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[24904] 【ネタ?】~IF~デビルチルドレンオリ主(原作知識ありだが…?)
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:3f3624c3
Date: 2010/12/12 23:47

【白い悪魔と悪魔使い】でデビチルとリリなのとクロスしていましたが、設定に無理がありすぎたので、

いったんデビチルによく似た世界観の世界にトリップした主人公が、そこで、力を覚醒させ成長していく物語を紡ぎます。

リリなのとのクロスは諦めていません。

この小説の終了後の設定を使って改めて書きたいと思います。

主人公の名前は変更しました。

また、R15的な表現(やや際どい性的表現)や、下ネタもあります。

ご注意を

また、白い悪魔と悪魔使いの設定はプロトタイプ資料として消されてもバックアップは残しておきますがw

少なくとも序盤は苦戦必至です。

終盤になれば大化けしますが。



[24904] 第1話 始まり
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:3f3624c3
Date: 2010/12/12 23:51
「オレは…何をしていたんだっけ…?」

オレの名前は佐伯優。

大学の卒業も間近で、就職活動で内定が取れたと思った企業から取り消されて…凹んでいて…。

とりあえず学校に求人情報を求めに(パソコンが故障)行ってる途中で…、ゼロ○使○魔見たいな変なゲートに吸い込まれたん

だよな…?

誰かに召喚されたとか?

…変だ。妙に目線が低いし誰もいない。

周りを見渡しても荒野だ。

すると…。

「おいおい…、まだこんなところに人間のガキがいるぞ」

渋めの男性の声に振り向くと…、翼をはやした青い竜みたいな…、というよりは、ガーゴイルと称した方がいいだろう。

3匹いる。

それにしても、オレのことを【ガキ】と言ったか!!?

「マジ…?」
「まあいい。殺せ」
「ブフ!!」

突然ガーゴイルから吐き出された氷のつららに驚き、オレは腹を貫かれてしまった。

「ぐほっ!!」

オレは血反吐を吐いてうずくまってしまう。

「しぶといな…。まだかろうじて生きているか…」

ガーゴイルがオレにトドメを刺そうと近づいてくる。

…まさか、女神転生シリーズなのか?

【ブフ】とか言ってたし。

くそ…、こんなところで死ぬのか?

「やれ!!!」

…クソが…!!!

こんなところで死ねねぇ…!!

―どんな力だっていい…!!!

だが、無情にも氷のつららは、オレに向かってくる。

―オレが…生き延びるための力を…ッ!!!




その時、光が爆ぜた。


「なにっ!!?」

オレの目の前に現れたのは…。

紫色の小さい竜。

青い帽子とブーツをはいた雪だるま。

黄色くて丸い生物。

どこかインドを思わせるピンクい肌の少女…。

「古の契約に従い…、ヘイロン推参!!」
「デビルチルドレンだと!!?」



…デビチルかあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!

しかし、そんなことで驚いていられない。

「ラクシュミ!!」
「はい!!」

ヘイロンにラクシュミと呼ばれた少女は、オレに駆け寄る。

ラクシュミは、オレの腹に手をかざし…

「ディアラマ」

と、ディア系の回復魔法を唱えた。

すると、オレの傷がみるみるふさがっていく。

「すまねぇ、た…すかった…」
「無理をしないでください。傷をふさいだだけで、出血までは…」

ラクシュミに礼を言いつつ、ゲイル達に向き直る。

「案ずるな。デビルチャージせずとも十分だ」

…!?

ヘイロンはそう言い放つ。

アニメ版の設定があんのか!?

しかし、デビルチャージなしでも戦えるのは、少しアニメと設定が違うな。

ふと、いつの間にかオレの目の前にパソコン、恐らくはヴィネコンがあるので、それを見る。

「…デビルチャージ後はアークヘイロンか…。
さすがに第3、第4形態はオレのレベルが不足していて使えないようだな」

だが、ガーゴイルなら恐らくヘイロンと、ジャックフロスト、メッチーで十分なのだろう。

「ダークハウリング!!!」

ヘイロンの放った闇の波動が、ガーゴイル達を貫く。

「ぐあっ!!」

3匹のうちの1匹があっけなく倒れる。

うち2匹はこらえたようだ。

「ブフ!!」
「ヒーーーホーーーッ!!!」

ガーゴイル達のぶふをジャックフロストがブフで相殺する。

「メッチー!!!」

メッチーの放つジオが、ガーゴイル達を黒こげにし、この戦いは終わった。

「やったのか…?」
「そのようですね」

戦闘が終わったことに安堵したオレは気を失った。











「く…」
「目が覚めたか?マスター」

ヘイロンの声で、頭が一気に覚醒する。

どっかの洞穴のような場所だ。

しかし、地面は全然硬くない…と、思ったらラクシュミがオレを膝枕していたのだ。

オレは顔を赤くしてラクシュミから離れるが、彼女はオレが目を覚ましたことに安堵の表情を浮かべるだけ。

「夢じゃねぇのか」

オレは改めて、自分の体を見る。

体が小学校高学年くらいにまで縮んでしまい、さらにデビチルのような世界に来てしまったのか。

「オレは何時間寝てた?」
「もう次の日の朝だ」

ヘイロンの言葉で外を見ると、もう夜が明けている。

「ん?なんか変なにおいが?」

オレのその言葉にヘイロンとラクシュミはオレから目をそらす。

が、やがて意を決したように口を開く。

「マスターが気を失っている間に…その…排泄物が…」

その言葉を聞いた瞬間、オレは固まった。

「仕方あるまい。たとえ回復魔法があっても、普通は数日は寝たままの怪我だったんだ。
あと、服の汚れは、ラクシュミの水魔法で何とかした」

その言葉でオレは涙が出てきてしまった。

アニメとか漫画とかは、そういうシーンは殆ど無いとはいえ、現実でこういう場面に出くわせば、結構切実な問題になってしまう。

ほぼ初日からこういう失態を犯すとは…。




オレが落ち着くまで30分はかかり、ようやく本題に入る。

「オレは異世界から来てしまったわけだ…」
「異世界という概念自体は、我々デビルからみて珍しくはない。
しかし、お前はたった一人でこちら側に来た…」
「マスター、この世界はヴァルハラと言います。
あなたはデビルチルドレン…デビルを操る力に目覚めたのです」
「ああ」
「やけにすんなり受け入れましたね?」

ラクシュミが不思議な顔でオレを見る。

「そういえば昨日…、いえ、今はいいでしょう」
「?」

ラクシュミとヘイロンが何かを考えるが、オレには何の事だかわからない。

「元の世界に帰れるかな?」
「それはわかりません」
「だが、時の女神なら何か知っているかもしれん」

ヘイロンの言葉にオレはウルド、ヴェルザンディ、スクルドかと思う。

「その女神とやらは何処にいるんだ?」
「ここから北西に…、あなたの足で1週間はかかりますね」
「そうか…」

オレは体を起こし、屈伸運動をする。

「とにかく、体は動くようになった。
行くか!!」
「行くのはいいがその前に」

と、ヘイロンがオレを止める。

「パートナーデビルである私に、名前を付けてほしい」

名前…か。

ゲイルだと、あの青い人とかぶるし…。

「レジェンド…、オレのいた世界の英語で、【伝説】や、【偉人】の意味を持つ言葉だ。
ヘイロン。お前の名はレジェンドだ」

それを聞いたヘイロンは、その言葉を吟味し、

「いい名だ。期待に応えられるようにしよう。
コンゴトモヨロシク」

「ああ、オレの名は佐伯優だ」









今、あり得ない物語が動き出す。



~あとがき~

主人公、初日から大失態



[24904] 第2話 名医クロト
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:3f3624c3
Date: 2010/12/12 23:48
~?視点~

私が行った時はもう手遅れだった。

村は焼け落ち、仲良く暮らしていた人間とデビルは全て【あの軍】達の兵によって奪い尽くされていた。

地面にはあまり見たくない液体…それこそ赤黒いものや…とても言いづらいものまで。

恐らく、男は殺されるか、力仕事のための奴隷として連れて行かれるか…

女は慰み者になったり、裏の商売でオークションにかけられて売られたりするのだろう。

それでも私は、必死で生存者を探した。

流れの医者である私にとって、弱きものの命を救うことは義務であり、使命でもあるのだ。

「それにしても…女子供にまで容赦がないなんて…」

私はせめて、この村の人たちを弔おうと、動き出したその時。

「おいおい、まだこんな上玉がいたぜ」

背中に寒気がして振り返ると、ジコクテン達が下品な笑いを浮かべて私を見ていた。

「…あなた達がこの村を滅ぼしたの?」
「ああ。この辺には【あの方】の探し物があるらしいんだが、見当外れだったみたいだ。
…で、お前さん、抵抗しないなら、いい夢見せてやるぜ?」
「…今すぐここから立ち去りなさい」

医者としては、なるべく殺生は避けたい…。

でも、殺さなければ殺される。それが当たり前の世界なのだ。…今のヴァルハラは。

かつてのような楽園のような世界は今は見る影もない。

「はああっ!!!」

私は襲ってくるジコクテンに対し、光の魔法で応戦する。

「ぎゃあああああ!!!」

吹き飛ぶジコクテン達。

「これなら何とか…」

私は安堵していた。が、後ろからの気配に気づかなかった。

「ギロチンブレイド!!!」

闇属性の技。

光の属性の私には大きなダメージになってしまう。

「きゃあああ!!!」

私は吹っ飛び、地面にのたうちまわる。

一撃で戦闘不能、もしくは死ぬ効果は発動しなかったが、ダメージは大きい。

「フフフ…、魔力は大きくても、戦闘経験の少なさがでたな…」

振り向くと、そこにはヴリトラと呼ばれるデビルがいた。

「私は、【あの軍】に属しているわけではないが、金で雇われた身だ。
抵抗すれば殺すぞ?」

ヴリトラは、赤く、炎に包まれた体と4本の腕で私に迫る。

と、その時



「ダークハウリングッ!!!!」


闇の波動が、ヴリトラを飲み込んだ。


そう…。それが

私が様々なデビルとともに、何十年も仕えることになる見た目は子どもでも本当は大人の…。

奇妙で…、ぶっきらぼうで…、本当に心優しい少年との出会いだった…。







~優視点~


寝ていたジャックフロストとメッチーを起こし、デビライザーの使い方を教わり、ラクシュミ達をデビダスに収納する。

デビルチャージなどは、アニメ版と似たようなものだった。

カードを使う機能もあるらしいが、カードは1枚もないので、お預けだろう。

さらに、合体施設も、いまでは貴重なものになってしまい、店で営業することがなくなったとか。

デビル合体はメガテンの醍醐味だろう…。

文句を言ってもしょうがない。

デビルの強さは、戦闘で強くなることは無いらしいのだが、マスターの強さに比例して強くなるらしい。

これがゲームとの違いだ。

ドラ○エ8をプレイしたことがある人はわかるかもしれない。

モン○ターバト○ロード見たいな感じ。

ただ、それだと限界があるので専用の訓練施設で、お金を払って依頼すれば鍛えられるらしい。

…オレがアキラの代わりをするのだろうか。

そうなるとジン側の転生者もいるのか?

でも、光と闇よりも、黒と赤の方が人気が高いんだよな。

オレはどっちも好きだけど。

でもこの設定は、ある意味必然かもしれない。

何故なら、刹那と未来は、ゲームでは2人ともルシファーの子ども。

漫画では刹那がルシファーの子ども(未来は不明)

アニメ版では、デビゲノムを後天的に植え付けられたらしい。…だったかな?

いかん、最後にプレイしたのは何年も前だからあやふやだ。

…そんなことを考えているうちに、火の手が上がっている村を見つけた。

「おいおい、せっかくの最初の村だってに、火事か!?」
「いや、あの大きさでは町だろう…、それと野盗か…」
「なんでもいい!!どの道手掛かりは時の女神の場所の方角だけ、行くぞ!!!」
「ああ、だが、無理はするなよ?」
「ああ。行くぜ、デビルチャージ!!!」

レジェンドをデビルチャージして、町に向かう。

すると、1人の女がたくさんの兵士らしきデビルを吹っ飛ばしていた。

「あのデビルは、ジコクテン、ヴリトラ、クロトか…。
悪のエネルギー反応は、ジコクテン、クロトは良いデビル、ヴリトラは…中立?」

デビルの善悪の反応もヴィネコンでスキャンできると聞いた時は、最初のアニメ版の設定だろと突っ込みたくなったが、自重し

た。

まだ、レジェンド達には体が幼児化したことと、デビルチルドレンが創作物のものだとは話していない。

いずれ機会を見て話すつもりでいるが。

「ヴリトラがクロトに襲いかかろうとしてる!?
レジェンド!!!!」
「任せろ!!ダークハウリングッ!!!!」

こうしてオレ達は彼女達に割って入った。



「何者だ?」

ヴリトラがオレに問う。

「…デビライザーか。この世界にデビルチルドレンがやってくるとはな…。
伝説だけの存在と思ったが」

ヴリトラは、オレの手のデビライザーを見て、そう呟く。

厳密にはオレは大人だから、「チルドレン」じゃないんだよな。

しかも複数系だし。

ま、チルドレンの方が語呂はいいが。

「テメェがこの村を…?」
「俺は金で雇われただけ、仕事を全うするだけだ」
「そうかよ…レジェンド!!」
「おう!クラッシュクローッ!!!」

レジェンドが爪を振りかぶり、斬撃の衝撃波を飛ばす。

「アギラオ!!」

しかし、ヴリトラの炎の魔法であっさり相殺されてしまう。

「レジャンド!!マハブフだ!!!」
「応っ!!!」

レジェンドが、口から氷の魔法を吐き出す。

炎属性のヴリトラには、大ダメージだ。

「ぐ…、」

ヴリトラはダメージの大きさにたたらを踏む。



「ジゴクづき!!」

炎の塊をマシンガンの様に飛ばす。

「あの体勢から?レジェンド!!」
「ぐあ!!」

レジェンドが吹き飛ばされ、地面に倒れてしまう。

「メッチー!!ジャックフロスト!!ラクシュミ!!」

すかさず応援を呼ぶ。

ライザーから出てきた3人は、ラクシュミだけがレジェンドの治療に回り、メッチー達がヴリトラに立ち向かう。

「挟み撃ちだ!!」

それぞれが、左右に回り込み、メッチーがジオ、ジャックフロストがブフで攻撃。

しかし、ヴリトラのスペックが上なのか、左右に伸ばした腕から放たれたアギラオで逆にカウンターを食らってしまう。

「畜生…」

もう駄目かと思ったその時、ヴリトラは無情にもオレに向かってアギラオを放つ。

「終わりだ、小僧」

しかし、誰かがオレとヴリトラの間に割って入る。

「マカラカーン!!!」

クロトだ。

自分の魔法を跳ね返されたヴリトラは、自分の炎で焼かれてしまう。

「今だ!!」
「おう!!」

レジェンドは回復したのか、勢いよく飛び出し

「マハブフ!!」

氷の魔法で決着をつけた。

「ぐ…」

苦しそうにうめくヴリトラ。

もう、こっから立ち去れ、そう言おうとした時だった。

何処からともなくヴリトラとは比較にならない【ジゴクづき】がヴリトラを襲ったのだ!!

「ぐぎゃああああああっ!!!」
「「「「ッ!!?」」」」

オレ達は驚いてヴリトラを見る。

『まったく、高い金で雇ったのに使えないわね…
デビルチルドレン?いずれ会うわよ』
「まて!!誰だ!!!」

しかし、オレの叫びはもう届かなかった。

女の声だったが…

「お前!!」

今はヴリトラと…、ここの人たちの墓を造ってやんないと…。

「あんたも手伝ってくれ!!」
「わかりました」

クロトはすぐにOKしてくれて、レジェンド達も頷いた。







「しかし優…、ヴリトラを助けてどうするんだ?」
「根っからの悪人だったら潰す…。
でも、今は潰すかどうかはまだ決めらんねぇ」
「…」
「まあ、悪人だったとしても殺したりはなるべくしたくない」
「何故だ?」
「…命に言いも悪いもねぇと思うんだ」
「矛盾してるぞ、優」
「わかってる…」

オレと相棒はこんな会話を続けていたが、クロトには聞こえていたようだ。

「私は、優さんの優しさは素敵だと思いますよ」

クロトが入ってきた。

「ヴリトラさんの意識が戻りました」
「そうか…」

その後、オレ達は遺体の埋葬作業を終わらせ、次の夜が明けるのを待った。

途中から何故かヴリトラも起きてきて手伝ってくれた。

オレは…遺体から出る死臭に吐き気を催した。

レジェンド達は休んでていいと言ったが、それではオレの気が済まないのでやることにした。





次の日の朝

「優さんはどうするんですか?」

クロトに聞かれ、時の女神の場所に向かうと言った。

そしてオレは意を決してクロトとヴリトラに言う。

「クロト、ヴリトラ…オレの仲魔になってくれないか?」
「え…?」
「…」

少し驚くクロトと、無言でポーカーフェイスのヴリトラ。

「オレ達はまだまだ弱ぇ。昨日だってクロトが割って入らなかったら負けてたもんな。
それに、この世界の治安は最悪すぎる。
でもよ、そんな中でも世の中わかりあえる奴はいると思うんだ。
ヴリトラだって、昨日は墓作るの手伝ってくれたじゃないか。
…まあ、2人ともオレについてくる理由はなさそうだから、無理強いはしないけど」

そう言い切って、頭を下げる。

その行動にクロトは驚き、ヴリトラは…

「ハハハハハハッ!!!」

高笑いをした。

「正直だな…。
だが悪くない。いいだろう、契約しよう」

そういってヴリトラはOKした。

「そうですね…。私はやるべきことがあるんですが…、
それは私1人の力では実現できません。
貴方なら私を導いてくれる…、そんな気がします」

クロトはそういってほほ笑みながら手を差し伸べてくる。

オレはその手を握り返した。

「よろしくな」
「はい!」
「承知した」



~あとがき~

ゲームと違って、仲魔になればレベルに関係なく従ってくれます。

クロトは、アニメ版と違う点は帝国軍などの軍に所属した経験がないことです。

さらに学校の先生ではなく、医者という設定です。



[24904] 第3話 ハーピーのアジト
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:3f3624c3
Date: 2010/12/13 23:55
結局初めて訪れた村では生存者はいなかった。



握手を交わした後も、まだ朝食を食べていなかったことに気づき(オレの腹の音が原因)、活気のなくなった村で朝食。

食材は、この村にあったものを使わせてもらった。

その途中、クロトが鍋を爆発させたというアクシデントがあり、料理はラクシュミに任せた。

クロトは、部屋の隅で体育座りをしながら落ち込んでいた。

…大丈夫か?コイツの回復魔法頼って…。

心配になってきた。

食べながらオレは2人に気になっていることを聞く。

「ヴリトラ、お前はホントに金で雇われただけなのか?」
「うむ。このご時世、生計を立てるのに手段を選んでいられない奴も多くてな。
かくいう私もその1人だ」

つまり…賞金稼ぎってやつか?

「じゃあ、お前を襲ったあの攻撃の主は?」
「…肌が白く、大鎌をもった女のデビルだ。
最も、それ以上のことは知らん」
「そっか…」

結局それだけでは大した情報にはならない。

「では、【あの軍】とは何ですか?」

クロトがヴリトラにそんな疑問をぶつける。

「【時の教団】という名前の組織らしい。
かなり強引な手法で弱者から搾取しているな。
汚い手口で金や物資を集めて、何かを企んでいるらしいが」
「他には?」
「…悪いがわからん」

そう言って、会話が途切れてしまった。

雇われ傭兵…か、詳しくは知らされていないか。

ヴリトラの戦闘能力は高い。

だが、それだけだろう。

コイツの性格から考えても、金さえ出せばそれなりに使えると思ったんだろうか?

クロトは、レベル…というより能力は高いが、戦闘経験はそれ程ないらしい。

そのことについて言及してみると…

「はい…、私は小さい頃に必要最低限の訓練は受けましたが…、それだけです。
あとは医者としての生活でしたし…」

とのこと。

何で流浪の医者をしているのかまでは教えてくれなかった。

「すみません…いつか…、話します」

とだけ…悲しそうに眼を伏せて言った。

まあ、無理に聞く必要はないか。

それにしても最低限の訓練?

「はい。一定年齢に達した男性は必ず、兵士としての最低限の訓練を受ける義務が、殆どの地方にあります。
…治安も悪いですから。
女性は希望者だけですが、私は自衛のためのプログラムを受けました」

なるほど。

確かに、暴漢とかに襲われたら、最低限逃げるだけでもできないとダメなのかな。

そう思ってヴィネコンを見る。

仲魔の能力は、皆申し分ないように見えるが、真の力を引き出すにはまだまだオレのレベルが足りてない。

後で気づいたことだが、仲魔になったデビルは、主人公より強すぎると呼び出せないようなことがゲームではある。

アニメ版では仲間になったデビルが、レベルの高そうなものまでいきなり言う事を聞いていたので不思議だったが。

どうやらこの世界はゲームやアニメの設定がごっちゃになっているらしい、というのがオレの見解だ。

まあ、もっと詳しく見てみないとわからないが。

それに、【時の教団】なんて組織、聞いたことがない。

きっと、アニメ、ゲーム、漫画にもない何かが多く存在する。

その認識は持った方がいいだろう。

クロトもヴリトラも、アニメとは異なる。

いや、この2人もジャックフロストもメッチーも、ラクシュミも、デビルとしての一般呼称で、個人の名前がないのだ。

変な先入観は持たない方がいいかもしれない。


こうして、朝食は終わり、最後にもう1度村を…町か…町を見て回り、生存者がいないのを確認した。



クロトとヴリトラは、元々この村のものではない。

知りあいもいないみたいだ。

長居は無用。

荷物をまとめて出発することにした。

仲魔になった2人をデビダスに収納し、ラクシュミ達も戻す。

クロトとラクシュミは何か言いたそうだったが、結局口を開かなかった。

「出かけるか」
「ああ」

時の女神の居場所まで徒歩であと6日。

子どもの足では多分それ以上かかりそうかなと考えつつも、歩を進める。

「ところで」
「ん?」

レジェンドが口を開く。

「食料はどれくらいあるんだ?」
「大体…節約しても4日分あればいい方か。
食べられる野草とかないのか?」
「あることはあるんだが…、ここら辺ではあまりとれないぞ?」

レジェンドの言葉にため息を吐くオレ。

「しょうがない。ペースを上げてでも次の町に行くか」
「そうだな」

と、張り切って歩こうとするが…。

何処からともなく綺麗な歌声が聞こえる。

「この歌は…?」
「!マズイッ!!耳をふさげ!!!」

レジェンドの声も空しく、オレは耳をふさぐのが間に合わなかった。






強烈な眠気が…、【ドルミナー】か…













次に目を覚ました時は、牢屋の中だった。

「気がついたか?」
「レジェンド…?」

レジェンドの声で目を覚ます。

「ここって牢屋だよな?」
「ああ。ハーピーというデビルの住処のようでもあるな」

そう言われ、鉄格子の外をみるが、洞窟の中に牢屋を造ったかのような風景だ。

「…!!しめた。デビライザーとヴィネコンは取られていない…。
妙だな…?何故取らなかったんだ?」

荷物は何1つ取られていないことに疑問に思う。

デビライザーは、腕のリングに封印してあるし、リングは外せないので当然だが。

「まあいい。レジェンドとヴリトラにぶち破ってもらうか…コール!!!」

オレは、デビル召喚を試みる。

が、

「で、出てこない!?」

もう1度やってみるが結果は同じ。

「まさか…エストマか?」
「…それって…」

オレは知っていたが、一応レジェンドに確認をとる。

「デビルの出現を封じる魔法だ。このアジト全体にかけられている」
「…!!」

セツナ達が主役のアニメでも、かなり後半の話で似たような事があったな。

ハーピーってエストマできたっけ?

「レジェンド、デビルチャージ…「無理だな」…え?」

レジェンドの発言に思わず間抜けな声を出すオレ。

「この鉄格子にかけられた魔力…、残念ながら私の攻撃では通用しないだろう。」

オレは歯をギリギリさせる。

「焦っても仕方あるまい。いずれ牢から我々を出す時が来る。…耐えよう」
「…」

レジェンドの言葉にオレは俯いてしまった。

…中途半端にアニメの設定があるのかよと心の中で突っ込みつつ、オレ達は時を待った。





[24904] 第4話 パズズ(編集)
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:da023e67
Date: 2011/02/13 22:59
ハーピーのアジトに軟禁されてから暫く経つ。

すると、ハーピーの1人が現れて南京錠を外し、オレ達を拘束した上である場所につれてこられた。

そこは、祭壇のような場所ででかい鍋が置いてあった。

しかも、鍋からは湯気が出ている。

レジェンドが、険しい顔で口を開く。

「優、あの鍋からは人間の臭いがする」
「オレ達を食料にするつもりか?」
「そいつは少し違うね」

オレ達の会話を聞いたハーピーは、オレ達の言葉を遮る。

「直接食べるわけじゃない。お前たちの生命エネルギーを、あたし達の主のエネルギーにするのさ。
そうすれば主復活できる」
「主?」
「7年ほど前に、人間の手によって封印された忌々しい呪い。
それを解除するために人間の生命エネルギーがいるのさ。
お前達も生贄だよ」

…そうか。でも、この建物内では応援は呼べないし、デビルチャージしようにも拘束されてて発動はできない。

チャンスを見つけ出すんだ。

そうは言っても、この状態で突破口なんざ見つけられない。

「さあ、お前達!!これからこの人間達が生贄になるよ!!」

ハーピーの1人がそう言うと、周りのハーピー達は歓声を上げる。

「ひ、ひいいいぃぃっ!!!」
「や、やめてくれっ!!!」

オレの前に生贄になるらしい人間達が、必死で命乞いをする。

「くそ…、どうにもならないのか…」
「…」

オレとレジェンドは、苦虫を噛み潰した顔で釜を見上げる。

ハーピーに釜にくべられた人間は、3分もしないうちに骨となった。

「…マジかよっ!!?」
「マズイ…」
「ひいいいいいああああぁぁぁっ!!」

どんどんとくべられる人間達。

「さあ、お次はお前の番だ」

どうやらオレ達の番が回ってきたようだ。

「ここまでか…」

と、

釜が突然光りだした。

「なっ!!?」
「…おお、ついにフルパワーになった!!!」

驚くオレを尻目に、歓喜の声を漏らすハーピー。

そして光がおさまると、そこには1体の鳥型デビルがいた。

「あれはパズズだ」
「強いのか?」

オレは知っているが、一応尋ねる。

「トリ属の中でも最強クラスだ。分が悪いぞ」
「そうか」

レジェンドの言葉にオレは肩を落とす。

「ようやく封印から解放されたか」
「パズズ様!!」

ハーピーがパズズに群がる。

「ん?」
「私達ハーピーは、貴方様の復活のために日夜人間達を捧げてきました。
さあ、今こそこのヴァルハラを我らの者に」
「まあ、そう急かすな。準備運動くらいは必要だろう」

と、パズズは何かを思い出したように

「ラーはどこだ?」
「ラー様は、他の勢力の対応に出ています」
「そうか」

ラー…?

と、言う事は、エストマを使ったのはラーか。

「さて、そこの貴様はデビルチルドレンだな?」
「…!」

パズズの言葉に目を見開かせるオレ。

「その反応は図星か。おい、こいつの縄を外して、エストマを解除しろ」
「パズズ様ッ!?」
「先ほども言っただろう?準備運動が必要だと」

パズズは、ニヤニヤとオレを見ながらハーピーにオレ達の縄を外すように命じる。

「オレ達を使って自分の体を試すと…?」
「そういう事だ。安心しろ。手加減はしてやる」

その言葉に内心イラッと来たが、グッとこらえる。

「何が目的だ?」
「強い奴と叩くのがオレの趣味でな。
まあ、貴様は未熟そうだがな」
「ならなんで未熟なオレ達と戦おうとする?」

オレの質問にパズズはこう答える。

「デビルチルドレンは、世界の運命をも覆す力を持つ。
その本質を、見極めてやる」

どうやらパズズは、思った以上に世界の心理を熟知しているようだ。

「人間の生命力で命を喰らって生き返ったのは、人間の倫理観から許されることではないが、テメェは色々と知っていそうだな


「貴様ッ!!」
「良い」

オレの言葉に激こうしたハーピーを制すパズズ。

「さあ来い!!」
「デビルチャージッ!!!」

その言葉にオレは疑問を投げかける。

「プライドってのがないのか」
「プライドならあるさ。だがな、それは戦いで語るものだ!!」

どうやらこいつは思った以上にバトルマニア気質らしい。

おれはため息を吐きながらもデビライザーを構える。


オレはデビルチャージをして、レジェンドをアークヘイロンにする。

「コールッ!!!」

オレはコールをして、全部の仲間を呼びだす。

ラクシュミ、メッチー、ジャックフロスト、ヴリトラ、クロト。

「パズズか…、これはまた厄介な奴を相手にしているな?マスター」
「ヴリトラか…。随分久しいな」
「知ってんのか!?」
「賞金稼ぎ時代にちょっとな…」

ヴリトラとパズズの間にどんな因縁があるかは知らないが、今は戦わなくては。

「マハザンダイン!!」

いきなりパズズの大魔法が放たれる。

「きゃあっ!!」
「ヒーホーッ!!」
「メッチーッ!!!!」

ラクシュミ、ジャックフロスト、メッチーが、マハザンダインで吹っ飛ばされてしまう。

かくいうオレも、その風の余波を受けて吹っ飛んでしまう。

くそ…!まさかラクシュミ達が1撃で倒されるなんて…。

3人とも気絶してやがる…。

パズズはさっきレジェンドが言ったようにトリ族の中でも最強クラス。

マジックの値も当然高い。

そうなれば3人が一撃で倒されてしまうのは、むしろ当然だ。

…こんな低レベルのオレがマスターならなおさら。


パズズは、緑の翼を羽ばたかせ、攻撃の手を緩めない。

「ダークハウリングッ!!」

レジェンドが、闇の波動を一直線にパズズに飛ばすが、あっさり爪で弾かれてしまう。

「てんちゅうさつ!!」
「ジゴクづきっ!!!」

二人の技が、パズズに向かっていくが、ヴリトラのマシンガンのような炎は、全て防御で防がれ、クロトの雷もよけられてしま

う。

「ダークスピアっ!!!」
「きゃあっ!!!」

パズズのダークスピアが、クロトにあたってしまう。

クロトは弱点属性の技を受けて、さらに気絶してしまう。

「しまった!!」

オレはクロト達に駆け寄り、何か治療に使えそうなものはないかと荷物を漁るが、カードもない。

「…」

オレは悔しくて、歯ぎしりする。

と、

【ある事】に気づいたオレは、レジェンドに声をかける。

「ダークスピアを使う際に、爪を大きくふり上げていた。
その隙を突けば…」
「承知!!」

暫くは、ヴリトラとパズズの技と魔法の応酬が続いていたが、ヴリトラが、押され始める。

「グッ!!!やはり地力はパズズの方が上か…」
「当然だ。ダーク…」
「今だっ!!!」

レジェンドは、パズズの爪の振り上げの隙を見逃さず突っ込む。

「アークブレイドッ!!!!」

レジェンドの爪がパズズの左頬を直撃する。



「ふん」

パズズは、レジェンドの足をつかんで投げ飛ばした。


「レジェンド!!」

オレはレジェンドに駆け寄る。

「及第点と言ったところか」

どうやらパズズは認めてくれたらしいが、オレはそれどころではない。

「今度会う時にオレを倒せたら、オレの側近のこいつとともにお前の仲間になってやろう。
今のお前たちでは、まだまだ力不足だ」
「…」

オレはパズズの言葉をかみしめ、レジェンド以外をデビダスに戻し、変身が溶けたレジェンドを抱え、ハーピーのアジトを後に

する。

このパズズの言葉の真の意味をオレ達が理解するのは、まだまだ当分先だ。





「なかなか面白い奴もいたものだ」





そんなパズズの声は、オレには届かなかった。




オレは弱い…。一緒に戦う事も出来ない。

応援して指示をするだけの人間。

デビルと人間を別つ絶対的な差。

肉体スペック。

魔法。


そして、弱肉強食の世界を当たり前のように生きている【この世界の人やデビル達】

オレが勝てる要素等…無くて当然だった。


~あとがき~


主人公、善戦はしたが敗北。

まともに戦えたのはレジェンドとヴリトラだけという…。



[24904] 第5話 スクルド
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:da023e67
Date: 2011/02/13 22:48
第5話


オレは、パズズに敗れさらに生贄にされた人間達を救えなかったショックから森の中を呆然と歩いていた。

怪我をしたレジェンドを抱えながら。

と、

「なんだ?誰か倒れているぞ…?」

そこに倒れていたのは、赤いヘルメットをして、赤い翼をはやした一人の…恐らく女性のデビル。

「まさか」

彼女が時の女神スクルド!?

なんで傷だらけで倒れているんだ?

と、考えていても仕方がない。

傍に落ちていた鎌ごと彼女を抱えて歩きだした。






暫くして、どうやら使われてないらしい小屋があったので、そこを使わせてもらうことにした。

彼女をベッドに寝かせ、鎌を壁に立てかけ、仲魔をコールする。

「皆すまなかった…。オレの力不足で皆を傷つけちまった」

オレは皆に頭を下げてパズズ戦の件で謝罪する。

皆は少し驚いたように目を見開かせるが、すぐにヴリトラ以外は、そんな事は無いと言ってくれた。

ヴリトラは…。

「俺とお前の関係は主従だ。俺の事をいちいち気にするようでは、指揮官としてはまだまだだな」

と、手厳しい言葉をいただいた。

「だがまあ、その気持ちは受け取ろう」

と、そっぽを向いた。

「素直じゃないわね」

ラクシュミがヴリトラにからかうような視線を向けるが、ヴリトラはうるさいというだけでそれ以降黙ってしまった。

「ところで、ベッドで寝ているのはデビルですか?」

クロトがスクルドに気づいたのか、質問をしてきた。

「ああ、倒れていたんで、ついでに運んできた。こんな状況だ…。無視はできないし、情報も欲しい。
クロト、ラクシュミ、治療頼めるか?」
「うん!」
「分かりました」

やがて、クロトとラクシュミの回復魔法でスクルドの傷はかなり塞がった。

しかし、かなり重症だったらしく、完治まではもう1日かかる。

「…く」
「目が覚めたか?」
「…お前は?」

スクルドが目覚めたらしく、オレに名前を問うてきた。

…相手に名前を聞くときは自分から名乗るのが筋なんだが、まあいい。

「オレは佐伯優。優だ」
「…私は時の女神スクルド」
「…時の女神か。オレは丁度あんたら女神に用があったんだ」
「…私達に?」

用と聞いて、スクルドは少しオレを警戒する。

「オレはこの世界の人間じゃない。事故的な理由でヴァルハラに飛ばされてきた。
元の世界に帰りたいんだが、方法を知らないか?」



…ちなみにレジェンドはまだオレに抱えられて目を覚まさない。







~スクルド視点~

その少年から発せられた単刀直入すぎる質問に私は驚いたが、どうやら女神の力を悪用したりするわけではないようなので、ひ

とまず安心する。

…しかし、ウルド姉様は既に殺されてしまった…。

ヴェルザンディ姉様も生きてはいるだろうが…消息はつかめない。

「すまないが、無理だ。本来私達女神は3人いるのだが、ウルド姉様は既に殺されてしまった」
「何だとっ!?」

予想通りの反応だ。

女神の力を使えば可能だったかもしれない次元移動。

しかし、3人の誰かが欠けてしまっても、無理な能力だ。

ヴェルザンディ姉様も消息不明…。

「くそっ!!せっかく手掛かりが見つかったと思ったのに…振り出しか」

少年は本当に落ち込んでいる。

「私の治療をしてくれてことには感謝する。ありがとう」

私は、彼や彼のデビルが私の治療をしてくれた事は分かっていたので、素直に礼を口にする。

「気にすんな」

しかし、彼は、なんでもないように口にする。

この少年の性格は大体わかった。

ぶっきらぼうだけど、すごく人がいいのだ。

…彼ならあるいは…

「私の頼みを聞いてもらえるか?」
「何だよ?」

そうして私は話す。

「時の女神は世界の時を司る力を持つデビルだ。
しかし、【過去】の概念を持つウルド姉様は既に殺された。
ウルド姉様を殺したデビルは、その過去の力を吸収して何かをしようとしているらしい」
「過去…?世界征服でもするつもりなら、【未来】を操る力を手に入れればいいだろうに」
「【時の教団】が何を考えているかは分からない」
「時の教団か…。ヴリトラ?」

時の教団について少しは知っているヴリトラに声をかけるが、

「すまない…。この前も言ったように俺は時の教団については殆ど聞かされていない。
雇われだったからな」
「雇われ?」

ヴリトラというデビルの言葉に私が反応する。

「生きるために仕方なく賞金稼ぎをやっていたらしいぜ」

優はそう補足した。

「頼みとは、時のパワーバランスが崩壊してしまいかねない可能性を摘むことを手伝ってほしい。
勿論、私を助けてくれたお前に従うし、元の世界に帰りたいというお前の願いも出来る限り可能性を探してみる」

私は時の女神の末娘。

恩をあだで返すほど落ちたデビルでもない。

「…いいぜ。乗り掛かった船だ」

優は私の頼みを引き受けてくれた。

私はポーカーフェイスを貫いたが、内心で喜びと安どが混ざっている。

しかし、優は何故こんなにも簡単に引き受けてくれたのだろうか?

そのことを問いかけてみると、

「このままこうしていたって、殆ど情報がないし、お前は悪い奴には見えない。
で、【時の教団】ってのはこの世界に来てからちらほら耳にする単語だ。
目的が似たようなもんなら、一緒に組んでいた方が色んな面でメリットがある。
デメリットは食費とかがかさむ心配だが…、問題ない」

と、実に分かりやすい理由だった。






~優視点~

スクルドの話を聞いたオレは、内心ほっとした。

彼女のステータスを見ても、今までのメンバーよりは数段上だ。

攻撃に特化していて絡め手に弱そうなイメージがあるが。マーベラスダンスも、アニメでは1度も見せなかったし。まあ、それ

は実際の戦いで見せてもらうとしよう。

スクルドがベッドから動けるようになったので、今度はレジェンドを寝かし、オレはトイレと言って外に出た。




オレは、トイレから戻り、バッグから保存食を取り出すと皆に配り、それを取って済ませた。

以外にもメッチーが食べられる木の実を採ってきてくれたのがありがたかった。

言葉は喋れないが、メッチーにこういうサバイバル知識があるのが正直意外だった。


皆が寝静まった後、レジェンドの怪我について考える。

レジェンドの怪我には毒の要素があったのだ。

パズズって毒の攻撃は使えないはずだったが…、オレはデータを見てある1つのデータに気づいた。

「ポイズダイン!?…見えないところで、レジェンドを投げるときに使っていたのか…。
確かにゾンビ状態ならポイズダインを使えるが、継承できるのは魔法だけのはず…、特異体だろうか?」

技を継承できるのはゲームではなかったが、アニメではセントソルレオンでは覚えられないはずのオウガブラストを習得してい

たりとか、ゲイルも似たような事があった。

あのパズズも技を継承した特異体質かもしれない。

そう結論付けた。

考え終わって、ヴィネコンを閉じる。

人間が生贄にされる…。

この世界に来てからたいして役に立ってもなく怪我をしてばかり。

さらに油断から眠らされ、パズズには未熟と罵られる。

そこまで考えて涙が出てきた。

そこへスクルドがやってくる。

「眠れないのか」

スクルドはこちらうを窺うような視線で問いかける。







「泣いているのか」








そう言われてオレは泣いていることを自覚していながらも、首を横に振る。

「無理をするな…。お前には十分助けてもらっているし、協力もする。
お前は人間…、私達はデビル。
適材適所があるだろう」

スクルドにそう言われても、感情自体が納得できない。

理解はできるんだが。

「心配するな、お前は大船に乗った気で私達に任せればいい。
お前はお前の役割を…、少しずつ…見つけるんだ。
私はお前を裏切りはしない」




そう言ってくれたことが嬉しかった。

…愛の告白みたいでどこまで本気なんだろうか。




~あとがき~

予想より早いスクルドの登場。

次回は、名前しか出てこなかったデビルが出てきます。



[24904] 第6話 もう1人の転生者
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:da023e67
Date: 2011/02/15 21:46
スクルドが自身のヘルメットを取り、「これからよろしく頼む」と言って、再びメットを被り睡眠に入った。

それにしてもアニメ版と同じ顔だったな。

金のショートヘアに少しきつめだがきりっとした目に赤い瞳。

…これからどうしようか。

「今のままじゃ、低レベルのオレがマスターだから、皆の力をうまく引き出せない…」
「方法は無いこともない」

と、寝ていたはずのスクルドが声をかけてきた。

「どういう事ですか?」

と、レジェンドの体調を見ていたクロトも割って入ってきた。

「レジェンドは?」
「大丈夫ですよ。
毒のダメージは完全に抜け切りましたし、明日には全快しています」

クロトが微笑を湛えて答えた。

「さすがだな…」
「これでも医者ですから」

オレがクロトを褒めるとクロトは微笑んだ。

ラクシュミにも後で礼を言っておかないとな。

「話を戻そう。強くなる方法があんのか?」

オレはスクルドに話を振る。

「私達の住んでいる時の間に【試練の門】がある。
その試練に打ち勝てば、マスターの魔力も上がり…、パートナーをランクアップさせることもできる。
そうなれば私達の力も上がり、今後はかなり戦いやすくなるはずだ。
それに、デビライザーに使えそうなカードも置いてあったはずだ」

スクルドはそう説明した。

「すごいな…ランクアップ?」

知ってるが一応聞いておく。

ヘイロンの第3段階はエアードヘイロン、シャインヘイロン、バトルヘイロンのいずれかだったな。

「パートナーにデビルチャージをするときに姿が変わってさらにパワーアップする。
使える魔法や技も増えて、能力も上がる。
今のアークヘイロンは第2形態だから、第4形態まである。
ジハードヘイロン、カイザーヘイロン、ソウルヘイロン、ブレイズヘイロンの4形態のいずれかになる」

スクルドの説明に相槌を打つ。

しかし、さっきから気になっていることをスクルドにぶつける。

「何でそんなに詳しいんだ?」
「デビルチルドレンの伝承は有名だ」

…何とも分かりやすい。

「それに…どっちみち今の状態で時の教団と戦うのは自殺行為だ。
少なくとも優のレベルがパートナーが第3形態になるくらいまでは、時の教団との必要以上の戦闘は避けるべきだ」
「そうですね…。あと出来れば仲魔ももう少し欲しいですね。今のメンバーにはやや偏りがあります。
私とラクシュミを除いて皆が攻撃型。
それが悪いとは言いませんが、回復役が少ないのも問題です。
絡め手が出来そうなデビルもいませんし…」
「それはオレも考えた。
だが、どうやって戦力を増やすんだ?」

神妙そうなスクルドとクロトの言葉に、オレはどうやって仲魔を増やすのか聞いてみた。

…やっぱり交渉か?

「時の教団のデビルの寝返りは期待できそうにはないな。
交渉するなら何処にも属していないフリーのデビルが望ましいだろう」

デビル自身にも生活がかかっている。

善だろうと悪だろうと、生きるためには資源が必要なんだから。



あと皆人間より長く生きてるからおb「「「何かいったか(いいましたか)?」」」

…スイマセン。







翌日。

レジェンドの毒のダメージが抜けきらない心配をしたが、どうやら杞憂で終わったようだ。

「もう大丈夫だ。心配掛けたな」

レジェンドも問題なさそうだ。

そして昨日スクルド達と話したことをレジェンドにも伝える。

「懸命な判断だ。このままでは時の教団やパズズにも勝てない」
「だよなぁ…。強者が弱者に従う理由は大抵金か事情なんだよな」

オレは落ち込むが、そうも言ってられない。

そうしてオレ達は昨日メッチーが拾ってきた木の実や水などで朝食を取り、出かけることにした。

オレはジャックフロストとスクルド、レジェンド以外をライザーに納めて歩きだした。

襲われたらすぐにデビルチャージできるとも限らないんだし。

スクルドに関しては、実力を見るためだ。

それともう1つ。

「スクルド…、住んでた場所はどこだ?」

道案内が必要だからだ。

大体の場所はわかっているが、正確な位置までを掴んでいるわけではない。

「ここから北西に…2日もあれば着くだろう」

…おろ?以外。

「話に聞いたハーピーのアジトに運ばれて行った時に、近づいていたんだよ。
…私達の住処にな」

スクルドが表情を暗くする。

といってもメットを被っているので表情は分からないが。

「さあ行こう!!」









森を抜け、ひたすら殆ど何もない草原を歩く。

小屋を出発してから既に2時間。

オレは22歳だが、今の肉体は12歳程度。

12歳にしては背が大きめだが。

さすがに少し疲れてきた。

「なあ、休憩しないか?」
「うむ」
「ヒホッ!」
「さすがにお前にはキツイか…。我々デビルには何ともないが」

今現在オレ達は時の教団との戦闘を避けるため、戦いの気配が薄いルートを選んでいる。

途中、野盗らしきデビルにも何度か遭遇したが、全てあっさり払いのけた。

「野盗のデビルにも交渉かけてみたけど無駄だったしな…」

これ以上は特筆すべき点は無いので省略する。

あまりにもベタベタ過ぎる展開だったからだ。







~???視点~



現在優達から東に30キロ離れた地点で戦闘が行われている。

が、それももうすぐ決着がつきそうだ。

「…ぐはあっ!」

「ソル、トドメです」
「ライトハウリングッ!!!」

ライオンのデビル…セントソルレオンの放った光の波動がラーを直撃する。

パズズ達の言っていた【勢力】については彼らが直接関係があるわけではない。

セントソルレオンのある時の少年。彼の名前は草凪亮太(くさなぎりょうた)。

優よりも2週間先に転生してきたこれまた見た目は子ども、中身は大人な人である。

ソルレオンの愛称はソル。

【太陽のような印象を受けた。
ソルレオンだから、ソルでいいですか?】

と、ニックネームを決めた。

話を戻そう。

パズズ達の言っていた【勢力】は、時の教団の極1部。

それを亮太達が倒したが、ラーが亮太達を教団と勘違いしたために戦闘になった。

「…では、あなたは時の教団ではないのですか?」
「そうだっていってんだろ…」

亮太は真面目な性格だが、少し早とちりな部分もある。

「それにしてもそのソルレオンはすげーな…さらにランクアップしたら教団潰せるんじゃねーか?」
「自慢のパートナーです」
「ありがとよ」

ラーの賞賛に亮太は誇り、ソルも礼を言う。

「ヴェルザンディ…、ラーの治療をお願いします」
「はい」

時の女神ヴェルザンディ…。

彼は亮太の仲魔として行動している。

(スクルド…無事でいて…)

ヴェルザンディはそう思いながらもラーの治療を始める。

「イシトク、インドラ、ヴィーヴル、フレスベルクもお疲れ様です」
「トクッ!」
「フン」
「ありがとっ!」
「当然ですわ」

白い雪の小鬼、イシトク。

白い体に4本の腕を持つ戦士インドラ。

竜の尻尾と翼を持つ人型女性デビルヴィーヴル。

白い鳥のデビルフレスベルグ。

彼らもまた、亮太の労いに応えた。











~時の教団視点~


ここに1人の鳥型女デビルがいる。

アエロ―だ。

白い体に黒い翼を持つデビル。

教団のボスではないが、幹部の1人だ。

そんじょそこらのアエローとは違う威圧感がある。

かつてのヴリトラの雇い主でもある。

「佐伯優の方に時の女神スクルドが加わったか…。
草凪亮太の方にはヴェルザンディがついてしまった…。
ウルドは始末したからいいとして、少し草凪亮太に力が付いてきている…。
とんでもない成長速度ね…。
この上佐伯優のパートナーにまでランクアップされたら…まずい。
どうするか…」


アエローは力はそれなりに強い。

少なくとも今のヴリトラよりは。

しかし、アエローは頭脳で出世したタイプ。

「こうなったら、私が直接女神の場へ先回りして、佐伯優を潰した方がよさそうね」


アエローは口元に笑みを浮かべ、思考を巡らすのだった。




~あとがき~

もう1人の転生者が出てきました。

詳しいことはまだ秘密で…。



[24904] 第7話 アエロー 前編(修正)
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:da023e67
Date: 2011/02/17 22:48
~優視点~

「ダークハウリング!!」
「ギロチンブレイド!」
「メッチーッ!!」

レジェンドの闇の波動とスクルドの闇の刃が、突如襲いかかってきたデビルに直撃する。

その後にメッチーの放った電撃・ジオがデビルの顔を黒こげにする。

ちなみに、ジャックフロストとメッチーを入れ替えている。

どうやらこいつも野盗のようだ。

が、いつもと違う点がある。

いつもはなるべく殺さないように意識を刈り取るだけだが、今回は違った。

「ほお…つええな…オメェ。
なあ、オレをあんたらの仲魔にしちゃくれねぇか?」

なんと、自分から仲魔になりたいというデビルがいたのだ。

そのデビルはザントマン。

三日月の顔に肩に抱えた袋。そして手に持った目玉。

ザントマンは目玉をどこかにしまうと、オレ達に懇願してきた。

「頼む。生活を保証してくれんなら働くぜ。
これでも風魔法に覚えがある」

ザントマンの言葉に思案する。

「どうする?」

オレはレジェンド、スクルド、メッチーに意見を求める。

「決めるのはお前だ。我々はお前の方針に従うのみ」

レジェンドにそう言われちゃオレで決めるしかないか。

「じゃ、ついてくるか?」
「おうっ!ありがてぇ!!オレはザントマンだ!」
「オレは佐伯優。ま、よろしくな」

これは、女神の住処に辿り着くほんの2時間前の出来事である。

ちなみにザントマンは、医療班(ラクシュミとクロト)の治療を受けさせるために、デビダスに入れた。









女神の住処にたどりついた。

進入禁止の結界が張ってあったが、スクルドの承認で中に入れた。

ちなみにこの周りは殆どが岩山に覆われた景色だ。

アニメ版と大差はない。

「これは!!?」

スクルドが驚愕の声を挙げる。

「どうした?」
「女神の部屋の家具とかの配置が変わってるし、色々と変化がある…。
少し残留思念を見てみよう…」

そういってスクルドは何か意識を集中し始めた。

「何かもやがかかって…よくわからないが…ヴェルザンディ姉さん…!!
1度ここに戻ってきたのか!?」

ヴェルザンディの生存が分かったらしい。

オレも内心でほっとする。

「良かったじゃねぇか。姉さんが生きてて」

オレはスクルドにそう声をかける。

「ああ。姉さんは今はここにいないようだが、生きているだけで十分だ」

スクルドはメットを取り、出てきた涙を拭う。

やはり姉妹が生きているのは嬉しいようだ。

「…それと姉さんはここを去ったようだ。
…ソルレオンを連れた少年がいる。
姉さんはその少年の仲魔になったようだ」
「…なに?」

オレは驚いた。

ソルレオンはデビルチルドレンのパートナーデビル。

まさか、転生者!?

もう1人のデビルチルドレン。

「少年は、試練の間を使ったようだ。そこで見事パワーアップしたと言うべきか」
「そうか…。じゃあ、さっそく…」

スクルドの話を聞いてはやる気持ちを抑えられないオレ。

はやくパワーアップしたいし。

…この世界に来てからまだ10日程しかたっていないが。

「まあ待て、今日はもう休んで試練は明日にしてもいいんじゃないか?」

レジェンドがそう言う。

確かに今日もザントマンを含め結構な数の野盗が現れたし、歩きずくめで疲れている。

「寝るなら、そこのベッドを使ってくれ。
一応来客用のものだ。
水汲み場は左側で、奥がトイレだ」

スクルドが、部屋の隅にあるベッドやトイレを指差す。

…そうだな、とにかく今日は休むとするか。

と、その時。











「そうはいかないのよね」







と、あの時、ヴリトラを雷で黒こげにした時聞こえた女の声がした。



その時、オレとレジェンドは突如別の空間に飛ばされてしまった。

「優っ!!」
「メッチー!!」

スクルドとメッチーの声が聞こえたが、…もはや聞こえなくなる。




~スクルド視点~


姉さんが生きていてくれた。

私にはそれだけで十分だった。

姉さんはソルレオンを連れた少年の仲魔になったようだが、構わない。

ソルレオンの主は、悪い人間には見えなかったし、とりあえずは安心だろう。

今日は一先ず休息に当てようと思ったのだが、突然聞きなれない女の声とともに優とレジェンドがどこか別の空間に…、

いや、違う!!

これはここの部屋の中の空間情報が書き換えられている。

結界か!

2人はその結界に閉じ込められたのか!!

それにしてもその女はどうやってこの中に入ったのだ!?

…考えられるとしたら、私達が入るために結界を一時的に外してしまったからか…。

入れるタイミングはそれしかない。

「メッチメッチー!!!」

メッチーが必死に私に優達を助けに行こうと訴えているが。

「ダメだ…。この結界は外から破ることはできない…。
2人が中から出てくるのを待つしかない…」

そう言うと、メッチーはしょんぼりしてしまった。

…私とて悔しい。

怪しい奴の気配すら感じなくなっていたとは…。

気を緩みすぎた。

…優。出会ってまだ数日の関係だが、お前には恩を返せていない。

だから…無事でいて。

私達もなんとか外から助ける方法を探してみる。






~優視点~


ここは…。

「何もない真っ白な空間だな」

レジェンドが言う通りホントに真っ白だ。

その目の前に鳥型の女デビルがいる。

アエローだったか?

「自己紹介がまだだったわね。
私は【時の教団】幹部、アエロー。
覚えておいてちょうだいね」

アエローはその冷たい瞳と笑顔で自己紹介をする。

…もう1度言うが、目は笑っていない。

「オレ達を潰しに来たのか?」
「あら、随分察しがいいのね?
もう1人のデビルチルドレンには、力をつけられてしまったし、貴方には力をつける前に潰れてもらうわ」

アエローはそう言うと、黒い翼を羽ばたかせる。

オレもデビライザーを構え、

「デビルチャージ!」

レジェンドがアークヘイロンになる。

「今のあんた達じゃあ、その姿でも私に勝てないわ!!」
「やってみなくちゃわかならねぇ!!」

アエローの言葉にオレは反論する。

「ランクアップされたら、私など秒殺でしょう。
単純な戦闘能力で言えば、私は全幹部中最も弱い。
だから、ここに先回りをし、あの女神に結界を解除させたと同時に侵入し、この仕掛けを施した。
デビルチルドレンに力をつけられたら、厄介なことになるって【あの方】も仰られている。
佐伯優」

オレはアエローの最後の言葉に驚愕した。

オレは自己紹介してないぞ!?

すると、オレの思考を読んだのか。

「あの方は貴方ともう1人のデビルチルドレンの経歴や性格等も知っていらっしゃる。
私は詳しく知らないけど、あの方は貴方達に複雑な感情を抱いていらっしゃる」

…オレ達を知っているだと!!?

時の教団の総大将が!?

見れば、レジェンドも驚いている。

「さて、無駄口はここまで。あの方の覇道の邪魔になる貴方を消させてもらう!!
風の舞!!!」

アエローは、アエローなら魔装合体でしか覚えられない技で攻撃してきた。

オレはバックステップで距離を取り、レジェンドも回避していく。

「クラッシュクローッ!!」

レジェンドの爪の衝撃波が放たれるが、アエローには避けられる。

「せいっ!!」

アエローは、レジェンドに強烈な回し蹴りを放つ。

「グッ!!」
「チッ!!」

苦痛に顔を歪めたレジェンドに、オレは思わず舌打ちをする。

「体術…、素人レベルじゃない」
「当り前よ」

当然と言わんばかりに返すアエロー。

アエローは、攻撃の手を休めない。

右腕の翼をレジェンドに叩きつけようとするが、

レジェンドはとっさに回避。

「ダークハウリングッ!」

レジェンドは闇の光線を放つが左腕で防がれる。

「…今のはなかなか言い切り返しだったわ。
でも、スピードアップ…!」

アエローは、スピードアップで自らの敏捷を高めた。

「何っ!!?」
「驚いている暇は無いわ!!」

驚くオレ達をよそにアエローが右へ左へ動き始める。

「早い…!!」

敵は残像すら見える速度で動き始めたのだ。

「マハブフだ!!あれなら攻撃範囲は広い!!」
「応!!」

レジェンドにそう指示して、吹雪を吐かせるが、

「ざんてつは!!」

アエローの真空の刃にかき消されてしまう。

その余波はオレの左足に来てしまう。

「がっ!!!」

オレは倒れこんでしまう。

もがれなかったものの、左足からはかなりの出血だ。

血を止めないと命にかかわるかもしれない。

「い、意識が…」

オレはコールしようとデビライザーを構えるが、意識が朦朧としてきた。

「…こ、こんな…」

オレの意識は暗転した。









~レジェンド視点~


なんてざまだ…!!

パートナーを危険にさらしてしまうとは…!!

不覚…!!

「そうそう、この空間ではコールは無意味よ。
まあ、気絶しちゃったけどね」

アエローは余裕の表情だ。

…最初から私1人を倒して優を殺すことか…。

それが奴の狙い。

しかし、今の奴はスピードが速すぎる。

「ザンダイン!!」

奴の風の魔法が渦巻きとなって私に襲いかかるが、私はこれをよける。

「フフ…」

アエローは私の背後に回っていた。

しまった!!

「本命ッ!!」

奴の右腕の翼で私は背中を叩きつけられてしまう。

「ぐあっ!!!」

私は思い切り地面に叩きつけられ、そこで意識を失ってしまった。


「随分てこずらせてくれたけど、とどめを刺しましょうか」

そんな声が聞こえた気がした。







~優視点~


意識が…起きなければ。

しかし、足の激痛は想像以上だ。

これ以上の放置は壊死につながる危険性が高い。

こんなにも弱い体だったとは…。

ここまでか。

しかし、







『あきらめては駄目ですよ』





あなたは…?



『声だけで失礼するわ。
私は時の女神ウルド。
死人の状態なの。
私の魂の根元は、囚われているから、短い時間しか話せない上に、貴方の声は私には聞こえない』

…ウルド…。

それに囚われているって?

「あなたがこの世界に来たのは、偶然ではありません。
そして、力を覚醒させてそれ程時間もたっていないのに、あなたは強い。
戦う上での強さではなく、心が」

オレは…そんなんじゃ…。

『あなたは、確かに救えなかった人もいたかもしれない。
でも、救えた人もいるでしょう?』

あんたの妹とかもか…。

『立ち上がって。私がその貴方の鎖を外します。
…妹をお願いね』

こうしてその声は途切れた。

…まだオレは死んでいない。

…なら、オレかアエローが倒れるまで…、あがく!!!









「うおおおおおおおっ!!!」
「目覚めた!!?」

アエローは、あれほど出血した状態のオレが立ち上がったことに驚いている。

「デビライザーから鼓動が伝わる。
その意味もわかる」



ウルド…、あんたの妹はオレに任せてくれ。

「デビルチャーャャャャジッ!!!!」


意識のないレジェンドにデビルチャージを向ける。

こうして、レジェンドは変化を始める。

アークヘイロンよりも1回りも2回りも大きい紫の竜に。

力強く、雄々しいその姿はエアードヘイロン。


「うそ…想定外よ!!」

アエローは明らかに脅えている。

「「さあ、第2ラウンドと行こうか!!」」


反撃開始だ!!!

…確かに強くはなったが、オレは重大なことを見落としていた。

デビルチャージしても体力までは回復しないという事を、忘れていた。



~あとがき~

早い展開だなぁ…。

どれくらいの長さの話になるかは作者にも分かりません(オイ)

後篇に続きます。



[24904] 第8話 アエロー 後編
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:da023e67
Date: 2011/02/26 22:30
エアードヘイロンにランクアップした我がパートナーレジェンド。

オレは、この力なら簡単に奴に勝てると信じて疑わなかった。

しかし、

「ダークハウリングッ!!」
「ざんてつはっ!!」

両者の技がぶつかり合って拮抗する。

そう、それは【拮抗】に止まった。

「な!?」
「はあはあ…」

オレは驚愕するが、レジェンドは息を切らしている。

「どうやら、私とのこれまでの戦いでのダメージがまだ抜けきっていないようね。
これならば、私にも十分勝ち目がある」

先ほどの怯えが嘘のように自信を取り戻したアエロー。

女神の地に辿り着くまでの戦いと、こいつとの戦いが、レジェンドを疲弊させていたのだ。

パワーアップしても、スタミナが切れてしまえばそれまでと言うところか。

デビルチャージしても、体力までは回復しない。

そういえばすっかり失念していた。

アニメ版でも、ビフロンス戦で、デビルチャージで体力が回復した描写は無かった。

ランクアップの時はどうだったのだろうか?

不自然な体力回復が見られたのだが。

クロセル戦とかレミエル戦とか。

「レジェンド!攻めろ!
体力勝負に勝つしかない」
「止むを得んな…」

オレの特攻指示に、仕方なく肯定するレジェンド。

レジェンドが爪を振りおろせば、アエローが腕の翼で打ち払い、アエローが翼を横凪にすれば、レジェンドはバックステップ(?)でかわす。

レジェンドが尻尾を袈裟がけの要領で振りおろし、アエローの左肩に命中する。

アエローは、顔を歪めたが、すぐにザンダインの魔法で反撃し、レジェンドを吹っ飛ばす。

「随分と手こずらせてくれるわね」
「あきらめが悪いんでね」

アエローの苛立ちが混じった言葉にオレは皮肉げに返す。

「諦めが肝心という言葉があるわよ?」
「どうしても負けられないんだよ」

オレは、レジェンドに駆け寄り起き上がろうとするレジェンドの手助けをする。

「スマン…」
「謝るのはオレだ、レジェンド。
でも、絶対勝ってくれ」
「分かっているさ」

オレの無茶ぶりにも頼もしそうに答えてくれた。

「なら、オレは何とか手を考えてみよう」
「出来るかしら?」

オレの考えを呟くと。アエローは余裕めいた表情で、オレの言葉を疑う。

ふと、この結界の空間に【違和感】を感じた。

何か外から風を運んでくるような感じだ。

上を見ると空間にほんのわずかだが、不自然なヒビが入っている。

…あれを壊せば結界に入らなかったスクルドやメッチーに助けてもらえるか?

そこにアエローの唇が言葉を紡ぐ。

「何を考えているか知らないけど、決着をつけさせてもらうわよ」

オレは奴の言葉には答えずに、

「エアードエッジ」
「オオオオオオッ!!!!」

オレの指示にレジェンドは、方向を挙げながら、闇色の風を【上空】に飛ばした。

「ハハハッ!!照準もまともに合わせられないの?」

アエローが呆れた笑いをこぼすが、

「いや、これでいいんだ」

オレはニヤリと、自身の勝利を確信する。





結界は闇色の風によって斬り裂かれ、真っ白な空間は瞬時に崩れ去った。





瞬間、アエローの体は、上半身と下半身の2つに分かれていた。






「ごはあぁっ!!?」

アエローは自身の体を両断され、血反吐を吐いて倒れたのだった。





「スクルド…」
「よく内側から結界を壊せたな」

結界が破壊されたところで、元の女神の部屋の空間にもどり、そこにはアエローの体が2つに分かれて転がっていた。

結界が壊れた瞬間、スクルドの鎌が、彼女の体を引き裂いたのだ。

結界を壊すために罅を狙ってエアードエッジを指示したというわけだ。

「いろいろ聞きたいことはあるが、どうせ喋ってはくれまい」
「そうね…。貴方達に教える情報等ないわ」

アエローは血を吐きながら、オレの言葉に応える。

「なら…デビライズ…」

オレは、デビライザーをアエローに向けて、奴を封印した。

こうして、アエローの消滅を確認すると、オレは大慌てでクロトを召喚する。

敵がいなくなったことで、緊張が解け、左足の激痛を思い出したからだ。

こうしてクロトの出現を確認したオレは、意識を手放した。











~??視点~

「アエローがやられたか。
予想よりはやるようだね、優」

優の事を親しげに呟く謎の少年。

その容姿は整っていて、後数年もすればアイドルとしての人気を掻っ攫っていくほどであろう。

「しかし、こうまで短期間で力をつけられると楽しめないね…。
暫くは様子を見るか…?」
「王よ、恐れながら、私に任せては下さいませんか?」

少年の前にひざまずく1体のデビル。

「そうだね…、生死は問わないから優を無力化しちゃってよ。
方法は君の好きにしたらいい」
「は」

デビルの進言に、少年は楽しそうに指示をする。

「さて、キミ達がどこまでやるのか…、見させてもらうよ…優、亮太」


その少年は不気味に笑うと、いつの間にか現れた1体の女性型デビルの腰に手を回し、愛おしそうに手に力を込めた。








~レジェンド視点~

ランクアップは嬉しい誤算だったが、それでも苦戦したな。

優の咄嗟のひらめきがなければやられていた。

「それにしても、なぜ結界に罅が入っていたんだ?」

私は、クロトに治療されている、眠ったままの優を見ながらスクルドに問いかける。

「この結界は風の属性で出来ていたからな。
部屋の奥から大地のやりをひっぱり出してきて、それで空間を突き続けたんだ」
「なるほど…、弱点属性だからか、
本来魔装合体用のアイテムをそんな風に使うとはな」

私はスクルドの言葉に納得した。

魔装アイテムは、本来デビルと合体させて、新しい技を覚えさせるためのものだ。

「それから、デビライザーに使えそうなカードも見つけてきた」

そう言って、デッキケースを数箱見せる。

「カードの使い方は、大半が能力アップだが、これは優が目覚めたときに説明しよう」

スクルドは、カードをテーブルに置くと、優を見つめ続けた。

自分は回復魔法を使えないから、うらやましそうにクロトを見ている。

だが、クロトは料理が出来ないのだ。

「料理か?私もあまり得意ではないが…」

スクルドは、恥ずかしそうに俯く。

大抵は、ヴェルザンディがやっていたらしい。

「こんなことならもっと(料理の)勉強しておくんだった…」

それはどう見ても恋する乙女にしか見えないぞ、スクルド。

デビルと人間の間に恋愛関係が成立し、子どもを成した例はある。

そのハーフデビルが本来のデビルチルドレンだという説もあるくらいだ。

しかし、優の場合、デビゲノムと呼ばれる細胞が突然変異で現れたのだと思われる。

何億人に1人という確率だが…、優の場合は突然変異の可能性が1番有力だろう。









~クロト視点~

突然の召喚を受けて優さんが気を失った時はさすがに焦ったわね。

左足から血を流して倒れるんですもの。

でも、これなら私の治癒魔法で治せる範囲ね。

メッチーちゃんが、心配そうに優さんを覗き込んでいる。

私はメッチーちゃんに視線で「大丈夫」と、告げ、回復魔法を…、特に左足を入念にかけ始めた。

スクルドが優さんの事を心配そうに見ていたり、私に対しての信頼と…ほんの少しの敵意を感じた。

あらあら…まさか?

でも出会って数日の関係だけど、これまでの状況からその可能性は捨てきれないわね。

でも、私達は同じ主を持つデビル。

出来ればスクルドとは仲良くやっていきたいけど…。

でも、もし優さんが私達の誰かに気があるのなら…負けませんよ。

…しかし、恋のライバルと言うのはまだ増えてしまう事を、私もスクルドも、優さんにすら予測できなかった。

料理に関しては、例によって優さんの意識の回復を待ち、ラクシュミを召喚してもらって彼女にしてもらった。

…もしかしたらラクシュミも?

…もしそうなら料理ができない自分が恨めしい。

早く克服しないとっ!

…あ、もしかして

…優さんってまさかハーレム願望があるんでしょうか?










~ヴリトラ視点~

アエローが死んだか。

レジェンドのランクアップと言い、今回は優にしては上々だ。

だが、時の教団はまだまだこんなものではないことを、俺は少ないながらも知っている。

レジェンドから何があったかは聞かせてもらったが、その総大将が優を知っていること、さらに優に相当な執着があることを聞かせられた。

もしかしたら自体は想像以上にややこしいことになるかもしれん。

鍛錬にも精を出さんとな。







~あとがき~

次回はちょっとほのぼのしたいなぁ…



[24904] 第9話 女神の間の休息
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:da023e67
Date: 2011/03/03 22:42
アエローとの戦いから3日が経とうとしている。

オレの左足は、クロトの治療もあって回復の方向に向かっている。

感謝感謝。

女神の間にも食料の備蓄はあったが、スクルドが料理を苦手としているために、食事係は専らラクシュミが担当になってしまった。

その時、ラクシュミが

「胃から攻めるのが出来る女のコツよ」

とか言ってたのが気になる。

まさかとは思うがオレってフラグ立てたっけ?

普段の生活から徐々に惹かれていくってのは珍しくは無いが、一応オレはこっちの世界に来てからまだ1月もたっていないんだぜ?

クロトやスクルドもなんかオレを見ることがあるし…。

ザントマンは、「ニクイね旦那!」とか言ってくるシマツ。

ヴリトラは無言だし、レジェンドは目を逸らすし。

それはそうと、今日も女神の間で休んで明日立とうと思っている。




「クロトとスクルドが今のマスターにぞっこんならショタコンね」
「「余計な御世話だ(です)!!」」




~カードの説明~

「デビライザーに使えるカードだ」

スクルドが、デッキケースを数箱引っ張り出してきた。

綺麗なデザインがなされたカードは、デビルの力を一時的に上げるものだ。

種類も様々だが、リリカルな○はのとあるデバイスに組み込まれたシステム(伏せ字の意味があまりない)みたいなもんか。

オレはカードを1通り見た後ケースに仕舞う。

「いいか、カードは使い捨てな上に、簡単に言ってしまえば只のドーピングだ。
うまく使えば一気に形勢を有利にできるが、浪費は出来るだけ避けたいところだ」

スクルドの言う事は最もだ。

魔力の強化、属性攻撃の強化、鉄壁の守りをつける効果等々…。

結構種類も豊富だな。

何に使ったり、タイミングも重要だな。

カードを使うことへのリスクがあるのか聞いてみると。

「いや、殆どないだろう。
デビルの体は人間のそれと比べて遥かに強靭だからな。
使いすぎによる疲労や怪我は聞いたことがないが…、
心配なら出来るだけ計画的に使う方がいいだろう」

ま、そうだな。

スクルドの1通りの説明を聞き終えて、カードに関して気になることを聞いてみた。

「そう言えば、どうしてカードが女神の間にあるんだ?」
「デビルチルドレンの伝承は有名だと以前にも言ったな。
次世代の彼らが現れる…、いや、再び世界が戦乱に包まれることは予期されていたようにも思える。
…倉庫には保管してあったカードの数が合わないのだ」
「数が足りないってことか?」

オレはまさかと思い、スクルドに尋ねる。

「ヴェルザンディ姉様のマスターが持って行ったんだろうと思う」












~時を少し遡り~


ここにいるのは草凪亮太である。

試練の間に打ち勝ってルーンソルレオンから、セントソルレオンにランクアップした。

「デビライザーに使えるカードです。
これを使えば、デビルの能力を1時的に上げることができるでしょう」

ヴェルザンディが差し出したカードが亮太に手渡される。

「なるほど…使い捨てという事は、無駄遣いは控えなければいけませんね。
後で効果を確認してみましょう。
カードはこれで全部ですか?」
「いえ、スクルドがここに戻ってくる可能性もありますし、デビルチルドレンが貴方だけとは限らない。
もし、まだデビルチルドレンがいるのなら、彼らのために残しておくべきでしょう」
「分かりました」

こうして、亮太達は、カードを持っていったのである。













~時を現在に戻し優視点~

「ま、無理は禁物だな。ピンチになったら迷わず使う。
これでいいか」

こうしてカードの事はひとまず置いておく




~食事~

「さあ、出来たわ」

ラクシュミが作った食事は、フランスパンみたいなものに、チーズフォンデュ、トマトベースのスープ、
ベーコンと見たこともない緑野菜の炒め物だった。

種類は少ないが、量はそれなりにあるので、腹は膨れるだろう。

「お、うまいじゃねぇか」
「ありがとう、マスター」

オレは嘘偽りない感想をラクシュミに送る。

クロトとスクルドが若干悔しそうな顔をしていた。

「マスターは料理なさるんですか?」
「いや、オレは1人暮らしに困らない分しか出来ないからなぁ。
ここと日本じゃ、生活レベルも違うし、調理器具は向こうの方が使いやすかったし」
「ヒホヒホ」
「メッチー!」

ジャックフロストとメッチーが、何かを訴えている。

「いつか、マスターの世界の料理を食べたいと言ってますよ」

そうか、興味を持てもらえたのは嬉しいが、デビルが地球に来たらそれはそれで問題になる。

それにしてもラクシュミはいい嫁さんになれると思う。

チーズフォンデュは、硬すぎず柔らかすぎず程良い暖かさを持っている。

炒め物の野菜は、この世界特有の野菜で出来ているらしいが、見た目より甘さがある。

ベーコンの味がよく出ていて、非常にマッチしている。

トマトのスープも絶妙な味加減を出している。

「お前、ニスロクに生まれてもよかったんじゃねぇか?」

ザントマンが、ラクシュミにからかい口調で問いかける。

「ニスロクの中にも料理下手はいるわよ。
あれは6年前かしら。調理師免許の資格試験の時にね…」

オイオイ!!こっちの世界にも調理師免許なんてあるのかよ!!!

オレの表情で大体のことを察したクロトは。

「こちらでは飲食店全てが必ずしも必要と言うわけではありませんが、資格を持っていた方が優遇はされますね」

クロトが応えてくれた。

「それで、そいつ火の加減間違えて試験会場を火の海にしちゃったのよ。
その頃私は水魔法をロクに使えなかったから、消す手段もなくてね。
先生達だけの魔法じゃ沈下できず、それで結局そいつは3年間の受験禁止処分が言い渡されたの」

…料理の下手なニスロクって…。

アニメ版のピンクボールのカ○サキみたいじゃないか…?

メタな思考は置いておいて、

「クロトも私を手伝おうとしてたんだけど、危なっかしくてそいつを思い出しちゃったわ」
「わ、私がここを火の海にするとでもっ!?」

ラクシュミの発言に、急に危機感を出すクロト。

「おい!!ここを火事にされるのは困るぞ!!!」

スクルドが修羅の形相でクロトに詰め寄る。

「ひ~ん!!!」

クロトはとうとう泣き出してしまった。

「止めなくていいのか?」

レジェンドが、オレに向かってそう言う。

「クロト…、何でも慣れなんだ…!!
出来ないからって落ち込むな!!練習あるのみだ!!」

オレはとりあえず励まそうとするが、

「クロトはだめなんですぅ~。
お料理はっぴこっぴのダメダメ料理人なんですぅ」

もはや意味不明の言葉を並べて部屋の隅に蹲るクロト。

「…もう少し時間が経ってから慰めよう」

オレはクロトに哀れみの視線を送り、食事を再開した。








~能力確認~

「デビルチャージッ!!」

こうしてレジェンドは変身を開始し、エアードヘイロンになった。

「優の魔力も大分上がったな。これで我らの全体的な戦力も底上げされたはずだ」
「そっか、主の魔力量で大体の能力が決まるんだったな」

レジェンドの言葉にオレの魔力とデビルのステータスを確認してみる。

元から高レベルのヴリトラ、クロト、スクルドは能力の上昇は微々たるものだが、

レジェンドは大幅に上がり、他の仲間達もかなり能力がアップしている。

デビルによっては、新しい技を覚えている。

「しかし、ある意味試練の内容が塗り変わってしまったが、パワーアップ出来たことに変わりは無い」

オレはヴィネコンを見ながら、口の端がつりあがるのを隠せない。

「だが、これでようやく時の教団の幹部クラスと互角と言うだけだ。
教団を滅ぼすなら、さらにもう1段階のランクアップが必要になる」
「第4形態か…」

ヴリトラの言葉に、オレは苦い顔をする。

「血脈の証を取りこむのが1番早いが、あれは闇の神殿に残っているか疑わしい。
レベルアップでもランクアップは可能だから、血脈の証を見つけるよりは、自力で覚醒する可能性の方が高いと、私は踏んでいる」

スクルドが血脈の証という単語を出したので聞いてみた。

何でも、デビルチルドレンのパートナーデビルの力を覚醒させることができる、光の御子、闇の貴公子が残したものらしい。

ゲームでの知識はうろ覚えなので、そこまで詳しい設定は覚えていない。

しかし、炎と氷の書では、イベントを待たずともレベルアップでランクアップが可能なため、自力で覚醒させた方が現実性が高いらしい。

先ほどスクルドが言ったように、血脈の証は、あるかどうかわからないからだ。

デビルチルドレンのレベルは、パートナーや、仲魔のデビルが敵のデビルを倒すことによってレベルが上がってくる。

レベルが特定の数値を超えれば、自動的にランクアップできるはずだ。

能力の確認の大体は終わったので、明日立つために今日は眠ることにした。










「レジェンド」
「なんだ?」

オレは、寝る前に自らの相棒に話しかける。

「これから先の戦い…、やっていけると思うか?」
「やっていけるか、ではないだろう」

レジェンドは、やや呆れたように溜息を吐く。

「お前は我々に【勝て】と、そう命じればいい。
我々はお前の剣、そして盾なのだから。
間違っても、早まった真似はしないでくれよ」
「ああ」

そう、オレは味方を指揮するタイプ。

でも、オレはだからこそ…。

「スクルド達に言ってさ、逃げや回避の訓練だけでもしておこうかな。
オレは司令塔なんだから、【1番潰されたら困る】ポジションじゃない?」

そう、オレがデビルを使役する以上、誰よりも倒れてはいけない存在だ。

「オレが【もし】狙われたらどうしようもないじゃん。
最初の時もアエローの時も、それで足を引っ張ったんだし」
「そうか…、まあ、無駄ではないかもしれんな」
「だろ?」
「そう言う稽古を積んでおのもいいかもしれんな」

レジェンドは、そう納得して頷く。

「さあ、明日も早い。寝るか」
「そうだな」



この先の戦いに何が待っているかは分からない。

そして、黒幕、もう1人のデビルチルドレン。

頭を悩ます問題は山積みだ。

でも…前え進むしかないんだな。

元の世界に帰るために。



~あとがき~

設定上で「ここおかしい」みたいなところがあったらご指摘ください



[24904] 第10話 イシュタルとキュウキ
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:da023e67
Date: 2011/03/04 23:01
翌朝、1番に女神の間を発ったオレ達は、近くの町に向かう事にした。

と、道中山の道で2体のデビルを見た。

1人は金髪の美女に牛の角が生えたようなデビル。

1人は、翼の生えた赤いライオンのデビル。

「あれはイシュタルとキュウキだな。
キュウキの方に悪のエネルギー反応を感じる」

みれば、イシュタルは尻もちをついていて、キュウキが口に火を溜めて今にもイシュタルに放とうとしている。

さっそくレジェンドをデビルチャージして、2人の元に向かい、ライオン型のキュウキの方に

「ダークハウリング!!」

をかましたが、それは咄嗟に避けられてしまう。

「あなたは…?」

イシュタルがオレ達に何者かを問いかけるが、

「通りすがりだ」

オレはそう答える。

イシュタルは少し焦ったような表情で

「貴方が何者かはしりませんが、あのキュウキは時の教団の者です。
早く逃げて!!」
「逃げる?今は戦うしかないでしょ!
あっちの方がスピード速そうだし」

オレはキュウキの方が、スピードは上だと思っている。

それに、教団の者なら、見逃すという選択肢は無い。

「ジャックフロスト!!出てこい!1」

キュウキの炎属性には氷の攻撃が有効打になる。

ジャックフロストは召喚に応え、出てきた。

「ヒーホーッ!!!」

ジャックフロストは、新技、【ごっかんとうけつ】でキュウキの翼を狙い撃つ。

しかし、キュウキもそれを読んでいたのか、氷のつららをすばやく避ける。

「そんな攻撃がオレ様に当たるとでも?」

しかし、オレは予想していた。

そこでこいつ等の出番だ。

女神の間で手に入れたカード。

無駄遣いはできないが、幸いたくさんある。

スピードアップの効果のあるカードをライザーに差し込んで、レジェンドとジャックフロストに使う。

デビライザーから出る光線が、2人をパワーアップさせる。

「なっ!!急に動きが素早くなった!!!」

キュウキは驚いて、アギダインを2人に向けて連射するが、当たるはずは無い。

「その力…デビルチルドレン…」

イシュタルは、オレを見てそう呟く。

イシュタルがどう思ったかは知らないが、今はキュウキの討伐に全力を向けるのみ!!

「ダークハウリング!!」

レジェンドの攻撃がキュウキに当たり始めてきた。

素早く避けようとするキュウキだが、それ以上のレジェンドのスピードにはついてこれないのだろう。

「アギダイン!!」

キュウキの放つ巨大な火の玉が、なんとオレ目がけて放たれた!!

レジェンドとジャックフロストは、オレから離れているため、オレの救助は間に合わない。

その時、

「ゴッドハンド!!」

イシュタルがオレを守るように自らの光の拳でアギダインを相殺した。

あの巨大な火の玉を拳で弾け飛ばすなんて…、かなりのレベルだな…。

「大丈夫?」
「ああ、ありがとう」

オレはイシュタルに礼を言う。

「デビルから出来るだけ注意を逸らさないで、私も戦うわ」
「いや、その必要はない」

イシュタルが加勢に入ると言うが、キュウキ達3人を見ていると、戦闘は既に佳境に入っていた。

まず、ジャックフロストが、【下手な鉄砲数撃ちゃ当たる】みたいなテンションでブフを連発。

氷の魔法がキュウキの体に当たり、ダメージを蓄積させて行く。

「くそ!!こんな奴らにオレ様が…!!」

キュウキはそう言うが、カードの効果と、オレ達のパワーアップには及ばなかっただけのこと。

「レジェンド!!」

オレはレジェンドにとどめをさすように指示。

「エアードエッジ!!!」

レジェンドの口から吐き出された闇の竜巻とも言うべき風が、キュウキのどてっ腹に直撃した。

「ぐぎゃああああっ!!!」

激しい断末魔の悲鳴を上げながら、キュウキはその命を散らした。





決着がついたので、悪のエネルギー反応がないイシュタルに事情を聴くことに。

「イシュタルさんは時の教団に対して何かあるの?」
「いえ、ですが私は友達が時の教団に捕まったので、助けたいと思う一心で動いていましたが…」
「さっきのキュウキと戦った感じじゃ、自分一人じゃ太刀打ちできないと?」
「はい…」

イシュタルは、それきり無言で俯いてしまう。

…時の教団の総大将って、オレやもう一人の事を知ってるって言ってたっけ。

「貴方達に折り入って頼みがあるの」

イシュタルが、かしこまって言う。

大体見当は付いているが。

「私を貴方の仲魔にしてください。時の教団に捕えられた友達を助けたいのです」
「確かにオレ達の目的も時の教団にあるから、それは構わないけど、必ずしも友達に会える保証はないぜ?」
「分かっています。ですが、あなた達といた方が…デビルチルドレンのバックアップがあれば私も貴方達のお役にも立てます」

真剣な表情のイシュタル。

「わかった。これからオレ達と共通の目的の元、力を貸してくれ!!」
「はい」

こうして新しい仲魔、イシュタルがメンバーに加わった。

…しかし、そのイシュタルの友達にあのような事が起きるとは…。

イシュタルもオレも想像していなかった。






今回の戦いは、思いのほか楽に勝つことができた。

これならうまく戦えば、時の教団に襲われても何とかできるレベルだ。

しかし、ヴリトラが言っていたように、幹部クラスの連中の実力はアエロー以上。

アエローは、戦闘力で言えば幹部中最低クラス。

そんな奴に勝ったくらいで調子に乗るなってことか。

これからの戦い次第で天国にも地獄にもオレ達の状況は変わる。

さっきだって、オレに向けて放たれたアギダインは、イシュタルが守ってくれなければオレは火だるまになっていた。

こりゃ…本格的に修行してみるかな。

【力】

これが強いに越したことは無いが、力と強さは必ずしもイコールとは言えない。

本当の強さとは何か。

オレがこの答を得るにはまだしばらくの時間を必要とする。





~イシュタル視点~

デビルチルドレンの仲魔になれたことは、このご時世では幸運だったと言えよう。

私1人で教団に立ち向かおうとしても、先ほどのキュウキのようにやられていただろう…。優くんの助けがなければ。

デビルチルドレンの仲魔になったデビルはマスターの契約の縛りを受けるが、その代り魔力によるサポートが受けられるので、
私のポテンシャルを遺憾なく発揮できるだろう。

私の友達はデビルのフレイア。

私よりも魔力が多いので、その魔力を利用される可能性は高いだろう。

フレイアは戦う事が苦手なので、抵抗も出来ずに魔力を絞り取られる…。

そんな事を想像してしまう。

さらに女性なので、男性デビルの慰み者になる可能性も否定できない。

最悪の方向ばかりに思考を向けてしまう。

彼との契約を願い出たのは友達を助けるためだったが、優くんも時の教団に用があるという。

聞けば、時の教団の総大将は彼ともう1人のデビルチルドレンを知っていて、目の敵にしているそうだ。

にわかには信じられなかった。

しかし、先日にアエローと言うデビルの話を聞いた時にはその信憑性は少し増した。

わざわざ女神の間に先回りしてまで優くんを殺そうとしたのだ。

さらに聞けば優くんは異世界人だという。

異世界と言う概念は珍しくは無い。

…これは私見だが、優くんがこの世界に来たのは偶然ではなく、教団の総大将が優くん達を連れてきたのではないかと思う。

それも、殺したいけど、まるで優くんの力を試すように

そうでなくては、わざわざこちら側に呼び寄せる意味は無い。

地球のどこかであっさり殺してしまえばいいだけの話だ。

…これはさすがに考えすぎかしらね。

とにかく、出番があるまで休むとしますか。





~あとがき~

今回はいたって普通。

ピンチもくそもない。

でも、こんな話があってもいいと思います。



[24904] 第11話 幕間1
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:da023e67
Date: 2011/03/09 22:23
ここは岩山に覆われたとある山。

優達がイシュタルを仲魔にしたその時、草凪亮太達はある1体のデビルと、その手下のガーゴイル達と戦っていた。

馬のような虫のような緑色の外見にに赤き鋏(はさみ)を持つデビル、バビルザク。

「ザンマ!!」

バビルザクは風の魔法で亮太達を追い詰める。

しかし、怯みはしない。

「ソル!イプシロンボム!!」

セントソルレオンのソルは主の意思に応え、口から赤白いエネルギーを何発も打ち込んでいく。

そのエネルギーは、ガーゴイルやバビルザクを捉えて着弾と同時に爆発する。

ガーゴイル達はその衝撃に耐えられずに撃墜されて落下していく。

亮太はしてやったりと笑うが、すぐに表情を消す。

バビルザクにはあまり聞いていないからだ。

「咄嗟に鋏を盾代わりにしたのですね…。
…ラケシスでは相性は微妙ですね」

亮太は、バビルザクの動きに感心する。

「まわしげり!!」

バビルザクの4足歩行であるはずの足、それも後ろ脚を器用に振り回してソルの体を捉える。

ソルはわき腹に蹴りをもらってしまい、大きく吹っ飛ぶ。

「うわあああぁあぁっ!!」

ソルは、地面に叩きつけられてしまう。

「あたしを忘れないでね!マハラギオン!!!」

ヴィーヴルが手にしたロッドを振りかざして、炎の上位魔法を唱える。

その炎はあっという間に周囲を蹂躙してガーゴイル達を纏めて凪払う。

ガーゴイル達は1撃で撃墜され、どんどんと地面に落ちていく。

バビルザクは、またしても鋏で防御し、次の攻撃を叩きこむ。

「ムドオン!!!」

闇属性の強力な魔法をヴィーヴルやソルを蹂躙していく。

「ぐあああああっ!!」
「きゃああっ!!」

二人は苦しさに悲鳴を上げるが、ソルに気絶の追加効果が発動してしまった。

「す、すまねぇ…」

ソルは、それだけを言い残し、気を失ってしまった。

「コール!!ヴェルザンディ!!」

亮太はすかさずヴェルザンディを呼び出し、彼女の光の魔法で対抗しようとする。

「ムドオン!!」
「マカラカーン!!!」

バビルザクが闇の魔法を唱えたが、ヴェルザンディが魔法を跳ね返す障壁を張り、ムドオンは跳ね返された。

「ぐあっ!!!」

しかし、バビルザク自身も闇の属性のため、ダメージは大したことは無い。

バビルザクがのけぞっている間にヴェルザンディは素早く魔法を唱える。

「サマリカーム!!」

復活の魔法でソルを治療する。

「すまねぇ!助かったぜ」

ソルは、ヴェルザンディに礼を言うと、再びバビルザクに向かって走り出した。

「マハンマ!!」

セントソルレオンを始め、光の属性のデビルの多くが習得する光の上位魔法。

その波動がバビルザクを捉える。

「ぐ…なめるなぁ!!!」

バビルザクが猛スピードでソルに近づき鋏をソルに叩きつける。

「ぐああっ!!!」

ソルは軽い脳震盪を起こし、たたらを踏んでしまう。

「光の裁き!!」

ヴェルザンディの放つ光が上空に舞い上がり、その光の雨がバビルザクに襲いかかる。

しかし、バビルザクはそれをことごとく避ける。

「当たらなければどうという事は無い!!」

バビルザクはまわしげりをヴェルザンディの腹に叩きこみ、鋏で顔を殴りつけた。

「ああっ!!」

ヴェルザンディのつけていた仮面が吹き飛んだ。

亮太は、彼女と契約した時に顔を見ているが、腰まで届く銀髪にややたれ目気味の赤く穏やかな瞳をしていた。

今の一撃で唇を切ったのか、血を流している。

「ソル、立てますか」
「ああ、問題ない」
「このままでは埒が明きません」

そういと、亮太はカードを取り出し、それをソルに向けて放った。

攻撃力アップのカードだ。

亮太はソルの安否を気にしたが、ソルはまだ戦えるようだ。

「これで終わりにしてやる!!ザンマ!!!」

バビルザクが放った風の魔法で亮太達を攻撃するが、亮太達はこれをかわす。

ヴェルザンディはマカラカーンで、ザンマの魔法を跳ね返す。

風の刃はバビルザクに向かっていくが、そんなことは想定済みと言わんばかりに、避けるバビルザク。

と、

「喰らえ!!イプシロンボム!!!」

ソルは、バビルザクのはるか上空にジャンプし、下にいるバビルザクに向かって、赤白いエネルギー光球弾を4発放つ。

しかし、それは先ほどのイプシロンボムの攻撃力を遥かに上回る。

カードのおかげだ。

「ぐああああ!!!」

イプシロンボムは、着弾と同時に爆発を起こしバビルザクの体を破壊していく。

「ぐ…」

バビルザクは懸命に耐えようとするが、もう限界なのかボロボロになった鋏を地に下げ、その足を曲げてしまう。

そこでチャンスと言わんばかりに亮太はデビライザーをバビルザクに向ける。

「デビライズ」

デビライザーから放たれた白い光に飲み込まれ、バビルザクは消滅した。

「ふう、時の教団の幹部らしかったですが、ソル達をここまで追い詰めるとは」
「まあ、もうちょっと上手くいくと思ったんだけどなぁ」

亮太とソルが今の戦闘に対して口々に感想を言う。

「敵も力をつけ続けています」
「だからあたし達ももっとレベルアップしなきゃだね」

ヴェルザンディとヴィーヴルがこれからも力をつけていこうと亮太たちを励ます。

「そうですね。こんなところで立ち止まっているわけにもいきませんし、次の町で少し休んでまた出発するとしましょう」

亮太はこれからの方針を口にすると、町を目指して歩を進めた。

「もう1人のデビルチルドレン…まさか優じゃありませんよね?」

時の教団からもう1人のデビルチルドレンがいると聞き、それが自分の友であるかと一瞬思ったが。

「まさか…ね」

しかし、亮太の予想は当たっていた。








~あとがき~

今回も短いですね…。
文才云々よりも文章力を磨くべきですね…私は。



[24904] 第12話 フレイア
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:da023e67
Date: 2011/03/18 21:49
イシュタルが仲間になって早数日。

これまでも教団の兵や野盗が襲いかかってきたものの、難なく撃退。

幹部クラスの連中の強さではなかったので、楽に撃退できたのは相手が雑魚だからだろう。

まあ、かといって手を抜いていいわけではないが。

しかし、人間誰しも適度な休息は必要なので、今辿り着いたのにぎやかな街でしばらく休もうと考えていたところだ。

どうやらこの町はアトラスと言うらしく、街の創設者の名前を付けたんだとか。

ここのところ野宿ばっかだったので、久しぶりにベッドで休めると思うと安心感を覚える。

「よし、今日はここの宿で休もうか」

オレの言葉にレジェンドは特に反対するでもなく頷く。

「買い物には私が行きますね」

クロトがそう言ってきた。

「次の町まで徒歩で3日か。日持ちする食料は必須だな。頼むぜ」

オレはクロトにお金を渡し、買い物を彼女に任せることにした。

一応荷物持ちにヴリトラをつけて。

こうしてオレ達は町のホテルに入り、チェックインを済ませて、従業員に中に案内される。

部屋に案内されるなりオレは早速ベッドにダイブし、うつ伏せになった。

「あまり行儀がいいとは思えんぞ」
「悪い悪い。でも暫く寝たいんだよね」

レジェンドの注意にオレは軽く謝りながら、早速寝息を立てた。

一応ザントマンとイシュタルを外に出しているので、警戒を彼らに任せることにした。






~レジェンド視点~


優…、ホテルに着くなりいきなり寝るとは。

まあ、優は子どもだしこれまで歩きずくめだったので、体を休めることは必要だろう。

行儀の悪さについては軽く注意したが、疲労の度合いを考えるとあまり強くは言えないな。

「レジェンドの旦那、これからどうするんです?」
「どうするも何も優が回復するまでは、この町で落ち着くしかあるまい。
焦っても仕方のない旅だ」

ザントマンがこれからの方針を尋ねてくるが、私は現状休むしかないと伝える。

「では私はお風呂に入ってきますね」

イシュタルがホテル施設の入浴場を使うつもりのようだ。

デビルでも女性は女性。

人間ほど早く体が汚れることは無いが、それでも気になるのだろう。

部屋に残されたのは、寝ている優と私とザントマンだけになった。

「旦那…、優の旦那はなんか子供っぽく見えないですよねぇ」

突然ザントマンが私に向けて、優のことで疑問に思った事があるのかそんなことを呟いた。

確かに年齢の割に落ち着いたところがあるのは、私も疑問に思っていた事だ。

「だが、言葉づかいと、この世界に慣れていないところから大人の落ち着いた態度と子どもっぽさが両方混ざっているような印象は受けるな。
何か隠して言う量にも感じられる」
「ですよねぇ」
「まあ、本人に言う気がないのなら私達は深く詮索はせん。
優がどんな人間であろうと、この世界を救済する可能性を持った人物。
我々デビルは、彼の剣となり、盾となる。それだけだ」

私はそれだけを言うと、優の方を見た。

寝ている顔はやけに子供っぽい。

少々ぶっきらぼうだけど、心の優しい人間だというのは疑いようのないところ。

思えば、異世界に来たというのに、割とそれをすんなり受け入れた。

デビライザーやヴィネコンについても殆ど使い方を教えていないはずなのに、すぐに使いこなしてしまっている。

「…まあ、何者であろうと私のある時は優だ」

私はそう呟いた。



~第3視点~

優が眠ってから暫く経つ。

レジェンドとザントマンは、殆ど言葉をかわすことなく体を休めるように座っていた。

と、その時。

「ただ今戻りました」

クロトとヴリトラが荷物を持って戻ってきた。

食料と旅の生活必需品だ。

レジェンドは荷物の入った袋を受け取り、中身を確認する。

「まあ、これくらいの装備は必要か」

内容に満足したところで袋を床に置いて、鞄に入れたりと整理する。

「イシュタル…風呂にいつまでかかっているのだ」

レジェンドがもう一人の仲魔の存在がいつまでも戻ってこないことに若干声を荒げる。

と、


「あれを見てください!!」

クロトが指示した方向を見ると、街の外れで火の手が上がっている。

「優!起きろ!!非常事態だ!!」
「…何!?」

レジェンドが優を起こし、優に窓を見るように促す。

火の手が上がっている様子を見ると…

「…ただ事じゃねぇな」

ようやく意識が覚醒したようだ。

「それと、イシュタルが戻ってこない」
「…なんだと!?」

優がその言葉に目を細めると、急いでホテルから出て、火の手が上がっている方向に向かった。








場所は街の外れ。

そこに対峙している2人の女性。

イシュタルと、翼をはやした女性のデビル、

「フレイア…、何でこんなことをするの!?」

イシュタルがフレイアに向かってフレイアに呼び掛ける。

「これ以上死体の山を増やしたくなかったら、デビルチルドレンを出しなさい」

フレイアは無表情でそう言った。

2人の周りには逃げまどう人間とデビル。

黒こげになったおびただしい数の死体。

フレイアは、優をおびき出すために電撃魔法で街を破壊し始めたのだ。

「マハジオダイン」

フレイアは、ジオ系の最強の電撃魔法をイシュタル目がけて放った。

「マハジオンガ!」

イシュタルも抵抗するが、雷魔法の威力はフレイアの方が上。

相殺できずにフレイアの雷をもろに受けてしまう。

「きゃああああぁぁっ!!!」

イシュタルは雷魔法で全身の痺れを感じながら絶叫する。

あまりの強烈な雷に膝をついてしまう。

それを見たフレイアは、特に感情を表すでもなくイシュタルを見ている。

「こんなに弱かったかしら…あなた。
いえ、私が強くなりすぎたのね」

フレイアは、倒れこんだイシュタルにとどめを刺そうとするが、

「ダークハウリング!!」

既にデビルチャージ済みのレジェンドの一撃によって阻まれた。

「イシュタル!!」
「…現れたわね」

駆けつけた優達を見て僅かに目が細まるフレイア。

気絶してしまったイシュタルは優が見る。

とりあえず息はあるので、回復のカードを使い、イシュタルを癒す。

「デビルチルドレン…、貴方達を殺すわ。
命令だから悪く思わないでね」

フレイアは、そう言って電撃魔法の構築を始めた。




~イシュタル視点~

どうしてこんなことになってしまったの?

フレイアはこんな殺生や意味のない破壊なんて嫌いなデビルのはずだったのに。

子どもの時から一緒だった。

遊ぶのも、勉強するのも、ご飯を食べるのも、寝るのも一緒だった。

時の教団が現れてからは、全てが引き裂かれた。

私は助かったけど、フレイアは囚われてしまった。

フレイアが時の教団に連れ去られて何をしていたのか、何をされていたのか。

洗脳?

それとも人質?

…人質の線は薄いだろう。

そうでなければあんな無表情でいられるはずがない。

そうなると、考えられるのは洗脳されてしまったという事。

デビルチルドレンである優くんを殺すと言っていた。

それも、おびき出すために街を破壊し、人を大量に殺してまで。

…倒すしかないの?

子どもの頃からの親友だった彼女を殺すなんてしたくない。

…でも、フレイアがこれ以上罪を犯すなら…。

私にそれができるのかしら…?

「オレを殺す命令だと…?」

優くんがフレイアの言葉に少々苛立ったように言葉を紡ぐ。

「そう…あの方からは生死は問わないって言われていたけど…、なんか面倒だから適当に殺してあげるわ」

無表情のままフレイアは呟いた。

…私は、…私は!!!




~あとがき~

3月11日、未曾有の大震災でご無事な方も多いですが、亡くなられた方、行方不明者も多いようです。

亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、行方不明者の無事を祈ります。



[24904] 第13話 悪魔覚醒
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:da023e67
Date: 2011/08/17 00:22
~優視点~

目の前にいるイシュタルを襲った翼の生えた女デビルはフレイアだろう。

ヴィネコンでスキャンしたし、間違いない。

「優くん待って!!」

イシュタルが戦闘態勢に入ったオレ達に待ったをかける。

「何だ?」
「彼女は私の幼馴染なの!…だから説得させて!!」

イシュタルは懇願するようにオレに呼び掛ける。

するとフレイアは

「まだそんな甘い事を言っているの?私はあの方に仕えるデビル。
貴女はデビルチルドレンに仕えるデビル。
ならば…後は殺し合いでしょ?」

そう言ってフレイアはマハジオダインを放つ。

超強力な電撃は、現実世界で言うなら下手なマンションを4~5棟纏めて一撃で消し飛ばせるほどの破壊力だった。

オレはレジェンドに首根っこを掴まれて回避させられた。

クロト、ヴリトラ、ザントマン、イシュタルは直撃は避けられたが、余波は避けられず、少なくないダメージを負った。

「フレイア…」

イシュタルは、左脇腹に傷を負いながらもフレイアに呼び掛ける。

「…あなたといた時間は楽しかったけど…、【あの方】の理想に賛同したから時の教団に入ったのよ。
貴女とは考え方が違う。人間とデビルの共存なんて出来はしない。人間は滅ぼすのよ」

…人間とデビルの共存?

フレイアの言葉を真に受けるなら、時の教団のボスはデビルだけが生きる世界を創ろうとしている。

イシュタルは、人間とデビルが共存できると考えているのだろう。

…この世界に来てから…、いや、ハーピーのアジトを脱出したあたりから思っていた。

「…フレイア!!」

この世界は人間の数が異常に少ない。

一体人間の殺戮はいつから続いているんだ?

…人間と異種族の共存は漫画とかなら割とよくあるテーマだ。

しかし、いざ現実に直面すると考えさせられてしまう。

人間側がデビルに何をしたんだろうか?

「貴女はデビルだし、幼馴染のよしみで生かしてあげてもよかったけど…、そいつの仲魔になってしまっては仕方ない。
それに、その少年に【面倒な事】が起きる前に始末しておかないとね」

…オレに面倒なことが起きる?

「何を言ってやがる?」

オレはフレイアに問いかける。

すると、フレイアは失望したように

「あら…、何も知らないのね…。本来その力は人間が持つべき力ではないのよ。
…まだ潜伏期間のようね?」

と言いやがった。

潜伏期間?

オレに植え付けられた力はデビルチルドレンとしての力。

ただ、それはデビゲノムによるものだ。

…となれば

「…デビゲノムに何があるんだ?」

オレは再びフレイアに問う。

「…教えてもいいけどそれじゃつまらないわね」

答える気は無いってか。

「…マハジオダイン!!」

フレイアはもう話す事は無いと言わんばかりに電撃を放った。

「マグカジャ!!」

レジェンドが咄嗟に防御魔法で魔法防御を高めたので、オレのデビル達のダメージは少なく済んだ。

「最上級の魔法は強力だけど燃費が悪い、普通ならね。
けど私は【あの方】バックアップのおかげでほぼ無尽蔵に魔力が使える」

フレイアがそんな事を言った。

無尽蔵だと?

それが事実なら、フレイアのMPは無限か。

いくらマグカジャで魔法防御が上がっても、何発も撃たれたらさすがにまずい。

「ディアラハン!!」

クロトが回復魔法を使って仲魔の回復をするが、それは追いつかない。

メディアラハンであれば、仲魔全体を一度に回復できるがメディアラハンはクロトは習得していない。

ディアラハンはあくまで有効範囲は1人なのだ。

「マハジオダイン!」

さらに電撃を放つ。

…こいつ、さっきからマハジオダインしか使ってこない。

戦闘経験が少ないのだろうか。

ならば強力な魔力でごり押ししてくるのも納得だ。

「優、考えている事は大体分かるが、火力だけなら向こうの方が上だぞ」

レジェンドが視線をフレイアに向けたままオレに言ってくる。

そうは問屋がおろさない。

「ザントマン!スクンダだ!」

オレはザントマンに指示を出す。

「あいよ!旦那!!」

ザントマンの体から怪しい光が放たれる。

「!?」

フレイアは怪しい光の効果を受け目を両手で覆う。

「…こざかしい」

忌々しげに呟くフレイア。

スクンダの魔法は相手の命中率を下げる技。

フレイアはマハジオダインを連射するが、オレ達に直撃させることはできない。

「ならば…」

フレイアはまたマハジオダインを唱える。

「同じパターンとは芸がないな!!」

オレはそう言う。

が、先ほどよりも強力な電撃が来た。

オレは咄嗟に横に飛ぶが、避けきれずに電撃を体に受けてしまった。

「がああああああああっ!!!!!」

オレはあまりの痛覚に耐えられず叫ぶ。

「優っ!!!」

レジェンドが叫ぶが耳に入らない。

…フレイアの特殊能力、【集中】か。

集中のレベルに応じて魔法の威力が上がる特殊能力。

この局面で目覚めるとはな…。

「ところで、あなた誰か女デビルを抱いた?」

フレイアがそんな事を聞いてきた。

「な、何を!!?」

オレはかなり動揺してしまう。

幼児化する前も【そういう】経験は1度もないし、今は小学5~6年生くらいの肉体だ。

「ふうん、随分初心なのね?誰かに筆おろししてもらったら?」

…随分下ネタを入れてくるじゃないか。

イシュタルはそうでもないが、クロトは顔を赤くしているし。

それにしてもなぜそんな事を聞く?

フレイアはそんなオレ達の様子に再び失望しながら、

「…やっぱり知らないのね。まあ、知る必要もないわ…。
何故なら貴方はここで死ぬのだから!!」

フレイアはまたしてもマハジオダインの詠唱をする。

このメンバーじゃ厳しい…。

オレはスクルドをコールしようとデビライザーを構える。

しかし、それを見たフレイアは、

「させるとでも?」

マハジオダインでオレを狙ってきた!!

マズイ!!

オレは咄嗟に後ろに飛んでダメージを減らそうとするが、それだけで避けられるはずもなく、感電してしまった。

「あああああああああっ!!!」

再び電撃を受けてしまったオレの意識はそこで途絶えた。





~イシュタル視点~

優くんが気を失ってしまった。

これでこちらのチームは司令塔を失ったことになり、非常によくない展開だ。

「エアードエッジ!!!」

レジェンドが、風の刃でフレイアに応戦するが、火力だけならフレイアが上。

ザントマンのスクンダが効いてはいるが、魔法を広範囲に連発してくるフレイア相手には効果が薄い。

優くんがスクルドを召喚する前に気を失ってしまったので、レジェンド、クロト、ヴリトラ、ザントマン、私で何とかしなければならない。

クロトは優くんに駆け寄り、彼の体を診る。

「命に別条は無いけど、このまま放置も出来ません…すぐに治療を…」

と、クロトが優くんに手をかざした瞬間、何か優くんの体が脈を打っているような感覚が見て取れる。

「ダークハウリング!!」
「ジゴクづき!」
「ザンマ!!」

レジェンド達は、必死にフレイアの攻撃が優くんに行かないように応戦している。

私も動けるようになったので、フレイアを止め、説得するためにレジェンド達の加勢に入る。

その瞬間、




ドクンッ!!!




そんな音を聞いた気がした。

何かと思って後ろを見てみると、そこには、

黒い翼が生え、

目が真っ赤に染まり、

爪が伸び、牙が生え、

服に隠れてよく見えないが、タトゥーのような紋章を右腕に表した優くんがいた。

それも、人間では考えられないような膨大な魔力量を持って。

その瞳は…、フレイアを捉えていた。

「ぐぅるるるる…!!」

その姿はまるで獣。

隠そうともしない強烈な殺気。

「…う、嘘よ…!!予想より遥かに早いタイミング…!!」

フレイアは明らかに狼狽している。

すると、優くんの姿が消えた。

「!?」

誰にも視認できない速度でフレイアに肉薄したのだ。

この現象に誰もが驚愕している。

「ガルルルルル…ッ!!!」

優くんは、フレイアの首を右手で掴んだ。

「…!!」

呼吸器道を塞がれているのか、上手く声が出せないフレイア。

「ガアアアアァァァッ…!!!」

優くんは左手で

フレイアの頭を掴む。

…まさか!?







瞬間、フレイアとの思い出が走馬灯のように頭をよぎった。



やめてっ!!!!!!!!!!


私はそう叫んだが。


優くんは



無情にも



フレイアの首を



捻じ切った。


ブシュウウウウウウッと噴き出るフレイアの返り血を浴びて、全身がどす黒い赤に染まる。

彼はフレイアの死体をゴミの用に投げ捨てると、レジェンドに向かってその爪を振るい始めた。

私はフレイアが死んだと認識した瞬間に足の力が抜けてしまい、上手く立つ事が出来ないでいる。

「やめろ!!!優!!敵はもういない!!!正気に戻れッ!!!」

ヴリトラ達も優くんの攻撃をよけながら説得を試みる。

しかし、優くんは暴れる事を止めない。

「仕方ない、気絶させよう」

レジェンドは、そう言ってダークハウリングを放つ。

闇色の光線が優くんの体に直撃した。

しかし、

「ガルルルル…」

全くの無傷で立っている優くんがいた。

「どうする…!?下手に強力な魔法を使えば、優を殺しかねないし…」

レジェンドが己がパートナーに対し、どうしようか思案しているところに。

「グアアアアアアッ!!!!」

優くんが爪を振るい、レジェンドに傷を負わせる。

「ぐうっ!!!」

レジェンドが苦しむ。

レジェンドの出血が多い。

ヴリトラのアギラオ、ザントマンのザンマでも、優くんの暴走を止めるどころか傷すら付けられない。

「どうすればいいんだ…!?」

一同がそう呟いた時、



「ジオッ!!!」


その電撃が優くんの体を吹っ飛ばした。

「何!?」

その現象に驚きを隠せない皆。

そこには優くんと同じ年くらいの少し浅黒い肌の少年がいた。

緑色の長く、縛って纏めた髪の毛、

赤い瞳、

これまた緑を基調とした服、

そして黒いブーツ。


その彼はフレイアの死体を見て。

「一足遅かったか」

そう呟いた後、再び起き上がった優くんを見る。

「デビゲノムの暴走か。ただひたすら闘争本能だけで生きる状態になったか。予想より早いな」

彼はそう言いながらかかってくる優くんの攻撃を何なく避けた後、優くんの腹部に強烈なひざ蹴りを叩きこむ。

「グバアッ!!!!」

優くんは口から血を吹き出し、仰向けになって倒れた。

「優!!!」

レジェンド達は優くんに近づく。

私は緑色の少年に視線を向け、

「貴方は何者…!?」

そう尋ねた。

「オレの名は、タカジョー・ゼット」

そう答えた。

ゼットは、ポケットの中を探り、トゲトゲが入った奇妙な球体の木の実を差し出す。

「これを食わせてやれ。【ツミの実】だ。これでデビゲノムの暴走を抑えられる」

私はそれを受け取り、優くんの口に一粒放りこむ。

レジェンド達は、心配しながらその様子を見ていたが、やがて優くんは黒い翼は消え、爪も牙も目も元通りになった。

「どこかで寝かせてやるんだな」

ゼットはそう言って私達が宿泊しているホテルを指差した。

…優くんがフレイアを殺した…。

私の幼馴染を…、

怒りや悲しみよりも、優くんに対する【恐怖】の感情が私の心を支配していた。








~あとがき~

久々の更新です。

ツミの実は漫画版から。

デビゲノム同様多少設定をいじっていますが。



[24904] 第14話 死ぬという事
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:da023e67
Date: 2011/08/25 00:09
~レジェンド視点~

今私達は宿泊しているホテルに優を運び込み、寝かせている。

返り血で汚れた服は着替えさせた。

突然豹変した優をたった2発で気絶させた、タカジョー・ゼットも一緒だ。

ツミの実を飲ませたことで、堕天使のような翼はなくなり、爪も牙も元に戻った。

今優は静かに寝息を立てている。

フレイアの遺体は今ヴリトラとイシュタルで埋葬している。

「しかし、先ほどの優は一体何なのだ!?」

私は疑問を口にする。

敵味方の区別がつかなくなり、フレイアを殺した後で、我々にも牙を向けてきた。

その姿は、黒い翼に赤い瞳、爪や牙も伸びて獣のような…、悪魔のような姿だった。

すると、部屋の壁に背を預けて腕を組んでいたゼットが応える。

「デビゲノムの暴走だ。後天的に植え付けられたソレは、人間の体には強すぎるんだよ。
デビルチルドレンは本来人間とデビルのハーフなんだからな」

ゼットの言葉に一同は言葉を失う。

デビダスで会話を聞いているスクルド達も恐らくは同じ表情だろう。

「失礼ながら、優さんの状態を見ただけでわかるんですか?」

クロトが質問をする。

「わかるさ。それに、ここに来る3時間前にも、もう1人のデビルチルドレンにも同じ事が起きてな」

再び呆然とする私達。

そんな私達を尻目にゼットは言葉を続ける。

「詳しくはまだ確証が持てねぇが、時の教団は人間にデビゲノムを植え付けて人体実験をしているらしい」

人体実験だと!?

「では、時の教団の目的は人間の抹殺ではないのですか?」

クロトが再び質問する。

「確かにそれもある。だが、奴らはどうせ殺すならと人間達を捕まえて実験材料にしている。
兵器として使うのか、それとも別の目的があるかまでは分からない」

ゼットはそれだけ言うと、目を閉じて考え込んでしまった。

「では、優の暴走を起きないようにさせるのは…」

私が質問するが、ゼットは首を横に振る。

「デビゲノムは全身の血液に回ってしまっている。
血を全て抜かないとダメだが、そんなことをしたらそいつが死ぬだろ」

…これは面倒なことになってしまった。



「じゃあ、デビゲノムを使いこなしてオレ自身が戦えるようにならないか?」

いつの間にか目を覚ましていた優がそんな事を言った。

「優さんいつの間に起きていたのですか?」

クロト達は驚くが、私はなんとなく起きているような気がしていたので、対して驚かなかったが。

するとゼットは

「それは薦められん。お前、暴走してた時の事覚えているか?」
「…いや、全然」

優は苦虫を噛み潰したような声で呟く。

それに対しゼットは

「だろうな。お前はフレイアの首をねじ切った後、自分の味方にも攻撃したんだ。
まあ、オレがお前の暴走を止めたんだがな」

ゼットはやれやれと言うように肩をすくめる。

「じゃあ、どうやってオレの暴走を止めた?」
「ツミの実だ」

ゼットはポケットからトゲトゲの実を取り出す。

「これで暴走をある程度抑えられる。くれてやるよ。
…ああ、食べ過ぎるなよ?体が小さくなるから」

…どんな実だ?

ゼットはツミの実を数粒クロトに握らせる。

優はまだ動ける状態じゃないからな。

「…ある程度?じゃあ完全には」
「そう、抑えられない。まあ、暴走は重傷になったり余程感情を爆発させない限りは起きないはずだ」

時々飲む程度でいい、ゼットはそう付け加える。

すると、優は寝たまま思案顔になる。

…私としても、これ以上優に暴走されたくは無い。

唯一無二のパートナーだから。

「…さて、オレの用事は済んだ」

ゼットはそう言って部屋のドアに手をかける。

「何処へ行く?」

優がそう尋ねるが

「オレにはまだやる事がある。
次に会う時まで死ぬんじゃないぞ。また会おうぜ」

そう言ってゼットは出て行こうとするが、優が呼び止める。

「待て、オレは佐伯優。お前は?」
「オレはタカジョー・ゼット」

…自己紹介がまだだったな

そう言ってゼットはホテルから出て行った。

その後は沈黙が場の空気を支配する。

「イシュタルはどうした?」

数分くらいした後優がそんな事を言った。

私は答える。

「彼女は今フレイアの遺体を埋葬している」
「…そうか、終わり次第呼び戻してくれ、オレはベッドから動けないが話がある」
「…わかった」

イシュタルを呼び出す役はザントマンになった。





~優視点~

普通二次創作などでゲームの世界とか行ったら、オリ主最高とかオレTUEEEEとかいう奴が多いが、これは思わぬリスクだ。

体の強さは覚醒していなければ普通の人間に毛が生えた程度。

何故か耐久力と、傷の回復力は異常に高いが、運動神経は覚醒していなければスポーツ選手と大差はない。

つまり【人間のレベル】なのだ。

話を聞く限り、暴走しているオレはフレイアをあっという間に殺したらしい。

力があっても制御出来ないんじゃダメじゃないか。

…人間じゃないとはいえ、この手で殺しちまったんだよな…。

…あ、やべ…血の臭いで吐きそう…。

が、仰向けに寝ている状態で吐くわけにはいかない。

体の痛みを堪えて横を向こうとするが体が動かない。

すると、オレの状態を察したクロトは、オレを横に向かせ、洗面器を口元に持ってくる。

「ぐ…、げええええぇぇぇぇ…!!」

嘔吐物が洗面器に広がる。

「はあはあ…」
「大丈夫ですか?優さん」

クロトは医者だけあってこういう対処の仕方はさすがだ。
イシュタルに恨まれるかな…?

すると、ザントマンが呼びに行ったイシュタルが現れた。

ヴリトラも一緒だったが。

「優くん…」
「イシュタル…謝って済む問題じゃねぇが、すまなかった…」

オレは謝るが、イシュタルは沈痛な面持ちを崩さない。

…オレは急かさずイシュタルの言葉を待つ。

「私は貴方が憎いわけではなく、…ただ怖いの」
「…怖い?恨んでねぇのか?オレが殺したフレイアは、お前の幼馴染なんだろ?」

オレはイシュタルに問うが、

「フレイアのしたことも…、許していいわけじゃありません。
全く感傷がないわけではないけど、…それでもただ殺す事を喜んでいた暴走状態の貴方を見てると…」

イシュタルは言葉が続かないのか俯いてしまう。

「ですが、貴方は誰かを直接殺したのは初めてでしょう…?
その洗面器を見れば分かるわ」

イシュタルは、オレが吐いた物を見て言う。

「…自分でコントロールできない力がこれ程怖いとは思わなかった。
日本の倫理観も法律上も殺人なんて御法度だからな。
…でも、ヴァルハラじゃ、殺し殺されなんて当たり前なんだろ?」

オレは確認のために問う。

「生きるために何かを殺して糧にすることは避けられないわ。
優くん…。あなたは誰かを殺したいと思う?」

イシュタルは真摯な瞳でオレを見る。

「…思わねぇ…」

オレは少し迷った後に応えた。

イシュタルはそんなオレを見て。

「殺す事を恐れるのは恥ではないわ。
人もデビルも1人では生きていけないから誰かと関わりを持つの。
だから仲間を失う事を恐れる。
貴方が殺したフレイアは貴方の仲間ではなかったけど、もし違った形で出会っていたら、仲良くなれたでしょう?」
「…そうだな」

イシュタルの聖母のような微笑を見てオレは自分が泣いているのを自覚する。

…あれ?オレは泣いているのか?

「誰かが死ぬという悲しみと怖れを無くさないで。
それさえ忘れなければ人間として素敵な心なのだから」

…許してくれるのか。

もっと恨み事を言われる方が普通なんだが。

「それに、これ以上何かを言う前に貴方の体の治療が先だから」

イシュタルは突然そんな事を言った。

…いや、確かにその通りだが。

「優さんは皮肉にもデビゲノムのおかげで体の回復速度が速いから、明後日には完治しています」

クロトがオレの怪我がいつ治るのか言った。

…なら安心だな。

「レジェンドも悪かった。その腹の傷、オレがやったんだろ?」
「そうだ。だが、傷は浅いしこれからはツミの実がある。気にするな」
「もう少し怒っていいんだぜ?」

…さて、体が完治したら早速出発だ。

今まで以上に厳しい戦いになるかもしれない。

タカジョー・ゼットも気になるが、今は後回しだ。

さあ、たっぷり寝るか。




~あとがき~

次回はコソドロ?が登場?



[24904] 第15話 セキリュウ
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:16808a53
Date: 2011/09/12 23:41
~優視点~

「ああ…、後1日はベッドから離れられないのか」

翌日。

オレはベッドの上で若干の苛立ちを含んだ声で呟いた。

「まあ、それでもあの怪我で全治2日と言うのは奇跡だ。
…少なくとも人間にとってはな。
それもデビゲノムの恩恵だ」

オレの呟きに反したのはレジェンド。

「そうは言うがこのデビゲノム、いつまた暴走するかもしれないんだろ?」

そう、初期のアニメ版のデビゲノムはデビチルとしての力と、魔界と人間界を繋ぐゲートを安全に通れるような役目があった。

しかし、漫画版のライト&ダークは、デビルチルドレンの力は本来子どもが持つものではないと亜美が言ってた。

それ故力が暴発してしまい、体を崩壊させる危険があるという。

初期アニメ版には暴走の心配は無かったのだが。

その暴発を防ぐのがツミの実だ。

しかし、オレの場合はどうだ。

暴走してしまうと体を悪魔のように変貌させ、敵味方の区別なく暴れたと言うではないか。

ちなみにオレの背中から出てきた羽根は、悪魔と言うより堕天使の様だったとか。

とにかく、暴走している間の事はさっぱり覚えていない。

オレの体と服に付いた返り血の臭いでオレがフレイアを殺した事は分かった。

ちなみに服はもう着れなくなったので、仲魔達に買いに行かせている。

ずっと着の身着のままだったからな。

すっかり失念してたぜ。

下着の類はこちらの世界で一番最初に来た街で何枚か失敬したのだ。

あの時は他に着れそうな服は無かったが。

話が脱線した。

オレの暴走を止めたのが、タカジョー・ゼットだ。

たった2発の攻撃でオレの暴走を止めたらしい。

暴走中のオレはレジェンドのダークハウリング程度では、傷1つ負わなかったらしい。

そうなるとゼットは、そんなオレを殺すことなく絶妙な力加減でオレを止めたと言う事だ。

初期のころはルシファーやホシガミよりレベルが高かったんだ。

炎と氷の書では封印の影響なのか弱体化していたが。

タカジョー・ゼットが存在するならば、ヴァルハラだけではなく、魔界や天界も恐らくある。

ディープホールは存在するだろう。

さっさと元の世界に帰りたいが、方法がわからん以上この世界で暮らすしかないのか?

オレのヴィネコンでは初期のアニメのように異界を繋ぐゲートは作れないし。

…どっちにしろ怪我が治るであろう明日までは何を考えても無駄だな。

オレはデビライザーを出し、寝たままスクルド、ジャックフロスト、メッチー、ラクシュミをコールする。

「…オレ寝るから、見張りよろしく…」

見張りのためだけに皆を呼ぶのは気がひけたが、皆は嫌な顔1つせず頷いた。







~?視点~

「うーん、結構可愛いボウヤだけど…、あたしの理想には届かないかな」

あたしは世間では悪をくじき、弱きを助ける怪盗としてそれなりに名が売れている。

しかし、最近は時の教団のおかげで、あたしの名が薄れてきている。

まあ、泥棒が有名になるのも考えものだけどね。

あたしは悪徳貴族などから宝石や金目の物を奪い、儲けた金で孤児院などに寄付している。

ところが、時の教団の組織が暴れ始めたせいで、仕事がやりづらくなってきた。

教団の運営資金を得るために、強引な方法とか、汚い手口で金を集めているとか。

そのおかげでその辺の詐欺師が可愛く見えるほどになってしまった。

時の教団から何かを奪おうとした事もあったのだが、見た事もない機械等で私をいとも簡単に捕捉してしまった。

そのせいで何も得られず、逃げるのがやっとだった。

…それとも、私の存在など知ってて、放置しても問題ないという事?

あ、考え事してたけど、今何をやっていたのかと言うと、街の外れの木の上から魔力で視力を強化して500メートル離れたとあるホテルのベッドで寝

ている人間の少年を見ていたのよ。

タカジョー・ゼットまでいるのは驚いたわね。

その人間の傍にいたクロトっぽい女デビルの唇の動きから【ユウ】という名前らしいことが分かった。

…にしてもあのクロト、医療に詳しい事と言い、丁寧な言葉遣い(勿論唇の動きを読んだ)といい、あたしの知ってるクロトなのかしら?

もしそうだとしたら…。

ん?誰かが部屋に入ってきた…。

知らない金髪の女デビルと…、

あ、あれはヴリトラ!?

偶然かしら?

クロトもヴリトラも、この世に1個体しかいないわけじゃないから、あたしの知ってる連中とは別人と言う可能性もある。

だけど、あたしの直感が告げている。

見落とすな、と。

遠目からだから声色の確認まではできないけど、恐らく間違いない…。

…これは近い内に機を見てあの少年に接触すべきかしら。

それにしてもクロトが生きていてくれたのは嬉しい。

昔は共に同じ夢を持った同志だもんね。

…あたしはコソドロに落ちぶれたけど。

アイツは夢を叶えたんだ…。

だけど、今は恐らくデビルチルドレンらしいあのユウと言う少年と契約したんだ。

…そうせざるを得ない理由があったのかしら?

ここ最近時の教団のせいで、ヴァルハラの治安は悪化する一方。

時の教団が現れる前の世の中は概ね平和だった。

けど、、平和なことは、治安を守る軍隊も弱体化してしまうという事。

事件が少なくなるんだから。

突然現れた教団の前に軍隊もなすすべなく、ヴァルハラ全土の6割は潰されてしまった。

残った軍だけではどうする事も出来ない。

それからしばらくして現れた2人のデビルチルドレン。

その1人が、会話の内容から察するに、今ベッドで寝ている少年だろう。

デビルチルドレンの力は神をも凌駕すると言われている。

今はまだ未熟みたいだが。

会話…唇の動きを読んでいると、さらに驚くべき内容が語られた。

それは、デビルチルドレンの細胞とも言うべきデビゲノムが少年の体を変貌させ、暴走して理性を失ったという。

タカジョー・ゼットと、ツミの実で今回は事なきを…得てもないか。

知らないうちにデビルを殺してしまったらしいし。

…あたしも殺しは好きじゃないからあの少年が快楽殺人者ならこちらにも考えがある。

もしそうならクロトを連れ戻す。

…あ、タカジョー・ゼットが部屋から出たみたいね。

ゼットは気になるけど、今はデビルチルドレンの少年、ユウが優先ね。

今も思ったようにユウが快楽殺人者であるなら…と思ったが、その心配は杞憂だった。

どんな事情かまでは分からないが、殺しは初めてだったみたいね。

吐いた物を見ればわかるわ。

さらに見てみると、ユウが殺したデビルは、金髪の幼馴染だったみたいね。

あの表情からすると金髪は…恨んでいないわね。

金髪のまるで悟ったような表情だったのが気になるが。

…そこまで経過を見て私はハタと考え込む。

確かこの街の数キロ離れた先にはセキリュウの巣があったはず…!

この街の住民は、この近くのセキリュウは比較的おとなしいので安心しているだろうが、今は違う。

繁殖の時期に差し掛かっているから、かなり気がたっているはず。

その上、昨日は空気を震わせるような騒ぎがあった。

…面倒なことにならなきゃいいけど。

そこまで考えて再びユウを見ると、彼はデビルをコールしていた。

…あれは時の女神スクルド!?

あんなデビルまで味方につけていたなんて。

彼女達に見張りを任せてユウは寝てしまった。

…まずいなあ。

起こしに行った方がいいかな?

…?

さっきからドスンドスンという音が響いてきてる…。

ヤバッ!!

彼が増援をしていて良かった!!!

早く行くべきね。









~スクルドサイド~

この前は私をコールする前に優が気絶したから、私の出番は無かった。

今回は見張りのために呼び出されたのだが、それが良かったのかもしれない。

何故ならば、地響きが聞こえてきたからだ。

「な、何だ!!?」

優も驚愕するが、体中が痛むのか起き上がれない。

「そう言えば、ここはセキリュウの住処が近くにあるんです。
普段はおとなしいのですが、今は繁殖の時期だったはず…!
加えて昨日の騒ぎ…。間違いなく向かってきます!!!」

クロトが焦った表情で説明をする。

…!厄介だな。街に入られでもしたら被害は尋常じゃないぞ?

「どうしてだ?」

優が疑問を口にする。

「セキリュウの繁殖の時期はかなり気がたっているんです。
問答無用で暴れられますよ!!」

クロトが言う。

「…誰かオレを背負ってくれ。
オレが指示を出す。デビライザーの使用だけならば問題は無い」
「そうは言うが無茶だぞ」

私は反対するが、優はまっすぐな瞳で私を見る。

…意思を曲げる気は無いな。

「俺が背負う」

ヴリトラが進言した。

「頼めるか?」

優のそのセリフに彼は頷いた。







現場に来てみると、セキリュウ達は既に街の中心部まで来ていた。

それも20体はいる。

ちなみにレジェンドはデビルチャージ済みだ。

「数が多すぎる!!」

誰ともなくそう言った。

それは時の女神の私もツライ数だ。

唯でさえセキリュウはタフなのに…!!

「ザントマン!ドルミナーだ!!!」
「そ、それがさっきからやっているんですが、興奮しすぎているのか効果がねぇンスよ!!!」

ザントマンが催眠魔法をかけてセキリュウ達を大人しくさせようとしているのだが、効果は無いようだ。

「すまねぇ、旦那!」
「お前のせいじゃねぇ!!カードで皆をパワーアップさせて、凌ぐ!!」

優はパワーアップのカードを私達にかける。

これで魔法の攻撃力は2倍だ。

セキリュウがファイヤーブレスを仕掛けてくる。

20体同時にだ。

「マハラギダイン!!!」
「アギラオ!!!」
「エアードエッジ!!!」
「ヒーホー!!!」
「マハジオンガ!!!」

上から私、優をおぶったヴリトラ、レジェンド、ジャックフロスト、イシュタルの魔法だ。

カードのおかげで魔力が上がっているので、何とかファイヤーブレスは相殺した。

しかし、その内の1体がクロトに矛先を向けてきた!!

「きゃあっ!!」

クロトはその場から回避しようとするが、石につまずいて転倒してしまった。

「セキッ!!!」

セキリュウの爪がクロトを襲う。

「クロトッ!!!」

優はクロトに向かって叫ぶが、無情にもセキリュウの爪は止まらない。

私の魔法も間に合わない!!

が、

突然猛スピードで接近してきた何かがクロトを抱え、セキリュウの攻撃を間一髪で避ける。

「やっぱアンタね」
「ランダ…!!」

クロトとランダと呼ばれたピンクの肌の露出の多い女がお互いを呼び合う。

「ほう…、貴様も生きていたか、ランダ」

さらにヴリトラが感心したようにランダに声をかける。

「…知り合いか?」

私はそう尋ねたが、

「…話は後だ。今はセキリュウ達を何とかするぞ」

ヴリトラの背中で優が厳しい口調で言う。

「確かにその通りだな」

私も優に返す。

しかし、数が多い上にアエロークラスのスペックを持つ相手にどう戦え言うのだ。

「街の人達に被害が出ないように戦わなければいけないんですよ」

クロトが苦い顔で言う。

「…だったらさ、交渉で大人しくさせて、出来ればセキリュウ1体ゲットできないか?」

優は悪戯が思いついたような顔でそんな事を言った。



~あとがき~

ランダさんの設定はアニメ版とは違います。

怪盗(?)以外に共通点はありません。

何気にこのSSのクロトとヴリトラは顔が広いです



[24904] 第16話 覗く者
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:16808a53
Date: 2011/09/21 22:21
~優視点~

今オレはヴリトラに背負われている。

オレは怪我が治っていないので、本来まだベッドで寝ていなければならないが、セキリュウ達を大人しくさせないと、街がふっとぶ可能性がある。

繁殖期で興奮しすぎているセキリュウを交渉して大人しくさせようというオレの案に誰もが驚いた。

途中から乱入してきたランダさえも。

「アンタ正気!?このセキリュウを大人しくさせて契約する?」

ランダはオレを見て険しい顔で言う。

「そうだ。お前には交渉を有利に進められる技がある」
「…しえきのこと?」

オレの発言にランダは驚いた顔を見せ、すぐにその技の名前を口にする。

これくらいはヴィネコンでスキャンすればすぐに分かった。

「そうだ。その上、オレのカードにも交渉を有利にするカードがある。
これを組み合わせれば」
「…そううまくいくと思う?」

オレは自信を持って言うが、ランダはまだ渋っている。

と、オレ達が会話をしているその間も

「ファイヤーブレス!!」

と、炎を吐きだすセキリュウ達。

20体くらいはいるので、いっせいに炎を吐かれるとかなりの規模になってしまう。

「マハブフーラッ!!!」
「ヒーホーッ!!!」

レジェンドとジャックフロストが氷系の魔法で、

「アクアフラッド!!」

ラクシュミが水系の技でセキリュウの攻撃を潰す。

潰さないと、街やデビルや人間達に被害が出る。

っていうか、レジェンドいつの間にマハブフーラが使えるようになった!?

しかし、カードでパワーアップしてもいつまでも持ちこたえられないだろう。

「どうするのだ!?やるのかやらんのか!?」

スクルドも焦った口調で聞いてくる。

「…協力してくれ!!セキリュウ達を大人しくさせないと、無駄な死人が増えるぞ!!」

オレは切羽詰まった声でランダに頼む。

この願いが届いてくれないと、危ないのは街の人達だけじゃない。

「…」

ランダはしばし目を瞑り考える。

そして考えがまとまったのか口を開く。

「いいわ。でも、あとでクロトとヴリトラの事は聞かせてもらうわよ」

不敵な笑みでそう言った。

「…サンキューッ!!」

オレは礼を言うと、すぐにデビライザーに交渉用のカードをセットする。

「種族がボスであるスクルドは交渉を避けた方が無難…。ヴリトラ、お前が適任だ」
「だが、いいのか?」
「構わねえよ。オレを降ろせ」

ヴリトラを背負っているのはオレなので、オレを置いていくしかないだろう。

ヴリトラはオレを降ろし、オレは地面に尻もちをつく格好になる。

「イシュタル、クロト、ラクシュミ…、メッチーはオレの周りを固めてくれ。
あと、クロトはマカラカーンじゃファイヤーブレスは跳ね返せねぇから、前には出るな」
「分かりました」

…よし、これで…と言いたいが、オレは昨日イシュタルの幼馴染のフレイアを殺してしまった。

それが原因でオレの言う事を聞いてくれない可能性があるが…、

オレの顔を見てオレが何を言いたいのか察したイシュタルは、

「大丈夫です。役目は果たします」

微笑を浮かべて答えた。

「すまねぇ…、そしてありがとう」

オレはイシュタルに謝罪と礼を述べた。

もっと恨まれるかと思った。

フレイアのためにも時の教団の真実を暴いてやるぜ。

「話は決まったかしら?」

ランダが痺れを切らしたような顔でこっちを見る。

どうやら食い止めている連中の限界が近い。

「もたもたしている暇は無いな。ランダ、頼む」
「いくよ」

ランダの技、しえき。

交渉の成功率を上げる技だ。

オレの味方デビルの体が淡い光に包まれた。

そして

「カードだ」

オレもカードを使ってさらに交渉の成功率を上げる。

「では、行ってくる」

ヴリトラはそう言うと、セキリュウ達に向かって歩き出した。

すると、不思議なことにセキリュウ達は動きを止めた。

「どうやら話し合いには一応、応じてくれるみたいだな」

オレはひとまず安堵する。

「だが優、上手くいくだろうか?」

レジェンドがこちらに下がってオレに聞いてくる。

その心配はわかるが、これは上手くいって欲しい…。

単なる願望にすぎない。

一応念には念を入れて、交渉で有利になる要素は入れたが、やっぱりオレも不安だ。

だが、セキリュウを1体でもゲットできればかなりの戦力になる。


上手くいってくれる事を願うのみだ。

ヴリトラの交渉手腕に期待しよう。








その様子を見ていた者がいたことにオレは気づいていなかった。








~第3視点~


セキリュウ達と優達が向かい合ってる様子を見ている1人のデビルがいる。

全身緑色のボディに、右背中には白い翼、左背中には黒に近い紫色の翼が生えている。

そのデビルの名をテークシス。

「あれがデビルチルドレンか…。どうやら、唯のガキのようだな」

嘲る様な声でそう呟く。

「今ここでデビルチルドレンを殺すのは簡単だが、それでは時の教団に向かってくれる駒がいなくなるな」

口元に指を当て、考えるしぐさになるテークシス。

「まあ、デビルチルドレンには頑張ってもらって双方が潰しあってくれるのを眺める方がいいか。
タカジョー・ゼット…ゼブルが動いているようだが、所詮奴1人ではオレの敵ではないな」

セキリュウ達と交渉する様子を見るテークシス。

どうやら決着がついたようだ。

「ほお…、セキリュウはどうやら大人しく帰ったようだな。
しかもその内1体を味方につけたか…。なかなかやるじゃないか」

感心したように言うが、それでも嘲りの様な顔色は変わっていない。

「それにしてもあれはランダか。雑魚だが奴の頭の良さは異常だからな。
少々面倒かもしれん…」

テークシスはランダを見て少々眉をしかめる。

「時の女神、ウルド、ヴェルザンディ、スクルドも上手い具合にばらけている。
奴らが融合してノルンになられると少々厄介だからな…」

それでも、オレには及ばないと笑うテークシス。

「デビルチルドレンもあの程度、その上ルシファーやミカエルも出しゃばってこないのは好都合…」

そこまで言ってふいと、覗き見を止めて歩き出すテークシス。

「ゼブルやノルンごときオレの敵ではないが、ルシファーやミカエルが自由になったら流石に手に負えんかもしれん…。
1対1なら負けはせんがな」

テークシスは空を見上げて暫くじっとしていたが、突然上空に飛び立つ。

「どちらにせよ、このオレが全ての次元を手に入れる!
このオレこそが、最強のデビルなんだぁっ!!!!」

ジェット機すら上回るスピードでテークシスはその場を去って行った。




その彼が飛び立つ様子を見ている者がいた。

タカジョー・ゼットである。

「テークシスか?アイツも動いていたのか。
不味いな…、今すぐ何かをするわけじゃなさそうだが、はっきり言って今のオレでは勝ち目がない」

冷や汗を流すゼットは優達がいる街の方角を見つめる。

「…あの2人ならそう時間をかけずにパートナーを最終形態まで進化させられるはずだ。
教団が行っていた【実験】はそれ程のものだからな」

ゼットはゼットで時の教団に対して調査を行っていた。

しかし、それでも全ての情報が手に入ったわけではない。

「ルシファー、ミカエル、ホシガミが封印されてしまっている今、動けるのはオレだけか。
だが、表舞台にはあくまで2人のデビルチルドレンに立ってもらわなければならない。
世界を活かすも殺すも2人次第だが」

ゼットは踵を返し、今優達がいる街の方向から離れ始める。

「佐伯優…、草凪亮太。
残念ながらお前達を元の世界に返してやれる保証は無い。
この世界で骨を埋めることになるかもしれん。
次元空間は完全に時の教団に抑えられてしまった。
魔界や天界、ヴァルハラの行き来だけなら問題は無いが、人間界へのゲートは完全に壊れている」

ゼットは1度人間界へ行こうとした事があったが、どういうわけか、ゲートに拒絶されてしまったのだ。

「…頑張れよ」

そう呟いてゼットは走り出した。

「ベリト、フェゴール。お前らにも頑張ってもらうぞ」






~あとがき~

次回はセキリュウ達との和解から。

作者の脳内でのテークシスの声は、ク○ラみたいな感じです。

フ○ーザ様だと「オレ」口調があまり似合わない気がするのでw。

皆様はテークシスの声はどんな感じがいいでしょうか?



[24904] 第17話 ランダ
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:16808a53
Date: 2011/10/04 23:09
~優視点~

ヴリトラがセキリュウの群れに向かって言って10分経つ。

セキリュウ達との交渉を任せている。

デビチルのゲームでも交渉はデビルの役目なのだ。

と、1体のセキリュウを残してセキリュウ達の群れが大人しく街から出ていくではないか。

どうやら交渉は成功したようだ。

「お前の注文通り、1体のセキリュウをこちら側に引き込むことに成功した」
「何て言ったんだ?」
「説得と言うよりは、先ほどランダの使ったしえきの影響が大きい。
あそこまで来ると、交渉の成功率を上げると言うよりは、洗脳に近い」

洗脳…か。あまりいい気分がしないやり方だが、この際仕方ない。

セキリュウ達を止めていなければ、街の被害はさらに拡大していたのだから。

纏めて倒す事も考えたが、出来れば味方につけたかったというのが本音だ。

「でもそのセキリュウも繁殖の最中だったんだろ?」

オレが尋ねると、ヴリトラはこう答えた。

「奴は群れの中でも弱い雄だったので、上手くいかなかったそうだ」

…うわぁ、自然界も厳しいな。

オレが引きつった表情をしてると、レジェンドがクロトに尋ねる。

「そういえば、お前はセキリュウが繁殖の時期だと知ってたのか?」

その言葉にクロトはすまなそうな顔で

「…忘れてました」

と言った。

「そう言う事は早めに思い出してね」

イシュタルも疲れた表情で言う。

「さて、そんなことより何故お前がここにいる?ランダ」

ヴリトラが話をランダに振る。

ランダが何かを言う前にクロトが口を開く。

「そうですよ。貴方が行方不明になって心配したんですよ。
ヴリトラさんもランダを知ってるのですか?」
「そうだ。賞金稼ぎ時代にあったことが何回かある」

ヴリトラはさも当然のように言う。

「…ママが行方不明になってさ。それが全ての始まりだったのよ」

ランダがヴリトラとクロトの質問に観念したように口を開く。

「おばさまが!?」

クロトが驚いた表情で問う。

「アタシもあんたと同じように医者になりたかったんだけどさ、
ママが失踪してから家の中を整理してたら、ある日記と怪盗用の変装道具を見つけたのよ」

ランダは日記らしきものを取り出す。

「クロトは何か知らない?」
「…いいえ」

クロトはランダの質問に顔を伏せて答える。

「日記にはね、ある1人の人間の男の子を拾ったって書いてあった。
その子はね、大人しくて気がきく子だったんだけど、血の臭いもしたの。
普段の大人しい性格からは考えられない程の冷血な顔と喋り方をする事があるの。
…まるで2重人格のような」

2重人格?

そう考えたところで、オレの知り合いにも1人心当たりがいる事を思う。

そして、ランダは決定的な言葉を口にする。

「名前は笠木重(かさきしげる)。人間界からやってきたらしいんだ」

オレはその名前を着て目を見開いた。

そしてランダの肩を掴み、問う。

ちなみに今のオレの肉体は小学5~6年生程度なので、ランダより背が低い。

「そいつについて何かわかるか!!」

オレはランダの肩を揺すりながら詰め寄る。

…まさか奴がこの世界に来てたのか!!?

「お、落ち着いて!…日記にはそこまで詳しく書いてないのよ。
この世界の生活に慣れて…、後はごくごく平凡な日常を綴っただけよ。ママが行方不明になるまではね」

ランダがそう言うと、オレはランダの肩から手を離す。

「知っているのか?」

レジェンドがオレに問う。

自分のパートナーがこうも取り乱しては聞きたくもなるだろう。

「ああ。2重人格については、交通事故で頭部に強い衝撃を受けたことで発症したと思われる…。
医者はそう言ってたが」

オレはそう答える。

…まさか…まさか…。

「もう1人のデビルチルドレンが誰かは確証が持てないが亮太だと思う…。
そしてオレと亮太とつるんでいたのは…重か」
「まさか、アエローが言っていた時の教団の総大将はお前の知人なのか!?」

レジェンドがオレに問いかける。

「…その可能性は高い。主人格はオレ達と仲が良かったが、もう1つの人格は人間そのものに価値を見出していない奴だ。
そうなると、オレ達に複雑な感情を抱いているというのも納得できる」

スクルドを除く全員が驚いた表情になる。

…そういえばさっきから会話に入り込んでこないな、スクルド。

「スクルド、何か言いたい事があるのか?」

オレはスクルドに向かって言う。

「いや…。友達だったのか?」
「…ああ」

スクルドにしては平凡な問いに対してオレは生返事しかできなかった。








~第3視点~

「そうか、気づいたか」

ここは時の教団のアジト。

サキュバス達を侍らせている…笠木重が冷血な笑みで呟く。

ちなみに今は副人格が表に出ていて、見た目が少年とは思えない程の低い声である。

「クックック…。いかにデビルを使役する力があるとはいえ、所詮はつい最近まで一般人だった人間。
まさか優も亮太も自分の大切な仲魔にスパイがいるなんて思わないだろうな」

そう言いながら煙草を吹かし始める重。

「あそこでランダと鉢合わせるとは少々予想外だったが、まあ気にするほどではないか」

重は部屋の片隅で気を失っている2人の女のデビルを見る。

彼女達は、鎖で拘束されていて、床にはその内の1人が被っていたであろうメットが転がっている。

目を瞑って入るが赤い瞳だ。

セミロングの髪の毛はダークブルーで、背中には青い翼が生えている。

もう1人はピンク色の肌で、これまたピンクの髪の毛をストレートで流している女性だ。

「ええ、まだ2人のスパイの事は気づかれていません」

サキュバスの1人も気絶している女のデビルを見て言う。

「…?亮太が北北西のポイントに向かうか?」
「その街には血脈の証があります」
「…そうかそれはオレ達が回収する。しょくりゅうに亮太を足止めさせるように伝えろ」
「はい。タカジョー・ゼットはいかがいたしますか?」
「放っておけ。ベリトやフェゴールが活動を始めようが奴らだけでは何も出来ん。
ルシファー達も封印しているからな。
ラジエルの書に書かれていた世界をも動かす力を持つルシファー達も上手く封印出来たし、このまま計画を進める」

重はサディスティックな笑みで言う。

「しかし、彼らのデビルチルドレンの力を増幅させたいのに、血脈の回収してしまっていいのですか?」

サキュバスが重に問いかける。

「自力で覚醒させてくれないとデータが取れねぇ。
言ったろ?これは実験も兼ねているんだ」
「…分かりました。仰せのままに」

サキュバスは言い終わるとすぐに他のサキュバスにしょくりゅうに命令を伝えさせるように言う。

「さて、来い。今日もベッドで相手をしてもらおうか」
「はい、ご主人様」

重の命令に服を脱ぎながら答えるサキュバス。

2人はそのまま寝室に入ろうとするが。

重はハタと思い出したように別のサキュバスに指示をする。

「何か動きに変化があったら教えろ」
「はい」

その返事を確認すると、今度こそ2人で寝室に入った。







~優視点~

「アタシは盗賊になったのは、ママを探すためなの」
「母親を探すだけなら何も泥棒になる事は無いんじゃないのか?」

ランダの盗賊になった動機にオレは突っ込む。

「最もな疑問なんだけど、ママも怪盗だったのよ。
そうすればいずれママの手掛かりも掴めると思ったのよ」

ランダはランダで必死なんだな。

「なあ、オレと一緒に来ないか?セキリュウも仲魔にしてるし、戦力的にはいいと思うぜ?」

オレはランダを勧誘する。

ランダの母親が重と一緒にいたならオレ達の利害は一致する。

「…その前に聞かせて。アンタは地球から来たんだよね?」
「ああ」
「科学等の文明はここと比べてどう?」

突然そんな事を聞いてくるランダ。

「そ、そうだな…。とりあえず文明レベルは基本的に地球の方が進んでいるぞ。
変なところでアンバランスなんだけど」

オレは思った事をそのまま口にする。

「…そう。以前時の教団のアジトに潜入した事があるんだけど、見た事もない機械とかがあって、
魔法も使ってないのにアタシ簡単に捕捉されたりしたのよ。変な赤い線みたいなものがあってね」

…変な赤い線?

赤外線センサーか?

「赤外センサーなんてこっちの世界じゃあまず見ないからな。
重はそういう兵器とかセンサーとか武器を造る技術は異常なまでに優れている。
勿論、オレの国じゃ武器を持つことは基本的に違法だがな。デイビークロケットも作れるとかほざいていたから、…最初は冗談と思ったが、
どうやらセンサーとか作れる辺りマジで作れそうな気がする」

オレは冷や汗をかいていた。

「デイビークロケット?」

レジェンドが問いかけてくる。

「半径数十キロに渡って大爆発するだけではなく、目に見えない放射線とかが発生して、未来永劫人や生物が住めない土地になってしまう。
放射線を浴びて被爆してしまうと、体に様々な悪影響を与えてしまう。
大雑把に説明するとこんなところだ」

その説明を聞いて皆は…いや、スクルド以外は冷や汗をかく。

この世界には原子力とかがないから、そう言った兵器や放射能とも無縁なんだろう。

リスクのないエネルギーはそうそあるもんじゃない。

この短い間で分かった事がある。

魔法もデビルを使役する力も【道具】でしかない。

どのように力を運用するかは、あくまでヒトの意思なんだから。

…だが、それを言うならオレの悪魔の血を覚醒させる力はなんなんだ?

ツミの実がないとまるで制御が効かないので、核弾頭とはいかなくても、オレは常に爆弾を抱えている事になる。

発動すれば敵味方区別なく殺戮する恐れがある。

「…それとこんなものも見つけたんだ」

ランダが取り出したのは、一丁の拳銃と幾つかのマガジン。

これもヴァルハラではお目にかかれないだろう。

一瞬見ただけでは、何か分からなかったがこれは…よく調べてみると

「ワルサーPPKS?しかもサイレンサー付き」

重がガンマニアであったため、銃の話は腐るほど聞かされた。

「やっぱりアンタの世界の物なのね」

ランダの問いにオレは首を縦に振る。

「アタシじゃ使い方が分からないから、アンタに預けるわ」
「…では、オレの仲魔になるんだな?」
「まあね」

ランダはオレの仲魔になる意思表示をした。

「時の教団のボスがアンタの友人なら、血を流すことなく止められる可能性があるわ」

ランダは微かに希望を見出しているが。

「奴の目的は幾つか浮き彫りになったとはいえ、ホントの目的が分からない。楽観はできないぞ」

オレは重の主人格はともかく副人格には注意すべきだ。

それに、オレも出来ればランダの母親には助かってほしい。

「じゃ、よろしく頼むわ」
「ああ、こっちこそ」

こうしてオレはランダとセキリュウを味方につけた。

…正直時の教団の総大将が重とは考えたくない。

だが、決定的な証拠は無いが、アエローの言葉と、オレを知っている事、

オレの知る限り2重人格は重しかいないが…まだ重と決めるには早計なのだ。

…だからオレは思った。違っていてくれと。

そこでオレは眩暈を感じた。

「優!!?」
「怪我人のくせに…、無茶をさせるべきではなかったな」

何かそんな声が聞こえた気がしたが、オレの意識はそこで途絶えた。






~第3視点~

優が倒れた様子をやはりで見ていたスクルド。

しかし、倒れた優に近づいて肩を背負う。

スクルドは葛藤していた。

真摯に自分に向き合ってくれた優。

自分の

しかし、自分は目的のために優に近づいた。

…偶然を装って。

いきなり友好的すぎる態度に出たのは自分の失策だったが、どうやら幸いなことにその不自然さには気づかれてはいなかった。

「姉さん…待ってて」

スクルドのその呟きは誰にも聞かれなかった。

姉が殺されたと言ったが、ランダとの会話中【蘇生した】という信じられない報告が入ったのだ。

…あの男の力はやはり本物だ。笠木重彼の野望を阻止するためには優が必要だ。

だが、重の言う事にそむけば…姉は再び殺される。

…私はどうすれば!!と、葛藤し続けるスクルドだった。

その葛藤を誰にも悟らせないように。

だが、その表情をクロトは見ていた。







~あとがき~

亮太の出番が無い…。
その内ぼちぼち出します。



[24904] 第18話 ゴッドソルレオン
Name: 星の弓◆ecc39788 ID:16808a53
Date: 2011/12/03 21:44
~優視点~

オレはセキリュウ達を沈めた事を街の皆に感謝されたが、傷が痛くてそれどころじゃない。

逆に、もっと早くセキリュウ達を止められなかったのかと、クレームをつけられたが、それが少数派だったのがせめてもの救いか。

オレはホテルのベッドで休息を取っている。

傷が開いたのは無理をして外に出たせいでもある。

クロトが甲斐甲斐しく世話をしてくれるのが申し訳ないと思うと同時にありがたかった。

「優さん、あまり無理はしないでくださいね」
「わかってるよ」

クロトの言葉に返事をしつつオレはルームサービスで運ばれてきた食事を口にする。

これはなかなか美味しい。

パンにサラダ、ソーセージの様なものだったが、少なくともヴァルハラの食事の水準では美味い。

まあ、日本の食生活が豊かすぎるだけであろう。

…食事をとったら眠くなったので、そのまま寝ることにした。

全治1日って…、デビゲノムの恩恵がなかったら、1ヶ月はベッドの上だったらしい。

…皮肉にも程がある。





~第3視点~

場所を移して、とある山道。

そこを歩くはもう1人のデビルチルドレン、草凪亮太。

この山を越えた先に街がある。

「これでようやくまともな休息がとれるな」

ソルが嬉しそうな顔で言う。

「そうですね。2、3日休息に当ててもいいでしょう」

亮太がソルに同意する。

「!気をつけろ!!何かいる!!」

ソルが突然、上を見上げて亮太に忠告する。

「!!」

ドオオオオオンッ!!!

と音を立てて上から何かが降ってきた。

赤とオレンジを混ぜ合わせたような体に、口には鋭い牙がびっしり生えそろっている。

「しょくりゅう…ですか」

亮太はすぐさまヴィネコンで現れたデビルを分析する。

「そうだ。草凪亮太。貴様をここから先に進ませるわけにはいかん」

と、威圧感のある声で言う。

「理由は聞いても無駄そうですね。
デビルチャージ!!」

亮太のデビルチャージはソルをセントソルレオンに変える。

「ライトハウリング!!!」

ソルの口から吐き出される光の波動が、しょくりゅうに直撃する。

が、しかし。

「この程度か?」

しょくりゅうには傷一つ付いていなかった。

ライトハウリングは決して威力は低くない。

それを避けるそぶりすら見せずに敢えてモロに喰らい、己の頑強さを誇示したとでも言うのか。

「イプシロンボムは魔力や体力の消費が激しいから何度も使えませんし…仲魔を…」
「させると思うか!?」

亮太は仲魔を召喚しようと思ったのだが、ファイヤーブレスで亮太の左手にあるデビライザーを弾き飛ばす。

「しまったっ!!!」

亮太はデビライザーを落としてしまい、それを慌てて拾おうとするが、いつの間にかしょくりゅうの攻撃を受けて吹っ飛ばされたソルと激突してしまう



「うがあぁつ!!!」

亮太は体がかなり大きくなったソルの重さに耐えられず、苦痛の呻きを漏らす。

「…左手が動きませんか」

しょくりゅうの炎を食らって火傷した左手。

ヴェルザンディに治してもらえばいいのだが、今は召喚の暇がない。

「ソニックファング!!!」

ソルが猫科の敏捷性を活かし、しょくりゅうの右腕にかみつく。

「ぐうっ!!!」

しょくりゅうが苦痛に顔を歪める。

効いているようだ。

「この雑魚が…、舐めるなぁッ!!!」

しょくりゅうが噛まれたままの右腕を大きく振りまわすとジャイアントスイングのようにソルを振り回す。

「うああああああああああぁぁっ!!!」

しょくりゅうが腕を振り切ると、ソルの牙はしょくりゅうの腕から離れ、時速150キロは超えるスピードで吹っ飛ばされる。

ソルはそのまま岩に激突してしまう。

「ソルッ!!」

ソルは倒れたまま体がぴくぴく動いている。

「ファイヤーブレス!!!」

さらにしょくりゅうがソルにトドメとばかりに炎を見舞う。

「ぐあああああぁぁぁっ!!!」

ソルに苦痛な声が響き渡る。

亮太は、左手の痛みに耐えながらデビライザーを拾い、仲魔をコールする。

「イシトク!!コールドボイス!!!」

亮太はイシトクに命じると、期待を込めた表情で戦況を見る。

イシトクの放った吹雪はしょくりゅうに命中した。

が、

「邪魔だ」

弱点属性である氷の攻撃(ちなみにしょくりゅうの属性は火)を受けたにもかかわらず、微動だにしない。

「喰らえ」

しょくりゅうは、イシトクに向けてファイヤーブレスを放つ。

それは氷の属性を持つイシトクには弱点になる。

「トクーーーッ!!!」
「うわああああぁぁぁつ!!!」

その炎は亮太も巻き込んだ。

「…ぐう…亮太」

ソルは、こんなにもあっさりやられた自分を責めていた。

亮太のパートナーとして彼を守ると誓ったのに、この様だ。

…自分は負けるわけにはいかない!!!

亮太が重傷を負えば、その反動でまた悪魔の血が覚醒してしまうかもしれない。

あの時はタカジョー・ゼットが止めてくれたが、今度はわからない。

ちなみに、ゼットは優と出会う前に亮太の暴走を止めていたのだ。

そして、亮太の血が騒いでいるのが分かる様な気がした。

それは本能で。

このままでは…。

「ぐ…うおあああああああああああああぅっ!!!!!」

ソルは咆哮した。

「な、何だ!!?」

しょくりゅうは、突然ソルの体が光だしたことに驚いていた。

あまりに眩しくて目を閉じるしょくりゅう。

そして目をあけると、

体はさらに大きくなり、赤いたてがみを持ち、

尻尾の先端は青白い炎が見える。

「…成程、あの方の実験が失敗作とはいえ、こうも短期間で神獣の域まで進化させるとはな」

しょくりゅうは、ソルから発せられる威圧感に恐怖どころか歓喜していた。

これがソルレオンの最終進化形態の1つ。

ゴッドソルレオン。

「覚悟はいいか?」

ソルの口から尋常じゃない程の魔力が込められる。

「…ぐ」

しょくりゅうは、そのソルの気迫に動けないでいる。

「ライトハウリング!!!!!」

それは、破壊のための光線だった。

セントソルレオンの時は傷すら付けられなかったそれがしょくりゅうの体を飲み込んでいく。

「ぐああああああああぁぁぁっ!!!!」

その光の波動が近くにあった山の一部を削ってしまったのは御愛嬌。

御愛嬌で済ませてはいい話ではないのだが。

ともあれ、しょくりゅうは肉片1つ残さず消滅してしまった。

「亮太!!」

ソルは、己が主人の身を案じ、駆けつける。

亮太は、筋肉が異常なまでに膨れ上がっている。

このままでは覚醒してしまう。

「ディアラハン!」

ソルは、亮太に向けて、上位の回復魔法をかける。

それが功を奏したのか、左手の火傷が消えて、筋肉の膨らみが消えた。

「…何とか大丈夫そうだな」

ソルが安堵のため息を漏らすと、イシトクにもディアラハンをかける。

…ちなみにメディアラハンを使えば早い事に気付いたのはこの1時間後である。

メディアラハンなら、【味方全体】に治癒が働いたのだから。

「…ソル!?その姿は!?」
「おう!!ランクアップしたぜ!!ゴッドソルレオンだ」

ソルが自信満々に言う。

「そうですか。それならば怖いものなしですね」
「…そうだな」

ソルに返事に間があったのが気になる亮太だったが、今はランクアップを素直に喜ぶべきだろう。

そう思い、亮太はヴェルザンディを召喚し、彼女に念のため治療してもらい、休憩を取るのだった。








場所は変わり、時の教団。

笠木重の副人格が、とあるデビルの目を通じて亮太の様子を見ていた。

「存外に早かったな。
神の獣、ゴッドソルレオン。その力なら…。
そして、優のエアードヘイロンのランクアップも近いだろう」

笠木重は、その事を想像し、笑みを漏らす。

「2人は、実験の完成形には程遠いが、予想以上の成長の速さだ。
いいサンプルになるな」

重はそう言いながら近くにいたサキュバスに声をかける。

「引き続き連中の監視を続けろ」
「はい」

時の教団の真意とは何か。

実験とは、

サンプルとは。

その事を知るのはまだ少し先の話。





~あとがき~

久しぶりなのに短いなぁ。

でも出来るだけがんばります。



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