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[22453] 管理世界に武術の達人を放りこんでみた(本編続き)(リリなの×色々)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/10/19 19:41
これは投稿させていただいている「管理世界に武術の達人を放りこんでみた」の本編の続きです。外伝や番外編の話数が多くなりすぎて並び替えが大変なので、今後、本編はこちらに外伝や番外は今まで通りのスレに投稿させていただこうと思っています。
後、いままでタイトルを「管理世界~」で統一してきましたが、作風に合わなくなってきたので、今回から変更します。

※このスレッドを新しくつくる行為、規約的には大丈夫だと判断しましたが、もし問題あるようでしたら対処します。

前スレ
http://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=toraha&all=19760&n=0&count=1



[22453] ホテルアグスタ(前編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/10/19 05:42
 ホテルアグスタ、ここでは今日、技術研究の終わり、危険性は低いとされたロストロギアのオークションが行われようとしていた。そのロストロギアをレリックと誤認したガジェットの襲撃があることを警戒し、機動六課が施設警護の任務を引き受けていた。

「しかし、どういうことなんやろう?」

「うん、確かに変だね」

 そしてホテルの内部警護を務めるはやてはフェイトとある疑念点について話しあっていた。それは今回の警護において、機動六課だけでなく、地上本部からも人員が派遣されていたことである。機動六課だけでは警護という任務を請け負うには絶対的な人数が足りないことやこのオークションは管理局主催であることから、元々本局の方から何人か警護に着く職員が送られてくる筈だったのを、地上本部が強引に割り込み警護を送りこんで来たのだ。そのため今、この場所には地上六課、本局、本部と3つの勢力が別系統で警護を務めるという特殊な状態になっていた。
 とはいえ、はやて達がまず気にしているのは、その異常な管理体制ではなく、地上本部が割り込んで来たという事実そのものである。

「ここ数年で力を増したとはいえ、地上本部の立場は未だ本局よりも下や。強権を押し通すにはかなりの無茶をせなあかんかった筈や。そこまでする理由がわからへん」

「ロストロギアを取り扱っているとはいえ、別にそれは特別珍しいイベントじゃない。年に1回位は行われている。それに今回のオークションには狙われる危険性の高い特別価値のあるものもでていない」

「せや。ガジェットのことがなかったら多分、私等もでてくることはなかったやろうし、その分本局から多く人員が割かれるってこともなかったやろ。そんなイベントに、どうして関わって来たのか……」

 はやて達はその謎について考える。しかし幾ら考えようと答えが出る筈もなかった。そもそも彼女達は前提からして間違えていることに気付いていなかったのだから。今回のオークションには“特別価値のあるものがでていない”この考え自体が間違っていると言うことに。








「よく来ていただけました」

 機動六課がホテルアグスタで警護につく数日前の出来事である。地上本部の長官室で、その部屋の主であるレジアスは呼びかけに答えてくれた達人やその弟子達に頭を下げて礼を述べていた。

「うむ、久しぶりじゃの」

「ははは、私はどっちかって言うと武天老師様のお目付け役って感じですけど」

 レジアスに対し、笑って答える亀仙人と困り顔で言うメイリン。
そしてそこで他の者達が大人や老人達ばかりのなかで少しばかり浮いた感じのする二人の子供が前にでて元気よく挨拶をする。

「お久しぶりです」

「えと、よろしくお願いします」

 それはエリオ・モンデリアルとキャロ・ル・ルシエの二人であった。二人とも10歳の子供である。そんな二人がこの場に居る理由、エリオは民間協力者として呼ばれた梁山泊達人達の弟子で実戦を知るための“裏社会見学”として連れて来られ、キャロの方は家に一人長期残るよりは父親についてくることを希望したためであった。だが、二人とも只の保護対象では無い。いざとなれば並の管理局員を遥かに超える力を二人は持ち合わせていた。

「うむ、よろしくな」

 二人の子供に笑顔で答えるレジアス。そして他の達人達が順に挨拶をする。そして一通りの挨拶が終わったところで、レジアスは彼等の立場について改めて説明をした。

「前もって伝えてあったように、貴方方はわしの直属の指揮下ということになります。基本的には他の職員に従う必要はありませんが、勿論、法律や局の規則は別ですので、きちんと従ってください」

「ええ、わかっています」

 この場に居た中で一番の常識人であるゼファ-が頷き、他のメンバーも了承の意を示した。最も、無闇やたらにルールを犯すことはしなくても、必要があると判断すれば平気で破りではあったが。

「それで早速ですが、貴方達の内、何人かにお願いしたいことがあります」

 そして説明を終えたレジアスは秘書であり娘のオーリスに指示しある映像を映し出した。
ホテルアグスタである。そして彼はそこで行われることについて説明する。

「数日後、このホテルでオークションが行われます。ですが、実はこのオークションに使いようによっては危険なロストロギアが出品されることがわかっているのです」

「危険なもの? じゃが、確か危険性の高いロストロギアと言うのは研究が済んでも販売することは禁止されておるんじゃなかったかのう?」

 レジアスの発言、それに対し梁山泊長老が疑問をはさむ。それに頷き、そして彼は話を続けた。

「よくご存じで。ですが、ですが本局の人間の中に金を掴まされ研究成果を偽って価値の低いロストロギアと偽りオークションには流したものがいるのだ」

 怒りの表情を浮かべ、思わず口調を荒くするレジアス。子供達はその怒りに気押され、大人達は顔をしかめた。大人達が顔をしかめた理由はレジアスの態度にではなく、その話の内容にであるが。
 そして、レジアスは軽く息をつくと気持ちを落ち着かせ、説明を再開する。

「わしはあるルートからこの情報を仕入れました。調査を偽ったロストロギアは3品。A.Mスーツと呼ばれる強化服、一定数の振動を与えることで高ランク魔導師の砲撃にも匹敵するエネルギーを放出する水晶髑髏、そして……ドラゴンボールと呼ばれるものです」

「ドラゴンボール?」

 3品の内、それだけ説明が省かれたことに疑問を発するキャロ。その疑問に対し、答えたのは亀仙人だった。

「うむ、7つ集めるとどんな願いも1つだけかなえてくれる球じゃよ。じゃが、それは使うことができん」

「どんな願いもって。例えばどんな願いが叶うんですか?」

 どんな願いでもかなえるアイテム、普通であれば信じ難い話だ。しかし実際ロストロギアの中には信じられないような力を発揮するものも存在する。故に半信半疑な気持ちで問いかけたエリオは返ってきた亀仙人の答えに驚愕する。

「うむ。死者を生き返らせることさえもできる」

「「「なっ!!!!」」」

 死者の蘇生。魔法を使っても不可能と言われる奇跡である。そんな奇跡を実現するものが存在すると知って驚くエリオとゼファ-とキャロ。他の達人達は既に自分達が異世界で生き返るという経験をしていたため、あまり驚いては居なかったが。

「だが、先程師匠が言ったように使うことはできない。これは壊れているらしいのだ」

「写真を見るとヒビが入っておるからの。だから願いはかなわん。じゃがこれは願いが叶う以上に厄介じゃ。壊れたドラゴンボールを使おうとすると邪悪な竜が現れ、世界を滅ぼしてしまうのじゃ」

「世界を滅ぼす竜……あのヴォルテールみたいな」

 呟くキャロ。昔のことを思い出したのかその表情はやや暗い。その辺の事情を一応聞いていたレジアスはそんな彼女を庇う意味も含めてレジアスは彼女の言葉を否定した。

「いや、師匠……武天老師氏の話では、普通の竜というか生物とは根本的に違うものだそうだ。ドラゴンボールとはある種族が魔法のような力で産みだしたもので、願いを叶える代わりにマイナスのエネルギーをため込んでしまい、そのエネルギーの塊が実体化したものを邪悪竜と呼ぶらしい」

「うむ、恐ろしい力の持ち主じゃあ。もし、よみがえってしまえば恐らくは止められるものはいなかろう」
 
 亀仙人が言葉を続ける。キャロが立ち直り、そして全員が危険性を理解した所で、レジアスが再び中断してしまった話を再開する。

「そしてこの情報を他にも掴んだ可能性がある者がわしの他にも一人います。次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティという男で、この男がアグスタを襲撃し、これを奪おうとしてくる可能性があります」

「ふむ、つまりわし等はそれを守ればよい訳じゃな?」

「でもいいんですか? それだとその裏取引をした人がそのロストロギアを手にしちゃうんですよね」

 ここまでの説明を受けてレジアスの意を得た仙人と疑問を挟むメイリン。それに対し、レジアスは自信を持った表情で答えた

「そちらは別に手を打つので心配ありません。みなさんは警護に集中してください。それと他にも手が足りないところがありますので、全員ではなく、半数の方にこの件はお願いしたいと思います」

 そして長老、ゼファー、エリオ、キャロの4人が警護に選ばれるのであった。




(後書き)
レジアスの口調が難しい。っと、言うか達人達相手に敬語で話すか普通に話すか、どっちが自然かと考えた結果、丁寧語の混じった普通の話し言葉が一番違和感ないかと考えたんですがどうだったでしょうか?


PS.お知らせしましたように思う所がありまして最後に投稿した、ピッコロ大魔王の手下の魔族が登場する話を削除し、別展開にすることにしました。



[22453] ホテルアグスタ(中編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/10/22 19:41
 ホテルアグスタ、そこに今、予想された通りに大量のガジェット達が襲撃を仕掛けてきていた。そしてそれを察知した六課、撃退するためにシグナムとヴィータの二人が前線へと向かう。

「一機も通さない気でいくぞ。本局からの二人は頼りねえし、ティアナの奴は今一信用ならねえからな」

「ティアナか。主からも警戒しろと言われているな。だがヴィータ。お前はどう思っているあいつのことを? 本当にスパイだと思うか?」

 ヴィータの言葉に眉をひそめるシグナム。彼女としては少々複雑な気持ちをティアナに抱いていた。仮にも仲間を疑うことはあまりしたくない、しかし無条件で信頼するには彼女の素姓はあまりに気がかりだった。何と言っても彼女は本局と険悪な地上本部から差し向けられた人間であり、一応建前として地上本部との合同部隊になってはいるが、六課もその主要メンバーも本局主体の部隊なのである。

「……正直わかんねえ。実際に付き合ってみて結構いい奴だって感じもする。けど、結構頭も切れるし演技だって可能性も否定できねえ。もしスパイだとしたら裏切られるタイミング次第じゃやばいことになる。その点スバルとかは分かりやすくていいんだけどな」

「……そうだな。じっくりと見極めていくしかないか。っと、敵が見えて来たぞ」

 ガジェットの姿を確認し、意識を切り替える二人。ヴィータは空中からシグナムは地面に着地すると攻撃を開始し、次々と撃ち落として行ってみせた。ガジェットは機動性こそ高いもののその行動は単調、リミッターで魔力を制御しているとはいえ、歴戦のベルカの騎士の二人の相手にはならず、このままいけば掃討は時間の問題かと思われたその時だった。

「何!? おい、シグナム、あたしは新人達の所へ行く、ここは任せたぞ!!」

「わかった、任せろ!!」

 シャマルからの通信、別方向からの襲撃、しかもそちらにはガジェットだけでなく、人間が混じっているとの連絡が入ったのである。魔導師が武術家か、いずれにしてもガジェット以上の強敵の可能性が高く、新人達だけには任せておけないと舞い戻るヴィータ。そして一人残されたシグナムたガジェットの相手をしようと再び戦闘体勢を取ったその時だった。

「虹色の足スペシャルゥゥゥ!!」

「!!」
 
 予想外の伏兵、林の中から飛び出してきたミケロがシグナムに対し蹴りを放ったのであった。









「クロスファイヤ・シュート!!」

 ティアナが放った魔力弾がガジェット数体を撃ち落とす。そしてその弾丸がおさまったタイミングを見計らって前にでるスバル。

「てえりゃあああ!!!」

 連続で3体ガジェットを倒す。そしてそこで出力をあげた魔力砲でガドルとチェスターが1体ずつガジェットを撃ち落とす。息のあった連携とレベルの高さで既に50体以上のガジェットを破壊した4人。そこでスバルが更に別のガジェット狙おうとした時だった。

「スバル!!」

「!!」

 危機に対し気付いたティアナが警戒を発する。そしてその声に反応し、一瞬遅れてその意味に気付いたスバルがガードを取った瞬間、凄まじい衝撃が彼女を襲った。

「スバルさん!!」

 起こった光景に対しチェスターが叫ぶ。スバルはまるでダンプカーにでも跳ねられたかのように数メートル弾き飛ばされていた。しかし、彼女は空中で体勢を立て直し地面に着地して見せる。

「ありがと、ティアナ。おかげで助かった」

 着地したスバルは軽く息をつくと上体を起き上らせ、ティアナに向かって礼を言う。それに対し、ティアナは視線だけをやり硬い表情で答えた。

「礼はいいわよ。それより……」

「うん、わかってる」

スバルはそこで自身を襲った衝撃の正体を確認する。そこには彼女に強烈な蹴り見舞った犯人、全身を筋肉に覆われた黒髪の男、コウ・カルナギが驚きと感心の混じった表情を浮かべて立っていた。

「ほう、俺の蹴りを受け止めるとはな。中々やるじゃねえか」

 そしてその後ろの林の中から金髪でコウ・カルナギにも匹敵する程の筋肉質の男、ボー・ブランシェと彼女の愛弟子で戦闘機人の一人ウェンディが現れる。

「ふん、不意打ちなど卑怯な奴だ」

「そうッスね」

 少し不機嫌そうな口調で言うボーと軽い口調で言うウェンディ。戦いの場に現れるには少し場違いな雰囲気の二人ではある。だが、だからと言ってを侮れる相手だとは無論のこと誰も思っていない。警戒を強め戦闘体勢を取る新人達。そんな彼女達に対し、カルナギ達は内輪揉めを開始する。

「おい、あの青髪の女は俺にやらせろ」

「あー、駄目ッスよ。タイプゼロはあたしが相手をする約束ッス」

 自分の攻撃を受け止めたことに興味を持ったらしくスバルを狙おうとするカルナギにウェンディは反論し、主張する。彼女は同じ戦闘機人であり、オリジナルであるスバルに対し対抗心を持っていた。また彼女はドクターから特別な改造を受けており、またボーから武術を学んでいるためその差を試したいとも思っている。その意味でも是非ともスバルと戦いたちと彼女は思っていた。しかし、カルナギの方もそれで引く程物分かりのいい性格をしていない。内輪揉めを続ける彼等に対し、ティアナが銃を向け、そして引き金をひいた。
 カルナギ目がけて飛ぶ超高速の魔力弾。その一撃は反射的な動きでそれを回避してみせた彼の眼前を通り過ぎる。

「あんたの相手はあたしがしてあげるわ。私じゃ不満かしら? それとももしかして私が怖い?」

 挑発的な台詞を吐くティアナ。その行動はスバルの方が自分より評価されていることなどに対する嫉妬などでは勿論無い。単純馬鹿のスバルとカルナギでは噛み合い過ぎるが故に危険が大きいという判断からだった。地力で打ち勝てればいいが、そうでなかった場合の敗北のリスクが大きい。その点彼女自身なら例え相手が自分より強くても取れる手段が存在する。彼女はそう冷静に判断していた。
そんな彼女の思惑に対し、カルナギはその挑発に怒るようなことこそ無かったものの獰猛の笑みを浮かべて答えた。

「いいぜ。てめえもなかなかおいしい獲物のようだからな」

「じゃあ、あたしは予定通りタイプゼロをやっつけちゃうッス」

「フン、それでもこの私が残り二人を相手にしよう」

 互いが互いの相手を定め、そして戦いが始まった。









「くくく、聞いてた割に大したことなかったな」

「くっ」

 ミケロが地面に倒れ伏したシグナムの頭に足を、力を込め乗せ踏みにじっていた。その屈辱に苦悶の声を漏らすシグナム。
 突然の奇襲、それに対しシグナムはレヴァンティンを受けたもののリミッターによる魔力制御を受けた状態の彼女にその蹴りは受け止め切れるものではなかった。その一撃で武器を弾き飛ばされ、更にガジェットとミケロの所有していたAMFに力を奪われた彼女は碌に反撃の糸口を掴むことすらもできずやぶれさってしまっていたのである。
そしてそんな彼女に対し、ミケロは頭に足を置いた体勢のままその顔を覗き込む。

「しかし、てめえ中々いい女じゃねえか。殺すにゃおしいな」

「ふっ、お前のような奴に言われても嬉しくも何ともないな」

 軽薄は表情を浮かべるミケロに対し、シグナムは不敵な表情を返す。しかしその態度はミケロの癪に触れたようで彼は一気に足に力を込めた。

「てめえ、あんまり調子にのってんじゃねえぞ」

「ぐっ、うわあああああああ」

 比喩では無く頭が踏みつぶされてしまいそうな圧力がかけられる。あまりの激痛に耐えきれず遂に悲鳴をあげてしまうシグナム。しかし、ミケロはそれに構わず、否、寧ろ歓喜の表情を浮かべ更に力を強めようとした。

「やめろ!!」

 だがその時制止の声がその場に響き渡る。そしてその先には赤毛の10歳位の少年が銀色の槍を構え、一人立っていた。

「あん、なんだ、てめえ?」

 自分の楽しみを邪魔され、しかもその相手が幼い子供であったことに対し、不機嫌な表情を浮かべるミケロ。しかし赤毛の少年はそれに答えず、彼を睨みつけて言葉を発する。

「その人から足をどかせ」

「このガキが、この俺に命令するんじゃねえ!!」

 少年の態度に怒り叫び、強烈な殺気を放つミケロ。それは一般人であっても感じ取れる位に濃密なものであった。しかし少年はその殺気を全く意に反すことがなかった。何故ならば彼はミケロなどよりも遥かに怒っていたから。目の前の非道な行いに対し、彼はその兄弟子と同じく正義の心を燃やしていたのだから。

「どけろと言っているんだ!!」

【sonic move】

 次の瞬間、デバイスから音声が発せられ、雷光の如き速さで移動した少年の拳がミケロの顔面に突き刺さり彼を吹き飛ばしていた。木に叩きつけられて停止するミケロ。そこに至って初めて少年が只者でないことを悟った彼は立ちあがり少年を睨みつけて問いかける。

「……て、てめえ、何者だ!?」

 そしてその言葉に対し、シグナムを守るように彼女を背にして立ちはだかった少年は答えた。

「僕はエリオ、史上最強の弟子3号、エリオ・モンディアルだ!!!」


(後書き)
今回、シグナムが噛ませっぽくてすいません。
次回、スバルVSウェンディ、ティアナVSカルナギ、エリオVSミケロ、ボーVS??です。



[22453] ホテルアグスタ(VSミケロ編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/11/27 21:21
「史上最強の弟子だあ?」

「そうだ。避けられる戦いならしたくない。さっさとここから立ち去れ!!」

「はっ、ガキが調子に乗りやがって!!」

 エリオの言葉に青筋を立てるミケロ。相手が退く気が無いと判断したエリオは槍を構え直す。それに対し、怒りに飲まれかけながらもミケロは冷静さを失うことはなかった。外道ではるが達人、エリオの力量を悟り警戒し、慎重な行動を見せる。そして両者が睨みあい、先に動いたのはエリオの方であった。

「魔神剣!!」

 技の名前を叫ぶと共にエリオが大地を掃うかのように槍を振るうと、そこに青い気の塊が生まれ、それが波のように地面を這ってミケロへと迫った。それに対し、ミケロは跳んでかわすと共にエリオに向かって飛び蹴りを放つ。
 
「死ねや!!」

 その速さから一瞬で迫るミケロの体。しかしエリオは槍を素早く引き戻すると、それを盾にしてその一撃を防いで見せる。当然、受け止められ勢いを失った体は下に落ちる。着地し体勢を立て直すミケロ。

「は!! なら、これならどうだ!!」

 今度は一撃ではなく連続で蹴りを放ってくる。だがそれらもまた、エリオは全て弾き落としてみて、一定以上に相手を近づけさせない。制空圏、自分の手の届く間合いを完璧に把握し、その圏内を自らの防衛圏とする技術、エリオは既にそれを修めていた。そしてそれに気付いたミケロは一歩後ろに引いて見せる。

「なら、これでどうだ!! 虹色の足スペシャル!!」

 いままでよりも遥かに強烈な蹴りの一撃、それを今までと同じように防ぐが、エリオの力では堪え切れず槍を弾き飛ばされてしまう。武器を失い丸腰になってしまった彼に対し、好機と見たミケロは追撃の蹴りを放つ。

「何!?」

「僕が使えるのは槍だけじゃない!!」

 だが、エリオはその蹴りを紙一重でかわすとその足を両腕で掴みとって捻りあげて見せた。

「ぐぅぅ!!」

 骨を折るまではいかないが、足を捻挫させられ苦悶の声を上げるミケロ。掴まれた方と反対の足で重心をささえ、右手で殴りかかろうとする。しかしエリオは拳が当たる直前にその体勢を解いてそれをかわし、バックステップをして距離をとると右腕に気を集中した。

「虎煌拳!!」

 オレンジ色の気の塊が掌から放たれ、ミケロを弾き飛ばす。そしてミケロが立ちあげって来る前に弾き飛ばされた槍を掴む。
構えるエリオに対し起き上ったミケロは口から流れる血を拭いエリオに対し、問いかけた。

「てめえ、本当に何者だ、一体いくつの技を持ってやがる。いや、幾つの武術を習ってやがる!!」

 虎煌拳は管理世界でも名が知られて来ている極限流空手の代名詞たる技であるが、極限流空手に投げ技はともかく極め技の類は存在しない、武闘家の端くれとして、またそれ以上に策略家として、ミケロはそう言った研究を怠ってはいない。しかしエリオは極限流空手の技を用いながら、関節技を繰り出し、槍を扱って使って見せた。明らかに複数の武術の技法が間違っている。その問いかけに対し、エリオは考えるような仕草を見せて答えた。

「えと新宮流古武術に極限流空手にアルべイン流剣術かな?」

「この一人多次元世界軍が!!」

 裏の一部で名の知れた管理外世界発祥の武術ばかり名前がでてきたことに思わず叫ぶミケロ。実際にはここに梁山泊長老の教えと魔法が加わる。風林寺隼人から制空圏を、新宮十三から柔の技と水の心を、タクマ・サカザキから空手と気孔の技を、ミゲール・アルべインから槍術をそしてリニスから魔法を教わった活人拳の使い手、それこそが史上最強の弟子3号、エリオ・モンディアルの姿である。

「しかたねえ。ガキ相手に情けねえが切り札を使わせてもらうとするか」

 そこでいきなりミケロの態度が変わる。そして不敵な、いや、邪悪な笑みを彼は浮かべた。その態度を不審に感じるエリオに対し、ミケロは語り始める

「俺の体にはある特殊な細胞が眠ってる。元の世界に居た時……、いや一時はこいつに支配されちまってたこともあるが、今は共生してる。こいつを活性化させるとな」

 そしてミケロの目が真っ赤に変化する。いや、それだけでは無い。捻った筈の足でまるでなんともないかのように地面を踏む。そして次の瞬間、一瞬の間にミケロはエリオの制空圏の内側にまで移動して来ていた。

「こんな風に超絶的な力が得られるんだよ!!」

【Sonic Move】

その攻撃を防げないと判断したエリオは高速移動魔法を発動させてそれを回避する。しかし、ミケロはその超スピードに反応してみせた。
 後方に跳んだエリオを捕らえ跳びこんでくる。

「くっ、秋沙雨!!」

 防御や回避では対応できないと判断したエリオは迎え撃つという手を選んだ。ミケロが放った連続の蹴りに対し、連撃の突きで応酬する。その速度は互角、しかし威力の差は遥かに不利だった。打ち負け体勢が崩される。

「虹色の足、スペシャルゥゥゥ!!!!」

 そこに放たれる大技。技名は先程までと同じ、しかし先程までとは段違いの威力のその一撃を受け、槍がへし折られエリオの体が跳ね飛ばされる。木に叩きつけられ、更にその木を圧し折り別の木に当たって彼の体はようやく停止する。
 だが、そのダメージは深く口から血が零れる。明らかに重いダメージ。しかしその体でもエリオは脅えることも逃げることもせず、再度挑みかかってみせた。

「たあああああ!!!」

 立ちあがると駆けだすエリオ。フェイトをかけて左に回り込むが、その動きは見切られていた。拳の一撃に対し、カウンターが入れられ、その体が再度跳ね飛ばされてしまう。倒れたエリオに近づこうとするミケロ。

「に、逃げろ……」

 だが、そこでミケロの動きを止めるものが居た。シグナムである。
 ここまでの戦いから二人の間にある実力差は明らか、エリオに勝機は無いと判断したシグナムは自分を助けようとした少年を巻き込む訳にはいかないと騎士の誇りを込め、最後の力を振り絞ってミケロの足を掴んだのだ。

「てめえは黙ってろ」

 それを鬱陶しく感じたミケロは掴まれた足と逆の足でシグナムの腹を蹴りあげた。体がくの字に曲がり、口から血を吐き、彼女の両手から力が抜ける。だがミケロはそれで行動を止めず、楽しそうに笑うと更に何度も彼女を蹴りあげた。
 元々残虐な性格をしている上、DG細胞に犯された今の彼は、その残虐性が更に高まっり、暴力の歓喜に溺れて居たのだ。

「さてと、そろそろとどめを刺してやるよ」

 大きく足を振り上げる。踵落としの構え。人体でも特に硬い箇所である踵を高スピードで腹や頭部に叩きつけられれば絶命は必死。そしてその死の断頭台が振り下ろされ、鈍い音がその場に響き渡った。

「!!……!? お前!!」

 シグナムはそこで驚愕の表情を浮かべた。ミケロが足を振り下ろした瞬間、エリオが高速で跳びこみ、そして両手の掌で彼の一撃を受け止めていたのだ。だが、そんな無茶をしてただで済む筈も無い。エリオの左手は砕け、砕けた骨が皮膚を喰い破り血が流れている。
 そしてエリオは一旦身を引いたミケロに対し向き合うと問いかける。

「そんなに……楽しいですか。人が傷つけるのが?」

「……ああ、楽しいぜ。自分より弱い奴をいたぶるのはこの上無い快感だ。どうせお前もそう思ってるんだろ?武術なんてもんをやっているだからな」

 急な問いかけに一瞬戸惑いながらも再び笑みを浮かべ答えるミケロ。エリオはそんな彼を睨みつけて言った。

「僕は……違います。僕が武術を習っているのは、あの人達みたいに、僕の師匠の人達みたいになりたいからです。僕は昔の僕と同じように苦しんでいる誰かがいればそれを助けてあげられる人になりたい。その為に武術をやっているんだ。だから、あなたが人を傷つけるためだけに武術を使うと言うのなら、僕は絶対にあなたを認めない!!」

 そしてエリオは構えをとる。それをミケロはつまらなそうに見て、吐き捨てる。

「そうかい。なら、そう思ったまま死ぬんだな!!」

 ミケロが迫る。それに対し目を見開き、真っ直ぐに向かい合って拳を振るうエリオ。しかし、彼の拳が届くことはなかった。

「まったく、お主は本当にケンイチ君に、そしてわしの若いころによく似とるのお」
 
 代わりにミケロの拳もエリオには届かなかった。拳を突き出したエリオの後ろから聞こえてくる声、それはエリオにとって最も信頼できる相手のものだった。そしてこの声の持ち主の右手によってミケロの足を受け止めてられている。

「お主の心がけは立派じゃ。じゃが、無理のし過ぎじゃ。後はわしに任せておきなさい。そしてそこのお主、大切な弟子を可愛がってくれた礼、たっぷりとさせてもらうぞ!!」

 身長2メートルを超える大男。その男はエリオに対し、優しい言葉を投げかけた後、ミケロに激しい怒りをぶつけ睨みつけると、その掴んだ足を振り回し思いっきり高く投げ飛ばしてみせた。

「うおおおお!!」

 上空に飛ばされるミケロの体。そして男は投げ飛ばすと同時に自分自身も跳びあがり、空中に浮かぶミケロに対し、数え抜き手を叩きこむ。

「四本指! 三本指! 二本指! 一本指!!」

 抜き手は相手に当たる表面積が小さくなる程、その圧力は強くなる。指の数を減らすことによってどんどん威力が高まるその攻撃がミケロの急所に的確に叩きこまれていく。

「うぐおぅぅぅ!!」

 攻撃を受け悶絶した状態で地面に叩きつけられるミケロ。そして開いた彼の目には上空から降りそそぐ自分を投げ飛ばした男が見えた。

「無影無限突き!!!!!!」

 そして拳の雨が降る。一発一発が音速を遥かに超えた打撃が数百叩きこまれるのだった。







「す、凄い」

 感嘆の言葉を漏らすシグナム。目の前で戦いを見せた大男の強さはリミッターをかけた今の状態は勿論、完全な状態でも地上では勝てるかどうかわからないとベルカの騎士でも上位の力を持つ彼女に思わせる程のものであった。

「お嬢さん、怪我の方はどうかの?」

「え、ええ。ところで、あなたは一体?」

 何とか体を起して言ったシグナムの問いかけに対し、大男はニカっと笑うとそして優しい笑顔でこう言った。

「わしか? わしはそこの子の師匠で風林寺隼人と言うものじゃ」


(後書き)
相手毎に分けて投稿します。



[22453] ホテルアグスタ(VSウェンディ編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/11/14 01:17
「くっ、空も飛べない癖にちょこまこと動くっすね!!」

「それはこっちの台詞だよ!!」

 スバルとウェンディ、二人の戦闘機人は叫びながら疑似空中戦とでも呼べる戦いを繰り広げていた。二人共空戦魔導師ではないため、自力で飛行する能力を持っていない。しかし同時に二人は空中を移動する方法を持ち合わせていた。“ウィングロード”で空中に道を作る魔法を使ってスバルは空中を走り、“ライディングボード”に乗ることでウェンディは自身は飛べずとも空中を移動できる。
 この両者の能力は当然、空戦魔導師の飛行魔法に比べれば、自由性は低い。スバルはまず、道を作ってからその上を移動しなければ行けないし、ウェンディは真横への移動が不可能となっている。しかしこの二人が使う場合に限ってでは存在するのはデメリットだけではない。足場を得られるというのは武術を学ぶ二人にとって大きなメリットが発生するのだ。故に戦い次第では単独で空を飛ぶ以上の強さを彼女達は発揮できるのである。

「なら、かわせない攻撃をするだけっす!」

 スバルの進行方向前方に周り込み、そこでウェンディはボードを強く踏み込むとその反動を利用し飛び蹴りを放つ。迫ってくる蹴りに対し、スバルは瞬間対処を迷う。横に大きくかわせばウィングロードから落ちてしまう。勿論、そこで改めて道を生み出すという手は存在するが、それまでに一瞬隙がでる。落ちない程度に紙一重で避けるという手も存在するが、生憎彼女はそう言った細かい動きを得意としていない。

「てやああああ!!!!」

 そしてスバルが選択したのは正面から受け止めるという手段だった。踏み込んだ反動だけでなくボードによる飛行の加速までもついた蹴りに対し、両手を交差させて受け止める。

(うっ、重い)

 予想外を超えた圧力、スバルは咄嗟の判断で一旦マッハキャリバーを解除することで、しっかりと地面を踏みこむことでその場に踏みとどまる。だが、その蹴りは単発ではなかった。

「てぇーい、爆裂粉砕脚!!」

 蹴りの勢いが治まったかと思った次の瞬間に放たれる2撃目3撃目の蹴り。1撃目をギリギリで受け止めていたスバルは堪え切れず、跳ね飛ばされてウィングロードから落ちそうになる。しかし宙返りして勢いを殺すことで何とか端に着地するスバル。だが、そこでウェンディがスバルのウィングロードを利用し、彼女に迫ってくる。

「爆裂粉砕拳っす!!」

 乱打の拳がスバルの体を貫く。しかし、そこで感じた手ごたえの無さにウェンディが違和感の原因を知る間も無く、彼女の後方から衝撃が襲った。

「残像拳だよ!!」

 スバルの声。彼女は自らの残像を残し、素早く相手の後ろに回り込んでいたのだ。攻撃をまともに受けてウィングロードから落ちるウェンディ。しかし遠隔操作で動かしたライディングボードが彼女を拾い、同時にボードから放たれた魔法攻撃が牽制をする。

「うわっ」

 それを回避するスバル。そうしている間に体勢を立て直したウェンディはライディングボード上で呟いてみせる。

「やるっすね。けど、分身なら……」

 そして彼女はスバルの正面に立つとライディングボード上とその斜め前、スバルの左右の2点のウィングロード上を高速で移動してみせた。それにより残像が発生し、彼女の姿が3つに分裂する。

「嘘!? 残像拳!?」

 相手が自分と同じような技を使ってきたことに驚くスバル。その一瞬の動揺をついて、彼女は3方向から攻撃を仕掛けた。

「あたしもできるっすよ!!」

 ウェンディの必殺技の一つ分身烈風拳、3方向からの攻撃を連続して受けたをスバルはその場にうずくまる。自らの感じた手ごたえと崩れたスバルの姿を見て勝利を確信するウェンディ。

「う~、効いたあ」

 だが、次の瞬間、スバルは割と立ちあがって見せた。ダメージは受けているようだが、それでも足取りはかなりしっかりとしている。その光景にウェンディは目を見開いて驚きの声をあげた。

「オリハルコンも使って無い筈なのにどういう頑丈さっすか」

「オリハルコン?」

 呆れたと言った表情を浮かべるウェンディの口から洩れた聞き慣れない言葉にオウム返しに尋ねてしまうスバル。それを聞いて彼女は自慢気に語り始めた。

「そうっすよ。あたし達後期型のナンバーズには改良の余地があったからオリハルコンって言う特殊な金属を組みこんで、身体能力や強度が大幅に上がってるっす」

「へぇ、そうなんだ……って、あれ? 組み込んだってことは、もしかしてあなたも戦闘機人なの?」

「今頃気付いたっすか?」

 そこで初めてウェンディが自分と同じ戦闘機人であることに気付くスバル。ウェンディはそれに対し呆れた表情を浮かべるが、スバルの方にも気付いていない訳があった。

「うん、身体能力とかは凄いと思ったけど、私の知ってる武術家の人とか魔力で強化しなくても普通に私より凄い人とかいるし」

「あー、確かにボーさんとかあたし等とあんまり変わんないっすね」

 スバルの言葉に納得するウェンディ。お互いが共感できる話題にその場に敵同士が戦っているとは思えないようなまったりとした雰囲気が流れかけるが二人は直ぐに状況を思い出し、気を引き戻すと構え直す。

「っと、いけない、いけない。早くあなたを倒して他のみんなのところへ行かないと」

「それはこっちの台詞っすよ!!」

 戦いが再開され、軽口をたたいたスバルに対し、再びウィングロードで突進してくるウェンディ。ところがそこで、スバルはあまりに予想外な行動を見せた。体を反転させ、ウェンディに対し背を向けたのだ。

「なっ!!」

 普通ではあり得ない行動に驚くウェンディ。そしてスバルは背中を見せたまま、全速で走り出した。慌てて追いかけるウェンディ。しかしスピードはスバルの方が上なようで少しずつ距離を引き離されていく。

「なら!!」

 魔力弾を放つ。如何にスバルの移動速度が速くても流石に弾速には敵わない。しかし、スバルはその攻撃に対し、背中を見せたまま回避してみせる。

「背中に目でもついてるんすか!!」

 叫ぶウェンディ。無論、目などついている訳は無い。スバルは気や魔力を感じとり、更に五感全体を活用して視力に頼らずともある程度相手の動きを見切る戦い方を身につけていた。そのため、普通なら絶対にやってはいけない戦闘中に敵に背中をみせるという手段を取れたのである。
 そしてある程度加速し、距離を取った所で彼女は反転した。

「てやああああ!!!」

 そして速度を落とさないままウェンディに向かって更に加速する。ただし、そのまま突っ込まず、彼女の脇を通り過ぎ、そして旋回する。

「何をする気っすか!?」

 相手の目的が掴めないままスバルを見失わないよう目で追い続けるウェンディ。スバルは何度も旋回を繰り返し、ウェンディの周囲を高速で周り続ける。そしてそれが続くこと十数秒。

「くっ、何時まで周り続ける気……しっ、しまっ!!」

 気がつくとウェンディはウィングロードでできた“檻”に取り囲まれていた。そしてスバルはその檻の中を走り回っている。これはまずいと悟り慌てて檻の外側に移動しようとし、そこで一瞬彼女はスバルから注意を外してしまった。

「ディバイン……」

「!!」

 それは致命的な隙、その隙をついて、スバルは加速した状態から飛びあがった。常識外れのバランス感覚とシューティングアーツの高速移動の両方があって可能とした超高速の奇襲は一瞬でウェンディとの距離を詰め、彼女が反応した時には既にスバルの拳は直ぐ目の前に迫っていた。

「バスター!!!!!!!」

 スバルの必殺技がウェンディを貫く。まともに攻撃を受けた彼女はウィングロードの檻を突き破り、地面に叩きつけられる。だが、それを見てスバルは慌てた。非殺傷設定で魔法を撃ったとしてもその結果として壁や地面に叩きつけられたことによるダメージまではその機能は働かないのだ。やりすぎてしまったかもしれないと慌てて駆け寄り生死を確認する。

「よかったあ~」

 その結果、彼女が息をしていること、そして完全に気を失っている状態であることを確認し、彼女はほっと息をつくのであった。


(後書き)
次はティアナVSコウ・カルナギの予定です



[22453] ホテルアグスタ(VSカルナギ&VSボー編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/11/27 21:21
「爆裂粉砕脚!!」

「ぐわあぁぁ!!」

 ボーの放った連続の蹴りがガドルに突き刺さり、彼を跳ね飛ばす。地面に転がった彼の横には既に倒れたチェスターの姿があった。ボー相手に彼等は二人で挑み、それなりの奮戦をしたものの力及ばず敗れさってしまったのである。

「お前達もなかなか手強かったがその程度ではこの私は止められんぞ」

 ボーは倒れる二人に対しそう言うと、彼等を放ってホテル内へと入ろうとする。だが、そこで彼の進行を防ぐために一人の女性が入口の前に立っていた。その女は倒れたガドルとチェスターに声をかける

「よく頑張ったね、二人共。大丈夫、後は私がやるから」

「むっ、女か? だが、私は女と言えど油断も容赦もせんぞ。怪我をしたくなければ大人しくそこをどくのだな」

 女を見たボーの宣告、しかし当然の如く彼女は退いたりしない。代わりに交戦の意思を示すとでも言うようにデバイスを構え、ボーに対し向けた。それを見てボーの方も迎撃の体勢をとる。

「ならば、力ずくで通させてもらうぞ」

 言うと共に凄まじい速度で駆けだすボー。しかしその瞬間、彼の眼前に数十の魔力弾が生まれその進行を阻む。それを生み出したのは無論、入口を塞ぐ女性であった。

「むっ!!」

 多数の魔力弾を見て進行を止め大きく飛び引くと、そのまま林の中へと移動するボー。そして彼に向かって魔力弾が一斉に放たれる。それをボーは一部を木を盾にして、残りをAMF発生装置をつけた拳や蹴りで破壊して防ぐ。

「どうやら、予想以上に手強いようだな」

「鍛えられてるからね。色々と」

 ボーの言葉に白いバリアジャケットを身にまとった魔導師、高町なのは自信を持った表情で不敵に笑い答えるのだった。








 なのはとボーが交戦している頃、ティアナとカルナギもまた、別の場所で交戦を続けていた。二人は20メートル程距離を取った状態で向かい合っている。

(このままいけるかしら? いや、ちょっと難しいわね……)

 ティアナは戦況を分析し、内心で呟く。
彼女の目には全身に細かい無数の傷をつくり、憤怒の表情を浮かべたカルナギが映っていた。彼女と彼の勝負は今の所、ティアナが一方的にダメージを与える形になっている。とは言えそれは圧倒しているということと同一では無い。カルナギの傷は接近戦をしかけてくる彼に対し、ティアナは弾幕を張って牽制して距離を取ると言ったやり取りを何度も繰り返し、裁き切れなかった攻撃によってカルナギはダメージを負ったものだ。しかし決定打に繋がるような大きなダメージを彼が受けたことは未だ一度も無い。そして一度も接近を許してしまえば危ういのはティアナの方である。
どちらかが大きなミスを犯さない限り戦いは長引く。そしてそうなった時、負けるのは自分の方であるとティアナは考えていた。牽制のために激しい弾幕を張り続けた彼女の魔力残量は既に5割を切っている。このまま戦い続けた場合、魔力の自然回復量を考慮に入れても、ダメージや疲労の蓄積からカルナギが倒れるよりも、自分の魔力が尽きる方が早いと彼女は判断していた。

(なら、ちょっと危険だけと賭けにでるしかないか)

 ならば短期決着の手段をとるしかないと彼女はプランを決め、それを実行するために魔力弾を発射する。それを回避しながら接近を仕掛けてくるカルナギ。それはいままでと同じやり取り。しかしいままでと違うのは一箇所だけわざと弾幕を薄くしてあること。そしてカルナギは弾幕の薄い所を侵攻してくる。

(よし!!)

 それはティアナの誘いであった。あえて攻撃の薄いところを作ることで相手を近づけさせることで確実に仕留めることを狙ったのである。薄いところにもある程度の弾丸を送り、相手の進行速度を弱めながら、彼女は冷静に相手が必中の間合いに入ってくるまで待ち続ける。

(10メートル……7メートル……5メートル……ここ!!)

「フルスピードシュート!!」

 そしてカルナギが3メートルと後少しで手を伸ばせば届くという距離まで迫った時、ティアナは右手のデバイスから高速収束弾を放って見せた。それまでは放っていた誘導性の弾丸とは比べ物にならない速度で放たれた直進弾。緩い速度で目に慣れた相手には何倍にも感じられるその一撃がカルナギに向かって迫る。だが、そこでカルナギはニヤリと笑った。

「あめえぜ!」

 そしてカルナギは左に動きその超高速弾を回避してみせた。弾幕としてはられた2、3の魔力弾が彼にぶつかるがそれは彼にさしたる痛痒を与えない。
ティアナの放った直進弾の一撃は如何にカルナギの身体能力が高くとも何の理由も無く回避することは不可能な筈の攻撃であった。にも拘わらずカルナギはそれを回避してみせた。

「狙いが見え見えなんだよ!!」

 その答えは簡単である。彼は弾幕の薄い箇所がティアナのミスでは無く、誘いであることに気付いていたのだ。あえてその誘いに乗って見せたカルナギは来るであろうと予測していたからこそティアナの一撃をかわすことができたのだ。
そしてカルナギはそのまま隙が出来たティアナに向かって突っ込み、拳を振り上げる。その時点で二人の間合いは僅か1メートルにまで詰まっていた。それは1歩踏み込みながら拳を振り下ろすだけで届く距離、そしてその威力は大型のトラックをも粉砕するもの。
 しかしその直撃すれば自分に死をもたらすであろう拳を前にし、今度はティアナの方が余裕の態度で言って見せる。

「でしょうね」

 これまでの戦いからティアナはカルナギがただ凶暴なだけの相手でないことを理解していた。カルナギの戦い方には理性と知性がある。粗暴なようでいてただ暴れるだけの馬鹿では決して無い。故にこんな露骨な罠など見破られるであろうことなどわかっていたことなのだ。

「最初から狙いはこっちなのよ」

 “本命”は始めから2発目。己の心を水の心とし、カルナギの心を映すことでその速度に反応してみせたティアナはカルナギに対し左手のデバイスを突きつけ、そして即座にその引き金を引く。
 相手がこちらの策を破ったと思い隙を見せた瞬間、これこそがティアナの狙いであり、カルナギはそれに見事にはまった。

「!!」

 そうカルナギはティアナの罠にはまった。彼女は冷静さを保ち続け、カルナギの火の心に対し、己の水の心をぶつけて見せた。だが、ただひとつだけ誤算があった。

「うおおおお!!!!」

 水は火を消す。それは真理だ。しかし強すぎる炎は水を蒸発させてしまう、彼女はそれを計算に入れていなかった。カルナギは必殺の魔力弾を受けながら倒れなかった。その事に一瞬、ティアナは水の心をかき乱してしまい、そして彼女は己の骨が砕けるのを自覚した。







「くっ、やるな、貴様」

 軽く息を突き、口元を拭うボー。
 なのはとボーの戦い、それはティアナとカルナギの戦いに近い様相を見せていた。近づこうとするボーに対し、なのはが弾幕を張ってそれを阻む。しかし、膨大な魔力を持つなのははティアナと違い魔力切れを心配する必要は無い。そのため、焦る必要は無く、彼女の表情には余裕が見て取れる。

「大人しく捕まってもらえませんか?」

「そうは如何。この私には野望がある。何より仲間を裏切るような真似はできんからな」

「そうですか」

 投降を呼びかけるなのは。それを断るボー。それを見てなのはは彼の覚悟を悟り、全力で彼を倒そうと改めて決意する。だが、そこでボーは意外な行動を見せた。何を思ったか、自分の手に付けたAMFに手を触れたのだ。

「どうやらこんなものに頼っていてはどうやら、お前に勝てんようだ」

 そしてそのまま発生装置を外して見せたのだ。更に残りの手足につけられたものも次々と外して行く。

「一体何を!?」

 わざわざ己が不利になるような行動をするボーに戸惑うなのは。思わず問いかける彼女に対し、彼は答える。

「道具に頼っていては真に強くはなれん。昔、言われた言葉だ」

「えっ?」

 なのはがその意味を理解するよりも速くボーは再び接近を仕掛けた。それに対しなのはは今まで通りに弾幕を張って迎撃する。しかし、これまでその全てを回避できる訳ではなかったボーはまるで水の流れるような動きで魔力弾の合い間を縫ってそれを回避し、その全てを回避した。しかもその流れるような動きは無数の残像を生み出し、なのは彼の位置を捕らえきれなくなる。もし、彼と同じ世界で裏に生きるものが今の彼を見たらこう言っただろう。『朧や御見苗優と同じ動きだ』と。

「爆裂粉砕拳!!」

「くっ!!」

 そして直ぐ目の前にまで迫って来たボーに対し、なのはギリギリのタイミングでシールドを張ってそれを防ぐ。何とか耐えるものの伝わってくる強い圧力。シールド解除と共にその衝撃で相手を弾き飛ばすと彼女は一旦空を飛んで距離を取ろうとする。
しかし、彼女の目的は相手のホテルの侵入を防ぐこと。入口から離れ過ぎては元も子も無いので直ぐに着地せざるを得ない。

(これはまずいかな)

 空戦、遠距離戦、自分の得意とする戦法の取れない状況での強敵との遭遇になのはは内心で冷や汗を流しながら再び敵と向き合うのだった。



[22453] ホテルアグスタ(完結編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/11/27 21:21
 咄嗟に出した左腕。そのおかげでティアナは致命を免れていた。代わりに左腕は魔法で治療しても当分の間は使い物にならない程破壊されている。
そして、カルナギは停止しない。継いで放たれた回し蹴り。前面にシールドを張って防御するがその障壁は撃ち破られ、彼女の脇腹に蹴りが入る。あばら骨が砕け、高速で弾き飛ばされるティアナの体。そしてその体はホテルに飾られていた金属製のモニュメントに叩きつけられ停止した。飛ばされた速度を考えればその衝撃は旧式の戦車砲の直撃を受けたようなもの。バリアジャケットを纏っているとはいえ、そのダメージは計り知れず、ぐったりとしてティアナ動かなくなってしまっていた。

「くくっ、こりゃ死んだか? 運が良くても脊髄逝ったろ?」

 その姿を見て留飲を下げたようで、楽しそうな表情に変わるカルナギ。そして勝利を確信したカルナギは無防備に近づくが、ティアナに反応は無い。
 そして彼は項垂れたティアナの顎に手をかける。

「!?」

 口の中に大きなものが突っ込まれる。
その正体は銃。
ティアナのデバイス、クロスミラージュが“カルナギの口の中”に突っ込まれていた。

「私の勝ちね」

「んが!?」

 銃を突きつけた状態でニヤリと笑うティアナ。開いた口で驚愕の声を上げるカルナギ。確かにカルナギには隙があった。しかしそもそもティアナが動けるのがおかしいのだ。それだけのダメージを受ける状況だった筈なのだから。その謎の理由をティアナが明かす。

「種明かしを教えてあげる。って、言ってもわざわざ説明する程のものじゃないけどね。ぶつかる寸前に魔力弾でモニュメントを破壊して、その時に発生した爆風をクッションにしたのよ。前から見たら普通に激突したように見えたんでしょうけど、魔力探知ができないのが命取りになったわね。まっ、多少衝撃を弱められたとは言え、結構な勢いで残骸に叩きつけられたからしばらくは本当に動けなかったんだけどね」

 前半のぐったりした様子は演技ではなかった。だからこそカルナギも油断した。そして動けるようになってからもティアナは直前まで動くことも殺気をだすことも無く耐え、そしてギリギリのタイミングで最速の動きをした。一度はカルナギの火の心の苛烈さの前に失った水の心を取り戻すことで。だからこそこの状況に持ちこめたのである。
だが、それ以前の段階で、もしもカルナギが怒りを、火の心を静めずティアナがモニュメントに叩きつけられた直後、即座に追撃をしかけていたとしたら、彼女は為す術も無く死んでいただろう。
火の心と水の心の持つものの勝負は最後にそれを生かしきったのに傾いたのである。

「一度消えた火は戻らないけど、水は蒸発されてもまた元の水に戻るのよ」

 決め台詞を終わりまで言わずにティアナは引き金を引く。それは非殺傷設定が掛けられてはいたが、流石のカルナギとは言え、口内で魔力弾をぶちまけられてはひとたまりも無い。体の内から走る圧倒的な衝撃に耐えきれる筈も無く気を失い、戦いの勝敗は決するのであった。











「やってくれたじゃねえか」

 長老の攻撃を受け、完全に気を失ったかと思われたミゲロ。だが、声が発せられ、彼は立ちあがって来た。そして、彼から発せられる威圧感にその場の3人は緊張を高める。

「な、なんて気当たり……」

「動の気を解放したようじゃな」

 恐れを漏らしたエリオの言葉にその原因を教える長老。そして彼の気に誘われるかのようにその場にガジェットが現れ、そして長老達では無く味方である筈のミゲロを取り囲む。

「てめえら、俺の力にやりやがれええええええ!!!」

 ミゲロが吠える。その瞬間、彼の体から金属のチューブのようなものが大量に生み出され、周囲のガジェット達を取り込むように絡め取って行く。

「な、なんだ!? 一体何が、起こるというのだ!!」

 あまりの事態に思わず声を上げるシグナム。そして多数のガジェットとミゲロは一つに融合していく。驚くべき事態、そして変化が止まった時、そこには全長20メートル前後の人型機械『ネロスガンダム』が存在していたのである。

「何と!!」

 流石の長老も驚きを露わにする。しかし何時までも驚いている暇は無かった。融合を終えたネロスガンダムは即座に動き出し、長老に、いや他の二人も巻き込む攻撃を仕掛けてきたのだ。

「ハイパー銀色の足スペシャルゥゥゥ!!!」

「いかん!!」
 
 それは怪我のダメージで碌に動けぬエリオとシグナムにかわしきれる攻撃ではない。二人を庇い、脇に抱きかかると飛び引いてかわす長老。そして蹴りが通り過ぎた後に起こる土の大爆発。振り返るとそこには幅数メートル、距離百メートルを超える断層を生み出されていた。恐るべき破壊力。そしてそれと同等の威力の蹴りが更に連発して放たれる。

「ウォォォォ!!!」

「くっ」

苦悶の表情を浮かべる長老。如何に彼と言えど二人を抱きかかえた状態では逃げるのが精一杯、そして荒れる大地に次第に逃げ続けることさえ困難となってしまい、ついにかわしきれない一撃が放たれる。

「虹色の足スペシャルゥゥゥ!!!!」

「ぐっ」

 絶対絶命の状況、だがそこで3人を庇うように飛びだすものが居た。そして彼は迫るネロスガンダムの足に対し、拳を突き出しながら叫ぶ。

「二重の極みぃぃぃぃ!!!」

 その拳は信じられないことに10倍、いや体積でいえば1000倍の格差を覆し、ネロスガンダムの足を粉々に粉砕した。そしてそれを為した人物の正体を見てシグナムが驚きの声をあげる。

「ザフィーラ!?」

 ヴォルケンリッター“盾の守護獣”ザフィーラ、その異名通りの防御の技に優れていた彼だったが、仲間を守るために“牙”を獲得し、ここに現れたのであった。











「あ、あれは!?」

 ボーと戦っていたなのはは周りの林から頭部をつきだした巨大なネロスガンダムの姿を目撃し驚きの声をあげる。勿論、戦いの最中であるから目の前の敵であるボーの方にも注意を向けているが、彼の方も気を惹かれたようで一時的に戦いが停戦状態になる。するとそのタイミングでボーにも念話が届くように造られた特製の通信機を通し、ウェンディから彼に通信が届いた。

『むっ、どうしかしたのか?』

『ボーさんすか? すまないっす。やられちまったっす。何とか助けてもらえないっすかね?』

『むぅ。わかった。直ぐに行く』

 一瞬、悩んだ後、ボーは判断を下す。ここで彼女を助けるために動けば狙いの遺物は手に入らなくなるが、仲間と道具では優先すべきなのがどちらかは明らかだ。状況によっては、仲間の命を犠牲にしてもその意志を優先し、道具を奪取しようとするような場合もあるが、基本は仲間を優先するのが彼の考え方だった。

「おい、女、お前名前は何と言う?」

「えっ、なのは、高町なのは」

 突然名前を問われ、思わず反射的に答えてしまうなのは。ボーはその名を小さく口に出してかみしめるように繰り返す。

「よし覚えたぞ。高町なのは、この勝負預けたぞ!!」

「えっ、ちょっと!!」

 高速で駆けだし、その場を立ち去るボー。なのはは直ぐ様バインドを出すが流れるような動きでかわされてしまう。距離を離され過ぎてバインドでは捕らえきれないところまで逃げられ、追いかけようとして直ぐに彼女はその場に踏みとどまった。彼の行動が陽動である可能性も考えられたからである。その場合、ホテル入口から離れれば彼女は罠に嵌まってしまったことになる。
 仕方なくその姿が消えるのを見送ったなのはは溜息をついて呟いた。

「今度あったら、その時こそ逃がさないから。っと、そのためには私も鍛え直さないと駄目かな」











「ほっほ、助かったわい。感謝するぞ。それにしても見事な技じゃったのう。お主、達人じゃな」

「それ程のものでも無い。魔法以外で使える技はこれだけだ。それより……」

「うむ、わかっておる」

 ザフィーラに礼を言い賞賛する長老。しかし言われた方のザフィーラは厳しい表情を浮かべていた。何故ならば、いまだネロスガンダムから発せられる強烈な気当たりは消えていないからだ。そして彼等の危惧は予想を超えた形で現実のものとなってしまう。ネロスガンダムの破壊された足がみるみる再生し始めたのだ。

「こいつは厄介じゃのう」

 救援が一人加わったとはいえ、足かせを二人抱えた状態なのは変わっていない。その上、強力かつ再生する敵。だが、そこで更に救いの手が差し伸べられた。転移し現れる金髪の女性。

「シグナム!!」

「シャマルか、いい所に来た。すまんが、私とこの少年に回復を頼む」

 シャマルは二人のダメージを見て軽く息を飲むが、直ぐ様、回復魔法“静かなる癒し”をかけ、二人の傷が見る見る癒える。

「ありがとうございます」

「助かった」

「けど、ダメージが大きすぎて完全回復とは行かなかったは、動けるとは思うけど無理はしないで」

 魔法とて万能では無い。治療に対し礼を言う二人に対し、シャマルは警告そ戒める。だが、二人はこのまま大人しくしているつもりはなかった。

「わかっている。だが、騎士の名誉にかけてもここは大人しくなどしておれん」

 エリオや長老には助けられた恩があるし、ミゲロには一方的にやられてしまった借りがある。少しでも力になろうと彼女はレヴァンティンを構えネロスガンダムに向き合った。そしてそれに習うかのようにエリオも徒手で構えを取る。それを見て長老は溜息をついた。そしてどこからともなく、槍を一本とりだすとエリオに向かって放り投げる。

「まったく、しょうがない弟子じゃのう。ほれ、ミゲールから預かったものじゃ。これを使いなさい」

 槍を掴むエリオ。その槍はミゲールが管理世界に来る前に使っていた槍、サディングレイヴだった。デバイスのように魔法を補助する機能は無いが純粋な槍としてはかなりの性能を持った業物である。今のエリオであれば徒手で戦うよりも遥かに戦力になる。

「はい!!」

 そしてそれを渡したと言うことはエリオを戦力として認めてくれた、実力を認めた明かしである。それを理解し、歓声をあげて答えるエリオ。そして4人は再生を果たしたネロスガンダムに挑む。先陣を切ったのはシグナムとエリオ。

「紫電一閃!!」

「虎牙破斬!!」

 二人が同時に飛びあがって放った斬撃がネロスガンダムの右腕を切り落とす。しかし、即座に再生。更にその足が二人を叩き潰そうとし迫る。

「とりゃああ!!!」

 だがその蹴りを横方から長老が蹴り飛ばし無理やり方向を変えて見せた。そして体勢を崩した所に、ザフィーラがネロスガンダムの胸元へ飛びこむ。

「二重の……」

 だがミゲロの方も黙ってやられるような相手ではなかった。残った片足で後ろ方向に飛び、ザフィーラの拳を空振りさせる。そして軌道を変えさせられた蹴りをそのままその反動を殺さず、一本足で体を駒のように一回転させ回し蹴りをザフィーラに見舞った。

「ぐっ!!」

 シールドを張って防ぐが、凄まじい勢いで地面に叩きつけられるザフィーラ。その体を踏みつぶそうとするネロスガンダム。だがその踏みつぶそうとする足を連結刃へとその形状を変化させたれヴァンティンが絡め取る。

「うざってええ!!!」

 怒りを込めて叫びをあげるミゲロ。それと共にレヴァンティンの連結部分が砕け散る。しかし、その間にザフィーラは安全圏へと逃れることに成功する。そしてそれを見ながら少し離れた場所でエリオは気を集中し始めていた。

「生半可な攻撃が通用しない相手なら覇王翔孔拳を使わざるを得ない」

 極限流の奥義、未熟さから発動に時間がかかるため今のエリオでは一対一の戦いでは扱い辛い技であるが、それでも威力でいえば彼の攻撃手段の中で一番の威力を誇るその技を使おうとする。
 だが、それに気付いたミゲロがターゲットを彼へと向ける。

「させん!!」

 しかしそこでザフィーラがそれを妨害する。鋼の頸を使って拘束状を生み出し、ネロスガンダムの全身を串刺しにする。ネロスガンダムの力と再生能力によってそれは直ぐに砕け散ってしまうが時間稼ぎとしてはそれで十分だった。

「覇王翔孔拳!!」

 エリオの両手から放たれたなのはのディバインバスターにも匹敵する破壊力を持った気の塊がネロスガンダムの胸部目がけて放たれ、そして直撃。その威力は装甲を破壊し、パイロットであるミゲロの姿を剥き出しにしてみせた。
 そしてそこに飛びこむ長老。そして109番目の秘技、彼の弟子が達人となった時に生み出した技を自己流にアレンジした奥義を炸裂させる。

「てぇりゃああああああ!!!!!」

 強烈な気当たりを拳を通して打撃と共に叩きこむ奥義。精神と肉体の両方を同時に叩きつぶすその奥義を受けたミゲロは裏側の装甲を貫いて、ネロスガンダムの機体の外に排出され、そしてパイロットを失ったネロスガンダムは残骸と化し、バラバラになってその場に崩れ落ちるのだった。



[22453] 決着【最終話】
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2011/01/04 23:50
「今度こそ終わったようじゃのう」

 気絶したミゲロを確認し長老は軽く息をつく。だがその時、彼の後ろから何か倒れるような物音が響いてくるのが聞こえた。

「シグナム!!」

 そして続くシャマルの叫び。長老が振り返るとそこには倒れたシグナムの姿があった。それを見てその場に居た皆が慌てて彼女に駆け寄った。

「だ、大丈夫だ」

 自分に近づく者達を見て、シグナムが半身を起し制止する。しかしその表情は明らかに辛そうで無理をしているようだった。

「やっぱり無茶だったのよ。そんな体で戦うなんて」

 回復魔法をかけるシャマル。にも拘わらずシグナムの様態はあまり変わらない。それほど彼女の受けたダメージは大きく、またそんな体での戦闘は負担を増大させていた。そんな彼女の状態を確認し、そしてたった今、知ったばかりの部隊の状況に彼女は溜息をつく。

「今、念話で他の人の状況も確認したのだけど、ガドル君とチェスター君、ティアナの3名は重傷。スバルちゃんは襲撃犯一人を撃退したけど、なのはちゃんが取り逃がしてしまった別の襲撃犯にその際に怪我を負った上、倒した襲撃犯を奪還されてしまったそうよ。それになのはちゃんの方も軽いけれど怪我を負っているらしいわ」

 つまりシグナムを加え最低でも4名が一時的に戦線離脱しなければならない程の状態で、更に2名がそこまで酷くは無くとも負傷を負ってしてしまった訳である。
極端な少数精鋭の部隊である機動六課は予備戦力である、はやて、シャマル、ザフィーラの3名を除けば合計で8名しか戦力が存在しない。それが重傷4名、軽傷2名、更に予備戦力である筈のザフィーラも軽傷を負ってしまったのだ。隊長格のフェイトとヴィータは無傷なので実際にはもう少しマシな状況であるが単純な数でいけば、戦力の半分から4分の3程度が欠けてしまったことになる。普通なら部隊が立ち行かない状況。何とか戦力の補充をしたいところだが、ただでさえ部隊結成に無茶をしているのでこれ以上他所から引っ張ってくることはできないし、はやては指揮官、シャマルは前線向きでないから予備戦力の方から前線に戦力を補充することも不可能である。

「今の状態で、また出動しなければならない事件が起こったらと思うと……」

「そのことなら、多分大丈夫じゃよ」

 現在の彼女の立場は医者とはいえ、ヴォルケンリッターの参謀役を長年務めてきた立場から今後の見通しと考え、思わず愚痴を漏らしてしまうシャマル。誰に言ったと言う訳も出も無い言葉だったがその悩みに対し、答えが帰ってくる。あまりに意外な方向から。

「お嬢さん達の最大の敵はスカエリッティとか言う奴等じゃろ? 多分、直ぐに壊滅する筈じゃからのう」

「えっ?」

 それを口にしたのは長老。彼の口から飛び出したあまりに予想外な言葉に思わず呆気に取られた声を漏らしてしまうシャマル。しかし、彼のその言葉の通り、その翌日、スカエリッティの研究所は壊滅し、彼とナンバーズ“3人”は逮捕されるのであった。







「“ウィンド”か。貰った情報は確かだった。感謝する」

 管理局地上本部防衛長官室、そこでレジアスは一人の男と会っていた。その男はスーツを身に纏い、手には帽子を持っている。スカエリッティの研究所、その居場所は彼からの情報によって判明したことだった。

「レジアスさんには面倒おかけしていますからね。この位はしますよ」

「ああ、わしもお前のような存在が居る世界、なるべくなら敵に回したくはないからな。しっかりやらせてもらうさ」

 その男はレジアスの鬼札、真の懐刀と呼べる存在だった。とは言っても彼の部下と言う訳では無い。お互いに協力関係を結んでいるというのが正しい。男は第97管理外世界、つまりなのは達の出身世界、地球の人間だった。管理局は知らないことであったが、実は地球では裏において、表の常識よりも科学が進んでおり、また多くの特殊能力者達が存在していた。それにより、プレシア事件、及び闇の書事件の際、管理局の存在を地球各国の政府は掴んでいたのである。
しかし裏の技術力を含めてもほぼ間違いなく、自分達よりも進んだ文明に対し、直ぐに接触をすることは避け、管理世界と管理局の調査を開始した。そして今、レジアスの前に居る男を始めとした優秀な工作員達は管理世界にまで入り込み、その価値観までを理解したのだが、そこで政府は頭を悩ませることになる。
 主権国家に対し、現地政府の承認無しに勝手に捜査をするなど、管理世界は明らかに地球を見下していると見える行動を取っているが、同時に隔絶した技術差・国力差がありながら侵略をしない善良さがある。プライドの部分に目をつむれば無視をした方が得策とも考えられるが、闇の書事件の際には地球のそれも市街地に対し、反応兵器を撃ちこもうとするなど看過できない行動も取っているため、今後致命的な被害を受ける恐れがある。
 本来であれば、国交を結び、厳重な抗議をし、今後そのような行為の無いよう取り決めをしたい所であったが、地球と管理世界とかでは力関係から独立したままの状態で対等の関係を結ぶのは難しく、かと言って質量兵器禁止など価値観的に相容れない部分の多い管理世界の傘下に入るのはより一層に困難である。無論、敗色濃厚な開戦も選択外だ。そのため、政府が選んだのは表立った国交は避けたまま、裏で繋がりを持つことで、地球に対する被害を避けるという手段だった。
 その活動の最中にレジアスと男は出会った。レジアスとしても無用な争いを起こすことは避けたいと考えたので、お互いの世界が対立することを防ぐための協力者へとなり、目的以外でも手を貸し合う関係になっていた。
 そしてその関係を利用し、今回レジアスは彼にスカエリッティの研究所の居場所の調査を依頼したのである。

「突入メンバーの中には、新宮十三氏もいるそうですね。彼の友人にもあったことがあるが、敵にまわしたく人達だ。彼等ならば問題ないでしょう」

「新宮氏は君の師匠だそうだな。彼が師匠ならば君の凄さも理解できると言うべきか、君の師匠だと言うなら彼の凄さも納得できると言うべきか」

 唸るような口調で、しかしながら少し楽しそうな声で言うレジアスに対し、笑顔で男は手を振って返す。

「いえ、私は少し手ほどきを受けただけですよ。彼の弟子等、私はそんな大それたものではない」

「お前がたいしたことないなど、もしその言葉が本当ならわしは“出来る限り”ではなく、“何がなんでも”97管理外世界、地球との交戦を避ける努力をしなくてはならんな」

 その男の言葉を謙遜と捕らえ、冗談めいた口調で笑うレジアス。しかしその言葉に2割位の本音が混ぜられていた。目の前の男の実力を知る彼からすれば、例え技術力や国力で勝っているにしても彼と同等以上の実力者がありふれているような集団と敵対するなど想像したくないことであったのだ。

「それでは、そろそろ失礼します」

「ああ」

 そして最後に短い挨拶をかわし、“ウィンド”、高槻巌は部屋から姿を消すのだった。








 こうして、事件は呆気なく解決した。ホテル・アグスタを襲撃したメンバーは未だ逃亡中なものの、主犯であるスカエリッティが逮捕。更にその研究施設や背後関係も抑えたことで、危険性としては低く見られ、その追及はそれほど真剣なものではなかった。
 一方、機動六課についてはメンバーの半数の怪我によって戦力が低下したものの、スカエリッティが逮捕され、大規模な事件が減少したことにより何とか対応を続けられ、それなりの結果を残すのだった。
 それと、スカエリッティの研究所から金髪でオッドアイの少女が保護され、何故か彼女が六課隊長であるなのはを慕ったことから、現在彼女がその少女を引き取ることが検討されている。










<スカエリッティ研究所壊滅の日の出来事>

「ふう、まいったね」

 スカエリッティはその言葉通り困っていると言うよりも寧ろ諦めの強い口調で言葉を漏らすと椅子にもたれかかった。

「これはどうも勝てそうにないね」

 次元犯罪者ジェイル・スカエリッティ、彼の研究所は今、管理局の襲撃を受けていた。その戦力は亀仙人、神宮十三、タクマ・サカザキ、ミゲール・アルべイン、メイリン、御神の剣士10名、武闘一課の一番隊および二番隊、地上本部魔導師精鋭部隊の計50名。それは圧倒的な力で進行し、既にガジェットの大半が破壊されてしまっていた。

「そんな、私達がどうにか!!」

 弱気なことを言うスカエリッティに参謀役でもあるクワットロが反論しようとするが、その時研究所が大きく揺れる。それは何重にも張られた隔壁の全てが亀仙人のかめはめ波とタクマの覇王至高拳で破られたことによるものだった。

「何とかできるかい?」

「……」

 それを知り、沈黙するクアットロや他のナンバーズ達。理解をせざるを得なかった自分達と相手との戦力差を。

「ゆりかごを機動させる前の段階で、居場所を突き止められた時点で私等の負けだよ。ここは大人しく諦めるとしよう。だが、君達は逃げるといい」

「「「「えっ!?」」」」

 驚きの声を上げるナンバーズ達に対し、スカエリッティは冷静な口調で説明する。

「運が良ければ君らの数までは把握されていないだろうし、君達のISを駆使すれば逃げるだけなら何とかなるだろう。追及を弱めるためにも私はここに残るがね」

「ですが!!」

自分を見捨てて逃げろというスカエリッティの言葉に反抗しようとするナンバーズ達。しかし、彼は更に付け加える。彼女達が逃げるにあたって納得する理由を。

「まあ、余裕があったら私を助け出してくれたまえ。無理しろとは言わないがね」

「……分かりました。ただし、私とウーノ、ト―レは残ります」

「クアットロ姉様!?」

 スカエリッティの考えに賛同を示し、同時に自分達も残ることを発言したクアットロの言葉に驚くディード。そしてスカエリッティはその言葉に頷いた。

「そうだね。頼むよ。ああ、それと産まれたばかりの“聖王”はここに残しておくとしよう。ここを気付かれた以上、ゆりかごの機動はどの道無理だろうし、こう言った手段はボー君が嫌がっていたしね」

 ある程度の数が残っていなければ、全く抵抗が無ければ怪しまれるのは明白である。また、最初からこちらの人数が完全に割れているのなら足止めが必要となる。その人員として、クアットロは自分とそして同じくスカエリッティの因子を持った二人を推薦したのである。

「後は頼んだぞ。私達を助けだしてくれ」

「けど!!」

「もう、時間が無い」

 ト―レの叱咤に近い言葉、それによって番号の若いナンバーズ達は大人しくなり、スカエリッティや姉の言葉に従って、その場を立ち去る。そして残った者達は数分後、現れた達人達と交戦し敗れるのであった。







<管理世界・某所>

「これからどうするっすかねえ」

「むう、そうだな。とりあえず、私の元居た世界にでも行ってみるか。あそこならば管理局の目も届きにくいだろう。一旦、身を隠し、そこで再起をはかるしかあるまい」

「うっす」

 帰る場所が無くなり、他の仲間との合流も果たせなかったボーとウェンディ。彼等二人は第97管理外世界、地球である騒動を引き起こすことになるのだが、それはまだ、誰も知らないことである。




(後書き)
本編はこれで完結です。
最後、打ち切りのような展開になってしまいました。武術と関係ないエピソード混じってますし。
こうなってしまったのは、登場人数の多いSTSのキャラに武術家をプラスした状態で長編を書くということを私が調子に乗って始めてしまったからです。これ以上続けてもグダグダにしかならないと思うので、ここで終了とさせていただきます。申し訳ありません。
残った複線などについては以前の短編連作の形で書いて行きたいと思います。それでは応援ありがとうございました。

PS.前回ガンダムを倒したことで、納得いかないという意見に対し、あまり詳しい明言はさけますがとりあえず下記を回答とします。

・あのネロスガンダムはあくまで模造品であり、オリジナルそのものの性能とは限らない
・武術家達や高ランク魔導師の力は均等ではないが、一人だけ(もしくは二人だけ)飛びぬけている等というようなことはない


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