ジークリンデは自然発生した魔女である。
否、その成り損ないで、未だ年若いのだから、魔法少女と呼ぶべきかも知れない。
ジークリンデは自然発生した魔法少女である。
何故そう成ったか、ジークリンデに心当たりは無い。
正体不明で、内容不明の、生命体と思しきものに呪われた覚えは無い。
正体不明で、実態不明の、詐欺師と思しきものに呪われた覚えも無い。
妙ちきりんな卵に、妙ちきりんな謎時空に取り込まれて、妙ちきりんな殺され方をした憶えも、無かった。
そもそも、ジークリンデは何も覚えていなかった。
自分がどこで生まれたのか、いつ生まれたのか、何から生まれたのか、そんな事も覚えていない。
ただ自分が何を出来て、何が使えて、何をしているのか、それだけははっきりと分かっていた。
いや、分かる事が出来た。
精神感応、思念同調、透視、それに予知を少々、あとはほんの手慰み程度に、スプーンも曲げられる。
ジークリンデにとっては、それだけ分かれば十分であったし、それ以外に何かが必要とも思わなかった。
必要で無いから、何も手に入らないと言うのは必ずしも真では無く、ジークリンデはそう成るずっと前から、自分がそう成って要らぬ能力を手に入れる、と知れたのだが。
ここで話は最初に還る。
ジークリンデはいずれ魔女になる、成長途中の女性である。
その原因は未来を知る事の出来るジークリンデにも、茫洋として知れないが、その過程はジークリンデにとって既に知るところであった。
要するに呪いの過剰摂取。
気が付いた時には、そして恐らく生まれた時には、既に人格の蒐集を趣味としていた規格外れのサイコメトラーであったジークリンデだ。
その嗜好上、歪んでいたり、狂っていたり、可笑しかったりする様な、早い話が呪いを溜め込んでいそうな人格を好んで収集していた。
蒐集すると言っても別に物理的精神的に、何かを引き摺り出して並べて食べたりして悦に浸るわけでは無い。まして魂をして言わんや。
彼女の人格の蒐集とは、精神の同調によって他者の記憶と人格を丸裸にして、味わいつくすと言うのが正しい。
しかし、それで、それだけで、彼女の心、と言うより魂には、呪いが溜め込まれていた。
彼女の心がとうに擦り切れて居るとか、壊れてしまって居るとか、どの人格が元あった彼女のそれであるかすら分からないとか、そんな事も関係無く呪いは溜め込まれた。
呪いとは負の感情、と言うか負のうねりの、その集合であるらしい。
恨み、憎しみ、妬み、嫉み、怒り、悲しみ、そう言ったものの塊である。
魔女と言う生き物、の様なものはこう言った呪いから生まれるらしい。こう言った呪いを好むらしい。こう言った呪いを、食うらしい。
そう言う点で、呪いを好んで食らうジークリンデは魔女的であったと言えるし、事実、魔女になって行っている。
この世界の■■■は随分、妙ちきりんな渇望で流れ出したらしい、と訳の分からぬままジークリンデは思ったものだ。
そう言う訳で、ジークリンデは魔法少女であった。
魂を宝石化するまでも無く、そう言った、人で無いものになった。
もっとも、願いを叶えられていない分、ジークリンデは損をしているのかも知れない。
街路樹立ち並ぶ公園で、いけないおじ様達に連れられて誘われるまま来た公園で、おじ様達はとうに"心の隅々まで壊されて"そこいらを徘徊しているのだろうけれど、ジークリンデはすっかり暗くなってしまった空を儚んでふらりふらりと足の赴くまま彷徨う。
何をするでも無し、すっかりペンキの剥げた、今にも壊れそうなベンチに腰掛けていたずらに通り掛かる人達の心を弄んでいると、そのうちジークリンデは奇怪な生き物に出会った。
「驚いたね、長年こう言う事をしているけれど、君みたいなのは初めて見たよ」
まんまる月夜、真っ白なお月様が人々を見下ろすイヤな夜。
悪い事をしても良い事をしても、お月様が見ている気がする、そんな気の狂ってしまいそうな夜に、ジークリンデは奇怪なモノに出会った。
全身を覆う毛は真っ白で、猫のようである、犬のようでもある。体躯に比して大き過ぎる尻尾はリスのようでもある。つんととんがった耳から耳がもう一つ垂れている、猫耳への挑戦なのかも知れない。
くりくりとして硝子玉の様な、透き通って動きの無い真っ赤な瞳が嗤いを誘う。
出来損ないのぬいぐるみ、成長途中の女性が可愛らしい虚構のキャラクタを考えれば、こんな姿になるだろう。
それも現実に存在してしまえば妙ちきりんなキメラであった。
まして、それは生き物であるかどうかさえ分からない、動物なのか植物なのか、生物なのか無機物なのか、道具なのか自由なのか、そんな事も分からない、妙ちきりんなモノである。
奇怪なモノとは、そうするしか表現出来ないし、表現することを諦めさせるような姿であるものの簡略表現だ。
奇怪なモノはがさりと壊れ掛けのベンチの目の前の、月明かりの差さぬ暗がりの茂みを鳴らして、暗闇から染み出すようにジークリンデの目の前に現れた。
茂みを鳴らす意味があったのか分からない、きっと無かったのだろう、問えば様式美とでも答えたかも知れない。
光の無い方の夜から、ぬらりと零れ落ちた白いモノと、何も覚えていないのに真っ黒に呪われた少女はこの時初めて出会った。
少女などとっくに人では無いし、本来ならばその前にジークリンデの前に現れる筈だった奇怪なモノはそれにようやく気付いて少女の前に現れたのだった。
「驚いたわ、人生そう長くもありませんでしたけれど、貴方みたいなモノは初めて見ましたもの」
そんな奇怪なモノを見て、ジークリンデはまるで驚いた様子も無しに、驚いたと宣った。
その顔も所作も立ち居振る舞いも、まるで驚いたようには見えないが、しかしジークリンデは驚いていた。
一時間後に驚くことがあると予め知ってしまって、ほんの一時間ほど前に驚いて、その一時間でもう驚きも品切れになってしまっていたのだが。
まるで規格違いの音叉、自分が如何に震わせようと思った音を返してくれない、だから、ジークリンデには目の前の異物が読めなかった。
「君は……一体なんだい?」
奇怪なモノは怪訝な顔を、否、怪訝であると受け取る事が出来そうな、いやにデフォルメされた、怪訝な顔そのものをはっきり現した。
「あら、お判り頂けませんか? これでも私、魔法少女……とか言う有り触れた詰まらないものの様なのですけれど」
「ボクは君を知らないんだけどね」
「まぁ、貴方にも知られていないなんて自分を誇るべきかしら? 自分が知らない魔法少女なんて居ない筈だ、なんて思える方なんてそうは居ない筈ですものね」
たっぷりと、沈黙が生まれた。
深い夜に相応しい沈黙である、月は大きく真円で、夜を明るく照らしているが、それでも今、夜は月の無い夜よりずっと暗い静かな夜だった。
夜らしい静寂がしばらく続いたあと、奇怪なモノはぱちくりと目を瞬かせた。
それは見るものがみれば可愛らしく見えて、やっぱりぬいぐるみ的に異様で奇怪な表情だった。
「……君は、ちょっと危険過ぎるようだね」
やっぱり異様で奇怪で、そして何より剣呑だった。
誰が聞いてもそれは、危険なジークリンデを、どうにかする準備があるし、どうにかするつもりであると言うように聞こえた。
「あら、ならわたくしを殺して見ますか? 試して見て下さいな。わたくし、前にも殺された事があるような気がするのですけれど、恥ずかしながらこの有様でして、そう、もう一度、私を抱きしめて下されば、すっきり死ねると思いますの」
「それには及ばないよ、君みたいな子を殺すスペシャリストなら……もう呼んであるからね」
今度は、溶け出すような事も無く、真っ当に、でもそこには居なかった筈の、少女が一人、がさりと茂みを鳴らして現れた。
見た目だけで言えばジークリンデと同じ年頃の少女である。
見た目不相応の年齢なのはジークリンデであって少女では無いし、ジークリンデが見て、読んで、漁って蒐集した所で、やっぱり見た目通りの年齢の、まだ幼さの残る少女であった。
銀色で、白と黒のお洒落な服を着ているジークリンデと向かい合って立つ、黄色くて、白と黒の可愛らしい服を着ている少女は、何故かある種の相似を感じさせた。
くるくると巻かれた髪も、銀か金か、数は四か、二か、その程度の差で、仲良くおそろいである。
少女は少しの疑念と大きな困惑を抱いて、大いに迷っている。
ジークリンデにはそれが手に取るように分かるので、客観も主観もがらがらと音を立てて崩れてしまいそうなほど、一致した視点でそれを表現出来る。
そもそも、ジークリンデが覚えている最も古い記憶、それより前に崩れてしまった主観など、今更音を立てる事も無いのだが、そこはそれ。
少女は見るからに人間の、ほんの少しだけ人形に見えるジークリンデを、どうしたものかと考えあぐねて居た。
少女は彼女の足元に居る奇怪なーー少女にとっては可愛らしくも見えるーーモノに乞われるまま、ジークリンデの前に立ったが、だから殺せと言われて素直に頷けるほど、血と呪いに荒んで擦り切れても居なかった。
人に似た形をした魔女やその使い魔を殺す事は出来ても、人そのものの形をした少女を殺すのはそれだけの覚悟が出来ない。それは優しさでもあるし、ある意味では甘さでもあるが、何より自らを正義の領域に置き続けるための誇りであった。
そして、ジークリンデにはそれがまだ綺麗な、まだ汚れを知らない、壊れやすい磁器人形にも見えている。
そしてそんなものは壊したくてたまらないと言う少々困った性癖をジークリンデは持っている。
厳密にはそれは壊すのでは無く、玩味して賞味して吟味し尽くす行程で必然と壊れてしまう事を言うのだが、結果が同じである以上同一視に不都合は無いだろう。
「気をつけて、まだ人の姿を保っているようだけど、相手はもう殆んど魔女に成り掛けてる」
奇怪なモノが少女に語り掛けた。
おかしなことである、魔法少女とは魔女の成り掛けなのだから。
魔法少女であるジークリンデにとって、"ジークリンデはもう殆んど魔女に成り掛けてる"とは、ねこに対してねこはもうねこに成り掛けている、などと言っているに等しい。
あべこべである、そんな当たり前の事を、魔女に成り掛けている、魔法少女の、黄色の少女に話すなど意味不明で徒労であるだけでは無いか。
そう考えて、ジークリンデは少女を見て、意味が分からないと言う顔をしていない(…)少女の様子になるほど、と合点が行った。
「まぁ、貴方なーんにも言ってないのね。うふふふ、あっはははは、ひっどぉい、性格悪ーい、最低の屑ね貴方」
ジークリンデには自分に閲覧して、読んで、心の重箱の隅までつまびらかに出来ない知性のあるものとの邂逅は極めて珍しい事である。
記憶にある限りでは初めてであった。
だから今現在、恐らくジークリンデは楽しんでいた。
恐らく、と言うのはジークリンデ自身、自分には真っ当な感情など残されていないと思っていることの証左に他ならないが、その事がこの邂逅に際してジークリンデが得ているものを強調していると言って良いだろう。
「言う必要が無いからね」
「そうよねー、聞かれれば答えるかも知れないけれど、聞かれなければ答えないし、そもそもに答える必要も無いのよねー」
「あの……なんの話」
見た目こそ美しいジークリンデと、見た目こそ可愛らしくも見えなくも無い白いモノ。
しかしその内面はいずれ劣らぬ異形と異形の会話。
すっかり萱の外に置かれてしまった少女は、思わず口を挟んでしまうが、やはり一人と一つの人に非ざるモノが何を交わしているかは分からない。
「ダメだよ、相手は心を読んで心を抉るんだ。油断したら一瞬で壊されかねない」
分からぬを幸い、とソレは嘘では無いが、必ずしも真実では無い事を教えた。
そう言えば、以前に会った魔法少女と名乗る少女はどうしたのか、とジークリンデは思いを巡らせる。
恐らく、この物体にも会っていたのだろう。あの娘とは都合二度しか顔を会わせる機会は訪れなかったのだが、その間に何があったかジークリンデが知るところでは無い。
そして、その魔法少女にジークリンデについて聞き及んで居たのだろう。折角だから心を読んで抉ってやれる事も話してやったのだが、それが不特定な対象に流れるとは思わなかった。
ジークリンデの見通しが甘かったのだろうが。
「だって言えませんもの。わたくしはまだ魔法少女なの、なんて、そこの魔女の成り損ないに夢見て頑張っちゃってる可愛らしいお嬢ちゃんには」
ジークリンデは何でも無い様な顔で嘯いた。
何でも無い様な顔もなにも、殆んど常に浮かべられた微笑みをまるで動かす事も無く言い放ったのみだが。
他方で、それを見たものは人形の顔が人形の表情で録音テープを再生した様にさえ見えたであろう無機質。
その無機質さは心胆寒からしめ、混乱を落ち着け逆に冷静にさせるほどであった。
「あなたが魔法少女ですって、魔女の成り損ないって一体なんのこと?」
だからこそ、少女は揺らがなかった。
「これも相手の動揺を誘う作戦なんだ、あいつは君の心を読んで、君がもっとも傷付くような事を言うんだ。あいつの言ってる事を聞いちゃダメだよ」
白いモノが言う通り、自らがもっとも恐れるような事を読み取って言葉を操るならば、それをまともに受け取ってやる必要も無い、と。
一方で、なるほど確かに今の自分がもっとも傷付くような言葉となればジークリンデの言う事には大きな効果があるだろう、とも思っている。
それを、ジークリンデに読み取られていては何ら意味が無いのだが。ジークリンデにとっても残念ながら、少女は心を閉ざすとかそう言った方向には感銘が無いらしい。
「そうよ、お友達の居ない貴方、家族もみーんな死んで一人ぼっち、そんなぬいぐるみでも考えて話すならお友だちと思えますものね。やってる事はおままごとと変わりませんけれど」
過去視、精神感応、その上で最も少女の気に障るような言葉を瞬時に選択。
言葉を発し、それを聞く少女の心を読み取り更に再選択。
ジークリンデにとってはプライバシーもヒステリーも掌の上と言う点において、一切の気に留める価値の無いものであり、少女の様な思春期の人間は絶好のご馳走でもあった。
「ッ! あなたの方こそ、お友達に恵まれてるようには見えないわね」
気に障るような事を言われたために、当然気に障ったらしい少女が僅かに声を荒げた。
僅か、で済ませ熱い冷静さを研ぎ澄ますような復帰の早さは幾度と無く死線を超え、命を磨り減らした戦闘者のものであるだろう。
ジークリンデをして、この国においては滅多に見ることが出来ない稀有な人種であった。
「そうかも? わたしの中にはたくさん、たぁーくさん、いらっしゃるんですけれど、みんなお友だちとは言えませんものね」
「あなた、まさか人を?」
「ええ、何人か……いえ何人もかも? たっぷり、味合わせて頂きましたわ」
「くっ」
少女が構える。自身を突き出し光に包まれると、次の瞬間には少女が戦装束を飾っていた。
ほぼ同時、仮に差があったとして数十分の一秒ほどで、少女の周囲に長銃が円を描いて十三挺降り注ぎ、柱のように大地に打ち立てられた。
煌びやかな装飾の施された先込め式の単発銃、マスケット、現代ではとっくにアンティーク(骨董品)に落ちぶれたそれは、魔力によって生み出されただけあって目が眩みそうな存在感を放っている。
「まぁ、怖いお顔。どうしまして? 魔女の成り損ないである私たちが、人間を食べるなんて当たり前の節理じゃありませんこと?」
「あなたの言葉なんて、聞きたくないわ!」
「そう、認められるんですのね、強い方。そうよ、私の言葉は誰も、みーんな聞きたくない。自分の汚い所なんて見たくありませんものね? それは人間であっても、化物であっても同じこ」
凶弾が二条、煌く軌跡を残してジークリンデに突き刺さった。
地に突き立てられていた筈の十三挺、うち二挺が、少女の手から投げ捨てられ露のように消え失せていく。
目にも止まらぬ速度、それは少女がいかにそのアンティークを使い込んで来たかを証明するものであった。
「讒言を弄する間に討たれる可能性を少しは考えておくべきね」
「あぁ、がふ……酷いわ、私はまだ、貴方と違って生身なんですのよ? 銃なんかで撃たれては……死んで仕舞いますわ」
「さっきからどこを……見てッ!?」
ジークリンデの目線を追ってか、訝しげな顔をして見せた少女の形をした人形が、少女に触れた。
元よりジークリンデは少女の事しか見ていなかったのだが、少女はどうやら明後日の方向を見て薄気味悪い少女だとしか思っていなかったようだ。
ジークリンデにはそれすら可笑しい、腹を抱えて笑ってしまいそうなほど可笑しい。そもそもに撃ち抜かれた腹部が痛くて、既に腹を抱えている自分を見て、ジークリンデはなおさら可笑しくなった。
街を行けば時折、石の形をした少女が居るのに、その少女達の殆んどが自分が石の形をしている事に気付いていないのには、なにかのジョーク映画でも見せられているのかと思った。
ジークリンデはそんな形をしていないが、魔法少女はそんな形をしているらしい。
ジークリンデが少しお話をした後、無事に(…)魔女になれた少女がそんな事を教えてくれた。
「まさか……嘘」
ようやく自らの真実に気付いたらしい少女が愕然として事実を否認した。アイデンティティの危機に直面しているらしい事はジークリンデで無くともありありと見て取れる。
しかしそれでもジークリンデに対する警戒は失われていない。長年の戦闘経験がそうさせるのだろう、ジークリンデをして魅力的な人材であると言える。
そう言えば少女は真実を冠する名を持っているらしい、なんの冗談だろうか、これもまた可笑しくて堪らない。
流れ出す血も笑いも止まらない。
「いやですわ、嘘なんて一つも、私も、そちらのぬいぐるみさんも、ついていませんのよ? だだ、少し黙っているだけですわ」
「じゃ、じゃあ貴方は」
「天然ものは珍しい、だそうで」
「な、ああ、なんて事」
「うふふ、うふふふ、可笑しい、可笑しいわ。こんなに可笑しい事ってありませんわ。本当にお友達が居ませんのね貴方、殺すつもりだったんでしょう? 少しは疑っていた癖に、私を人外の異形だって、自分を騙してまで殺そうとしたのに」
ジークリンデは嗤う。
今にも死のうとしているのに、それを見るものが忘れてしまいそうな可笑しそうな顔で笑った。
嘲笑だ。
今こうして命を賭けて嘲笑う事に、ジークリンデは頭が可笑しくなりそうなほどの既知を感じて、それがまた可笑しくて笑いが止まらなかった。
自分は肉体を喪っても記憶を失っても蛇の呪いから解き放たれぬらしいーーはて、蛇とは何であったか、それもやはり思い出せなかった。
「そんな相手とお友達になれたかも知れない、なんて。愚かで人間らしくて本当に可笑しいわ、ええ」
ただ、思い出せずとも、忘れていようとも、こうして笑うことがジークリンデ・エーベルヴァインの宿業である気がして
「滅茶苦茶に壊してやりたくなるくらいに……」
がちゃん、と破滅的な音が聞こえた。
今この瞬間にジークリンデは息絶えた、今度こそ間違いなく人の形であったジークリンデは息絶えた。
その事にジークリンデは酷く憤りを感じたが、それがなんであるかちっとも覚えていないジークリンデにはなんの事であるかも分からない。
ジークリンデはもう何も分からなくなったのだから。
So ist’s vollbracht: Und Neun ist Eins, Sechs
Quantus tremor est futurus, quando judex
est venturus,Du mußt versteh’n! Et arma
et Fortuna amicos conciliat inopia amicos
probat Exempla Acta est fabula cuncta und
stricte discussurus. Einmaleins! Et fortuna
arma Und Zehn ist keins. Das ist das solum
Hexen-Briah fortuna quod vulnerant Ede illa
Misce Hex, Sieglinde Eberwein Acht, Non bibe
est cito NAME Anagitia dedit So und Verlier
est Sieben verba von die voluptas Levis mortem
sagt sæclum Oesterreich dies Zehn Fünf post
ipsa est caeca sed etiam eos caecos facit lude
quos semper adjuvat Aus Eins solvet Aus,
in favilla: teste David cum Sibylla mach, reposcit
Und Zwei laß geh’n, So bist Du reich.Vier! id
stultitiam consiliis brevem dulce desipere nulla
die in loco Und Drei mach gleich, Dies iræ,
がしゃん。ぱりん。ごきり。