<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[21974] 『ぺるそな4ふぇす ~仮面と絆を力にして~』(ペルソナ4 再構成 オリジナル設定有) 第一話 一日に二回もワケの分からないところに連れていかれると腹がたつ。
Name: A.K◆f8db502c ID:9df86d6d
Date: 2010/09/26 08:42
「いいか総司、本当に打ち勝た無ければならないのは自分自身だ。いかに相手に勝つことが出来たとしても、自分に負けるようであればそれは本当に強くなったと言うことは出来ない」

今、俺の目の前に胴衣を着た一人の男性が座っている。見紛うことなく自分の祖父である堂島総二郎だ。祖父は俺に剣道を教えてくれた師匠で、厳格で見た目が恐かったが俺はそんな祖父が大好きだった。だが祖父がいることでこれは夢だと言うことに気がついてしまった。
祖父は俺が高校一年の時に病気で死んだのだから、これは夢で間違いない。

「常に冷静に物事を考えろ。一つの物事に集中するのではなく、全ての事象を客観的に捉えどんな状況になっても冷静でいられるようになれ。そうすれば総司、お前はもっと強くなれる」

話が終わった後、祖父は俺の頭を少し乱暴に撫でるのだが、長い間竹刀を降り続けゴツゴツになった祖父の掌の感触が大好きだった。

「爺さん二年だ。後二年すれば爺さんに勝ってみせる。だから…、俺が勝つまで元気でいてくれよ?」

俺がそう言うと爺さんは最初、少し驚いた表情を浮かべた後すぐに男臭い笑を浮かべながら、さらに俺の頭を乱暴に撫でる。

「まだまだお前みたいなヒヨッコには負けるわけがなかろうが。じゃが、その気持ちを忘れるんじゃないぞ?」

それが中学二年生の時の話だ。俺は爺さんに言ったことを実現するために今まで以上に爺さんに練習をつけてもらうようになった。ただ、両親との約束で勉強を疎かにしないことになっていたので、俺の中学三年間はかなりハードな物になっていた。

そして…。

「総司、防具をつけろ」

高校一年のある日、爺さんが急にそんなことを言ってきた。爺さんの気ままはいつものことだが、その日の爺さんからはいつも以上の何かが感じられ、俺は無言で頷いて防具をつけたんだ。

「一本勝負だ。儂も本気で行く、お前も本気で来い」

道場の中央で互いに蹲踞をした時、爺さんはそんなことを言ってきた。ただ、その声も雰囲気も一切の遊びはなく、真剣そのものだった。だから俺も、気持ちを切り替えた。考えることはただ一つ、爺さんに勝つことだけだ。

爺さんと勝負を始めてからどれくらい経過したかは解らないが、俺は肩で息をしながら息一つ乱していない爺さんを睨み付けるように見ている。そうでもしないとただでさえ技量で負けているのに、気持ちでさえ負けてしまいそうになるからだ。
爺さんは基本後の先の戦い方をする。相手の動きを見てから動き出すのだが、こっちがどう動くか解っているように動いてくるので、下手に打ちこむことが出来ない。

「どうした総司? 貴様の本気はそんなものか?」

「…」

勝負が始まってから初めて爺さんが話しかけてきた。だが俺はそれには答えずただ意識を集中し、少しでも体力を回復させようとする。

ただ深く…。

意識を集中させる。

世界には俺と爺さんの二人だけが存在しているかのように、周りの物全てを意識の外に追いやり、ただ目の前の爺さんだけに集中する。

「…」

「…」

先に動いたのはどちらからかハッキリとは覚えていない。でも、竹刀を振り抜いた感触と間違いなく面を打った感触だけが手に残り、次の瞬間に爺さんが道場に倒れていた。



『ぺるそな4 ~仮面と絆を力にして~』(ペルソナ4 再構成 オリジナル設定有)
第一話 一日に二回もワケの分からないところに連れていかれると腹がたつ。

久しぶりにじいさんの夢を見て目覚めてみると、乗った覚えが無いのに何故か車内が青一色に統一された車に乗っており、目の前には青い服に身を包んだ女性と、えらく特徴的な鼻をした男性が座っている。

「ようこそベルベットルームへ。これはまた、変わった定めをお持ちの方がいらしたようだ」

その男性は私を見るなり、口元に小さく笑いを浮かべながらそう言ってきた。目の前にいる男性と女性はいったい誰なのだろうか? それよりも、俺は稲羽市行きの電車に乗っていたはずなのだが、いったいいつの間にこの車に乗せられたのだろうか?

「私の名はイゴール、お初にお目にかかりますな」

「…」

俺はイゴールと名乗った男性にここはどこなのか、俺をどうするつもりなのか聞こうとしたのだが何故か言葉を出すことが出来ず、ただ口がパクパクと動くだけだった。

「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所、本来この部屋には何らかの形で『契約』を果たされた方のみが訪れるこが出来るのですが…、貴方には近くそうした未来が待ち受けているのかもしれませんな。そうですな…、まずはお名前をお聞かせいただけますかな?」

名前? 俺の、名前…。何故だろうか、本来忘れることのないであろう自分の名前、十七年間変えることなく使ってきた俺を俺自身たらしめているはずの俺だけの名前…。

「さて…、貴方はご自分の名前を私に言うことが出来ますかな?」

「瀬田、総司…。俺の名は瀬田総司だ」
「ふむ、なるほど。なかなか良いお名前ですな。では貴方の未来について少し覗いてみるといたしましょう」

「申し訳ないが断らせてもらおう」

はっきり言って俺は占いが好きではない。別に占いを否定するわけでもないし、中にはそんな特別な力を持った人が本当にいるのかもしれない。だが、俺の人生は俺だけのものであり、自分の考えて出した決断や、行動のすべて運命によって定められたものなどとは信じたくないのだ。

「なるほど、いかにも貴方らしい考え方ですな。ならこれは人生の先達としてのアドバイスでございます。…、近い未来を示すのは『塔』の正位置。どうやら大きな災難を被られるようですな。そして、その先を示しますのは…、月の正位置。迷い、そして謎を示すカード、実に興味深い。貴方は、これから向かう地にて災いを被り、大きな謎をとくことを課せられそうだ。近く、貴方は何らかの『契約』を持って再びこちらへおいでになるでしょう」

「俺にそれを信じろ、と?」

「いえいえ、あくまでも私からのアドバイスでございます。おせっかいついでに後一つだけ、今年運命は節目にあり、もし謎が解かれねば貴方の未来は閉ざされてしまうやも知れません。私の役目はお客人がそうならぬよう手助けさせていただくことでございます」

俺は客になったつもりはないのだが、イゴールの言葉を俺は笑い飛ばすことがなぜか出来なかった。そう、イゴールからはそうさせない何かが感じられるのだ。

「おお、紹介が遅れてしまいましたが、こちらはマーガレット、私と同じくここの住人でございます」

「お客様の旅のお供を努めさせていただきます。マーガレットでございます」

軽く微笑みながらマーガレットと名乗った女性はそう、自己紹介をしてきた。何となく大人の女性を思わせるその女性は、俺の視線をうけても変わらぬ柔らかい笑みを浮かべたままだった。

「またお客人に会えるのを楽しみにしております。では、その時までごきげんよう…」

イゴールがそう言うと、何となく意識が浮上していくのがわかった。

『次は~、八十稲羽~。八十稲羽~』

「…夢、か」

どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようで、車内に流れたアナウンスによって現実へと引き戻され、自分が目的地に着いたことを理解する。
夢のなかで夢をみるとは転向することに少し緊張していたのかもしれない。
稲羽市、俺が今日から一年間過ごすことになる地だ。そんなことを考えていると、電車は速度を落としていきゆっくりと停車し、俺は電車から降りていく。

「久しぶりだな、総司」

俺が電車から降り、迎えに来ているはずの叔父を捜していると、後ろから懐かしい声が聞えてきた。俺がその声のする方に振り向くと、そこにはやはりというか想像通りの人物が立っていた。

「お久しぶりです堂島さん」

俺が挨拶をすると、叔父にあたる『堂島遼太郎』は近寄ってきて勢いよく俺の肩を叩いてきた。

「変わりないようだな。どうだ、久しぶりに来た感想は?」

「懐かしいですよ。ここに来るのも一年ぶりですからね」

俺と堂島さんが他愛もないことを話していると、堂島さんの後ろに一人の女の子の姿があることに気がついた。その女の子は恥ずかしそうに堂島さんの後ろに隠れながら俺の方にチラチラと視線を向けてきている。

「久しぶり菜々子ちゃん。俺の事覚えてるかな?」

「…お兄ちゃん」

「そうだよ。よかった、忘れられてたらどうしようかと思ってたんだ」

自分のことを覚えていてくれたことが嬉しく、つい菜々子ちゃんの頭に手をいて撫でてしまってから、菜々子ちゃんが結構人見知りする事を思い出して慌てて手を除けた。

「ごめんね菜々子ちゃん。嫌だった?」

「いやじゃないよ。お兄ちゃんの手おっきくてゴツゴツしてて、菜々子きらいじゃないよ?」

「菜々子は総司に会えるのを楽しみにしてたんだぞ? カレンダーに記しつけて後何日ってな」

「お父さん言っちゃ駄目!」

堂島さんの言葉に菜々子ちゃんは顔を真っ赤にして堂島さんの腰の辺りをポカポカと叩いているが、堂島さんは楽しそうに笑っているだけで一向に気にした風もない。
堂島さんの家には以前から何度かお世話になったことがある。俺に剣道を教えてくれたのは母さんの父親で、その爺さんの道場があったのがこの稲羽市だったこともあり、俺は長期の休みや暇を見つけてはこの地に足を運んでいたのだった。

「それじゃ、車に乗ってくれ」

俺が昔のことを思い出していると、いつの間にか菜々子ちゃんと堂島さんは車の所まで移動していて、俺も自分の荷物を車のトランクに入れ菜々子ちゃんと一緒に後部座席に座ることにした。

「それでね、友達の…」

車に乗ってから菜々子ちゃんが最近あったことを色々と話してくれた。学校であったこと、友達のこと、家であったこと、堂島さんの普段の生活がいかにだらしないか、等本当に色々なことだ。

「すまん、ガソリンがないから少し寄らせてもらうぞ」

「ええ、構いませんよ」

家に向かう途中、ガソリンの残りが少ないことに気がついた堂島さんが、道路沿いにあるガソリンスタンドに立ち寄ろうとしたのだが、立地条件的には悪くないそのガソリンスタンドは、何故だか客が殆ど居なかった。

「? 堂島さん、なんかへんな感じがしませんか?」

「へんな感じ?」

「こう…、膜がかかっているような、足が痺れているような…。上手く言えないんですけど霧がかかってハッキリしないような感じがするんです」

俺はガソリンスタンドに車を止める直前から何とも形容しがたい感覚を覚えていた。体全体に何かがまとわりついてくるような感触と、霧がでて周囲をハッキリと見ることが出来ないようなもどかしさを覚えていた。

「お父さん、菜々子トイレ行ってくる」

「ん? ああ、一人で行けるか?」

「菜々子そこまで子供じゃないもん!」

俺が首をかしげていると、菜々子ちゃんが車から降りてトイレに行き、堂島さんも少し遅れてトイレの方に行き、その場に残された俺はこの訳のわからない感触がなんなのか一人頭をかしげていた。

「君見ない顔だね。引越ししてきたの?」

俺が一人悩んでいると、ガソリンスタンドの店員さんが話しかけてきた。

「いえ、実は今日から一年の間だけお世話になるん、で、す…」

話しかけてきた店員さんを見た瞬間、俺の脳裏に見たことのない光景が一瞬だけ浮かび上がった。暗い坂道を一人の男性が駆け下り、その後ろから白い和服みたいな物を着た女性が追いかけてきている。
女性の姿はハッキリと見ることが出来るのだが、その顔だけがなぜかハッキリと見ることが出来なかった。

「…い、………ぶ、……かい。大丈夫かい? 何か具合が悪そうだけど?」

「!? え、ええ大丈夫です。ちょっと疲れているだけですから」

店員さんの言葉に軽く頭を振りながら、俯かせていた頭を上げるとそこには俺の顔を心配そうに覗き込んでいる店員さんの顔があった。ただ、初めて会うはずの店員さんの顔は、何故か酷く懐かしく感じられるのは何故だろうか?

「どうした総司? 気分でも悪いのか?」

「大丈夫お兄ちゃん?」

「大丈夫だよ菜々子ちゃん。有り難う心配してくれて。堂島さんもすいません、大丈夫ですから」

「そうか、気分が悪いようなら早めに言え。今日から一緒に暮らす家族なんだ、いらん遠慮などするなよ?」

「有り難うございます」

ガソリンも入れ終わり、俺はもう一度車に乗りこもうとすると店員さんが近くに寄ってきて話しかけてきた。

「もしバイトしようと思ってるのならうちにきなよ。まってるからね」

店員さんはにこやかにそう話しかけてきたのだが、帽子に隠れてハッキリと見ることの出来ない目だけは、少しも笑ってなく紅く輝いていたのがとても印象的だった。

「まぁ、いまさら説明はいらないだろうが、今日から一年間ここがお前の家になる。自分の家だと思って気楽にしてくれ」

「よろしくお願いします」

俺が家に入る前に改めて堂島さんと菜々子ちゃんに挨拶をすると、堂島さんは呆れたような顔をし菜々子ちゃんは怒ったように頬を膨らませていた。

「もー、違うよお兄ちゃん。家族はそんなこと言わないよ?」

「そうだぞ、いっただろ? 自分の家と思えって」

そう言って二人は俺からの言葉を待ってこちらを見ている。

「ただいま菜々子ちゃん、堂島さん」

「ああ」

「うん! お帰りお兄ちゃん」

堂島さんと菜々子ちゃんの気遣いに何となく涙が出そうになってしまった。堂島さんと初めてあったのは奥さんの葬儀の時だった。菜々子ちゃんはまだ小さく、葬式の間俺が面倒を見ていたんだ。

それから、爺さんに所に行ったときはたまに会いに来るようになった。と言っても、二人とはそんなに度々会っていたわけでもない。でも、両親が仕事の関係でどうしても海外に行かなくてはならず、俺が日本で高校生活を続けたいといったとき、堂島さんの方から自分の所に来たらいいと声をかけてきてくれたのだ。


「しっかし、兄さんと姉貴も相変わらず仕事一筋だな…、今度は海外だったか?」

「ええ、堂島さんから声がかからなかったら俺も向こうでしたよ」

俺が二階に用意された部屋に荷物を置き一階に戻ってくると、菜々子ちゃんがせわしなく動きながら冷蔵庫から飲み物などを出していた。

「菜々子ちゃん、俺も手伝おうか?」

「ダメ! お兄ちゃんの歓迎会だから、お兄ちゃんは何しちゃダメなの!」

菜々子は怒ったようにそう言っているが、顔には笑顔が浮かんでいる。とりあえず菜々子ちゃんに言われたとおり、俺は何もせずてきぱきと動く菜々子ちゃんの姿を眺めることにした。

「ん、しょ…。ん~…、あ」

「これくらいはしてもいいよね?」

「ありがとう、お兄ちゃん」

菜々子ちゃんが少し高いところにあるものをとろうとするが、身長が足りどうしても手が届かなかった。俺は菜々子ちゃんの後ろに行き両脇の下に手を入れると、物が取れる高さまで持ち上げた。

そして、菜々子ちゃんの準備ができた頃、食べるものを買いに行っていた堂島さんも戻ってきて、俺の歓迎会を開いてくれた。二人の気遣いがとても嬉しかったのだが、菜々子ちゃんはもちろん、堂島さんも料理が全くできないそうなので、俺は自分から食事を作らせてもらうように頼んだとき俺が料理が作れることに驚いていたが快諾してくれた。菜々子ちゃんも嬉しそうにしていたので、最初につくるのは菜々子ちゃんの好物にしようと密かに心に決めたのは、俺だけの秘密だ。

ただ、食事を始める前に堂島さんの携帯に電話がありどこかに出ていってしまい、それを見送る菜々子ちゃんが寂しそうな顔をしていたが、俺が見ていることに気がつくと笑顔を浮かべるのだった。
少しだけ気まずい雰囲気が流れたが、菜々子ちゃんが雰囲気を変えるように手元にあったリモンでテレビを付けたのだが、テレビからは不倫がどうのこうのとあまり気分が明るくなるものではなかった。
だが、チャンネルを帰るとジュネスのシーエムが流れ…。

「エヴリデイ、ヤングライフ、ジュ・ネ・ス!」

菜々子ちゃんがそれに合わせて歌っていた。なんともかわいらしい姿についつい頬が緩んでしまう。

「菜々子ちゃんはジュネス好きなの?」

「うん!」

「そっか、今度一緒に行こうか?」

「いいの!?」

「うん」

「わーい!」

それから菜々子ちゃんと少し話をしてから二階の部屋に戻り、少し荷物の整理をして寝るスペースを作ってからこの日は眠ることにした。


「? どこなんだここは?」

眠りについてから少しして不思議な感じに目を覚ますと、堂島さんの家で眠りについたはずなのになぜだか、見たこともない場所に立っていた。
今日は厄日なのだろうか? まさか一日に二度も訳のわからない場所に来ることになるとは思わなかった。

「…夢にしてはリアルすぎるし、かと言って現実にしては突拍子もなさずぎる、か…」

とりあえず体の調子を確かめ、どこにもおかしいところはないのを確認すると大きく息を吸い込み気持ちを落ち着かせ、霞んで良く見えない周囲を観察する。

「さて…、周囲には特に場所を特定できるようなものはないか…、まったく訳がわからないな」

俺は気持ちを落ち着かせるため、あえて声を出して考えを纏める。でも、こういう時にこそ冷静に行動しなければならない。子供の頃、爺さんに何度も言われたことを心のなかで何度も反芻する。

「いってみるか…」

『真実が知りたいって?』

俺は不意に聞こえてきた声を動きを止めて周囲に視線を向ける。声が聞こえてきたのはすぐ近くのようで、とても遠くからのようにも感じられ、前から聞こえてきたようで後ろから聞こえたようにも感じられてどこから聞こえてきたのかまったくわからなかった。

『それなら…、捕まえてごらんよ』

「奥か…」

今度は声が聞こえてきた場所が分かったので、とりあえず声の聞こえてきた方に進むことにした。だが、一番奥まで行くとそこは行き止まりになっていた。

「この向こうから聞こえてくるのか?」

確かに声は壁の向こう側から聞こえてきている。だが、目の前には壁があり周囲は相変わらず深い霧に覆われて足元さえ確認することが出来そうに無く、この状態で霧の中に進んでいこうとはまったく思えなかった。

「っと」

しかし、壁に手を当ててみると俺が手を当てた場所を中心に空間が歪み、奥に進めるようになった。流石に怪しいことこの上ないが、このままこの場に留まっているわけにもいかないので、とりあえず奥に進んでみることにした。

「誰かいるのか?」

俺の少し前方に誰か人がいる気配が感じられる。だが、深い霧が邪魔をして顔を確認することが出来ない。ただ、俺は何となく前方にいる人物を見たことがあるような気がした。

「お!?」

もう一度声をかけようとしたとき、前方にいる誰かから俺に対する明確な悪意が感じられた。体中に確かめるような、否体の中まで見られるような感触に全身から冷畦が出そうになる。

『へぇ、確かにこの霧の中でも少しは見えるみたいだね』

「あんたが俺をここに連れてきたのか?」

俺の質問に人影は答える気がないのか、いまだ全身を調べるような視線は消えてはいない。

『なるほど確かに面白い素養だ。でも、そう簡単に捕まえられるとは思わないことだ』

さっきから何を言っているのだろうか? ただ、声からは前方にいるのが男性なのか女性なのか判断することはできそうになかった。

『求めているのが真実なら尚更ね』

その人物がそう言うと霧の濃度がさらに濃くなっていき全く周りを見えなくなってしまった。それにして、さっきから訳の分からないことを延々と言われ、段々と俺も腹がたってきた。
せめて、状況の説明をしてくれ。

『また、あうことが出来るかな?』

「なら名前ぐらい名乗ったらどうだ? いきなりこんなとこに連れてきて、全く説明がないばかりか訳の分からないことを言って…、流石に我慢にも限界があるぞ?」

俺の言葉に前方にいる人物が微かに笑ったような気がしたが、その直後に意識が途切れてしまった。

「また…、か…」

俺のつぶやきを聞いているのは周囲に立ち込める濃い霧だけだった。





※後書き
作者です。
再構成です。所々ゲームとは違うところがありますが、仕様です。一番大きな違いは主人公と堂島さん親娘と知り合いだということでしょうか。
母親の弟と全く親交が無いことは無いでしょう、と思いまして堂島奥さんのお葬式には来ていると思うんですよね。
というわけでこんな設定になりました。
ではまた。


※※注意書き
この作品は公式設定に準拠していないところがあります。作者の独自見解、捏造等が有りますのであしからずご了承くださいませ。

※※※訂正
9月18日 祖父の名前に関する間違いを訂正しました。蒼蛇様ご指摘ありがとうございます。



[21974] 第二話 挨拶は大切だと思います。後、モロキン嫌いです。
Name: A.K◆f8db502c ID:9df86d6d
Date: 2010/09/26 00:58
「夢…、か。時間的にはしっかりと眠っているはずなのに、なんだかあまり寝た気がしないのは、あの夢のせいだろうな」

体力的には回復しているのだが、精神的にあまり回復していない。これもすべてあの夢のせいだろう。今度あったら絶対に文句を言おうと心に決めた。

「まだ六時前か…。少し散歩でもするか」

俺は荷物の中からランニング用のジャージを取り出して着替え、朧気な記憶を頼りに朝の稲羽の街に出て行く。爺さんに連れられてきたことのある豆腐屋、強面のオヤジが居る金物屋、染物屋に老舗の旅館など、その前を通ると微かに昔の記憶を思い出すことが出来る。

「おや? おやおやまぁ、もしかして総二郎さんとこの総ちゃんじゃないかい?」

稲羽の街の中を走り、また豆腐屋の前まで戻ってきたときお婆さんが玄関の掃除をしており、俺が挨拶しながら通りすぎようとすると、お婆さんは何かを思い出したのか、懐かしそうに俺を見ながらそう話しかけてきた。

「もしかして覚えてられるんですか?」

「もちろん覚えてるよ。毎年夏休みになると総二郎さんと買いに来てくれてたからねぇ。そうだ、ちょっと待っててくれるかい?」

お婆さんはそう言って店の中に入っていったので、俺はこの場につっ立ったままボーっとしているのもあれなので、お婆さんが置いていった箒を使わせてもらいお店前の掃除をすることにした。

「おや? まぁ悪いねぇ。そんなことしなくてもいいのに」

「気にしないでください。爺さんの所に行ったときは毎日してましたから」

俺はそのまま残りの掃除を済ましてお婆さんに箒を返す。するとお婆さんは手に持っている袋を俺に手渡してきた。俺がなんだろうと首をかしげていると…。

「今日出来立ての豆腐だよ。総ちゃん好きだっただろ? せっかくまたこの街に来たんだしもって帰って食べなさい」

「…ありがとうございます。一年の間は稲羽にいるので、今度は買いにこさせてもらいます」

「ええ、待ってるからね」

俺はその後もう一度お婆さんにお礼を云ってから、家に戻るためにランニングを再開するのだが、自分のことを覚えてくれている人がいた事が少しだけ嬉しかった。
家に戻ると七時過ぎだったので朝食を作る前に軽く汗を流す為にシャワールームに向かう。



『ぺるそな4 ~仮面と絆を力にして~』(ペルソナ4 再構成 オリジナル設定有)
第二話 挨拶は大切だと思います。後、モロキン嫌いです。

「さて、材料はなにがあるかなっと」

シャワーを浴びた後、朝食を作るために冷蔵庫の中に何があるのかを確認すると、ネギ、玉ねぎ、じゃがいも、卵、そして先程豆腐屋のお婆さんにもらった豆腐があった。

「玉子焼きと味噌汁、それに冷奴にするか」

俺は献立を決め、いざ料理に取り掛かろうとまず愛用のエプロンを身につけ、次に愛用の包丁を持って料理に取り掛かかった。

「いい匂いがする…」

「おはよう菜々子ちゃん、もう少しで朝食ができるからね。先に顔でも洗っておいで」

「うん」

菜々子ちゃんは返事をしてから顔を洗うために奥へと移動する。俺は菜々子ちゃんが戻ってくる間に仕上げてしまおうと、少しだけ急いで料理を仕上げてしまう。

「おいしい…」

「ホントに? もし味付けが合わなかったりしたらいってね? そうだ、今日の夜は菜々子ちゃんの好きなもの作ろうと思うんだけど、冷蔵庫の中何もなかったから、学校から帰ったら一緒にジュネスに買い物に行こうか?」

「ホントに!?」

「うん」

「わーい! お買い物だー!」

俺は菜々子ちゃんが喜んでくれたことを嬉しく思いながら、昨日からまだ帰ってきていない堂島さんの分の食事にラップにかけて冷蔵庫の中に入れ、テーブルの上にそのことを書いたメモを置いてから、学校にいく準備を開始する。

「お兄ちゃん、途中まで一緒に行ってもいい?」

「高校と小学校って途中まで同じ道?」

「うん、そうだよ」

「そっか、それじゃ一緒に行こうか」

「うん!」

こうして俺と菜々子ちゃんは途中まで一緒に学校にいくことにした。家から出る時菜々子ちゃんが戸締りをするときに指差し確認をしているのを見てちょっと和んでしまった。

「…」

学校に向かう途中、菜々子ちゃんが何度か俺の手を握ろうとしてきたのだが、恥ずかしいのかそのまま手を引っ込めてしまう。

「菜々子ちゃん、手、つないで行こうか?」

「いいの?」

「菜々子ちゃんさえよければ、俺はいいよ」

俺がそう言うと菜々子ちゃんは嬉しそうに手を繋いできて、嬉しそうに手を振って歩き出す。俺はそんな菜々子ちゃんの姿を見ながら、何となく爺さんのことを思い出していた。

俺が爺さんから剣道を習い始めた頃、よく爺さんに連れられていろいろなところに行ったものだ。そして大体帰るときには俺は爺さんと手を繋いでもらい、その大きくてゴツゴツした手に憧れたものだった。

「それじゃ、菜々子こっちだから」

「行ってらっしゃい菜々子ちゃん」

「行ってきます! お兄ちゃんもいってらしゃい!」

「行ってきます菜々子ちゃん」

俺と菜々子ちゃんは互いにそう言うと、学校に向かって歩き出す。ただ、周りにいる保護者の方たちの何とも言えない生暖かい視線に気が付き、少しだけ歩くのが早くなってしまって仕方が無いだろう。

「ちょっ、危っどいてっ!?」

のんびりと学校に向かう道を歩いていると、いきなり後ろの方から大きな声が聞こえたかと思うと、俺の横をかなりスピードが出ている自転車が通り過ぎて行き、そのまま電柱に突っ込んでいった。

「おぉっ…」

自転車に乗っていた男性はとりあえず立ち上がったみたいだが、ある一部分を押さえ声にならない声をあげながら悶絶している。男としてその痛みがわかるだけに、ここは敢えて何も言わずに見守ったほうがいいだろうと思い、心のなかでその男子生徒の冥福を祈りながら、学校に向かって歩いていくことにした。


「今日から貴様らの担任になる諸岡だ。いいか…」

俺は横にいる自分の担任に言動にウンザリしながら、なにやら長々と話をしている担任の言葉は一切耳に入れないようにして、自分が今日から一年間世話になることになるクラスメイトを見渡す。
堂島さんから八十神高校は自由な校風が持ち味だと聞いていたが、実際その通りなのだろう。髪の色や制服をいじっている者様々なアクセサリーを着けている者など、多種多様だ。

「あーそれからね、不本意ながら転校生を紹介する。ただれた都会から辺鄙な地方都市に飛ばされてきた哀れなやつだ。いわば落ち武者だ。いいか、女子は間違っても色目など使うなよ! では瀬田総司、簡単に自己紹介をしなさい」

なにかえらい言われようだ。だが、なぜ転校してきただけでここまで言われなければならないのだろうか。どうやら昨日の訳のわからない夢から、バイオリズムが低下している気がしてならない。

「誰が落ち武者だ。どちらかと言えば先生の髪型のほうが落ち武者に近いと思いますけど?」

だから、俺が思っていることをそのまま口に出したとしても爺さんはきっと許してくれるはずだ。そんなことを考えながらもう一度クラスを見回してみると、俺の予想以上にクラス全員がツボに嵌ってしまったらしく、大半が下を俯いたまま笑いをこらえているのかその肩がプルプルと震えている。
その中でも、赤いカチューシャをつけ同じく赤いカーディガンを着ている女性の肩が一番大きく震えている。よほどツボに嵌ったのだろう。しかしあの女性、なぜだか初めて見た気がしないのは何故だろうか?

「さっきはありがとう。君が言ってくれんなかったら、延々とあのくだらない話を聞かされるところだった」

俺の一言に最初唖然としていた諸岡教員だったが、すぐに怒りに顔を真赤にさせ訳の分からないことを言い始めた。あまり本気で聞いていなかったのだが、途中に腐ったミカン帳などと言う単語が聞こえてきた気がしたが、あまりはっきりと聞いてないので覚えていない。
ただひとつ分かったことは、碌でも無い教師、だということだけだ。

いつまでこの精神をガリガリと削るような状態が続くのかと思っていたが、一人の女生徒が俺の席のことを聞いてくれたことにより終りを迎えることになった。
俺が席につくと、隣に座っている先程自分の席のことを聞いてくれた女生徒が話しかけてきた。

「君も災難だね。よりによって転校してきて最初の担任がモロキンだなんてさ」

「まぁ、仕方がないさ。それよりもさっきは助かったよ、いつまであんなくだらない話を聞かされてたら耳がおかしくなりそうだったから」

「よく言うよ。全然聞いていなかったクセに」

俺とその女生徒はそう言った小さく笑い合う。それにしてもなんだかこの女生徒とは話が合いそうな気がする。

「あたし、里中千枝。千枝って呼んでくれたらいいから」

「さっきも言ったが瀬田総司だ。俺のことは好きなように呼んでくれたらいい」

俺と千枝はそう言い、諸岡教員から見えない位置で互いのこぶしを軽く合わせ、もう一度小さく笑いあうのだった。俺と千枝がそうやって親交を深めているとき、後ろの席では先程電柱に突っ込んでいた男子生徒が死んだ魚のような目をして机に突っ伏していた。心からご冥福をお祈りしておこう。

ホームルームが終わり諸岡教員が教室から出て行こうとすると、全校放送がかかり緊急職員会議を行なうという旨が伝えられ、生徒は教室から出ないようにと言うことだ。

「なんかあったのかな?」

「どうだろうな。こんな事はよくあるのか?」

「うんにゃ。私が通い出しれからは初めてだよ。それよりさ、一寸いいかな? 紹介したい子がいるんだ。雪子」

千枝が名前を呼ぶと、一人の女生徒が千枝の横にやってきた。その女生徒は先程赤いカチューシャをつけ赤いカーディガンを羽織っている、先程笑いを必死に堪えていた女生徒だ。

「あたしの親友の雪子」

「えっと、天城雪子です。よろしくね?」

「さっきも言ったけど瀬田総司だ。こちらこそよろしくしてほしい」

千枝の話によると天城さんは稲羽の中にある老舗温泉旅館『天城屋』の一人娘らしい。たしかに、艶やかな長い黒髪、柔らかい物腰は和服がよく似合いそうだ。…俺の独断と偏見だが…。

「天城屋さんと言えば、女将さん元気にしてる?」

「? してるけど、お母さんのこと知ってるの?」

「知ってる、と言っても昔爺さんに連れられて何度か言ったことがあって、その時に少しお世話になったことがあるだけなんだけどね。そういえば…」

俺はそこまで言って何かを思い出しそうになったのだが、ハッキリと思い出すことが出来ない。たしかあれは初めて爺さんに連れられていったときだったはず…。
爺さんと女将さんが話している間、俺は暇を持て余して旅館の中を一人で探索していたとき…。

「あ…」

そうだ、思い出した。

「どうしたの瀬田君? 私の顔に何かついてる?」

「もしかして…、雪ん子?」

俺がその名前を呼ぶと天城さんは一瞬驚いたような顔をしたかと思うと、何かを思い出したかのように笑顔になった。

「もしかしてって思ってたけど、そう君だったんだ」

「その呼ばれ方も懐かしいな。そう、多分そのそう君で間違いない」

俺が天城屋旅館で許可なく小さな冒険をしていると、ある部屋に大きな蓑虫がいた。その蓑虫は布団に入り頭には座布団を被っていた。俺は蓑虫に興味を覚え、その部屋に入っていった。
そして、布団の中を覗いてみるとそこには日本人形よろしくおかっぱ頭の女の子がいた。その女の子は最初俺に気がついていなかったようだが、俺が覗いているのに気がつくと驚いたような顔をした後布団の中に引っ込んでしまった。

「ねぇ、ここで何してるの?」

「隠れてるの…」

俺の質問に布団の中の女の子は小さな声でそう答えた。

「どうして?」

「お母さんが髪切るの失敗して…、変な髪型になっちゃったから…」

「そうかな? 変じゃなかったよ?」

「嘘だよ! みんな私みて笑ってるもん!」

女の子はそういって益々深く布団を被ってしまう。俺は自分の言ったことを信じてもらえないことに腹が立ち、次の瞬間には思いっきり布団を捲っていた。

「ほら、変じゃない」

姿を現した女の子は一瞬何が起こったのかわからないようにしていたが、すぐに手近にあった座布団を頭に乗せて隠してしまう。ただ、被っている座布団の形が、昔見た雪国の子供が被っている防寒具のように見えて、俺はついつい笑ってしまった。

「笑った! やっぱりおかしいんだ!」

「違うよ、ほら」

俺が何とか笑いを堪えながら、部屋の隅に置いてあった鏡を指さすと、それにつられるように女の子もそちらに視線を向けた。

「…ぷ、ぷぷ、あはははははっ!」

女の子も自分の姿を見てすぐに笑い出してしまい、俺達は何がおかしいのかその後も少しの間互いに笑っていた。一頻り笑った後、俺達は互いに自己紹介をした。

「俺、総司っていうんだ」

「私、雪子っていうの」

俺は女の子から名前を聞いたとき、ふと頭の中にひらめく言葉があった。雪と言う言葉と、先程見た雪国の防寒具のような物、この二つが見事に合体してしまった。

「じゃ、雪子は雪ん子だな」

「じゃ、私はそう君って呼ぶね」

それから少しして、俺は爺さんに連れられて天城屋旅館を後にした。その後、爺さんが天城屋旅館に行く時についていっても合うことは出来なかったのだが、まさかこんな所で再会することになろうとは思いもしなかった。

「どうしたの二人共?」

「天城さんと昔あったことがあってね。それを思い出したんだ」

「へぇ、そうなんだ」

俺がそう言うと千枝は感心したように頷き、俺と天城さんの顔を交互に見ており、天城さんは先程からうんうんと頷きながら、俺を見ている。

「そっか~、そう君私と同い年だったんだね」

「今日から一年間宜しく頼む、天城さん」

「私のことは名前で読んで。私は総君って呼ばせてもらうから」

「わかった」

転校した先の担任はあまり良く思うことができそうになかったが、そのクラスには何となく気が合いそうなクラスメイト里中千枝と、子供の頃一度だけあったことのある天城雪子この二人に合うことができた。
これからの一年が少しだけ楽しみに思えてきた。

…全く余談なのだが、緑色のジャージの千枝、赤いカーディガンの雪子…、この二人を見てあのフレーズを思い出したのはきっと俺だけじゃないはずだ。





※後書き
食べ物が美味しい季節になってきました。作者です。
次回、やっとこさペルソナが出る予定です。それにしても二話かかって少しも話が前に進んでいないとは…、自分駄目すぎですな…。
出来れば、生暖かい目で見守っていただければ幸いです。
因みにハーレムではありません。一応ヒロインは決めておりますが、この人がヒロインがいい、と言う意見があれば感想の最後にで書いておいて下さい。
ではまた。

※※注意事項
この作品における人物関係はこの作品独自の物となっております。その他、作者の独自解釈などが多分に入っておりますので、あしからずご了承下さい。



[21974] 第三話の壱 ジュネスと言う名の戦場で…。そういえば、菜々子ちゃんかわいい。
Name: A.K◆f8db502c ID:9df86d6d
Date: 2010/09/29 13:59
「それじゃ、途中まで一緒に帰ろうか」

「そうだな」

校内放送によると商店街の方で事件が起こったらしく、周辺を警察官がうろついているらしく、その関係で生徒は速やかに下校するようにということらしい。
放送が流れてから、教室にいた生徒たちが三々五々教室から出て行っている。俺と千枝、雪子の三人も連れ立って教室を出ようとしたとき、一人の男子生徒が近づいてきた。その男子生徒は今朝電柱に自転車で突っ込んで悶絶していた生徒だ。

「あの、里中さん…。これすっげ面白かったです! リアルというかなんというか…。ごめんなさい! バイト代入ったら弁償するから!」

男子生徒はそう言うと脱兎の如くこの場から逃げ出していった。だが、そのあまりにも不審な態度に千枝はすぐにその後を追って背中にケリをお見舞いしている。

「うごっ!?」

そして千枝に蹴られた男子生徒はその勢いのまま、朝と同じ痛みを味わうことになった。

「あ~、…大丈夫か?」

流石に一日に二度あの痛みを味わうのは、同じ男として同情してしまうので、俺はとりあえず小さく飛び跳ねている男子生徒の腰を叩いてやることにした。

「す、すまねぇ…」

小さく礼を行ってくる男子生徒に対し、俺は小さく首を横に振ることしか出来なかった。因みに千枝の貸したDVDは朝電柱に突っ込んだときにヒビが入ってしまったようだ。

「瀬田くん! そんな奴ほっといてさっさと帰ろう!」

お気に入り作品だったのか、千枝は怒りが収まらないといった感じでドシドシと教室の外に出ていってしまい、雪子もその後に付いていき、俺は男子生徒のことが気になったが二人のあとを追うことにした。



『ぺるそな4ふぇす ~仮面と絆を力にして~』(ペルソナ4 再構成 オリジナル設定有)
第三話の壱 ジュネスと言う名の戦場で…。そういえば、菜々子ちゃんかわいい。

俺が二人に追いつき靴を履き替え校門に差し掛かった時、別の学校の制服を着た一人の男子生徒が雪子に話しかけてきた。

「なぁ、君さ雪子だろ? これからどっか遊びに行かない?」

「え? だ、誰?」

その男子生徒は雪子のことを名前で読んできたのだが、相手が雪子を確認するように話しかけてきたことと、雪子の反応を見るに多分初対面なのだろう。それにしても、初対面でいきなり呼び捨てとはこの男子生徒なかなか厚かましい性格のようだ。

「おい、また天城に告白してる奴がいるぜ」

「ほんとだ。どこの学校の奴だ? それにしても普通声かけるなら一人の時だろ?」

「なぁ、どうなるか賭けようぜ?」

「ばっか、お前天城越えの難しさ知ってるだろ? 賭けになんねーって」

雪子が相手に対応に困っていると、どこからともなく現れた二人の男子生徒がそんなことを話している。なるほど…、確かに雪子は美人だからこんなことは日常茶飯事なのだろう。
雪子は返答に困っているようだが、相手のあまりにも馴れ馴れしい態度に少し怯えているようだ。俺は少しだけ移動してその男子生徒と雪子の間に体を入れ万が一がないように備える。
俺の行動に雪子は少し驚いたようだったが、すぐに相手の視線から逃げるように俺の背中に隠れた。

「ねぇ、行くの? 行かないの? どっちかはっきりしろよ」

だが、俺と雪子の行動を男子生徒は意に介していないのか、いらついたように雪子にそう聞いてくる。

「行かない」

雪子の答えも当然だろう。あんな誘い方でOKをだす奴がいればお目にかかりたい物だ。

「ならいい!」

雪子の返事を聞いて男子生徒は怒ったようにそう言うとこの場から走り去っていった。最初っから最後までよくわからない奴だった。多分カルシウムが足りていないのだろう。
等と俺がくだらないことを考えていると、雪子が後ろから俺の制服を軽く引っ張ってきた。

「ありがとう総君。でも…、いったいなんのようだったんだろう、あの人?」

…まさかとは思うが、雪子はなぜあんなことを言われたのか解っていないのだろうか? 俺はそう考えながら千枝に視線を向けると、千枝は苦笑いを浮かべながら頷いている。

「なんの用って…、デートのお誘いに決まってるじゃない」

「え? そうなの?」

千枝の言葉に雪子は驚いたように俺に振り返ってきた。流石にあれはそれ以外の何物でもないだろうと、俺も首を立てに振る。

「でもあれはないよね~。いきなり呼び捨てって…。でも瀬田くんさりげなくカッコよかったじゃん。ねっ雪子?」

「あの人ちょっと怖かったから嬉しかった。ありがとね総君」

俺自身として『女子供には優しくしろ』と言う爺さんの教えを守っているだけなので、礼言われるほどのことではない。爺さんはことあるごとに『男子としての在り方』というのを話してくれた。爺さんの教えてくれたことは、今でも俺自身の根底に根づいている。
古臭い考え方、そう言ってしまえばそれまでだが、それでも俺は爺さんの行ったことは人として当たり前のことで、それだからこそ実行するのは難しいのだろうと思う。

「よう天城、また悩める男子をふったのか? 全く罪作りだな…。俺も去年、バッサリ切られたもんなぁ」

今度こそ移動しようとしたとき、本日二度目の地獄の痛みから立ち直った先程の男子生徒が自転車を押しながら声をかけてきた。自転車を押しているのだが、なんとなく所々が変形しているように見える。

「別にそんなことしてないよ」

「マジで? それなら今度一緒にどこか出かける?」

「それは、嫌だけど…」

「少しでも期待した俺が馬鹿だったよ…。それより二人共あんまし転校生いじめんじゃねーぞ?」

雪子恐るべし…、何気なく言われると余計に傷つくなあれは…。

「いじめてないって! ちょっと話してるだけだから!」

千枝がそう言うも、男子生徒はすでに自転車に乗ってかなり前の方に移動していた。取り敢えず、人も集まってきたことだしこの場から移動しようと千枝に言い、校門から出て今度こそ家に向かって移動を開始する。

「そうなんだ。両親が海外にね~」

「ああ、子供の頃から色々な所に行ってるけど、流石に海外は今回が初めてだな。母さんは父さん一人だけで海外に行くのは心配だって言って付いて行った。俺も一緒にって言われたんだけど、来年は受験だからこっちに残ることになったんだ」

堂島さんが名乗りでてくれなければ俺も今頃海外の学校に通っていたことだろう。父さんはある理由から天涯孤独だし、母さんの親戚で親しい付き合いがあるのは堂島さんだけだった。
一度他の親戚についても聞いたことがあったが、父さんも母さんも詳しいことは話してくれなかった。

「母さんの父親が稲羽の近くに住んでて、中学生の頃は長期の休みになったら会いに来てたな。その時、爺さんが天城屋旅館に行くことがあって、雪子に会ったことがあったんだ」

俺の話しに千枝は感心したように頷き、雪子は昔を思い出しているのか何かを考えるような顔をしている。
俺の父さんは桐条グループの本社に勤めている。息子の俺が言うのもなんだがとても良くできた父親で、仕事だけにのめり込むようなことはなく家族のこともちゃんと考えてくれる、本当に良い父親だ。
母さんとは会社に入ってから知合い、結婚を機に母さんは退職して専業主婦になったらしい。今でも新婚かと思われるぐらいに仲が良い。
ただ、父さんの悪い癖と言ったらいいのだろうかどうか悩んでしまうが、難しい仕事があれば率先してそれを受けてしまうのだ。そして、受けた後家族のことを思い出し、見ている方が申し訳なくなるくらいな表情でそのことを俺達に告げてくるのだ。
そんな父さんを見て、俺と母さんは互いに笑いながら承諾する。
そんなことが俺達家族の間では毎年のように起こっていた。ただ、俺が中学に上がる頃から父さんは転勤の数を減らしてくれた。なるべく俺が勉強に集中できるようにしてくれたのだ。

「でもここ、ほんっ…とに、田舎でしょう? 特に名物もないしさ。あ、でも雪子んとこの天城屋旅館は普通に名物かな」

俺が家族のことを思い出していると、千枝がそう話しかけてきた。

「ああ、確かに天城屋さんはいいとこだな。爺さんも気に入ってた」

天城屋旅館は、古くは信玄の隠れ湯として使われていた、由緒ある温泉らしい。いま現在特別な名産品、観光スポットなどがないこの稲羽で、唯一名物といえるのが天城屋旅館だと、昔爺さんに聞いたことがある。

「雪子んち隠れ家温泉っていう形で、よく雑誌にものってるもんね。雪子んち目当ての観光客も多いし、雪子はそこの次期女将候補だもんね?」

千枝がそういったとき、本の少しだけ雪子の顔が暗くなったような気がしたが、俺が見ていることに気がつくと、すぐに元の表情に戻ってしまった。
千枝もそれに気がついたのか、別の話題を持ち出してきた。

「ね、それよりさ雪子美人だと思わない?」

「ちょっと千枝!?」

千枝のいきなりの質問に雪子は顔を赤くして講義している。だが、千枝はそんな雪子には構わずに俺がなんと答えるか、興味津々のようだ。雪子も、今までの付き合いでこう状態の千枝には何を言っても無駄だと悟ったのか、少しだけ顔を赤くして俺のことを見ている。

「他の人の意見はどうか分からないが…、俺は雪子みたいなタイプは好きだよ?」

「「へ?」」

あれ? どうしたのだろうか? 俺の答えを聞いて千枝と雪子は驚いたような顔をし、次の瞬間に雪子は顔を真赤にし千枝はチシャネコのような笑いを浮かべていた。

「因みにさ、雪子こんなに美人なのに彼氏いないんだよね。変だと思わない?」

「ちょっと千枝、やめてよ。それ以上言ったら怒るからね! 総君も信じたら駄目だよ? 美人だとか彼氏いないとか!?」

雪子の少し怒ったような発言に、俺も千枝も聞き逃せない言葉が混じっているのに気がついた。俺は一瞬聞き間違いかと思い千枝の方を見てみるが、やはり千枝も同じ言葉が聞えたのか俺の方を驚いたように見ている。

「と言うことは彼氏いるの?」

そして、千枝が先程の雪子の言葉に突っ込んでみると、雪子はさらに顔を真っ赤にして両手を顔の前でぶんぶんと振りながら否定する。

「え!? いない、今の間違い! 彼氏とか本当にいないんだから! もうっ、千枝が余計なこと言うから!!」

雪子は自分の言葉に顔を赤くして、先程の言葉を否定している。そんな雪子を千枝は生暖かい視線で見ているが、流石にこれ以上からかうとまずいのか、千枝は話題を変えて雪子と盛り上がっている。

「あれ、あそこ何かあったのかな?」

商店街の手前にさしかかったとき黄色のテープで道が塞がれている場所があり、その前では近所の主婦が何やら話をしている。聞えてくる内容をまとめてみると、この近くで人が死んでいたのだが、その死体がテレビのアンテナにぶら下げられていた、というのだ。

「ん? 総司、こんな所で何している?」

俺達が足を止めていると、奥からやってきた堂島さんに声を掛けられた。人が死んだと言うこともあり堂島さんはかなり神経が張りつめているようだ。
堂島さんにバレないように軽く奥を覗いてみるち、かなりの数の警察官がせわしなく動き回っている。

「お疲れ様です堂島さん。学校からの帰りです」

俺がそう言うと、堂島さんは疲れたように溜息を吐いて米神を揉みほぐしている、かなり疲れが溜まっているようだ。

「まったく…、あの校長、此処は通すなと言っただろうに…。まぁいい、寄道せずに早く帰れよ」

俺と堂島さんがそんなことを話していると、後ろから千枝が声を掛けてきた。周囲の雰囲気に飲まれているのか、少しだけ緊張しているように感じる。

「瀬田君、その刑事さん知合いなの?」

「ああ、この人は堂島さんっていって、俺の稲羽での保護者をしてもらっている人なんだ」

「堂島だ。総司の保護者をしている。なんだ、早速こんな可愛い女性に手を出したのか? 総司もなかなかやるじゃないか。姉さんに連絡入れたほうがいいか?」

堂島さんが笑いながらそんなことを言ってきた。突然の言葉に、千枝も雪子も顔を真っ赤にして照れてしまい、堂島さんは口元に小さく笑いを浮かべながら、俺と二人を交互に見ている。
堂島さんはかなり固い性格をしていると思っていたが、母さんが自分とよく似ていると言った意味が今はじめて理解できた。…あまり理解したくはなかったが…。

「まぁ、高校生らしく節度ある付き合いをしろよ?」

最後にそんな事まで言ってくれたおかげで、さらに二人の顔が真っ赤になってしまった。その後どうにか落ち着いた二人だったが、堂島さんのお陰で何とも言えない雰囲気になってしまい、俺がどうした物か困っていると奥の方から一人の刑事が凄い勢いで俺達の目の前を通り過ぎていき、少し離れたところで…。

「うおぇえぇぇぇぇっ」

いきなり嘔吐しだした。何事かと俺達が驚いていると、堂島さんは疲れたように米神を抑えながらその刑事を怒鳴りつける。

「何やってんだ足立! いつまで新米気分でいやがるんだ前は! 本庁に帰ってやり直すか!? ったく、総司お前達は寄道せず家に帰れよ。それと、最近この辺りも物騒だからそちらのお嬢さん方をしっかりと家まで送っていけ」

堂島さんはそう言うと先程の刑事の方に行ってしまった。俺達もいつまでもこの場所にいるわけにも行かないので、取り敢えず移動することにした。

「瀬田君、あたし達送ってもらわなくても大丈夫だよ? ね、雪子」

「うん」

二人が気を使ってそう言ってくれるが、一番遠い天城屋旅館でもそんなに時間はかからないし、先程の現場にいた警察官の数を考えれば万が一と言うこともある。

「送って行かせてくれ。二人を放って帰ったことがばれたら堂島さんに家から追い出されそうだからね」

俺が冗談交じりにそう言うと、雪子と千枝の二人は顔を見合わせて小さく笑った後、俺の提案を受け入れてくれた。俺達三人は他愛のないことを話しながら帰路につく。
千枝を送り、雪子と二人天城屋旅館を目指していると、雪子が何かを思い出したように話しかけてきた。

「ねぇ総君、一緒に来ていたおじいさんは元気にしてるの?」

「…爺さんは去年亡くなったんだ」

「えっ?」

「俺に剣道の練習をつけてくれた後いきなり倒れて、そのまま…。末期のガンだったらしい、そんな風には全然見えなかった。俺達よりもよっぽど元気だったのに、体中に転移してて普通に生活するだけでもかなり辛い状態だったって、担当の医者が言ってたよ。…俺は爺さんの一番近くにいたつもりだった。爺さんが俺達に心配させないように何も言わなかったのはわかってるつもりだ。でも、俺はそれが寂しくて辛かったよ…」

「おじいさん、きっと総君のことがとても大切だったんだよ。だから心配掛けたくなくて何も言わなかったんだと思う」

「そうかもしれないな。でも、爺さんの事だから案外俺に弱みを見せるのが嫌だっただけかも知れないけどな」

俺が少し戯けたようにそう言うと、雪子は数回目を瞬かせたと思うと優しい笑を浮かべていた。自然と浮かんだその笑顔はとても綺麗で、今まで雪子に告白をした男子達の気持ちが、少しだけ分かったような気がした。

そのご、雪子を家に送っていったのだが、旅館の前で雪子の母親に見つかりなにやら旅館全体が大騒ぎになっていたが、赤い顔をして雪子が怒ると、蜘蛛の子を散らすように持ち場へと帰っていき、雪子は赤い顔をして俺に謝ってきた。
そして、二人を送って家に帰ると菜々子ちゃんが先に戻ってきていて、玄関で出迎えてくれた。

「お兄ちゃんお帰りなさい!」

「ただいま菜々子ちゃん」

俺は靴を脱いで中に上がろうとしたのだが、菜々子ちゃんは旨の前で手を組んで何かを期待するかのようにこちらを見ている。俺は一瞬どうしたのかと思ったが、すぐに昨日の約束を思い出た。

「それじゃ準備が出来たらジュネスに買い物に行こうか?」

「うん!」

俺がそう言うと、菜々子ちゃんは本当に嬉しそうに返事をして自分の部屋へと戻っていき、俺も出かける準備をするために自分の部屋へと戻っていく。その途中に、今日出かけることを堂島さんに言っていないことを思い出し携帯を取りだして、堂島さんに電話を掛ける。

『総司か? どうした、何かあったのか?』

「仕事中にすいません。これから菜々子ちゃんと一緒にジュネスに買い物に出かけようと思うんです」

『…、そうか、あまり遅くならないようにしろ』

「解りました」

『…総司、菜々子のためにすまんな』

「違いますよ堂島さん、俺が買い物に行くのに菜々子ちゃんについてきてもらうんです」

『…すまんな』

堂島さんはそう言って電話を切った。俺が携帯をしまい制服から私服に着替え一階へと下りていくと、菜々子ちゃんは準備をすませて待っていた。

「お待たせ菜々子ちゃん。それじゃ、行こうか」

「うん!」

俺と菜々子ちゃんは手を繋いで雨の降る中ジュネスへと買い物に出かけた。先ずは、食料品売り場を見て回ろうと思ったのだが、時間を確認するともう少しでタイムセールを始まりそうな時間だった。
俺は、近くにいる店員にこの店ではタイムセールがあるのか聞いてみると、三十分後に始まるということだったので、先に他の場所を見て回ることにした。

「みてお兄ちゃん! おっきなテレビがあるよ!」

菜々子ちゃんは俺の手を引きながら、色々な物を見て回っている。電機屋、小物屋、服屋、オモチャ屋、どこに行っても菜々子ちゃんはとっても楽しそうだった。
そうこうしていると、タイムセールまで後少しという時間になり、俺は菜々子ちゃんと一緒に食品売り場へと降りていく。

「お兄ちゃん、なんだか恐い…」

タイムセールが始まる寸前の売り場を見て菜々子ちゃんは怯えたようにそう言って、俺の後ろに隠れてしまう。確かに、周辺にいる主婦達はかなり殺気立っていた。
この時間の成果いかんで、今日の夕食の献立が決まると有り全員飢えた狼のような目をしている。

「菜々子ちゃん、少しだけ待っててくれるかな? お兄ちゃん今からあそこに行ってくるから」

「お兄ちゃん、帰ってきてね?」

「菜々子ちゃん…」

「約束だよ? 嘘ついたら嫌だよ?」

菜々子ちゃんは目に涙を溜めながらも、俺を送り出そうとしてくれている。それは不覚にもそんな菜々子ちゃんの優しさに涙が出そうになり、それを隠すために菜々子ちゃんを抱きしめる。

「ああ、約束だ…。行ってくる」

それは菜々子ちゃんの頭を撫でてから体を離し、いざ戦場へと向かっていった…。

『ただいまより、ジュネスタイムセールを開始いたします!』

店員のアナウンスが店内に響くと同時に、主婦達が一斉にサービス品へと躍りかかっていく。その様は、地獄に垂らされて蜘蛛の糸に群がる亡者のようで、一瞬心が折れそうになってしまう。
だが、俺には菜々子ちゃんがついてくれている。菜々子ちゃんに美味しい夕食を食べてもらうために、ここはためらっている場合ではない。

「推して参る!」

俺はあえて古い言い回しで気合いを入れ直し、亡者の一人となって蜘蛛の糸を摑みに行った。

それから少し後、ジュネスからの帰り道俺と菜々子ちゃんはとても上機嫌だった。タイムサービスの結果は上々で、かなりの戦果を上げることが出来たのだ。
なによりも、菜々子ちゃんのリクエストしてくれた料理を作る材料が確保できたことが嬉しい。

「それじゃ、夕飯の準備するから菜々子ちゃんはテレビでも見て待っててくれるかな?」

「…菜々子もお手伝いしたい」

買い物で疲れただろうと思い、料理ができるまではのんびりとしてもらおうと思ったのだが、菜々子ちゃんは俺を手伝うと言い、不安気に体の前で組んだ指をもじもじとしながら、俺を上目使いに見ている

「そっか、それじゃお皿の準備と出来た料理を運んでくれるかな?」


「うん!」

菜々子ちゃんは自分にできることがあるのが嬉しいのか、元気いっぱいに返事をしてくれた。だがその前に俺は菜々子ちゃんに渡すものがあることを思い出し、先程買っていたある物を買い物袋から取りだして、菜々子ちゃんに渡した。

「服汚れたら駄目だからこれつけようか?」

「これ、エプロン? 菜々子の?」

菜々子ちゃんとジュネスの店内を見て回っている途中に、自分の使っているエプロンと同じ物があったので買っておいたのだ。菜々子ちゃんは簡単な料理、目玉焼きなどは自分で作れるしいのだが、エプロンは持っていないと言っていたのを思い出し、あまり可愛いデザインではないが、自分が使っていてとても使いやすいので、俺のと同じものを菜々子ちゃん用似合うサイズのエプロンをこっそりと買っておいたのだ。

「うん。俺とお揃いだからあまり可愛くないけどね」

俺はそう言いながら愛用のエプロンをつけてみせると、菜々子ちゃんも慌てて俺が渡したエプロンを身につけた。そして、俺と自分の格好を交互に見た後、満面の笑顔を見せてくれる。

「ありがとう、お兄ちゃん!」

「どういたしまして」

どうやら気に入ってくれたようだ。因みに今日の夕飯は菜々子ちゃんのリクエストで、浅蜊のみそ汁、ほうれん草の白和、肉じゃがと言うかなり渋めの内容だった。…菜々子ちゃん恐るべし…。
ただ、この日も堂島さんは夜遅くなるらしく、菜々子ちゃんが寂しそうにしていたのが気になった。





※後書き
訂正&分割です。作者です。
皆様ご意見ありがとうございました。確かに急ぎすぎでの描写不足、ゲームをしているのを前提にした会話等、読み返してみると全くおっしゃる通りでした
猛省です。
ということで、少しいじってみましたところ、かなり長くなってしまったので分割することに相成りました。恥ずかしいのでさげ更新です。
ではまた。




[21974] 第三話の弐 マヨナカテレビに映るのは? 小西先輩が個人的に好みです。
Name: A.K◆f8db502c ID:9df86d6d
Date: 2010/09/26 00:57
翌日、朝のランニングを終え朝食の準備をしていると、菜々子ちゃんがエプロンをつけて手伝うと言ってくれた。しかし、菜々子ちゃんが来てくれたときにはもう準備が出来てしまっており、食事の間菜々子ちゃんが口をきいてくれなかった。
取り敢えず、明日の朝食は菜々子ちゃんと一緒にするのと、食器を洗うのは菜々子ちゃんがするという条件でどうにか許してもらうことが出来た。
そして、途中まで菜々子ちゃんと一緒に登校し、互いに言ってきますと挨拶をしたあと、学校の少し手前で奇妙な物を発見してしまった。
ただそれは、物と言うよりもどうみても人間であり八十神高校の制服をきていた。ただ、その生徒が普通ではないのはポリバケツに頭を突っ込みごろごろと転げ回っているという、かなりレアな一品だということだろう。

「だずげでぐれ~」

どうやら自力では抜け出せないようだ。えらく器用にはまり込んだものだと感心しながらも、このまま放っておくのも目覚めが悪いので、取り敢えず助け出すことにした。

「いやー、悪いな助けてもらって。たしか瀬田って言ったっけ?」

「ああ、瀬田総司だ。確か同じクラスの…」

「俺は花村陽介ね、俺も半年前に此処に転校してきたんだ。それにしても、瀬田には昨日から世話になりっぱなしだな」

「同じ男としてあれの辛さは解るからな。気にしなくてもいい」

俺がそう言うとその男子生徒、花村陽介は無言で右手を差し出してきたので、俺も何も言わずにその手を握りかえした。陽介とはなんとなくいい友だちになれそうだ。
そんなことを考えていると、学校から予鈴が聞えてきた。

「やっべ、このままじゃ遅刻しちまう!? 瀬田、後ろ乗ってくか!?」

昨日今日と二度の強い衝撃により、陽介の乗っている自転車はかなりのダメージを受けている。具体的に言えばタイヤがすでに丸ではなく、ペダルを漕ぐととても不快な音が聞えてくる。
二人乗りをすれば、まず間違いなく空中分解してしまうだろう。となれば、俺の答えは決まっている。

「謹んで遠慮させてもらおう」

俺の言葉に陽介は少しだけ引きつった笑を浮かべていた。なんとなく陽介と仲良くなれた気がする。



『ぺるそな4ふぇす ~仮面と絆を力にして~』(ペルソナ4 再構成 オリジナル設定有)
第三話の弐 マヨナカテレビに映るのは? 小西先輩が個人的に好みです。

そして、一日の授業が終わり帰り支度をしていると、不意に陽介が声を掛けてきた。なんと、俺の転校祝いに食事を奢ってくれるそうだ。
俺が陽介の誘いを受けようかどうか迷っていると、とってもいい笑顔を浮かべながら千枝が近づいてきた。

「へぇ、瀬田君にはそう言うことして、私には何もないんだ?」

「…お前、食い物の話してるとやってくるのな…」

「雪子はどうする? 花村が肉奢ってくれるって」

陽介のつぶやきが聞こえているのかいないのか、千枝は完全に陽介のことを無視して雪子に声をかけ、陽介は小さくため息を突きながら肩を落としている。

「ごめん、ちょっと今日家が忙しいから…」

千枝の誘いに、雪子はそれだけ言って教室から出て行ってしまった。それにしてもかなり疲れているように見えたが大丈夫だろうか? 俺がそんなことを考えていると、いつの間にか話が固まったようで、ジュネスのフードコートに行くことになっていた。
フードコートで三人で話をしながらハンバーガーを食べていると、ジュネスでバイトをしている小西早紀という先輩が話しかけてきた。綺麗な人なのだが、喋り方は気さくでかなり好感がもてる先輩だ。
ど小西先輩はジュネスでバイトをしているらしく、休憩時間の途中に陽介を見て話しかけてきたようだ。ただ、陽介の態度を見ているとどうやら小西先輩に気があるようで、バイトで疲れているのかあまり元気がない先輩を気にして色々と話しかけている。

「君も転校生なんだって? 花ちゃんって良い奴でしょ? でも結構馴れ馴れしいからウザかったら、ウザいってハッキリ言った方が良いよ?」

小西先輩は陽介との話が一段落すると、俺に話しかけてきた。普通に聞けば今の内容は陽介をバカにしているようにしか聞えないが、小西先輩の顔は笑いを堪えているので、陽介の事をからかっているのだろう。

「ちょっ、先輩それ酷くない?」

陽介もそれを解っているのか、特に怒った風もなく戯けたように返している。となれば、俺に出来ることは一つしかないだろう。

「でも、ウザいのも陽介の持ち味だと思いますから。ウザくない陽介は多分偽物じゃないかと思います」

俺がそう言うと、陽介と小西先輩は一瞬目を丸くし、次の瞬間に小西先輩は口元に手を当てながら笑い始め、陽介はやってられないと肩を竦めている。

「君おもしろいね。…ふぅ~ん、今度一緒に遊びに行こうか?」

「いいですね。でも、俺を誘う前に別に誘う人がいるんじゃないんですか? 先輩も結構陽介のこと気に入ってるんじゃないですか?」

小西先輩が俺に近づいてきて、他の人に聞えないようにそう言ってきた。だから俺も陽介達に聞えないように小西先輩に答え、それを聞いてもう一度小西先輩は目を丸くした。

「そんなにわかりやすいかな?」

「いえ、何となくだったのでカマかけてみました」

「…ふふっ、君本当におもしろいね。もし、花ちゃんに断られたら一緒に遊びに行ってね?」

「その時は喜んで」

その条件なら喜んで行かせてもらいたい。俺と小西先輩がひそひそ話をしているのを陽介はかなりそわそわしながら見ている。これ以上、放っておくと後ろから刺されてしまいそうなので二人だけの話は終わりになった。

「それじゃまた。花ちゃんと仲良くしてあげてね?」

小西先輩はそう言ってバイトに戻っていこうとした。だが、その途中に陽介が小西先輩を呼び止め、何やらチケットを渡している。小西先輩は少しだけ驚いたような顔をして、次にとても良い笑顔でそのチケットを受け取っていた。

「へへ…」

「よかったな陽介」

「小西先輩、最近疲れてたみたいだからさ、これで少しだけでも元気出てくれれば良いんだけどな。でも、先輩俺達の一つ下に弟がいるらしくてさ、俺に構ってくれるのも弟を相手にしてるようなもんだろうな」

何故さっきの小西先輩の表情を見てそう思うのだろうか? 俺は呆れて陽介の顔をまじまじと見てしまうが、陽介は一向に解っていないようだった。
まぁ、一緒にでかければ気付くだろう。あまり深入りすると馬に蹴られてしまいそうだ。

「小西先輩って、商店街にある小西酒店の?」

「…ああ、少し前からジュネスでバイトしてる」

千枝の質問に、陽介は一瞬だけ暗い顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻り、何でもないように千枝に答えている。だが、千枝は陽介の表情に気がつかなかったのか、興味深そうに話を続ける。

「へぇ~、商店街の店ってジュネスができてからお客減って、結構潰れた店もあるんだよね。その商店街にある店の子どもがジュネスでバイトって…、なんかの物語みたいだよね~」

「全然そんなんじゃねーよ。それに商店街の店が潰れたのだってジュネスができたせいだけって訳じゃないだろ? っていうか里中、お前そんな言ってると近所で井戸端会議してる奥様方みたいだぞ?」

「んな!?」

まさかの陽介の反撃に、千枝は返す言葉がなくなってしまい、取り合えず苦笑いで誤魔化すことにしたらしい。大型店の出店で、地元商店街の客が減る、か。
地元住民としては、大型店の出店で色々と便利になるのだろうが、個人経営の商店街の店としては価格とサービスではどうやっても勝つことが出来ないため、自然と客が離れてしまう。
仕方が無いといえばそれまでだが、それで納得できない人達もいるだろう。

「そうだ! 悩める花村にいいこと教えてあげる。マヨナカテレビって知ってる?」

「マヨナカテレビ?」

小西先輩がバイトに戻った後も色々と話をしていたのだが、不意に千枝がマヨナカテレビという噂の話を始めた。最初、新手の深夜番組か何かと思ったのだが、どちらかと言えば都市伝説の方だった。
なんでも、雨の降っている夜零時に電源の入っていないテレビの画面を見ていると、そこに自分の運命の人物が現れるというのだ。

「そんでさ、今日の夜みんなで試してみない?」

「なんだそりゃ? 何言い出すかと思えば…。お前、よくそんな幼稚な話で盛り上がることが出来るな」

陽介、いくら信じて無いからと言ってその言い方は失礼だ。それに、千枝の性格からしてその言い方は油に火を注ぐようなものだと、付き合いの短い俺でもわかるぞ?

「幼稚っていった!? そこまで言うなら、今日雨だし今晩やってみようよ!」

という千枝の提案の元、今夜三人で試してみると言うことになり今日は解散することになった。二人とわかれた俺はそのまま家に戻り、夕食まで菜々子ちゃんとテレビを見ながら過ごすことにした。
学校であったことなどを菜々子ちゃんと話をしながら、のんびりと過ごした。そして夕食の時間になり俺は料理を開始する。菜々子ちゃんには昨日と同じくお皿の準備をしてもらう。
今日の夕食は、カレイの煮付け、沢庵の漬物、トマトサラダに特性ドレッシング、と言う感じだ。夕食が出来上がり、俺と菜々子ちゃんが食べ始めてから少しして、堂島さんが帰ってきた。

「お父さん遅い! ご飯冷めちゃったよ!?」

「すまんすまん。仕事が忙しくてな」

「もう…」

堂島さんが忙しいことは菜々子ちゃんも分かっているのだろうが、俺が来てからはあまり家にもいることが出来ないようなので、やっぱり寂しいのだろう。

「堂島さん、すぐに温めますから少し待っててください」

「ああ、悪いな。ほぉ、カレイの煮付けか姉さんの得意料理だな」

俺が堂島さんの料理を温め直してテーブルに持ってくると、テレビの番組はニュースに変わっていた。テレビにはこの間起きた事件のことが流れている。
テレビの中では、ニュースキャスターが死体の第一発見者という八十神高校の女子生徒にインタビューをしている。顔にはモザイクがかかり、声も変えてあるが見る人が見れば一発で分るだろう。

小西先輩だ。

「第一発見者のインタビューだ? まったく…、こいつらはどこから調べてくるんだ?」

堂島さんの様子からも、テレビに写った小西先輩が第一発見者で間違いないのだろう。
テレビに写った小西先輩はリポーターからの矢継ぎ早の質問にかなり戸惑っているようだ。そんな戸惑っている先輩をよそに、リポーターはお構いなしに話しかけており、事件に全く関係の無いことまでも聞いている。

その後テレビには専門家と呼ばれる人物が出て、今回の事件について知ったげにうんたらかんたらと喋っている。

「ねぇ、お父さん! 今度みんなでジュネス行きたい! この前お兄ちゃんといったときね、お兄ちゃんすっごくかっこよかったんだよ!」

ニュースの合間にジュネスのCMが入ると、それに合わせて菜々子ちゃんがジュネスのテーマを口ずさむ、そして、堂島さんに今度一緒にジュネスに行きたいと言うのだが…。

「…」

捜査で疲れていたのか、いつの間にか食事をすべて食べていた堂島さんは座ったまま眠っていた。俺と菜々子ちゃんは堂島さんと部屋に連れていき、取り敢えず今度いつジュネスにいくかを話してから、それぞれの部屋へと戻っていった。

そして、時刻は二十三時五十五分、噂のマヨナカテレビまであと五分だ。取り敢えず、マヨナカテレビが見える条件である雨が降っているかどうかを確認するために、俺は閉めているカーテンを少しだけ開け、外の様子を確認する。

「雨は降っている…、後は時間になるのを待つだけ…か」

条件は整っている、後は電源を入れていないテレビに何かが映れば、噂は本物と言うことになる。マヨナカテレビ、前に俺がいたところでは聞いたことがない話だ。
そんなことを考えていると時間まで残り一分になっていたので、俺はカーテンを閉めテレビの前に移動する。

そして午前零時…。

「!?」

そこにはぼんやりとだが人影が浮かび上がっている。女性であることは確認できるのだが、どのような容姿をしているのかまでは確認することが出来なかった。

「…」

少し経つとその映像も消えてしまった。間違いなく電源は入っていない、それは絶対だ。ならばなぜあのような現象が起こるのだろうか? 俺がそんなことを考えていると頭の中に声が響いてきた。

『我は汝、汝は我…我、扉を開く者なり…』

「くっ…」

頭の中に響く声に驚き、俺は軽く体勢を崩してしまいその指先がテレビの画面に軽く触れた。すると、硬いはずのテレビの画面が水面に水滴が落ちたかのように波打ったのだ。

「なんなんだ一体…」

俺は頭の中に響く声と、波うつ画面をみて軽く混乱してしまいそうになる。だが、こんな時こそ冷静にならなければならない。常に冷静であれ、そうだったよな爺さん?

俺は先程の現象が勘違いではないのを確かめるために、もう一度テレビ画面に触れてみると、やはり先程と同じように画面の上に波紋が広がっていった。
そして、俺はそのままゆっくりと画面の中に手を差し込んでいく。

「!?」

すると、何かに引っ張られたようにテレビの中に引き込まれそうになる。俺は咄嗟にテレビの縁に手を掛けて手を引っこ抜こうとするが、テレビの中にいる何かはかなり強い力で腕を引っ張ってきた。

「このっ!?」

俺が力任せに腕を引き抜こうとすると、突然テレビの中の何かが力を緩めたのが解った。だが、俺は体中を使って手を引き抜こうとしていたため、急に反対側に引っ張る力が無くなればどうなるかというと…。

「!!」

そのまま後ろに倒れ込み、置いてあったテーブルで後頭部を強打してしまい、あまりにも強い衝撃に意識が飛びそうになる。痛すぎると声も出なくなると言うのは、どうやら本当のようだ。

「どうしたのお兄ちゃん?」

俺が痛みに声もなくのたうち回っていると、俺が倒れ込んだことで目を覚ましたのか、いつの間にか菜々子ちゃんが部屋の外に来ており、心配そうに声を掛けてきた。

「ごめんね菜々子ちゃん、寝ぼけて転けてしまったんだ」

「大丈夫?」

「うん、心配してくれて有り難う」

「…お休みなさい」

菜々子ちゃんは本当に良い子だ。ただ、堂島さんがやってこないと言うことは、捜査でかなり疲れていると言うことなのだろうか? 菜々子ちゃんもあまり構って洩らずに何となく寂しそうだったし…。
俺は痛む頭をさすりながら今日はもう寝ることにした。ただ、一つだけ気になったのはあの時どこからともなく聞えてきた声のことだった。

「あの声…、どこかで聞いたことがある…」

そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りについていた。


翌日、学校に行った俺に陽介と千枝が話しかけてきた。内容はやはりマヨナカテレビのことであり、どうやら三人とも同じ人物を見たようだ。
ただ、それが誰なのかはハッキリと解らなかったが、あのテレビに映っていた人物にあったことがあるのはまず間違いないと思う。

後日、俺達は何故この時もっと真剣にマヨナカテレビに映っている人を捜さなかったのかを後悔することになる。

そして、放課後になり俺達三人はジュネスのテレビ売り場にやってきていた。俺が自分の部屋のテレビが小さくて入れなかったというと、なぜか千枝の家のテレビの買い換えの話になり、こうして三人でテレビを見にやってきたのだ。
ただその時に雪子にも千枝が声をかけたのだが、かなり家の方が忙しいらしく今日も家の手伝いのため一緒に行けないという。

「雪子」

「? どうしたの総君?」

「あまり無理するなよ」

「え?」

「顔、大分疲れてるように見えるぞ?」

「そんなことないよ? 元気元気!」

そういって力こぶを作る真似をするのだが、どう見ても空元気にしか見えない。

「目の下、クマができてるぞ」

俺がそう言うと雪子は慌てたように目の下に手を当てるが、もちろんそこにクマなどはない。うまく化粧で隠しているのは分かっている。

「ほら、やっぱり自分でも分かってるんだろ? 俺も千枝も心配してるんだぞ?」

「…今ちょっと大変だから…、でも私が頑張らないと…」

やはりかなり無理をしているのだろう、そこには先程までの空元気さえもなくなった雪子が俯いていた。俺は小さくため息を付き、徐に手を振り上げ…。

「てい!」

「痛っ!? いきなりなにするの総君!」

チョップを食らわせた。俺のいきなりの奇行に、雪子はチョップをされたおでこを抑えながら、それなりに強くしたのでかなり痛いのだろう、目の端に涙をためながら俺に講義してくる。

「それだけ元気があればまだ頑張れるだろ? でも、どうしても元気がでないようになったら家族でも千枝でもいいから相談しろよ? 話しを聞くだけなら俺でもできるから…。無理してもいいけど、無茶だけはするなよ?」

「総君…。うん! ありがと、無理しても無茶はしないようにする。ありがと、ちょっとだけ元気でたよ」

雪子はそう言って先程よりも元気な笑顔を浮かべ、チョップされたおでこを抑えながら帰っていった。
俺がそんなことを思い出していると、いつのまにか陽介と千枝が少し離れたところで買い換えるテレビについて話をしている。俺は目の前にある大きなテレビを見ながら、昨日の夜テレビの中に腕が入ったことを思い出し、試しにゆっくりとテレビに手を突っ込んでみる。すると、手は水につけるような感覚を残しながらゆっくりと中にめり込んでいった。
俺が自分でも驚いていると、少し離れたところにいる陽介と千枝はもっと驚いていた。

「え? なにそれ最新型の新機能なの!?」

「んな機能あるかよ!」

俺の横で千枝と陽介が慌てている。俺は昨日のように中から手を引っ張られないのを確認してから、徐に頭を突っ込んでみる。俺の突然の行動に二人はかなり驚いていたが、この先には何があるのかがとても気になった。

「…霧が濃いな、中にそれにかなり広い空間が広がっている。下に何かある」

「中って何!?」

「空間って何!?」

「広いって何!?」

「ていうかなに!?」

「やべっトイレ行きたくなってきた!? もる! もる!?」

俺が何か言う度にテレビの外では陽介と千枝が大騒ぎしている。というか、何故にトイレに行きたくなるんだ陽介?

「向こうから客来てる! 客!」

「えー!? ここにテレビに半分刺さっている人がいるんですけど!?」

なにやら二人が大騒ぎしている。俺がそろそろ頭を引き抜こうとしたとき…。

「え?」

いきなり体を強い力で押されたような感触を感じ、次の瞬間には体事テレビの中に入っていた。

「ちょ!?」

濃い霧のため自分が今どこから下に落ちているのか解らないが、それなりに高い場所から落ちた場合打ち所が悪ければ大怪我をしてしまうだろう。
俺はそれを避けるために何とか空中で体勢を整えようとしたのだが、一瞬きりが薄くなったと思うとすぐ目の前に床が迫ってきていた。

「くっ!?」

俺は某蜘蛛男のように四つん這いの体勢で地面に着地した。やはりそれなりの高さがあったようで、完全に勢いは殺しきれず四肢に鈍い衝撃がはしる。
俺は痛みが引くのを待ちながら、そう言えばネコは空中で尻尾を回すことで体勢を整えて、高いところから落ちても足から着地できるようにしているんだったなと、豆知識を思い出していた。
まぁ、思い出したところで何の役にも立たないが…。

「いて!?」

「きゃっ!」

少し遅れて、千枝と陽介も落ちてきた。声を聞くに大事には至っていないようだ。陽介に至っては、くだらないギャグを言うくらいには余裕がある。

「どこなんだ此処?」

「テレビの中、なんだろうな」

落ちた状況からして、此処はテレビの中で間違いないのだろう。突然の事に陽介と千枝が軽く言い争いそうになるが、他の二人が慌てているのを見て、俺は返って冷静になることが出来た。

「二人とも落ち着いてくれ。此処はどこなのか解らないが、取り敢えず他に人がいないか捜してみよう」

「そうだな…、すまねぇ里中、いきなりのことで焦っちまってよ」

「あたしこそごめん…そうだね、今は言い争ってる場合じゃないもんね」

俺達三人は取り敢えずこの中を調べることにした。しかし、周囲は深い霧に覆われており視界は最悪で、さらに少しだけ霧の薄い場所に行けば、かなりサイコな感じの部屋だった。
顔の部分だけが刳り抜かれた写真は、リアルすぎて鳥肌が立ってしまった。しかし、そんな部屋で用を足すことのできる陽介は大物だと思う。

一通り見て回ったが他に人影もなく俺達は元の場所に戻ってきていた。元の場所に戻ってきてひとつ気づいたことがある。俺はそうでもないのだが、千枝と陽介が異様に体力を消耗しているのだ。
そこそこに歩いたりはしたが、そこまで疲れるようなものではないはずだ。特に千枝は普段から体を動かしているはずなのにだ。

「! 誰だ!」

そんなことを考えていると、何かこちらに徐々に近づいてくる音があることに気がついた。目を凝らしてみると濃い霧の中にうっすらと人影みたいなもの見え、その人影はこちらに向かって歩いてきている。





※後書き
訂正&分割その2です。作者です。
取り敢えず二話に分割しました。それとここでタイトルを少しだけ変更しようと思います。

『ぺるそな4ふぇす ~仮面と絆を力にして~』

一応、名前を変えたことには意味があるんですが、今のところ要考え中です。あとオリジナル設定有と追記しました。
ではまた。



[21974] 第三話の参 自分の見ている世界が現実なのか夢なのか…、それは誰にもわからない。雪子のツボがわからない。
Name: A.K◆f8db502c ID:9df86d6d
Date: 2010/09/29 14:02
濃い霧のせいでこちらに向かってきている人影をはっきりと見ることは出来ないが、近づいてくると徐々にその姿がはっきりとしてきたのだが、視界に映った姿は何とも珍妙だった。

「なにこれ!? サル? じゃないよね、クマぁ?」

サル? クマ? それはその二つの動物に失礼なじゃないかと思ったが、言われてみれば見なくもないような気がしてきた。それに何となく毛並みがいい。

「なんなんだこいつ?」

陽介が俺達の気持ちを代表してそう呟いた。それにしても、今俺達の前に現れたのを生物と言っても良いのだろうか? どちらかと言えば着ぐるみか何かではないのだろうかと思うフォルムをしている。やはりどう見ても、自然に生まれた生物には見えない。

「き、君等こそ誰クマ!」

喋った!? まさかしゃべるとは思わなかったがどうやら意思の疎通はできるようだ。そんなことを考えながら突然言葉を発した語尾にクマをつける生物をまじまじと見てしまう。しかし、見ているだけではどうしようもないので、言葉が通じるのなら少し話をしてみることにした。

「俺達はテレビの外から来たんだが、君はこの世界に住んでいるのかい?」

「そうクマよ」

語尾にクマをつけるのが微妙に鬱陶しく感じてしまうが、今のところこの世界について知るの方法が他にないので、取り敢えず気になる語尾は置いておいて話を進める。

「この世界には他に住んでいる人は?」

「この世界にいるのはクマとシャドウだけクマ」

シャドウ? 影、と言う意味だろうか? 影がいる、それだけでは全く意味が解らない。

「シャドウって言うのはなんなんだ?」

「シャドウはシャドウクマ」

駄目だ、話になりそうにない。俺がどう聞いた物かと悩んでいるといきなりクマが何かに気がついたように、俺達を指さしてきた。

「もしかして、君たちが最近ここに人を放り込んでいる犯人クマか?」

人を放り込む? この世界に人を放り込んでいる人物がいるのだろうか? しかし、この世界に人を放り込むと一体どうなるというのだろう。
それよりも、俺以外にもテレビの中に入り込むことが出来る人物がいるということの方が、重要視しなければいけないことだろう。

「君はここにやってきた人を見たことがあるのか?」

「んにゃ、他の人は別の場所に落ちたからあわなかったクマ。それに、人が来たときは外の世界に霧が出てたクマ、だからこっちは晴れててシャドウが暴れてたから、クマは隠れてたクマ」

…なるほど、今の話を聞いて解ったことがいくつかある。一つ目はこの世界に人を放り込んでいる人物がいること、二つ目はこの世界にはシャドウという物がいること、三つ目は現実の世界に霧が出るとこの世界は晴れ、シャドウが暴れると言うことだ。
そして、解らないこともいくつかある。シャドウというのがどんな物なのかこの世界に人を入れて何がしたいのか、この世界と現実世界の天気の関係などだ。

「さぁきりきり吐くクマ!」

俺達に身に覚えはないのだがクマは俺達を犯人と思いこんでいるようだ。確かに、そんなにポンポンと人をテレビの中に放り込む事ができる人物がいるとは思えない。
もし俺が逆の立場なら同じように疑っていたかも知れない。

「俺達がここに来たのは偶然だ」

「…本当クマ?」

「ああ、俺達じゃない」

「まぁいいクマ。君たちが来たからシャドウが何となくいつもと違うクマ。それに霧が晴れそうだからシャドウが暴れるかも知れないから、さっさと帰るクマ」

クマにそう言われ俺達はあることに気がついた。どうやればここから出ることが出来るのだろう? 最初ここに来たときは上の方から落ちてきたので、どのように来たのかがハッキリと解らないのだ。

「というか、どうやってこっから帰るんだよ!?」

「クマが返すクマ」

「はぁ? だからどうやって返すって言うんだよ!」

クマに食ってかかる陽介だったが、何か少しだけ様子がおかしい気がする。そんなに長い付き合いでないのでハッキリと断言は出来ないのだが、酷く機嫌が悪いように思える。
そういえば、最初ここに落ちてきたとき陽介と千枝がケンカしそうになっていた。突然の事に気が立っていたのは解るが、今考えると少しおかしいような気がする。

「だから! クマが帰すって言ってるクマ!」

クマはそう言うと少し離れたところに移動して、足を数回踏みならすと自分たちのいる場所から少し離れたところに昔懐かしい形をしたテレビが、三段重ねで現れた。

「ほらさっさと帰るクマ!」



『ぺるそな4ふぇす ~仮面と絆を力にして~』(ペルソナ4 再構成 オリジナル設定有)
第三話の参 自分の見ている世界が現実なのか夢なのか…、それは誰にもわからない。雪子のツボがわからない。

俺達はクマが出現させたテレビに押し込まれ、次の瞬間にはジュネスのテレビ売り場にいた。時間を確認するとすでに夕方になっており、かなりの時間向こうの世界に行っていたみたいだ。

「おい! ちょっとあれ見てみろ!」

陽介の指さす方向には一枚のポスターがあった。あれは…。

「あの部屋にあった顔なしのポスターか?」

「ほんとだ…」

いろいろな考えが頭の中に浮かぶが、陽介がこれ以上考えるのはやめようと言い出した。陽介もそうだが、千枝もかなり疲れているようなので、今日は此処で解散となった。
家に戻ると、堂島さんがすでに戻っており帰るなり小西先輩の事を聞かれた。

「小西先輩は、今日学校を休んだって聞きましたけど?」

「あー、そうなのか…。実はな、昨日から行方不明になってるようなんだ。なんだか、あまりいい感じがしないんだよ。もし、見かけるようなことがあったらすぐに俺に連絡してくれ」

「わかりました。皆にも言っておきます」

昨日テレビのインタビューを受けていた小西先輩、そして夜マヨナカテレビに映った小西先輩と思われる人物、これらは全く無関係なのだろうか? それともなにか関係があるのだろうか?
その後も少し話をした後、夕飯を作り始めたのだが体がいつもより重く感じる。俺も自分で気がつかないうちにかなり疲れていたらしい。

「どうした総司? 体調でも悪いのか? 菜々子、風邪薬あっただろ」

「うん」

俺は菜々子ちゃんがだしてくれた風邪薬をもらい、夕飯を食べた後に飲ませてもらうことにした。
因みに今日の夕飯は、堂島さんのリクエストでカレーだった。その夕飯の時、菜々子ちゃんがみんなでどこかに行きたいと堂島さんに言ったところ。ゴールデンウィークに考えてみると言うことになった。
堂島さんの答えに菜々子ちゃんは大はしゃぎで、喜ぶ菜々子ちゃんを見て俺も堂島さんもつい口元が緩んでしまう。

その夜、疲れからかいつもより早く眠りについてしまったのだが、ふと目が覚めたので時計を確認したところ零時前だった。なぜか目が冴えてしまったので俺は起きあがりカーテンを開けて外の様子を確認する。

「雨、か…」

昨日と同じように雨が降っている。俺は軽く頭を振ってから、水を飲もうと一階の台所に降りていき、コップを取りだし蛇口から直接水を汲み軽く喉を潤した時、不意に居間にある柱時計が鳴った。

一回…、二回…、三回…、四回…、五回…、六回…、七回…、八回…、九回…、十回…、十一回…、そして…。

十二回目の音が誰もいない居間に響く。

「!?」

その時、居間に置いてあるテレビがうっすらと光何かの映像が映っている。よく見るとテレビの画面に映っているのは小西先輩で、小西先輩は何かから逃げるように必死の表情で走っていた。
その小西先輩の後ろから追いかけてくる物、ハッキリと見ることは出来ないが、黒い塊みたいな物を見ていると、何故だか気分が悪くなり、怒りを覚え、悲しくなり、えも言われる不安に駆られてしまう。
俺はなんとか沸き上がってくる感情を抑えながら、テレビに映っている小西先輩を見る。俺の目の錯覚でなければ先程よりも黒い物は小西先輩に近づいている。

「まさか…、どこかで実際に起きていることなのか?」

俺がどういうことか頭を必死に働かせようとしていると、何かに躓いて転んでしまった。そして、転んだ拍子に足を挫いてしまったのか、立ち上がろうとして痛みに顔を顰めながら蹲ってしまった。
その間にも後ろから黒い物体が迫っているのだが、小西先輩は足が痛むのと体力が尽きたのかその場から動こうとせず、ポケットから何かを取り出して胸の前で握りしめたのだが、それに合わせるように小西先輩が何か小さく呟いた。

「!」

それを見て俺は確信した。いまマヨナカテレビに映っている小西先輩は間違いなく本物だ。あのチケットは昨日陽介が渡した物で間違いない。
俺は、小西先輩に黒い物が近づいてきたのを見て、思わずテレビ画面に手を伸ばして画面の中に突っ込んでしまう。

「!?」

すると、いきなり強い力でテレビの中に引っ張り込まれてしまった。

「ぐっ!?」

テレビの中に引っ張り込まれたと思った次の瞬間には、俺は背中から硬い場所に落ち、そのショックで息がつまってしまう。俺は民を堪えながら、周囲を見回すと濃い霧のためにハッキリと確認できないのだが、先程テレビの中に映ったのと同じように見える。

「小西先輩近くにいますか! いたら返事をして下い!」

俺は大声を上げ、小西先輩に呼びかける。だが、小西先輩からの返事はなくただ俺の声が響くだけだった。やはり別の場所に落ちてしまったのだろうか? 
この世界に入ってから嫌な予感が収まらない。今日昼閒に入ったときはこんな感じは受けなかったが、今は胸を締め付けられるような感じに襲われている。

「小西先輩。お願いだから返事をしてくれ!」

先程チケットを握りしめていた小西先輩が呟いた言葉…、『花ちゃん』それを見たとき、俺の頭の中にはチケットを受け取ったときの小西先輩の笑顔、受け取ってもらえた時の陽介の嬉しそうな顔が浮かんだのだ。

「どこだ? どこにいる…。考えろ、気持ちを落ち貸せて冷静になれ。俺がやらなければ小西先輩はやばいことになる。いま、どうにか出来るのは俺だけなんだ。いいか瀬田総司、お前の行動に全てかかってるんだ」

俺は自分に問いかけるように声を出して、気持ちを落ち着かせる。そして同じ事を繰返し呟いていると段々気持ちが落ち着いてくる。

「…! ………!? ……!」

「!」

ある程度気持ちが落ち着いたとき、微かに人の声が聞えたような気がした。俺はその声が聞えてきた方に向かって全力で走り出す。そして、走っている途中に気がついたことがある。
いま俺がいるのは商店街の中だ。何故此処に商店街と同じ風景があるのかは解らないが、いくつかの建物に見覚えがある。

「…や! …な……!?」

段々と声がハッキリと聞えてくるが、どこに小西先輩がいるのかは解らない。だがその時、少し離れたところで大きな物音がして、壁の一角が崩れ煙が上がっている。

「小西先輩!?」

もうもうと煙が立ち上る中、うっすらと人影が見えた気がしたので、俺は急いでその場所に行ってみる。

「いた!」

家の壁が破壊されて煙が立ち昇っているなか、小西先輩は胸元にチケットを握りしめたまま目をつぶっている。

「小西先輩大丈夫ですか!」

「!? 君は花ちゃんといっしょにいた…」

「瀬田です! それより今はここから逃げましょう!」

俺は先輩の手を取りこの場から逃げようとしたが、帰ってきたのは思い感触だけだった。何事かと振り返ってみると、そこには俯いたままの先輩がいた。

「先輩?」

「もういいよ…。どこに逃げても無駄そうだし、元に戻ってもいい事なんて何もないし…」

先輩は俺が来たことで気持ちが緩んでしまったのだろうか、そういって力なく笑うのだった。だが、そう言われて諦めるわけにはいかない。先輩のためにも陽介のためにも…。何よりもそんなことをしたら俺は自分自身が許せなくなる。

そう、先輩を助けるのは俺の我が儘だ。誰に頼まれたわけでもなく、誰のためでもなく、俺自身の満足のために先輩を助ける。

だから、例え先輩がいやがろうと俺は自分のエゴを貫かせてもらう。

「すいませんが先輩の言うことを聞くことは出来ません。だから俺は勝手にやらせてもらいます」

気弱になり足を挫いている先輩と一緒に走って逃げるのは難しいだろう。かといってこのままでいるわけには行かない。そのために、先程から先輩を追いかけている何かをどうにしかしなければいけない。
俺は壁が崩れたときに出た角材を丁度良いぐらいの長さにおり、両手に持って壁を崩した物が現れるのを待つ。

「おぉぉぉぉぉぉっ…」

そして現れたのは黒いどろどろの粘液に青い仮面がついた何かだった。それを見るだけで気持ちが折れそうなってしまう。さもすればその場に崩れてしまいそうになる体に渇を入れながら、俺は青い仮面のなにかを睨み付ける。

「!」

それはいきなり俺に飛びかかってきたが、それを大きく横に飛びのいてかわし、手に持っている角材を振りかぶって青い仮面に向かって力一杯振り下ろした。

「!?」

だが、振り下ろされた角材はその柔らかそうな見た目とは違い、当った場所から折れてしまった。ただ、少しはダメージがあったのか痛みに雄叫びを上げて突っ込んできたので、俺は折れて短くなった角材を相手に投げつけながら、転がるように横に避ける。

『我は汝…』

体制を整えようとした時、頭の中に声が響く。

『我は汝、汝は我…』

その声は段々と頭の中で大きく反響するように響き、俺はその場に膝をついてしまう。青い仮面の何かは片膝をついている俺めがけて突進してきた。
だが、それは先程までと違い何かに怯えるように見えた。

「くっ…」

なんとか意識を保とうとするが、少しづつ意識が薄れていく…。

「目覚めにはまだ至らないのですね」

意識が途切れる寸前、どこかで聞いたことのある女性の声と、青い服が見えそのまま意識が遠のいていった。

「…」

ゆっくりと意識が浮上していく中、何か大切なことを忘れているような気がする。

「!?」

そうだ! 小西先輩はどうなったんだろう、その前に俺はどうなったんだろうか! 俺は体を起こし周囲の状況を確認すると、何故か自分の部屋にいて布団の中で眠っていた。

「なんで…」

まったく訳がわからない。俺は確かにマヨナカテレビの中に入ったはずだ。それともあれは寝ぼけていたのだろうか? 俺は頭をはっきりと覚醒させるために、一階に降りていく。

「総司か、少し早めに出ることになった。すまないが俺の朝食は準備しなくてもいい」

「なにかあったんですか?」

「ん? ああ、小西早紀が見つかった」

小西先輩が? やはり俺が見たのは夢だったのだろうか? それよりも小西先輩は無事なのだろうか?

「小西先輩は大丈夫なんですか?」

俺が小西先輩のことを聞くと、堂島さんは少しだけ厳しい目付きで俺を見た後、小西先輩の状況を教えてくれた。

「意識、不明?」

「ああ、家族が気がついたときには家の中で倒れていたそうだ。いつ帰ってきたのかも家族にはわからなかったそうだがな…。まぁ、意識不明と言っても衰弱しているだけで、命に別状はないと医者も言ってからそんなに心配するな。あと学校に遅刻するなよ」

堂島さんはそれだけ言って外に出て行った。俺は堂島さんが出ていくのを見送った後、小西先輩が無事だったことを陽介に連絡するために、携帯で電話をかける。

『どうしたんだ瀬田? こんな朝っぱらから?』

「すまない陽介、さっき堂島さんから聞いたんだが小西先輩が衰弱して病院に運ばれたらしい」

『なっ!? どういう事だよ! なんで小西先輩が!?』

俺は先程堂島さんから聞いたことを陽介に伝えた。最初興奮していた陽介も話を聞いているうちに段々と気持ちが落ち着いてきたのか、話が終わる頃にはいつもの様子に戻っていた。

『教えてくれてありがとな瀬田。あとで学校で会おうぜ』

陽介はそう言って電話を切った。昨夜のことが夢だったのか現実だったのかははっきりと分からないが、俺は夢だとは思うことが出来ない。それに最後に聞こえたあの声、俺はあの声に聞き覚えがある。

「お兄ちゃん、ご飯作らないの?」

俺が考えに耽っていると菜々子ちゃんがエプロンを付けて話しかけてきた。俺は菜々子ちゃんに笑いかけ、朝食を準備するために冷蔵庫の中を確認する。





※後書き
え~、作者です。
小西先輩死にませんでした。いろいろ考えたんですが、こういう感じになりました。ということで主人公のペルソナ発現が少し変わります。
ご意見ご感想お待ちしております。
というわけで(仮)です。
ではまた。



[21974] 第三話の肆 目覚めた力もう一人の自分、ペルソナ。なんだ、千枝もかわいい。
Name: A.K◆f8db502c ID:9df86d6d
Date: 2010/10/03 22:59
朝食を食べ、菜々子ちゃんを途中まで送っていき俺も学校に向かって移動する。初日は気がつかなかったが、高校と学校では微妙に方向が違うのだ。俺が学校に通うようになった日、菜々子ちゃんはわざわざ遠回りして俺についてきてくれたのだ。菜々子ちゃんは本当に優しい子だ。
そんなことを考えているうちに学校につき教室で荷物を机の中に入れていると陽介がやってきた。

「おはよう陽介」

「ああ…」

陽介は俺の挨拶に短く返事をすると、そのまま自分の席に座り何かを考えているようだ。その真剣な表情から何を考えているのか聞くのがためらわれてしまい。俺が声を掛けようかどうか迷っていると、千枝と雪子が教室に入ってきた。

「おはよう瀬田君」

「総君おはよう」

「二人ともおはよう」

俺は二人に挨拶を返し、他愛もないことを話していると全校放送がかかり、臨時の全校集会が開かれるということだ。生徒が体育館に集まると、校長先生の話が始まった。

「今朝三年の小西早紀さんが意識不明の重体でで発見されました。警察の方がいろいろと調べてくださっていますが、先生方の話ではイジメの事実はなかったときいています。もし、学校外で話を聞かれたとしても軽い気持ちで取材をを受けたりしないように…」

校長の、学校で何かあった時のお決まりのセリフをそれ以上聞く気になれず、俺はもう一度陽介に視線を向けてみた。陽介は朝と同じく難しい顔で何かを考えているようだ。
そして全校集会も終り、俺と千枝は教室にもどっていた。雪子は職員室に用事があると言うことでこの場にはいない。その教室に戻る途中、小西先輩の同級生が小西先輩の事について話をしていたが、聞えてくる内容はあまり気分のいいものではなかった。

「ったく、他人事だと思って好き勝手言ってるよ…」

俺と千枝がなんともいえない様な気分になっていると、何かを決心したような表情で陽介が話しかけてきた。

「なぁ二人共、昨日の夜マヨナカテレビ見たか?」

「もう、花村もこんな時にな言ってるの!」

「いいから聞けって!」

陽介も昨夜、マヨナカテレビを見たようだ。そして、テレビの中に写っているのは小西先輩だと確信したという。ただ、陽介は最初苦しんでいる小西先輩が映っているのが消えた後も、少しの間画面を見ていたらしい。

「瀬田…、お前も見てた筈だ。それに…。瀬田…、わりいけどジュネスまで来てくれないか? テレビ売り場で待ってるから…」 

「…わかった」

俺の返事を聞いた陽介はそのまま学校から出て行ってしまった。千枝は普段にない陽介の態度にびっくりして、何も言えずにいたのだが、気を持ち直すと慌てて俺に話しかけてきた。

「ねぇ、花村どうしたの? なんか様子がへんだったようだし。それに、もしかしてまたあそこに行く気じゃ…」

「千枝、悪いけど俺は陽介に会いに行ってくる」

「え? ちょ、待ってよ瀬田君!」

俺は千枝にそう言って陽介の後を追うように学校から出てジュネスに向かう。後ろから千枝がついて来ているが、今は陽介に会いに行って話をするのがさきだ。

俺がジュネスにつくと、陽介は片手にゴルフクラブを持ち腰にはロープを巻いた姿で立っていた。…少しだけ近寄るのをためらった俺は悪くないと思いたい。


『ぺるそな4ふぇす ~仮面と絆を力にして~』(ペルソナ4 再構成 オリジナル設定有)
第三話の肆 目覚めた力もう一人の自分、ペルソナ。なんだ、千枝もかわいい。

「来てくれたのか瀬田」

「ああ、俺に話があるんだろ?」

「ああ…。すまないけど、詳しいことはテレビの中で話したいんだけど、いいか?」

「構わない」

俺と陽介がいざテレビの中に入ろうとしたとき、千枝がやっと追いついてきた。千枝は息を整えながら、俺達がテレビの中に入ろうとするのを止めてきた。

「なにするか解らないけど、やめときなよ。あそこやばいって…。もし、小西先輩に関係があることなら警察に任せた方がいいって」

千枝は俺と陽介の話が小西先輩の関係があることに気がついたようだ。

「警察に何が出来るんだよ!? 人がテレビの中に放り込まれてますって…、そんなこと言って信じてくれると思っているのかよ!」

「それは…」

「今日は確かめたいことがあって中にはいるだけだから、そんなに危ないことはねーよ。それにあの時と同じ場所から入れば又クマに会えるかもしれないだろ?」

「そんなのなんの保証もないって! ねぇ、瀬田君もなんとか言ってよ!」

「悪い千枝、俺も向こうに行って確かめたいことがあるんだ。千枝はここで待っていてくれ。もし、俺達が戻ってこなかったら堂島さんに全部話してくれ。堂島さんならきっと悪いようにはしないから」

「瀬田君…」

千枝にそう言って、俺はまず陽介をテレビの中に押し込み、続いて俺もテレビの中に入っていく。陽介は念のためと言って腰に巻いているロープの端を千枝に渡している。
俺と陽介がテレビの中に入ると、独特の歩く音をさせながらクマが近づいてきた。クマは俺達がまた来たと事に驚いているようだ。

「また君達クマか…。むむっ! やっぱり君達が犯人クマね!」

「まだ言ってんのかよ…。だから俺達じゃねーっていってんだろ」

「でも、君達以外にテレビを出入りしてる人はいないクマ! さぁ、きりきり白状するクマ!」

クマは自信たっぷりにそう言い、俺達に詰め寄ってくる。

「俺達じゃねーっていってんだろ? ああ、もう! 段々腹が立ってきたぜ!」

どう説明してもこちらの言い分を聞かないクマに対し陽介がかなり腹を立てている。そんな陽介を見て、クマは段々と勢いが亡くなってしまい、最後には怯えたように言い訳を始めた。

「べ、別に、君達を疑っている訳じゃないクマよ? もしかして、そうじゃないかなって思っただけクマよ?」


「ったく、強気なのか弱気なのかはっきりしろよ、調子が狂うな…。それよりも聞きたいことがあるんだ。昨日、この世界に誰か入れられただろ?」

「来たクマよ。でも、気がついたらいなくなってたクマ」

「そうか…、すまねーけどその人がいた所に連れていってくれねーか?」

陽介の質問にクマは何か考え込んでいるようだ。そして、少し何か考えた後いいことを思いついたかのように手のひらを打ち合わせた。

「クマのお願いを聞いてくれたら案内してもいいクマよ?」」

「お願い?」

「うん。最近人がこの世界に入れられて色々とおかしくなってきてるクマ…。クマはこの世界でのんびりと過ごしていたいだけクマよ。ワケの分からない物が出来たりして、とっても迷惑してるクマ、だから君たちにはそれをどうにかして欲しいクマ」

クマはそう言って何かを期待するようにこちらを見ている。

「それにもし犯人を探してくれないなら…」

俺達がどうするか迷っていると、クマはこの世界における最大の切り札を出してきた。

「ここから出してあげないクマ」

「ちょっ、おま、それは反則だろうが!」

確かに、クマがあの帰還用のテレビを出さない限り、俺達はこの世界から元の世界に戻る方法は今のところない。必然、クマが帰さないということになれば、この世界に閉じ込められてしまうことになる。因みに陽介が腰に巻いているロープは気がついたら切れていた。

「さぁ、どうするクマ?」

「犯人を、探す?」

その話を聞いたとき、ある人物の言葉が思い出された。

『貴方はこれから向かう地で災を被り大きな謎を解く使命を課せられるようだ』これが解かなければいけない謎なのだろうか?

「協力してくれるクマか?」

「わかった。俺達にできることなら協力させてもらおう。陽介もそれでいいだろう?」

「ああ、もうしかたねぇな。協力してやるよ」

「ほんとクマか!? それならまずこれをつけて欲しいクマ」

クマはそう言ってどこからともなくメガネを取り出し俺達に渡してきた。俺と陽介は顔を見合わせた後、メガネを掛けてみるとそれまではっきりとしなかった視界がいきなりひらけた。

「おおすげぇ…」

「それじゃ案内するクマ」

「おっと、その前に一応自己紹介しとくぜ。俺は花村陽介」

「瀬田総司だ。君はクマでいいのか?」

「そうクマ。それじゃ早速案内するクマ。あ、でもクマは戦うこと出来ないから、二人で頑張てくれクマ」

「ってなんだよそれ!? 一応武器も持ってきたけど雰囲気出しとかそういう意味もあんだろ!? お前も戦えよ!」

「ムリムリ、筋肉ないもん」

「つかえねぇ…」

二の腕とかそれなりに筋肉がありそうな気もするのだが…。試しに押してみよう。

「うわっ」

俺が軽くクマを後ろに押してみると、クマはあっけなく後ろに転んでしまった。しかも、自分では起き上がることが出来ないようだ。さらに起き上がらせよう手をとってみるとかなり軽かった。
助け起こしたクマに案内され、小西先輩がいたであろう場所に連れていってもらうことにした。そして俺達がクマに案内された場所は、俺の想像通りの場所だった。

「ここ、まんま街の商店街じゃねーか…、やっぱり昨日マヨナカテレビに映ったのは…」

「今までこんなとこなかったクマ…、最近騒がしくて困るクマ」

「なぁ、この世界はどうやって出来るんだ?」

「クマも良くはわからないクマ。でも、この世界はこの世界を作った本人にとっての現実クマ」

「現実…。ここが商店街なら、小西先輩の…」

陽介はそう言って走りだしてしまった。俺とクマが陽介に追いつくと、そこは小西酒店と書かれた店の前で、現実ではここが小西先輩の実家だという。しかし、周囲にある建物は壁が崩れたり、大きな穴が開いている。
そしてそれは俺が昨日見た物と全く同じであり、昨夜の出来事はやはり夢ではなかったということになる。

「中に入れば先輩に何があったか分かるかも知れねぇ…」

陽介が意を決して陽介が店の中に入ろうとしたとき、クマがいきなり大きな声をだした。

「ちょっと待つクマ!? そこにいるクマ!」

「はぁ? いるって何がだよ?」

「シャドウ…、クマ」

クマがそう言うと同時に、空間から黒いシミみたいなものが湧き出し、その中に仮面が浮かび上がった。

「!? こいつら昨日映ってた…!?」

「陽介!」

黒いシミは陽介に飛びかかったが、陽介はその場に尻餅をつきながらなんとか相手を避けることができた。そして黒いシミは仮面を中心に形をなし、およそ自然界では形作られないような形状に変化した。

そしてそのシャドウの姿を見たとき、俺の頭の中に何かの映像が映し出された。
山の麓にある洞窟の入口に、岩戸を挟んで一組の男女が相対していた。洞窟の外にいる男性は大きく息を乱しも、その顔には後悔とも怒りとも取れるような表情を浮かべ、洞窟の中に残された女性は紛れもない憤怒の表情を浮かべている。

「済まない…、済まない××××…」

「まさか…、このような辱めを受けようとは…、この恨み決して許しませぬぞ…!」

男の声には女性に対する罪悪感が溢れ、女性に声には男性を恨み殺さんとせんばかりの感情が篭っている。

「こうなればそなたの国の人間を、妾は一日に千人殺してくれようぞ!」


「! ××××…、ならば私は一日の千五百の産屋を建てよう。…ま……、××××…」

「××××! 決して許さぬぞ!」

耳を塞ぎたくなるような女性の声を聞きながら、俺の意識は徐々に浮上し…、また別の声が頭の中に響いてくる。

『汝は我、我は汝…、双眸見開きて汝、今こそ発せよ!』

その声は、今まで聞いたことが無いようで、それでいていつも耳にしているような安心感がある。

その声を聞くと、酷く不安になるようでいて、とても安心出来る。

そして…、俺は理解する。

それと同時に俺の手のひらに一枚のカードが現れた。そして、俺の口から自然とある言葉が漏れる。…そう、戦うための力を手にする言葉を…。


「ペ…ル…ソ…ナ…!!」


俺が手の中に現れたカードを握りつぶすと、カードは青い炎を上げ俺はさらにその炎を握りつぶした。すると体全体を青い炎が包み、次の瞬間に俺の中から何かが現れようとする。そう、これは…、俺だ!

「イザナギ!」

俺が名前を呼ぶと、俺の中からそれが具現化する。

戦うために…。

守るために…。

そして…。

真実を知るために…。





※後書き
エブリディ、ヤングライフ、ジュ・ネ・ス! 作者です。
今回は少し短いです。この話で三話は終わりとなります。
次回から第四話となります。よろしくお願いします。
ではまた。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.021440982818604