「ネギが自分で纏めている分が増えておる」

「これが全部……」

刹那は驚きの声を上げた。

「はー、こんな多いの研究しとるなんてネギ君凄いなぁ。それで、あの黒板に書いてあるのは何ですか?」

木乃香は一面びっしり文字と矢印で埋まっている黒板を指さしてアリカに尋ねた。

「このかさん、転移魔法には幾つか基礎理論があるんですけど、その黒板にはそれと術式構成とのあり得る組み合わせパターンを書いて、可能なかぎり相性の良い組み合わせを抽出するために、良くないと判断したものから順に消していく為の作業に使っているんです」

そこへタイミング良くネギ本人が戻り、木乃香に解説をした。

「あ、ネギ君、そうなんかぁ、うちは気が遠くなりそうや。のどか、ゆえ、何や嬉しそうやけど、ネギ君今転移魔法の研究してるんやって。これ全部その資料なんよ」

木乃香は振り返ってネギに気づき、のどかと夕映にネギが転移魔法を研究していることを軽く説明した。

「て、転移魔法ですか」

「凄く資料多いね……」

のどかと夕映の2人も、ここにあるのが全て転移魔法の資料と聞き驚いた。
そこへアスナがもう一つ別の机に置かれている見慣れないノートパソコンに気が付いた。

「ネギ、このパソコンどうしたの?」

「あ、それは超さんが僕に送ってきてくれたものなんだ」

素早くネギがそれに答えた。

「超さんが?」

アスナ達は意外な顔をした。

「うん、僕が超さんの手伝いをさせて欲しいと伝えたのが始まり。超さんが今取り組んでいるものにいつか、かなり長距離にでも飛ばせる転移魔法が必要だからできれば開発をして欲しいと頼まれて、その研究用の資料になりそうなものとして送ってきてくれたものなんだよ」

ネギは若干ぼかしてアスナに説明した。

「ね、ネギから協力するって言ったの?」

てっきりアスナは超鈴音がネギに頼んできたのかと思ったが、実際にはネギから協力を申し出ていた事に驚いた。

「詳しい事はやっぱり話せないんだけど、超さんには僕はお世話になってるから時間がある僕が協力出来ればって思ったんだ。でも超さんから頼まれた長距離転移魔法を開発するにはまず僕自身が転移魔法を自由に使えるようになってからだから本格的に協力できるようになるのはまだ先の話だよ」

超鈴音の事となると誰しも話しにくいというのは誰も彼もがそういう傾向であり、ネギは話せない事にやや申し訳なさそうにしながら更に詳しい説明をした。

「そうなんだー。前も言ったけど、転移魔法の習得頑張ってね、ネギ」

アスナは京都旅行の時最初にネギが転移魔法を覚えたいと言った理由を思い出し、どことなく嬉しそうにネギを応援した。

「うん!」

「あの……ネギ先生、超さんが開発して欲しいという長距離転移魔法というのはやはり人工衛星の打ち上げに使うためなのですか?」

夕映は一つの確認をネギにした。

「はい、そう使いたいと言っていました。超さんから頼まれたのは将来的に地球であればその軌道上、35,786kmまで、できれば転移させた際に加速度も加えられるなら、それも考慮に入れて、一度で飛ばせるものが欲しいんだそうです」

ネギは頼まれた長距離転移魔法の概要を説明した。

「3万5千km……とてつもない距離ですね」

夕映は遠いというのはわかるが逆に遠すぎて実感が沸かなかった。

「超りんそのうち宇宙にまで飛び出しそうやなぁ」

木乃香はスケールの大きすぎる話に思わずそんな事を言った。

「超さんならそれも可能にしてみせそうですが……」

「うーん、確かに超さんなら宇宙にも行くって本当に言い出しそうね……」

刹那とアスナがそれに対し、超鈴音なら不可能ではないと思えるのが怖いという様子で言った。

「ネギ先生、宇宙でも魔法って使えるんでしょうか?」

今度はのどかがネギに尋ねた。

「……それは……実際宇宙に行ってみないと分からないですね……」

ネギは完全な宇宙空間で果たして魔法が使えるかどうか答えはほぼ分かっていたが、それでも実際試してみないとわからないと思い、微妙に言葉を濁して言った。

「魔力は大気に満ちる自然のエネルギー、万物に宿るエネルギーと言われていますが、魔法は真空でも使えると本にある事からやはり万物に宿るエネルギー、宇宙空間でも使えるのではないですか?」

夕映がそれに対してネギに案を出した。

「夕映さん、真空は真空と言っても定義によるんです。絶対真空、空間中に分子が一つも無い状態というのは地上では実現不可能なので、魔法書に書いてある真空でも魔法は使えるというのは実際には文字通りではありません。また、現状存在している転移魔法での転移可能限界距離はおよそ1万kmですが、その距離でも大気圏の範囲としては外気圏と呼ばれる相当程度薄い大気があるのでやはり絶対真空での実験はできません。今までに魔法使いで宇宙飛行士がいないので、今後明らかになるかもしれませんね」

ネギは少し詳しい説明をした。
真空チャンバーと呼ばれる真空状態を作りだす機器の高性能なものですら、絶対真空に限りなく近い領域にまでしか近づける事はできない。

「そうなのですか……なるほど、勉強になるです」

夕映はネギに早速教わる形となり、納得したように頷いた。

「まだまだ分かっとらん事は多いんやなぁ」

「そうですね、世界にはまだまだ謎が一杯あると思います」

木乃香の呟きにネギが同意した。
その後も会話を続け、そこへひたすら組み手をしていたナギ達が一旦戻ってきて、ネギとアスナ、刹那もそれに加わったり、木乃香と既に覚えている魔法ならとのどか、夕映は持ってきていた杖で魔法の練習を久しぶりに思いっきりしたりと思い思いにやりたい事をしていた。
そんな中、アリカはネギ達が楽しそうにしているのを少し離れて見ていた所、遅れてやってきたエヴァンジェリンが声を掛け、茶々丸が入れた茶を一緒に飲みながらゆったりとその日の日曜を過ごしたのであった……。



[27113] 79話 神木発見
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:46
突然であるが、火星暦10月17日、とうとう火星の神木・扶桑が魔法世界人に発見された。
発見者はクルト総督が送ってきた調査員ではない。
見た目は……熊と言えるような毛深さ、野生味溢れる巨漢だった。
荷物にはもしもの時に死なないようにと極地対策の魔法具もいくつも用意してきているようだったが、桃源から東に箒で飛び龍山山脈麓までは来たものの、その後あの標高を徒歩のみで乗り越えてきた。
登山用ロープのザイル、岩の割れ目に打ち込む釘のハーケン、この2つを繋ぐための金属製の輪のカラベナ、ピッケル等……。
地球の登山で使われるのと大体同じようなものを使って、である。
ただ、魔分での身体強化は熟練しており、素早く歩みを進めてきたので、本人には一切の疲れは見えなかった。
彼は龍山山脈でかなり高い位置に到達したときは大声で叫び声を上げるという荒々しさであったのだが、神木・扶桑を見た時は特に何も言わず、その何か珍しい物を見たかのような鋭い眼光だけが特徴的だった。
……落ち着いているように見えて、彼は意外と気分が高揚していたのか、神木・扶桑の映像を撮り、1日野宿した後、再び龍山山脈を越えて桃源へと戻り始めた。
その男性の正体はというと……調べた所、新オスティアにある魔法具店の店長であった。
店の方は今、店員のお姉さんが一人で切り盛りしているが「現在商品鑑定は受け付けておりません」という紙を貼り出しており現在は魔法具の販売だけしかやっていない……というのは超鈴音が幻術で変装をした上で少し買い物に出た時に判明した。
超鈴音としては通販で買っても良かったのだが、見てみれば普通に高純度の水晶球が売っているという事で先日オスティアの街へと繰り出し、買いに行ったのである。
因みに、その途中、魔法世界ならではの食材やお菓子も試しに買い、それなりに楽しんでいた。
こういう事ができるのも、魔法世界ではまだ有名でなく命を狙われていないだけあって自由に行動ができるからこそ……であろうか。
そして店長さんが桃源への帰り道へと向かっている丁度その頃、地球暦11月18日、タカミチ君がようやく日本は麻帆良へと飛行機で戻ってきた。
国連での仕事も一段落し、後は現地のアメリカ魔法協会に任せ、タカミチ君は本所属の日本魔法協会へと戻ってすぐ一応報告に入った。
基本的にはこれまでも情報連絡は密に行っていたので、再確認という感はあったが、間違いないのは、国連でも日本でもどこも魔法使いの人達は忙しい、というこの一言に尽きる。
タカミチ君は、近衛門から直接勧めを受け、ネギ少年達が先月の中旬頃からホテル暮らしをやめ、現在借りて住んでいる家に訪問し、ネギ少年の無事な姿をその目で直接見ることができた。
タカミチ君はネギ少年に自分の力不足を謝ったが、ネギ少年はネギ少年らしいいつも通りの返答をしてその場を収めた後は、タカミチ君がこの3ヶ月程の間やっていた仕事について話せる範囲で聞かせて欲しいと頼み、タカミチ君はそれならば、と応えていた。
ナギがガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグの死の真相について尋ねたのだが、タカミチ君自身も犯人は一体誰だったのかは分からず「ガトウ氏が得ていたかもしれない何らかの情報」というものにも心当たりは無いと答えた。
遺品……ガトウ氏の所持していた捜査資料は、当時タカミチ君自身がメガロメセンブリア捜査官ではない為権限が無く、メガロメセンブリアにとって機密性が高いという理由で、引き継ぐ事はできなかったとの事。
タカミチ君自身その事に関しては「秘密裏にメガロメセンブリアにそれらの捜査ファイルが処理された可能性はあるかもしれない」と悔しそうな表情で言っていた。
その後、タカミチ君はゲートポートが丁度開通する日がその翌日であった為、結局麻帆良に2日だけ滞在し、今度は魔法世界へと星を跨いだ。
メガロメセンブリアでタカミチ君がすることと言えば、地球の国連でずっと仕事をしていた関係上、直接本国へこれまた一応報告に行くのと、クルト総督、リカード議員と直接話す為。
クルト総督はリカード議員には超鈴音の端末を「地球に部下を向かわせて近衛理事経由で特別に超鈴音に作成を依頼した」という説明を付けて渡したらしい。
……実際3人で詳しく何を話したのかまでは分かりかねるが、魔法世界は魔法世界で環境変化が激しいのでそれの現状把握等色々であろう。
確認していないのは、地球側の隔地観測で隠れ潜んでいる魔法使いの捜索を優先して行い、しかしながらブラジル辺りになると観測が大変手間が掛かっていたからである。
タカミチ君がリカード議員に話すとすれば一応ネギ少年が生きていた……という事であろうか。
話したとしても、ネギ少年本人を見ない事には俄には信じられないであろうが。
そして……そうこうしているうちに、追跡観測していた店長さんが桃源に帰還し「今まで見たこともない樹高50m程の極寒にも関わらず青々しい葉の茂る木が龍山山脈の向こう側に生えている」という発見情報を現地で報告していた。
この情報はまほネットに伝わり、店長さんが神木・扶桑の写真を収めていた画像も相まってメガロメセンブリアでは「地球に存在する例の神木・蟠桃に非常に良く似ているのではないか」とすぐに正解に辿りつかれた。
店長さんは寒い所、登山好きで有名らしく、彼の発見情報が嘘だと思う人は桃源の現地では少なく、第一発見者としてインタビューを受けていた。
魔法世界ではまだまことしやかに囁かれている程度であるが「旧世界の世界樹の奇跡」という噂は各地に広がっており、店長さんの不思議な木の発見の報は人々の注目を少なからず引いた。
……これに対し、いち早く動いてくれたのはタカミチ君である。
予てより頼んでおいた桃源の悪名高い黒幇組織の処理の件を「存在すると覚しき世界樹を黒幇組織が接収しないように先行して叩く」という名目の元に自然な形で実行に移してくれたのである。
タカミチ君はメガロメセンブリアの悠久の風所属として高速軍用艦に乗り、オスティアを経由することなく直接メガロメセンブリアから桃源へと飛んだ。
流石にオスティアを経由しないのと軍用艦級の精霊祈祷エンジンを搭載しているだけあって、かなりの速さであり2日半で着いた。
しかし、それでもその2日半の間に桃源自体に常駐している飛空艇が龍山山脈もあるものの、世界樹を実際に見に行こうと山脈越えをしてやってきた。
続々到着した小型や中型の飛空艇群はというと、神木はあるが周囲の環境は極寒なので、飛空艇の中でないと寒いし、出る場合には魔分で身体保護をしていないとやっていけず……その点は全員平等であった。
店長さんのような個人ではなく桃源の公式報道機関が神木・扶桑の姿を映像に収めたという事自体には意味があったと思うが、神木の認識阻害は予め使用していたので、特に神木・扶桑が害されるという事は起きなかった。
問題の黒幇組織であるが、タカミチ君の前では組織と呼ぶには脅威とも言えない物であり……瞬間的に壊滅した。
今まで放置していたのは脅威度がそこまで高くなくいつでも潰せるからという理由がメガロメセンブリア自体でもあったのだと思われる。
本題はその後。
桃源はメセンブリーナ連合に属する規模としては小さい一国であるが、龍山山脈を越えたここ、神木・扶桑のある極地は一応領土ではあるが管理は全くしていない。
メセンブリーナ連合にとって、これから、明らかに重要であろう世界樹を一体どこが管理するのかで揉めるのは当然の流れであった。
また、それだけに留まらず、これはメセンブリーナ連合だけの問題か……と言えば、アリアドネーもヘラス帝国も非常に重要と覚しき世界樹の近くに、いくら極地であるとはいえそれでも拠点を持ちたいというのは道理、メガロメセンブリアは既に地球の神木・蟠桃を中心に拠点を構えているのに2本目まで管理するのは不公平……という事で話は更に複雑になっていった。
結果、魔法世界三大国家間において再び三ヶ国会談の開催が決定され、今回の開催場所は直接桃源となった。
……各国細かい調整をするのにやや時間を要し10月49日から「魔法世界の世界樹の扱い」を議題とする三ヶ国会談が開催されるに至った。
この三ヶ国会談、結論が1日や少しで出るという事もなく、ある程度交渉に時間を要するような状況に入り始めたのだが……最終的な落ち着く結論は三ヶ国共同管理が妥当であろう。
答えは単純であるが、それに伴うアリアドネー、ヘラス帝国の公的人員が桃源にどう拠点を構えるかという点、オスティアはメガロメセンブリア本国の信託統治領であったが、桃源はあくまでもメセンブリーナ連合に属する一国であるという辺りの調整に時間がかかる。
代表出席者は、メガロメセンブリアからはリカード議員、アリアドネーからはセラス総長と2人は前回と同じであるが、ヘラス帝国は今回テオドラ第三皇女ではなく、更にそれに桃源が入り、前回のウェスペルタティア王国の要石の移送の時のように事が円滑に進まないのは無理も無かった。
アリアドネーからセラス総長が直々に出てきている、という事は世界樹が重要だというのを如実に表しており、それを受けて桃源としてはそう簡単にメガロメセンブリアの案を「はい、分かりました」と飲もうとはせずできるだけ自分達にとって有利、利益があるようにと主張をする為、議論はあっさりとは終わらなかった。

……さて、地球の日本、麻帆良はどうかというと、2学期の期末考査も修了、12月20日に終業式も問題なく行なわれた。
この2ヶ月でネギ少年は転移魔法を自己・ゲート構築型・短距離~中距離転移と自己・即時瞬間移動型・短距離転移は習得した。
ゲート構築型に関してはもう一息距離が伸びたらエヴァンジェリンお嬢さんの魔法球の雪山、砂漠系の物で端から端まで飛べるであろう状況まで1ヶ月かかるか掛からないかの秒読み段階に入っており、これから長距離転移を実際練習するにあたって、どうするのかというのが問題になりそうだ。
本人が言うには「他者転移と範囲指定転移も覚えたい」という事で、即時瞬間移動型を本格的に伸ばしていく必要がある……との事。
超鈴音の要する転移魔法はほぼ自己転移のみとなりがちなゲート構築型では不可能なので即時瞬間移動型を鍛えるのは当然と言えば当然。
ネギ少年にしては意外と時間が掛かっているとも言えるような気がするが、それというのも、魔法の練習ではなく、研究自体にかなり時間を費やしているのと、超鈴音が送ったパソコンで色々勉強もし、宮崎のどか、綾瀬夕映……果てはアスナも交えた家庭教師のような事をしているからだ。
当初ネギ少年の生徒は宮崎のどかと綾瀬夕映の2人であったのだが、その授業風景にアスナが危機感を持ったのかどうなのか「ネギ……あのね、私も一緒に勉強教えてもらっても良い?」と尋ねた事により、増えた。
ネギ少年自身は「アスナが勉強好きになってくれると嬉しいな」と眩しい笑顔で快く了承し、アスナ本人も嬉しそうにしていた所までは良かったのだが……勉強の進捗度に問題があった。
ネギ少年が教えているのは全部が全部難しい事ばかりではなく、アスナも聞いているだけで理解できて身になる話も多かったのだが、数学や物理や化学となると途端に「???」を連発したのである。
結果、ネギ少年はこの手の分野に関しては、大体宮崎のどか、綾瀬夕映の2人に同時に授業をした後、アスナのまずは中学生水準からと手取り足取り教える事となり……本人は「この前、分からない事があったら自分で調べて解決するからって言ったのに結局教えてくれてありがとね、ネギ」とやや申し訳なさそうにしながらも優しく教えてくれるネギ少年に癒されていたように見えた。
しかし、必ずと言っていい程、度々アリカ様が「アスナ、そこは私が教えてやろう」と乱入してくるという事があったりするのだが……実に平和そのもの。
小太郎君もあれから定期的に訪れては主にナギとネギ少年とアスナ、組み手……最近は以前に近い本格的戦闘訓練もそれなりの範囲でやったりと交流は少しずつ増えつつある。
エヴァンジェリンお嬢さんはナギとは一切模擬戦もする気は無く、そもそも大体外出しているのであるが、たまにネギ少年、小太郎君の相手を軽くするぐらいに留まっている。
一方超鈴音はというと、魔法世界には一週間に2回は飛び、1回はまほネットで必要なものの注文を出し、2回目は注文した品物でオスティアの物流センターに届いたものを家まで配送してもらい、受け取るという周期を繰り返している。
その甲斐あってか、というべきか、超鈴音の魔法球の中は精霊祈祷エンジン系の部品や魔法世界の飛空艇の装甲等と言ったものが充実してきている。
クルト総督との植物工場の件に関しても着実に進展しており、魔法世界で運用できるように調整を加えた植物工場の設計案も纏まり既に総督に提供し終わった後で、クルト総督も根回しを始めている。
ただ、やはり養液と特殊培地の製造に関しては新規に準備が必要という事で超鈴音が魔法世界で流通している素材での作成法を考案するのにしばし時間を要し、完成した製造法についてもつい先日クルト総督に説明し、今度はその事業を実際に行える魔法世界の企業の選定作業中である。
また、植物工場は最低線に関しては公共性が必要ではあるが、余裕が出てしまえば営利性を持ったものとなるのは明らかであり、養液と特殊培地に関しては特定の企業が独占するのは良くない、と同時に逆に無制限に広めてしまうというのも問題があったりとその調整はクルト総督次第。
当然、食糧問題はメセンブリーナ連合だけの話ではないので、アリアドネーやヘラス帝国にも技術を広め、貿易摩擦が火種で戦争などという事は起きないようにする必要もある。
再び地球側の状況に目を戻せば、人工衛星の各部品の製造進捗状況は特注プリズムが難航気味ではあるが、中枢の高性能部品については麻帆良で用意してしまうので、大体は順調であり、目処としては2004年初夏頃から可能な部品に関しては徐々に組み立て始められれば……という予定だそうだ。
エヴァンジェリンお嬢さんに超鈴音が依頼した、魔力球……魔分球、既にその数は5基となっていて今後も増え続ける予定である。
MOCの加工法と半永久魔力炉は、他の作業が時間を消費している為まだ試行錯誤の段階であるが、それなりに形は見えてきていると超鈴音は言っていた。
そして、日本が制定に動いている魔法法と特定独立行政法人魔法総合研究所法案については原案作成と法文化の作業を最初から並行して行っていた部分があったが、原案についてはそろそろ関係省庁や与党との意見調整に加え公聴会における意見聴取等が始まりそうである。
関係省庁や与党との意見調整と言っても、彼らはまだまだ魔法については分からない事ばかりであり、意見調整そのものができるのかという事に不安もあるが、それについては近衛門達魔法使いが政府と連携して魔法についての情報知識の浸透を図るという対応が取られている。
……故に、絶対数の少ない魔法使い達は非常に忙しい。
ここで、一般の人々に目を向けるとどういう反応を世の中でしているかと言えば……例えば以前にも取り上げた匿名掲示板を少々取り上げてみたい。


魔法に夢見る民の集うスレpart36

289:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:26:02 ID:1E0iHOw3
  魔法省設置とか何度聞いても吹くwww

290:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:26:04 ID:hA8YwbNP
  J・T・ローリングは先見の明があったな

291:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:26:56 ID:XIwbPxbU
  まだ完結してないのにマジで魔法使いがいたとか逆に困るだろ

292:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:29:21 ID:L2BSGjU3
  なんとかなるさ!

293:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:31:26 ID:+npujxxS
  続きは読みたいけど執筆し続けると魔法使いのイメージを損なうとか問題になりそうだな

294:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:33:19 ID:gH7M6PHM
  ファンタジーがいつの間にかリアルになっていたでござるの巻

295:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:35:47 ID:MKfatKfL
  俺今年やっと魔法使いになったんだが
  原因は分からないが魔法が使えない……
  どういうことなの?

296:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:41:56 ID:MbojxlEO
  もうそのまま妖精目指せよwww

297:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:43:49 ID:onEW8JiS
  >>295
  俺も使えるはずなのに何故か使えない

298:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:46:13 ID:gUtVC77v
  誰か言うと思ったw

299:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:47:51 ID:o1DHLg1c
  クソワロタ

300:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:50:04 ID:k351XO6t
  そのうち風評被害だとか文句言われんぞww

301:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:52:25 ID:SzGdsqw3
  >>295
  プラクテ・ビギナル!
  の後何か適当に何か言ったら魔法出るぜ、きっと
  諦めなければな……

302:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:53:52 ID:M9CImEnD
  傍から見たら痛い子すぎる絵が浮かんだ

303:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:55:01 ID:VlMqj0an
  あえて言おう
  もう子供ではないと

304:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:57:08 ID:gH7M6PHM
  大人なだけに夢がないな

305:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)17:58:12 ID:l1uVgNGb
  つか魔法学校日本にいつできんの?
  俺入りたいんだけど

306:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:03:47 ID:TsF+xeVL
  どーせ当分先だろ

307:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:05:33 ID:9laG5h1d
  とにかく箒で空飛びたいなぁ

308:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:13:45 ID:1sYkVp8O
  飛ぶのが野郎じゃないと下からスカートの中が見えるんですね
  わかります

309:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:17:40 ID:SzGdsqw3
  あえてスパッツに一票

310:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:18:53 ID:1E0iHOw3
  そこはドロワだろJK

311:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:23:14 ID:J7SeN0wC
  野郎もスカートという可能性はありますわよ?

312:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:29:42 ID:ItEW14kH
  おい、やめろ

313:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:33:49 ID:cmnVEuzq
  おっさんがスカートはいて並んで飛んでるの想像して死んだじゃねーか

314:名無しの魔法使いたい:2003/12/13(土)18:35:24 ID:pxvObnoA
  スカートの話から離れろよwww


間違えたかもしれないが……このスレッドなるもので軽く流されたJ・T・ローリングさんの世界的に有名な著書はキリスト教やイスラームの保守派・原理主義者の方々から批判を浴びた事がある。
理由としては神以外に由来する超自然的な力である魔術は罪だそうで、旧約聖書では、魔術が偶像礼拝や犯罪・安息日違反と並んで罪であると記されている。
しかしながら、この理由であるとすると私は完全に罪そのものなのではないかと一抹の不安を覚える。
それはさておき、魔法が公開されて何か酷い事になったか……というと実際のところ強行手段的な動きは出ていない。
シスターシャークティ、春日美空、ココネ達や、ミッション系である聖ウルスラ女子高等学校に高音・D・グッドマンが在籍しているが、宗教と魔法の関係は中々に微妙。
それに各国魔法に手をつける事は最早決定事項である以上、声高に批判したり弾圧するという行動を取られるのは各国政府にとって非常に都合が悪いという事情も絡む。
……ともあれ、次に行こう。

【世界の本を】魔法少女ビブリオンの超リアル実写化を考えてみるスレ18【守るため!】

45:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:40:05 ID:TsF+xeVL
  ビブリオンの方が真の架空の魔法的な意味で本当にフィクションと化したな

46:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:43:31 ID:Xd+ZhqMa
  リアルさを追究するどころか現実だよ!!

47:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:44:43 ID:PPMcLdbN
  セットをちゃんと揃えればいける

48:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:46:35 ID:+L318sca
  夢が広がりすぎて夜も眠れない…

49:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:50:56 ID:3e9I4e5Z
  攻撃魔法がどんなのかによらね?

50:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:51:11 ID:2Xk3oWXO
  全然情報無いしな

51:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:52:03 ID:t+msT7CT
  無敵の呪文は

  「なんとかなるよ。絶対、大丈夫だよ」

  これに限る

52:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:54:05 ID:CkNPiSVb
  それは専用スレに行けと言いたい所だが
  もう……三年か……

53:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:56:00 ID:SzGdsqw3
  そういう意味の呪文ばっかりだったら癒されるぜ

54:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:56:09 ID:EXL8bJbp
  はにゃーん?

55:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:56:59 ID:30rzvX8i
  そんな事よりキャスト考えようぜ

56:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)00:59:18 ID:l2tlNr9G
  もともと実写化で起用される予定の新人が魔法覚えれば全部解決

57:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:01:36 ID:+FDmxwZk
  年齢詐称薬?とかいう見た目変えられるもの使って
  ベテラン女優を若かりし頃に戻して起用してほしいと思ったり

58:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:03:53 ID:t+msT7CT
  >>57
  そしてリアル合法ロリができるようになるんですね
  わかりますw

59:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:05:29 ID:z2w2HbgL
  昭和な髪型だったあの人達が現代風×若いで蘇ると思うだけで胸熱

60:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:06:10 ID:vOEdaYeG
  詐称って時点で犯罪臭いけどなw

61:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:08:46 ID:0yuxlVWG
  リアル魔法少女ならこの子どうよ?
  麻帆良の女子中通ってる本物の魔法使いらしい
  image-search.mahoo/sports/gallery/view_photo/1299565794021o.jpg
  左から2番目

62:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:12:42 ID:+FDmxwZk
  つ、釣りじゃない…だと…?

63:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:16:06 ID:+L318sca
  ビブリオンピンク向けだな

64:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:18:17 ID:zD3lar61
  釣りかと思ったら予想以上にレベル高くて吹いたw

65:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:19:46 ID:tbZ3POeS
  普通にかわええww
  名前は?

66:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:24:48 ID:KxLEv5CF
  可愛いのは同意だがマジで魔法使えんの?

67:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:28:53 ID:0yuxlVWG
  >>65
  愛衣と書いてメイと読むらしい

  >>66
  使えるかどうかは知らない
  麻帆良にいる魔法使い学生のうちの1人らしいって噂

68:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:34:16 ID:NwRvrKIW
  うはww
  マジでこの愛衣ちゃんって子が魔法使いだったら
  検閲削除され……ないか?ないのか?

69:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:35:43 ID:AxHNiErh
  この写真前に見たな
  魔法少女が混ざっていたとは……

70:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:37:45 ID:tbZ3POeS
  めぇぇぇいちゃぁぁぁぁぁぁん!

71:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:38:58 ID:z2w2HbgL
  電子精霊とやらの性能を見せてもらおうか!

72:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:42:00 ID:NwRvrKIW
  ぶっちゃけ電子精霊ってただの巡回監視プログラムだろ

  >>70
  一応言っておくが隣にTTRはいないぞ

73:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:43:41 ID:tnPJd2+c
  画像が消えるか
  それとも61が消えるのが先か

74:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:44:01 ID:8v5ziAkv
  61だな

75:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:53:33 ID:rVsB04X0
  悲しいけど、これ現実なのよね

76:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)01:55:09 ID:zD3lar61
  仕方ないね

77:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:05:48 ID:+L318sca
  61の事は忘れないぜ

78:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:08:39 ID:SQG7FNsA
  麻帆良のニュースサイトのものだから61はともかく画像は当分消えないけどな

79:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:09:29 ID:N27XU+KQ
  ところで攻撃魔法の話だけど
  ビブリオ・アクアラプソディー
  ビブリオ・スパイラルシュート
  とか普通に極太ビームじゃん
  もし似たようなのが実際あったとして威力やばくね?

80:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:14:32 ID:jlIl9Dcj
  単騎でTUEEEEEEできるー?

81:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:15:02 ID:rVsB04X0
  本を守る為にしてはいくらなんでも
  必死すぎるっていうのがオチだなwww

82:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:19:52 ID:SQG7FNsA
  攻撃魔法公開してない理由って
  本当にそういう大規模な魔法があるからだったりすんじゃね?
  
83:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:24:45 ID:gUtVC77v
  どっかの軍事政権が極秘で精鋭部隊でも作ったら
  第三次世界大戦起きかねないな

84:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:26:56 ID:+FDmxwZk
  まさに大惨事?
  まさに大惨事?

85:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:31:47 ID:LdeaGHr5
  うめぇww
  なんて言うと思ったか!
  しかもわざわざ2度も言うなw

86:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:34:19 ID:rVsB04X0
  ま、言いたくなる気持ちはわかる

87:名無しさん@お腹いっぱい。:2003/11/24(月)02:38:34 ID:6Yc3Tjku
  あくまでもフィクションだったのに
  現実が絡むとすぐ殺伐とするのね


……因みに、ネットワークに介入して調べた所によると、ビブリオ・アクアラプソディーやらビブリオ・スパイラルシュートというのは、雷の暴風の属性互換とでも言うべき見た目をしている。
今はいわゆるネタ程度で終わっているが、いつか人によっては「本当に洒落にならない」と言う日も近いかもしれない。
原子力の利用目的に平和利用(原子力発電)と軍事利用(核兵器)があるように、魔法もうまく使い分けて欲しい。
できれば比重としては平和利用に多く向けてくれるのが最善であるが。
……では、後もう二つ続けて見てみよう。
エヴァンジェリンお嬢さんと、既にネットでも超りん(ちゃおりん)の名で親しまれている超鈴音である。

【永遠の】エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(御年27歳)に浄化されるスレ159【美少女】

1:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:10:21 ID:Z4ojeq14
  永遠の美少女、Evangeline・A・K・McDowell(御年27歳)に浄化され、澄んだ心になる為の専用スレです
  浄化される事を目的としたスレにつき、常に落ち着いた対応を心掛けましょう
  適宜浄化し合う心遣いを重んじましょう

  ・次スレは>>900の人お願いします。無理なら無理と言ってレス指定を
  ・スレ立てできない人は>>880辺りから落ち着いて様子を伺い書き込まないこと
  ・スレ建てを行う際は重複を防ぐため、必ずスレ建てを行う旨をカキコして下さい

  前スレ
  【永遠の】エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(御年27歳)に浄化されるスレ158【美少女】
  yuzuri.NIchnet/test/readcgi/idol/1356683129/

  関連スレ
  【永遠の】Evangeline A. K. McDowellをおおいに盛り上げるスレ143【ロリータ】
  yuzuri.NIchnet/test/readcgi/idol/1366524682/
  【人間】エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの軌跡を記録するスレ98【国宝】
  toku.NIchnet/test/readcgi/rakugo/1162515478/

  退避スレ
  【お赦し下さい!】エヴァたんに我慢できずについハァハァしてしまうスレ367
  yuzuri.NIchnet/test/readcgi/idol/1362653498/

  たまに呟かれるエヴァ様からの福音(善き知らせ)
  tweeter.coom/EvangelineMcDowell

  エヴァ様の
  舞う姿見て
  生涯に一片の悔い無し
  
2:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:11:02 ID:1E0iHOw3
  1乙

3:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:13:38 ID:hA8YwbNP
  1字余り乙

5:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:14:48 ID:z2M1eF18
  スレ立て乙

6:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:14:59 ID:gH7M6PHM
  >>1字余りすぎ乙

7:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:15:41 ID:L2BSGjU3
  いつも神々しすぎる

8:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:16:22 ID:l1uVgNGb
  浄化されすぎて

      _|\∧∧∧MMMM∧∧∧/|_
      >                  <
    /\  ──┐| | \     ヽ|  |ヽ  ム ヒ | |
    /  \    /      /  | ̄| ̄ 月 ヒ | |
        \ _ノ    _/   / | ノ \ ノ L_  o o
      >                  <

9:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:17:01 ID:9laG5h1d
  浄化された  

10:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:17:49 ID:1sYkVp8O
  ああ……心あらわれるようだよ

11:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:18:36 ID:SzGdsqw3
  日本文化って素晴らしい

12:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)10:19:17 ID:3e9I4e5Z
  エヴァ様マジ天使

13:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:46:51 ID:RQ5nCZBQ
  口調とのギャップがたまらん

14:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:50:26 ID:zHdxqEYq
  質問なんだけど、生で見るのと映像で見るのとは
  違うって聞いたんだけどどう違うの?
  直接麻帆良に見に行った事ないから教えて欲しい

15:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:53:34 ID:zcaUxZS8
  >>14
  本当です
  生だと常に光の残滓みたいなものが見える
  そしていつかアレを瓶に詰めたい

16:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:54:17 ID:E9e2hWXe
  生と映像とじゃ天と地程の差があるよ 

17:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:56:22 ID:UQmvKxQj
  どんな宝石よりも美しいエヴァたんをクンカクンカしたいお

18:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:57:17 ID: PQgHggfl0
  >>17
  その欲望を浄化するッ!

19:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:57:46 ID: MysfsrSB0
  >>17
  その汚れた心、祓ってやんよ!

20:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)13:59:07 ID:5pIpN885
  >>19
  つ聖水
  
  これを使え!

21:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:04:19 ID:gGfG6lej
  >>17
  つ鎮静剤

22:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:07:40 ID:LTVSl8f6
  あの髪は世界の宝  

23:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:13:15 ID:t0KZIUFp
  >>14
  生は冗談抜きで後光が見える
  俺のばっちゃは拝んでた

24:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:15:59 ID:V9Hzfpnr
  生き仏と見間違えても問題ない
  あの輝きの先に浄土がきっとある

25:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:18:23 ID:zHdxqEYq
  >>15,16,23,24
  情報サンクス
  マジかー講演見に行きたいなー

26:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:27:09 ID:hRvM8tyt
  恒例の麻帆良祭は講演回数多いし
  座席に居座り続けるのはマナー的に無しだから
  意外と見れるよね

27:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:30:33 ID:Z4ojeq14
  >>26
  2004年は就職しようと思うbyTweeter

  福音来たと思ったらタイミング合いすぎ
  エヴァ様まさかの就職発言……

28:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:31:55 ID:OEWXuTbg
  な、なんだってー!?

29:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:34:27 ID:m9xSOPr6
  ホントだwww
  サークルどうなんのw

30:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:36:55 ID:LTVSl8f6
  就職発言キター!

31:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:40:26 ID:gGfG6lej
  労働基準法違反ですよエヴァ様!

32:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:43:05 ID:UQmvKxQj
  少女が働かないといけないなんて……世も末だな
  (´;ω;`)およよ……

33:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:45:49 ID:p9RvR87J
  雇用側は書類の27歳という数字に騙されてはいけないぞ!
  何よりも見た目が事実を物語っている

34:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:47:17 ID:Vhx1scz3
  多分雪広になる予定byTweeter

  就職先は雪広HDだそうです

35:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:48:29 ID:4Ar8qRLH
  や は り 雪 広 H D か

36:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:50:24 ID:eobDLR+p
  着物の売上伸びまくった原因だから当然ですな
  これからはCMに、テレビに進出すれば良いよ!

37:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:51:57 ID:Z4ojeq14
  先月から見るようになったアジエ○スのCMに
  エヴァ様ピッタリじゃ?

38:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:52:38 ID: E7Lnx6zrO
  >>37
  商品の宣伝にはならないだろwww

39:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:53:54 ID:p9RvR87J
  宣伝にならない同意ww

40:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:54:48 ID:RsJNpFpq
  でも……すごく……見たいですっ!  

41:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:55:35 ID: pimX761Z0
  言うまでもないな

42:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:58:53 ID: wyEm2EQu0
  いやマテ、エヴァ様はアジア人女性じゃないから
  商品のテーマに合ってないという致命的な問題があるぞ

43:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)14:59:44 ID: ztfDWdOyO
  >>42
  新しくEuropienceを作ればいいじゃない

44:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:01:29 ID:urmO/jQg
  >>43
  東洋美に回帰できてねーよwww

45:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:03:37 ID:GVMNRd5d
  ただの現状維持じゃんww

46:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:03:53 ID:eTLhxgG3
  エヴァ様程日本文化を大事にしている
  外国人女性はいないんだ
  なんとかしてよ花宝さん

47:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:05:48 ID:SpuSZF3l
  Evangenceで新しくブランド作れば良くね?  

48:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:06:27 ID:urmO/jQg
  いや、ここはあえて競合しないようにだな……

  「エヴァしゃんぷ」と「エヴァりんす」で分けて

  キャッチコピーは
  「エターナルビューティー 世界が愛でる髪へ」
  で、どうよ

49:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:09:52 ID: VPsYe/sz0
  >>48
  ちょwwwエヴァしゃんぷww
  その商品名子供向けだろwww
  でも可愛いから許す

50:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:11:45 ID:qFoUZW0+
  キャッチコピーとのギャップが酷いw

51:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:13:36 ID:bh01CltO
  超りんみたいな呼び方なノリで吹いたww

52:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:14:35 ID:qP0/SXCu
  エヴァ様の体臭がしそうな感じがプンプンする商品名に
  思わず俺用に買い占める自信がある

53:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:15:00 ID:HlLr/afE
  >>52
  俺の分は取っておいてねー

54:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:16:19 ID:QZD1JGtO
  お前ら一旦落ち着いて全員浄化されろww

55:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:18:33 ID: 0+tjlKvl0
  あれ…洗う時に使う商品だからいんじゃね…?

56:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:19:25 ID:bh01CltO
  間違いなく発売したら一石二鳥ですね

57:癒されたい名無しさん:2003/11/22(土)15:21:04 ID: YZ9Dftvj0
  本来の対象層と違う対象層の方が得した気分になる商品とかw
  だが、俺も出たら買うわ

……因みに【お赦し下さい!】エヴァたんに我慢できずについハァハァしてしまうスレ……の方が数字で見て分かる通り非常に伸びが良く、本来の退避スレはこちらだそうなのだが……要するにどうも世の人々は自制できないらしい。
そういう割には生でエヴァンジェリンお嬢さんを見ると、必ず浄化されて正気に戻り、その為、御用になった紳士は未だにいないとか。
間違いないのは、定型句で言うなれば「みんな良く訓練された住人達」だというなのだろう。


【麻帆良】超鈴音の超人性について語るスレpart54【最強頭脳】

125:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:41:50 ID:B5UgdNxp
  はっきり言って弱点ない子だよなー

126:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:42:28 ID:lJxUXEaO
  研究ばっかで料理はできなさ…って思えば
  料理も超上手いって言う

127:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:43:18 ID:LSxNmFj8
  麻帆良では超包子の肉まん作ったのが超りんとその友人って逸話は有名だもの

128:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:44:02 ID:8v5ziAkv
  6月2日の新聞記事の写真の超りん超可愛いよ

129:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:44:03 ID:qlHg2Q+G
  髪下ろしてるのってそれ以外に写真無いよなw
  もともと写真自体少ないけど

130:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:44:11 ID:fSpPtaLY
  カラーじゃないのが実に惜しいっ

131:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:44:25 ID:WFbEFhpL
  ああ、一緒に最先端の研究できている麻帆良大工学部の連中が羨ましい!

132:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:44:30 ID:0Lm4dj3g
  俺は今年受かって見せる!

133:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:45:33 ID:iYUGIwTX
  まだ中三の子が大学の研究会牛耳ってるとか
  普段研究会はどう活動してるんだろw

134:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:45:53 ID:StEZZdJc
  それ言ったら東洋医学研究会は会長職ですよ

135:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:47:42 ID:SoS20T79
  素性謎すぎだけど日本に居てくれて良かったと思うw

136:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:47:56 ID:qlHg2Q+G
  >>132
  競争率十数倍は軽く越えるだろうから頑張れ

137:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:48:25 ID:fSpPtaLY
  工科大、国際大もヤバイって話らしいから今年麻帆良は私立最難関確定
  
138:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:48:31 ID:WFbEFhpL
  大学までエスカレーターとか小学生から通っている連中は得だよなー

139:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:49:23 ID:r//fpKpW
  >>135
  絶対とは言えないけどこれまでのスレの流れから
  超りん中国人じゃないのはほぼ間違いないよねw

140:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:49:48.29 ID:GZYBe48w
  もし中国人だとしたら中国は今頃世界一の技術大国になってた筈

141:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:49:57 ID:hw0eVAzZ
  ここで超りん宇宙人説を唱えてみる

142:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:51:08 ID:SoS20T79
  >>141
  火星があるじゃん

143:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:51:30 ID:StEZZdJc
  火星人、魔法世界人だとしたらわざわざ地球来る必要あんの?
  って話はもう散々したな

144:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:52:54 ID:JsNxvRxf
  一昨年の夏の南極の未確認飛行物体に実は乗っていたとか

145:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:53:01 ID:2WmVnEDV
  あれかwww
  何かあの子だとねーよwwとは言い切れないのがwww

146:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:54:21 ID:SoS20T79
  >>145
  だとすると、母星に宇宙船だけ送り返したって事にならないか?w

147:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:54:24 ID:qlHg2Q+G
  話がいつの間にか惑星レベルにwww

148:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:54:39 ID:fSpPtaLY
  それでそのうち宇宙艦隊が太陽系の果てからやってくるんだろw

149:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:54:59 ID:gnAf932W
  魔法どころの話じゃねーよw

150:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:55:53 ID:8v5ziAkv
  超りんは魔法使いじゃないのかな?
  JAXAに出かけた時魔法使いの先生が付いてったの
  ニュース映像確認したら後ですぐ分かったし関係はありそう

151:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:56:39 ID:jVl+BOP9
  いや、あの付いてったのは多分護衛だろ
  命狙われててもおかしくないし

152:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:57:06 ID:JsNxvRxf
  >>150
  魔法の勉強してたんだったら
  あんな技術力はまず身につけられないと思う

153:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:57:16 ID:pxvObnoA
  魔法関係無く、どう考えてもあの技術力は
  地球上のどこであっても身につけられないかと  

154:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:58:21 ID:irxPDjXz
  もう宇宙人だって言われた方が納得できるぞww

155:超名無しさん:2003/12/07(日) 18:58:27 ID:StEZZdJc
  超人類って事でIQどれくらいなのかも気になるな

156:超名無しさん:2003/12/07(日) 19:01:04 ID:cRqbOQor
  そもそもIQじゃ超りんの超人性を正確に測定するのは無理そう

157:超名無しさん:2003/12/07(日) 19:02:27 ID:znF/TP6f
  超りんの話ばっかりだけど、超りんと一緒に研究してる
  葉加瀬って子も天才なんだぜ!

158:超名無しさん:2003/12/07(日) 19:03:13 ID:pxvObnoA
  ハカセwww

159:超名無しさん:2003/12/07(日) 19:04:05 ID:VIvYTXJC
  読んで字のとおりの良い苗字してるなw


……延々と好き勝手言う掲示板と化しているが、超鈴音は本当の意味での宇宙人ではない。
他には相変わらず【魔法】麻帆良学園都市に常識的ツッコミを入れるスレ【都市】は健在で、ここ最近は時期が近づくに連れ小・中・高・大学受験関連の話題が活発になってきているようだ。
それと、何故私がこの匿名掲示板ばかり取り上げたのかと言えば……意外と面白いからである。
……そして、12月21日日曜日、人によっては待ちに待っていた冬休み。



[27113] 80話 家庭訪問
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:47
12月21日日曜日朝、数日前に再び魔法世界から地球は麻帆良へと戻っていた高畑・T・タカミチは綾瀬夕映と共に、麻帆良を出発した。
数時間かけて向かう先は静岡県下田市にある綾瀬家。
電車での道中2人は時折話をしつつも、夕映は携えてきた本を読み、高畑はまだまだ山積みである仕事の書類を片づけるべく、ノートパソコンに向かいそれぞれ過ごした。
伊豆半島に入り、頻繁に海岸線を左手の車窓から臨むことができるようになってから、2人は時折その風景に目を移した。
12月も末とあって気温が低く、澄み渡る空と海のコントラストの美しさが良く映えていた。

「いい景色だね。夕方はきっと綺麗なのかな」

窓の外を見て高畑が呟いた。

「綺麗ですよ、高畑先生。私の名前はこの伊豆で夕焼け見える時間帯に生まれた事から、おじいさまが考えてつけてくれたです。夕日に映えるから、夕映と……」

夕映は読んでいた本から顔を上げ少し遠い目をして答えた。

「夕映君の名前は……そういう由来があったのかい。素敵な名前だと思うよ。おじいさまというのは……綾瀬泰造さんか」

「はい……私が小学校6年生の時に亡くなったです」

寂しげに夕映が言った。

「……蒸し返すようで済まないね」

高畑が謝った。

「いえ、私も少し景色を見て思い出しただけなので気にしないで下さいです。今頃のどかも葛葉先生と実家へ向かっているですが……私達が正式にその、生徒になって本当に良いのでしょうか?」

夕映は、やや微妙な表情をして高畑に確認した。

「うーん、僕としては学園長から聞かされた時は予想外だったんだけどね。あちらでの事情が事情だったし、夕映君とのどか君がいなければ今頃どうなっていたかも定かではない。それに今のこの世の中になったからこそ、ご家族にもきちんと話せるからね。夕映君自身はどうだい?生徒になるという件を受けてくれたけど」

高畑は軽く苦笑しつつ、すぐに真面目な表情をして尋ねた。

「願ってもない話です。私のやりたい事に必ずプラスになるですし、喜んで受けるです」

夕映は静かに答え、その目には輝きが宿っていた。

「……それは良かった。まずは本人の意志次第だったけれど、後はご家族への説明と説得だ。それで、やりたい事というのを聞いてもいいかな?」

高畑はホッとしてそう尋ねた。

「哲学的見地からこの地球で……これからアレがどうあるべきかを私は考え、様々な私と意見の異なる人達とも議論したいですし、それを世界に伝え、考えるという事の重要性を忘れずに続けていきたいのです」

夕映は心に決めたという様子で、はっきりと述べた。

「ははは、なるほど、夕映君は将来有望な新分野の哲学者になるだろうね。夕映君なら絶対なると期待しているよ」

高畑は予想外な夕映の答えに驚きつつも応援すると言った。

「はい、なってみせるですよ。高畑先生もお仕事頑張ってくださいです」

夕映はそれに対し、自信有りという様子で返した。

「ああ、もちろんさ。それじゃ、この後の仕事の前に、まずはお弁当を食べるとしようか」

「はいです」

……そして2人は買っていた駅弁を食べ、午後1時頃に伊豆急下田駅に到着した。
改札を出てすぐ、あちこちのホテルや旅館の従業員が宿泊客の出迎えをしている所を右手に進み、タクシー乗り場でその中の一つに乗り込み、運転手に行き先を伝えた。
車で進むこと40分程、目的の綾瀬家の門の前へと到着した。
雪広家とはさすがに比べられる規模ではないものの、屋敷と言える広さであった。
高畑が門でインターホンを押し、数秒して夕映の母親と思われる人物の声がその応対に出た。
2、3会話をし、門のロックが開けられ2人は中へと入った。
玄関まで続く石畳を歩き、再びインターホンを高畑が鳴らした。
すると待ちかまえていたかのようにその玄関が開けられ、そこに現れたのはおでこを隠すように前髪を伸ばし、夕映にもひけをとらない長さの紫がかった髪をした女性、夕映の母であった。

「お久しぶりです。夕映さんのクラス担任を2年の2学期まで勤めていた高畑・T・タカミチです。突然連絡しての訪問、申し訳ありません」

「ただいまです、お母さん」

高畑は一礼し、夕映は帰った事をまっすぐ母を見て報告した。

「こちらこそ、遠い所ようこそお越しくださいました、高畑先生。夕映……お帰りなさい。お父さんも待っていますよ。どうぞ、お上がりください」

夕映の母は高畑に対し丁寧に挨拶を返し、夕映に対しては少しばかり驚いて目を見張って見た後、すぐに表情を緩め優しげに言った。
2人は玄関で靴を脱いで上がり、高畑と夕映は夕映の母の言葉に従い上着を預け、高畑は夕映の案内に従い応接間へと向かった。
応接間で待っていたのは夕映の父親であり、再び高畑は挨拶をし、夕映は帰った事の報告を先程と同じくした。
そこへ、茶を淹れた夕映の母が応接間に現れ、4人は向かい合って席につき、話を始めた。

「夕映、麻帆良学園での生活はどう?母さんには、夕映が麻帆良学園に行く前とは見違えて見えるわ」

夕映の母は尋ねた。

「麻帆良学園に入って良かったです。おじいさまのいない日常などつまらないと思っていたですが、今は友達もできて毎日充実しているです。お父さん、お母さん、私を麻帆良学園に通わせてくれてありがとうです」

夕映は母の質問に対し、ハキハキと答え、その何かやりたい事を見つけたというような活力あふれる様子に夕映の両親は、嬉しそうにしみじみと頷いた。

「そう……それは良かったわ。おじいさまが亡くなってすぐの頃、夕映は毎日塞ぎこんでばかりいたものだから心配していたのだけど、大丈夫そうね」

「麻帆良学園に入学させたのは正解だったようだね」

……そして少しばかり、夕映とその両親は会話を交わし、その後高畑が今日訪問した理由へ関連する話へと入った。

「本日お伺いした理由ですが、改めて、自己紹介をするのであれば、私は国連NGO悠久の風所属の魔法使いであり、現在日本魔法協会にも所属しています」

「……やはり、そちらの話ですか。先生が国連総会の生放送に出ていたのは拝見しました。今日の用件は魔法……の話なのでしょうか?」

夕映の両親はどうしてこのタイミングで高畑がやってきたのか、その理由について一つの答えが出たと共に、何故夕映なのかと疑問を抱いた。

「はい、その通りです。それについて順を追ってお話します。落ち着いて聞いて下さい。本年度1学期、夕映さんのクラス、3-Aはイギリスが修学旅行先になったのはご存じかと思います」

「ええ、京都の予定が急遽変更になったとかで……特に反対も無かったと聞いています」

夕映の母は高畑の確認に対して肯定したものの、やや心配そうな表情をした。

「はい。私はこの修学旅行には同行していないのですが、ロンドンの後、次に向かったウェールズでの滞在先は……メルディアナ魔法学校、その膝元の村でした。もちろん、魔法に関しての情報は完全に秘匿できる体制を取っていたので、生徒達に気づかれないよう対策は万全でした。しかし2日目、村の宿で生徒達が郷土料理を調理中に予期せぬ事件が起きました。私達が悪魔と呼称している者達が群を成して現れる事件です」

神妙な面持ちで高畑の話に耳を傾けていた夕映の両親は悪魔という単語を聞いた瞬間、意味が分からない、と唖然とした。

「お母さん、お父さん、本当なのです。メガロメセンブリアが現在公表している情報にはそういった類の事は触れられていないですが、私は実際にその時見たです」

フォローするように夕映は高畑の話が真実であることを伝えた。

「……そ、そうか」  「じょ、冗談ではないのね」

そういわれたものの、夕映の両親はとりあえずの反応をするに留まった。

「冗談ではありません。まずは、経緯の説明を続けます。その悪魔襲来時、夕映さんは他数名の生徒と……」

高畑は夕映の両親に、報告書であった通りの事件経緯を説明した。
夕映を狙って悪魔が襲来したのではなく、恐らくメルディアナの防衛能力の調査と夕映とともにいた別の生徒が狙いであった事、夕映はそれに巻き込まれる形でその事件の首謀者を見て、相手にも顔を覚えられた可能性があり、本人への意思確認の結果、記憶消去という方法をとらなかった事。
それに対し、夕映の両親は夕映に本当に怪我をしなかったのか真っ先に尋ねた。

「私とのどかに怪我はなかったです。一緒に同行していたおばさんは私とのどかを庇ってくれたですし、一緒にいたとても強いクラスメイトが守ってくれて、救援にもかけつけてくれて……その後すぐネギ先生と葛葉先生も助けに来てくれたです」

夕映ははっきりと怪我はしなかった事を強調して言った。

「はぁっ……怪我はしなかったのね」

夕映の母は胸をなで下ろした。

「この件について説明する事ができず、本当に申し訳ありませんでした」

高畑の本格的な謝罪が始まった。

「……説明できないのは無理も無い。ですが、京都であればそのようなことは……」

怪訝な表情をした夕映の父がもし京都だったらという事に言及しようとした。

「それは今となってはどうなったかは分かりませんが、事件の首謀者の練度は極めて高く、狙いが生徒の1人であった事からどうなっていたかは定かではありません」

それに対し高畑が弁明した。

「あの、そもそもウェールズが1年間夕映の担任であったネギ先生の故郷だと聞いているのですが……それはどういう……」

夕映の母が疑問を呈した。

「その話も含めて、説明します。3-Aには要人が固めて集められています。例を挙げると超鈴音、雪広財閥の次女、学園長のお孫さん、中国武道の名門古家の長女、そして修学旅行で狙われた生徒などです。修学旅行の一件には、特に超鈴音君にある事情があり、予定通り日本で修学旅行を取り行うのは非常に危険な可能性がありました。申し訳ありませんが、その詳細については機密事項なので話せません。1人だけ連れていかないという訳にもいかなかったので、国外で最も安全性が確保できるのが、ネギ先生の故郷であり土地勘もあるイギリス、そしてウェールズでした。他の引率教員も特別に麻帆良女子中等部の教員ではない、私と同じ魔法使いの教員を数名選定するという体勢を取りました。10歳のネギ先生が何故そもそも3-Aの担任になったか、ですが、もうお気づきの通りネギ先生は魔法使い、それも見習いです。……魔法使いの修行というのは慣習的に精霊によってその個人にとって適切なものが決められ、それを遵守する事になっていて、その修行の内容としてネギ先生は教師をすること、と決定されました。この修行内容は全く前例の無いもので、結果、諸処の事情から魔法協会のある日本、麻帆良学園、そして赴任するクラスとして選ばれたのが、学園長の身内であるお孫さんのいる当時の2-Aでした。どう言い訳しても魔法使いの勝手な事情と思われても仕方無いですが、深くお詫びします。学園長からも手紙があるのでどうぞ覧下さい」

高畑は立て続けに説明し、それに夕映の両親が反応に困っているところ、更に一通の手紙を取り出し、すぐにその魔法郵便を再生した。
手紙には麻帆良学園学園長の近衛近衛門の縮小された姿が映り、綾瀬夫妻への謝罪の言葉が近衛門の声で述べられた。
夕映の両親は立て続けに高畑から色々と説明され、間髪無く魔法郵便が再生された事に更に驚いたが、超鈴音の三次元映像技術と似たようなものかと思い、それにはそれなりにすぐ慣れた。
手紙の導入は直接綾瀬家に出向く事ができず、映像でという事になった事への謝罪から始まり、高畑と同じくネギの件までであった。
そこで、ようやく夕映の父が口を開いた。

「……お気持ちは分かりました。公表できないからといって事情を隠されていたのは、やはり問題があると思いますが、ネギ先生の件を始めとして訴えるような事はしません。ネギ先生が担任になって、2年の3学期と3年の1学期、共に夕映は目に見えて成績も上がり、10歳で修行とはいえ、非常に優秀な先生だったようですしね、高畑先生?」

夕映の父は、夕映の成績の件について含みを持たせ、少し面白そうに言った。

「はは、これはお恥ずかしい限りです。……まずはご理解頂きありがとうございます。ですが、夕映さんの魔法の関係についての話はまだ、あります」

高畑は苦笑しつつも、ここからだ、と顔に少し陰を落とした。

「ま、まだ……?」

その何かがあるという言い方に夕映の母は再び不安を抱いた。

「……お母さん、お父さん、ここからは私が話すです。聞いて下さい。私とのどかは、修学旅行の後、魔法の事は他人に漏らさないと学園と約束したですが、ネギ先生にわがままにも、魔法を教えて欲しいと私達の方から頼んだのです」

夕映は大きく深呼吸をして、話し始めた。

「魔法を……?」  「まあ……」

突然の発言に夕映の両親は間の抜けた顔をする。

「この事は高畑先生達には断りもせず、勝手にした事です。ネギ先生は最初断ろうとしたのですが、このか、学園長のお孫さんともう1人も一緒に説得してくれて、先生ではあっても所詮10歳の子供を……その……丸め込むような形で……条件付きで魔法を教えてもらえる事になったのです」

夕映は徐々に居心地悪そうに微妙に言葉に詰まりながら説明した。

「ゆ、夕映……」

「…………」

夕映の母は微妙に呆れた顔をし、高畑も眉間に手を当てて沈黙を貫いた。

「い……今思えば魔法というものに惹かれて大人げない事をしたと反省しているですが……後悔はしていないです。ネギ先生から私とのどかは初心者用の杖と魔法書を借りてから、毎日勉強もきちんとして、寮室で魔法の練習をしたです。そして6月下旬麻帆良祭の後、私とのどかはネギ先生が行方不明のネギ先生のお父さんを探しに魔法世界へ行く旅に、他クラスメイト数名と共に協力する事にしたのです。これも私から協力したいと私の意志で言った事で、誰かに言われたからでは無いです」

夕映は弁解するように続きを話し始め、話はいきなり魔法世界へ行く事へと移った。

「ゆ、夕映、なんだか唐突だけどそれで本当に魔法世界に行ってきたの……?」

もう何がなんだかと、夕映の母はまさかと思いながらも尋ねた。

「……はいです」

「た、高畑先生……?」

夕映の父はその説明を求めるように高畑に目を向けた。

「重ねて、申し訳ないです。修学旅行の時よりも情報の漏れには細心の注意を払った上で、メルディアナの優秀な魔法使いもガイドに同行し、魔法世界側にも非常に頼りになる人物に迎えに来てもらう手筈を整え、6日間お忍びで、魔法世界でも最も治安の良いメガロメセンブリア首都周辺の観光を、夕映さんにとっては修学旅行で危険な目に遭わせてしまった意味合いも含めてして楽しんで貰えれば、という予定でした」

深く謝罪し、高畑は説明した。
それに合わせるように続けて夕映が口を開いた。

「高畑先生の言うとおり、メガロメセンブリア首都周辺を1週間程度見て回るにとどまる筈だったですが、メガロメセンブリアのゲートに到着した途端、私達は強制転移魔法というものに巻き込まれ、私はメガロメセンブリアに入る前にアリアドネーという国の町中に飛ばされたです」

「は?」  「え?」

訳が分からず、夕映の両親は混乱した。

「……その事件が国連総会でメガロメセンブリアが発表した際に、魔法世界側で起きたある事件です。2度目も裏目に出るとは思いませんでしたが、その事件も完全に想定外のものでした。事件の詳細はやはり機密事項に触れるので申し訳ありませんが説明できません」

高畑は更に謝罪を重ねた。

「は、はぁ……」

気の抜けた声が夕映の母の口から漏れた。

「話の続きを聞いて欲しいです。私の飛ばされたアリアドネーは魔法世界唯一の独立学術都市国家で、他の皆が飛ばされた場所の中では最も安全だったです。ただ、その代わり……ではないですが、私は事故で一時的な記憶喪失になったです」

「「き、記憶喪失!?」」

夕映の両親は、追い打ちをかけるような記憶喪失という言葉に驚きの声をあげた。

「今はこの通り、大丈夫ですよ。少し詳しく話すと、初級忘却呪文というものを練習中のアリアドネー魔法騎士団候補学校の生徒、コレット・ファランドールという人物と衝突したのが原因でした。彼女は今では私の大事な友達です。その時から記憶喪失になったので、今話すと記憶が無かった頃の自分を思い出して話すという感じがして妙な違和感があるですが……このまま私の話を聞いてくれるですか?」

夕映は安心させるように説明をし、両親が更に頭が痛そうなリアクションをしだしたのを見て、確認をした。

「……ああ、話してごらん」  「……聞かせて頂戴、夕映」

夕映の両親は気を取り直してそれに答え、続きを促した。

「はいです。記憶喪失の私はコレットに学校の医務室に運ばれて、先生と話した結果、自分が何者かを知るのに魔法に関係するのが手がかりになる気がしたので魔法騎士団候補学校で学べないか頼んで、入学手続きをして貰える事になったのです。実際にはその後すぐ、私が綾瀬夕映であるということがアリアドネーに飛ばされた時に一緒に持っていた自分の荷物で分かったです。その中にある特殊な通信機があったのですが……」

夕映は魔法世界で自分が体験した出来事を話し始めた。
他の仲間が魔法世界の各地に飛ばされていた事が判明するも、記憶喪失だった為に魔法騎士団候補学校の生徒を続け、皆をその場で待つ事になった事、魔法騎士団候補学校での2ヶ月近い生活、麻帆良祭後にきちんと修行をしていた為にその授業にはなんとか付いていけた事、しばらくして続々と仲間が到着し、木乃香も入学、奨学金で払われていた授業料は全て高畑が払ってくれた事、魔法騎士団員見習いにも選抜されオスティアに向かった事、記憶も徐々に戻り、そして魔法世界の秘密……例えば世界崩壊の可能性、アスナやネギの機密事項に触れる情報の部分等は取捨選択して、最終的には、ゲートでの事故が起きて地球と魔法世界の時間差が4倍以上開いていた為に地球には8月28日に帰ってきた事を順に話した。

「……お父さん、お母さん、私は魔法世界に行き、自分の目で世界を見れた事を本当に良かったと、自信を持って言えるです」

夕映の両親はその話を聞き終え、どう反応していいものやらと、しばし困った。
しかし、今目の前にいる夕映が以前とは見違える程成長し、生き生きとしている姿を見て、夕映の言葉は紛れもなく本当の気持ちなのだと理解し、少し目元を潤ませながらも何よりも無事でいてくれて良かったと、そう夕映に言った。
高畑はまた謝罪し、近衛門の最後には大体うまく収まる「勘」で行ってよしとなった一行の旅行についての説明には、流石に「学園長のただの勘でした」と言うわけにもいかず苦労したが、少なくとも修学旅行の件よりも、その謝罪の気持ちは綾瀬夫妻には伝わったようであり、夕映の両親は、夕映の魔法世界での授業料を高畑が全額払ってくれた事についても一応の礼を述べた。
そして、ふと曖昧になっていた事を夕映の母が尋ねた。

「高畑先生、ネギ先生は退職されたという事でしたが、それは責任を取られて、という事なのですか?10歳の男の子が教育実習生として夕映のクラスに赴任するという話を麻帆良学園から深く謝罪するような書面の内容で連絡を受けた時は保護者の間で話題になりましたが、雪広さんが真っ先に同意されたという事で、そういうことならと3分2以上の賛成に達したと聞いています。報告を受ける限りでは10歳とはとても思えない非常に分かりやすい授業で、クラス全体の成績も上がったのは既に周知の事実ですし、魔法使いの修行だったというのは多めに見るとしても、その魔法世界の件で退職というのは……」

「説明します。理由については責任を取ってという事で認識されて構いません。ですが、ここからは内密にお願いします。……ネギ先生の地球での公式の扱いは確かに退職ですが、魔法世界、メガロメセンブリアの公式での扱いは……死亡となっています」

高畑はとても言いにくそう口を開いた。

「し、死亡!?」

夕映の母は口元に手をあて驚きの声を上げた。

「はい、実際私達も……ネギ先生、地球での夏の一件でネギ・スプリングフィールドだけが死亡したのは間違いない事実と認識していました。しかし、1ヶ月程して9月の末、彼は奇跡的に私達の前に姿を現しました。正直一体どういうことなのかは私達にも分かりません。ですが、ネギ先生が死亡する原因となった魔法世界での事件は魔法世界にとってはとても重要な事で、それと関連してネギ先生の一個人としての機密性も色々な意味で非常に高く、現在はその事情から身を隠さざるを得ないという状況です。綾瀬さん、どうかネギ先生は退職した、という事でお願い致します……」

高畑は綾瀬夫妻に再び深く頭を下げた。

「お父さん、お母さん、私からもお願いするです」

夕映も高畑に続けて両親にそう真剣な表情で頼み、夕映の両親はネギには少なくともどうあっても話せない事情があるのだということだけは理解したのだった。

「詳しいことは話せないようなので分かりませんが、事情があるのは分かりました。口外しないとお約束します。しかしわざわざこの事を私達に話しに来た理由がまだあるように見受けるのですが……説明してもらえるのでしょうか」

夕映の父は、究極的には隠し続ければ良いだけなのに、何故それをわざわざ話にきたのかと疑問に思い、尋ねた。

「……ありがとうございます。日本魔法協会、麻帆良学園と日本政府の間で、現在水面下で進んでいる交渉ですが、2005年春に初の日本魔法学校がこのまま行けば麻帆良学園都市に設置される予定です。……単刀直入にお話しますと、夕映さんをメガロメセンブリアではなく、日本所属の魔法生徒として公式に認定したい……もちろん公表はしませんがそういう扱いにしたいと考えています。今日は綾瀬さんにこの話に伺いました」

高畑は今日の本題へと、とうとう入った。

「夕映を日本の魔法生徒に……?」

「高畑先生、詳しく聞かせていただけますか?」

夕映の両親はその詳しい経緯を尋ねた。

「もちろんです。……いずれ日本で魔法についての教育が行われるようになるのは避けられない状況となるというのはお分かりかと思いますが、魔法使いの間でこれまで行ってきた、いわゆる教育カリキュラムは、現代日本には適合しません。文部科学省に一例を提出はしましたが、そもそも魔法についての知識が無いためその判断も困難です。日本政府と日本魔法協会の見解では公募で日本魔法学校の生徒をいきなり集めても混乱しか起きないという共通認識に至っています。かといってカリキュラムを一方的に作成しても、それが本当に適切なのかどうかは実際に教育を行ってみない事には分かりません。そこで、適切なカリキュラム作成と魔法学校のテストケース試験運用を目的とした日本魔法学校に参加してくれる生徒を選定する必要が出てくるのですが、ここで元々一般人の夕映さんともう一人、宮崎のどかさんに正式な魔法生徒としてその学校に生徒の視点から協力して貰いたいという事です。まだ検討の段階ですが、授業としては夕映さんの場合、麻帆良女子高等部の授業が終わった後の放課後や、長期休業を利用して集中的に行う、という事になる予定です。確定ではありあませんが、ほぼ確実に、学費その他諸々は学校側全額負担、魔法学校の生徒としてその後魔法関係の進路に進む場合にはその全面的なバックアップの保証、生徒の安全についても全面的な保証を約束できます。魔法について全く知識の無い生徒だけで試験運用をしてもカリキュラム作成に膨大な時間がかかるのは間違いありません。ですが、日本政府としては無駄に時間をかけていられない以上、既に魔法に知識があり、魔法がどういうものなのか理解もある夕映さんを予め学校の設置前に魔法生徒に認定する事で、その入学に世間に対して妥当性を持たせた上でその後の魔法学校の運用に協力して貰いたいというのが大きな理由です」

高畑は再び説明をした。

「そ、そうなのですか……」

「……なるほど。それで、夕映は、どうしたいのかな?」

夕映の両親は驚くのにも慣れ始め、落ち着いた反応をした。

「はい、お父さん、お母さん。私はこの話、喜んで引き受けたいと思うです。この数ヶ月魔法に関与し、地球と魔法世界の違いを他の人よりは少しでも多く見てきた私のこの経験を活かしたいのです。……実はこの2ヶ月……高畑先生にも言っていないのですが、またネギ先生に無理を言ってのどかと一緒に中学では教わらないような勉強を教えて貰っているです。数学、化学、物理、生物、英語やラテン語などの言語、魔法と密接な関わりのある分野を中心に……何というかその、個人指導のような形で……教わっているです」

夕映は自分の気持ちをはっきりと言った後、ばつの悪そうにしながら、顔もやや赤らめて最近の状況を話した。

「そ、それは初耳だね……。ネギ君も流石だけど」

高畑はまたか、という風にズリ落ちかけた眼鏡を戻した。

「ゆ、夕映……」

この子は何をしているのか、と夕映の母はまたもや呆れたような声を出した。
それに対し夕映は両手で制止し、慌てて話の続きを始めた。

「ま、まだ話の続きがあるです!その授業をしてもらえないか頼んだ時、ネギ先生にこう聞かれたです。どう魔法を使って、どうしたい、かと。それに対して私は……私はまだどう魔法を使ってどうしたいか、何をしたいか、自分に何ができるかは分からないけれど、だからこそ、魔法についてより詳しく知り、魔法とはどういう存在なのかを考え、ネギ先生が質問の後に話してくれた魔法が地球で普及する事による起こりえる混乱、衝突や不幸を避けるためには、地球で魔法はどうあると良いか、どうあるべきかを考えて行きたい、と言ったです。この2ヶ月、ネギ先生達とはそういうことも議論しているのですが、私は言うなれば、現代の哲学に地球での魔法哲学というような分野を新たに切り開いて、それを研究し、社会に役立てる事ができればとより強く思うようになってきたです。私は正式に魔法生徒となる事は私がやりたい事にとって確実にプラスになると思うです」

夕映は徐々に落ち着きを取り戻しながら、自分の将来やりたい事について真剣に語った。

「……そう。夕映の気持ちは分かったわ。私は夕映が魔法生徒というものになるのに反対はしない。寧ろ、応援するわ」

「……しばらく見ないうちに見違える程成長したとは思ったがなるほど、そういう事か。……夕映はもうその年でやりたいことを見つけた、それはとても幸せな事だと父さんは思う。しかもそれが哲学と関係するというのだから夕映の大好きなおじいさまもきっと喜ぶだろう。夕映が魔法生徒になりたいと自分から願うのなら、私も応援しよう。ただ、怪我や病気、無理をしないようにだけは気をつけて欲しい」

突っ込み所はあるものの、夕映の両親は感慨深げに夕映が魔法生徒になることには同意をし、健康にだけは気をつけるように言った。

「そうね、健康にだけは気をつけるのよ」

「……ありがとうです、お父さん、お母さん。健康には気をつけるです。約束するです」

夕映は安堵して、感謝の言葉を述べた。

「ありがとうございます、綾瀬さん。ではこちらの……学園長から預かってきた契約書類に署名の上、夕映さんに麻帆良学園に提出して貰えれば結構です。この場ですぐに、という程の急ぎでもありませんので細かい条件も充分検討の上、お考え下さい」

高畑は礼を述べ、鞄からそれなりに分厚い書類を取り出して見せた。

「わかりました、高畑先生」

夕映の両親は高畑が出した魔法生徒と認定するための契約書類を受け取った。

「よろしくお願いします。……今日は突然の訪問失礼しました、私はこれで失礼させて頂きたいと思います」

高畑は麻帆良に戻る意図を示した。

「もうお帰りになるのですか?よければ夕飯だけでも」

それを夕映の母が引き留めようとする。

「お気遣い、ありがとうございます。ですが、実はまだ、仕事が残っているもので……はは」

高畑は丁重に断り、苦笑した。

「お忙しいのですね」

「そうですか、色々他に話もできればと思ったのですが、分かりました。今日はわざわざお越し下さりありがとうございます、高畑先生」

そういう事なら仕方がないと、夕映の両親はそれぞれ言った。

「いえ、こちらこそ。それで、夕映さんの麻帆良へ戻る際の電車の切符、指定券は明後日で取ってあります。どうぞお受け取り下さい」

高畑は更に封筒を取り出し、丁重にそれを渡した。

「これはわざわざ……どうもお手数おかけします。ありがたく頂戴します」

「はい……では、失礼します」

「ありがとうです、高畑先生」

……そして、高畑は綾瀬夫妻と夕映に見送られ綾瀬家を後にし、麻帆良へと一足先に仕事へと戻って行った。
その綾瀬家では、早速夕映の父が契約書類の確認に入り、一つずつ条件を確認し始めた。
夕映の母はそんな中、夕映に楽しそうに尋ねかけた。

「夕映、年下のネギ先生に無理ばかり言ってるみたいだけど、夕映にとってネギ先生はどういう人なのかしら。お母さん凄く興味あるわー」

「そ、それは、その……えっと、ネギ先生は年下ではあるですが……私は人として尊敬しているです」

夕映は突然の質問に答えに戸惑い、少し顔を赤らめた。

「あら?それだけかしら?」

夕映の母はニコニコしながら確認をした。

「そ、それだけです!」

夕映は顔を更に赤らめ、強い語調で言った。

「あらあら、顔が赤いわよ、夕映」

「う、そんな事は無いです!……お、おじいさまに報告に行ってくるです!」

夕映はそう言って顔を伏せたまま席を立ち、綾瀬泰造の仏壇が置かれている部屋へとパタパタと走り去っていった。

「まぁ、いつの間にか夕映は恋する女の子になってたのね」

夕映の母は楽しそうに夕映が走り去った後に呟いた。

「……あー、何だ、だが夕映は年下の男の子がタイプだったのだろうか」

夕映の父は娘の好みの男性のタイプについて一抹の不安を覚えた。

「それはどうかしら、私は実際にネギ先生に会ってみたいと思うのだけど」

「確かに……事情があるようだが、できれば会ってみたいね」

夕映の両親は互いに至る結論は同じ、ネギに会ってみたいという事であった。

「夕映に聞いてみましょうか?」

「はは、あまりからかわないようにな」

「うふふ、分かっています」

夕映の母は楽しそうに笑った。
当の本人はというと、綾瀬泰造の仏壇の前で、しばらくの間目を瞑ってきちんと報告をし、それを終えてから再び恐る恐る両親のいる間へ顔を覗かせて、サッとと中に入った。
何か面倒な事を聞かれる前に、と思い夕映は持ってきていた荷物の中にある杖を少しばかり自慢げに取り出し、両親に「実際に私が魔法を使うところを見てみるですか?」と尋ね、「是非お願いします、魔法使いさん」と夕映の母が頼んだ。

―プラクテ・ビギナル―
 ―火よ灯れ―

夕映の杖の先から明かりが灯る。

「すごいわねー、夕映」

「おーなんだか、ライターいらずだな」

夕映の両親は軽く拍手をしながらそれぞれ述べた。

「お父さん、次はそんなこと言わせないですよ!」

―浮遊!!―

今度は夕映は机に置いてあったペンを宙にフワフワと浮かして見せる。

「まー、マジックみたいね」

「ああ、本当に種も仕掛けもない、マジックみたいだ」

再び夕映の両親は拍手をしながらマジックみたいだと評した。

「ま、マジックの語源に遡れば間違ってはいないですが……微妙な気分です。いえ、別に魔法は自慢するのを目的に使う等以ての外、気にしないです」

夕映はそう言って気を取り直した。

「そうです、マジックというこの地球でのパフォーマンスの一形態一つを取っても魔法の社会に及ぼす問題の考察は非常に重要な事だと考えるです。私が思うに魔法が普及する事はマジックというものが……」

夕映は突如閃いたようにマジックが、魔法が普及することでどうなるかを両親に話し始めた。
マジックが何でも魔法を使っていると言われるようになってしまう可能性、それに対する対策として、今握っている魔法発動媒体の存在について説明し、その魔法を使うのに必須である魔法発動媒体を絶対に使っていないという事を示すか、それでも隠し持っていると思われてしまうかもしれない事から、マジック業界の種がある上でのパフォーマンスから、種が無いという前提の上でのパフォーマスへの根本的な方向転換を止む無く迫られてしまう事になる可能性などなど……マジックという一単語からこれでもか、と夕映は述べた。
冗談半分にマジックと言った夕映の両親は、いきなり夕映が真剣に話しを始めた事に一瞬驚いたが、言われてみれば社会的影響というのは考えに値すると言わんばかりに、血に流れる哲学気質を持ち合わせた家系とはかくあるのかとばかりに、夕映に分からない事を質問をしながらも、議論を交わし始めたのだった。
それから一応の結論が出た所で、聞くのを忘れていたと、夕映の母は「ネギ先生に直接会うことはできるかしら?」と尋ねたが「私が言える立場ではないですが……今はやめておいたほうが良いです」と気まずそうに答え「そういうことなら、いつか会えるようになる時を楽しみにしているわ」と夕映の母は返したのだった。
……そして時刻は夕方になり、この日伊豆では美しい夕日が見れた所で、綾瀬家は久しぶりに一家で食卓を囲んだ。
時間をかけて契約書類にくまなく目を通した結果、問題ない事を確認し、夕映の父はその契約書に夕映と夕映の母に見守られながら署名をした。
サインをし終わった所で、夕映は両親に感謝の言葉を述べ、頑張る事を宣言し、夕映の両親は改めて応援する言葉を贈ったのだった。
それから夕映は自宅で一夜を過ごし、翌月曜日は「うふふ」と笑みを浮かべた母に夕映は質問責めを受け、隙あらばネギの事について触れてくるそのしつこさに困りつつも、のどかや木乃香、早乙女ハルナなど、クラスメイトの話へとうまく話題を逸らして回避したりした。
……そうこうして過ごしたその翌日火曜日の昼頃、行きとは逆に電車に乗り、夕映は麻帆良へと魔法生徒になることについての契約書を忘れずに携えて出発した。
夕映は麻帆良に戻ってからはまずは女子中等部へと足を運び事務室で学園長宛として、その契約書類を提出してから、女子寮へと戻った。
冬休み期間中ではあるものの部活は活動している為学校は開いていた。
夕映はメールをやりとりしていたので予め知っていたが、まだ同室ののどかは帰ってきておらず、一人鍵を開け、慣れ親しんだ寮室へ入った。
……そして、夜にのどかが帰ってきた所で、2人は改めてお互い魔法生徒になる事を確認して喜びあい、実家で家族に魔法を見せた折りにはそれぞれ家族の反応が違った事などを話し始めた。
……宮崎家はというと、のどかが麻帆良女子中等部に入学する前はとても恥ずかしがり屋で、本ばかり読んでいた筈が、程良く明るく優しい、それでいてしっかりとして成長していた事に感動してばかりいて、葛葉はなかなか話に入れなかった。
ようやく話に入るという段階で葛葉はいつも通り話し始めたつもりであったが、特にのどかの母が葛葉に若干怖がる様子を見せた事で、葛葉はそれを気にかけて余計に謝罪すれば、のどかの母も「お気になさらず」とペコペコ何度もやりとりをした為更に話は進まなかった。
しかし、話が修学旅行の一件と、魔法世界に行った話に入った所でのどかがトレジャーハンターのクレイグ達とダンジョンに潜ったりしたことなどを話し始めるとのどかの両親の反応は一転した。
何だかファンタジーなお話を聞かされている気分になったのか、のどかの両親はすごく興味アリという様子で、特にのどかの母がワクワクしながら、もちろん娘の怪我については心配しながらも、真剣に聞いた。
それを葛葉は「ファンタジー好きの一家ですか……」と心の中でそう確信したのであった。
のどかが魔法生徒になる件についての話は、夕映と同じくのどかのはっきりとした自己主張の結果、宮崎家でも特に反対もなく、こちらも娘を応援する言葉を述べた。
葛葉が微妙に疲れた様子で、高畑と同じように宮崎一家に見送られて麻帆良へ帰った後、やはり特にのどかの母が目を輝かせて「ま、魔法見せてくれる?」とどちらが子供か分からない様子で娘に頼むということが始まった。
のどかは両親にじっと見られる中、少し恥ずかしながら、それでいて魔法を使う前には一呼吸して落ち着き「プラクテ・ビギナル・火よ灯れ」を実演して見せた。

「わー!!スゴいわ、のどか!魔法よ魔法!」

「のどかが魔法少女になるなんてなぁ……父さん何だかそれだけで感激しすぎて今日はもう興奮で眠れないかもしれないよ……」

のどかの母はハイテンションで拍手喝采し、のどかの父は何故か涙を流し始め、微妙な発言をし……綾瀬家とは全く違う反応であった。
続けて浮遊で小物を浮かせて見れば、またさらに盛り上がった。

「飛ぶという人類長年の夢がっ……現実にっ……」

「の、のどか、お母さん浮かせない?」

のどかの父は引き続き感動に浸り、のどかの母は期待するような目でのどかに尋ねた。

「そ……それはちょっと私はまだ無理で……でもアイシャさん達はできるんだよ。それに飛ぶのだったら箒、今日は持ってこなかったけどあれば」

のどかは少し残念そうに答え、箒があればという事を口走った。

「ちょっとテレビで見た箒みたいの買ってくる!のどか待っててね!」

「えっ!おかーさんっ!?」

全部言い終わる前にのどかの母は財布を持って一目散に部屋を飛び出して行ってしまい、ガレージにある自家用車に乗り込みかけた所でのどかが車の前で仁王立ちして立ちふさがり……なんとか止められた。
のどかは地球で売られている普通の箒ではダメだということをきちんと説明したが「デッキブラシでも頑張れば飛べないの?」と変なところでのどかの母は食い下がった。
「お母さん、それは映画の中の話!」とのどかは現実とフィクションの違いについて諭したのであったが、もう何が現実でファンタジーでフィクションなのかはのどかの母にとってはどれも似たようなものであったのかもしれない。
……そんな事をのどかは夕映に話し、夕映は「私の両親は結構冷めてたです」と少しむくれて言い、どっちが良いのかはともかく、何はともあれ、その夜2人の間では話に華が咲いたのだけは紛れもない事実であった。



[27113] 81話 人工流星
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:47
冬休みといえば、当然中学は学校の授業が行われず、そうなると超鈴音達にとっては研究開発作業にここぞとばかりに打ち込める期間。
そのため、工学部では人工衛星の必要部品の開発はもちろん、葉加瀬聡美が新たに考えつくロボットやジェット機構の構想・設計・開発プランも進み、相変わらず好きにやっている。
一方、ここ最近加速度的に超技術化が進行していく超鈴音の魔法球の中も歯止めがかかるという事はなかった。
精霊祈祷エンジン部品や障壁を展開する事が可能な軍用飛空艇にはほぼ必ず使われている魔法装甲は、解体・加工され、半永久魔力炉の部品に当てられたり、超鈴音の本当に好きなように使用されている。
精霊祈祷エンジン自体も、品質向上の余地有りとして更なる改良を超鈴音は考えているということで、目先の一般普及向け技術にも取り組んでいる。
超鈴音曰く、小型化を図れば、現状の飛行機は離陸する際に管制塔による指示で決められた旋回ルートを取らなくても、普通に必要な高度まで上昇する時は精霊祈祷エンジンを使用すればよく、その後ジェットエンジンで高速飛行、着陸の際には再び精霊祈祷エンジンを起動させてジェットエンジンを切れば騒音の軽減になり、最終的には、飛行場の滑走路も現在ほど面積も要らなくなるとの事。
確かに魔法世界で、精霊祈祷エンジンがある程度音がするとは言え、都会の中でも飛空艇の発着所を普通に置けるのは、それでもかなり高性能な静音仕様であるからこそであり、これは地球でも近い将来充分ありえるだろう。
また、エヴァンジェリンお嬢さんが作成した魔分球は暫定的な加工法でのMOCを用い、それで表面を覆い魔分漏洩率の計測を実際にするなどして試行錯誤が重ねられている。
私達もこれらにはできる時には強力を惜しみはしないが……私達の別の重要な仕事と言えば、組織に魔法具を供給している問題の魔法使いを探す作業である。
この2ヶ月でメガロメセンブリアに追われる身の西洋魔法使い合計16人をゼクト殿の協力の元摘んだ。
まだ頑張れば捕まえる人数は上げられるであろうが、相談した結果、何事も急ぎすぎるというのは良くないので、少しずつ術者を捕らえ、組織にしてみれば気がついたら魔法具を供給していた術者が減っていた……という状況にする事を想定している。
もちろん、組織の構成員に魔法を教授しようと動いた魔法使いは見つけ次第早急に魔法協会に送っているが。
問題は、土着系……具体的には東洋呪術系の術者。
元々裏社会だけあって……国によって伝統的裏組織自体の腐敗の度合いは異なるが、死蔵しているぐらいだったら転移符の一枚や二枚、人払いの呪符の一枚や二枚、売って金策を……と裏から裏へと転売に転売を重ねられている事があり、そういう場合術者を摘んでも効果が無い。
しかし、魔法の存在が公表された以上、彼らもその国で今まで通りの立ち振る舞いから、なにがしかの方向転換を図る必要が……存亡をかけて、というと誇張表現のきらいがあるが、そういう事はあるであろうし、ある程度の自浄作用が働く事を期待したい。
さて、来る魔法学校設置に備え……まだ法案制定の動きも出ていない先行しての動きであるが、日本魔法協会と日本政府とで交渉した結果、利害の一致という面もあり、近衛門が非常に優秀でかつ人格的にもうってつけの人材を選定するという事で「宮崎のどかと綾瀬夕映の2人を予め魔法生徒に認定しておく」という話になったのだが、無事2人は両親の許可も取れ魔法生徒になった。
人格的にうってつけというのは……私がとやかく言う義理では無いものの、魔法に関わろうとし始めた当初の頃を思うと疑問が無いという事は無いが、今の2人であれば、きっと間違いはないであろう。
今回の件は水面下も水面下の事であり、日本魔法協会の人達でもまだ一部しか、宮崎のどかと綾瀬夕映が魔法生徒になったことを知らないが……一応2人が師事している設定になる先生は神多羅木先生になりそうだという話だそうだ。
ネギ少年と魔法世界に行った3-Aの他の生徒は魔法生徒になるか……と言えば、アスナは体質を明かすようなことはできないし、古菲は中国国籍、そこに遡ると魔法協会の管轄が違うので難しい……その前に相変わらずの修行好きが魔法の勉強をしたいと思っているかというとそれは無く、長瀬楓は日本の歴とした忍びの里、甲賀中忍である時点で魔法生徒に認定する必要も無い。
孫娘、春日美空、桜咲刹那は今更、龍宮神社のお嬢さんは若干特殊だが大差無い。
日本は麻帆良が他国と明らかに違うのは、イギリスのメルディアナ、アメリカのジョンソンのようにきちんとした魔法学校が存在せず、その後の師事制度しか存在しないという事であるが、ようやく魔法学校が設立されるのが現実味を帯びてきたと言えよう。
因みに春日美空と言えば、各国の魔法協会を飛び回って働いている母親から連絡があり「魔法世界行ったって学園から聞いたけど怪我無いの?あっち大変だったって資料で見たわよ」と尋ねられ「あー、私は大丈夫大丈夫」と答え「……はーい、ならいいわー。で、状況が変わったからあの約束無しね。意義は認めません。大体社会的にもー無理だから諦めて。その代わりウルスラ行かなくていいから。あとはシスターシャークティの言うことちゃんと聞いて、困った事あったらそれも相談すること。今忙しいから以上。春休みになったら休暇取ってそっち帰るから」と有無を言わせないしゃべりで娘を圧倒し「んー、うん?ってそんな!だったらせめて小切手返せ!」と春日美空は一瞬遅れてから反応したが「はいはいそれまた今度ー」と電話が切れていた。
「はー……はぁーっ!そんな事だろうと思ったよ……。まーみんなと高等部そのままあがって良いっていうのは悪くないけどさ」と髪をかきむしり、切れた電話にため息しながら受話器を戻していた。
……この娘にしてこの母有り。
その父親はというと、ここ日本政府で働いており、極度の過労状態であり……そういう経緯で、春日美空は小さい頃から「魔法使いめんどくさー!」と思っていたのだろう。
そんな面倒な事は嫌いな筈の本人は良く働いている両親達よりも機密情報を知ってしまっているのを自覚している為複雑であろう。

ところで冬休みといえば、女子寮で恒例のクリスマス会があったが、今回3-Aは女子中等部としては最後という事で雪広あやかが、実家雪広邸に3-A全員と、それと、スプリングフィールド一家も招待して盛大に行われた。
雪広あやかの狙いは後者。
とりあえず、3-Aとしては、豪華無料飯、ビンゴ大会、カラオケ大会、その場での突発企画など、好きなように騒げていた。
隙を見ては雪広あやかがスプリングフィールド一家に、見た目は華麗に、内心必死に自己主張をし、それに佐々木まき絵が特に深く考えず乱入し、アスナが見かねてそれに混ざりてんやわんや。
エヴァンジェリンお嬢さんは雪広義國さんと就職の関係もあって少し挨拶を交わし、超鈴音はもちろん、ナギも久し振りという事で同じく挨拶をしていた。
そして、そんな……どんちゃん騒ぎの後、孫娘は宮崎のどかと綾瀬夕映が魔法生徒になる事を本人達から聞いて喜びつつも、ここ最近の2人を見て以前から思うところあったらしく、12月27日、メールを超鈴音に送り、「超りんに話がしたいんやけど、時間とれへんかな?」と連絡をして来た。
超鈴音はそれに対し「このかサンと明日菜サンの部屋に夜でよければ行くヨ」と返し、超鈴音はその夜、孫娘とアスナの寮室に顔を出した。

「遅くなたネ、このかサン。お邪魔するヨ、明日菜サン」

「ううん、気にせんでええよ、超りん。それより、うちから超りんの部屋行っても良かったのに」

「いらっしゃい、超さん」

「ははは、それには及ばないヨ」

見せられない物が多いので仕方ない。

「ほな、座って座って」

超鈴音は孫娘の勧めに従い、テーブルを挟んだ孫娘の向かい側の座布団に腰を下ろした。
アスナは少し離れた所で大きめのクッションを抱えて座っている。

「それで話がしたいという事だたネ?」

「うん……あのな、うち、将来はお医者さんになりたい思うんや。超りんは東洋医学研究会の会長もやっとるし、それで少し詳しいこと聞きたいな思て」

「……そういう事なら答えられる範囲で答えるヨ」

「ありがとな!それで、うち治癒魔法勉強しとるんやけど、医学の事は詳しいこと分からんのや。のどかやゆえ見とったらうちもこれから何やできることあるかな考えたら、やっぱ治癒魔法、お医者さんや。くーねるはんには良い治癒術師になれる言われとるんやけど、医療ドラマ見とると突然倒れた人が病院に搬送されて来て手術するとこあったりして、もしそういう時魔法は使えても患者はんがどういう症状なのか分からんと手遅れになるかもしれんし、勉強しないとあかんなって思うんや。怪我の治療の経験はあるけど、今までそれが殆どで、魔法薬みたいな薬の知識はまだまだで……」

話しているうちに孫娘は頭がこんがらがってきたようだ。
普通に魔法の事を超鈴音に言っているが……今までの事を考慮すれば別に不思議ではない。

「このかサンはどんな医者になりたいか考えはあるのかナ?」

「どんなお医者さんになりたい……うーん、何でも治せるお医者さんになりたいいうんは駄目なんかな?」

「ははは、大きく出たネ。駄目とは言わないヨ。どうせなら夢は大きい方がいいネ。それに今すぐに決める必要も無い。思うにこのかサンは医学を勉強したいがどこから手を付けたらいいのか分からないのかナ?」

「そう、それや!何から勉強したらええのか良く分からないんよ」

まさに「何が分からないのか分からない」といった状態。
それに対し、アスナは予想通りと言った顔をした。

「中学3年で医学を勉強したいとなると分からないのも無理無いネ」

「でもその中学3年で超さんは会長やってるぐらい詳しいのよね……東洋医学研究会って大学の部なのに……」

超鈴音の言える義理では確かに無いが、問題ない。

「お褒めに預かり光栄ネ。一つ言うなら、まずは英語、数学、生物、化学、物理の勉強を普通にすると良いヨ」

「ネギみたいなこと言うのね……ってネギに資料渡したのは超さんだったんだっけ……」

「やっぱりそうなるんかぁ。うちもネギ君の授業受けさせてもらおうかなー」

「ね……ネギに聞いてみてね……」

アスナは少し微妙なようだ。

「それは良いと思うヨ。それと、私は魔法についてもある程度の理解があるから敢えて言うが、このかサンなら今は是非東洋医学を学ぶと良いと思うネ」

近衛の家の意味という事。

「そ、そうなん?」

孫娘としては見たドラマのような西洋医学を勧められるかと思ったのだろう。

「このかサンは陰陽、五行、経絡と言った単語を聞いた事あるのではないカ?」

「ある、ある!それ勉強したえ!」

「それは東洋医学でも重要だから役に立つヨ。多分気を扱う時に学んだと思うが、経絡の経脈で言えば十二の正経、八の奇経、経別、絡脈で言えば主に十五絡脈とその他の絡脈、その中で更に細分化した孫絡、経筋。こういたものはこのかサンだからこそ今の日本で魔法の観点からも学ぶことができる筈ネ。西洋魔法でも東洋呪術でも大抵は怪我に対して即効性のある治癒魔法や魔法によて受ける石化のような状態異常の解呪などに目が行きがちだが、病気という日常で人々の身近にあるものは普段の健康、個人の自然治癒能力が大事だヨ。もちろん、実際魔法だからこそ、怪我を即効で治せる事は賞賛に値するネ。そして、医者になりたいのなら日本では医師免許を取らなければいけないのはこれからも当分変わらないだろうから、医学部に入って学ぶ時には必ずこのかサンがイメージしているような西洋医学を中心に学ぶことになるヨ」

「……ほうかー、うちが呪術協会で普通に勉強できるのはええ事なんか。しかもお医者さんになりたかったら医学部いって必要な勉強して資格取らなあかんのやもんね。……ほな、うち、今は東洋医学の勉強したいと思う。超りん、うち研究会入れるかな?」

「もちろん、このかサンが入りたいというなら歓迎するネ。生薬も数多く取りそろえているから魔法薬の知識と平行してそちらの方面でもきっと役に立つヨ」

「超りん、ありがと!」

これで孫娘も所属が増える。

「どういたしましてネ。ただ、もう少しだけ言うと、このかサンが医学部に入るのはきっと学園長は嫌がると思うヨ」

私も超鈴音の意見に同意。

「ん、なんで?」

本人は自覚無し。

「医学部は6年制ネ」

「あー、曾孫の顔が見れないって嘆きそうね」

「はー、なんや、そう言うことかぁ。6年制いうことは……うん、卒業する時には24歳やね!」

孫娘は華麗に流した。

「に……24……何かリアルな数字ね……」

「20代の丁度半分ネ。しかも、魔法球で過ごし、魔法世界に行ていた人は……どうかナァ……?」

超鈴音は深く考えるようにつぶやいて言ったが、完全にわざと。

「……あ……あ……」

「……うち……時間の流れ速い魔法球にはもう入りたくないえ……」

「え……エヴァンジェリンさんの言ってた意味が今頃身に染みて来たわ……」

魔法球というと聞こえは悪くないが浦島太郎の玉手箱と聞けば印象が悪いのと変わらない認識であろう。

「フフフ、冗談ネ。このかサン、次に東洋医学研究会に行く時は連絡するヨ。それと幾つか本も部屋にあるからまた持てくるネ」

「わ……わかったえ、ありがとな……超りん」

まだ動揺していた。
超鈴音はそれを気にせず2人の寮室を後にして、自室は魔法球へと戻ってアーティファクトを発動して作業に入ろうとした所。

《翠坊主、魔法球は怖いナ》

《ええ、怖いですね》

白々しい。

《それにしても、皆、やりたいことがそれぞれ決まっていきますねー》

確かにサヨの言うとおり。

《そうだネ。ハカセも魔法総合研究所には入りたいと言ているが、私もできるだけ早くハカセと魔法工学の研究をしたいと思ているし、普通に入れるよう交渉はしてみるから多分大丈夫ネ。五月は料理人で店を持つのは前から決まているしナ》

《綾瀬夕映に宮崎のどか、そして孫娘、ですか。他は龍宮神社のお嬢さんが既によく働いています》

《那波さんは保母さんですよ》

《朝倉サンは言うまでもなくジャーナリストだネ》

《彼女危険な情報を掴まないといいですね。……あとは早乙女ハルナが漫画家、でしょうか》

《千雨サンも引く手あまただから問題ないナ》

《……こうしてみると、この先どうするのかはっきりしない人の方が少ないですね》

《これから高校も3年あるネ》

……と、気楽な立場で話をしつつ私達はまたそれぞれ作業に入った。
魔法医療の事自体を考えれば、義手や義足などの再生治療は地球にしてみれば喉から手が出るほど欲しい技術なのは確実、いずれは留学が行われるか、魔法世界から地球に技術者を招くという事になるだろう。
さて、孫娘はその後どうなったかというと、本当にネギ少年の授業に参加することになり、以前よりも呪術協会に通う回数が増え、それに従いまずは自分自身の身体で知ることからと桜咲刹那に気の扱いについても熱心に教わるようになり、超鈴音が勉強にと渡した本もきちんと読むという程のやる気を見せており、その後約束したとおり東洋医学研究会にも超鈴音と一緒についていった。
近衛門の孫娘ということで既に有名だったのか、超鈴音が連れてきたというのもあるだろうが、孫娘は歓迎された。
……そこで、言っていた通り保管されている生薬を見たり、東洋医学で主体となる診断法の四診についての解説を受けたりしながらも、所属メンバーに麻帆良大医学部医学科の学生が別にいても何ら不思議ではないが、実際普通にいた事に孫娘は驚いていた。
麻帆良の大学部の真面目な研究会、中学の同好会水準と同じ感覚で考えてはいけない。
医学部医学科は一学年定員100人程度であり、それが6学年なので麻帆良女子中等部一学年分と同じだけの人数しかいないので麻帆良の学生全体の数から見ると非常に希少。
……と、同時に超鈴音の能力が分かる。
3年前、超鈴音が東洋医学研究会にどう最初に接触したかというと、最初に見学ですなどと言って下手に出て入り込む事もなく、堂々と研究会の教授に東洋医学の治療法について、従来とは比べものにならない統計情報を取ることが可能な非常に柔軟な分類法とその応用利用についての論文を提出して、当然隙のない説明もした上で、コネを作ったのだ。
東洋医学は個人の症状に応じて治療法を多彩に変化させていく為、その治療法の統計が取り辛く、研究が進み難いのであるが、その問題点を解消できる超鈴音がもたらした画期的方法は当時の研究会の人々にとってどれほど驚きのものであっただろうか。
その他にも超鈴音は、四診に分類されるうち、舌の色、舌を覆う苔状の舌苔と呼ばれる物を観察して診断・治療に役立てる舌診という方法において、その数百にも渡る型を全て把握しているというのを皮切りに他の面でもその特異性が一層引き立つのだから切りがなかったのだ。
知識が未来からの産物とは言え、それを自分でも完璧に理解して運用できる麻帆良最強頭脳は流石である。

……年明けて地球歴1月3日、火星歴11月8日、アメリカの火星探査機スピリットが予定通り到着した。
……が、大気圏でやはり無惨にも燃え尽きた。
当然アメリカがスピリットを設計した時の計算では火星の大気層は、私達がテラフォーミングを始める前の大気圧を想定していたので、当然今となっては火星は地球と同じ大気圧になっている為、摩擦が大きすぎて燃えるのも無理も無い。
その日、魔法世界では数ヶ月前の夥しい流れ星とは異なるが、一筋の燃え盛り輝く流れ星が見られたそうな。
打ち上げた当のアメリカとしては、以前から関係者各位は、予想はしていたのであるが、その成果が馬鹿高い流れ星一つのみとはこれいかに。
それでも、到着直前には確かに火星が青い星になっていることを、実際に惑星間を飛んで直接確認した初の国家という点では価値は0ではなかっただろう。
仮に魔法世界の存在が公表されていなかったら、素直に誤計算扱いになったか、事故扱いになったか、撃ち落されたのか、揉めたのかもしれない。
しかしながら、地球歴1月24日、火星歴11月29日オポチュニティまで同じ運命を辿るのは避け得ない。

さて、その火星は魔法世界へと目を移せば、神木・扶桑の近く……という程近くもないが、桃源で火星歴10月49日から開催されていた魔法世界神木会議にも一応の決着がようやく着いた。
2週間強を要した会議の結果、管理権に関しては体裁上桃源も含めた4ヶ国共同管理となり、優先調査権は独立学術都市国家アリアドネーが公正な情報公開を約束するという元で、得る事となった。
今回一番得し、これからも特をするのは桃源であるのは間違いない。
まず、アリアドネー、ヘラス帝国、そしてメガロメセンブリアの調査団が桃源を拠点に駐留するという時点で、それに関連してどうあっても金が落とされる。
アリアドネー、ヘラス帝国、メガロメセンブリア、どこも距離的には南半球から北半球の一番上と、距離的遠隔性があり、補給には桃源を利用しないわけにはいかない。
桃源自体としては、神木・扶桑がどういう秘密があるのかについては興味が無いわけではないだろうが、調査が難航してくれた方が寧ろ好都合、そういう意味では神木・扶桑は「金のなる木」であり、危険に晒されるという事は無いと期待したい。
裏事情を見ればこの会議の中盤、神木・扶桑の情報についてはクルト総督が端末をリカード議員へと、そこから更にセラス総長へと渡す事ができた為、残念ながらテオドラ皇女殿下はいないが、私達以外には盗聴される事も無く、極秘通信会談が行われていた。

《世界樹は確かに重要ですが、単刀直入に言いましょう。私は調査の必要性は殆ど無いと考えています》

《それは地球にあるものと同じだからという事?》

《それも一つの理由です。ほぼ間違いないのは、魔法世界が火星に出てきたのは地球の世界樹と魔法世界の世界樹が原因だという事ですが、そうだとしても、どうして世界樹にそんな事ができたのかを調べた所で何の役に立つのか、というのが私がそう考える別の理由です。今は環境変化への対応を優先する方が現実的です。ずさんな調査をして、魔法世界の世界樹はもっと環境の良い所に移した方がいいと勝手な結論を出して引き抜きでもすれば、この大地の重力が本来の火星のものになりかねない可能性も否定できない以上非常に危険です。他にも地球の世界樹が魔力溜りを形成しているというデータから魔力の生産そのものをしている可能性もあると考えれば尚更です。このような事態を引き起こした世界樹に、仮に何らかの意志があるのだとすれば、わざわざ極地に定着しているのは、人目につかないようにするため、要は放っておいて欲しいと言っているようなものだと私には思えるのですがどうでしょう?》

《ま、そう言われるとそうだな。俺としちゃ、別に世界樹はどうでも構わねぇ。ただ、俺が来ないと元老院のじじぃ連中の子飼いが出しゃばってくるから仕方ねぇ》

《環境変化への対応を優先すべきだというのは私も同意見よ。重力と魔力生産……世界樹が重要な事自体は変わらないけれど、確かに今急ぐ事でもないわね。それでも、学術都市国家のアリアドネーが動かないとヘラス帝国とメガロメセンブリアに今回は桃源も入れて揉める事になるだけでしょう。……結局総督はアリアドネーが調査の主導権を握る形で、その調査は程々にして欲しいと言いたいのかしら?旧世界の彼らが持っていたこの端末を渡してきたという事はこれから他にも話す必要のあることがあるのではない?その方がこちらとしても好都合だけれど》

《流石はセラス総長、その通りです。魔法世界全体で世界樹の調査にかける負担を最も少なく済ますにはアリアドネーに率先して動いてもらうしかありません。この端末の通信ですがご存じの通り、盗聴は現状では不可能ですから、いつでも集まらずにこうして触れているだけで会議ができるのは非常に便利でしょう。私から端末を依頼しましたが、タカミチによればこの端末の制作者は今魔法世界全体が抱えている環境変化の問題に協力する積極的な意志があるそうで、現在は太陽光不足を緩和するための人工衛星を開発しているという話は既にこちらにも伝わってきています。まだゲートを自由に行き来できる状況ではありませんから先の話になりますが、今回のような権利争いになった際に、対応が取りやすいでしょう》

《ええ、分かったわ。そういう事なら今回はこちらから積極的にこの会談、調査権を取るよう動きましょう。話はわかるけど、この端末の制作者、本当にこうなることを分かっていたようなタイミングの良さね》

それは実際その通りだから。

《全くだな。それでも、凄ぇ技術持ってて、魔法世界に協力するってんだから歓迎だろ》

《真偽の程は本人にいずれ会う機会があればその時に聞くしかありませんね》

《それもそうね。……話を戻すけれど、リカード、これから後数日適当にメガロメセンブリアを主張するのは頼むわよ》

《任せとけ。いきなり、はい、纏まりましたじゃ、済まねぇしな。だがまー芝居すんのも面倒だな》

《全体にとってはプラスだと確信はあるけれど、裏を合わせているのを感づかれる訳にはいかないわ》

《ま、今までも散々やってきたんだし、いつも通りだ》

《そう言うことね》

《セラス総長、冬場になった時の食糧問題など話し合いたい事はありますが、テオドラ皇女殿下に端末を送って貰ってからで宜しいですか?》

《ええ、それでいいわ。アリアドネーは魔法球の農業利用に動いている所だけれど、テオドラ皇女がいないとヘラスの動きが分からない。リカードから受け取った端末は必ず届くようにするわ》

《では、お願いします》

《よし、そんじゃ、また何かあったら連絡しろや。ってかクルト、お前働きすぎて倒れんなよ?》

《ご心配なく。未だにこの状態をまともに見ようともせず自己保身を臭わせるような発言ばかりしている元老院の年寄り共はこの際、距離を可能な限り引き離してしまった方が後々楽になります》

《はっ、それもそうだ。若いのが粗方お前側に付いたのは爽快だったもんな》

《さすがにどちらがまともな主張をしているかその程度の判断もできない人間の集まりであればメガロメセンブリアはいっそないほうが良いですよ》

《……相変わらずドロドロしてるようね》

《泥だけ掃きだせりゃいいんだけどよ。悪魔召還を立証できりゃ良いが、映像は意味ねぇし、そういうとこだけは上手くてうぜぇもんな》

《そういう物悪魔側に記録は残ってないのかしらね》

《……なるほど、それは調べてみる価値はありそうですね》

《は?どうやって?》

《恐らく高位の魔族に例の時に会ったという話はしたと思いますが、その妹が地球にいるそうです》

《聞いてみるという訳ね》

《……望みは薄いですが、可能性はゼロではないでしょう》

《はー、やれるこた何でもやってみりゃいいぜ》

《良い結果を期待させてもらうわ》

《ええ、となるとまたあちらに連絡をつける所からですが、やってみます》

……と、こういうやりとりがあった。
超鈴音の情報については予定通りという所で、問題は果たして魔界に悪魔召還の記録など残っているのかどうかだが、ザジ・レイニーデイに実際に聞いてみないことには流石の私も分かりかねるし、そもそも既に石化解除をしていて、これ以上協力するかも定かではない。
しかし、クルト総督とリカード議員は他にも、未だ決定的とはいえないが、追及材料になりそうな事件にいくつか目星はあるようで、元老院問題も意外とそう遠くないうちに何らかの結果が出るかもしれない。



[27113] 82話 日々刻々
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:48
2005年1月8日、始業式も普通に執り行われ、とうとう麻帆良女子中等部3年A組最後の3学期が始まりました。
ネギ先生が担任でなくなってから、もうこれで5ヶ月目ですが、仕方ない事です。
ついこの前、近衛さんが第1回魔法生徒の会というものを部屋で開催していたのですが、やっていたのは綾瀬さんと宮崎さんの魔法生徒入りをお祝いする……おめでたいことなのかはちょっと微妙な気がしますが、それが内容でした。
美空さんも呼ばれていた為、その場でその話を聞いた時は「マジ?」と初めて聞いたよと驚いていました。
……鈴音さん、葉加瀬さん、私はどうかというと、当然魔法生徒ではありません。
そもそも、私たちは魔法生徒になる前に……私はともかく、鈴音さんと葉加瀬さんは魔法総合研究所に科学者として……鈴音さんは少し方法を考えた方がよさそうですが、入る筈なので必要ありません。
入る時の交渉材料としては人工衛星の件で既に十分すぎるのでそれも問題ないです。
私はというと……科学者でも無いですが、日の目の当たりすぎる所に出るのは問題があるので、魔法生徒入りもしないですし、魔総研にも入らないです。
それに、五月さんと超包子で美味しい料理を届ける、というのも重要な事だと思います。
来月で丁度一年になりますが、超包子はアメリカ西海岸を徐々に制圧して行った結果、東海岸、ニューヨークにも店が飛び火し、店舗数は30を越えました。
実際SNSを構築しただけあり、アメリカの広告バナーにはそこかしこに超包子の宣伝がされているのを見る事ができるので効果ありました、凄く。
問題は材料の購買先と輸送ルートだったのですが……流石は雪広グループ、全然平気でした。
日本国内も空港店舗から近場にもポツポツ店が出始めているので、その地域ではもうお馴染みになりつつあります。
ネット販売もやっているので、注文すれば日本各地で買えるのですが、やっぱり直に店で買うという方が売れ行きとしては良い感じです。
そうはいっても、一度食べた事があって、肉まんが好きな人にとっては忘れられない味なので、そういう人達はインターネットでリピーターと化しています。
また、大口の注文にも対応できるので、何かの集まりに超包子の肉まんを、という事もあるようで嬉しい限りです。
何となく鈴音さんはネギ先生の故郷のイギリスにも進出してみたいようなのですが、この際ヨーローッパ大陸を征服しに行く勢いで良いと思います。
そこまで今手が回らないというのが現状なのですが……。
雪広グループ超包子企画室メンバーの西川さん達の中にはちらほら結婚する人達も出始めていますが、特に退職したりということは無いです。
何といっても、雪広グループのそのあたりのサポートは充実しているので、女性でも安心して働けるんです。
次の雪広家当主が委員長さんのお姉さんであり、既に経営に参加しているのでこれからもそれは変わらないでしょう。
ところで、ネギ先生の家の建築計画が進み、建てたいと話していた通り、エヴァンジェリンさんの家の隣に同じくログハウス調の家を建てるということが決定したそうです。
麻帆良の建設業者が行うので数ヶ月以内には完成する予定とのこと。
建設といえば更に、麻帆良地下にあるゲートも、隠すには良かったのでしょうが、これから頻繁に使うには不便すぎるので、6つある魔分溜りの1つに移す計画がでています。
もちろん時間がかかる作業になるので当分は見送りですが、そのうち日本のゲートも魔法世界のように、ドーム型の建物に受け付けの人達がいたりする空港のような感じになる日も近いと思います。

……そして、地球歴1月24日、火星歴11月29日、やっぱりまた、火星探査機オポチュニティが流れ星になりました。
地球の先端科学技術を詰め込んでいるのですが、本当に呆気ないです。
その火星探査機が落ちた魔法世界はというと、突貫工事で神木の周辺に観測基地が建てられ始め、地球では見ない魔法的研究機材が沢山見られるようになりました。
寒いのに大変です。
食料や必要物資の輸送には龍山山脈を隔てていて、更には天候の影響も受けやすいので飛空艇でルートを繋ぐだけでもかなり苛酷な作業なのですが、皆さん頑張ってます
私達的には全然頑張ってほしいとはこれっぽっちも思いませんけど。
それよりも、重要なのは鈴音さんと裏でやりとりしているクルト総督……何だかこういう言い方はサスペンスな感じがしますが、それは置いといて、そのクルト総督とアリアドネーのセラス総長、ヘラス帝国のテオドラ皇女様の3人で3ヶ国秘密通信が行われた事です。
主に話し合われたのはやっぱり食料関係で、今どこもそれを見越したかのように魔法球の値段が前から高かった筈が更に価格が高騰しているらしく、大変だそうです。
だそうです、というには、まほネットのオークションでやりとりされているのを見ると落札価格が市価の5倍は普通、それ以上でも仕方がないという感じになっているのは分かっていたので、今更ですね。
結構な割合で別荘らしい別荘利用から農業利用へとシフトし始めていて、南半球が冬になるのに備えて、人々も長期保存可能な食料の買い占めに動いているようで、少なからず混乱も起きているようです。
北半球はというとテンペテルラやケフィッススは砂漠が多く、元々人口も少なく、食べ物は港町で揚がる魚介類が主流、それに加えて個人飛空艇持ちの運送屋さんがここぞとばかりに依頼を受けてはあちこちに配達という事を行っているので、飛空艇のルートが確立している所では問題はそこまでではありません。
安定した飛空艇ルートが確立していない場所というと、例えばシルチス亜大陸は昔から紛争が耐えないという記録があります。
そういう所は、今はまだ食料は大丈夫ですが、そのうち略奪等も前よりも悪化して、より状況が悪くなるという事も残念ながら起こり得るかもしれません。
私達の行った火星、魔法世界同調計画はその火星に住む人達にとっては決して良いものだったと言えないと思います。
ですが、この計画はキノの望みであり、鈴音さんを選んだというその点に関して私は凄く意味のある事だと思います。
もし魔法世界にそのまま先に植樹していたら、私も未だに幽霊で、鈴音さんも未来からやってきたら、既に問題は解決していて、何の為に未来から来たのか……という事になっていたかもしれません。
それでも、私は元々人間だったので多少の罪悪感はあるのですが……。
キノも一切感じていないという訳でもないですけどね。
そして3人……3ヶ国での話は、クルト総督が急遽ツテのある技術者に食料の高速生産を可能にする方法の考案を依頼した結果、リン・フェルミという要するに鈴音さんから、そのプランを提供されたという事を話題に出し、養液と特殊培地を魔法的処理で大部分を代替した生成法で生産して、環境循環魔法を併用して実現するという事を説明してくれました。
現在試行錯誤の段階という感じでクルト総督は話していましたが、実際鈴音さんの提供プランを実現するには最初は試行錯誤にしかならないので間違いでは無いです。
丁度技術運用を実行する企業の選定も順次進んでいるところなので、直に具体的な動きが出る事でしょう。
この時何が重要かというと、リカードさんがいないという事でした。
セラス総長もテオドラ皇女様もメガロメセンブリアの内部事情を詳しく知る術も無く、リン・フェルミが誰なのかという事についてはクルト総督の後援者か、子飼いの研究者かと思った筈です。
少なくともクルト総督から提案してきたのが、具体的な食糧問題の緩和策であった事にセラス総長とテオドラ皇女様は特にやましい事、裏、罠があるという事も無いと捉えてくれたようでした。
やましいさ、裏、罠……罠は無いですけど、やましさと裏というとなんだか否定はできかねないような気がします……。
ややこしいですね。
結局、その時は植物工場のプランの大まかな説明をクルト総督が2人にして、それをアリアドネーやヘラス帝国の研究機関にも提案してはどうですか、という、プレゼンテーションのような形になっていたような気がします。
興味を持つ研究部署があれば、その技術供与も積極的にする意志がある、という事で営業活動は終わりました。
セラス総長もテオドラ皇女様も良い方法があるなら、目は通したいという事で詳しい資料を送って欲しいという事をクルト総督に言いました。
そしてその後、クルト総督はまほネット利用の送信ではなく、回線と接続していない記録媒体にそれなりに詳しい資料をインストールしたものを厳重な管理を徹底の上、アリアドネーに送り、そこから更にヘラス帝国に送るという形で2ヶ国にもリン・フェルミもとい鈴音式食糧事情緩和計画は伝わったのでした。

……更に、1月の末もあっと言う間に過ぎ、カレンダーも2月へと突入しました。
2月と言えば何かというと、中・高・大の受験シーズンです。
麻帆良の受験はというと、麻帆良中等部で言えば、2月の第一週ではなくそこから外れた週末に例年あっさり済ませてしまうので、私達の授業が休みにはなりもせず、在学生にはかなり無縁な筈なのですが、今年は恐ろしく受験者数が多く、受験申し込み者数が例年の数倍に膨れ上がっていた事で変化が起こりました。
2月平日の授業が数日はじけ飛び、各小・中・高校は同時に休校となるに至ったんです。
例えば麻帆良女子中等部1学年の700人超、実際には留学生枠とか色々あったりしてそれより少ないのですが、中学受験なのに倍率が10倍を越え、大学受験も真っ青な感じになり、女子中等部の校舎だけでは受験者を収容しきれず、麻帆良女子高等部の校舎も使い、更には麻帆良大学の教室も一部利用するという体制で試験が行われました。
当然高校もその逆が起きるので、校舎の融通のしあいで、本当に、休みが多発しました。
私達はそれを喜ぶべきだったのかというと、余りの混雑で、部活や同好会、研究会の活動はモノによりますが、ほぼ大多数が活動制限を受け、そもそも本来は授業をする筈でしたから、寮で待機、自習に励むべし、と通達が出たのでした。
まあそうは言っても女子寮のロビーでみんな騒いでたりしてましたけど。
中学受験には基本的にマークシートというものはなく、筆記が当たり前なのですが……その為先生達が手作業で行わなければならない採点用紙が山というより山脈という有様を呈してしまい、例えばただでさえ他の仕事で忙しい瀬流彦先生は「合格発表まで生きてられるかな……」と作業に取りかかる前から真っ白に燃え尽きていました。
今まで学校間はそれほど結びつきが強くはなかったのですが、今年度の受験シーズンを終えた後、麻帆良大系列、麻帆良芸大系列、麻帆良工科大系列、麻帆良国際大系列、聖ウルスラ系列……等々と学校間の垣根を越えて先生達の間に強い連帯感が誕生したのは……多分良いことだったのだと思います。
受験願書を先着で何名まで受け付けますという事にすれば苦労はしなかったのかもしれませんが、1人頭の受験料を考えてみましょう。
中学・高校受験の相場が2~3万、大学が3~4万です。
麻帆良女子中等部だけでも1億数千万を記録し、鈴音さん効果で超絶人気の麻帆良大工学部は1学部だけで10億に達しました。
……つまり、麻帆良は凄く潤ったという事です。
正直、数億止まりの麻帆良祭の比ではないです。
死線を乗り越えて頑張った先生達にはボーナスが出るのは間違いないでしょう。
他人事のような話のようですが、実際私達にもジワジワと関係してきます。
というのも、今回の一件は麻帆良女子高等部に高校受験で入ってくる同じく700人超の人達が全員例年より学力が高いという事を意味し、麻帆良女子中等部で勉強にあまり真面目に取り組んで来なかった場合、最初の中間テストでもの凄く順位が落ちて「!?」を連発すると思います。
しかも、いくら大学までエスカレーター式とはいえ、高校3年で選択できる志望学部は、高校3年間を通しての成績によって左右され、それが非常に重要なので、スタートから憂き目を見ることになりかねないのです。
……まあ、トップ4の鈴音さん、葉加瀬さん、私、委員長さんは抜かりないですよ。
近衛さんが行くかもしれない麻帆良大医学部医学科はそれこそ1つの高校当たり、1人ないし、2人までしか枠が無いのではっきり言って近衛さんが成績上位とは言っても推薦を取るのは相当にキツイと思います。
桜咲さんが一緒にお供したいと思っていても……外部受験という方法を取るにしても……こればかりは今までの成績を鑑みるに残念ながら難しすぎるのではないでしょうか。
ですが、桜咲さんも魔法生徒なので魔法学校の生徒になる可能性が近衛さんの護衛という意味でもほぼ確定なのですが、もしかしたら特例か何かは……起こり得るかもしれません。
もちろん、そのときになってみないとわかりませんけど。
魔法生徒といえば、明石さんはまだですが、明石教授の娘さんなので確実に魔法生徒入りして、魔法学校に入学する事になると思います。
……話がそれましたが、受験は受験であり、私達の中間テストが無くなる事はなく、テスト範囲が微妙に狭くはなりましたが、きちんと行われました。
麻帆良の小・中・高は繰り返しますが附属校なので女子中等部であれば中学卒業式を盛大に行い、長めの春休みというものは私達には存在しません。
3月の中旬まで普通に授業は行われ、19日の終業式で一応卒業証明書を渡されて終わりという事になります。
……そんな3月初頭、工学部で作業する事もできず、学校も無かった数日を経て、とうとう鈴音さんがMOCの加工法を確立しました。
その成果もエヴァンジェリンさんが作成してくれる魔分球と組み合わせて凄い事になりました。
通常透明な球体であるところ、今回の物は淡い桃色をした球体になりました。

「いやー、時間があるというのは良いことだネ」

「時は金なり、ですね」

《この魔分球、魔分漏洩率が0、01%とは、別の素材……水晶球自体と組み合わせていてこれですから驚異的な性能です》

「うむ、私もかなりテンション上がて来たヨ。MOCそのものを水晶球の素材に使い、その上からコーティングをかければ魔分漏洩率0%も夢ではないナ」

「えっと、この魔分球はどうするんですか?まだ幾つかありますけど」

「半永久魔力炉の加速反応実験に普通に使えるネ。3基、5基と連結して中心に半永久魔力炉と接続、加速反応させてどれくらい出力が出るか試したい」

《超鈴音……その次は発電……ですか?》

「ああ、その通りネ。茶々丸にも搭載している発電機構を使うつもりだヨ。超長距離航行用の宇宙船に使える夢の動力の完成も見えてきたナ」

半永久魔力炉が完成、小型化できたら茶々丸さんは完全自律稼働も行けるようになりそうですね。

「できたら世間に出せるんですか?」

「無理だヨ!魔力炉は普及させても良いが、段階を踏んで水準を上げていかないと発電機構は厳しい」

《この際……お話の中の出来事ではないですが、小惑星地帯に極秘コロニーでしたか……そのようなものでも作ればそういう事を気にしなくても研究できそうなのではないかと》

「ふむ、田中サン達を量産すればできなくは無いカ。モノに寄るが小惑星規模の重力発生なら電力で実現できるしネ。夢が広がて来たナ!」

《これでも……冗談のつもりだったのですが……》

「この私を誰だと思ているネ?」

鈴音さん自信有りみたいです。

《……ええ、重々承知しております》

「わー、そのうち宇宙要塞も鈴音さんなら作れそうな気がしてきました!」

《サヨそれは流石に……》

「うーむ、優曇華をコアユニットにして、適当に惑星の衛星を一つを乗っ取て、推進ユニットでも取り付けて改造しつくせばできそうだナ」

月を本当に盗んじゃうみたいな感じですか。

《宇宙戦争という映画に出てくるデス・スーパースターのようなものですか》

キノも意外と色々調べてるんですね。

「アレ、弱点はちゃんと克服しておかないといけないですよね」

「安心するネ。サヨ、抜かりはしないヨ。まあその前に優曇華の改造も取り組んでいないし、やりたい事は山ほどあるナ」

《とにかく、まずはMOCがひとまずですね》

「そうだネ。半永久魔力炉も初期型モデルが来月にはできそうだから、もう一頑張りだヨ」

「はい!」

……それから、鈴音さんは、普段での活動は順調に、魔法球内では専ら半永久魔力炉の開発に力を入れるようになりました。
因みに、魔法世界に行く度にいつも一緒に採取ツアーに出かけては色々入手しているので、優曇華のアーチ内はこの5ヶ月目に入った今月現在ではかなりの植物宝庫になっていて、保全計画もきちんと並行して実行中です。
とはいっても、今は時間がないのでアーチ内時間を凍結することで保存する方法を取っていて、世話はしていなかったりします。
実際余りにも植物の種類がバラバラなので、仕方ないです。

……やや早足ですが、3月も刻々と日々過ぎていき、期末テストもこなし、3月19日、とうとう終業式……私達にとっては卒業式を迎えました。
この3-Aがそのまま女子高等部に3-Aのまま上がるということはありえないので、朝のHRではいつも騒がしい皆はこの日ばかりは落ち着いていました。
そのまま校庭に整列し、終業式としての流れが終わった後、卒業式へと移行し、国家斉唱の後、学園長先生の式辞となりました。
まだ始まったばかりなのに感極まって泣き始めた人達もいました。
卒業証書授与が完全に省かれている時点で盛大に行われはしないのですが、来賓祝辞、来賓紹介、祝電祝詞披露と関係者各位の方々の話もされ、委員長さんが卒業生代表として答辞をする前に……そういえばイベントがありました。

[[優等賞、授与]]

そうです、優等賞授与がありました。
因みにマイクで話しているのは新田先生です。

[[3-A組19番、超鈴音!]]

「はい!」

はい、当然です。
盛大な拍手が巻き起こり、先生達も拍手喝采です。
鈴音さんは壇上へと向かいます。

[[3-A組1番、相坂さよ!]]

あははー。

「はい!」

因みに葉加瀬さんじゃないのは体育の差です。
こうしてみると、2年目と3年目は特待生だったので1年目以外は授業料無料だったんですが、結局の所、私には殆ど意味はないです。

[[3-A組24番、葉加瀬聡美!]]

「はい!」

葉加瀬さんは体育だけはアレですけど、それ以外の教科は全て評定評価3年間マックスなので、委員長さんが食い込んできたりはしません。
超鈴音部屋が3年間通算18回1、2、3位を総なめにしたのはやっぱり前々から言われてましたが、学園始まって以来の快挙だそうです。

[[3-A組29番、雪広あやか!]]

「はいっ!」

更に一クラスで4位まで固めるのも学園以下略だそうです。

[[3-F組31番、渡瀬優子!]]

「はい!」

5人で壇上に並び、一人ずつ順に賞状を学園長先生からきちんとした手順を踏んで受け取り、関係者各位の方々にも一礼をしました。
鈴音さんと学園長先生は普通にやりとりし、特に含むような素振りも一切ありませんでした。
……そして私達は再び壇上から降りて元の場所に戻りました。
今度こそ、委員長さんが卒業生答辞をする為、再び壇上に上がっていきました。

[[卒業生代表、3-A組29番、雪広あやか。私達はこの……]]

しばらくの間、委員長さん渾身の言葉が述べられました。
……式も最後に差し掛かり式歌・校歌斉唱と皆泣きながら歌いました。
そして最後に、閉式の辞で締めくくられ、私達はそれぞれ各教室へと戻っていきました。
しずな先生がクラスメイト分の卒業証書を携え、クラスで全員分の授与を行い3-A最後のHRが行われました。
鳴滝姉妹が盛大に泣いているのが印象的でした……が、HRが終わった途端。

「さーさ、皆!写真撮りまくるよー!!並んで並んでー!!」

と、朝倉さんの切り出しで、あっという間に記念写真モードに移り、皆それぞれ持っているデジカメや携帯のカメラで写真を撮りあい、泣いた跡を目に残しながらも爽やかな笑顔をしていました。
そして、卒業の打ち上げはもちろん、超包子ですることになり、五月さんと私の常駐店を体育祭の時と同じように貸し切りでやりました。

「これで皆とはクラス変わっちゃうんだなー。さびしー!」

「んでも、高校の女子寮でまた幾らでも会えるよ?」

「それ言ったらおしましだよ」

チア三人組、柿崎さん、椎名さん、釘宮さんが言っているとおり結局会おうと思えば、女子寮で部屋に訪ねにいけば幾らでも会おうと思えば会えるんですよね。
部屋が知らない相手になる可能性はあるかもしれないですが。

「私達は高校も同じ寮室ですよねー」

「そうだネ。それぐらいの都合は付くヨ」

そうでないと凄く困りますしね。

「ちょっとだけ引っ越し面倒ですけど」

「こういう時の田中さん達ですよ」

「あはは、やっぱりー」

葉加瀬さんの言うとおり、結局は私達が運ぶ事は無いですね、正直。
女子高等部もクラス編成が3年間持ち上がりなのは中等部と同じなので、1度決まったらそれまで、できるだけ皆せめて近場のクラスにばらけるぐらいで済むと良いと思います。

「皆さん、ご卒業おめでとうございます!」

そんな中1人現れたのはネギ先生。
今日が卒業式というのを知っていたので、ちゃんと来てくれました。

「あ、ネギくーん!!」  「ネギ!」  「まあ、ネギ先生!!」

「ネギ坊主!」  「ネギ先生!」  「ネギ君!」

相変わらず佐々木さんと委員長さんの反応は早く、神楽坂さんが声を上げた段階で既にダッシュで接近し終わっているのは……愛のなせるわざなんでしょうか。
あっと言う間にもみくちゃにされ、再び写真大会へと移行、ネギ先生は夜遅くまで続く騒ぎにずっとつき合ってくれました。
しかも、ちゃんと1人1人に言葉を直接言いに来てくれる律儀さでした。

「相坂さん、ご卒業おめでとうございます!」

「はい、ありがとうございます、ネギ先生」

「最後まで担任勤められなくてすいません。相坂さんには麻帆良に来てすぐの夏休みの頃からずっとお世話になってて……それで、これからは力になれる事があったら是非言ってください。必ず協力します」

「ネギ先生と一緒にあちこち回ったのは楽しかったですから気にしないで下さい。もうしばらくしたら……ネギ先生が皆の力になると思うので、その時はお願いしますね」

「……はい、任せて下さい」

近い未来の事ですが、ネギ先生はちゃんと分かってくれています。

「こちらこそ、何か凄く困った時は遠慮せず相談して下さいね」

「ありがとうございます、相坂さん」

私はこう……ネギ先生とやりとりをしました。
ネギ先生なら多少の困難でも必ず乗り越えるので、早々私達の力が必要という事はなさそうですが、寧ろ鈴音さん経由での私達からの依頼ばかりがこれから増えて行く事になりそうです。
結局、この日は夜遅くまで私達は騒ぎ、お酒を飲んでもいないのにつぶれた人もいて、微妙に屍累々になりました。
ですが、その翌日は私達にとって非常に重要な日で、朝から女子寮の掲示板はものすごい人だかりができていました。
……何かというと、高校女子寮の部屋割りの発表と、同時にもうクラスも分かるという、間違いなく重大事項です。
高校の女子寮は既に卒業式が2週間近く前に終わっていて、女子高等部3年生は皆寮室から出終わっているので、受け入れ準備は完璧で、逆に私達もここを新しい女子中等部の入学生に明け渡す必要があるので素早く移動しないといけません。
わざわざ人だかりに突っ込まなくても、私はいつも通り視て把握しました。
結果、予定通り鈴音さん、葉加瀬さん、私の3人はまた同じ部屋、クラスは1-1に振り分けられました。
他には、近衛さんと桜咲さんの2人部屋、1-1。
神楽坂さんと美空さんの2人部屋、1-1。
綾瀬さんと宮崎さんの2人部屋、1-1。
楓さんと龍宮さんの2人部屋、1-1。
明石さんとくーふぇさんの2人部屋、1-1。
茶々丸さんも1-1です。
結局3-Aクラスの14人がそのまま持ち上がりで同じクラスになるという事態が起こりました。
女子高等部は1学年42クラス、各35名という……とんでもないマンモス高です。
ウルスラはここまで大きくないのでクラスもアルファベット形式なのですが……。
因みに、長谷川さんは早乙女さんとの2人部屋、1-2。
五月さんとザジさんの2人部屋、1-2。
……と、その他にも結構1-2には3-A出身者が多く在籍しています。
そんな中朝倉さんが1-26と大分遠くに飛ばされたのは確実に意図的だと思います。
見てわかる通り、完璧に1-1は魔法総合研究所と日本魔法学校を想定した構えになっています。
……階段やエレベーターが混み始める前に私達3人はいち早く引っ越し作業に入り、ほぼ最速で引っ越しを済ませました。
何といっても、面倒だったので殆ど魔法球に細かい機材も荷物も全て詰め、引っ越し用のボール箱の中にそれを入れて田中さんに運んでもらい、後を追いかけるだけと、移動だけは本当に楽でした。
ただ、その後特殊な改造をしてある馴染みの女子寮のセキュリティで過剰な物を全部処理し、私達の元の寮室の回線系を一般的な水準に戻すというのが厄介でした。
残しておくわけにもいかないのでやるしかなかったのですが、改めて、勝手に寮の部屋改造ってアリだったのか、と凄く微妙です。
部屋割りがわかった他の皆はというと、近衛さんはとても上機嫌、美空さんはやれやれという表情をして「あー、そゆことー。じゃ、アスナ3年間よろしくー」と一瞬で事情を理解して神楽坂さんに話しかけ、綾瀬さんと宮崎さんはホッとしたような感じ、楓さんと龍宮さんは暗黙の了解という雰囲気でした。

さて、これで3-Aも流れで終わり……みたいになりそうか、と思いきや、改めて委員長さんの発案で、雪広家保有の南の島にて2泊3日の打ち上げ旅行をしようと言うことで、全員を招待してくれました。
雪広家私有のエアポートから、エージェントの皆さんの厳重な護衛の元、情報も漏れていない為組織にも動きが無く、私達は安心して空を飛んで行く事になったのです。



[27113] 83話 枕投大会
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:48
ちょい久々の空の旅。
いいんちょの家の飛行機乗るのはこれで3回目か。
しかも今回は飛行場も雪広の私有だったしスゲー。
3-Aが終わりとか正直あんま実感無いスけど、私としては元々ウルスラ行く筈だったし、女子高等部にそのまま上がれただけいいスよ。
部屋がアスナと同じで、他関係者が全部揃ってるのは作為的なのはすぐわかったけどさ。
そんで今丁度飛行機の中で、アスナの隣。

「アスナ、このかと部屋分かれた事についてはどうよ?」

「え?うーん、ちょっと寂しいけど、今度は美空ちゃんが一緒じゃない」

微妙に恥ずかしい事言うな。
だけど重大な事気づいて無いな。

「ほほう、そんな気にしてないのね」

「それはクラスも同じで部屋もすぐ隣だし、このかは刹那さんと一緒の部屋で嬉しそうだから良いでしょ」

「いいかアスナ」

「なによ、いきなり」

「……私達のご飯は誰が作ってくれるんだ?」

死活問題なんだよ!
アスナはこのかが殆ど料理してて、私は五月に餌付けされてた。
しかも魔法世界でネギ君達の修行中に料理スキルを磨いたアスナは偽物だった。
確かに、アスナはサバイバル技術は高いけど、寮の部屋で、川魚を取ったりとか、山菜を集めたりとかそういうのは必要じゃない。
……ここからわかるのは、炊事能力の欠如!
五月の部屋結構遠いよ……。
夕飯は食堂でアリだけど、朝は自炊って決まってるのが、つらい。
多分このまま行くと超絶手抜き料理、毎日同じメニューとか、死ねる。
つか今まで毎日素敵すぎる朝御飯食べてたから一般水準以下の食生活に主に私が耐えられない。
しかも基本普通からしてみたら結構な頻度でかなり美味い料理食べてるから舌だけが無駄に肥えてて……。

「……えっと……私達で作る……の?」

疑問系で返すなー。

「……ですよねー。そこでだよ、アスナ。……アスナは練習すると料理上手くなる。実際に見た私が保証する。だから頑張って!」

「ええ!?美空ちゃんは?」

「私は本気出すの大変だからパス?」

「ちょっと何いってんのよー!」

あ、怒った。
ま、わざとスけどね!
ぐえっ、揺するな。

「アアースーナナナ」

「……ふつうにしゃべって良いわよ」

「……は。アスナ……ここは手っとり早くこの春休み中に五月に料理習うか。どうせなら美味い方が良いし」

習うなら先生は良いに限る。

「いままで同じ部屋だったくせに今更!?」

「いやー、優しい環境だとさ、ついね。HAHAHA!」

「HAHAHA!じゃないわよ。……はー、わかった。でもさっちゃんに習うなんてどうするのよ?超包子で習う訳にもいかないでしょ」

「お料理研にお邪魔すれば大丈夫大丈夫。初心者には優しいって話だし」

「たしかに、そう聞いた事あるわね」

「目標はできるだけ作れるメニューを増やす事スよ。毎日同じとか私が飽きて死ぬから」

「贅沢な悩みねー」

「幸せの化身と生活してたらそうなるって!私そんなに悪く無いから!」

「悪いと思ってる自覚はあるのね……」

「いやーまぁね。アハハハー」

……という感じで、私達は料理を春休みで覚える事を決意した。
で、ちょい小さめの声で聞いた。

「アスナ、ネギ君はどうしてんの?この春休みとか」

魔法生徒の会とか活動内容意味不明な場で聞いたけど、あれか、のどかとゆえ吉達はどんだけネギ君好きなんスか。
隣のアスナも怪しいし、モテる男の子は大変スねー。

「また旅行行こうって話だったんだけど、私が引っ越しとか高校入学で忙しいから延期になって、私達のこの卒業旅行と同じで今頃、ネギとコタロとナギ達……クウネルさんとゼクトさんで3日ぐらい日本のどこか適当に旅に出てる筈よ」

どこかって何その風来なんたらみたいな旅行は。

「ほほう。あれ、ネギ君のお母さんは?」

「エヴァンジェリンさんの家で普通に」

あー、エヴァンジェリンさんと茶々丸この旅行パスしたもんな。
そういやエヴァンジェリンさんは麻帆良の着物の着付け教室の先生になるとかって聞いたな。
まー多分それ以外にも舞とかも普通に続けるんだろうけどね。
魔法全然関係無いわー。

「なるほど。男だけで旅かー」

「前にネギとコタロ約束してたから、それでね」

「お、そうなんだ。さすが相棒」

今年小学6年生ってのは何か小太郎君のイメージにどうも合わないんだけど。
でも小学校中退とかぶっちゃけ無いから当然だけどさ。

「相変わらず修行修行言ってるのも変わらないわよ、コタロは」

「あー、そりゃ仕方ないんじゃ?」

あっちで馬鹿みたいに強いラカンさんを……最近はネギ君のお父さんもかな?……相手にした事ある小太郎としちゃ、まだまだって感じなんだろうし。
強くなってどうすんのかなーってのは気になるけど、例えば超りん狙って来るような奴らが魔法覚えたりしたら、その相手すんのはやっぱり魔法関係者以外にはいないから、必要とはされそうかな。
私はそういうの御免だけど。

「まー、そうよね」

……そんな感じでアスナと話したり、皆でトランプしたり写真撮ったり、タダ飯食べたりして過ごしてるうちに、飛行機は南の島に到着した。
なんつーか、テオドラ皇女様の魔法球の地平線の終わりが見えない版な感じの南国だった。
建物の造りは似てないけど、桟橋があったりするのは何となく似てる気がする。
この卒業旅行?……イベントもわざわざ考えてあって、冬休みのクリスマスパーティの拡大版みたいな感じ。
ぶっちゃけ、普通にバカンスしに来ただけみたいなものスね。
そんでもって豪華飯、豪華風呂と堪能し、夜はクラス全員が楽々どころか余裕すぎるぐらい入れる超大部屋に浴衣着用で集合。
洋式のふかふか絨毯の筈が何故かわざわざ中央部分に畳調の敷物を完備した上に布団が人数分……。
そして枕の山、山……枕投げ大会か?
つか配られたのそのまま受け取ったけど何で帯に出席番号と同じ数字が書いてあるんだろ。
しかも結び方指定されたし。

「はいはーい!今から枕投げ大会やるよ!!」

朝倉が司会ってのはもう完璧にはまってるな。
違うクラスなれて私は助かったけどね!

「朝倉ー!!ルールってあんのー!?」

ハルナか。
そういや枕投げってちゃんとしたルールとか私知らないわ。

「よくぞ聞いてくれたね!今回のルールは、バトルロワイヤルなのさ!」

「「バトルロワイヤルですかー!?」」

鳴滝姉妹、ビビってるけど多分考えてるのとは違うから。

「そう!枕投げをしながら、時には布団でそれを防ぎ、時にはその弾丸の雨の中を素早く駆け抜け、相手の帯、この出席番号の書かれた帯を取って最後まで残ったただ1人の勝ち!」

「「「おおーっ!!」」」

は?
いやいや。

「ちょい、朝倉、それ枕投げ関係無くない?」

「春日、細かい事気にしない!」

ビシっと指さされたよ。
帯、そういう事ね。

「禁止行為はこの部屋から出て隠れる事。後は何でもおっけー!何人かで共同戦線を張って協力、その後仲間割れ、単独で無双、布団に隠れて機会を伺う、どうぞご自由に!ただし怪我には気をつけて!それと帯取られたら壁際で邪魔にならないようにして!」

無茶苦茶だなー。

「何だよそれ……」

長谷川さんの呟きには同意スよ。

「しつもーん!優勝者には何か無いの?」

桜子か。
ラクロスって枕投げと通じるところがある……なんてことは無いか。

「もちろん、ありますわよッ!!だよね、いいんちょ?」

朝倉ノリノリだな。

「ええ、ありますわよ。まさかこんなルールになるとは思いませんでしたが……」

おまえが犯人か、朝倉。
いいんちょ微妙な顔してるぞ。
帯の取り合いとか女子だけじゃなかったらマジありえん。

「と、いうことだそうなので、豪華賞品もあるから皆張り切るようにっ!因みに早めに負けた人は優勝予想トトカルチョやるよ!」

そういうフォローもあるのね。

「「「「はーい!!」」」」

「で、今から3分間待ってやる!!いい?……3分で支度しなッ!!」

「「「「サーッ!!」」」」

混ざりすぎ。
ま……豪華賞品には興味あるね。
この手の場合、逃げ回るのが吉。
つーか、楓達がいる時点で真っ向勝負は無理だしな。

「お嬢様、お守りいたします」

「ありがとなー、せっちゃん」

って……そこ、忠誠心高すぎだから。
……でもってチア3人に運動部4人組に鳴滝姉妹、ゆえ吉+のどか+ハルナ、他、は共同戦線を組んだらしい。

「はい、時間!いざ、試合開始ー!!」

「「「いっけえええ!!」」」

手に予め枕持っておいて皆投げたい放題だー。
ぶっちゃけ、帯取るのと関係無いよね。
気絶狙いならともかくさ?

「ちょっ!」

何今飛んできた枕弾丸。
危ねー危ねー、あたったら気絶するわ!
誰が犯人だーってそんなのどうでもいい。
後ろを取られないように壁際でうまくやり過ごすか。

「あ、美空さん」

左にさよいたわ。

「ってさよか。あーえっと、一戦やる気?」

無駄に構え取ってみた。

「いえ、安心してください、後で必ず裏切りますから」

堂々と断言しすぎだろ。

「いや、全然安心できないから」

……とりあえず、固まっとく理由はないからガラっと空いたスペースに適当に距離取って待避。
反対側の長谷川さんにハカセ、ザジさん、五月もそんな感じか。
五月はこういう系の勝負とか好きじゃないしな。
で……問題の中心はっていうと……カオス。
チア3人VS図書館3人組。
運動部4人VSいいんちょ部屋3人。
たつみーVS楓。
くーちゃん+超りんVS桜咲さん+アスナ、その2人に守られるこのか。
鳴滝姉妹がいない……どっか布団に隠れてんな。
朝倉は司会だから元々参戦してなくて何かカメラもってやがるし、後はトトカルチョ目的だな多分。

「ハルナは突撃。のどかは私と挟撃です!」

「よーし!」

「分かった、ゆえ」

そんな会話してるように見えた瞬間、のどかとゆえ吉は本当に左右に分かれて桜子と柿崎の2人に牽制枕攻撃、そして本命は後ろにいるくぎみーを低姿勢から急襲。
ハルナは桜子と柿崎に突撃。
つかマジ逞しくなったな……。
くぎみーは足下から現れた2人に驚いてのどかを避けようとした所をゆえ吉に帯取られ、その2人に気を取られ後ろを振り向いた柿崎がハルナに帯を取られ……。

「帯ゲーット!!」

「きゃっ!」

……そのまま桜子もアウト!
チア3人の連携はどうした。
浴衣の前がはだけて下着が見えるのも何のその。

「あー!取られたー!」

当然だけど全然気にしない。

「くやしーっ!」

「帯の数を稼いでも意味はないです。次行くです!」

あ、向こうの壁際襲い掛かってった。
で、運動部4人といいんちょ部屋3人は延々と枕の投げ合い。
アキラといいんちょの枕のキレがヤバイな。
村上と亜子ビビって布団で防いでるから。
……そんで空気が終わってるのがたつみーと楓。
何アレ、枕マジ関係ないわ、分かってたけど。

「無手ならば拙者が有利でござるよ、真名」

「それは試してみないと分からないぞ、楓」

睨み合って……。

「いざっ!!」  「フッ!!」

 ―瞬動!!―    ―瞬動!!―

帯を巡る体術バトル始まった。
いや……ホント枕関係無いな。
好きにやってろー。
くーちゃん+超りんVS桜咲さん+アスナ、その2人に守られるこのかはっていうと……。

「超、アスナを頼むアル!」  「任せるネ!」

「古、行くぞ!」  「私は超さんの相手ね!」

「せっちゃん、アスナ、頑張りー!」

楽しそうスね。
微妙に桜咲さん仕事モードに口調なってるから。
超りんとアスナの2人の組み合わせって珍しいな。

 ―瞬動!!―

「貰うヨッ!」

「まだっ!!」

超りんが低姿勢瞬動の無駄遣いから入って、アスナの左脇から帯に右手を伸ばし、そこをアスナが左手で妨害。
超りんはアスナの左手にぶつかったのを利用してそのままスライディングに移行して後ろに回り込む。
その通りがけに超りんは更に左手をアスナの腰に伸ばし、再びアスナは左手ガード。
超りんは足に力込めたのか、急反発してアスナの右腰に向かって今度は勢いよく右手を伸ばす。

「はっ!」

「くっ!」

アスナは左方向に一気に体を振り向けて左手ガードを続けながら、ギリギリでその右手を背中越しにかわす。
超りんは滑るように、アスナの追撃をやり過ごし、しゃがんだ状態で、一旦アスナと距離を取り直して向かい合う。

「さすがは明日菜サン、いい反応だネ!」

「鍛えてるからね!今度はこっちからいくわ!」

 ―瞬動!!―

今度はアスナが超りんに仕掛け……。

「なっ!?」

超りんがしゃがんでいた布団のシーツを引っ張り上げ白いカーテンの壁にして目眩まし攻撃。
突っ込んだアスナは顔にシーツが直撃。

「甘かたナ、明日菜サン。帯は貰い受けたヨ」

アスナがもがいてる所を超りんがさっくり帯を取った。
してやったり顔だな、超りん。

「ぷはっ!……あっ、取られたー!」

「アスナさん!」

「刹那、よそ見するで無いアル!」

「しまっ!」

凄い打撃音が……。
あー、なにこのマジバトル。
で。

「このかサン観念するネ!」

「おやめくださいましー」

「良いではないカー!」

「あ~れ~!」

……そうでもなかった。
ギュルルっと帯取られて……このか、自分から回ってるだろ。

「お嬢様ーっ!!」

いやーていうか、枕投げのルールを誰か私に教えてください。
つか、朝倉カメラ持ってるのはあれか、この微妙にオヤジ思考なイベントの馬鹿騒ぎのカメラさんしたいだけなの?

「美空さん、帯を渡すです!」

宣戦布告来た。
何だゆえ吉、その帯の数は!

「ちょっ!御免被る、またな、ゆえ吉!」

逃げるぜっ!

「のどか!ハルナ!」

「うん!」  「春日待てー!」

追いかけてくんなーっ!
……漁夫の利……いやいや体力温存戦法もこれまで、適当にいいんちょ達の所に飛び込んで戦火を拡大させたりした。
そしたら鳴滝姉妹も沸いて出てきたり、何やかんや。
枕が飛んできたり投げ返したり、数分に渡る逃亡劇の末。

「美空殿、最早それまででござる。既に美空殿の帯はこの手の中なれば」

なぜそこに!

「な、何だとっ!おわっ!?」

ハラリって感じで浴衣がはだけた。
気がついたら楓に取られてたわ。
流石忍者。

「「楓姉、分身はずるいですよー!!」」

あ?
どれどれ……おいおい、16人かい。
そりゃ無理も無いわー。
殆ど楓に無双されてた。

「えーっともう生き残りいない?楓の優勝?」

……そうっぽいよなー。

「………………」

「ん?ザジさん?えー……まだ帯あったー!!?」

おお、朝倉のすぐ傍にザジさんいたのか。
しかも生き残ってるの?

「すごーい!」  「ぜんっぜん気づかなかったー」

「まあ、さすがはザジさんですわね」

いいんちょ、どう流石なんですか。

「これは失念していたでござるな……」

楓が目開けて驚いてるよ……。

「………………」

ザジさんがコクリと頷いて、一瞬の間に1人に戻ってた楓と距離を取って立った。

「これは思わぬダークホースの登場か!?熱い!さーさ、皆どっちが勝つか賭けるなら今だよ!!」

皆、楓超安定って事で賭けまくってー……。
最後に含むような顔で朝倉の元に行ったラッキー大明神の桜子が賭けたのは……ザジさんだった。
やべー、間違えたのか?
普通に楓に賭けたよ?

「いざ、尋常にしょーぶっ!」

朝倉のかけ声に従い。

「…………」  「…………参るッ!」

2人とも同時に接近、ぶつかりあ……あー?

「「「「消えたーっ!!?」」」」

ザジさん消えたー!!
なんか蜃気楼みたいに揺らいで消えたよ!?

「はは、これはやられたでござるな」

え?

「…………」

「うわっ!いつの間にまたザジさんそこに!?」

朝倉の横に気がついたらまたいたザジさんの手には楓の帯があった。

「大穴あったりぃー!!」

桜子だけ喜びの声上げたよ。

「「「「そんな…………」」」」

それに対して私含め他多数はがっくり。
ザジさんも凄いけど、桜子もスゲー。

「はい、優勝はザジさんに決定!!皆拍手拍手!!」

「「「「ザジさんおめでとー!!」」」」

「では私から優勝商品の贈呈を致しますわ」

いいんちょがタイミング良く包装された箱を持ってきた。

「…………」

ザジさんが頷いて受け取った。

「ザジさん、開けてみてください」

「…………」

包装をザジさんが開けて……出てきたのは本……か?

「A組3年間、主に朝倉さんが記録してきた写真を、こちらでまとめた、世界で唯一の特製アルバムですわ」

おお……確かにそれは豪華賞品だわ。

「えー、いいなーっ!!」  「私も欲しー!」

私もそれは欲しいわ。
女子中等部は学校で作る卒業アルバム無いし。

「ザジさん。気に入って頂けましたか?」

「…………とても気に入りました。大切にします」

「「「「しゃべったーっ!!?」」」」

ザジさんしゃべったー!?
しかも何か今までに見たことないぐらい嬉しそうな顔してる気がする!
……そんでもって、この夜、皆でそのまま布団の上で円になって集まって、そのアルバムをギュウギュウに詰めて囲みながら過去を振り返った。
修学旅行みたいに就寝時間の先生の見回りとか無いし、朝までずっと話したよ。
そっから眠くなって寝たりなんかして、目が覚めたのは昼頃。
朝ご飯兼昼ご飯を食べ、浜辺に行って皆でチーム組んでビーチバレーしたり、遊びに遊び尽くした。
2日目の夜は、3-Aの締めって感じで1人1人ちょっとずつ皆の前で話す事に。
朝倉が司会で「3-Aに言いたい事、自分の将来の夢、最近悩んでる事、ここに相手はいなくてもその人に愛の告白、何でもおっけーだよ!」って適当な事言ってたけど「出席番号順で行こうか」との事で、さよから。

「皆さん、私の初めての時の自己紹介って覚えてますか?私死んじゃったけど生き返って、このクラスで皆さんと一緒に3年間過ごせてすごく楽しかったです。私は3-A大好きです。これまで皆ありがとうございました。そしてこれからも、これからクラスが変わってしまう人もいますけど、高校3年間もよろしくお願いします!」

丁寧に頭を下げてさよが言葉を締めくくった。
すぐに皆拍手しだした。

「よろしくね!相坂さん!」  「さよちゃん、良い言葉!」

死んで生き返った件は華麗に皆スルー。
慣れたものスよ。
あえてそこ言ってくるさよもさよだけどね。
次ゆーな。

「えーと、こほん。 重 大 発 表 !!……私、魔法使いの娘でしたっ!」

知ってるわ。

「知ってるよー!」  「あー今更今更」  「お父さん交換しようよ!」

桜子意味不明。

「そこ!うちのお父さんは絶対あげないから!」

反応早っ。

「このファザコーン!」

「ファザコンで結構結構。それで、私も……3-A大好きっ!3-Aは永遠に不滅だにゃー!!」

絶対同窓会やり続けるから不滅スね、うん。
これは安心できる。
次、朝倉。

「この朝倉和美、悩み事が一つ。……私だけ左遷されたっ!!なぜ26組!」

わざとらしくおよよってすんな。

「どんまい、朝倉!」  「取材に来ればいいって!」

来んな!

「そういう事だから、私は皆の所にネタを求めに必ず取材にいきます!待っててね、よろしくっ!」

来んな!
その後もゆえ吉、亜子、アキラ、柿崎、アスナと続き。
私だった。

「春日美空、将来は魔法使いになります。もうどうしようもない意味でー……絶対」

「春日自慢かー!?」  「面倒なら代わってあげるからいつでも言ってよ!」

それ無理。

「美空ちゃん頑張って!」  「魔法見せてー!」

それも無理。

「そんな最近心にストレスを感じている私に元気をくれる皆!ありがとう!……ただし、朝倉はもう来んな!」

「それはできない相談だね、春日!」

ちくしょー!
茶々丸欠席、くぎみー、くーちゃん、このか、ハルナ、桜咲さんと来て。
まき絵。
普通にいつも通り天真爛漫な感じでしゃべって最後に言ったよこの子。

「私実はネギ君好きだったんだー!」

「「「「知ってるよ!!」」」」

そして桜子、たつみーと来て。
超りん。

「今まで皆にはいえなかた事があるが、この際だから言うヨ」

お?

「この超鈴音、実は地球から遠い遠い彼方の惑星の出身、火星人だたネ!!」

期待して損した。

「それも何度も聞いたって!」  「超りんホントは魔法世界から来たのー?」

「いやー、魔法世界ではないヨ。火星ネ火星。ははは!これからも皆、超包子をご贔屓に頼むネ!」

はいはい、宣伝お疲れ様。
楓。

「実を言わなくても拙者は忍者ではないでござる」

「「「「嘘だっ!!!」」」」

何だこれ。
鳴滝風香、鳴滝史伽の鳴滝姉妹は「実は私達小学生じゃないよ!」と連続して言ってきたけど、そういう流れにいつの間にかなってた。
ハカセ、長谷川さん、エヴァンジェリンさん欠席、のどか、村上と来て。
いいんちょ。
答辞を努めただけあって、長い演説に入り始めて皆で野次飛ばした。
で、最後に。

「私、実はある方への愛が止まりませんの。それは……そう、ネギ先生ですっ!!ああ、言ってしまいましたわ……このような場で失礼」

以下略。
五月。

「皆さん、私必ず自分の料理店を構えるので、その時は是非、食べに来てください。もちろん、これからも超包子でお待ちしてます。皆さん3年間ありがとうございました、そして、これからもよろしくお願いしますね」

抱負と営業なのに何故か滅茶苦茶和む不思議だった。
最後ザジさん。

「…………………………………………………………………………」

「まあ、これからもお願いしますわ!ザジさん!」

寧ろいいんちょが意味不明だった。
というか、翻訳しようよ!
……ってな感じで語りが終わった所で、1日目の夜と同じく、3-Aらしい騒ぎ方で過ごして、何か昼夜逆転してきてるけど、そのまま朝まで……。
そしてまた昼、3日目、起きて食事したら飛行機の時刻って事で、日本に帰った。
……こういう事ができるのもこれから少なくなると思うと寂しい部分はあるけど、これからはこれからでまた色々起こるんだろうと思う。
だけど、魔法世界の時みたいな事にはもう2度とならない事だけは祈るわ、本気で。
考えてみれば、今頃魔法世界じゃコレットさん、エミリィ委員長、ベアトリクスさん達はアリアドネー魔法騎士団候補学校を私達が中学卒業したように卒業してるんだろうな。
暦がおかしい事になってるのは微妙だと思うけど。
話してた通り戦乙女旅団に配属されたのか……ゆえ吉が一番気になってるだろうけど、今のところ一介の学生の私達程度じゃ世界間、星間通信はできる訳ないからやりとりもできない。
いつまたあっち行けるのか……行けなくてもせめて通信が自由にできるようになったら良いな。
……なんて考えて思いを馳せてみたんだけど、まず帰ってきて最初に私が頑張らないといけないのはアスナと話した通り、料理スキルの向上だった。

「五月先生、料理を、教えてください!」  「さっちゃん先生、お願いします!」

「料理に興味を持ってくれるのは嬉しいです。分かりました、いいですよ。頑張りましょうね」

「ありがとう!五月先生!」  「ありがとう!さっちゃん!」

こうして、幸せの化身の指導によって、私達の朝食は新たな変革の時代を迎えるのだった!
……なんて、適当言うだけなら良かったんだけどね。
ああ、何となく冷蔵庫開ける度に前から思ってはいたけど、五月の料理ってめっちゃ手がかかってるのがやってみて良く分かった……。
何気なくパクついてた一品一品が……こんだけ手をかけてるとは思わなかった。
そりゃ美味い訳だ。
春休み中、約束通りお母さんが休暇取って海外から戻ってきて、何か軽く一方的な質問責めを受けた後、協会からの指示には必ず従うように念を押されまくった。
まー、イタズラばっかしてる期間が長かったせいでそれをシスターシャークティにチクられてたから心配されるのはわかる。
これは私が悪かった。
でも、小切手返してくれなかった。
無念すぎる。
……で、そんなこんな春休みお料理強化週間も終わりが近くなって。

「美空ちゃん……今までずっとさっちゃんの作る朝御飯食べてたのよね?」

「イエス」

「メニューの数も味も落ちるのは我慢するしかないわね、もう」

「でーすーよーねー……」

「でも、この数日間付け焼き刃で練習したけど、大分マシになったわよね」

「うん、そこは私も手応えはあるよ。お料理研の人達、本当に優しかったし、何気に私達みたいな迷える子羊も沢山来てたし、頑張れたな」

「ホント幸せ空間だったわよね。って迷える子羊を導くのが美空ちゃんのシスター業でしょ!」

「いやー何の事やら分かりませんな。HAHAHA!」

「HAHAHA!じゃないわよ。……それじゃ、高校生活スタートね」

「そうスね」

そして2004年4月、私達は女子中学生改め、女子高生になりました。
新たな出会いが私達を待っている!……のかも。



[27113] 84話 麻帆良女子高等部1-1
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:51
魔法世界側に供与した植物工場の技術・計画案がアリアドネーとヘラス帝国にも伝わてから2ヶ月。
メガロメセンブリアでは溶液と特殊媒地の製造に成功して、施設の用意も具体的に進み始めているという事をクルト総督から聞いたし、この分なら今年の11月末辺り、後8ヶ月で突入する本格的な冬も、急ピッチで畳みかければ一定数の植物工場は間に合う。
一方、こちら日本では魔法法と魔法総合研究所法案も着実に進展していて、更に今月頭、とうとう魔法学校を開設する動きがニュースで報道されたネ。
それと同時に、主に中・高の学習指導要領にラテン語、梵字を盛り込む事をかなり前向きに検討する議論が文部科学省で始まった事も報道されたヨ。
また実際に、ラテン語についての自習は国をあげて大いに推奨するという事が発表された途端、ラテン語関係の書籍の売り上げが急速に伸びて来ているネ。
ラテン語と梵字を学習指導要領への導入が検討される、とは言ても、盛り込まれるのはほぼ確定で、ラテン語と梵字の教科書の作成もそれを踏まえて進められる筈だヨ。
……そして、私達はというと、もう女子高校生ネ。
この春休み中、付近の寮室に麻帆良に慣れていない雰囲気の見知らぬ人達を見ているが、確実に1-1のクラスメイトになるのは分かていても、軽く挨拶と寮の勝手を伝えたりぐらいで特に交流を持つという事はしなかたネ。
とはいても、私が誰か知られているせいで名前を名乗らなくても驚かれたが。
しかし、自己紹介と言えば、麻帆良女子高等部入学初日程打てつけの場も無い。
4月8日、皆でいつも通り遅刻しない程度の時刻に混雑の中を登校し、女子高等部3階上がてすぐの所にある1-1の教室に入たヨ。
麻帆良の登校が初めての人達は早めに席に来ているナ。
……座席表を見てみれば……高等部の最初は出席番号順で分かりやすい。

                      教卓

1列目(窓側)            2列目(中央)        3列目(廊下側)
相坂 さよ  明石 祐奈   日下部まりあ 近衛木乃香  二宮 桜  Angela・Rose
綾瀬 夕映 井上 真希   桜咲 刹那  進藤 志穂  葉加瀬聡美 服部 智代
宇佐見 雪 神楽坂明日菜 西華 香織  大道寺 奏  福山 奈々 松前 絵里
春日 美空 片桐 恵     龍宮 真名  超 鈴音    宮崎のどか 目白 黒子
絡繰茶々丸 Chloe・Carras 鶴川 天音  天童 琴美  百瀬 桃子 Natalia・Yudina
木之元 遙 古 菲      鳥居みゆき  長瀬 楓    王 香蘭

……分かていたけど、留学生増えたネ。
クロエ・カラス、アンジェラ・ローズ、ナタリア・ユーディナ、王香蘭。
それぞれ情報を掴んだ所、ギリシャ出身、アメリカ出身、ロシア出身、中国出身の、魔法使いネ。
なぜ入てきたかは考えるまでもないナ……。
しかもこのクラス、更に西日本の陰陽師の家系の出身者が多い。
進藤サンは進藤蘇芳サンの親戚で、陰陽師の修行は今までせず普通に暮らしていたらしく、鳥居サンと大道寺サンは、少しは心得有りという感じらしい。
都合が良いようだけど、実際3人は普通に受験して通たというのだから何も問題は無い。
結果として魔法生徒要員になる……魔法学校が設立される時に便利なのは分かるけどネ。
流石に明日菜サンの魔法無効化能力がバレるという事は、攻撃魔法でも使わない限りありえないし、そもそも中学3年間一緒の美空がそれを知たのも魔法世界に行てからだから少し警戒しておけば問題は無いネ。
とりあえず、龍宮サンが隣というのは楽だヨ。
席に向かた訳だが……後ろから感じる王サンの視線が痛いナ。

「また随分濃いクラスになたネ、龍宮サン」

「超が一番濃い癖に何言ってるんだ」

「おお、それは光栄ネ」

「それに、もう目をつけられているようじゃないか」

「いやー、私が怪しいと思われているのに自覚はあるから、今更だヨ」

「フ……」

酷く変わた空気のする1-1に大人しく座る事3分。
教室の扉を開けて入てきたのは……。
予め知ていたが、神多羅木先生と葛葉先生だたネ。
2人とも今までは男子高等部の先生だたのだが、女子高等部に移てきたヨ。
1-Aは学園長が仕組んだのだけれど、1-1は他色々な関係から結果的になたとしか言いようが無いナ。

「号令は……相坂、頼む」

「はい。起立!」

出席番号1番だからという理由だナ。
皆で席から立ち上がり。

「礼!」

それぞれ座り、始業式前のHR。

「まず俺が1-1担任の神多羅木だ。これからよろしく頼む」

「私が副担任の葛葉刀子です。これからよろしくお願いします」

サングラス+髭、SPに見える神多羅木先生に堅い雰囲気のある葛葉先生。
初めて見る人達は威圧感を感じずにはいられないだろう。

「それぞれの自己紹介といきたい所だが、略式の入学式と始業式が先だ。皆校庭に集合してもらう」

「人数が多いので速やかな移動を心がけるようにして下さい」

4000人超も在籍しているから集合するだけで時間がかかるネ。
先生の数も200を越すヨ。
指示通りに私達新入生は校庭に並んで、略式の入学式と始業式。
1-2と1-3に元3-Aが殆ど固まているから適当に手を振たりしたネ。
そして場所は再び教室。
葛葉先生は副担任だし、他の仕事もあるから神多羅木先生だけネ。
自己紹介の始まりだヨ。

「相坂さよ、出身中学は麻帆良女子中等部です。よく顔を出す所属は幾つかありますが、中でも超包子でよく働いているので、是非常駐店に来て下さい。因みに私一度死んだ事があるんですけど、生き返りました。皆さんよろしくお願いします」

お決まりの自己紹介だナ。
さらっと言たが、は?という顔をしながら拍手をしている人が結構いるヨ。

「よし、次明石」

《スルーされましたー!》

《構って欲しかったのですか?》

《皆の空気読む力が向上した結果ネ》

《何か……少し寂しいようで、少し良かったとも思う不思議です》

中学の時は朝倉サンが騒いだせいで空気が死んだが、残念ながら今回それも無いし流石に高校ともなると皆完全スルーだたネ。

「はい!私は明石祐奈、中学は同じく麻帆良女子中等部。部活はバスケ部!皆よろしくお願いします!」

「次、綾瀬」

「はいです。綾瀬夕映、中学は同じく麻帆良女子中等部です。所属は児童文学研究会・哲学研究会・図書館島探険部です。皆さんよろしくです」

次が井上サン。

「井上真希、中学は同じく麻帆良女子中等部ね。所属している部活はラクロス部です。これから皆よろしくお願いします!」

椎名サンと同じ部活で3-Iのクラス委員長もやていた筈だナ。
その次が宇佐見サン。

「えっと、う、宇佐見、雪と言います。出身中学は群馬県前橋市立第三中学校という所です。中学ではバレーボール部に入っていました。これからよろしくお願いします」

やっと外部1人目だネ。
緊張しているようだけど、今年の受験で入てきたという事は、頭は間違いなく良いだろうネ。
そして明日菜サン。

「神楽坂明日菜、中学はまた麻帆良女子中等部。部活は美術部です。皆、これからの高校生活3年間、よろしくお願いします!」

「次、春日」

「はい。えー、春日美空です。中学はまたここの女子中等部。部活は陸上部で専門は100m。……後から聞かれるのもアレなんで先に言っとくと、私はシスターで一応魔法使いだったりします。魔法見せて!とか魔法使いってどんな事してるの?とか聞かれても立場的に答えられないんで勘弁して下さい、お願いします!でも、それ以外はフツーに話せるんで、よろしくお願いします」

必死だナ、美空。

「……と言うことだから魔法についての追求はしないように頼む。因みに言っていなかったが、俺と葛葉先生は魔法協会にも所属している。春日と同様、魔法についての質問には答えられない事を理解してもらいたい。では次、片桐」

葛葉先生が微妙に青筋を浮かべている気がするが神多羅木先生はマイペースだたネ。

「は、はい。えっと、片桐恵と言います。出身は千葉で中学は三浦中学です。部活は入っていなかったので、これから麻帆良を色々見て回りたいと思っています。どうぞ、よろしくお願いします」

魔法使いの話が出ていきなりは動揺するのも無理無いナ。
続けて茶々丸。

「絡繰茶々丸です。出身中学は麻帆良女子中等部です。所属は茶道部です。皆さん、これからよろしくお願いします」

既に見た目は素で人間に見えるし、強力な認識阻害もかけているから大丈夫ネ。

「次、クロエ・カラス」

「ハイ!私はChloe・Carras。ジャパン、マホラの噂を聞いてギリシャから来た留学生です。カスガさんが魔法使いと言いましたが、私も同じく魔法使いです。マホラはとても面白い所だと思います。みなさん、よろしくお願いしますね」

美空が凄く驚いてるナ。

「次、木之元」

「はいっ!木之元遙です。出身は麻帆良女子中等部……」

続けて古、東京都の中学出身の日下部サン、そしてこのかサン。

「うちは近衛木之香。中学はここの麻帆良女子中等部や。中学の時は占い研の部長してました。今所属しているのは図書館島探険部、東洋医学研究会の2つ。それで、うちも魔法使いや。ほな、皆、よろしくお願いしますー」

次が刹那サン。

「桜咲刹那です。出身中学は麻帆良女子中等部。所属部は剣道部です。皆さん、お願いします」

簡潔だネ。
次が問題の進藤サン。

「進藤志穂です。出身は島根県で中学は出雲市立第一です。部活は私も剣道部でした。何か魔法使いの話が出てるんで一応言っておくと……実は私の家系は日本の古来の魔法使い……んっと安倍晴明って言ったら良いんですかね、あの陰陽師らしいです。聞いて驚きました。けど、詳しい事は私も良くわかってません!ともあれ、皆さん、よろしくお願いします!」

蘇芳サンに容姿が似ているという事はないが、剣道部というのは喋り方とは裏腹に何となく分かるナ。
刹那サンがハッとしたような顔しているネ。

「次、西華」

「はい。西華香織です。中学はここの麻帆良女子中等部で、所属は報道部。でー、このクラス見た感じ濃すぎて私には手にあま、あー、というか26組の朝倉和美とゆー報道部突撃班員とは違って私はかなり大人しいんで、クラスの皆さんにそんな深く追求はしないから、安心して下さい。ただ、一応このクラスの広報担当にはなると思うんでそこだけは頼みます。そういう事で、皆よろしくお願いします!」

「報道部に指定してあるルールだけは守ってくれ」

「分かってます。お任せあれ、先生」

「ああ。では次、大道寺」

「……はい。……大道寺奏です。出身は和歌山県、智越学園和歌山中学校でした。皆さん言っているので……私も陰陽師の家系です。殆ど普通の生活をしていましたが少しだけ心得もあります。部活は合唱部でした。麻帆良にはコーラス部があるそうなので入りたいと考えています。皆さん、どうぞよろしくお願いします」

大人しいタイプの人だネ。
続けて龍宮サン。

「龍宮真名、家はここの龍宮神社で麻帆良女子中等部出身、所属部は大学部のバイアスロン部だ。正月に巫女のバイトをやりたかったら言ってくれ。よろしく頼む」

刹那サン並に簡潔だナ。

「次、超」

私の番カ。

「はい。超鈴音ネ。中学は麻帆良女子中等部。所属はロボット工学研究会、量子力学研究会、東洋医学研究会、生物工学研究会、中国武術研究会、お料理研究会だヨ。人によては色々気になることはあるかもしれないが……時間がかかるから全部省くネ。それより、一番重要なことなのだが、皆、超包子をご贔屓にしてくれると嬉しいヨ!よろしくお願いするネ!」

火星人ネタは流石に外国の魔法使い留学生がいるから控えておいたヨ。

「次、鶴川」

「は……い。あっ、すいません。鶴川天音と言います。出身は神奈川県で……」

続けて、天童サンと来て。

「鳥居みゆきです。四国は徳島の出身です。中学は鳴門国立大学附属中学校でした。部活はソフトボール部でした。……実は私も陰陽師の家系の出身で、大道寺さんと同じで心得も少しだけあります。ニュースで麻帆良がこんな凄い所だというのを知りましたが実際に見てもっと驚きました。これからよろしくお願いします」

そして楓サン。

「拙者は長瀬楓。中学はここ麻帆良の女子中等部。さんぽ部なれば、麻帆良の案内なら任せるでざる。皆、よろしく頼むでござる」

口調に外部の人は皆驚いているネ。
そのまま二宮サンと続き。
アンジェラサンはアメリカ出身の魔法使いと言うことを述べたヨ。

「葉加瀬聡美です。中学はここの附属校で、所属はロボット工学研究会、ジェット推進研究会です。最近研究会の境界は曖昧になってきてるんですけどね。麻帆良大工学部では超さんとよく研究をしています。皆さんよろしくお願いします」

「次、服部」

「はい!服部智代、出身は秋田の秋田大学文化学部附属中学校で……」

更に福山サン、松前サン、のどかサン、目白サン、百瀬サンと来て。

「Natalia・Yudina。ナタリアとお呼び下さい。出身はロシア連邦共和国、また、魔法使いでもあります。部活……ではありませんがスキーが得意です。以後お見知り置きを。皆さんと仲良くできればと思います」

薄い金髪に青い瞳が特徴的だネ。

「最後、王」

「はい。王香蘭と申します。出身は中華人民共和国、その魔法使いです。今や世界的に有名な麻帆良で直に、皆様と、共に過ごせる事を嬉しく思います。どうぞ、よろしくお願い致しますわ」

お嬢様系だネ。
しかも髪型が私と被ているナ。

「……よし、自己紹介はこれで終わりだ。後は各自交流を深めるように。高校からの入学者で分からないことがあったら周りに遠慮せず聞け。この学校は3年間クラス替え無しでそのまま持ち上がりだ。基本的に部活、研究会の活動、生徒の自主性を大いに尊重する。では、このままクラスの委員を決める。司会は附属生の方がいいだろう。誰か1人代表で出てこい」

「あー、先生私やります!前委員長でしたし」

「ああ、頼むぞ、井上」

「はい!」

神多羅木先生が教壇から離れて扉側に移動、井上サンが出て来たヨ。

「それでは、この井上真希が司会担当します。にしても、このクラス3-A多いなー。……おっと失礼。クラスで決める必要のある委員はクラス委員長、書記、美化委員、図書委員、保険委員、給食委員が基本。因みにこの学校には給食無いので、給食委員というのは学食のメニューについて色々案を出したり、購買で買える食べ物の選定など決定をする委員なので参考までに。高校からはこれに加えて編集委員、選挙管理委員、麻帆良祭実行委員、体育祭実行委員、生活指導委員があります。説明すると編集委員会は報道部と連携して卒業アルバムの作成をするのが主な仕事。選管、麻帆良祭、体育祭は想像の通り、生活指導委員は生徒の生活の規律を保つ……というと聞こえはいいけど、注意したり、遅刻の違反キップ切ったりする仕事だから正直な所、あんまり良い顔されないです。あとは各委員会に学園総合委員が大体設置されているけど、それはその委員会内で決めるものなので気にしなくて大丈夫です。あと、この学校は報道部が放送と広報を一手に引き受けてるので放送委員会や広報委員会は無いです。他に修学旅行で写真係とかそういうのはその時で決めるんで。……以上でまずは立候補募集します。って事でまず私このままクラス委員長に立候補します」

慣れた手つきで黒板に全部委員とクラス委員長の所に井上サン自身の名前を書きながら説明してくれたヨ。

「井上さん、私図書委員に立候補します」

「待ってました。宮崎さん図書委員ー」

のどかサンは他クラスにも図書委員だた事を知られているネ。

「はーい、報道部員がいるからには編集委員は私が」

「それ来た、西華さん編集委員」

「ほな、うち書記やるえ」

「はいな、近衛さん書記、と。他いますかー?」

「給食委員、私立候補します」

さよか。

「えっと、おお、相坂さん……と。他はどうですかー?」

中学の卒業式で壇上に上がたから知ていて当然だネ。

「あ、私麻帆良祭実行委員会に立候補するよ!」

「ほいっと、明石さんね。あ、麻帆良祭実行委員だけに限らないですけど、自分もやりたい……っていうなら遠慮せず立候補して下さい。特にこの麻帆良祭実行委員はやりがいあるって話なので」

「あの……じゃあ私……」

……委員会決めは井上サンの司会の元、サクサク進んで行き、幾つか被てジャンケンになたりしたけど、無事に全部決またネ。

「司会助かった井上。……丁度このクラスの教科書配布の時間だ、3階ホールに出席番号順に並んで教科書を受け取りに移動してくれ」

「「「「はい!」」」」

神多羅木先生に従て教科書をホールで順に受け取り、教室に戻ては落丁の確認、問題なければ持ち帰る物以外はロッカーに仕舞て終わりネ。

「……今日はこれで終わりだ。明日、身体測定と健康診断を1日かけて行うから体操服を忘れないように気をつけろ。後で女子寮に戻ったら尿検査キットが届いているから各自一つずつ受け取って明日の朝保険委員に提出するように。因みに明日俺はいないから何かあったら葛葉先生に言ってくれ。この後クラス会をするもよし、度が過ぎない範囲で好きにすると良い。では井上、号令頼む」

「はい!起立!」

皆立ち上がって……。

「礼!」

神多羅木先生はそのまますぐに出て行たネ。

「あーっと丁度昼だけど、一つ聞いて下さい!」

井上サンが教壇にあがて何か提案するようだナ。

「SNSでこのクラスのコミュニティこの場で作りたいと思うんですけどどうですか?連絡網と個人間のやりとりにも使えるんで便利ですし。って開発者の超さん良いかな?」

開発者がいるというのは変な気分だろうナ。

「もちろんネ。どんどん使て欲しい」

皆も席から立ち上がてこのまま帰ろうとしたりはしていないネ。

「……んーと反対意見も無いみたいですね。じゃあコミュニティ今作成するのでちょっと待って下さい!」

……井上サンが携帯を操作する事少し。

「できました。MGHS1-1(2004年)に名前設定したんで検索して下さい。パスは1104です。全員登録し終わったら受付拒否に設定変更するのでお願いします」

携帯を持ていない人がいないみたいだから何も問題は無かた。
その後、クラス会を軽くやろうという事になり、私の方から超包子でやる事を提案してそのまま昼食兼クラス会に移行したネ。
サービスで全額無料にしたのだけど、超包子の味に慣れてない人達は「た、タダで本当にこんな食べていいの!?」と驚いていたヨ。
正直あやかサンが常に張り切ていた3-Aに慣れている私達としては大したことでも無いのだけどネ。
私とさよで主に料理を担当して大体クラスの皆に振る舞い終わた所で私達も落ち着こうとした所に美空がそっとカウンターに近づいて来たネ。

「超りん、何このクラス。大丈夫か?」

クラスの人の名前は分かていても実際自己紹介したらこのザマだたからナ。

「美空、大丈夫ネ。もう、なるようにしかならないヨ」

「あー、まーそうですよね。はっはー」

「それより美空は大学どうするか知らないけど、勉強は頑張らないと行きたい学部の枠取れなくなるから気をつけた方が良いヨ」

「んー?……別に大丈夫じゃ?」

「美空さん、油断しない方が良いですよ。今年外部から入って来た人達は、皆学業成績は全国トップレベルですから。中学の時の感覚のままだと……」

実際国立の附属中学の人が結構多かたしナ。

「げげー!そうか、全然考えて無かったわ。うわー高校の勉強かー。えー、でもあれじゃ?実は陰陽師だった3人とか私が言えた義理じゃないけど仕組み……じゃないの?」

うむ、美空の言えた義理ではないナ。

「それは無いヨ。皆きちんと試験を突破して入て来ているネ」

「マジ?いや何で超りんが断言できんの?」

「美空、折角私が貴重な答えを言たのだからそこは考えては駄目ネ」

「あー……はいはーい。りょうかい。思考停止しとくわ」

投げやりに手を振て反応返してきたヨ。

「あの……超鈴音さん、少しお話宜しいですか?」

来たカ。

「ほ?」

美空が抜けた声を出した。

「構わないヨ。王香蘭サン」

「ありがとうございます。春日さん、隣失礼致します」

「あ、どうぞー」

美空の隣のカウンター席に王香蘭サンが座たネ。

「(超鈴音さん、無礼を承知で伺いますが……貴女は本当に中国人なのですか?)」

中国語で話をしてくると思たネ。
美空が唖然としているヨ。

「(その通りだヨ。調べれば分かるネ)」

「(それは……そうなのですが……では何故母国の中国で研究を行わず、日本で研究を行っているのですか?)」

「(麻帆良の設備は世界でも最先端だからネ。ここ以上に良い所は早々無いヨ)」

「(……それは私にも分かります。ですが、麻帆良でさえここ最近の技術革新は急激だと聞いています。貴女程の能力があれば、中国であっても何ら問題は無いのではなくて?)」

「(それは今だからそう言える事ネ。私の発明についてのインスピレーションを実際に形にするには、ここ麻帆良で協力してくれた人達の柔軟な対応能力と全く新しい事に対しても偏見を持たない広い心が無くしては、今は無かたと断言できる。例えばハカセ、葉加瀬聡美は私にとて特にそう言える人物だヨ。ハカセとは麻帆良でなければ出会う事はありえなかった。母国に対して貢献すべきというのは分からないでもないが、私は世界全体に貢献したいと考えているのだけどそれでは王香蘭サンは不満かナ?SNSは実際その典型だと思うのだけどネ)」

「(……なるほど、良く分かりましたわ。私達立派な魔法使いは確かに世界全体に貢献するのが本分ですからね。……私も無用な詮索はしないようにと言われておりますので、この話はここまでにしておきます。お話ありがとうございます。貴女の中国語とても綺麗な発音ですわね)」

遠まわしに、中国人でもないのに中国語が上手いと言われているようだナ。

「(こちらこそ、理解してくれたようで助かるネ。王香蘭サンも綺麗な発音だヨ。それと、古とは話したかナ?)」

「(ええ、話しましたわ。古家の跡取り娘の噂はかねがね聞いておりましたが、イメージ通りの活発さでした)」

「(ははは、古はいつも元気すぎるぐらいネ。王香蘭サンは中国武術に心得はあるのかナ?)」

「(套路は一通り披露するぐらいはできますが、実戦できるほどではありませんわ)」

「(そうなのカ。気が向いたら中国武術研究会にも顔を出すと良いヨ。古も喜ぶ。私は最近忙しくて顔を出せていないのだけどネ)」

「(古菲さんにも先程誘われましたわ。4月中に体験に参加したいと思います)」

「(王香蘭サンが顔を出してくれたら他の部員もきっと喜ぶヨ)」

「(そうだといいのですが。……忙しいようですが、またの機会があればお話して頂けますか?)」

「(またの機会も何もこれから3年間同じクラスだからネ。気軽に話しかけてくれて良いヨ)」

「(私としては世界中で話題の貴女と話せる事を楽しみにしていましたので。是非そうさせて頂きますわ。それでは失礼致します)」

王香蘭サンは丁寧に一礼して他の皆の所へ行たネ。

「はー……何今のスゲー。ここ日本だよね?」

「美空、国際大附属ならこれぐらい日常茶飯事だヨ?」

「いやーまあそうなんだろうけどさ。こんだけ間近で理解できん話されてもってね」

おや、今度は古がこちらに近づいて来たネ。

「超!今何を王と話してたアルかー?」

流石古は打ち解けるのも早いナ。

「少し世間話をしただけネ」

「そうアルか。王が中武研来てくれると言ってくれたけど、超はやっぱり忙しいから無理アルか?」

「時間が取れたら必ず行くネ。しかし、もう古は私が相手するには強すぎるヨ。楓サン達でないと相手にならないと思うネ」

「そうかもしれないアルが……それは少し寂しいアル。超の長拳久しいからして……」

ふむ……確かに私も古とは久しいナ。

「古、今少し手合わせするカ?」

「おお!良いアルよ!」

「中国武術研究会の宣伝にもなるし丁度良い。卒業旅行では軽く遊んだだけだたしネ。すぐそちらに回るヨ」

「分かったアル!」

「おー、頑張れー」

「鈴音さん、くーふぇさん頑張って下さい!」

美空とさよの声を背に受けながらカウンターから出て、超包子の席の邪魔にならないところで古と向かいあう。
クラスの皆も何を始めるのかとこちらを注目し出したネ。

「今から中国武術研究会の軽いパフォーマンスをするヨ!」

「超、いつでも良いアルよ!」

「分かった。先に行かせてもらうネ!」

行くネッ!

 ―瞬動!!―

結局のところ……やはり古は恐ろしく強くなていた。
打ち合う度にほぼ一方的に私が削られたヨ。
気の練度が半端ではないから、私の拳はその気の纏だけで防ぎ切られるのに対し、私は全てダメージを受ける。
古も手加減はしてくれたから、手合わせらしい手合わせではあたのだけどナ。
お互い頃合いを感じて距離を取り直して一礼した。

「超、また手合わせするアル!」

「もちろんネ、古」

……クラスの皆はというと、高校からの人達は完全に引いていたネ。
でも、これが麻帆良だから慣れざるを得ないヨ!
クラス会もそこそこに解散していつも通り工学部に行き、そのまま翌日。
身体測定と健康診断なのだが……。

《うわーん、成長した身体用意するの忘れてましたーっ!》

《さよ、成長した数値がカードに記載されるのはまた来年にお預けだナ》

《徐々に調整加えていかないと怪しいので駄目ですからね》

《ああ、そうですよねー。1日で1cm成長する訳にもいかないですから毎日微調整しないと駄目じゃないですか!》

尤もな話だナ。

《微調整で微成長を繰り返す以外に手は無いでしょう。サヨは精霊ですから》

《そういうダジャレみたいの要らないですからね、キノ》

《翠坊主は相変わらずそう言うのは好きだネ》

《わざと……というよりは意識的に言うように心がけているだけです。気にしないで下さい。話を戻しますが、身体の調整取り組むなら自分でやって下さい。サヨも私がやるより自分でやった方が良いでしょうし》

《それは分かってます。毎日ミリ単位よりも小さく微妙に背は伸ばし、他も成長させます!》

《頑張って下さい》

《はい、妥協はしないです!》

《さよはどれぐらいになりたいネ?》

《えーっと、とりあえず18歳ぐらいまではやりたいです》

《3年間頑張るネ》

《……はい》

どうも精霊がやる作業というのは地味で地道なものばかりだナ。
まあ精霊だからこそ、とも言えるのだけれど。
身体測定の結果私もまたこの1年で少し成長したヨ。
健康診断でも問題ある訳無かたが、クラス数が120超あると本当に1日使わないと健康診断は終わらなかたネ。
中学の時はもう少し早く終わたのだが。
大学は大学で学部毎にある指定日の都合のあう時間帯に行けばいいだけだから、この経験も後2回だけネ。
そして……その次の週から、高校の授業は普通に始まて、ハカセ、さよ、私は特に、問題無かたし、高校から入て来た人達も授業中に当てられてもほぼ答えられるし、宿題も問題無く解けていた。
私からすると変化があたように感じたのはやはり、明日菜サン、綾瀬サンの2人ネ。
ネギ坊主に勉強を教えて貰ているお陰と、自主的に勉強するようになた甲斐もあて、まき絵サンは既に隣のクラスだけれどバカレンジャーも最早別の意味で壊滅したナ。
明日菜サンと同じ寮室で生活しだした美空も「アスナ、もしかして偽物だったりする?」なんてふざけて冗談を言ていたぐらいでその変わりようは中学の時とは火をみるより明らかのようだたネ。
「アスナだってやればできるんだから私もやるかー」と美空自身も以前よりもそれなりに真面目に勉強するようになたのは良い事だと思うヨ。
ところで……。

《翠坊主、留学生4人の魔法使いとしての技量はどれぐらいなのか分かるカ?この際戦闘面で良いヨ》

瞬動を私と古が普通に使ているのを見て驚いていたぐらいだからある程度は分かるが。

《4人共魔法の運用能力は今の佐倉愛衣を下回るでしょう。実戦だと綾瀬夕映と相手すれば確定で綾瀬夕映が勝ちます》

《ふむ、それぐらいカ》

《ネギ少年達が普通ではないので、一般的魔法使い、それもまだ15、16では仕方ないでしょう。電子精霊使いなら戦闘能力はそれほど必要も無いですし》

《そうだネ。少なくともこれからの地球で魔法使いの一般水準が強すぎても困るからそれぐらいでいいだろうナ。それと、陰陽師3人は葛葉先生に引き連れられてから呪術協会に出入りし始めているようだけどどうネ?》

《大道寺奏、鳥居みゆきはそれこそ、そこそこ……ですが、進藤志穂は今の所全然です。進藤蘇芳さんの親戚なのかは関係あるかどうかは分かりませんが才能はあると思います。本人も魔法自体には興味を持っているのでやる気も十分。孫娘と自己紹介の時に神鳴流である事を名乗りはしませんでしたが桜咲刹那、2人も呪術協会の関係者という事で仲良くなってきているようです》

《ふむ、そうカ。魔法学校を設立するときに西洋魔法使いだけでは日本では関西呪術協会が黙ていないだろうから丁度良いだろうネ》

《ええ、その予定で梵字を学習指導要領に……選択になるとは思いますが入れる動きが出ている訳ですし。しかし、東洋呪術も最初から魔分の使用に重点を置いてしまえば西洋魔法との繋がりがもっと増えると思うのですが》

《東洋呪術の気を扱うというのは確かに習得難度という点でデメリットではあるがきちんとメリットもあるし一概には決められないヨ。体内の生命エネルギーを理解するというのは必ずプラスになる》

《その辺りが難しい所です》

《うむ。……さて、私は私でやることをやるヨ》

この数日、私が所属する研究会の門戸を叩く大学生の新1年生が多すぎて正直私としては面倒とすら思えてしまうのだが、工学部なら馴染みのお兄サン達が、東洋医学研究会は流石にそこまで多くはないからともかくとして、大体対応してくれているお陰でその余波をなんとか免れているヨ。
もちろん興味を持てくれているのはやぶさかではないのだが。

《了解です。こちらの術師の摘み出しもゼクト殿のお陰で順調に進み、ようやく組織の活動が徐々に鈍ってきています》

《私達が仕返ししているとは気づいてもいないだろうネ》

《それはもう。いくら千里眼でも限度があると思うのが普通ですから》

《それもそうだナ》

ただ、捕まえても意味がない人達が一定数いるというのはどうしようもないし、これまでに組織が貯め込んだ魔法具自体はそのままという事にも変わりは無い。
それでも、麻帆良にいる分には特に不自由もないから、私は私のやることをやるに限る。
半永久魔力炉もプロトタイプが完成するのももうすぐだし、それこそ太陽炉ではないが改めて何か略称か……それらしい名前を考えるかナ。



[27113] 85話 ドライヴ
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:52
超鈴音達の新生活が始まった一方、雪広グループが経営している麻帆良郊外にある女性限定の着物着付け教室で先生をするようになったエヴァンジェリンお嬢さんと言えば、一瞬で教室の受講生が増えるという現象が起きた。
お嬢さんとしてはそこそこ仕事をしようという程度の筈だったのであるが、噂を聞きつけたファンが増える増える。
ついでに受講生は各自持ち合わせたエヴァンジェリンお嬢さんグッズを両手に「サインお願いします!」と必ず言ってきていた。
着付け指導自体は、お嬢さんは以前からお手の物であり、2002年の麻帆良祭でも当時の2-A生徒達に指導していた時も口調はいつも通りではあるが非常に丁寧な指導であった訳で、受講生達の顧客満足度と言えば振り切れていると言っても過言ではないだろう。
結果として……その受講は瞬く間に数ヶ月の予約待ち状態となり、今から申請してもお嬢さんに手ほどきをしてもらえるのはやはり稀少性あるものとなった。
雪広側にとって迷惑な話「女装して行けば男でも申し込めますか?」「男の娘なんですけど……駄目ですか?」「差別は良くないと思います!」「エヴァ様との触れ合いの機会は公平にすべきだと自分は権利を主張します!」という問い合わせと意見がかなりの数増えているのが、着物部門のスタッフの人達としては「 ま た 男 か ……」と溜息の耐えない種となっているらしい。
因みにその……インターネット的知識で言うなら、勇者(笑)達は電凸の結果を匿名掲示板に書き込み、粘れた時間の報告や、雪広の対応台詞類型の分析等を無駄に続けていたりする。
主にその仕事を行う傍ら、お嬢さんは就職の際に雪広のアパレル関係企業とも契約を行った結果とでも言うのか、そんなある日雪広の写真撮影スタジオを訪れた。
その場では明らかに写真を撮ります、と言わんばかりの用意がされていた。
幾人ものスタッフさんの中には……お嬢さんの同級生もいて、大量の夏向けと覚しき服一式を引っ張ってきて見せた。

「これ全部今年の夏新作モデルとして出す服よ」

なに食わぬ顔でお嬢さんを背丈の問題でやや見下ろすような形で、彼女は言った。

「美幸……。で……何か、私に全部着てみせろと?」

事情を察したようにお嬢さんが美幸さんに怪訝な表情でやや上を向いて尋ねた。

「さっすが、エヴァ、話が早くて助かるわっ!この日をどれだけ楽しみにしてた事か!」

途端に両手を音を立ててあわせてやや上体を左に傾けて反応した。

「は……まあ良い。分かった。どれから着ればいいんだ?」

「片っ端から行くわよ!もう組み合わせは全部決めてあるから任せて!」

美幸さんは速攻で一着を取りお嬢さんに勢い良く突きつけて見せて言った。

「あ……ああ」

「さ、着替えたらすぐ写真撮影するからお願い」

美幸さんはお嬢さんの背中を押すようにして着替え場所へとそのまま連行していき、他スタッフの方々はリストに従って服の組み合わせの用意とメイク係り、カメラさん、照明係さん、などなどとそれぞれの仕事に分かれて行動開始となった。
お嬢さんと言えば、舞関係で着る服は当然であるが、ゴシックロリータの服をよく好む。
お嬢さんは、スカートは非常に良く着るが、しかしながら一般的なパンツ系は着ず、特にジーンズやデニム系のパンツは全く着ないと言っていい。
例外と言えば、麻帆良女子中等部の体操服がショートパンツであるぐらいだったろうか。
しかしながら、今回はそのような事無視して、キュロット、ショート、レギンスパンツ等も数多く取りそろえられており、お嬢さんの趣味などというのは完全無視。
当然、お嬢さんは外国人女性とはいえ良くて14歳程度と言った外見、神々しさからその存在感的にもっと大きく感じる……というのはさておき……であるからして、10代後半から20代前半女性向けのファッション誌だとモデルとしては無理がある……と思われたのだが……「エヴァは凛々しいから大丈夫」と、何ら問題はなかった。
「年齢詐称薬があれば飲んで欲しいんだけどねぇー」と美幸さんがぼやきながらもお嬢さんをいわゆるコーディネートをして行き、流れるように細かい所も整えられ、写真撮影に回され、次々撮られて行った。

「……なんて素晴らしい逸材……」

女性のカメラさんが撮る度に唸り声をあげるのが印象的。
もちろん、ティーンズ向けの服も後から山ほどやってきて写真も撮られていた。
美幸さん含むスタッフさん達的には、お嬢さんがショートパンツを着る姿が新鮮すぎたようであるが、やはり本命はスカート系というべきか、実に様になっていた。
ウエストにリボン付きの白色フリルワンピースはカメラさんが写真を撮るのを一瞬呆けるぐらいで、横で見ていた美幸さんが両手を前に出して小刻みに震えながら「だ、抱きついていい?」と興奮していた。
大丈夫だろうか。
お嬢さんにとって面倒だったのは表情についての注文が激しい事で、可愛い系の服を着る時は特に笑顔について何度も細かく「もう少し、もう少しだけ表情をゆるめてくだ……あ、それは緩めすぎです」と頼まれて苦労していた……がこれから慣れるのであろうか。
夏物というだけあって、半袖カットソーやノースリーブカットソーなどと肌の露出が多い服が多かったが、普段舞台では露出が殆ど無いだけに、美幸さんは「この写真が雑誌に載ったら確実に男が買いにくるわね」とどこが情報元かは不明ではあるが、断言していた。
雑誌を買いにくるのか、着ていた服を買いにくるのかは知らない。
しかし、私はその可能性が起こる事が十二分にありえるのはネットワークの走査で理解している。
時間をかけて行われた写真撮影も終わり。

「モデル料は契約通りだから安心して。雑誌できたら家に送るから」

「ああ、分かった」

正直金銭に殆ど興味無いお嬢さんにしてみればモデル料は一切重要な事ではない。

「あーもう、どれぐらい反響出るか今から楽しみー。エヴァのファンって10代後半以降が多いけど、今回の10代前半向けの雑誌用の写真でより層が厚くなるかもしれないわよ」

今までがほぼ大学のサークルで活動していただけにその傾向は強い。

「どうだかな。……結果でも分かったら教えてくれればいいさ」

「もっちろんよ!」

……という訳で、その日のお嬢さんのモデル業は終わりとなり、実際に撮った写真が雑誌に載るまでしばらく、となった。
その結果と言えば、載った雑誌は売り切れ、海外からも注文があったり、果てはネットオークションで転売しようと試みる輩も現れたり、雑誌に載ったお嬢さんの腕や首周りの露出が高い写真が大量にアップロードされたりとか……というのはまだ先の話。

さて、ネギ少年はというと、個人が発動する転移魔法はほぼ習得し、実際に小太郎君やナギ達と旅に出た際に北は北海道から南は鹿児島まで問題なく転移魔法を成功させていた。
更に、ネギ少年だけ先に遠くに飛び、そこから強制転移魔法で物をナギ達に転送するということも上手く行き、中距離はまさに完璧と言って何ら問題は無かった。
次にゼクト殿同伴の元で、実際に5000kmという魔法球では実験不可能な長距離転移魔法にも挑戦し、結果として日本から中国大陸に飛ぶという事も初挑戦ながら普通に成功させたのだった。
総評すれば、ネギ少年は転移魔法そのもの自体についての理解はほぼ十分という状態になったので、ようやく超鈴音が依頼した超長距離転移魔法それに加速度付加可能版の術式開発に本格的に取り組み始める事となった。
その際ネギ少年は超鈴音にこれから開発に取り組む旨を粒子通信で報告し、超鈴音もそれに対して「よろしく頼むネ。定期的に進捗状況とその術式をこちらにも知らせて貰えるかナ?」と返し「はい、超さんの意見も聞きたいので、必ず送ります」と既に研究者同士と思えるやりとりであった。
その後普通に研究を始めだしたネギ少年であったが、そんなある平日高校の授業が終わった後、アスナがやってきた。
相変わらず研究を続けている事にアスナは苦笑しつつもネギ少年に「高校はどう、アスナ?」と尋ねられてから「私最近料理上手くなったわ」や「外国の魔法使いの留学生4人も来て、陰陽師の子も3人も……」と色々話していた。
そして時刻も夕暮れに差し掛かるという頃、ネギ少年が切り出した。

「アスナ、今からちょっと外いかない?」

「えっ?ちょっとって?」

突然の切り出しにアスナが動揺する。

「うん、ちょっと。行こう?」

「う、うん。それは別にいいけど」

「母さん、父さん、ちょっと外行ってくるね!」

ネギ少年はアリカ様とナギに出かける旨を伝え、アスナの手を取って魔法球の外に出ていった。
……当の手を取られた本人はやや顔を赤らめていた。
そして玄関で靴を履いた所、アスナはそのまま外に出ようとしたが、ネギ少年が引き留めた。

「アスナ、ちょっとここで目瞑ってくれる?」

「え?目瞑るって……なっ、何するつもりよ」

アスナは完全に勘違いをしたようだ。

「見せたいものがあるんだ」

「は?」

見せたいものがあると言いながら目を瞑ってと言うのは、特にネギ少年が何かを隠し持っているようにも見えないのでアスナにとっては意味不明。

「いいからいいから」

少し楽しそうにネギ少年が勧めた。

「わ、分かったわよ。……はい、瞑ったわよ」

そして、ネギ少年は……。

―即時範囲転移―

転移魔法を発動し、玄関からアスナと共に消えた。
……転移した先は飛騨山脈、通称北アルプスの某山の山頂。
普通の登山道も無い場所に転移した為、他に人の影も形も何もありはしない。
いるのはたった2人だけ。

「な、何?寒い……って!」

目を開けるといきなり景色が違ってアスナは驚いた。

「いきなり、ごめん、アスナ。転移魔法使えるようになったって話したけど、丁度夕日が見れる時刻だなって思って」

「ね、ネギ……。ううん、ありがと。……合成」

―咸卦法!―

アスナは咸卦法で身体保護をし、ネギ少年は魔分で身体強化し、山頂での寒さを無視した。
空は丁度夕焼けに染まり、近くの山脈も夕日に照らされ、一面が暖かな色合いに包まれた中、その光景をなしている夕日そのものを2人は揃ってゆったりと眺めはじめた。

「……これを……見せたかったのね」

「うん……そうだよ。僕もここは初めて来たんだけど、座標は分かってたから」

「そう……きれいね」

「うん……アスナの髪と同じ色」

「へっ?それってど……ど……う、ううん、何でもない」

「?」

……ネギ少年は全然気にしてないが、会話から言うとネギ少年がアスナの髪を綺麗だと言ったようなもの。
一瞬動揺したアスナだったが、ネギ少年が特にそんな事考えている訳も無いかと思い至り、想像を振り払った。
そして2人は太陽が急激に落ちだし、沈み終わるまで一緒に並んでそれを見続けていた。

「……帰ろうか、アスナ」

「そうね」

そのままいれば、麻帆良では街の明かりで絶対見えない、満天の夜空が見えた筈であるが、流石にそういうわけにもいかないという事で戻ることになった。
そしてネギ少年は再び転移魔法を発動しエヴァンジェリンお嬢さんの家の玄関へアスナと共に転移。

「ネギ、連れていってくれてありがとね。すっごく良かったわ」

「うん、どういたしまして。僕もアスナと夕日見れて良かったよ」

「そ、そう?」

「うん!……それで、転移魔法って凄く便利だけど、使い方には気をつけないといけないなって実際に使えるようになってみて分かった。使いすぎもそうだし、使い方によっては悪いことにも使えてしまうから。でも、これで僕……いつでもアスナや父さん母さんのところには戻ってこられるよ」

京都への家族旅行の時の決意は果たされた。

「……そうね。ネギ、旅に出たら、その時は、必ず戻ってきてね」

「うん、約束するよ、アスナ」

「約束よ。……それじゃ、私これで寮に戻るわね」

「気をつけて帰ってね」

「大丈夫よ」

そして……アスナは鞄を持ち、ネギ少年に玄関で見送られてそのまま寮へと戻っていった。
ネギ少年は魔法球へと戻ると「ちょっと外行ってくる」というのにはやや長かった事にアリカ様とナギが何かあったのかと聞いていたが「大丈夫だよ」とネギ少年は簡潔に返していた。
正直に飛騨山脈に少しばかり行ってきたとは言わなかった辺りネギ少年はどういう心境だったのかは分かりかねるが、心にしまっておきたいと、そういう事なのだろうか。
一方、いわゆるプライスレスなプレゼントを貰った形になった当のアスナはというと大層上機嫌に女子寮に戻った為に、春日美空に「アスナ、顔やばいよ?」と言われ「やばいってなによ!」と春日美空の言葉の選定を叱っていた。
「ま、ネギ君か」と春日美空は普通に正解を言い「うっ……ど、ど」とアスナが顔を赤くして言葉に困ったところ「はいはい、ごちそうさまー。でも夕食はまだ食べてないよ!」と相変わらず適当さは健在だった。
……その後、アスナが美術部で新たに描き始めた絵がこの日見た夕日であったのは余談である。
高校生活始まって、アスナ以外はというと、孫娘達陰陽師関係者は週2回、呪術協会で東洋呪術を学び、ある時小学校から帰ってきた小太郎君とも進藤志穂、大道寺奏、鳥居みゆきの3人は知り合いになり、気の捉え方について助言を貰ったりしていた。
進藤志穂が驚いたのは何と言っても親戚の進藤蘇芳さんが関西呪術協会屈指の陰陽師であった事で「まさか蘇芳さんがそんなに凄い人だったなんて……」と言葉を漏らしていた。
4人の外国魔法使い留学生はというと、麻帆良を純粋に楽しんでいるようで、本当にあちこち麻帆良の部活やら研究会をこの4月の間は見学して回っていた。
その案内には長瀬楓がついて回ることもあり、更に隣のクラスの鳴滝姉妹も混じって「「ナタリアさんこっちですよー!」」等と今までと何ら変わっていなかったもしれない。
体育の授業では彼女たちは結構自信があったようなのだが、麻帆良人達の運動能力は高い為に超鈴音と古菲の手合わせを見たとは言え、改めて衝撃を受けていた。
もちろん、唖然としていたのは受験で高校から入ってきた人達も同じ。
認識阻害が残っていれば、違和感を覚える事も無かったのであるが。
……隣のクラスに目を移せば長谷川千雨は早乙女ハルナと同室になっており……早乙女ハルナには長谷川千雨がネットアイドルのちうである事は知っていて同室になって引っ越したその日に一悶着あった。
早乙女ハルナが、長谷川千雨がちうである事をにやけながら「知ってるぞー」と言い、長谷川千雨はその瞬間早乙女ハルナに知られていたという事に「私の人生終わった……」というような表情をして完全に固まった。
しかしながら、以前から知っていた割に、噂拡大マシーンなどと呼ばれる早乙女ハルナがその事を広めてはいなかったのであるから、長谷川千雨が直感的に悟ったような事は起きる事はなく「私が書いてる漫画の意見とか、締め切りやばい時手伝ってよ……ね、ちうちゃん!」というその一言により「要するに交換条件って事か……」と諦めたようにその条件を長谷川千雨は飲んだのだった。
その他にも長谷川千雨は、早乙女ハルナが「千雨ちゃん、私も自分のホームページ持ちたいんだけど、作るコツとか教えてくれない?」と聞き、否定するのも嫌な考えがよぎる為「どんなレイアウトにしたいか言ってみろよ。その……何だ、大体の部分は作ってやるよ」と答えていた。
長谷川千雨としては「3年間コイツと一緒は本気でやべぇ……」とか思っていたようで実際寮室で1人になった時は声にまで出していたのだが、それもほんの僅かで考えが変わったようだ。
……それというのも、早乙女ハルナが書く漫画のジャンルに問題があり意見を求められた時に「ブッ!ちょ、おまっ!何書いてんだよっ!?」と吹き出しながら思わず大声を出した事が発端である。
早乙女ハルナは「まーまー。私、こういうの書きたかったんだけど、意見聞ける相手なんてここに ひ と り ……しかいないじゃん?」と意味深に笑い「いや、私にも聞くなよ!」と長谷川千雨は思いっきり突っ込んでいるうちに、互いについてのその関係の件は他所では黙っているという暗黙の了解をしあう事に落ち着いたのだった。
……26組に左遷された朝倉和美はというと、めげずに宣言通り、1-1と1-2には普通に、流石突撃班員というべきか、乗り込んできた。
しかし、1-1に関しては同じ報道部員の西華香織が「朝倉、このクラス私の管轄だから、わざわざ来なくて良いよ」と相手をし「西華、さては買収された?」と朝倉和美はそれに聞き返し「んな訳あるか!このクラスは何かヤバイって私の勘が言ってんの!」と更に西華香織が言葉を乗せ「だからこそ、探究心が掻き立てられるんじゃないさ!せめて留学生に対しての取材は自由にやらせてもらうよ」……等と報道部員同士の語り合いが繰り広げられたとか。
……そうこうして各自それぞれ日々を過ごし、4月の末、とうとう例の物が形になった。

「プロトタイプの完成だヨ」

「やりましたね、鈴音さん!」

「うむ、これでまた一歩ロマンに近づいたネ!」

円錐型のフォルム、その上部と下部の2箇所にあるラインに一周、細かい穴が空き、そのラインで上層部、中層部、下層部の3層に分かれ、平常時はその2つのラインが緩やかにそれぞれ違う方向に回転し続ける、一見してかなりスタイリッシュな印象である。
横文字は便利だと最近常々思う。

《以前色々話を聞かせてもらいましたが。……従来の魔力炉とは異なり魔分を魔分のまま利用する魔力炉。名前を考えたという事ですが……聞かせて貰えますか?》

「良くぞ聞いてくれたネ、翆坊主。そう、これこそ正式名称、半永久魔分圧縮加速反応炉。semi-Eternal Magical particle compression accelerated reaction Drive。略称EMドライヴ。半……永久魔分炉という感じだナ」

EMドライヴ……どこで略すかが問題ではあるが端的に分かりやすい。

「EMドライヴですかー。それっぽい感じですね!」

《私もそう思います。分かりやすい略称なのも良いと思いますよ》

「そう言て貰えると考えただけはあたネ。既に実験で何度か稼働させているが、もう一度本稼働させてみるヨ」

「はい!」

超鈴音がEMドライヴを本稼働させると……徐々に2本のラインの回転速度が徐々に上がり、数分間かけてその回転が最高速に達する。
魔分が下部ラインから吸い込まれ、上部ラインから高密度圧縮された魔分が高速で放出されているのが、人間の肉眼でも見える水準。
放出されている魔分は魔法領域と酷似した輝きを放っている。
超鈴音の解説によれば、EMドライヴ内部で高密度に圧縮され、加速している魔分の持つエネルギーは魔法世界での飛空艇に搭載される精霊祈祷エンジン一基で得られる出力の数倍に及ぶ。
基本的には周囲の魔分を吸収し再放出するが、高密度圧縮した魔分は工夫しさえすれば、いわゆる精霊砲などの用途でそのまま魔法的転用をする事もできるし、圧縮加速反応を利用する本格的な発電機構を内部に内蔵すれば発電も可能との事。
本稼働させていない時の最低限の半永久稼働の動力は緩やかな魔分の加速反応で発電し続ける装置によって賄われている。
メンテナンスをする為に完全停止させて、その後再び稼働させる時は、始動時に未来技術で超小型化を実現している蓄電装置に貯めてある電気が使用される。

「うむ……順調だナ。精霊祈祷エンジンが魔分を必ず消費するのに対し、このEMドライヴは一旦稼働させてしまえば、魔分そのものを一切消費せずに魔分を魔分のまま圧縮加速反応させる事でエネルギーを得続け、ドライヴ自体も稼働させ続ける事ができるのが最大の違いネ。後は、高密度の魔分球と下部ラインを直接接続すれば更に最大出力を上げられるし、放出される魔分もMOCでEMドライヴごと完全密閉する容器に入れて再び魔分球に魔分を循環させるようにすれば魔分の殆ど無い宇宙空間でも、ほぼ永久的に電気エネルギーならば得る事ができるヨ」

《これで優曇華を使わない方法で……ですが、その際の宇宙進出がかなり近くなりましたね》

「その通りネ。まだまだ改良の余地はあるが、これ一つで十分な電力を賄う事もできるようにしていくつもりだし、そのうち今魔法球と優曇華のアーチで幅を取ているソーラー発電用の機器も要らなくなるナ」

魔法球の中、優曇華のアーチ内は魔法的太陽光があるので、今まではそれを超鈴音は発電に使用していた。
当然未来技術なので電気変換効率は今世の中に存在するソーラーパネルと比較するべくもない。

《しかしあれも現行のソーラーパネルとは別物と呼んでもよさそうな性能ですが》

「それもいつも通り誉め言葉と受け取て置くネ。核融合炉を作るのは面倒だたし、ソーラー発電で十分ネ」

《簡単に言いますね》

地上の太陽……まだ現在は研究段階も初期状態。

「いずれ実現するから、ほんの数十年早いぐらいの違いだけネ。それに自重はしている方だヨ」

……そう言われればそうなのかもしれない。

「んー、それにしても、まだEMドライヴだけって感じなのに何だかワクワクしてきますね」

「うむ、これだから研究はやめられないネ。これからはこのプロトタイプEMドライヴの性能を更に高めていくヨ」

「葉加瀬さんも絶対凄く興味あると思いますけど……やっぱりキツイですよね……」

「魔法球だけならエヴァンジェリンの家に預けている物をまた持てくればいいだけなのだが、研究自体は今魔法世界から部品を運んでくるのにここの神木とのポートが必須だからネ……。どこから入手してきたのか説明もなかなか厳しいし、下手にそういう事を話したり、実際に見てしまうとハカセ自身がもしもの時に危険に晒されかねないから残念ではあるが仕方ないヨ。魔法世界との国交ができて、本格的に魔法素材のやりとりが可能になる時には既に魔法総合研究所もできている事になるし、あと半年超待つぐらいはできるネ」

正直葉加瀬聡美に魔法球を使わせると、一日中籠もって学校に行かなくなる可能性があると思われる。
ただでさえ、工学部が第2の根城になっているから。

「そうですね、魔法総合研究所ができるのもあと数ヶ月ですし、それまでの辛抱ですね」

「ああ。……ところで各地魔分溜りの魔分状況はどうなているネ?恐らく秋頃には1基目の人工衛星が完成すると思うが、できれば2基目が完成する時には復旧させておいてくれた方が助かるのだけど」

《了解です。まだゲートは復活には至らない状態ですが、今年の国連総会で魔法使い達にとって数ヶ月以内にゲート復旧の目処が立つといえる状況にはしますので。2基目の完成前には復旧するように調整します》

「頼むネ。一気に供給してしまえば済む話だけれど、徐々にやらないと怪しすぎるのがネックだナ」

《ええ、その地道な作業はサヨの身体ではないですが、やはり、そういう事に適正のある私達向けでもあります》

実際この20日でサヨの身長は3ミリ、一日に0.15ミリずつ伸びている。
年間で5cmは伸びる。

「誰にも背が伸びてる事まだ指摘されないので、上手く行ってると思います」

《今日もこの後調整するのですよね?》

「はい、もちろんです!」

「ふむ、確かに日々徐々に伸びていて普通には気づかないネ」

「この調子で頑張ります」

普通に生活していると人によっては身長が逆に縮んだりすることもあり、そこまで些細な違いに気づく人間は早々いはしない。
……と、サヨの調整成長話はここまでにして、EMドライヴのプロトタイプが出来上がった所で、ひとまずこれにてこの日は終わりである。



[27113] 86話 召喚契約
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:52
5月初頭、世間ではゴールデンウィークという連休。
麻帆良大学で専任教員として働き、日本魔法協会にも所属している明石は約半年前から劇的に忙しくなり、年末年始も関係なく働き詰めであったが、ようやく落ち着いて少し固まった連休を取る事ができた。
娘に対し、明石夕子の事で話しがあると言ってから、早半年。
未だに明石は、その話を娘にしていなかった。
明石は祐奈と共に命日ではないが、明石家之墓……明石夕子の墓参りに2人で訪れていた。
墓の掃除をし、供える花も水と共に取り替え、線香を上げて、2人で親と子は手を合わせた。
この時ばかりは「元気は最強。元気が最優先」と母に教えられて育った祐奈も口数少なく大人しくしていた。

「お父さん……今日ここに来たって事はお母さんの話やっとしてくれるの?」

祐奈は墓を見ながら落ち着いた低いトーンの声で尋ねる。

「……そうだよ、祐奈」

明石も墓を見ながら答える。

「もう、話あるって言ってから、半年も経ってるよ?」

祐奈は父の顔に視線を移しながらため息混じりに言う。

「それは、悪かった……ごめん」

明石は目を瞑り、軽く頭を下げた。
……半年……いくら忙しいとは言え、言おうと思えば言える時はいつでもあった。
ただ、明石としては話す場所に拘りたいという想いがあったのだ。
一瞬の間が空いた所、続けて口を開いた。

「……母さんが亡くなったのは飛行機の事故が原因ではないんだ」

「……ふぅー、やっぱりねー。そうだと思った」

祐奈は大きく息を吐く。

「母さんは政府……メガロメセンブリアのエージェントとしての任務中に……殉職したんだ」

続けて明石は重苦しく口を開き、その目はメガネが光に反射して祐奈からはよく見えなかった。

「……殉職……かぁ……。お母さんは魔法関係で死んじゃったって事なんでしょ?」

殉職という普段聞き慣れない言葉の響きに祐奈は複雑な感情を抱いた。

「ああ、そうだよ」

「……ねぇ……お父さん。……なんでお父さん今までそれ私に言わなかったの?」

祐奈は顔を地面に向けて俯きながら、訴えるように言った。

「…………本当に悪かった。もし、教えて、魔法について知って、祐奈まで失う事になったらと思うと……これまで……」

明石は娘とは反対に頭をやや空を見上げるようにする。

「……バッカだなぁー。……お父さんのバカ……。馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿っ!!」

娘は顔を伏せたまま、父の胸を両腕で叩き始める。

「………………」

「……言ってくれたって……良かったのにっ!!私は別にそんなのっ……平気だよっ!!」

「………………」

そのかすかな涙混じりの声と共に繰り出される一発一発は明石の心にも重く、重く響いた。
それをただただ、ひたすらに受け続けた父は、沈黙を貫いた。
……叩くのをやめ、父の胸に頭と両手をつけた状態でしばし止まり……深呼吸をした後、祐奈は右腕の袖で目元を擦り、顔を上げる。
その顔には泣いた跡がはっきり残って見えたが、笑顔がもう戻っていた。

「へへっ……今のはおしおきだよっ。……結構効いた?」

「ああ…………それはもう。このまま帰って寝たいぐらいには効いたよ」

互いに普段は滅多にはしない表情をして2人は言葉を交わした。

「なーにそれ。ま、お母さんの事はまだ許してあげないけど、今だけは許してあげるよ」

祐奈は片目を閉じて人差し指を立てて言った。

「厳しいなぁ……」

やれやれ、という風で、明石は頭を右手で軽くかいて困った表情を浮かべる。

「だらしないお父さんは甘やかしちゃだめだとゆーなさんは心を鬼にします」

祐奈は両手で目をつり上げて言った。

「それは怖い鬼だ。だけど……許してくれてありがとう、祐奈」

明石の表情が緩む。

「今だけだからねー」

「ははは」

明石の空笑いが響いた。

「でさ、お母さんはどういう任務だったの?国家存亡の危機を陰から救うみたいな事とか?」

祐奈は重くならないように軽く聞いた。

「任務については話せない……と普通は言う所だけど……この後、話すから。待たせている人達がいる」

「え?待たせてる人達?誰それ?」

聞いていないとばかりに祐奈は驚いた表情をする。

「会えば分かるから」

そうしてやりとりを交わした後、時刻は昼頃。
2人は寺を降り、近くの店で昼食をとり、次にとあるビジネスホテルへと向かった。

「何だ、お父さんと禁断の愛を育むのかと思ったら、ただのビジネスホテルかー。つまんなー」

祐奈は本当につまらなさそうな様子であった。

「…………そういうのやめないかな……祐奈。心臓に悪い。本当に、心配になるよ……」

偶然周囲に祐奈の発言を聞いた人がいなかったのは幸いであったかもしれない。

「これはサービスのつもりなんだけどなぁ。まあ、おしおきの つ づ き でもいいかも?」

「…………それは……きついなぁ……」

どちらの意味であろうが、心底明石は困ると、顔を手で押さえた。
そのままエレベーターに乗り、目的階にあがり、廊下を進みある一室に着く。
チャイムを鳴らし、ドアを開けに現れたのは祐奈も知る人の姿だった。

「こんにちは、明石教授、裕奈君。本日はどうも。入ってください」

「高畑先生!?」

祐奈は驚きの声を上げたものの、廊下での長居は無用という事で早々に2人は部屋の中へと招かれた。
しかし、再び祐奈は驚きの声を上げる事となった。

「ネギ君のお父さんまでっ!?」

「よー、明石教授に娘さん」

席に座っていたナギ・スプリングフィールドは片手を上げて軽く挨拶をした。
とりあえず、互いにそれぞれ挨拶を交わした所で、4人は席についた。

「結界も張ってあるので……話に入りましょう」

盗聴防止の結界を予め張ってあることを高畑が言った。
祐奈は結界という単語にいつの間にとつっこみを入れそうになったが、その高畑とナギがいるというよく分からない状況に声は出さなかった。

「祐奈、さっきの続きになるけど、いいかい?」

そして明石が娘に尋ねた。

「う……うん、もちろん」

「分かった。……落ち着いて聞くんだよ。母さん、明石夕子はこちらのナギ・スプリングフィールドが約10年前に失踪した当時、その捜査が任務だったんだ」

明石は隣の祐奈に目の前のナギを手で軽く示して言った。

「え……?お母さんがネギ君のお父さんを探しに……?それに失踪って」

突然の事に祐奈は理解が追いつかなかった。

「言葉の通りだよ、祐奈」

明石がそれを重ねて肯定し、ナギが説明を始める。

「俺はこの10年間近く封印されてたんだ。気がついたら10年後って感じにな……。年とってないのもそのせいだ。……言い訳にしかならないが、俺が封印されてなけりゃ、夕子さんが捜査に出ることもなかった筈だ。済まない」

ナギはやりきれない表情をして述べた後、頭を下げた。
……それに対し祐奈は、ナギの見た目がどうこうというのも気にならない訳ではなかったが、それ以上に母の話について、上手い言葉が見つからず、心中も微妙であった為、沈黙した。

「……………………」

「祐奈」

心配するように明石が娘に声をかける。

「大丈夫だよ、恨んだりなんてしないから。ネギ君のお父さんも気にしないで下さい」

一つ思い当たる節があり、祐奈は口を開いた。

「悪いな……」

ナギは苦い顔をして再び謝る。

「いえ、本当に気にしないで下さい。それに、ホントはお母さんが何の任務で殉職したのか話しちゃいけなかったのを私に話すって事は他に何かある、あるんですよね?」

空気を変えるかのような祐奈の質問に対し、答えたのは高畑であった。

「その通りだ、祐奈君。改めて、明石教授、祐奈君……僕とナギはこれから、明石夕子さんの殉職に関する事件を含め、その黒幕と思われる一派を追求するために、動くつもりです」

代表的な事件は10年前の明石夕子他複数名の殉職事件、ガトウ・カグラ・ヴァンテンバーグ暗殺事件、ウェールズの村悪魔召還事件であり、他にクルト・ゲーデル、ジャン=リュック・リカードらが個人的に掴んでいるその他複数の事件がある。

「高畑君、分かった。お願いしよう。ようやく……真相に近づけるかもしれないか……」

明石は予め以前に個人的にこの話を聞いていたが、改めて理解した。
対して、祐奈はある単語に反応を見せる。

「た、高畑先生、黒幕って?」

「祐奈、メガロメセンブリア元老院は知ってるよね?」

先に明石がそれに答える。

「う……ん。サイトで見たから。要するに日本の国会みたいな感じだよね?まさかメガロメセンブリア元老院が……黒幕?」

祐奈は意外そうに、父の顔を伺うように顔をして推測を口に出した。
しかし、またそれに対して説明をするのは高畑であった。

「そうとはまだ断言はできない。けれど、怪しいのは間違いない。明石夕子さんの殉職の件についてはメガロメセンブリア元老院の判断で麻帆良学園、日本魔法協会には詳しい情報は殆ど降りてこなかった。昔から都合の悪いことは公表しないのが元老院のやり方でね、明石夕子さんの件も何か裏がある可能性は否定できないんだ」

「はぁー、いかにも巨悪って感じですねー。そういうのって許せないなぁ」

祐奈は腕を組んで唸って言った。

「祐奈、それも元老院のあくまで一部の話だよ」

「う、うん……?」

「高畑君、ナギ、祐奈にも聞かせられる範囲でこれからどう動くのか尋ねてもいいかい?」

明石はまだ自分も聞いていない事について、2人に尋ねた。

「俺はまだメガロメセンブリアじゃ失踪した事になってるが、俺が復活したとなれば元老院は焦る」

ナギの言葉を引き継ぐように高畑が続ける。

「その動揺を起こすのがナギと僕だとすれば、その隙を突いて動くのがクルト・ゲーデル、ジャン=リュック・リカード元老院議員です。ここ数ヶ月で黒幕の一派は時代遅れの保守発言を繰り返してばかり、以前はそちらにただ靡いていた者達も旗色が悪いと離れつつあり、彼らの絶対的だった権威にはかなりの揺らぎが生じてきています。議会そのものも発言と票が以前より明確に割れ始めている今、これを期に一気に叩く作戦です」

ナギが復活したという事を知れば、黒幕の一派が最初に気にする可能性が高いのはウェールズの村悪魔召喚事件。
元々、ナギがいないからこそ、一部の者達が村を襲うという手段に出たのであり、実際にはその襲撃事件ではナギの姿が確認されたというのはあったにしても、その後ナギが再び現れる事が無かった事から、彼らはこれまで安心していられた。
しかし、ウェールズの村の襲撃に姿を表したナギが本当に完全復活をするとなれば、黒幕の一派は必ず焦りを見せ、ただでさえここ最近統制が乱れてきているのが更に悪化する可能性は充分にある。
その説明に明石が顎に手を当てて、

「なるほど……確かに今が絶好の機会か」

「うわー、ドラマみたいな話。ところで……ネギ君のお父さんって何者……いえ、有名人なんですか?」

祐奈はその作戦について、これから本当にやるのだとしても実感が一切沸かないという風で反応するも、ナギが何者かについて気になって尋ねた。

「あー、そっか。俺の情報出てないんだもんな」

ナギはそういえば説明していなかったと、気がついたように言った。
それに高畑は軽く苦笑しつつ、祐奈に説明を始める。

「わざわざ失踪者の情報出したりはしないですからね、ナギ。祐奈君、ナギは魔法使いの間ではサウザンドマスターという2つ名で有名なマギステル・マギで魔法世界では知らない人はいないという程の知名度があるんだ」

「ええー!?すごっ!じゃあネギ君も……あれ、その前にネギ君も魔法使い?」

その説明に祐奈は驚愕し、だとするならばネギは一体……とまた尋ねる。

「そうだよ、祐奈」

明石が簡潔に肯定し、祐奈は更に呆気に取られた顔をする。

「な!そんな凄い事今まで知らなかったなんて……。あ、それでネギ君も有名人なんですか?」

「それなんだけど……ナギの話と関係して、祐奈君にはネギ君の事について頼みたい事があるんだ」

高畑は祐奈の質問に対し今までより真剣な表情をする。

「な、何かな、高畑先生?」

祐奈は高畑の反応に少し気圧されるように聞き返す。

「……ネギ君の事については、魔法使いであることも含めて、今は退職して、麻帆良にもいない、という事でお願いしたい。特に同じクラスの外国人留学生4人の魔法使いの前では極力ネギ君の話自体をしないように頼む。普段元3-Aのクラスメイトとネギ君の話をするぐらいなら構わないけど、それ以外でネギ君の名字がスプリングフィールドである事だけは絶対に言わないで欲しい。ただ、1-1では可能な限り話に出すのも止めて欲しい」

ネギはメガロメセンブリア上層部では死亡したという事になっている。
しかし、ナギ・スプリングフィールドにネギ・スプリングフィールドという名の息子がいるという事は魔法世界、魔法使いのコミュニティではAランクの機密情報であり、多くの魔法使いはこの情報を知り得てはいない。
情報を教えられていない魔法使いが、ネギがナギの息子であるという事に行き着くには、ネギがスプリングフィールド姓である事を知り、実際に会ってみてその容姿が似ているという事から複合的に推定するというのがほぼ唯一の方法である。
日本は麻帆良といえば、ネギが10歳の先生として目立った事はあっても、魔法使いであることを知られた訳ではないし、扱いとしては退職したという事になっている為、仮に元3-Aの生徒がネギの事を話しているのを他人が聞いたとして、生きている前提での話は別におかしくはなく、寧ろ普通だ。
特に情報を漏らさないように気をつけるべき相手は、ネギが「あのネギ・スプリングフィールド」と知っていて、ネギが生きている事が不都合なメガロメセンブリア元老院のある一派の魔法使いに限られる。
現状、稼働しているゲートが麻帆良だけであり、その行き来を許される魔法使いも厳しい制限がある為、末端の人間が何食わぬ顔で調査をしに現れるという事はあったとしても、ゲートで世界間移動を試み、反対側に転移した段階で必ずその情報を記録されるので極めて難しく、逆に情報を明らかに知っている人間に関しては完全に顔が割れているのでその対応も十分に取れている。

「……あー、新学期入って忙しかったのもあるけど、そういえば皆ネギ君の事1-1で話してる所全然見た事ない気が。……話は分かったけど、理由は聞いても……?」

祐奈は言われてみればネギの話を聞いた覚えがないとばかりに思い出して言った。

「……端的に言うと、ネギ君の命に関わる。それも例の黒幕の件と関係が深いんだ」

「あ、あれぇー?……お……重い話だね、高畑先生。……分かった。今のことは約束します。ネギ君の事は話さないように気をつけます」

高畑の簡潔だがわかりやす過ぎる回答に祐奈は虚を突かれたような表情で、やや焦って答えた。

「ああ、頼むよ」

「俺からも頼むぜ」

高畑とナギは続けて祐奈に言った。

「はい、任せて下さい!」

はっきりと元気一杯に祐奈が席から身を乗り出すように言った所で、明石が別の話を始めた。

「……それで、祐奈。魔法学校が設置されるニュースについてこの前聞いてきたけど、来年度第0期生として入学する生徒の予定にはやっぱり祐奈も入っている」

「ホントに!?」

その話に祐奈は目を輝かせて父の顔を見る。

「本当だよ。実際に入るかどうかは祐奈の意志次第だけど、ここまでの話も含めて、どうしたい?」

食いつき方から言ってほぼ分かっていたようなものであるが、明石は敢えて尋ね、それに祐奈は一瞬間をおいて、

「……そんなの決まってるじゃん!入るしかないよっ!」

ついに完全に席から立ち上がって宣言した。

「…………やっぱりそういうだろうと思ってたよ」

「おー、元気だなー」

「はは、祐奈君らしいね」

明石と高畑は苦笑し、ナギは感心したように言った。

「元気は最強!元気が最優先ですから!」

祐奈は母から教わった言葉を返し、再び席に着いて続けて尋ねた。

「お父さん、その0期生って何人ぐらいになる予定なの?」

「20人から多くても30人、カリキュラム作成が目的だから0期生はそれぐらいかな。祐奈のクラスは魔法生徒が結構いるだろう?他には国際大付属、麻帆良芸大付属にもいる。元々麻帆良には男子の魔法生徒は1人もいなかった都合から0期生は高校生の女子クラスだけという事になるよ。再来年になったら男子も入る事になるだろうけど」

「へー、1クラス分はいるんだ。そっか、1-1はこのかに春日、陰陽師3人に魔法使い留学生が4人もいるもんね」

父の説明に祐奈は納得するように頷いた。
その後、祐奈は他にもいくつか質問……流してしまっていた、ナギの年齢の件を興味津々で追求したりしつつ、返答は適当にはぐらかされたものの、会話を交わし、そこそこの所で、挨拶をして父と共にそのビジネスホテルの一室を後にした。
……一方残った高畑とナギはというともう1人次に呼んだ人物を待っていた。

「タカミチ、わざわざ呼んでも聞くことなんてすぐ終わるんじゃないのか?」

「ま……まあ、そうですけど、聞きたい事があると連絡したら来てくれるという事にな……」

丁度そこへ、部屋のチャイムが鳴る。

「おっと」

高畑は席から立ちあがり急いでドアへと向かい、開けた。

「…………………………」

すると完全な無表情で高畑を見たまま沈黙を貫く人物が1人いた。

「やあ……ザジ君。よく来てくれたね、ありがとう。どうぞ」

「………………」

僅かに頭をコクリと動かしザジ・レイニーデイは招かれるままに部屋へと入る。

「よお、ザジの嬢ちゃん、元気か?わざわざこんな所まで悪ぃな」

ナギはまたも片手を上げてザジに挨拶をする。
対してザジはコクリと頷き、軽く首を横に振った。

「………………」

高畑とザジが席につき、しばし沈黙が流れ……。
唾を飲み込み、切り出したのは高畑。

「……ザジ君、聞きたい事の内容を言うよ。……悪魔召還の記録のようなものは魔界側に存在するか、存在するとしたらどういう形で存在しているのか、という事だ。勿論、協力してもらえるかどうかが一番重要なのは分かっている」

「……………………………………………………………私は協力しません」

長い沈黙の後、ザジの口から紡ぎだされたのは一言。

「…………そう……か……」  「……………仕方ねぇか」

その否定するような言葉に対し、遅れて高畑とナギは反応した。

「…………ですが……完全なる世界」

更に遅れて、ザジは補足するように単語を口に出し、思わずそれに対し2人が声を上げる。

「え?」  「お?」

「完全なる世界……アレに協力していた私の姉には少なからず協力するに足る道理があるかもしれません」

思わせ振りな発言に高畑は結論を促すように恐る恐る口を開く。

「それは……つまり……」

しかし、それをザジは遮った。

「先に……質問に答えましょう。悪魔召喚の儀式を行った召喚主の名前は魔界には全て記録されています」

質問について答え出したザジに対し、高畑とナギは口を挟まずに黙って聞き始める。

「召喚契約順守の対価の一つとして召喚主の名は未来永劫消えること無く魔界のある場所に刻まれ続けるのです。ただし、その特性上持ち出しは不可能です」

無表情でザジの説明が終わり、

「……そうか……答えてくれて感謝するよ」

「名前なんてわざわざ記録してんだなぁ」

高畑は、事実は分かったものの少し残念そうに、ナギは寧ろ記録がわざわざ残っているらしいことに感心した。

「……ところで、爵位持ち悪魔召喚のリスクはご存知ですか?」

「リスク……いや、知らないが……」

突然ザジに逆に質問をされ、高畑は戸惑うも否定する。

「召喚主の依頼内容によりますが、基本的に魂が対価になります」

ザジの淡々とした説明に対し、ナギが問いかける。

「それは命って事か?」

「はい。召喚主がある対象の殺害を望んだ場合はその契約の完了と同時に爵位持ち悪魔は問答無用でその魂を貰い受けます。ただし、望みがある対象の殺害ではなく、封印や呪いである場合には召喚主が死ぬ際には必ず魂を貰い受けるという後払いの契約になります」

「魂の後払い……」  「……魂か」

魂を対価とする契約、という話に高畑とナギは初めて知ったと複雑な表情で呟く。
それに対しザジは更に言葉を続ける。

「爵位持ち悪魔召喚の儀式は召喚主には名と魂という契約対価が存在する以上、因果応報、その契約に対しては、第三者は原則不干渉を貫くのが魔界の掟です」

「……悪魔召喚の記録は魔界で使われる為のものであって、僕達人間が利用するような事は想定していない、という事か」

高畑はザジがわざわざ悪魔召喚のシステムについて説明しだした理由を察して言った。

「……そういう事になります。あくまで魔界の掟ですので、それ以外の異界の者達の掟はそれぞれまた異なるでしょう。原則と言いましたが、私の姉が、私と同じように例外的な行動を取る……かもしれません。私は協力しませんが、私から姉に、話はしてみます。……それで宜しいですか?」

最後にザジは僅かに期待を持たせる事を述べ、話を締めくくった。

「あ……ああ、勿論、それで充分だ。感謝するよ」

「俺からも感謝するぜ。この前の事も含めて、ありがとな、ザジの嬢ちゃん」

最終的にまだ、何らかの望みが少なからず残っているという事に高畑とナギは少しばかり安堵して微笑みを浮かべ、ザジにそれぞれ感謝の言葉を述べた。

「……………………」

対して、ザジは一度だけ肯定するように頷き、スッと席から立ち上がり、一礼してドアの方向へと歩き出した。
慌てておいかけるように高畑とナギも席を立って、ドアへと向かう。

「今日はわざわざ来てくれてありがとう、ザジ君」

「気をつけて帰れよ、ザジの嬢ちゃん」

2人の言葉を背に受け、一瞬振り返って頷いてみせたザジはそのままからドアから出て去っていった。
残った2人は少しの間ザジが出て行ったドアを眺めていたが、一旦席へとまた戻り座った。

「何だか、ザジ君には、まず出来る限りの事は自分達でやれ、と言っているような雰囲気を感じましたよ」

まだまだだな、という風で高畑はそう言いナギもそれを聞いて同意する。

「あー、それは俺も分かるな。頼るなら最終手段にしろ、って感じに」

「……ですね。ナギ、確実にメガロメセンブリア元老院、何とかしましょう」

高畑はフッと息をつき、その決意をナギに述べる。

「ああ、絶対に何とかするぜ。10年馬鹿みたいに封印されてたからには、せめてそれぐらいはやらないとな」

ナギは両手を合わせ、これからだ、と同じく決意を述べる。
2人もこの部屋を後にしようと、高畑が立ち上がる。

「クルトも僕もネギ君にまだ借りらしい借りを返していないですからね。絶対です」

ほぼ同時にナギも席から立ち上がる。

「おう、頼むぜ、タカミチ」

「はい、ナギ」

そして、部屋には、互いの拳がぶつかり合う音が響いたのだった。



[27113] 87話 魔法少女
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:52
ゴールデンウィークも終わり、明石祐奈に説明を終え、極秘裏にナギとタカミチ君は動き始めた。
タカミチ君が超鈴音の端末を駆使し、主に地球と魔法世界の情報連絡役としてクルト総督やリカードさん達と連携し、ナギはタカミチ君から定期的に情報を受けながら、魔法世界での大々的な生存報告の際にどう動くかを真面目に検討する作業を行うことになった。
一方、説明を受けた当の明石祐奈と言えば、明石夕子がメガロメセンブリアの関連で死亡した事、しかもそれがネギ少年の父親であるナギの失踪についての調査であった事は複雑な部分が少なからずあったようだ。
……しかしながら、明石裕奈は基本的に日常生活においては魔法生徒になる事がほぼ確定した為、大変元気と評せられる様子であった。
ネギ少年の件を教室で口にする事だけは、言われた通り守った明石祐奈であったが、そうではない女子寮では、同室の古菲に「くーふぇ、去年の夏休み何があったの?私魔法生徒になる事決まって、お父さんにそう言われたから大丈夫だよ!」と聞いていた。
魔法生徒になる事と、昨年の夏の一件には何ら因果関係が存在していないのを理解していないようだ。
古菲は昨年の夏休み、旅行に出ていた内の1人であった事は元3-Aには周知の事実であり、明石裕奈が菲に尋ねる事には何らおかしな点は存在しないが、古菲の答えはといえば「そうアルか!んー、ネギ坊主の故郷から旅に出て……」と切り出し「うんうん!」と明石祐奈は相づちを打ったが「その後色々あったアルよ!」と自信満々な様子で頷きながら、以下、全て省略しきった。
その反応に明石祐奈は「端折りすぎっ!」と部屋の床に勢い良く倒れていた。
無理もない。
古菲は結局「このかか美空に聞くと良いアル!」と完全に説明放棄した為、仕方なしに明石祐奈は春日美空の部屋に行くことにし、呼び鈴を鳴らして部屋に入れてもらったのであるが……。

「お父さんに言われたけど私も魔法生徒になるよ、春日!」

「良かったね、祐奈」

「あー、そりゃおめでとーございまーす。……で?まさか魔法教えろとか?無理だからね?ゆーなもう部屋戻る?」

春日美空の対応は非常に冷めていた。

「ちょっ、何それ。いや、私も魔法生徒になったから去年皆に夏休み何があったのか聞こ」

本題に入ろうとした明石祐奈であったが、遮られた。

「いや、それとこれと全然関係ないよ!つか、明石教授にそういう事聞くなって言われなかった?」

「えー、ネギ君の事を教室で話に出すなって事は言われたけど……聞くなとは言われてないにゃー」

言われてないから別に構わないだろうというような表情。

「空気読んで。ぶっちゃけ言うと私が立場的に死ねるから。『お前は知りすぎた……消えてもらうぞ』ってドラマだと消されるぐらいに」

「み、美空ちゃん……」

非常に嫌そうな顔で春日美空は言い、それに対し神楽坂明日菜はやや呆れて「それは言い過ぎよ」と続けていいたげであった。

「えー、そんなすごい事知ってるんだったら余計に知りたくなるじゃん!大丈夫!私誰かに言ったりしないし。それに、私のお母さんは……あ……」

「ん、どうしたの?いきなり元気無くなったけど」

明石祐奈は言葉を続けようとしたが、ようやく直感的に他人に言うべき事でないというのが理解できたのか、いつになく暗い表情になり言葉に詰まり黙り込んだ。
同じ魔法生徒だからと言って、夏の一件の事を他人に話せないのと同じように、同じ魔法生徒だからと言って、自分の母の事を他人に話せるかというと酷く躊躇する部分があったようだ。

「ううん。……話せないってこういう感じかー。確かに言いたくない事はあるね」

「あー、良く知らないけど多分それと同じ感じだから」

相変わらず適当な対応。

「今日はやめとくよー。部屋戻るね」

……そう言って明石祐奈は部屋に戻っていった。
明石祐奈としてはナギとタカミチ君にあの場で話された事も普段は早々無い展開であり、話の内容が母にも関係する事であるだけに、無闇に他人に話すのも気乗りしないのは当然といえば当然であっただろう。
……このような事があったその後明石祐奈はというと、孫娘達にも少しは話しかけたものの、一週間もすると麻帆良祭実行委員の仕事が活発化し始めた為、それどころではない日々を送る事になった。
麻帆良祭実行委員とは、麻帆良女子高等部だけで話合えば良い訳ではなく、各学校高等部、大学部の実行委員会と合同で行われるため、麻帆良大の大講堂にかなり頻繁に出席する必要がある。
前夜祭について、初日の麻帆良祭仮装行列、各催し物の日程調整や各出し物の場所の使用権等々、学生主体というだけあって、教員が口を挟む事は滅多に無く、実に忙しいものであった。
また、麻帆良祭に関連して、という程のものでもないが、認識阻害が切れてからの初の新入生達が入った今年はというと、部活・同好会・サークルにおいては変化があった。
まず、図書館探検部の入部者が例年に比べて減った。
これには地下にゲートポートがあるという理由も絡んではいるが、外部参入組からしてみれば、図書館島の地下は一般常識からかけ離れており、単純に本が好きだからと行ってみれば、実の所困難な探険が付き物で、しかも中々に危険だというのが体験入部で分かる時点で入るのを遠慮する人々が続出した。
本が好きなら、普通に文学系の同好会に入れば良いだけの事で、それでも実際に入った人達と言えば、探険がしたいという人ばかり。
他に、軍事研はそもそも大学の部であるが、武器がとても好きだという人々が行ってみるも早々入りはしないという現象が起きた。
というのも、軍事研の人々は普段からかなり身体を鍛えており、その鍛錬含め諸々の活動が過酷なものである為、単純に兵器に興味があるからという理由で入ろうとすると「甘く考えていたものと違いすぎる」という結果が待っており、見学だけで済ませた人々が増えた。
実際、麻帆良郊外山間地に存在する訓練場は本物の軍関係基地の劣化版に近い部分があり、パラシュートからの着地訓練であるとか、隊を組んでの連携行動、仮想敵から見つからないよう狙撃手が狙撃地点を探すための例えば草場での匍匐行動訓練、地形に合わせての迷彩色の適切な選択訓練など、戦車、空母、飛行機、銃に憧れているだけで入るには無理がある。
それで断念した人達は大体、比較すれば明らかに緩いと分かる麻帆良工科ミリタリー研の方に行った。
軍事研や航空部系の統制が厳格に取れている必要のあるものは、他の例えば同好会系の活動のように日々楽しむというより、活動全体に対して充実感を見いだせないとかなり辛いのだろう。
これが以前であれば、違和感をそこまで覚えないせいで「自分にもできそう」と安易に入って、実際しばらくすると何とか適応してしまうという事があったのであるが、そういう時代ももう終わり。
一方、文化系の部活・同好会・サークルは活動自体に無理があるわけではないから例年と変動は無いのは当然。
問題は理系の超鈴音の所属する各研究会で、麻帆良工学部内のロボット工学研究会、量子力学研究会、生物工学研究会、そして葉加瀬聡美の所属するジェット推進研究会の人気は爆発的だった。
麻帆良大工学部や麻帆良工科大の新大学一年生達が殺到したが、見学の人数が多すぎた為、大規模な説明会という形で各研究会の説明が行われた。
少し確認すると、超鈴音は今年で麻帆良4年目であり、中学1年次の時の大学1年生は今年4年生、大学3年生は今年大学院修士2年、大学院修士2年生でさえ今年大学院後期博士課程3年で、殆ど麻帆良から去っていない。
当時の後期博士課程1年生以降のみが去っているだけ。
……とは言え、卒業した人々も殆ど麻帆良系の企業に就職してしまうので去るという表現も正しくは無い。
その理由というのも、麻帆良で慣れすぎたせいで他に行きたくないという事情が絡むようだ。
茶々丸姉さんの研究等は葉加瀬聡美の個人プロジェクトに超鈴音が加わる形という側面が強かったが、それ以外はほぼ学生達が協力していた。
さて、後継の育成というのも非常に重要であり、新1年生が入れなかったという事はないが、残念ながらある程度各研究会共に人数制限がされ、現所属学生達……とりわけ、超鈴音と葉加瀬聡美が懇意にしている教授達のいわゆるゼミ生達との面談が行われ、さながらゼミ面接のような事がなされた。
しかしながら、これらの研究会の複数所属は今年の新1年生は原則不可になった事もあり、大体どこかには入れるという形にはなっていた。
……この3年で麻帆良自体も技術革新が進み、大学受験の勉強をしてきた新1年生にいきなり各研究会の研究内容を細部に渡って理解するという事自体、非常に困難であるが、結果として研究会に入った新1年生の殆どは、超鈴音が携わっていないプロジェクトの研究からまずは参加する事となった。
麻帆良の各高等部出身で、葉加瀬聡美と同類のような1年生はいきなり参加でも問題無いという事はあるが、基本的には能力次第。
ただ、実際技術漏洩の問題もあり、既に麻帆良大工学部がJAXAとの連携で人工衛星の開発に乗り出している点でも、政府との兼ね合いで、規制がある事については寧ろ当然という向きが強いのは幸いであったとも言える。
少なくとも、超鈴音の活動自体に直接的な影響が出るという事は殆ど無いと言って良い状態ではあったというのは間違いない。
最後に、中高各学校それぞれの部活動自体はほぼ例年通りであり、麻帆良女子高等部で言えば、陸上部、水泳部、バスケ部などのスポーツ、美術部、囲碁部、茶道部、華道部などの文化系において、何か混乱があったという事は無い。
問題があったのは大体認識阻害の関係で行きすぎてしまった部分がある各所に集中していたのだ。

さて、5月の段階から麻帆良祭実行委員会が動いていながらも、日々は順調に過ぎていく事には変わらない。
そんな中、一つ大変喜ばしい事があった。
何かと言えば、葛葉先生の交際相手の方が葛葉先生に求婚、いわゆるプロポーズをしたのである。
それは超鈴音達が中学2年の2月にシアトルに行った時以前から付き合っていた雪広グループ社員の人。
葛葉先生としては魔法協会の事は最早周知の事実であるため、隠す必要も無くなっていたが、とにかくここ最近忙しく、碌に会えてもいなかったようでありながらも、葛葉先生の誕生日にプロポーズである。
葛葉先生としては「そう言えば今月私の誕生日でした……」と自身の誕生日の事すら忘れかけていたのだが、相手の方からの連絡が入り、直接婚約指輪を渡され、プロポーズされた。
普通にお祝いをするぐらいに考えていたようであった所、虚を突かれた葛葉先生であったが、自然に嬉し涙を流して、そのプロポーズを受けていた。
葛葉刀子、5月16日、今年29歳の誕生日。

《葛葉先生良かったですねー》

《それはもう、良いことです》

《うむ、良かたネ。結婚式の時には私からも盛大にお祝いをするヨ。かなりお世話になているからネ》

《2年生の秋の終り頃からですよね、葛葉先生が鈴音さん周りで度々来てくれるようになったのは》

《銃撃事件、シアトル、修学旅行、JAXA、そして今年からは副担任と……そのような所ですね》

《学園長がそうなるようにしたというのが一番の原因である気もするが、私の方は実際かなり助かているからナ》

《超鈴音の件だけでなく、関西呪術協会の件、魔法世界での件などを思えば、その働きは充分すぎるぐらいでしょう》

《全くだネ》

《タイミングを見て、お祝いしようかな》

《サヨなら偶然見ていたと言えばいいでしょう》

《はい!》

《葛葉先生の事だから無いとは思うが、婚約指輪を女子高等部につけてきたら確実に騒ぎになるネ》

《間違いなくなるでしょうね》

《挙式はいつになるんですかね?》

《1年が目処という所ではないかと。ジューンブライドなどという言葉がありますが日本では11月や3月が最も結婚式が行われているそうで、その付近になる確率は高いかと》

《日本は梅雨があるから仕方ないヨ》

《どんよりした天気で結婚式よりも気候も良くて天気の良い時の方がいいですよね》

……などと、他人の結婚事情について勝手な話をしていたが、実際に超鈴音が言った通り、翌日葛葉先生が婚約指輪を付けてくる事は無かった。
それでも、葛葉先生としては平静を装っているようであったが、生徒側としてみると、どうも怜悧な雰囲気が少なくなったという印象を受けたらしい。
数日して、サヨと超鈴音が葛葉先生と廊下ですれ違い際に「おめでとうございます」と「おめでとうネ」言葉を発した事に先生が動揺したのは当然であったが、サヨが自分の目を指さして示し、超鈴音が口元に指を当てるジェスチャーをして意味は伝わったらしく、葛葉先生は「どうもありがとう」と少々恥ずかしげに答えていた。
葛葉先生はその後他の同僚の先生達にこの件が知られるという事もなく、結果として超鈴音とサヨのみが知っているという、少々変わった状態になった。
……そうこうして5月の末に迎えるものと言えば、中間考査。
超鈴音達はというと、高等部から入学してきた並み居る高学力者達を抑え、当然超鈴音は全教科満点、葉加瀬聡美はほぼ全教科満点、サヨも、ほぼ全教科満点で3位までの独占は中等部と何ら変化は無かった。
サヨに関しては、今まで中学生ばかりやってきていて、高校の授業には対応できないのではないかというと、記憶力に関しては考える必要性が無いので何ら問題無い。
現代国語の記述式を自力でやる程度しか影響が出るものがない為、結果として3位を維持するに至る。
麻帆良女子高等部1年全体を総合してみれば、やはり高等部から入学してきた生徒達が成績上位の大半に食い込んだ関係で、中学時代に上の下、中の上程度の成績であった生徒達以下は軒並み順位が猛烈に下がり、衝撃を受けていた。
成績について全然気にしてない古菲や長瀬楓らはともかくとしても、桜咲刹那は孫娘の進路の兼ね合いで結構心に傷を負ったようであり、高等部参入組がいながらにして中のやや上程度の維持を図れた春日美空は寮室で「マジめんどかったけど、超りん達に言われた通り勉強しといてホント良かったわー」と机に突っ伏しながら神楽坂明日菜に言っていた。
その当の神楽坂明日菜は「私も前より全体だと順位上がってるし、ちゃんと効果出てるみたい」と手応え有りげに答えていたが、ネギ少年という家庭教師は非常に優秀という事だろうか。
綾瀬夕映もバカレンジャーなどという称号は影も形も残っておらず、普通に宮崎のどかと同じく成績上位に喰い込むという事を果たし……孫娘を凌駕した。
彼女はやはり、やればできる型の人間であるようだ。
その孫娘も成績上位は上位であるが……医学部の推薦は枠が2つしか無い為、とにかく大変であろう。
いずれにせよ、女子高生の学校生活にはこれからも考査というのが必ず付き纏う。

さて、再び話を戻せば、今年の麻帆良祭の出し物、1-1はどうなったのかと言えば……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

中間テストをなんとか乗り越えたけど、マジ超りん達が言ってたとおりだったわ……。
全教科テスト帰ってきた時、附属出身者は皆爆死気味で机に突っ伏してたからなー。
真面目に勉強してなかったら私も下の中辺りまでは落ちてたわ、絶対。
ま、そんなもんも終わって、今年も麻帆良祭の時期ってことでクラスの出し物を決める訳なんだけど……高校ってのもあって、先生は全然口出ししてこないスね。
神多羅木先生だからってのもあるんだと思うけど。
そういや葛葉先生最近柔らかくなった気がするな。
去年だったらネギ君が先生で司会やってクラスの出し物まで決めるとかそういう感じだったのが懐かしいなー。
アレってネギ君が決まらない事に悩む必要とかなかったんだけどね。
今ゆーなが前に出てて……。

「はい!私からは魔法少女喫茶を提案します!」

何だソレ。
え?皮肉?
高校1年で魔法少女とかもう無理じゃ?
それ以外にもこのクラス、リアル魔法使いいるの分かっててその提案かい、木之元。

「遙から魔法少女喫茶ーって何それ?説明説明!」

その場のノリでゆーなは黒板に書いたけど分からんよな。
同じバスケ部だからってやりとり軽いなー。
この前、魔法生徒になる事言ってきて、魔法世界での事聞いてきたけど、ゆーなのお母さんに何かあるらしい。
あの時いつもは見ないような暗い表情で驚いたわ。
でも、すぐ麻帆良祭実行委員で忙しくなったから元気になった。

「古今東西の魔法少女の格好をして、喫茶店。このクラス、本物の魔法使いが揃ってるんだし、このクラスが魔法少女やらなくてどうするの。この事他のクラスどこも知ってるんだし。客寄せには絶対使えるって!」

古今東西の魔法少女って何スか。
ただのコスプレ喫茶だろ。
でも、どうするもこうするもないと思うよ。

「おー、それは言えてるかも。でもそんなに魔法使いの格好って違う……の?春日」

突然話振られたよ。

「あー……私はシスター魔法使いだから、シスター服にはなる……よ、多分」

自分で言っといて意味分からんわー。
何だシスター魔法使いって。
そんな分類無いわ。

「陰陽師の服はあるえ」

このかー。

「ギリシャには、伝統的魔法使いの衣装ありマス」

「ロシアにも独自の衣装あります」

「中国にもありますわ」

「アメリカにも確かあるよー」

留学生達自重。
というかそれただの民族衣装だろ。
いや、アンジェラさん最後ノリで言ったけど、アメリカの魔法使いの伝統衣装って何?
しかも確かって。

「おお!あるんだ!なら、いけそうだねー」

「いけそうでよかったー。じゃあ、ゆーな、案はそういう事でお願い」

かなり突発的な思いつきだったぽいな……。
それにこのクラス、木之元じゃないけど、名字と名前交換するといろいろアレなんだよな……偶然だと思うけど。

「他に案はあったらじゃんじゃん言って!」

……と、他に普通にお化け屋敷、劇、ダンス、模擬店なんかが色々出たのはいつも通りで、複数案が出た中で多数決してみたら……。

「それじゃ、魔法少女☆喫茶にけってーい!」

わー、マジ超順当。
まあ、やることが衣装作る事ぐらいで、劇とかダンスやるんだったら5月中から話進めとかないと練習時間が足りなかっただろうし。
つか、どうせ魔法は使わないのに魔法少女とか詐欺だなー。
決定した事に神多羅木先生も葛葉先生は反対はしなくてそのまま本格的に企画が動き出した。

で……その後、結局私はシスター服で良いとかいう事になって、各留学生は日本に持ってきてた一張羅的服を披露。
王さんの中国服は豪華すぎて吹いた。
超絢爛豪華。
ナタリアさんの服はどうみても雪国の帽子って感じのアレで……クロエさんはどこの古代の哲学者……アンジェラさんは普通にスーツだった。
……実用的スね。
確かっていうのは間違いだったらしい。
この2ヶ月ちょいで仲良くなったこのか達呪術協会組は陰陽師の……巫女服のバリエーションみたいな服、で……超りん達は。

「何ソレ、超りん、ハカセ、さよ」

「宇宙服ネ!」

「なんで宇宙服になるのさ!?」

「宇宙魔法少女が着る服と言たら宇宙服しかないヨ!」

宇宙魔法少女って何。
色は全体的に白で統一されてるけど……マジ近未来的な格好だなー。

「春日さん、実際これ着心地良いんですよー。見た目の割に超軽量、密閉性は完璧、それでいて蒸れない特殊素材で作ってあって、気圧変化も可能です!」

両手グーパーさせながら語ってくれたよ。

「ハカセ、そういう機能性は聞いてないから」

テンションあがってるところ悪いけど、何作ってんの。

「そういわずに見るネ。ここのボタンを押すとヘルメットがこう降りてくるヨ」

首の辺りにあるボタン押したら無駄なSEと共に透明なメットが降りてきたー。

[気分は外宇宙航海時代ですね]

声わざわざスピーカーから出るんかい。

「飛躍しすぎだからね、さよ」

過去に航海時代はとっくに終わってるけどさ。

[後はカラーリングだネ]

もう好きにして。
実際、後茶々丸加えた4人は宇宙魔法使いってコンセプトで本当に宇宙服になった。
いいのか。
で、たつみーは……。

「なんで戦闘服?たつみー」

「ガンナー魔法少女にはきっとホルスターは欠かせないだろう。巫女服だと被るからな」

え、マジそういうノリなの?
しかもきっとって言う言い方が白々しいな。

「美空殿、拙者は恐らく、くの一魔法少女でござる」

魔法世界の時の格好と同じじゃん!

「いや、魔法少女つければいいってもんなの?隠す気一切ないだろ」

つか楓とたつみーの身長で少女とかそれこそ詐欺だろ!

「私は多分拳法魔法少女アル!」

ごめ、もう魔法少女って何。
ゆえ吉とのどかが、一般的魔法使いらしくとんがり帽子被ってローブ羽織ってるのがしょぼいコスプレに見えるぐらい濃すぎて何このカオス。
木之元達はマジでアレだ。
苦労してカード集めるさくらさんの話で出てた衣装を作って高校1年にして着るつもりらしい。
それやりたかっただけだろ!
アレ一応小学生だよ!?
他にビブリオン派もあるけどさ。

「いやー、これはメイド喫茶なんかより断然撮り甲斐あるー。流石の私もこれは撮らざるを得ないな。絶対卒アルに載せられるし」

宣言通り全然魔法使いの私達に追求してこない西華さんマジ感謝してるけど、この時ばかりはカメラでバンバン写真撮ってた。
にしても本当に卒アルに載ったら1-1カオスすぎるとか言われそうだなー。

「アスナは普通だな」

「私こういうの着たこと無かったし。美空ちゃんなんかいつも通りじゃない」

ゆえ吉達と同じ格好。
まー、あれだ、魔法世界で救出されて戻ってきた時のあのウェスペルタティア専用みたいな服着るわけないもんな。

「それ言われると返す言葉がないわ」

「大体美空ちゃんが適当にシスター魔法使いなんて言い出したから皆適当に魔法少女の前に何かつけてやる事になったのよ」

「それ都合よく解釈する方がどうかしてるから!」

……まあ、衣装はそんな感じで、喫茶店自体に出すメニューはっていうと、お茶関係は勿論だけど、超包子の肉まんがまた出てきて、今回はロシア出身ナタリアさんのピロシキも出す事になって他にも……何か郷土料理の店になった。
他クラスに比べると国際色豊かなのは事実だからおかしかない。
超りんはピロシキに興味ありまくりだったみたいで、ナタリアさん連れてお料理研に行ったのは流石だわ。
超包子のメニューに加える気なのかも。
隣の1-2は元3-A多いくせに珍しく5月中から話進めてたみたいで、村上が演劇部って事で魔法を題材にした劇をするらしく、鳴滝姉妹が妖精役っていうのを聞いて笑った。
1-1でやると捏造っぽくなるけど、他クラスならありだよなー。
見に行くか。
つか、今年どこも魔法系のネタを扱う出し物が多くて、普通のやった方が目立ったんじゃないかって思う。
……それにしても魔法って言うと今年はまほら武道会の話を一切聞かないんだけど……見送りみたいスね。
まー、攻撃魔法とかドンパチやるのを見せる訳にもいかないから仕方ないわな。
そのうちあっちの拳闘大会みたいのがこっちでも行われ……難しそうだな。
命落としても良い契約とか、地球じゃ絶対無理。
そもそも、攻撃魔法系って日本の憲法的にどうなんだろ。
全然分からん。
そんな事考えようと思っても一瞬で考えるのやめて、6月の下旬……いよいよ今年の麻帆良祭。



[27113] 88話 天空の島マホーラ
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:53
2004年6月18日金曜日、2004年度麻帆良祭初日。
スプリングフィールド一家は3人とも幻術薬を服用し、ネギとナギの赤髪は黒髪に、アリカの髪は茶髪に、特徴的な枝分かれした眉毛はそうは見えないよう見た目を変え、また全体的に元の顔の面影も変えた上で、更に認識阻害もかけて麻帆良祭へと繰り出した。
この年、例年とはっきり違うのは外から麻帆良へとやってくる人々の数で、初日の開幕パレードから麻帆良路上と言えば非常に混雑していた。
がやがやと喧噪の鳴り響く中、3人はいた。

「凄い人の数じゃな……」

「終戦記念祭みてーだな」

アリカとナギが目の前の光景を見渡すように呟く。

「父さん、終戦記念祭の時、僕達逆のこと思ったんだよ」

ナギの顔を見上げるようにネギが少し面白そうに言う。
それに納得するようにナギがうなずく。

「ああ、そっか、麻帆良祭見てからあっち行ったんだもんな」

「うん」

そのやりとりを見たアリカは口元まで言葉が出かかったがそれを押しとどめた。
終戦記念祭は前大戦が終結してから始まった祭典。
アリカは凡そ10年前封印されるまでの期間地球にいた為、旧ウェスペルタティア王国の元女王でありながらオスティアで行われていたその祭りに詳しくない。
当時のオスティアの民は今どうしているだろうか。
今目の前に見えている人々のように楽しそうに過ごすことができているのだろうか。
必ずそうでない者達がいるのに引き替え今私はこうして……とアリカの心は痛んだ。

「母さん、終戦記念祭の時、皆、お祭りを祝って、楽しそうに笑ってた。僕には、そう、見えたよ」

ふと、隣のネギが目の前を見ながらアリカに聞こえるように言った。

「……そう……であったか」

アリカはその言葉に一瞬目を見開いたが、すぐに思い詰めたような表情を緩め、吐息をついて言った。
親が子の面倒を見るのではなく、子が親の心を察するというのは複雑なものがあるが、それでも間違いなくアリカの心は安らいだ。

「お、アレすげーぞ!あっち見てみろよ!」

「うん、ホントだ!」

「……うむ」

パレードの行列遠くに見える物を無邪気にナギが指さし、ネギとアリカが続いた。
……少なくとも今はこの祭りを楽しもうと、アリカはそう思ったのだった。
パレードをひとしきり見た所で、一家は麻帆良祭のパンフレットを手に、人混みの中をはぐれないよう歩き始めた。
最初に向かったのは麻帆良女子高等部1-1。
ナギがいちいち呼び込みの女子生徒達に声をかけられたりしながらも、3階まで階段で上がり、目的地はそのすぐの所にある教室。
その看板には「魔法少女☆喫茶」と、書かれているのが目に入る。

「魔法少女喫茶かー」

「いらっしゃいませ!どうぞ中にお入り下さい!」

ナギが呟いた所、廊下で呼び込みをしていた1-1の生徒が素早く近づいて現れた。
天童琴美、黒いとんがり帽子にローブを羽織った魔法使いの格好をしていた。
その勧めに従い、3人は普通に教室の中に足を踏み入れる。
きっと同じような格好をした女子高生達がいるのだと無意識に思って。
その教室の中はといえば、内装は明るげな飾り付けが余す事なく施されており、麻帆良祭始まってばかりながらも、既に客も主に他クラスの者達が多いとは言え、入っており楽しげな会話が交わされていた。
が……。

「は?」  「えっと」  「……」

目に入ったのは巫女、シスター、絢爛豪華な中国衣装、昔の哲学者のような白い地面にまでつく衣装、雪国の帽子が特徴的な衣装、スーツ、完全な宇宙服姿、くの一、派手なアニメの魔法少女のコスチューム諸々……と入り口で無意識に構築したイメージを破壊して有り余る混沌がそこには広がっていた。

[3名様ですね、どうぞあちらのお席におかけ下さい]

何かスピーカーを通して聞こえるような声が横からすれば、至近距離に水色のカラーリングが施された宇宙服、メットの中を覗けばその顔は相坂さよであった。
何もわざわざ宇宙服姿の人が入り口で話しかけてくる事もないだろうに……と考える余裕も3人は無く、呆気に取られ、よく分からないまま勝手に足が動き、とにかく席についた。

「こちらがメニューになります。私からはピロシキをお勧めします。とてもオイシイですよ!」

金髪青目の整った容姿で、雪国の帽子を被ったナタリアがメニューを渡しに現れ、母国の料理の宣伝も抜かり無くした。

「あ、ありがとうございます」

メニューを手渡されたネギがそれに答え、ナタリアはニコニコと微笑んで戻っていった。
他の席にふと目を向ければ、各種魔法……少女……達の写真を撮ったり、一緒に写って楽しんでいる女子高生達が見受けられた。

「……まあ。ほら、何か頼もうぜ」

ぼーっとしていた所、ナギが一言。

「う、うん」

「……超包子の肉まんは慣れておるし、勧められたピロシキを試してみてはどうじゃろう」

考えるのを放棄したアリカは普通にピロシキを頼むことを提案した。

「僕もそれがいい。父さんは?」

「俺もピロシキが良いな。まだ昼にもなってないし。軽い方が良い」

あっさり頼むものを決めた所で、お茶に関しても同じように決め、近くを通りかかった魔法少女に声を掛けた。

「おっと、はい、ご注文お決まりですか?」

シスター姿の春日美空であった。
それにネギが簡潔に答える。

「ピロシキ3つに紅茶3つお願いします」

「承りました。少々お待ちくださーい」

丁寧なようで軽い返答で春日美空は裏手へと向かっていった。
幻術と認識阻害を掛けている事で正体に気づかれる事はまず無かった。
程なくして頼んだものが、すぐに運ばれて来て、3人は食べ始めた。
ピロシキとは東欧料理の惣菜パン。
大きさは幅6cmから13cmくらい、生地は鶏卵とバターを用いたパン生地、折りパイ生地、練りパイ生地など様々であり、揚げるタイプと焼くタイプがあるが、ロシアでは焼くほうが一般的。
具も多種多様であり、畜肉、魚肉、ゆで卵、フレッシュチーズ、米、カーシャ、ジャガイモ、茸、キャベツなどがが用いられる。
1-1で作られているピロシキは、超包子の肉まんの具材をベースにピロシキに合うようにアレンジ、つまり畜肉ベースの濃厚でジューシーな、それでいて飽きの来ない絶妙なバランスの仕上がりの物であった。

「あ、美味しい!」

「ああ、うめぇな!」

「うむ、美味しい」

慣れ親しんだ超包子の肉まんとはまた異なる味と食感のピロシキにそれぞれ素直に感想を漏らしながら3人はそれを味わった。
紅茶も飲んだ所で、アリカは徐にデジタルカメラを取り出し、写真を取り始めた。
最初に被写体に入ったのは宇中服、巫女……と数度撮りクラスの様子をカメラに納めた。
そのまま仕舞おうとした所で、声をかけられる。

「もし宜しければご家族でお撮りしますよ?」

またしてもそれは相坂さよであり、今度はヘルメットを開けた状態で話しかけて来て、唐突に通信をネギに繋いだ。

《神楽坂さん、呼んで貰えれば、呼んできますよ。今裏にいます》

《ありがとうございます、相坂さん。通信終わったらそう言いますね。ところでこの魔法少女喫茶って一体……相坂さんのその格好は……》

《これですか?宇宙服ですよ。宇宙魔法少女です!》

《う、宇宙魔法少女ですか……。何かよくわからないですけど、分かりました》

《深く考えても意味ないですから気にしないで大丈夫ですよ》

《あはは、やっぱりそういう店なんですね》

《はい!》

ネギの頭に直接届く通信が終わる。
アリカがどうするか確認を取ろうとネギとナギの方を向いた所、先にネギが口を開き、少し身を乗り出して、小さな声で言った。

「お願いします。できれば神楽坂明日菜さんを呼んで貰えますか?」

それにタイミングを合わせるようにさよが同じように身を乗りだし、応対する。

「はい、分かりました。少しお待ち下さい」

そう言ってさよは裏手に回っていった。
そのスムーズなやりとりにアリカとナギは怪訝な顔をしながらもそれは良い案だとネギに言った。
間もなく、魔法少女達が出入りする裏手への入り口から普通の魔法使いの格好をしたアスナが現れ、少し教室を見回す。
さよから「奥の席に座っている3人家族が呼んでいますよ」とだけ言われて背中を押されて出てきたものの、見てみれば知らないと答えられる容姿の3人家族がそこにはいた。
アスナは一度首を傾げ、不思議に思いながらも、さよに「いいからいいから」とまたしても軽く背中を押されその家族の元へと連れて行かれた。

「あの、私と写真を撮りたい……んですか?」

3人の前でアスナは一応尋ねる。

「はい。お願いします」

「良いか?」

ネギとナギが答える。

「あ!」

特徴的な気さくな返答に覚えのあったアスナはようやく気がついたのか口元に手のひらを当てる。
それにネギとアリカが微笑みながら一つ頷いて見せ、アスナも嬉しそうに頷いてネギの方へと回り、アリカはさよにデジタルカメラを渡した。
4人が位置についてカメラの方を向き、さよが声を出す。

「はい、撮りますよー!3…2…1」

カウントダウンと共にフラッシュの光が瞬いた。
さよは撮り終わった写真を確認して大丈夫そうだと見て、アリカに見せるようにして渡した。

「ありがとう」  「ありがとうございます」  「ありがとな」

3人はさよに感謝の言葉を述べ、さよは戻っていった。

「私も、またね」

アスナも小さい声でそう言い、軽く手を振ってその場を3人に見送られて去っていった。
そして、丁度頃合いと見て、一家は代金を出口で払って、魔法少女達に見送られて教室を後にした。

「あー、魔法少女っていうには何か変だったなぁ」

「父さん、考えても意味ないんだよ、きっと」

「じゃな」

ナギは正直に呟き、ネギがそれに悟ったように言い、アリカはしみじみ頷き、同意した。
次にどこへ行こうかという所、今度は隣の1-2で呼び込みの生徒が「天空の島マホーラ」というタイトルの劇を次に女子高等部の講堂で始めるという事を宣伝しているのを聞き、講堂へと向かう事にした。
やや薄暗い中、まだ満席という訳でもなく、一列空いている所に3人で座った。
ネギは講堂に入る際に手渡された1枚刷りのパンフレットを見る。
天空の島マホーラ……タイトルからそこはかとなくとある映画がネギの脳裏によぎるが、導入は、魔法の存在する世界、時は大航空時代で、シータンという少女(演:佐々木まき絵)が母(演:那波千鶴)と祖母(故人)から語られた「地上からいつも見えているが誰もいくことのできない巨大な天空の島」の話を聞き、いつか行ってみたいと夢見ながら日々平凡な毎日をセンブリーナ王国辺境の村で過ごす所から始まるというのが分かった。
また、その世界にはラース帝国、センブリーナ王国、リアードネ共和国の3つが存在し、その3国の中央に天空の島マホーラが浮かんでいるという設定になっている。
天空の島が天空の城と設定が明らかに違うのは、多分地球で公開されている魔法世界の情報の中に浮遊大陸オスティアがあるからだろうと思いながら、ネギはふっと微笑んだ。
数分のうちに続々と講堂に人が集まり、周囲の席も埋まった所で、アナウンスが入る。

[[これより、1-2組による天空の島マホーラの開演です]]

後ろから聞こえてきた拍手の音につられ、ネギ達も拍手をしだすと、同時に幕が上がる。
場面は煉瓦造りの家の中、母が裁縫をしながらそのすぐ近くにペタリと座るシータンに天空の島マホーラの話を聞かせている所。
母が口を開き、慈愛に満ちた声でシータンに話しかける。

「シータン、マホーラはね、人々がその昔土地を巡って争いを始めた為、精霊がそれに怒って陸ごと空に飛び上がって誰も行けないようになってしまったのよ」

シータンは母に擦り寄って近づくようにしながら、心配そうに問いかける。

「お母さん、それじゃあ、あのマホーラにはもう人は誰も行くことはできないの?」

母は裁縫の手を休め、シータンの頭を片手で軽く撫でて言う。

「……どうかしら。純粋な心を持った人ならもしかしたら行けるかもしれないわね」

その状態でシータンは目を輝かせ、両手を合わせて母に更に問いかける。

「わ、私はどうかな?行けるかな?」

「良い子にしてれば、もしかしたら、ね」

母は片目を閉じて言い、シータンの頭から手を離した。

「うん、私、頑張るよ!」

「ええ。それと、シータン……お祖母ちゃんから教わったおまじないは覚えている?」

母はシータンに問いかけ、それに怪訝にしながらも答えた。

「うん?覚えてるよ」

「……そう。……なら、シータンにはこれをあげるわね」

母は一つ頷いて、首にかけていた翠色の宝石のネックレスを取り外し、シータンの首にかける。
それにシータンは目を見開き恐る恐る尋ねる。

「お母さん……いいの?いつも肌身離さず付けてる大事なものでしょ?」

「……いいのよ。お母さんの代わりにシータンが持っていて頂戴。お母さんもこうやって渡されたのよ」

再び頭を撫でられながらシータンが尋ねる。

「そうなの?」

「そうよ」

「……うん、分かった。大事に持ってる!」

嬉しそうに、決意の籠もった目でシータンは答えた。
そこで……舞台が暗転。
ナレーターの朗読が入る。

[[シータンはその後も日々平穏に村で過ごし続けました。しかし、そんなある日シータンの母は突然シータンに旅に出るように言ったのです]]

舞台が再び照らされる。

「シータン、荷物は用意してあるから、明日、村を出て旅に行ってみなさい」

「え!いきなりどうして!?」

母の突然の提案にシータンは驚きの声をあげる。

「マホーラには、いつまでもここにいても、いけないでしょう?」

「そ……それはそうだけど。だったらお母さんも一緒に」

「それでは、いけないのよ。……シータン、やっぱり行きたくないかしら?」

母は諭すように言って聞かせ、シータンはそれに対して一瞬迷った後、口を開いた。

「う……ううん。行くよ!私旅に出る!」

暗転し……「そして翌日」という朗読と共に再び照らされる。
玄関にて動きやすいズボンに、膝まで丈のあるワンピースのような上着を着たシータンは背中にリュックを背負い、母と向かい合う。

「じゃあ、お母さん、行ってくるね!」

「行ってらっしゃい。最初は町に行ってみなさい」

「うん!行ってきます!」

そう言ってシータンは元気よく母に手を振り、玄関から出て舞台袖へと去っていった。
残った母は同じく振っていた手を降ろし、一言。

「これで……あの子はひとまず大丈夫。後は私も……」

母は徐に席につく。
一度暗転し「そして数日後」というナレーションと共に再び明かりが照らされる。
すると、けたたましい効果音が鳴り響き、舞台に4人の人物が現れ、玄関の戸を叩く。

「来たのね……」

そう母は呟いて玄関に向かい、戸を開く。

「失礼。私はラース帝国軍特務部隊所属、ハルカ大佐だ。貴女はクシャーナ殿でよろしいか?」

黒髪から2つのアホ毛が伸び、サングラスではないが眼鏡をかけ、軍服を着たラース帝国軍ハルカ大佐(演:早乙女ハルナ)が両手を腰にあて、仁王立ちして問いかける。
同時に、観客席にいる女子高生達が吹き出す音もした。
一方でネギはハルカ大佐の登場を見て少し考えた。
眼鏡、名前、ハルナさんは世界征服とかそういえば言ってたし……適役かも、と。

「そうですが……ラース帝国の大佐がこのような辺境に何の用でしょうか」

ハルカ大佐は仰々しく手を動かしながら母に尋ねた。

「とぼけられても無意味です。貴女が夢で未来を見通す魔法使いである事は承知の上。……お子は今どちらに?」

「……数日前自由な旅に出しました。行き先もあの子次第、今どこにいるかは分かりません」

ハルカ大佐は眼鏡を指で無意味に3回押し上げながら更に質問を重ねる。
また観客席から吹き出す音が聞こえる。

「やはり先手を打たれましたか。では……精霊石は?」

「……持たせました」

「仕方ありませんな。ご同行願えるかな?」

「拒否権は無いのでしょう」

母は瞼を閉じて言い、ハルカ大佐が部下に命令をする。

「フッ。連れて行きたまえ!」

「「はっ!」」

部下2人が母の両腕を捕捉し、そのまま家から出て、舞台から姿を消す。

「怪しいものが残っていないか探したまーえ!」

「はっ!」

ハルカ大佐の無意味に語尾の伸びる命令で残ったもう1人が家の中を探し始める。
そこで舞台が暗転。

[[ハルカ大佐によって、シータンの母は飛空艇へと連れていかれ、魔法を使う事のできない部屋に閉じこめられてしまいました。しかし、それから数日すると母の身体は煙を出して消滅し、実は偽物だった事が明らかになったのです。その事に大変ハルカ大佐は激怒し、てこずらせたな!と叫び、それからというものシータンと母の捜索を、密偵を各国に飛ばして行い始めたのでした]]

朗読を聞き、魔法の使えない部屋という単語にネギは、設定が意外に現実に則していると思わずにはいられなかった。
そして舞台のセットが切り替わり場面はとある森の中。

[[シータンは十分な旅費もあり、野宿する事にも抵抗は無く、最初の町に辿りついた後はそのままセンブリーナ首都の方角へ徒歩で向かっていました。そんな、とある森の中]]

シータンは道を歩いていると脇道に複数本の木をなぎ倒して、中型の飛空艇の先端部が着陸しているのが見えた。

「だ、大丈夫かなー?行ってみよう!」

そう言って、シータンはその方向へと進むと、一人の作業服兼パイロット服のようなものを着て目にはゴーグルを付けている少年がレンチを持って何かをしているのを見つけ、声をかける。

「あのー、大丈夫ですか?」

声をかけられ、つい少年は顔を上げる。

「ん?ああ、墜落したけど、修理すれば大丈夫。って誰?」

驚いて少年はゴーグルを手で目から頭にあげる。

「あ、私はシータン。今旅の途中で、丁度木が倒れているのが見えて」

シータンは簡単に自己紹介をし、それに少年も返す。

「へー、旅か。俺の名前はパーズ。シータンは旅ってどこか行くあてとか目的ってあんの?」

パーズ(演:釘宮円)は地面に胡座をかいて座ったまま、シータンに軽くハスキーな声で問いかける。

「パーズね。よろしく!それで旅の目的……私は天空の島マホーラにいつか行くのが夢かな」

シータンは挨拶をして、首を傾げながら少し恥ずかしげに答える。
それにパーズが驚く。

「え!?シータンもマホーラに!?」

「え?もしかしてパーズも?」

その反応にシータンも驚き、パーズが説明をする。

「ああ!俺は飛空艇であのデカデカと浮かぶ島、マホーラまで到達してみるのが夢なんだ。今こうして墜落してるけど」

「へー、そうなんだー。でも、どうしてマホーラまで?」

シータンの疑問に、パーズは両手を広げてさも当然とばかりに語り始める。

「そりゃ、飛空艇乗りの間じゃあれは目的の一つだからな。誰が最初に到達できるか競ってるんだよ」

納得したようにシータンが相槌を打つ。

「そっかぁー」

「シータンはどうして?」

そう問われ、シータンも地面に腰を下ろし、体育座りのような形で話し始める。

「えっとね、私はお母さんからよくマホーラの話を聞かされて育ったから、かな」

興味を持ったようにパーズはシータンに近づく。

「マホーラの話?それってどんなのだ?マホーラはいつも見えてるけど、話ってあんまり知らないんだ」

「私話せるけど……聞く?」

パーズは躊躇せずに頷き、思い出したように質問する。

「聞かせて欲しい。あ、それって長い?」

シータンも頷く。

「うん……結構長いよ」

「ならさ、もう少しだけ修理したら飛ばせるようになるから船の中で待ってろよ。偶然会ったのも何かの縁だ。飛空艇飛ばしながら話聞かせてくれよ」

パーズが提案し、シータンはそれに嬉しそうに答える。

「わー、ホント!?私飛空艇乗るのって初めて。じゃ、じゃあ、そうさせて貰おうかな」

「うん、すぐ修理済ませるから。ちょっと散らかってるけど、適当に場所作っていいからさ。中広いし」

そうして、シータンは飛空艇の中に入り、パーズが修理し始めた所で、再び暗転。

[[パーズが修理を終え、飛空艇を飛ばすと、シータンは初めて空を飛んだ事に喜び、その余り中で飛び跳ねたりもしました。そこへ、パーズがシータンを操舵室に呼び、パーズが舵を取っている横で、シータンは母と祖母から聞かされた天空の島マホーラの伝承と一つの歌を教えたのでした]]

場面はパーズの飛空艇の操舵室。

「へー!妖精が住んでるのかー。それにその歌、何かマホーラの行き方みたいな歌に聞こえるな」

パーズは舵に手を当てながら言う。

「え、そう?」

操舵室に椅子を置いて近くに座りながらシータンが答える。

「ああ、順番はバラバラだけど、初夏の満月、頂きを結び、風の絨毯、三つに割かたれし、とかはっきりはしないけど、風の絨毯何かは特殊な気流を意味してるんじゃないかって俺は思う」

両手を合わせてシータンが驚きの声を上げ、首を傾げる。

「パーズって凄いね!じゃあやっぱり行き方があるのかな?」

「シータンの話をじっくり考えたら見つかるかもな。まだ話に歌って他にもあるんだろ?」

パーズは顎に手を当てて言い、それにシータンが改まって尋ねる。

「うん!……それで、パーズ、一つ聞いても良い?」

パーズは顎から手を話して顔を上げるようにシータンを見る。

「ん、何だ?」

「どうして……どうしてパーズはまだ子供なのに飛空艇持ってるの?」

パーズはその質問に対し右手で後頭部に触れ、うっかりしてたという風に話し始める。

「ああ、そりゃ怪しいか。こう見えて俺はリアードネ共和国最大の飛空艇工房で働いててさ。古いのを廃艦するって話が出たときに全部修理する代わりに、こうして今俺が自由に飛ばしてるんだ。ボロだからまた墜落したんだけどな、ははは!」

「え!パーズってリアードネの人なんだ!そっかー、工房で働いてるから飛空艇持ってるんだね」

うんうん、と頷いてシータンは納得する。
パーズは舵を一旦放置し、くるりと身体をシータンに向け、問いかける。

「ああ。……シータン、俺からも聞くけど、マホーラに行きたいってのはどうする?」

「どうする……っていうと?」

パーズは左手を肩の辺りの高さまで上げて話し始める。

「マホーラに行くなら飛ばないと無理だろ?となると俺みたいに飛空艇技師兼飛空艇乗りでも無い限りはそれを叶える方法は無い」

それにシータンは少し思いつめたように頷く。

「うん……」

パーズは両手をパチンと勢い良く叩いて合わせ、再び両手を広げて見せて、シータンに提案する。

「そこでだ、シータンは今俺にマホーラについて色々な事を教えてくれた。その代金って訳じゃないけど、俺は今のこの飛空艇よりも頑丈で、その代わり小さい飛空艇を作ろうって考えてるんだ。それが完成したら……その、一緒に行ってみるか?」

その言葉にシータンは目を輝かせ、パーズの片手を握って言う。

「ほ、ホント!?うん、お願い!」

「ははは!じゃ、決まりだな!今その新型の為の部品買った帰りだったから、工房に戻ったら作り始めるから待っててくれよ」

軽く笑い声を上げ、パーズはシータンに両手で握られた片手を、自分のもう一方の手を更に乗せ、シータンに語りかける。
それに勢い良くシータンも言う。

「なら、私、その間手伝える事やるよ!」

「それなら、良いところあるから任しといて」

そして舞台が暗転。

[[……こうしてマホーラに行く約束をシータンとパーズはし、そのまま飛空艇はリアードネの工房へと戻りました。若くして飛空艇技師として才能あるパーズは色々な発明の甲斐あって資金もあり、パーズは自分で設計した小型の飛空艇を制作にとりかかり始め、シータンはパーズに紹介されて飛空艇工房の食堂で働く傍ら、母と祖母に聞かされたマホーラに関する伝承を紙に纏める作業を始めました。一方、ハルカ大佐はシータンの捜索を始めていましたが、リアードネに行った事を掴む事はできませんでした。それからしばらくして、シータンは母に手紙を出しました。しかし、返信が帰ってくる事はありませんでした……]]

そして場面はリアードネ飛空艇工房の一室。

「シータン、歌の解読は多分これでいい筈だし、本当に最低限の機能しかないけど、新型の飛空艇も完成した。それに初夏の満月も、もうすぐだ」

机の上に両手をつき、そこに置かれた紙を見ながらパーズがシータンに言う。

「うん。これで、マホーラに行けるかもしれないんだね!」

シータンは元気にそれに答え、パーズは顔を上げる。

「ああ、一緒にマホーラに行こう!」

「うん!私ホントはマホーラに行けるのはずっと先だと思ってたから本当に嬉しい!パーズ、ありがとう!」

シータンは腰の後ろで両手を組み、やや上体を倒し、パーズに礼を述べる。

「こちらこそ、シータンが色々知ってなきゃ、実際にマホーラに行こうと挑戦するのも無理だった。ありがとう」

パーズは自然に右手を出しながら言う。
その手をシータンは同じく右手で掴み握手をする。

「あはは、2人の力を合わせたお陰だね」

……それからの劇の流れはというと、出立の準備もほぼ整い、初夏の満月の夜を待つだけとなった2人はその残りの数日をいつもと同じように過ごしていた。
しかし、そんなある日の夜、リアードネ飛空艇工房に潜り込んでいたハルカ大佐の部下が、シータンを攫い、更に歌を解読して導きだしたマホーラへの行き方の方法の書かれた紙を盗み出してしまう。
部下がシータンとマホーラへの行き方の方法を記した紙を持ち帰ってきた事にハルカ大佐は喜んだが、もう一つ、精霊石が無い事に激怒した。
しかし、もう一度部下にリアードネに行かせるには初夏の満月の日までに時間無い為、シータンと一緒にいたパーズが追いかけてくる事を期待して、作戦を決行する事にした。
パーズの導き出したマホーラへの行き方とは、初夏の満月の日に3国のある地点のそれぞれにできるという特殊な気流に乗ってマホーラの上空頂上に到達する事ができ、そこからならマホーラに至る事ができるというものであった。
場面はハルカ大佐の乗る、ラース帝国の飛空艇、その名もゴリオシ、シータンが閉じ込められている一室。
用意してあった色々な服が机に積まれたままの所にハルカ大佐が現れ、両手を広げてシータンに話しかける。

「よく眠れたかな?おや、流行りの服は嫌いですか?」

「私をどうするつもりなの!?」

むすっとした顔でシータンはハルカ大佐に大声を出す。

「どうするもこうするも共にマホーラまで同行してもらうだけ」

淡々とした説明に、シータンは更に声を上げる。

「マホーラに行くならパーズと行くよ!」

そう言いながらシータンは船室の扉の方へ向かい、ハルカ大佐はそれを余裕を持って追うように身体をシータンの方に向ける。

「君も少女なら聞き分けたまえ」

「リアードネに帰して!」

シータンは扉をドンドンと叩く。

「あっはっはっは、どこへ行こうというのかね!このゴリオシは今空の上を飛んでいる。逃げ場など無いのだよ!」

ハルカ大佐はその様子を見て、仁王立ちで盛大に笑い声を上げる。
そして舞台は暗転し、セットが切り替わり、再び明転。
場面はセンブリーナ王国の女王の間。

「クシャーナ殿が見えました!」

舞台袖の所に立つ近衛兵が声を上げると共にシータンの母が、身体全体を覆うローブを着て現れ、道を進み、玉座の手前で片膝をつき頭を下げる。

「女王陛下、ご機嫌麗しゅう。この度は、飛空艇と部下をお貸し頂きたく参りました」

豪華な衣装を着た黒髪の美しい女王陛下(演:大河内アキラ)の隣に立つ完全に現代の秘書姿をした大臣(演:長谷川千雨)が問いかける。

「クシャーナ殿、何かあったのか?」

それに対し、シータンの母は下を向いたまま説明を続ける。

「はっ。ラース帝国のハルカ大佐なるものがマホーラを手中に収めんと動いているようなのです」

その言葉に女王は目を見開き、少し席から身を乗り出す。

「何、あのマホーラを?」

それに対し、シータンの母が答える。

「はい。予知夢を見ました。間違いはないかと」

「マホーラに行くというのか?」

その女王の問いかけに、シータンの母は一瞬間を置いて口を開く。

「……はい。マホーラへの至り方をお教えするのは申し訳ありませんが」

話す途中で、女王は扇を口元に当て、ピシャリと発言を遮り、結論を言い、人を呼ぶ。

「よい。詮索はせぬ。頼み通り、飛空艇と屈強な部下をつけよう。シーナ、ミーサ!」

すると、シータンの母が現れた方とは逆の舞台袖から2人の杖を持ったローブを羽織った人物が素早く現れ、玉座の付近で片膝をつく。

「「はっ!お呼びでしょうか、女王陛下!」」

女王は扇を前に開いて命令を下す。

「クシャーナ殿と共に、飛空艇で出立せよ」

「「はっ!お任せください!」」

シーナ(演:椎名桜子)とミーサ(演:柿崎美砂)が返答し、シータンの母が礼を述べる。

「お心遣い、感謝します、女王陛下」

女王が大臣の方を向いて命を下す。

「大臣、飛空艇の手配を」

大臣は頭を下げ、手で示して、シーナとミーサが出てきた舞台袖へと促す。

「承知致しました。クシャーナ殿、シーナ、ミーサあちらへ」

舞台袖の近くまで至った時、シーナが両手を振ってはしゃぐように言う。

「クシャーナ様、私、幸運を呼ぶ魔法が常に勝手に発動してるので、期待してて下さい!」

「それは。期待させてもらいましょう」

「私達、腕も確かですので、ご安心を」

フォローするようにミーサがシータンの母に言い、舞台袖へとそのまま去っていった。

[[こうして、シータンの母はシーナとミーサという女王陛下の選んだ屈強な部下と共に飛空艇に乗り、初夏の満月の夜、マホーラへと行くことにしたのです。他に同じようにマホーラへ行こうとする者達がいる中……時はその満月の夜]]

場面は小型飛空艇……見た目は完全に2人乗りのプロペラ機まがいの物にパーズが1人乗り込み、歌を解読して特定した通り、リアードネにあるポイントからマホーラへと向かう所。

「シータンをさらった奴らは必ずマホーラに行く筈だ。待ってろよ、シータン!」

そう言ってパーズはゴーグルを着用する。
小型の飛空艇が空を駆け抜ける演出が、舞台のスクリーンに投影された雲の映像で表現される。
小型飛空艇はそのまま勢いを増して進んでいく。

「やっぱり、本当に気流はあった!けど、荒い!でも、船体強度には自信はあるぞ!」

スクリーンには巨大なマホーラの島が近づいてくるように見え、更には一気にその横を越え、頂上からマホーラを見たような絵が映る。
その絵を描いたのはハルカ大佐こと早乙女ハルナ。
その映像全体の編集は長谷川千雨が行い、クオリティはかなりの物であった。
巨大な大樹が中心に聳えるのが目立つ、自然豊かな島。

「後は一気にっ!あ、あれはっ!?」

突如、ワイヤーで吊るされた3人の人物が現れる。

「きゃぁぁーっ!!」  「このままではっ!」  「飛空艇が壊れるなんてー!」

背景はマホーラの地上がどんどん近づいていく所。

「おーい!今ロープを投げる!これに掴まれ!!」

そこへパーズが小型飛空艇の中から3本のロープを的確に投げる。

「ら、ラッキー!!」  「流石シーナ!」

上手くロープに3人は掴まり、そのまま小型飛空艇へと手繰り寄せていく。

「しっかり掴まって、絶対手を離さないで!!」

そうパーズが叫ぶ。

「うわぁぁっ!!」  「落ちるよぉっ!!」

激しい効果音と共に、スクリーンの映像が急速に回転し、墜落したかのような演出が為される。
……これを見たネギは驚いていた。
違うには違うけど、何だか魔法世界の時の一件と似ている、と。
そして舞台は暗転、セットが切り替わる。
場面は満月と星々に照らされた幻想的な花畑。
パーズは席に突っ伏した状態で声を上げる。

「っ……いたた……」

小型飛空艇の翼部分に掴まっている形になっているシーナが声を出す。

「うぅん……あー死ぬかと思ったー」

ピクピクしながら、ミーサが前座席と後部座席の中間に身体をダラリとつけたまま声を出す。

「ま……まさかセンブリーナの飛空艇が大破するなんてっ……」

「……とにかく、マホーラには到着しました」

何故か、後部座席に何食わぬ顔で座っているシータンの母が言った。

「だ……大丈夫ですか?」

そう言ってパーズは飛空艇から降り立ち、ゴーグルを目から外し、3人を降ろす手伝いをする。

「ええ、大丈夫。ありがとう。あなたは……そう、あなたがパーズね」

手を取られながらシータンの母が言う。

「ど、どうして俺のことを?まさかシータンをさらったのは」

足をつけた瞬間にパーズは手を離し、距離を取る為に後ずさる。

「私はシータンの母。シータンをさらったのはラース帝国のハルカ大佐という者です」

パーズはその言葉に驚く。

「シータンのお母さん!?う、疑ってすいません」

「いえ、良いのです」

そのやり取りを意に介さないようにシーナとミーサは片手で遠くを見渡すような仕草をして声を上げる。

「いやー、綺麗な所ですねー!」

「ここがマホーラ!」

……そこへ舞台袖から背中には透明な羽、頭にはアンテナのようなものがついた、6人の妖精達が現れる。
とりわけ他の4人よりも非常に背丈の低い同じ容姿をした2人の妖精が前に出て4人の周りをスキップしながら同時に話しかける。

「「精霊石、精霊石の匂いだ!!」」

その突然の出現にパーズは驚く。

「な、何だ!?」

「僕達は由緒正しき森妖精!」」

「僕はユーパ!」  「僕はミトー!」

森妖精ユーパ(演:鳴滝史伽)、ミトー(演:鳴滝風香)はそれぞれ立ち止まってペコリと自己紹介をした。
その自己紹介に、やっぱり別の作品混じってるよね……とネギは思った。

「ほ、本当に、妖精」

驚いているパーズを尻目に、シーナとミーサは両手を身体に引き寄せてリアクションをし、シータンの母は落ち着いて言葉を述べる。

「可愛いーっ!」

「妖精なんて初めて見た!」

「マホーラの森妖精ですか」

そしてユーパがパーズを指差して言う。

「精霊石を持っているのは君だね!」

その指摘にパーズは首を傾げながらも作業服の懐から翠色をした石のついたネックレスを取り出して見せる。

「精霊石?もしかして……これの事?」

今度はミトーがそれに反応し、ぴょんぴょん跳ねながら言う。

「それだよ!それを持って、世界樹の元に行って欲しいんだ!」

それにパーズが後ろを振り返るようにして言う。

「世界樹って……あのデカイ木の事か」

ユーパがコクコクと頷く。

「そうだよ!あの木はとっても大事で今大変なの!」

そこへシータンの母が会話に割り込む。

「パーズ、精霊石はあなたが持っていたのね」

「ああ、はい。シータンが攫われた時、部屋の隅に転がってたんだ」

それにパーズは虚を突かれたものの、答え、一瞬考え込むようにして、シータンの母は口を開いた。

「……なら、精霊石はあなたがそのまま持っていて頂戴」

パーズはゆっくり首を縦に振った。

「わ……分かった」

そこへ、ユーパとミトーがまたぴょんぴょん跳ねながら声を発する。

「今、怖い人間達が別の方向から世界樹に向かってる!」

「世界樹への近道はこっちだよ!ついてきて!案内するよ」

急かされるようにして、6人の妖精達に背中を押され、パーズ達は世界樹へ続く道へと向かうように、舞台袖から去った。
そして舞台は暗転し、再びセットが切り替わり、大樹が非常に目立つように背景に加わる。
再び明転し、大樹の前に仁王立ちしたハルカ大佐と手を後ろ手に縛られているシータン、そして6人部下が立っている。

「さあ、リュシータンはいる!」

「私リュシータンじゃないよ!シータンだよ!」

「あとは精霊石を持ってノコノコやってくる所を待とうではないか!」

ハルカ大佐がシータンの発言を無視して高らかに宣言した所、舞台左袖からパーズ達が現れ、一瞬姿を表した妖精達はすぐに引き返していった。

「シータン!!」

「シータン!」

パーズとシータンの母がシータンを呼ぶ。

「パーズ!お母さん!?」

それに対しシータンが2人を見て声を上げるが、そのシータンの前にハルカ大佐が立ちふさがる。

「感動の再会のようですが、残念ながらそうはいきませんな!リュシータンを無事に帰して欲しくば、おとなしく精霊石を渡したまえ!」

右腕を前に出し、掌を上にして、招くようにして言う。

「な!」

「やはり精霊石が狙いですか」

それにパーズとシータンの母が一歩前進して言う。
ハルカ大佐は両手を広げ、高らかに上に掲げて言い放つ。

「当然!精霊石があれば世界樹、そしてマホーラを、ひいては世界をラース帝国の手中に収める事すらできる!」

それにシータンが声を上げる。

「そんな事の為にっ!」

「子供に何が分かる!さあ、精霊石を渡したまえ!リュシータンは命さえあれば良い。腕の一本程度無くなっても問題は無いのだよ!」

ハルカ大佐の言葉で部下の2人が動きナイフを出してシータンの首筋に付ける。
それに対し、パーズとシータンの母はさらに一歩だけ前進し踏みとどまる。

「くっ……」

冷静な声でシータンの母が言う。

「パーズ、渡してしまいなさい」

後ろに控えていたシーナとミーサが声を上げる。

「「クシャーナ様!」」

次の瞬間、パーズは精霊石のネックレスをハルカ大佐の方に振りかぶって投げつける。

「こんなものっ!」

そのパーズの行動にシータンが名前を呼ぶ。

「パーズ!!」

ハルカ大佐は腰を屈め、転がった精霊石を拾い上げて、パーズ達を振り返る事なく部下達に命令を下す。

「……聞き分けが良い。では、始末したまーえ!」

「「「「「「はっ!」」」」」」

そして、ハルカ大佐とシータンは世界樹の深部へと入っていくように舞台袖に去っていく。
入れ替わるようにハルカ大佐の部下6人が杖を構えてパーズ達に接近する。
それに直ぐ様シーナとミーサがシータンの母を守るように片手を広げ、もう片手に杖を構え、前に出る。

「クシャーナ様、お下がり下さい!」

「クシャーナ様は戦闘力皆無なのですから!」

そこへハルカ大佐の部下が杖を振りかぶって襲いかかる。

「はぁっ!」  「やぁ!」

「くっ」  「やられるか!」

シーナとミーサがそれを防ぎ、見かねたパーズが前に出る。

「俺も戦います!」

一歩下がっていたシータンの母がパーズを呼び止めるように声をかける。

「パーズ、隙を見てシータンの後を追いなさい」

それに首だけ振り返りパーズが聞き返す。

「シータンのお母さん!?」

シーナとミーサがハルカ大佐の部下6人が波状攻撃で襲いかかるのを都合よく防いでいる所、シータンの母は落ち着いて言う。

「あなたは私が夢で見たもう一人の運命の子供。歌の本当の意味があなたには分かる筈」

「わ……わかりました!」

パーズは首を縦に振り、すぐに前を向いて、戦列に参加する。

「プラクテ・ビギナル・シーナぐれいとぉ!」  「プラクテ・ビギナル・ミーサですとろーい!」

シーナとミーサはとりあえず技名を叫びながら戦い、ナレーションが入る。

[[……そして、激しい戦いが始まりました。シータンの母に先に行くように言われたパーズはその戦いの最中、隙をついて飛び出し、世界樹の深部へと向かったのです]]

そしてしばらく必殺技を叫んで杖で殴りあう中々まともな剣戟が繰り広げられ、パーズ1人だけがその場を去るようにした所でフェードアウトするように舞台が暗転。
セットが切り替わり場面は世界樹の深部。
ハルカ大佐はシータンの手の縄を解き、精霊石を無理矢理手に渡して言う。

「さあ、リュシータン、世界樹の再生を!」

大きく首を左右に振ってシータンが拒否する。

「やらないよ!それと私リュシータンじゃないよ!」

それにハルカ大佐がやれやれと首を振って説明を始める。

「何を言っているのかね。リュシータン・トエル・ウルティ・マホーラ。君の本名ではないか」

再びシータンが驚く。

「え!?」

饒舌にハルカ大佐は説明を続ける。

「私も古い秘密の名前を持っているんだよ。私の名前は、ロハルカ・パロ・ウルティ・マホーラ。君の一族と私の一族は、もともと一つの王家だったのだ。地上に降りた時、二つに分かれたがね」

納得したようにシータンは声を漏らす。

「そ、そうなんだぁー」

「まあ、そんな事はどうでもいい。今重要なのはこの世界樹。この世界樹は弱っている。その精霊石で再生させなければ、近いうちに枯れ、世界から魔法が失われる!それでも良いのかね?」

またしても両手を左右に大きく広げ、ハルカ大佐は説明した。
それにシータンは精霊石を両手で包みながら声を漏らす。

「そ、そんな」

そこへ、大樹のセットが一瞬仕掛けてある電飾によって発光し、同時にそこについている出入口から、植物をイメージしたような、それでいて清廉な服装の1人の人物が登場する。

『精霊石……精霊石の力を感じる』

ハルカ大佐が左手を大仰に前に出す。

「おお!世界樹の精霊のおでましではないか!」

シータンが驚く。

「あなたが世界樹の精霊!?」

シータンとハルカ大佐の目の前に現れた世界樹の精霊(演:雪広あやか)は閉じていた目を開け、シータンの方を向いて話しかける。

『……精霊石を持つ者よ、遙か昔に……教えた歌を歌って下さい。さすれば再び我は力を取り戻す事ができます』

「リュシータン!」

叱りつけるようにハルカ大佐がシータンの名を呼び、それにシータンは一瞬下を向き、すぐに顔を上げて決意を述べる。

「わ……分かった!私……歌うよ!」

そしてシータンは両手で精霊石を包みながら歌を紡ぎ始める。
同時にBGMも流れ始め、シータンの声は取り付けられているマイクで増幅され、場内に響く。
これを聞き、まき絵さん歌上手いんだなぁとネギは感心した。
すると、セット全体が後ろに取り付けられている電飾が徐々に点灯していく事で発光しはじめた事を表す。

「そこまでで十分!」

歌の途中でハルカ大佐が乱暴にシータンの手から精霊石を奪い取って、シータンを突き飛ばす。

「きゃぁっ!」

『に、人間!』

世界樹の精霊がハルカ大佐を睨むが、ハルカ大佐は大声で笑い、何やら呪文を唱え始める。

「あっはっはっは、今なら世界樹の主になることもできる!プラクテ・ビギナル・リテ・ラトバリスタ・ウルクスス・アリアロ」

「「させないぞ!!」」

突如、世界樹の精霊が出てきた所から、森妖精のユーパとミトーが飛び出し、ハルカ大佐の腕にしがみつく。
この様子を見て、何でもプラクテ・ビギナルを最初に言えば良いって物じゃない気が……とネギは感じていた。

「な、何だ貴様らは!離れたまえ!」

煩わしいとばかりにハルカ大佐が振りほどこうとし、世界樹の精霊が森妖精2人の名前を呼ぶ。

『ユーパ、ミトー!』

「「わぁっ!」」

ハルカ大佐に思いっきり振りほどかれ、森妖精2人は端に飛ばされ、動かなくなる。

「てこずらせたな!プラクテ・ビギナル・リテ」

再びハルカ大佐が呪文を唱え始めた所、パーズが現れ、石のような物を投げる。

「やめろーっ!!」

「ぐっ、例の小僧か!」

その石が当たり、ハルカ大佐は精霊石を取り落とす。
素早くパーズがシータンを呼ぶ。

「シータン、精霊石を!」

「う、うん!」

シータンが転がった精霊石を拾おうとした所、ハルカ大佐も掴みかかろうとする。

「小癪な!」

が、パーズがハルカ大佐を遮る。

「させるか!」

そのまま組み合う形で2人は立ち位置を少し変え、一旦離れたハルカ大佐が杖を腰から取り出してパーズに斬りかかる。

「魔法も使えぬ小僧が!プラクテ・ビギナル・ハルカブレイド!」

「ぐあぁっ」

切られたパーズは痛そうにして、そのまま場に崩れ落ちる。

「パーズ!」

心配する声を上げたシータンに、世界樹の精霊が呼びかける。

『眼鏡の悪い人間に良く効くおまじないを唱えるのです!』

「なんだそのピンポイントなおまじないは!」

ハルカ大佐が突っ込みを入れる。
一瞬虚を突かれたシータンは両手で精霊石を包み、呪文を叫ぶ。

「え!?……うん! パ ル ス ッ!!」

すると、スポットライトがハルカ大佐に集中し始め、ハルカ大佐は両手で目を抑え呻き声を上げ、ふらふらと動き始める。

「あぁぁ!!目が、目がぁぁぁ~っ!!うぐぁぁあぁっ!!」

そのまま目を抑えたまま、盛大な断末魔を上げ、ハルカ大佐はその場に倒れ、ピクリとも動かなくなる。
そしてすぐに、シータンはパーズの元に駆け寄り、その体を揺すり始める。

「パーズ!パーズ!目を開けてよ!」

しかし、パーズは全く動かない。

「そ……そんなっ……」

シータンは両手を目元に当て悲しみを顕にする。

『リュシータン、その者の両手に精霊石を握らせ、その上から両手で包むのです』

そこへ、世界樹の精霊がシータンに近づき助言をする。

「……う、うん!」

シータンは世界樹の精霊の方を振り返り大きく頷く。
そして、パーズにスポットライトが当てられ、明るく照らされる。
すると、パーズの身体が動きを見せ、シータンが名前を呼ぶ。

「パーズ!」

「し……シータン」

気を取り戻したパーズはゆっくりと上体を起こす。
瞬間、シータンはパーズに抱きつく。

「パーズ!良かった!良かった!」

「シータンこそ、無事で良かった」

それをパーズも受け止めて、互いの無事を喜び合う。
少しして、2人が立ち上がり、世界樹の精霊の方を向くと、世界樹の精霊が頷いて口を開く。

『リュシータン、パーズ、精霊石を手にもう一度歌を』

「うん!」  「ああ!」

シータンとパーズの2人は一緒に歌を歌い始め、それと共に、世界樹も再び発光を強め始め、スポットライトが世界樹の精霊を明るく照らす。

『……ありがとう、リュシータン、パーズ。これで我は力を取り戻し、しかも以前よりも元気になりました。2人の純粋な心のお陰です』

両目を開け、控え目に両手を広げ、世界樹の精霊は2人に礼を述べる。

「良かったね、世界樹の精霊さん!」  「良かったな!」

精霊の様子にシータンは両手を合わせて嬉しそうにする。
森妖精の2人もいつの間にか立ち上がり辺りをぴょんぴょん飛び回る。

「「戻った、戻った!!」」

落ち着いて、世界樹の精霊は口を開く。

『……これでマホーラは再び人の手の届かぬ、遙か天空へと上がる事ができます』

少し惜しそうにシータンが問いかける。

「あの、地上には戻ってこないの?」

『人間が争いをやめる……いつかその時、再び地上に戻るかもしれません』

シータンが頷く。

「そっか。……うん、分かった」

パーズが右手に力を込めるようにして、世界樹の精霊に言う。

「なら、そういう世の中になるよう頑張るさ!」

「私も頑張るよ、パーズ!」

世界樹の精霊は目を閉じて言葉を返す。

『……とても難しいでしょうが、その気持ち受け取りましょう。いつまでも、大事にして下さい』

「うん!」  「ああ!」

元気よく2人が返答した所で、シータンの母とシーナ、ミーサが現れる。

「シータン!」

「お、お母さん!」

反射的にシータンは母に抱きつく。

「良かった。……パーズも無事で」

シータンの母はシータンを撫で、パーズにも声をかける。

「ありがとう」

パーズがシータンの母に感謝した所で、世界樹の精霊が再びゆっくり目を開ける。

『……人間達よ、そろそろ、地上に戻る用意は良いですか?』

シータンとパーズが頷く。

「……うん、良いよ」  「良いぜ」

『……では、またいつの日にか、会う事があればまた』

世界樹の精霊はシータン達に軽く頭を下げ、森妖精の2人は元気よくその横で手を振る。

「「ばいばーい!!」」

「さようなら!」 「さよなら!」

シータン達も手を振りながら、舞台の照明がフェードアウトするように消えてゆく。
完全に舞台が暗転し、幕が下り、ナレーションが入る。

[[地上にシータン達が戻り、空を見上げると、マホーラは徐々に高く高く昇り始め、再び永きに渡り人の手の届かない所へ上がって行ったのでした。……いつの日にか、また手に届くその日まで]]

再び幕が上がると、花畑のセットを背景に、スクリーンには徐々に空高く上がっていくマホーラの島が見え、舞台には登場人物達が勢ぞろいし、全員で劇中で歌われた歌を合唱し……そして最後に一礼した。
それが終わると同時に、客席からは拍手と歓声が鳴り響く。

「まき絵かわいいー!!」  「まどかカッコ良かったよー!!」

「ちづるお母さーん!!」  「ハルカ大佐お疲れー!!」

ネギもそれに拍手を送りながら、再び幕が下りるのを見ていた。
世界樹の設定が実際の麻帆良の神木・蟠桃に近い上、本当に神木には精霊がいることをやや複雑に思っていた。

「はー、結構面白かったな」

ナギがあっさり感想を述べ、アリカも頷く。

「良い劇じゃった。演出も凝っておる」

「うん、楽しかった」

ネギが相槌を打った所で、ナギが思いついたように一つ言う。

「んー、もしかしたら、麻帆良の木にも精霊いたりすんのかもな」

アリカがふっと微笑む。

「……それはどうじゃろう。じゃが、おるかもしれぬな」

「あ、あはは、そ、そうかもしれないね」

……ネギは適当に空笑いしかできなかった。
そして、一家は講堂を出て、丁度昼頃であった為、屋台で気に入った物を買って食べて過ごした。
そんな中、3人は丁度アスナが美術部の展示コーナーにいる時間に近くなったのを見計らって、足を運んだ。
……美術部員が書いた絵がズラリと並び、それをゆっくりと眺めながら歩みを進め、そして目的の所へと辿りついた。
タイトルは「夕陽」とたった2文字、作者名には、麻帆良女子高等部1-1神楽坂明日菜と書かれた絵。
感心したようにナギが言う。

「おー、これがアスナの作品か。上手いなぁ」

アリカもそれを見て、山脈も描かれているその絵にどこかモデルがあるのかと少し気にする。

「うむ、綺麗な夕焼け……ここはどこじゃろうな。写真を参考にしたのか……」

「……うん、上手いね」

ネギは絵を見て落ち着いて一言。
この前転移魔法で一緒に行った時に見た景色をアスナは描いていたんだ。
そう心の中で思いながらネギは眺めていた。
そこへ絵を描いた本人が現れる。

「あ……」

先ほども見た3人に気づいてアスナは声を漏らす。
それに気づいた3人はアスナの方に顔を向けて感想を言う。

「よお、アスナ。見に来たぜ。上手いな」

「ああ、良い絵じゃ」

「うん、とっても綺麗」

「あ、ありがと。3人共」

アスナは少し恥ずかしそうにしながら、見に来てくれた事に礼を述べた。
そこへ、アリカが不意に尋ねる。

「ところで、この景色は何かを参考にしたのか?」

「え?……えっと」

アスナはその質問に途端に目を泳がせ始め、ネギに視線を下げる。
すると、タイミング良く、そう言えばという表情をしてネギは声を出さずに口だけ動かし「話してない」と伝えた。
アスナはすぐに目をネギから逸らし頬を少し指でさすりながら答える。

「うん、写真を参考にして……描いたの!?」

が、突如表情の変わったアリカがアスナの肩を掴み、通路端に引きずり寄せて背中をネギとナギに向け、コソコソ話すように頭をアスナに近づけて話しかけた。

「アスナ、ま さ か……ネギに手を出したのではなかろうな?」

頭が近すぎて顔が見えないものの、威圧感の漂うオーラにアスナは少し怖じ気付きながらも、否定する。

「しっ……してないわよっ」

「嘘じゃ。脈が上がっておる。体温も上がっておる。顔を確認すれば赤くなっているかどうかでわかるぞ。正直に吐くのじゃ」

瞬間、アリカは完全否定し、小声かつかなりの早口でまくしたてた。
アリカの左手はアスナの頬に密着しており、右手はアスナの右手首を完全に捕らえていた。
そのやりとりを後ろでネギとナギは不思議そうに見ていた。

「ね、ネギが4月に、転移魔法であの景色が見える所まで連れてってくれたのっ」

仕方なしにアスナは事情を明かす。
途端にアリカは拘束を緩めるが、再び力をこめる。

「あの時か。ネギが、と言ったがネギはあの時私達に何も話さなかったが、 本 当 に……何も無かったんじゃな?」

「本当にネギ言って無かったのね……。って何があるって言うのよっ。寒い所で夕陽見ただけなの!」

アスナは標高の高い山でどうしろと思わず突っ込みを入れた。

「いや……寒いところでなら尚更」

アリカの疑いはとどまる所を知らなかった。
ため息をつくようにアスナが適当に言う。

「……それはアリカの経験じゃなくて?」

「な、何をっ」

途端にアリカが動揺し、逆にアスナが驚いた。

「え、図星?」

「だ、断じてそのような事はっ」

そのコソコソ小声で話している所に、ネギが近づいて来て聞こえる声で言った。

「ごめんなさい、母さん、4月にパッとアスナと行った事があるんだ。確か大丈夫しか言ってなかったけど」

ネギの特に考えてもいないような普通にあっさりした説明にアリカとアスナは慌てて振り返り、アリカが口を開く。

「ね、ネギ。そうであったか。し、しかし、何故言わなかったのじゃ?」

少しだけ首を捻り、ネギは上目使いにアリカを見て尋ねる。

「うーん、何となく、かな。……駄目だった?心配させたなら」

「いや、別に駄目ではない。駄目ではないぞ」

アリカはネギの肩に両手を置きながら無駄に勢い良く否定した。
ネギはアリカのいきなりの行動に少し戸惑いながら答えた。

「う……うん。なら、いいんだけど。2人共少し顔赤いけど大丈夫?」

「大丈夫じゃ!」  「大丈夫よ!」

同時に2人は強い語調で肯定して答えた。
アリカとアスナはネギの反応を見るに、どうも無駄な事をしたとばかりに軽く息をついた。
そして3人でナギが間の抜けた顔で他の絵を見ている所に戻った。
3人はアスナとそこそこに、会話を交わした所で、互いに手を振って展示コーナーを後にした。
次に向かった先はエヴァンジェリンの発表会が行われている舞台。
エヴァンジェリンは雪広グループに就職したが、依然として大学での活動は続けている。
後継の者達の育成も行われていたので、エヴァンジェリンが抜けてもサークル自体は単体でも活動は可能ではあるが、やはりエヴァンジェリンが一度舞えば、それだけで人が集まるという事には何ら変わりは無い。
通のアルビレオに言われた通り、午後の部1回目が終わった所で会場に到着した3人は丁度席を離れる人々と入れ替わりに席について座る事ができた。
するとタイミング良くもう1人がナギの隣に現れ一声かけて座る。

「失礼」

「どうぞ、ってアルじゃねーか」

ナギが突っ込みを入れ、アルビレオは笑い声を出す。

「フフフ」

「こんにちは、クウネルさん」

「アルビレオも来たのか」

ネギとアリカも声をかける。

「こんにちは、皆さん。私は午前からいます。先ほどまでは交代で立見をしていましたが」

アルビレオはサラリと一日中いることを明かした。

「おお……あ、お師匠は?」

ゼクトの姿が無い事にナギが指摘する。

「一度ここで見た後、適当に祭りを巡ると言って1人で繰り出しましたよ」

その説明にナギは納得し、気になったことを尋ねる。

「そっかそっか。で、アルはずっと見てて飽きないのか?」

「はて、飽きる、ですか。これはこれは、なかなか面白い冗談を言いますね。フフフフフ」

アルビレオは口元にローブの袖を当てて再び意味心に笑い始める。

「あー、面白かったなら……良かったぜ。うん」

その反応を見て、流石のナギももう一度突っ込みを入れる気力を完全に削がれ、とりあえず考えないことにした。
ネギとアリカはそのやりとりに互いに顔を見合わせて少しばかり苦笑した。

「クウネルさん、良くわかりましたね。僕達の事」

ネギがアルビレオに話しかける。

「背丈と、言った通り来た3人家族で、私は予め知っているのですからそれだけで大体分かりますよ」

答えを素直にアルビレオは言い、ネギとアリカは納得する。

「なるほど、そっか」

「言われて見れば、そうじゃな」

そして一家にアルビレオを加えた4人は午後の部2回目が始まるまで20分近くの間、適当に話したり、次にどこに行くかなどを、パンフレットを見ながら話をして待った。
午後の部2回目が始まるアナウンスが流れ、最初はエヴァンジェリンではない大学生達が舞をしばらく披露した。
そして、満を持して、その金髪を煌めかせ、一度動けば光の残滓がこぼれおちるように、また、人によっては後光すら脳内補完で見えるエヴァンジェリンが登場する。
その登場と共に、観客は大いに沸き上がり、拍手や歓声が飛び交う。
しかし、和楽器での荘厳な演奏が始まると途端に会場は静まり返り、両目を閉じて静かに構えていたエヴァンジェリンがそれを開ければ、会場の人々の時間感覚が完全に失われる。
時間を忘れて見入ってしまうが故に。
その注目は全て舞台に集中し、エヴァンジェリンの舞が止まるまで、それを阻害するものは無い。
手、足、身体の全ての、所作一つ一つの流れるような動きに人々は心奪われた。
その舞に一区切りつき、演奏が止まった途端、観客は我に返ると同時に大喝采と大歓声を上げる。

「何度見ても良いものです」

「ああ、凄いのは俺にも分かるぜ」

「うん、何度見ても素敵」

「心洗われるような舞じゃな」

アルビレオが最初に感想を漏らし、ナギ達もそれに続いて言葉を述べた。
……そして、午後の部2回目の演目が終わるとより客席はより一層の盛り上がりを見せ、エヴァンジェリンへ歓声を送り、薄化粧をしたエヴァンジェリンは優雅に一礼して舞台から去っていった。
それと同時にアルビレオも席を立ち上がりナギ達に言う。

「では、私は買い物に行ってきますのでこれで」

「買い物?」

怪訝な顔をしたナギに対し、アルビレオが説明する。

「ええ、午前の部に撮られた映像がBlu-rayになって販売されるんですよ。並ばないとすぐ売り切れてしまいますので失礼」

そう真顔でさも当然とばかりに言い切って、アルビレオは返答を聞くこともなく、続々と観客達がある一箇所に向けて集まっていく場所へと去っていった。

「詳しいな……。またなー」

ナギはついて行けないとばかりに呟き、聞こえない事は分かっていても挨拶だけした。

「並ばねば買えぬというのは分かるが、行動が早い」

「同じような人達沢山いるし、仕方ないよ」

アルビレオの行動の速さにアリカは少し唖然としたが、周りを見れば同じような人々が大量にいる事を考えればおかしくはないとネギは言った。
時刻も午後を充分にすぎ、小腹が空いてきた所で、一家は通りがかりの屋台でたこ焼きなどを買って食べ、その後元教え子である3-A生徒達がいる各場所を巡ったり、通りがかりに面白そうな所を見つけては入ってみたりと麻帆良祭を純粋に楽しんだ。
この年、昨年執り行なわれた田中さん達から逃げる鬼ごっこは、外来の人々が多く認識阻害が無い事から混乱を招く可能性がある事から自粛されており、彼らが麻帆良内を駆けまわる姿を見ることはなかった。
夕刻になるとナイト・パレードもあり、電飾が綺羅びやかに麻帆良を彩る中、一家はフィアテル・アム・ゼー広場付近の建物の屋上喫茶の一角の席にてそれを見ていた。

「もう夜か。早いなー」

辺りを見回してナギが呟き、それにアリカが言葉を重ね、少し寂しそうに言う。

「あっという間じゃったな……」

「うん。でも、その分楽しかったよ」

ネギは嬉しそうな表情で、時が経つのが早いという事は、それだけ楽しかったという事を言った。
そのネギの言葉にナギとアリカは2人共同じように微笑む。

「ああ、そうだな!」

「そうじゃな」

「うん。それで麻帆良祭は今日が初日だけど、父さん、母さん。明日も明後日も、今日回れなかった所、一緒に……回ってくれる?」

ネギはそう、やや控えめに両親に問いかけた。

「勿論だぜ」  「勿論じゃ」

ナギとアリカは2人同時に答え、自然に身を乗り出して、ネギの頭を撫でた。
ネギは少しくすぐったそうに心の裡を口に出す。

「ありがとう。父さん。母さん」



[27113] 89話 振替休日
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/08/04 08:24
 2004年6月22日月曜日、麻帆良祭終了後の振替休日。
 まだ本格的夏に入る前、辺りは涼しさが感じられる、午後8時を回ろうかという夜。
 街明はあるものの、ボックス型超包子の常駐屋台でも灯りはついていた。
 その屋台は貸切で、ある教師達数人の姿があった。
「はぁー、本当に麻帆良祭無事、終わって良かったですね」
 瀬流彦がジョッキを置き、息をついて言った。
「あぁ、本当にな」
「全くだねぇ」
 神多羅木と弐集院がしみじみと相槌を打ち、明石が笑って言う。
「あー、瀬流彦君は中等部だから余計に大変かぁ。お疲れだね」
「えぇ、ありがとうございます。正直高等部に移りたいですよ……。中学生からの質問攻め始め、もうホント、勘弁して欲しいです」
 はぁ、と瀬流彦は遠い目をして大きくため息をついた。
「まだまだ若いんだ、頑張れ。実際高等部も大して変わらん」
「そうそう、来たら来たでどこも似たり寄ったりだから。特に今のこの状況だと仕方ないよ」
 そう二人が軽く言葉を返し、明石はにこやかに言う。
「その分、大学の講義時間外はずっと協会にいようと思えばいられるこっちは割と楽、という事になるかなぁ」
 呆れたように神多羅木が言う。
「……せめて、お前は自分の娘をどうにかしろ」
 明石は片手で頭に触れる。
「いやぁ、悪い。一時期収まったかと思ったんだけど」
「すぐに戻ったからな……」
 もう諦めてるが、という様子の神多羅木に、
「はは、早い事にもう女子高生だって言っても元気なのは相変わらずで」
 明石は困ったなと言い、ふと、カウンター越しにいる相坂さよの後ろ姿に声を掛ける。
「そうだ、相坂君。うちの祐奈、迷惑かけるだろうけど、これからも宜しくお願いするよ」
 さよは振り向いて元気な声を出し、
「はい! 任せて下さい。でも本当に先生達いつも大変そうですね。頑張ってくださいぐらいしか言えないですけど、是非今日はゆっくりしていって下さい」
 二三歩近づいてそう声を掛けた。
「ありがとう。そうさせて貰うよ」
 明石はジョッキを掲げて見せて言い、弐集院達も大体同じように返した。
 そこへ、瀬流彦がさよに問いかける。
「というか相坂君、確かに予約はしたけど、振替休日でも働いてるのは……何というか、疲れ無いのかい?」
 あぁ、と神多羅木も呟く。
「見慣れた光景で忘れてたが確かにそうだな……」
 さよは両腕を構えて元気さをアピールする。
「若いので大丈夫です!」
 相坂さよ、御年79歳。
「いいねー」
「羨ましい」
 おお、と弐集院と明石が言った。
「うーん、流石だなぁ……」
 瀬流彦は開いていた目を細めて呟いた。
 相坂君は超君と同じく暗黙の了解で深く追求するのは無しになっているから今更だけど、それにしても謎だらけだよなぁ……。
 高畑先生と葛葉先生の言だと、幽霊として出たり入ったりできる身体らしいから疲れないのは当然と言えば当然だろうけど。
 とは言っても、相坂君がいないと超君の護衛もままならない事は度々だし、間違いなく例の千里眼は麻帆良内では最高峰の捜査系能力。
 まあ、学園長直轄の問題だから、本国に情報が漏れないように僕らは気になっても、下手に口にしないように気をつけるしかない、と。
 そう心の中で瀬流彦がいつもの結論に落ち着いた所、明石が尋ねる。
「ところで、瀬流彦君達女子高等部の1-2の劇は見た? かなりの評判だったらしいってけど、何だかんだ裏方で忙しくて見てなくて」
「話は聞いてたけど僕も見てないなぁ」
 弐集院が見ていないと答えると、残りの二人は見た、と答える。
「俺は見たぞ」
「それなら僕も見ました。麻帆良の世界樹をジブーリの天空の城に混ぜたような話です。セットが異様に凝ってて見ごたえありましたよ」
 思い出すように瀬流彦が説明すると、明石が苦笑する。
「はは、やっぱりタイトルはソレ関係だったかー」
「確かあの劇、世界樹が魔力を生み出している設定になっていたな」
 言って、神多羅木はジョッキを口にする。
「あーなるほど。通説では世界樹は周囲の魔力を溜め込むと言われていたけど、魔法世界の件で寧ろその可能性は高いとも言われ始めてるし、あながち的外れではないよね。いずれにせよ、魔力を生産している事実を観測できていないから相変わらず懐疑的だけど」
 発想が凝り固まってないとそういう風に自然に考えられるんだねぇ、と言って弐集院は料理に箸をつけて口に運ぶ。
 もう少しで空になりそうなジョッキを揺らしながら見て明石が言う。
「魔素よりも小さい単位の発見でもされれば、その可能性を確定できる……とはいえ、今の今まで進展は無い。こっちでもあっちの寒い北極でも観測してる成果が出るのか……」
「ま、はっきりしたら麻帆良から調査員が減って少しは楽になるのは間違いないな」
 さっくりと神多羅木が結論を言った。
「ですね」
「それは言えてる」
「違いない」
 三人は軽く笑った。
 そう1-2の劇の話は流れながらも神多羅木は若干ホッとしていた。
 神木・蟠桃には本当に精霊がいるという事を神多羅木は二年前に知って、実際に挨拶も交わした事があるから。
 あれ以来俺は会っても見てもいないが……全部神木の精霊のやった事なのだろうというのは容易に分かるが……少なくとも俺の口からは絶対に言えんな……。
 度々議論になっても、知らないふりをしてやり過ごすのも難儀なものだな……。
 今もこの状況を神木の精霊は観ているのかもしれないが……しかし、相坂はやはり……。
 いや、やめておこう。
 神多羅木は気づかれない程度の小さな息を吐いた。
 魔法先生達にとって、魔法公表後初のの麻帆良祭は例年とは比較にならない程諸所の対応が必要になり、業務はそれに比例して増え、楽しいというより、とにかく疲れる前夜祭+三日間だった。
 それでも、この今年の麻帆良祭は例年に比べると落ち着いている方であり、敢えて言い換えれば、世間で言う一般的なものに近づいていた方ではあった。
 それでも、総動員数、資金効果は過去最高という新記録を打ち出し、それを祝った後夜祭の盛り上がり方は相当なもので、広域指導員としての業務に従事する教員達は行き過ぎた面を抑えるのに苦労をした。
 そんな流石の学生達も疲れ果てた振替休日、本来休みであるにも関わらず「授業がない」為に減ることはまずありえない魔法協会の仕事をこの日も日中していた上で、神多羅木達は、今こうしてようやく一息ついていたのだ。
 一方、三人の店員がいるカウンター越しの厨房で、そんな教師達の会話を、問題のある発言は自動的に他愛の無い会話に一般人には聞こえる魔法を無視して、さよはそれらを全部聞きながら働いていた。
 本当に先生達は大変そうで……。
 ふっと、さよはこの年の麻帆良祭を思い返す。
 1-1の魔法少女喫茶は一般的な魔法少女で客を期待させておき、中に入った瞬間に実際のイメージの違いで混乱させ、その間にメニューを注文させ、資金を稼ぐ事を狙ったもの。
 それも一重に、麻帆良祭では営利活動が認められているが故。
 不意をついて騙すようではありながら、実際料理は定番の超包子の肉まんに加え、ピロシキ、その他の料理も取り揃え、味そのものも文句なしの評判であった。
「あー相坂君、例のピロシキっていつメニューに入る予定か決まってる?」
 唐突に弐集院がさよに声を掛けた。
「あ、はい! ピロシキなら来月からメニューに入りますよ」
「来月か、早くて良いね。ありがとう」
 軽くやり取りを交わし、さよは思う。
 そういえば、弐集院先生が一緒に連れてきた、5歳の娘さん、もの凄く可愛いかったなぁ……。
 人見知りが激しいのかカメラを向けたら先生の背に隠れるようにしたり。
 つい調子乗って皆で完全包囲したら涙目になっちゃったのは、次に会ったらごめんね、ともう一度謝っておこう。
 今年の麻帆良祭で1-1のクラス資金は随分貯まって、今後のクラス会の費用もそこから色々捻出できるようになった一方で……。
 今回全然営利活動をせず、先生達の話題にもさっき出ていた1-2のパクリ感だだ漏れの天空の島マホーラは……何か……私達の存在的には上演やめてほしかった気が。
 設定は殆ど実際そのままで、バレてる訳じゃない筈だけど……。
 神多羅木にも劣らない程度に複雑な心境で、さよは春日美空と1-2の劇を見に行った時の事を思い出す。

 舞台の幕が閉まり、拍手が鳴り響いた後。
 さよの左隣に座る美空が若干呆れた目をして呟く。
「……あれだ、ハルナどんだけ原作好きなんだろ」
「3-Aの時も魔法世界の情報見てから暫くは、ラピ○タラ○ュタ言って騒いでましたねー」
 十分ありえそうではあったのかも。
「そうそう。ハルナがあっち行ったら大変だろうなー。ていうか、大佐のセリフを無理矢理無意味に言うシーン多くなかった?」
 美空は突っ込みどころが多すぎる、と早口で言う。
「多かったですねぇ」
 美空さん劇中我慢してた反動が……。
「だよね。秘密の名前言っといて『まあ、そんな事はどうでもいい』とかだったら何で言ったし! って感じだったわー」
 流行りの服は嫌いですか? ……なんて、しっかり見てないと印象に残らんだろーし全く笑えもしないってのにハルナの奴は……。
 まぁ、朝倉もこの前の枕投げ大会で「3分間待ってやる!」とか似たような事言ってたけど。
 オスティアの映像は確かに衝撃だから分からんでもない。
 この前、実際金曜にロードショーで放送もしてたり、魔法宅も放送したり……ってアレ局も狙ってやってんだろうなぁ。
 デッキブラシでは飛べないけどねー。
「ピンポイントなおまじないのシーンでは観客席からも叫ぶ声が……私もついつられて叫んでみたぐらいですから、人気は取れてると思いますよ」
 さよが言葉を返したのを聞いて、美空は咄嗟に思い返して言う。
「いや、マジさっきアレは驚いたよ。いきなり隣で狂ったのかと心配になったからね?」
 目がぁ! を会場が皆で叫ぶとかそんな打ち合わせは聞いてなかった。
 原作の大佐は落ちて死んだ筈だけど、この劇はアレだ。
 ハルナが断末魔の叫びを無駄に声を上ずらせて言ってそのまま即死ってのは……逆にインパクトあった。
 美空が腕を組んで続けて感想を言う。
「しっかし、配役が合ってるっていうか微妙にコンプレックス抉ってる気がしたんだけど、いいんだか……」
 美空につられるようにさよも苦い顔をする。
「あぁー、那波さんと釘宮さんは……」
 釘宮さんはハスキーボイスが何か好青年すぎてハマりそうだったけど、それを気にしている本人は……。
「それに、お母さーん! って終わった瞬間に叫んでる連中いたけど、恐れを知らぬ奴もいるもんだね……」
 千鶴にあの発言はアウトだろ……。
「……知ってる人は勇気いりますよね……」
「触れちゃ駄目スね……。まー、まき絵と鳴滝姉妹は本心からノリノリだったな」
 危険な話題を少し変えようと美空が言った。
「あの3人は可愛かったです。皆そうですけど。衣装は長谷川さんがかなり関わったみたいで、細部まで拘っていて良かったですね」
「うんうん。完璧にハマってたよなー。ぁ……あと、あれだ。何でもかんでもプラクテ・ビギナル言ってるの酷かったねぇ……色々な意味で」
 あ、さよって普通の魔法生徒じゃない……けど、いいや、今更だし。
 顔色ひとつ変えずにさよが答える。
「皆初心者用の始動キーって事ですよね。でも多分分かってて使ってると思いますよ」
「ま、そーだね。辞書引けば、まんまそう言う意味だっていうのは分かるだろうし」
 あ、普通に返してきた。
 何か一方的にベラベラ言っててさよに悪いけど突っ込み……足りないっ。
「ポンポン話変えてごめんだけど、意外と世界樹の設定、考えさせられたね。……あれが無いと世界から魔法が消えるとか、精霊がいるとか、ホントにあるだけにどうなのか気になる。火星がああなった原因は神木のせいなのは確実っぽいし。まー元ネタはnamucoの出してるゲームなんだろうけどさ」
 美空は頭の後ろで手を軽く組み、舞台の方を眺めるようにして言った。
 美空は気づかないながら、さよは一瞬完全停止する。
「う、うーん、どうなんでしょうね。精霊はいると思った方が夢がある気がします」
 さよは心の中で空笑いをしながら、素知らぬ振りで考え込むようなリアクションをして言った。
「ま、そうだね。もしいたらどんな精霊なんだろうなー」
 美空は手を戻した。
「いいんちょさんのやった感じの精霊はありそう、ですよね」
 ごめんなさい、隣にいる、こんな感じですっ!
 美空が精霊の存在についてはやや無さそうという風に言う。
「まー、ホントにいたらスゲー偉い精霊だろうから、あんな感じかもね」
「んんー、そうかもしれませんね」
 すいません、実際は結構俗物的で……。
 キノは基本真面目だけどしばしばよく分からなくて結構適当で、特に私なんかただで映画見たり、書店に潜り込んで……ごめんなさい。

 と、1-2の劇を見て、さよは微妙な気分になったのだった。
 魔分を普通に観測できるようになったら……いつか神木が魔分を生産している事がバレる事になるけど……そこは鈴音さん次第。
 EMドライヴは既存の精霊祈祷エンジンと違って魔分をそのまま反応させるから、公に出すことになったら順番から言って先に魔分の概念を必然的に発表する事になるけど……。
 現状では、魔分の概念自体は魔法界の間では理解されておらず、その次段階の魔素としての観測しかできてない為「神木・蟠桃は22年で魔力を大気中から集めている」として、神木・蟠桃は稀な魔法植物の一種として分類されている。
 仮に、神木・蟠桃が魔分を生産していなかったとしても、魔分溜りを形成するという点では利用価値が多い事には変わらないが。
 さよは視界に入っている神多羅木を見て、軽くいつも通り通信を繋ぐ。
《キノ、そう言えば、神多羅先生って、キノの事知ってますよね?》
《そうですね。既に二年以上経ってますが、特に今までどうということもないので、神木についての会話が出たところで、神多羅木先生が知らないふりをしてくれているのは助かる限りです》
《先生、地味に疲れてそうですね……》
《マイペースな神多羅木先生なら、と信じておくことにします》
《まぁ、どうしようもないですよね》
 やっぱり適当だ……。
《魔法先生達が大変なのは大変だとして、ネギ少年の事は見ていましたか?》
《勿論、見てました。ネギ先生も家族と一緒に普通の子供らしく麻帆良祭を回れてたみたいで良かったですね》
 生体年齢的には今年確実に12歳のネギ先生が先生でなくなっても、今は研究をするようになりだして、一部の、しかも年上の元生徒にハイレベルな個人授業をしていたりするのは、やっぱり普通の子供とはかけ離れているし……そういう意味でも。
《ええ、歳相応に、本来あるべき姿だと思います》
《これからも続くと良いですよね。ところで、やっぱり今年はまほら武道会は無理だったのは少し残念でした》
《同意です。私も個人的にまほら武道会が今年開催できなかったのは少々残念に思いました》
《世間の目が多すぎますしね……》
《メガロメセンブリアが積極的にこちらに出てくるようになった時点で、超鈴音も開催は諦めていましたが……とはいっても、そうなってくれないと重要な案件が進まなくなるので止むを得ないとしか言いようは無いので栓のない事です》
《去年の試合数は合計しても普通じゃありえない量ですし、そういう意味では丁度良いタイミングで達人の人々の技を記録しておけたのは、幸いだったかもですね》
《ええ、全く。超鈴音もそれを予想してあれだけ大量に試合数を確保できるようにしたというのも、少なからず動機にはあったでしょうしね》
 そこで、さよは更に話題を変える。
《キノ、1-2の劇の世界樹の設定って殆ど実際に近いすけど、意外とメジャーな設定……なんでしょうか》
《メジャーな設定と言われても、世界樹は現実には私達以外に存在しないので何とも言いがたいですが、結局の所、人間の想像というのは意外に現実に起こり得ている範囲内にすぎないという事なのではないかと思いますよ。例えばナノマシンであれば、今はSF的産物と言われていますが、超鈴音は普通にその技術を持っている訳ですし》
 さよは納得する。
《あー、確かに。宇宙にも近い内に進出できるようになりそうですし、人間の想像は時間が掛かっても実現は結構してますね》
《勿論全部が全部という訳にはいかないでしょうが》
 と、精霊同士会話はそこそこで終了し、さよの時間感覚が元に戻った所で、神多羅木達は気の済むまで超包子で過ごしたのだった。


 彼らがようやく一時の休息についていたのとほぼ同じ頃。
 場所は麻帆良女子高等部女子寮の一室。
 スッキリした肩口までの長さの黒髪、穏やかそうな性格をした目元ながらも、集中して目には力の入った表情の進藤志穂は自分の机に向かい宿題をサクサク進めていた。
 そこへカーペットに正座し、卓袱台で教科書を凝視していた西華香織が痺れを切らして声を上げ、
「んぁー、分からない、分からないよー……。明日に回したい……」
 もう我慢の限界だとばかりに、ハイハイするように志穂に近づく。
「しほせんせー、宿題中の所失礼ながら、どうか私に数学なるものを教えて下さい」
 数秒の間。
 はたと志穂は右手を止め、
「んー。丁度終わったし良いよ。どれ?」
 自然に椅子から離れ、志穂も卓袱台に向かった。
「問2の(3)と、問3の(2)が……。応用がどうしてもこう」
 香織は苦い顔をして言い、志穂は計算過程を見ながら、
「えーと、途中までは合ってるから、問2はここをね……」
 香織の計算過程をパッと見て志穂はシャーペンで軽く書き込みをし始める。
 香織はそれを見ていくらか停止していた所、閃く。
「あ! そういう事!」
「分かった?」
「わかったわかった」
 香織はふんふん頷きながら途中で止まっていた計算の続きを書き込んで、そうそう、と志穂も相槌を打ち、香織の宿題も何とか終わる。
「あー終わったぁ」
 香織は卓袱台に両腕を伸ばし、頭も横にして乗せた。
「お疲れ」
 そこへ志穂がコップ二つと紙パックの飲み物を持って腰を降ろし、それぞれに注ぐ。
「ん、ありがとー」
「うん」
 二人はそれを一口飲み一つ息を吐いた。
「はぁー、麻帆良祭終わって通常授業に戻るのもう少し待ってくれないものかなぁ。振替終わったらすぐとか」
 志穂が苦笑して言う。
「残念だけど、そこは待ってくれそうにないね」
「だよねぇ……。ところで志穂はもう結構麻帆良慣れた?」
 志穂は少し上を見る。
「んー、慣れたら慣れたで駄目な気がするけど、適応はしてきた、かな」
 剣道はルールがあるからまだ良かったけど、協会での刹那さんの動きは……うぅん。
 香織もつられるように苦笑する。
「あー……確かに。去年例の認識阻害が消えた時、私達も結構大変だったからあんまり人のこと言えないけど、今年入学して来た皆最初驚いてばっかりで面白かったなぁ」
「驚きすぎで感覚麻痺しそうでした」
 言って、志穂はもう一口飲んだ。
「無理ない。特に1-1は色々おかしいし。世界的に有名な超鈴音が同じクラスで、魔法使いはうじゃうじゃいる……ってそれは志穂もか」
「ま、初心者陰陽師だけどね」
 割とあっさり志穂は流し、香織は微妙な表情で尋ねる。
「深くは聞かないでおくけど、修行……って言ったらアレだけど、楽しい?」
 志穂はその問いに即答する。
「正直スゴく楽しいよ。フィクションの世界の話が現実だったのは感動。練習自体は瞑想とか多いけど、元々剣道部だし辛くも無いし。何より木乃香達も一緒だしね」
 ハキハキとした表情を見て、香織は、ほぅと息を吐く。
「充実してますねぇ。ネタが逆に腐るぐらいあっても地雷だと分かってるから取り上げられない、そんな報道部員の私はかなり微妙だったり……」
「朝倉さんも懲りないし、って?」
「それも、だ……。あのパパラッチ、どうにかならないものか……」
 香織は遠い目をした。
 三年間一緒だった元クラスメイトは私が一番良く知っている! と性懲りも無く現れる朝倉和美の対応をするのももう諦めていいかな……ぶっちゃけ誰にも頼まれてはいないし……と、香織は、そう思った。
 志穂が徐に不思議そうに尋ねる。
「気になってたんだけど、なんで朝倉さんの取材ブロック頑張ってるの?」
 パッと目を瞬いて香織が指を立てて説明口調で言う。
「ん。それはだねぇ、報道部員ながら私は朝倉とは正反対というか、危険な匂いが分かるとでも言うのかなー。興味よりもそっちが勝る人間なんです。
 例えば、朝倉が仮に何か情報掴んだとして結局どこに持ってくるかって言うと、当然報道部で、しかも波及的に口づてに情報が広がるというおまけ付き。
 なんやかんや、結局瀬戸際で止めるのが一番だと思って、ブロックするのですよ」
「はー、そうなんだぁ。てっきり本当に学校から頼まれてるのかと思ってたけど」
「おぁ……そう思われてるとかちょっとショックです。まぁ、無い無い。学校側は内部生の性格・特徴を把握してるから、それが原因よ」
 香織は手を振りながら言い、少しばつの悪そうな顔をして志穂が言う。
「あーごめんね。基本的に自由すぎるぐらい自由だけどきちんと生徒見てるんだね、麻帆良って」
「麻帆良はこの学園で輩出される人材そのものが大きな強みっていうのは有名だからね。学校側把握しとくのは必然とも言えるんじゃないか、っていうのが私というか大体の人の見解だと思う」
 志穂は感心する。
「なるほどね」
「って言っても、どうも良い人材なんて言う言葉では収まりつかない吹っ飛んだ才能のある人がありえないぐらい多い実態が……何度も言ってる認識阻害が解除されたお陰ではっきりした訳だけど、まさに魔窟だよ、ここは」
 ホント驚いてばっかりだよ、と香織は上体を後ろに少しだけ倒し、両手を床に付けて言った。
「魔窟、かぁ。香織は麻帆良に入学したのはどう思ってるの?」
「……何だかんだ言って、大正解だと思ってる。こんな飽きるって言葉が全く似合わない所なんて地球上には他には無いでしょ」
 香織はスッキリとした顔で微笑んだ。
 その答えに思わず志穂もくすりと笑った。
「確かに」



[27113] 90話 超鈴展開
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/10/06 21:22
 スタジオには左側と右側に階段状の席が並び左側二段には芸能人、右側には麻帆良学園都市の生徒が集まっていた。
 画面は一度切り替わり、ナレーターの音声と共に色々な画像が流れる。
「魔法の存在が世界に公表されてから早数ヶ月! これまで各局では様々な麻帆良学園都市の姿を報道して来ました。そして7月も末、今回麻帆良学園都市の各校も一学期あるいは前期の終わりを迎え、新入生も麻帆良での生活には慣れた頃。夏休みも間近に迫り、これから……」
 テレビに映る番組の導入をコミックマーケットの関係でやたらと漫画関係の物で散らかった寮室で、微妙に疲れた様子の早乙女ハルナが椅子に逆に跨ってダラダラ座りながら言う。
「あーコレ、私も出てみたかったぁー」
「今のお前がそれを言うか。そもそもコレ、どっちかって言えば新入生メインの番組だろ」
 長谷川千雨がテーブルに肘をつけながらぼやいた。
 ハルナが指をさして言う。
「ほら、一応古参枠もあるんだし別に良いじゃん」
「古参枠ってな……」
 呆れた様子で言うと、番組は早速司会の進行と共に、麻帆良学園都市の朝の登校風景の映像が流れる。
 女子アナウンサーが学生達がダッシュする中カメラと一緒に走ってみたが途中で断念して息切れ混じりにマイクを持って言う。
「はぁっ、麻帆良の学生は毎日これで鍛えているのでしょうか。私にはっ、かなり、辛いです。あの満員の路面電車でも乗りたいぐらいです」
 右上の画面にギャル系の芸能人の一人が小さく映って呟く。
「これ映画の撮影じゃないんですよねー」
「散々見とるけど、まるで漫画の世界やなぁ」
 同じように小窓に映った関西弁の芸能人が腕を組んで唸ると、メイン画面に変な物が映る。
「楓姉、急いで急いで!」「楓姉、急いで下さーい!」
「任せるでござる!」
 麻帆良女子高等部の制服を着ている糸目の背の高い人物が小学生二人を抱えて建物から建物へとひょいひょい移動して行った。
 千雨が叫んでテーブルを叩く。
「ってオイッ! あいつらモロに映ってんじゃねーか!」
「あははははっ!!」
 アナウンサーは唖然としながらカメラにゆっくり顔を向ける。
「い、今のが有名なジャパニーズNINJA、楓さんの……ようです!」
 注・楓さんは忍者ではないでござると毎日言っているそうです。
 同時に画面下に赤字でテロップが流れ、
「ござるとか!」
 芸能人達の笑い声がする。
 千雨が眼鏡を取って何故か潤んだ目を拭う。
「あー、何かスゲー落ち着く。やっぱ笑って当然だよなぁ。慣れって怖ぇー……」
「楓達美味しいとこ持ってきすぎでしょ!」
 ハルナは指をさしたままゲラゲラ笑う。
「ひぃっ」
 そこへアナウンサーが横を過ぎ去る者達に驚く。
「すいませーん!」
「アスナ待ってー!」
「失礼致しました! お嬢様ー!」
 軽く自動車の速度で横を通りすぎていく三名、内一人はローラースケートにアナウンサーは目が点になり、
「はいすんませーん!」
 黒いシスター服を着た人物が少しだけ遅れて超包子の肉まんの入ったビニール袋を頭に乗せて片手で抑え爆走して行った。
 小窓に映る芸能人達が口々に突っ込みを入れる。
「何や速すぎるわぁ!」
「速すぎ速すぎ!」
「当たったら確実に事故ですよ今のは」
 失笑する赤縁眼鏡の芸能人の反応が真っ当だとばかりに千雨がげんなりする。
「あいつらもかよ……」
「アスナ達は仕方ないねー」
 それ程速くは無いにしても、学生達が走り過ぎる中、画面は一旦スタジオに切り替わった。
「新入生のみんなは、コレ、ついて行けてるの?」
 芸能人に尋ねられ、学生の一人がはにかみ気味に答える。
「えっと……慣れてくると、意外といけ、ました」
 その答えに他の新入生達もパラパラ頷き、古参の学生達も「その通り」と頷いた。
「慣れぇ!」 「慣れかぁ!」
 古参の白衣を着た学生が芸能人達の反応にコメントする。
「それが普通の反応だとは思いますけど、実際に麻帆良で生活していると大抵の事には変に動揺はしなくなります」
「それに毎回驚いてたら疲れますから」
 もう一人の古参学生が笑って言い、すぐさま突っ込みが入る。
「いやそりゃそうだけどさぁ!」
 軽い会話が交わされた後、一度仕切りなおしされ、司会が言う。
「ここで、先月盛大に行われた麻帆良祭の映像を振り返りたいと思います」
 ヘリコプターから撮られた開催のパレードの映像が流れる。
 パレードにはセットの上に3次元映像が投影されていたりと、技術的にも最先端。
「クオリティたっかー」
「流石は3D映像の本家」
 芸能人達が感心した声を上げる。
 スタジオに画面が戻り、芸能人の一人が手を出しながら言う。
「いやー、私もこれ行きましたよ。学祭とは思えないぐらい凄かった。めちゃめちゃ混んでたけどね」
「因みにどこが特に印象に残られました?」
「最初は軍事研のショーに興味があったんですけど、やっぱり生エヴァでしたね。見て良かったですよ」
 感慨深げに言う中、丁度VTRが流れる。
 エヴァンジェリンの公演の動画にスタジオが感嘆の声を上げる中、ニヤニヤしながらハルナが口元を抑える。
「ちうちゃんもコレには勝てませんなぁ」
「うっさいわ」
「そういやファンからちうが麻帆良の学生かもしれないって特定され始めてるんだっけ? 大変だねー」
 ハルナが追撃する。
「余計なお世話だっ!」
 鬱陶しそうに千雨が声を荒らげた。
 番組は麻帆良祭の映像もそこそこに、麻帆良の学生生活についての話に移行する。
 麻帆良学園都市の学生の授業は楽か辛いかという質問に対し、青と赤のボードで学生達が答える。
 新入生は全員青のボードで楽だと示し、古参学生達は赤いボードの割合がかなり多かった。
 司会に尋ねられ、新入生たちは揃ってそんなに勉強は大変ではないと答える中、中学の頃から麻帆良にいた高校生の一人が新入生達が座っている所を手で示し苦笑しながら言う。
「こちらの新入生のレベルが高くて僕は一気に成績下がりました。内部生は大体皆下がってます……」
「今後高校は大学の進学に関わってくるので特にシビアになると思います。因みに私は今年大学一年に上がったので助かりましたッ!」
 スッキリした顔でそう宣言する別の古参学生に会場には笑い声が起きるが、千雨とハルナは嫌そうな顔をした。
「超達が言ってたが、本当に現実になったからな……」
「私も成績中間だった筈がまさかの後半に。外部生頭良すぎー」
 司会が言うと、今度は画面に麻帆良学園都市各校の前年度比の受験倍率が出る。
 殆どの学校が10倍以上を記録しているデータにスタジオはざわめき、司会が言う。
「特に注目して頂きたいのが、麻帆良大学工学部の倍率でして、右上を御覧ください。なんと29.1倍です。この数値は東京大学の後期日程試験とほぼ同等であり、私立大学としては異常とも言える数値です」
「こんな倍率で受かった新入生のみんなは頭良いんやなぁ」
 感心して芸能人が言うと、千雨が言う。
「ま、こんな馬鹿みたいな倍率、最初から入れてただけマシか」
「お、ポジティブな発言ー」
 ハッと気がついてハルナが言うと千雨がばっさり切り返す。
「いつもネガティブみたいに言うな」
 続いて何かとお金の掛かる学生生活において、麻帆良学園都市ならではの学生アルバイトの活発さに話が移り、主に大学生が稼ごうと思えば色々な働き口がある事を説明して行った。
 そして部活、研究会やサークル活動に話が移ると学生達は各自ボードに所属名を書き込みスタジオ側に見えるようにした。
 一般的な運動系、文化系の部活から、かなりマイナーなものまで。
「図書館探検部っていうのは具体的にどんな事をしてるんですかぁ?」
 女性の芸能人が尋ねると、
「えー、本が大量にあるリアルダンジョンを攻略する部活です。トラップを解除する技術、回避する技術や確実にワイヤー技術が身につきます。あと疲れたら本も読めます」
 部員がドヤ顔気味に答えた。
「本はついで!?」
「あくまで図書館を探検する部活なので」
 ああー、と納得する会場の声が上がると、はいはいうちの部活ーと言いながらハルナが一冊雑誌を取り出して言う。
「最近この手の番組とか雑誌も増えたよねぇ。麻帆良のメディアが纏めたこの雑誌の特集なんかもさ」
 テレビを適当に見ている所に開いた雑誌を渡され千雨が受け取る。
「ん。……ここまで分かった麻帆良の秘密・魔法編って何だよこのサブタイトル……。って超科学編に超人編とかもあんのか」
 先のページも適当にめくって呆れながら千雨はふと魔法編のコラムの一つに目を通す。

【認識阻害魔法って何?】
 麻帆良学園都市全体に張り巡らされていたという認識阻害魔法だが、その効果は日常生活で使い方によっては相当便利な物のようだ。
 麻帆良の認識阻害が解除された事に対する一般の驚きの声は以前の特集でも取り上げたが、今回は粘り強い取材の末、魔法少女から回答を得る事ができた。
「認識阻害を使えば鏡、写真や映像には映りますが近くにいても人に気付かれなくなります。今みたいに質問責めにあったり、酷い時はハァハァ言ってるカメラを持った男の人につけられた事もあったので最近私は外での移動中はずっと使ってます。もう行っていいですか?」15歳・女
 最後はキレ気味で答えてくれましたが、魔法生徒と呼ばれる子達は苦労しているようです。
 強く生きて下さい。
 そして可愛いからと言ってストーカーは止めましょう。
 しかし、写真や映像には残るとしても人に気付かれないでいられるということはつまり某魔法ファンタジー小説の透明マントを身にピッタリ纏った状態になれるという事だ。
 色々犯罪行為に利用できる可能性も十分ある。
 認識阻害については説明せず、もし透明マントを持っていたらしてみたい事は? と試しに麻帆良の男子学生達に質問をしてみた所、様々なコメントが得られたが、その一部を除き大半が以下のようなものばかりであった。
A、立入禁止区域に入ってスパイ活動
A、スカートめくり!
A、あっ……女子高に入れんじゃん!
A、女湯で覗きとか? etc...
 どうやら確実に犯罪者が増えそうである。
 この記事を読んで似たようなやましい事ばかり想像したそこのアナタ。
 もし魔法が使えるようになったとしても一番最初に鍛えるべきはモラルである。
 
「閃いたの全部犯罪じゃねーか! くっだらねー!」
 千雨は続きにも文章があったがそこで思わず声を上げため息を吐いた。
「一個下の佐倉愛衣ちゃん可哀想だよねー。このか達はボディガードがいるけど」
「あー、私だったら不登校になる」
 千雨はこめかみに手を当てて言った。
「少なくとも女子寮に男子が忍びこむのは認識阻害できても無理だって超りんは言ってたから安心だね。逆に私は捕まる男子が見てみたいッ!」
 鼻息を荒らげてハルナが言うと、千雨の眼鏡がズレる。
「お前な……。まあ田中さんはそもそもロボットだし、生体センサーがついてるから認識阻害なんて関係無いんだろうな」
「科学の力は偉大ですなー」
「で、この後に超科学編があるって訳か」
 適当に千雨がめくると超科学編のページが出る。

【超鈴音の科学力は?】
 元々研究水準の高かったとされる麻帆良学園都市であるが、その中でも超鈴音といえば革新的な3D映像技術、SNSの普及、科学とは関係ないが超包子という有名中華屋台、果ては麻帆良学園都市内での研究水準の高さで最早世界的に有名になった。
 今回、彼女の本拠地とも呼べる麻帆良大工学部に取材に向かった。
 しかし、どう頑張っても直接彼女との個人的アポイントメントは取れず、仕方なく多くの警備員と警備ロボット田中さんシーリズが厳重に守りを固める麻帆良大工学部の付近で、工学部生達に質問を試みた。

Q、超鈴音の科学力はどれぐらいだと思いますか?
A、超りんの科学力は宇宙一ィィィッ!!
A、スカウターが軽く壊れるぐらい。
A、真面目に答えると、考えるまでもないです。発狂している世界の科学者や技術者のコメントを見れば分かりませんか?

Q、麻帆良の科学力をどう思いますか?
A、誇りに思います。
A、世界でナンバーワンの麻帆良で学べる事に感謝します。
A、異常すぎると誰が言おうがこれが現実。まさに研究者の聖地。
A、田中さんマジ強すぎ。
A、ハイレベルすぎてついて行けないと思う時もある。でも気にしません!

Q、超鈴音をどう思っていますか?
A、麻帆良最強頭脳改め世界最強頭脳。
A、世界一のワーカーホリック。何徹でも私はいけるヨ! って超りんが言ってました。
A、天才変態少女(頭脳的な意味で)
A、葉加瀬ちゃんを忘れないで下さい。
A、スパコンさよちゃんも忘れないで下さい。
A、愛してます。
A、一生付いて行きます。
A、この出会いこそまさしく運命! この想い超りんに届けェッ!
 
Q、学部卒業後の進路は?
A、麻帆良内の企業に就職するか、博士課程後期まで居残ります。例え親にジャンピング土下座をしてでも!
A、いつの日にか魔法科学なるものが実現するのをこの目で見るまでは死ねない。
A、麻帆良を離れるなんてとんでもない(笑)
A、麻帆良を離れるとか、ありえん(笑)

 千雨は頭を抱えて呟く。
「駄目だこいつら……」
「早くなんとかしないと……」
 ハルナがニヤニヤして合わせた。
「……おぃ」
 何かなぁ? という顔でハルナが言う。
「大分私達も息合って来たねー」
 千雨がジト目で否定する。
「嬉しくねーよ!」
「お、お? ツンデレ? ツンデレかー?」
 ハルナは無駄に嬉しそうに千雨の頬を突付いた。
「くそっ……このっ……」
 テレビでは新入生と古参学生で麻帆良に対する印象の違いについて話がされていた。
 新入生達は皆揃って驚いてばかりだというが、古参学生は違う意見を言う。
「麻帆良の情報が世界に発信されるのは嬉しいですけど、正直公表されてから。図書館探検部然り、航空部然り、軍事研然り、色々規制が厳しくなって前よりも窮屈になったと感じる事が多いです。警備も増えましたし、何だか物騒な街になったみたいなのも少し残念です。一つ話をすると、あの世界樹の発光する麻帆良祭の期間は過去死者重傷者が出た事が無いんですが、当然オカルトみたいな話なので、今年は規制で出し物もかなり駄目出しを受けたという話をあちこちで聞きました」
 なるほど、とスタジオ内が頷く中、眼鏡を掛けた芸能人の一人が言う。
「はぁー、なるほど。僕らは以前の麻帆良を詳しく知らないからねぇ。世界樹の話は初耳だけど……そうなの?」
 そう尋ねると、
「えー、はい、その情報は確かだそうです」
 司会は手元の資料を少し見て言った。
「へぇー! あの木、一体何なんですかね」
「きっと魔法の木ですよぉー!」
 ギャル系の芸能人がそう言うと、耳で適当に聞いていた千雨がぼやき、
「馬鹿っぽい答えの癖に大体それで合ってそうなのがな……」
 超人編のページを捲った。

【麻帆良の超人伝説】
 麻帆良と言えば、昨年の体育祭が報道され、その中で超人的な人達の姿を見た人は多いだろう。
 今回は麻帆良学園都市内で、超人的な人々に関する話を集めた。

・麻帆良裏山に鳴り響く轟音
 麻帆良学園都市には緑が多く、北側には自然豊かな山が多い。
 しかし、登山部に所属する部員が自主訓練がてら登った所、轟音が鳴り響き、双眼鏡で探してみると巨大な岩を素手で砕いている少女の姿が目撃されたという。
 どうやらその正体はウルティマホラでの優勝経験を持つ古菲さんらしい。
 この情報について、岩を砕いたという話の真偽を武術系のサークルに所属する学生達に尋ねてみると「菲部長ならできてもおかしくはない」という解答を大量に得た。
 しかし、最終的に「それ私がやったアル!」と古菲さん本人の自己申告が得られた。
 そんな力を持っているにも関わらず、手合わせをしたいと願う者達は後を絶たないそうだが、麻帆良魂とは恐れを知らないのかもしれない。

・ジャパニーズ忍者楓さん
 体育祭の映像で色々ありえない、仰天映像を見せてくれた長瀬楓さん(棒高跳びを決めた写真・上段左)であるが本人は「忍者ではないでござる」と断言している。
 しかし、忍者ではないのだとしたらこの忍び装束はコスプレという事なのだろうか(写真・下段左)。
 他にも建物の上から建物の上を移動する姿や世界樹の枝から枝を伝って上に登る姿が目撃されており、果ては分身が出せるらしい、体が小さくなるらしい、など情報を集めてみると楓さんには残念ながら、忍者である事を裏付ける情報しか集まらなかった。
 忍者にとって自身が忍者であることはどうあっても隠さなければいけない重大な秘密なの……かもしれない。
(写真提供者・報道部・朝倉和美さん)

 千雨はそこで目を細めた。
「コイツの仕業か……」
「私も写真撮っとけば良かったなー」
 勿体無い事をしたとハルナがぼやき、千雨が突っ込みを入れる。
「お前もそっち側かよ。にしても元3-A多すぎだろ。次の『秘技? 居合い切り』とかやっぱ、あ……葛葉先生だった」
「木乃香の護衛の桜咲さんは流石に載せられなかったんじゃないかなーと思ったり」
「かもな。今一載せて良い情報と悪い情報の区別が微妙な気がするが……まあ……大したこと書いてないか」
「そーなんだよねー」
 実際自分達の方がもっと色々知ってると千雨とハルナは思わずにはいられなかった。
 テレビは超鈴音の発表した世界に震撼を与えた物が簡単な映像で流れ、3D映像技術やSNSの話に移っていた。
「この中で何らかのSNSに登録されている方は挙手をお願いします」
 司会がそう言うと、スタジオにいる人物達は全員手を上げ、おおー、と客席からざわめきが上がった。
 出演者達がそれぞれSNSをどんな風に使っているのか、使ってみたらどんな事があったかなどが話され盛り上がる。
「このSNSに加え、3D映像技術や麻帆良で活動する超高性能ロボットなども開発した超鈴音さんですが、とうとう先日現在取り組まれている人工衛星の組み立てが始まりました。人工衛星の開発には通常数年かかりますが、これもまた異例の事態です。今回、スタジオには麻帆良大工学部でそのプロジェクトに参加されている学生さんがいらっしゃいます」
 司会がそう言い、打ち合わせ通りと言った様子で白衣を着た古参学生が片手を上げて言う。
「私です。今回、この人工衛星について説明を簡単にですが、させて頂きたいと思います」
 拍手が起き、画面に解説用の人工衛星の簡単な絵と日程表が映った。
「そもそも、この人工衛星はご存知の方も多いと思われますが、火星の日照不足を緩和するための物です。プリズムミラー方式と呼ばれており、太陽光をプリズムでできた反射翼を展開し採光した光の向きを変更させ、地表に降り注ぐ光量を増やす狙いがあります」
 人工衛星の絵に太陽光を火星の地表に変更させる矢印が表示される。
「人工衛星としてはかなり大きめの物なのですが、皆さん当然のように思われるのは、人工衛星一基ぐらいで惑星規模の光量不足をどうにかできる訳が無いという事だと思います」
 一瞬画面が戻り、出演者達は皆頷いてリアクションをし、学生が説明を続ける。
「その事については我らが超りんも分かっていまして、人工衛星の初号基は麻帆良、そして日本の技術力で実際に稼働させられるのかを実験する意味合いが大きいです。これが成功すれば今後徐々に改良を加えながら、宇宙開発関連技術自体の向上を図っていくというのが目指すべきステップになっています」
 芸能人の一人が感心して尋ねる。
「はー、つまり今の技術力じゃまだ足りないって事ね。ということはかなり先の事まで考えてるの?」
「はい、その通りです。これは私の予想ですが、行く行くは有人宇宙船の実現も訪れる日は近い……というより必然的に実現する、させる、と思います。科学だけでは資源やコスト的問題が響いてきますが、魔法の存在がある事で、かなり様々な問題のハードルが下がる、と想定されています。私達はまだ魔法については……」
 それを見ながらハルナが口を開く。
「魔法を完全に科学技術の一種みたいに捉えてるとか、ファンタジーっぽさ皆無だと思わない?」
 頬杖をつきながら千雨が言う。
「どう考えても夢は広がり続けてるけどな。正直私は火星どうこうより、地球も資源問題諸々色々あって宇宙開発は人間にはぶっちゃけ無理だろと思ってたけど……コレだからな……。超の奴がやる気でいる時点で出来るんだろうとしか思えなくなった」
 ハルナが指を立てる。
「あー、それ私も同じ。人類が外宇宙に進出ーなんて無理だと思ってた。一昔前のSF小説ってガンガン人類は宇宙に出て行く! って感じの話多かったけど、今そーいう話多くないし。ここに来て超展開ッ!」
「確かに超展開すぎるよな……」
 千雨は今更のように遠い目をして、魔法が公表された時にありえねー! と叫んだ時の事を思い出した。
 考えてみれば超鈴音に巻き込まれるような形で、色々通常では有り得ない手伝いをさせられたり、法外な報酬を貰ったりと記憶が蘇る。
「やべ……私も超だけに超展開の煽りを受けてた……とか全然うまくねーよ! アホかッ!」
 既に色々手遅れである可能性に気がついた千雨は声を上げて自分で突っ込みを入れた。



[27113] 未来1話 雲の上
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:54
本話は現在淡々進行中の本編アフターを思い切って2014年に飛ばしてみたらどうなるか、という妄想でできあがっています。
本話の環境設定はあくまでもIFの想定ですが、可能性として一番高い事は否定できず、ネタのようで割と本気です。
拒絶反応を感じた場合速やかに文字を読むのを停止される事を推奨致します。
また、本話の主人公はとある漫画作品を強烈に意識しています。
通常の本編アフターはしばしお待ちください。












―――――――――――――――――――――――――――――――

2014年7月、ある平日の朝、子供用のベッドからむくりと幼い女の子が目を半開きにして上体を起こした。

「……うー」

目を擦り、寝ぼけたような声を出し、その子は顔を隣の大人用のベッド2つに向け、それが空になっているのを見た。
するとその子はウサギが描かれたパジャマを着たまま、ベッドから突然勢いよく飛び降り、床に両足をつけて、数人の声がかすかに聞こえる扉の方向へと、とてとてと歩き出した。
バンザイをするように取手に手をかけ、扉を開けたその先に見えた馴染みの人たちの姿に、その子は元気な笑顔をして、大きく息を吸った。

「ママっ!パパっ!アリカちゃんっ!アカネちゃんっ!おはよー!!」

大音量のその声はリビングとキッチンに響きわたった。

「てる、おはよう」  「おはよう、マーテル」

「おはよう、マーテル」  「てるちゃん、おはよー!」

エプロンを着てキッチンに立つアスナとアリカ、丁度洗面所から戻ってきたネギとアカネはマーテルにそれぞれ挨拶を返した。

「マーテル、顔洗って歯磨きしよう」

続けてすらっとした長身のネギがマーテルに手招きをして言った。

「うん!」

マーテルはたたたっ、とネギの方へとかけて行きアカネとすれ違うようにネギと洗面所へ再び向かった。
ネギに見守られながら、マーテルは台座を自分で置いて蛇口をひねって顔を洗い、タオルで顔をよく拭く。

「さっぱりしたなー」

マーテルは両手でタオルを持ち、目をぱちぱちさせる。

「マーテル、まだ濡れてるよ」

ネギはさっとそのタオルを取り、まだマーテルの顔に水滴がついている所をやさしく拭った。

「ありがと、パパ!」

マーテルはコップに水を入れて、軽く口に含ませてゆすいだ後、歯磨きを始めた。
下と上の歯を大体磨き終わった所でマーテルは再び口をゆすぎ、ネギの方を振り向く。

「できた!パパ、見て見て!」

そう言って口を大きく開いて見せる。

「はい、良くできたね。それじゃ、少し仕上げするよ」

ネギはマーテルの頭を軽く左手で撫で、右手には歯ブラシを取った。
洗面所に置いてある椅子に腰掛けてマーテルの頭を自分の膝に乗せ、そのまま歯を優しく磨き始めた。

「んー、んー」

「ちょっと我慢してねー」

少しの間シャカシャカという軽快な音が鳴り響いた。
……ネギとマーテルがリビングに戻ると、テーブルには朝食が並べ終わる所で、5人はそのままテーブルに着いて食事を始めた。

「ナギちゃんはいつ帰ってくるー?」

不意にマーテルが4人に聞いた。

「父さんは明後日帰ってくるよ」

それにネギが答えた。

「あさってかー」

「お父さんいつもあちこち飛び回ってばっかり」

少しだけ、アカネは拗ねたように言った。
それをネギ達はなだめるように返した。

「はー、まあそうね。お父さんよく突然どっかに連れてってくれるし許してあげよ」

「突然すぎるのも考えものじゃがな」

「ナギって学校の事全然考えてないものねー。……っと、2人ともそろそろ支度しないと時間」

アスナが時間に気づき、声をかける。

「あ、ホント」

「そうだね、ごちそうさまでした」

アカネとネギは食事を終え、食器を流しに運び、それぞれ麻帆良小学校と麻帆良魔法学校に行く支度を始めた。

「てるはゆっくり食べていいからね」

「うん!よくかんで食べる!」

アスナはマーテルにそう言って聞かせた。
そして、アカネはランドルセルを背負い、ショートカットの金髪を鏡で軽く整え、ネギはネクタイをきちんと締めたスーツ姿で鞄を持ち、玄関を出る準備が整う。

「今日は昨日の夜言った通り、魔法学校で授業の後、魔総研にも行くから遅くなると思う」

「うん、分かってるわ」

「それじゃ、行ってきます、アスナ、母さん。マーテル、今日は先に寝ててね」

「うん!先に寝てるー!」

「行ってきまーす!」

「ネギ、アカネ、行ってらっしゃい」 「アカネ、ネギ行ってらっしゃい」  「パパ、アカネちゃん行ってらしゃーい!」

3人に見送られ、ネギとアカネは玄関を出た。

「じゃ、お兄ちゃん行くよっ!」

「うん、行こうか」

アカネはネギにそう言い、ログハウス調の家を後にして、2人は並んで学校と仕事へと向かった。
一方、家に残った3人はというと、アスナとアリカは掃除洗濯と家事を始め、マーテルは服をワンピースに着替え、2人に大きな声をかけた。

「ママ、ゼクトちゃん起こしてくるねー!!」

そう言い終わるとすぐにマーテルは玄関に駆けて行こうとする。

「てる!ゼクトさんに迷惑かけちゃだめよ」

それに慌ててアスナは声をあげて追いかける。

「だいじょぶー!ゼクトちゃんと約束してあるの!」

マーテルは玄関に腰掛け、いそいそと靴を履き始めた。

「また約束?いつしたの?」

驚いたようにアスナは尋ねる。

「きのうのー、きのうのきのうのきのう、お願いした」

マーテルは靴から手を離し、指を一つずつ折って数えて言った。

「4日前……あー、夕方遊びに行った時にしたのね」

アスナは思い出すようにして言った。

「そう!」

「分かったわ。でもその前に髪結ってあげる」

アスナはエプロンのポケットから鈴の髪飾りを2つ取り出して見せた。

「あ、忘れてた!ママお願い!」

マーテルはハッと気がついて言った。

「はいはい」

アスナは苦笑しながらマーテルの髪を慣れた手つきで結った。

「よし!いいわよ」

「さすがママ!かんぺき!ありがと!」

マーテルは頭に軽く手が置かれたのを合図に玄関の鏡を見て、嬉しそうに両手でその夕焼けのような髪色をしたツインテールに触れて言った。

「はい、どういたしまして。行ってらっしゃい」

「うん、行ってくるー!」

マーテルはもう片方の靴を素早く履き、玄関の扉をぐっと押して開け、後ろを振り返ってアスナに手を振った後、出ていった。
それをアスナは同じく手を振って見送り、リビングへと戻って行った。
マーテルは家を出てすぐ左のエヴァンジェリン邸では無く、すぐ右のログハウス調の家に向かった。
背伸びをしてマーテルはチャイムを鳴らし、待つことしばし。
ドアが開き、白髪の少年が姿を見せた。

「ゼクトちゃん、起きてください!」

瞬間、マーテルは渾身の力を振り絞って大きな声を出した。

「この通り起きておる。おはようじゃ」

ゼクトはマイペースに答えた。

「おはよー、ゼクトちゃん」

さっきのテンションはどこへやら、落ち着いてマーテルは挨拶をした。

「「…………」」

一瞬の間を置いて、2人はそのまま無言で普通に家の中へと入った。

「アルちゃんはいないー?」

「仕事じゃ。ワシは今日休みじゃからな」

「そうかー」

マーテルは事あるごとにいない人の確認をする癖があった。

「ゼクトちゃん、はみがきした?」

「した」

「ごはん食べた?」

「食べた」

「掃除した?」

「しとらん」

「しなきゃだめでしょ!」

簡単な質問を連続でし、突然マーテルは両手に力を込める構えを取ってゼクトを叱った。

「…………仕方ない」

―風よ―

少しの沈黙の後、室内に緩やかな風が吹き始め、埃という埃が部屋の中空に小さな球体状に集まり、そのままゴミ箱へと入った。
実際、ほとんど汚れというものとは無縁のような清涼感あふれる部屋は何かが散らかっているという事も無く、埃以外は無いと言っても過言ではない家であった。

「これで良いじゃろ」

「よくできました!」

それを見たマーテルは楽しそうにパチパチと手を叩いてゼクトを労った。

「……じゃが、いつも思うがちと早すぎはせんか?」

ゼクトは時計の針が8時を示しているのを見て言った。

「早起きはおとくなんだよ」

「正しくは早起きは三文の得……諺じゃ」

「ゼクトちゃんのちえぶくろはさすがだなー」

感心したようにマーテルは言った。

「それはお婆ちゃんの……まあ良い。しかし、どこからそのような言葉が出てくるんじゃ……」

ゼクトは微妙な顔をして再度訂正しかけた。

「して、今日は何をするつもりじゃ?」

「んー。雲の上につれてってください!」

ペコリとマーテルはお願いした。

「……また突然じゃな。ワシにできると思うのか?」

やれやれという表情をしてゼクトは逆に質問をした。

「できるでしょ!」

マーテルは語調を強めて言った。

「何故そう言い切れる」

「遠くまでパッといけるゼクトちゃんなら雲の上にもパッと行けるよ!」

理由を説明した。

「間違ってはおらぬな」

「連れてってくれる?」

「……まあいいじゃろう」

少し思案した後、ゼクトはまあいいかという風に答えた。

「わー!ゼクトちゃんありがと!」

マーテルはとても嬉しそうに言った。

「少し必要な物を取ってくる」

ゼクトは物を取りに2階へと向かい、コートを2つ持ってマーテルの元へと戻り、2人は再び玄関から出た。

「見事な曇りじゃな」

ゼクトが空を見上げて言った。
空は天気予報で言われていた通り、麻帆良の上空は一面の雲に覆われていた。

「でしょ!」

「てるよ、これを持っておれ」

ゼクトはコートを一つマーテルに渡し、自分用のものを先に着て、フードも被った。

「うーん?なにー?」

「必要なものじゃ。ほれ」

ゼクトはマーテルに少しサイズが合わないが光学迷彩コートを着せて同じくフードを被せた。

「少しおおきい」

「我慢するのじゃ。ワシの背に乗ると良い」

ゼクトはそう言って膝を屈めた。

「おんぶかー。しつれいします」

丁寧にマーテルは言葉を述べ、ゼクトの背におぶさった。

「手を離すでないぞ」

「まかされたー」

マーテルはゼクトの首にしっかり腕を回して言った。

「その返答は間違っとるぞ」

「ゼクトちゃんいつも言ってるのに?」

「いつもは言っとらん。行くぞ」

「おー!」

―即時転移―

軽いやりとりの後、ゼクトは予め力場を展開した上で、探知されない高度な転移魔法を用い、上空に見える雲のまっただ中へと転移した。

「わー!何も見えないー!ゼクトちゃんしっぱいー?」

一面真っ白の視界にマーテルは声を上げた。

「失敗ではない。直接雲の上にでると人工衛星に映る」

「しゅにんちゃんが作ってるやつー?」

「主任……超の事か。そうじゃ。てる、ワシらの姿が透明になるスイッチを入れるが驚いて手を離すでないぞ」

「とうめい?うん!てる、はなさないよ!」

「よし」

―風よ―

ゼクトは光学迷彩コートの左手袖についているスイッチを風の圧力で押して入れた。
瞬間、マーテルとゼクトの姿は透明になった。

「とうめいだー!!なんだこれー!?ゼクトちゃん、いるの?」

マーテルは驚きでジタバタしそうになったが、ゼクトに足をしっかり固定されている為、落ちる事は無かった。

「この通りおるぞ。これはそういうものじゃ」

「おおー!すごいなー。それでゼクトちゃん、ここどこ?」

マーテルは今更な質問をした。

「ここは雲の中じゃ。どこだと思っておった?」

逆にゼクトが驚いた。

「ここ雲の中!?なんで!?」

マーテルは再び驚きの声を上げた。

「なんでもじゃ。雲は近くで見るとこういうものじゃ」

「そうかー。てるは雲の中から雲を見るのははじめてだから驚くのはしかたない」

マーテルは自己完結した。

「……せめて暴れないようにな」

無理もないかと言おうとしたが、先に言われてしまったゼクトはそう言った。

「雲の上に出るぞ」

「しゅぱーつ!」

マーテルは元気よくかけ声を上げ、ゼクトは浮遊術でそのまま上へと昇っていった。
雲の終わりに近づき、光が強くなったところでゼクトは太陽が見えない方向へと向いて浮き上がり、そして……2人の頭だけが雲から出た。
一面雲が絨毯のように広がっている所、すぐその上には青い空が同じようにどこまでも広がっていた。

「雲のうえー!!お空が近くてあおいー!きれー!!」

マーテルはその光景に素直に感嘆の声を上げ、体ももぞもぞ動かそうとした。

「ゼクトちゃん、連れてきてくれてありがと!」

マーテルはゼクトの耳元できちんと礼を述べた。

「礼を言えるのは良いが、本当はここに来るのは駄目じゃからな」

「駄目なの?」

きょとんとしてマーテルは尋ねた。

「高い空は勝手に飛んではいかぬという決まりがあるのじゃ」

「鳥さんは自由に飛んでるのに?」

「人間にはそういう決まりがあるということじゃ」

「せちがらみかー」

マーテルはやれやれという顔をして言った。

「世知辛いとしがらみを混ぜるでない。良いか、今日のも特別じゃぞ」

「分かってる、ゼクトちゃん。ママ達にはひみつでしょー」

「来年からてるも小学校に上がる。その時はあまり好き勝手な事を言わないよう気をつけるのじゃぞ」

またしてもゼクトはやれやれという表情をして忠告した。

「はーい!でもゼクトちゃんは別に飛んでも良いって思ってるでしょ?てる、分かるんだよー」

マーテルの言葉を聞き、ゼクトは虚を突かれたような顔をする。

「む……またそれか。まるで読心術のようじゃな」

ゼクトはネギにも似たような能力があるのは知っているが、それの遺伝かと思案した。

「どくしんってみこんのこと?」

「……誰から聞いたのじゃ」

ゼクトは眉間に皺を寄せた。

「テレビでどくしんの男の人がーみこんでーって」

マーテルはゼクトの背中に体中の力を預け、脱力して言った。

「……分かった。とにかく、その独身ではない。心を読むと言う意味で、読心じゃ。相手が何を考えておるのか分かるという事じゃ」

「読心かー。でも、てるはなんとなーく気持ちが分かるだけ。ゼクトちゃんはすなおに言わないけどてるの事けっこー好きなのは分かる。すごいだろー」

マーテルは自慢げに言った。

「む……なるほど。他の者達も分かるのじゃったか」

「うん、みんな分かるよー。パパ、ママ、ナギちゃん、アリカちゃん、アカネちゃん、ゼクトちゃん、アルちゃん、エヴァちゃん、茶々丸ちゃん、しゅにんちゃんも、みんなみんな。きょうパパはお仕事で帰りが遅くなるから先に寝ててねって言った時、てるにごめんねーって思ってたけど、パパはてるの事好きだし、てるもパパの事好きだからへいきー」

「ふむ……そうか。ならば、てるを嫌いに思ってる相手も分かるのか?」

「……分かるよー。ママのお友達はてるをちょっとだけ嫌いみたいなの。でも、それよりも好きの方がおーきーのは分かる」

少しだけマーテルは声のトーンを落としたがすぐに元気を取り戻した。

「……辛くはないのか?」

その言葉にゼクトが少し間を置いて尋ねた。

「つらいは分からないなー。みんなてるの事好きだし、てるもみんな好きだから」

あっけらかんとしてマーテルは答えた。

「そうか……そのうち辛いと思うこともあるかもしれぬが、てるならきっと大丈夫じゃ」

「そうだといいなー」

少しの間、2人は雲から顔だけ覗かせて青い空を見て過ごした。

「…………てるよ、満足したか?」

「うん!とっても!きれーなお空、雲良く見れた。お日様も見たかったけど、駄目なんでしょ?」

「それも気持ちが分かるせいか?」

「そうだよー。雲から出るとき、ゼクトちゃんあぶないーって。でもゼクトちゃんが手を離すなって言うのはあんまりあぶなくないって分かるから少しうごいてもへいきだなーって」

「それは違うからな」

ゼクトは簡潔にそれを否定した。

「そなの?」

マーテルは突然ゼクトにきつくしがみついて尋ねた。

「そうじゃ。それは、もし、てるが手を離してもワシがてるを落としたりはしない自信があるからじゃろう」

「そうゆーことかー」

マーテルは納得したように言い、手の力を緩めた。

「では戻るぞ」

「うん!」

ゼクトは高度を下げ、再び雲の中に頭も沈める。

 ―風よ―
―即時転移―

ゼクトは光学迷彩コートのスイッチを切り、続けて転移魔法でゼクトとアルビレオの家の玄関へと直接転移した。

「はーだいぼうけんだったー」

マーテルはほっと息をついて言い、2人は靴を脱いで再び家の中へと上がった。
ゼクトは光学迷彩コートを片づけに2階へ上がり、マーテルはリビングのソファに腰掛けた。
再び降りてきたゼクトは冷蔵庫から茶を2人分コップに注いで同じくソファに腰掛けた。

「ありがとー、ゼクトちゃん。……はー、のどが生き返った」

「…………うむ」

しばしの沈黙が流れ。

「ゼクトちゃん、お絵かきしていいですかー?」

ふと、マーテルはそう切り出し、ゼクトの顔を見た。

「良いぞ。何を書くのじゃ?」

「ゼクトちゃんが見せてくれた雲とお空」

「そうか。全て任す」

ゼクトはやはり、という反応をした。

「任されたー。紙と色鉛筆、つかわせてもらいます」

「好きにするが良い」

即座にマーテルはソファから飛び降り、リビングの壁際にある棚に入れてある本格的な色鉛筆セットと紙を取りに動いた。
ゼクトは飲み終わったコップ2つを片づけ、それと入れ違うようにマーテルはソファの前の机に紙と色鉛筆セットを置き、色鉛筆セットのふたをあけるとそれが二段式になって展開された。

「よーし、やるぞー!」

マーテルはソファのすぐ前で正座をして、ソファの机をちゃぶ台代わりにして使い始めた。
そこへゼクトは読みかけの本ともう一冊を手に戻り、マーテルの近くのソファに座って読み始めた。
マーテルは絵を描き始めると、途端に驚異的な集中力を発揮し、紙と色鉛筆以外は見えていないかの如く、一心にさっき見たばかりの景色を紙に表現しだした。
1時間、2時間と過ぎていくにつれ、雲と空、その境界と、それぞれが無限に広がる景色が、精密でありながら、マーテルが感じた、きれい、空が近いというものが伝わってくる、そんな印象を受ける絵ができあがっていった。
そして11時少し過ぎになった頃。

「できたー!」

マーテルは両手をあげて達成感を表現した。

「はい、ゼクトちゃん、あげる!」

マーテルは紙を両手で持って、ゼクトに渡して見せた。
それに対し、ゼクトは2冊目の本から顔を上げ、その本をソファの上に置いて、マーテルが差し出した絵を受け取った。

「ふむ……今回も傑作じゃな。ありがたく貰うぞ。てるは絵が上手い」

非常に奥行きのある立体的溢れ、そして緻密な描写は5歳児が書くにしては驚異的なレベルであった。

「ほめてくれて嬉しいです!」

「そうか。よし、これも飾るとしよう」

もう一度ゼクトはしげしげと見て、言った。

「気に入った?」

マーテルは首を軽く傾げてゼクトに尋ねた。

「もちろんじゃ」

「またほんとーは駄目な事お願いしてもいい?」

「それは時と場合による」

バッサリとゼクトは言い切った。

「そうかー」

少しばかり残念そうにマーテルは答えた。

「あ、お昼ゼクトちゃんはどーするの?」

突如、思い出したようにマーテルは尋ねた。

「昼食か。あるから安ずるな」

「そうですかー。ゼクトちゃんてるの気持ちわかるー?」

寂しそうな表情でマーテルはゼクトに試すように尋ねた。

「……またワシもてるの家で一緒に食べて欲しいという事か?」

それに、前にもあったなと思いながらゼクトは答えた。

「せいかーい!」

マーテルは頭の上に両手で大きく丸を作り、笑顔を見せた。

「……分かった。アスナとアリカに聞いてみるとしよう」

「うん!てるが先に聞くね」

「では任す」

……そして、2人はすぐ左隣の家へと一緒に行き、玄関でマーテルがアスナを呼んだ。

「ママ、ゼクトちゃんとも一緒にお昼食べたい!」

「……こう言っておるが良いか?」

マーテルが端的に言い、それはすぐにアスナに伝わった。

「はい、いいですよ。ちょうどこれから作る所だから、少し待っててね」

「やったー!てる嬉しい」

マーテルは両手を上げて喜びを表した。

「てるはゼクトさんの事好きねー」

玄関すぐの所でアスナはしゃがみ、マーテルの頭を撫でて言った。

「えへへー」

「それでは世話になる」

「いいえ、こちらこそ」

そして、2人はそのまま家にあがり、リビングに移動した。
アリカもゼクトが一緒に昼を食べる事を快く了承し、アリカとアスナは手分けして一緒に料理を始めた。
この日の昼食は卵で炒飯をふんわりとくるんだオムライスであった。
最後にケチャップをかけてできあがり、テーブルに4人分が並んだ。

「わー!オムライスだ!」

マーテルは嬉しそうな反応を見せる。

「マーテル、オムライスは好きか?」

アリカが尋ねる。

「好きだよー!ママとアリカちゃんが作ってくれるオムライスはもっと好き!」

その答えにアスナとアリカはにこにこして頷き「いただきます」をして食べ始めた。
ゼクトは軽快なスピードでスプーンを口に運んで行き、マーテルはよくかんでゆっくり食べていた。
すると食べ始めてすぐマーテルは横を見て注意した。

「ゼクトちゃん、よくかんで食べて!」

「む……済まぬ」

ゼクトはピタリとスプーンを止めて謝り、マーテルと同じくゆっくり食べ始めた。
それに思わずアスナとアリカは吹き出しかけたが、何とか堪え、アスナが質問をした。

「てる、今日は午前中何してたの?」

「ごぜんはねー、ひみつー」

「えー、てる、またそれー?」

アスナは呆れるように言った。

「しゅにんちゃんがね、女はひみつの1つや2つあったほうがいいヨって」

マーテルは堂々と答えた。

「あはは、それは超さん秘密だらけだものねー」

アスナは超鈴音なら当然だと苦笑した。

「やはり話してはくれぬのか、ゼクト」

アリカが今度はゼクトに尋ねた。

「アカネも、てるも幼いが口は堅い。ワシから約束は破らぬ」

スパっと切り捨ててゼクトは答えた。

「……それならそれで良い。アカネも未だにゼクトと遊んだ時の事で話さない事は絶対話さぬからな。それに引き替えアルビレオの事は全部話すのはどういう事か」

アリカはアルビレオの事を考え、ゼクトとの違いがどれほどか、と思った。

「アルさんはアカネをからかってばっかりだもんね」

アスナは苦笑して仕方ないとばかりに言った。

「アルちゃんふざけてるからなー」

マーテルもアスナに続き仕方ない、とばかりに言った。

「……アルビレオは仕事と真面目な話以外は大体そうじゃな」

「アカネ、アルさんがてるの事あんまりからかわないって文句言ってたけど、てるはいつもどうしてるの?」

「んー、ふつーだよ?」

マーテルは首を傾げた。

「てるは言葉ではっきり気持ちを言うが、アルにはそれがやりづらいのじゃろ」

ゼクトは食べながらあっさり答えを言った。

「あー、言われてみると。そうね」

納得したようにアスナはうなずいた。

「……しかし、はっきり気持ちを言えと言ってもアカネには無理じゃろうな」

「何だかんだアカネも楽しそうだし、私は今のままでも別にいいと思う」

「フ……そうかもしれぬな」

……そして、4人は軽く話もしながら食事を終えた所で、茶を飲んで一息ついた。
そこで、ゼクトが口を開いた。

「てるよ、午後も予定はあるのか?」

「もちろんあるよ!無いと思ったの?」

マーテルは侮ってもらっては困ると、抜かりない事に自信有りの様子で尋ねた。

「いや、確認しただけじゃ」

「じゃあ、ごごの予定をはっぴょうします!」

マーテルは右手をスッと垂直に掲げて宣誓のポーズを取った。

「では任す」

「……ゼクトちゃん、囲碁のあいてをしてください!」

そう言って、マーテルは突如ゼクトに頭を下げて丁寧にお願いをした。
その変わりように、アスナとアリカは相変わらずだなと思いながら微笑ましくその様子を見ていた。

「分かった。相手になろう」

「ゼクトちゃん!……ありがとウサギ!」

マーテルはゼクトの返答に顔を綻ばせ、両手を頭の上に乗せて、指だけペコリと曲げてウサギ感謝した。
……そして、2人は和室にて、本格的足付き碁盤で向かい合い、マーテルは黒石、ゼクトは白石で囲碁を始めた。
当然、初心者用の9路でもなければ、13路でもなく、19路盤。

「てるよ、エヴァンジェリンは強いな。ワシも勝てぬ」

そう言いながらゼクトは碁石を置く。

「うん。エヴァちゃんはとっても強いの。でも1週間に2回までしか相手はしないと約束されてるから、ゼクトちゃんと練習して強くなりたいです」

マーテルはゼクトの話を聞きながらも、目はしっかり碁盤を見据えたまま想いを正直に話した。

「そうか」

「エヴァちゃんはてるがちょーせんする度にどのくらい強くなっているか楽しんでるの。だからてるはがんばります」

そう言ってマーテルも碁石を置く。

「ふむ、いつかは勝ちたいか?」

「うん、やっぱり勝ちたい」

「ならば、精進あるのみじゃな」

ゼクトは更に碁石を置いた。

「しょーしんあるのみ!」

……それからというものしばらく2人は碁石をパチリパチリと打ち、囲碁を嗜んだ。

「……まいりましたー」

投了したのはマーテルであった。
ペコリと正座で一礼し、それに対しゼクトも挨拶をした。

「うむ、てるは確実に前より強くなっておるな」

「ホント!?」

その言葉を待っていたとばかりにマーテルは目を輝かせて聞き返した。

「本当じゃ。保証しよう」

「わー!ゼクトちゃんのおすみつき!明日エヴァちゃんに相手してもらう約束してあるから自信出る」

パチパチと拍手をしてマーテルは喜んだ。

「明日また挑戦か。ならば頑張ると良い」

急な話だとゼクトは思いながらもマーテルを応援する。

「うん!……もう一局してくれる?」

「良いぞ」

……そして、続けてもう一局するも、マーテルはまたしても負け、ゼクトに一手ずつ遡って貰いながら、もしこうだったらどうなるかというのを、時間をかけて行った。
あっと言う間に時間が過ぎていき、終わった頃には午後5時半となり、丁度そこへ、友達と寄り道して来たアカネも帰ってきた。

「あー!ゼクトちゃん、私も相手してほしい!」

ランドセルを降ろしたアカネが和室にやってきて言った。

「アカネ、もうそろそろ夕飯の時間じゃろう。囲碁はまた今度じゃ」

ゼクトは時間を考えて無理だと言った。

「えー!じゃあ次いつ遊べる?」

一瞬不満を述べたが、すぐに約束を取り付けようとアカネはゼクトに尋ねた。

「日曜は空いておるぞ。じゃがナギがその前日に帰ってくるのじゃったな」

「うーん……」

それに対し、アカネは悩み始めた。

「ふむ、もうすぐ夏休みじゃろう。その時考えれば良い」

「そうかも。それじゃ、また聞くね」

「分かった。てる、酷く眠そうじゃがワシは帰るぞ。またじゃ」

「……んー、ゼクトちゃん、今日はありがとー」

囲碁を終えて集中を切ってからというもの、マーテルはとても眠そうな表情をし始めていたが、そのままゼクトに感謝した。
ゼクトは「良く寝るのじゃぞ」と言って、アスナとアリカにも挨拶をし、玄関でアカネとマーテルに見送られてすぐ隣の自宅へと戻っていった。
そして、とうとう眠気に耐えられなくなったマーテルはリビングのソファに突っ伏し、スースーと寝息を立て始めた。
その様子を3人は微笑ましく見つつ、夕飯の支度をして、もう食べられるという状況になりアカネがマーテルを起こそうとしたところ、タイミング良くマーテルは目を開け「おなかすいたー」と声を上げたのだった。
そうこうして夕食を食べ終えたところで、アスナはマーテルの歯を磨き風呂を沸かし……と寝させる体勢に入り、アカネは小学校3年の算数と国語の宿題を片づけ、学習を推奨されている英語、ラテン語、梵字の3種の勉強もアリカに教わりながらきちんと行った。
お風呂に入り、パジャマに着替えた所で、マーテルは再び強烈な睡魔に襲われた。

「アリカちゃん……アカネちゃん……おやすみなさいー」

ウトウトしながら、アリカとアカネに挨拶をし、アスナに連れられて寝室はベッドへとついた。

「ママ……おやすみ。明日は……うんどーして遊ぶ……からー」

「はーい。てる、お休み。また明日ねー」

アスナは優しくマーテルのおでこを撫でて言った。

「うん、ママ大好きだよー……」

満足そうな表情でマーテルはそう言って、すぐに目を閉じて一瞬で眠りについた。

「……私も大好きよ、マーテル」

それを聞いたアスナは幸せそうな表情を浮かべ、マーテルの耳元で同じ事を呟いた。
……それがマーテルに聞こえたかどうかはともかく、マーテルの寝顔は確かに和らいだのだった。







―――――――――――――――――――――――――――――――

本話の恐怖(作者にとって)
・ネギ先生×アスナになっている事
・ネギ先生に妹がいること(別にいなくても良かったかもしれません)
・ネギ先生とアスナの結婚年齢が16歳と20歳(流石イギリス国籍役に立つ)
・よ○ばと!の臭いがする主人公で大丈夫か
・ありがとウサギ

想像する恐怖
・各原作キャラクターのリアル年齢(2014年度)

ネギ先生(22)
アスナ他超鈴音達3-A卒業生(26)
ナギ(37)
アリカ(41)(大戦期に3歳の差があり、ナギ失踪時で+1年という仮定で。多分見た目は変わってない筈)
近衛門(89)意外と若い(曾孫も見れそう)
葛葉刀子(39)(原作で2003年度で28歳だと仮定して)
ガンドルフィーニ先生の娘(17)第二世代中学生越えてました
弐集院先生の娘(16)(2003年度5歳だと仮定して)
高音・D・グッドマン(28歳)仮定上の葛葉先生と同じというカオス
クルト総督(41)
高畑先生(41+α)
福音殿(戸籍上38)エヴァンジェリンさんじゅうはっさい
3-A生徒の親たちは大体50代

本編でゲスト的出演をしていらっしゃるラブひなキャラクターの皆さんはもっと深刻です(葛葉先生の悩みどころの話ではありません、とっくに過ぎております)

青山素子(32)
瀬田記康(44)
浦島はるか(43)
青山鶴子(43)
浦島景太郎(35)結婚から9年
成瀬川なる(33)同上
乙姫むつみ(36)
前原しのぶ(29)
カオラ・スゥ(29)
紺野みつね(35)
サラ・マクドゥガル(24)
浦島可奈子(31)

個人的に素子さんが一番心配になりました。

以上、年齢を考えた際にリアルすぎて怖いと思った結果、できるだけ最速でネギ先生とアスナに結婚してもらいました(どういう経緯で結婚に至ったかは分かりません)。
これ以上遅いとどんどんカオス(主にアスナ達の年齢が)になり、そうでなくても学園ラブコメは影も形も本作は……すいません、最初からありませんでした。
アカネとマーテルの由来は前者はただの電波、マーテルはアマテルの前二文字をひっくり返して伸ばした結果です。
リアルシンフォニア的になっております。
マーテルが殆どの人を「ちゃん」付けで呼んでいるのは「お師匠は年寄りだけれど、見た目は子供だからゼクトおじいちゃんからおじいを引き算した」そういう結果です。
というより、お師匠ならまだしもそれ以外の人達を普通に呼ばせるのは、なんだか怖くて無理です。

以外と若々しいのは
・魔法総合研究所が開設10年目
・日本魔法学校が開設9年目
だと思います(本編アフターでまだ開設されていませんが)。



[27113] 未来2話 新参・古参
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/07/07 20:54
その夜、アルビレオは帰宅し、ゼクトに軽く戻った事を伝えた後、食事を取り、茶を飲んで一服していた。
自然な動作でノートパソコンを立ち上げ、軽く操作したところ、その画面には何やら番号と同じ名前、日時、そして暗号のような文字列が並ぶものが表れた。
その画面をスクロールして、徐々に下に下げながらアルビレオは意味深な微笑みを浮かべて眺める。
そこへゼクトが通りかかり一言。

「……またそのくだらぬ物を見ておるのか」

「くだらないと分かっていて見ているのですから良いのですよ」

互いに無表情で言葉が交わされる。

「それで良いなら構わぬがな」

「精霊殿もこの匿名掲示板、気に入っておられているようで、よく見ているそうですよ」

「……もうワシは何も言わんぞ」

ゼクトの目尻が自然に下がる。

「聞いているかもしれませんから、それが賢明でしょうね。……ゼクトこそ、またあの子を甘やかしていたのではないのですか?」

その視線は青い空と白い雲がどこまでも続く絵に向く。

「……からかうよりはマシじゃろう。必ず礼を返してくるのじゃから、一方的に甘やかしている訳でもない。聡明故、もう少し年を取れば善悪の判断もつく」

「良い言い訳ですね。私もお礼をして貰えれば、そう言うこともできそうです」

「アカネがアルにそのような事をするじゃろうか」

「それが一番の障害ですね」

「自分が原因じゃろう」

「……これは参りました、フフフ」

自嘲染みた笑いが響く。

「ワシは寝る」

そう言うと、アルビレオは「良い夢を」と一言、ゼクトは2階へと上がっていった。

「それでは続きを確認するとしましょうか……。本当にくだらないですが」

再びアルビレオはその視線を画面に移した。

830:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:18:37 ID:PBi/HN27
  エヴァ様こそが真のエターナルビューティー

831:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:19:08 ID:BnxLQysy
  諸君、約1時間前に流れた新CM、録画はしたか?

832:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:19:18 ID:JcdRDyCi
  勿論だ、抜かりはない

833:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:19:49 ID:0xAVL4dc
  当然ですな

834:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:20:39 ID:qxAlKam8
  クオリティぱねぇ

835:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:20:42 ID:e/fmAXtK
  目に焼き付けた!

836:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:20:54 ID:WY2scbkC
  ブレない安定感

837:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:21:23 ID:mXqDdczu
  もう何度も繰り返し見てるぜ

838:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:21:53 ID:gH7M6PHM
  既に俺得用に編集も完了した

839:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:22:06 ID:64bAdcAR
  >>838
  それは良い仕事だ
  詳細を聞かせてもらえるか

840:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:22:33 ID:I67dh8LK
  早ぇww

841:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:22:41 ID:pPDzmsSR
  仕事HAEEEEEwww

842:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:23:01 ID:WPxnI4lJ
  >>838
  詳細希望

843:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:23:08 ID:vnRcLnyd
  >>838
  何、既に同士がいただと
  聞かせてもらおうじゃないか

844:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:23:37 ID:OjWuaNfg
  ktkr

845:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:23:41 ID:mXqDdczu
  ドンと来い

846:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:24:16 ID:JDClDKP2
  wktk

847:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:24:19 ID:gH7M6PHM
  ならば解説しよう、訓練された住人達よ
  今回の新CM、アングルが絶妙であったのは周知の通りだが
  何と言ってもカメラGJと呼べるのは
  振り向き際の髪のたゆみ
  衰えることの無い安定した神聖な微笑み
  それを右下方から左上方へとアングルをスライドさせたあの作り
  自己主張が激しすぎないという点で、あのCMのみで完璧
  なぜなら、諸君の周知の通り、エヴァ様のCM映像監修担当は
  彼女だからだ
  安心できるというもの

848:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:24:25 ID:scJzZROn
  MA☆SA☆KA

849:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:24:29 ID:WyR6LkDd
  恒例の三次元か

850:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:25:05 ID:gH7M6PHM
  ……もう分かったと思うが、あの素晴らしい僅か1秒43のシーンを
  三次元映像技術の応用で存在しない映像部分を予想して映像補完
  自然な状態で無限ループするようにしつらえたのが俺得用映像
  携帯の待ち受け画面動画で無駄に電池を消耗しようと
  何ら構わない
  以上が解説だ
  無論、この映像は公認用うpロダに上げる

851:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:26:06 ID:iKFmxfH6
  神ktkr

852:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:26:09 ID:CfLUcvJv
  待ち受け動画キター!!

853:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:26:16 ID:WPxnI4lJ
  それは良いw

854:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:26:47 ID:gNB+HllY
  映像補完は熱いwww

855:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:26:56 ID:jIXt7Ju+
  >>838
  GJwww

856:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:27:11 ID:DzMcgbok
  待ち受け動画期待

857:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:27:39 ID:0kA4jM+L
  MW送電を生活圏内で受けられる俺の携帯に死角はない

858:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:28:31 ID:jCIspaMB
  >>857
  俺もだぜ

859:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:28:59 ID:t9SCBOPy
  出たな、麻帆良人、ずるい

860:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:29:19 ID:mXqDdczu
  それはずるい

861:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:29:48 ID:akB4ryds
  貴様らっ……特定してやるっ……!

862:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:29:54 ID:L4D6F4OX
  羨ましいぞ

863:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:30:08 ID:xO45mZp+
  学園都市の技術は太陽系いちぃぃぃ!!

864:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:31:30 ID:1E0iHOw3
  俺は携帯充電用器でがんばるしかないのかっ…

865:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:31:38 ID:qxAlKam8
  さっさと俺のところまで普及してくれ
  頼むよ超りん、ハカセちゃん!

866:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:32:17 ID:I67dh8LK
  彼女達無くしては我々の今の生活は無いな

867:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:32:43 ID:mXqDdczu
  超主任が公認コミュ内での活動を推進していなければと思うと
  空恐ろしいぜ
  勝手に上げると全部消されちゃうんだZE!

868:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:32:49 ID:PBi/HN27
  超りんと可愛く呼ぶのもそろそろ限界だと思ふ
  あの巡回プログラムを作った彼女はある意味鬼神

869:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:33:12 ID:scJzZROn
  今や貫禄ある素敵女性筆頭だから無理もない

870:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:33:25 ID:V1St6KFM
  そろそろエヴァ様に話を戻そう、諸君

871:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:33:29 ID:LMi3UZXe
  CMの感想
  最早監修の彼女は伝導師だと思う

872:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:33:33 ID:scmJFxXG
  揺るぎ無いな

873:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:35:45 ID:21PVX2vT
  我々の意見も取り入れた上で必ず昇華させてくる
  何の不満もないぜ

874:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:36:28 ID:e/fmAXtK
  エヴァ様ファンの間に性別差などありはしないというのが分かるな

875:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:36:35 ID:L/2TsWlW
  20年前からの最古参と自負する自分は感慨深さもひとしお

876:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:36:41 ID:akB4ryds
  まさに老若男女問わず

877:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:38:12 ID:L/2TsWlW
  気がついたら初老になっていたでござる

878:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:38:16 ID:MbojxlEO
  気がついたら還暦だが問題ない

879:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:38:25 ID:WY2scbkC
  気がついたら生まれていた、生命の神秘

880:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:38:40 ID:Lf6UqoSu
  気がついたら成人してたお

881:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:38:46 ID:JShnnGgq
  年齢の壁すら打ち砕く

882:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:39:11 ID:ENZ93Wxt
  敢えて何度でも言おう
  エヴァ様に死角はないと

883:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:39:38 ID:L2BSGjU3
  年齢調整も薬でおk
  間違いない

884:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:39:41 ID:k351XO6t
  誰も言ってないようだが商品は買ったか?
  俺は買った
  おっさんだがな
  もちろん店頭で雪広社員にきっちり面を拝ませたぞ

885:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:40:03 ID:Vnv8OV45
  あのフリルかわいいー

886:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:40:09 ID:L4D6F4OX
  >>884
  マジかwwww
  あの子供用をwww

887:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:40:48 ID:64bAdcAR
  >>884
  勇者ww

888:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:41:01 ID:HxQJ7aN7
  勇者すぐるwww

889:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:41:16 ID:0QdAItcU
  >>884
  ナカーマがいて安心した
  誰もいないかと思ったぜ
  やれやれ

890:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:41:38 ID:k351XO6t
  娘用ですと自信を思いこんでいればおっさんなら意外と問題ない

891:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:41:42 ID:I67dh8LK
  大変な自己催眠だなwww

892:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:42:30 ID:NXtT4XaH
  買っても空しくなるだろww

893:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:43:29 ID:7DcOBKbt
  訓練しすぎワロタww

894:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:43:34 ID:7KPJ+wJR
  老練……すぎるっ……

895:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:43:49 ID:akB4ryds
  慣れって怖いね

896:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:43:57 ID:gUtVC77v
  娘に買ってと言われた俺は問題ない

897:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:44:35 ID:iAK5hsuT
  それは正当派だなw

898:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:44:59 ID:0FbkdIWP
  >>896
  それなら問題ないな
  あと、あの帽子も良かったよな

899:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:45:19 ID:/CZnDVq3
  あれは流行る
  可愛い

900:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:45:20 ID:jTRYEym/
  完全にファッション用だけどな

901:名無しの訓練兵:2014/7/17(木)18:46:14 ID:7DcOBKbt
  だからこそともいえる

……アルビレオはその後もしばらく匿名掲示板を確認した後、公認サイトから複数の携帯待ち受け動画を流れるような動作でダウンロードし、そのまま自身のMW(マイクロウェーブ)受電可能携帯に入れ、気に入った物を設定したのだった。
そしてその後しばらく、フリルワンピースにサンダル、頭にちょこんと乗せるような形の帽子を被ったエヴァンジェリンの動画がその携帯で延々とループしていたという。

……その翌日、前の晩21時前には寝たマーテルはいつも通り起き、朝の支度を終えた後、家の前の開けた場所にアスナに見守られる形で出た。
マーテルは両手を前に出して声を出し始める。

「みぎてにーまりょく……ひだりてーに、き。ごーせい!」

―かんかんほー!!―

小さな右手と左手が合わさった瞬間、マーテルの体は光を帯びる。

「てる、かんかんほーじゃなくて咸卦法よ」

―咸卦法―

アスナは両手をあわせる事無く自然体でそのまま咸卦法を発動させた。

「かんか……ほう」

「そう、咸卦法」

マーテルは言われたとおり繰り返し、アスナもそれを肯定する。

「分かった!……それじゃー、てるが鬼をやるから、ママはにげて!」

「お、鬼ごっこなのね。いいわよ」

今いきなり鬼ごっこに決定し、アスナは少し驚く。

「うん!10まで数えたら、おいかけます。準備はいい?」

「いつでも良いわよー」

「行くよー。いーち、にー、さーん……」

マーテルは大きな声で両腕を前後と同時に振りながら数えはじめ、アスナは数え始めると同時に家の前の林の中に小走りで走っていった。

「はーち、きゅー……じゅう!ママはー……あっちか」

数え終わると同時に一瞬思案し、何かを感じ取ったのかマーテルは指さした方向に走り出した。
その体は咸卦法によって光り輝き、そして何より身体能力が急激に向上する為、5歳児とは思えない速度で林の中へとアスナを追いかけるように入っていった。
一方の逃げる側となったアスナは林の中の丁度良い場所で隠れていた。

「何故か私の位置がわかるから、かくれんぼはできないんだけど……鬼ごっこにしてはハードなのよね……簡単には捕まらないけど」

木の幹に寄りかかってそう呟くと……少し離れたところから声が聞こえた。

「ママー!!」

満面の笑みを浮かべマーテルは母を呼びながら両手を振ってかなりの速さで木と木の間をじぐざぐに縫ってやってくる。

「もー来たのね。よしっ」

アスナは木の幹から顔だけを覗かせ、一つ息を吐いて明後日の方向に走り出す。
すると、それに合わせてマーテルは左足を大きく右前方に踏み出し進路を即座に変更する。
アスナはマーテルより明らかに速く走り、その追随で捕獲される事無くそのまま突っ切り距離を再び引き離していく。

「ママはやーい!てるもー!」

距離を離され始めたマーテルは更に足の回転数を上げ、速度を増していく。
一定のペースで走っていたアスナはマーテルの足が更に速くなった事で自分も速度を上げ、林の外に出ないように左右いずれかに曲がる。
合わせてマーテルも、アスナが進む方向へと足を動かしそのまま追いかけっこを続ける。

「いつもどんどん速くなるんだから」

アスナはまだまだ余裕の表情で、マーテルは笑顔で走り続け、速度だけが徐々に増していく。
普通の鬼ごっこであれば、全力疾走に近い速度で走れば息切れを起こし、速度が遅くなる事があるが、咸卦法を使用している2人にしてみればそれは無く、徐々に速度が上がり続けていくのみ。
3分程経った所で、マーテルは自身の最高速度に達し、それ以上速くならなくなる。

「もう速くならないなー」

そういいながらも、マーテルの切り替えはとにかく機敏で、アスナが進路を変更する度に距離が一瞬詰まる。
……しばらくの間、林の中では母と娘が音を立てながら走り回るのが続いたという。
もし普通の子供であれば、母がずっと捕まらない場合、泣き出してしまう事もあるかもしれないが、マーテルの場合アスナの気持ちがある程度分かる為、終始マーテルは笑顔で「ママー!!」と名前を何度も呼びながら楽しそうに走っていた。
その声が聞こえる度にアスナは本当に元気ねと思いながら、呼ばれる事自体は嬉しく、そのまま走り続けたのであった。
20分が経とうかという時、アスナは頃合いと見てマーテルの方に逆に自ら近づくように走り出し、

「てるっ」  「ママっ!」

マーテルはそれを察知し母の胸へと飛び上がり抱きついた。
その衝撃をアスナは完全に殺して両腕で抱き止める。

「……やっぱりママははやいなー」

マーテルは感心したように至近距離で言い、当の本人は苦笑する。

「てるも速すぎよ。逃げるの大変」

アスナは片手でマーテルの頭を撫でていた所、

「……じゃあ、今度はてるが逃げる!」

思いついたようにマーテルが鬼を交代すると言い出し、アスナはそれを聞きながらその場にしゃがむ。

「いいわよ、でも、すーぐ捕まえてあげる」

「それはどうかなー」

自然にマーテルは地に足をつけ、望むところだという顔をする。

「じゃあ数えるわよ」

「うん!みぎてにまりょく、ひだりてに、き。ごーせい」

―かんかほー!!―

「1、2」

「逃げるー!!」

そして再び幼児は走り出す。

「8、9、10。よしっ」

数え終わった所で、アスナは娘が逃げた方向へと勢い良く走り出す。
速度差は歴然、アスナは一気に距離を詰めて行き、振り返らずに逃げるマーテルを早くも捕まえられるかという時、

―瞬動!!―

マーテルは勢い良く左に進路を切り替えて鬼の手を交わす。

「またそれっ」

―瞬動!!―

手につかめたのはただの空、アスナも負けじとそれに対応し距離を詰め再度手を伸ばす、しかし、マーテルはまたも瞬動を使い僅かにその手を逃れる。
……瞬動が使い合われ無駄に高度な鬼ごっことなり始めた。
アスナにとって厄介なのは、体が小さい為、確実に捕まえるには手を伸ばす際前傾姿勢を取る必要があり、更にマーテルはアスナが無意識に予想している方向とは違う方に逃げる為反応が僅かに遅れる事であった。
一番気をつけなければいけないのはエスカレートしすぎないようにする事であったが。
……それでも、アスナが少し本気を出した所、宣言通りマーテルはすぐに捕まえられた。

「もうつかまったー!」

抱き抱えあげられたマーテルは前を見たまま感想を言う。

「つーかまえーた。それにしても瞬動もうできるなんて……。ま、咸卦法の方が本当は難しいし今更ね」

アスナは軽くため息をついて言い、マーテルを地面に降ろす。

「てる、すごい?」

振り返りながら自慢げに尋ねる。

「すごいわよ。……でも私たち以外の前ではできるだけ使わないようにするのよ」

腰を下ろし、人差し指でマーテルの額を軽く小突きながらアスナは答える。

「まかされたー」

緩い敬礼のポーズを取りマーテルは意味を理解した。

「はーい、任せます」

その後も何度か追いかけっこを繰り返した所で、2人は一度家へ戻り、アリカと共に麻帆良の町へとこの日は繰り出す事にした。
……3人は広い道では手を繋いでもう慣れきった西洋風の町並みの中を仲良く歩き、空を見上げれば、低空には魔装警察飛空巡回部隊の者達が高機動箒を駆り市街を飛び交うのが見え、麻帆良湖を挟んだ先の方に聳える地上40階建て円柱形のビル、日本麻帆良国際飛空艇発着所には複数の飛空艇が着陸、離陸を決められたルートで行っているのが分かる。
少し早いものの昼も近いという事で、3人は四葉料理店に向かう事にした。
四葉料理店は昼頃に行ってもまず混んでいて並ぶだけで時間がかかるため、行くなら早めに行く方が良い。
目的の通りに着くと、四つ葉のクローバーを品良くしつらえられた看板が目に入り、もう間もなくであるというのが分かる。
店の入口に回り、店員に3名である事を伝え、席はどこがよいかという話になった時、アスナがある特徴的な短髪の人物の存在に気づいた。

「あれは……美空……ちゃん?」

「アスナの同級か」

「美空ちゃんいるのー?」

マーテルの身長ではその人物の姿が見えない。

「お客様どうされますか?4名席が空いておりますが……」

店員が3人の様子を見て微妙な表情をしつつも尋ねる。

「ああ、はい、あちらのカウンターでも良いですか?カウンター左端の席にいる人の隣で……」

「……承りました。ご案内します」

店員は一礼し、手で示し、3人を誘導し始める。
勝手にカウンターの席に頼んでしまった事にアスナはアリカとマーテルに確認をとったが、別に良いという返答を得て、そのまま席に到着した。

「美空ちゃん。久しぶり」

アスナは端末を操作してメニューを待っている人物に一言を掛けた。

「ほ?……おお、アスナ!久しぶり!それにネギ君のお母さんにてるちゃん。奇遇ー。ここ座るの?歓迎だけど」

彼女は振り向くと同時に一瞬驚いた顔をしたが、気さくに返答をした。
パンツタイプのスーツ姿、胸ポケットには魔法省の所属である事を示すバッジが付いている人物……春日美空。

「ありがと、そうさせて貰おうと思って」

「あの、お客様、もしよろしければ4名席の方にご案内する事もできますが……」

「ああ、それなら、それで、お願いします」

店員の申出により美空は軽くそれを了承し、アスナ達3人と4名席に移動した。
アリカとアスナは今日のランチメニューを頼み、マーテルはお子様ランチを頼んだ。
また、美空は先程頼んだばかりであった。

「美空ちゃんに直接合うのって久しぶりよね」

アスナは少々懐かしげに言う。

「久しぶりっても1年は経ってないけどねー。毎年会ってるんだし。私は超りんとかネギ君達には仕事の関係で結構会ってるしアスナが元気なのは知ってるよ。てるちゃんもねー」

美空は軽く笑い、マーテルの方に少し顔を近づけて言う。

「うん、げんきだよっ!」

マーテルはそれに対して笑顔で答える。

「おお、元気元気。いいね。しっかし、アスナに良く似てるなー」

美空は顎に手を当てしげしげとマーテルを見て言う。

「ママに似てる?」

「見た目は、かな」

「皆そういうわよね」

「容姿は良く似ている」

美空、アスナ、アリカが順に言う。

「そっかー、似てるかー」

分かっているのか、分かっていないのか、はっきりしない顔でマーテルはわざわざ腕を組み唸るように答えた。

「なんか、面白いなぁ」

美空も同じように腕を組み、マーテルを見て言った。

「てるが?」

「そうそう、てるちゃんが」

「なんで!?」

急にマーテルは語調を強め、テーブルに手をつけて斜め前の席に座る美空に尋ねた。

「そこ聞きたいの!?」

驚くように美空も声を上げた。

「聞きたいですっ!」

「……よーし、いいよ。なんで面白いか。答えは……他の人よりも個性的だから、かな」

美空は人差し指を立てて答えた。

「こせいてきだからかー。それは知らなかった。教えてくれてありがとウサギ、美空ちゃん」

マーテルは反芻するように言い、頭に両手を乗せてウサギ感謝した。

「どういたしまして。うん、やっぱ面白いよ」

「いつもこんな感じよ」

「そりゃ楽しそうだね」

アスナと美空は互いに笑い言葉を交わす。
しばらく談笑していた所、丁度そこへ、頼んだ料理が運ばれて来て、4人は昼食を取り始める。

「美空ちゃん最近仕事はどうなの?今年で魔法省勤続4年目だけど」

そこへアスナが尋ねる。

「慣れた……って言いたいけど、過労だから、過労に慣れちゃったから……もう何これ」

途端に美空は鬱々しい表情をして答えた。

「……大変そうね」

「いや、うん……大変だけどさ、超りん達よりはマシだわ。何あの人達。魔総研とか通路で突然普通に人が倒れて転がってるんだよ?やばいでしょ?何徹してるんだっての」

その後ちゃんとベッドに運ばれるけどさ、とやれやれと言う風に美空は声を漏らした。

「屍累々って事は聞いてるけど……美空ちゃんもそういう感想なのね……」

「誰が見てもあそこは魔窟だって言うわ。流石太陽系一の研究所だわー」

美空の目が更に遠くなる。

「太陽系一って冗談じゃないのが凄いわよね……」

「ホントホント。にしても、昔私は両親が魔法使いでいつも働いてばっかで面倒そうだなーって思ってたけど、いつの間にか同じ立場になってたとか洒落になってないわ」

「その割には美空ちゃん結構生き生きしてるわよね」

手をヒラヒラさせて答える美空にアスナはそう指摘した。

「あー何かさ、一つ仕事終える度に短距離走で良い記録出した時みたいな爽快感を感じるようになっちゃってさ。あれ……末期なのか……?」

美空は考え込むようにしてみせる。

「まぁ、良いことなんじゃないの?」

「うーん、考えたら負けスね。……それにしても久しぶりに時間あったから五月の料理直に食べに来たけどホント美味しいね。幸せすぎるわー」

「おいしい!」

「うん、流石さっちゃんよね」

「ああ、美味しいな」

「おっと」

そこへ、美空は丁度携帯の振動したのを感じ、ポケットからそれを取り出して確認した。

「げ!すーぐまた仕事戻らないと駄目だわ。ごめん、ちょっと急いで食べるから」

「気にしないでいいわよ」

そう言って美空は急いで残りを食べ始め、一気に皿を空にした。

「はやいなー。でも、よく噛んで食べて!」

マーテルは目を丸くして驚いたが、注意した。

「ごめんごめんー、許して。美空さん、時間がないんです」

片目を瞑って美空は謝り、慌ただしく出る準備を整え、自分の分の代金をテーブルに出した。

「じゃあ、アスナ、ネギ君のお母さん、てるちゃん、また今度」

「またねー!」

マーテルに続き、2人も美空に声をかけ、そのまま美空は手をヒラヒラさせて店から出て行った。
ガラス越しに美空が去るその姿が見えた。

―着装―

美空の右手から徐に高機動箒が出現し、そのまま片手で捕まったまま一定の高さまで上昇していき、勢いをつけてそのまま上体を振り上げて箒へと跨る。

―加速―

……美空はそのまま仕事へと向かっていった。
その姿はかつて学生時代の適当さ溢れるものとは対照的にバリバリのキャリアウーマンという表現が正しいと言えるものであった。
残った3人は落ち着いて昼食を取り、食べ終わった所で備え付けのメッセージカードを書いて店を後にした。
そのカードには宛先には四葉五月料理長、差出人には神楽坂明日菜と名前が書かれ内容は「娘、義母、それに偶然いた美空ちゃんと一緒に食べました。さっちゃん、今日の料理も美味しかったです。また今度皆で集まろうね」という物であった。
店を出た3人は夕飯の食材を買いに、店へと向った。
必要な物を言ってはマーテルが見つけた場合にはその度、商品を両手に抱えてカートの中へと持ってくるお手伝いをし、はぐれないようにその2人の保護者は気を配りながらも、マーテルには手の届かない所にあるものはそれぞれ手早くカートへと入れ、レジで精算を済ませた。
時刻も午後過ぎと丁度良い頃、マーテルは「エヴァちゃんと約束があるの」と言い、帰宅する事になった。
……そして、午後3時過ぎ、マーテルは約束通り家に電話が掛かってきた為、隣のエヴァンジェリン邸へと向かった。
家のインターホンを鳴らすとエヴァンジェリンの声が応対に出て、そのまま入るように言われてマーテルはそのまま中へとあがった。

「エヴァちゃん、おじゃまします」

マーテルはペコリと一礼し、それにエヴァンジェリンは軽く応対する。

「ああ、入れ」

そのまま引き連れられるようにマーテルはエヴァンジェリンの後をついて行き、和室へと向かう。

「茶々丸ちゃんはー?」

「魔総研で研究の手伝いだよ」

「またまそーけんかー」

先程も聞いた単語にマーテルは口をポケーッと開いて言う。

「さ、始めるか」

「うん!」

丁度和室に着いたところでエヴァンジェリンは碁盤を和室の中央に置き、マーテルが黒石、エヴァンジェリンが白石、置き石7つで始められた。

「まだ7つ?」

少し不満げにマーテルは言った。

「この前8つで漸く勝てたばかりだろうに」

「……分かりました」

「まあ、その年でこれだけ打てていれば寧ろ充分だよ。普通はルールも良く分からない子供の方が大半」

「がんばりますっ!」

そうして置き碁が始まり、互いに一手ずつ打っていき……結果と言えば、僅かにマーテルは目が少なく、負けとなった。
マーテルは「参りました」と頭をペコリと下げて言い、エヴァンジェリンもそれに対して返し、真面目に検討もやり終えた。

「しかし……相手をする度に強くなるというのは流石ぼーやの娘というべきか……末恐ろしいな」

唸るようにエヴァンジェリンが言う。

「怖いの?」

「そういう意味じゃない。成長に期待が持てるとそういう意味だ」

「良かったー」

「そうだ、丁度今日少し話しをして5歳用の服も貰ってきたんだが、着てみるか?」

「ホント!?」

マーテルはエヴァンジェリンの提案に目を輝かせて言う。

「ああ、隣の部屋に先に行っていろ。持ってくる」

そう返答して、マーテルは隣の部屋に行き、エヴァンジェリンは大きめの紙袋とを持ってきて現れ、その中から服を幾つか取り出してみせた。

「たまには私が誰かを着せ替えさせるのも悪くない。そのワンピース、脱いでこれに着替えてみろ」

一つを手にとり、マーテルに見せるようにして渡す。

「わー、かわいい!」

手にとって見たマーテルは嬉しそうな顔をして感想を言った。
言われた通り着ていたワンピースを脱ぎ、下は履くと丸みを帯びた半ズボン、上はフリルブラウスで、夏に合わせて涼やかな色合いをしたものであった。

「最後にこれを被れ」

「ぼうし?」

「そうだ、昨日からCMで流れるようになったものと同じ奴だよ」

エヴァンジェリンは最後の仕上げにミニハットに近い帽子をマーテルの頭に乗せ、2本の紐を結く。
その部屋には鏡がある為、マーテルは自分でその姿を確認した。

「お人形さんみたい!」

「そう言おうと思ってた所なんだが、その通りだな。まあ、着せ替える分にはこれでいいが……マーテルにこれからの時期合うのはこっちだろうな」

エヴァンジェリンは中々満足そうな表情をして、マーテルの着せ替えた姿を見て、新たに取り出したのは……。

「麦わらぼーしだ!」

「外で遊ぶならこっちの方が良いだろう」

「うん!」

つばの部分が広く取られた麦わら帽子を受け取ったマーテルは、被っていた帽子と取り替え、それを深く被った。

「ぴったり!なんで!?」

非常に被り心地が良い様子でマーテルは驚きの声を上げた。

「頭を触った時の……大体の勘だ。その服も着てそのまま帰っていいぞ」

エヴァンジェリンは一瞬だけ言葉に詰まって答えた。
サイズと言えば、服も同じことが言えたのだが……何故ピッタリだったのかというと……とても高い木に住む存在が知らせたのであった。

「おかねはー?」

口を開けたままマーテルは停止する。

「はは、要らないよ。私もただで貰ってきたしな。囲碁を頑張っている事のちょっとした褒美だと思えば良いさ」

「プレゼントかー。ありがとう、エヴァちゃん!」

目をキラキラさせてマーテルは礼を述べた。

「どういたしまして。でだ……まだ服は見ての通りある、全部着てもらうぞ?」

エヴァンジェリンは両手を組み、床に並べられているビニールカバーが掛かった子供服を一瞥し、面白そうに笑った。

「まかされたー!」

マーテルは右手をピッと真上に上げ、快く了承した。
その後しばらく、マーテルはエヴァンジェリンの着せ替え人形と化し、好き放題にコーディネートをされた。
エヴァンジェリンは着せ替え自体に満足し、そのままマーテルと共に隣の家に向い、服を渡す件について説明をした。
アスナはエヴァンジェリンに礼を言い、アカネは「羨ましいなー!」と言った所、エヴァンジェリンは「アカネの分もある」と言い、大層喜んだが、服自体はその日はそれまでとなった。
マーテルは貰った服を着たまま夕刻を過ごしたが、いつもと同じように寝る準備をして、パジャマに着替えた所で、幸せそうにベッドで眠りにこの日もついたのであった……。


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