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[26632] エセ高校生の横島【GS美神・逆行・ネタ】
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2013/06/15 22:45
*****
まえがき

未来で美神令子と結婚していた横島忠夫の意識と知識が逆行し高校1年生から開始です。
原作での時間の修正力も加味はしていますが、バタフライ効果も加味された平行世界分岐型のストーリーです。
バタフライ効果のひとつとしてヒロインはなぜか美神ひのめです。

魔改造横島物で、二次設定ベースやオリジナル色が多くでています。

色々とご指摘をいただいていますので、不定期掲載の予定です。

以上のような作品でよければ本文をお読みください。

*****

2011.3.21:初出



[26632] 第一部 ずれている世界 リポート1 さっそく除霊
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2013/06/10 21:05
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プロローグ
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やたらボロっちい四畳半の部屋で、横島は目覚めた。
なぜか見覚えはあるのだが、なかなか思い出せないでいると、頭の中に今日の日付がうかんできた。

「平成8年?」

平成19年に居たはずなのに理由はわからないが、この前、妻の令子を助けるために戻ってきたよりも1年前に魂か意識がもどってきたようだ。
色々と現在の身体の記憶や部屋の中の状況やカレンダーからみるとその通りなのだろう。


しかし、普通の時間移動は封じているはずだから文珠の暴走か?
それとも、ひさしぶりに発見された宇宙の卵につっこまれたとか、っというのは神魔族が管理しているからそれは、最近の動向ではないだろう。
今度はどんな事件にまきこまれたのだろうか。
また、ヒャクメが見つけてくれるまで、様子をみるしかないか。


現在の体は、高校生の物で、こういうタイプの時には、人生のやりなおしになる?
おいまてよ。


少し時間がたっておちついたあと、改めて考える。
こうやってひさしぶりに一人でいると、令子との結婚は確かに幸せだったな。
しかし、色々と犠牲にしてきたものもある。
これが繰り返されるなら、俺の人生って赤字の繰り返しだよな。

幸い今日は日曜日で考える時間はある。
そういえば、この時点では本気かどうかわからなかったことがあったよな。
しかし、アパートの一人ぐらしで両親からの仕送りが、本当に最低限しか送ってこなかった時には、あせったことを思いだしていた。



生活のためにアルバイトをどうするかを考えるのもあるが、現時点で自分の霊能力がどれくらいあるかの確認をする。
部屋の中で色々とためしてみたが、簡単にいえば霊力だけなら中堅GS程度といったところか。
魂ごと過去へ、とんできたわけではなさそうだ。
多分だが、意識か知識だけもしくは両方が何らかの理由で、過去にさかのぼったのであろう。
もし、予想通りならば、元の世界に戻れないことが考えられる。

「なんでやー」

って、昔ならなげいていたのだろうが、過去への移動は3回あるし、各種異空間に入り込んだのは何回あるのやら。
ようするになれてしまったのであろう。
しかも、今の俺ならば、アシュタロスとの件というよりも、ルシオラの件があるので1年の猶予は助かる。



自分の最大の霊能力である文珠を生成できないのはいたいが、2日に1個程度しか生成できていなかったので、切り札的にしか使用はしていなかったからな。
今は霊的成長期にいるので、あと1年あれば前回の時よりは力はついているだろうが、力だけでは、あのアシュタロスを倒したりすることはできない。
可能ならばアシュタロスの希望通りに滅ぼしてやるのがよいのだろう。しかし、前回を踏襲できるであろうか。
しかも、意図してきたわけではないので、ルシオラに関しては複雑な思いがある。
前回と同じようにしたい分もあるが、それだと彼女の思いにたいして失礼にあたるのではないかと。

いきなり難しいことを考えるのはやめ。
霊能力自身についてはだいたいわかったが、霊能力に比較して身体能力が明らかに足りないのは、この部屋の中だけでもわかる。
ここで当面生活するにしても、まずは基礎訓練からのやりなおしか。



この前の毒蜘蛛の件で、令子を助けるために時間移動をして改めてわかったことがある。
大きな事件は、それをさけても、相当する事件が必ず発生する。
しかし個人的なことは、簡単にかわってしまうことだ。
妻の令子は1回目に打った解毒剤の量が、俺と個人差のためか未来にもどっても毒性の中毒のままであった。
俺はあの事件で傷をおったのと、過去に解毒剤をうったことにより戻った時点では、毒についての問題は発生していなかった。
これが時間の復元力なのだろう。
高校2年生の時は、ものすごく色々な事件があったり、何回も高校2年生をしていたような気はするが、細かいことの記憶はあやふやになっている。

色々と世話になったおキヌちゃんをたすけて、生き返らせてあげたい。
しかし、死津喪比女の起こした霊障から考えると早めに手を打つと、時間の復元力により別な霊障が東京を襲うだろう。
それは俺の持っている知識のアドバンテージが生かせなくなる。難しいところだ。



今おこなった霊能力の確認での霊体痛は、考えなくても良いだろう。
肉体的キャパシティは、現状でも充分霊力の出力に対して適応しているようだ。
潜在能力だけならあの両親から血を受け継いだ俺だと、あらためて思わされたが今は無理だな。


この時期にGSの道をすすむとなると、一番の安全策は令子と一緒にいることだが、まだ事務所は開かれていないはず。
そうすると今の令子が研修をうけているはずの、唐巣神父のところか。
その他の候補となると冥子ちゃんのところだが、この当時の冥子ちゃんは、まだ冥子ちゃんのぷっつんってなおっていなかったよな。却下だ。
たしか冥子ちゃんのぷっつんが目立たなくなったのはアシュタロス事件……公式には核ハイジャック事件だったよな。
原因はよくわからないが、あのときの霊障で思うところがあったのだろう。



朝起きて、午後になったが、日曜日なのは幸いだし距離的にも比較的近いこともあることから、唐巣神父の教会に向かう。
立て直す前ってこんなにボロだった、っかな? この教会。
そんな失礼なことを考えながら、教会のドアをノックする。

中からでてきたのは、亜麻色の髪の女性だ
しかし、俺がこの前、過去へ戻った時にみて知っている若い令子よりも、若干やわらかい感じの女性がでてきた。

「はじめまして。横島忠夫と申します。唐巣神父はいらっしゃいますか」

「ええ。今いますがどのようなご用事ですか?」

「GS助手を希望していまして、その……アルバイトとしてやとっていただけないかとお願いをしたくて……」

目前の女性には、令子ほどに一緒にいたいと感じはしないが、霊波が非常に似ている。
前回の10年前に時間移動の時には、思わず我を忘れるぐらいに若い令子に興味をひかれたのに、この違いはなんだろうか。
目前の女性はちょっと考えてから、

「ええ、まずは中にお入り下さい」

「ありがとうございます」

教会の中に通されたら唐巣神父ともう一人の亜麻色の髪の女性がいる。
あれはまさしく令子だ。
思わず近寄りたい衝動に耐えながら、もう一人の亜麻色の髪の女性が俺のことを唐巣神父に伝えているようだ。
その唐巣神父がちかよってきて、

「私が唐巣です。君が横島君ですか? GS助手を希望とのことですが除霊の経験はありますか?」

「いえ、ありません」

今朝意識をしただけだから、この身体では実際におこなっていないので正直に言う。

「除霊というのは大変危険な行為だよ。君はそのことを認識しているのかね?」

唐巣神父は、俺に対して説得をしようとしているのだろう。

「正確には認識していないかもしれませんが、先週の日曜日、夢枕に菅原道真公が現れましてそれによって俺には霊能力があることと、その能力について語ってくれました。その夢の後に、この霊能力にめざめました。それで、この1週間練習をつんでいます」

そう言って、右手と左手にそれぞれ手のひらより少し大きめな、サイキックソーサーを作成する。

唐巣神父が軽く「ほぉ」という言葉をつむぎだす。



唐巣神父はその霊能力によって作り出された過程と、それによって横島の発生させる身体全体の霊力が変化していないことをみていた。
まだ充分に霊的な余力がありそうだと判断する。
これだけの霊能力でも充分にGS試験は突破できるであろう。
ましてや若くて、いまだ霊的成長期にありそうな前途有望そうな少年を育ててみたい気はする。
しかしながら唐巣神父から語られる言葉は、自己の思いとは別な方向に向かった。

「たしかにそれだけの霊能力を埋もれさすのは惜しい。しかしながらね、今いるここの二人の面倒を見ているのと、この後もう一人くるのでそれが精一杯でね」

「そうですか。よろしければ、目の前のお二人の女性のお名前だけでも聞かせてもらっていただいてもよろしいですか」

「……名前ぐらいなら良いでしょう。最初にドアであったのは美神ひのめ君。そしてそちらにいるのが美神令子君です」

えっ、ひのめちゃん? 俺の知っている過去と違う平行世界に移動したのか。
そうすると原因にかかわらず、元に戻るのは難しいぞ。
そうは、いってもあまり考えるのもまずい。

「……あらためて挨拶させていただきます。横島忠夫です」

令子からはそれぐらいの霊能力は何よ、っといった感じを受けるが、意識がとんだ前の義理の妹にあたった、ひのめちゃんからはうらやましそうな視線を感じる。
しかし、ひのめちゃんは発火能力者としての才能を発揮していないのだろうか?

「私があずかるのはこの二人。いや、さらにもう一人増える予定で手一杯なのだよ。私のところで、GS助手というのはあきらめてくれないだろうか」

「うーん」

この時代に他のきちんとしたGSを知らないな。
この時点から未来になれば知り合いは増えていくが、現在の住所と同じかというと自信は無い。
そんな悩みをみてとったのか、唐巣神父からある提案を受ける。

「GS助手をめざすならば、GS協会に行ってみて、GS助手の募集が無いか確認してみてはどうかな?」

思ってもいなかった発想だ。
たしかにGS協会で、GS助手の紹介していたこともあったなと思い出す。
自分ではつかったことがなかっただけに、すっかり忘れていた。

「唐巣神父ありがとうございます。GS協会にいってみます。あと縁があったら、美神令子さん、美神ひのめさんもよろしくお願いしますね」

ひのめちゃんはともかく、令子とは何か縁があるはずだ。
二人の反応はそれぞれ異なるが、極一般的な範囲をでてはいなかった。

早速GS協会にむかってみる。
GS協会では簡単な書類を書いて、GS助手の募集をみてみる。
この時期にGS助手をだしているのは、かけだしの新人か、何らかの都合でGS助手がいなくなった場合だ。

俺はその中で六道女学院とは関係が無く、比較的若手のGS院雅良子(いんがりょうこ)というGS助手募集にたいして紹介依頼をお願いしてみた。



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第一部 ずれている世界 リポート1 さっそく除霊
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今日にでも面会という話だったのと、遠くはないので院雅除霊事務所へ直接向かうことにする。
ついた院雅除霊事務所では、面会でおこなったのは巫女姿の女性だ。
これは幸先がよさそうだ。

「貴方が横島忠夫君ね」

「はい、横島忠夫です。貴女が院雅良子さんですか」

「そうよ。GS助手といってもそんなに難しいことをさせる気はなかったのだけど、横島君は霊能力があるそうね」

「ええ」

そう言って両手にサイキックソーサーを展開する。

「充分ね。将来GSを目指すならともかく3年以内ぐらいなら、GS助手としてアルバイトは歓迎よ」

3年とは微妙な数字だな。
高校卒業までを目指すという意味なら、普通の高校1年生にとっては卒業までの期間なので魅力的な提案であろう。
しかし、俺の目標は、来年の夏休み明けごろにおこるであろうアシュタロスの事件だ。
その前には、現在の令子とそれなりの信頼関係を築き上げておきたい。
そんなためらった感じを、勘違いしたのであろうか院雅良子は、

「別に3年とはきまっていないわよ。まずは貴方が実戦でどれくらい使えるか、しりたいわね。時給とか危険手当については……今日は単発の契約として、今後のことは今日の結果をみてからお話しましょう」

「えっ? 今日ですか?」

「あら、聞いていなかったのかしら。GS協会も怠慢ね……このことは聞かなかったことにしてね」

「ええ」

「一緒に行うGS助手が、ケガで霊的中枢(チャクラ)にダメージを残してしまったので困っていたのよね。他のGSを頼むと金額的に高くなりすぎるし、そういうところでも困っていたところなのよ」

高校生の肉体でありながら俺の主観では、若い女性でもあり断れない内容なわけで思わず、

「それでOKっす」

っと言いかけるが、どんな霊障を今日行うかということを聞く。
聞いた結果は、内容的にはそれほどには高度で無さそうだ。
自分ひとりでもサイキックソーサーさえあれば多分大丈夫だろう。
しかし、肉体の動きについて、さすがに自信は無い。
GS助手なのに助っ人というのはおかしな話だが、GS助手として臨時契約を結んで、早速今日の除霊を行う場所に向かった。


院雅除霊事務所所長 院雅良子もとい院雅さんの事務所で目を通させてもらった資料によると、今回の仕事のターゲットは、

『自殺者の怨霊で霊力レベルはC。特定のオフィスである部屋からでないのでオフィスの外に損害はなし。説得は不可能であるが特殊な点はナシ。通常除霊処置で成仏可能と判断される』

書類にはそのように書いてあったが院雅さんの話によると、

「今回の怨霊は浮遊霊から霊力を吸い取る能力があったのよ。そのために現状の推定霊力レベルはBになっているのよ」

「ますますその怨霊の霊力レベルがあがっていきませんか?」

「そのあたりは他の浮遊霊が入れないように結界札を貼ってきたからあと2,3日は大丈夫よ」

このあたりはさすがにプロだな。
事務所から目的地までは、タクシーで移動する。
そういえば、令子のところで働いた初期は、私鉄とかの移動も多かったな、っと思い出すが、その後は自家用車での移動が多かったので、タクシーは滅多につかわなかったな。
まあ自家用車は事務所の必要経費ということにしてあったのを知ったのは、随分たってからだったが。

タクシーに持ち込むものは以外と少ないのか?
梓弓(あずさゆみ)と桶胴太鼓に何種類かの道具と札だ。
これを運ぶのが俺の役割のひとつだ。
令子のところで若いときに働いていたのに比べたら非常に少ない。

有名どころな道具や札はもう何回もつかっているので、見慣れない梓弓(あずさゆみ)と桶胴太鼓の説明を受ける。

「この小さめの太鼓は桶胴太鼓といってこれをたたくと音と一緒に霊波がのらせて相手に届くのよ。それで怨霊をあらかじめ用意しておいた結界にとじこめるのに使っているのよ」

おキヌちゃんのネクロマンサーの笛は直接説得や浄化させていたが、このような方法もあるのか。
おキヌちゃんは、相手があやつっていたキョンシーをあやつったりしたり、相手の意思に働きかけるなんてこともしていたな。

「こちらが私のメインの武器になる梓弓(あずさゆみ)よ。これも弓をはじくと音がでてそれに霊波をのせるというのは同じだけど、桶胴太鼓よりは霊波をのせにくいのよ。けれどもこの矢で結界に閉じ込めた怨霊へ最後に止めをさすのが私の除霊スタイルよ」

世の中には色々な方法があるのだな。

「そういえば神通棍はどうするんですか?」

「そ……それはね。切り札ね」

「神通棍が切り札?」

「私が得意とするのは中距離から遠距離なの。近距離まで迫られるような強力な怨霊から……一時的撤退をして作戦をたてなおすのに使っているわよ」

最後の方は、言葉が少し弱まっているのは気にかかる。
しかし命あってなんぼだしな。
自分たちより魔力や妖力が強い魔族や妖怪を相手にするのに、戦術的撤退なんてしょっちゅうあったしな。

「へーい。了解しました。それで今回の俺の役割は?」

タクシーの中で説明を受けるが、初めての仕事だし役割としては仕方が無いか。



目的地のビルへタクシーでつくと、いつもの通り領収書をもらって降りる。
院雅除霊事務所で話した雰囲気やタクシーの中で聞いてくる内容を加味すると、この横島という少年にはまだ隠し事がありそうね。

最初に霊能力に目覚めたのが、菅原道真公が夢枕にたったその朝に霊能力が発現した?
それはまだしも1週間もたたないうちに、世界でトップ10に入る唐巣神父のところへGS助手として売り込みにいくかしら。
素人なら、よくは知らないはずのそれぞれの札や神通棍についても知っていた感じがするし。
もしかして、もぐりで除霊でもしていたのかしら?
この仕事で彼を見極められるかしらね。



二人の思惑はそれぞれ異なるが、除霊でゆだんは禁物。
各自ターゲットの怨霊に対して事前にたてた作戦の通りにすすむ。
前回は霊力レベルがCの怨霊ということで、梓弓(あずさゆみ)のみを持ってきていたが、今回は桶胴太鼓で、怨霊を結界内の隅の方へおいこんでいく。
そこを横島が彼女の前で、結界札を持ちながらすすんでいくというものだ。

横島としては、サイキックソーサーの方が確実なのはわかっているので、ちょっとなさけない。
除霊をしたことが無いことになっているのだから、院雅からみたら俺の初仕事である。
実際この肉体では、除霊の初仕事になるわけだが。
サイキックソーサーが実戦で使用できるかどうか不明というリスクを、おいたくないのは理解ができてしまう。

院雅さんが桶胴太鼓を使用して、怨霊を隅においつめていったところで、横島は結界札を院雅さんから指示された6箇所に張っていく。
これで怨霊が移動できる範囲は、5m四方程度まで小さくなった。

「院雅さん、結界札は全部貼り終わりました」

6枚目の結界札を貼り終わったところで声をかける。

「じゃあ、ラストね」

院雅さんが梓弓(あずさゆみ)で矢を放つ。
矢に霊力がのっているのはわかるが、その時の弦の音にもしっかりと霊波がのっている。
2重攻撃になるのかな。
結界の中の怨霊はあばれていて結界がミシミシと鳴っているので

「この結界もちますか?」

「あと2,3本矢がさされば成仏するから、それまでもてば大丈夫よ」

「そうすか」

「それよりも話かけるならあとにしてね」

「へーい」

話かけるなということは、この結界そんなに長時間はもたないということか。
邪魔しちゃ悪いな。

院雅さんがさらに梓弓(あずさゆみ)で矢を2本さしたが、まだ怨霊の霊力が半減した程度にしか見えない。
霊力レベルBの怨霊といってもマイト数に換算したら範囲が広いからな。
とどめの一発のつもりなのか、最後の矢にはこれまでよりも大きな霊力がこもっているのがわかる。
もしかしたら今までのは、怨霊の霊力を見ながら矢にこめる霊力を調整していたのか。
それだったらたいしたものだ。そしてその矢を放ったら、

スカッ

怨霊が避けやがった。
それとともに結界をやぶって出てくる。

院雅さんも対応しようと梓弓(あずさゆみ)から神通棍へきりかえようとしているが、襲ってくる怨霊の行動が早くて間に合いそうに無い。
俺は院雅さんの斜め後ろにいる。
この身体では間に割り込めるほど早くないし、こちらにむかってきたときの為の吸引札を投げてあてるのはこの身体では訓練していないから今は無理だ。
俺は近くにいる院雅さんに飛びつきつつ、サイキックソーサーを、ノーモーションの意思だけでコントロールして飛ばす。
体勢を立て直す必要があるかと思ったら、それだけで怨霊は消えたのを感じた。

「院雅さん、怨霊消えちゃいましたね」

「えっ? 今のが消えるわけ無いのに!」

ちょうど院雅さんから見えていないのは確認している。
霊感が強いならサイキックソーサーで、怨霊に止めをさしたのがわかるだろう。

「ちょっとどけてくれるかしら。まわりを確認しないと」

折角、院雅さんの身体のぬくもりをもう少し楽しみたかったので、身体を預けたまま言う。

「俺のサイキックソーサーをぶつけたら消滅しました。これも院雅さんが弱めていたからだと思います」

そう言いながらも思わず胸のあたりをスリスリするが、胸の感触はあまり無い。
これはサラシをまいているか、それとも別な何か?

『こんちくしょー』

「それでもいいから、まずはどいて」

胸の感触が楽しめないなら、あまり駄々をこねるのは得策ではない。

一応、一緒にまわりの確認をしたが怨霊らしい気配は残っていない。
やはり無事に成仏してくれたようだな。



彼のサイキックソーサーと、私の最大霊力を込めた梓弓(あずさゆみ)の矢が同じ強さだというの?
しかも今回特にこわがっていた様子も無いし、最後のあの判断だけど普通ならサイキックソーサーのかわりに吸引札が正解のはず。
しかし、サイキックソーサーをきちんと使いこなしているということは、それなりの場数を踏んでいるわね。

こうして横島は院雅から目をつけられるが、それはセクハラ方面ではなかった。
これが良い方向に転ぶのか悪い方向に転ぶのか、いまだ横島にはわからない。



院雅除霊事務所にもどって、今日の臨時アルバイト分を先にもらえることになった。
元はレベルCで除霊助手の仕事なのに約束の金額より多少多めに入っている。

「あれ? 約束していた金額より多いんですけど」

「最後は助けられた格好になったからよ。本当なら吸引札を使うところだけど、吸引札は高いから判断ミスを除いても、その分を上乗せしといたのよ。嫌かしら?」

ブンブンと首を横にふりながら

「いえ、ありがたくいただいておきます」

「それで、貴方GS助手として合格よ。本当ならもう少しテストとかしてからきめるのだけど、今日の様子を見る限り私の除霊スタイルとあっていそうよ。次回は明日きてもらうので良いかしら?」

「明日ですか? ええ大丈夫です。ちなみに明日も仕事ですか?」

「いえ、明日は除霊の仕事はないけれど、アルバイトとはいえ正式なGS助手としての雇用契約を結んでおきたいのよ。契約書を事前にわたしておくから、目をとおしておいてね。わからない部分があったら明日その場で説明してあげるわよ」



私の見立てが正しいのなら、彼は除霊になれているわね。
あとはモグリでGSをおこなっていなかったのなら、どうやって場数を踏んだかよね。
どうも女好きなようだし、そこをうまくすれば良いように使えるかしら。

横島の性癖はすっかりばれているようだった。


*****
院雅良子(いんがりょうこ)はオリキャラですが、最終巻で200年後にインガ・リョウコとでてきていますので、ビジュアル的にはそれと同じとみてください。
院雅良子は巫女姿ということで、神道の道具として梓弓(あずさゆみ)と桶胴太鼓をチョイスしました。
梓弓(あずさゆみ)と桶胴太鼓は、少なくとも霊能力発現の為の道具としては原作にでてきていません。

2011.03.21:初出



[26632] リポート2 霊力・妖力・魔力のつどい
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2013/09/04 21:55
「横島クン。頭に巻いていた、白いバンダナはどうしたの?」

学校につくなり、同じクラスの少女から聞かれた。
そういえば美神除霊事務所の正式社員になってからは、つけなくなっていたので、つけてくるのを忘れていたな。

「ああ、やっぱり。バンダナを巻くのを、やめるようにしておくことにしたんだ」

「その方がいいと思うわ。あれ似合わなかったもん」

あれ? 以前と学校での反応が違うな。
それとも入学して、まだ日数もたっていない人間が多いからだろうか。
以前ならこれだけでも、

「どっかの覗きで落としたの?」

「学校をやめる前兆か?」

「これから下着ドロするための準備かも?」

とか散々言われていただけあって、今回の反応は新鮮だ。その影には中学時代からの生徒もいるわけで、

「単純に忘れたのを、ごまかしただけだろう」

中学時代にも、同じようなことを言って、翌日にはバンダナをつけているのを目撃していた中学時代からの級友の言葉は、横島には聞こえていなかった。



教室に入ると騒ぎがおきていた。旧い机のまわりを皆が囲んでいるのだが、その旧い机にクラスメートが飲み込まれたという。俺は五角形のサイキックソーサーを五枚だして机の周りに配置し簡易的な結界を形成する。見覚えのある机だから、これは『愛子』だろう。愛子なら、この程度の結界でも抜けられないはずだ。



ひのめちゃんは大きくなっているし、今度は1年早くこの学校に机妖怪の愛子がきている。愛子の対策はわかっている。しかし、誰か大人が必要だ。クラス担任の先生がきているので、GSの助手をおこなっていることを言って、至急GS協会に机妖怪のことを調べてもらうよう、問い合わせてもらう。

「GSの助手なら、そのGSに頼むのが筋じゃないのか?」

「俺は正確にいうならば、まだGSの助手ではなくて今日、契約する予定なんです。それに学校関係の机妖怪っていうのは、特殊だという噂を聞いたことがあります。机妖怪のことがくわしくわかるGSを、GS協会から協力を依頼されてくるGSが望ましいでしょう」

「なんか横島に言われていると思うと、納得いかないというか」

「時間がもったいないので、早めにお願いします」

簡単に先生はでていったが以前、令子が愛子から皆を救いだしたときのことだ。あとでGS協会出版の妖怪事典を読んで、GS美神令子が救出したと、愛子が生徒を吸い込んで数時間後に吐き出したことは、各事件の時期毎に書かれていた。今回はそれを逆手にとって、誰が愛子を説得するかがわかるだろう。言ってしまえばカンニングだが、今の俺と令子との接点って1回限りだからな。GS協会も先に気をきかせて派遣してくれれば良いのに、と思ったが、あのときは外で何月何日だったかを皆に聞かれていなかったからな。唐巣神父ならこういう時にでも無償でおこなってくれそうだが、もし間違っていたら個人レベルでの歴史の修正が、あちこちの時期でおこりそうだ。ただでさえこの世界は、以前の俺がいたときとずれているのに、これ以上ずれると判断が難しくなっていく。



しばらくまっていると教室にきたのは、予想外にも院雅さんだった。しかもスーツ姿だ。

「院雅さん、どうしてここへ?」

「横島君ちょうどいいわ。現場にいるはずだと校長から聞いていたけれどね。GS協会から机妖怪退治の依頼があって、資料を送ってもらったのよ。そうしたらGS院雅良子と、その助手の横島忠夫が最後に入ってきて、机妖怪の愛子を説得して、無事に皆を戻したということになっているのよ」

もしかして愛子がここにいたり、院雅さんがここにきたのは俺のせいか? 一部で「横島のくせにあんな美人と」という声は、無視をしておこう。

そして俺と院雅さんは、愛子に飲み込まれるように入っていったが、あの舌に触られる感触って、なんともいえない感じがする。愛子の中に入ったところで、直接授業中の空間にでた。あれ? 最初は愛子だけだと思っていたのに。まわりでは、

「先生!!」「うおおーっ」「先生――っ」

という声で生徒たちが、院雅さんの元に集まってくる。

「これで授業ができますわっ!! 学級委員長としてクラスを代表して歓迎しますっ!! しかし学生ばかりでは学園生活はおくれない!! しかたがなくホームルームを続けてきましたが……私たちはいつの日か教師が現れることを待ち望んでいたのです!!」

愛子が目をキラキラさせながら語っている。そんな愛子につきあうかのように院雅さんが、

「はーい。それじゃ授業を始めます!! 皆さん席について――!!」

俺はすぐに説得を開始するものだと思ったのだが違うようだ。ノートにメモをし、その部分をちぎって院雅さんが横を通るときに渡した。院雅さんから戻ってきたメモには2時間目と書いてある。その2時間目では、

「今週は春の幽霊注意週間です。本来なら警察から人を派遣してもらうのですが、GS免許をもっている私が代わりにおこないます」

そういえばオカルトGメンができる前は幽霊注意週間に警察がきていたな、っと思い出す。

「さてここは妖怪がつくった特殊な場です。そのための対処方法を皆様に考えてみてもらいましょう」

「先生!! ここから出ようと皆で考え続けたけど、その結果はでてきませんでした」

「高松君だったかしら。貴方達は出ることばかりを考えて、妖怪が誰だか考えたことはあるのかしら?」

「……」

「そうね。たとえ考えてわかったとしても、この中では対処方法はないわね。それで正解よ」

「先生!!」

「けど、外にでられた時は、GSやGS協会を頼りにしてね。それで妖怪を探したり外にでるための実習を、体育館で行うから皆さん着替えてきてね」

「いえ、体育着もないんですが」

「あら。そうしたらそのままの格好でも良いので体育館へ行きましょう」

なぜ愛子は体操着の用意をしていなかったんだ。女子高生の着替えを覗くチャンスなのに。愛子の方は、とみると見破られない自信があるのか素直に体育館に向かう。

「皆さん集まりましたね。神楽舞の一種で巫女神楽という儀式をおこないます。この神楽舞自身にも祈祷による場所を清める効果がありますが、この巫女神楽に私の持っている桶胴太鼓を使ってこの場を霊的に浄化する能力を上乗せします」

この説明を聞いてもピンときていないのか愛子は平静に見える。院雅さんが実際に巫女神楽を舞いながら桶胴太鼓を叩いていくと、この場に満ちていた妖気がみるみると浄化されていくのがわかる。昨日の除霊も、これを使えば楽勝だったのじゃないかと思うのだが。そんな思いをもっていると、愛子がうずくまっているのを何人かの生徒は気がついたようだ。それとともに、まわりの生徒達も、ある程度は正気に戻りつつあるのか、

「僕たちは何を…?」

「先生、ここはどこです!?」

そんな中、巫女神楽を舞いながら院雅さんが近寄っていくと、愛子が白状する。

「私が妖怪です。ただ……ただちょっと青春を味わってみたくて……ごめんなさい~!? しょせん妖怪がそんなもの味わえるわけないのに…!?」

その愛子の白状とともに、院雅さんが動きを止める。そして高松が愛子にむかって、

「愛子クン、君は考え違いをしているよ」

「え…」

「君が今味わっているもの――それが青春なのさ」

涙を流しながら語るものでも無いだろうと思うのは、俺がもう歳をくった証拠か?

「青春とは、夢を追い、夢に傷つき、そして終わったとき、それが夢だったと気づくもの……その涙が青春の証さ」

「高松クン」

「操られていたとはいえ、君との学園生活は楽しかったよ」

「みんな…!? みんな私を許してくれるの……!?」

「みんなクラスメートじゃないか」

「あ…あ…ごめんなさい…!! ごめんなさい…!! 私…私…」

「先生、これでいいんですよねっ!? 僕たちは間違ってませんよね!?」

「そうよ。間違っていないわ。元の世界に戻ったらGS院雅良子とGS助手横島忠夫が、愛子を保護するって伝えておいてね」

こうしてこの空間の中で就業のチャイムが鳴り響き俺たちは自分の元の教室にもどった。そこでは愛子が、

「すみませんでした。ほかのみなさんにも元いた時代の学校に戻っていただきました」

「反省しているようだし、このまま机として、この学校においてあげられないかしら」

「……生徒にはなれなくても、せめて備品として授業を聞いていたいんですう……」

ちょっとした沈黙のあとに、校長と担任の先生が、

「我々はみなこーゆー生徒を夢みて教師になったんだ――っ!! なのに今日びは可愛げのないガキばっかり!!」

「妖怪でもかまわんっ!! 君は我々の生徒だ――ッ!!」

たしかに、この学校には問題児が多かったしな。俺を含めて……それにこの学校の先生ってこういう先生が多かったよな。外と中の時間差があるのか、すでに放課後になっていたのですぐに院雅除霊事務所に向かうかと思ったが、

「それでは、請求書をおくりますのでよろしくお願いしますね。校長先生」

それはにっこりと、笑みをあげている院雅さんがいた。院雅除霊事務所に向かうタクシーの中で、素直に今日の巫女神楽と桶胴太鼓による浄化能力はすごいことを伝えたが、返答はそっけないもの。

「あれは妖怪の体内の中という一見広大に見えるけれど、実際の元の空間では机1つ分の空間しか無いのよ。だからこそあそこまで効果的だったのよ」

「それじゃ、昨日みたいなところで同じ除霊をしたら?」

「私の巫女神楽じゃ、昨日のところは無理よ。効き目があるとしたら、神社とか雑音が少ない田舎かしら」

「うーん。そうなんですか」

「それからあの机妖怪には捕らえられた本人たちが訴えはしていないけれど、前科になるから1年ぐらいの保護観察が必要よ。危険は、なさそうだから当面横島君が面倒みなさいよ。横島君が言わなければ、あの場で除霊するつもりだったのだから」

それは、愛子の中へ入る前に、

「この机の妖怪は危険じゃない感じですよ。何かあったら俺がなんとかします」

なんてことを、そう言えば軽く口走っていたな。

「きちんとした保護観察を行えるのはGS助手ではなくてGS免許(仮)を持つGS見習いからだから、今度の初夏のGS試験がんばってね。それじゃなきゃ、私も学校なんてずっと、よってられないしあの机妖怪の気がかわったとか、でてきたら問題になるから、きちんとした保護はできないわよ」

この横島君ってこういう特殊な除霊にも馴れているわね。さてどうしようかしら、結構楽しみね。



GS試験は来年受けるつもりだったのに、あっさりと俺の予定はくつがえされた。GS試験を受けるためには、GSの下で修行する必要は必ずしも無いのだが、弱みをつくってしまったな。俺は愛子を見捨てるつもりはない。このまま年に2回あるうちの初夏のGS試験をうけないといけないのか。

ちなみに俺は、結界として愛子を囲っていたサイキックソーサーの陣についても質問された。これも一応は菅原道真公のせいにしておいたけど、その時は納得していたようだったな。

サイキックソーサーは通常六角形だが、それは通常その形が一番なりやすいからだ。それをコントロールして五角形にする。あとは五箇所に並べれば、簡易的な結界陣を作成できる。ただし、やりすぎたことがあった。各サイキックソーサーの色を微妙に変化させたことだ。

これは、陰陽五行の五色の竜にかかわる。土行である黄竜の黄色、金行である白竜の白色、水行である黒竜の黒色、木行である青竜の青色、火行である赤竜の赤色。元々は地上に現れることができる上級魔族対策としての、文珠での結界陣を検討していた。ある程度の範囲なら、訓練によって自分の霊波調を変化させられることもわかった。これは、対アシュタロス戦での同期合体のアイディアからのパクリだな。霊波のコントロールは、この身体では完全では無いが、今は序々にならし始めている。これが完全になれば、一般的な除霊は問題ないはずだが、令子と一緒だとたまに1日7,8件とかあったからな。

院雅除霊事務所では、契約内容は特に不満もなかった。それにエンゲージの神様とかいうのも、とりついていないようだったから素直に契約をした。アルバイトなので、いつでもやめられるのだが、別に机妖怪の愛子の保護についての一文が例外としてのせられてしまったしな。



そしてその翌日に転入生がはいってきた。なにやら意識が逆行してきてから毎日何かがある。転入生の名はピエトロ・ド・ブラドー。まあバンパイア・ハーフのピートだ。

ブラドー島の件は無いのか? 一体全体どうなっているんだ?

ピートが転入生として入ってきたが、ピアノ妖怪はあらわれなかった。タイガーがいないからだろうか。ならば、タイガーが来たときには要注意だな。

それとピートに、

「そういえばピートって霊波が普通の人間と違うっぽいけれど、何かのハーフなのかな? GSの保護対象になっているのかい?」

「普通GSの方でも気がつきづらいのに、わかってしまいましたか。僕はバンパイア・ハーフなので、GSの保護対象にならなくても大丈夫なんですよ」

うん。正体をしっているだけだからな。

「バンパイア・ハーフなら、軽くみても100歳は超えているだろうに、なんで今さら高校なんかにきているんだ?」

「ICPO超常犯罪科で働きたいと思っているんですが、高校卒である必要があるので……」

「ふーん。そうすると、わざわざ日本にきているってことは、誰かGSに師事もしているのかなー」

「ええ。唐巣GSのところに、ごやっかいになっています」

「あの唐巣神父のところか。できたら、GSのトップクラスである唐巣神父の持っている書物を読ませてもらえないか、聞いてみてくれないかな?」

「それぐらいなら、唐巣神父も良いと言ってくれると思いますよ」

「じゃあ、善は急げということで、今日寄らせてもらってもいいかな?」

「今日ならいると思いますから、頼んでみますよ」

「ありがとう、ピート」

ピートと話していると周りの女生徒は、

「バンパイア・ハーフだって」

「なんで横島くんと話しているの」

「ピートにだったら咬まれてみたい」

「あらためてみたらキュッとしまったおしりがステキ」

なんて言っている。

一応は、唐巣神父の教会に入れるようになった。別に令子に未練があるわけじゃないぞ。なんか色々話しているうちに、吸血鬼のブラドー伯爵の件は、前回のメンバーから俺とおキヌちゃんがいない状態で行ったらしい。俺ってあのときは手伝いどころか、仲間の足をひっぱていたからな。

そして、この世界で大きな違いはアシュ財団という存在だ。アシュって、アシュタロスの省略ともとれるし、芦財閥とはまた違うしな。この財団は、魔族を保護する財団として存在していることだ。彼らにも独特のルールがあり、襲われたとしても絶対に魔族に手伝わせないことらしい。ただし、一緒に存在するというよりは、魔界にもどってもらうというのが主な目的なようだ。そういう意味では普通のカルト集団とは異なるらしい。

さて、唐巣神父の教会で一番の目的は、ここに残っている蔵書だ。令子が最初に独立したときの事務所や唐巣神父の教会はそれぞれ壊れたが、そのとき無くなった蔵書に貴重品が大量にあるときいていた。月曜から木曜は、唐巣神父の教会で蔵書を読み漁りにきているのさ。

あとは、いつも本を読んでいるわけでもなく、ボーっと令子たちの訓練を見学していることもある。令子とはつかずはなれずで、今のところはいる。と言いたいが、煩悩を制御できずにあたってはくだけている。そうであっても、今は他のGSの助手だからか、多少は手加減されているような気はするが、霊体を鍛えるのに本当にいいんだよな。けっしてMじゃないぞ。

ひのめちゃんは同じ高校1年生で、六道女学院に入学しているのまではわかっているが、令子よりひのめちゃんが可愛らしいな。彼女らは母親の話にふれていないので、隠れているのであろうか?

ひのめちゃんは発火能力者らしいが、それを嫌っている気配がする。典型的な現代的なスタイルである神通棍や、破魔札などで除霊をしたいらしいな。破魔札はうまくつかえるみたいだが一枚あたりは高いから、唐巣神父のところでは50円の破魔札で練習しているようだ。破魔札を使うということは接近戦が必要なのだが、運動音痴とはいわないが平均的な高校一年生ぐらいの動きにしか見えない。せめて六道女学院霊能科高校1年生並みぐらいの動きは、ほしいところだろう。彼女もそれがわかっているのか、俺が最初サイキックソーサーをだした時に、うらやましげにみてたのであろうな。体外の霊力操作ということで10歳のひのめちゃんに教えていたことを、こちらのひのめちゃんにも、ちょっとばかりアドバイスをしてみたら吸収力が早い。しかし、令子が横島クンから教えられた技なんて不要とばかりに禁止されちゃったけどな。

それと、こっちの令子とひのめちゃんは、まるで同じ魂のようなほど霊波がよく似ているな。霊波は必ずしも一定じゃないから、10歳と15歳で変わることはあるが、ここまで似るとは思わなかった。



金曜日の夕刻から日曜の夜までは、院雅除霊事務所に行っている。これは彼女がアイテムを自作してそれを販売しているので、無理をして稼ぐ必要が無いのも大きいのだろう。
院雅さんは暇さえあれば、結界札を作成している。神社の娘で、そのために神道系のGSにすすんだそうだ。しかし攻撃系の札は作成することができないので、購入するそうだが梓弓の矢は自作だそうだ。実家の神社の神木の剪定(せんてい)で、でたあまりから矢は作るそうだ。

男の影は感じない。まあ、あまり家庭的な女性とも感じはしないしな。事務所では店屋物とか外食ばかりだし。

仕事量は金土日の3日間で2~4件程度だ。週の1件が俺用に用意された仕事のようで、院雅さんは後ろからついてきて、俺の除霊の仕方を見ている。何かミスでもあったら指摘されるが、今のところは少しずつ霊能力が開花しているように見せているので、

「いきなり、そんなのを実戦で試すな!!」

と叱られるぐらいだろうか。残りは彼女のGS助手として、結界札で彼女の前衛として彼女をまもっている。机妖怪の愛子を保護しているということで、少しレベルの高い仕事もきているようだが、そういうのは断っている。だいたい受ける仕事は霊力レベルCからレベルDのもので、新人GSより少し上ぐらいものが中心のようだ。安全確実だけど、少しスリルを味わいたいといったところなのだろうか。

今はここで仕事をすることによって、霊能力と身体の動きをならしているところだ。イメージと身体の動きが、ほぼ一致しはじめてきている。

今度の初夏のGS試験はメドーサも関係しないだろうし、運が悪くなければ無事に試験を通過してGS免許(仮)を取得できるだろうと思っていたんだよな。

GS試験前日まではだけどね。


*****
横島が私立高校なのは『4巻リポート9教室漂流』に書かれているのと、私立なので愛子とかピートのことも色々と融通がきくのでしょう。
愛子の事件って、やっぱりどっかに残っていても不思議ではないので、このあたりはオリ解釈です。

2011.03.22:初出



[26632] リポート3 誰が為に鐘は鳴る(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2013/09/04 21:54
今度の初夏のGS試験はメドーサも関係しないだろうし、運が悪くなければ無事通過してGS免許(仮)を取得できるだろうと思っていた。

GS試験前日までは、だけどね。



いつものように唐巣神父の教会で蔵書を読みふけっていると、妙だがなぜか懐かしい感じの霊波を感じてくる。書庫からでていくと、そこには小竜姫さまがいた。

「俺は横島。あいかわらずお美しい。ずっと前から愛していました」

「私に無礼を働くと……仏罰が下りますので注意してくださいねっ」

そう言いつつ神剣をふるってくる。すっかり忘れていた。手をにぎるぐらいはいつものスキンシップ程度だと思っていたのだが、最初にあったころの小竜姫さまってこんな感じだったよな。俺も余裕は無くその神剣をさけたが、髪の毛が少し飛ばされた。



ふと小竜姫が『あら、手加減していたとはいえ、私の刀をよけた。人間の中にも面白い者がいるものですね』と思ったが、今は、別な話できていたので、そこまで深く関心はもたなかった。



「横島クン、彼女は小竜姫さまと言って神様なのだよ。その、セクハラはやめてくれないかね」

唐巣神父の髪の毛も少し飛んだようだが気にしないで置こう。どうせ10年後はあれだし。

「私だけでなくて、小竜気さまにまで手を出すの」

「それって、俺への愛の告白ですか!! そうですよね!! 間違いないですね!!」

あっ、令子にまた神通棍でセッカンをうけていた。それを無視するかのようにまわりで話はすすもうとしている。

「それで、そこの横島さんというのは、この教会の方ですか?」

「いいえ、他のGSの助手です」

俺がすっかり復活して答える様子に、小竜姫さまも驚いているようだ。

「この人、本当に人間ですか?」

「ええ。多分」

そこでしっかり人間だとみとめてくださいよ。唐巣神父。

「聞かれても?」

「ええ。問題ない信用と実力はあるでしょう」

うん? 唐巣神父の前で、最初以外に霊能力をみせたことは無いはずだけどな。たしかに、令子にはどつかれて、すぐに復活するところはよく見られているが。

「このピートくんと同じくらいの実力はあるようです。精神的なレベルを考えたら……ピートくんをこの席から外したほうがよいかもしれません」

そっちからもれていたか。そういえば、ピートもGS試験受けるんだよな。けれど、精神レベルを唐巣神父に心配されているのかよ。ピートはかわいそうに蚊帳の外だ。

「これから話すことを周りに言わないと守れますか?」

何か聞かなければいけない悪い予感がする。

「聞くのはかまいませんが……俺の所属している除霊事務所の所長に、許可をとらせてもらってもよいですか?」

小竜姫さまが唐巣神父に目配せをしている。小竜姫さまにこんな芸当もできるんだ。

「机妖怪の愛子クンだったかな。それを保護している人物ですから、詳細さえ伝わらないようにすれば問題ないでしょう」

「じゃあ、電話をかけさせてもらいますね」

院雅除霊事務所に電話をかけると、院雅さんがでてきたので、

「妙神山の小竜姫さまと言う神様が、唐巣神父のところに来ていましてこれから話をすることを周りに言わないと守れるか、と言ってきてるんですよ。どうしましょうか?」

「あら。妙神山の神様に、恩を売れるなんてなかなか無いことよ。私に詳細を伝えてとは言わないけれど、事が終わったらあらすじでも教えてもらえるかしら」

返事は即答でした。院雅さんも即物的だな。まあ、ぶっちゃけ、一部をふせて小竜姫さまに伝えたが、

「そうですね。事後で、それぐらいは問題ないでしょう」

「へーい」

小竜姫さまが話を始める。

「唐巣さんに、GS資格試験へもぐりこんでほしいのです」

「えっ? もぐりこむ!?」

「魔族の動きがつかめたのですよ。狙いは、どうやらGS業界をコントロールすることらしいのです」

そこへ先に少しは聞いていたのか、唐巣神父からフォローに入る。

「魔族といっても、どの魔族かはっきりしないのですが、GSと魔族が裏で手を組んだらどう思うかね?」

「マフィアと警察が手を組むようなものですよね」

「情報では、とりあえず息のかかった人間に資格をとらせるようです。でもそれが誰なのかはわかりません」

うーん。やっぱりメドーサなのかな。魔族や親族って寿命が長い分、長期計画をたてるよな。ただ、以前より1年早いんだよな。

「唐巣さんには、受験生の中に怪しい人物がいないか見定めてもらいます。美神ひのめさんは実際に戦いながら、可能な限り上位に入ってください。それと横島さんは、ピートさんと同じくらいの実力ということは、GS試験にでるんですよね?」

「ええ」

「美神令子さんは外部の調査を、お願いします」

「そうよ。多分優秀な奴の中に魔族と手を組むものがいるはずですわ」

何か神様が話しをもってきたから、今回の魔族が悪い相手だときめつけているような気がする。

「えーと、その魔族の動きというのですが、その魔族は具体的に人間へ対して、何か悪いことをしそうなタイプだという情報でもあるのですか?」

唐巣神父は気がついたのか、フォローを入れてくれる。

「小竜姫さま。現在の人界では、現在進行中の具体的害ありと認める霊的存在に対して攻撃を行うのですよ。なので、その魔族が人界に対して害をもたらすという証拠がないと、たとえ、魔族の手下となっていたとしても単純には手がだせないのです」

ピシッ と小竜姫さまが固まってしまった。やや、しばらくして、小竜姫さまが復活すると唐巣神父が、

「単純に魔族と手を結んでいるからといって、GS試験を不合格にさせるというのは難しいですね」

「もう少し、その情報をあつめないと難しそうですね」

「ええ。その通りです」

その話を聞きながら俺は、前回は心眼を授かったが、今回はそういうわけでもない。条件をだしてみるか。

「相手が人界に対して害をもたらす魔族の息がかかったもので、優秀というならば、何か武器になるようなものはいただけないでしょうか?」

「えっ?」

小竜姫さまが呆けたように答える。これは、何も準備していなかったな。バンダナにかわる物も、今はもっていないし無理か。

「無理なら気にしないでください。なんとかします。」

「わたしも全力をつくします」

へえ、ひのめちゃんが積極的だ。



小竜姫さまは唐巣神父の教会の帰り道「私って役立たずなのかしら」っと、どこかの神族の調査官が言いそうな言葉をそっとつむいでいた。



翌日のある都内のホテルでの一室。

「いよいよですね。私の愛弟子たちが一人でも多く合格すること祈っていますよ」

「ご心配なく。行ってまいります……! メドーサさま」

「気が向いたら応援に行くかもしれません。――昔なじみにあいさつもしたいのでね…!」

一人の男がでていったあと、

「さて、この茶番につきあってもらえるかしらね……小竜姫」



入り口には『ゴーストスイーパー資格取得試験 一次試験会場』と大きくはられている。
今年の受験者予定数は1852名で合格枠は32名で、1次審査の霊力で128名まで、まずは絞られる。
そんな会場にきていたが、普段は朝に弱い院雅さんがなぜかついてきていた。

「1次審査からくるって、なんか院雅さんらしくないんですけど」

「横島君。普段どのような目で私をみているのかしら」

口は災いの元。覆水盆に返らず。

「いえいえ、これはもう俺を愛しているとしか――」

「そんなわけないでしょう」

簡単に一蹴されてしまう。美人だし中々色気もある。ただし隙があるような無いような感じなのだけど、何かしようとしてもさらりとかわされてしまう。令子とのスキンシップだけじゃものたりない。ただいま、煩悩絶賛たまりまくりだ。

俺は普段の通りにジージャンとジーパンできている。院雅さんは除霊ならば巫女姿だが、そうでなければ大概はスーツを着ている。

「本物の神様というのは見たことがなくてね。見れるときにみておこうかなって思ってよ」

ちょっと言いわけがましいが、いくら神様が出歩いているといっても、普段は見分けがつかないしな。ヒャクメみたいに目立つ神様もいるのだが、コスプレだと思ってそれでおわりかも知れない。

ひのめちゃんは、今回六道女学院から唯一出場する生徒らしい。あのそばにいるのは六道夫人か?

GSの3割は六道女学院の卒業生だが、実際にGS試験にでてくるのが多いのは高校三年生の初冬になってからの試験にでるのが多いらしい。その次に多いのは卒業後らしいが、だいたい霊的成長期が終わることが多い20歳までには諦めるように指導しているらしい。
六道女学院に在学しているうちに初夏のGS試験にでてくるのはよっぽどの実力者ということだ。たしかにピートの能力には見劣りするが、それって札をつかっているときだけだからな。こうやってみるとやはりひのめちゃんは、少なくとも六道女学院ではトップクラスなんだな。

そう思っていたら、いきなりピートにだきつかれた。院雅さんが、少々引き気味だ。そういえば初めて顔をあわせるんだっけ?

「少しは離れろ、ピート。俺の築いてきたさわやかなイメージが台無しだろう」

「何言っているのよ」

つっこんできたのは令子だった。

「いえ、故郷の期待背負っているのでプレッシャーが。それに横島さんならセクハラの汚名はつかないし」

こいつ計算づくか。しかし、

「まわりの声をきけよ。ピート」

ちょっと離れたところで女性からは、

「何? 彼氏じゃない? 美形ってホラ、そのケが…」

それを聞いて俺は、

「俺にそのケはないぞ。ピート」

ピートがちょっと青ざめて離れていったが自業自得だな。まあ、ピートは2試合ぐらいならなんとでもなるだろう。3試合目以降はあの恥ずかしい親父、ブラドー伯爵のことをふっきれらるか、どうかだろうな。なんとなく覚えている以前の記憶を頼りにそう結論づける。それはそうとして、

「俺が所属している除霊事務所所長の院雅良子さんです」

院雅さんが挨拶のかわりに会釈をしおわったところで、

「こちらの方が唐巣神父です。院雅さん」

「私の助手が、しょっちゅうお邪魔しているようで」

「いえいえ、彼がいるとなかなかにぎやかになりましてね」

それって俺と令子のドタバタのことを言っているのか。それはともかく、

「唐巣神父。準備はしなくていいのですか?」

このあと、試験を受けるのなら変装する時間が必要だろう。

「いや、あまりに情報不足でね。多分、2試合は通過されてしまうだろう。それぐらいなら後処理の方でね」

この件について話はしていないので、院雅さんはビジネスライクに聞き流しているが多少は興味深げそうだ。

「それに前途ある若者の邪魔になるかもしれないからね」

なんとなく、唐巣神父らしい考え方だ。

「小竜姫さまには?」

「小竜姫さまもわかってくださったよ」

髪の毛が風にのって飛んでいったのは見なかったことに。

「そろそろ、君たち受験生は会場に向かったほうがよいのじゃないかな」

「うっす」

ピートと一緒に向かう途中ひのめちゃんとも一緒になった。

「ひのめちゃんと一緒にいた人って、もしかして六道女学院の理事長?」

「よくわかりましたね。そうですよ。GS受験の時に受験生がいると、いつもついてくるんだそうです」

そうだったかな? 元の時では、GS試験会場あたりに近寄らなかったし、近寄ったのっておキヌちゃんがGS試験を受けたときだけ。おキヌちゃんは唐巣神父がGS協会会長になってからの改革で、特別推薦枠が入れるようになってからだもんな。そういえばタイガーも同じだったか。まあ、あの夫人のことは気にしても仕方が無い。それよりも冥子ちゃんがぷっつんした時に、十二神将をおさえてもらいたいな。

1次試験会場に向かってみると、前回は気にするほどの余裕もなかったが、女性の割合は多い。確かに純粋な霊能力だけなら女性の方が霊力は強くなる傾向にあるって以前、令子が言ってたしな。1次試験の霊力審査は番号札が9番。これって今回の試験は苦しむってことか。そんなのは迷信だろうが、GS界ってこういうところで縁起担ぎするのもいるからな。

霊力の審査は、周りの様子をみながら霊力を適当に上げていく。ここで一生懸命霊力をだして、ばててもしかたがないからな。無事に審査を通ったが、まあここまでは特に心配することも無いだろう。ひのめちゃんもピートも無事に通過している。それよりも驚いたのは院雅さんが、

「お弁当作ってきたから一緒に食べない?」

「おともさせていただきます」

条件反射で言ってしまった。昼は2次会場までの間の適当な店で昼食をとろうと思っていたから、気分的にはラッキーだ。ちょっと大きめなかばんをもっていると思ったら、桶胴太鼓じゃなくてお弁当か。
院雅さんの食事って始めて食べるが、おにぎりと玉子焼きとかミニトマトにから揚げとかと、ちょっとしたピクニック気分のお弁当だ。

「うん。美味しいっす」

「無理してほめなくても良いのよ」

「いや、味加減が絶妙にバランスとれていて、とってもおいしいですよ。もしかして院雅さんって関西方面の出身ですか?」

「あら。よくわかったわね」

「関東にきてからこの味は自宅以外で食べた覚えは無いけれど、大阪に住んでいたときには外食でもこの味に近かったですからね」

「横島君って、大阪出身だったわね」

「ええ。それに母が大阪出身ですから」

「ふーん。そうなの。ところで緊張しているようにみえないけれど、この調子なら今日は大丈夫そうね」

「えっ?」

「やっぱり助手の調子ぐらいは知っておきたいのよね」

「うー、そうですか」

今の肉体年齢よりも10年以上は長生きしているつもりだが、やはり女性にはかなわないか。



黒地に白龍の刺繍を胸につけた道着をつけた二人。

「どう、雪之丞? あたしたちの敵になりそうなのはいた?」

「まあな。女とバンパイアハーフ。あと実力を隠していそうなので、男が一人と女三人だな」

「思ったよりレベルが高いわね」

「だが、いずれにせよ主席合格は俺たち白龍会がいただく!」

「女性には興味はないけれど、その実力を隠している男っていうのに興味があるわね」

「ゴーストスイーパーのエース! おいしい…! おいしすぎるぜっ!!」

「ほっぺにごはんつぶついているわよ、雪之丞」

話がかみあっていそうで、かみあっていない二人だった。


*****
ここの小竜姫さまは、今はちょっとなさけないかもしれません。
原作でGS試験を受けたのは初夏らしいので、5月下旬ということにしています。

2011.03.23:初出



[26632] リポート4 誰が為に鐘は鳴る(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/13 19:14
GS試験初日の夜。
唐巣神父の教会で慰められている少年が一人。
それは金髪の美形でなく青いジージャンとジーパン姿の横島。

「今日のことは気にすること無いですよ」

「この横島、一生の不覚なんだ。ひのめちゃん」

「そこまで落ち込むこともないですよ」

「ピート。自分がそうじゃなかったからって、そんなこと言えるんや」


発端は二次試験第一試合4番コート。
相手は、オーソドックスな大陸の導師風の格好をしたソロバンを武器にしてる奴だった。
試合開始の合図とともに、その場でソロバンを使って占いを始めやがった。
普通、対戦前にやっておくものだろう!!
思わずあっけにとられてしまって隙ができていたというか、ほおけていたんだな。

「計算完了――!! 私の計算では君は2分40秒で敗北するッ!! 私の計算は完璧ィィィ――ッ!!」

そんな声にハッと我に返ったら相手が目の前に来ていたので、思わずカウンター気味だが霊力はほとんどこもっていなかったパンチを見舞っていた。
そこまではいい。
こんな霊力のこもってもいないパンチにも、打たれ弱いのかこちらに倒れかかってきたので、男を支える趣味なんかない俺はさけようとした。
ところが足元に相手が先に落としたらしいソロバンがあって、それにひっかかって倒れてしまったところに相手が倒れこんできて……

思い出したくねぇぇ!!
文珠があれば『忘』の文字でも入れて記憶を消したいところだ。

「そんな、たまたま、男同士で、口を合わせただけじゃないですか」

なんか、そういうのを逆にうれしそうに話しているような気がするぞ。ひのめちゃん。
俺にうらみでもあるのか。手はだしていないはずだぞ!!

「そんなわけで口直しに令子、お願いします――ッ!!」

「何回言っても呼び捨てか――!!」

服はきたままだが、ル○ンダイブを令子にかましたら、いつものように撃沈された。
それでも不憫に思ったのか、普段よりは霊力がこもっていなかったな。当社比0.92倍だけど。



他方、その横島の試合を見ていた男たちの中で、

「あら、うらやましい。私もあの手をつかおうかしら」

「それはやめておけ、勘九郎。変態GSっていうことで、依頼人がこなくなる」

「雪之丞のいけずぅ」

「お前といっしょにいるのが嫌になってくる」

「そんな友だちがいの無いこと言わないのよ」

そんなやりとりがあったとか、なかったとか。



そんなわけで俺は試合の後に、院雅さんからのひとことは、

「ご愁傷様」

と言われて所長に逃げられるし、落ち込みっぱなしで怪しい選手を探すどころか、次の相手となる試合も見ていなかった。
そしてこの唐巣神父の教会でのやりとりにも、まともに参加していない。
令子にぼこられて逆にようやく精神的にも復活したところで、

「ほう、ニキ家からひさびさにGS試験にでてくるのですね。もしかしたら魔族がGS業界をコントロールすることらしいという情報は、この動きのせいかもしれませんね」

「ニキ家って懐かしい名前ですね。」

「ニキ家って何ですか?」

以前には聞いたことの無い情報だ。

「漢数字の二と、鬼と書いて二の鬼で、二鬼(ニキ)と呼ぶのだよ。二鬼家では鬼を扱うので、現代では魔族として分類されて情報が流れたのかもしれないね」

「式神もベースが鬼であることがありますよね? 二鬼家は違うのですか?」

「式神の鬼と二鬼家の鬼の大きな違いは、調伏させて使役するのが式神で、調伏もしないで自己の霊力だけや契約でコントロールするのが二鬼家の鬼だね」

「それなら、フラウロスも一緒のようなものじゃありませんか?」

「西洋の悪魔に対抗する人間に仕える悪魔フラウロスのことだね」

「ええ、たしか、そうでしたよね」

「どちらかというと、二鬼家の鬼は前鬼や後鬼に近いね。ただ、鬼との関係が式神というよりは悪魔使いに近いというところが大きな違いだけどね」

ふえー。魔装術よりリスクが高そうな気がする。

「だから、二鬼家は平安時代からつらなっている名門と呼ばれているが、GSや昔なら陰陽師になっている人数は極端に少ないよ」

平安時代か。何か細かい違いがあったせいで、現代では二鬼家の扱いが前にいた世界とこの世界では違うんだろうな。
前の世界か。ここまできたらいくら考えても無事に戻る手段は無いのだろうしな。
それよりもまだ見果てぬ美人を追い求めているほうが俺らしいさ。

「ところでその二鬼家の人って女性ですか? しかも美人とか」

「横島さんはそんなことばっかりですね」

小竜姫さまには、あきられてしまったが、他のメンバーはまたかという感じだ。

今日の段階ではこれが最後の方の話だったので、結局はおとなしく帰ったが、昼の試合のことを思い浮かべると眠れなかったことしかり。
このGSという仕事に徹夜はつきものだが、この身体はそこまでなれていない。
つまり翌日は、

「ああ太陽が黄色い。何もしていないのに……」

徹夜明けみたいなものなので、ちょっと気分ハイになっているかもしれない。
会場についたら意外と試合までの時間が少なくて院雅さんから、

「昨日のことで、てっきりGS試験に出るのをあきらめるかしらと思ったら」

「……さすがに、そこまでは」

血の涙を流しながら答えていたかもしれないな。

「ああ、いいから受付にいってらっしゃい。今度の対戦相手は女性よ」

「そっ、それをはやく言ってください!!」

入れ替わり防止のための本日の受付を通過して、さっそく二次試験第二試合の2番コートに入ることになった。
2番コートに入ると丁寧に挨拶をしてくる。

「ワン・スーミン、18歳です。お手やわらかにお願いしますわ。うふっ」

やっぱ、これっすよ。中国美人がなんか「ドキドキしてますわ」とか言ってまっている。
審判から、

「試合開始!!」

「横島いきま――す」

おもわずとびかかったら、神通三節棍でなぐりつけてきやがったのでサイキックソーサーで避けたけど、

「あぶないじゃないか」

「あら、これは死合ですわ」

「字が違~う」

「わたし、こういうふうに日本語をおそわったんですけど……」

「どこのバトルジャンキーにならったんだ――ッ!! そんな難しい武器なんかあつかわないで、組んずほぐれつお願いしま――す!!」

「皆様の目の前で行う趣味はありませんわ」

そりゃあそうだが、昨日のせいでちょっとばかり煩悩パワーが足りない気がする。
仕方が無いので、サイキックソーサーからの変形であるサイキック棍を作り出す。
名前にひねりが無いって。ほっとけ。

「あら、あなたも棍術を扱われますの?」

「我流だけどな」

老師の毛の分身である身外身の術でいじめられてばかりだったけどな。ルルルルルル~~
ワン・スーミンも中国武術の本家としては負けるわけにはいけないのだろう。
相手の霊力が増していくのがわかる。
油断してもらった方がいいんだけどな。
だしてしまったものは仕方が無い。
栄光の手の系列である霊波刀だと、相手を本当に斬ってしまうからな。



我流なんて言っていたけど、かなりできそうね。
三節棍より、普通の神通棍の方がよかったかしら。
武器はひとつしか持ち込めない、この大会のルールがあるから、相手の慣れていない武器でと思ったのが間違いのもとかしら。



「ねぇーちゃん、こないならギブアップしないかい?」

「あら。女性から誘うだなんて、はしたないと思いませんか? あなたこそどうなのかしら」

「貴女みたいなきれいな人に声をかけられたら、ほいほいついていきますよ」

ちっ! 相手の動きになれる必要があるから簡単に身動きできないのにな。
まあ、そうはいってもお見合いをしていてもしかたがないから、美神流の戦いでいってみるか。

試合相手のワン・スーミンのチャイナドレス風の霊衣からの足が見えて、なんとなくチラリズムを感じさせてくれる。
神通三節棍をもっていなければ組んずほぐれつっといって、煩悩エネルギーをためておきたいところだが、次の試合のためにも美神流で短時間で終わらせたい。


「女性に優先権をと思っていたのですが、誘ってくれないので行きますね」

「おわかりね。そのほうが私もうれしいわ」


カウンター系か、何か特殊能力があるんか。
様子見で、サイキック棍を数回ばかり突きだす。
突きはその先より内側に入られさえしなければ、一対一ではもっと効率の良い対人方法のはずだが、しっかりと避けたりさばかれたりしているな。
こちらもわざと飛び込みこまれやすいように、隙をつくって誘っているのに。

「受けているだけだと、体力と、霊力がもたないんじゃないですか?」

こっちは、あいてのドレスの脇から見える足の上を想像しながら戦っているで、体力はともかく霊力はいっこうに落ちない。

「みぞおちをガードしないで、隙を見せているつもりなのでしょうけど、私そんなお安い女ではないですわ」

あら、お見通しってわけね。
通常の武術は、どうも相手の方が上手のようだ。
未来での知識があるから作戦等もたてられないことは無いが、1ヶ月ちょっとでは肉体の強化までにはいたっていないからな。

「それじゃ、こんな手はどうですかね」

サイキック棍を突きだしたあと、突きの引き際でそのまま一旦さがると見せかけて、サイキック棍を投げつける。
そしてつっこんでいき、もう一本のサイキック棍を作りだして突くが受け止められた。

「あら、器用ですわ」

「普通の武術家なら、武器を手放すと思わないだろうから、ひっかかると思ったんだけどね」

「そうね。さっきのが神通棍なら虚をつかれたかもしれないけれど、貴方の棍は貴方自身でつくった棍ですから、予測はついていましたわ」

「次回のための参考にさせてもらいますよ」

「次回が貴方にあった……」

この話はここで途切れた。
最初に投げたサイキック棍が、彼女の後頭部にぶつかったためだ。
サイキックソーサーと同じく、サイキック棍も遠隔操作が可能だ。
もどってくるための時間と、相手の注意をひきつけておくために話していたのだがね。
俺は手に持っていた方のサイキック棍の霊力を体内にもどしながら移動して、倒れこむワン・スーミンの身体を支える。
彼女から霊力の出力がなくなっているのと、内部に練り上げていた霊力が霧散しているのも確認している。

胸のあたりに手のひらがあったりとか、なんか指先が動いているように見えるのは気のせいだぞ。
そんなところへ無粋なことに、

「勝者、横島!!」

審判がワン・スーミンの様子を確認して声をかけられる。
救護班がすぐによばれて霊的治療のためにひきはなされた。
こんなんばっかりや~

「横島選手ゴーストスイーパー資格取得――っ!!」

一部の外野からは「ずるーっぃ」とかいう声が聞こえていたが、霊力はともかく体術や棍術は相手の方が上だったしな。
それにもっと嫌なのはこの試合をみていたのが雪之丞ではなくて、なぜか勘九郎だったことだ。

お尻をおさえて逃げ出したくなる衝動を抑えながら戦っていたんだが、俺の戦い方はサイキック棍のみだと思ってくれると良いんだけどな。


対戦相手のワン・スーミンを倒したあとに、試合場からおりていくと院雅さんが、

「GS取得おめでとう。あまりうれしそうじゃないのね」

「いえいえ、うれしいですよ」

本当なら来年取得したかったのだが、今年でよかったのかもしれない。
勘九郎がいるということは、メドーサとつながっている可能性が高いということだ。
アシュタロスがGS協会の上層部に、子飼いのGSを送り込もうとしているのも、いつの時代から平安時代にきたのかはっきりしなかったからなのだろう。
GS協会上層部から情報が入れば、時間移動能力者である令子の情報も手に入れられるかもしれないし、ってとこか。

「これからは、愛子の面倒はしっかり見るのよ」

「あっ!」

「あら? 愛子のためにGS資格に挑戦していたのでは?」

意味深にきいてくる感じだが、

「いえ、うれしくてそっちまで頭がまわっていませんでした。気分を落ち着けるのに、ちょっとトイレへ」



横島がトイレに向かう方向を見つめていた院雅だが「横島君もよくわからない子ね」と呟いていた。
机妖怪の愛子を助けるのが、目的だと思っていたのに、今回のGS試験で神様からも何か依頼をうけているようだしね。
しかも彼の霊的能力の発達は異常な速度ね。
本人は隠しているつもりらしいけれど、すでに私より強いみたいだし知識面では偏っているけれど、除霊方式が異なるのだから教えられることも無いしね。
あの女好きで妖怪でもかまわないという考えっぽいのに、愛子のことを忘れていた様子。
単純な女の色気でなんとかできると考えていたのは無理かもね。
そうすると私の手にはあまるかしら……


*****
対戦相手はオリキャラが多くなっています。

2011.03.24:初出



[26632] リポート5 誰が為に鐘は鳴る(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2013/06/23 14:23
トイレの目の前で待つこと十数分。

勘九郎と陰念(インネン)がこねぇ。
こっちのトイレでよかったはずだけどな。
ここで待っていても仕方がないから、GS試験で受かったメンバーを見てみるか。

対戦表のところに来たところで、今日の試合にはカオスがきていたのに負けている?
カオスの対戦相手は二鬼陰念。しかも次の対戦相手は俺だ。
俺の記憶に残っている魔装術をつかえこなせていなかった奴と、名門であるという二鬼家が直結しない。
それと特に警察がきていた様子も無いし、この試合どうだったか誰に聞いてみようか?

対戦表を他にもみていると、ひのめちゃんとピートは勝ちあがっている。
ピートは昨日の試合で、一皮向けたらしくバンパイアとしての能力を使うことも覚えたらしいからな。
勝ち上がっていて欲しくなかったが、勘九郎と雪之丞もいる。

さらに見ていた中で気にかかるのが、偶然にしてはできすぎだが……芦を苗字とした3名がいる。
芦財閥は無いと思ったが、この世界ではあるのか?
芦財閥ではないとしたら違うのかもしれないが、3人の女性らしき名前が鳥子、八洋、火多流で、特に最後の火多流がルシオラのベースであるホタルとも読み取れる。
そうすると鳥子が蝶をベースにしたパピリオ、八洋は逆よみになるが妖蜂をベースにしたベスパなのか?
試合を見るか会ってみないとわからないか。

自分の中では整理をつけていたつもりで、今の俺は未来の意識や知識を持っているが、自身の身体は高校1年生のもので、それにともない煩悩にひっぱられる傾向が強い。
こういう形でもし俺の知っている、いや、違うはずなのだが、ルシオラだと感じてしまって敵対したらどうなるだろうか。
俺は新しい悩みをもったことにより、カオスの対戦状況やその相手の二鬼陰念の勝負内容をききに行くのを忘れていた。



まだ試合にでるのは32人残っているのと、全員がすでに会場へ顔をだしているのかは不明なために、誰が芦の三姉妹かはわからない。
第5コートで芦八洋が試合をするようだから、そちらを気にかけておくか。
俺はこのあと必ず第1コートなので、対戦表からどこに誰がというのはわかるが、まず気にかかるのは同じ開始時間で試験のある芦八洋だ。
ひのめちゃんとピートや雪之丞の試合も、覚えていたらついでにみておこう。

第1コートで対戦相手を待ちながら第5コートを見ていると、二人の女性が対戦するようだが両者とも外見はべスパには見えない。
霊波などはこちらとあちらの結界で詳細は不明だが、多分違うだろう。
もやもやしていた気分が晴れてくる。
さて、そうしたら現金なもので、対戦相手の二鬼陰念のことが気になりだしてくる。
なぜかなかなかこないのだ。
審判が、

「二鬼選手…!? 二鬼陰念選手…!! いないのかね!?」

「遅れてすみません」

そこには高級そうなビジネススーツを着込んだ少年がいる。
その傷だらけの顔のせいか、どっかのチンピラにしかみえないな。
俺の記憶にのこっていた陰念と、顔はほとんど変わっていないようだ。

他のコートではすでに試合がはじまっているようなので、審判が早速、

「試合開始!!」

その合図で俺はサイキック棍を出す。
相手は呪文を唱えているようなので、その隙にとっととド突いて終わらせようと思って近づいたら霊波砲を放ってきやがった。
昨日きいていた二鬼家の話とは行動が違うので、ちょっと予測外。
連続でくるわけではないが相手に近づこうとしたところで、霊波砲がくるのでかわすだけかわして戦術の練り直しの為に一旦後退する。
その間に呪文が完成したのだろう。
一本の角が額上部から生えている鬼が召喚されたようだ。
律儀にも自己紹介から始めてくる。

「オラは酒天鬼(シュテンニ)!! この二鬼氏に召喚された鬼族だ。 二鬼氏の霊力により召喚の儀式はなされた。オラと勝負しろ!!」

「イヤ――っ!!」

大声で答えてやる。
勝負事の好きなタイプの鬼族だな。それで最初に呼び出したときに契約の種としたのだろう。
問答無用で戦うタイプの鬼なら、まともな方法では勝負にならんわ。

「してもらわないと困るのだが」

「困るのはそっちの都合だ。俺は知らん。そっちの二鬼陰念と契約内容を確認しな」

そう言って、鬼族の酒天鬼は無視する。
こういう場なら勝負事をうけなければ、この鬼族なら大丈夫だ。
実戦だと、どうしても勝負をうけさせようとするんだろうけどな。
その間にもう一体の鬼を召喚していたが、そちらはこちらのやりとりをまっていたようだ。

「僕は餓鬼(ガキ)です。何か食べ物はありませんか」

こういうタイプの餓鬼は初めてだが、

「もっと健康的に太らないとね」

こう言ってやると、泣いて帰っていった。
どこに帰ったのかはわからんが、俺の気にすることでもないだろう。
陰念、鬼を制御できてないじゃないか。
そう思うだけなのだが、言葉にはださないで、冷たい視線だけを陰念へ送っておく。

「口八丁で鬼をまるめこむとはな。俺の能力はこれだけじゃないぜ!!」

陰念の霊圧が上がっていく。


二鬼陰念の霊圧が上がっていくとともに、霊波で身体をおおっていく。
魔装術か。しかも前回と違って、霊波の物質化までにいたっている。
これなら、名門とよばれている家からGSの免許取得にでてこれるわけだ。

「あれは魔装術。失伝したと思っていたのですが、二鬼家に残っていたみたいですね」

解説の声が聞こえてくる。
知ってるからいらない解説だが、普通のGSは知らないよな。

「自らの霊波を外部に直接だして、通常の人間以上の力に変える術です」

厄珍じゃないな。知らない解説者だが、なかなか知識はあるようだ。
あとで、名前とかの情報をきいておこう。

「そっちが魔装術でくるなら、本気をださないといけなさそうだな」

「魔装術を知っていたのか。油断ならねえな」

「しまった。知らないふりしてたら、油断してくれたかもしれない!?」

またも墓穴をほってしまった。
とはいっても、右手にサイキック棍で、左手にサイキックソーサーというスタイルに変更する。
魔装術は霊的物質化でパワーをあげたり身体速度もあげられるが、その他は知っている限り霊波砲と物質化だ。
みたり感じたりする範囲では、以前のGS試験での雪之丞くらいの強さの想定でいいか。
このレベルならサイキックソーサーで防御と、攻撃にサイキック棍で充分だろう。


「あたしたち以外にも魔装術の使い手がいたのね」


勘九郎のひとりごとなのだろうが聞こえてくるから、やめてくれ。
お尻のあたりがむずむずしてくる。


陰念からは、

「冷静に追い詰めて、楽にしてやるからな」

って物騒な言葉を聞くが、霊力ならこちらもワン・スーミンのおかげで満タンだ。
霊波砲の連続攻撃がくるが、威力は弱いし、連射速度も遅い。
誘導していこうという意図はみえるが、ほとんどの霊波砲は避けることができる。

「霊波砲より、直接打撃に来たほうがいいんじゃないのか?」

「うるせい!」

立っている場からダッシュをかけてくるが深追いはしてこない。
なら、ゆっくり時間かせぎをさせてもらいますか。

魔装術で連続して殴られると、そっちの方がつらいんだよな。今の肉体は。
霊波砲の威力も弱いといっても、あたれば痛いではすまないぐらいのダメージはでそうだが、次の雪之丞戦の方がこれより大変になるのは目に見えている。
無駄な霊力は使いたくないからな。

逃げまわること10分ぐらいかな。
陰念が「残念ながらここまでか」と言って、魔装術を解く。

「ギブアップはできないからな。あとは好きにしやがれ」

「そうか」

ギブアップができないから、あとは軽くこずいて倒れて起き上がらなければ、TKO扱いとなる。まあ儀式みたいなものだ。
気軽に近づいて間合いに入ったところで、サイキック棍をふりあげると、陰念が俺にむかって霊波砲を放つ。

ちくしょう。だまし打ちか。



なーんてね。

霊力が陰念の体内で右手に、集中していたのは感じていたよ。
もっと、霊力の穏行をうまくするんだな。
それに眼がいけなかったな。何かをねらっているのが丸わかりだ。

この距離だとさすがに霊波砲は避けることができないので、サイキックソーサーでそらしつつ、思いっきりサイキック棍でなぐりつけてやった。
悪く思うなよ。


「悪くないわね。もう少し年をかさねると私ごのみかしら」


いや、いいから、勘九郎。
俺はそばにいてもらいたくないぞ。


俺は審判から勝ちを告げられてから、ピートと雪之丞の試合を見ようと思っていたら、すでに終了していた。
そこに院雅さんが、

「横島君。魔装術相手に勝つなんてすごいわね。それに鬼を相手にしないなんて思いもしなかったわ」

「相性の問題でしょう。俺には院雅さんみたいに、広域にいる怨霊の除霊はできませんから」

文珠でもあれば可能だが、俺みたいな霊能力が圧縮・凝縮系に分類されるGSには、広域の怨霊退治は怨霊の霊力レベルが低くても難しい。



この子は自分の価値を、わかっているのかしらね。
言葉のやりとりだけで、鬼をしりぞけるなんて普通はできないわよ。
言葉に霊力はのせていたみたいだから、説得力があったのかしら。
自身とは違う音での霊力の、のせかたの再発見につながっている院雅だが、

「そういえば、今日も昼食は一緒にどうかしら」

「ええ、よろこんで。といいたいところなんですが、ちょっとピートとか唐巣神父とも話があるので……それと一応、次の試合相手をみていたいですから」

「そうね。それも肝心だわ」

院雅さんは俺の試合の時にこれるというか、GS試験の受験者とGS協会関係者以外で試験会場に直接入れるのは限られている。
GS試験受験者が対戦しているときだけ、会場におりてこれるルールにしたがっているまでだ。

「そういえば、ピートの試合の内容ってどうだったかもう少し詳しくわかりますか?」

「あの金髪のバンパイアハーフ? だったかしら」

「ええ、そうです」

「相手がやはり魔装術の使い手で負けたわよ。貴方の相手みたいに中途半端に動くのではなくて、ジャンプなどの移動能力もあったわね」

やはり次は雪之丞か。
俺のコートと雪之丞のコートの中間の壁際に勘九郎がいたから、以前みたいにそちらで何かしたのだろう。

そういえば、メドーサって前回は観客席にいたはずだよな。
そうやって、霊圧をさぐってみると、小竜姫さまの霊圧を感じる。
そちらをみると、メドーサと並んで立っている。
ものすごく緊張感がただよっている。危ない場所はさけておこう。
そう『地球の歩き方』にも書いてあった気がするもんな。



その危ない場所では

「おや小竜姫、ひさしぶりだね」

「ちゅうりゅ……メドーサ!?」

「あら、中竜姫とよんでくれないのかい?」

「竜族危険人物全国指名手配中のお前には、その名を使う資格はありません」

「そんなことはどうでもいいけれど、私は試合の見物に来ただけなんだから、怖がることなくてよ」

「お前がGSに手下を送りこもうとしているのはわかっているのよ! 白龍会に手をだしたわね」

「白龍会? 何のことかしら」

「お前を斬るのに証拠など必要ありません……!!」

「くっくっくっ……ここでやるなら相手になるわよ。 ただし何人死ぬかしらね?」

「ぐ……!!」

「しかも、現在、私は人間の間では追われる身では無いのよ。神族から魔族ということで襲われたの。正当防衛で人間を盾にしたと主張したら、神族の方が殺人をおこしたことになるさ」

「メ…メドーサ……!?」

「私はよくても、あんたは、いや神族全体が困るわよねー!? 私を目の前にしてもお前には何も出来ないのよ――!!」

とかの会話があったらしい。
まあ、危険地帯が広がるのも、時間の問題なのかもしれない。



今現在気にかかっているのは、芦鳥子と芦火多流の試合だ。
別な意味で勘九郎の試合も気にかかるが、魔装術を魔物的な方向できわめているのなら結果は火をみるより明らかだからな。
それに近よりたくないし。

芦火多流という名の少女だが、見た目がまるで違う。
霊波とかは当時の俺では感じることはできなかったから自信は無いが、特に胸がCカップあるなんて……完全にルシオラじゃないと俺の霊感がいう。
けど胸があるルシオラもって、おほん。

芦鳥子も美少女だがパピリオの面影もないし、霊波や霊力の質が違う。
偶然にしてはたちが悪い。
それとも気のまわしすぎか。

2人の戦いぶりをみていたが、余力はあるように見えるので、決勝戦はこの2人のどちらかと組んずほぐれずといきたいが、記憶に残っている勘九郎の方が多分上だろう。
勘九郎がみていたから、雪之丞に戦い方あたりは伝わると考えて良いだろうしな。
医務室に向かう途中、次にあたる雪之丞との対策でも考えておくか。


*****
中竜姫というのはたまにでてくる二次設定で、その中竜姫がメドーサがだったというのはオリ設定です。
芦の3人娘、見た目は違いますが、さて、どうなんでしょう。
ちなみに読み方は鳥子(ちょうこ)、八洋(はちよう)、火多流(ほたる)としています。

2011.03.25:初出



[26632] リポート6 誰が為に鐘は鳴る(その4)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/15 06:06
医務室では令子が、

「雪之丞をここに送りこむはずが……」

なんて言っている。
俺はわざわざ見たくないが、ピートのざーっと全身をみわたしたふりをして足を指さし、

「ここだけ他のキズと違うっすね。同じ人物からとの質の違うキズっぽいっす。雪之丞と戦う前からケガでもしていたんですか?」

俺は冥子ちゃんがいるのをすっかり忘れていて、今の言葉でぷっつんしないかちょっと動揺したが、これぐらいなら大丈夫らしい。
俺の言葉へ最初に反応したのは、試合会場の方の内情を知っているメンバー中で唯一残っていたひのめちゃん。

「横島さん。ピートさんからはそんなことは聞いていないよ」

「反則? まさか!?」

「ビデオとかに残っていたら御の字なんですけどね」

「審判に講義しよう」

「無駄よ、先生! 決勝や3,4位決定戦ならともかく、他の試合に霊波撮影用のビデオなんて使わないんだから、証拠がないわ!」

そう言ったあとに、令子がちょっと考えたそぶりをしてから、

「横島クン。次が雪之丞の相手だったわよね。ひのめのためにもあいつをたおして」

「えっ! 俺っすか?」

「たおしてくれたらご褒美考えちゃおうかな。令子」

「犬とお呼び下さい」

ひのめちゃんから生ぬるい視線がくる。
そういえばこういう時の昔の令子って、約束きちんと守ったことあったっけ?
まわりにも約束があったことをはっきりさせよう。

「それで、考えただけってのは無いですよね」

「そ……そんなわけないでしょう!」

それだけで状況証拠は充分なんだけどな。

「考えてくれているのはキスとかですか?」

「……まあ、貴方が無傷で勝ったら本当にしてあげるわよ」

「皆もききましたね。俺もうこうなったら無傷で勝つっすよ」

きっとまわりはできるわけ無いと考えているんだろうな。
何か話そうとしている唐巣神父の口を、令子が手でふさいでいる。
GS的な常識を考えたら、今のピートを相手にして勝つ相手と無傷で勝つなんて普通なら無理だからな。


秘策なんてないが、こういう時の俺の煩悩は信じられる……気はするよな?


本格的な雪之丞対策はともかく、唐巣神父に気にかかる点を聞いておく。

「魔装術を使うというと、白龍会がメドーサとしてつながっているとしてどうしますか? それと芦という苗字の少女たち3人がベスト16まできているんですが、あの娘たちも何か怪しい気はするんですが……」

「白龍会がメドーサとつながっていた場合は、GS協会の方で対処してもらうことになっている。芦家の方はあそこも昔は陰陽師の名門だったのだが、最近ではなかずとばずでね。先代でGSもやめていたはずなのだが、血筋なのかね。ただし、南アメリカから戻ってきたばかりらしく、過去の経歴をまだつかめないでいる」

「そういう意味では、やはり怪しい相手と考えていいんですかね?」

「芦家の少女達に悪意や魔族とのつながりを感じられないのだが、彼女たちについてはまだなんともいえないところだね。それと二鬼家の陰念クンは、自分であの鬼と契約したとのことから、特に問題ないだろう。まあGS協会から監視ぐらいはつくかもしれないがね」

彼女たちの判断は保留か。

それじゃ、昼食でもとって本格的な雪之丞対策でもねっておこう。



お昼は院雅さんにピートと雪之丞の戦いが、どんな風だったかをより詳しく教えてもらった。
ここの雪之丞も霊波砲が主体、近接してもパンチやキックよりも、霊波砲を使ってくるというところだ。
考え付く限りのパターンでイメージトレーニングをしてみたが、次の試合を考えないで勝つだけなら簡単だろう。
ただし、無傷でという条件では確率として2割あるかないかどうかぐらいかな。
令子のキスもそろそろ恋しいし、だからといってその先を考えないで体力を消耗するのもな~

最小限のダメージにするとして、次の試合は女性はひのめちゃんだし、ひのめちゃんにセクハラしたらなんとなく10歳児にセクハラをしている気分になりそうだ。
こっちのひのめちゃんは15歳だとは理解しているつもりなんだけど、未来でのひのめちゃんの面影が重なって、どうも子ども扱いしちゃう癖があるんだよな。
他人が聞いていたらくだらないと思うところだろうが、俺にとっては切実だ。
煩悩を優先するか、勘九郎との決勝戦……できたら、あの結界の中で勘九郎と一緒というのは避けたいな……
やっぱりここは対雪之丞には令子のキス狙いとして、次のひのめちゃんの試合で負けようかな。
うん。それがよさそうだ。


「横島君。何を考えているかしらないけれど、顔がにやけているわよ」

考えていたことが、思い切り顔にでていたようだ。
言葉にだしていないだ、けこの時点の俺としては進歩しているだろう。

「いえ、次、無傷で雪之丞に勝ったら美神令子さんからキスをもらえるっていうので、昨日の帳消しになるし」

「あら、そう。口直しなら誰でもよかったのかしら」

「えっ?」

「例えば、わ・た・し」

「そんなふうに隙をみせて、いつもかわすくせして」



あら、お見通しだったのね
キスのひとつぐらいで真っ赤になるような歳でもないけれど、だからといってこの子を制御するのに無条件なのもね。
それに横島君がまだ実力を全てだしていないといっても、あの鎌田勘九郎っていう子にはかなわないだろうし、

「次の試合で無傷ってのはともかく、きちんとした1位ならキス。しかもディープなのをしてあげるわよ」

「またまたそんな」

「エンゲージの神付の契約書でも書いちゃっても良いわよ。横島君」

「春……初夏だけど、人生の春が…!!」



そんな気はないけれど、キスひとつぐらいですむなら安いものだわ。
GS試験見習いの間だけでも、少し難易度の高い除霊を受けてみようかしらね。
そうしたら、一生安泰できるだけの金銭も入ってくるし、あとは良い男を見つけるだけだわ。

案外似たもの師匠と弟子もどきだったりする。



さらさらさらと契約書を書かれたのに、サインしてハッと思った。
俺が1位ってことは、勘九郎……あいつを相手にしてきちんとした1位になれるのか?

んで書いてある契約書の中は、1位になれなかった場合はGS試験見習いに師匠を変えないこと、てしっかり書かれている。
師匠を変えようという気は無いが、どうやって月にいこうか? 難問だ。
けど、なんとかなるだろう。これまでも、この今回の逆行以外はなんとかなっているのだし。



雪之丞対策はなんとかなるとして、勘九郎か。
やっぱり時間稼ぎをして、魔族になるのを待つのが最適かな。
なんかこのGS試験での魔装術の使い手対策って、時間稼ぎばかりだな。
魔装術の奥義を極めていない相手にするのには、それが一番有効なんだけどな。
俺の体力が続けばという条件付きだけど。



いよいよベスト8をきめるところだが、まずは雪之丞だ。
安全でありながら、少なくとも傷を最小限に、できれば無傷でと選んだのがこの作戦。いってみるか。

「横島忠夫選手対伊達雪之丞選手!! 両名、結界へ!!」

雪之丞は白龍会の胴着ぬいでいて上半身は肌をみせている。

「おまえ、上半身はだかって、あの勘九郎の相手を昼休みにでもしてきたのか?」

「ちっ……違うわ。そんなオカマと一緒にするな」

「だったら、その上半身裸なのをどう説明する」

「ふん。それだったら俺は白龍会をやめたんだ。だからもう関係ない」

「そうするとGS免許取得は仮免のままだぞ。師匠がいなければGSになれないぞ?」

「なに――ッ!!」

「きいていないかったのか? 可哀想にな。負けてくれれば、どこかのGSとか紹介してやるぞ」

そんな、あてなんて、まあ、あったりするのだが、あまりかかわりたくは無いから、ここは口からでまかせだ。

「いや、お前を倒して俺がトップになれば、どこのGSでも師匠になってくれるだろう」

「その根拠はどこにあるんだよ。魔装術を使うっていう時点で、普通なら避けられるのがオチだぞ」

「海外にでもいけば、そういう経歴でも受けるGSはいるだろう。それよりも、勘九郎から聞いたが、魔装術を使う相手に勝ったんだってな。最初から全力でいかせてもらうぜ」

うーん。口八丁で丸め込むのは無理だったか。
審判から「試合開始!!」の合図とともに、雪之丞は魔装術を発動している。
俺はというと防御用に左手のサイキックソーサーは先ほどと同じだが、魔装術を確実に貫くにはサイキック棍ではこころもとない。
文珠で『剣』を使うときにでる剣と、ほぼ同じ形状のサイキック双頭剣。
未来では使い慣れているサイキックソーサーの変形バージョンだ。
文珠の精製効率の悪さからつくってみたが、俺にとっては使い勝手が非常にいい。
サイキック棍よりも先に使いだしていたからな。

以前なら中級妖怪レベルまでなら、栄光の手をつかわなくてもこれで退治できていたほどの威力はある。
今のレベルはそこまで届かないが、サイキックソーサと原理は同じなので魔装術とは非常に相性がいい。
そんな俺を警戒しているのか、

「まだ、そんな隠しダマがあったのか。俺は誓ったんだ! 強くなるってよ……年もとれずに死んじまったママによーー!! そして霊力にめざめ、それを鍛え抜いて、こんなにカッコよく強くたくましくなれたんだ。貴様はどことなく俺に似ている!」

ルシオラのことか。一瞬よぎったのは、かつての魔族の少女のこと。
戦いの最中に迷いは禁物だ。

「行くぜっ!! 楽しませてくれよ」

「楽しませられるかどうかわからないが、全力で行くぞ!!」

単調につっこんできながらの雪之丞の連続霊波砲を、場所をかえながら避けて、避けられない霊波砲はサイキックソーサーでそらしたり、サイキック双頭剣でつぶしていく。
霊波砲のはなったあとの、結界のなかでの会場の床が破損して煙をだすのが煙幕かわりになる。
煙の中をすばやく、移動する。まわりから見えたらゴキブリのようだろうな。

俺は雪之丞の霊力を感じることができるが、雪之丞は霊力を感じるのではなく、まだ眼でおっている段階なのだろう。
さらに俺自身の隠行と、凝縮系の代表であるサイキックソーサー、サイキック双頭剣は外部へ霊力をほとんどださないようにコントロールできる。
この霊波が入り乱れたなかで、感知するのは普通なら難しいだろう。

俺は煙の方を見ている雪之丞の背後に立ち、サイキック双頭剣を一閃するが、完全には刃が通るわけではない。
その中で雪之丞が、回し蹴りをはなちながら離れようとする。
サイキック双頭剣の反対側の刃でその蹴りを受けつつ、俺はサイキックソーサーを唯一むき出しになっている顔面のあごに放つ。
さすがに致命傷だったのだろう。魔装術が消えて倒れるかと思ったが、まだ立っている?

次に何がくるかわからない。俺は下がった。
刃が通った傷がある右肩、蹴りをはなった右足、口からも血をたらしながら立っている雪之丞がいる。
しかし、そこから強い霊圧は感じない。
立ったまま気絶しているのか?

「まさか、こんな短時間でやられるとはな。いつかお前においついてやる。待っていろ」

そう言って、雪之丞は倒れていった。
全部が致命傷になるわけではないが、左肩だけはキズが深いから、救護班の冥子ちゃんが式神のショウトラでヒーリングをおこなわせている。
冥子ちゃんは自分自身へのなんらかのショックには弱いようだが、他人のキズは大丈夫らしい。

しかし、まさか肩を切られた直後にあそこから蹴りがくるとは、思わなかったが結果オーライか。
雪之丞の格闘センスというか、この場合は根性か?

それはともかく令子からのキスと思って、気を緩めたら右足から痛みが。
回し蹴りが若干だけどあたっていたのね。右足のジーンズに穴があいている。
ジーンズに穴があいてなければ、自分のヒーリングぐらいはなんとかなるからごまかせたのに。とほほ。



小竜姫は今の戦いをみて『後ろからとは卑怯』と言いたいが、隣にいるメドーサのせいでそれも言えずに、額をおさえている。

横ではメドーサが、

「ふーむ。なかなか気に入ったわ、あのコ」

若い頃の横島のモノノケに好かれる体質にひかれているのか、それとも純粋に美神流の卑怯な戦いかたを気に入ったのかは、いまだ不明である。



審判からは「伊達選手試合続行不可能なため、横島選手の勝ち!!」とともに試合場を降りていく。
院雅さんからは、

「もっと時間がかかると思ったけど早かったわね。どんなことをしたの?」

「試験が全て終わったら話させてください」

「そうね。楽しみに待っているわよ」

久しぶりの気が抜けない対人、雪之丞を相手にしたためだろう。
悪霊、妖怪や魔族とも違う、人間独特の殺気と似た気配の中で動いたせいか、至極短時間なのに疲れを感じる。
それだけじゃない。徹夜明けのせいもあるのか。


早めに試合が終われたので次の試合相手になるであろう、ひのめちゃんの対戦をみにいく。
ひのめちゃんの対戦相手は芦八洋で、ひのめちゃんも札ではなくて発火能力をつかって火の攻撃をおこなっている。
それに対して芦八洋は霊波砲で応戦しているが、このままならひのめちゃんの勝ちだな。

そう思った矢先に、芦八洋がまさかの魔装術を発動していた。
そして、その姿は……


*****
院雅さんのキャラは、素はこんなんです。多分過去の行動を含めて首尾一貫していると思うのですが。
芦姉妹はって? それは内緒です。

2011.03.26:初出



[26632] リポート7 誰が為に鐘は鳴る(その5)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/16 20:33
芦八洋の魔装術の姿は、薄く身体全体に張り付くような感じで霊波をまとっている。
髪の毛が伸びているのは、魔装術で防御力をアップされた部分だろうが顔はむきだしのままのように見えるな。
魔装術そのものの完成度でいえば、雪之丞を上回っているかもしれないが、魔装術の完成度に対してそれほど霊力が高まっているようには見えない。
霊力だけならまだひのめちゃんに勝ち目はあるかもしれないが、魔装術で上がった速度に身体の動きが完全に追いついていない。
ひのめちゃんの、GSとしての身体の動きが平均的なGSより下であることが原因だろう。
相手のいる位置に発火させることはできているため、近接戦での致命傷はおっていないがこのままでは、と思ったところで令子がひのめちゃんに呼びかける。

「ひのめ。遠慮はいらないわ!! 相手が魔装術でくるならこっちも本気でいくのよっ!! 必殺技よ!!」

あっ! あれか。けれど、あの技をひのめちゃんに教えたときには、

「そんな横島クンごときに教えられた技なんて不要よ!!」

そう言われたんだけど未来でのひのめちゃんが、令子から教わった技のパクリなんだから、純粋に美神家の技になる。
中間に俺が入るからややこしいだけか。
それに今の彼女ともだいたい相性は良いらしいが、それを封じていたのも半分くらいは訳がある。
こっちのひのめちゃんでも同じことができると思ったから教えたのだが、俺が未来にいたときのひのめちゃんより年上のせいかね思ったよりも……。

「こんなときのために封印しておいた『アレ』を使うのよっ!!」

不要をここで、封印にすりかえるのか。
令子はやっぱりここでも令子だな。
芦八洋は八洋で

「必殺技? あれが、最近日本のGS界で噂になりだしている美神令子……!!」

ひのめちゃんが、その令子の言葉で八洋を注意しながら結界の方へ動き出す。
八洋が必殺技を警戒しているのか、中長距離主体の霊波砲に切り替えてきた。
ひのめちゃんが結界まであと一歩のところで、自分自身と八洋の間に巨大な炎の塊をだす。
炎はひのめちゃんと霊的につながっているので、その先にいる自分以外の何かを感じることができている。
このあたりの霊力を感じる能力は令子よりもひのめちゃんの方が上なんだが、本人はまだ意識できていないようだ。

八洋が移動して身体を見つけようとしても、間にかならずその炎の塊がくるし霊波砲をはなつと、より大きな炎になる。
一種の霊力吸収能力まで付加されているのだが、あまり吸収しすぎるとコントロール不可能になるんだよな。
相手に知られなければいいんだけどさ。

八洋から霊波砲を放たれてその霊波砲を吸収した直後に、炎は八洋へとむかいつつ、形はとある姿に変貌していく。
その形は竜……炎からつくられる灼熱の火竜が相手に向かっていく瞬間、その隙を見逃さなかったのか八洋が霊波砲を放つ。
かろうじてひのめちゃんは直撃をさけたが、左腕にケガをおっている。
ただ、その間にひのめちゃんが放った火竜も八洋を襲いレジストしようとしているが、霊波砲を放ったせいでふんばりがきかずに結界の外に押し出される。

「負けたわね」

ちょっとハスキーボイスだけども、可愛らしい声とともに八洋が魔装術を解く。
衣服はあちこち焦げているが、火竜での火傷までには至って無いようだ。
あのひのめちゃんの火竜をレジストするのは、魔装術というのはやはりすごいな。
しかし、目前の炎が小さくなるときに姿が見えるのが欠点か。
ひのめちゃんの技の、この欠点は令子も見過ごさないだろうな。
もう少し運動をさせないといけないと反省するであろうし、と思っていたら、

「やっぱり横島クンの教えた技ね。欠点をなおすのに大変だわ」

おい、令子!! ひのめちゃんの動きが遅いのはあまやかしすぎたんだよ
そう大声でさけびたいが、まだここでは会ってから1ヶ月半ぐらいだもんな。

審判から勝ちの宣言をひのめちゃんは受けていたがその場に八洋から近寄り、

「今回は負けたけれど、私の霊波砲を受けたのだから、救護班に霊視してもらった方が良いわよ。私の霊波砲はあとあとまで霊体に響くらしいから」

そう告げたあとに、彼女の姉妹である芦火多流と、すでに試合がおわっているのであろう芦鳥子の方へむかっている。

そんな忠告をうけたひのめちゃんはキョトンとしていたが、俺は疑問がわいてくる。
あの八洋って少女は、すでに魔族化の段階に入っているのか?
べスパの霊波砲には妖毒を帯びていたが、あの少女の霊波砲にも?
俺はひのめちゃんに近寄りながら、

「ひのめちゃん、たいしたキズに見えないかもしれないけれど、念のため、救護班に見てもらったほうが良いと思うよ」

「私だって、自分自身のヒーリングぐらいはできるますよ」

「いや、あの対戦相手の言っていた言葉が気にかかってね。霊波砲にも毒素が混じっているタイプがあるらしいからね」

「横島さんがそういうなら行ってみるけれど、お姉ちゃんからはそんな話は聞いたことないんだけどなー」

そうは言いつつも救護班の方に、むかってくれた。
しかし、もし毒素を持つ霊波砲を放っているんだったら、八洋は本当に人間か?
知っている魔族でも霊波砲に毒素をもっていたのは、べスパだけだ。
この時間軸でのべスパに相当するのだろうか。

俺はもしかしたら、今後くるであろう過去への移動で過去を改変してしまったのだろうか。
俺は次の試合の芦火多流も気にかかるが、自分自身の体力回復と霊力回復のために観客席に移動する。

「院雅さん。ちょっとばかり体力回復したいので15分ばかり眠ります。すみませんが、まわりから茶々をいれられないようにみていてもらえますか?」

そんな試験中に茶々をいれてくるなんてと思うだろうが、俺が小竜姫さまとメドーサの方を軽く示しながら言うと、さも納得と承諾をえた。



その頃、示されていた二柱の間では、

「お前の手下たちもたいしたことないわね」

「何のことかしら」

『他に魔装術を与えられている人間は知らなかったが、しょせんクズはクズということか……!!』

雪之丞クラスでもメドーサの中ではクズよばわり。
GSとなって協会に入る計画を白状しても安全な雪之丞だが、まわりでは未だ何が進行しているか不明中。



俺は15分ばかり椅子に座りながら眠ったところで、多少は体力と昨晩からの睡眠不足のたしにする。
霊力はさして消費していないが、霊力を回復するためのイメージをする。

霊力の回復は普通の瞑想でも可能だが、今の俺の場合、煩悩が強いから妄想だけで、って自分で思っていてちょっとばかり悲しい。



今度はベスト4を決める二次試験第五試合。
ひのめちゃんは、霊体に問題がでているためのドクターストップで俺の不戦勝。

ひのめちゃんが受けた毒素は霊能力を2,3日程度使用しなければ毒が自然に抜けていくらしいが、霊能力を使用すると極端に霊体への毒素が増えていくタイプらしい。
そのため俺はすでにベスト4に確定で、次の試合相手となる芦鳥子の試合を見学していたが、戦闘開始直後の霊波砲1発でおしまい。
相手がしょぼすぎて参考にもならん。
あと、決勝の相手になりそうなのは芦火多流と勘九郎だが、これも試合開始数秒でおわらせていたために何もわからない。

試合の消化が早いので、本来の時間より15分ほど早く次の試合が開始されることがアナウンスされた。



そして二次試験第六試合の「試合開始!!」の合図とともに、芦鳥子は魔装術を発動する。
俺の試合を多分姉妹から聞いていたのだろう。
対する俺は両手に通常より少々大きめのサイキックソーサーを作る。

「あら、私には双頭剣はつかわれないのですか?」

「あれだと、必要以上にキズを負わせてしまうからな。だからといって棍だと、貴女の魔装術をやぶれそうにないしね」

「私がなめられたとは思いませんが、手加減はしませんよ」

「できたら手加減してくれるとうれしいかなと」

「……」

それ以上、言うことは無いとばかりに芦鳥子が突進してくる。

芦鳥子が突進してきながら、手と足を中心に組み立てた連打を放たれる。
その打撃のひとつひとつが重たい。

えーい、こんなのまともにうけてられるかと、サイキックソーサーで流して、受け止めきれずに後方や斜め後ろに軽く飛ぶなどを繰り返している。
この芦鳥子はこの動作を見る限りにおいて、不完全な魔装術の弱点を知り尽くしている。
霊力を肉体の外にだすことにより動きを強化するのだが、霊波砲等の放出系の霊能力を使用すると魔装術を維持できる時間が短くなる。
その欠点を補うために、体術中心できているのだろう。
これだったらサイキック棍で、少しずつダメージを与えていく戦法でもよかったかなと思いつつも、この攻撃の回転をいなすのがようやっとな状態。
このままだと思ったよりも長くなりそうだ。

って、ローキックはだめー。
魔装術でローキックなんてされたら、足が一発で折れるやん。

自身の体力を鍛え始めてまだ1ヶ月半ちょっと。
この連打を続けられると、先にまいってしまうのはあきらかに俺の方だ。
外からは見えないことを良いことに、あることをしたいのだが無理っぽいな。

目の前の鳥子は美少女といっても過言ではなく、霊力なら煩悩をフル活用すれば煩悩エネルギーをためられても不思議ではないはず。
比較的薄い霊波で覆われている魔装術なので、身体のラインがはっきり見えてそれなりにメリハリのあるボディに目をうばわれても不思議ではない。
しかし今の俺にとっては、ちょっとばかり幼く見えてしまう。
俺の基準からみると煩悩を満たす対象になりにくい。
だってな、ひのめちゃんより幼く見えるからな。

美少女とはいえ、どちらかというと小柄ながら見かけによらずにパワーファイタータイプである鳥子。
もう少し色気があれば多少は別なのだろうが、通常戦いながら色気を期待するなんてそんなことは無理である。
実際、色気を振りまきながら戦っている美神令子が異常ともいえるのだが。
しかし、本当に単調とはいえ連打の回転がはやい。

「このままじゃぁ、らちがあかないな」

これだと、体力と霊力を一方的に消費していくだけだから、長期戦はまずい気がする。
斜め後ろにとんだところで中央にもどり、俺は戦法を変えることにする。
さっきから中央に戻るのはくりかえしているのだが、この瞬間は多少の間があくのでこれがチャンスだ。
可能なら栄光の手を使いたいところだが、まだそこまで体外へ霊力を一箇所からだせる出力には足りない。
しかたがなくサイキックソーサーを小さくして、その2枚を足へ移動させつつサイキックトンファーを作りだす。

うん? 見た目がかっこ悪いって。
しかたがない、ゴキブリよりはマシだろう。

「その格好は……」

「受けてばかりいてはらちがあかないから、ちょっと痛い目にあうかもしれないけど、ごめんな」

昔の俺ならこんなことは言えなかっただろう。
この前あった昔の俺は、コンプレックスがめちゃくちゃ強かったからな~
そんな今でも、どちらかというと反射神経だけでさばいているだけのつもりなのだが、まわりは中々信じてくれねぇ。

とはいっても、実戦で目だけは肥えている。
この鳥子は2戦目であたったワン・スーチンよりは、技術面で劣るのがはっきりとわかる。
だからこの相手のパワーをいかさない手はない。

サイキックトンファーを攻撃に使うが、やはりたいして効かない。
確かに効くとはおもっていなかったが、これだったらサイキック棍だったかなとおもいつつも攻撃を続ける。
一方的に受けにまわるよりは相手にプレッシャーになっているはずだが、やはり相手のパワーの方が上だ。
なんだかんだといいつつ、結界に追い詰められる。

鳥子はよけられないと思ったのか、最速の拳を打ってくる。
ワンチャンス。まっていたのはこれだ。
相手のその拳をサイキックトンファーでひっかけながら、身体を泳がせ俺は鳥子の外側に立つ。
さらに反対の手で首にサイキックトンファーをひっかけて体制をくずさせながら、その上に、結界へぶつかる寸前で足の裏まで移動させたサイキックソーサーで一押しだ。
場外への押し出しだな。
まさしく魔装術なんて、簡単にここの結界をやぶってしまう装甲を身にしているからこそ遠慮なくたたきこめる連続技。

「乙女のお尻を足蹴にして場外負けだなんて!! 納得いかないわ!! 再戦を要求する――!!」

この手のタイプにつきあっていたら、どうしようも無いのは身にしみている。
結婚する前の雪之丞とか、雪之丞とか、雪之丞とかって、あいつだけか。
似たような性格っぽいから、違う方面で相手をしよう。

「夜のベッドの上での相手ならいくらでも」

一瞬キョトンとしてたが、意味が通じたのか顔を真っ赤にさせながらも考え込んでいる。
まさか本気か?

「おいおい、まさか本気にしているわけじゃないんだろうな」

「そちらが言った条件でシミュレーションをしてただけよ!!」

「けど、試験結果はこの通りだろう?」

本気で寝技で勝負するシミュレーションとかしていたんじゃないだろうかと多少は心配したが、結局は冷静にもどったのかひきさがった鳥子だ。
しかし、本気で考え出すとは思わなかったぞ。



「横島君、余裕をもっていたわね。魔装術相手ってなれているの?」

突然院雅さんからかけられた声に、嘘は得意なつもりだが、な、な、なんかまずいことしたかなと思いつつ、

「そんなわけないじゃないですか。だって霊力に目覚めて、まだ1ヶ月半ぐらいですよ。魔装術は唐巣神父の協会の文献で、なんとなく覚えていただけっす」

「ふーん。まあ、柔よく剛を制すともいうから、対処方法としてはあってるけれど……」

「次の相手の試合をみたいので」

俺は院雅さんの言葉の途中で口をはさんで、そそくさとまだ続いていた鎌田勘九郎対芦火多流の対戦をみることにする。



あの子、何かやっぱりかくしているようね。
けれど、今の私じゃぁ……
横島の方へ目をむけながら、今後どうするのがよいか考える院雅だった。



鎌田勘九郎対芦火多流は勘九郎が魔的に完成された魔装術を展開しているのに対して、芦火多流も不完全ながら魔装術をだしている。
普通ならば同じ魔装術でも完成度は高いし、武術の面でもそれなりの腕がある勘九郎の圧勝するはずなのだが、芦火多流にかすりもしない。

芦火多流の特徴はスピードにありそうだが、それだけではなかった。
勘九郎は、芦火多流の光を使った幻術にまどわされている。
タイガーのテレパシーは、直接脳へ刺激がいくが、霊能力の防御力が高ければそれも届かない。
それに対して光をつかった幻術となると、見破るのは困難だろう。

それでも勘九郎よりは、芦火多流と対戦する方が気分的にらくだ。
俺の後ろの純潔を護るためにがんばってくれ!! 火多流!!
オカマあいてより女性相手の方が絶対にいいんだ――っ!!

火多流の方はというと幻術とともに、たまに霊波砲をまぜてくる。
思わぬ方向からくる砲撃だけに、勘九郎もダメージをおっているのだろう。
ルシオラを思い浮かばせる戦い方だが、麻酔の能力がないのだろうな。

それでも、勘九郎にあせりがみえない。
絶対の自信にあふれているのか?
右手に剣を持ちながら先ほどまでの剣をふるっていた様子とは変わって、スタスタスタと中央に移動していく。
それって相手が見えないんじゃ、好きにしろ、といっているようなもんだぞ?

実際中央にいる多分幻術でつくられた火多流を斬ると、消えてみえなくなった瞬間に霊波砲が勘九郎の左後方からあたった。
それを待ち受けていたのか、左手から特大の霊波砲を、攻撃を受けた方向にむかって放っている。

「きゃぁ!!」

かわいらしい悲鳴とともに、霊波砲で結界の外へおしだされた火多流がいた。

「勝者、鎌田選手!!」

俺の願いもむなしく、勘九郎が勝った。
どこにかくれていたのか知らないが、審判が勝者である勘九郎の手をあげる。
しかし、とっとと勝利者の手を離す。
どこか追っていきそうな雰囲気のある勘九郎だが、俺はやっぱり次の試合を棄権はできないかな。

まったくもってまともな方法では勝てる気がしないぞ。


*****
第五試合は決勝までさすがに魔装術5連戦はやりすぎなので、中間で不戦勝をはさみました。

2011.03.27:初出



[26632] リポート8 誰が為に鐘は鳴る(その6)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/17 08:52
決勝戦の前に3,4位決定戦があるから、観客席で少しでも体力と霊力を回復させておこう。

火多流と鳥子の姉妹対決だが、魔装術はなしだ。
うん。そのほうが良いぞ。少女同士の少しは揺れる胸を見れるから。
結果は体術の差で、火多流の勝ち。

先ほどまでの魔装術をつかった派手な展開とは違って地味な展開だ。
絵的には、あまりおもしろくないだろうなと、3,4位決定戦を写している霊能力対応ビデオカメラをみながら思っていたりする。

そういえば、勘九郎はどうしたんだっけ?
もしかしたら、俺がうごかないとまずかったかな。
あわてて雪之丞が運ばれているはずの救護室の方へ移動する。
しかし、途中で勘九郎と唐巣神父がむかいあっている。
ここって、令子がいるシーンじゃなかったっけ?

あっ! エミさんがいないから、変化しているのね。
勘九郎の心が力にのっとられたら、こちらの戦力って、エミさんも、タイガーもいないってことは前より激減じゃないか。

もしかして、対戦をぎりぎりひきのばしても俺ってピンチ?



勘九郎の心が力にのっとられたらまずいぞ。
エミさんがいない分は、俺の霊力アップとひのめちゃんをあてにしていたのに、ひのめちゃんが参加できない。
俺が所属している院雅除霊事務所所長の院雅さんは、ここまでくると問題外の実力っぽいしなぁ。

今の令子はまだ妙神山で修行前だし、あとは唐巣神父が幸いなことに小竜姫さまとメドーサの間ではなく、こちらに来ていてくれることだ。
エミさんよりも実力で上なのは確かだが、近距離よりも遠距離攻撃型なので、勘九郎との相性はやはり悪そうだ。
芦の三姉妹が味方になってくれるとしても、いくら魔装術のパワーがあっても見た感じでは勘九郎に対抗するのはむずかしそうだ。

途方にくれているうちに「横島選手!! いないのかね!!」と試合開始で呼び出される。

やるだけやって、駄目なら最後は逃げ出すか。
大きくみて、月からの魔力送信事件から本格的にアシュタロスが動き出している。
あの悪運の塊の令子が、その事件まではだいじょうぶだろう。

だから、やっぱり死ぬのはイヤだぞ。
皆で、会場から逃げ出せば怖くない。
今回はこれでいこう。


『そんな作戦がうまくいくわけが無い』とは、誰にもきこえていないのだから突っ込める者はいなかった。


「試合開始!!」と審判の声が響く。勘九郎が

「魔装術はね、みがきをかけて完成させると……」

「オカマやマザコンになるのか?」

「ちがうわよ――!!」

「どうやってみても、今日の男の魔装術使いは変なのしかいなかったけどな」

ついでだから、陰念も変態なかまにしといてやろう。

「そうじゃなくて、美しくなると言いたかったのよ!!」

「その格好を鏡でみたことがあるのか? 美しいというより、まだカッコよくと言う雪之丞の方がまともに思えるぞ?」

「あんなマザコンと一緒にしないで……それよりも魔装術よね」

勘九郎とかけあいをしているうちに、俺は霊力を最大限の出力でだせるように両手に集めておいたのを出す。
サイキックソーサーとしては小型版で、霊力は手にあつまったうちの一部しかつかわない。
しかし、その小さめのサイキックソーサーを両手からノーモーションでとびださせて、続けて同じ大きさのサイキックソーサーをつくりまた放つ。
全部で六連発のサイキックソーサーを放ったが、すべて避けられた。
しかもコントロールして攻撃させたのも含めてだ。

「それで全力かしら。あまりがっかりさせないでね」

勘九郎の後ろから襲わせたサイキックソーサーは俺の手元にもどして、霊力の損失を防いでいる。
左手に通常のサイキックソーサーと、右手にサイキック双頭剣の体勢をとる。
一応奇襲攻撃だったんだが、ワン・スーミンへのラストの攻撃をみられていたか。

「完成された魔装術と、まともに戦うと思っているのかい?」

現在の戦力差は出力マイト換算で約4倍なんだから、まともに相手なんてしてられるかよ。

「そんなことを言ってられるのも今のうちよ。死になさい。横島忠夫」

「イヤだ――!!」

そう言っておっかけっこをはじめるとみせかけて、せっかくしかけた術を始動させる。

「何!! 身体が急に重く…!?」

魔装術相手では未来の雪之丞にしか使ったことはなかったが、やはり勘九郎にも効くか。

「俺がただ単にサイキックソーサーをなげつけたと思ったのが、お前の敗因だ!!」

まだ勝ったわけじゃないけど、プレッシャーはかけておかないとな。

「サイキックソーサーの位置をみてみるんだな」

「五角形、しかもあの霊の盾までも?」

「その通り、俺の奥の手さ。サイキック五行吸収陣という」

愛子の時につかったのとは違って、単一色の五角形型のサイキックソーサーを結界内のぎりぎりに設置させている。
6枚の同時制御はきびしかったが、単純に奇襲攻撃と思って壊されなかったのがよかったな。
まあ6枚ともあたってくれたらかなりなダメージになるはずだが、それは期待のしすぎだろう。

「そんなの関係ないわ。完成された魔装術こそ人類最強のはずよ」

魔装術の極意は力にのっとられないことなんだが、この勘九郎に届くだろうか。

「その魔装術が完成されたものだと思っている時点で、間違いをおかしている。魔装術は潜在能力を意思でコントロールして、パワーを引き出すのが極意だ」

さも、知ったかぶりでいう。
実際にはそういうものだと知っているんだけど、ここの世界では、今日までに相手をしたことがあるなんて、現役GSにいないだろうしな。
ただ、院雅さんの視線が食い入るようにいたい。
あとで、なんか追求されそうだ。

「それに魔装術と、俺の術との相性の問題もある。俺自身のパワーは少なくとも魔装術に効果的な技が、サイキックソーサーやこのサイキック五行吸収陣さ」

単純に五角形のサイキックソーサーを五角形においただけにみえるだろうが、霊視がしっかりできるものや、霊視ゴーグルを使えば見えるだろう。
サイキックソーサーが霊的な線で五芒星と真円でむすばさっているのを。

このサイキック五行吸収陣の特徴は、中にあるものの霊力を吸収してさら吸収陣を強化していく性質がある。
ただし、例外はやはりあって俺は吸収の対象にならないし、普通の人間や妖怪からも霊力や妖力は吸収しづらい。
対象は魔装術などの身体の外部が霊的存在であるもの。
悪霊や魔族が対象で、神族にもきいたりするんだな。
まあ、魔族や神族でもメドーサや小竜姫さまみたいに強すぎるとほとんど役立たずか、下手をすると逆にふりまわされるんだが。

勘九郎がそれでも攻撃に移ろうとしているが、迷いもあるのか予想より速度が遅いのでかわし続けている。
霊力は多分半分程度までしかおちていないはずだから、まだ俺よりも倍程度の霊力での出力はだせるはず。

「そこまで、メドーサに義理立てする必要はあるのかな?」

その言葉に敏感に反応する勘九郎。

「メドーサ? 何の話かしら?」

攻撃とめているぞ。
魔装術のせいで顔はわからないが、状況証拠としてはかなり有力なんだけどな。
その時外部から、

「鎌田選手、術を解きたまえ! 君をGS規約の重大違反のカドで失格する!!」

待ちに待っていたときだ。
令子が「証拠は手元にあるわよ」と続ける。

勘九郎の選択はどっち?



ちゅうちょのでている勘九郎にまわりからは、

「やったか……?」

との声が小さく聞こえてくる。
対して勘九郎の答えは、

「証拠…? それがどうしたっていうの?」

少しばかりおそかったようだ。勘九郎の心が力にのっとられたのか。

「人間ごときが、下等な虫ケラがこのあたしにさしずすんじゃないよ!」

通常の結界はすでに解除されているので勘九郎はいまだサイキック五行吸収陣の中だが、俺はその言葉をきくとともに、サイキック五行吸収陣から抜け出す。
さて、残るか逃げ出すかそれの問題だが、以前戦っている勘九郎よりはサイキック五行吸収陣のせいでそれほどパワーはだせないだろう。

「こいつ魔装術の使いすぎで、力に心をのっとられかけて魔族化が開始しようとしかかっている!!」

そうさけんだのだが、GS協会の審判たちが集団では波魔札で対抗しようとして一蹴されている。
審判たちって、やっぱり実戦から遠ざかっているのね。

そんなのんきなときじゃないけど、そう思わずいられなかった。
人はそれを現実逃避という。


心が力にのっとられかけている勘九郎とは、令子が戦っている。
令子は弱った魔族をどつくのが好きだからな。

そんな様子を安全なサイキック五行吸収陣の外から眺めていると、院雅さんが声をかけてくる。

「戦いに参加しないのかい?」

「えー! だってもう1位決定しているようなもんだし、あとは正規のGSにまかせておく方がどうやってみても安全そうだし」

「まあ、それでもいいけれど、1位っていうのはどうかしらね?」

「へっ?」

「GS試験の規約をよくよんでおくことね。こういう場合は、
 1位っていうのは名目で、通常の1位とは扱いが異なるはずよ」

「そうすると、俺が1位を目指した努力って無駄?」

「あの契約書のことをいうのならその通りね」

つらーっとした顔で院雅さんに言われると、せっかくのディープなキスのチャンスが……

「もしかして、あの中に入って戦わないと1位じゃなくなる?」

「そんなわけは無いでしょう」

んじゃ、何のために院雅さんは聞いてきているんだ?
それはともかくとしても、

「あとはゆっくりあの中にいてもらえば、勘九郎の霊力が吸収されて魔装術は維持できなくなるだろうから、令子さんが勝つんじゃないかな?」

のんびりと院雅さんと会話しているが、サイキック五行吸収陣の中で戦っているのは勘九郎と令子だけだ。
あとは遠距離からの支援攻撃の唐巣神父、冥子ちゃんの式神のみで、他は様子を見守っている。
だってあの中の二人の動きが速すぎて入れ替わり立ち代りで下手な支援は、逆に令子の方を攻撃してしまいそうだからな。
遠隔攻撃をしかけている唐巣神父と冥子ちゃんの式神もサイキック五行吸収陣の結界の強化するために吸収されて、勘九郎にたいしたダメージを与えていない。
冥子ちゃんの式神が中に入ろうともがいているから、それだけはやめておいてもらうか。

「六道冥子さん、式神をあの陣の中へ入らせようとするのはさけてもらうとうれしんですが……」

ちょっと下手にでておく。

「なぜ~? 令子ちゃんは~、ひとりでたたかっているのよ~」

いつもの間延びした感じだ。いきなりぷっつんはなさそうだな。

「六道家の式神って、式神のダメージが術者にもどってくるんでしょう? あの勘九郎のパワーって並大抵じゃないから、近くで戦わせると六道冥子さんにダメージがもどってくると思うんだよね」

俺の話の合間にこのぷっつん娘のそばから、ひとっこひとりいなくなったぞ。
すでに、そういう方面で有名だったのか?

「う~ん。じゃあ~、近くにいかない式神で~、戦うのは~、いいのね~」

「そうするのが、安全だと思うよ」

主に俺の安全のためにだけどさ。
余裕があった俺は観客席の方を見ると、なぜか小竜姫さまがメドーサに刺又(さすまた)で動きを封じられている。
えーい。神様が人間に迷惑かけるなよ。


以前の世界では偶然横島がたすけたんだけど、そんなのは知らなかった横島なのも仕方がないだろう。


今の手持ちの戦力でどうにかするならあの手か。

「今、陣を解くから注意してくれ――!! 令子」

俺はサイキック五行吸収陣を構成しているサイキックソーサーを戻しつつ俺自身の霊力に戻す。

「重かった身体が、元にもどったわ」

「なにやるのよヨコシマ――ッ!!」

令子、怒るなよ。
勘九郎も充分にパワーダウンしているようだしって、まだ強いな。
それでも、小竜姫さまがいないと色々と困る。
俺はできるなら使いたくなかった技を使う。

「外道焼身霊波光線ー!!」

霊波砲なんだがこの声をださないとなぜか出せない。
声がきこえていた範囲の人間達には、かわいそうにと見つめられる視線がいたい。だから嫌なんだ。
最初に韋駄天の八兵衛が霊波砲を放ったイメージで、俺の霊波砲を放つイメージになったみたい。
しかも通常の霊波砲ではなくて、収束型になっちゃうんだよな。
元々が神様の技で、俺との霊力の強さが違うからそうなるんだろう。

狙った先はメドーサ。
霊力に差がありすぎるから、まともなケガはしなくても嫌がらせレベルにはなるだろう。



あたったメドーサは予想外からの衝撃に思わず刺又(さすまた)を取り落としてしまい、小竜姫の神剣に身をさらすことになった。

「形勢逆転ってやつね…!! 勝手なマネもここまでよ、メドーサ!!」

「……たしかにここまでのようね」

『っち、まさかザコに邪魔されるとはね』

会場で反撃をしだしている勘九郎を見ながらも、自身の身のためだろう。

「勘九郎!! 撤退するわよ!!」

「――わかりました!」



うん? 撤退? 前の時はたしか違う言葉だったような。

「仕方がないわ! 次は決着をつけてあげる。横島!」

「いらんわい!!」

「生きてそこからでれたらね…!!」

火角結界なら今日になってからみつけたので、発動しないように小細工をしてある。
純粋な魔族ならこれぐらいつくれるだろうが、まだ人間をやめていない勘九郎には種が必要だ。

見つけたのは決勝の結界の下に隠すようにあったのだが、今起動した火角結界はもっと広い範囲でたっている。

安全だと思っていた俺はその広く放たれた火角結界の結界内にいるし、残り爆発までの時間は120秒とカウントダウンを開始している。
前回なら令子の勝負下着の色と同じ黒を斬れば良いのに、今度のこの火角結界はどちらかわからんぞ。

「全員で霊波をぶつけるんだ!! 霊圧をかけてカウントダウンを遅らせる!!」

唐巣神父、それ無理っす。
これだけ大型の火角結界なら小竜姫さまでもとめられるかどうか。
外部から娘のためだろう、六道夫人も霊波をぶつけている。
芦の三姉妹も魔装術をつかって霊波をぶつけているが、それでも焼け石に水だ。
まあ火角結界って、上下を破壊するから火角結界の外にいる分には安全だけどな。

メドーサと勘九郎もいなくなり、かわりに小竜姫さまが霊波をぶつけてカウントダウンを遅らせている。

「私の霊波でもカウントダウンを遅くするしかできません。
 美神さん、左側の結界板の中央に神通棍でフルパワーの攻撃を…!! 急いで!!」

「こ…こう!? 穴があいた…!?」

「そいつは結界の霊的構造の内部よ!! 分解しているヒマはないけど活動をとめるチャンスはあります!! 中に二本、管があるでしょう!?」

「あるわ! 赤いのと! 黒いの!」

「どちらかが解除用、どちらかが起爆用です! 切断すればことは終わるわ! 選んで!」



令子の悪運を信じる手もあるが、俺はもうひとつの手を使うことにする。

「六道冥子さん、俺に魔装術を授けてくれないか。そうしたら、この火角結界をどうにかできると思う」

「え~、冥子、そんなの知らないわよ~~」

「六道家の式神の中で、夢の中に入れる式神っているはずだけど」

「ハイラちゃんね~」

「それが短時間なら、他人に魔装術を授けてくれるはずなんだ」

十二神将の遊び相手をしょっちゅうする時があったのだが、偶然なのかそれともハイラの好意なのか遊び相手の間は魔装術もどきを使っていた。
ただハイラがそばにいないとか、冥子ちゃんの影の中に入るととぎれるので、ときどき残りの式神にボコボコにされていたりしてたが。

「ハイラちゃ~ん、できるの~」

「キィッ」

そう鳴き声を出して、俺の影法師(シャドウ)が抜き出されて、俺の身体の外を覆うように展開されていく。
この魔装術もどきだが、やってることは魔装術と同じようなものだから、まあいいんだろう。
完全なコントロールをおこなって鏡をみないと実際にはわからないが、和服と変な帽子にピエロっぽい顔をしているだろう。
まわりが混乱におちいっている中、そんな俺と冥子ちゃんの様子を正確にきいて見ていた六道夫人がいたりするのもわかっているが、今はこの危機をぬけだすことが先だ。

影法師(シャドウ)は霊力を100%使いこなせるが並のGSなら肉体から出力できるのは、影法師(シャドウ)が出力できる20%をこえれば良いほうだ。
超一流といわれるGSでも普通30%を超えない。
たまに六道家みたいに霊力を100%しょっちゅう出しているのではと思う相手もいるが。
この影法師(シャドウ)をだす前の俺は30%ぐらいの霊力で、コントロールだけなら超一流だが、霊力の総合出力がいまだ低いのでサイキックソーサーどまりだ。
霊力を1ヶ所から一気に出せるようになれば栄光の手もつかえるかもしれないが、未だ肉体の方がそこまでついていってない。

しかし、この魔装術もどきなら、どこからでも100%の能力をだせる。
俺は火角結界の開いた穴の部分が多少せまいので、魔装術もどきの馬鹿力で穴を大きくする。
そしてその穴の中に入り、他人からは見えないように『視』の文字が入ったビー球くらいの大きさの球体で確認する。
そう、俺の本当の奥の手の文珠で今回の解除用の線は赤か。
赤を切断するとまわりから、

「止まった……!?」

との安堵の声がきこえる。

このあと院雅さんから追求されそうなのと、六道夫人は何かしてくるかな。
他からもきそうだけど、六道家の式神のせいにすればいいだろう。
しかし六道夫人の行動パターンって、原則、人頼りなのはわかるのだが、どっちの方向からくるのかわからないのが困ったところだ。

何はともあれ府に落ちないところもあるが、無事解決したと思いたい。
しかし、これからが本格的な始まりなのだろう……今後のアシュタロスへの戦いにそなえての。


*****
サイキックソーサーをベースにした変形バリエーションを多くだしています。
サイキック五行吸収陣ですが、サイキックソーサーと前世である陰陽師高島の陰陽五行術との合体技です。
ハイラによる魔装術もどきは、ナイトメアの話で影法師(シャドウ)に変化させられたことの拡大解釈によるオリ設定です。
これで六道夫人に眼をつけられたっぽいので、横島クンへ合掌。
GS試験編はこれで完結です。

2011.03.28:初出



[26632] リポート9 院雅除霊事務所はクビ?
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2013/06/23 14:24
疲れたからまっすぐへと、あの安アパートにもどりたかったのだが会場では、

「今日のことはしっかり説明にきてね」

そんな院雅さんの言葉にさからえません。
師匠から弟子へと、まわり中へ聞こえるように言っていたので、こちらに対して質問をしたかったのであろう令子とか、人柄の良い唐巣神父をだまらせる効果はあっただろう。
六道夫人もにこにこしながら、何を考えているのやら。
小竜姫さまはそんな人間の心理なんかに気がつかないで、

「さきほどはたすかりました」

「神様に恩を売れるチャンスなんて、中々無いという師匠ですから」

おもいっきり、電話でのことをもう一度言っておく。
これで、院雅さんの追及の手は緩まないかな。
院雅さんの方を視ると霊圧があがっている。
今日は思いっきり追及されそうだ。はぁ。

事後処理があるということで、小竜姫さまと、唐巣神父に令子は会場にのこっている。
ひのめちゃんは救護室にでものこっているのかな。

単なる選手である俺は先ほどの言葉のやりとりもあるだろうが、院雅さんと一緒に事務所へ戻った。

「色々と知りたいことはあったけれど、今日こそはきちんと話してもらうわよ」

ごまかしつづけたツケがきたかな。

「えーとですね。なんか、今日は予知夢みたいなのをみまして、それで色々と助かりまして」

「それだけだと、魔装術に対しての対処方法の的確さと、さらに初めてだというのに、魔装術を使いこなしていたことの説明になっていないわよ」

「……院雅さんこそ、魔装術のことをどれくらい知っているんですか?」

「……」

時間稼ぎの一言だったが、なぜか考えこんでいる。
一般に魔装術はそのコントロールの難しさから、詳細を知っているものはいない。
なぜかこの魔装術へこだわるようにうかがえる院雅さんだが、意を決したかのように、

「私も魔装術が使えたのよ。今は使えない……使わないようにしていると言ったほうが正しいかしら」

「へっ? 魔装術が使える? けれど今は使わない? なぜ?」

「魔装術のことをかなり知っているみたいだけど、魔装術をコントロールができないと魔族に化けてしまうのは知っている?」

「ええ、まあ」

前回の時の陰念なんかもろにそうだったし、勘九郎も今の状態で使い続けたら、いずれは心が力にのっとられて、魔族になるだろうしな。

「私は魔族化しかけたのよ。なんとかコントロールはとりもどしたけれど、霊的中枢(チャクラ)がずたずたになってね」

「えっ? よく、無事というか、ここまでなおりましたね」

少なくとも前の陰念は、魔族から人間にもどれてもチャクラがまともに活動しないくらいに、おかしくなっていたせいでもう霊能力を使えるようにならなかったしな。

「それなりに努力はしたわよ。けれどね……魔装術をつかっても、霊力のアップはできなくなったのよ」

「それって、霊的中枢(チャクラ)も修復されきっていないで、さらに霊力のリミッターが壊れているということですか?」

「その通りよ、察しがいいのね。多分、今、魔装術をつかっても5%ぐらいしか霊力のアップは期待できないのに、魔族になってしまう危険性が高いのが私よ」

「そうでしたか……」

「こんな私を軽蔑する?」

ほとんど感情がこもっていないようだったが、わずかに悲しげな霊波を感じる。

「いえ。尊敬に値するぐらいです」

「なぜ?」

「俺ってちゃらんぽらんですから、そんな状態になったら自暴自棄になって、どんな生活をしているのか。それに比べたら院雅さんってすごいなって思うんですよ」

「私のことをうちあけたんだから、横島君のことも知っておきたいの。これから師匠としてやっていけるかどうかを含めてね」

「それって、話ようによっては?」

「他のGSを紹介して、そっちで見習いになってもらうわ」

下手なところを紹介されると令子と離れる可能性がでてくるし、そうするとアシュタロスとの戦いにも影響がでてくる。
小さいところでは関係しなくても良いが、大きい事件では関われる程度の関係を築いておきたい。
ここの院雅除霊事務所なら唐巣神父の教会からも、今後の令子の活動拠点になるであろう人口幽霊一号ともそれほど離れていない。
短期でGSの本免許がとれても、令子との接点がとれるところは少ないだろう。
令子のところにこちらから行ったら給料、いやアルバイト料が思いっきり低いだろうしな。
さすがに極貧生活はごめんだぞ。

何より重要なのはこの美人で色気のある所長から離れるのは、今の俺にとって煩悩パワーを増加させる手段が減るということだ。



「そんなに難しそうに考えているけれど、わずかな時間とはいえ師匠である私にも話せないことなのかい?」

色気をたっぷりと振りまきながら、俺の隣にきていた。
またしても不覚。この横島、こんなおいしい状況になっていたのを気がついていなかったなんて。

「いえ、悩むだなんて、院雅さんのそばにいさせてもらえるなら……」

そう言ってだきよせようとすると、するりとにげられた。
ああ、俺の煩悩のバカやろー
なんかあきれたように、

「その調子なら本当の悩みなのか、怪しいところだね。明日いっぱいまではまっていてあげるから、それまでに答えをだしておきなさいよ」



アパートに帰ってきてGS試験の仮免が発行されることは、院雅さんから電話で伝えられてきたが、俺は明日どこまで話すべきかで悩んでいた。
1ヶ月半ばかりの付き合いだが、除霊作業という生き死にかかわる仕事をしていると、それなりの信頼関係を必要とする。
だから師匠として俺を導くつもりがあるのかもしれないが、俺の意識と知識の方が11年先のものだと知ったら、彼女はどういう反応を示すだろうか。

昨日はショックのあまりに忘れていたが、いつもの日課である寝る前の瞑想を行う。
普通の瞑想だけでなくサイキック五行吸収陣と似た技というか、元の基本技術をたどるとサイキック五行陣にたどり着く。
これは俺の前世が陰陽師なのに霊力のこもったお札を作るために、筆を通して安定させて霊力を供給させるのが苦手というところからきている。
そこで、ヒャクメの分析をもとに、老師が考えだしてくれた技だ。
その変化形であるサイキック五行重圧陣の中で、霊圧をかけながら瞑想を行う。

瞑想を行うが雑念だらけだ。
土曜日曜はお昼までに事務所へいけばいいので、明日考えるか。
そうして疲れた中、ぐっすりと眠る。



朝は朝食といってもコンビニ弁当なのだが、その前のランニングと軽い体術を使ったイメージトレーニングを行う。
イメージトレーニングは実際には霊力をつかわないが、霊力をつかったと過程して仮想敵を想定して行う。
俺の場合は大きくわけて、2系統の相手を想定している。
悪霊や、身体を変形させることが少ない人間の形をとる魔族と、人間の形をとっていなくて、どのような攻撃防御手段か不明な相手を想定する。
戦ったことの無い相手はイメージしづらいので、文献などをあさって、イメージトレーニングをつんでおく。
しかし、あくまでイメージなので、実際に戦ったときには異なる能力があったりするから油断は禁物だ。

アパートに帰って、院雅さんに伝えることを考える。
この1ヶ月半と院雅さんと一緒にgsとしてすごした限りでは、秘密はまもってくれるだろうと思う。
昨日魔装術を一時的に授かった時点で、文珠のストックもついでにつくっておいたから、最悪な手だが『忘』の文珠で忘れてもらうこともできる。
そうなると、あのちち、しり、ふとももと別れるのがなごりおしい。院雅さんとわかれるのも悲しいぞ!?

日曜の12時前につくように出発する。
昼食は霊力をたくわえられるようにと、オカルト稼業兼任の料理屋に頼むことが多い。
たまに焼いたヤモリがはいっていたりするのが嫌なのだが、霊力のもとだからな。好き嫌いは言っていられない。



事務所に入ると思いがけない人物がいた。
それも、そう。昨日のGS試験で俺と試合をした芦鳥子がいる。

なぜ?

疑問はすぐに解けたが、予想外だった。

「あらためまして。芦鳥子(ちょうこ)です。院雅除霊事務所のGS見習いとして契約をお願いにまいりました」

「えーと、院雅さん。もう一人この事務所で、GS見習いを雇うんですか? はっ! それとも俺に愛想をつかした!!」

「馬鹿ねぇ。そのようなことじゃないわよ。横島君」

「私、アメリカから引越ししてきましたので、日本でのGSに知り合いがいないのですよ」

「あれ? 院雅さん。芦家って代々GSだったんじゃなかった?」

「それは彼女の祖父までで、彼女の父は普通の会社員だそうよ」

「はい。それで、アメリカでは別なGSに師事していたのですが、彼女にも日本のGSにツテはなくて、GS試験で負けた相手のところに師事するのが良いだろうって」

「けど、きのうは確か再戦を要求するっていっていたような」

「いえ。あんな負かされ方でも負けは負けですし、そのあとの決勝戦での戦い方ですが、あの陣をつかわれていたら私の負けでしたよね?」

「うっ!」

確かにあれをつかっていたら勝てるんだが、あれだけでも結構目立つ術なのに何回も使えるのは目立ちすぎるので、できれば使わない方向でいたんだけどな。
世の中うまくいかないものだ。ただ、そこで院雅さんが、

「確かにこの横島君の実力はあるけれど、教えたのは私じゃないわよ」

「それは言いすぎではないかと……」

「そ、そ、それじゃぁ、私はどうしたら良いのでしょう」

「そうね……横島君、昨日のことはきちんと考えてきてあるでしょうね」

「はい。ただ……人目があるところではちょっと」

「横島君と話があるので、その要件がすんでから話をするのでいいかしら。鳥子さん」

「ええ。まずは相談にのってもらいたいですから」

「そうしたら昼食に良い時間だし、これで外食と暇つぶしでもしていてもらえるかしら」

院雅さんが財布から1万円札をだして渡そうとしている。

「いえ。そんないただかなくても、相談をもちかけたのはこちらですから」

「いや、仮契約みたいなものだわ。勝手に他のところにいかれてもこちらとしても困るかもしれないからね」

「それならお受けいたします」

なんか昨日の試験に比べるとネコをかぶっている気がしなくもないが、やとわれようとするのだから普通はそうだよな。

「そうね。午後3時にきてもらえるかしら。それまでには、こちらの方もなんとかなっていると思うから。横島君、そうよね?」

3時か、そんなものかな。

「そうですね。それぐらいなものだと思います」

芦鳥子が事務所からでていったあと、すぐに話ことになるかもしれないと思っていたのだがその前に、

「もしかしたら、一緒に食事をするのも最後になるかもしれないから、今日は奮発しているわよ」

「やめるかもしれない人間に?」

「立つ鳥後をにごさず。もしやめることになっても、横島君ってそういう感じに見えるしね」

「そうですか。そう言っていただけるとうれしいっす」

嵐の前の静けさか意外にのんびりとした感じで、昼食はすすむ。
昼食後は本来の話題をついに話すことになる。

「それで、横島君のことを教えてくれるわよね。いろいろと」

「ええ。その前に、もし納得していただけなければ、これからお伝えすることを忘れてもらうことになりますが、それでもかまわないですか?」

「忘れてもらう? それは私に忘れろ、ってこと?」

「いえ、実際に忘れさすことができるんですよ。俺の霊能力のひとつなんですが」

「やはり横島君って。サイキック系だけじゃなかったのね」

「いえ、その能力もある意味サイキック系です。それの進化版ってことになります。どちらかというと昨日の試合の霊波砲とか、魔装術もどきを使う方が本来の俺の能力じゃないのですが、それは本筋じゃないのでいいですか?」

「それだけ、あなたにとっての秘密事項ってことね。わかったわ。それでいいわよ」

俺は文珠を一つ出し『忘』と言う文字を入れる。

「これがさっきの忘れさすことのできる、霊能力になります」

「これが霊能力? どちらかというと霊具じゃないの?」

「いえ、これは俺がつくりだした……俺の霊波の塊が固定化したものです。そしてこの『忘』の文字の効果で、この文字の意味の通りに忘れてもらうことができるんですよ」

「ふん。変わった能力ね。それは、わかったから、あなたが今まで秘密にしていたことって何?」

「そうですね。これを使うと早いっす」

俺は文珠の中の文字を『忘』から『伝』と変える。

「これで『忘』から、俺の考えていることを言葉としてではなく、イメージごと直接『伝』えることができます」

「何、その能力。聞いたことなんて……もしかして、うわさにきいたことがあるけれど、それって文珠?」

「よく知っていましたね。その通り文珠です。これを知っているなら、これが使えるってだけでも、秘密にしたいってわかりますよね?」

アシュタロスを倒したのは最後、文珠だという噂が流れて魔族や一部の神族の過激派から狙われたことがある。
確かに文珠の力も必要だったが、それだけじゃない。
あのワルキューレさえ最初は『使いようによってはどんな魔族も倒すことができる』と言ってたから、そういうイメージが人間より神魔の間では大きかったのだろう。
まあ、令子と二人の合体でおそってきた連中は倒しまくったからあながち間違いではないんだが、そのたびにあやまりにくる小竜姫さまとワルキューレが可哀想だったな。
令子は小判とか、金塊とかもらったらころりと機嫌をなおしていたけれどな。

「そうね。今の日本、あるいは世界なら横島君をとりこにしようとするかもしれないわね」

「昨日の火角結界を解除したのも、これで『視』認をして、解除用のコードを判別したんです。けど、文珠だけだと、それほどたいしたものでもないんですよ」

「えっ?」

「これ以上は、話すよりも文珠をつかって『伝』えます。いいですよね?」

院雅さんが頷いたところで、俺は令子にあったところから、大きな事件に関する内容について、感情を殺しながらレポート風のイメージで伝える。
世界を選ぶか、ルシオラを選ぶか。なんてのを伝えるのはごめんだから、そういう個人情報などもさけているので、淡々としたレポート的に受け取っていると思うのだが。

「あ、あ、貴方って未来からきたの? そのせいで一番古く考えられるのは平安時代からあなたの世界と分岐している世界となってしまっているって? そんな……」

多分、それであっていると思うんだよな。あとは中世ヨーロッパでカオスとかとあったことが影響を与えているかもしれないけれどな。
調べてみる限り、過去の記憶にある大きな事件で時間のずれは無い。
俺の知らないところでおこっているかもしれないが、影響範囲は極めて限定的だ。
わかっている限りでは、ひのめちゃんが大きくなっていたり、残っていなかったはずの二鬼家や芦家があったり、GS試験の事件が1年はやかったり。
芦家は芦財閥なんてふざけたもののかわりなのかもしれないが、このまま順調にすすめば1年後にはGSとしてトップクラスにいるだろう。
それとも魔族化していたのかもしれないが、どちらにしても俺のいた前の世界ではなかったはずだ。

かなり簡略にしてレポート風にして『伝』えたが、院雅さんはどう判断する。
クビになるかな?


*****
文珠はあと最低1つ残っています。
椎名作品ではアメリカはコメリカという説はありますが、ここでは美神美智恵が使った空母がアメリカ空軍ということで、アメリカ設定にしてあります。

2011.03.29:初出



[26632] リポート10 史上最大の臨海学校(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2013/06/23 14:25
院雅さんはしばらく考えていたようだが、聞こえてきた声は、

「直接戦力にはなれないけれど、情報ならうまくすれば入手できるかもしれないわね」

俺は改めて院雅さんの顔をみつめて、その一言で俺は院雅除霊事務所に残ることになったのを理解した。

「多少は時間に誤差はあるかもしれませんが、情報を集めるってだけでも結構危険ですよ?」

院雅さんの決意を知りたくて、あえて危険を強調するが、

「どうせ、全員そのアシュタロスの核ハイジャック事件や、その後の霊障にあうのでしょう?」

「多分、そうですね」

「知ってしまってから忘れるなんていうのは、少なくとも私の流儀じゃないわよ。それに意外な人生になりそうだしね」

「本気ですか?」

「本気よ……ただ、貴方の煩悩を満足させようとは思わないけれどね。ふっふっふっ」

えーい。俺の性癖まで暴露したのに、それはなんだっと言いたいのは少しばかりあったが、味方になる人物ができて安堵している俺がいる。
こうきまったら怪しさの可能性がある芦鳥子には、

「この事務所は人手がたりないわけじゃないから、GS協会でGS見習いになれるところを紹介してもらったら良いわよ」

とビジネス風の笑顔で対応していた。
しかし、女って、いくつ顔を使い分けているんだ? 謎だ。


学校では愛子に、

「GS試験合格したよ。正式な免許証と院雅さんからの妖怪保護移管状が届いたら、俺が愛子の保護者ということになるからな」

愛子がもじもじとしている間に、

「なんだとお前、愛子をひとりじめするつもりか」

「家に持ち帰るのか?」

「家に帰ってあんなことや、こんなことなんかするんじゃないだろうな~~」

男共の叫びはこの際無視して、

「うそー。本当に愛子が横島君のものになっちゃうの」

「馬鹿ね。保護者ってだけよ、あれは」

女生徒は男共の嫉妬よりは、横島のことを買っているようだ。
愛子が次のような発言をしなければだが。

「保護者ってことは、一緒に住んで、高校生同士が同じ部屋に。しかも血のつながらないのよ。それって……隠れた青春だわ――」

「やめろ――っ!! 愛子!! そんな妄想にふけるな――っ!!」

「冗談よ。じょ・う・だ・ん」

「冗談にしては性質がわるすぎるぞ――っ!!」

まわりの男共は、すでにバットや、椅子を持ち上げていたなんてこともあったりした。


唐巣神父の教会には、ひのめちゃんに負けた芦八洋(はちよう)が、唐巣神父にGS見習いとして入っている。
俺の時はピートを迎え入れるときだったから、無理だったのはわかるがなぜ入れる、と思ったら答えはわかった。
小竜姫さまから小判をせしめた令子が、除霊事務所をたちあげようと奔走しているのだ。
それで、芦火多流(ほたる)が令子のところでGS見習いになるらしい。

うーん。芦火多流のアルバイト代は大丈夫なんだろうか。
ちょっと人事ながら心配だ。

その翌日には、芦鳥子が魔鈴さんのところに入ったとのことだ。
まさか、魔鈴さんがもう日本にきていたとはな。
うかつだった。知っていたら悩まないで、魔鈴さんのところに弟子入りするんだったのに。
飯もまかない食が食べられるし、除霊の腕も一流の彼女のもとで、前の性格のままなら信頼できる師匠になってくれていただろう。

魔鈴さんは白い魔女とも言われているので、魔力も行使する。
魔鈴さんの魔力は魔装術とは相性もいい。
弟子入りするのは難関だが、以前はGSの正式免許をとるために、雪之丞が弟子入りしていたからな。

平日はそんなものだが金曜日から日曜日の夜は、主に俺のGS免許正式取得の時期を早めるための協力ということで、院雅さんが霊力レベルBのものをとりよせてくれている。
今後の調査の為の調査費の捻出をかねているので、色々と調査費として使う予定である。
だから手元に入ってくる収入はあまり無いが、情報を入手するとなれば安いものだ。



そして明けた月曜日の朝に今度は愛子が、

「みんな――っ!! ニュースよニュース!!」

「あいかわらず、その手の青春っぽいことが好きだな」

「そういう妖怪なんだからいいでしょう。そんなことより、ニュースだってば! 転校生がくるのよ!」

俺はタイガーのことを思い出して、

「男か?」

そう聞くと予想は外れていて、

「女性よ! しかも3人! 全員、美少女よ!」

「おい! 美少女が3人って本当か?」

「3人全員がこのクラスにくるんじゃないでしょうけれど……」

「報道するならきちんと取材してきてくれ」

しかし、1年生の6月の初めに転校生とは珍しいな。
定員割れしているから、学校としては受け入れているんだろうな。

それで教室に現れたのは、芦火多流。
うーん、確証はないが本当にルシオラじゃないよな。ルシオラならあの言葉に反応するだろうか?
他の姉妹である鳥子と八洋は、他のクラスに入っているらしい。
前回も変わったクラスだったが、今回は除霊学校になるのかよ。
下手をすると、六道女学院よりGS見習いの生徒が多いぞ。
ホームルームの終わったわずかな時間だが、芦火多流の席が近いので声をけてみる。

「やあ、芦さん」

「あら、横島さんもここの学校でしたの?」

「俺のことを覚えてくれているのか?」

「ええ、昨日の鳥子との試験はみせていてもらっていましたし、決勝戦やその後も」

うー、火多流みたいな美少女が見ているのを気がつかなかったって、GS試験2日目の俺ってよっぽどどうかしているぞ。

「それは気がつかなかったな。俺は、鎌田勘九郎戦とか3,4位決定戦はみせてもらったよ。対した腕だね」

俺と火多流がGS関係者だと知って、まわりが各種反応をおこしているが、この際は無視だ。
えーい、ピートも無視をきめこむな。

「しかし、それよりも、なぜこの学校?」

「GS見習いするところへ行くのに、ちょうどいい場所だったのよ」

語り口調が俺の知っているルシオラと違う。やっぱりルシオラとは違うのか?
まあ、今日すぐに知る必要もないけど気にはなる。

「言われてみればこの学校、令子さんのところはわからないけれど、芦さんの姉妹が行くGS事務所に近いもんな」

「そうそう。私の行く予定になっている美神令子さんの事務所が、きまったのよ」

「へぇ、どこだ?」

「練馬区XXXXのXXXXの一軒家よ」

はい? そこって人工幽霊一号がいるところじゃないか。
俺も下見をしているから知っているが、一発であそこをあてるか。
これは、龍神王の息子の天龍童子の事件は無いのかな?

しかし、個人につらなる歴史が異なるので、発生するのかしないのかわからん。
こればっかりは竜族にツテでももたないとわからないだろうし、妙神山に行くのも手だがいつもいくというわけにはいかないしな。
令子は姉御肌のところがあるから、他人のためにパーティをしたりする面もあるが、あそこで自分の事務所を開いたときには、他の人間を呼んでパーティとかしなかったんだよな。
しかしこの芦三姉妹も怪しいんだよな。見た目がこれだけ違うのに三つ子だったとは。
しかも、長女が火多流で、次女が八洋に、三女が鳥子だ。
うーむ……考えるだけ無駄だから、そのうち探ってみよう。



そんな日常生活に多少の変化はあったが、現在はちゃくちゃくと院雅さんと情報集めをしている段階だ。
けれどその情報の中には、さらに頭が痛くなってくるような問題も入っている。
さてどうしようか。



そして7月中旬も早い頃に、なぜか俺は六道女学院の臨海学校へついていくはめになっている。
院雅除霊事務所経由で打診がきていたのだが、院雅さんにしても六道女学院とは特に関係ないし、俺は平日なので学校へ行くという理由で断っていた。
そうしたらこの学校のGS見習い全員で、六道女学院の臨海学校にいくことになった。
当然のことながら、学校も休み扱いにならないで、正規の授業扱いになると聞かされている。
六道夫人、校長へおくりつけでもしたのか?

そんなわけで今現在俺たちは六道女学院の女生徒とは別に、六道家の大型ヘリにのって移動している。
それで横にすわっているのは冥子ちゃん。このぷっつん娘がいるのでハイラと一緒に仲良くしてるぞ。
ちなみにこのヘリには、芦三姉妹とピートも乗っている。

今回の六道女学院の臨海学校は外部から現役GS3人に、GS見習いが5人って、おキヌちゃんが臨海学校に行ったときより充実しているよな。
その分、何か余計なことがおきそうな気がするので、院雅さんに来てもらいたかったが、依頼を受けているわけでは無いので行けないと言われている。
ごもっともだけど、代わりに結界札を大量にもらってきている。
その他の時の臨海学校って、現役GSが2人だったのが記憶に残っているから、おキヌちゃんの時でも多少は重たくなる予感はしていたんだろうな。



今回の役割を冥子ちゃんから説明を再度ヘリの中で受ける。

「今回の除霊はね~、海流に流されてやってくるような霊なの~。だからみんなね~、たいして強くないのよ~。けれど、数と種類は多いから~、1年生の修行にはいいのよ~」

「それぐらいの強さなのに、この除霊にGS見習いの私たちが参加する目的をもう一度教えてほしいのだけど。六道さん」

芦火多流が真面目そうに質問している。

「同じ高校1年生でも~、女学院の生徒が除霊しているのと~、GS見習いの違いを~見せてあげてほしいのよ~」

「わかったような、わからないような」

「ようは力の格の差をみせればよいってこと?」

「あんまり本気をだされても~、自信をなくす子がいたらこまるから~、そのあたりは1人あたり~、二クラスぐらいをみてもらいたいのよね~。陣形がくずれかけたところをたすけてあげてほしいの~」

俺はちょっと失礼な聞き方だが、直球できいてみる。

「それだけ、今回の1年生の質はよくないのかな?」

「そうじゃないわ~、何か今年は他の年と~、違うことがおこりそうだって~、お母さまはいうの~」

また六道家の他力本願癖がでてきたな。
正規のGSか、六道女学院の卒業生を呼べよ。
とは思ってもここにいるGS見習いって、俺が知っている限りでは、全員が日本のベスト30に入りかねない実力の持ち主だからな。

前回は海の深くにもぐらされた記憶はあるのだが、今回は同じ相手だとしてどうしたらいいかな~。



ヘリから降りたら、そこは少し昔風だが大きな観光客用ホテルがある。
俺ってここにとまらなかったし、朝まで除霊になったんだよな~

「六道女学院の生徒たちはどうしたんですか?」

六道女学院の生徒たちより遅くつくはずなのだが、なぜか俺たちの方が先についているようだった。

「そういえば横島さんって、眠っていましたからね」

ハイラが毛針を飛ばす時の霊波のこもった時の固い毛とはおもえないぐらい、ハイラの毛ざわりが心地よく、ついつい眠ってしまった。

「いや、今晩は多分徹夜に近くなるんだろう? それで、少しでも多くの睡眠を先にとっておこうと思ってな。ピート」

もちろん嘘であるのだが、決して冥子ちゃんに、下手な刺激を与えたくなかったなんて理由じゃないからな。

「そこまで、考えていたのですか。僕はてっきり……」

続きが気にかかるんだけど、

「そんなことより、生徒たちはどうしたのかなぁ?」

「それならバスの前方で事故がありまして、バスがくるまで時間がかかるようです」

ああ、令子とエミさんがそっぽをむいた。
この二人の公道レースに一般車両がまきこまれたのか。
ここの結界がきれる時間までに、バスは到着するんだろうか?

「バスの到着は~、3時までにはくるみたいよ~。結界が切れるのは4時くらいだけど~、霊たちが襲ってくるのは~、深夜ぐらいからだから~、安心してていいわよ~」

安心なのかな?
海岸線にはってある六道家がつくってある結界のせいで、あの向こうはよくわからないな。
今の俺の霊能力じゃ、沖合いの総合霊力がだいたい把握できる程度だけどな。
前回の通りにおそってきても、奇襲っていっても寝ている最中の奇襲で無い分、多少の余裕はできるだろう。
ただ、ちょっと気にかかることがある。

「海はそうですけど裏手の山の方って、何か霊的に乱れた感じがするんですけれど」

不自然にきこえないか、ちょっと心配しながら聞いてみたが、

「え~、冥子わかんない~」

「ふーん、よく気がついたわね。横島クン」

「令子も気がついていたワケ。気がついていないのかもと思っていたワケ」

「無償でおこなう趣味が無いだけよ。エミ」

二人の口ゲンカっといっても、この二人にとってはあいさつがわりのようなものだろうけれど、

「冥子ちゃん。あとで六道夫人にきいておいてもらっていい?」

この冥子の存在に気がついた二人は、爆薬庫の隣にいるのに気がついたのかおとなしくなる。

俺は以前の冥子ちゃんとの昔風の呼び方にかわったわけだが、冥子ちゃんも気にしていないどころかすでに『お友だち』認定されていた。
そのされた時には十二神将にもあわせて歓迎されたが、ハイラの魔装術もどきでかろうじてふんばっていた。
少しばかり時間がたって半分ほど遊びつかれていったのか、少しずつ冥子ちゃんの影へもどっていく十二神将たち。

『ふー、これで安心かな』

心のなかで思って安心していたら、冥子ちゃんの影へとハイラも戻っていってしまった。
そうなると魔装術もどきが解けるわけで、物理的に一番力があるビカラの体当たりで、一発で遠くに飛ばされた。
運がいいんだろうな。飛ばされなければ、残りに式神にぼろぼろにされただろうからな。次回から気をつけよう。
回想していると、

「そうね~。お母さまに~、相談してみるわ~」

「それがい、いいと思うわ。そうよね、エミ」

「そういうワケ。令子」

緊張感がただよっているのはわかるのだろうが、日本に来て日の浅い芦三姉妹はのんびりとしている。
これが芝居だとしたら、かなり高度な芝居だな。
十二神将の噂は、半分冗談としかうけとっていないのかもしれないけれどな。

あれは目にしたものとか、実際に経験したものしかわからんぞ。


*****
横島の通っている学校で定員割れというのはオリ設定です。

2011.03.30:初出



[26632] リポート11 史上最大の臨海学校(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/20 13:37
ホテルでは令子の提案で、一度ホテルの部屋へ入らせてもらう。
エミさんが、ピートと一緒にくっつこうとしない。
さすがは冥子ちゃん効果だ。かなりぶっそうな効果だが。
部屋はピートと同じだが、六道女学院の生徒たちがくるまでまた眠らせてもらおう。



六道女学院の生徒が到着したというので、年配の男性におこされた。
多分、この人が今回つれてこられて来た、霊能力を持たない一般の先生なのだろう。
六道女学院の霊能科だけは特例で、教員免許がなくても、霊能力に関しての教育で単位扱いとなるが他校では無理な話だ。
それで今回は他校の生徒である俺たちの単位のために、教員免許をもっている普通科の教師がきている。
そして、どの教科の単位にわりふってもいいという条件もある。
今のところ休んでいないから不要なんだけど、たしか学校を休まなければいけないような事件にまきこまれた覚えがあるからな。
あまりきたくはなかったが、きてしまった以上やれることだけはやっておくか。

俺たちは授業の一環ということで、広間での六道女学院の生徒たちへ説明を一緒にうけている。
俺たちは他校からきているということで、先ほどの普通科の教師の横の方のふすま側に座っている。

六道夫人の最初の挨拶があってから他校の生徒であるが、GS見習いで除霊経験をつみにきたということで紹介が開始される。
一番はピートの紹介で一応エリートという意識が女生徒にあるのか、騒ぎはしないが熱い視線がいっている。
次からは芦八洋、鳥子、火多流の順番でGS試験での順位が下から順番に紹介をしているようだ。
一応仮にとはいえ1位となった俺の紹介だが、どちらかというと冷たい視線を感じるなぁ。
きたえはじめて2ヶ月半ばかりで貧弱なボウヤよりは、少しは筋肉もつきだしているが、肉体的にはまだまだだし、この時期はまだもてなかったもんな。


実のところこの春のGS試験が、六道女学院にてビデオで流されていたのだが、決勝戦では勘九郎とのかけあいと、あとはにげまわっているようにしか見えない。
サイキック五行吸収陣までカメラでおっていればいいのだろうが、結界の一部にみえても不思議ではない位置にある。
そんなわけで悪運だけで勝ったと、大半の女生徒に思われているのが真相だったりする。
一部のわかる人間にはわかるのだが、霊能科高校1年生にそこまでもとめるのは無理がある。
そしてそれをわかっているひのめ以外にも、1人の生徒が尊敬の眼差しを送っていたりするのだが、横島の過去のもてていなかったという記憶が邪魔をしている。
横島好みの美少女なのにあわれなり。


横島は横島で、おどろいていることがある。
なぜかおキヌちゃんがいるのだ。誰か生き返らせたのか?
死津喪比女の地震をともなった霊障事件はおきていないはずだから、無事に死津喪比女を倒していてくれたらよいのだが。
そうでなければ死津喪比女を倒す算段をはやく考え出さないといけない。
まずいなぁと思いつつも、それはこれからおこるかもしれない、組織だった霊たちを相手にして終わったときだ。


令子たち現役のインストラクターはここにきていない。
実習である除霊開始頃か、それが杞憂であったならば、夕食の時間になれば会うこともできるだろう。


臨海学校での実習の説明は、おおむねヘリの中と同じ説明をされたが、違うのは山側の状況説明をされたことだ。
説明しているのはこの女学院の除霊担当の教師だが、

「祠(ほこら)が、産廃業者によるゴミの不法投棄でその中にうもれているとのことをきいています。こういう場合は、その祠の石神さまがお怒りになっている場合が多く、現在、山側は霊的に不安定になっています。ゴミの掃除はどうしようもありませんが、山側からの方にも結界をはりますので、安心して海側の除霊にはげんでください」

石神でもどの程度の霊格をもっているんだろうか。
ゴミにうもれて自分で排除できないんなら、霊力は低いんだろうな。
まあそっちはそれほど心配する必要はないのか。
山側に結界を張るということは、最悪でも山側と海側の結界の間におちてくる妖怪たちをどうにかすればいいだけだな。
楽観してたところで、俺はどのクラスの担当かなと思ったら爆弾がおちてきた。

GS組で、冥子ちゃんと組まされることになった。

「おい、まてや!!」

そうつっこみたかったが、さすがにこの場ではやめておく。

「それでは各自夕食の間までに睡眠をとっておいてください。徹夜になると思いますから寝ておかないときついですよ」

そうして解散になったところで、六道夫人へ苦情を言いに行く。

「六道夫人。俺はまだGS見習いですよ。正規のGS組に入るだなんて、まだまだですよ」

「あら。私の知っているところによると、GS試験に合格してから参加している除霊件数は16件で、いずれも霊力レベルBからCのものね~。単体の悪霊は霊力レベルBを12体、霊力レベルCを1体、霊力レベルDを33体、参考として霊力レベルEは83体の悪霊を退治したそうね~」

六道夫人はストーカーか。
霊力レベルEなんて、まともに数えていなかったから、俺よりくわしいぞ。
GS協会への最新の除霊報告書に記載されている数なんだろうな。

「正確な除霊数はおぼえていませんが、たしかにそれくらいだと思うっす。ただし所属している院雅除霊事務所って、基本的に低レベルの悪霊が多数いるようなところをひきうけているから、なんとなくそれくらいの数字になっただけっすよ」

「けどね、単独で霊力レベルBの悪霊を相手にできるGSって、普通の新人GSはもちろん中堅以上のGSでもほとんどいないのよ~」

たしかに美神除霊事務所でGS見習いをしていたころの、一般GSのレベルって知らなかったが、霊力レベルB以上の除霊だと複数のGSが協力することが多いからな。

「冥子~、横島君と一緒に組めるってうれしがってたわよね~」

こらこら、そこで自分の娘を武器に使ってくるか。
これで断ったら、冥子ちゃんのぷっつん対象になるじゃないか。
いや、まてよ、逃げ道はもうひとつある。

「冥子ちゃんと一緒というのは非常にうれしいですが、今回は授業ですし、GSとして活動するならば、院雅除霊事務所を通してもらわないと、俺の一存ではお受けできかねるっす」

うん。我ながら完璧だ。
そう思っている横島だが、六道夫人はそんなにあまくないわけで

「それなら、院雅除霊事務所は受諾して前金も入金してあるわよ~」

「聞いていないっす――っ!!」

「確認してみたら良いわよ~」

って、さっそく携帯電話だしているし。
その携帯電話を受け取ると、

「横島君、ごめんなさいね。けれど、どうせ授業として参加するのだから、これくらい問題ないでしょう。情報収集のたしになるからがんばってね」

こう一方的に言われて切れてしまった。

『例年通りの除霊実習でありますように!』

こう祈る横島であった。



少し時間がたったところで気がついた。俺ってやっぱりアホだ。痛恨のミスをしている。
単純にGSの話だけすればよかったのによりによって、

「冥子ちゃんと一緒というのは非常にうれしいです」

なんて言ってしまった。
こっちはタイムリミットまであと2年あるから、それはそっちでなんとかしよう。
タイムリミットって?
俺はこの前16歳になったばかりだから結婚できる18歳まで、あと2年ある。
六道夫人なら俺が式神と仲が良ければ、まずは冥子ちゃんとこのまま組ませたがるだろうな。
そういうことは令子のところから一時独立していた時期にあった。
うやむやになってしまったが、婚約を匂わせる発言が当時はあった気もするしな……

アシュタロスの事件までは、そういう面ではフリーでいたい。
ルシオラを助けられるなら助けてやりたいしな。
自分のエゴだともわかっているし、俺の知っていたルシオラとも違うだろう。
それでもなぜか、この時代にもどってきたんだから俺の人生で一番後悔していたことだけは解決したい。


とりあえず、話すことは話せたとばかりに、六道夫人も冥子ちゃんもいなくなった。
まずは部屋にもどるかと思ったら結界がとぎれたのか、海上も遠くの方から膨大な霊力を感じる。
全体での総合霊力は大きくても、はっきりとはわからないが、霊力が大きく分散している感じだな。
しかし、せっかくだし念のために、処置をしておくか。
ピートには散策と言ってでかけるが、リュックを背負っていくところにつっこんでくれ。
それともピートにこういうのを期待する、俺がいけないんだろうか。

今日聞いた話と、過去の記憶を頼りに院雅さんお手製の結界札を砂浜にうめていくという地味な作業をしていく。
院雅さんって、平日は固定客の結界視察とともに、その固定客との噂話で仕事をひろってきてるからな。
令子も金成木財閥とか、地獄組みとかの固定客もいたが少数だったから、院雅さんのは、令子とは違うスタイルだけども、将来みならうべき点はこういうところにあるのかもしれないな。



その頃、海底では

「海上の霊から報告です。結界がきえました!」

その報告をきいた妖怪の海坊主は

「うむ!……GSどもは油断しているはずだ! 去年までは霊たちの動きはゆっくりだったからな……! だが、今年はちがう!! 私という指揮官がいるし、とっておきの作戦もあるからな!! 今夜は、GSにとっては長い夜になるだろう……!!」

そして、結界が切れたところで一斉に襲えるよう陣形をととのえつつある。



一方現在の横島の能力では、霊力が存在しているのはわかるが、隊列まで整えているなんていうのはわからず、せっせと結界札を海岸砂地にうめていた。
しかし、遠隔の海上の状況変化に気づき、海のかなたから霊が一斉にくることは確実だということが判明する。
まだ生徒たちは寝入ったばかりか、まだおきているだろうから一部の者は気づいているかもしれないと思いつつも、ホテルの令子たちの部屋へ向かう。
ホテルのGSチームが仮眠しているドアを、思いっきりノックというか、たたきまくりながら、

「大変です。おきてください。冥子ちゃん」

だがおきてきたのは令子で、寝起きのために目覚めが悪く、不機嫌だったが横島は自分の弟子でも、従業員でも丁稚でもなく冥子を呼んでいる。
これがひとつでも条件から外れていたら、けり倒して部屋にもどって眠りについていたであろう。

「うるさいわよ! 何なのよ!!」

「令子か。霊の一斉攻撃がむかってきている。すぐに対応を」

令子って言われると「令子様と呼べ」と普段はいうのだが、この寝巻き姿の自分に飛びついてこない横島は物理的にありえないと、寝ぼけていた頭がはたらきだした。

「それ、本当?」

「こんな緊急時に、そんな冗談とかいいませんよ」

霊力源の距離を感知すると、

「わかった。あとは、私とエミでなんとかするから冥子をよろしく」

自分の身の可愛さで万が一のぷっつんへ巻き込まれないように、横島に冥子ちゃんをおこさせ、令子はエミさんと二人で、六道女学院の体制を整えるべきうごきだした。
横島を冥子ちゃんと二人にさせるというのか。
女性が寝ているというところに、高校1年生の横島を入れるというところに、令子の男女間に対しての未熟さはあるのだが、そんなことは気にはしていられない。



俺は眠っている冥子ちゃんと二人きりにされてしまった。
今はそんな時ではないのにと思いつつも身体がつい反応して、顔と顔がちかづきそうになっていく。
そんなとき、

「んー、むにゃむにゃむ。令子ちゃん~~」

思わずにびゅううんっと少し離れたところで正座する。

『さっきフリーでいたいと誓ったばかりなのに、俺って奴は、俺って奴は――っ!!』

「あれ~? 横島クン~? 令子ちゃんとエミちゃんは~~?」

眠たげにぼんやりと寝巻きすがたで起き上がるが、着崩れがほとんどない。
それはおいといて、

「霊が一斉にむかってきているので、令子さんとエミさんは先に動きだしました。多分、六道夫人とか生徒とかをおこして、緊急で除霊の準備や作業をしているじゃないかなと」

「そ~、それじゃあ~、私も急がないといけないわね~」

緊張感もなく、寝巻きを脱ぎ始めようとする。

「ちょっと、まって――っ」

俺はくるりと反対方向を向くが、身体は部屋からでようとするのをこばんでいる。

『俺の煩悩ってやつあ……」

「横島クン~、何をしているの~」

「いえ、着替えなので、そっちを向いたら駄目かなと思って」

「う~ん、だって、今は水着よ~」

せっぱつまっていた俺はすっかりわすれていた。
そういえば、先ほどの令子もエミさんもすぐに水着姿ででてきたことを。

「そうでしたね。はっはっは」

ちょっと笑い声がかわいている。

「じゃあ~、私たちは海岸に向かいましょう~」

「へーい」

俺の精神的危機はさったが、なんかどっと疲れた。
霊の団体様ご一行がくるのに、こんなんじゃあいけない。
自業自得なんだけど。

ホテルの出口で冥子ちゃんはウマの式神であるインダラをだして横のりしているのはいいが、

「横島クン~、一緒にのらないの~。普通に走っていたら~、遅くなるわよ~」

間延びした口調ではあるが、それは正しい。
しかし、ウマタイプのインダラへ一緒に乗るということは、肌が密着しているわけで、俺の煩悩がもつだろうか。

「横島クン~、はやくしないと~、大変なことになるんでしょう~」

俺はなるべく冥子ちゃんに触れないようにインダラに乗ると、

「腰に手をまわさないと~、途中で落ちちゃうわよ~」

冥子ちゃんは俺に対しての危機感が無いんだろうな。
俺がそういうそぶりをみせていないからな。
しぶしぶだが、ちょっとばかり水着越しに冥子ちゃんの身体を堪能していたら、

「いくわよ~」

そう間延びした声とともに、インダラが走り出すと、その加速感のすごいこと。
思わず振り落とされないように、冥子ちゃんへつかまっていると、冥子ちゃんを堪能するほどの時間もかからないで砂浜についた。
さすが時速300Kmをだすインダラだ。
初めてのってみたけれどインダラの速さをなめていたみたいだな。

俺が砂浜についた時にはすでに令子とエミさんはきていて、令子は防御結界を展開している。
それとエミさんは霊体ボウガン班へ指示をして、幽霊達の上陸阻止を開始しだしている。
六道女学院の女生徒たち全員というわけではないが、俺が設置しておいた結界札も発動していて本格的な上陸を阻止している。

クラスの子達はまだきていない娘たちもいるようだが、霊能科教師、GS見習いの全員がいた。
ひとまず第一波は安心だろうが、第一波が舟幽霊?
はて? 記憶では悪霊が第一波だと思っていたのだが。

「冥子ちゃん。これなら、まずは安心かな?」

「そうね~~、私もそう思うわ~」

第一波がひいたころには六道女学院の女生徒たち全員と、六道夫人も最後の生徒をつれて到着していた。
普通科の先生は、ホテルで待機してもらっている。
いてもできることってあまりないどころか、邪魔だからな。

各クラス単位で、霊能科教師が前衛と後衛に、班のわけなおしを指示していた。
そのどちらへも動けるようにと、2クラスの間の後衛の前の方にGS見習いメンバーが配置されている。
本来のチーム編成になるところで、俺たちGSチームは六道夫人と一緒に作戦会議を開いている。

「舟幽霊が大量にきたのにあっさりひっこむのは、げせないワケ」

「私がここの生徒だったときは散発的だったし、種類もばらばらできていたわ。例年、そうですよね? 六道のおばさま」

「そうね~。今年は普段と違うわね~」

「また、霊気、いや妖気も近づいてきていますよ」

「まずは例年通りにおこなって様子をみましょう。防御側というのは、そんなに手段も多くないのだから」

思ったより現時点での令子って、集団戦も理解しているんだな。
この臨海学校での実習を経験しているからか?
それで、様子をみているとおかしい。
海上を移動してきているのではなく、海中をすすんでいるようだ。
しかも線とか面とか立体ではなく2つの点として霊力を感じる。
これはなんかまずい予感がする。


*****
六道夫人に悪意はないのですが、横島君逃げられませんね。
美神令子は六道女学院卒業生で、臨海学校の除霊にも参加したことがあるということにしています。

2011.03.31:初出



[26632] リポート12 史上最大の臨海学校(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2013/07/09 21:13
海中をすすんでいる霊力から、まずでてきたのが小さな男性の幽霊だった。
力はそんなになさそうだぞ?

「うらめしい~~!! あああっうらめしいっ!!」

そんな声は無視されて、その幽霊に霊体ボーガンがあたるとあっさりと、

「やっと自由になれた~~!!」

そう言って成仏していったが、あれは悪霊じゃないな?
そうすると身長10m近いだろうか?
少し丸っこい感じの妖怪があらわれた。
これが先ほど感じた妖気だろう。
いくつか霊体ボーガンがささっているが、たいして効いていないようで、

「おらは『コンプレックス』夏の妖気のカゲにひしめく陰の気をすする妖怪だぎゃー」

各方向からひそひそと声がきこえてくる

「聞いたことないわね」

「知っている?」

「気持ち悪い~~!!」

「みにくいわね」

「うわ~、暗そう」

なんか、女子高生の容赦のない声が響いていると、

「おらは、おみゃーら人間のマイナス思念が固まってできた妖怪だぎゃー!! おみゃーらGSの卵たちは修行漬けで、男とデートのしたことの無い娘たちも多数いるだろう」

そういって指をさされていった女生徒たちが、図星なのか頭をかかえこみだしている。

「うっとしいワケ!! 霊体貫通波!!」

最後まで言わせきらずに攻撃するエミさんって、お約束をやぶってしまうのね。

「ぐふっ…だが…おでは必ずよみがえる…! そこに人間のマイナス思念がある限り…おらは…」

令子は「…最後までうっとーしい奴…だまって消えろっての!」と言っている。

なんか先ほどまで頭をかかえていた女生徒たちは、

「来年もくるのかしら。そうしたら来年の1年生は可哀想ね……」

「どっかから流されてきただけだから、来年は別の場所じゃないかしら」

そうフォローを入れている令子だが、あまり自信はなさそうだ。
そうしているうちに、もうひとつの霊気が海中から姿を現すと、

「えっ!? あれって霊団なワケ!?」

「あんな群生体、女生徒たちでは相手にできないわ!!」

前の世界で、おキヌちゃんを護ろうとして『護』の文珠を使ったときと、同じくらいの霊団だ。
さらにまだ遠方だが、この霊団の支援のためか悪霊達が第二派としてこようとしている。
前の世界の臨海学校と大きくことなっているぞ。いったいどうなっているんだ?

霊団を見た時、おキヌちゃんを思いだしたが、ここの六道女学院にいるのはおキヌちゃんか?
試しに聞いてみる。

「この学年にネクロマンサーはいませんか?」

うん? エミさんがなんか苦々しげな表情をしている。
前の世界でのエミさんは、おキヌちゃんがネクロマンサーとして幽霊から復活した時なんか、わざわざ歓迎したぐらいなんだけどな。

「この霊団を相手にできるような、世界に4人いるかどうかぐらいの高位で貴重な人材がいるわけないでしょう。横島!!」

霊団の除霊の困難さを理解している令子はいらだっている。

「そ~ね。残念ながらいないわね~」

六道夫人もそう言うし、あの娘がおキヌちゃんだとしてもネクロマンサーじゃないのか。
ここは腹を一つくくるか。

「俺に作戦があります。聞いてくれますか?」

「横島クンに?」

「あら、聞いてみたいわね~」

六道夫人も賛同したし、他のメンバーもアイデアがないのか、こちらを見ているので大雑把に作戦を話す。

「そんな、危険なんてより自殺ものじゃない!! 横島クン!!」

「見習いとはいえ、GSをやっている以上危険なのは承知しています。これ以外に短時間で、おこなえる作戦案のある人はいますか?」

霊団の動きが遅くてこちらの結界にまだとどいていないが、その後ろには悪霊達の第二派がひしめいている。
こいつらが合体したら、もうここにいるメンバーではどんな手をつかっても無理だろう。

「賭けってワケ」

「私も信じちゃうわ~」

六道夫人のその信じるって根拠は、どこからでてくるんだよ!!

「じゃあ、さっそく行きますので、式神をだして。冥子ちゃん」

「シンダラ! アジラ! サンチラ! ハイラ! 横島クンのこと~まもってあげてね~」

火を吹いて相手を石化するアジラ、電撃攻撃を行うサンチラと、俺の魔装術もどきを行うのに必要なハイラが空を飛べるシンダラにのる。
俺自身が飛ぶのは『サイキック炎の狐』だ。
現存する魔法の箒(ほうき)で、俺にとっては過去に初めて乗らされた魔法の箒だ。
これが原体験となっているのか、空を自分の能力でとぼうとして思考錯誤してできたのがこれだったりする。
以前は音速の壁を越えて飛ばしてしまったので、壊してしまったが、やっぱり飛べる能力がないと、魔族や神族を相手にするのはつらすぎる。
文珠で飛ぶのだと、文珠の生産が間に合わないし、ってそんな事を思っているのも時間的にもったいない。

さっそくでてきた式神たちと一緒に、サイキック炎の狐にまたがって霊団へ向かう。
このむかっている最中に、ハイラの魔装術もどきをおこなってもらう。
これで準備は完了だ。
あとは霊団のまわりに悪霊がちかよれないように、比較的長距離攻撃ができるアジラ、サンチラで霊団の外周部を攻撃してもらう。
それと近付いてきている悪霊達が、近付けないようにしてもらったりもしている。

俺は魔装術もどきを使って、霊団の中につっこむ。
まわりにはその後、中央にいる悪霊をかたっぱしから斬ると言っておいた。
霊団に霊的な中枢はなくとも、中心部になるほど霊が密集しているので、ここを叩くのが最短時間ですむ方法だ。
これも魔装術もどきがあるからこそできる荒業だが、もうひとつ俺の奥の手である文珠を使うことにしてあった。

だって、痛いのはキライだし。
『成』『仏』と2文字で文珠2個を制御すれば、これぐらいの霊団ならきれいにかたづけられるはずだが、それだとさすがに六道夫人に目をつけられそうでまずい。
『浄』化の1文字ですませて、あとは霊団にあいた隙間からサイキックソーサーを5枚なげつけて、爆発させないようにしながら斬らせまくる。
さらに右手には霊波刀を、左手にはサイキック小太刀をつくる。
霊波刀だが栄光の手ではなく、人狼が使用する霊波刀と同じで、大きさは霊力に合わせて形状は大きく変更することはできない。
この魔装術もどきの間なら栄光の手もつかえるが、これ以上の能力がだせるのを見せるのもまだ問題だろう。

これで霊団内部の霊をかたっぱしから斬っていくのと、霊を外部からそぎとるように攻撃をかけているアジラ、サンチラがみえはじめてきた。
地上からは霊波砲を放ってくれている生徒たちもいる。
長期戦になるから無理は俺だけでいいのにな。
その霊波砲を放っている生徒の中に、おキヌちゃんがいた。
いや、おキヌちゃんは霊波砲が使えなかったし、覚えている霊波とは違う。
おキヌちゃんじゃなかったのか。
残念な気持ちとよかったという気持ちが入り混じる中、霊団が維持できなくなり悪霊達はばらばらとなっていく。
さて、ひきあげどきだと思ったら六道夫人が、霊視能力が非常に高いクビラを頭のうえにのせている。
もしかしたら、文珠の件もばれたかな?
悩むのはあとだ。

まずはサイキックソーサーを全て回収して、これからの長い夜のために霊力の消耗をおさえておく。
そして魔装術もどきをハイラに解いてもらって、地上に舞い戻ったところで、

「ずいぶんとはやかったわね~」

のほほんとたずねてくる六道夫人。

「もっと時間がかかると思っていたわよ? 横島クン」

「私も令子と同感なワケ。説明してくれるワケ。横島」

ちょっとあせっていて除霊の時間が短すぎたか。

「それよりも、あの悪霊の第二派を」

「そういっても逃げられないわよ!! 横島クン!!」

「そういうワケ」

「私もしりたいわね~。あの霊団の中での強力で全体にひろがっていったようなのについてね~」

六道夫人にはクビラである程度まで見えていたが『浄』の文珠までのことはわかっていないことを祈ろう。

「えーと、あれは、全身から霊波を一気に放出したんです。放出系は苦手なんでまわりにとめられると思って言わなかったんですが、運良く成功したんですよ」

実際にはやりたくはないが『ヨコシマン バーニングファィヤ メガクラッシュ』という技が使える。
韋駄天の八兵衛がつかっていたわざだが、生身の状態で使ったら霊力を全てつかってしまう。
魔装術もどきを使えば多分全部の霊力を使用しなくてもできるだろうが、かなり霊力を消耗するのは確かだろうし、これ叫ばないと使えないのがもっと嫌だ。

「そういえば、GS試験でも霊波砲はつかっていたけれど、あれは変に収束していたものね」

「ええ、見ていましたか。なので、全体に出すのも成功する確率は、五分五分ぐらいだったんですよ、実は」

余計なことを言ったが、

「運も実力のうちね~ 第二派もそろそろ後半戦にはいりそうだから、疲れのでてきている生徒を休ませるなどみてきてあげてね~。横島くんも休んでね~」

「へーい」

なんとかごまかしきったか。
しかし、せっかくの夕日の良い時間帯だったのに、芦火多流とまた話がこの時間帯にできなかったなぁ。



もうちょっと、違った能力にみえたのよね~
横島くんは隠したがっているみたいだから~、嫌われないようにしないとね~
しかしGS試験での隠行といい、今回の件といいどれだけ多才なのかしら~
さすがは『村枝の紅ユリ』の息子といったところかしら~



GS試験の対雪之丞戦で、しっかりと目をつけられていた横島だった。
六道夫人は、霊能力を見る眼だけはたしかなものがある。
霊能科への入学試験や編入試験でも、面接で霊能力を見定めたりしていたりするのだし、こうやって各種実習で生徒たちの能力をみたりしているのだから。
とはいっても娘への教育は、うまくいっていないようだが。



「海上の霊から新たな報告です。コンプレックスと霊団が短時間で除霊されました!!」

「計算外だが、その分GSの霊力も消費しているはずだ。第二派をひきあげさせて、第三派の投入と、コマンドを出して敵の陣をくずせ!!」



実際、GSも霊団のために霊波砲の放出で霊力が乏しい生徒がでだしてきている。
その上、上空からコマンド部隊が降下しだしてきたが、山側にも結界がはってあるためにコマンドの投入はそれほど効果をあげない。
その間に気がついたのは、

「なんか~、いつもとちがって組織的ね~」

六道夫人だった。

「っということは、今回は指揮官がいると思っていいですね。おばさま」

「そうね~」

令子は考える。
ここにいる敵は、海の中だ。
指揮官になれるぐらいならば、力関係を重視する妖怪達なら、霊格も違うのが一般的だ。
指揮官をみつけて倒せば、霊の統率は乱れ例年通りになる。
そうなれば、まだ生徒が中心でも戦えるだろう。
みつけるのは、霊格が違うはずだから簡単だ。
しかし、問題はどうやって海の中にいるであろう指揮官を倒すかだ。
自分の事務所のGS見習いが普通の人間であるので除外。
一瞬横島のことも浮かんだが、あの霊団相手に霊力を消耗しているし、このあとの長期戦では必要だろう。
もう一人ピンときた人物がいた。その相手も長期戦にむいているし、現在の横島よりは信頼できている。
その相手にむかってひとこと、

「来なさい!!」

呼ばれたのは弟弟子にあたるピート。
ピートならば人間の肉体をはるかに超越するバンパイアハーフだし、バンパイアは流水を渡れないとかの伝説もあるが、渡れないだけだから沈むだけである。
しばらくすれば溺死することもあるが、鎖でひっぱりあげれば問題なしと令子の中ではソロバンがはじかれていた。

横島は自分で考えだした『サイキック銛』を使用しようかと思っていたところだったが、結局は流されるままのピートを静かに応援してたのだった。

GSチームからピートの変わりに入ったので、ブーイングが飛ぶかと思っていたら、さすがにそんな余裕が無いように見える。
見えるのは横島だけで、先ほどの霊団への単騎突入で無事生還してきたところをみている生徒たちには、尊敬の念をおくられているのだったりする。
そこはそれ過去の記憶が邪魔をして、冷たい視線をなげかけられているような気がしていた。

横島も自分好みの女生徒の水着姿をチラチラみながら煩悩パワーをためて、悪霊達へ攻撃をしているので霊力の減りが遅くなっていたりする。
もうちょっと年上の女生徒たちならば煩悩パワーも減らないのであろうが、それはこの場合は仕方が無いだろう。

霊力を減らしていく生徒たちをフォローするように、中距離はサイキックソーサーで、近距離では霊波刀を行使して動きまわっているが、その動きはゴキブリのごとく。
一部ではその攻撃力や機動力に関心をしながらも、嫌悪感がなぜかわきあがって、尊敬できると頭ではわかっていても、感情が拒否反応をおこしたりする女生徒たち。

そしてある瞬間から突如、悪霊たちの動きが乱れた。
指揮官からの伝達がとだえたのであろうと、横島は過去の経験から判断して行動する。

「ひのめちゃん。お願いだから、火竜をつかって」

「そうすると、私の霊力がかなり減るんですけど」

「今は、きっと悪霊達に指令がとどかない状態になっているようだ。令子さんが何かしたんだろう。このチャンスをつかって遠距離までの攻撃をしたら、いっきに相手が崩れるはずだ」

「そういうものですか?」

「戦いには転機のチャンスがある。今がその時だ。お願いする」


普段、姉の令子にとびかかっては蹴られたり、なぐられたりして落とされている男だが自分にはそういう行動をされたことがない。
そんな横島のことを多少は冷ややかにみているひのめだ。
かかってこられるのは自分ではないのと、それは女として魅力が無いのかしら? というちょっとしたジレンマをもっていたりする。
しかし、霊能力に関しての知識については信用している。

「ええ、やってみます。まかせてください。横島さん」

「お願い。いい子だから」

「お子さま扱いもやめて下さい」

「わかったから、早くお願い」

そして、ひのめの発火能力を利用した炎の塊から火竜が形成されて、横島が指示した方向へ火竜を放つ。
一番、敵勢力密度の高いところだ。
悪霊、妖怪たちをやきつくすようにすすんでいくが、あいにく海上ということでひのめ自身が思ったほどは、遠くまで飛んでいなかった。
しかし、予測を超えた火竜の威力には横島がおどろいていた。
この火竜、ひのめ自身は気づいていないが、浄化の能力もあるので一度妖力や魔力でにごり始めていた海水の浄化もしている。
そんなわけで後方から伝達はこなくて、前方からは聞かされていなかった高い霊力を何回か検知している。
さらに、海水が浄化されたものだから残っている悪霊達は、完全にパニックへとおちいっていた。

こうして完全に勢力は、六道女学院にむく。
霊力が残り少なくなったものも、霊力消費が少ない破魔札の使用をしたり、遠距離系が得意なものは霊体ボーガンの使用へと切り替える。
悪霊たちの攻撃も乱雑になり、各個撃破の対象になっていった。
そんな攻防をくりかえしているうちに令子とピートもかえってきて、さらに朝となり外の結界が再起動して六道女学院側の勝利に終わる。

ちなみに山側に落ちたコマンドたちは、全て水妖であり、長時間の陸上での活動にむいていなくて結界があったために全滅したとだけ追加しておこう。
最後は、人数の確認をして全員無事であることがわかった。

普通ならめでたしめでたしだが、つかれきっている生徒たちをホテルへつれて寝かせるという作業がまっている。
霊力も精神力も体力もとぎれている女生徒たちに、他人の面倒までみれるものは少なく、横島はこれ幸いとばかり背中に女生徒を背負ってホテルまでの往復をする。
目的は背中の感触だがその途中、六道夫人が妖怪たちから、

「じゃ、ボクたち撤退します――」

「は~~い、また来年ね~~~~!!」

『それじゃ、妖怪たちにあばれてもらって、お金をもらうあこぎな商売じゃないか』

そう心の中だけでつっこむ横島だった。

*****
おキヌちゃんのそっくりさんは、原作で死神がついていたユリ子です。
史上最大の臨海学校編はここでおしまいです。

2011.04.01:初出



[26632] リポート13 温泉へ行こう
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/22 21:57
「これ、どうしようかしら」

院雅さんがこまったように、GS協会の除霊依頼書の写しをもってきていた。
俺が目を通すとそこには『人骨温泉』と依頼元の地名が載っている。
思っていたよりも早くおキヌちゃんとあえるかもしれない、というよりは巫女の衣装をきた若い娘の幽霊が、時々見られるという情報を入手している。
多分おキヌちゃんだろう。それよりも除霊対象になっているのが、男性の幽霊としか書かれていない。
推定霊力レベルはC~Dと多少変動しているが、地方の調査した霊能者からの報告だから、あまり経験は無いらしいからな。
せめて山男風とか書いていてくれればいいのだろうが、同じ道をたどるとは限らない。
それはそれとして、もう少ししたら夏休み。
今度の依頼は夏休みシーズンをにらんだ集客で、影響がでる前に幽霊をなんとかしたいのだろう。
相場観が異なるのか、霊力の変動幅を見込んでも若干安めの除霊代金だ。
これだと一番GSが多い東京から、わざわざ行く人間も少ないだろう。
多少はほっておいても大丈夫かもしれないが、おキヌちゃんらしき幽霊が目撃されているのが気にかかる。
悪霊化がはじまろうとしている前兆なのか?
300年も自分の本当の意義がわからず、幽霊をしているという気分は、わからないがやっぱり助けてあげたい。
それよりも

「死津喪比女をなんとかする手段を思いつかないっす」

「除霊経験なら、横島さんの方が長いでしょう?」

最近は院雅さんと二人きりなら、横島君から横島さんと言うようになってきている。
まあ、肉体年齢は院雅さんよりも下だが人生暦は長いからな。

「以前は、完全に運だのみが大きかったし、おキヌちゃんを特攻させちゃったから……死津喪比女が地上にでてこないとね。それと早めに死津喪比女を倒すと、それとは異なった霊障が、東京を襲うことになるからな~~」

「それが歴史の修正力?」

「そうだけど、それも確実といえないところが悩ましくて……」

「えっ? そうなの?」

「俺の意識のみが未来からもどってきていることにより、多分平安時代か、中世ヨーロッパに行った事で、今の関係がずれていると思うんですよ。そのせいで、現在この時点では、大きな事象では変化が少ないのに、個人の差はそれなりにでています」

「そうね。美神美智恵さん、令子さんの母親がイギリスで西条さんとICPOに行っていて生きているというのがね」

「そう。美智恵さんが今いるということは、令子が狙われていないということにつながるか、美智恵さん自身が時間移動の能力に目覚めなかったという可能性がある」

「それで、まよっているの?」

「……そうなんだ」

「未来なんか、私にはわからないことなのだし、貴方もそんなこと気にするのをやめたら?」

「えっ?」

「確かに未来を知っているというのは貴方のアドバンテージでしょうけど、それにしばられすぎると、この前の臨海学校みたいなことがおこるわけよね?」

あたっているだけに痛いところをつかれたというところだ。

「まずは、貴方にとって大事なおキヌちゃんを救ってあげてから、おこることに対処してみたら?」

「……そうだな。やっぱり、それが俺らしいよな。ところで院雅さん」

「うん? なに?」

「今まで聞いていなかったんだけど、院雅さんって魔装術を使えていたんだよね」

「……そうね。今は使っても意味は無いし」

「その時の魔族と、未だに交流はある?」

「あるけれど、なぜきくの?」

「死津喪比女退治を手伝ってくれないかなと」

「無理ね。あの魔族には地中の妖怪を相手にする能力はないし、交流といっても契約の一環としての交流だから、手伝ってはくれないと思うわよ」

「まあ、普通は何か代償が必要だもんな」

うーん。院雅さんと契約した魔族の名前を教えてくれないんだよな。
真名ならともかく地上での仮の名ぐらいは、教えてくれてもよさそうなんだけどな。
小竜姫さまとかの地上に現れる高位な神族や、それに若干おとるとしてもワルキューレあたりだと魔族としての仮の名だしな。

今回は死津喪比女退治をあきらめて、なんとかできるか、はやめに検討しておくか。



今回は『見鬼くん』をもっていくことにする。
いつもは街中できまった範囲の除霊をしないから、院雅除霊事務所では中々出番の無い道具だ。
こいつがあれば霊気の強い方向をさしてくれるので、お手軽に幽霊を探すことができる。
まあ、霊波調は霊体にあわせてあるから、多少霊力のある人間がいても、そちらの方向には向かない。
ただ、雑霊にも反応するのが欠点なんだが。

それで、金曜日の夕方から向かうは人骨温泉ホテル。
念のために2泊3日でとまることにしている。
ちなみに人骨温泉の近くまではJRで移動して、そのあとはレンタカーだ。
しかし、院雅さんの運転がちょっと、怖い。
俺が変わりに運転したいぐらいだ。
だってねぇ、初心者丸出しっぽい運転だから怖くて。
そんな対した距離じゃないのに、これだけの恐怖感を覚えたのはいつ以来だろうか?

以前のおキヌちゃんに教えてもらった、落石注意の看板の場所で一旦おりる。
もうすぐで日が落ちるところ『霊視ゴーグル』でみわたしてみるが、はっきりした霊の痕跡は無し。
とりあえず、今はいないみたいだ。
まあ、普通はもっと早く温泉につくから、その人達を見におキヌちゃんはきているのかな?

人骨温泉ホテルでは、夜な夜な幽霊がでる部屋があるという。
えーと、前は単純に露天風呂だったよな。
また以前と微妙に変わっている。たしか前は昼間にもでていたはずだよな。
さすがに昔の俺でも、夜間の雪の中を進駐したいと思わないはずだよな。
男のことは覚えていないのが昔の俺らしいというか、ビバークした時は雪でまわりがくらくなってきたのは覚えているけどな。

温泉に泊まる時も俺は、

「院雅さん、温泉付きの部屋にとまらないんですか?」

「横島さんのためにとってきた仕事なのよ。自分で片付けなさいよ」

ごもっとも。
折角のホテルで温泉付き部屋なのに、一人さびしく幽霊をまっている。
『見鬼くん』で見る限り、自縛霊ではないことまではわかる。

院雅さんは隣の部屋で何をやっているんだろうか?
ちょっと興味を持ちながら温泉につかろうとしていると、バラエティ番組の音がしてくる。

「ふむ。院雅さんって、こういう趣味があったんだな」

そういえば魔装術をさずけた魔族の話もそうだが、プライベートな話題はあまりしないよな。
俺が文珠で伝えたのは、過去になることも、プライベートにかかわることはかなりさっぴいたけれどな。
煩悩が今現在一番の霊能力源だ。しかし、それだけではないということを。

あまり長く風呂につかると湯あたりをしてしまう。
適当にテレビ番組をみているが、山中のせいなのか番組のチャンネル数が少ない。
結局は、ぼーっとテレビ番組を見続けながら、でてくるという幽霊を待っていたがあらわれなかった。
一日目は、でてこなかったな。
そういえば、毎晩でるわけでないから2泊3日という予定にしていたんだもんな。
電話がなるので、でると院雅さんだ。

「どうだった?」

「幽霊はでてこなくて待ちぼうけでいたよ」

「そうね。やっぱり、最低二晩は必要でしょ?」

「そうっすね。セオリーかな。けれど、一応、こちらは高校生の身分なので」

「何言っているのよ。エセ高校生のくせに」

「まあ、それを言われるとね」

「朝食でもとって、今日のことを話し合いましょう」

「うっす」

軽くミーティングをしながら、朝食をとる。
結局、俺は午前中に仮眠をとって、午後からはおキヌちゃん探しだ。

この山を一人で『見鬼くん』を持ちながら探している。
えーい、わかってはいたけど、院雅さんはついてきてくれない。
話の相手ぐらいにはなってほしいなっと思いながらも『見鬼くん』の指さす方向にむかっていくと、雑霊だ。
霊力が低いから悪霊になりにくいのだが『見鬼くん』にひっかかる。
この山は死津喪比女がいただけあって、竜脈……地脈とも普通は呼ぶが、それがあつまってきているだけあって雑霊も多くいる。
おキヌちゃん探しを軽く考えていたが今回は無理かな?

もうひとつは死津喪比女の居場所を探すことだが、こちらは院雅さんがついでに人骨温泉のふもとの街で聞いてくれている。
何をって?
作物がなりにくいところとか、草木が生えにくいところだ。
死津喪比女が地脈からきりはなされているということは、その周辺の土地も地脈の恩赦をうけないので草木がまっさきに影響をうける。
地脈がどうなっているかなんていうのは表面まであがってきてくれていないと、普通はわからないから、まわりくどい手だがこれでだいたいの居場所は推測できる。
だからといって、死津喪比女を地表にひっぱりだせるかが問題だけどな。

あらたに『見鬼くん』にひっかかった霊はというと未来では、この山で山の神になり、さわがしかったワンダーホーゲルだ。
そういえば、こいつもこの山の神になったときから本名をなのらなかったな。

「そこの山男風の幽霊さん、聞こえるかい?」

驚いたように振り返りながら、

「じっ…自分が見えるっスか?」

「ああ、声も聞こえているぞ! 一応見習いだけどGSだからな」

「嬉しいッス。周りの誰にも気がつかれなかったし、今の季節はいいっスけど、冬は寒いであります!!」

「ちなみに俺は横島。幽霊さがしをしているんだけど、手伝ってくれないかな?」

「手伝うでありますが……なら、条件があるっス」

想像はつくがきいておくか。

「どんな条件だ?」

「自分の死体をみつけてくれないっすか。それで供養をしてほしいであります」

「じゃぁ、目的の幽霊探しが成功したら、その条件をのもう」

いや、まるっきりもって条件を飲む気はないのだが、こう言っておかないとこいつ手伝ってくれないだろうしな。

「探すのを手伝うだけじゃ駄目っスか?」

「ああ。しかも今晩はホテルにとまって仕事があるし、明日は夕刻には帰る予定だから、今日、明日だけしか時間がないからそのつもりで」

「……わかったっス。その条件でいいであります」

よし、これでこいつと無駄にいる時間を減らすことができる。

「えーと、探しているのは、巫女姿の15歳ぐらいの女の子の幽霊なんだが」

「この辺では有名であります」

「どんなふうに?」

「あの子は姿形もはっきりしているのに、俺たち他の幽霊が見えていないみたいっスよ。それで噂になっているっす」

あの道士、そこまで考えていなかったな。
それなりに雑霊が多いのに、この場所で300年、一人ぼっちとしか感じなかったのは。

「たまにいるタイプの幽霊だな。他の幽霊は見えないか、見えづらい幽霊がいるんだよ」

「そうなんっスか?」

「もしくは……推測になるからやめておこう。まあ、そういうタイプの幽霊がいるっていうことだ」

「そうっスか。だいたいいる場所は知っているっスから、時間がないならさっそく向かうっス」

ワンダーホーゲルをついていくと、下の方にむかっている。

「横島サン、俺、嬉しいっスよ!」

「何が?」

「死んだあとも、今は降りるだけとはいえ、男同士ですごせるなんて」

ああ、肝心なことをわすれていた。
こいつも、なんとなくそのケがある奴だったな。

「勝手に喜ぶのはいいが、成仏したかったら、さっき言った幽霊さんをさがそうな」

「もう少しっスから」

そういうと、みえてきた。
うんおキヌちゃんだ。
ちょっとさみしそうにしているな。

「そこの巫女姿の幽霊さん」

「えっ? 私のことをみても逃げ出さないんですか?」

「ああ、GSっといっても通じないかな。道士や神主、宮司に近い感じで、幽霊を助けるのを専門にしているんだよ。それで、俺の名前は横島忠夫。幽霊さんの名前は?」

後ろで『自分の名前は尋ねなかったくせに』と呟きはきこえるが無視しておこう。

「私はキヌといって、300年ほど昔に死んだ娘です。山の噴火を沈めるために人柱になったんですが……普通そういう霊は地方の神様になるんです。でも、私才能なくて、成仏できないし、神様にもなれないし…」

「後ろの幽霊、今の話は聞こえていたか?」

「ええ、聞こえていたっス」

「他に幽霊がいるんですか?」

今のおキヌちゃんだと霊力の弱い幽霊は見えていないんだな。
多分、霊的システムによって地脈にくくりつけられたせいで、弱い霊を感知できないんだろう。
推測でしかないから、道士にあったらきいてみないとな。

「ああ、おキヌちゃんといったね。山から神の候補がいなくなるのはまずいことだから、後ろにいる幽霊がなりたいと言ったら、入れ替えをしてあげるけど」

「ええ、本当ですか?」

「山の神様……候補かもしれないけれど?」

「まあ、才能の問題があるかもしれないけれどな」

「挑戦するっス!! やらせてほしいっス!! 俺たちゃ街には住めないっス!!」

「後ろの幽霊は山の神様になりたいって言っているから、おキヌちゃん入れ替えわってみる?」

『うん』といってほしいのだが

「そこに本当に幽霊が居るんですか?」

「ああ。多分だけど、おキヌちゃんがこの地脈から切り離されたら、見えるようになると思う。入れ替わってみるかい?」

「はいっ!!」

「じゃあ、儀式をおこなうから、おキヌちゃんはそこにたっていて、後ろの山男はそのおキヌちゃんの横にならんでくれ」

俺の能力からいうと令子と同じ手法はとれないので、別の方法となる。
五枚の五角形のサイキックソーサーだが、黄色がかっているのを二人の周辺に配置する。

「サイキック五行黄竜陣!!」

地脈を制御できる黄竜にちなんだ陣だ。
これで、地脈に干渉ができる。

「この地の力よ。少女の幽霊より、男性の幽霊へ流れを変えたまえ…!!」

サイキック五行黄竜陣も含めてそれっぽく言葉はとなえているが、言葉はなく意思だけでも入れ替えが可能なんだけどね。
いきなり入れ替わるよりは心の準備もできていただろう。
山男は白い袴姿になって弓と矢と矢筒をもった姿になった。
一方おキヌちゃんは、

「あれぇ? いきなりとなりに男の人がいます」

「これで、自分は山の神様っスねーっ!!」

「とりあえずはね。がんばって修行してくれ!!」

「おおっ、はるか神々の住む巨峰になだれの音がこだまするっスよ~」

「いや、もうその時期すぎているから、って、とんでいっちゃったなー」

うん、後先考えずに移動する奴だな。

「ありがとうございました。これで私も成仏できます」

「うーん、できるかな?」

「えっ?」

「いや気にしないで、いいよ」

「そうですか。短い間でしたけど、さよなら……」

地脈から切り離したけれど、霊体が安定しきっているおキヌちゃんは、

「あの……つかぬことをうかがいますが、成仏ってどうやるんですか?」

「長いこと地脈に縛りつけられたから、安定しちゃったんだよ。最近ちょくちょく人が見えるところにでてくる幽霊がいるということで、悪霊化していないか調査しにきたのが、今回の目的だったんだよね。悪霊なら成仏させるけれど、そうでなかったら自分の意思で成仏してもらうんだ。俺の除霊方法って、悪霊でもかなり痛いらしいからおすすめはできないよ」

「かなり痛いんですか……そうしたら、私どうしたらいいのでしょう?」

「地脈から離れたら序々に不安定になると思うから、それで自然に成仏できると思うよ。 折角だから東京、昔でいう江戸にきてみないかい? 色々と今までできなかったことができるよ」

「それで、いいんですか?」

「うん。実際に妖怪を一人保護しているしね」

「えーと、それじゃ、ごやっかいになります」

そして、俺はおキヌちゃんと話をしながら人骨温泉ホテルに向かっている。
院雅さんにおキヌちゃんを紹介したあとに、思いがけないことを告げられる。

「それじゃ、キヌさんは横島君のアパートで一緒ね」

はいっ?
てっきり院雅除霊事務所で寝泊りしてもらうのかと思っていたが、おもいっきり違うぞ。
あの4畳半のアパートの部屋で、幽霊とはいえ女性と二人暮し?

俺の煩悩はもつのか?


*****
地脈に縛られていた時の、おキヌちゃんが(霊)力の弱い霊を見られない状態であったというのはオリ設定です。

2011.04.02:初出



[26632] リポート14 少女と同居?
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/23 19:37
院雅さんの言葉を聞いた俺は、

「院雅さん、おキヌちゃんと一緒に住むなんて聞いてないっすよ!」

思わず、泣きが入りかけていたかもしれない。

「横島君、おちつきなさい。本人の目の前で言う話じゃないでしょ!!」

そういえば。おキヌちゃんの方をチラッと見ると、迷惑そうだったかなという顔つきをしている。

「俺なら、おキヌちゃんみたいな美少女と一緒なのは大歓迎だぞ」

あー、こうやって俺ってまた人生を間違えるんだなと、思いつつもこのアリ地獄から抜け出す気にも中々ならないんだよな。

「そういうわけでGSの正規の免許が届いているから、事務所によった際にもっていきなさい」

「はいっ? なんですかそれは? 聞いていないっすよ」

「あれ? 横島君って見習いから正規のGSになるためのルールを、知らなかったの?」

「えーと、悪霊100体を退治した上で、GSの師匠から独立の承認をもらったらですよね?」

「うーん、ちょっと違うのよね。2年ぐらい前にちょっとした規約改正があったのだけど、横島君は知らないみたいね」

「2年前?」

うかつだったが、俺のいた未来とGSの規約も多少かわっていたらしい。

「どんなことですか?」

「除霊した複数の霊体全体の霊力レベルも、除霊の数のポイントにカウントされるわ。しかも六道女学院の臨海学校の相手は、通常は総合霊力レベルAと認定されているって知っていた?」

「ええ、一匹一匹が雑魚とはいえ、あれだけの数の霊を除霊するのは、普通1人では無理ですからね」

「けれど今年は霊団とかがでて、総合的に霊力レベルSとして認定されたのよね。それでその霊団相手をするのに中心にいたのは?」

「……俺っすね」

「結局過去の実績とあわせて、六道女学院の除霊の件でレベルD以上の霊を100体以上の倒したのと同じ換算数になっているのよね。そして、師匠として横島君のGSとしての評価は、言われなくてもわかっているわよね?」

霊能力の方向性が違うので、一概にどうとはいえないが、ほぼ院雅さんと同格レベルの除霊は、単独で実施することは可能だ。

「そうすると、俺の院雅除霊事務所での立場は?」

「それは、立ち話もなんだから、部屋の中ででも話しましょう」

除霊の前に迷っていたままなら、本来なら軽い相手でも失敗することになる。
それで俺の方の部屋に入るが、夕食まではまだちょっと早い。
座椅子にすわりながら、ておキヌちゃんはふわふわと浮いてテレビをみていたが、俺の今後のことを院雅さんは軽い感じで話だしてくる。

「横島君、院雅除霊事務所の第二事務所を、担当してもらうというのを考えているんだけど」

「なんで、わざわざ事務所を2つにするんですか?」

「外れるかもしれないけれど、竜神の子どもがくる事件はおこっていないのでしょ?」

「おお、すっかり忘れていたな。天龍童子っすね」

「その時、貴方ならどうする?」

「小竜姫さまが訪れそうな事務所につれていくっすね」

「それで今度の夏休みには、妙神山に修行しに行く予定だったわよね?」

「ええ」

「そうしたら、唐巣神父も美神令子もたまたまいなかったら、横島君のいる事務所へ、天龍童子を探すための依頼があるかもしれないでしょう」

「結論は、事務所が壊される恐れを心配していると」

「身も蓋もないけれど、それね」

確かに可能性としてはあるけれど、そんなことを考え出す院雅さんが、魔族になるかもしれない魔装術になんか手をだしたんだ?
まあ、聞いても答えてくれそうにないからいいだろう。

それに正規のGSになったからといって、新人GSがすぐに独立するのは経営的にかなり厳しいのは、過去に一時期独立していた経験で知っている。
除霊助手を雇うのが通例で、そいつの賃金分さえかせげないというか、依頼がこないとか、GS協会の紹介を受けるのも厳しい。
俺は、空中でテレビ番組に見いっているおキヌちゃんをちらりと見てから小声で、

「その事務所はともかくとして、おキヌちゃんとあのアパートで一緒に暮らすって、押し倒さないという自信がないんですけど」

よっぽどなさけない声にきこえたのだろう。

「中身はそれなりの年齢だろうに……その事務所と同じアパートでもう一室を、従業員用の社宅として用意できるわよ?」

「そ、そ、そんな先まで考えていたんですか?」

「いやね~、売り損ねただけよ」

偶然か。ちなみに売り損ねたって……

「もしかしたら、あの個人オーナーが除霊代金を払えないからと言って、ルームシェア用の3部屋ぐらいを代わりに提供していたアパートですか?」

「勘はするどいわね。3室中2室は売って、1室はさっきの第二事務所として、準備しておこうかなと思っていたのだけど、この不景気でまだ1室しか売れていなくてね」

「あそこなら、確かに、今の事務所からは少しはなれているけれど、学校に行くのは逆に近くなるからな」

「電気や水道とか手配に数日かかるけれど、キヌさんだけ先に住んでいてもらえば、問題ないでしょう?」

「えーと、それなら、俺がアパートをひっこさなくてもすむのでは?」

「私も慈善事業をしているわけじゃないんだから、おキヌちゃんのためだけに部屋をとっておくなんてしないわよ?」

あそこなら一応個人のプライバシーはたもたれるが、おキヌちゃんは幽霊だから自由に入ってくる。
まあ、そこは入る前にノックなどの習慣をつけてもらえばいいか。
ちなみに小鳩ちゃんはすでに貧乏神から開放されているので、多分、今のアパートにはひっこしてこないだろうからあそこに住んでいる必要っていうのはあまりない。

「面倒なのは両親というよりは、おふくろの方か……」

「それも大丈夫じゃないの?」

「へっ?」

「幸い、ルームシェアタイプの部屋よ。しかもシェアするのが女性といっても、幽霊だし普通の人なら大丈夫じゃないの?」

「俺のおふくろは普通じゃないから……」

「家族のことは自分で考えてよね」

そりゃ、ごもっとも。

「まずは、除霊を開始しますか」

「そうね。来たようね」

男の幽霊だが一見すると気安く話しができそうなので、話を聞こうとして声をかけるといきなり、

「俺の行動の邪魔をするなー!」

霊圧がいきなりあがって、悪霊化して霊力レベルがCまであがる。
これが事前の除霊依頼書にあったレベルCからDっていう意味か。
フォーマット通りだけじゃなくて、きちんと備考欄にも書いてほしいな。
院雅さんはおキヌちゃんをつれて、結界の中に閉じこもっている。
同時にこの悪霊がにげられないよう、部屋そのものも出入りができないように、院雅さんが結界を起動している。

今回は、おキヌちゃんに見せるための除霊になったからな。
俺は右手に霊波刀をだして、左手にはサイキック小太刀をだしておく。
多少残酷だがわざと浅く斬りつけて、悪霊が痛がるシーンをしっかりおキヌちゃんに覚えてもらって、俺に除霊されると痛いものだと覚えてもらう。
そして悪霊は無事に退治をしたが、おキヌちゃんはちょっとおびえているかな?

「おキヌちゃん。そんなにおびえなくていいよ。俺がこういう方法で除霊をするのは、話し合いがきかない悪霊とかだけだから」

「……はい。よろしくお願いします」

ちょっと痛がるシーンを見せすぎたかな。
院雅さんの除霊タイプを見たら気がかわるかもしれないけれど、院雅さんが事前に除霊代金を請求すれば、おキヌちゃんは払うことができないしな。
そのお金を貯めるよりも死津喪比女が東京へ霊障をおこす方がはるかに早いだろうし。
それまでに、死津喪比女を倒せるようになるまで、自分の霊能力のレベルアップをしておかないといけないだろう。


除霊は済んだので、夕食はというとこの部屋で院雅さんと二人で行う。
食べるところを珍しく見られるのって、なんとなくおちつかないぞ!! おキヌちゃん。
それで、とっとと、用はすんだとばかりに院雅さんは自分の部屋にもどっていく。

さっきの除霊直後よりは、おキヌちゃんもおちついているようだ。
それで話しているうちに、おキヌちゃんの常識が、現在の常識と完全にずれていることがわかってきた。
えーっと、一人でいさせると危さそうだ。
数日だけだけど、一緒にやっぱりあのアパートですごして、現在の常識を覚えてもらうか。

除霊も終わって、東京にもどってから、自分のアパートにおキヌちゃんを、一晩とめてから高校へつれていく。

「高校ってなんですか?」

「寺子屋みたいなものだよ」

「へー、何人ぐらいいるのですか?」

「うちのクラスは30人ちょっとかな。高校全体では700人以上だと思ったな~」

「高校って、村みたいですね」

なんて会話をしながら高校の門付近に近づいたところから、

「横島さんが女の子と歩いている」

「なんで横島が」

「もしかして不純異性交遊の相手を堂々とつれてきている?」

「神は死んだー」

「けど、あれ幽霊みたいよ」

「横島なら幽霊にも何かするかもしれんぞ」

「いくら横島クンでも、そんなことは」

えーい。人のことをなんて思ってやがるんだ。この学校の連中は。
クラスにはいっても同じような反応もあるが、

「おーい、愛子。お願いがあるんだけど」

「アンミツ3杯分ね」

クラスメイトと外で飲食をしたので、また食べたいらしく、何回かお小遣い程度は渡している。
名目上は保護者だからというのもあるが、昔の愛子には勉強面で色々と世話になったからな。
本人じゃないけれど半分以上は、その時のお返しのつもりだ。

「それより大変かもしれないぞ?」

「おおかた、その幽霊のことを何か頼みにきたんでしょう?」

「そうなんだ。この娘はおキヌちゃんって言って、300年間山の中で幽霊をしていたので、現在の常識をしらないんだ。放課後の皆がいなくなった時間でいいんだけど、今の常識を教えてやってあげてくれないかな?」

昔の愛子が、生徒のいなくなった時間は、さびしいと言っていた記憶が残っている。
俺もおキヌちゃんに学校へとまってもらえば、おキヌちゃんを襲う危険性はなくなるし、その上常識も覚えてもらえる。一石三鳥だ。

「そうね、いいわよ。ただ、先生に断っておいてね」

すっかり忘れていました。
もしかして、この作戦は駄目か?


この高校は、色々とゆるい面があるので、愛子と一緒なら幽霊を泊められるかな、と淡い期待を抱いて校長室に向かう。
理事長と校長を兼務しているが、普段は校長室にいたはずだ。

「横島ですが、校長先生におりいってお願いがあるんですけど」

こちらからのお願いごとだから、ちょっと下手にでてみる。

「いったいなんの用かね?」

「えーと、この週末にGSの仕事で少女の幽霊を保護したのですが、この娘は300年前に死んだので、現在の常識をしらなくて危なっかしいんですよ」

「ほう。300年前の幽霊……それで、横島くんはどうしたいのかね?」

くいついてきた。

「ええ、それでもう少ししたら夏休みですよね。それまでの期間だけでよいので、昼間の学校の授業は俺のそばにいてもらいたいんですよ。放課後から朝までは、机妖怪の愛子と一緒に常識を教えてもらおうかなと思っているんですよ。どうでしょう?」

校長室までくる間に考えた言葉ですらすらと答えてみせる。
ただし、校長がひとつ質問してきた。

「その少女は何歳かね?」

素直に

「15歳です」

校長が少し考え込んでから

「無理だよ」

「えっ? なぜ?」

「300年前の15歳といったら、今でいう13歳から14歳だろう。ここは高校だから中学生の夜間の泊まりは問題があるのだよ」

しまった。そういえば昔もあとで気がついたんだけど、皆、満年齢で15歳として勘違いしていたんだよな。

「ただし、昼間は君たちGSの見習いがいるから問題ないだろう。離れるのも問題があるような状態ならば、特別に君がそばにいるのなら夏休みまでは、高校にいる時間だけは、高校の中にいるのは許可しよう」

そういえば、正規のGSになったのだけど、まだ学校には知らせていなかったな。

「一応、正規のGSになったんですけど、それ以上は無理っすか?」

心霊現象特殊作業免許証、俗にこの業界でいうGS免許をみせてみたが、

「せめて満年齢で15歳だったらねぇ」

「そこはきかなかったことにして」

「年齢を聞いてしまった以上、教育者としては見過ごすことはできない……」

「相手は幽霊ですよ?」

「これ以上やっかいごとをもちこまんでくれたまえ。机妖怪の愛子クンも、バンパイアハーフであるピートクンも結構PTAで問題になっていたのだよ。君に話すべきことじゃないかもしれないが、PTAを相手にするには中学生の幽霊に夜間もいてもらうというのは、ちょっと問題が大きくなりすぎてしまうんだよ」

裏でそんな事情があったのか。これ以上は無理だな。

「無理なお願いをしていたようで、すみません。昼間だけでも、幽霊の少女を高校にいれてくれるだけでもOKっす」

そう言って、落胆しながらも教室にもどっていった。
教室では、愛子とおキヌちゃんの周りに人だかりができている。
おキヌちゃんは、ここでもやっぱり明るく幽霊をしている。
しっかりと受け答えをしているが、ここのクラスメイトも大概なことになれているな。

俺はこちらに気がついた愛子にむかって、横にクビを振る。
そうすると愛子が単独でよってくるが、頭の上に机をのせて移動するのはしかたがないよな。

「駄目だったんだ。アンミツ3杯残念だわ」

「いや、まあ、それくらいは出すよ。お願い事項の内容も確認しないで承諾してくれたんだから」

「なんだ、かんだといってやさしいのね。横島クンって」

「そんなことは無いって。俺の身勝手な願いだったからな」

ちょっと愛子が考えてから、

「私が夏休みの間まで、横島くんのうちへ泊り込みで、おキヌちゃんに常識を教えるっていうのは、どう?」

まわりの男どもからはプレッシャーがかかってくる。しかし、そんなのはどうでもいい。

「本気か?」

「うん。だって、横島くんの好みって、年上っぽく見える女性でしょう? それにおキヌちゃんがねる時には、私の机の中に入っていれば、自由に出入りできないから、横島クンがその気になるとも思えないし。私も寝ているときは机にもどるから、いくらなんでも、そんな趣味はないわよね?」

昔、新幹線に欲情したなんて言えないな。

「……無い、無い」

「ちょっと、今の間が気にかかるけれど、これでアンミツ3杯確定ね」

うれしそうに愛子がいう。
たまにはこんなのもいいだろう。
男どもはともかく女生徒たちは、

「なんだ。もっとおもしろくなるかと思ったのに」

「横島クンが着替えを覗くのって、三年生だけだもんね」

「正規のGSになったなんて、すっごくもうかる商売よね」

「じゃ、じゃあ、今のうち落とせば玉のコシ」

「でも年上好みだって」

「そうね。私たちのところ覗きにもこないものね」

覗かれないのが普通なのに、ここの基準では横島に覗かれるのが美少女・美女のステータスになりかかっている……らしい。
覗かれる三年生女生徒には、当然のごとく嫌われているのだが。

おキヌちゃんの常識は、前回は令子が教えたのだろうな。
その割にはけっこうまともに、現在に順応していたようだけど、やっぱり日給30円というのが彼女の常識の中心になったのだろうか?


*****
六道女学院の臨海学校での、除霊実習の相手側総合霊力レベルはオリ設定です。
見習いから正規のGSへなる部分は、横島の部分はオリ解釈で、院雅の部分はオリ設定となります。

2011.04.03:初出



[26632] リポート15 妙神山修行編(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2013/07/15 14:14
俺は正式にGS免許をとったので、今まで通っていた唐巣神父の教会へ挨拶にでむいて、挨拶をする。

「唐巣神父。今度、院雅除霊事務所の分室で活動することになります。今後は中々来ることができなくなります。色々と書物を見みせていただいたり、お弟子さんの修行風景を見学させてもらって、ありがとうございました」

令子も独立したから、ここが接点になることも少ないだろう。
ここの書物もだいたい読んだが、西洋の術が多いので、どちらかというと東洋系の術になる俺には、参考程度だったかな。
唐巣神父、ひのめちゃん、芦八洋からは、次のように声をかけられる。

「そうですか。最初に会った時から、才能はあると思っていましたが、正規のGS一番のりとは、驚きものです。これからは、来れなくということですが、この教会はいつでも戸をあけていますから、いつでもたちよっていいですよ」

この教会は以前だったら、物理的にも鍵がかかっていなかったからな。
今は、鍵はあるようだけど、比較的金銭感覚のまともなひのめちゃんと、それに芦八洋もいるから普通程度には生活できるだろうから、そして身体の心配はしなくてもだいじょうぶだろう。
そのひのめちゃんからは、

「横島さんは、お姉ちゃんばかりに飛び掛っていて、単なるスケベだと思っていたんですけど、火竜のアイデアを教えてくれたり、他にもアドバイスありがとうございました」

「うーん。アドバイスっていってもたまたまだよ。俺の除霊スタイルも自分の霊力の塊を外で移動させる、というところが近いから思いついただけだよ」

「あたしゃ、その実際の除霊っていうのを、臨海学校以外でもみたかったね」

芦八洋か。霊波砲主体の除霊スタイルだから、教会の中だと見れなかったんだよな。

「八洋ちゃんは臨海学校で、あの霊団に霊波砲を使うのは抑えていてくれて、後半たすかったよ」

「長期戦になるのはわかっていたんだから、あそこで使うだけ損なのは見えていただけさ。私から言えば、まだあの生徒たちが戦い方を知らないだけだね」

同感ではあるが、実戦なれしているのは少ないだろうから仕方が無いだろうな。
ピートは同じ教室であえるからどうでもいいや。

「それで、厚かましいお願いだとは思うのですが、妙神山への紹介状を書いていただけないでしょうか」

「妙神山!! 君にはまだ早すぎる!! 下手をすると命にかかわるぞ……!!」

「入り口にいる鬼門の試しをうけて、入れれば無理なコースにするつもりはありませんよ。紹介状がなかったら、鬼門の試しがきつくなるらしいので、紹介状が欲しいんです」

「いったい、どこからそんな話を」

「ちょっと、裏情報として入手していまして」

別に紹介状がなければ、妙神山の修行が受けられないわけではない。
ただ、鬼門たちが修行にくる者を試すための自らにかせている制限をゆるくするだけだ。
実際、あそこで過去修行した時に鬼門と戦うことがあって、最初のころは何十連敗したことやら。

「だから、鬼門の試しは楽にしておきたいんですよね。紹介状をいただけなければ、それなりの手は考えていますが」

「どうしても行くというのなら、書いてあげよう。けれども、本当に無理はしないのだね?」

「ええ、無理をして大怪我でもしたら、活動できなくなって本末転倒ですから」

無理を言ってくるとしたら、小竜姫さまだな。
近接戦がある程度のレベル以上で出来るとわかったら、無理やりにでも相手をさせようとするからな。
いまだに肉体を作れていないから、小竜姫さまの目にとまるまではいかないと思うんだけど。



そして夏休み初日から、妙神山へおキヌちゃんと向かう。
山の上に道具を運ぶための裏道も知っているが、最初にくるはずの俺がそれを使うのもおかしいだろう。
途中の緩やかなところまでは、徒歩で行く。

そしてこれからきつくなっていくところで、サイキック炎の狐を使って空を飛んでいく。
これなら、肉体の疲労と霊力の消費はバランスがよい程度だろう。
妙神山の修行場入り口付近で降りて、霊力を練り上げておく。

妙神山修行場には
『この門をくぐる者 汝一切の望みを捨てよ 管理人』
とあいかわらず張ってあるな。

門には左右の鬼門の顔がはりつけられており、両脇には本人たちの肉体がある。
隠行なのかここの場の特殊性なのかまではよくわからないが、鬼門たちの霊力は門の顔からわずかにもれている分しかわからない。

「鬼門さまたちですか? ここに修行にまいったものです。紹介状もありますので通していただけないでしょうか?」

「ふむ。気がついておったか。ただし、紹介状があるからといって、ただでは通せぬ。その方たち、我らと手あわせ願おうかッ!!」

小竜姫さまはひまじゃないのか? でてこないな。まっ、いいか。

「それで鬼門さま、ここの試しのルール……規則は?」

「我らと手あわせをして、倒すことだ」

「そうですか。おキヌちゃん、危ないから下がって」

そういいつつ、俺もおキヌちゃんと一緒に距離をとる。
立ち位置が悪かったし、近距離戦ではまだ鬼門たちを倒せそうにないからな。
それと同時に2枚ずつ3回にわけて、6枚のサイキックソーサーをつくりあげてうかばせておき、右手に霊波刀と左手にサイキックソーサーを用意しておく。

「姑息な手段を」

「いや、だって、手あわせ前に準備しちゃいけないって言わなかっただろう」

駆け引きも鬼門の試しのひとつだ。
馬鹿正直につきあう必要はないが、やりすぎると小竜姫さまの機嫌をそこねるからな。

「それでは手あわせを開始でよいか?」

「お願いします!」

俺は、視線はずらさずに挨拶をする。
そして、鬼門たちはこちらにむかってくるが、サイキックソーサー6枚を鬼門へめがけて時間差で攻撃を開始する。
単純にぶつかれば、それなりに鬼門たちもダメージ判定で倒れてくれるだろうが、今の時点のサイキックソーサーでは遅いと判定されたのだろう。
最初はさけられて、さらにつっこんでくる。
2組目もさけようとしたところで、最初のはずれた1組目のコントロールをしなおし、それぞれの鬼門の顔面にぶつける。
あとの2組目はコントロールして、後方から襲うようにし3組目を金的にたたきつける。
鬼門も男だからつらいだろう。
残りの2組目は斜め後方上から、クビ元の顔と本体をつないでいる、霊的ラインへ叩きつけるように鬼門たちにぶつける。
これで倒したことになるだろうが、念のために、すでにかなり近づいていた鬼門に霊波刀で足元を狙おうと思ったら倒れてくれた。
判定基準とかは、おおざっぱに過去にきていた修行者たちをみていて、なんとなく思っていたことだが、だいたいはあっていたらしい。
少し痛そうだが鬼門たちは、

「我らが鬼門の試しにより、通過することを許可しよう」

うん。ひさびさに小竜姫さまにあえると思ったら、門が空いてまっていたのは、人民服を着た猿こと斉天大聖老師だった。
滅多に顔をださないはずの斉天大聖老師が門の前にいるのはなぜ?
斉天大聖老師の毛から作られる分身で、ある身外身の術かなとも思ったが、よくよく霊波の感覚を研ぎ澄ますと本人のようだ。

「えーと、ここの修行場にいる管理人は、小竜姫さまという女性の神族だときいていたのですが?」

「まったく、滅多に修行者なぞ来ないのに、竜神王が小竜姫を呼び出すとは、ついとらんのぉ」

「こっちこそ。せっかく、小竜姫さまとくんずほぐれつな修行ができると思ったのに!」

「何をばかなことをいっておる。修行をしにきたのなら入れ。さもなければとっとと帰れ!」

一応、修行しにきたんだけど小竜姫さまがいないんじゃ、ただ苦しいだけなんだよな。
だからといって俺の体力や霊力を自然にまかせて伸ばしていたんじゃ、これから起こることにたいして、間に合うかわからないしな。
しかし、竜神王なら老師の方が付き合いは長いだろうにな。

「おキヌちゃん。入ろう」

「ほお。幽霊に憑かれている。っというわけでもなさそうじゃ」

「俺の保護した幽霊なので、きちんとした保護証をもたせておかないうちは、バカな霊能力者が実験かわりに除霊をするかもしれないので、今はつれて歩いているんです」

以前の場合は、おキヌちゃんは近所で有名だったし、GSトップクラスの令子にケンカを売るまねは誰もしなかっただろう。
たいして俺は院雅除霊事務所所属で、この業界では二流のGS事務所の新人GSだからな。
GS教会発行の保護証をおキヌちゃんにもっていてもらわないと、GSを目指しているもの達の除霊対象にされてしまうかもしれない。
愛子も同じだが、すでに発行済みだから今は問題ない。

「人間を教えるのは初めてだが、なんとかなるじゃろ」

今の霊力と肉体では聞きたくない一言だぞ。

「生きている者は、俗界の衣服をここで着替えるんじゃな」

おお、ひさびさの修行場だが、あいかわらず銭湯っぽい入り口だな。

「それで、小僧。色々な修行はあるが、一日で修行を終えて俗界へ帰れるコースがおすすめじゃぞ!!」

老師は俺を殺す気か。そんなむちゃなコース今の俺にできるわけが無いだろう。

「いえ、3週間ぐらいで、主に霊力の出力を、1ヶ所から集中してだせるようなコースはないですか?」

「ちっ!」

その『ちっ!』ってなんですか。老師、ゲームでもしたいのかよ?

「うむ、そういうことであるならばしかたがあるまい。まずはお主の霊力を鍛えよう」

「えっ? 霊力をですか?」

「そうすれば、霊力の総量があがるのだから、必然的に1ヶ所からだせる霊力もあがるのじゃ」

確かにまちがっていないけれど、それって力技じゃないか。
老師ってこんな性格だっけ?
昔の老師との修行の時との差に違和感はあるが、今の俺の霊力が低すぎるせいかな?

「その方円を踏むのじゃ」

銭湯で着替えて修行用の異空間に入ると、さっそく言われる。
そういえば、この方円に入るのって初めてだったよな。

「もしかして早速修行ですか?」

「その通りじゃ」

「えーと、さっきの鬼門さまたちの試しで、霊力がかなり減っているんですけど」

「まったく、最近の若い神族や妖怪だけでなく、人間もなさけなくなっておるのか」

「そうは言われても事実ですし。ちなみに、貴方様をどのように呼べば良いでしょうか?」

「うむ。さっかり忘れておったわ。斉天大聖だ」

「斉天大聖というと、あの西遊記で有名な孫悟空ですか?」

「そういう名もあったが、ここで修行する気ならば、老師と呼ぶのじゃな」

「では、老師。すぐに修行に入るのですね?」

「その通りじゃ。だが、霊力の減っているのも加味して相手はだすから、死ぬことはあるまい」

老師の死ぬことあるまいって、令子の9割殺しと同じくらいだからな。
令子ならまだいいけど、男からなんて嫌だぞ。

そう思いつつも最初に言われた通り、方円を踏む。
そうやって出てきたのは、いつものシャドウで三頭身のなさけない姿だ。
昔だした時のように勝手にうごきまわらなくなった分、コントロールはできるようになっているはずなのだが。
どうせならこいつをそのまま、おれの身体の外に張り付かせれば、魔装術もどきになって、まだ戦いやすいんだけどな。

「中々おもしろそうな影法師(シャドウ)じゃの」

「へっ?」

「小僧の鬼門との試しで感じておったが、こういう影法師(シャドウ)なら納得じゃ」

うーむ。老師には勝手に納得されているけれど、さっぱりわからん。

「影法師(シャドウ)をみただけでわかるんですか?」

「ふむ。影法師(シャドウ)だとわかっておるようじゃの」

「ええ、まあ、時々使いますから」

とはいっても、過去に戻ってきてから3回か。

「影法師(シャドウ)を使うとは珍しい。この影法師(シャドウ)からは、そのように感じぬのじゃが」

「自分の力ではなくて、他人の式神のなかで影法師(シャドウ)を引き出す能力があるんです。その式神に俺の体の表面にはわせてもらうことがあるんですよ」

本当の最初はそうだったからな。嘘は言っていない。

「ふむ、霊張術か。珍しい式神がおるものじゃの」

「霊張術ですか?」

「本人自身の霊力をおのれにかぶせられないので、使い人を前鬼や後鬼のかわりとして使っておった者はいたはずじゃが、廃れて久しい。懐かしいのぉ」

勝手に感傷にひたっているのはよいけれど、俺のシャドウをどうするんだろうか?

「それで、この影法師(シャドウ)はどうするんですか?」

「何、これから1体と戦ってもらうだけじゃ」

「相手次第ですけど、6割以上霊力が減っていると思うんですよ。命だけは保証してくれますよね」

「さてな。そんな根性だと、ここの修行はついていけないぞ?」

老師もどこまでが本気かわからないからな。

「それに、本体の霊力は減っていても、霊体の中に補助のような塊があるじゃろう」

げっ! 文珠のことがばれている。

「もしかして、凝縮された霊力の塊がわかるんですか?」

「そうじゃの、4つばかりあるようじゃのぉ」

にやりと答える猿……もとい老師がいた。

「だからじゃ。これぐらいの相手なら問題なかろうて。いでよ、出座戸(デザート)」

こいつ、砂系妖怪じゃないか。
2mを超える背の高さにたいして、こっちは三頭身だぞ。
しかも相手は両刃剣で、こちらはセンスが2本。
通常戦力の差もあるが、こいつの特殊能力を考えると早めに叩かないとまずい。
そんな俺の考えとは別に老師からは、

「初め!!」

その合図とともに出座戸(デザート)が動きだしたのにたいして、俺のシャドウは初動が遅れる。
相手が剣をふると、その剣先から霊波がこもった砂が叩きつけられる。
こちらはそれをかわしきれないので、左手のセンスをサイキックソーサーかわりにして右手に逃げる。
その逃げ道をまっていたかのように、俺のシャドウの正面にもうまわりこんでいる。
離れた場所からみているからこそ、誘導されているのがわかる。
ただ、こちらも伊達に難波のペガサスと言われていたわけじゃない。
遠隔操作もお手の物だ。
一見追い詰められたようにみえるが、文珠にはすでに『速』をいれておいたし、それを発動させる。
これで動く速度は、互角にもっていける。
本当なら『加』『速』か『超』『加』『速』でも入れて一気にけりをつけたいところだが、2文字以上の文珠の発動には、精神力の集中が必要な分、発動まで時間がかかる。
この出座戸(デザート)の速度を相手にしていたら、そんな余裕はない。

そして俺は左手のセンスはサイキックソーサーにして、右手のセンスは双頭剣にする。
出座戸(デザート)は霊波がこもった砂を振りまきながら、剣をふってくる。
速度は互角だが、相手の霊波がこもった砂があちこちにばらまかれはじめている。
こいつらが本格的に動作する前に対処しないと、こいつらが何かをしてくるはず……結局あきらめてさらに文珠を使う。

まずは相手の妖気に満ちた霊波の砂を『浄』化させて、相手が驚いた一瞬を突いて『遅』くなるように文珠を出座戸(デザート)に叩き込む。
あと2つ文珠があれば完璧なのだが残りは一つ。
遅くなった相手に文珠をたたきつけて『弱』くなるようにし、相手の胴体に双頭剣を突き刺す。
ここで、普段の俺だと感知はできないが、このシャドウまで霊力があがれば可能な、相手の霊力の核を探査する。

こちらの『速』と、出座戸(デザート)にかけた『遅』『弱』の霊力差にまかせて、相手の本体の中に手をつっこむ。
そうはいっても、霊波につつまれた砂なんだが『弱』のおかげで核にまで手が届いて、核をひっぱりだす。

核になっているのは、ほんの一握り大のさそりだ。
これを床にたたきつけて核をぬいてから踏むと動きのとまっていた、出座戸(デザート)が崩れ去り砂の山となってのこった。

「これで、もう文珠は使えまい」

やっぱり、わかっていたのか。

「ええ、虎の子の文珠でしたんですけどね。折角、魔装術もどき……霊張術ですか。その時にこつこつとためていたんですけどね」

「小僧が『霊力の出力を1ヶ所から集中してだせる』ようにしたいというのも、この文珠のためじゃな?」

「ええ、そうです。俺の場合、凝縮系統に分類されるし、この霊張術の時には文珠がつくれるものですから、自分自身のみで作れるようになりたくて」

「借り物の力ではなく、おのれの力によってうみだそうとするのはよかろう。ただし、それだけでは文珠は多分つくれぬぞ」

老師の言葉からいうと、俺は何か見落としをしているのか。
そこへ、きょとんとしていたおキヌちゃんが、

「横島さんって、あんなに早く動けたんですね。おどろいちゃいました」

いや、文珠なんだけどね。天然が入っている幽霊のおキヌちゃんには、違う方向へ勘違いしてもらおう。

「あれは、自分の身体を使わないで、俺の身体から抜き出された影法師(シャドウ)だから、あそこまで早くうごけるんだよ」

「そうなんですか」

まあ、いまのところおキヌちゃんにもれても大きな影響はないだろうが、念には念をだな。
老師はどうしようか。

「素直に言わないところをみると、何かあるな、小僧。面白そうだな。小竜姫が帰ってくるここ2,3日の間はみっちりしごいてやるとするか」

いや~。猿だなんて、男だなんて。せめて女性である小竜姫さまにして~
そう思っていても、ここにきた以上は逃げ場なんて無いのもわかりきっているんだけどな。

小竜姫さま、はやくもどってきてください。
女っけが幽霊のおキヌちゃんだけじゃ、物足りないっす。


*****
鬼門の試しが、紹介状の有り無しで変わるというのはオリ設定です。
今までの魔装術もどきに霊張術という名前をつけてみました。

2011.04.06:初出



[26632] リポート16 妙神山修行編(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/25 07:45
その場からさっていこうとする猿こと老師にむかって、

「そのですね、霊力は今ので鍛えられたのですか?」

「おお、そういえば忘れておったわ」

あのな~

「ちょっとまて、人間にきく術はというと」

う~ん。人間相手は初めてみたいだから、心配だぞぉ。

「思い出した。これでよかろう」

そうすると、出座戸(デザート)との戦いの場となっていた所にある砂から、妖力の一部が霊力に変わって、俺のシャドウに付与された。

「うむ。これで、霊力の総合的な出力を上げることはできる。あとはその霊力にあわせて、肉体をあわせて行くことじゃの」

「ありがとうございます」

上げることはできるっていう表現がなんとなくって感じだが、俺のシャドウの見た目ってさっぱり変わらんな。
老師は着替え場の方へ向かおうとしているので、もうひとつたずねる。

「食事はどうしたら、いいのでしょうか?」

「うむ。そういえば小竜姫がいなかったの。米と塩、しょう油、味噌ぐらいはあるから贅沢をいわなければ、それくらいは作れるぞ?」

「作れるって、老師がですか?」

「小僧。おまえじゃ、そこの幽霊のお嬢ちゃんでもよいがの」

「ほぇ? 私ですか?」

「うむ。その通りじゃ」

「おかずは、どうしたらよいのでしょう?」

「それなら、もうひとつ異界空間がある。そこでとってくればよかろう」

そっちのコースか。
しかし、三週間の滞在だからと思って油断してたな。
昼食は食事の用意ができないことを考えて缶詰を用意してあったのでまあ、それなりのものは食べられた。
しかし、かまどにまきをいれたり火打石をつかって火をつけたりするのを珍しがるおキヌちゃんて、本当に300年前の記憶をうしなっているんだな。
老師は霞でも食べているのか、それともゲームに夢中なのか、異界にある自室からでてこないしなぁ。

仕方が無いので異界空間への出口を通って、今は森林で半分はサバイバルだ。
この森林は特殊で霊的に場が乱れていて、霊的感覚を乱される。
一種の天狗の森の結界に似たようなものだな。
当然のことながらおキヌちゃんはおいてきているが、火の番をしてもらっている。

これだったらおふくろに伝えて、引越しをしておけばよかった。
そうすれば院雅事務所の新しい除霊助手のバイトが美人だってきいていたから、会えたかもしれないのに。


三種の神器ではないが、鉈(ナタ)と、釣竿と、少々小柄な背負い籠で入ってきたが、以前に来た時とはちょっと木々の生え方が違うような気もするな。
迷ったら困るので、目印をつけながら水の流れる音を頼りに川を探す。
老師は言わなかったが、以前ここで長期の修行をした時には、これも修行の一貫として来させられたことがあるよな。
別に毒となるような食べ物もないが、動物が極端に少なくて肉が食べられないのは、肉体的成長期にある俺にはつらい。
魚は妙神山のこの釣竿にちょっと霊力をあたえれば、取れるのは知っているのだが霊力の加減ができないと逃げられてしまう。
なので普通に釣竿に魚の餌をつけて、つれるのを待っている。

霊視がきちんとできれば、釣竿の位置もきちんとその手の場所にたらすのもいいのだが、これも俺は苦手だ。
けど、動物の肉は食べられなさそうだから、川魚ぐらいは食べたいぞ。

3尾ばかり釣れたので、明日の昼食までは充分だろう。
あとは山菜でも採っていくかね。
あまりここで動物が取れることも無い。
しかし、小動物用のワナを作っておいた。
3週間もいれば1,2回ぐらいは、肉にありつけるだろう。

木々につけた目印をもとに、修行場の台所にもどるとおキヌちゃんはきちんと火の番をしていてくれた。
愛子の常識だと、こういう昔風の台所の知識って少なさそうだったからちょっと心配だったけれど、

「愛子さんに、キャンプでの火の保ち方を教えてもらったのが、役にたったみたいです」

にっこりと微笑むおキヌちゃんに、俺は「よかったね」といいつつ頭が痛くなってきた。
愛子は学校妖怪なのにその守備範囲って、キャンプとかも含むのか?
初耳だったぞ。それもあるが、

「おキヌちゃん、ひとりにしてすまなかったな」

「いえ、お猿さんがいっぱい、居ましたから」

よく見ると老師の毛からできる分身である身外身の術で、できた子猿たちが居る。

あいかわらず弟子にはきびしいが、修行以外でくる相手にはやさしいな。
それも普段はゲームをしているか、小竜姫さまの相手しかしていないからだろうけど。
それにしても、迷うかもしれない森林に入って言った俺に身外身の術の猿をつけないって、きびしすぎないか?
普通あの空間になれていなかったら、迷子になるぞ?

簡単な鍋物にするのにお湯をわかしていたところで老師が現れ、

「修行をするぞ」

えーい。かってなんだから。

「はい。どんな修行でしょうか?」

「ついてくればわかる」

「おキヌちゃん。すまないけれど、また火の番をしててねぇ」

「はい。小猿さんたちもいるし大丈夫です」

すっかり身外身の術の猿となれているおキヌちゃんだけど、その小猿って意識を今の時点に飛ばしてしまった未来にあたる、俺の5倍以上は強いんだけどな。
まあ、知らなければ怖く無いだろう。

「それでじゃ、小僧」

「はい、老師」

「一箇所からの霊力の出力を増やしたいといっておったが、調子はどうじゃ?」

そういえば霊力を消費しないように、ろくに霊力をためしていないが、いくらか霊力がもどってきているな。
俺は普通に霊波刀を作ったら、今までより長く太くなっている。
霊力を圧縮するための効きが弱いのか。
けど、手からだせる出力が上がったおかげなのか栄光の手は出せた。
にぎった感触もあるし、伸ばすのも自由だ。
変形は今までとは違い、霊波刀でも護手付きだ。
こちらの霊波刀は自由に長さも太さも自由にできる。
多分、霊力そのものは最初に文珠を出したときよりも超えているだろう。
しかし文珠を出そうとするが、霊力の珠をだせる感じがしない。
まだ霊力がたりないのか?

「ふむ。順調に出力はあがったようじゃの」

「ええ、確かにそうですが、文珠がでそうな感触が無いんですよ」

もう文珠がだせていたことがわかっている老師に、この程度を話すのは問題ないだろう。

「やはり、そうか。圧縮、凝縮系に偏った者も、この妙神山にきて小竜姫の修行をうけても、文珠をだせたものはおらんからのぉ」

それって小竜姫さまの修行じゃだめで、ここの最難間コースを受けろと暗に言っているのか?
今度もうまく行くって可能性はあるのか?

「文珠のことはもう少し考えさせてください。それで、ここでの修行はどうするのですか?」

まるっきり未知ってわけでも無いが、自分自身で受けたことの無いコースなだけにどうなるのやら。

「小僧の修行専用に、わしの分身でも与えてやろう。ここの修行場で精進すれば、文珠のことに気がつくかもしれないしな」

老師は多分ヒントをくれているのだろうがさっぱりわからん。
とりあえず、この時間は修行よりも夕食の時間にでもさせてもらおう。

「とりあえず、夕食にして本格的な修行は明日にでもさせてください」

「さっそく、おのれの力を試すかと思ったが、そうではないのじゃの?」

俺専用につくってくれたという身外身の術による老師の分身をさっと霊波の感触からして、パワーアップした俺の3割増しぐらいの霊力はあるだろう。
身外身の術の分身とはいえ、技が多才だから同じ霊力でも負けるのにな。
そんな修行を初日からやってられないぞ。

「いえ、自分の能力がどの程度つかえるか、まずは一人でたしかめてからにします」

「そうか。その時は、この分身にでも相談すれば多少は役にたつであろう」

あれ? 身外身の術の分身って、そんなに頭がまわらないはずだけどな。

「何か疑問でもあるのか?」

「いえ。本格的な修行は明日にしますので、今日はここまででお願いします」

「それでもよかろう。ただ、3週間というのは以外と短いかもしれないぞ?」

「ええ。肝に銘じておきます」

うーむ、老師は一体何を考えている?
そう考えていたら、俺専用の老師の分身も食事をすれと言う。
他の分身たちは何も食べないのに。
魚が1尾少なくなったじゃないか。
明日の朝食に魚はなくて、山菜鍋がおかずだな。くそー。

普段より寝るのは早いが行うこともないし、明日の朝ははやいだろうしな。
ここの温泉は霊体にも効果があるので、露天風呂にはいりながら都会では見られない済んだ空気の夜空を楽しむ。
おキヌちゃんをさそってみたけれど「お風呂は男女別だと教えてもらいましたー」って愛子は風呂に入らないはずなのに、こんなところはしっかり教えているんだな。
幽霊であるおキヌちゃんがきても、服をぬぐわけではないしな。
それに、おキヌちゃんが生きていた時の村ではわからないけれど、300年前なら男女ともに同じ風呂に入るのは多かっただろうに。

霊力のついでに肉体もきたえなきゃいけないから、老師の分身にきたえてもらうのがてっとりばやいんだろうな。

そして寝る前のいつもの日課であるサイキック五行重圧陣で瞑想を行うが、かかる霊圧があがっているのはわかる。
たしかに霊力はあがっているのに、文珠ができないのはなぜであろうか?

おキヌちゃんは隣の部屋で寝るのだが、空中で寝るから布団はいらないんだよな。
俺は布団をだしてひいて寝るが、やっぱり、ここでの修行では女性が多いにこしたことは無い。

小竜姫さま、はやくもどってきてくださいよー。



朝起きると、一時通い詰めていた妙神山の一室だった。
そういえば、妙神山へ修行にきたんだよなと思いだす。

自室のアパートなら、起きたあとは外にでてランニングを開始しだして自己鍛錬を行い、朝食にはコンビニ弁当でも買えばよい。
けれども朝食はおキヌちゃんが、こういうかまどや飯釜などの昔風の台所での作業になれていない。
アパートでの愛子とおキヌちゃんが、2人で作業するのには馴れたところまでいったんだけどな。

台所にむかったがおキヌちゃんはまだ起きていなかったので、俺は自分からでかまどでの飯炊きの準備をする。
炭状になってのこっている木々の中で、まだ高温そうなところを探し出して小さい木々から火をおこしなおしていき、だんだんと火を大きくする。

『はじめちょろちょろ中ぱっぱっ赤子泣いても蓋取るな』というが、きれいにできるわけじゃない。
そうはいっても昼飯の分プラスアルファまでご飯は炊いているので、量があるから昨日よりは美味くできているだろうし、老師の分身の分も大丈夫だろう。
しかし、昨晩の晩飯では、

「美味くないな」

「そういうなら食べるなよ」

「このあとなら小竜姫の飯が美味く感じるから、がまんして食べてやってるのじゃよ」

小竜姫さまの料理はおいしいけれど、まあ、俺の味付けとも違うから文句をいいながらも食べているんだろうな。

「ところで、老師って仙術を治めているのですから、食事をとらなくてもいいんじゃないんですか?」

「それは、なんじゃ。ここ最近は修行にくる妖怪などもこなくて暇でのぉ」

修行をつけるのが、必ずしも嫌いなわけじゃないのか。
けど、本体ではなくてなぜ分身なのか以前は聞かなかったが、今なら聞いてみるか。

「今の老師の分身と、老師ってなんらかの方法で、味覚を共有していますね?」

「……まあ、そうじゃのぉ」

「そういうことは、分身との修行って……実際にこの分身を操っているのは老師なんですか?」

「操るのは小僧用の分身だけじゃぞ! 他の分身はそこのお嬢ちゃんと遊ぶのに最適だろうが。それとも修行にそのお嬢ちゃんも付き合わせるのか?」

「いえ、おキヌちゃんが俺の修行をみてても面白くないだろうし、老師の分身がおキヌちゃんの相手をしてくれるなら俺はいいですよ」

って俺だけの都合で言ってしまったな。

「おキヌちゃんもそれでいいよね?」

「はい。昨日みたいに速すぎて何がおこっているのかわからないのなら、お猿さんと一緒の方が楽しいです」

老師が分身を単なる猿扱いにされて、おちこんでいたな。
修行はともかく、ゲーム付けなのと小竜姫の相手しかしていないから、あとの楽しみは味覚ぐらいだろうしな。
味覚はなれると美味しいものも美味しく感じなくなってくるから、老師はきっとそうなんだろうと勝手に俺自身を納得させていた。

今日から小竜姫さまが帰ってくるまでの日課は、といっても明日か明後日にもどってくるらしい。
その間は午前中が修行で昼食後に食料あつめで、その後にまた修行というサイクルになる。
修行は俺の場合、手の部分からしか大きな霊力をだすことができないので、そこを中心に霊力と肉体を鍛えていくための基礎的な修行のみを行うことにしている。
文珠がでるならそこからだろうということだが、

「小僧自身で気がつかねば、一生おのれ自身のみの力で文珠はだせぬであろう」

「それって教えてくれないんですか?」

「ここの最難関コースなら、1日どころか一瞬から数十秒で済むぞ!?」

「それって、命の保証はありますか?」

「無いなぁ」

気楽に言ってくれる。
確かに現実世界では一瞬かもしれないが、たしかあの老師の作った仮想空間では2箇月ぐらいは居なきゃいけないんだよな。
その後も、文珠ができるかどうかは賭けっぽそうだからな。
多分、前回を知っている分、潜在能力である文珠はだしやすそうだが、油断はできなさそうだよな。
受けるか受けないかの判断はぎりぎりまでまつか。

「今はこの3週間のコースでいきます。文珠についてはおいおい考えます」

「最近の若者は面白くないのぉ」

今の日本なら、そこまで命のやりとりする場面は昔に比べて減っているから、仕方がないだろうよ。

「じゃあ、準備も整っているようだし開始するか?」

「ええ」

俺たちは武闘場で相対する位置にいる。
ここは、肉体的なハンディキャップをなくすために、霊力のみが有効とのことで身体を動かすのにも霊力を必要とする。
隠行で隠していたつもりだけど昨日のパワーアップした霊力を確認するときに、肉体にも霊力をまわして肉体の運動速度をあがるようにできるところもみていたのね。
まあ、このハンディキャップは老師の分身の方がより制限されるんだけどな。
例えば縮地や気に関する技は霊力を使わないから、老師の分身の出せる技も減るから動きが多少は読みやすくなる。


俺は、老師の分身に修行してもらっていたときの中で、一番長く戦えていた霊能力を選択する。
右手に護手付きの霊波刀に、左手には少し大きめなサイキックソーサーだ。
たいして老師の分身は2mぐらいの長さの木の棍を持っているが、棍には霊波をまとわせている。

「じゃあ、始めよう」

俺は先手を取るべく突進して霊波刀の突きを行いつつ、さらに霊波刀の長さを伸ばす。
一応奇襲だったのだが、きれいに右横にさけられる。
それを追うべく右横に剣を振るうが、この時って反対方向にさけられるより右利きの俺にとってはわずかに剣を振るう速度と力がおちるんだよな。
奇襲だと思っていたかどうかはわからないが、セオリーどおりだからな。
老師はこの霊波刀を受け止めつつスルスルと棍を使って間合いをつめてくるので、左手のサイキックソーサーを霊力だけで飛ばす。
昨日の鬼門との勝負より速度をあげていたのだが、あっさりさけられた。
その合間に五角形のサイキックソーサーをつくりだしつつ、老師の分身に放つ。
それをさけながらもこちらに近づいてくる老師に、背後から最初のサイキックソーサーをぶつけようとするが、さけられたので手元にもどす。
五角形のサイキックソーサーは現在まだ3枚だが、コントロールしながら老師へ波状攻撃をしかけると、それを一旦さけるようにさがった。

そのすきに再度サイキックソーサーを放ちつつ五角形のサイキックソーサーをつくってさらに放つ。
5枚を作り出すことに成功したので、所定の位置に配置するようにコントロールしつつ、最初につくったサイキックソーサーは手元にもどす。
丁度互いの立ち位置的には最初と正反対になった格好だ。

そこで、俺は次の一手『サイキック五行吸収陣』を発動させる。

「小僧。何をするかと思っていたら、こんなこしゃくなマネを考えておったのか」

「ええ。これで霊力だけなら逆転しましたね」

「霊力だけならか。ほほ、見所は多少あるようじゃな。そちらも準備がととのったようだから全力で行くか」

やっぱり、本気じゃなかったのね。
先手は老師の分身にゆずって、カウンターのチャンスを狙う。
しかし、中々そのチャンスは見出せないが、老師の分身は霊力をどんどん吸われているので短期で決着をつけなければいけないはず。
本物の老師にはまるっきりきかないが、分身だと霊力が少ないからサイキック五行吸収陣は有効だ。

そしてあせってきたのかカウンターをとりやすい攻撃がきたので、突きを放って刺した。
と思ったら、避けられたというか、姿が見えない。
俺の霊勘が左後方から攻撃がくるというので、攻撃をかけた際の右足を軸に左回転をしながら横に霊波刀を振るう。
そこには霊波刀をかいくぐるように背を低くしている老師の分身はいたが、棍の先端を俺のみぞおちに叩きこんできた。

「勝負ありじゃの。小僧」

おれは、みぞおちに叩き込まれた棍の威力でぶったおれている。

「ええ」

「悪いが、陣を解いてくれぬか」

「そうですね」

「ふむ。陰陽五行の霊力の吸収札を使った結界と、似たようなものじゃの。正当な陰陽五行術を使うものは、しばらく現れていなかったのだが、おぬしはその末裔か?」

サイキック五行吸収陣はといたが、サイキックソーサーはそのままの位置においてある。
俺は起きあがりつつ、

「いえ、前世が陰陽師だったらしくて、霊力が目覚めたのと同時に陰陽五行術の一部も思い出したのです。けれど、あいにくとこの身体では、札を作成するのに向かなかったので、サイキックソーサーと組み合わせると効果がでることがわかったんですよ」

「変わった奴じゃの。他にも何かできるのか? 昨晩も何か変わった霊格の変動を小僧の部屋から感じたのだが、中でおこなっていたのか?」

あれもわかったのか。
霊力は外部とは遮断されるはずなんだけどな。

「ええ、霊圧をかけることができます。その中で瞑想をおこなっていたんですよ。そうすれば、霊力アップにつながりますからね」

「他にもありそうじゃのぉ」

「前世は陰陽寮に所属していたので悪霊、妖怪退治がやはり専門で、この陣だと効果はでても弱くて使い物にならないものばかりですよ」

それがあって霊波長を変化させて色を変えることにより、応用できる範囲をひろげたのだが、こっちをあかすのはまだ早いかな。

「例えば火精を呼び出しても小枝を燃やすぐらいの量しか呼び出せないですし」

「ふむ。もったいないの」

「それに、この陣ですがあまり大きな範囲に作ることができないので、場所は限定されたり、待ち伏せするにしても霊的には目立つので霊勘が強いのだと入ってこないですしね」

「そうじゃろうな」

「今のは、結構奇襲っぽくさせてもらったのですが、これで無理だと、俺にはこれが手一杯ですね」

「まだ、霊力と身体がなれておらぬのじゃろう。まだ、粗がある。それにしても、お主、以外と戦いなれておるの。癖のように見せかけて、実はそれが偽りだったりと」

フェイントのことを言っているのか。

「そういう虚実の技術なら、昔より今の方が発展しているんじゃないっすかね。けっこうだれでもしていますよ?」

「それならそれで良いが、最後はよく後方からの攻撃だと読んだの」

「結局ふせげなかったじゃないですか。それに後ろというのは完全に勘ですね。どうやって、目の前から消えたのかさえわかりませんでしたよ。仙術でいう縮地という方法ですか?」

「この結界の中では、仙術は無効にされる。あとは、自分の身で確認していくんじゃな」

老師は、教えてくれるものはポンポンと教えてくれるが、そうでないところは、技は盗めるものなら盗んでみろってところもあるから、これは無理っぽいかな。

「えーと、せめてヒントだけでも」

「霊格の移動を感じ取ってみるんだな」

「霊力や霊波の移動ではなくて、霊格の移動ですか?」

「その通りじゃ」

「あの霊格を読み取るって、俺にはきちんとできないんですが」

「ヒントはだした。あとは小竜姫がきたときにでも相談してみろ。午前中はここまでじゃ。夕刻の修行は今みたいにはいかぬぞ?」

「はい。お願いします」

その後の老師との対戦方式はぼこぼこにされっぱなしだとつけくわえておこう。
ここの温泉のおかげで、元気に復活するのと、おキヌちゃんがここの作り方になれてきたのか料理がおいしい。

結局ここにきて4日目の夕刻にようやっと小竜姫さまが戻ってきた。
予想外の神族をつれてきたけれど。


*****
食事はどうするんだろうかということで、単純に自給自足ができる環境を異界空間に求めてみました

2011.04.07:初出



[26632] リポート17 妙神山修行編(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/26 20:49
折角、小竜姫さまが戻ってきたと思ったら、天龍童子付きかー
しかし、知っているのもおかしいよな。

「小竜姫さま。その子って、もしかして弟ですか?」

「世は天龍童子! 竜神族の王、竜神王の世継ぎなるぞ!」

「なんか偉そうな感じですね」

「この者は修行にきているので、あまり神界の事情はお話にならぬようにください。殿下」

そうすると、天龍童子はびくっと身体を震わせて、

「わっわかった。小竜姫……! 余は余計なことを言わないぞ」

もしかしたら、この天龍童子がにげだすのか?
面倒だから、逃げられないようにしたいんだけど、天龍童子って前回どうやってここからにげだしたんだっけ?
老師の分身たちは、天龍童子の姿を見かけたところで俺専用につくったという分身から、

「小竜姫に、後でわしの部屋までくるよう伝えておいてくれ」

そう言って、その分身も姿を消した。
老師と竜神王ってそんなに仲がわるいんだっけ?
天龍童子とおキヌちゃんが仲良く白黒テレビを見ている。
それを見届けた小竜姫さまがきたので、時間差でお約束の、

「小竜姫さま。ようやく2人きりになれましたね」

と手を握る。

「全く貴方はこりるということを知らないのですか!!」

そう言って神剣に手をかけたところで、

「小竜姫さま。今は時代がかわって、手を握るくらいは普通なんですよ。これくらいで仏罰だなんて言ってたら、日本中の若者に仏罰をくださないといけません!」

自信を持って言うと、小竜姫さまも素直に信じこんだのか、

「そうですよね。地上に降りたときの周りの服装も随分違いましたし」

とりあえず、手を握るぐらいは成功だ。
このあとはどうやって進展するかだけど、これ以上から以前はすすまなかったんだよな。
以前はさすがにハグとか、頬を互いにつけあうとかは即座に拒絶されたしな。
おバカなことはおいといて、

「老師が、あとで部屋にきてほしいとのことです」

「老師が? そういえば、私がここを数日間もはなれることになったので、老師が貴方の修行相手をしていたのですね」

ちょっと、額をもんでいる小竜姫さまもかわいらしいな。

「そんなに気にすることでもないんじゃないですかね。老師からの伝言を伝えましたからね」

「そうですね。わかりました」

あの様子だと老師と小竜姫さまがいつでてくるかわからないし、天龍童子もまだ動き出さないだろう。
午後一だから食料になりそうなものでも採ってくるか。
えーと、天龍童子って食事をするんだろうかとも思いつつも、小竜姫さまは修行のときに食事を一緒にするから、その分も含めて追加しておこう。
老師は、あの調子だと食事にでてくるかどうか、よくわからないけれどな。

いつものように川で釣りをしていると「きゃぁ」、という女性の悲鳴がする。
声からいうと小竜姫さまだけど、この森林で悲鳴をあげることなんかあるだろうかと思いながら、悲鳴が聞こえた方向に行くと小竜姫さまが逆さづりになっていた。

「あのぉ、小竜姫さまに、そのような趣味でもあったんですか?」

「いえ、なぜかしらないんですけど、ここにこのような罠がありまして、しかもこの罠のロープが神界のものなんです。それで斬ることもできなくて……」

小竜姫さまの神剣は下に落ちているな。
そういえば、この罠は俺がしかけた奴だ。
獣道だと思ったら、小竜姫さまの通り道だったのか。
ちょっと背中に冷や汗を流しながら、

「すみません。獣道だろうとおもって罠をしかけたのは俺です。決して小竜姫さまに、罠をしかけたわけじゃなくて――!」

そう土下座しながらあやまっていたら、

「そんなのはどうでもいいので、神剣をとってください。このロープなら神剣で斬れますから」

俺はその言葉ですっと落ちている神剣をとり小竜姫さまに渡すと、ロープを断ち切って地上におりた。

「本当にすみませんでした」

「私も油断していました。まさかここに修行者の罠があって、しかもそれにひっかかるとは……」

うーん。魔族や妖怪、過激派の神族を意図して罠にかけたことはあるが、ここで小竜姫さまがひっかかるとは思わなかったな。

「ここにいるということ、は夕食とかの食料を集めているんですよね? 俺は川魚を釣っていますので、残りの方をお願いしてもよろしいですか?」

「そうですね。それでお願いします。しかし、よりによって人間の罠にかかる私って、やっぱりドジなのかしら……」

ここで声をかけると、なんかやぶへびになりそうなのでやめておこう。

俺は川魚のつるポイントもわかってきたので9尾をつって台所にむかうと、おキヌちゃんとともに小竜姫さまがすでにいる。
先ほどのことは気にしていないように見えるから、下手な声はかけないでおこう。

「魚を9尾つってきました」

「そこの机に置いてください。それから修行者に頼むことじゃないんですが、子どもがいますので、おふざけをしていないか見守っていただけませんか?」

「さっきの竜神王の世継ぎって子ですか?」

「身分は知らせたくなかったのですが、その通りです。単なる人間の子どもとして、みていただいてかまいませんから」

そんな扱いでいいのか?
まあ、いいか。以前いた時間軸ではメドーサとあった後は、小竜姫さまのかわりに謝りにきたのが1度だけだったしな。

「ええ。じゃあ、行ってきます」

白黒テレビのところにいないと思ったら、出口の門へとこそこそと向かっている天龍童子をみつけた。
あれじゃぁ、逃げ出しますよと言っているようなもんだ。
出て行かれる前に声をかけておくか。

「そこを行く、おまえ。何をしているんだ?」

ぎくっとして、とまりながらびくびくしながら振り返るところが、もう何か悪さをしようとして見つかった子どもって感じだな。

「余は別に、抜け出そうとしていたわけじゃないんだからな」

「はいはい。わかったから、テレビの前でも座って見ていれよ」

「テレビとはなんだ?」

「おキヌちゃんと一緒にみていただろう?」

「あのてれびじょんとか申すものか?」

「そうだな。てれびじょんを短縮してテレビって言うだけどな。そっちで何か番組でも見ていれよ」

「せっかく俗界に来たのだから、余は遊びに行きたい! 余は東京デジャブーランドに行きたい!」

うーん。ここって修行場だから、娯楽といえば、あの白黒テレビぐらいだよな。
あとは老師のところにゲームぐらいはありそうだが……もしかして天龍童子にゲームで邪魔をされたくないのか?
ありそうで、怖いな。

「まあ、待て。東京デジャブーランドまでの行きかたは、知っているのか?」

「簡単に行けるのではないのか?」

「ここからだと少し遠いな。乗り換えもあるしな。まずは、そのあたりのことでも落ち着いて話せるように、どこかで座って話そうか」

「簡単に行けるものだと思っておった。きいてやろう」

態度がでかいな。子どもだからしかたがないのかねぇ。
たしか前は『殿下と呼べ』と言ってた覚えがあるから、それよりはましか。

「行き方は、誰かに聞くなりすればいけるかもしれないが、おまえぐらいの見かけだと迷子として扱われて、警察に保護されるかもしれんしな」

「保護は困る」

「それにもうひとつ問題があるぞ。東京デジャブーランドで遊ぶには、お金が必要だぞ!?」

「遊ぶための軍資金じゃ!」

そういって、だしてきたのは小判だが、いつの時代のどの小判かわからん。
小判もでていた時期によって、値段が違うらしいからな。令子からの受け売りだけど。

「うーん。これじゃ、直接遊べる金にならないぞ。小判って昔のお金なので、今のお金にかえる必要があるんだ。こんなんだよ」

俺は財布から一万円札をだして見せる。

「こんな紙切れが、金なのか?」

「そうだ? 契約書があるだろう? あれと同じようなもんだ。実際の金属である小判よりも便利ということで、これぐらいのものは最低限必要だな」

「それと交換してくれぬか」

「俺、昔の小判の値打ちが、今のお金にするとどれくらいになるか知らないし、それなら小竜姫さまの方が知っているかもよ?」

「それが聞ければ……」

「もしかして、小竜姫さまにだまって出ていこうとしてたのか?」

「……」

やっぱり、出ていこうとしていたんだな。

「小竜姫さまに聞いてやろうか?」

「小竜姫に聞くな――!! 小竜姫のお仕置きは過激なのじゃっ!! 聞きにいこうとしたらこの場で自害するぞっ!!」

「声が大きいぞ」

天龍童子の口がぴたりととまる。ついでに口を自分の手でふさいでいるくらいだ。
これぐらい声が大きくなってきているから、すでに小竜姫さまに聞こえていても不思議ではないのだが、先ほどの罠につかまった後遺症なのか来ないな。
まあ、さすがにこの何もない妙神山だと子ども一人では暇だろう。

「そうだな。テレビが白黒だから、カラーテレビにしてもらって、あとはビデオデッキに、何本か何種類かのビデオがあると、暇つぶしぐらいにはなると思うぞ」

「カラーテレビとか、ビデオデッキにビデオってなんじゃ?」

「テレビの画面に色も映って見えるのがカラーテレビで、ビデオは色々と人間が娯楽のためにテレビでみれる作品の記録でな。ビデオデッキがそのビデオを見るために必要なものって感じかな」

「よくわからんが、人間の娯楽には興味がある。買ってまいれ」

「いや、俺も修行中の身だから勝手にでて行くわけにいかないからな。小竜姫さまに出かけてくると、ことわってくる」

「うむ。余がでていっても、迷子扱いはごめんじゃ」

小竜姫さまに聞くと、小竜姫さま自身が行きたそうにしていたので、天龍童子とそんな話をなぜしてたかまでは、気がまわっていないようだ。
とりあえず、明日の午前中はふもとの町におりて買ってくることにした。



翌朝は個人のビデオ店と電器屋で適当に見つくろってから、帰りはビデオとテレビはサイキック炎の狐にぶらさげて、俺は別にもう一本サイキック炎の狐をつかって妙神山にもどっていった。
テレビを今までの白黒テレビの横に並べてつけると、

「てれびじょんに色がついているっ!!」

って、天龍童子よりも小竜姫さまの方が驚いているな。
前回のGS試験の時には目に入らなかったのか?
そういえば、唐巣神父の教会ってテレビおいてなかったもんな。

修行は小竜姫さまとだが、護手付き霊波刀と少し大きめのサイキックソーサーという、以前の時間軸の未来の俺にとってはオーソドックスな戦い方をする。
老師と違って小竜姫さまの剣筋はある程度見えるのでかなりさばけるが、このことに気がついていないくらいビデオに気をとられているようだ。

そんな昨日までとは違ったのんびりとした修行をしながら、天龍童子はビデオ画像の映ったテレビ付けで帰っていった。
最後に

「今度こそ、東京デジャブーランドに行くからな」

と俺にこそっと耳打ちしていって、小竜姫さまが送りに行っている。
天龍童子から聞いていないが、まさか『家臣』扱いにされていたのか?
さらに竜神族の会議って毎年あるのか?
余計な荷物になんないだろうな。

そして、小竜姫さまがもどってきたので、それなりに厳しくとも平穏な修行をむかえられるかと思っていた。
修行といってもずっと戦闘方式の修行をしているわけでは無いので、比較的自由時間は多い。
その午前中の修行のあとに小竜姫さまが、

「お客様のようね」

そう言いつつ俺は誰だろうと思って一緒に門へついていくと、小竜姫さまは気楽に扉をあけて、

「あら、美神さん?」

「5秒とたたずに開いたわね」

「小竜姫さまああっ!!」

「不用意に扉を開かれては困ります! 我らにも役目というものが……!!」

鬼門たちは文句を言ってるが、小竜姫さまの感覚って結構範囲が広いんだな。

「カタいことばかり申すな! また修行者が来たとは思っていなかったのです。ところで美神さん。紹介状はお持ちでしょうね」

「唐巣先生の紹介だけど……」

「GS試験の時の戦いぶりをみる限りでは、問題なさそうね」

鬼門たちは生真面目なのか、

「やはり規則どおりこの者たちを試すべきだと思います!」

「何者であれ、ただで通しては鬼門の名折れ!」

「……しかたありませんね、早くしてくださいな」

早く開始するとも、早く負けて通してあげてねとも、どっちとでもとれるな。
扉が中途半端にしかあいていないので、令子以外にいるかは不明だが、立ち位置は悪運なのかよさそうだ。
試合が開始する前に扉が閉められて、音も霊力も届かずに絶たれている。
この扉も一応、結界の役割をはたしているのか。
なんとなく反則技をだしている気はすると、扉は30秒とたたずに開いたところで、

「鬼門を倒した者は、中で修行を受ける権利があります。さ、どーぞ」

「えー、それではまず着替えを行いますのでついてきてください」

その言葉に従って入ってきたのは、令子と芦火多流が入ってきた。

「令子さん、火多流ちゃん。こちらで修行ですか?」

俺は声をかけつつ、差し出した手は令子に無視されたので、芦火多流に向けると挨拶程度には軽くにぎりかえしてきたが、すぐに手をはなされた。
女っけが少なかった修行場だけど女性もふえたし、握手するところも小竜姫さまが見ていたからいいだろう。

「横島クンにぬけがけで、追い抜かれちゃたまらんしね」

そこでギロっとにらまれても困るな。
しかし、ここにくるということは神父の髪の毛は……心配するだけ無駄か。

「私は、美神さんの修行に見学でついてきました」

芦三姉妹では同じ教室だけあって一番接点の多い彼女だが、ルシオラのような感じを受けないんだよな。
芦鳥子、芦八洋も同じくルシオラっぽくないが、この三人の父親の名前が芦優太郎って、名前だけならあやしさ満点なんだよな。
そこへおキヌちゃんが、

「はじめまして。美神令子さん。私、幽霊のキヌと言います」

「ああ、紹介がおくれましたね。俺が保護している幽霊です。霊体が安定しきっているので、成仏するまで面倒をみてあげているんですよ」

「ふーん。聞いてはいたけれど、机妖怪といい、幽霊といい、変わったものを保護するのね」

話は、それなりに伝わっているのか。
おキヌちゃんは、教室まできていたから芦火多流から聞いているのかな?
令子の若いころの着替えもみてみたいが、修行場を追い出されたら令子の霊能力が本当に危ないかもしれないからな。
俺は修行服のままだから、そのまま修行場でもある武闘場へ行く。
でてきた小竜姫さまに、

「令子さんにはどんな修行をなされるんですか?」

「なるべく短時間で大きくパワーアップしたいそうなので、今日一日で修行を終えるコースです。ただし、強くなっているか死んでいるかのコースですよ」

そのコースか。問題は1匹目だな。
それとは別に令子が、芦火多流に聞かせるように、

「なるほど。異界空間で稽古をつけてくれるみたいね」

「人間界では、肉体を通してしか精神や霊力を鍛えることはできませんが、ここでは直接、霊力を鍛えることができるのです。その方円を踏みなさい」

「初めて見る方円ね……踏むと、どうなるわけ?」

令子が方円をふんだところで、令子のシャドウがでている。

「あら、これって、もしかして影法師(シャドウ)?」

「知っているのですか?」

「少しだけです。詳しく教えてくれますか?」

「霊格、霊力、その他、あなたの力をとりだして形にしたものです。影法師(シャドウ)はその名の通りあなたの分身です。彼女が強くなることが、すなわちあなたの霊能力のパワーアップなわけね」

ここでも霊格か。霊格を感じるには慣れしか無いって、小竜姫さまにも言われているが、よくはわからないな。

「これからあなたには、3つの敵と戦ってもらいます。ひとつ勝つごとにひとつパワーをさずけます。つまり全部勝てば、3つのパワーが手に入るのです……ただし、一度でも負けたら、命は無いものと、覚悟してください」

「つまりこれは真剣勝負なのね……? 上等!!」

「そーと決まれば、早いとこ始めましょう!!」

「ああ、小竜姫さま。俺から先にアドバイスしてもいいですか?」

「へー、横島クンのアドバイスね。だいじょうぶかしら」

えっ? 小竜姫さまはそんな顔をして俺をみる。
そうだよなぁ。俺ってこのコースを受けていないもんな。

「いえ、このコースは知らないですけれど、令子さんが影法師(シャドウ)の特性を理解していないようだから、そこだけならアドバイスできると思うんですよ」

ちょっと考えていた小竜姫さまだったが、総合的に判断したのだろう。

「ええ、許可します。今のままだと彼女には難易度が高いですからよろしいでしょう」

「小竜姫さまの許可もでたので話せるけど、影法師(シャドウ)の持っている武器は変化させることができるんですよ。今は槍をもっていますが、扱いなれていますか?」

「そうね。私の場合、神通棍が使い慣れているから、それがいいっていうこと?」

「本質は槍の方がむいているかもしれないのですが、今戦うとして使い慣れた武器とそうでない武器のどちらを選ぶかは、令子さんの自由です。俺からできるアドバイスってこんなもんですけどね」

令子は天邪鬼なところがあるから、俺が絶対に良いとか言うと、反対の物にするだろうな。
だから押し付けないで選択できるようにしたが、このまま槍にするか、神通棍にするか、どっちだ?


*****
ここの小竜姫は、ヒャクメっぽいかもしれません。

2011.04.07:初出



[26632] リポート18 妙神山修行編(その4)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/27 20:35
令子のだした結論は俺の予想外で、神通棍の先端が両刃となっているものだった。
たしかに神通棍の長さと同じだし、槍としての突貫性もあるから、今のなれた武器にちょっとした改良を加えたようなものだ。

「横島クンのアドバイスの内容だけじゃ、危なっかしいわ。これなら両方の特性をいかせるわよ」

小竜姫さまは、にっこりと笑って見ている。
俺も扇子を武器に応用することへの再チャレンジしてみようかな。

「これで、準備もととのったから早いとこ始めましょう!!」

「阿紅亜(アクア)」

令子の掛け声とともに、小竜姫さまが修行相手をだしてくる。
阿紅亜(アクア)か。水妖の一種になるけれど、こいつの特性がけっこう厄介なんだよな。

「横島さん、あのアクアって知っていますか?」

教室でも芦火多流からは話してこないのに、めずらしく声をかけてくる。

「うーん。知らないよ。GS協会発行の妖怪事典にもでていないから、ここの修行用につくられたモノノケなんじゃないかな?」

実際は、それなりの数や特性もわかっているが、こいつはスライムの特性をもっている。
霊力そのものは、次にでてくるはずのゴーレムよりも下まわるが、切り方によってはくっつくんだよな。
令子の普段の除霊スタイルなら、札があればいいんだろうけど、今回はシャドウだからなぁ。
令子の霊力が知っているよりも小さいのはあるが、一方的に叩いているのに、極少なめだが小さくなっていくアクアがまだいる。
対策法に気がつかなかったら長期戦かな。
そう思っていたら

「こいつらは、霊団と同じ特性をもっているみたいね。こうすればいいんだわ」

そう言っておこなったのは、神通棍の先をひろげて板状にしたものだ。
ハエたたきか?
線でたたくより、面でたたいたほうが相手の体積を減らすのには確かに効率がいい。
ちょっと思っていた方法とは違うが、これで随分と時間の短縮はできるだろう。
どんどん縮小していく阿紅亜(アクア)がある程度まで小さくなったところで、純粋な霊体となって令子の影法師(シャドウ)にはいりこんだ。
シャドウが全体的に明る感じになっているが輝くほどまではいってはいない。

「明るくなった?」

「霊格を含めた、サイキックパワーの総合的な出力が上がったんです。これで、霊格をふくめて、霊能力全般で日本ではこれ以上の力をもつものは少ないはずです」

以前の時だと思いつくだけで、ここまで霊力が高そうなのは5人ぐらいしか思いつかないが、令子のことだからあと1年でそのうち3人はこえるんだろうな。
しかしどうやっても、冥子ちゃんだけ抜けるとは思えないけどなぁ。

次の相手は剛練武(ゴーレム)だが、突いたところをつらぬけなくてつかまり叩かれたが、前回程にショックは与えられていないようだ。
令子はすぐに立ち直って、弱点である目をついた。
これでヨロイがついて、霊攻撃からの耐久力がアップする。

最後は禍刀羅守(カトラス)だが、ここまではある意味順調にきていた分、油断をしていたのだろう。

「初め!!」

の前に急襲されて、令子のシャドウが攻撃を受けた。

「こらっ禍刀羅守(カトラス)!! 私はまだ開始の合図してませんよっ!!」

「フン。グケケッ」

「私の言うことが聞けないってゆーの!? なら試合はやめです!! 私が…」

「待って!!」

まあ、GSという職業上、戦いの場で油断したってことだから、令子が悪いんだけど小竜姫さまはそのことをわかっていないんだろう。
それにたいして、令子は若くても自分が油断していたことを理解している。

「あんたがやっつけたら、私のパワーアップにならないんでしょう?」

多分だけど……

「それはそうですけど、これでは公平な戦いには……」

「いーえ、やるわっ!! 行くわよ!!」

サイキックパワーの総合的な出力があがったあとでも、カトラスの方が動きは速く、とらえきれず逆にきりかえされている。
ダメージは大きくはなさそうだが、それでも一方的な展開になりつつありそうだ。

「しかたありません。特例として助太刀を認めましょう」

そういって、芦火多流の方に近づいていく小竜姫さま。

「あなたの影法師(シャドウ)を抜き出します」

「ええ。GS見習いとして師匠の危機は見逃せません」

昔の俺とは大違いだな。

そして芦火多流から抜き出されたシャドウを見た俺は……ルシオラとはにていなくて半分ほっとしていた。
しかし、よく考えればわかることだ。
シャドウがそのまま魔族の姿と同じなら、令子のシャドウも前世の魔族であるメフィスト・フェレスの姿になっていたはずだからな。
だけども逆にいうとこれだけでは、アシュタロスと芦三姉妹、いや芦家のつながりが無いとはいえない。

今、考えるというか見ているべきなのは、令子と芦火多流のことだろう。
令子のシャドウは傷ついているが、まだ致命傷までにはいたっていない。
芦火多流のシャドウをみる限りでは、令子のシャドウに対して力がおとっている。
ただし、芦火多流のシャドウの長所は幻影をつかえることだ。
しかもGS試験ではよくわからなかったが、霊力ものこっているように見える高度な幻影だが、わずかに変な感覚がする。
たしかに霊力や霊波がそこに残っているのに、何かよくわからないものがその場から移動するのを感じる。
そしてその変な感じのした場所から霊波砲が放たれて、芦火多流のシャドウが見えてくる。

霊波、霊力、霊圧、その他感じる限りのものと比べてみるが覚えが無い。
カトラスも同様に感知できないようで、早い動きの中でも迷いがあるのを見て取れる。
それに対して、小竜姫さまはわかっているのか特に変わりは無い。
カトラスの注意が令子のシャドウからそれた隙に、令子のシャドウが突きをはなってうまく裏返しに倒した。

「あのコはひっくり返ったら自分で戻れないのです。勝負あったようですね」

小竜姫さまの言葉とともに、カトラスの霊力が令子のシャドウの神通棍にやどって、形が変形し片刃の双頭剣になる。
おれのサイキック双頭剣は両刃だが、もしかすると潜在意識としてこれがのこっていたのかな?

ちなみにこのコースで、実際に死ぬのってまだ一人しかみたことが無いんだよな。
普通は、ひどくても数ヶ月の重体でなんとか済むし、半分以上は強くなって帰っているよな。
とはいっても、このコース受けたのを見たのは10人くらいだけど。

「美神さん。霊体の怪我が少しきついようなので、今日はここの温泉で治療していってはいかがですか?」

うん? 小竜姫さまならこれくらいならヒーリングできるんじゃなかったかな。

「そうね……仕事はのばせばいいし、身体を治すために泊まっていくわ。思ったよりも、カトラスって早かったわね。けど、これでエミに差をつけたから」

「身体が第一ですよ。それから芦火多流さんでしたよね?」

「ええ」

「あなたもここで、1泊の簡単なコースをうけてみませんか?」

「いえ、今日みたいなのは、さすがに私では」

うーん。たしかに令子の補助として動けていたけれどカトラスに、たいしたダメージを与えていなかったからな。

「見学者に対しての体験コースみたいなものですので、本格的な修行は鬼門を倒してからになります。実際、鬼門を倒すだけの力量はあるように見受けられますが」

「私はまだまだです。美神さんのところにいると、よくわかるのです」

令子が強いのはわかる。
ただ純粋に霊力が高いだけではなくて、戦いというところでは相手の弱点を容赦なくつくというところにあるんだよな。
それもあるが、お金の面で令子風に強くなるのはあまりよくないよな。

「そうですか、残念ですね。それでは鬼門の試しを通過する自信がついたら、修行にきませんか?」

「ええ、それなら喜んで」



令子の修行もひと区切りついたので、小竜姫さまと俺はいつもの異界空間の森林での食料調達だ。
その間に令子たちは、温泉につかっているという。

こんちくしょう。
小竜姫さまってガードが固いから覗こうとしたら、即座に桶がとんでくるし、どこで覚えたのかタオルなんて巻いて入っているしな。

「お湯に入るのにタオルを巻いて入るのはマナー違反です」

と言えば、

「横島さんが、覗かなければ、私もこんな窮屈な格好で入らなくてもすむのです!!」

ごもっとも。
けれど、これをやっとかないと、翌日の霊力の確保ができないんだよな。
ここ2日は、天龍童子も一緒に風呂に入っていたので、覗きをしていなかったが、それだけでも霊力の枯渇が早かったし。


俺の午後の修行は2時くらいから小一時間ぐらいで、小竜姫さまとの剣術の実践的な修行だ。
以前も小竜姫さまの同様な修行は受けているので、老師と違って素直な剣筋だから、だいたいは動きも読める。
ただ、身体がついていかないんだよな。
罠にかかった翌日、俺の動きが小竜姫さまの動きを先読みしていることに気がついたのか、

「私の剣筋を読んでいるようですが、何か武術でもしていたのですか?」

どうやってみても、俺の動きってまともな武術をしているように見えないようでいてフェイントが入っているのでは? って言われていたからな。

「ええ、霊力に目覚める前には、剣術の道場にかよっていたんです。そこでの基礎は素振りだけで、あとは実践主義だったんですよ。今は師範が鬼籍に入られてしまったので詳しくはわからないのですが、代々退魔の仕事をしていたらしくて、ここで修行をしたことがあるのかもしれませんね」

「私の剣術を見て覚えて行った者などは、柳生の裏の者ぐらいですけどね」

「柳生という苗字じゃなかったので、分家かもしれませんね。さすがに今となっては、そこまでくわしいことは、わかりません」

素直な小竜姫さまだ。これぐらいの嘘を簡単に信じてくれている。

今日の修行には、芦火多流が見学をしている。
令子は俺のことを「見なくても充分よ」って、宿泊する部屋へ行ったが、霊体の損傷もあるから、湯あたりしないように複数回にわけて温泉へ入るらしい。
なんとなく、すぐ近くに煩悩活性化の元があるのに、その機会をいかせないのはちょっとつらいな。

剣術ばかり、といっても俺は護手付き霊波刀とサイキックソーサーをだしっぱなしだが、そんな修行を見ていた芦火多流が、

「ここの修行って、こんな感じなのですか? 美神さんの修行とは随分ちがいますが」

「ここには色々なコースがあります。見学者用のコースもあると言ったとおりに、見学者の中でも素質がありそうだと思う者には、それにあわせたコースがあります。受けてみる気になりましたか?」

「修行というよりは、相談にのっていただきたいことが……」

「内容によりますが、まずは聞いてみましょう」

「お願いします。私の場合は今まで魔装術を目指していたのですが、美神さんにとめられました。それとGS試験での相手のように、力に心をのっとられるのを見て、今後の方針を変更することにしたんです」

「そうですね、美神さんもあなたの判断も正しいでしょう。魔装術を極められる人間は本当にごく一部です。それ以外のものは、中途半端な力のままか、最後は魔族となってしまいます」

「はい。それで断念したのですが、そうすると私の場合は、霊波砲と幻術がベースになるのですが、両方を同時に使おうとすると、時間がかかってしまうのです。それを早くできるようになりたいんのですが」

「一度、その状態をみせてもらえませんか?」

「はい。お願いいたします」

俺も、かなり霊力と体力を消耗しているので、丁度良いタイミングでの休憩時間だ。

「まず、個別におこなったところを見せていただいて、それから両方同時に行うところを見せてください」

そうすると、まずは霊波砲だがGS試験での魔装術無しでの雪之丞と同じくらいか?
これだけでもGSとして上位になれるよな。
次の幻術だが、目だけでなく、霊力もそこにのこしておけるような高度なものだ。
そして、両方同時といっていたが、確かに幻術を行うのと霊波砲を放とうとしていると、幻術が完成するまでが遅いし、霊波砲を放つ前のタメに時間がかかっている。

先ほどの幻術もそうだが、令子がカトラスと戦っていたときと同じく、芦火多流の幻術から何かよくわからないものがその場から移動するのを感じる。
幻術の間に隠行をつかって移動しているとのことだが、その幻術と隠行をといたら、よくわからない物の場に、芦火多流がいた。
この感覚はなんだろうか?
小竜姫さまにあとで聞いてみよう。

「あなたの場合、先ほどは幻術と霊波砲と言っていますが、幻術は出すのと消えるものにわけられますし、隠行も無意識におこなっているようですね。その為に2つの術をおこなっているつもりが、4つの術をつかっています。これがあなたの行いたいことをするためにたいして、時間がかかる原因となっているようです。おこないたいことまで時間はかかるかもしれませんが、この4つの術を使っているということをまずは念頭において、修行をされると良いでしょう。最初は遅く感じるかもしれませんが、慣れてくれば4つの術を意識しなくても、今までよりも早いペースで自然と早くなっていくでしょう」

「ありがとうございます。非常にためになりました」

「そうですか。それはよかったです。それと横島さん。今日は早いですが、これで修行はあがりましょう」

「へっ?」

小竜姫さまは俺の返答に特に答えず、修行場からでていこうとするのでおいかけるように武闘場の空間からでていくことにする。
小竜姫さまが行動前に説明しないのも珍しいな。
そして、いつもの異界空間の森林に入ったところで、

「横島さん」

「はい、なんでしょうか?」

「先ほどの芦火多流さんの隠行を、見破っていましたね?」

「見破る? いえ、そのことなんですが、何かよくわからないものが移動したのはわかりました。しかし、それが何なのかわからなかったので、隠行を見破るとまでは……」

「あなたにとっては未知の感覚かもしれませんが、それは霊格を感じていたのです。通常だと隠行でも霊格を完全に消すのは困難です。横島さんが、霊格を感じるようになったのなら、明日から別な修行方法もつけくわえましょう」

「えーと、それって、火多流さんの前で言ってもよかったのでは?」

「いえ、彼女の場合、まずは自信をつけさせるのが先決です。それにあのレベルの隠行なら、霊格を感知できる者もほとんどいません。横島さんの隠行も、霊格を消しきれていないから察知できるんですよ」

「ああ、それでお風呂でばれる……」

「わかってしまったようですね。あまり教えたくはなかったのですがその通りです。悪用される前に、お風呂とかへ人間界のセキュリティシステムでも導入しようかしら……」

覗くなんて俺しかいないだろうに、真剣に考え込んでいる小竜姫さまに悪い気がしてきた……ほんのちょっとばかりだけど。


令子と芦火多流のいる夕食は、案外とにぎやかだった。
女3人寄ればというが、おキヌちゃんと令子の相性がいいのか、話相手になるんだよな。

俺と芦火多流は同じクラスだが、普段は俺から声をかけないと話すことは無いが、自然と学校関係やおキヌちゃんにGSになることの話なんかもする。
そういう話になれば令子が『私にききなさいよ』とばかりに割り込んでくる。

小竜姫さまは興味深げに、しずかにお神酒を飲みながら聞いていたが、途中から皆に飲ませたがるし、お神酒をつがれて拒む者はこの中にはいない。
令子はまっていましたとばかりに飲みだすし、芦火多流は海外生活が長いので、ワインのかわりとしてお神酒を飲んでいるようだ。
おキヌちゃんはお酒を飲めないが、お酒に関しての常識を愛子に教わっていなかったのであろうか、とめる気配は無い。
俺は今の身体でどのようになるかわからないので、ちびりちびりと飲んでいるが、まわりの女性たちをとめる勇気は無い。

夕食からいつの間にか宴会もどきになって、寝る時間になって、たちあがろうとしたらふらついた。
やっぱり初めてこの身体でお神酒を飲んだからか、飲む加減を間違えたかな?



翌朝起きると、令子は朝風呂をあびて朝食にきているし、他のみなもけろりとして二日酔いなのは俺一人だけ。

たった二人女性が増えていた一晩だけだったが、その二人がいなくなった。
そのとたんに、それまでの静かな修行場にもどってきたという感じだ。

その後の2週間といえば、新しい修行がふえた。
霊格を感じるようになったので、隠行ができる俺は自分の霊格を感じなくなるまで隠行のレベルをあげられるような修行だ。
昼間は瞑想を中心におこなっているが、その他の時間はあくまで自己鍛錬だ。
夜はどうどうと風呂場での覗きを行っては、小竜姫さまに「隠行がなっていない」とばかりに桶をなげつけられる日々だ。
タオルを巻いているのはおしいが、これも修行と小竜姫さまもあきらめているらしい。
そして下山の日になり、

「小竜姫さま、修行をつけていただきありがとうございました。あと、老師にもお礼を述べていたと、伝えていただいておけますか」

「ここは、修行場ですので、またいつでも必要ならきてください。老師とあえたのは、貴方にとってとても良い指針となったでしょう。文珠ができるかどうかは、霊格をあげる必要性があります。今の修行を続けて、隠行が完全になったら、伝えてある次の修行へと移れます」

「ええ、ご忠告の通りにいたします」

「今の修行がおわらなければ、次の修行をおこなっても無意味どころか、マイナスですからね」

「はい、小竜姫さま」

こうして門の前でわかれたが、鬼門のことはすっかり忘れていたが、まあいいだろう。


*****
隠行と霊格の関係はオリ設定です。

2011.04.08:初出



[26632] リポート19 グレート・マザー編(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/28 21:56
おキヌちゃんをつれて、あと数日で別れる予定のアパートの部屋に戻ると鍵が開いている。
貴重品は、事務所の方に預けてあるから、とられて困るようなものはないはずだ。

「おキヌちゃん。たしかきちんと鍵を、かけておいたよな?」

「ええ、私も鍵をかけるところは見ていましたから、かかっているはずですよね」

部屋の中の気配を探ると霊力はほとんど感じないが、なんとなく霊格が高そうな感じの人らしきものを感じる。
院雅さんは入る必要もないだろうし、誰だろうかと思っていたら、

「わ――っ!! おふくろ!!」

「母親がはるばる来たっていうのに、何日も留守にしているっていうのは、どういうことだい!」

「ま、まさか、夏休みそうそうに来るなんて思っていなかったし」

「電話を何回いれたと思っているの? どこかに行っていたのだったら、あらかじめ教えておきなさい」

「GSになったので本格的な修行のために、妙神山っていうところへ3週間ばかり行っていたんだ」

以前と違うのか、たしかに今の俺には、おふくろの霊格が高そうだと感じられる。
霊力と霊格は直接関係ないらしいから断定はできないが、これなら殺気だけで令子の霊圧に対抗できたわけだ。
それにしても、なぜこの時期にくるんだ?
前だと核ハイジャック事件の直前までは、電話ぐらいしかきたことがなかったのに。

「それで、どうして、こっちは夏休みだというのにきたんだ? おふくろ」

「そのGSになったって聞いて、さらに、もう実質上の独立をするそうだからよ!!」

「耳が早いな。まだろくに宣伝もしていないのに」

親父が勤めている会社のクロサキさんあたりが、情報をながしたのかな?

「なぜか、六道家の当主から、電話がわざわざナルニアまできてね。娘さんのところに『時々でいいから手伝ってもらってもいいかしら~』なんていわれたら、気にかかるじゃないの」

六道夫人がおふくろに電話?

「六道家って知っているのか?」

「昔ちょっと知り合ったことがあってね。それよりも、六道家に目をつけられるなんて、一体何をしたのだい?」

昔知り合った? 初耳だぞ。
それはともかく、目を付けられるとしたら考えられるのはGS試験と、臨海学校での魔装術もどきじゃなくて霊張術かな。

「GS見習いとして、六道女学院の臨海学校での除霊実習で、冥子ちゃん……六道夫人の娘さんだけど、その式神の力を借りることができたからかな」

六道夫人には、他の所も見られていたのかな。思いつかん。

「女学院の臨海学校? そんなところにおまえをGS見習いとしてつれていった? セクハラはしていないの? 本当にあの忠夫なの?」

「仕事だし」

「あんたが、そんな殊勝なわけが無いでしょう」

「高校1年生ばかりだから、純粋に好みの年上の子がいなかっただけだよ――っ!!」

「あら、そう。少し好みがかわったのかしら。六道家の冥子さんは好みなの?」

あのぷっつん娘のそばにずっといられるのは、鬼道ぐらいだろう。
俺は首を横に思いっきりふりながら、

「年上かもしれないけれど、なんか、幼くて好みじゃないな」

「……そう、それならいいけれど」

今の間はなんだ?

「ところで後ろの女の子は?」

「幽霊のキヌと申します。今は除霊されないように、横島さんに保護してもらっています」

そう言って、おキヌちゃんはGS協会の保護証を懐からだす。
これでおキヌちゃんはなんとかなりそうだが、幽霊をみて単純に女の子は? と聞くおふくろも大概だな。

「根性無しだと思っていたけれどGSにはなるし、その上幽霊を保護して夏休みそうそうから修行ねぇ」

冥子ちゃんの件はつっこまないんだ。

「男子三日会わざれば刮目して見よ、ていうじゃないか。きっとそれなんだよ」

「ふーん。おキヌちゃんだったわよね。この子ともう1ヶ月以上いっしょにいるみたいだけど、どんな感じだい?」

頼む、余計なことをいわないでくれと願っていたら、高校3年生の女子更衣室の覗きで、おふくろから一発いれられて、おキヌちゃんがおびえている。
さらに妙神山でのお風呂場での覗きの件を、途中まで話されたところで、さらにもう一発たたきこまれた。
『安普請なのにこの壁はよく壊れないな』と思いながら、気が遠くなりかける。

「いえ、違うのです。お風呂場の覗きは、その修行場での修行なのだそうです」

「覗きが修行?」

ようやっと復活した俺は、

「覗きは特殊な術を授かるために、そこでは許されたんだよ。その修行場のお風呂場以外ではしていないよ」

おふくろは首を横にふりながら信じられないように、

「全くGSっていうのは、あいかわらず常識が通用しないね」

そういえば以前の美神除霊事務所をやめさせようとしたときもGSや、ロボットのマリアや元貧乏神のことも気にしていなかったな。
GSのことはある程度知識があるんだな。

「それで、電話しようと思っていようと思っていたんだけど、このアパートから引越しをしようと思っていたんだ」

「えっ? 引越し?」

「いや、幽霊とはいえ、女性と一緒では、この部屋だとせまくて……」

あとは、おそってしまうかもしれないなんて言えないしな。

「ふーん。おまえのことだから、確かに危ないかもしれないわね」

「危ないって、何が危ないのですか?」

「おキヌちゃんは気にしなくていいから。ちょっと家族内だけの話をするから外にでていてもらってもいいかな?」

俺はあわてて、ごまかしに入る。

「気がつかなくて、ごめんなさい。ひさしぶりの親子ご対面ですものね。ちょっとでかけてきます」

ちょっと違う方向に勘違いしたみたいだが、身の危険の方向を感じていないようでよかった。

「いってらっしゃーい」

俺は安堵しながら返答したが、危険はすぐそばにあった。

「ところで、引越しって、どうするんだい? 保証人とかいきなり頼まれても印鑑とかは、ナルニアの家よ」

「いや、今の事務所……院雅除霊事務所っていうんだけど、そこの社宅なので、そういうのは不要なんだ」

「どれくらいの大きさの部屋なのかしら?」

「ルームシェア用のアパートで、共有のリビング兼キッチンと約6畳の部屋が2つだよ」

「そうね。そこも見せてもらおうかしら」

「まずは、明日院雅除霊事務所に行く日なので、その時に部屋の鍵とか借りるよ」

「今日はまだ、時間が早いのだから、その院雅除霊事務所へ行きましょう」

「今日は仕事でいないかもしれないし、明日にしない?」

「何言っているのよ。今日だからこそいいのよ」

「へっ?」

「わからなければ、それでいいのよ」

いくら待っても帰ってこない息子に業を煮やして、あちこち下見などはすでにすましてあるが、人と人の関係はそれだけではわからない。
普段の様子はいきなり行ってこそわかるからね。

「じゃあ、さっそく、その院雅除霊事務所に行ってみましょう」



こうなると無理だというのはわかるので、電話をかけようとするとそれもとめられる。

「あなたたちの業界では、飛び込みで顧客はこないの?」

「大手の事務所ならあるらしいけれど、院雅除霊事務所だとほとんど無いよ」

「わずかでもあるなら、突然いっても大丈夫でしょう!」

おしきられて、行くことになった。
すまない、院雅さん。また、迷惑をかけるかも。

おキヌちゃんは、まだ遠くに行っていなかったので、呼んで院雅除霊事務所まで一緒に行くことになり、おふくろは後ろからついてくる。
特別な対策を考えられずに、院雅除霊事務所についてしまった。

入り口には特に鍵もかかっていなかったので、いつものように

「ちわーっす。院雅さん。ちょっと事情ができて、一日早く来ることになりました」

こういう場合は、一気に情報を伝達してしまうに限る。
ところが居たのは、院雅さんではなくて、ここには居ないはずのよく見知っている美少女だった。あれ?

院雅除霊事務所にいた、ここにいないはずの美少女に尋ねる。

「ひのめちゃん。なんでここにいるの?」

「院雅さんと面談をしている最中に、院雅さんが緊急の要件で1時間ほどの仕事が急遽入ったそうで、ここで待っていてほしいと頼まれたんです」

俺の時と、ずいぶん扱いが違うな。
それに除霊助手がいるはずだけど、

「そういえば、院雅さんの他に、除霊助手がいるはずだけど、その人は?」

「一緒に行きました」

「院雅さんも無用心だな」

「どうも私のことを知っていてくださったみたいです。ICPO超常犯罪課日本支部支部長、美神美智恵の娘だってことを」

「ICPO超常犯罪課ったら、オカルトGメンか。日本にもできたんだね?」

「ええ。そうは言っても、まだ準備室みたいな感じらしいです。けど、そこの娘が犯罪を犯したら、ICPOの威厳も何もかも大変ですから」

ふーん。美智恵さんも大変だろうな。令子の裏帳簿対策で、早くきたんじゃないだろうな。

「ところで、紹介してもらってよろしいかしら」

予想外の人物がいたので、おふくろのことをすっかり忘れていた。

「俺の母親で、横島百合子。こちらの女性は美神ひのめさん。ここ以外で学習させてもらっていた、唐巣GSのところにいるGS見習いのはずだけど、面談って言ってたよね?」

「ええ、院雅除霊事務所で除霊助手を2名募集していたので、それを受けにきていたんです」

「えっ? だって、すでにGS見習いだから、別に助手でなくて見習い募集のところにいけばいいだろうに。それに唐巣神父なら世界でもトップ10に入るGSじゃないか」

「えーと、唐巣神父とはGSとしての相性の問題なんです。それと院雅さんとは、除霊助手でなくても、見習いでもかまわないって言ってくれたんですよね。ただ、その条件をクリアすればですけれど」

「その条件って?」

「院雅さんがもどってくるまでは内緒です」

院雅さんがGS見習いを増やすのってなんだろうな。
それに院雅さんへ師事しても、唐巣神父よりもひのめちゃんへの指導に向く要素って、少ないと思うんだけどな。

「ところで、美神ひのめさん」

「はい、なんでしょうか? 横島さんのお母さま」

「あなたぐらいの美少女だと、この子に襲われても不思議じゃないのよ。しかし、そんな感じをうけないのだけど?」

そんなこと聞くな――っ!

「全く襲ってきませんよ。私とよく似ている姉にはしょっちゅう飛びつくのに……」

一発がまた入ってきた。
アパートでのつっこみよりきついぞ。

「いえ、姉はあれで、可愛いと言われながら飛びつかれるのは、それなりに嬉しがっているんですよ。毎回撃墜していますけど」

「はぁ?」

俺は初耳だ。おふくろがまともに反応できないのも無理はないだろう。

「いえ。女の魅力は魔力のひとつ。GSなら、うんとアピールしなさいっていうのが、家のGSとしての家訓なんですよ。それにたいして、横島さんって、私に魅力を感じないのか、姉へ飛びつくようには、私にはこないんですよ」

俺は復活して、

「いや、ひのめちゃんが魅力的じゃないってわけじゃなくて、なんというか、うん、年上が好きなだけなんだよ」

「えー、年齢だけの問題ですか? 姉と私って、もう身長も5cmぐらいしか変わらないですよ」

おふくろは「この業界って全くもって」とか呟いているしな。
俺としては、俺の知っていた10歳のひのめちゃんと、かさなっちゃっている部分をまだひきずっているんだよな。

「だけど、姉には私の魅力が不足しているから、襲われないのよって挑発してきて」

余計なことを言わなくてもいいよ。
なんかおふくろから、変な気配が漂ってきているし。
院雅さん、早くもどってきてください。

「院雅さんが、いつぐらいに出ていったか覚えている?」

「そういえば、そろそろ一時間ぐらいたちますね」

噂をすれば影というのか、院雅さんが除霊助手と思わしき少女をつれて、帰ってきたそうそうに、

「あら、横島君、来ていたのね。そちらのご夫人はお客様?」

「いえ、俺のおふくろで、横島百合子です。それで、こちらの女性が、ここの院雅除霊事務所所長の院雅さんです」

「はじめまして。院雅です。息子さんにはいつも助けていただきまして」

「院雅さんこそ、うちの息子にセクハラなどされてこまっていませんか?」

いきなりそういうつっこみかよ

「いえ、そのようなことは全くありませんよ。仕事はきちんとしてくれます。外でのことは知りませんが」

そこで落とさないで下さい。

「それから、私どもの事務所のメンバーを紹介いたしますね。息子さんにはGSとして、これから分室を立ち上げて、そこの室長になっていただこうと思っています。それと今、私といっしょに入ってきたのが加賀美ユリ子で、除霊助手です。息子さんとも、今日が初顔あわせになります」

と言われた少女は軽く会釈するが、顔だけなら毎日みているおキヌちゃんと、そっくりさんだ。
そうか加賀美ユリ子っていうのね。

臨海学校では霊波砲をあつかっていたはずだけど、院雅さんの除霊助手ってどちらかというと札系の方がいいはずなんだけどな。


*****
ようやく、院雅所霊事務所も活動準備開始といったところでしょうか。

2011.04.09:初出



[26632] リポート20 グレート・マザー編(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/29 19:19
おキヌちゃんそっくりのユリ子ちゃんを見たときは、美人ときいていたけど、どちらかというと美少女じゃないか。
院雅さんよー、と思ったけれど、おキヌちゃんは、

「本当に私とそっくりなんですね」

「ええ、本当にそっくり……!!」

「ひょっとしたらおキヌちゃんて私の先祖様かも……」

「……だとうれしいんだけど、私、結婚しなかったから……」

多少は死ぬ前のことを覚えているんだ。

「でも、私に似た人が、これから私のできなかったことをしてくれると思うと、私も明るい気持ちになります!」

話すとながくなりそうだけど院雅さんが、

「話の途中だったけど、美神ひのめさん」

「はい」

「面談での条件の件は、横島君が了承すれば、GS見習いとして来てもらおうと思っています」

俺が了承だって?

「えーと、なぜ、ひのめちゃんを雇うのに、俺の了承をまつ必要があるんですか?」

「分室の方で除霊助手でもよいかと思ったけれど、GS見習いである美神ひのめさんの方が丁度組み合わせとして良いかなと思ったのよね。それにね……すでに、GS見習いの師匠変更用の届出用紙まで用意してあって、唐巣神父の許諾もとれているみたいだし」

一旦話を整理してみよう。
俺が分室に行く。
院雅さんにはGS見習いか除霊助手が必要で、すでに加賀美ユリ子というおキヌちゃんのそっくりさんがいる。
俺のいる分室は、誰か除霊助手を雇う予定だったが、いきなりGS見習いを雇う。
最後って、かなり異例だよな。

「新人GSが、GS見習いを雇うのって、そのGS見習いにとって、かなり無理になりませんか?」

「まだ二人とも高校1年生だから、本格的な活動はできないでしょう。だから高校卒業までに、知名度があがっていれば問題ないわよ」

院雅さんは、俺が将来身につけるであろう霊能力と、これからおこるさまざまな事件で、高校卒業までに一流の仲間入りすると考えているんだな。

「ここで、もし、俺がことわったら、どうなるんでしょうね?」

「事情を知らないGS協会あたりからみたら、GS見習いの師匠替えを承諾した唐巣神父の顔をドロにぬることになるし、GS協会が知っているなら、六道家もこのことをすでにつかんでいてもおかしくないわね。あとはGSとして名家でもある美神家も、あまり良い顔をしないでしょうね」

ひのめちゃんの前で聞くことでなかったし、おふくろの前でも話すことでなかったな。

「じゃあ、横島さんって、新人GSなのにGS見習いの師匠になるんですね。すごいです」

おキヌちゃん。そこでそういう天然ぶりを発揮しないでくれ。
俺の逃げ道が無いじゃないか。

「わかりました。GS横島は、ひのめちゃんをGS見習いとして、その師匠になります。 けれど、給与面とか待遇については、院雅さんと相談するからまってね」

「ええ、そのあたりは、分室がきちんと機能しだすのは、夏休みあけぐらいになるだろうっていう話で、実際に分室が稼動してから、アルバイト料はきまることになるだろうって言われています」

院雅さん、俺が断れない状況においこんだな。
あとで追求しないとな。それはそうと、

「院雅さん。すみませんが、おふくろが新しい社宅をみてみたいというので、鍵をかりていってもいいですか?」

「ああ、いいわよ。ついでだから、その美神ひのめさんに新しい分室の中身を紹介してあげるといいわよ」

俺のおふくろの追い出しにかかっているな。
都合はこちらにとっても良いか。

「了解しました。まずは、分室の見学にひのめちゃんをつれて入って、社宅の方はおふくろにみておいてもらいます」

「社宅の方は、もういつでも使えるようにしてあるから、引越しはすぐにできるわよ。分室はそろえるものが必要だから、もう少し時間はかかると思うけれど」

「はい。わかりました」

おふくろがだまったままなのは不気味だ。
しかし、そのまま新しい分室予定部屋と、その同じアパートの社宅へ向かった。

まずは分室の方だが、まだ何も用意していないから広くみえるよな。
そうするとおふくろが

「ふーん。悪くないね。どうするかプランはきまっているのかい」

「まあ、おおざっぱには」

「聞いてみたいです」

「うん。このリビング兼キッチンを普段使う部屋にして、どちらかの部屋を応接室にして、もう片方の部屋は、除霊道具とか、文献の部屋にでも……」

「このリビング兼キッチンぐらいの部屋だとオフィスにしてもちょっと広くてもったいないですね」

「GS見習いのひのめちゃんがくるなら、除霊道具はオフィスにだしておいて、片方は仮眠室になるかな。その方がGSとして、見栄えがいいかもしれないし」

「忠夫にしては考えているのだね」

おふくろはどういうふうにみているんだよ。
全く、といいたいが、俺の中学時代って、やることも特になくて結局は今の誰でもはいれそうな高校へ入学だったからな。
しかし、ひのめちゃんもよく俺のところにくる気になったよな。
やっぱり、美神家とは縁があるんだろうか。
縁といえば、美智恵さん。オカルトGメンだよな。

「そういえば、オカルトGメンって、どこにできたの?」

「それがですね。お姉ちゃんの事務所の横のビルなんですよ。お母さんはまるでお姉ちゃんを挑発しているみたいですよ」

ふーん。偶然かな?
以前なら、オカルトGメンが美神除霊事務所の横にできたのも、美智恵さんの差し金だったらしいのは後でわかったけれど、
今回は、行方をくらましていないからな。

「この部屋もたいした見るところはないけれど、中に物が入ったら雰囲気もかわるだろうさ。そうしたら事務所としての体裁も整っているからその時には仲良くやっていこう」

「そうですね。よろしくお願いしますね。横島さん……横島師匠って読んだほうがいいのかしら?」

「いや、俺も師匠である院雅さんを師匠ってよんでいないし、別に今までどおりでいいよ」

「じゃあ、横島さん。今度こそよろしくお願いしますね」

「ああ。これから、社宅の方によっていくからひのめちゃんは、帰った方がいいよ」

「いえ、唐巣神父にさっそく知らせてきます」

唐巣神父もかわいそうだな。きっと、美神家の押しの強さにまけたんだな。
せっかく育てた弟子を、新人GSの弟子入りさせることを承諾するなんて。
今度挨拶にいかないとな。

ひのめちゃんとは別れたが、社宅の方にはおふくろをつれていく。

「オフィスとかわりばえしないんだね」

「まあ、もとはといえばルームシェア用の部屋とはいえアパートだしね。さっきみてもらったとおりに事務所の分室がこの部屋の真下だからから、そんなにかわりばえはしないよ」

おふくろが、部屋はみているが、あまり興味をもってはいなさそうだ。

「そろそろアパートにもどるかい?」

「そうね」

おふくろがたいした時間もかけずに、みただけだったのは意外だ。
俺はもう少しは痛い目をあわされるかなと思っていたが、それほどでないことに気をよくしていた。

院雅除霊事務所分室予定部屋から自室のあるアパートに帰ってきて、おふくろがおキヌちゃんと一緒に台所に立っている。

「これだとマニュアル通りにしか、料理がつくれないね」

「味見できないのが幽霊の不自由なところなんです」

おふくろとしては自分の味付けを伝承したかったらしいが、味見のできない幽霊状態のおキヌちゃんじゃ無理だよな。
マニュアルどおりでもおキヌちゃんの作った料理も美味しいし、俺にとっては満足なんだけどな。
そして夕食時におふくろが、

「忠夫。おまえはあの院雅さんのことをどう思っているんだい?」

「GSしているわりには、比較的安全な除霊をこころみてるし、安定しているって感じかな」

「いやねぇ、GSとしてじゃなくて、女性として」

「うん? そんな、親に向かって堂々といえるわけないじゃないか」

と言った瞬間、頬に包丁が……ひぇー、おふくろの昔のこのくせを忘れていた。

「美人だし、色気もあるし、ぶっちゃけもっと仲良くさせていただきたいであります。お母さま」

「最初から、そういえばいいのよ! それなのに、おまえが襲っていないのかい?」

「息子をけだものだとでも思っているのか――っ!」

「今日会った美神ひのめさんのお姉さんには、とびかかっているのだろ?」

「あっちは、そういう隙があって……けれど、院雅さんって隙があるようでいて、するりとかわされるんだよ――っ!」

ようやっと、包丁を頬から離してくれた。

「おまえのやることを、お見通しってところなのかねぇ」

「さぁ?」

「まあ、それはいいが、あの院雅除霊事務所に居続けるつもりかい?」

「とりあえずは、高校卒業まではやっかいになるつもりだけど。おふくろの気にする何かがあるんか?」

「……」

だまっているところをみるとあるんだな。
さて、院雅さんのどこが気に入らないんだろうか。
あの人もプライベートなことは、ぽつりぽつりと話の流れで言うことがあっても、そんなに話さないからな。
おキヌちゃんはというと、こちらを見ないようにしているし。
俺は雰囲気を変えるために、

「テレビでもつけるか」

そう言いながらテレビをつけると、ついたテレビ番組では親子喧嘩のシーンだ。
よりによって……あわてて別なチャンネルにする。


ちょっと、テレビからの音以外は静かだ。

「院雅除霊事務所を辞めて他に行く気はないかい?」

「えっ? なぜ?」

「いや、悪いとは思ったけれど、院雅除霊事務所のことは先にしらべさせてもらってね。そうすると彼女の過去の経歴があやしくてね」

「ああ、そんなこと」

「そんなことって、重要なことなのよ」

「いや、GSの実力のある人って、どこかおかしいとか、怪しい人ばかりだよ。たとえば名門の六道家なんておかしさからいえばトップクラスだし」

「六道家が?」

「表面だけじゃわからないけれど、つきあえば、つきあうほど疲れる家族だって令子さんが言ってるし」

「令子さん?」

「ひのめちゃんのお姉さん。だから、そんなこと言われても今さらって感じだし」

「いや、つきあえば疲れるのと、怪しいというのは別でしょう」

「そうなると、小笠原エミさんかな。令子さんのライバルだけど、GSになる前の経歴はさっぱりわからないらしいよ。しかも呪術師もおこなっているし」

「それだけ?」

「うーん。そうすると唐巣神父かな?」

「神父がGSをしているの?」

「別に神父がGSをしちゃいけない、てことはなかったはずなんだけど、なぜかキリスト教のどの教派にも所属していないんだよね。あの人ほど、神父らしい神父っていないと思うだけどね」

「はぁ。GS業界ってやっぱり変わっているのね」

俺はそれには返答せずに、GSをやめろって言われるかとも思ったが、

「高校卒業だけは、きちんとしなさい。もう正規のGSとなったのなら、簡単にGS自体をやめろとも言えないし」

「GSの仕事をするのも基本的には金曜の夕方から日曜の晩までだから、無理はないと思うよ」

でも、やっぱり何日か休むような事件があるんだよな。
単位は前も大丈夫だったんだから、今回も大丈夫だよな。

「おまえ悪いことを考えていないだろうね?」

もしかして考えを口にだしていた?

「いや、何も。ちょっと考え事はしたけれど」

「……それならいいのだけどね」

「ああ」

「じゃ、明日にはナルニアに戻るからね」

以外に早いな。

「そうだね。引越しの準備も必要だから、いなくていいよ」

「別にはずかしいものなんて無いよ。きちんと押入れの中は整理しといたから」

「見たんかい!!」

「何日、この部屋に1人でいたと思っているのよ。1週間よ。おまえぐらいの男の子が1人暮らしなんだから、それぐらいは大目にみてあげるよ」

うー。精神は27歳のつもりなんだけどな。
やっぱり身体にひっぱられているのか、母親にそういうのを知られるのは恥ずかしい。

そして翌日、おふくろは朝7時発の航空機にのって、ナルニアへ戻るために部屋をでていった。

しかし何が目的だったんだ?


*****
ひのめをヒロインとして絡めるのに、横島の弟子にしてみました。

2011.04.10:初出



[26632] リポート21 引越しと余計な荷物
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/30 20:37
おふくろがナルニアへ戻るため、早朝にでていった。
そのあとは、普段のトレーニングをおこなってから院雅除霊事務所に向かう。

「院雅さん、ちょっと話があるんですが」

「美神ひのめのことでしょう?」

俺は頷くと、応接室の方で二人きりで話すことになった。

「それで、来るべきにそなえて、自分自身を鍛えておきたかったんですが、このあとひのめちゃんの面倒を見るとなると、自分の修行にはちょっと……」

「そうね。普通に考えるとGSの修行にGS見習いがつくと、自分の力をつけることはできないわね。けれど、横島さんの忘れていることがあるわよ」

「えっ? 俺が忘れていること?」

「そうよ。六道家ね。以前は美神除霊事務所を一旦独立したあとに、六道冥子の面倒をみるはめになったのでしょう?」

そういえばハイラの魔装術もどきともいえる霊張術って、その時にしてもらえたんだよな。

「そうですね。それと、ひのめちゃんを俺の弟子にするのとどう関係するんですか?」

「あくまで想像だけど、昔の横島さんの立場って美神という名の元に護られていた面があると思うのよね。こっちでは、美神美智恵も生きていることだし、美神ひのめを弟子にしているっていうだけで、同じような効果があると思うわよ」

「けれどひのめちゃんは、六道女学院霊能科の生徒ですよね? 立場に差がありませんか?」

「いないよりも良いと思うわよ。私のところにも横島さんを借りたいというのが、六道家から来ているけれど、各種理由をつけて行く回数を減らしてはいるけれど限界もあるわね」

「色々とすみません」

「まあ、例の事件がおこると思えば、横島さんに最低限、例の能力は必要だと思うのだけど……」

「残念ながら、今回の修行では早すぎたのか無理でしたね。俺も死にたくは、ないですし」

「最難関コースね。時期は、ずれるとしても、それまでには必要な能力よね?」

「ええ、あの能力がなければ、情報があっても、さすがに人間だけでは無理がありますね」

俺の記憶の一部に、未だアシュタロスの記憶の一部が残っていて、外からはわからないように老師からプロテクトはされている。
けれど、それは、魔族には使える記憶であっても、神族や人間では無理なんだよな。ベースが魔力を必要としているからな。
さすがに、この情報は院雅さんにも渡していないけれど。
事件そのものをおこさせないなら、今のうちに妙神山へでも連絡すれば事件そのものはおこらないだろうが、別な形での何らかの霊障が発生することはたしかだろう。
それならば、俺はルシオラを救える可能性のある方を選ぶ。

「その例の事件がおこる時期は?」

「多分、俺が過去へ飛んだ後でしょうね。一番可能性が高いのは、平安時代。次はカオスが若い頃の中世ヨーロッパへ行ったあとですね」

「その結論は変わらないのね」

「ええ。ただ、美智恵さんが今いるってことは、令子の命に危険性が無いせいかもしれないのがちょっと」

「そこは、今考えてもわからないわね」

「そうですね」

「じゃあ、元々の予定であった唐巣神父のところへ、行ってらっしゃい。妙神山への紹介状を書いてもらってから、無事に修行から帰ってきたことと、美神ひのめを弟子入りさせるのに挨拶ぐらいはしておくのね」

「そのことですけど、ひのめちゃんを俺の弟子入りさせるのって、院雅さんのアイデアじゃないでしょうね」

「あら、違うわよ。面接にきたのは美神ひのめからよ。多少は、知恵をつけてあげたけど」

俺は頭が痛くなってきた。
昨日の話の流れが、俺を追い込むようになっていたもんな。
しかし、六道家から借りたいと言っているということは、冥子ちゃんがらみだろうから、仕方が無い面もあるか。

「ええ。わかりました。ありがたく好意としてうけとっておきます」

「六道家の面もあるけれど、美神ひのめと公私ともある程度関係をつくっておけば、美神令子とも近くにいる機会は増えるでしょう?」

「そこまで計算してたんですか?」

「美神ひのめが来た時の思いつきよ」

「わかりました。どちらにしろ、今日は唐巣神父のところに行って、挨拶してきます」

「ついでだから、GS協会によって美神ひのめの師匠変更届けを提出してくるのね。変に六道家から茶々がはいらないうちに」

「そうですね」


そして、唐巣神父の教会で神父には、妙神山で修行するための紹介状を書いてもらって、無事に帰ってきたことと、紹介状を書いてもらったことに再びお礼をする。
さらにひのめちゃんの、GS見習い師匠替えについての挨拶をすると、

「正直なところひのめくんが、横島クンに師匠となってもらいたいと、最初に聞いたときには耳をうたがったんだがね。六道夫人が君のことをえらく高く買っているらしいことと、冥子くんと組まされるのではと聞いたら、私では六道家には対抗できなくてね」

「いえ、わざわざ、そのようなことまでお話いただかなくても」

「これは、私のザンゲだとでも思ってきいてくれないか。今後の君とひのめくんの将来に幸のあらんことを」

「えーと、結婚式でないんですけど」

「……私もどうかしているようだ」

またこれぐらいのことでこの人悩んでいたんじゃないだろうな。
あとありそうなのは、

「令子さんがいなくなったとたんに栄養失調とかじゃないですよね?」

「……」

うーん、あやしい。
令子へ独立の支援もしてたようだからな。

「GS見習いのバイト代をはらったら、自分の手元に残らない程度にしか、相手からもらっていないことなんて無いですよね?」

「きちんとバイト代を払えるだけは、もらえるところからもらっているよ」

「ええ。なんとなくわかりました」

はあ、ここでも頭がいたい。
ピートの金銭感覚もまともじゃないし、ここで残りは芦八洋か。

「八洋さん。ちょっと話したいことがあるんだけど」

「なんだい?」

「少し裏手で話せるかな?」

ちょっと疑問に思っているようだけど、場所的に問題のあるところでも無いのでついてきてくれた。

「さっき唐巣神父と話していたら、GS見習いのバイト代程度の金額はもらっているみたいだけど、唐巣神父自身が食べていくだけの金銭をもらっていないかもしれない。ちょっと、金銭交渉の場にもつれていってもらった方がいいよ」

「なんで私がそんなことを?」

「神父が栄養失調で倒れたら、GS見習いのバイトもできないじゃないか」

「……そうね。独立を考えるなら、確かにそういう場面をみておくのもいいかもね」

八洋は、ここにきてからの感じだとある意味おおざっぱだが、本質を理解すればその分、行動もしっかりする感じだ。

「じゃあ、そういうことで。後ろからつけてきているひのめちゃんは、このあとGS協会ね」

「あら、ばれちゃいました?」

「隠行の修行をしていない、霊能力者が相手ならわかるさ。普通のGSは、隠行の修行をおこなう必要も無いけどね」

しかし、霊能力のある人間の霊格ってさっぱりわからん。
霊能力の無い一般人の方が逆に霊格がわかるんだよな。
霊力のせいで、霊格がみえづらいんだろうな。

俺はひのめちゃん、おキヌちゃんと一緒にGS協会に向かった。
師匠変更の手続きからいうと唐巣神父も一緒の方がいいのだけど、神父に仕事がはいっているのと、GSとして格下の俺がくるので充分だからな。
書類は整っているので、入ってから出てくるまで30分ばかりだ。

その場でひのめちゃんとはわかれて、アパートに戻り引越しの準備をする。
おふくろが整理してあったので、引越しの準備も簡単だった。これなら、明日の朝からでもよかったなという感じだ。
翌日は実際の引越しだが、もともと4畳半の部屋にあったものを5倍以上の大きな部屋にきたから、広いこと、広いこと。

1階の事務所は院雅さんと相談しないといけないがプランは、ほぼ完成している。
そのプランを院雅さんに相談しながら、予算との兼ね合いで削れるものは削っていった。
書物は欲しかったが、専門書は高いから無理だったよな。

新しい事務所分室の準備をすすめながら、院雅さんの除霊助手であるユリ子ちゃんとも仲良くなった。
ユリ子ちゃんは、俺よりもおキヌちゃんに興味があるようだけど。
分室ができたら俺とおキヌちゃんがユリ子ちゃんに会うのは、週に1度ある金曜日のミーティングぐらいだろうな。
院雅さんの除霊の手伝いに入ったりしながらも、新しい分室の準備も自室の引越しから1週間後に完了した。
普通のアパートやマンションでおこなっているオフィスっぽいけれど、分室だから固定客になったもの以外はこないだろう。

知り合いとなったGSや、その他、院雅さんからの紹介による単独で仕事をおこなったところには、分室開業の挨拶状をだしたが効果はほとんどないだろうな。
当面は今まで通りに、GS見習い時代のGSとなるための仕事を、院雅さんからまわしてもらうといった感じだろう。

分室の準備もおわり、ひのめちゃんも呼んだし開業だと思ったら、院雅さんから緊急の呼び出しがかかる。
院雅除霊事務所へひのめちゃんやおキヌちゃんをつれて行くと、怪しさ満点の霊波をはなっている長い包みがあった。
宛名は俺になっていて開封すると、一見大時計の針のようにも見えるが、元始風水盤の針だろう。

つい10日前までは、小竜姫さまと一緒に修行していたのに、どうしてこの時期に、しかもここに送られてくるんだ?
元始風水盤の針そのものがこまるわけじゃなくて、この事務所を襲われるのが問題なんだよな。
ここが襲われるとしたら、天龍童子の時だと思っていたからな。

「横島君。さて、こまった品物ね」

「うん、そうですね。これって特殊な霊波を出しているから、浄化も特殊な方法が必要ですし、俺らの手じゃあまりますね。オカルトGメンにでも預けるかなー」

「GS協会じゃないんですか?」

「GS協会って、GSをとりまとめている団体なだけで、別にこういう物を直接的に預からないんだよ。行ったら別なGSを紹介されて、しかもお金はこちらもち。事務所経由とはいえ俺個人にきたものだから、とてもだけど出せる金額じゃないよ」

「じゃぁ、こわしちゃえば?」

ひのめちゃん、過激な発言だな。

「特殊っぽいから無理だと思うけど、やってみるか」

俺は妙神山で得た栄光の手と、護手付き霊波刀で壊すことを試してみたが、やはり複数人数の風水師の血をすっているだろう針を、壊すことは出来なかった。
ひのめちゃんの火竜を使う手もあるけれど、多少霊力が高くても無理だろうし、ここは街中だから火は困る。

「んじゃ、預けにいってきますよ。それから、預かり物はICPO超常犯罪科へとか、張り紙をしとくといいかもしれませんね」

「えっ? なんで張り紙なんですか?」

ここが襲われるのを回避するためというのが本音なんだが、

「いや、俺個人に届いているので、除霊事務所から人がいないときに、この針を送った人間が針の行方を知りたがるかもしれないだろう?」

「そうですね」

「そんなわけで、オカルトGメンに行ってきます」

「これも仕事のうちと割り切りなさいよ。横島君」

まあね。オカルトGメンを利用するようで悪いけれど、院雅除霊事務所じゃ令子とかを、香港まで連れて行くことができないからな。
張り紙をしておいても無駄かもしれないので、貴重品はすでに分室の方にある。
天龍童子の様子だと、また神界からデジャブーランドのために、来るかもしれないということを院雅さんへは伝えてあるからな。

「へーい。それとひのめちゃん、オカルトGメンの場所は知っているんでしょ? つれていってくれない?」

「初めて行くのでしたか?」

「まあね」

嘘ではあるが、令子があそこに引っ越してからは、まだ近づいていない。
一応しらないふりをして、ひのめちゃんにつれて行ってもらう。

「オカルトGメンっていえば、ひのめちゃんのお母さんがいるんだよね?」

美智恵さんは、お義母さんって呼ばれるのをあまりよろこんでいなかったもんな。
お義姉さんと言われるならよろこんでいたけど、こっちはつかわなかったしな。

「ええ。それにお母さんの弟子だった西条さんに、あと一般の事務職の人が一人いるだけですよ」

美智恵さんがここにいたころの最後の時よりは、さすがに人は少ないか。
ひのめちゃんに間に入ってもらった方が、話しは通しやすいだろうから、そのことをあらかじめひのめちゃんにも話しておく。

ビルの目の前にきたところで、ここにオカルトGメンがあったのも1年ぐらいだったかなと思い出すな。
俺の高校3年生になったころに引越したけどな。

さて、中には相性が悪かった西条でもいるのかな。


*****
次回から元始風水盤編です。

2011.04.11:初出



[26632] リポート22 元始風水盤編(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/03/31 11:20
オカルトGメンのオフィスに入るのは、打ち合わせどおり先にひのめちゃんが入る。

「ひのめさん、いらっしゃい。今日は2人ともいませんよ?」

事務の人なんだろう。2人ともいないというのは、まだ美智恵さんと西条と共同で動いている感じなのかな。

「いえ、後ろにいる男性……私の師匠にあたるんですがGSの横島さんです。横島さんがこちらに用事があって、ちょうど私がオカルトGメンのことを知っているので、先に入らせてもらったんです」

「紹介をうけましたGSの横島です。差出人が書かれていなくて、見知らぬ怪しいものを送りつけられたのですよ。事務所の個人あてになっていたので、俺がいない間に受け取ってしまったのですが、怪しい霊波をだしているので、受け取り拒否をしなおすと、一般の宅配業者に迷惑がかかるかもしれません。個人で対処するのも無理なので、日本にできたICPO超常犯罪科なら、こういうのを預かってくれるかなと思いまして」

このあたりは、ちょっと特殊だが、普通の警察と同じのりだ。

「ええ、事情はわかりました。書類に書いていただく必要があるので、ちょっと待っていてください」

多分、ICPOに入って2年目ぐらいかな。
好みのタイプなのに、惜しいのは警察と同じ制服姿なところだ。
警察に追われた頃の、嫌な記憶を思い浮かべる。

針と送られてきた包み一式をオカルトGメンに預けて、ついでだから隣の美神除霊事務所の前に立つ。
俺の感覚では4ヶ月半前には、ここに住んでいたんだよな、と改めて思い出すが、令子のところに行こうとすると、ひのめちゃんが先に入っていて顔を出す。

「今、分室の開業準備中なんでしょう? こんな同業者をまわっているって、よっぽど暇なのね」

令子の開口一番がこれか。とびつく前に言われてしまったぞ。

「いや、オカルトGメンへ預け物ですよ。とても個人で、対処できそうになかったものでね」

「GSがオカルトGメンに頼るってどういうことよ。これじゃ、ひのめも師匠に恵まれないわね」

「お姉ちゃん! 言いすぎです! あれって横島さんの新しい霊波刀でも傷ひとつつけられなかったんですよ。多分、私の火竜でも傷をつけたり、溶けたりしないレベルのものですよ」

「ふーん。それでオカルトGメンにね。霊力レベルBまでしか受けられない事務所だと無理よね」

「お姉ちゃん。そこまで言うなら、私の火竜受けてみますか?」

ひのめちゃんがおこっているっぽい。

「単独では霊力レベルBまでしかうけられないのは事実だけど、令子さんがどうにかできるというのなら、隣のオカルトGメンからひきとって。なんとかしてもらってもいいんですよ?」

「そんな、ひのめの火竜で溶けないものなんて物を、無償で浄化するなんてやってられないわ」

「そういうレベルの品物なので、オカルトGメンに預けてきたんですよ」

令子も興味をなくしたっぽいのと、ひのめちゃんもあげかけた拳をあげきる前に割り込まれたから、なんとかなりそうだ。
ひのめちゃんの本気は、素質が素質なだけあって、怖そうだな。

「こちらによったのは隣のオカルトGメンによったのもあるので、開業準備はととのったのと、ひのめちゃんの正式な師匠にもなりましたので、令子さんにも挨拶にきました」

「ついでっぽいけれど、そこは目をつぶるとして、殊勝なこころがけね」

「ええ、令子さんのところとは、請け負う怨霊の霊力レベルも違いますからね。機会があったら、令子さんとひのめちゃんのお母さまにも、挨拶だけはさせてもらおうかと」

「本当ならママから挨拶に行くのが普通なんでしょうけど、横島クンは新人GSだもんね」

「ええ」

いきなり修羅場になるよりかはよっぽどいい展開だ。
ひのめちゃんはちょっと不満そうだけど。

「そういえば、今日は一人ですか?」

「ちょっとね。火多流ちゃんは家族で旅行だっていうから、夏休みをあげたわ」

俺のときとずいぶんと扱いが違うじゃないかよ! と思うが、お盆の真っ最中だから霊障の類が少なくなるんだよな。

「夏場はかなり稼いだからね」

やっぱり令子だ。



そして翌日、ひのめちゃんから電話が入った。
そう、オカルトGメンから例の針が盗まれたと。
一応、ひのめちゃんは令子と美智恵さんの3人で、マンションに住んでいるとのことだが、あまりマンションにもどってこない美智恵さんが、昨晩は帰ってきたらしい。
そして、今朝オカルトGメンのオフィスから電話が入ってきたのが聞こえて、内容がそれっぽいらしいって。
しかしこれだと、オカルトGメンの機密保持もなにも無いよな。


俺も院雅さんに連絡だけいれておき、新しいアパートからオカルトGメンに向かった。
オカルトGメンのドアが壊れているので入ると、

「オカルトGメンが夜間に物を盗まれるなんて、ママも引退時なんじゃない?」

「令子!! 今はそんなこと言っている場合じゃありません。早く物をとりかえさないと」

「横島さんも、来たんですか?」

うん? そのつもりでひのめちゃんは呼んだんじゃないのか?
けど、ひのめちゃんに見つかったな。
こっそり覗くか、これだけの音量なら外からでも気づいただろうに。俺のバカ野郎。

「オカルトGメンから、針が盗まれたって聞いたから、どうせ俺にも事情を聞かれるだろうから先に来たんだ」

もう少し裏事情を聞いてから、入ればよかったな。

「横島というと、ひのめからね」

「折角活動を開始した直後に、GSから持ち込まれた物が盗まれた。それでICPO超常犯罪科日本支部の信用を落とす、なんて安い茶番劇を描いたのは君かね?」

ロン毛の男性、西条からいきなり言われる。

「そんなことをしていませんよ。それに、どこにそんな証拠があるんですか?」

「西条クン、犯罪者が現場に戻ってくるのはセオリーだけど、警備のビデオテープを見る限りその子の霊波と違うのくらいわかりなさい!」

「先生! 僕としたことがつい彼をみてたら、なんとなく」

西条とは前世の因縁があったから、それをなんとなく感じとったのか?
以前は令子と結婚したら、フランスに行ってしまったから直接顔も会わすことがなくなれば、特に口論することもなくなったがなんとなく懐かしいな。

「いえ、たしかに出来すぎですよね。しかも俺には、昨晩のアリバイもありませんから、そのテープとやらがあって助かりましたよ」

「えー。横島さんには、おキヌちゃんという証人がいるじゃないの?」

「ひのめちゃん。まだ、日本には幽霊を証人にできる法律はなかったはずだよ」

「その通りよ。よく知っているわね。とてもひのめと同じ高校1年生とは思えないわ」

ちょっと、まずったかな。

「いえ。それよりもドアの修理はいいんですか?」

内部は物色された後は見当たらないんだけど、保管されていたのは、あっちの壊されたドアの方だったのかな?

「それは気にしないでね。参考のために鉄針をもってきたところを、詳しく聞いておきたいから、協力をお願いできるかしら」

「ええ。疑いがそれで晴れるなら、喜んで協力しますよ」

「あら、疑っていないわよ」

「失礼しました」

ふむ、ひっかけではなさそうだ。

そして西条に一応、参考意見として報告書作成の協力をもとめられるが、まあずいぶんと色々と聞かれるな。
以前も西条に調べられたことはあったが、隣の事務所だったから、ある程度下調べもあってわかりきっているところは、聞いていなかったのだろう。

2時間ちょっとばかり聞かれることに答えて、聞かれていた部屋から出たら、オフィスの入り口はすでに直されて、もうひとつのドアも直っていた。
それよりも驚くべきは、伊達雪之丞がいることだった。

GS試験の時の火角結界だが、あれの中身はコショウだったからな。
一応それでも犯罪行為になるが、しょぼすぎる。
まんまとメドーサにだまされたわけだが、メドーサがなぜそんなことをしたのかは不明だ。
白龍会も全員昏睡してたが、記憶をうばわれていたし勘九郎からも証拠らしい言動もなかったらしい。
唯一あるのは雪之丞の証言だけだが、逆にいうとそれだけしか証拠が無い。
結局は神族である小竜姫さまと、魔族であるメドーサの竜族間の争いに巻き込まれたということで、GS協会の大人の事情というので事件はうやむやになった。
だから伊達雪之丞と鎌田勘九郎もGS犯罪者ではなく、GS協会では試合棄権および試合途中放棄によるものとしての、GS資格失格扱いになっている。

「しかしなんで、雪之丞がここにいる?」

「おまえに預けた物がICPOにあると聞いて、内容を説明して妙神山へ持っていこうとしていたのさ」

「ところで、妙神山へ持っていくって、どんな危険物なの?」

美智恵さんが尋ねると、

「元始風水盤って聞いたことはあるか?」

「元始風水盤って……地脈を操ることができるあの元始風水盤?」

「それだ。それで、ここにあったのはそれの中心となる『針』だ。また、香港に逆もどりだな」

「香港?」

「ああ。香港から折角、送ったんだけどな」

送ってきたのは雪之丞だったにしても、

「なんで、俺のところに送ってきた?」

「おまえなら、今度の相手に遅れをとらないと踏んだのに、まさかICPOへ預けるとはな」

「それで相手は?」

「表で動いているのは茂流田(もるだ)って奴だ」

茂流田(もるだ)っていう名前に、何かひっかかりを覚えるが、なんだったかな。
勘九郎が動いていないとなると、この事件で動いている魔族はメドーサじゃないのか?
元始風水盤で動いているのが、メドーサでないならどの魔族だろうか。

「その茂流田(もるだ)っていうのが表だということは、裏で動いているのはつかめているのかしら」

「ああ、魔族のハーピーともう1柱いるらしいところまでは、つかんでいた」

ハーピーか。こいつだけなら神族がからまなくてもなんとかなりそうな気はする。
しかし、茂流田(もるだ)っていう名前に何かひっかかりを覚える。
なんだったかな。そういえば、

「元始風水盤の針を妙神山に持っていくということは、小竜姫さまがらみか?」

「やはり俺が目標と見込んだ男だ。その通りだ」

目標にしなくていいというか雪之丞の目標にされたら、しょっちゅう戦闘行為に巻き込まれるじゃないか。

「そして、もう1柱の魔族は確証をもてないが、ネズミを使い魔としているから……」

「パイパーね。パイパーなら国連で賞金をかけていたわね」

「パイパーの弱点は金の針でしたよね? 取り寄せるのにどれくらいかかりますか?」

「ICPOなら3日もあれば、なんとかなるわ」

「残念だな。元始風水盤が稼動するのは次の満月だから、丁度3日後だ。間に合わない」

「それなら、直接香港に遅れば問題ないでしょう?」

方向性はいいのだが、いまだに雪之丞がここにいるわけがわからん。

「雪之丞はなぜここにいるんだ?」

「魔族であるメドーサも甘くは無いだろうし、小竜姫にGSのブラックリストから削除できるだろうと言われたんだが……」

「すでにGSのブラックリストからは、消えていたって奴か。もしかして小竜姫さまに誰も知らせていなかったのか? GS協会は」

「そういうことらしい。契約は契約だし不可抗力だからな。香港でもぐりのGSをおこなっていたんだが、もぐりのGSだからこそ、契約が重要でな」

GS協会があまり動かないのは今に始まったことじゃないらしいが、関係していた小竜姫さまにも連絡をしていないとはな。
それにしても千里眼が得意な神族はあまりに少ないからといっても、ヒャクメも中途半端な仕事をしたんだろうな。

「裏にいる魔族どもはともかく、その茂流田(もるだ)っていうのは、何者なのかしら?」

「よくわからんが30前後の男だ。フイをついて針をうばったのはいいが、奴に同行していたのはゾンビで、しかもすばやいときている。そこに使い魔が、ねずみっということで、にげまわるしかなくてな」

「西条クン、香港にとんで」

「えっ? そういえばICPO超常犯罪科香港支部は、まだできていませんでしたね?」

「そう。それに、これはあまり表だって香港警察にも事情をさすがに詳しく話すわけにはいかないしね」

「先生はどうなされるのですか?」

「今回のことで色々と、動かないといけないわ」

だろうな。
まさか、オカルトGメンから貴重品が盗まれましたっていうのが広まったら、スキャンダルだもんな。

「幸いにも記者には一人しか、もれていなかったし」

そうにっこりと微笑む美智恵さんを見て、なぜか背中がぞくぞくする。
俺の知っている隊長時代より性質が悪いんじゃないのか?


準備をしてから『針』の回収のために香港へむかう。
一応内緒扱いなので院雅さんには伝えないことになっているが、この事件がおきるのは予測済みだから

「ちょっと、香港に行ってきます」

それだけで通じたようだ。

それにしてもさすがは、道楽公務員の西条だ。チャータ機で香港までむかう気だ。
以前はたしか、普通の航空便で向かったからな。
それだとハーピーに気がつかれた場合に、他の客にも迷惑がかかる。
西条なりの英国貴族のたしなみなのだろう。エセ貴族だけど。
そうして香港国際空港につくとおキヌちゃんが、

「ほんこんって『空港』ってとこにそっくしですね」

ちょっと、ばかり懐かしい気はするが、

「おキヌちゃん、ちょっと勉強しようね」

「はい? ほんこんって『空港』とそっくしじゃないんですか?」

「いや、空港って、空の港っていう意味だから」

「港ってなんですか」

300年前の山育ちだから、そこから勉強してもらわないといけないか。

「今度、愛子と一緒に勉強しようね」

「はーい!」

こういうところは素直でかわいらしいんだけど、今で言う中学生だからな。
そこで西条が、

「まずは活動拠点となる場所だが、このホテルあたりは、泊まったかね?」

西条が雪之丞に聞いていると、

「そんな宿泊料が高いホテルなんてとまったことは無い!」

「それでは、ここできまりだな。ここならねずみの出入りも無いだろう」

実際、そのホテルにつくと、とっても立派そうな建物だ。
購入した香港ガイド本にも、最上級ホテルって書いてあるものな。
ホテルの部屋に入ったところで、作戦の確認がされる。

「今日はあくまでも、敵地の周辺の視察にとどめる。何か意見は?」

西条の確認に対して雪之丞が、

「それよりも、今日中へ入って針をとってきた方がいいんじゃないのか?」

「それだと、今日入れたとしても、パイパーに対抗しきれるかどうかが不明だ。それよりも金の針が届く明日の方がまだましだろう」

「それじゃ、時間がぎりぎりになるが?」

西条の正攻法に対して、雪之丞は腕がむずむずするのか早くはいりたがっている。
俺はというと魔族であるパイパーやハーピーよりも、情報の無い茂流田(もるだ)が気にかかる。

*****
ここでのICPO超常犯罪科では、警察への協力とは別に独自の捜査権があると設定しています。
茂流田(もるだ)といえば、原作では南部グループででてきましたが、顔等のイメージはそれをしてください。

2011.04.12:初出



[26632] リポート23 元始風水盤編(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/01 10:59
きっと雪之丞が角の形態になった小竜姫さまをもっているだろうし、ぎりぎりまで表にはださないつもりなんだろう。
地下から入るのはピートがいないから無理だろうし、ケルベロスの像を相手にするのも面倒だしな。

「結局のところ出入りの目撃ができているのは、林のなかの一軒家なんだな?」

「ああ、その通りだ」

「その屋敷から入る以外の道が無いか、確認するのが先だろう?」

「おおざっぱにいうなら、地盤の中にいくつかキレツが走ってるさ!」

「そこをどうやって入るかは、先に調査だろう?」

「ねずみの使い魔のことを忘れていない?」

西条と雪之丞の話は、水掛け論に陥りかけているな。
令子は西条の意見に同調している。
俺はというと、前回と違うが、地下にも罠があったのだから、地上から入るのにも罠があるだろうと思っている。
しかし、前回よりメンバーが多いので、少しは安心している。

「結局2回目の突入って、ありえるんですか?」

そしらぬ顔をしてたずねると西条が、

「1回限りだろうね。2回目の突入は1回目より厳重に警備されていると考えて良いだろう。だからこそ、金の針の到着を待つべきだと僕は思う」

「わたしも西条さんと同意見だわ」

「俺もそうだな。明日で満月になる前の時間に、金の針が届いたら突入するのが最善だと思う。ただし、金の針がこちらにわたったと、パイパーに知られないうちにだけどね」

「パイパーが、もうその情報をにぎっていると?」

「このホテルのねずみ対策は万全かもしれないけれど、道路までは完璧じゃないと思う。それで、金の針はどこあてにしているかというところだけど」

「こちらには超常犯罪科こそ無いが、ICPOの支部はある。そこに届けてもらうつもりだよ」

このホテルと、そっちのICPOの両方を見張られている可能性もあるな。
こればかりは、でたとこ勝負だよな。
多分だが、パイパーは金の針が必要なのは人界だからであって、魔界ならその能力を発揮できるだろう。
もしかしたら、金の針を待つ必要はなかったかもしれないが、チャンスは一度きり。
どちらにしても賭けか。

ただし、この件にメドーサがかかわっていないらしいのが、以前と違うので気にかかる。
GS試験の試合途中はあまり気にかからなかったが、事の顛末を聞き及ぶと、俺の記憶とかなり食い違っている。
この事件もそうなんだろうか。
院雅さんに言わせると、過去の記憶に頼りすぎるなって言われるんだろうな。

結局、翌日は令子と西条のチームと、雪之丞とひのめちゃんと俺の2チームにわかれて、調査することになった。
屋敷のまわりは令子と西条で、地下からの通路発見は俺たちが組んでいる。
雪之丞が俺の言うことを比較的素直に聞くことをみたようで、西条がこの編成をくんだ。
おキヌちゃんは幽霊だし、俺が保護しているので俺の方のメンバーだ。
まあ、顔を知られている雪之丞が、屋敷のまわりには行くわけにもいかないが、この地下めぐりにはたまにねずみをみかける。
使い魔かどうかの見分け方を、魔鈴さんに教えてもらえばよかったな。

この日は地下をめぐったが、霊気がもれているキレツはいくつもみつかったが、壁が薄そうなところはみつからなかった。
さすがにこの事件の時、どこから入ったなんかっていうのはもう覚えていないからな。

昼食は少し遅かったので飲茶とかをたのしみながら、おキヌちゃんが幽霊だとしても巫女姿であることから珍しげに見られる。
半分は、陽動の意味もあるらしいからいいんだけどね。
ねずみの監視をさけるようにタクシーをのりついで、ホテルへと戻ったが、令子たちも、特に屋敷の外部からの侵入ルートは発見できないかった。

一応ねずみには気をつけているが、このホテルを監視されているとしても、ICPOの香港支部まで手が伸びているかが、勝負の分かれ目だな。

まあ、それさえも雪之丞が奥の手をつかってくれれば、メドーサと違うから楽勝だろうけど。
そう思っていると令子が、

「そういえば、雪之丞の今回のクライアントって小竜姫さまよね。いったい、どれくらいせしめられるかしら」

「日本に帰ってから、交渉するんだな」

「へっ? 日本?」

「横島クンは知らなかったんだ。小竜姫さまは、妙神山にくくられた神様なので、日本からでられないんだよ」

おいまてや。どうやって、雪之丞は小竜姫さまとコンタクトをとったんだ。
手紙があるか。けれど、大幅に計算がずれたぞ。

なんで、小竜姫さまがこの事件にかかわらないんだ――っ!

小竜姫さまがいないとなると、芦火多流がいない分の戦力ダウンはいたいな。
それにしてもよく考えると、小竜姫さまからの手紙だというのはおかしい。
俺は雪之丞に、

「クライアントが小竜姫さまだとわかっているのに、どうやって小竜姫さまとコンタクトをとったんだ?」

「それは僕も気にかかるね」

「代理人がきたのさ。神族のヒャクメというのが小竜姫の手紙をもってやってきた」

ヒャクメか。あいつGSのブラックリストの件を知っていて、雪之丞に頼んだんじゃないだろうな。
けれどもヒャクメも完全じゃないというか、ぼけた仕事をしてくれることもあるからなんともいえないしな。
それに、これだけ地脈が集中しているところだと、魔族を捕捉しきるのはヒャクメでも無理か。

その間に西条が話をすすめて、

「それで明日の計画だが、ICPO香港支部に金の針が届き次第、連絡がくるように先生経由でお願いしてある」

「この屋敷の図面は? FAXで届いているようだけど」

「茂流田(もるだ)が出入りしている一軒家の屋敷の図面だ。工事をした形跡がないので、元始風水盤があると思われる地下へ行くには、あまりおおがかりな通路ではないだろうと推測される」

ゾンビの出入りしてたのは地下だったはずだから、そうとは限らないんだが、

「そうすると、この地下室あたりが、地下への出入り口ですか?」

「そうだと思いたいけれどね。あとは他にあるとしても、地下のキレツからもれてきていたように霊気がもれている可能性はあるから、そこが目印になる可能性もある」

前回の時は、屋敷の地下室からでた記憶があるよな。
地下室の比較的真ん中あたり、出入り口があったような覚えがあるから、そんなに構造上大きくかわっていないといいな。

香港のGSともいえる風水師のトップクラスがいなくなっているので、香港での戦力増強は見込めず。
日本からの応援は明日の昼にはカオスとマリア、夕刻には、他に頼んだメンバーもなんとか間に合いそうなので、その時間まで待つという線もある。
しかし、満月の影響がいつの時間から始まるかは不明なので、結局は金の針を待ってカオスとマリアも含めた突入ということになった。
場合によっては戦力の逐次投入というパターンになってしまうが、このメンバーでどうなるかは、茂流田(もるだ)という奴の戦闘能力しだいだろう。

それで突入の順番もきめていかれたが、カオスとマリアが入るということで、一番各自の能力を把握している令子の案をベースにする。
それを西条が訂正をくわえてきまったのは、西条、令子、雪之丞、ひのめ、カオス、マリア、俺の順番になった。
入れ替わったのはひのめちゃんと雪之丞の位置だが、令子がいざとなったらひのめちゃんをまもろうとでも思ったのだろうな。
こういうところに、令子のひのめちゃんへの甘さがでている。
おキヌちゃんはおいていこうかという話にもなったが、失敗すれば一連托生だ。俺についてくるということで、皆も納得はしている。
俺の役割は後方の警戒と、後方から敵がきた場合には、元始風水盤から針をとりもどすまでの時間かせぎだ。
この時期に芦家の三姉妹が、親と一緒にアメリカへ行っているとのは、戦力として痛いなぁ。


変に外へでてねずみの使い魔たちに見つかるわけにもいかないから、ホテルの中のレストランで食事をする。
酒税が高いせいで、ここの店のアルコール飲料はのきなみ高い。
そんなことを気にする西条でも令子でもなかったが、俺は妙神山での二日酔いから、今回は酒を遠慮しておく。
雪之丞はもともと飲まないが、ひのめちゃんは昨晩に続いて飲みたそうにしているのを令子にとめられている。

「ひのめちゃんって、お酒類は飲むの?」

「ええ、家でならゆるされているんですけど、外では飲ませてもらえないんです」

「令子さん、ひのめちゃんは今日飲むのは駄目なんですか?」

「横島クンもひのめの師匠になるのなら、覚えておいた方が良いわね。ひのめは飲むとざるのごとしだし、大トラになる傾向もあるから、下手なところで飲ませるとあちこち火の海よ」

令子もざるだったけど、ひのめちゃんもざるか。
違いはひのめちゃんは発火能力者だから、飲酒量を間違えると文字通り火の海になるのか。
お酒は飲ませない方が安心だな。

「へい。わかりました」

「私だって、限度ぐらい知っているのよ。お姉ちゃん」

「明日仕事があるのだから、やめときなさい。飲みたいなら、日本に帰ってからよ」

「……」

ひのめちゃんが飲めるとしたら、念力発火封印の札のあるところだけだな。
そんなのは持ってきていないだろうからの、令子の言葉なんだろう。



翌日は予定時刻通りにカオスとマリアが来て、令子と挨拶をしている。
俺はこっちにきてからマリアたちと、きちんと話すのは初めてだ。

「お久しぶり。マリアにカオスのおっさん」

「GS試験の初日依頼です、横島さん」

あー、あの日か。もうどっかに記憶は飛んでいる。

「だれじゃったかのぉ。マリア」

カオスのおっさんに覚えてもらわなくてもたいしたかまわんが、今日はカオスが一番活躍する日かもしれないからな。

「今年のGS試験・最終1位です、ドクター・カオス」

「あれか。銃刀法違反さえなければ、わしが1位だったじゃろう」

あれ? 警察はきていないと思っていたのだけど、きていたのか。
GS試験1日目はなんかポカをしてるっぽいな。
それはそれとして、マリアの怪力と速度をいかし、相手をつかまえて動けなくすれば、カオスの怪光線で1位になる可能性もあったな。
あの試合のあと、以前のGS試験の時に怪光線をつかったところを見た後は、あれを使ったところを見た覚えはないんだが、カオス忘れているんじゃないんだろうか?

「そういえば、カオスのおっさんは、胸から怪光線をだすことができましたよね?」

「おお、忘れておった。最近、使えること自体忘れておったわい」

こんな奴だった。

「じゃが、あれはザコならまだしも、魔族にはきかんぞ。たしかそうだったよな、マリア」

「イエス、ドクター・カオス」

そんなことさえ忘れているのか。
それもハーピーとパイパー相手は、無理ということなんだな。
それでも、ゾンビども相手ならなんとかなりそうだな。

あとは西条と合流するだけだが、合流場所にいつまでたってもこない。
西条がこちらで借りた携帯電話にも、ICPOにもかけた電話に通じない。

「しかたがないわね。ICPOへ私が様子を見に行ってくるから、ここで待っていて」

そう令子が言ってでかけたが、しばらくたって戻ってくるのは令子一人で、

「やられたわ。ICPOが西条さんに金の針を渡そうとしたところで、襲われて、子どもにされてしまったみたい。かろうじてこどもにされる前に、金庫へ金の針をもどせたようで、知識ごと子どもにされたので、金の針は金庫の中に入ったままだったわ」

そうやって、金の針をだす令子だが、

「どうやって、そのことを?」

「ママに聞いてみたのよ」

ICPOの秘密保持がそんなんでいいのかと思いつつ、気にするとGSなんて商売、特に美神家とはつきあっていられないからやめておこう。

「もう午後も4時だから、とっとと入ってやっちゃいましょう」

軽く言ってくれるが、この人数でせめこむのは2台で移動するしかないよな。
1台は令子がレンタカーで、1台は雪之丞の車で移動する。

「雪之丞、車運転できたんだな」

「とうぜん、無免許だけどな」

もぐりでGSやってるぐらいだ、これぐらい気にしてたらGSはやってられないって、何回自分にいいきかせているんだろうか。


問題の林のなかの一軒家に来たが車をおりて近づいていったら、人物の気配はしないと思ったら上空から狙撃された。
若返ったぶんカンも鈍ったかな。
ハーピーが上空から『フェザー・ブレッド』でマリアと令子と俺も狙撃をされた。

マリアは服をやられたが無事だ。
令子も強化セラミックのボディー・アーマーを着込んでいたので服がやぶれたまでは、マリアと一緒だが霊波がゆらいでいる。
セラミックのボディー・アーマーって色気がないんだよなぁ。
俺は運がよかったのか、ひのめちゃんに声をかけられたのでちょっと移動したので直撃をさけたが、左腕をかすめている。

「あたいの狙撃を絶えたり、かわすだなんて」

雪之丞が慣れているのかいないのかよくわからないが、オカルトGメンからもってきている破魔札マシンガンで、

「このヤロー!! 逃げるな――っ!」

と叫んでいるがハーピーは、

「ここは直接対決をさけて屋敷に戻るのが吉じゃん!」

こちら側が一方的に被害を受けた様子を見ながら屋敷へ戻っていった。
完全に待ち伏せされているな。

「やられたわね。多分、罠があるけど時間が惜しいわ。増援をまっていたら、罠をかいくぐる前に元始風水盤が動作してしまうかもしれない。そうすると、魔族なら魔界化をはかるでしょうから、それでは手遅れだわ」

「やっぱし、このメンバーで突入ですか?」

「それしかないから、行くわよ」

そうして、屋敷に向かうメンバー全員は対パイパー用にネコを抱いて屋敷に入って行った。
俺の提案ながら、退魔に向かうところとは思えないな。


ハーピーが入って行った屋敷に向かうが、不気味なくらい罠もなく屋敷の中へは入れた。
令子はつよがっているが、霊波に乱れがあるから完調ではないのだろう。
俺の左腕には軽く包帯かわりのハンカチを巻いている。
このメンバーでまともにヒーリングのできるのが一人もいないぐらいに攻撃に偏ったメンバーだと思い知らされる。
俺の場合これぐらいの傷なら、1時間もあれば霊力をまわすことにより完治させるぐらいはできるが、そこまでの時間もないだろう。
まずは皮膚の再生だけでもイメージしながらハンカチは、はずせる程度にはしておくか。

「この独特の霊気は地下室の方からきているようね」

令子が屋敷の地図をみながら言っている。
とりあえず、屋敷の中では、いまのところ攻撃はしかけてこられていない。
はじまるとしたら、他人が入りそうにない地下室からか。

地下室に入るとネズミどもはいたが、こちらにいたネコの「ニャオン」「ニュー」の声でにげていってしまった。
とりあえず屋敷の中での第一陣である待ち伏せへの対抗は成功と。

成功はしたが、ネコで魔族を退けるというのが本当にGSのやり方か? というと無いとはいわないが、俺も以前の時間軸の美神流にすっかりそまっているんだな。


*****
ピートがいないので地下ルートがとれません。

2011.04.13:初出



[26632] リポート24 元始風水盤編(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/02 19:37
最初はネコをつれてくるだけでよかったが、奥へ行けば行くほど面倒なんだろうなと思いつつも、行かないわけにはいかない。
令子が、

「ここから霊気がもれているようね」

そう言って、地下室でさらに下へ降りていく通路を見つけた。
最初に地下へ入っていくのは令子だが、強化セラミックのボディー・アーマーって本当に色気が無いなぁ。
このメンバーで唯一、俺の今の霊力の一番エネルギー源となる煩悩を刺激しそうなのは、この中では令子のみなのに。


次は地下を降りて少し広まったところで地面に死体がころがっていたが、こいつらが起きあがってきた。

「ここは俺にまかせて、先にいって下さい」

「横島さん、左手を負傷しているのに大丈夫ですか?」

「これくらいなんともないさ」

ネコはもう放して背中にせおっていた破魔札マシンガンを右手に持ち、それでのきなみ倒しながら左手からはサイキック小太刀を出す。
左腕はちょっと痛いが、

「ほらね、だからここはまかせて。はやく次に行ってくれ」

ぐずぐずしていたのは、ひのめちゃんとおキヌちゃんだけで、あとの4人は奥へ向かっている。
破魔札マシンガンで倒せるだけのゾンビを倒していたら、まだひのめちゃんが奥へむかっている様子が見えた。
おキヌちゃんは俺と一緒に残っているけれど、もともと一緒にいる予定だし、ゾンビたちからの狙われる対象に入っていないようだ。
今回の破魔札マシンガンには、予備のマガジンをもってきていなかったので捨てる。

右手には通常の霊波刀をだし、左手のサイキック小太刀をサイキックソーサーの色を黄色っぽくしていく。
これも妙神山での修行の成果なんだろうが、妙神山へ行く前よりも、黄色への色が強くなっている。
多少左腕が痛いのは我慢しながら、次々と同じ5枚のサイキックソーサーを造りだし、五角星の場所へと配置し『サイキック五行黄竜陣』を形成する。
幸いまだ元始風水晩が稼動していないおかげで、こちらでも地脈を操れる。
地脈をあやつって浄化するが、抵抗力の強い何体かと、この陣の外にいるゾンビがいる。
ただし、こいつらは考えないのか、勝手に俺にむかってくるので、サイキック五行黄竜陣の中で戦っているために入ってくると自滅する。
耐えきるものもいるが3割ぐらいだ。
こいつらを倒していくと、ひのめちゃんをおくりだしてから3分ぐらいか。

ちょっとしたタイムロスだ。


サイキックソーサーを回収して、サイキックソーサーの霊気を自分の中にもどしつつ奥へとすすむと、強化型のゾンビを相手に雪之丞がひとりで戦かっている。
メンバー的にしかたが無い部分もあるかもしれないが、ここは全員であたった方がよさそうなものだ。
こうなってしまったものはしかたがない。
俺と同じく、破魔札マシンガンは捨てていたが、

「雪之丞、だいじょうぶか?」

「なに、これぐらいなら。まだまだいけるさ」

わりと余裕がありそうだな。
魔装術で4対の強化型ゾンビと、既存のゾンビが何体かまじって戦かっているので、俺も加わる。

「奥にこっちの強化型ゾンビが2体入って行ったぜ」

「なに、時間はかけられないな」

「そうだ。おまえには、勘九郎を苦しめた技があるそうだな。それはできないか?」

「サイキック五行吸収陣だな。ゾンビよりも魔装術をつかっている雪之丞の方へ、より響くから無理だな」

俺は右手には護手付き霊波刀、左手は短い霊波刀にして攻撃優先タイプで戦っていく。
時間がないのでサイキック五行黄竜陣を使いたいところだが、この技をいつも一緒にいるおキヌちゃんに見られるのはともかく、他人に見せるのはまだ早いだろう。
雪之丞は手当たり次第に近くのゾンビを退治していっているようだが、俺は霊力の消費をおさえるために、強化型タイプのゾンビから叩いていくことにする。
強化型タイプのゾンビを叩き終わったところで、残りのゾンビの統率が崩れる。
これなら俺ひとりでもなんとかなりそうだというか、雪之丞はいない方が良い。

「先に行って、強化型ゾンビの相手をしてくれ、雪之丞」

「だいじょうぶか? 横島」

「もともと、こういう役割分担が俺だろう?」

「じゃ、ザコはまかせたぜ」

雪之丞は奥へ行くところで魔装術を解除しているが、魔装術には時間の制約があるから奴なりに考えがあるのだろう。
雪之丞がザコよばわりしているゾンビは、まだ十体以上いる。
これなら霊力の消費と時間の関係から、サイキック五行重圧陣で充分だろう。
サイキック五行重圧陣を展開すると、これも入ってくるのは自由なのだが、この陣に入った霊体を持つものには霊圧がかかる。
おキヌちゃんはちゃっかり陣の外に待機している。まあ、毎晩のようにみていたらわかるだろう。
俺自身は毎日の瞑想で使っているからなれているが、はじめて入ってくるゾンビどもには効果てきめんだ。
あまりはやくない動きがさらに遅くなっているので、立ち木をあいているようなものだ。
全部動けないようにして、ここにきてから7,8分っていったところか。
先行している部隊から10分よりは短いだろうが、6,7分ぐらいは遅れている感じだろう。


奥にはいりながら途中別の普通のトラップもみつけるが、物理的にこわされている。
マリアでも使ってつぶしたのだろう。
普通のGSじゃ、できない方法だよな。



さらに奥にすすんでいくと先行していた皆が円陣を組んでいる。

「どうしたんですか?」

「それが、元始風水盤のまわりが、予想以上にやっかいなことになっていた」

「そうね。まさか、あんなものがあるなんて、完全に予想外だわ」

雪之丞はともかく、令子の予想以上って。

「地獄炉がある。くそー、わしが造ろうと思ってついにつくれなかったものを」

カオスのおっさんの思考はいいとして、地獄炉ってことはヌルが関係しているのか?
とぼけたふりをして、

「地獄炉ってなんですか?」

「地獄からパイプラインをひいて、直接魔力の源にしている。文字通り、ここには地獄へ通じる穴が開いているのですよ」

「そんなところでパイパーやハーピーを相手にして、よくみな無事でいましたね」

「パイパーは魔族というよりも、大ネズミという実体をもった妖怪に近いから、金の針でどうってことはなかったわ。だけど問題はハーピーと茂流田(もるだ)ね」

皆から色々と様子を聞いたが、地獄炉があるわりにはヌルの名前はでてこない。直接は関係ないと見て良いだろう。
気になっていた茂流田(もるだ)が、何かのキーなのか。

「ハーピーは空中からの攻撃が得意だから、ここでは役にたたないと思っていたけれど、比較的高く空間がつくられているからそこからの攻撃が厄介ね。そして茂流田(もるだ)は生きたままキョンシーにされて、その上、魔装術まで習得させられているので、理性をもったまま魔族になっているわ」

生きたままキョンシーかよ。
さらに魔装術からの魔族。魔力は地獄炉から供給されている。
普段の地上での魔族を相手にするのではなく、相手の有利な環境で戦うということか。


今はまだ5時にもなっていないから、元始風水盤がゆっくり稼動しだすのも、もう少し時間が必要だろう。
後続部隊を待つのか? けれど、動きだす時間って皆にはわからないよな。

「それで、今後の方針は?」

「オカルトGメンからの武器もあらかた使ったし、あとはあいつらを相手にしている隙にだれかが、元始風水盤から針をとってくるのね」

「相手の追い打ちは気にしなくていいのか?」

「ここは地脈のかたまりで、地獄炉からのエネルギー供給もあの空間内で手一杯らしいところが、今のところの救いね」

地獄炉の逆操作は、邪魔が入るから今はできそうにないな。
それに今のカオスにできるかどうかだ。

「そうすると、セオリー通りに各個撃破をしていきますか?」

「それができたら、ここで今さら円陣を組んでいないわ」

「どういうことですか?」

「あの茂流田(もるだ)っていう奴が、こちらの動きをよんでハーピーに伝達しているのよ。茂流田(もるだ)をねらえばハーピーが補助をする。ハーピーを狙撃しようとしても早いし、茂流田(もるだ)がちょっかいをかけてくるのよね」

ハーピーとパイパーが組んでいると思ったら、茂流田(もるだ)がキーだったのか。
茂流田(もるだ)がキーなのはわかったが、

「その茂流田(もるだ)ってどれくらいの強さですか?」

「ハーピーよりは強いけれど、ここの全員がかかれれば、多分問題ないレベルよ」

そう答えられたので、あとはどうやって、それを実現するかだな。

「この中で空を飛べるのは、横島クンとマリアだけど、マリアの燃料はあとどれくらいもちそう?」

「今のマリア・空をとべません。燃料がありません、ミス・美神」

「カオス、いれておきなさいよ」

「いや、家賃を滞納しておってのぉ」

「じゃあ、ひのめが横島クンのサポートをして! その間に茂流田(もるだ)をなんとかするわ。そうしたら、全員でハーピーを退治か、ここから追い出すのね」

かなり大雑把な作戦だが雪之丞の霊波砲やカオスの怪光線よりより、ひのめちゃんの発火の方がハーピーにとってはやりづらいかもな。
ひのめちゃんの見えるところで直接発火するから、その瞬間でにげないと焼かれるし、発火する場所までの霊的ラインってすばやいんだよな。

「じゃあ、さっそく各自フォーメーションをとって、準備ができたら行くわよ」

俺はひのめちゃんと一緒になって、今の作戦をベースにこちら側のプランを伝える。
おキヌちゃんには、さすがにこの出入り口付近にのこってもらうことにした。

ひのめちゃんの弱点は、GSとしては動きが遅いことだ。
それで、俺が持っている院雅さん作成の結界札を全て渡す。
これでフェザーブレッドや、茂流田(もるだ)からのちょっかいという霊波砲を、くらうことも無いだろう。

「それで、私は岩陰に隠れながらこの結界札を張った後に、横島さんのフォローの為に、ハーピーに発火をかければいいんですね?」

「そう。岩陰までは一緒に行くから、そこまでは心配しないでくれ。あとは、その結界札の特性は外部から霊的攻撃からまもってくれるし、内部からの霊的攻撃は素通しにしてくれるところだな」

ひのめちゃんが、ちょっと不満そうだから、もうひとこと付け加えておくか。

「ここで、これ以上の活躍したかったら、肉体的にも鍛えておかないといけないよ。今後は、そっちの訓練もしていこうね」

「はい」

ひのめちゃんが、ちょっとしょげた感じだから

「対ハーピーのフォローは期待しているよ」

「ええ、まかせてください」

こっちはこれでいいから、あちらの4人組の話を聞くと、こっちの作戦とうまくまぜるとよさそうなところがある。
それでその作戦で行くことにした。

「じゃあ、皆も準備いいわね」

誰も否定はしない。

「それじゃ、地獄にあいつらを送ってやるわ!」

マリアは煙幕を張って、それに乗じて令子と雪之丞が、茂流田(もるだ)の相手をする。

「俺も茂流田(もるだ)との戦いに参加した方がいいんじゃない?」

「マリアの煙幕の張れる時間が短いらしいので却下ね」

やっぱり、各個撃破作戦は無理なのか。できたら楽なんだけどな。
ひのめちゃんもその煙幕を張っているあいだに、岩陰へ移動する。
俺は入り口をでた瞬間に、サイキック炎の狐へ上空に飛んで、ハーピーを強襲だ。

そしてマリアとカオスが元始風水盤から針を取るのだが、地獄炉から離れれば、ハーピーも茂流田(もるだ)もここで戦うよりは弱くなるはずだ。
ハーピーに見つからないようにするためにするのも俺の役割だ。
カオスが攻撃からはずされたのは、胸の怪光線は魔族から聞かないって、言ってたような気がするしな。


マリアの煙幕発射を合図に、入り口をでて上空に上った瞬間に「やられた」っと思った。
こちらの入り口と元始風水盤との間にいるのが茂流田(もるだ)だろう。

元始風水盤の針を取るのは無理じゃないのか?

とはいっても、すでに作戦は始まっている。
サイキック炎の狐にのりながら、サイキックソーサーも攻撃用5枚に防御用3枚の合計8枚と、右手に護手付きの霊波刀だ。
ハーピーはさっそく、こちらに攻撃をしかけてくるが、俺はそれを避ける動作と同時に、サイキックソーサーを防御にまわす。
こちらからのサイキックソーサーは、ハーピーのフェザー・ブレッドで攻撃できる瞬間を限定させるためだ。

だが、この全体状況はまずい。
攻撃用にだしていたサイキックソーサーを2枚、茂流田(もるだ)へ向けてあてた。
ダメージは食らって傷ついているが、けろっとしてやがる。
ゾンビベースだから痛みを感じないんだろうが、やはりやっかいだな。

その隙をつかれて、俺はまた左腕にハーピーからのフェザー・ブレッドがかすめた。

「空中戦を挑んでくるからやるのかと思ったが、たいしたことないじゃん!!」

言ってろ、このトリ女め。
なおりかかっていた、左腕をいためた。めちゃくちゃ痛いぞ。
昔韋駄天の八兵衛がぬけたのにくらべれば軽いけれど、昔の雪之丞の霊波砲をくらった時よりはきつい。
もうこれで、この戦いの間で左腕からの霊力を出すのは無理だろう。

右腕の霊波刀をいったん、ひっこめてサイキックソーサーを2枚攻撃用につくりなおして、また、護手付きの霊波刀をだす。
それを地獄炉で魔力がまして速度のあがっているハーピー相手に、残りのサイキックソーサーで攻撃をしかける。
または護りながらと、場所も移動しつつ転戦をしかける。

「遅いくせに…!!」

ハーピーがひのめちゃんの発火をさけているのも大きな影響で、なんとか対処できている。

ただ、茂流田(もるだ)との戦いは不利な戦いを強いられているのが見て取れる。
これは、完全に戦力不足だ。単純な裏技でなんとかできる相手じゃない。
一度ひきあげどきだな。
どうやってひきあげたいと思うと令子が、

「戦略的撤退よ――っ!!」

その声で、皆が入り口に戻っていく。
俺はサイキックソーサーでしんがりの役割をしつつ、もとの出入り口にもどった。



やっぱり1回は香港が、魔界に飲み込まれる必要があるのか。
小さな歴史の変更は可能だが、大きな歴史は難しいか、別な事象が発生する。
俺が、令子の解毒の為に、過去へ戻ったあとに得た再度の結論だが、ここでも同じことが発生している。
多分ここでうまくいっていたとしても、近い将来に香港かどこか他の地域で、一時的にでも魔界に沈む地域がでていたのだろう。
そう考えれば、少しはこの撤退にも意味を見出せる。

「しかたがないけれど、応援を待つしか無いわね」

「敵の増援が無ければいいんですけどね」

「そうなったら、さすがに終わりね」

「それは、ともかく、体調が悪いんじゃないんですか? あまり得意じゃないですけど、ヒーリングぐらいならできますよ」

「横島クンこそ、左手のヒーリングが必要でしょう」

「ええ、もうはじめていますよ。霊力を左腕に循環させて回復をはかっています。さすがに30分や1時間じゃなおりきらないですが、サイキックソーサーをだせるぐらいまでならなんとか」

「じゃあ、そっちを優先してて。私も同じようにするから」

やっぱり、怪我か何か、おっていたんだな。
しかし、俺としては、令子の肌にでもさわって煩悩エネルギーの補充にやくだてようと思っていたが、無理か。
肉体はともかく、霊力の残りが少ないから、霊力を増加させるために、瞑想にはいっておく。



そして、待ちに待った応援隊がきた。
エミさん、冥子ちゃん、ピートに唐巣神父だ。
エミさん、その呪術姿ナイスです。俺の煩悩エネルギーがたまるっす。
唐巣神父は、

「遅くなって。すまないね」

唐巣神父が言うようなことじゃないんだけど、元はといえば、神族があたっていれば、とっとと終わっている事件だったはず。
魔族がメドーサじゃなくて、ハーピーとか、パイパーとか、魔族としては程度の低いのがメンバーだったから人間だけで充分と判断してしまったのだろう。
そう思っていると、元始風水盤の方から衝撃音がきた。

元始風水盤が動き出して、魔界の影響がひろがりだしてきたのであろう。
しかし、前回とことなるのは、すでに地獄炉があるので、魔界が広がろうが敵の能力アップは、ほとんど無いということだ。
こちらの、霊力が枯渇したら死亡という状況の部分は、さきほどまでより悪化している。
唐巣神父が、

「この状況では、私では足手まといだろう。せめてヒーリングだけでもさせてくれないか」

「唐巣神父が足手まといになる?」

「私の場合、神や自然から力をわけてもらっているが、魔界では純粋に自分自身だけの力でたたかわなければならない。その場合、私では魔族に対して無力なのだよ」

「わかりました。俺よりも先に令子さんをお願いします。彼女の方が俺よりも重症だと思いますから」

「何、わかったように言ってるのよ」

「さっきから霊波が、乱れっぱなしです。多分、次が本当のラストチャンスなので、治せるものは治してください」

「くー、言うわね。新人GSのくせにして」

「俺より強い人に、早く完調してほしいだけですよ」

「じゃあ~、横島くんのヒーリングは~、ショウトラにさせるわね~」

冥子ちゃんが、のほほんと話に割り込んでくるがこの場合はラッキーだ。
全体の作戦は霊能力が発揮できないといっても、こういう時の知識もある唐巣神父の助言で、対ハーピーには、冥子ちゃんの式神であるシンダラで対抗する。
シンダラに乗るのは最初俺の予定だったが、ハイラの魔装術もどきである霊張術は、妙神山で禁止されていたので、雪之丞がのることになった。
雪之丞の魔装術なら顔以外なら、さっき見た感じではフェザー・ブレッドもはじき返していたしな。
最悪霊張術を使うことと、それにともなって文珠も使うつもりだが。

元始風水盤はカオスとエミさんに頼むっていうことだが、さすがにエミさんもこれには自信はなさそうだ。
唐巣神父自身で信じているかはともかく、複雑な陣を解析できそうなのは、この2人ぐらいだからな。

あとの残り全員で茂流田(もるだ)を相手にする。

そして先陣をきるのは、シンダラに乗った雪之丞で、ハーピーに攻撃をしかける。

「こりずにまたくるじゃん」

ハーピーの声にあわせるかのように、こちらは雪之丞への援護もかねて茂流田(もるだ)への攻撃をしかける。
ピートが霊波砲で、ひのめちゃんが火竜を放ち、冥子ちゃんの式神も各種遠隔攻撃をしている。
そうしてその隙に令子と俺は、茂流田(もるだ)へつっこんで行く。
令子はいつもの神通棍、俺は右手に護手付き霊波刀と左手にサイキック小太刀で攻撃重視型だ。
さすがに、茂流田(もるだ)もこの波状攻撃にたえきれそうにないのか

「先ほどまでの連携不足が嘘のようだね」

と言って場所を移動する。
それを俺の奥の手である、護手付き霊波刀から栄光の手に変えて避けかけた茂流田(もるだ)を横から掴んで放さない。

「なに!」

茂流田(もるだ)が引っ張って、俺を近づけようとすれば、その力に便乗してサイキック小太刀で傷つける。
本来、護手付き霊波刀や栄光の手の方が霊力も高く凝縮されているのに、魔装術をベースにした相手には、サイキックソーサー系で相手をする方がダメージを与えられる。

俺が離れれば、令子とピートの連携攻撃を行う。
合間にひのめちゃんの発火や、冥子ちゃんの式神でダメージを蓄積させている。
この合間に本格的に元始風水盤が稼動しだしたが、元始風水盤の解析をカオスとエミさんで、その護衛にマリアがついている。

唐巣神父は全体をみているのか、出入り口のところからアドバイスをおくってくれる。

「ハーピー、入り口の頭髪の薄い男を狙え!」

「させるか」

茂流田(もるだ)のハーピーへの指示も、雪之丞とシンダラの活躍によってうまく動かない。
たいして、こっちで一番最初に決着がついたのは、空中戦でのハーピーと対戦していたシンダラに乗った雪之丞だ。
さすがに、ハーピーも自分より早い相手をしたことがなかったのだろう。
何回か霊波砲をくらって、地面に落ちたところを雪之丞にとどめをさされた。

「これですんだとおもうんじゃないよ…!! きっとあのお方が……」

ハーピーがあのお方?って、アシュタロスか? 今ひとつ確証がもてない。
ただ、ハーピーが倒れたことによって雪之丞が茂流田(もるだ)との接近戦に入ってきて、一気にバランスが崩れだした。
単純な単独での攻撃力なら雪之丞が一番だから、茂流田(もるだ)はタコ殴りにされてとどめをさされた。

「やってやったぜ」

「お疲れ様ね。雪之丞」

「神父が全体をみててくれたおかげさ」

へぇ、雪之丞もよくわかっているじゃないか。
最後は後始末だ。

元始風水盤だが、カオスが操作をして、何回か変な状況にはなったが通常状態にもどった。
途中で三途の川とか見えてきたのは、さすがにびっくりしたけどな。
一応、こうして無事に元始風水盤の状態を一度元にもどして、針をとってから元始風水盤の図を消していく。
こんな物騒なものをのこしておけるかって。

地獄炉はカオスのじいさんがゆっくり操作しているが、動作を止めることができた。

子どもにされた西条たちはこの地下の奥に別な広間があって、その風船を金の針で割っていくことができたので元に戻っていったはずだ。
実際西条から電話がきて無事を確認できたので、それでいいのだろう。

しかし元始風水盤でこれだと、やはり死津喪比女の時も東京で霊障がおこることを覚悟しないといけないんだろうなぁ。
やっかいだな。


*****
ハーピーとパイパーの組み合わせでは、ちょっと弱いので茂流田(もるだ)をここでのラスボスにしています。
元始風水盤編はこれで劇終です。原作番外であった映画編はありません。

2011.04.14:初出



[26632] リポート25 分室の初仕事は協同除霊
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2013/07/09 21:14
香港での元始風水盤では、結構な収入が入ってきた。
俺自身は直接にかかわっていないがパイパーの懸賞金や、元始風水盤については小竜姫さまから小判が、唐巣神父経由で現金にかわって入ってきたらしい。
唐巣神父の分はきちんととってあるかは、美智恵さんが監督していたから大丈夫だろう。
ここまでは院雅除霊事務所に入って、そこからの分配で俺個人に入ってくる金額だ。

今回の収入で、ひのめちゃんに説明してあるのは、事務所に4割、ひのめちゃんには2割、俺には4割ということになっている。
これは危険手当という名目で、実際には俺の部分は情報料や、青色申告の部分も事務所にお願いしているから俺も手に入るのは1割相当かな。
普段の時給は、ひのめちゃんには2000円ほどと相場に比べると安い。
しかし保険も何もなく、損害賠償の積み立てを事務所がおこなってくれるので、そこは弱小除霊事務所に入ったことでゆるしてもらっている。

あと個人的には、元始風水盤の件ではICPO超常犯罪科からは金一封がでている。
しかし、これは民間の相場に比べると確かに安いな。
それとは別口に、直接では無いが、俺個人宛にオカルトGメンから針が盗まれたことにたいしての口止め料が入ってきている。
あくまで海外にいる雪之丞を経由させているのでマネーロンダリングだが、雪之丞にも直接的におこなっているわけじゃないらしい。
美智恵さん、正義の味方を目指していたんじゃないのか?
それとも令子にそまったか?
やっぱりICPO超常犯罪科日本支部支部長って、きれいごとですまないのかな。

それで今さらなんでこんなことを考えているかというと、夏休みも終了が近づいて本格的に分室としての活動を、開始することになったからなんだよな。



そして依頼が入ってくるのは、院雅さんのところからだとばかり思っていたら、直接依頼が入ってきましたよ。
ひのめちゃんも、

「分室立ち上げそうそうに、幸先いいですね」

「そう思う? 差出人をよくみようね」

俺は疲れたような声をだしながら、FAXできた依頼書の依頼人名をはっきりと示す。
ひのめちゃんの笑顔が、とたんにひきつったような顔になる。

「六道GS事務所って、あの六道家ですよね?」

「ああ。はっきり言おう。冥子ちゃんのところからの協同での除霊作業の依頼書だ」

よりによって、貧乏くじかよ。
幸い物的破損については、六道GS事務所で持つとなっているが、最初から失敗したくはないよな。
しかし、きちんと院雅除霊事務所の受けられる霊力レベルBの物件なのが解せない。
先の元始風水盤の事件にも絡んでいるのでもう少しすれば、霊力レベルAの仕事もうけられるようになるが、時間的にはもう少しかかるだろう。
しかも器物破損にかかわらず、依頼料の5割が支払われる上に、必要経費も六道GS事務所が持つと書かれている。
冥子ちゃんの除霊そのものをみると、霊がきれいさっぱりいなくなるのは100%だからな。
ただし、場所の破壊率も高くて8割以上、いや9割近くといったところで器物破損が発生しているけどな。
単純に断るわけにもいかないので、依頼書の中をきちんと目を通して、ひのめちゃんにもGS見習いとしての学習もかねて説明をしていく。

「それで、今度のこの建物だけど」

「変わった構造ですね」

「最近のデザイナーが霊相の勉強したりないのもあるけれど、この不況の中でも顧客が買うのは、機能やデザインを優先したマンションを買っているからな」

「どこら辺がおかしいんのですか?」

「うん。この報告書によると、住宅のど真ん中に水場を作ったのが、霊道をとめているからだね。霊が入ったきりでていけないのが主因らしいから、鬼門の方角には新しい霊が入ってこれないように、すでに鬼門封じがされている。だから、本来なら裏鬼門から霊がゆっくりと抜けていっても、よさそうなんだけどな」

「何か霊がその場にたまっている要因があるのですか?」

「次のページだけど、地鎮祭はきちんとしたけれど、もともとあった墓場の方は供養もしないで、移動してマンションをたてちゃったのが補助要因だね」

「こんなのが、いまだにあるのですね」

俺の記憶によると墓場の供養も地鎮祭もしないで、建てた家の除霊もあったからな。

「こういうのがあるから、俺らも食っていけるんだし、これは受けても冥子ちゃんさえ、きちんとまもれれば問題ないんじゃないかなぁ」

その冥子ちゃんをきちんとまもるというのがむずかしいんだが、なんとかなるかな。

「これぐらいなら、冥子さん一人でも問題ないのじゃないんですか?」

冥子ちゃんは感激しても、十二神将をだす恐れがあるからな。

「そうなんだけどね。成功したら成功したで冥子ちゃんごと、とっとと外へ脱出するルートはきちんと確認しておこう」

もし霊張術をつかっていいのなら、他の式神にショックを与えて、冥子ちゃんに気絶してもらうというのもあるんだけどな。
俺がハイラを使った霊張術を使うのを妙神山から禁止されているのは、知っているだろうし。
こっちの下についてくれるなら、冥子ちゃんの使える式神を減らしておくという手も使えるんだけどな。
さすがに霊力があがってきているとはいえ、冥子ちゃんの式神である十二神将の中で無事にいられる自信はないのと、負傷についての補償は書かれていないな。
それともうひとつ、

「どうも、冥子ちゃんの十二神将って、直接部屋とかを浄化に関する能力って無いみたいなんだよね」

「そうなのですか?」

案外、六道夫人の目的は、そっちなのかな?

「だから床下を壊して清めの塩をまくとか、浄化用の札を用意する必要があるかもしれないね」

「唐巣神父なら聖水を使うと思うのですけど、聖水じゃ駄目なんですか?」

「日本だと湿気が高いから、水分は嫌うからね。まだ、清めの塩の方が良いと思うよ」

「そうなのですね」

「気候のちがいだね。基本的に除霊は冥子ちゃんが中心で、浄化は俺たちが担当なのかな? この方針で院雅さんと相談して問題なければ、この除霊を受けてみよう」

「これ受けるのですか?」

「ここまで譲歩されている以上、院雅さんが先に仕事をとっていなかったら無理だろうね。今はまだその連絡もないから、この仕事に最善をつくすことさ」



そして、夏休みも最後の金土日で、たまっている宿題を先にかたづけておくが、まだ多少は残っているけども、冥子ちゃんとの協同除霊の現場に向かう。
そうするとすでに冥子ちゃんが先にいて、クライアントであるこのマンションのオーナーもいるようだ。

「六道冥子さん、お待たせいたしました。こちらの方がクライアントですか?」

俺の服装はいつもの通りのジーパンだが上はさすがに暑いので、霊力防御をかねたサマーセータータイプにしている。
まあ、院雅さん特性の防御用結界札を入れているので若干暑いのだが、仕方が無いだろう。

「クライアントといっても~、六道家ゆかりの業者だから~大丈夫よ~」

「それが、なんで、こんな雑な仕事を?」

「うーん。その最初の業者が~つぶれちゃったので~、このマンションをひきとってみたら~、こんな状態なの~。下手に他のところに頼めないから~、お友達の令子ちゃんか~、横島クンがよかったのだけど~、令子ちゃんはお仕事なんだって~」

令子、にげたなー。
いや、俺も本当のところは逃げたいが、

「それじゃ、基本的に除霊は冥子ちゃんで、ここの浄化を俺たちってことでいいのかな?」

「あれ~、私の方が~横島クンの~補助にまわるって~、お母さまから聞いているのだけど~」

六道夫人も、その気なら正規の依頼書の他に、手紙でもしのばせておけよ。

「ちょっと、依頼書で推測していた内容と違うから、少し考えさせてね」

「明日までに~終わらせれば~いい仕事だから~ゆっくりでいいわよ~」

たしかに2日がかりと書いてあったが、院雅所例事務所でも1日で終わる仕事だと思ったら、こんな裏があったのか。

「そういえば、十二神将は影の中にいるの?」

「違うの~。今日はクビラちゃん~、アジラちゃん~、サンチラちゃん~、メキラちゃんだけで~、ちょっとこころぼそいの~」

「そういえば、ここ最近十二神将をいっぺんにださないね。もしかして六道夫人が何かしてるのかな?」

「うーん。この前ね~、令子ちゃんと~、せっかくお友だちになったマーくんを~怪我させちゃったの~。だから今日のお仕事で横島クンを~、怪我をさせちゃいけないんだって、お母さまに~」

あの六道夫人が、他人にたよらずに自分で考えている?
それとも誰かの入れ知恵か?
とりあえずは、冥子ちゃんの戦力はわかった。
ぷっつん、するほど不安定になりそうには無さそうだ。
今日は安心して仕事ができそうだな。
ひのめちゃんも同じような安堵をしてたのか小声で、

「よかったですね」

「ああ、まったくそのとおり」

しかし、知らぬまに鬼道家との戦いをしていたんだな。

「そういえば、ひのめちゃんは、冥子ちゃんの言うマーくんのことを知っている?」

「よくわかりませんけど、お姉ちゃんが3日ばかり入院してた時があったから、その時に一緒に入院してた人がそんな感じの鬼道政樹さんって言ってたかな~」

「原因まで聞いていなかったんだ」

「お姉ちゃんも師匠を横島さんに変えたら、最近はあまりお仕事のことを聞かせてくれないんです」

そんな事情もあるのか。
令子も難儀な性格だな。

「ちょっと作戦はかわっちゃうけれど、俺が前線で除霊していくって感じで、そこからもれた霊を、ひのめちゃんが冥子ちゃんをまもるように発火で除霊するのかな」

「えー、そんなんで、だいじょうぶですか?」

「アジラとサンチラの攻撃力だけで、百体ぐらいの除霊は余裕だよ。それよりも、その隙をつかれて、冥子ちゃんを傷つけられないように気をつけて」

さも、ひのめちゃんもわかっているというふうに頷く。
二人での作戦会議が終わったところで、冥子ちゃんにも話をしていくが、単純に肯定してくれる。
これならわがままを言って、除霊現場を一緒にみたいというクライアントより楽かもしれないな。

「じゃあ、いきましょう」

「よろしくね~。横島ク~ン」

「がんばります。横島さん」

中に入ったところ霊力レベルBといっても、悪霊が多いだけで感覚的には150体ほどか。
数の問題でちょっときついが、ひのめちゃんと俺とでかたづけられない数ではない。
数は1階だけで2階より上にもいるのだが、1階を浄化すれば2階より上は霊道にそってでていく霊がいるだろうから、明日はもっと楽だろう。

そうして除霊を開始していくが、俺はサイキックソーサーを攻撃用に5枚だし空中に浮かばせ、防御用に左手に1枚だしてからサイキック双頭剣をだす。
ひのめちゃんは脱出路の確保として出入り口の前で待機しつつ、冥子ちゃんはその横にいて十二神将をだしている。
普通なら、これで安心して除霊をすすめていけるな。

冥子ちゃんは俺が除霊を開始した方向にいるからこちらからはほとんど、冥子ちゃんには悪霊はいかないがそれでも数体は抜けていく。
冥子ちゃんの式神は、冥子ちゃんが命令しなくても勝手に除霊しているから、許容量をこえなければ安心だ。
たいしてひのめちゃんは発火をつかって、そばによってくる悪霊を片っ端から除霊しているが、あえて近づいていこうとする悪霊も少ない。
どちらかというと電撃能力をもつサンチラがひのめちゃんを補助している感じで、石化の炎をはくアジラが俺のとりこぼした悪霊を除霊していっている。

マンションの高さはあるが、1階あたりの面積は少ないので1階の除霊はほぼ終了だ。

「無事に終わりそうですね。横島さん」

「今日のところは1階だけだからな」

「失敗じゃなくて~、成功をわかちあえる友達がいてくれてうれしいわ~」

冥子ちゃんが暴走する気配はないので、一安心だろう。
1階を浄化するために、清めの塩を決めておいた場所に盛って行く。
最終的には明日になってから、浄化用の札を貼るつもりだ。
お札はいちいち霊力をこめないといけないから、まだ2階より上にいる悪霊に注意しないといけないので今はさけておく。

「今日のところは1階の除霊も終わったし、清めの塩も終わり。残りは明日にしよう」

「そうですね」

「そうなの~?」

「ええ。あとは霊道から出て行く浮遊霊がいるでしょうから、そういう霊はそのまま出て行ってもらって、残っているの霊を明日除霊するということで」

「う~ん。もう少し早くできるのかと思ってたの~」

いやね。バサラがいれば、あの吸引力で霊をすいこむだろうけど、こっちにはそこまでの能力は無いからな。

「残りは明日にしましょう。明日まででかまわないんでしたよね?」

「そういえば~、そうだったわ~」

冥子ちゃんが納得したところで出口からでようとすると、2階から突然悪霊がおそってきた。
なんとなく2階も気にかかっていたのだが、狙われたひのめちゃんは、気がついていなかったのであろう。
俺はひのめちゃんをだきかかえつつ、護手付き霊波刀でその悪霊に斬りかかった。

サンチラも気がついていたようで、電撃をとばして俺の護手付き霊波刀に電撃がからみつつ悪霊にとどいたので、悪霊が消滅したのは見えた。
けれどもサンチラの電撃って、霊力がまざっているから、護手付き霊波刀をさかのぼって俺にも電撃が届く。
無事に終わると思ったらこの電撃はお約束なのね、と思っていたのだが、なぜか今までいた部屋が急激に遠ざかっていくのが見える。

……この感じは、時間移動だ。
って、俺が抱きかかえているのはひのめちゃん。
ひのめちゃんに、時間移動能力があったのか。
そんな落ち着いている場合じゃない。

いったい、いつの時代にとばされるんだ――っ

*****
ひのめちゃんに時間移動能力ありということで、さて、どの時代にいくでしょう。

2011.04.15:初出



[26632] リポート26 時間移動編(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/04 20:45
サンチラの電撃を受けて、ひのめちゃんの時間移動能力が目覚めたようだ。
そして通常空間にでたようだが、空中からの落下を感じる。
空を飛ぶためにあわててサイキック炎の狐をつくろうとしたら、背中から地上にたたきつけられたが、落ちた距離は1mぐらいだったのだろう。
たいした痛みはない。

「ひのめちゃん、だいじょうぶかい?」

「ええ。横島さんが下にいてくれたおかげで」

うん。今の体勢を見た目からいうと、ひのめちゃんの尻の下に敷かれているって感じか?
ちょっと、感触はいいけど、ひのめちゃんだしな。

「悪いけど、どけてくれるかな?」

「いつまでものっててごめんなさい」

うん、顔を赤らめているけど、ちょっとはずかしそうにしてる。
なんせ、馬乗りだ。
俺も立ち上がったところでまわりを見回してみると、暗くてわからないが、森林の中にいるようだ。

「うーん。さてここはどこで、どの時代なんだろうな~」

「何を言っているんですか?」

「いや、どこに移動して、どの時代に移動したのかなっと思って?」

「瞬間移動も珍しいながら知っていますけど、時間移動なんて特殊能力をもっていたんですか?」

あっ、ぼけてしまった。
どう、フォローしよう。
そう思っているとさほど遠くない場所から、

「貴様らよくも私を――!」

知らない声だが、いらだっている感じだな。

「げっ! 元に戻っている!?」

令子、西条に、もうひとつ重なっているのは俺の声か?
はて? こんな記憶は無いけれどな。

「アシュタロスさまは!?」

アシュタロスだって? よくわからんがきっとまずい。
俺はさっそく隠行をおこなおうと思ったが、ひのめちゃんはそういう訓練をしていない。
両手の指先から小型のサイキックソーサーをだしサイキック五行隠行陣を即席でつくる。
指先からのサイキックソーサーは威力が小さいのと、サイキック五行隠行陣は以前はおこなっていたが、一々霊力を使うので隠行ができる今は使っていない。
他人をまわりから感じさせないために、サイキック五行隠行陣を使うのはそういえば初めてだな。

「横島さん、今の声って、お姉ちゃんと西条さんじゃないですか。あと二人のうちの1人は横島さんの声に似ていましたけど……」

「今『アシュタロス』って上位の魔族の名前も聞こえたのでまともな状況じゃない。まずはこの陣で霊力を感知されないようにして偵察する」

納得したのか、声の聞こえた方へ行こうとすると、

「今日のところはひきわけにしといてやる――!」

そんな声が響いてきた。

「なんか昔のまんがに出てくる不良みたいな逃げ口上ですね」

状況はよくわからないが、令子、西条に俺たちに敵対してた相手が逃げたのだろう。
記憶に無いということは、新しい時間軸での未来に移動したのか?

「もう一人の声が俺とそっくりなのに、俺の記憶に無いから時間移動した可能性がある。
 ちなみに俺自身は時間移動の能力は無いけれど、2回ばかりまきこまれたから、なんとなく感覚はわかる」

文珠での時間移動も感覚的には同じなのだが、現時点ではつかえないし、昔巻き込まれたことがあるのはたしかだからな。
そう言って声の聞こえてきた方に移動していきながら、サイキック五行隠行陣は内部の隠行が可能な上に、外からの気配は通じるから霊波もさぐってみる。
感じるのは俺自身の霊波と、西条の霊波に、神族らしき霊波と、声は令子なのに霊波は令子にそっくりなひのめちゃんだけど2人?
ひのめちゃんが2人いないと無理な事件だったんだな。
しかし、今から何年かするとひのめちゃんも令子と声がそっくりになるのか。
同じ人物は顔をあわせない方が良いと聞いているが、未来の情報をつかんでおくのはいいだろう。

「うんと、霊波的には、西条と神族と俺に令子さんでなくて、ひのめちゃんが2人だから、声の感じから未来に移動したっぽいな」

「じゃあ、あっても安心ですね。行きましょう」

「いや。そうじゃないよ。未来はあくまで可能性のひとつだから、まるっきり同じになるとは限らないんだよ。
 だから、今、何がおこったのかを、直接聞いても、教えてくれない可能性の方が高い。
 ひのめちゃんが2人いるのは、1人が現時点の未来からきたのじゃないのかな。
 こういう場合は、こっそり、聞いて将来の参考にする方がいいはずだよ」

「ふーん、そういうもんですか」

今の俺自身がその体現者だけど、そのことは元始風水盤の事件で思いっきり感じたからな。
ここが俺の未来なら、どの程度アドバイスがもらえるか不明というか、ひのめちゃんや俺に気がつかれているかもな。

「うん。もしかして、俺たちのことに気がついていながら話すことも考えられる。
 具体的なことはわからないかもしれないけれど、その分そこだけはかわらないと判断して話すんじゃないかな?
 それから、この隠行陣はそんなに強い陣じゃないから、霊力を出すとかはしないようにしてね」

「はい。わかりました」

さて、声のあった方に隠れながら移動してみると、烏帽子(えぼし)を被って平安時代にみかけた陰陽師の服装姿である西条にそっくりな西郷だ。
他には今の俺はしていないが、赤いバンダナをした俺に、令子と令子に似ている魔族のメフィストがいる。
神族といいきったが、ヒャクメだな。
ヒャクメならまわりの感覚は霊波にピントをあわせているから、このサイキック五行隠行陣で充分だろう。
どうも何かを埋めているようだが、烏帽子(えぼし)が地上にあるから俺の前世である高島でも埋葬しているのかな。
そうか平安時代にきたのか。

令子とひのめちゃんのの霊波は非常に似ているが、今いる令子、メフィスト、ひのめちゃんの三人の霊波に違いは無い。
最初に似ているとは思ったが、霊波をきちんと感じるまでにはいたっていなかったからなのか、外見だけで判断してしまったらしい。

「あれ、お姉ちゃんですよね? 横にいるのは魔族? けれどさっき、私がいるっていませんでしたか?
 それに、全体的に服装も変ですよね? 横島さん」

「……」

正直にはなすか、ごまかすか。
ごまかすには一緒にいる時間が長くなってからわかったのだが、比較的直情的な面も強いひのめちゃんだから理由を考え付くには時間が足りなさすぎる。
じゃあ、正直に話して信じるだろうか?

「横島さん! 何か知っているんじゃないんですか?」

声を低くして、胸ぐらをつかんでくる。
こういうことはひのめちゃんは普段しないから、状況については正直に話してみるか。

「烏帽子(えぼし)、あの独特の帽子をかぶっているのと、俺自身が烏帽子(えぼし)を被っていないから、多分平安時代だと思う」

「いえ、そんなことを聞いているんじゃありません。さっき西条さんと言ったり、横島さん自身だと言った……
 それに私が2人だといってましたが、お姉ちゃんと魔族じゃないですか。このことについて何か知っているんじゃないんですか?」

「なんでそう思う?」

「勘、もしかしたら霊感なのかもしれませんが、そう感じるんです」

霊能者の霊感ってやっかいなんだよな。
これは話せそうな範囲で素直に話してみるか。

「……あくまで、推測だけど、多分平行世界、あるいはパラレルワールドともいうけれど、そこから令子さんと俺がきているんだと思う。
 そして今話している感じからは、あのバンダナをしている俺は、俺自身ではなくて、俺の前世である高島が一時的に意識を支配している状態なんだと思う」

この時のことはアシュタロスの記憶にのこっていないし、令子からもあまり話してもらっていないからな。

「じゃあ、あの魔族は、私の前世なんですか?」

以外に冷静だな。
そういえば、魔族に母親が殺されていたと思い込んでいないし、魔族に対しても比較的寛容な世界だったもんな。

「うん。多分だけど、あの魔族の転生先は、あっちの平行世界では令子さんに転生したのだと思う。
 それに対して、こっちの世界では令子さんではなくてひのめちゃんに転生したんじゃないんだろうか」

時間移動の座標を俺は文珠がなければ特定できないから、俺が補助してこの時代にきたというよりも、ひのめちゃん自身が自分の前世にひかれてきたのだろう。
問題は、どうやって現代にもどるかだな。

「それで前世の横島さんが、前世の私に対して『俺にホレろ』って願ったんですね」

「いや、それは前世だし、今の人生とは関係ないよ!?」

「けど、あそこの私の前世は『ホレさせたらちゃんと責任とれ!!』って言ってますよ」

うん? なんでひのめちゃんが、前世のことで気にしている?

「もしかして、ひのめちゃんも多少は前世のことを覚えているの?」

俺がサイキック五行吸収陣をGS試験でだしたことから、多少は前世の記憶があるということを事務所の他のメンバーにも話してある。
実際には思いだしたわけじゃないが、アシュタロスの記憶やサイキック五行陣のため、多少の前世の記憶は表面にでているが、主に術だけだからな。
そのこをはまわりに多少は話してあるが、結局つかえる陰陽五行術で一般のお札に転用できる人材はいるが、まだ伝承できていないよな。

「前々から横島さんのことは気にかかっていたんですけど、この時代にきて今のを見ていたらなんとなく思いだしたんです」

「それは、単なるデジャブかもしれないし、現代にもどれるかどうかによる不安からの吊り橋効果かもしれないよ。
 現代にもどれてからゆっくり結論をだすといいよ」

「現代にもどったら、考えてくれるんですね?」

「それよりも、まずは、現代にもどれる方法だね。なんとかなるとは思うけれど……」

うん。この年齢の時に、俺ってもてていないはずだからな。
確か普通の人にも、もて始めたのは高校3年生からだと記憶しているが。
それにひのめちゃんって、まだなんとなく10歳の頃の面影があるんだよな。

こっちで話しているうちに、昔の俺は向こうの現代にもどっていったのだろう。
多少ドジな面はあるにしてもヒャクメがついているからな。

さて俺たちはというと、この時代でどうするかというと、

「さて、あちらの令子さんと俺は、元の時代にもどったようだけど、時間移動の能力は令子さんが持っていたようだ。
 こちらだと、多分、ひのめちゃんが時間移動能力を持っているのだと思うけれど、この時代にくることを意識したのかな?」

「いえ。平安時代にきたいと思ったこともないし、私自身時間移動についてのことをほとんど知らないし」

そうなんだよな。時間移動能力者を魔族が狙っているかどうかって情報がいまだに手に入らないから、アシュタロスが何を考えているか確証がないんだよな。

「ここで、だまっていてもしかたがないから、まずは先ほどのひのめちゃんの前世と、西条の何代前の前世かはわからないけれど、あってみるか」

そうひのめちゃんに声をかけて移動をしようとすると、

「それはこまるな」

男の声が聞こえる。
このサイキック五行隠行陣に気がつかれた?

声は背後からしてたが、殺気は特に感じない。
俺は後ろをふりかえると、ロープをかぶった霊格の高そうな人物がいる。
霊波は隠しているようだが、これだけ霊格が高いのは隠し切れないらしい。
とはいっても、霊格そのものをわかるようになってきたのは妙神山での修行からだけどな。
それにしても神族か? それとも穏健派の魔族か?

この隠行陣の中の会話を聞ける実力のある者なら、声もかけずに俺らの命を奪えているだろう。
命の即時危険性は無いと判断して、

「俺は横島、そっちの子は、きこえていたのならわかるだろうがひのめ。それで貴方はどなたかな?」

「ああ、フードをかぶったままだったね」

そういってかぶっていたフードをはずしながら

「私の名はアシュタロス」

俺の記憶に残っているアシュタロスなら、この時に未来へとばされたはず。
まさか魔界にいる分霊がわざわざきたわけじゃないだろう。

どちらにしても、こんな至近距離まで近寄られていたうえに、用意……文珠がなければ相手にすらならないぞ。
目前のアシュタロスの霊格の高さに、冷や汗を背中にかきながら、無駄とわかりつつもひのめちゃんを俺の背後にでかばう位置に移動し、

「なぜ、彼らにあってはこまるのかな?」

「きみにはこれは見えていないのかね?」

よくみると、なぜか、右手に白旗をもってぱたぱたとひらめかしている。

「えっ? 白旗? もしかして降参?」

「違う!! おまえら未来の人間の世界では交渉するときにも、白旗をかかげるんじゃなかったのか?」

このアシュタロスはなぜ交渉をするんだ? そして未来?


*****
さてアシュタロスが原作とは違う形で登場です。

2011.04.16:初出



[26632] リポート27 時間移動編(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/05 21:43
この現れたアシュタロスに疑問はわいてくるが、殺気はないから交戦の意思はないのだろう。

「魔族との交渉するのに代償はなんだ?」

「えっ? 魔族と交渉するの? 横島さん!!」

俺は、目の前にいるアシュタロスの前でこそこそ話すのは無理だと考え、

「少なくても殺気はないし、よくわからないが未来のことをいくらか知っているらしい。そして魔族からのもちかけている交渉だが気にいらなければ、交渉の席を立つことはできるさ」

実際、アシュタロスを前にして交渉の席をたてるわけはないのだが、唯一助かる道はここにしか今のところ、みい出せない。

「横島さんがそう言なら」

そう言いつつ、おれの右ひじを右手でつかいながら背後から覗くように立っている。
こういう俺を盾にするというところは令子と姉妹だな。



「そちらはいいようだね?」

「ああ」

「代償の話だが、この時代での行動制限だ」

ゆるい代償かもしれないが、魔族の言うことだ。
行動制限と言っても内容の範囲が広いぞ。

「ふーん。行動制限か。それっ、魔族につかまっていろということか?」

「そんなに構えなくても良い。おまえらには神族の修行場に居てもらいたいだけだ」

「魔族が、神族の修行場に行ってろと? そんな馬鹿みたいなことを信じられると思っているのか?」

「神族魔族の間ではデタントがきている。おまえたちがいた時には、そのような魔族も増えているのではないのか?」

この目の前のアシュタロスだが、全部を知っているのかわからないが、未来の知識をやはりある程度はもっていそうだ。

「俺たちがいた時代には、確かに穏健派の魔族は多いようだが、神魔間の事情については、人間の世界に伝わっていないんだけどね」

院雅さんから聞いている情報からでは、世界的に魔装術の使い手が増えていて、しかも魔族化しそうだと契約をとりさげるケースが増えていると聞いている。
だからといって神族の紹介をしたという話はつたわっていないというか、そもそも魔装術が扱えるレベルに達する霊能力者が少ないからな。
ただし、俺の記憶にある魔装術が使えるレベルよりも、低い霊力レベルの霊能者でも可能になっているんだよな。
そういう意味では、アシュタロスがだまそうとしているというよりは、俺とひのめちゃんがいた未来を知らないのか?

「では、その神族の修行場に行ったとして、そこから出たあとの代償は?」

「そこから出るというのは、未来に戻るということでいいかね?」

「いや、この時代にきたのだから、せっかくなので見物でもね」

「残念ながらそのまま修行場に居てもらう。また、未来に行ってから戻ってきた場合にも、その修行場に行ってもらう」

よほど、俺たちをこの時代にかかわらせたくないみたいだな。
それなら、それで俺たちを殺すという選択肢もあるが、そんな物騒なのは嫌だしな。
しかし、未来からきてた以前の俺たちの行動をみていたならば、行動制限をさせたいのはなんとなくわかるが、なぜに神族の修行場なんだ?
もっと、他にもありそうだけどな。

「代償をのむ前提で聞きたいが、神族の修行場というのはどこになるのかな?」

ひのめちゃんが何か言いたそうだが、だまっている。
言いたいのはきっとGSが、魔族の言いなりになるのが気にいらないのかな。
しかし、霊力こそおさえているが首のパーツをつかった偽者ではなく本物のアシュタロスっぽいもんな。

「奇神山というところだ。多分、おまえたちの時代には残っていないだろうがね」

「なぜ、残っていないとわかる? それにそんな無くなるなんて危険な場所にいけないだろう?」

「ふむ。私としたことが失礼をした。今より300年以上あとになっておこることだからだよ」

俺が以前中世ヨーロッパに飛ばされたころか。

「それで、アシュタロスはいつの時代から来たのかな?」

「ああ、1998年……ってなぜ、そのことを」

「いや、あまりに未来のことについて詳しいからさ」

「ふむ、そうか。やはり、今度も『宇宙意思』がかかわっているのか」

ぽつりともらした言葉だが『宇宙意思』ということは、あのアシュタロスか?
この変わりようはなんだ?
だからといって直接聞くわけにもいかないだろう。

「『宇宙意思』って何かな?」

「おまえたちが知る必要は無い……いや、もしかすると知っていてもらった方が、よいのかもしれないな。先ほどのおまえたちが見ていた者たちは、あの者たちの世界で『宇宙意思』を味方につけたものだ。おまえたちにも、その資格があるのかもしれない」

なぜだろうか。それなら、俺たちを今のうちに亡き者とした方がよいだろうに。
疑問は残るがこれよりも深いことを聞いて、藪から蛇をだすこともなかろうから、

「それは、俺たちにわかるのかな?」

「いずれ、おまえたちの前に強力な魔族があらわれたならば、それでわかるであろう」

本当のことをすべて語っているわけではなさそうだが、今のアシュタロスは滅びを望んでいるわけではなさそうだ。
そろそろ引き際だろう。

「神託ではなくて、魔託っといったところか。それで、どうやってその神族の修行場である、奇神山に行ったらいいのかな?」

「この兵鬼である『順地号』にのって奇神山のふもとまで移動してもらう」

そう言ってだしてきたのはクワガタだ。
なんで『逆天号』であったカブトムシでなくて、クワガタなのかはわからなかったが、巨大化した『順地号』の中に入って1室に案内される。
『逆天号』にくらべると造りが若干雑な気はするが『逆天号』って未来の人間の技術もまざっていたからそのせいかな。

しかし、今のアシュタロスだが、多分俺が知っているあのアシュタロスだろう。
なぜ過去へ来ている上に、多分、未来にとばされたであろうアシュタロスと行動をともにしなかったのかについては謎だ。

「横島さん、平気なんですか?」

「ああ。俺たちが約束の行動をとっていれば、あの魔族も契約行為として、俺たちに手出しはしてこないだろう」

「けれど、さっきの魔族とのやりとりって、普段の横島さんじゃなかったみたいなんですけど」

えーと、さっきは冷静に対応しすぎたかな。

「いやぁ、さっきのは背中に冷や汗をかきながら、ひのめちゃんや俺の命の心配をしながら交渉してたからね」

「私の心配もしていてくれたんですね!!」

「だって、師匠としては当然だろう」

「そ、そうですよね」 

言葉がつまるというのは、俺の前世がメフィストに言った「俺に惚れろ」っということを気にしているのかな?
場所もわからないようなところだし、釣り橋効果だろう。

そして、目的地につくまでの間に寝るが、ひのめちゃんはベットに入ってもらって俺はソファで寝る。
ひのめちゃんと俺とで違う部屋という案もあったのだが、「魔族相手は怖い」というひのめちゃんにあわせて同じ部屋で寝ることにした。
翌朝は、

「おはよう。ひのめちゃん」

「もう少し寝ていてよかったのに」

近くで気配をしてたから、それで目覚めるとひのめちゃんがのぞきこんでいた。
ちょっと、顔色が赤いような気がするが、まさかキスでもしようとしてたんじゃないだろうな。
うーん、もしそうなら、ひのめちゃんは令子と違って、前世の影響が強すぎる気がするな。
しかし、こればっかりは対策も無いしな。
まずは、なるようにしかならないか。

少したつとアシュタロスがきて、

「目的地のふもとまでついた。あとは、山頂を目指してのぼれば、そこが神族の修行場だ」

「あまり高そうな山じゃないな」

「ここまでの道のりが、それなりに人里から離れているからな。おまえたちが登りきるまで、ここにいさせてもらうよ」

しかし、うたぐりぶかいというかね。
ここがどこだかよくわからない以上、わざわざ人里までもどろうとも思わないんだけどな。
それにしても、アシュタロス一人だけで動かしているようには思えないが、アシュタロスしか顔をださないんだよな。

そのあとはアシュタロスとわかれて、山の頂上にむかって行くと建物がある。
門の横には『奇神山 修行場』と縦にかんばんはかかっているが、鬼門相当のものはいなさそうだ。

「これですけど『この門をくぐる者 汝一切の望みを捨てよ 中竜姫』ってありますが、小竜姫さまのお姉さんですかね?」

「いや、小竜姫さまは別に竜族としての名があるはずだけど、教えてもらっていないから知らないな。だから、この中竜姫っていうのも小竜姫さまのお姉さんとは限らないよ」

「そうなのですか。けど、これどうしたら開くのでしょうね?」

「そうだな、適当にノックでもしてみるか」

ノックはすれども、誰もでてこない。

「まだ時間がはやいから寝ているのですかね?」

「いや、もう日が昇って2時間ぐらいはたっているから、この時代ならさすがに起きているのが普通じゃないかな?」

そう言ってみると、門に手前へ引く鉄の輪があるのでひいたが、特にひっぱても門は動かないが、手に霊力をこめると門が動くことに気がついた。

「これって、こうやって霊力をこめて引っぱるんだ。これが試しなんだろうな」

「へー」

そうして、かなりの霊力をこめて開けたところにたっていたのは、ある意味よく見知った竜族だった。
ひのめちゃんが、

「メドーサがなんで?」

「どうして私の真名を知っている。ワケを話してもらおうか!」

いきなりひのめちゃんに刺又(さすまた)を向けているメドーサだ。
メドーサって、魔族のはずなのに、神族の霊力を感じるぞ。
性格はあまり違わないようだが、どうなっているんだ?

神族の霊力を感じるメドーサは、ひのめちゃんに気が向いている。
ここは、昔やりたくてもできなかったことを、勝手に身体が動いてしまった。

「何をする、変質者ッ!!」

とメドーサが刺又(さすまた)を振り回してあててきたが、刺又(さすまた)の間合いの内側に入っているので、ふきとばされただけだ。

「す…すんません。ちがうんです……!! 理由を話そうとしてたのに、そのでかいちちをみたら、あまりのフェロモンに我を忘れて……」

メドーサも人間でいえば20代後半ぐらいと未来よりは若くみえる。
俺にとっては、格好の対象なんだよな。

「横島さん。またですか……」

「こいつ、いつもこんなことをしているのか?」

「ここまで極端なのは珍しいですけど、私の姉にはよく飛び掛って撃墜されています」

「……なんかばかばかしくなったが、一応、なぜ私の真名を知っていたかだけは、きっちり説明をしてもらおうかね」

メドーサが真名と言っているから、ここでは別な名前をつかっているのか?
毒気がぬかれたのか、メドーサの霊圧は下がっている。

「私は美神ひのめで、そちらのセクハラを働いていたのは横島忠夫さんで……私の師匠です」

ひのめちゃん、最後の方の声が小さいぞ。

「セクハラっていうのはさっきみたいなことをさすのか? それにしても、こんな男を師匠とするのは可哀想だな」

悪かったな。

「それでですね、メドーサって名前を知っているのは……」

ひのめちゃんが困ったように俺の顔を見てくるので、

「俺たちは、事故で約1000年後の未来からこの時代にやってきたんだ。その時代には竜族のメドーサというのは、俺たちGS、ゴーストスイーパの省略で、今でいう巫覡(ふげき)に相当するんだが、その間では有名だったよ」

全部本当だぞ。抜かしている情報が多いだけで。

「1000年後? 確かに見慣れぬ服装だがね。それにしても竜族のメドーサね……っということは、竜神というわけでは無いんだね?」

下手な嘘は、つかない方が良さそうだ。

「そうだ」

「竜族で真名をあかされているってことは、このかたっくるしい竜神をやめられるのはいいが、わたしゃ、何かしたのか?」

「そこまでは知りません。ただし、竜族のブラックリストにのっていますが、神族のブラックリストにはのっていないそうですよ」

妙神山での修行中に小竜姫さまとの話のなかでちらっと話題にのぼった程度で、細かいことは知らないからな。

「神族のブラックリストに、のっていないっていうのは本当か?」

「ええ、小竜姫さま……未来での別な修行場での管理人をしている神族ですが、そこで修行したときに聞いたから確かだと思いますよ」

「ふーん、あの小竜姫がね。ああ、そういえば、真名をいきなり言われたので紹介が遅れたわ。私がここで修行を担当している中竜姫と言う。だからメドーサという名前は使わないで中竜姫で呼ぶことだ」

「はい。わかりました中竜姫さま」

「ええ。中竜姫……さま」

ひのめちゃん、あまり、納得していないみたいだな。

「それで、ここは修行場だ。どのように霊能力をのばしたいか確認しておこうか」

「いえ、修行というよりは先ほどいった通りに、事故でこの時代にきたんです。ここへきたのは魔族のアシュタロスにつれてこられたので、修行が目的というわけではないんですが」

「アシュタロス? なんでそんな上位の魔族がこの日本にいる? しかもお前らをここにつれてきたと?」

「それについては、よくわかりません。ただ、この時代で俺たちに干渉されたくないみたいですよ」

「時間の復元力は人や神、魔族よりずっと強いはずなんだけどね」

多分、時間の復元力より強すぎる影響力は、世界が分岐するみたいだから、別れた世界を観測ができていないんだろうな。

「そんなんで、俺たちの目的は未来へ戻ることです。ひのめちゃんが時間移動の能力をもっているみたいなので、彼女のその能力をきたえて未来へ戻れるようにしてほしいんですが」

「時間移動の能力ね。残念ながら、そういうのを鍛えることは私では無理だね」

「え~」

そうだよな、メドーサ……ここでは中竜姫さまか。確かに時間移動の能力はもっていなかったみたいだからな。

「代わりと言ってはなんだが、ヒャクメという神族が他人の能力を制御できる。ヒャクメに頼んで、未来に帰してやろう。ただし、彼女も割合忙しいので、呼んでから来るまでには時間がかかる」

ヒャクメか。まずいな。俺の心の中を覗いたりしないだろうな。
考えの表層に上ったことはもちろん、ちょっとした強い意識ならヒャクメには自動的に知られてしまうからな。
好奇心の塊のヒャクメ対策を考えておかないとな。

「それまでの間は修行でもしていくか?」

そっか、ここって一応は神族の修行場だったよな。
あまり手のうちを知られると現代に戻った時、まずそうな気がするから、

「えーと、俺は総合的な能力をあげていく方向でお願いします。ひのめちゃんは、中から遠距離タイプの霊能力ですが、運動神経能力の向上を中心としたものでお願いできますか」

「やっぱり、私はそれですか?」

「火だと水系の妖怪や魔族にはききづらいし、そういうのを相手にするときは、お札になるだろう?」

「うー」

「あとは可能なら、眼で追った場所で発火させるのではなくて、相手の霊力を感じてその場所に発火させる訓練を頼むのもいいかもな。そうすれば、この前の事件で煙幕の中からでも相手に発火をかけられたし、物陰にいる相手にも発火ができるので攻撃できる範囲が拡がるぞ? ただし、これは、身体能力向上の訓練のあとにおこなってもらうことだな」

「ふーん。変質者だけど、一応師匠らしいことはできるんだな」

「いえ、俺の場合はアドバイスだけで、実際にがんばっているのはひのめちゃんですから」

「変質者は否定しないんですか?」

いや、せっかくさけた話題なのに。

「いやいや。変質者かどうかはこれからの修行でわかってもらえるさ。それでは中竜姫さま。布団の上で総合的な能力をあげさせてください」

「うん? ここでは房中術なんていう修行はおこなっていないぞ?」

ひのめちゃんはジト眼でみているのに、メドーサである中竜姫さまには素で返されてしまった。
どう返答しようか。
ぼけたつもりなのに、つっこまれなかったので仕方がないから、

「では、それ以外でお手柔らかに」

「まずは、そこで着替えてから奥に入りな! そこで待っている」

そうするとメドーサもとい中竜姫さまは、ひのめちゃんをしたがえて女性用の着替え室の中に入って行った。
なんか普通の着替え場所って感じで、妙神山の銭湯みたいなところとは大違いだな。
って、俺はきちんと男性用の着替え室に入っているからな。

修行場でまずは中竜姫さまがひのめちゃんと話をしている。

「小黄竜がこれからでてくるから、これに追いつかれないようにしなさい。そうしないと、どんどん、あちこち石化して、あとになるほど身体が重たくなっていくからね」

そう言って、中竜姫さまの髪の毛からは黄色っぽい感じの1mぐらいの竜がでてきた。
ビッグイーターじゃないのね。
ひのめちゃんは、攻撃を禁じられているらしくにげまわっている。
まあ、スタミナはとりあえずつきそうだな。運動神経があがるかはわからないが。

中竜姫さまは俺のほうに向いて、

「横島といったね。総合的にあげるとなると肉体で戦うが、どの程度かみせてもらうよ」

「へーい」

俺は護手付き霊波刀とサイキックソーサーを出す。
今回は奇抜な動きではなく、あくまでも正統な剣術だと自分で思っている方法で行うこと。
トリッキーな動きは、覚えていて欲しくないからな。
1000年もあとのメドーサが、覚えているかどうかは不明だけど。

中竜姫さまとして相対して、いざ霊波刀をあてようとするがこちらの間合いを読んでいるのだろうか。
まずは、まともに霊波刀が届かない。
霊波刀を伸ばしたくなるのを我慢しながら、ダッシュなどで踏み込むと逆に刺又(さすまた)で霊波刀をおさえこまれる。
または、こちらに向かって突きを寸止めされる。
実戦なら一体何回死んでいたであろうか。
木の柄では何回かぶったたかれたが、これはたいした霊力がこめられていないから痛い程度ですむが、痛いものは痛いぞ。

普段ならここらでサイキックソーサーをなげつけるか、霊波刀を変化させるのだがそういうのはやめだ。
まずは中竜姫さまの、この刺又(さすまた)の動かし方を把握することだ。
今は、それでいい。
これは未来への布石になるであろうから。

とはいっても、こうなると俺とひのめちゃんって、メドーサの弟子になるんだよな。
ちょっと複雑な気分だ。


*****
メドーサは中竜姫として、ここで再登場です。

2011.04.17:初出



[26632] リポート28 時間移動編(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/06 19:18
メドーサもとい中竜姫は、夕食の用意と言って修行場を離れていったので、俺は普段からおこなっている霊格の隠行に、さらに霊格をおさえる瞑想をおこなっている。
徐々に霊格を抑えていけるのを感じとっているが、このペースだとあと何ヶ月かかるだろうか。
やっぱり妙神山修行場で本格的に1日コースとか、老師と2ヶ月あまり一緒にいないといけないのかな。

ひのめちゃんは全身石化されてもう動けなくなったので、今度は目隠しをしながら小黄竜に発火をかけているようだ。
まるっきりあたらないな~
火竜を出すまえならしっかり相手の位置を読めているのに、霊波を感じるのに外部に何か出す必要があるのかな?
そうするとネクロマンサーに弱くなったりする危険性があるから、どっちもどっちだな。
こちらの修行はついでだけど、あのひのめちゃんの石化はきちんととけるんだろうな、とちょっと心配。

一応、昼食の準備ができたので、食堂にこいと中竜姫さまに呼ばれる。
ひのめちゃんの石化は表面だけで、中竜姫さまには簡単にとかれた。
自分の眷属の能力の制御くらいはできるということか。

中竜姫さまは食事の用意をするが、おわんにもったり、食卓へ運んだりするのは修行者である自分たちで行う。
白米なのね。けっこういい物を食べさせてくれるじゃないか。
肉料理もあるし小竜姫さまほど、仏道にそまっていないのね。
そんな中、

「そういえば、ヒャクメはいつくるんでしょうか?」

「まだ、そこに、依頼書があるからいつになるやら」

「えっ? その依頼書ってどうやってヒャクメまで届くのですか?」

「明日あたりにでも、韋駄天がとりにきて、届けるはずだよ。彼らのとりえったらそれぐらいしか無いからね」

ひどいことを言うな。
まあ、俺も韋駄天にはひどい目にあわされたけれど、きちんとそういう仕事をしているんだな。
そういえば、妙神山で韋駄天がきたことやみたことは無いけれど、同じシステムなんだろうか?
機会があったら小竜姫さまに聞いてみよう。
こんな感じでこの奇神山修行場での修行は1日目をすすんでいる。

しかし、ヒャクメ対策は頭がいたいな。

この奇神山修行場での修行は、午後一は休憩してからの瞑想に入る。
その間に食料の調達へ、中竜姫さまが食事のための狩りや、野菜類の調達をしているようだ。
ここは、そんなに標高も高くはないし、まだ自然が残っているというよりは、木々ばかりだから、色々ととれるのだろう。
この午後の休憩っぽい感じのところは、妙神山と奇神山でも修行としてはかわらないな。

時計は、現代の時にあわせたままだったから、このままだとよくわからないから、昼食開始の時間を12時としてあわせたのだが、今は午後2時半くらい。
午後の本格的な修行を開始するといっても、ひのめちゃんの小黄竜とのおいかけっこは一緒で、俺も中竜姫さまと霊波刀を使った修行だ。
午前中で、ようやく、刺又(さすまた)の剣筋というのが正確かは不明だが、わかりだしてきたので、それでさけられるようになっている。
老師の棍術に比べれば、どうってことは無い。
問題は、こちらもあてられないんだけどな。

「横島って言ってたな。午前中は手を抜いているのかと思っていたら、私の刺又(さすまた)の筋をみてたのか。対人相手ならそれでもいいが、魔族相手なら長期戦は無理だね。もっと短い時間であいての技術を見抜けるようになるまでは、そういうのはやめておくことだね」

別な意味で午前中はみていたけれど、手抜きといえば手抜きともいえるから、中竜姫さまの言うことはあっているんだよな。

「はっはっはっ、しっかりわかっていましたか。かないそうにないと思う相手からは当然ながら逃げ出します!」

「なに?」

「逃げ出すという表現が悪いなら一時撤退して、相手に合わせた準備をしていくんですよ」

「その間に相手が逃げるだろう?」

「それならそれで、俺たちにとっては好都合です。俺たちGSがおこなっているのは、妖怪や魔族を退治するのではありません。依頼人に頼まれた範囲で仕事をするだけですから、依頼人の依頼内容を達成したら、それでいいんですよ」

「そういえば巫覡(ふげき)に、相当するって言っていたな。陰陽師とかではないんだな?」

「ええ、陰陽師のように国の仕事ではなくて、巫覡(ふげき)のように個人相手の霊障を取り払うのが中心です。だから、魔族や妖怪が相手だなんて、普通はほとんど無いですよ」

以前の美神除霊事務所は特殊だからその比率はとんでもなく魔族や妖怪は多かったけれど、普通のGSが妖怪ならともかく、魔族を相手にできないもんな。

「そうだとしても、納得いかないところがあるんだけどね?」

「何でしょう?」

「横島が最初からそういうのを相手にするなら、最初になぜ私に話さない? そうすれば、もう少し違う修行方法もある」

ちっ、何か手はないか。

「すみませんでした。俺も霊的成長期なので霊能力は直接鍛える必要は無いし、それに対して肉体的な方が、劣っているのが今のところの問題です。けれど、これもまだ肉体的な成長期なので普通に肉体をきたえれば追いつくであろうから、今回は総合的な能力の修行をお願いしたんです」

「普通なら間違っているとは言わないが、あの娘を置いて逃げだすのかい?」

「いえ、そんなことは……」

「そうならば、味方を逃しながらの戦いかたというのがあるのさ。そっちを伸ばして見る気はないかい」

うーん。とても、勘九郎を自滅においやった魔族……いや神族とは思えない。
これが神族であることと、魔族であることの違いなのだろうか。

「そうすると、この修行場にはあまり長期間いるとは思えませんから、特殊な術になりますか?」

「その通りだね。ただし霊能力をきちんと見るのに、影法師(シャドウ)をみさせてもらう」

俺の承諾も無しに、中竜姫は影法師をぬきとられる。
こういうところは、身勝手だな。

「ふーん。この小柄な影法師(シャドウ)ってことは、圧縮・凝縮系に特化しているね」

「影法師(シャドウ)をみただけで、そこまでわかるものですか?」

「いやね。ここまでなさけな……じゃなくて、小柄な影法師(シャドウ)をみるのは初めてだが、人間の身のままでの霊力と比較すると、それしか考えられなくてね」

やっぱり、俺のシャドウって、なさけなく見えるのね……

「ちょっと調べ物をしてくるから、小黄竜の50匹抜きでもしていな」

「それって、一匹ずつですよね? 途中で休憩とかもありっすよね?」

思い出すのは、都庁地下での100匹抜きのプログラムとの対戦だ。

「あー、1匹ずつだね。休憩は無し。戦っている最中に敵が休憩させてくれるわけがないだろう。午前中とさっきまでの稽古で、だいたいの技量はわかったから、そんなもんだろう。始めるまでは4半時後でいい。じゃあ、石化していないことを期待してるよ」

そう言うと、中竜姫はシャドウを俺にもどして、50匹の小黄竜をおいていき、修行場をぬけていく。
ひのめちゃんと小黄竜のおいかけっこをみる限り、体力を考えると護手付き霊波刀と普通のサイキックソーサーを中竜姫との戦い方と同じならぎりぎりといったところか。
良くみているな。
正統な剣術なら、やはり見る眼はあるのね。

ぎりぎりまで体力をためるために、俺は修行場で横になる。
その合間、いかに正統剣術っぽくみせながら、どのように小黄竜を倒していくかのイメージトレーニングをしていく。
5分前になったらおきあがり、軽く身体を動かして準備は完了だ。

「さて行くけど、順番はどいつからだ?」

幸いにも小黄竜は50匹がかたまっている。
普段ならこんなことも聞かないで、サイキックソーサーでもなげつけて爆発させても、20匹近くは一気に減らせるのだけど、そういうのじゃないからな。
一番最初は、その集団で一番小さな小黄竜だ。
中竜姫はもしかすると、弱いものから順番に戦わせていって、」俺の実力をみるというのもあるかもしれないな。
まったくもって、計算高いところは魔族のときよりも前からもっているのか。

最初の1匹目は直線できたので、少し横にさけながら護手付き霊波刀で斬る。
2匹目は蛇行しながら空中からくるが、速度は先ほどより遅めだ。
これもかわせないわけではないが、遅いので正面から叩きつけるようにして斬る。
ちょっと、ひのめちゃんとおいかけっこしている、小黄竜とは違うようだな。

小黄竜はどんどん戦術を変えてきて残り4匹となったところで、1回では両断ができなくなった。
体力はともかく霊力は落ちていないから、やはり小黄竜がでてくる順番は、少しずつ強いものをだすようにしているのか。
あと4匹だし、そろそろ体力温存型の戦いはやめるかどうかで、躊躇していたら小黄竜が右腹を掠めた。
そこが少し石化している。
重みはさほど感じないから、ひのめちゃんのと同じく数回程度なら大丈夫なんだろうな。

こうなったら動きまわって、相手に目標を絞らせない作戦でいって、霊波刀を複数回たたきつけるほうがよいだろう。
今までは待ちのタイプでの戦いだったが、1回で斬れないならカウンター型の戦い方は、逆に危ないからな。
なんとかラストの50匹目をサイキックソーサーで防御しながら、霊波刀で3回斬りつけたところで終わった。

「ぷはッ……」

一息ついたところに、

「思ったより時間がかかっているのと、一回石化をされているね」

「ええ。時間はカウンター……後の先の戦いかたをしてたのが1点。それと、石化は残り4匹目のところで、1回できれなくなったので、戦術の変更をするか判断でまよった時にやられました。石化は、俺の油断ですね」

「ふん、面白みの回答をして。まあ、夕食前に風呂でも入ってくるのだな。ここは地脈が集まっているので、霊的な疲れにもきく」

「ここって、男女、混浴ですか?」

「いや? そうじゃないが、未来では混浴が普通なのか?」

「いえ、そういうわけじゃないですが、そういう時代も日本にはありましたので、きいてみただけです」

うん。ひのめちゃんと一緒に入るということには、ならなさそうだ。
中竜姫のは覗いてみたいと思うけれど、今のひのめちゃんを覗いたら、なんとなく勢いでくっついてしまいそうな気もするからな。

風呂にはいったあとの夕食は昼食よりもわびしかったが、夕食を増やすと太るもとだからな。
ちなみに夕食時には酒を、そうはいってもどぶろくだが、ふるまわれていると中竜姫とひのめちゃんは、底が無いように飲んでいる。
そうする、突然発火現象がはじまった。
忘れていたが、ひのめちゃんの飲みすぎた時におこると聞かされていた発火能力の暴走だ。

「ここには、念力発火防止の札はありませんか?」

「そんなのは無い。私の神通力でおさえこむ。しかし、この娘は飲むと、こんなんになるのかい?」

「ごめんなさい。いつのまにか、飲酒の許容量をこえちゃったみたいです。ひっく」

とりあえず、寝させれば収まるらしいので、ひのめちゃんを寝かしつけるというよりは全身石化をさせているし。

「これ大丈夫なんですか?」

「表面だけの石化だから生きていられるし、皮膚呼吸にも問題は無い。さらに霊力も人間のレベルでは、やぶることができない」

「そうですか」

「私が寝るころ様子を見て、だいじょうぶそうなら石化は解いてやるし、まだそうなら明朝までこのままだな」

しかたがないだろうな。
たいして夜中はメドーサの部屋へ夜這いをかけにいったら、部屋の入り口には『横島へ 入ったら殺す』って書いてある。
ひのめちゃん、メドーサに余計な知恵をつけておいたな。


翌朝は、俺はいつもの通りのトレーニングを、修行場である異界空間でおこなっていた。
4月よりは随分と筋肉もついてきたが、まだちょっとこころぼそい。
あまり身体に負担をかけても、身体をいためるだけだからな。
肝心なところで故障していたらどうしようもないから、肉体の強化のメニューは自分の筋肉のつきかたにあわせて、微妙に変化させていっている。

食堂に戻ると、石化をとかれたひのめちゃんも無事におきている。
朝食だが、昨日の朝食なみに豪華だった。
豪華といっても現代の夕食に比べるとそうでもないが、以前この時代にきたときよりも豪華だな。

その朝食の途中で、

「横島の修行内容は今日、再度様子をみてきめるから、こころしてかかれ」

中竜姫にこう声をかけられたが、この時代の修行ってまるっきりわからんぞ。

しかし、中竜姫……将来のメドーサに退却戦を行うための術を教わるために、あらためて修行内容を変更するのか。
けど、将来のメドーサに効くのかね?
それだけでも聞いておきたいけれど朝食時に、

「修行内容は再度様子をみてきめるから、こころしてかかれ」

と言われた時から考え続けた内容だ。

いつもの修行場では、ひのめちゃんを追い掛け回す小黄竜が2匹へ増えている。
ただし、ひのめちゃんも発火で対応しながら逃げているから、丁度良い塩梅だ。
ひのめちゃんには才能があったのに、令子とか美智恵さんはあまやかしていたんだな。
それで、俺の方はというと、シャドウを抜き出す方円と、見たことの無い五芒星を中心に複雑な文字らしき物が書かれた方円がある。

「こっちの方円は影法師(シャドウ)を抜き出すのだすものだとわかります。けれど、こっちの方円は何をするのですか?」

「ああ、その方円は、影法師(シャドウ)の特性を厳密に視るための物さ。それで、対応した術を授けるのをきめる前準備とする」

ふーん。小竜姫さまも知っていてよさそうだけど……

「この方円って未来の修行場では見たことがないのですが、何かあるんですか?」

「ああ、この方円に入ると、苦手な相手がでてくるようになっている。おまえみたいに圧縮・凝縮系なら、広範囲系の術をおよぼす相手とか、あっちの娘だと火だから水を扱う相手とかがでてくる」

「それと戦えと?」

「あまり強い相手ではないから安心しろ。その戦いぶりをみて、どの術をさずけるか見分けるだけだから」

本格的な修行ではないといっても、広範囲系の術を使う相手とは、確かに俺は相性が悪いな。
でてくる相手の傾向がわかっただけでも良いだろう。

「じゃあ、まずはその影法師(シャドウ)がでてくる方円に入りな」

「へい」

「影法師(シャドウ)がでてきたね。その影法師(シャドウ)をもうひとつの方円に入らせな」

俺はそのままシャドウを方円に入らせると、方円のそばにある武闘場には小柄な白虎がでてきた。

「おもしろいね。通常なら圧縮・凝縮系なら土行に属するから、それに強い木行に相当する青竜の系統の、モノノケがでてくるかと思っていたんだけどね。まさか、金行に属する白虎とはね。金行がでてくるとは、土行に強いというよりは、火行に弱いのか。弟子に追い抜かれるのも早いかもな」

中竜姫はひのめちゃんをみながらニヤリと笑う。

「いや、それは現在の話でしょう? それをなんとかするための撤退戦をするんですよね?」

「うん? 一時撤退して、再戦するために戻るんじゃないのかい?」

これもニヤニヤしながら聞いてくる。
霊能力者としての修行の話のはずなのに、あきらかに俺とひのめちゃんの関係をからかっていやがる。

「霊能力での話しですよね? 次は戦うんじゃありませんでしたっけ?」

「苦手な系統といっても霊力の地力が違うから、勝てる相手だろうけど、油断だけはするんじゃないよ」

はい、はい、と思いながら武闘場へ俺のシャドウを白虎と相対する位置に移動させて、金行の特徴と先ほどの広域系の術を使うであろう相手の対応策を考える。
金行はほとんどの物質が扱えるから、攻撃の種類がわからないんだよな。


*****
ヒャクメはメフィストが知っていたので、この時代はすでにいたと解釈しています。
横島の影法師(シャドウ)は霊能力がなかったときも、文珠がだせるようになった時でも一緒なので、そのままとしています。

2011.04.18:初出



[26632] リポート29 時間移動編(その4)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2013/07/09 21:15
金行でただ言えることは、特定のものに偏っていないのと、ひとつひとつの攻撃は重たくはないだろう、ということぐらいだ。

中竜姫から「はじめ!」の声がかかるとともに、俺のシャドウには両手のセンスから、護手付き霊波刀の短いバージョンとサイキックソーサーへ、変化させて突入させていく。
これを白虎もよんでいたのか、霊力のこもった不可視の風の矢を放ちながら、さらに氷の壁をつくって防御をしやがった。
それを超えたところで、白虎からは炎の槍の攻撃がくる。
それをさけられるだけさけながら、あるいは弾きながら追いかけると今度は違う障壁を出される。

なんかひのめちゃんと小黄竜の逆転した感じの、追いかけっこっぽい展開になっている。
多分サイキックソーサーを数枚だせばすぐに終わるんだろうが、これを使うと未来のGS試験で気がつかれる恐れがあるからな。
そうすると、また歴史が微妙に崩れかねない。

令子の血清をとりに行った時にも感じたが、手のうちを見せずに戦うのは、こんなにやりづらいとは思わなかった。
時間がかかりすぎるので、何種類か違う方法をおこなってみようかと思ったら、よく考えると俺のシャドウってあの特性があるじゃないか。
思いついたが吉日、さっそくためしてみる。

霊張術ばかりつかっていたので忘れていたが、俺のシャドウには飛行能力がある。
空中戦をおこなわせればいいだけだ。
先頭時に空を飛ぶものと地に居るものでは、圧倒的に上空にいる方が有利だ。
もうひとつは護手付き霊波刀とサイキックソーサーをセンスにもどして、こいつをサイキックソーサーかわりになげつける。
こいつのセンスもサイキックソーサーのかわりにできたな。
相手の攻撃は簡単にかわせるし障壁も薄いから2枚連続でセンスを投げれば、1枚目で障壁を破壊して2枚目で相手に攻撃をあてる。
このパターンを2回繰り返しただけで、あっけなく終わった。
気がついてみれば、霊力の地力差がもろにでたな。

「以外と時間がかかったね。横島、若いわりに頭の切替が遅いね」

どうせ、中身は27歳だよ。

「それじゃあ、今の白虎の霊力を影法師(シャドウ)に付加させるから、金行の霊能力が上昇して、陰陽五行的に調整されてそれぞれの差が少なくなる。あとは、退却戦用の術だが、横島の特性にあわせた、この術専用の方円をつくらなきゃいけないから、あとは瞑想でもしてな」

出口に向かう途中で思い出したのか、

「あっちの美神とかいうのも、もし追いっかけっこが終わったら、瞑想と伝えておきな」

そう言って、今度は本当にでて行った。
しかし、修行なのに追いかけっこって、ここの中竜姫は、やっぱり魔族の時と性格は近いのかね。



午後、俺は別の異界空間につれてこられた。
この奇神山にも別な異界空間があったんだな。

「さて、本来なら、術を授けるのにも時間がかかるのだが、そのあたりは個人の特性にあわせたこの方円で補助をする。この術は、術というよりも守護鬼神によって、退却を容易にするというものだ」

「式神や眷属ではなくて、守護鬼神なんですか?」

「式神や眷属というのは、出している間中、ある程度以上の霊力を供給しないといけない」

ああ、冥子ちゃんのぷっつんが、まさしくそれだったな。

「なにやら、わかっていそうだな」

「ええ、よく、式神を暴走させていた人が近くにいたことがあったので」

「……それは、ともかく、守護鬼神だと、外にだしてある間は霊力の供給が不要な点だな。圧縮・凝縮系の霊能力者は、安定して霊能力を外部に放出するのは不得意なものが多い。それも時間をかければ可能になるが、長所をいかせなくなる」

そういえば、タイガーと一緒に冥子ちゃんのところから戻れたとき、にそんな話もあったな。

「未来では、守護鬼神ってほとんど聞かないんですけど、何か悪い点でもあるんですか?」

「守護鬼神の性格だな。相性の良い守護鬼神を見つけられればよいが、そうでなければ人間だけでは守護鬼神と安定して契約するのは、無理な場合が多いからであろう」

「そうですか……その他には?」

「霊力の供給だが、守護鬼神の種類によっては、地脈や食事などから霊力の補給源となるが、だいたいは影の中にいる間に護るべき相手から少しずつ霊力を吸収している」

「俺の場合もそんなところですか?」

「霊力は一気には吸われないし、せいぜい、最大霊力も同じ程度なので、負担にはならないはずだ。今から行うのは、火行に対して強い水行にあたる黒竜の卵を呑んでもらう」

「食べるんじゃなくて、呑むんですか?」

「丸呑みだ。そんなに大きくないから普通なら呑めるはずだ」

「守護鬼神の大きさはどれくらいになりますかね?」

「そうだな。横島の霊格からみると私の小黄竜の約半分くらいかな?」

「霊格ですか?」

「そうだ。霊格だ」

そういえば

「俺って、今、霊格のみの隠行をおこなっていますが、先ほどまでの結果とかわりますかね?」

そう言いつつ普段から行っている霊格の隠行をといてみる。

「ちょっと、まった。今までずっと、霊格の隠行をしながら修行していたのか?」

「ええ、霊格の隠行をして、通常の隠行でも完全に霊格を隠せるレベルまでになってから、霊格をあげる修行をしろといわれていたので……」

「そういうのは、最初から言え! 今日の午前中の分からやりなおしだ。他に言うことは無いだろうな」

そうなると文珠のことは話さずにおけなくなったのと、実際にシャドウで文珠をだして使ってみせたが、他のはまあいいだろう。
実際に会うのはいつだかわからないが、文珠も『模』だなんて裏技でも使わない限りは1文字じゃ上級魔族は倒せない。
2文字以上制御できなければ未来での通常のメドーサには効かないだろうと思っているだろうし。
だから未来でも1文字の文殊にはメドーサも油断していたんだよな。

「まさか、こんなのが、文珠使いになるとはね」

「行う内容がかわるんですか?」

「単純なのは魔装術だけど、あんたの場合はすぐに淫魔になりそうだから却下ね」

くそー、気にしていることを。

「あとは霊張術だけど、守護鬼神にもそれなりの能力が必要……」

「……手詰まりですか?」

「私が教えるんだから、霊格を落としてからなんて、そんなまどろっこしい方法はおこなわないよ。さっきの方円で見る限り弱かったのは、火行に対してだが、強いのは土行だから、陰陽五行で考えると全ての霊格をあげないと文珠は精製できない。ただし、さっきの方円からみてみると、他の考え方がある。四神で考えると、その四神を総べるのは中央に位置する土行の黄竜だから、その土行の霊格をあげれば、わざわざ霊格の隠行なんてしなくてもよい」

「じゃ、どうするんですか?」

「ちょっと、まってなさい」

そうすると、中竜姫は、方円の一部を消して書きなおしていた。

「これで、準備はいいわね」

「どうするんですか?」

「まずは、この方円の真ん中にたちなさい」

言われるがままに、立って振り向くと、中竜姫がいる。

「向く方向は、木行の方向なので、こっち」

そういって、中竜姫に方向を変えさせられる。

「あとは、儀式だけど、眼をつむっていなさい」

素直に眼をつむると、口元に感触がというか、舌を入れてきている。
口を離されたので、

「口付けだけなんて殺生な!!」

「これは儀式だ。あとはイットキばかり、この方円内にいれば守護鬼神が現れる。それまでこの場からでるなよ」

こっちでの人生の初めてのディープキスがメドーサかよ。
人生ってさかのぼっても、前とかわらんのか――ッ!!
しかもちょっと気持ちいいのがくやしいぞ!

とはいっても、腹部に何らかの霊体が届いたのは、以前の月と違って流し込まれたのはわかる。
月面の時は、死ぬ代わりに若返ったみたいだが、今回はどうなんだ?

方円での儀式からイットキ、現在でいう2時間ばかり、方円でのんびりとくつろいでいると中竜姫がきた。

「そろそろ、でてきてもいい時間のはずだけどね」

「まさか、お腹を裂いてでてきませんよね?」

「口から出てくるだけだから安心しな。しかし、お腹を裂いてでてくるってどんな発想だい?」

いや、月面の時にメドーサのせいで、そうなりかけたんだけどさ。

「未来での娯楽では、そういうふうにみえるものがあったんですよ」

「物騒な未来だね」

「どちらかというと、魑魅魍魎がいる今の平安京よりは安全だと思いますよ」

なんせ、3日間で令子は荒稼ぎしていたもんな。
なんか、胃からこみあげる

「ぶっ……おげえええッ!!」

俺の口の中から小黄竜ではなくてビッグ・イーターもどきがでてきた。
ビッグ・イーターと似ているが、かなり細くて小ぶりなのと、目玉が2つに歯並びがきれいなところが違うくらいか?
どちらかというと手足がないからヘビっぽいな。

「うまく地竜が産まれたみたいだね」

「うまくって、うまくいかないこともあったんかい」

「男性なら細かいことは気にしない」

「こっちは少年だ」

「少年? みたところ16,7歳ぐらいだけどね」

「ああ、未来での成人……元服に相当するのは20歳なんだよ」

俺はエセ少年だけどな。

「それじゃ、あっちの娘も、まだ結婚適齢期にもいたっていないというのかい?」

「そうだけど」

「……」

中竜姫はショックを受けているようだ。



ショックに呆けている中竜姫をみていると思わず

「俺が何しよーがおかまいなしっスね!?」

そういいつつ飛び掛っていくと

「かまうわいっ! この横島!」

あー、声をださなきゃ、あのちちを堪能できたのかもしれないのに、俺ってやつはー

「あ…こほん。こんなところで説明を、途切らすわけにはいかないね」

「そうだった」

一応真面目なふりだけはしておく。

「それで、これは地竜で、巻き付く力が強く、能力は石化をもっている。地に特化しているから空を飛ぶ能力は弱いかね。けれども再生能力は高いから、いくら斬られても中々死ぬことはないので、退却戦で最後方にいさせるには格好の守護鬼神といえよう」

「うーん。なんかそういうのって、使い捨ての道具みたいであまり好きじゃないんだけど」

「あくまで一般例をだしたけど、あとは、おまえの育て方や使役の使方しだいさ」

「……それで、肝心の文珠ですけど、この地竜が霊張術をおこなってもらうのですか?」

「ああ、霊格ね。それは、この地竜を着るというか、丸呑みされるとその間中は、地竜が服のようになって、その間はおまえの霊格があがる」

「霊張術と同じで時間制限つきっすね」

「まあ、そうだね。その方法で地竜を使うと、地竜が外で動ける時間は短くなるから気をつけるんだね。そしてその地竜だが、食事は地脈から栄養もとれるし、それができなければ人間と同じくらいの量の食事を与えれば、だいたいはいいだろう」

ああ、なんか、扶養家族が増えた感じだな。扶養家族といえば

「この地竜ですけど、人間にばけるとかしないんですか?」

「そこまで高等な竜族じゃないからね」

これ以上、おふくろにややこしい説明しなくてほっとするやら、若いバージョンのメドーサがでてこないのが残念なことやら。

「それじゃ、基本的な説明は終わったから、早速、地竜と協同での修行をおこなうんだね」

「少し一緒にいて、なれるというのは無しですか?」

「おまえらは、未来にはやくもどりたいのだろ? そうならば、ここで、基本的な技術の収録と応用についての方法論だけはおぼえておかないといけないね。どうも、未来でこの方法を教えていないようだから」

うーん。たしかに小竜姫さまって、竜族としてはまだ修行中の身らしいから、ここまでいたっていないのかもしれないな。

「はい。わかりました。あらためてよろしくお願いします」



そうして修行を続けて1週間あまりした時に、待ちに待ったヒャクメはきたが、俺の知っているヒャクメよりも少し大人っぽい。
おや? っと思ったところで、

「そんなにかまえなくてもいいわよ。心の中まで読まないからね」

「へっ?」

「この神族について何か知っているんですか? 横島さん」

「ふむ。俺の知っている妙神山にきてたヒャクメは好奇心旺盛だったから、よく俺の心の中をのぞいていたんだよ」

夏休みの妙神山での修行後半は特にだれもきていなかったが、そういうことにしておこう。
それにこの、ヒャクメに心を覗かれている感じもしないしな。

「あなたたちって、約1100年後からきたっていう話だったわよね」

「ええ、今が延喜(えんぎ)4年というと西暦でいう904年なので、西暦1997年からきた俺たちからいうとそれぐらいです」

「そうすると、私の孫ぐらいなのね~。便宜上、ヒャクメで通しているけれど、私が12代ヒャクメだから、14代目ぐらいかしらね」

「もしかすると、失礼かもしれませんが、妖怪の百目鬼(どうめき)と何か関係するんですか?」

「そうね。親戚にあたるのよ。けど、わたしたちヒャクメ族は神族を代々ついでいるから、若いうちは興味がつきないのよ」

「もういいです。なんか、その話し方で、未来のヒャクメと同じだってなんとなくわかってきましたので」

「それで未来へ戻すのに、正確な座標を知りたいのだけど、やっぱり一度はついていかないといけないわね。あなたたちの時代に行くのは誰かを座標にしないといけないの。けれど、こっちに戻ってくるときには自分でわかるのよ」

「じゃあ、ひのめちゃん。1997年8月29日の金曜日の正午の食事の時間で、自分のイメージしやすいところを思いうかべるといいと思うよ。それでいいですよね? ヒャクメ」

「一応、これでも神様なのに呼び捨てなのね~」

ああ、以前からの呼び方が。

「けど、それだけ友だちになってくれているんでしょうから、孫にも将来きいてみるのね」

俺は思考を読まれないように霊力で防御しながら、ふー。あぶなかった。今は、まだヒャクメにあっていないからな。

「それで、イメージはできたかな? ひのめちゃん?」

「はい。これでいいと思います」

「じゃあ、今から3人でいくのね」

へー、ヒャクメ専用のカバンも無しで時間移動の能力をつかえるって、すごいんだな。
そして、現代についたのは、俺の知らない比較的高級そうなマンションの1室だった。

「ひのめちゃん。ここでいいのね?」

「日時さえあっていれば、ここでだいじょうぶです」

「日時だけ、念のため確認させてもらおう」

「私には間違いは、ないはずなのね~」

この時代のヒャクメを知っているだけにちょっと不安だったが、丁度、ひのめちゃんのイメージ通りの日時と場所らしい。

「じゃあ、現代で会えたらまた会いましょうね」

なんか不吉なことをいわれた気分だが、

「はい。ありがとうございました」

「それから、ひのめちゃんの霊力はもうほとんど残らないから、今日は無理しないことなのねー」

そう言って、ひのめちゃんの時間移動の際に発生する時空震のポイントをヒャクメ自身にあわせて帰って行った。
まあ、あの調子なら多分、無事に戻ったのだろう。

「過去にもどる前の時間にきたわけだが、時間移動をとめるのは、しない方がいいから時間移動した直後に現場に現れるようにしよう」

「そうですね。横島さん」

そうして、夏休み最後の仕事となる冥子ちゃんとの分室としての初仕事の現場にいくことにした。
遠くからみていると、俺たちと、冥子ちゃんや、クライアントとは名ばかりの六道家の下請けの担当者がいる。
遠くからでもわかる時空震をキャッチしたので、すぐさま現場であるマンションに駆け寄って、

「冥子ちゃん、だいじょうぶ?」

「あれ~、横島さんとひのめちゃんが~、いきなり消えてこまってたのよ~」

半べそをかき始めていたところだったようで、目に涙をうかべ初めていたが、なんとかぎりぎりでぷっつんはなくなったようだ。

「なんか、電撃をうけるとひのめちゃんが瞬間移動をしちゃったようなんだ」

「メキラちゃんみたいのかしら~?」

「トラのメキラと似たものだと思うよ。これで、ひのめちゃんの霊力が使いはたされちゃったっぽいので、このマンションからはやくでよう」

「そうよね~」

なんとかごまかしきれたようだ。
翌日は、予定よりも早く午前中から除霊作業に入って、残りの霊も少なくあっさりと除霊は終わった。
浄化の札は、冥子ちゃんが使えないから、ひのめちゃんと俺とで貼っていく。
こうして冥子ちゃんとことの、初めての協同除霊は無事に終わった。
一応2日間の予定が、こちらの感覚的には過去へとんでいるから10日間だもんな。

冥子ちゃんとの2日目の除霊を早くしたのは、ひのめちゃんの時間移動を小竜姫さまに封印してもらうためだが、妙神山でも一騒動があったんだよ。


*****
守護鬼神はGS美神’78でちらっと言葉だけでてきます。
この中での守護鬼神の話はオリ設定となります。
ヒャクメはヒャクメ族ということで代々神族をつづけているということにしました。

2011.04.19:初出



[26632] リポート30 封印なのねー
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/08 19:23
俺が覚えていたのは、小竜姫さまに令子の時間移動を封印してもらったことだ。
今回もひのめちゃんの時間移動を、封印してくれるだろうと妙神山へむかう。

「横島さん。本当に妙神山で、この時間移動の能力を封印してくれるのかしら?」

ひのめちゃんは、発火能力を封印しきれなかったトラウマでもあるのか心配そうだ。

「うん。小竜姫さま自身では無理かもしれないけれど、そういうことをしてくれる神族は紹介してくれるはずだよ」

「それで、覚えていますか?」

うーん。ひのめちゃんの前世の記憶も封印したいけど、それもちょっとな~

「前世と、現在の自分は異なるということをまず自覚しよう。その上できちんと自分の気持ちを整理するのがいいと思うよ。見知らない世界へいったということで、つり橋効果ならそのままつきあっても別れることも多いと聞くし」

ひのめちゃんは確かに美少女で亜麻色の髪の毛もよくにあうんだけど、やっぱり10歳のひのめちゃんを思いうかべちゃうんだよな。

「横島さんがそういうなら、もう少しまちますけど、きっと私の気持ちは変わらない!!」

「私、そういう人がいなかったから、うらやましい」

おキヌちゃん、そういう天然のつっこみはやめてほしいぞ。
それにしてもひのめちゃんって、なんかこういうところは令子を思い出すな。
美智恵さんも、こんな感じのところがあったっけ。
これだけの美少女に思われているというのはうれしいけれど、耳元でサイレンがなっているのは気のせいだと思いたいな。
実際のところ、ひのめちゃんが本気かどうかというのは、地竜をつかった竜装術によってためた、文珠を使えば『判』るんだけど、そういう問題じゃないしな。

そうして、妙神山のふもとの町について、向かうは妙神山の修行場。
俺とおキヌちゃんなら、裏通りは教えてもらったから、そっちを通ればいいけれど、ひのめちゃんは初めてだから、修行者用のコースをいかないとな。
とはいっても、ゆるい坂道は徒歩で、急で狭い道になったら、俺のサイキック炎の狐で移動するから、いいんだけどね。
一応、ひのめちゃん用にも、サイキック炎の狐を用意したので2本をコントロールしながら、修行場に向かう。
一本だと、なんとなく、身の危険を感じるのは気のせいじゃないだろう。

修行場の入り口には鬼門たちが顔と、身体をわけて立っている。
多分、今のひのめちゃんでも、通過できるとは思うが、今回は修行ではなくて、時間移動の封印を頼むだけだからな。

「やあ、左右の鬼門たち。今日は小竜姫さまに相談があるので、通してもらえないかな?」

「たしか横島とキヌといったな。その女性と横島の影にいるのが相談相手か?」

へぇ、俺の影に入った地竜を感じとれるんだ。
俺は地竜を影からだして、

「こいつは、俺の守護鬼神。それで相談があるのはこの娘で美神ひのめちゃん」

「よろしくお願いします。鬼門さまたち」

「おお、この前は横島に忘れられていたのに、今回は出番が多いぞ」

いや、これで終わりだから。
門があいて、

「あら、いらっしゃい。横島さんにおキヌちゃん。それと、そちらの方は? ……それに地竜!?」

「こちらの娘は美神ひのめちゃんで、1ヶ月ほど前にきた美神令子さんの妹にあたります。この娘のことで、相談にのっていただきたいことがあります。それから、この地竜は俺の守護鬼神になります」

「守護鬼神……まあ、いいでしょう。それで、その美神ひのめさんというのは、修行ではないのですね?」

「ええ、ちょっと特殊な能力に目覚めてしまったので、それについて相談をさせていただきたいのです」

「ここの修行を受けた者に対して、ここの門は閉ざすことはありません。そのつきそいということであるならば、よろしいでしょう」

「ありがとうございます。小竜姫さま」

「では、奥に入って、その相談とやらを聞きましょう」

鬼門たちをあっさりパスして通過していく。

「それで、相談というのはどのようなことでしょう?」

「このひのめちゃんなんですが、時間移動の能力に目覚めたのです。しかし、自分の意思でコントロールできないんだそうです」

「はい。未熟なもので、この能力を扱いきれません」

「なので、この能力を封印できる方を紹介いただきたくてまいりました」

「そういうことですか。それぐらいなら私でもできます」

あー、よかった。ここらあたりの能力はやっぱりかわっていなかったんだな。

「時間移動の能力は、異界空間にておこないましょう。それよりも、横島さん!!」

「はい、何でしょうか?」

「霊格の隠行が完了する前に、霊格をあげる修行をはじめましたね?」

「あー、これはちょっと、事情がありまして……ひのめちゃんと一緒に1100年前に時間移動をしたんですよ。それで奇神山で修行するはめになったのをきっかけに、この地竜を使った竜装術を授けてもらったんです」

小竜姫さまは、俺が初めてみるにがにがしげな顔をして、

「竜装術は禁術なのです。地竜はよいとして、その竜装術も封印します」

「えっ? どうして禁術なんですか?」

「そうですね。禁術となったのは7,800年前ぐらいですから、1100年前ならしかたがないでしょう。竜装術は人間が竜族になってしまう術のひとつだとわかったので、禁術となったのです」

「聞いてはいなかったですがそれくらいなら、神話の時代によくあった話じゃないんですか?」

ちょっと、気軽な感じできいてみたが

「竜装術の場合、竜族となった場合の霊力レベルが低すぎるのです。また、竜装術をとけなくしてしまう術もあることがわかりましたので、この術は現在では禁術になったのです」

「竜装術がとけなくなると、どうなるのですか?」

「基本的には人間の霊力を全て吸収してしまって、死亡します。霊力を吸収されないような条件がそろっていても、竜族としては霊力も低く、竜族から見ても、人間からみても中途半端な状態になります」

「っということは?」

「横島さんにとって多分重要なことだと思いますが、まず、異性にもてません」

それは、嫌だー

「そうですよ。だから言っていましたよね。ヘビ男みたいだって。横島さん」

ひのめちゃんまで追い討ちをかけるのか。しかし、この横島ただではおきぬぞ。

「いえ、中竜姫さまは気に入っていましたよ?」

「中竜姫ですか……その名前は、この妙神山では使わないで下さい。今はメドーサです。横島さんも、メドーサの若いころだとわかっていたのでしょう?」

「ええ、たしかにそうですが、まだ竜神でしたし、未来のことは必要最小限しか知らせていなかったので、問題はないかと思っていたのですが」

「横島さんは、メドーサとさけんでしまった私をかばってくれたんです。そんなにせめないでください」

「確かに、竜神の地位にいたころはそうですが、今は今です。このあとは、その竜神としての名を、この妙神山で使用することは禁じます。それをまもれないのであれば、妙神山修行場はその者に対して門を閉ざすでしょう」

いったいメドーサが何をしたのかは気にかかるがあまりの小竜姫さまの迫力に、

「はい。わかりました」

「ええ。わたしも」

おキヌちゃんはだまって首を縦にふるばかりだ。

「それでは、簡単な方である横島さんの竜装術を、使用できなくなるようにいたしましょう」

小竜姫さまから聞きなれない言語を数語聞いただけで終わった。

「竜装術はこれで禁じられました。もうよいですよ、横島さん」

「えっ? たったこれだけなんですか?」

「そうです。竜装術はある意味中間に位置する術で、禁じるのも術の行使しつづけさせるのも簡単なのです。それゆえに相手となる者がこの呪文を知っていた場合には非常に弱みとなりますので、この術は禁術となったのです」

まあ、ひのめちゃんから「ヘビ男」の称号をもらったときは確かにあまりいい感じはしなかったもんな。

「それでは、美神ひのめさんでしたね。あなたの時間移動の能力を封じるのに、異界空間に移動しましょう」

そういって小竜姫さまが移動をはじめたのでついていったが、案の定、例の修行場の入り口でひのめちゃんが

「なんで、銭湯なの?」

「神様のやることを深く考えたら人間やってられなくなるから、気にしない方がいいよ」

いつもの修行をしていた異界空間に、新たな方円がさくっとつくられる。
この空間の特性なのかね。
無事、ひのめちゃんの時間移動の能力も封じてもらうこともできたが、すでに日もかなり傾いている。

「今日は、お泊りになりませんか?」

小竜姫さまからのお誘いを断るつもりなんて、俺にはさらさら無い。

「すみませんが、よろしくお願いします」

ちなみに、小竜姫さまのそばによって小声で「念力発火封印のお札はありますか?」とたずねると「ありますよ」っとにっこりと微笑みをかえされる。
令子が修行にきていたときの話を覚えていたのだろう。
ここでお札がおいてあるのを見た覚えは無いからな。

それで、夕食は、また酒宴まじりになったが、今日はひのめちゃんの発火については安心だ。

霊格の修行については小竜姫さまから多少のお小言をいわれたが、まあ酒の中での軽い話だ。
明日になったら、真面目な話はされるかもしれないが、今を楽しもう。
すでにここでのお神酒の飲酒量の感覚はつかんでいるので、二日酔いも無しでいつもの朝の修行にはげんでいる。

それで、朝食の為に、いつもの食堂にいると、以前見かけた美少女と、昔は美女だった思われる美少女の祖母らしき神族がいた。
おい、なんでヒャクメがいるんだよ?

朝食の為に食堂に入ると、ヒャクメがヒャクメの祖母らしき神族は、

「やっぱり見覚えがないわ」

「そうなのね~ 私がこの時代に送ったのはこの子たちなのね~」

その語尾って歳をとってもなおらないんだな。
けど、俺の夏休みの修行中の話と食い違うのがまずい。
今のところ心の中を覗かれている感じはしないから、ヒャクメがいつのぞいてくるかわからんぞ。
そう思っていると

「私も知りたいですね」

小竜姫さままで言ってくる。
奇神山で修行をしたのを気にいらないのか?
味方になるはずのおキヌちゃんも

「わたしも、そのヒャクメ様にお会いした覚えがないんですけど」

はっきり言えば四面楚歌だ。
ヒャクメが相手なら、ヒャクメを意識した『煩悩全開』でなんとかなりそうだ。
しかし、このヒャクメの祖母だろう神族には煩悩はさすがにわかないし、霊格も高く下手をすれば小竜姫さまより霊格が高くないか?
俺はある理由から、半分目的は達せられ無いだろうと思っていたが、このような形ではなと思いつつ、

「わかりました。俺の心の中を視るのですね?」

「残念ながらそうなるわね」

「できたらプライベートなことは覗かないか、見えてしまったとしても口外しないでいただけないでしょうか」

「それは普通なのよね。この孫が、実際にできるかわからないから私がおこなうのね」

「私だってそれくらいできるのね」

その言葉は信用できないぞ。
俺の秘蔵の令子の半裸写真を隠していたのを、とっととだした初対面はわすれないぞ。

「ああ、そういうことはもらさないのね。だから安心してよね」

『思っていることがばれるけどだまっていてくれるってことでよい?』

そうヒャクメの祖母をイメージして頭の中に思い描くと

「そうなのね~ だから安心してね」

まあ、ヒャクメも調査官としてはそれなりに優秀なのは知っていたつもりだが、口が軽いところがあるからな。

「そうなのね~ 困っているのよね」

下手のことも考えられないので、なるべく無心でいるようにしよう。
そうすると、

「それがいいのね」

「なんか横島さんとヒャクメ様とで、会話がなりたってみたいですね?」

「そうなのよね。私も虫メガネがあれば、会話にはいれるのにね」

ヒャクメの祖母が、虫メガネをもって俺をのぞいているは仕方ないが、どう判断するだろうな。

「うーん。こまったのね」

「えっ? ヒャクメのお婆さまが困るようなことなんて、そんなにないはずなのに」

「斉天大聖老師はいないのかね」

「現在は天界にいっていますが、老師と話さないといけないような内容なのですか?」

「もしかすると、斉天大聖老師でも困るかもなのね~」

ほぼ、俺のいた未来を読み取られたと思ってよさそうだな。
過去に行った時のアシュタロスの様子から、ルシオラが同じように現れる可能性はかなり低くなったと思ったが、こうなるとはな。

「斉天大聖老師でも困るとなると、竜神王様とご相談ですか?」

「いえ、最高指導者に報告しないといけない、レベルの問題しれないかもしれないなのね~」

「なんで一介の人間が?」

うー、小竜姫さまでも。今の俺って普通の人間の一人なんですね。

「そんなことは気にしなくていいのね」

「いえ、なぐさめていただかなくてもいいですよ。12代ヒャクメ様」

「あら、覚えていてくれていたのね」

「この横島、好みの美人は忘れません」

おキヌちゃんはまたはじまっているというふうだが、おさまらないのはひのめちゃんで、

「そんなお婆さまが、横島さんの趣味だったんですか。それなら私の方をむいてくれなくても無理はありませんよね」

あー、そういうわけじゃないんだが、だからといって下手な説明は変な方向にいきそうだし、

「私と別れたのは、横島殿にとっては2日前のことなのね~。だから今の私のことじゃないのよね」

「だからプライベートなことは話さないで下さい!!」

「ごめんなさいなのね~。けれども困ったように見えていたのよね」

たしかにその通りなんだけど

「いえ、こういうのはやっぱり、自分から、相談させてもらったときはともかく、そうでなければやはりひかえていただけますと……」

「ちょっと、余計なことをしちゃったわね」

「それで、最高指導者へ報告ということは私にも話せないことなのですね?」

「そうなのね~。けれど、それを除いたら普通に接していていいことなのね~」

「私も知りたいのね」

「あなたは口が軽いからだめなのね~」

口が軽いのもあるけれど、小竜姫さまの生写真をとったりできるのはヒャクメぐらいだろうしな。

「そんなこともあったら、なおさら孫に話すわけにはいかないのね」

「えっ? なに? 私のかかわらないところで勝手に話をすすめないでほしいのね」

うーん。小竜姫さまに知られたら、単なるセッカンですまない気がするぞ。

「そういうわけなのね~ だから、今日はこのまま帰ることにするのね。けれど、孫と仲良くしてくれそうなこともわかったからいいことなのね~」

「えっ? この人間と?」

「そうなのね~ あなたの特徴を知っても、はなれていかないのよね」

確かに口が軽い面もあるけれど、俺の知っているヒャクメは本当に重要な心の中のことはまわりに言わなかったもんな。

「そういうことなのね~」

っというか、ヒャクメのお婆さまの方が、口が軽すぎますよ。

「ごめんなさいなのね~。ついつい珍しいタイプの人物のことを知ったからうれしくなっちゃったのね。これからも孫と仲良くしてあげてほしいのね」

「お婆さま、私あったばかりなのねー」

「俺はOKっすよ。美少女だし、面白い話もきかせてくれるし。ちょっと困った面もありますけどね」

「困った面ってなんなのねー。第一私が知らない人がなんで私のことを知っているのね」

ヒャクメがパニックに陥りかけてるな。

「ヒャクメに心の中を覗かれて、その内容を話されたことと同じじゃないかな?」

「そういうことなのね~。だからあまり他人の心の中を覗いても、そのことはしゃべらないことなのね~」

まあ、ヒャクメ族の神族としての生き方なんだろうな。

お婆さまである12代ヒャクメは、さもそのとおりだというばかりにクビをたてにふっている。

「じゃあ、要件は済んだから帰るのね」

「朝食はとっていかれないんですか?」

「私たちに朝食をとる習慣は無いから大丈夫なのね~」

そういえば、ヒャクメもお神酒派だったから夜にお神酒を飲むだけだったよな。


*****
そう簡単に横島へ文珠を大量にあたえるつもりはありません。
今のところ、今後お婆さまのヒャクメは登場する予定はないけれど、最後くらいはでてくるかな?

2011.04.20:初出



[26632] リポート31 夏休みも終わりとなれば
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2013/07/15 14:15
ヒャクメと、ヒャクメのお婆さまは天界にもどっていったが、朝食で小竜姫さまとひのめちゃんは、ちょっとだまりぎみだ。
おキヌちゃんは、ここにいるけれど、食事はしないからなぁ。
ちょっと、雰囲気はよくないが、まあ、俺の今後の修行の方針もきかないとな。

「小竜姫さま。お聞きしたいことがあるんですが」

「なんですか?」

「俺ってこの地竜をつれていますが、今後の修行ってどうしたらよいですか?」

「霊格の隠行は今まで通りに続けてください。霊格はあがってしまったようですが、まだ、横島さんの思っている霊能力には、いたらないでしょう」

「わかりました。思ったよりも、霊格の隠行もうまくすすんでいるので、もうひとふんばりしてみます」

「横島さん。思っている霊能力って何ですか?」

ひのめちゃんが興味深げに聞いてくる。
うーん。未来が変わっていくことは見えはじめたけれど、どうするかな。

「今度の金曜日に、分室で話すかどうかきめておくよ。この世界での最高指導者に、相談しなきゃいけないレベルの話らしいから」

「この世界?」

まずい。

「いや、日本だけでなくて、この前の香港みたいな例もあるだろう? そういうのもあるから、簡単に話すかどうかはきめられないんだよ」

「そうしたら、横島さんの弟子に話す前に、師匠である私に相談するのが筋ですよね」

ああ、小竜姫さまの逆鱗にふれかかっているかな。

「まずは、小竜姫さまに相談するべきか、きめてからそのあとにひのめちゃんへ話します」

多分、話すとなったら小竜姫さまよりも老師に相談するべき内容なんだろうけどな。

それで、帰る段になって、ひのめちゃんが、鬼門の試しを受けるという。
順番は逆だけど、鬼門たちが受けるというからいいのだろう。

俺は、ひのめちゃんに一言アドバイスをする。

結果は、左右の鬼門の顔面に連続の発火をしかけたうえに、目がみえていない鬼門の身体たちは右往左往している。
平安時代でのおいかけっこという修行は、無駄ではなかったんだな。

その顔面にひのめちゃんの火竜が、それぞれはなたれたのだから、鬼族といってもただではすまない。
アドバイスというのは顔面を狙うことなんだけど、鬼門は焼けただれた顔をしながら

「次回よりこの門を通過することを許可しよう」

そういう鬼門の顔に威厳は、全くといっていいほどなかったな。

しかし、ひのめちゃんの火竜の威力が、GS試験の頃よりもあがっているな。
やはり、俺と同じく霊的成長期なんだろうか?

ヒャクメのお婆さまに俺の過去となった未来と、多分、俺が推測した未来を知られたからには、変化があらわれるだろうが、なるようにしかならないか。

まあ、今日は仕事もいれていないし、詳細な報告は来週でいいと院雅さんに言われたので、俺は別な地獄と対峙している。
それは、夏休みの宿題という名の地獄だ。

さて5日分ぐらいは残っているが10年以上前のことなんか、覚えているわけは無いしどうしようか。

夏休みの宿題が、あと5日分ぐらい残っているのを、すっかり忘れていました。
ひのめちゃんは違う高校だし、この時間から頼めるとしたらやっぱり、

「愛子、あんみつ5杯でお願いが」

そう。机妖怪の愛子を頼ることだ。
以前の過去でも3年生への進級の時にたのんだけれど、高校1年生の夏休みからお願いすることになるとはな。

「横島くん、おひさしぶりね。この時期にくるってことは、宿題が終わってないの?」

おキヌちゃんから、

「そうみたいなんです」

うー、先に言われた。

「実は、あと5日分ばかりぐらい残っているんで、愛子の中の学校で宿題をさせてくれないかなーっと」

俺の通っている学校はそんなに厳しくはないから、多少宿題の提出が遅れてもだいじょうぶだけど、

「こういうのは、そういうずるはしないで、徹夜でもしてがんばるべきよ。それが青春よね」

青春の方向がちがっていたか、ちきしょー。

「どうしても駄目?」

俺の目はチワワのようになっていたかもしれないが、

「勉強は真面目に行うものよ。だから、横島くんのお家で特訓ね」

訂正。俺の勘違いでした。愛子の青春の方向が俺の思っているのと、さらにずれているようだ。
夏休みの間は、一度も高校にこなかったもんな。
おキヌちゃんはたまに、愛子に会いに来ていたみたいだけど。

「うん。それでお願いするよ。ちなみに、今度の新しいアパートはきちんと別室があるから安心して、おキヌちゃんと寝てくれて問題ないよ」

「あら。新しいアパート見たいのに、気がつかれちゃった?」

やっぱり、こっちだったったか。

「そういうわけじゃないけれどね。ちなみに、新しい妖怪が増えたからね」

「妖怪をまた保護したの?」

「正確には、俺の守護鬼神で、こいつだよ」

そういって、地竜を影から出す。

「ほれ、あいさつしてごらん。里目(さとめ)」

この地竜には里目という名をつけてやった。メドーサと反対の性格になってほしいなと、逆さにならべただけなんだけどさ。
里目は影から垂直に上昇して、器用にクビらしき部分だけを前にたおしている。

「私は、愛子。よろしくね」

里目は話せさないから、それ以上については愛子もあまり興味をしめさないし、また影にもどってもらう。

アパートでは、俺一人で夏休みの残りの宿題をしている。
なんか愛子が夜食用の材料まで用意するのに、商店街に行っている。
本気で徹夜をさせるんじゃないだろうな。


そんな心配とは別に夕食の準備まではおキヌちゃんと愛子は一緒にいたが、夕食後の宿題の時間は、愛子は俺のなやんでいるところでヒントをくれるが、

「ヒントだけじゃなくて、答えを直接ってのはダメ?」

「そうしたら、私が行うのとかわらないでしょう。それにヒントをちょっとばかり教えてあげたら、すぐに解けているでしょう?」

実際、愛子のヒントが適切で、俺の忘れていた記憶からうまく引き出してくれる。

「そうだね。がんばります」

おキヌちゃんは、愛子直伝の夜食を作って、夜中までの宿題の休憩に用意をしてくれる。
リビングには、

『栄養バランスに気をつけよう』
『貴女にもできる簡単クッキング』
『受験生のための夜食の作り方』

などの本が増えているが、おキヌちゃんは味を感じられないからな。



翌朝はおキヌちゃん、愛子と一緒に高校へ登校したが夏休み前の、

「横島が2人も美人をつれている」

「こんちくしょう」

「まぜ俺はあれを邪魔できないんだ」

「一見幸福そうだけど、幸福そうにみえないのはなぜ?」

なんて状況だったのに比べると、今は単なる『日常の怪異現象』ですまされたらしい。
どうせ、俺自身はエセ少年で、怪異現象の元ともいえるから否定できないんだよな。

家の方では、宿題の方は俺の予測よりはやく3日も途中で終わった。

「じゃあ、あんみつは言った通りに5杯分な」

「えっ? 3日分でいいわよ。だって、夜、おキヌちゃんと話したりもできて楽しかったし。これも青春よね」

あい、そうですか。夏休み前のときと違って、愛子もおキヌちゃんと夜会えるのを楽しみにしているんだな。

「そういう理由ならわかった。3杯分な」

「うん。ありがとう」

「いや、こちらこそ助かっているからね。ところで、愛子って困っていることはないか?」

「私は、学校妖怪だから、学校で皆と一緒に勉強できるだけでいいのよ」

「けれど、土日とか、この夏休みみたいに休みが続く時って、そんなに皆も一緒にいないだろう?」

「そうなのよね」

「それで、おキヌちゃんなんだけどね。全部の除霊の現場にはつれていきたくは無いんだ。だから、そういう時に一緒にいてくれるなら、その分をアルバイト料だしてもきてほしいんだけど」

おキヌちゃんは、ちょっと困り気味だろうけれど、おキヌちゃんにも色々とおこなってもらっているから、だすものはださなきゃいけないんだよな。

「おキヌちゃんは家政婦みたいなことをしてくれているから、今まではあいまいにしていたけれど、その分の給金をきちんと払って行くから」

愛子は、俺の真意を気がついてくれるかな?

「ちょっと、隣の部屋で話してもいいかしら?」

「ああ」

これは気がついてくれたんだろう。
隣の部屋、つまり俺の私室になるんだけど

「もしかして、私にお小遣いをくれようとしているの?」

「うん。はっきりと言えばそうなんだ。ただ、愛子が俺の保護妖怪といっても何もしていないで、俺からお小遣いをもらうのって気がひけているんじゃないかなって思ってさ。余計なお世話だったかな?」

「ううん。夏休み前になってきてたら、皆も色々と校外へ誘ってくれるけれど、お小遣いがなくて断っていたのもあるから助かるわ。けれど、本当にいいの?」

「そのために、おキヌちゃんをだしにしちゃったんだけど、おキヌちゃんを一部の除霊には連れて行ってもよいのだけど、全部に連れて行きたくない、というのは本当だからね。同じく保護をしているのに、おキヌちゃんには家政婦かわりにお金をだして、愛子には何もさせないで、お小遣いを渡すっていうのもなんか世間体があるからね」

「理由がこじつけっぽいけれど、本当にいいの?」

「いいよ。俺の家庭教師っていう線も考えたけれど、また、学校の男どもがさわぎたてそうだからな。その点、おキヌちゃんのためにくるというのならあいつらも寛容だから」

「気にしていないように見えて、気にしていたのね。横島くん」

「……うん。まあね」

具体的な金額はともかく、基本的に土日はおキヌちゃんと愛子には一緒にいてもらうことになった。
実際のところ、除霊がなければ、俺も1階下にいるだけだから、あまり離れているっていう感じもしないんだけどさ。
おキヌちゃんの件は、俺の身勝手も若干あるかもしれないが、文珠の『浄』で成仏してしまう可能性もあるし、ネクロマンサーのネズミのと鉢合わせしたら危ないしな。
逆に、ネクロマンサーとしての資質の遠因を遠ざけてしまうかもしれないが、GSの除霊方法では悪霊達が苦しむので、それをあまり見せたくないってところだ。



日常はかさねがさね無事に学校生活を歩みだしたが、この金曜日の夕方からGSとしての本格的な活動に入る。
金曜日は、俺は院雅所霊事務所の院雅さんのところへ、出向くことになっている。
ここでは院雅さんはもちろんのこと、院雅さんの新しいGS助手になるユリ子ちゃんがいる。
分室側は俺と、俺がみるGS見習いひのめちゃんも一緒にあつまって、今度の金曜日までのスケジュールの確認だ。
院雅さんは月曜から木曜日までは外にでるのは、結界札のメンテナンスで動くのを基本にしている。
除霊は金曜日の晩から日曜の晩をメインに除霊をしているのは、学生の助手なら普通よりは安く雇えるかららしい。
それゆえに危険な仕事はさける癖もあるのだろう。

まあ、俺が所属する分室も、基本は金曜日の晩から日曜の晩しか動かないようにしている。
土曜日の晩がひのめちゃん用のGS見習いの研修用にしているのだが、今週は今晩だけ本番の仕事をいれて、この週末はまた妙神山だ。
先週の仕事でひのめちゃんは、総合霊力レベルBで悪霊は霊力レベルDを5体退治したから、マイナス分を換算しなおしたら3体相当かな。
ここらあたりは、過去の奇神山で修行したし、妙神山の鬼門の試しを越えられる霊能力もあるから、普通よりは早いペースでGS見習いからGSになれるだろうとは思う。
しかし、基本的には分室では単体の悪霊の除霊が中心になるから、俺のときよりGS見習いからGSにあがるのは遅いだろうな。

霊力レベルBの仕事をつづけていけば、霊力レベルAの仕事も受けられるだろう。
すでに事務所全体としては、受けられるようになっても、おかしくは無い体制にはなっている。
あとは院雅さんのこころづもりひとつなのだが、やっぱり未来を知ってやる気になったけれど、気がかわったのかな。
ちょっと、どこかで話せる機会をつくらないといけないな。

それで今晩の仕事は、分室でのメインの仕事は俺が主に動いて、ひのめちゃんは見学で、万が一自分の方にきたらそれを対処するっていうものだ。
実際のオフィスにいってみると悪霊はいるが、それがまねきよせた霊などはいない。
悪霊は話し合いが不可能なレベルなので離れたところから、サイキックソーサーを一発なげてお終い。
非常に簡単っというか、他の平均的なGSが聞いたらおこるだろうな。
しかし、令子と一緒にいた時なんて、こんな低いレベルは1日に数件受けるとかいう無茶をするとき以外、まず受けなかったからな。
それで今日は解散ということで、方向が違うので2台のタクシーを使って帰る。
必要な金額は封筒に渡しておき、

「領収書だけはもらい忘れの無い様にね」

「はい。じゃあ、明日は妙神山ですね」

「そう。だから○×○×駅内の2号車の入り口がとまる付近で集合ね」

「はい」

こういうところは素直なんだけど、ひのめちゃんも一皮むいたら美神家の女性だからな。



そして翌日は妙神山修行場まででむいたのだが、小竜姫さまによるといまだ老師がもどっていないので、なぜヒャクメたちのことを知っていたかというのは、

「小竜姫さまは確かに俺の師匠ですが、ここでの俺の最初の師匠は老師です。小竜姫さまより先に相談するべきですよね?」

「そうですね。そういう意味では私も老師による修行中の身ですし、弟弟子と言った方が良いのかしら。仕方がないですわね」

「そういうわけで、ひのめちゃんに話すのもその後ね」

「横島さんったら、もう……それ以外ないじゃないですか」

そういうわけで、妙神山修行場にいる必要はないのだが、小竜姫さまが

「せっかくきたのだし、暇つぶしに修行をしていきませんか?」

暇なのは小竜姫さまだろう。
鬼門たちじゃ、小竜姫さまの修行の相手にならないし、かといって修行用の相手がいつも小竜姫さま用の修行相手じゃ、あきてきているのだろう。
俺はもともと1泊のつもりだったので気軽に、

「そうですね。じゃあ1泊していきます」

「メドーサとの修行で、どれだけ腕をあげたのか楽しみにしてますよ」

メドーサって名前をだしてきているということは、小竜姫さまは少しお怒りのようだ。
後悔先に立たずってこういう時に使うんだろうな。とほほ。


*****
なぜか、実戦的な修行シーンになりそうです。

2011.04.21:初出



[26632] リポート32 過去の内容とは
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/10 13:37
小竜姫さまの気軽そうに聞こえた

「せっかくきたのだし、暇つぶしに修行をしていきませんか?」

の一言にだまされた。

「メドーサとの修行で、どれだけ腕をあげたのか楽しみにしていますよ」

メドーサって名前をだしてきているということは、小竜姫さまは怒っているのだろう。
1週間またされた上に、それでも内容をもらせないって、小竜姫さまの性格からすると弟子が普通師匠にするべきじゃないという考えの神族だからな。
先週のうちに伝えておけばよかったと思いつつも、今さらどうしようもないか。
案の定というかひのめちゃんには令子のシャドウの初戦でだした、発火能力者とは相性の悪い水妖系の阿紅亜(アクア)をだしてくる。
小竜姫さまと俺との対戦では、

「なんで、今のを避けるんですか!!」

「だって、本気で殺気でてるし、寸止めじゃないですよー!」

「誰が寸止めだっていいましたか。横島さんも本気でいいんですよ」

「小竜姫さまに、俺の霊波刀で切りつけても、せいぜいちょっと痛いか、服が切れる程度じゃないですかー。俺なんてあたったらばっさりですよ」

「それくらいなんとかしなさーい!」

小竜姫さま、むちゃくちゃだよ。
その上、剣筋がむちゃくちゃで普段と違うからこちらはかすり傷だらけ。

「もう、やめてー」

そうさけぼうが、助けなどはくるはずは無いはずだったが、老師がもどってきていて、

「何を荒れておるのじゃ? 修行がたらんぞ。小竜姫!」

その一言で、小竜姫さまが普段通りにもどった。

ふー、たすかった。
あの調子だったら下手をすると超加速まで使いかねないけど、怒っていたようだから精神の集中が必要な超加速は使えなかっただろうな。
たすかったついでに、ひのめちゃんとおっかけっこをしていた、阿紅亜(アクア)も停止させられていた。
ひのめちゃんと相性の悪い阿紅亜(アクア)でも3割近く体積を減らしているのか。
これ、シャドウで戦っていたら勝っていたかもな。

「それで、そこの小僧。横島というらしいな」

「はい」

おお、名前で呼ばれているということは、神族の上層部から老師になにか情報がつたわったのか。
いいことなのか、悪いことなのかわからんが事態はうごきそうだ。

「12代ヒャクメの情報をもとにあらゆることを調査すると、横島から一般の神族が情報収集をするのは、禁止ということになったのじゃ」

「へっ?」

俺は事態が動くと思ったのに、神族は静観するのか?

「ゆえに横島。当面は必要がでてきたならばこの妙神山には、わしをたずねてこい。それだけじゃ」

「老師さま! なぜですか?」

「最高指導者からの通達じゃ。それ以上は言えぬ。ただし、今までどおりの修行ならばおこなっても良いが、今日のその様子だと無理なようじゃの」

「……」

「今日は帰ることじゃの。横島」

神族の最高指導者からの命令か。
魔族の方はどうなんだろうか。
今のところ魔族とはまともなツテが無いからそっちの情報を入手するのは無理かな。
どちらにしても、今日はまともな修行になりそうにないし、老師の言葉にしたがって下山することにした。

「横島さん。さっきの猿は、老師って呼ばれていましたが、そんなに偉いんですか?」

「ああ、そっか。そういえば初めてみるんだったな。あれが斉天大聖老師で、どちらかというとGSではハヌマン、一般人には孫悟空という名前が有名かな」

「あの孫悟空ですか?」

「それで正しいよ」

「イメージがあわないんですけど」

「まあ、それなりに歳をかさねているからね。それに……」

「それに?」

「いや、これは話さないほうがいいだろう。さっき俺からの情報収集は禁止って言ってたし」

「あれは神族にたいしてでしょ? 人間である私には関係ないのでは?」

ひのめちゃんの出した答えは多分正しい。
そうでなければ、神族という条件はだしていないだろう。

「こみ入った話になるから、分室……いや、院雅除霊事務所で話そう。ただし、この話を聞くということは、それ、相応の覚悟がいることだけは覚えていてほしい」

「院雅除霊事務所ってことは、院雅さんは知っているんですか?」

「……必要なことは全て知っているよ。ただし、その話をする時に、納得しなければ、記憶を消すことを条件にさせてもらった。だから、この話を聞いて、納得できないんだったら、記憶を消した上に、俺のGS見習いをやめてもらうことになるかもしれない」

ひのめちゃんが、メフィストの転生なら魂のエネルギー結晶をもっているはずだから、実際にはGS見習いのままでいてもらうつもりだけど……
そうすると、忘れてもらうだけでなくて、記憶の改ざんも必要かな。
できたらしたくないな。

「記憶を消さなければならない程の、重要な話なんですか?」

「そうだと思うよ。なにせ、地上でおりて活動できる中でも最上級の神族である小竜姫さまにさえ、俺の情報収集することを禁じているぐらいだからね」

「それで、記憶を消すとなると、どこまで」

どこまで話すかな……

「まだ具体的には考えていないけれど、あった瞬間から全て俺に関する記憶は消すというよりも、感情の起伏のすり替えをさせてもらうかもしれない。それに、前世の記憶は封じるという感じかな」

「そんな能力が横島さんにあるんですか?」

俺はだまって首を縦にふる。

「少し考えさせてください」

「それが良いと思うよ。ある意味ものすごく重要なことだからね」

ひのめちゃんが、俺に好意をもっているのはわかるが俺の以前の過去を受け入れられないなら、それを忘れてもらうつもりはある。
かわりに、単純な動機付けは必要だろうけどな。
こういうことを考えるのって令子の方が得意なんだけど、俺がだせるのはこれぐらいだ。


帰る方向が違うので途中の駅でわかれるときには、多少しょんぼりしているひのめちゃんだ。
しかし、話を聞かないなら今までの師匠と弟子の関係だし、聞いてきて納得するなら少なくともアシュタロスとの戦い、もしくは相応の魔族との戦いまでは一緒だろう。
過去でのアシュタロスがいたんだから、その気なら魂のエネルギー結晶をメフィストからとりあげて、過去で大暴れしただろうが、そのような歴史はのこっていない。
だとすると、ここの世界のアシュタロスは何を考えているのであろうか。
こればかりはアシュタロスに聞くか『摸』の文珠で考えを、シミュレートしてみるしかないだろうな。

それで院雅さんに連絡すると、今週の分室は待機で月曜日に話があるから事務所の方にきてほしいといわれた。
珍しいな。なんだろうか?

ひのめちゃんにも、日曜は分室で待機することだけ電話で連絡をしたけれど、明日は今日のことはきかれないだろう。

俺は今日これからまっすぐ分室やその上の自室にもどっても、夕食の時間にはまだ間があるだろうが食事の用意などもされていないだろうしな。
食事関係というと鳥子さんがGS見習いとしている、レストランでもある『魔法料理 魔鈴』に行くことにしてみた。
魔鈴さんとは初顔あわせになるけど、鳥子さんが「なかなか除霊できない」ってなげいていたぐらいに繁盛しているらしいからな。

そうして『魔法料理 魔鈴』に入るともうオーダーストップまでまだ時間もあるが、黒猫の使い魔が、

「満員なのでまっていただけますか?」

と聞かれたので素直に待つつもりだった。
魔鈴さんのレストランといえばなぜか西条がいて、

「横島クン、ちょうどいいところだ。僕らも先ほどきたところだから、一緒に食事でもどうだね? もちろん僕のおごりでね」

西条におごられる理由なんてないはずだが、西条の目をむけた先の席には令子がいた。
令子だけでなく芦火多流もいたので、まあ、いい塩梅だろう。

「なんか令子さんのプレッシャーがかかっているようだから、遠慮なくおごられてやるよ」

こういうのは、気がついたもの勝ちだ。
西条は単純におごりとして、優位にたとうとしていたのであろうが、

「まあ、そういわずに。一緒にきたまえ」

このあたりはうまくごまかしやがったなと思ったが別に今の令子に未練は……多少あるがわざわざ西条と争おうとまでは思ってはいない。
ひのめちゃんを除けばこの鳥子さんと八洋を含めた芦三姉妹には、まだ、疑惑が残っているからな。
とは、いっても火多流も美少女だし、俺としては同じクラスの割りには滅多に話さない相手だから良い機会かもしれない。

それで西条の前に座って、両横に令子と火多流がいるといういい席だ。
食事はすでにきまっているらしいので、同じものを追加で注文される。

「火多流ちゃん。そういえば、鳥子さんって、ここでGSの研修をうけているよね?」

「そうですよ。ただ、本人はGSの研修よりも皿洗いの方が多いって言ってましたけれど」

鳥子さんとは互いにGS関連の話はあまりしていなかったが、普通の飲食店としての方がいそがしかったのね。
そういえば、過去での雪之丞も似たようなことを言っていたのを思い出した。

店長である魔鈴さんが自ら箒と一緒に食事をはこんできて

「西条先輩のお知り合いだったんですか…! そうとわかればこれは店のサービスです。どんどんめしあがって下さい」

どうも、まだ、西条と魔鈴さんの関係が説明されていないところに俺が入ったみたいだな。
令子がかなりのプレッシャーを西条にむけながら、

「…で? どーゆーことかしら!?」

「イギリス時代、大学のオカルトゼミで一緒だったんだ…! それで、時々食事にきていてね」

「魔鈴めぐみです! 中世魔法技術の研究が専門だったんです」

「彼女には魔女としての天才があってね! わずかな記録をたよりに独りでここまで魔法を身につけてしまって、今も次々に失われた魔法を再発見しているんだよ」

そういえば、この発見を受け継げる人はいないっていうのが、未来での魔鈴さんの悩みらしかったよな。

「はじめまして、横島といいます。GSとしてより魔女としての方の噂は聞いています」

「まあ、そうでしたか」

「ところでここでは芦鳥子さんという方がGS見習いとしてきているときいていますが、魔法の研究も一緒にされているんですか?」

「あら、芦さんのお知り合いですか?」

「ええ、同じ学校で右横の彼女の妹さんでそんなことを聞いたことがあります。そんなので、ここで研修を受けているのは知っているんですよね」

「鳥子といえば、妹がお世話になっております。芦火多流です」

「ええ、芦さんには魔女としての才能があります。
 私の研究を一緒にしてもらいたいなと思っているんですが、普通のGSになるのが夢らしいので両方をおこなっていますわ」

やっぱり魔装術と相性がいい人間は、魔装術にこだわりがなければ、魔女とも相性がいいのか。
魔鈴さんが茶目っ気たっぷりな様子で、

「西条先輩も悪い人ねえ! 日本にこんな彼女がいながらイギリスでも――」

「話はこれくらいにして食事を――」

「そうですね、美味しそうな食事だから暖かいうちに食べたほうがよいですよね?」

ちょっとばかり西条に助け舟をだしてやるが、西条も令子も気がついていないだろうな。
食事はたわいも無いGS界の話を中心にICPOで公開されている話やなんかが中心だったりする。
学校の方は夏休みあけでたいした話題も無いので、そっちの話はほとんどなかったな。
結局、火多流とは話す内容がなかったので、あまり話さなかったが、オーダーストップの時間がきて魔鈴さんもまじり始めた。

「食事はいかがでしたか」

「とっても、おいしかったわ」

「俺も追いしかったっす」

「妹がお勧めしてだけあっておいしかったです」

「彼女らも気に入ったみたいだから、僕も彼女らをつれてちょくちょく顔を出させてもらうよ」

「あらっ。西条先輩っていっつも連れてる女性がちがったのに」

魔鈴さんの素直な性格がでちゃったな。

「き、君っ!! 誤解を招くよーな発言――!!」

あきらめろ西条、令子のプレッシャーがきつそうだぞ。

西条が令子のプレッシャーをうけているなか、

「さて、それじゃ――」

魔鈴さんが指をパチッっとならすと、わずかな霊力を感じた瞬間にまわりの景色が変わった。
レストラン『魔法料理』から魔鈴さんが住んでいる家に転移したみたいだな。
窓の外は殺風景というよりは、おどおどろしい感じになっている。
外を見ていた令子が、

「ここは……異界…?」

「東京は土地が高いですからね。異界空間にチャネルを作って自宅にしているんですよ」

部屋の中をみる限りみたことの無い代物もあるが、過去何回か訪れさせてもらったときにみたのと同じような感じで、

「す、すごいインテリアのおうちですね…」

「うむ……趣味の悪さは変わっていないな……」

この感性には俺もついていけない。
これさえなければ、魔鈴さんもいいんだけどなぁ。

「魔鈴さん。帰ってきたんですか?」

鳥子さんの声が聞こえてくる

「芦さん、お客様よ」

「えっ? そうですか、珍しいですね」

「こちらにきて、挨拶したらいいわよ」

「……はい」

なんかためらいがちだな。
部屋の奥のドアからでてきた鳥子さんは、ろくに俺らの顔もみないで

「ここでGS見習いをしています、芦鳥子です。よろしくお願いします」

「何いってるの? 鳥子?」

「あれ? 火多流。それに横島さんも?」

「やあ、鳥子さん。まさか魔鈴さんと同じ魔女ルックとは思わなかった。これがここの制服なの?」

なんか、鳥子がはずかしげだがパピリオだったら、嬉々として着そうな感じもするが、

「そ、そうなんです」

魔女ルックで会うのが苦手だったのね。西条は、

「芦火多流君の妹さんかい。よく似合っているよ」

「そ、そうですか?」

「ああ、とても似合っていると思うよ」

さすがの令子も火多流の妹である鳥子さんへの褒め言葉くらいでは、プレッシャーはかけないか。
って、ぼーっとしてたら、魔鳥であるスカリベンジャーにかみつかれた。

「ぐわああっ!?」

「まあ…! めったに人に馴れない『スカリベンジャー』が……あなたを気に入ったみたい! うふふ」

すっかり、自分がモノノケにすかれやすいという若いころの体質を忘れていたな。
そういえば、地竜である里目が芸を覚えたのも、あいつに好かれているからなのかな?
とりあえずは、スカリベンジャーをなだめながら引き離していると

「みなさん、GSなんですか? それとも西条さんの同僚の方も?」

「3人ともフリーのGSだよ」

「まあ3人ともGSでしたか。どうりでおくわしいはずね……!」

「それより、あなたの魔法のこと、もっと知りたいわ!」

令子の学習意欲はあいかわらずだな。
しかし、電話がかかってきて、

「はい、魔鈴です。……え? 除霊ですか? ……昼はお店がありますから夜でしたら―― ……料金? 相場どおりです。詳しい料金はもう少し詳しくお話いただけないですか……」

なんか、内容なんかをききとっているようだが、感じ的には難易度はたかくなさそうだな。

「芦さん。明日の夜はGS見習いの研修になるわよ」

「やっぱり、このホウキで戦うんですか?」

「ええ、魔装術は魔族化してしまいそうな領域に達していて危険だから、他の方法が無い限りはそのホウキでね」

「そうですか」

あのホウキは空を飛ぶ為だけなら欲しいんだけど、除霊具としては、俺には使えないからな。

「明日の除霊方法などを芦さんに指導いたしますので、せっかく、家へご招待したのですが……」

「僕らなら、またレストランにくるつもりだから、その時に手が空いていたらでね」

「すみませんね」

僕らか。きっと俺は西条の中の勘定には入っていないんだろうな。


*****
原作の令子よりは、親が生きている分、多少はつきあいやすいはずだ。西条がんばれ。

2011.04.22:初出



[26632] リポート33 再会
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/11 21:51
帰りは方向の関係から、令子と西条、火多流と俺っていうので別れることになった。
令子はすっかり機嫌を直しているな。

「その横島クンって美人には飛びかかるから気をつけるのよ」

おい、令子。俺はそこまで無節操じゃないぞ。

「横島さんなら、大丈夫ですよ。私ら高校1年生には、絶対に覗きにもきませんから」

うーん。堂々と言わなくてもよいだろうにな。

「あら。そう? まあ、それなら、それでいいわ。でも気をつけるのよ」

「ええ。一応は」

どうせ、俺の信用なんてそんなもんさ。


芦火多流と二人きりっていうのも、同じクラスのわりには初めてだな。
夕日を一緒にみるようなタイミングもつかめないし、もしかしてさけられていたのだろうか?
まあ、若干きにかかるので、会話がないのもなんだから話かけてみようとすると、

「横島さん」

「なに? 火多流ちゃん」

「前から、なんとなく疑問だったんですけれど、私には『ちゃん』で呼んでいるのに、同じ高校の3つ子の鳥子には『さん』で呼ぶんですか?」

「ああ。火多流ちゃんは、クラスメートでそれなりに話すときもあるからね。それに対して、鳥子さんって違うクラスだからだよ」

「そう言われれば、そうですね。横島さんって八洋にも『さん』で呼んでいるらしいですものね」

「まあね。そういえば、妙神山でのアドバイスって役に立っている?」

さっきまでは一般的な話をしていて、こういう個別のことは話していなかったからな。

「ええ。結局、今は4つの段階を順番にしていくことにしました。そもそも4種類のことをおこなっていたということを気がつかなかったのが恥ずかしい限りで」

「うーん。そんなこと行ったら、俺なんて恥ずかしいことばかり」

「くすくす。そういえば、横島さんの覗きって、3年生ばかりなのは有名ですからね」

「うーん。そんなにひろがっているのか」

「だから、私も安心して、夜一緒に歩いていられるんですけどね」

「それって、俺が男ってみられていないってこと?」

「いえ、危険な狼さんにならないって安心しているんですよ」

「まあ、火多流さんぐらいの美少女なら、3年生になったら襲うかもしれないぞ」

「だから、今は安心ですよね」

そうだな。

「だね。そろそろ、見えてきているあの光は○×線の駅じゃないかな?」

「そうですね。それでは、ここまで送っていただいてくれて、ありがとうございますね」

「ここまできたら駅までは送ってあげるよ」

「ここまできたら、安全ですから。横島さんの家って、ここだと違う×○線の駅の方が近いんじゃないんですか?」

「あれ? なんで、そんなこと知っているの?」

「いえ、鳥子がですね、横島さんのことを気にしているんですよ。もう正規のGSになったっていうことでね」

「ふーん。そうか。直接GS試験で戦ったもんな。そういえば、3人の中で一番最初にGSになれそうなのは、火多流ちゃんかな?」

「実際になってみないとわかりませんね。じゃあ、ここまでですね。また学校で」

「ああ、さようなら」

令子の奴、きちんとGS協会に見習いの除霊数を報告しているのかな?
おキヌちゃんはGS試験のルールのせいで、通常のGS見習いよりも大量に除霊しているのに、GSになれなかったのはしかたがなかった面はあるけれどな。
火多流は美少女だから、令子は俺のときと違ってきちんとアルバイト料は払っているだろうけど、見習いからGSにあげるのかな。
美神除霊事務所は美智恵さんが隣にいるからだいじょうぶかな?
俺が気にしても仕方が無いんだけどな。



翌日、日曜日の仕事は分室で待機していることだ。
ひのめちゃんは考えごとをしているが、やっぱり、俺にとっては過去となっている未来を秘密にしていることかな。
俺は俺で、神族が静観しているということは、俺が積極的に、この世界へ対して能動的には動いていないからだろうか。
これぐらいなら、老師も答えてくれるかな。それなら、それで先に行ってくるだろう。
俺が考えていたことも知られているはずだから、それを黙認っていうのが正解なのか。

昼食は、おキヌちゃんと愛子が、ひのめちゃんと里目の分もつくってくれている。
きちんと考えていなかったが、こういう部分をアルバイト料として、分室の予算から2人にあげられるかもしれないな。
そういえば、

「ひのめちゃんって、料理はどうなの?」

「りょ、料理ですか?」

「うん。料理で得意なものとかってある?」

「えーと、えーと、一番得意なのは、ハンバーグです」

「へー、ハンバーグか。ひき肉の割合とかはどうしているのかな?」

「えーと、割合ですか? たしか……よくわかりません。できあいのものを買って煮るだけなので……」

「もしかすると、料理って苦手なの?」

「じ、実はそうなんです。お姉ちゃんは得意なんですけど、私って、そっち方面も苦手みたいで」

「それなら、それでいいけれど、野宿系の仕事は入れられないな」

「そういうのって、除霊で関係するんですか?」

「ああ、あらかじめ、レトルトでも食材をかってあればそれでもいいんだけどね。しかし、山林とかの仕事が入ったら、その辺りの野草とか、動物をつかまえてさばいたりとかは、万が一のための必須技能になるんだよ」

令子においてきぼりを何回くらったかな。

「まあ、院雅除霊事務所は都会での仕事がメインだから、そういうのは気にしなくてもいいけれどね」

「もしかして、横島さんって食事は得意なんですか?」

「いや、そういう感じのところでしか作らないから、あまり得意とはいわないだろうね」

その発言を聞いた、ひのめちゃんが

「男性を落とすには、手料理が一番って書いてあったわよね。まずいわ」

って、小声で言っているんだろうけど事務所って、静かなんだから全部聞こえるぞ。
けれど、ひのめちゃんが料理に自信を持つまで俺の身は安全かな?
ひのめちゃんが、俺の部屋へ行って、おキヌちゃんから料理の本を借りて読んでいたが、その程度はいいか。
しかし、料理のことばかり考えられても困るから、除霊中は気をつけていないな。

日曜日は結局待機のままで、PM7時になり仕事もないので分室を閉めることにしたが、ひのめちゃんを先に帰して院雅さんに昼食代のことを確認してみた。

「えーと、おキヌちゃんと、愛子が食事をつくってくれるので、その分を彼女らにアルバイト代としてだせないかな、と思うんですがどうですか?」

「普通のアルバイト料金としてはだせないわね。けれど、食費代としてある分から店屋物と同じ程度までなら上限としてだしてもいいわ。きちんと食材費もあわせるのよ」

院雅さんもやっぱりシビアだな。まあ無いよりも高校生程度のお小遣いなら、それでもいいか。

「はい。わかりました。ちょっとあとで計算してみます」

そうして、一旦外にまわって2階にあがると愛子もまだのこっていた。
ちょっとばかり食事のことをいうと意外にも愛子が

「それは気にしなくてもいいわよ。一般の店屋物の方が食材を定期的に大量購入しているから、安く仕入れる分、売値も安くなっているのよ。だから、私たちが1回あたりにつくる量からするとせいぜい2人で100円分あるかどうかだから、そこまでする必要はないわよ」

「そっか。余計な期待をさせちゃったな」

「ううん。私たちのこと気にしていてくれているんだってわかって、うれしかったわ」

「ところで、そういえば、今日は愛子、何時に学校に帰る?」

「もう7時もまわっているんだし、学校でも誰もいないから、今日はこのまま、ここにいちゃ駄目?」

計算外だったな。

「まあ、いいか。その分、少し上乗せするな」

「横島くん。気をつかいすぎもよくないわよ。どちらかというとおキヌちゃんという友だちと、月曜の朝、一緒に学校に行く。こういうのも青春よね」

「俺が悪かった。じゃあ、そういうことでよろしくな」



まあ、月曜の朝、おキヌちゃんと愛子と一緒に登校したが、男どもの声は以前より少なくなってきている。
こういうのは状態の慣れだな。

月曜日の帰りは、おキヌちゃんにはアパートにもどってもらったが、俺は院雅除霊事務所に向かう。
特に仕事ではないので、学校から直接でむいてみたらそこに院雅さんと一緒にいたのは、メドーサだと?

月曜日の学校帰りに院雅さんから呼ばれていたので、院雅除霊事務所に行くと、院雅さんといたのはメドーサって、それはなんだー。
魔族の目の前で弱みをみせてはいけないとは思うのだが、このメドーサは俺の感覚では10日前までは神族だったんだよな。
いかんいかんとは思いつつも、

「メ、メドーサ、ここまで来るとは、おまえ、俺にほれとったんか――」

「こ、こいつは、そういえば、こんな奴だったな……」

そう言ってメドーサのちちをめがけてむかったら、刺又(さすまた)をだしてきてあっさりと横一線でたたきのめされた。
平安時代と刺又(さすまた)の筋が少しかわっているぞ。
同じ筋だったら、うまくとびつける自信はあったのに(ぐすん)
あの数日間の訓練はなんだったんだよー

さすがの院雅さんもあきれたように、

「しかし、魔族とわかっているだろうに、飛びかかるって本当に横島君ったら」

「1000年たってもええ、ちちしてるし」

「そこからはなれろ、この横島」

「調子がくるわされているんじゃないの? メドーサ」

このメドーサから殺気も感じないが、そういえば、この院雅除霊事務所にいて院雅さんってメドーサはどんな魔族かって知っているんだよな。
なのにこの状況ということは、

「院雅さんの魔装術をさずけたのってメドーサなんですか?」

「やっと気がついたのかい?」

「えっ? だって、何回かきいたのに、きちんと教えてもらったことなんかないですよ」

「GS試験の時に、軽く睡眠をとろうとしたときに小竜姫とメドーサへ指を指したのを覚えていない?」

「……そういえば、そんなこともあったような」

「普通あのときのメドーサを見て魔族だと気がつくかしら?」

たしかに、メドーサの名前だけは有名だが、人間界で顔は知られていなかったよな。

「あああ、俺ってそこまで、あの日はぼけていたのか――!!」

「けれど、今の今まで気がついていなかったようね」

「横島はわかっていないだろうが、院雅はなぜ今日こいつとあわせる気になったんだ?」

おや? メドーサもわかっていないのか?

「そうね。せっかく過去にさかのぼってさずかった竜装術も役立たずだったみたいだし、メドーサの名に恥じないかしらと思ってね」

「当時は竜装術で、下位の竜族になるなんて知らなかったからね」

「今ならどうするの?」

「文珠使いとは珍しいからね。だけど、10日前に過去からもどってきて、竜装術を封印されているところ見ると、まだ、文珠は精製できないみたいだね」

「悪かったな。ふがいない弟子で……弟子といえば、勘九郎はどうした?」

「ああ、頭が切れると思っていたんだが、力に魅入られたようでね。魔装術をとりあげて、とっととおいだしたよ」

ああ、俺のお尻は安心かな。けれど、

「なのに、力を失っている院雅さんと契約を続行しているのは?」

「……」

ふむ。なぜ、黙秘をしているんだろうか。

「まあ、そこは色々あるから、地上にでてこられる中では上級の魔族であるメドーサにとっては話したくないんだろうさ」

「って、院雅さんも俺に教えてくれる気は無いの?」

「メドーサが同意すれば話すけど、彼女の性格じゃ無理だろうね」

しかし、メドーサと対等の契約しているっぽい院雅さんって、以前はどれくらいの力量があったんだ?

「それなら仕方がないけれど……」

院雅さんの本当の目的はなんだろうな?

「それで、メドーサに契約の範囲内での願い事があるんだけどね」

「ほう。院雅の願いというのは珍しいな。何だ?」

「里目……横島君の守護鬼神についてなんだけど」

「横島の守護鬼神? 地竜のことか。そうか里目と名をつけたのか。それで?」

「その地竜なんだけど、もう少し強くすることは可能よね?」

「不可能じゃないが、代償はなんだ?」

「最初に言ったでしょ? 竜装術は役立たずだったってね」

「くっ! しかし、それは神族の時の話で、今の魔族である私には関係ないね」

「ふーん。そうしたら、どうやって、メドーサとの契約を続行できているか、この横島君に教えてもいいのかな?」

「まさか、契約を譲る気でいるのか?」

「あら、譲れるなんて、私はひとことも言ってないのに」

ああ、院雅さんの方が魔族のメドーサより1枚はカードが多いらしいな。

「ああ。わかったよ。まったく、こんな人間と契約するはめになったなんて、私も落ち目だね」

「ほとんど、依頼はしていないし、依頼をするにしても無理な内容はしたことが無いはずよ」

「ふん。そういうところが気に入らん。私ほどの上級魔族をつかまえて、下級魔族でもできるようなことしか言ってこないなんて」

「それも、契約のうちでしょ」

「……それで、その地竜の強化だが」

「強化じゃないわよ。言葉は曲解しないようにね」

「ふん。じゃあ、はっきりとした内容を言え」

強化じゃない?
まあ、今の地竜て、まだ俺の霊力の半分くらいだよな。
院雅さんは、どういう方向を考えているんだ?

「地竜の地中での移動能力、もしくは地中での攻撃能力をあげてもらいたいわね」

地中……死津喪比女対策か。
院雅さんもひとこと言ってくれればいいのにな。

「地竜のままじゃ、無理だね」

「残念ね。まあ、メドーサ本人も、地中での同様の能力が無いんじゃ仕方がないわよね」

挑発か?

「なぜ、地中にこだわる? そんな、相手なんかほとんどいないだろうに」

「死津喪比女って知っているかしら?」

「さあてね。聞いた覚えはあるが、何だったかね?」

「約300年前にいた、地脈を栄養源にしている妖怪よ」

「ああ。そういえば、あのときのつまらん、妖怪か」

「そのつまらない妖怪をあなたにはまともに戦うことはできないんでしょ?」

「っていうか、死津喪比女は死んだんじゃないのか?」

「それが生きているらしいのよね」

「生きているからなんだというんだ?」

「私たちが一応GSだというのは、覚えているわよね?」

「そういえば、そんなことをしてたらしいな。おまえといるとそんなことを感じさせられるのは、こういう願い事の時だけだがな」

「それで、どうも、死津喪比女を封じていた結界をそこの横島君が偶然にもといちゃったようなのね」

おいおい。同意のもとじゃなかったのかよ。
けれど、以前、院雅さんは契約している魔族、つまりこのメドーサには、そういった方面では協力は期待できないようなことを言ってたんだけどな。

「それが、私と何か関係でもあるのか?」

「直接はないけれど、弟子の不始末は師匠の不始末でもあるからね」

「神族の時代の弟子なんて、知ったこっちゃないね。それにその程度ならその地竜で充分だろう!」

はて? この地竜……里目で死津喪比女に対応できるのか?

「人間の霊力と同じ程度の力しか無い地竜が、死津喪比女に対抗できるっていうの?」

「たかだか、地脈に寄生しないと力が蓄えられない妖怪なんか、本体は人間とおなじ程度の霊力しかないさ」

いや、比べる人間をきっと間違えているぞ。
現在なら、冥子ちゃんクラスの霊力だろうな。

「まあ、いいわ。メドーサができないことを、地竜ができることがわかっただけでも面白い収穫だわ」

「私ができないわけじゃない。やらないだけだよ」

「はいはい。私との契約ではそこまで力は使わない契約だからね」

本来の力をだしたなら、メドーサなら死津喪比女と対抗できるのか。
おしいが、無理強いは出来ないな。

「ふん。しかし、GS試験で文珠使いをみつけたと思ったら、文珠をもっていただけか。さて、どうなっているのやらね」

GS試験で文珠使いを見つけた?

「GS試験の文珠使いって、もしかして俺のこと?」

「そうだと思っていたんだが、竜装術をつかわなきゃできないし、どこでその文珠をもらったのか興味があるね」

まだ、俺がまともに文珠を精製できていたということを知らないんだ。

「GSが契約もしていない魔族に教えられると思っているのかい?」

「魔族といっても、一応デタント派なんだけどね」

そういえば、平安時代に言ったか。

「神魔間の情報は人間にはつたわっていないっていっただろう。今の俺にはわからない。院雅さんも知らないですよね?」

「そういえば、メドーサからきいたのは、初めてな気はするね」

「ふーん。私からはきいたことは無いということは、他からきいたことがあるってことかい? 院雅よ」

「あなたが、いくらつよがっても、契約がある限り無理でしょう?」

「いまいましい契約だ」

そういえば、話をずらされたな。

「GS試験で文珠使いをみつけたってどういうことだ?」

「そこまでいう必要は無いね」

「あら、私は興味があるわよ」

「しかたがないね。あるお方が文珠使いを探しているだけさ。それであの火角結界もどきで文珠使いを検知できるようにしておいたら、あのときの、貧弱そうなボウヤが文珠を使ったというのがわかってね」

あれは、確かに起爆装置だったはずだが、たしかに爆発物かまでは視なかったからな。

「どうせ貧弱なボウヤですよ」

「けれどもあのGS試験からも伸びているね。たとえ、昔の私の修行を受けていたとしても、面白いぐらいに成長が早いね。どうだい、神族ではなくて、魔族の私の弟子になってみないかい?」

「それだけは、やめとくよ」

「どうしてだい? 私の肉体を好きにできるのかもしれないんだよ?」

えーい。このメドーサめ。自分の肉体まで武器にするのか。

「いや、俺ってボウヤだからさ。その先はいわなくてもわかるだろう」

「それはヘタクソとゆう意味かい?」

「まぜっかえさんでくれッ!!」

「そのあたりは、どうでもいいとして、今度は魔界産のお酒でももってきてね。メドーサ」

「そんなのばかり頼んで……わたしゃ、おまえのお使いか」

「だって、高度なことをたのめないんだからしかたがないでしょう」

高度な内容を頼めない契約?
変わった契約だな。
俺がまともに知っている魔族って、ワルキューレとかジークだから、あまりあてにならんか。

「ふん。まあ、今度もってきてやるさ」

「今度は一緒に飲みましょうね」

「やれやれ、なんでこんなことになったのかね」

そういって、メドーサは消えたが、どこに移動したんだろうな。

「それでメドーサと契約してたわけですね?」

「そうね、横島さんの世界ではもっと悪辣だったみたいだけど、こっちのメドーサは少なくともここ30年ぐらいは人を殺してはいないはずよ」

「竜族は?」

「それ以上は、契約の関係で話せないわね。多くは語れないけれど、これも契約の都合ね」

「都合のいい契約ですね」

「その通りね」

メドーサの言葉を信じるならば里目で死津喪比女に対抗できるらしいが、本当か?


*****
1000年を超えた師弟の再会です。まあ、横島の感覚では10日ぶりぐらいです。
ここのメドーサは契約にしばられていますが、味方にできるほどの強制力をもった契約ではないです。

2011.04.24:初出



[26632] リポート34 ひのめ霊能力強化大作戦編(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/12 13:11
やっぱり、ひとつのけじめはつけておくか。

「院雅さん。メドーサのことはともかく、おキヌちゃんに関してのことなら、ひとことでもいいから事前に話しておいてほしかったですよ」

「おキヌちゃんのことは、今日思いついたの。ごめんなさいね。横島さん」

「えっ? 今日? じゃあ、おキヌちゃんのことがメインではなくて、メドーサと会わせることが今日のメインだった?」

「ええ。まさか、すでにメドーサが、横島さんがここにいることに気がついていたのは知らなかったわ。けれど、横島さんとメドーサが平安時代に修行したなら、いずれ気がつくと思って、今日会うことをセッティングしたのよ」

「気がつくねー?」

たしかにGS試験でのことに気がつけば、芋づる式に院雅さんへ魔装術を与えた相手が、メドーサだとは気がつくかもしれないな。
なんか、それだけでは理由として弱い気がするんだけどな。

「メドーサとあわせたのって、他にも理由があるんじゃないんですか?」

「まあね。そこは秘密よ」

「そんな秘密だなんてもったいぶらないで」

「だって、横島さんだって、文珠で『伝』えたのは全部ではないでしょ?」

「たしかに全部じゃないけれど、重要なことは『伝』えたつもりですよ」

「それにしては、肝心のアシュタロスを倒すまでの過程が公式発表みたいな感じで、横島さん自身がかなりかかわっていたはずなところが、ほとんど無かったでしょ」

きついところをついてくるな。

「そのあたりは、事件と直接は関係ないから、はぶいただけなんだけどね」

「直接はねぇ……それなら、私もそうよ。それに女性には秘密がつきものでしょう」

こんなときに女を武器にしてきやがる。まったく院雅さんってのはもう。

「はい。俺の負けです。しかし、地竜である里目で死津喪比女に対抗できるって、本当ですかね?」

「地竜て、地脈を栄養源にすることもできるんでしょ? メドーサの言い方だと、そのあたりにヒントがあるんじゃないかと思うのよね」

「地脈ね。今の里目じゃ無理だと思うんだけどな」

「それは、横島さんの霊力とほぼ同じまで成長したらという意味だと思うのよね」

「そうかもね。たしかに、地上にでてしまえば死津喪比女って弱点があるからな。地上にださせるまでが、大変なんだけど」

「今から、現地で対策をしておくっていうのは?」

「仲間が必要だけど、あてはある?」

「残念ながら、私のつてでは、それだけの力がある上に、恒常的にそこまで相手にしてくれるGSはいないわね」

やっぱり、ある程度はでたとこ勝負か。

「そういえば、今後の心配ごとってやっぱりあるのかしら?」

「結構な数の霊障があるからね。世間的に影響が大きいのは確実におこるだろうけれど、個別のものはどこまでかかわるかが、やはり不明だよな」

「たとえば、フェンリル狼は?」

「あれも、どうなのかな。フェンリル狼としてから活動されていたら影響は大きかっただろうけれど、その場でなんとかなったからな」

「人狼族のシロちゃんだったかしら。あまり情報は『伝』えてはもらっていないけれど、ずいぶんとなつかれていたようね」

うーん。そんなに細かい情報を伝えたつもりはないんだけどな。

「まあね。50Kmの散歩だったからな」

「それだけの情報で、付き合いが良かったのはわかるわよ。横島さん」

「もしかして、俺の情報って、かなり推測しやすい?」

「普通、50Kmも一緒に毎日散歩をつきあうなんてしないわよ。それだけでも、大事にしていたってのはわかるわよ」

俺が『伝』えたと思っていた情報よりも、院雅さんで補間している情報が多そうだな。

「わかりました。また金曜日のミーティングにきます」

「そうね。負け狼は、とっとと帰るのね」

「俺はシロじゃないぞ」

「ほれ、すぐ情報がでてくる」

「はい、はい」

結局、死津喪比女の対策ははっきりわからないが、里目をはやめに成長させるのが良さそうってことか。
しかし、わかっていて、静観する以外の選択肢が無いってのはつらい。
メドーサの裏にいるのは、前と同じくアシュタロスでいいんだろうか。
だとしたら、なぜ行動が1年はやいのと以前と行動をかえているんだろうか。
メドーサが人間を30年も殺していないというのは、俺の過去の時にはなかったことだ。
俺が過去に行った影響では無いだろう。
キーはアシュタロスか。
魔族が時間移動能力者をおっているかどうかだけは、老師に確認できるかな。
あのアシュタロスが時間を飛ばされたはずの時点で、もう一人のアシュタロスがいたことから、多分おってはいないんだろうけどな。


そうして普通の平日をおくりつつ、金曜日の院雅除霊事務所でのミーティングでは、

「今週は、分室ではこれをお願いね」

「事務所も霊力レベルAが受けられるようになったのに、仕事は霊力レベルBなんですね」

「霊力レベルA以上の相手となったら、やはり有名で、実績のあるところに行きやすいから」

「そんなわけで、100体までは、約37体だね。ひのめちゃん」

「思っていたより退治した数が多いですね」

「ああ、六道女学院の臨海学校での除霊実績があるからね」

「あれって、GS見習いとかになると、正規のGSになるためのカウントになるんですか?」

おっ、ユリ子ちゃんか。

「ああ。きちんと、六道夫人……六道女学院の生徒の前では理事長って言った方がいいかな。あの人がきちんと数えていたからね。けど、六道女学院からGS試験にでるなら、それなりの力がやっぱり無いとね。ユリ子ちゃん」

「あまり、横から口はださないでね、横島君。内容はあっているけれど」

「すんまへん」

「ユリ子は、ある意味完全なオールラウンダーだから、総合的に力を伸ばす以外は手が無いっていうことで、地道な訓練が一番なのよ」

臨海学校では霊波砲をつかっていたのに、結界札が中心として助手を募集していたところにきたわけだったよな。
神通棍もあつかうし、霊体ボーガンもあつかうしな。
ユリ子ちゃんは院雅さんが見るだろうからいいとして、問題はひのめちゃんだよな。

「ひのめちゃんには、明日の晩、霊力レベルBの悪霊が研修相手になるよ。今日は特に除霊も無いからかえっていいかな」

「えーと、横島さんに、訓練をつけてほしいんですが……」

「俺か。師匠だから当然だといえば当然だが、ひのめちゃんの場合すでに基本ができているから、あとは応用だからなー。ここまでくると実戦に勝る訓練はないぞ?」

「けど、それって、あくまで悪霊レベルまでの話ですよね」

「そうだけどね」

「よこ……お姉ちゃんやお母さんみたいに、妖怪や、魔族ともまともに戦えるようになりたいんです」

潜在能力だけなら俺以上だと思うんだけどな。
なんせ、最高級の念力発火封印札を赤ん坊の時から、完全に封印できるのは1週間だったからな。
こっちでもあまり事情はかわらなかったらしいし。

「そうしたら、やっぱり妙神山だな。今度の10月は体育の日があるから、うまいこと3連休になるだろう? その時に集中特訓をさせてもらわないかい?」

「そんなに待つんですか?」

「本格的な修行だったら、下手にそのあたりの空き地ではできないからね。今使えるところだと、制御の訓練レベルだし」

ひのめちゃんは存在的な霊力は高いのに、発火レベルの霊力にくらべて比較的霊力を消費しないものとかが多いしな。
逆に火竜のように通常の霊能力者がだせる霊力の限界のものだと、溜めに時間がかかるし、未だ直線的な動きしかできないから、この中間がほしいところなんだよな。

「平日に訓練とかできませんか?」

「うーん。考えてはみるが、あまり期待しないでくれな」

「期待しています。横島さん」

料理の特訓はしないのかね?
それとも、特訓を口実になし崩し的に、俺といる口実を考えだそうとしているのかな。
純粋な思春期の少女の気持ちはわからないな。


帰りは、ぶらぶらと商店街をおキヌちゃんと一緒に買い物に行くと、おキヌちゃんってここの商店街でも人気者になっているのね。
人に好かれる幽霊って、これも才能だよな。
しかも俺が一緒についてあるいているというのに、値引きまで勝手にしてくれる。
八百屋のだんなよ。後ろにいる奥さんに後で怒られてもしらんぞ。


翌日の土曜日の晩は、GS見習いとしての研修をかねた除霊だ。
霊力レベルBなのは、霊力の測定器を使用しなくてもわかる。
たいして、ひのめちゃんは発火で対抗しているが、やっぱりおいかけっこ状態だな。
火竜を使う為の、溜めに必要な時間がないんだろうが、この狭いオフィスで火竜をつかったら、冥子ちゃんなみとはいわないけれどそれなりの惨事だからな。
俺は院雅さんの結界札の中でひのめちゃんと悪霊の戦いをみていたが、やっぱり発火の一回あたりで使える霊力が低すぎる。
だせる速度ははやいんだけどこれより高いレベルだと、他の術だと溜めの時間が必要なわりには、霊力が低いものばかりなんだよな。
そんなんでも走っておいつかれないから、お札も使わないで悪霊を退治したのはいいだろう。
メドーサがいた奇神山での修行前なら、きっとお札をつかっていただろうからな。

「お札もつかわずに、よく最後まで、がんばり通したね」

「けど、ちょっと時間のかかりすぎです……」

「一般の霊力レベルBの悪霊レベルを一人で対処できるだけでも、中堅GSレベルより上にいるんだ。それくらいは自信をもっていいと思うよ」

「だって、お母さんや、お姉ちゃんはすでに妖怪や、魔族と戦えるし……」

「うーん。あせりすぎじゃないかな。ひのめちゃんのお母さんのことはよく知らないけれど、令子さんなら高校1年生でまともに霊能力を開花させていたかな?」

以前は『時空消滅内服液』を俺が飲んで逆行した時に高度な霊力がはっきできるようになっていたが、こっちの令子はどうだったんだろうか?

「お姉ちゃんは、魔族はともかく妖怪は退治していました。お母さんの見ている時だけだったので、GS試験を受ける前ですけど」

母親がいなかったのと、いたことによる差がでているのか。

「それにしても、魔族はまだだったんだろう? それにGS見習いになったのはひのめちゃんの方が早い年齢じゃないか」

表の経歴を示すGS年間では、こちらの世界では令子が高校3年生になってからとっているのを確認しているからな。
しかし、六道女学院を卒業させてから娘をGS試験にうけさせるって、自分の娘にいかに自信が無いかって如実にあらわれているよな。六道夫人は。

「GSっという表だけをみたら確かにそうなんですけど、実力的にはおねえちゃんの方が上だったと思うんですよ」

「うーん。相性の問題もあるかな。今のひのめちゃんって、こういう狭い空間で霊能力を使うより、広い空間で霊能力を使うタイプなんだよね。よく思い出してもらいたいんだけど臨海学校の時の火竜が、一気に戦力を逆転させたぐらいだからね」

「けれどあれって単体でみたら、霊力レベルE以下ばかりじゃないですか」

「空間が広いというのもあるけれど、長距離タイプっていった方がいいのかな? そうしたら火竜をだすための溜めの時間もかせげるし、相手が近接タイプでも中距離タイプでも火竜をだす前の炎で霊力を吸収できるからね」

おれのサイキックソーサーでも直線でいったら、あの炎には吸収されるだろうしな。

「そうしたら、それを伸ばすにはどうしたらいいでしょうか?」

「うーん。こういう都会型よりも、郊外の除霊を引き受けるのが実戦での訓練になるかな」

「それでお願いできませんか?」

「移動の時間があるから、正規のGSになるのには時間がかかるよ?」

「いえ、いいんです。自分の長所と、短所をはっきりさせたいんです」

うーん。そうか。若いうちから、そればかりに注視するのは、よくはないんだけど、

「わかった。短所はいずれ直すとして、長所をまずは伸ばすように訓練内容を変更するよう、ちょっと院雅さんと調整するよ」

「はい。お願いします」

ひのめちゃんが満面の笑顔で答えてきたが、そんなんでいいのかね。


翌朝におきたあと、ひのめちゃんのGS見習いとしての研修を、あらためて考えてみる。

郊外型の実戦研修か。
よく考えるとひのめちゃんって、火行にあたるから水行にあたる海や湖のそばって、相対的に力が発揮できなくなるんだよな。
それに山の中の除霊だと、平気で1週間とかたつものばかりだったしな。
だから、俺ってそのあたりで取れるもので食事ができるほどに詳しくなったんだったな。
うーん。ひのめちゃんの修行方針の変更について安直に考えすぎていたかも。
しかし、俺のいた過去と少しは違うから、院雅さんに聞くと何かあるかもな。

日曜の分室開業前の時間帯に、ひのめちゃんの件で院雅さんへ電話をかけてみる。

「はい。院雅除霊事務所です」

この声はユリ子ちゃんだな。思ったより早く事務所にきているな。

「もしもし、横島だけど、院雅さんはもういるかな?」

「ええ、いますのでかわりましょうか?」

「お願い」

「はい」

ちょっと間が空いてから、院雅さんがでてきて、ちょっとひのめちゃんのための修行で郊外型の除霊をひきうけようかなと思っていることをつたえると、

「私は都会の悪霊しか相手にしないからね。分室に昼間は客も来ることもないだろうし、今晩の除霊前にGS協会でそういう依頼があるか見てきたらどう?」

「俺がですか?」

「それも、本当の意味での一人前のGSになるための修行だと思えばいいのよ」

うー。俺が一人立ちに失敗して、結局は美神除霊事務所にもどったことを知ってるからな。

「わかりました。午後にでもみてきます」

「除霊開始前までには、一旦区切りはつけるのよ」

「俺がドジをふむことがあるからって、そこまでひどくないっすよ」

「いやねー。念の為に伝えただけよ」

院雅さんって、いまだに言っていることが、本気なんだか冗談なんだかよくわからないんだよな。

「それじゃ、何かあったら、また電話しますよ」

「そうね。何かおもしろそうなのがあったら、それの除霊依頼書のコピーでもとっといてね」

「へーい」


昼食も終えて、GS協会に行こうとすると、ひのめちゃんも、

「私も行ってみたいです」

それだけならまだしも、愛子も一度見学してみたいという。
どうせ、分室に依頼人がくることもないだろうし、電話は院雅除霊事務所の方にまわしておけばいいだろう。

おキヌちゃんも一緒にGS協会の入っているビルに向かうことにするが、ちょっとしたハプニングが。


*****
次話ではGS協会内での話を少々。

2011.04.26:初出



[26632] リポート35 ひのめ霊能力強化大作戦編(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/13 20:33
GS協会のあるビルまで来るとおキヌちゃんが、

「前にもきましたけど、大きな建物ですね」

「このビルの中の1フロアだけどね」

GS協会のフロアに入りつつ、

「前はちょっとしか、見れなかったですから」

「それなりに広いし、結構、かわった格好のGSが出入りしているから、愛子が机をせおっていても目立たないからな」

「そういえば、色々な格好をしている人達がいますね」

「まあ、ひらたくいえば、ここでいい仕事がないか、職業安定所みたいにかよってきているんだな。安定した仕事じゃないから、直接クライアントにたのまれるうなGSだと、ここへ定期的にくることも多いみたいだね」

俺も昔はそうだったしな。

「あっちの依頼ファイルの中から探すことになるんだね」

俺が独立した時は、すでにコンピュータで検索できるようになっていたんだけど、今はそこまでいっていないみたいだな。

「さすがに東京地区のファイルは皆みていて、ほとんどないな。あっちの地方の地区の方をみてみるか」

「そうですよね。郊外型っていったら東京以外ですよね」

「なんか、うれしそうだね。ひのめちゃん」

「ええ、まあ、ここのところあまり遠出をしていなかったですから」

「あれ? ICPOの関係でイギリスとかは行かなかったの?」

「お姉ちゃんがこっちに残っているから、一緒にこっちにいたんです。だから遠出といっても、この前の香港での事件以外は、中学の修学旅行ぶりかな」

平安時代にいったのは旅行というより事故だもんな。

「まあ、そんなに楽しいものになるとは限らないけどね。それで、ここのファイルの見方だけど、地域別なのは棚をみればわかるけれど、古いのから見ていくんだ」

「古いのから?」

「まあね。それだけ、安いので、東京から行くと儲けが少ないとかもあるけれど、今回はお札を使わないから、霊力レベルC以下のものを中心に探していこう」

「霊力レベルC以下ですか?」

「いい物件はとっとと、誰かがとっているからね。とりあえず、気に入ったのがあったら見せてみて」

「はーい」

「ところで、おキヌちゃんと、愛子はここにいておもしろいかい?」

「うん。想像とちょっと違っていたわね。もっとはなやかだと思っていたわ」

「男女比は少し女性が多いくらいで、ちょっと変わった格好の人もいるけれど、それ以外は特徴もないからね」

「GSって、こんなにいるんですね」

「多いとみるか、どうかはなんともいえないな。静かにして聞いてほしいのだけど、ここにいるってことは、あまり仕事のとれていないGS達だから、知り合いになることもないかな」

ちょっと、小声で言っておく。

「GSの人達って、意外に普通の人が多いんですね」

「おキヌちゃん。誰と比較して普通の人なのかな?」

「あっ!」

「いや、いい。わかったよ」

「決してそんなつもりじゃなかったんですー。ひえーん」

「あーー、おキヌちゃん泣かないで。ここじゃ目立ちすぎるー!」

俺はあわてて、おキヌちゃんと愛子をつれてGS協会の出入り口に来てた。

「ごめんなさい。横島さん」

「俺の方こそ悪かった。ごめん。けどね、一応あんなんでもGSの塊だから、下手な除霊のされかたを、されかねないから気をつけてね」

「やっぱり興味本位で来ちゃだめね。もっと青春っぽいところにいってくるわね。おキヌちゃん、いきましょう」

「はい。私、ついてきてすみませんでした」

「俺も、もっと注意していないといけなかったから。おあいこということで」

「はい、横島さん。それじゃ、いってきますね」

「ああ。気をつけるんだぞ」

二人を見送りながら、GS協会の中に入ったら、さっき出て行く時はさすがに注目をあびていたらしい気配はあったが、今は無い。
そこまで余裕のあるGSは、やはりいないのね。
ひのめちゃんはファイルを3冊ほど選んでいたので見たが、

「うーん。どれも1泊2日じゃ無理な案件ばかりだな。金曜日の晩にでたとしても、片がつくかどうかわからない。今から探すけれど、だいたい、勘だとこのファイルあたりはどうだ」

「霊感ですか?」

「いや、単なる見た目がきれいなファイルだったから、そんなに、まだ見られていない資料があるかなと」

「そんな、身も蓋も無いことを」

「クライアントの前では、多少のはったりも必要だけど、そういうのは今後覚えるとして、ここでは効率よく仕事になりそうなのを見つけよう」

「そ、そうですね」

それで、ファイルの中を見てみると、湖のほとりにあるホテルのそばの一軒家に幽霊がでるらしい。
霊力レベルはCか。日付も、まだ旧くないし、ホテルが空いていれば、宿泊や料理もだいじょうぶそうだな。
火行が水に弱いといっても霊力レベルも下位のものだから、大丈夫だろう。
あと一番らくなのは、一軒家は壊れてしまっても良いってところだな。

「ひのめちゃん。ファイルの中でもこの案件なんかは条件にあいそうだけど、どうだい?」

「水があるところなんですね」

「けど、霊力レベルは普段相手にしていようとしていたBよりも低いCだし、遠距離からの訓練にも丁度いいだろう?」

「……横島さんが、そういうなら」

「じゃあ、これホテルからの依頼だからさっそくGS協会で、これを予約して来週の土日でこなそう」

「ええ、そんなはやくに予約できるんですか?」

「ここはそういうところだからね」

GS協会で仲介を頼んで、連絡がついたら分室のFaxに届くように手配をしてきた。
分室にもどったらすでにGS協会からのクライアントであるホテルが承諾してきたとFaxが入ってきている。
ホテルに温泉が無いのは残念だけど、食事はいいものらしいから良いだろう。
院雅さんにはFaxを送ってから電話をしてみると、

「あら、意外にはやかったわね」

「ええ、なんかとんとん拍子にいきましてね。場所は湖の上に建った一軒家ですが、霊力レベルも高くないし、研修として少し試してみたいものもありますし」

「あなたみたいに、いきなり実戦でというのは無しよ」

「はっはっはっ。郊外なので、その地で少し訓練をしてから行いますよ。無理そうだなと思ったら、火竜で対応できますし」

「それで、他の依頼は?」

「忘れていました……」

「全く、ドジなんだから」

「すんません」

「まあ、いいわ。今度の金曜日のは探してあげるから、まずは、ひのめちゃんの修行と、あなたもきちんと修行をしておくのよ」

「ええ、それは当然」


それで、今晩の除霊だが、地竜である里目を実戦で試してみることにした。
相手が霊力レベルBでも下位の方だったが、里目ってきりつけられてもすぐに再生していくし痛がる様子も無い。
それに一口パクリと悪霊をかんだら、あっさりと悪霊が石化して落下した瞬間に壊れてしまった。
こんなんでいいのかっていうぐらいにあっさりで、部屋にはいいてからでていくまでに5分とかからなかったな。
ちょっと書類を書くのに工夫の必要があったけれども。

翌金曜日の除霊は霊力レベルCと普段よりレベルは低かったが、特筆すべき内容もなかったぐらいにサイキックソーサーでおしまい。
自分の霊力があがっているのがわかるな。

それで、その翌日はひのめちゃんの郊外型の除霊ということで、某県にある湖のホテルhe
むかう。
JRの駅から、送迎バスがあるのがいいね。
さてひのめちゃんが、この案件を楽しみにしていたはずなのに思ったより静かだけど、霊能力を湖の上で使うということで緊張しているのかな?

目的のホテルに入り、すぐに支配人にはあわずに、宿泊する部屋で会って話をするという。
除霊関係の話だし、従業員にもあまり話しを聞かせたくは無いのだろう。
部屋に入ると小人数向けなのだろうが、けっこうよさそうな感じの部屋だ。
部屋に荷物をおいたら、ひのめちゃんにこちらの部屋にくるように言っておいたが、

「同じくらいの部屋の大きさなのに、こっちの方がいい部屋ですね」

「GS協会で正規のGSと見習いのGSで行くと伝えておいたから、そのせいかもな」

「うーん。こっちの部屋がいいな」

そうだろうな。

「そう思うんだったら、早く正規のGSになるんだよ」

普通の状況なら素直に譲るのだが、これもGSとして正規になるための動機のひとつになる。

「がんばりますから、霊力レベルの高い相手をしたいな」

「どうしても、広い範囲を使うなら、こういう風に地方にでかけることが多いし、霊力レベルが高いのは収入が良いので、有力なGSのところに行っちゃうからね」

「いまのままだと、正規のGSにあるのは年をこしちゃいそうですよね?」

「これから院雅除霊事務所で、研修のために郊外の霊力レベルCばかりを相手にするとしたら最低で8ヶ月ぐらいはかかるね。けれど、六道女学院って2年生になったらGWの前後あたりで林間学校の除霊実習が、たしかあるだろう? そこで1ヶ月以上は早く正規のGSになれるんじゃないのかな?」

「やっぱり、高校1年生のうちはきびしいんですね」

「あとは、冥子ちゃんと協同で除霊をするという手もあるけれど」

「……え、遠慮しておきます」

いつ爆発する危険性のある冥子ちゃんと一緒にいるのは、神経をすり減らすからな。
会話でとぎれたところへ、ホテルの支配人がきて、

「お若い方がいらっしゃるとは聞いておりましたが……」

多少困惑気に話だそうとしたので、

「除霊事務所として霊力ランクレベルAをうけられますし、相手は霊力レベルCです。俺たちのコンビで、何回も除霊実績がありますからご安心ください」

情報の抜けはあるが、勘違いするのは相手の勝手だ。

「こちらとしても、除霊さえきちんとしていただけるなら、問題ありませんので」

「それで、除霊依頼書には記載されていないような情報がございましたら、どんな些細なことでも聞かせていただきたいのですが」

GS協会にきていた除霊依頼書を見てもらいながら確認していくと、

「子どもの幽霊がでる?」

「ええ。あそこには子どもはいなかったはずなのですが、いつのまにかいて、中で暴れていると思われる幽霊の除霊は邪魔をされそうなんです」

「そうですか。ただ霊力はあまり高くは無いと?」

「ええ。それはここの住職も弱いですが霊能力をもっていて、そうだと言っておりましたので」

「それはそうしまして、あとは、一軒家は壊れてしまってよいというのは条件付きなのですね」

「ええ、このホテル側から見える部分は、あまり壊れたように見えないという風にしてもらえますと」

「たとえば、窓ガラスが割れるとか、内部が焼けていても大丈夫とか、極端なところまでいくとホテル側と反対側の壁は全部なくなっていても良いってところですか?」

「ええ、こちらから表面上見えるところが無事なら、窓ガラスぐらいはこちらで補修いたしますので、それで結構です」

「わかりました。その条件で行わせていただきますので、依頼内容の詳細修正ということにいたします。こちらが依頼契約書の詳細修正ということで、今書く別紙になりますが、内容に間違いがなければサインもしくは、押印をお願いいたします」

令子あたりは収入をごまかすのにこういうのを書かなかったけれど、院雅さんからはきちんと書くように言われているからな。
内容的には最終手段が屋敷の丸焼きから、屋内の内部のみを焼くという霊力特有の焼き方だから、問題は無いので依頼契約書の正式な修正を取り交わし終わった。
せっかくひのめちゃんの練習ができる、広そうなところにきたので、

「ひのめちゃん、夕食前に訓練ね」

「はい。中々めいっぱいの訓練はできないので、がんばります」

「いや。今日は、除霊があるから軽くね。本格的なのは、明朝にするから」

「あっ。そうでしたね」

近くの川原がホテルから見えないようなので、今晩の除霊で実行する技を練習する。

「この川でうまくできているし、今晩の除霊もこの方法でうまくいきそうだね」

「はい。なんとか自信をもって、いけそうです」

「じゃあ、時間もせまってきたし、ホテルの夕食でもご馳走になろうか」

「こういう時の楽しみってそうですよね」

ここの夕食は部屋食で、ひのめちゃんとは俺の部屋で食事をともにする。

「なんか、こういうのって、日本旅館っぽい料理ですね」

「懐石風の夕食だからね。それでも、このてんぷらはここの地場の食材を使っているんじゃないかな?」

「見てわかるものですか?」

「はっきりとはわからないけれど、これくらいの小さめの川魚だったし、ここは湖だからとれても不思議じゃないからね。それ以外はわからないけれど、おキヌちゃんたちが買ってくる食材で見たことの無いものがあるから、ここらあたりの独特の食材かなと思ってね」

「へー、よく見ているんですね」

「なんとなくかな」

わりあいにゆっくりめの会話を楽しみながら夕食を行い、除霊の準備の最終確認だ。
ひのめちゃんは一旦部屋にもどって、着替えてきたひのめちゃんを見て忠告しておくべきことを、すっかり忘れているのに気がついた。

「ひのめちゃん。キュロットスカートなのはかまわないのだけど、素足がでているよ」

「えっと。何か問題でも?」

「普通のズボンか、今の格好をメインにすえるなら、逆にタイツか長めのソックスとかを用意した方が良いだろう。今日は直接関係ないけれど、山奥に入る時には枝とかで切れるし、時期によっては虫にさされるとかもあるからね」

「はい。次回から気をつけて用意しておきます」

「今回は致命的じゃないから、そのままでいくか」

令子というと世間ではボディコンで有名だったけれど、きちんと時期と場所で服装を使い分けていたからな。
今の令子は、宣伝をしだしているが、以前より少し地味目かな。
とはいっても肌の露出が多い格好で、宣伝しているけどな。

屋敷に向かうと、

「はでにポルターガイスト現象を、おこしていますね」

「そうだね。ラップ音まで外部に響いているし、日本の幽霊では珍しいんじゃないのかな?」

このあと、特定のエリア内に入ると

「おじちゃんたちも、お母さんをいじめに来たのかー」

聞いていた少年の幽霊か。さて説得に応じてくれるかな。


*****
どさまわり編といったらいいのかな

2011.04.27:初出



[26632] リポート36 ひのめ霊能力強化大作戦編(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/14 09:24
「おじちゃんたちも、お母さんををいじめに来たのかー」

一応、見た目だけは高校生の男女のはずだけど、この男の子の幽霊には、俺らがおじさんに見えるらしい。
ひのめちゃんは

「おじちゃんたちって、私はおばちゃんに見えるってこと?」

「うん」

「こら! お姉さんに訂正しなさい!」

おお、手のひらから炎の塊を出している。

「はい。美人のお姉さま」

この男の子、生きる道をよく知っているな。
死んで幽霊になっているけど。
ひのめちゃんは冷静さをかいていると判断して制し、俺が話をすることにする。

「ところで、お母さんをいじめに来たって言ったけど、以前にもだれかきたのかい?」

「うん。変な格好した人がゴーストスイーパーだと言って、お母さんを無理に殺そうとしたんだ」

「お母さんを無理に殺そうって、あの家の中でお母さんは生きているのかい?」

「ううん。死んで幽霊になっているのは僕もわかっているけど、お母さんは僕が見えないみたいなんだ」

他の幽霊は、見えない幽霊ってタイプか。
けれど、中の幽霊である斉藤さんには子どもがいなかったと聞いているのだが、どうしたものかな。
とりあえずは無難に、

「うーん。僕の名前は教えてもらえるかな?」

「タツオっていうんだ」

「じゃあ、タツオ君は、自分が死んでいるのもわかっているのかな?」

「うん」

幽霊である斉藤さんは、自分が死んでいるのを認識しているのかな。

「タツオ君は、なんで成仏ができないのかな。もしくは、幽霊のままでいるのかわかるかな?」

「……ううん。わからない」

「じゃあ、言い方を変えてみよう。気にかかることは、何があるのかな?」

「お母さんが、きちんと正気にもどってくれることだよ。僕を探し出すようになってから、おかしくなっていったんだけど……」

途中で他の幽霊が見えなくなるというのは初耳だな。

「あそこまで色々騒音をおこしたりすると、まわりの人に迷惑だって、おそわっていないかい?」

「うん。だけど、僕もお母さんも死んで数年も立つのに、あんなふうになったのは最近なんだ」

「それは……お母さんはタツオ君がみえなくなって、悪い幽霊になっちゃったのかもしれないね」

「そうなのかな。けれど、昼間は静かにしているよ」

聞いている情報と同じだな。さて、どうしようか。

「そうなのかい?」

「うん」

「もう少し、教えてほしいんだけど、お母さんはあの家からでてこないらしいけれど、理由は知っているのかな?」

「なんか、家を出入りするのに、見えない壁みたいなのがあるんだ。ぼくはなんとか、そこをでられるんだけど、お母さんはでられないみたいなんだ」

霊体が出入りできないということは結界の一種かな?

「それって、前からそうなの?」

「ううん。そういえば、お母さんが僕を探し出したのと同じころかな」

なんか、人為的につくられた結界がある感じだな。

「とりあえずは、お母さんが静かになる明日にくるけれど、静かになるのって何時くらいなのかわかるかな?」

「朝になったら、静かになるよ」

やはり、今日支配人から聞いた状況と一致するな。

「じゃあ、タツオ君には悪いかもしれないけれど、家の外まで行って中の様子をうかがわせてもらってもいいかな」

「うーん。あまり、あのお母さんを、みてほしくないんだけど……」

「今の状態をみておかないと、悪い幽霊なのか、そうじゃないのか、明日の朝だけではわからないんだよ」

「おじさんもお姉さまも、お母さんに悪いことはしない?」

「少なくとも、明日お母さんと会えるまでは特にしないよ。明日はその静かな状態の時に、今みたいに話せたら特別なにもしないで済むかもしれないよ」

「うーん。絶対何もしないとは言ってくれないの?」

「そうだねー。あそこの騒ぎが悪いことだって、教わったって言ってたよね?」

「うん」

「だから、あーいう騒ぎをおこさないでいてくれたら、何もしなくて済むんだよ。だけど、このままなら、いずれは誰かに退治されちゃうよ」

「そうなの?」

「そうだよ。だから、今晩は様子をみさせてもらって、明日の朝、またきてお母さんとお話ができるかをしてみたいんだ」

「でもー」

これ以上は、子どもの幽霊の話を続けるのは難しいな。
俺は霊力を開放していった。

「おじさん……お母さんを殺しちゃうの?」

霊力を感じとってくれたか。

「いや、殺すんではなくて、悪い幽霊なら成仏といってすくってあげるんだよ。今でも、成仏させるだけなら簡単にできるだけの力があることをわかってもらいたかったんだ。ただ、本当に悪い幽霊なのかわからないので、話をしてみたいんだよ」

「殺すんじゃなくて、成仏?」

「そう。普通は死んだら成仏といって、あの世に行くんだよ。タツオ君もお母さんも何年も幽霊としているみたいだけど、タツオ君を視る限り悪い幽霊には見えないんだよね」

正体は不明だが、このタツオという少年の幽霊から特に悪意は感じない。
中の幽霊を、力不足ながらまもりたがっているような霊波を感じる。

「だからね、今のお母さんは一時的に騒音をだしているけど、何か事情があるのかもしれないから、そこを明日話してみたいんだよ」

「うん。本当に今日は家の中を、外からみるだけだよね?」

「それは、家の中から、お母さんにおそわれない限り大丈夫。お母さんは家の外にでられないんだよね?」

「うん。絶対に家の外にでてこれないから大丈夫だよ」

「じゃあ、案内してもらえるかな?」

「うん」

そうして男の子の幽霊であるタツオ君を先導にして、ひのめちゃんとついていく。

「本当に、今日退治しなくていいんですか?」

「ああ。なんか、この騒霊騒ぎって、人為的な感じがするんだよね。それに事前に聞いた感じから、今日でなくても良いとの契約にしてあるしね。そういう心配も大切だけど、家についたら、霊視ゴーグルをだせるようにしといてくれるかな」

「はい」

家の外についたところで、タツオ君にお母さんのいるところを教えてもらう。
そこには、うろうろと落ち着きなく動いていて、悪霊に近いかもしれないが、完全にそうだともいえない雰囲気がする。
どちらかというと錯乱状態といったところか。
ひのめちゃんからは、

「家の中に結界があるみたいですね」

「じゃあ、わるいけれど、霊視ゴーグルを通してカメラで写真撮影をしてくれるかな?」

「ええ。けど、写真撮影ですか?」

「そう。結界があったという証拠の写真だ。元からあったものなのか、さっきタツオ君が言ってた時期につくられた結界なのか、結界の性格は異なる。けれど、家を外部から護るなら普通は外側に対して広がるように結界をつくるのに対して、内側にあるっていうのが変なんだよ」

令子のところでも教えてもらったけれど、結界に関しての知識は、院雅さんの方が上だからな。

「写真はとれました」

「念のため、霊視ゴーグルを貸して」

霊視ゴーグルを見つけると、ひのめちゃんの言うとおりだが、

「元々外部にも結界のあった形跡が、のこっているように見えるな。これは、結構特殊な事例にあたったかもしれないぞ」

「そうですか、結界越しではっきりわかりませけど、霊力レベルCだから、今でもすぐに問題なくかたづけられそうですけど」

「確かに霊力はそのレベルだけど、霊格が高い。もしかしたら、とんでもない大物に化ける可能性があるから、話し合いですむといいかもしれない」

「まさか、そんなの少ないってきいていますよ」

「その珍しいケースかもしれない。明朝、話し合えるかどうかできまるな」

「せっかく、普段使えない技を試せるかもしれないと思ったのに」

「力や技におぼれたら、GS試験の決勝戦にでた勘九郎みたいになるかもしれないから気をつけた方がいいよ」

まあ、俺も核ハイジャック事件のあとは、力をもとめてみたことはあるけれど、やっぱりそれだけじゃないとは気がつかされたんだよな。

「あと、これは考え過ぎかもしれないが、今晩寝る前は霊力の消耗はさけておいた方がよいかもしれない。これが人為的なものだとしたら、今晩のことをみられているかもしれないから、襲われる危険性がある。だから気をつけるんだ」

「はい。院雅さんの結界札を部屋の中に貼っておきます」

「それがいいと思う。俺は、ホテルの支配人に話をしておくから、霊力だけは温存しておくようにね」

「なんか、今回は真面目に仕事するんですね」

「うん? そんなに普段不真面目にみえていた?」

「いえ、霊力レベルCの割りにはなんか、単純な霊力レベルCの仕事じゃない感じで話しているっぽいので」

「いや、なんか、今日の少年の幽霊や、その幽霊からの話をきいているとそんな感じがしてね」

「そうですか」

何かひのめちゃんにプレッシャーでもかけちゃったかな。

ホテルへ戻って支配人に除霊は明朝にすることを伝えると渋い顔をしているので

「除霊依頼書に以前GSがきてたことは書かれていません。そのあたりは知っていましたか?」

そうすると、

「ええ、来たことはありました。それはGS協会に依頼をする前に、あの屋敷の幽霊が騒々しくなってきた頃、ホテルにお泊りの方でした。その方の提示された金額があまりに高かったので、この村にある寺の住職も霊視程度ならできる霊能力者で、相談してみたんですよ。そうするとGS協会のことを、知っていらっしゃったので頼んだんです」

「そのGSだと名乗っていた人物名は?」

「我々もホテル業を営んでいますから、お名前をお知らせすることはできません」

「そうですか。なにか気にかかるので、GS協会の方へ問い合わせていただけますかね。もしくはICPO超常犯罪科へ、問い合わせだけでもお願いします」

「どうしてですか?」

「いえ、現場の男の子の幽霊が『以前にもお母さんをいじめに来た』と言っていたので、気にかかるんですよ。それに、朝からなら話せるかもしれないので、その幽霊と話してみたいんです。少なくとも数年は、あそこにいた幽霊で、最近までは騒いでいなかったそうですから」

「はあ。たしかに、幽霊屋敷としては有名でしたが少年ですか……以前は特段に悪いこともしていなかったので、寺の住職ともその時は素直に話してくれたのですが……今は、昼間でも寺の住職を中に通さないようだったので、これは無理かなと思いましたので……」

「それならば、今日、きてすぐに話してみるという手もあったのですが、それなら仕方が無いでしょう。ただ、一度その幽霊とは暴れていないときに、会わせてください。それによっては、成仏をしてもらったり、移動してもらったりすることもできますので」

「はあ。そういうことになりましたか。けれど今晩だけですね」

「ええ」

それで、俺は部屋にもどって考えてみるが、GSと名乗っていた人物の動きがあきらかにおかしい。
あと、なぜ、あの男の子の幽霊は無事だったのかだな。
倒す程の霊では無いと判断したのかもしれないが、多少は気にかかる。

「それはともかく、ホテルといえば風呂だよな」

温泉ではないからそんなに期待していなかったが、鉱泉を暖めているので効能としては温泉に通じるものがある。
しかし、女湯と通じていないな。くそー



部屋にもどったが、名前のわからないGSの動きがどうも気にかかる。
魔族がここにかかわっているかというと、それもなっていう感じだが。
睡眠は帰りのバスとJRでとるとして、今晩は念のために徹夜になるか。
わずかに空けた窓からは、屋敷からのラップ音が響いてくる。
街中ならそんなに気にするほどのものでも無い音だが、このくらいの村だと、これでも騒音なんだろうな。

四六時中緊張なんてものは、たもっていられないからな。
暇つぶしに買っておいた本を読むが、徹夜するには薄すぎた。
しかたがないので、徹夜の暇つぶしにテレビをつけて音量はしぼっておく。

気がついたら、ラップ音が聞こえなくなっていたので、テレビの電源をきってもやはり聞こえない。
ひのめちゃんの部屋に電話をすると、

「おはようございます。横島さんですか?」

「そう、横島だよ。ラップ音が止まっているので、これから幽霊に会いに行く。準備ができたら、部屋へ電話をしてくれ」

「準備ならもうできています」

「は、はやいね。今から移動するから、ロビーで待ち合わせて一緒にいこう」

「はい」

ロビーでひのめちゃんと一緒になり、屋敷にでむく途中、

「ラップ音もでていなかったですけど、ポルターガイスト現象もとまっていますね」

「ああ、あとは、女性の幽霊、斉藤竜子さんと話が通じるか、というところなんだけどね」

屋敷のある特定の距離、エリア内に入ったのであろう。
昨日の男の子の幽霊、タツオ君があらわれた。

「待っていました。お母さんは今静かなので、会うだけなら問題ないと思います」

「昨晩みたいに案内をしてもらってもいいかな?」

「うん」

タツオ君が玄関まで案内してくれると、

「僕は先に入って、中でまっているから」

そう言って、先に壁抜けをして中へ入っていった。

「ひのめちゃん。今の気がついたかい?」

「ええ、一瞬ですけど、ものすごい霊力を感じました。霊力レベルBどころかA、下手をしたらSですよね?」

「ああ。中の幽霊が問題じゃなくて、あの息子でないはずなのにお母さんと言っている、男の子の幽霊の方に気をつけないといけないかもしれないな」

今は結界を抜けるのに、一時的に霊力を開放をしたのだろう。
もし、敵にまわったら2個の文珠を使って対抗できるかどうかのクラスだな。
それを先ほどまで微塵も感じさせなかったというのは、どういう意図なんだ?

タツオ君をまたせるのも悪いといえるかは疑問だが、ドアを開けて、鍵は特にかかっていないので入っていく。
中には、昨晩のうろうろしていた様子とは異なる斉藤さんの霊が椅子に座ってぼんやりして、こちらを眺めている。
何かあきらめているような感じの顔だな。
こちらからは、

「えーと、聞こえますか?」

たずねるが、クビをちょっとひねったぐらいだが、反応があるということは、音声か何かは伝わっているのだろう。

「ひのめちゃん、筆記用具ってあったよね?」

「ええ、レポート用紙ですけど」

「それで充分だから、出して」

そう、俺が試してみるのは筆談だ。
最初に書いたのは、

『この文字が読めたら、首を縦に振って下さい』

そうすると、弱々しげだが首を縦にふっている。
一応、会話は成立しそうだが、なぜこんなに弱々しげなのだろうか?

『これから質問します【はい】なら首を縦に【いいえ】なら首をよこにふってもらっていいですか』

これも首を縦にふる。
何回か、やりとりしていると、昼間はその場所から移動できないのはわかった。

「どうも、この結界が、幽霊の動きを封じているようだね」

「そうなんですね」

「ああ、これだけ意思疎通ができるから動けないことや、まわりにきちんと働きかけができていないことなんかに対して、諦めているような感じだね」

「じゃあ、この結界をなんとかすればいいんですね」

「ああ。人間には何も影響が無いみたいだから、霊視ゴーグルで場所を探してみて、そこの写真をとっておいてね」

「わかりました。霊視ゴーグルをつかってですね」

「それと普通にとるのと、何番目にどこをとったかもメモをしておいてね」

俺はひのめちゃんが次々と結界の元となる部分の写真撮影をしてもらっている間に、斉藤さんとの筆談を続けていた。

「全て写してきたんですけど、なんか、結界芯があって、それのまわりにさらに結界をはっているタイプなんですよ」

「じゃあ、ちょっと実物をみてみるか」

行ってみると霊波刀も、予備で持ち歩いている神通棍も通さないタイプの結界で、結界芯をまもっているな。

「これは霊的に通過させないタイプの結界だね。物理的には通りそうだから、石なんかで破壊できそうだけど、そうすると結界芯ごとなくなりそうだ。証拠品としてのこしておくのに、枯れ枝を2本ばかり探してきてくれないかな」

「枯れ枝ですか?」

「うん。普通の枝をおってくると、まだ木の枝に霊的な要素がのこっているからね。それに対して枯れ枝なら霊力がなくなっているか、少なくなっているんだよ。だから、結界芯を破壊しないで、取れると思うんだよね」

まあ、こういうのは令子が得意な裏技の一種だが、意外にそういうのが役にたつんだよな。
逆に霊的なものが無いトラップあたりは魔族あたりがひっかかりやすいしな。

だからここの少年の幽霊であるタツオ君は、霊力が高くても手をだせないんだろう。


*****
簡単だと思った幽霊でしたが、実体はちょっとばかり違う方向にいきそうです。

2011.04.28:初出



[26632] リポート37 ひのめ霊能力強化大作戦編(その4)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/16 20:32
ひのめちゃんが外の林の中へ、枯れ枝を捜しに行っている間に、

「タツオ君に質問があるんだけどいいかな?」

「うん」

「斉藤さんとの筆談では子どもはいないようだけど、君は何者なのかな?」

「そ、それは」

やはり、そうか。幽霊の斉藤さんに、この男の子のことを確認したとき、反応が変だったし。

「霊力が高くてとても俺なんかじゃ、かないそうにないのはこの屋敷にタツオ君が入る時にわかった。君から悪意をむけられていないが、隠し事をされたままなら、このまま結界を残して斉藤さんを除霊しなきゃならない羽目になるかもしれない」

「どうしてもそうなっちゃいますか?」

「君があの斉藤さんを、あやつっていたりしていないよね?」

「それはしていません!」

ふむ。霊勘を信じるならば信用はできそうだが、さてどうしたものかな。
ひのめちゃんがもどってくるまで時間も無いし、

「じゃあ、今は問わないけれど、もし君たちが悪い幽霊だった場合で、俺を倒しても大勢のGSや霊能者が退治にくるだろう。だからそれは覚えていてくれるかな」

「うん」

安堵したようにみえるから、攻撃される様子はなさそうだが、竜装術を使えていた時にためてあった自動発動型の文珠に『護』の文字をいれておく。
ひのめちゃんが枯れ枝を持ってきたので、念のために各枝が結界芯まで問題なく届くことを確認した。
特にトラップもなさそうだから、縦に抜き取れれば、ここのそれぞれの結界は全て解けるだろう。

「じゃあ、ひのめちゃん。この結界芯をぬきとってね」

「えっ? 私ですか?」

「だって、この仕事は、ひのめちゃんの研修のための仕事だよ。肝心なところを行わなきゃ」

「はい。やります」

俺は枯れ枝を渡しなおしながら、タツオという名の幽霊とひのめちゃんの間で、タツオが見えるような場所に移動する。
さらに文珠の『護』の効果がある範囲で、ひのめちゃんを護れる位置へと微調整の移動だ。
ひのめちゃんは、悪戦苦闘しながらもゆっくりと確実に結界芯を抜き取ると、

「ありがとう、おじさん、お姉さん」

そういえば、おじさんのままにしていたか。今さらいいか。

「ああ、これでもう一回、さっきの斉藤さんと話ができるね」

「うん」

そうして、斉藤さんの腰掛けていた椅子の方へ移動して部屋に入ると、こちらにお辞儀をしている斉藤さんがいた。

「頭をあげてください」

「本当にありがとうございます。ようやっと、自由に動けます。先ほどから筆談でお手を煩わせてすみませんでした」

「いえ、それよりも調子はどうですか?」

「数週間ぶりに自由になれて、音ももどってきました。これで夜も操られないですみそうです」

「操る?」

俺はタツオを見るが首を横に振っている。

「勘違いしないでください。多分、今まではってあった結界の特性だと思います」

「そうでしたか。他にも別の種類の結界があって、それは壊れてあったのですが、あれは何だかわかりますか?」

「あれは、私が幽霊となっても、この屋敷にとどめておくものです。しかし、あの結界を張れる者はもうおりません。だから私は成仏するのでしょう……」

「えーと、幽霊のままで、この地にとどまらなければいけない理由があるのですか?」

「それを話したとして、結界を修復できるのでしょうか?」

修復の確約はできないし、下手に地上にいさせると悪霊化する可能性もあるな。

「いいえ。無理ですね。ただ、そこの男の子との関係を教えてもらってもよいですか?」

「……よろしいでしょうか?」

斉藤さんがタツオに向かって確認している。

「我から話そう」

そうすると、男の子の幽霊の姿から竜の姿に変化した。
こりゃあ、霊格が高いし、霊力も強いはずだ。たたかっても勝ち目なんてないよな。
しかし、生霊と死霊の違いぐらいはわかるつもりだったが、まだまだ霊視は甘いということか。

「我は竜神の霊体だ。本体は湖の底で眠りにつかせておる」

「その竜神が、なぜその女性にこだわりをもっていたのかは、話せるでしょうか?」

「それは、私の方から話させていただきます」

「うむ、よかろう」

斉藤さんの方から話すのか。

「我々はこの湖の竜神さまに使えていた一族であります。しかし、私の代で、跡継ぎもできない身体となってしまい、竜神さまに使えるために幽霊となって残ることにしたのです」

「それは、自分の意思で」

「ええ。当然のことです」

力強く答えるその姿勢は、ここでの一族として竜神に仕えること誇りとしていたのだろうというのを思わせるのと、さらに別な理由もありそうだが。
しかし先ほど話すのをためらったのは、この竜神に無理やりそういう風にさせられたと思われるのが嫌だったのかな?

「それで成仏しなかったのはわかります。もし可能なら、この地にとどまって竜神に仕えることを望みますか?」

「とどまれればですが、そのようなことができるのですか?」

「我一柱の力では、この者をこの地にとどめ続けることはできぬぞ。地竜を従えし者よ」

いざとなったら里目で襲わせようと思っていたのが、ばれていたのね。

「近くに地脈は無いかな?」

「残念ながら水脈の力が強くて、ここの地脈では正常な意識のまま、この者をとどめておくことはできないであろう」

「うーん。幽霊になってから動ける範囲って、この家周辺ぐらいだったのかな?」

「そのようなことを聞いてどうするのだ。地竜を従えし者よ」

「地脈だけで正常な意識を保てないのなら、霊を地脈にくくった上で水脈の力で意識を保たせる程度の浄化をさせる。失敗したらそのまま成仏してしまうから結果は同じだからね。こんなことを思っているんだけど」

「ほう。土行の地竜を従えし者と、水行を扱う娘で行うというのか。面白いものよ」

「へっ? 水行を扱う娘? このひのめちゃんなら、発火能力者だから火行じゃないのか?」

「人間としては火行が強いのかもしれぬが、霊体は水行が強いぞ。その娘が先ほどのことをするのではないのか?」

ひのめちゃんの霊体は水行が強いって?
ひのめちゃんの話はともかく、

「いえ、俺がおこないます。斉藤さんは、これから地脈にくくられます。ここの地脈の強さをはかっていないからよくわかりませんが、行動範囲はそれほど広くはないでしょう。まあ、村まではいけるぐらいですかね。それで充分ですよね?」

「竜神さまがそれでよろしければ、私はその道を選びたいと思っております」

「うむ。我も人との間をとりもつ者がいなければ、基本的には水からでないからな」

「竜神さま、私が邪魔なのですか?」

「いや、そのようなことは申しておらぬ。できれば我も話せる相手は欲しいが、これは我のわがままゆえに、お主がそれを聞く必要は無い」

「そうすると、私が、そばに仕えさせていただいてもよろしいのですね」

「そこの地竜を従えし者よ。本当に先ほどのようなことを一人でできるのか?」

「その斉藤さんを、地脈にくくったり、水脈の中の霊力と結びつかせることはできます。ただし、水脈の中の霊力を常時一定に保ち続けるようなことはおこなったことが無いので、この地にきちんととどまらせられるとは言いきれません」

「水脈の中の霊力の調整なら我がおこなおう。これでも水神のはしくれ。それぐらいはどうとでもなろう」

水行を扱う竜神だから水神だわな。
まあ、日本では昔から普通は竜神といえば水神が多かったけど、
俺の周りの竜神って、メドーサは土行の黄竜だし、小竜姫さまは火行の赤竜だしな。

「じゃあ、まずは地脈にくくるので、斉藤さんは家の外にでていただけますか?」

「ええ。わかりました」

斉藤さんは覚悟をきめているな。

外ではサイキックソーサーを五角形にし、その際に黄色の方向に霊波をずらす。
そしてそのサイキックソーサーを五箇所に配置した。

「斉藤さん、その5枚の板の真ん中のあたりにたっていただけますか」

「はい」

俺は、そのサイキックソーサーに対して五芒星を霊的に形成させる。
『サイキック五行黄竜陣』だが、別に今回は声にださなくてもいいし、地脈とつながらせるイメージだけで、斉藤さんと地脈がつながったのを感じ取る。
たしかに、ここの地脈は弱いな。

「もう少し、その場所でまっていてくださいね」

俺は一度だしたサイキックソーサーを全て戻して霊力を吸収しなおして、今度は五角形サイキックソーサーを黒色の方向に霊波をずらしたものをだす。
また、五芒星の位置にだしなおして、今度は『サイキック五行黒竜陣』だ。
黒竜は水行につらなるので、今度は、斉藤さんと水脈の中の霊力をつなげるイメージでこれもつながった。
弱いながらも水流なので多少不安定感がある。
本当はあまり自信がなかったのだけども、水神である竜神もいることだし、今までの話から言うと、そのあたりの微調整は竜神がやってくれるだろう。

「これで終了です。どうですか体調の方は?」

「ええ、今のところ問題ありません」

「ふむ、水脈の霊力が不安定じゃな。なかなか、この者から目が離せまいて」

そういう竜神からは優しげな霊波を感じてくる。
竜神は竜神で、この一族、特にこの斉藤さんを、好ましく思っているのであろう。

「まあ、本来の依頼内容とは異なりますが、騒がなければ問題ないはずなので、あまり夜中に大声とかあげないようにしてくださいね?」

「何を言っておるのじゃ? 地竜を従えし者よ」

「いえ、別にいいんです」

うん。斉藤さんの様子をみると、どちらかというと、この二人恋仲なんだろうな。

「それよりも、教えていただきたいことがあるのですが?」

「望みか?」

「いえ、この件の報酬は他からいただくのでいいんですが、先ほどひのめちゃんに向かって『霊体は水行が強い』と言いきっていましたよね?」

「その通りだが」

「それを確認させてもらっただけです」

「それだけでよいのか?」

「何かありましたっけ?」

「我が子どものふりをして言ったことは、全て守ってくれたではないか」

「ああ。そういえば、そうでしたね。あれも契約になるんですか?」

「そう。あれも契約の一種になる。あれを護らなければ、お主の命は無かったであろうな」

おいおい、物騒なことを今さら言わないでくれよ。
言霊として霊力をのせられていたとは思えないけれど、それだけ、隠行の能力が高いということか。
っということは、以前のGSは……言わずもがなか。

「俺よりもひのめちゃんに水行の術を簡単なのでいいのから、教えてあげてほしいのですが」

「えっ? 私ですか?」

「そう。だって、これはひのめちゃんの研修用の仕事だ。ここまでの大物が、でてくるとは思っていなかったけどね」

「お主がそれで良いならば、我はそれでもかまわぬ。そこの娘も直接言葉をかわすことが少なくとも、その場で聞いており、それにしたがっておったからな」

「はい。それでは、お願いします。私に術を授けてください」

「お主達はいそいでいる様子だが、術を授けるのは時間がかかる。それでよいであろうか?」

「今日、戻ってしまいます……」

「それでは、代わりとなる物を贈るのではいかがであろうか?」

俺はひのめちゃんへ首を縦にふる。

「はい。それでお願いいたします」

「お主達の時間で、数分まっておれ」

そう言って、竜神の霊体が消えた。本体への瞬間移動かな?

「どんな物でしょうね?」

「わからないけれど、竜神からの贈り物って神話の時代にはよく聞いたけれど、時代が現在に近づくにつれて減ってきているから、なかなか無い経験だぞ」

「お話中、すみません」

「ああ、斉藤さん」

「ここまでしてもらって、お名前をきいていなかったのですが」

竜神が人間の名前なんて覚えるわけが無いから気にしてなかったが、こっちは幽霊か。

「俺は横島忠夫」

「私は美神ひのめです」

「今回の件、どうもありがとうございました」

「いえ、気にしないで下さい。これもGSの仕事ですから」

「けど、その前に来たGSは……」

「それは、知らなかったと押し通すことですね。実際知らないだろうし、俺らは何もみていませんから」

「そ、それでも」

「現在の日本の法律には、幽霊を直接護る法律はありません。竜神も、人間に対して何かをおこなったのなら、元竜神として日本のオカルトに関する法律で罰せられます。だから、何もなかったというのが良いんですよ」

「さも、見たかのようですね」

「いえ、竜神の言葉からの推測だけですから、俺は実際におこったことは何も知りませんよ」

「そうですか。そうさせていただきます」

ひのめちゃんは頭に『?』マークをうかべているが、こんな裏はまだしらなくてもいいかな。
それとも甘やかしすぎだろうか。
こういうことは、本来俺の得意分野じゃないからな。
簡単な雑談をしていると、湖から黒竜があらわれ、

「我から贈らせてもらうのは、これだ」

そう言って黒竜の鱗がひのめちゃんの目の前にだされたが、分厚くて重たそうだ。
ひのめちゃんが恐る恐ると、

「えーと、もって帰るのに手間がかかりそうなんですけど」

「それをお主の霊的防御とするように術を行使するから、そこに立っているがよい」

そうすると、聞きなれないけれども、小竜姫さまが竜装術を封じた時の韻をふくんでいるな。
きっと竜族あたりの言葉なのだろう。
その言葉で数語を口からだしあえた瞬間に、黒竜の鱗がひのめちゃんに分解されながらすいこまれていった。

「これでその娘の防御力は、はるかに上昇している。これでよかろう」

「竜神からいただき物で、もったいないほどのありがたみです」

「はい。ありがとうございます」

「それでは地竜を従えし者と、我の鱗を授かりし娘よ。さらばじゃ」

そう言うと、黒竜と斉藤さんが消えたな。
建物をどうするか確認しわすれたが、そのあたりは、あまり手をつけないようにしてもらえばいいか。


*****
ひのめちゃんのことは次話である程度でてきます。
小竜姫さまはたしか、アニメでは黄色系の竜に変身していましたが、火を吹いているので、ここでは火竜である赤竜としています。

2011.04.30:初出



[26632] リポート38 ひのめ霊能力強化大作戦編(その5)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/16 20:32
黒竜と斉藤さんが消えたあと、

「しかし、えらく良い能力をさずかったな」

「私って霊能力のベースは水なんですか?」

「うーん。そういえば、きちんと霊力の性質って調べてもらったことってあるかい?」

「そういえば、なかったですね……」

俺も前の時間軸でひのめちゃんの霊能力のことを、きちんと調べたことをなかったから、こっちのことは何も言えないな。

「すくなくとも神族時代のメドーサは見間違えていたしな。多分わかりづらいと思うから、帰ったらきちんと計ろう。クライアントへの説明もあるし、朝食でもとったら帰るか」

「けれど、横島さんのサイキックソーサーって、あんな使え方がしたんですね」

俺は、内心冷や汗をかきながら、

「霊を地脈にくくるなんて、令子さんでもできるだろう? 俺なんかサイキックソーサーの補助をうけないとできないんだからな」

「そうですか。郊外にきたのだし、修行はどうしますか?」

あー、あまり、この点については疑問に思われなかった。
六道女学院で1年生だと、このあたりを教わっていないのかー
それよりも、火を使っていたのに、水が霊能力って方で疑問を感じないのかな。
どちらにしても都合は良い。

「うーん。火だと思っていたけれど、水だからな。今までの感じをみていると発火と、火竜以外は全部やり直しぐらいのつもりがいいかもしれないね。水系の霊能力を修行となると、俺もきちんとおぼえていないから、とりあえずは、もどってから勉強だな」

「えー!」

「発火だけでも、それなりの相手は倒せるのと、今回の除霊は霊力レベルCではなくて霊力レベルSの仕事になる。だから、正規のGS免許までの換算数は随分かせいだことになるよ」

「それは嬉しいんでが、火から水ってまるっきりイメージが違うのですけど」

そうだよな。
しかし、今まで、火ばかりの訓練しかしていなかったってことは、美智恵さんに時間移動の能力は無いのだろうか?

「本当の基礎部分は水であろうが火であろうが一緒だから、そこまではいままで通りに瞑想までは問題ないから、そこより先だよね」

「そうなんですか?」

「ああ。あとは修行のメニューだけど、六道女学院の図書室あたりで文献をあさらせてもらった方が、いいかもしれないよ」

「あの、巨大な図書館をさがすんですか?」

「俺は噂でしかきいていないけれど、古今東西のオカルトに関する書物があるって、きいているからな」

「まずは探してみます」

「こっちでも、こころあたりを聞いてみるから。じゃあ、クライアントに報告をするか」

「はい」

ホテルに戻ると支配人も忙しそうだったが、俺がとまっている部屋へきた。
そこで、軽く話しをすると

「竜神ですか?」

「そう。多分、あそこの斉藤さんを通じれば確認することはできるから、あのあたりは荒らさないようにすることだね」

「そうでしたか。竜神さまがいるならば、あそこも安心ですね」

何かひっかかる気がするんだけどなんだろうか。

「じゃあ、忙しいので、契約は果たしていただいたことということで捺印します」

「お願いします。それと、この湖の竜神というのは有名なんですか?」

「ええ、まあ。村の外に話は普通流れていきませんが、私たちの村の守り神と言われています。だから、竜神さまにいていただけるのならば、私たちとしても安心なんですよ」

「そうでしたか」

「はい。それでは、捺印をしましたので、あとは、帰りまでごゆっくりしていってください」

「ありがとうがとうございます」

支配人もでていったが、バイキング形式の朝食も中間ぐらいの時間になったか。

「じゃあ、朝食にでもいこうか」

「そうですね。けれど、あとは暇ですね」

「そう思うなら、瞑想か、発火の訓練だけでもしておけばいいよ」

「瞑想はともかく発火ですか?」

「うん。多分だけど発火は霊能力というよりも、ESP(超能力)に近いと思んだ。ただし、その発火にも霊能力はまざっているけれど、俺の予測が間違っていなければ……」

「間違っていなければ、どうなんですか?」

「食事をしてからゆっくり帰りにでも話すよ」

「それじゃあ、食事にしましょう」

食事をしたあとにひのめちゃんの発火の訓練を見て帰りのバスの中、俺は徹夜の疲れで眠ってしまった。

ホテルからの帰りのJRでは、ひとことも話してこないひのめちゃんに、俺はどうしたかなと思いつつ自宅の最寄の駅までまた眠りにつく。
駅でわかれるときにひのめちゃんは元気が無いので、

「自分が火でなくて、水の霊能力者だったことがショックだったのかい?」

「違います!! いいんです。今度の金曜日まで、ほっておいて下さい!!」

「今度の金曜日ね。ああ。じゃあ、院雅除霊事務所でね?」

ひのめちゃんは、女の子の日かな?


俺は分室にもどったあとに今回の仕事の特殊性から書類書きで悩んでいる。

「うーん。やっぱり院雅さんと相談かな」

俺は分室からの電話で院雅さんに今回の除霊の相談をすると、

「それは、霊力レベルCのままがいいんじゃない?」

「へっ? せっかくの霊力レベルSが対象になった案件ですよ」

「いやねー。横島君がそれでいいならいいけど、六道家からの協同除霊は確実に依頼が増えると思うんだけどね」

あっ! かなりありそうな話だ。
前回はこちらのレベルにあわせてきたのだから、そのレベルをあげてこられてくる可能性があるな。
けれど、以前の六道家だとこんなまわりくどいことはしなかったはずだけど、やはり何かがかわっているんだろうか。
例えば六道夫人にこの方面のブレーンがついたとか。
まさかだよな。六道財閥の当主に霊能力のブレーンだなんて普通は考えられんぞ。

「まあ、ひのめちゃんも冥子ちゃんとの協同除霊は苦手みたいですしね」

「それもあるけれどなんとなく、今回のその除霊って霊感にさわるのよね」

「へー、院雅さんの霊感ですか」

「私にだってたまにはうかんでくるわよ」

おっ、珍しい。こんな反論の仕方なんて。

「どんな霊感ですか?」

「ちょっと、この方面をしらべてみてみた方が良いと思うぐらいよね」

「やっぱり、GSの霊感ってあいまいなのが多いですね」

「まあ、予知能力者じゃないからね」

「そうでしょうね。確実な予知というとラプラスの魔ぐらいですね」

「そっちは私でも情報は探れないよ」

そのレベルになると情報源は厄珍だろうけど、ラプラスの魔の予知にしても、あの結界の中にいる限りはあらすじだけだからな。

「ええ。わかりました」

「それで、今回の除霊は良いとして、今後のひのめの指導はどうするつもり?」

「やっぱり、妙神山ですね。あそこで、俺も昔、基礎を習いなおしましたから」

「ふーん。そのことを私に伝えていなかったわよね」

あっ! まずいかな。

「えーと、それほど重要な情報でもないでしょう?」

「たしかにね。『美神令子が勉強しろ』といってたのに、勉強していなかったらしいからね」

なんで、俺ってそんな余計なことをつたえたんだろうか。
それにしても、こういう話をしてくるってことは、ユリ子ちゃんがそばにいないのかな?

「その分は、さらに今やりなおしていますから」

「それで妙神山で修行をするならば、どのようなコースになるんだい?」

「週末の土日のみの修行コースですね。だから金曜日に除霊をして、土日に妙神山で修業を繰り返すというのが基本スタイルとなると思います」

「うーん……しかたがないわね。そのかわり、きちんと未来を見据えて、横島君も修行するのよ」

「ええ、圧縮・凝縮系の切り札ですからね」

それで、電話の打ち合わせはきられたが、もし、アシュタロスが敵にまわるとしたら、俺の能力を知っているだろうから、霊波のジャミングをしてくるだろうな。
それに対抗する方法も考えてはいるが、通じるだろうか。
その前になんで、アシュタロス自身の動きが根本的に違うんだろうな。


そして、今度の金曜日は院雅除霊事務所のメンバー4人にユリ子ちゃんがいる。
おキヌちゃんと、ユリ子ちゃんはそっくりだけど、見た目だけは少しユリ子ちゃんの方が年上っぽくみえるかな。
この二人は相性もよいらしく、ミーティングの合間のほんのちょっとの時間をつかっておしゃべりをしている。
それで、今晩は、初めての総合霊力レベルAの仕事ということで、全員で除霊にでかけることになった。

総合霊力レベルAといっても霊力レベルBの霊体が複数いて、他に霊力レベルの低い雑霊がいる家なので、それほど難易度があがったわけでは無い。
最前線にはユリ子ちゃんが結界札をもって、その後方で院雅さんが桶胴太鼓を使うという、院雅除霊事務所ではごくあたり前におこなっている方法だ。
ボスクラスの悪霊は複数いるが、それぞれは協力しあわない。
悪霊同士があわさる可能性もあるということで、ひのめちゃんは院雅さんを、俺はユリ子ちゃんの護衛をするって感じだな。
だから、桶胴太鼓に雑霊の除霊が終わったら、院雅さんは全員に指示をくだして、ユリ子ちゃんは霊波砲、ひのめちゃんは発火、俺はサイキックソーサーで各個撃破している。
ちなみに予想していた通りだが、おキヌちゃんって霊力レベルが高くて、院雅さんの桶胴太鼓による霊波をうけても、まるっきり成仏する気配がない。
おキヌちゃん本気で悪霊になったら、霊力レベルAからSぐらいになりそうだな。こわこわ。
除霊も終わりひのめちゃんが、院雅さんによる桶胴太鼓や梓弓(あずさゆみ)による除霊のことをあらためて聞いている。

「そんな、方法もあるんですか?」

「昔は、こういう方法も主流だったって、私は聞いているんだけどね」

なぜか、院雅さんが苦笑しているが、俺も江戸時代ぐらいの除霊のスタイルはよく知らないからな。

「今度図書館で調べてみたらどうだい?」

「あの図書館、苦手です」

「あれ、ひのめちゃん、勉強嫌いだっけ?」

「いえ、あそこには、霊的トラップがしかけてあるんですけど、私だと火を思わずつかってしまうから、本を焼いてしまうんですよ」

「はあ?」

「それ、本当です」

ユリ子ちゃんがフォローに入る。
一体どこの図書館島だよ。

「一応、学校としては霊視の訓練をかねているそうなので、オカルト関係のところだけなんですが」

「けれど、最近、学校がおもしろくないんですよねー」

「うん。なんで?」

「GSの免許をとったから、霊能力の特に対人関係の実技の授業が、別枠になっちゃうんです」

「えー、それって、みんなうらやましいって言っているんですよー」

「そうなの?」

「はい。今GSの免許とっているのって、ひのめさんだけですから」

「だけど、私もみんなと一緒に実技をうけたいんだけどなー」

「そんな。ひのめさんって、みんなのあこがれなんですから」

これって、女子高特有の「お姉さま」現象の一種か?

「けれど、別枠で授業をうけている先生が最低なのよ。GSの免許をもっていることを鼻にかけているのに、いざとなったら実戦の訓練もしてくれないし」

「いや、ひのめちゃんの火を相手に余裕をもって相手できるのは、日本でもトップクラスに近いぞ」

「えー、だって、GS試験では八洋さんには手傷を負わされてドクターストップだったでしょ。それに普段は、お母さんやお姉ちゃんに横島さんはともかく、あの神父にさえまともに勝てないんですよ?」

「唐巣神父には、俺もまともに勝てる気はしないぞ?」

「えっ? なぜ?」

「なぜって言われてもねぇ。唐巣神父が、この業界でトップ10に入るって話を知らないのかい?」

「いえ。聞いてはいるんですけど、それって本当なんですか?」

たしかに、普段は貧乏人を相手にしているから、強力な相手をしているところを、見たことがないだろうしな。
俺も唐巣神父が国外にまで呼ばれているのは、相手が霊力レベルSだというのを知っているだけだけど、

「多分、俺の知っている範囲で準備をした同士なら、唐巣神父に直接の戦闘で勝てるのは、ひのめちゃんのお母さんぐらいしか思い浮かばないけどね」

「えー、うそー」

「唐巣神父自身の霊能力は、すでにピークをすぎて下がっているかもしれないけれど、そのかわり神への信仰を元に自然の力を借りている。時間をかけたら、自分の霊力だけと、自然の力まで自分の力にできる者のレベルって、どうなるかは予測はつくだろう?」

「あのさえない、生え際の危ない神父が?」

生え際が危ないのは霊能力じゃなくて、なぜか令子をあずかったせいだと思うんだけどな。

「っというわけで、唐巣神父には正攻法では勝てる気が全くしないね」

「神父って、そんなに評価が高かったんだ」

唐巣神父って普段がさえないからなぁ。

「神父のことはおいといて、この夏休み明けに新しく入ってきた先生なら、まともに実技指導してくれそうな気がするの」

へー、ひのめちゃんの相手ができそうな先生か。


*****
ここのひのめちゃんは、発火能力がESP(超能力で)で、霊能力は水行がメインとなっていきます。
設定にチルドレンがまざっています。

2011.05.01:初出



[26632] リポート39 ひのめ霊能力強化大作戦編(その6)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/17 21:33
ひのめちゃんの相手ができそうな先生か。誰だ?

「へー、どんな先生だい?」

「GSの免許はもっていないみたいだけど『夜叉丸(やしゃまる)』っていう式神の使い手で、GS免許をもっている先生より絶対に強いと思うの」

夜叉丸といえば鬼道か。そういえば、令子が3日間入院してたって言ってたな。
この調子だとひのめちゃんも忘れているな。
鬼道なら、ちょっと間が抜けているところはあるかもしれないが、式神使いとしては日本で三本指に入っていたから、今のひのめちゃん相手でも大丈夫かもしれないな。
けれども、

「うーん。たしかに、両方の先生をみていないから、俺にはわからない部分もあるけれど、弱いは弱いなりの戦い方があるんだよ」

「えっ?」

「だって、ひのめちゃんは、魔族とも相手にしたいわけだろう?」

「はい」

「そうしたら、魔族あたりなら最下級はともかく、だいたいは人間より霊力が高い相手ばかりだってわかっているよね?」

「……はい」

「横島君、そこまでにしてあげなさい」

「院雅さん。俺って言いすぎでしたかね?」

「そうね、横島君はちょっと言いすぎね」

「言いすぎでしたか……」

「けれど、ひのめも今の言葉をかみしめることよ」

「はい」

「じゃあ、ここも除霊がおわったから、分室のメンバーは解散してもいいわよ。ユリ子ちゃんは、もう少し今回の除霊のことをおさらいね」

金曜日の除霊自身は無事におわったから、明日からは妙神山か。
ひのめちゃんの能力って、水行の中でもあれかな。


ひのめは、母親である美神美智恵の言葉をかみしめる。

「横島クンみたいなタイプの男の子は、彼に近寄ってくる女の子には自分が彼女だとしっかり認識させながらも余裕をみせることね。しかも、横島クンに気がつかれないようにしながらも、ゆっくりとまわりのフォローをうけるようにしながらね」

自分は直接的だったかしら? と思うが、うまく母親のアドバイスを受けられるならと思うひのめがいたりする。



一方、美智恵にしても、言っているのは必ずしも本心ではない。
すでに神族に禁じられている時間移動能力で、複数の未来を視た結果からのアドバイスであり、実は気分が複雑だったりする。
横島がいなくても、将来におこる禍で人類が生きのびるのはみてきたが、娘であるひのめが生きているのは、全て横島のそばにいたときだけ。
しかも横島といると、かなりの確率で結婚した未来であるのをみたが、横島は浮気を繰り返している様子である。
その様子を見ていたが、それなりにひのめは幸福なのかもしれない。
早い時期に夫である公彦と結婚した美智恵には理解しがたい心境だったりする。
つかず、離れずの方法を教えたのだが、恋愛経験の少ない美智恵にとって、長女の令子より先に次女であるひのめに相談されて、これでいいのかとの思いもある。
しかし、娘の命がまずは第一である。
そのあとは、将来におこる禍の中でひのめを横島と結婚させる仲にまではいたらせないで、どうやってそばにいさせたまま勝つようにしむけるか悩みどころだった。



横島は妙神山へ行く途中、告白のことはどっかにいっているので、昨日から機嫌の悪そうなところが見受けられないひのめちゃんを見て安心していたりする。



これも三者三様であろう。



そして、妙神山には前回とはちがって、もとどおりの小竜姫さまがいたので思わず

「小竜姫さま。おおっ…あいかわらずお美しいっ…! ぼかあも――!! 神様と人間の禁断の恋にっ…!!」

『ぐしゃっ』っという音とともに

「それをやめてください!!」

小竜姫さまは、踏みつけるを覚えた。
神剣よりも、こっちの方が横島には効果的だと誰かに教えられたらしい。

「それで、今日は何のようですか?」

「はい。ひのめちゃんのことで相談がありまして」

二次元のカエルのようにつぶれていた横島がすぐに復活しても、その様子になれたのか何も気にせずに小竜姫さまは、

「そうですか、それでは、中におはいり下さい」

修行場に入りテレビがある修行者たちの休憩室に通される。
とはいっても、ほとんど修行者をみかけることも無いのだが。

「それで、ひのめさんの相談とは何でしょうか?」

「ええ、ひのめちゃんは発火能力者だったので、霊能力も火にかたよっていると思ったのですが、水の系統らしいんです」

「そういえば、この前は火をつかっていましたね。水の能力があるのに、もったいない能力の使い方をするものだと思っていましたよ」

気がついていて、しかるべきだったよな。
ひのめちゃんには、前回は相性の悪いと思っていた水妖系の阿紅亜(アクア)をだしていたのは、機嫌が悪いせいではなかったんだ。
それに臨海学校の除霊実習での火竜を使ったときに、海水を火で浄化してたのには、びっくりしたが水行の浄化ならありえる。

「身近の人間は誰も気がついていなかったのに、さすがは小竜姫さまですね」

「それは、私が火の赤竜だからでしょうね。火は一番よくわかりますが、水もよく察知できるんですよ。それにしても水の霊力が、大きくあがっているようですね」

水竜である竜神から黒竜のウロコをベースにした防御力のアップの話をすると、

「今でもそのような竜神が、地上に残っているのですね」

「けれど、私、今までとちがって、水の霊能力のイメージがわかないんです」

「それならば、影法師(シャドウ)の様子をみて、伸ばすべき方向をきめましょう」

「あっ、はい」

ひのめちゃんがとまどっているな。

「多分だけど、人間の力としての発火能力。それが小竜姫さまにとって伸ばす方向の判断しづらい原因になっていると思うんですけど、あっていますか?」

「ええ。よくもまあ、人の身で、これだけ強い水の霊力を見えづらくするだけの火の力をもっているものです。その火の力が、霊能力なら比較的容易に伸ばすこともできるのですが」

「水だと難しいんですか?」

「……そうですね。五行でも四神でも、火で水を見るのは困難です。しかし、ここは修行場ですので、それなりに対応はできますので安心してください」

たしか、以前は黒魔術が専門のエミさんの能力も伸ばしたのだから、大丈夫なんだろうな。
いつもの修行場に向かうと武闘場の目の前には、シャドウをぬきとる方円がある。

「その方円を踏みなさい」

「ここですね」

そう言って方円にひのめちゃんが入ると武闘場には、女性っぽいシルエットのシャドウだった。
特徴的なのは、甲冑(かっちゅう)を着こんでいるのにくわえて、ラグビーボール上の水球のにかこまれていることだろうか。
小竜姫さまは

「この甲冑(かっちゅう)の部分が竜神のウロコから作られているようですね。防御力に関しては人間の中でもこれより上位にいるものはかなり少ないはずです。この楕円状の水球からみると、どちらかというと霊的治療に向いているようですね」

「えーと、攻撃する方はどうなんでしょうか?」

GSとしては、防御や霊的治療であるヒーリングも大事だけど、魔族や妖怪を相手にするつもりなら、攻撃力が必要だからな。

「特に武器となる物をもっていないことから、水にあった武器か、この水球を使った攻撃になるでしょう」

そこで、小竜姫さまがちょっとこまったように、

「修行場に武器はありますが、今の人間界に同様の武器があるかしら?」

「えーと、どんなものでしょうか?」

「人間界で有名なものならば『抜けば玉散る氷の刃』と言われた村雨丸の、ナギナタ版ですね」

ああ、ひのめちゃんの運動神経じゃ、無理っぽいな。

「刀系より、長いナギナタはたしかに良いんですけど、それよりも相手との間合いを取れるものはありませんかね?」

「あとは弓矢にありますが、それならばそのシャドウをみる限りは、水球から水を分離させて攻撃に使用する方がまだよいでしょう」

「ひのめちゃん。近接戦と、長距離戦のどちらが自分に合うタイプかはわかっているよね?」

「はい。武器よりも、その水球から水を分離させて攻撃する方法を伸ばしていただけるように、修行をさせていただけますでしょうか?」

「そうですね。それでいきましょう」

ひのめちゃんの修行の方向はきまったか。
水なら街中でも訓練にこまることは無いよな。

「ところで横島さんは、今回どうしますか?」

「今日はつきそいなので……そうですね、食料調達でもしてきますよ」

「そうしたら、注意していただきたいのですが、もしとれるほど力があがっていても、鳥は1羽まで、動物は1頭までにしておいてくださいね」

あらっ、意図を見抜かれている。
俺は肩を落としながら、

「わかったっす」

「魚の方は特に制限しませんので、そんなに気をおとさないでください」

「魚をとりすぎたら、乾物にするじゃないですか」

「ここは、そういう修行場なので、あきらめてください」

「へい」

俺は別な異界空間にある、食料調達用の森林の中に入った。
そうしたら霊的な場は確かにみだれているのだが、霊格に関する乱れを感じない。
小竜姫さまたちって単純にここになれているだけじゃなくて、この霊格を探知していたのか。

いつもの川での魚釣りよりも前に、動物と鳥がいないか霊格を頼りに探していく。
小竜姫さまが動物や鳥をとる数を制限してたのは、どうも動物も鳥も本当に少なく感じる。
大型の鳥も、動物もいないので、狙ったのは野うさぎと鴨だ。
ともにサイキック系では高速のサイキックアローでしとめる。
魚の方も、前回までのいる場所がわかってきたからというのではなく、霊格をかんじとってその群れの中に釣り針を投げ込むというふうにしていく。
前回ここにきたよりも早いペースでつれるが、一応6尾にしておこう。
他にも食べられそうな葉物とかをとりおわったので、厨房にむかうが、まだ修行の続きをしているのかいない。
修行場にむかうと、小さいながらも玄武(げんぶ)を相手に練習をしていた。

「へー、早いペースでコツをつかんでいるみたいですね」

「そうですね。これならば、明日は影法師(シャドウ)ではなくて、実際の人間のままで修行に入ってみてもいいかもしれませんね」

「そんなに早く普通に練習できるようになるんですか」

「ええ。ただし、人間のままでは火の力が邪魔をするかもしれませんので、そこになれるのには、時間がかかるかもしれません」

「うーん。せっかく、きちんとした訓練が普段でもできると思ったのに」

「あせらないことだよ、ひのめちゃん。それから食料を調達してきましたが、どうしますか?」

「あら、もうこんな時間ですね。食事の用意をしていますから、瞑想でもしていてください」

ひのめちゃんのシャドウは戻されて、小竜姫さまは修行場をでていったが、

「明日の修行、うまくいきますかね」

「そこは、小竜姫さまを信じるんだね」

そうして夜、夕食という名の酒宴も終わって、ここの温泉に入り、折角となりに小竜姫さまも入っているのに、ひのめちゃんまで入っている。
ちくしょう、変にのぞけないじゃないか。


横島もちょっとばかりひのめちゃんにセクハラを働くと悪いだろうと思っている。

「あら、今回は横島さん覗きにこないようですね」

「霊力がなんか、無駄にあがっているみたいですね」

「横島さんが覗きにくるときは、隠行を使いますからわかりづらいですよ。そろそろ気にしつづけていないと、覗かれかねないレベルまで隠行のレベルがあがっていますからね」

「もしかして、横島さんの隠行って、小竜姫さまのお風呂に入っているのを、覗くためにおこなっているんですか?」

元々はその通りだったのだが、

「いえ、そうじゃないんです。横島さんの霊的な総合的な力をあげるための準備ですね」

「安心しました。横島さんって年上の女性が好きみたいだから、目を離すと、私以外に目がいっちゃうんです」

「あら。横島さんにこんな可愛らしい彼女がいたのですか?」

「いえ、まだですけれど、なってみせます!!」

「応援していますね」

ひのめちゃんの周りに対して横島の彼女になる計画は、実行にうつされたばかりである。

「そういえば、横島さんって、小竜姫さまに夜這いとをかけに行かないですか?」

「その気配が全くないのですよね。非常に不思議なのですが」

小竜姫にとっては不思議なことのひとつである。
ひのめにとってもメドーサの寝室に行こうとしてたのは気がついていたので、これは不思議なことであった。



単純に横島が、昔の香港での小竜姫さまの寝姿が『角(つの)』の状態だったので、その姿で寝ていると思い込んでいるだけである。
実際は普通の人間の姿で寝ているのだが、この横島、気がつくのはいつのことやら。



俺は翌日の修行で、瞑想をしているが、周りの状態も把握はきちんとしている。
ひのめちゃんは人間のままでも、火と水を使い分けがきちんとできている。
今までの火竜は直線的な移動しかできなかったが、水をベースにした同様の水竜では蛇行なども可能になっている。
これまでその他の霊力で作ったと思われていた、火の術のコントロールがここにきて、始めていかされたというところだ。
他にも2種類の能力を開花させている。

「小竜姫さま。水の霊能力がんばってきちんとコントロールできるようにします」

「ええ。今までおこなっていた、霊能力の基礎があったからこそ、水の霊能力をある程度までは扱えるのです。それを忘れないようにしてください」

「はい」

「俺からも、ひのめちゃんの件で相談にのっていただきまして、ありがとうございます」

「本来、こういうことに開かれた修行場ですから、気にしないで、また何かあったらきてください」

そうして、下っていく横島とひのめを見送っているのは、言葉すらでていなかった鬼門たちだった。


*****
ひのめ霊能力強化大作戦編はおしまいです。

2011.05.03:初出



[26632] リポート40 死津喪比女編(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/18 21:03
土曜日は昼食後のひと時にぼーっとしていた。

ひのめちゃんはESPである火の力と、霊能力である水の力、そして、それを混合させた元からの方法を使いわけられるようになってきている。
体力や、反射神経なども、六道女学院霊能科の1年生の中で中間まではきているらしい。
俺も隠行によって霊格を完全に隠せるところまで来たので、霊格をあげる修行に切り替えている。

ひのめちゃんの霊能力が水であることから、無理に郊外の除霊をしなくてもよくなった。
しかし、GSとしての将来での活動半径を広げるために三連休になるたびに宿泊が入る除霊はしている。

その他は、冥子ちゃんとの協同除霊を2回ばかり行なったが、こちらのレベルにあわせた霊力レベルなので、全員に無理はかからない。
それも、冥子ちゃんがぷっつんしたという噂はここのところでは、1回しか聞こえてこないのが大きいだろう。

月に1度、院雅除霊事務所でメドーサとあうようになったのも大きい変化だろう。

「神族に流れていた『GS試験で息のかかった人間に資格をとらせる』って俺のことじゃないよな?」

「そうだと言ったらどうする?」

「メドーサもからかうのをやめたら?」

「ふん!」

どうも、メドーサの上にいるのはわからないが、アシュタロスなんだろうな。
これは院雅さんでもわからない情報だ。
俺が文珠を作れるようになったかを確認しにきているようだが、霊格の隠行は進んでいないようにみせているからな。
メドーサの上がアシュタロスだとして何を考えているのやら。

ちなみに芦三姉妹に芦優太郎だが、至極普通にGSの家系の人物として明白な連続性がある。
芦優太郎の能力は不明だが、会社員としては今時アメリカへの出張を多くこなしているので、院雅さんの情報網ではアメリカでの活動が不明なくらいだ。
逆に院雅さんから言わせると、

「横島さんの方がよっぽどGSとして怪しいわね」

自覚があるだけに、ごもっとも。


老師には未来から意識か知識がきたことを話すべきか悩んでいるが、老師は既に知っていて小竜姫さまに知らせていないんだろうなと思う。
大きな事件では、歴史の修正力がはかられるし宇宙意思の問題もある。
小竜姫さまに話しても悩みをふやすだけで手のうちようがないだろうから、俺についての調査をしないようにとの神族の上層部の判断なのだろうな。
本当のところは、老師にきかないとわからないが、大きくはずれていないだろう。

八房で始めるフェンリル狼の事件がおきるか、雪之丞が誘いにきたら妙神山の最難関コースをしかたがないから受けてみるかなー、とぼんやりと考えていると、

「地震ですね」

「ああ、そうだね」

震度2ぐらいだから、声をかけられなければ気にしないで考えたままだったかもしれない。
ところが、少したって玄関から愛子があわてて入ってきて

「おキヌちゃんが急に消えちゃった!」

「おキヌちゃんが? 何も言わずにかい?」

「そうよ。そうじゃなきゃ、わざわざ事務所こないわよ!」

「ひのめちゃん、テレビをつけてみて」

「先ほどの震度で、ですか?」

「妙な胸騒ぎがする」

テレビ番組では

「先ほどの地震でM神宮が、壊滅的な打撃をうけております。ここだけ揺れが強いのは局地的なものだと思われたのですが、続々と神社や仏閣、教会の被害情報が入っております。霊障の可能性もありますので、神社、仏閣、教会に近寄るのは気をつけてください」

生放送中だったらしく、M神宮の様子が映しだされて建物が崩れるように倒れていた。
俺は応接室に入り院雅所霊事務所に電話をかける。

「横島だけど、ユリ子ちゃんかい。院雅さんにかわって」

「はい。まってください」

ちょっと、またされてから、

「こんな真昼間から、何のようだい?」

「おキヌちゃんが消えてしまったんですよ。未明におこると思っていたのが、昼間にやられました」

「ちょっとまっていてね」

また、またされてから

「ひのめに話していないだろう?」

「ええ、まあ」

「ひのめもこっちにつれてきて。もし、理由をきかれたら『私が以前からおキヌちゃんのことで調べている』とでも言って」

院雅さんも時々、謎の行動をして驚かせてくれるが今回は助かる。

「ええ、わかりました」

「こっちでは、レンタカーを借りていくから、いなかったら事務所でまっていて」

「はい。了解」

しかし、院雅さんの運転か。途中で事故をおこさなければいいけれどな。

「ひのめちゃん、緊急で院雅除霊事務所に行く。それから愛子は、学校にもどっていてくれ……」

ひのめちゃんはわかっていたが、愛子のことは失念していたな。

「もしも、おキヌちゃんが戻ってきたときように、手紙も残しておいてくれないか?」

「えっ? 学校に戻る? おキヌちゃんは?」

「おキヌちゃんが突然消えるかもと、院雅さんが以前から調べていたらしいから、何もしないなら戻ってこないかもしれないらしい。それ以上はわからないので、事情を知っていそうな院雅さんのところに行ってくる」

「……ええ。そういうことなら」

愛子が本体である机を抱えて事務所の外にでると、すでに落ち着いているひのめちゃんへ、

「じゃあ、ひのめちゃんは宿泊のできる準備をして、院雅除霊事務所に行こう」

「いつでも宿泊できるようにしてあるから、だいじょうぶですよ」

「そっか。そういう仕事をいれていなかったから忘れていたけど、こことか現場で泊まりになることもあるからって言ってあったな」

「はい。海から、山までいけるだけの着替えは用意してあります」

除霊用具置き場にするつもりが、ひのめちゃんのタンスも置かれているものな。



分室をでて院雅除霊事務所につくとユリ子ちゃんが、

「院雅さんはレンタカーをかりてくるそうなんで、それまで荷物を出すのを手伝だっていただけますか?」

ひとつひとつのトランクは大きくはないが、重たいな。
女の子だとちょっとつらいかもしれない。
中身は火系の武器だろうとまではわかるが、具体的なのはさすがに中を開いてみないとわからない。

どこから入手したかというと、厄珍のところからだろう。
GS試験の時の解説してたのはGSの表しか知らないので、裏の事情にかかわるとなると厄珍をたよるのが一番良いらしい。
なんせ俺のっていた厄珍は、

「金さえ出すなら、ヴァチカンの地下から魔族さえもつれてくるあるね」

とエセ中国人をよそおっていたからな。
ヴァチカンの地下のことは最高級の秘密事項なので普通のGSは冗談だと思っているが、あの言葉は本当かもしれないとつくづく思わされる。

院雅さんがもどってくるまで、テレビをつけてみたが

「政府かたのコメント発表では『東京都の神社、仏閣、教会が壊滅的な打撃を受けているのは霊障の可能性が高い』とでています。また、震源地はオロチ岳の地下数百メートルから数キロの浅い地点です。オロチ岳周辺の住民も……」

なぜ、前回と違う時間帯に最初の地震おこしたのかは不明だが、これで死津喪比女なのは確定だな。

「そういえば、唐巣神父のところは、どうでしょうかね?」

「破門されたって聞いているから、どうなんだろうね?」

実際は破門かどうかあやしいのだが、令子は破門って信じていたよな。
たしか、前回は壊れているから、今回も壊れているだろう。
芦八洋も大変な時期に、唐巣神父のところへGS研修に入ったな。

レンタカーを借りに行ってもどってきた院雅さんだが、

「その荷物をとっととのせてね」

「はい。はい」

俺は次々とサイキック炎の狐でトランク上の荷物を事務所から車の横に下ろしていき、最後は自分の身体でトランクをもって降りていくと今度は車の前で、

「軽いのは載せたから、重たいのは載せてね」

と残りのトランクを見せられるが、

「重たいものを下にするのが基本です」

「じゃあ、それもやってね」

あっさりと、敗北をきす。
俺って霊能力はともかく、他のことで院雅さんに勝てないような気がしてきたぞ。
多分、俺の未来の知識を知らせているせいもあるんだろうけれど。

「それで震源地は、オロチ岳です」

「車のラジオで聞いていたから知ってるわよ」

うー。

「全員、震源地近くまで出かけるから、車にのってちょうだい。それから私は運転しているから、横島君はこれを読んでユリ子とひのめに説明して!」

説明役は俺かよってより、説明しながら運転できる自信がないのか。
車にのって、院雅さんから渡された資料を読んでいると、あの地の藩主への妖怪退治の命令した手紙を、現代文に訳したものがついているな。
内容は把握したので、ひのめちゃんとユリ子ちゃんに、

「約300年前の元禄時代にオロチ岳で、妖怪による霊障が発生して、それが江戸まで被害を及ぼしだしたので、その妖怪退治の命令のための手紙だ。それで、おキヌちゃんはあの地で300年幽霊をおこなっているのと、時期的に一致しているのが一点。それに今回の霊障発生とともにおキヌちゃんが消えたのは、おキヌちゃんがなんらかの霊的防波堤になっていた可能性がある。ただ、その時の防止方法がのこっていないんだよな」

「それで、ICPO超常犯罪科にその文書は送ったんですか?」

院雅さんの方を向いてみるが、今の話はきいていないようだ。

「今、ひのめちゃんのお母さんって、日本にいないんだよね?」

「ええ、イギリスに行っていますけど、それが何か関係するんですか?」

「そうすると、西条さんが指揮をとるだろう? 彼なら常識的な方法で調べて行くだろうからこれと一致するか調べるだろうし、俺たちみたいに現地へ行こうというのはとめるだろうな」

「それで、現地に行ってあてはあるんですか?」

「氷室神社ってところだ。約300年前からあるらしいから、関係するのではないかと見ているんだって」

「氷室神社へ電話してみたらどうですか?」

「今は電話規制がかかっているから、連絡は通じない」

「ICPO超常犯罪科からなら、優先で連絡がつくはずですけど……」

「そうやって、時間がかかっていくんだ。多分、この霊障は拡大していくから、早めに行動しないといけない。現地について、何かわかったら、連絡をすればオカルトGメンも、直接こちらにこられるだろう」

それに、西条だったら、西洋的合理主義でおキヌちゃんをそのまま霊体ミサイルにさせてしまうかもしれないか。
以前ほどおキヌちゃんとの付き合いが無い西条ならありえるな。

そして、氷室神社まで向かうが、元々交通量が多かった覚えは無いが、ほとんど他の車もなく、院雅さんも安心して運転しているようだ。

氷室神社の駐車場について、

「横島君、まずはA-1って書いてあるトランクをもって一緒にきてね」

「ええ、はい」

A-1は、一番重いトランクだったよな。
そう思いつつ、4人で氷室神社の社にむかって上がっていく。

氷室神社への階段の途中で

「鳥居をこえるのは横島君が先の方よいかもね。念のため、鳥居をこえるときにはトランクを置いて入ってみて」

ああ。ここの結界か。
万が一、トランクの中身が爆発したら大変なんだろう。

「父っちゃ――!」

鳥居を超えようとしたところで、後ろから情勢の声がする。
以前はおキヌちゃんの義理の姉になっていた、早苗さんか。
うー、若いな。

「あれまー、ほこらにおった、仏さまにそっくりだべー!」

「この娘は、加賀美ユリ子ってうのだけど、似ているの?」

「氷付けになってた仏さまとそっくりだべ……こんなこと言っちゃ失礼だったべ。ゆるしてけろ」

「いえ。多分その仏さまと関係することで調査にきたのよ。遅れましたが、私は東京からきたGSの院雅良子。他は事務所所員です」

「わたすは氷室早苗! あの仏さまのことは父っちゃにきけば何かわかるかも――」

そして若い頃の姿の早苗さんが鳥居をくぐったあとに続いて、俺がくぐろうとしたら強力な結界が起動してしめだそうとしている。

「広域の領域可変型、しかも通過できるのが、選別できるってどれだけ高度の結界なのやら」

そんな、解説いいから今の結界につかまって身動きがまともにできない状態を、なんとかしてほしいんですけど、と思っていたら、

『やめて!! その人たちは私のお友達よ……!!』

そんなテレパシーを感じとったが、おキヌちゃんだろう。
それとともに結界はかききえたように感じるが、

「私たちが通れるように調整されたみたいね。この神社って、いつもこんな特殊で強力な結界を張っているんですか?」

このあたりは、院雅さんの方が結界に関しては専門だな。
俺には言われてみなければ、今はほんのかすかにしか結界の感触を感じない。

「とんでもない…! あなた方はいったい…!?」

おお。おキヌちゃんの義父も若いな。

「以前このあたりで幽霊を保護したのですが、その幽霊になったのが約300年前。幽霊のままにしては安定しすぎているので、色々と調べてみると、約300年前にこのあたりで、強力な妖怪がいて江戸にまでその勢力を伸ばしていたこと。今回の地震で、その幽霊が消えたこと。そしてその頃にこの神社が建立されたと、色々と符合があってくるのです。それで、まずは調べさせていただこうと思いまして」

「たしかに300年ほど昔に、祠と社を代々守るという条件で土地があたえられました。それ以上は、社の中にある古文書でも調べましょう」

社の中に通されて、部屋でまたされるかと思ったが、俺はトランク運びに借り出された。
うーん。残り5ケース、全部で6ケースか。
重たいのは、サイキック炎の狐で運び、俺自身は軽いのを持って歩くが一度に4つよりは、3つと2つにわけて運んだほうがよさそうだな。
そうやって、ケースも縁側におき部屋の中に入ると、早苗さんのおしゃべりがすきなのはかわっておらず、ひのめちゃんや、ユリ子ちゃんともなごやかに話している。
そういえば、ここでGS美神の単行本を読んでいたんだよなと思ったが、この世界には無いらしいので、一安心だ。
なんせ全部俺の思っていることが書かれているともかぎらないからな。

そんなことを考えているうちに、早苗さんのお父さんが戻ってきて、古文書の中身を説明しだしていた。


*****
どうも分室で、テレビのチャンネル権はひのめちゃんが基本的にもっているようです。

2011.05.04:初出



[26632] リポート41 死津喪比女編(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/19 22:18
「――そのおキヌという娘の話、古文書に記されている神社の由来と符合します」

おキヌちゃんのことは、追加で説明済なのね。

「300年前の元禄の頃、この土地にはほかに例をみないほど強力な地霊が棲み、地震や噴火をひきおこしていました。その名を『死津喪比女』といいます」

「地霊ですか。今回は妖怪らしいですから、地霊って地脈からエネルギーを吸い取るのと、東京まで影響を与えているのを考えるなら、どんな妖怪になりますかね」

「これだけ広域となると少ないわね。だけど元禄当時に妖怪と言っているのだし、今回も同じなら、まずは根をはる植物タイプの妖怪になりそうね」

まあ、知っていての問答だが、ひのめちゃんと、ユリ子ちゃんへの勉強にはなるだろう。
あとは、これだけの広域だと土の系統の黄竜か、四神でいえば玄武があげられるだろうが、普通は妖怪とは言われないものな。

「続けますが、土地は荒れ、困った藩主は公明な道士を招いて死津喪比女の退治を依頼したのです」

「あれ、車の中では江戸から妖怪退治の命令ってなっていたみたいですけど」

「まあ、どっちかが、都合の言い様に変化させて書いているのでしょうね。昔からよくある話だから気にすることはないわよ」

おお、そういえばそんな細かい違いがあったな。ユリ子ちゃんよく気がついたな。

「では、続きまして……しかし――退治は不可能ではありませんが…敵は強い…! 退けるには大きな代償が必要です」

「その代償っていうのが……」

「ええ! 人身御供です…!」

今ならともかく、昔ならよくあった話らしいからな。

「道士は、怪物を封じる装置を作り、それに生命をふきこむために一人の巫女を地脈の要に捧げました。彼女の名前は記録に残っていませんが――」

「それが、ユリ子ちゃんそっくりの氷付けの仏さま、おキヌちゃんってわけですね」

「さっき、ほこらをみせてもらったけれど、間違いないです」

おっ、ひのめちゃんか。分担して、作業することにしたのかな。

「この装置は彼女の意思と霊力で永久に作動する。本来なら人の命をこのように使うべきではないが、この地にはどうしても新しい神が必要だ。いずれ娘は地脈とひとつとなり、山の神になる。そうすれば、邪悪な地霊は退治されることになる。こう残っています」

さて、ここまでは昔の記憶とぶれが無いから、どうするかだよな。

「これだけ条件がそろっていれば、あとは本当に死津喪比女がでてくれればいいんだけど……オカルトGメンに連絡とってくれるかしら、ひのめ」

「連絡するのはいいんですけれど、どうまとめて伝えたらいいんでしょう?」

「それは、貴女の師匠である横島君に相談してみて御覧なさい」

ここで話を振られるとは思わなかったが、早苗さんとその父はポカンとした表情をしているので、GS免許をだしながら、

「俺もGSで、院雅除霊事務所に所属しています。相手の妖怪が植物系だとわかりましたので、火が弱点でしょう。ただ、地下にもぐっているので、そのあたりはオカルトGメンに説明をして、もう少し対策をねってもらいますのでご安心を」

とは言ってみたが、俺の予想より院雅さんがオカルトGメンと連絡しようとするのが早い。
電話をかりるが、連絡をするのにひのめちゃんは、

「ところで、なんて言ったら言いでしょう?」

「うん。そうだな。西条さんに、今、オロチ岳のそばの氷室神社にきていて、元禄時代の妖怪の記録が残っている。江戸の元禄時代の文書にもここの妖怪退治の命令の記録が残っている。名前は死津喪比女で、同一妖怪なら特徴からいって、植物系の妖怪。エミさんがいるなら、地下の植物妖怪にきく呪術を考えてほしい。こっちでは確認できしだい再度連絡すると言って、ここの電話番号でも伝えるぐらいかな」

「なんで、こっちにきているのか聞かれたら、どうしましょう?」

「温泉旅行の予定だったとでも言っておこう」

どうせ、ばれるんだけど、今おキヌちゃんのことを正直に言うと、本当に霊体ミサイルにされかねないからな。
西条とうまく連絡とれたみたいだけど、途中で令子が割り込んだみたいで、

「何を勝手につっぱしっているのよー」

って、離れた電話越しにも大きな声が聞こえてきたぞ。
令子がいるということは、芦火多流もいるのか?
あとは以前だと、魔鈴さんは関連していなかったが、今回は関係していそうだ。
そうするとなんとなくパピリオっぽい気がする、芦鳥子もいるだろうな。
うまくすれば、パピリオなら死津喪比女の花粉の毒に対抗できるかもしれない。
希望的な観測すぎるかな。


ひのめちゃんと一緒に社に戻り、

「オカルトGメンは向こうで調べるので、危なくない範囲で、引き続き調査を続行していてほしいそうです」

院雅さんはここまで、西条の性格を読んでいるのか?

そして社の調査に入るが、どこが地下への入り口かさっぱりわからん。
霊的には完全に隠蔽されているようだ。
あとは音響測定機器でもあればよいのだろうが、普通の除霊でそんなものは使わないから院雅除霊事務所には無いしな。
壁に骨とか埋められた事件とかの時には丁度いいから、今度、頼んでみようか。
結局、その日はみつからなかったし、どこで地下にはいったかまでは覚えていないのでここまでにしておく。
地震の時間が遅かったから、明日は床下をはいずりまわるのかなー

そして、早苗さんの誘いで女性4人は露天風呂に行くらしい。
俺は単独行動だ。

きちんと湯浴みを用意しているんなら、俺だって一緒に入りたいぞー
それにたいして、俺の方は死津喪比女が万が一でた時のために、隠行を行いながら待機をしている。
露天風呂の中までみえているのになー
山だから、この時期の外は結構寒いんだぞ。
露天風呂では早苗さんが気楽そうに、

「調べている間、家に泊まるといいべ! 父っちゃも母っちゃも遠慮はいらねって、言ってるがら! その化け物さやっつければ、地震もなくなるんだべ!?」

言うのは簡単だが、こちとら全体の調和まで考えておかないといけないんだよな。
それに道士にもひとこと言っておきたいからな。

その中で一番最初に気がついたのは、俺のいた過去では霊媒体質である早苗さんで、

「そこで何か動いた……」

暗闇だが月明かりに照らされた早苗さんシルエットとともに、霊力は抑えつつも霊格の高さをうかがわせる影が見える。
俺はA-1のトランクから多弾ロケットランチャーをとりだし準備をする。
美神さんの所にいた時にもロケットランチャーを扱ったことはあるけれど、多弾式は初めてだぞ。

「匂うな。あの巫女と同じ匂いがする……300年間わしを封じた、あの小娘……!!」

「これが、死津喪比女!!」

ひのめちゃんが思わず反応している。

「わしを知っておいでかえ? おまえの名は?」

名前がでてきたので隠行をときながら作戦通りに多弾ロケットランチャー、正確には焼夷弾入りのもの。
それを、遠慮なくといきたいが、予算の関係で単発しか撃てない。
令子と一緒なら、こんなチマチマした武器の使い方はしないんだけどな。
そうぼやきたいが、これだけの密集隊形だから花さえ退治すれば葉虫はザコだし、引火もするかもしれないというアバウトな作戦だ。

「ちっ、こんなオモチャがあったのかえ」

死津喪比女の花一輪と、葉虫たちの大半は第一発目の焼夷弾で消失したが、残りはひのめちゃんが発火で対処して全滅する。
発火能力を修行場で霊能力ではなくESPと認識したことにより、水行のマイナス要素がなくなっている分、火力があがっている、

ここまでは事前にたててあった作戦の通りだが、2弾目にでてくるであろう花たちに通じるか?

2弾目にでてくるであろう死津喪比女の花たちに対しては、

「社の結界まで撤退よ!!」

そんな院雅さんの声に対して、早苗さんは、

「コシがぬけてうごけねぇだー」

作戦に承諾していてくれていたのに……さっき一番最初に死津喪比女のことに気がついていたのもビクついていたからなのね……

「ユリ子。早苗さんを運んであげて! 横島君はしんがりよ」

「はい」

「へーい」

俺は土行が強いから、木行である植物系の妖怪とは相性がよくないんだよな。
まあ、そうも言ってられないかと思ったら、

「早苗!? 今の爆音は何事だ!?」

「早苗ちゃん!?」

「父っちゃ! 母っちゃ! 死津喪比女さでただ」

「それよりも、社の結界に!」

おキヌちゃんが、中々でてこない。
皆がピンチにおちいってから、でてくるような性格じゃないはずなんだけど。
そこへ『ズン』っと重たい振動とともに死津喪比女の花たちが現れる。

「花を一輪つまれてしもうた……痛かったぞ…! とてもな」

ユリ子ちゃんと、早苗さんが遅い。
ひのめちゃんも警戒しながら下がっているが、襲われるのも時間の問題だ。
焼夷弾入り多弾ロケットランチャーの残り三発を連射する。

「そのような、オモチャで、この数を相手に―― 万に一つでも勝ち目があるのかえ!?」

半減はさせたが、たしかにひのめちゃんの火の力だけでは無理だし、俺のサイキックソーサーは死津喪比女との相性が悪くて、とめるのが手一杯だ。
そうして、死津喪比女がつっこんでくる。
しかし、ここで院雅さんのカバンにつめてもってきた結界札がようやく役に立つ。
事前にしこんでおいた、対植物系妖怪用の専用結界札だ。
それを多重にはってあるから、さすがの死津喪比女も一気にこれない。
その間に、

「ひのめちゃんも、早苗さんを社の結界の中へつれていく手伝いをしてあげて!」

「横島さんは?」

「俺はこれ!」

そう言いつつすでに2枚作ってさらに2枚つくっている最中の五角形のサイキックソーサーを見せる。

「無理はしないでくださいね」

「ああ、俺の撤退する時の速さを知っているだろう?」

一度とんでもない相手にあってひのめちゃんをかかえてにげだした、もとい戦術的撤退したことがあったからな。
単なるイタチの妖怪だときいていたのに、この時代に雷獣なんているなよ。

「それ、陣にするんでしょうけど、さけられませんか?」

「いや、そんなに冷静につっこまないでくれ。それに、本来の使い方じゃないけど、こういうこともできるんだよ」

そう言いつつ、俺の霊波より赤色の方向へ波長をずらした五枚のサイキックソーサーをならべ霊的ラインで五芒星を描かせる。
『サイキック五行赤竜陣』を地面で描かせるのではなく、俺の目の前で垂直に立つよう並べてだすのは炎だ。
地面に描く陣でだす炎よりも弱いが、植物系妖怪の死津喪比女にはこれで充分効果がある。
地脈を補助にして炎をだすから変換効率の関係で、強力な火力ではない。
まあ全力をだしても、ひのめちゃんの火竜よりもはるかに弱いけどな。
火竜は強力だけど、いまだに一直線にしかだせないので、横展開される物量作戦には弱い。

なんとか近よらせないように右へ左へと炎をあやつっていると、院雅さんの援護がようやっと入ってくれた。
破魔札マシンガンならず、発火札マシンガン。
本来は破魔札を入れることが多いのだが別に同じ大きさの札なら破魔札以外でも使える。
破魔札を入れて使うことが多いから一般的には破魔札マシンガンといわれているが、札マシンガンが正式だな。

発火札だが、元々は俺の前世である高島の知識にあった火行の札だが、俺が札を書いても安定して霊力をだせないのでしょぼい札しか作れない。
それにたいしてユリ子ちゃんが院雅さんの結界札も作れるから、俺がもっている知識にある札をつくってもらったらそれらを全部作れる。
購入する札よりも自分で作った札の方が、自分の波長とあうので霊能力を充分に発揮してくれるから、将来のGS試験では役に立つだろう
そう思っていたが、こういう形で院雅さんが発火札をいつのまにか大量につくらせていたのね。

ひのめちゃん、ユリ子ちゃん、早苗さんも社の結界の中に入って、援護にまわってくれている。
院雅さんの結界札も限界なので、そろそろ俺もひきあげどきだ。
『サイキック五行赤竜陣』をその場に維持しつつ、後退して行き、もう少しで社の結界というところで、思っていなかった方向から花の手がきた。
他のところから花たちがでてきてその中の一匹が、ツルのような腕になっている手をいきなり伸ばして俺の脚をつかまえた。

『まずい!』

ひっぱられた瞬間になんとか霊波刀でたちきれたが十メートル近く、社の結界からひきはなされた。
維持していた『サイキック五行赤竜陣』から、横方向に引き離されたので、全花たちとの間には何も無い。
これでは、つかまってしまうのは目にみえている。
しかたがないので、文字は空にしていた文珠へ文字を入れようとしている最中に、

「おまえを、まずは人質に!」

このままでは文珠に『護』の字を入れる前につかまると思った刹那、

「ぐっ!? 結界かえ!? ここは社の結界の外のはず……!!」

覚えていたタイミングと異なるが、社の結界が間に合ってくれた。
これで道士がでてくるはずだと、思ったら……


*****
早苗の方言は、よくわからないので、このあたりはご容赦を。

2011.05.05:初出



[26632] リポート42 死津喪比女編(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/21 21:30
ここで道士がでてくるはずだと思ったら、

「横島さん、もうだいじょうぶです」

早苗さん……いや、これはおキヌちゃんの霊波が混じっている。

「おキヌちゃんだよね? 心配していたよ」

「横島さん……! ごめんなさい、私が結界を広げるのが遅れて」

えっ? それは道士の役割じゃないのか?
疑問に思いつつも、死津喪比女が、

「そこに……!! 小娘をひっぱりださないことには手がだせない…! おぼえておいで…!」

そう言い放って、地中に戻っていくが、

「実は、私どうしたら、いいのかよくわからなくて……説明をしますから、社の板間にきていただけませんか?」

「ああ。行くよ」

そうすると、早苗さんからおキヌちゃんの霊波が消えて、コシを抜かしていた。
ユリ子ちゃんにささえられると、安心したのか、そのまま気を失ったようだ。

「ユリ子、そのまま早苗さんを、家に連れて行ってあげて。あそこも、結界の範囲に入ったみたいだから」

「いえ、早苗は、私どもの方で見ますので、社の方へ」

「いま、結界からでたら、どのようなことになるかわかりません。早苗さんに何かあった場合には医師ではなく、ヒーリングができるユリ子をそばにいさせた方が良いでしょう」

「……それでは、お願いします」

前回、令子と二人きりで道士とあっていたが、そういえば今さらきがついたけれど、早苗さんって当時も体調を悪くしていたんだったよな。

「それじゃ、社にむかいましょ! 横島君。ひのめ」

「はい」

「ええ」

社の中に入ると部屋の真ん中に堂々と四角い穴があいて、ななめに滑って降りていくようになっている。

「ここを調べた時には、特に何も感じなかったんですけどね」

「私もよ。けれど、そこの穴の隅に見える板をとめておくところに、高度な幻覚をしかけておく呪的システムをくみこんであるみたいね」

「ここに入っていくんですか?」

「ああ。さっきの霊波はおキヌちゃんだったから、困っているのは確かだと思うよ。だから、俺はそこを降りていく」

「じゃあ、私もついていきます」

「院雅さんは?」

「ここまで、調べていたんだから、当然行くわよ」

ちょっと戸惑い気味だが、本来だったらこの部屋で道士から、説明をうけてこの穴をすべらされるはずだったからな。

「それじゃ、一番手には俺がいきますから、降り終ったら下から声をだします」

「それで、お願いするわ」

院雅さんも無事にすべり降りられるのはわかっているだろうが、様子をみたふりぐらいはひのめちゃんの目の前でおこなわないといけないからな。
俺は『サイキック炎の狐』に跨りながら、ゆっくりと滑り台のようになっている、穴のなかを下っていく。
特に何もなく下まで降りきるとそこには、早苗さんの父に似た道士の立体映像がいるのだが、何の反応もなくどこかおかしい。

「横島さん。きてくれてありがとうございます」

丸い球体に多数の足がついているような物体から、おキヌちゃんの霊体が上半身だけ出ている。

「ああ。何か困ったことがあるのだろう? あと、院雅さんと、ひのめちゃんが上で降りてこれるか、俺からの声を待っているから呼ぶけどいいよね?」

「はい。お願いします」

この間にも道士の立体映像はだまって立っているだけで何も動こうとしないが、俺は降りてきた穴へ向かって、

「普通にすべり降りてきて問題なさそうでしたよー」

「……わかったわー。今、おりていくからー」

院雅さんとひのめちゃんがすべり降りてきたところで、

「さて、どういうことだか説明できるかな? おキヌちゃん」

「ええ、私が、ここの結界の要で地脈の堰(せき)だというのは、そこの道士さまから、教えていただいたのです。けれどそこからは、こんな感じでこちらから具体的な質問をしないと答えてくれないので、困っていたところなんです」

結界の要だと認識していることは、霊体ミサイルになるという案をきかされていないだろう。
しかし、確認のために、

「それで、おキヌちゃんが結界の要というのは?」

「それは、記録をみせてもらうのが良いと思います。道士さま、私がここに戻ってきた時に写してもらった記録をまた写してくださってもいいですか?」

道士の立体映像は、おキヌちゃんが、このシステムに組み込まれる前からのところを立体映像として写しだした。
映し出された内容はというと

『おきぬちゃんが、江戸からきた道士さまが欲しがっているのはただの助手ではないこと』

『この地を襲う災害の原因は妖怪・死津喪比女であること』

『藩主は、この妖怪を沈めよと公儀から命令されていること』

『道士さまが必要なのは人身御供であること』

『くじ引きできまったのは、藩主の娘である女華姫であったが、それを見ておキヌちゃんが志願したこと』

『女華姫とおキヌちゃんが幼友達であること』

『女華姫が人身御供の件は自分とかわれというのにもかかわらず、おキヌちゃんが変わらない意思と、女華姫を説得していること』

『そして、おキヌちゃんが時々口ずさんでいた歌が、親の子守唄であること』

『今おキヌちゃんの霊体がいるシステムは、死津喪比女を枯らすための地脈の堰(せき)であること』

『システムのそばにある水場に身投げする必要があること』

『おキヌちゃんが反魂の術の話をきりだされたところで死津喪比女の花が現れたこと』

『現れた死津喪比女の花に対して、女華姫直属のくノ一と女華姫が現れたこと』

『死津喪比女の花に女華姫が襲われかけたところで、おキヌちゃんが入水したこと』

『おキヌちゃんが入水したところで、死津喪比女の花が枯れ際に地脈をせきとめても数百年は行き続けると言ったこと』

そこで、立体映像は切れた。

「おキヌちゃん。反魂の術って知っている?」

「いいえ? それって、何ですか?」

ううん。すぐに反魂の術のことを話すべきかどうかだよな。
そこへ院雅さんが、

「今の映像だけだと地脈の堰(せき)いうのはわかるけど、結界の要というのは説明してもらったのかい?」

「いえ、なんとなく、そうなのかなと思いまして」

院雅さんのところにいたのは結果として、結界の基礎知識をおキヌちゃんが感覚的に覚えたんだな。

「ただ、私がこの結界を維持していても、死津喪比女は力をつけていっているようなんです。さっき、結界を広げたことによって、死津喪比女への力の供給はだいぶ減ったようなんですけど……」

「それは、どうやって覚えたの?」

「道士さまにきくのです。たとえば、先ほどみたいに横島さんを結界でまもりたい場合は、どういうふうに操作したらいいのですかって」

どうも、俺の記憶とちがってどこか道士の立体映像についていた人格がそぎ落とされた感じになっているんだな。
ただ、おキヌちゃんの入水後に作ったはずだから、ここの道士にそこまでの力がなかったか、何かの手違いで人格保持の部分が壊れてしまったのだろう。

「さて、どうしましょうかね。院雅さん」

「死津喪比女だとわかったんだし、オカルトGメンに連絡だね」

俺の以前の記憶に頼りにするのなら、それでいいのだが、死津喪比女が株分けした方をどうするかが問題だ。

俺とひのめちゃんは、おキヌちゃんのそばにいる。

「具合が悪いところとかはないかい?」

「ここからでると問題がありそうだから、ここから動けないくらいで、あとは特に問題はありませんよ」

「死津喪比女も、オカルトGメンがなんとかしてくれると思うわよ」

ひのめちゃんは、そう信じて言っているんだろうな。

「どちらにしろ、死津喪比女が退治できれば、おキヌちゃんはこのシステムからでても問題は無いと思う。それにさっきの映像で、反魂の術と言っていたので、生き返れると思うよ」

「えっ? 私が生き返るんですか?」

「そうよ。おキヌちゃんの体が氷付けになって保存されているから、道士はそこまで考えてシステムを作っていると思うの。そうですよね? 横島さん」

「そうだろうね。ただ、おキヌちゃんには悪いけれど、死津喪比女を退治するまで、そこにいてもらいたいんだけど」

「そ…それじゃ…私…本当に生き返れるんですね!」

「ああ。生き返ることが可能か、その道士に聞いてみるといいよ」

「ええ。道士さま。私って、死津喪比女が退治されたら生き返られるですか?」

「その通り」

その一言のみで、道士の答えは止まった。
これは、おキヌちゃんが動かし方を聞くだけでも困難だっただろうな。

「今はまだ。具体的な生き返り方は聞かないでね。そうじゃないと、聞いているうちに本当に生き返ってしまうかもしれないから」

「ええ。けど、早く人間になりたいです」

「おキヌちゃん、もうちょっとだから。待っててね」

「はい!!」

そのあとは、普段の金曜日の晩の通りにおキヌちゃんとの雑談をひのめちゃんをまじえておこなっている。
上でオカルトGメンと連絡しきた、院雅さんがおりてきて、

「こちらで確認した妖怪は死津喪比女であることを伝えたら、むこうでも別な文献を発見して、300年前にこの地に現れた妖怪が死津喪比女だと確認したわ」

ひのめちゃんだと正直に話しすぎてしまうだろうし、院雅さんは所長だからな。
おキヌちゃんのことは、特に話していないはずだけど。

「それで、オカルトGメンはどうすると?」

「向こうの作戦は呪いをかけた銃弾を、こちらの花たちに打ち込むそうよ。こちらは、ここの結界でまっていれば良いってさ」

花が東京にでるであろうことは伝えていないから、オカルトGメンがこの妖怪を退治にこちらまでくるというのはいいだろう。
しかし、オカルトGメンの対応が、どれくらい早くすむかわからないので、

「いつ来るかって言ってましたか?」

「明日の朝までには間に合わせるって言ってたよ」

そうか、今晩中ではなかったんだな。
院雅さんが早めに死津喪比女である可能性の連絡をしたけれど、この手の妖怪を対処した経験が無いと判断されたんだろう。
問題は過去の歴史で、江戸が霊障でマヒ状態になったという情報が無いことだよな。

「そろそろ、いい時間だから、眠っておくことだね」

「寝袋でももってくればよかったかな」

「家では、きちんと一人部屋でしたよ」

「ここだと動けないだろう?」

「横島君。何のためにトランシーバーを、もってきているのかわかっている?」

そういえば、院雅除霊事務所の全員では、地方の仕事に行くことも無いから、トランシーバを新調しといたんだっけ。
おキヌちゃんには、トランシーバのやり取りを実演して覚えてもらった。
トランシーバそのものは適当に丈夫そうな複数の岩を選んで、ロープをはり、そこから吊るしておく。
一本や二本きれても、手が届くようにおキヌちゃんの入っている岩の足にも紐をつけておいた。

「じゃあ、こっちのトランシーバは電源コンセントにつなげて電源を入れっぱなしにしておくから、何か気にかかることがあったら連絡してね」

「はい。おやすみなさい。皆さん」

オカルトGメンが間にあってくれれば、一応、おキヌちゃんを生き返らせる口実はできる。
あとは、死津喪比女が道士を見ていないから、わざわざ株分けをしていないことを祈っていたいな。


時間がたったので寝ていると、その最中にトランシーバからの声で起こされた。

「横島さん! 聞こえますか!!」

俺は何事が起きたのだろうと思ってトランシーバを取ろうとしたら

「横島さん! おきてくださいー!」

あー、今トランシーバで答えようと思ったのに

「おキヌちゃん。何がおきたんだい?」

「地脈から異常な波動が発生したんです!」

「わかった。そちらに行くからちょっとまって」

うん、こんな時間だったかな。あのころは昼夜逆転みたいな生活をしていたから、時間をはっきり覚えていないんだよな。
院雅さんの寝ている部屋へ行って、

「院雅さん! 緊急事態です! 起きなかったら、この不肖横島、おこしに入っちゃいますよー!」

うん。ことわりはいれたぞ。入ろうと思ったら

「そんなに大声をださなくても、仮眠だったからわかるわよ」

仮眠? この状態を予測していたのか?
ふすまの戸があいたところで、パジャマ姿の院雅さんだが、これはこれで、見慣れていないから、中々と良いもんでって、

「ところで、緊急事態ってなんだい?」

「……おキヌちゃんが、地脈からの異常な波動を感じたようです。俺はおキヌちゃんの方へ行ってますので、こっちの方はお願いしてもいいですか?」

「そうだね。こっちは私がいるから、キヌをひとりにさせておかない方が良いと思うわ。それから、トランシーバーの予備のバッテリーパックを持っていきなさい」

俺はおキヌちゃんのいる地下へ入ると

「おキヌちゃん、地脈から異常な波動ってどんな感じだった?」

「あまり感じない死津喪比女の波動が大きく感じられて、それが移動していったんです」

「どっちの方角かわかるかい?」

「はい、あっちの方向です」

おキヌちゃんが指を指した方向は、まさしく東京本面。
花粉をふりまくのだろう。
オカルトGメンが間にあえばよし。そうでなければ……

「院雅さん。聞こえますか?」

「聞こえているわよ。それで、具体的なことはわかったのかい?」

「死津喪比女の波動が東京の方へ向かったようです。今度は、直下型の地震などをおこすつもりかも知れませんね」

ここで花粉とは言えないからな。

「こっちもテレビで様子をみているよ。幸い生番組が流れているので、それで、東京の状況はリアルタイムで状況がわかるから」

「じゃあ、こちらは、トランシーバを受信状態のままにして待っています」

予測はしていたが、早めに手をうてば以前より被害は小さくできると信じて行動に移ろう。


*****
道士がこんな状態です。

2011.05.07:初出



[26632] リポート43 死津喪比女編(その4)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2013/07/09 21:16
一方東京ではオカルトGメンに今回の事件で付与された権限で、片っ端から細菌の専門家をあたって何種類かのサンプルを一時徴収するとか、無茶をしている。
いくらエミが呪術の分野でトップクラスの実力があっても、元となる細菌がなければ話にならない。
集まったサンプルの中で、死津喪比女がどの系統の植物になるのか不明なので、微生物農薬の元となる微生物をベースに、妖怪のみに効くように呪いをかけることにした。
何種類かの微生物から選んだのはエミの霊勘である。

「うまく呪いがかかったワケ! 人間やほかの動植物、には無害だけど、これをくらった、植物系妖怪はひとたまりもないわ」

「よし! そいつをここに注入しよう!」

「ライフル弾一発しか間にあわなかったけど大丈夫!?」

「まかせろ! ライフルなら得意中の得意だ!」

エミと西条の会話を聞いていて、今回は召集されるだけされて、何もできなかった令子は
『朝日がのぼる直前じゃないの』とぼやきたいが、自分で同じことをするのも無理なのもわかっている。
ちょっと前に、ナイトメアを冥子と一緒に退治して、収入もよかったので多少は機嫌もよい。
しかし、現地にいるひのめは大丈夫かしらと心配もしている。
そうしていと、離陸して水平移動を開始したばかりの垂直離着陸機が突然ゆれだした。

「ど……どうしたの~~!?」

「わかりません!」

「気流が急に乱れて――」

「地上に何かがタケノコみたいに生えとるぞ!」

「例のカビを――」

「植物系タイプの妖怪なら途中で自分を切り離せるかもしれないわ!」

「中まで入ってきた…!?」

「この粉、霊的な毒を帯びてる」

「このライフルを現地にいるGSにとどけなきゃ……!! 冥子!! シンダラは飛ばせる!?」

エミにとって、院雅良子は覚えていない人物だった。

「現地にいるGSって院雅さんね~。わかんないけど~~やってみる~~!!」

冥子にとっては院雅除霊事務所を通して、横島やひのめと協同除霊をしているので、かろうじて覚えていた。
シンダラも冥子をのせて偵察しているので、おおよその位置は把握しているがそこまで冥子もシンダラの頭の中はわかっていない。

「シンダラちゃ~ん、おねがい~~!!」

シンダラがライフルを持って飛んで氷室神社へ向かっていく。



トランシーバーから院雅さんの声で

「横島君。聞こえる?」

「……はい。聞こえます。なんですか?」

「ちょっと上にあがって来てもらえるかしら」

「へい」

なんか、あったのか。
おキヌちゃんにも聞こえていたので、簡単にことわって上にあがると社にきていた院雅さんが、

「居間で見ていたテレビ番組が映らなくなってきているのと、西条さんとの衛星電話を使っての通信もできないわ。これは、死津喪比女やられたわね。あとは、ここにライフルが届く可能性があるとしたら、シンダラよね?」

「そうっすね……あとはマリアくらいっすかねぇ」

「そうしたら、キヌにシンダラとマリアを通すように結界を調整しておいてもらって」

「それは、いいっすけど直接人骨温泉ホテルってわけには……いかないっすね。前回は人口幽霊一号が車についていて、その助けがあったから、ここまで念話ができたけど、今回それは無さそうっすね」

「そうよ。だから、ここに到着するのを待つか、死津喪比女が現れるまで動けないのよ。それと、ユリ子とひのめの食事が終わったら、おキヌちゃんを道士からまもるのにつけるから、いれかわりに食事にしたらいいわよ」

「道士が?」

「今の道士の映像が一時的な不具合だったら、おキヌちゃんを死津喪比女にぶつけようとするかもしれないでしょう?」

「……そうっすね」

うかつだったな。その可能性を考えていなかった。
やっぱり俺って、戦闘向きなのかなぁ。
雪之丞のような、バトルジャンキーではないつもりなんだけどな。

俺はユリ子ちゃん、ひのめちゃんと交代をして氷室家の居間で食事をしながら、テレビをみている。
東京から発信できなくなったテレビ局は、同一系列の他の地域のテレビ局が……主に大阪と、名古屋が報道としてテレビ番組を映している。

「ごらんいただけるでしょうか!? これが東京です」

「大部分が煙のようなものに包まれ、中との連絡はまったくつきません。この国会開催中の中、幸いにして土日でありアシモト首相が、自衛隊の突入を検討中とのコメントを発表しております」

他の局のヘリコプターも映っているがあるところを境にして、東京を花粉が覆っている様子を映しているな。

「これは死津喪比女の仕業ですかね」

「東京もここも全滅け?」

「――多分、死津喪比女でしょう。ここは結界があるからしばらくは大丈夫だと思うけど……東京はこのままだと危なさそうだ……」

「横島君、こっちのトランシーバをもって、社までみてきて」

「はい。しばらく、あっちにいってます」

神社、仏閣、協会を破壊されているので、神族も動く可能性はあるが、時間はかかるのだろう。
それとも、神族の上層部はすでにおこる可能性としておりこんでいて、やっぱり俺がこの事件で動くのをまっているのか。

時間的にシンダラであろうが、マリアだろうが、ここについていて不思議ではない時間がたっている。
なので実際には、前みたいにおキヌちゃんへ声が届く範囲にくるのではないかとの予測の元に動く。

俺は結界の外のあるところで隠行を駆使して待っている。
はたして、

「聞こえるかえ、小娘ども!!」

どっちだ? せめて俺の霊力が届く範囲まで近づかないと。

「江戸がどうなったか知っているかえ!? 人も物もすべてがマヒしておる! 放っておけば弱い者から死んでいくぞえ!」

魔族では常套句だが、妖怪がこの言葉を出すとはな。

「今すぐに結界を解いて、小娘を地脈から切り放せ!!」

死津喪比女の花を見つけた。5体ばかりいる。
もう少しそばまでいかないと計画が成功しない。

「わしを甘くみない方がよいぞえ。エネルギーのたくわえはまだ少々あるでな…!」

地震を起こしだしたが、本体とこいつら花達とでは、別々に考えて行動できるみたいだから油断はできない。
俺は、そっと計画を実行する。
俺が相手にえらんだ、死津喪比女の花がこちらを向いて、

「こんな小さなビードロの塊のごときで――」

と台詞を言いかけて、枯れつつある死津喪比女の花が声をあげる。

「な……!? この小さなビードロ……ただのビードロじゃない!?」

死津喪比女の花が言ってた小さなビードロとは、俺の切り札である文珠だ。
込めた文字は『即』時『枯』れるの意味として2つの文珠を使用している。
霊力でコントロールして、死津喪比女の花の1体にあてた。
多分、エミさんが呪いをこめて作成した細菌の銃弾よりも効果は高いだろう。

「ぐわァアッ!?」

「貴様ら何をした!?」

「答える義務なんかないね」

万が一、株分けしてたりとか、こっちも枝を切り離されて生き残られたりしたら、同じ手は効かないだろうからな。
それに俺は今、サイキック炎の狐で空中にいる。
油断さえしなければ、つかまることも無いだろう。
ここにいた5体が全滅したので、まずは、院雅さんにトランシーバで連絡をとる。

「無事、作戦通りにいきました。そちらはどうですか?」

「かたっぱなしから、村内へ連絡していたら、人骨温泉ホテルでシンダラらしい式神がライフルを持っているとの情報を入手できたのよ。行ってみたら、ライフルがあったので、引き上げ中よ。横島さん」

「じゃあ。適当なところで、銃弾は処置願います」

「そうじゃないと、つじつまがあわなくなるからね」

トランシーバは持ち歩いていたが、死津喪比女に気がつかれないように、俺の方は電源を切りっぱなしだった。
この間に空中を飛べるはずの、死津喪比女の本体もこないし、多分退治はできたのだろう……って本体がでてきやがった。
地竜の里目が死津喪比女本体の弱点である新芽に喰らいついている。

「よくも……よくもわしからすべてをうばいおったな――!! 殺してやる!! せめてお前だけでも道連れだ――!!」

て死津喪比女本体は、記憶にあるより大きいぞ。
文珠の遠隔操作はこいつのスピードについていけないから、行える手段は限られてくる。
それに今は文珠を使ってはいけないという霊勘がある。

「無理心中はごめんだね。死ぬなら一人でいってくれ」

「こざかしいっ!!」

俺はサイキック炎の狐で飛びながら、サイキックソーサー五枚によるサイキック白竜陣を防御用に展開している。
植物系の妖怪である死津喪比女は木行に属するからそれに勝ちやすいのは金行であり、それに属するのは白竜だ。


死津喪比女本体の目から攻撃にだす電撃をサイキック白竜陣でそらしながら、俺がまわりこもうにも死津喪比女の動きもはやくてまわりこめない。
死津喪比女の電撃が思ったより重たいので、こちらからうかつに手がだせないのでいる。
隙をうかがうが、弱点である新芽に里目が喰らいついていて、それを引き剥がせないだけあって、最後であろう力をこっちにふりむけているようだ。
里目が弱点をついているのに霊力にまだ差があるのと土行の地竜では、木行の死津喪比女を石化するのには相性が悪い。
こう着状態となるかと思ったが、死津喪比女の速度が除々に落ちている。

弱点であると新芽に向かうと見せかけて、死津喪比女がこちらを振り向いた瞬間に両手にだしてある栄光の手で、

「サイキック猫だまし」

「何ッ」

一時的に強力な霊的光をだして死津喪比女の目をくらませる。
その隙をついて、俺は本体の上面を飛んで、相手の弱点である新芽にサイキック白竜陣の大きさを小さくしてつっこませた。

「ギャアアアッ!!」

そう叫びながら、死津喪比女本体が爆発したが、その前に俺は離れている。
これで、ひと段落だ。
以前は『カオス・フライヤーⅡ号』を使って、霊波刀でつっこんでいったが、今の俺のサイキック炎の狐の速度では、最後の爆発に巻き込まれかねないからな。
あとは、おキヌちゃんの反魂の術を完了させるだけだ。



そして、おキヌちゃんのところに行くと一波乱がまちうけていた。

「横島さん。いいところに」

「うん? ひのめちゃんどうしたの?」

「道士が消えたんです」

「……まさか」

「そのまさかがおきたのよ」

あいかわらず、院雅さんは冷静に反応するな。

「反魂の術は、たしか道士からおそわっていないよね?」

「はい。結界維持のため、万が一、生き返って結界がなくならないようにです」

って、俺がそう言ったんだよな。

「そこからぬけだす方法は聞いている?」

「いえ、聞いていませんでした」

「そうすると、なんとか、反魂の術を成功させないといけないな」

そういえば結界はまだあるんだよな。

「結界を解除する方法はわかるかい?」

「いえ、それも……」

うーん。おキヌちゃんと入れ替えた山男がでてこないのは結界のせいかもしれないな。

「……わかった。俺がやる」

「えっ? 横島さん、反魂の術もできるんですか?」

「理論だけはね。おキヌちゃんの場合は、邪霊を近づけない結界、保存のいい遺体、生命力にあふれた若い女性、地脈の巨大なエネルギーと、そこにくくられている」

俺はまわりを見回す。
ひのめちゃんとユリ子ちゃんは、さすがに驚いているな。
院雅さんは、俺の記憶と霊能力を知っているから、特に驚きはしていない。

「これだけ条件がそろっていれば、理論上はうまくいくはずだ」

「そうしたら、それを見ていていいですか?」

「残念ながら、反魂の術って、本来は禁術なんだよ。だから、一族の中でも一人か二人にしか教えないと、俺の前世の記憶には残っている」

今はまともに残っていない平安時代の陰陽五行の術に関しては、前世の記憶が多少のこっていると院雅除霊事務所内では伝えてあるからな。

「だったら……」

「院雅さん、ここに結界を作ってもらっていいですか?」

「横島君らしいね。少し時間を……2時間ぐらい頂戴。そうしたら、専用の結界札を用意するわ」

「院雅さんも、反魂の術そのものを知っているんですか?」

「私の場合は、反魂の術に関連する結界の知識であって、反魂の術そのものは知らないわよ」

「じゃあ、俺の方は用意をするので、ひのめちゃんとユリ子ちゃんには、敷布団でももってきてもらおうかな」

「どうしてですか?」

「おキヌちゃんの遺体をここに寝かせるのに、この石の上に寝かせるのはかわいそうだろう? それとここから運び出すための担架をつくっておいてもらえないだろうか」

「はい。わかりました」

二人して頷いてくれる。
俺は用意してくれたものを確認したあとに、おキヌちゃんの氷付けの遺体を霊波刀で取り出して、すばやく、おキヌちゃんのいるシステムのところに行く。

「わぁ、これって、本当に私なんですね」

「うん。ここに生き返るんだけど、普通は魂を入れるだけ。しかし、おキヌちゃんの場合、幽霊としての幽体ごと入るので、非常に成功率が高いはずだ。あとは霊的な場を安定させる必要があるから、その丸い岩の中で静かに待っていてくれるかな?」

「ええ。お願いします」

周りには誰もいないで、霊的に安定したこの場で使う文珠を決める。
死津喪比女の時に2回目の文珠を使ってはいけないと霊勘があったのはこの為だったのか。

文珠の残りは2つだが、これだけ条件がよければ『蘇』えるだけでも、うまくいきそうな気はする。
しかし、令子の壊れかけた魂に『復』『活』で成功しなかったことがあるからな。
失敗して変になるよりも確実にうまく行く方法でいこう。
使った文字は『反』『魂』だ。文字通り反魂の術が成功するだろう。
おキヌちゃんの幽霊が、おキヌちゃんの遺体だった身体にすんなりと入っていって、呼吸と心臓が動き出し、生気がもどってきているのを確認する。
文珠の在庫もなくなったが、おキヌちゃんにはかえられない。
その結界が消えたタイミングで、のこのこ現れたのは、

「山男、今頃ノコノコでてきやがって」

「地脈と結界のせいで、この地の神になってた自分は身動きとれなかったんスよ!」

「……しかたがないか。んで、全ては終わったんだけどな」

「自分をここにくくってもらって、今、急速に山の神としてつけているんスけど」

「……そうだな。拠点として、ここの神社の神をかねて祭られたらどうだ? ここの神社は死津喪比女から守るのが役割だったが、中心となるのはここの村や山だからな」

以前は、特に、ここのフォローって覚えは無いのだが、この山男は氷室家によくきてお神酒を飲んでいたようだから、大きな違いは無いだろう。

「神として祭られるんですか。山と一体化する喜び…!! その上祭られるなんて、自分は山男に生まれてよかったっス……!!」

あいかわらずな奴だな。
俺はトランシーバを使って反魂の術が成功したことと、以前おキヌちゃんのかわりに、くくった山男が来ていることを伝えた。



おキヌちゃんは氷室家で横になっているが、筋力が落ちているのと、まだ意識がさましていない以外は正常になっている。
おきていないのでわからないが、肉体と、幽体は完全な一致をしているかは、反魂の術事態の成功例が少ないので不明だ。
あとは、いつ目覚めてもおかしくない状態にいる。

山男は、ここで祭られることになった。
実際に見える神様は少ないから、意外にこの神社もはやるかもな。

おキヌちゃんの目が覚めないうちに、少なくとも病室から出ることにする。
記憶の問題があるので、下手に目覚めの時にはいない方が良いだろう。
院雅さんは、

「さて、人骨温泉でも泊まりましょうか」

「はい?」

「シンダラがいるでしょう。それをどうするつもり?」

ああ、そういえば、前は令子の車に乗せてつれていったんだっけ。

「私に帰りも東京まで運転してとは言わないわよね?」

うんうんと首をたてにふる。ひのめちゃんも、ユリ子ちゃんもだ。
だって、院雅さんの運転の方が、除霊するより怖いんだよ。

「それに、これぐらいの規模の霊障になったら、 2,3日は学校も休みになるんじゃない?」

昔の俺の場合、よく学校を休んでいたから覚えていないんだよな。それに令子もそのあたりは無頓着だったしな。
まあ、今回はそうならなくても、オカルトGメンの管轄下になるだろうから、公欠扱いにはなるだろう。
それに、六道女学院の臨海学校での単位を使う機会がなかったから、明日の分に使わせてもらうという手もあるか。

「そうっすね。俺はそれでOKっす」

「六道女学院の方は、オカルトGメンから普通に連絡がいって、公欠だけど、普通に単位扱いになるわよね?」

「六道のおばさまか教師に聞かないとわかりませんが、今回は霊障だから公欠扱いにもならないかもしれませんね。それに院雅さんの言う通りに、明日、学校やっているかしら?」

「じゃあ、ユリ子もかまわないわよね? それに、今回はうまくすれば、貴女たちには特典がつくかもしれないわよ」

「それは、なんでしょうか?」

「ユリ子には、GS試験合格後の研修期間の換算数の低減。ひのめには、換算数からみてみると、今の調子だとこれで1年生のうちに正規のGSになれるかもしれないわよ」

「二人ともよかったじゃないか」

「そういう横島君も霊力レベルA下位から霊力レベルA上位の仕事がくるようになるかもしれないわよ」

それっていいことなのか?
そうなると、冥子ちゃんの仕事のレベルがあがるってことで、なんだかなぁ。
文珠も今回ので使い切ったし、そろそろ妙神山の最難関コースをためしてみるべきかな。

「そういえば、院雅さんには何かあるんですか?」

「事務所の受けられるレベルがあがるんだから、それで収入があがるでしょう。それだけで充分よ」

院雅さんって名誉とかよりは、金銭とちょっとしたスリルを楽しむタイプだったよな。
あいかわらず、私生活はよくわからないけれど。

人骨温泉ホテルについて、各自の部屋にとまると、シーズン外れの日曜ということもあり全員とも露天風呂付きの部屋にとまることになった。
とはいっても、ひのめちゃんとユリ子ちゃんは同じ部屋だけど。
後で知ったが、シンダラの保護費を名目にしてとのことだ。
六道家ならはした金なんだろうなぁ。

これで、おキヌちゃんと別れることになるかも知れないが、そうなったらそれも仕方が無いと思いつつ少しさみしいな。

そう感傷にひたっていたが、俺はあさはかだったのを知らされたのは翌日だった。


*****
呪いをかけた銃弾の『微生物農薬の元となる微生物をベースとしている』というのはオリ解釈です。
死津喪比女編はこれでおしまいです。

2011.05.08:初出



[26632] 第一部(完) リポート44 おキヌちゃんの行き先?
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2012/04/23 20:39
ホテルで夕食までの時間のんびりしていると院雅さんから、

「人間として生き返ったおキヌちゃんが、院雅除霊事務所の面々に会いたがっているそうよ」

「それって本当ですか?」

「こんなことで嘘をついてどうするの?」

前回と違うのは、霊体が衰弱していない事と文珠か。
院雅さんの、除霊よりも怖い運転をする車で、村の病院へと向かう。
やっぱり、除霊で死亡するより、事故死する可能性の方が高そうだ。
オートマだから、俺が運転したいぐらいだー

病院についておキヌちゃんの病室である個室に向かって入ると、

「横島さん! ひのめさん! ユリ子ちゃん! 院雅さん! きてくれたんですね」

弱々しげな声だが意識は、はっきりしているようだ。

「幽霊時代の記憶があるのかい?」

「ええ。ありますけど、それがどうかしたのですか?」

「そのことは後で話すから、今は無理をしないで休養をとることだよ」

「ええ」

その直後に、安心したかのように眠りについたようだ。
幽霊時代の記憶があるだなんて本当に予想外だったな。

こっちは予測済だが、こうやってみるとおキヌちゃんの肉体と幽体がわずかながら、時々ぶれているのがわかる。
院雅さんの結界札をはってもらっているから、変な雑霊ははいってこないけれど、この病院をでたらお守りは身からはなせないだろうな。

それで、早苗ちゃんたち一家、院雅さん、俺とで集まっておキヌちゃんのことを話す。

「過去の記憶が、すくなくとも幽霊時代の記憶は思い出さないだろうとの話でしたが……」

「幽霊の記憶って、普通は夢のように思い出しづらいのですが、道士の作った霊的システムがよっぽどよかったんでしょうね」

まさか、文珠のことは言えないからな。

「それで、養子縁組の件なのですが……」

養子縁組する件は、今回は特殊なのでオカルトGメンが手配してくれることになるはずなんだけど、

「養子縁組をしないとか?」

「いえ、それは、私どももこの一体を守っていてくれたあの娘を、養女にできるのは名誉なことです」

ふむ、なんだろう?

「生き返ったあとの、おキヌを守るために結界札の用意をしたり、外にでた時でも安全なようにお守りをもたせたり、さらに神様までつれてこられてくるとは……」

「あの山男の神様は、祭ってくれる神社があるっていうのに喜んでなったから、いいんですよ」

「そうかもしれませんが、その……幽霊時代の記憶があるというのは、予測の範囲外だったわけなんですよね?」

「……」

実際の反魂の術の例自体が少ないうえに、成功例はさらに少ない。
平安時代でさえ、禁術に指定されていたほどだからな。

「まあ、そうですわね。私どももフォローはさせていただいておりますが、反魂の術についてきちんとした技能をもっているのは、この横島しかいないので」

俺が受け答えできなくなったので、院雅さんのフォローが入ったか。

「私どもが心配しているのは、この地には自由に動ける霊能力者がいないので、おキヌになにかあった時、間に合わなくなるのではないかと」

氷室神社に祭られることになった山男の神様も基本的には、村よりも山側の方にいるだろうからな。

「それで、おキヌは院雅除霊事務所の方々を信じているようですので」

「私ども、ですか。確かに幽霊の保護ということで、横島が保護していましたが……準備等がございますので、この件はあらためてお話させてください」

たしかにこんなに早く記憶が戻るなんて予測外だったから、こちらも受入準備がととのっていないよな。
おキヌちゃんの様子をみるために、今晩の泊まりは、早苗さんの母がおキヌちゃんの部屋に仮設ベットで、別な病室に泊まったのは意外にも院雅さんだった。
俺は院雅さんにこっそりと、

「あれ、院雅さんが面倒みるんですか?」

「横島君。あなた看護婦にセクハラしない自信がある?」

「……ないっす」

「ここで評判を落としたら、キヌが、これなくなるわよ」

こっちだと定期的に結界札やお守りをおくらないと、おキヌちゃんの身が危ないよな。
高校生になっていたら寮があって、六道女学院霊能科への入学をすすめるつもりだったが、あそこには中学がないしな。

「だから、温泉でも楽しんでおいで」

珍しく、院雅さんが優しく感じられるなぁ。
まあ、看護婦さんにセクハラさせないのが目的なんだろうけど。
ただなぁ、シンダラのことで、冥子ちゃんのところに、ドクター・カオスとマリアがいるって知らされた。
この時には、貧乏なカオスなおっさんしか思い出せないだけに違和感がある。
六道家の困ったことにアイデアをカオスのおっさんがだして、それを元にしてマリアが計算をして、冥子ちゃんに必要な人選をしているらしい。
冥子ちゃんのぷっつんが大幅に減ったのは、そういう裏があるなんて、大幅に世界がかわっているのは気のせいだろうか。


人骨温泉ホテルに泊まれて、俺自身は以前のこともあるから、おキヌちゃんのことについて、あまり心配はしていない。
しかし、まわりで院雅さん以外は、そのことを知らないからひのめちゃんとユリ子ちゃんが、おキヌちゃんを心配している。

「おキヌちゃんのことは、そんなに心配しなくてもいいと思うよ」

「なぜ、そんなにはっきりと言えるんですか?」

ユリ子ちゃんの琴線にふれちゃったかな。

「もともと、院雅さんは霊力レベルCの悪霊なら成仏させてしまうこともできるぐらいの桶胴太鼓へ霊力がのった音だせる。それにも、びくともしない霊体だったんだよ。そもそも反魂の術が失敗しやすいのは、その身体のそばに魂が無いのに行うのにたいして、おキヌちゃんは魂だけでなくて霊体があったからね」

「なんで反魂の術って、禁術なんですか?」

「うーん。やっぱり、死者を蘇らせるというのは自然の摂理に反しているからだろう……しかし、おキヌちゃんの場合は人為的に最初から計画させられていたからね」

ひのめちゃんもユリ子ちゃんもあまり納得していなさそうだが

「おキヌちゃんが反魂の術で生き返られない限り、あの狭い空間でずっと過ごさないといけなかったんだよ。しかもあの装置は地脈の力を利用していたから、並のGSじゃきれいにこわして成仏させるのは難しいだろうしな」

「なぜ、道士の方の装置はうまく動作していなかったんでしょうね?」

うーん。謎なんだよな。
あえてあげるならば前回と違うのは時期の違いなんだろうが、地下だから季節なんて影響ないだろうしな。

「反魂の術は研究していたのに対して、映像を残すというのには、当時だと無理だったんじゃないのかな?」

しぶしぶと二人とも納得していたが、俺自身としても納得しかねている。
まさか、アシュタロスが何か手を加えたなんて、気のまわしすぎだろうか。


あまり、明るい話題にはならなかった、人骨温泉ホテルだが翌日の駅への送迎の途中で病院によってくれるという。

翌朝はシンダラも元気になって飛んでいったし、院雅さんからは、頼まれていた荷物を事務所に送るのだけは忘れないでと頼まれている。
おキヌちゃんの病室に向かうと、おキヌちゃんが明るく

「私、死んでましたけど、生き返れてすごくうれしいです」

うん。今は体調的につらいかもしれないけれど、そういう明るいおキヌちゃんって好きだな。

「体力回付のリハビリに1ヶ月から1ヶ月半ぐらいかかるらしいから、それぐらいたったら、東京もどうにかなりそうね。あきらめず体力回復につとめるのよ」

「ありがとうございます。院雅さん」

「俺も、また、会えるのを楽しみにしているからね」

「横島さん、私がいなくてもきちんと部屋のお掃除してくださいよ…! 汚れたぱんつも放っといちゃ駄目ですからね…!」

「おキヌちゃん!! ちょっと待て…!!」

折角の氷室家の好印象が……

「やっぱり東京の男はスケベでスカン!」

最後の最後で、早苗さんの信用を落としちゃった。
ただ、前回と違うのは、幽霊時代のおキヌちゃんと俺がすごしたことを理解していた早苗さんの両親だろう。

「キヌさんが東京にきても、横島君と同じ部屋へ住まわす気は無いから大丈夫よ」

たしかにフォローはフォローなんですけど……

「東京で準備してまっているから、はやく体力を回復させて、ここの病院で勉強もしておくのよ」

そのうち生き返るのは分かっていたから、多少は勉強してもらっているが、学校の勉強という形式ではおこなっていない。
それでも、高校1年生の教室に来て授業風景を見て、わかる範囲もひろがってはいるようだが、基礎知識がぬけている。
院雅さんはそこを指摘したのだろう。
おキヌちゃんはガッツポーズをとっているが、力のなさがでているなぁ。
やはり体力の限界か。

「おキヌちゃん、正月頃にはまたくるから、まずは身体をだいじにしてろよ」

おキヌちゃんが、以前と違い幽霊時代の記憶をもっているが、氷室家の方はなぜか、おキヌちゃんのことを信じているから安心だろう。

病院からは、院雅さんの車で、この村ではなくて、レンタカーが帰せる近くの町まで行くことにする。
やっぱり、院雅さんの運転って怖いなぁ。
それで、レンタカーを返して列車で東京まで帰る間に、

「キヌのことは年明けに向けて考えるとして、ひのめとユリ子もキヌに負けないようにがんばるんだよ」

ああ、おキヌちゃんって前は世界でも珍しいネクロマンサーだったからな。
さすがの院雅さんも、無意識に言ってしまったのだろう。

「おキヌちゃんって、幽体で霊力レベルCの除霊に平気で参加していたのと、今も幽体と肉体がきちんとあっていないから、それくらいの霊能力はあると思うぞ」

このあたりって、以前は、もう少し霊能力は低かったはずなんだよな。
やはり、死津喪比女につっこんでいったか、そうでないかの差があるんだろうか。

「それで、六道女学院霊能科は普通どおりに授業を行うそうだから、ひのめとユリ子は学校へ向かって頂戴ね」

さすが、六道女学院霊能科だけあって、他の生徒の回復力が高いな。

「けれど、横島君の学校は休校だそうだから、ちょっと事務所までよってね」

院雅さんのさりげない笑顔が、令子の悪巧みを考えている時と似ていて、ものすごく嫌なんですが。

おキヌちゃんが入院している病院から、村の駅まで院雅さんに送ってもらう。
院雅さんは近くの町にあるレンタカー屋に、車をかえすそうだ。
事故らなきゃいいよなと思いつつも、一緒についていこうとは思わないぐらい、院雅さんの運転って、初心者丸出しで怖いからな。
列車の中では、昨晩のホテルよりはるかに明るく話しがすすむ。

「おキヌちゃん、早く元気になるといいですね」

「うん。体力さえもどれば、普通に過ごすことはできるだろうね」

けど、幽霊時代の記憶を持っているおキヌちゃんって普通の生活ができるのかな。

「おキヌちゃんって、中学3年生にあたるんですよね?」

「そうだね」

「来年は普通の高校に行っちゃうのかなぁ」

「こればっかりは、本人の気持ちだからねぇ」

とは、言いつつもおキヌちゃんが除霊助手になってくれるのを期待しているんだよな。
俺ってやっぱり、おキヌちゃんを利用することになるんだよなと思うと、ちょっとは気がひける。
帰りの列車の中では、おキヌちゃんの今後を皆で勝手に話しているけれど、一致してそばにいて欲しいという気持ちなのがわかるな。





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第一部 ずれている世界(完) エピローグ
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ひのめちゃん、ユリ子ちゃんとは別れて、自宅に荷物を置いて少し時間がたってから、院雅除霊事務所に向かう。
それで事務所に入ると、

「よう。メドーサ。あいかわらずいいチチしてるな?」

「うるさい。必要以上に手出しが出来ないからってセクハラするな!」

「刺又(さすまた)でぶったたいてからセクハラ扱いって、魔族にしては心が狭いぞ。前は自分の身体を武器にしてみようとしてたのに」

「契約する気も無い相手に好きにさせるか」

そういえば、今日はメドーサがくる日だったんだよな。
院雅さんに「事務所によってね」と言われるまで忘れていた。
元々、俺がいなくてもいいだろうに、こうして院雅さんは呼ぶんだよな。

「ところで、まだ院雅さんは戻っていないのか?」

「どこで、何をしてるのやら?」

「契約は切れていないんだな?」

「契約が切れていたら、ここにいるもんか」

「そりゃあ、そうか。とりあえず、生きてはいるらしいな。事故でもおこしていなければいいけど」

「事故? 何をしてるんだ?」

「ああ、車の運転。運転は苦手らしいからね」

「車って、あの東京に花粉をばらまいたバカな妖怪を相手にしてきたのか?」

「まあね。人間の霊力で相手できるって言ってたのはメドーサじゃないか」

「ああ、そういえば、そうだったね」

メドーサをからかうネタもないし、次回まで、また考えておくか。
それは、ともかく院雅さん遅いな。
本当に事故でもおこしたかと思っていたら、

「遅くなったけど。いらっしゃい、メドーサ」

「死んでいてくれていた方が、私としてはよかったんだけどね」

「それは、どうも。じゃあ、顔も見たことだし、今日はいいわよ」

「何? それくらいだったら、電話でも使えばいいだろう?」

「あら! だって、昔の弟子と会うのも楽しいんでしょう?」

へっ? このメドーサが、そんなことを思っている?

「院雅、冗談が過ぎるぞ! 横島も本気にするな!」

久々に動揺しているメドーサの顔がみられる。
確か、ルシオラとデキているとかわかった時以来だな……
次回までに、弟子時代を元ネタに何か考えておくか。

「あら、冗談に聞こえた?」

「ふん。帰らせてもらうよ」

そういって、テレポートして帰っていった。

「遅かったので、車で事故をおこしていたのかと思いましたよ」

「いやねぇ。帰りの列車のダイヤが乱れちゃって、こんな時間になったのよ」

「そうでしたか。俺たちがのっていたのはすんなり帰ってこれたので、気にしていませんでしたよ」

よく考えると死津喪比女の花粉って、広範囲で、人を仮死状態にまでおちいらせるのに、異様に死傷者の数は少ないようなんだよな。
前回の時は、広範囲で死者がでてたのを記憶していたが、人数までは覚えていない。
もしかしたら、この事件はおきるのをまたないで、おキヌちゃんを生き返らせることも可能だったんだろうか。
今さらながら、自分のうかつさにめげそうだ。
社会的な影響でいえば、親父が空港に飛行機をつっこませたとかあったな。
令子が体重のためなら、高速道路や飛行機を無理やりとめたとかも考えると、霊障よりそっちの方がもしかして問題か?
経済的影響とか、社会的影響が異なるか。

「それは、いいのだけどね。横島さん」

さん付けということは、真面目モードの話か。


*****
この当時は看護師ではなく看護婦だったので、そちらをつかっています。

ここまでを第一部として、次回からは第二部からとします。

2011.05.09:初出



[26632] 第二部 リスタート リポート45 院雅除霊事務所の隠れた目標
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2012/04/28 21:11
「それは、いいのだけどね。横島さん」

さん付けということは、真面目モードの話か。

「文珠も切れたことだから、そろそろ、妙神山へ行く気になった?」

「ええ、今度の冬休みにでも行ってきますよ。それなら、ひのめちゃんとかも巻き込まずに済むでしょうし」

「それなら、それでいいわね。ところでキヌのことなんだけど」

きたか。

「ここの院雅除霊事務所の除霊助手にしようと思うのだけど、どう思うかしら?」

「問題は、ネクロマンサーの笛ですね。年明け早々までに、それを買う資金の目処ってありますか?」

今回の除霊で焼夷弾入り多弾ロケットランチャーを使ったのが資金的に痛かったよな。

「けど、キヌって別にネクロマンサーの笛でなければ、ネクロマンサーとしての能力が無いわけじゃなかったんでしょう?」

「それは、ネクロマンサーの笛でネクロマンサーだと自覚した後だからできたのであって、そうでなかったらどうですかね」

「そうね。それに、対魔族を考えるなら、ネクロマンサーとしての能力って、ほとんど役にたたないわよね?」

たしかにその通りなんだけど、それ以外っておキヌちゃんの場合は、完全に補助系の霊能者になっちゃうんだよな。

「アシュタロスの時は霊視が主でしたけどね。その他だと、霊体離脱と、ヒーリングですね」

「横島さんが見落としていることがあるわよ!」

「はい?」

あれ? なんかあったっけ?
言われたのはそんなに以外でもなかったもので、

「彼女は他人のキョンシーを奪いとって操ったのでしょう?」

「それって、ネクロマンサーの能力じゃないですか」

「そうよ。けれど、ネクロマンサーの笛が手に入るまでの代用と考えても良いのじゃない?」

「そうかもしれませんが、キョンシーって、秘術ですよね?」

「そのあたりは当てがあるから、そっちの方面で、魔族との対抗ができる方にも対処できることを考えておくと良いと思うわね」

ネクロマンサーの笛って高いからな。
六道女学院入学に間に合うかどうかぐらいだけど、キョンシーを扱うおキヌちゃんか。
GS試験だと、キョンシーの方がいいけれど、武器として、ネクロマンサーの笛とキョンシーと両方同時に入れられないだろうか?
って、またおキヌちゃんの意思を無視して、考えているな。

「おキヌちゃんが、こちらにくる前に除霊助手を行うか、確認してからにしませんか?」

「それも一つの手だけど、キヌやひのめの扱いを見ていると、自分ひとりで解決しようとしていない?」

「……」

そうかもしれないが、同期か合体をするためには、もう一人は必要なんだよな。
今のところひのめちゃんが有力なんだけど、単純な霊力でいえば彼女の方が霊力は強いからな。

「ひのめちゃんに、魂のエネルギー結晶があるから、いずれはひのめちゃんへきちんと知らせて、アシュタロスと対抗するんでしょうね。ただ、アシュタロスは俺たちのことを知っているはずなのに、何も手をだしてこないのが不気味なんですが」

「そのあたりは、よくわからないけれど、芦優太郎の調査結果はアシュタロスであるとも、そうでないともわからないわ。ただし、彼は霊能力をもっていて勤めている会社の霊的不良物件を担当をしているから、アプローチはかけることはできるかもしれないわよ」

「芦優太郎はわかりましたが、アシュ財団は?」

「あそこの活動はおかしいのよね。魔界に戻したはずの魔族と、同じようなことをする魔族が捕まらずにいるのよね」

「アシュタロスとのつながりはあるんですかね?」

「それだと魔族であるジークフリードに聞いた方がよくないかしら?」

「そうですね。しかし、本格的にそのあたりに手を出すとしたら、文珠を会得したあとでしょうね……」

ただし、今の世界が異なるのは俺が平安時代に逆行したことにより、直接の介入ではなくアシュタロス、メドーサ、ヒャクメの祖母に影響をあたえたのだろう。

「そのあたりは、今度妙神山にいって、老師に相談してみます。ところで、おキヌちゃんの話に戻りますが、こちらでの生活環境はどうしましょうかね?」

「よく考えると今までキヌがいた部屋で、大丈夫かもね。横島さん」

「氷室家に俺と同じ部屋に住まわす気は無いって宣言してたじゃないっすか」

「ああ、言い方が悪かったね。キヌはそのままで、横島さんが分室の仮眠用に使っている部屋に移動すれば、それで問題ないんじゃないの?」

「えーと、そこには、ひのめちゃんの着替えなんかのためのタンスがあったりするんですけど……」

「それは、今までの横島さんの部屋へ移動すれば、それで問題ないんじゃないの? それとも他に良い案でもある?」

院雅さんに他の案をだす気は無さそうだな。
おキヌちゃんがせめて高校生なら、六道女学院の寮があるのにな。
もしかして、これって詰んでいるのか。

「多少、問題はある気がしないでもないけれど、ちょっと考えさせてください」

「あまり考えている余裕は無いよ。新しい部屋を借りてもらうのにも時間はかかるし、キヌの勉学の基礎を中学3年生にまであげる必要もあるんだからね。場合によっては家庭教師をつけることも考える必要があるのよ」

なんか前の記憶と違って大変そうだけど、令子っておキヌちゃんのこと、そうやってきちんと面倒をみていたのかな。

「キヌのことは、来週までに方向性をきめてから、氷室家やキヌの意向を聞いてみるわ。キヌがどうするかにもよりけりだけど、もし除霊助手になるなら、この事務所での役割を少し変えて行くわよ」

「へっ?」

「正直、ユリ子の接近戦の相手がきつくなってきたのね。それに、私の除霊方法だと、彼女のオールマイティに使える霊能力に制限をかけてしまう。もしかすると、魔族との対戦に間に合うぐらいまで育つかも知れないわよ」

「そういえば、院雅さんの接近戦は神通棍だって、言ってましたよね? 防御に徹していても、つらくなってきたってことですか?」

「その通りよ」

オールマイティというのは普通のGSとしてはいいけれど、魔族相手だとどうだろうか。

「魔族を相手にするなら、もしかすると、ユリ子ちゃんの霊能力を組み立てなおす必要があるかもしれませんよ」

「そのあたりは、横島さんの判断にまかせるわ」

「そうですか。あとは、ユリ子ちゃんの意思ですね」

ユリ子ちゃんは、この事務所で魔族を相手にすると思って来ていないだろうからな。

「あと、ひのめだけど火はともかく、水はどうなの」

「そろそろ実戦で試してみてもいいぐらいの実力にはあがってきていますね」

「そうしたら、そっちも、少しあたってみるわ」

「色々とすみませんね」

「いいのよ。今一番、経費がかかっているのはひのめだから」

聞かなきゃよかった。
院雅さんって、ある意味金銭的にはミニ令子なんだよな。とほほ。


土曜日の昼間、院雅さんとの話の通りに、一度ユリ子ちゃんの霊能力のうちの近接戦の能力をきちんとみてみることにする。
ユリ子ちゃんは近接戦としてはオーソドックスに、神通棍と破魔札だが、霊波砲も放つ。
ただ、微妙に動きがおかしいような気がするのはなんだろうか。
俺はそれに対して霊ハリセンだが、買うと高いので、院雅さんのお手製による結界札型のハリセンになる。

実際に練習をしてみると、大きい隙もないし戦っている最中の霊波の乱れも少ない。
こちらがちょっと隙をみせると、その場所へ的確に神通棍、破魔札もしくは霊波砲を放ってくる。
あたると痛いからほとんど避けているけれど、2回ばかりサイキックソーサーではじくように流さなければいけなかった。
防御の方はというと、さすがに、ハリセンでもこちらの速度の方が速いのか、かわさないで受け止めるのが手一杯のようだ。

正統な方法だとよく鍛えられているって感じだけど、ちょっと汚い手を2種類ばかり行ってみる。
一つは、

「チョウのように舞い…! ねずみのように逃げる!」

と声をだして逃げるそぶりをみせたところ、ユリ子ちゃんの気が一瞬緩んだので、

「ハチのよーに刺ーす!!」

ハリセンからは

『すっぽぁん』

と気持ちよくいい音がする。
霊力を込めていないから、痛くはないはずだけど。

「まずは1本ね。続けようか」

「はい!!」

この卑怯臭い手を使っても、文句を言うそぶりもみせない。
うん、なんか霊能科のエリート教育を受けているって感じの娘じゃないんだな。

今度は、先の神通棍を入れてきた隙をわざと見せると、そこに的確に神通棍で切り込んできたが、ハリセンでカウンターをとる。
連続してハリセンを入れられたことにたいして、気落ちはしていないようだが、

「これでも手抜きされているんですよね?」

「……手抜きってわけじゃないけれど、ユリ子ちゃんの神通棍の太刀はちょっと素直すぎるんだよね」

「一応、フェイントつかっているんですけど?」

「ああ。フェイントだけど、虚実の使い分けが普通の剣道ならいいのかもしれないけれど、虚実の使い分けでわずかだけど霊力に差がでているね。悪霊でも生きていた時に剣術使いとかなら気がつくだろうし、妖怪もそれくらいの差は気がつくだろうね。魔族なら気にかけないだろうけど」

ちょっとばかり、妖怪や、魔族のことをまぜて話をしてみる。

「魔族ですか?」

妖怪の方は気にしないのか。

「そう、魔族。よっぽどいい札をもっていないと、今だとまだ霊力が低いかな。霊的成長期だろうからまだまだ伸びるだろうれど、何かもうひとつ決め技みたいなのがほしいね」

「決め技ですか?」

「決め技でなくても、実際にこうやって練習してみて気がついたのだけどね。普通、神通棍は単純に棍と一緒だからどの部分でたたきつけても効果は一緒なのに、ユリ子ちゃんはある特定の縦のラインで当てようとしているね。もしかして、古武道か、剣道でもおこなっていなかった?」

「は、はい。自宅は、昔剣術の道場をおこなっていたのですが、今はたたんでいます。祖父がいまだにそこをつかって練習しているので、なぜか覚えてしまって」

「剣術ね。それで切っ先に相当する部分を無意識にむけていたんだ」

なぜか覚えたってだけで、切っ先まで向けるなんていうのは、そっち方面にかなり才能がありそうな気がする。

「院雅さん、ユリ子ちゃんって霊刀の方が向いているかもしれませんよ」

「霊刀……」

おや、だまっているな。

「単純に除霊助手にほいっと出せるほど、安くはないんだよね」

資金の心配か。
考え無しで言ってしまったが、おキヌちゃんのネクロマンサーの笛が遠ざかるな。

「霊刀を購入するかどうかはおいといて、ユリ子。魔族も相手にする気があるかしら?」

ユリ子ちゃんの反応は

「魔族って、院雅さんも相手にするんですか?」

そうきたか。

「私は昔でこりたので、もうする気は無いけれど、ここにずっといたならそういう相手をするのは横島君が担当するわよ。
 ひのめはすでに魔族を相手にしたことがあるけれど、ここでそういう経験が無いのはユリ子だけなのよ」

「そうしたら、魔族を相手にするとなると横島さんやひのめちゃんと組むことになるんですよね?」

「そうよ」

「じゃあ、やります」

「そう。それならそれで、魔族を相手にするんだから、そういうこともできるフォーメーションを考えておくわ」

ユリ子ちゃんが分室の方にも顔をだすのか。
確かに剣筋は素直なんだけど、微妙にひっかかる点があるんだよな。

「……じゃあ、院雅さん。今日はちょっと遠目なので、俺達は早めに移動します」

「そうね。ひのめも今回は、火ではなくて水で除霊するのよ!」

「ええ。場所もいいですし今日の天候も味方をしてくれそうです」


今日の行く場所は、夏なら水着姿の女性がいる嬉しい海水浴場。
しかし、今は12月で当然のことながら海水浴客もいないし、雨が降って海も荒れているのでサーファーもいない。

「じゃあ、俺は後ろで見物しているけれど、院雅さんに言われた通りに火ではなくて、水で除霊するんだよ」

「はーい」

そう言いながらウェットスーツ姿で、海辺で待っていると

「ぼ――く、ドザエモーン!! カノジョ――! 一緒におぼれない――!? 心中しよーぜベイベ――!!」

このひのめちゃん死地へのナンパを仕掛けている悪霊退治が今回の仕事だ。
本来なら来年の海水浴シーズンにおぼれさすであろうが、訓練のためきている。
海水浴シーズンか直前なら高くなるが、今だと霊力レベルに対して、相場が安い。
だから他のGSは手をださないのだが、今回はひのめちゃんの訓練のためだからな。

「無理心中はいけないですよ。一人で極楽へ逝ってくださーい!」

そう言って、雨と海水を霊能力で浄化の水である『聖水』に変化させる。
悪霊の下半身はあっというまに崩れ、上半身も聖水化した雨でどんどん溶けていき消滅していった。

これでも霊力レベルBの悪霊なんだけど、あっという間だったな。
火である発火だと、この条件ならきびしかっただろうけど、この場と相性のいい水だからな。

「ひのめちゃん。今日の除霊は早かったね」

「雨のおかげです。天候がよかったら、もう少し時間はかかりましたよ」

「まあ、何より水でのきちんとした単独の除霊は初めてだったからね」

「だって、最近のオフィスビルって除湿機とか標準装備で、空気中の水が使えなかったじゃないですか」

「まあ、そうだけどこれからは郊外でも火より水を使える条件のところが多いから、いい条件で除霊ができるからさ」

「横島さん、最近、院雅さんに似てお金の関係にうるさくなってきていませんか?」

「えっ?」

確かに無駄遣いはしなくなったが、指摘されるようなことってあったかな。

「うーん。そんなに影響受けているっぽい?」

「だって分室にいると今月は黒字で終わりそうだとか、来年の予算どうしようとかって」

そういうことか。

「うん。独立をするなら経営のことも勉強しないといけないし、分室といっても模擬的に経営関係も学習しているからね。だからこれから、除霊道具がほとんどいらなくなりそうなので、経営的には楽になるはずだよ」

「そんなに院雅除霊事務所って、経営がきびしいんですか?」

「厳しいってわけじゃないけれど万が一の怪我とかには、保険とか労災とか一切きかない世界だから、そういうのをつみたてておかないといけないからね。それにこの前の死津喪比女はちょっと無茶なことをしたわりには、オカルトGメンからの金一封だけだったよな。他には冥子ちゃんの事務所から、シンダラの保護費の収入がなかったら、今年は赤字で終わっただろうからね」

冥子ちゃんのところからは、シンダラの保護だけで100万単位で収入が入ってきたからな。
あそこの金銭感覚にはついていけないが、こういう場合に助かる。
実際には分室としては赤字なんだが、初年度はこんなもんだしこれから働いてねと、院雅さんからはにこやかに言われているしな。
しかもアシュタロス、もしくは同等の霊障もなんとかお願いねって、俺は何でもできるわけじゃない。
しかし、文珠をだせるのって、菅原道真公ぐらいだけど他に知らないしな。
先に菅原道真公を頼りにしてみるのも手かな。
けれども、まずは老師に相談だな。


この仕事も終わり、帰るところで監視している視線はあったのだが気がつかなかった。

『あのアホ面…! しかし、女が好きそうなのに手をだしていない。これは違うか』

竜宮の使いである亀とのニアミスだが、煩悩はあいかわらず強い横島なのに、真夏ではないということで時期が悪かった。
しかし、乙姫の正体が地雷女だと知っているから誘われてもさけていただろうけども。


そして12月は、週末のユリ子ちゃんの訓練は万が一にそなえて日曜に変更してもらう。
クリスマス・イブはどこからも誘いがこなかった。やっぱりかよ。
ひのめちゃんから誘いがきたらきたでちょっと対応にこまるんだが、令子のところでパーティをするって言っていたからな。


翌日のクリスマスには学校で芦火多流から昨晩の令子の事務所でのちょっとしたパーティの話を聞いて、ちょっとばかりの懐かしさと頭痛がしてきた。
サンタクロースが、結界にぶつかったそうでそれに変わって令子が仕事をしに行ったっきり帰ってこないという。
今晩には帰ってくるだろうけど、俺に話してきたのは一緒にひのめちゃんも行ったって?
やはり中身は美神家の姉妹か。

ひのめちゃん、何を願って、何がでるんだろうな。


*****
除霊道具としてのハリセンは『4巻プロポーズ大作戦!!』にでています。

2012.02.01:初出



[26632] リポート46 妙神山最難関コース編(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/06/12 19:45
年末年始は仕事も無いので、12月29日から1月3日は院雅所霊事務所も休みだ。
ひのめちゃんには、

「大晦日あたりから妙神山で、3日間ぐらいの修行をしてくるわ」

そう言ったらあきれたように、

「修行好きなんですね」

「うーん。そういうわけでもないんだけどなぁ……」

いまだにひのめちゃんへ、魂のエネルギー結晶のことを話す機会はみつけられない。
妙神山へ行くのも、このことが関係するんだけど今は避けておく。


お母さんはいつ仕事が入るかわからないみたいだしお姉ちゃんと二人きりの正月ってのも味気ないから、先に妙神山へ入っておいて驚かそうかしら。
ひのめちゃんの努力が報われるのは、いつの日やら。


今度はナルニアに居る両親には伝えてあるから、押しかけてきたりはしないだろう。
ただし、親父には修行場の管理人が美人だとは伝えていない。
それを親父が知ったら何をやりだすかわからんからな。


31日の大晦日、妙神山修行場へ入りは、鬼門達をあっさりとスルー。

「小竜姫さま、あいかわらず、お美しい」

と手をにぎるが、最近は拒絶反応も少ない。
けど、やっぱりこれより先にはすすめないんだな。

「横島さん!! 今回は一人のようですがどのような要件で?」

「ええ。老師に相談することにしました」

「そうですか。そうしたら私にも教えてくれますよね!?」

語尾が強いけど、

「老師次第っす!」

こういうのは責任転嫁をはかるに限る。
落胆したように、

「そうですね。老師に取り次ぎましょう」

「お願いするっす」

んで、老師の部屋に通されるが、ここって異界空間だ。
老師の部屋に通されて小竜姫さまがさがったあとに、

「何を相談しにきた。小僧」

「ええ、相談内容なんですが……ただ、その前に確認したいんです。老師ってどれくらい俺のことを、知らされているんですか?」

「そこに書類があるから読んでみろ」

こんな辺ぴな修行場にもやっぱり書類はまわってくるのね。
読んでみたけど、

「これ知らない文字なんですけど」

「面倒くさいの。一言でいえば最高指導者が知っている中で、一部のものにだしても良いというものじゃ」

「そうすると個人的な深い情報も?」

「うむ。小僧の過去の神族・魔族とも情けない状況にあったようじゃ。すまぬとはわしの身では言えないが」

「いえ、それはもう俺にとって、随分と昔の話ですので」

「そうか。ただし、お主がいた世界というのも変わっておって、人間世界でいうサ○エさんワールドのような時空が発生しておったようじゃの。たとえば高校2年生のクリスマス・イブなどは、何回もあったような記憶は残っておらぬか?」

「……あの記憶って夢とかではなくて、本当にあったことなんですか?」

「少なくとも12代ヒャクメが小僧の記憶を読みとる限りはその通りであろう」

「……」

俺って、全く持って……

「なに、人間は都合の悪いことに関する記憶は、忘れるとか、すり替えの現象が発生する。そのようにそちらの宇宙意思が、人間だけでなく世界に対して調整しておったのであろう」

「……はい。わかりました。それで俺のいた世界と言ったらいいんですかね?」

「それでよかろう」

「アシュタロスが最終的には世界規模での霊障を発生させていたのですが、こっちでのアシュタロスってどうしていますか?」

「うむ。小僧達が平安時代に行った時を境にして、過激派からデタント派にかわっておる。小僧の推測を信頼するならば、そのあたりで歴史が小僧のいた世界と分岐したのであろう」

「アシュタロスの意図は?」

「まだつかめておらん。しかし証拠は無いが、かわりにルシファーという魔族が動いているようじゃ」

「えっと、ルシファーとサタンって同一魔族じゃないんですか?」

「いや、別な魔族じゃ」

「もしかしてアシュタロスを相手にするよりタチが悪くないっすか?」

「……そのことは小僧にもいえない。ただ、こちらで小僧から情報を得た時点での、小僧の信じた方針で行動をすれば良いのじゃ」

「その自分を信じられなくて相談にきたのですが」

「それで良いのじゃ。自分が信じられなければ、他の信じられる者と手を組むのがよかろう。それが人間では、なかったのではないのか?」

そういえば、南極でのパピリオの相手って、複数人でかかっておこなうって作戦で成功したんだったもんな。

「うっす。ただ、未来に関して話して信用してもらえる人間が、どの程度いるのやら。しかも俺のいた世界と、ずれてきていますし」

「人間の方はわからないが神族なら14代ヒャクメに、魔族なら魔界から人材交流で来ているジークフリードは、ある程度までの事情を知っている」

「あの二柱なら確かに。けれど小竜姫さまには?」

「あやつは直情的だからのー。話すのはひかえた方がよいじゃろう。それにこの件では、ヒャクメやジークフリードと話しているそぶりも、見せない方がよいじゃろう」

小竜姫さまには内緒か。
そうすると、あとひとつだけ。

「ヒャクメにもあまりプライベートな過去を見られないように、プロテクトをかけてもらえますか? 過去にいたヒャクメと、こっちのヒャクメって、別な神族になっちゃいますよね?」

「それがよかろう。こちらでもそれは考えておったところじゃ」

「さっそくお願いします」

「よかろう」

そうして、老師による記憶のプロテクトをかけてもらった。

「もうひとつですが、ここの最難関コースを受けにきました」

「ようやっとその気になったか」

「アシュタロスではなくても高位の魔族が相手なら文珠がなければ、相手にすらならないですから」

「そうだろうな。菅原道真の文珠を扱うという手もあるが、自分で作るというのであればそれがよかろう。まずは、ウルトラスペシャルデンジャラス&ハード修業コースの契約書にサインをしてこい」

「そうですね」

俺は老師のいた異界空間にあるゲームだらけの部屋からでたが、小竜姫さまがいないので修行場の方へ向かったら、思いがけない人物がいた。

「お前、雪之丞!! その格好は魔装術を極めたのか?」

「おう、横島か。一目見て判るっていうのはさすが俺が目指しただけはある。だがこれで追い抜かせてもらったぜ」

今の雪之丞は、GS試験のあのオカマの魔装術よりは強いだろう。
対して俺は当時の美神さんと、まだ同等っといったところか。

「そうだろうな。いくらサイキックソーサー系が、魔装術と相性がよくても負けるな」

「あっさり認めるのかよ」

「勝てない相手からは逃げ回るさ。それよりも小竜姫さま」

「はい……」

ここで、横島さんのことを聞くのは問題があるわね。

「なんですか?」

「そちらの魔族が誰なのかの紹介と、なぜここにいるのかを教えていただけますか?」

あら、いけない。

「こちらの人間は横島さん。GSをおこなっています」

「横島忠夫です。よろしくお願いします」

「それでこちらの魔族は魔界軍情報士官ジークフリード少尉」

「ジークフリード少尉です! よろしく!」

ジークはベレー帽を被っていなければあいかわらず甘そうだな。

「彼は魔界から人材交流で派遣された留学生なんです」

「魔界とこの修行場とで人材交流ですか?」

「たしかに魔族と神族は冷戦対立中ですが――ハルマゲドンを回避するために和平への道を模索中なんです」

表向きは、そうなっているのか、俺のほうがついでなのかな?

「彼はそのためのテストケースってわけ」

「もっとも魔族にはそれを嫌う勢力もあります。そういう武闘派は以前にも増して過激な行動に出ようと暗躍していて……」

「たとえば香港の時みたいなのかい?」

「あれは油断していました……」

「それはいいので、俺にウルトラスペシャルデンジャラス&ハード修業コースを受けさせてもらいたいのですが」

「えっ? 老師との相談ってそれですか?」

「……ええ、まぁ、そうです」

小竜姫さまには、正直に話せないしな。

「折角、横島を越えたと思ったら同じコースを受けるのか」

「同じコースを受けて、それでその魔装術を完成させたのか?」

「おお。まあ、がんばれや。俺は受かると思うけどな」

これ以上、話を複雑にする必要も無いだろう。

「それでは契約書を用意しますので、横島さんは一緒にいらして下さい。それからジークフリードさんと雪之丞さんは、武闘場以外で訓練を続けていてもらえますか?」

そうして修行者の休憩室で待っていると契約書をもってきたので、一応目を通しておく。
以前は霊的成長期も終盤にもう一度受けたが、内容的には同じだな。
契約書にサインをしていつもの修行場に戻って武闘場に入る。

「まずはテストをさせてもらいます。妙神山修行場、最高にして最難関に挑むに値するかどうかをね」

本当は、もっと中間のコースでも俺としてはいいんだけど、文珠だせるのはこれしかなさそうだもんな。

「思いっきり、いってみますよ」

「人間で始めておこなったばかりなのに、続けて行うっていうのは楽しみですね」

いや、楽しまなくてもいいですから。

「禍刀羅守(カトラス)!!」

「初めのあいずの前に、かかってこないですよね?」

「大丈夫ですよ。時間制限は60秒!! 初め!!!」

御手付きの霊波刀とサイキックソーサーをだすとカトラスが襲ってきたが、小竜姫さまの神剣に比べるとやはり遅い。
少し様子見をしようと思ったが以前と似た方法を行う。

「のびろ」

霊波刀をカトラスのチャクラにむけて一直線にだす。
間合いが近いので、カトラスは避ける余裕もなく気絶した。

「倒すまでの所要時間30秒ちょい。合格です」

「俺は40秒だったのにな」

訓練もしないで、俺の対戦を見ていたらしい雪之丞が言う。

「いや、禍刀羅守(カトラス)の動きは以前見ているからな。その差かな」

「この後を楽しみに待っているぜ。横島」

「ああ」

俺って生きて帰ってこれるよな。

「これから師匠どののところへ行きます。横島どの」

「ジークフリード少尉についていけばいいんですね?」

「ええ、私はこちらの管理人として、雪之丞さんをみないといけないですから」

中では2ヶ月だけど、外では一瞬だというのをさとらせないためか。
ジークの横にある別な異界空間への入り口に入ると椅子が2つ並んでいる。
小竜姫さまとジークが入ってきて

「それじゃ、横島どのここに座ってください」

そう言って椅子に手をかけている。
俺はその椅子に座ると残った椅子に、ジークが腰掛け、

「椅子にかけたら気分をラクにして下さい」

「横島さんがんばって」

そりゃあ、死にたくないから、このあとがんばるけどね。
さて、老師の精神エネルギーを魂へ大量にうけている状態に入ったわけだが、横にいるジークに聞いてみる。

「ジークフリード少尉。俺の事情は知っているんだよな?」

「ええ、横島ど……くん。初めてお会いするのですが、君の世界ではそれなりに親しかったみたいなんですが」

このジークと、俺の知っていたジークで魔族としてはあまい性格はかわらないんだな。

「俺のいた世界でいたときのことは、気にしてもらわなくていいよ。ジークフリード少尉」

「君は軍人では無いから少尉はつけなくてもいいですよ。ジークフリードか、親しい者にはジークともよばれています」

「じゃあ、なれているのでジークと呼ばせてもらうよ。それと俺のことも横島くんがむずかしかったら横島どのでもかまわないし」

「いえ、この中での2ヶ月間は実質話せる相手が横島……くんしかいないので、慣れるようにします」

まあ、律儀というか。
そのまま老師の部屋へ挨拶だけはしたが、やっぱりゲーム猿モードに入っているので、俺は俺がこの中でできる修業を開始する。
魂に過負荷がかかっている状態では通常の能力はだしづらくなっていく。
それに対抗するために、可能な限り霊力を絞り出す訓練だ。
こうしておけば魂への過負荷から開放された時に、魂からのエネルギーの出力があがるので潜在能力を出しやすくなる。

とはいっても、死ぬ確率が下がるだけだけどな。
あとは老師の力加減しだいだから、今の俺だと結構危ない橋をわたることになる。
しかし、単純な霊的成長をまっていて、アシュタロスの事件と同じ頃に事件がおこるとしたならば、今頃には文珠がだせるようになっていないとな。
元はその計算だったが老師の話をきいていると、時期がもう少し遅くなる可能性は高そうな気がする。
どうだろうか?

縁側で俺の訓練をボーっと見ているジークに、

「アシュタロスって本当にデタント派なのかな? 彼についていたはずのメドーサが今はデタント派だと、メドーサ自身のことは言っているんだが」

「横島……くんから情報からくるまでは誰もうたがっていませんでしたが、今は調べている最中です」

「うーん。そんなに簡単に情報をもらえるのかい?」

ちょっと、ジークが考えてから

「ええ。今は僕の上司が最高指導者なので、そこから協力できる範囲での情報提供は、かまわないと言われています」

「最高指導者が直属の上司?」

「ええ。ルシファー様までが疑われる範囲となると、一から信頼のおける者を、おくしか無いようで僕に白羽の矢がたったようです」

「じゃあ、アシュタロスがおこした霊障に相当することがおこることに関しては、あまり期待できないと考えるべきなのかな?」

「いえ、今は詳しく話せませんが、現在は方策をたてています。しかし、魔族で動ける者が少ないので、やはり人間側がメインになってしまうでしょう」

「人間側でもそれに事前に対抗しておくのには、俺の手の届く範囲はせますぎるんだ。誰か人間で、今の段階から仲間にできそうなのを知らないかな?」

「……そちら方面の情報は集め損なっていました。この修業が終わり次第、最高指導者に要望をだしてみます」

修業が終わり次第って、生きて修業を終えるって信じていてくれるのね。
老師ってそこまできちんと手加減できるのかな。かなり心配なんだが。

人間での味方として院雅さんは既に良いとして、雪之丞は現状を聞く必要はあるが、あの性格なら……多分大丈夫だろう。
ひのめちゃんも自身の命の問題だろうから、協力はしてくれると思うんだよな。けれど何か別な悪い予感がするんだが。
あとは、おキヌちゃんは今のうちなら幽霊時代の好意を持続できているから、問題ないけれど……なんか詐欺師のような気がするな。
その他というと唐巣神父だけど、また髪の毛がって……唐巣神父の髪の毛を心配するだけ無駄なのはこちらの世界で未確定だけど、多分心配する必要はないだろう。
せいぜい今の時期で信用できるってこれくらいか。
あとは、令子は金さえつめば大丈夫だろうけど、資金源は神族や魔族に頼むか?
正直、他はエミさんとかは付き合いが少ないからよくわからんな。


この老師が精神エネルギーをかけて魂に過負荷をかけている間に、食事はジークがつくるようになった。
なんせ俺より格段にうまい飯をつくるもんな。
どうせ、ここの正体はわかっているんだから、こういうところのリアルさを老師もなくしても良いだろうに。
全く老師って、こういうところばかりは手をぬかないんだからな。

しばらく訓練をして合間に老師とゲームもするが、基本的には暇だ。
サイキックソーサーさえも、つくりづらくなってきていた翌日、

「横島くん。今日で丁度60日だけど」

ジークも、もう俺の呼び方になれてきたな。

「うーん。今日はひさびさ、一日老師相手にゲームでもするよ。どっかの時間で人間の魂の限界がくるだろうから」

「ひさびさ? ああ。以前の世界でのこの修業のことを言っているんですね」

「あっ、そっか。そういえば今回はたまに相手はしていたけれど、一日中ゲームってこっちではなかったな」

のんびり老師とゲームをするが、あいかわらず勝てねえ。昔やりこんだけど、いまだに一勝もしたことが無いんだよな。
昼食後をのんびりしていると、それはきた。
魂が過負荷にたえきれなくなって、体調の感覚がくるう感じだ。
老師が、

「やはり、人間にはこのあたりが限界じゃのう」

そう言いつつ如意棒を出して空間をきりさくと、小竜姫さまが出入り口でこちらの方を向いている。

「じゃあ、魂の出力が下がらないうちに、修行場へ行きましょう」

俺は命がかかっているんだ。少しでも生き残れるようにするぞ。

「そんなにあせらずとも良い。小僧!」

「そうなんですか?」

「はじまってみればわかる」

うーん。以前の2回とも無我夢中だったからな。
時間の感覚がくるっていたのだろうか。

「わかりました。老師」

「本当の意味での己の潜在能力をひきだせ! できぬ時は死ぬのじゃ!!」

「本当の意味での?」

そのまま老師は異界空間からでていったが、俺の現在の潜在能力って何だ?


*****
っというわけで、ラスボスっぽい名前がでてきました。
GS二次設定では魔族の最高指導者=サッちゃん=サタンという図式が多いので、ルシファーとサタンはここでは別としてあつかっています。

2012.01.29:初出



[26632] リポート47 妙神山最難関コース編(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/06/12 19:46
俺の現在の潜在能力って何だ? 煩悩じゃないのか?
そう自問しつつも、武闘場まで行き老師と向かいあう。
老師がいつもの人民服を着た姿から、猿神(ハヌマン)として巨大化をする。
しかし、俺が今できるのは

「でてくれ文珠!」

……あっさりと文珠はでてきた。しかし、老師は、

「それぐらいなら、こちらで初めて会ったときに、この修業をすればだせたであろう。 小僧の潜在能力は、まだそこで止まってはいないぞ」

そうして、空中に高く飛び上がった時間を見て、俺は文珠に『逸』らすの文字をいれる。
しかし、老師の如意棒はそんなのおかまいなしにとばかりに襲ってきて、文珠でわずかに中心をずれた如意棒を、同時にだしたサイキックソーサーでさらに逸らす。
って、そんなことをしても足元の武闘場ごと破壊して跳ね飛ばされるが、

「横島、それくらいでくたばるなよ!」

雪之丞よ、離れた場所で見ているからって気楽に言うな。
俺って文珠で対抗しても、このざまなんだぞ。
文珠をだせれば終わりと思っていた俺に、今以上っていうと……思いつかねぇ。

その間に老師の攻撃は続くが、一々空中に飛んでくれるので、体制を整える時間はとれる。
文珠以外の潜在能力って……文珠の後でのここでの修業は、サイキックソーサーの進化系だったがそれはすでに済んでいる。
足りないのはサイキックソーサーの強化の面だ。
右手にサイキック棍、左手に自分の属性を強化した土行の方向へ色をずらしたサイキックソーサーを出して老師の如意棒を受け流そうとするが、力と技量の差で跳ね飛ばされる。

跳ね飛ばされた先は、いつの間にやらできていたのか修行場の見学用のガラス窓。
そこにいた人影をみて……まさか、令子がいるのか?
薄れいく意識の中で亜麻色の髪を見た俺は一瞬そう思ったが、今の令子が俺のために泣いたりしないよな。

「ひのめちゃん? 大丈夫、俺は……後に残すような死に様なんてみせない」

そう口にだしたつもりだったが、だしてあったサイキックソーサーに違和感を覚えつつも意識が途切れた。



時間は若干さかのぼりつつ、横島と老師の最難関コースの修業を見たひのめは、

「小竜姫さま。あれって本当に横島さんが言っていた、老師なんですか? 聞いていたのと全く違って大猿なんですけど」

「あれが師匠の本来の力をだせる、猿神(ハヌマン)の姿です。日本では山の神としてあがめられています」

「猿神(ハヌマン)って、そんな強力な神と人間が闘って無事にすまないわ――!!」

「いくらひのめさんが横島さんより強い霊力をもっていても、この修業は横島さんが望んではいったのです」

「でも、でも……横島さーん」

以前の令子と違い、若いひのめは涙を流し始めだす。
ちょうど、そのときに横島がガラスにぶつかってきて、こちらを見て何かを言ったようだが聞き取れない。

老師が大猿からいつもの人民服姿にもどって、ぽつりと言葉をだしていたのだが、あいにくと誰にも聞こえていなかった。
ガラスが開くようになったので、さっそく横島のそばによるひのめであったが、小竜姫がそこで、

「どこも変わったようには見えませんね」

「死んだのか?」

雪之丞が、驚いたように言っている。
ひのめは混乱して、

「横島さん、死なないで――!!」



そのころ美神美智恵は娘のひのめを送り出したが、色々な未来をみた中でごくわずかな範囲の時間内で、ひのめが妙神山へつかないと横島が死亡するのを覚えている。
横島がいないと、ひのめは少なくとも近い将来にて死亡する。
自分で直接つれていければと思いながらも、未来の不確定さに歯噛みをする美智恵だった。



小竜姫は、

「ああ。死んでいませんよ。霊力も何もかわっていないように見えるのですが、圧縮・凝縮系の霊能力者は、変化したかどうかわかりづらいですからね」

「横島さん、横島さん、生きていたのね」

ぎゅーとひのめにだきつかれている横島だったが、この時点で意識はもどらず。
横島にとって、これは幸なのか不幸なのか。



横島は目がさめると妙神山の一室のようだ。そうすると、

「横島さん、気がついたのですね」

ひのめちゃんが目を真っ赤にしているのは泣いていたのかな?
こんなときは、

「悪い。みっともないところをみせて」

「みっともないなんて……死ぬかと思いました!」

「この横島、そんな簡単には死なないさ。ほれ、令子さんに痛めつけられても平気だろう」

「お姉ちゃんと猿神(ハヌマン)とでは違います!」

「やっぱりひのめちゃんは、それくらい元気にしていてくれると嬉しいな」

「えっ?」

「いや。女の子を泣かすのは俺の人生になかったからねぇ」

つら、っと前の世界において幾人かの女性を泣かせて、令子と結婚したことはおくびにもださずに、この過去にもどってきた記憶だけで話す。

「それじゃあ、女の子を初めて泣かせたのが私なんですね? こんな女の子が泣くようなまねをしないで下さい!」

うーん。ひのめちゃんのを泣かせないって、これからのことを考えるとどうだろうか。

「それだとひのめちゃんに、嬉し涙を流させることもできないじゃない?」

「えー! そんなぁーことぉ……」

もしかして、私と付き合うことを考えてくれているのかしら。
ひのめの恋する女の子としての考えとしては、はずれていない。
しかしちょっと身もだえ気味の様子を見れば、横島も考えればわかりそうなものだが、この横島の考えには”つきあう”だなんてことは、まるっきり頭になかったりする。
ユリ子のことは勘違いだとわかったが、ひのめの横島との勘違いの道はまだ続くかもしれない。


そんなことはおかまいなしとばかりに横島は、

「そういえば、俺ってどれくらいの時間、気を失っていたのかな?」

ひのめは今まで考えていたことにハッとして腕時計をみながら、

「……ここに寝かされてから20分ぐらいですから、まだ40分はたっていないと思います」

過去のこの修業経験の中で一番長く気をうしなっていたみたいだな。

「ありがとう。ところでここのコースをうけて、俺がどんな能力に目覚めたか知りたいのだけど、知っているかい?」

「いいえ。それは小竜姫さまがお話されるそうです。小竜姫さまを呼んできますので、そのまま横になっていてくださいね」

「ああ」

多分、起きても問題ないだろうが、ひのめちゃんに心配をかけすぎたみたいだから、横になっているか。
しばらくすると、小竜姫さまとひのめちゃんに、ちゃっかり雪之丞までついてきている。
俺は上半身だけ起き上がると、

「横島さん、気がつかれているようですね」

「ええ。今すぐにでもその小竜姫さまの胸元にうずくまりたいです」

俺の言葉だけで小竜姫さまが俺の首元に神剣を振るが空をきる。
俺は首をひょいとかしげただけだったが、

「それだけ元気があるのだったら、早速修業でも開始しますか?」

「いえ、いきなり神剣をふるわないでください」

「今のは、横島さんが悪いと思います」

「俺も同感だな」

うー。どうせ俺一人が悪役さ。
修業はここのつきものだけど、

「修業の前に、俺の最難関コースでの成果ってどうなっているんですか? 生きているってことは、成果がでていたんですよね?」

「俺も知りたいところだ」

「私もです。まるっきり変わったように見えないんです」

雪之丞とひのめちゃんがわからない?
目に見える変化じゃないのか?

「そうですね。人間にとってはわかりづらい変化ですが、横島さんにはわかりますか?」

そう言って小竜姫さまは俺の目の前に手のひらを差し出した。
そこにあるのは……

「これは、たしかに慣れないとわからないかもしれませんね」

「横島さんには、これの違いがわかるみたいですね。人間というのは、やはり可能性をひめていますね」

「それって、俺への愛の告白ですか?」

また神剣が振るわれたが今度は水平ではなくて、縦にだ。

「ちょ、ちょっとまって下さい。最近は足で踏みつけるのが、お約束だったんじゃないんですか?」

「そんな約束はしていません! それに今は文珠があるから、ちょっとぐらい神剣で斬られても復活できるでしょうし」

「文珠の無駄遣い反対です」

「そう思うのだったら最初からそんなことはやめてください!」

そこで雪之丞が、

「文珠ってなんだ?」

うまく話せば雪之丞との戦いはさけられるか。

「小竜姫さま。俺が理解していることを話すので、違っている部分があったら指摘してもらえますか?」

「そうですね。横島さんがどれくらい文珠のことを理解しているのか知る、良い機会ですし」

俺は小竜姫さまから今までと同じ文珠と、今回の修業からできた新しい物を受け取り、

「文珠というのはこのビー球サイズの珠だけど、できることはこの珠に行わせたいイメージを念じて一文字入れる。その入れた文字の効果にしたがって、その文字の通り能力が発揮される、っという特性を持っている。この文珠自身について発揮できる能力は、これぐらいでよいですか? 小竜姫さま」

「そうですね。具体性がかけているので、その一文字を入れるというのを実際に行って、説明したら良いでしょう」

あまり具体的には話したくなかったんだけどな。

「例えば爆発を起こしたいと思ったらこのように『爆』の文字を入れる」

実際に『爆』の文字を文珠に入れて見せる。

「これを相手になげつけてあたった瞬間に爆発する。それに援護をしたいと思って『護』の文字が入ると結界ができたりする」

今度は文珠の中に入っている文字を『爆』から『護』の文字に入れ替える。

「だいたいそういう感じの使い方だけどルーン文字もきちんと理解すれば、一文字として入れることができると思う。それに文珠はある一定能力のある霊能力者なら、文字を入れることができるらしいよ」

「それって私にもですか?」

「うん、できると思うよ。しかしこのときに援護のつもりで『援』が入っても、その文字を入れる時のイメージが弱いと、文珠が勝手に文字の効果をだして応援するだけの立体映像がでたりするので使いなれないと、とんでも無いことになる場合があるかな」

俺の一番最初の時は、立体映像でなくてシャドウがでてきたけどな。

「文珠の具体的な能力はこんなものですけど、いかがですか」

「良いでしょう。しかし、ルーン文字が入るとは、よく気がつきましたね」

以前の世界での、未来で試してできたけれど、北欧神話ででてくるロキを意味する文字をいれたときは散々な目にあったよな。

「ええ。まあ、何か他の文字でも無いかなと思って探してみたら、思いついたってところです」

「あとは能力と言ったからには、その他にも話せる内容があるのですよね?」

「ええ。この文珠の霊力は俺が一気に出せる数倍程度の霊力を一気にも、徐々にでも放出することもできる」

「一気に放出すると強くて徐々に放出すると霊力が低いのか?」

「いや。そうともいえないんだ。結局俺の霊力が元になっているから、俺の霊能力の得意な分野では長時間高出力の霊力が保持できるし、不得意な分野だと一気に放出しても効果が弱かったりする。実際につかってみるとそういうふうに感じたのですが、それで良いですよね?」

「よく文珠を8個使っただけで、そこまでわかりましたね」

まずいな。もう少し話をつづけるか。

「自分自身の文珠だけではなくて菅原道真公の文珠は雷が得意であるとか、他の文珠使いの記録も文珠に得意の分野があるという記述があったんですよ。ただ残念なことにその書籍って、一度壊れてしまった唐巣神父の教会の書籍で、今は見つからないんですよね」

「それは残念ですね。文珠については神界でも記録が少なくて、よくわかっていないことが多いのですが」

こっちの小竜姫さまも、文珠使いの複数使用については知らないとみてよさそうだな。

「ここまではメリットだけど、この能力のデメリットは文珠を作れるのが、今の感じだと1週間に1個つくれるかどうかって感じっぽいんだよな」

「おい、なんだよ。その1週間に1個というのは」

「俺の霊力を固めて作るから、それを保持するのに霊力をためる殻を構成する必要があるんだろうな。そして文珠の霊力で実際に使われるのは、その殻の中の霊力のみのような気がするんだよな。これが文珠の生成時間がかかるんじゃないかな」

「菅原道真公が、そのようなことを言っていたらしいですね」

これは前の時の菅原道真公に教えてもらったからな。

「っということで、練習で使うにはもったいないのから、雪之丞とはしばらく戦わないぞ!」

「しばらくということは、今の俺の魔装術と戦えるようになれる自信があるのか?」

「雪之丞の魔装術には致命的な欠陥がありそうだからな」

「なんだとー! 小竜姫、それって本当か?」

「その話はあとにしましょう。黙っていられないのならこの部屋からでていてください。雪之丞さん」

「……わかった。あとで教えてくれ」

当面はバトルジャンキーの相手にしなくていいだろう。

「話をもとにもどすよ。こっちの同じような珠だけど、これも文珠だ」

「ええ、同じようにしか見えないんですけど」

「……」

雪之丞はだまっているようだな。

「殻があるからわかりづらいけど霊視をしっかりすると、この右手にもっている文珠と先ほど文字を入れた文珠の間に、なにか差があるのがわからないかな?」

「えーと、その手にもっているのは、横島さんが先ほど言っていた文珠よりも、黄色っぽいであっていますか?」

「そのとおり。俺の本来の霊波よりも黄色が強いので、土行にかたよった霊波でできた文珠ですね? 小竜姫さま」

「そうです。現存している限り文珠は神となった菅原道真公と横島さんの作る2種類でしたが、この文珠で3種類目ですね」

けれど、この霊波をずらした文珠がこんなに早く作れるようになるとはな。
老師は本当にぎりぎりのラインをみきっていたんだろうな。

「それでこの2種類の文珠の色の差ってどういう意味があるんですか?」

「ひのめちゃん。俺のサイキック黄竜陣を知っているよね?」

「ええ。実際にみたことがありましたよ」

「つまり普通の文珠より、黄竜が示す土行が強い方向の文珠になるんだよ。例えば地脈に関する操作が、普通の文珠よりも強力になるって感じだね。菅原道真公は雷の文珠が得意らしいから、木行である青っぽい霊波になっているんじゃないかな」

「へー、もしかしてサイキック五行黄竜陣とかってこのために練習していたんですか?」

霊能力者だけあって勘がいいな。

「いや、あれは前世の陰陽五行術とサイキックソーサーをあわせただけだけど、それが今回役にたったみたいだよ」

「そうだったんですか」

「それで一番のデメリットなんだけど、この文珠っていうのは極力秘密にしなきゃいけないってところなんだ」

「ええー! そんな便利な能力があったら宣伝になるじゃないですか」

「いや、文珠を色々と調べてみると、使い方によってはどんな魔族も倒すことができる、っていう話がのっているんだよ」

「えっと……それって良いことじゃないんですか?」

「魔族じゃなくて神族という話になったらどうなると思う?」

「……まさか魔族が横島さんを狙うとかがあるんですか?」

「その可能性は大有りだと思う。だけど使った感じでは、小竜姫さまクラスの相手では俺は勝てないよ。せいぜい神剣を手から『落』とす、とかならできそうだけどそれぐらいかな。けれども地上にでてくる魔族で、小竜姫さまクラスの霊力の持ち主がいたら、それだけで小竜姫さまもピンチになるからね」

とはいっても超加速があるからピンチっていうほどのことはないだろうけれど、まだこの小竜姫さまの超加速ってみていないんだよな。
そんな俺の話にも気にせず、

「そうかも知れませんね。文珠のことは広めないことがよいでしょう」

「雪之丞、それでいいか?」

「だまっていてやるから俺と戦え!」

「今でなくてよいだろう。俺の能力が今回の修業ででてきたのは、1週間で1個つくれるかどうかのようなものだからな!」

「勝ち逃げはしないよな?」

「そんなに心配なら……所長次第だけど俺のいる事務所に所属しないか? まだGS試験受けていないだろう?」

「ああ。あちらこちらに行って修業していたからな」

「GS試験は受かるだろう。けれども研修先の問題があるからどこかでGS見習い期間は必要だろうし、ちょっと所長にかけあってみるさ」

「同じ事務所だから逃げられないってか。香港なら当てはあるが、日本じゃなぁ……いいだろう、その話にのった」

あとは雪之丞のコントロールをどうするかだよな。
それこそ院雅さんにきめてもらおうか。

ひのめは、まさか私は横島さんとではなくて、雪之丞さんと組むことにならないわよね、とちょっと心配だったりする。



*****
ここの横島、今のところ実戦より修行の方が危ない橋をわたっています。
『28巻 ストレンジャー・ザン・パラダイス【その2】』で数字の『0』が入っているので、文珠に漢字以外の文字でも効果があると解釈しています。

2012.02.03:初出



[26632] リポート48 スタンド・バイ・ミー
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2012/05/02 22:12
こうして文珠と、新しい文珠の能力を獲得した大晦日だったが、妙神山で食べる年越しそばってのもいいもんだな。
その翌日の元日にはヒャクメがきて、老師の部屋にジークと一緒に集まり思ってもいない話をされる。

「地上に拠点としての神界・魔界の出張所をつくるのよ。けれども横島さんの居るところが近いか同じ場所が良いと上層部が判断したの。だかた院雅除霊事務所分室の近くの空き室を借りることにします」

「神族の方でも了承されたのですね。魔族側からは僕がそこに行きますので、よろしくお願いします。横島くん」

「神族側からは私なのねー。こちらこそよろしくお願いします。横島さん、ジークフリードさん」

俺はどんな反応したらよいのかよくわからなかったので、

「なんでそんな結果になるんじゃー!」

「トップクラスのGSともなると、事務所単独で行動が多くなります。そして現在レベルが少し離されていると、GS協会では思われているのが院雅除霊事務所です。だから魔族が地上で人間への悪意ある行動をおこしたところで、院雅除霊事務所に私たちから依頼が行きます。それを受けたら他のGSとの協同除霊を申し込むのです。そうすれば世界的な霊障がおきた時に横島くんと共に活動できるトップクラスのGSたちが集まるだろうと、見込んでいます」

「……俺の昔ならともかく、事前に神託としてもっと適切なGSを中心にするっていうのは無いのかな? たとえばオカルトGメンの美神美智恵さんとか」

「それは私の方から話すのねー。美神美智恵さんは横島さんの元いた世界でもそうですが、この世界でも危険すぎます」

「以前の美智恵さんが危険というのはある程度わかるけれど、こっちで危険というのは?」

「彼女は時間移動能力者です。現在は未来で使用禁止をされたために、時間移動を使用はしていません。未来でみたことから自分の娘が、生き延びる為の方策を極秘に練っています」

「それでいいんじゃないの?」

「いいえ。世界規模の霊障の対策をとっていることを周りに話したという記憶は、彼女にありません。これは他からコントロールされるのを嫌っているためでしょうね。最悪の場合には、時間移動能力を使って過去で改変を行うかもしれません」

「時間移動能力を封じたら?」

「最悪の場合ですが、残念ながら冥界チャネルを閉じられたら、ごく一部の神族・魔族しか残せないでしょう。そして、7000マイトクラスの魔族と相手ができる魔力・神通力は、我々には残されていないので、人間の補助にまわるしか無いのです。それができるのは横島さんの文珠による同期/合体以外では、美神美智恵さんのみなのねー」

文珠の『同』『期』/『合』『体』や『模』は有効だけど『模』だけなら神・菅原道真公の文珠としてわたせば他の人間でも使える。
あれ? そういえば今の美智恵さんはなぜ隠れていないんだろうか?

「ひとつ疑問なんだけど、なんで美智恵さんは隠れていないの?」

「それは、世界規模の霊障後の未確定な複数の未来をみてきたためです。その中で一番彼女にとって都合の良い未来へと、自分自身の娘を保護させるということができれば、彼女にとってよいのでしょうねー。しかし、それを決行する前に彼女の時間移動を神族が禁じたようです」

「うーん……複数の未来を見てきたということは、どの未来でも人類は生きていたということ?」

「ええ。そして横島さんの生きている未来が、一番死亡者の少ない未来となるのです。だから我々も横島さんのそばで、微力ながら生き延びてもらえるようにがんばるんです」

何か抜け穴があるっぽいな。

「何か隠していることは無いか? ヒャクメ!!」

あからさまに、右耳の心眼が目をそらしやがった。

「俺のいる事務所に魔族退治の依頼が神族・魔族の出張所からくるってことは、その中心にいる魔族に、俺たちが狙われるってことじゃないか──!!」

「ばれちゃったのね」

「僕の方から話しますね。いわゆるおとり捜査もかねています。これは魔族側からの提案ですので、恨むのなら僕でかまいません。横島くん」

「うーん……それで、相手はルシファーらしいってきいていたけれど、それは確定じゃないのか?」

「ええ。残念ながら美神美智恵さんの記憶では、各未来でルシファーの、しかも違う部下が動いたところしか伝わってこないのですよ。だから裏にいるのはルシファーだと思われるのですが、どの魔族が活動するのか確定していなくて……」

「……はぁ」

ため息しか付けられない。

「俺が隠れているのって駄目?」

「シミュレーションの結果では、人類が最悪1割程度までに減って良いならそれでも」

「もーいやー」

「そうやってみせておきながら覚悟は、きめておるのじゃろう。小僧」

「老師。そういえば魂がつながっていたから、多少は俺の考えとかはわかるんですね」

「深層意識では小僧はそれを選ばぬというだろうとな。逆にあの状態では、表層意識はわからぬ」

若干焼け気味だが、しぶしぶと神族・魔族の作戦にのることにする。
まだ隠されていることはあるのだが、それを横島に伝えてはいない。

あとは普段通りに昼間は修業をして、夜は夕食という名の酒宴にかわっている。
一人アルコールを飲まない雪之丞は「水が美味い」って言っているけれどな。



ここに滞在最後の日である1月3日には、

「やっぱり、俺と戦って現在の実力を見せろ!!」

って雪之丞は言う。
たしかに雪之丞は小竜姫さまやジークとは訓練しているけれど、少なくともジークはある程度の手加減してくれているからな。
小竜姫さまがどれくらい手加減しているかは微妙なところだけど。
俺も根負けをして、

「一度だけだが勝負にさえならんぞ?」

「そんなに自信があるのになぜ戦わん!!」

「それは、これから訓練してみればわかるさ」

俺は結果がみえているから、乗り気じゃないんだよな。
雪之丞は小竜姫さまから説明を受けているはずなのに、戦いになると思っているのか?
まあ、いいだろう。

「じゃあ、武闘場に移動しようか」

「この時を待ってたぜ」

「横島さん、文珠は使わないんですか?」

「いや、不要だよ。本当に勝負にならないんだから」

「そこまでなめているのか? 横島!」

「なめていない、逆だ。だからこそ勝負にならないんだけどなー」

「逆? お前は自分が負けると思っているのか?」

「負けるとも言ってないさ。それは実際に訓練に入ってみればわかる」

「その自信、確かめさせてもらうぜ」

心の中でやれやれと思いながら、

「始めるか」

「おお」

言った瞬間に、雪之丞の魔装術を発動する。
このわずかなタイムラグに、俺はサイキックソーサーを作って雪之丞に投げつける。
結果はサイキックーソーサーが、雪之丞の魔装術が完成した後にぶつかって爆発する。
しかし、現在の魔装術に穴をあけるまで、破ることは出来ないが、その爆発で視覚と霊的感覚が狂うはず。
最初から作ったのはサイキックソーサーだけではなく、サイキック炎の狐も一緒でそれにまたがって空中に逃げあがる。
下で俺の姿を見失っている雪之丞に、

「俺なら上にいる」

「ちっ! そういえば、飛べたんだったな。確かに小竜姫の言う通り俺の魔装術は飛べないからな」

「それでこっちの攻撃もサイキックソーサーが効かないわけじゃないが、怪我を負わせることもできない。つまりにらめっこでおしまいだ」

「それで勝負にさえならないか。将来は戦えるのか?」

「多分だけどな」

「それを楽しみにしているぜ!」

「それじゃ、これで訓練は本当におしまいにしていいな? 降りたとたんにこられたら、俺のほうが一方的にやられるからな」

「そんなつまらないことはしないから降りて来い。それよりもきちんと、俺とガチで戦えるのを待つぜ」

俺は雪之丞だし、そうなんだろうなと思いつつ降下していき、

「俺の霊的成長期で伸びている最中だから、気長にまってくれや。そうじゃなきゃ、今日と同じ結果になるだけだからな」

「こんなつまらない戦いで、つきあわせることは無いから安心しろ」

これで雪之丞との訓練に付き合わされるのは当面先だろう。

「そういえばいつまでこの修行場にいるつもりだ?」

「ほんの2,3日のつもりだったが、あのジークとかいう魔族は、アマちゃんだが強い。しばらくここで修業するのもいいかと、思っているところだ」

そういえば、神族・魔族の出張所はいつできるんだったか、確認していなかったな。

「そうか。ここから下山するときになったら、院雅除霊事務所に連絡をいれてみてくれ。そうしたら雪之丞に事務所にきてもらうか、そうでないかきまっているはずだから」

「ここって電話が無いんだよな」

「そういうことだ」

俺とひのめちゃんは、妙神山を下山して今日はわかれる。
院雅さんには、

「雪之丞を分室に入れたいんだけど」

「分室が赤字にならないんだったらいいわよ」

雪之丞は格闘戦主体になっていくはずだが、霊波砲も使うからムキになると回りを破壊する癖があるからな。

「ええ。彼には周りに被害があっても良い、郊外の仕事を中心にしてもらおうと思っていますから」



翌日は、おキヌちゃんの入院している病院まで向かい、

「あけましておめでとうございます。院雅さん、横島さん、ひのめさん」

「あけましておめでとう。おキヌちゃん、私のことは今まで通りにひのめちゃんでかまわないのよ!」

「いえ。高校は六道女学院霊能科に行きたいと思っているので、先輩をちゃん付けで呼ぶのはよくないことだって、早苗お義姉ちゃんに教わったので」

「とりあえず、元気そうでよかったよ」

「はい、横島さん。今度の検査結果が良好なら、次の木曜日ぐらいには退院できそうです」

「分室の除霊助手の件はどうするのかしら?」

「私でよければお願いします。けれどできたら悪霊でも、やさしく成仏させてあげたいんです」

「やさしく成仏ね……それはおいといてユリ子は除霊方法の幅を持たせる必要があるから、除霊助手の方は事務所と分室と両方に参加する形をとるわよ。そういうスタイルになるから覚えておいてね」

「はい」

あとは病院の娯楽室の方で軽く日常の会話をしてから、別れをつげて東京に戻ることにした。
俺の経験した過去とは違うが、こうして準備を整えていくことになった。

会った感じでは、おキヌちゃんがネクロマンサーの笛は使えそうだ。
ユリ子ちゃん用の霊刀は、買うにしては値段が高いからな。
それは院雅さんに悩んでもらうとしてネクロマンサーの笛は俺が、がんばらないといけないんだろうな。

帰りの電車の中、ここのところの過密訓練と移動で疲れたのか、寝ているひのめちゃんを見ていると10歳のひのめちゃんと重ねることが無くなっていることに思いをはせる。
どちらかというと、令子や若いころの美智恵さんに似てきているかな。
肩にかかるひのめちゃんの頭の重みが気持ちよいので、そのままにしている。
モノノケに好かれやすい若いころの俺に、幽霊時代の好意の記憶をもっているおキヌちゃん。

身近で気にかかる女性の年齢が低くなってきているなぁ。
やはり肉体にひっぱられているのかなぁ。
俺の煩悩おさえらきれるだろうか。


そのように悩んでいる横島とは別に

『ひのめのあれは狸寝入りね。横島さんの若い頃の煩悩っていつまでもつかしら』

別な意味で楽しみにしている院雅がいた。



おキヌちゃんの見舞いに行った翌日には、お部屋の引越しさ。
なんで俺が、分室の一室にと思わなくもないがそんなに物も持っていないからな。
分室にあったひのめちゃんのタンスは俺のいた部屋に持っていくのだが、そこは俺が勝手にタンスを開けて持っていくわけにはいかないし。

あー、昔が懐かしい。
令子のタンスには下着の間に、拳銃とか精霊石とか手榴弾とかあったのにな。

おキヌちゃんは早ければ今度の週末にひっこしてきそうだし、雪之丞からはまだ連絡が入っていないから、神魔族の出張所ができるのはもう少し後なのだろう。
そして冬休みも残り一日となったところで、院雅さんから呼び出されて事務所に向かう。

「院雅さん、どうしたんですか?」

「文珠の生成速度について、知りたくてきてもらったのよ」

「確かに電話では話せないですね。うーん、この感じだとやっぱりあと3,4日はかかりますかね」

「前の時よりは、文珠の生成間隔は早くなっているんでしょ?」

「どうも俺の記憶の入れ替えが、おこなわれていたからどうなんでしょうね」

「記憶の入れ替え?」

「ええ。俺のいた世界は特殊だったらしくて、高校2年生を7,8回ぐらいは、繰り返していたらしいって神族は言うんですよね」

「どういうこと?」

「一種のサ○エさんワールドにいたように、高校2年生を繰り返していたようです。だから各種事件や俺の霊的成長は、当初思っていたより遅いのかもしれないですね」

「また、そんなにのんびりとかまえていていいのかい?」

「いえ、そういうわけでは無いんですけど。なんとなく気が抜けたっていう感じですかね」

「それならそれでいいわ。ところでこれはわかる?」

比較的細長い木の箱が厳重に封印されている。
ちょっと過剰かなと思うが、

「刀剣類に取り付いている悪霊か何かを封印しているんですか?」

「見た目だけでわかるのね」

「この木の箱が特徴的ですから日本刀ってところですか」

「その通りよ」

うむ。何か院雅さんの微笑みが不気味に感じられる。

「これはね、妖刀シメサバ丸よ」

「はい? 昔おキヌちゃんが愛用していた包丁ですね」

「そうじゃなくて、その前があるでしょう」

「ちょっとしたお茶目じゃないですか。こんな強力な妖刀を、院雅さんが除霊できるんですか?」

「私じゃないわよ。横島さんよ」

「えーと、俺の霊波刀やサイキック五行陣系ではこいつを除霊するのには、もう少し霊力があがってからじゃないと厳しいんですけど」

「何いってるのよ。文珠があるじゃない」

「文珠を使うのは、なるべく少なくしたいんですけど」

「ユリ子に霊刀が会うかもしれないって、言ってたのはだれだったかしら?」

「俺っすね」

「この妖刀が除霊されたら、日本刀として名刀になるわよね?」

妖刀でもあるけれど、記憶の中じゃ令子は強化セラミックのボディー・アーマーを着ていたから、斬られずにすんだほどの名刀だったよな。

「ええ、そうですけど妖刀シメサバ丸と、霊刀とどんな関係があるんですか?」

「にぶいわね。文珠で『浄』化すればそれだけでほぼ霊刀並になるんじゃない。それでたりなければ、ひのめの聖水の能力を使えば立派な霊刀になるわよ」

文珠を使うわなくても済めばいいんだけどな。

「もう少し時間がたってから、俺のサイキック五行黒竜陣で浄化するってのは?」

「それならひのめの水竜で充分よ。それにそれでは霊刀といえる程までにはならないわよね?」

たしかにひのめちゃんの聖水の能力より、効果が弱いサイキック五行黒竜陣では、浄化能力がたりないな。

「けど、急ぐ必要ってあるんですか?」

「キヌにネクロマンサーの笛を買って、事務所から貸すという形にしようかと思うのだけど、そうするとユリ子に何もしないわけにはいかないでしょ? それに折角ためたお金で精霊石を買おうと思っているのをあきらめるのよ!」

そうだよな。院雅さんってトップクラスのGSがもっている精霊石って1つしかもっていないんだよな。
本当だったら、あと1個ぐらい持っていてもいいぐらいは稼いでいるはずなんだけど、俺に協力してくれているからな。

「わかりました。妖刀シメサバ丸の除霊をしましょう。ただし次の文珠がでそうなときにしてもらえませんか?」

「なぜ?」

「今持っている文珠のストックではなくて、今度は水行の霊波を凝縮した文珠にしてみようと思うんですよ。 それなら同じ『浄』化でも効果があがりますからね」

「それって今の時期でもうできるの?」

「すでに土行の霊波を凝縮した文珠が作れていますので、後はそれの応用ですから」

「それならそれで良いわ。あとはこの妖刀シメサバ丸を、分室で預かっておいてくれない?」

「えーと、なぜですか?」

「それはユリ子をびっくりさせるのと、浄化できるメンバーが2人もいるのは、分室のほうでしょう」

「へい。わかりました。けれどおキヌちゃんにネクロマンサーの笛っていうと、おキヌちゃん用のキョンシーと2種類与えることになりますよね?」

「そっちはキョンシーのあてが外れたのよ」

「そうでしたか」

キョンシーを作るっていうのは秘術だからな。
院雅さんのつてでも無理だったか。


*****
幽霊時代のおキヌちゃんと横島の関係の話を増やしておけばよかったです。

2012.02.05:初出



[26632] リポート49 妖刀と横笛と
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2012/05/03 18:17
その日は週末に入りそうな除霊を聞くが、ものの見事に金曜日の晩の本番用の1件しかない。
分室も暇だからGS協会へ行って仕事が無いかを見にいくこととなったが、結局は無かったので事務所の方の除霊を手伝う方向で行くこととする。

そして金曜日の晩の除霊は、

「今日はひのめが後衛でユリ子が前衛ね。横島君と私はその除霊をみているだけだから、それぞれの自分達のやり方でおこなってもらうわよ」

「なんでですか?」

「ユリ子が実際に自分でできる除霊方法の範囲を広めるのがひとつね。もうひとつはキヌがきて除霊助手になるから、そのためのフォーメーションを試すのもあるわよ。あとはまだ時期は未定だけど、伊達雪之丞って子が除霊助手として入ってくるのよ。それで仮とはいえGS免許をもっているひのめにも、少し他の子を見るというのも覚えてもらいたいのよね」

「えーと、私が雪之丞さんを見ることもあるのですか?」

ひのめちゃんが心配そうに聞いているな。
この年末年始の修業をみていたら、無茶なことをしでしかねないところがありそうなのは、わかりやすいもんな。

「それは無いから安心して。彼を監督するのは、私か横島君が行うわよ。それをできない時はまわりが壊れても、損害賠償の発生しない仕事をしてもらうから」

「そんな危険な人が入ってくるんですか?」

「危険というよりは戦闘狂って感じかな。相手が強いと周りの被害が、考えられなくなるタイプなんだよ」

「彼が活動をしていたのは、昨年の春のGS試験で途中棄権による失格後は、香港を中心にして東南アジアだったのよ。強力な相手を除霊していくのけれど、あちこち壊してしまうので、ダテ・ザ・クラッシャーとかいう異名もあるらしいわ」

どっかのぷっつん娘よりはいいけれど、その損害賠償で俺の昔の低いアルバイト料での生活より低い食生活をしていたんだろうな。

「さすがに日本にはその話はひろがっていないけれど、彼も今後GSとして活動するならそういうところを、改めてもらう必要があるのでこういう風にするつもりよ」

「昨年のGS試験の時ならともかく、今は横島さんの方が雪之丞さんより弱いのに従うんですか?」

それって雪之丞を見て知っていればこその、ひのめちゃんの発想だよな。
ユリ子ちゃんが、

「ええ!! 横島さんより強いんですか?」

「霊力ならそうだな。あとGS試験のような方式でも負けるだろう。けれど事前準備をして、それを相手に気がつかせなければなんとかなるかな。たとえば死津喪比女の時なんかの時は、危なかったけれど準備をしてあったからこそ、予想外に多い花でも対処できただろう?」

「あれって、最後はおキヌちゃんが結界を広げてくれたから助かったんですよね?」

「ひのめちゃん。思い出は美しいままにしといて!!」

「そのあたりは、私の方でも考えておくから心配はしないでね。今日は夜までまたなくても良い相手だから、今から向かうわよ」

雪之丞のことはあいまいだけど、あいつも並大抵の相手に遅れをとることはないだろうからな。

その夜の除霊は、ひのめちゃんとユリ子ちゃんのコンビだ。
空調の切れているオフィスで、ひのめちゃんが空気中の水分を聖水化して弱い雑霊を払う。
ここで残ったボス格とはいっても、霊力レベルCの悪霊をユリ子ちゃんが神通棍と破魔札で成仏させるというものだ。

俺と院雅さんは、俺が作った簡易結界であるサイキック五行陣の中で、その除霊方法を観察している。
あらためて注意してみているとユリ子ちゃんの神通棍の扱いって、棍ではなく刀のように特定のラインを向けて斬っている。
ひのめちゃんひとりでも余裕でたおせるレベルだけど、ひのめちゃんが正規のGSとして独立できるようにしているんだろうな。


金曜日はその除霊で解散し、土曜日は暇だけど飛び込み客がいるかもしれないから、分室で待機はしている。
雪之丞が入るのと神魔族の出張所から入るであろう仕事のおかげで、今年の目標設定の見直しだ。くそー。


日曜日は普段ならユリ子ちゃんの修業のための場所に行っているのだけど、今日はおキヌちゃんがくるので事務所の方に早めの時間に行ってまっている。
一応大家が院雅さんなので鍵も合鍵もこっちにある。
合鍵ぐらい分室にあっても良いだろうに、院雅さんは俺のことを信用してないのかよー。
以前『覗』くの文珠を使おうとしたのは、おキヌちゃん相手じゃなくて、他の六道女学院の女の子のシャワーシーンを覗くためなんだから。ぐすん。
文珠の説明に色々な事例を、まぜておいたのがいけなかったな。

おキヌちゃんとそのお義母さんが、事務所に来たので挨拶をしあっている。
おキヌちゃんのお義母さんはいるが、これで当面のメンバー全員がそろった。
院雅さんから、

「もう皆さん知っているでしょうけど、今日から院雅除霊事務所に入ることになる氷室キヌさんです。事務所の除霊助手という形ですが、色々な除霊経験をつんでもらうのに、分室の方と2箇所で働くという形になります。氷室キヌさんから何か一言」

「この除霊事務所で働くことになります。見ていただけで実際の除霊をしてたわけじゃないので、一から勉強のつもりでがんばりますので、よろしくお願いします」

「歓迎だよ、おキヌちゃん」

「そうよ。水臭いわよ」

「一緒に働けるのって不思議な感じですね。双子に間違われるかしら」

好き好きに歓迎の言葉をのべているが、院雅さんから

「おキヌちゃんが、これを使えるかどうか試してみてもらいたいんだけど」

「これって横笛ですか?」

「そうよ。ちょっと特殊だけど吹けるかどうか試してもらいたいの。特に悪霊達にどうやって成仏してもらいたいか考えながら」

「悪霊達にどうやって成仏してもらいたいかですか……」

受け取った横笛をおキヌちゃんが吹くと音がでている。
音の方も不完全ながら霊波がのっている。
未来では完璧に霊波をのせていたけれど、この時代のおキヌちゃんがそうだったのか、今のおキヌちゃんの目覚め方が違うからこうなのか。
これは実際に悪霊と試してみないとわからないな。

「へー、音に霊波がのるって、院雅さんと似ていますね」

「似ているといえば似ているけれど、まるっきり性質が異なるものよ。その笛はネクロマンサーの笛っていって、一部の高位なネクロマンサーにしか扱えない笛なのよ。キヌの適正が、そうでないかと思って取り寄せておいたのだけど、これで正規に購入することにするわね」

「正規に購入? これって借り物なんですか?」

「そうね。キヌには事務所からの貸し出しという形にするけれど、ネクロマンサーの笛を使える霊能力者は世界で3人しかいないのよ。だから最終的には貸し出しでなくて、自分の物になるよう、がんばってね」

こういうところは、まだ一流と認められていない事務所のつらいところだな。

「はい、がんばります」

「キヌの正式の雇用契約は、分室で横島君としてもらってちょうだい。あとユリ子の方にも、除霊スタイルに合いそうなものを用意してあるわ」

「私にもですか?」

「これよ」

そう言って院雅さんが、木の箱から昨日まで妖刀シメサバ丸だった霊刀を取り出して、ユリ子ちゃんに手渡す。
昨晩ひのめちゃんが分室から帰ったあとに、作業をしたものだ。
水行に偏った霊波が入った文珠ができたので、同じ水行に属するサイキック五行黒竜陣の中で浄化をかけたから、効果は上乗せされている。
以前の時のGS試験での九の一の姉ちゃんのもっていた霊刀よりも、物理的にも霊的にも良い物に仕上がっているだろう。

「これって霊刀ですか?」

「そうよ。まだ霊刀としてできたばかりでGS協会やオカルトGメンに申請中なのと、慣れも必要でしょうから、実際に除霊で使えるのは再来週ぐらいでしょうけど」

「できたばかりの霊刀?」

「ちょっと出自が特殊だからね。その生成方法を好事家が知ったら1億円はくだらないわね。けれど上位の霊刀ぐらいだからそこまでの価格にはならないけれど、これも事務所からの貸し出しという形になるわよ。私としてはユリ子が使わないなら、売ってしまってもいいんだけどね」

「……少し試してから、考えさせてください」

おお、ユリ子ちゃんもしっかりしているな。

「今日は除霊もないから各自待機でお願いね。それからキヌは、部屋の整理とかそっちをしてていいわよ」

こうして俺達は分室のあるアパート向かい、そのままおキヌちゃんの部屋優先ということで2階の外階段で一緒にあがっていく。
おキヌちゃんのお義母さんが分室を見たがったようなのでおキヌちゃんの部屋の後に寄っていってもらうということにする。

「幽霊時代に使っていた方の部屋だからね。送られてきた荷物は入れてあるから、配置とか気に入らなかったら、分室に居るから呼んでくれ。さすがに荷ほどきは、女の子のものが入っているから何も手をつけていないけど」

「そこまでしてくれていたんですね」

「あと悪いけれど、俺がつかっていた部屋は、ひのめちゃんの仮眠室になるから」

「別に横島さんが、使っていてもよかったのに」


そういえば幽霊だと思って、おキヌちゃんに私が横島さんのことを好きなのを伝えていなかったわ。
愛子さんは、気がついていたみたいだから、てっきりおキヌちゃんにも言っていると思ったけれど、愛子さんってこういうのも好みなのかしら。

「おキヌちゃん。愛子さんに毒されすぎよ。日本で普通こういうところは同性同士で借りるんだから」

「そうだったんですか。アメリカでは普通だってきいていたんですけど、日本じゃ違うんですね?」


うーん。愛子の知識って、どういう方向に偏っているんだ。
まあ青春の方向なんだろうけど。


「キヌですけど常識は中途半端に知っているようで、気がつくのに遅くてすみませんでしたね」

「俺なら大丈夫ですよ。おキヌちゃんの幽霊の時って霊体が安定していたから、その気なら押し倒せていたけどそんなことしなかったですし、なんとなく妹みたいな感じですから」

「横島さん、幽霊を押し倒すって発想はどこからでてくるんですか?」

「はっはっはっ……」

乾いた笑いしかだせない。以前は最初の時に、幽霊のおキヌちゃんを押し倒したからな。

「まあ、普通に触れる幽霊がいたので、仲良くなったんだけど、成仏しちゃったんだよね」

「そんなこと、聞いたことなかったんですけど」

「平日の話とかを、していないところとかもあるからね。その中でのことさ」


おキヌちゃんを保護するようになってからは、一緒にいることが多かったみたいだからその前の話よね。
それだと唐巣神父の教会にいたころだから、もう少しくわしく横島さんのことを聞いておけばよかったわ。

その頃は、横島に対して姉へ飛びかかる、単なるスケベな高校生だと認識だったので、積極的に横島と話はしていなかったひのめだった。



おキヌちゃんが戻ってきた時には、おごそかに分室でパーティをおこなうつもりだった。
呼んでもいないのにきたのは、分室周辺にいる幽霊時代のおキヌちゃんと親交のあった浮遊霊たちだ。
歩ける範囲だと近くの神社の土地神が良い奴というか、おきぬちゃんより若いのでおキヌちゃんに敬意をもっていて、そこで簡単なパーティをすることになった。
あと意外にも令子と芦火多流がやってきた。
この1月の寒い中なのに外で行うにもかかわらず、令子が良く来たなって思ったらしっかりと防寒服を着こんでいる。
令子とおキヌちゃんとの相性が良いのは、なんとなく感じていたが、芦火多流が、

「私が会いたかったので」

っと謙虚そうに言う。
芦火多流が本気なら他の残りの姉妹もくるだろうから、素直ではない令子のために申しでたんだろう。

「んで、令子さんがきているのは、ひのめちゃんが連絡したのかな?」

「ええ。まさか本当に来るとは思いませんでしたが」

実の妹でさえ、そう思うんだからな。
しかし、前と違って人間で知っているのが極端に少ないな。
院雅さんは寒いからパスだっていうし、ユリ子ちゃんが事務所の方からきたぐらいだ。
前回って、どうやって人があつまったんだっけ?
そういえば霊団におわれて厄珍経由でネクロマンサーの笛を購入したから、その口伝であつまってきたのか。
院雅所霊事務所というと自分達で札とかつくるから、厄珍ところの良い常連客とはいえないからな。

あと、やはり前の世界であっている期間が違うのだろう。
そうすると死津喪比女がなぜ思ったよりも早く霊障をおこしたのか、それと道士の映像が中途半端に壊れていたかだな。
小難しいことを考えるよりも今日はおキヌちゃんが無事にもどってきて、多いのが浮遊霊といっても人間として生き返ったのを喜んでくれているのだからいいのだろう。

しかし、やはりこの業界は狭いのでおキヌちゃんが生き返ったことを知ってパラパラと会いにくる。
幽霊のおキヌちゃんって可愛かったし明るくい性格だったからみんなに人気があったんだなとつくづく思わされるな。


1月も末頃に雪之丞が院雅除霊事務所に連絡をいれてきた。
院雅さんは俺のPHS番号を教えたようで、

「横島か?」

「そうですが、どなた様ですか?」

「雪之丞だ。院雅除霊事務所の分室にやっかいになるぜ」

ふー。そっか。

「それは院雅さんからOKはもらっているが、給与面は聞いているか?」

「だいたいな」

「それで、住所はきまっているのか?」

「無い! どこか無いか? 事務所でもかまわないから」

「分室は俺が住んでいるから却下。まずは住まいをさがせ。仕事はそれからだ」

「わかった。もう少しまっていてくれ」

「ああ」

電話はそれで終わったが、雪之丞から連絡してきたということは神魔族の出張所の目処がたったということか。
思ったよりも行動は早いな。
この近くだとどこになるのかね?
ヒャクメかジークから連絡でもくるだろうからそれまで待つか。

しかし1月に入っても、GSとしてはたいしてやることが変わらない。
冥子ちゃんところからの依頼がまた来た。
ひのめちゃんとユリ子ちゃんに俺の組み合わせの予定の日で、今までより注意深くしないといけない。
注意をして依頼内容をみると、この組み合わせまつかんでいるような内容の協同除霊だ。
マリアの処理能力もすごいが、どっからそういう情報がながれているかというと、

「うれしくて学校で霊刀使って除霊するって話をしちゃいました」

ユリ子ちゃんだった。
ユリ子ちゃんって刀の扱いになれているが、ちょっと俺の知っている普通の剣道とも違うような気がする。
なんとなく覚えたと言ってたので、詳しく聞いてみると簡単な手ほどきは、おじいさんから受けていたが、あまり本格的には打ち込んでいなかったらしい。
剣道ではなくて実際の刀を想定している剣術なのだから、おじいさんに訓練してもらうといいよとアドバイスすると、

「普通の悪霊なんかと違って、人型以外の相手では問題になるんじゃないんですか?」

「確かにその通りなんだけど、それって人型相手だけしか初めから想定していないときなんだよね。人型とそうで無い場合には、確かに剣筋というのは変える必要はあるけれど、基本動作はだいたい同じだから、訓練しておいて損は無いよ」

「それだけですか?」

「どちらかというと1対1より1体対多数、多数対1、多数対多数あたりを意識しながらだとより実戦に近くなるよ。それと自分の間合いを覚えることだね。防御方法は人型とそうでないので大きくかわる。人型以外では、それこそ千差万別だけど、こちらからこれっていうのは無いから、今の院雅さんの結界札で防御して、霊刀で相手を除霊していくってのになるかな」

ユリ子ちゃんのおじいさんも喜んで相手しているそうだし、俺と1週間に1回の練習量じゃ足りないもんな。

それにしても六道家は、やはり六道女学院の生徒に、迷惑をかけられないようにしているんだな。
こういうのにあわせて計算しているだろうマリアの計算能力と、その範囲で仕事をもってくる六道家もたいしたものだな。
冥子ちゃんのお友だちというと、俺以外には「令子ちゃん、エミちゃんにマーくん」だそうだ。
だいたい冥子ちゃんのぷっつんによる暴走は、マーくんといるときに発生することが多いらしい。
一人だと未だぷっつん率は5割を超えるらしいから、まだ良いのだろうけどなんでそこでマリアの計算がずれるんだろうな。
思ったよりも早く冥子ちゃんとマーくんもとい鬼道正樹が結婚するんだろうか。
子どもさえできなければいいが、子どもができてしまうと冥子ちゃんの動きに制約ができるし鬼道正樹じゃ上位の魔族相手では力不足だよな。

おキヌちゃんも事務所でネクロマンサーの笛は、うまくふけていなかったみたいだったようだ。
実戦で試してみると、実際の怨霊の行く末を本気で心配できたのだろうか成仏させている。
ネクロマンサーの笛はともかく、思ったよりも霊力が高いんだよな。
正確に計っていないからわからないが多分まえよりも霊力は5割り増しぐらいだろう。
これも、霊体ミサイルとしてつっこんだかことによる違いなのか、文珠による反魂の術の効果による差なのかだな。
そうはいっても身体を動かすのは苦手みたいだから、ヒーリングが中心みたいだけど霊視の訓練ってやはりヒャクメを頼るかな。



*****
妖刀シメサバ丸は霊刀にクラスチェンジしてもらいました。

2012.02.07:初出



[26632] リポート50 神魔族出張所はできたけど
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2012/05/04 13:31
雪之丞から連絡のあった翌日に、ヒャクメとジークが分室へきた。

「来たのは、神魔族出張所ができたのからなのねー」

「おめでとう。花でも贈らせてもらうよ」

「そんなことはいいので、横島くんにはイラクへ飛んでほしいのだけど」

「また、やっかいなところへ。それでどれくらいの期間がかかりそうな仕事に、なりそうかな?」

「1週間ぐらいかな」

「今のままじゃ無理!! 今回限りならいいかもしれないが、続くならせめておふくろを説得してくれ!! 俺の長期休学はおふくろの腹積もり次第だ。それくらい同一時空を繰り返す空間特性(サ○エさんワールド)のことを、修正した報告書にのっていないか?」

「そっちの説得は、今から行うから用意をしてほしい」

「本当に説得してくれよ。俺はいまだにおふくろにかなう気は、しないんだから」

「遠距離からみてもよくわからないけれど、近くにいけばだいじょうぶなのねー」

「準備はしておくから、説得を待つ。では無事任務を達成してくれたまえ」

「無理に軍隊調で言わなくてもいいんですよ!?」

「とりあえず、説得してくれれば俺はいいとし、て一緒に行く候補者は?」

「小笠原エミさんを考えています」

「了解したよ」

「では、いってきますのでしばしお待ちを」

ヒャクメとジークは、ナルニアまでテレポートしたのか急に消えた。
まったくここの結界札も役にたたないな。
俺は準備をしおわったが、二柱とも中々戻ってこない。
これは交渉に時間がかかっているな。
さらに待っていると二柱は、もどってきたが二柱の話を聞くと、

「なぜあの女性の心の中が、読めないのよ」

「なんで話しているだけで、最高指導者よりプレッシャーがかかるんですか」

「「あの女性は本当に人間ですかー」」

ヒャクメとジークが、はもっている。
この二柱じゃ説得は無理だったか。
せめて小竜姫さまかワルキューレだったかなー

「って、なんで無理だって思っていたのねー」

「ヒャクメか。いやぁ、霊格っていうのがわかるようになってきてよく考えると、俺の知っている人間の中では、一番霊格が高いんだわ」

「霊能力者なんですか?」

「いや、霊能力者ではないけれど、俺の知っていたおふくろは、霊能力者としては完成されていた令子に、殺気だけで霊力と対抗できていたからなー。それに結果として俺を日本において行ったから、俺のいた過去では、アシュタロスはあの中では滅んだし、あの直観力はあなどれないってな。しかし、こっちにいるアシュタロスって、俺の知っているアシュタロスじゃないのか?」

「これも宇宙意思なんですかね?」

「令子の話によると、がんばらなければ宇宙意思も追い風にならないみたいだから、どうなんだろうな?」

「これは計画のやり直しかもしれませんね」

「前の世界でも神魔両方の最高指導者がアシュタロスをなんとかしようとして、失敗して人間が対処したらしいからな」

「それを言われると」

「いや、俺のいた世界での話だから、こっちでは違うかもしれないだろう?」

「とりあえず、イラクの件は小笠原エミさんに依頼してみます」

「本当に急ぎだったのか」

「ええ。リバースバベルの塔です」

「ふむ。俺の記憶の通りなら雪之丞も、つれていった方がよさそうだな」

「そうですね。今の横島くんと小笠原エミさんの組み合わせなら、当時の伊達雪之丞くんの戦力と変わらないと判断したのですが……」

「とりあえず長期学校を休むのにあたって俺の過去にあった以外の事件で、複数回、長期やすまないといけないというのは、ちょっと補正してくれ!」

「はあ。善処します」

うむ。お役所仕事からぬけられないか。

「そうなの」

「まずはリバースバベルの塔の案件を片付けてから、今後の方針を再度検討してくれないかな」

「そうですね」

そうして二柱が消え去ったので、フォローの電話をナルニアの両親に電話をする。

「留年するぐらいなら、GSを休業してもらうから。院雅良子さんもそうだったみたいだし、GS業界はそれでだいじょうぶなんでしょう」

「留年はしないよ。ただし今は霊的成長期なので、この能力を伸ばせるところから、離れる気は無いからな。おふくろ」

「まずは学校第一なんだからね。第一お前より優秀なGSって、まだまだいるんでしょう。なんで神魔族がお前を選んだのか説明もしないから、追っ払ったわ」

「しょっちゅう妙神山に、顔をだしていたからかな。学校にはきちんと行くから」

「あたりまえでしょう!」

そこで話は終わったが、未来のことをそう簡単に話せないだろうしな。
説得もへったくれもないな。

しかし、リバースバベルの事件ってもっと後におこるはずだったよな。
どちらにしても、この件がかたずいたら芦家のことをまずは教えてもらおうか。
どうもアシュタロスとつながっているような気がするんだよな。

それとおふくろが気にかけていたのはメドーサのことかと思ったが俺が調べ切れていない院雅さんの空白の2年間をさぐってもらうかな。
って、なんでおふくろが、院雅さんはGSとして活動していない時期を知っているんだ?


雪之丞と契約する前に雪之丞がイランに向かったから、さっそく分室予算の予定が狂い始めている。
いっそのこと正規の除霊助手ではなくて、都度フリーのGSへ頼むスタイルの方が良いのかなとも思い始める。
このあたりは雪之丞との話し合いだが、束縛を嫌う性格の雪之丞なら、GS試験までこれにのるかな?

別にGS試験までは、フリーの霊能力者であっても問題ないしな。
うまくすれば過去の実績で、GS見習いの必要点数の免除ができるかもしれない。
どちらにしてもまずは、GS試験を通ってもらってそれからだけどな。

イランのリバースバベルの方は、現在の雪之丞ではやはり力不足ということでエミさんと向かうらしい。
あのエミさんの呪術の衣装は俺の煩悩を刺激してくれるから、中々うらやましいなー。
この事件は未然に防げたから、心配する必要は無いし、最悪ジークが助っ人になれば問題ないだろう。
どうせパズズといっても偽者だったからな。


それで平日はというと、

「横島さん、夕食できましたから食べにきてください」

幽霊時代の習慣なのか、夕食を誘いにきてくれる。
おキヌちゃんも一人だし、俺も一人だから互いに暇つぶしにいいんだけどね。

「毎日食事をつくってくれるのはうれしいんだけど、勉強は大丈夫かい?」

「なんとか六道女学院の霊能科なら、受かりそうなレベルまでにはなりました」

普通科に比べて霊能科はあまり学力レベルが高くなくても、霊力の方が重視されているからおキヌちゃんなら充分だよな。

「がんばって受かってくれな」

「ええ。横島さんに普通の料理方法を教えるほうが難しいくらいです」

「ご飯に味噌汁となにか一品あれば充分だしな」

「横島さんの作った味噌汁って、普通味噌汁って言わないで鍋とかいいますよ」

「いやねー。キャンプ料理っぽい物しか作れないからな」

妙神山での修業と、あちこちの地方で令子においてきぼりにされたせいだな。
その前に俺と令子のスキンシップのせいもあるんだが。

おキヌちゃんの霊能力は補助系だからGSになるっていうのは、現状のルールではきついんだけどおキヌちゃんは理解しているのかな。


それはさておき、普段の訓練の為にとある場所を借りることになった。

「横島さん。お爺さまの許可がでました」

「ありがとう。ユリ子ちゃん」

「いえ、お爺さまもはりきっているみたいですし、私もお爺さまだけ相手するのだと、腰痛とかおこさないかちょっとばかり心配ですから」

ユリ子ちゃんの自宅の道場に、GS試験や六道女学院での年中行事になっているクラス対抗戦で使用している物理的攻撃がきかない結界で、訓練させてもらうことになった。
行うのは普通の木刀で行う実戦形式の稽古で、霊力さえこめなければ、あてられたっていう感触はあっても痛くは無い。
ユリ子ちゃんのおじいさんは、そこが気にいったのだろうか、今までユリ子ちゃんに、あてられるレベルではないと聞いていたんだけどな。
ばしばしとユリ子ちゃんに木刀をあてている。
見た感じでは、ユリ子ちゃんのおじいさんの剣速は早くないのだけど、ユリ子ちゃんが剣を受け止められないんだよな。
門下生でもない俺からは師匠とか呼ばれるのは嫌らしく

「加賀美さん、この剣術って加賀美円明流でしたよね? どうしてユリ子ちゃんに剣をあてられるのですか?」

「まだわからないようなら、また一運動してみるか。お若いの」

「ええ、お願いします」

このユリ子ちゃんのおじいさんとの木刀での勝率は4割。
棍だと6割ぐらいまであげられるが、霊波刀とは微妙に位置がちがうと。
とはいっても俺の対魔族戦は、サイキック棍ではなくて霊波刀になるからこちらで強くならないとな。

なぜあてられるかは理論だけはわかる。
ただし、実戦で相手にしたことがなかったからな。

小竜姫さまや俺にとって過去にあたる魔族や神族の剣系の筋はというと、どちらかというと直線系に属する。
普通の人間の反応速度を超えた速度でくるのと、強引な力技による太刀筋を強制的に変更してしまう。
まず人間ができないゆえに、まさしく神業といっていいだろう。

それに対してこの加賀美円明流の動きは、老師の棍術である円系あるいは球系に動きが近い。
それだけなら老師の身外身の術でつくられた小猿でも可能な技で、実際その修業のおかげでこの加賀美さんとも打ち合えるのだけど、

「なんでそうやって、次から次へと死角に入ってこれるんですか?」

「その死角に入ったはずなのに、木刀をさけられるのがシャクにさわるのだがな」

「あたっても痛くは無いっていっても、実戦ではそういうわけにいきませんからね」

まったくもってこの死角に入いってこられるというのは、どうしようもない。
意識しているのかしていないのか、人間の目の死角と霊的感覚の死角が重なる場所にちょうど入ってくるのだ。
逆にいうと必ずそこにいるのだが、そこって木刀だとやりづらいところなんだよな。
棍なら後ろ前というのは無しにできるから、その空間に打って見るというのが実情だったりするのだが。

「しかし、本当によくこれだけ避けられるの。自信をなくすぞ。まったく」

「それでも6割ぐらいは加賀美さんが勝っているじゃないですか」

「それは最初に5連勝したおかげだろう。ここ10回ぐらいは五分じゃないのか?」

「そうかもしれませんが、こっちは霊能力による霊感もあてにしてようやくですからね。本当に加賀美円明流っていうのは、対魔の系統の剣術じゃないんですか?」

「さて。自分は師匠からは聞いておらんからな。ただ、本当の死角という場所を、身体でおぼえこまされただけだ」

もし対魔の剣術で無いのであれば、この流派の開祖か途中に霊能力者がいたんだろうな。

「今日はこのあたりにしておくかの」

そう言って加賀美さんが入り口に戻ろうとした瞬間、木刀を投げてきたので、それをかわしたら、

「口からこのあたりにしておくと言っておいて、油断も隙もありませんね」

「油断しとらんかったであろう。それで良いではないか。あと片付けはよろしくな」

こういうタイプの戦い方をするから、俺の逃げるふりをしてユリ子ちゃんの油断をさそってあてても、文句も言わなかったのか。

「ユリ子ちゃんと俺の練習はみなくていいのですか。加賀美さん」

「孫と戦えば、おのずとわかるから良い」

はあ。そうですか。

「しかし、ユリ子ちゃんのおじいさんって、とんでもないな」

「私もお爺さまに、ここまで手加減されているとは、思っていませんでした……」

「表の技そのものなら、そこまで差は無いと思うよ。けれどあの人間の死角に入っていく技だけは、尋常じゃないな」

ヒャクメタイプの内心を読める魔族がいたら、同様の方法をとられるかもしれないからな。
それはさておき、

「ユリ子ちゃん、今度はこっちの訓練といこうか」

「お願いします」

ユリ子ちゃんとの訓練では剣筋はほぼ加賀美円明流で、ユリ子ちゃんにあてづらいと感じていたのは、この死角に入るというのを自然に覚えているのだろう。
あとは多少我流がまざった感じだから、その我流の部分を対非人間型妖怪等に変化すれば霊刀でもいいのだろうな。
この調子なら春のGS試験にでても、良いレベルにいるだろう。


ヒャクメとジークが、この世界での人間界のルールの調査不足で、今の俺が長期にわたって学校を休むのは難しい、というのを見落としてくれたようだ。
ヒャクメならまだしも、ジークもそうだったとはな。
こうなると問題はひのめちゃんを見習いから、正規のGSになるための除霊数が問題か。
金曜日から日曜日までと、祝前日に祝日で対応するとなると、今年は1年生のうちには連休は春休みしか残っていないんだよな。
やっぱり今の調子なら、除霊助手の使い方とかも学習してもらわないといけないから、正規のGSになるのは2年生になってからだろうな。



一方ひのめは、お母さんの話からするとユリ子似のおキヌちゃんだから、おキヌちゃんが横島さんに好意をもっていても、相手にしないから大丈夫って言ってくれている。
だけど、本当におキヌちゃんと、どう話をしようかしら。
平日になんとかいこうとして、食器の洗い物だけはさせてくれたけれど、その他はさわらないようにって、注意されちゃっているのよね。
私が食事をつくる練習をしてたら、今はおキヌちゃんが作っているし、それに美味しいから、なんとなく不利な感じがするのよね。
お母さんが言うよりは、少し積極的にいったほうが良いかしら。


そして2月も中旬になり、無事リバースバベルの事件も解決して雪之丞は院雅除霊事務所の除霊助手になったが、平日はおだやかなこの事務所である。

「院雅の旦那。この事務所はこんなに暇なのか?」

「その『院雅の旦那』っていうのはやめてほしいのよね」

「わかったよ。院雅の旦那」

何回いってもなおらないのね。

「事務所の方は、休日はそうでもないけれど、平日はこれぐらいよ。そんなに暇なら他の除霊事務所へレンタル契約もいいわよ。たとえば六道GS事務所とか」

「冗談はやめてくれ」

「あら。月に1回ぐらいは協同除霊しているから、どちらにしてもそのうち一緒に仕事をすることになるわよ」

「本当かよ」

「それ以外なら表立っていないけれど、妙神山の出張所でも出張っている? あそこなら世界中の魔族を調査しているから、すぐに動きがとれるわよ」

「願ったりかなったりだ」

あら単純ね。
神族のヒャクメの予想したとおりだけど、

「話は通しておくから、明日紹介状をもっていきなさい」

「話がはやくて助かるぜ。院雅の旦那」

結局、当初計画とは異なり横島を通じて全体の連携をはかるのではなく、全体の連絡は雪之丞が行いそれを制御しているように見せるのが院雅除霊事務所となる。
院雅自身の霊力は低いので、もう一人の正規GSである横島にある程度目が行くことになる。
今後動く魔族が誰であるのかわかれば良い神魔族にとっては、どうでも良いことだった。


雪之丞が世界中をとびまわっている間、新たにヒャクメからもたらされた情報がある。
南部グループ南部リゾート開発社の所有している旧華族の屋敷の廃屋が、結界につつまれていて不明とのことだ。
しかしその結界からグーラー(食人鬼女)がでてきたのを検知したところで、そのグーラーが連れ戻されるところをヒャクメがキャッチした。
それを聞いた俺は『グーラーってファーストキスの相手だったよなー』じゃなくて、

「そういえば茂流田(もるだ)って、俺のときは南部グループだったよな。つぶれてなくなったからよく覚えていないけど」

それはつぶれていなくても、覚えていないだろうなとヒャクメは思うが、

「横島さんの記憶とはちがっていて、こちらでは南部グループの子会社なのねー。ちなみに茂流田(もるだ)は会社に出社してこなくなったので、退職扱いになっているわね」

「グーラーの処理ってどうなったかわかっている?」

「結界で見えないのよねー」

ヒャクメでも無理か。

「そうなのねー」

「この件は、その屋敷の除霊依頼が他のGSに行くまで、下手に手がだせないな」

「今のところ日本で有力な魔族の動きは無いのよね」

「連絡をくれたら、またここにくるから」

「そうなのねー。ジークも雪之丞さんと一緒に行くっているから、情報収集は私ひとりなの。だからまたきてね」

「俺は暇つぶしの相手じゃないぞ」

「神界にいるよりは、調べがいがあるからいいのね」

「はいはい」

それで、分室にもなっている自宅にもどったら依頼のファックスが届いていた。
依頼元は南部グループの持株会社である南部ホールディングスの法律部門担当者『芦優太郎』からだった。

まさか芦優太郎から直接依頼がくるとは……



*****
リバースバベルは『スプリガン5巻』にでていたのを借用させてもらっています。
原作では南部リゾート開発部でした。

2012.02.09:初出



[26632] リポート51 サバイバルの館編(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/06/12 19:47
除霊依頼元は、南部グループの持株会社である、南部ホールディングスの法律部門担当者『芦優太郎』からだが、分室に直接依頼がきている。
一般には宣伝は、そんなにしていないんだがな。
しかし、芦優太郎から直接依頼がくるとは……
ただ、これって芦優太郎に近づいて、観察できるチャンスでもあるわけだよな。
院雅さんに相談してみるか。

「さすがに一流企業相手に、高校生が交渉に行くわけにいかないわね。私がついていくから学生服でも着れるようにしておいてね。アポも私から入れておくから、PHSでいつでもつかまるようにしておいてよ」

そうなんだよな。
スーツ類は用意していないんだよな。
仕方が無いから、院雅さんの言う通りに学生服で行くか。
知らない人間から見れば、就職活動中の高校生に見えるかもしれないしな。
そう思っていると院雅さんから連絡が入り、

「横島さん。分室で芦優太郎と会うことになったわ。私も、向かうから普通の交渉はともかく、もしアシュタロスだったら、相手はよろしくね」

「そうですね。ただアシュタロスだったとしても、相手がその気ならこっちは瞬殺されます。理由はわかりませんが、何か話し合う余地はあるのでしょう」

「私は、自ら入り込んでいく気はないからね。そこだけはしっかりとよろしくね」

「ええ」

ヒャクメに連絡をして、おキヌちゃんには急遽神魔族出張所で、ヒャクメ相手に霊視の訓練をしてもらうことにする。
服の中でも、比較的新しいジーンズとジージャンに着替える。
この服装には対霊対魔対策をしているのだが、アシュタロス相手なら無理だろうな。
そうして待つこと、まずは院雅さんがきた。

「どう、準備はととのっている?」

「ええ、おキヌちゃんには霊視の訓練の名目で、神魔族出張所のヒャクメの元へ行かせてます。ヒャクメはおキヌちゃん相手をしながら、こっちでも覗いているでしょう」

「あとは約束の時間である18時にくるかどうかね」

18時までは残り少ないが、重苦しい雰囲気の中でも院雅さんは台所でコーヒーセットを持ってきていて、その準備をしている。
待っていると18時の3分前にインターホンの電子音がなり、

「はい。院雅除霊事務所分室です。どちらさまでしょうか」

こんなことなら監視カメラ付きのものにしておけばよかったなと思ったが、

「本日の18時に院雅様とお会いさせていただくことになっております、南部ホールディングスの芦優太郎と申します」

「お待ちしておりました。今玄関をあけますのでしばらくお待ち下さい」

そうすると、事前情報では39歳と聞いていたが30台前半とも見える、アシュタロスにそっくりな人物がたっていた。

「狭いところですが、どうぞお入りください」

「まずは、入らせてもらいます。それからそんなに緊張しなくてもいいですよ」

物腰もやわらかく、大手企業の部長とは思えない。
同じ部長といっても親父とは違うな。
俺は院雅さんが用意したコーヒーを、カップに入れて応接室に持っていく。
話は本格的ではなく、初対面の挨拶と雑談をしていたようだ。

「さて、現在最年少GSである横島忠夫君だったね。君に用事があったのできたのだが……」

さも、院雅さんが邪魔だとでも言いたげにしているな。

「俺ですか? もしかするとお嬢さんの関係ですか? 火多流さんとは同じクラスなのでよく話はしますし、同じ学校でGSということで鳥子さんや八洋さんとも話はしますが?」

狙いはなんだろうか。

「娘たちの話では無いのだけどね。そちらのお嬢さんも、私の正体をうすうすと感づいているようだから、このまま、話すのもかまわないがね」

「正体?」

「アシュタロスと気がついているのだろう? およそ1000年ぶりぐらいだが、君のことはよく覚えているよ」

話さなければこちらは、はっきりとはわかっていないのに、いきなり自分から正体をばらしてくる。
一体どういうつもりだ?

「アシュタロス? 全く魔族の気配がしないのですが」

「こうすればどうかね」

わずかに漏れ出す魔族独特の魔力と、強力な霊格が覗きだす。

「分霊ではなさそうですね……それじゃアシュタロス。魔族のお前がなぜ俺に?」

「私は抜けてもいいかい?」

「院雅さーん!」

「私がアシュタロスだという事を、現在の娘達に、もらさなければそれでかまわない」

「横島さん。事情はわかっているみたいだし、私は邪魔みたいだからお暇するわね。それでは失礼させていただきます。芦優太郎様」

おーい、所長だろう。確かに院雅さんには情報収集の方をたのんだけど、あからさまに避けるというよりは、逃げなくてもいいだろう。
しかもアシュタロスとしてではなく、芦優太郎として処理するつもりだし。

「さて、話しをつづけてもよいかね?」

「ああ」

「君もとたんに態度がかわるね」

「魔族とまともに交渉するなら、GSがどういう対応をするかわかるだろう?」

「今回は魔族のアシュタロスとしてではなく、南部ホールディングスの芦優太郎としてきているんだけどね」

「そうしたら、アシュタロスだって最初になぜ自分から名乗った?」

「そうしなければ君たちの信頼を得ることはできないだろう。前の世界で、私の野望をつぶした君ならば」

どこでもれた?
情報漏えいがどこからあったんだ?

「ああ。その顔だと私が、なぜ君が私を倒したのを知っているか、疑問に思っているようだね」

魔族のペースにひきこまれるのはまずいが、

「残念ながら、なぜ知られたかわからない」

「簡単なことだよ。院雅所霊事務所に盗聴器をつけさせてもらった。人間の技術は進歩しているね。これなら神魔族とも気がつかない」

まさか、魔族がそんなことをしてくるって。
そういえば前は、アシュタロスも人間の技術の一部を採用していたな。
盗聴器対策もしないといけないか。盲点だったな。
そうすると文珠が作れることも知られているのか。
あとは霊波をずらした文珠のことを気がつかれているかだが、聞けないしな。
だとするとアシュタロスにする質問は、

「復讐したいという態度にも見えないし、今回の目的も滅びが望みか?」

「滅ぼせる者がいれば滅びたいが、残念ながら地球上を荒らして、神魔族の最高指導者たちから許可されただけでは、宇宙意思は滅ぼさせてくれないらしい」

「じゃあ、俺に用事というのは?」

「本題はだね、このままだと、南部グループの南部重工業と南部リゾート開発社とが、暴走しそうでね。妖怪の戦力化と人造魔族を、秘密裏に対処してもらいたいのだよ」

「アシュタロスが直接処理するわけにはいかないのか?」

「そうすれば、魔族内部で対立してしまうことになるのでね。これでもデタント派なので、過激派とは直接ことを構えたく無いのだが、私の働いている会社の近辺で堂々とされるとはね」

「魔界ではアシュタロスが、こっちにいるって知っているのか?」

「知らないからこそ、この南部グループの技術を踏み台にしようとしたのだろう。以前の私と同じように」

「他にも有力なGSがいるだろう。例えば美神令子とか」

「前の世界での私の作品だったね。彼女のところには火多流がいる。私が魔族だということには、気がついていないのでこのまま育てたいのだよ」

本当の目的はわからないが、芦三姉妹には知られたくないのか。
ただこうやって言ってくるということは、そこまで強力な札ではないのだろう。

「それで、それを受けるこちらのメリットは?」

「受けてくれるのかね?」 

「芦家の三姉妹が敵にまわらないで、GSとして働いてくれるなら、GSの力はアップするからね。ただ事務所としても、それなりの報酬は必要になってくれけれど」

「折角、君がいる時期にあわせて娘達をつくったのだから、もう少し仲良くなってもらってもよかったのだがね」

「はい?」

「ルシオラだよ。君にとっても寝覚めが悪かったのじゃないのかね?」

くっ、ここで魔族の誘惑をかけてくる気かよ。

「ルシオラはいないだろう?」

「コスモ・プロセッサーで、ルシオラの魂を呼び寄せて赤ん坊として人間にかえさせている。ペスパもパピリオも同様だ。ただ思ったように育ってくれなくてね」

すでにコスモ・プロセッサーは完成しているのか。ひのめちゃんの中の魂のエネルギー結晶は不要なのか?
しかしその笑いって、初めから自分に逆らうってわかっているような感じじゃないか。

「コスモ・プロセッサーが完成しているというと、それで情勢を変えようとは思わないのか?」

「また同じことの繰り返しだ。いまいましい宇宙意思め」

「エネルギー源はどうしているんだよ」

「未完成のコスモ・プロセッサーだが、パラメータの調整はわかってきたのでエネルギー結晶だけは入手はできる。しかし……これ以上、この件で話すこともないだろう」

そっちは、それ以上話はする気がないのか。
アシュタロスがコスモ・プロセッサーを本格的に使用しないとしたら気にかかるのは、

「ルシオラだけど、今の話だと俺の知っていたルシオラだったとしても、彼女にとっては幼いころの思い出じゃないのか?」

「家でそれぞれ、君の話題がでている娘達は、それぞれおもしろいのだがね」

「まさか、俺の意識なり知識なりを、この世界にもってきたのはアシュタロスか?」

「君が、そのような知識をもっているとわかっていたなら、わざわざ娘達を育てはしなかったよ」

「そうか。ただし残念だったな。ルシオラのことはもうふっきれている。仕事の具体的な内容を聞きたいのだが」

ルシオラのことはふっきれているつもりだが、ルシオラがいるとしたら火多流だろう。
少し距離をとられている気がしていたのは、火多流が気にしていたのか。

「そうだね。南部グループの霊的不良物件の所霊依頼先の優先順位を、社内でのトップに院雅除霊事務所をもってこよう」

「それって、会社の私物化じゃないのか? 部長権限でそこまでできるのか?」

「ああ。私の失敗を狙っているやからが大勢いるから、まだ評判の高くない院雅所霊事務所が失敗したら、私は失脚だろうね。それゆえ簡単に、内部での優先順位をあげることは可能だよ」

そういうからくりか。

「ところで宇宙意思に俺が選ばれたかもしれないという話しをしてたが、まだ強力な魔族ってアシュタロスとせいぜいメドーサぐらいしか見ないのだけど?」

「それなら今度の件を引き受けてくれれば、自動的に入手できるだろう」

「あくまで能動的に話してくれる気は無しか?」

「ああ。そこは自分達でがんばってくれたまえ。私の望みを一度はかなえてくれた君には期待しているよ」

「わかった。事務所として依頼は受けるが、GS協会やオカルトGメンに、もれなければいいんだな?」

「できれば美神ひのめから、オカルトGメンへもれないように注意してくれたまえ」

「そこまで調べているのか」

「これも前の経験が役にたっていてね」

「わかった。民間GSにはこういう仕事もあるというのは、現在の美神令子もおこなっていることだから、ひのめも説得はできる」

「じゃあ、あとは私の秘書である蛇髪君と連絡をとってくれたまえ」

「蛇髪?」

「メドーサと言った方がわかりやすいだろう」

なんで、芦優太郎をさぐっていてメドーサを発見できないんだよ。
まったく、ヒャクメといいジークといい。


『魔族に擬態されると、長距離からではわからないのよ!』

そう神魔族出張所でさけんでいるヒャクメがいたりするのだが、ここに聞こえるわけではない。


「もう少し内部情報を知りたいのだが」

「それはメドーサにでも聞いてくれ。他には?」

「いや、特に無い」

「じゃあ、このあと別な仕事もあるので、ここで帰らせてもらうよ。また会う機会が、あると楽しみなのだがね」

「男に楽しみにされてもいらんわい」

「娘達ならば?」

「それはもう……って、最後まで言わすな」

「これに失敗しても会社はつぶれないが、私が失脚すれば、娘達の未来にも影響を与えるだろうから期待しているよ」

「ふん。まずは情報をまっているよ」

芦優太郎ことアシュタロスを見送り、早速にでもと院雅さんの携帯に連絡したが、メドーサが南部グループで働いているのは知らなかったとのことだ。
とりあえずこの件は情報が命だ。こっちに盗聴器をしかけているのも話して早速対策をとる。

しかし、今現在の院雅所霊事務所で、ガルーダと互角にいけるのは雪之丞ぐらいだよな。



翌日、南部ホールディングスの蛇髪ことメドーサと打ち合わせをすることになって院雅除霊事務所による。
顔こそ異なるがあのチチのでかさとサイズはまさしくメドーサだ。
いつものように飛び掛ると、あれっ?
素直にその胸元にとびつけてしまった。

いかん、人違いか? まずいぞ!!

「すみません。いつもの人とそっくりで飛びついてしまいました。すみません」

「蛇髪さん、誠に申し訳ございません。許してください。横島君もいつもの人と、そっくりだからといって勝手にとびかからない!!」

「いえ。妹からも噂には聞いておりましたので、お気にならせずに」

メドーサに姉なんていなかったよな?
それに昨日アシュタロスがメドーサのことを蛇髪と言ってとのを覚えているが、ここはすなおに、

「本当にすみませんでした」

とりあえず、あやまり倒すことを選んだ。
そうすると院雅さんは、

「本当にすみませんね。蛇髪さん」

そう言いつつ俺の耳元にささやくように小声で、

「見張られている」

見張られいるということはこの事務所か?
メドーサ本人かどうか不明だが蛇髪か?

「蛇髪さんも許してくださるようなので、横島君もきちんと素直に話を聞くのよ」

そう言われて、納得できない部分もありながら席につくことにした。

「今日は仕事の依頼で参りました。こちらをまずはお読みいただけますか」

そうして渡されたのは、除霊依頼書に付属となる事前詳細調査書だ。
こういうきちんとしたのは、普通はあまりかかれることは無いが、大手の企業だけあってきちんと書いてきている。
時間が無かったからなのか、そんなに厚くはないので読んでみると、最後の方に『別紙』がさらについていて、

『蛇髪(メドーサ)がベルゼブルに見張られている。ただしベルゼブルは日本語が読めないので問題ない』

ベルゼブルって、日本語が読めなかったのか。
うーん。さすがはハエの王だ。
自分がコンタクトに使う文字以外は、覚えていないのか。
多少あきれてはいたが都合は良い。
院雅さんもおなじ頃に読み終えたのか、

「除霊依頼書の通りに、南部リゾート開発社が所有している旧華族の屋敷跡を除霊ですね。横島君、この依頼書を見て何か疑問点とかあるかしら」

「そうですね。他のGSと協同除霊とさせていただいてもかまいませんか?」

「そこは公式な文章として残せないのですが、私どもの部長である芦の娘さん達のところをさけていただければ、問題ないとのことです」

「そうですか、俺からはこれだけです」

「私の方からは特にありませんが、内容が内容ですので、返答は明日までお待ちいただいてもよろしいですか」

「ええ。私どもとしてはあまり時間がかかるようならば、別なGSに除霊依頼をいたしますので、明日中の返答をおまちしております」

「そのあたりにつきましては、明日夕刻17:00までに連絡をさしあげます」

「よい返答を期待しております」

「ええ。それでは連絡をいれさせていただきますので、それまでお待ち下さい」

蛇髪と紹介されたメドーサが外にでていくと、

「監視がいなくなったようだわね」

「ベルゼブルが、いるかいないかなんかわかるんですか?」

「あら、私じゃないわよ。メドーサが帰り際に監視がついてきているって、簡単なサインを送ってきてたからよ」

うーむ。一体いつの間に。

「それよりも、協同除霊のことを聞いていたけれど、あてはあるの?」

「それなんですよね。芦三姉妹以外のGS事務所となると、冥子ちゃんかエミさんのところになるんですが、さすがに冥子ちゃんは、今回は無理ですよね」

「そうね。下手をすると南部グループと六道財閥のぶつかりあいになるわね」

「今回は秘密裏に、ってことですから残りはエミさんになるんですが、エミさんってこういう話にのるかどうかって、よくわからないんですよね」

「それなら大丈夫じゃないかしら。この前、美神令子さんに2連敗して助手もいなくなったみたいなのよ。だから、横島さんが妙神山修行場への紹介状を書くって言えば、のってくるんじゃないかしら」

「そっちも調べていたんですか。じゃあ、エミさんにお願いしますか。えーと、連絡先は……」

「それは私が連絡するから、さっきの事前詳細調査書も読んで、フォーメーションを考えておいてね。それから行くメンバーから、私とキヌは抜いておいたほうがよさそうよ」

そう言われて俺はあらためて除霊依頼書と、事前詳細調査書を読み直す。
南部リゾート開発社が所有している旧華族の屋敷跡で、ここで改装工事をしようとすると霊的不良物件であることが判明。
通常ならば霊的不良物件は南部ホールディングスに依頼することが多いのだが、今回は南部リゾート開発社が独自にGSをやとって除霊をしようとして死亡している。
それでこれ以上の被害をださないために、抜打ち監査という形で除霊に入っていくのが、今回の除霊依頼書だ。

ここまでは表の話で、事前詳細調査書には裏の話が書かれている。
霊的インクで書かれていて、時間がたてば消えるようになっているし、カメラなどにも映らないように細工がされている。
こちらには、その屋敷はおなじ南部グループの南部重工業が新兵器の開発をしている。
これぐらいは兵器開発をしているところなのでありえることだが、オカルト技術を使ったモンスター開発を行っている。
このあたりまでならばまだ犯罪にならない。しかし、GSをやとって死亡させるというのが問題だった。
これが表面化すると、南部重工業と南部リゾート開発社はおしまいになる。
また、その持株会社である南部ホールディングスにも多大な影響がでるので、表立って処理ができないということになっている。

令子も事前情報があって、金次第では目をつぶって参加してくれるだろうが、今回は芦火多流がいるから除外なんだよな。
そのあたりはしかたがないとして、メンバーは雪之丞、ひのめちゃん、ユリ子ちゃんに俺と、うまくいけばエミさんか。

エミさんを中央にして前を雪之丞とユリ子ちゃんで、後方はひのめちゃんと俺かな。
これだったら、落とし穴にひっかかった場合にエミさんがどちらになるかは不明だが、前の通りなら心配ないんだけどな。
けれど、今回ベルゼブルがメドーサを監視していたということは、多少は頭のまわる奴がついていそうだな。
あと前は茂流田(もるだ)が開発責任者だったが、香港の元始風水盤の時にキョンシーにされてから魔族化されていたから、今回は違うのが責任者なんだよな。
この2点で、中がどうなっているのか先行きが読めないよなぁ。

フォーメーションで悩んでいる時に院雅さんが、

「小笠原エミさんは、裏があることも理解して参加してくれるって。あと報酬は妙神山修行場の紹介状も含むので、依頼料が安くすむわね」

院雅さんの機嫌はよさそうだ。今回は大幅に収支がよさそうだもんなぁ。

「よかったですね」

「何よ、その乗り気のなさ」

「いえ、乗り気がというよりは、こんなフォーメーションかなって、思っているんですけどね」

院雅さんが俺の書いた2種類のフォーメーションのうち1種類をもって考えている。
やっぱり、ちょっとおかしかっただろうか。

「これも悪くは無いけれど、ユリ子を小笠原エミさんの防御にまわした方が、バランスは良いわね。それにユリ子が前衛だと伊達の足をひっぱることになるでしょう?」

「そうですね。うーん、やっぱりこの手の種類を考えるのは苦手だな」

「以前から美神令子にそういう部分を頼りすぎていたからでしょう。こういうのを覚えないと独立してもうまくいかないわよ」

「そうですね。あと2年あまり、そのあたりはぼちぼちといきます」

「ぼちぼちと言わないで、きちんと分室の収支計算しておきなさいよ。今回は分室への依頼で、事務所の方はそれのフォローって形になるんだからね」

通常兵器の効果はほとんどないが、対人戦も考慮にいけないからな。
ひのめちゃんとユリ子ちゃんは大丈夫かな?

「ほれ、また考え込んでいる。今度は何を考えているのかな? 横島さん」

「えーと、ひのめちゃんとユリ子ちゃんが対人戦に巻き込まれる可能性を、改めて思ったんですけど、大丈夫かなって」

「そのあたりも大丈夫じゃない? それ用の武器も持たせるつもりだし」

「武器? 発火マシンガンですか?」

「ううん、ちがうわね。準備するから見ておいてね」

これね。
まあ、これでもいいわな。
事前のひのめちゃんとユリ子ちゃんへの意思確認は院雅さんが行うという。
それで、明日事務所にくるようにと連絡をひのめちゃんとユリ子ちゃんに連絡を入れている。
俺は明日いない方がいいらしい。
男性にいられると女性同士の本音がきけないって、仕事にそれってあまり関係ないだろう。

「まだ、彼女達は高校1年生なのよ。そこまで真剣に考えられるかわからないから、最後まできちんと話しておきたいのよね」

「そんなものですか」

「そうよ。けれど二人とも参加すると言うとは思うから、心配しないで待っていなさいよ」

「へーい」

なんか、俺っていいところ無しだな。


*****
予測はついていたでしょうが、あっさりと芦家の正体はばらしてみました。
さてこの先はどうなるでしょう。

2012.02.11:初出



[26632] リポート52 サバイバルの館編(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/06/12 19:48
院雅さんから、ひのめちゃんもユリ子ちゃんも問題なしとの連絡があり、出発は金曜日で南部ホールディングスへ集まる。

「エミさん。おひさしぶりです」

「ふーん。たしかにひさしぶりなワケ。横島」

「今回、俺達の事務所だけでは難しいかもしれませんので、エミさんに同意してもらってうれしいですよ」

「そう? あんたも、あの院雅って奴の下で大変なワケ」

「えっ? どこがですか?」

「知らないんだったら別にいいワケ」

うーん。エミさんって院雅さんの何かを知っているのか。
そういえば、ヒャクメも院雅さんの過去のはなしになると、露骨に話題転換に走るしな。
院雅さんに何があるんだ?

そんな疑問もあったが南部ホールディングスの屋上からヘリコプターで、でかけることになった。
一応は南部ホールディングスからの抜打ち監査を含むということで、蛇髪ことメドーサが同行する。
しかし、メドーサがザンス製の変化マスクをかぶっているのか。
チチの形状でメドーサだとわかるが、いくら霊視しても魔族だってわからん。
これで体形まで変えられる、現在まだ開発中のエクトプラズムスーツでもきられたら全くわからんぞ。

しかし、メドーサが同行といってもGSである俺達が、南部ホールディングスから依頼されたための証人であって、このままヘリコプターでUターンするそうだけど。
味方で一緒にいてくれたら、絶対に楽なんだけどな。

それで目的地である森の中の旧華族の屋敷の廃屋は、ゴシックホラーそのまんまという雰囲気をかもしだしている。
抜打ちできたのだが、お互い手のうちはわかっているようで、

「南部リゾート開発社の須狩(すかり)です。南部ホールディングスの蛇髪さんですか?」

うー、あいかわらず美しい女性だ。
是非ともお近づきになりタイプの女性だけど、今回も敵なんだろうな。

「南部ホールディングス法務部の蛇髪です。今回はここでGSが何人か死亡したという情報が入っています。南部グループの評判が悪くなる前に、今回こちらで依頼したGSに除霊を頼んだのです。こちらは院雅所霊事務所と小笠原GS事務所のメンバーになります」

「そうでしたか。それはこちらの手配が遅れました。事情がわかっているようでしたら話が早いです。そろそろ危険な時間帯になっておりますので、私どもは引き上げる時間です。そちらのGSの方々も、ご無事にすごしてください」

「挨拶が遅れましたが、今回のGS代表をさせてもらっています横島です。我々院雅所霊事務所と小笠原GS事務所におまかせ下さい」

「じゃあ、私は明朝くるので、夜間内部の調査をお願いしますね。GSの皆さん」

うーん、メドーサにそういう話をされるとなんか背中がむずがゆいんだけどな。

「ええ。では明朝」

そして2機のヘリは飛び立ったが、それぞれの帰っていく方向が違う。
まあ、須狩(すかり)さんはもどってきて人造モンスターの実験でも見ていくのだろう。

けれど、もう一人は多分あの魔族なんだろうな。
なんたって、ここにいる南部重工業の一人がプロフェッサー・ヌルだなんて書いてあったから、あのタコ魔族じゃないのか。

えーい。人造モンスターたちが、中世ヨーロッパ時代の強さだったら泣けるぞ。


人造モンスター系や、独自の呪法でくくられた悪霊や妖怪が、どんなんだか気にしても仕方が無い。
今回のメンバーなら、普通の霊力レベルSなら心配は無いはずなんだが、プロフェッサー・ヌルという名前が、魔族なのかどうか不明なのが気にかかる。
少なくとも地獄炉レベルの物があれば、ここの結界でもヒャクメが検知できると胸をはって言ってたが、それだけがたのみだな。

「横島。入るけどいいよな」

「ああ。雪之丞、頼む」

うむ、一応フォーメーションは考えてあるが、ドアを通るときには一瞬そのフォーメーションがくずれる。
この場合は前から順番に雪之丞、ユリ子ちゃん、エミさん、ひのめちゃん、俺と、俺が後方警戒をかねるのは、香港のときとあまりかわらない。
大きく違うのは雪之丞が最前衛にいることだ。
魔装術を極めた雪之丞は心強いが、まだこれからもこいつは霊力アップしていくんだよな。
ひとつめの部屋に入ったところは暗いので雪之丞が、

「灯りがほしい」

そう言うとひのめちゃんが、ライトで辺りを照らす。
1つめの部屋の雰囲気は『ドヨヨヨーン』としていかにも幽霊屋敷っぽい感じでエミさんが、

「霊圧が異常に高いワケ。何がきてもおかしくないから気をつけるワケ」

実際さらに奥の部屋に通じるはずのドアからは『ズル』『ペチャ』っという音がして、いかにも何かいますよという感じだ。

「何か向こうにいるようだな」

「ドアを開けるから、様子を見るのはまかせた」

俺が奥の部屋へと通じるドアをあけると雪之丞が、

「殺気だ! いくぜっ!」

と言うなり、突入していく。
まだ他にもいるかもしれないのに、さっき言ったエミさんの話しも忘れていやがる。
それで奥にいたのは男性型の悪霊だが、以前の記憶ではここで俺の煩悩を刺激してくれたはずのヌード姿の女性の悪霊だったんだけどな。
雪之丞が魔装術を発動して、一殴りで成仏させやがった。
あいかわらず、魔装術っていうのは近接戦では規格外だな。

そんな悪霊を退治した瞬間に窓ガラスが割れる音がする。

「犬のゾンビなワケ!」

俺はこのレベルの霊圧からサイキック双頭剣とサイキックソーサーを2枚は浮かせて、さらに1枚は盾にする。
そのあいだにひのめちゃんが聖水の霊能力を使用して、犬のゾンビを弱らせ雪之丞がたたきつぶしていくのを中心に、エミさんがブーメランで倒していく。
俺はひのめちゃんを守るようにして、2枚のサイキックソーサーを犬のゾンビを倒し、ユリ子ちゃんは、エミさんに近づいてくる犬のゾンビを切っている。

「最初に霊、そのあとにゾンビって変なワケ。脈絡が無いからその謎を解く必要があるワケ」

表向きは除霊だが、裏ではここが新しい心霊兵器や人造モンスターの研究・開発をしているのは全員わかっている。
それゆえにどこで監視されているかはわからないので、それっぽいことをエミさんには言ってもらっている。



これをモニター越しで見ていたプロフェッサー・ヌルと須狩(すかり)の間では

「第一波はやすやすと突破されてしまったのはしかたがないです」

「予想はしていましたが、霊力レベルAの除霊ができるGS事務所が協同ですからね」

「今回のGSの評価を改めて知らせてもらえますか」

「はい」


『小笠原エミ。小笠原GS事務所所長。
 呪術師としては世界でも3本指に入り、GSとしても霊体撃滅波と呼ばれる全方位への攻撃は類を見ないものです。今は美神令子に連敗してGS助手がいないようですが、新しいGS助手が入れば、また日本でもトップクラスのGSにかえりざくでしょう』

『横島忠夫。院雅所霊事務所分室室長。
 昨年の春のGS試験にトップ合格で、すでに正規のGSで霊力レベルAの上位を相手にできるほどなっています。一見女性に弱いように見えますが、どこか一線を引いている節があります』

『美神ひのめ。院雅所霊事務所分室所属。
 昨年の春のGS試験にベスト8入りで、唐巣GSより院雅所霊事務所へ移籍して、現在はGS見習い。GS試験の頃までは発火能力者だと思われていましたが、水に関する霊能力も扱えるようです』

『伊達雪之丞。院雅所霊事務所分室所属。
 最近までフリーでGSもどきのことをしていましたが、つい先日、院雅所霊事務所分室でGS助手になった魔装術の使い手です。昨年のGS試験は棄権したということですが、最近までは東南アジアを付近で除霊活動をしていて、ダテ・ザ・クラッシャーの異名をもっています』

『加賀美ユリ子。院雅所霊事務所所属。
 オールマイティな霊能力者だと思われていましたが、本日持参してきている武器として霊刀をもってきていることから、近接戦が得意なタイプかと思われます。現在、六道女学院から、次のGS試験にでるのではないかとの評価です』


「思ったよりも、南部ホールディングスから依頼されてきたGSの、質量ともにありますね」

「通常の軍隊相手でも、並のGS相手でも効果は絶大だったけど――日本でトップクラスのGSにはどこまで通用するか楽しみだわ」

「これは我々の切り札が、ためせるかもしれませんよ」

「そんなに警戒する相手ですか?」

「ええ。あの中には香港で魔界が、広がった時のメンバーが半分くらい入っています。油断はできません。しかも、南部ホールディングスが動いたということは、サンプルデータだけは集めさせてもらいましょう。それが終わったら、ここの施設は処分する必要がありますね」

「そうですか。もったいないですわ」

モガちゃん人形を相手に戦っている、横島たちを見ながら語り合っていた。



モガちゃん人形との対戦のあとにひのめちゃんが、

「先ほどのゾンビとの戦い後と同じく、後ろのドアが閉まっていてあきません」

「建物自体が妖怪とかの感じはしないワケ」

「困りましたね。一応ここの屋敷事態の除霊をまかされているんですがね」

「二部屋だけじゃ困るワケね? ある程度進んで、状況が変わらないようだったら朝まで待つワケ」

「それでOKっす」

本当はよくないけれど、明朝という南部ホールディングスからのタイムリミットがあるからな。
須狩(すかり)と、あのタコ魔族だと思われるプロフェッサー・ヌルも動かざるをえないだろう。

「それじゃ、次の部屋へ行くぜ!」

ドアを開けて雪之丞が突進しようとしたところまでは見えたが、急遽見えなくなった。
正確に言えば、落ちていくところを確認できたが、それ以降はどうなったかわからん。
前でもここにトラップはあったが、狙われたのは後方だったぞ。
さらに奥の部屋では動いていないマネキン人形が、待ち受けている。
ただし、霊圧を感じるから部屋の中に入るか、時間がたてばこいつらも動きだすだろう。

「須狩(すかり)やってくれるワケ」

「雪之丞だと相手が心配なんですけどね」

「そっちはマネキン人形を相手してから考えるワケ」

「フォーメーションは?」

「万が一分断されてもいいように2人一組だけど、前後を入れ替えるワケ」

確かに攻撃力ならユリ子ちゃんと俺なら俺の方が上だし、全体をみるならエミさんは後ろにいてもらう方が良いよな。

「了解。良いよねひのめちゃん、ユリ子ちゃん」

「「はい」」

マネキン人形は、着せ替えられた事件を経験しているので好きじゃないんだが、そうも言ってられない。
俺はサイキックソーサーを先行させてから、足元に注意しながらひのめちゃんと一緒に移動する。
ひのめちゃんとユリ子ちゃんは、札マシンガンのマガジンに水行の浄化札と院雅さんの結界札を交互につめたもので応戦している。
対人相手の装備だけど、人間は傷つけないタイプだから二人とも兵器で使っている。
エミさんもブーメランを一回投げて終わったところで、作戦会議を始める。

「やっぱり後ろのドアは閉まっています」

「雪之丞が無茶をしないでいてくれると、いいんですけどね」

雪之丞の魔装術なら通常のマシンガン程度なら問題ないからな。

「普通なら、ここでとどまっているのがベストなワケ」

裏を知っていてこういうふうにいうエミさんだが何か打開策はあるんだろうか。
雪之丞ならグーラー(食人鬼女)が相手でもかまわず戦うだろうしな。

「けれどここでとどまっていたら、相手が何をしでかすかわからないワケ。罠があったとしても食い破るワケ」

そうきましたか。さすがエミさん。

「そうですね。人工的なトラップがあったわけですから、須狩(すかり)さんが何かやっているのは確実ですね」

「横島さん。さんなんかつけないで須狩(すかり)でいいわよ」

ひのめちゃんが、ちょいとお怒りモードに入りかけているか。
だけど、もう俺の知識ってあてにならない可能性が高いんだよな。
そうするとあとは、でたとこ勝負になるな。

「そうだね、ひのめちゃん。1部屋行く毎に少し休憩をしながら行ってみますか? エミさん」

「相手の手に乗るようでシャクだけど、それしか選択肢は無いワケ」

「じゃあ、今のところつかれていないでしょうし、次の部屋に行ってみますか」

そうして次の部屋へ入っていくのは俺にひのめちゃん、エミさん、ユリ子ちゃんの順番で入っていくが特に霊圧も邪悪な波動も感じない。

「拍子抜けですね」

「うーん。意外とここが休憩用の部屋としてつくられているのかもな」

「じゃあ、つぎの部屋で」

「うーん。妙な霊圧があるから、今までの相手よりワンランクは、上だと思った方がいいかもしれないな」

今までのが、霊力レベルB相当ばかりだからな。
今度のは、霊力レベルAとはいいがたいが、霊力レベルBの上位はあるか?
そっとドアをあけて覗いてみると、オモチャの陸上兵器がならんでいて、霊力がそれぞれもっているのはわかる。
ここは、そろそろあれでいくか。

「となりの部屋は、見た目はオモチャの陸上兵器ですね。多分砲弾の威力は、通常の拳銃レベル以上はあるんじゃないですかね」

「軍事仕様ね。通常の戦闘向けじゃない私達じゃ、突破は難しいわね」

「そんなわけで、これっすよ」

「それって、物理攻撃を無効にする結界魔法円?」

「ええ、これは院雅さん特性の結界フィルムで、これを通して光で投影すれば相手の物理的力は無効にできます。あとはこちらの霊的防御力が相手の攻撃力を上回っていれば、問題ないのですがそこはこれでカバーします」

そうして俺は五角形のサイキックソーサーを5枚浮かべて見せる。

「それって、昨年春のGS試験決勝戦でみせていたもののワケ?」

「まあ、その通りです。映像をみていたんですか?」

「この業界ライバルは、上よりも下からくるワケ」

ちょっとテレ気味に話してくれるエミさんが、可愛らしく思える。

「ライバルだなんて思っていないですし、ピートと一緒に業界の先輩としてエミさんを尊敬していますよ」

「口だけは達者なワケ」

そうはいってもまんざらでもなさそうだ。
ピートの名前が効いているかな?

肝心のピートは今のところエミさんとつきあうのはのり気じゃなさそうだけど、こっちの世界では将来どうなるだろうな。


*****
中世ヨーロッパ偏をすっとばしたので、ここでプロフェッサー・ヌルがでてきます。
ちょっとばかり『ヒカルの碁』ネタがはいっていたりします。

2012.02.13:初出



[26632] リポート53 サバイバルの館編(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/06/12 19:49
先にサイキック五行陰陽陣を展開しておき、サイキック炎の狐に物理的な攻撃を無効にする魔法円を書いたフィルムと、それを下側へ投映するライトをのせてなるべく高く飛ぶようにする。
基本的な特性は、陰陽五行思想のうち陰陽の部分だけに特化した術で、俺自身やあるいは俺の仲間を陽として扱う。
それ以外は陰とし、この際に陽に入っていれば霊的守りとなるし、陰に入るものは霊力を低下させるという効果がある。
残念ながら俺の霊力を少ないが一定状態で照射しつづけなければいけないので、長時間おこない続けるのは困難なところだな。

「こういうタイプは頭を叩くのが良いワケ。さがして降参させるか、司令部ごとたたくワケ」

部屋の奥の方にオモチャサイズの机と椅子があって無線機らしきものがある。
あいつらがそうだろう。
オモチャサイズの陸上兵器といってもきちんと金属でつくられているだけあって、重量があり重たい。
女性の腕力では厳しいので、栄光の手でほいほいと横にずらしながら全員で突入していく。
素直に移動すればいいのに、司令部ごと移動しようと準備してたので、

「捕まえたワケ! 全員武器を捨てて投降するワケ!」

『自衛ジョー』の生き人形だが

「私にかまわず撃てーッ!!」

「部隊指令どの……!! 我々にはできませんっ!!」

なんて言って降参した。
人形は一箇所に集めてしばると見せかけて、ひのめちゃんに焼いてもらった。
途中で「ジュネーブ諸条約をまもれー」って言っていたが、お前ら人形たちは戦争のつもりかもしれないがこっちは民間GSだぞ。
エミさんの呪術用の衣装で、煩悩が多少は刺激されるので、思ったほどは霊力を消耗していない。

「次の部屋からも変な霊圧を感じるワケ。一点からでているから一体だと思うワケ」

「また、気をつけながらドアを覗いて見てみます」

「それが良いワケ」



横島さんがドアをさっと開けて中を覗くと、一瞬ビクッとした感じがしたあとに

「あ…う…ううう…!! きれいなねーちゃん!! あんなことやこんなことができる~」

とか言いながら入って行った。

「まずい、精神操作系の相手なワケ。私が先にはいるから、続いて加賀美は気をしっかり保って入るワケ」

「私は?」

「美神は可能だったら、遠距離から相手に攻撃をしかけてみるワケ」

「はい。さっそく」

小笠原さんがそのまま開いているドアに転がり込みながら入って、ユリ子が続いておなじように入る。
しかし、小笠原さんとは部屋の中では反対に向かっている。

私がドア越しに相手を視認しようとすると

「やられたワケ!」

「小笠原さん、どうなっているんですか?」

「横島がそこにいた魔族と一緒に地下へ落下したワケ! 一瞬しかみえなかったけど、あれはサキュバスだったワケ!」

「サキュバスって、女性タイプの淫魔ですか?」

「そう。あれを相手にするのは、男のGSじゃ無理なワケ!」

「ええーー! そんなーー! 横島さーん!」

そう叫んでいるとエミさんが指差していた付近の床から、ひょっこりと霊波刀がでてきて、穴をあけて横島さんがあがってきた。
小笠原さんがびっくりしたように、

「よくあのサキュバスから脱出できたワケ!」

「ああ。あれぐらいなら最初はともかく、数秒たったなら俺の煩悩の強化にしかならないっすよ」

ユリ子ちゃんと小笠原さんがズッこけかかっている。
私は、横島さんの煩悩ってどれくらい強いのかしら。
さっきは「あんなことやこんなことができる~」って言ってたのを想像しかけているところで、

「しかし、もったいなかったな。一人で除霊にきてたら、色々とためせたのに」

「何をためすかはきかないけれど、今は除霊中だと肝にめいじておくワケ。横島!」

小笠原さんの声を聞いて、私は除霊中だということを思い出した。



サキュバスにあんな中途半端なものをみせられたせいで、霊力がたまるって、俺って奴はもう。
雪之丞の方に、行ってなくてよかったな。
魔装術を発動する前にあたっていたら、雪之丞が危なかったかもしれない。
あいつのことだから変な波動とか感じたら、魔装術をすぐに発動するだろうけど。

しかし、サキュバスをこっちに用意したってことは戦力の分散を狙ったのだろうな。
もうひとつ気にかかるのは、この時点でグーラー(食人鬼女)より先に、霊力の強いサキュバスがでてきたということからグーラー(食人鬼女)は……

このまま相手の手のうちに乗るのはしゃくだから、別な方法で行くか。

「エミさん。この落とし穴から行ってみませんか?」

「ふーん。相手の作戦から外すのには良い手なワケ。だけど、地下が大丈夫というのは?」

「地下室みたいなところにすべり落ちましたが、特に危険はなかったですよ。その中でも特別変な霊圧も感じなかったっすね」

ここの話しもきかれているかもしれないので、すぐに行動へ移って、次々に落とし穴に中へ入っていく。
地下に全員そろったところでライトがふたたびともされて、まわりの状況がはっきりする。

「簡単な宿泊か、捕虜を閉じ込めておくみたいな感じですね」

「そうね。ここからまずはでましょう」

俺はドアあけようとするが、案の定ドアは開かない。
今の俺はさっきのサキュバスのおかげで霊力がたまっているので、御手付き霊波刀の霊波を赤の方向へずらし五行の火の性質をもたらせる。
これでドアを純粋な霊力と霊的熱による効果でドアを切るが、まだなれていないので霊力を使うからさけていたがこれで部屋からでる。
そこにはコンクリートがむき出しの通路があったが、霊的攻撃を受けた特有の壊れ方をしている部分が大量にある。

「雪之丞が派手に暴れているみたいですね」

「いそがないと、いきぎれするかも知れないワケ!」

「連続して2時間ぐらいならまでならあいつの場合は大丈夫ですよ」

「けれど、霊波の痕跡の感じから低級だけど魔族が相手なワケ!」

「それはたしかにまずいっすね。急ぎますね」

エミさんが霊波の痕跡を感じられるって、シロやタマモを思い出すな。
シロは人狼族の村で両眼があるまま父と一緒に暮らしているみたいだし、タマモは殺生石の中で眠っているみたいだけど。
朝までまだ時間があるので早歩きで進むと、雪之丞の攻撃の時の掛け声が聞こえてくる。
まだまだ疲れはたまっていなさそうだな。

雪之丞とその相手が見えてきたのは、少し広場みたいな感じになっているところだが、中央に大きな柱というか塔状の建物がある。
天井になっている屋敷でもささえているのだろう。

雪之丞の相手は、今時なのに西洋のヨロイを着込んでいる。
確か以前の世界で、中世ヨーロッパに時間移動したときに見たヨロイだな。
もっているのは剣ではなくて、通常の突撃銃だ。
あれなら銃弾に銀の銃弾が入っていても、雪之丞の魔装術で防げるだろう。
あの相手は、ザコソルジャーっと言っていたかな。
雪之丞にボカスカ殴られては、消えていっている。

こちらでは相手に人間も考えていたので、持ってきている札マシンガンの札の種類に火の系統はもってきていない。
あのタコ魔族は水系にあたるだろうから、その分身であるザコソルジャーも水系にあたるだろう。
今回の水系の札と結界札では少々弱いが、これぐらいの相手なら結界札だけで阻止できるだろう。
それに霊力に差がありすぎるから、火行の札をつめこんでも、あのタコ魔族にはきかないだろうしな。

「ひのめちゃん、ユリ子ちゃん、札マシンガンで雪之丞のサポートをしてくれ」

そうすると、ユリ子ちゃんが反応して、それからひのめちゃんが動き出す。
やっぱり反応速度やスピードはひのめちゃんの方が、一段ぐらいレベルが低いな。
ひのめちゃんとユリ子ちゃんは、札マシンガンで相手を固めていくと、仲間をひきずりながら相手は撤退していった。

これで雪之丞と再会できたわけだが、

「お前ら、てっきり上を通ると思っていたぜ」

「最初はそのつもりだったんだけどな」

「戦力の分散を狙ってきてたワケ」

「それで、こっちと合流する気になったのか」

「けれど、敵さんはこちらを休ませてくれないらしい」

塔の方からはゴーレム(魂を持つ石像)と、首長竜型のガーゴイル(動く怪物の石像)がゆっくりときている。
どちらか単体で順番にでてくるだけならなんとかなりそうだが、組まれている今は、まずいな。
ゴーレムは軍事仕様だったと聞いているから霊視してみるが、中は見えないというか変な感じに見える。
もしかすると……

「ユリ子ちゃん。威力をさげた霊波砲を、あのゴーレムとガーゴイルへ向かって、撃ってみてくれ!」

「ええ、いいですけど?」

首をかしげながらも、霊波砲を両手からそれぞれに撃っている。
ユリ子ちゃんも、オールマイティなタイプとはいえ器用だな。
けれども撃った霊波砲が、跳ね返されている。
あらかじめ用意しておいたサイキックソーサーで、こちらにもどってきた霊波砲は防いだが、霊的な攻撃に対する反射か。
まわりには相手を傷つけられるような岩が無いし、まずい相手だ。

「ここは一旦、元の入り口に撤退するワケ!」

さすが、エミさんの判断は早い。
皆はその言葉にしたがって、入り口にもどって作戦会議に入るが、

「あれって、表面が特殊な素材でできていて霊的な攻撃は跳ね戻すワケ! 横島、よく気がついたワケ」

「ええ、霊視をしたのですが、まともな霊視ができなくて、へんな具合にみえましたので、試しにユリ子ちゃんに、弱い霊波砲でたしかめてもらったんですよ」

「そうすると私達に攻撃手段は無いワケ」

「物理的攻撃はある程度効くと思うのですが、その物理的な攻撃手段が、まともな方法では無いっす」

「まともじゃなければ、ありそうな口ぶりなワケ」

うーん。あまりやりたくないんだけどな。
ヒャクメの言っていた地獄炉は無いというのが万が一、間違えていたらこころあたりが地獄炉で汚染されるからな。
まあ、それもジークにたのめば、なんとかなるかな?

そして俺はある作戦を出して、皆に意見を聞いてみる。
非常識な作戦なのは美神流だろうな。
あきれた顔でエミさんが、

「無茶な作戦なワケ」

「手持ちの札からはこれしか思いつかないんですけど。それとも尻尾をまいて朝まで隠れていますか?」

「それも気に入らないワケ」

「じゃあ、決行してもいいですね」

「横島、えげつないこと考えつくな」

「雪之丞と違って、魔装術みたいな全方位の防御ができないからな」

「そのかわり、空を飛べるくせに」

「空をとんでも攻撃の手段がない。だからといって雪之丞との訓練とおなじで、引き分けってわけにはいかないからな」

「わかっている」

えーと、うまくいってくれよと思いつつ、術の始動に入る。

「横島、まかせたぞ!」

そう残念そうに言う雪之丞に向かって、

「なんとかなるって」

そう言って、サイキック炎の狐で地下の空間の上空に上っていく。
ゴーレムは軍事仕様で銃やロケット砲がついていて、俺の方に向かって撃ってくる。
そのほとんどはさけたが、一部の銃弾はサイキックソーサーで逸らしている。
これが自動追尾式であるミサイルでなくてよかったー
ガーゴイルは射程距離外のようで、こちらの様子をみているだけのようだが、その2体の後ろにはザコソルジャーがひかえているのが見受けられた。
ザコソルジャーの中に1体だけ色がことなって、黒づくめなのがいるから、あれがこの隊の隊長格なのだろう。

「さて作戦通りにいきますか」

俺はゴーレムの真上の天井に貼り付き、地竜である里目を天井の岩盤にもぐらせる。
そうして少し離れたところでは、あれはサイキック五行黄竜陣で土行に関する術を始動する。
ゴーレムが考えているのか、それを命令しているものが考えているのか攻撃はこない。
まあ、攻撃してきたらこの天井がくずれてゴーレムもガーゴイルもうまるもんな。

相手の行動を制限しつつ、こちらの能力を最大限に生かす。
世間でも言われることだが、それを実戦すると汚いとかいわれてしまう。
実際におこなってしまうのが、美神流の初歩なんだけどな。

何をおこなっているかというと、天井の岩盤を崩して落とすことを狙っている。
うまくおこなわないと、かなりの量の土砂が崩れ落ちてくることになるので、範囲をある程度以下にしぼらなければいけない。
ゴーレムとガーゴイルを確実に傷つけられるし、うまくいけば戦わずにうまりっぱなしになってくれるというのが今回の作戦だ。
屋敷が家事になるのは消防車がよばれるのでまずいが、地面の陥没ならもみ消しもきくだろう。

んで、実際にサイキック五行黄竜陣で、天井崩落をさせる。
当然のことながら俺はそこから離れているが、予想していたより落ちる岩盤の量が多い。

にげないとまずい。
崩れる岩盤にまきこまれた。



だが、それも一瞬のことで、なんとか落下物の範囲からのがれられる。
これも天井付近にいたおかげで、衝突時の落下開始で速度が無かったからだな。
それで、下の方をみるとまだ土砂の煙がたっているが、当初思っていたよりも落下物が多いせいでザコソルジャーも何割か被害にあっているようだ。

幸いなことに、塔にはほとんど影響が無さそうだ。
最悪は塔に影響があって、倒れることも考えられたが、そこまではいかなかったようだ。
万が一でも塔の中に地獄炉があったら、地獄炉の破損は、地獄の汚染が広まるからな。

俺はその状況を確認しながら、皆がいるこの地下空間の入り口に戻り、

「ゴーレムとガーゴイルはみての通りうまったけれども、その後ろにさっきまでのヨロイをきた下級魔族らしきのがいる。霊視した感じでは、そいつらの2割ぐらいは被害をうけているようだ」

「そこまで減っていてくれたら俺の出番だな」

「あとのことを考えたら雪之丞は控えているのがいいワケ」

「そりゃあ、ねえぜ。小笠原の旦那」

「ここであのレベルの相手がでてくるってことは、この奥にどんな大物がでてくるかわからないワケ」

「どうするんだい」

「札マシンガンで充分なワケ」

そうだろうな。
相手の物理的攻撃はライト式の魔方円で防げるし、他の攻撃も魔力はほとんどこもっていないようだからサイキック五行陰陽陣で防御が可能だからな。
それに相手の切り札であろう中級魔族クラスのガルーダと近距離で互角に戦えるのは雪之丞だけだし、ここでへばられると困る。


もっともこの知識も間違えていたのだが、それはこの時点でえている情報が少ないというのもあった。


*****
横島 vs サキュバスの横島の思考をまともに書くとR-15どころかR-18指定が必要になりそうなので避けました。
しかし、ユリ子ちゃんの影が薄いこと。

2012.02.16:初出



[26632] リポート54 サバイバルの館編(その4)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/06/13 22:21
雪之丞が不満げなのはわかるが、ここはひのめちゃんとユリ子ちゃんに、ザコは任せることにする。
もっとも相手に近寄ればエミさんのブーメランや、俺のサイキックソーサーの乱舞もお見舞いさせられるので、動けるザコソルジャーはどんどん少なくなっている。
しかし、隊長格の黒いヨロイの魔族は、この札マシンガンでは無理で単騎で突入してきて名乗りをあげた。

「この『暗黒騎士団』の隊長であるこの私……ゲソバルスキー男爵である。一騎打ちを望む」

こいつなら今の俺でも充分と思い出ようとしたら、エミさんに手でさえぎられて、

「雪之丞行くワケ!」

「まっていたぜ」

今のザコ相手に雪之丞は何もしていなかったから、そのウップンをためないようにしているのか。
やはりある程度以上のメンバーがいる場合は、全体指揮をするのって、俺よりもエミさんとか他の人間が向いているんだな。
ゲソバルスキー男爵って昔の俺の護手付き霊波刀でたおせたから、今の俺ならサイキック双頭剣でもいけそうだが、単純な霊波刀の方が安全だろう。
一方雪之丞は、

「俺が相手をする伊達雪之丞だ」

「この時代に一騎打ちにつきあっていただき、誠に感謝する」

ほお。こいつ時代錯誤していないんだな。
このゲソバルスキー男爵は、マシンガンは放棄して剣をもっている。
さっきからマシンガンが通じていなかったから、何か作戦があるのかもしれないが、こいつ自体には、特に特殊能力をもっていたわけでなかったはずだよな。

雪之丞とゲソバルスキー男爵が距離をとって対峙する。
相手側にはザコソルジャーも何柱かいるようだが、やはり手出しをする気はなさそうだ。
事前の打ち合わせは無かったがGS試験を思い出し俺は、

「初め!」

と対決開始の声をだしていた。
これをきっかけに雪之丞がゲソバルスキー男爵に向かって、正面から殴りつけに行くが、ゲソバルスキー男爵がわずかに方足をずらすのと身体のひねりでかわす。
さらに同時に無駄だと思われる剣で、雪之丞に斬りつける。
こちら側ではあの程度の剣では雪之丞の魔装術は切れないと思っていたが、その魔装術に切り込みを入れてさらに肉体にまで届いたようで剣には血がついている。
雪之丞の方は斬られたところは、すぐに修復をしたので傷がどれくらいのものなのかは不明だが、

「面白ぇ。この魔装術を斬る事のできる相手がいるとは」

「その方の魔装術、見事なり。しかし我にも対抗できる武器をもっておる。おしむらくはこの剣のみであるが」

魔装術に対抗できる武器がそれ一つだなんて言わなくてもいいだろうが、これはゲソバルスキー男爵が使える武器の中でと解釈した方がよさそうだな。
そして雪之丞がスピードにのって攻撃をしかける、とみせて直前で方向を変える。
その行動と方向を読んでいたのであろう、ゲソバルスキー男爵が剣を振り下ろすが、雪之丞もバックステップでかわす。
なにか雪之場らしくない戦い方だな。
それとも、あの剣がそこまで深い傷をおわせたのだろうか。
だとすると雪之丞があそこまで警戒するのはわかるが、とっとと治療しないとまずいかもしれない。
あいかわらず両者の攻撃は互いにヒットしないが、ここで雪之丞が霊波砲でも撃てば良いのだろうが、今の魔装術にこだわっているからそういうことはしないだろう。

「雪之丞。剣の間合いの周辺を高速移動して、それで隙をみつていけ!」

「アドバイスなんていらん!! っと言いたいところだが、俺もふっきれたぜ」

そうしてまたしても突っ込んでいったが、今度はゲソバルスキー男爵の予測をこえていたのだろう。
方向も変えずにそのまま相手のふところまで入り、そのまま右手でボディを殴りつけた。

「最後の最後で、真っ向勝負とは私がその方をなめていたようだ。私の負けだ。最後にこのような戦いができて満足した」

そう言って消えていった。

「……」

雪之丞はだまってしばらく相手をみていたが、ぽつりと「あばよ」と言いつつ、こちらに戻りながら魔装術を解くと、左肩が数センチばかり切れて出血をしている。
致命傷とまでは思えないが、結構な量の血液が流れているようだ。
まずは血止めが必要だろう。

「ひのめちゃんとユリ子ちゃんで、雪之丞にヒーリングをしてくれ」

「これくらいの傷、なめておけば治る」

「そういうわけにもいかないワケ。ここがモンスターや魔族の研究をおこなっているのなら、今のレベル以上の相手がくると思うのが良いワケ」

ゲソバルスキー男爵って人造魔族じゃないんだが、エミさんがほぼこちらの思い描いている状況を予想してくれている。
雪之丞もその言葉にすんなりとヒーリングを受け出した。

そのやりとりのあいだに相手側のザコソルジャーはというと、次々と姿を消していく。
このザコソルジャーって、魔力をゲソバルスキー男爵経由で維持されていたのか?

雪之丞の方は、ひのめちゃんの水系ヒーリングで表面は完全だが、内部の傷まで完治してはいない。しかし、こちらもあちらもあまり時間はかけていられない。
ここでひきかえすと、研究していたという証拠をまだおさえていない以上、ここで一晩生き延びることができたということにしかならない。
目標は南部ホールディングスが動きやすいように、あくまでここが研究施設であることの証拠は、にぎっておく必要がある。

塔の中に入り、中を見渡すと、

「これは……人造モンスター研究の跡地みたいね」

ひろがっていたのは元人造工場だったのではないかと思われる施設と、人造モンスターが壊れているところだった。

「エミさん、まずいですよ。奴らはここの施設ごと爆破するかもしれません」

「その心配はいらないワケ。それだったらここはそのままにしてこの施設を爆破する方が効率は良いワケ」

「……そうですね」

「察しがいいですね」

突然研究服姿の頭がはげた西洋人が現れる。
ただ、そのサイズは通常の2倍ほどで霊波も特に感じない。

「立体映像のようですね」

「私はプロフェッサー・ヌル。一目でわかってしまうとは、なかなかのものですね」

「似たような物は見たことがあるからな」

「そうでしたか。よろしいでしょう。あとは上までまっすぐきていただけるなら、最後の相手が待っています」

「そんないかにも罠がはっているところなんかに、のこのこと行く気は無いぞ」

「別に罠というわけではありませんが、今は次々と研究資料を運ばせてもらっています。あなたたちにとって、証拠は多い方が良いのではないですか?」

「軍事兵器を相手にまともにやる気はないね」

「先ほどまでは、その軍事兵器の無効化の魔法円を使用していたじゃないですかね。それはともかく、今度はそういうのはついていませんので、霊能力で純粋に相手がつとまりますよ。来ていただけないならば、その者達をそこの階に降りていってもらうだけですがね」

俺はエミさんに目線を向けると、

「上にあがるからしばらく待っているワケ」

「それではお待ちしていますよ」

そうやってヌルの映像は消えたが、念のために脱出路だけは探ったが、入り口のドアは固く閉ざされている。
一応ここでひきあげても目標は達成できたはずだから、問題はないが資料を全部持っていかれるのも問題なのは確かだ。
それであらためてここの撮影をしているひのめちゃんとユリ子ちゃんの方を見ると、以前見かけたものとそっくりなものがある。
おキヌちゃんを霊的ミサイルの発射台にしようとしていた、丸い球体に柱がついたものだが、これも壊されているので知らない人間にはわからないだろう。
もしや、氷室神社の道士の映像がこわれたのは、ヌルがあそこに忍び込んでその技術を盗んだせいか?
地脈エネルギーをこちらの人造モンスターなどの兵器作成のエネルギー源にしていたのなら、あのアイデアをもとに効率化をしているのだろう。
通りで、おキヌちゃんを助けてから死津喪比女が登場するまで短かったわけだ。

「これ以上の証拠はいらないワケ。各自準備が整ったら上へ行くワケ」

俺はヌルが言っていた、“者達”という言葉が気にかかる。
ガルーダだけじゃないのか?

この塔をのぼりつつさっきからヌルが言っていた*者達*というのが、何か霊感にひっかかるような気がする。
まさかヌル自身が戦うのだろうか?
中世のころに比べて冥界チャネルが少なくなっている現在では、ヌルの能力はさらに低下しているだろう。
地獄炉もなさそうだし、別な相手と考えるべきか。
そうして上がっていき、まっていたのは1注のガルーダと、1鬼は見たことも無い吸血鬼だった。
その吸血鬼だが、確かに人型で2本の角が生えていたりこうもり型の羽が生えていたり吸血鬼というよりはまるで魔族だが、霊波が吸血鬼だと感じさせる。
さすがにガルーダほどの力は感じないが、吸血鬼とはやっかいな相手だ。
葫(ニンニク)が欲しいところだが、あいにくと持ってきていない。

「どうですかね。そこにいるのは人造魔族と人造吸血鬼です」

横の壁には、シャッターでとじれるタイプの防弾・防霊ガラスがあり、その奥にいるはげた頭の西洋人に化けたヌルと須狩(すかり)がこちらを見ている。

「ガルーダはわかるが、そっちの吸血鬼は姿だけの、こけおどしじゃないのか?」

「ガルーダにはおどろかないのですね。正体もわからずに殺されるのは、本望では無いでしょう。吸血鬼の方は史上最悪の吸血鬼と呼ばれたノスフェラトゥですよ」

ノスフェラトゥ? 覚えが無いな。エミさんなら知っているか?

「エミさん。ノスフェラトゥって知っていますか?」

「ええ。15,6世紀までにあばれていた、血を吸った相手をゾンビ化させる最悪の吸血鬼なワケ」

「吸血鬼といえばピートの父親がそうですけど、どうするといいですか?」

「ピートの父というとブラドー伯爵なワケ。こっちに比べるとブラドー伯爵がかわいく見えるワケ」

「吸血鬼ならニンニクがあれば一発なのにな」

「本物のノスフェラトゥならニンニクも効かないワケ」

吸血鬼の最大の弱点が無いじゃないか。
他の弱点にしろ、この中で十字架を信じているのはいないし、流水も無いしどう相手しようか。

「とりあえず、前衛としてガルーダには雪之丞、ノスフェラトゥには俺が行きますので、後ろで対策を考えていてください」

「そんなにあわてなくても、いきなりは襲わせないから大丈夫ですよ。折角最後のサンプルデータになるから、じっくり時間をかけて対策をたててください」

サンプル扱いか。
人間の言葉なら裏をかいてくる可能性はあるが、ヌルは魔族だからこういう言葉は契約として信じてよいだろう。

「ノスフェラトゥの他の情報はありませんか?」

「残念ながら15,6世紀頃に行方不明になってから活動していた記録が無いワケ」

「そうですか。ガルーダならバリ・ヒンズーの魔鳥で中級クラスの魔族に相当で、反射神経がするどく、なかなか間合いに入らせてくれないはずっす」

この話しも聞かれているだろうからな。
どうも感覚的にはヌルが楽しげにこちらの会話を聞いているようだ。

「それで作戦ですが、さっきと違ってガルーダには雪之丞で、ノスフェラトゥには前衛にユリ子ちゃんで、ひのめちゃんが後衛をしてほしい。それにエミさんは指揮に、可能なら霊体貫通波で支援してもらえますか?」

「横島はどうするんだ?」

「ここで作戦を聞かれているので内緒だ。だがなんとかできる自信はあるから信じてくれ」

「あとが無いワケ」

「お前が言ってたので、できなかったことは無かったよな! 横島」

「やってみます。横島さん」

「ああ、防御に徹していつもの加賀美円明流の動きをしていれば、そうそう遅れはとらないから大丈夫だよ」

「ええ。ひのめちゃん、フォローよろしくね」

「……」

「ひのめちゃん?」

「……なんで横島さんは肝心なところになると、一人で動こうとするんですか?」

「いや、今は相談しても相手に全部つつぬけだから」

「後で、しっかりきかせてくださいね」

「ああ、わかったよ。ひのめちゃん」

「私はユリ子ちゃんの後衛、フォローにまわります」

うーん。そろそろひのめちゃんには俺のことを教えた方が良い時期にきているのかな。
それはさておき、

「こんなんですけど、いいですかエミさん」

「4人と思って戦うのならそれが妥当なワケ。何を考えているかわからないけれど、しくじるんじゃないワケ」

「それじゃ、準備をしますか」

そう言って俺は相手より先手をとり、防弾・防霊ガラスを護手付き霊波刀で突き破って入っていった。

「いきなり何を」

「せめてシャッターをおろしておくべきだったな」

俺はヌルの背後ににつき、首筋に護手付き霊波刀をつきつけながら、左腕に霊波をまとわせヌルのチャクラの場所を探る。
首が分身であとの身体はつくりものだ。

「ちっ、偽者か」

「偽者とはひどいですね。それにそこの防弾・防霊ガラスをいきなりつきやぶってくるというのは、人間としてそーゆー入り方をしていいと思ってるのか…?」

「何言っているんだよ。魔族のくせに。どうせそっちの須狩(すかり)さんにも、正体を隠していたんだろう」

「実験データはあきらめましょう。ガルーダ、ノスフェラトゥ……」

最後まで言わさずにヌルの分身を退治したが、ガルーダとノスフェラトゥが動きだしている。
魔族のヌルの分身が死滅したら、自動で敵を排除させるようにしているのか?


「須狩(すかり)さん、ガルーダとノスフェラトゥをとめることはできないかい?」

「残念ね。あれはプロフェッサー・ヌルの命令にのみ反応するようなっていたから、手の出しようが無いわ」

「じゃあ、これからの戦闘を記録するのはとめてくれ。でなければ、ここの機械を全て破壊する」

「今となってはどっちでもかまわないけど、どうかしら」

「記録しないことに協力すれば、単に魔族にだまされていたで済むかもしれないが、このままなら未来は確実に暗いぞ」

「わかったわ。これからの記録とめればいいのね」

「ああ、それで戦いが終わるまで戦っているところは、見ないでいてくれると助かるけどな」

「それも協力事項ね」

「ああ」

そうして、俺はノスフェラトゥ側に参戦する。

「ユリ子ちゃんまたせた。後ろにさがって援護してくれ」

「はい」

ユリ子ちゃんは素直にさがったが、すでに息切れをおこしている。
たしかにまともに戦うと、とんでもない力だ。
それに離れていると、縮地まがいの高速移動をしてくる。
その合間をみて、さらに霊波を噴出してきたりしてなかなかやっかいだ。
これを相手にしていたユリ子ちゃんも、加賀美円明流独特の動きでまどわすことができたからだろう。
ノスフェラトゥは実際やっかいだが、何回か護手付き霊波刀で斬りつけていると、近接戦ではあまり速度はだせないのと攻撃にパターンがあるのが読めてきた。
人造吸血鬼ゆえの弱点かもしれないが、そこをつかさせてもらう。

おれはノスフェラトゥの攻撃パターンを読み、自分の間合いに入りやすいパターンで、護手付き霊波刀を突き刺していた。
吸血鬼のもうひとつの弱点である心臓を、突き刺したが相手は動きを止めない。
俺は護手付き霊波刀から栄光の手にそのまま形状変化をさせて、身体のなかに栄光の手をいれたまま一旦後退する。
その間にチャクラを探るが、通常の吸血鬼はチャクラが心臓にかたまっているはずに対して、こいつの場合はチャクラの配置が少し違うようだ。
今栄光の手がささっているところにチャクラはあったと思われるが、俺がつきさしたところよりももう少し左側、右胸とそことの間の少し下にも弱いチャクラがある。

決して倒せないというほど強いとは思えなかったが、こういうチャクラの構造なら一般的な吸血鬼の退治方法ではうまくいかなかったんだな。
栄光の手を再び護手付き霊波刀にして、まずはもうひとつの大きなチャクラにめがけて横に斬りつける。
弱いチャクラがのこっているからまだ再生しようとしているが、今なら動きもとまっているので残りのチャクラも容易につらぬいて灰化した。
灰化したということはこのままならまだ再生する可能性があるのだが、今はそれよりもガルーダだ。


ガルーダとは雪之丞がかろうじて戦かっていて、エミさんの霊体貫通波で行動を制限しているが、最前線は俺でも無理だな。
ひのめちゃんもすでにそちらの援護にまわっているが、発火や聖水では能力が低すぎる。
ユリ子ちゃんも一度札マシンガンをためしたが、あまりのきかなさっぷりにあきらめて霊波砲にきりかえたようだ。

俺はその合間にサイキック五行を使いたいが、このクラスの魔族になると効かないどころか俺が振り回されることになるからな。
俺は須狩(すかり)の方を見て、こちらを見ていないのを確認して、文珠にある文字を入れる。
とたんに霊力が身体にみちあふれてくる。

さて、こっちの世界にきて初めて試す文珠の文字だ。
一丁やりますか。

「雪之丞、フォローに入る」

そう言って雪之丞の横に立つと雪之丞が、

「霊力がやたらと高いぞ。横島」

「ああ、例の能力をつかっている。あまり長時間つかえないから短時間で行くぞ」

文珠に入れた文字は『借』用だ。
これで相手の能力や霊力をおなじレベルまで借りることはできる。
その上、俺自身の能力も使えるので、なれた戦い方が可能だ。
過去に使った文珠の『模』倣するという意味では、ダメージも同じく喰らうので、それを避けるための苦肉の策だが、相手が集団であるほど使い勝手は良い。
何せ攻撃力の強い相手の力を『借』用すれば、相手の防御力をらくらくとっぱできるからな。
ただし、相手の能力等を借りているので、本格的に相手の能力を使いこなせるまでにはいたっていない。
なので、比較的霊力の上乗せをするためにつかっている。

俺はガルーダの足止めを中心にして、雪之丞が殴りつけていく。
徐々にガルーダの力が弱っていくのが俺にはよくわかる。
ころあいをみて、俺がチャクラに護手付き霊波刀を突き刺すと、動かなくなり消え去っていった。
当然のことながら俺の霊力の高まりも消えていったが、

「今の状況を説明するワケ」

「禁則事項なので話せません」

「禁則事項って何なワケ?」

「エミさん。禁則事項はどうでも良いけれど、知っているGS同士でも霊能力を全てあかしているわけじゃないでしょう。そのあたりことは、トップクラスのエミさんならわかってくれますよね?」

「おだてても何もでないワケ。けれど、そういうことなら仕方がないワケ。そんなんだからあの院雅の下でやっていけるワケ。横島」

「エミさん、院雅さんの何かを知っているんですか?」

「それこそ、本人の口から聞くのが良いワケ」

うーん。本人はしゃべりたがらないし、多少しらべた程度じゃよくわからなかったし、ヒャクメも興味で覗いたらしいが遠距離からではわからなかったらしいからな。
まともにヒャクメの話を信用すればだけど、態度がおかしかったんだよな。
院雅さんね。信用はできるとは思うんだけど、まわりが何か知っているんだろうか?

それと、ひのめちゃんは俺が秘密にしたがっていることを、露骨に知りたがり始めている。
こっちもなんとかしないと、ヌルの裏にいる相手に対抗するのが困難だろう。
文珠の『借』だけではアシュタロス並の相手では無理があるからな。

ノスフェラトゥは復活すると面倒そうだから、灰の半分近くはこの地下に流れている地下水脈に流して、残りの半分は適当なところで海に流すことにでもした。
ただし、以前と違ってノスフェラトゥやガルーダが、大量生産される可能性が残っているというのは頭の痛いところだな。


こうして、ここの施設は朝迎えに来た蛇髪ことメドーサに知らせて、俺達はヘリコプターで帰ることになった。
南部ホールディングスの屋上についたが、俺にはメドーサがもらした一言を聞き逃していた。
それを聞き逃さなければもう少し先に起こる事件で対策に手をうてたかもしれないのに。


*****
ザコソルジャーがゲソバルスキー男爵経由でこの世界でいられるのは独自設定です。
ついでに死津喪比女偏の伏線も回収です。
ノスフェラトゥはGS美神の映画版からの登場です。
しかし、院雅良子の秘密っていつあかせるかな。

2012.02.19:初出



[26632] リポート55 力を溜める日々
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2012/05/27 19:58
南部ホールディングスの時、危険な除霊中だというのに、はっきりとしめしたひのめちゃんの不満。
改めて考えると俺が秘密にしている過去のことと、好意をむけていることに対して、はっきりとこたえていないことの2つなんだろう。
好意を向けられていることに対しては、精神的には俺ってバツ一になるからな。
今は精神が肉体にひっぱられているから、はっきりとつきあうとなったら、俺は歯止めがきかなくなる危険性がある。
なにせ以前そういう状況になったときには、一時的に煩悩による霊力生成がさがったからな。

ひのめちゃんの好意を受けつつ歯止めをかけるとしたら、俺の過去を『伝』えればいいのだろう。
アシュタロスがひのめちゃんの魂の中のエネルギー結晶を狙っていないのは、この前の会話と現状からは確実だろうしな。
しかし、アシュタロスが何を考えているかまでは、さすがにわからないが。

俺の過去を『伝』えて離れていくなら、それも運命か。
今なら文珠にいれる文字は『同』『期』でなくても『合』『体』で、ある程度の霊力に差があっても同期合体ができることはわかっているしな。
そうなれば、候補としてユリ子ちゃんか、さけられるならさけたいが雪之丞もいる。
あとはタイガーがいないエミさんと協同除霊を多くしていくのも手だな。

日曜日はひのめちゃんの帰り際に、

「正規のGSになったら、俺のことを『伝』えるから、それまでがまんしてくれるかな?」

「えっ? 私が期待しているのはそういうことじゃなくて……」

「平安時代のことだろう? それもからんでくるから俺のことを『伝』えたあとに答えるよ」

「……はい。わかりました。がんばりますね。横島さん」

そう言って楽しそうに帰っていったが、その時がきたらどうなるだろうな。
南部グループの件は、GS協会に報告しないので1週間ほど正規のGS免許取得が遅くなる。
ひのめちゃんの除霊をおこなってもらうのは、霊力が低くても回数をこなすのを多くすることにした。
これなら高校1年生のうちに、名目上は正規のGS免許がとれるだろう。
あとは実際にこの事務所でGSとなるか、他のGS事務所に移るかはわからないが。



おキヌちゃんは、滑り止めとして受けている、俺が通っている学校の入試には受かっている。
少しばかり時期がずれている六道女学院の入試は2日後だ。

問題は愛子なんだよな。
おキヌちゃんの家庭教師でもと思ったのだけど、美人の女子大生がおキヌちゃんの家庭教師をしているのと、あと1年はそれを続けるらしい。
しばらく遊ぶお金はあるらしいから、愛子自身に不満は無いみたいだな。
しかし、俺自身がずっとみてやることもできないし、やっぱりどこかでバイトとか探せるようにしてやらないとな。



今日は六道女学院の合格発表日。
学校にいるがPHSにおキヌちゃんからの連絡がこない。
落ちて連絡をしづらいんだろうか?
早めに自宅にもどって、すぐ上の階のおキヌちゃんの玄関でインターホンを鳴らすと、

「どちらさまですか?」

「横島だけど、おキヌちゃん。俺の通っている高校にくることになったのかい?」

落ちたかとは聞きづらいもんな。

「いえ、六道女学院の霊能科に無事受かりました!」

「おめでとう。そしたら連絡をひとついれてほしかったな」

「あっ! ちょっとですね……」

「横島さんに驚いてもらおうと思って準備してたんですって」

「その声はひのめちゃん?」

「そうですよ。ユリ子ちゃんもきています。あとで呼びますから自宅にもどってくださいね」

「うん。わかったよ」

何をするかはわからないが、合格祝いの一種なんだろう。
しかし、なんで俺に驚いてもらうためなんだろうか?

呼ばれて行ってみたら確かに驚かされた。
なんせ冥子ちゃんがいる。

「なぜに冥子ちゃんがここに?」

「おキヌちゃんが~、入学するって聞いから~」

あい、そうですか。冥子ちゃんらしいというか。

「マリアはともかく、なんでカオスのおっさんがいる?」

「失礼な奴じゃな! わしはマリアがいないときちんと動けないんだ!」

「いばって言うことでも無いだろう」

「それにマリアが来たがるので、わざわざ六道GS事務所から代表してきたのだぞ」

うーん。こうやってみると、院雅除霊事務所のメンバーというよりは、六道家ゆかりの関係者が多いな。
たしかに若干は驚かされる。

「それでですね。今日は手巻き寿司パーティなんです」

「へー。確かに人数が居るときはいいね」

けれど、冥子ちゃんは大丈夫かいな。
俺が難しい顔をしてたのに気がついたのか、

「冥子さんも初めて手巻き寿司を食べるから、楽しみなんだそうです」

まあ、冥子ちゃんはれっきとしたお嬢様だから、こんな庶民的なパーティなんて出たことはないだろうな。

「院雅除霊事務所分室所長である横島さんから、おキヌちゃんにひとことどうぞ」

そういうのは根回ししとけよ。

「えーと、ありきたりだけど、入学おめでとう。これから六道女学院での新しい友達とも会うと思うけれど、おキヌちゃんの新しい絆としていってほしいかな。こんな感じでどうだろう」

「横島さん。ありがとうございます」

「なんかしまらない……」

っというひのめちゃんの声は無視して

「入学祝いで乾杯っというのもおかしいけれど良いパーティにしよう」

「はーい」

それで、ジュースとワイン……あるのはいいが

「ひのめちゃん、今日は平日なんだからワインは飲まないことな!」

「今日はここにとまって通学するつもりで、準備してきているから大丈夫です」

「いや、仮にも六道女学院関係者がきているんだぞ?」

「横島くん。それってわたしのこと~? ワインを飲んじゃいけないの~?」

ここにも世間の常識からはずれている、お嬢様がいることに忘れていた。
冥子ちゃんが酔って十二神将を暴走させたというのは、聞いたことがないから大丈夫だろう。

「いえ、関係者が気にしないんだったらいいです」

そうして無事に入学祝いのパーティはすすんだ。



神魔族出張所には土曜日のうちに、ヒャクメとジークへ南部ホールディングスのことをあらためて伝えるというか、勝手に記憶を除かれたけどな。
南部ホールディングスの南部重工業のプロフェッサー・ヌルが魔族であることが確定したが、どの魔族と特定できる証拠は残していない。
ただし俺の記憶と作られた人造モンスターから、中世に現れたタコ魔族だというところから、そっちの線で魔界の調査をしているそうだ。
あとは魔族でも力技で対応できるのは、雪之丞があいかわらず世界中をとびまわることになりそうだ。
ジークの方は、雪之丞が単独で難しいものが相手のための相手をさがして、都度俺が交渉にでかけることになる。
頼む順番の多さではエミさん、唐巣神父、令子の予定だったりする。
しかしエミさんは、しばらく妙神山へ修業するからいつ帰ってくるかわからないんだよな。
それに問題は唐巣神父がきっとお金を中々受け取らないだろうと思うと、その交渉に疲れそうなくらいだ。

まあ、それはそれとして八洋や火多流と、その時に話せるというのもひとつの楽しみだったりする。
ベスパやルシオラの魂をひきついでいるのだろうが、さっぱりわからん。
たまにはなすことのある蝶子はパピリオだと思うのだが、この3人がそれぞれ同じ時期か、異なる時期からきたのかさえもわからんしな。

火多流といえば、正規のGS免許を取得したそうだ。
今の令子はきちんと火多流に教えているというか、火多流が勉強をしていてそれで不明なところがあると、教えてもらっているというスタイルだそうだ。
俺の場合は、簡単な除霊の入門書みたいなものも読まなかったからな。
俺との待遇の大きな差は、平気で学校を休ませるようなことをしないのが大きな違いだろうな。



俺の平日は身体をつくる方で、旧加賀美円明流道場でユリ子ちゃんのおじいさんと訓練をつけさせてもらっている。
たしかユリ子ちゃんを鍛えるのが目的だったのだけど、なぜか俺の訓練にかわっている。
このじいさんの独特の歩法が、次から次へと眼の死角だけでなくて、霊感的に死角とかさなったところに入ってくるのがやっかいだ。
ヒャクメに見学してもらうと人型の妖怪相手ならば、同様の技が通じるようだ。
ユリ子ちゃんとも訓練はするけれど、このじいさんとの訓練の方が長くなるんだよな。
まあ、百合子ちゃんとおじいさんは毎朝別に訓練しているみたいだから、それはそれでいいんだろうけど。



南部ホールディングスからも、約束通りに除霊の紹介がくるようになっている。
主に金曜日の夕方から日曜日いっぱいで受けているから、紹介数は少ないといいたいが、霊力レベルは高いのが多い。
たまに、雪之丞を呼び戻したくなるようなのはあるが、こういうのは次の事務所に行くようにしてもらっている。
こういう大手のところは、実力の範囲内でおこなっておかないといけないからな。
南部ホールディングスの除霊の紹介でその依頼を受けることを、数量としては全体の3割程度におさえていくことにしておく。
1ヶ所の依頼に頼りすぎると、前の俺の独立みたいに失敗するからな。
しかし、これなら思ったよりも早く、ひのめちゃんに俺の過去を伝えることになりそうだな。



メドーサがきたときには、思いっきりそのチチにめがけてとびついてもんでやったぞ。
そのあとおもいっきり、たたきのめされたがそれなりに満足だ。
メドーサのセッカンのあと、ひょっこりとよみがえった俺は、

「ベルゼブルは、今日ついていないのか?」

「あのハエ野郎なら、蛇髪として人間として働いているときにしか見られていないさ。どんな結界でも自由にすりぬけられるとおもって、無限の迷宮の中で惑わされているのに、気がついていないんだからね」

まだ他にも、特殊空間的な術をメドーサってもっているのか。
油断はできないな。
それはともかく、

「ヌルの親玉は誰になるんだ?」

「それは教えられないね」

「残念」

あとはメドーサと院雅さんとで、たわいもないことを話していた。



3月20日の金曜日で、今日は正式なGS免許をもらえると聞いている。
それは横島さんから、文珠で神族・魔族にも口止めされていることを『伝』えられるということなんだけど……
単純に横島さんと付き合いたいだけだったのに、なんでそんな大げさなことになったのだろう。
けれど、こんな大事なことお母さんにも聞けないしなー


そんなひのめに、

「どうしたの真剣な顔をして、今日の除霊は厳しそうなの?」

「ううん。そんなことはないの。ただ、正式なGS免許をもらえるから、今後の方針とかを今日話すことになっているのでそれがちょっとばかり不安なだけ」

「そう。それならいいのだけど……」

美智恵の勘は何かが違うと言っているが、そこまで深くはわからない。
場合によっては、横島と分かれて娘の死の始まりにつながる未来へとつながる可能性があるとまでは、気がついていなかった。



今日は終業式で普段より早く学校あがれる。
なので神魔族出張所でヌルの背後関係をあらってもらっているのを、あらためて聞きに行くが結果はいまだでてこない。
ヌルとなると魔族の分野だが、ジークによれば現在一番怪しいルシファーの部下を探すのを、ルシファーに隠れて探すのが難しいとのことだ。
あとはデミアンだが、ここのところ姿を消しているらしい。
魔族の殺し屋として活動しているらしいが、普段は魔界で姿は表すこともあるので、珍しいといったところだ。
ルシファーが本当の裏であるにしろ、そうでないにしろ何らかの動きはあるということなのだろう。

そのあとはいつもの金曜日よりは早く院雅除霊事務所に集まる。
雪之丞はまた国外にでかけているので、この場にいるのは院雅さん、ひのめちゃん、ユリ子ちゃんにおキヌちゃんと俺だ。
院雅さんからは、

「さあ、横島君が師匠だったんだから、横島君から渡すのが筋よ」

そう言われるが、GSとしてきちんとといえるかまでは手間はかかっていないが、弟子を育てたのは初めてだったよな。
シロの時は自称弟子だったけど、正式なGSにならなかったからな。

「ひのめちゃん。除霊ができるということと、独立して事務所をかまえるのは別なことなのでそこだけは錯覚しないように。今日この対心霊現象特殊作業証、俗にいうGS免許を渡すことによって正式なGSと認められます。じゃあ、これを受け取ってね」

ひのめちゃんは珍しくちょっと緊張気味だ。院雅さんは「最後のひとことで台無しね」というけれど、どうせ儀式なんて嫌いだしな。

「GSとしてこれからがんばります」

そう言ってひのめちゃんがGS免許を受け取るとまわりのメンバーから拍手をする。
小規模ながらちょっとした認定式だ。
それが終わると院雅さんから、

「今後のひのめのGSとして、事務所でどういう活動をしていってもらうということもあるから、横島君とひのめは応接室に一緒に来て」

ついにこの時がきたか。


*****
次話はひのめちゃんへ、横島の過去を伝える話になります。

2012.02.20:初出



[26632] リポート56 春なのね~
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2012/05/28 21:11
応接室へ入ったところで、俺と院雅さんが横にならんで座り、ひのめちゃんは机の反対側に座る。

「院雅除霊事務所のこともあるのだけど、ひのめに伝えるんでしょ? 横島君」

「ええ」

「もう、そこまで話しはついていたんですか?」

「そうだよ。以前俺のことを院雅さんに伝えてあるとは、言ってあったよね?」

「はい」

「けど、今回はそれよりも個人的な情報と、今まで院雅さんや神魔族と一緒に集めた情報を、文珠で『伝』えることにする」

「えーと、横島さんとつきあいたいだけなんですけど、そうしないといけないんですか?」

「魔族は高位であるほど相手の心の隙をついてくる。俺の今後の相手は、多分かなり高位な魔族になる。だから本気でつきあいたいということならば、ひのめちゃんにはその時に動揺されないように伝えておく必要があるんだよ」

「私が動揺するようなことが何かあるんですか?」

俺は下手な言葉よりもゆっくりと首を縦にふることを選んだ。
ひのめちゃんは少し悩んでいたようだが、決心をつけたかのように、

「決めました。横島さんの秘密にしていた情報を、私に『伝』えて下さい」

ひのめちゃんも美神家の女性だ。下手に聞き返さなくてもいいだろう。
俺の伝える情報はきめてある。
文珠にはすでに『伝』の文字は入れてあるから、それを使って最初に院雅さんへ『伝』えた内容よりも、もう少しプライベートな情報もいれておく。

そう、俺が世界とルシオラのどちらかを選ばざる得なかったところも伝えた。
現在のところアシュタロスがデタント派とはいえ、何を考えているかわからない。
単純なGS同士のパートナーなら、そのことを伝えられても動揺があっても少ないだろうが、俺と付き合っているとなると話は違う。
魔族から聞かされた時に、動揺をしてしまうだろう。
それにルシオラを産む可能性があったのに、結婚してくれた令子のこともある。
今の時点で、令子と結婚することは考えていないが、たとえ未来で結婚していた、バツ一なのは気にしないとしても、結婚していた相手が姉だと知ったら、これはわからないよな。
あとは、今の時間軸で集めた情報とか、メドーサと定期的に会っているなどの情報も一緒に『伝』える。

院雅さんはほぼ知っていたからか、たいした反応はうかがえないが、ひのめちゃんは『伝』えた情報を一生懸命に飲み込もうとしているようだ。
そして俺がGSとしてや、人生でどんな選択をしていたのかを理解しはじめたのか、顔色が変わっていく。
やっぱり、ひのめちゃんには今の文珠で『伝』えたことを『忘』れてもらうことになるかな……
そうすると、俺への感情の起点になっているだろう、前世の記憶を『封』『印』は最低限しておく必要がある。
こちらで会った後の感情について『偽』りの感情へ『刷』り『替』える必要があるだろうな。

そしてひのめちゃんが決心したのか声をかけてくる。

「横島さん……言いにくいんですけど……」

つとめて明るい声をだすようにして、

「うん。いいから言ってごらん」

「……はい……横島さんって……」

「横島さんって?」

「おじさんだったんですね」

俺はズルッとソファーからすべり落ちそうになった。

「第一声がそれかい!」

院雅さんは笑いをこらえようとしているが、クスクスと笑い声が漏れている。

「いえ、時々大人っぽいとは思っていたんですけど、なんか同い年の高校生とあまり感じで、かわらないような気もしていたから」

「どうせ俺は、進歩がないさー」

いったいさっきまでのシリアスな雰囲気はどこにいったんだ。

「他にはなんとも思わないのか?」

「えっ? どんなところですか?」

「はい?」

まったく予想外の反応だ。俺から質問するはめになるのか。

「えーと、令子と結婚していたこととか、あまり俺からは言いたくなかったけれど、ルシオラを見殺しにしたこととか」

「それって横島さんの昔のことですし、私が横島さんと同じ立場なら、横島さんと同じことをしたんじゃないかなと思います。ただ後追い自殺しちゃうかもしれないですけど……そんなことよりも、今後の私達のことを話しませんか?」

「横島さん。ひのめの方がバイタリティはあるみたいね。私はお邪魔みたいだから、今日はゆっくり分室で話し合いでもしていなさい。キヌの方は今日の除霊につれていくから、安心してなさい」

「へー、院雅さんって、横島さんのことを、さんってつけて呼ぶんですね」

そういえば、先ほど伝えた中では忘れていたな。

「そうね。二人きりでいる時は、そう呼ばせてもらっているわね。見た目の年齢はともかく、除霊歴は横島さんが長いし、知識の範囲も広いしね」

「けれど 横島さんの方が、なんか院雅さんのことを見習っているみたいなんですけど」

「それは横島さんの昔が除霊方面に偏りすぎていて、GSとして独立するだけの総合的知識が欠落しているからね。そのあたりは私の方が指導しているのと、戦術面はともかく戦略の方は苦手みたいよ。だから横島さんのGSとしてのパートナーなら、そっちの方の学習することをおすすめするわよ」

「恋愛相談は?」

「事務所内恋愛禁止とは言わないけれど、そのあたりは節度を守って、まわりに悪影響を与えなければ問題にする気はないわよ。だからつきあうことになっても、はしゃぎすぎないことね」

「つきあうことになっても?」

「そのあたりは横島さんとよく相談することね。私からはこれぐらいだから、分室でよく話あいなさい。分室までタクシーをつかっても良いから」


分室までタクシーでもどることになったが、なんかひのめちゃんの気分は冠婚事業者のスペシャルパッケージみたいだ。
そこに冷水をかけなきゃいけないんだけどな。
分室にもどったところで、まずひのめちゃんと俺の関係をはっきりさせておく。

「ひのめちゃんが俺を好いてくれるのは嬉しいよ。けれど、当面は直接的というかそういうのは無しでどちらかというと、精神的な関係でとどめておく必要があるんだ」

「えー。横島さんってしょっちゅうナンパとかしているじゃないですか」

「おいおい。どこからその情報を」

「おキヌちゃんからです」

「……まあ、一緒にいることも多かったから知っているよなー」

「それにお姉ちゃんにしょっちゅうとびかかっていましたよね? 今となってわかったのは、横島さんのいた過去の時間軸で結婚していたからなんでしょうけど」

「俺自身から言うのもなんだけど、一定の線で止めてくれる相手じゃないと、まずいんだよ」

「ある一定の線って……最後までいっちゃうってことですか?」

「そう。もうわかっていると思うけれど、俺の今の霊能力を最大に発揮するのは、煩悩が必要なんだ。しかし、それが一回満足してしまうと、一時的ながらGSとしては平均レベル以下になるんだよ。なれてくれば、その制約もなくなっていくんだけど。だから、きちんと途中で強制的にでも歯止めができる相手が、今は必要なんだ。それをひのめちゃんが、拒めるかい?」

「横島さんにせまられちゃったら……あまり、自信はないです」

「だから恋人みたいにつきあうというよりは、友だちみたいな感じで、つきあっていくのができればいいんだけど。多分これからおきるであろう、世界的な霊障に類似した事件までは」

「それでも、やっぱり、お友だちというよりは恋人になってほしいんです」

女性にそこまで言わせたんじゃ断れないよな。

「こんな俺でよかったらつきあってくれ」

「最後の最後で、横島さんから告白のふりですか?」

「いいじゃないか。これぐらいカッコウをつけさせてくれ」

「そんなところも、横島さんですよね」

そう言いつつ、ひのめちゃんが抱きついてきた。
思わず抱き返そうとしようになるが、なんとか自制心をたもつことに成功してひきはがしにかかる。

「ひのめちゃん。うれしいのはわかったけれど、俺の自制心が持つ範囲にしてくれ。思わずそのまま抱き返して、なし崩しになりそうだった」

「だって……うれしくって。なのに迷惑かけちゃいました。私やっぱり恋人失格ですか」

「いや、そんなのことはないよ。魅力的だから抱き返したくなるんだから。ただ、本当に俺の自制心はあてにしないでくれ。今すぐにだきつかれたら、今度こそ最後までいってしまいそうだ」

「はい。気をつけます。けれど、これでつきあってくれるんですね?」

そういうひのめちゃんの笑顔をまぶしく感じるのは、俺がやっぱり歳を重ねているせいなのかな。



ひのめちゃんと付き合いだして、もう少しで2ヶ月になろうとする。
今日はひのめちゃんの家にいて一緒の部屋で勉強後、令子の手作りの夕食をご馳走になっている。
比べちゃ悪いが、ひのめちゃんのがんばった普段の夕食より美味いよな。
夕食後も多少の話をし、ある程度の時間がたつと、

「しかし、本当にひのめってこの横島クンとつきあっていられるって事、いまだに信じられないわ」

「お姉ちゃんこそ、最近横島さんに相手されていないからって、そんなこと言わないでよ」

「あー、俺はそろそろ帰らせてもらうわ」

これで、長居するとどんどん言い合いが、エスカレートしていくからな。

「横島さん、まって。玄関までおくるから」

「ああ、ありがとう」

一応言い合いのタイミングをずらせるのだが、帰りの玄関ではひのめちゃんから別れ際のキスをしてくる。
ここで俺が暴走したら、令子にどつかれるのを計算しての行動だ。
キスだけだなんて。こんちくしょー

「じゃあ、また、明日ユリ子ちゃんの所の道場でね」

「はーい」

最近はユリ子ちゃんの道場から、ひのめちゃんの家にいって一緒に勉強をする。
学校の勉強の内容が違うといっても、六道女学院霊能科の普通教科のレベルは高くは無い。
俺が通っている学校の教科書と違うが、レベルとしてはにたりよったりなので、昔の知識などを思い出してきているので、なんとか教えてあげることはできる。
ひのめちゃんの普通教科はこっちの高校とやはり同じぐらいのレベルだが、霊能科特有の教科は上位にはいっているみたいだな。

勉強後は、夕食を共にするというパターンが多い。
令子も仕事をする時はしているが、しない時は家にいることも多い。
だから、結構な頻度でこの手のことは日常茶飯事になりつつある。


一度は美智恵さんとも家で会い、

「ひのめちゃんと、おつきあいさせていただいてます」

「私は、まだおばあちゃんになりたくないから、きちんとつけるものはつけるのよ」

「お母さん、そんなつけるだなんて……健全なお付き合いよ」

「あら、そうだったの。ごめんなさいね。最近の高校生は進んでいるってきいていたから」

こう言っていたけれど、決して目は笑っていなかったんだよな。
それだったら、ひのめちゃんと俺がつきあうのを、反対しそうなものなんだけどな。
やっぱり、俺の知っていた一時期姿を消していた美智恵さんと、現役でGSからオカルトGメンを続けた美智恵さんに何か考え方に違いがあるのだろう。

ひのめちゃんはひのめちゃんで、未来におこるかも知れないことを知っているというのを、美智恵さんに伝えられないのが心苦しいらしい。
美智恵さんが切り札になるか、それとも違う時間軸に分岐してしまう行動をとるか不明なところが、神族や魔族には難点だもんな。



朝はいつもトレーニングで学校に向かうのには、最寄の駅までおキヌちゃんと一緒に行くことが多い。
それどころか、

「横島さん、遅れますよ?」

「大丈夫! 今、出発できるから」

「今日もお弁当、つくってありますからね」

「毎日すまない」

「いえ、自分の分を作るついでですから」

そうは言いつつもおキヌちゃんの食べる食事の量と、俺の量ってあきらかに違うのは休日の分室での食事なんかみてたら、はっきりと余分に作っているのがわかるんだけどな。
院雅除霊事務所が上位の魔族を相手にするということを知ってそれでも、

「やっぱりGSを目指します」

って言うおキヌちゃんだ。
そのあたりで気をつかってくれているのかな。

雪之丞は至極単純に

「やりがいのある相手を、より多く紹介してくれ」

って、バトルジャンキーなのは、かわらないな。
ただし、俺としては、周辺に損害を出さないようにしてほしいんだが。
俺の霊的成長が雪之丞に近いうちに追いつくと思っていたのだが、実際には開きかねない勢いで霊的成長をとげている。
世界中をまわっての強力な相手をすることによる実戦数の違いだろうか。


院雅さんはあいかわらず、神魔族とは異なるルートでの情報入手をしている。
ヒャクメやジークが霊的に情報を入手できないのを、人脈をつかって入手しているようだ。
7年前の15歳の時にGS試験を1位で突破してGS業界では天才少女という名称をさずけられていたが、そこから2年間GS界隈から消えている。
院雅さんによるとメドーサの魔装術に手をそめて、失敗した2年間はリハビリの日々で過ごしていたために外界との接触をたっていたということをきかされている。
しかし、どうやってメドーサと契約にいたれたのか、いまだ話はしてもらえていない。
GS業界へ復帰した時の霊力の低さから、以前の天才少女という名称はきえていた。
しかし、中堅GSとして活動していたのだが、俺との接触で過去の天才少女再びとかいう根拠の無い噂もながれだしてきている。
院雅さんは、ヒャクメにチャクラの霊視をしてもらったが、

「ここまで、よく普通の人間が復旧できています。これ以上は地上では無理なのねー」

「メドーサにも似たようなことを言われたから覚悟はしていたわ」

院雅さんは淡々と答えているが、ヒャクメの覗き癖でうっかりと、

「けど、頭の中がよめないのよね」

「それは読まれないように、プロテクトをメドーサがしているからね」

と院雅さんは冷静に答えていた。
院雅さんだが、今後おこるであろうアシュタロスがおこした世界的な霊障と同規模レベルの霊障にはタッチする。
それが終わったら興味のある事件も無いから静かに、結界札を使った元のスタイル事務所にもどすらしい。
分室は高校を卒業すれば俺に貸与するらしいが、そういうことはひのめちゃんはもとより、ユリ子ちゃん、おキヌちゃんに雪之丞のメンバーをみなきゃいけないのか?


*****
やっぱりR-18指定はさけておきます(おい)
ひのめちゃんと横島はくっつけましたが、横島は煩悩をおさえるのに苦労するかな?
美神美智恵に別な苦労がふりかかりそうです。

2012.02.21:初出



[26632] リポート57 踊るGS試験編(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/06/13 22:22
うーん。すでに分室としては、神魔族事務所と連携しているから、かなりの額がはいっているが、大部分は雪之丞がかせいできているようなものなんだよな。

そろそろ、今年度のGS試験だ。
雪之丞がでれば、今度のGS試験はまずトップ合格だろう。
ユリ子ちゃんも、六道女学院からGS試験を受けることの許可はもらっている。
まずはGS見習いには確実になれると、ふんでいるのだろう。
たしかに1対1の対人戦なら、加賀美円明流独特の霊的死角に入っていく動きをもっている彼女だから、GS試験程度なら中途半端な魔装術でも負けないだろう。

そんな楽観をしながら今年の春のGS試験に雪之丞と、ユリ子ちゃんは受験をするが、1次試験を見に行くのは院雅さん。
一応師匠ってことになっているのは院雅さんだからな。
おキヌちゃんは分室側の除霊助手ということになっているので、俺が見ていることになっているが、実際には院雅さんの方でみていることが多い。

気にかかるのは色々と各国の情報を入手しているが、昨年の春のGS試験以後から他国でも魔装術の使い手が、GS試験にでてきだしているらしい。
これは現在のアシュタロスがデタント派として、これからおこるであろう世界的霊障に対する準備工作なのか、それとも別な狙いがあるのか。

あと、もうひとつ。
本当なら、GS試験はヒャクメに出向いてもらって視てもらおうと思ったのだが、今は思わぬ事件でヒャクメは動けない。
今まで南部グループ以外で、この日本では魔族に関する動きはなかったのに、この時期に動きが見えてきたというのは、今度のGS試験でも何かあるのか?


俺はGS試験1日目の2次試験開始時刻を目指して、学校を早退した。

2次試験会場にむかってみるとすでに院雅さんはいたが、他の雪之丞とユリ子ちゃんが見当たらない。

「院雅さん。二人はどうしたんですか?」

「雪之丞なら知り合いを見つけたといって、そっちにでかけていったわ。ユリ子ちゃんなら六道夫人のところでしょ?」

「ユリ子ちゃんなら確かにそうでしたね。それにしても雪之丞の知り合いって誰ですか?」

「まっていれば、今にわかるんじゃないの?」

あいかわらず、院雅さんは全部を教えてくれないな。
2次試験にでてくる128名の名前は張り出されるはずだから、それでも見てみるか。
幸いユリ子ちゃんが前半側で、雪之丞が後半側だから決勝まであたることは無い。
とりあえずは決勝まで気楽にみていられるかなと思っていたら、いきなり第一試合がタイガー寅吉だって?

同じ高校にこなかったよな。
師匠はエミさんでいいのだろう。
たしかピートが最近、

「エミさんがGS見習いに来ないかって誘いがこなくなったんですよね」

って言っていたもんな。ピートの言っていた言葉その通りか記憶は定かじゃないが。
もう一人気にかかるといえば、鎌田勘九郎だ。
メドーサの言葉を信じるならば魔装術はもう使えないが、雪之丞の魔装術を除けば、魔装術なしでも2位になって不思議ではない実力だろう。
ユリ子ちゃんにとっては幸いなことに、勘九郎は後半にいるから雪之丞とあたるのが先だな。

俺としては勘九郎と同じ試験場にいるのはさけたいが、そうも言ってられない。
雪之丞はともかく、ユリ子ちゃんの近接戦は、半分は俺がみていたようなものだからな。

そして対戦表を見終わって、院雅さんの方にもどろうとしたらとある人物と目があってしまった。
これだから、院雅さんは一緒に対戦表を見にこなかったのか。

「あら、横島君。加賀美ユリ子さんの応援にきたの~。一緒に見学しない~」

六道夫人に悪気が無いのはわかっているんだ。
一緒にいるだけなら、まあ多少は目立つがそれくらいのはずだ。
分かっているんだが、他人便りの癖のあるこの六道夫人が、何か変なことを言ってこないよな。
ここのところ大きな除霊もなかったので、災難は忘れた頃にやってくるという言葉を今さらの事ながら思い出した。
六道夫人から、

「ええ、ちょっとユリ子ちゃんの1回戦の対戦相手が判ったので、アドバイスをしてきますので、その後でなら」

「よかったわ~。断られるかと思ってたのに~」

先にそれを言ってくれ。まあ言うわけがないけれどな。
俺自身の判断ミスに悔やみながらも、まずは院雅さんのところに出むくと、院雅さんは途中まできていた。

「院雅さん。相手があのタイガー、タイガー寅吉なんですよ。あいつの幻覚は強力だから、ユリ子ちゃんの霊力では対抗しきれないはずです」

「それは大丈夫よ。幻覚封じの札をもうユリ子に持たせてあるから」

「はい?」

「横島君。新聞くらい読んだら? 地獄組の組長が自主してきたって、大きくのっていたわよ」

令子の顧客に地獄組の組長は、今回もいるはずだから、結果としては似たようなものがあったのだろう。

「……それならば、たしかにタイガーが日本にきていた可能性は高いですよね」

「だからもう対策用の札を用意してあったから、能力がそれだけなら安心よね?」

幻覚封じの札は、未来で令子の父のテレパシー能力を抑えるために開発された札だ。
その原理をつかって、院雅さんがアレンジしているのか、中々具合がいい。
なにせ、ヒャクメに心を読まれないというところがあるからな。
ヒャクメにはまだ内緒だけど。

「まあ、そうですね。あいつがGS試験を取得できたのは、おキヌちゃんと同じく、補助系霊能力者への特別推薦枠によるGSへの道がひらけてからですからね」

「ところで、六道夫人がむかっていたようだけど、やっぱりつかまった?」

「見てたなら何とかって……してくれないですよね?」

「ここのところ無理を言ってきていないみたいだから、今日のユリ子の試験だけでも一緒に見学しているのね」

「へーい」

うーん。六道夫人と一緒に見学していても、あまりいいことは無いんだけどな。
六道夫人に一緒に見学すると答えた以上は、ユリ子ちゃんの試験までは一緒に見学するか。
GS試験の見学席である2階にあがって六道夫人はどこだろうと思って探そうとすると、

「横島君。こっちよ~」

声の聞こえる方向を向くと六道夫人はいるが、なんで冥子ちゃんまでいるの?

「冥子ちゃん。今回は救護班の方にいかなくていいの?」

「お母さまが、今回から救護班にいかなくてもいいって言うの~」

最近六道GS事務所の除霊成功率があがっているからか。

「よかったね。冥子ちゃん」

「え~、何が良かったのかしら~?」

冥子ちゃんの天然ぶりも忘れていた。
下手な話をするとぷっつんしかねないからな。

「六道女学院の生徒の応援に専念できるでしょう?」

「そうね~。そういえば~、今回の加賀美ユリ子さんって~、院雅所霊事務所でアルバイトをしているんだったわよね~」

「そうですけど何か?」

「正規のGS3人とGS助手3人って~、結構な人数がいるのね~」

「正規のGSっていっても内2人は高校生です。だから所長の院雅さんとGS助手が、普段動いているようなものですよ。それよりも六道GS事務所からカオスのおっちゃんはでないんですか?」

「ドクター・カオスね~。お母さまがでなくてもいいって言ってたのよ~」

俺は六道夫人の方をみると、冥子ちゃんと二人きりで話しているのをにこにこ見ているだけだ。
マリアに聞いてみたのか?
そうすると、この大会でマリアの計算で受からない可能性がある何かの要素があるのか?
単にカオスのボケがすすんでいるだけという可能性も否定しきれないが。

「とりあえず、ユリ子ちゃんの試合が第一試合なのでそれを見ましょう」

「おばさんも興味があるのよね。あの霊刀を持つ様になってから、めきめき成長しているみたいだから」

「あれを探し出してきた院雅さんの腕でしょうね」

俺にこれ以上ちょっかいをかけられるのはごめんだ。
だいたい今でも1ヶ月に1回ぐらいの頻度で、冥子ちゃんと一緒にいるのって、いくら除霊の成功率があがっているからといっても心臓に悪いんだぞ。

そういえばユリ子ちゃんの試合相手にタイガーが居るんだから、エミさんもいるはずだよな。
六道夫人のそばにいたく無いはずだから、ここらにはいないと思うけれど。
本当は雪之丞と見学する予定だったのだが、まあ仕方が無いだろう。

試合開始の時間となり各試合会場に人はそろっている。

「六道夫人。ユリ子ちゃんのこの第一試合って、どうなるか予想していますか?」

「勝ち負けじゃないわよ~。これも経験よ~」

「だって、六道女学院って春の試験で出るのは実力がある生徒をだすんでしょう?」

「組み合わせを決めるラプラスのダイス次第ね~。あれって霊的な実力よりも運が関係してくるから~、絶対1位になるほどの実力がないと、勝つとは断言できないわ~」

意外と冷静な目で見ている六道夫人におどろかされた。

「けど、皆には内緒よ~」

「はい。六道夫人」

ここで、変なことを言ったら、何をおしつけられるかわからない。
そうして各試験会場から「試合開始」の声が聞こえる。


ユリ子ちゃんとタイガーの試合は、さっそくタイガーが、霊的ラインをユリ子ちゃんにのばしているが、幻覚封じの札がきいているので、ユリ子ちゃんには届いていない。
その間にユリ子ちゃんがタイガーに一直線に近づいて、タイガーはユリ子ちゃんへ幻覚の能力がきいていないことに、動揺がおさまっていない。
そしてタイガーの四肢を斬りつけて、倒れたところで首元に霊刀シメサバ丸を突きつけている。

「私としては、これを動かさないですむといいんですけど……」

「ギプアップするケン」

そのまま、ユリ子ちゃんの「勝ち」が宣言される。



打倒な線か。タイガーってやっぱり運がないんだよな。

「横島君。加賀美ユリ子さんにあの強力そうな霊的ラインを、防げるはずがないんだけど~、何か知っているかしら~」

いつのまにやら、霊視ができるクビラを頭の上にのせている六道夫人からそんな話をされるが、

「院雅さん特性の結界札じゃないんですか? 俺達が除霊するときも、普段から身につけていますからね」

持ち込める道具は一つだが、お札に関しては制限が特にない。
一時期、神通棍を使う人間はお札をもちこめないこともあったが、それだと複数の霊具というか特に神通棍とお札を使う通常のGSが圧倒的に不利になる。
現在ではこれがオーソドックスなスタイルなので、このような方法に改められている。
まあ、そのGS試験ルールの隙間をぬったような作戦だけど、院雅さんに情報をあたえておいてよかったな。

「じゃあ、第一試合も終わったので、ユリ子ちゃんのところに行ってきますね」

「おばさんも声をかけるから一緒にね」

げっ! そういえばユリ子ちゃんは六道女学院なんだから自然な行動だよな。
六道夫人や冥子ちゃんと一緒にいると、なんか視線がささってくるんですけど。
GS業界の有名人と一緒にいるとつらいな。
2階からおりて、あらかじめ聞いていた院雅さん、ユリ子ちゃんとの待ち合わせ場所に移動したが、院雅さんの姿は見当たらない。

「ユリ子ちゃん、一試合目突破おめでとう」

「おばさんからもね~」

いいや、ユリ子ちゃんとは院雅除霊事務所で話すことにしよう。

「具体的なことはあとで事務所の方で話すとしよう」

「あれ? 院雅さんは、明日の試合相手の情報収集を横島さんと、一緒にしてなさいって言ってましたよ」

院雅さん、それってまた嫌な相手を避けやがったな。
以前、六道夫人からの除霊は断りをいれ続けていたから、会うのも気が重いのはあるんだろうけど、露骨に俺の方に興味くるようにしなくてもよいだろうに。

「おばさんも一緒にみてあげたいけれど~、お仕事の方があるから~、また明日あいましょうね~。加賀美ユリ子さん」

「はい。六道理事長」

「冥子もきちんと見ておいて~、横島君の解説があったら~、聞いておくとタメになるかもしれないわよ~」

こらこら、娘の教育を俺に押し付けるな。
今さら遅いんだが。
結局は、雪之丞も試合は最後なので、冥子ちゃんとは一緒に2階で見学をすることになる。
二次試験第一試合で注目するのは前半組では、蛮・玄人(ばん・くろうと)か。

「今の蛮・玄人って、本当に言っていた通りに霊波を、10%しか出力していないと思うか?」

「わからんが、それが本当なら、パワーだけなら俺の魔装術を超えているな」

「まあ、霊力はある方が良いけれど、それだけならでくの坊だしな」

しかし、以前の時にあんなGSいたかな?


それに対して後半組は、色々といるな。
鎌田勘九郎のパワーは圧倒的だが、蛮・玄人(ばん・くろうと)には見劣りするな。
それに九能市氷河は名前を見ただけじゃ思いだせなかったが、あの危ない人格で霊刀ヒトキリマルによって人を斬りたがっていた。
以前の俺って、よくこの九能市氷河っていうねーちゃんに勝てたよな。たとえ、心眼がついていたとしても。
それに昨年のGS試験で試合をしたワン・スーミンが、いるのはなんでだろうな。
あの実力なら秋のGS試験で受かると思うのだが、運でも悪かったのかな?

あと前半組なのだが、一人よくわからないのは近畿銀一だ。
顔を見るまで確証はなかったが、俺の大阪での小学校時代の友人で、以前は俳優をしていて今頃は

『踊るゴーストスイーパー』

のテレビ版にでていたはずなのに、ここではなんでGS試験にでているんだ?
声をかけてみるか、かけないでいるかだが、GSに確定しているわけでないし、もしかしたらユリ子ちゃんとぶつかるかもしれないから声はかけずにおくか。


*****
院雅除霊事務所から2名のGS試験出場です。
ヒャクメの事件対応はGS試験のあとで続きます。
蛮・玄人、九能市氷河は原作にでてるキャラです。
近畿銀一は銀一まではわかりましたが、苗字が原作でも不明なので、芸名の苗字をそのまま使いました。

2012.02.22:初出



[26632] リポート58 踊るGS試験編(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/06/13 22:23
銀ちゃんこと、近畿銀一のことは院雅さんやひのめちゃんにも、特段伝えていなかったからな。
まさかGS試験1次を突破するだけの霊能力を、もっていたとは思わなかった。
けど、俳優志望なのは小学生時代からだと聞いていたけれど、こっちの時間軸では何か途中でかわったのだろうか?

雪之丞? あいつは魔装術も使わずに、あっさりと霊的格闘術だけで勝ち上がった。

夕刻の院雅除霊事務所での打ち合わせでは、雪之丞とユリ子ちゃんがGS試験で勝ちあがるために、再度残った64人の相手のチェックした内容を話し合う。

「幸いなことに、雪之丞とユリ子ちゃんは決勝までぶつからないから、前半組と後半組で話ができるわね」

「雪之丞の相手になるとしたら、九能市氷河という選手の霊刀ヒトキリマルが、魔装術にかなうかどうかだと思うな。ただし、よくはみていないが、本人の霊力そのものはそれほど高くないから、あとは勘九郎がどうかくらいか?」

「同じ白龍寺にいたからわかるが、あいつはパワーバカじゃなくて、それなりに格闘もできるから油断はできねえぜ」

俺はあの勘九郎の、その手の人が好きそうな目が、好きじゃないんだよな。

「あとは目立ったところで、ワン・スーミン。去年と違って棍を使っての技術は高いが、油断しなければ問題ない霊力レベルだよな」

ぶっちゃけ今の雪之丞に勝てる相手なんて、現役のGSでもほとんどいないはずだぞ。
だから必然的に、ユリ子ちゃんの相手になりそうな相手の話が中心になる。

「雪之丞の相手はそんなものとして、ユリ子ちゃんの相手で大変そうなのは?」

「本人の言っている内容がはったりでなければ、蛮・玄人(ばん・くろうと)だな。純粋な霊力が、魔装術を使っている俺を上回る」

「今回は10%っていう霊力なのに、対戦相手がびびっていて一発なぐられただけで気絶してたからな」

「私の相手になるかもしれない人って、そんなに霊力が高いんですか?」

「実際に戦ってみないとわからないけれど、加賀美円明流独特の霊的死角に入れれば、魔装術のように、よっぽど強力なガードができない限り大丈夫だと思うぞ」

「そうですか……ただ人を斬るっていう感触って、料理で肉をきるのと違うんですよねぇ」

ユリ子ちゃんのメンタル面を心配しないとまずいかな。

「ユリ子。それを気にするようなら、GSになるのはあきらめなさい。実際に魔族でも、人間とほぼ同じ感触になる相手も多数いるのだから」

「はい。GSになるのをやめる気はありません。それにもともと剣術って、そういうのが本来の姿でしたし、弱音をはいてすみませんでした」

ユリ子ちゃんのGSになる決意も確認できたし、いいか。
霊刀を使う限りは、どうしようも無いしな。
実際に霊波刀でも、そういう感触はわずかながらもある。
刀系を使う霊能力者にとっては、のりこえないといけない壁なんだよな。
そんな中で雪之丞が、

「俺としては、実力を隠して戦っているのが、一人いると思う」

「誰だ?」

「近畿銀一っていう奴だ」

よりによって雪之丞は銀ちゃんに目をつけたのか。

「近畿銀一ってまさかアイドルの近畿剛一ですか?」

おキヌちゃんが、驚いたように言う。
そういえば、以前もおキヌちゃんって銀ちゃんのファンだっけ。

「多分……そうだろうな」

俺が一言そういうとまわりが、

「横島さんが、男性のアイドルなんて覚えている!」

「もしかして、あーいう人が好みだったのですか!?」

「……」

おキヌちゃんは幽霊時代から近くにいただけあって、よく俺の性格を把握している。
ユリ子ちゃんは、腐女子かよ。女子高って、ユリ子ちゃんの性格も、一般人とやっぱりずれているな。
ひのめちゃんは、ひのめちゃんで、今度は何を隠しごとをしているのよ、っていう目付きだし。

「おい。俺だって男の顔ぐらいは覚えているわー! どんな目で俺を見ているんだー」

「それは、横島君の普段の行動からでしょう」

「院雅さ~ん。なんで~! 多分、小学生時代の友人ですよ。テレビで見かけたときにそんな感じがしていたのだけど、今日の大会で実物をみたら面影が残っていたから」

「へー。それじゃ、GS試験が終わったら、サインをもらってもらえますか?」

「銀ちゃん、いや近畿銀一が俺のことを覚えていたらだけどな。大阪の小学校5年生で互いに転校してから、あっていなかったからな」

「けど、アイドルなのに、なんでGS試験にでてきたんでしょうね?」

ユリ子ちゃんの疑問はもっともだ。俺もわからん。

「多分、それってこの秋にテレビ放映が延期された『踊るゴーストスイーパー』の役作りじゃないかもしれませんね」

「放映延期?」

「ええ、もともと『踊るゴーストスイーパー』って、この春から放映される予定だったんです。けれど、主役が事故にあって主役の入れ替えでテレビ放映されるらしいんですよ。その新しい主役が、近畿剛一ってことを聞いていたんです」

「あの非実践的な動きで、相手がさけられないとは、かなりの実力者だと俺は見るぞ。決勝まで勝ち上がってこないと、戦えないのがくやしいぜ!」

銀ちゃんって、体力もあるしスタントなんかもやってたから、ある程度は周りに見せるための演舞や殺陣(たて)は得意だったからな。
雪之丞って、そういえば最初の俺のときも、出来るって勘違いしてたよな。
多分、GSは合格しても、本業はアイドルのはずだから、途中でギブアップかGS試験放棄ってのもあるよな。
しかしそれにしても、もしかして銀ちゃんがGS試験に受かったら『イケメンヒーロー』ブームの火付け役になるのか?
他のメンバーも軽く話しはしてみたが、先ほどのメンバー以外にめぼしいのは見当たらないので、今日は疲れをのこさないようにはやばやと解散することになった。


同じアパートであるおキヌちゃんとの一緒の帰り道に、

「明日、GS試験試合後に近畿剛一さんのサインをお願いしてもいいですか?」

「ああ、一緒にいこう。俺のことを覚えていてもいなくても、昔の性格と変わらないなら、アイドルだからファンだって言えば、サインぐらいはしてくれるような奴だったぞ」

「って、横島さんは昔から覗きとかしてたんですか?」

「ああ、銀ちゃんと一緒……」

やべぇっと思いつつ、口を開くのをとめておキヌちゃんを見ると、

「そういう時代もあったんですか。なんかおもしろい話がきけそうですね」

そう言われて、小学校時代の銀ちゃんの話をおキヌちゃんにお披露目することになった。
アパートにつくころには、あらかた覚えていることは話したが、ファン心理とは恐ろしいもので、おキヌちゃんにとってますます身近な感じになったみたいだ。



翌朝はGS試験会場の目の前の広場に集まることになっていたが、朝食時におキヌちゃんから予想しているべき内容を聞かされた。

「えーっとですね。近畿剛一がGS試験にでているって、インターネットで噂がひろまっちゃっているんです。だから、今日の会場って近畿剛一のファンで埋め尽くされているかもしれません」

おキヌちゃんがちょっと悲しそうだ。
うーん。なんとかしてあげたいが、一般人も無料で入ることができるからな。
案外GS協会が宣伝行為として、利用しているんじゃないのだろうな。
GS協会って機械音痴が多かったはずだから、そんなことまで考え付かないか。

それはともかく、集合場所が銀ちゃんのファンでうまっているかもしれないから、近くの公園にでも集合場所をかえてみるよう院雅さんに言ってみるか。
そう思ったが、今日は院雅さん午後からくるって話だったよな。
昨日はユリ子ちゃんにお手製の弁当をつくったらしいが、今日は人数が多いのでパスらしい。
おキヌちゃんが作るという線で、今日は朝から全員分のお弁当を作っているので、俺から各自に集合場所変更の連絡をしていく。

杞憂であればよいのだが、おキヌちゃんには先に2階の席を確保してもらいにいってもらう。
4分の1くらいお弁当を持っていってもらったが、間に合えば席とりには充分だろう。
公園で待ち合わせをしていると、分室の予備用のPHSからの着信があったので、でるとおキヌちゃんが、

「もう結構な人数の近畿剛一ファンがきていて、垂れ幕とかはりだしています。みんな早くきた方がいいですよ」

さすがに会場全部は近畿剛一ファンで埋まると思わないが、対戦相手は居心地がわるいだろうな。
集まった皆には、

「昨日の近畿銀一っていうのは、やはり近畿剛一で確定らしい。もうファンが、2階の席で応援用の準備をしはじめているそうだ」

そういえば、ピートの時も応援はあったが、あれよりさらにすごいんだろうな。


GS試験会場につくと、女性の集団が目立つ。
選手である雪之丞とユリ子ちゃんとはわかれて2階に行くと、おキヌちゃんの他に六道夫人と冥子ちゃんもいる。
お約束なのね。
院雅さんからは、

「六道女学院トップレベルの生徒を預かっている事務所の分室なのだから、挨拶にきているだけよ」

そう簡単に言ってくれるが、院雅さん、午前中は寝ているってこないし。
まあ、午前中の対戦相手はおもしろくなさそうだからな。

「おはようございます。六道夫人、冥子ちゃん」

「今日もここで一緒に、観戦していてよいかしら」

「ええ。うちの事務所って、六道女学院の生徒が多いですからね」

けど、昨日よりは視線が集まらない感じだ。
六道夫人に注目するよりも近畿剛一ファンたちの多さに、まわりは気にしているのだろう。
その中で厄珍が、

「一般人でもGSの戦いがわかる、霊視ゴーグルがあるね。今ならお安くするあるね」

そう言って、近畿剛一ファンの中で販売していっている。
霊視ゴーグルだってけっして安くないのに、飛ぶように売れているぞ。
まさか、厄珍が商売のために噂をながしたわけじゃないだろうな。
けれど、厄珍が男性アイドルを覚えているとも思えないから、別ルートで情報を入手したのだろう。
この手の情報入手の早さには、あいかわらず思わず舌を巻く。

そしてユリ子ちゃんの、昨日から数えて2試合目のGS資格がとれるかの、試験がはじまろうとしている。


ユリ子ちゃんの対戦相手は、今となってはオーソドックスな神通棍と札術だ。
札の種類まではわからないが、金持ちか、儲かっているGSの助手のところでも無い限り、高い札は持っていないだろう。
対して、ユリ子ちゃんは院雅さんの結界札と、自分の霊波で書いた幾種類かの札を防御用に身につけている。
札についての心配は、まず要らないだろうな。


神通棍は「精霊石クオーツ」によって霊力を増幅する。
その霊力に関してはマイト数で表され、増幅率も判明しているが、それに対して霊格の数値化はできていない。
しかしながら、霊格があがれば武器の威力もアップするとは言われていた。
霊能力者の霊格と、精霊石を使用した武器の増幅率に関連しているのは最近GSの間でもわかりつつある。
しかし、神通棍の光り方で霊格を判断する方が、今の俺にとっては霊格の判断の精度があがる。


審判から「初め」の声があがったあと、ユリ子ちゃんと対峙している相手から神通棍が伸びて光りだす。
霊力や霊格が、全てではないがかなりの目安にはなるのと、この感じだとユリ子ちゃんが有利だなと思っていると、

「あの娘、負けるわね~」

ぽつりともらす六道夫人に俺は驚き、

「あの娘って、ユリ子ちゃんのことですか?」

「加賀美さんではなくて~、その対戦相手の女性は今年の卒業生なの~。GS試験合格するだけの力はあるけど~、運が無いわ~」

「そうでしたか。そうしたら同じ学校だっただけあって、ユリ子ちゃんのことを知っているでしょうから、作戦を練っていたりしませんか?」

「加賀美さんって作戦を練っただけで~、簡単に負けるような娘なの~?」

「……霊力や霊格をみる限りでは、他の格闘技術などで上回っていないと無理そうですね」

「そうよ~。霊力は卒業したころより上回っているみたいだけど~、霊格は変わっていないのと~、格闘技術っていうのは2ヶ月程度で変わるのはむずかしいわ~」

ふーむ。六道夫人って、霊格がわかるんだ。
もしかして、クビラって霊格も見れるのかな。
そうすると、昨年の雪之丞との戦いの時の隠行を見破られていたのもあって、昨年は少し目をつけられたっぽい感じがしたのか?
そんな疑問もわいたが、

「っということは、格闘技術もユリ子ちゃんが上なんですか?」

「それは見ていればわかるわ~」

すでに会場では打ち合いを始めているので、六道夫人から試合会場へ意識をかえる
ユリ子ちゃんが勝ち上がれば、次の試合相手になる試合会場も気にはしておくが、ユリ子ちゃんの対戦相手とどんぐりの背比べって感じっぽい。

さらにその次の試合であたるかもしれない銀ちゃんをみていると、霊力はともかく、中々霊格は高そうだ。
しかしそんな中で、

「きゃー、近畿さーん」

「近畿さん、がんばってー!」

「近畿さんの顔にキズを付けたらどうなるかわかっているわよねー」

「バカー、そんなふうに近畿さんにかからないでー」

えーと、銀ちゃんの試合は真面目に見るのがあほらしくなってくる。
ユリ子ちゃんの方は、どちらかというと剣筋を見ている感じだ。
剣筋を見ているのは、対人相手ならそれでもいいかもしれないが、っと思ったら動きだした。
相手も反応しているが、反応が遅いのと、戸惑いも見受けられるからユリ子ちゃんを見失ったのだろう。
加賀美円明流独特の霊的死角に入ったのだろうな。
そしてユリ子ちゃんが、対戦相手の首筋に霊刀を押し当てている。

「これ以上戦いますか?」

「……ギブアップします」

「勝者! 加賀美選手!」

勝つだろうとは思っていたが、実際に勝つのは別問題だ。
これで仮免状態だが、GSとしてきちんとたてるわけだ。
しかし、この試合のあとは、もうギブアップは無しだからな。
だから本来なら師匠である院雅さんが、そばにいてやる必要があるのだが、今はいないのでかわりに選手である雪之丞が声をかけているのは見える。
雪之丞は体育会系だからなのか、こういう面ではマメだな。

近畿剛一ファンたちの声から、銀ちゃんも勝ちあがったらしい。
対戦相手はやりづらかったんだろうなぁ。
少し待っているとユリ子ちゃんが俺達のいる2階席にきたので、

「ユリ子ちゃん、GS試験合格おめでとう!」

「おばさまも~、六道女学院から合格者がでてうれしいわ~」

「今度一緒に~仕事ができるのかしら~」

なんか冥子ちゃんが、物騒なことを言ってるが、

「ユリ子さん、おめでとうございます。なんかGS助手って、私だけになりそうですね」

「ユリ子。今度からカルテットで除霊ね」

ユリ子ちゃんはそれらを受けて

「ありがとうございます。このあとの試合もがんばります」

って、けっこう真面目すぎるところもあるんだよな。
正道も邪道もわかっているみたいだから、良いとは思うんだけど。

しかし、雪之丞はあがってこないな。
次にでてくる蛮・玄人の戦いを、直接見るために会場に残っているのだろう。
ただあれだけの霊力をもっているのは、昨晩聞いた感じでは、やはりあとは鎌田勘九郎が次点らしい。
勘九郎は魔装術以外でも、それなりに霊的格闘術ができるらしいから油断ができないのか。
それでも以前の時のように、ゴーストスイーパーハンターとして鍛えられているわけではなさそうなので、違った霊的格闘術なんだろうな。
寝技だったらものすごく嫌だけど。

しかし、銀ちゃんがいないと、うってかわって本当に会場が静かだぞ。


*****

2012.02.25:初出



[26632] リポート59 踊るGS試験編(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/06/13 22:24
蛮・玄人の試合だが、

「25%だ! 25%の実力で戦ってやろう」

そう言って出してきている霊力は、昨日の約2倍以上に感じられる。
1次の霊力測定の時は何%であるのか言ってなかったらしいが、かなりの霊力はでていたらしい。
ゆっくり見ていると確かに昨日の相手よりは、今の相手の方が霊力は強そうだ。
それなりに霊力を見定めて、霊力の調整をしているようだな。
これは、ユリ子ちゃんや雪之丞でも結構油断ができないかもしれない。
動きに癖が無いか見ようと思ったが、上半身はゴーグルをかけている以外は何もつけていないので、筋肉をピクピクさせているのが気持ち悪い。
これで、勘九郎と同じくオネエ言葉なら見たくも無いが、そうでないところが救いだ。

相手は風の精霊を使うタイプの術者で、言霊を発していて、

「風のあるところ神あり!! 神のあるところ力あり!!」

とまわりの風の精霊の力を借りているようだが、蛮・玄人はその言霊によっておこった風の中を影響もうけたような様子もなく、

「弱いな!!」

と言って、体格が大きいわりには早い速度で相手に走りこむ。
霊力による風の精霊の力を借りているのに、その中を強引に入ってきただけあって、対戦相手へ次の手をださせずにワンパンチで沈めた。

「動きは単調なんだけど強いな」

ひとりごとのように言ってたら六道夫人が、

「あの蛮・玄人って選手かしら~」

「ええ。今みている限り動きは単調なんですが、それをおぎなってあまりある霊力がありますね」

「そうね~。霊力の強さだけで~、特に防御もしていないのに~、風の精霊が届いていなかったのね~」

「それ以外、特にわかったところってないんですけど」

「試合開始直後に相手の様子を見てから~、霊力をきめているようよ~」

「そこが対策のポイントになるんですか?」

「今のところ底を見せていないから~、よくわからないのよね~。横島君のようにね~」

まさか六道夫人って、文珠のことに気がついているんじゃないだろうな。

「何を言ってるんですか。冥子ちゃんと一緒での除霊の時の力が最大ですよ」

「うーん。それならそれでもいいわよ~。冥子との協同除霊これからもよろしくね~」

「ええ。今まで通りにお願いしますね」

こういっておけば無茶は言ってこないよな。

「あら~、この前、院雅さんと話をしたら~、加賀美さんがGS試験受かったら~、協同除霊を受けられる回数は増やせるって言ってたわよ~」

俺はまわりにいるメンバーを見ると知らなさそうだ。
院雅さん、また俺たちにだまっていたな。

「うーん。院雅さんに聞いていないのと、高校生が多いからそこまで仕事は、お受けしていないはずなのですが……」

「あら~、そういえば、院雅さんに横島君たちに内緒にしておいてね、って頼まれていたのよね~。おばさん、困っちゃう~」

六道夫人に裏はないだろうから、

「冥子ちゃんとの協同除霊のこともありますけど、院雅除霊事務所内のことなのに、なんで六道夫人が困るんですか?」

「ここまで話しちゃったから言うけれど~、加賀美さんがGS試験受かったら~、新しくGS助手を雇うって話があったのよ~。だから、六道女学院の1年生を推薦しておいたのよね~」

院雅さん、せめてひとこと伝えておいてくれよな。
多分、六道女学院からGS助手をアルバイトとして雇うことによって、六道夫人が生徒の危険性を下げるのを考慮しているんだろうな。
そういうところでは俺達への負荷が少なくなるように、ある程度は考えてそうしているんだろうけど、やっぱりひとこと話しておいてほしいよな。

「そうでしたか。とりあえず、院雅さんから話を聞くまで聞かなかったことにしますよ。みんなもそれでいいよね?」

事務所の皆も、院雅さんが突発的に何かおこなうのにはなれてきているのか、黙って頷く。

「よかったわ~」

しかし、1年生というとまさか弓さんか、それとも一文字さんが来るのか?

蛮・玄人以外にめぼしい試合は、ここでは見当たらないので、あたりさわりのない話を冥子ちゃんとしていると、ひのめちゃんの。構ってよ視線も感じるが、

「若い人ばかりで話して誰も相手してくれないのね~。おばさん、すねちゃうんだから~!!」

「ああっ、お母さま~すねないで~~!!」

冥子ちゃんのフォローもむなしく六道夫人が離れて行ったが、逆に離れて行ってくれたのは助かる。
六道夫人も自分のところの生徒の試合をみるのが、今回の仕事じゃなかったのか?

しかしっというか、GS関係者からの視線が痛いぞ。
そばに居れば居たで嫉妬っぽい視線がくるは、すねて離れて行ったら、六道家に何をやったんだという目でみられるし。
幸いなのはここに冥子ちゃんがいるから、そこまで強い視線ではないけれど。
六道夫人がいなくなると一時視線は集まったが、いまだぷっつん娘の悪名がぬぐいきれていない冥子ちゃんがいるおかげか、視線が減ってきた。

さて次の8試合での注目はおしりとふとももが魅力的な九能市氷河と、個人的にはおしりがむずむずしてくるので嫌だけど鎌田勘九郎か。
試合が始まると秒殺していたのは、勘九郎で、相手は黒焦げでぶっ倒れていた。

「ぶっといのはお嫌いかしら?」

って、勘九郎が言うと、別な意味に聞こえてきて『いや~』。
勘九郎の霊波砲なんだけどなぁ。

九能市氷河は「生きた人間を斬るのって、なんて快感ですの~」って、まだ、斬ることだけで、人の命まで奪おうとするレベルでないのだけが救いか。
対戦相手の状態は語らぬが花であろう。

冥子ちゃんは、こういうのではプッツンしない。
のんびりとした口調で

「だいじょうぶかしら~~」

なんて言っているぐらいだ。
冥子ちゃんと俺のまわりからは、ますます、人が減っていっているけど……

あとの残り6試合は特に見た感じでは、注意する相手は今のところいないようだな。


2回戦最後の残り8試合での注目は、雪之丞の相手が、俺と去年あたったワン・スーミンであることだ。
チャイナドレス風の霊衣のチラリズムがいいなぁ。

雪之丞とワン・スーミンの戦いは、雪之丞の霊波砲を、ワン・スーミンが神通棍でそらして、ワン・スーミンが逆に神通棍の間合いで戦おうとする。
雪之丞は、その神通棍より内側に入りたいのだろうが、入れないでいる。
ワン・スーミンの棍術の技量は高いな。
ただ、雪之丞が魔装術を発動させると、パワーアップした霊波砲をそらしきれず、かすったところを、雪之丞がチャンスとみて、連続霊波砲でしとめにかかった。
あとにはのびているワン・スーミンがいた。
倒れたことが幸いしたのだろう。霊波砲は1発ぐらいしかまともにあたっていないようだ。
もしかして、ワン・スーミンって、実力はあるのに運が悪くて、合格できないだけか? タイガーみたいに。


GS試験合格者32名の確定はしたが、力がありそうなのは、雪之丞とユリ子ちゃんはおいといて、鎌田勘九郎、蛮・玄人、九能市氷河に、意外にも銀ちゃんか。
才能はあったんだろうけど、習い初めてから多分、2,3ケ月程度の時間しかなかったはずだぞ?
聞いたことのない除霊事務所で習っていたようだけど、よっぽど相性がよかったのか?


3回戦は先のメンバー以外に目立つものもいなくて、優勝候補は雪之丞で、組み合わせからいってベスト4に入るのは鎌田勘九郎、蛮・玄人にユリ子ちゃんといったところか。
その合間に俺の影にいる地竜の里目から合図がきた。
近くに蛇髪もといメドーサが近づいてきている。

「あれ? 蛇髪さん、どうしてGS試験会場のようなところに来ているんですか?」

「私たちの企業がスポンサーになる番組の主役が、このGS試験に出ると聞いて、見に来ることになってね」

「へっ? それは、なんという番組でございましょうか!?」

われながら、素っ頓狂な声で聞いていたかもしれない。

「『踊るゴーストスイーパー』っていうテレビ番組よ」

ニタリと笑いながら答えるメドーサをみて、俺は『何を狙っている?』と考えるが、ここで直接聞く訳にはいかない。
まさか、魔装術を銀ちゃんにさずけたのか?
そのわりには、まだ魔装術を使っていないし、神通棍で戦っているから、そっちの線では無いと思うのだが……
メドーサのことだ。根拠なく、近づいてきて、知らせるわけはないだろうから、

「蛇髪さん、もしよろしければ、仕事のことで少しお時間をいただくことはできますか?」

メドーサはニヤッとしながら

「あとで、よろしいかしら。これでも、今回のGS試験の内容を会社に報告するので」

「なんで、法務部所属の蛇髪さんが?」

「なんてことは無いけれど、公の場では話すわけにいかなくてね。仕事の話があるというのなら、あとで事務所によりましょう」

今はここまでか。あとで話がきけるというなら、それでよいかもしれない。
そうなると、気にかかるのは銀ちゃんの試合だが、メドーサと話しているうちに終わってしまった。コンチクショー。
メドーサか、そのうえのアシュタロスに踊らされているようで癪にさわるが、ユリ子ちゃんへ助言しにいこう。

「冥子ちゃん。ちょっと、ユリ子ちゃんのところに行ってくるけど一緒に行かない?」

今の立場のメドーサが手を出すとは思えないが、一応保険だ。

「え~、この~、試合が終わったら~、昼食の時間よ~」

「あっ、そっか。ちょっとしたおちゃめということで、許して、冥子ちゃん」

「これくらい、いいのよ~。だって、お友達でしょ~」

まさか、冥子ちゃんに昼食の時間帯であることを指摘されるとはなぁ。
どこかあせっていたか。
けれど、よく考えると『踊るゴーストスイーパー』はダミーで、霊力の強さからいうと、蛮・玄人に魔装術でも教えたか?
それともメドーサはまわりくどい方法を好むから、そうと思わせて、また、鎌田勘九郎に魔装術を授けたか?
だとしても、アシュタロスやメドーサのメリットがわからないんだが。
このあたりは、院雅さんにでも相談してみるか。
さすがに昼食か、事務所には顔をだすだろう。


昼の休憩時間にあたるとき、冥子ちゃんやメドーサとはわかれて、今回のGS試験参加者や、見学にきているひのめちゃんやおキヌちゃんと近くの公園で食事をすることになった。
銀ちゃんの声援を見て、院雅さんは、お弁当だけ預けて事務所にもどったとのことだ。
あとでPHSによって連絡をとったのだろうか。
どっちにしても、雪之丞とユリ子ちゃんの順位決定の報告にはついて行くけどな。
肝心なことだがまわりにいる事務所のメンバーに、

「近畿銀一だけど、もしかするとメドーサがかかわっているかもしれない」

「なんでそんなことを思うんですか?」

とは、次の対戦相手になるユリ子ちゃん。

「さっき、蛇髪に変装したメドーサと横にいたのだけど、観客席にいたメンバーは知っているよな?」

ひのめちゃんや、おキヌちゃんは、黙って首を縦にふる。
雪之丞はぶぜんとしているが、メドーサが超加速を使えることは知っているので、まともに戦えばあっさりと逆にやられることはわかっているので、今は手をだしていない。
しかも、院雅除霊事務所分室の売り上げトップのお客様だしな。
院雅さんが作ってくれたお弁当をパクつきながら、

「『踊るゴーストスイーパー』のスポンサーとして南部ホールディングスがついているそうだ。多分、そのためだけにわざわざGS試験場まで見にくる必要はないはずだから、またGS試験で、手下になりそうな物を送り込もうとしているのかもしれない」

「メドーサがそんなわかりやすい手でくるのか?」

とは雪之丞だが、俺は、

「あいつらはまわりくどい手を好むから、銀ちゃんもとい近畿銀一ではなくて、他の受験者かもしれない。はっきり言えばわからないってことだな。『踊るゴーストスイーパー』っということ自体がフェイクかもしれないけれど、近畿銀一は要注意かもしれないから気を付けるようにな」

「えー、そうします」

「俺のにらんだ通りできると思ったら、メドーサがからんでいるのか」

「おーい。どこまで、話をきいていたんだ。雪之丞」

「冗談だ」

「おい。人生真面目に生きているんじゃなかったのではないか?」

「真面目に生きていたら、馬鹿をみるってのが、妙神山で経験したからな」

うーん。小竜姫様の生活ぶりをみて、なっとくしたのか。
それとも、老師のゲーマーっぷりのせいか?
どっちでもいいのだが。

「とりあえず、俺はユリ子ちゃんの試合場の近くで待機しているから、皆も蛮・玄人、鎌田勘九郎と念のために、九能市氷河の試合状況を確認してくれ」

「妥当な線だな」


そして、昼食後の4回戦。
16名8試合が一度に対戦する。
その中で、ユリ子ちゃんと近畿銀一が対峙するのを俺は、試合場のすぐそばで見守っていた。

ユリ子ちゃんと銀ちゃんが対峙するのを俺は、試合場のすぐそばで見守っている。

銀ちゃんの武器は神通棍に対して、ユリ子ちゃんの持っている霊刀は、令子の神通棍をあっさり斬ったと聞いている、あの妖刀シメサバ丸が元だもんな。
おキヌちゃんの包丁として使ってもよく切れていたしなって、それは別か。
普通に考えたら、一瞬でけりはつきそうだが、雪之丞が銀ちゃんと「戦ってみたい」と言ってたのが妙に気にかかる。

審判の「試合開始!」を合図に、ユリ子ちゃんが間合いをつめて、袈裟斬りだが、本人自身を狙うよりは、神通棍で守らせる。
その神通棍をそのまま叩き斬るというのが基本で、第一手は大概これできまるんだよなとみていたら、銀ちゃんの神通棍はきれいに受け止めていた。

神通棍にそれほど高い霊力を感じないのに受け止めている?

俺の疑問とは別に試合場では動きがあり、銀ちゃんが攻撃に移った。
その速度は、それなりに速いが、演技としての美しさを求められる殺陣の呼吸がまじっていて、実用的ではない。
簡単に言えば、予備動作があって、ボクシングでいうテレフォンパンチのようなものだ。
普通のGS相手とならこれでもかわせないかもしれないが、そこは、古武道出身のユリ子ちゃんはしっかり見切って、剣の引き際に応じて歩法を駆使して、自分の間合いに銀ちゃんをとらえている。
しかも、視覚的にも、霊力的にも死角の位置への移動をして、これは、寸止めで決まりだ。

のはずだったが、銀ちゃんはこの霊的死角からの攻撃に対しても防御した!?

一般的には知られていない霊的死角に入られたら、事前に知らなければせいぜい間合いを取って逃げるぐらいしか手がないはずだが、銀ちゃんは神通棍で対応している。
これは何だ?
ユリ子ちゃんの霊刀と、銀ちゃんの神通棍では、リーチ差から、どうしても、ユリ子ちゃんが一歩はいらなければいけない。
実際何度も入っているのだが、いざ、霊刀を当てようとすると、神通棍で防がれる。
しかも、攻撃より、防御の動きの方が、神通棍の動きは速い。
ユリ子ちゃんが近接戦では拉致があかないとみたのやら、霊刀を両手から片手に持ち方を変えて、霊波砲も含めた攻撃に移るが、銀ちゃんの防御は神通棍ですべて防がれていく。
銀ちゃんはまるで、すべての攻撃を読んでいるかのような防御だ。

「やはり、続いていたか」

そんなところに、すでに試合が終わったのであろう、雪之丞が声をかけてきた。

「ああ」

「さすが、俺が見込んだ奴…!!」

この戦闘狂に見込まれた銀ちゃんが、決勝にいかない方がいいなと思いつつも、この試合このままだとユリ子ちゃんが負けるか。
銀ちゃんが持つ神通棍の霊力は高いように見えないのに、トップクラスのGSの神通棍も叩き斬ることも可能なユリ子ちゃんの霊刀に対しての防御方法があるとみるのが妥当だろう。
あまり知られたくはないのだが、ここは決心をするべきだな。
俺はユリ子ちゃんに声を投げかける。

「ユリ子ちゃん、五行の札を5種類とも使って、様子を見ろ!!」

ユリ子ちゃんは、こちらを見ずに袖から5枚の札をだす。
五行とは、水火金木土の5種類だが、一斉に5枚の札を銀ちゃんに投げつける。
5枚とも、銀ちゃんに受け止められたが、それがこちらの狙い。
投げつけた札は、木と水の札が短い時間で消滅して、火金土の札はそれよりも数瞬あまり長い時間で消えていく。
相手の特性を知るのに攻撃として使うならば『五行相剋』を単純に考えて、金は木に勝ち、土は水に勝つであるが、金と土の霊能力をもっているとも解釈はできる。
しかし通常は、霊能力の特性は1種類であり、本来ならば、攻撃に相性の良い霊能力でも、霊力に差があれば、あっという間に負けてしまうことがある。
つまりは、木の札が早めに消えたということは、木は土に勝ちであるはずが、銀ちゃんの土属性が強力であったために、負けがはやまったのであろう。

「ユリ子ちゃん、木行を中心に戦うんだ」

「はい」

今度は、ユリ子ちゃんから返事がくる。
さっきよりは、余裕がでてきた感じだな。
平安の五行の術は、現在ではすたれているから、知っているものも少ない。まだ風水の四神の法なら一般的なんだけどな。
ユリ子ちゃんは、木行の札を五芒星の位置へ霊力で配置して、試合場を木行の場に変化させる。
このあたりは、木行であるサイキック五行青竜陣と同じだが、ユリ子ちゃんが自身で木行の札を書いているため、相性が抜群によい。
それにたいして、さすがに五枚の札による五芒星の中では、目に見えて銀ちゃんの動きに衰えがでだしてきた。
だが、それでも、銀ちゃんの神通棍の防御の動きは、若干しか落ちていない。
あの神通棍は通常のものでないな。
メドーサが何か関係してるっぽいから、あとで、つっこんでやろう。

院雅さん経由でだけど。

それでも、神通棍の動きが遅くなったところでユリ子ちゃんは、霊波砲をダミーにして、霊刀を銀ちゃんの首筋にあてていた。

「私としてはこれ以上、刃先を押したくはないのですけど……」

「俺の負けや」

そうして、銀ちゃんはおとなしく、神通棍を手放してそのままの体制でいたので、ユリ子ちゃんが刃を返して霊力のこもっていない峰うちで軽くふれたところで、銀ちゃんが倒れる。
審判が、それを確認して、

「TKOにつき勝者、加賀美ユリ子選手」

まわりからは、女性のブーイングやら、悲鳴やら聞こえてくるが、気にしちゃやっていけない。
俺は、ユリ子ちゃんに、

「やったな。銀ちゃんの神通棍は手ごわかったけど、よくやったな」

ユリ子ちゃんが、反応するよりも早く、

「銀ちゃんっていうからには、やっぱり横ッチか?」

「ああ。やっぱり小学校時代の銀ちゃんか」

「こんなかわいい娘の師匠をやっているってやっぱりオイシイやっちゃな」

いや、別にオイシイ思いをしていないぞと思いながらもスルーすることにして、

「TVで見ていて似ているとは思ったのだけど、まさかGS試験で会うとは思っていなかった」

「ひさびさなのにすまんけど、ちょっと、あとで話をさせてもらってもええか?」

「ええけど」

「それじゃ、選手待合室でいいかぁ?」

「決勝がおわったらな」

「それでいいわ」

そういいつつ、試合会場をさっていったけど、しっかりと

「今度、踊るゴーストスイーパでるから、よろしく」

ってしっかり宣伝して退場していった。
これで、会場の女性はぞろぞろと減っていくのがなぁ。
それはともかく、

「ユリ子ちゃん、苦戦したけどよくやったな」

「いえ、まだまだ、修行をしなきゃいけないって痛感しました」

「あれは、多分、神通棍に特殊な仕掛けがあるんだろう。今の試合は参考にならないから、次の相手はともかく、あの蛮・玄人に注意することだな」

「ええ。期待にそえるようにがんばります」

「いい返事だ」

うん? 次の相手をなめているかって?


*****
さてさて、メドーサの目的は何でしょう。

2012.02.28:初出



[26632] リポート60 踊るGS試験編(その4)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/06/13 22:25
次の5回戦は運もあるだろうが、雪之丞やユリ子ちゃんは、他と実力差がおおきそうだから、多分大丈夫だろう。

休憩をはさんで、ベスト4をきめる5回戦で注目する試合は、九能市氷河と鎌田勘九郎だ。
ユリ子ちゃんの試合会場のそばで、九能市氷河と鎌田勘九郎の対戦を観戦するが、霊力に差がありすぎる。
勘九郎の一方的な霊波砲でおしまいだ。

そういえば、前の世界で九能市氷河って、GSとして活躍してたかな?

ちなみに、ユリ子ちゃんも雪之丞も5回戦は何もなく突端な。

そして、いよいよ準決勝だ。決勝あるいは、3,4位決定戦を考えたとしても、それぞれあと2戦を残すのみ。
俺はユリ子ちゃんと蛮・玄人の試合の方を見る。
雪之丞と勘九郎じゃ、素の力では勘九郎だろうが、魔装術が無い勘九郎では、勝負にならないだろう。
そもそも男同士の上、マザコンVSオカマの戦いなんて興味ないしな。

ユリ子ちゃんの試合会場へ行き、試合開始を待つ。
両者すでに試合会場に入って様子をみているようだが、審判より「試合開始!」の合図がかかる。
蛮・玄人がその合図とともに、

「先ほどの試合は見せてもらった、100%だ。全力をだしてやろう」

そう言って、全身から人間とは思えないすさまじい霊力がでている。
解説の方からは

「おーっと、蛮選手の霊力数値がでてまいりました。なんと900マイトです」

900マイト? 冥子ちゃんでさえ300マイトぐらいなのに、すごいな。
本当に関心するぐらいだが、試合自体はほんのわずかな時間で終わった。
蛮・玄人の霊力の全開を見届けたところで、ユリ子ちゃんが霊刀で斬りつけたところ、相手がパンチをくりだしてきたので、その手の一部を斬りつけた。
その返す霊刀を、そのまま首筋にあてたところで、

「まだ続けますか?」

「100%のパワーで斬られるなんて~」

と言って倒れていった。
自分の血を見て気絶したようだ。

「勝者、加賀美ユリ子選手」

確かに900マイト自体の数値はすごいが、身体全体で放出しているから、部分的に強い霊力にはあたれば負けるのを理解していなかったか。
もしくは、それだけの技量をもった師匠がいなかったんだな。
対して、ユリ子ちゃんは中級魔族とも押されたとはいえ戦っているから、パワーしか考えていない900マイトぐらいの相手なら自信があったのだろう。



試合会場を降りてきたユリ子ちゃんに、

「おめでとう。あとは決勝だな」

「いえ、運です。それよりも雪之丞さんは、まだ魔装術もおこなっていないようですけど?」

ユリ子ちゃんの指摘を受けて見てみると、雪之丞と勘九郎がバトルをしていた。
ただし口でだ。おぃ。
マザコンとオカマと、どちらが正常に近いか、争っているようだ。
俺は、どっと、つかれた。

「雪之丞!! 相手の口車にのるなんていつもの悪い癖だぞ」

まあ、雪之丞が口車にのせられなくなったら、マザコンの戦闘狂だけどな。

「おお。本気で、忘れていたぜ! 去年の俺の魔装術とは違うところをみせてやるぜ!! 勘九郎」

雪之丞の極意を極めた魔装術をみて、勘九郎が、

「あたしも、去年のあたしと違うってところをみせてあげるわ」

「えっ? お前、魔装術は使えないのでは?」

「そうよ。よく知っていたわね。これもメドーサに、そそのかされたあたしが悪かったのよ」

「同情はするが……本気で行かせてもらうぜ」

「話は最後まで聞くものよ、雪之丞。魔装術をあのくそおばさん……メドーサに奪われたあたしは……」

会場へきて蛇髪に変装しているメドーサのこめかみが、ヒクヒクしているのは見なかったことにしよう。

「少年まんがの強さのインフレの大きさに負けないよう、あたしは努力したわ。けれどそれは間違いだと気が付かされたの。魔装術の極意は、潜在能力を意思でコントロールしてパワーを引き出す、という言葉を思い出してね」

その時、勘九郎が俺の方にちらっとなまめかしい目つきで一瞬みてきた。
背中が別な意味でゾクゾクするというか、お尻を抑えてにげだしたくなるというか。
けど、俺の昨年の言葉は覚えていたのか。
ただ、雪之丞は、

「話は見えないんだが、もしかして妙神山で修行でもしてきたのか?」

「いえ、霊波を纏う術は、魔装術だけで無いってね。さらに私の潜在能力を考えていたのよ。そしてわかったのよ」

勘九郎の霊力の放出がどんどん低くなっていくのが感じられる。魔装術を発動する際の霊力エネルギーの物質化の際におこる現象だ。

「そう。美しさよ。そしてあたしは……こんなに美しくなったわ」

って、その勘九郎の美的センスというのが、どっちにいったかよくわかるような、黒を基調としたエナメル質のベストにホットパンツとブーツという組み合わせにサングラス姿である。
数年後に流行るであろう「フォー」という声でもでればそっくりだ。頭イテエェーー!

「あれが、魔装術でなければ、霊装術あるな」

厄珍が真面目に解説している。
霊装術って、俺も極めようと思ったけれど、いくら修行しても、

「煩悩が強すぎるから、意志でコントロールできないのねー」

って、ヒャクメにダメだしされたのに、勘九郎はだいじょうぶなのかよ。
俺って、オカマに負けるのか。ちょっと悲しいぞ。



魔装術対霊装術の戦いは開始したが、術そのものは魔装術の方がわずかにパワーは高くなる。
しかし、素の霊力の違いで、霊波砲のパワーは勘九郎の方が上である。
雪之丞の霊波砲は勘九郎に比べるとパワーは少ないが、収束率が高くなっている。
雪之丞の性格を考えると無意識なんだろうが、実践で魔族と対抗するのに自然と覚えていったのだろう。
体術は勘九郎の方が上で、スピードは雪之丞か。
全体では、ほぼ互角に戦っている。
多分、勘九郎がこの霊装術を身に着けてからの実践が少ないのだろう。
まぁ、互いに、GSバスターとしての訓練も受けていないが、ある程度手の内を知っているから互いにやりにくいのか、やりやすいのかわからないが。
しかし、すでにこれだけの全力攻撃を1時間半もお互いに続けているのは、二人ともすさまじい精神エネルギーだな。

今の調子だと試合が、5,6時間ぐらいかかってもおかしくはない。
まぁ、それだけ二人とも精神面の疲れを感じなければだが、雪之丞はすでにこの戦いを楽しんでいそうだし、勘九郎はなんで腰を時々前後させるいんだよー。
見てる方が疲れてくるわ~

時間制限の無いのがこのGS試験の問題点だな。
次回から時間制限付きにされるといいなぁと思いつつ、今度は、おキヌちゃんの試験の時か。
一応ネクロマンサーの笛が主力武器だから、こういう1対1の実戦形式には向かないから、推薦枠ができるまで、やっぱり無理かな。
そう思っていたところ、雪之丞が突然動作を変えた。

「霊装術かなんかは知らないが、やっぱりこれか」

そう言って見せたのは、サイキックソーサー。
いつの間に魔装術を行いながらも、サイキックソーサーができるようになったんだ?

「本当は、横島との対戦用にとっとくつもりだったんだが」

って、俺との対戦用かよ。

「魔装術にはサイキックソーサーは効くけど、霊装術にはどうかしら?」

そう言いつつも、勘九郎もサイキックソーサーを作っている。
魔装術で装甲が物質化に近いレベルまでできる奴って、だいたいはサイキックソーサーもできるからな。

ここで、サイキックソーサーを出すってことはお互い、魔装術や霊装術を維持できるほどの精神力や霊力がなくなったということか。
霊波砲の打ち合いだったもんな。
お互い致命傷になっていなくても、それぞれかすっては、修復の繰り返しだったし。

一応膠着状態になったが、どっちがどう動いたら、どうなるかわからん。
サイキックソーサーは前回のGS試験で勘九郎は見切っていたし、雪之丞は普段から俺のサイキックソーサー系列を見慣れているからな。
そして、近くに近寄ってくる霊気を感じたが、誰だろうとちらっと振り返ったら銀ちゃんだった。

「なんか、すさまじい戦いやなー」

「ああ、俺でもこの試合形式なら、あいつらに勝てる気がしない」

「へー、Sランクの除霊を受けている事務所の分室長ではっきり言っていいのか?」

「ああ。俺たちには成功率というのも重要だから、無理だと思ったら受けない。なんせ自分たちの命がかかっているからな」

「ふーん、そうやな。やっぱり、GS試験にでてみてよかったけれど、途中で負けてもっとよかったわ」

「そういえば、銀ちゃんはGSになるのか?」

「正式にはならないけれど、自衛のために霊能力があるのは、持っていた方が好いって言われてやな」

「どうして?」

「悪霊のストーカーに、狙われることがあるからやて」

そういえば、前の世界で、銀ちゃんと再会した時は、悪霊のストーカーに狙われていたもんな。
雪之丞と勘九郎の動きはないが、目を離したら一瞬で何かがおこりそうなので、銀ちゃんを確認したあとは、また試合会場を見ながら話している。
そして銀ちゃんが、再び話はじめた。

「本当は、選手待合室で話そうと思ったのやけど、ヨコッちの除霊現場をみせてくれへんか?」

ちょっとばかり、意識を銀ちゃんに向けるが、

「何のために?」

「俺、ちゃんとした役者になりたいんや。それで今回の踊るゴーストスイーパーの為に、きちんとした役作りをしたいんや」

そこで、動きの無い試合会場を見ながら考えるが、銀ちゃんの試合でのスタイルは神通棍だ。
一方、俺のいる事務所で、神通棍を主力とする者はいない。
役作りというのなら、他のGSがよいだろうけど、誰かというと令子を思い出した。
アイドル好きだし、ひのめちゃんの家で食事のときの話題によくアイドルとかの話もでてくるから、こっちでも気合いの入った格好で受けてくれるだろう。

「銀ちゃんって、踊るゴーストスイーパーでも、神通棍を使うのか?」

「ああ、そうやけど」

「そうしたら、別口を紹介するよ。美神令子除霊事務所なら神通棍と破魔札を主体にしているから、役作りの勉強にはぴったりだろう?」

「美神令子というと、業界では大金がかかるって……」

「多分、先にサイン入り生写真でも持参して、交渉に入れば比較的安く請け負ってくれると思うぞ。それで駄目なら、こっちの所長と相談してみるけれどな」

「業界なりの情報があるんやな。今日はGS試験に専念するためにオフだったはずのだけど、仕事が入ってな。ほんまに助かったわー」

「銀ちゃんも大変だな」

「この埋め合わせはいつかするわ」

「気にするなよ」

「まあ、そう言わんとな」

そうやって、銀ちゃんとの会話は終わって、銀ちゃんは仕事へむかったようだ。
試合会場は少しも動きがなく時間が過ぎているが、すさまじい緊張感に満ち溢れている。

そう思った矢先に雪之丞が動いた。
サイキックソーサーを投げようとしたところで、冥子ちゃんが

「先に動いたっ!! ひのめちゃん、あの人、先に動いたわ~~!! 馬鹿ね~~負けるのね~~!?」

って、冥子ちゃんってこういう知識って、ひのめちゃんより知識が無いのかよ。
んで、ずっこけかけてすっぽ抜けたサイキックソーサーをなげた雪之丞が、勘九郎へ突進している。
勘九郎は、サイキックソーサーを保持したまんまで、さらに手から物質化した刀をだしている。
二重のコンボで雪之丞がやられると思ったら、雪之丞も手から物質化した刀をだしていた。
切り札を出す時には、さらにもうひとつの切り札をっていうのが、白龍寺の本来の戦い方らしかったが、魔装術を覚えたてのころはそうではなかったようだ。
先に、雪之丞の奇襲がきまるかと思ったが、リーチの差で勘九郎が、雪之丞の腹部の付近を差した。
そのまま、刀を消したから、致命傷ではないが、重症だろう。
そのままひねれば雪之丞の命も危なかったのに、勘九郎も案外良いやつだな。
だけど、勘九郎は、この時に致命的なミスをした。
先に雪之丞が投げていたサイキックソーサーが、勘九郎の後頭部にくるのを読めていなかったことだ。
あのルートだと、霊的死角に入った可能性がありそうだな。
雪之丞の運が強いのか、ユリ子ちゃんの行動パターンを無意識に覚えつつあるのか。
結果は、ダブルノックダウン。

3,4位決定戦と、決勝は結局全員医務室からでてこなかったので、最後の表彰式はユリ子ちゃん一人1位ということで、俺としては予想外の結果になった。
雪之丞がてっきりトップになると思ったんだけどな。
まぁ、雪之丞は決勝終了後に、ひそかに文珠で治『癒』したので、すぐに元の状態になったが、

「優勝をねらっていたのに、勘九郎と引き分けとは」

って、俺からみると贅沢な悩みだな。
こうして、GS試験は閉幕したのだが、まだ順位とかを院雅さんに報告しなきゃいけないんだよな。
一応、パーティをしてくれるはずなんだけど、メドーサがいるからどうなることやら。
メドーサとの話もあるが、今回は人数もいつことなので、院雅除霊事務所の方で、合格祝いをかねて、メドーサから情報も受け取ることになった。
ただ、ひとつ、雪之丞から

「そういえば、あの近畿銀一ってやつの動きの謎はわかったのか?」

すっかり、忘れていた。
やっぱり俺って、こういう諜報戦とかに向かないんだよな~。



*****
踊るGS試験編終了です。
次話投稿まで、しばらく、間があきます。

2012.03.03:初出



[26632] リポート61 GS試験合格パーティー
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/06/15 22:36
院雅除霊事務所でGS試験合格パーティーだが、その前に南部ホールディングスの蛇髪ことメドーサと打ち合わせを行う。
メドーサが蛇髪として来るときは、南部ホールディングスでの不動産関係の持株会社や関係会社の除霊をビジネスライクに進めるが、今回は次回の除霊の話とともに、GS試験合格パーティー用に贈り物として、南部ホールディングスの持株会社であるデパートの商品券をもってきた。

今度の南部ホールディングスからの依頼は、まるで今回GS試験に受かった雪之丞とユリ子ちゃんにあったような少数騒霊タイプがいる場所だ。
まあ、元々、院雅除霊事務所やその分室が除霊を受けるのは土日祝日とその前日の晩だから、急ぎの除霊はまずこないし、きても断るからな。
さらに、依頼元である南部ホールディングスの芦優太郎が失脚されかねない者を受けそうなら、メドーサが後で知らせにくるし。
安心はできないが、今のところ、足元をすくわれるような依頼はきていない。
芦優太郎もといアシュタロスが、まだ、信頼はできないが。
魔族は、時間をかけて人の心の内に入ろうとするタイプもいるからな。

蛇髪が帰ったあとに、いよいよGS試験に合格した二人のためのパーティーを行う。

院雅さんからは、

「伊達雪之丞、加賀美ユリ子。難関であるGS試験を二人して合格おめでとう。これまでも大変だったと思うけれど、今後は、きちんと、師匠になる人と話し合うことが重要よ。特に、伊達!!」

雪之丞は顔をしかめる。
ダテ・ザ・クラッシャーとの異名は、いまだはがれないので、横島自身も頭が痛いところだ。

「それから、加賀美は師匠変更をすること」

「えっ?」

ユリ子ちゃんも聞いていなかったらしく、思わず声を上げた。横島も聞いていないが、ある種の予感はあった。

「私じゃ、加賀美の力量を伸ばすのは、もう力不足だわ。刀剣に関してはもうすでに横島の方に師事しているようなものでしょう? これでいいたいことはわかったわよね?」

ユリ子ちゃんの表情は困惑から、納得したような風になっていく。

「そう。正式な書類は今度の金曜日にでもなるけれど、師匠替えを行うわよ。だから、がんばってね。横島」

「うーん」

横島は、ここでさすがにうなる。
GS見習いをすでに2人(ひのめちゃんに、予定だった雪之丞)を受けもって、さらに1人追加?
他にもGS助手としておキヌちゃんがいる。
そうして反論を繰り出してみる。

「えーと、それだと俺が見るGS見習いが多すぎるのと、院雅さんは、一人も助手とかいなくなりますよね?」

「あー、その話。GS見習いは、美神がそろそろGS資格に達成するでしょ?」

うっ、その通り。横島がだまっていると、不安げに見ているひのめがいる。

「横島は書類の把握と提出が遅すぎるわよ。だから、美神もわかるとおりに、霊障に対応する能力は横島が上でも、書類関係あたりをよくみてあげるようにして、分室を二人で見ていくようにしなさい」

「へーい」「はい」

横島は、仕方がなくと、ひのめは自分が別に横島と離れることになるわけではないんだと安心した。何せ、横島の一番の難敵は書類だから。

「それで、雪之丞は、基本的には神魔出張所に出向いていることが多いだろうけど、氷室とのコンビネーションを組む仕事を多くとるようにするから、その連携をきちんとみるようにね。横島」

「えーと、そうすると分室はふたチームを原則とするんですか?」

横島にとって、予測外の展開でこうした疑問がでるのと同時に、ひのめもちょっと不安そうにする。

「前衛は加賀美、後衛は美神に氷室、中間に横島が中核となるフォーメーションを取ることになるでしょうけど、それは除霊対象によって、雪之丞が入ることによってどう変更するかは自分で考えなさい。これがあなたの今後の課題よ」

「そうですか。分室はわかりました」

そう言って、横島はまわり見渡す雅を、ここまでの院雅さんの説明に不満や、不安を持っている者はいないようだが、疑問が残っている顔つきをしている。

「それで院雅さんは、一人になるようですが、どうするんですか?」

「もう少し、後で話すつもりだったけど、仕方がないわね。六道学院の1年生からGS見習いとして1名来る予定です。すでに顔合わせもしていて、今回のGS試験で二人とも受かったら、GS助手として引き受けるという話になっているわ」

「六道夫人には、自信があったんでしょうかね?」

GS試験会場でのユリ子ちゃんが合格するかどうかの話を頭に思い浮かべながら院雅さんに話してみる。

「そうね。五分五分とみていたんじゃないかしら?」

「今回のGS試験合格が二人ともが五分五分だとー」

雪之丞がいきりたつが、もう一人の試験合格者であるユリ子ちゃんは、

「祖父から言われたのですが、『受けたことは無いが、GS試験は実力だけでなく、運・不運が大きく関係する』と聞いたことがあると言われました。決して油断するんじゃないぞ。まわりからの妨害工作なんかも気をつけてな、って言われていました」

さすがユリ子ちゃんの爺様だ。
GSじゃないのに、本質を理解しているようだ。

「せっかくの料理が冷えてしまうわ。GS試験合格祝いのパーティーをまずは始めましょう。けれど、今後の方針も『話していくから、そうしない?』

院雅さんから断定調ではなく、疑問形で投げかけられるのは久々だ。
皆もだまってうなずいた。

「それじゃぁ、伊達に加賀美、GS試験合格おめでとう!!」

「「「合格おめでとう」」」

こうしてGS試験合格パーティーが始まったが、合格パーティーとは名ばかりの院雅さんへの質問が集中が始まった。

「新しいGS見習いってどの娘が来るんですか?」

「岸田亜由美っていう娘よ。知っているかしら?」

六道学院に通っている、ひのめちゃん、ユリ子ちゃん、おキヌちゃんが考え込んでいる。
俺も何か聞いたことが感覚はあるような気はするのだが、一緒に仕事をするほどのレベルではなかったのであろうか、覚えていない。

「その様子だと、その一年生の娘を知らないようね」

残念なように、六道学院組は互いに顔を合わせている。
院雅さんは、

「そうね。実力はほどほどにありそうだけど、目立つタイプの娘じゃないわね。私と同じく、符術が主体で、しかも西洋系なのよね」

「符術?」

「そう、無敵の盾(イージス)理論を主体としているのだけど、攻撃力の不足と霊的に直接的な防御力が貧弱そうだから、基礎からあげていかないといけないでしょうね」

そういえば、無敵の盾(イージス)理論だけど、あくまで補助としてしか活躍していなかたったGSがいたなとおもいだした。

「無敵の盾(イージス)理論というと、相手の霊力を吸い取るタイプですか?」

「そうね」

「対魔族には、向かないと思いますが」

「対魔族を念頭に置いているGSは非常に少ないのよ。もう少し頭を普通に切り替えた方が良いわよ」

いかん。一般のGSのレベルとかけ離れてきているのを認識がずれてきていたようだ。

「了解っす」

こうして、院雅除霊事務所と、分室のすみわけの方向性はなんとなく見えてきたが、ここで、重要なことを確認する

「六道夫人が、何気なくもらしちゃったのですが、冥子ちゃんとの共同除霊が増えるとか?」

「あら、そんなこと言ってたの? 横島は大丈夫よ」

「俺は大丈夫?」

「そう、今までと同じくらいのペースで受けるつもり」

「そうですか……」

今までのペースでも心理的には結構負担なんだけどなと思ったところで、院雅さんから爆弾発言が飛び出す。

「増える分は、美神が担当することになる予定だから」

「……えー!!」

この日一番の大声がひのめちゃんから飛び出した。
確かに、冥子ちゃんが除霊で周りが壊滅的なダメージが発生するというイメージは今でもあるし、実際に少ないながらもいまだに発生する。
最近。そのまわりを破壊しているのは、鬼頭が一緒の時ばかりだということで、カオスのおっちゃんか、マリアの経験不足からくる計算ミスが遠因なんだろうけどな。
俺から、ひのめちゃんにかける言葉は、

「十二神将にダメージを与えれば、無事に帰れるよ」

ひのめちゃんは顔をひきつらせながら

「ええ」

と答えていた。院雅さんからは他にも、

「今年の一年生の海の除霊実習参加は無し。二年生の山の除霊実習は、依頼があるかもしれないけれえど、横島は不参加ね」

「不参加でOKなんですか?」

横島は内心は安心しながらも問い返す。

「そうよ。その頃にはGSになっているだろう美神がいるし、GS見習いの加賀美、そしてGS助手の氷室がいるのよ。これ以上は、必要ないでしょう?」

確かに昨年のような海の除霊でもなければ、この3人がいれば大抵のクラスAの除霊は問題なさそうだ。

こうして、質疑応答で進んだ、パーティーだったが、最後に雪之丞が、

「そういえば、こういうのが好きそうなヒャクメはどうした?」

まだ、あの事件は解決しないのかなと思いながら、院雅さんからの返答を待っていると、

「そうね。韋駄天の事件を美神令子事務所と一緒におおこなっているみたいだけど、まだ、未解決みたいね」

俺は八の字のTシャツを連想しながら、げんなりした。

「韋駄天も元は鬼だし、ヒャクメも元はといえば鬼の一族だし、鬼の対立ですませたいのでしょうね」

小竜姫さまと、メドーサの竜族同士の対立という関係にもっていきたいのか。

こうしてGS試験合格パーティーは進んで、お開きとなったが、最後におキヌちゃんからは

「近畿銀一さんかのサインはもらえないんですか?」

神通棍の謎だけでなく、単なるファン心理の話も忘れていた横島はダメージを負って、部屋に戻って倒れこむように眠りについた。

*****
岸田亜由美って名前はエリアルからきてもらいました。

2013.06.15:初出



[26632] リポート62 私を月まで連れてって!!(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/07/14 12:54
なぜか、外国に俺はいる。
とりあえず、学校を休んでいるが、3日間ぐらいは昨年の六道女学院での除霊実習のおかげで、あの母にもれていない……っと、思いたい。

そして、日本以外では長時間活動ができないはずの、小竜姫がいて、数日にわたって活動をしている。
まわりにいるメンバーは、神族を代表して、小竜姫にヒャクメ、魔族を代表してジークに、その姉で、ええ身体をしているって……おっほん、ワルキューレに、なぜか、メドーサ。人間側はオカルトGメンの西条を筆頭に、ひのめちゃんと俺がいる。
カオスのおっちゃんとアンドロイドのマリアも来ているが、最終段階の調整中だ。

最終段階? ここは某国「星の町」。
つまり、ロケットで月まで行って、ハルマゲドンを阻止するミッションである。

そんな中で、これが最後として聞かされるであろうジークからの説明は、

「ようやく、月神族――月の精霊たちとコンタクトがとれました。彼らは地球から離れていて、神にも魔にも属していない。何回も、魔族の侵略があるかもしれないので、呼びかけを続けていたのだが、通信できるようになったのは、魔族が完全に占拠をしてしまったところを追い払えずに、逆に返り討ちにあっている状態になってからです」

そこにワルキューレが新たな情報を補足をする。

「元は天使であった魔族ルシファーの、忠実なしもべといわれていたパイモンの手下が月にいるようだ」

「……そのルシファーは何と言っているのですか?」

っと、小竜姫が口をはさみ、そこにまともにワルキューレが、

「天使の時はたしかにパイモンは部下だったが、魔族になってからは、そんなことは無いと、うそぶいている。まあ、まともに話にのってこないのだ」

「表向きはそういうことになっているねぇ」

メドーサが、ここから、なんとなく余裕を感じる雰囲気で話だす。

「ルシファーほどの上位魔族になると、穏健派か、中立にいないとバランスが崩れかねないからねぇ。本音では、武闘派だったのかもしれないねぇ。まあ、パイモン以外の他の3魔族を動かしていないところを見ると、どこまで本気でうごいているのやらねぇ」

「パイモンの部下というのは、どこからでてきた情報なんですか?」

「アシュタロス様からさぁ」

「アシュタロス?」

俺は、なぜ、アシュタロスが情報を流してきてくるのかが、不思議だ。奴こそ、本当は今の神魔の現状をなんとかひっくりかえしたいのでは? っと、思っていた。
しかし、そんな疑問も後回しだ。

「侵略をうけた「月神族」の要請で、人類がその魔族が月からの魔力送信を止めるということにしたいと。そういうシナリオを通したいわけですね」

そうして西条が確認を行い、ジークは

「その通りです。他に質問は?」

月にいる魔族がパイモンの部下ということは初耳だった。しかし、他は何回か確認している事項だ。
もっていける武器は神族側からは、竜神の力が、っというか、今回は小竜姫さまの力が宿る額の輪と、腕輪に、「竜の牙」。魔族側からは、精霊石ライフルと、精霊石銃に「ニーベルンゲンの指輪」。人類側からは、精霊石弾頭ミサイルに、なぜかメドーサが用意していた、南部グループ製神通棍。

南部グループ製神通棍は、GS試験で銀ちゃんが使っていた奴だ。通常の神通棍と攻防の増幅率は同じだが、周囲の霊力、魔力などを感じることができる。霊的な死角がなくなるから、ある程度神通棍が使えることと反応速度が速ければ、多少の型のくずれなど問題にならなかったわけだ。


今回のミッションでの問題点は2点だ。
まず、令子が今回は参加できない。俺が先に日本を出発したが、令子は少しより道をしてから来るとのことだったのだが、その後に行方不明になっている。ヒャクメでも探すこともわからないし、オカルトGメンでも独自に調査が行われている。これだけの道具を自在に操れるトップクラスのGSは令子以外存在しない。こんなことなら、令子にも『護』の文字が入った文珠をもたせておくべきだったかもしれないと、いまさらながら思うが、もう出発まで時間もない。

なので俺と、ひのめちゃんで月へ行くことになるのだが、これはひと悶着あった。西条は反対で、俺と西条の組み合わせを言っていた。普通の除霊なら西条とは組みたいとは思わないが、助けがこない月となると、少々頭は固いが応用力のある西条の方が良いとは思う。しかし、オカルトGメン日本支部長でもある美智恵さんはひのめちゃんを推薦している。理由もはっきりと言われた。

『文珠』の『同/期』あるいは『合/体』だと。

いつの未来を美智恵さんは見てきたのかは不明なのだが、確かに西条とは、霊力が近くなくてはできない『同/期』はおろか、ある程度の霊力差があってもできる『合/体』もできないほど俺の霊力が上がっている。もう一方であるひのめちゃんの方は、霊力は俺よりもさらに高いが『同/期』はともかく、『合/体』は可能な範囲であるとヒャクメに解析してもらっている。

これで、俺が文珠使いであることは西条にもわかってしまったが、口は軽く無いので広まることはないだろう。まあ、驚いてはいたが。


もう一つは、小竜姫さまが『超加速』を使えないことだった。これなら、相手次第では一瞬で相手を倒せるのに、相手に『超加速』使いがいないことを祈るだけだ。
本来なら韋駄天の技だから、その技をつかえていた、以前の俺がいた世界の小竜姫さまとメドーサが変だったのだろう。本当かどうかは不明だが、こちらのメドーサも超加速は使えないらしい。

わかっている情報では、今のところ月にいるのは、少年タイプから、巨大な肉片の塊で攻撃してくるダミアンだ。他にもいるかもしれないが、月神族の相手をしているのはあいつ一柱だけとのことだ。

メドーサは、

「だから、GS会場で、ダミアンが動いているって漏らしたのに」

って、言ってたのかよ。
漏らすのだったら、はっきりと聞こえるようにいってくれ!!
って、メドーサだもんな。相手にしてくれなさそうだ。
それに、この事件は起こるだろうと予測していたから、地球各地のロケット発射施設は監視していたはずなのに、非公式なロケット発射基地があるらしいな。どうやって各国や、ヒャクメの眼から隠し通したのやら。


あとは、アンテナらしき建築物ができている。あれで月から魔力をおくるのだろう。

こんな中でで、月へむかってのロケットへ俺とひのめちゃんに、マリアが外部に取り付けられている中、発進した。



月までのロケットの中では、ひのめちゃんが、この時ばかりにといろいろと話かけてくる。

「ひのめちゃん、地球で聞かれているのわかっているよね?」

「そーでしたね。てへ」

公式記録に残るかもしれないんだぞ(ぐすん)
っというわけで、適当に娯楽作品を気休めに送信してもらっていたな。



そして、いよいよ、月へのアンテナへ攻撃開始可能範囲に到着するまで4時間といったところで、それはあった。マリアから、

「月から・未確認飛行物体・発射されきました!」

「まさか狙ってきているの?」

「えっ?」

前の月の時にはこんなことなかったよな?

「至急、地球への連絡と、マリアは未確認飛行物体をサーチしてくれ」

ひのめちゃんと俺は、ただ待つしかない。そこにマリアが、

「未確認飛行物体・99.75%の確率・地球に向かっています。大きさから・宇宙船・96.6%の確率」

「ミサイルとかじゃなさそうなんだな?」

「ヨコシマさん・マリアのこと・疑うんですか?」

「いや、確認したかっただけだ。地球にも連絡を」

「もう・すんでいます」

さすが、マリア処理が速いな。
だが、地球からの返答はおもわしくなかった。

「未確認飛行物体の追跡調査はこちらで行う。だが、月から魔力の放出が始まったと思われる。なるべく早く、善処願う」

って、ある程度、こちらも、月神族が地球からの宇宙船を持っているのを確認したり、月へも周回起動せずに、本体は月へ落下させる予定と準備をしていたのに、相手の作業速度や、調整速度が速いのか?
地球からは、

「未確認飛行物体の方角は日本の太平洋岸付近を目指しているようだ。状況に変化があったら、また知らせる」

「了解」

地球から顔を見せるのは主に西条だが、神族、魔族だと、補助として通信はできるが、どうどうとは、でてこれないんだよな。

そして未確認飛行物体とはすれ違うことはないが、ちょうど、互いに月と同じくらいになったと思われる時に、地球から、

「月からの魔力放射、本格的になりました。これまで確認できている方向は南アフリカ方面。これからしぼりこみをしていくが、可能な限り早めに、魔力放出物を停止・あるいは破壊してくれ」

「了解」

こちらとしては、それしか答えようがない。
あとは月から送られる魔力をもって、パイモンとやらが、どれくらいのことを考えているかだよな。

マリアから

「月・魔力放出アンテナ物体・攻撃位置まで・あと10分!!」

前回は、ハエ野郎はいたが、今回はどうだ。
核ミサイルの方向は変えられるだろうが、精霊石弾頭ミサイルに同じ手が使えるか?


*****
精霊石弾頭ミサイルは『嵐を呼ぶ男!!(その2)』が出典です。
文珠による『同/期』と『合/体』で霊力差が問題になってくるのは、『ジャッジメント・デイ!!(その17,18)』で『合/体』を使いながらも、「横島の霊的パワーもなくなっている」という部分からの個人的な考察からです。

2013.06.29:初出



[26632] リポート63 私を月まで連れてって!!(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/07/15 17:51
月面の魔力放出アンテナ装置とみられるものを、宇宙空間から攻撃するために用意してあるのは、精霊石弾頭ミサイルだ。

それももう少しで発射できる位置にきた。前回と違って、宇宙船を周回軌道に乗せるなんて、ややこしいことをしないから、あのハエ野郎でも真正面から向かうしかなかろう。

マリアから、

「月・魔力放出アンテナ物体・射程距離に・入りました!」

「打て!!」

「精霊石弾頭ミサイル・発射・します」

おー。発射した。月の周回軌道上でも、Uターンしてこない。
よし、

「マリア。ミサイルはどうだ?」

「微妙に・ターゲット方向と・ずれています」

「じゃあ、機動修正するよう、ミサイルに指令してくれ」

「精霊石弾頭ミサイルへ・指示・します」

……うーん。レーダを見ている限りでは変化が感じられないな。
そうするとマリアから、

「故障発生・軌道修正・できません」

「何でや!」

っと、やっぱり、カオスが宇宙用に改造したのがいけなかったのかと思うと、

「精霊石弾頭ミサイルに・物体付着・映像・拡大・します」

こちらからの画像に映っていたのは、グレムリン。特に飛行機にいたずらをして故障させるのが、好きな妖怪だ。人工衛星の故障にも関係していたことがあったが、まさか、地球から、そんな妖怪が月軌道付近にいるなんて。
まさか、月神族によって、月での宇宙船が大量に回収されているのは、こいつのせいか?あのハエ野郎がまっていると思ったが、まだ、姿を見せていないだけか?

それとも、今、警備しているのはダミアンらしいが、月の魔力放出アンテナを設置している魔族はいるはずだろう。いやもう警備だけしかいないかもしれないけれど。そうだといいなぁ。

アンテナ設置をしているのがパイモンの手下なのかは不明でも、結局はあのアンテナは、月面で対処しなきゃならないじゃないか。
ひのめちゃんも、

「やっぱり、月面に降りて対処しないといけないですか?」

「そうだね。ひのめちゃんが後方で、俺が前方のシフトでかまわないだろう。ダミアンなら、まずは火竜をだして、肉体を小さくしてくれ。油断をしていれば、あの少年体型のままだろうから、それだけで、弱点があらわになるはずだ」

「けど、今回は、水がつかえないんですよね?」

うーん。今のひのめちゃんは水行の霊力の方が、火の能力より強いからな。まわりに水があればだけど。

「そこは、不安かもしれないけれど、今回は、攻撃の補助に精霊石銃と、南部グループ製の神通棍。防御では『ニーベルンゲンの指輪』があるから、火竜を出す前の防御の隙も狙われることは無いし、ダミアンそのものはそれほど移動力が速い魔族じゃない、っと地球でも聞いていただろう?」

「そうですね。ここまできたら、がんばります」

「その調子だ。ひのめちゃん、かわいらしいぞ」

「てへっ」

「……君ら、いいか、地球でも聞こえているのを忘れずにな」

「知ってるよ。これぐらいのおバカは許せよ。西条」

「わかっているなら、よろしい」

あいかわらず、公の場での西条は真面目な面が強いな。
たまにタガがはずれるけれど。

画面でマリアがこちらを見ているので、指示をする。

「マリア。着陸フェーズは、まかせた。切り離しと着陸5分前になったら、教えてくれ。あと不測の事態がおこった時もな」

「了解・しました」

俺らは、月着陸にそなえて武器などの装備の最終チェックをしていた。マリアから

それぞれ、

「切り離しに・入ります」

「着陸・5分前です」

こちらも準備はととのった。

「じゃあ、ひのめちゃん、外に移動しよう」

「はい」

俺たちも、月着陸船の上部側ハッチからでて、ロープをつたった。その先には、簡単な腰を掛けられるくぼみのようになっていて、取っ手のような物につかまって、着陸時のショックにそなえることができる。適当にくぼみにつかまっていただけだったような覚えがあるな。

着陸地点は、アンテナ状構造物から約200メートルぐらいだ。
そこへの着陸をして、さっそく月面におりると、少年体型であるダミアンがいた。

ダミアンは俺にとって、文珠を初めて本格的に使うこととなった相手だ。
弱点はよく覚えているが、この魔力があふれた月で、うまく、できるかどうか。

そこへ、衝撃波がきた。
衝撃波は、アンテナ状構造物の方からきている。
衝撃波の正体は、マリアのバズーガ砲で、アンテナの鏡面を直接狙うといったもので、俺たちは、オトリだ。

……のはずだったが、あのアンテナ状構造物は壊れたように見えない。
アンテナの表面が多少は破損しているかもしれないが、致命傷かどうか。
マリアからの通信で、

「アンテナに・2カ所の穴が・開いただけです。自動修復に・入った・模様です。魔力放出は・出力は・下がっていますが・続いています」

って、予測のなかでも最悪じゃないか。
違う魔族が作ったものだから、似ていても、内容が異なるから、弱点が異なる可能性もあるっていわれていたがな。
どうせなら、宇宙船ごとつっこませるべきだったか。
それはそれで、対処されそうだから、やめておいたのだが。
いまさら、考えてもしかたがない、まずは目の前にいるダミアンをどうするかだ。

「ひのめちゃん、後方で『ニーベルンゲンの指輪』を盾にして、火竜の準備を」

「横島さんは?」

「計画通り、この『竜の牙』と、精霊石ライフルで牽制している」

宇宙空間だから、無線通話の内容は聞かれていないだろう。
そこへ念話で、ダミアンが

「さっきのように、地球から何やら準備をしてきたようだが、僕らには何もきかないよ」

自身たっぷりと念話をかけてくるダミアンへ、『竜の牙』をランス状に変化させてみた。
俺がおこなうのは、まずは時間かせぎだ。

「そうかな。たしかにあのアンテナへの攻撃はきかなかったが、少年の姿だからって手加減はしないぞ」

そういって、ランスをつきさしてみたが、避けようともささずにいる。おれは、ランスから本体を探ろうとしたが、ダミアンの隠匿する能力が高いのと、肉塊が本体探査を阻害しているようだ。

無駄だと判断した俺は、すぐにはなれて、無駄だとは、わかっている精霊石ライフルを連射した。

それもダミアンはへらへらとしながらたっている。

「もう、終わりかな?」

「まだ最後のとっておきがある。ひのめちゃん。よろしく!」

それまで、ひのめちゃんが見えないように俺の後方にいてもらったが、そこで、火竜を最大まで大きくする時間はとれたはずだ。
場所は霊感を信じて放ってくれとは伝えてあるが、もののみごとに胴体も真ん中で二つにわかれた。

これで、倒せたか? っと思ったら、

「子どもを本気で焼き殺そうとしたのかい? ひどい奴らだな」

念話だから、上下のどちらにいるかわからない。口が動いているから、ここは『竜の牙』で上半身をぶったたいた。

巨大なハエ叩きの形状にして。

だが、足の方から巨大な肉塊が膨れでてくるのを、軽く飛んで離れた。

「子どものままだと、危ない。これならば、私にダメージを与えられるものはいない」

たしかに、その遠りだな。下半身を狙えば、あるいはうまくたおせたかもしれないが、あとの祭りだ。

時間はかけられないから、すでに生成してある土行である黄色の方向へ色が強くなっている文珠を取り出し、本体が抜け『出』るイメージをこめて、ダミアンに投げつけた。

文珠があたったところで、小さなカプセルに入ったダミアンの本体が、俺の方にころがってきた。すかさず、俺は次の行動をおこそうとしたところでダミアンが、

「ま……まさか、霊力を凝縮しキーワードで一定の特性を持たせて解凍する技…! これをつかえる人間だったのか!」

ダミアンに次の行動をおこされると面倒なので、俺はそのまま本体をハエ叩きで叩き潰した。
ダミアンの言い残した最後の言葉は、

「こんなボンクラそうなヤツにーー!!」

って、余計だわい。

「ふー。これであとは魔族がいなければ楽なんだけどな」

「そう。うまくいくでしょうか?」

「うーん。あのアンテナ状の構造物が魔族だったのなら、自己防衛のために動いてもふしぎじゃないけれど、動かないということは、他にも何かいるかもしれないな」

「どうします?」

「どちらにしても、多少は近寄って、壊せそうか、それとも何かがでてくるか様子をみてみるしかないだろう」

そういって、近づいていくと、アンテナ状の構造物からでてくるものがいた。
プロフェッサー・ヌルと、護衛用かどうかはわからないが、人造モンスターのガーゴイルだ。

プロフェッサー・ヌルがいたから、月でのアンテナ状構造物の設置が速かったんだな。あの南部リゾート開発社での、地脈から力を吸い上げて、応用する技術の転用なのだろう。

あいかわらず、アンテナ状の構造物が魔族かどうかは不明だが、まずはガーゴイルと、プロフェッサー・ヌルをなんとかしないと、アンテナ状構造物をどうしようもないぞ。


*****
ヌル再登場です。

2013.07.15:初出



[26632] リポート64 私を月まで連れてって!!(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/09/04 22:00
アンテナ状の構造物へ近づいていくと、中からでてくるものがいた。
プロフェッサー・ヌルと、護衛用かどうかはわからないが、人造モンスターと思われるガーゴイルだ。

プロフェッサー・ヌルに対して、

「おーい、プロフェッサー・ヌル。すまないが、そのアンテナから魔力放出をとめてくれないかー」

「あー、いいとも」

へっ?

「君がとめられるのならね」

っと、そういうつまらないオチかよ。
俺は通信機を使って、ひのめちゃんに話かける。

「あのガーゴイルに、霊波砲を低出力で打ってみてくれないか?」

「ああ、あの幽霊屋敷の時みたいに、霊的攻撃がきかないように対処がされているかもしれないからですね?」

「そう。霊視をしてみても、あのアンテナ状構造物の魔力がつよすぎて、はっきりしないんだ」

「やってみます」

話している間に、単独でゆっくりと向かってくるガーゴイルへ向かって、ひのめちゃんが霊波砲を放つと、あっさりとはじかれた。嫌な奴だ。ただし、こちらも手ぶらできているわけじゃない。

精霊石ライフルを構えて打つと、あまり大きくは無いが、ガーゴイルの石が部分的に削れる。

「俺は、このまま、精霊石ライフルで打ち続けているから、傷を狙ってガーゴイルに霊波砲を当てる自信ができたら、まずは、低出力で打ってみてくれ。それが有効なら、可能な限り霊波砲をそこへ集中的に打ってほしい」

「そうですね。ひのめ、いきまーす」

ひのめちゃんの霊波砲で、表面が削れていっているところは霊波砲を跳ね返さないのはわかった。そして2発目の強力にした霊波砲だが、あのガーゴイルは何でできているんだ? 精霊石ライフルでも、たいした表面も削れないし、折角削った表面も中の物質は霊波砲でたいした損傷になっていない。やっかいな相手だ。
それにしても、ヌルの奴は、こちらを観察しているようで、動きが無い。たしか、魔族でも一番の魔術使いだったよな。まだ、ガーゴイルと距離があるうちに倒しておくか。

俺はヌルにむかって、精霊石ライフルを打ったが、わずかに横にそれた。やっぱりちょっと距離がありすぎたか。ヌルからは、

「おや? 私をいきなり狙うのですか? しかし、ここでのわたしの役目は終わりですから、それでもかまいませんが、最後まで見られなくなるのはつまりませんね」

「……まさか、また、お前は本体じゃないのか?」

「また? ああ、南部グループでの件ですね。その通りですよ」

俺は、頭をフル回転させてみたが、よくわからない。ヌルはとりあえずほっておいてもよさそうだから、ガーゴイルに集中することにした。

「ひのめちゃん。俺がガーゴイルに接近戦を挑むから、霊波砲で援護してくれ」

「横島さん、危険です。そんなことしなくても、ガーゴイルは損傷がでてきているじゃないですか」

「安全策も大切だけど、時間も気にしないといけない。それに『竜の牙』があるから、安心しろ」

そうして俺は『竜の牙』を長剣に変えた。竜神の力を発揮できているのもあるが、地球上よりも重力が小さい分、思いっきり振れる。

いっきに傷口を狙って、上から振り下ろしたら、身体ごと前にひっぱられてしまった。

え、え、え、遠心力のことをわすれていた!!

思いっきり、ガーゴイルをきりつけられたのは良いが、途中で長剣はとまっている。そして、そんなガーゴイルは俺に向かって、手と羽で振り払おうとする。それを利用しようとするが、長剣が外れない。別な形にしようと、棍にしたら、長剣よりも長さが短くなったら、抜けるんじゃなくて、逆に俺の身体が引っ張られた。

ガーゴイルは、そんな俺を爪で狙ってくるので、しかたがなく、棍になっている『竜の牙』をてばなして、相手の爪を避けるようにして、ななめ後ろにとんだ。
そうしたら、棍は『竜の牙』にもどっている。なんだ。元に戻せばよかったのか。

使い慣れていないものを扱った俺はやはり馬鹿だよな、っと思う間ぐらいはあるが、この距離なら、長剣で大きく避けた傷口をサイキックソーサーで狙って放つ。サイキックソーサーも、普段より霊力が高いのかはっきりと物質上になって、しかも大きさも少々大きいようだが、大きすぎない。

微妙にコースが外れたので、立て直そうとしたが、傷口をそれて、霊的攻撃を反射する表面にあたった。

まずい。こっちにもどってくるかと思ったら、あっけなく、貫通した。
もしかするとこいつって……

「ひのめちゃん、全力で霊波砲を打ってみてくれ」

俺は、その間にサイキックソーサーを2枚だして、ひのめちゃんの霊波砲が反射されるのに備えたが、ひのめちゃんの霊波砲はガーゴイルを貫いた。竜神の力がやどるアイテムが霊力をあげているから、地球上で人間が出力できる霊波砲に比べて、威力がかなり高いのが原因だろう。

俺も手持ちのサイキックソーサーを2枚とも放って、精霊石ライフルに持ち替えてヌルの胴体を打った。

「あー、ここまでですね。頭から伸びているチャクラをやられてしまっては」

って、俺は、そこまで考えて打ったわけじゃないんだけどなぁ。やっぱり、これって理○なのか、やっぱり○力だよな。って、ここでつっこんでくれるはずの令子はいないから、やめておこうっと。

ガーゴイルと、ヌルが倒れたらというか、ガーゴイルが倒れた瞬間からだが、丁寧にも

「警備員の消失を感知!」

なんて、わざわざ念話で知らせてくる奴がいる。

アンテナ状の構築物が、動き出そうとしているが、やっぱり改造魔族なのね。

俺とひのめちゃんの距離は約150mだから、走るにはこの重力の中では無理だから、サイキック炎の狐だ。これなら、約5秒で到着だ。ってそんな時間的な余裕はない。

『護』の文珠を発動させると数秒後に、強力な霊波を浴びせかけられる。

こちらもただまっているだけじゃなくて、この作戦の切り札ともいえるアレだ。

「ひのめちゃん、アレいくぞ」

「合体ですね」

なんで先に言うだよー
しかも、うれしそうに。

俺は、心の中でちょっとばかり泣きながら、両手に文珠を出して右手に『合』と、左手に『体』の文字を込めていた。

文珠の結界の外では、ちょうどアンテナ状の魔族ともいえる、こいつの巨大な手が向かっているところで、『合』『体』を発動した。

俺は、ひのめちゃんに吸い込まれるようにはいっていくと、ひのめちゃんは多少成長したようになる。特に胸のあたりは顕著だなぁ。腰回りもけっこういいしって、そんなんじゃなくて、まあ、令子との合体と同じような姿になっていると思ったら、身体の表面で黒くなるはずの部分が赤くなっている。そういえば、竜神の力となっているが、これは小竜姫さまの本性である赤竜の赤なのだろう。

って、なんか合体の割には、気持ちが良すぎるぞ。小竜姫さまの力が底上げをしているのと、同じ霊波だからシンクロ率があがっているのか。ひのめちゃんからも

「なんかパワーがあがっていませんか?」

「コントロールできる時間が、身近そうだから、手早く頼む」

「は、はい」

そう言って、ひのめちゃんは、向かってくる手に霊波砲を一発撃つと、文珠の結界をあっさりとつきやぶって、アンテナ状魔族の手も消失させた。

「そのまま練習通りに本体へ連続霊波砲を」

「わかってますよ」

俺は、なんとか意識を保たせているが、ぎりぎりの状態だ。はやく終わらせてくれー
もうだめだー、っと合体を解いたところで、アンテナ魔族が倒れてくれた。ひのめちゃんは勘違いしているようで、

「きちんと、倒れるのを見計らって、合体を解いたんですね」

「い・や・ち・が・う・か・ら」

というのが精いっぱいだった。意識はあるが、ぜーぜーと呼吸が荒い。心配そうにしているひのめちゃんだが、今の段階で*ひのめちゃん*からの霊的治療は、逆効果だからということで、地上での訓練でとめられている。だってなぁ、ひのめちゃんを襲ってしまうぞ。少なくとも、現段階でそれはまずい。

俺の呼吸がととのってくるうちにマリアがきた。

「マリアさん、きてくれたのね」

「イエス! ミス・ひのめ。帰還制御用装置の・部分をもってくるのに・時間が・かかりました」

ようやっと、俺の息が整ってきたのと、なんとか外へ意識を向ける精神力がもどってきたところで、

「マリア、悪いがけれど月神族とコンタクトをとってくれないか」

「イエス! 横島さん」

マリアが月神族と交信し始めて2,30秒程度で、空間に穴が開いた。月神族の住んでいる物質界と霊界の境目である亜空間だろう。

そこに入らせてもらって、迦具夜姫(かぐやひめ)に一室につれていってもらうと、やっぱり、やたらとメーターがある部屋だった。どういうのを情報源にしているのか、一度きいてみたいのだが、なんか「宇宙戦艦ヤ○ト」とか言われそうで、別に2199とか数字がうかんだのは、もっと気のせいだろう。

この部屋では呼吸ができるということで、ヘルメットを外した。さらに迦具夜姫は、朧(おぼろ)と神無(かんな)という前にも見た官女と月警官の長がでてきて自己紹介をしている。

「竜神の装具をこちらへ……エネルギーの補充をいたします」

素直に預けようとしていると、官女の朧(おぼろ)が

「こちらステキな方ね♡」

そういえば前もって思ったら、ひのめちゃんが

「横島さんは私の恋人です」

おお、改めて人前で言われてみるとけっこう新鮮だが、とたんに朧(おぼろ)が、

「ちっ!」

っと、思わず声をだしてしまったようで、さらっと竜神のアイテムを持って行った。
そのあとだが、迦具夜姫からは、

「地球から、悪い知らせが届いています。

って、それを早く言ってほしいぞ。

「どんな知らせですか?」

「地球と連絡を取るのが一番でしょう」

「それじゃ、早くお願いします」

地球との連絡がとれたところで西条が、

「霊的拠点在住の神魔族と連絡がとれなくなった。さらに魔族が各地であばれているのと、それに対応するはずのGSが思ったより少ないらしいというところまでしかわかっていない」

「他の拠点はともかく、妙神山は?」

そうすると小竜姫さまが画面の中に現れて、

「老師は竜神王に呼ばれていて、私が妙神山を離れている間は、代わりの神族が一時的にいたのですが……」

まさか、こちらの動きを探知されていたのか?

「とりあえず、月からの魔力送信が止まったから、魔族の数は減ると思うのだが、君たちも早めにもどってきてほしい」

西条が、たよってくるなんて、かなり切羽つまっているようだ。
ただ、画面をよく見ると、ようも無いのに、うろうろと画面に映っていたメドーサが見当たらない。ちょっと霊感を感じるので、

「そういえば、メドーサは?」

「どこかへ緊急で呼ばれたらしい。こちらに行き先もつげずにだ」

「うーん。そうか……」

「ただ、良い知らせがひとつある」

「良い知らせ?」

「ああ、令子ちゃんが、隊長と一緒に最前線で魔族を退治し始めたという話だ」

っていうことは、美智恵さんが令子を隠していたな。あの人の行動はさすがによめないぞ。

「わかった。こちらもなるべくはやく、こちらにある船で戻る」

「できる限り早くだ」

そう言って、一方的に通信を切られた。うーん、西条があせっているということは、言葉でいうより、状況は悪いのか?
そこで、迦具夜姫がやってきて、

「これをお読みください」

そう言って、封筒を一通渡された。
なんの手紙だ?


*****
そろそろ最終章に入ります。

2013.09.02:初出


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