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目が覚める。あり得ないものを見る。気絶する。
これが、俺の第二の人生最初の行動だった。
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古龍でございます 第一話「転生でございます」
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吾輩はクシャルダオラである、名はまだない。と言うか普通無い。
……えぇー。
いや、ビックリした。転生云々とか以前に、目覚めて最初に出てきたクシャさんの顔にビックリした。
アレね、クシャルダオラって卵生だったのね。身体の構造は虫みたいなのに。
俺の知るゲーム――モンハン、因みにP2、P2G、P3の知識しかない――ではクシャルダオラは【生態・系統その他諸々不明】の【古龍】として扱われていた筈だ。
だがまあ、現実だってそんな生き物は山ほど居たから問題じゃないだろう。知ってるか? 海の生き物って殆ど生態が解ってない連中ばっかりなんだぜ?
っと、いかんいかん。今はそんな事を気にしてる場合じゃない。
さて、気を取り直して現在解っている情報を整理しよう。
1、俺は元人間で気がついたらクシャルダオラに転生していた。
2、クシャルダオラは卵生で一度に一匹しか卵を産まないらしい。
3、クシャルダオラは生まれてすぐに自然界に放り出されるらしい。
4、現在俺は空を飛んでいる。訂正、落ちている。
『誰か助けてぇぇぇぇぇぇっ!』
誰もいなかった。
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『ぜーっ、ぜーっ、ぜー……』
死に物狂いで空を飛ぶ事をマスターし、ゆっくりと地上に降りる。凄いね、人間やればできるもんだね。もう人間やめてますが。
『いや、モンスター転生は別に良い。あと先生とかじゃなくて良かった、本当に良かった』
だってあいつら試し切りに使われるんだぜ? 道楽以外の何物でもない。
けど今の俺ってクシャルダオラですよね。龍属性武器ってクシャさんで試し切りしない?
『……誰もいない、よな?』
周囲をゆっくりと見渡すと、そこは雪山の絶景パノラマだった。足元を見ると秘境のようにも見える。
やれやれ、流石に肝が冷えるな。雪山だけに。
『しかし、これからどうするかな……』
こういう展開のテンプレとして、まず元に戻れる保証は無い。クロスとか厨二展開バリバリだったら有りだろうが、その可能性は低いだろう。
結構な高確率でゲーム準拠に若干のアレンジが入ったモンハン世界だと考えていいだろう。どうしてこの世界に来たか、とかは時間がある時に考えよう。
『まずは人間の情報を集めるか……?』
人間の最大の強みは情報だ。野生の動物は経験則でしか脅威を知る事が出来ないが、人間は情報を共有する事で個としては脆弱ながらも種として繁栄できているのだから。
ならば今後生き抜くに当たって人間と関わる事は避けて通れないだろう。何せ今の俺は無く子も黙る古龍様だ。存在してるだけで脅威とみなされる。
『多少危険な賭けだが、村の近くにでも居ついてみるか……?』
こちらから危害を加えず、第一印象が悪くなければ何とかなるかもしれない。ハンターに出会ったら最悪逃げれば良いだろう。
なら善は急げ、だ。俺はそう思って立ち上がったのだが、
ぐぅ
と龍としては可愛らしい音を立てて腹が鳴った。
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『うぇっぷ……生は舌に合わんな』
湖に口を突っ込んで水を飲む。その俺の後ろには倒れ伏す一頭のポポの姿。周囲には鮮血が飛び散っており、どう見ても食事後です本当にありがとうございました状態である。
しかし血生臭い。生前から寿司やら刺身やらは苦手だったが、生の肉がこんなにキツイとは知らなかった。これは人里に行く必要性が増えてしまったな。
『生で物を食えない野生の生き物ってどーよ?』
げふ、とげっぷをして顔を上げる。周囲に生き物の気配は無く、ハンター達も特には見当たらなかった。
『まあ良いか。んじゃ、いっちょ頑張りますかね!』
そう呟き、俺は風を身に纏いながら天高く舞い上がっていった。
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