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[26205] Eternal 【SilverSecond作品(特にシルフェイド幻想譚)】
Name: kai774◆93a3a7b1 ID:cf3c74fe
Date: 2011/05/27 18:56
・今回当サイト初投稿となるkai774と申すものです。以降宜しくお願いします。

・この作品はSmokingWolf氏が作成し、SilverSecondというサイトで無料で公開されているRPGツクール製のフリーゲームのシルフェイド幻想譚の二次創作です。

・尚、作者の気まぐれにより本当に本作とは関係のないシルバーセカンド関連二次創作作品も当スレにあげることもあります。ご了承ください。

・又、途中で以前書いた内容の大幅な修正を入れる可能性もあります。その際は、題名に修正日を記入いたします。


・本作品は2~3個の連作物と十数個の一発短編物が、
ゴチャゴチャ入り混じりながら進めていく予定です。


・オリジナルキャラクターは当ゲームの性質上(主人公が俗に言うDQ型の殆ど喋らない主人公)な為に、当ゲーム主人公のみは止むを得ずに出ております。
尚、主人公以外にもオリジナルキャラクターが出るかもしれません。


・(特にゲーム自体の主人公が)他作品とクロスオーバーしやすい本作品ですが、
現在の所は同一の世界観を保有しているシルバーセカンド関連作品以外ではクロスオーバーさせないつもりです。
(例:シルフェイド見聞録の同姓同名の人物の未来と公式で設定されている、何処ぞのアル何とかさん。)


他の版権作品は一時的なネタとして使うことはありますが、
全般にかつ深くは登場しません。御了承下さい。

・その他、ゲーム内での没設定や裏設定の利用。オリジナル設定や展開が豊富です。

・遅筆です。非常に遅筆です。繰り返し言いますが、非常に遅筆です。

・皆様の内の一人でも、これを読んで面白く思って下さったら幸いです。


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【編集履歴】
11.2.24  プロローグと第1章の3分の2まで初投稿
11.3.02  第一章と閑話その一を投稿。この記事を微修正。
11.3.30  第二章のその一を投稿。 この記事にとある事柄を二つ追加。
11.5.27  第二章のその二を投稿。 この記事をやや追加修正。
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[26205] プロローグ
Name: kai774◆93a3a7b1 ID:cf3c74fe
Date: 2011/02/24 19:48
!Caution!Caution!Caution!Caution!Caution!Caution!Caution!Caution!Caution!Caution!
シル幻の二次創作で短編集的な何か「だったもの」
捏造及び妄想からの多量なオリジナル設定
ナナシは俺の嫁
露呈される語彙の乏しさ
異様な程の文章力の無さ
貴方の中のキャラ像を崩壊する可能性の高さ
乱発される空白
ナナシは俺の嫁
激しい流血・グロ表現のシーン有り
作者回避非常に推奨
全てのキャラクターのメアリー・スー化
ハッピーエンド至上主義の方にはお薦めしません
厨二表現と展開に会話の多発
ナナシは俺の嫁
!Caution!Caution!Caution!Caution!Caution!!Caution!Caution!Caution!Caution!Caution!




FREEDOM DiVE...........




















↓If you read this story,you may regret doing.






















↓Are you OK?






















Welcome to this crazy story and world.













プロローグ【Hello,World!】








         俺は何でこんな所に居るのだろう。
         私はどうしてここに居るのだろう。








        最後には私の意志で持ってここに来たのは間違いない。
        少なくとも、確かに最終的には俺の意志でここに来た。






       別に俺としては取り訳文句は無いといえば無い。
       文句はあるのかと聞かれたら私は無いと答える。






      けどココで本音はどうかと尋ねれたら答えられない。
      だが本当はどうだと聞かれたら俺は口を噤むだろう。






     今の俺が文句なんて言ったら罰当たりとなるのだから。
     今の私が文句なんて言える立場とは到底ないのだから。






    名も無き群集等の内の一人に過ぎない私が、自信もって言い返せるだろうか。
    数え切れぬ程の十字架を背負っている俺が、小さな声で反論出来るだろうか。









   いや。出来はしない。









            だ、正に永遠に。
  決して出来はしないの
            に決まっている。







          私
 あぁ、せめて、今の に出来ることはと言えば――――――
          俺











     延々と変化しつつ続くのを
この世界が            祈ることだけにしか過ぎない。
     あっという間に崩れるのを








              だから、







            変わらない世界よ。







             さようなら。




















            さよなら、世界。

























               ☆











【Eternal】・形容詞
①(始めも終わりもなく)永遠の、永久の
 [限定](真理・法律などが)不変の、不滅の、時を超えて存在する
②[the~;名詞的に]永遠なるもの
 [the E~]神
③[限定]<<略式>><不平・議論などが>絶え間のない、果てのない

(以上、ジーニアス英和辞典第4版より)









【Eternal】・adj
1without an end;existing or continuing forever
2[only before noun](disapproving) happening often and seeming never to stop

(以上、OXFORD現代英英辞典より)














【エターナる】・動詞
実生活の多忙やスランプなどにより、
ゲーム制作に息詰まり、制作が完了できなくなる。
あるいは完了の見込みがなくなること。

(以上、Wikipediaの「ツクラー」の項目より)











               ☆









「っつー感じの文章で進めて行こうと思うんだけどさー。
でさー、お前らはどう思うか。」

「こんなんで及第点だと思っていたら、世の中甘く見過ぎだと私は思う。」

『右に同じく』

「あぁ予想通りの反応を有難う御座いましたよ。お二人さん。
だけど、こんな色々とアレっぽい臭いのする文章を、
所詮ほんの原稿用紙一枚程度だけどさ、書き上げきった。
そんな俺の努力くらい認めて貰えねーかな」

『仮に認めるとしよう。だが、お前大事なことを一つ忘れてないか。
これがお前一人が書きあげる気であるのならば別段俺は構わない。
右、続きは頼んだ。』

「オーケー、左。こちら右。
仮にもこれ――まぁ短編毎に回すから繋がりは殆ど無いにしろ――単独で書き上げる小説じゃないのよ。
流石にこの後に書くとなると気が引けるわね。」

「いや、そう言われてもさぁ。お前ら。
世の中の物語って最初が肝心だろ。竜頭蛇尾だったら不味いけど。」

『確かに確かに、確かにな。
本屋で本を買う時には、俺は最初の数頁を軽く流し読みしてから買うかどうか決める、がなぁ。』

「『決めるが』。という逆説に続いていく言葉は何なのかも答えて欲しいなー。俺は。」

『黙秘権の行使を申請したいのだが、宜しいでしょうか。右の方。』

「全面的なバックアップをセットに加えて申請を承認します。」

「何だ、この四面楚歌な状況は。別にいいじゃねーかよ。
唯さぁ、こういう文章書きたくなったから書いたというだけじゃねーかよっ。」

『その気持ちは分からなくは無いといえば無いな。』

「うん、私もこういう文章書く時も有るし、少し大げさに言い過ぎたという気はする。
しっかし、ここまでフルスロットルで最初からは書かないしね。
要はTPOを少しは弁えて欲しいってだけ。」

「その、えーっと、『てぃーぴーおー』ってのを守れば良いんだよな。
よーっしそれならば、今までに破った約束はせいぜい三つ位しかない俺に任せろ。」

『まだ一巡すらしていないのにもう不安になのだが、どうすれば良いんだろうか。』

「……左に同じく。」










               ☆

















              Eternal




















[26205] 第一章
Name: kai774◆93a3a7b1 ID:cf3c74fe
Date: 2011/03/02 15:53
第一章【起・アナタの存在を知って】






外に出ている時に、
突然意味も無いのにもふと、空を大きく仰ぎたくなる。







そんな衝動に駆られる人がもしも私以外に居るのならば、
そしてその人の名前を貴方が知っているのならば、
是非とも私にその方の名前を教えてください。

あぁ、そうそう。
もしも、貴方がそういう衝動に駆られる人ならば、
私は貴方に尋ねて良いですか。






貴方はどうして空を仰ぎたくなるのですか。







――えっ、私はどうなのかと。

ははっ、そうですね。
こちらが質問をするのならば、
先に私が答えるというのが人としての礼儀ですね。
そうですね、私は――


















…………くこー


















               ★


「あっちゃー、駄目ですねコリャ。
アルバートさん、この子完全にクースカピーですよ。」

『うむ。まぁ寝る前の様子を伺うと、
至極当たり前で当然のことであるっちゃあるが。』






何と素晴らしくかつきらびやかで、
人々の目を楽しませる満天の星空よ。






という感じの歯の浮くようなお世辞の一節すらも、
誰もが決して言わないだろうと思われる
ウンザリするような曇天の下に私は居た。



うん、多分。



蛇足だろうしそれこそ多分分かってくれていると思っているけど、
多分と言ったのは唯単純に目を瞑ったまま、
微睡んでいる状態だから確信しては言えなかっただけ。
それ以上でもないしそれ以下でも無い。


さてさて、それはさて置き。


今の私がどういう状況下に居るのかは、
きっと五、六割位は分かってくれていると思う。

更につけ加えておくと今は野宿中であり、
私が焚き火の近くでついさっきまで熟睡しており、
今は頭のおおよそ半分が動き始めたということだろうか。

冬の寒い朝の時に、中々布団の中から出たくないあの気持ち。

冬の寒い夜の時に、首から下をぬるま湯に浸かっている感覚。


今が大体そんな気分なのだ。


ただし、環境は「真夜中+肌寒い夜+数時間前まで降雨+土の上+毛布がシーツも加えて二枚だけ」、
と非常に劣悪だけど焚き火の近くで寝ている為に文句は言えない。



だって、寝る直前まで約三十時間以上ぶっ続けで動いてきたんだから、
だって、寝る直前に清流を汲みに川の中央まで入って凍えたんだから、
もう少しくらい寝かせてくれたって良いじゃないの。

それに何となく身体も毛布も暖かくなってきて、
更に気持ちよくなってきていると言うのに。



もしもこの現時点に置いては命よりも大事な毛布をあいつが引っ剥がしてきたら、
そん時には、一体どうしてやろうかしら。ウフフフフ。



『しかし、この寝相の悪さはどうにかならんのか。
最早ここまで埒外だと唯々呆れて閉口するしかないぞ。
一体こいつは何才児なんだ、全く。』

「その割には結構ペラペラ話してません?
という冗談はさて置き、うーんこのまま寝かしておいて大丈夫ですかね-。
特に現在の寝ている位置的に。相当際どいですよー、何か色々と。」

『もう別に放置でもしておけば良いんじゃないか。
ここまでしっかと寝ている人々を起こすのに快感を憶えるような趣味はもっておらん。
もう暫くこのままにしておくとするか。』


断固として起きようとしない私に見切りをつけたのか二人、
いや一人と一羽は立ち去って言った。


そうよ、それで良いのよ。お二人様。
有難う、普段全く読んでくれない空気をこと珍しく読んでくれて。
私はこの感謝の気持ちで今にも天に昇りそうな気持ちでございます。
っというのは流石に誇張しすぎかな。


寝ること以上に嬉しいことは指で数え切れる程しか思い付かない、
そんな私にとっては歓喜の余りで、
もしも完全に目が覚めていたら思わず叫んでいただろう。




さてさてそれでは今暫くもう一度、
あのゆるやかで心安らかで落ち着ける空間に自分の身を任せていこう。




「私」という存在の境界が消え失せて、あの形容しがたい存在と同化していくにつれて、
本来ならば急速時には余り動かない筈の交感神経を刺激されていく。
とは言えども脳の活動は私の意識を段々と朧かにしてゆく。




おお、なんて明瞭で美しい矛盾なのだろうか!




完全に同化したと思ったら、
最後の最後には果てなく続くかのような、
奈落の底に居る何かに「こんにちは」をしに静かに落ちていく。

その何かに私は出会った記憶は今の所無いけれども。











あぁ、甘美で病み付きになるあの感覚の素晴らしさよ!











「それじゃー、どうしますかね。
この手間を掛けて作ったこの食事。
それにしても意外にも食事作れるんですねー。」

『仮にも一、二年は一人旅を続けて来た身だ、
こんな食事が作れなかったら到底旅を続けられないだろうよ。
こういう食事ならば直ぐに材料は釣りや狩りをすれば、比較的楽に調達できる。
野菜やら果物は余り採れないのが難点の一つといえばそうだ。
しかし、少なくとも腹は膨れるし十分に元気は付く。』

「んー、言われてみればそうですね。
後、見た目や匂いからしてかなり美味しそうですよ、これ。」


ピクッ。
そういえば、私ろくに食事していなかったなぁと、
滓んだ思考で第三者の視点から思っていた、最初は。

しかし一度澱んでいたとしても意識し始めると途端に意識は覚醒していくものであって、
事実私はそうなった。

あっ、ヤバイ。本当にお腹の音が鳴りだしてきそう。
それと今更気付いたんだけど、今私って焚き火の近くにいるのね。
だから背中やら喉やらが妙に熱くなっているのね。

そう思うとポニーテールの毛の先端が焚き火の中に入って、
私の体まで燃え広がるみっともない自分の姿が瞼の中にありありと浮かんできた。





それは不味い。





「寝ていたら、何時の間にか焼死してしまいました。えへっ。」なーんて、リクレール様に復活してもらう時に答えたら、
リクレール様がどれほど呆れかえった顔をなさるのだろうか。
想像がつきそうだが、それを遥かに上回りそうな予感がする。


それに又十数回は生き返られる保証はあるとはいえ、
生物の本能として死にたくはないという気持ちは流石にある。
多分他の人々とは違ってその気持ちは少し弱めだろうけど。

かといって、まだゴロゴロしたいしなぁ。
どうしようか、むむむ。


『本当か、そう言われると少し含羞みたくなるな。
それよりもだ。こいつ用に作った食事の分をどうするかが、俺にとっては問題だ。』

「非常に勿体無いですが捨てる羽目になりますかね。
私は御覧の通り実体はないですから食べられませんしね。」

『大食漢という程じゃないが相当食べる方の俺でも、この分も全て食べるのは辛いな。
一般的な一人前よりかは十分多めに作ったのが誤りだったか。』


止めて止めて止めて。本気で腹の音がなりかかっているんだから。
あーあ、折角二度寝でもしようかと考えていたのに、
すっかり眼がさえてしまったじゃないの。

はぁ、そうしたら観念してそろそろ起きようかな。

お腹も空いているし、
意識がもう完全に明瞭となってしまっている。







所で、











起きる時に一体何て言うべきなんだろうか。










それを数分間色々と悩んだ挙句に最終的には何ごとも知らない振りをして起き上がり、
フェザーと本当にそういう所は鈍いアルバートの視線が妙に痛く感じられたことについては省かせてもらいたい。
素直に起きれば良かったのに私の馬鹿。



               ★



食事の間はフェザーが見張り番でもしますよと申し出てくれたので、
その言葉に甘えて私は羽を伸ばしていた。

実際の所は気を使って二人きりにしてくれたんだろうが、
生憎ながら私はその気は全くないんだけどなぁ。
きっとあいつも見る限り、女にそういった意味での興味なさそうだし。

近くにあった平たい岩に座り、
膝の上に置いた作って貰った食事に目を落とす。

縁の周りが歪つで黄ばんでいる皿の上には、
出来てから時間が余りたっていない焼き魚が数切れ程乗かっている。

魚以外にもどう考えてもその辺で狩りや採取をして得た、
と思われる肉や山菜を具として混ぜた汁物がある。

確かにフェザーの言っていた様に、汁物は見た目や匂いからして美味しそうだ。
だけど世間には外見は素晴らしくとも中身がアウトな物は、
意外にもゴロゴロ転がっているもんだ。

如何にも料理とは無関係にしか見えない、
「あの」アルバートが作ったものだと言うのならば尚更だ。

たかが焼き魚とは言えども、
世にも恐ろしい味の可能性がある。正直に言うとそう思っている。

一呼吸置いてから恐る恐る武骨な箸で小さめに切って、
焼き魚を一口だけ口まで運ぶ。

「あっ、美味しい。」

決して御世辞のつもりではなくて、心からの本音だった。

生過ぎず、かといって焼き過ぎておらず丁度良い焼き加減。
それにこの魚は噛みやすくて、
脂がのっており非常に美味しくなっている。

そして残念なことに、
私はとあることを受けいれなければならない。



何とはあえて言わないが、私はアルバートに負けた。





そう。





この外来語を話す長身のthe不審者に、
たった今とあることで負けてしまったのだ。




身の丈以上もある大剣をぶんぶんと戦場で振り回してたり、
箪笥を担いで全力疾走しても息が途切れなかったりするし、けれどさ。

私、私、女性だからね。
こんなんでも心はうら若き女の子だからね!

何かこういう弁解をする時点で、
つくづく女の子らしくないんだなぁ、私。





……はぁ。





『んっ、それなら良かった。
この魚がお前の口に合うかいまいち確証がなかったんでな。』

「この魚とても美味しいよ。
脂がのっているし、食べやすいし。
多分あそこの湖で釣ったんだろうけど、一体この魚何て名前?」

『分からん。』

「いや、分からないって。
あんた、それって大丈夫なの。安全性的に。」

『分からない物は分からんから仕方あるまい。
どうやら渾名みたいのは付いていたらしいが、
俺が人から教えて貰った頃には聞かなくなったな。』


ふっとここで疑問が一つ出て来たからぶつけてみる。
きっとあいつも考えたんだろうけど。

「何であんたが居た世界と、
殆ど同じ魚がこの世界にも存在しているのかな。」

そう、あいつはこの世界の元々の住民ではない。
私もこの世界で生まれ育った訳じゃない。




あいつとは違うのは、
私は元々どの世界にも居なかったということだ。



そう言えば今まで名乗っていなかったわね。



こんにちはで良いのかな。
始めまして、私の名前はナナシ。

以降、暫くの間は宜しくね。



決して漢字でもなくて平仮名でもなくて、あくまでも片仮名。
だからといって数字でもないからね、念の為に言って置くけれど。


名前の由来は当然のように「名無しの権兵衛」から来ているんだと思う。
思うに疑問を抱いた人も居るだろうけど、この名前は私が付けたものじゃない。

私を生み出してこの世界に送り込んだ、
女神であるリクレール様が付けてくれたものだ。



『それは俺も釣りをしている時に思ったし、逆に俺が聞きたいことだ。
考えられる可能性としては幾つかあげられると思う。』

「うーん、一応この世界とあんたの世界の海洋環境が、
酷似していたなんてのも考えられるけど。」

『先ず有りえんな。そんな偶然。』

「えぇ、そうね。」

『その次に考えられるものとしては、
この世界が時間軸を除いて俺の居た世界と同じ世界ではないのかということだが。
之について異論はあるか。』





実は、そうじゃないかと私は確証している。




あいつは腕は相当立つとはいえども、
この世界のトーテムよりかはあいつのトーテムは僅かに弱いし、
理力もといフォースを操る力なんてはそもそも消え去っているけれども、
それこそここの海洋環境よりも酷似している。


他に思いあたることと言えば、
私がシズナさんの見舞いに行った時の帰りのあいつの行動程度か。


私と共に家の中に入りシズナさんを一目見ると、
顔色を変えたかと思ったら慌てて外に出て行った。

サーショの街を出てから理由を尋ねると、
学生時代の女友人と雰囲気が非常に似ており思わず逃げてしまったと述べた。


他人の空似じゃないのと聞いてみると、
 俺の友人もよく床に横たわっていて、その状況を思い出してしまったと、
あいつは言葉を濁しながら呟いてスタコラサッサと先に進んでいった。







その背中が私には異様に寂しく感じられたので、
それ以上の追及は止めた。







何はともあれ私も全然異論は無いと言い返す。
するとあいつはお前もそうだったかと言うと、
箸を止めて視線を斜め上に向けてから続けて言った。

『俺のようなトーテム能力者の存在、
宗教になっていないが人々に根付いているリクレール信仰、
サーショに居た俺の知り合いに似ている女性、
それとおまけ程度だが海洋環境。
俺の居た世界と関連性があるものを、
直ぐに想起できたものを単純に列挙してみたが。』

「どれもこれも偶然の一言で済む代物じゃないわね。
こんなのが全て偶然だったら奇跡どころじゃ済まないでしょうに。」

『あぁ、同感だ。
一応、言語やら理力もといフォースを操る力やら等については変化したり消滅してしまっている。
この辺に関しては時代の変遷で補足説明出来るだろうから、
今は棚に上げておこう。』

「伝承や民話で何かしら関連付きそうな物は無いの。」

『古くから伝わってきた伝承や民話か。確かに史実を基にしている物は多いと言われているな。
しかし残念ながら、俺は余りそういう話を聞いて育たなかったらな。』

夜空を見上げて苦笑いをしながらそう言った。


あいつと話してみるとせいぜい二十代の印象が強いし、
実際にそうだろうけれども遠目から見ると妙な貫禄が有り実際の年齢が上にみえる。


そんな印象を抱いてしまうのは、
幼い頃から多くの修羅場を潜りぬけて来たからだろうか。
単に老け顔の可能性も高いけれど。





私は知っての通りまだ生後一ヵ月にも満たないので、
修羅場を経験したことがない。

彼是数日以上経過しているからそろそろ来るのだろうか。
実はの所、砦戦は真夜中に突入しに行ったせいかあっさりと攻略出来たからか、
折角の準備が殆ど意味が無くなってしまっていた。




『そんな俺でも一つ思い当たる話があってだな。
伝承や民話というよりかは一種の御伽話しに分類されるが、
間違いなくこの世界を指し示しているのがある。』

「ほお。」

『題名が多種多様で最も有名な物としては、あー、そうだな。
『名無しの英雄』だろうか。』


それまでゆっくりながらも動かしていた箸を思わず止めて、
あいつの顔を覗き込むように見る。




向こうからは目を見開き口もあんぐりと開けている、
という間抜けでもあり不気味でもある顔をしているのだろうか。






『きっとお前の想像通りだ。
正に今お前と俺がやっている旅の事だ。』

「それっ、それ本当に本当なの。」

声が震えているのが自分でもよく分かった。

『ここで嘘を言って何になると言うんだ。
唯一つここに来てから、その話の中で気になる事がある。』


あえて何も言わずに無言で頷く。


『俺がその中で全く出て来ないんだ。』

「はぁあぁっ?」

巷での有名な話や噂に自分の名前が全く出てこないのが悩みの種なんだ、
とナルシストめいたことを突然言われた経験の有る人は他にも居るのだろうか。

ふと、頭の片隅でそう思った。

『いや、だから自惚れという訳では無いぞ。勘違いしているようだが。
例のその話は世の中で流布されているものは簡略化されているが、
原本は大人も読むようなファンタジーに分類される古典小説だと認知されてある。』

「ここに来てからそれが想像で作られた小説では無くて、
実際に起きた事柄を題材にしている、つまりノンフィクション小説や歴史小説だと知った訳ね。」

『そうだ。しかも下手すると歴史の資料として古典という面以外からも重要な代物かも知れん。
これから言うその話の内容は俺が全部読んだ訳では無くて、
最早暗唱できるまで読んだと思われる姉からの受けうりだが、良いか。』

構わないわと応答してから、
特に意味もなく空を見上げた。




単なる雨も雪も降らない満天な夜空だ。
今までに飽きる程見てきたこの光景。
なのに何故私は空を見上げたく、空を仰ぎたくなるのだろう。

分からない。自分でもさっぱり分からない。



もしかしたら、自分でも分からないから理由を求めにそうしたくなるのだろうか。馬鹿馬鹿しいにも程があるけど。








私は空を見つめていた。







その御伽話しに空を仰ぎみる描写なんて、
多分存在しないんだろうと何故か淋しくも感じながら。








               ★


「うーん、確かにあんたが出てこない点以外は、話の概要とこの世界が完全に一致してるわね。
それこそ不気味で鳥肌になる程に。」

大よそ十数分程あいつはそれの内容について、
時々冷めた汁を飲み物代わりにして飲みながら話した。
真っ先に抱いた感想は私が述べた通りのまんまだ。

しかし、時間が経つ内にあいつが言ったように、
何故あいつが擦りとも出てこないのかという疑問が浮上してきた。

「そして、確かにあんたがうんともすんとも出てこないのが気になるわね。」

だろ、とあいつは小さく相槌を打ってから肩の力を抜いてから、
少々力無さげに言った。

『今の話の中ではマントを羽織った少女――要するにお前だな――がたった一人で旅をしている。
最初に三人称視点で書いている人物が俺では無いかと考えたのだが。』

「流石にここまで一人旅だということが強調されていれば、
何も言えないなぁ。」

『それに僅かに見た限りだが原本の文体は俺の書くような文章ではなかったしな。』

となると、と右手の人差し指を天に向けて、
少し間を置いてから続けて短文を一つ。



「あんたがこの世界に来ていなかった。」



その人差し指をあいつに向ける。


このような結論に達した理由はごくごく単純なもので、
消去法をしつづけていたら最後まで残っていた答えはこれだったから、それだけだ。
恐らく本来ならばこれが真っ先に結論として上がる代物だ。





だけど、これを実際に認めるのは精神的にかなりキツいものがある。











何故なら、だって――――











あいつは軽く頷いてから
至って普通のトーンで私に続けて言った。

『俺も初めはその結論に至ったし、
確かに一般的には納得できる答えでもある。』


一般的にはな、一般的には、とその部分を強調して繰り返し呟いた。


『だが、当事者の俺としては些少ではすまない問題があってだな。』


矢継ぎ早に言葉を鎖のように繋げていこうと思ったのか口元の端が浮いたが、
躊躇して止めたのかその口元はそれ以上上がることなかった。
自らの口に出してしまうとその事実を認めないとならなくなるから恐れているのだろう。



ならば、せめて。





「あんたが元の時代に帰れない可能性が極めて高いことでしょ。」


突き放すように単刀直入に強い口調で言う。
それに内容が飛躍しすぎだけど同じことを考えていたに決まってから、
あえてあいつに対して説明はしない。





何度も繰り返して言うが、世界観はもとより、地理、街や人々の名前、歴史は全て同じ。

小異はあるものの主人公である郡青色のマントを羽織り、
銀髪の青年の十代後半の女の人の行動までもが私の行動と似ている。


あいつは概要のみしか話さなかったから違う可能性もあると言えばあるけど、
その主人公と私もきっと似たような口調、
ううん、まるっきり同じ口調なのかもしれない。

何か、そんな感じしかしないというのが本音だけど。



何はともあれ。

あいつが話した物語は事実を元にしたものであって。


あいつはここと時間軸が同一の世界に住んでいた。



分かりやすく言えば、




あいつはこの世界から遥か遠い未来の住人だ。





もしも近い未来に居たのだったら、
言語の違いから生じる問題とは衝突しなかっただろうし、
まず私の姿をみて、えー、えーっと「名無しの英雄」だと気がついたんじゃないか。

かなりちゃんとした事実を纏めた話が後の後にまで伝わっているのだから、
十数年後やら数十年後やらの近い未来ならばもっと詳しく、
あー、その、「名無しの英雄」やらが伝わっていてもなんら可笑しくない。

にしても自分のことをこれで言ってみると何かこそばゆくて、
怪しげなことを叫びながら背中を無性に掻きたくなる。






『……やはり、お前もそう思うのか。』

諦めをつけたように深い溜め息をして、
じっと私の方を見つめてくる。



黒い眼帯の奥底からも覗いてくるような、
そんな鋭い眼差しだった。






その眼の中に頭を抱え、
項垂れているあいつの姿が見えたのは気のせいではないだろう。






「そもそも先に話を切り出したのはそっちでしょうに。」


そう返されると肯定するしかないが、
とぼそぼそと言ってからあいつは目を逸らして俯いた。




別にあいつが私にこの日に言いたかった理由は、
別に分からなくもない。


少し話が飛ぶけど例えば貴方がふとした拍子で、
一生に使いきれない位の量の大金を手に入れたとしよう。

しかもそのお金は苦労して手に入れた物では無くて、
偶然どこかの道元で拾ったようなもの。



はい、そこっ。

大金を道端で拾ったら量の嵩張りや、
重さのあまりに持ち運びきれないんじゃねーの、
という突っ込みはしないの。これ、例え話なんだからっ。


えー、ごほん、本題に戻って。




そうしたら次に貴方はどうしますか。





今迄買いたくても買えなかったものを嬉し涙を流しながら買いに行く。

どや顔をしながら大人買いをしてみる。

贅沢品の収集をしてみる。

レストランやバーなどで皆に奢ってみる。

何となく高笑いをしながら外で散撒いてみる。

等々と色々と上げてみるけど、
案外こんな行動をする人は少ないんじゃないだろうか。


私。私ならば、そうね。




その大金に手をつけずにそそくさと逃げていくと思う。




今、私がチキンだと考えたでしょう。
いいよ、別にそう思ってくれても構わないわよ。        くすん。



でも、どのような経緯で自分の手元にまで辿りついたのか、
全く予想の付かない天文学的な数字を持つ大金。

これを訝しまない人っているのだろうか、
いや恐らく殆ど居ないでしょう。

もしも「ぐへへ、ぐへへ、金だ。金だー!」とか、
「ヒャッハー、大金だぜー!」とか叫びながら各々の事に使うような奴が居たら、
そいつはよっぽどの金の亡者か、
生きることさえも満足にいかない貧窮な人じゃないかなと私は思う。




さて置き、その金は出所が不明な物なのだ。
だから次のように勘繰る人も多いだろう。


もしかしたら、麻薬やら臓器売買やら闇のルートを駆使して作られた物かもしれない。

もしかしたら、本当に超大金持ちがうっかり道端に落としてしまった物かもしれない。

もしかしたら、逃亡中の泥棒が今暫くの間は逃げる為に隠していった物かもしれない。

もしかしたら、その中に爆弾を仕掛けて無差別テロを引き起こす為の物かもしれない。

もしかしたら、神様が人がどんな行動をとるのか知りたいので置いた物かもしれない。





分からない。



全く手掛かりが無い状況なのだ。



本当に想像と言う名の妄想をするしかない。

ずっと迷宮の中を彷徨い続けていくしか無いのだ。





えっ、
そんな例は絶対可笑しいよ、だとか、
有り得ないだろ、之。常識的に考えて、って突っ込みたいの。
何、既に突っ込んでいるから安心していいよと。


いやいやいやいや、だからこれ例え話だから。


一番最初の文章が英語で表すと、
"If you were to get a large quantity of money,what would you do?"で始まる文章だから、ね。うん。



あー、げふんげふん。



兎に角、こんな不安な種を抱えながら誰にも言わずに、
何事も無かったかのように平気な顔をして日常生活を送る。

そんな事が出来るような鉄の心臓を持っている人間はそう居ない。
大体の人は不安の種を除去するか、他の人に吐露をする。







人間なんて一人では生きていけない、
弱い生物の内の一種にしか過ぎないのだ。







かの有名なロビンソン・クルーソーのように、
それこそ無人島で一人きりになったら別だろうが、
自分の周りに他の人が居たら、



一人で、
    ひとりで、
         独りで、


居るのは到底堪えられないだろう。






あぁ、それこそ、又、もしかしたら、だけど、
この世界の人に、仇なすとされている、竜人だって、









私達と、同じ、なのかも、しれない。








『元々何時死んでも可笑しく無い環境にこの身を置いていたが、』


ふっ、とギザっぽく笑って、
二、三分の間俯いていた顔をあいつは上げた。


――いや、あの笑いは自らへの嘲笑めいたもの臭かった気がしてならない。
そう女の勘が叫んでいる。



『こうしてある意味では、
余命宣告されるとなると辛いものがあるな。』


あいつはそうやって寂しげに嗤っていた。




あぁ、そう言えば何であいつが元の時代に戻れないのか、
という説明がまだだったわね。



「まさかタイムパドラックスをこの目で見る羽目になるとわね。」



そう、タイムパドラックス。



何らかの形で名前を聞いたことのある人は多いんじゃないのかな。



えっ、知らないの。嘘でしょう。



『単なる言い違いだと思うがパラドックスなパラドックス。』


パドラックス、パドラックス、パドラックス。

頭の中で同じ言葉を反芻してみる。

パラドックス、パラドックス、パラドックス。

再度脳内で繰り返し呟いてみる。




……最初の方が言いにくい。




「そうと知っているに決まっているじゃない。
幾らそんな単純な言葉を間違う訳なんてないでしょう。」



そう、タイムパラドックス。



何らかの形で名前を聞いたことのある人は多いんじゃないのかな。




『なら、良いが。』

普通の人ならにやついた顔や笑ってくるのだろうが、
さっすがアルバートさんマジで鈍感だわー。

本気で私の言葉をそのまま飲みこんだらしくて、
ケロッとした表情で見つめてくる。





逆に無性にいたたまれない気持ちになってくるから、
いっそのこと大爆笑して欲しいんだけど。





さて、本題に戻ってタイムパドラ、じゃなくて、タイムパラドックス。




数多くのSFをテーマとした映画や小説にドラマ、それにゲーム、
と言ったバラエティーやエンターテイメントに登場して来るこのタイムパラドックス。



登場人物が何らかの方法で過去の同一の世界へと行き、
「登場人物がから見ての」過去の現象、事件を変える。
そして元の居た時代に戻ったら未来が変わっている。

要約するとざっとこんなものだろうか。



それじゃぁ試しに今回の場合で憶測を入れつつ、
当て嵌めて今までの状況を箇条書きしてみると、



・事故やら偶然やら何やらが発生して、あいつがこの時代に来る。
・私がここに来てから四日目の夜に例の翻訳できるブツを渡し、
 あいつは私の誘いに乗って連いていく。
・共に旅をしていく内に、例の古典の内容とそっくりな事に気付く。
・自分がその古典に全く出てこないことにも気付いてしまう。
・現在八日目の深夜で、今日休んで明日にでも離れに居る島の敵と戦いに行く予定。


何となくだけど、離れの島の敵と戦い無事に勝利したら私達の旅ももう終わる。
そんな予感を心の奥底から何かがひしひしと訴えかけてくる。


気になるけど今は構っていられない。
ここから先はあくまでも予想であり想像にしか過ぎない。

けど限りなく事実に近いものだと思う。

・(きっと)旅が終わってあいつは元の時代に帰ろうとする。


が、ここで大きな問題がでてくる。


元々あいつがいた世界でのこの時代の歴史は、
「この旅に『アルバート・ウェスタリス』という人物は全く関わっていなかった。
そもそも『アルバート・ウェスタリス』はこの時代には存在しなかった。」ということになっている。



しかし、今私達が居る世界、つまりあいつの世界からみた過去では、
「この旅に『アルバート・ウェスタリス』は大いに関わっている」という事実が出来てしまった。





ここでタイムパラドックスが起きている。






別に歴史上の舞台に新たな役者が一人登場しただけだから別に何ら問題は無いかと、
最初は思った。






『なぁ今思ったんだが俺が帰る世界では、
例の話の中に俺が登場するのだろうか。』

「かもしれないけど、
それこそ驕りというものじゃないかな。アルバート君。
それに実名で登場していたら色々と問題が出ると思うよ。」

『肝胆相照らしていた仲から根堀り葉掘り聞かれそうだな。』

「いや、研究者辺りから尋問としか思えないような質問攻めにあうんじゃないの。」


言われてみるとそうだな、
と腕を組んであいつは唸りながら考えこんだ。




さっきの話を続けていくわね。





だけど、この舞台は以前の講演を元にして新たな講演が行われる。
あいつの居た時代から見たら、この時代は途方もつかない位昔だ。


言わばこの時代はあいつの時代にとってみれば、基礎土台の中でも要となる部分だ。

その要が僅かでも動いたら、後の設計や講演はどうなっていくのか。
当初の予定とはどれほど異なっていくのか。






友人がその世界に居なかったり、

親友が見知らぬ人達になってたり、

家族構成自体が変化してしまったり、

身の周りの自然環境が変改していたり、

住んでいた場所の地形が褶曲していたり、

自分の世界の歴史が歪曲させられていたり、

そもそも自分の過去に手が加えられていたり、

そもそも自分の容姿がまるっきり異なってたり、

そもそも自分の存在がこの世から消されていたり、



想像だにつかない。










そもそも、あいつは帰れるのだろうか。




偶発的にここへ来たに違いないから、必ずしも同じ時代に帰れるとは限らない。




(孤独なタイムトラベラーか。)
心の中でぽつりと言葉を漏らす。





空虚である私の心の中にある湖に、
冷たな水滴が一滴落ち波紋を引き起こした。


この波紋は遥か先にまで届いてゆくのだろうか。


私の知らぬ彼方まで歪な弧を描きつづけるのか。



(ある意味で元の場所に「還」られる私は恵まれているのだろうか。)

もう一滴、もう一滴と壊れた蛇口のように少しずつ水が漏れていく。
私自身の言葉も口から洩れだしていくのではないかと不安に陥った。









――そうね、貴方は幸せものなのよ。――









湖の奥底から艶やかな声で作られた波紋が返ってきた。









               えっ。







その瞬間に私は掴んでいた意識を手放したのか、
自分の身体が鉛直方向に重力の速度で加速しながら落下していくのを感じた。






「ごめんなさい。」





完全に体が水に漬かる直前に、
空気を求めて水と共に無意識の内で吐き出した言葉はそれだった。



後は溺れていき、湖の底へと向かっていくのみだった。





               ★
















前回のセーブより一時間以上が過ぎました。










セーブしますか?

















               □


バーン歴五百年。
俺が来てから五日目の夜の事だった。





             ごめんなさい。






そう言って、彼女が胸がつかえた動きをしながら突然意識を失った。

予測のつかない現象だったので、
口をあんぐりと閉口ならぬ開口しており俺は木偶の棒となっていた。

やはり使用者と繋がりが深い為に何らかを察知したのか。
あいつが倒れた直後にトーテムのフェザーが焦りながら駆け寄ってきた。
駆ける、というよりかは翔るというほうが行動の意味としては正しいか。


どうやら俺が出会う前にも数回あったらしいので、判断は早かった。
フェザー曰く、まだ疲れが取れていないから暫くの間また寝かして置こうとのこと。

俺は彼女の上半身を抱き起こして下に毛布を引いてやり、
その身体を戻してやる。






彼女を抱きしめてやると、意外なことが一つ。




(何て華奢な体なのだろうか。)



華奢過ぎて、ほんの力を入れてやると直ぐにでも壊れてしまいそうだ。
用法は違っているが砂上の楼閣や天上楼閣を連想させる。







儚い、その一言に尽きる。







確かに素早い行動をするには――こんな事を面と向かって言ったら命が縮まりそうになるだろうが――、
まだ発達途中で二次性徴の途中だからか、
脂肪が余りついていないこの女性の身体はもってこいだ。



(とはいえ、ここまで幼めな体つきをしているとはな。)



彼女本人は自らを二十歳よりも少し上と言い張り、
学校だったら年齢としては俺の後輩であっても差支えのない年齢だ。
しかし見た目に関しては、
特にこのようにグッタリしていると下手すると十五と主張しても十分に通じる。

(だからこそ幾ら年齢を主張しても、
逆に大人に憧れて伸び盛りな子供としか見なされないんだろうが。)

前回アーサと言い合いをしていた姿を連想して思い出し笑いをする。

戦闘中は何というか女とはとても思えない形相やら金切り声を上げたりしたりやらはせず、
基本的に無言で冷静な判断を行い、
積極的に剣を無駄なく振るいながら前へと向かう姿は手馴れた戦士であるのだが。





本当に経験が無かったことを疑う程に。






『フェザー、疲れたので夜風に当たってくるからここを暫く留守にしてよいか。』


野外ですから十分当たっていますけどねー、
と茶化しを入れてから二つ返事を貰ったので茂みを離れて開けた草原へと出ていく。



               □



開けた草原に出ると風が強まり、
首から下に掛けている傷だらけでほつれかけているマントが揺れる。


昨日の正午前に彼女が魔王の心臓掲げて離れの島への道を道標を作った。

その道標はおおよそ半分まで出来ており、
近付いておそるおそる片足を乗せてみるとバランスを崩すこと無く乗っけることが出来た。




『残り半日足らずで終わりなのか。』



様々な実感が全く湧いてこず、
胸の奥でむかむかとした嫌悪感しか覚えない何かが渦を巻いている感じだけがする。





現実とは全く予測のつかないことだ、と相手は居ないが何かに向かって言い放つ。




仮にこのまま生きて帰られたとしても
その世界は俺がこれまでの間生きぬいて来た世界ではない。




俺が生きていた証拠が幾ら存在しようとも、
それはその世界で生きていた「俺」の証拠であって、
今の「俺」が生きていた証拠にはならない。


又下手すると、別の世界の「俺」と会うかもしれない。


それが一番厄介な羽目になりそうだ。

そうなったら目の及ばないような所まで逃げ延びないとならない。
船を繋いでいけるだけの金の余裕はあるはずだから何とかなりそうだが、
道中で今は戦場を渡り歩いている医者の友人と出会う可能性が無きにしもあらず。



(いや、そもそもその友人が別人になっているかもしれないんだよな。)


等とあれこれと考えても所詮は堂々巡りするのみ。
全てを天に任せるしかない。


脳を空にしてこの草原で寝るのも悪くはなさそうだ。


それに明日への体力も温存しなければならないから、
最も合理的な選択だ。








『まさか俺の骨を埋める土地が過去の時代になるとはな。』










何とはなしに最後に一言言ってから瞼を閉じた。
















――雪にまみれたまま熟睡しているアルバートの姿を、ナナシが呆れながら見つけるのはまた別の話。











第一章・了



後書き


初め20kb弱の予定が結局30kbに。
しかも書く予定の内容の内三分の一は削った筈なのに……アレー?
先が思いやられますが、頑張って完結させたいと思います。






何、今更シル幻の2次か。マジで誰得だよ?、
と申しますか。



うん、実の所俺もそう思うんだ。



[26205] 閑話その一
Name: kai774◆93a3a7b1 ID:cf3c74fe
Date: 2011/03/02 15:58
閑話その一【本業勇者ですが作家の物真似しています】

「んっ、ようやく私の番が書き終わったー。」

「おー、お疲れ様。んで、出来についてはどう思うんだ。」

「個人的には久し振りに書いた割には、まぁマシという程度かしら。」

「可もなく不可もなくという感じか。」

「そういうことになるわね。
にしても自分の感情を日記以上に、
細やかに書くのって予想よりもシンドイわね。」

「寧ろそこまで委細に、
ってか詳しく書ける事自体に疑問に思わないのか。」

「残念な事にそういうのはもう慣れてしまったかな。そういうのに関しては。
何だったら一から十まで全ての台詞も交えて書き上げてみようか。」

「それやったら、お前あれか。
勇者ナナシ様の偉業をナナシ様がお筆をおとりになって、
バカ丁寧に丹精籠めてお記しなさった自作自演な本がでる羽目になるぞ。」

「実は以前どこかのちょっとした衛星世界で書いたけど。」

「……マジ?」

「Yes,really.あんた達が出稼ぎに出ている間に暇で暇で仕方なかったからね。
ちなみにその文章。何か今では美化されて古典として扱われてしまってるみたい。」

「馬鹿か、お前は。
それと今までのは棚にあげるがその情報はあのデカいのからのか。」

「えぇ、今じゃ無くて楽しい楽しいお仕事中にね。
ちなみにあいつ現在進行形で就寝中だから肩の力抜いても大丈夫よ。
恐らくあそこまで酷いのは久々でしょうから、そう簡単に起きないでしょうし。」

「んっ、そうみたいだな。あー、だけど今は遠慮しておくさ。
話している最中に起きられたら困るし。」

「それに会話中にお呼び出しが来そうな頃あいだからでしょう。
一番は聞かれたら大爆笑ものだからじゃないの、あんた。」

「それは否定できないな。」

「そんな異様に無邪気な笑顔を浮かべられても反応に困るんだけど。」

「それは悪いな。」

「……ねぇ、さっき私が言った内容理解しているの。」

「ははっ、当たり前じゃないですか。
この私めがそのような内容を、
即座に耳から耳へと抜けるように理解できないとでもお考えのようでしょうか。」
 
「今の発言で完璧に私の判断が間違ってないことが証明されたけど、
大丈夫ですかこの勇者様。」

「とまぁ、変なやり取りは終了させて閑話休題だ。
なぁ、お前はさぁ、あれがそろそろだと思うか。」

「今書いた原稿読めば分かると思うけど、そう遠くない近頃じゃないのかな。」

「やっぱりそうだよな。ぁー、何か緊張するな。」

「最初から知っていた事でしょうに。」

「そりゃそうだけどさ。仕方無いものは仕方――んっ?」


(遠くから重たい扉が軋みながら開かれる音が響く。)


「見た所、今回はどうやらあんたの方みたいね。
ほらほら、お勤めにでも行ってきなさい。」


「へいへい、言われなくとも承知しておりますよっと。」


「じゃあね。私は期待しないで待っているから。」


(男は準備準備を終えると身なりを正し、行儀よく振り返りお辞儀をする。)


「有難う。
この別れはほんの暫くの間ですから、その言葉の通り期待しなくて結構です。
それでは又十五日後までにはお会い居たしましょう。
それでは、又。」


(男、そういうと扉に向かって走っていき中に入る。そして、扉が閉まる音が響く。)




「全く、生真面目すぎるにも程が有るわよ。そう思わない、アルバート。
って、てっきり起きているという落ちなのかと思ったら、本気で熟睡中だとは。
まぁ、そのほうがらしいと言えばらしいけどね。」





               ★







新たなゲームを始めますか?








それでは、貴方に神の加護があらんことを……。






               ★






後書き

見ての通り閑話です。えぇ。
章と章の間にこのような短い閑話でも挿入していくつもりです。



……後、俺にはセリフだけの文章を書くのは、
向いていないことが良くわかりました。ギブミー文章力。



[26205] 第二章-その一
Name: kai774◆93a3a7b1 ID:66c99202
Date: 2011/03/29 22:59
第二章【銀のダガーを二つ程】









◆意識の海って結局何?

 時間や世界に関わらず、あらゆる魂が行き着く先。
 これから生まれる者のゆりかごとなる世界でもあり、
 夢の中でたまたま通りがかるかもしれない世界でもあり、
 また、これまで一生懸命生き抜いた意識が休むための場所でもある。

 プレイヤーである「あなた」は、この意識の海を通じて幻想譚世界に干渉している。

(SilverSecondのシルフェイド幻想譚裏設定より抜粋)















               ★








くるりくるり、くるくるり。







長剣を振るいながら独楽のように廻るは、
郡青色のマントを纏ったやや長身の一人の青年。


青年が周回する度に小刻みに軽快な金属音が薄暗い森の中に響き渡る。


彼を取り囲むは王宮で配られる鎧を付けた兵士二人。
どちらも身体付きが良くて屈強であり、
まだ伸び盛りであることを伺わせている。

現に竜人との戦いでは新兵ながらも中々の戦果を二人とも上げており、
バーン城中では羨望や期待の目の嵐を浴びることは少なくなかった。

その上に自分自身もかの英雄ゼイウスの息子であり、
四十半ばにして未だに現役最強と謳われるエージスまでとはいかないが、
そこまでは行くのではないかと常に自尊心を二人とも高く持っていた。




「くっそ、こいつ一体何者だよ。
おい、二対一なら勝てると言ったのはお前だよな!」


「そもそも先にけしかけようとしたのはそっちだろうが!」






                 たった今、この瞬間までは。






バーン王自ら直々に下された幼い竜人への懸賞金。
その額は二度も魔王討伐の際に使われた太陽の剣までには及ばないものの一万シルバと実に破額。


鍛錬に集中していた彼らは金と名誉を得る為にはるばるここ迄来て、
剣を携えた一人の男が件の竜人を保護しているのを見かけるのまでは良かった。


残念なことに彼らは運が悪かったとしか言いようがない。
もしも城を出るのが一日遅ければ、
今単身で砦を陥落させた時の人としてなっていることを知っただろうに。








ここまで話せば分かるだろうが、
念押しとして「今回の」彼を軽く紹介しよう。








名前はアラン。







女神リクレールからの命を受けクロウのトーテムを宿し、
六日前にこの地に降り立ち、
後々にまで古典で語り継がれることになる勇者だ。









さて、そこから少し離れた所には、
まだ幼い竜人が一人で怯えながらぽつりと立っていた。

もしも、もしもトーテム視出来るものがこの場に居たならば竜人の近くに、
文字通りの意味で地に足がついていない半透明の少女が居たのが分かるだろう。




青いマントを翻した青年、もといアランは二人同時相手にするのが飽きたのか、
息が荒くなっている方に向かって軽くリズムを取って、
右手に長剣を握りしめ、左手を腰にあてながら歩む。


何でこいつは突然歩きだしたんだと、
迫ってくるアランを見ながら兵士は疑問に思った。




実はこいつ道場暮らしで、こうした経験のない馬鹿なんじゃないだろうか。
ふとそんな考えが兵士の脳裏に浮かんだ。

言われてみれば、回転しながら剣の捌き方は舞踊に通じる物があるから、
目の前のこいつは観賞用の武術でも身につけていたに違いない。

そんな憶測でしか過ぎない事柄を事実だと信じ込み、
それまで血溜と水返の部分で剣を受けていた槍を持ち直し、
穂の部分をアランに向けて兵士も接近しようと、
後ろに置いていた足を前に持っていく。




その直後。







ひょうと両腕辺りの空を切り裂く幾つかの音が、
きらめき輝く幾本かの銀色の線分と共に耳までに届き、
何が起こったのか判断する暇も無いまま腹に膝が力強く叩き込まれる。







作りがやや粗いとはいえ十二分に機能を果している鎧ごしに。






うぐっ、と鈍い声を吐き出して俯きながら地面に膝をつくと同時に、
それまで手にしていた槍が離れる。

そして、槍が空で歪な大きな半円を描いて穂からかなり離れた地に落ちたのを、
視界の範囲のぎりぎりの所で兵士は確認した。




アランの長剣が血で汚れずに、
確りと右腰にある鞘に収まっている所までには気を取られなかったが。




両腕に対称的についた二つの深い切り傷から湧き水のように血が出るのを、
『治癒』を唱えて無理矢理止血すると痛みがやや引いてくる。

隠し持っている短剣を出し応戦しようと慌てて腰に下げている鞘に手をやり、
やや錆ついた短剣を取り出して目を正面に向ける。



だが。



(あぁん……?)


既にアランは背を向けており、
隙を伺っていたもう一人の兵士に対して『火炎』のフォースを打っているのが見えた。


アランが突き刺さっている槍を手にとり助走を付けずに投げようとしていたのは、
下を向いて笑った為に見なかったが。



(間抜けだ。甘ちゃんだ。
戦場で背を向ける馬鹿がそこに居る奴以外に何処に居るんだ。)

へへっともう一度軽く笑って立ち上がり、
両腕から起きる痛みに堪えながら短剣を振り被ろうとした。





「ぐはっ。」




痛みが倍増して腕から全身中をぐるぐると駆け巡っていく。







その腕がこぶしよりも高く上がることは無かった。






何故だ、何故なんだとぶつぶつと疑問を漏らし続けた。

今迄このような事態に戦場で自らの身体で経験したことはない。

寧ろ、敵の攻撃を受けて大怪我したり、
義足や義手をつけて城内の酒場で愚痴をこぼしながら、
酒をあおっている他の兵士達を小馬鹿にした目で見ていた位だった。


自分の身にどのような異常が起きたのかを判断ができない。
何が原因なのか兵士は皆目見当をつけずにいた。




いや、見当をつけようと思う意志すら既に無かったのかもしれない。




囮である『火炎』フォースは避けたが追撃の投擲された槍が、
見事に柄の部分で脳天に当たってもう一人の兵士が完全に気絶したのを確認してから、
威風堂々と槍を手にしてアランは兵士に寄ってくる。











兵士には正体不明の攻撃を繰り出して来たアランの姿に、
話でよく聞く五十年前の魔王がダブって見えた。










来るな、来るなと尻餅をついて兵士は後ずさるが、
当然のようにその速度を上回る勢いでアランは迫っていった。


さっきまで見縊っていた相手に対して抱いた感情は、
どうしようもない程の








「来るんじゃねぇえぇええぇぇぇ!」


















               恐怖のみだった。
















そして、


「あ、あがっ。ちっ、くしょう……。」



腹をずぶりと自分の所有していた槍で、
鎧の上から異様な力と速度で腹を突き刺され、
身体が宙にやや浮いて吹っ飛ばされながら、
意識が遠退くのを兵士は感じた。



鋭く尖っている穂の部分ではなくて、
その反対側に位置する石突の部分で刺されたことには知らぬままに。










鎧の金属と金属の接合面にある隙間ではなくて、
そのまま粗がない金属の部分で刺されたことには知らぬままに。













               ★












「よもや同じ種族である人間に襲われるとは予想つかなかったぞ。」

肩を落して溜め息を私はついた。
手にしていた槍は放り投げずに、そっと兵士の隣に置いてやる。


「全く私らしくない行動だな。」


この言葉を意味する範囲は、
兵士と戦い始める以前から、要は全てに置いて適用される。

私がこことは違う世界に生きていた頃のことを知っていやがる人間が、
この場に存在していやがったら腹を抱えて人指し指をこちらにさしているに決まっている。



昔の自分も恐らくそうしただろうし。




「ねぇ、アランお兄ちゃん。その人達を、もしかして。」

背後から、か細く震えた声が届いてくる。
まだあどけない少女の何かを悟った声。



観衆として見ていれば、そう思うのも別段何一つ可笑しくはない。



幾ら旅を共にしているとはいえ、
まだ日の出入りを一緒に二度も見ていない彼女だし、
先ず住んでいた村を出たのは之が初めてだろう。







そもそも彼女の場合、視力が回復したのもつい二日前だが。







「二人とも気絶させただけだ。安心しろ、殺ってはいない。」

そう口から発した後に私は後悔の念を抱いた。

ファッキン野郎め、年端もいかぬ女子に対して、
そんな駄目すぎて物が言えねぇような言い方は無いだろう。このクソッタレが。

いや、先ず私自身の脳内で、
このような下劣な言葉をずらずらと並べている時点で、
箸にも棒にもかからないか。

一人称だけは矯正できたのがせめてもの救いか。

逆にあの環境下に置かれても、
根は変わらなかった私が異端なんだろうし、
事実としてもかなりの異端扱いされていた。

「そう、なら。」

私の汚らしい言葉使いには気を取られなかった様子で、
彼女はほっと胸を撫で降ろしていた。


それ以上は何も言わずに私を見てフフッと軽く笑っていた。



何処かしら儚げで手で触ろうとしたら、
呆気なく壊れてしまうような硝子細工のような笑顔。





そして恐らく彼女自身は無意識の内にそうしているんだろう。
初めて出会った時の笑顔も今のと変わり無かったのが瞼の裏に写し出される。















私にとってその笑顔は凶器に等しい。






様々な意味において。















そんな風に考えていると、
震え上がっている幼い竜人が顔を上げて私を向いて言った。


「あっ。」

私がこの子を引っ張りあげた直後と比べると、
その目は非常に眼球が小さくなっていた

「ねぇ、ほんとうにし、」


その瞬間、近い所から何者かが走ってくる音を耳が捉えた。


咄嗟に右腰に下げてある剣の柄を握りしめ、
即座に居合のような芸当が出来る臨戦態勢をとる。

ウリユに向かって
「その子の傍に居続けろ、いいな。」
とこれまた強い声で命令してしまった。




さっき口調を改めようと決意したばかりでこれとは。
幾ら何でも馬鹿にも程があるだろ、私。






林と林の間を縫うかのように移動しながら、
猫の額かのような踊り場にそいつは飛び出てきた。






「なんだ、今の騒ぎは。……っ。」






そいつは光輝く長剣を手にし紫色の鱗で全身が覆われており、
清々とした気品や強敵に存在する一種の気が辺りを漂わせていた。



私は一度目を見開いたものの、
瞼と呼吸の為の鼻以外は動かさずに、
じっと右腰に下げている長剣の柄を握っていた。
一挙一足を見逃さぬように視線だけで追った。
















そして、口を噤んだままそいつは長剣の先を私の目の前に突き付けた。
















磨きあげられた金属の光沢が眩しい。
眩しくてたまらない。



私は剣越しに、
彼――としてよいのだろうか――の目から逸らさずに沈黙のまま見つめ返した。




沈黙と時間だけが流れていった。




十数秒が過ぎた後、
彼は長剣を降ろして周りを一瞥した。


「これは一体。」


血特有の生臭い妙なにおいはしないものの、
草の踏みしまれ方や木の幹に僅かについた切り傷から、
何が起きたのかは想像つくのは容易い。

その間も私は絶えずに同様の姿勢を保っていた。


「気絶している人間が二人か。」


もっとも大の字で突っ伏している野郎が、
二人共転がっている時点で気がつくか。


彼は私の奥まで目をやると、
驚愕した顔で彫像のように微動せずに立った。
かと思うと長剣を手放して、
私を後目に横を通り過ぎてちっこい竜人の下にかけ寄った。


私は臨戦態勢だった姿勢を崩して、
後ろを振り返り戸惑っているウリユを手招く。

「テサ、こんな所に。」


膝を立てて彼はそのテサという子を包みこむように抱いた。
テサの方も抵抗せずに、
それどころか自らもっと密着しようと近付いているように見える。


「あのトカゲの人の子供なのかな。
すっごく嬉しそうな顔を浮かべているし。」

「さあ。砦の中に住んでいた子供の可能性もかなりあるから、
私からは一概に何も言えない。
せいぜい分かるのは、あの子供から奴が強く慕われているということか。」

ボソボソと私はウリユと小声で話した。


抱きしめていた両腕を解いて腰を屈めた姿勢で、
一度私の姿を伺ってから彼はテサに優しい声で尋ねた。


「何もされなかったのか。」


「何も」の後にどういう人物の名前が入るかは明白すぎる。


テサは小さく頷いてから答えた。


「うん、でも。
あのひと、ぼくをつれていこうとしてたひと。」

あぁ、そういうだろうと思っていた、
と言語として口から発する前に心の中で序文を置いてから言葉を被せる。

「水を差して悪いが、私は殺してはいないぞ。
暫くばかりおねんねして貰っただけだ。」


さっきウリユに掛けた言葉は、
予想通りこの子供の耳までは届かなかったようだ。

目の前で恐らく生まれて初めて、
戦闘をむざむざと見せられたのだ。

無論、終わって以降も暫くは茫然自失であろうとも何ら変ではない。


「おまえの言う『おねんね』の言葉と、
見事に釣り合っていない者が一人居るみたいであるが。」


彼は子供の頭を軽く優しげにさすってから、
立ち上がり訝しげな流し目で私を見る。



(一目で気付くとはな。
やはりこいつは相当侮れん奴だ。)



砦内で一戦交えた時からつくづく思っていたが、
私自身の想像の二歩先をいくような奴だ。



「疑問に対して今から質問で返すことになるが。
もしもだ。もしもお前の配下の兵士の中で、
隠れて子供を虐げている兵が居たらどうする。」

数秒程彼はそのままの状態で口に手をあてて黙ってから一言言った。

「厳重に処罰するな。
場合によっては……成る程そういうことか。」

低い声で応じて大の字で、
ひっくり返っている近くの兵士に目をやる。
兵士の両方の上腕部分が赤く腫れ上がっているのが伺える。


あの戦闘の時に延々と受けに徹していた私は痺れが切れ、自分から仕掛けていった。
先にあの子供と引替えに金をせびてきた側の兵士に攻撃した。


(いかんせん、両腕の上腕部分の腱を切るのは不味かったか。)

私が居た世界とは比べるとこの世界の医療は然程進んではおらず、
数百年前の水準に留まっている。

だが、最低でも腕が全く上がらない気付くにだろう。

又もう片方の兵士についてはそこまではしていないが、
脳震盪は起こっている為に下手すると、
この後視力や平衡に関しての障害を負ってしまうかもしれない。

それに人体の構造を把握していないだろうから、
恐らく名医と呼ばれている人物でも容易な手術すらままならないだろう。
その分、理力や薬草を利用した医療法は大幅に進化している。



又幾ら敵対している種族同士とはいえ、
子供を金銭で売買するのに応じる程私は落ちぶれていない。


先ず女子供を生臭い戦いに巻き込みたくないという一種の信念は、
遥か昔から私の中に根付いている。


(そもそも私がこの世界に余り居ていないから、
このようなことをしたのかもしれない。)












私は異端者だ。












元居た世界においても、この世界においても。












「しかし、おまえ。
それだけの理由で同族をこのようにしてまでこの子を守ったのか。」

「女子供が無駄な争いに巻き込まれるのを、
ずごずごと見て見ぬ振りなんぞ不器用な私にはできね、ないのでな。」

「もしもおまえが我々と同じ種族でこの子が人間でもあっても、するのか。」

「馬鹿げたことをぬかすもんだな。」

長く細い息を吐きながら答える。

思えばウリユもテサという子供も口を噤み食い入るように、
じっと此方の様子を見ている。

そんなぶっきらぼうな私の返答に、彼は一瞬両目を丸くした。

「本気か。」

彼の鋭い口調の言葉に無言で首を縦にかぶる。
そうか、とポツリと呟いて彼は私の足先に目を落とした。

{予想以上にこの森に長居してしまっているが、大丈夫かアラン。}

脳裏でトーテムのクロウの心配げな声が響く。

元居た世界と限りなく近い戦闘での行動が出来るのではないかと予想し選んだのだが、
思いの外様々な動きが出来て大変喜ばしい。

確かに本来ならば軽く野獣を蹴散らしつつ探索したら、
もうこの森を離れていっている頃合いだ。

{本日の予定が狂ってしまったが、
代わりに嬉しい誤算が生じたからな。}

目の前で敵とは言えども、
年端もいかぬ子供一人――数え方はこれであっているのだろうか――の命を救えたのだ。











私が、そう私が。






















                 そう、この――俺が。






















あっ。














{そうだな、では今はこれ以上は口を挟まないことにする。}

呆然としていた私にクロウはそうやって柔和な声をかけた。
フッと我に返り脳内で気を使ってくれた礼を述べて前を見据える。

すると、彼は小さく口元を緩めて言い出した。

「砦でも、そうだったな。
おまえは、警備に参加していた者以外は、
まったくと言っていいほど殺さず必要以上の戦いはしなかったな。」

「そうだが、それは単純に私がお前らを殺しに行くのが面倒だった、
とは思わないのか。あそこの副長としてさ。」

それに、と言って今度は私の方から長剣を引き抜き、
彼に向かって目と鼻の間に突き付ける。



彼は眉一つ動かさなかった。



「今ここでこうしてあの場面の再現をしても構わないんだぜ。
こいつらを安全な場所に連れていったらな。」


しまった、又しても口調が荒々しくなってしまっている。
落着け、動揺しすぎではないのか私。




「そうだな。」



裏であたふたしている私とうってかわって、
冷静な声で長剣の剣先を退けた。


「おまえでは無かったらそう考えていたかもな。
それにわざわざ後から手向けに僅かばかりの花を供えに来た奴が、
そんなことをするわけなかろう。」


「何処でそれをっ。」

長剣を持っている利き手の右腕がカタカタと揺れる。


別に悪事を働いたという訳では無いのに何故だ。


いや心の深層では理由は把握しているけれども、
他の理由を何処かに探し求めているにしか過ぎない。


「ふむ、こんな単純明快な鎌に掛かるとはな。
私は砦に残してしまった剣を回収した際にたまたま目に入ったのを見ただけだ。」

事実、私は砦を落した後に周囲を偵察していたリーリルの兵士や冒険者に気付かれぬように、
こっそりと摘み取った花を軽く束ねて一階の広間と二階の階段付近においた。

私からしてみれば唯の習慣の一つである上に、
あの糞ったれな生涯を通してこのことを指摘されたことは無かった。





指摘されたことはな。





「くっ。」

余りにも間抜けであったので長剣を鞘に収めたが、
慌てていたせいか中々綺麗に収まらなかった。



余計にみっともないだろ、私。



「そして、今度は同族と戦ってまで、敵の種族の子供を守った。
おまえは、不思議なやつだ。」

何故かしらその紫色の目の中にある光が一瞬輝いたのは気のせいではないだろう。

「だが私から見ればおまえは『いい人間』、
いや、それを通り越して『お人好しな人間』だと感じる。」

うんうんと後ろでウリユが頷いていた。
そんな彼女に冷や汗を若干掻きながら視線を向けると、
彼女は意地悪そうに柔やかに笑った。





止めてくれ、本当に止めてくれ。





頼むからそうやって笑わないでくれ。






「敵を褒めてもお前は良いのか。」

「例え敵であろうとも、
非常に清らかな精神を持っている相手には礼を払う。
それが騎士道精神だと私は思っている。」

「清らかな、精神ねぇ。」








皮肉にも程がある。








「いずれにせよ、
この子を守ってくれた礼にこれを持っていくがいい。」


そう言われて手渡されたのは一本のしなびた薬草。


「それを砦の牢に入れていた人間に使えば、
毒を中和することができるはずだ。」


(エージスの親父に、ってか。)

小一時間掛けてリーリルの医者に運んだのだが、
彼此五日経っても未だに御就寝とのことだった。

一応サーショの街の詰所には連絡してあるものの、
やはり頭の片隅に引っ掛り続けていた。


(これを届ける為に予定が又変わってしまうな。面倒なことだ。)


間違いなくその時の私の顔は、
普段と比べて幾ばくか崩れていたに違いない。


「要は解毒剤ということか。」


そうだ、と力強く言って彼は子供の背中に手を当て、
背中を押しながら私にその身体の後ろを向けた。


そろそろ解散の時間か、
本当に予想以上に時間を食ってしまったものだ。


私もウリユの傍に寄り幾つかの会話を交わして、
一つ彼に声でも掛けてから退散しようとしたら、
どうやら相手も同じ事を考えていたらしく、
彼が踵を返して先に言った。

「行く前に、名前も教えておこう。
私の名はセタ。
砦の副隊長、だった者だ。」


「セタか。」

容姿と同様に勇ましい名前を想像していただけに、
拍子抜けしてしまったとは言える訳が無い。


「悪いが、私はお前に名乗る気は今の所は無いんだ。
その代わりに三つ言いたい事があってな。」

名乗る気というよりも、
四日目の深夜の事で名乗りたくとも名乗れないというのが正解だ。




恐らく既に全ての向こうの陣営に自分が死んだ、
というある意味では正しい情報が広まっているに決まっている。






ここでもしも自分の名前を名乗ったらどうなることか、
想像だに難くない。





「ふむ、何だ。」

右手の親指と小指を折り、後の三本だけを立たせてから言う。

「先ず一つ、お前らは子供にどういう教え方をしているんだ。
この子が真っ先に『ニンゲンと会ったら食べられちゃうって教えられた。』、
って言われた時は一体どれほど私が面食らったと思っているんだ。
二つ、こんな幼い子をたった一人で水組みに駆り出させるな。
今回のような事が又起こらないとは限らないしな。
最後に三つ目。」





薬指、中指と順に折っていき最後に残った人差し指を彼に向けて指す。




「次は真剣にな。」





あえて詳しくは何も言わない。



蛇足を付けてしまっては意味がない。





「そうだな。
その時は私は『戦士』として、
おまえと戦わねばならないかもしれないが。
もしそうならば。」



彼はその言葉で森の出口の方に振り向き、
威風堂々たる調子で言った。



「正々堂々と戦いたいものだな。」



「あぁ。」



「特にどうやらおまえはその長剣よりも、
何故か左腰にぶらさげているダガーの使い手のようだ。
出来るならそちらで戦いたい物だ。」



「へっ。」

思わず間抜けでみょうちくりんな声が、
腹の底から飛び出してくる。










気付いていたというのか、この銀のダガーに。











「では、さらばだ。
またどこかで会うかもしれないな。」







そして彼――セタとあの子供の背中が視界から消えて、
ウリユに声を掛けられて挙句には少し攻撃されるまで私はその場に呆然と立ち尽していた。












短い刀身を覆い包みこんでいる革袋に左手を置きながら。











to be continued……

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後書き



まず初めに、
本当に遅筆ですまない・・・。orz



二章はさらっとした短編にしようとしてプロット考えたにも関わらず、
三分の一の時点で既に20kb近くなってしまったので、この章は三分割してあげていきます。

今後も分割して上げていく確率が極めて高いです。お許しを。


二章の書くスピードが一章の半分どころか、四分の一以下になってしまってます。
それにイライラして軽いノリの文章をかきたくなって始めた四章が、
一章よりも速度的に進んで余計に……。
やはり軽い感じの文章を書くのが俺にはお似合いなんでしょうか。ウェーイ。


いずれにせよ俺自身が納得出来るような内容になるまでしていきたいです。
だけど文章力がひよわなので更に遅筆になるんだろうなぁ、はぁ……。





[26205] 第二章―その弐
Name: kai774◆93a3a7b1 ID:2f910402
Date: 2011/05/27 18:56
           ☆


「ねぇ、アルバート。」

『何だ。』

「あんたの所って宗教って存在していたの。
それと教会だとか寺院とかも。」

『存在したもなにも、
そもそも学校通いの間は俺は教会に世話になっていた。』

「えっ、何それ想像したくない。」

『どういう意味だ、それ。』

「まぁ、そういうこととしか言いようがないけれど。
それはさておき、どんな宗教だったのか教えてくれない。」

『別に良いが、いきなり何だ。
まさかお前、ここで俺の弱みを握って次回の時にでも脅すつもりかっ。』

「それは無い無い。どうせ次回は忘れてるだろうし。
いや、唯。どうやら今回のあいつが教会絡みの人みたいなのよ。
どこの世界の人だったかは知らないけど。」

『それでという訳か。』

「うん。
どうせなら比較対象があったほうが読み手側に伝わり易いじゃない。
それにさ。」

『それに話し相手が欲しかったではなくて、
ついでに俺を弄ろうかと。』

「バレタかー。
だってあんたの過去って聞けば聞くほど、面白いんだもの。
特に学校だか学院だかの時の頃。今じゃ全く想像付かないし。」

『人の過去をむやみやたらほじくり返すのは勘弁して欲しいんだが。』

「じゃぁ、私に聞かれても話さなければいいじゃないの。」

『そう言われたら何も言い返せないが……。』

「ってか、途中からは私が聞くよりも、
あんたがちゃっちゃかちゃっちゃか話を出していくじゃない。」

『それ、本当か。』

「うん。」

『所で御前の過去についてはどうなんだ。』

「まぁまぁ、別に良いじゃない。そんな事。」

『いや、全く良くない。』


「どーなんだろう。
色々とありすぎて記憶がごちゃ混ぜになっているから、私の語力じゃ簡潔には纏めきれないよ。
唯、強いて言うなら。」

『強いて言うなら何だ。』

「ケイオスの一言に凝縮される。」

『だろうな。』




           ★


午後にリーリルに行き例の草を渡しに行った。

クラートに話して何となしに見せた所、
思い当たる節が有ったのか直ぐに擦り潰して調合し、
横たわったエージスの口の中に入れてやると若干呼吸が落ちついた。

それを見てクラートは満足げに肩の力を抜くと少し一息つかないかと勧められたが、
私は悪い気がするから良いとやんわりと拒否をした。

それに本来昼間に赴く予定であった太陽の神殿を目指さなければならないのだし。

別れの言葉を軽く交わして、立ち去る前に一つ質問をされた。

「それにしても、一体何処で見付けたんだい?」

クラートはあの草はマニミア草と呼ばれる貴重な薬草であり、
難病とされる幾つかの病気の症状緩和や治癒に用いられると説明をした。

「ここまで話せば分かるだろうけど、これは本当に貴重な代物。
だから出来ればその場所を教えて欲しいんだ。」

それからクラートはチラッと横目で、
奥の机の上に突っ伏しているイシュテナの様子を伺うと小声で次のように言った。

「そしたらイシュテナに頼んで摘みに行って貰うからさ。
今はサリムの爺さんを探し回るのを終えて、少し落ちついているからね。」


これを手にいれた経緯を手短に纏めると以下の通りだ。




とある森で兵士二人を気絶させて竜人の子供を助けたら、
リーリルの近くにあった竜人の砦の副隊長ことセタと再会し、
何故か称賛されて私はその草を貰いました。




私は腕を組んでから答えた。

「私が陥落させたあの砦があるだろ。
陥落させた当時は余り、言葉が悪くなるが物色出来なくて。」

「だから、昨日か今朝辺りに砦に行ってみて之を発見したと。」

「うむ、食堂の厨房の中でひっそりと隠された所に陳列されてあって。
もしかしたらと思ってここに持って来たという訳だ。」


この選択が正解で安堵したよ、と私は胸を撫で下ろす動作を行った。


「そうか、それならあれのちゃんとした生息場所は知らないと。」

「残念ながら。お役に立てなくて悪い。」

「いや。すまなかったね、迷惑かけて。
まぁ未だに何処かには、
群生している事が分かっただけでもひとまずは安心だよ。」

若干苦虫を潰したような顔をしてクラートは答えた。

「まぁトカゲが住んでいる地域だから相当骨が折れそうだけどね。」


そうして別れてリーリルの橋を渡り外に出ると、
耳元でボソリとウリユが呟いた。


「アランお兄ちゃん、物語を話すのが本当に上手なんだね。」

私は顔を直角に背けて言った。



「……すまない。」




           ★




――――場面は切り替わり、
        時と所が違えど再び森の中での戦闘へ――



{アラン、後ろからだ!}

そのクロウの言葉が脳内で響いた後にフォースが迫るのを感じる。
前へ何歩か足を出したが、『波動』の一部が背中の端に当たってしまった。


「くっ。」


更に何十歩も足を進めて、
私達に襲い掛かってきた浮遊している青い直方体の形をした敵が、
視界の遠くまでに消えたのを確認すると、
時を移さず長剣を引き抜き息を整える。

「ウリユ、私は前からこの剣で向かう。
だから背後に回ってその爪で攻撃してほしい。私より断然動きが早いしな。」

本来ならばこういう時は細かく指示するのが常だろうが、
相手はまだ若い女の子だ。

「うん、分かった。」

ウリユは二つ返事で引き受けてくれると、スッと私の前を進んで行った。

その透けた身体がかなり遠くまで行くのを確認してから剣先を下に向けて走り出す。
体に力を隅々に行き渡らせるにつれて、走る速度を早くしていく。


加速。




加速。








加速。


敵も当然私の動きに気付いて、
フォースの使用に必要な行動、即ち「集中」を始めた。

それを確認してから私は集中無しで唱えられるフォースを即座に発動した。


「『封印』。」


決して私が生きていた世界に居た魔術師――この世界での理力の専門家と言えば通じるだろうか――のように、
仰々しくかつ高らかに言うことなく静かによどみなく唱える。


敵は唱えようとしたフォースを妨害させられ、
微々たる隙が生じる。




さて暫し話は飛ぶのを、お許し願おう。

トーテムがクロウである為に高度な理力を複数も覚えられない私が、
唯一覚えた高度かつ私にとっては多くの力を必要とする理力。


それが『封印』。


このフォースはほんの些細な間であるが、
対象者は一切強大なフォースですら使えなくなってしまう。

つい先程述べたようにフォースには疎く、
詠唱もそうだがフォースの攻撃を受けると一般人と同じ位の傷を負う私だ。

別に一般人なら中の中で良いではないかと思う人がいるだろうが、
私は近々強大な「何か」に立ち向かう戦士だ。
傲慢や思い上がりだと感じ嫌悪する人も居るだろうが、決して私は中の中では駄目なのだ。
あくまでも上の上ではないとならないのだ。

かといって高々、中途な自分が既に上の上だと過信しすぎて、
強大な「何か」に無鉄砲に突っ込むのもいけないが。



話を少し戻そう。



フォースの攻撃で傷を負うのならば、
いっそのこと先手をとって相手の手を封じ込めば良い。
フォースの売り場で之を見て間髪入れずにそう考えた私は、
薄い財布の殆どを出し切って買った。

ちなみに他にも回復のフォースを購入しようとしたら、
窓口の女性が笑顔で次のように答えた。

「あら、今の貴方にはこれも覚えられる余裕がありません。」と。
思わずその場で掌と膝を地面に付けそうになったのは秘密だ。



事実としてこれを使った直後には、
何とも言えぬ倦怠感が体を覆うがそれはほんの一瞬だ。




そして私はその一瞬を歯を強く噛みしめ億劫な気分を振り払い、
長剣を水平に腰の位置に持ち上げる。


その時口をぐっと一文字にして、
亡霊の爪を光らせた少女の幽霊が敵の真後ろに浮遊しているのが見えた。


「ウリユッ。」


口を小さく開いて数度動かし――恐らく「任せて」と言って――、
ウリユは横一線に爪で敵を引っ掻いた。


敵からしてみれば全く気配の感じられなかった背後からの攻撃だ。
相当怯むに違いない。



もっとも敵に感情があるのかが疑わしいが。



再び敵がたじろぐのを見てから、
右手に持った長剣を肩の高さまで持ち上げて、
跳び上がり振り被る。

長方形の対角線に沿って片手で剣をなめらかに滑らせ始める。



(くっ。)


しかし中央の半球の物体にまで達すると、
長剣は甲高い金属音を上げて敵から剣先が離れて、
同じく私の体勢も崩れてしまった。

長剣が右手から滑り落ちそうになり、
冷や汗を掻きながら再び強く握り締める。

腰を左手で支えて着地する。

{アラン、後ろから来るぞ。}



それを見計らったらしく敵は直ぐ様、集中を始めた模様だ。




{分かった。}

長剣を土の上に安置し、
左腰にあるダガーを仕舞うホルダーに左手を掛ける。

学者ならダガーの質量や投げる位置や角度、風向きや温度等を駆使して計算し、
如何にして確実に敵の弱点に当てるのかを求めるのだろう。


だが、私は人々から疎まれる単なる戦士だ。



{これで大丈夫だろう。}

ダガーを余計な力を入れずにすっと滑る様に、
後ろを振り返ることなく左手のスナップで投げる。




上のように理詰めせずに、
今迄で培ってきた散々このダガーを投げて来た感覚のみで。




{……もう平気だな。}

クロウがそう呟いた後に、
ダガーが鋭く短い音を弾きだしたのが聞こえた。

長剣を再び拾い直して立ち上がり、
後ろを向くとウリユがダガーの上に居ること以外は何もなかった。


「ウリユ、有り難う。」

長剣を抜き身のまま持ち歩み、ウリユの傍らまで行く。

「いいよ、このくらいなら。それよりも。」

そしてウリユは地面に目を落としてさぞ感心げに次のように言った。

「この包丁、私の目がみえなくなる前までは見たことが無いけれど。
どこで手にいれたの。」

「一応言っておくが、これは包丁ではなくてダガーだ。
まぁ、要はこんな形をした刃物を見たことが無いということか。」

ウリユは縦に小さく頷いた。

確かに数年前までは失明していなかったと聞いてはいた。
しかし唯でさえウリユは未だに見た目からして幼い体つきだ。
今から遡り数年前というと、下手すると文字の読み書きが覚束無い時機だ。
その頃の記憶と言われても、ウリユには悪いが私には余り信憑性を感じられない。

それに、そもそも争いや戦闘とは無縁の生活を送っていたに違いない。あのシイルの街ののどかな雰囲気を見る限り。
仮にこの世界の戦場でダガーが使われていても、ウリユは知らなかっただろう。

「うむ、我もこんな形状の刃物は目にかけたことが無いな。」

「そうなのか。」

ほぉ、と腕を組んでクロウを見下ろす。
流石にクロウの言う事ならば疑えられない。

「確か、リクレールと別れた直後から既に持っていた。
それで合っているか、アラン。」

「それで合っている。私が強く頼んでおいたからさ。」

「元の世界での現役時代に使っていた武器を用意してくれとでもか。」

そうだ、と短く応答して腰を屈めて銀のダガーを拾い上げる。
刃全体にこびり付いた土を軽く指で払い除けて、再び左腰のホルダー内に収める。

「その代わりに『私は十回しか』

リクレールの言葉をそのまま表現して、死ねないと言おうとしたが流石に止めた。

「『駄目だ』と、
リクレール直々にトーテムを選ぶ前に宣告されたけどな。」

長剣を握る右手を軽くマントで拭いてから、
背筋をピンと正して辺りにあの直方体だか立方体だかの敵がいないか見回す。

「ということはさ。」

一歩足を進めたが、足はそのままにしてウリユに振り返る。

「あー、うん。やっぱりいいや。」

「なら、別に良いが。」

再び前を見据えて一歩一歩固く踏みしめながら歩く。
その後ろをウリユが浮遊して付いてくる。


(何時かダガーについて話す日が来るのだろうか。)

そう思って音を立てぬように、
ホルダーの中に左手の指を滑らせる。


銀のダガーの柄は心なしか熱くなっていた。




           ★




その後も幾度か出てきた敵をウリユと共に蹴散らし、


「ここが太陽の神殿か。」


ようやく目的地である太陽の神殿に到着した。
ここには道中で遭遇した例の敵は何処にも存在しない。


静かな森の中に凛として存在するその神殿からは、
神殿特有の厳かな雰囲気以外の物を感じた。



(何か臭うな。)
文字通りの意味でも暗喩としてもでもだ。
神殿にはあるまじき下賤じみたオーラを感じるが、
立ち止まっている訳にはいかないので歩こうとした。

「ねぇ、お兄ちゃん。」

私から十数メートル離れた所から、
ウリユは神殿を見上げていた。

「足が竦んでいるけれども、どうしたウリユ。」

「ちょっと私はここで待っていても、良いかな。」
その透けた顔はやや張りつめていた。
じっと彼女を見てから首を被って、目の焦点の位置を神殿の真正面に置く。
ウリユにわざわざ理由を問い正す気はさらさら湧き上がらない。

「分かった。」
と言いきり前に進んでいく。
柱と柱の間を通り抜けて、神殿内部に立ち入る。

「太陽」という単語が修飾語として使われている通りに、
建物全体が赤みを帯びており、造りも随分堅牢となっている。

入口の広間はかの竜人の砦と同じ程度大きさだろうか、
人が大勢詰め寄ったとしてもそう容易く入りきることはないだろう。

目の前に以前、
シイルの街や宝物庫の入口にも確かあった筈の鍵の掛かった特殊な扉が聳えたっていた。

{――っ、アラン。急ぐぞ!}
扉の近くの壁が壊されているのを見た殺那、
全神経を足へと集中させて矢の如く飛出して行く。

「分かっているっ。」

神殿の中には他に部屋は無く、
全ての内部がぶちぬかれて一つの巨大な部屋を構成していた。
中途にある彫刻やモザイクに像には一切目もくれず、迷うことなく奥へと進んでいく。


{くっ、遅かったか。}
クロウが無念げにいうその言葉に私は心より同意した。


神殿の奥地にはこれまた同じ様にモザイクで出来た床があったが、一部の箇所に穴が空いていた。

中には地下へと導く不揃いで無骨な階段が存在しており、
その階段の近くにこの神殿の管理人と思われる老人が横たわっていた。

足を抱えてしゃがみこみ、
冷静になれと自分に言い聞かせながら首の付け根の部分に三本の指を当てる。

「やはり、か。」

脈を測ったが既に老人は事切れていた。
医者程度の医療知識までは持っていない私でも、
この事は息をするのと同じ位に直ぐに理解してそう認識した。


老人の体を慎重に引っ繰り返してみると、
急所は心臓に鋭利な刃物を一突きで他の外傷は一切存在していない。
恐る恐る人差し指で傷口に触れて見ると、血は乾いておらずまだ生暖かかった。

そんな自分自身の何故か小刻みに震えている人差し指を数秒みつめて、
汚いのは承知で付着した血を下で舐めとった。

あの鉄が混じった苦々しい味やサラッとした感覚がした。

(済まないが弔いは後にさせてくれっ。)

すっくと立ち上がり、剣とダガーの収めてある箇所に手を当てる。

{アラン。}

階段の傍に既に居るクロウに向かって歩きながら、
郡青のマントの肩当ての拘束を外してマントを放り投げる。

{分かっている。}

服の下に着ている鎧の装着を再確認して、
無言で薄暗い階段を降りていく。



(何処か生前を思い出すな。)

今から見て生前、否、死前というべきなのかと分からないが、
古びれた教会の薄暗い地下にたった一人で乗りこんでいったのを思い出す。


髪は梳かしきれていない短髪。
首には煤けて汚れた十字架の銀のロザリオ。
身体は幾ら洗っても染色が落ちなくなった一続きの赤色の長いローブ。
右腕には聖杯のマークがあしらわれているライフルともピストルとも言い難い改造銃。
左腕は何も持たずフリーであるが何時でもダガーを取り出せるような状態を取っている。


(はぁ。)

思わず肩を落として溜め息をつく。

(何でよりによってあの時のことを思い出すんだろうか、私は。)

土をきつく固めて作られた階段を慎重に一歩一歩踏みしめながら降りる。


           ☆



狭く暗い階段を降り切ると、
四方八方を吐き気を催すような色を発する異形に囲まれた。

異形の造形には様々な事に目が付くが、
何にせよ一番見ていて胸がむかつく個所は何だかんだ言って、
微かに人の姿を未だに伴っている所か。

「全くまた、あやつらは面倒な物を作りおって。」

右手の武器を構えてまず始めに異形の頭に照準を合わせる。

「こういう尻拭いをするのは何時の世でも下っ端だとは分かっているが。」

右手の人差指を微かに力を入れて自分の身体の方に寄せる、寄せる? 
言語として何かが誤謬しているのは、身体でも頭の中に収まった脳でも了解している。

「お上さんにも少しはやらされる方の身にもなって欲しいもんだ。」
私も以前はとある同僚がしたのを同じく、
常々の行動が鼻につく上司を護衛の任務中に裏で処理して後に命を絶とうかと思った。
だが、生憎ながら私はまだギャンブルでコインを賭けるのと同じ様に、
軽い気持ちで命を大っぴらに危険に晒す気は起きなかった。



裏で改造に改造を重ねた結果、
見た目はともかく中については原型を最早一片足りとも残っていない銃を、
引き金を引いたまま左から右に半円分動かす。

撃鉄が打ち鳴らす何とも言えない音が途切れぬ事なく、
狭い石畳の部屋の中で反響してこだまする。

銃口からは白煙しか上がらなくなった頃には、
部屋の壁に銃創や軽く煙を上げる薬莢は一切付かず、
全て異形の頭や左胸の半ばより下に収まっていた。

普段ならば大体凄く大雑把な動きのこれで片が付くのだが、
今回は数が多いせいか目測でまだ三割程残っている。

(これで弾切れだから、次はコイツか。)

左腕をローブの隠れポケットの中に入れて、

(やっぱり自分にはこっちがしっくり来る。)



銀のダガーを二本取り出す。
腰を屈めて体勢を低くして、両手にダガーを持つ。


「行くぞっ。」


自分を鼓舞するように叫んでから駆け出して、ダガーをふるう。




           ★


予想以上に階段が長いせいか、
ゲル状の物質がずっと攪拌するかのように気持悪く回る感覚もしながら、
死前の記憶が妙に鮮やかに蘇りやがる。


(ったく、ろっくな思い出がねーのになぁ。)

おっと、言葉使いが再び乱雑しかけている。
昔の事を思い出そうとすると、それよりも遥か昔の言葉使いになってしまう。
教会のお掃除役に半ば強制介入された時にあんなに執拗に直されたのに。



そうぶつくさと自分に文句を呟きながら、
片足を軽く上げて階段の上に落とす。
この単調な作業を続けていくのは精神的に嫌気がさす。


まだ階段は長い。本当に長い。流石に飽きが来る。

(それにしても、どんだけ厳重な物を収めているんだ。)

あのシイルの街にあった「大地の鎧」は、
特殊な鍵を使わないと開かない扉を四つ破らないと手に入らなかった。
使用金額は計三二00シルバ。

それに見合った十分な性能があるので、
やや高い買い物でもしたと考えてもお釣りがある。

(ちょっと拝借した際に良心がやや痛んだが。)

あの鎧を大切にして毎日磨いていた老人には悪いが、
これは世界を救う為の必要経費なのだ。必要経費なのだ、必要経費。

世の中自らを勇者と名乗れば民家に押し入り、
衣裳箱や台所の壺の中に収められた金品や薬草の類を奪っていっても何も咎めがない場所も存在するらしい。
俄に信じにくいが。




(唯、世界を救うどころか、
既に街すらも救えなかった自分だがな。)
慣用句としてもそのままの意味でも突如として胸が痛くなる。





階段はまだまだ続いている。





           ☆

木製の閂が掛かった扉を無理矢理開けようとする。
赤く濡れた二本のダガーを右手に纏めて持ち、
助走を付けて左足でその扉を蹴破る。

中に異形の連中が居ると考えて踏み込み、
相手を威圧して自らを奮い立たせる為に大声で言う。

「かかって来いっ。」


「っ。」


中には木のボウガンを持って、震えながら立ち上がった白髪の少女がいた。
彼女は怯えたその両目を自分に向けた。

その目は虚ろで一切光が差さっていないように見えた。


「へっ。」

予想外な人物が居たので面食らって、私は佇んでしまった。
待て、あの胡散臭い司祭からはここには一般人は誰一人居ないと聞いていたんだぞ。

(だから思う存分暴れられると言ったのは何処のどいつだ。)
あっ、これは自分だ。


「こっ、来ないでっ。」

少女は覚束無い足付きで立ち上がり、
ボウガンの照準をふらふらと私に向けた。それも心の臓に。

「いや、違う。私は敵じゃなくて教会の者だ。」

「教、会の?」
一瞬顔色を変えると、少女はボウガンの先を下げた。


良し、この調子だ。


「そうだ。だから君を襲う気も何も無いから、
そのボウガンを下ろしてくっ、えっ。」
言い掛けた途中で私自身の足元にボウガンの矢が刺さる。
余りのことで再び佇んでしまった。あたかも木偶のように。

誰がこの矢を撃ったのかは言うまでもない。


「このっ、裏切り物の集団がっ!」
少女は目に涙を浮かべており、
両頬に一流の小川が薄らと出来ているのが見えた。





To be continued……






後書き

本スレの投稿容量⇒17.1kb
それ以外に書いた「Eternal」の容量⇒60kb超え
「Eternal」以外の雑多テキストの容量⇒20kb超え

気分転換!気分転換!といって色々書き始めたら本作の五倍以上の量になりました。どういうことなのでしょう。
それとプロットを見直した結果、二章の最終容量が三ケタに達する確率が非常に高くなりました。どういうことなのでしょう。
……何かここまで行くと最終的には容量がメガまで行きそうです。
そして確実に後1年半以上は掛かる計算ですね、今の執筆速度では。ウガー


話が変わりますが、遂に出ました!「シルフェイド学院物語」!
この作品、予想以上にシル幻との関わり性が深いので時間が経ったらシル学の設定も織り込んでいこうと思います。
又、シル幻以外のシルセカの作品もぼちぼちあげて参るかもしれません。

後っ再び加熱してくれっ、シルセカ二次創作の熱っ!
そして、俺が再起不能になるレベルの作品がポンポン出来ることを凄く心待ちにしております。


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