0060年 2月某日 第64管理世界 「ゲリスール」 インプレッサ家
穏やかな日差しであふれるインプレッサ家リビングは今、白熱していた。
「ふむぅ、やはりワシは『ブリゲリザエモン』がいいと思うんじゃが....」
「そんな汚い響きの名前より『ゼッツリン』がいいと思うわ、おじいさん。」
そう、名前を何にするかについて朝からずっと議論しているのである。
もうお天道様は真上に来ている。
議論し続ける老人ふたりを尻目にため息をつくのは一人の少年......
いや幼児といった方が良いだろう。身長は1mちょっとしかない。
この老夫婦は彼の名前を考えていたのである。
名前を考えられている当の本人は、まるで興味なさそうに
「だーかーら私は呼びやすい名前であればなんでも良いとさっきからずっと言っているでしょう、そんなにこだわらなくても.....なんなら私がテキトーに考えましょうか?」
と言い、
「「絶対だめ(じゃ)!!」」
と返される。
このやりとりも朝からずっとしている。
なぜこのような状況になったのかというと、話は前の日の夜に戻る。
その少年は一晩泊めてほしいと言って前の日の夜インプレッサ家にやって来た。
老夫婦はたいそう驚いた、というのも少年は見た目4、5歳にしか見えなかったからだ。
何故こんな子供が独りで旅をしているのか?一体どんな事情があるというのか?
疑問に思いつつ子供を家へ迎え入れた。
その子供は自分の置かれている状況について簡潔に述べた。
自分がとある実験で生まれた人工生命体であり、身寄りがないこと。これから行く当てがなく、とりあえず旅をして安定して生活できる場所を探しているということ。とにかく裏社会から離れたいこと等等である。
それを聞いた老夫婦は当然驚いた、が二人は同時に同じ考えにたどり着いた。まあたどり着かない人の方がきっと少ないであろう。そうであってほしい。
大方の読者がお察しの通り老夫婦はその子供に家に住まないかと申し出た。
それをその子供は丁重に断った、「他人にそんな迷惑をかけるわけには行かない」と。
だが、老夫婦は引き下がらずこう言った。
「じゃあ家の子になればいい。」
この言葉に対しその子供はひどくうろたえた。きっとあまりに想定外の言葉だったのだろう。
結局、その言葉に返す言葉が思いつかず、今にいたるというわけだ。
そろそろお腹も空き始めたころ、おじいさんがこう言った。
「じゃあお前を生んだもとになったという計画から、フェイトという名前はどうだい?」
それにおばあさんは
「良い名前ね、フェイトってどこかの言葉で運命って意味があるって聞いたことがあるし、運命的なものを感じるわ、どう?ぼうや?」
「..........それだけは絶対イヤだ....運命なんて........絶対...嫌だ。」
その言葉からは悲痛な感情の叫びが聞こえるようだった。この子供はインプレッサ家に来てから人間らしい感情をまるで見せなかったのだが、この時ばかりは違った。歳相応の子と同じ表情だった。
しばらくの沈黙の後、おじいさんは何か思いついたようにこう切り出した。
「では運命が嫌いだというのなら、そのF,A,T,EをAを抜き2つに分け、Aのあったところに選択肢を与える言葉、ORを入れてみるのはどうかな?」
「F,O,R,T,E......フォルテ....?」
「そう、確か意味は、なんじゃったかなばあさん?」
「強い...という意味だったと思うわ。」
「強い...フォルテ...強い....フォルテ...」
その子供は繰り返しそうつぶやき、しばらくしてからうなづいた。
「フォルテ....良い名だ。」
ここに、フォルテ・インプレッサが誕生したのだ。
夕食後、フォルテはこれから自分の部屋となる部屋を訪れた。
その部屋は今は行方不明になっている老夫婦の息子が昔もの置きにしていた部屋だった。
老夫婦の息子は考古学者だったようで、部屋にはいたるところに遺跡等で発見したものが転がっていた。
その中で赤く怪しい光を放つ宝石がはまったブレスレットが、フォルテの目に留まった。
「これは.......」
(どこかで見た記憶がある、いや記憶を持っているというべきか....)
「バルタザール!」
<Què va ser això?>
(何ですか?)
「このブレスレット....デバイスでは?」
<Es tracta d'un dispositiu>
(そのようですね。)
「だが、厳重に封印がされているようだ。魔力すら感じられん。バルタザール、封印を解けるか?」
<Possible.>
(できますよ。)
「やってくれ。」
<És clar!>
(了解!)
次の瞬間、フォルテの足元に複雑な円形の魔法陣が現れた。
なんとも形容しがたいが、一言でいうなら万華鏡に近い印象をうける。
その魔法陣から伸びる触手がブレスレットの宝石に触れると.....
なにかが割れる音とともに、あたりに女の人の声が響いた。
<Ήρθε ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!>
(キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!)
<Aquest tipus és un tipus inquiet....>
(うるさいやつですね.....)
バルタザールはデバイス特有の抑揚の無い声で呆れていた。
<Είναι τέσσερις χιλιάδες χρόνια. Από m από το!!>
(四千年!四千年ぶりに開放されました!!)
<Calla poc.>
(少し黙っとけ。)
<Η εντύπωση αυτή δεν είναι κατανοητή από κανέναν!>
(この感動はどうせあなたには分からないのでしょう!)
<Caldrà veure.De vuit mil anys havia estat segellat també.>
(分かるさ。私も八千年間封印されていたからな。)
<Είσαι γεννημένος Alhazred?>
(ひょっとして、あなたはアルハザードの?)
<Sí>
(そうだ。)
<Ικανός να σας δούμε και τα λείψανα του μεγάλου πολιτισμού σε ένα μέρος όπως αυτό.......!>
(こんなところであの偉大な文明の遺物にお目にかかれるとは......!)
また謎のデバイスが大きな声で感動し始めたところで、フォルテは咳払いをした。
「私を忘れないでくれるかな......君たち。」
<Senyor, no he oblidat i.>
(私は忘れてなどおりません、主よ。)
<Καθένας? Παιδί είναι αγενής?>
(誰です?この無礼な子供は?)
<Vostè! Com per burlar del meu senyor.>
(貴様、我が主を愚弄するのか!)
<Πώς; Και αυτό το μικρό παιδί είναι ο Λόρδος σας!>
(なんと!このおチビさんがあなたの主なのですか!)
<Aquest personatge Alhazred que hagi emmagatzemat en el misteri del més......>
(このお方はアルハザードの神秘を記憶されている方で、それはもう......)
「バルタザール黙れ、そして奴も黙らせろ。」
<Sí.Calla, el dispositiu.>
(了解しました.....黙ってなさいガラクタ!)
この頃のフォルテは情報の不足に耐える、ということが全くできない人間であり、事態が把握できないこ
とに堪忍袋の緒が切れたのだ。
「まずはお前だ、謎のデバイス!名前は何でどこで作られた?」
<Με ρωτήσατε! Έχω μεγάλη προστάτης του ναού της σοφίας
Belka «Μελχιόρ»!>
(よくぞ聞いてくれました!私はベルカ大神殿の知恵の守護神「メルキオール」!)
「なるほど、君は神官を補佐するために作られたというわけだ。しかし、四千年前ってベルカってあったのか?」
<Φαίνεται να είναι μια παρεξήγηση. Έχω Belka είναι το όνομ
α του ναού.>
(何か勘違いされているようですね。ベルカは神殿の名前ですよ。)
<Ella està molt a prop de la fórmula màgica d'aquesta edat Belka. Belka i etimologia de la paraula probablement temple.>
(彼女の魔法はこの時代のベルカ式に極めて近いような感じです。その神殿がベルカという言葉の語源な
のかもしれません。)
「ふむ、ということは仮に言うならば神代ベルカ式とでも言えるようなすごいデバイスということか。」
<Αν και δεν είμαι σίγουρος ότι αυτή τη φορά, είναι μάλλον!>
(この時代のことはよく分かりませんが、たぶんそうです!)
「しかし、バルタザール、いつ彼女の魔法体系について調べたのだね?」
<Durant la xafarderia anterior.>
(さっきの無駄話の間に。)
「仕事がはやいな。.....で、君はこれからどうするんだメルキオール?」
<Κάνω; Για ιερός πόλεμος θα τελειώσει, αλλά πάει πίσω στο σπίτι .....>
(どうって?聖戦も終わっただろうし、神殿に帰るつもりですが.....)
「知らなかっただろうが、ベルカは、お前がいた次元世界はもう無い。跡形もなく消滅した。」
<Τι είναι ...... και .....?>
(何....です..と?)
<Veritat. Quant a aquest moment la dimensió del món saps que sóc tot.>
(事実だ。私もこの時代の次元世界については全部知っている。)
<Τέτοιες ανοησίες.....Έχω uh-------------!!!??>
(そんな馬鹿な.....私はどうすればあああああーーーーーーーー)
「落ち着け!そんなデカい声を出すな!じーさん達が起きてしまうだろ!」
<Chill out! No hi ha lloc per aquesta merda!!>
(落ち着け、この行き場の無いガラクタ!)
「バルタザール......その言葉は火に油注いでるぞ。」
そんなこんなで夜は更けていき、時が流れた。
0060年 4月某日 インプレッサ家 玄関
「フォルテや、お金は持ったかの?切符は?薬も大事じゃぞ。ああ!それとおまる!!」
「おまるはいらない、絶対にいらない!!今どきトイレが無い場所を探す方が難しい!!」
「そうかのう、わしらが若いころはトイレが無い場所多かったがのう...なあ、ばあさん?」
「そうですねぇ~。そうだったかもしれませんねぇ~。トイレが使えないってことも~....」
「ああー、もう時間なんで私は行くとします。ではじーさんばーさんお元気で~さいなら~」
フォルテは何の未練もなさそうに老夫婦に背を向けた。
そう、フォルテは旅立ったのだ。第一管理世界「ミッドチルダ」へと....
背後からは...
「連絡よこすんだぞーーい!」
「良くキバルんだよ~!」
という老夫婦の声が聞こえる。
(キバルって頑張るって意味だよな、たぶん....突っ込む気も起きない...)
フォルテはため息をつきながら歩く。
<Τι είναι καλό; Σε μια τέτοια κρύα καρδιά αποχαιρετισμ.>
(良いのですか?あんな薄情な別れ方で...)
「良いんだよ、メルキオール。もう突っ込み役は疲れた。私のキャラじゃない。それに、ここにはもう知るべきこと、やるべきことはほとんどないからな。」
<Πράγματι, η αφοσίωση σε γνώση του Κυρίου, υπάρχει ακόμα κάτι το εξαιρετικό.>
(全く、マスターの知への執着心は並々ならぬものがありますね。)
「これはどうやら生まれもった特性みたいなものだからもうどうしようもないんだ。.........しかしメルキオールはここ2ヶ月でだいぶ大人しくなったよなぁ、初めて会ったときはどうしようかと思ったが...」
<Ε,Εκείνη την εποχή ήμουν αναστατωμένος!>
(あっ、あのときは気が動転していただけです!)
<Quan la gent està impacient i diu sovint que trec el cap.>
(人間焦ったときほど地がでるとよく言われるけどな...)
<Έχω τη συσκευή! !>
(私はデバイスです!!)
<Un cop a prop de nosaltres, els éssers humans no canviarà molt?>
(我々ぐらいになれば、人間とほぼ変わらないだろう?)
<Αλλά δεν .....>
(いや、でも~.....)
「ふむ、まあ君たちは確かに人間とほぼ変わらないといえるな。しかしお前らそんな高速で話すんじゃあない。私がついて行けん。.......まあ私が言いたいのは私についてきてくれてありがとうってことだ、メルキオール。」
フォルテは優しそうな笑顔でそう言った。
<Το αποτέλεσμα της βαθιάς σκέψης του. Είναι παράλογο, αλ
λά και αυτό που πάω, ό, τι ένιωθα το πεπρωμένο ....>
(自分で深く考えた結果です。そしてやはりなんというか非論理的なのですが、運命を感じたもので....)
その言葉を聞いてフォルテの表情は一変して暗くなり、そして激しくなった。
「メルキオール、運命は理由にはなりえない!これは絶対だ!!」
<Κύριε?>
(マスター?)
「そう!ありえてはならない!いや、ありえる確率も認めたくはないぃ!!」
<Senyor, calma't, que tenen pressió arterial alta. Dolent per al cos.>
(主、落ち着いて下さい、血圧が高くなっています。身体によくありません。)
「.....すまん。ちょっと取り乱したようだ。気をつけよう。だがメルキオール、運命という要素は論理から徹底的に排除してくれ、いいな!」
<Καταλαβαίνω.>
(了解しました。)
<...................>
(...............)
何かを感じとりながらもバルタザールは言葉を発しなかった。
こうしてフォルテはゲリスールを後にした。
彼が執務官試験に受かるのはこの約2ヶ月後のことである。執務官試験合格の最年少記録を塗り替え、一時期はかなり騒がれた。が、なぜかは知らないが騒ぎは一週間ほどで収まり、怪しげな視線を浴びることは多々あったが、一執務官としてその後8年間を過ごしたのだった。
余談ではあるが、
0060年 同日 ミッドチルダへの次元航行船内
「くぅ~、はっ腹が痛いぇ.....」
<D'acord?>
(大丈夫ですか?)
「むぅ、大丈夫じゃない。とっトイレへ行くぞ。」
手で下腹部を押さえ、のろのろとトイレへと向かう。
そこでフォルテが目にしたものとは!
「使用中」「使用中」「故障中につき使用禁止」「使用中」「使用中」....以下同文
チーーーーーーーーーーーーーーーーん
という擬音がフォルテの脳内を駆け抜けた。
フォルテは精神年齢こそ高いが人生経験は希薄だ、あまりのショックに気を失いかけた。
顔面蒼白である。
<Senyor, sens dubte l'atenció. Encara hi ha drogues.>
(主、お気を確かに。まだ薬という手があります!)
その言葉にわずかにフォルテの頬に血が戻った。
「うん、きっと、きっとあるはずだ。解決策が.....」
下腹部の激しい痛みに耐えながら、自分の席へと戻り荷物を確認する。
ガサゴソガサゴソ、テレテレってレーン!救急箱ぉ~ を取り出した。
その中身を見た次の瞬間!
デデーーーーーーーーーーーーーーーーん
という効果音がフォルテには確かに聴こえた。
救急箱の中身は、絆創膏、包帯、湿布等外用薬が多数。飲み薬はな.........い。
今度こそフォルテは燃え尽きていた、そう、真っ白に。
そこへ...
<Senyor, és deixar de moment. Hi ha escrits i diarrea.>
(主、あきらめるのはまだ早いです。下痢止めと書かれたものがあります!)
その言葉にフォルテは一転歓喜した。ああこれでこの苦しみから解放される...と
バルタザールが指し示した袋をあけ、それを見た。
と同時にフォルテの手が震え出した。
「ざ...坐薬.....だと」
(ありえん...ありえん!一方通行の腸内を逆から攻める....そんなコトが...ありえていいのだろうか?こんなものを今使ったら、いや...)
「使うしかねぇぇぇぇー!!」
手際よくズボン&パンティを下ろし、右手にブツをつかんで押し込んだ。
<Senyor ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!>
(主ぃーーーーーーーーー!!!!)
バルタザールが悲鳴をあげる。
フォルテは天を仰いだ。
インプレッサ老夫婦がはっきり幻視できる。
そして、先ほど興味がないと聞き流した言葉が蘇る。
『トイレが使えないってときもあるのよ。』
船内に卑猥な音が流れた...............................
<Βρήκατε αυτό το πάρα πολύ. Αναπτύξτε μαγεία
καθαρισμού.>
(やはりこうなりましたか。クリーニング魔法を展開します。)
赤色の魔法陣が現れ、何事もなかったかのようにフォルテの尻まわりからピーが消えていく.....
<Θα πρέπει να το χρησιμοποιείτε, αλλά μπορώ να χρησιμο
ποιήσω μαγικό διάρροια μου Καλa.>
(まあ私を使って下痢止めの魔法を使えば良かったんですがね。)
その言葉に放心状態だったフォルテとバルタザールが反応する。
「はい........?」
<Vostè, per què no dir en primer lloc?>
(貴様、何故それを先に言わない?)
それに対しメルキオールは
<Μετά από μια συνομιλία με ένα ηλικιωμένο ζευγάρι νωρίτερα, ήδη από αυτή την κατάσταση τώρα, ποια μοίρα.........>
(先ほどの老夫婦との会話の後、こんな状況になりましたんで、何か運命的だなあと思ったんです。)
「それが?」
<Ως εκ τούτου, έχουμε απομακρυνθεί από τη λογική του πεπρωμένου και να δρουν ως Πρέπει να σας πω.>
(ですから、言いつけどおり運命的と思ったことを行動論理から外させていただきましたwwww)
<............................>
(............................)
「........め」
<Εγώ?>
(眼?)
「メ”えええええええるきおおおおおおおおーーーーーーーーーる!!!!!!」
<Ναι?>
(はい?)
どうやら想像以上にメルキオールは厄介なものだったようだ。
彼らの、いやフォルテの苦難は続いていった............
第3話「ああ、それとおまる」
本編執筆中、デバイス同士の会話が時間かかる....
本編はフォルテとシグナムの模擬戦を予定。