「いいか総司、本当に打ち勝た無ければならないのは自分自身だ。いかに相手に勝つことが出来たとしても、自分に負けるようであればそれは本当に強くなったと言うことは出来ない」
今、俺の目の前に胴衣を着た一人の男性が座っている。見紛うことなく自分の祖父である堂島総二郎だ。祖父は俺に剣道を教えてくれた師匠で、厳格で見た目が恐かったが俺はそんな祖父が大好きだった。だが祖父がいることでこれは夢だと言うことに気がついてしまった。
祖父は俺が高校一年の時に病気で死んだのだから、これは夢で間違いない。
「常に冷静に物事を考えろ。一つの物事に集中するのではなく、全ての事象を客観的に捉えどんな状況になっても冷静でいられるようになれ。そうすれば総司、お前はもっと強くなれる」
話が終わった後、祖父は俺の頭を少し乱暴に撫でるのだが、長い間竹刀を降り続けゴツゴツになった祖父の掌の感触が大好きだった。
「爺さん二年だ。後二年すれば爺さんに勝ってみせる。だから…、俺が勝つまで元気でいてくれよ?」
俺がそう言うと爺さんは最初、少し驚いた表情を浮かべた後すぐに男臭い笑を浮かべながら、さらに俺の頭を乱暴に撫でる。
「まだまだお前みたいなヒヨッコには負けるわけがなかろうが。じゃが、その気持ちを忘れるんじゃないぞ?」
それが中学二年生の時の話だ。俺は爺さんに言ったことを実現するために今まで以上に爺さんに練習をつけてもらうようになった。ただ、両親との約束で勉強を疎かにしないことになっていたので、俺の中学三年間はかなりハードな物になっていた。
そして…。
「総司、防具をつけろ」
高校一年のある日、爺さんが急にそんなことを言ってきた。爺さんの気ままはいつものことだが、その日の爺さんからはいつも以上の何かが感じられ、俺は無言で頷いて防具をつけたんだ。
「一本勝負だ。儂も本気で行く、お前も本気で来い」
道場の中央で互いに蹲踞をした時、爺さんはそんなことを言ってきた。ただ、その声も雰囲気も一切の遊びはなく、真剣そのものだった。だから俺も、気持ちを切り替えた。考えることはただ一つ、爺さんに勝つことだけだ。
爺さんと勝負を始めてからどれくらい経過したかは解らないが、俺は肩で息をしながら息一つ乱していない爺さんを睨み付けるように見ている。そうでもしないとただでさえ技量で負けているのに、気持ちでさえ負けてしまいそうになるからだ。
爺さんは基本後の先の戦い方をする。相手の動きを見てから動き出すのだが、こっちがどう動くか解っているように動いてくるので、下手に打ちこむことが出来ない。
「どうした総司? 貴様の本気はそんなものか?」
「…」
勝負が始まってから初めて爺さんが話しかけてきた。だが俺はそれには答えずただ意識を集中し、少しでも体力を回復させようとする。
ただ深く…。
意識を集中させる。
世界には俺と爺さんの二人だけが存在しているかのように、周りの物全てを意識の外に追いやり、ただ目の前の爺さんだけに集中する。
「…」
「…」
先に動いたのはどちらからかハッキリとは覚えていない。でも、竹刀を振り抜いた感触と間違いなく面を打った感触だけが手に残り、次の瞬間に爺さんが道場に倒れていた。
『ぺるそな4 ~仮面と絆を力にして~』(ペルソナ4 再構成 オリジナル設定有)
第一話 一日に二回もワケの分からないところに連れていかれると腹がたつ。
久しぶりにじいさんの夢を見て目覚めてみると、乗った覚えが無いのに何故か車内が青一色に統一された車に乗っており、目の前には青い服に身を包んだ女性と、えらく特徴的な鼻をした男性が座っている。
「ようこそベルベットルームへ。これはまた、変わった定めをお持ちの方がいらしたようだ」
その男性は私を見るなり、口元に小さく笑いを浮かべながらそう言ってきた。目の前にいる男性と女性はいったい誰なのだろうか? それよりも、俺は稲羽市行きの電車に乗っていたはずなのだが、いったいいつの間にこの車に乗せられたのだろうか?
「私の名はイゴール、お初にお目にかかりますな」
「…」
俺はイゴールと名乗った男性にここはどこなのか、俺をどうするつもりなのか聞こうとしたのだが何故か言葉を出すことが出来ず、ただ口がパクパクと動くだけだった。
「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所、本来この部屋には何らかの形で『契約』を果たされた方のみが訪れるこが出来るのですが…、貴方には近くそうした未来が待ち受けているのかもしれませんな。そうですな…、まずはお名前をお聞かせいただけますかな?」
名前? 俺の、名前…。何故だろうか、本来忘れることのないであろう自分の名前、十七年間変えることなく使ってきた俺を俺自身たらしめているはずの俺だけの名前…。
「さて…、貴方はご自分の名前を私に言うことが出来ますかな?」
「瀬田、総司…。俺の名は瀬田総司だ」
「ふむ、なるほど。なかなか良いお名前ですな。では貴方の未来について少し覗いてみるといたしましょう」
「申し訳ないが断らせてもらおう」
はっきり言って俺は占いが好きではない。別に占いを否定するわけでもないし、中にはそんな特別な力を持った人が本当にいるのかもしれない。だが、俺の人生は俺だけのものであり、自分の考えて出した決断や、行動のすべて運命によって定められたものなどとは信じたくないのだ。
「なるほど、いかにも貴方らしい考え方ですな。ならこれは人生の先達としてのアドバイスでございます。…、近い未来を示すのは『塔』の正位置。どうやら大きな災難を被られるようですな。そして、その先を示しますのは…、月の正位置。迷い、そして謎を示すカード、実に興味深い。貴方は、これから向かう地にて災いを被り、大きな謎をとくことを課せられそうだ。近く、貴方は何らかの『契約』を持って再びこちらへおいでになるでしょう」
「俺にそれを信じろ、と?」
「いえいえ、あくまでも私からのアドバイスでございます。おせっかいついでに後一つだけ、今年運命は節目にあり、もし謎が解かれねば貴方の未来は閉ざされてしまうやも知れません。私の役目はお客人がそうならぬよう手助けさせていただくことでございます」
俺は客になったつもりはないのだが、イゴールの言葉を俺は笑い飛ばすことがなぜか出来なかった。そう、イゴールからはそうさせない何かが感じられるのだ。
「おお、紹介が遅れてしまいましたが、こちらはマーガレット、私と同じくここの住人でございます」
「お客様の旅のお供を努めさせていただきます。マーガレットでございます」
軽く微笑みながらマーガレットと名乗った女性はそう、自己紹介をしてきた。何となく大人の女性を思わせるその女性は、俺の視線をうけても変わらぬ柔らかい笑みを浮かべたままだった。
「またお客人に会えるのを楽しみにしております。では、その時までごきげんよう…」
イゴールがそう言うと、何となく意識が浮上していくのがわかった。
『次は~、八十稲羽~。八十稲羽~』
「…夢、か」
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようで、車内に流れたアナウンスによって現実へと引き戻され、自分が目的地に着いたことを理解する。
夢のなかで夢をみるとは転向することに少し緊張していたのかもしれない。
稲羽市、俺が今日から一年間過ごすことになる地だ。そんなことを考えていると、電車は速度を落としていきゆっくりと停車し、俺は電車から降りていく。
「久しぶりだな、総司」
俺が電車から降り、迎えに来ているはずの叔父を捜していると、後ろから懐かしい声が聞えてきた。俺がその声のする方に振り向くと、そこにはやはりというか想像通りの人物が立っていた。
「お久しぶりです堂島さん」
俺が挨拶をすると、叔父にあたる『堂島遼太郎』は近寄ってきて勢いよく俺の肩を叩いてきた。
「変わりないようだな。どうだ、久しぶりに来た感想は?」
「懐かしいですよ。ここに来るのも一年ぶりですからね」
俺と堂島さんが他愛もないことを話していると、堂島さんの後ろに一人の女の子の姿があることに気がついた。その女の子は恥ずかしそうに堂島さんの後ろに隠れながら俺の方にチラチラと視線を向けてきている。
「久しぶり菜々子ちゃん。俺の事覚えてるかな?」
「…お兄ちゃん」
「そうだよ。よかった、忘れられてたらどうしようかと思ってたんだ」
自分のことを覚えていてくれたことが嬉しく、つい菜々子ちゃんの頭に手をいて撫でてしまってから、菜々子ちゃんが結構人見知りする事を思い出して慌てて手を除けた。
「ごめんね菜々子ちゃん。嫌だった?」
「いやじゃないよ。お兄ちゃんの手おっきくてゴツゴツしてて、菜々子きらいじゃないよ?」
「菜々子は総司に会えるのを楽しみにしてたんだぞ? カレンダーに記しつけて後何日ってな」
「お父さん言っちゃ駄目!」
堂島さんの言葉に菜々子ちゃんは顔を真っ赤にして堂島さんの腰の辺りをポカポカと叩いているが、堂島さんは楽しそうに笑っているだけで一向に気にした風もない。
堂島さんの家には以前から何度かお世話になったことがある。俺に剣道を教えてくれたのは母さんの父親で、その爺さんの道場があったのがこの稲羽市だったこともあり、俺は長期の休みや暇を見つけてはこの地に足を運んでいたのだった。
「それじゃ、車に乗ってくれ」
俺が昔のことを思い出していると、いつの間にか菜々子ちゃんと堂島さんは車の所まで移動していて、俺も自分の荷物を車のトランクに入れ菜々子ちゃんと一緒に後部座席に座ることにした。
「それでね、友達の…」
車に乗ってから菜々子ちゃんが最近あったことを色々と話してくれた。学校であったこと、友達のこと、家であったこと、堂島さんの普段の生活がいかにだらしないか、等本当に色々なことだ。
「すまん、ガソリンがないから少し寄らせてもらうぞ」
「ええ、構いませんよ」
家に向かう途中、ガソリンの残りが少ないことに気がついた堂島さんが、道路沿いにあるガソリンスタンドに立ち寄ろうとしたのだが、立地条件的には悪くないそのガソリンスタンドは、何故だか客が殆ど居なかった。
「? 堂島さん、なんかへんな感じがしませんか?」
「へんな感じ?」
「こう…、膜がかかっているような、足が痺れているような…。上手く言えないんですけど霧がかかってハッキリしないような感じがするんです」
俺はガソリンスタンドに車を止める直前から何とも形容しがたい感覚を覚えていた。体全体に何かがまとわりついてくるような感触と、霧がでて周囲をハッキリと見ることが出来ないようなもどかしさを覚えていた。
「お父さん、菜々子トイレ行ってくる」
「ん? ああ、一人で行けるか?」
「菜々子そこまで子供じゃないもん!」
俺が首をかしげていると、菜々子ちゃんが車から降りてトイレに行き、堂島さんも少し遅れてトイレの方に行き、その場に残された俺はこの訳のわからない感触がなんなのか一人頭をかしげていた。
「君見ない顔だね。引越ししてきたの?」
俺が一人悩んでいると、ガソリンスタンドの店員さんが話しかけてきた。
「いえ、実は今日から一年の間だけお世話になるん、で、す…」
話しかけてきた店員さんを見た瞬間、俺の脳裏に見たことのない光景が一瞬だけ浮かび上がった。暗い坂道を一人の男性が駆け下り、その後ろから白い和服みたいな物を着た女性が追いかけてきている。
女性の姿はハッキリと見ることが出来るのだが、その顔だけがなぜかハッキリと見ることが出来なかった。
「…い、………ぶ、……かい。大丈夫かい? 何か具合が悪そうだけど?」
「!? え、ええ大丈夫です。ちょっと疲れているだけですから」
店員さんの言葉に軽く頭を振りながら、俯かせていた頭を上げるとそこには俺の顔を心配そうに覗き込んでいる店員さんの顔があった。ただ、初めて会うはずの店員さんの顔は、何故か酷く懐かしく感じられるのは何故だろうか?
「どうした総司? 気分でも悪いのか?」
「大丈夫お兄ちゃん?」
「大丈夫だよ菜々子ちゃん。有り難う心配してくれて。堂島さんもすいません、大丈夫ですから」
「そうか、気分が悪いようなら早めに言え。今日から一緒に暮らす家族なんだ、いらん遠慮などするなよ?」
「有り難うございます」
ガソリンも入れ終わり、俺はもう一度車に乗りこもうとすると店員さんが近くに寄ってきて話しかけてきた。
「もしバイトしようと思ってるのならうちにきなよ。まってるからね」
店員さんはにこやかにそう話しかけてきたのだが、帽子に隠れてハッキリと見ることの出来ない目だけは、少しも笑ってなく紅く輝いていたのがとても印象的だった。
「まぁ、いまさら説明はいらないだろうが、今日から一年間ここがお前の家になる。自分の家だと思って気楽にしてくれ」
「よろしくお願いします」
俺が家に入る前に改めて堂島さんと菜々子ちゃんに挨拶をすると、堂島さんは呆れたような顔をし菜々子ちゃんは怒ったように頬を膨らませていた。
「もー、違うよお兄ちゃん。家族はそんなこと言わないよ?」
「そうだぞ、いっただろ? 自分の家と思えって」
そう言って二人は俺からの言葉を待ってこちらを見ている。
「ただいま菜々子ちゃん、堂島さん」
「ああ」
「うん! お帰りお兄ちゃん」
堂島さんと菜々子ちゃんの気遣いに何となく涙が出そうになってしまった。堂島さんと初めてあったのは奥さんの葬儀の時だった。菜々子ちゃんはまだ小さく、葬式の間俺が面倒を見ていたんだ。
それから、爺さんに所に行ったときはたまに会いに来るようになった。と言っても、二人とはそんなに度々会っていたわけでもない。でも、両親が仕事の関係でどうしても海外に行かなくてはならず、俺が日本で高校生活を続けたいといったとき、堂島さんの方から自分の所に来たらいいと声をかけてきてくれたのだ。
「しっかし、兄さんと姉貴も相変わらず仕事一筋だな…、今度は海外だったか?」
「ええ、堂島さんから声がかからなかったら俺も向こうでしたよ」
俺が二階に用意された部屋に荷物を置き一階に戻ってくると、菜々子ちゃんがせわしなく動きながら冷蔵庫から飲み物などを出していた。
「菜々子ちゃん、俺も手伝おうか?」
「ダメ! お兄ちゃんの歓迎会だから、お兄ちゃんは何しちゃダメなの!」
菜々子は怒ったようにそう言っているが、顔には笑顔が浮かんでいる。とりあえず菜々子ちゃんに言われたとおり、俺は何もせずてきぱきと動く菜々子ちゃんの姿を眺めることにした。
「ん、しょ…。ん~…、あ」
「これくらいはしてもいいよね?」
「ありがとう、お兄ちゃん」
菜々子ちゃんが少し高いところにあるものをとろうとするが、身長が足りどうしても手が届かなかった。俺は菜々子ちゃんの後ろに行き両脇の下に手を入れると、物が取れる高さまで持ち上げた。
そして、菜々子ちゃんの準備ができた頃、食べるものを買いに行っていた堂島さんも戻ってきて、俺の歓迎会を開いてくれた。二人の気遣いがとても嬉しかったのだが、菜々子ちゃんはもちろん、堂島さんも料理が全くできないそうなので、俺は自分から食事を作らせてもらうように頼んだとき俺が料理が作れることに驚いていたが快諾してくれた。菜々子ちゃんも嬉しそうにしていたので、最初につくるのは菜々子ちゃんの好物にしようと密かに心に決めたのは、俺だけの秘密だ。
ただ、食事を始める前に堂島さんの携帯に電話がありどこかに出ていってしまい、それを見送る菜々子ちゃんが寂しそうな顔をしていたが、俺が見ていることに気がつくと笑顔を浮かべるのだった。
少しだけ気まずい雰囲気が流れたが、菜々子ちゃんが雰囲気を変えるように手元にあったリモンでテレビを付けたのだが、テレビからは不倫がどうのこうのとあまり気分が明るくなるものではなかった。
だが、チャンネルを帰るとジュネスのシーエムが流れ…。
「エヴリデイ、ヤングライフ、ジュ・ネ・ス!」
菜々子ちゃんがそれに合わせて歌っていた。なんともかわいらしい姿についつい頬が緩んでしまう。
「菜々子ちゃんはジュネス好きなの?」
「うん!」
「そっか、今度一緒に行こうか?」
「いいの!?」
「うん」
「わーい!」
それから菜々子ちゃんと少し話をしてから二階の部屋に戻り、少し荷物の整理をして寝るスペースを作ってからこの日は眠ることにした。
「? どこなんだここは?」
眠りについてから少しして不思議な感じに目を覚ますと、堂島さんの家で眠りについたはずなのになぜだか、見たこともない場所に立っていた。
今日は厄日なのだろうか? まさか一日に二度も訳のわからない場所に来ることになるとは思わなかった。
「…夢にしてはリアルすぎるし、かと言って現実にしては突拍子もなさずぎる、か…」
とりあえず体の調子を確かめ、どこにもおかしいところはないのを確認すると大きく息を吸い込み気持ちを落ち着かせ、霞んで良く見えない周囲を観察する。
「さて…、周囲には特に場所を特定できるようなものはないか…、まったく訳がわからないな」
俺は気持ちを落ち着かせるため、あえて声を出して考えを纏める。でも、こういう時にこそ冷静に行動しなければならない。子供の頃、爺さんに何度も言われたことを心のなかで何度も反芻する。
「いってみるか…」
『真実が知りたいって?』
俺は不意に聞こえてきた声を動きを止めて周囲に視線を向ける。声が聞こえてきたのはすぐ近くのようで、とても遠くからのようにも感じられ、前から聞こえてきたようで後ろから聞こえたようにも感じられてどこから聞こえてきたのかまったくわからなかった。
『それなら…、捕まえてごらんよ』
「奥か…」
今度は声が聞こえてきた場所が分かったので、とりあえず声の聞こえてきた方に進むことにした。だが、一番奥まで行くとそこは行き止まりになっていた。
「この向こうから聞こえてくるのか?」
確かに声は壁の向こう側から聞こえてきている。だが、目の前には壁があり周囲は相変わらず深い霧に覆われて足元さえ確認することが出来そうに無く、この状態で霧の中に進んでいこうとはまったく思えなかった。
「っと」
しかし、壁に手を当ててみると俺が手を当てた場所を中心に空間が歪み、奥に進めるようになった。流石に怪しいことこの上ないが、このままこの場に留まっているわけにもいかないので、とりあえず奥に進んでみることにした。
「誰かいるのか?」
俺の少し前方に誰か人がいる気配が感じられる。だが、深い霧が邪魔をして顔を確認することが出来ない。ただ、俺は何となく前方にいる人物を見たことがあるような気がした。
「お!?」
もう一度声をかけようとしたとき、前方にいる誰かから俺に対する明確な悪意が感じられた。体中に確かめるような、否体の中まで見られるような感触に全身から冷畦が出そうになる。
『へぇ、確かにこの霧の中でも少しは見えるみたいだね』
「あんたが俺をここに連れてきたのか?」
俺の質問に人影は答える気がないのか、いまだ全身を調べるような視線は消えてはいない。
『なるほど確かに面白い素養だ。でも、そう簡単に捕まえられるとは思わないことだ』
さっきから何を言っているのだろうか? ただ、声からは前方にいるのが男性なのか女性なのか判断することはできそうになかった。
『求めているのが真実なら尚更ね』
その人物がそう言うと霧の濃度がさらに濃くなっていき全く周りを見えなくなってしまった。それにして、さっきから訳の分からないことを延々と言われ、段々と俺も腹がたってきた。
せめて、状況の説明をしてくれ。
『また、あうことが出来るかな?』
「なら名前ぐらい名乗ったらどうだ? いきなりこんなとこに連れてきて、全く説明がないばかりか訳の分からないことを言って…、流石に我慢にも限界があるぞ?」
俺の言葉に前方にいる人物が微かに笑ったような気がしたが、その直後に意識が途切れてしまった。
「また…、か…」
俺のつぶやきを聞いているのは周囲に立ち込める濃い霧だけだった。
※後書き
作者です。
再構成です。所々ゲームとは違うところがありますが、仕様です。一番大きな違いは主人公と堂島さん親娘と知り合いだということでしょうか。
母親の弟と全く親交が無いことは無いでしょう、と思いまして堂島奥さんのお葬式には来ていると思うんですよね。
というわけでこんな設定になりました。
ではまた。
※※注意書き
この作品は公式設定に準拠していないところがあります。作者の独自見解、捏造等が有りますのであしからずご了承くださいませ。
※※※訂正
9月18日 祖父の名前に関する間違いを訂正しました。蒼蛇様ご指摘ありがとうございます。