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[21516] 習作 リリカルなのは×ACE COMBAT ×色々&オリ主&転生キャラ
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:d222508a
Date: 2012/09/17 00:01
題名が思いつきません…アドバイスお願いします。

注意事項
・ACE COMBATとクロスですが登場人物の名前を借りている別人だと思ってください。
・他にも色々とクロスします。
・オリ主で最強系になります。
・転生オリキャラで転生オリ主ではありません。
・厨二設定とご都合主義が満載です。(例・ナデポニコポ)
・原作キャラとの恋愛ありです。
何かありましたら随時、追加します。

8月26日、祝、エースコンバットX2発売!!

9/3追加
5話より人の発言を「」。デバイスは『』。念話と通信機会話は≪≫にしてみました。

2011年、あけましておめでとうございます。
1/2 設定集追加。
何かあったら随時更新。これも付け加えた方が良いと言うのがあったら追加します。
1/9 設定集に項目追加
2012年 あけましておめでとうございます。
1/19日 エースコンバットアサルト・ホライゾン、プレイ開始(今更!?



[21516] 設定&用語集 6月13日 フレッシュリフォー社・2 企業連 水陸両用バイク等追加
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2012/06/13 00:26
付け加えた方が良いと言うのがあったら、お願いします。
追加項目は、下に増えていきます。


【フレッシュリフォー社】
ミッドチルダ、クラナガンに本社を置く、押しも押されぬ超巨大企業。管理局からデバイス・医療機器等の委託されている。
それ以外にも幅広く扱っており、幾つかの管理世界に支社を持ち、人々の生活に深く入り込んでいる。
管理局の出資者の1つであり、それなりに友好な関係を持つ。現在のトップはトリスタラム・リフォー。

【フレッシュリフォー社・2】
代表であるトリスタラムが暗殺され、一時は業績不振に陥るが、代表代理であるリリン・プラジナーの指導により建て直しに成功する。
だが、彼女は建て直しが終わると代表代理を辞任し、1人の少年を代表に立てる。それがリリン・プラジナーの婚約者である帝 閃である。
当初は勤まるのかと疑問視されていたが、彼と開発部主任が考案した【SubFlightSystem】が成功。新たな分野を開拓する。
それにより、内外の反対勢力を一蹴。名実共に新代表としての地位を築き上げる事に。のちに神の頭脳と呼ばれる、天才の誕生であった。
他にも対魔法装甲搭載の装甲車や、水陸両用バイクの開発に成功する。管理局上層部から、質量兵器ではと問題視されているが、全て武器は未搭載である。
ある程度の重火器の搭載は可能だが、それは管理局の現場の意志に委ねているらしい。移動手段の乏しかった地上部隊には、歓迎された機体だったようだ。




【SubFlightSystem】
通称SFS。開発はフレッシュリフォー社の帝閃及びノヴァ。見た目的には戦闘機などをモデルにしており、大きさは2m程である。
空魔導師の運搬を目的とし、長距離巡航タイプ、短距離高速タイプなどが開発されている。ヘリよりも小回りが利くので、こちらを使用する部隊も多い。
なお、試作機である【F-22・ラプター】がISAF総隊長のメビウス・ランスロットに運用され、多くの戦果を上げている。
これはコストを度外視したSFSであり、高速移動が可能でありながら、長距離移動も可能である。その分、制御は難しい。
それ以降は、制御が簡単なタイプの生産に切り替えたようだが、一部のエース魔導師クラスにはカスタムタイプを提供している模様。
使用者の脳波を登録すれば、10キロ程度なら、遠隔操作が可能となっている。最も、使用者には多大な集中力も必要となる。
全機体に簡単なAIが搭載されており、ストレージデバイスに近い。
なお、コアや出力関連に関しては、企業秘密であり、水面下で熾烈な情報戦が繰り広げられている。

【対魔法装甲車・水陸両用バイク】

対魔法加工を施した装甲車。地球で使用されている装甲車をモデルにしており、地上部隊専用の装備と言っても過言ではない。
信頼性も高く現在、殆どの地上部隊に配属されている。本局より問題視された為、地上本部代表、レジアス中将は装甲車は重要性の高い作戦でのみ使用とした。
水陸両用バイクもその名の通り、陸上だけでなく水上でも使用可能なバイクとなっている。装甲車が侵入できない狭い場所にも入れる為、こちらも人気が高い。
大抵の地上部隊は、装甲車に随伴するバイクで構成されているようだ。これにより、幾分かの人手不足、行動の遅さを解消できている。
なお、両方のライセンスを獲得したミラージュ・コンツェルン、クレスト・インダストリア等も新作を開発し、熾烈な競争が繰り広げられている。




【ベルカ公国】
かつて存在した国家。古代ベルカからの移民でありながら、卓越した魔道技術により1つの国家として成り立っていた。
そして、その技術力、軍事力を持って領土を拡大したが、それが原因で経済危機に陥る事になる。
状況を打開する為に、一部の有力貴族に領地を分配し、自治領として運営させ、自国から切り離した。
しかし財政難は止まらず、その貴族達を取り込み、肥大化していくミッドと管理局との関係は更に悪化。その際に、極右政党が政権を握る。
そして、親ミッド派貴族【ウスティオ家】領地にて、天然魔道資源の発見を機に、ウスティオ家領地、ミッドチルダ領地等に侵攻を開始。
後に言うベルカ戦争が開戦される。当初は【ベルカの騎士】と呼ばれる魔道師達の活躍で、優位に立っていた。
しかし、管理局が組織した外部傭兵部隊の活躍により、徐々に押されていく。
だが、魔核弾頭(後述)等を開発し、ミッドと管理局を苦しませるが、敗北。戦争末期には自国領土内で起爆させるという狂気さえ犯す。
国家は解体され、現在は、自治領として残り、自治政府が運営している。なお、旧国土の一部を管理局評議会が、直轄地として運営している。


【ベルカの騎士】
ベルカ空戦部隊のエース達にのみ許された称号。アームドデバイスを使いこなす、接近戦のプロである。
近づかれたら終わり、戦争中の管理局員達の恐怖の対象であった。


【魔核弾頭・V1】
コアとなる魔力吸収体に、魔力を注ぎ込み、起爆させる兵器。都市を蒸発させるほどの威力を持つ。
ベルカ公国が開発するが、自国内で起爆させる狂気を犯す。なお、更に強力な【V2】が開発されていたとの噂もある。

【魔核弾頭・V2】
あるロストロギアをコアにし、蒐集した魔力を暴走させ、爆発させる兵器。威力はV1の比ではないらしいが、詳細は不明。

【魔核弾頭・V2、2】
ロストロギア、闇の書をコアにした魔核弾頭。なお他にも複数の魔導師から、摘出したリンカーコアをそのまま補助のコアとしても使用していた。
開発責任者はアントン・カプチェンコ。(後述)


【アントン・カプチェンコ】
ベルカ史上最高とまで言われた天才魔導師。V1やV2、そしてタングラムを開発している。
既に故人となっているが、ベルカにおいて、未だにカプチェンコの名は絶大な影響力を持っている。1人息子が居たらしいが消息は不明。
ベルカ戦争中、もしくは、戦争後にスカーフェイスと交戦し撃墜されたらしいが、詳細は不明




【タングラム】 
ベルカのある天才魔道師が、作り上げた時空因果律制御機構。任意の平行世界の事象をこの世界の事象と入れ替えるというシステムである。
すなわち、この世界を自由自在に再構築できる装置である。極端に言ってしまえば、運命を書き換えることが出来る。
ベルカ戦争勃発以前に開発、完成されたが、自我を持ち、戦争に使用されることに反発、虚数空間へと逃亡する。
実は、その前に1人の少女と出会っており、彼女の心に触れ優しさを知り、少女に力を貸すことを決意しているらしいが、詳細は不明。
なお、少女は現在行方不明となっている。


【タングラム・2】
メビウスにアクセス権限を渡し、彼に力を貸す事を決意している。心優しき女性の自我を持ち、世界の行く末を見つめている様だ。
現在は彼の心の深層に住んでおり、専ら相談役になっているが、タングラム自身満更でもないようだ。
常にメビウスやなのは達を見守る心優しく存在である。…怒ると恐いらしい。



【少女・1】
タングラムにアクセスできる唯一の存在。ベルカ公国が探し続けていたが、結局見つからず。戦争勃発につき捜索は打ち切られる。
詳細は不明だが、かつてのベルカの有力貴族の娘らしい。なお、噂では1人の傭兵に恋をし、自身も傭兵になったとか…。

【少女・2】
名前はゼロフィリアス・グラシア。ベルカの有力貴族、グラシア家の令嬢。
だが、当主夫妻に拾われた養女である。
長女として育てられ、才色兼備、美しい娘に成長していた。
将来を約束された幸せな暮らしを送っていたが…タングラムのアクセス権限を持った事により一変、軍部に追われることとなる。
グラシア家に迷惑はかけれないと判断、1人で逃亡し消息を立つ。
なお、妹のカリムの事を可愛がっており、カリムも良く懐いていた様だ。




【シュトリゴン隊】 
時空航行艦【ケストレル】所属の航空部隊。管理局の中でも、トップエースの実力者が揃う精鋭であり、ベルカ戦争を戦い抜いてきた猛者達でもある。
特別な遊撃権限を所持し、要請を受ければ、陸・海・空、関わりなく行動できるのは、精鋭部隊ならではである。
現在の隊長は【ヴィクトル・ヴォイチェク】 副隊長は【ジン・ナガセ】


【戦闘結晶構造体・アジムとゲラン】
管理局が指定している第1種接触禁止目標。次元震等の発生で、時空が割れると何処からともなく出現する謎の敵。高い戦闘能力を持っているため、一般局員の接触は禁止されている。9年前のベルカ戦争の時も出現し、両陣営に多大な被害を与えるが、【円卓の鬼神】により、粉々に撃ち砕かれていた。

【ソラノカケラ】
メビウス・ランスロットが所有するレアスキル。
空から常に魔力が供給され続けるスキルであり、実質、魔力は無限である。
空を愛し、空に愛された彼に相応しいスキルである。

【白虹騎士団】
聖王協会所属のベルカ最精鋭騎士団。かつてのベルカの騎士達の流れを継ぐ、魔導師達。制服は純白。
主に自治領内の治安維持、指定ロストロギアの確保を行っている。その実力はベルカ式の魔道師の中でもトップクラスである。
実質、ベルカ自治政府の最高戦力達。彼らと対等に戦えるのは、シュトリゴン隊や管理局の中でも極一部である。


【企業戦士、ネクストマン】
テレビで放送されている超高速バトル特撮ヒーロー番組である。主人公であるアクアビットマンを筆頭に多くの仲間達とも、悪の組織ゴット・オブ・コジマを滅ぼすために日夜戦っている。
最近では、カードやガチャポン等が発売され、子供達に大人気の番組になっている。
仲間には絶対防御巨人、通称・絶防巨人GAマンや正義の味方であり、ライバルのドミナント仮面が登場する。
作者は、ジャク・ゲド。



【ヤガランデ】
メビウスが契約した召喚獣。
強大な力を誇るが、まだ心が幼いが、人語を理解できるほどの知能はあるようだ。
主であるメビウスのパーソナルカラーに近い、青紫を基調としたカラーリングとなっている。
メビウスは勿論、なのは、フェイトも大好きであり、彼女達の呼びかけにも応ずる事があるようだ。
はやてとは、現在交流を深めているところ。愛称は、ヤガ。
戦闘時以外では子猫サイズで、メビウスの近くに居る事が多いようだ。


【ウィザード隊】

管理局評議会直属の部隊。各部隊から引き抜かれた高ランク魔導師を、中心に構成されている。
詳しいことは情報規制により、明らかになっていないが、権限と豊富な資金力を誇り、1部隊にしては過剰な装備を所有しているようだ。
現在の部隊長は【シルヴァリアス・ゴッテンシュタイナー】副隊長は【アレン・C・ハミルトン】
なお、某人物が言うには「…特大のフラグだなおい。」だそうだ。現在、どういう意味なのか調査中である。


【傭兵団 レイヴンズ・ネスト】
アナトリア自治区を本拠地とする腕利きの傭兵団である。比較的、若い年齢層の傭兵ばかりだが、実力は折り紙付き。
各地の紛争などで活躍し、ミッドの外部傭兵部隊として雇われベルカ戦争に参加。
旅団長はスカーフェイス・ランスロット。副旅団長はチャーリー・ガウェイン。
この2名の実力は超1流であり、戦局を覆すとまで言われた。後に円卓の鬼神と呼ばれる事になる傭兵【サイファー】も参加している。
ベルカ戦争終結後は管理局入りを望まれたが、全ての傭兵が拒否し、ネストは解散している。
なお、所在を掴もうとした局員達が返り討ちに会った為、全員所在不明である。だが、結束力は未だに固く、スカーフェイスか、その血をひく者の号令で動き出すであろう。


【Independent Speed Assault Force】
独立速度強襲部隊。通称、ISAF。
メビウス・ランスロットの提案している部隊。陸海空の干渉を受けぬ為に、独立部隊としての格好を取っている。
対テロ行為を目的としているが、実際はダイモン討伐、灰色の男達の確保を目的としているらしい。
都市部での自由飛行、リミッター解除など、現在の管理局の常識を覆す内容ばかりの部隊案であり、実現の可能性は極めて薄い。
現に上層部からは反対の声が多い。しかし…一部局員達が賛同している動きもある。
仮に実現するためには【外部からの資金援助】、【政府】からの後押しが必要だろう。


【ディソーダー】

虫と酷似した外見を持つ金属生体兵器、もしくは機械生物。
詳しい事は不明であり、生物兵器と言う線もある。
誰が作成したかは不明だが、多数の種類が確認されている。
不明な点が多く、管理局も情報を集めている。
小型タイプの戦闘能力は低いが、中型となると、魔導師と対等以上に戦う事が可能。
小型はレーザー程度しか使わないが、中型は魔力刃や誘導弾。大型に至っては、グレネードランチャーやミサイルを搭載している模様。
なお、大型の確認情報は少ないが、非常に危険な存在だと思われる。


【シャドウ化現象】

最近、魔導師達に起こり始めた謎の現象。
シャドウとなると、リンカーコアが黒く染まり、理性をなくし敵味方関係無しに狂戦士の如く闘い続ける事になる。
現在、治療する手段は皆無であり、またなぜそうなるのかも皆目見当がついていない。
防ぐ手段は少なく、リフォー社の開発した浄化装置で、定期的にコアを浄化するかない。
なお、シャドウ化した魔導師は、戻す事が出来ず、排除するか、己の力で自壊するかの悲劇的な結末しか待っていない。


【称号】
ブレイズ・トリスタン、【ムーンライトソード】【月光剣章】、受賞
アーサー・フォルク、【ゴールデンウイング】、【黄金双翼章】、受賞
高町なのは 【エース・オブ・エース】受賞
フェイト・T・ランスロット、【ソニック・エース】受賞
メビウス・ランスロット【ヒーロー・オブ・ヒーロー】受賞


【ヒーロー・オブ・ヒーロー】

英雄の中の英雄。ISAF総隊長のメビウス・ランスロットに送られた称号。
子供っぽく、簡単すぎる称号ではあるが、だからこそ、誰もが聞けば、メビウス・ランスロットの事だと分かる。
その知名度は、エース・オブ・エース以上であり、最も有名な称号であろう。
全ての人が知り、全ての人の希望となることを…。そんな想いが込められている称号。
最も気高く、新しき伝説、最も新しき英雄。





【企業連】

健全な経済の発展と、市場を目指す企業の連合体。フレッシュリフォー社代表の帝 閃が提案し、多くの企業が参加している。
最近の管理局が行っている強行視察等の、越権行為に抵抗する為に作られた模様。
盟主はフレッシュリフォー社であり、傘下にはクレストインダストリア、ミラージュコンツェルン、ゼネラルリソース、ニューコム等の有名企業が名を連ねている。
水面下ではお互いの企業秘密や利権争い等が多発しているらしいが、表面上は平穏なようである。



[21516] 1話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:d222508a
Date: 2012/07/12 20:23
さて…これはどういった状況なんだろうな。
俺は確か…何時もの様に日課のジョギングをしてて…あぁ…思い出した。車に轢かれそうになってた猫を助けたんだっけか。
そんで、猫は何とか掴んで投げる事は出来たんだけど…俺は轢かれたんだっけかね。2tトラックだったからなぁ…死んだか。
最後に猫が無事に走ってくるのが見えたから良いんだけどね。
しっかし…まぁ…死んだら普通は天国か地獄で決まりなんだろうが…
とりあえず、言っておくか。往年の名台詞。きっと言いたい人間は世界に数え切れないほど居るだろう。
いや、しゃべれないから取り合えず思うか。

(知らない天井だ。)
「貴方!元気な男の娘ですよ、」
「おぉ…よくやってくれた…」
(まて、なんか知らんが漢字が違うと思うぞ?それは特定の趣味の奴らが使うのだっての!!??)



こうして俺は何時の間にか赤ん坊になってたというわけだ。簡単に言ってしまえば転生だな。
なんで冷静なのかって?…東京の満員電車に乗る男は、痴漢冤罪対策の為に嫌でもこうなんだよ。
現状の確認だ。俺は帝 閃。厨二まっしぐらの名前だ。
なんか某少年誌の間接破壊の達人の親子の名前がくっついた感じがする。
ちなみに父親は帝 天。母親は帝 麗。ダンディーな父親と綺麗な母親と言うまさに理想的な両親だ。
転生者とは言え、俺が始めての子供。そして惜しげもなく愛情を注いでくれるこの二人。
俺は産まれて直ぐにこう決めた。本当の父さん、そして母さんと呼ぼう、と。当たり前のことだけどな。
んで、俺の産まれた所はミッドチルダは首都クラナガン。両親はそこの超大手企業の重役だ。
ちなみに、企業の名前はフレッシュリフォー。なんでも管理局からデバイス関連の開発等を請け負っている企業らしい。
あぁ、父親と母親は生粋の日本人らしい。移住してきたそうだからな。ちなみに俺も黒髪黒目。良き日本人の特徴を受け継いでいる。良かった良かった。
…さて、とりあえず…突っ込んでみるか。
まずは…ミッドチルダ?デバイス?そして管理局?ここはリリカルな世界な訳ですか!?どんな二次創作だよ!!??
自分の名前だけで、滅茶苦茶笑えんのにリリカルかよ!!??
そして次にフレッシュリフォー!!??待てよ!!??なんでVRの企業が出てくんだよ!!??
おかしいだろ!!??明らかに原作崩壊も良いところだよ!!??

「あら。閃が泣いてるわ。どうしたの~?」

いや、どうもしないんだけどね。母さん。
母さんの腕に抱かれながら、再び俺は考える。
まずは後で俺の魔力要素を調べてもらうか。まだ先の話だが、もしかすると必要になるかもしれない。
そして次に情報収集だ。俺と言う存在とフレッシュリフォーの存在が一体、何を意味してるのかが気になる。
…まだ赤ん坊だから、ゆっくり色々と考えるか。
そんなことを考えていると時間はあっという間に進むわけで…
気が付けば6歳を目の前にしていた。

「閃君のランクはB-ですね。」
「ふむ…私達の子供にしては良いな、。」
「えぇ。けど、まさか閃が魔道師になりたいんだなんてね。」
「多くの子供が憧れる職業だからな。私も最初は憧れたものだよ。結局もランクが低くてどうにもならなかったがね。」
「けど、閃ならきっとなってくれますわ。」
「うむ。この子ならやってくれるだろう。」
「頑張るよ!!」
「はっはっは!!その調子だぞ閃!!」

とりあえず俺はフレッシュリフォーの施設でランクの測定を受けてみた。両親には魔道師になりたいといってね。
しかし…B-…微妙な所だな。可も無く不可もなく…といったところか。
聞くと父さんも母さんもCランク。結構、下のほうだ。
これから成長していくのか…はたまた、下がっていくのか…これは分からない。
次に俺はある提案を両親にしていた。
それは日本の海鳴市に住みたいという事だ。しかも両親がどっちも海鳴市出身ということがあり、疑われることも無くあっさりと引越しが出来た。
両親も本当の日本を知って欲しいと思ってたようで、渡りに船といったところだったようだ。
そして俺は6歳になり、海鳴市の私立聖祥大学付属小学校に通うことに成った。
ちなみに、俺が海鳴市に住みたいといった理由は簡単だ。
とりあえず、原作キャラ達を見てみたいという、本当に安易な理由だ。
けど、俺は自分から原作介入する気は毛頭ない。実際にB-で介入したら大怪我じゃすまないだろうし、何か歪みが生じる可能性があるからだ。
巻き込まれた際は必要最低限の抵抗はするが、それ以上はなにもしない。ひどい言い方だが俺は観客だ。
原作キャラ達が織り成す舞台劇を客席から見ている観客。原作介入して物語を曲げなければ、いい方向にも修正したりしない。
それに…それは俺の役割じゃないからだ。それを担う奴が居たからだよ。
そいつは誰かって?…俺が私立聖祥大学付属小学校に入学して、クラスを見ると原作キャラとは別のクラスになっていた。
とりあえず…この頃は魔法的要素は何も無いだろうから適当にすごそうと思ったが…
案の定、アリサ・バニングスが月村すずかを苛めてて、それをなのはが止めに入るわけだ。
これが三人の出会いな訳で…取っ組み合いの喧嘩を俺は遠くから眺めてただけなんだが…
そこで現れたんだよ。超ど級のイレギュラーが、二人も。

「なのちゃん!!喧嘩は駄目だよ!!」
「はっはー!!江戸の喧嘩は華だぜぇぇぇ!!」
「ふざけたこといってないで止めてよ!!バニングスさんの方を止めて!!」
「おう!!」

蒼い髪の美少年と灰色の髪の少年。
こんな奴ら原作には居なかったはずだが…そんな事を考えていると、蒼髪が間に入って喧嘩を止めた。ちなみに灰色髪はアリサを羽交い絞めにして抑えてる。
お、灰色髪の足にアリサの踵が突き刺さってる。滅茶苦茶、痛そうにしてんな。
ちなみにすずかは泣きながらオロオロしてる。


「なのちゃん、イキナリ喧嘩したら駄目でしょ?」
「だって、この子がいじめてたから…」
「うん。苛めは確かによくないけど…なのちゃんまで暴力を使ったら駄目でしょう?まずはお話して止めてっていわないと。」
「うぅ…けど…」
「私はなのちゃんの事を心配していってるんだよ?それになのちゃんが怪我したら士郎さんや桃子さんも悲しむでしょ?
もちろん、私だって悲しいよ?」
「…」
「それはバニングスさんも同じ。だから、ね?最初はお話しよう?」
「……うん。」
「うん。なのちゃんはいい子だね。」

そう言いながら蒼髪はなのはの頭を撫でる訳で…ナデポかよ…
いや…違うな。既に堕ちてるな…。
そして一人称が私…明らかに俺以上の厨二である事は間違いないな。
結局、蒼髪と灰色髪の介入で、喧嘩は終わり、三人は最初こそギクシャクしていたが、意気投合し、親友になった。
そして、当然、俺は疑問に思ったよ。あの二人は何者なんだろうなって。しかし介入しないと決めた手前、あまり行動を起こしたくない。
植物のように平穏な生活を送りたい、と、どこぞの手フェチ殺人鬼みたいな事を考えながら1年、2年と過ごしたよ。
そして…二人を知る機会が3年に上がって訪れた。
なのは・アリサ・すずかと同じクラスになって、下手すると巻き込まれるかなぁ、と考えながら、クラス名簿を見ると…流石に、俺も驚いたよ。
何度も何度も何度も見直して…確信したよ。
良く考えると納得できる。ミッドにも【あそこ】と同じ地名がある。
そして分かったよ。やっぱり俺は脇役でよかったってな。俺は主人公じゃない、そして目指さなくて良かったってな。
苗字が不安だが…きっとこの二人なら良い方向に原作を修正することも出来るだろう。いや、絶対に出来るはずだ。
そう思いながら過ごしていると…あの二人と気が付けば友人と呼べる仲になった。
原作介入はしないと言う俺の意志はどこへやら、巻き込まれるみたいだが…俺は決めたんだよ。
脇役になるってな。主人公達を支える脇役、情報提供する村人クラスでも良いからな。
そして…今日も俺は教室に入ってきた蒼髪と灰色髪の友人に挨拶をする。

「おはよう。閃。」
「お~す。閃!!」
「あぁ。おはよう、メビウス、オメガ。」


なんたって…リボンの英雄と究極の11がこの世界には居るんだからな。
こいつらが居る時点で…主人公は決まってるだろう?







帝 閃
転生者その1。
友人ポジション。
生前は普通の大学生。
原作知識あり、野心なし。純正日本人の見た目。







[21516] 2話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:d222508a
Date: 2010/08/28 12:28
♪~♪~♪」

朝のキッチンで朝食を作る一人の女性。外見は若々しい、というより童顔である。
かもし出す雰囲気はのほほんと言うか、ぽややんである。
可愛らしい犬がプリントされているエプロンをつけている。
フライパンの上ではウィンナーがこんがりと焼け、それを目玉焼きの乗った皿に移していく。
彼女の名前はサイファー・ランスロット。外見からは想像できないが、これでも1児の母である。

「これで良いかな~♪。フェイス~。ご飯できたよ~。」

外見と同じくらいの幼い声。ぽややんとした雰囲気がまさにマッチしている。
リビングを見ると、新聞を読んでいた男性が居た。
彼の名前はスカーフェイス・ランスロット。この家の主であり、サイファーの夫である。
名前の如く、左のこめかみから右頬に掛けて顔を縦断する大きな傷跡の在る精悍な顔。だが、厳ついと言うわけでもない。
こちらも若々しい外見をしている。

「ん?そうか。」

読んでいた新聞を畳み、サイファーが作った朝食をリビングのテーブルに運んでいく。
狐色に焼けたトースト、こんがりと焼けたウィンナー等、とても美味しそうだ。

「そろそろ、あの子を起こさないとね~。」
「珍しいな、寝坊か?」
「昨日の夜に、また空を見てたのよ。」

サイファーは笑顔で2階に通じる階段を見る。スカーフェイスも苦笑いを浮かべながらトーストにジャムを塗っていく。
すると、階段から聞こえてくる足音は、子供らしい軽い足音と、4本足で歩く動物の足音だ。

「おはよう~…父さん、母さん。」
「ふふ。早く顔洗ってきなさい。」
「ほら、トーストに塗るのはなにが良い?」
「ブルーベリー…」

階段から降りてきたのは一人の少年。少し長めの髪を蒼いリボンで止めていた。
まだ、眠いのか眼をこすりなら洗面所に向かっていく。
そんな少年の足元に居るのは一匹の大型犬。見た目はドーベルマンなのだが、何故か毛が赤い。
少年は私立聖祥大附属小学校の制服を着ているところを見ると、そこの生徒なのだろう。
首には蒼いクリスタルで出来た剣の形をしたペンダントが輝いている。
洗面所から水の流れる音と、そしてパシャパシャという音が聞こえてきた。
数分ほどで、少年が戻ってきた。顔を洗ってスッキリしたのかも先程までの眠そうな気配は無い。
そのまま両親が待つテーブルに向かい、自分の席に座る。
犬も少年の足元に座り、大人しくしていた。

「ふう、スッキリした。」
「ほら、冷めないうちに食べましょう~。」
「ほぉ…?今日は珍しく失敗してないようだな。」
「そんな…それじゃ、私のお料理は何時も失敗するみたいじゃないのよ~」
「私は…母さんのお料理好きだよ?」
「ああもう。メビウスちゃんは可愛いわねぇ♪」

そう言うとサイファーは少年をぎゅうっと抱きしめる。
少年の名前はメビウス・ランスロット。スカーフェイスとサイファーの息子である。
ちなみに蒼いリボンはサイファーの趣味で、どうやら可愛い物が大好きなようである。
そして男子なのに一人称が「私」と言うのも確実に彼女の教育の賜物だ。
彼女だけでなく、メビウス自身疑問に思っていないあたり、尚更始末が悪い。

「母さん…苦しい…」
「サイファー。離してやれ。時間が迫ってるんだぞ。」
「あら?もうそんな時間?」

スカーフェイスが苦笑しながら、時計を指差す。確かに、メビウスが家を出る時間が迫ってきていた。
サイファーの抱擁から開放されたメビウスも朝食を再開し、トーストを食べていく。
そして食べ終わると直ぐに歯を磨き、鞄を持った。若干、寝癖が付いているが…

「それじゃ、父さん、母さん。行って来きます。」
「あ…メビウスちゃん、待ちなさい。」
「?」

リビングから出て行こうとするメビウスをサイファーが呼び止める。
そしてサイファーがメビウスに近づき、目線の高さまでしゃがむ。

「良いわね。絶対に危ない事したらだめよ?」
「え?…分かったけど…?」
「ふふ…それじゃ、いってらっしゃい♪」

軽くメビウスの頭を撫でて見送るサイファー。
そして、少し疑問に思いながらも元気に家を出て行くメビウスとその後を追う大型犬。
玄関が閉じると同時にサイファーは少し寂しそうな表情をする。何時もニコニコしてる彼女の顔とは大違いだった。
スカーフェイスも難しそうな顔をしてメビウスの背中を見ていた。そして二人してポツリと呟く。

「無理だろうな。」
「えぇ。無理でしょうね。」
「メビウスは…俺達の息子…だからな。まぁ…大丈夫だろう。」
「えぇ…自慢の息子ですものね。」
「あぁ。自慢の息子だからな。」


メビウス

「さあ。ガルム!行くよ。」

家を出た私は何時もの様に後を付いてくるガルムに声をかける。
赤い毛が特徴的な私の家族。声を掛けても鳴くことはしないけど、充分気持ちは伝わる。
静かに私の横に並んで一緒に歩き始める。リード等は付けないんだ。だって、そんな物を付けなくてもガルムは私の言う事を聞いてくれるからね。

「今日も良い天気になると良いねぇ。」

ガルムに話し掛けながら、私は通学路を歩いていく。
途中からバスに乗らなければいけないんだけど、その前に少し寄っていく所がある。
私の両親はアクセサリーショップ【アヴァロン】と言うお店を経営してるんだ。
その近くの【翠屋】と言う喫茶店を経営してる高町さんとは、家も近所と言うことでとても仲良くしてもらっている。
そして、高町家の次女であり、幼馴染の女の子、なのちゃんを迎えに行くのが私の日課。
ちなみに「なのちゃん」と言うのは愛称。本当は「なのは」と言う名前なんだけどね。

「そうそう。今日の夜、出かけるよ。ガルムも一緒にね。」
「?」

そう言うとガルムが不思議そうに私の顔を見る。え?表情の違い?家族なんだから分かって当然でしょ?それにガルムは唯の犬じゃないんだしね。
そんな事は良いとして、確かに、私みたいな子供が夜に出かけるのは感心できないだろうけど、もう父さんや母さんには許可を取ってあるんだ。
まぁ…色々と条件も出されちゃったけど…

「前々から計画してたでしょ?天体観測をするんだ。」

ガルムが納得したように頷く。軽く首を上下に動かしただけなんだけどね。
私は前々から天体観測をしたいと言っていたし、計画も立てていたのを知っているからだね。
既に私の頭の中も今日の夜の天体観測のことで一杯だ。
私は空がとても好きなんだ。広く広く綺麗な空。何時も包み込んでくれる青い空は私は大好き。
…っと、何時までも空を見てる訳にはいかないよね。はやく迎えにいかないと…
鞄をしっかりと持って、少し歩くスピードを速める私。
5分ほど歩くと目的の高町さんの家が見えてくる。何時ものようにドアの呼び鈴を鳴らして出てくるのを待つ。
すると、中からパタパタと足音が聞こえてきて、ドアを開けてくれる。

「あら?メビウス君。おはよう。」
「あはようございます。桃子さん。なのちゃんの事、迎えに着ました。」
「何時もありがとう。少し待っててね、呼んでくるから。なのは、メビウス君が来たわよ。」

出てきたのは桃子さん。とても若く見えるんだけど、なのちゃんのお母さんだ。
桃子さんがなのちゃんを呼びに言ってる間、私は何時ものように玄関の前で待っている。ガルムも大人しく私の隣で座っている。

「あ…少し寝癖が付いてる…」

少し慌ててたからなぁ…手櫛で治るかな…?
そんな事を考えながら、待っていると聞こえてくるなのちゃんの声なんだけど…なんだか慌ててる。

「め…メビウス君!!少し待っててね!」
「うん。待ってるから、慌てないでね。」
「ぜ…絶対だよ!絶対だよ!!」
「ほら、なのは。寝癖寝癖。」
「にゃ!?何処どこ!?」

桃子さんとなのちゃんの声が聞こえてくるんだけど…大丈夫かな?
そんな声を聞いて待つと制服を着たなのちゃんと桃子さんが奥から出てきた。

(なのちゃん…寝癖…治ってないよ。)

私はそう思いながら笑いそうになるのを我慢する。だって私だって寝癖がついてるしね。

「おはようメビウス君!」
「うん。おはようなのちゃん。あ…なのちゃん、少しいいかな?後ろ向いて。」
「にゃ?良いけど…?」

そう言うと私はなのちゃんの頭、正確にはリボンに手を伸ばす。少し曲がってるなぁ…一度解いたほうが良いかな?
なのちゃんのリボンを解いて、髪も手櫛で整えていく。

「め…メビウス君!?」
「あ、動いちゃダメ。ほら、ジッとしてて。」
「あうぅぅ…うん…」

髪を整えて…なのちゃんの髪の毛サラサラだなぁ、綺麗な栗色だし…桃子さん譲りなのかな?
リボンもしっかりと結んで…よし、出来た。うん、我ながら上出来だ。

「はい。もう良いよ。」
「あ…ありがとう…」

振り返ったなのちゃんの顔は真っ赤になってる。恥ずかしかったのかな…悪いことしちゃったかなぁ…?
桃子さんは桃子さんで笑顔だし…なんだろう?
するとガルムが私の足に長い尻尾を当ててくる。何か言いたい時のガルムの癖だ。

「どうしたの?ガルム。」
「…」

ガルムは無言で私の左腕に視線を注ぐ。正確には腕時計かな?
あ…何時の間にか時間がたってたんだ。少し急がないとダメかな?

「…あっ!なのちゃん、そろそろバス来る時間だよ。」
「にゃ!?それじゃ急がないと。それじゃ行ってきます!」
「はい、いってらっしゃい。メビウス君もね。」
「桃子さん、いってきます。ガルム行くよ。」

桃子さんに挨拶をしながら、なのちゃんと一緒に迎えのバスが来る所まで歩き始める。
途中で今日の授業、テレビ番組のこと、宿題の事なんかを話しながら二人で歩いていく。

「メビウス君。さっきはなにしてたの?」
「さっきって?」
「ほら…私の髪、触ってたから…」
「ん~。リボンが少し曲がってたんだよね。」
「え?そうだったの?」
「うん。けど、なのちゃんの髪の毛ってサラサラで綺麗だよねぇ。」
「あ…ありがとう。けどメビウス君の髪も綺麗だよ?」
「そうかな?」
「うん。なんて言うんだろう。宝石みたい?」
「宝石って…」

私は少し自分の髪を触ってみる。母さん譲りのストレートヘアーで少し蒼いんだ。確かに不思議な感じのする髪の毛。
けど、私はこの髪も大好き。理由は勿論、空と同じ色だからかな。
そんな事を話しながら私となのちゃんはバス停まで歩いていく。
既にバス停には私となのちゃんの共通の友達である、アリサちゃんとすずかちゃんが待っていた。
本当はもう1人居るはずなんだけど…何時もの如く寝坊かなぁ。

「おはよう。すずかちゃん、アリサちゃん。」
「おはよう、二人とも。」
「なのはちゃん。メビウス君。おはよう。」
「うん、おはよう。…何時もの如く…あいつは寝坊…?」

私は辺りを見渡しながら、先に来ていた二人に聞く。可能性は天文学的だろうけど…
すると、案の定、アリサちゃんが、呆れたようにしてるし、すずかちゃんも困ったように笑ってる。

「…まぁ…パターンだね。」
「分かってるなら聞かないでよ。…メビウス、あいつの親友なんでしょ?なんとかしなさいよ。」
「ん~。無理じゃないかなぁ…だって…あいつだよ…?」
「…確かに。」
「にゃははは…」

私とアリサちゃんが顔を見合わせて溜め息をつき、なのちゃんも苦笑いを浮かべている。
すずかちゃんはと言うと…

「おはよう。ガルム君。」
「……」

私の隣に座っているガルムを笑顔で撫でている。猫が好きだと言ってたけど…動物全般が好きなのかもね。
ガルムはガルムで気持ち良さそうにしたら良いのに…クールな表情のまま。
まぁ…すずかちゃんが嬉しそうだから良いかな…?
あ…よく見ると尻尾が少し揺れてる。素直じゃないんだから。
そうしていると送迎のバスがやってきた。何時ものように私達4人は一番後ろの座席に座る。ガルムとはここでお別れ。流石に学校までは一緒に行けないからね。
バスの扉が閉まり、走り出すと同時に曲がり角から走って追いかけてくる男子が居た。

「今日も今日で…走ってるわね。」
「にゃはは。懲りないよね。」
「大丈夫かな…?」
「えっと…タオルとドリンクは何処にしまったかな?」

後ろから走ってくる男子を見ている三人。私は鞄の中に入れてあるドリンクとタオルを取り出して準備をしている。
200m位走ってバスが一時停車し、扉を開ける。走ってきた男子は息を切らせながらも私達の居る座席へと歩いてき、そのまま座る。

「ぜーぜー…はーはー…今日も…走ったぜ…!!」
「お疲れ様、オメガ。はい、ドリンクとタオル。」
「サンキュー。メビウス…」

私が手渡したドリンクとタオルを受け取り、一気飲みをする男子。
名前はオメガ・ガウェイン。私の親友。
そして、オメガかバスに乗り遅れそうになるのは日常茶飯事。
だからこうして私が毎日、ドリンクとタオルを持参しているんだ。

「それで?今日はなんで遅れたの?」
「いやな…昨日の夜の【奇跡の大脱出24時】を最後まで見てたら寝坊してよ…」
「あんた…学習能力ないわね…」
「にゃにおう!漢のロマンを見ずして何を見ろってんだ!!」
「録画して後で見なさいよ!」
「勿論、録画して後でもう一回見るぜ!!」
「うわぁ…オメガ君…何回見る気なんだろう。」

毎度おなじみの口げんかをしてみせるアリサちゃんとオメガ。
私やなのちゃん達は何時もの様に苦笑いしながら、その光景を見ている。
オメガは何故か脱出系が大好きであり、そういうもののマニアでもある。
もしかすると父親のチャーリーさんの影響なのかもしれない。
チャーリーさんは警官で、私の父さんやなのちゃんのお父さんの士郎さんと良くお酒などを飲みに行っている。
詳しくは知らないけど、父さんとチャーリーさんは昔、一緒に働いてたそうで、その後で士郎さんとも仕事を一緒にしたみたい。
なんのお仕事かは私も知らないんだけどね。

「そう言えば、今日、転校生が来るんだよね?」
「あ~…そうだっけか?全然覚えてねぇや。」
「昨日のホームルームで先生が言ってたよ。」
「ちっちっち。なのは。発音が違うぜ?Homeroomだ。」
「わぁ。オメガ君って英語上手だよね。」
「はっはー!!照れるぜ!!なのはぁ!!」
「…さっきまでぜーぜー言ってたのに、元気だよねオメガ君。」
「まぁ…元気だけが取り柄のオメガだからね。」

そう言いながら私は鞄にタオルを仕舞う。
けど…転校生かぁ…閃もなにかしってるのかな?
そんな事を考えながら私達を乗せたバスは学校へと向かっていった。









メビウス・ランスロット
本作主人公。
一人称、私&美少年と言う王道厨二キャラ。
ナデポニコポ搭載。


オメガ・ガウェイン
親友ポジション。そしてネタキャラ。
一直線馬鹿。勉強が出来ない馬鹿ではない。
クラスに一人は居た&居て欲しい馬鹿。


あとがき。
男の子が女の子の髪を梳く場面って…萌えませんか?
そして一人称の難しさを感じた今日この頃…




[21516] 3話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:d222508a
Date: 2010/08/30 00:24
くくくく……ははは…
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!
僕は…僕は選ばれた…選ばれたんだ…!!!
僕の名前はシルヴァリオス・ゴッデンシュタイナー。ミッドにある超名門一族の跡取りだ。
そして…選ばれた存在!!
くくく…この世界は僕を望んだ!!だから僕は生まれ変わったんだ!!
鏡を見ると金髪碧眼の少年。そう…僕だ!!!まるで物語の主人公みたいじゃないか!!
いや!!僕こそが主人公なんだ!!そう!!このリリカルなのはの世界の!!
うるさい親も僕をゴミを見るような眼で見てたクラスの馬鹿共はこの世界には居ない!!
屋敷に居るのは僕の言いなりになる人間だけだ…!!そして僕を生んだ両親と言う、男と女は屋敷に殆ど居ない…。全て僕のものだ!!
そしてこの世界には僕が愛している高町なのはが居る!!最高じゃないか!!はははははははは!!!!!!!!きっとなのはは僕を待っているんだ。きっと僕を見た瞬間に僕の物になるんだ…!!
フェイトなんて人造の化け物や、はやてなんて犯罪者からも僕が護るんだ…!!
それが僕には出来る…僕は原作を知っている!!そして何より僕の魔力はAランクだ!!全ては僕に高町なのはを手に入れろと言う事に違いない!!
この年でAなら間違いなくS以上には成長するだろう!!フェイトとか言う化け物は人造だからAAAだそうだが…僕の前にひれ伏すさ。


「これから、第97管理外世界の日本に行くぞ。」
「は?なにをなさりに?」
「海鳴市の私立聖祥大学付属小学校に転入する。準備しろ。」
「し…しかし、坊ちゃま。こちらの学校は…」
「やめる。つべこべ言わず準備しろ!!クビにされたいのか?」
「は…はい!!ただいま!!」

ちっ…使えない使用人だ。僕のなのはが事件に巻き込まれるだろうが…
私立聖祥大学付属小学校に転入して…直ぐになのはは僕に惚れるだろうな。さぁ…待っててね。直ぐに僕の物にしてあげる…
…さぁ!!始めようか!!僕となのはの為の物語を!!!くくくくく…はははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!






「おはよう。閃。」
「お~す。閃。」
「あぁ、おはよう。メビウス、オメガ。」

先に自家用車で着ていた閃は自分の席で本を読んでいた。
閃とは3年生になって初めて話したんだけど、直ぐに仲良くなった。
ちなみに席替えでなのちゃん達とオメガ、閃と近くの席にしたんだ。
もちろん、空の見える窓際だけどね。
閃は私にとってオメガと同じくらい大切な友人。いや、親友だ。
なのちゃん達も自分の席でお話をしている。

「なぁなぁ。閃、お前も奇跡の大脱出24時は見たよな?」
「見てねぇっての。お前…本当に好きだな。」
「なんだよ~。閃も見てないのかよ~。」
「お前と違って脱出マニアじゃないんだよ。メビウスは?」
「私?私は…夜空を見てたかなぁ。」
「お前は空マニアかよ。」

そう言いながら閃は飽きれたように読んでいた本を閉じる。
空マニアって…ひどいなぁ。空は一瞬たりとも同じ表情見せないのに…

「脱出マニアに空マニアか。」
「んで、閃は本マニアか?」
「なんでそうなんだよ?」
「いや、授業中だって本見てるしよ。」
「当たり前だろ!!教科書見るだろ!?それで本マニアにされたらたまんねぇよ!!
全校生徒が本マニアになんだろ!!」
「ちっちっち!!俺は教科書なんて見ないぜ!!The textbook is not seenだぜ!!」
「見ろよ!!勉強しろよ!!」
「オメガ…自慢する事じゃないよ。」
「お前はなんの為に学校に来てんだよ…」
「もちろん!!purpose is to play soccerだ!!」
「とりあえず…お前は根本的な所から俺達とは違うようだな。」
「まぁ…オメガが勉強してたら…変だよね。」

自信満々に答えるオメガに呆れる閃と私。
まあ、オメガはサッカーが大好きで、士郎さんがオーナーをしているサッカーチーム翠屋JFCに所属しているしね。
ちなみに番号は11番。なんでもオメガか一番好きな番号で、チャーリーさんも現役当時は11番だったそうだ。
なんの現役から教えてくれなかったけど…ちなみに私も頻繁に誘われるけど…私はどっちかと言うとバスケット派だからなぁ。

「そういえば、閃。今日、転校生来るらしいんだけどよ。なんか知らないか?」
「あ~…海外から来るそうだな。…なんで俺に聞くんだ?」
「鳴海の情報は全て閃が操作してるって言う噂が。」
「んな根も葉もない噂流したの誰だよ!?小学3年にできることかよ!?」
「根も葉もない噂を流したのは俺だ。」
「オメガぁあぁぁぁぁ!!!!!!」

何時もの様にオメガが馬鹿な事を言って閃を怒らせる。ちなみにオメガには自覚がないから余計に質が悪い。
私は取っ組み合いを始めるオメガと閃を見ながら自分の席に荷物を置く。
止めないのかって?二人の顔を見れば止めなくても大丈夫。だって笑っているからね。
日課になっててお互いに楽しんでいるんだよ。
さて、教科書を仕舞わないとね。
鞄から教科書を取り出しているとなのちゃんが私に声をかけてきた。

「あ…ねぇねぇ、メビウス君。」
「ん?どうしたのなのちゃん?」
「えっとさ。まだ朝だけど…お昼一緒に食べようね。」
「うん。良いよ。けど…もうおなか減ったの?」
「ち、違うもん!!」
「ふふ。冗談だよ。一緒にご飯食べようね。」
「うん!絶対だよ!!」

そう言いながらなのちゃんは自分の席に戻っていった。けどお昼かぁ。気が早いと思うんだと…
あ、なんだか私も楽しみになってきた。おっと…チャイムが鳴ってるし…とりあえず、まだ取っ組み合いしてる二人を席に着かせないと。



・閃・

「と言う訳で、ご両親のお仕事の都合で新しくクラスの一員になるシルヴァリアス・ゴッデンシュタイナー君です。みんな、仲良くね。」
「シルヴァリアス・ゴッデンシュタイナーです。よろしくお願いします。」

そう言いながら頭を下げる転校生、シルヴァリアス・ゴッデンシュタイナー。…舌噛みそう…
しかし…ゴッデンシュタイナー…ねぇ。俺の知る限りじゃ…原作に一瞬たりとも出てきてないな…
となると…こいつもオリジナルって事か?いや…けど、メビウス達みたいにACE COMBAT系統のキャラでもないだろ…?
VR世界の人間か…?
いや…待てよ。ゴッデンシュタイナー…ゴッデンシュタイナー…。思い出したぞ。名門ゴッデンシュタイナー一族か…。
ミッドの情報ももちろん、俺の耳にも入ってくる。それに両親もこちらに一緒に暮らしているからミッドの新聞も取り寄せている。
そしてゴッデンシュタイナーと言えばミッドの名門にして管理局と密接な繋がりを持つ一族のはずだ。

(つまり、あいつはそこの御曹司と言うわけか…なのになんで鳴海に?)

そう思いながら俺はシルヴァリアスの顔を見る。整った顔で金髪碧眼。まぁ…モテる要素満載だな。普通の学校ならな。
残念なことにこの学校にはメビウス・ランスロットと言う厨二満載の美少年がいるからなぁ…あいつでも無理だろうな。

(…っ…おいおい、なんか…寒気が…)

シルヴァリアスと一瞬だけ眼があったが背中に寒気が走った。転生者の勘は知らないが…あいつはやばい。
確実に…悪い方向に持っていく。なぜだか知らないが、そんな予感が俺の中に生まれた。それに…ほんの一瞬…ほんの一瞬だ…
なのはを見た奴の顔が…哂いやがった…。

「それじゃ…シルヴァリアスはあそこに座ってね。」
「はい。」

そう言って先生が指差したのはなのはと正反対の席。つまり俺とも離れている所だ。
…原作には無いゴッデンシュタイナー一族、そこの御曹司にして不可解なな転校…そしてなのはを見た嫌らしい哂い…
俺の中で仮説が立てられていった。

(奴も…転生者…?)

そう思いながら俺はシルヴァリアスを見るのだった。


・メビウス・

「メビウス君!一緒にごはん食べよ!!」
「はは、慌てないで。けど、私は当番だから黒板の掃除してるから、先に行ってて。」


午前の授業も終わり、お昼時間になって直ぐになのちゃんが私の席に走ってくる。
近くなんだから走らなくても良いのになぁ。
そう思いながら私も鞄からお弁当箱を取り出して、机の上に置く。

「だいじょうぶ、待ってるよ。」
「そう?ごめんね」
「うぅん…その…一緒に行きたいもん…」
「え?なにか言った?」
「な…なんでもないよ?本当だよ?」
「?」

私は当番だから黒板に書いてある文章を消すから後で向かうんだけど…なのちゃんは待っててくれてるみたい
オメガ達やアリサちゃん達は何時もご飯を食べている屋上に向かっていった。
ふっとなのちゃんの席に視線を向けるとシルヴァリアス君が近づいていく。


「ねぇ。高町さん。」
「は…はい?なに?シル…ヴァリアス君?あれ?なんで私の名前…」
「はは、名札を見たんだよ。あと名前は言いにくいなら、シルバーって呼んで。
僕もそう呼ばれたいから。それで一緒にお昼はどうかな?」
「え?お昼ご飯?」
「うん。一緒に食べようよ。」
「あ…えっと…」

なのちゃんが私が困ったように私の方を見る。
優しいからなぁ…断れないのかな。なのちゃんは優しくてとても明るい。だからか、時々無理をする事がある。
私が止めないと大変なときもあるからなぁ。
よし黒板も掃除したし…私は、なのちゃん達の方に歩いていく。

「なのちゃん。」
「あ…メビウス君。」
「…君は?」
「私の名前はメビウス・ランスロット。よろしく。」
「ふ~ん。で?高町さんになにか用事?」
「前から、なのちゃんとご飯を食べる約束をしてたから、呼びに来たんだ。」
「…高町さんそうなの?」

一瞬、シルヴァリアス君の眼が鋭きなった気がするけど……
問いかけられたなのちゃんは何故か私の後ろに回ってコクコクと頷いている。
ちょっと可愛いかも…って、なんでこんな怯えてるんだろう?

「シルヴァリアス君も一緒にどう?」
「…もういいよ。。それじゃ。」

短くそう言うとシルヴァリアス君は自分の席に戻っていった。折角、仲良くなれるチャンスだと思ったのになぁ。
けど、直ぐに他のクラスメイト達がお昼に誘って一緒に食べるみたいだけど…何故か私を睨んでるような感じがする。
なにか怒らせるようなことしたかな…。

「メビウス君…」
「っと?どうしたのなのちゃん?」

シルヴァリアス君が居なくなって、すぐになのちゃんが私の背中にギュッとしがみ付く。
小さい頃から一緒に居て、恐いことがあったり、甘えたりする時にこうするんだけど…どうしたんだろう?
戸惑いながらも私はなのちゃんが落ち着くまで、そのままでいた。

「うぅん…なんでもないよ。」
「そう?それじゃ、屋上に行こう。」
「あ…うん!!」

そうして私はなのちゃんと手を繋いで、一緒に屋上に向かった。

(メビウス君の手、柔らかくてあったかいなぁ…うれしい…)
(……メビウス…ランスロット…僕の邪魔をするのか…!!!!!)




屋上に着くと先に来ていたオメガ達がお弁当を広げて待っていた。
何時もの場所に何時ものメンバー。周りを見ると他の学年の生徒達もちらほらと見える。
私となのちゃんも並んで座り、お弁当の蓋を開ける。

「あ~…腹減った!!遅いぜ、メビウス~。」
「ごめんごめん。さあ、食べよう。」
「オメガ君、毎回毎回、朝に走ってればお腹も減るよ。」
「これでも丼3杯は食べてんだけどなぁ。」
「あんた…そんなに食べて、よくあんなに走れるわね…」
「いや、5杯はいけんだけどな。すずかもどうだ?」
「そ…そんなに食べたら太っちゃうよ…」
「その栄養を頭に回せ。」

すずかちゃんが驚いたようにして眼を丸くしてる。閃は閃で呆れたようにしてる。
まぁ…確かにオメガは沢山食べるからなぁ…。けど、オメガってこんなのだけど頭は悪くないんだよね。
そんな事を考えながら私はなのちゃんに視線を移す。
さっき、何かの怯えてたみたいだけど…今は大丈夫みたいで安心する。

「そう言えば…今日の授業でさ、将来の夢ってあったよね。」
「あぁ。あったなぁ…アリサ達は親の跡を継ぐのか?」
「そうなるわね。だからきちんと勉強しないと。」
「うん。私もかな。けど、やりたい事があったらそれをやっても良いっては言われてるよ。閃君は?」
「俺?…あ~…俺もアリサ達と似たようなものかなぁ。メビウス達はどうなんだよ?」
「もちろん!!俺は警官だぜ!!」
「チャーリーさんと同じか。まぁ…体力馬鹿のお前には向いてるな。」
「なのははどうするの?翠屋を継ぐの?」
「え?私?う…う~ん。そうなるのかな?けど、お菓子作りとか好きだし…。あっ、メビウス君は?メビウス君はどんなお仕事するの?」
「私は…空関係の仕事が良いな。」
「空?」
「うん。」

そう言いながら私は青空を見上げる。
何故か分からないけど…空が私を呼んでいる気がするから。だから私は空が好きなのかもしれない。

「まぁ…メビウスは空マニアだからな。」
「けど…メビウス君には似合ってる気がするよ?」
「ありがとう。けど、なのちゃんが翠屋を継ぐのかぁ。」
「え…変…かな?」
「いやいや、前のなのちゃんの作ったクッキーがおいしかったからね。」
「ほ…本当!?」
「うん。また食べたねぇ。きっとなのちゃんは素敵なパティシエになれるよ。」
「そ…それならまた作るね!!また…食べてね?」
「おいおい…メビウス、独り占めはよくないぜ?」
「なのはちゃんのクッキー。私も食べてみたいかも…」
「うん!!オメガ君やすずかちゃんも…皆の分、がんばって作る!!」

なのちゃんが張り切ったようにして言うのを私は笑いながら見つめる。
うん、やっぱりなのちゃんは笑顔が一番。誰よりも一生懸命な彼女にはとても似合う。



放課後

「よっしゃぁぁ!!今日の授業も終わった!!I will play soccer in all members!!!」
「オメガ!!今日こそは負けねぇぞ!!」
「掃除当番は掃除してから来いよ!!校庭にLet's go!!」

そう言うとオメガを筆頭に男子生徒達は校庭へと走っていく。
掃除当番はしっかりと残っている辺り、オメガの指導力の賜物なのかもね。
いい意味で底抜けの馬鹿のオメガはクラスでも人気があるからなぁ。
なのちゃん達は今日は塾があるみたいで先に帰ったみたいだし…私も今日は早く帰ろうかな。
夜になる前に天体観測の準備をして、海鳴臨海公園に向かうから急がないと。

「ん?メビウス、もう帰るのか?」
「今日は用事があるから…閃は?」
「俺は向かえ待ちだな。あと5分くらいで来るから、乗っけていこうか?」
「良いの?それじゃ、お願いするよ。」
「あいよ。っと…噂をすれば来た様だな。行こう。」

閃の家の車に乗せてもらうのは久々のような気がする。
何時もはなのちゃんやオメガと歩いて帰るんだけど、今日は一人だからなぁ。
車と言ってもアリサちゃんのようなリムジンではなくて、普通の乗用車。
閃は中心街のマンションに住んでいる。特別、通り道と言うわけでもないけど、遠回りでもないからこうして乗せてもらう事ができるんだろうね。
車内では今日の授業の内容や、シルヴァリアス君の事を話したけど、なんでか閃はいい顔をしない。
まぁ…私も少しだけとシルヴァリアス君に良い印象は持っていない。なんだか…いやな感じがするんだけど…勝手に決め付けるのはよくないかな。
そんな感じの事を話したり考えていると私の家の前に着く。

「それじゃ、また明日な。」
「うん。ありがとう。また明日。」

閃と挨拶を交わして、家の中に入る。この時間帯は両親はお店の方に行っていて家には居ない。
玄関の鍵を開けて中に入ると何時ものようにガルムが出迎えてくれた。

「ただいま。ガルム。」
「おかえりなさいませ。メビウス様」

ガルムから男の人の声が聞こえてくる。けど、私は驚きはしない。
だってガルムは私と契約を交わした使い魔なんだからね。
私は制服のボタンを外しながら自分の部屋に向かう。ガルムも後を追いかけてくる。

「さて。準備していかないと…」
「既に我が準備をしておきました。何時でも出発できます。」
「ありがとう、ガルム。助かったよ。それじゃ…軽く何かたべて行こうかな。」
「キッチンにコーンフレークを準備してあります。そちらを召し上がってください。」
「…本当に気が効くね。」
「メビウス様の為ですので。」

そう言うとガルムは誇らしげそうに顔を上げる。
本当にガルムは私に良くしてくれる。こうして色々と準備がしてくれるんだけど…なんだか申し訳ない気持ちになるなぁ。
そう思いながら着替えてキッチンに向かうとガラスの器に入ったコーンフレークを見つける。
食べている間はガルムは寝そべって待っているたけど、食べ終わる頃にはキッチンから出て行って何かをしていた。

「ガルム~?そろそろ行くよ。」
「はい。重い荷物は我が持ちますので…メビウス様はそちらの携帯ラジオ等を。」

玄関に行けばガルムが変身していた。黒いジャケットに黒いジーパン。そして紅い髪の細身の成人男性。
これがガルムの人間形態なんだよね。これなら小学生である私が夜に出歩いても、ガルムが一緒なら保護者として多少は大目に見られるからね。
ガルムが望遠鏡や毛布を、私はラジオや小さいシートを詰めたリュックを背負う。まだ春とは言え、夜は冷えるからね、毛布は絶対に必要なんだ。

「車で向かいますか?」
「ううん。時間もあるし歩いていこう。10時前には終わりにするからね。」
「仰せのままに…」

こうして、私とガルムは歩いて海鳴臨海公園に向かう。
結構、ガルムは重い荷物を持っているんだけど、息切れをしない。流石に体力あるなぁ。
私もばてないようにしないと…


海鳴臨海公園

「さて…付いたね。」
「はい。多少は時間がかかりましたが…現在6時30分頃ですね。」
「うん。空も暗くなり始めてきたし…セットしようか。」
「はい。場所は何処にいたしますか?」
「やっぱり展望台辺りだね。」
「了解しました。我が準備しておきますのでメビウス様はお身体をおやすめください。」
「別にそこまでしなくてもいいからさ。私も準備するよ。」

私は小さく苦笑しながら展望台に向かう。流石にガルムにそこまでさせたらまずいからね。
ガルムは少し慌てながら私の後を着いてくる。展望台は…あっちだね。
展望台に行こうとして顔を上げると…大きな爪があった。…なんで?

「…え゛?」
「メビウス様!!??」

爪が地面に振り下ろされて…衝撃で私は吹き飛んだ。
けど、地面に激突するかと言うところでガルムが受け止めてくれて怪我はなかったんだけど…

「な…なんだ…こいつは…」
「…犬…?」
「グルルルル…」

そこには体長5mはある黒い犬が居た。けど…明らかに普通じゃない。
大きな爪に長い二本の尻尾、そして…眼が狂気そのものの色をしている…!!
眼をぎらつかせながら、口から涎を垂らしている。しかも、その涎が垂れた瞬間に地面を溶かす…!?
それに…額の部分に変な…宝石が見える。

「…魔道生命体…?」
「額の宝石から魔力要素を感じます。恐らくアレが原因かと。」
「ガァァァァァ!!!!」

大きく咆哮を上げる黒犬。くぅ…結構…頭に響くなぁ…けど、不味いな。この声を聞いて誰か来たら…
しょうがない…悪く思わないでね…私も食べられたくないからね!!

「ガルム!!攻撃を仕掛けるよ!!狙いは額の宝石!!尻尾には気をつけて!!多分だけど鞭みたいに使ってくるよ!!」
「御意!!」
「さて…久々に…やろうか…!!」

そう呟きながら私はペンダントを握り、自分の力を呼び起こす。

【我が纏うは蒼。纏うは誇り。汝は約束されし勝利の剣なり。我の手に来たれ!!エクスキャリバー!!】

蒼い光が私を包み…私の服が変化していく。
蒼いマントとコート、そして胸には銀色の胸当て。そして特徴は左右の肩から後ろに伸びる蒼いリボン。
そして私の眼の部分を完全に覆う蒼いバイザー。
そこに示されるのは私の名前と私のデバイスの名前。
Master。 Mebius Lancelot
Device。 Multi Pul Beam launcher。Suraipuna Excalibur

エクスキャリバー。聖剣の名を冠したデバイス。これが私の…剣だ!!






シルヴァリアス・ゴッデンシュタイナー。
転生者その2
生前は自己中オタク。現在は金髪碧眼の少年。なのは以外眼中無し。
コンセプト、読者様&作者からこいつうぜぇぇぇぇ!!!等のバッシングを受けるキャラ。


あとがき
英語に関しては翻訳サイトを使用しておりますので…変なのがあったらすいません。
オメガは某ゲームの独眼竜様的テンションです。すません。
そしてコメントありがとうございます。
ちなみに苗字が円卓騎士なのは…B7R繋がりということです。
メビウス君はバリアジャケットのイメージは…白騎士物語に出てくるマスターロリカ系の装備を想像していただければ幸いです。
調べれば画像は出てくると思います…。

そして…題名募集中(爆!!

以下、返信
薺様

閃君は巻き込まれたくないけど手遅れな感じです。
搭乗機は…マルチロールタイプのホーネット系統ですね。器用貧げふんげふん。柔軟に対応できる人間を目指しております。

ご都合主義者様

え?私も5の最後は5機に見えるんですが?(笑
サイファーはあらあらうふふが似合うお母様ですが…忘れてはいけません。彼女は…鬼神ですよ(にやり。
他のキャラも出す予定ですので…期待に添えれるように頑張ります。

ダンケ様

スライプナーはメビウス君のデバイスになりました。ご期待に背き申し訳ないです。
ちなみに閃君のデバイスは次回に判明します。個人的にはVR系はデバイスにしてみようかと計画中。

34様

ネモやグリフィスは微妙ですが…ブレイズは絶対に出したいキャラですからねぇ。
そこはご都合主義でお願いします。



[21516] 4話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:d222508a
Date: 2010/10/06 20:38
『バリアジャケット展開終了。戦闘モード移行完了しました。マスター。』
「エクス。ブリッツセイバー展開。接近戦でいくよ!!」
『了解しました。ブリッツセイバーを展開します。ランチャーからセイバーに移行。』

デバイスから聞こえてくる女の人の声。
Suraipuna Excalibur。これが私のデバイス。フレッシュリフォーで開発されたインテンリジェントデバイスで中距離と近距離の両方で使えるんだ。
ちなみに愛称はエクス。AI設定では女性として登録してある。私のサポートもこなしてくれる頼りになるパートナーさ。

『目標のデータ解析が完了しました。どうやら額の宝石、恐らくはロストロギアにより変異した物と考えられます。
額のロストロギアを除去すれば元の生物に戻ると思います。』
「やっぱり…ガルム!!」
「はっ…!」

エクスの銃身部に細くなり蒼い刃が構成される。近距離戦のブリッツセイバーだ。
そしてバイザーに示された黒犬の情報に目を通す。エクスの解析したとおり、額から強い魔力反応を確認できる。
まずは体勢を崩さないと…

『目標の尻尾は危険と判断します。自動防御を使っては如何でしょうか?』
「当たる気はしないけど…用心に越したことはないね。タリズマン!!」

バイザーに示された魔法を使うと、私の周りに二つの蒼い魔法球が出現し、旋回し始める。。
自動防御魔法、タリズマン。攻撃を感知すると自動でガードしてくれる。広域殲滅系統の魔法には大して意味は無いし、連続して攻撃を受ければ消えてしまうけどね。
それにこれを貫通するほどの魔法にも耐えれない。まぁ…そんなのをポンポンと撃ってくるのはそうそう居ないだろうけど…
それでもこの黒犬から防御するには充分だろう。

「攻撃して体勢を崩すよ!!」
「御意!!」

ガルムが走り出すと同時に私は地面から数cmだけ浮き上がり、滑るようにして移動する。
黒犬が振り下ろした左足をガルムが掌底で打上げて、喉元に跳び蹴りを叩き込む。そして空中で黒犬の額に回り蹴りを決めようとするけど、宝石が障壁を展開してそれを防ぐ。
そのままガルムは弾かれる様にして離脱をする。喉元に蹴りを叩き込まれたのか動きが止まる。
私はそれを見逃さず、左手に新たに展開していた蒼い光球を投げつける。ボムと名付けた一種の砲撃魔法だ。
もっともこれは撃ち出すのではなく、投げつける独特のタイプなんだけどね。
これは相手の動きを阻害できるし、攻撃も無効化する能力がある便利な魔法。それに発光するフラッシュタイプなんてのもある。
ボムが命中し、相手の動きか一瞬止まる。そしてすれ違いざまにセイバーで横に一閃。そして黒犬の背後で急制動【キャンセル】をかけて尻尾を二本とも切り落とす。
スピードを完全に抑えて、方向転換や姿勢制御を可能にする【キャンセル】のお陰で直ぐに振り返ることが出来る。
ちなみに両肩のリボンが一種のスタビライザーの役割を果たしてくれているんだ。
そしてそのまま直ぐにエクスを横に一閃にすると一文字の斬撃が撃ち出される。
私の持つ魔法の中で最も攻撃速度に優れたソードウェーブだ。エクスから放出される余剰魔力を使っているために詠唱は必要がない。
ちなみにこれはある程度、制御できる。ソードウェーブを黒犬の足に飛ばし、それを爆発させて体勢を崩す。
衝撃で尻尾の傷口から吹き出るようにして黒い液体が来るけどタリズマンが防御してくれる。
その液体が近くのベンチに付着し、溶かしていく。涎以外も溶解液って事か…!!

「ガルム!!」
「はぁぁぁ!!!!」

私がセイバーで攻撃している間にガルムは離れて助走をつけて高く跳躍し、黒犬の背中に踵落しをお見舞いする。
地面に這い蹲るようにして倒れる黒犬に更にボムを投げつけて動きを止めて前に回りこむ。

「ソードウェーブ…」
『フリーケンシー。』

さっき使ったソードウェーブの強化版ソードウェーブ・フリーケンシー。十字の斬撃が黒犬の額の宝石にと命中する。
ソードウェーブの様に一瞬で出せる魔法ではないけど、威力は倍以上違うし速度もソードウェーブ並だからとても使いやすい。
命中すると断末魔を上げるようにして黒犬はのた打ち回る。可哀想だけど…我慢して欲しい・・・
数秒間すると少しずつ動きが弱くなっていく。良く見ると宝石の発する光も弱くなり、最後には犬の額から外れる。
すると犬の身体が徐々に小さくなり、普通のサイズにと戻っていく。
怪我は…何処もしていない。宝石の力で仮初の身体を与えられていたと言うこと…?

「ガルムはその犬を介抱しておいて。エクス、データ解析を」
『「了解しました」』

宝石を拾い上げ、エクスで解析と封印を始める。
さて…この宝石はロストロギアとすると…これを探している人が居るのかな…
そこまで考えるとバイザーに新しい情報が書き込まれていく。
近くに魔法反応…魔道師が居る…?
直ぐに反応があった方向の空に視線を向けると…一人の女の子が浮かんでいた。
綺麗な金髪に…神秘的な真紅の瞳。黒いバリアジャケットを纏っている私と同い年くらいの女の子。
小柄な身体に不釣合いな巨大な斧のようなデバイスを持っていてる。
私が見ていることに気が付いたのか、デバイスをこちらに向ける。って…攻撃する気!!??

「ま…待って!!こっちはなにもしないから!!」
(メビウス様。彼女も殲滅しますか?)
(とりあえず待機してて!!下手に行動おこなさいでよ!!)

ガルムから物騒な念話が届いてるけどきっちりと押さえつける
流石にわけも分からず攻撃されたら洒落にならない…!
私は必死に大きな声を出して敵対する気は無いとアピールする。
それが届いたのか女の子は警戒しながらゆっくりとこちらに降りてくる。近くで見れば見るほど綺麗な顔立ちをしている。

「えっと…こんばんわ?」
「……」
「あ…あはは…私になにか…?」
「それを渡して。」
「…これを?」

女の子が指差したのはさっきまで黒犬の額に付いていたロストロギアだ。
もしかして…これを回収しに来たの…かな?
…どうしようか…別に渡しても…。そう考えながらばれない様にエクスに念話を飛ばす。

(データ解析は終わった?)
(充分とは言えませんが…必要最低限のデータは取りました。データベース照会する程度は可能です。)

なら…渡しても良いかな。ここでまた戦う気にもなれないし。
そう思いながら私は手に持っていた宝石状のロストロギアを差し出す。

「良いよ。はい。気をつけてね。」
「…!?そんな…簡単に…良いの?」

こんなにあっさりと渡されるとは思っていなかったのか、女の子は驚いている。
もしかして…私と戦う気だったのかな?それだと流石に洒落にならないしね。連戦はこなせるけど…この女の子自体かなり強いと感じる
それに…なんとなくだけど…困っている感じがするしね。

「うん。君はこれを探してたんでしょう?だったら良いよ。それに…ね。」
「?」
「なんだか…困ってるみたいだしね。」
「え…?」
「ん〜…瞳の奥で何かが揺れてる感じがするからねぇ。きっと必要なんでしょ?だから、持っていって。」
「…あ…。ありが…とう。」
「いえいえ。どういたしまして。」

なんだから分からないけど御礼を言われる私。
女の子も少しだけと可笑しかったのか笑顔になる。今度は綺麗と言うより可愛いなぁ。
って…そう言えば…名前を聞いてなかったなぁ。会ったばかりだけど…

「私はメビウス。メビウス・ランスロット。君は?」
「…フェイト…テスタロッサ。」
「そっかぁ。フェイトちゃんかぁ。素敵な名前だね。」
「あ…う…」

褒められたのが恥かしいのか顔を紅くして戸惑うフェイトちゃん。
最初は無表情だったけど…うん。やっぱり普通の女の子だね。
そうほのぼのと考えていると…海鳴市のマップが表示され、イザーに新しく魔力反応を二つキャッチしたと表示される。
一体何処から……あれ…反応の一つに該当データあり…?

「該当データは…っ…なの…ちゃん!?」

そんな…どうして…なのちゃんが魔法に目覚めるなんて…普通に暮らしてればありえない…ありえない…!!!

「どうしたの…?」
「ごめん!!フェイトちゃん!!友達が巻き込まれてるかも!!またね!!」
(ガルムは待機!!絶対に動かないで!!)

フェイトちゃんに謝ってから、直ぐに飛行魔法を使って空に飛び上がる。
そして反応があった方向に視線を向ける。バイザーに表示されるのは高魔力反応とさっきと同じ反応。
やっぱり…さっきと同じロストロギアが…
簡易マップじゃ大まかな場所しか分からない…!!

「サテライト起動!!探し出して!」
『サテライト起動します。』

広域探索魔法、サテライト。蒼い魔力で作られたサーチャーが空高く飛び上がる。
エクスにマップを登録しておけば上空から自動的に目標を索敵してくれる探索魔法。その詳細マップと情報がバイザーに表示される。
拡大すると白いバリアジャケットを着たなのちゃんが黒い靄みたいなのと戦っている。
場所は…臨海公園の近く…約2キロ!!細かい座標が示される。
さっき戦った黒犬ほどじゃないけど…それでも初心者のなのちゃんはてこずっているみたい。
直ぐに私はエクスに新しい魔法を準備させる。

「セイバーからザッパーに変更!!」
『ザッパーモードに移行します。』
「ラディカル・ザッパーを使う!!装填!!」
『魔力充填開始します。』

横になった銃身部が2つに分かれ、巨大に変形し砲門形態なる。そして中央のエクス本体に魔力が収束する。
私の持つ直射魔法で最高の威力を誇るラジカル・ザッパー。少し発射に時間が掛かるけど、命中率もエクスの補助のお陰で高い必殺の魔法。
サテライトと併用すると遠距離狙撃も可能な魔法なんだ。

『充填完了。マスター行けます。』
「貫け!!ラジカル・ザッパー!!」

砲門から放たれる蒼い魔力の弾丸が遠くのロストロギア目掛けて飛んでいく。
それを見ながら直ぐにエクスを変形させる。
本体後部から二つのブースターノズルが展開し、サーフィンボード状に変形する。本来は別な使い方なんだけど今は必要ない。
高速移動を可能にする巡航モード。普通の飛行魔法より速度が速いかわりに消費する魔力の量が多いけど、今はそんなことに構っている暇はない。
2k位なら直ぐに行ける距離だ。

『ラジカル・ザッパー、着弾を確認しました。敵ロストロギアの反応が弱体化。まわりの思念体らしき物も消失。
恐らくは散ったと思われます。』
「直ぐに向かうよ!!ブースター起動!!」
『了解しました。ブースター起動します』



・閃・

「…派手にやってんなぁ。」

俺はそう呟きながら空中に映し出されている画像を見る。
ちなみに俺は自宅マンションのベランダに居る。
今日はなのはが魔法に目覚める日で、とりあえず見てみるかと軽い気持ちで索敵をしていたら、何故かメビウスまで見つける始末。
そういえば、あいつ天体観測に行くっていってたなぁ。運悪くジュエルシードでも見つけたか?
メビウスがジャケットを展開して、黒犬と戦闘を開始する。

「お…やっぱり主人公らしくスライプナーか。まぁ…妥当なところだな。」
『フレッシュリフォーで開発された最初期のデバイスですね。不安定な出力ですが、使いこなせれば心強いですね。
それに、形状的にカスタマイズが施されていますかと。』
「へぇ…あれって超高級限定モデルだろ?しかも高ランク魔道師用に開発されたんだろ?」
『はい。他にも同系統のデバイスが開発されましたが、全て個人に渡っています。』

なるほどね。しかし、魔法と言うか…技がゲームと似たような感じか。っと…ダッシュして、急制動しかけたか。…あれか?テムジンのジャンプキャンセルか?
見る限り汎用性が高いか。近距離ではブリッツセイバーがあるし、中距離ならボムにニュートラルランチャー。
それに使ってるのがメビウスだしなぁ…速度は神で耐久は紙ってか。配信機体と同じかもな。
俺は腕に取り付けられているデバイス。【ナイトレーベン】を操作する。杖とかそういうタイプじゃなくてガントレットタイプだ。
そこ、挟まっちまったぜとか言うんじゃねぇよ。AIは女性タイプだよ。ちなみに…かなり性格が変だ。
着ているのは黒のバリアジャケットだ。…いいだろ。好きなんだよ。被るけど…
ナイトレーベンはどちらかと言うと支援タイプに変更している。
流石にB-の俺が主戦力になるわけもないので、索敵妨害と魔法妨害のジャミングとか、超広範囲索敵の魔法をメインにしている。
一応は攻撃魔法も登録してあるが…何故か俺の魔力じゃ一発が限界の特大魔法だ。なんでだよ…

「なぁ…レーベン…やっぱり普通の魔法にしないか?」
『閃の魔力じゃ手数が足りなくなります。接近戦の魔力刃を展開するのだって結構苦労するんですよ?
魔力要素が低いのに燃費も悪いなんて…はぁ…』
「ため息つくなっての…!!」
『なので一撃必殺を行ってください。体力も速度も持久力もない短距離ランナーなんですから。』
「それ…最悪だろ…。」

そう…俺はランクも低いのに何故だか知らんが燃費も悪い。皆が1の魔力を使うのに対して俺は5の魔力を使う。
だから消費量の少ないはずの索敵魔法だけでも結構、負担になるんだよな。これってレアスキルか…?
転生者って…チートが普通だと思っていると痛い目見るぜ。本当に…。
ちなみに一度、訓練で特大魔法を使ったんだが…1日動けなかった。

「っと…なのはの方も始めたか。…ん?臨海公園の近くかよ。なんでだ?」
『臨海公園にも新たなる反応がありますね。…ウホッ!!いい女の子。』
「…レーベン…お前…」

若干、レーベンに引きながら新しくウィンドウを展開してなのはとメビウスを見る。
っと…メビウスの方にはフェイトが居たのか…って…あ~あ…ジュエルシード渡しちまったよ。
まぁ…なんの為に集めてるのか知らないだろうし…あいつが困ってる人を見捨てれる訳ないしなぁ。
なんて喋ってるのかは聞こえない。ただ画像が展開してるだけなんだけど…お。出たよニコポ。流石は我が友人にして厨二搭載。

『恥らう乙女…萌え…!!』

……なんかレーベンが悶えてるが俺は何も知らない…何も知らない…何も知らないからな…!!!
お…なのはが戦闘してるのに気が付いたのかメビウスが空に飛び上がる。
…おぉ…デバイスの形状が変化して…ってやば…!!索敵魔法使ってやがる!

「マナ・ステルス!!魔力消せ!!」
『消すほどの魔力もありませんよ?』
「んな事は百も承知だよ!!保険だ保険!!」
『仕方がない…起動。』

マナ・ステルス。そのまま魔力を隠すと言う魔法だ。魔力反応を探す索敵ならこれを使えば場所がばれる事はない。
俺程度の魔力じゃ他の魔法が使えなくなるが、なのはとかならこれを使ってる間も攻撃魔法が使えるだろう。
まぁ…あいつがそこまで器用かどうかは知らんが…
索敵撹乱のジャミングの方が燃費がいいが今回は使わない。当然だろう?一箇所だけ空白の部分があったら気になるじゃないか?
ステルスは魔力反応自体を隠すから、ばれはしない…筈。
そうこうしていると蒼い奔流が移る。

「おおぅ…あれってラジカルザッパーか?」
『閃の数倍はある魔力ですね。うらやましい限りです。私もあんな主に…』
「おいこら。ネタデバイス。」
『なんですか?へっぽこ?』
『「………」』
「いい度胸だ、バラバラに分解しちゃるあぁぁぁぁ!!」
『マッハでボコボコにしてやんよ!!』

こうして俺はレーベンのバトルが開始したのである。


・なのは・

「はぁはぁ…ゆ…ユーノ君。私どうすれば良いの!?」
「とりあえず、距離をとって!!その後に魔法を…」

今日、私は塾が終わって直ぐに走ってお家に帰った。
だって…お昼にメビウス君が私の作ったクッキーがおいしいって言ってくれて、凄く嬉しかった。
それで、お仕事が終わったお母さんと一緒にクッキーを作って皆より先にメビウス君にあげようとしたんだ。
出来上がってメビウス君のお家に届けようとしたら、なんだか臨海公園に天体観測に行ったってサイファーさんに言われたの。

「あら?なのはちゃんこんばんわ~。」
「こんばんわサイファーさん!メビウス君居ますか?」
「メビウスちゃん?ごめんねぇ。今日、天体観測に臨海公園に行ってて居ないのよ。」
「あう…そうなんですか?」
「えぇ。あら?クッキーかしら?」
「あ…はい。メビウス君に食べてらおうと思って…」
「あらあら良いわねぇ♪預かっておきましょうか?」
「えっと…臨海公園ですよね?届けに行きます!!その…お夜食になれば良いですし…」
「そぅ?なら桃子さんに電話したほうがいいわねぇ。」

むぅ…私も誘って欲しかったなぁ…。そのままお電話をかりてお家に連絡。私も急いで臨海公園に向かうことにしたの。
そしたら…なんでか分からないけど動物病院に居たはずのフェレット、ユーノ君と出会ったり、変なお化けみたいなのと戦うことになっちゃって…
今の私は路地みたいなところで戦っている。人が来ないのはユーノ君が結界魔法って言うのを使ってくれてるかららしい。

「最初に防御して!!」
「え!?ぇぇ!?防御ってどうするの!?」
「ええっと…レ…レイジングハート!!」
『アクティブプロテクション。』

私の杖、レイジングハートが突進してきたお化けを見えない壁みたいなので防いでくれる。
ほへぇ…これが魔法なんだ…
け…けど、これって防いでるだけだよね?後はどうすれば…

「次に攻撃魔法を…って…なんか飛んで…」

ユーノ君が私の肩の上で空を見上げる。なんか…蒼い光線が…こっちに飛んでくるよぉ!?
蒼い光がお化けに突き刺さって…消えていく…?

「これって…砲撃魔法…?けど…何処から…僕の結界を…」
「ね…ねぇユーノ君、誰か飛んでくるよ?」

蒼い光線が飛んできた方を私は指差す。蒼い服を着た男の子がこっちに飛んでくる…
あれ?なんだか…見たことある…?
男の子が私達の近くまで来るとゆっくりと降りてくる。

「大丈夫!?なのちゃん!?」
「そ…その声って…メビウス…君?」

バイザーであんまり顔が分からないけど…聞こえてきたのは私の知っている声。とってもとっても安心する優しい声だった。
戸惑っている私を見て気が付いたのかメビウス君はバイザーを消して、小さく安心したように笑う。

「はぁぁぁ…よかった…怪我はしてないみたいだね…」
「……」
「ん?…なのちゃんどうし…っと…」
「メビウス君…メビウス君…!!」

メビウス君だと分かると私は抱きついていた。眼から涙があふれてくる。
ユーノ君が慌てて地面に降りたけど、そんな事関係ない…。

「こ…怖かった…よぅ…な…なにも分からなくて…ぐす…」
「…そっか…よしよし、もう大丈夫だよ。なにも怖くないからね。大丈夫だから…私が護ってあげるから…」
「う…うん…うぇえぇぇん!!!」

気が付けば私はメビウス君の胸の中でおっきな声で泣いていて、メビウス君はそんな私を優しく撫でてくれた…

・メビウス・

「つまり…あれはジュエルシードと言って君が輸送してたロストロギア…という事かな?」
「うん。そうなる…ね。」
「それで集めようとしたら暴走して…行き倒れた…と。」
「…そ…そのとおり…」
「…馬鹿でしょ。」
「阿呆ですね。」
『素直に救援を頼めばよろしいかと。…使えないフェレット…』
「…ぼ…僕だって…僕だってぇぇぇぇ!!!」

場所を臨海公園に移して、フェレット、ユーノから話を聞く私達。バリアジャケットは解除している。
ちなみになのちゃんは私の背中に顔を真っ赤にしてくっついている。
多分、泣き顔が恥かしいのかな。…くっつしてる時点で恥ずかしがる事もないのに…
けど…そうなるとフェイトちゃんは……今度会ったら話をしてみよう…
ガルムが言うには私が飛んでいった後を眺めて、そのまま去っていたってそうだ。
ちなみにその後で望遠鏡などを完全にセットしておいてくれたらしい。

「それでなのちゃんが魔法素質があるのに気が付いて…利用したと。」
「ち…違う!!」
「今更否定しても遅いよ…なのちゃん。」
「な…なぁに?」
「なのちゃんは…どうするの?このまま手伝うの?」
「…ユーノ君は困ってるし…それに…私に出来ることがあるならやりたい…!!
…メビウス君も魔道師なんだよね…?」
「うん。そう…だね。」
「そっか…そっかぁ…えへへ…一緒だね…!!」
「……」

嬉しそうに微笑むなのちゃんを見て私はなにも言えなくなった。
きっとなのちゃんは自分に出来ることをやりたいんだ…。一生懸命で…全力全開なのちゃん…なら…私も。

「なのちゃん、ユーノ。私も手伝うよ。」
「え…良いのメビウス君!?」
「本当に…?」
「うん。流石に辺り構わず暴走されたら洒落にならないし…なのちゃんに魔法をしっかりと教えないとね。
それに…言ったからね。護るって。」
「あ…ありがとう…」
「…メビウス…本当にありがとう…本当に…」
「ガルムもエクスもそれで良い?」
「御心のままに…」
『マスターの命に従いましょう。』
「決まりだね。」

その言いながらユーノは頭を下げる。まぁ…なのちゃんの為でもあるし…きっとフェイトちゃんともまた会うことが出来るから…
っと…そろそろ天体観測しようかな。そう思って私は望遠鏡に視線を移す。

「あ…天体観測するの?」
「うん。そろそろいい時間帯だしね。なのちゃんもみる?」
「うん!!」

そう言いながら私となのちゃんは望遠鏡のところまで歩いていって、シートを敷いてある地面に座って望遠鏡を覗き込む。
ちなみにユーノはガルムが膝の上に乗せて少し離れたベンチに座っている。
ん…少し風が出てきたかな…そう思っているとなのちゃんが小さくくしゃみをする。

「なのちゃん。寒い?」
「うぅん…大丈夫。」

そうは言っても両手で腕をさすっている。やっぱり春でも寒いからなぁ。毛布もって着てよかった。
けど…一人分だしなぁ…そうだ!!

「なのちゃん。私の前に座って。」
「え?」
「ほらほら。」

疑問に思いながら私の前に座るなのちゃん。
私はリュックから毛布を取り出して、背中に羽織る。そして後ろからなのちゃんを抱き抱えるようにして毛布に包まる。

「えぇ…えぇ!?めめめめめ…メビウス君!?」
「ほら、暴れないの。こうしたほうがあったかいでしょう?」
「…うん……」

顔を真っ赤にして俯くなのちゃんを見て、小さく笑いながら私は望遠鏡を覗き込む。
すると、慣れたのかなのちゃんが笑いながらすりすりとしてくる。くすぐったいけど…いう気になれない。

「えへへ…あったかぁい…」
「うん…暖かいね。」
「そうだ!メビウス君…はいこれ!」
「え?」

なのちゃんがポーチから1つの袋を取り出す。中には…クッキーが入っていた。
まさか…作ってきてくれたのかな…

「作ったから…食べてね?」
「あは…ありがとうなのちゃん。」

お互いに顔を見合わせながら笑い、そして二人で空を見上げる。
今日も…星空は綺麗に澄んでいた。
ラジオからは陽気なDJが音楽を流している…

ガルムとエクスの水面下の話
(エクス…画像は?)
(高画質で録画しております。)
(…後で分けてくれ。)
(良いでしょう。)
(…鼻血が…!!)



あとがき

…戦闘描写が下手すぎて鬱になります…
休みを1日使ってこの程度とは…笑わせる…
ちなみに技にエクスの技はス○ロボのチーフからも取っています。
さて…なのはとの甘ったるい展開が出来ればと満足してしまう…甘いか?

以下返信

34様

ラプたんはぁはぁ…
私もメビウス君には神機動をして欲しいと思っています。私の実力が伴えば…!!
テムジンと同じで汎用性の高い魔道師を目指しています。

ダンケ様

最後の陽気なDJは…奴です(笑
メビウス君は先ほども書いたとおり目指せ汎用性です!!
サイファーお母さんはニコニコ笑顔で向かってくる敵は粉砕する鬼神…(ぼそっ



[21516] 5話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:d222508a
Date: 2010/09/07 21:00
・閃・

「…砂糖吐きそうだなおい・・・」
『ラブラブしてますねぇ…食べちゃいたい…』
「…デバイスのAI設定ってどう変えんだっけかな…」

メビウス達が毛布に包まってるのを俺は眺めていた。ちなみにバトルはレーベンが俺の魔力を使って俺をバインドで縛り上げて終了した。畜生…燃費悪いんだぞ…
そしてレーベンがまた変なことを言っている…本気でなんでこいつが俺のデバイスなんだと1時間ほど問い詰めたい…
主に開発したフレッシュリフォーの研究員と提案した過去の俺に。

「へぇ…面白い事をしてるじゃないか。こんな所に魔道師が居るなんて。」
「っ!?…お前は…」

しくじった…広域索敵に集中してたせいで、近くに居るこいつに気が付かなかった…
目の前に浮遊して居たのはバリアジャケットを着て、妙な一つ目の仮面をつけている男子。
腰には双剣型のデバイスがぶら下がっている。

「シルヴァリアス…ゴッデンシュタイナー…」
「僕の名前を知ってるんだ。…まぁ、僕は有名人だから当然だろうね。」
「…同じクラスだから知ってんだよ。帝 閃だよ」
「同じクラス?君みたいなのが居たのか?…あぁ、思い出したよ。確か帝家の人間だったかな。
何処かの企業の幹部の息子が居るって言われた気もするが…君か。」

こいつ…気にいらねぇな…。明らかに人を馬鹿にしてやがる…
しかし、こいつのランクは、推定でもAはある。俺がどう頑張っても勝てる相手じゃない。

「それで…俺に何の様だよ。」
「君もミッドの魔道師なんだろう?なら、話は簡単だ。僕の配下になれ。」
「あ゛?」
「君もミッドの人間ならゴッデンシュタイナー家は知ってるだろ?そこの御曹司である僕の配下になれるんだ。
君みたいな低ランク魔道師にはまたと無いチャンスだと思うんだけど?」

…前言撤回…気に入らないじゃない…反吐が出る。
人を人として見てないな。自分が最も最上位の人間だと考えてやがる。

「何のメリットがあるんだよ?」
「富と名声…そして女を与えてあげるよ。」
「はぁ?」
「君には理解できないかもしれないけど、僕は未来を知っている。
そこでどんな事件がおきるのかも、どんな人物が出てくるのかも知っている。」

そう自慢げに言い放つシルヴァリアスを見て、俺の推測は確信へと変わっていった。
こいつも転生者だ。しかも超ド級で最悪の転生者だ。二次創作なんかに居る転生者なんかとは訳が違う。
自分のことしか考えていない…物語を壊す最悪の存在だ。

「君も見てただろ?手始めにあの金髪の女を君にあげるよ。」
「……」
「まぁ、言う事を聞かないなら、薬でも何でも使っても良い。
僕はなのは以外眼中に無いから、壊しても何も言わない。
あぁ…僕のなのは…可哀想に…怯えた心の隙をあんな妙な奴に付け込まれるなんて…僕が近くにいないのがそんなに寂しかったんだね…」

そう言いながら視線を臨海公園のほうに移す。
妙な奴って…メビウスかよ。正直に言えばこいつの方が数千倍やばい。
金髪の…と言うことは多分、フェイトの事だろう。薬でもなんでもって…こいつ、何処まで自惚れてんだ…?
しかもなのはがメビウスの事を好きなのは一目瞭然だ。話を聞くと幼馴染で何時も一緒にいたそうだしな。
それに…こいつは中身が最悪すぎる…。

「…こんな事、小学3年に言うことか?まぁ…悪い話じゃない。」
「魔道師をしている以上、老成してると思うがね。なんにせよ…決まりだね。君は僕の配下に…」
「…だが断る!!」
「…なんだって…?」
「てめぇみたいな自己中心的な奴の配下に誰がなるかよ!!第一…これがてめぇの物語だ?
ふざけんなよ!!これはあいつらの物語だ!!しかも…大切な友達のあいつらを裏切れってか?それこそ冗談だなおい!!
てめぇみたいな下衆になのはが惚れる訳無いだろうが!!外見は良くても中身がそんなんじゃな!!
人を人としてみてない奴が…何をほざいてんだよ!!」

俺は何時しかメビウスやオメガ、なのは達を本当に友人と思うようになっていた。
転生者として…例えかけ離れた物語になろうと原作の物語を知っている俺は異端者。未来を知っているのは時には苦痛にもなった。
それでも…俺とあいつらと一緒に笑って一緒に学んで…沢山の話をした。
そう…これはもう…俺にとっては現実なんだ。テレビや漫画で見てた世界が…今の俺には掛け替えの無い現実なっている。
それを壊そうとする奴は…俺が許さない…!!

「くくく…はははははははは!!!!!君みたいな小物になにが出来る?所詮は低ランクの魔道師…そして唯の支援型のデバイス…
僕と戦って勝てると思ってる?しかも…未来を知っている選ばれし者の僕に!!ははは!!面白い事を言うね!!
まぁ…負け犬の遠吠えだな。くくく…精々、足掻くと言い。僕の慈悲深い心に感謝するんだね。君をここで殺さないんだからね。
いや、後悔かな?僕の折角の誘いを断って敵になるかもしれないのだからね。はははははははははははははは!!!!!!」

高笑いしながらシルヴァリアスは飛び去っていった…
虫唾が入るな…確かに…俺じゃてめぇを倒せないだろうな…
…情けねぇなぁ…結局…他力本願になっちまうのかよ…
あ~…なんか泣けてきたよ…

「…強く…なりてぇなぁ…畜生…」
『…閃。』
「…なんだよレーベン。」
『1つ言っても良いですか?』
「あん?」
『くせぇえぇぇ!!あいつはくせぇえぇぇ!!!ゲロ以下の匂いがぷんぷんするぜぇえぇぇ!!!』
「…お前って奴は…」

人が本気で悩んでんのに…こいつ…どんだけ空気読めないんだよ…
だが…次に聞こえてきたのはまじめな声。

『…落ち込んでる暇は無いですよ、閃。』
「……」
『奴に後悔させてやるんです。小物の足掻きを見せてやりましょう。自分が侮っといて人間がどれだけ脅威になるのか…
思い知らせてやるんですよ。』
「レーベン…あぁ…そうだな。しかし、まさか…お前に励まされるなんてな…」
『私も頭にきましたからね。あの自己中には。それに…私の大切で大事な主である帝 閃を馬鹿にしたんです。
ただではおきませんよ!!』
「確かに…そうだな。俺の相棒であり、家族でもあるナイトレーベンを侮辱したんだ。唯で済むわけねぇよなあ!」
『「覚悟しろよ!!シルヴァリアス・ゴッデンシュタイナー!!」』

そけにな…お前だけが未来を知ってるわけじゃねぇんだよ…!!
見せてやるよ…お前が見下した魔道師の本気をなぁ!!



・メビウス・

天体観測を終えた次の日。今日も学校が終わって何時ものように帰るんだけど…
オメガは何時ものようにサッカーしてるし…閃は閃で「悪い。やることあるから先に帰るわ」って帰っちゃったし…
まぁ…私も色々とやることがあるんだよね。

「なのちゃん。帰ろう。」
「あ…うん!」

席に座って荷物を片付けているなのちゃんに声をかける。
昨日の夜に、なのちゃんに魔法の指導をするのを約束していたからだね。
流石になんの指導も無く、魔法を使うのは危ないし、身体にも大きな負担になってしまう。

「ねぇ。なのちゃん。今日は私の家に来ない?」
「メビウス君のお家に?良いの?」
「うん。ほら…訓練しないとね。」
「あ…そっかぁ。うん!よろしくお願いします!」
「あはは。そんなに改まらなくってもいいよ。最初になのちゃんの家に行ってからにしよう。ユーノも一緒にね。」

前に私が計測したなのちゃんの魔力は少なく見てもAAはある。しっかりと指導をすればもっと上のランクに行ける筈。
それに…訓練しないと自分の魔力で押し潰されてしまうことがある。特になのちゃんは無理をする事が多いから…

「ねぇねぇ。メビウス君?」
「なに?」
「メビウス君の…デバイスって、エクスキャリバーさんなんだよね?」
『なのは様。エクスで結構ですよ。』
「それじゃエクスさんって女の人なの?」
『はい。女性として登録されておりますね。』
「ほへぇ…それじゃ、デバイスって他にもなにかあるの?」
「デバイスは魔道師が自作するのもあれば、特定のメーカーが作っているのもあるんだよ。
私のエクスやなのちゃんのレイジングハートみたいに意志があるのがインテリジェントデバイスって言うんだ。」
『主に私達は魔法の発動の手助けや状況判断などのサポートをこなします。
状況判断が出来れば、防御魔法をこちらが行う事も出来るのですよ。』
「信頼すればするほどデバイスは答えてくれる。逆に信頼しなければデバイスは答えてくれない。私達にとっては大切なパートナーなんだよ。
なのちゃんもレイジングハートを信頼して…大切にしてあげてね。」
「うん…よろしくね。レイジングハート。」

そう言いながら待機状態のレイジングハートを撫でるなのちゃん。
うん…デバイスは私達の剣であり盾であり…大切なパートナー。
それを分かってくれたなのちゃんはきっと優しくて強くて…あったかい魔道師になれるね。
それから魔法の事を簡単に説明しながらなのちゃんの家に向かう。


「それじゃ、かばん置いてくるから待っててね!」
「うん。」
「ん?やぁ、メビウス君か。こんにちわ。」
「あ、恭也さん。こんにちわ。」


なのちゃんが家の中に入ると同時に男の人が出てくる。
この人は高町恭也さん。なのちゃんのお兄さんで大学生なんだ。凄くカッコいいんだよね。
それにとても真面目で良い人。

「昨日はなのはが迷惑をかけたね。」
「あ、良いんですよ。こっちもクッキーご馳走になりましたし…それに夜も遅くなっちゃって…」
「まぁ…それはあまり関心は出来なかったな。そう言えば…一緒に帰ってきたあの男の人は誰かな?見たこと無い人だったけど。」
「え…あぁ…あの人はアヴァロンの工房の人なんです。父さんが一緒に行きなさいって言ってくれて。」
「工房の人か。…見た感じでは結構、強そうな感じがしたが…スカーフェイスさんの弟子なら納得できる。」
「あははは…」

恭也さんはきっとガルムの事を言ってるんだよね…
昨日、一緒に帰ってきたところを見てたからかぁ。少し焦ったなぁ。
父さんは時々、恭也さんや士郎さんと組み手をしてるみたい。
…私も何回か見せてもらったけど…人が戦ってるようには見えなかったなぁ…特に父さんと士郎さんの組み手…

「またスカーフェイスさんに暇な時に組み手をお願いしますと伝えてくれないか?今まで全敗だからな。」
「はい。分かりました。」
「…なぁ、メビウス君も御神流を習ってみないか?良い筋をしてると思うんだが…」
「えぇ!?わ…私は…良いですよ。流石に…」
「そうか…気が変わったら言ってくれ。それじゃ、俺も少し出かけるから、また。」
「はい。また今度です。」
「メビウス君お待たせ!あれ?お兄ちゃんと話してたの?」
「そうだよ。それじゃ私の家に行こうか。ユーノも良いね?」
≪うん。けど…メビウスの家で訓練するの?≫

なのちゃんがユーノを肩に乗せて出てくると、ユーノから念話が届く。
まぁ…疑問に思うよね。けど、大丈夫なんだ。
しっかりと準備してあるしね。

「それは行ってからのお楽しみ。さぁ、行こう。」

ランスロット家。地下1階

「わぁ…ねぇねぇ!これってなに?」
「凄い…最新鋭の設備じゃないか…」
「ここではデバイスのメンテや開発。それにシミュレーターなんてのも出来るんだ。」

ここは私の家の地下にある訓練施設。全部、ミッドの最新鋭の設備がそろっている。
ここでエクスをメンテナンスしたり出来るから便利なんだよね。

「まずは…なのちゃん。これに座ってね。」
「にゃ?…これなぁに?」
「これはNEMOって言う超高性能シミュレーターなんだよ。仮想空間の中で訓練できるんだけど、風景とか色々と本物と変わらないんだ。」
「ほへぇ…なんだかわからないけど…凄いんだね。」
「NEMOなんて…聞いたこと無いよ…」
「まぁワンオフだからね。疑似体験だけど体力とかは消費するから気をつけるように。それじゃ…始めるよ」

なのちゃんを席に座らせて、ユーノには小型の装置をつける。
そしてリラックスしてるのを確認すると私はNEMOを操作し始める。

「場所は…草原で良いかな。設定は…レベル1で…妨害なし。ガルム、私も入るから、後はよろしくね。」
「了解いたしました。広域索敵も行っておきます。」
「お願い。」

ガルムがメインモニターの前に座るのを確認すると私もNEMOに座り、仮想空間へと入っていく。


仮想空間


「わぁ…わぁ!!すごいすごい!!メビウス君!!本物みたいだよ!!」
「はは。そんなにはしゃがないで。」
「まさかここまで精巧なんて。君の家は一体…」
「私も詳しくは知らないんだよね…」

はしゃぎまわるなのちゃんを見ていると傍らのユーノが私を見る。
まぁ…確かに普通の魔道師が持つには大規模すぎる施設なのかもしれないね。
けど…私も詳しくは分からないんだよね。唯一分かるのは…父さんと母さんが昔の仕事で手に入れたって事くらいなんだけど…

「さて…なのちゃん、まずはレイジングハートで変身してみようか?」
「あ…うん!それじゃ…風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に! レイジングハート、セットアップ!!」

少し離れた所で、なのちゃんが待機状態のレイジングハートを握り締め起動呪文を唱えると、光が包み込む。
光が収まると白い綺麗なバリアジャケットを纏ったなのちゃんが佇んでいた。
なんだか…学校の制服にも見えるし…天使見たいかも。
変身し終えたなのちゃんがこちらに駆け寄ってくる。

「メビウス君!どう…かな?似合うかな?」
「ん?…うん、とっても可愛いよ。」
「ほ…本当!?」
「うん。似合ってるよ。天使みたいだね。」
「えへへ…そっかあ…ありがとう!!」

なのちゃんかがその場でクルリと回転して私に感想を聞いてくるけど…本当に良く似合っている。
白くて…本当に綺麗だなぁ。

「それじゃ…今度はメビウス君の見せて!」
「私の?」
「うん!えっと…昨日は…その…良く見れなかったし…」

最後のほうを少し顔を紅くしながら呟くなのちゃん。昨日は泣いてたもんなぁ。
私は苦笑しながら胸元のエクスを握り締めて、起動呪文を唱える。


「我が纏うは蒼。纏うは誇り。汝は約束されし勝利の剣なり。我の手に来たれ!!エクスキャリバー!!」

私の周りに蒼い光が集まり、バリアジャケットを構成する。
右手には私の剣であるエクスが握られている。
変身し終えてなのちゃんの方を見ると…なんだか惚けている。

「えっと…どうしたの?」
「え?あ…その…カッコいいなぁって…お話の騎士みたいだねって。」
「そう?ありがとう。」

騎士かぁ…確かに私のバリアジャケットは騎士をイメージしたものかもしれないね。
エクスだって本来はエクスカリバーをモデルにしてるみたいなものだしね。
さて…お互いバリアジャケットを展開したところで…まずは軽く魔法の説明をしようかな。

「それじゃ、なのちゃん。さっき話した攻撃魔法の種類は覚えてる?」
「えっと…砲撃魔法と…広域攻撃魔法に…射撃魔法!!」
「うん。そのとおり。良く出来ました。」
「えへへ。」

私が褒めながら頭を撫でてあげると嬉しそうにするなのちゃん。尻尾があったらブンブン振ってそうだね。
まずは基本的な魔法の講座から始めようかな。

「それじゃ1つずつ説明するね。砲撃魔法は魔力を発射する一番簡単な魔法なんだ。
当たれば一撃必殺だけど…その分、隙も大きいから気をつけてね。
次に広域攻撃は砲撃魔法が単体を攻撃するのに対して、効果範囲全ての敵を攻撃する魔法のことだよ。
まぁ…こっちも時間がかかるのもあるけどね。
最後が射撃魔法。最初の二つが必殺技だとすると、こっちは牽制や削り技見たいのだね。
一発一発の威力は低いけど、少ない魔力を圧縮して弾丸みたいにするんだ。これは複数射撃や誘導も出来るから便利なんだよ。」
「うぅ…色々と難しいんだね。…メビウス君は全部できるの?」
「私?…ん~、ある程度は出来るかな。焦らずに練習すればなのちゃんも出来るよ。」
「そっかぁ…うん!頑張るね!!」
「そうそう、その意気、それじゃ最初に……」

こうして私となのちゃんの魔法特訓が始まった。



・オメガ・

よし、今日も自主練するぜ!!
俺は何時もの様に近所の神社にサッカーボールと油揚げを持って走っていく。
学校でやりたかったんだけどメンバーが集まらなかったんだよなぁ。今日はついてないぜ。
そんな訳で俺は神社で練習をすんだけど…なんでかしらないがちっこい狐が時々、居るんだよなぁ。
結構前から居て、俺の練習をじっと見てるわけだ。
それで気にならないほうがおかしいだろ?とりあえず家から油揚げを持っていったら喜んで食べてくれたんだよ。
気が付けば、練習しない時の夕方にも油揚げを持っていくのが日課になったんだよな。
階段を1段飛ばしで駆け上がっていく俺。今日もちび狐はいるかなぁ。

「お。ちび狐~…って…わぉ。」

境内に入るとちび狐と…妙な目玉が居たよ。なんだこれ?
なんか触手がうねうね動いて…ちび狐を捕まえようとしてるぜ…
俺は徐にサッカーボールを地面に置いて左足を振り上げる。

「唸れ!!俺との銀色の足スペシャァァァァル!!!」
「!?」

思いっきり蹴り飛ばしたサッカーボールが触手目玉に直撃して吹き飛ばす。
よっしゃぁぁ!!今日も俺の銀色の脚は絶好調!!
こちらに気が付いたのか、ちび狐が走って逃げてくる。

「よぅ。ちび狐ぇ、あれってお前の友達か?」
「!!???」フルフル

思いっきり首を振ってるところを見ると違うらしい。
なんかあんな感じの妖怪居たような気が済んだけどなぁ…まぁ、いいや。

「とりあえず…俺のダチに喧嘩売るとは良い度胸だぜ!!
勝負だ!!」

俺は右手で指を鳴らす。さぁ…ComeComeComeCome!!!

【轟くぞHeart!!響くぜBeat!!行くぜぇぇぇぇぇ!!!!Let'sBurning Justice!!!】

光が俺を包み込む。さぁさぁ!!来い!!俺のデバイス!!

「オメガ・ガウェイン!!」
『アファームド・イジェクト!!』
『「劇的に!!参上!!」』

左手には腕と一体化したようなトンファー。右手には鉄の杭。そう!!浪漫のパイルバンカー!!
これが俺のデバイス!!イジェクトだ!!

「さぁさぁ…とっつくぞぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」






アファームド・イジェクト。トンファー&パイルバンカー装備デバイス。
ベルカ式?いいえオメガ式です。
詳しい説明は次回にでも…


あとがき

あれ?閃君、主人公みたいじゃね?と思った今回…
1時間でも書く時間を作ってみたらこのざまです。
オメガ君とナイトレーベンは…生粋のネタキャラです。色々な台詞を言わせて見ようかと…
あぁ…今回はメビウス君となのちゃんの甘甘展開が出来なかった…そしてユーノ空気…!!
メビウス君の魔法講座を受けるなのちゃん。…男の子が女の子に勉強教えるのって萌えません?(

とっつきとは、アーマードコアに出てくる射突ブレードをとっつきと読んだ事からです。
見た目は某ア○トア○ゼンのパイルバンカーを想像して下さい

以下返信
ご都合主義者様

タリズマン…まぁ…直訳すればお守りですからね(爆
閃君は今回の名家(笑)との会話で色々と決意したようです。


クワガタ仮面様

今回はこんな感じの傲慢さを出してみました。
書いてて若干、面白いかもと感じた作者は…奴より!!??
これからも奴の活躍(笑)をご期待ください

ダンケ様

砂糖を吐ける展開が大好物な作者です(爆
メビウス君はニコポ搭載ですので…フラグは結構立てるかも…
閃君には…後で相手を用意したいとは考えています。
リリン様は…まだ先になる予定ですね。閃君との関係も思案中です。

名無しの獅子心騎士様

今回はオメガ君登場!!で終わらせてしまいました。
次回辺りで活躍させてみようかと思っています。今回は短いですが…
メビウス君は男の娘ですから…おや?蒼い魔(通信途絶
ナイトレーベンは…やる時はやるデバイス!!のはずです。



[21516] 6話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:d222508a
Date: 2010/09/10 21:00
・オメガ・

「はっはぁ!!イジェクト!!久しぶりだなぁ!!」
『ブラザー!今回も派手にいくかい!!』
「もちろんたぜ!!ちび狐はそこで油揚げでも食べながら観戦してると良いぜ!!
オラオラオラぁぁ!!!覚悟しろぉぉぉ!!」

目玉触手が何故だか知らんが逃げようとするが…そうは問屋が卸さないぜ!!
足に力を込めて…加速!!浮遊魔法なんてまどろっこしいのは苦手なんだよ!!
目玉の真ん中に左手のトンファーを叩き込む!そしてそのまま宙返りをして今度は跳び蹴りだぁ!!
そのまま地面に目玉触手をめり込ませて…更に踵落としを二発!!大抵の奴はこれで終わる!!

「どうよ!!」
『おう…Brother。まだ奴は平気のようだぜ?』
「いい度胸してるぜ…なら…必殺でいくぜ…!!」

目玉触手が起き上がると同時に懐に入り込む。
触手で絡めとろうししてくるが…そんなトロイ攻撃にに捕まる俺じゃないぜ!!
そしてぇぇ…左手のトンファーで一発、軽く打ち上げて…

『「絶!!」』

落ちた来たところを身体を回転させながら、右手のパイルバンカーで貫き打ち上げる!!
これが…俺の…俺達の必殺技!!

『「昇竜撃!!」』


本体を真ん中から貫き、高く空中に舞う触手目玉。
そのまま地面に大きな音を立てて落ちて、消えていく。
実はこの技、ずっと前に見た格闘ゲームの参考にしたんだけど…うまく決まったぜ!!

『Your win!!』
「It is possible to go still。ん?なんか妙な宝石みたいなのがあるぜ?なんだこれ?」

さっき倒した目玉のいた辺りに妙に光る宝石を見つける。
…これもぶち壊した方が良いのか?
とりあえず、パイルバンカーで砕くか!!唸れ!!俺の右手!!

「オメガ!!壊したら駄目だって!!」
「お…オメガ君待って待ってぇ!!」
「壊さないで!!壊さないで!!」
「What?」

大声のしたほうを見れば…おおぅ…メビウスとなのはが飛んでくるぜ。なのはの肩に居んのは…イタチ?まぁ、どうでも良いか。
あれ?なのはって…魔道師だったっけか?…まぁ、メビウスと一緒だから問題はないだろ。
しかし…おいおい…今は夕方だぜ?まだ一般人もいるのに飛んでくるなんてよ…。
やれやれ、ここは1つ紳士的にアドバイスをしてやるか。

「お前ら…人の目を気にしろよ!!目立つぜ!!」
「結界も張らないで戦闘してるオメガには言われたくないよ!!」

…細かいことは気にすんない!!
そうそう、ちび狐は油揚げをはぐはぐしてたぜ。



・ユーノ・

「それじゃ、次は…」

仮想空間の草原でなのはに魔法を教えるメビウスを遠くから眺める僕。
頭の中ではさっきからずっと同じ事がグルグルと回っている。

(メビウス・ランスロット…何者なんだろう?)

ミッドの最新鋭機器を保持する家庭、そして見たことも無い特殊なデバイスを使う魔道師。
魔法の知識も深く、なにより…本人自体かなりの高ランク魔道師だって言うのは分かる。
現になのはが戦ったジュエルシードは彼の砲撃魔法が倒した。
しかも遠距離からだというのに魔力が減衰することも無くも届いた。つまり…膨大な魔力量を彼は誇っていると言うことになる。
なのはと言い、メビウスと言い…どうして魔法の存在しない世界に居るんだろう?いや…メビウスは既に魔道師だったけど…

「ユーノ、どうかしたの?」
「ん。ちょっと考え事を…あれ?なのはは?」
「なのちゃんは浮遊魔法に挑戦してるよ。筋はいいんだけど…バランス感覚かなぁ。」

気が付くとメビウスが僕の方に歩いてきて隣に座る。
苦笑いしながら指差した方向を見ると…確かに。なのははが空中で頑張ってバランスを取っている。
浮遊魔法自体は簡単な部類に入るんだけど、高度を上げていくとバランスとかを保つのが難しい。

「ここは時間が遅く感じるから、ゆっくりとやっていくよ。外ではまだ30分くらいかな?」
「1時間位はここに居たと思ったけど…本当に不思議だよ。」
「あはは、けど便利なのには変わりないよ。なのちゃんも気に入ってくれたみたいだしね。」

そう言いながら、なのはを見るメビウスの顔はにこやかだった。
大切な物を見るみたいに…優しく暖かい眼差しをしている。
それを見て…僕は後悔をしていく。きっとメビウスはなのはを巻き込みたくなったのかもしれない…と。
魔法は良い意味でも悪い意味でも日常を変えてしまう。メビウスはなのはに普通の…普通の地球の生活を送って欲しかったんだ…
そう思うと僕の心に重く後悔がのしかかってくる。

「ユーノ。」
「…なに?」
「なのちゃんはね。…困ってる人を絶対に見捨てることなんて出来ないんだよ。誰よりも優しくて…一生懸命だからね。
だから、私は…なのちゃんに幸せになって欲しい。いや…なのちゃん見たいな人が幸せにならないと…だめなんだよ。」
「メビウス…君は…」
「ユーノ、後悔するならそれでも良いと思う。けど…そこで立ち止まらないで。君にはなのちゃんに魔法と言う新しい夢を与えた責任がある。
もちろん、私にもね。だから…二人でなのちゃんを助けていこう。きっと、それが出来るはずだから。」
「…うん。」

そういって笑う彼の瞳は…とても澄んでいて綺麗だ…。
駄目だな…僕は。自分がなのはを巻き込んだんじゃないか。僕がしっかりしないでどうするんだ。
遠くでなのはの呼ぶ声が聞こえる。顔を上げて見ると、靴から光の羽のようなのを伸ばして飛行している。
独自に飛行魔法を変えたのか…やっぱりなのはには魔法の才能があるんだ。

「メビウス君!メビウス君!!見てみて、どうかな!!」
「凄いねなのちゃん。まさか飛行魔法をアレンジするなんて。」
「レイジングハートのお陰だよ。ね?レイジングハート。」
『はい。』
「メビウス君の言ったとおりに信じてみたんだ!だからかな?」
「あは。信頼して大切にするならきっと答えてくれるからね。…その靴の羽は姿勢とかを制御するのかな?」
「うん!フライアーフィンって言うんだよ。」
「そっか。うん、良く出来ました。」
「あ…えへへ。」

なのはを撫でながら褒めるメビウス。傍から見ると兄妹みたいにみえる。
それに、なのはも嬉しそうな…幸せそうな表情をしている。
二人を遠くから眺めて、さっきメビウスが言った言葉を思い出す。なのはが幸せにならないといけない。
ねぇ…メビウス?もしかして…なのははもう…幸せなのかもしれないよ?…君が傍に居ることが…なのはの幸せなんじゃ…ないのかな?



・メビウス・



「飛行魔法が終わったら…」
「メビウス様。」
「ガルム、どうしたの?」

飛行魔法を成功させたなのちゃんを褒めながら、次はなにをしようと、考えているとガルムの声が放送で聞こえてくる。
空中にも外の映像が流れてきて、ガルムの顔が映し出される。

「先ほど広域索敵にジュエルシードらしく魔力反応を感知しました。」
「ひっかかったか…場所は?」
「海鳴神社で反応がありましたが…」
「どうしたの?」

そこまで言うとガルムが不安げに視線を伏せる。
ここのシステムを使っての広域索敵なら誤差は少ないはずがたら迷うことは無いと思うんだけど…
けど…次の瞬間、ガルムから出てきた言葉に私は絶句する。

「その…付近に…別の魔力反応がありまして…しかも、該当データありです…」
「該当データあり?…誰の?」
「……オメガ様のです。」
「え゛…?」

ガルムと私の間に重い沈黙が流れる。待って…なんでオメガ?…どうしてオメガ?…何故オメガ?
だって、学校でサッカーしてるはずじゃ…
はっ…!!確か…メンバーが集まらないときは神社で自主練してるって前に言ってた気がする。
その事を思い出し、背中にいやな汗が流れる。いや…オメガを心配してじゃない…
一応は心配する。けど…もっと心配なのが…ジュエルシードのことだ。
絶対に確実に間違いなくオメガなら…叩き割る。それならまだ良い。粉々に粉砕する可能性すらある。
それはやばい…間違いなくやばい…

「メビウス?どうしたんだい?」
「ユーノ…ジュエルシードが…粉々になっても良い?」
「…はい?」

訳が分からず呆けるユーノに説明すると顔を青くしてガクガクと震えだす。
うん…当たり前だよね…とりあえず…

「ガルム!!急いNEMOを解除!!直ぐに出るよ!」
「御意。」
「なのちゃん!ジュエルシードが見つかったから今回はここまで!」
「う…うん!」

さて…ジュエルシード…無事で居てくれると良いんだけど…


NEMOを解除して。現実に戻ってくる私達。そのまま庭で人気が無いのを確認すると飛行魔法を使って飛び立つ。
ちなみにエクスが認識障害魔法を使ってくれているから、魔道師以外は私達の存在を認識できない。
それに、なのちゃんの現実世界での飛行魔法の扱いになれる良い機会でもあるからね。
けど…流石になのちゃんの魔力量には驚かされる。結構、訓練したから疲れてるかと思ったけど…タフだね。
ちなみにガルムは家でメインシステムで広域索敵するために待機してくれている。一応は念には念を入れておきたい。

『マスター、前方にオメガ様を確認しました。』
「こっちも目視できたよ。…あ~…相変わらずデタラメだ…」
「わ…なんか、格闘ゲームみたいな動きしてるよ、オメガ君。」
「ま…魔道…師?…いや、けど体力とか速度補助の魔法以外使ってないような…」

遠くからオメガの戦闘を見て呆気にとられる二人。私は…何度か見たことあるから良いんだけど…それでも慣れない。
それに、認識障害とか結界を使ってないから、一般の人からも丸見えだよ…。人気が無いのが救いだけど…
基本的に体力とか防御、速度を上げる補助的魔法以外は使わないからなぁ、オメガは。使えないってのもあるんだけどね。
飛行魔法だって初歩的なのに苦手だって言ってる。…その代わり地上を走る速度が速いんだけどね…

『ジュエルシードの反応弱体化。どうやら撃破したようです。』
「相手が悪かったね…って…オメガ…?」
「ね…ねぇ。メビウス君?なんかオメガ君…右手の大っきな杭…振り上げてるよ?」
「…なのちゃん、ユーノ…急ぐよ!!」

慌てて速度を上げる私達。間に合え間に合え!まさかオメガが本当に粉々に壊すなんて!!??
それは不味いってば!!

「オメガ!!壊したら駄目だって!!」
「お…オメガ君待って待ってぇ!!」
「壊さないで!!壊さないで!!」
「What?」

パイルバンカーがジュエルシードに突き刺さる寸前のところで、私達の大声に気が付くオメガ。
あ…危なかったぁ…あと少し遅かったら…ゾッとする…
なんでか、飛んできた私達を見ながらオメガはやれやれと言った感じで首を振る。

「お前ら…人の目を気にしろよ!!目立つぜ!!」
「結界も張らないで戦闘してるオメガには言われたくないよ!!」

何を言うかと思ったら…本当に…オメガには言われたくない…!!!
神社に降り立ち、周囲に素早く結界を張りながら、索敵を始める。
付近に誰もいないけど…一匹だけ狐が居る。確か…オメガが良く話していた狐かな?
とりあえず、油揚げを食べてるみたいだから問題は無いだろう。
なのちゃんとユーノはジュエルシードに封印を施している。

「あれってロストロギアって言うのか?知らなかったぜ!てっきりちび狐の友達かと思ってたけどよ!!」
「…狐が思いっきり首を振って否定してるよオメガ…」
『My sisterァァァァ!!元気にしてかぁ!!』
『叫ばないでください。あと私をそう呼ばないでください。貴方と姉弟と思われると私の品性まで疑われてしまいます!!』
『なら、My Brotherぁぁぁ!!』
『私の設定は女性です!!男性ではありません!!』

まぁ…ある意味で間違ってないんだけどね。
エクスとイジェクトは同じフレッシュリフォーで開発されたデバイスで、開発期間も比較的近い。
性格は…かなり違うんだけどね。

『マスターも笑わないでください!!』
「ごめんごめんエクス。…それで、オメガ。今の鳴海市にロストロギア、ジュエルシードが散乱しているんだ。
それを集めてるんだけど…手伝ってくれないかな?」
「はっはぁ!愚問だぜ、メビウゥゥゥゥゥス!!!俺も手伝うぜ!!それに面白そうだしな!!」
「ありがとう。けど…次からは結界とか張ってよね…」
「おう!!俺に任せとけ!!」

こうして…新しくオメガが協力してくれることになったんだけど…なんか心配だなぁ…
今日も夕焼けは綺麗に染まっていた。




アファームド・イジェクト。愛称・イジェクト
攻撃魔法の登録なし。単体補助魔法のみ。
左手にトンファー・右手にパイルバンカー装備。
ハイテンション兄ちゃん。

スライプナー・エクスキャリバー。愛称・エクス
近距離・中距離対応の汎用デバイス。
見た目は完璧にテムジンのあれ。
優しくてちょっとクールなお姉さん。

あとがき


起床→休日だ!!→書くか!!(脳内BGМ・初陣)→お昼からAC04をプレイ→感動。な一日でした。
…前半の戦闘描写が下手すぎて泣きそう…なんだこれ。
とりあえず…オメガ仲間になる!!の巻でした。
オメガ君の技とかは…他のゲーム等から持ってくるのもありますので…
空を制するメビウス1。そして(イジェクト後に)陸を制するオメガ11。これが理想…!!

以下返信

ダンケ様
別のACで射突ブレード(パイルバンカー)があるのですが…ある人が射突を「とっつき」と呼んだためにそう言われるようになりました。
なのでオメガ君にもそう言ってもらいました。(汗
バルシリーズ…奴らは…量産です…そして…セガ時代の鉄球装備のバルに何度撃破されたことか…!!
…あれ?なんか何処かのハンマー装備の騎士が鉄球打ち出して気が…?

34様

誤字報告ありがとうございます。早速修正します。
思いっきりナイトレーベンですよね。あれは。
使い回しもいい所です。べ…別に出てきた時に喜んでなんていないんだからね!!
翼と翼の間を通り抜けようとして衝突なんてしてないんだからね!!


トーマ様

サンダーヘッドも何れは出したいキャラではありますね。電子戦記…果てしなくいい響きです…!!
しかし…メビウス1をサポートするのは…やはりプレゼントをねだって来るが…美声の彼でなくては…!!

nokan様
汁なんとかさんww。読者様にそういわれるあいつにザマァと思った作者は…(爆
奴は死亡フラグなにそれ?と思っていますよ。だってあいつは…真の(笑)主人公(爆笑)なんですからね!!(笑




[21516] 7話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:8f1d2142
Date: 2011/01/21 21:14
・フェイト・

「素敵な名前だね。」

そんな事を言われたのは初めてだった…
夜の公園であった彼は、顔はバイザーで分からなかったけど…とても優しい眼をしてると思う。
見ず知らずの私にジュエルシードを渡してくれた彼は…メビウス・ランスロットって名乗った、不思議な魔道師。
あれから数日たって、ジュエルシードの捜索を開始したけど…成果はよくない。
何かかに邪魔をされている気がするけど…その何かが分からないでいるのが現状。
小さく私の口からため息が漏れる…。こんな事じゃいけない。
私がしっかりしないと…

「フェイト?どうしたんだい?」
「…なんでもないよ、アルフ。」
「そうかい?けど、あまり根をつめすぎないでおくれよ。フェイトに何かあったら大変なんだからね。」
「うん、わかってる。」

ここは、私が海鳴市で本拠地にしているマンションの一室。
私の使い魔であるアルフと二人で暮らしている。
時計を見れば、そろそろ夕方。いけない、今日は一日なにもしないで過ごしてしまった。
夕ご飯を買いにいかないと…

「アルフ。ご飯買いに行こう。」
「良いけど…フェイト。また栄養食品かい?なにか弁当とか食べた方が…」
「良いの。あんまり食欲無いから。」

最近は栄養食品ばかり食べてる気がするけど…私はそれでも構わない。
それにあまり食欲もないし、お料理だって作れないから…
犬形態になったアルフと一緒にマンションを出て行く。
他に住んでいる人達とすれ違ったりするけど…軽く会釈するだけ。
深く関わる気も無いし、関わって欲しくない。私の正直な気持ち。

「またね!!」

けど…フッと頭に浮かぶのは…メビウスの事。会えるなら…私も…また会いたいな…
またね。と初対面の私に言ってくれた事を思い出して、直ぐに頭を振る。


(けど…もう、会うこともないよね…。)

近くのスーパーで何時ものように栄養食品の棚に足を運ぶ。
アルフは外で待っているはずだから…急いで買わないと。

「あれ?フェイトちゃん!!」
「え…?」

突然、名前を呼ばれて変な声が出ちゃった。それに…この街で私を知っているのは一人しか居ない。
顔を向ければ…蒼い髪をして優しく微笑んでいる…彼が居た。

「メビウス…?」
「あは。覚えててくれたんだ、よかったぁ。」

そう言って胸をなでおろすメビウス。
また…会えた…




・メビウス・


「ごめんなさい~。メビウスちゃん。今日の夜、私達居ないのよ~。」
「ミッドの知り合いに呼ばれてな。少し時間がかかりそうで、今日はかえって来れないかしれない。」
「あ、そうなの?」

朝食の時に父さんや母さんが忙しそうにしてけど…ミッドでなにかあったのかな?
そうなると今夜は私とガルム、そしてエクスだけになるね。
簡単に食事は作っていくと言った母さんだけど、流石に急いでるみたいだし、それは断った。
それに私も一応は料理は作れるし、料理自体好きだから問題は無いからね。

「それじゃ、俺達はもう行くが、遅刻しないようにな。」
「行って来るわねぇ。メビウスちゃん、良い子にしてるのよ~?」
「うん。気をつけていってらっしゃい。」
「戸締りはキチンとするように。アヴァロンの方は心配しなくても良いからな。いってくる。」


なんて事が今朝あったんだけど…今晩のご飯はどうしようかなぁ…
時刻は既に夕方だし、とりあえず…スーパーに行かないと。今晩のご飯のおかずも無いからね。

「ガルム。スーパーに行くよ。なにか材料買わないと。」
「我が行ってきますが…?」
「駄目。私も行くよ。」

久々に料理作るんだから、自分で材料を選びたいからね。
制服からラフなジーンズとシャツに着替えて、スーパーに向かう。
ちなみにガルムは犬の状態で居てもらう事にした。大して多く買う予定では無いからね。
まぁ…店内に入れないから外で待っててもらうんだけど…

スーパーに着くと…なんだか大きな…犬?が入り口近くに寝そべっている…
誰かの飼い犬かな?けど…大きいなぁ。それに…額にアクセサリーつけてる。
大きいと言ったら、ガルムもなんだけどね。

「それじゃ、ガルムはここで待っててね。買い物してくるから。」
「…」≪いってらっしゃいませ。≫

さて…今晩のメニューはどうしようかな。あ…今日は合い挽肉が安いんだ。それに玉葱もお買い得か。
うん、ハンバーグにしようかな。…あれ?確かガルムって…玉葱が駄目だったかな。
買い物籠に材料を入れていくと、私の視界の端に映る見覚えのある綺麗な金色。


「あれ?フェイトちゃん!!」
「え…?メビウス…?」

後を追いかけていくと、やっぱり、フェイトちゃんだった。
凄い偶然だ。向こうも私と会うとは思わなかったのか少し驚いている。当然だよね。私だってまさかここで会えるとは思わなかった。

「こんにちわ、また会えたね。」
「う…うん。また…会えた。」
「あは。もしかしてフェイトちゃんも夕ご飯のお買い物?」
「そう…だね。」
「そっかぁ。なに食べるの……え゛?」
「?」

そう言いながら籠の中を見る私だけど…中身を見て変な声を出して固まってしまう。
いや…だって…中身が殆ど…栄養食品だよ?カ○リ○メイトとかばかりなんだけど…
顔が引きつるのを感じつつ、フェイトちゃんに問いかける。

「あの…もしかして…これが…夕ご飯…?」
「うん。そうだけど?」
「…ご両親は?」
「…居ないよ。二人で暮らしてる。」
「あ…ごめんね。」

悪いこと聞いたなぁ…
視線を伏せながら言うフェイトちゃんに罪悪感を覚えるけど…それでも夕ご飯がこれじゃ流石に…
二人暮しって事は…兄弟とかかな…?
けど、こう言うのを食べるって事はご飯を作らないって事で…う~ん…そうだ!!

「ねぇ、フェイトちゃん。もし良ければ…私がご飯作ろうか?」
「え…?メビウスが…?」
「うん!!ほら…私たちは育ち盛りなんだし、そんなのよりおいしいご飯の方が良いよ!
それに私も今日は親が居ないからね。どうかな?」
「え…その…」

戸惑うフェイトちゃんだったけど、少し考えて小さくコクンと頷いてくれる。
よかったぁ。うん、皆で食べたほうがきっと美味しいし、ご飯も進むからね。
そうと決まれば、沢山材料買わないと。
そのまま私とフェイトちゃんの二人で今日のご飯の材料を買い集める。



「合い挽肉にしようかな。」
「合い挽肉?普通の挽肉と違うの?」
「そうだよ。牛と豚が混ざってるんだ。少し白っぽい部分は脂が強いところだからね。」
「へぇ…知らなかった。」
「あはは。私も教えてもらったからね。次は…」

「ん~、卵は…ミックス卵で良いかなぁ。」
「ミックス?普通の卵とは違うの?」
「あぁ。ミックスって言うのはMサイズとSサイズが混ざって入ってるんだよ。時々、特売になるから要チェックだね。」

「フェイトちゃんのお家にお米ってある?」
「えっと…無いと思う。」
「そっかぁ…うん、それじゃインスタントのお米を買っていこうか。流石に生米は持っていけないからね。」
「インスタント?」
「そうそう。電子レンジで暖めれば食べれるって言う便利なのだよ。」


「後は…コショウかなぁ。」
「これ?」
「あ、違う違う。それは塩コショウだよ。塩が混ざってるからステーキとかに使うんだけど…今日は普通のコショウにしようね。」
「そうなんだ…。物知りだね。」
「料理は楽しいからねぇ。」



こんな会話をしながら籠に商品を入れていく。
うん、玉葱と合い挽肉とパン粉で今日はハンバーグに決定!!
荷物を二人で分け合って持つけど、大丈夫かな?フェイトちゃんって細いし…
心配して私は声をかける。

「重くない?」
「大丈夫。メビウスに全部持たせるの、悪いから…」
「そっか。けど気をつけてね?ガルム~、そろそろ行くよ。…どうしたの?」
「アルフお待たせ。…なにしてるの?」

スーパーを出て、待っていたガルムに呼びかけるんだけど…なんだかさっきの大きな犬と、睨み合いみたいなのをしてる。どうしたんだろう?
それにどうやらフェイトちゃんの飼い犬みたいだし…いや、もしかすると…使い魔…かな?

「ねぇ、もしかして…その子って、フェイトちゃんの使い魔?」
「う…うん、アルフって言うの。そっちの犬はメビウスの?」
「そうだよ。ガルムって名前なんだ。けど、そっかぁ。フェイトちゃんの使い魔かぁ。」

やっぱり、そうだったみたい。うん、正解だね。二人で暮らしてるって事は…アルフは人間形態になれるって事だよね。
アルフに軽く会釈すると不思議そうに、私とフェイトちゃんを交互に見る。ガルムは静かに私の隣に移動してくるけど…警戒してる。
あぁ…そう言えば、私達とアルフは初対面だったね。ガルムは用心深いから警戒してるんのかな?少し大げさな気がするんだけどね。
そう思いながら小さく苦笑しながら、アルフに声をかける。

「始めまして、フェイトちゃんの友達のメビウス・ランスロットです。よろしくね。」
「…友達…?」
「うん。そうだよ。…フェイトちゃんは私と友達はいやかな?」
「ち…ちがうよ!その…初めてだから…。」
「あはは。私なんかで良ければ友達でいようね?」
「…うん。」

友達と言ったのにアルフより先に驚いたフェイトちゃんだったけど…良かった。
てっきり、私と友達は嫌なのかとおもったけど…小さく笑ってくれた。
あれ?笑ったフェイトちゃんを見てアルフが驚いたようにしてるけど…どうしたんだろう?
ガルムはガルムで…何故か勝ち誇ったようにしてるし…

「それじゃ、フェイトちゃんの家に行こうか。腕によりをかけて作るよ!」
「あ…ありがとう。」

ちなみにフェイトちゃんの家に向かう途中で夕食を作ると言う事を説明して、軽く自己紹介もする琴にした。
さて…今から楽しみだなぁ。


フェイト宅。キッチン。


「さて…ではメビウスのお料理タイム!!」
「パチパチパチ」
「?」

フェイトちゃんの家のキッチンで気合を入れたんだけど…うん、少し戸惑ってるね。
そしてガルム。拍手は少し恥かしいかも…
とりあえず…髪を邪魔にならないようにアップで纏めて…よし、これでOK。

「エクス、展開。」
『エプロンモード起動します。』
「え…エプロンモード?」

エクスに声をかけるとバリアジャケット構成と同じ感じで、蒼いエプロンが出来上がる。
料理するときはエプロンしないとねぇ。…後ろでフェイトちゃんが驚いているのは気のせい。

「さて…まずは玉ねぎを切らないとね。」
「我はどうしましょうか?」
「それじゃ、ドレッシング作っておいてね。」
「御意。」
「わ…私も手伝う。」
「そう?それじゃサラダの方お願いね。」
「うん…えっと…」

ガルムにはフレンチドレッシングの作成をお願いする。私と一緒に料理を作るからなのか、結構上手なんだよね。
ちなみにアルフは部屋の掃除をしてるみたい。
そして、フェイトちゃんがぎこちない感じで包丁を持つけど、大丈夫かな…?
野菜を切ってもらうんだけど…って危ない危ない!!

「待ってフェイトちゃん!左手は猫の手にしないと…」
「猫の手?」
「そうそう。こう…手をグーにして…軽く抑える感じで…」
「こう…?」
「そうそう。それだと手を切らないからね。」
「包丁で切った傷は痛みますのでご注意を。」
「う…うん。」

さてと…サラダはフェイトちゃんに任せて…時々、様子は見るけどね。
では、美味しいハンバーグを作りますか。

まずは…玉ねぎを細かくミジン切りにして色付くまでよく炒めて、ボールへ移して熱を取る。
眼に染みるけど、我慢して細かくしないとね。これは肉との間に隙間を作らないためなんだ。隙間が出来るとボソボソになっちゃうんだよなぁ。
それに玉ねぎを炒めるのって、ハンバーグは蒸し焼きにするから玉葱の水分を飛ばす為なんだよね。
それに焼きやすくなるし、甘味も引き出すことが出来るんだよね。

「掃除は終わったよ。あたしも手伝うかい?」
「アルフは…それじゃ、そこの挽肉を練っておいてくれる?目安は2、3分かな?」
「これかい?…なんだかベトベトするね。」
「生肉は脂があるからな。手を洗浄してからにしろ。」
「分かってるよ!…あんたはなに作ってるんだ?」
「我はドレッシングだ。サラダにかけるのだからな。…残すなよ?」
「あたしは肉が良いんだけどね。」

挽肉に対して…大体、1%の塩を入れると良いんだよね。今回は400gだから4g位かな?
後はパン粉を水に加えて、軟らかくしてっと。
ちなみに牛乳でもいいんだけど、今回は水にしようかな。
水はしっかりと絞っておかないとね。そうすると肉汁を吸ってくれるからね。

「アルフ。良く練ってね。」
「はいよ。」
「練らないと駄目なの?」
「うん。肉汁が逃げて、食感がボソボソになっちゃうんだよ。」
「つまり、お前の責任は重大という事だ。抜かるなよ。」
「あんたは一々…そっちこそドレッシング、ミスるんじゃないよ?」
「愚問だな。次はケチャップを…」
「あ~!!ガルムだめ!!今回は普通のドレッシングで良いから!」
「ぬぉ…!?」
「ほ~ら。言った側から。」
「アルフ、時間過ぎちゃうよ?」
「へ!?」

まったく…二人とも、大丈夫かな?フェイトちゃんの方は…ぎこちないけど、うまく出来てるみたい。
次はアルフが練っている挽肉に材料を加えてっと…
ここで香辛料とか加えるとまた、変わるんだけど…今回は普通にしようかな。

「卵を割るときは、軽くコンコンしてからね。」
「卵か…ドラマとかで額で割るってのがあったよ?」
「あれは…結構、痛いんだよ?それに…下手すると中身が顔面に…うぅ…トラウマが…」
「メビウス…やったことあるの?」
「正確にはサイファー様ですね。…あの時のメビウス様は…可哀想としか…」

…黒歴史と言うかトラウマが出てきたからここまでにしよう。
フェイトちゃん…可哀想にこっちをみないで…
練った材料を4等分にして…手でキャッチボールみたいにして空気を抜いて形を整える。

「こんな事するのに意味あるのかい?」
「こうすると中の空気が抜けて型崩れとかしにくくなるんだよ。形や厚さを均等にするのあるんだ。」
「へぇ~。ならしっかりとやらないとね。」
「おい、アルフ。お前の分だけ大きくないか?」
「あ…本当。少し大きいよ?」
「き…気のせいだよフェイト!!」
「…ちなみに大きすぎたり厚すぎても肉汁が逃げて、美味しくなくなるからね?」
「え゛!?」

焼くときは真ん中を少しへこませると、焼きやすくなるんだよね。
蓋をして蒸し焼きにしてっと…火加減は中火かな?

「っ…!」
「フェイト!?大丈夫!?」
「少しだけだから…」
「あ…もしかして切っちゃった?」
「うん…。」

フェイトちゃんの人差し指を見ると、確かに小さく紅い雫が出てきている。
痛いからなぁ…とりあえず…

「フェイトちゃん、ちょっと動かないでね。」
「え?」
「…んっ。」
「!!?????!?!めめめめめめめめメビウス!!????」
「…………」
「アルフ、呆けてないで絆創膏もってこい。」

口の中に広がる鉄の味。まぁ、慣れるものじゃないね。
フェイトちゃんの指を口の中にいれて怪我した部分をなめとる。

「ん…ちゃぱ…ちゅる…れるれる…」
「あ…ん…!メビウス…くすぐった…ん!」
「……」
「おい、口を金魚みたいにパクパクさせてないで、絆創膏持って来いと言ってるんだが…えぇい、場所は何処だ?」

ガルムは隣で思考停止してるアルフを引っ張って、絆創膏を探しに行ってくれた。

「ちゅぽ…この位かな?」
「あ…その…ええっと…」
「後は軽く濯いで絆創膏を張ってね。」
「う…うん。」

ガルムが絆創膏を持って戻ってくるんだけど…アルフはリビングに置いて来たみたい。
どうしたんだろう?
濯いだ指に絆創膏を張って…うん、血はあまり出てこないから大丈夫かな?

「とりあえず、後は私とガルムで出来るから、待っててね。」
「フェイト様はそちらでお待ちください。アルフも置いてきましたので。」
「わ…分かった。…メビウス。」
「ん~?」
「……ありがとう。」
「どういたしまして。…なにが?」
「うぅん。良いの。言いたかっただけだから。」

そう言ってフェイトちゃんは顔を紅くしてリビングに向かっていった。


・フェイト・

どうしよう…
それが今の私の頭の中。きっと顔は恥かしいぐらいに真っ赤になっている。
チラッと視線をキッチンで料理しているメビウスに移し、張られた絆創膏を見る。
そして…メビウスが舐めた…指。
思い出すと物凄い…恥かしさがまたやってくる。まさか…舐められるとは思わなかったから。
…アルフがさっきから呆然としてテレビ見てるけど…どうしたのかな?

「…あっ。」

キッチンの方から凄く美味しそうな匂いがして来た…
アルフも隠していた耳や尻尾をピンと立ててそわそわし始めている。
すると、私のお腹が小さく「きゅるる」と鳴る。…うぅ…聞かれてなくても恥ずかしい…

「はい。お待たせ~。メビウス特製フワフワハンバーグの完成!!」
「食事はこちらのテーブルで良いのですか?」
「あ、うん。こっちで良いよ。」
「いい匂いがするねぇ。」
「アルフは食器並べててくれるかな?」
「はいよ。」

テーブルの上に並べられていく美味しそうな夕ご飯。
本当に…いいにおいがする。

「本当はデミグラスソースも作りたかったんだけどね。」
「メビウス様、それは致し方ないかと。今はこれで我慢しましょう。」
「そうだね。また今度にしようかな。」
「また…今度?」
「うん、迷惑じゃなければね。また作りにくるよ?」
「良いのかい?」
「もちろん。」

また今度。という言葉に戸惑う私の代わりにアルフが問いかける。
それにメビウスは戸惑う様子も無く、直ぐに答えてくれた。
なんだか心が…温かくなるのを感じる…

「今度はお米もキチンと用意しないとね。」
「次回は我が人間形態で行きましょう。そうすれば問題は無いかと。」
「そうだねぇ。あ、後でレシピ書いていくからね。もし挑戦する気になったら作ってみてね。」
「うん。」

短く答えるのが精一杯。
心が一杯になっていく…色々なもので満たされていく感じがする…

「それじゃ、いただきます。」
「いただきます。」

メビウスが椅子に座って、皆でご飯を食べ始める。
本当に…本当においしい!
そんな私を…メビウスは優しく笑いながら見ていた。





あとがき

地理的位置関係は…ご都合主義でお願いします。
ガルムとアルフは使い魔と言うことで玉葱は大丈夫ということにしてみました。
王道イベント、料理作りに行くよ!!そして指を切る。
…料理作る男の子って萌えません?皆で料理作るのって楽しいですよね?
今回はこんな感じにしてみました。
そして…祝!!エースコンバットX2クリア!!(遅!
最後のスレイマニの機動なんだあれ?機関銃で倒したほうが速いじゃないですか…
しかし…クリアした時の感動が薄いと感じてしまった作者は一体…
ちなみにガルムさんはメビウス君の友達とかには基本敬語です。


以下返信

34様

はい。そのとおりです!!
いや…なんか…メビウスとメルツェルって…同じ感じじゃないですか?
あの位信頼関係が築かれて居とる思ってもらえれば良いのですが…



薺様

アンタレスも出したいとは思っているのですが…
序盤はメインキャスト?を一通り揃えてからですので…少し後になるかもしれません。



ダンケ様

パイパーシリーズはカッコいいですよね。クール?なイメージがありますねぇ。作者には扱える機体ではないですがね…
Fox2は誰かに言わせたいですねぇ…。候補としては今のところメビウス君だけですので…今後のキャラに…(笑
サイファーお母さんって実は…(超遠距離狙撃により通信途絶。




[21516] 8話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:d5622272
Date: 2010/09/14 22:35
・閃・

ミッドチルダ、首都クラナガン、中央区、フレッシュリフォー本社ビル。
デバイス開発研究部

「どうも。閃ですが…」
「おお。閃君、良く来たね。まぁ座って座って」

折角の日曜日、なんでか知らないが俺は今、デバイスの開発部署に来ている。
あれか?ナイトレーベン分解案が通ったか?それともAI書き換え許可が出たか?
白衣を着た研究員が笑いながらお茶を出してくる。
とりあえず…礼を言って受け取る。…変な薬入ってないだろうな?

「そんなに警戒しなくてもいいよ。今回のは、何も入ってないはずだから。」
「待てこら。今回のは、とか、入ってないはず、とか怪しすぎんだよ!!」
「はっはっは。疑い深いなぁ。………ちっ…」

今舌打ちしたよな?小さく舌打したよな?
こんな危ないお茶なんて飲めるかよ…!!
しかし…研究員って…全員、こんなのかよ…。頭が痛くなるな…

「それで?俺を呼んでどうしたですか?」
「あぁ。君を呼んだのは主任で、僕は君の接待。」
「主任が?」

主任という言葉に俺は反応してしまう。
以前にナイトレーベンの開発案を提案したら、真っ先に食らいついてきたのが、主任、と呼ばれている研究員だ。

「主任は奥に居るからね。ちなみに…奥はカオス!!」
「なんだそりゃ…」

物凄く不吉な事を言って歩いていく研究員の背中に言葉を投げつける。
畜生…俺の周りにはメビウス級にまともな奴は居ないのか…。あいつはあいつで色々な意味で桁外れだけどな
痛む頭を抑えながら、奥へと続く扉を開ける。

「うへぇ…相変わらず汚ねぇな…」

小さな個室になっているその部屋は主任専用と呼ばれる部屋なんだが…
床や机の上に散乱している設計図や資料。足の踏み場もないぞこれは…
そして机で資料に埋もれるようにして、突っ伏して眠っている男…こいつが主任だ。
ちなみに名前は知らん。と言うか教えてくれない。

「お~い、主任。起きろ。」
「あ~…?…………男か………ぐ~」
「…この設計図燃やすぞ。」

適当においてあったライターに火をつける。こんだけ紙があれば直ぐに燃えるだろう。
設計図に火をつけようとした瞬間、主任が飛び起きて奪い取る。
最初から起きろよ。

「きききき…君はなんて事を!!僕の大事なデバイスちゃんを燃やすなんて!!それに、未来の魔法少女達が困るじゃないか!!ギンガとかスバルとか!!」
「だったら起きろっての。後、メタな発言は止めろ阿呆。」

資料を抱きしめる主任。そしてこいつの口から出たナカジマ姉妹の名前。
そう…実はこいつも転生者なんだよな。
ナイトレーベン開発案を出したときも「ナイトレーベン…挟まっちまったぜ!!ってやりたいのかい?」
知らない人は知らないだろうが、俺は物の見事に反応してしまった。
それで適当にネタを振ったら、大当たり。
結局はお互いの素性を話して、協力体制を作り上げたと言うことだ。名前を教えてくれないのは、リリカルに合わない平凡な名前だからだそうだ。なんだそりゃ。
実年齢も不詳。見た目的には結構若いと思う。…良くこんな奴を雇ったなフレッシュリフォー。…あ、人材採用したの家の両親じゃん。
ちなみにこいつの場合、デバイスに物凄く興味があったらしく、魔道師よりこっちを選んだみたいだと。実際、魔法要素も低くて研究者タイプらしい。
そして何より…主任はある意味で物凄い目標を掲げている。
その目標は…「ジェイル・スカリエッティと頭脳で並ぶ」だとよ。
まぁ、確かに…怪しさ満点の人物だが…掛け値なしの超天才であることには間違いない。
デバイスの開発やら医療関係とかでの功績は計り知れないと、父さんが言っていた。
実際、ナイトレーベンも主任が一人で完成させたようなものだ。俺も少しは手伝ったが、殆ど足手まといだったかもしれない。
しかし…天才となると人格破綻者ばかりなのか?…デバイス愛の変人だぞ…
とりあえず、俺は適当に資料を退けてソファに座る。
主任は机の上の資料を纏めて、外していたメガネをかけている。
…メガネを人差し指でクイクイってしてんじゃねぇよ。

「それで、俺をよんだ理由は?」
「中途半端に原作介入して、中途半端に悩んでいる君を呼んだ理由は…ごめんなさい焼かないで。」
「真面目にしてくれ…話が進まないだろうが。」
「…君から送られてきた資料を見せてもらったよ。…まさか、リボンの英雄にスライプナーが渡ってるなんてね。」
「主人公らしくて妥当じゃないのか?」
「確かにそうなんだけど…見事に使いこなしてるようだね。彼にスライプナーが渡っていると…他のVRシリーズも物語の主要メンバーに渡っているのかもしれない。」
「そうだと良いんだけどな。」
「しかし驚いたよ。まさかこの世界にリボン付きの英雄が居るとは。いやはや、転生はしてみるものだね。」
「だからメタな発言は慎めよ…」
「良いじゃないか。転生した人間の特権だし。っと…頼まれていた物をまとめて置いたよ。」

ちなみに、こいつとも情報交換を行っている。流石に俺一人だと限度がある。
そう言って主任は机の引き出しから数枚の資料を取り出して、俺に投げてよこす。
そこには、今まで開発されてVRデバイスシリーズが書かれていた。
だが…殆どに共通して書かれている文字、それは…

「行方不明…か。」
「そのとおり。誰が何時、どうやって持ち出したのか。それすら不明なんだ。…あれは開発期間、資金、人材を出鱈目に投入して作り上げたデバイス。
しかも、デバイス自体にも魔法出力がある。簡単に手放すような物じゃない。」
「…№1のスライプナーは見つかったって事は喜んでおくか。」
「しかも、それが主人公に渡ったんだ。いい傾向だと思う。」
「シリーズが開発された時期って分からないのか?そこからルートを調べるのは?」
「残念ながら記録が抹消されていてね。けど…懸念すべきはそこじゃない。」
「…ゴッデンシュタイナー、か。」
「そう…自己中心転生者。なにを勘違いしてるか知らないけど…やばいね。痛すぎる」
「こっちではどんな感じなんだ?」
「管理局と密接な関係を持っている一族。そしてベルカとも関係がある一族、って所かな。
これと言って、大して情報はないなぁ。近くに居る君はどうなんだい?」
「今のところは表立った行動はとってないな。逆に静か過ぎて恐いぐらいだ。虎視眈々と何かを狙ってる気がすんな。」


主任は額を押さえながらため息をつく。
奴との会話ログを先に送っておいたから、多分聞いていたんだろう。
まぁ…その気持ちは分かる。しかし…実際、ゴッデンシュタイナーは静かにしている。
あの夜以来、索敵をしてもまったく引っかからない。戦闘もしてなければ、魔法すら使っていない。
それが俺にとっては不気味でしょうがない。

「デバイスは、形状的にあれはVRシリーズじゃないね。」
「そうなのか?」
「あれはアスカロンだと思う。一つ目の仮面も特徴的だからね。」
「アスカロン?…竜殺しの剣だっけか?」
「そのとおり。僕達の世界にあった、あるゲームに同じような機体が出ていてね。双剣で一つ目の顔を持ってたかな?
…まぁ、悪役だったけどね。」
「…奴は竜殺しの英雄にでもなるってか?はっ、笑い話にしかなんねぇな。」
「それに設計図描いたの僕だし。」
「お前かよ!!」

にこやかに話す主任に突っ込みを返す。
なんこう事をサラっといってくれんだよ…
しかし…奴がどうあがこうと無駄。
すでに主人公であり英雄は存在している。
世界が既にそう決めてんだからな。それを無視すれば…消されるはずだ。

「当面は気をつけた方が良い。そろそろ管理局も動き出してくるはずだからね。」
「管理局か。そっちで何か良い事はないのか?」
「研究所入り浸りの僕に言ってもねぇ。何か情報が入ったら逐次、教えるよ。」
「そうか。こっちでも原作外の出来事が起きたら連絡する。」
「そうしてくれ。それじゃ、態々、足を運んできてくれたお礼にナイトレーベンのチェックでもしようかな。」
「ついでにAI設定変えてくれ。」
「無理。」
「即答かよ…」


・メビウス・

今日は日曜日。
オメガの所属しているサッカーチーム翠屋JFCの試合がある。
折角の休日でもあるし、ジュエルシードの回収もそれなりに順調という事もあって、観戦に行く事になった。
場所は河原のグラウンドで、私の他になのちゃんやアリサちゃんにすずかちゃんも、観戦している。
閃も誘ったんだけど、急用があってこれなかったみたい。
士郎さんがオーナーを勤めているからか、強いんだよね。
ちなみに、ガルムとユーノも動物形態で一緒に居る。なのちゃんにはユーノが人間の男の子と言うことは、以前に説明しておいたしね。

「けど…本当に良い天気だね。」
「そうね。晴れてよかったわ。」

そう言いながら、アリサちゃんが眩しそうに空を見上げとる。雲一つない快晴の青空が広がっている。
春の陽気でなんだか眠くなってくるなぁ。丸くなって眠っているガルムの間にユーノが入り込んで、眠っていた。
ん~…気持ち良さそうに眠っているし…起こさないで上げよう。

「あ、オメガ君にボールが渡ったよ。」
「マークが厳しそうだけど…抜けれるかな?」
「オメガ君!!頑張って~!!」
「行け!!オメガ!!」

すずかちゃんの言葉を聞いてグラウンドを見ると、オメガにボールが渡った。
サッカー好きのオメガは、ここでもエースとして活躍している。
私達が見ても、マークが厳しいと思うのに軽々と抜いて、シュートを決めた。
シュートを決めたオメガは、私やなのちゃんの声援が聞こえたのか、こっちに向いてガッツポーズを取る。
そしてチームメイトとハイタッチを交わしていく。
ん~、やっぱりオメガは凄いなぁ。実力もあるし、人望みたいなのもある。

「相変わらず、体力はあるわね。」
「オメガだしねぇ。サッカー命みたいなものだよ。」
「本当にあいつは…サッカー馬鹿よね。メビウスやらないの?」
「私は…どっちかと言うとバスケットボールが好きかなぁ。」
「ふ~ん。あら?けが人かしら?」

アリサちゃんの言う通り、試合が中断している。
確かに…翠屋JFCの選手の一人が怪我をした見たい。大丈夫かな…?
…あれ?オメガが士郎さんと話して…こっちに向かってくる?

「メビウス。」
「どうしたのオメガ?」
「脱げ、そして蹴れ。」

次の瞬間、私のキックが綺麗にオメガのわき腹に突き刺さった。
そのまま、奇声を上げながら土手を転がっていくオメガを冷たい眼で見る。
流石に…親友でも許せないことはあるんだよ?

「……公衆の面前で…」
「違ぁぁぁぁぁう!!!そういう意味じゃない!!」

転がっていく途中で体勢を立て直したオメガが再びこっちに走ってくる。

「さっき、怪我人が出たろ?それで、メンバーが足りなくなってよ。」
「補欠は居るんでしょ?」
「居る事は居るんだけどよ。みんな自信が無くてな。士郎さんと相談してメビウスにしたんだよ!!」
「…私に?」
「おう!!頼むぜメビウス!!」

いや…頼むよって言われても…
迷っているとクイクイとなのちゃんが私の手を引っ張る。

「メビウス君。」
「なのちゃん、なに?」
「頑張ってね!!一生懸命応援するからね!!」

なのちゃん、物凄く眼をキラキラさせてるんだけど…
結局、なのちゃんにお願いされたと言うことで、試合に参加することになった。

「メビウス!オメガ!!頑張りなさいよ!!」
「二人とも、頑張って!!」
「メビウス君!!カッコいい所見せてね!!」

背中に三人の声援を感じる…。
翠屋JFCのユニフォームを着て、グラウンドに立つ。うん、高揚感って言うのかな?悪くないと思っている自分が居る。
少し長い髪はリボンでしっかりと止めてあるし…準備OK。
私は1番、オメガは11番を背負っている。
あれ?向こうのチームに見たことのある顔がある。

「大変だ純!!相手はリボン付きだ!!」
「落ち着け勇次!!」

確か…隣のクラスの純と勇次…だったかな?
なんか二人して私を見て、驚いてるけど…

「ハッハー!!二人で一つのコンビネーションで行くぜ!!」
「あんまり期待しないでよ?」
「メビウスに期待するなって言うのが無理な話だぜぇぇぇ!!」
「その根拠はどこからなんだろうね。」

小さく苦笑しつつ、足元のボールを軽くリフティングする。
オメガと付き合っていれば、必然的にサッカーをすることにはなる。
少しだけど、リフティングとかは出来るんだよね。
軽く5回程度して、…よし、覚悟完了。

「さぁ…交戦開始だぇぇぇ!!」
「皆!!よろしくね!!」

後ろに居るメンバーに声をかけると、大きく「メビウスが居れば勝てる!!」とか色々と聞こえてくる。
まったく…オメガと似てみんな能天気なんだから…
けど…悪くないね。さて…なのちゃん達が見てるんだ。かっこ悪い所は…見せれない!!
審判がホイッスルを吹く。さぁ…開戦だ!!

「メビウス!!パス!!」
「っと…右から行くよ!!」
「二人に続けぇぇぇ!!」

「止めろぉぉぉ!!!」
「無理ですって!!11番だけでも手ごわいのに!!」
「あぁ!!純が抜かれた!!」
「慌てるな勇次!!お前が止めろ!!」



結局、試合は5-0で圧勝。
ちなみに私は2点でオメガが3点を決めた。
途中参加だけど、結構、楽しかったなぁ。
試合終了と共に、チームメイトにもみくちゃにされたけど…それもそれで凄く楽しい。
うん、やっぱり参加してみるといいものだね。
ベンチに行くと、何時の間にか、なのちゃんがタオルとドリンクを持ってきてくれていた。

「お疲れ様メビウス君!!とってもとってもカッコ良かったよ!!」
「あはは。ありがとう。なのちゃんのお陰かな?」
「わ…私の?」
「うん。なのちゃんの応援、良く聞こえたからね。ありがとう。」
「そっか…えへへ。良かったぁ。」

タオルを受け取りながら、なのちゃんにお礼を言う。
一番、なのちゃんの声援が聞こえたし、それが後押しをしてくれていた気がする。
けど…疲れたなぁ。

「この後、家でお祝いするんだって。メビウス君も来るよね?」
「あ、そうなの?それじゃ…折角だし行こうかな。」
「やった!!手作りのお菓子、用意するね!!」
「なのちゃんのかぁ…楽しみだね。」

隣ではしゃぐなのちゃんを見て、私も笑う。
なのちゃんのお菓子はおいしいからなぁ。
今から楽しみになってきた。
さぁ…翠屋でお祝いだ!!






主任。本名不詳年齢不詳。
転生キャラ3。基本変態&メタ発言キャラクター。
あと開発担当キャラ。


あとがき

ん~…相も変わらず文章が微妙…今回は日常?をモチーフにしてみました。まぁ…サッカーの試合ですけど。
しかし、それでも強行すると言うね。
閃君視点が物凄く書きやすい…あれか?メビウス君を主人公らしくかっこよく書こうとしてるからか?微妙に書きづらいのは?
純と勇次は一発キャラです。
いや…思いっきり、分かる人は分かると思うんですけどね。

以下返信


ADFX-01G-2様

メビウスが8人…そこまで考えていませんでした…
ゴッなんちゃらさんの活躍(笑)はもう少し後になると思います。
今のところは行動を起こしてません、なのはの観察のみです。
カリバーンですか…機体の出し方が今一分からずタイフーンでクリアでした…
機体の値段が高いです…


B=s様
誤字報告ありがとうございます。
普通に鳴海と打ってましたね。本当にありがとうございます。


ダンケ様

ばれたら確実に焼きもち焼かれますね。メビウス君。これが厨二クオリティ!!
作者の愛機はライデンでしたね。開戦同時主砲でごり押しでした。テムジンも使ったりはしてましたね。
サイファーお母さんは鬼神ですので、もう少しお待ちを…



[21516] 9話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:621d3fa3
Date: 2010/09/23 22:55
・なのは・

「レッツパァァリィィィィィ!!!!」
「ああもう!!オメガ!!少し落ち着きなさいよ!!」

そう叫びながら、オメガ君がジュースを一気飲みしてるのを、アリサちゃんが煩そうに止めている。
すずかちゃんは他のクラスの子達とお話をしている。
サッカーで勝ったという事で、翠屋でお祝い会をしてるんだけど…にゃはは、すごい元気。
さっきまで走り回ってたとは思えないや。
私もお母さんのお手伝いでジュースやケーキを運ぶのを手伝っているの。

(あれ?メビウス君は…何処だろ?)

お店の中を見渡すと、隅っこの方でジュースを飲んでいるメビウス君を見つける。
もぅ、メビウス君だって活躍したのになぁ。
途中参加なのにオメガ君と一緒にみんなの注目を集めていたメビウス君。
同じクラスの女の子達も見に来てて…すごく応援してた。それがなんだかいやで、私も大きな声で応援をしてたの。
優しくて、色々な事が出来るメビウス君は誰にでも好かれる。その…ラブレターみたいなのを貰って…困ったように笑ってた時もあった…。
小さい頃から何でも出来たメビウス君だけど…私はその秘密を知っている。
だって…ずっとずっと一緒にいたんだもん。メビウス君はいっつも努力していたの。
お勉強だって沢山してたし、運動だってしてた。オメガ君に誘われたサッカーだって、最初はすごく下手だった。
けど、練習して、沢山沢山練習してたのを私は知っている。だって…小さい頃からずっと見てきたんだもん。
お料理も、最初は手が絆創膏だらけだった。けど、今はすごく上手になってるの。
絆創膏を張った手を見て、私が泣いちゃったのは…恥かしかったなぁ。すごく痛そうで…悲しくなっちゃったんだよね。

「ふふ。なのは、こっちは大丈夫だから。メビウス君の所に行きなさい。」
「にゃ!?…うん!!」

お母さんが笑いながら、そう言ってくれる。うぅ…ずっとメビウス君の方を見てたからかな…?
直ぐに私は、さっき作ったばかりのクッキーとケーキをお盆に載せて、メビウス君に駆け寄っていく。
最初に食べて欲しいもん。

「メビウス君、隅っこで良いの?」
「あ、なのちゃん。私はここで良いよ。流石にちょっと疲れたからね。」
「そっかぁ。ねぇねぇ、隣良いかな?」
「はい、どうぞ。手伝いはもう良いの?」
「うん、一通りすんだから。はい、これ。約束のお菓子!」
「あはは、ありがとう。すごく美味しそう。」

笑いながらケーキを食べてくれるメビウス君。えへへ、嬉しいなぁ。
小さい頃に、私が最初に作ったクッキー。失敗作だったのに、メビウス君は食べてくれた。
美味しく作ると言って張り切っていたのに、失敗した私を優しく慰めながら、おいしい、とも言ってくれた。
それからかな。もっとおいしいお菓子をメビウス君にご馳走したくて、沢山お菓子作りの勉強もしたし、お母さんにも習ったもん。
…お料理の方はメビウス君の方が得意だけど…お菓子なら負けない自身はあるの!

「メビウス!!オメガの馬鹿をとめなさいよ!!」
「まだまだ食えるぜメビウゥゥゥゥゥス!!!」
「はぁ…単純馬鹿なんだから。」

オメガ君がジュースを持ってこっちに突っ込んでくる。
むぅ~…折角二人だけでお話してたのに…
けど…メビウス君の親友だもんね。ここは我慢しよう。でも…後でもっと、二人だけお話できると良いなぁ。
…そう言えば…さっき、ジュエルシードみたいなのを感じたような気がするんだけど…メビウス君が何も感じてないし…勘違いかな?



・メビウス・

こっちに突撃してきたオメガを軽くいなして、椅子に座らせる。
まったく…本当に体力が有り余ってるなぁ。

「どうしたメビウス!!なんか疲れてんな!!」
「あのね…流石に…疲れるよ。むしろフル出場してたオメガが元気なのが不思議なんだけど…」

これでも運動は出来る方なんだけど…流石に体力では敵わないな。
…まさか、毎朝、走ってるからとか…言わないよね?

「あれ?ユーノ君は?」
「ユーノなら、あそこよ。」

なのちゃんがユーノが見当たらないのに気が付いたのか、周りを見渡す。
すると、アリサちゃんが女の子達の固まっている場所を指差したんだけど…
あ~…愛玩されてる…。可愛いものに好きなんだものね。
けど…大丈夫かな?なんかグッタリしてるような…
ん~…しょうがない。

「ガルム。行って。」
「……」

足元で丸くなっていたガルムに指示を出す。
言いたい事が分かってくれたのか、静かに女の子達が居るところまで歩いていく。
そして、ユーノの首の部分を咥えて、戻ってくる。
女の子達には悪いけど…流石に、あれ以上はユーノが可哀想だからね。

≪た…助かった…。ありがとう。メビウス、ガルム。≫
≪とりあえず、ガルムの傍に居た方が良いよ。≫
≪我の影に居たほうがよろしいかと。≫

ユーノが念話でお礼を言いながら、ガルムの足元に隠れる。
そのまま、ガルムはまた丸くなって、長い尻尾でユーノを包むようにして隠してくれた。
これなら、大丈夫かな?

「本当にガルムって頭が良いわよね。オメガより良いんじゃないの?」
「にゃはは…。アリサちゃん、流石にそれは………」
「なのちゃん…否定してあげようよ…」

そう言いながら感心するアリサちゃんなんだけど…まぁ、ガルムは人間にもなれるからね。
実際、ガルムは冷静でとても頼りになる。用心深すぎの時もあるけど…それに助けられた事は何回もあるからね。

「メビウス、ガルムを家にお婿に出さない?」
「お婿?」
「ほら、私の家にも犬が沢山居るから、どう?」

確かに、アリサちゃんのお家には沢山の犬が居る。
それこそ、大型犬から小型犬まで色々と飼っているんだよね。
すずかちゃんは猫好きで、アリサちゃんは犬好きなんだ。
けど…ガルムにお嫁さんかぁ。
…あ~…ガルムが思いっきり、興味ありませんよ。見たいな視線を私に送ってくる。

「興味無いってさ。」
「そう、残念ね。…って言うかあんた…鳴きもしないのに、良く分かるわね。」
「家族だからね。」

足元に居るガルムを軽く撫でながら、答える。
私にとってガルムは家族も同然だから、表情が変わらなくても直ぐに分かる。
そんな話をしてる内に翠屋でも、結構な時間が過ぎて、チームのメンバーや、アリサちゃん達が帰っていく。
ちなみに、オメガもはしゃぎすぎて疲れたのか、家に帰ったみたい。
私はなのちゃんや桃子さんと一緒に店内の片づけをしている。
ガルムとユーノは先に帰ってもらった。いや…ユーノが凄くぐったりしていたからね。

「ごめんね。メビウス君、態々、手伝って貰って。」
「いえ、良いんですよ。ご馳走になりましたし。」
「そう?でも、もう大丈夫だから、帰りなさい。なのはもね。」
「良いのお母さん?」
「えぇ。二人とも、ありがとう。」

桃子さんがそう言うなら…良いのかな?
そのまま、私となのちゃんは、掃除道具を片付けて、翠屋を後にする。
少し家まで距離があるけど…なのちゃんとお話しながら帰ろうかな。
…ん?…これは……?

「エクス、魔力索敵かけて。」
『了解しました。少々、お待ちを。』
「ほぇ?どうしたの?」
「ん…少し、気になることがね。」

まさかと思うけど…。
連日のジュエルシードの回収で、私も魔力の波長を覚えている。
索敵魔法程じゃないけれど、多少の魔力は感知できると思う。
一瞬だけど…似たような波長を感じ取ったんだよね。
そして…エクスが報告すると同時に…更に大きな波長を感じ取る。

『マスター!!市街地にしてジュエルシードの反応を感知!!』
「やっぱりか…!!」
「市街地って…大変だよ!!」

なのちゃんの言うとおりだ…。
今までは人が少ない公園や、空き地といった場所だったけど…市街地となると不味い。
あれだけの高魔力体が、そんな場所で暴走を起こしたら…大惨事になりかねない!!
くっ…。私とした事が…疲れと、試合での高揚感の所為で見落としていたなんて…!!

「なのちゃん、走るよ!!」
「う…うん!!」
≪ガルム!!市街地でジュエルシードが暴走してる!!≫
≪了解しました。我等も直ぐに向かいます。ご無理は為さらぬ様に。≫

ガルムに念話を送りながら、市街地に向かって走り出す。
少しなのちゃんの体力が心配だけど…今は急がないと…!!


ガルム達と合流して、市街地に着いた私達の眼に映ったのは、そこら中から生えている…木の根っこだった。
道路やビル等の到る所から、木が生えている。
直ぐにバリアジャケットを展開して、空に飛び上がる。
やっぱり…市街地の被害が出てるか…。
中心部を見ると、巨大な大木がそびえていた。そして、魔力の反応が増大していくのが分かる。
速く本体の場所を見つけないと…大変な事になる…!!

「こ…こんな…」
「サテライト起動!!探せ!!ユーノは結界を!!被害を抑えて!!」
「分かった!!」

なのちゃんが隣で呆然している。無理はないけど…今はそんな暇はない!!
索敵魔法のサテライトを起動させ、蒼いサーチャーが天高く飛び上がる。
その間にユーノが結界を張り、空間を隔離してくれる。
よし…これ以上の被害は防げるはずだ。

「なのちゃんも、探して!」
「あ、う…うん!!エリアサーチ!!探して、災厄の根源を!!」
「メビウス様、気をつけてください。狙われています!!」

なのちゃんが集中するようにして、眼を閉じる。
私の方も索敵を再開しないと…
そう思った瞬間にバイザーに危険と表示される。
視線を向ければ、木の根や枝が、意思を持ったように襲い掛かってくる。
索敵はなのちゃんに任せるしかないか…!!
サテライトを中断して、ブリッツセイバーを展開。なのちゃんの前に出て、襲ってくる木の根を切り払う。
ガルムも足技や、バインドを鞭のように使って、枝を払っていく。
木の根とは言え…数が多いと…梃子摺るな…!!
今の私は、数を相手にする誘導魔法は持っていない。ソードウェーブは単体にしか効果がないし、ボムも連射はそんなに出来ない。
これは、後で何か考えないといけないね…!!

「メビウス君!!見つけたよ!!」
「よし、私が護るから、なのちゃんは砲撃魔法を!!封印効果も付加してね!」
「うん!!」

なのちゃんの周りに桃色の魔方陣が展開されていく。何時見ても…綺麗だね。
っと…見とれている場合じゃないね。今の私の仕事は…なのちゃんを護る事だ。
襲ってくる根をセイバーや、ソードウェーブで切り払う。
時々、纏まってくる時は、ボムやフリーケンシーで一掃する。動きが単調で、これならタリズマンを使わなくても済むかもしれない。

「いっけぇぇぇ!!」

なのちゃんの掛け声と同時に、桁外れの魔力の塊がジュエルシード目掛けて飛んでいく。
これが、なのちゃんの砲撃魔法のディバインバスターだ。本当にシンプルで、標的に魔力をぶつけるとのだけど…その威力は計り知れない。
これの直撃を食らった…多分、殆どの魔道師は堕ちるんじゃないかな?それだけの威力を誇っている。
訓練の時にタリズマンで防ごうとしたら、物の見事に消し飛ばされたことがある。ギリギリで回避できたけど…冷や汗が止まらなかった。

『ディバインバスターの直撃を確認。…目標…健在です!!』
「嘘でしょ!?」
「そ…そんなぁ…」
『…根の部分を細かくし、盾にしたものと思われます。完全には防げなかったのでしょう。反応は弱体化しております。』

声を出して驚くユーノとなのちゃん。流石の私も驚くよ…。まさか、あの砲撃で倒せないなんてね…
末端を盾にして、切り捨てて本体を護ったって言う事か。
けど、エクスの言う通り、確かに本体の幹にも亀裂が入っている。
そして、内部に居る男の子と女の子の姿を確認することが出来た。

「あの子達…どうして…?」
「願いを叶える宝石…か。願いが強いほど…歪んで強大になる、で良いんだよね?
「うん。そうなんだけど…。」
「ちっ…二人分だと更に強くなる、と言うことか…厄介ですね。メビウス様。どうしますか?」

ユーノに教えてもらったジュエルシードの情報を思い出す。
今までの暴走体を考えると、納得がいくかもしれない。最初に戦った犬も強くなりたい、とか、大きくなりたい、と願ったんだ。
それが歪んで…あんな姿になったんだろうね。

「なのちゃんは下がって。今度は私がやるよ。」
「で…でも!!」
『なのは様。マスターは貴女の事を心配しているのです。連日の回収や封印で限界でしょう?』
「なのちゃん、私を信じて…ね?」
「…うん。」

なのちゃんが心配そうに…だけど、頷いてくれた。
さて…反応が弱体化してる今がチャンスだね。確実に…決めさせてもらうよ。

「エクス、モード変更。一撃必殺。」
『了解しました。一撃必殺に移行します。』
「い…一撃必殺!?」

物凄く物騒な名前のモードだけど…私にとって、最強の単体攻撃魔法。
これを防がれると、不味いけど…防がれる気はしない。
キャンセルを併用して、一気にトップスピードまで速度を上げる。
急制動や急旋回以外にも、スピードが上がる時間を【キャンセル】することが出来る。
最も…使い慣れないと、自壊する恐れがあるんだけどね。
そのまま、エクスを巡航モードに変形させて、上にサーフィンするみたいに乗り、本体に魔力刃を展開する。
最後の足掻きなのか、枝や根が襲い掛かってくるけど…遅い!!

「ランスロット家戦闘家訓!!第一章!!」
『一撃必殺!!』
「ブルー・スライダー!!」

これが私の最強の単体魔法、ブルー・スライダー。
魔力を推進力として、機動と突撃を行う強引な技だけど…威力は最も高い。
しかも、私の周りにも不可視の魔力で防御してくれているから、実質、突撃中は無敵と言っても良い。
欠点は…魔力の消費が多いことなんだけどね。

「砕け散れぇぇぇぇぇ!!!!」

そのまま本体に突撃して…本体の幹を両断する。これなら…再生は出来ない!!
けど…これで終わりじゃない!!
ブルー・スライダーを一瞬で解除して、キャンセルで急旋回し、そのままランチャーで魔力弾を撃ち込む!!

「これで…終わりだ!!」

私の宣言の通り…本体の大木は、真ん中から折れて…崩れていった。


・なのは・
ジュエルシードを封印したけど…町に…沢山、被害が出ちゃった。
あの時…私が…早くに気が付いてれば…こんな事にならなかったのに…
メビウス君だって…疲れてたのに…私が、無理させちゃった…
少し、離れた所で私は町の様子を見ていた。ユーノ君は限界なのか、ガルムさんの腕の中で丸くなっていた。
結界をしても、町の被害は大きく、夕方の今でも混乱は続いている。
けが人や、混乱した人達の声が沢山聞こえてくる。建物も、殆どが壊れていて…滅茶苦茶になっちゃっているの。


「なのちゃん、大丈夫?」
「わ…私は大丈夫だけど…メビウス君は…?」
「流石に…疲れたね…。」

ジュエルシードを封印して、笑うメビウス君の顔は、本当に疲れているみたい…。
そのまま、エクスさんを地面に突き刺して、寄りかかっている。

「今回は…私のミス…だっかな。」
「え…?」
「ここまで注意力が散漫だったなんて…。今度からは厳戒態勢にしないとね。」

メビウス君が悪い訳じゃないのに…
言いながら、メビウス君は悔しそうに空を見上げる。

「メビウス君の責任じゃないよ!わ…私だって…」
「え?」
「どうして…メビウス君が責任感じちゃうの?疲れてたんでしょう?休みたかったんでしょう?
それなのに…私の事を気遣って…最後は自分で終わらせちゃった…。小さい時から…何時も何時も、私の事を考えてくれていた。
何時も何時も…私が迷惑をかけても、笑って、慰めて…助けてくれた。
けど…それでメビウス君が…メビウス君が怪我するのなんて私はいや!!私だってメビウス君の役に立ちたいよ!!」
「なのちゃん…」

気が付けば、私は泣きながら大声を出していた。
けど…メビウス君は困ったように笑って…優しく抱きしめてくれた。

「なのちゃん、ありがとう。…けどね?私もなんだよ?
私も…なのちゃんが怪我をするのなんて嫌なんだ。大丈夫。私は強いんだから。」

優しく笑いながら、メビウス君は私を見る。
…やっぱり、メビウス君はずるいなぁ…。その笑顔は…一番弱いのに…

「メビウス君…私…決めたよ。」
「ん?」
「私、もっともっと魔法の勉強する。遊び半分じゃなくて…しっかりとジュエルシードも集めるの。
それで…メビウス君の足手まといにならないようにするの!!」

メビウス君は、そっか、と言って私の頭を優しく撫でてくれた。
優しくて…暖かくて…とても…安心するの。



・メビウス・

そっか…心配させちゃったんだね…。
私の戦闘スタイルは、殆どが単独で戦える事をコンセプトにしている。
詠唱が長い魔法はラジカル・ザッパー位だし、速度を重視した戦いを私は好んでいるから。
けど…確かに、なのちゃん達と一緒に戦うなら…集団戦闘も学ばないといけないね。
一人で突っ走るなら、それこそオメガと変わらない。
けど…オメガはそうするのは、自分が突撃役に適しているからと言う考えがあっての行動。
近距離戦闘に特化しているからね。
けど…私は近距離から中距離まで対応できる。私が援護するって言う選択肢もあるんだ。
やれやれ…私もしっかりと勉強しないとね。

『マスター、接近する魔力反応を確認しました。』
「なに…?」
『該当データありです。…フェイト様のようですね。』

バイザーに表示された方向を向けば…こっちに来る金色の魔力光が見える。
私達に気が付いたのか、上空まで来ると降りてくる。

「メビウス…!?」
「あぁ…やっぱり、フェイトちゃんだったんだ。」

流石に驚くよね。町も大きな被害だし…私達もバリアジャケットを展開してるからね。

「メビウス君…その子誰?」
「メビウス…そっちの子は…?」

私の後ろに隠れていたなのちゃんが、フェイトちゃんを見つけて、フェイトちゃんも私となのちゃんを交互に見るんだけど…
あれ?なんか一瞬、空気が重くなった気が…?

「こっちは高町なのは。私の幼馴染。」
「幼馴染…」
「向こうがフェイト・テスタロッサ。私の友達だよ。」
「友達…」

交互に紹介するんだけど……二人とも、なんか…重いよ?
ガルムなんて様子見みたいにしてるんだけど…

「…フェイトちゃんは…どうしてここに?」
「…ジュエルシードを渡してほしい。」
「え…?」

そう言いながらフェイトちゃんは私達にデバイスを突きつける。
その瞳は…冷たく…無機質だ。あの時みたいに…優しい光はなにも見えない…。
流石に恐いのか、なのちゃんが私の背中に隠れるけど…
っ!?…一気に殺気みたいなのが膨れ上がった…

「…フェイトちゃん、落ち着いて…ね?お話しよう?」
「話す事なんて何もない。大人しく渡して。」
「…どうしたのフェイトちゃん?」

ほんの一瞬だけど…またフェイトちゃんの瞳に悲しそうな光が宿った。
それに…デバイスを持つ手が少し…震えていて、とても辛そうに私は見える。
エクスをなのちゃんの近くに突き立てて、攻撃する意思は無いとアピールする。

「フェイトちゃん、私もなのちゃんも攻撃しないから…デバイスを下ろして…ね?」
「……いで…」
「え?」
「来ないで!!」

叫ぶと同時に槍のような魔力弾が打ち出されてくる!?
エクスは無いし…やばい…!!
私に着弾はしなかったものの、地面に命中し、爆発を起こす。
その衝撃でバイザーが割れたのか、左目の上に痛みが入る。
多分…欠片で切ったな…!!

「メビウス君!!」

なのちゃんが悲鳴に近い声を上げながら、こっちに駆け寄ってくる。
まぁ…正直…かなり、効いた。体力の消費が激しい身体には…きつい。
あ…抑えても血が出てくるか…深くやったみたいだね。

「あ…あぁ…」

私の傷を見て、フェイトちゃんが…何かに怯えるようにして、後退りしていく。

「どうして…メビウス君はなにもしないって言ったのに!!なんで攻撃するの!!」
「……」
「メビウス様!?貴様ぁぁぁぁぁ!!!!!」

なのちゃんが泣きながら、私を助け起こしてくれる。はは…血で視界が赤く染まってるよ…
眼は無事でよかった。流石にこの歳で隻眼とかはなりたくない。
異常に気が付いたのか、ガルムがこっちに走ってくる。そのままフェイトちゃんに攻撃しようとしたけど、私はそれを手で制止する。

「フェイトちゃん…一体どうしたの…?」
「……ごめんなさい…!!」

それだけを言うとフェイトちゃんは空に飛び去っていってしまった。
私も後を追おうとしたけど…背中に強くなのちゃんが抱きついて飛び上がれなかった。

「メビウス君…行かないで!!行っちゃ駄目だよ!!怪我もしてるんだよ!?」
「なの…ちゃん…」
「どこにも…行かないで…。一人にしないでよう…」

泣き顔でなのちゃんが私を止める。
私はただ…慰める事も…追うことも出来ずに…その場に立ち竦んでしまった…
…ごめんね…なのちゃん。フェイトちゃん…
私は…何も出来ない…




あとがき


はい、本日は休日に付き、午前中で仕上げてみました。
本日のノルマは達成!!駄文でも達成!
今回はなのちゃん決意する。フェイトちゃん迷うをコンセプトにしてみました。
うん、微妙もいいところですね。
女の子に抱きつかれる男の子って…萌えません?
抱きつく女の子に、じゃなくて、抱きつかれる男の子に。ですよ?
…作者だけですか?
ランスロット家の家訓は…ちゃんとしたのもありますが、今回は戦闘家訓を出してみました。
いや…だって両親が…ねぇ?
次回はフェイトちゃんと仲直り、でも書いてみようかと思っています。ではでは~

以下返信

34様

日本人らしくジャンを純にしてみました。勇次は分かりやすくて良いですね。
黄色の13番が居たら、逆に負けていると思います。(笑
04で初見のミッションは…トラウマです…。迫りくる恐怖が…!!

ザムB様
原作でも、確かにそうでしたよねぇ。
そしてキンピカ…確かに…苗字がそう見えるかも(笑
羽々斬は結構、カッコいいと思うんですよね。現在、思案しております。


ダンケ様
ベンチに居るだけで効果がある。なんと言うスーパーエース(笑
メビウス君は何でもこなせますが、努力もしていますね。サッカーはオメガ君が上、お菓子作りはなのちゃんが上です(笑
VRデバイスの入手経路は…少しずつ明かそうかと思っていますので…



[21516] 10話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2010/09/24 14:33
・メビウス・

「………」

ザーザーと雨音が聞こえる。天窓を見れば、滝のように雨水が流れている。…さっき降り始めたんのか…
今日、私は学校を休んだ。理由は…眼の怪我。
大事にはならなかったけど…左目は完全に包帯で覆われている。
眼の部分には傷は無かったけどね。でも結構、傷が深いんだけど…そんな事はどうでもいい。
私は一人で、自室のベットで仰向けになりながら考える。ガルムはアヴァロンの工房に手伝いに行ってもらっている。
…そうしないと一人でフェイトちゃんのマンションに、殴り込みを仕掛けそうだったからね…。

「…なんでだろう…?」

思い出されるのは怯えた表情をしたフェイトちゃん。どうして…悲しい眼をしたんだろう?
…絶対に私に怪我をさせるつもりはなかった。これだけは断言できる。
それだったら、最初から私に魔法を直撃されるはずだからね。あの状態で食らったら、戦闘不能になっているのは間違いない。
ザーザーと雨が降る。考えがまったく纏まらないまま、時間は夕方。

(悩むのは後でだぜ!!今は突っ走ろうぜ!!)

…浮かぶのは何時でも騒がしい親友の笑顔。まったく…今日は一回も会ってないのに、良くもまぁ…鮮明に思い出せるよ。
けど、確かに…何時までも悩んでいてもしょうがない…か。行動を起こさないといけないね。
…さっきと同じ、時間は夕方。雨が降ってても関係ない。さぁ、仲直りしに行こうかな!!
手ぶらで行くのもなんだし…今日は何を作ろうかな〜。
傘を差して、走り出す。目指すはスーパー!!


スーパー店内

「お前たち!!商品を死守せよ!!」
「無理です!!フォード店長!!特売中なんだ!!」
「貴様…後で譴責してや…!!」
「店長が人波に飲まれた!!」


…特売場は物凄い事になってるね…今回は用事が無いから、近づかなくて良かったかな。
…前はここで、フェイトちゃんと再会したんだけど…今回はそうは行かないよね…
さて…今回は適当に…鳥の唐揚げにでもしようかな。最近は、少量の油で作れる唐揚げ粉があるから便利で良いんだよね。
…店内でも相変わらず、外の雨の音が聞こえてくる。大雨だなぁ…

「1520円になります。」
「2000円でお願いしますね。」

会計を済ませて、買った物をマイバッグの中に居る。
さて…そろそろフェイトちゃんの家に行こうかな。
スーパーを出て、マンションを目指して歩き始める。
夕方で、しかも雨のせいで辺りは薄暗くなってきている。
…あれ?…どうしたんだろう?
視界に移る車椅子の女の子。傘を持っていないのか、店仕舞いをしてある商店の下で雨宿りをしていた。
…そう簡単には止まないし…マンションの近くでもあるし…別に良いかな。
そのまま、私は女の子の方に小走りで近づいていく。

「こんにちわ。」
「へ?え?…こんにちわ?」
「いきなりごめんね。雨宿りかな?」
「そ…そやねぇ。まさか、いきなり降るとは思わんかったから。」
「天気予報では曇りだったんだけどね。家は近いの?」
「あ〜…まだ少しあるなぁ。」

女の子が小さく笑いながら、濡れた髪を触る。
夕方から、いきなり降って来たみたいだからね。

「それじゃ、はい。この傘使って良いよ。」
「へ?ええの?」
「うん。困ってるんでしょ?」
「そうやけど…これ借りたら、キミが濡れてまうよ?」
「目的地はそこだから、大丈夫だよ。走ればすぐだからね。」
「ありがとうなぁ。」
「それじゃ!!暗くなってるから気をつけてね!!」

女の子に傘を渡して、私は雨の中を走り出す。
滑るから気をつけないとね…。さぁ、目的地のマンションまであと少し…



「あ…名前、聞けへんかった…。…男の子みたいやったけど…私って、言ってたしなぁ…」



・フェイト・

どうして…あんな事をしてしまったんだろう…
あの光景が頭から離れない。
フォトンランサーの爆発で…顔を怪我したメビウス。流れる血が…彼の顔を紅く染めていた。
そして…駆け寄った…白い魔道師、高町なのはの眼。あれは…私に対する怒りと…憎悪が込められていた。
どうして…?どうして…?私は攻撃してしまったの?
何で…二人が一緒に居るのを見て…心が痛くなったの?

「……私は……」

私の内面を表すように…雨が降っている。私はリビングで、膝を抱えて小さくなっている。
後悔、悲しさ、せつなさ、色々な感情が混ざって…気持ちが悪い。
怪我させたのに、私を心配そうにしていたメビウスの瞳と…なのはの憎悪の瞳。
心の底では、追ってきてくれると思っていたの私。それが…凄く嫌に感じる。
どうして…どうして…どうして…

「…フェイト、夕飯はどうする?」
「…いらない…。」
「要らないって…今朝からなにも食べてないじゃないか!食べないと、身体壊しちまうよ?」
「……ごめん、アルフ。…一人にして…」
「…分かったよ。けど、食事だけは後でとっておくれよ?」
「……」

アルフには悪いけど…食欲もないし…一人にして欲しい。
小さくうなずくと、アルフが部屋を出て行くのを感じる。
ごめんね…けど、今は…そっとしておいて欲しい。
メビウス…会いたい…会いたい…。けど…私には会う資格が無い…
彼を傷つけた…彼を悲しませた…彼…を…

「ぅ…あぁ…!!」

小さく嗚咽が漏れる。後悔と悲しさが私を押しつぶそうとしてくる。
誰か…助けて…!!

「…泣いてるの?」
「……あ…」

優しく誰かが私を抱きしめる。
顔を上げると…蒼い髪が視界の端に映る。私を知っていて…私が知っているのは…彼だけ…

「メビ…ウス…?」
「そうだよ…。フェイトちゃん。こんにちわ。」

優しく微笑む…メビウスが居た。会いたいと…会いたいと願って…
謝りたいって…謝りたいって…何度も何度も思って…
もう…何も考えれなくて…私は…彼に抱きついていて…謝っていた。

「メビウス…ごめんなさい…ごめんなさい…わ…私…私!!」
「…大丈夫だよフェイトちゃん。…怒ってないから…ね?」
「ごめんなさい…ごめんなさい…!!嫌いに…ならないで…!!」
「…嫌いになんてならないよ。大丈夫だから…辛いときは泣いたほうが良いよ。泣いた分だけ…心が綺麗になるから…
泣きたい時は、声を出して泣いて。私でよければ…受け止めるから。」

それでも涙が止まらない。彼の温もりを求めるのが止まらない。
私は…私は…!!



・メビウス・

「〜♪」
「えっと…手を猫にして…よいしょ。」

鼻歌交じりでキッチンに立つ私。
フェイトちゃんもさっきまで泣いていたけど…今は大丈夫みたい。時々、こっちを見て、顔を紅くしてるんだけど、まぁ…あんなに泣いたら恥かしいよね。
今は前みたいに一緒にキッチンに立って、料理を手伝ってくれている。
一人で作るより楽しいし、きっとおいしくなるね。


「今日は何を作るんだい?」
「鶏肉が安かったから、唐揚げだよ。」
「へぇ。しっかし、あんたって何でも作れんだね。」
「基本的なのは大体は、大丈夫かな?」

アルフが感心したように私の手元を覗き込む。
料理は楽しいしからね。…母さんが失敗しそうになると、私がサポートとかするからね。
何気に父さんも料理が上手で、もしかすると母さんより上手かもしれない。
母さんも最近は、父さんに対抗してか料理本も見てるんだけど…まだ少し下手かなぁ。


「野菜は、このくらいで良い?」
「それくらいで…良いかな?アルフ、前に作ったドレッシング、出しておいてね。」
「はいよ。確か・・・あったあった。」


・1時間後・

「ふぃ〜…おなか一杯だよ。」
「ご馳走様。」
「いえいえ、お粗末さまでして。」

唐揚げ…沢山作った気がするんだけど、全部食べちゃったなぁ。
バランスよく野菜も食べてくれたから、良いんだけどね。
さて、食べ終えた食器を、キッチンに持っていって洗わないとね。食器は貯めて置くと、洗うのが大変なんだよねぇ。

「メビウス、私も手伝うよ。」
「そう?それじゃ、洗ったのを拭いててくれる?」
「うん。」

カチャカチャと音を立てて、食器を洗っていく。
フェイトちゃんも手伝ってくれているからか、速めに洗い終わりそうだね。

「ねぇ、メビウス。」
「なに?」
「そう言えば…どうやってマンションに入ってきたの?」
「あぁ。入り口でアルフに会ってね。入れてもらったよ。」

あそこでアルフに会わなかったら、入れなかったからなぁ。
しかも、エクスがハッキングして開けようとしてたから、危なかった…。
ちなみに、今は新型の魔法を構築する作業をして貰っているから、静かなんだよね。

「…何も…聞かないの?」
「…うん、聞かないよ。」

フェイトちゃんが手を止めて、私を見つめてくる。
きっと、ジュエルシードの事だろうね。確かに気にはなるけど…

「きっと、理由があるんでしょ?それに…聞いたら答えてくれる?」
「…それは…」
「でしょ?だから、聞かないよ。まぁ…私達もあれを集めているけど…
今度はキチンと話をしようね?流石に、いきなり攻撃されるのは驚いたから。」
「あぅ…ごめんなさい。」
「ふふ。冗談だよ。」

フェイトちゃんは優しいから…なにか訳がある筈。けど、無理に聞こうとはしない。
何時か話してくれる時が来るまではね。
っと…洗物が終わったから…そろそろ、帰ろうかな。

「さてと…そろそろ、帰ろうかな?」
「え…。帰っちゃうの…?」
「うん。ごめんね。時間も時間だしさ。」

時計を見ると、8時近くになろうとしていた。
流石に、ガルムが居ない状態で、夜道を私一人で歩くのは不味いから。
今回の料理のレシピも、冷蔵庫に張ったし…洗物もしたし…良いかな?
すると、フェイトちゃんが、私の服の裾を握ってくる。

「……」
「フェイトちゃん?」
「あ…ごめんなさい…」

ハッとしたようにして、裾を離すけど…少しうつむき加減だ。
もしかして……

「…寂しいの?」
「……」(コク)

フェイトちゃんは、顔を紅くしたまま、小さく頷く。
ん〜…どうしようか。…怪我で、明日も学校は休む事になってるんだけど…

「…電話、借りるね?」
「え…?」



・フェイト・

顔が熱い、顔が熱い、きっと今は私の顔は真っ赤になっていると思う。
メビウスが帰ると言った時に、引き止めちゃった…
そうしたら…家に電話をかけて…

「連絡したんだけど…泊めてくれるかな?」

その…寂しかったのもあるけど…今は凄く恥かしい。
なんであんな事、出来たんだろう…?
今は、お風呂から上がって、リビングにいるんだけど…

「フェイトちゃんの髪って、綺麗だよねぇ。」
「そう…かな?」

座っている私の髪を、メビウスが丁寧に梳いでいく。
手つきが凄く優しくて…なんだか気持ちが良い。

「後は…リボンは…こっちで良いかな?」
「あ…そのリボン…」

メビウスが取り出したのは、彼と同じ蒼いリボンだった。
それを丁寧に、髪に結んでくれる。お揃い…になっちゃった…
恥かしいけど…嬉しい。

「どう…?」
「うん、似合ってるよ。」

髪に結ばれた蒼いリボンに触る。
なんだか…凄く…安心できる。何時も…メビウスが傍に居るような気がする。
…ありがとう、メビウス。ずっと…ずっと、大切にするね…





あとがき

うぉぉ…クシャミが止まらない、頭が痛い、妄想がまとまらない。
とりあえず、王道イベント、お泊り、をやってみました。
…お風呂とか一緒に寝るとかは…また今度です。妄想がまとまりません。
なのはより、フェイトにリボンを先にプレゼントしたメビウス君。さて…どうなることやら。
最後に…関西弁がぁぁぁ…いまいち分からない。
誰かお勧めの関西弁変換サイトを教えてください…


以下返信


ダンケ様

ブルー・スライダー。ゲームで決めたことは一度もありません(泣
チート主人公、それがメビウス君!!
今回はやきもち?フェイトでしたが…ヤンデレフェイト…ゴク…


筋肉大旋風様

ノリ的にはヴァオーみたいなのですねぇ。
まっすぐ馬鹿?と言いますか。(笑
A-10…使った事があまり無いという作者。対地任務にもファイターですがなにか?フランカーとか大好きです(笑
X2の彼は…な



[21516] 11話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2010/09/28 17:11
フレッシュリフォー本社ビル
応接室

・閃・

「…はぁ!?」
「だから…姫の子守げふんげふん。お相手をして欲しいんだよ。閃君。」

何時もの如く、呼び出しを受けて、来て見れば…どういうことだよおい。
姫って…何時から、ここはそう言う設定になった?
俺の目の前には、社の重役のおっちゃんが手を合わせて懇願している。
何度か会った事があるんだけど、いや…小学生相手になんつう事してんだよ…。

「…えっと…説明を求めてもいいすか?姫って…誰?」
「おぉ、すまないね。それを説明していなかった。」

そう言うと重役のおっちゃんが一枚の写真を取り出しして、俺に渡してくる。
一人の女の子が写っていた。…かなり小さいな…5~6歳くらい?
話の流れ的に…姫ってこの子か?

「名前はリリン・プラジナー。社長のご息女だ。」
「ぶっ!!??」
「…お茶が…」

噴出した俺は絶対に悪くない。飲んでいた緑茶をおっちゃんにぶちかましても、俺は無罪だ。
出たよ…超天才が。まさかとは思ったが…。
リリン・プラジナー。、プラジナー博士に娘して、トリストラム・リフォーの養女。天才と言っても良いだろうな
…ちなみに社長であるトリストラムは存命だ。かなりの多忙で、俺の両親も、年に1回会えるか会えないかとか言ってたな。
もし、同じなら…あと数年でトリストラムは暗殺されるんだろう…な。
だが…ここには管理局がある。流石に…奴らが居る訳はないと思いたい。
…奴らが居たら…最悪としか言いようが無いからな。


『あれですね?健気な少女を自分好みに教育すると…なんて光源氏!!閃!!恐ろしい子!!』
「黙ってろ。」
「閃君…君はそんな事を…」
「あんたも真に受けてんじゃねぇよ!!またお茶ぶっ掛けるぞ!!??」

人が真面目に思考の海に潜ってる時に、このボケデバイスがぁ…!!
重役のおっちゃんも変な反応してんだろ。
第一…俺にそんなフラグが立つわけ無いだろう。俺はあれだぞ?モブキャラだぞ?
なのはやらメビウスやらの主人公クラスでもないし、フェイトとかオメガの副主人公でもない。
そこら辺に居る一般ピーポーだ。

「まぁ…暇だからいいんですけど。」
「ありがとう!!実は先ほどから、奥で待っているんだよ。」
「はぁ…さいですか。」
「それじゃ、あとはよろしく!」

…とりあえず…行ってみるか。
軽くノックしてドアを開ける。

「失礼します。」
「こんにちわ、お兄様♪」
「……」
『ふ…不覚…。本気で萌える…萌えてしまう…これは面倒な事に…なった…』

あ…いかん、…花畑見えた。
目の前には可愛らしい服を着たピンクのお嬢様が、満面の笑顔で俺を迎え入れてくれた…
素でレーベンが萌えてるぞ…
いやいやいや…これはやばい…。何がやばいって…

「どうしました?お兄様?」

何でお兄様?狙ってる?狙ってるだろ?しかも、首を傾げるんじゃないよ!!45度とか完璧すぎるだろ!!??
天才の名に偽りは無いってのか!!??純真無垢すぎるだろ…!!護ってあげたいオーラが尋常じゃないんだがね!!??
…某白騎士が信奉者になる気持ちが分かるぞ。

「…確認しても良いか?」
「はい?」
「お兄様って…俺か?」
「はい、閃お兄様で間違いありませんわ♪」
『………今回ばばばばかりは閃…やりやりやりやりますね。』
「…処理落ちしてんぞ。一旦切れ。」
「了解してラジャー。」

拝啓、父さん、母さん。どうやら…俺にフラグが立ったかもしれません。…良いじゃん!!一回くらい言っても良いじゃん!!
10秒くらいフリーズしたが、深呼吸を10回以上繰り返して冷静になる。過呼吸にはならなかった。…それだけ冷静じゃなかったって事かよ。

「…えっと、初対面…ですよね?」
「はい。そうですわね。あ、敬語じゃなくて良いですよ。私が年下ですから。」
「…そうか…。なんで俺のこと知ってるわけ?」
「主任や重役の方達から、色々と聞いておりましたわ。」
「なんて…?」
「主任曰く、才気あふれる若き天才だと。発案するデバイスも、全て従来の思考にとらわれていない、奇抜なものだと伺っております。」

あのボケ主任がぁぁぁぁ!!!人の事を過大評価しすぎだろう!!
人生良すぎると碌な事が無いって、某アメフト選手のクォーターバックが言ってんだろうが!!
俺の脳裏に歯を光らせて、親指を立てる主任が過ぎる。後で奴に、世界で一番臭い缶詰を送ってやることを誓う。

「まぁ…んな事はどうでもいい。と言うかどうでも良いという事にしてくれ。。」
「?はぁ…」
「ところで、なんでお兄様?」
「私、こう見えてもそれなりに、お勉強ができるのです。」

知ってます。だって天才じゃん。

「以前、デバイスの開発部に行った時に、見慣れないデバイスの設計案がありましたの。
聞けば、まだ9歳の子供が発案したとか。それで興味持たない方がおかしくありませんか?」
「9歳の子供って…君…まだ5歳くらいでしょ?」
「私の場合は、自分でも異常と感じてますので問題ありませんわ。」
「開き直っちゃってるのね…」
「どんな人なのか、色々とリサーチしたところ。なんと、帝さんの息子さんだと言うではありませんか!!
それで、良い機会だと思い、お呼びしたわけですわ。」
「はぁ…」
「それに私、どうしてか近い年齢の方達とは、話が合わないと言いますか…。
いえ、別に自分が特別と思ってるわけじゃなくて…」
「…つまり、友達が欲しいって事か?」
「……はい。」
「素直にそういえよ…」

回りくどすぎるぜおい。
まぁ…流石に…友達になろう!!て言われたら…背中が痒くなって、のた打ち回る自信がある。
と言うか…転生前の小学生時代を思い出すと…黒歴史満載かもしれんな。友達になろう発言や、スカートめくなんでもないなんでもない。
若干、呆れたように見ると…リリンはモジモジしながら、小さくうなずいていた。
…ド真ん中直球ストレートだよちくしょう…

「ま…まぁ、別に良いけど…」
「本当ですか!!」
「あぁ、…けどよ、友達でお兄様って言うのは…変じゃないか?」
「そうなのですか?主任がこう呼べば喜ぶと、仰っていましたが…」

…臭い缶詰と世界で一番辛い唐辛子を、送ってやることに決めた俺だった。





管理局 本局
執務官室

ここでは二人の少年が作業をしていた。
一人が書類をまとめ、もう一人が眼を通していく。

「……次は?」
「これだ。…そろそろ昼食にしないか?食堂、混むぞ?」

書類を纏めていた少年が、壁にかかっている時計を指差す。
確かに、時間は12時を過ぎていた。

「そうしようか。午前はここまでだ。」
「約3時間でこの程度か。…まだかかりそうだな。」

それぞれの机の上にある資料を片付ける二人の少年。
一人はクロノ・ハラオウン。若干14歳で管理局執務官を勤める少年。
もう一人はブレイズ・トリスタン。執務官補佐として、クロノをサポートしている少年だ。
ちなみに、彼も14歳である。


食堂


・ブレイズ・

「久々に戻ってきたら書類の山とはな。」
「仕方が無い。管理局は、慢性的な人員不足なんだ。」

クロノが肩をしかめながら、ドリンクに口をつける。
食堂では、局員達が昼食をとり始めている。流石に、殆どが俺達より年上だ。
そんな事を気にしていたら、何も出来ないんだがな。

「エイミィにも、書類処理を頼めれば良いんだけどな。」
「無理だろう。さっき、リンディ艦長が呼び出しをしていた。」
「…帰ってきて早々に、また出港か。」
「諦めるしかないな。」

もう一人の補佐官であるエイミィに分配できれば、多少は楽になるんだが…うまく運ばないか。
やれやれといった調子で、食事を再開するクロノと俺。
確かに、管理局は人員不足だ。憧れを持つ職業だろうが…危険も隣りあわせだ。
俺達だって、過去に数回は死にそうな経験をしたこともある。
それがいい経験になったと言えば…言えるのだがな。

「次の任地はどこになるんだろうな。」
「僕に聞くな。それこそ艦長に聞いてくれ。」
「確かに。…速めに書類を片付けておくか。そうしないと溜まっていく。」
「よう、ブービー共、なにシケタ面してんだよ。」
「失礼するよ。久しぶりだね、クロノ君、ブレイズ君。」
「バートレット教官に…ランパート教官。」

ジャック・バートレット教官とマーカス・ランパート教官。
俺の恩師であり、指導してくれた教官達だ。
二人とも、トップエースの実力を持つ魔道師。教育隊でありながら、航空隊にも所属している。
俺はバートレット教官に、クロノはランパート教官に模擬戦や、訓練でお世話になっていた。
もっとも、俺達が勝てる訳もなく、惨敗続きだがな。
二人に言わせれば、魔法の素質より、経験値の差だというらしい。
確かに、二人の踏んだ場数は、俺達なんかとは比べ物に成らないほど多いはずだ。
二人はトレーを持って俺達の前に座る。

「お二人とも、昼食ですか?」
「さっきまで、新入りの訓練をしていたところなんだ。今年は何人残れるな。」
「まったく、最近のひよっ子共はだらしねぇな。あんなんじゃ直ぐに堕ちちまうぞ。」
「バートレット教官の扱きに耐えれたら、凄いと思いますが…」
「まだまだ序の口だぞ、ブービー。」

実際、バートレット教官の指導は厳しい。しかし、それは新人達を一流に育て上げたいという心だと思っている。
俺も彼に指導を受けなければ、14歳で執務官補佐や、死線を乗り越えられなかったと思う。
それはクロノも同じだ。ランパート教官は、バートレット教官と違い物腰は柔らかいが、そのハートはとても熱い。
まさに二人はエースとしての心と技術を持っていると、俺は思う。
彼らの指導を乗り越え、鍛えられた局員は優秀な魔道師として活躍もしている。…一応は俺達も含まれている。

「ランパート教官の方はどうなんですか?」
「それなりに良い生徒達だと思う。まぁ、クロノ君ほどの優秀な生徒は居ないけどね。」
「光栄です。」

そう言って笑うランパート教官にクロノ。
本当に師弟関係の絆が強い。

「まったく、ガキの時分から、光栄です、とか使ってんじゃねぇよ。」
「クロノですから。バートレット教官の方はどうなんですか?」
「あん?なんだブービー、お前も褒められたいのか?」
「違いますって。貴方の扱きに、耐えられる魔道師が居るかどうかが気になるだけですよ。」
「よく言うぜ。物になりそうなのは居るが…これからどうなるかだな。」

バートレット教官が難しい顔をしながら、ドリンクを口に含む。
人手不足と言うこともあり、上層部は訓練途中の魔道師達を、部隊に配属しようとすることがあった。
バートレット教官はそれに異議を申立てるために、昇進の道から遠ざかっている。
まぁ…彼を信頼する教官や部隊長は多いし、まともな幹部達にも信頼されている。
最も、教官は昇進などに興味は無いようだがな。
四人で賑やかに昼食を取っていると、クロノの小型端末から呼び出し音が響く。

「…ブレイズ、第8会議室に集合だそうだ。」
「了解。片付けていくか。失礼します、教官。」
「次の任務か?」
「大変だろうが、がんばってきなさい。」
「しくじるなよ。」
「はい。それでは、失礼します。」

両教官に軽く敬礼を返して、トレーを片付ける。
さて…次の任務はどうなることやら…


「ったく、ガキが大人ぶって働くこともねぇだろうに。」
「僕達、大人の責任だ。子供達が笑う未来を作れなかった…ね。」
「…まぁ、あいつ等ならうまく出来るだろう。」
「あぁ、君と僕の秘蔵っ子達のだからね。」
「頑張れよ。次期エース達よぉ。」



ブレイズ・トリスタン。
管理局、執務官補佐役。
アースラ所属、空魔道師。

ジャック・バートレット&マーカス・ランパート
管理局、教育隊及び航空隊所属。
バートレットの教え子、ブレイズ。
マーカスの教え子、クロノ。



あとがき

…今回は登場人物が一気に増えた!!の回でした。
さて…メインキャストのブレイズ君登場っと…
性格的には冷静沈着を目指して生きたいかと…出来るかなぁ…
そして…ある意味で素晴らしい教官達がある管理局。
いや…この人達に指導されたらすさまじい事に…
年齢は原作より10歳程度若いと思ってください。なのでマーカスは25歳。バートレットは32歳…かな?
リリン様は…イメージ的に某ピンクの歌姫様で行こうかと…まだ覚醒はしておりません。
さて…まだまだ出したいキャラは居ますので…考えなければ…

あとがき

ダンケ様

メビウス君無双は…失礼しました。厨二主人公として大目に…!!
とりあえず、フラグを立てれる限り立てておこうかと思いまして…
正直、一期ではオメガ君のフラグは微妙に立てづらいので…。一応は閃君が今回、フラグを立てたような感じになりました。
…どうやって地球にリリン様を介入させますか…いっそ転入させれば…


ADFX-01G-2様

A-10使ってみました。なにあの爆弾の威力。反則でしょう…!!
リムファクシがゴミのように…
流石は…現実に居た超チート人間の閣下が、作れといった対地攻撃機。安くて頑丈で操作性に癖のない機体…でしたっけか?
アイガイオンはロケットランチャーで片付けてましたが…今度A-10で挑んでみます!!



[21516] 12話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2010/10/01 23:47
・メビウス・

今日は連休の初日。
毎年連休を使って、温泉旅行をしている。
メンバーは高町家と月村家と私達。すずかちゃんのお姉さんの忍さんと、恭也さんは恋人同士なんだよ。
だから、結構な人数になる。ちなみに、他には私とオメガ、閃にアリサちゃん。父さんと母さんは急用で出掛けてしまって来れない。
そのかわり、ガルムが人間形態で参加している。名前は…ガルムのままなんだけど…。
小型のペットならOKと言うこともあって、ユーノもフェレットの状態で参加。
後ろで女の人達に、遊ばれてるんだど隙を突いて、少し離れた席で、恭也さんと話をしているガルムの元に逃げこんだ。
苦笑しつつ、膝の上に載せて撫でている辺り、ガルムもユーノに気を許しているんだろうね。
結構な人数のためか、忍さんがマイクロバスを頼んでくれたお陰でゆったりと向かうことが出来る。
私も今回の旅行は楽しみにしていた。連日のジュエルシード探索で、体力の消費が激しいからね。
息抜きするのには絶好の機会だ。

「あ~あ、ガルムさんの所に逃げちゃった。」
「仲が良いよね。…ねぇ、メビウス君?」
「はい?なんです美由希さん?」

なのちゃんのお姉さんの美由希さんが、声をかけてくる。

「ガルムさんは、アヴァロンの工房の人なんだよね?」
「はい、そうですね。」

流石に…使い魔なんて言えないから、工房で父さんの弟子をしているという事になっている。

「ふ~ん。大人っぽい人だよねぇ。…犬のガルム君も人間にしたらあんな感じになりそうだよね。」
「あ…あははは…」

美由希さんが、興味津々にガルムを観察している。…思いっきり犬のガルムなんだけどね…
まぁ…大人っぽいと言うか…冷静な態度をしてるからだと思う。

「温泉かぁ。楽しみだぜ!!」
「だなぁ。…しかしオメガ、なんだその荷物?」

閃がオメガのバッグを指差す。
うん…確かに着替えとか、洗面用具とか以上に…色々と詰め込まれている感じがする。
私や閃は着替えと暇つぶしの本以外、大して持ってきてないんだけど…

「決まってんだろ!!トランプに将棋に囲碁にオセロとゲーム機だろ?後はウノとジェンガに…」
「…なんでそんなに沢山持ってきたの?」
「皆で遊ぶためたぜ!!3人で24時間耐久ぷよぷよしようぜ!!」
「本気でそれを言ってるなら、俺はお前の友達止めるぞ。」
「なんだよぉ。ならメビウスやろうぜ!!」
「出来るわけ無いでしょ…。」

24時間なんて…出来ないし、やりたくない。折角の温泉なんだから、ゆったりしたいからね。
けど、諦めないオメガ。後ろで話している三人に声をかける。

「ちぇ~。いいや、アリサぁ!すずかぁ!!お前らはやるだろ!?」
「やらないわよ!!」
「オメガ君、温泉に入れないよ?」
「なのは…は、ヘナチョコだしなぁ。」
「へ…ヘナチョコ!?そんな事ないもん!!」
「だって、お前、2連鎖が限界だろ?」
「う…うぅ~!!」
「普通にやろうよ…」

けど…みんなで遊ぶのは良いかもしれないね。
折角の旅行なんだし…楽しみたい。



「温泉だぜぇぇぇ!!」
「オメガ!恥かしいから騒がないでよ!!」

旅館について第一声。飛ばすなぁ。アリサちゃんが止めるのも当たり前か。

≪部屋割りって…僕はどこになるんだろ?≫
≪先ほど、話を付けておきました。我らと同じ部屋になります。≫
≪ありがとう、ガルム。≫

荷物を降ろしながら、ガルムが肩に乗っかっているユーノに念話を送っている。
部屋割りは私、ガルムオメガと閃が一緒の部屋になった。
ユーノも、とりあえずは、一緒にしてもらった。流石に男の子だからね。
早速、荷物を置いてっと…


「さてと、温泉に行こうか。」
「良いな。とりあえず、汗を流そう。」
「おいおい。24時間ぷよぷよはどうすんだよ?」
「やらねぇよ!!アホ言ってないで行くぞ!!」


・温泉・

「はぁぁ…いい湯だねぇ。疲れが消えていくよ。」
「メビウス、じじ臭いぞ。けど、確かにいい湯だな。」
「でしょ?」

私と閃は、身体をお湯で流して湯船につかる。
本当に気持ちがいい。疲れが抜けていく感じがする。
少し離れた場所で、大き目の桶にお湯を入れて、ユーノも浸かってる。ガルムが近くで見ているから、大丈夫だろう。

「あれ?オメガは?」
「あぁ、サウナに入ってったぞ。」

サウナか…。いきなりだね。
さて、軽く温まったし、身体と髪を洗おうかな。閃は後で洗うといって、湯船でゆったりしている。
まずは髪を洗ってと…。私の髪は長いからか、結構時間がかかるんだよね。まぁ…母さんが手入れをしっかりとしなさいって言ってくるから、手は抜かないけど。

「おい、あの男の子凄いな。」
「あぁ。10分近く入ってるぞ…。しかも、微動だにしない。」

なんだろ?隣で身体を洗っている人達が騒いでいる。その人達が見る先にはサウナがあった。
髪と身体を洗い終わって、湯船に戻るけど…少し気になる。

「閃、オメガは?」
「あん?……まだサウナか…?」

二人して時計を見るんだけど…10分は過ぎている。
気になってサウナの小窓を見ると…オメガはまだ入っていた。
しかも、座禅を組んで…瞑想みたいなのをしてる。

「…あいつは何時から修行僧になった?」
「…さぁ?」

凄い汗をかいてるんだけど…大丈夫なのかな?
心配しつつも、オメガだし大丈夫か。という事にして湯船に戻る。

「やっぱり温泉は良いね。くつろげるよ。」
「流石に家の風呂はこんなにでかくないからな。まぁ、アリサ達の家の風呂はでかそうだからな。」
「お家も大きいからね。私の家の何倍だろ?」
「さてな。それを言ったら俺はマンションだぞ?」
「けど、高級マンションでしょ。充分広いと思うよ。」
「違いない。」

その後、5分後位に出てきたオメガは、汗だくだった。
そんなによく入ってられたね、と声をかければ…返ってきたのは、

「心頭滅却すれば業火もまた涼しだぜ!!」

…本当に何時から修行僧になったんだろ?
しかも、業火じゃなくて、ただの火なんだけど…


・ガルム・

今夜、寝泊りをする部屋に、服を置いて、我は散策に出ている。
…今は浴衣を着ているのだが…若干、涼しいな。
メビウス様達は、部屋で涼んでいる。オメガ様が持ってきた玩具で遊んでいるはずだ。
適当な自販機で、スポーツ飲料を買い、旅館内を歩く。
目的はこれといってない。強いて言えば、有事の為に、館内の構図を頭に入れている、と言ったところだろう。
用心深いかもしれんが、全てはメビウス様の安全の為だ。
そうしていると、前から、見たことのある女が歩いてくる。

「ん?あんたは…」
「…何故ここに居る?」

女---アルフが何故ここに居る?
我がここに居るのが不思議なのか、眼を丸くしている。我だって驚いてはいるがな。

「それはこっちの台詞だよ。…あんたがここに居るって事は、メビウスも着てるのかい?」
「質問を質問で返すな。我は常にメビウス様の近くに居る。それが答えだ。」
「回りくどいねぇ。ふ~ん。着てんだね。」

納得したように頷くアルフ、我がメビウス様の傍を離れるのは、メビウス様の命令以外にありえないことだ。
だが…ここに、こいつが居るということは、必然的に主である彼女も居るということだ。

「…フェイト様も着ているのか?」
「正解。ここら辺にジュエルシードがあるらしくてね。それを捜索してるよ。」
「お前は探さないのか?」
「目処はついたらしいからね。温泉にでも入ってこいってさ。まぁ、上がったところだけどね。」

そう言いながら我にタオルを見せる。
しかし…ジュエルシードか…どうしたものか。

「けど、メビウスが居るってなら…フェイトもこっちに、無理やり連れてくるべきだったね。」
「メビウス様に危害を加えるつもりか?」
「違う違う。…メビウスには感謝してるよ。最初にジュエルシードを渡してくれたそうだしね。それにね、メビウスのお陰で、フェイトはよく笑うようになった。
それこそ、始めてあったときの事や、スーパーでの事、料理を作ってた時の事を思い出して、楽しそうにしてたよ。
書いていったレシピで料理も作ろうとしてたしね。」

そう言いながらアルフは笑う。…メビウス様に話を聞けば、攻撃された時は混乱していただけ、と言われた。
本来ならば敵として排除すべきなのだろうが…メビウス様に攻撃するなと命じられている。

「…メビウス様が聞けば喜ぶだろうな。…我はもう行くぞ。」
「どうするんだ?あたしに会ったことはいうのかい?」
「…お前には借りがあったな。」
「借り?」
「メビウス様をマンションに居れてくれた事だ。…こちらに危害を加えなければ、我は何も言わん。これで貸し借りなしだ。」

そのまま、手に持っていたスポーツ飲料をアルフに投げ渡す。

「っと…これは?」
「湯上りなのだろう。水分補給はしておけ。…ではな。」

踵を返すと、我は部屋に歩き出した。



・閃・

現在、俺達は夕食までの間、部屋でトランプをしている。
ちなみにプレイヤーは、俺・メビウス・オメガ・なのはの4人だ。
アリサとすずかはオメガの持ってきたオセロで遊んでいる。ユーノ?座布団の上で寝てるよ。流石に起こすのは可哀想だからな。
三人とも湯上りで浴衣を着ている。眼福…か?…待て待て、俺は転生者だ…。中身は大学生… 
…リリンに萌えた時点で終わってる気がするがな…
なんにせよ、今はトランプでダウトしている。…しかし、オメガとなのは…顔に出すぎだろ。

「むぅ~…」
「ぬぉぉぉ…」
「二人とも…もう少し表情を隠そうよ。はい、8。」

メビウスが苦笑しながら、トランプをきる。

「…き…きゅー。」
「…ダ…。なのちゃん…そんな顔で見ないで…」

ダウトと言おうとしたメビウスだが…隣でなのはが物凄い涙眼で言わないで、と視線を送っている。
お前は…だったらダウトをやるんじぇねぇよ…。しかも、今、9じゃなくて…きゅーって言ったよな…
結局、メビウスが根負けで言わなかったけど…お前もお前で甘いなおい。
っと…次は俺か。

「んじゃ、10っと。」
「…11!!」
「ダウト。」

オメガの番だが容赦なくダウトする俺。オメガと11は切っても切れない運命だろ。

「Nooooooooooooo!!!!」
「はい、カードオープン。…8でオメガの負けね。」
「閃君、強いね。」
「むしろお前ら二人が弱すぎんだと思うけど…」
「うぅ…しょんなことないもん。」
「ま…まぁ。なのちゃんは隠し事苦手だから…」
「…覚悟しとけよ!!俺の手元には11が4枚あるぜ!!後で確実にダウトにしてやるぜ!!」

オメガが宣言してるが…どうなるかね…
そして、順番がまわり…メビウスが11のカードを出すターン。
迷わずに…出したな。

「11。」
「ダウトぉぉぉぉぉ!!!!」
「め…メビウス君、大丈夫?」
「ハッハー!!俺の戦略勝ちだぜぇぇ!!」
「知ってる?トランプで強いカードは三つある。キングと…エース。そして…」

騒ぐオメガを尻目に、メビウスは冷静に…そして、口元に笑みを浮かべながら、自分の出したカードを表にするが…
あぁ…オメガ、お前は勝てないよ…

「Joker…があるんだよ?」
「………」
「お…オメガ君が真っ白になったよ!!?」
「この位、予想しとけよ…」

結局、オメガがビリとなって、夕食の時間になった。



夕食はバイキング形式だ。まぁ…どこにでもあるのだな。
大人は大人達で別のテーブルに座って、ビールを飲んで楽しんでる。
…ガルムも酒飲んでるけど…良いのか?あいつ使い魔だろ?
何気に美由希が物凄く興味示してるぞ?…ばれなきゃ良いのか。

「がつがつがつがつ!!!」
「オメガ、少しは落ち着きなさいよ。」
「腹が減っては戦ができぬだぜ!!」
「だからって…ああもう、こぼしてるわよ!ちゃんと拭きなさい!」

…アリサとオメガって何気に似合いじゃないか?直線馬鹿とツンデレお嬢様って、鉄板の気がするのは俺だけか?

「このてんぷらおいしいね。どんな作り方してるんだろ?」
「うん、衣がサクサクしてる!」
「メビウスくんもお料理するんだ。」
「するねぇ。すずかちゃんは?」
「私も少しなら出来るかな?今度、何か作ってみるね。」
「あ!私もまたお菓子作る!!」
「それじゃ、三人で作って交換してみようか。」

なのはは…まぁ、言わなくても分かるから別にいいか。
…すずかも若干、メビウスよりか?…なのは見たいに正面から行くんじゃなくて、回り込むタイプなのかもしれんなぁ。
っと…俺も飯を食うか…。とりあえずは飲み物で喉を…

「ぶふぉ!!??」
「きゃぁ!?」
「せ…閃!?どうしたの!?」

コップの中に入ってたジュースを口に入れた瞬間に噴出す。少量なのが幸いしてか被害は少ないが…なんだこりゃ…!!
メビウスが心配して背中をさすってくれる。…ありがたい…

「げふ…ごほ…。なんだこれ…すんげぇ不味い…」

甘いと言うか…苦いと言うか…言葉に出来ないぞこれ…
なんでこんなジュースに…?
そこまで考えて…ハっと気が付く。これ…オメガが持ってきたんだけったか…

「おいそこの脱出マニア。」
「んぉ?」
「これなんだ…?」

若干、切れ気味にジュースの指差す俺。…視界の隅でなのはとすずかが怯えて、メビウスの後ろに隠れてるが、んな関係ない。

「決まってるぜ!!バイキングでドリンクがセルフなら、全部混ぜるのが当然だぜ!!Specially-made mix juiceだぜ!!」
「…そうか……こんなん飲めるかぼけぇぇぇぇ!!!」
「食いモンを粗末にするなぁぁぁ!!」
「作ったお前が飲めよ!!」
「ハッハー!!いやに決まってるぜ!!」
「なんでだよ!!??」
「だって、まずそうじゃん!!」
「…オメガ…天に還る時がきたようだな!!」
「ここで決着をつけるぜ!!!」
「あんたたち…いい加減にしなさぁぁぁぁい!!!」

アリサの声を合図に開始するバトル開始。
しかし、この1分後、士郎さんにより鎮圧されました。ひ…人の動きじゃねぇ…



・オメガ・

さて…夜はまだまだこれからだぜ!!
今、俺達は旅館内のゲームセンターで遊んでいる。
閃やメビウスはガンシューティングをしてる。なのはとすずかもそれを後ろで応援してるぜ。
俺はああ言うのは苦手だからしないんだぜ。
…そういや、アリサの姿がみえねぇな。どこにいんだ?
適当に探し回ると…お、見つけた見つけた。
クレーンゲームの前に居たぜ。

「アリサ。どうしたよ?」
「あ、オメガ。あの犬のキーホルダーが可愛いって思ってたの。」
「犬?…おぉ、あれか?」

確かに、中にはペアの犬のキーホルダーが置いてあった。俺が見ても結構可愛いと思うぜ。

「やんねぇのか?」
「何回かやってみたんだけど…難しいわね。なかなかうまくいかないわ。」

そう言いながら、コインを入れてクレーンを動かすアリサ。
おお、あと少しで取れるぜ!!…けど、あと少し届かないかぁ。結構、難しいところにおいてあるな。

「はぁ…仕方が無い、諦めるわ。」
「おいおい、諦めるのは速いだろ?」
「そう?けど、難しいわよ。」
「よし、俺がやってやるぜ!!アリサ、横でどの角度が良いか見ててくれ!!」
「え?…分かったわ。」

実は俺ってこう言うのが得意なんだよな!!
コインを入れて…。まずは横にクレーンを動かしてっと…。
そのまま奥の方に…

「ん~…そのくらいよ。」
「おう!!」

アリサの指示と同時にボタンを離す。クレーンが下がっていって…キーホルダーをキャッチ!!
そのまま、取り出し口の上まで来て…ゲット!!

「よっしゃ!!ゲットだぜ!!」
「へぇ、オメガってこう言うの得意なのね。意外だったわ。」
「すげぇだろ!!はいよ、これ。」
「え?良いの?」

取ったキーホルダーをアリサに渡す。俺は別に要らないからなぁ。

「おう!!」
「けど、オメガが取ったのよ?」
「気にすんな!!アリサの為だ!!この程度はお安い御用だぜ!!」
「なっ…!!?」

ん?なんか驚いて口をパクパクさせてるけど…なにしてんだ?金魚の真似か?

「どうしたよ?顔が紅いぜ?」
「~~…!!あんたって奴は…」
「いって!!叩くなっての!!」

なんでか知らないが…背中をばしばし叩かれる俺。アリサの為に取っただけなのになんで怒られんだ?

「…はい、これ。」
「あん?」
「ぺ…ペアで二つ付いてるんだから…一つはあんたが持ちなさいよ!!」
「俺が?別に全部、アリサにやるぜ?」
「良いから!!付けて大事にしなさいよ!!絶対よ!!」
「お…おう。」
「…ありがとう。」

最後に礼を言いながら、笑うアリサだった。
…怒ったり笑ったり…忙しいぜ!!




あとがき


オメガ君、どんだけ鈍いんだよおい。
やってきました温泉です。作者も温泉に入りながら考えたネタです。
旅館のバイキングは良いですよね。みんなでワイワイ食べれますし。…全部混ぜジュースも造れますし…くくく。
そして夜は夜で遊んで…。懐かしいなぁと思う今日この頃。
そして何気なく気が付いた…。今年って環太平洋戦争(ベルカ事変)の年じゃないですか?
…もっと早くに気が付けばよかった…!!

以下返信

オストー様

ブレイズ君の相手は…一応は考え付いております。
ライバル達は…検討中ですね。敵として出すには惜しすぎますし…出すにしても…どんな敵で出すべきか…
けど、まだ先になると思いますので…お待ちを。


ダンケ様

リリン様登場しました!本当の天才ですよ!
やはり親戚の子が無難ですよね。転入しても1年生ですが…確実になのはより勉強が出来そうで困ります(笑
お勉強会フラグ…良いですねぇ。是非ともなのはvsリリン様の勉強バトルを…勝敗が決まってる気がしますがね…!!


ADFX-01G-2様

A-10万歳A-10万歳!!(洗脳完了
まだまだ出したいキャラが居ます。
バートレットとマーカスが教官ですからねぇ。後はどうしますか…
…作者的に…バートレットの指導はなのは様レベルな気がします…


名無しの獅子心騎士様

狐とフラグを立てるオメガ君!!彼にはまだまだ動物と心温まる物語を…!!
閃にもフラグがたってきましたよ!
レーベンは…手遅れです(笑
電波に覚醒するリリン様…確実にレーベンと主任が原因だ!!


筋肉大旋風様

おっしゃるとおりです。頑丈ですよね。対地戦闘最強ですね。
潜水艦とか戦艦も簡単に沈めますし…すばらしい…!!



一陣の風様

作者も書き始めはどうなんだろ?と思っていましたよ(笑
気に入ってもらえてなによりです。面白いと言って貰えるだけで書いてよかったと思えますし、頑張れます!!
贔屓がシンシアとyellow4と謎の女・1号…物の見事に大人の女性ですな!!
けど…全員、後ろの二人はお相手が居ますよ?あの人達から奪える自信は…ありますか?(笑



[21516] 13話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2010/10/18 22:02
・なのは・

目の前でメビウス君と閃君がゲームをしてる。
新作のガンシューティングゲームで襲い掛かってくるゾンビ達を倒して進んでいるの。

「メビウス!上任す!」
「分かった!正面のゾンビは任せるよ!!」

画面の上と正面から襲ってくるゾンビを持っているガンコントローラーで打っていく二人。
私とすずかちゃんは後ろでそれを見ながら、応援。
最初に銃のタイプを決めれるみたいで、閃君はマシンガンを、メビウス君はハンドガンを選んだ。
それに閃君のコントローラーの持ち方は独特で、銃を横にしてプレイ中なの。
メビウス君は普通に銃を構える体勢でプレイしてる。
手数で押す閃君と、一発一発で倒して行くメビウス君はコンビネーションがばっちり。

「だぁぁぁ!!オメガはどうしたよ!!3人プレイも可能だろ!?」
「無理だって。あいつ、シューティングは苦手って言ってたよ!!」
「なら、なのはやれ!!シューティング得意だろ!!」
「えぇ!?むむむ無理だよぅ。」
「下!!下からも来たよ!!って…弾切れ!?」
「リロード急げ!!」

うぅ…私も出来れば手伝ってあげたいけど…こういうの苦手。
シューティングは苦手じゃないんだけど…ゾンビとか…恐いのは私は出来ない。きっと…夢にでちゃうもん。
けど、見てるのはあんまり恐くないの。…きっとメビウス君が倒してるのを見てるからかな?だって…夢の中でも助けてくれるから…。

「待たせたな!!俺…参上!!」
「決めポーズなんていらねぇよ!!さっさと100円入れろ!!」
「俺に任せとけ!!だがしかし!!シューティングは苦手だぜ!!」

オメガ君がアリサちゃんと一緒に歩いてきたけど…アリサちゃん、なんだか嬉しそうにしてる?
そう言えば…さっきまでどこに行ってたんだろ?

「アリサちゃん、そのキーホルダーどうしたの?」
「えっ!?な…なんでもないわ。き…気にしないで。」
「?」

あ、本当だ。すずかちゃんの言うとおり、犬のキーホルダー持ってる。可愛いなぁ、何処で買ったんだろ?

「アパーム!!弾持って来いアパーム!!」
「無駄撃ちしすぎだよ!!しかも大して当たってないし!!」
「お前戦力外もいいところだな!!しかも、バージョンアップアイテム取るんじゃねぇよ!!途中参戦の癖に武器性能が最大ってどういうことだよ!!」
「俺、ナイフクリアの方が得意なんだぜ!!」
「それは…やりこみすぎ。」

にゃはは…こんな風に言ってるけど、三人はとっても仲良しだよね。
だって、三人で最後のステージまで進んで…クリアしちゃうんだもんね。




次元航行艦アースラ
ミーティングルーム

・ブレイズ・

「ロストロギア及び行方不明者の捜索が今回の目的になります。」

艦内の一室、ミーティングルームに俺達は居る。
今回は説明役の俺とクロノ、そして、艦長でありクロノの母親であるリンディ提督の三人だ。
二人の前のディスプレイには、今回の航海の目的であるロストロギアと行方不明者、ユーノ・スクライアの情報が表示されているはずだ。

「スクライア…あの発掘一族か?」
「あぁ。輸送中に連絡が途絶え、期日になっても管理局にロストロギアが届かない。襲撃、あるいは事故により、第97管理外世界に漂着したと考えられる。
スクライアからも正式な捜索願が提出されている。」
「ブレイズ君、ロストロギアの情報はないのかしら?」
「残念ながら何も…。現在、スクライアの一族に情報提供を求めています。その後、管理局のデータベースと照会をする予定です。
過去のデータですが、何かしらの情報はあると思いますので。」
「そう。なら任せれるかしら?」
「お任せを。」

管理局のデータベースの情報量は膨大だ。
それこそ、過去の犯罪からロストロギアの情報にいたるまで保存されている。

「あと、3つほど報告があります。」
「どんな内容だ?」
「良い報告が1つに、普通の報告が1つ、そして悪い報告が1つで計3つだ。」
「それじゃ、悪い報告から聞きましょうか。」
「…今回、調査を行う第97管理外世界に…ゴッデンシュタイナーの御曹司が居ます。」
「…聞きたくなかった…」
「厄介な…事ね。」

クロノがため息をつきながら、額を押さえ、リンディ艦長も嫌な顔をしている。
実際、俺も眉間に皺がよっているだろう。この報告を聞いた時は…天を仰いだ。
ゴッデンシュタイナーは管理局の有力な支援者でもあるが…それと同時にきな臭い噂が絶えない一族だ。
それに時々、こうして圧力をかけてくる。まったく厄介な一族だ。
まぁ…これがアースラを出す理由だ。…御曹司の安全を考えていると言うパフォーマンスの為なんだが…やりきれないな。

「…それで、向こうはなんて言ってきてるの?」
「くれぐれも御曹司の行動の邪魔をしないように…と。後は御曹司の安全を第一に、それ以外は配慮するな、だそうだ。」
「…管理局であり、調査をする僕達が邪魔者扱いとは。」
「それ以外は、ね。一般人はどうでも良いと言うことかしらね。なんで御曹司はそんなところに?」
「現在、情報を秘密裏に集めていますが…厄介な事に変わりはありません。」
「…気分を変えるために、良い報告を聞こうかしら。」
「フレッシュリフォー社の帝重役が、第97管理外世界に在住しているようです。コンタクトを取ったところ、今回の調査には全面的に協力してくれるそうです。」
「帝重役が?それは助かるな。」

ゴッデンシュタイナー家と違い、フレッシュリフォー社の重役達は管理局に協力的な姿勢を見せている。
最も、無理は事は無理とはっきりと言うのが、気に入らない管理局上層幹部も居るようだが。
特に帝重役は人格者であり管理局と親交が深く、捜査などに協力を申し出てくれるありがたい存在でもある。
そして、息子の帝 閃は有能なデバイス開発者としても知られている。
実際、彼と開発チームの主任が作り出したVRデバイスの2世代目は、多くの局員が愛用している。
多くが消息不明のオリジナルの1世代と違い、制御しやすく、安価と言うこともあってか正式採用を検討する部署も出ているほどだ。

「流石はブレイズ君だわ。お陰で今回の捜査が捗るわね。本当に有能な補佐官で助かるわよ。」
「ありがとうございます。ですが、褒めた所で、今日の砂糖の量は増やしませんからね。」
「えぇ~!!そんなぁ!!」
「1日角砂糖で15個までと決めてあるはずです。先ほどのコーヒーに10個入れたので、今日は後5個だけですよ。」

まったく…リンディ艦長の甘党には困ったものだ。過剰摂取で身体を壊してしまわないか心配でしょうがない。
今のところは俺が管理できるところは、厳しく管理しているから問題ないと思いたいが…。
クロノから相談を何度も持ちかけられても居るし…手は抜けないな。

「うぅ…これが無ければ、ブレイズ君を家の養子にしたいのに…。別にあっても養子にしたいけど…」
「…嬉しいですが…如何せん艦長の為ですので…我慢してください。」

…俺の両親はクロノの父親であり、リンディ艦長の夫でもあるクライドさんと一緒に戦死している。
11年前にあったあの争乱でだ。バートレット教官やランパート教官も体験している…ミッド最大の争乱、【ベルカ戦争】。
…これは今語るべきことではないな。
リンディ艦長はそれ以来、俺に養子にならないかと良く持ち掛けてきてくれるが…俺は世話になっている方が居る。
その方に恩を返しきる、それが俺の決意だ。

「それじゃ…普通の報告を聞こうか。」
「管理局航空隊より3名、魔道師の借りる事が出来た。」
「3人も?こちらとしては大助かりだが、名前は?」
「今、呼び出す。…ブレイズだ。ミーティングルームに来てくれ。」

小型端末で魔道師達が待機している部屋に通信を入れる。
アースラの常駐戦力は少ない。故にこうして人員を借りる事がある。
本来ならばこの位の任務、クロノと俺、そして常駐している部隊だけでも良いのだが…前述したようにゴッデンシュタイナーに対するパフォーマンスだ。
まぁ…戦力が多いに越したことは無い。

「「「失礼します。」」」
「来たか。」
「…また…凄い魔道師達を借りてきたな。」
「光栄ですわ。アースラの切り札、クロノ執務官。」
「ふ~ん、どんな奴かと思ったら…ちっこいんだな。」
「あらぁ?私達より年上のはずですよ~?」

入ってきたのは3人の魔道師達。
彼女達は航空隊の所属であり、3人で運用すると最も効率がいい部隊でもある。
リンディ艦長が席を立ち、敬礼をすると、3人も敬礼をする。

「ようこそ、アースラへ。歓迎します。薔薇の3姉妹さん。」







・なのは・

私は今、部屋から抜け出して、外に居る。
肩にはユーノ君が乗っているし、レイジングハートも起動してるの。
時間帯は深夜だけど…ジュエルシードの反応を見つけたから。
…今回は1人。…メビウス君達は来てない。理由は閃君が同じ部屋だからね。ユーノ君はうまく抜け出してきたみたい。
本当は私が言わなかっただけなんだけど…。だって、メビウス君にも休んで欲しいもん。

「ユーノ君、ジュエルシードの場所、わかるかな?」
「待って。今調べてるから…」

こうしてユーノ君と2人だけで捜索するのは、初めて。
何時もはメビウス君が探してくれていたし、ガルムさんも一緒に待機しててくれたけど…今回は2人だけ。頑張らないと。

「ユーノ君、メビウス君は…どうだった?」
「どうだったって…?」
「その…眠ってた?」
「ん~…オメガ達とゲームをしてたけど、疲れて眠っちゃったみたいだよ。多分、起きてこないんじゃないかな?」
「そっか。」

ホッとすると同時に少し不安になる。だって、今では一緒に回収してきたから…
けど、前に決めたんだもん。メビウス君の足手まといにならないようにするって。だから、私が1人でも大丈夫って教えないと…

「…これは…なのは、魔道師が居る。」
「え?私達以外にも居るの?」
「…彼女だ…!!メビウスが友達って言ってた魔道師だよ!!」
「…どこ!!」

直ぐにユーノ君が示した方角を見ると、金色の魔力光が奔って、ジュエルシードの反応が消えた。
私はあわてて、反応が消えた地点に向かうけど…遅かったみたい。
中心にはあの女の子…フェイトちゃんが立っていた。

「あ…」
「……また会ったね。」

驚きながらこちらをみるフェイトちゃん。…忘れないよ私は。メビウス君を…傷つけたこと…!!
けど…ここは冷静にならないと。

「……メビウスは居ないの?」
「居ないよ。私じゃ不満かな?」

むぅぅぅ…、やっぱりこの子…メビウス君の事を狙ってる…
一緒に来なくて良かったかもしれない。来たら絶対に絶対にメビウス君と……うぅ、考えるのは止める!!

「それで…私になにか用?」
「決まってるでしょ。ジュエルシードを返して。それはユーノ君が集めてたものだよ。」
「それは出来ない。私にはこれが必要だから。」
「君は分かっているのか!?それは危険なロストロギアなんだよ!!」
「これはとても危険な物だって事は分かってる。」
「危険って分かってるなら、もうこんな事は止めようよ!!」
「それでも必要。だから集めているんだよ。これを返して欲しかったら…ジュエルシードを賭けて、私と勝負して。」
「勝負…するしかないの…?」

やっぱり素直には返してくれないのかな…。メビウス君を傷つけた事は許せないけど…。お話をしようって…言ってたもん。
だから、私も喧嘩はしたくない。それでも、フェイトちゃんが私にデバイスを突きつけている。
けど、改めてみると…フェイトちゃんって…可愛い。綺麗な金色の髪の毛だし、肌だって真っ白。
髪の毛を結んでるリボンも蒼くて…蒼くて………蒼?

「な…なに?」
「………………」
「なのは、どうしたの…?」

ジーとフェイトちゃんを凝視する。…前に会ったときは…黒いリボンをしてた筈だよね?それがなんで蒼いリボンになってるの?

「ねぇ、フェイトちゃん…?そのリボンはどうしたのかな?かな?」
「え…?」

一瞬、戸惑ったけど…直ぐに軽くリボンに触って…顔を紅くしてる。
あれれ?_おかしいなぁ。私の間違いじゃなければ、それ…メビウス君のリボンダヨネ?
そう言えば…怪我してた時に1日何処かに泊まりに行って筈。それで…帰ってきたとき、メビウス君以外の匂いもした。
おかしいなぁ?どうしてフェイトちゃんと同じ匂いがしたんだろうね?あれれ?おかしいなぁ?リボンからもメビウス君の匂いがスルヨ?



「な…なのは…笑ってどうし……」
「なぁに?ユーノ君?」
「ひぃぃぃ!!」

気が付くと私は満面の笑みを浮かべていた。それなのに、悲鳴を上げるなんてひどいなぁユーノ君は。
それに、どうしてフェイトちゃんは後ずさりするのかなぁ?どうしてだろうね?くすくすクス

「ねぇ?フェイトちゃん、それってメビウス君のリボンダヨネ?どうしてフェイトちゃんがつけているのかな?かな?」
「あ…これは…ちがう」
「嘘だっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「!?」
「どうして嘘つくのかなぁ?」

私が間違えるわけ無いよ?メビウス君の事はなんでも知ってるんだよ?
嘘はいけないよね。嘘は駄目だよね。


「良いよ。勝負しよう。」
「それじゃ、お互いに1個ずつかける。それで良い?」
「ううん、私はジュエルシードなんて要らないよ?フェイトちゃんが賭けるのは…リボンで良いよ。」
「リボン…を?」
「なのは!?なにを言ってるん…」
「ユーノ君は黙っててね。今、凄く凄く凄く大事な事なんだから。」
「はははいいぃいぃ…!」

もぅ、駄目だよユーノ君?今は大事なお話してるんだかね。ジュエルシードなんかよりメビウス君のリボンの方が大切なんだからね。


「…良いよ。けど…これは渡さない…!!これは私のもの…私だけのもの…!!」
「それじゃ…はじめようか。」




・メビウス・

「はぁぁぁ。夜の露天風呂は最高だねぇ。」
「そのとおりですね。」
『はい。気持ちが良いです。』

深夜の時間帯だけど、私達は露天風呂に入っている。
オメガと閃は部屋で熟睡してるはず。私はガルム、そしてエクスと一緒に露天風呂を楽しんでいるんだ。24時間入浴可能だから良いよね。
エクスはお湯を入れた桶の中に浸かっている。ユーノがしてたのを参考にしてみたんだけど…良かったみたい。
満点の星空での露天風呂は、本当に最高だ。

「皆で遊んだし…騒いで本当に楽しかったなぁ。」
「夕食の時は、驚きましたよ。メビウス様に被害が無くてよかったです。」
「あはは、避難してたからね。」
『けど、楽しんでましたよね?』
「うん。騒ぐときは騒がないと。」
『私も話せればよかったのですが…魔道師では無い人達も居ましたからね。少し寂しかったかもしれません。』
「そっか、ごめんね。」
「エクス、あまりメビウス様を困らせるな。」
『私だってマスター達と騒ぎたい時もあるんですよ?』

エクスが拗ねたようにする。ん~…けど、士郎さん達は私達が魔道師って知らないから…下手に話せないからなぁ。
…魔道師と言えば…閃は…どうなんだろう?何気に閃にも魔力反応がある。私やなのちゃんに比べると小さいけど…それでも在ることには変わりは無い。
でも、一緒にいるけど、魔法の話とか全然しないから…違うのかなぁ…?まぁ…違っても言いようにばれない様にはしてるけどね。

「けど…綺麗な夜空。」
「えぇ。満点の星空に…」
『露天風呂ですし…』
「そして、夜空に煌く桃色と金色の魔力光……はい?」

いやいや…最後のは違うよね?…なんか上空で物凄く…見たことの在る女の子達が…戦ってるんですけど?
物凄く…魔力光を放っているんですが…?
一瞬、思考が停止する。それが不味かった。

「エクス!!感知できなかったのか!?メビウス様!!直ぐに退避を!!」
『すいません!気を抜いていました!!タリズマンを展開…マスター!?』
「え?」

思考が追いついたんだけど…こっちに向かって…黒いバリアジャケットの女の子、フェイトちゃんが…堕ちて来る!?

「ちょ…まっ!?うあぁあぁぁ!!??」





あとがき


若干、なのはヤンデレ化?むしろ魔王化してるかも
…さて…着々と準備の整うアースラ。そしてしっかり者のブレイズ君。リンディさんの管理はキチンとしてます。
3姉妹は今回は通り名だけの登場。うまく書けるか心配です。特に3女のジェニファーさん。…下手するとリリン様と口調が被りそう…
ちなみに閃君が魔道師と言う事はメビウス君達は知りません。ミッドでも開発者としての方が有名ですが、知る人は知ると言う感じです。
そして、作者的に物語の基幹をなす単語を出してみました。【ベルカ戦争】
まぁ…サイファーが出てきた時点で予想済みですよね。うまくミッドと混ぜれると良いのですが…
しかし…どうしますか。サッサと物語を進めるべきか…。それとも書きたい事を書きながら進むべきか…
下手な癖にアイテムを奪いまくるのは友人。ガンコンを横に構えるのはその彼女(激うまい)。まるでマシンガンのように連射&掃射してます。
ハンドガンでチマチマ削るのが作者です。


以下返信


春河様

良いですねぇ。F-14は戦闘機ファンなら誰でも知っている有名機ですよね。某映画での雄姿…痺れる憧れる…!!5での主役機でもありますしね。
何故引退した…金がかかる?愛で補え。トムぬこが居ない海軍なんぞ認めない!!
あぁ…ミックスジュース…同志よ…!!
兄機はバランスブレイカーです(笑 ライバル達の登場はもう少し後になると思います。


ADFX-01G-2様

確かに…デッドエンド臭…。しかし、忘れてはいけませんよ?
彼はオメガです。敵地上空だろうが、海だろうが、関係なくイジェクトして生還する存在ですよ?
2度出撃して2度撃墜され、それでも生き延びている超エース!!



ダンケ様
24時間麻雀…凄いですね。作者は直ぐに沈みそうだ。
閃君は魔道師って事はばれないようにしてます。用心深い性格ですので、隠すのは上手のようです(笑
汁なんたらさんは…あと少しで出てくる予定です。次回かその次辺りで…何かしらやらかして貰おうかと…
今回は実家の方が出てきましたが…よくあるモンスターペアレント?みたいなものです



[21516] 14話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2010/10/18 22:04
・メビウス・

頭が…痛い…
朦朧とする意識の中、私は気がつく。
額にひんやりとした感覚と、頭の下に柔らかな感触を感じる。それに…誰かが私の頭を撫でている…?

「あ…れ…?」
「あ、気が付いた…?」
「なのちゃん…?」

眼を開けると…なのちゃんが笑いながら、私の頭を撫でていた。
ここは、休憩室かな?私は長椅子に横たわってるようだ。
顔が近い…これは…膝枕状態…?

「なんで…私は…露天風呂に入っていたような…」
「あぁああのね、そのね…」

焦ったようにしているなのちゃんを見て、思い出した。
確か、なのちゃんとフェイトちゃんが露天風呂の上空で空中戦をしてたんだよね。…それで、撃墜されたフェイトちゃんがこっちに落ちてきて…

「そ…そうだ。フェイトちゃんは…くぅぅ…!!」
「まだ動いたら駄目だよ!!!おおきなたんこぶ出来てるんだよ?」
「そ…そう、だからこんなに頭痛いんだ。いてて…」

私は起き上がろうとして…頭に痛みが走る。
確かになのちゃんの言うとおり、たんこぶが出来ていた。結局起き上がれずに、なのちゃんの膝枕に逆戻りする。うう…情けない。

「なのは、冷やしたタオルもって来たよ。メビウスは?」
「あ、フェイトちゃん、ありがと。今、気が付いたところ。」
「やっほ。フェイトちゃん。」
「メビウス…良かったぁ。」

タオルを持って駆け寄ってくるフェイトちゃん。怪我はしてないようで、安心する。
徐々にさっきの事を思い出してくる。咄嗟に受け止めたんだけど…滑って頭を強打したんだっけか。
額を冷やしていたタオルを、なのちゃんが交換してくれる。冷たくて気持ちがいい。頭が冴えて来るね。

「ごめんなさい…。まさか、あそこにメビウスが居るなんて知らなくて…」
「まぁ、夜中だしね。…そこまで気にしないで、色々と言いたい事はあるけど…」
「あ…う…うん。」

しょんぼりして、床にペタンと座っていたフェイトちゃんの頭を軽く撫でる。指の間を滑る髪の感触がする。
少し嬉しそうにしてるから…元気になってくれたのかな?

「がるるる…」
「な、なのちゃん?」
「がう、がうがう。うぅ~…!!」

上から聞こえた…変な声。何故か、なのちゃんがフェイトちゃんの事を威嚇してる…?
何時からなのちゃん…犬っぽいのになったんだろう?…少し可愛いと思うけど…言わない方が良いか。

「その…メビウス、私は大丈夫だから…」
「そう?…よっと。フェイトちゃん、こっちにどうぞ。」
「あ…もう起きても良いの?」


身体を起こしてなのちゃんの隣に座って、スペースを空けてフェイトちゃんを座らせる。
流石に床に座らせるのは悪いからね。
少し頭が痛むけど…タオルのお陰で楽になるなぁ。すると、なのちゃんが私の腕をツンツンとしてくる。

「…ねぇねぇ、メビウス君、私も、膝枕とかしてたんだよ?」
「ん、そうだね、ありがとう。」
「どういたしまして。だからね…私も…撫で撫でしてほしいなぁ。」

確かに、膝枕のお陰で、長椅子に頭をつけなくて良かったんだけど…
小さく手をモジモジして何を言うかと思えば…。私は小さく笑いながら、なのちゃんの頭を撫でてあげる。
嬉しいのか、笑いながらすりすりしてくるのが…凄く可愛いと思う。…隣でフェイトちゃんが羨ましそうにしてるけど。
あれ…そう言えば、ガルムの姿が見当たらないし、エクスも身に付けていないな。

「ガルムは?」
「ガルムさんなら、メビウス君の着替えを手伝った後に、壊れた柵を修理するって言ってたの。ユーノ君とエクスさんもお手伝い中。」
「私が堕ちた時に壊しちゃったみたいで…さっき、アルフも向かわせたよ。」
「あらら…けど、それならそれで良かったのかも。ガルムに、お説教されずにすんだろうからね。」

露天風呂

「なんであたしまで、手伝わなくちゃならないんだい。」
「危害を加えなければ、構わんと言ったが…思いっきり加えてただろうが。文句を言わずに手を動かせ!!」
「あたしゃその場に居なかったんだよ!!夕食を買いに行っててね!!」
「そんな事は知らん!!」
「ガルム、その前に会ってたのなら教えなよ。止めなかった僕も僕だけど…エクス、こっちに誰も来てない?」
『問題ありませんね。…お二人とも、朝方までには終わらせないと大変ですよ?』
「えぇい!!エクスも手伝え!!簡単な資材なら運べるだろうが!!」
「ちょっ!?落ち着きなって、人が来たらどうするんだい!?」


場所は戻り、休憩室

「さて…色々と聞きたいんだけど、良いかい?」
「う…ど~ぞ…」
「私に黙って…何をしてたのかな?察しはつくけど。」
「うぅ…メビウス君が攻めだよう。」

攻めって…人聞きの悪い…
それから2人の話を聞いていく。ジュエルシードの反応を探知したこと、フェイトちゃんも来ていた事、賭けて勝負をした事。
まったく…この2人は…どうして自分1人でなんでもかんでも片付けようとするのかな。

「はぁ…まったく、2人が怪我しなくて良かったけど…。危ない事はしたら駄目だよ?」
「けど…」
「けどじゃないの。確かにジュエルシードの回収も大事だけど、私はそれ以上に2人が大切なんだからね?2人が戦って怪我したら、凄く悲しいんだよ?」
「あう…その言い方は…卑怯だよぅ。」
「うん、ずるいよ…。」

なのちゃんとフェイトちゃんは、私の大切な友達だから、怪我とかは絶対にして欲しくない。
だけど、お互い引くわけにも行かないよね。なのちゃんはユーノの為に、フェイトちゃんも必要としてるから、どうしようもないか。
私がどちらかに付けば、どちらかと戦うことになってしまう。…それは一番に嫌なことなんだよね。
私にとってなのちゃんは大切で、フェイトちゃんも同じくらい大切。どちらか選べといわれても…私は選べないと思う。これは…欲張りなのかもしれない。


「…2人とも、聞いて。確かに、決闘をするしか方法が無いんだろうけど…。その方法をとる場合は、私は中立の立場になるよ。」
「中立…?」
「うん。どちらの味方もしないけど、どちらにも協力しない。…そうだな、審判役をする、事でどうかな?」

例え、甘い考えだと言われても、私はこの方法をとる。
2人とも少し考える素振りを見せながらも、納得はしてくれたみたいだ。
けど…出来れば、それ以外では友達になってほしいな。そう言えば…なんでか私のリボンを賭ける琴になってたんだから…

「なのちゃん、少し良いかな?」
「なぁに?」

徐になのちゃんの髪に手を伸ばして、リボンを解く。驚いて動こうとしてるなのちゃんを制止して、髪を梳く。
後は今度は私の髪に結んであるリボンと、予備で持っていたリボンをなのちゃんの髪に結んでっと…

「わ、わぁ…わぁ!良いの?」
「うん。3人でお揃いのリボン。だから…なのちゃんもフェイトちゃんと友達になってくれるかな?」
「メビウス…?」
「確かに、ジュエルシードの事に付いては、お互い譲れないことがあるんだろうけど、それ以外では仲良くしてほしいな。
さっきも言ったけど、私にとってなのちゃんは凄く大切だけで、フェイトちゃんも同じくらい凄く大切なんだ。その2人が仲悪いのはいやだからね。」
「…そんな事言われたら、仲良くするしかなくなるよぅ…」
「なのは、メビウスのこれって…天然?」

自分でも凄く恥ずかしい事を言った気がする。現に顔は紅くなってるだろうね。それ以上に2人の顔も紅くなってる。

「フェイトちゃん、さっきはごめんなさい。これから…よろしくね。」
「うん、こちらこそ。次は…負けないよ。」
「私だって!!」

そう言って笑いあう2人。とりあえずは…仲良くなってくれた…かな?




・閃・
温泉旅行も終わって…数日がたったある日。俺は色々と考えていた。
旅行の日の夜は、多分色々とあったんだろうな。なのはがご機嫌で、何時も以上にメビウスにくっ付いてたし、お揃いのリボンだった。さり気なく朝食の時に「あーん」までしてたぞ。
反面、ガルムとユーノが疲れたようにしてたな。…なにをやらかしたんだかな。
現在、俺は毎度の如く、フレッシュリフォーに脚を運んでいる。まぁ…予想通り、リリンの呼び出しだ。
いや…知り合った日から毎日毎日連絡が来てたんだが…旅行中はしなかったからなぁ…怒ってんだろうか…
今回は煩いレーベンを主任に押し付けてきたから大丈夫だろう。…また変なこと教え込まないだろうな…

若干、冷や汗をかきながら、俺は軽くノックして応接室の扉を開ける。

「失礼し「閃お兄様ぁぁぁぁ!!!」げふぁ!!??」

扉を開けた瞬間に襲ってくる衝撃と泣き声。なんだ!!??なにが起こった!!??敵襲か!?
視線を下に向ければ…俺の胸に顔をうずめる…ピンクのお姫様

「お兄様…お兄様…!!」
「あ~…と。リリンさん?如何為さいましたでしょうか?」

なんか衝撃と混乱で変な言葉遣いになる俺。いや…だって、流石に泣かれるとは思ってなかったからなぁ。
…こんなテンプレ展開ある訳無いだろと思っていると…リリンが顔を上げる。…あらら、物の見事に泣き顔だ。

「りリンは…リリンは凄く凄く…寂しかったのです…。閃お兄様の声が聞けなくて…凄く凄く…不安でしたのに…!!」

はい、今俺の脳天に衝撃走りました。ズキューンて走りました。走りましたとも。
なんだこの可愛い生き物。言葉に出来ねぇよおい。しかも自分の事とを名前で呼んじまうとか…あれか?甘えモードか?
この後、5分ほど慰める事になる。別に…ロリコンでも良いかもしれん…なんて片隅で思ってしまう俺だった。
結局、落ち着きを取り戻したリリンはソファに座った俺の膝の上で、楽しそうにおしゃべり中。ちなみに、要望で後ろから抱きしめる形になっている。
…心底レーベンが居なくて良かったと思う。…これ…天然だよな。

「まぁ、それではお兄様は、温泉と言うところに行ってきたのですか?」
「あぁ、友達とその家族でな。それで連絡しなかったんだが…ごめんな。」
「いいえ、良いのですよ。こうして…ギュッと、してくれているのですから♪」

リリンが嬉しそうに胸に顔をすりすりしてくる。…可愛すぎるぞこら…。保護欲とか無限に湧き上がってくるんだけど。
内容的には地球の事、海鳴市での生活のこととかだな。リリンも興味心身に話を聞いてくれている。

「けど、不思議ですわね。自然のお湯が、肩こり等を治療できるなんて…流石は神秘の国日本ですわ。」
「神秘の国って…日本のこと知ってるのか?」
「はい!主任に色々と教えていただきました!」
「へ…へぇ、主任に…。どんな事を聞いたんだ?」

一番、この娘に近づけたくない奴の名前が出てきたよ…。どんな事を聞いたんだ?
そう思い、聞いてみれば…帰ってくるのは衝撃の数々。

「えっと…まずは首都はチバシガサガという名前だそうですわ。それで…ろけっとぱんちを使うす~ぱ~ロボットが、光の巨人のうるとらまんと激戦を繰り広げてるとか。
後はしょっかーと言う組織が、カラフルな全身タイツを身に付けた正義の味方さんや、チートなかめんらいだ~さん達と戦っていますの。
そんな人達が沢山居ても、頂点に圧倒的力を持つ、ごじらさんが居るから日本は平和なんですよね?」
「……ごめん、リリン。ちょっと待っててくれ。少し用事が…」
「まぁ。けど、速く戻ってきてくださいね?」
「あぁ……10分程度で戻ってくる。」

リリンを膝からおろした俺は、直ぐに開発部に走り出した。途中で資材部から鉄パイプを奪って。

「やぁ、閃、どうし…」
「何も言わずに昇天しろこらぁぁあぁぁあぁあ!!!!!!!」
「びでぶ!?」

10分後

「ただいま。」
「おかえりなさい。…あら?お洋服を変えてきたのですか?」
「あぁ、少し…汚れたからな。」

主任は成仏させてきたから大丈夫だろう。問題は…この娘の誤解をどう解くかだな
千葉滋賀佐賀って…思いっきりネタじゃねぇかよ。しかも、スーパーロボットとウルトラマンは戦わねぇよ。
全身タイツってなんだよ…。そう見える奴も居るけどよ…。

「とりあえず…リリン、色々と間違ってるぞ。」
「そ…そうなのですか!?」
「しょうがない。俺が説明するか…。良いか?日本は…」

こうして俺とリリンの日本講座が始まった。
1時間程度かけて、日本の事を説明し、分からない事があったらリリンが質問する、と言った形式だ。

「つまり…主任の説明は、でたらめだっと言うことですか?」
「まぁ…そうなるな。…と言うかな、そんな国だったら俺、暮らせないって…。ゴジラが頂点とか危険極まりないっての。」
「はぁ、なるほど。けど…お兄様の暮らす日本…私も…行ってみたいですわ。」

…えっと…リリンさん?なんですか、その上目遣い。俺を殺す気ですか?萌え死にさす気ですか?
そして…その若干、期待が込められた視線はなんですか?連れて行けと?私を連れてってという事ですか!?

「駄目…ですか?どうしても、閃お兄様の暮らす所を…見たいのです。」
「はぁ…しょうがない。俺が後で聞いてみるよ。それでよかったら、一緒に行こうな?」
「本当ですか!?約束ですよ!!」

軽はずみな約束しちまったかな。なんたって超巨大企業の令嬢を、管理外世界に連れて行くんだから。そう簡単に許可が出るかどうか…
だけど…首に手を回してほお擦りをしてくるリリンを見ていると…満更でもないんだよな。
籠の中の小鳥じゃ、可哀想だよな。広くて大きな世界を見せてやるとしますか。さぁ…頑張れよ。俺!!







??????

「くくく…準備は整った…。来るが良い。愚かな人造の化け物が…」

市外の外れに位置する廃ビルに蠢く人影。
その前には幾重にも封印を施されているジュエルシードがある。だが、何故か人影が手をかざすと、徐々に封印が解けていっている。

「もう少しで始めれる…僕のなのはの物語が。邪魔な奴は…ここで消せば良い。」

邪な笑いを浮かべ、周囲に眼を配る。何も無いはずの空間なのだが…何処かが可笑しい。
すると、何処からか迷い込んだ鳥が、内部を飛びまわっていた。

「ふん…。馬鹿な鳥だ。まぁ、どうでもいいけどな。…さて、後は時が来るのは待つだけだ。
くくく…はははははははははははははははははははははは!!!!」

人影が笑いながら揺らめき、そして消えていく。まるで最初からそこには居なかったように…
後に残されたのは、多数の槍で貫かれている…鳥らしきものの残骸だけだった。






あとがき

久々の更新になりました。遅い&駄文で申し訳ないです。
フラグをたてまくるメビウス君と、ラブラブ?しちゃっている閃君。うらやましいぞこんちくしょう。
リリン様は何も知らない無垢なお姫様です。ちなみに、リリン様の私は「わたくし」という事で…
次回からは一気に駆け抜けようかと思っています。多分、20話近くで無印を終わらせれる…筈です。
さて…頑張りますか。では、また今度。


ダンケ様
帝家両親は、管理局に憧れていた人たちですからね。出来れば協力したいと言う人達です。
閃君の素性については、無い頭絞って考えていました。本人もバレたらその時、と覚悟はしてますから。
アンベルさんは…少し迷っています。あの人…作者は設定だけでしか知らないので…


名無しの獅子心騎士様

ベルカ戦争については、後で色々と出して行こうとは思っています。
それに原作と、この作品でのベルカの違い等も後で書こうとは思っています。闇の書事件も関わっているようにはしてますが…心配です。
なのはさんは…やばいのが降りてましたね。メビウス君には被害皆無ですが…周りに被害が出るという厄介なヤンです。(笑




[21516] 15話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2012/05/24 21:42
・フェイト・

「材料は…このくらいかな?」

メビウスの書いたレシピに眼を通す。それには丁寧な字で、材料や調理の仕方が書いてある。
最初に作ってくれたハンバーグのレシピ。
今日は母さんの所に行く事になっている。何時も研究ばかりで、ご飯も食べてないかもしれないから…私が作ってあげたい。
料理なんて、メビウスと会うまでやったこともなかったけど…きっと大丈夫だと思う。
…髪に結んであるリボンに触る。蒼くて綺麗なリボンは、メビウスから貰った大切な宝物。
何時も近くに居てくれる。そんな気してもすごく安心できる。

「大切で大事なんだからね?」

温泉で言ってくれた言葉を思い出すと、顔が熱くなる。それに凄く心も温かくなる。
…それに、堕ちた時に庇ってくれた。それが凄く嬉しい。だから、彼の、メビウスの言葉を簡単に信じる事が出来たんだ。

「私は…独りじゃないんだよね…メビウス。」
母さんの所に行く前に、彼の好きな空を見上げながら…私は笑う。次も…笑顔で会いたいから。




時の庭園

薄暗い部屋で研究に没頭する女性、プレシア・テスタロッサ。フェイトの母親と呼ぶべき存在だ。
若干、優れない顔色をしながらも笑顔で時計を見る。

「…そろそろフェイトが来る時間ね。」


呼ぶべき存在とはどう言う事か?理由は隣の部屋にある。そこには1つのカプセルがあり、その中にはフェイトと瓜二つの少女が入っていた。
少女、アリシア・テスタロッサ。フェイトのオリジナルである。そう、フェイトはアリシアのクローンなのだ。
プレシアが求めたアリシアとは違う存在のフェイト。彼女自身、最初は偽者を造ったと嘆き苦しんだ。
しかしプレシアはフェイトを、己の娘として受け入れたのだ。たとえ、自分が生んだ娘から、造られた娘とはいえ、自分の娘なのだと、自分には【創った責任】があるのだと。
それを受け入れてしまえば、大切で大事で愛しい娘には変わりなかったのだ。フェイト自身も出生を受け入れ、そして、母と姉の為にジュエルシードを集めると言う事をやると言ってくれた。
フェイトにとっても同じだ。たとえ違くても、プレシアは母であり、アリシアは姉なのだ。家族の為に自分が出来ることをする。簡単な事で難しい事を彼女は成そうとしていた。
プレシアは扉を見つめながら、今か今かとフェイトの帰りを待っていた。軽いノックの音が響いて扉が開き、愛しい娘が姿を現した。

「ただいま、母さん。」
「あぁ…おかえりなさい、フェイト。怪我はしてない?風邪とかひいてない?」

怪我をしてないか、病気になっていないか、それを心配する姿は母親その物だ。
優しく…とても優しくフェイトを抱きしめるプレシアと、嬉しそうに抱きしめ返すフェイト。とても微笑ましく、優しくなれる光景だ。
フェイトがジュエルシードを集めに行ってる間は会えなかったので、その分を埋めるようにして抱きしめあう。
その光景を見ながらアルフも笑う。自分の主が幸せそうにしているのが、嫌なわけが無いのだ。

「うん、大丈夫だよ。…母さんは?研究ばかりで疲れてない?」
「ふふ、心配してくれるのね。ありがとう、私も大丈夫よ。フェイトの顔を見たら、疲れなんて吹き飛ぶわ。」

笑顔でフェイトに語りかけるプレシア。本当にフェイトに会えて嬉しそうにしている。
視線を下に向けると、フェイトの足元に何故かスーパーの袋が置いてあった。

「あら?これはなに?」
「あ…。えっと…母さんはご飯食べた?」
「ご飯?まだよ。」
「そ、それなら!!私が作る!それで、一緒に食べよ!」
「フェイトが…?」

突然の提案に驚くプレシア。確かに一緒に食事が出来るのは、彼女にとって最高の休息になるだろう。
しかし、誰が作るといった?目の前の娘がそう言った。
料理の仕方を教えたことが無いのに…疑問に思いながら、フェイトの提案を受け入れる。

「良いけど…料理なんて作れるの?」
「うん、その…レシピもあるから…」
「レシピ?」

抱擁から解放されたフェイトが、ポーチの中から数枚のメモを取り出してプレシアに見せる。
そこには、丁寧な字で食材、調理の仕方、ワンポイントアドバイスが書かれていた。

「これは…誰が書いたのかしら?」
「えっと…大切な…友達。」
「友達…!?」

フェイトの口から出てきた驚くべき単語、友達。一瞬、呆気に取られたプレシアだが、直ぐに笑顔になりフェイトの頭を撫でる。
この人見知りの激しく内気な娘に友達が出来た。それが、とてつもなく嬉しいのだ。
良く見れば、頭のリボンも変わっている。もしかすると、その友達からプレゼントされたのかもしれない。

「そう、よかったわね。そのリボンも友達から?」
「うん。…私の宝物。」
「あら、妬けちゃうわね。」

恥かしそうに、しかし、嬉しそうにリボンを触れるフェイトを見て笑う。

「どんな子なの?女の子?男の子?」
「…男の子。」
「ふ~ん。…もしかしてフェイト…その子の事好きなの?」
「……分からない。けど…一緒に居ると…凄く安心できて…暖かくなるの。」
「そう。…名前はなんていうのかしら?」

まだ良く分かっていない娘の恋心。1つの成長が微笑ましくて、娘が好きになった男の子は一体どんな人物なのか、母親ならば気になるだろう。

「…メビウス・ランスロット。凄く優しいんだよ。」
「メビウス…ランスロット…!?」
「…母さん、どうしたの?」
「あ…なんでもないのよ。…それじゃ、ご飯お願いできる?私も片付けて向かうから。」
「うん、頑張って作るね。アルフも手伝って。」
「あいよ。」

何故かメビウスの名前を聞いて驚くプレシア。
フェイトが疑問に思ったようだが、直ぐに誤魔化して、調理場に向かわせる。
扉が閉じると同時に、パソコンの中に登録されているデータに眼を通すプレシア。
そして、1つのデータを見つけ、深く大きなため息をつく。

「…神と言うのが存在するなら…なんて残酷なのかしら…」

表示されたデータと娘の口から出たランスロットという単語。プレシアの頭の中の記憶とも一致していた。

「…円卓の…鬼神…。そして…伝説…か。」

画面に出ているのは…若い2人の男女。顔に傷の在る男性と、メビウスと同じ蒼い髪をした女性だった。



・閃・

「あ~っと…ここがこうなって…」

現在、俺はフレッシュリフォーの開発部に居た。
なんだか最近、ここに来てばかりの気がするな。
俺の目の前のデスクには、デバイスの設計図が広げられていた。この部屋の主である主任は、学会に出席していて居ない。
あれでも天才科学者なんだが…変態にしか見えないんだよなぁ。

「っと…回路はこっちの方が良いか…?ん~…ん?」
「むぅぅぅ…」

悩みながら設計図を見ていると、隣から聞こえる不機嫌な声。
視線を移せば、リリンが俺の右腕に抱きついていた。
…顔に物凄く不機嫌です。と書いてあるぞ。

「どしたリリン?。」
「…さっきから設計図ばかり見てますのね。」
「まぁ…そうだな。…邪魔はしないって…言ってなかったか?」
「はい。言いましたよ。」

それじゃ今の状況はなんだよ?思いっきり右腕に抱きついてるぞ?
これが邪魔でなければなんだ?

「…なんで右腕に抱きついてんの?」
「だってお兄様、先ほどから設計図と睨めっこばかりしてます!!それに、私が話しかけても上の空はひどいです!!」
「う…それは…」

…否定が出来ないぞ。確かに、さっきからリリンが話しかけてきても、「あぁ。」とか「うん。」しかいってなかった気がする。
いや…集中してたのもあるんだが、少し失礼だったかもしれないな。
折角、わざわざこんな汚い部屋まで来てくれたのに、話もしなければ怒るのも無理は無いってか…

「あ~…ごめんな。少し夢中になってたかもしれない。」
「いいえ、分かってくれたのなら良いですわ。そう言えば…新作のデバイスですか?」
「ん~…試作で3世代目のVRデバイスも出しただろ?それで、製品版に改良しようかとな。」
「まぁ。もう3世代まで開発しましたの?」
「試作品だけどなぁ。問題点も多いから、実用化はまだまだ先の話だよ。今は管理局で、実地テストしてもらってる所だな。」
「テストとなると…お兄様も参加するのですか?」
「そうなる…なぁ・」

試作品でロールアウトしたデバイスは、管理局などに依頼して、実地訓練を行う予定になっている。
そう言えば…どっかの部隊が管理外世界に調査に行くとかで、試作品を渡した魔道師も参加するとか言ってたな。
あ~…不具合があると不味いから、一緒に随伴してくれって言われてたな。父さんからも、言われてるし。
もう出港してるだろうが…座標を教えてくれれば、後で飛べるからな。管理局に確認とっておくか。

「それなら、私も参加してみたいですわ!」
「リリンも?…まぁ、許可が下りればな。」
「はい!約束ですわ!!」


簡単に下りるとは思わないけどな。ってと、とりあえず、この設計図だけでも仕上げておくか。…転生前の工学科の実業がこんな所で役に立つとはな。
…とりあえずは、隣のお姫様の機嫌を損なわないように、適度に気を抜いてやりますかねぇ。



・フェイト・



「反応は…この辺りのはず…」
「あのビルからじゃない?」

市街地の外れの廃ビル。そこにジュエルシードの反応を見つけた私達。
今回はメビウス達は居ない。どうやら私達のほうが速かったみたいだ。
市街の外れで、廃ビルだからか、人の気配はまったくしない。これなら…簡単に封印できるかな?
飛行魔法で、反応がある部屋まで飛んでいき、進入する。廃墟になって時間がたっているからか、埃や汚れが沢山付いている。
あまり…長く居たくない空間…。

「あ、あったよフェイト。…けど…これ。」
「封印…されてる?」

部屋の一角に放置されていたジュエルシードを見つけだけど…封印が施されていた。それも…見たことの無い術式…
四角い箱の様にジュエルシードを封印したのが、宙に浮いている。その封印の一箇所が破れてて、魔力が流れている。

「なんだいこりゃ?見たことも無いね。」
「うん…ミッド式とも違う。けど、誰が封印を…?」
「メビウスじゃないのかい?」
「うぅん、違うと思う。固定封印…かな?一回解除しないと…」

メビウスの術式とも違うはず。それに…魔力の雰囲気や、色が…なんだか違う。
彼のは澄んだ優しい雰囲気をしてるのに、これは凄く…濁ってて嫌な雰囲気を持っている。
まずは、解除して、新しく封印をかけないと…。
バルディッシュを構えて、詠唱を始めると、私の足元に魔方陣が展開される。


「…封印解除、術式展開…」

バルディッシュの切っ先を封印術式に向けると…弾け飛んだ…?
っ!?違う…これは…バインド!?

「フェイト!?…うぐ…なんだいこれは!?」
「トラップ式のバインド!?くぅぅ…外せない…」

両手、両足をバインドで固定された…!?そのまま、空中で張り付けの状態になる…。アルフも拘束された…!!
それに…締め付ける力が強い…。バルディッシュで切り払おうにも…封印が弾け飛んだときに落とした…!!

「くく…まさか、この程度のトラップに引っかかってるとは…哂えるなぁ。」
「誰…!?」

何処からか…声が聞こえる。周りを見渡しても誰も居ない…?
いや…部屋の入り口の空間が…歪む?

「お前なんかに名乗る名前は持たないよ。フェイト・テスタロッサ。」
「お前…何者だ!!」

アルフと私の視線の先に居るのは…銀色の仮面をつけた…魔道師?
そんな…さっきまで居なかったはず…。それに魔力の反応も無かったのに…

「…っ!?どうして…私の名前を…!」
「ふん、化け物と話す言葉は持たないんでね。」
「ぐ…これを解け!!」
「ちっ、使い魔如きが、粋がるな。そこで転がってろ。」
「あ…あぁぁぁ!!」
「アルフ!!??」

仮面の魔道師が指を振ると、バインドがアルフを締め上げる…!?
苦痛の声を上げながら、睨み付けるアルフを尻目に、こちらに歩いてくる。

「どうして…貴方は誰なの…!?」
「教えてやる義理も無いんでね。…ふ~ん。案外、良い作りをしてるじゃないか。」

そう言いながら…私を舐めるように見る魔道師。
仮面で分からないけど…凄く…嫌な視線だ…!!バインドの拘束を解こうともがくけどどうにもならない…!!

「始末しようかと思ったけど…気が変わったよ。フェイト・テスタロッサ、僕のペットになれ。」
「!?なにを…言ってるの!!」
「言葉のままの意味だけど?ペットになれば…それなりの待遇をしてやるよ。まぁ…色々と…ね。はははは!!」

私が…ペット…!?冗談じゃ…ない!!
顔を背ける私の顎を掴んで、自分のほうに向けて哂う魔道師。
こいつ…狂ってる…!!それに、凄く嫌だ…!!こいつの声も視線も…全部、嫌だ…!!

「誰が…お前なんかのペットになるか…!!」
「ふ~ん。ますます良いね。そう言う強情なのを従順にするのも…面白いなぁ。…魔力吸収。」
「つぅぅ…魔力…が。」

手をかざされると同時に…魔力が抜けていく…!?
唯のバインドじゃない…!?…抜けた魔力が…あいつに吸収されていくなんて…!?

「…ペットにこんなのは要らないよな?」

力なく項垂れる私の顎から手を離した魔道師は、今度は髪のリボンに手を伸ばす。
それは…メビウスから貰った大切なリボン…。やめろ…やめろ…!!穢すな…!!メビウスとの絆に…!!メビウスとの想い出に…!!


「やめろ…さわ…る…なぁぁぁ…!!」
「後で綺麗な首輪を買ってあげよう。こんな汚いリボンなんて捨ててしまえ。」

仮面の魔道師が手を伸ばして…リボンに触れそうな距離になった瞬間…壁を貫いてくる蒼い砲撃。

「なにぃ!?…ぬぁぁぁ!!!???」

直ぐに魔力防壁を張り、防御する魔道師だけど…威力が抗えなかったのか、吹き飛ばされていく。
それと同時にバインドが解除されて…私は前のめりで床に倒れていく。
けど…倒れた先の感触は…冷たい床じゃなくて…暖かな…腕の中。
顔を上げれば…バイザーを外した彼の…顔。

「メビ…ウス…?」
「……」

無言で、私をギュッと抱きしめてくれるメビウス。…凄く恥かしいけど…凄く嬉しい…。
そのままの状態で、私に魔力を分けてくれているのか、少し身体が楽になっていく。

「フェイト!!」

アルフの拘束も解けたて、こっちに走ってくる。心配かけちゃった…ね。
メビウスはそっと私を離して、アルフに預けてくれた
なんだか…離れていく温もりが寂しい…
メビウスは、私達に背を向けて、バイザーを装備していた。
そして、無言で魔道師の吹き飛んでいった方向にエクスを突きつけて…

「…貴様ぁぁあぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

初めて聞いて…初めて見るメビウスの…怒りの咆哮が…ビル内に響き渡っていた。








あとがき

前回の更新から時間が立ち申し訳ないです。
色々とゲームに嵌ってしまいました。
時間が色々と飛びまくってますが…ご容赦を…
さて…前半の母と娘の会話。作者がこの小説を書き始めた理由の一つです。
多分ですが…受け入れてしまえば、こんな感じになるんじゃないかなぁ、と。
親は子供を愛する義務と権利がありますし、子供には愛される権利があります。逆もまた然り。児童虐待する奴なんぞ親とは認めませんよ、作者は。
そして…定番の「女の子の危機に颯爽と駆けつける主人公」をやってみました。
よくよく見ると…メビウス君も一回しか喋ってない。しかも最後の咆哮だけとか。笑
しかし…ゴっなんちゃらさん…生前はオタクだったので…エロゲをやりすぎたようです。ペット発言とか。(笑

以下返信

34様

まさにその通りです!!
ゴっなんちゃらさんは確実にそんな役です!!と言うか自分でやってて気が付かないと言う手遅れ的な奴です!!
ラーメンズネタは、作者が始めてパソコンで見たフラッシュでした。懐かしいですねぇ。(笑
リリン様は純情ですので…色々と騙されるようです。
AC5…大統領が敵として出たら勝ち目皆無なんですが…。



ダンケ様

メビウス君…厨2主人公の恥じないフラグを立てていきます。
まぁ、ブレイズ君やオメガ君の相手には一切、フラグは立ちませんけどね。笑
閃君はリリン様は完璧にバカップル丸出しかもしれません。転入フラグ…どうたてますか…
小五とロリを組み合わせると…悟りとなる!!…言ってみたかっただけです。
ゴっなんちゃらさんは…確かに危険人物になってきましたね。それも3流悪役クラスの。


天船様

箱とPS3で出ますねぇ。ピクシーごっこ…すごく…やりたいです。
現実世界…トンネル潜りはあるといいんですけどね。笑



春河様

おおう、それだけの火力を持ってきてくれるとは…作者の狙い通り、ウザキャラとして受け入れられましたね(笑。
特攻兵器の無限コンボでお願いします。笑
あの3姉妹の相手は…まったくもって決まっていませんからねぇ。ラーズグリーズのメンバーも何れは出す予定ですので…楽しみに(笑


ノラポン様

そのまま、ヴォオーで良いですよ。笑
新作のエースコンバット…楽しみ半分、不安半分といったところですね。作者は。苦笑



リカルド様

作者も陸と空のACは大好物ですね。VOBで突貫とは…ありがとうございます。
確かに、同じ任地に居たらそんな感じになりそうですね。笑
3人は親友ですからねぇ。きっとそんな会話も楽しんでやってると思います。笑


ユーロ様

楽しみにして頂きありがとうございます。
作者の好きなエースですか…やはり彼…ですかねぇ。気高く誇り高く空をこよなく愛した金色の鷲【黄の13】。
ライバルとしては彼が最強の存在として作者の中には居ますねぇ。
ACE5の8492隊等には本気で殺意を覚えましたしねぇ。彼の愛した空を汚す存在は許せませんから。(苦笑




[21516] 16話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2010/11/12 07:54
「…貴様ぁああぁあぁあ!!!」

この日、メビウスとなのはとオメガ、そしてユーノの4人でジュエルシードの捜索を行っていた。ガルムは留守番。
その中でジュエルシードの反応と、フェイトの魔力の反応を感知したのは、やはりメビウスであり、新たに現れた魔力反応と、徐々に弱体化していくフェイトの反応も察知していたのだ。
サテライトと併用し、廃ビル内部の状況を確認し、ラジカルザッパーによる遠距離狙撃を行い、フェイトに危害を加えていた魔道師を狙撃した。
速度で一番優れるメビウスは2人を置いて、先に突撃していた。
フェイトの無事を確めても、彼の中にある怒りの感情は鎮まらなかった。彼にとってフェイトは大切で大事な友人。それに危害を加える存在は敵。
エクスを突きつけて、何時でも攻撃できるようにしていた。
だが、魔道師は、数部屋ほど向こうに吹き飛ばされ、舞い上がる土煙と埃で確認できない。
直ぐにメビウスは、バイザーを装着し、反応を見つけようとしたが、吹き飛ばした方向から数発の魔力弾が飛来するのを確認した。
しかし、それは彼の周囲に展開していたタリズマンが防ぐが、防御魔法であるタリズマンを減衰させるほどの威力を持っていた。

「タリズマンを減衰させた…!?エクス、単体の密度を上げて。それに、位置索敵も!!」
『了解しました。タリズマン密度上昇、索敵開始します。』
「…アルフ、フェイトちゃんを連れてここから離れて。」
「そうしたほうが…良さそうだね。フェイトが消耗しきっちまってるよ…」

後ろにいるフェイトとアルフを庇うようにして、エクスを構えるメビウス。先ほどの魔力弾以外は攻撃がないが、それでも負傷者である彼女達がここに居るのは危険と判断した。
抱き締めた時に多少の魔力供給を行ったが、吸収された魔力の方が多いのか、フェイトはアルフの腕の中でぐったりとしている。

「頼むからあたしとフェイトの分まで、あの野郎をぶっ飛ばしておいておくれよ!!」
「そのつもりだよ。…さぁ、行って!!」

アルフがフェイトの連れて逃げるのを確認すると、エクスをセイバーモードに切り替える。

「…何時まで隠れている気?それとも怖気付いた?」
「は…ははは!!言うじゃないか!!低俗な魔道師の分際で!!」

突如として、突風が巻き起こり土煙を吹き飛ばす。その奥には、魔方陣を展開し、哂う仮面の魔道師、シルヴァリアスが立っていた。
だが、2人とも、相手が誰であるかとは気が付かない。顔はバイザーと仮面で隠れているし、どちらもそんなに会話をしたことが無い、と言うか、転校して来た時以外、まったく言葉を交わしていなかった。だから、声でも気が付かないのだ。…仮に気が付いても、両者とも怒りで止まらないだろう。

「何者か知らないけど…僕の邪魔をするなんて、良い度胸してるじゃないか、えぇ!?死ぬかい?死んでみるか?むしろ、死ねえぇえぇ!!!!」
「っ…タリズマンを切り裂いただと…!?」

シルヴァリアスが、デバイス・アスカロンの一振りに魔力刃を展開し、斬りかかり、それを防ごうとしたタリズマンを両断した。
まさか密度を上げたのを切り裂かれるとは思わなかったのか、メビウスは驚くながらも、エクスで斬撃を受け止める。
両者の魔力刃がぶつかり合い、魔力光が火花のように散っていく。
主任が書いた設計図を入手したゴッデンシュタイナー家が、御曹司である彼の為に、金に糸目をつけずに最高級品のパーツを使って製造したアスカロン。
その性能は、従来のデバイスより上のランクなのだ。そして、シルヴァリアス自身も魔道師としての素質が高い。…性格に問題ありまくるのだが。
鍔競り合う2人だが、シルヴァリアスが口元に小さく笑みを浮かべる。

「くく…しゃぁぁぁ!!」
「もう…1本あったのか…!?」

左手で腰に下げていたもう片方のアスカロンを、逆手に握り振り上げ、顔を狙う。突然の攻撃に驚きながらも、顔を逸らし回避するメビウスだが、バイザーに皹が入り、前髪の数本が斬り飛ばされる。しかし、顔を逸らしたことで、上半身の防御が一瞬緩み、そこに蹴りが叩き込まれ吹き飛ばされた。

「がふ…!!」
「そらそらそらぁぁぁぁ!!!フラガラッパ!!」
「冗談じゃ…ない!!」

咄嗟に蹴りを受ける寸前で、バックステップをして衝撃を逃がしたメビウスだが、そこに追い討ちをかけるように、シルヴァリアスが4発の剣型の魔力弾を構成し、放ってきた。
狭い室内であり、この状況では回避行動が取れないと判断したメビウスは、ランチャーモードに切り替えて、迎撃していく。
2発迎撃したところで、肉薄されるがセイバーで1発も切り払い、最後の1発を後ろにそらし、旋回して、ソードウェーブで破壊する。
距離をとり、再び、正面を向き合い対峙する2人。

「まさかフラガラッパを防ぐとはね。モブの癖に中々やるじゃないか。」
「モブだか、モップだか知らないけど…何故、フェイトちゃんをあんな目に合わせた!?」
「ふん。ロストロギアを強奪している犯罪者には、当然の報いだと思うけどね。お前こそ…こんな事して唯で済むと思ってるのか?犯罪者に加担してるんだ。お前も共犯者だぞ?」
「どの口がほざく…。殺傷設定でためらいも無く攻撃してくる貴様が…!!」
「へぇ、気が付いてたんだ。」

メビウスが吐き捨てるように言うのを、哂いながら聞くシルヴァリアス。
魔法には殺傷設定と非殺傷設定があり、メビウスは非殺傷設定にしていた。これならば魔法が直撃しても、気絶する程度だ。
だが、シルヴァリアスは何の躊躇も無く、殺傷設定でメビウスと戦闘を繰り広げていたのだ。殺傷設定で直撃を受ければ大怪我、もしくは死ぬ事だってありえる。
冷や汗をたらして睨むメビウスの視線を受けながら、順手と逆手でアスカロンを構えるシルヴァリアス。相変わらず、口元には嫌らしい笑いが浮かんでいた。

「言っただろう?僕の邪魔をするなら…死ねってさぁぁぁぁ!!!」
「狂気が…!!」

転生者であるシルヴァリアスにとって、この世界は所詮は物語の中なのだ。そして、自分となのは以外は唯のモブキャラでしかないと思っている。
彼に選ばれた存在、だから転生できた、と考えているのだ。即ち、自分は主人公なのだと。
自分は主人公なんだから、殺しても大丈夫。自分の邪魔をするのは全て敵だから、殺しても誰も気にしない。
…ただの我侭な子供の考えだ。いや、もしかすると子供以下かもしれない。
エクスを構え迎撃しようとしたメビウスだが、シルヴァリアスの足元に見知った魔力反応を見つけて…こちらも、小さく口元に笑みを浮かべた。

「1つ、忠告しておくよ。調子に乗りすぎていると、足元を…」
「ぶち抜かれるぜぇええぇえ!!!!どおぉおおおぉぉりゃぁあぁぁあ!!!」
「なん…だとぉおぉぉおぉ!!???き…貴様誰だああぁぁあぁぁ!!!!!!」

突如として、立っていた床が爆発し、天井を打ち抜いて飛ばされるシルヴァリアス。爆発で舞い上がった埃が収まると、そこにはオメガが立っていた。
見ると、右手に装着されているパイルパンカーが熱を持ち、唸っていた。そう、オメガが下の階層から、アッパーで一気にここまで床を打ち抜いてきたのだ。
飛行魔法が苦手だが、単純なジャンプでここまで来たようだ。苦手であって飛べないわけではないだろうが…。

「はっはー!!悪人に名乗る名前なんて無いぜ!!だが、あえて言おう!!オメガ・ガウェインであると!!」
「どっちなの…?それに多分、聞こえてないと思うよ。」

自信満々にシルヴァリアスを吹き飛ばした方向を、指差し答えるオメガと、それを見ながら、苦笑しつつ頼りになる親友の登場に安心するメビウス。

「とにかく助かったよオメガ。下手すると負けてたかもしれないからね。」
「おう!!無事でよかったぜ!!」

親指を立てて笑うオメガ。メビウスも笑おうとしたが…バイザーに表示された情報を見て凍りつく。

「これ…は…!?」
「どうしたよメビウス…!!??おいおい、なんか…拙くないか?」

背中合わせにそれぞれのデバイスを構える2人。周囲には…2人を囲むようにして、幾多もの魔力刃が展開されていた。

「邪魔な存在は…消してしまわないとなあぁぁぁ!!」
「っ…!!しぶといな。」
「ゴキブリもびっくりだぜ!!」

聞こえてきた声は、恐らくシルヴァリアスのものだろう。しかし、2人には確める余裕は無かった。
これだけの数の魔力刃を撃ち込まれたら、怪我どころではすまない。ましてや、室内という限られた空間で、満足に避ける事も出来ないだろう。
これは、シルヴァリアスがフェイトを捕まえた時と同じで、トラップとして仕掛けていた魔法の1つだ。

「ふん。本当ならお前らなんかに使う予定ではなかっけど…まぁ、良いか。舞え!!鮮血の剣!!ダインスレイヴ!!
はははははははは!!!邪魔をするからこうなるんだよ!!!ははははは!!!」」

魔剣の名を冠した魔法が2人に襲い掛かるのを、高笑いしながら、崩壊していくビルを見るシルヴァリアス。
しかし、それで終わる2人ではないのだ。

「ふはははは!!だが、しかし!!正義は負けないんだぜ!!とっておき使うぜ!!」
「…やばいな。エクス、シールドモード!!オメガの攻撃を防げるだけ防いで!!」
『了解しました。』

オメガの轟く彷徨。バリアジャケットの肩と、腕の部分が開き、噴射煙と共に膨大な魔力が溢れ出す。
そして、メビウスの不可解な言葉。エクスを巨大な盾のように変形させ、周囲にもタリズマンを展開させていた。
何故、味方であるオメガの攻撃を防ごうと言うのだろうか?
理由は簡単だ。オメガのこの技は、一時的に魔力を解放し、自分の全周囲に攻撃するというデタラメ極まりない技。
力を更なる力でねじ伏せる方法だ。現状、2人でダインスレイヴを防ぐにはこれしかなかった。
それに言うではないか、攻撃こそ最大の防御なり、と。

「いっくぜぇぇえぇ!!!!!だりゃあぁあぁあぁ!!!!!」


魔力が縮退、そして膨張し、ダインスレイヴやビルの天井、壁を薙ぎ払う。
それを上空で見ていたシルヴァリアスは唖然としていた。

「ば…馬鹿な…。こんな方法で…。だ。だが!!まだフラガラッパの弾幕があるぞ!!

直ぐに周囲にフラガラッパを展開し、放とうとしてくる。

「ターゲット…ロック!!XLAA、FOX3!!行け!!」

しかしメビウスも、バイザーに表示されているターゲットをロックしていた。
メビウスの周りに構成された4発の魔力弾が、撃ち出されていく。エクスとメビウスが考案した、対空遠距離攻撃魔法XLAAだ。
戦闘機のミサイルを参考にした魔法であり、メビウスも気に入っている魔法だ。
それが、シルヴァリアスの周囲に展開していた、フラガラッパを撃ち砕く。

「ちぃ、悪あがきを!!なら、これなら!!」

舌打ちしながら、新たな魔法を展開しようとするが、彼は気が付いていない。それより上空で自分を狙う…膨大な魔力と殺気に…
そして…気が付いたときには…もう遅かった。

「ディバイン…バスタあぁああぁぁぁぁ!!!!」
「い…ぃいぃいぃ!!???」

上空から放たれた非常識までの桃色の魔力の塊がシルヴァリアスを飲み込み、地面へと激突させる。
放った魔道師は…高町なのは。メビウスとオメガの後を追っきて、上空で待機していたのだ。

「メビウス君に…なにするのぉぉぉぉ!!!!ディバインシューター!!!!」

若干、涙目になりながら叫ぶなのは。肩に乗っかっているユーノは青い顔をしている。なぜなら、周囲に魔方陣が展開され、スフィアと呼ばれる発射台が構成されていた。
そこから、墜落したシルヴァリアス目掛けて、ディバインシューターが打ち出されていく。その弾幕も非常識極まりない。

(メビウスと、ほんの少ししか練習してなかったはずのシューターを、使いこなすなんて…女の子って…怒らすと恐いんだ…)

ユーノが内心、手を合わせながら冥福を祈っていた。
だが、まったくその通りである。流石のメビウスも2~3回しか練習してなかった魔法を、ここまで使いこなされるとは思って居なかっただろう。

「な…なのちゃん、その位にしてあげた方が…」
「は…!!メビウス君!!大丈夫!?」


堕とした辺りを絨毯爆撃しているなのはを止めるメビウス。その顔は、かなり青ざめている。
ちなみに、オメガは離れた地面に大の字で倒れていた。どうやら、魔力をかなり消耗したらしい。
なのはを落ち着かせながら、オメガのところに戻っていく。

「けど…やりすぎじゃ…ないかなぁ?」
「だって、メビウス君をあんな目にあわせたんだよ?私が怒るのは当然だもん!!」

メビウスは、頬を膨らませて怒るなのはを宥めながら、絨毯爆撃の後を見る。
流石に非殺傷設定でも、トラウマに成りかねない弾幕ではある。

「あ、メビウス君、ホッペ…切れてるよ!?」
「どうりでヒリヒリする訳だ。多分、掠ったのかな?」

青ざめたなのはが、メビウスの右頬に手を伸ばす。どうやら、最初の攻撃で軽く切ったようだ。

「そんなに深くないから…大丈夫だよ。」
「で、でもでも、血が出てるよ?」
「唾でも…つけてりゃ大丈夫じゃね…?」
「つ…唾を…め…メビウス君。」
「なに?」
「う…動かないでね?絶対だよ?絶対だよ?」
「えっと…あの?」

後ろで倒れているオメガが疲れきった声を出すのを聞きながら、メビウスとなのはも近くに座る。
オメガの提案を聞いたなのはが、顔を紅くしながら、何故かメビウスの右頬に顔を近づける。
そして、そのまま、右頬の傷口の辺りをペロペロと舐めだした。

「ちょ…なの…ちゃん!?」
「ん…ぺろ…ちゃぷ…れるれる…」
「まさか本気でやるとはなぁ。」
「…ぺろ。…こ…これで大丈夫だよね?」
「…その、ありがとうね。」

どっちも顔を真っ赤にしながら、寄り添う2人。オメガとユーノは若干、置いてきぼりな感じだが、仕方が無いだろう。

「き…貴様らぁぁ…」
「…まだ動けたか…!!」

低い怒りの篭った声が響き渡る。
絨毯爆撃された地面から、再び這い上がってくるシルヴァリアス。
直ぐにエクスを構えて、なのは達を庇う様に立つメビウス。なのはも、背中に若干隠れながらもレイジングハートを構えていた。

「両者とも、そこまでにしてほしいな。」

一触即発の空気が流れるが、それを止める冷静な声。
両者の間に。転移魔方陣が開き、1人の魔道師が立っていた。

「誰だ貴様ぁぁ!!」
「管理局時空航行8番艦アースラ所属、ブレイズ・トリスタン補佐官だ。両者とも、直ちに戦闘行為を中止せよ。
こちらも交戦及び敵対の意思は無い。繰り返す、戦闘行動を中止せよ。そして、こちらに交戦及び敵対の意思は無い。」

シルヴァリアスの怒声を聞き流して、冷静に所属と、自分の名前を明かす魔道師、ブレイズ。
確かに、管理局の制服を身に纏っている。そして、その言葉をあらわすかのように、バリアジャケットすら展開していなかった。

「管理局だって…!!」
「ねぇメビウス君、管理局って…なに?」
「極端に言えば、警察と裁判所がまとまった組織だよ。白い魔道師。」

そう言いながら、メビウスとなのはに視線を向けるブレイズ。そして、そのまま後ろのユーノにも視線を向ける。

「…ユーノ・スクライアだな?」
「え!?あ、はい、そうです。」
「一族の方から捜索願が提出されている。それに、ロストロギア輸送の件に関しても色々と聞きたいので、一緒に来てもらいたい。
もちろん…お前達もね。」
「私達も…?何故…?」
「管理外世界で、これだけ派手に、魔法を使った戦闘行為を行われると、流石に見過ごせないんでね。それに、一緒に居るところを見ると…現地で見つけた協力者だろう?
悪い様には決してしない。少し聞きたいこともある。…来てもらえないか?」
「メビウス君、どうするの…?」

真っ直ぐな瞳でメビウスを見つめるブレイズ。
彼もメビウスがリーダー格と言うのがわかったのだろう。

「…1つ、約束して欲しい。」
「なんだ?」
「絶対になのちゃん達に危害を…加えないでほしい。」
「安心しろ。俺が責任を持って、お前たちの身柄を預かろう。それに、俺の上司は優秀だ。…協力に感謝する。」

少し考えたそぶりを見せたメビウスだが、ブレイズの指示に従うことにした。
笑みを浮かべるブレイズを見て、小さく安堵のため息をついて、バリアジャケットを解除しようとするメビウス達だったが、1人納得しない魔道師が居た。

「ふざけるな…管理局だかなんだか知らないが…そいつらは僕に攻撃してきたんだぞ!!??」
「モニターで見ていたが…先に攻撃したのはそちらではないのか?それも殺傷設定だ。…むしろ、お前は強制的に連れて行くぞ。」
「き…貴様ぁぁぁ!!僕が誰だか知らないのか!!??」
「知らんな。」

ため息をつきながら、怒鳴っているシルヴァリアスの言葉を流すブレイズ。
実は、ゴッデンシュタイナーから、御曹司がいる。とは聞いていたが、写真や画像など、一切提供されていないのだ。
ならば、しらなくても仕方が無い。最も、ブレイズにとって御曹司だろうがなんだろうが関係ないのだ。

「い…良いだろう!!貴様も消えろぉおおおぉ!!」
「…敵対行動をとるなら…自衛させてもらうが、良いのか?」
「平局員如きが、僕を止められると思う…がふぁ!!??」

ブレイズは一瞬で、魔力刃を展開しようとしていたシルヴァリアスを吹き飛ばし気絶させた。そして、そのままチェーンバインドで雁字搦めに縛り上げる。
あまりの早業に、驚きを隠せないメビウス達。だが、それ以上に驚いていたのは、エクスとイジェクトだ。
その視線はブレイズのデバイスに注がれていた。

『あれは…まさか…』
『ヒュ~。久々にすげぇ懐かしい仲間に出会ったな。』

エクスのすら驚きを隠せない声。
闇で染め上げたような漆黒の鎧のようなバリアジャケットを纏い、手にはエクスと同等の大きさのデバイスが握られていた。
その先端から、魔力刃が鎌の様に展開していた。その姿はまるで、悪魔のようだ。
エクスとイジェクトはそのデバイスの名前を知っている。そして、どれ程強力で扱いにくいデバイスなのかも…
静かに、エクスから零れる名前。

『スペシネフ・ラーズグリーズ…』





新型魔法 XLAA 使用者、メビウス・ランスロット
ゲームでのメビウスの必殺のあれ。(笑


あとがき

戦闘描写が苦手すぎて泣きたい気分になる作者です。
あ~…うまくなりたい。とりあえず、フルボッコになってもらいましたゴっさんです。
そして、最後に登場ブレイズ君。そして久々に登場のVRデバイスはスペシネフでした。まぁ…悪魔という事で…
バリアジャケットのイメージはそのまま、ラーズグリーズが着ている鎧ですね。
次回は介入前のアースラ内部の様子でも…


以下返信

ユーロ様
おおぅ、ハイテンションですね。それなのにこんな戦闘描写で申し訳ないです。
PJも出したいのですが…まだ少し先になるかもしれないですね。ジャック・Oは難しいですねぇ。苦笑
下手すると物語が破綻しますから…。けど、ネタとかでもいいなら考えて見ますね。


34様
スーパーメビウスタイムにはなりませんでしたが…終了のお知らせではありました。笑
スカイアイの誕生日…すっかり忘れていた作者…なぜだぁぁぁ!!
彼は絶対に登場させたいキャラですからね。メビウスとスカイアイのセットは最強です…!!



ダンケ様
原作知っていて転生したから選ばれた、と勘違いしてるゴっさんです。
プレシアさんはこちらでも、難病に犯されてますが…それに対する描写をしてませんでしたね。後の話で入れたいと思います。
ランスロット夫婦については…次回辺りにでも分かるようにしようかとは思っています。
NTRはやりませんよ!!??入れ忘れただけですからね!?





[21516] 17話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2010/12/14 21:31
・閃・

「…よりによってアースラかよ。」
「どうかしましたか、帝博士?」
「いや、なんでもないんですが…。後、博士と敬語は止めてくれません?違和感ありますし、そちらが年上なんですから。」
「そちらが良ければ良いのですが。」

俺のぼやきが聞こえたのか、前を歩く、ブレイズ・トリスタンと名乗った執務官補佐が振り返る。
…まぁ、メビウスが居るんだから、他のシリーズの主人公がいたって可笑しくはないんだよな。
AC5の主人公ブレイズは、作中での僚機システムの関係で、単体での戦闘は無い。だからか、メビウス1に比べると、エース性は薄い、とよく言われてた。
だが、忘れてはいけない。彼は、ルーキーから成長し、悪魔、亡霊、そして英雄と呼ばれるまでに成長したエース。確か、作中でチョッパーに、戦局を変えかねない、とまで言われてた。
そして何より、あのバートレットが、自分のあだ名であった【ブービー】を彼に付けた。そして、秘蔵っ子とまで言っていたんだ。それだけでも、エースとしての素質がよく分かる。
むしろ、ブレイズと言うエースは、仲間と戦うことで真価を発揮するエースだと俺は思っている。まぁ、居ても良いだろ?孤高の英雄じゃなくて、多くの仲間に支えられる英雄だってよ。
まぁ、今はそんなことより、俺は博士と呼ばれるのを止めてもらうことにした。理由?むず痒いし…それに…

「隣のこいつが笑ってますので、出来れば止めて欲しいんですが。」
「では、そちらも俺の事をブレイズと、これで対等な立場と言うことにしま…しよう。」
「了解。…んで、てめぇら、何時まで笑ってんだよ。」
「ぷぷぷ…だって、帝博士だってさ。プゲラ。テラおもしろす。これは笑わずに居られない!!」
『帝博士、キリッ!!プギャー!!』
「おーし、てめぇら、一回虚数空間に叩き落してやろうか?」
「い…良い拳もってるじゃん。世界狙えるよ…。…ごふげふグフザク。」
『あだだだだ!!!砕けるくだけるクダケル!!!ららら…らめえぇええ!!逝っちゃううぅぅう!!!』

隣を歩いている主任の顎にアッパーをお見舞いして、待機状態のレーベンを踏みつける。
主任も最後までネタを入れるなよ…。そしてレーベンは、なんつう悲鳴を出してんだよ。前の歩いてるブレイズがひいてんじゃねぇか!!

「…多少、勘違いしてたかもな。…憧れていたデバイス開発者がこんな人物だったとは。」
「ちょっ、まっ!?いやいや!!待ってくれ!!違うから!俺はこう言うキャラじゃないから!?むしろ、こいつらが駄目なだけだって!!」
「…冗談だ。だが、憧れていたのは事実なんだよ。…改めて、会えて光栄です、帝 閃博士。」

振り向き、笑いながら右手を差し出される。一瞬、戸惑ったが、直ぐに俺も右手を差し出し、軽く握手を交わす。
会ったばかりで、真面目な奴だと思ってたけど…堅実な方なのかもしれないな。しかも、考え方が柔軟のな。



・メンテナンスルーム・


「ここが2人に待機しててもらう部屋になる。機材などは自由に使ってくれてかまわないし、足りないものがあったら言ってくれ。揃えれるのは揃える。」
「ほぉ、流石は管理局。いい設備が揃ってるねぇ。…うんうん、これなら、開発から整備まで出来そうだよ。ふふふふ。」
「…この変態が、いきなり見てまわるなっての。ところで、3世代のモニターしてくれている魔道師の人達は?」
「今、こちらに向かっている。それまで、適当にくつろいでてくれ。」

主任が、機材を見ながら恍惚の笑みを浮かべている。…ちなみに、最近では逆光メガネを習得したらしく、怪しさが格段にアップしてる。
ほらみろ、ブレイズが苦笑を浮かべてんじゃねぇかよ。
機材をハァハァ言いながら、撫で回している主任を横目に、椅子に座って、デスクの上を眺める。
…そう言えば…ブレイズのデバイスってなんだろうな。…まさかVRデバイスか…?
軽く視線を向ける。管理局の制服を着こなしていて、見た目は完璧エリート然としてる。…耳に変わったピアス、いや、イヤリングをつけているな。
そんな、俺の視線に気が付いたのか、ブレイズが笑いながら、右耳のイヤリングに指を伸ばす。

「これが気になるか?」
「ん、まぁな。…ピアスに見えないし、男でイヤリングってのもなぁ、てさ。じっと見て悪い。」
「気にするな、慣れている。これは、俺のデバイスだよ。待機状態はこうなっているからな。」
『お洒落ですねぇ。私なんかこの丸っこいネックレス状態ですよ?まぁ、私が超プリティゴージャスになっても、付けるのがこんな坊やじゃねぇ…』
「…てめぇ、さっきのでこりてねぇのか。」

レーベンを握りつぶそうとした矢先に、扉が軽い音を立てて、開く。そして、3人の女子の魔道師がはいてくる。年齢は…俺と同じくらいか?
…ド派手だな。制服の色、真紅じゃねぇかよ。………待てよ、真紅だと…?真紅で3人だと…?
あるうぇ?俺達が作った3世代の試作デバイスって…マイザー・デルタをイメージしてた気がするんだけど…なぁ。デルタで3人って、俺の知る限り、彼女たちだけなんだけどなぁ…
そんな事を考えてる俺とは裏腹に、綺麗に俺と主任に敬礼する3人。

「始めまして。シルビー・ファング3等空尉よ。」
「デボラ・バイト。準空尉だ。よろしくな。」
「ジェニファー・ポイズン…です。階級は准尉です、よろしくお願いします。」
「あ…あはははははは。帝 閃です。よろしく。」
「…主任です。よろしく。……うぉ、メガネが…」
『…閃!!閃!!大発見ですよ!!』
「なんだよ…?」

ですよねー。薔薇の3姉妹ですよねぇ。当たり前デスヨねぇ。ここまで来ると突っ込む気力も起きないな。
乾いた笑いを浮かべる俺と、メガネがずれ落ちたのを直している主任。
そんな中、興奮気味に俺を呼ぶレーベン。なんか、大発見って言ってるけど…。
…はっ!!こいつ…まさか…!!

『この3人の名前をあわせると、毒へ』
「そおぉおおい!!!!」

刹那、俺の右腕が光った。あの言葉を言おうとしたレーベンを、部屋の隅にあるダストボックスに投げ入れる。
その速度はイチローのレーザービームにも勝るとも劣らない…と思う。突然の奇行に唖然とする3姉妹とブレイズだが、そんな事に構ってられるか。
どんだけ危険なブロックワード言う所だったか…。

「…閃君。ちなみに、レーベンはなんて言おうとしたんだい?」
「決まってんだろう、毒蛇3姉妹って言おうと…」

……空気が固まった。ついでも俺も固まった。
言っちまった…俺が言っちまった。主任の古典的な方法に引っかかった。

『ふはははは!!自分で言ってれば世話ないですねぇぇぇ!!!ざまぁぁぁ!!!ばーかばーか!!』
「やーいやーい、引っかかってやんの!!だっせー!!」
「……てめえらぁ…いい加減にしろこらぁぁああぁぁ!!!!」

空気をごまかすように、主任にハイキックをぶちかまし、レーベンと同じくダストボックスに叩き込む。そして、ボックスを大型のダストシュートに投げ入れる。

「…ゴミの分別はしっかりとしてほしいのだが。」
「知るかぁ!!」



5分後

「…先程のことは、心の底よりお詫びします。だから、許してください、お願いします。」
「本当なら、許さないところですが、私達のデバイスの開発者であり、整備もしてくれる帝さんの言葉です。今回は許しますわ。」
「まっ、主任って奴もお前がふっ飛ばしたからな。それでチャラにしてやるよ。だから、とりあえず土下座は止めろって…」
「あははは…この際、プライドは抜きだ!!許してもらえればそれで充分だ…」

土下座に近い形で、3姉妹の長女と次女に懇願する俺。

「ザルトホック乙。」
「主任…てめぇ、生きてたのか…。そして何回も言うが…メタ発言をすんじぇねぇよ…。誰の責任だとおもってんだこら。」
「あらあらぁ。2人とも落ち着いてください。紅茶を用意しましたから、飲んでください。」

ゴミが全身に付着したまま、俺の肩をポンと叩く主任。しかも、さり気なく入れた俺のネタに反応してんじゃねぇし…
こめかみに青筋が浮かびそうになる俺の前に差し出される紅茶。
視線を向ければ、ジェニファーが笑顔でティーセットを用意していた。なくとなくだが、リリンと同じような人種の気が…する。マイペースでお嬢様的な意味で。

「あ、どうも。」
「いえいえ、お姉さま方も如何ですか?」
「そう…ね。頂こうかしら。」
「やりぃ!ジェニファーの紅茶はうまいんだよなぁ。」

手頃なデスクをテーブル代わりにして、何故か始まったお茶会。
飲んでおきながら言うのもなんだが…良いのかこれで?一応、勤務中なんだろうに。
それにブレイズも居るんだが…、と視線を移せば、小型端末で通信を取っているが、その表情は、厳しい。

「すまない。緊急の事態が起きた。3人はここで待機、デバイスの調整を受けてくれ。」
「私達は良いの?」
「今回は俺1人でも大丈夫だろう。閃に主任もここにいてくれ。3人は護衛も兼ねているのだから。艦内とはいえ、よろしく頼む。」
「「「了解」」」

それだけ言うと、俺達に軽く敬礼して早足でメンテナンスルームを出て行くブレイズ。
俺と主任に合図をすると、主任も分かっている、と言った視線を返してきた。恐らくだが…なのは達が見つかったんだろう。
さて…どうやって、介入するか…





・ブレイズ・

「先ほどの言葉どおり、自衛を取らせてもらった。…聞こえてないと思うが、自業自得だからな。…俺だ、こいつを艦内で拘束しておいてくれ。後で色々と聞きたい。」

仮面の妙な魔道師をバインドで拘束し、アースラへと強制転移させる。まったく、派手に暴れてくれたものだ。
廃墟とは言え、ビルを1つ崩壊させるとは…。まぁ、それを言ったら、彼らもなのだが…協力的だから何も言わんが…


『マイロード。この程度でよろしいのですか?』
「戦闘不能にさせれば充分だろう。」
『はっ。愚かな魔道師もいたものですね。マイロードに喧嘩を売るなどと。』
「そういってやるな。処で、久しぶりでじゃ無いのか?兄弟に会えたのは。」
『…エクスとイジェクト…か。再開を喜ぶほどの仲でもありません。所詮、私は異端で罪ですので。』
「…俺のデバイスの内は、罪と言うのは禁止としていた筈だが?」
『失言でした、マイロード。』

自嘲するラーズグリーズに声をかけ、俺は蒼い魔道師、メビウスと言ったか…。そちらの方向に振り向く。
案の定、驚いた表情をしているのを見て、小さく喉で「くっ」と笑いながら、バリアジャケットを解除する。
展開したのは自衛の為であり、彼らに危害を加える気も無い。交渉の場に銃や剣を持っていく馬鹿も居ないからな。

「驚かせてすまないな。では、行こうか。」
「行くって…何処に?」
「時空航行艦アースラへ、だ。転移魔方陣を使用するから、動くなよ。エイミィ、よろしく頼む。」

端末で通信を居れ、魔法陣の展開を要請する。
そのまま、一瞬でアースラ艦内へと転移していく。転移魔法は初めてなのか、メビウスと白い魔道師、ナノハ…と言っていたか。驚いているな。
そして、艦内の通路を俺が先導するように進んでいく。

「えっと、ブレイズさん。私達はどうすれば?」
「まぁ、付いてきてくれ。とりあえずは最高責任者と会ってもらう。」

困惑気味のメビウス達だが、納得してくれたのか、大人しく付いてきてくれるが…

「ユーノ・スクライア。変身を解除したらどうなんだ?」
「え、あぁ、そういえば…気が付きませんでした。解除しますね。」
「んぉ?お前って、なのはの使い魔とかじゃなかったのか?」
「オメガ君は、知らなかったんだ。うんと、私が最初に助けたんだけど、怪我や魔力の消費が激しくて、フェレットの状態になって回復していたの。」
「…お前、イタチじゃなかったのか…」
「ち、違うよ!?僕は人間!!しかも、フェレットだし!!」
「けど、私もメビウス君に言われるまで気が付かなかったよ…?」
「はっはー!!やっぱり、お前はイタチだぜ!!なのはもイタチって勘違いしてたみたいだぜ!!」
「そ…そこじゃないもん!!人間ってところだもん!!」
「さ…3人とも、ブレイズさんが笑ってるって…」

まったく、愉快な4人組だな。ユーノがナノハの肩から降りて、身体が光に包まれていく。
それが収まると、恐らくメビウス達と同年代と思われる少年が佇んでいた。
確かに、捜索願の出されていたユーノ・スクライアと同じだな。

「おおう…。…女子?」
「男だよ!?どうしてここで間違えるのかな!?温泉の時だって男子部屋にいたでしょ!?」
「そういやぁ、そうだったな!!」
「あはは…。すいません、ブレイズさん、騒がしくて…」
「いや、構わないよ。下手に緊張しすぎているよりは、ずっと良い。」

困惑気味のメビウスと小さく笑う俺。まったく、会ったばかりだが退屈はしないな。
さっきから俺は笑いっぱなしだよ。3人の口論と、1人のそれを止めようとする声を聞きながら、俺は先導していく。付いてきてくれる辺り、立場を弁えていると思いたいな。

艦長室

「「「…………」」」
「…お前ら、表情を出しすぎだ。」

まぁ、仕方の無いことではあるな。俺が案内し、入室した艦長室は、俺から言っても…異質だ。
最先端技術を駆使した部屋なのだが…如何せん、盆栽やら茶室もどきやら…ミスマッチの物だらけだ。
日本育ちである彼らが、困惑するのも無理はないだろうな。
部屋の中央では、リンディ提督とクロノが正座して待っていた。一瞬、クロノから「どうにかしろ」的な視線が飛んできたが、軽く無視しておく。俺とて限界がある。

「あちらが、アースラ艦長のリンディ・ハラオウン提督。そして、その正面に居るのがクロノ・ハラオウン執務官だ。
艦長、こちらが先ほどの魔道師たちです。」
「えぇ。ブレイズ君、ご苦労様。先ほど紹介されたけど、リンディよ。」
「クロノ・ハラオウンだ。ブレイズの上司になる。よろしく。」
「さぁ、こっちにいらっしゃい、立ち話もなんだから、座って。お茶と和菓子もあるのよ。」
「色々と聞きたいといっただろう?メビウス、座ってくれるか?」
「あ、分かりました。」

嬉々とした表情で、お茶と和菓子を4人に勧めるリンディ艦長なのだが、4人は4人で困惑気味だ。
まぁ、仕方が無いとは思うのだが…、とりあえずは、リーダー格であろうメビウスを、座らせる。
その隣にナノハが座り、ユーノとオメガが並んで座る。
俺はクロノの隣に座りながら、リンディ艦長の話を聞いていく4人を眺める。

「貴方達が集めていたジュエルシードはロストロギアと言って、発達しすぎた科学や技術で滅びた世界の遺産。
そして、取り残された危険な遺産のことを、ロストロギアと呼んでいるわ。」
「使用方法などはまったくの不明だが、使い方次第で世界だけでなく、次元すら滅ぼせるほどの危険な遺産だ。」

艦長の言葉に続くクロノの声。メビウスやユーノは理解をしていた、表情を硬くしているが、オメガやナノハは今一、付いて来れて居ないようだな。
まぁ、ナノハは現地で見つけた魔道師のようだし、オメガは、失礼な言い方が馬鹿…なんだろうか?
なんにせよ、ジュエルシードは、ロストロギアの中でもトップクラスで危険なものだと言うことは理解してもらえたようだ。

「なら…なんでフェイトちゃんは…」
「なのちゃん!!」
「え…あ…」
「今、なんて言った?」

無意識になのか、ナノハの口からこぼれた言葉。咄嗟に止めたメビウスだが、それを聞き逃す俺ではない。

「…お前達と仮面の魔道師以外にも、集めている魔道師が居るのか?答えてもらおうか?」
「えっと…それは…」
「クロノ、落ち着け。脅迫みたいになってるぞ?」
「…これは次元世界に関わる重大なことだ。それを分からないお前じゃないだろ?」
「2人とも、静かにしなさい。」

艦長の制止の声を聞き、口を閉じる俺達。クロノは真面目すぎだと思うが、仕方が無いか。それがこいつの美点でもある。

≪彼らは俺達より年下なんだ。怖がらせるなって。≫
≪……気をつけるよ。≫

「正直に、全部話してくれるかしら?もし、手助けできるなら、したいのよ。」
「…わかり…ました。」

メビウスが代表してか、もう1人の魔道師、フェイトの事を話し始める。
内容は何か理由があってジュエルシードを集めている、と言ったことだが…、厄介だな。下手すると…犯罪者として捕縛しなければいけないか。

「なるほど。…貴方達は彼女を助けたいのね?」
「助けると言うか…理由を知りたいんです。それに、きっと話せば分かってもらえるはずだから。」
「…だが、下手すると犯罪者として、扱われるぞ?それを君達は理解しているのか?」
「それは…」
「…そう言えば、貴方たちの名前を聞いてなかったわね。」

重苦しい空気が漂ってくる。恐らく、メビウスはひかないだろうな。言葉の端からフェイトとやらを気遣う様子が見て取れる。
さて、どうしたものか…
その空気を察してか、艦長が笑顔を浮かべ、3人の名前を問いかける。
確かに、俺も曖昧だな。

「えっと、高町なのはです。」
「俺はオメガ・ガウェインだぜ!!よろしく!!」
「メビウス…メビウス・ランスロットです。」
「…なん…だと…!?」
「?」

クロノが驚いたように眼を見開くが…俺も同じような表情をしているだろう。
あのリンディ艦長ですら、驚いている。
ランスロットとガウェイン。この名をミッドチルダ全域で…知らぬ者は居ないはずだ。

「…もし、良ければ…私達に協力してくれないかしら?」
「艦長!?」
「これは民間人が立ち入るべき状況ではないと思いますが…?」
「2人は、静かにしてなさい。どう?メビウスさん。」
「協力…ですか?」
「えぇ。もし、貴方達が私達に協力してくれるのなら、彼女、フェイトさんの事はできる限り、良い方向に話をするわ。
…どうかしら?悪い条件ではないでしょう?」

…艦長の顔が…黒くなっている。何か企んでいる時の表情だ。
即答できない4人に気が付いたのか、艦長は柔らかな笑みを浮かべ、「今晩、ゆっくり考えて返事をして」と言って、別の局員を呼び退室させる。
部屋に残っているのは、俺とクロノ。それに艦長の3人だ。

「…母さん!!一体、どういうつもりだ!?」
「何が?」
「何故、民間人である彼らの協力を求めたんだ!僕達と薔薇の3姉妹でもこなせる筈だ!」
「俺もクロノと同意見です。その為に、3姉妹を借りてきたんですよ?」
「………」

俺達の質問に答える気は無いのか、静かにお茶を飲む艦長。…ちなみに、今日の砂糖の摂取量はこれで終わったな。
…そんな事を考える場合ではないか。…協力を仰いだ理由は、俺とクロノは察しがついているが、聞かずには居られない。

「…彼らが、メビウスが伝説と鬼神の、オメガが無敵の…子供だからですか?」
「…えぇ。そうよ。」

かつて、ベルカ戦争終結に導いた最強の傭兵達が居る。かの名だたるベルカの騎士達でさえ、彼らによって墜とされていた。
ミッドチルダ最大の英雄達。伝説、スカーフェイス・ランスロット、円卓の鬼神、サイファー・ランスロット、無敵、チャーリー・ガウェイン。
今尚、色あせることのない英雄だ。その息子達が、こんな所に居るとはな…

「理由を…お聞きしても?」
「…今の管理局は人員不足よ。それこそ、組織自体が悲鳴をあげているわ。それをなんとかするには…【ヒーロー】が必要なのよ。
多くの人の心をつかみ、管理局に憧れるを持たせる為にはね。」
「伝説と鬼神の息子なら…確かに最高の【ヒーロー】となるだろうが…。」
「それに、素敵じゃない?女の子の為に、一生懸命に身体を張って戦う男の子の姿。それだけでも充分な効果よ。」

この人は…とことん策士だな…何処まで読んでいるのか、時々、底が知れない。

「さぁ、2人は捕縛した魔道師の取調べにいってちょうだい。これから忙しくなるわよ。」
「了解しました。ほら、クロノ、いくぞ。」
「…あぁ。」

未だに納得できない様子のクロノを引っ張りながら、俺は退室する。さて、これからどうなることやら…





クロノ達が退室した後に、リンディは徐に通信端末を起動させる。
暗かった画面に光が宿り、1人の人物が映し出された。
そこに映し出されたのは、人を引き付けるような笑顔をした男性。
ハラオウン親子の友人でもある。

「おや、久しぶりだね。リンディ、元気そうで何よりだ。一体どうしたんだい?」

局員達だけでなく、ミッドチルダの市民達からも絶大な人気と支持を持つ提督。
その名は…

「お久しぶりです。ハーリング提督。」

…ビンセント・ハーリング。






あとがき

久々の更新でありながら、物凄くgdgdな内容になってしまいました。
いやはや…これからどうなることやら…
ネタ満載の転生者2人組、今日も彼らは何処へ行く。そしてヒーロー求める管理局。
最後の最後で出た大統領。うん、この人いたら、管理局、物凄く変わると思うんですよ。作者の実力が伴うかは不明ですが…


以下返信


ユーロ様

ユーロファイター…おぉ!!なるほど。気が付きませんでした。(失礼。
LRは面白いのですが…ラスジナさんが超強いデスヨネェ。勝率がかなり低い作者です。
ラプターは良いですよネェ。けど、作者はフランカー系統も大好物。…知人曰く「戦闘機は戦う芸術品」だとか。うん、心から賛成できます!!



天船様

おおう…まさかそんなキャラが居たとは…後で調べさせていただきます!!
…多分、ツカワナイトオモイマスヨ?


B=s様

時間系列とか場所とか色々とゴチャゴチャしてますからね。流石に、そう思うのも無理は無いですよね。
それでも、見てもらえるのなら、とても嬉しく思います。


ダンケ様

ナイスキル。言わせたいですねぇ。決め台詞でもいいかも?(笑
装甲の堅いメビウス。確かに違和感ありましたね、これから、そんな事の無い様にしていきます。
スペシネフの性能は…ブレイズ君の一応、主人公クラスですから、チート性能を居れて行こうかとは思っています。











蛇足&おまけ&介入前の様子見。

「プライマルア」
「サンダガ!!」
「ぎょぁあぁあ!!??」
「凄いな。あいつのPAを貫通したぞ。」
「恐ろしいくらいの潜在魔力だね。時の闇が狙うのも無理はないよ。」
「助け出せてよかったな。完全に取り込まれていたらどうなっていたか…」
「…ん~…」
「…どうしたんだ?」
「え?あぁ。どうにもおかしな世界の乱れがあってねぇ…。」
「ほぉ、調査に向かったほうが良いのか?」
「いや、まだはっきりと分かったわけじゃないから、様子見かな?とりあえず、覚悟はしておいてね。」
「了解だ。」





[21516] 18話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/01/02 18:11
・メビウス・

ランスロット宅 円卓…ではなく、食卓。

「メビウスちゃん、どうしたの?」
「え…?」
「さっきから少しも食べてないな。…今日は俺が作った料理だぞ?失敗はしてないはずだが…」
「…どうせ私の料理の腕は、フェイスには及びませんよ~だ!」
「まったく…子供じゃないんだから、いじけるな。まぁ、幾度ととなく、俺の胃を壊滅にまで追い詰めたお前にしては、上達したと思うがな。それでメビウス、何か悩み事か?」
「あ!!さては、なのはちゃんと喧嘩したわね!?駄目よ?女の子には優しく優しく、愛してあげなくちゃ!!」
「最後のは、関係ないだろう、最後のは。サイファーも茶化すな。…それで?どうしたんだ?」

心配そうに私を見つめる父さん。確かに、食事の手が止まってたかな。
…母さんも、ふざけてるようで、私の事を心配してくれている。
悩み事…か。今日だけでも、沢山のことがあった。仮面の魔道師との戦闘、管理局の介入、そして、協力要請。
私達が協力するなら、フェイトちゃんの罪は軽くなる…かもしれない。それなら、喜んで私は協力をする。
友達である彼女を…見捨てることなんて出来ないから。けど、それでも気になる。
私が…いや、私とオメガが名乗った時の、3人の反応。…正確には苗字のところだったと思う。
…父さんや母さんが・・・関係していること…?…全部、打ち明けてしまえば…楽になれるのにね。

「メビウスちゃん。」
「…なに?」
「私たちはね、家族なのよ?…もし、何か悩んでるのなら、教えてくれない?」
「1人で悩むより、3人で悩んだ方が解決するかも知れんぞ?」
「そうそう!!3人集まればもんじゃの知恵って言うのよ!!お母さん、物知りでしょ!!」
「…文殊だ。もんじゃは食べ物だろう。」
「冷えたビールともんじゃ焼きはピッタリなのよねぇ。…明日の朝ごはんは、もんじゃにしましょう!!私、ビールは飲めないけど!!」
「サイファー、そろそろ、俺は怒っても良いか?と言うか、怒るぞ?第一、朝からもんじゃ焼きなんか食べれるか」
「はは…父さん、そこなんだね…。でも、そうだよね、家族…なんだよね。」

私は、全部を話すことにした。フェイトちゃんのことも、管理局のことも、そして、名乗ったときの反応のことも…
少しずつだけど、父さん達の表情が変わっていく。父さんは真面目な表情に、母さんは困ったように微笑んでいる。
全部、話し終えると、父さんは静かに私の頭を撫でてくれた。…大きくて包み込んでくれるような…暖かい手だね。

「そうか。…メビウスは、その女の子を助けたいんだな?」
「うん…。絶対に助けたい。」
「そうね、女の子を見捨てるなんて、男の子の風上にも置けないからね。かっこいいぞ!メビウスちゃん!!」
「メビウスのやりたいように、したいようにすれば良い。俺達は、絶対にお前の味方だ。そして、どんな事があろうとも、守る。だから…後悔だけはしないようにしろ。」
「…ありがとう…母さん、父さん。」
「しかし、ランスロットって所で驚いてた…か。」
「もぅ、フェイスが目立ちすぎてたから、有名になっちゃってたじゃないの。」
「…よく言うな。お互い様だろう。」

苦笑しながら、頬をかく父さんと、むくれている母さん。
…目立ちすぎてたとか、有名とか…やっぱり、父さん達は過去に何かしてたのかな…?

「…気になるようだな。サイファー、話しても良いだろう。」
「そうね、メビウスちゃんも理解できる年頃の筈だものね。私達の馴れ初めを教えるのも良いわね♪」
「…馴れ初めでもあるが、俺達の過去の話だろ…」

キョトンとした表情の私に気が付いたのか、父さんが、少し顔を紅くしながら、咳払いをする。
それが、面白いのか、母さんは父さんの頬をツンツンと突っついて「照れちゃって」と言いながら笑っていた。

「…それでは、話そうか。俺達の過去を。」
「うん…。」
「メビウスちゃん。ベルカって…知ってる?」
「ベルカ…?ミッドの地名で、ベルカ自治領…だったよね?」

古代ベルカが存在した世界が滅びた時に、移民してきた人達が、治めている所…だったかな?
実は私は、ミッドの事をあまり知らない。正直に言うと、行こうとも思わなかったからね。

「そのとおり。だがな、今のベルカと俺達の知る【ベルカ】は違う。今では自治領となっているが、かつては違った。」
「…9年前までは、【ベルカ公国】と言う1つの国だったのよ。強大な軍事力と、魔道技術を誇っていたのよ。」
「かつて、世界を巻き込んだ戦争があった。ベルカ戦争。サイファーも言ったが当時のベルカは、軍事力、魔道技術両方においてに強大な力を持っていた。
それを使い、領土の拡大を推し進めていった。当然管理局は危険視し、両者の関係は悪かった。」
「けどね、当時のベルカは、無理な領地拡大が原因で、財政難に荒れていてたの。
だから、一部の領地を有力貴族達に自治運営させることにしたのよ。それで、財政難を乗り越えようとしたけど、無理だったのよ。
それだけ当時のベルカは逼迫していたのね。そして、ミッドや管理局が、その有力貴族たちを取り込んで、権限と領地を拡大して言ったの。…それで、お互いの関係は最悪。」
「その際に、極右政党が政権を獲得した。…強く正統なベルカを取り戻すためにな。…そして、ミッド派有力貴族【ウスティオ家】の領地から、膨大な魔道資源が発見された。
それを機に、ベルカはミッド等に侵攻を開始。ベルカ戦争の始まりだ。」

そこまで言うと、父さんはコップの飲み物を飲んで、喉を潤した。
私はと言う…一言で言えば…唖然としている。
だって…そんな大事件…いや、戦争があったこと自体、私は知らなかった。

「準備不足の管理局とミッドは、伝統のベルカ空戦隊の前に次々と敗走していった。…ベルカの騎士と言えば、管理局員たちの恐怖の的だったからな。
殆どの管理局員たちは、相手にならなかったな。」
「結局、ウスティオ家の領地は瞬く間に占領されて、一部の辺境地域以外は完全に支配下にされてしまったの。たったの1週間でね。」
「1週間で!?…そんなに凄かったんだ…」

ベルカ空戦隊…、どれだけ凄かったんだろう…?
たった1週間で、領地の大半を占領するなんて、それこそ、エース級が多数居ないと出来ることじゃない。

「そして、ウスティオ家は、辺境地のヴァレーに傭兵部隊を組織。ミッド及び管理局との合同反攻に託すことした。」
「そこで、フェイスと私が出会ったのよ~。…今でも覚えているわ、雪の中に佇むフェイスの姿…。あぁ…」

母さんが頬を両手で包みながら、クネクネとし始める。…時々、こうして妄想状態に入るから、困るなぁ。
けど、傭兵部隊なら…まさか、2人は…?

「もしかして…父さん達も傭兵だったの…?」
「あぁ、俺も傭兵として参加していた。ちなみに、オメガの父親のチャーリーもな。」
「スカーフェイス1とチャーリー11と言ったら、凄腕の傭兵として有名だったのよ~。」

…そうだったんだ。けど、納得できるかもしれない。
父さんって、なんていうか…凄く傭兵といった感じの雰囲気がある気がする。
士郎さんとの組み手でも、対等以上に戦っているから、納得できる。

「あれ?それなら、母さんは…?」
「むふふぅ~。私もね、傭兵だったのよ!!まだまだ、駆け出しだったけど!!」
「駆け出し所か、初陣だっただろうが…、俺やチャーリー、そして、あいつがどれだけ苦労したか…」
「あいつ…?」
「……いや、なんでもない。話が反れたな。聞きたいこととかあるか?」
「…なんで、ベルカは負けちゃったの…?」
「俺達や管理局の猛攻の前に、ベルカの騎士達も、少しずつだが墜ちていったのもあるが、最大の原因は…」
「ベルカはね…自国領内で…魔核弾頭を使用したのよ。進撃する連合軍を…食い止めるために。」
「魔核…弾頭…?」

聞きなれない単語に私は首をひねる。けど、父さん達は、険しい表情をしながら、何かを思い出すようにしていた。

「…至極簡単に言えば…魔力を用いた核弾頭だ。…結果、ベルカの街7つが…蒸発した。」
「蒸発…!!??そんな…ロストロギアじゃないか!!」
「そうよ。ロストロギア級に危険な物を、ベルカは作り上げることができたの。」
「…それだけでなく…他にもある物を作り上げても居た。」
「ある…物…?」
「…時空因果律制御機構、タングラム。…運命さえ書き換える装置だ。」
「そんな物まで…狂気の沙汰じゃないか…」
「あぁ。…結局、ベルカは自身の作り上げた狂気で潰れていった。敗戦後、自治領として残ってはいるが…な。」

そこまで話すと父さんは、母さんが入れたコーヒーを口に含む。
…魔核弾頭に…時空因果律制御機構。そんな物を作り上げてしまう、ベルカ公国。…それだけで、どれだけの技術を持っていたのか分かる…

「…その戦争で、父さん達が、活躍したから…管理局は私に反応したんだね…?」
「その通りだろうな。…どうする?もしかすると、管理局は、お前を何か利用する気かもしれないぞ?」
「……」

はは…そう言うことだったんだ…。父さん達の名前を、私を何かに使う気だったんだね。
けど、それでも良い。私は…フェイトちゃんを助けたい…

「それでも…私はフェイトちゃんを助けるんだ。私に出来るなら…私にしか出来ないのなら…」
「…決意は固いようだな。なら、約束しろ。」
「約束…?」
「最強になるな、最高を目指せ。最強は誰でもなれる、簡単になれる。
だが、最高は簡単になれるものじゃない。それでも最高を目指せ。最も強いと、最も高いは異なるものだ。
平和を目指すなら、平和のために血を流す覚悟をしろ、自分のだけじゃない、他人の血を流す覚悟もしろ。
平和の名の元に何万ガロンの血が流れていることを忘れるな。どんな正義をかざしても流れ出る血を止めることは出来ない。血で血は止められないんだ。
それでもお前は飛び続けろ。答えにたどり着くまで…覚悟し、背負い続けろ。誰かの為に泣け、その涙の数だけお前の心は強くなる。
希望を持て、理想を持て、だが現実を見つめろ。逃げるな、立ち向かえ。真実を見極めろ、偽りなどに騙されるな。」

真剣な表情で話す父さん。…血は血で止められない…か。
それでも、前に進む覚悟がなければ…護る事なんて出来ないんだ。真実を見極めて…戦えって…事だよね?

「ふふ。フェイス、回りくどいわよ。たった一言でいいじゃないの。」
「…それはサイファー、お前がいってやれ。」
「そうねぇ。厳しいことを言うのは父親の役割だものね。それじゃ、私が言っちゃうわね。メビウスちゃん!!」
「は…はい!!」
「頑張りなさい!!!ちなみに、家族が増えても大丈夫だからね!!むしろ大歓迎よ!!」
「え…あ、うん…?」

笑顔で親指を立てる母さんと苦笑する父さん。
一瞬、呆気にとられるけど、私も直ぐに笑顔になる。
頑張りなさい、か。母さんらしくて、凄く…凄く頑張れそうな気がするね。
私の覚悟は決まった。…大丈夫、大丈夫。まだ…飛べる…!!




深夜、ランスロット家リビング

「…管理局も出てきたか。」
「そうね。…きっと、あの子なら大丈夫よ。」
「そうだな。…念の為に、連絡を入れておくか。あの人にも苦労をかけるな。」
「ふふ。良いじゃないの。親友同士なんだから。…大丈夫よ。運命は切り開くもの。彼女が…良く言っていたわ。」

笑いながら、窓から満月を眺めるサイファー。いや、満月というより…何か懐かしむ表情を…していた。







あとがき

今回も短めです。そして、会話部分多!!
戦争部分はこじ付けも、良いところですね。
ベルカの科学力は世界1ぃいぃぃいい!!!!!


以下返信



ユーロ様

軍曹…確かに、磔にされてたのに、戦闘終了後に余裕で脱出してましたよね。
きっと、エネルギーを吸収されていたと思えば…!!
X2…スレイマニの変態機動にブチ切れそうになってた事がありますね。笑
デスモード…作者はないですが…友人がありますね。
友人、自分の彼女を騙しデスモード起動させる→友人調子に乗る→彼女、覚醒&種割れ→友人、ゲーム&リアルで撃破される。
まぁ、お互い、HPが少ない状況だったんですがね。苦笑


ダンケ様

3姉妹はそろそろ動き始めますね。…あぁ、戦闘描写が不安すぎる。
確かに、極端に言えばプロパガンダですね。リンディさん黒モード搭載してるかもしれないです。
ハーリングさんは…某紳士提督の代わりになっているかもしれないです。笑


ADFX-01G-2様

とりあえず、その大統領来たら、色々な意味で終わります。笑
敵の方々に合掌するしかなくなりますよ。
まだまだ出したい人物は居ますので…頑張ります…!!



[21516] 19話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/01/09 22:05
管理局 本局

本局の廊下を歩く1人の男性。軍帽を被り、猛禽を思わせる鋭い眼をしている。だが、他者を威嚇するだけでなく、優しさも併せ持つ不思議な眼をしていた。
制服の袖には魔術師のエンブレムが刺繍されていた。
通路を歩き、目的の部屋につくと、一呼吸置いて扉を開ける。

「失礼します。」
「ん?あぁ、もうそんな時間か。すまないね。」
「いえ、時間を作っていただきありがとうございます、ハーリング提督。」

軍帽を取り、見事な敬礼を返す男性と、机の向こうでも、ハーリングは敬礼を返す。
男性の名前はヴィクトル・ヴォイチェク。管理局時空航行艦【ケストレル】、それに所属する航空部隊【シュトリゴン隊】の隊長を務めている。
ヴォイチェクや、彼の部下達は9年前のベルカ戦争を戦い抜いてきた猛者たちであり、航空隊としての実力はトップエースだ。
彼の所属するケストレルも歴戦の艦であり、名将と呼ばれる艦長が指揮している。

「お忙しいところすいません。少しお話がありまして…」
「ふむ。なんだね?あぁ、ソファーに座りたまえ、立ち話もなんだろう。」
「いえ、大丈夫です。…実は先日、私の古い友人から連絡がありました。」
「ほぉ、彼からかね?」
「えぇ、どうやら、リンディが何かを企んでいるとか…。ご存知ですか?」

姿勢を崩さないが、ヴォイチェクは苦笑しながらハーリングを見つめる。
ハーリングも椅子に深く腰掛けながら、やれやれ、といった調子で首を振っていた。

「ランスロットという名前が出てきたところで察しはついてたよ。実はね、彼女の担当する事件で…。その前に長くなるから、座りたまえ。」
「では、お言葉に甘えましょう。」

今度は断らなかったヴォイチェクに満足し、ソファーに座った彼の対面に移動しながら、数枚の資料を渡すハーリング。
事の顛末を教えながら、呼び出した秘書官が入れてくれたコーヒーを口に含んだ。

「プロパガンダ…ですか。彼女の考えそうなことですな。」
「未だに伝説、鬼神、無敵の知名度は衰えていない。その息子達を担ぎ上げれば、管理局の信頼も高くなるだろう。だが…」
「提督は反対…なのですね?」
「うむ。彼らはまだ9歳なのだ。そのような重荷を背負わせたくは無い。リンディが私、ひいては管理局の為に考えてくれるのは分かる。だが、若すぎる。」

英雄の息子を担ぎ上げれば、管理局、そして見つけたリンディや、採用したハーリングの株も上がるだろう。
だが、9歳という若さ、いや、幼さで危険な管理局の仕事を押し付けるのは、大人としての良識ではどうなのだろうか。

「スカーフェイスからも聞きましたが、フェイト・テスタロッサと言う少女を助ける為に、彼の息子、メビウスは協力するようですが…。
もしや、プレシア・テスタロッサが関係してるのかもしれませんな。」
「テスタロッサ…か。彼女は優秀な技術者であり、魔道師だったからね。関係ないとは言いきれないな。」
「ジュエルシードを使い、何かを企てていると?」
「なんとも言えんよ。だが確かに、この事件の解決に貢献したとして、メビウス君達を大々的に表彰すれば、知名度も跳ね上がるだろう。」
「…どうするおつもりですか?スカーフェイスは、出来れば、そっとしておいて欲しいようでしたが…」
「…リンディには悪いが、今回ばかりは昔の好で彼らの側に立とうか。なに、話せばわかってくれるさ。
なにより、まだ未来ある少女を犯罪者として、過酷な人生を歩ませたくは無い。私の方からも手を回して置こう。もしかするとヴィクトル、君の力を借りるかもしれないから、
その時はよろしく頼むよ。」
「はい、お任せください。」
「ははは。頼りになる友をもてて、私は幸せだな。」

優しげに笑うハーリングを見ながらヴォイチェクは思う。
誰よりも優しく、誰よりも暖かく、懐の大きな人物だ。この人こそ…管理局のトップに立つべき人間だろう。なにより、我々の事を友と呼んでくれる。
忠誠を誓うのに値するほどの人物だ。

その後、ハーリングと軽く雑談を交わし、部屋を出て行くヴォイチェク。今日は珍しく訓練もなく、手持ち無沙汰になってしまっていた。

「お、隊長じゃないですか。お疲れ様です。」
「ん?あぁ、ジンか。ご苦労、今日はどうしたんだ?」

エントランスに行くと、制服にシュトリゴン隊のエンブレムをつけた男性が、自販機で飲み物を買っていた。
ジン・ナガセ。シュトリゴン隊の副隊長を務める男性であり、ヴォイチェクの右腕でもある。

「いや、隊長は今日、オフでしょう?よければ、家で食事なんてどうかな…と思いましてね。部隊の連中も誘ってんですよ。」
「ふ…大方、娘の自慢でもしたいんだろう?」
「はは、ばれちゃいましたか。いいじゃないですか、ケイだって、隊長に懐いてんですよ。」

カラカラと笑うジンと軍帽を深く被り、口元に笑みを浮かべるヴォイチェク。
それなりに、年齢の差はあるが、良き友人、上司と部下として関係を築いていた。

「実は、グランガイツ隊長にナカジマ夫婦も誘ってるんですよ。ケイもあいつらの娘達とは、仲が良いですから。」
「まったく…私が行くことは既に決定してたのか?」
「部隊の連中に隊長も連れてくる!!って大見得きっちまってんですよ。さぁ、行きましょう!!」





アースラ、情報管理室

・ブレイズ・

「……」


カタカタとキーボードを打つ音だけ、室内に響き渡る。
現在、作成しているのは事件の報告書の一部。未解決だから、事の始まり程度しか作れていない。
最も、これはカモフラージュであり、本当の目的は違う。報告書なら自室でも作成できる。

「…突然、地球に行くと言い出し、学園を退学。行動原理がさっぱりわからんな…」

まさか、仮面の魔道師がシルヴァリアス・ゴッデンシュタイナーだったとは…。
厄介な事になると思ったが、なぜか奴は「不問にする代わりに、協力させろ。」と言ってきた。
ますます意味が分からん…。何が狙いだ…?
開口一番に、高町 なのはが協力するのか?と聞いてきたが…彼女が何か関係しているのか…?
先ほど、彼女達は協力する意思を表明、今頃はリンディ艦長から規則等の話を受けているところだろう。
俺は、1つのデータを画面に表示させる。
自己申告のデータと、こちらで計らせてもらった簡単な魔法系統のデータだ。

「高町なのは、性別、女、年齢9歳。…3人兄妹の末っ子で、私立聖祥大学付属小学校に在学。なお、魔力はAAAクラスに匹敵…か。
…魔法要素以外は、ごく普通の小学3年生にしか思えんデータだな。」

シルヴァリアスとの接点は、同じクラスと言うだけか…。なんなんだ…?
彼女の魔法要素が狙いなのか…?

「メビウス・ランスロット、性別、男、年齢は9歳。…学校及びクラスはなのは等と同じ…か。
気になるのは…魔力の量だな…。」

多すぎて、測定不可能なら、まだ分かる。仮にも伝説の息子だ、それだけの魔力を持っていても不思議ではない。
だが、彼は違う…。魔力の量が…一定ではなかった。計測中も絶えず上下を繰り返していた。故に計測不能。
大雑把に見れば、Sクラスなのだろうが…。

「何かしらのスキル持ち…か?」

徹底的に精密検査を行えば、わかるだろうが…。時間もない。後で簡単なメディカルチェックも行うが…どうなることやら。
そして何故か知らんが、現場指揮権限が俺に回ってきている。本来はクロノの権限のはずなのだが…
あいつ、押し付けたな…

「部隊戦術…本格的に勉強しはじめるかな。」

背伸びをした後、俺はまたパソコンのキーボードを叩き始めた。




・閃・

え~…俺、自分でもヘボいと思ってます。
いや、どう介入すっかなぁと、考えてたのはいいんだよ。と言うか、考えてる時って、滅茶苦茶楽しいんだよね。
祭りも、準備の方が楽しいって言うし…。

「閃君、現実逃避はやめようか。」
「ねぇ、閃…?どうして、ここに…居るの?」
「え?あれ?えぇ!?せせせせ…閃君?な…なんで?」
「だはははは!!!白衣とめがね!!完璧に、理系オタクだぜ、せぇぇえぇぇぇん!!!」

あ~…首を傾げるなメビウス。ただでさえ、女の子っぽいんだから。可愛いだろ、惚れるだろ。
なのは、お前もメビウスの真似してかしげんなよ。さり気なく、そいつの腕を握ってんじゃネェよ。小動物か?
あとオメガ、こっち指差して笑うな。俺だって白衣と眼鏡は、似合ってねぇとおもってんだよ。そして謝れ。全国に居るメガネ白衣さん達に謝れ。

「閃と君たちは、知り合いだったのか?」

「あ~…ん~…まぁ、そうなんだが。…説明すっか。」

5分後

「そっか。閃もミッドの人間だったんだ。」
「そうだな。ごめん、今まで黙ってて…」

部屋の中央の、テーブルを囲んで座る俺達。クロノは用事があるとかで、部屋を出て行った。
簡単に説明を終えた俺は、メビウス達に頭を下げる。流石に秘密にしてて、悪くないって開き直るわけにはいかないしな。

「あ、良いよ。閃が悪いわけじゃないし…」
「そ、そうだよ!!私達も魔道師って事を秘密にしてたんだから、お互い様だよ!」
「あ~…そう言って貰えるとありがたいな。サンキュー。」
「おう!!それに、閃が居るなら心強いしな!!」

こいつら…どんだけ御人好しなんだか…。少し涙出てきたぞ。
メビウスとなのはは笑顔だし、オメガなんか親指立ててるし…
まったく、こいつらは俺にとって大事な友人達だな。
けど、俺は戦力外も良い所なんだが…

「うん、オメガの言う通り。閃が居るなら安心できるよ。」
「いや、俺はお前らみたいに、強くないぞ…?むしろ、雑魚いぞ?」
「そんなの関係ねぇ!!俺達3人!!親友パワーは最強だぜ!!お前を信じる、俺を信じろ!!」
「そうそう、私達は親友同士なんだから…きっと大丈夫!!」

……やべぇ、マジで泣けてきた。
なんつうか…認識に違いがあったんだな。
俺は友人って思ってたけど、この2人は…親友って思っててくれたのか…
今更だけど、俺…転生して…こいつらに出会えて…本当に良かったって…思えるよ。

「ねぇねぇ、閃君。そっちの人は…誰なの?」
「始めまして、主任です。よろしく。」

俺の隣に座っていた主任を、指差したなのは。それに気が付いて、主任も何故か優雅に一礼する。

「あ…高町なのはです。よろしくお願いします。…あの、主任さんの名前…」
「主任です。」
「え?…あの、名前は…」
「主任です。」
「…なま「主任です。」うぅ~…メビウス君…」
「あははは…よしよし、ほら泣かないで。」

涙目でメビウスに縋り付くなのは。…いやぁ、完璧に被せたな主任。
お前、どんだけ本名言いたくないんだよ…。しかも、初対面で泣かせんなよ…。

「泣き顔なのちゃんハァハァ…!!」
「鼻息を荒くしてんじゃねぇよ…!!」
「だって、生原作キャラで、主人公で小学生で泣き顔少女!!ロリコンには堪らげふぁ!?」
「廊下で頭でも冷やしてろ!!」

メタ発言&危険発言を繰り広げる主任に、アッパーをブチかまして、廊下にたたき出す。
まったく…油断も隙もあったもんじゃねぇ…
冷や汗をたらす俺を苦笑しながら見ているメビウスと爆笑しているオメガ。
ちなみになのはは、何故かメビウスの背中にピッタリとくっ付いて赤面している。…恥かしいならくっ付くなよ。
ドアが軽く音を立てて開く。主任が復活したのか?
そう思い振り返った俺は…表情を固くした。

「て…めぇ…」
「やぁ、帝君。クロノから話を聞いている。まぁ、仲良くしようじゃないか。」

白々しく笑顔を浮かべる…シルヴァリアスが立っていた。

「シルヴァリアス君!?」
「やぁ、ランスロット君にガウェイン君。先日は失礼したよ。まさか、君達とは思わなくてね。」
「先日…?」
「はは、仮面をつけた魔道師がいただろ?アレは実は僕なんだよ。」
「っ!?君…が…!?」
「おっと、今は争う気なんて無いよ?僕が、彼女を捕まえようとしてたのにも理由があるし、助けた君達にも理由があったんだろう?
それに、先に攻撃してきた君も悪いんじゃないのかな?」
「…それ…は。」
「まぁ、お相子と言う事にしよう。…僕も混ぜてくれるかな?」

笑顔を浮かべ、なのはの対面に座るシルヴァリアス。
3人の表情は、かなり硬い。メビウスなんて、苦虫を噛み潰したような顔をしてるぞ。
まぁ、俺も人の事いえない表情してるがな…

「クロノから話を聞いたけど…なのはは凄い魔力の持ち主なんだってね?AAAクラスだって?」
「え……うん…」
「凄いじゃないか!!僕はAクラスなんだけど、だからかな?君とは何か合う気がするんだよ!」
「……」

完璧に…引かれてんぞ…。AクラスとAAAじゃ差が在りすぎるだろう…
しかも、高町さんから、何時の間にか、なのはって呼び捨てにしてるし…
名前を呼ばれた瞬間、なのはの顔が怯えたようになってたな…。今じゃ、完全にメビウスの背中に隠れてるよ。

「始めてみたときから、なのはは普通の子とは違うって思ってたんだ!!どうかな?今度、僕の家に遊びに来ない?色々な魔法の道具もあるんだよ!!
それか、一緒に魔法の訓練なんてどうかな?こう見えても、僕は魔法に詳しいんだ!今からでも…」

それに気が付かずに、必死に自分の自慢話を繰り広げてる…。ある意味で…大物だな。
…よくもまぁ、空気も読まずに…しゃべり続けれるな。メビウスも、何かを感じ取ったのか、なのはを庇うようにしてるし…オメガなんて殆ど敵意丸出しだ。

「…ここに居たのか。3人とも、これからメディカルチェックをするから、付いてきてくれるか?閃も一応、立ち会ってくれ。」
「…なのちゃん、行こう。」
「う…うん!」

天の助けとばかりに登場したブレイズ。唯単に呼びに来ただけだろうが…助かったな。
直ぐになのはの手を引っ張りながら、出て行くメビウス。…さり気なく握る辺り…好感度高いだろうな。
遅れて、俺とオメガも部屋を後にする。…ちなみにシルヴァリアスは、自分によっているのか、誰も居なくなった部屋で延々と自慢話を繰り広げている。

「……不安要素が…大きすぎるな。修正が必要だ…」
「ハスラーワン乙!!」
「主任…もう一回、沈んどけえぇぇぇ!!!」





あとがき

さて、次回から色々とすっ飛ばして行こうかと考えております。
厨2はウザくかけているでしょうか…?
…書いてる作者は、ウザイと思っております。
そして、今回も出ました、ACEのキャラとオリキャラ。
苗字で分かるとおり…彼女の父親です。さて…これからどうなることやらで…



以下、返信

34様

ん~…詳しいこと言うと、後々の物語の楽しみが無くなる?ので…PJや相棒の事は秘密で…申し訳ないです。
v2は…危険すぎると思っていただければ、結構です。その危険度をどう書くかは…作者の実力次第…(汗



ダンケ様

タングラムについては設定集の部分で、少しですが書いてみました。自我を持たせたのはリリン嬢ではない事は確かです。
パパの言うあの人はヴォイチェク中佐でした。予想外…だったでしょうか?笑
フォース…出ましたね…!!ACE6の為に箱を買いましたが…フォース…やってみますか!!


ユーロ様

ははは!!同志よ!!作者もあの動きが可能と思い込んでいました!!蓋を開ければ、マルチロールというね…。
スピード特化のX02が愛機の作者には物足りない…!!
ベルカ戦争の話は…いつか書いてみたいとは思っていますが…確実に、メビウス君達のお話が終わってからですね。すいません。
オメガ隊100機…勝てる気がしません…!!





[21516] 20話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/01/15 23:18
・メビウス・

アースラに乗船してから数日がたった。その間に色々とあったんだ。
オメガが薔薇の3姉妹さん達の事を、毒蛇3姉妹って言って、本気で戦ったときもあって大変だった。ちなみに、私とユーノも何故か巻き込まれたんだよね…

「蒼い奴は後回し!!この熱血馬鹿を先に黙らせるわよ!!!」
「ハッハー!!かかって来ぉおぉぉおい!!!!ComeComeComeCome!!!」
「ちょ!?魔法障壁をただの蹴りで破壊するって、あんた何者よおぉおおぉ!!!???」
「ゆ…誘導弾を片手で弾き飛ばすな!!こ…こっちに来んなぁあぁぁ!!!!」
「あらあら~。」
「……まぁ、オメガだしね…。ユーノ、私達は、邪魔にならないようにしてようか。」
「デタラメじゃないか…。」

閃の知り合いのリリンちゃんとの、初対面のときも、大変だった。閃がお兄様って呼ばれてたのには、私も少し笑っちゃったな。
けど、頼りがいがあるから変じゃないんだけどね。リリンちゃんって、凄く頭がいいんだ。まだ小さいのに凄いなぁ。
そうそう、なのちゃんと直ぐに仲良くなっても居たね。なのちゃんも、「妹が出来たみたいで嬉しい!」て笑ってた。
食堂で、クッキー作りとか教えで上げてたりしてる。ちなみに、それにジェニファーちゃんも参加してる。

「なのはさん、こちらはこうで良いのですか?」
「うん、それで大丈夫だよ。あ、リリンちゃん、計量カップはこっちを使ってね!」
「はい!なのはお姉様!」
「リリン様、張り切ってますね。」
「えぇ、閃お兄様に、美味しいクッキーを差し上げたいのです!」
「えへへ、そうだよね!私も、メビウス君においしいの作ってあげないと!」
「あらあら、それでは、私はお姉様方に作りますわ。」

そして今日は、シルヴァリアス君とブレイズさんが模擬戦をするから、モニターで見学させてもらうことになっている。
私のほかに、なのちゃんとクロノさんも一緒。薔薇の3姉妹さん達と、先に模擬戦をしていたオメガとユーノは、船室で休んでいる。
ガルムは艦橋で索敵の手伝いをしているはずだし、閃と主任さんはエクス達のデータを取って、解析とかをしてるみたい。

「あ、メビウス君、始まるみたいだよ?」
「さて、ブレイズに何処まで通用するかな。」
「クロノさん、ブレイズさんって、そんなに凄いんですか?」
「あぁ、強いぞ。僕も本気で戦って、勝てるか怪しいところだからな。」

モニターから視線を外さないままのクロノさん。横顔だけだけど、ブレイズさんを信頼しているのが良く分かる。
私も、モニターに視線を戻す。ブレイズさんはデバイス、スペシネフに鎌のように魔力刃を展開して、空中に待機している。
シルヴァリアス君もアスカロンを順手と逆手に構えて、周囲に魔法を展開しているけど…あれは、フラガラッパ…かな?

「フラガラッパあぁあ!!」
「サンダーボルト、打ち砕け。」

ブレイズさんの周りに、バレットスフィアが2つ展開して、魔力弾が打ち出されていく。
まるでガトリングみたいに、掃射していく。弾速自体はそんなに速くないけど…弾幕が凄い。フラガラッパを文字通り、撃ち砕いていく。

「ちぃ…!!ロンギヌス!!」
「集束魔法か…!!」

槍のように魔力光が、一直線にブレイズさんに向かっていくけど、回避しようとしない…!?
ブレイズさんが左手をかざすと、空間が揺らめきだす…?

「ファントム、返すぞ。」
「…なにぃ…!?」

揺らいでいた空間に魔力光が吸い込まれたと思うと、直ぐに撃ち出されて来る…?
まさか…空間をゆがめて反射したって事!?

「ねぇ、メビウス君、今のって…なに?」
「空間を歪めたのはわかったけど…反射したのかな?」
「ブレイズは空間制御は得意な方だから。簡単に言えば、小型のワームホールを作り出したんだ。それを反射専用にしてるだけだ。」

クロノさんが、補足で説明を入れてくれる。ワームホールって…そんなに簡単に出来るものなのかな…?

「…えっと???」
「メビウス、後でなのはに分かるように、説明しておいてくれるか?」
「あはは…そうしますね。」

頭の上に???マークを浮かべるなのちゃんを見て、溜息を付くクロノさんと、苦笑する私。
「なんで笑うの~!」といじけそうになったなのちゃんを、撫でて慰めながら、モニターに視線を戻す。
ブレイズさんは、さっきから場所を移動していないのに対して、シルヴァリアス君は周囲を旋回するように攻撃してるけど…
全部、ファントムで返されるか、スペシネフで切り払われている。実力差がありすぎる、私でも勝てるかどうか…。

「ナイトホーク、起動。」
「フラガラッパ…!?…なんで追尾しない!?貴様、なにをした!?」

フラガラッパが追尾しないのに驚くシルヴァリアス君。ある程度の追尾性能は持ってるようだけど、ほんの少し上昇したブレイズさんを追尾しないで、そのまま飛んでいく。
可笑しいな…?普通なら、追尾していくはずなのに…?

「ん?一々、説明するのも面倒だが…仕方がないか。俺のバリアジャケットには、ステルス性能が搭載されている。
今、使っている魔法は、その性能を更に上げている。」

シレっとして話すブレイズさんだけど…凄いことだと思う。
ステルス性能があれば、索敵魔法にだって引っかからないし、誘導魔法だって、ある程度は無効化に出来るんだろうからね。

「ひ…卑怯だぞ!!それは禁止だ禁止!!それに、そのファントムとかもだ!!」
「別に良いが…。…ミラージュ。」

溜息をつきながら、スペシネフを振って魔法を解除する。けど、なにか新しいのも展開したみたいだね。
あれ?一瞬…ブレイズさんの周りの空間が…揺らいだように見えたけど…?

「…彼も馬鹿だな。ブレイズのあれが…一番厄介なんだよ。」
「あれ…ってなんですか?」
「見てれば分かる。」

丁度、シルヴァリアス君がブレイズさんの周囲に、ダイスンレイヴを展開していたところだった。
ただ、旋回してただけじゃなくて、これを仕掛けていたんだね。…えげつないなぁ。

「これならどうだ!!」
「ミラージュ、出力上昇。」
「…嘘ぉ…!?」
「あれがブレイズの切り札、空間湾曲だ。」

ダインスレイヴがブレイズさんに襲い掛かるけど、全部手前で曲がっていく。中には同士討ちのように、ぶつかって消えていくのもある。
肉迫すらしない…。クロノさんが言っていた空間湾曲。…自分の周りの空間を、自由に歪めれるって事だよね…?

『スペシネフは、空間制御機構が搭載されていますので、あのようなトリッキーな魔法が使用できるのです。』
「エクス、空間制御機構って?」
『魔道師自身が持つ空間把握能力を、最大限に引き出し空間制御のアシストをするのですが…。用意に扱えるものではありません。』
「…ブレイズは努力家だからな。確かに天才だが…、あいつの場合、努力の天才と言った方が良いか。」

そうか…。エクスとスペシネフは同じVRデバイスなんだよね。
空間把握能力…かぁ。クロノさんの言うとおり、ブレイズさんって、凄く努力してきたんだろうね。

「ふ…ふざけるなぁあぁぁ!!貴様!!さっきからなんなんだ!?妙な魔法ばかり使って!!」
「仕方が無いだろう。別に攻撃しても良いが、後悔するなよ?」
「ふん!!貴様程度に負ける僕じゃない!!なのは!!見てて!僕が勝つ…」
「よそ見してると…堕ちるぞ?」

距離が離れてるのに、ブレイズさんが魔力刃を展開させたスペシネフを振り下ろす。
届くはず無い距離なのに、なんでたろう?
けど、次の瞬間、私は眼を見開いた。

「き…貴様あぁぁ…!!」
「だから言っただろう…後悔するぞ…と。」

ブレイズさんの斬撃がシルヴァリアス君に襲い掛かっている。…斬撃が飛んだ…?
いや、違う。空間を…跳躍した!?空間湾曲の他に跳躍まで出来るのか!?
1閃、2閃と振るうたびに、シルヴァリアス君の目の前に、現れる斬撃。

『ありえません…。空間跳躍まで使いこなしている…!?そこまでの適合率とは思いませんでした。こけは…私とマスター並みの適合率です。』
「えっと、メビウス君、どういうことなの?」
「至極簡単に言っちゃうと…攻撃がワープしたんだよ。」
「わ…ワープって…えぇ!?そ、そんなのどうやって避けるの?」

シルヴァリアス君を尻目に、驚く私となのちゃん。実際に避ける方法なんてあるんだろうか…?
私が思いつく限りでは、速度で振り切るか、先読みで防御するしかない。
モニターに視線を戻すと、ブレイズさんの左手に魔力光が収束していた。それを、開けたワームホールに撃ち込んでいる…?

「これで、チェックメイトだ。…シンファクシ!!」
「う…うわあぁぁ!!??」

声と同時に、シルヴァリアス君の周りに開く無数の黒い穴、ワームホール。
そこから、さっきブレイズさんが撃ち込んだ魔力弾が放たれていく。それが、直撃して堕ちていく。
結局、模擬戦はブレイズさんの圧勝だった。
すごいなぁ…。私もまだまだ強くならないと…



・閃・

現在、俺と主任はメンテナンスルームでVRデバイスである、エクスとイジェクト、それにスペシネフのデータの解析を行っている

「ん~…本体部、コアの部分は完璧に自立してるね。これさえ無事なら、外装を弄っても問題は無いみたいだねぇ。」
「いや、そうでもないみたいだな。…神経みたいに回路が、張り巡らされてるぞ?」
「むしろ、コアから出てるし…、もしかすると。自分で出してるんじゃないかな?別なのにも接続可能かも…?」
「おいおい、つまりなにか?極端な話、1世代のコアを別なデバイスに接続すれば、直ぐに活動可能…ってか?」
「多分ね。しかもコア自体にも、ある程度の自己修復機能も付いてるね。」
「んで、魔力を自己変換、別なエネルギー体に変換可能って…凄まじいな。…デビルガンダムもびっくりだな。」
「自己増殖は付いてないみたいだから、安心して。けど、変換方法次第では、魔力をレーザーやビーム体に変換可能のようだね。魔法が使えない空間でも、戦闘可能って事か。」
「本体自体、魔力発生装置付きっと。…それなんてGNドライブ?つうか、本当に作ったの誰だよ…。超高性能過ぎるわ…。」
「…一応はうちの会社のはずなんだけど…。これだけ凄いと自信なくすよなぁ…。」

俺達は顔を見合わせて、苦笑いを浮かべる。いやぁ、仕方が無いだろう。
高性能だって事は知ってたけど、ここまでとは思わなかったしなぁ。正直、下手なロストロギアなんかより、謎なんじゃないかと思える。
コア本体に備え付けられている魔力発生装置に自己修復機能。この2つをつけるだけで、どれほどの費用がかかることやら…

「正直言うと、ここまでとは思わなかったよねぇ。」
「…だよな。」

俺の心を代弁するかのように呟く主任。どうやら、こいつもここまで高性能とは思ってなかったみたいだ。
しかし、なんでか、俺の顔を真面目に見つめてくる。

「…ところでさ、閃君。」
「ん?なんだよ?」
「…君ってさ、何か…持ってる?」
「はい…?某ハンカチ王子じゃねえぞ?」
「いやいや、違うよ。僕の場合はデバイス関係については、下地もあるから理解できるんだけどさ。君の場合って…何にも無いはずでしょ?
なのに、なんで設計やら解析やら出来るのかなぁ…とね。なにかレアスキルでも持ってんじゃないのかなって思ったんだよ。」
「……おぉ。気が付かなかった。」

確かに、なんで俺ってこんなに簡単に理解できてんだ?
生前が大学生とはいえ、リリンのように天才でもないし、専門知識を学んだわけでもない。むしろ、独学と我流だ。

「本当に、何かレアスキルでも持ってんのかな?」
「流石は転生者!!それらしいのを持ってるんだね!!」
「いや、知らねぇって…。第一、主任の下地ってなんだよ?何処で勉強したんだよ?」
「……それは…」
「それは?」
「男の子のひ・み・つ♪てへ!」
「……ぶん殴って良いか?全力全開でぶん殴って良いか?」
「…ごめんなさい。と言うかすでに、ぶん殴ってる…。ごふ」
「これはぶん殴ったんじゃねぇよ。殴ったんだ。」

主任の顔面に右ストレートをブチかまして、デスクに沈める。
ったく、本当にこいつは真面目な時とそうでないときのギャップが激しすぎるわ。

「まぁ、冗談は程ほどにしといて…。1世代目って、過剰性能もいいところだよね。」
「それは言えてる。何の為に、ここまでの性能を持たせたん…だ…か。」
「……………閃君、気が付いちゃった?」
「……気が付きたくないけど、気が付いた。もしかすると…あいつら…か?」
「それ以外、考えられない気がするんだよねぇ…。」

顔を上げて、天井を見つめる主任。
あぁ、気が付いちまったよ。これだけの性能を持つデバイス。唯単に、犯罪者とか、テロ鎮圧になら、ここまでの過剰性能をつけなくても良いだろう。
そう、【人間相手】なら…。だが、俺達は知っている。本当のVRが、フレッシュリフォーのある世界が、どんなのだったのか。そこに、どんな【敵】が居たのかも。
…多分だが、1世代を作った人間は、奴らに備えていたんだろう…。虚数空間に潜む…過去の亡霊…【ダイモン】に…。







スペシネフ・ラーズグリーズ。魔力刃は鎌の状態で固定。空間制御機構搭載。
バリアジャケットには、強力なステルス性能が付加。

サンダーボルト バレットスフィアから魔力弾を撃ちだす。
ナイトホーク   バリアジャケットのステルス性能を向上。
ファントム    任意の空間にワームホールを作成。
ミラージュ    自分の周囲の空間を湾曲させる。
シンファクシ   ワームホールに魔力弾を撃ち込み、ターゲットの周囲に出現させ、攻撃。

あとがき

とりあえず、汁なんちゃらは、フルボッコになってもらいました。もっとスピーディーな戦闘描写にしないと…
ブレイズさんの魔法の名前は、戦闘機とかから持ってきてみました。
上に簡単に、説明モドキを書いてみましたが…要らないかな?
次回は、海上決戦を書いて…また飛びます。目標は、後5話以内で無印終了!!


以下 返信 

ユーロ様

ナガセとブレイズの年齢差ですか。
とりあえず、ナガセはギンガと同い年…と言う事になっています。そして、仲も良いということに…。
マルセラ姐さんとエスパーダ1…ですかぁ。正直、あの人達は幸せになっていて欲しいですね。
…ミッドの何処かで小さなお店でも営んでいるとか…ありかも?笑
オメガ隊は豊富な人脈に、コミュニケーション能力が半端ないそうです。某所でそんなのが書かれてましたね。


ダンケ様

いや、こんな奴に友達も出来ないと思います。
まぁ、だからこいつは生前、引きこもりオタクと言う設定なんですけどね。笑
ん~、リンディさんは管理局と言うか…ハーリング派? けど、一応は親としての心も持ち合わせては居ますよ。
今回は、そんな風に見られても仕方が無かったとも思います。すいません。
リリン嬢にも一応は見せ場を作る予定にはしてますので…頑張ります!!


真っ黒歴史様

そんな!!失礼ですよ!!ス○オに!! 笑
彼は映画とかではやるときはやる男なんですから!!
こっち?…後で物凄くウザイ事をやるのでお楽しみに…




[21516] 21話 伸ばしても届かない手
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/01/18 22:19
・ユーノ・

「そう言えばユーノは両親に、元気って事を報告しなくて良いのか?」
「え?」

それはオメガの何気ない一言で始まった。
僕達は、アースラの食堂でなのは達が作ったクッキーでおやつを楽しんでいたんだ。
ジェニファーさんの入れた紅茶と、なのはのクッキーは相性抜群でとても美味しい。
メビウスは、ブレイズさんの要請で何故かもう一度メディカルチェックを受けてるけど、それが原因で、クッキーを作ったのに、食べさせれないって、なのはがいじけてた。

「ん~、実は僕には両親居ないんだ。」
「…すまん。聞いちゃいけなかった。」
「良いよ。慣れたし、部族のみんなが家族同然で育ててくれたから、寂しくないよ。」

困ったように頭をかくオメガに、僕は笑いかける。
スクライアの皆はとてもよくしてくれている。部族自体が1つの家族だから、僕も特別寂しいと感じたことは無い。

「オメガ達には、両親居るんでしょう?」
「おう!!俺の父さんは警官やってるぜ!!昔は傭兵だったみたいだけどな!!」
「家は平凡なサラリーマンだな、うん。」
「重役がサラリーマンって…」
「閃お兄様、いけませんわ。帝さんは、わが社にとってしても重要な方ですわ。もちろん、閃お兄様もです!!」

閃の両親が、有名なフレッシュリフォーの重役だとは知らなかった。あそこの重役を、普通のサラリーマンって言ったら駄目だと思うなぁ。
けど、あのリリン・プラジナーとも知り合いだったなんて、今更ながら、閃やメビウス達には驚かされるよ。

「そう言えば、なのはとメビウスって幼馴染なんだよね?」
「うん、そうだよ。小さい頃からずっとずっと一緒に居たの。オメガ君とは少し後だよね。」
「だなぁ。俺は一時期、海外に居たからよ!!」

なのはは、嬉しそうに笑いながら、髪に結んでいるメビウスとお揃いのリボンに触る。
幼馴染…か。なのはが、メビウスにそれ以上の感情を持っているのは、誰が見ても明らかだと思う。
…それを向けられている本人は妹のような感じで扱っているから、少し不憫だけど…

「幼馴染…私と閃お兄様もそうなるのでしょうか?」
「あ~。少し遅いからな、残念だが、違うと思う。」
「そうですか…残念ですわ。」

落ち込んだリリンを苦笑しつつ、撫でながら慰める閃。
こっちの方は、本当に兄妹って感じがすね。こう…なんて言うのかな…。閃は少し大人びてて、同い年なのに年上に思う。
メビウス達も、そういってたし、頼りになるって、よく言っていた。

「そう言や、なのはと俺が会う前に、士郎さんって…事故で大怪我したんだっけか?」
「うん。それで、お母さんやお兄ちゃんが忙しくて、家の中でひとりぼっちの時があったの。」
「寂しく…なかったの?」
「どうだろう…。寂しくなかったかもしれないし、寂しかったかもしれないね。」
「なんだそりゃ?」
「大方、メビウスが一緒に居てくれたから!!とか言うんじゃないのか?」
「わ、凄い!!閃君、なんで分かったの?」
「……分かるっての…」

驚いたなのはを無視して、呆れたようにしてクッキーに手を伸ばす閃。
流石の僕でも、この位は予測できたよ。

「まぁ、素敵ですわ!」
「でしょ!!寂しい時は、私がずっと傍に居るから、って言って夜も一緒に居てくれたときもあったし…」
「お~い。誰か、なのはの惚気を止めろ。」
「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて冥界行きだぜぇぇぇ!!」
「…つまり、命がおしいって事だね。」

幼馴染の事や、そう言う女の子の好きそうな話題で盛り上がるなのは達を見ながら、僕達は紅茶とクッキーを楽しむ。
まぁ、そう言いながらも、閃はリリンの事を暖かい眼差しで見守っている。

「僕も…君たちみたいな友達が出来て、良かった。」
「……ユーノ、恥かしいなら言うなよ、顔が赤くなってんぞ。」
「ハッハー!!今更だぜユーノおぉお!!俺達とお前はBest friendsだぜ!!」

小声で言ったはずなのに、聞こえちゃったかな。けど、そう言いながら、閃の顔も少し赤い。
オメガは何時ものように、明るく笑って親指を立ててくれる。スクライアのみんな、こんなにも暖かくて、優しい友達が…僕にも出来たよ…。





・ブレイズ・

「現状報告、一体どうなっているんだ?」
「あ、ブレイズ君。海上で膨大な魔力反応が感知されたのよ。」

エイミィから通信を貰った俺は、艦橋まで走りこんできていた。
視線をまわりに配れば、クロノと艦長は既に自分の席についていた。

「エイミィ、映像をモニターに映せるか?ブレイズ、メビウス達にも見てもらえ。」
「了解。今呼び出している。」

端末を起動させ、メビウス達に連絡を入れると同時に、アラートを起動させる。
艦内にけたたましく鳴り響くアラートは、何時聞いても心地の良いものではないな。
それが表情に出たのか、艦長が笑いながら、「私も慣れないわ」と言っている。心配してくれたのか、その一言で俺はもう一度、表情を引き締めなおす。

「ブレイズさん!!なにかあったんですか?」
「海上で魔力の反応が見つかった。恐らくは…残りのジュエルシードだろう。」
「今、モニターに映像出すからね。あ、なのはちゃん、クッキーご馳走様、おいしかったよ!!」
「あ、はい!よかったです。」
「エイミィ、真面目にやってくれ。」
「了解です、クロノ執務官殿。」

通信とアラートを聞いたメビウスとなのはも駆け込んできた。…他の奴らはまだか。
おどけたような口調でエイミィが、端末を操作していく。クロノは溜息をついて額を押さえているが、まぁ、分かっているだろうな。
これが彼女なりのリラックスの方法だ。現に、彼女だけでなく、少し緊張してたようななのはもリラックスできている。

「…本日も海上は大荒れ注意報…か。」
「クロノ…?」
「いや、なんでもない。」

…なんでもない…か。なら、俺も聞かなかったことにしようか。…こっちを少し睨んでいるクロノの視線を、キッチリと無視する。
第一、聞こえたのは俺だけじゃないんだがな。ほら、艦長だって、少し笑ってるぞ。
視線をモニターに移すと、金髪の少女が巨大な魔方陣を展開していた。その魔力の影響でか、天候がかなり悪い。

「やっぱりフェイトちゃんだ…。」
「…あれがそうか。」
「魔力の増大を確認!…まさか、海中のジュエルシードを暴走させる気!?」
「エイミィ、ジュエルシードの数量と魔力量を確認。各員はその場で待機。」
「待機って…どういうことですか!?」
「そのままの意味だ。メビウス達も待機だ。」

クロノが冷静に指示を飛ばす。おそらく、フェイト・テスタロッサはジュエルシードを、故意に暴走させ一気に封印しようとしているのだろう。
…客観的に見ても、無謀すぎる方法だ。展開してる魔方陣の維持で、かなりの魔力も使っているだろう。

「このままいけば、確実に自滅するだろう。それか弱体化したところを一気に叩く。残酷だが…現実だ。」
「そんな…」
「メビウス君…フェイト…ちゃん。」

それに納得できなかったのは、メビウスは異を唱えるが…クロノが押さえつける。
うつむくなのはとメビウスだが…、何か意を決したかのように顔を上げ、艦橋から出て行こうとする。

「待ちなさい!!2人とも!何処の行くの?」
「決まってます。フェイトちゃんのところです!!」
「見捨てるなんて…出来ないです!!」
「駄目よ。今、海上は魔力流で危険な状態。そんな所に2人を向わせるわけには行かないわ。」

静かに、諭すように2人を止める艦長。確かに、魔法を受けて空中に浮いた6個のジュエルシードが暴走して、海上はかなり大荒れだ。

「…私は…私達はフェイトちゃんを助ける為に協力する、と言いましたね。誰も彼女を捕まえる為に協力するなんて…言ってません!!」
「フェイトちゃんは大切な友達なの…。だから!!絶対に助けるんです!!」
「あ!2人とも!!」

やはり…か。制止を振り切ると、そのまま走っていく2人を眺める俺。
クロノと艦長はどうにか止めようとしているが…無理だろうな。
だが…ある意味で好都合だ。

「エイミィ、頼みがある。」
「え?なに、ブレイズ君。」
「メビウスのデータを取っておいて欲しい。」

そうエイミィに頼むと、俺はモニターに視線を戻す。

(さぁ、メビウス・ランスロット。実力の程…見せてもらおうか。)

だが、ふとそこまで考えると、1つの不安要素が浮かんでくる。

(奴が…居ない…?)



・メビウス・

艦橋から飛び出した私達は、転送ポートのある場所まで走っていく。
確かに、フェイトちゃんの自滅を待つ方が捕まえやすい。けど、私達は…フェイトちゃんを捕まえたいんじゃない、助けたいんだ…!!
目の前で、苦しんでいるのに…見捨てるなんて出来ない!!

「メビウス様!こちらです!!」
「ガルム!?」
「せ…閃君にユーノ君!?それにオメガ君も!?」

転移ポートに行けば、閃達が待っていてくれて、端末のほうを見ると、主任さんが操作している。
閃も呆れたように、空中に映し出してたモニターを消して、端末を操作し始める。

「やれやれ。まぁ、んな事だろうとは思ってたけどよ。ほら、行くんだろ?」
「手伝って…くれるの?」
「当たり前だよ、なのは。ほら、すぐに転移させるから準備して!!オメガ、僕と一緒に魔力装填して!!」
「おう!!メビウスも早くするんだぜ!!」

ユーノ達が転移装置に魔力を注ぎ込んで、起動させていく。

「さてと…いっちょやりますか。主任、急ぐぞ。」
「愚問だねぇ。転移シークエンス、4から8まで省略。座標軸は…こんなところかな。」
「転移させるのは、メビウス、なのは、ガルムの3人だ。ほら、準備しろ!!いきなり空中だからな!!バリアジャケット展開しとけ!!」

閃の指示に従って、慌てて転移ポートの上に乗る私達。
みんな…協力してくれている。

「魔力は充分!!よし、転移させるぞ!!」
「皆!!ありがとう!!」
「なのは!!礼は終わってからだ!!序に説教も一緒に受けてやるよ!!」
「頑張れよ、なのはぁぁぁ!!メビウゥゥゥウス!!」

閃達の応援を聞きながら…私達は海上まで転移していく。

光が収まると、私達はフェイトちゃんが展開していた結果に居た。
視線を向ければ、フェイトちゃんとアルフが暴走した魔力流に弾き飛ばされていたところだった!!拙い!!

「危ない!!」
「え…?」
「まったく…無謀極まりない。」
「あ…あんたら…!?」

フェイトちゃんを私が、アルフをガルムが受け止める。ふぅ…間一髪だったね。
なのちゃんは、私達を庇うように、障壁を展開してくれていた。

「メビウス、どうして…ここに?」
「決まってるでしょ。フェイトちゃんを助けに来たんだよ。…その前に…」
「あう!?」

私は軽くフェイトちゃんの頭を小突く。それに驚いたのか眼を丸くして頭を押さえるフェイトちゃん。

「まったく…心配かけさせないで…。こんな危ない事したら駄目だよ?」
「…ごめんなさい…」
「うん、よろしい。」

素直に謝ったフェイトちゃんの頭をなでながら、私は一安心する。まだ、限界までは無理してないみたいだね。
視線を移すと、ガルムがアルフにフィジカルヒールをかけているところだった。

「まったく…お前も無理をするな。」
「わ…分かったから、サッサと離しなよ!!」
「まだヒールをかけているところだ、大人しくしてろ!!」

抱きとめた状態で、ヒールをかけられるのが恥かしいのか、顔を真っ赤にしているアルフ。
ガルムは顔色1つ変えてないんだけどね。

「フェイトちゃん。」
「…なのは…」
「メビウス君の言ったとおりだよ。もぅ、心配したんだからね!!」
「なのは…も?」
「そうだよ!!私とフェイトちゃんはもう友達なの!!」

そう笑いながら、フェイトちゃんの手を握るなのちゃん。フェイトちゃんもぎこちないけど、小さく笑っている。

「それじゃ、はい、ふたりできっちりはんぶんこ!」
「あ…。ありがとう、なのは…」

なのちゃんが、消耗しきっているフェイトちゃんに魔力を供給する。これで大丈夫だろうね。

「エクス、解析を。」
『既に済んでおります。まぁ、見ての通りの状況…なのですが。6個の暴走体はかなりのものです。』
「みたいだね…。」

空中に浮いて、球体に包み込まれているジュエルシード。そこから、非常識なまでの魔力流で辺りを荒らしている。

「2人とも、聞いて。タイミングを合わせて、3人で特大の魔法を撃ち込むよ!」
「3人で…?」
「そう、3人で、せーので一斉に…ね。」
「うん、分かった。やろう!!フェイトちゃん!!」

戸惑い気味のフェイトちゃんだけど、なのはの明るい声を聞いて、静かにうなずいてくれる。
その瞳には、決意が現れていて、とても綺麗だ。

「レイジングハート…力を貸して!」
「バルディッシュ、お願い…!!」

2人の周りにピンクと金色の魔方陣が展開されていく。それを私は少しはなれた場所で眺めている。
…凄いな、ジュエルシードに匹敵する魔力量だよ。

「ディバイン…バスター!!」
「サンダーレイジ!!」

それぞれの魔法がジュエルシード目掛けて飛んでいくのを見て、私も自分の魔法を展開させる。
そう、最強の単体攻撃魔法を…!!

「はああああ!!!!一撃必殺!!ブルー・スライダー!!」

キャンセルで最高速度までスピードを上げて、周囲で荒れ狂う魔力流も纏めてなぎ払いながら、空中のジュエルシードに突撃!!
エクス本体に展開している魔力刃と、暴走体の魔力がぶつかり合い、魔力光が辺りに撒き散らされる。
くぅ…周囲に展開してる障壁が…持たないか…?
速さは質量に勝てないのか…!!いや、そんな事はない!!速さを一点に集中させて突破すれば…どんな分厚いものだろうと…!!

「砕けちれえええぇぇぇえ!!!!」

私の声と同時に、ジュエルシードの暴走集体を包み込んでいた魔力を貫き、力ずくで暴走を止める!!
そのまま、空中で封印を施す。

「はぁぁ…。疲れた…。」



・ブレイズ・


「…予定が違ったが…仕方がないか。」

メビウス達が暴走を鎮圧したのを見計らって、俺は転移ポートで移動していた。
ちなみに、今頃、閃達は艦長に説教を貰っているところだろう。

「あ…ブレイズ…さん。」
「そう構えるな。別にどうこうしようというわけではない。」

フェイトを庇うようするメビウス達に苦笑しつつ、攻撃する気は無いとアピールする。
メビウスに観察するが…可笑しいな。あれだけ無謀な突撃と魔力を使えば、疲労してるはずだが…してないだと?

「メビウス、誰…?」
「フェイト・テスタロッサ…だな?俺は管理局所属、ブレイズ・トリスタン執務官補佐役だ。」
「管理局…!?あんたら、まさかあたし達を捕まえにきたのか!?」
「アルフ、落ち着け。メビウス様はそんな気は全くない。」
「こちらとしても、穏便に済ませたい。攻撃する気も無いしな。」

飛び掛ってこようとして使い魔らしき女性を、ガルムが止めてくれる。
ありがたいな、攻撃されれば、望まぬ戦闘をするところだった。

「フェイトちゃん、私はフェイトちゃんを助けたいんだよ。…何か理由があるんでしょう?…ね?一緒に行って、話を…してくれないかな?」
「こちらとしても、悪いようにはしない。メビウス達も君を心配している。どうだろうか?」
「……私…は。」

何か迷うようにしているフェイト。その視線を優しく微笑むメビウスに向けられている。
…彼の説得で揺らいでいるようだが…。

「甘いなぁぁ!!ブレイズ!!」
「きゃぁ!?」
「フェイトちゃん!?」

突然、フェイトを拘束する…バインドだと!?誰だ!?
視線を上に向ければ…一番、来て欲しくない奴、シルヴァリアスが居た。


「何をしてるんだよ!?」
「決まってるだろ!!犯罪者は…懲らしめないとなぁぁぁ!!」
「シルヴァリアス君やめて!!フェイトちゃんは何もしてないんだよ!?」
「なのは、君はこいつに騙されてるんだよ!!」
「シルヴァリアス・ゴッテンシュタイナー、今すぐバインドを解け!!」
「ふざけるな!!消耗してる今が消すチャンスだろ!!」

こいつ…聞く耳持たないか…!!メビウスがバインドをエクスで叩き切ろうとしているが、うまくいかないようだ。

(ち、あの馬鹿にシンファクシを叩き込むか…)

そう思い、ワームホールを作成しようとしたが…背筋に悪寒が走った。
シルヴァリアスの真上に…巨大な魔方陣が展開されている…!?

「ブレイズ、気をつけろ!!次元跳躍魔法だ!!」
「っ…!!各員、退避!!避けろぉおぉぉ!!」
「なに…があぁああぁ?!!!????!??」

クロノから通信が入ると同時に、魔方陣から強大な雷光が襲い掛かってくる。シルヴァリアスを直撃し、海面に叩きつけていく。
生命反応があるから…一応は無事か。だが、気にかけている余裕など…ない!!
俺はファントムを作成し、雷光をワームホールに吸い込ませていくが…くそ、消費が洒落にならない…!!

「フェイトちゃん!?」
「なのちゃん!危ない!!」

フェイトの傍まで、行こうとしたなのはをメビウスが抱えて、雷光を回避していく。
雷光はフェイトを庇うように、俺達に襲い掛かってくる。メビウスは、強固な障壁を展開していたガルムの近くに、なのはを連れてくると、自分は直ぐにフェイトの方に向かっていく。
それに気が付いたのか、雷光は執拗にメビウスを狙うが、それを回避していく。

「フェイトちゃん!!」
「メビウス…!!」

お互いに手を伸ばしあうが、その間を遮るようにする雷光と、フェイトの周りに展開される強制転移魔方陣。
あと少しというところで…メビウスの手はフェイトをつかむことなく、虚空をきる。
強制転移…させられたか…

「…フェイトちゃん……」

後に残ったのは、先ほどまでの荒れ具合が嘘のような空と…メビウスの零れる言葉だった。






あとがき

休みなので一日かけて書いてみました。
…ちょっとですが、テンポがいい感じじゃないか!?と作者は思っています。
ストーブつけようと思ったら大破しているというね!!新しいのを買わないと…
話のタイトルは思いついたところは入れようかと思います。

あと返信って…感想掲示板の方が…見やすいですか?



以下返信

春河様

確かに…性能的にグランゾン目指してます。笑
まぁ、後で更に色々と追加していく予定ではありますよ。今の時点では確かに過剰ですね。
チョッパーのデバイス…考えてなかった(おい。




34様

実は当初、汁さんの名前はセマカ・ラヤキブモと言う案もあったのですが…変なので却下でした。笑
反対に読むと、噛ませ・モブキャラというね…。
主任がセラフ…ACERのトンでもセラフですね!!…デバイスで…あり・・・か?





名無しの獅子心騎士様

作者は汁さんに後々、今回以上にウザい事をやらせる計画を立てております。
リリン嬢とジェニファーさん、若干、キャラが被るのが悩みどころです。作者の実力不足名だけですが…
ダイモンは…何時から出てくるのかは秘密にしておきますね。ただ、灰色の男達との関係は…どうなるでしょうね。笑



ダンケ様

踏み言うか…自業自得?笑。まぁ、自己中厨二はこんな扱いでしょう。
確かに…ブレイズさん、単独戦闘向きになってしまった…!!ウォードック隊について…ハードル上げないで…!!作者の実力が…!!
シャドウVRフラグは…ふふふふ…ということで、笑




[21516] 22話 決意の母は美しく、恋する乙女は可憐なり。
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/01/20 22:57
・フェイト・

「フェイトちゃん!!」

あの時、彼が伸ばした手を…私は咄嗟に握ろうとした。
けど、その前に母さんの転移魔法で、私は時の庭園に連れて来られていた。

「フェイト!!大丈夫だった!?」
「あ…」

名前を呼ぶ方を向くと、母さんが心配そうに駆け寄ってきてくれた。そのまま、優しく抱きしめて……嬉しいけど、少し苦しい…
アルフは「ジュエルシードおいてくるよ」と言って、先に部屋から出て行った。気を…使ってくれたのかな…?

「か…母さん、少し苦しいよ…」
「あ、ごめんなさい。…怪我はしてないようね、安心したわ。」

抱きしめる力を弱めてくれる母さん。…心配をかけちゃったみたい。

「…ごめんなさい。ジュエルシード…3個しか…」
「良いのよ、フェイトさえ無事なら…。けど、あんな方法を使えなんて…危ないのよ?」
「うん…分かってるけど…」

少しうつむきながら、私は母さんの顔を見る。…やっぱり、顔色が悪い。
…母さんは秘密にしてるけど、私は知っている。母さんが重度の病気を患っていることを…。きっと、私に心配をかけたくないから秘密にしてるんだ。

「…ところで、フェイト。」
「なに?」
「もしかして…あの蒼い魔道師が、メビウス・ランスロット?」
「あ…うん、そうだよ。」
「そう……。良い子みたいね。フェイトを庇ってくれてたみたいだし…ね?」
「うん…。メビウスと居ると…凄く安心できて、それなのにドキドキ…するの。」

そこまで言うと、母さんが眼を丸くして、すぐに微笑んでくれる。

「フェイト、そう言うのを…好きって言うのよ?そして、それは恋をしてるのよ。」
「…恋…?」
「そう、彼と一緒に居ると嬉しいでしょ?楽しいでしょ?それはフェイトが、メビウス・ランスロットが好きで好きで仕方が無い証拠。だから、貴女は恋をしてるのよ。」
「あ…う…」
「ふふ、少し早かったかしら?けど、母さんは嬉しいわ。フェイトもそんな年頃なのね。」

私が顔を真っ赤にするのを見て、楽しそうに笑う母さん。
…うん、そうだよね…。私はメビウスが好き…大好き。だけど、言葉にする勇気は…無いと思う。きっと、彼の傍に行けば、嬉しくて、恥かしくて…それどころじゃないと思う。
もし私が、彼女のように…なのはのように強くて、けど…優しく笑えるならこの気持ち…伝えられるのかな…?









「はぁはぁ…時間が…無い…わね。」

フェイトを自室で休ませた後、プレシアは研究室の椅子に座り、口元を押さえていた。
愛する娘を助けるために次元跳躍魔法を多用したのが、病によって弱っている彼女を更に衰弱させていく。。
激しく咳き込むと、口の中に広がる鉄の味。どうやら、少し吐血してしまったようだ。

「…管理局まで出てきたのね…。もう、どうにもなら無いかもしれないわ…。」

アリシアの入ったカプセルを見つめながら、自嘲気味に呟く。
愛する娘を蘇らせたい一心で研究を続け、病に冒されながらも突き進んできた。その際に、もう1人の愛しい娘が出来たのだから、後悔はない。
自分の命はもうすぐ消えるだろうが、それはそれで別に構わない。しかし…

「フェイトは…どうするの…?」

こんな自分を母親と慕ってくれる娘を、1人残すのか?管理局に犯罪者として捕まったらどうするのだ?
そう考えるだけで、プレシアの心は締め付けられ、痛んでいく。

「…私は…本当に最低な母親ね。…愛しておきながら…幸せにすることなんて出来ない…。」

知らず知らずに涙がこぼれていく。だが、ほんの少しだけ…希望はあった。
フェイトが好きと言った、1人の少年の存在。彼なら…フェイトを幸せにしてくれるのではないか?少年は伝説と鬼神の息子だ。愛する娘を確実に守ってくれるだろう。
だが、管理局はどうなのだ?希望と不安、ごちゃ混ぜになりながら、頭を中をまわっている。

「そうね。最低な母親なら…最後まで最低な母親を演じましょうか…。」

自分は犯罪者の、最低な母親の烙印を押されても構わない。だが、娘だけは…愛しい娘だけは…幸せにしたい。
決意を新たに、立ち上がるその姿は…どこまでも母親であり、どこまでも、美しかった。




・なのは・

海上での騒動から次の日、私達は一回お家に帰る事になったの。
…メビウス君は、少し元気がなかった。やっぱり、フェイトちゃんの事が心配なんだ…。

「…のは?なのは?」
「え?あ…なに、お母さん?」
「もう、なにじゃないでしょ?さっきから、ご飯一口も食べてないじゃない。どうしたの?」
「なにかあったのか?」
「メビウス君と喧嘩とかしちゃった?」
「なん…だと…」
「わぁわぁぁ!!お兄ちゃん!!違うからね!!」

お姉ちゃんの言葉を真に受けたお兄ちゃんが、怒ったように椅子から立ち上がろうとするのを、私はあわてて止める。
もぅ…別に喧嘩したとか、そんなんじゃないのになぁ。今、私はお家で家族みんなでご飯を食べているところ。
メビウス君達と食べるご飯も美味しいけど、やつぱり家族で食べるご飯も凄く美味しい。
慌てる私を見て、楽しそうに笑うお父さんとお母さん、もぅ、笑わないで欲しいなぁ。

「それで、何か悩み事かい?」
「…うん、その…ね。メビウス君、少し元気がなくなっちゃって…」
「あのメビウス君が?…何かあったんだね。」
「それで、なのはは心配でしょうがないって訳ね。…姉ながら、妬けちゃうわ。」
「メビウスは何時も、笑っているイメージがあったんだが…。」

お父さんやお兄ちゃん達も、心配そうにしてくれる。にゃはは、メビウス君は凄いなぁ。色々な人から心配されてるよ。

「そうだ!!いい考えがあるわ!!」
「いい考え?」
「えぇ。少し待ってなさい。」

お母さんがキッチンに行って、何かをラッピングして持ってくる。
あれ?これって…私がさっき作ったクッキー?

「お母さん、これ、私が作ったクッキーだよね?」
「そうよ。これをメビウス君にプレゼントして、元気を出してもらいなさい。」
「…元気になってくれるかな…?」
「大丈夫よ。なのはみたいな可愛い女の子で、しかも、好きな子から貰ったら誰でも嬉しいわ!」
「すすすす…好き!?メビウス君が!?」

あわわわわ…メビウス君が私を好きで、私がメビウス君を好きでメビウス君が好きな私で好きな私が…

「なのは、落ち着くなさいって!!ああもぅ、母さん、なのはの頭から煙出てるよ?それに、顔も真っ赤。」
「好意を隠さないのに、言葉にすると駄目なのか…」

…はっ!?お姉ちゃんが、私の肩をゆすってくれる。…うう、あと少しでメビウス君と…ごにょごにょ…
って、こんな事、考えてる場合じゃないの!!
深呼吸を繰り返して、少し落ち着く。

「わ…私、メビウス君に会ってくるね!!」
「…言っても無駄だろうが、もう夜だぞ?」
「大丈夫なの!!それじゃ、行ってきます!!」

お父さんの言葉を聞きながら、私はポーチにクッキーの袋を仕舞つて、お家から飛び出していく。
そうだよね、言ってたもんね。

「寂しい時は、私がずっと傍に居るから。だから、我慢なんてしないで?思いっきり甘えて良いから、我侭言っていいから。だから、自分を…いらない子なんて言わないで?」

小さい頃、メビウス君が私に言ってくれた言葉。ずっとずっと、一緒に居てくれて…一緒に笑ったり、泣いたりした。
落ち込んだ時も励ましてくれたし、助けてもくれた。だから…今度は私がメビウス君を元気にしてあげるの!!




ピンポーン。

チャイムの音が響き渡る。何時もより、大きく聞こえたのは、静かだからかな?

「はいは~い。…どちらさま~?」
「こんばんわ!サイファーさん!!」
「あらぁ、なのはちゃん、こんばんわ。どうしたの?」
「えっと、メビウス君に会いに来たんですけど…」

玄関を開けてくれたのは、サイファーさん。私は、メビウス君に会いに来たことを伝えるとサイファーさんは、困ったように笑う。
あ…やっぱり、親子なんだ。なんだか、メビウス君の困ったときの笑顔とそっくりなの。

「ごめんなさいね。メビウスちゃん、天体観測に行っちゃったのよ~。…あら?」
「そうなんですか…。臨海公園にですか?…あれ?」

私とサイファーさんは、2人して眼を丸くして、すぐに笑いあう。
だって、ずっと前にも同じ様なことをお話したんだもん。そう、私がユーノ君に会って、魔道師になった夜と同じ。
あはは、なんだか可笑しいな。

「ふふ。なのはちゃん、メビウスちゃんの事を元気付けに来たんでしょ?」
「ふにゃ!?…はい、そうです。」
「あらあら~。良いわねぇ。…なのはちゃん、途中まで一緒に行きましょう♪」
「え?あ、はい。」

そう言うと、サイファーさんは私のお家に電話をかけて、少し遅くなるって言ってくれた。
そして、2人で夜の道を歩き始める。所々に街灯もあって道は明るい。

「綺麗な星空ねぇ。メビウスちゃんが好きそうな空ね。」
「メビウス君、空が大好きですよね!」
「そうねぇ。…ねぇ?なのはちゃん。」
「はい?」

サイファーさんは、夜空を見上げながら、優しく微笑んでいる。こうしてみると、メビウス君って本当にお母さん似なんだなぁ。

「メビウスちゃんはね…弱い子なのよ?」
「え…?」

メビウス君が…弱い?…どういうことだろう?メビウス君は、何時でも笑顔で…

「メビウスちゃんの笑顔は、弱い自分を隠す為の仮面なのよ。あの子は…優しくて、優しすぎて…弱いの。」
「……」
「けどね、少しずつだけど…仮面を本物にしてるし…強くなっているのよ?貴女のお陰ね。」
「私の…ですか?だって、私…何時もメビウス君に迷惑ばかりかけてます…。」
「ふふ。だからよ。」

サイファーさんが、笑いながら私の頭を撫でてくれる。…少し恥かしいな。
けど…なんで私のお陰なんだろう?

「なのちゃんは私が守るんだ。なのちゃんが寂しくないように一緒にいるんだ。…士郎さんが入院してたときに、メビウスちゃんがよく言ってたわ。」
「え…?」
「ふふ、なのはちゃんって言う大切な人が居るから、メビウスちゃんは強くて優しくなれるのよ。それにね、私達も…なのはちゃんを大切に思っているのよ?
メビウスちゃんの大切で大事な人は、私たちにとっても大切で大事なのよ。」
「サイファー…さん。」
「フェイスもね、そう思っているわ。恭也さんが…1人で無茶してたときがあったわよね?」
「あ…はい。」

お父さんが入院してたとき、お兄ちゃんは1人で我武者羅に修行してたときがあった。
あの時の私は、凄く…暗かったと思う。皆に迷惑をかけたくなかったから…何も言わないで、全部全部我慢してた。
けど…そんな私をメビウス君は…助けてくれた。暖かく…包み込んでくれたんだよね。

「その時に、なのはちゃん、メビウスちゃんに私は要らない子って…言ったのよね?」
「うう…はい、そうです。」
「それをフェイスが、聞いた時は本当に怒っていたわ。…その後に恭也さんを、本気で殴ったのよ。」
「えぇ!?お兄ちゃんをですか!?」
「そうよ~。まだ幼い子に気を使わせるとは何事か!!貴様1人の自己満足のために、家族を犠牲にするな!!その程度では、士郎さんにはどう足掻いても届かない!!って、説教までしたのよ?あの時はフェイスは、怖かったけど、かっこよかったわぁ。」

…そっか、だから次の日、お兄ちゃんは泣きながら私に謝ってきたんだ。ごめん、ごめんって…本当に泣いていた。
あはは、私もなんでか一緒に泣いちゃったんだけどね。
けど、そんな事があったんだ。なんだか…メビウス君だけじゃなくて、サイファーさんやスカーフェイスさんにも迷惑かけちゃってたんだなぁ。

「ふふ…。なのはちゃん、家の空が大好きな息子を、よろしくお願いするわね?」
「は…はい!!」

何時の間にか、臨海公園のすぐ近くまで来てたんだ。サイファーさんは、私を見送ると来た道を戻り始めた。
…けど、何がよろしくなんだろう?


臨海公園


メビウス君…何処に居るんだろう?
私は周りをキョロキョロと見渡して、考える。
そして、フッと前の時のことを思い出して、あの場所に向かうことにした。
2人で天体観測をした…展望台に。

「…なのは様?」
「あ、ガルムさん!!」
展望台に続く階段を見つけると、上からガルムさんが降りてきた。ここに居るって事は、メビウス君も一緒って事だよね。

「こんな夜分遅くにどうかなさいましたか?」
「あの!!メビウス君って…上に居るんですか?」
「えぇ、メビウス様は現在、展望台で天体観測を行っておりますが…。あぁ、なるほど。」

ガルムさんは、私のポーチを見つけると、少し笑いながら「我は少し散策してきますので…」って言って、階段を下りていった。
…えっと、2人きりにしてくれたって…事かな?
私は、少し顔を赤くしながら、階段を上っていく。


・ガルム・

メビウス様の事は、なのは様にお任せしてよいだろう。我は辺りを散策しながら、ある人物を探していた。

「……念話を飛ばしておいて、出てこないつもりか?」
「ちっ、本当にあんたはって奴は…」

物陰から現れる女性-アルフが、我を軽くにらみつける。

「お前が先に我を呼んだんであろうが。」
「あ~はいはい。そうですよ。あたしが呼んだんですよ。」

ぞんざいに返事をしながら、我の隣にアルフが並ぶ。…何故、並ぶ必要がある?

「…少し歩くよ。」
「別にここでもよいだろう?メビウス様達からは、充分な距離が…」
「良いから!!気分の問題だろう!!」

顔を赤くしながら叫ぶな。みっともない…。結局、我は何故かアルフと臨海公園内を散策する事になった。

「……」
「……」

……歩き始めて数分たつが…一言も話さんな、我らは。

「…だぁぁぁ!!あんた、なんかしゃべりなよ!!」
「無茶振りだな。第一、何か用事があって我を呼んだのであろう?」
「…あ~…そうだった。2つあるんだけどね。1つは、フェイトが明後日の早朝、ここで決着をつけよう…だってさ。」
「ほぉ…相手は、なのは様か?」
「当たり。流石のフェイトもメビウスと戦う気もしないみたいだし、そっちもだろ?」
「もちろんだ。…なのは様は強いぞ?」
「はん!フェイトも充分強いさ。」

明後日…か。それまでになら、メビウス様やなのは様達もベストコンディションであろう。まぁ、向こうも同じだろうが…

「あと…もう1つは…その、…り…とう。」
「…なんだ?」
「だから…あ…と…」
「…聞こえんぞ?」
「ああもう!!ありがとうって言ってるんだよ!!」

顔を真っ赤にしながら叫ぶアルフと、耳を抑える我。…聞き取りにくいから、耳を近づけた瞬間に大声を出すんじゃない…!!
しかし…何故、ありがとう?

「昨日、ヒール使ってくれただろ?結局、礼をいえなかったから…」
「それで言いに来たのか?…なんとも、律儀な奴だな…」
「悪かったね!!」

そう言ってアルフはそっぽを向く。…しかし…なんとも…見てて面白い奴だ。
我は知らず知らずに、笑みを浮かべていた。

「あ……」
「ん?なんだ?」
「あんたって、そう言う風に笑うんだね。」
「…なに?」
「あたし達と居るときは、常に仏頂面だったじゃないか。」
「…放っておけ。」
「なんだい?機嫌悪くしたか?」

アルフが笑いながら、我の顔を覗き込む。…言われっぱなしは好きではない。
それに…我も始めてみたな。我はジッとアルフを見つめる。

「ほぉ…。」
「な…なんだよ?」
「いや、案外、可愛らしく笑うものだな…と。」
「んな!?」

音がなりそうな程に顔を赤くするアルフ。…まったく、見てて退屈しないな。

「ああああ…あんた、何を!!」
「あんたではない…ガルムだ。覚えておけ、アルフ。」
「それは今関係…って…へ?今…あたしの名前…」
「アルフ…だろう?」
「え~…あ~…うん。」

なんなのだ…本当に感情の突起が激しいな…。
っと、そろそろ戻らんといかんか。

「ではな、我は戻る。…伝言はしっかりと、伝えて置こう。アルフも早く帰ることだ。」
「言われなくても、分かってるよ…ガルム。」

こうして我らは、分かれる事にした。







「あ~……まだ顔が熱いよ…。どうしてくれんのさ…ガルム。」

その夜、アルフは少し時間を潰しながら、顔が冷めるのを待つ事になった。





・なのは・


階段を上りきると、展望台と空が広がっていた。
メビウス君は…居た!!

「メビウス君!!」
「うぇ!?…なのちゃん?」

展望台の端で、シートを広げて望遠鏡を覗き込んでいるメビウス君を見つけると、私は駆け寄っていく。
いきなり名前を呼ばれたのに驚いてか、メビウス君は変な声を上げる。あはは、おもしろい。

「えへへ、こんばんわ!」
「あ、うん、こんばんわ。こんな所まで…来てどうしたの?あ、座って。」
「ありがとう!」

メビウス君がシートをあけてくれたから、一緒に並んで座ると、すぐに私はポーチを開けて、メビウス君にクッキーを手渡す。

「はい!プレゼントなの!」
「あ…クッキーだ。…ありがとう。」
「うん!!」

お礼を言って笑うメビウス君だけど…やつぱり元気がない。すると、風が少し強く吹き始める。
うう…寒いなぁ。

「くしゅ…!」
「メビウス君?」
「ああ、大丈夫。少し肌寒かったから…毛布、あるから使おうかな。」

そう言ってメビウス君は、置いてあるリュックから毛布を取り出す。…そうだ!!

「メビウス君、毛布貸して!」
「え?良いけど。」

私は毛布を受け取ると、最初にメビウス君の背中に毛布をかけて…。そのまま、私はメビウス君の正面に回って、毛布に前を閉じる!!
前に一緒に毛布に包まったときと…同じ事を私はしている。けど、ほんの少し違うのは…

「えへへ、メビウス君の鼓動、トクントクンって聞こえるよ?」
「あはは…この体勢なら…しょうがないよ。」

違うところは…私とメビウス君が向かい合っているところ。私が抱きつくような形で毛布に包まっているの。
そのまま、メビウス君の胸に顔を擦り付ける。はふぅ…メビウス君だぁ…。メビウス君の匂いだぁ…。
って、違う!!ふにゃ~ってしたいけど、今は違うの!!

「…ねぇ、メビウス君。」
「なぁに?なのちゃん。」
「私…メビウス君に何が出来るのかな?」
「え?」

メビウス君の声はすごく優しくて、私を…包み込んでくれる。
心地よくて…凄く…凄く安心できる。

「寂しい時は、私がずっと傍に居るから。だから、我慢なんてしないで?思いっきり甘えて良いから、我侭言っていいから…。ね、覚えてる?」
「…うん、覚えてるよ。あはは、今聞くと、生意気なこと言ってるね。」
「ううん…そんなことないよ?メビウス君のお陰で…私は笑えたんだよ?」

メビウス君の胸に耳を押し当てる。聞こえるのは…確かな温もりと…鼓動。

「メビウス君は強いよ?けど…なんでも全部、1人で背負い込まないで…。今度は、私がメビウス君の傍に居るから…
我慢しないで、泣いてもいいんだよ?私が慰めてあげるし、一緒に泣いてあげるから…。」
「なの…ちゃん。」
「メビウス君が私を支えてくれたみたいに、私もメビウス君を…支えたいの!1人で…無理しないで?」
「あはは…そう…だよね。なのちゃんは…強いんだよね。」
「そうだよ?メビウス君のお陰で、私は強くなれたの!だから、今度は私が助ける番!!」
「…うん、ありがとう。なのちゃん、…これからもよろしくね。」
「うん!!…ねぇ、メビウス君。」
「なに?」
「…ぎゅーって…してほしいなぁ。」
「…うん。」
「えへへ…気持ち…いいなぁ。」


ねぇ、メビウス君?まだ…まだ、伝えられないけど…いつか伝えるね。…大好きだよ…。







あとがき

…時々、無性に甘いものを食べたくなりませんか?
ただのラブコメに1話使うという、作者の暴挙をお許しいただきたい。
タイトルの通り、母親は強く美しいと言う事と、恋する乙女は可憐で、どこまでも可愛いと言う事が伝われば…!!
さて…多分ですが…あと3~4で終わりに出来る!!予定…です。あぁ、どんどん伸びていく…



以下 返信


ユーロ様

まぁ…汁は…救いよう皆無ですから…。と言うか、こんな奴、本当に居たら作者が全力でぶちのめします。笑
ゲーセンでバーチャロン…やりましたねぇ。作者はコクピットタイプのバーチャロンをやりましたねぇ。
神操作のおばちゃん…物凄く・・見てみたいです。



ADFX-01G-2様

溺死してくれれば、多分、作者的には良かったんですが…物語的には、子悪党が消えてしまうというね…
まぁ、撃墜フラグをたてまくるでしょうネェ…。真の主人公(笑)と思ってますし…。笑


ダンケ様

娘をあんな風にされたら、誰でもブチギレるでしょうに。笑
プレシアとアリシアについては…少し考えがあるので…少しお楽しみに…。




[21516] 23話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/01/25 00:21
・なのは・

臨海公園の上空、そこで私とフェイトちゃんは向かい合っている。
まだお日様が昇る少し前だから、辺りは薄暗い。
フェイトちゃんは、静かにバルディッシュを握って、私を見つめてくる。
…にゃはは、なんだか、凄く綺麗で…凄く強い眼をしてるね。

「…私は…絶対に負ける訳にはいかない。母さんの…為に…!!」
「……」

リンディさん達にお説教してもらった後で聞いたけど、フェイトちゃんのお母さん、プレシアさんが関係してるみたい。
ずっと前に、違法な実験を行って行方不明になっていたみたい。
そのお母さんの為に、フェイトちゃんはジュエルシードを集めてたのかな…?

「…そっか。だけどね、フェイトちゃん。私も…負けれないの。」

レイジングハートを両手で握り締めながら、私は眼を閉じる。
魔法の事を教えてくれたユーノ君。何時も明るく笑って、楽しくさせてくれたオメガ君。呆れたようにしてても、私にアドバイスしてくれている閃君。
私の事をお姉さまって言って、懐いてくれたリリンちゃん。アースラで色々とお世話をしてくれたクロノ君にブレイズ君。
そして…私の近くにずっとずっと…一緒に居てくれたメビウス君。みんなが私を支えてくれて…ここに私は居ることが出来る。
眼を開けて、展望台の方向を向く。心配そうに…困ったように笑いながら、私達を見守ってくれているメビウス君が立っていた。
もう、心配性なんだからなぁ。

「私ね、少しフェイトちゃんが羨ましいの。」
「…なのは?」
「だって、こんなにメビウス君が心配してるんだもん。きっと、それだけフェイトちゃんが大切ってことなんだね。」
「わ…私はなのはの方が…羨ましい。」
「にゃ?」

フェイトちゃんが真っ赤にうつむきながら、メビウス君の方を見つめる。
あ、気が付いたのかな?メビウス君が、小さく手を振っている。

「…ずっと…一緒に居れるから…」
「…フェイトちゃん…。にゃはは、なら同じだね。」
「同じ?」
「うん!フェイトちゃんもメビウス君のことが…大好きなんだよね?」
「…うん。そうだよ、けど…言葉にする勇気は…」
「私もそうだよ。…まだ伝えれないと思うの。けど、大丈夫!!メビウス君なら絶対絶対、受け入れてくれるから!」
「…ふふ、そう…だよね。優しいもんね。」

私達は、一緒に笑いあう。…こうしてると、フェイトちゃんはやっぱり可愛いなぁ。うぅ…私も頑張らないと。

「だからね…。私も負けれないの。」
「なのは…。うん、そうだよね。…それじゃ、始めよう。」
「うん!…高町なのは!!全力全開でいきます!!」
「負けない…!!」


・メビウス・

あぁ…始まっちゃったけど…大丈夫かな…。
上空で交差する桃色と、金色の魔力光。それを、私はさっきから冷や冷やしながら見上げている。
後ろに立っているアルフも心配そうに、フェイトちゃんの事を見ているね。

「…落ち着かない…。」
「メビウス様、心配なのも分かりますが…少し落ち着かれては?」
「私もそうしたいけど…あぁ、2人とも怪我しなければ良いんだけど…」
「あんたって…本当に底抜けに、優しいねぇ。」
「それがメビウス様の美点だ。今更気が付いたか?」
「…ガルムも一々、ムカつく言い方するね…。」

後ろで、取っ組み合いを始めそうな2人は無視しながら、上空を見上げ続ける。
…幾度となく、魔法が交差して、ぶつかり合って消えていく。まるで花火みたいだ。
フェイトちゃんは、スピードでかく乱して攻撃してるけど、なのちゃんの強固な防御障壁を突破は出来ていない。
けど、なのちゃんも、フェイトちゃんのスピードに中々付いていけなくて、攻めきれてないね。

「フェイトちゃん…速すぎるよ!!」
「そう言うなのはこそ…防御が硬すぎ…!!」

どっちも、決め手が出ず…か。…いや、違う…フェイトちゃんが…仕掛ける?

『フェイト様の周囲に、高魔力反応を確認。…どうやら、必殺の魔法のようですね。』
「一気に決着をつけるのかな…。なのちゃん、フェイトちゃん、どっちも…無理しないでよ…。」

祈るように私は、空の2人を見つめる。
フェイトちゃんが詠唱を始めようとしたのに気がついたて、なのちゃんが誘導弾で妨害しようとするけど…その前にバインドで拘束されたね…。

「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ…

っ…!?周囲に多数展開されるフォトンスフィア。…物凄く…嫌な予感が私の背筋を走る。
一瞬、エクスを展開して、飛び出そうとした私の肩をガルムが静かにつかんで、押しとどめる。
それに気が付いたのか、フェイトちゃんが私に視線を向けて…けど、すぐに詠唱を再開する。


「バルエル・ザルエル・ブラウゼル。フォトンランサー・ファランクスシフト!!撃ち砕け、ファイアー!!」

発動の声が響き渡り、槍型の魔力弾がなのちゃんに襲い掛かっていく。
これは…流石に、なのちゃんの防御障壁でも…無理か…!?
幾度となく、爆音が轟き響き渡る。
それが、終わる頃には、フェイトちゃんの魔力は底を付きかけていた。正に…必殺って言うことか。
肩で息をしながら、爆発しで出た煙を見つめている。

「うう…ま…まだまだだもん!!」
「う…そ…!?」

…フェイトちゃん、その声には…なのちゃんには悪いけど、私も同意する…。
あれだけの攻撃を受けて…無事って…ありえないよ…。しかも、ほぼ無傷。

「それじゃ、今度は私の番だね!!捕まえて!!バインド!!」
「しまった…!!」

呆気に取られていたフェイトちゃんを、バインドで捕まえる。体力、魔力の消費ともに激しくて、身動きが取れないみたいだね。

「うわ…。なんだいあの魔力…。反則じゃないか…。」

アルフの言うとおり。なのちゃんが自分の周りに、展開している魔方陣は凄まじいの一言だ。太陽の光をあびて…見惚れるくらいに綺麗…。
集まる魔力も、維持する魔力も何もかもが桁外れ。…これがなのちゃんの…必殺か…。

「私の全力全開!!受けてみて!!いっくよおぉおおぉお!!!メビウス君直伝!!」

いやいや!!??私は何も直伝とかしてないけど!?

「一撃必殺!!スターライト!!ブレイカァァァァ!!!」

あ…そこなんだ…一撃必殺ね…。
レイジングハートから放たれた魔力は狙いたがわずに、フェイトちゃんへと向かっていく。



・フェイト・

なのはの桃色の魔力光が目の前に迫ってくる。避けようにも…もう私は動けない。
激流に飲まれ、全部貫かれたような衝撃を受けながら、私は力尽きて堕ち居てく。

(ごめんなさい…母さん…。約束…守れなかった…。)

けど、静かに…静かに海面に向かって堕ちていく私を誰かが…フワリと抱きとめてくれた。
何度も何度も感じた事のある温もりで……何時までも感じていたい温もり…。

「…フェイトちゃん、お疲れ様。」
「あ……」

眼を開けると、優しく優しく微笑む…メビウスの顔があった。
堕ちていく私を…受け止めてくれたんだ…。

「ふぅ…一時はどうなるかと思ったけど…。」
「心配してくれた…の?」
「当たり前でしょ?…さぁ、アースラに一緒に行こう?…キチンとお話すれば、みんな分かってくれるからさ…ね?」
「…うん。」

良い子、と言ってメビウスが更に笑みを深くする。
抱き止められているからか、彼の顔が近い……。あれ…?
私は、落ち着いて自分の状態を見る。……あ…う…この状態って…

「あぁ~!!フェイトちゃんだけずるい~!!」
「ずるいって…なのちゃんが撃墜したんだよ…?」
「けどけど!!お姫様抱っこしてもらってる!!」

…なのはの言うとおり、私はメビウスにお姫様抱っこをされている状態だった。
そっきから、心臓が聞こえちゃうかと思うくらいに、高鳴っている。
けど…なのはだって…甘えてるんだから…私も甘えちゃっても…良いよね…?
私は顔を真っ赤にしながらも、彼の胸に顔をうずめる。なのはが何か騒いでるけど…今は少し…甘えたい。

「もう、2人して甘えん坊なんだから…。」
「ずるいよ!!ずるいよ~!!」

5分位して、私はメビウスから離れる。正確には、なのはが引き剥がしたんだけど…。
そして、私はバルディッシュからジュエルシードを取り出すと、メビウスに手渡す。負けちゃった…からね。

「うん。確かに、さぁ、アースラに…!?」
「きゃ!?」

何故かメビウスが私を突き飛ばして、そのばから離れる。どうして…!?そう聞こうとする前に、彼のいた場所に襲い掛かる雷光。
そんな…これって…母さん…!?

「メビウス君!?」
「クロノさん聞こえますか!!すぐに2人をアースラに転移させてください!!」

なんで…どうして母さんが、メビウスを攻撃するの!?決着を付けにいきなさい、って言ったのは母さんなのに!?
なのはと私が、彼の近くに行こうとする前に、転移魔法に私達は包まれていった。


・ブレイズ・

「なのは及びフェイトの収容を確認!!メビウスも転移させろ!!」
「無理だよ!!あんなに動き回られていたら、転移させられない!」

エイミィの悲痛な声が艦橋に響く。
先ほどまでの戦闘は、俺達もモニターで見ていた。ジュエルシードの受け渡しまでは、うまくいってたんだが。
跳躍魔法での襲撃…くそ、考えてなかった自分の無能さに腹が立つ…!!海上でも似たような事があっただろうが…!!
だが、すぐに俺は頭を振って思考を切り替えて、端末を操作し始める。

「跳躍魔法の発射位置の座標を調べるぞ!!そこにプレシア・テスタロッサが居るはずだ!!」
「分かっている!!」

クロノの指示で、艦橋の局員達が端末や装置を使い、座標を割り出していく。
メビウスもそれが狙いなのか、さっきから回避に専念している。
…止まったと思えば、一瞬でトップスピードまで速度を上げて飛び回っている。
直進してたかと思えば、直角に上昇したり、下降したりとありえない機動をしているな。

「…慣性の法則というのがないのか…?」
『エクスには、慣性制御機構が搭載されてます。ある程度なら、無視できるはずです。』

なるほど…。スペシネフにも空間制御機構が搭載されているから、別段不思議ではないな。
っと、冷静に分析してる場合ではないか…!!

「座標軸特定完了!!メビウス君、退避して!!」
「了解…ぐぁ…!?」

エイミィの通信で、一瞬気を取られたのか、メビウスが被弾する。
いや…辛うじて回避したようだが…その衝撃でジュエルシードを落としたか…!?
すぐに拾いに行こうとするが…くそ…物質転移させられたか…。
狙いはジュエルシードと言うことか。跳躍魔法も既にやんでいる。…面倒な事になったかもな。
俺は、メビウスを転移させたのを確認すると、武装局員たちに戦闘を準備を始めさせる。
さて…どう動くか…。


10分後



「さて…モニターに映像が出るが…良いのか?」
「…はい。」

メビウスに寄り添うようにしていたフェイトがうなずく。全部見届ける覚悟は出来ている、と言うことか。
先ほど、フェイトから多少の事情は聞くことが出来た。…彼女の出生についても聞いたが…
アリシア・テスタロッサのクローン…か。だが、そんな彼女を娘と扱っているプレシア・テスタロッサ。
…願わくば、こちらの指示に従って欲しいものだ。そして、罪を償って、彼女と共に生きて欲しい。

「映像…出せ。」
「了解。」

モニターに映し出される映像は…薄暗くて陰気な雰囲気の広間。
そこの中央にプレシア・テスタロッサは佇んでいた。…サーチャーを撃墜しない所を見ると…話し合いつもりと言うことか?

「プレシア・テスタロッサだな。」
「…えぇ、そうよ。」

フェイトが何か口を開こうとするのを、メビウスが止める。…まぁ、今は話をややこしくしない方が良いだろうな。
クロノも、気にせずに話を続ける。

「多数の違法行為及びロストロギア強奪の容疑で逮捕する。直ちに武装を解除し、こちらの指示にしたがってもらいたい。」
「……断ると…言ったら?」
「遺憾ながら、こちらも実力行使を取るしかない。繰り返す、直ちに武装を解除せよ。」

クロノの呼びかけにも答えずに、佇むプレシア。…さて、どうしたものか。
流石のクロノも、少し戸惑っている。攻撃してくるなら、武装局員を送り込むのだが…何も行動しないとなると…困ったな。
クロノが静かに、フェイトに目配せをする。彼女に説得してもらうしかないと判断したんだろうな。

「母さん、もう、止めよう?まだ、間に合うから…。お姉ちゃんだって…」
「……黙りなさい…。」
「え…?」

冷たく響く無機質なプレシアの声。…なんだこれは?彼女の言っていた…優しい母親の声なのか…?

「貴方に母さん…だなんて呼ばれたくないわ。」
「な…んで…?」
「…フェイト、貴方も知ってるでしょう?所詮は、アリシアのクローンなのよ。分かる?つまり…ニセモノ。」

…しまった…。プレシアが行っていた実験は…クローンだけじゃない…!!ある種の蘇生術だった。
これ以上、フェイトに聞かせる訳にはいかない…!!
メビウスやアルフも気が付いたのか、すぐにフェイトを連れて行こうとするが…彼女が動かない。

「作り物でしかない貴方に…母さんなんて呼ばれる度に、虫唾が走ったわ。」
「あ…あぁ…。」
「作っても作っても…アリシアに1つも届かなかった。貴方は、偶然にうまくいっただけ。」
「貴様…!!」

クロノの怒りの声が漏れる。それだけじゃない、艦長やエイミィでさえ、怒りを隠していない。

「けど、もう良いのよ。貴方みたいなニセモノ。いえ、こう言ったほうが良いわね。失敗作には用はないの。
ジュエルシード…これがあれば、アルハザードにたどり着ける…。ほんの少しだけ、役に立ったわね。失敗作で…ニセモノの貴方でも。」
「……」
「だから、もういらないわ。何処かに…消えなさい。」

冷たく笑うプレシアを見たフェイトが、力なく崩れるのをメビウスとなのはが抱きとめる。
その眼は…暗くて虚ろだ。

「くくく…あははは!!」

…最悪な奴が笑い出しやがった…。シルヴァリアスがフェイトを指差して笑い声を上げる。

「だから言ったじゃないか!!そいつは化け物だと!!人の形をした人じゃないものだ!!だから、消すべきだと僕はいったんだ!!」
「…れ…」
「だが、貴様も同じだ!!こんな化け物をつくった貴様も、人間ではない!!ただの薄汚い犯罪者には、正義の鉄槌が…」
「黙れえぇぇえ!!!」

メビウスが、思いっきりシルヴァリアスを殴り飛ばす。魔力の補助でも使ったのか、軽く吹っ飛んで壁に激突させる。
…まぁ、あと少し遅ければ、俺が全力で殴り飛ばしていたがな。

「き…貴様、なにを…!!」
「シルヴァリアス・ゴッテンシュタイナー。今すぐ出て行け。」
「クロノ!?貴様まで僕に歯向かうのか!?僕はただ、化け物は」
「出て行けといっている!!」

クロノがS2Uを解除して突きつける。どうやら、こいつもかなり頭にきているようだな。その眼光はかなり鋭い。
それに、気が付かないのか?シルヴァリアスには、多数の敵意の眼が向けられている。あの温厚そうななのはまで…だ。
小さく舌打ちをしながら、出て行くのを見届けずに、メビウスが静かに前に歩み出る。

「どうして…そんな事を言うんですか…?」
「事実よ。私はその娘を…」
「物としか見てないのなら…その【娘】なんて…使わないはずです。それとか…あれって言う筈です。」

静かに、力強く響くメビウスの声。

「……」
「フェイトちゃん…言ってました。料理を作ったら、美味しそうに食べてくれたって。笑って褒めてくれたって…。
そんな事、いらないものには…絶対にしないはずです。」

傷ついたのは、自分じゃないはずなのに、泣きそうなメビウスの声。
その声が届いているのか、プレシアも押し黙る。

「怪我をしてないのか…心配もしてくれたって言ってました。今度、一緒に料理をしようって…約束してたっても言ってました。
どうして…どうして、フェイトちゃんに本当の事を言ってあげないんですか?どうして、そんな冷たい事を言うんですか?」

視線をフェイトに向ければ、虚ろな表情で、メビウスを見つめていた。
なのはやアルフの呼びかけには、反応しないのに…。

「いらないなんて…うそですよね?」
「本当よ。ニセモノなんて…」
「なら、どうして…貴方はそんなに…泣きそうなんですか?」

ハッと息を呑むプレシア。…薄暗いモニターの向こうで、俺には表情は良く分からない。
何か言葉を続けようとしたが、突然映像が乱れる。
なにがあった…!?

「どうやら…時間が来たようね。…さようなら。」
「プレシアさん!!」

メビウスの声が届く前に、映像が途切れる。ち…一体、なにがあった…!?

「え…。と…時の庭園内で戦闘を確認!?」
「どこのどいつだ!?」
「し…シルヴァリアス・ゴッテンシュタイナーです…!!」

ふざけるなあああぁぁ!!!!!!!!!!と叫びたい俺のクロノ。
転移ポートに連絡を入れれば、無理やり起動させて、出撃したらしい。
額に青筋浮かべるクロノと、口元をヒクヒクさせる艦長。俺は…小型端末を握りつぶしている。

「ジュエルシードの発動を確認!!次元震も発生している模様です!!」
「各員出撃!!クロノとブレイズ君も出て!!私は次元震を抑えるわ!!」
「「了解!!」」
「わ…私も手伝います!!」


なのはがバリアジャケットを展開して、付いてくる。
クロノが端末で3姉妹と閃達にも連絡を入れているから…戦力は申し分ないか…!!






時の庭園


「ごめんなさい…ごめんなさい…フェイト…!!!」

両手で顔を覆いながら泣き崩れるプレシア。
思い出されるのは、崩れ落ち、虚ろな表情のフェイト。
こんな方法しか思いつかなかった。非道な母親に利用された哀れな娘。愛する娘を助ける方法は、これしかなかった。
だが…代償はあまりにも大きかったかもしれない。フェイトの心は壊れかかっているのかもしれない。
…しかし、犯罪者として、暗い場所で生きるよりは…時間がかかっても、明るい場所で生きていくほうが数倍良い。

「…ここまでが私の役割…後は貴方の役割よ…。メビウス・ランスロット。」

人の為に、泣いてくれたメビウス・ランスロット。
彼ならきっと……フェイトの心を治してくれるだろう。

「さぁ…最低な母親らしく……迎えるとしましょうか…。」

悲しみを捨て去り、彼女は歩く。愛する娘の為に…母親は修羅にもなれるのだと言う事を…正銘してみせる。






・メビウス・



「メビウスさん。」
「リンディ…さん。」

皆が出て行った後、動けない私に優しく声をかけてくれる。

「…今は泣いても良いのよ?大変な時だけど…貴方もつらいでしょう?」
「いえ、私は…まだ泣けないです。」
「…強いのね。ごめんなさい、貴方を利用するみたいな事を…最初に言ったわね。」
「あはは、後で気が付きましたよ。父さん達の名前が…必要だったんですよね?」
「…えぇ、けど、これだけは信じて。貴方達が協力を拒否しても、無理強いはしなかったし、フェイトさんの事は穏便にすませる気だったのよ。」
「分かってますよ。…リンディさんは優しいですから。」

この人も母さんと同じ…凄く優しい母親だって事は、私にも理解できる。
だから、私も素直に協力する気になったし、ブレイズさん達だって信頼してるんだからね。
笑顔を浮かべながら、リンディさんが私の背中を押してくれる。目的地は…決まっている。


・医務室・

「フェイトちゃん。」
「…メビ…ウス…」

よかった…。呼びかけには反応するね…。
私は静かに、フェイトちゃんのいるベットの近づく。
アルフはここにつれてきた後に、「プレシアを殴りに行く!!」と言って、庭園に向かったらしい。
…彼女なりに、何か思うところがあったんだろうね。

「私…要らない子…なんだって…どうして…どうして…。」
「うん…。」
「母さんに笑って欲しいから…どんな事でも一生懸命にやってきた…。母さんとお姉ちゃんと一緒に暮らしたいから…」

フェイトちゃんの口から零れてくるプレシアさんとの思い出。縋り付く様に…思い出が消えないように…零れてくる。
魔法がうまく行ったときに褒めてくれたこと、病気になったときに必死に看病してくれたこと。眠れないときに一緒に眠ってくれたこと。
一緒なら、全然さびしくなかったこと。沢山の思い出を、私に話してくれた。

「けど…全部…いらないって…言われちゃった…。どうしよう…メビウス…!!私、母さんに捨てられたら…なんにもないよ…。何処にもいけないよ…!!」

フェイトちゃんの瞳から、大粒の涙がこぼれてシーツをぬらしていく。
私はソッと優しく抱きしめて、背中をポンポンと叩く。

「…フェイトちゃんは…プレシアさんの事…好き?」
「……好きだよ…だって…だって、私のおか…あさん…だから…。」
「そっか…。なら、その想いを…言葉にして、プレシアさんに伝えよう?」
「つた…える?」
「そう…。お母さんの事が好きだって…一緒に居ようって…伝えなくちゃ」
「…でも、それでもいらないって…言われたら。」
「その時は…私と家族になろう?」
「家族…に?」

腕の中で、フェイトちゃんが驚いたような表情をする。
前に母さんが言ってたからね。家族が増えても大丈夫って…。

「うん。そうだなぁ…私の妹になっちゃえば良いんだよ。」
「メビウスの…妹…?」
「うん。…それならずっと…ずっと一緒居れるからね。」
「けど…私は…人間じゃなくて…クローンなんだよ…?ばけも…ひゃ!?」
「…そんな悲しいこと言わないで。」

化け物。そう言おうとしたフェイトちゃんを、力いっぱい抱きしめる。だめだよ…。そんな事は…絶対に言っちゃ駄目。

「約束するから…私が絶対に…フェイトちゃんを必要にするから…。絶対に離さないから…ずっと一緒にいるから。」
「メビウス…。」
「だから…もう2度と、自分が化け物なんて…要らないなんて言わないで…。約束だよ?」
「…良いの?私…ずっと…ずっと…メビウスの傍にいても…良いの?」
「うん…。良いよ。だから、今は…泣いて…ね?
「…メビウス…メビウスメビウスメビウス…!!」

背中を手を回して、フェイトちゃんも抱きついてくる。
優しく抱きしめれば、聞こえてくる泣き声。…辛かったんだね。
背中をなでながら、私はフェイトちゃんが落ち着くまで、ずっとそうしてあげる事にした。

「落ち着いた?」
「うん…ありがとう。」
「それじゃ…伝えにいこうか?プレシアさんに…好きだって事を…ね。」
「…うん、この気持ち…伝えてみる。」

そういって微笑む【フェイト】の手を私が握ると、照れながらも握り返してくれる。

「さぁ、行こう!!フェイト!!」
「うん…!!お兄ちゃん!!」












あとがき


…あぁ、3時間かけてこの程度~。泣けますね…
予定では、あと2話…!!
…そして例の計画もあと少しで…成就する…!!
次回は意外な人が本領発揮!!



ユーロ様

あぁ…容赦なく、叩き落しますからね…。
X2の散弾は…泣けますよね。モルガンのを見習えと言いたいです…!!


名無しの獅子心騎士様

いえいえ、お粗末さまでした。
今回もKYすぎる汁なんとかさん、如何でしたでしょうか?
まだまだ、こいつのKY差とウザさに磨きをかけて生きたいと思います!!


ダンケ様

修羅の皮を被りましたね。…作者の実力ではこの程度…なんですがね。泣
救いの手を差し伸べる人は居ますが…この物語の人物では…ないですね。
ずっと前に書いたおまけが仄かに…関係してるかもしれません。笑



[21516] メイン 【偉大なる母の愛。】 サブ 【凡人の本気。】
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/01/25 23:58
・ユーノ・

「A班は遊撃!!B班は現地の確保だ!!C班は後方援護!!2人で1体の敵に当たれ!!単独戦闘は禁止だ!!」
「「「了解!!」」」

スペシネフで傀儡兵を切り伏せながら、ブレイズが指示を飛ばしている。
僕達は、時の庭園の門前で足止めを食らっている状態だ。傀儡兵の数が多くて、思うように進めない。

「おい、オメガは何処だ!?」
「どぉおぉりゃあぁあ!!」
「あの馬鹿…突出し過ぎだっての!!」

閃が呆れたように、前線を眺める。なんか……傀儡兵が…纏めて吹っ飛んでるように見えるんだけど…

「ねぇ、閃。オメガって…ベル」
「ユーノ、もし、あいつの戦い方をベルカ式とか言ったら…ベルカ魔道師を敵に回すぞ?」
「……」

さて、僕は黙って、後方からサポートしようかな。閃も空中に開いたウィンドウを何か操作している。…なんか物凄く…手の動きが速い。
視線を戦場に戻すと、シルヴァリアスが魔力剣で傀儡兵を両断している。
……彼が先走らなければ、こんな事にならなかったのに…

「フラガラッパあぁあ!!雑魚はどけ!!」

フラガラッパの数本を、回転させながら放って、傀儡兵を纏めて砕いていく。
…性格に問題あるだろうけど…魔道師としては一流みたいだね。アスカロンで切り伏せながら、上空に飛び上がって…

「軍神の槍よ!!雷神の怒りよ!!悪しき者に裁きを!!グングニル!!」

槍のような魔力弾を作り出て、雨のように降らせていく。…感心したくないけど、かなりの数をそれで撃破してる。
けど…戦っているのが、他の局員達と連携の取れない密集地帯だから…大して意味がない。

「ち…3姉妹は上空から爆撃!!C班も長距離砲撃だ!!」
「分かったわ。行くわよ、デボラ!ジェニファー!!」
「あいよ!!久々に腕が鳴るね!!」
「それじゃ、皆様、行ってきますね。」

シルビーを筆頭に、3姉妹が上空に飛び上がって、高速で動き回る。
凄い…フェイトやメビウスにも勝る速度だ!!魔力弾を前線で戦う局員達の前に、落としながら上空に飛び回る。
いや、飛んでいるというより…舞ってるみたいだ。

「ちっ…クロノ、敵増援を確認!!何処かに供給源があるはずだ!!ブレイズ、総数30だ!!」
「やはりか…、閃、割り出しを頼めるか?」
「了解。…んで…あいつらはまだか!?」

クロノがシューターで傀儡兵を一体ずつ確実に撃破して、周囲に目を配る。
ブレイズが部隊指揮を執っているから、彼も単独で動きやすいんだよ。僕?僕は、閃の近くで障壁を展開している。もしもの時のためにね。

「…閃お兄様、私も戦いますわ!!」
「うぉわぁあ!!??リリン!?なんでこんなとこに!?」

閃並みにじゃないけど…僕も驚いた。彼女はアースラで待ってるはずなのに…

「梃子摺っているのですよね?なら、手を貸しますわ!!」
「貸すったって…お前、戦えるのか…?」
「はい!!任せてください!!」

戸惑い気味の閃に、元気に返事をしながら、リリンがポケットからハート型のデバイスを取り出す。

「ビビットピンクにナイトな私!!リリン・プラジナー、参りますわ!!」
「「………」」

僕と閃は2人して、呆気に取られている。リリンがバリアジャケットを展開するのはいいんだけど…
フリフリスカートで腰には大きなリボンが結んである。……えっと凄く…女の子らしい…って言えば良いのかな?
手にはレイピアのようなデバイスが握られている。

「それでは、行きますわ!!」
「はっ!!リリン、待ちなさい!!そんな格好で飛び回るな、見えるだろ!!こら!!少し俺の話を聞け!!ちょっとぉ!!」

正気に戻った閃が呼び止めようとしてるけど…無理じゃないかなぁ。
…いや、別に僕はなにも見てないよ?だから、閃…そんなに睨まないで欲しいんだけど…





・ガルム・

「まったく…数が多くて面倒だな。」
「ああもう!!邪魔だね!!」

我とアルフが背中合わせで、傀儡兵どもと対峙する。周囲には、我らが砕いて、朽ちた傀儡兵の残骸が散らばっている。
近づいてきた1体を回し蹴りで破壊し、その回転を利用し、後方にいたもう1体に飛びまわし蹴りを叩き込んで粉砕する。
アルフも1体ずつ破壊していくが…ちっ、きりがない。

「…ほぉ、なかなかやるではないか。」
「そう言うあんたこそね。」

再び、背中を合わせ、軽口を叩き合う。ふ…以前の我らではこうもいかなかっただろうな。
やはりメビウス様、そしてフェイト様のお陰…なのだろうな。アルフの存在が頼もしく感じる。

「…フェイト…大丈夫だと良いんだけど…」
「なんだ?心配なのか?」
「当たり前だろ。フェイトは、あたしの大切なご主人様なんだからね。」

まぁ、その気持ちは我にも理解は出来る。使い魔である以上、主とともに在るのが常だ。
それに、魔道師にとって、使い魔は使い捨ても出来る存在。だが、メビウス様は我を家族として迎えてくれた。
ならば、我もその想いに答えねばならぬ。それが、我が絶対の忠誠を誓っている所以。

「案ずるな。メビウス様ならば、フェイト様を救ってくれる。」
「はは、あんたは本当に…メビウスを信じてんだね。」
「当然だ。我の主だぞ?」
「…それもそうだね。なら、あたしも…信じてみようか。あんたの…ガルムのご主人様をね!!」

そう笑い合うと、我らは再び傀儡兵の無理に飛び込む。
さて…久々に我も…本気を出さねばな。
両手に魔力を収束し、2本の鞭を作り上げ、振るう。それが傀儡兵に直撃するたびに、縦に、横に両断していく。

「アルフ!!しゃがめ!!」
「うわっと!?」

アルフがしゃがむのを確認すると、我は身体を回転させ、鞭を振るう。周囲にいた10数体の傀儡兵はこれで一掃できたな。
鞭が通った後は、焼き切れた様な断面の傀儡兵どもが転がっていた。

「あんたねぇ…。危ないじゃないか!!」
「だから、しゃがめといっただろう?」
「もっと早くに良いなよ!!第一、今のはなんだい!?」
「…ヒートロッド…とでも名づけておこうか。さぁ、無駄口を叩く暇はないぞ!!」

続々と沸いてくる傀儡兵に向き直ろうとした瞬間、上空から見慣れた魔力光が降ってきた。
…来ましたか…我が主よ!!


・閃・

「ラジカル・ザッパー!!」

前線を奔る蒼い砲撃魔法。数10体の傀儡兵を纏めて消し飛ばしていく。
まったく…やっと登場かよ。

「遅いぞメビウス!!遅れてきた分、きっちり働けよ!!」
「はは、閃、厳しいよ。」

やっと現れた主人公、メビウス・ランスロットに俺は軽口を叩く。
ったく、こいつがいれば、最初から苦労なんかしなかったんだろうがなぁ。
隣にはフェイトが寄り添うようにして立っている。ん…顔色も良いみたいだし…もう大丈夫だろうな。

「始めまして、帝 閃だ。まぁ、詳しい自己紹介は後にしようぜ。」
「あ…はい。フェイト・テスタロッサ…です。」
「いや…敬語じゃなくても良いんだぞ?同い年だし…」
「え…?そうなの、お兄ちゃん?」
「うん。閃は私と同い年だよ。」

ったく…俺が年上に見えるのかよ。まぁ、転生者だし…もしかすると、そんな雰囲気が出てたのかもしれないな。
…って…おいおいおい。まてマテ待て。いま…フェイト、なんて言った…?

「なぁ、フェイ…」
「ディバイン…バスタァァァァァ!!」
「ビビットピンク・エクストラ!!」
「うぉぉ!!??」

叫び声とともに、奔る2つの桃色の魔力光。…うへぇ、こっちはこっちで、凄まじい威力だな…。
ハート型の魔力と、魔力そのものの塊が、まとめて吹き飛ばしていく。

「あ!!フェイトちゃん!!」

いち早く、気が付いたなのはがこっちに飛んでくる。…あぁ、凄く安心したって顔してるな。
ったく・…こっちの主人公もお人好しで…優しすぎるな。まぁ、それが良い所なんだろうけど。

「なの…ひゃう!?」
「もうもう…心配したんだよ!?話しかけても返事してくれないし!!ずっと下向いたばっかりだし!!」

なのはが勢いそのままに、フェイトに抱きつく。本人は、精一杯心配してたことをアピールしてるんだろうが…。
フェイトが眼を白黒させてるぞ。そこに…加わるもう1つの人影。

「フェイトォォォ!!」
「あ…アルフまで!?」

傀儡兵をなぎ倒して、こっちに走ってくるアルフ。いや、お前…最初からそれやってくれよ…。
一緒に戦ってたガルムが、ポツーンと呆気に取られてるぞ…。
とりあえず俺は後ろで、なのはとアルフにもみくちゃにされているフェイトを放っておいて、メビウスに声をかける。
あの単語についてだな。

「…さっき、お前の事…お兄ちゃん言ってたけど…。まさか…」
「え?あぁ、フェイトは私の妹になったんだ。」
「…妹って、お前…良いのかよ。そんなに簡単に決めて…」
「ん~…まぁ、大丈夫だよ。」

いや、お前…そんなにあっけらかんと重要な事決めて良いのか?
義理の妹なんて…それなんてエロゲだよ。

「それに閃だって、リリンちゃんにお兄様って呼ばれてるでしょ。」
「お兄様ぁぁ!!私の活躍、見ててくださいね!!」
「………」

しまったあぁああぁぁあぁぁ!!!!!!!!人のこと言えねぇえぇぇえ!!!
い…いや!!俺の場合はただ単にお兄様って呼ばれてるだけで、決してそう言う関係ではないのであって…。
ええい!!誰に言い訳してんだよ俺は!!笑いをこらえているユーノを軽く睨みつけ、俺は無言でウィンドウの操作を再開する。

「さて…前線を押し上げてこないとね。」
「突出してる馬鹿がいるから、援護してやってくれ。」
「…どっちの方を言ってる…?」
「決まってんだろ。俺達の親友のほうだよ。」
「…だよね!!」

軽く親指を立てて、戦場に向かうメビウス。蒼い魔力光が尾を引いていくが…って、おいこら。
そのまま魔力光が消えないで…下にいた傀儡兵に攻撃してるんだが…爆撃か!?

≪メビウス、お前、なんの魔法使った?≫
≪SFFSだよ。飛んだ後の魔力光に攻撃属性を持たせたんだ。≫

SFFS…本当に戦闘機の武装を再現してやがる…。確かに、こんだけ密集してるなら、効果は期待できるだろうな。

「って、お前ら!!さっさと戻れ!!ここが片付かなきゃ話にならないっての!!」
「わ!?…そうだね、行こう!!フェイトちゃん!!」
「うん!アルフ…また一緒に付いてきてくれる?」
「当然だろ、フェイト。どこまでも付いていくよ!」


後ろで未だに抱き合ってる3人を叱責しながら、左右と正面に展開しているウィンドウを再び操作し始める。


「ったく…俺はお前らと違って凡人なんだぞ…。少しくらい、楽させてくれ…」
「…いや、閃、3つのウィンドウを操作してる時点で…凡人じゃないと思うよ…?」

そうなのか?ユーノの言葉を聞き流しながら、眼はウィンドウから離さない。
左右のウィンドウは両手で操作してるし、正面のウィンドウは、俺の眼の動きで操作が可能にしてある。
斜め上には、小型のウィンドウで前線の状態が逐一、報告されるようになっている。

「ブリッツトルネード!!」
「パワーウェイブ!!」

メビウスがエクスを構えた状態で、コマのように回転して傀儡兵をなぎ倒し、その勢いのまま上昇してラジカルザッパーで周囲を掃討して行く。
慣性制御が搭載されているならではの動き…か。高速で飛び回りながら、魔力弾で爆撃なんかをしている。
オメガは…ただ単純に、殴る蹴るで破壊してるな…。地面を殴りつけると、魔力が柱のように一直線に突き進み、さえぎる敵を破壊していく。
…なんつう技だよ。あいつの場合は、魔法というより技だな。…しかも、なんかの格闘ゲームで似たような技を見たことあるぞ…。
別ななウィンドウに視線を向けると、クロノとブレイズが映し出されている。
こいつらは…別段、派手な魔法を使ってはいないが、撃破数は1番だろうな。確実に堅実に撃破してるようだ。
ブレイズがスペシネヌで切り伏せると、クロノがシューターで援護、もしくは牽制している。

「サンダーボルト。スペシネフ、ショットガン。」
『イエス、マイロード。』

掃射しながら、スペシネフの銃身部をスライドさせると、放たれる散弾の魔力弾。弾幕が半端じゃないほどに凄いな。
確かに…ショットガンってのも理解できるな。…空間制御とかそれ以外にも、長けてるなブレイズは。

≪閃、増援の位置情報は特定できたか!?≫
≪っと、特定できたけど…結構、奥だぞ?≫
≪…仕方がない、クロノ、俺がここを抑えるから、突撃してくれるか?≫
≪現状、それしかないか…。≫

念話で2人と相談しながら考える。確かに、なのはやフェイト達が纏めてなぎ払っても、後から後から沸いてこられては、流石に洒落にならない。
それには、傀儡兵を作っているだろう施設を破壊しないといけないんだが…庭園内の奥まった場所にある。
…仕方がないか、あれを使う。

「よーし、レーベン、派手にやるぞ。」
『お、やっちゃいます?むしろ殺っちゃいます!?』

興奮気味の相棒に軽く笑って、ウィンドウを切り替える。
さてと…出てきたターゲット全てにロックカーソルを合わせて…っと。

「閃…凄いことしてるね…」
「そうか?」
「…一瞬で100体以上をロックするなんて、考えられないよ…。」

いや、ユーノ、驚くなって。多分、お前でも出来ると思うぞ?

「さて…いくぞ、俺の最強魔法!!各員に告ぐ!!その場を動くなよ!!」
『いっきますよおおぉおおぉ!!!』
『「アサルト・セル!!」』

俺の有りっ丈の魔力を上空に撃ち出し、ロックした傀儡兵に襲い掛からせる。全部の標的をロックしたはずだから、恐らくは1発も外れは出ないだろう。
まさに天から降り注ぐもの…って所かな。

「す…凄いよ閃!!…閃?え…ちょっと!?」

はしゃぐユーノの声を聞きながら、俺は地面へとダイブする。もう…全部使い切っちゃいましたよ…。




・ブレイズ・

「これから庭園内部を攻略する。3姉妹とB班は入り口を維持。僕とユーノは動力炉とジュエルシードの確保だ。
A班とC班は、傀儡兵の製造施設の破壊だ。」
「「了解。」」
「シルヴァリアスは…どうします?」
「…あんな奴のことなど知らない。放っておけ。」

庭園内部でクロノが簡単に役割分担を支持する。閃の活躍で外の傀儡兵は一掃できたが、まだ内部の攻略が残っている。
ちなみに、閃は魔力を使い切って倒れてしまった。これ以上の戦闘続行は不可能と判断して、アースラに帰還させた。
その付き添いでリリンも撤退したから…今頃、医務室で手厚い看護を受けているのかもしれないな。

「ブレイズ達は…プレシア・テスタロッサの確保だ。」
「任せろ。そっちも気をつけろよ」
「あぁ、ブレイズも…油断するなよ。各員、気を引き締めろ!!行くぞ!!」
「ユーノ君、頑張ってね!!」
「うん、なのはやメビウスたちも…無事で!」

クロノと軽く拳をぶつけ合い、それぞれの分担場所に向かって進み始める。

「フェイト、案内を頼めるか?」
「うん、こっち。通路が遮れてなければいいんだけど…。」

庭園内部は所々が崩れ落ち、何時崩壊しても可笑しくない状況だ。
しかも、虚数空間の穴が開いているから、下手に飛行魔法を使うわけには行かない。
結局は、徒歩で移動するしかないんだが…。フェイトの心配も杞憂に終わった。

「うなれ!!パイルバンカー!!」
「…便利だな。」
「あ…あはははは…。」

崩れた壁で通路が遮られていようが、オメガが問答無用でパイルバンカーで粉砕する。
…まるで削岩機だ。途中で、傀儡兵に遭遇するが、なのはやフェイトがピッタリのコンビネーションで撃破していく。
メビウスに頼りっきりの2人かと思ったが…考えを改めなければな。
彼女達も…立派な魔道師だ。手を取り合う2人を見て、メビウスも笑顔を深めている。

庭園内部 大広間


「ここまで…きてしまったのね。」
「…母さん…!!」

プレシアと対峙する俺達。ここには既に、虚数空間に通じる穴が出来、天井が崩れてきている。
彼女の後ろには、フェイトのオリジナル、アリシアが入ったカプセルが鎮座していた。
一歩、フェイトが歩み出ると、彼女の足元に撃ち込まれる雷光。

「失敗作の分際で…ここまで来たのね。それに、母さんなんて呼ばないでといってるでしょう?」
「……」
「目障りなのよ!!アリシアの偽者の癖に…母さん母さんだなんて!!」

フェイトはただ、無言でプレシアとアリシアを見つめている。メビウスやなのはも、何も言わずに佇んでいるだけだ。
…俺も…何も言わないさ。

「…それでも…良い。私は、母さんの…プレシア・テスタロッサの娘で居たい!!」
「っ…!!」

俯いた顔を上げると、眼に涙を溜めて叫ぶフェイト。

「母さんが一緒なら…私はどんな事にも耐えられた!!母さんの温もりがあったから夜も恐くなかった!!」

耐え切った感情があふれ出るかのように…フェイトはプレシアに訴える。

「笑ってくれたから、私も笑うことが出来た!!私の名前を呼んでくれるたびに…凄くうれしかった!!」
「だ…だからなんだというの…?今更、貴方を…娘だと思えと…?ふん、作り物の分際で…」
「作り物でも、偽者ではなんでも良い!!それでも、私は…私は母さんの娘なの!!」
「…どうして、こんなにも私が嫌っているというのに…!!」
「だって…だって…私は母さんの事が…大好きだから!!!ずっとずっと一緒に居たいから!!」

大広間に響くフェイトの泣き声。…母親…か。俺の両親は…ベルカ戦争で戦死しているからな…。こんな事言う相手なんか…いない。

「…貴方は…どうして、こんな私を…好きでいてくれるのよ…。」
「かあ…さん。」

プレシアが泣き崩れる。口から漏れるのは…悲しいまでに…母親の言葉。

「私だって…貴方が…フェイトが大好きよ!!愛しているのよ!!けど…もう巻き込めないじゃない…。
私1人の欲望の為に…貴方の未来を奪うことなんて…私には出来ないのよ…!!」
「だから…私をいらないって…」
「そうよ…。貴方が私を嫌いになっても…私を憎んでくれても、光の当たる場所で生きてくれれば…それでよかった!!
貴方が私を忘れて、生きてくれれば…私はそれで充分だった!!…ごふ…!!」

っ…!!吐血しただと…!?彼女が重度の病を患っていると聞いたが…ここまで進行してるとは…!!

「母さん!!」
「来ないで!!」

駆け寄ろうとしたフェイトの足元に炸裂する雷光。

「貴方は…非道な母親に利用された悲しい娘。…良いわね…。」
「どうして…私は母さんが一緒に居てくれるなら耐えられる!!だから、一緒に!!」
「…貴方が…メビウス・ランスロットね。」

プレシアがメビウスを見つめる。彼も静かに「はい。」と返事をして、フェイトの傍に歩み寄る。

「……貴方は…フェイトを守ってくれるのかしら?幸せに…してくれるのかしら…?」
「当然です。彼女は…私の家族ですから。」
「そう…家族…ね。ふふ、私も…アリシアとフェイトと一緒に…笑って…料理して…眠りたかったわ。」

そういってにこやかに微笑み、アリシアのカプセルへ歩き始める。その顔は…慈愛に満ち溢れた、聖母の顔。

「…フェイト、こんな身勝手で…最低な母親からの最後のお願いよ…。」
「…幸せになりなさい…」

彼女の足元に…カプセルと一緒に虚数空間が開き…堕ちていく…。
「お母さぁあぁぁああぁあぁん!!!!」




・メビウス・

…私は手を力いっぱい握り締めていた。…助けれなかった事と…悔しさで…

「メビウス君…。」
「なの…ちゃん。」

ソッとなのちゃんが私の手を握り、指を一本ずつ優しく離していく。

「落ち込んじゃ駄目だよ。フェイトちゃんの事…支えてあげなくちゃ。」
「…そう…だよね。」

アルフに抱きついて泣きじゃくるフェイトちゃんを、見つめる。
…アルフも…分かってたんだね…。プレシアさんがこういう行動を取るって事が…。
何か言葉をかけようとした瞬間に、庭園が揺れる!?

「…次元震の活性化か…?至急脱出するぞ!!」
≪ブレイズ、聞こえるか!?厄介な事になった!!≫
≪クロノか、厄介なことってなんだ!?≫
≪第1種…せ…ぐぁぁ!?≫
「おい、クロノ!?クロノ!!…急いで脱出するぞ!!」

焦り気味にブレイズさんが、指示を出す。…クロノさんとの通信がなんで突然切れたんだろう…?
崩壊を始めている庭園内部を私たちは走り出す。堕ちてくる破片は、ガルムが鞭で払いのけてくれるから助かる…!!



庭園 入り口付近。

「ここまでくれば…」
「ぐおおぉぉお!!!」
「うぉ!?」

突然、上空から落ちてくる人影。…シルヴァリアス君!?
バリアジャケットがボロボロになっている…!?上空に眼を向けると…

「ジュエルシード…?」

9個のジュエルシードが円陣になってまわっている。そこから、海上の時とは比べ物にならないほどの、魔力があふれ出ていた。

「クロノぉぉ!!」
「ブレイズか…!!他の局員達は退避させた!!君達もすぐに退避…ちぃ…!!」
「うわぁ!?」

魔力流にクロノさんとユーノが吹き飛ばされる!?

「大丈夫ですか?クロノ執務官。」
「しっかりしろよ!!」

けど、地面に激突する前に…シルビーさんとデボラさんが受け止めるのに成功した…。ふぅ、よかったぁ…。

「あらあら~…けど、これは大変な状況ですね。」
「あぁ…最悪の状況だ…!!」
「ブレイズさん…一体…?」

そのとき、ジュエルシードがまばゆく光り始め、回転する。
それが徐々に速くなり…何かを形作るようにして…砕ける…!?

「やはり…奴らか…」
「あぁ…第1種接触禁止目標…。」

そこに現れたのは、2つの人型。1つは男の人の形で…1つは女の人の形をしている。


「戦闘結晶構造体…アジムとゲラン…!!異界の破壊者だ」








帝 閃 所持レアスキル、超演算・思考回路及び処理能力上昇。並行計算速度上昇
なぉ、常に発動しているので、彼の魔力量が少ない原因でもある(現在、本人には使用している自覚はない。)



あとがき

ふははは…閃君も転生者として恥じぬ活躍!!…だと思います。
そして最後の最後で出てきたアジムとゲラン。さて、彼らとどう戦う!?どうする作者!!
遂に…次回で最終回を迎える無印…地味に時間がかかって申し訳ないです…!!
現在、作者の妄想力フィーバー状態ですので…早めに更新したいです!!




Corporal様

画面外と言うか…存在自体、消しちゃったほうがいいと思う、作者です。
IBISの台詞…分かりましたか。カッコいいボスなのに、今一、性能が…泣


ユーロ様

いつかは…その台詞、言っちゃうでしょうね…。主に3期辺りにでも…
お父さんすげぇ!!F-15Eのキーホルダーとか…物凄くうらやましい…。
ラプターのプラモ…俺、この小説書き終わったら、メビウスカラーで作るんだ…。


真っ黒歴史様

母親の愛とはこれほどまでに美しい。そう言う想いが一応、こめられています。
父親は逞しく背中で語り、母親は優しく包み込む。作者の両親論です。苦笑


ダンケ様

一応は…予定ではそのつもりでいました。その方が後々、書きやすいことも出てきますので…主に入学前とか…。
ん~…現金な娘に見えましたか、少し気を付けるようにします。後でアルフとのモフモフ話でも書いて見ましょうか。
リニスは消滅したという事にしてます。使い捨てじゃなくて、寿命とか、そう言うので…。
中二はAKY(あえて 空気 よまない)で突き進みます。本人はあれでなのはが惚れてくれると信じているようです。



[21516] 一期最終話 ただいま、と、おかえりなさい。
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/01/28 21:41
・メビウス・

「これは…流石に拙いな…。」

ブレイズさんが障壁を展開しながら呟く。アジムとゲランが出現してから、次元震が更に大きくなり、しかも虚数空間に通じる穴が大きく開いてきている。
脱出しようにも、魔力流とアジム、ゲランの攻撃で身動きが取れない状況…!!
ブレイズさん、なのちゃん、ガルム、オメガの4人で強固な障壁を作り上げて、なんとか防御してる状態だ。

「クロノさんにユーノ、大丈夫…?」
「なんとか…だが、魔力が底を付きかけている…。」
「僕も…ごめん、こんな時に…」

私はフィジカルヒールをかけ続ける。2人は、他の武装局員達の退却の時間稼ぎで、ジュエルシードを抑えていたから、既に魔力を使い切ったしまったみたい。

「っ…!!くっそ、特大の来るぞ…!!」
「フェイト!!フォトンランサー使って!!迎撃するよ!!」
「うん!」
「ワームホールを開く!!そこに叩き込め!!」

ゲランが腕を振るうと、幾条ものエネルギー弾がこちらに向かって襲い掛かってくる。流石に…あれを食らったら拙い。
すぐにブレイズさんが、小型のワームホールを開いて、私のランチャーと、フェイトのフォトンランサーを転移させエネルギー弾と相殺させる。
ワームホール自体で、エネルギー弾を無効化すればいいんだろうけど、魔力の消費が高くて今の状況では使いにくいらしい。

≪エイミィ!転移は出来ないのか?≫
≪無理だよ!時空軸が滅茶苦茶で転移させても、別な所に行っちゃう可能性があるよ!!≫
「本当に…打つ手なしですわね…。」
「だったら早い話、総攻撃かければ可能性あるんじゃないか?」
「駄目よ。これだけの魔力流が起きてると、私達の装甲じゃ持たないわ。」

デボラさんの提案をシルビーさんが一蹴する。…正直、3姉妹さん達と私やフェイトちゃんの装甲は…かなり薄い。
私は、エクスがシールド形態にもなれるけど、逆に速度が低下するから、大して意味がない。
今は速攻でアジム、ゲランを無力化しないといけないから…。
…けど、デボラさんの言う通り、攻撃を仕掛けなければどうにもならないのは確かだ。

「…メビウス、お前なら、全ての攻撃を…回避できるか?」
「………可能性はあると思います。」

ブレイズさんの問いかけに、私は静かに答える。
…エクスの慣性制御をフルに使えば、急制動、急加速を駆使して、攻撃を回避することも出来ると思う。
まぁ、当たったら…文字の如く、終わりなんだけどね。

「まさか…メビウス君、駄目だよ!!危ないよ!!」
「絶対に…駄目!」

まだ何も言ってないんだけど…感じ取ったのか、なのちゃんとフェイトが私を止める。
ん~…こう言う所は鋭いんだから。

≪エイミィ、俺が時空軸をなんとか合わせるから、こいつらを転移させれるか?≫
≪や…やってみるけど…ブレイズ君は大丈夫?≫
≪やるしかないだろ。このまま続けたら、押し負けるか、虚数空間に飲み込まれるのかの2択しかないしな。≫
「…聞いたでしょ?私なら…避けれる可能性があるんだから、オトリ役にはぴったりなんだよ。」
「け…けど、メビウス君1人なんでしょ!?その後、どうやって逃げるの!?」
「お兄ちゃんが行くなら…私も行く…!!」
「なんとかするよ。フェイトも付いてきちゃだめだよ?」

はは…2人して、心配性なんだから…。まぁ、どうやって逃げるか…なんて事は考えてないんだけど…。
こんな所で、終わるなんて絶対にいやだ。まだ母さん達に、フェイトの事を紹介してないし、まだまだやりたい事だってたくさんある。

「スペシネフ、空間制御最大。時空軸強制介入、再構築。」
『イエス、マイロード。』
「さてと…エクス、出力最大、リミッター解除。」
『了解です。マスター、ご武運を…』

エクスのリミッターを解除すると、淡く蒼い光が私の周りに集まってくる。
未だに泣きそうなフェイトと心配しているなのちゃんを交互に撫でて、私は障壁の外に歩き出す。
ブレイズさんも隣に並んで、スペシネフを構えている。

「メビウス君!!」

なのちゃんの呼び声に、軽く手を上げて…私は一気に加速して宙に舞う。
魔力流を減速して、やり過ごす。アジムが腕を突き出すと、巨大なエネルギー弾が私に向かって放たれる。

「時空…固定!!いまだ!!」

ブレイズさんがエネルギー弾をスペシネフで両断し、その衝撃波を開いたワームホールに無理やり叩き込んで内部で爆発させる。
その影響でなのか次元震が一瞬静まった。それを確認したエイミィさんがなのちゃん達の回りに転移陣を開いて、アースラへと導いていく。

「レイジングハート…!!お願い!!」
「バルディッシュ!!」

転移させられる寸前に、なのちゃんとフェイトがアジムとゲランにバインドを使ってくれた。まったく…本当に優しいんだから…。

「これは…好機かもしれない。」
「…どう言うことですか?」
「どうやら奴らは、完璧に具現化してないようだ。通常なら、バインドなんて直ぐに引き剥がされるはずだからな。」
「倒せるって…事ですか?」
「いや、現状では倒す事は不可能だ。しかし、虚数空間に押し戻せるだけなら…或いは。…その為には、奴らの構造体を更に減少させないといけないがな。」
「ここで放って置いたら、無差別に攻撃を繰り返すんですよね。なら…やるしかないですよ…!!」
「あぁ!」

ブレイズさんはゲランに、私はアジムへと向かっていく。
大体の攻撃パターンは読めている。腕を振るったときに来るエネルギー弾の1つをエクスで切断して、更に速度を上げる。
攻撃は少し大振りなのが多いのが、せめてもの救いだったよ!!
追尾してくるエネルギー弾は、ぎりぎりまで引き付けて、すれ違うようにして回避して、後ろに回ったところをソードウェーブで撃破!!
一瞬、弾幕が途切れたのを見過ごさずに、ランチャーを撃ち込めば…

「よし…!!確かに外郭が割れた!」

っと…!!こちらに向かってくる魔力流を真横にスライドして回避する。なるほど…魔力流もあいつらの攻撃手段って事か…!!
また放たれるエネルギー弾…、こんどは追尾性能が高い…!!
トップスピードでまで速度を上げて、後方から追尾してきたエネルギー弾をバレルロールで避ける…!!
旋回して…周囲にありったけのXLAAを構築して…撃ち出す!!

「XLAA、FOX3!!」

数十発以上のXLAAがアジムへと襲い掛かる。反撃する暇を与えずに、ラジカル・ザッパーで砲撃を加える。
ブレイズさんの方は、シンファクシを使って、連続で魔力弾を叩き込んでいる。そして、大型のチェーンバインドで拘束している所だった。

「いけ…、アークバード!!」

スペシネフの銃口部に魔力が収束し、魔方陣が展開される。その魔方陣を貫くように、圧縮された魔力が撃ち出される。
まるでレーザーの様に圧縮された魔力は、障壁ごとゲラン本体も貫いた。私の方も、弾幕がはれると、アジムが半壊状態になっていた。
これなら…押し戻せるか…?

「開け…時空の扉!!」

ブレイズさんが、2体の後方に巨大なワームホールを開き、バインドを使い、中に引きずり込もうとする。
具現化が中途半端なのと半壊状態が幸いしてか、2体とも反撃はしてこない。

「よし、これなら…ぐぁぁぁぁ…!!」
「ブレイズさん!?」

突然、ブレイズさんが胸元を押さえて苦しみだす。その影響でか、ワームホールが制御下から外れた!?暴走して全てを吸い込んでいくか…!?
しかも…引きずり込もうとしていたバインドも外れて、アジムとゲランが這い出るようにして戻ってこようとしている。

『マイロード、これ以上の侵食率は危険です!!撤退を!!』
「よりによって…こんな時に…!!」
≪ブレイズ君、今すぐ撤退しなさい!!≫
「しかし…艦長。」
≪これは命令よ!!これ以上続けては危険だわ、メビウス君も撤退して!!≫

リンディさんから通信が入る。その声は、焦りと心配に満ちている。確かに…ブレイズさんがこの状況じゃ…どうにもならない。
けど…ここでアジムとゲランを倒しておかないと…近い私達の世界にまで影響が起きる。それだけは…絶対にいやだ…!!

「…いえ、最後まで…やります。」
≪メビウス君!?分かっているの!?もう、この空間は崩壊するの、貴方まで巻き込まれるわ!!≫
「あいつらを…倒せば問題はないんでしょう?今なら…出来ます!!」
「…艦長、ここは彼に…託しましょう。何より、あいつらを倒さないと…メビウス達の世界も危ない…。それが分かっているんですよ。」
≪…………≫
「一撃です。それでだめなら…あきらめます。」
≪…分かったわ。ただし、必ず無事に帰ってくる事。…なのはさん達も心配してるのよ。≫
「了解です。…ブレイズさんも、撤退してください。」
「最後の最後まで…すまないな。」

ブレイズさんが転移するのを確認すると、私はアジムとゲランに向き直る。

「エクス、…やろうか。」
『はい、マスター。』

ソッと私は空を見上げる。…力を…貸して…!!





アースラ艦橋

「ブレイズ、大丈夫か…?」
「あぁ…なんとかな。お互い、満身創痍だな。」

包帯を巻いたクロノと青い顔をしたブレイズ。艦橋に付くと、緊張感に包まれていた。
正面のモニターに移るのは、蒼い少年、メビウス。その姿を心配そうに見つめ、祈るようにしている2人の少女、なのはとフェイト。
少年が対峙するのは、異界の破壊者、アジムとゲラン。

「メビウス君、お願い…神様…!!」
「………ずっと一緒にいるっていったんだから…帰ってきて…!!」

2人の祈りの言葉。親友であるオメガ、閃、ユーノも静かに見守っている。
願いは1つ、少年の無事の生還。

「…エクス、フルドライブ…!!」

メビウスが静かにエクスに命じると、ラジカル・ザッパーのように砲身が伸びるが、その長さは倍になっている。
そこに収束される蒼い魔力。周りの空間からも、徐々に集まり、光を増していく。

「え…うそ!?」
「どうした、エイミィ?」
「め…メビウス君の魔力が…測定不能…!?」
「いや、前もそうだったんだろ?」
「そうなんだけど…今回は一瞬で、メーターを振り切っちゃったよ!!」
「なに…!?」

クロノが慌てて、エイミィの前にあるメーターを確認する。そこに移る文字は測定不能。
以前から、メビウスの魔力は計れなかったが、正確な量が分からないだけで、測定はある程度可能だった。
しかし、今回は文字の如く、測定不能。そう、彼の魔力がまったく分からないのだ。

「…ソラノカケラ…ですね。」
「ソラノカケラ…?」

メビウスの従者たるガルムが零した言葉に、なのはが反応を示す。

「メビウス様の所持するレアスキルです。…ソラノカケラと名づけていましたね。」
「レアスキルだと…?」
「ソラノカケラ。メビウス様は、常に空と言う空間から、魔力が供給され続けているのですよ。」
「空から…常にって…、つまり、空がある限り…メビウスの魔力は無限と…言う事か…?」
「そう解釈しても良いでしょう。…もっと簡単に言えば…【空】がメビウス様のリンカーコア…と言えるでしょうね。」
「…デタラメも良いところだ。」

驚くクロノとブレイズ。その反応は最もだろう。メビウスの輪、無限を表す輪の如く、彼の魔力は無限なのだ。
ある意味で、卑怯極まりないレアスキルである。

「…その結果が、あの魔法か。」

閃がモニターを見て、つぶやく。
超巨大な砲身になっているエクスに収束する魔力。だが、全てが集まるわけでもなく、メビウスの周りにこぼれていくのも存在する。
しかし、それは霧散する訳でもなく、球体として収束し、彼の周りを漂っている。
それが10、20と収束するたびに増えていく。それが収まる頃には…彼の最強の広域殲滅魔法は…完成していた。

「これで…最後だ。…堕ちろぉぉぉぉ!!ユリシィィィィィィズ!!!!!!!!」

発動キーと共に放たれる、蒼い極光、その姿は、まさに流星群。その全ての魔力がアジムとゲランを飲み込み…ワームホールすら消滅させていく。
蒼い極光が収まれば、全てが消え、ただ1人、メビウスが…静かに漂っているだけだった…。







・閃・

メビウスがアジムとゲランを撃破して、帰還すれば、歓声が上がっていた。
そりゃそうだろ。途中まで、ブレイズと協力してたとはいえ、接触禁止目標を1人で撃破したんだ。
局員達に揉みくちゃにされた後で、なのは、フェイトに泣き顔で、抱きつかれて困ったように笑ってたよ。
ちなみに、俺は背中を思いっきり、叩いた。心配かけさせやがって…。とここで終わりなら良かったんだが…

「ふざけるな!!そいつは犯罪者だぞ!!」
「それでも、情状酌量の余地はあるはずだ!!」

艦橋に響く声、神経質そうなのがシルヴァリアスで、もう1つはメビウスの声だ。
内容はもちろん、フェイトの処遇についてだ。ち…医務室で眠ってりゃ良いのに、今更出てきやがって…。

「しかも、クローンだ!!人間じゃないんだ!!すぐに消すべきだろうが!!」
「そんな事は、関係ない!!フェイトは1人の人間で、私の家族だ!!」
「貴様ぁぁ!!そいつに家族なんて居ないんだよ!!母親にすら、捨てられた化け物だぞ!!??」
「そんな事無い!!フェイトちゃんは捨てられてないよ!!どうして分からないの!?」
「なのは、君はそいつに騙されてるんだ!!そいつのせいで、アジムとかゲランて言う化け物が現れたんだよ!?」

…さっきから、好き勝手言いやがる。本気で反吐が出そうだな。第一、アジムとかは関係ないだろ。
メビウスとなのはがフェイトを庇うようにして立ってなければ、すぐにでも攻撃しそうな勢いだ。
フェイトも…何もいわずに、健気に我慢してるな。アルフはガルムが何とか押さえつけているから良いけど…。
そう言えば…クロノ達は?艦橋内に視線を巡らせると、艦長席の辺りで、何か話し合っている…?

「クロノ!!貴様もそう思うだろ!!」
「…お前に呼び捨てにされる覚えはないんだが…確かに、犯罪者は…処罰しないといけないだろうな。」
「クロノさん!?」
「ふん、ほらみろ、僕の言ったとおりだ!!今すぐ、フェイト・テスタロッサをこちらに…」
「…ん?なぜ、彼女が犯罪者なんだ?」

シルヴァリアスの言葉に、わざとらしく驚いてみせるクロノ。…ちなみに、これには俺やリリンも一枚かんでいる。
さて、これからどういった反応をしめすのか…楽しみだ。

「は…なにを言ってるんだ!?後ろのそいつがフェイト・テスタロッサだろ!?」
「君こそ、なにを言ってるんだ?彼女は…フェイト・T・ランスロット。…メビウスの妹だろう?」
「な…に…!?」

ああ、もう駄目。笑いがこらえられない。シルヴァリアスの動きが一瞬止まる。メビウス達も、驚いた表情をしているが、俺が目配せをする。
そう…フェイト・テスタロッサと言う人間は…確かに存在しない。その代わり、フェイト・T・ランスロット…という少女なら存在する。
…プレシアの最後の願い、それが…聞き届けられたって事だな。

「ふ…ふざけるな!!貴様ら、僕を馬鹿にしてるのか!!??」
「静かにしろ、今、通信が入っているんだ。」

ブレイズが無視して、モニターに映像を映す。誰からだ…って…は?

「やぁ、クロノ君、ブレイズ君、久しぶりだね。」
「…ハーリング提督、お久しぶりです。」

モニターに男性が移った瞬間、艦橋に居た全局員が敬礼を返す。
…しかも、ハーリングって…まさか…ビンセント・ハーリング!!??大統領!?
俺が知っている大統領より少し若いが…確かに面影がある。…一体、とう言う世界なんだよ…。

「お久しぶりですわ、ハーリングおじ様。」
「おじ様ぁぁ!!??」
「やぁ、リリン、元気そうだね。」

スカートの両裾を持って、優雅に一礼するリリンとにこやかに笑うハーリング提督。
…えっと…どう言う関係なんだ…?

「君が…帝 閃君だね。」
「え、はい。そうですけど…」
「ははは。驚かせてすまない。私はビンセント・ハーリング。君の父上や彼女の父上とは友人でね。よろしく頼むよ。」
「…は…はい。」

笑いかけるハーリング提督。それを見た俺は、確実に固まっただろう。
いや…だって、仕方がないだろ。あの笑顔は卑怯だって…メビウス以上のニコポだぞ。無条件で膝を付いて、忠誠を誓いたくなるって。

「おい!!僕を無視するな!!」
「君は、シルヴァリアス君だね?」
「あぁ、そうだ!!ハーリングとか言ったな!!こいつらの上司なら、なんとか言え!!」
「ほぉ、なにをだね?」
「こいつらがフェイト・テスタロッサを庇ってるんだよ!!犯罪者には正義の鉄槌を与えるべきだ!!」
「…はて?フェイト・テスタロッサとは…誰のことかな?私の所には、フェイト・T・ランスロットと言う少女が協力者として参加してくれた事なら届いているが?」

そういって惚けるのを見る限り…なるほど、ここまで根回しが出来てるって事か…。
ブレイズを見れば、軽く笑っている。流石は…未来の英雄。やることが凄いな。

「き…貴様も無能か!?」
「無能は…貴方ではありませんの?」
「あ゛あ゛!?」
「1人でなにを喚いてるかと思えば…居ない人間の事を何時までも言ってますの?」

あの…リリンさん?なんか…黒いオーラ出てるんですが…?

「それじゃなにか?こいつがフェイト・T・ランスロットって言う証拠があるのか!?」
「はい、ありますわ。我がフレッシュリフォー社が後見人ですもの。それ以上の証拠がありまして?」
「ふむ、フレッシュリフォー社が保障してくれるのなら、安心だ。それで言いかね、シルヴァリアス君?」
「言い訳あるかぁ…!!貴様もばかか…!!」
「そろそろ…黙れ。」

まだ何か喚こうとしているシルヴァリアスを、ブレイズが見事な背負い投げて沈めて、片腕をひねり上げる。

「ききき…貴様!!なにをする!!」
「犯罪者は…処罰すべきなんだろう?クロノ。」
「シルヴァリアス・ゴッテンシュタイナー。現時刻を持って、名誉毀損、器物破損及び傷害罪と公務執行妨害の罪で、管理局執務官権限で逮捕する。」
「はぁぁぁぁ!!??」

クロノが宣言すると、数名の武装局員がシルヴァリアスを羽交い絞めにする。
…凄いな。本当にドラマみたいな感じになってるぞ…。

「僕が何時、そんなことをした!?」
「…フェイトに攻撃、及び、殺傷設定でのメビウスとの戦闘。そして、停戦勧告を行っているブレイズへの攻撃。それに、彼らに対する暴言の数々。更に、先の無断出撃で転移ポートの一部が破損。挙句、無差別に魔法を使った結果、数名の武装局員が負傷した。…どこをどう見ても…立派な犯罪者だ。」
「ら…ランスロットだって僕に攻撃しただろ!?」
「彼等は、今回の事件解決に尽力、更にアジム、ゲランの撃破に多大な貢献をしてくれた。よって…まぁ、厳重注意だけだろうな。連れて行け!!」
「なのは…心配しないで、僕はすぐに戻ってくるから…!!」
「…二度と、なのちゃんと…フェイトに近づくな。…もし近づいたら…」
「メビウス、それ以上は脅迫罪だ。我慢しろ。」

シルヴァリアスが、なのはに何か言おうとしたのをメビウスが遮る。その眼は…殺意と憎悪に満ちている。…こいつには似合わない感情だな。
連行されていくシルヴァリアスを全員が、視界に移らないようにしている。最後まで何か喚いていたけど…とのあえず、無視だな。
画面でハーリング提督も困ったように笑っていたが、すぐにメビウスに視線を移した。

「メビウス君…だね?」
「あ、はい。」
「なるほど、良い眼をしている。君の父上や母上と同じ…空の瞳だ。」
「……フェイトの事…ありがとうございます…!!」
「ありがとう…ございます…!!」

深々と頭を下げるメビウスとフェイト。その眼には涙が浮かんでいる。それまでに…嬉しかったんだろうな。
それを満足げに見て提督はうなずく。

「もっとゆっくり話したいが…時間がなくてね、すまない。…後でこちらに遊びにおいで、美味しいお茶と菓子を用意して待って居よう。もちろん、皆で来なさい。」
「はい…!!」

皆、気が付けば、笑顔を浮かべていた。なのはとフェイトは抱き合って喜んで、メビウスとオメガ、ユーノは笑顔で、俺の周りに集まってくる。
リンディさんや、ブレイズとクロノもそんな俺達を眺めて、嬉しそうに笑っていた。
こうして…俺達の長くて短いような…PT事件は幕を閉じた…。






・メビウス・

「ただいま~。」
「お…お邪魔します。」

緊張気味に、家に入ってくるフェイト。あの後、色々な手続きとかあって大変だったけど…フェイトは晴れて、私の妹という事になった。
聞いた話では、既に父さん達が話を付けておいてくれたらしくて…本当に助かった。

「お、いい匂いがするね。」

アルフり言うとおり、扉を開けると、凄くいい匂いが漂ってきた。その匂いと一緒にパタパタと聞こえてくる足音、母さんだ。

「メビウスちゃん、フェイトちゃん。おかえりなさい~♪」
「うん、ただいまって…母さん…苦しい。」

いきなり私を抱きしめる母さん、流石に…いきなりで驚いたし…苦しい。
フェイトも、眼を丸くしてる。

「あ…えと、…サイファーさん…ですよね?これからよろしくお願いします。」
「サイファー…さん…?あぁ…!!」
「…え!?」
「どうした、サイファー?」

フェイトとが挨拶するけど…なぜか。母さんか悲しそうな顔をして…崩れた!?
その音に気が付いたのか、父さんもリビングから出てきた。…オタマもってるって事は…今日は父さんの料理か。

「あぁ…フェイス…!!フェイトが反抗期よ!!私の事、サイファーさんだなんて…!!しかも、よろしくお願いしますって…!!」
「…難しい年頃だからな…。しかし、それは悲しいな…」

そう言って、母さんの肩に手を置いて慰める父さん。えっと…なにこの寸劇…?
まぁ、言いたいことは…分かる。未だに訳が分からずに混乱しているフェイトの手を私は握る。

「お兄ちゃん…?」
「フェイト、違うでしょ?…ここは私達の家。…それで、今帰ってきたんだよ。なら、言うことは…1つでしょ?」
「あ……た…ただいま…?」
「うん。おかえりなさい、フェイト。」
「おかえりなさい♪フェイトちゃん♪ああもぅ、可愛いわ~。」
「おかえりフェイト。さぁ、お腹も減っただろう?食事にしよう。」
「…うん…!!お父さん、お母さん…それに、お兄ちゃん…!!」

返事をするフェイトの顔は…まっすぐで…凄く綺麗な笑顔だった…。






あとがき

このような駄文に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
無印はここで終了となります。ここまで読んでくださった読者様には、感謝しても仕切れないです。
最後の最後まで、グダグダでしたが…楽しんでいただけたでしょうか?
ここまで書いて多数の反省点があると思いますが…1つずつ直していけるように努力していきます。
次回からは、フェイト祭りと2期までの物語を計画しております。
これからも、習作 リリカルなのは×ACE COMBAT ×色々&オリ主&転生キャラ と、作者 へタレイヴンをよろしくお願い致します。
では……タイトル…考えないといけないですね。




[21516] ランスロット家温泉旅行記 家族団欒 ポロリもあるよ!!その1
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/01/29 18:35
「そうだ!!温泉に行きましょう!!」
「…はぁ!?」

フェイトがランスロット家の一員になって数日が立ったある日の夕食。
唐突にサイファーが提案をする。

「えっと…お母さん、どうして温泉?」
「だって、フェイトちゃん。まだ学校の転入手続きまで時間があるでしょ?学校に行くようになると、家族団欒の時間も、少し減っちゃうと思うのよ!!
そして、日本には裸のお付き合いって言うことわざもあるくらいだからね!!だから転入前に、みんなで温泉に行って絆を深めたいもの!!それに、私も行ってみたいし!!」
「あの…母さん、私は学校在るんだけど…」
「休みなさい!!」
「ちょ…!?」

最もなメビウスの意見を、笑顔で切り捨てながら、サイファーは何故か新幹線の時刻表をチェックする。

「そうと決まれば、明日は速いわよ!!みんな4時起きね!」
「待て待て、サイファー!!一体、どこの温泉に行く気だ!?」

スカーフェイスが慌てて、サイファーに問い詰める。当然だろう、彼はてっきり、すぐ近くの海鳴温泉に行くと思っていたのだ。
だが、彼女は笑顔でテレビを指差した

「ここよ!!凄く景色もよさそうだし!!」
「……おいおい。冗談だろう…?」
「ふわぁ~。お兄ちゃん、楽しみだね!」
「…あの、私、学校…」

「東北で一番高いところにある温泉!!源泉かけ流し!!眺めも最高!!」

…東北は岩手県にある…ある温泉のCMが流れていた。


【ランスロット家温泉旅行記。家族団欒、ポロリもあるよ!!】


「……眠い。」
「アルフ、寝るな。」
「ガルムごめん。ちょっと…寝る。」
「ちっ…支えてるから、気をつけろ。」
「ありがと……。」

ガルムが立って寝そうなアルフを支えながら、荷物を下に置く。
現在、ランスロット家は新幹線の駅に勢ぞろいしていた。前日にいきなり決まった旅行であり、荷造りも時間がかかってしまったのだ。
そして、朝4時起きと言うかなり厳しいタイムスケジュール。正直、ガルムも気を抜けば、睡魔に負けそうな状況だ。
現に、メビウスとフェイトはベンチに座り、寄り添うようにして眠っている。流石に、9歳にはつらい時間帯でもある。
だが、1人元気な人物も居る。

「ん~…!!気持ち良い朝ね!!」
「…周りは未だに薄暗いがな…。」

自分の妻であるサイファーの元気さに呆れながら、眠気覚ましのコーヒーを飲むスカーフェイス。実はサイファー、興奮して一睡もしてないそうだ。
まるで遠足前の小学生である。

「しかし…岩手県か。…名産はなんだったか…。」
「やっぱり前沢牛に、三陸海岸の海の幸じゃないかしら?」
「後で高町家にも、お土産を買って帰らないとな。」
「そうねぇ、なのはちゃんから、メビウスちゃんを取っちゃったものね。フェイトちゃんは、喜んでくれたけど。」
「…すぅすぅ…」
「くぅ…。」
「ふふ、本当に可愛いわ♪」

静かに眠るメビウスとフェイトの頭を笑顔で撫でるサイファー。少しくすぐったかったのか、フェイトは身じろぎをして、更にメビウスにくっついていく。
それを見て、スカーフェイスも笑みを深くする。優しい息子と可愛らしい娘。彼らにとって、掛け替えの無い宝物だ。

「さて、そろそろ時間だな。ほら、2人とも起きろ。」
「ふへ…?…時間…?」
「すぅ…すぅ…」


東北新幹線内部


「…眠い。」
「なんだい?今度はガルムの番か?」
「あのな…我が支えてたお陰だというのに…えぇい、寝る、起こすなよ。」
「はいはい。まっ、ゆっくり寝てな。」

隣のアルフに視線を送り、ガルムが椅子に深く腰掛ける。
新幹線に乗れ込み、一路岩手県に向けて出発したのだ。席の割り当ては、サイファーとスカーフェイス、メビウスとフェイト、そしてガルムとアルフである。
やはり、フェイトはまだ眠いのか、メビウスの肩に頭をチョコンと乗せて、夢の中に居る。メビウスは、持ってきた本を読みながら、動かないようにしている。
サイファーとスカーフェイスも、パンフレットを読みながら、旅行の計画などを考えているところだった。
ソッとガルムを起こさないように、アルフは顔を覗き込む。

(へぇ、結構、綺麗な顔してんだね。)

何時ものガルムと違い、安心しきった寝顔を、不思議そうに見つめるアルフ。
メビウスの傍に居るときは、常に周囲を警戒している彼なのだが、今はみんなが傍に居るということもあってか、完全に熟睡していた。
アルフはその顔を少し見つめた後に座りなおし、フェイトと同じようにガルムの肩に頭を乗せて、眼を閉じた。
なんとなく…やってみたい気分になったようだ。最も、少し顔が赤くなって入るようだが…。

(…なんだか、いい夢が見れそうだよ…ガルム…。)



「…んん…ふにゃ…。」
「…ふふ、フェイト。」
「ん~…。」

メビウスが小さく笑って、名前を呼んで頭を撫でれば、満足げに再び眠りにつきフェイト。頭を撫でれば、金の髪がサラサラと指の間を流れる。
再び、メビウスは持っている本に視線を戻し、大切な妹を起こさないように静かにページをめくり、続きを読み始める。

「お兄…ちゃん…。」
「ん?」
「すぅ…すぅ。」

呼ばれて反応してみれば、どうやら寝言のようだ。くっ付いているからか、その顔は安心しきっている。
メビウスも本にしおりを挟み、眼を閉じる。フェイトの寝顔を見ていたら、自分もまた眠たくなってきたのだ。
小さくあくびをしながら、メビウスも夢の世界に旅立つことにした。



「やれやれ。我が家の子供と使い魔達はみんな、夢の世界…か。」
「ふふ。仕方がないわよ。朝早いもの。」
「……」

一瞬、誰の立てた計画だ。と、突っ込みたくなったスカーフェイスだが、そんな事を言えば、笑顔で色々とされるので黙っておくことにした。
彼女の笑顔の圧力は…凄まじい。

「しかし、レンタカーまで準備してるとは…何時の間に…。」
「そうと決まったら即行動よ!!」
「…無計画な一面もあった気もするが…。もっと事前に教えてくれればよかったのに。」

ため息をつきながら、パンフレットを捲るスカーフェイス。…これもサイファーが準備してたのだが、一体何時から行く気だったのだろうか。

「しかし、二泊三日とはね…。」
「そうよ~。久々の家族旅行、思いっきり満喫しなきゃ!!まずはリアルグルメレースをやって…あ!!わんこ蕎麦大会があるじゃないの!!」
「…それだけはやめろ。というか、止めてくれ…」

本日、10回以上のため息を付いているスカーフェイス。ため息をつくと幸せが逃げる…とよく言われているが、恐らく迷信だろう。
何故か?理由は簡単だ。こんな事を言っているが、彼は今、最高に幸せだからだ。
愛する妻と大切な息子、娘。頼りにしている使い魔達。家族で一緒に居ることが…彼にとって何よりの幸せだ。






「さぁ、着いたわよ!!岩手県!!」
「か…母さん、周りに人が見てるよ。」

両手を挙げて、宣言するサイファーを顔を赤くしながら止めるメビウス。…流石に恥かしいようだ。
スカーフェイスとガルムは他人の振りをしながら、レンタカーに荷物を積み込んでいた。息子に頼らずに止めてやれ。

「フェイト、フェイト。なんだか珍しいのがあるよ?」
「あ…本当だ。玉子…?」
「お菓子みたいだよ。へぇ、おもしろいねぇ。お、試食があるから、食べてみるかい?」
「うん。あ…甘くておいしい。」


フェイトとアルフは着いて早々に、駅のお土産コーナーを見てまわっていた。
文字の如く、初めての旅行なのだ。お土産探しも、旅の醍醐味である。

「さぁ!!メビウスちゃんも一緒に!!着いたぞー!!」
「え…えぇ!?」
「はい!!ついたぞー!!」
「つ…着いたぞ~…。」
『マスター…恥ずかしそうにしながらもやるのですね…。……録画録画…。』

顔を真っ赤にしながらも、サイファーと一緒に叫ぶメビウス。…親子である。

「メビウス様…可哀想に…」
「…すまない。」

いや、だから止めてやれ。



・レンタカー・

本日、僕が乗せるお客様は、とても元気なお母さんと、静かなお父さん、そして、可愛い子供さん達と…犬?
人間と同じ姿をしてるけど…まぁ、お客様には代わりありません。僕のお仕事は、みんなを運ぶことですから。

「いざ!!山登り!!」
「…本当に疲れ知らずだな。」
「お兄ちゃん、顔真っ赤だよ…大丈夫?」
「フェイト、なんでもないよ、大丈夫…だと思う。」

男との子は、さっきお母さんと一緒にやったことが恥かしいのか、顔が真っ赤になっています。僕が見てて、珍しい光景でした。
女の子は、そんな男の子、お兄ちゃんが心配なのか顔を扇いであげたり、飲み物を渡したりと、甲斐甲斐しくお世話をしてあげてます。
凄く仲が良いんですね。

「ガルム、あれってなんだい?」
「あれは…」

一番後ろに座っている女性が、隣に居る男性に街中の珍しいものを指差して、質問をしています。
男性も邪険にせずに答えてあげてますから、こちらも仲は良いみたいですね。…恋人同士とは…少し違う気がします。

『………』

すると、男の子のペンダントさんが、ジッと僕を見つめてきます。なんだか、同族の気がします。

『始めまして。エクスです。今回はよろしくお願いしますね。』
あ、どうも。僕はレンタカーです。レン太って呼んでください。
『レン太…。分かりました。』
なんだか賑やかな家族ですね。
『そう思いますか?』
はい、僕も結構レンタカーしてますけど、ここまで賑やかなのも久々です。初めての旅行ですか?
『そうですね。フェイト様とアルフ、女の子がフェイト様で、後ろの女性がアルフです。家族になった記念で旅行をすることになったんですよ。』
へぇ~。そうなんですか。家族になった記念…良いじゃないですか。
『えぇ。実は私も始めての旅行なんですよ。柄にもなく楽しみで仕方ありません。』
ここはいいところですよ~。緑も多くて、美味しいものも沢山あります。ご紹介しましょうか?
『それじゃ、お願いします。』


僕はエクスさんとお話をしながら、ようやく冬季封鎖が解除された山道を登っていく。
目的地は、どうやら山の上にある温泉のようです。あそこは見晴らしも良くて、正に天然温泉ですからね。お肌にもいいはずですから。

「自然が一杯だね。」
「うん、…あ、何か動いたよ?」

女の子が男の子と窓の外を眺めて、遠くの何かを見つけたようですね。あぁ、多分、狐かな?ここら辺は、狐や狸が良く出ますから。

「あらぁ。きっと狐じゃないかしら?あ、ほら、こっち向いたわよ?はい、双眼鏡。」
「あ、ありがとうお母さん。…本当だ、可愛いなぁ。」
「そうだね。私も始めてみたよ。」

狐なんてそんな頻繁に見ることないから、僕も得した気分です。ところで、母親さん、…その双眼鏡、何処から出したんです?
更に僕は山道を登って、トンネルを潜る。さぁ、ここから先はとても綺麗な景色ですよ。

「ふわぁ~…凄いよ、お兄ちゃん!!」
「本当だ…雪の壁だ!」
「もう溶けてなくなったかと思っていたが、まだこんなにあったんだな。」

はしゃぐ男の子と女の子。特に女の子は始めてみたからか、男の子の手を凄く引っ張っています。
ふふふ~。有名なところには劣りますが、ここの雪壁凄いんですからね。僕の倍はある高さですから。
山の上にはまだまだ沢山、雪があるからこういう光景が楽しめるんですよ。
山頂に着けば、いい景色が見れますからね。


・山頂・

「凄い凄い!!父さん、こんなに空が近いよ!!」
「雪も沢山残ってる…、きれい…。」

はしゃぐメビウスと、残っている雪に触るフェイト。流石はソラノカケラを持つ少年。空に近いだけで、かなり元気になるようだ。
山頂の施設で休憩をとることにしたランスロット一行。周囲には、観光バスや、他の旅行者たちの姿も見える。
まだ地面には雪が残っており、肌寒い。しかし、そんな事はお構い無しに、空を見上げるメビウスと寄り添うフェイト。

「凄いね、ここの空は…凄く澄んでる。」
「そうなの?」
「うん。あぁ、こんな空を飛べたら…気持ち良いだろうなぁ。」
「ふふ、お兄ちゃん、すごくはしゃいでる。」
「そう言うフェイトだって、雪を見てはしゃいでだでしょ?」
「あう…。そうだけど、初めての旅行だし…」
「あはは、冗談だよ。けど…ん~、いい気分だよ。」

眼を閉じて背伸びをするメビウス。そんな2人を眺めて笑う彼等の両親。
ガルムとアルフは休憩所に行き、人数分の飲み物を買っているところだ。

「つれて着て、よかったわね。」
「あぁ、フェイトも喜んでくれてるみたいだからな。」
「メビウスちゃんと一緒なのが…良いのかもしれないわね。」

どちらからともなく手をつないで、景色を眺める子供達を見てサイファーは思う。
自分がこんな暖かい家庭をもてるなんて…夢にも思わなかった。きっと、夫のお陰だろう、とその横顔を見つめるのだった、

「くしゅん…」
「あ、フェイト、寒い?なかに戻ろうか?」

小さくフェイトがくしゃみをする。やはり雪が残っているだけあって、山頂は寒いようだ。
しかし、フェイトは首を振って、メビウスの腕をつかんで、もっと寄り添うようにした。

「こうしてれば…暖かいから…。」
「そう?けど、無理しないですね。」
「うん…。」

肩に頭を乗せて、フェイトは幸せそうに笑顔を浮かべていた。




「…なんか、変な匂いがする。」
「硫黄の匂いだな。大丈夫か?」
「うん、少し鼻がむずむずするけど、大丈夫だよ。」

山頂から出発し、少し進むと感じる硫黄の香り。いち早く、匂いを感じ取ったのは、やはりガルムとアルフだった。
流石に嗅覚は優れているようだ。確かに、少し向こうから湯気が立ち上っているのが見える。

「あれって…温泉!?」
「海鳴の温泉と違う…。本当に湧き出てる。」

メビウス達も驚いている。ここは源泉がすぐ傍に、見えるところにあるのだ。
そして、硫黄の匂いも強く、まさに天然温泉であり、秘湯。
その先に見える、小さな温泉宿。東北で一番高いところに存在する温泉だ。(実在)
一行は車から降りて、温泉宿を見上げる。ある意味で風情がある。

「あ、荷物は乗せてて良いわよ。泊まるのは下だから~。」

荷物を降ろそうとしたスカーフェイス達を止めて、サイファーは館内に歩き出す。
その後ろを追いかけていくメビウスとフェイト。

「えっと、子供2人と大人4人でお願いします。」
「はい、こちらですね。お昼は12時から2時までとなっております。時間内にきてくださいね。休憩室は向こうですので。」
「ありがとう~。」

受付に軽く礼を言いながら、休憩室に向こう一同。歩くたびに床がギシギシとなるが、造りが悪いわけではないのだろう。
そうでなければ、数10年と東北の雪等に耐えられないはずだ。

「あ…ねぇねぇ、お兄ちゃん、これなに?」
「ん?…山菜や木のマップだね。何処になにがあるのかって、ここに書いてあるんだよ。」

メビウスの手を引っ張って、廊下に張り出されている地図を指差すフェイト。他にも、野鳥や野生動物達の生息地域などが書かれている。
その上には、野花などの写真も飾られており、見ているだけで楽しい。

「しっかし、誰も居ないねぇ。」
「冬季封鎖が解除されたばかりだからな。山頂の観光程度で終わるのだろう。」

ガルムとアルフはタオル等が入ったバッグを休憩所に置き、周りを見渡す。
確かに、彼ら以外、客の姿は見えない。

「ふふふふ…好都合ね…!!そうと決まれば、温泉よ!!」
「…う…寒気が…」

密かに怪しく眼を光らせ、笑みを浮かべるサイファー。そして、売店でお茶を買っていた、スカーフェイスが感じる特大の寒気。


露天風呂


「はふぅ~…最高…。」
「メビウス様、とろけてらっしゃいますね…。」
「まぁ、確かに最高だな。」

男性陣が入っている露天風呂。これがこの温泉の自慢の風呂だ。周囲は大自然ということもあって、何も遮るものはなく、山脈を眺めることが出来る。
そして、上は澄み切った青空に、周囲にはまだ白い雪が残っている。
ここの露天風呂の特徴は、6つの露天風呂を、木の板で出来た通路で結んでいるのだ。しかも、見えるところに、源泉が流れており、それを眺めて楽しむ事も出来る。
そして、白濁した湯のそこには、湯の花が溜まっており、それを身体に塗ることも出来るのだ。

「最初はどうなるかと思ったけど…こんな良い温泉があったんだねぇ…」
「本当だな。天気も良いし、眺めも最高だ。…紅葉時はもっと綺麗だろうな。」
「先ほど、日の出の写真や、星空の写真を見ましたが、とても綺麗でした。ここに一泊しないのが少し残念です。」
「日の出と星空かぁ。見たかったなぁ。」
「また来ればいいさ。今度は、秋にしよう。紅葉もみたいからな。」
「良いの父さん!!」
「あぁ。その場合はまた4時起きだけどな。」

3人で温泉につかりながら、笑いあっている。すると、後ろのほうで扉が開く音が聞こえた
誰か来たのか?と後ろを振り向いたスカーフェイスは…硬直した。

「フェイス~、来たわよ!!」
「なんであんた等がここに!?…って、サイファー!!タオルタオル!!」
「当然よ!!ここは混浴だもの!!」
「え!?こ…混浴!?って、お兄ちゃん!?え…えぇ!?」

そこに居たのは…服を脱いだサイファーと、タオルを巻いたフェイトとアルフ。
石化の魔法を受けたように固まるメビウスとガルムと…

「た…タオルを巻けえぇえぇぇええぇぇぇえ!!!!!!」

スカーフェイスの声が…露天風呂に響き渡っていた。

続く!!




あとがき

やってみたかった、後悔は…してないはずです…。
騙して悪いが東北人なのでな、自慢させてもらおう。

興・千「さぁ、みんなも温泉で、裸のお突き愛を…や・ら・な・い・か?」

ここの温泉は実在します。行ってみてください、本当に気持ちが良いです。作者もお気に入り。年に数回しかいけないですが…。
とりあえず、こんな話を少し続けてから、二期に突入したいと思います。
予定は…立てません。多分、守れる自信ないです…。
次回、明かされるサイファーお母さんのプロポーし(通信途絶。

以降も返信は感想掲示板に載せる事にしました。













おまけ


堕ちる…堕ちる…母と娘は堕ちて行く。
深淵の闇の中…堕ちて行く。
だが…そこに聞こえる…優しき声。

「おい、界…誰か倒れてるぞ?」
「んな訳ないでしょ。誰も呼んでないし…って、なにぃ!?本当に倒れてる!?」
「先ほど、巨大な次元の揺れがありましたから…それに巻き込まれたのでしょうか?」
「時の迷い人…か。…助けるぞ。」
「ふふ!!今こそ、コジマの真髄を見せるとき!!」
「絶対に来るな、お前は絶対に来るな!!」
「……だ…れ…?」

母と娘は消えるはずだった。しかし…世界は見捨てなかった。
この優しき母と…悲しき娘を見捨てずに…世界は界に導いた。
たどり着くは…時の果て。出会うのは…果ての使徒。
そして、この出会いにより…彼らと少年達の運命が交差する。



[21516] ランスロット家温泉旅行記その2&ブレイズさんの休日
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/02/01 16:55
ランスロット家温泉旅行記、家族団欒。露天風呂!!

現在、露天風呂には妙な雰囲気が漂っていた。
1つの風呂に入るランスロット家。顔色、機嫌などはさまざまだ。

「………」
「ふふふふ~♪」

何時にもまして、仏頂面のスカーフェイスとその腕に抱きついてご機嫌のサイファー。ちなみに、フェイトとアルフの尽力により、タオルを巻くことに成功していた。
彼女の豊満な胸が、スカーフフェイスの腕に当たっているが…誰も突っ込みを入れない。と言うか、入れれる状況ではない。


「絶対にこっちをみるんじゃないよ!?絶対だよ!?」
「だったら、別な風呂に行け…。態々、我の真後ろに来ることもなかろうに…!!」

ガルムと背中合わせに、温泉につかるアルフ。タオルの胸元をしっかりと押さえ、顔を真っ赤にしている。…チラチラとガルムの背中を見る辺り、何か可愛らしい。

「……」
「あのさ、フェイト…。」
「ひゃ…ひゃい!?」
「いや、そこまで驚かなくても…。」

フェイトもアルフに負けないくらい、顔を真っ赤にしながら、メビウスの隣で温泉に浸かっている。恥かしいのと、離れたくないので、色々と混乱しているようだ。
メビウスも困ったように笑いながら、景色を眺める。…もしかすると、この少年が一番冷静かもしれない。

「凄いわねぇ。天然温泉でこの絶景。ん~…いい気分!!」
「お前は…。はぁ…もう良い。旅行に着たのに、一々、怒ってもしょうがないか…。」

笑顔のサイファーに拍子抜けしスカーフェイスも表情を和らげる。

「さっすがフェイス!!優しいわねぇ♪」
「だからと言って抱きつくな!!子供達がいるんだぞ!?」
「は…はわわ…。」
「ちょ!?フェイト!?フェイト!!???」

更に抱きついてこようとするサイファーを引き剥がすスカーフェイス。仲睦まじいと言うより…バカップルである
そして、それを見て真っ赤な顔をして、眼を回したフェイトを、必死になって沈まないように支えるメビウス。…子供達の苦労をわかってやれ。

「…ところで、フェイス?」
「なんだ…?」
「ここの湯の花って、身体に塗ると美容に物凄くいいらしいのよ。」
「まぁ…温泉の成分だから。底に沈殿もしているぞ?」
「…塗って欲しいなぁ?背中とか届かないし~。」
「な…に…!?」

そう言いながら、サイファーの眼が怪しく光る。その眼は…狩人の目だ。
スカーフェイスの脳内でレッドアラートが起動し、悪寒が走る。
この表情をされた時は、碌な事が無い。それだけに、回避しなければいけない事態なのだ。
とりあえず、優しい息子に救援を…

「メビ…」
「あ、私、フェイトの事、看病しないと…。ほら、下の温泉に行こう?雪で頭を冷やせるし。」
「はにゃぁ…」

メビウスは、放心状態のフェイトの手を引きながら、下の露天風呂に向かう…。
…どうやら、見放されたようだ。なならば、頼りになる使い魔に…。

「ガル」
「アルフ、向うの方が眺めがよさそうだ。行くか?」
「へ!?…そ…そうだね。付き合ってやっても…良いよ?」

景色を見に行ったガルムと、赤くなりながらも後を追うアルフ。
どうやら…みんな、何か感じ取ったのだろう。立ち去り際に、みんなが「無理」と言った表情を一瞬浮かべていた。

「………どいつもこいつも…!!」
「ふふ…フェイス~♪」
「ちょ…まて…おいやめ…!!」

後に残ったのは…サイファーに追い詰められるスカーフェイスだけであった。



・フェイト・

「大丈夫…?」
「う…うん…。」

お兄ちゃんが持ってきてくれた雪を額に当てながら、私はうなずく。雪の冷たさが、火照った顔に丁度良くて、気持ち良い。

「父さん…大丈夫かな。」

さっきのお父さんとお母さんのやり取りを思い出して、私も少し心配にな。…お母さんの眼、少し恐かったなぁ。
けど…胸、大きかった…。…私もいつか、あの位になるのかな…?

「…何時ものことか。」
「?」

首をかしげる私に、「なんでもない」と答えながら、お兄ちゃんは少し乱れた髪を、頭の上でまとめて、温泉につかる。
私はまだ熱いから、ふちに座って足だけを入れて、景色を眺める。

「2人だけにして、良かったの…?」
「ん~…。多分、母さんは父さんをからかってただけだと思うけどね。」


「お前は…人をおちょくって…!!」
「あはははは!!だってフェイス…顔が真っ赤で…!!あはははは!!!」

「ね?」
「ふふ、本当。」

上か聞こえてくるお母さんの笑い声を聞きながら、2人で笑う。
ん…少し、身体が冷えてきたかな…?私も、ピンで髪を留めても、お兄ちゃんの隣で温泉につかる。
はぁ…温かい…。

「海鳴と違って…山の景色だね。」
「うん、あっちは海が多いから。」
「…始めてあった時は…臨海公園で海が見えたよ。」
「あぁ、懐かしいなぁ。天体観測に行った時だったね。」
「ふふ、懐かしいって…そんな前のことじゃないよ?」
「そうだっけか?色々あったからさ、そう思うだけかな?」

笑いながら、私は初めて出会った時の事を思い出す。あの時…お兄ちゃんに、メビウスにあってなかったら、私はどうなっていたんだろ?
あの時の私は、彼とこんな風に話したり、こんな関係になっていると想像がついたかな…?
ふふ…多分、つかなかったと思う。

「…ふふ、お兄ちゃん。」
「ん~、なに、フェイト?」
「なんでもないの。ただ、呼んでみたかっただけ。」

甘えるように、また肩に頭を乗せてお兄ちゃんに寄り添う。呼べば答えてくれるし、私の名前を優しく呼んでくれる。それが堪らなく嬉しいと感じる日々。
頭に?マークを浮かべながらも受け入れる彼は、やっぱりやさしい。

(母さん…今、私は…とっても幸せです…。)




・ガルム・

あの後、それぞれが風呂を満喫、昼食の時間となったので、食堂にと集まっていた。

「アルフ、大丈夫?」
「うぅ…野菜ばっかりじゃないか…。」
「あはは…。山菜尽くしだね。」

メビウス様の言うとおり、食堂で出されたのは、山菜の天ぷらのバイキングだ。
落ち込むアルフを心配するフェイト様。…そう言えば、名産が牛肉と聞いて、喜んでいたからな…アルフは。

「我侭言ってもしかたがない。アルフも我慢して食べろ。」
「はいよ…。はぁ…」

フェイス様が、人数分の水を配りながら、アルフをなだめる。

「あ…凄く冷たくて美味しい。ただのお水じゃない…?」
「天然水だな。フェイト、お代わりは?」
「え?…あ…。」

それほどまでに美味しかったのか、フェイト様のコップは直ぐに空になった。フェイス様が苦笑しながら、フェイト様のコップに再び水を入れてくる。
サイファー様は、先ほどから、料理人と何か話をしている。


「どうやら、調理法を聞いているらしい。…うまくいくと良いんだが…」
「お母さんの料理…時々、すごいもんね。」

フェイト様の言う通り、サイファー様の手料理は…時々、凄まじい破壊力を持っていることがある。

「メビウス様、蕎麦はどうしますか?」
「あ、お願いできるかな?フェイトも食べる?」
「うん。私は少なめが良いな。」
「御意。」

フェイト様と一緒にバイキングに向かうメビウス様を見送りながら、我は蕎麦の湯に通す。
ここでは、自分で蕎麦を茹でて食べることが出来るようだ。網に入れ、軽く湯に通し…上げて湯を軽く切ってと…

「へぇ~、あんた、なかなか様になってるじゃん。」
「お前も食べるか?」
「うん。頼むよ。」

背中越しに、我の手元を覗き込むアルフに食べるかと聞けば、用意の良い事に、自分の分の入れ物を持ってきていた。
まったく…再び、同じ手順で蕎麦を入れ物に入れ、汁を注ぐ。これで3人分完成だな。

「アルフ、それ以外は食べないのか?…焼き魚もあるぞ?」
「あ~…あたしは肉が良いんだけどねぇ…。それに、魚って骨あるじゃないか」
「好き嫌いをするな。それにその発言、猫に喧嘩を売ってるぞ…。」
「別にいいだろ。あんたもあたしも、猫じゃないんだから。」

ため息をつきながら、我は適当な三菜をバイキング用の皿にいれ、テーブルに持ってくる。
それを先ほど、作った蕎麦にいれ天ぷら蕎麦にして食べ始める。メビウス様達も、天ぷらや焼き魚等に舌鼓を打ち、楽しんでいるようだ。
アルフに視線を向ければ…蕎麦とご飯だけか…。それでも充分、楽しんでいるからいいんだが…仕方があるまい。

「…アルフ、これも食べろ。」
「あん?焼き魚は要らないって…あれ?」
「骨はとって置いた。…折角の天然ものだ。食べなければ損だぞ。」

先ほど選んでおいた魚の骨を取り除き、アルフに渡す。手間がかかったが…別に構わんな。
天然物の魚は美味しく、このような所でしか楽しめない味だ。

「あ…ありがとう。…お、本当だ、うまいじゃないか。」
「あらあら~…。ガルムとアルフ、仲が良いわね~♪」
「なっ!?そ…そんな事ないよ!?こいつとあたしは、なんでもなくて…って、そう言うことが言いたいんじゃなくて…」
「照れちゃって~♪」
「…ご飯粒が着いてるぞ。ほら、拭いてやるからこっちを向け。」
「~~~!!!」
「わ、顔真っ赤だよ、アルフ?」
「フェイトまで~…!!」

なにやら、顔を真っ赤にしながら喚くアルフ見ながら笑うフェイト様達。
…一体、なんだというのだ?…それが原因か分からんが、先ほどからアルフが我を睨んでくる。
…本当に訳が分からんぞ…?







ミッドチルダ

市街地のあるマンション。

・ブレイズ・

「ん…朝…か?」
『おはようございます、マイロード。朝と言うよりは…昼前ですね。』

ベットに備え付けられている時計を見ながら、起き上がる。
…寝心地が悪いと思ったら…制服のままか。眠気が覚めない頭で、昨日の事と今日の予定を思い出す。


「…久々の休みか…。」


寝癖でボサボサになった頭を振りながら、つぶやくようにしてベットから這い出る。帰ってきて、速攻寝たんだったか。
ここは俺の暮らしているマンションの一室。宿舎にも部屋があるが、あまりそちらを利用はしない。
1人暮らしには広すぎる家を与えてくれたハーリング提督には、本当に感謝している。
あの人に言わせれば「少し部屋が殺風景すぎるね」…だそうだ。自室には必要最低限の家具だけだからな。
カーテンを開けると、薄暗い空。肌寒いと思ったら、雨も降っているようだ。

『マイロード、シャワーを浴びられては?昨夜は、そのまま眠ってしまったようです。』
「…そうするか。お前も休んでていいぞ?」
『イエス、マイロード。』

整備用のデスクの装置にスペシネフをセットして、起動させる。ある程度の修復と整備はこれで出来る。
かなり高価な機器らしいが、ハーリング提督とリンディ艦長が融通してくれた。…本当にあの人達には頭が上がらない。
シャワールームに行き、頭からお湯を浴び身体を洗っていく。
…眠気でぼけていた頭がすっきりとしていくのが、分かる。冷えた身体が温まり、指先にも暖かい血流がめぐり始める。
ひとしきり、身体を洗い、バスルームから出て身体を拭く。

ぐう~

「………なにかあったか…?」

ため息をつきながら、冷蔵庫の中身を思い出す。…流石に帰ってきて、食事もとらなかったから…腹がへった。
タオルで頭を拭きながら、キッチンに向かい、冷蔵庫の中身をあさる。
…ベーコンに卵か…。目玉焼き程度で良いか。
少し水気の残った髪を気にせずに、フライパンに油を薄く敷いて、目玉焼きを作り始める。
トースターにパンもセットしておいたから…すぐに食べれるだろう。

「まぁ、こんなものか。」

独り言を呟きながら、リビングに玉子焼きとパンを運び、少し遅めの朝食で、早めの昼食をとることにした。
ソファにすわり、コーヒーを飲みながら、テレビをつける。

「昨夜、中央銀行で強盗事件が発生しました。なお、犯人グループは既に管理局が逮捕した模様です。今回は迅速な対応でしたね。」
「偶然にも、近くを局員の方が通りかかった時に起きた事件のようですからね。運が良かったのでしょう。」
「しかし、最近はこのような事件が…」

ピッ

すぐにリモコンでテレビの電源を切る。何故に自分が解決した事件のニュースを、見なけりゃいかんのだ。
…迅速な対応…ね。陸、海、空。この3つが全面的に協力し合い、隔たりなく行動できれば…人手不足やら、魔道師の無駄遣いやらがなくなるんだが。
それを実施しようとしているのが、ハーリング提督を筆頭にリンディ艦長やレティ提督、そして、バートレット教官やランパート教官も賛同している。
まぁ、確執やらでうまくいかないが、実施している部隊も存在する。ヴォイチェク隊長の率いるシュトリゴン隊だ。
あの部隊は管理局の中でも、別格だろう。現にあの陸でさえ、シュトリゴン隊に救援を求めることもある。
バートレット教官やランパート教官もその気になれば、入隊できるんだが…。2人は別なところで貢献してくれている。
すなわち、優れた魔道師の教育だ。…そういえば、教導官試験を受けるとか言っていたな。あの2人なら心配ないだろう。

「…メールか。」

テーブルにおいてあった端末が、電子音を立ててメールの着信を知らせる。
…誰からだ?と思いながら、操作すれば…。

「はは、あいつか。」

差出人は、メビウス・ランスロット。…PT事件後に、連絡先を閃やオメガ、ユーノとも交換していた。
それから、こうしてメールのやり取りをすることがある。内容は日常のことなど。たまに、魔法のアドバイスをしてやることもある。
ん…、内容を見る限り、家族旅行に行ってくるから、お土産を買ってきます…と言うことか。
時々だが、閃やオメガが地球の名産品を送ってくれることがあり、クロノ達と一緒に食べることがある。
あの納豆…だったか…、最初は食べれるのかと思ったが…案外、いけたな。何気にクロノもいける口だったしな。
流石に、リンディ艦長やエイミィは無理だったが、女性にはきついのかもしれんな。

ピンポーン

リビングに響く、呼び鈴の音。来客か…?
コーヒーカップを置いて、備え付けのモニターの電源を入れる。
そこに映ったのは、俺の2人の親友の姿。

「よぅ、ブービー!!遊びに来たぞ!」
「チョッパー、肩に腕を乗せるな。重いだろ…」
「クロノに…チョッパーか。今あけるよ。」

笑顔でクロノと肩を組むチョッパー。本名はアルヴィン・H・ダヴェンポート 。通称、チョッパー。
自分より、大柄な彼の腕が重いのか、クロノはしかめっ面をしていた。
俺達とは同い年であり、訓練をともにした仲だ。玄関のロックを解除して、2人を向かいいれる。

「久々だな。相変わらず、元気そうでなによりだ。」
「おう、ブービーも元気そうじゃねぇかよ。…お、メシの最中だったか?悪い悪い。」
「別に良いさ。待っててくれ、コーヒー入れるからな。」
「ありがとう。…チョッパー、くつろぎすぎだろ。」
「クロノも座れって。オイラ、1人は寂しいぞ~。」

フックに上着をかけながら、クロノもソファに座る。チョッパーは言わずもがな、自分の家のように寛いでいるよ。
まぁ、入隊前はこうして、俺のけで3人で集まってたものだな。俺とクロノは海に、チョッパーは空に配属され、こうして会うのは久々だ。

「ん…。なんだ、ブレイズにも彼からメールが来てたのか?」
「クロノにもいってたんだな。…まぁ、楽しみにしてようか。」

開きっぱなしだった端末に眼が言ったのか、クロノが笑いながら、こちらを見る。
こいつもメビウス達と連絡先を交換していたからな。…土産が楽しみなんだろう。

「おいおい、2人してなんの話してんだよ?俺だけ仲間はずれか?寂しいねぇ…。」
「仲間はずれって訳でもないんだが…。」

おどけた様にしながら、落ち込むチョッパーに苦笑しながら、出したコーヒーを飲むクロノ。
本当に…退屈しないな。俺は軽く掻い摘んで、内容を話す。

「へぇ~。地球の名産ね…。なぁ、それなら向こうの音楽とかも送ってらえんのかな?」
「どうだろうな?頼めば、送ってくれそうだが…。またロックか?」
「当然だろ。ロックンロールは俺の命だぜぃ!」
「僕やブレイズが頼んだら、驚かれそうだな。」
「違いない。」
「なんだよ~。お前らだって、ロックは好きだろ?」
「まぁ…否定はしないさ。」

小さく笑いながら、食事に使った皿などを片付ける。
俺やクロノがロックンロールのCDを頼んだら…あいつら、驚くんだろうな。
機会があれば、チョッパーにも紹介するか…。クロノも同じ事を思ったらしく、チョッパーに「後で紹介するよ」といっていた。

「よし、そうと決まれば…ブービー、コンポ借りるぞ?」
「別にいいが…。今日は誰の曲だ?」
「決まってらぁ、俺っちお勧めの、ローリングサンダーだぜ。」
「まったく…」

コンポから流れるロックを聴きながら、俺達は3人それぞれの近況を話し始める。
たまには…こう言う休日もいいものだな。



あとがき

ブレイズ・クロノ・チョッパー。関係的にはメビウス・オメガ・閃のような親友関係です。
…チョッパーらしさが出てれば良いのですが…。
とりあえず、旅行記は次回で最後で、また別な小話でも書こうかと。
さっさと2期に行けと言う意見が多数出てきた場合は、速攻で2期に突入しますので…では。




[21516] ランスロット家温泉旅行記その3&廻る歯車
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/02/03 23:59
・メビウス・

「と、言うわけで、ここが今日泊まる旅館よ!!」
「また…大きなところだな。」

最初に行った山の上の温泉から、車で移動してたどり着いたのは、麓に在る大きな旅館。
周りにも幾つか旅館があって、色々な温泉を楽しめるみたいだね。
私とフェイトは、自分の荷物を持て、母さんと一緒にロビーに向かう。
すると突然、フェイトが驚いたようにして、私の腕に抱きついてくる

「お…お兄ちゃん、あれ…なに?」
「え?…鬼…?」

フェイトが指差す先には、白い鬼面をつけて刀を持っている人形が飾ってあった。
その後ろには、その人形と同じ格好をした人が踊っている写真もおいてある。少し気になって、私は近くに居た従業員の人に声をかけることにした。

「すいません。あの鬼みたいなのって…なんですか?」
「はい?…あぁ、あれですか?あれは鬼剣舞と言う踊りの装束なんですよ。説明しますか?」
「あ、お願いします。」

母さんもフロントで何か手続きをしているから、少し話を聞くのも良いかな?

「ずっと大昔に、この地を荒らす鬼達がいたんですよ。畑や田んぼを荒らすから、作物も取れずに農民は困り果ててしまいました。
だから、お坊さんに頼んで、どうにかしてもらおうとしたんですよ。お坊さんは一度、鬼達の為に宴を開きなさい、といいました。
それを聞いて、村人達は鬼達の為に宴を開きました。すると、どこからともなく、一匹の猿がやってきたのです。」
「猿…ですか?」
「えぇ。実はその猿は仏様の化身で、宴をする鬼達に混じり、踊り始めたのです。その踊りに誘われ、鬼達も踊り始めました。
すると、鬼達の汚れた魂は清められ、仏様の化身となり、村を護る存在になったのです。」
「えっと、それじゃ、この鬼は…神様?」
「そうですよ。私も祖母から聞いた話ですから、本当かどうかは分からないですが…。守り神と思ってる人も沢山居ます。
だから、お嬢さんも恐がらないでくださいね。」

にこやかに笑って、従業員の人が戻っていく。
そっかぁ…守り神…なんだ。その話を聞いたからか、フェイトも恐がる様子はなくなった。
…実はこれより恐いのと、今まで戦ってたんだけどね。
けど、鬼の神様かぁ。………鬼神…?

「どうしたの?」
「なんでもないよ。さぁ、父さん達の所に行こう。」

小さく笑った私に気が付いて、首をかしげるフェイトの手をひいて歩き出す。
フロントの前では、母さんが何か…また怪しく笑いながら、私達を待っていた。
…ロビーに入ってきた瞬間、父さんがビクっ!!てなってたね…。

「それじゃ、鍵を配るわね。はい、メビウスちゃん。」
「え…?」
「こっちはガルムねぇ。」
「はぁ…?」
「後は私っと…。さぁ、部屋に向かうわよ!」
「待て待て待て待て!!!!!ちょっと待て!!」

エレベーターに行こうとする母さんの肩を物凄い勢いで、掴んで止める父さん。
その表情は…物凄く焦っている…。私も…少しおかしいと思う。
なんで…鍵が3つも…?

「サイファー…、つかぬ事を聞くが…部屋割りはどうなってるんだ…?」
「え?もちろん、私とフェイス、メビウスちゃんとフェイトちゃん、ガルムとアルフ、の組み合わせよ?」
「家族団欒の旅行だろう!?分ける必要性皆無だろ!?」
「今度は夫婦間、兄妹間、使い魔間の絆を深めるのよ!!つべこべ言わずに、行くわよ!!あぁ、夕食の時は、連絡するわね。」
「おい、まて…引っ張るな!おい!?…メビウス、ガルム助け…」
「さて、アルフ、部屋に行くか。」
「あ…あんたと同じ部屋…。い…良いさ、いってやろうじゃないか!!」
「う…裏切り者ぉぉぉぉ…」
「うふ…うふふふふふふ……!!!」

エレベーターが閉まる瞬間に聞こえた父さんの悲鳴と母さんの怪しい笑い声。…ごめん、私には何もできないよ…。
ガルムは私達に一礼すると、別なエレベーターで部屋のある階に昇っていった。


「まったく…、フェイト、私達も行こう?」
「う…うん。あ…その…手…」
「え?…あぁ、繋いでいく?」
「うん!!」

手を差し出すと、嬉しそうに握ってくるフェイト。こんな事でも喜んでくれるなら、繋いでよかったよ。




メビウスとフェイトの部屋。


「えっと…どうかな…?
「うん。似合ってるよ。可愛い可愛い。」
「そ…う?ありがとう。」

部屋について、私達は早速、備え付けの浴衣に着替える事にした。
私は少し青色が強い浴衣、フェイトは桃色がかった浴衣を着ている。
うん、女の子らしくて凄く可愛い。フェイトは顔を赤くしながら、その場でクルリと回転してみせる。
金色の髪と、白い肌が浴衣と相まって、不思議な感じがするけど…うん、やつぱり似合ってるね。

「夕食まで…1時間くらいかぁ。」
「どうすか?温泉に入ってる?」
「ん~…さっきまで入りっぱなしだったからね…。少しゆっくりしようか。」

そういって、私は畳の上に大の字で寝転ぶ。あ~……少し眠くなってきたかも…。
小さくあくびをすると、フェイトは何か気が付いたのか、私の近くに正座して座る。

「お兄ちゃん、その…頭、痛くない?」
「少し痛いかも。座布団を枕にしようかな…。」
「そ…それじゃ、私の膝…枕にする?」

ポンポンとフェイトが自分の膝を叩いてくる。
一瞬、戸惑ったけど、私はすぐにフェイトの膝に頭を乗せて、逆様のフェイトの顔を見つめる。

「大丈夫…?寝心地、悪くない?」
「全然…柔らかくて気持ち良い。」
「よかった…。お兄ちゃん、眠いなら…寝ていいよ?」
「ん、ありがとう…。」

優しく笑いながら、フェイトは私の頭を撫でてくれる。これじゃ…何時もと逆だね…。
フェイトの体温を感じながら、私は眼を閉じて…睡魔に身を任せる事にした…。




・フェイト・

可愛い寝顔…。
それがお兄ちゃんの寝顔を見た、私の印象。
膝に頭を乗せられた時は、心臓が破裂するかと思うくらい緊張した。
けど…乗せてみれば、心が凄く安らぐ。お兄ちゃんの…体温を近くで感じられるからかな…?
ずっと前に、なのはがしてたのを真似したんだけど…あの時のなのはの気持ちが良く分かる。
…凄く恥かしくて…凄く嬉しい。大好きな人が…こんな近くに居てくれるから…。
何時もされているみたいに、お兄ちゃんの頭を撫でてあげる。もう、眠ってるんだけど…ほんの少し身じろぎをする。ふふ…可愛いなぁ。

「…凄い…。髪がサラサラ…。」

まるで女の子に髪を伸ばしているお兄ちゃん。蒼い綺麗な髪は…確かに、切るのはもったいない。お母さんが切っちゃ駄目って言うのも、分かる気がする。
何時もはリボンで結んでるけど、今は解いてロングストレートの髪にしてる。それだけで、凄く印象が違う。

(本当に女の子みたい…。)

けど…凄く強くて…優しいのは知っている。女の子みたいだけど、凄くかっいいのも知っている。
……あう…抱きしめられた時の事を思い出したら、また顔が熱くなってきた…。
私はそのまま、お兄ちゃんが起きるまで、頭を撫で続ける事にした。





ゲームセンター

「さぁ、夜はまだまだこれからよ!!」

夕食のバイキングを終えたランスロット一家。現在、旅館内にあるゲームセンターに集合していた。
やはり、一番元気なのはサイファーのようだ。
最早、メビウスもガルムも止める気が起きないのか、諦めたような表情をしている。ちなみに、スカーフェイスは我関せずの表情だ。いや、お前の妻だろう…。
フェイトとアルフは初めてのゲームセンターなので、色々なゲームを見てまわっていた。

「ゲームセンターといえば…これよねぇ~。」

サイファーが笑顔で見つめるゲーム機。今人気のガンシューティングゲームの最新版だ。しかも難易度も高く、クリアが困難なことでも有名である。
メビウスが見守る中、何故か彼女は投入口に200円入れる。

「あれ、母さん?これ、1回100円だよ?」
「大丈夫よメビウスちゃん。…私はこうやって遊ぶのよ。」

そう言うと、彼女は1Pと2Pのガンコントローラーを両手に握る。

『ようこそ、プロジェクト・アビスヘ、歓迎しよう、盛大にな!!』

画面にオープニングが流れ、最初のステージが始まる。その瞬間にサイファーの眼が変わる。鋭く…正に歴戦の傭兵の眼だ。
両手に持つガンコントローラーのトリガーが引かれるたびに、画面に出てきた敵兵が倒れていく。しかも、全て頭を撃つ、ヘッドショットで撃破しているのだ。
その異様なプレイ方法、そして実力で周囲の利用客達も足を止めて、彼女のプレイを見守っていた。
1ステージをノーダメージ、そして最速、最高得点でクリアーした時には、周囲には多くの観客が集まっていた。


「見える…!!私にも敵が見えるわ!!」
「あの…母さん…?」
「円卓の鬼神は…伊達じゃない!!」
「…は…恥かしいんだけど…。」


意気揚々と、次のステージも敵兵達を撃ち倒していくサイファー。観客も大盛り上がりである。

「す…すげぇ!!全部一発で倒してるぜ…。」
「おいおい、あの敵…出て来た瞬間に撃たれたぞ!?」
「げ…ゲームのシステム上、こっちの銃弾で、敵の銃弾を打ち消せるらしいけど…やった人始めてみたぞ…!?」
「きゃ~!!お姉さん素敵!!」

……こんな所で、己の母の凄さを見せ付けられても、嬉しくないメビウスであった。



サイファーの周りが騒がしくなる一方で、フェイトはクレーンゲームのエリアで、ぬいぐるみを眺めていた。
やはり、女の子である。可愛いものが好きらしい。

「あれ…?」

すると、1つのクレーンゲームの前に、見知った後姿を見つけた。彼女の父親であるスカーフェイスだ。
その周囲には、何故か小さい子供連れの母親や、若い女性が集まっていた。
不思議に思いながら、トコトコとスカーフェイスの隣まで歩いていくと、彼の浴衣の裾をクイクイとひっぱる。


「ん?フェイトか。」
「お父さん、これ全部とったの…?」
「あぁ、こう見えても得意だからな。」

スカーフェイスの足元の袋には、小さなぬいぐるみやら小物やらが、あふれんばかりに詰まっていた。
その1つを近くに居た小さな女の子に渡すと、母親からお礼を言われる。

「すいません…。私じゃとれなくて…、ほら、お礼を言いなさい。」
「ありがとう!!」
「いや、お金はそちら持ちでしたから。」

母親から頼まれて、スカーフェイスが取った物のようだ。笑顔で、母親と手をつないでいく女の子を見送りながら、フェイトは再び、スカーフェイスに視線を戻す。
その顔は何処となく笑顔である。
どうやら、この精悍な父親とファンシーなぬいぐるみの組み合わせが、少し面白いようだ。

「ふむ、まぁ、こんなものかな。フェイトはそれだけで良いのか?」
「うん、お父さん、ありがとう。」

気が付けば、袋は2つに増え、フェイトも笑顔で、小さな猫のぬいぐるみを持っていた。彼が娘の為に取ったものだ。
2人で手を繋いで、サイファー達のところで戻る途中で、フェイトが立ち止まる。
何事かと、スカーフェイスが視線をたどれば…1つのクレーンゲームの景品があった。
少し大きめのイルカのぬいぐるみで、綺麗な青色とつぶらな瞳がとても可愛らしい。

「あれも欲しいのか?」
「あ…うん、けど…難しそう…。」

確かに、イルカのぬいぐるみは大きく、難しい位置においてあった。
スカーフェイスは少し考えるそぶりを見せたが、すぐに100円を取り出すと、コイン投入口に入れる。

「任せておけ。…ここで父の威厳を見せておかないとな。」
「良いの?」
「あぁ、すぐに取ってやるさ。」

クレーンゲームで父親の威厳を見せるのも如何なものかと…。
しかし…1分後、笑顔でイルカのぬいぐるみを抱きしめるフェイトと、満足げに頭を撫でるスカーフェイスの姿がそこにあった。


ガルムとアルフの部屋。

「ふぅ…良い湯だったよ。」

アルフが長い髪をぬらして、廊下を歩いていく。どうやら、温泉に入っていたようだ。時刻は既に遅く、館内の廊下も静まり返っていた。
24時間入浴可能の温泉はこういうときに便利で良い。入りたいときに入れるのが最高だ。

「…あいつと…一緒の部屋かぁ…。」

思い浮かぶのは、自分と同じ紅髪の使い魔ガルム。何故かサイファーの計らいで一緒の部屋になってしまっていた。
彼女のマスターでもある少女と、彼のマスターである少年も一緒の部屋になっている。
フェイトは大丈夫だろうかと…と考えてすぐに思い直す。兄であるメビウスに甘える彼女の姿しか想像できなかったからだ。

「…フェイト、暑くない?」
「ううん…。もっと…くっ付いていも良い…?」
「私は良いけど…」
「ん~♪」


顔を赤くしながらも、大好きな少年の温もりを感じながら、眠りつく少女。少年も少女を笑いながら受けていれていた。



「あ~…ん~…何時までもここでグタグダしてる訳には…いかないね。」

エレベーターホールの椅子から立ち上がり、部屋に向かうアルフ。
思えば、あの使い魔をなんとなく意識し始めたのは何時からだろうか…?
最近の気もするし、ずっと前からの気もする。…まぁ、クヨクヨと考えるのは彼女には合わないので、そこまでで中断する。
静かに扉を開けて部屋に入ると、中は薄暗かった。

「…ガルム…?」
「なんだ?」
「ひゃ!?って起きてるんじゃないか…。」

てっきり部屋が暗かったので、寝てたのかと思ったが違うようだ。
眼を凝らせば、窓際に座り、空の満月をガルムは眺めていた。その幻想的な姿に一瞬、眼を奪われるアルフ。

「入り口で固まってどうした?」
「うえ!?な…なんでもないよ。」

ガルムの声で正気に戻り、部屋の中に入ると、視線は床--2つの布団に向かう。
そこで、自分はここで寝るんだ。と改めて自覚して、何故か緊張する。
そんなアルフに気が付かないのか、ガルムは側においてあった酒--日本酒を一口飲んで、また空に視線を戻す。

「お酒、飲んでるのか?」
「まぁ…な。スカーフェイス様の相手をするときがある。…後はたまにだな。」

そう言うと再び、日本酒を飲む。アルフもガルムの隣に座り、夜空を眺める。
満天の星空で、その中央には丸く綺麗な満月が優しく光っていた。

「…綺麗だな。」
「あ、うん。綺麗な満月だね。」
「そうだな…ほぉ…。」
「ちょ…!?」

ガルムの手が、そっとアルフの頬にそえられる。突然出来事に戸惑うアルフを面白そうに見つめ笑う。

「お前の眼にも満月が映っているな。」
「あ…あんたの眼にも映ってんだろ…。どうしたんだい?なんか…おかしいよ?」

何時ものガルムと違いよく笑い、優しげな眼をしていた。アルフが初めて見る表情だ。

「確かにな…。まぁ、酒の責任とでもしておこう。」
「あ…。」

そえられた手が離れ、見つめられていた眼が再び夜空に向かう。
ほんの少しの寂しさを感じながら、アルフは横顔を見つめる。

(…あんたがその気なら…!!)

しかし、負けず嫌いな彼女のことである。すぐに気を取り直して…隣に座るガルムに寄り添うアルフ。
…彼女なりに考えた精一杯の方法のようだ。

「…どうした?」
「さぁね…。あたしは満月のせいでおかしくなったのかもね。」
「ふ…そうか。…我は酒でお前は…」
「アルフだよ。…あたしはガルムの名前、よく呼んでんだから、そっちもそう呼びなよ。」
「なら、言い直そう。我は酒で…アルフは月でおかしくなったか。」
「…そうだよ…全部満月の責任さ。」

ガルムの手が彼女の肩に回り、ソッと抱き寄せる。
満月が2人を照らし、部屋に伸びる2つの影が…1つになった。



管理局本局

・ブレイズ・

「お~い。ブレイズ!!」
「チョッパー、どうした?」

本局の廊下を歩いていると、聞き覚えのある声で呼ばれる。
振り返ると、航空隊の制服を着崩したチョッパーがこっちに走ってきていた。

「よっ、奇遇だな。お前も今からメシか?」
「あぁ、チョッパーもか?」
「おう、よし、なら一緒に食おうぜ。」

チョッパーが俺の肩に手を回し、軽く引っ張っていく。
こいつは俺よりも大柄だからな。…結構、力強いな。

「そう言えば、クロノはどうしたんだ?」
「会議だそうだ。昼食も後で取るらしい。」
「へぇ~…。良いのかぉ?執務官補佐役が会議をサボって?」
「俺は出なくても問題無いといわれたからな。…チョッパーこそ、訓練は良いのか?」
「メシくらい食ったっていいじゃねぇかよ。あ~、腹減ったぜ~。」

笑いあいながら、食堂に向かう。
適当にメニューを選んで、受け取り、席を探すと見知った姿を見つける。
あいつは…。
チョッパーも気が付いたようで、俺の視線を向けて、指差す。

「ハミルトン、久しぶりだな。」
「よっ!元気そうだな。」
「…トリスタンにダヴェンポートか。なんのようだ?」
「メシでも一緒に食おうぜ。」
「…断る。」

そう言って俺達を軽くにらむのは、訓練生時代に同期であったアレン・C・ハミルトンだ。
チョッパーは軽く受け流して、向かいにトレイを置いて座る。俺は少し戸惑い気味に、チョッパーの隣に座る。
更に視線が冷たくなっているんだが…やれやれ、こいつと一緒に居るのは…辛いんだよな…

「おいおい。冷たいこと言うなよ。俺たちゃ、同期だろ?」
「ふん、お前とトリスタン、そして、ハラオウンは同期だろうが、私はそうではない。」
「…ハミルトン、一緒に食事するぐらい良いだろう?」

…正直言うと、こいつとは訓練生時代から、あまり良い付き合いをしているとはいえない。
何故か一方的に敵視されている気がしてならない。

「残念だが、私はすぐにベルカに行かなきゃいけないのでね。
「ベルカ?何しに行くんだ?」
「…長期演習だ。では、失礼するよ。」

自分のトレイを片付けて、足早に立ち去るハミルトン。
知らず知らずに俺の口から、ため息が漏れていた。こちらとしては、仲良くしたいんだがな…。

「おいおい、ブレイズ。ため息つくと幸せ逃げるぜ?」
「そうは言ってもな…。あそこまで露骨に嫌われると流石に…。」
「あ~…未だに演習で俺達の班に勝てなかったのを根に持ってんのかね…。」

バートレット教官の指導の下で、何度かハミルトンの班とは演習をしたが、全部俺達の勝ちだった事は覚えている。
だが、クロノやチョッパーの活躍があってだと思うんだが…。

「それか、一度も総合成績でブレイズに勝てなかった事とかか?」
「それは関係ないだろ…。第一、最終成績はクロノがトップだぞ?」
「あれはお前…、最終試験日に風邪をひいたからだろ」

面白そうに笑うチョッパー。…確かに、あの時は風邪をひいて、まともに試験を受けれなかったな。
クロノにもあきれられたようにされたな…。思い出しても恥かしい…。

「しかし、ベルカ…ねぇ。…どこに行くんだろうな?」
「考え付くのは…白虹騎士団か…」
「うへぇ…超エリート部隊じゃねぇかよ。」

白虹騎士団。ベルカだけでなく、ミッドにもその名を轟かす超エリート部隊だ。
聖王協会所属の魔導師達であり、かのベルカ空戦隊の流れを組む接近戦のプロ達だ。
だが…管理局とは演習は行わないはず…。そうなると……

「もしくは…評議会直轄地だな。」
「それはそっちで辺境じゃねぇかよ。デリケートで繊細なオイラは耐えれそうにないなぁ。」
「良く言う。まったく…。」

笑って食事を再開する俺達。
だが、何故か分からないが…ハミルトンを引き止めたほうが良かったんじゃないか?と…何処かで思っていた。





あとがき


メビウス君達が惚気てる間に少しずつ回り始める運命の歯車。
さて…次回は…ほんの少し真面目な話を書こうかと思っています。
2期までは、まだかかります。
あと以下、おまけ


家族旅行終了後、高町家に向こうメビウス。
目的はもちろん、お土産を配りにだ。

「あら、メビウス君、おかえりなさい。旅行楽しかった?」
「桃子さん、はい、楽しかったです。これお土産…」
「めびうすくぅぅぅん!!」
「な…なのちゃん!?って…わぁぁ!?」

突然奥から現れた泣き顔のなのはに引っ張られ、彼女の自室に連行されるメビウス。
後に残ったのは、お土産を渡されて、娘の行動に笑う桃子1人だけ。

「…えっと、なのちゃん、機嫌直して…」
「うぅ~…!!やだもん…。今日はずっとこうしてるもん。」
「言葉が…小さい頃に戻ってるよ…?」
「良いのよ!!…メビウス君…寂しかったよぉ…。」
「あ~…うん、ごめんね?」

結局、なのはを抱きしめながら、慰める事に一日を費やしたメビウスであった。




[21516] 鉄拳餓狼の少年&ナイトの少年
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/02/07 10:10
・オメガ・

「よっしゃ、今日も学校が終わったぜ!!」
「あんた…放課後になると本当に生き生きしてるわね…。」

アリサが呆れたようにしながら、俺の隣を歩いている。
授業は退屈でしょうがないんだぜ…。メビウスや閃はよく真面目にしてられるよなぁ。
俺は、ネットに入れたサッカーボールで軽くリフティングをする。

「さて、今日も神社で自主練でもすっかな!!」
「態々、神社でしなくても、校庭でやればいいじゃないの。」
「いやな、あそこにチビ狐が居てよ。」
「チビ狐…?」




神社



「お~い、ちび狐、居るかぁ?」
「…」(トコトコ)
「わ、本当に居た。…あら、逃げちゃった…。」

アリサがどうしてもちび狐を見たいと言うことで、一緒に神社までやってきたんだけど…。
俺の声に反応して、奥から出てきたチビ狐がアリサに驚いて、また奥に引っ込んでいっちまった。
おいおい、アリサが悲しんでんじゃねぇかよ、困るぞ。こんな顔させるために、連れて来たんじゃねんだぞ。

「チビ狐~。油揚げあるぞ~?しかもちょっと高い奴。」
「あ、尻尾が見えたわね。」
「今日は特別に2枚付けるぜ!!」
「走ってきたわね。」

やっぱり狐。油揚げの魅力には勝てなかったようだぜ!!
すんごく眼をキラキラさせながら、袋を開けるのを今か今かと待っているチビ狐を見ながら、俺はアリサに油揚げの袋を渡す。

「ほいよ。お前があげろよ。」
「え、私が…?」
「おう!!その方がチビ狐と仲良くなれるぜ!!」

アリサに袋を手渡して、俺は荷物を境内において、軽くストレッチを始める。
おっかなびっくりで油揚げを食べさせるアリサ。おおう、チビ狐も食べ方がぎこちないぜ。

「…可愛いわねぇ。」
「……」
「チビ狐。その油揚げはアリサの奢りだからな。礼を言っとくんだぜ!!」
「!!」(ぺろぺろ)
「きゃっ。もう、くすぐったいわよ。」

チビ狐がアリサの手を舐めて、感謝してるみたいだな。アリサも嬉しそうにしてるから…良かったぜ。
さて、軽くリフティングでもしてと…









その日、すずかは朝から嫌な予感がしていた。家を出てから、ずっと誰かに見られている感じがしたのだ。
彼女は…普通の人間と違い、夜の一族の血が流れていた。すなわち、吸血鬼。
ただ、人の血と混ざり合っている為に、一定の周期で血を求めることはあっても、常にではない。
そして運動神経や直感がとても優れているのだ。

「あ…すずかちゃん。」
「メビウスくん?あれ、お家はあっちの筈じゃ…?」


周囲に注意を払っていると名前を呼ばれ、その方向を見ると、メビウスが笑顔で走りよってきた。
彼の家は、少し離れているのに、何故ここに居るのだろうか?
しかし、妙な気配は気のせいだったと思い、安堵の表情を浮かべ、メビウスの持っている雑誌に気が付く。

「その本…買ってきたの?」
「そうそう、本屋に寄ってたんだよ。それでついでに散歩してたら、すずかちゃんを見つけたら、声をかけたんだ。」
「あ、そっか。俺んちページ、今日発売だったよね。」
「すずかちゃんも買ってるんだ?」
「うん、お料理の事とか、乗ってて面白いから。」
「それなら、先月号の手羽先のすっきり煮込みの記事、見た?」
「見たよ。あんなに簡単にできて、少し驚いちゃった。前はちょっと、手間をかけてたんだけど。」
「だよねぇ。そうそう、今月号に…」

一緒に道を歩きながら、料理の話に花を咲かせる2人。
すずかも、メビウスが近くに居るということもあって、すっかり気を抜いていた。
それが…拙かったのだろうか。ほんの少し人通りの少ない道に入った瞬間に、異様な静けさを感じた。
先ほども述べたように、すずかは直感がとても優れている。故に異様な空気と…前から歩いてくる男の異様さに気が付いたのだ。

直感が告げている。目の前の男は…自分と同属だと。

「月村すずか嬢…ですね?」
「…どちらさまですか?」

薄く笑みを浮かべる男を警戒しながら、すずかは警戒するように後ろに下がると、メビウスが庇うように立ちふさがる。
男は、一瞬驚いたようにするが、すぐに笑みを浮かべる。

「ほぉ…。か弱い姫を護るナイトのつもりですか、少年?」
「初対面で失礼ですが…貴方は怪しすぎるんですよ。それに、すずかちゃんも警戒してる。なら、私が護るのは当然でしょう?」
「なるほど。まぁ、確かにそうですね。」

メビウスは庇うように立ちふさがり、周囲に人の気配がないかと、眼を配る。

「無駄ですよ。周囲に結界を張らせてもらいました。」
「…貴方は、何者ですか?」
「貴女と同じ…夜の一族ですよ。まぁ…ほんの少し、特別な力をもっている…ね。」
「夜の一族…?」
「ほぉ!少年は何も知らないのですか。なるほどなるほど…」

聞きなれない単語に、戸惑うメビウス。そし、男は愉快そうに笑いながら、すずかに視線を向ける。
すずかの表情は、硬くなっていた。

「夜の一族。それは高貴なる闇の眷属。まぁ、簡単に言えば…吸血鬼ですよ。」
「やめて…」
「そのすずか嬢も、人間のような姿をしていますが…血を求める人外の存在なのですよ。」
「やめて!!違う…私は…私達は…」

すずかの悲痛な叫びを上げ泣き崩れるのをみながら、男は愉快そうに笑う。

「……」
「さぁ、少年よ。ここから立ち去って、何も言わずに過ごすなら…見逃してあげましょう。」
「断る…といったら?」
「まったく…利口そうな少年だと思いましたが…所詮は子供ですか…良いでしょう。」
「メビウスくん…?」

男が懐からカードを取り出す。それが光り、1本の杖と形を変える。
そして杖を一振りすると、魔方陣が展開し、数体の人形が現れる。

「そんな…自動人形…!?それに今のは…。」
「ほぉ…流石は、月村の娘。自動人形は知ってましたか。しかし、これは知らないでしょう?」
「っ!?」

メビウスの足元に、突然穴が開く。男を見ると、周囲に光でできた球体が浮遊していた。どうやら、それで穴を開けたらしい。

「すずかちゃんをどうするつもりだ!!」
「決まってるでしょう?夜の一族の癖に…光の当たる世界で生きている彼女達が気に食わないんですよ。」
「どうして…私達は、ただの人として生きたいだけです!」
「下等種の人間と一緒にですか?…愉快ですねぇ、そして虫唾が走る。…良いでしょう。では、人間がどれほど、脆弱な者か…見せてあげましょう。」

男が哂いながら、空中に映像を映し出す。そこには、親友であるアリサ・バニングスの姿が映し出されていた。。
こちらでも、男の背後に居た自動人形も、剣を抜き放ち、2人を囲む
その光景を見た瞬間に、すずかの表情が凍りつく。

「アリサちゃんに…何をするつもりですか!?」
「なに…ほんの少し…痛めつけるだけですよ。そうすれば…貴女も分かってくれるはずです。」
「そんな…止めて!!アリサちゃんを傷つけないで…!!」
「ならば…大人しく、付いてきてくれますか?なに…それなら、その少年も見逃して上げますよ。」

ノロノロと顔を上げ、男の下に歩き出そうとしたすずか。
親友であるアリサが傷つけられるくらいなら…メビウスに嫌われるくらいなら…男に従ったほうが良い。
だが…そんな彼女のメビウスは手を強く握り、引き止める。

「すずかちゃん、心が嫌だって言うのなら…行かないほうが良い。大丈夫だから…ね?」
「メビウス…くん…。けど…アリサちゃんが…」
「それこそ、要らない心配だよ。…あいつが側に居るはずだからね。」

あいつ…?と聞き返す前に、男が舌打ちをしながら、自動人形を起動させる。
優しく笑いかけながら、メビウスは再び、すずかを背中に庇うようにして男と対峙する。

「まったく…面倒な餓鬼ですね。仕方がない…貴方も痛めつけてあげますか。まぁ、貴方と…大切なお友達を痛めつけて…絶望に沈むすずか嬢の姿を見るのも一興。
少年、呪うなら自分の馬鹿さ加減を呪うことだな。」
「貴方ごときに…出来るかな?」
「餓鬼が…調子に乗るなよ!!」


まるで動じないメビウスの態度が頭に来たのか、男は杖を振るいアリサの元に自動人形を送り出す。
そして、残った人形で2人を囲む。
だが、ここで男は…最大のミスを犯していた。男が狙っていた少女の側に居る蒼い少年が、どんな存在なのかを…
そして、もう1人の少女の元に居る鉄拳の少年の無茶苦茶さを…男は知らなかった。
それが自分に襲い掛かってくる最大の不幸だということに…


・オメガ・

「…うぉ…?」
「どうしたのオメガ?」
「?」
「いや…。ちょっとなぁ。」

境内に座ってチビ狐を抱っこしているアリサ。一緒に首を傾げてるが…おおう、可愛いんだぜ。絶対に言わないけどな!!
って、そんな事じゃなくて…なぁんか、今、嫌な空気を感じたんだぜ。
…ん~、入り口辺りか…。確認してくるか…
小走り気味に、石段を下りて、入り口を見てくるが…何もないぜ…。

「っかしいなぁ…。なんか感じた気がすんだけどなぁ…」
「ちょ…ちょっと、なにこいつら!?離しなさいって!!」
「なに!?」

境内の方から聞こえてくるアリサの悲鳴。やっべ、ミスったぜ!!
3段跳びの勢いで、石段を登って、境内を見ると…変な人形がアリサの腕を掴んでいた。
チビ狐も一緒になって抵抗してるが…あいつの力が強いみたいだな。

「てめぇ!!アリサから手を離せこらぁぁぁぁ!!!!」

何かが切れたんだぜ…。思いっきり、地面を蹴って、人形に体当たりをブチかまして、アリサから引き剥がす。
そのまま、アリサを抱きかかえて、距離をとる。…こいつ、軽いな。

「オメガ…あ、ありがとう…。」
「おう、気にすんな。…腕、大丈夫か?」
「うん、大丈夫よ。」

おいおい、強気に振るまってっけど…小刻みに震えてんぞ。こんな所で意地を張らなくたって良いだろう。
俺は、軽く頭をポンポンと笑顔叩く。

「な…なによ。変な笑顔なんかして…」
「意地っ張り~。」
「だ…誰が意地っ張りよ誰が!!」
「ツンデレ~。…うぉっ危な!!手を噛むなっての。ほら、チビ狐も心配してるんだぜ?」
「がるる…ってチビ狐も?」

おっと、危うく手を噛まれるところだっだぜ。チビ狐も足元で、心配そうにアリサを見つめているんだぜ。
それに気が付いて、アリサは頭を撫でて「ありがとう」って言って笑っていた。やっぱり、こいつの笑顔が一番だぜ。
っと…また嫌な感じがしたな。人形を吹き飛ばしたほうを見ると、起き上がってごっつい剣を抜いていた。
その周囲に、新しい人形が…転移してくんな。

「い…今のなに。それにこいつら…何処から出てきたのよ…!?」
「あ~…考えるのと答えんのは後回しだな。アリサぁ、俺の後ろに隠れてるんだぜ?」
「え、ちょっと、オメガ…あんた、どうするのよ?逃げたほうが…」
「チビ狐ぇ、アリサが泣かないようにしててくれ!!」
「!」

分かった、と言う様に尻尾を立てるチビ狐に笑顔を向けて、俺は人形に向き直る。
さてと…この俺に喧嘩を売るとは、良い度胸をしてるぜ。

「イジェクトォォ!!」
『OK!!今日もグゥレイトに決めようぜ、マイブラザー!!』
「オ…オメガ、その格好、なんなのよ…もう…。」
「さぁて…俺のアリサを恐がらせた事…後悔させてやるぜぇぇぇぇぇ!!!」
「んな…!?」

イジェクトを展開してバリアジャケットを装備、トンファーとパイルバンカーが唸り出す。久々に、暴れるぜぇぇぇぇ!!!
後ろで訳が分からないっつうアリサだけど…今は説明してる時間がないんだぜ!!
とりあえず、こっちに向かってきた人形の1体をトンファーで無造作に殴り飛ばす。

「ありゃ?」

おいおい、たったの一発で胴体が粉々に砕けちまったぜ。傀儡兵の方が数倍は頑丈だったんだけどよぉ。
まぁ、オンボロでも別に良いけどな!!

「おっと…!!甘いぜ!!新返し技、燕返し!!」

振り下ろされる剣を、避けながらトンファーで掬い上げるようにして…吹き飛ばす!!
2m位、吹き飛ばして、パワーウェイブで粉々に破壊して、バックステップ【空歩】で距離をとる。

「っと…危ないっての!!」

後ろから突き出される剣を、真ん中からトンファーで叩き折って、パイルバンカーを突き刺す!!そして、魔力を注ぎ込んで内部から爆発させる!!
そのまま、前に居たもう1体に踏み込みながら、裏券を叩き込んで…吹き飛ばす!!

「うぉりゃぁぁ!!不動活殺裏拳!!」

決まったぜ…!!けど…地味に数か多いんだぜ…。
よし、それなら…。俺は再び空歩で距離をとって、魔力を集める。

「新必殺技…行くぜ!!」

俺は左手に魔力を溜めて、腕を振り上げ、Uを描くように全力で振り抜くいて…魔力の波を放つ!!パワーウェイブを更に強化した新技。
その名も…!!

「駆けろ…烈風拳!!」

魔力の波が人形を乗り込んで、盛大に爆発する。土煙が収まれば、粉々に砕けた残骸だけが残っていた。

『You win!!今日も決まってたぜ、マイブラザー!!』
「ハッハー!!余裕で圧勝なんだぜ!!」






・メビウス・

「ば…馬鹿な…。」
「なにが起こったの…?」

尻餅をついて、信じられないといったように私を見る男。
空中に映し出されている映像では、オメガがガッツポーズをして高笑いしてるところだった。まぁ…こんなのに負けるあいつじゃないからね。
私とすずかちゃんの周りには、破壊した人形の破片が散らばっていた。
まぁ…ただ単に、私がセイバーで破壊しただけだけどね。

「まさか…お前も魔導師だったというのか…!?」
「正解。バリアジャケットを展開してる時点で…当たり前でしょう?」
『貴方程度の実力で、マスターに勝てるわけもないでしょう。』
「く…!!」
「逃がさないよ。バインド!!」

逃げようとする男をバインドで拘束して、杖--デバイスを取り上げる。
デバイスを持ってる時点で、魔導師って事は分かってたから、こっちも遠慮せずにエクスを使うことができた。
さて…とりあえず、こいつはクロノさんに連絡して、逮捕してもらおうかな。
バインドで二重、三重に拘束しながら、私はエクスの通信機器を起動させる。

「…あ、クロノさん?…えぇ、いきなりすいません。ちょっと、次元犯罪者らしいのを捕まえたので…、はい、襲われましたけど、こっちは大丈夫です。
…はい、私の他にもう1人居ますけど、怪我もしてないです。…あ、そうですか、なら座標送りますね。それじゃ…。」
「あの…メビウスくん…?」
「これで良しっと。この人を逮捕できる人達の所に連絡入れたから、大丈夫だよ。多分、すぐに来るかな?」
「か…管理局とも繋がっているだと…!?き…貴様…何者だ…!?」
「さぁてね。…お前なんかに名乗る名前は持ってないよ。…あ、来た、速いな。」

目の前に転移魔法陣が開くと、管理局の制服を来た3人が軽く敬礼して、男を連れて行く。
その内の1人が、こちらに歩いてきた。あれ…この人は…アースラの武装局員の人だ。


「メビウスさんお久しぶりですね。ご協力に感謝します。覚えてますか…?」
「はい、アースラの局員さんですよね?覚えてますよ。速い到着でしたね。」
「あぁ、良かった。いやはや、実はあの男が、こちらの世界に逃亡していると言う情報を入手して、捜索してたんですよ。そうしたら、執務官から連絡が入りまして…
また貴方に頼ってしまいましたね。申し訳ない。」
「いえ、良いんですよ。…あ、そう言えば、お名前、聞いてませんでしたね。後、敬語じゃなくて良いんですよ…?」
「いやいや、アジムとゲランを撃破した人に、タメ口なんて出来ませんよ。それに、癖みたいなものですから。俺はグラン・ハーマンと申します。」

グランさんと笑顔で握手を交わす。後ろのほうで、他の2人が男を拘束して、待っているのを見て慌てて踵を返した。
そして、3人でまた軽く敬礼をすると、転移していく。ふぅ…これで1段落かぁ。バリアジャケットを解除して、すずかちゃんに預けていた俺んちページを受け取る。

「さぁ、帰ろう。送ってくよ。」
「え…あ、うん。」

未だになにが起きたのか、分からないすずかちゃんの手を握って歩き出す。
…チラチラと視線を感じるし、何か言いたそうな、聞きたそうにしてるね。
私も聞きたいことはあるけど…本人が嫌がっていた事を聞きたくはない。

「私の事…恐くないの…?」
「なんで?」
「だって…夜の一族なんだ…よ?人間じゃないんだよ…?」

なにを言うかと思えば…。俯くすずかちゃんを見ながら、私は小さく笑みを浮かべる。

「恐くないよ。逆に、私の事、恐くない?魔法を使って、戦ってたし。」
「こ…怖くないよ。私の事…護ってくれたから。それに…友達…だから…。」
「なら、私も同じだよ。すずかちゃんは友達だからね。怖くないよ。」
「…メビウスくん…。」
「私の知っている月村すずかは…猫が好きで、おっとりしてて、お料理が得意な普通の女の子。
…それだけだよ。けど、もし…秘密にしてるのが辛いなら…みんなに打ち明けてみたら?」
「…受け入れてくれる…かな。」
「大丈夫だよ。先に言っちゃうけど…オメガや閃、それになのちゃんも魔導師だし…。そんな事、気にするわけないよ。
アリサちゃんだって同じだ。…すずかちゃんはみんなの事、好きでしょ?」
「うん…。好きだよ。みんなと居ると楽しいし、安心できるの。」
「それと同じくらいに、私もなのちゃんもみんなみんな、すずかちゃんの事が好きなんだよ。安心して…ね?」
「……」

ん~…やっぱり少し不安なのかな。まだ表情は優れない。
…よし、ちょっと強引だけど…良いかな。

「エクス、認識障害。後はサテライトを使うよ。」
『了解しました。ちなみに、時刻はちょうど良いと思います。綺麗な景色が見れますよ。』
「ありがとう。すずかちゃん、ちょっと良いかな?」
「え…?ひゃぁ!?」

流石はエクス、やりたいことが分かってくれたみたいだね。
バリアジャケットを再び展開して、すずかちゃんを横抱き--お姫様抱っこをして上空に飛び上がる。
いきなりで驚かせちゃったけど…この景色を見せたいんだよね。

「はは、恐がらなくても大丈夫。はい、眼を開けてみて。」
「…わぁ…綺麗…」

恐る恐る眼を開けたすずかちゃんの目の前に広がるのは、綺麗な夕焼け。
海や空が真っ赤に染まって、町並みも綺麗に輝いて見える。私の好きな光景の1つだ。

「すずかちゃん、世界はこんなに綺麗で…優しくて、温かいんだよ。夜の一族とか…そんなの関係ないよ。
世界が望んだから、すずかちゃんはここに居て…すずかちゃんが望んだから、なのちゃんやアリサちゃんと出会えたんだよ。」
「…うん…。」
「勇気を出して、一歩踏み出してみて…ね?その時は、私も一歩踏み出して…魔導師って事も説明するよ。」
「…そうだよね。私…頑張って…勇気を出してみる。」
「そうそう。なら、笑わなきゃ。綺麗に笑って、頑張らないと。」
「うん…!!…メビウスくん、まだ少しこの景色…見てて良い?」
「もちろん、ゆっくり見ていようね。」



笑顔を浮かべるすずかちゃんは…やっぱり可愛い。女の子はこうでなくちゃ。
なのちゃんも…すずかちゃんもアリサちゃんも、悲しい表情なんて似合わないからね。
大丈夫、きっとなのちゃんは驚きながら、受け入れてくれるし…アリサちゃんは秘密にしてた事は怒るだろうけど…受け入れてくる。
みんなみんな…優しい心を持った…友達だからね。






あとがき

はい、ミスったぁぁぁ!!!書く順番間違ったぁぁぁ!!!
次回がちょっと真面目な話でした。申し訳ないです。
メビウス、すずかフラグを立てる、と、オメガ、アリサ攻略の巻でした。
…オメガ君が格闘ゲームキャラになってきたかも…。
そして…チラッと出した今後の軽い伏線。まぁ、気が付くでしょうね…。



[21516] 金色の鷲と深紅の不死者
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/02/09 23:23
・閃・

「は~い、静かにしてね。今日、転入してきた新しいお友達を紹介します。…はいはい、楽しみなのは分かるけど、静かにしない。」

朝のホームルーム。教師が転入生が居ると言った瞬間に、教室がざわめきだす。
教師が軽く注意しても、中々静かにはならない。諦めたのか、軽くため息をつきながら、教室の外に居るであろう…彼女に声をかける。
扉を開けて、入ってきた少女--フェイトを見た瞬間にざわめきが止まる。…一部、男子、ガッツポーズとってるぞ。

「よっしゃ…!!新しい女子だ…!!」
「メビウスハーレム加入阻止だな…!!」

お前ら…その野望…とっくに終わってるぞ…。
燃える男子生徒を尻目に、教壇の前に立ったフェイトに軽く視線を送る。
お~お~、緊張しちゃって…。まぁ、しょうがないだろうな。

「はい、それじゃ自己紹介してね。」
「えっと…始めまして、フェイト・T・ランスロットです。よろしくお願いします。」
「ランスロット…だと…!?」
「あ…慌てるな。まだ家族と決まったわけじゃない…!!」

あ~…とりあえずお前ら、少し静かにしろ…。若干、アリサの視線が痛いんだよ。俺の近くだから、勘違いされたらどうすんだよ。
…そして隠す気もなく、物凄く幸せですオーラを漂わせているメビウス。笑顔が蕩け切ってるぞ…。デレデレだな。
なのはは……同じかよ。お前もデレデレモードか。ったく、…気持ちは分かるけどな。

「それじゃ、フェイトちゃんの席は…」
「はいはい!!先生、ここ空いてる!!」
「いやいや!!窓際より、廊下側の方が良いって!!」

一斉に手を挙げて、自分の隣が空いているとアピールする男子生徒達を見ながら、また呆れたようにため息をつく。
お前ら…フェイトが戸惑ってるぞ。なのはも勢いに負けて、手を上げれないで居るし…メビウスも苦笑してる。

「ん~、フェイトちゃんは何処がいいかな?」
「あの…お兄ちゃんの隣が…良いです。」
「お兄ちゃん…?あぁ。なら、メビウス君の隣にしましょう。その方が安心できるものね。」

フェイトはチラッとメビウスに視線を送りながら、小さく笑う。まぁ、兄であるメビウスの近くのほうが安心はするんだろうな。
…絶対に違う意味でいったんだと思うけど。…それに、一応は俺やオメガ、なのはも近く席だし…事情を知ってる奴が近くに居たほうが良いか。
お、途中でなのはに軽く手を振ったな。…本当に仲良いよな。

「既にメビウスハーレムの一員だと…!?」
「兄妹だから…違うはずだ…!!」
「これは…メビウス×なのは公式が崩れるか…!?」
「…なのは×フェイト?」
「おまっ!!」


嘆く一般男子生徒諸君、…本当に小学3年かお前ら…。あと、なのは×フェイトはネタだ。……多分な。
メビウスの隣に座って、一言二言と言葉を交わして教科書を開くフェイト。…どうなるかと思ったけど…なんつうか微笑ましい。
…俺も一応、リリンって言う、妹みたいなのが居るから…気持ちは分かる。見れば、なのはも笑顔で眺めていた。こいつも色々と心配してたみたいだからな。
原作じゃ、裁判とかで苦労したんだろうけど…ここのフェイトは良く笑うようになったみたいだ。確実に良い方向に話は進んでいる…と思いたい。
1時限目の授業が進む中、俺はこれからの事を考えていた。1期は無事に終了して、特別大きな問題もなかったな。…空気読めない馬鹿を除いて。
シルヴァリアスはミッドに強制送還させられたようだ。なんか何時の間にか、転校してたらしい。いや、興味なかったから、別にどうでもいいけど。
メビウスのレアスキルに付いては、予想外だったが…ソラノカケラねぇ。卑怯極まりないな…。まぁ、あいつには良く似合っているとは思うけど。
次は2期、A''s編が待ってるわけだ。八神はやてとの出会い、ヴァルケンリッターとの戦い、そして闇の書の決戦。
こでうまく立ち回らないと…蒐集されるかもしれないな。とりあえず、夜道の一人歩きは絶対にやめておこう。
シグナムとかヴィータに遭遇したらどう頑張っても、勝てる気がしない、絶対無理不可能。…俺の魔力なんて要らないだろうけどな…。やべ、泣けてきた。

(そうなると…素直に事件がおきたら管理局に頼むのが一番か…?)

ブレイズやクロノなら、うまく収めてくれそうな気がするし、なのは達も無茶をやらかしたりはしないだろう。
特に、メビウスは…闇の書まで救おうとしそうだからなぁ…。主人公だから当たり前か。

(…あれ?主任とかリリンとか…フレッシュリフォーの科学者総動員すれば…ワクチンプログラム的なの作れんじゃないか…?)

そこまで考えて…授業終了のチャイムが鳴り響いた。


屋上

「それじゃ、フェイトも魔導師って事ね。」
「うん。…驚かないんだ?」
「驚くもなにも、なのはちゃん達から教えられてたから。」

何時ものメンバーにフェイトを加えての昼食。
内容はフェイトの素性…て所かな。アリサ達にも俺達が魔導師って事を教えてあるし、すずかも夜の一族と言うことを暴露している。
俺の知らないところで、襲撃みたいなのを受けて、それで話したほうが良いって事になったらしい。
まぁ、魔導師だろうが夜の一族だろうが、アリサ達の友情には傷1つ付かなかったようだ。
…その後に、何故か秘密にしてたことで説教されたけどな…。

「けど、あんたらが学校に来ない間に、そんな事があったなんてね。」
「あぅ…秘密にしててごめんね。」
「まったくよ。けどなのは、今日のテストちょっと酷かったみたいね。魔法ばっかり勉強してたら駄目よ?」
「…うぅ…漢字の書き取りがむずかしかったもん…。」
「だからって、半分近く外すのもどうかと思うわよ。」
「…メビウス君…!!」
「はいはい、良し良し。ほら、泣かないで。」
「ほ…ほら、なのはちゃん。今度一緒に勉強しよう?」


しょげるなのはをが良し良しと慰めるのメビウスと、必死にフォローするすずか。そんな2人を見て呆れ顔のアリサ。
あ~…こいつ、今日の小テスト…ボロボロだったみたいだしな…。
教師が答え合わせしていくたびに、顔が青くなってたよな。

「うぅ…ふ、フェイトちゃんはどうだったの…?」
「私は、ん~…えっと…その…」
「フェイトちゃん、殆ど正解してたよね。あ…」
「………」
「あはは…なのちゃん、少しお勉強…しようね。」
「えっと、なのは、そんなに悪かったの?」

すずか…フェイトが気を使って言わなかったのを言ってやるなよ…。
なのはが真っ白になったぞ…。フェイトもアタフタしてるし…ったく、本当に賑やかだな。

「しかし、良く漢字なんか分かったな。…メビウスが教えたのか?」
「うん。一応は勉強見てあげてたからね。」
「ハッハー!!メビウスの勉強の教え方は上手なんだぜ!!俺もお世話になったぜ!」

…このまま行けば、なのは達は中卒魔導師に、成らずに大学まで行くかもしれないな。
その為には、なのはの学力強化が必要だが…まだ先の話だから…大丈夫だろう。





・フレッシュリフォー社、開発部・



「…ワクチンプログラム?」
「そうそう。なんとかなんないか?」
「なんとかったってねぇ…。」

主任が頭がしがしと掻きながら、椅子に深く腰掛ける。
学校で考えたことを言ってみたんだが…難しいか?

「原作じゃ…大昔に何処かの誰かさんが、中身を改変したんでしょ?…難しいなぁ。」
「開発部の全科学者使っても…無理か?」
「あ~…幾ら有能ぞろいとは言え…ねぇ。」

やっぱり難しいみたいだな…。けど、今のうちに対闇の書のプログラムを作っておけば…後々、有利になると思うんだよな。
主任も同じ考えなのか、机の上の端末を操作し始める。

「あ~…せめて、騎士達だけでも切り離せれば…有利になると思うけど…。素直に管理局に頼ったら?」
「いや、ばれて猫姉妹に潰されんのいやなんだが…。」

多分、八神はやての周囲を、猫姉妹が監視してる筈だ。下手に接近して…消されるとか勘弁して欲しい。

「あ、そこら辺は大丈夫じゃないかな?グレアム提督居ないみたいだし。」
「は…?」
「いやぁ、ちょっと調べてみたんだけど…ギル・グレアムのギの字もなかったよ。はやての財産管理とかは、弁護士がやってるみたいだし。」
「マジで…!?んじゃ、代わりに誰が…あ…。まさか…」
「そのまさかだね。」

…グレアムの代わりに…あの人が居るのか。
管理局提督にして…俺達の大統領。ビンセント・ハーリングが居るから…グレアムの存在が消えた…?

「…猫姉妹は…?」
「ハーリング提督の使い魔って事かな。…だから、はやてには監視も何もついてないっと。」
「これ…良い事か、悪いことか?」
「±0…て所じゃない?」

おいおい…大丈夫かよ、A's編…。不安になってきたぞ。
とりあえず、俺と主任は過去の闇の書のデータを集めて、対策を立てる事にした。
戦力にならない俺達には、この程度のことしかできないからな。
ただ…ちょっと主任の表情が優れない気がするが…気のせいか?


(闇の書…か。…僕はどっちに付くべきだろうね…。)




・ミッドチルダ、海上訓練施設・



「わぁ…メビウス君、凄いよ!!映画の世界みたい!」
「本当だね。あ、なのちゃん、はしゃぎすぎないでね。」


私達はブレイズさんから一緒に訓練しないかと誘われて、ミッドチルダの海上訓練施設に来ている。
ここは港のような作りになっていて、海上に演習場があり、その近くには次元航行艦が停泊していた。まるで海軍基地みたいだね。
初めて訪れるミッドに興奮気味のなのちゃんを、落ち着かせながら、施設内の通路を歩く。
時々、窓から見える景色は地球と違って、本当に映画の中の街に見える。
ここに居るのは、私となのちゃん、それにフェイトの3人だけ。閃はフレッシュリフォーで用事を片付けてから来るらしいし、オメガはサッカーの練習試合が近いから、猛特訓中。
施設内地図を見ながら、指定された部屋に向かう。そこでブレイズさん達と合流する事になっている。

「クロノさん、ブレイズさん、お久しぶりです。」
「2人とも久しぶり!」
「あぁ、態々呼び出してすまない。」


たどり着いた部屋には、クロノさんとブレイズさんが待っていた。私達は2人と軽く握手を交わす。
まだ少し時間があるらしく、私達は雑談に花を咲かせていた。


「クロノさん、お土産どうでした?」
「あぁ、卵の形をしたお菓子だったか、おいしかったよ。…母さんはもっと甘いほうが良い、って言ってたけどね。」
「あはは…、相変わらずですね。けど、喜んで貰えたみたいで良かったです。」
「何時も何時も、ありがとう。そう言えば、梅干と言うのがあるみたいだが…」



「フェイト、地球での生活はなれたか?」
「うん、お兄ちゃんやなのはが色々としてくれたから、大丈夫だよ。」
「ブレイズ君は、こっちに遊びに来ないの?」
「行きたいのは山々なんだが…結構、忙しくてな。ん~…今度の休暇にでも、みんなで遊びに行くかな。」
「うん、おいでよ!!沢山沢山、お菓子作って待ってるから。ね?フェイトちゃん。」
「お母さんや、お父さんもブレイズ達に会いたいって言ってたから…大歓迎だよ。」


軽く雑談を交わしていると、部屋に備え付けられている通信端末から着信音が響く。



≪ハラオウン執務官。演習場の用意ができました。ハーリング提督もご到着です。≫
「分かった。ブレイズとメビウスは演習場に向かってくれ。なのはとフェイトは僕に付いてきてくれないか。」
「あれ…?私達は訓練しないの?」
「あぁ、予定が変わってね。2人の相手をするはずだった3姉妹が来れなくなったんだ。今日は見学だけだ。」
「そっかぁ…。メビウス君、ブレイズ君。頑張ってきてね!」
「2人とも、怪我しないでね?」
「幸運を祈る。」
「うん。気をつけるよ。」
「メビウス、行くぞ。」

ここでクロノさん達と別れる事になった。


・屋外通路・


「…殆ど海の上なんですね。」
「一部、円形台があるが…まぁ、空魔導師専用の演習場みたいなものだからな。ここはコンビナート跡地を演習場に改築したんだ。ほら、少し向こうに見えるだろ?」

通路を歩きながら、ブレイズさんの指差した方向を見ると、確かに採掘施設らしいのが見える。
今回はそこに停泊している次元航行艦【ケストレル】の航空部隊の隊長、ヴォイチェクさんの教え子と模擬線をする事になってるらしい。
父さんから少し話を聞いているけど、会うのは今日が初めてだ。

「そう言えば…今回の模擬線の相手、ヴォイチェクさんの教え子なんですよね?…ブレイズさんは名前とか…知ってるんですか?」
「いや、俺の知らないな。ただ、ヴォイチェク隊長は管理局屈指のトップエースだ。…その彼に教育された魔導師となると…油断はできないな。」

そう言うとブレイズさんは、表情を引き締める。…正直、ブレイズさんは強いと思う。空間跳躍魔法なんてものを使っているし…何より、広い視野を持っている。
時の庭園での戦闘も、ブレイズさんの指揮のお陰で助かったってクロノさんが言っていた。…信用して、信頼しあっている戦友なんだろうね。

「ブレイズさんとクロノさんって…長い付き合いなんですか?」
「ん?」

唐突にそんな事を聞いてみた。ブレイズさんは何かを思い出すように額に手を当て、少し考えるそぶりを見せ、すぐに小さく笑う。

「そうだな。家も近所だったし…親も局員同士だからな。…お前とオメガみたいな付き合いだよ。」
「幼馴染…ですか?」
「むしろ腐れ縁だな。…おっと。ヴォイチェク空佐、お久しぶりです。」
「久しぶりだねブレイズ君。」

屋外通路の向こうから歩いてくる男の人に敬礼をするブレイズさん。この人が…ヴィクトル・ヴォイチェク。
軍帽を被って、管理局の制服を着ていると…軍人に見える。歴戦の猛者って言う雰囲気を身に纏っているけど…不思議と優しい感じもする。
ブレイズさんに敬礼を返すその表情も…優しい。…強くて優しい…か。父さんの言ってた通りの人なんだね。

「ふむ、君がメビウス君か。はじめまして、ヴォイチェクだ。」
「初めまして、メビウス・ランスロットです。父からお名前を聞いていました。」
「ほぉ…なかなかどうして…礼儀正しい。…スカーフェイスの教育の賜物か。」

一礼すると、ヴォイチェクさんは笑顔で手を差し出してくるのを見て、私は慌てて握り返し、握手を交わす。
後ろを見ると…制服を着た男子が2人待機していた。1人はヴォイチェクさんと同じ制服を着ていて、もう1人は…空軍のジャケットみたいなのを羽織っている。
私の視線に気が付いたのか、制服を着た男子が笑いながら、敬礼してくる。

「初めまして、イリヤ・パステルナークだ。…君が噂のブレイズ・トリスタンかい?」
「あぁ。どんな噂かは知らないが…確かに、俺がブレイズ・トリスタンだ。」
「はは、失礼。アースラの切り札、クロノ執務官の補佐役にして、跳躍魔法の使い手だと聞いてね。会うのを楽しみにしてたんだ。」

イリヤさんが笑顔でブレイズさんと握手を交わし、私とも交わす。…なんだか…人を惹きつける笑顔をしてる人だね。
それに、眼には自信が満ち溢れていて…凄く輝いている。そして…この人は強い。…そんな気がする。

「そして、君がメビウス・ランスロットか。……うん、君、強いだろう?」
「え…?」
「はは、まだ分からないか。…俺が予言しよう、君はもっともっと強くなる。…そんな雰囲気を纏っているよ。」
「…イリヤ。あまりからかうな。」

イリヤさんの後ろに居る男子が呆れたように額を押さえている。…こっちは私と同い年のみたいだ。
ヴォイチェクさんも笑いながら、こっちを眺めている。

「はは。ほら、アーサーも挨拶しろよ。お前のライバルのなるかもしれないんだぞ?」
「……そうかな。」

一歩、踏み出してくる男子。…なんだろう…凄く…何処かで感じたことのある気がする。
この子も鋭い眼をしてるけど…凄く澄み切っている。まるで…空のような…。

「…円卓の鬼神…か。父から話は聞いていた。」
「え…?」

「俺はアーサー。…アーサー・フォルク。…コールサインは黄色の13だ。」










イリヤ・パステルナーク、年齢14歳。
アーサー・フォルク、年齢9歳。コールサイン、黄色の13





あとがき

短くてクダクダな内容の今回…駄目だ。
さて…出しましたよ。とうとう出しました。…最強のライバル登場。
13=キングなのでキング+円卓=アーサーと言う安易な名前です。苗字は…説明は要らないですよね。一応、関係あります。…石投げないで。
誰もが一度は想像または妄想したリボン付と黄色の13が仲間だったらというのを…やってみました。
作者の腕前で何処まで表現できるか…不安すぎます…。
…多分、後2~3で2期にいけるかと思います。…妄想力が枯渇してますが…どうなるか…。
主任には…一応設定ありです。二期辺りでばらしていこうかと…。では…。




[21516] リボン付きVS金色の鷲 漆黒の悪魔VS深紅の不死者
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2012/01/23 23:02
・メビウス・

「こちら管制官のスカイアイだ。黄色の13、メビウス1、聞こえるか?」
「…メビウス1…?」
「お前のコールサインだ。黄色の13、聞こえている。」
「えっと、メビウス1、聞こえています。」

演習場の上空で待機する私とアーサー。インカムから聞こえてきたのは、聞き取りやすい男の人の美声。
メビウス1が私のコールサインらしい。…名前のままだけど…覚えやすいから良いか。
私とアーサー、ブレイズさんとイリヤさんが模擬戦をすることになっている。
彼は巨大な砲身の様なデバイスを持っていた。バズーカ砲にも見えなくはないけど…大きさ的にエクスと同じくらいだし、片手で持っている。
けど、気になるのは…両肩に1個ずつ付いている筒の様なパーツ。…なんだろう…?

『あのデバイスは…』
「OK。これから模擬戦の説明を始める。魔法はもちろん、非殺傷設定。戦闘エリアはAからGまでとする。コンビナート跡地での戦闘も許可するが、ぶつからないでくれよ?
制限時間は30分。その間にどちらかが撃墜、もしくはギブアップで終了とする。時間内に決着がつかなかった場合は、こちらで計測したダメージ値で判断をする。質問は?」
「問題ない。」
「あ、こっちも大丈夫です。」
「良い返事だ。では…カウントを始めるぞ。5、4、3、2、1、0!!」

エクスが何か言いかけてたけど…今はカウントを聞かないと…。
スカイアイさんのカウントが0になった瞬間に、私はキャンセルを使い、トップスピードでアーサーに切りかかる。
アーサーも気が付いて、砲身から巨大な魔力刃を展開して、迎撃しようとするけど…この速度なら押し勝てる!!

「あぁぁぁぁぁ!!!!」
「…!!」

魔力刃同士がぶつかり合い、火花が散る。馬鹿な…押し込めない…!?
全力全速でぶつかったのに…アーサーが少しも動かない…。この速度でぶつかれば、大抵は吹き飛ばせるはずなのに…微動だにしない…!!
私は鍔迫り合いを続けながら、少しでも押し込もうするけど…どうにもならない…!?

「驚異的な速度だ。だが…まだまだだ。」
「なっ…!?」

アーサーがほんの少し前に出る。嘘でしょ…こっちは未だに最高速度でぶつかり合っているんだよ…!?
くぅぅぅ…押し負ける…!!??
ドン、と破裂するような音が響くと、逆に私がアーサーに押し込まれていた。
初速は私が勝ってるけど、最高速度も出力も…彼の方が勝っている…!!

「速度は充分だ。しかし…力がない。速度だけに頼らずに…力もつけることだ。」
「ま…ずい…!!」

空気を切り裂くようなスピードで押し続けられるのはまずい…!!けど、押し返そうとしても…完全に負けている!!
仕方がない…。私は押し返すのを諦めて、全速ではじかれるようにして、後方に飛び下がる。ほんの少し距離が開いたところで、ランチャーモードに変更して魔力弾を撃ち込む。

「いい判断だ。だが…予測はできる。…TLS。」

その言葉の通り、アーサーのデバイスの銃口から放たれる光条が私の魔力弾を撃ち砕く。
しかも、私のように弾じゃない…まるで光線だ…!!それに、威力が卑怯すぎる…。計測してみると、詠唱無しなのにラジカル・ザッパー並みの威力だよ…!?

「冗談じゃない…!!XLAA、FOX3!!」
「数で来るか…!!」

10発以上のXLAAを構築して、上下左右から撃ち込む。これなら…回避はできないはずだ…!!
命中して爆音が響く。…煙が晴れた先には……もう、なんなんだ、嘘でしょ…!?

「高機動で…重装甲なんて卑怯すぎる…!?本当に、強い…!!」
「防ぎきれないかとは思ったが…そうでもない…か。」

煙がはれた先には、球体の障壁に包まれた無傷のアーサー。…本当に卑怯すぎる…。背中が冷たいものが走り、冷や汗も止まらない。
呆気に取られていると、アーサーの周りに展開される魔力球。

「QAAM…行け。」
「今度は追尾…!!」

2発の魔力球がこっちに向かって放たれてくる。速度はXLAAには及ばないか…。なら、振り切って反撃だ。
再び最高速度までスピードを上げ、スプリットSで海面スレスレまで降下する。本当は避けるためじゃないけど…そんな事言ってられない!!
まだ振り切れない…!?そのまま、キャンセルを使い、90度直角に上昇するけど…それでも付いてくる。追尾性能が…洒落になってない…!?
それに…アーサーも追撃して来ている。速度、火力全てにおいて負けている…。これは…拙いな。
ソードウェーブを彼に撃ち込んでも、魔力刃で切り払われてどうにもならない…!!
こうなったら…!!

「…コンビナート跡地か…!!」
「幾ら追尾性能が高いとは言っても…これなら…!!」

採掘基地に残されているアンテナやクレーンの間を飛び回り、かく乱する。流石のアーサーも私のように慣性を無視できないのか、ここまでは追って来れないみたいだ。
っと…!?後ろのほうでQAAMが着弾して、爆発が起きたか。…迎撃してたら巻き込まれてたかも…危ない危ない。
ここで一旦距離を離して、体勢を立て直そう。遠距離ならラジカルザッパーとXLAAを併用して使えば、勝機はあるかもしれない。
施設の壁に背中を預けて、息を整える。…冷や汗が凄い。

『マスター…来ます。』
「え…?」

エクスの声で視線を上げると、目の前に…筒の様なものが浮遊していた。これは…アーサーの肩に付いていた…?

『遠隔操作型のVRデバイスのバル・バス・バウです!!これは…ビットです!!」
「ちょ…洒落にならない…!!」

エクスの警告の通りに、筒--2つのビットの砲身が光り、魔力弾が撃ち込まれる。そりも…さっきのTLS並みの威力だ。
ギリギリで抜けたけど、一瞬で私が背中を預けていた壁が崩壊していく。それでも…まだ追尾してくるか…!!
遠隔操作型のデバイスなんて聞いたことがない…!!

「エクス、もう少し早く教えて欲しかったね…!!」
『すいません。集中してるのを邪魔するわけには…っ!!上空から高魔力反応!!これは…ライデン・エルジア!?』

魔力光が通り過ぎた瞬間に私の通過した場所が…文字通りに消滅する。コンクリートの欠片1つも残さないって…。
…デタラメだ…。今のだけでなのちゃんクラスの砲撃だ…!!しかも、そんな事をしながら、ビットの操作もしてるなんて…。

「エクスみたいに…何か特別なのが搭載されてるの…!?」
『いえ…何も搭載されていないはずです…。全ては、己の能力だけで操作してるのかと…。しかもライデンを扱っているのに、こんな高機動戦闘が可能とは…。」

……もう何も言えないな。勝てる要素が…ない!!
外からの砲撃と、内部からのビットの攻撃で施設はもう持たない…。私は、壁をボムで破壊して、外に飛び出す。
出た場所は海面の近く。上空を見ると…アーサーの周囲に5つの魔方陣が展開し、砲身‐‐ライデン・エルジアと彼の元に戻ったビット--バル・バス・バウにも魔力光が収束していた。
計8個の魔方陣から溢れる黄金の魔力光。既に、私がここから出てくることを、予測していた!?これは…拙い…!!

「砕け…ストーンヘンジ!!」

大気を振るわせ8個の魔方陣から放たれる巨大な光条。それが全て、私の襲い掛かってくる。
回避できるか…!?無理だ。キャンセルを使っても間に合わない。迎撃は?ラジカルザッパーでも対抗できない。防御?…そんな装甲は持ってないよ。

「うぁぁぁ!!!!」

私は魔力光に飲み込まれ…海中に沈んでいく。そこで…私の意識は途絶えた。





「アーサー、お疲れ。…どうだった?」
「…なにがだ。」

模擬戦を終え、海上施設に戻ってきたアーサーをイリヤが迎える。
クールな態度を気にせずに、イリヤはにこやかな笑顔を浮かべて、アーサーの後ろに視線を送る。

「彼の実力だよ。…本気で戦ってただろう?お前が本気を出すなんて、滅多に無いからな。」
「……」
「しかし、2人のレディを泣かせるとは…彼も罪作りな男だね。」

後ろでは、引き上げられたメビウスが担架に乗せられ、運ばれていくところだった。そこに走ってくる2人の少女を眺めて呟く。
アーサーは無言でその方向を見つめた後に、無言でイリヤとすれ違うようにして歩き立ち去る。
何時ものことか、と首を振るが…

「…本気を出さないと負けていた。」
「…そうか。負けてたか…はは!!」

ポツリと、すれ違いざまに零した言葉。それを聞いて、イリヤは驚いたように…そして、嬉しそうに笑い声を上げた。
何事もクールにこなすアーサーの眼に…強い炎が宿っていた。ライバルと言える存在を見つけ…彼もまた、強くなっていくのだろう。
見送る背中は…クールで…熱かった。







・ブレイズ・

先ほどまで、メビウスとアーサーの模擬戦を見ていたが…まさか、あのメビウスが負けるとはな。
しかも手も足も出ない状況だった。今頃、救護班に助けられ、医務室に運ばれている頃だろう。
なのはとフェイトは模擬戦が終わった直後に、飛び出して行った。殆ど泣き顔に近かったから、心配なんだろう。
アーサー…黄色の13、末恐ろしい魔導師だ。それが…俺の正直な感想だ。だが…今は目の前の彼と戦うことに集中しないとな。

「こちらスカイアイ。では、次はヴァンピール1とブレイズの対戦だな。2人とも準備は良いか?」
「こちらブレイズ、完了している。」
「同じく、何時でもどうぞ。」
「OK。カウントを始める。3、2、1、0!!」

俺もコールサインは名前をそのまま使うことにした。航空隊に配属されてるわけでもないから…良いだろう。
目の前に居るイリヤの装備を確認する。…左右に1挺ずつ、計2挺のライフル型のデバイスを持っているか。
あれは…データで見たことがあるノスフェラトだったな。
とりあえず、様子見で周囲にバレットスフィアを展開し、サンダーボルトで掃射するか…

「おっと…砕かせてもらうよ。」
「なに…!?」

ノスフェラトから撃ち込まれた魔力弾がパレットスフィアを撃ち砕いたか…!!
すぐに展開を諦め、接近しようとするが…くそ…こちらの行動でも予測してるのか、接近できない。
スペシネフで切り払える程度の威力だが…足止めには充分か…。
一旦、接近を諦め、魔力を手に収束し…ワームホールを作り出す。接近できないならば…跳躍するまで。

「おっと…!?これが跳躍魔法か…!!」
「出し惜しみはやめだ。全力でいくぞ…!!」
「望むところだ。」

目の前に開いたワームホールから撃ち込まれる魔力弾を回避するために、一瞬弾幕がやむ。
俺はスペシネフをサイズフォームに切り替えると、下段から斬りあげる。
それを笑みを浮かべながら、ノスフェラトの側面に展開した魔力刃で受け止めたか。
どうやら…接近戦もこなせるデバイスのようだな…!!

「長大なデバイスだが…小回りは効くようだな!!」
「こっちの台詞だ。銃型で油断したよ…!!」
「はは、お互い様だ!!」

何合か斬りあいを演じるが…お互いの顔には笑みが浮かんでいた。
…どうやら…どちらも似たような事を考えているようだな。

「どうやら彼等の戦いに触発されたようだな。俺も…君も!!」
「あぁ…高機動戦闘と行こうか。」

お互いが離れ、高速飛行で戦闘を再開する。イリヤから放たれる魔力弾をワームホールで転移させ、反射するが…

「っと…ここか!!」
「器用なことを…!!」
「っ!?君も人のこと言えんだろうよ!!」

こっちが空けたワームホールに砲撃魔法を逆に撃ち込んで、反撃してきただと…!?
送出用のワームホールから放たれてきたイリヤの砲撃魔法を、ギリギリで身体を逸らして回避するが…バリアジャケットの一部が解けたな…。
イリヤを見ると、2挺のノスフェラトを前後で連結して、ロングレンジライフルに組み合わせていた。なるほど…それで砲撃魔法の出力を上げたか…。
俺はワザとワームホールを作り出して、再びイリヤの攻撃を誘発する。だが…今回のワームホールは攻撃用ではない…!!
海水を転移させ…魔法とぶつかり合わせ、それで出来た水蒸気でイリヤの視界を妨害する。

「さて…ADMM!!」
「また厄介な…!!」

しかし、炊事容器の向こうから、12発の魔力球が追尾をしてくる。…遠距離なんだが…正確にこっちを追尾してくるか。
ショットガンで数発を破壊し、残りはスペシネフてできり払うが…っち!?爆発性能ありか!!

「これでチェックメイトかな?」
「油断は禁物だ…!!」
「っつ…流石だ!!これが…漆黒の悪魔の実力か…!!」
「こっちも思い出したぞ…。深紅の不死者!!」


爆炎に包まれながらも、俺はイリヤの周囲にワームホールを開け、シンファクシを撃ち込んでいく。
爆発音が轟き、2人して煙にまかれる。
煙が晴れ、海上で再び向き合い、対峙する俺達。
…満身創痍と…言ったところだが…まだイリヤは余裕の表情を見せている。底が知れないな…。

「さて…切り札がまだ残っている現状。しかも、時間も少ない。どうだろ、一撃で決めないか?」
「確かに。受けて立とう。」
「なら…スタイリッシュに決めさせてもらうよ?」
「こちらも、最高の魔法で行かせてもらう。」

向き合い、互いに長大なデバイスを相手に突きつける。
銃口部に収束するお互いの魔力が臨界点に到達したときに…2人が同時にトリガーキーで発動させる。

「貫け…アークバード!!」
「シャンデリア!!」

似たような圧縮砲撃魔法が正面からぶつかり合い、大規模な爆発が巻き起こる。

「…引き分けかな?」
「そうみたいだな。…手ごわかったよ。」
「はは、俺は久々に楽しめた。君と戦えてよかったよ。」
「時間切れだ。両者とも、すばらしい戦いだった。これで模擬戦は終了とする。帰還せよ。」

煙で視界が制限されているのを利用して、接近しようとしたが…考える事は同じだったのか。
爆発の中心地で、俺はイリヤの首に魔力刃を、イリヤは俺の頭に銃口を突きつけた形で対峙していた。
そこで時間切れをスカイアイが告げる。その場でデバイスを下げて、握手を交わし、施設に引き上げていく。
疲れたが…なかなか楽しかったな…。





「どうですかな?」
「うん、良い魔導師が育ってきているようだね。」

施設の最上階の部屋で観戦していた2人の男性。
1人はビンセント・ハーリング、1人は次元航行艦ケストレル艦長、名将ニコラス・A・アンダーセン。
2人は友であり、最高の部下、最高の上司という関係である。

「流石はスカーフェイスとサイファーの息子。見所がありますな。」
「あぁ。だが…まだ幼い。…管理局への入局は考えていないさ。」
「ですな。…彼のような子供に頼らぬ体制を築いていきたいものです。」
「ブレイズ君も相変わらずで安心したよ。彼は…バートレットの教え子だったね。」
「はい。バートレットも「何れは自分を超える」と…言っていましたよ。」
「はは、あの彼がかね。よほど気に入ってるのだな。」
「はい。アーサーも…かなり強くなってきましたね。」

そう言うと、アンダーセンは軍帽を被りなおし、1枚の写真をポケットから取り出す。
そこには、数人の男女が写っていた。中央に満面の笑みサイファー、その左隣に抱き疲れて苦笑しているスカーフェイス。右隣には優しげに笑う金髪の男性。
後ろではオメガの父親のチャーリーが豪快に笑っていた。 彼等の共通の友にして…最高の魔導師達。

「…ラリーは何処にいるのでしょうな。」
「アーサー君を私達に預けた後…フラリと何処かに行ってしまったからね。彼のことだ…世界の意味を考えているのだろう。」
「帰って来ますかな?」
「それは分からない。だが…彼が帰ってきたときに…胸をはれる平和を築きたいものだ。」

モニターに映し出される少年達を優しげに見つめるハーリング。その表情は何処までも優しく、何処までも慈愛に満ちている。
アーサーの父親にして片羽の妖精と呼ばれた魔導師、ラリー・フォルク。ある事件が原因で彼等の前から姿を消していたのだ。
だが、5年前に突然、ハーリングの前に現れ、息子であるアーサーを預けた後に再び、消息を絶ったのだ。母親に関しては何も言っていなかった。
ただ、アーサーはそんな父親でも尊敬しているようだ。彼に空戦の技術を、戦いの意味を父親は語り、その全てを書き記した本を手渡していた。

「その為には…陸・海・空。全てを統合し、確執を無くさねばならぬでしょう。」
「アンダーセンの言う通りだ。…なに、レジアスも分かってくれるさ。彼はあんな事を言っているが…誰よりも平和を願っている。
ただ…意地を張ってるだけさ。シュトリゴン隊のおかげで…少しずつだが彼も受け入れ始めている。…もう少しだ。」
「貴方なら…提督ならば可能です。」
「はは、買い被りすぎだよ。だが、誰かがやらなくてはいけない。…アンダーセン、これからも私に力を貸してくれるか?」
「もちろんです。私だけでなく…リンディやレティ、多くの局員達は貴方についていきますよ。」
「ありがたいものだな。」

にこやかに笑うハーリングとアンダーセン。平和を誰よりも願い、誰よりも平和を愛する彼ら。
その表情は…子供のように光り輝いていた。




・メビウス・

・医務室・

「…つぅ…ここは…?知らない…天井だ。」
「メビウス君!!」
「お兄ちゃん!!」

眼を開けると…泣き顔のなのちゃんとフェイト。
起き上がった私の胸に2人して飛び込んでくる。えっと…なにがあったんだっけ…?
周囲を見ると真っ白な壁に天井。…医務室みたいだね。私は…ベッドの上に居るみたいだ。

「良かったよぉ…良かったよぉ…」
「お兄ちゃん…心配したんだよ…!!」
「え~っと…」
「メビウス君、模擬戦で負けて…海に落ちちゃったんだよ?覚えてないの…?」
「あぁ…そうだったね。派手に負けたからなぁ…。フェイト、もう大丈夫だから、泣かないで?」
「けど…けど…!!」

未だに泣いているフェイトの頭を撫でて慰めながら、堕ちたときのことを思い出す。なのちゃんは私の手をギュッと握って、離そうとしない。
そっか、負けたんだったな…。思い出しても…完璧に負けたなぁ。

「フェイト以上のスピードでなのちゃん並の砲撃か。…勝てる要素が1個もないね。」
「…メビウス君…。だ、大丈夫だよ!!きっときっと、次は勝てるよ!!」
「なのちゃん…。」
「メビウス君は凄く強いの!!凄く強くて…優しくて……ぐす…」
「もう、負けて悔しいのは私なのに…なのちゃんが泣いちゃったら駄目でしょ?」
「だって…だってぇ…」

また泣き始めるなのちゃんを、フェイトと一緒に抱き寄せて、慰める。
心配してくれたのは嬉しいけど…流石に泣かせたのは…きっついなぁ。

「…失礼するぞ。」
「あ…。」
「…取り込み中か?」
「いやいや!!大丈夫だから!!」


軽く音を立てて扉が開くと、アーサーが立っていた。
なのちゃん達が抱きついている状況の私を見て、一旦引き返そうとしたけど、あわてて止める。
少し戸惑いながらも、アーサーがベットの近くの椅子に腰掛ける。
えっと…なのちゃんにフェイト…そんなに威嚇しなくても…。

「…お前の妹達か?」
「「……」」
「ほら、2人とも自己紹介しないと…。」
「…むぅ~…高町なのはです…」
「フェイト・T・ランスロット…」
「はい、2人ともよく出来ました。」

彼を親の敵みたいな眼で見ている2人だけど、何処吹く風のアーサー。
とりあえず…初対面なんだから自己紹介しないとね。私の言葉を素直に聞いて自己紹介する2人の頭を撫でて褒めてあげれば、可愛らしく笑ってくれた。
…ほんの少し刺々しい言い方だったけど…ね。

「それで、私に何か?」
「……とりあえずは、俺が墜して医務室送りにしたんだ、見舞に来るのは当然。」
「あはは…。見事に完敗だったよ。勝てる要素が1つもなかった。」
「……そうか。」

それだけ言うと、アーサーは立ち上がって、私に背を向ける。
お見舞いといっても…様子を見に来ただけみたいだね。言葉少なげなのは、彼の性格だって分かってるから、別に機嫌を悪くしたりはしない。


「…称えるに値する。」
「え?」
「お前となら…更なる高みを目指せる気がする。…また共に空を飛ぼう。…待っている。」

扉が閉まる寸前に見せた表情は…ほんの少し…笑顔だった。






イリヤ・パステルナーク。
デバイス・【ノスフェラト】2挺ライフル。連結するとロングレンジライフルに変更可能。

アーサー・フォルク。
メインデバイス【ライデン・エルジア】高火力だがカスタムして高機動可能
サブデバイス 【バル・バス・バウ】遠隔操作型ビット。簡単に言えばファ○ネル


あとがき


戦闘描写が(以下略。
黄色の13圧倒的と言うことが伝われば…ちなみにステージはコンビナート跡地ですが…04の初めて黄色と会ったところです。
メビウスと黄色の13との始めての出会いはここでないと…。
ちなみにアーサー、ニュ○タイプ的なこの作品最強ランクのチートです。高機動、高火力、重装甲と3拍子そろっている最強キャラです。
黄色の13を神格化している作者ですので・・・申し訳ないです。
次回で空白期モドキは終わりにします。書きたいことがまだありましたが…グタグダ行くとやばいと思いましたので。
では…




[21516] 幕間最終。リボン付きと主と妹と
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/02/12 22:56
・メビウス・

「さてと…今日は何を作ろうかな。」
「お兄ちゃんの手料理、久々だね。」
「あはは。本当だよね。」

土曜日の学校が終わって、私とフェイトは何時ものスーパーで買い物をしていた。
理由は母さん達がミッドに用事があるとかで、今日1日は帰って来れないからだ。だから、私とフェイトで夕食の買い物に来ていたんだ。
外では動物形態のガルム達が待て居る。今回は特別、重いものを買うわけじゃないから、私達で事足りるからね。

「フェイトはなにか食べたいものとかある?」
「私は…お兄ちゃんの料理なら何でも良いよ?」

笑顔でそう言ってくれるのは嬉しいんだけど…ん~…やっぱり、得意のハンバーグかなぁ…。
2人でカートを押しながら、商品を選んでいく。

「ん…?フェイト、カートお願いね。」
「良いけど、どうしたの?」

横の通路を見ると、車椅子の女の子が、少し高い所にある缶詰を取ろうとしていた。
精一杯、手を伸ばしてるけど…少し届かないみたいだね。
フェイトにカートを任せて、私は小走り気味に近づいて、缶詰を取って手渡してあげる。

「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとうなぁ。…あれ?あぁ~!!あの時の!!」
「え?」

女の子が私の顔を見て突然、大きな声を出して驚いている。
いや…初対面の人に驚かれる顔はしてないんだけど…。って…あの時って何…?

「ほらほら!!雨の日に傘を貸してくれた男の子やろ?」
「傘…。あぁ、思い出した。あの時の女の子。」
「そうそう。こんな所で会えるなんて、凄い偶然やね。」

そう言って笑う女の子は確かに、ずっと前の雨の日に傘を貸した女の子だった。
こんな所で会うなんて…なんだろう?ここのスーパーって何かあるのかな?

「えっと、お兄ちゃん…?」
「っと、フェイト、ごめんごめん。」
「妹さん?始めまして。」
「あ、始めまして。」

フェイトは私の隣に立ちながら、ペコリと女の子に礼をしながら、誰?と言う視線を私に送ってくる。
…そう言えば、私も名前を知らなかったな…。

「名前言ってなかったよね。私はメビウス・ランスロット。改めてよろしく。」
「妹のフェイト・T・ランスロットです。」
「私は八神はやて。よろしくなぁ。」
「はやてちゃんね。覚えたよ。」
「私も覚えたよ。2人も、お買い物してるん?」
「うん。今日の夕ご飯の材料をね。ちょっと親が外出しててさ。」
「へぇ、フェイトちゃんが作るんか?」
「ううん、私よりお兄ちゃんの方が上手。私は手伝いくらいかな…。」
「いやいや、フェイトも上手になってるよ。」

ほんの少し落ち込むフェイトを撫でて、元気付ける。
実際、一緒に料理を作っているから、フェイトも1人で簡単な料理くらいは作れるようになってきている。
レシピ通りに作って練習すれば、誰でも上手になれるからね。

「ん~…せや!!なら、家に来るとええよ!!実はな、家も今日は私だけなんよ。だから、一緒にご飯食べへん?」
「けど…良いの?」
「ええよ。傘のお礼もしたいし、1人だと寂しいからなぁ。いっその事、泊まっても大丈夫やよ?」



八神家


「えっと…お邪魔します。」
「はい、お邪魔されます。」
「あはは、けど、本当に良いの?」
「私が良いって言ってるんやから大丈夫やて。さっきも言ったけど、一緒に住んでる親戚が少し遠出してて、明日の夜まで帰ってこないんよ。」


はやてちゃんを乗せた車椅子を押しながら、お家にお邪魔する私達。なんだか、押し切られちゃった気がするけど…良いのかな?
一応は、家の留守電にメッセージ入れたから、母さん達が帰ってきても大丈夫だね。

「けど、ええなぁ。フェイトちゃん達、こんな大きな犬と暮らしてるんやねぇ。」
「うん、アルフとガルムって言うんだ。…はやては何も飼ってないの?」
「居ることは居るんやけど…。親戚のやからなぁ。少し遠慮してまうんよ。モフモフしててええなぁ…。」

足を拭いて、リビングで寛ぐガルム達を撫でて嬉しそうに笑うはやてちゃん。フェイトも一緒に座って、話をしている。
私ははやてちゃんにことわって、冷蔵庫を開けて、買ってきた材料を仕舞っていく。生物は速めに冷蔵庫に入れないとね。

「あ、メビウス君、ありがとう。お客様なんやから休んでてええんよ?」
「いや、流石にお邪魔してるからさ、少し手伝うよ。」

上着を脱いで、軽く腕まくりをして、手を洗う。流石に、何か手伝わないと申し訳ないからね。
フェイトも慌てて、手を洗って、料理の準備を始めている。さて…3人で何を作ろうかな?

「そう言えば、親戚の人達と住んでるって言ってたけど…お父さんやお母さんは?」
「ん~…小さい頃に事故で…ね。」
「あ、ごめん。聞かない方がよかったよね…。」
「ええよ。もう慣れたし、一緒に暮らしてる人達が居るから、寂しくはないんよ。」

カラカラと笑うはやてちゃんは…強いな。寂しい筈なのに、それを乗り越える強さを持っていたんだね。
けど…親戚の人かぁ…どんな人達なんだろう?
トントンとまな板の上で包丁が踊る。お鍋から、美味しそうな香りが漂ってきた。

「親戚って、どんな人達なの?」
「ん~…スラッとした美人に、天然ぽやぽやなドジっ娘と…ちょっと勝気な女の子…かなぁ?」
「みんな女の人なんだね。…っと、フェイト、そっちの火止めてくれる?」
「うん。けど、みんな用事があったんだ?」
「なんか最近、忙しそうにしとったからなぁ。まぁ、その分、一緒に居れる時は、ずっと側に居てくれるから良いんやけどね。」
「あはは、その人達の事、大好きなんだね。」
「当たり前やって、私の家族やもん。」

なるほど。笑顔のはやてちゃんから、本当にその人達の事が大切って事が伝わってくる。
っと、匂いがリビングに届いたのか、アルフが少しソワソワとし始めたね。はやてちゃんも「もう少しやからねぇ」と笑って見ていた。

≪ねぇ、お兄ちゃん、…さっきから何か感じない?≫
≪え?……多分だけど、はやてちゃんの魔力じゃないかな?彼女もコア持ってるみたいだからね。≫
≪そう…かなぁ…?≫



・フェイト・


「けど、メビウス君もお料理、本当に上手なんやね。フェイトちゃんかて凄いやんか。」
「あ、ありがとう。けど、はやての方がもっと上手。私は…少し焦がしちゃったよ。」
「私も最初は失敗ばかりやったよ。…けど、兄妹かぁ…ええなぁ。」

夕ご飯が終わって、結局私達ははやての家に泊めてもらう事にした。今、私とはやては一緒にお風呂に入っている。
先にお兄ちゃんはお風呂に入って、リビングで寛いでいる筈。

「そう…かな?」
「そうやよ。あんな優しいお兄さんが居たら、本当に甘えられそうやからね。フェイトちゃん、メビウス君の事、好きやろ?」
「……分かるの…?」
「当たり前や。あんなに分かりやすいのに分からない方がおかしいんよ。…メビウス君は鈍感みたいやけどね。」

あ…う…。今日、会ったばかりなのに…もうばれてる。
…けど、確かにお兄ちゃんは鈍感だ。…なのははそこが良いの!!って言ってるけど…。

「けど、本当に優しいのは私にだって分かるんよ?…見ず知らずの私に雨降ってるのに、傘を貸してくれるなんて…お人好しも良いところや。」

パシャパシャとお湯を弾くはやての顔は、凄く嬉しそうな笑顔。
顔が赤いのは…きっとお風呂が熱いとか、それ以外だと思う。
2人で身体を洗い合って、お風呂から上がる。髪を軽く拭いて、リビングに向かう。はやてはキッチンで冷たい飲み物を用意するって言っていた。
リビングに行くと、お兄ちゃんがガルムに寄りかかるように座って、髪を梳かしていた。

「上がったんだ。…フェイト、おいで。」
「あ…うん。」

お兄ちゃんが私に気が付くと、自分の膝を笑顔で叩いて、優しく私の名前を呼ぶ。
家では何時も、お風呂から上がると、お兄ちゃんが髪を梳いでくれるんだ。膝の上に甘えるように座ると、優しく優しく櫛を髪に通してくれる。
それが…凄く気持ち良くて…安心できる。

「2人とも、冷たい飲み物持ってきたよ。って、フェイトちゃん、ええことしてもらっとるなぁ。」
「はやて!?あ、や、その…。」
「こら、動いちゃ駄目。髪の毛痛むでしょ?」

あうう…はやてに見つかって、驚いて動こうとした私をお兄ちゃんが止める。
…きっと顔が真っ赤になってると思う…。甘えるのは好きだけど…人に見られるのは…少し苦手。
ほら、はやても笑ってるよ…。

「あはは、本当に仲がいいんやね。」
「そうかな?…はい、フェイト、おしまいだよ。…それじゃ、次ははやてちゃん、おいで。」
「へ?ええの?」
「うん。ほらほら。」

笑顔ではやてを膝の上に座らせて、私の時と同じように優しく梳いていく。
はやても最初は少し硬くなってたけど、優しい手つきに徐々に身体の力を抜いていっている。

「あ~…気持ちええなぁ。…フェイトちゃんの気持ちがよう分かるよ。こんなお兄ちゃん居たら、確かに」
「は…はやて!!」
「あはは、冗談やて。」

慌てる私を面白がって笑うはやて。うぅ…なんだか、弱みを握られちゃった気がする…。

「ん~…お兄ちゃん♪なんて言ってみたり…」
「なぁに、はやて?」
「ほへ?」
「え?」

驚いたようにお兄ちゃんの顔を見つめるはやてと私。その顔は…私となのはが一番弱い…優しくて甘い笑顔だ。
それにはやての名前も…きっと一番優しい声で呼んだと思う。

「えっと…お兄ちゃん?」
「ふふ、さっきからどうしたの、はやて?」
「あ…う…。もぅ、卑怯やよ…その笑顔…。」
「あはは。からかいすぎちゃったかな。ごめんね。」

顔を真っ赤にして、お兄ちゃんの胸に顔をグリグリと押し付けるはやて。うん…多分、あの笑顔は…私も耐えれないと思う。
きっと、無条件で…甘えたくなっちゃうよ。

「これ…天然なん?」
「うん。そうだよ。…困るよね。」
「確かに…これは困るなぁ…。フェイトちゃんの気持ちがよう分かったよ。」
「2人して…どうしたの?」
「なんでもないって。…メビウス君、少し甘えててええかな?」
「もちろん。ほら、フェイトもおいで。」
「…うん!!」

私ははやてと一緒にお兄ちゃんの腕の中に飛び込んでいく。…世界で1番安心できて…1番私が満たされる所…。
はやても幸せそうに…笑っている。

「ん~…本当に…優しいなぁメビウス君は。…フェイトちゃん、ごめんな。私…負けれないかも。」
「…私も負けないよ?」


なのはにはやて…ライバルが2人になったけど…絶対に負けない…!!





あとがき

時間系列が滅茶苦茶ですが…ご勘弁を…。
はやての関西弁が微妙すぎて泣けてきます。誰か翻訳サイトを…!!泣
今回も短いです。はやてとのフラグを立てておいてと…次回から2期に突入します。
いや、ここでフラグ立てておかないと後々、回収不能になる恐れが…
騎士達は別世界に魔導師狩りに行っています。はてさて…どうなることやらで…。




[21516] As編 1話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/02/13 23:55
・メビウス・

季節は12月。もう真冬だ。吐く息は真っ白で、空気も冷たい。

「久々に1人だけか。」

コートを羽織って、マフラーをしっかりと巻き直す。
私は今、神社に向かっているところ。理由は…オメガの代わりにチビ狐に油揚げをあげるため。
閃はリリンちゃんがこっちに引っ越してくるらしくて、その準備で忙しいそうだ。オメガは校庭でクラブの練習中。
なのちゃんやフェイトは、すずかちゃんのお家に遊びに行っている。誘われたけど…男の子が私だけだと少し…ね。
そんな訳で、油揚げを持って神社に向かっている。
石段を登り、鳥居をくぐると、何時ものように境内に居るはずのチビ狐に呼びかける。

「チビ狐。油揚げもって来たよ。」
「…」

奥の方から、静かにトコトコと歩いて出てくるチビ狐の頭を軽く撫でて、油揚げの袋を開けてあげると、お腹が減ってたのか、はぐはぐと美味しそうに食べてくれる。
ん~…この狐って…本当に小さいままだなぁ。観察する私に気が付いたのか、首をかしげてジッと顔を見つめるチビ狐に「なんでもないよ。」と言って、また頭を撫でてあげる。
…さて…何時までもこんな事をしてる…場合じゃないか。

「いい加減…出てきたらどうですか?」

首もとのエクスを握り締め、私は鳥居の方に視線を移す。
さっきから、こちらを観察するような視線を感じていたんだ。それも、多分魔導師だ。


『マスター、周囲に結界が展開されました。…やはり魔導師のようですね。』
「みたいだね。」

さて…一体、誰が何のために…こんな事をしているのか…。考えたいけど…そうもいかないか。
鳥居の影から、1人の女の人が姿を表した。凛々しい人…だね。そして…かなりの凄腕だ。

「はじめまして…ですね。私に何か用ですか?」
「…名も知らぬ少年よ。すまないが…その魔力、貰い受けるぞ。」
「言葉は不要…ですか。」


女の人がバリアジャケットを、纏い剣型のデバイスを私に突きつけてくる。
これは…甲冑に近い感じがするけど…装甲が少ない。どっちかと言うと…ブレイズさんのバリアジャケットに近い…?

「最初に言っておきます。…全力で、抵抗させてもらいますからね?」
「それで構わない。だが…覚悟はしてもらおうか。」
「…エクス!!」
『了解です。…マスター、お気をつけて…。』

エクスをセイバーに切り替えて、正面から向き合い対峙する。
…威圧感が…凄まじいね。…歴戦の剣士って感じがヒシヒシと伝わってくるよ。
一枚の落ち葉が私達の間を舞い…それが地面に付いた瞬間に…同時に地面を蹴っていた。




・シグナム・


「くっ…!!」

驚くほどの魔力量を有したし少年を見つけ…戦いを挑んでみたが…この少年は強い。それが私の感想だ。
蒼い剣を振るい、我が剣レヴァンティンと真正面から斬りあえるほどの実力を、この少年は持っている。しかし…倒せない相手ではない。
それでも…何故か戦いが長引いている。決して私が手を抜いている訳でも、少年が強過ぎると言うわけでもない。
ほんの少し私のの心の底にある違和感。それが剣を鈍らせていた。

(強い。だが…なんだ、この違和感は…。私はこの少年を知っている…?いや、違う…。この少年と似た人物を…知っている?)

鍔競り合いをしながら、少年の顔を観察する。
確かに…私は知っている。だが…守護騎士である自分に過去の記憶などあるはずがない。ならばこの違和感はなんだと言うのだ…?


「ちっ…。流石に…強い…!!」
「少年こそ…なかなかやる。」
「こっちとしては…逃げたい気分なんですけどね…!!」
「逃がす気は…ない…!!」

振り下ろされるセイバーをレヴァンティンで弾き返して、胴体に蹴りを叩き込むが…
それを察知した少年は、体勢を立て直すためにバックステップで下がり、蒼い魔力弾を構成し撃ち出してくる。
避けるまでもない…なぎ払うまで!!

「陣風!!」
「なぎ払われた…!?」

レヴァンティンの刀身から衝撃波を放ち、魔力弾を跡形もなく迎撃する。これには少年も驚いたようだな。
既に戦闘を開始してから、結構な時間が過ぎているな。長期戦は私にとって不利となる。
このまま続けては…少年の仲間や管理局が戦闘を察知するかもしれない。それは絶対に避けなければ…いけない。
私を家族と言ってくれた主の為に…負けるわけにも…引くわけにもいかないのだ…!!

「…少年よ。決めさせてもらうぞ。」
『高魔力反応…来ますよ。マスター!!』
「なら、全力で…迎え撃たせてもらいますよ…!!』

私のはレヴァンティンの刀身に魔力を乗せ、少年の剣にも更に魔力を収束する。

「紫電」
「ソードウェーブ…」
「一閃!!」
「フリーケンシー!!」

私の必殺の斬撃と少年の放った、十字の斬撃が正面からぶつかり合い、爆発が起こる。
く…威力では互角だったようだな。

「防がれた…いや、相殺されたか…。」
「なんとか…なった。」

私の切り札と言える紫電一閃を相殺するとは…やはりこの少年は強い。そして…内に走る歓喜。これほどの魔力ならば…闇の書の頁を多く埋める事が出来るはずだ。
そうすれば…主も…きっと助かる…。それが今の私の…戦い、生きる理由。まだ大丈夫だ。周囲には何の反応もない。万全ではないが…まだ戦える…!!
だが…次の魔法を行使しようと、私が魔力を溜めようとした瞬間に…周囲に響き渡る不気味な声。

てこずっているようだな。…ならば、我らが…手を貸してやろう…。
「なに…?」
『これは…マスター、気を…外…ハッキ…』
「エクス…?…な…!?」

なんだと…!?突然、少年のデバイスが機能を停止し、バリアジャケットが解除される…だと…!?
本来ならば好機…なのだろうが…騎士としての誇りが攻撃を仕掛ける事を躊躇させる。
だが…私が動く前に…ズブリ…と鈍い音を立てて…

「…あ…れ?」

背後から、何者かの剣が少年の…胸を貫いていた。








(あれ…?どうして…私の胸から…剣なんて、出てるんだろう…?どうして…血が、噴出してるんだろう…?
どうして…私のリンカーコアが…突き刺さって…身体の外に…出てるんだろう…?)

「ただのモブキャラの分際で…僕の邪魔をするから…こうなるんだよ!!」

その声と同時に…貫いていた剣が引き抜かれる。その瞬間にメビウスの胸から血が噴出し、周囲を紅く染める。
バシャ…と自分で作った血溜りに倒れ付すメビウスと、呆気に取られるシグナム。
彼の背後を見ると…フードを被り双剣を持った魔導師が、佇んでいた。その切っ先にはメビウスのリンカーコアが突き刺さり、蒼い光を放っている。

「ふん。…まぁ、所詮は雑魚でモブキャラか…。おい、こいつの魔力が欲しいんだろう?…早く吸い取れ。」
「貴様…何者だ…?」

突き刺さったままのコアを差し出す魔導師を警戒し、レヴァンティンを構えるシグナムだが、魔導師は面白そうに笑い声を上げて、もう1振りの剣を突きつけてくる。

「消耗した状態で僕と戦うつもりか…?馬鹿だね。…今の僕は機嫌が良い。こいつの魔力を吸い取って消えるなら…何もしないさ。」
「……くっ…。」
「そうそう。それが一番、良いことだ…はははは!!」
(少年よ…すまない。)

万全な状態ならば、この魔導師も倒せるだろうが…メビウスとの戦いで、それなりに魔力を使っている。ならば、ここで無理する必要はないだろう。
心の底でメビウスに謝りながら、闇の書を取り出し、魔力を吸収していくシグナム。
それを愉快そうに見つめる魔導師の眼は…狂気に満ちていた。まるでメビウスが…こうなる事を望んでいたように…憎悪に満ち溢れていた。

「…予想以上だな…。決着としては不本意極まりないが…。」
「ふん、むしろ感謝して欲しいものだがね。」

魔力を吸収し終えたコアを排出され。それをフード魔導師が拾い上げる。
そして…愉快そうに口元を歪め、醜い哂を浮かべる。

「ふ~ん。雑魚の癖に…レアスキルを持ってるなんてね…。」
「魔力が…回復しただと…!?」

再び蒼い光を放つメビウスのコア。ソラノカケラにより、瞬時に魔力が供給されたようだ。
その瞬間に…シグナムの手の中にあった闇の書が再び、魔力を吸収している。

「なっ…これ以上はやめろ!!…闇の書…止めろといっている!!」
「あはははははは!!!そいつはまだ喰い足りないってさ!!」
「く…!!」

再び魔力を吸収する闇の書を止めるために、シグナムはこの場から転移して、離れる事にした。
それを見届けた魔導師はフードを取り…素顔を露にする。シルヴァリアス・ゴッテンシュタイナー…。

「…所詮は…雑魚なんだよ!!あはは!!」

血溜りの中に倒れているメビウスの身体を蹴りつけて、狂ったように哂う。
2度、3度と蹴りつけ、今度は彼の手を思いっきり踏み躙り…醜く変形させる。それでも飽き足らず、再びけりつける。

「意識を失ってるのがつまらないな。醜く…豚のように泣き叫ぶ貴様の声を聞きたかった…よ!!」

頭を踏みつけ、蹴りの飛ばす。もはや…それは人の所業ではなかった。
踏みつけ、蹴り飛ばし、突き刺す。その表情は…狂気の笑みで埋め尽くされていた。

「ふふ…。なのは、こいつはあと少しで…醜くなるよ。…もう見た目で騙されなくても良いんだよ。…待っててね。」

アスカロンを振り上げ、メビウスの顔を切り刻もうとしたシルヴァリアスだが…軽く舌打ちをして神社の入り口を見つめる。

「ちっ…邪魔者が来たか。…まぁ、これだけ痛めつければ…良いか。…最後の仕上げだ。」

メビウスのリンカーコアを宙に浮かせ…シルヴァリアスはアスカロンを振るう。
その斬撃が容赦なく…蒼いコアを…粉々に砕き…潰していった。



・???・
ははははは…予想以上の魔力だ。
さぁ…管理局の犬どもよ…どう動く…?
ははははは…












チビ狐は走っていた。
彼女の友達が…大変な目にあっている。それを彼女の1番の友達に知らせるために…走っていた。
口にくわえるのは紅く染まった蒼いリボン。目的地は…学校の校庭。
何時もそこでサッカーをしていると…彼は言っていた。人の目に付くのは嫌いだけど…そんな事に構って入られない。
匂いを頼りに…ひたすらに走り続ける。

(どこ…どこ…!?)

チビ狐は人の言葉を解し、頭も良かった。だからであろう…道に書かれている文字を理解して…目的地にたどり着いたのだ。

「お?こんな所まで来て、どうしたチビ狐!!」
「!!」

大好きな油揚げをくれる1番の友達--オメガを見つけると、チビ狐は一目散に駆け寄っていった。
身体が疲れてるけど…そんな事は関係ない。速く伝えなければ…

「おいおい。なんだよ、油揚げはメビウスが持ってっただろ?」
「!!!!!」

違う、伝えたいのはそんな事じゃない。チビ狐は加えていたリボンをオメガに手渡す。

「あん?これメビウスのだろ?おい、これ…血か…?チビ狐!!メビウスになんかあったのか!?」
「!!!」

チビ狐はコクコクと何度もうなずき、走り出す。それを追ってオメガは荷物も全部捨てて走り出す。
親友の大切なリボンが血で濡れている…。何かあってチビ狐が知らせに来たのだと…瞬時に理解したのだ。
1人と1匹が夕暮れの街を疾駆する。走って走ってたどり着いたのは…何時もの神社。
石段を登り…境内を見れば…

「メビウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

無残にも変わり果てて…血溜りの中に倒れている親友の姿が…そこにあった







あとがき

…………いきなりの展開で始まりました。
いや、何も書く事が…。メビウス君は離脱…です。
…さぁどうなる2期、どうする作者!!




[21516] As編 2話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/02/16 20:59
フレッシュリフォー社、最先端医療施設

・閃・

「…お兄ちゃん…お兄ちゃん…!!」
「フェイトちゃん…大丈夫…メビウスちゃんは大丈夫だから…。」


重苦しい空気が漂う。その中でサイファーさんに抱きついて、泣きじゃくるフェイトの声だけが響いている。
…メビウスは厚いガラスの集中治療室の中で眠っている。正確には…意識不明って事だがな…。
あいつがメビウスって事は…多分、言わなきゃ分からないだろう。
包帯で全身を覆われ、身体中に輸血や薬品の管がつながれ…生命維持装置でやっと…生きている状態だ。
あの優しい笑顔も…強い光を持っていた瞳も…全部全部…壊れていた。
オメガの連絡を受けた俺とリリンが、フレッシュリフォー社が誇る最高最大最先端の医療施設に収容したが……どうにもならない…。
おびただしい出血に外傷。内臓まで届いている傷。本当に生きているのが…不思議なくらいだった。医療スタッフ達も最善を尽くしてくれたが…生命維持だけで精一杯。
エクスも外装から内部構造までズタボロで…修復不可能な位までに破壊されているし、コアも機能を停止している。…なにがあったのか、それすら知る手がかりはない。
フェイトとなのはも駆けつけたが…フェイトはさっきからずっと泣いている。だが…それならまだ良い。感情ってもんが…あるんだからな。
だが…なのはは…泣きもしなければ、わめきもしない。ただ…感情が抜け落ちた顔で、虚ろな暗い瞳で、メビウスを見つめていた。
…これは…やばいかもな。フェイトより…なのはの方が参ってるな。だが…正直言うと俺もきつい。
なのは達と一緒に居たアリサとすずかも来ているが…アリサは姿の見当たらないオメガを探しにいったし…すずかは泣きそうなのを我慢して…その場で立ち尽くしている。
その場から一旦離れ、部屋の外に居る主任と合流する。
何時もはふざけた表情の主任も…今回ばかりは真面目だ。

「…どんな…感じなんだ…?」
「出血過多、外傷と内臓の破損。眼もアウト…手の足の骨も粉々。…生きてるのが不思議なくらいだって。」
「……やっぱりか…。リンカーコアは…?」
「再生不可能な位まで粉々に砕かれてる。…仮に無事だったとしても、魔導師はおろか…2度と通常の生活には戻れないみたいだし…さ。
あの綺麗な顔も修復は…多分…無理だろうね。」
「…!!!」

壁に拳を打ち付ける。…浅はかだった。馬鹿だった…!!もっと先を読むべきだった…!!
俺たちの中でメビウスが一番魔力が高かい。つまりヴァルケンリッターに…狙われる可能性が一番高いって事だろう…!!
なんで対策を立てなかった…!?なんで忠告しなかった…!!俺は、あいつの親友なんだろう…!?あいつらの笑顔を護るって…誓ったんだろ!?
なのに…なのに…。きつく閉じた眼から涙がこぼれる…。

「こんなのって…ねぇよ…!!」
「…誰が…やったんだろうね。」
「今の時期から考えると…ヴァルケンリッターしか居ないだろ…!!…はやての為だからって…こんな事、許されんのかよ…!!」

闇の書の守護騎士達。あいつらが…やったとしか俺は思えない。
だが、主任は否定するかのように首を振り…メガネを上げる。

「…彼女達が、こんな非人道的な事をする筈がない…。ただ魔力を奪えれば良いのに、コアまで破壊はしない筈だ。
それに…デバイスまで破壊する理由が見当たらない。絶対に…彼女達じゃない。』
「なら…誰がやったって言うんだよ…?」
「それが分かったら苦労はしないさ。」

なんでだよ…一番可能性があるのは…守護騎士達だろう…?なんで主任は絶対なんて…断言するんだよ…!!!
あいつらがメビウスをこんな眼にあわせたんだろう…!?かっと頭が怒りで熱くなる。

『…どうしたんですか、帝閃。冷静にクールに…思考を働かせろ。』
「レーベン…お前…。」
『全部の可能性を落ち着いて見極めるんです。冷静に、客観的に、全体を見渡すんです。…貴方はそれが出来るはずでしょう?
神の眼と思考を用いて…解析するのですよ。…お!!私、今良い事言いましたよね!!ふふふ…流石は私!!』

…こいつに諭されるとはな…だが…確かにその通りだ。だが…最後の自画自賛で台無しだぞこんちくしょう…。
思考を切り替えるために、頭を振って落ち着かせる。そうだ…俺は何も出来ない分、頭で戦力になるんだよ。
落ち着け…落ち着けよ俺。熱くなってもクールにだ。冷静に全部を見るんだ…帝 閃。

「よし…落ち着いた。…取り乱しちまってすまない。レーベンも…サンキューな。」
「良いさ。…僕も君の立場なら…そうなってる筈だから…ね。それじゃ、僕は一旦、研究所に戻るよ。」
『まぁ、私がサポートしてあげなきゃ…何も出来ない童ていたたたたたたたた!!!!!散る散る散る散るチルノ!!!…ひでぶ!?』


白衣を翻して、歩き去っていく主任を見送りながら、レーベンを思いっきり踏みつけて黙らせる。
去っていった反対方向の廊下の聞こえてくる足音。そっちの方を向けば、膝に手を付いて息を切らせてユーノが居た。
顔とかに少し土が付いているが…発掘作業中だったみたいだな。
俺がこいつやクロノ達に連絡を入れていた。…クロノとブレイズは現場検証に行ってくれているはずだ。

「はぁ…はぁ…閃!!メビウスは無事なの!?」
「……」

無言で病室を指差すと、ユーノが駆け込んでいく。…こいつもメビウスとは仲が良かったからな…。
態々、発掘を中断して…着替えもせずにこっちに来てくれたようだ。
メビウスの状態を見てユーノが病室から出てくるが…その表情は…辛い。

「…一体…誰がやったの…?」
「まだ分からない……。お前まで泣きそうになってどうすんだよ…。」
「だって…メビウスは僕の友達で…ジュエルシードの時も助けてくれて…。どうして…!!」

悔しそうに…涙をポロポロと零すユーノ。

「閃…悔しいよ。…メビウスがあんな目にあっているのに…助ける事も…仇を討つことも出来ない…。」
「…俺も同じだって。だがな…ユーノ、泣くのは後だ。…今は落ち着いて…考えるんだよ。」
「考える…?」
「誰がメビウスをこんな目にあわせたのか…目的は何なのか。それが分からないと話しにならない。…あいつの分まで…俺達が考えんだよ。
ほら、涙拭け。お前にも…できる事があんだからよ。」
「閃…。そうだよね…。僕にも…出来る事があるはずだよね…!!」

袖で涙を拭いて、ユーノは泣くのをやめた。…まだ眼が赤いけどな。まぁ…こいつが冷静になってくれただけでも、充分だ。
…だが、どうやって守護騎士達がやったと…気づかせるべきか…。俺が下手に知らせるのも拙い。闇の書の為に、まだ蒐集は続けられる筈だ。
…そうなると…次に狙われるのは…なのは辺りか。今のなのはじゃ…戦えないだろうな。

「ユーのはしばらく、なのはの近くにいてやってくれないか?」
「なのはの?」
「今のあいつは…誰かが支えてやらないとヤバイ状態だ。メビウスっつう…でかい心の支えがなくなったからな。」
「良いけど…、フェイトの方はどうする?」
「そっちは大丈夫だろう。…サイファーさんやスカーフェイスさんが支えてくれる筈だ。とりあえず、当分はなのはの側に居てやってくれ。」
「分かった。…なのは…大丈夫かな…。」

心配そうにするユーノだが…その気持ちは分かる。
フェイトは、義理とは言え…両親が居る。あの人達が支えている限りは…フェイトの心は折れない。
それに、きっとプレシアの大きな愛が心の中にある。愛する母親との別れの経験が、フェイトの心の糧になっているはずだ。
問題は、なのはだ。多分だが…フェイトよりなのはの方が、メビウスへの依存率は高い筈だ。小さい頃から一緒に居たって言ってるし…何をするにも何時も、側に居たからな。
失った反動は…あいつの方が大きいだろう。そうでなければ…あんな暗い眼にはならない。

「そう言えば…オメガとガルムは?」
「…あの2人も…相当落ち込んでんだろうな。」




・医療施設入り口・


「こんな時に…あの馬鹿、どこ行ってるのよ。」

姿の見えないオメガを探して、施設内を歩き回るアリサ。
ふっと窓の外を見ると…入り口の階段の所で座っているオメガの後姿を見つけた。その腕の中にはチビ狐が抱っこしていた
既に時間帯は夜で外灯に照らされなければ、見つけれなかっただろう。
すぐに入り口に向かい、その背中に声をかける。

「オメガ、こんな所でなにやってんのよ。」
「…おう、アリサか。」

振り返らずに…返事をするオメガの声には、何時もの元気な声とは程遠いものだった。
聞いた事もないオメガの声に戸惑うアリサだったが、そんな事は知らずにオメガは静かに話を始める。

「俺って…メビウスの親友…なんだよな。」
「今更、何を言ってるのよ。自分でも親友って…言ってたじゃない。」
「なのによ俺…助けれなかったんだぜ…?」
「オメガ…?」

抱っこしているチビ狐にポタポタと静かに落ちる涙。
アリサはあわててオメガの近くに走りよるが、どうすることも出来ない。彼の涙声と独白を…聞く事しか出来なかった。

「メビウスは、俺がどんなに馬鹿をやっても…呆れながらも最後まで、付き合ってくれたんだ。こんな俺の事を…親友って言ってくれたんだぜ?
なのによ…俺…その親友があんな事になってたのに…呑気にサッカーの練習なんかしてたんだぜ…?」
「オメガ…もう言いから…思いっきり泣きなさいよ…。我慢なんて…あんたに似合わないわよ。」
「ごめん…ごめんメビウス…!!痛かったよな…恐かったよな。それなのに…俺、助けれなかった…!!!気が付かなかった…!!」

チビ狐が必死にオメガの涙を舐めて慰め、アリサはそんな1人と1匹を抱きしめていた。
何時も太陽のように笑う彼の始めてみる泣き顔。初めて聞く泣き声。どれだけ…親友の存在が大きかったのか…それだけで分かる事が出来た。
ただアリサは…この友達思いの少年と一緒に泣くしか…出来なかった。






・屋上・

「……ガルム。」
「アルフか…なんだ。」

アルフは屋上に佇み夜空を見上げるガルムを見つけ、声をかけた。
何時もの様に凛とし、クールな声で答えるが…ため息をつきながら、アルフは隣まで歩いていき、バシっとその背中を叩いた。

「っつう…何をする。」
「…ったく、あんたもあんたで…強情だね。」
「おい…こら、離せ…!!」
「やなこった。…あんたが…ガルムがつらそうなのを見てると…あたしもつらいんだよ。」
「っ…。」

ガルムを無理やり、自分の胸に抱きしめて、背中を静かに擦ってやるアルフ。
その眼は…大切なものを見るように…優しく愛しい光を持っていた。

「我は…我はメビウス様を、護ると…絶対の忠誠を…誓っている。」
「うん。」
「だが…我は…メビウス様をあのような…事に…。」
「あんたがあいつを大切にしてるのは…わかるさ。」
「我は…何も返しきれていない…メビウス様に命を助けて頂いた恩も、名を付けてくれた事も…全てを与えてくれた事を何も…何も…!!」
「きっと…大丈夫だよ。まだ死んだわけじゃないんだから…。メビウスなら大丈夫さ。…あんたのご主人様なんだろ?」

アルフの胸の中で嗚咽を漏らすガルム。身体が小刻みに震え、背中に手を回し縋り付く彼は…子供のように見える。

「誰が何の権限があって…メビウス様から空を奪った…!!空を飛ぶ事が…大好きだったあの方から…誰が翼を奪った…!!
我は…我は、護れなかった…!!」
「ガルム…ここにはあたししか居ないから、泣きなよ。受け止めてあげるからさ。」
「う…あぁぁぁぁぁ…!!!!」













あとがき

ストーブつけようとしたら、白い煙が出て大破した作者です。…これは…面倒な事に…なった…。
Asでのコンセプト、無印ではメビウス無双的な要素が多かったので…今回はオメガや閃達に頑張ってもらおうかと思います。
メビウス君、意識不明の重体です。エクスも全壊してます。医療知識が皆無の作者にはこの程度の描写が精一杯です。
悪い意味で…ご都合主義ですね。真犯人は闇の中…。文字の如く闇の中…。
次回は…あの方が…本気を出すかもしれません。



[21516] As編 3話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/02/23 21:37
・ユーノ・

メビウスが入院して数日がたった。
閃やオメガ、ガルムはクロノ達と協力して捜査を行っている。…それで学校とも両立してるんだから、彼らのタフさには驚かさせれるよ。
…フェイトも表面上は持ち直したけど…やっぱり、寂しそうな、悲しそうな顔をするときがある。けど、サイファーさんやスカーフェイスさんが支えてあげているから、多分大丈夫。
一番心配なのは…やっぱり、なのはだ。。…僕はソッと隣を歩くなのはの横顔を見る。
学校が終わる時間帯に迎えに来て、一緒に帰るようにしろって、閃から言われてそうしてるんだけど…やっぱり、見知らぬ僕は少し注目を集めていた。
まぁ、何回も来てる内に慣れたけどね。出会った頃のような、笑顔はなく…虚ろな表情で、沈んだ暗い眼をしている。…

「えっと…なのは。今日の学校はどうだった…?」
「…普通だったよ。」
「そ…そっか、普通か。…普通…ね。」

話しかけても、こんな感じでしか返事が返ってこない。感情の篭っていない…平坦な声。…今の彼女は…何にも興味が無いんだろうね。


「…メビウス、早く治ると良いよね。」
「……うん…。」

…しまったぁぁぁぁ!!!幾ら話のネタが無いからって…メビウスの話題を出したら駄目だよ僕!!
け…けど、彼の話題なら…なのはも乗ってくるんだろうけど…辛い事かもしれないから…どうしよう…?

(ああもう…何時もはなのはが、話をしてくれいたから…何をどう話せば良いんだろう?…何時もは…なのはが…?)

あぁ…そうか。僕は重大な事を忘れていた。…なのはにとって、メビウスが全てだったんだ。
僕がお世話になっていたとき何時も何時も…それこそ聞き飽きるぐらいに、メビウスの話ばかり聞いていた。
きっとなのはは…メビウスを通して世界を見ていたんだろう。…メビウスの居た世界だから…彼女は世界を見ていたんだ。
…それはつまり…メビウスが居ないと…彼女の世界は…無いって事…?

「…誰か…居る。」
「え…?」

なのはが立ち止まるのに気が付いて、僕も慌てて歩みを止める。考え事をしてて気が付かなかった…周りに結界が張られてる…。
前を見ると…一風変わった服を着ている女の子が…険しい表情で僕達を見つめていた。
肩にはハンマーのようなデバイスが担がれていて…物凄く拙い。と僕の6感が告げている。

「…らぁぁぁぁ!!!」
「いきなり!?」

何も言葉もなしに…ハンマーを振り上げて、こっちに向かってくる女の子。冗談じゃない…!!
動けないなのはの前に飛び出して防御障壁を展開して、振り下ろされるハンマーの一撃を防ぐ。
くうぅぅ…僕の障壁じゃ、防ぐのが精一杯だ…!!

「ちっ…。まさかあたしの一撃を防ぐなんてね…。」
「君は一体…何が目的だ!!」
「悪いけど…お前らの魔力、貰ってく!!」
「魔力…まさか…君がメビウスを…!?」

再び振り下ろされるハンマーを障壁で防いで、弾き飛ばす。単純な方法だけど…いや、単純な方法だからこそ恐い。
これだけの威力の一撃…なんにも使わずに出せるなんて…僕じゃ勝てない…!!

「なのは、僕が防いでる間に後方から砲撃を…」
「あ…あ…」
「なのは…!?」

突然、なのはが自分の身体を抱き抱えるようにして座り込んでしまう。
そんな…何が…って、気にすることも出来ない…。女の子の力押しに…耐えれ…ない!?

「って…障壁が割られた!?君はオメガか!?」
「誰だよそいつ!!…避けやがったな…」
「な…なんて馬鹿力…。地面が陥没してるよ…。」
「馬鹿力言うな!!」


盛大に振り下ろされたハンマーが地面を穿つ。障壁を破られた瞬間に下がってなきゃ…危なかった…。
その意趣返しに、ちょっと挑発しちゃったけど…拙かったかな…。


「なのは、戦って!!僕だけじゃ、防ぎきれない!!」
「む…無理だよ…。」
「無理って…どうしたのさ、なのは!?」
「やだよ…戦えないよ。怖いよ…怖いよぉ…。メビウス君、メビウス君…助けてよ…メビウス君!!助けて!!」
「そんな…閃、オメガ…僕じゃ…無理だ…。」

身体を震わせて、彼に…メビウスに助けを呼ぶなのはを見て…僕にはどうにもならないと…気が付いた。
僕じゃ…なのはの心を癒す事なんて出来ない、助ける事なんか出来ない。…メビウスしか、なのはの心を…救えないんだ。
それでも…今のなのはは…僕が守るしかない。僕の持てる全魔力を駆使して、最硬度の障壁を作り上げて、女の子と向き合う。
…突然の泣き声で女の子も戸惑ったみたいだけど、もう…手加減とかしてくれそうにないな。

勝たなくてもいい。…今の僕に勝利は必要ない。…今の僕の必要なのは…負けない戦いだけだ!!









ヴィータが振り下ろすアイゼンを、ユーノの障壁が防ぐ事数回。流石のヴィータも予想以上の守りに少し手こずっていた。

「さっきから守ってばっかりかよ!!」
「君こそ…殴ってばかりだね…!!」
「こんの…!!」

疲労の表情を浮かべながらも、虚勢を張り続けるユーノは流石と言うべきか…。
後ろで座り込んでいる少女を守るために、彼もここで負ける訳にはいかなかった。空の少年が居ない間は自分が守らねば…それが彼の意思。
一方のヴィータも同じである。先日、シグナムが蒐集してきてから、はやての体調はすこぶる良好だ。だが…何時また苦しみだすか分からない。
自分を可愛がってくれているはやての為。苦しむ彼女を救う為に…たとえそれがはやての望まない事でも…彼女は戦い続ける。

「これで…砕けろ!!」
「しまっ…た!?ぐあぁぁ!?」

アイゼンが障壁を打ち砕き、ユーノ諸共弾き飛ばした。
まともに直撃を受けたユーノが数m程吹き飛び、地面にこすり付けられる。
肩にアイゼンを担いで、ヴィータは静かに、未だに座り込んでいるなのはへと歩み寄り、蒐集を始めようとしたが…それを遮るようにして…声が響く。

「どぉぉぉりゃぁあぁぁあ!!!」
「なん………わぁ!?」

突然、展開していた結界の天井部を破壊して落ちてくる人影。ヴィータとなのはの間を遮るようにして着地した少年。腕に付けられたパイルバンカーが唸っていた。

「オ…メガ…。間に合って…よかった…。」
「ユーノ、少し休んでるんだぜ。…閃も少しでくる。」

弱弱しく顔を上げたユーノの眼に映ったのは…頼りになりすぎる親友、オメガの後姿。彼なら…負けないだろう…と考え、安心感から…ユーノは意識を失った。

「さてと…今度は俺が相手だぜ!!こい…ゲートボーラー!!」
「だ…誰がゲートボーラーだぁぁぁ!!!」

オメガの一言で逆上したヴィータがアイゼンを振り上げて、突進してくるが…ある意味で相手が悪かった。
この少年は…色々な意味で理不尽なのだ。パイルバンカーに魔力を溜めて…迎え撃つオメガの顔には…眩い笑顔。
アイゼンとパイルバンカーが正面からぶつかり合い、魔力光が散る。

「おらぁぁぁぁ!!」
「あたしが…押し負ける…!?うわぁぁぁ!?」

オメガの気合の声と共に、ヴィータの小柄な身体が吹き飛ばされる。空中で体勢を立て直し、地面へと着地する。
その顔には驚きの表情が浮かんでいた。自慢のアイゼンでの一撃がいとも簡単に防がれ、吹き飛ばされたのだ。
しかも、ハンマーの部分に罅まで入れられたのだ。流石のヴィータでもほんの少し怖気づいてしまうのも仕方が無い。

≪ヴィータ、撤退だ。…もう1人、魔導師が向かっている。≫
≪ザフィーラ!?…分かったよ。≫

索敵を行っていた仲間のザフィーラから念話が入り、これ以上は不利と判断したヴィータ。


「…お前の名前、なんだよ。」
「ハッハー!!俺はオメガ・ガウェインだぜ!!」
「オメガだな…。今度あったら…ぶっ叩く!!」
「おう!!やれるもんならやってみろぉぉぉ!!!」

最後にオメガを睨み付けて転移していくが、オメガはまったく気にせずに笑顔で親指を立てていた。
…これがヴィータのある意味で不幸であり…ある意味で幸せの始まりだったのかもしれない。







・閃・

「…お前は…なにしてたんだよ、なのは!!」
「………」

医療施設の廊下に響く俺の怒鳴り声。周囲に居た医療スタッフが驚いて、こっちを見ているが…知らん。
俺が到着したときには、守護騎士は撤退済みで、怪我したユーノをオメガが背負っているところだった。
…幸い、ユーノは骨折程度で済んだ。内臓にも傷はないが、当分は戦えないだろう。
だが…問題はなのはだ。…正直、なのはの護衛にユーノしか付けなかった俺にも責任はある。と言うか…俺が100%悪い。
それでも…俺は何処かで信じていたんだよ。なのはが…きっと戦ってくれるって…不屈の心を持っててくれるって…。
たが、現実は違った。…なのはは蹲って泣いていただけ…。

「なぁ…なのは。お前は…どうしたんだよ。なんで戦わなかったんだ…?」
「…だ…だって、私…何も出来ないよ。恐くて…身体が動かないんだよ…。」
「動かないって…訓練とか…前の事件だって、戦ってたじゃないか。」
「わ、私…メビウス君が居ないと…何もできないよ…。恐くて…なんにも…!!」


泣きながら走り去るなのはを…俺を見ている事しか出来なかった。
あぁ…メビウス…今更だが…お前の存在がどれだけ大きかったか…痛感されられたよ。
なのはの心は…弱いままだったんだ。…お前が居たから…なのはの心は強かったんだな。
これから…どうすんだよ…。なぁ、メビウス。俺だって…辛くて…泣きたいんだぞ…?この襲撃で闇の書の事が分かってくるけどよ…。2人の主人公がこんなんで…どうすんだよ。

「……あぁ、泣きたいな畜生。大声出して…何かに八つ当たりしまくって…泣きたい気分だよ。」








ランスロット家。メビウスの自室。


「やっぱり。ここに居たのね。」
「あ…お母さん。」


サイファーが、フェイトの部屋まで様子を見に行ったのだが、部屋の中には誰もいなかった。もしや、と思いメビウスの部屋を確認すると、ベットの上に座っているフェイトを見つけたのだ。
薄桃色のパジャマ姿で、大きなイルカのぬいぐるみを抱きしめているフェイトが可愛らしいく、サイファーは笑顔でベットの側まで歩み寄り、並んで座る。

「メビウスちゃんが居なくて…さびしいわよね。」
「うん…。」
「ふふ、何時も、一緒に寝てたものね。一人で寝るのは寂しいの?」
「あう…知ってたんだ。…寂しいよ。凄く…寂しい。」

ギュっとイルカのぬいぐるみを抱きしめるフェイトの眼には涙が溜まっていた。何時もなら…メビウスに髪を梳かして貰い、彼に抱きついて、抱きしめられて眠っている筈なのに…。
2人でも大きいと感じたベットが…更に大きく感じる。それだけじゃなく、勉強を教えてくれた机も、一緒に星を見たロフトも、全部が大きく感じている。


「…フェイトちゃん。私も…寂しいわよ。」
「…お母さん?」
「貴方は私の娘なんだから…思いっきり甘えても良いのよ?…むしろ、甘えなさい。メビウスちゃんみたいに出来ないと思うけど…ね。」

フェイトを抱きしめるサイファーの顔は何時もの笑顔とは違い。慈愛に満ちた…母親の笑顔。
かつてプレシアがフェイトに見せていたあの笑顔と…まったく同じものだった。

「…うん。…何時も…ありがとう。お母さん…。」
「ふふ、良いのよ。フェイトは私の可愛い娘だもの。…さあ、ここで寝ていいから…ね?」

優しく抱きしめたまま、サイファーは静かに子守唄を歌いだす。愛しい娘の為に…この娘を大事に思っている息子の代わりに…
何時しかフェイトは静かな寝息を立てて、眠りについていた。
ソッとサイファーはベットに寝かせ、お気に入りであろうイルカのぬいぐるみも一緒に布団をかける。
本来ならば自分も一緒に眠りたいのだが…今夜はそうもいかない。
電気を消して部屋を出た彼女の背中には…あるものが宿っていた。





郊外、工事現場。


深夜の時間帯。サイファーが訪れたのは郊外の工事現場。
周囲には人の気配も無く、工事用の重機が立ち並んでいる。

「出てきなさい。居るのはわかってるのよ。」
「…気が付いていたか。」

前方に展開される転移魔方陣。その中から出てきたのは…烈火の将、シグナム。サイファーの魔力を感じ取り、尾行していたのだ。
何故、サイファーがここに着たのか…理由は簡単だ。ここなら…どんなに暴れても…誰も気が付かないから。深夜ならなおさらだ。

「…やっぱり、ヴァルケンリッター…だったのね。」
「私を知っているのか?」
「さぁて…ね。どうかしら。」

クスクスと口元を押さえ、微笑むサイファー。シグナムは戸惑いながらも、レヴァンティンを抜き放ち、彼女に突きつける。

「その魔力…貰い受けるぞ。」
「あら…。貴方は覚えてないの?」
「私に…過去の記憶は無い。…覚悟してもらおうか。」
「そう…なら、思い出させて…あげるわね♪」

サイファーが、長く綺麗な蒼髪を留めていた髪飾りを外し…微笑を浮かべる。一瞬、見惚れたシグナムだったが、すぐに気を取り直して、攻撃しようとするが…

「…世界が…揺れている!?」
「あらあら…まぁまぁ…。ほんの少し力を解放しだけなのに。」

最初は地震かと思ったが…それは違った。世界全てが…揺れているのだ。
突然の出来事に驚くシグナムだが…目の前に居るサイファーを見て、固まった。

「魔力流…だと…!?お前は一体…」
「ふふふ。さて…思い出せるかしら?」

サイファーの周りに竜巻のように舞い上がる魔力流。そして…膨れあがる殺気。
気が付けば、彼女の手には銃口が2つある長銃身ライフルが握られていた。

「さぁ、始めましょうか。…シグナム。」

一歩、前に踏み出してくるだけで襲い掛かってくる殺気と威圧感。
知らず知らずにシグナムの身体は震えていた。

(この私が…恐怖してるだと…!?それに…この感じは…なんだ!?私は…この女性と戦ったことがある…!?)

目の前の女性から感じる違和感。それはメビウスと似たもの。いや、違う。メビウスが彼女と似たものを持っている。
ここでシグナムは逃げておくべきだっただろう。確かに騎士として彼女は強い。並みの魔導師なら相手にすらならないだろう。
だが…目の前に居る女性がどんな存在なのかを…知っておくべきだった。
ベルカ戦争を戦い抜き、アジムとゲランでさえ一蹴した1人の傭兵が居た。畏怖と敬意の狭間に生きた1人の傭兵。
ベルカの騎士を最も多く撃ち落とし、ベルカの騎士達でさえ恐怖した存在。
全てをなぎ払い、全てを撃ち砕き、全てを護り、全ての戦局を覆した傭兵。
その名は…【円卓の鬼神 サイファー・ランスロット】

「さあ…ZERO…全てを…破壊するわよ。」













あとがき


天上天下最強お母さん起動の巻きでした。お母さん、全ルート制圧済みの人です。
戦局が読めて、誇りを持っていて、全てを破壊できるお母さんです。
さぁ…今回の駄文ですが…次回からどうする作者!!
メビウスの依存しまくりのなのは…さぁ、こっちもどうする!?



[21516] As編 4話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/02/23 21:38
・シグナム・

私の真横を極光が通り過ぎる。…馬鹿な…地面が半円状に抉れている。
周囲には彼女が放った砲撃により…幾多ものクレーターが出来ていた。まるで大規模爆撃受けたように…な。
先ほどから冷や汗が止まらない。情けない事に…レヴァンティンを握る手が震えている。
女性…サイファーがトリガーを引くたびに放たれる魔力の奔流。…これほどの砲撃を無詠唱で連発できるはずが…。

「さぁ、どうするのかしら。烈火の将、シグナム。…騎士ならば接近してみなさい?」
「…後悔しても…知らんぞ!!」

余裕の表情で挑発してくるサイファーに向かって、私は一気に加速してレヴァンティンを振るう。
しかし…それは彼女に届く事はなく…目の前に展開された障壁によって防がれる。なんて…厚さの障壁だ…。

「はい、残念♪」
「がはぁ!?」

何が起こった…身体に鈍い痛みが走ったと思ったら、数mほど吹き飛ばされた…!?それに…障壁にも罅1つ入れる事すら出来ないだと…!?
く…レヴァンティンを地面に突き刺して、なんとか立ち上がる。たった一撃で、身体の自由を奪われた…。

「あらあら…。ベルカの騎士達は…もっと強かったわよ?…それに、昔の貴女もね。」
「お前は…何を知っている…。私の何を…知っていると言うのだ!!!!!」

声をあげ、無謀と分かっていてもサイファーへと向かい剣を振るう。1閃2閃3閃と剣閃が奔るが…その全てが障壁に阻まれ届かない。

「一体、なんだ…この違和感は。何故、お前は…そんな眼で私を見る…!!騎士たる私が…何故、ここまで恐怖している!!」
「…貴女の心の奥には、記憶があるからよ。」
「私は…私には、過去など…何もない!!今しかないのだ!!先も過去も…全ては闇の中だ!!私にだって…自分がなんなのか…それすら分からない!!」

知らず知らずに私は叫んでいた。何故だろうか…目の前の彼女には…全てぶつけて…全てを話しても良いと思えてしまう。

「そんな私を…大切に想ってくれる主の為に私は…修羅となって戦うしかないのだぁぁぁ!!!」
「そう…貴女は修羅になるのね。…けど残念。修羅は所詮…人の限界。…私はね…鬼の神…鬼神なのよ。」

ライフルの銃身が斬撃もろとも私を吹き飛ばす。たた…単純な魔力の競り合いで負けた…。
それでも…私は止まれない…立ち止まれない…。主の為に…!!
銃口に光が収束していくのが見える。また、あの…特大の砲撃が奔るか…

「これで…終わりにしましょう。」
「動け…動け動け動け…動けぇぇぇぇ!!!!」

言う事を聞かない身体を無理やり動かす。あの砲撃を正面からまともに喰らったら…消える…。
ここで…そんな失態を犯すわけには行かない。迫る魔力の奔流を紙一重で回避して、後退する。
工事用の重機などが障害物になってくれるかと期待したが…無駄のようだ。
私の後ろにあったはずの2tトラックが…跡形もなく消え失せている。破片どこから…最初から何もなかったのように…。
騎士として有るまじき行為だが…今は逃げるしかない。
正直に言おう…私では彼女に…勝てない。あの少年も強かったが…彼女は…桁外れだ。
…だが、脳裏に…頭痛と共に浮かんだ1つの単語。…それが私の過去に繋がるのかは知らないが…恐らく、彼女の…異名なのだろう。
円卓の鬼神。…私と彼女に間に…なにがあったというのだ…!!







「…シグナム。貴女の剣は…そこまで鈍ったの…?それとも…迷っているの…?」

シグナムの後を追いもせずに、静かに佇むサイファー。その眼には…過去を思い出すように…悲しい光が宿っていた。
だが、そんな彼女の周りに突然、出現する魔力剣。

「…まったく、感傷にふけっているのに…邪魔するなんて誰かしら?」

呆れたようにため息をつき、襲ってくる魔力剣を銃身で、足で、拳で1つずつ丁寧に粉々に破壊していく。
真後ろから襲ってくる魔力剣すら感知して、見ずに破壊するあたり…流石は鬼神と言えるだろう。

「…もう、面倒になったわねぇ。」

50本ほど破壊したが、流石に飽きてきて面倒になったのか、適当に足でなぎ払う。
しかし、周囲にはまだ幾多もの魔力剣が展開されており、まだまだ彼女に襲い掛かってくる。
正直に言うと、逃げれば良いのだろうが…それは彼女に癪に障る。

「鬼神に…後退の二文字はないものねぇ。ただ、前進制圧するのみだし…引かぬ媚びぬ省みぬだし。」

長銃身型のデバイス、ZEROが真ん中から2つに分かり、1挺のライフルが2挺のライフルへと変化する。
それを両手に持ち、左右に広げるようにして、構える。

「はい、ローリングバスター。」

その場で回転し非常識極まりない砲撃が全ての魔力剣、重機等を纏めてなぎ払っていく。
最初からそれを使えば、良いだろう。もはや、その威力、魔力量共になのはのスターライトブレイカーを上回っていた。
匹敵するのはメビウスのユリシーズクラスなのだろうが…彼女の場合…無詠唱なので…こちらの方が上だろう。
実はサイファー、単純な魔力を放出する砲撃魔法しか使えない。誘導制御等、まったくもって使えないのだ。
…最も、彼女の砲撃魔法、【バスター】は当たれば堕ちる。当たらなくても、射線上の近くに居れば衝撃波で堕ちる。…卑怯である。

「後は…上にいるのはわかってるのよ。」

黒い笑顔で片方のZEROを上空に向け、バスターを放つ。閃光が駆けて、夜空を切り裂く。
それが上空に居た魔導師らしき人物に命中して、辺りを照らすほどの大爆発が起きた。
パラパラとデバイスの残骸らしき物が落ちてくるが…原形すらとどめていない。一応は非殺傷だったので、魔導師は死んでいないと思う。
堕ちてこない所を見ると、転移したようだ。

「…はぁ、久々に暴れたわね。」
「本当に…派手にやったな。」
「あら、フェイス居たの?」

声のしたほうを向けば、入り口に佇むスカーフェイスの姿があった。
どうやらサイファーが戦闘をしているのに気が付いて、様子を見に来ていたようだ。

「…まったく、重機や休憩所まで消滅させるとは…相変わらず、滅茶苦茶だな。」
「ふふ、そうかしら?久々だから、張り切っちゃった。」

小走り気味に走りよるサイファーの顔には、疲労すら浮かんでいなかった。
彼女にとって、準備運動程度の戦いだったようだ。シグナムにとっては…命がけだったろうに…。

「…ヴァルケンリッターだったか。」
「えぇ。闇の書…ね。また厄介な事になるわよ。…どうするの?」
「……俺達は介入はしない。…これはあの子達の…物語だ。俺達の物語は既に…終わっている。」
「そっか。なら…私もおてんばはこれっきりね。」
「おてんばで済ますな…。工事用の重機とか…どうするんだ?」

既に平地と化した工事現場。ここには多数の重機があったはずなのだが…夜中に内に全てが消えてたとあっては大騒ぎだろう。

「それなら、大丈夫よ。ほら、元通りよ。さぁ、帰りましょう。今日はフェイトちゃんと一緒に寝るのよ♪」
「…まったく…」

スカーフェイスの腕に自身の腕を絡めて、帰路に付くサイファー。
平地になったはずの工事現場は…何時の間に、戦闘が起きる前のように…重機が静かに立ち並んでいた。


(もう、私には貴女にアクセスする権限は…殆ど無いのね。この程度の事しか…出来ない。
ねぇ、タングラム。今、貴女は…何処でたゆたって…いるの?)



???

馬鹿な…僕のアスカロンが…粉々に破壊された…。
このボロデバイスがぁぁぁ!!!バリアジャケットもボロボロじゃない…!!
まぁ、良いさ。…どうせ新しいデバイスの完成した。…闇の書の騎士…シグナムだったか?
あいつにアスカロンを見られていたし…どうせ飽きたから良いか。主人公は…主人公らしく、新しい装備にしないとね。
ははははは!!!!







アースラ艦内、執務官室

・ブレイズ・

「なのはは戦闘不能…か。困ったな…戦力不足か。」
「情緒不安定のようだ。閃からも今回の任務には参加させないでくれ、と要請が来ている。」

モニターに映し出されているデータを見ながら、俺とクロノは頭を抱えていた。
メビウスは入院し、なのはも戦闘不能となると…結構な痛手だ。ユーノの証言を元に色々調べたが…闇の書か。

「厄介だな。…今回ばかりは流石に、俺達だけじゃ、どうにもならないぞ。」
「オメガや閃、フェイトが協力してくれるらしいが…どうしたものか…」

クロノは難しい顔をして今までの事件のファイルを開き、閲覧していく。
確かに…オメガ達の協力は心強い。艦内の武装局員達では、守護騎士達に対抗すら出来ないだろう。
先ほど、増援を打診してみたが…生憎、3姉妹はハーリング提督の護衛でベルカ自治領に、シュトリゴン隊も任務中。
勿論、アーサーやイリヤもだ。…本局に依頼しても…善処する、程度だ。

「しかし…不思議だな。闇の書は、指定ロストロギアだろう?白虹騎士団が出てくると思ったが…。」
「恐らく…上層部が伝えていないんだろう。未だにベルカを快く思わない提督も居るからな。」

…顔を見合わせて何度目かになるため息をつく。白虹騎士団の助けさえあれば…守護騎士達も恐くはない。
だが、クロノの言った通り、管理局の上層部は未だに9年前のベルカ戦争の事を覚えている。
まったく…陸海空で確執があるのに、ベルカともあるとは…所属しておきながら、なんだか泣けてきたな。
ハーリング提督がベルカに行っているわけも、聖王教会との協力体制を整えるためだ。
確か…グラシア家が代表だったか…。

「しかし、これだけではデータが少ないな。どうするクロノ?」
「さっき、無限書庫の使用許可を取ってきた。そこで調べて対策を立てよう。」
「なるほど。…誰に行ってもらう?」
「ユーノ辺りが適任だろう。それに、リーゼ達も協力してくれるらしい。」

確かに…古代文献や遺跡調査などに、秀でているスクライア一族のユーノなら安心できる。
無限書庫、管理局が誇る超巨大なデータベースだ。管理世界の情報なら全て詰まっている。難点は…あまりに巨大すぎて管理し切れていないことだがな。
それに…リーゼ達も手伝ってくれるなら、何とかなりそうだ。
リーゼアリア、リーゼロッテ。ハーリング提督の使い魔で俺達とも親交が深い。どうやらベルカに行く前に、こちらの手伝いとしてハーリング提督が残してくれたようだな。

「本来なら閃も無限書庫に行って欲しい所だが…」
「いや、彼にはオメガ、フェイトを抑えてもらおう。…メビウスやなのはが戦えない現状では…彼も切り札の1人だ。」

閃の分析力、思考能力は正直、頭が下がる。今回の闇の書の事だって、彼が裏付けや情報を持ってきてくれたお陰で、早い段階で少しとはいえ、データを集めれた。
まったく…まるで未来が読めているみたいだな。

「今後は…どう対処する?」
「襲撃された所を押さえるしかないだろう。…フェイトにオメガ、それにブレイズ。君が囮になって…おびき寄せるしかない。」
「まぁ…所在不明じゃそれしかないか。それ相応の覚悟が必要だな。」
「何時もすまないな…。」
「仕方がないさ。それに俺に言う前に、フェイト達に言って置け。彼女達を危険な眼にあわせるんだからな。」

さて…これから…忙しくなるな。






・スーパーマーケット、エグザウィル店内。


「えっと…後は缶詰だけですね。」

えらく不思議な構造の新しいスーパーマーケット。近隣のトーラスビットにも負けぬ品揃えを持つ。
その店内で買い物メモを見ながら商品を探す1人の女性。守護騎士の1人、シャマルである。
先日までシグナム、ヴィータが蒐集を行っていたが、今回は休止という事で家でリラックスしているはずだ。
最も、シグナムは何か考え事に耽っているし、ヴィータは密かに特訓をしているのだが…。

「桃の缶詰に…みかんの缶詰と…ネクストマンカード?」

最後の方に走り書きで書かれた文字はヴィータのものだ。そう言えば、はやてと2人で企業戦士ネクストマンと言う番組にはまっていた事を思い出す。
どうやらそのシリーズのカードの同封のお菓子を買ってきて欲しいのだろう。

(この前ヴィータちゃんは絶防巨人GAマンが当たったって…喜んでましたし…はやてちゃんもアクアビットマンカードが当たったって言ってましたね。)

小さく笑いながら、カートを押して店内を歩くシャマル。だが、よそ見して歩いていたからか、前に立ち止まって商品を見ていた青年に気が付かずにカートをぶつけてしまう。

「ごふ!?」
「きゃ!?す、すいません!!」
「きゃ…脚部破損、AP90%減少…!!」
「え、あのだだ大丈夫ですか!?」

意味不明な事を呟きながら蹲る青年に驚くシャマル。軽くぶつかった筈なのに、そこまで大げさにリアクションを取られると心配になるようだ。
しかし、青年は何事も無かったかのように立ち上がり、何故かカートを指差す。

「なかなかやるな…。だが、次はこうはいかんぞ!!」
「え…え?え!?えっと…」

傍から見るとこの青年、かなりおかしい。と言うか…物凄く可笑しい。妙な人にぶつけてしまったと後悔するシャマルだが、青年は何故か咳払いをして一礼する。

「はい、奇行をしてすいません。落ち着きました。」
「え、あ…ぶつけたの私ですから…気にしないでください。……あれ?」
「僕の顔に何か?…はっ!?これはフラグか!?一目ぼれフラグか!?」
「ち…違います!!」
「なんだ…違うのか…。」

シャマルが顔を徐に見つめていると、再び暴走モードに突入する青年。何故か恥らう乙女よろしく顔を赤くしてクネクネしている。…気持ち悪い。
いきなり一目ぼれとかフラグとか訳の分からない事を言われて、シャマルは慌てて否定すると、がっくりと肩を落とす青年。

「…あの、何処かでお会いした事…ありませんか?」
「……これが噂に聞く逆ナンか!!リア充イベント遂にキタ!!やっふぅぅぅ!!!」
「ででですから違いますってば~!!」
「お客様…店内ではお静かに…。」
「すすすす…すいません!!」
「川手店長~。」

近くで品出しを店長に注意され、顔を赤くして必死に謝るシャマル。青年はその後ろで未だにもだえていた。

「…まっ、冗談はおいといて。」
「冗談じゃすまないですよ…。」
「僕と貴方は…会ったことないとは思いますよ?」
「そう…ですか…?」

だが、この青年をどこかで見たような気がして首をかしげるシャマル。それを見た青年が萌え!!とか叫んでいるが、相手にすると疲れるので無視しておく。

「しかし…これも何かの縁です。…今度あったらお茶でもどうですか?」
「え…今度ですか!?」
「えぇ。運命と書いてディスティニーを信じてみませんか?…まぁ、会えたらの話ですよ。会えたらの。それじゃ…失礼。」

にこやかに笑顔を残して、立ち去っていく青年の後姿を眺めながらシャマルは何となく…会えたら良いな。と思っていた。





「シャマルさん。また…会えたね。…今度こそ…今度こそ、救って見せる…!!」


外に出て、振り向きながら…青年--主任がポツリと言葉を漏らす。
誰にも聞こえる事もなく…喧騒の中に消えていった。







あとがき

戦闘(以下略)
随所にネタを入れてみた今日この頃です。
あぁ…ファンタシースターの新作とGジェネの新作が出ますね。
はまって更新速度が遅くならないように頑張ります。
…アクアビットマンカードが物凄く…欲しいです。




[21516] As編 5話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/03/03 20:39
・ユーノ・

「僕が無限書庫に…?」
「あぁ。怪我の状態が辛いなら、断ってもかまわない。」
「…行くよ。今の僕にはそれしか出来ないから…絶対に行くよ。」
「そうか、ありがとう。使用許可はクロノが取っておいてくれたそうだ。」

閃が手配してくれた医療施設のお陰で、腕の骨折も比較的楽に治っている。…ほんの数日で治すなんて、フレッシュリフォーの医療施設は優秀だよね。
僕の病室に見舞いに来てくれたブレイズの顔には、少し疲労の色が出ていた。きっと…クロノと2人で色々と無理をしてきたんだろう。

「今夜辺りから、おとり捜査を始めるからな。…何か分かり次第、連絡を入れてくれ。」
「わかったよ。…今回は僕1人だけ?」
「いや、サポートにガルムが名乗りを上げてくれた。彼と一緒に向かってくれ。現地でも協力者が居る。」
「ガルムもって…あの、彼も一応は戦力になると思うんだけど…?」
「確かにな。だが、情報を調べるのも重要な役割だ。こっちは…なんとかするさ。」

僕に許可証を渡して、病室を出て行くブレイズの後姿は…やっぱり疲れている。
…無理もないのかな。メビウスは…意識不明だし、なのはも部屋に閉じこもって出てこないらしい。
クロノやブレイズにとっても、あの2人は大切な友人だって事だよね。勿論、僕にとってもね。そんな2人があんな状況じゃ…やっぱり色々と大変なんだ。
それにガルムがこっちのサポートに廻るなら、尚更だ。彼自身結構強い。メビウスの使い魔とか言う以前に…それ以外にも戦いを経験してるような強さだ。

「無限書庫…。良いさ、僕が全部…調べて見せる!!」


無限書庫

「なんて、意気込んでみたものの…広すぎるって!!」

無駄に広すぎる書庫内部に響き渡る僕の声。噂には聞いていたけど…なんだここは…資料やらデータやらが全部未整理じゃないか!!調べ難いったらありゃしないよ!!
検索魔法を構成してこなきゃ…かなり大変だったね。別な本棚の方では、ガルムが黙々と資料を調べいてる。
…さっきから…アリアとロッテの視線が…背中に突き刺さる。いや、なんと言うか…狙われている?そう…捕食される…?

「…猫姉妹。真面目にやれ。」
「ま…真面目にやってるわよ!」
「別にあのフェレットおいしそうだったなぁ、とか考えてないわよ!!」
「なにそれ!?考えてたわけ!?え、僕狙われてたの!?一瞬、フェレットだっただけなのに!?」

…効率が悪いかもしれないけど…少しガルムの側で調べよう。…僕だって食べられたくない。
なんで彼の近くに言ったら少し、耳をシュンとするわけ!?本気で食べる気だったの!?
…うぅ…始めたばかりなのに…別な意味で疲れてきたかもしれない…。

「あれ…?」
「どうかされましたか、ユーノ様。」
「いや、イヤリング…付けたんだなぁって。」
「あぁ…一応は我の自作ですから。まぁ…女物ですけどね。」

苦笑する彼の左耳には、サイコロのような形をしたクリスタルのイヤリングが付けられていた。
女物で片方しか付けてない…。僕の想像が正しければ…アルフへのプレゼントだったんたじゃないかな。それで片方を彼女が彼に渡した…と。
…ガルムとアルフ。なんだかんだで良い仲だったし…。まぁ、そんな野暮な事を聞くほど、僕も馬鹿じゃないから、黙って聞かないで置くさ。
さて…みんなのために…調べないとね!!




海鳴市 深夜

・ブレイズ・


≪こちら閃。Bポイントに反応を確認。数は…4、内1つは結界構成後、戦域を離脱。残りの3と付近に居たフェイト、アルフが交戦を開始した。至急、現場に急行せよ。≫
「こちらブレイズ、了解。オメガ、Bポイントで戦闘だ。行くぞ!!」
「ハッハー!!了解だぜ!!」
≪こっちは、残りの1を探し出してみる。…2人とも油断するなよ。≫

インカムから聞こえてくるのは、別ポイントで広域索敵を行っている閃の声。傍らで準備運動をしていたオメガを引き連れて、指定された交戦ポイントに急行する。

(まるで魚とりだな。索敵網を張り巡らし、高魔導師でおびき寄せる。…向こうも勘付いては居るのだろう。1つ離脱したとなると…戦力的にはこちらが上か…。)

だが…その考えは甘かった。結界の一部を破壊し、内部へと侵入をすると…フェイト達が善戦していたが…流石におされ気味か…!!

「はぁぁぁ!!」
「くぅ…!!」

剣を構えた騎士の一撃をバルディッシュで捌ききるが、小柄な彼女の身体が吹き飛ばされる。1人で無茶をして…!!
アルフは…使い魔らしき男と戦闘を繰り広げていて、フェイトのサポートには廻れないか…!!

「みっけたぞぉぉぉぉ!!!」
「ハッハー!!会いたかったぜビータぁぁぁぁ!!」
「うっせぇ!!それにあたしはヴィータだ!!ビじゃなくて、ヴィだ!」

…オメガは早速、上空から強襲してきたハンマー持ちの騎士と戦闘を開始したか。…何かしらの因縁でもあるのか?
っ!?まずい、思ったよりフェイトが消耗している。これは…下がらせるべきか。

「フェイト、下がれ!!1人で突っ走るな!!」
「まだ…やれる!!こいつらが…お兄ちゃんを…!!」
「意気込みやよし。だが…勢いだけで私は倒せん!!」
「きゃぁ!?…バルディッシュ!?」

騎士の火炎の纏った一撃がフェイトに襲い掛かる。あれは…カートリッジシステム…!?また厄介な物を…!!
なんとかバルディッシュで受けきったようだが…魔力、威力共に耐久度を超えたらしく、バルディッシュが両断され破壊された!!
だが…主であるフェイトには傷1つ付けなかったか…。

≪こちら帝。フェイト、一旦引け!≫
「閃、けど…」
≪バルディッシュがその状態じゃ、戦えないだろう。それにお前に万が一の事があったら、メビウスに会わす顔がない。ブレイズに任せて撤退しろ。≫
「り…了解。ブレイズ、お願い…。バルディッシュ、ごめんね…。」
「あぁ。とりあえず、1人で突っ走った罰として、反省文原稿用紙3枚分だからな。」

後方にフェイトを下がらせて、俺が騎士と向き合い、対峙する。

「こちらは管理局局員だ。全武装を解除し、こちらの指示に従ってもらいたい。…こちらとしては…穏便に済ませたい。」
「…無理だと言ったら…どうする?」
「こちらも…それ相応の手段を使うのみだ。」

スペシネフに魔力鎌を展開して、縦に一回転させる。威嚇と…牽制だ。これで従ってくれれば良いんだが…無理か。

「そうか。ならば、剣で語れ。どちらが正しいかは…戦いで決めよう。」
「…仕方がないか。…名前を聞いても良いか?」
「我が名は烈火の将、シグナムだ。お前の名は?」
「ブレイズ・トリスタン。階級は執務官補佐役だ。」
「ブレイズ…。導きの灯火か。良い名だ…。覚悟!!」
「そっちもいい名前だ。シグナム!!」

さて…お前の烈火と俺の灯火…どちらが強いか…勝負と行こうか…!!








「おぉぉぉりゃああ!!」
「うわっと!?お…お前、どんだけ無茶苦茶なんだよ!?」

一方のヴィータとオメガ。こちらは打撃戦を繰り広げていた。
ハンマーとパイルバンカー。どちらも、相手を打ち砕くには最適であり、当たれば一発で戦闘不能に陥らせる事が出来る。
文字の如く、真正面からのぶつかり合いを演じる2人。そのぶつかり合いで、上空に打ち上げられたヴィータ。が鉄球を構成し、オメガ目掛けて撃ち込むが……彼には効くわけが無い。
鉄球の大きさはサッカーボール程のものだ。…そしてオメガの得意なスポーツは…サッカーである。
つまり…

「ハッハー!!輝け、俺の金色の脚ぃぃぃぃ!!」
「蹴り返すなぁぁぁ!!本当になんなんだよ!!」
「拳拳拳肘肘拳肘脚脚脚頭ぁぁぁぁ!!!!」

鉄球を拳で脚で頭突きで破壊しながら、ヴィータ目掛けて猛進していくオメガ。流石のヴィータも若干、涙眼だ。
最初は、オメガもベルカ式の一種だと思っていた彼女だが…ここまで来ると最早、ベルカ式とかを超越している。…魔導師と言うのも怪しい。

「なら…これでどうだ!!」
「パチキ……トゲ突き鉄球は卑怯だぜ!!」
「うっさい!!頭突きで破壊してたお前が言うな!!」

流石のオメガもトゲ突き鉄球を、頭突きで破壊する程の石頭でも無いらしく、トンファーとパイルバンカーで破壊していくが…1回で破壊できる数にも限りがある。
徐々に、進んできた距離を後退していく。

「…ならば…これを使うんだぜ…!!」
「今度は何する気…」
「レイジング…ストォォォォォム!!!」
「なんだよそれ!?」

オメガが両腕を勢い良く振り下ろし、地面に打ち付けると彼の周囲に幾多もの魔力柱が現れ、鉄球を破壊していく。
あまりの滅茶苦茶差に、ヴィータも頭が痛くなってくる。全ての鉄球を破壊し終えると、魔力柱は消え、中央には満面の笑みのオメガが親指を立てていた。

「どうよ!!俺の超必殺、すげぇだろ!!」
「…通り越して頭が痛くなるっての。…ああもう!!次で決めてやる!!」
「おし、なら俺も次で決めてやるぜ…!!」
「アイゼン、カートリッジ…リロード!!」
「はぁぁぁぁぁ…色即是空…!!我が心は明鏡止水…!!」
「ラケーテンハンマー!!!」
「真・昇竜拳!!!!!」


魔力が装填され、上空から振り下ろされるヴィータのハンマーを、地上で迎え撃つオメガのパイルバンカー。
バチバチと音を立てて、魔力光が火花を散らし、両者の必死の顔を明るく照らす。

「こんのぉぉぉぉぉ!!!」
「おぉぉおぉぉおおぉ!!!!」

両者の魔力がぶつかり合い臨界を越えて、爆発が起こり、2人が吹き飛ばされる。
だが、アルフと戦っていたザフィーラが、吹き飛ばされたヴィータをキャッチして、そのまま転移し離脱していく。どうやら、引き際と悟ったらしい。

「く…。トリスタン、この勝負預けたぞ。」
「待て!!…転移されたか…。」

シグナムの転移を見届けると、ブレイズは静かにスペシネフを脇に抱えるようにして、持ち直した。所々に罅が入っているところを見ると…かなり苦戦したようだ。

「スペシネフ…すまない。大丈夫か?」
『イエス、マイロード。…多少は破損しましたが…活動には問題ありません。ですが…彼女達に対抗するには…』
「強化が必要か…。後で閃と主任にでも…掛け合ってみるか。」

ため息を付きながら、傍らを見れば眼を回したオメガをアルフが起こしているところだった。
傍目には怪我をしてるようには見えないので、ブレイズも安心してそちらに歩き出す。

「ほら、しっかりしなよ。…まったく、派手にやったもんだね。」
「ハッハ~……鉄球がグルグル廻ってるんだぜ~…。」
「頭でも打ったかな。…パイルバンカーの部分が粉々だな。」
『流石の俺も…全力でぶつかりゃ壊れるぞ。』
『頑丈さが取り柄のイジェクトなのですが……強化案を本当に出さなくてはいけませんね。マイロード。』
「そうだな…。こちらブレイズ、作戦は終了。これより帰還する。」

未だに眼を回しているオメガに肩を貸しながら、ブレイズとアルフはその場を後にした。
彼の頭の中では、これからの対策とデバイス強化案について…考えられていた。












スーパーマーケット、エグザウィル 


「…なんで、来たんでしょう。」

考えるように、頬に手を当ててため息をつくシャマル。昨夜は管理局との戦闘があり、シグナムとザフィーラは全力で惰眠を貪っていた。どうやら、思った以上に苦戦したようだ。
ヴィータははやてと一緒に【企業戦士ネクストマン 89話ライバル参上、その名もドミナント仮面】を見ているはずだろう。…本当に好きなのだと思う。
そんな事は置いといて、何故かシャマルは買い物がある訳でもないのに、スーパーのベンチに座ってボーっとしている。
理由は…なんとなく、あの青年に会えそうな気がしたからだ。

「会えるわけないのに…なんで期待してるんでしょうね、私は。」

困ったように小さく笑うシャマルだが…ふっと彼女の前に立つ人影。
もしやと思い顔を上げると…

「……………えぇぇえ!!??」

バケツのようなヘルメットを被った…怪しい人物が佇んでいた。







カフェ、レイヤード。


「いやぁ、すいませんってば。」
「本当に本当にびっくりしたんですからね!!」

バケツヘルムを傍らの椅子において、平謝りする青年--主任。(ちなみに、ヘルメットを文字にすると 興 である。)
どうやらシャマルを驚かせようとして、作ったみたいだが…驚かせすぎたようだ。先ほどから謝ってばかりいる。


「まぁまぁ。こうして会えたんですから…それにお茶も僕の奢りですし!!」
「それは…そうですけどぉ…」

にこやかに笑いながら、頼んだケーキと紅茶を差し出す主任。ここは彼が見つけたカフェであり、何故かマスターがバケツヘルムを気に入り、頭に被ったりして遊んでいた。
ちなみに主任はコーヒーのみである。

「まぁ、こんな美人さんとお茶が出来るなんて……人生勝ち組やっふぅぅぅぅ!!!フラグ1攻略でこれ!!」
「美人さんって言ってくれるのは嬉しいんですけど…最後ので台無しですよぉ…」

しかし、褒められるのは嬉しいからか、シャマルは顔を赤くしながら、ケーキと紅茶を食べていく。
主任ははしゃぎながらも、そんな彼女をニコニコと笑いながら眺めていた。

「そう言えば…名前、言ってませんでしたね。私はシャマルです。」
「シャマルさんですね。僕は…僕は…。」
「?」

ふっと、一緒にお茶なんてしてるのに、名前を知らないと思った彼女があわてて、自己紹介を始めた。
自己紹介といっても、名前程度の簡単なものだが、主任はどうしたものか…と一瞬、考えるそぶりを見せる。
しかし、小さく何か…諦めたような笑みを一瞬浮かべたが…すぐに元の笑顔に戻り、名前を口にした。

「僕はノヴァです。よろしくお願いしますね。シャマルさん。」
「ノヴァ…さん…?」
「うおぉおおぉ!!!なんか物凄く可愛らしく呼ばれたぜぇぇぇ!!!」
「そ…そんなに嬉しいんですか…?」
「シャマルたんのような美人に呼ばれるともうね!!」
「は…はぁ…?」

暴走モードに入るノヴァを見つめながら、やはりシャマル…この青年をしって居る気がして…ならないのだった。







あとがき
物の見事に…支離滅裂。
充電しないと…駄目ですね。そして…やばいです。
汁のデバイス名が思い浮かばない…。誰か良いのありませんか?もしビビっと来たのがあったら、使わせていただきます!!




[21516] As編 6話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/03/04 19:06
フレッシュリフォー社、デバイス開発室・



「あ~…しんどい…。」

首をぐるぐると回してこりをとる。さっきから、モニターと睨めっこばかりで肩が凝ったようだな。
モニターに出ているのは、ブレイズとオメガのデバイス、スペシネフとイジェクトの詳細データと、強化後の試作データだ。
先日の守護騎士達との戦闘で、破損したみたいだし…それに追加で強化しようって事で、俺がフレッシュリフォーの施設で改良を施してたところだ。
フェイトのバルディッシュはカートリッジを実装して、一足先にほんんの手に渡ってるはず。一部、エクスのデータを、解析して出来た慣性制御機構も搭載してるが…
試作段階だし、完璧に慣性を無視するほどの効果も無い。だが、フェイトの高機動戦闘の助けに少しはなる筈だ。

「ったく…主任は主任で、どっかに出掛けてるしよ…。人がレアスキル持ちだと分かった途端に後はよろしく!!じゃねぇっての…
しかもデートとか…大嘘をつくんじゃないっての…。」
「ふ~ん。あんたも苦労してんのね。」
「そうなんだよなぁ…………はい?」

俺の独り言に返ってきた声。おかしい…おかしいぞ。ここには俺しか居ないはず…。他の科学者達は隣の部屋に居るはずだ…。
室内を見渡しても…どこにも人影なんてありゃしない。

「どこ見てるのよ。ここよ、ここ。」
「誰だ!?」
「あ、そっか。声しか聞こえてないのね。…よっと。」
「…転移?いや…次元を切り裂いた?」
「ふぅ~。久々にこっちに来たけど…。リリン元気にしてるかなぁ?」

突然、窓際の空間が裂けて、1人の少女が姿を現した。…外見はリリンと瓜二つだが…髪型がツインテールだから…確実に違う。
…服装の見た目は…リリンのバリアジャケットと似てるな…。あいつのデバイスは…フェイ・イェンだったはず。それと酷似した格好って事は…こいつ、もしかして…

「…ファイユーブ…?」
「あら、あたしの名前知ってるなんて………ふ~ん、なかなかね。外から見てて、面白い人間だと思ったのよね。アイスドールも来ればよかったのになぁ。」
「…おいこら、机に座るなよ。」
「良いじゃないの別に。」

面白そうに俺を見つめるファイユーブ。まさかと思ったが…オリジナルかよ。しかも、サラリとアイスドールなんて単語だしやがった。
フェイ・イェンのオリジナル、ファイユーブ。プラジナー博士が作り上げた融合型VRデバイスだ。単体でも高性能を誇るし、ユニゾンすればかなりの能力を発揮できる。
しかし、ファイユーブ自身が融合する事を嫌い、更には強固な自我を持っていたため、、誰にも扱えなかった。正確には、適合者が限定されてるらしい。
完璧な適合率を持っていないと、確実に融合事故が起こるそうだ。まぁ…それはアイスドールにも言える事だそうだ。
フレッシュリフォー社でもトップシークレットの情報であり、俺もリリンが教えてくれるまで知らなかった。
確か…リリンの手引きで逃亡して、自由奔放に世界を旅してるとか…言ってたな。トリストタラム自身も認めてるから、良いんだろうけどな。

「ちょっとちょっと、あんたってさ、リリンのなんなの?」
「うぇ?…あ、いや、なんつうか。お兄様って呼ばれてるけど…なんなんだろうな。」
「あんたにも今一分かってないのね。…まぁ、あの娘は昔から天然だったものねぇ。見てて面白いけど、ハラハラしちゃうのよね。」
「…今更だけど…何しにきたんだよ…?」
「ん~?…決まってるじゃない。私達の可愛い妹が…どんな奴に興味を持ったか、見に来ただけ。」
「……さいですか…。」
「それで、あんた的にはどう考えてるのかしら?」

本当に、自由奔放なんだな…。天真爛漫に笑うファイユーブとは裏腹に俺の背中は、冷たい汗で洪水状態だっての。
いや…雰囲気的にはほんわかなんだよ。ただ…眼がすんげぇ恐いんだよな。俺を品定めする見たいな眼だよ。
俺はリリンのなんなの…か。ん~…思った事を素直に言ってみるか…?下手なこというと…消されそうだ。

「多分だけど、リリンは甘えれる相手が必要だったんだと…俺は思う。まだ7歳で天才なんて呼ばれてるし、父親とも中々会えない。」
「だから、身近に甘える相手として…あんたが選ばれたってこと?」
「誰だって1人は、寂しいもんだって。それに友達も欲しいって言ってしたし…ほら、俺も少しはデバイスの事がわかるから…リリンとは良く話せる。
まぁ、今のあいつには、沢山の友達も出来たけどな。それでも、リリンが甘えたいってのなら、俺はそうしてやりたいと思ってるよ。父親がわりって訳じゃないけど…兄かな。」
「ふ~ん。………まっ、合格かな?まだまだだけど…後はリリンが自分でなんとかしないとね♪」
「あ~…恥かしいっての。本人に聞かれたら、死ねるぞこれ…。」
「顔が真っ赤になっちゃったわね。っと、あの娘が来たみたいだから、あたしは帰らないと。」
「会ってってやらないのか?」
「残念だけど、アイスドールに抜け駆けは禁止よ、って言われちゃったからねぇ、残念残念。それじゃね。あ、あたしが来たって事は、言っちゃ駄目だからね?」
「一応聞くけど、なんでだ?」
「ファイちゃんに会いたかった!!って泣かれると大変だもの。それじゃ、まったねぇ~。」

来た時と同じように空間が開き、手を振って消えていくファイユーブ。それを見届けると、俺は椅子に深く腰掛けて天井を見ながら、特大のため息をこぼす。
あ~…本当に恥かしいっての…。本人に聞かれてたら、告白に近いぞこれは…。ただまぁ…実際にそうだと俺は思っている。
コンコンと軽いノックの音が聞こえてすぐに、部屋の扉が開く。

「お兄様、クッキーが出来ましたので、一緒に食べませんか?…お兄様?」
「あ、や…なんでもない。クッキーか…食べますかね。」

銀色のトレイの上からは、正に出来立てのクッキーがいい匂いを放っていた。なのはに教わってお菓子作りを始めてから、めきめきと上達してるからな。
リリン様のクッキーがあれば48時間戦える、と科学者連中が言ってたな。…一瞬、向こうの研究室で狂喜乱舞してる奴らが見えたから…振舞ったんだろうな。

「良かった…。紅茶も用意いたしましたので…ご一緒しましょう♪」
「そっか。机の上はごちゃごちゃだから…ソファのほうが良いな。」
「はい。」

笑顔で紅茶の準備を始めるリリンをなんとなく眺めながら、モニターを閉じて、軽く背伸びをする。
長時間座ってたからか、背骨からポキポキって音が聞こえるな。あ~…ちょっとすっきり。

「ふふ、お兄様の白衣姿、なんだか新鮮ですわ。」
「そうか?主任に着てみろって言われてからは、着てたけどな。…お、チョコチップか。」
「はい。疲れた時には甘いものが一番ですので。…美味しいですか?」
「あぁ。うまいうまい。」
「まぁ、それは良かったですわ♪」

花が咲いたように笑顔で喜ぶリリン。本当に…可愛いなちくしょう…。
まぁ、実際、クッキーはうまいし、紅茶もばっちりだ。正に才色兼備って奴だなうん。
…ところでなんで、リリンは隣に座って紅茶を飲みながら、さっきからこっちの様子をチラチラと伺ってくるんだ…?
あれ、これは…確かどっかで見たことある光景だな…。どこだっけ…。

メビウス君!!クッキーどうかな?
うん、凄く美味しいよ。何時もありがとうね。
えへへ~♪

……あぁ、メビウスとなのはの組み合わせで、よくやってたな。褒めて頭を撫でてやってたっけ。
確か…アースラでも時々やってて、リリンも見てたな。……撫でて欲しいってか…?

「…リリン。本当にありがとうな。」
「あ…ふふ。いいえ、どういたしまして。閃お兄様♪」

優しく頭を撫でてあげれば、嬉しそうに猫みたいに擦り寄ってくるリリン。…ったく、2人して顔を赤くしてれば世話ないな。
まぁ…ファイユーブにも言ったし…せめて俺が甘える事の出来る人って事で…良いか。





・ユーノ・

「ガルムとメビウスの付き合いって、結構長いの?」
「我とメビウス様のですか。そう…ですね、助けていただいたのは…あのお方が4歳の時でしたか…。」

休憩時間ということで、書庫内部の机でお茶を飲む僕達。そんな中、なんとなく僕は、ガルムとメビウスの出会いが気になった。
本当になんとなく、興味本位って所かな。

「あ、なんか気になるわね。」
「何故、お前らも気にするんだ…?」
「なんとなく?それに、あんたも唯の使い魔って訳じゃないんでしょ?昔になにかあったんじゃないの?」
「そうそう。私達よりも長生きしてるのよね?それに…雰囲気が違うもの。」
「…リーゼ達って…結構長生きしてるんだ。……」
「そこのフェレット。おばさんとか言ったら、怒るわよ?」

ロッテの鋭い視線を受けながら、僕は視線を逸らす。……命は惜しいからね。
当のガルムは口元に手を当てて、何か思い出すような仕草をしていた。
アリアやロッテも気になるらしく、尻尾をユラユラと動かして、話し出すのを待ってるみたいだし…僕もやっぱり気になる。
…この2人はガルムに何かしらの興味があるらしく、良く話しかけてはいるみたいだけど…なんなんだろうね。
紅茶のカップを机に置くと、ガルムは徐に…静かに話し始めた。

…我は昔、とある世界の森で暮らしていた。深い深い森で、多くの動物達も平和に暮らしていた。
勿論、近隣には人間達も居たが、森の奥地…我らの領域には立ち入らなかった。我らとて、人間の領域を侵したりはせずに、それぞれ気にせずに暮らしていたよ。
しかし、愚かな人間は必ず居るものだ。貴族と言える者達だったかな…戯れに、森の動物達を銃で狩り始めたのだ。
食べる為ならば、仕方が無いと思う。食物連鎖のサイクルの中に居るのだからな。だが…奴らは、遊びで命を刈り取り始めたのだ。
流石にこれは許される行為ではない。銃に勝てるわけも無く、逃げ惑うしかなかった。だが…我は立ち向かった。
人間をおびき寄せ、分断し…1人ずつ噛み殺していったんだ。あの時は、この行為が森を守ると信じていたが…馬鹿だったな。
気が付けば、魔犬やら狂犬やら…妙な名前を付けられ、賞金までかけられた。大規模な狩りが行われ…暮らしていた森も追われた。
ただ…自分や仲間達を守るための行動だったのに…奴らにとっては人を襲った化け物…としか思われなかったようだ。
我も身体に幾多もの銃弾を浴び…息も絶え絶えだった。そこに人の気配を感じ、あぁ…ここで死ぬのか…と思ったよ。
だが…意識が戻れば…我は包帯を巻かれ、毛布をかぶせられていた。その上から…1人の少年が我の身体を優しく撫でていたのだ。そう…メビウス様だ。
どうやら、家族で旅行中に瀕死の我を見つけて…助けていただいたようだ。その小さな手で…包帯を代え、食事の世話をして必死に看病してくれた。
初めて…だったな。人にこれ程までに優しく…大事にされたのは。

「魔犬と呼ばれた我に…ガルムと言う名を与えてくれた。こんな我と、契約を交わしてくれた。命を助けて頂いただけでなく、名を、家を、役割を…与えてくれた。
…故に我は…メビウス様に絶対の忠誠を誓っている。そして、名を呼ばれぬ悲しみを…我は知っている。だから…この名前には誇りを持っているのだ。
本当にあの方には…感謝しても仕切れない。」

そこまで話すと、ガルムは切れ長の眼を伏せて…小さく笑う。男の僕から見ても、その仕草はカッコいい。
けど、彼にもこんな過去があったんだ。…重い過去で…悲しい過去。けど、ガルムは乗り越えて強くなったんだ。

「「……」」
「…アリア、ロッテ…?さっきからボーとして…どうしたの?」
「はっ!に…にゃんでもないわよ!?」
「…かんでるよ。」

リーゼ達が顔を赤くしてにゃーにゃー言ってる。その視線は静かに紅茶を飲むガルムに注がれてるけど…まさか…。
アルフ、君の知らないところで…彼も中々、やるみたいだよ。
これからどうなるか…ちょっと、面白い事になるかもと期待する僕は…駄目なのかな?










カフェ、レイヤード。

「お待たせしましたシャマルすぅわん!!」
「あの…もう少し普通に登場しませんか…?」
「馬鹿な…これが普通じゃないですと!?」
「回転しながら扉を開けて…こっちに来るのは普通じゃないですよぉ…。」

顔を真っ赤にしながら、シャマルは店内を見渡す。幸い店内には客がおらず、バケツヘルムを被った筋骨粒々なマスターが、カップを拭いているだけだった。
そんなシャマルを物凄い笑顔で見つめながら、ノヴァは向かいの椅子に座り、指をパチンとならす。

「へい、マスター、何時もの。」
「ご注文は?」
「…何時もので。」
「ご注文は?」
「いつ「ご注文は?」……アライアンスコーヒーで。」
「もぅ…何時ものって言いますけど…きまったメニューじゃないでないしょう…?」

流石のノヴァも、筋骨粒々でバケツヘルム装備のマスターの圧力にはかなわないらしく、大人しくコーヒーを頼む。
シャマルも小さく笑いながら、先に頼んでいたケーキと紅茶を楽しんでいた。
最近では2人はこうしてカフェで待ち合わせをし、何処かに出掛けるという事をするようになっていた。所謂デート…というものだ。
もっとも、行き先がスーパーだったり本屋だったりと、少しロマンが欠けるところばかりだが…シャマルにとってはとても有意義な時間となっている。
何故か知らないがこの風変わり…と言うか変な青年と一緒に居ると、安心できるのだ。

「おかしいな…。常連になると何時もので通じると…本に書いてあったのに…。」
「常連って…そんなに来てるんですか?」
「いえ、まだ5回程度です。」
「それは常連って言いませんよ。…それに5回って…私と来た回数ですよね…?」
「もちのろんですよ!!シャマルさん以外はアウト・オブ・眼中です!!」
「アウト・オブ・眼中…?」
「…眼中に無いってことです。忘れてくださいすいません。」

テーブルに額を擦り付けるようにして懇願するノヴァと小さく溜め息をついて笑うシャマル。
この青年は確かに変で…何故か自分への好意をまったく隠そうともしない。ただ…その好意を無理やり押し付けない辺り…紳士なのかもしれない。

(はやてちゃんが言ってましたね…。変態だけど紳士のように振舞う人のを事を…)
「変態紳士…?」
「シャ…シャマルさん。何処でそんな言葉を…。」
「はっ!ちちち違います!!うっかり出ちゃっただけです!!」
「確かに僕は変態ですか…いや、変態という名の紳士…むしろ、紳士という名の変態。と言うか、もっと罵ってシャマルさん!!」
「ででですから違いますってば~!!」

慌てて否定するシャマルだが、遅かったようだ。既にノヴァは暴走状態に陥り、身体をクネクネさせ悶えている。
そんな2人を眺めながら、バケツヘルムのマスターは賑やかなカップルだと…オマケのケーキを用意して、コーヒーを注いでいた。







??????

「これが新作のデバイスか。」
「はい。わが社のオリジナルにして第1号です。」
「性能的には…ふん、VRデバイスにも劣らないようだな。それじゃ、使わせてもらおうか。」
「おぉ、かのゴッテンシュタイナーの御曹司様に使っていただけとは…光栄です。これからも我が、【レサスグループ】をよろしくお願いいたします。」
「ふん。貴様次第だ。ディエゴ・ギャスパー・ナバロ。まぁ…精々、気張る事だな。」









その日、なのはは不思議な夢を見た。

「ここは…どこ?」

広く白い空間に自分1人だけが立っている。不思議な事に、なのははこれが夢であり、ここは何故かとても安心する事が出来る空間だと気が付いていた。
トコトコと当ても無く歩く彼女の前に、光で出来た不思議な人型が現れた。

「高町なのは…良く来ましたね。」
「ひゃ…貴方は…誰?なんで私の名前をしってるの?」
「私は、アイスドール。貴女を、高町なのはを見守っている者です。」
「どうして…私を見守ってるの?」

光で出来た人型、アイスドールの声は何処までも優しく…なのはの心に響いてきた。

「貴女がとても綺麗で…強い心を持っているから。貴女が誰よりも優しく、みんなの幸せを願っているのを私は知っています。」
「…私は強くなんて…ないよ。」
「どうして…そう思うのですか?」
「…私ね、メビウス君が居ないと、何も出来ないの。恐くて怖くて…1人はいや…。」
「1人は嫌なら…何故、友達を頼らないのですか?フェイト・T・ランスロットやオメガ・ガウェイン。貴女には沢山の友達がいるでしょう?」
「みんな…私の大切な友達だよ。けど…けど、メビウス君は…違うの…!!どんな時も私を守ってくれた…。どんな時も私の味方をしてくれた…!!
どんなに失敗しても…どんなに迷惑をかけても笑って守ってくれた…。何時も…助けてくれた。」

泣きながら、自分の気持ちを吐き出すなのは。メビウスと言う少年に…彼女はここまで依存していたのだ。
彼が側に居ないと言う恐怖心が…不安感が幼いなのはの心を蝕んでいく。

「…なのは。貴女は…どうしたいのですか?」
「どう…したい…?」
「考えてください。貴女は…彼に何を求めるのか。貴女は…メビウス・ランスロットにとって…どんな人間になりたいのか。」


優しく優しくアイスドールは、なのはの頭を撫でるようにして顔を見つめる。何故かなのはは、光で出来た人型で顔も分からないのに…微笑を浮かべている気がしたのだ。

「私はアイスドール。貴女を、高町なのはを見守り…助ける者。覚えていてください。そして次は…私の名前を呼んでください。」
「あ…待って!!」
「ふふ、話したいけど…時間が迫っています。また…会いましょう、私の可愛い……」

最後の言葉は聞き取れず…アイスドールの姿が消えさり、徐々に白い空間もぼやけてきた。

「……朝…?やっぱり…夢?」

眼を開ければ、自分のベッドの上。起き上がり…窓を開けると、メビウスが大好きな青空。

「…私がどうしたくて…メビウス君の何になりたいのか…。」

アイスドールに言われた事を呟き…机の上においてある写真立てをソッと持ち上げる。
そこには、恥かしそうに俯くなのはの手を握りながら嬉しそうに笑うメビウスの姿が映っていた。また泣きそうになるのをこらえて、なのははその写真を優しく抱きしめる。

「メビウス君は…お願い。私にほんの少しで良いから…勇気をちょうだい。」

願うように…祈るように呟くなのはの瞳は…空虚なものではなく、確かに…小さくだが強い光が宿り始めていた。




あとがき

さて…今回は一部、VRネタで頑張りました。
なのははどうなるか……。そして、閃、お前もさり気なくラブラブしてんじゃないよ…!!





[21516] As編 7話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/03/17 21:43

フレッシュリフォー、デバイス開発室、主任部屋。


「後は…このチップを埋め込んで…。」

薄暗い部屋の中、ノヴァはモニターを見ながら、何かを作成していた。その隣には自動製作装置が接続されている。
資料が乱雑に放置されている机の上に、1つだけ綺麗にまとめられた資料と、プレゼント用の箱が置かれていた。

「……データ解析も終わっているし、カモフラージュも完璧。後は…正確に作動するかが問題か。」

背伸びをすると、使い古された椅子がギシと音を立てて軋む。
軽く頭を振り、無造作に伸びている髪をかき上げると、再びキーボードを叩き、モニターの操作を再会する。

「……僕の行いが…吉と出るか、大凶と出るか。…ばれたら確実にやばいよねぇ。」

自嘲的な笑みを浮かべるながら、彼は1人の少年を思い出す。自分と同じ転生者と言う不可思議な体験をしている人物、帝閃。
ノヴァにとって年齢が離れているが、大切な友人でもある。だが…今、自分がやっている事を考えれば…友人と言う関係は壊れてしまうだろう。

「それでも…僕は止まらない、止まれない。僕の9年間は…この為だけにあったんだ。」

机の一番上の引き出しの鍵を開け、2枚の写真を取り出し眺める。1枚はシャマルとノヴァが一緒に写っている最近の写真。彼にとって一番の宝物である。
もう1枚は色が抜け、古い写真という事が分かるが…2人の人物が写っているが、顔が塗りつぶされ誰かも判別が出来なくなっている。
それを交互に眺めると、ノヴァは再び自嘲的な笑みを浮かべ、右手で顔を覆う。

「父さん、貴方に教え込まれた知識…ここの為だけに覚えてきたよ。たとえ…貴方が望まない結果だろうが…僕には関係ない。
過去の貴方達に反旗を翻そうが、僕にはどうでも良い事だ。今度こそ…絶対にシャマルさんを、助けて見せる。」

モニターに向き直ろうとした主任の背後で、扉が開く音がした。すぐに写真をしまって振り向けば、閃が呆れたような顔をして立っていた。

「薄暗っ!!電気くらいつけろよ。視力悪くするぞ?」
「その時はキサラギ病院で手術を受けるから、大丈夫だよ。閃君こそ…今日は来ないはずじゃ…?」
「そのつもりだったんだけど…オメガのデバイスの最終調整をしたくてな。…邪魔なら、別な所でやるけど?」
「あ…僕も今日は終わりにするつもりだったから、大丈夫。」

閃に焦りを感づかれないようにして、モニターの電源を落とし、装置も全て取り外す。
そんなノヴァの行動を訝しげにしながらも、閃はソファに座ると鞄から資料を取り出して、思考の海に潜り始める。

「明日は、少し予定があるから、ここには居ないからね。」
「あいさ。…最近、予定があるな。なんかやってるのか?」
「ふふふ、僕にだって10や20の秘密はあるもんだよ。」
「ありすぎだろ。…今日はあがるのか?」
「もちのろん。荷物も持ったし…それじゃね。」
「お疲れ~。……さてと、レーベン。」
『はいはい。…これってプライバシーの侵害じゃないんですか?』
「お前だって気になるだろ?…さっき主任が持ってたのは、小型の製作装置だ。しかも、俺に隠れてなんかやってるみたいだし…。
疑いたくないが…まさかな。」

ノヴァが足早に立ち去り、扉が閉まるのを確認すると、閃はおもむろにレーベンをノヴァが使っていたモニターに接続すると、操作を始めた。
本当なら、こんな事はしたくない。だが…以前に広域索敵を行っていたときに…彼と…守護騎士の反応が近くにあるのを見つけてしまったのだ。

「…主任らしくないな。セキリュティーが甘すぎる。…簡単にデータが見れるけど…トラップか?」
『いえ、それらしいのはまったく全然これっぽっちも、見当たらないですね。…あの人がこんな初歩的ミスしますかねぇ?』
「とりあえず…使用時間がさっきまでのデータを見てみるか…。」

ファイルを開くと、何かの設計図とプログラムのデータが出てきた。レーベンにコピーをさせながら、閃は設計図とテキストを読み進めていく。

「転移妨害プログラムに…再構築プログラム?…なんだこりゃ?」
『今一、使い道が見当たらないですね。とりあえず、コピーしておきますか。』
「頼む。…設計図の方は、髪飾り?…新型のデバイス…って訳でもないか。」

何時ものノヴァらしくない行動を疑問に思いながら、データの解析を進めていくが…どれも何に使うのかが、今一、理解できない。

「こうなると…明日にでも尾行っするっきゃないか?」
『とりあえず、ダンボールとレーションを用意しなくては!!』
「いや…スネークするつもりはないぞ?」
『ストーキングならぬスネーキングですね!!ぷぷ…!!これは笑える!!』
「全然、笑えねぇ…。…主任、頼むから…妙な事をしないでくれよ。」





アクセサリーショップ、アヴァロン

「ありがとうございました。」

会計が終わった商品を袋に詰めて、出て行くお客をカウンターで見送るアルフ。
ここはスカーフェイス達が営んでいるアクセサリーショップ、アヴァロン。
そこで彼女は店員として手伝いをしているのだ。アクセサリーだけでなく、小物やガラス製品なども扱っている為、女性や子供に人気の店となっている。
主であるフェイトは、闇の書及び守護騎士捜索に参加したかったようだが、クロノやリンディ、そしてサイファー達が「まだ小学生なんだから、勉強しなさい」との説得を
素直に聞いて、久々に学校に行き、勉強しているはずだ。
アルフも休養という事なのだが家に居ても暇だから、こうしてアヴァロンの手伝いをしている。
店番をしながらカウンターの後ろに、設置されている耐熱ガラスで出来た窓を眺め、また視線を店内に戻す。

「はぁ……。本当ならあいつが向こうに、居るはずなんだけどね…。」

頬杖を付きながら、恋する乙女のようにため息をつく。いや、実際に恋する乙女なのだが…。
窓の向こうはガラス工房になっており、向こうの作業風景を眺めれる様な作りになっている。
何時もはガルムが炉に火を居れ、作業しているのを店番をしながら眺めているのだが…彼が無限書庫に行ってからは、その光景を見ていない。
スカーフェイスは別の工房でアクセサリーを作成しているし、サイファーはメビウスの見舞いに行っているので、店内には彼女1人だけ。
アルフは左耳に付けているサイコロ型のイヤリングに軽く触れ、再びため息をこぼす。

「…ずるいじゃないか…。あたしだけ…置いてけぼりだよ。」

イヤリングを指先で弄りながら、貰ったときの事を思い出して、何回目かのため息をつく。



ランスロット家、ガルムの部屋。

「無限書庫…?」
「あぁ、我等が戦う相手、闇の書の関する事を調べるには最適の場所だ。」

子犬形態のアルフを膝に乗せ、夜空を眺めているガルム。人間形態で甘えれば良いのだろうが、やはり彼女自身、甘えるのが少し恥かしいようだ。
ガルム本人はまったく気にせずに、優しく頭を撫でてあげている。

「あたしも行った方が良いのかな?」
「いや…アルフはフェイト様と…なのは様を護ってあげてくれ。」
「なのはも?…どうしてだい?」
「本来はメビウス様が護っていらしたが…なのは様の心は弱く幼い。恐らくは当分は戦えまい…頼む。」
「仕方が無いね。あんたの頼みだ、2人ともあたしが護って見せるさ。」
「世話をかけるな。…せめてもの礼だが…」
「なんだいこれ?…イヤリング?」

ガルムは傍らにおいてあった紙袋を開け、中にあったイヤリングを取り出すと、アルフの目の前に差し出す。
クリスタルで出来た四角いダイス型のイヤリング。シンプルだが、スッキリとしたデザインで彼の手作りだとすぐに分かる。

「お守り代わり…という事にでもしておいてくれ。…プレゼントだ。」
「い…良いのかい?」
「あぁ。…お前がどんなのが好きなのか、皆目検討がつかなくてな…こんな形だが、気に入ってくれたか?」
「え…あ~…。が…ガルムにしては上出来じゃないか?うん。上出来だよ。」

膝の上から降りて、人間形態に戻ると、手渡されたイヤリングを付けて、照れたようにする彼女の顔は、真っ赤に染まっている。
誰しも、好意を抱いている人からのプレゼントは嬉しいものだ。
そんな彼女を小さく笑いながら、ガルムも満足げに見ていたが、何故か左耳にしかイヤリングを付けていないのに気が付いた。

「両方に付けないのか?」
「こっちは…よっと、動かないでおくれよ。」
「お…おい。…我に付けてどうする…。」
「お守りなんだろ?なら、あんたも守ってもらいなよ。」

ガルムの右耳に手を伸ばし、もう片方のイヤリングを付けると、アルフも満足げに笑みを浮かべる。
以前にフェイトが、メビウスとお揃いのリボンを付けて喜んでいるのを思い出して、自分も真似てみたのだ。
確かに、お揃いと言うのは恥かしいが…嬉しさがそれ以上にある。なんとなくアルフは、フェイトやなのはの気持ちが理解できた気がした。


「やれやれ…お前が良いなら構わないが…女物なんだぞ?」
「大丈夫大丈夫。ガルムも充分、女っぽい顔してるから、…よっと…」
「まったく……。絶対に無理は…するなよ。」

今度は人間の状態でガルムの膝の上に座り、ソッと胸に寄りかかり、夜空を見上げるアルフ。
どうやら…イヤリングのお陰で、ほんの少し素直になれたようだ。




・無限書庫・

「……さっきからなんだ?」
「な、なんでもないわよ!?」
「見てないからね!?気のせい気のせい!!」
「そうか…。…ここは我1人で調べるから、別な本棚を…」
「こっちは古い文献が多いから、3人のほうが捗るのよ!!」
「…意味が分からんが…。」

検索魔法と目視で、文献を解読していくガルムの両隣に陣取るアリアとロッテ。
訳も分からずに流されるガルムを遠くから眺めて、ユーノは呆れたように苦笑しながら眺める。
彼の過去を聞いてから、アリアとロッテはアタックを駆け始めたようだ。
なんとなく…ふっと彼に想いを寄せている女性の事を思い出し…再び苦笑する。

「アルフ、もしかすると…ライバルが増えるかもよ。」





「くしゅ!!……うぅ、暖房強くしようか。…はぁ、速く帰ってこないかな。」


どうやら恋する乙女のため息と悩みは…まだまだ続きそうである。






・フェイト・

下校路




「そっか。ブレイズ君達が…」
「うん。学校に行きなさいって。」
「にゃはは。しっかり勉強しないと駄目だモンね。」

並んで歩くなのはの顔は、前に比べるとずっと明るい。勿論、お兄ちゃんが居た時まで行かないけど…それでも良くなってる。
学校が終わって、私となのはは手を繋ぎながら、一緒に下校路を歩いている。
…本当はお兄ちゃんが真ん中に居て、3人で手を繋ぐはずなんだけど…今は我慢しなきゃ。

「…なのはは…まだ戦えないの…?」
「う、うん。…その…無理かな…。ごめんね。」
「あ、良いの。…ただ、一緒に戦えたら心強かった…って思っただけだから。」


悲しそうな顔をするなのはを見て…チクっと…胸が痛くなる。これは…なんの痛みだろう…?
これはなのはを心配する痛み…?それとも…。

「あ、フェイトちゃん!!」
「はやて…?」

名前を呼ばれた方を見てみると、はやてが笑顔で手を振っていた。
なのはが誰?って聞いてきたから、説明をしながらトコトコと近くまで歩いていく。買い物袋を持ってるから…買い物の帰りなのかな?

「はやて、久しぶり。」
「フェイトちゃん、久しぶりやねぇ。っと、私は八神はやてって言うんよ。よろしく。」
「私は高町なのは。よろしくね、はやてちゃん。」
「なのはちゃんね。2人とも下校途中?」
「うん、はやては買い物の帰りなんだ?」
「そうなんよ。今日は沢山買ったからなぁ。」
「わ…沢山買ったんだね。1人で大丈夫なの?」
「慣れてるから大丈夫なんよ。まぁ…ほんの少し一緒に来てもらえばよかった、なんて思ったりもしたけど。」

はやては大きな袋を車椅子の足元に乗せて、カラカラと笑う。親戚の人が心配してないのかな…?

「あれ?メビウス君はどうしたん?」
「その…お兄ちゃんは…。」
≪なのは、どうしよう。説明したほうが…良いのかな?≫
≪うん、魔法の事とか言わないで説明した方が良いと思うの。それに、私達、きっとうまく嘘付けないと思うよ。≫

…私も上手に誤魔化す嘘をつける自身は無いから…。お兄ちゃんにも「フェイトは嘘が下手だね。」ってよく言われた。
料理の練習中に指を切ったときとか…すぐにばれちゃったから…、やっぱり私は下手なんだ。
お兄ちゃんが入院してる事を説明すると、はやての顔から笑顔が消えて、すごく心配そうになる。

「入院って…メビウス君、大丈夫なんか!?」
「う…うん。遠くの病院だから、お見舞いもいけないけど、大丈夫って言ってた。」
「そっかぁ。…それなら良いんやけど…心配やね。…2人も心配で元気なかったんやね。」
「分かるの?」
「あはは、分かるって。なのはちゃんも心配で仕方がないんやろ?…私も同じ気持ちやもん。」

やっぱりはやても…お兄ちゃんの事が心配なんだ。きっと友達として心配してるのとは…ほんの少し違う。
なのはも気が付いてると思うけど…はやても私達と同じ気持ちなんだ。

「ん~…そや!!千羽鶴を作るんよ!!」
「千羽鶴?」
「そうそう。メビウス君が早く良くなります様にって、3人で想いを籠めて千羽鶴を作れば、メビウス君もきっと良くなると思う!!」

想いを籠めて…。そっか、心配してるだけじゃ…だけだよね。奇跡でも何でもいいから…お兄ちゃんが元気になってくれるなら…私は何でもしたい。
なのはも同じ気持ちなのか…2人で顔を見合わせて頷いて…作る、って…言っていた。

「なら、決まりやね。大変やけど…メビウス君の為やもん、頑張ろう!!」
「うん。…メビウス君の為…だもんね。」

3人で文房具屋で折り紙を買うと、連絡先を交換して、それぞれの家で作って、持ち寄る事になった。
お兄ちゃん…きっと…想いは、届くよね?





カフェ、レイヤード。

「と言う訳で…お待たせしましたシャマルすぅぅぅぅわん!!!!」
「ふ…普通にさんで良いですよぉ。」

シャマルが何時もの如く、カフェで紅茶を飲みながら待っていると、回転しながらドアを開けて登場するノヴァ。
本来なら、カランカランと優雅な音を奏でるドアベルも、今回ばかりはドガンガランと台無しである。
バケツヘルム装着のマスターの、厳しい視線を冷や汗たらしながらスルーして、ノヴァはシャマルの向かいに座る。

「いやはや、お待たせしましたね。」
「いえ、良いんですよ。けど…こんな時間にどうしたんですか?」

時刻は夕方であり、これから何処かに出掛ける時間も少ない。それなのに何故か、ノヴァはシャマルを何時ものカフェへと呼び出していた。

「実は、渡したい物があるのです…よ!!」
「渡したい物ですか…?私に?」
「はい。こう見えても僕は手先が器用でして…こんな物を作ってみたんですよ。」
「は…はぁ…?」

口元に笑みを浮かべ、逆行メガネをクイクイとするノヴァに若干、怯えながらもシャマルは差し出された箱を受け取る。
しかし、箱を開けると、シャマルの口から「うわぁ…」と小さく言葉が漏れる。入っていたのは、金細工が施され、中央には翠色の宝石が輝いている髪飾り。

「こ…これ、どうしたんですか…?」
「さっきも言った通り、僕が作ったんですよ。…シャマルさんへのプレゼントですねぇ。」
「こんな高価なもの、貰えませんよ!?」
「いやいや、貰ってくれないと僕が困るんですよ。シャマルさんの為に作ったんですし…ささやかなお礼です。」
「ノヴァ…さん。」

真摯な眼でシャマルを見つめるノヴァ。何時ものふざけた顔ではなく、彼にしてはとても真面目な表情。
シャマルも戸惑ったが、にっこりと笑うと、髪飾りを受け取り、自分の髪へと付けていく。

「ど…どうですか…?」
「似合ってますよ!!スバラシイ!!スバラシイィィィィィ!!!」
「も…もぅ、恥かしいじゃないですか…。ノヴァさん、ありがとうございます。」


目の前で歓喜の奇声を上げて褒めるノヴァと、嬉しいやら恥かしいやらで顔を赤くするシャマル。
それから2人はここで軽くお茶を飲んだ後、別れる事にした。

「それじゃ、お気をつけて。」
「はい。ノヴァさんも。あの…本当にありがとうございました。」
「いえいえ、シャマルさんの為なら例え火の中水の中。…また会いましょう~。」

優雅に一礼するとノヴァの後姿が人込みに消えるまで眺め続けるシャマルだった。









「…これで最終段階だ。…うまくいってくれよ。」
「何が…最終段階なんだ…?」
「っ!?」

人通りの無い路地まで来たノヴァの口からこぼれる言葉。本当なら…消える筈の言葉を拾い、路地の入り口に佇む1人の少年、帝 閃。
先日から言っていた通り、ノヴァの行動を監視していたのだ。手にはデバイスが展開され、2人を囲むようにして簡易結界が展開されている。

「や…やぁ、閃君、奇遇だね。」
「奇遇だね…じゃ…ねぇだろがぁぁぁぁ!!!!」
「うぐ…!?」

閃はノヴァをバインドで拘束すると、地面に投げつける。その眼には戸惑い、怒り…そして悲しみが宿っている。

「主任…なんで、シャマルと一緒に居たんだよ…。」
「偶然って…言っても信じてくれないよね?」
「当たり前だ…!!真面目に…話してくれよ…。」

今すぐにでも泣き出しそうな表情で、倒れているノヴァの側に座り込み、彼を助け起こす。
投げ飛ばしたとはいえ、手加減しているから、かすり傷1つも付いていない。

「なんであんなに…親しそうなんだよ…。なんで髪飾りなんか…なんなんだよ…。」
「………」
「答えてくれ…主任。あんたの目的はなんなんだ?…あんたは…俺達の味方なのか?なぁ…頼むから答えてくれよ…。」

無言の主任に、縋る様に頼み込む閃の眼から涙が零れていた。転生者でもある彼でも…メビウスの消失でかなり精神的に辛いのだ。
そして…味方だと思っていた主任のこの行動。それが彼の最後の心の防波堤に罅を入れるのは簡単な事だった。

『主任、閃と貴方は…友人なんですよね。なら、話しても良いんじゃないのですか?…貴方の事です、何かしらの考えがあるんでしょう?』
「……さて、どこから話したものか…ね。」
「話してくれるのか…?」
「ここまで来たら話すしかないよねぇ。前に僕には、デバイス関連については下地があるって…話したよね?」
「あぁ。確かに…聞いたな。」
「僕の実家は…ベルカの有力貴族だったんだ。そこの当主の息子として僕は転生した。
僕の父さんはね…ベルカ史上、最高の魔導師と呼ばれた人なんだ。魔導技術の開発や…デバイスの開発に関しても天才的な…ね。」
「………」

ノヴァは路地の壁に寄りかかると、懐から古ぼけた写真を取り出し、眺めると再び話を続けた。

「魔核弾頭V2。あるロストロギアをコアにする大量破壊兵器。そのコアとなっていたロストロギアとは…闇の書の事なんだ。
…その開発に…僕の父さんは関わっていたんだ。いや…むしろ父さんが…推し進めていたね。」
「お…おい、待てよ…。ベルカの有力貴族…天才魔導師、そしてV2の開発…。まさか…お前の父さんって…!?」







「…僕の名前はノヴァ…ノヴァ・カプチェンコ。ベルカ史上最大最高の魔導師、アントン・カプチェンコの…実の息子さ。」










あとがき

あかされた主任の過去。さてさて…Asも佳境に入ってきたかもですね。
東北在住の作者ですが…内陸に住んでいますので…別段、大きな被害も無くすみました。怪我もなく無事だという事をご報告いたします。
本当に沿岸に比べたら、圧倒的に作者は恵まれています。暖房があり、暖かい食事が取れるだけでも贅沢ですし、沿岸に居た友人の無事も確認できました。
読者様方も…ご無事でしょうか?
ダンケ様、34様、ユーロ様、Corporal様、真っ黒歴史様、天船様、クラフト様方。他の読者様の無事を願い…あとがきとさせていただきます。




[21516] 【一発ネタ?】ゼロと呼ばれた少女。
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/03/24 21:45
これは、作者の妄想&生き抜きで生まれた作品です。
続くかもしれませんし、読みきりかもしれません。それでも大丈夫だ、問題ない、と言う方はどうぞ…















旧ウスティオ領、現ベルカ領。

「はぁ…はぁ…!!」

森の中を走る1人の少女。靴は破れ、裸足で近い状態で走り続けたからか、痛々しい傷が幾多も刻まれている。
蒼く美しい髪や白い肌が泥で汚れても、少女は走り続けた。

「あ…!!」

木の根に躓く、前のめりに転んでしまう。足先に鈍い痛みが走り、見ると爪が割れ、血が滲んできていた。
ここで立ち止まり、休んでしまえたら…だが、そんな事が出来る状況ではない。

「どこに行った…。まだこの近くに居るはずだ、探せ!!」
「っ…!!」

自分が走ってきた方から聞こえてくる怒声。そう…少女は追われていたのだ。
つかまれば、何をされるか分かったものではない。震える足で立ち上がり、少女は走り出そうとするが、転んだ時に足をくじいたらしく、うまく走れない。

「居たぞ!!こっちだぁ!!」
「いや…!!」
「ぐ…この!!」

茂みから現れた男が少女を見つけ、捕まえようとするが、少女も必死に抵抗する。
伸ばされた手を振り払い、必死で逃げ始める。きっと男は仲間を呼んだだろう、自分が捕まるのも時間の問題だ。
しかし…それでも逃げたい、逃げなきゃいけない。それだけが少女の足を突き動かしていた。


「森が…」

視界が開けると…目の前は断崖絶壁の崖。後ろからは、数人の足音が聞こえてきて、逃げ場が無いかと周りを見渡すと…1人のフードを被った青年が崖の前に佇んでいた。
何故か分からないが…少女は咄嗟に青年に駆け寄ると…

「ん…?」
「た…助けてください!!」

そう叫んでいた。青年は訝しげながら、少女の後ろの方を見て表情を固くした。少女も振り向くと、数人の男達が森から抜けてきたところだった。
青年と少女を囲むようにして、男達は半円の形をとる。2人の後ろは断崖絶壁。逃げようが無い。

「手間を取らせてくれたな…。大人しく…付いてきてもらおうか。」
「いや…!!私に触らないでください…!!」

リーダー格の男が少女の腕を無理やり掴み、連れて行こうとする。抵抗しても華奢な少女と、鍛えられた大柄な男。どう足掻いても振りほどけるわけが無い。
もっと抵抗しようにも、ここまで逃げてきた少女のそんな体力は無く、どうにもならない。
ここまで…と少女が諦めようとした時に…青年が動いた。

「大の男どもが…こんな娘相手に必死になって、みっともないな。」
「ぐふ!?」
「あ…!!」

めんどくさそうにしながらも、少女の腕を掴んでいた男を殴り飛ばす青年。
少女は、涙を溜めた瞳で青年を見つめる。殴った拍子に青年のフードが取れ、素顔があらわになった。
精悍で…何かを悟っているような…そんな表情をしている青年。少女は…その顔に一瞬、眼を奪われた。

「隊長!?貴様…我らが何者か知らんのか!?」
「知らんな。…興味も無いし、知りたくもない。」
「我らは、栄えあるベルカ軍第84歩兵部隊だ。大人しく、その娘を渡せ!!」
「渡せと言われてもな。別に庇ったわけじゃないし…どうでも良いが…。お前ら、俺の事も一緒に消すつもりだろう?」
「それは貴様の態度次第だ。半殺し程度で抑えてやろう!!」
「やれやれ…。まぁ、暇つぶしになら…満足するか?」

起き上がった隊長格がデバイスを展開すると、周囲に居た男達もデバイスを青年に突きつける。
青年は、怠慢な動きで少女の自分の後ろに隠すと、何故か面倒そうに手を天に向け振り上げて…振り下ろした。

「へぇ~。お前ら、うちの隊長に手を出すなんて…良い度胸してんなぁ。」
「覚悟は出来てんだろうね?」
「騙して悪いが…仕事なんでな。」
「罠を仕掛けておいて、あっさり全滅とは…使えない奴らだな。」
「な…なに!?」


突如として、後方に現れた十数人の男女。既にデバイスとバリアジャケットを装着し、男達に襲い掛かる。
正規の軍として、訓練を受けていた男達。しかも、ベルカ軍となればかなりの強さを誇っているはずだ。
だが…そんな男達を軽々と倒していく男女達。気が付けば、隊長格だけが残っていた。

「貴様ら、何者だ!?管理局の魔導師か!!??」
「残念だが…違うな。…渡り鴉の名を冠する傭兵団と言うば…分かるか?」
「貴様らがあの…レ…レイヴンズ・ネスト…!?」
「正解だ。…散れ…!!」

青年が、柄のみのデバイスを抜き放つと、巨大な魔力刃が生まれ、隊長格の男を一刀の元に切り捨てる。
周囲を見渡し、敵が居ない事を確認すると、青年はため息をつきながら、仲間である彼らに歩き始める。
少女も、咄嗟に青年の後ろを小走り気味についていく。

「やれやれ、なかなかのサプライズだな、フェイス。」
「知らん。…この娘が勝手に持ってきただけだ。」
「あ…あの、助けていただいて…ありがとうございます。」

豪快な笑顔を浮かべる青年と、仏頂面で少女を睨むフェイスと呼ばれた青年。
少女はあわてて、頭を下げて礼を言うと、フェイスは舌打ちをしながら、森へと歩き始める。
彼らは少女が来た方向とは別のところで、野営しているところだったのだ。

「おいおい、フェイスよ。この娘はどうすんだ?」
「知らん。成り行きで助けた事になったが…ほっておけ。」
「ちょっと、フェイス。それはひどいんじゃないの?」
「いっつ…。なんだレイピア…?」
「なんだじゃないでしょう。ったく、こんな所に女の子を置いて行くわけ?」
「俺も流石に、どうかと思うぞ?」
「チャーリー…お前もかよ。」

レイピアと呼ばれた女性が、少女の肩に毛布をかけて、フェイスを睨む。軽く投げた小石が彼の頭に命中したようだ。
チャーリーと呼ばれた青年もうんうんと腕を組みながら頷きながら、周囲の仲間達に視線を送る。
仲間達は「隊長、それはないでしょ!?」とか「天下のフェイス隊長が女の子を見捨てるなんて…」等と好き勝手言っている。
フェイスは軽く舌打ちしながら、「好きにしろ」とだけ言い残すと、自分のテントへと歩き始めた。

「まったく…。ほら、他の野郎どもは見回りにでもいきな!!後はメシの準備だよ!!」
「へいへい。うし、見回りに行くぞ。レイピア、その娘の事、頼んだぞ。」
「あいよ。っと、いきなりでごめんね。大丈夫だったかい?」
「は…はい。その…」
「あんな事言ってるけど…スカーフェイスはいい奴なんだよ。気にしないでね。あぁ、スカーフェイスってのは、さきっの仏頂面な男ね。一応はあたし達のリーダーさ。
あたしはレイピア。さっきのデカイがチャーリーってんだよ。まぁ、よろしくね。」
「姐さん。暖かい飲み物もってきましたぜ。」
「あいよ。…ほら、飲んで落ち着きな。」

少女を丸太で作った椅子に座らせると、レイピアは暖かいココアが入ったカップを手渡す。
周囲は薄暗くなってきているが、野営地の所々で付けられた焚き火が、周囲をほんのり明るく照らしている。
少女の近くでも焚き火が始められ、レイピアは隣に座ると、少女の顔についた泥を優しく、ふき取っていく。

「ふにゃ…」
「こら、動かないの。…まったく、こんな綺麗な顔が汚れてちゃ、勿体無いよ。…ほら、取れた。」
「ありがとうございます、レイピアさん。」
「あたしが好きでやったことなんだから、別に良いさ。…なぁ、なんであんた…追われてたんだい?」
「それは……ごめんなさい。言えない…です。」
「そっか。別に良いさ。…まぁ、ここに居る間はあたし達が護ってあげるからね。けど…何時かは話してちょうだいね?」

レイピアは軽く少女の頭を撫でると、食事を作りに行くといって、貯蔵しているテントへと向かっていく。
少女は掛けられた毛布を羽織ながら、ボーと焚き火を見つめているが…そんな彼女の前に影が写る。
顔を上げると、スカーフェイスと呼ばれた青年が、呆れたようにして少女を見つめていた。

「まったく…。足を出せ。」
「え…?」
「足を出せと言っている。…傷口から化膿しても知らんぞ。」
「は…はい。」

少女がオズオズと足を出すと、スカーフェイスはしゃがんで、少女の足に出来た傷口を眺めていく。
少しの間眺めると、傍らにおいてあったバッグから、包帯やら薬やらを取り出して、彼女の傷口に付けていく。

「…お前の名前は?」
「…ゼロフィリアス…です。ゼロと、呼んでください。」
「年齢は?」
「女性に…歳を聞くのは失礼だと思います。…16です。」
「そんな事は知らんな。…苗字は?」
「………」
「言えないか。まぁ、別に良いが…。しかし、ゼロか。女には似合わない名前だな。」
「貴方だって…顔に傷が無いのに、スカーフェイスって名前じゃないですか。」
「ふっ…よく言う。」

軽くジト眼で見つめるゼロの視線を、軽く笑ってスルーするスカーフェイス。
彼は、慣れた手つきでゼロの傷口に包帯を巻きつけて、傷口を覆う。

「これで終わりだ。…あまり動かさないことだ。」
「…慣れてるんですね。」
「さてな。…後はレイピアに任せる。…ゼロ…だったか。俺達と行動を共にするなら…戦いに巻き込まれる事を覚悟して置け。」

それだけ言うとスカーフェイスは、踵を返して立ち去っていく。
ゼロはその後姿を眺めながら…ソッと小さく「ありがとう…」と呟くのだった。











スカーフェイス・ランスロット、年齢、20歳。
ゼロフィリアス・??? 年齢、16歳。
チャーリー・ガウェイン、年齢20歳。
レイピア・パーシヴァル。年齢20歳


あとがき

ほぼ一発ネタです。息抜きと妄想で書きました。
続きは…どうなるでしょうね。





[21516] As編 8話 来るべき対話の為に…
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/04/15 23:30
・閃・

「…冗談だろ…?」
「冗談なら、僕もここまで悩まなかったし、名前を捨てたりしなかったんだけどねぇ。…全部、事実であり…真実さね。本当に、事実は小説より奇なりってね…。
まったく…転生者が特別な存在なんて、誰が言い始めたんだか…。最初に、転生小説を書いた作者の顔が見てみたいよ。」

主任は…悲しそうに俯くと、古ぼけた写真を俺に手渡してきた。
…顔も…身体も全部全部、塗りつぶされた写真。…塗りつぶした大きさでかろうじて…大人と子供って分かる程度の写真だ。

「僕と…父さんさ。それが唯一、残っている…ノヴァ・カプチェンコの記録。…まぁ、塗りつぶしちゃってるけどね。それ以外は…全部燃やしたし、データも削除したよ。」
「………」
「カプチェンコの名は…ベルカ領内では、未だに絶大な影響力を持つんだよ。それこそ…かつての亡霊達が近づいてくるほどまでにね。
…僕が扱えた資産だけで…莫大なものだったからね。まぁ…殆ど、凍結したから、亡霊たちに使われる事も無いさね。」
「凍結…?破棄したんじゃないのか?」
「…何事も先立つものが必要だよ。…機動6課が立ち上げになれば、莫大な資金が必要となる。その為の凍結処理だよ。
色々と裏から手も回して…僕のものになっているのさ。」

機動6課立ち上げだって…まだ先の話だろう…。いや、主任にとっては…罪滅ぼしってことなのか…?
困惑して、混乱して、思考回路が可笑しくなっている俺に気が付いて、主任は自虐的な笑みを浮かべて、立ち上がる。
…何時もの飄々とした表情とも、まったく違う。始めてみる…表情だ。

「最初は全部捨てて、何も知らずに、何も考えずに生きようと思ったよ。たとえ転生しても…望んだ理想のアニメの世界でも…あまりにも多くの罪を背負ってすぎた。
カプチェンコ家の開発したV1でどれだけの…人が死んだだろうか。どれだけの笑顔を、どれだけの夢を葬ったんだろうか…。」
「それは…主任の責任じゃないだろ…。それは親の…アントンの責任のはずだ!!」
「…同じさ。家族を、友を…奪われた人にとって、全部全部同じ事。父さんだろうが、僕だろうが…その罪を背負うのも同じことさ。」

…俺が思うほどに…主任は責任を感じてたのか…。
だが、さっきも言ったとおり、主任が悪いわけじゃない。だが、こいつにとっては、親の罪も自分の罪と思ってるんだろう。

「けど、絶望して生きる訳にはいかなかった。…父さんの、ベルカの狂気の遺産、V2が何処かに眠っているかもしれないし…なにより、【王】が何を意味するのか…知りたい。」
「【王】…?…そう言えば、ゲーム中でも確か…墓碑文に…」
「新たなる世界への門は開かれた。我が魂は風となり、その門へと誘う。眠りし王の目覚めるとき、我が肉体もまた蘇るだろう。」

確かに主任の言葉どおり、ゲーム中ではそう墓石に書かれていたらしい。
だが…俺の考えが正しいなら、王とはV2か…闇の書の事じゃないんだろうか…?
闇の書なら、この事件が無事に終わるなら、破壊なり凍結される筈だ。原作でも消滅していたし…。
しかし、主任は…そうじゃないと思っているのか…?

「闇の書が王じゃないのか…?」
「…少し気になる言葉が残っていてね。全部、記憶して燃やしたんだけど…あまりにも気になるんだよ。」
「どんなのだ?」
「王を目覚めさせるは3つの鍵。闇の中に眠りし鍵が目覚めし時…王への道開かれん。」
「3つの鍵…?…嘘だ、どう考えても闇の書が王だろ?それ以外に、何があるんだよ…?」
「自慢じゃないけど、父さんは先見の明がありすぎてね。多分だけど、王を起こすための鍵を…3つ用意したんじゃないかな?闇の書が王って事じゃないと思う。
もっと別な…物を作り上げていると思う。まぁ、僕には見当が付かないけどね。」
「なんだよ、別なものって…ああ…、頭が混乱してきたぞ、お前がカプチェンコ家の人間だって事で、パニックになってんのに…!!」
「まぁ、仕方が無いさ。…けど、君のご両親には本当に…感謝してるよ。行き倒れていた僕を助けてくれて…何も聞かずに…研究員なんて仕事をくれた。」
「主任…。」

立ち上がり、顔を覆いながらも俺に背を向けると、立ち去ろうとする主任。

「例え…君に恨まれてもかまわない。…僕の9年間はこの時の為だけに、あったんだ。…今度こそ、僕はシャマルさんを…救って見せる。」
「お前…まさか、シャマルの事…。」
「そうだよ。…彼女の事を…愛してるんだ。言っておくけど、生前からじゃないからね?…僕がノヴァとして転生して…子供の時に彼女と出会っていた。
…一目惚れって奴かな。…まぁ、今話す事じゃない…。愛する女性を救えなくて、何が男か…!!」
「…救えるのか…?」
「さぁ…わからないよ。死に物狂いで解析したけど…あまりにも難しすぎる。けど…僕は止まれないんだよ…。」
「…ったく、このアホが…!!」
「いで!?」

俺は立ち去ろうとする主任の背中を、力任せに思いっきり叩く。
こいつは…1人でなんか背負いやがって…。同じ転生者であり…俺はこいつも親友と思っている。
なら…協力して、解決するのが…当然だろう?

「さっさと研究室に戻るぞ!!お前の解析したデータと未解析の部分、調べるぞ!!」
「…閃君…?僕は、ベルカの人間だよ…?裏切りに等しい行為を…してたんだよ?」
「んな事は関係ない!!闇の書の解析してはやてを助ける!!つまり、シャマル達だって救う事になんだ!!メビウスだってそうしたっての。
俺にとって、お前がノヴァ・カプチェンコだろうと関係ない。お前はフレッシュリフォー社、開発局の主任!!それだけで充分だ!!」
「……ありがとう…。本当に…ありがとう…!!」
「礼は後だ。…闇の書対策プログラムを構築すんぞ!!…頼りにしてるぞ、主任。」
「ふふふ…任せてもらおうか。僕の9年間が無駄じゃなかった事を証明するさ!!」



無人世界 砂漠地帯。

・シグナム・

「くぅ…!!」

砂竜の重い爪の一撃を防ぎ、胴体を両断する。これで3匹目を…撃破した事になる。
管理局との交戦を避けるために、私は異世界の砂漠地帯で戦闘、蒐集を行っているところだ。
砂竜が倒れるのを見て、レヴァンティンを下ろし、周囲を見渡す。

「はぁはぁ…流石に…辛いか。」

竜種は魔力も豊富な分、生命力等も強く、1人で相手をするのは、少し骨が折れる。
しかし、ザフィーラとシャマルは主の護衛を、ヴィータには海鳴で管理局の動向を探ってもらっている。ならば、私が蒐集をしなくてはならない。
最初は主を助ける為だったのだが…最近は主も発作を起こさなくなってきた。
それ自体は嬉しく、歓迎するべき事なのだが…。

「…いかんな。迷っている暇はない。私は…ただ主の為に。」

頭を振り、雑念を捨てる。だが…疲労で注意力が散漫になっていたのか…突如、砂中から現れた触手に絡め取られてしまう。

「く…。」

振りほどこうとするが…くそ…更に締め付けが強くなったか…。レヴァンティンを持つ手が動かせない…!!

砂中から現れた砂竜が獰猛な眼で、私をにらみつける。同胞の仇を討つ…と言う事が。
私はここで終われない…。なんとかして…逃げなければ…。

「くぅ…そんなに締め付けるな…!!」
「動くな。…助けてやる!!」

虚空から現れた鎌が触手を、全て切り払う…!?
何が起きたか分からずに、私は崩れた体勢を立て直し、砂竜から離れ、追い縋ってくる残りの触手をレヴァンティンで切り捨てようとするが…それも全て撃破されていく…!?
だが、今聞こえてきた声は…あいつの声か…!!

「烈火の将、シグナム。危ないところだったな。」
「トリスタン…。やはりお前か…そんな気はしていた。」

私の目の前に展開される転移魔方陣から出てきたのは…以前に刃を交わした、ブレイズ・トリスタン。
彼は…敵である私に背を向けて、砂竜と対峙するか…。私を敵だと思っていないのか…。それとも…私を信用しているのか?

「今は一時休戦だ。…この竜が居たら、満足に話も出来ないからな。スペシネフ、モード変更。」
『イエス、マイロード。バリアジャケット及び本体再構築。』

一旦、バリアジャケットが解除されるが…すぐに構築された…?
…闇のような漆黒の騎士甲冑と大鎌は変わらずだが左腕は…なんだ?鉤爪のような鋭いクローが装着されている…?
呆気に取られている私に気が付き、トリスタンは小さく苦笑を浮かべながら、自身の右腕に視線を移す。

「もはやデバイスと言うより…武器だな。…さて、砂竜を黙らせるとするか。」
「…私を捕まえようとはしないのか?」
「さっきも言ったが…こんな状況では落ち着いて話も出来ない。…逃げるなら、別に逃げても構わないが…。」

それだけ言うと、彼は左腕に装着されていたクローを砂竜めがけて発射する。
遠隔操作…いや、違うな。よく見れば…魔力で作られたワイヤーで繋がれている。確かに…デバイスと言うよりは兵器だな…。

「お前には罪はないんだろうが…すまないな…!!」

クローが砂竜の額を捕らえ、掴んだと同時に…クローの中心部から放たれた魔力弾が頭を撃ち抜き、砂竜を撃破した。
…なるほど、やはり…強いな。砂煙を上げて、崩れる竜を見届けると、彼は私の方に向き直り、表情を和らげる。

「流石の守護騎士も、連戦は疲れるようだな。…怪我もしてるようだが、大丈夫か?」
「敵に心配されるまでもない。この程度、傷の内にはいらん。」
「意外と強情だな。まぁ…無事ならかまわないのだが…。」
「…お前は、本当に管理局の人間か…?普通ならば、私を助けずに、あのまま捕縛すると思うが…。」

敵である私に背を向けて、助けるだけでも妙なのに、トリスタンは私の怪我まで心配している。
本当に管理局員なのか…疑いたくもなる。
だが、今度は逆にトリスタンが、呆気に取られた表情をして、口元に手をやると、なにか考え事を始める。

「確かに…普通ならそうするだろうな。…だが、俺は全て武力で解決すると思っていない。…俺達には言葉がある。…刃を交わす前に、話で解決するならば…良いんじゃないか?」
「…つくづく…変わっているな。敵である私に背を向けただけでなく…話し合いか。しかし…私がその言葉を聞かずに、お前に刃を突きつけたら…どうする?…このように。」

私はレヴァンティンをトリスタンの首元に突きつけ、彼を威嚇する。正直言えば…この状況で戦えば…負けるかもしれん。
だが、その心の内を悟らせない為の虚勢だ。

「そちらがその気なら…もう俺は死んでいる筈じゃないのか?…騎士たるお前が背後から斬り付けるとも思っていない。違うか?」
「…本当にお前は変わり者だ。ならば、正々堂々と…剣で語ろう。」
「話す気はない…か。ならば、刃を交わし…そしてまた言葉を交わすだけだ。」
「ふ、望むところだ。我が刃こそ、我が言葉。…その身に刻むといい。」

鎌型のデバイスを構えると、トリスタンは小さく口元に笑みを浮かべた。
…どうやら、私と同じのようだな。…私自身、強者である彼との戦いを、どこかで望んでいたのかもしれない。
知らず知らずに、私の口元にも笑みが浮かんでいるだろう。それほどまでに…彼と、トリスタンと戦うのは…不謹慎だろが嬉しく、楽しい。

「さて…前の続きを始めるとしようか。…シグナム!!」
「トリスタン、覚悟!!」




数時間後、砂漠に大の字で仰向けで倒れるブレイズと、疲労困憊で転移していくシグナムの姿があった。
両者とも満身創痍といった感じだか…その表情は満ち足りていて…何処までも澄んでいるようだった。



・ヴィータ・

「うぅ…さむい…。」

北風が容赦なく、あたしの身体から体温を奪っていく。
はやてからプレゼントされたマフラーを巻きなおすと、ポケットに両手を入れる。散歩って言って出てきてるけど…本当の目的は管理局の包囲網の調査。
目ぼしい所は探し終えたけど…尾行も何も付いてなくて、少し拍子抜けする。

「こんなことなら、シグナムについてけばよかったなぁ…。」

オメガだったか…あいつにやられてから、色々と鬱憤が溜まってんだよな。
まさか、あしたのアイゼンと真っ向からやりあって跳ね返すなんて…本当にあいつはデタラメだ。
ベルカ式とかそんなものじゃない。けど、あたしは絶対に負けてない。前の戦いだって、あいつのデバイスをぶっ壊してたはずだから…絶対に負けてない!!
…ザフィーラが気絶してたぞとか言ってたけど、絶対に気絶なんてしてない!!あの時は、寝不足だったんだ!!

「…ああもう…思い出したら、むかついてきたぞ…。あんの能天気めぇ…。」

恨み言をこぼしていると、あたしの足元にコロコロと転がってくるサッカーボール。
気が付くと、あたしは近所の公園の近くまで来てたみたいだ。…誰か遊んでるのか?

「おっと、すいませ~ん。それ俺のサッカーボー…おおう。」
「…お前…オメガ、なんでここに!?」
「ハッハー!!それはこっちの台詞だぜ、ヴィータぁぁぁ!!」
「いちいち叫ぶな!!」

声が聞こえた方を振り向けば、見覚えのある奴が走ってきた。…向こうも私に気が付いて、驚いてるけどすぐに、あの能天気な笑顔を浮かべる。

「仕方がない。ここで戦うしかない…」
「へ?いや、俺…戦わないぜ?」
「はぁ?…なんでだよ!?あたし達は敵同士だぞ!?」
「だって、イジェクト持ってないねぇし…お前だった戦いたくないんだろ?…なら、無理に戦う必要なんてないんだぜ!!」
「あ…おい。待てって!!」

何故か、立ち去るオメガを追ってあたしも歩き出す。…なんとなくだけど、こいつももっと話がしてみたい…そう思ったんだよ。
公園内の広場では、オメガが1人でサッカーボールを蹴って、練習をしてた。あたしはそれを近くのベンチに座って、なんとなく眺めていた。
…リフティングって言う奴をしてるみたいだ。ポンポンと面白いくらいに、あいつの足の上で、ボールが跳ねていく。


「お前もサッカーするか?」
「あたしは…やらないよ。あのさ…お前、あたし達の事が…憎くないのか?」
「なんでだぜ?」
「なんでって…あたし達は敵同士なんだぞ?…それに管理局は…あたし達の事を憎んでるはずだ…って、うわぁ!?」
「ふ~ん。そうは思わねぇけどなぁ…。」
「い…いきなりびっくりさせんなよ!!」

ホンの少し下を向いてたら、何時の間にかオメガがあたしの目の鼻の先に、顔を突きつけて、なんか納得したように笑った。…こいつは…本当にびっくりさせやがって…。
そして、あたしの眼を覗き込むようにすると、あの能天気で豪快な笑顔を…浮かべていた。

「ヴィータ。お前は悪い奴じゃないだろ?」
「…はぁ?」
「俺の親父殿が言ってたんだ。…悪い奴の眼は、悪い光ですんげぇ汚れてる。けど、良い奴の眼は澄んでて、透き通ってるってな。お前の眼はすんげぇ、透き通ってんだよ。
だから、お前は良い奴なんだぜ!!それに、戦う気もなかったんだろ?悪い奴なら、問答無用で攻撃してくるもんだぜ!!」
「……馬鹿だろ?」
「ハッハー!!よく言われるぜ!!けどよ、俺は馬鹿でも充分良いと思うけどなぁ。」

地面においてあったサッカーボールを頭に乗っけると…またポンポンと跳ねながら、あいつは空を見上げて…馬鹿みたいに笑い声を上げた。
あたしは眼を丸くして、驚きながら…そんなあいつから眼を離せなかった。…すんげぇ馬鹿だけど…その姿は…なんかかっこよかった。

「うだうだ迷ってさ、失敗するより、俺は一直線に突っ走って…馬鹿みたいに豪快に失敗した方が良いと思うんだよ。確かに、お前は良い奴だ。けど、なんか迷ってんだろ?」
「…うっさい、お前には関係無い。」
「おおう、つれねぇなぁ。…迷ったときはよ、自分のハートを信じてみたらどうなんだ?…自分のハートが叫ぶ通りに行動しろって。」

自分の胸を力強く、ドンと叩いて、こっちを振り返る満面の笑顔のオメガ。…自分のハート…か。
…確かに、あたしは迷ってんのかもしれない。魔力の蒐集…それがはやてを本当に救う事になんのかな…。シグナムとかは馬鹿みたいに信じてるけど…なんか不安がある。

「お…良いものみったけぜ!!」
「あ、おい…。」
「ヴィータはちょっと待ってろよ!!」

それだけ言うと、オメガは公園の入り口に向かって走り出す。…どうしたんだ?
…なんかリヤカーを引いた男と話してるけど…あ、なんか紙袋もって戻ってきたな…。

「ほいよ。寒い時はこれが一番なんだぜ。」
「…なんだこれ?」
「石焼き芋って言うんだぜ!!冬の定番なんだよなぁ。…あっついからに気を付け…」
「あっち!?…先に言えよ!!」
「言う前に、がっつく方が悪いと思うぜ!?けど、うまいだろ?」
「……まぁな。」

紙袋から出てきたのは、アルミホイルで包まれたサツマイモ。…なんか、美味しそうなにおいがして来るぞ…。
それをあたしに手渡して、オメガも隣に座って食べ始める。
……言っておくけど、顔が赤いのは熱がったのが恥かしかっただけだからな。…貰って嬉しいとか、すんげぇうまいとかじゃないんだぞ…本当だぞ。
けど…甘くてホクホクしてて……やっぱりうまい…。

「お、へへ。やっと笑ったか。」
「…見るな。」
「ハッハー!!女の子は笑ってた方が可愛いって、あいつも言ってたんだぜぇぇ!!」
「んな…かか、可愛いとか言うな!!……って、あいつって誰だよ?」
「ん~?…俺の大親友さ。」


30分後。


「そんじゃな、風邪ひくなよ~。」
「お前こそ。……なぁ…」
「ん~?」
「……今度は負けないぞ。今までも負けてないけどな!!」
「ハッハー!!それはこっちの台詞だぜぇぇぇ!!」

それだけ言うと、オメガは豪快に笑いながら、走り去っていく。
……本当に…ほんの少ししか話さなかったけど…馬鹿でアホで…能天気で…筋金入りの良い奴だな…。

「あいつらになら…あたし達の事…任せれるんじゃないのか?」

誰も居ない帰り道に…ぽつりとあたしの独り言が漏れて…風に消えていった。













スペシネフ・ラーズグリーズ・13
有線式クローアーム追加。
魔力鎌、前部と後部の両方に展開可能。





あとがき

かなり間が開いて失礼しました。
…今回も微妙すぎますね。とりあえず、あと5話以内を目標に頑張っています。
では、また次回…。






[21516] As 9話 目覚めるは悪意の闇
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:6f3e2b37
Date: 2011/04/20 23:59
ランスロット家、リビング。

「ここを…こう折って…。」
「フェイトも、上手になったな。」
「そうね~。…ああもう、折り紙するフェイトちゃん、かわいいわぁ。」

夕食も終わり、入浴を済ませたフェイトがリビングのテーブルで、折り紙で鶴を作っているところだ。
サイファーは向かいに座り、スカーフェイスはソファに座りながら、愛する娘の可愛らしい行動に頬を緩めていた。
メビウスの為に、千羽鶴を作りたい。だから、作り方を教えて欲しい。数日前の夕食の時にフェイトが提案してきた事だ。
最初こそ、不安げな手つきだったが、今では慣れた手つきで一羽ずつ、丁寧に鶴を折り作っている。
愛する息子が重体で、辛いのは親である彼らも同じこと。だが、愛する娘であるフェイトのこの行動が、どれだけ心を癒し、救われたのか。
小さく笑みを浮かべながら、フェイトを眺めていたスカーフェイスだが、ふとある事に気が付き、笑みを更に深くする。

「…なぁ、フェイト。少し聞いても良いか?」
「なに、お父さん?」

小さく笑みを浮かべ、声をかけるスカーフェイスに気が付き、フェイトは手を止めて、首をかしげる。
そんな娘の可愛らしい仕草に、更に笑みを深める2人と、なんで笑顔になっているのか今一わからずに、フェイトはキョトンとしていた。

「俺の気のせいで無ければ、青い折り紙だけ外してないか?」
「あ…えっと、後で折ろうって…。」
「…なんでだ?」
「その…うんと…」
「…ふふ。」

何故か顔を赤くして、モジモジし始めるフェイトを見て、サイファーは堪え切れずに、小さく笑い声をもらした。
実は、鶴の作り方を教えた時にサイファーは、何故フェイトが青い折り紙を残しているのかの、理由も聞いていたのだ。
その理由すら、可愛らしくて、笑いがこぼれる内容である。

「…青は…お兄ちゃんの色だから。…大切に折ろうって決めたんだ。」
「なるほど。…まぁ、そんな事だとは思ったがね。」
「良いわね~。本当にフェイトちゃんは可愛いんだから~。」
「お、お母さん、苦しい…。」

笑顔で抱きしめて、頬擦りをしてくるサイファーに驚きながら、フェイトも嬉しそうに笑顔を浮かべる。
例え義理だろうが…彼女にとってサイファーはもう1人の母親であり、サイファーにとってもフェイトは愛すべき娘なのだ。
そんな2人をスカーフェイスは、優しい眼差しで見守りながら、傍らにおいてある籠の中身に視線を向ける。
そこにはフェイトが今まだ作った300羽近くの折鶴が収められていた。恐らくは、あと少しで自分のノルマを達成するところだろう。

「はぁ、いい湯だった。…って、サイファーは…なにしてんだい?」
「見ての通り。フェイトとのスキンシップ中だ。」

長い髪をタオルで拭きながら、リビングに入ってきたアルフの眼に映ったのは、頬擦りされているフェイトの姿。
アルフはスカーフェイスの一言で、納得しながら、冷蔵庫からドリンクを取り出して、風呂上りの一杯を楽しみだす。

「ぷはぁ。風呂上りの後の冷たいのは最高だね。」
「まったく…。ガルムが居たら、小言が飛んできてるぞ?」
「そう言うフェイスだって、何か言うんじゃないのかい?」
「そうかもな。だが、その前に…とりあえず、フェイトの事を助けてやれ。」
「フェイトちゃ~ん♪」
「お…お母さん、鶴折れない…。ひゃっ!?何処触ってるの!?」
「よいではないか、よいではないか~♪」
「サイファー、いい加減しな…よっ!!」


何故かフェイトのパジャマを脱がしにかかるサイファーの後頭部を、新聞紙を丸めた棒でアルフが引っ叩くと、パコンといい音が響く。
最近では、こうして彼女がサイファーの暴走を止める役割にあるらしく、手馴れたものである。

「あ…アルフ…!!」
「大丈夫かい、フェイト?」
「う…うん。何時もの事だから…。」

何時もの事で良いのか、何時もの事で…。と心の中で苦笑しながら、自分のほうに逃げてきたフェイトを背中に庇うアルフであった。
ランスロット家の暖かく穏やかで…少し寂しい夜は、今日もすぎていく…。





帝家、閃の自室。


「はい、13連鎖です♪」
『ば…馬鹿なぁぁぁ!!!』
「え…えげつねぇ…。8連鎖の次に13連鎖とか…。」

落ち物ゲームで遊んでいるリリンの相手をするのは、閃のデバイスであるナイトレーベン。閃がナイトレーベンと、コードを繋げて操作を出来るようにゲーム機を改造していたのだ。
テレビ画面には、ナイトレーベンの枠が全て、埋まり負けているところだった。

『うおおお…。リリン嬢、もう一回勝負!!』
「良いですわよ。けど、負けませんわ!!」
「レーベン、諦めろって…。10連敗中だろう…。」
『てやんでぇい!!ここで諦めたら江戸っ子魂がすたらぁぁ!!』
「江戸っ子ってどこがだよ…」

異様に燃えているナイトレーベンに呆れながら、閃はため息をつき、リリンに緯線を移す。
ようやくリリンの転入手続きも終わり、春から閃と一緒に聖祥に通う事になったのだ。
しかし、流石にミッドから通うのは些か問題が在る為、リリンたっての希望で帝家に居候することなった。
既に入浴も済ませ、パジャマ姿で遊ぶ彼女の姿は、年相応の少女である。

「はい、20連鎖です!!」
『に…逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ…』
「すでに積んでるぞ…。」
『……乱数調整…』
「やめろアホ!!」
『割れるぅぅぅぅ!!!』

10分後


『も…燃え尽きたぜ…真っ白に…燃え尽きたぜ…。』
「とりあえず…寝てろ。」

弱弱しく点滅するナイトレーベンを、調整装置につなげると閃はベッドに腰掛けている、リリンの隣に座る。
彼女の膝の上には童話の絵本が開いておいてあった。

「へぇ、リリンも童話なんて読むんだな。」
「はい。私だって、難しい本ばかりじゃないんですよ?」

笑顔で閃に寄り添いながら、リリンは絵本のページをめくって読み進めていく。
手持ち無沙汰の閃も適当においてあった雑誌を手に取ると、パラパラと流し読みを始めていた。
ページをめくる音が部屋に響くが、2人にとっては心地よい沈黙の時間。
10分ほどたった頃だろうか、閃が肩に僅かな重みを感じ、リリンの方を見ると…

「すぅ・・すぅ…」
「寝ちゃってるな。…まぁ、そんな時間だしな。」

先ほどまではしゃいでいたからか、何時の間にか眠りの国に旅立っているリリンに苦笑しながら、閃はそっと自分のベットに寝かしつける。
リリンの部屋も用意されているのだが、そこまで起こさずに連れて行くのは無理だろうし、起こすのも可哀想だ。
そのまま、ソファで寝ようとした閃だったが、よく見るとリリンが彼の手を掴んで離さない。

「ん…お兄様…行っちゃ…やだ…。」
「…おいおい。一緒に寝ろっか…?」

ホンの少し赤面しながら、閃はため息をつき、リリンの隣に横になる。そうすると、リリンは満足そうな寝顔を浮かべ、彼に擦り寄ると再び、寝息を立てる。
流石の閃も緊張するらしく、最初こそ硬かったが、リリンの安心しきった寝息を聞くと、身体の力を抜き、ソッと頭を撫でて、自分も眼を閉じる。
転生者であり、導き手となる決意をした少年と…天才と呼ばれる幼き少女の寝顔は…とても可愛らしいものだった…。


八神家、リビング。


「出来た!!」
「沢山作りましたね。…主、これを繋げれば?」
「そうやよ。ん~…疲れたなぁ。」

テーブルの上には、色とりどりの鶴が積み重なっておいてあった。作った本人であるはやては背伸びしながら、自分の成果を笑顔で見つめている。
シグナムも若干、笑顔で鶴を1羽1羽丁寧に紐でつなげて、置いてあった籠の中にしまっていく。

「しかし、これは何に使うのです?」
「千羽鶴って言うを作ってたんよ。」
「なぁ、はやて。千羽鶴ってなんだ?」

キッチンからシャマルと一緒にお茶を持ってきたヴィータがはやての隣に座りながら、鶴の山を指差す。
シグナムも千羽鶴という言葉がわからずに、首をかしげていると、何処からかザフィーラが辞典を持ってきて、意味を調べ始めていた。

「千羽鶴、病気快癒・長寿がかなうという説があるらしい。」
「へぇ。てか、ザフィーラ、その辞典何処から持ってきたんだ?」
「そうやよ。まぁ、自分の為やないんやけどね。」
「あれ、そうだったんですか?」

首をかしげるシャマルに笑顔で返しながら、はやては作っていた理由を教える事にした。実は今まで、秘密にしていたのだ。理由は…少しの恥かしさから。

「んとな、私の大切な友達が大怪我したそうなんよ。…それで、早くよくなりますようにって…想いをこめて作ってたん。」
「そうだったのですか。…そのお友達も怪我が早く直ると良いですね。」
「そうやねぇ。…まだみんなに紹介とかしてなかったもんなぁ。」
「どんな奴なんだ?」
「んとな…。やさしくて…かっこよくて…凄くいい人なんよ。」

笑顔でヴィータの質問に答えるはやての頬はホンの少し赤くなっていた。
流石のシグナムやシャマルねその友達に、はやてがどんな感情を抱いているのか理解したらしく、顔を見合わせて笑っている。

「あとな、蒼くて綺麗な髪をしてるんよ。」
「…蒼い…髪…!?」


はやての言葉を聞いて、シグナムの脳裏に浮かぶのは…神社で蒐集した少年と工事現場で戦った女性の姿。
…はやての言葉からして…友達とは少年の事を指しているのだろう。突然、驚いた事に「どうしたん?」と心配するはやてに気が付き、
なんでもないとシグナムは答えると、何事も無かったかのように、鶴を紐で繋げていく。

(まさか…あの少年が…主の友達…!?…蒼い髪など、そんなに居るわけでもない。そう考えるのが…当然か…。
ならば、私は…主になんと…詫びれば…!!)

少年、メビウスに大怪我させたのは、決してシグナムではない。だが、彼と戦ったのは…確かに彼女だ。
その戦いが原因で…あの妙な魔導師にメビウスが殺されかけた。そして…魔力も自分が奪った。
その事が、シグナムの心に影を落としていた…。



深夜 八神家リビング。

「あと少しで、全て埋まるな。」
「そうね。…これが埋まったら…お別れなんでしょうね…。」

闇の書のページをめくりながら、シャマルは寂しそうに微笑む。
自分達が消えるのは覚悟のうえだった。だが…その時が近づくと…やはり、はやてとの生活の楽しさを思い出す。
4人にとって、彼女との生活は…何よりも掛替えの無い満ち足りた生活だった。

「だが、これが主を救う為だ。…我等はその為に動いてきた。」
「ザフィーラ…。えぇ、そうね…。」

壁に寄りかかりながら、ザフィーラが蒐集の目的を今一度、思い出させる。
闇の書に侵食されていたはやてを、助けるための魔力の蒐集。闇の書の項を全て埋めれば、侵食は止まり、はやての足も、発作も完治する。
だが…それで本当に良いのかと…思っている人物が居る。

「なぁ、あたし達のやってることって…正しいのか?」
「ヴィータちゃん?」
「本当に、はやてを助ける事になってるのか…?これって…本当にはやてが望んでた事なのか…?」

うつむき加減のヴィータの口からこぼれるのは…今まで自分が感じていて、押し殺してきた疑問。
昼間のオメガとの出会いで…感じた事を全て…吐き出してみる事にしたのだ。

「闇の書の蒐集が終われば、侵食も止まり、新たに転生する。それが主を救う事になる。お前だって、最初は納得してただろう?」
「だけど、最近じゃ、はやても発作を起こさなくなってきてるし…侵食だって殆ど止まってるんだろ?なら、もうこんな事しなくても…」
「ヴィータちゃん。…それでも私達が闇の書を完成させないと…はやてちゃんは一生歩けないままなのよ?」
「それに何れは主が誰なのか…管理局に突き止められる。その前に…我等が消えれば、主はやてに害は及ばない。」

シャマルとザフィーラが諭す様に、ヴィータを止める。シグナムだけは…ヴィータに言われた事をホンの少し考え始めていた。

「確かに…主の発作と、コアへの侵食が止まっているのは事実。……そうか…あの少年…。」
「シグナム、どうしたの?」
「いや……実は…主の言っていた友達。…恐らくだが、私が蒐集した…魔導師の事だろう…。」
「魔導師って…どういうことだ?」

シグナムは以前に蒐集した少年の事、吸収し終えたコアの魔力が一瞬で回復し、闇の書が勝手に吸収しようとした事等を3人に話し出した。

「無限のリンカーコア…って事か…?」
「なんだよそれ…。反則じゃないか…?」
「けど、闇の書が勝手に吸収したりするのは…異常ね。それに…1人から吸収できるのは、1回だけの筈よ。」
「だが…その少年の魔力を蒐集してから、主の発作も治まっている。」

無限のリンカーコア、闇の書の異常な行動、発作がおさまったはやて。
それが何を意味するのか……




次の日。
キサラギ公園。


「あ、2人とも、おはよう!!」
「はやてちゃん、おはようなの。」
「はやて、おはよう。」

待ち合わせの公園にはやてが到着すると、先になのはとフェイトは2人は、折鶴が入った籠を持って待っていた。
ここでそれぞれが作った鶴を合わせて、メビウスの所に持っていく事になったのだ。

「遅れてごめんなぁ。ちょっと、持ってくるのに手間取ったんよ。」
「あ、大丈夫だよ。私達も今来たところだから。ね、フェイトちゃん。」
「うん。…わ、はやても沢山作ってきたんだね。」
「そう言う2人かて、沢山作ってきとるやないの。」

2人がベンチにおいていた籠の中を見ると、確かに沢山の鶴が紐でつながれて入っていた。
もっとも、はやての持ってきた籠の中も負けないくらい、沢山入っているのだが。

「後は全部つなげて、メビウス君の所に持っていけば、大丈夫やね。」
「うん。…メビウス君…よくなるよね…?」
「当然やって。みんなで一生懸命作ったんやからね!!」

不安がるなのはを元気付けるようにして、笑顔で答えるはやて。
それを見て、なのはも弱弱しくだが、笑顔を浮かべ、信じようとしていた。
だが…フェイトは2人を庇うようにして…何故か入り口をにらんでいた。

「フェイトちゃん、どうしたの?」
「なのは…。はやてを守ってあげて。」
「え…?」
「…居るのはわかってるよ。…出て来い。」

何時でもバルデッシュを使えるようにして、入り口に居るであろう…彼女が大嫌いな人物に声をかける。
すると…入り口の空間が僅かに揺らめき…1人の人物が姿を現す。

「ふん…。兄妹そろって、礼儀がなってないな。」
「黙れ…!!私達に近づくなって…言われてる筈!!」
「シルヴァリアス…君…!?」

現れたのは…下卑た笑みを浮かべる少年、シルヴァリアス。その手には、アスカロンと似た様な2対の剣型のデバイスが握られていた。

(今のは何…。空間転移とも違うし…。まさか…ステルス…!?)
「へぇ、勘付いたか。…お前の思っている通り、ステルスさ。…僕の新型のデバイス、フェンリア・プロヴィデンスの力さ。」
「な…なぁ、なのはちゃん、フェイトちゃん…誰なん?」

突然現れたシルヴァリアスと、そんな彼を警戒する2人に驚きながら、はやては2人を見つめる。
だが、そんなはやてを見たシルヴァリアスは愉快そうに笑い…彼女を指差す。

「これはこれは…闇の書の主の八神はやてじゃないか…!!」
「…え…?」
「っ!?」
「なのは…今度こそ、君は騙されているんだ。…君が探していた闇の書の主、それこそが…そいつなんだよ!!」

はやてを指差し声高々に、彼女が主である…と言ってのけるシルヴァリアスの眼は…酷く濁り…淀んでいた。

「う…嘘…だよね?はやてちゃんが闇の書の…。」
「わ…私…は。」
「嘘をつくな。…メビウスだったか…あいつも貴様の為に…あんな怪我をしたんだったなぁ。」
「メビウス…君…?」
「はやて、見ちゃだめ!!」

メビウスの名に反応して、はやてが伏せていた顔を上げるが…フェイトが必死に止める。
彼女の言うとおり…上げない方が…よかったのかもしれない。
空中にモニターが映し出され…そこにはシグナムが、メビウスを貫いている映像が映されていた。

(実際には…僕がやったが。まぁ、映像なんて幾らでも改ざんできる。)
「し…シグナムがメビウス君を…。わ…私のせい…なん…?」
「はやて、落ち着いて!!あいつの言う事なんて信じちゃだめ!!」
「…シルヴァリアス君…どういうこと…!?」

フェイトがはやての耳をふさぎ庇い、なのはもシルヴァリアスをにらむ。温厚で優しい彼女でも…シルヴァリアスは大嫌いな人物であった。

「どうもこうも…そいつがメビウスの魔力を狙わせたって事だよ、なのは。…君に近づいたのだって、魔力を狙ってのことさ。」
「ち…違う!!私はそんな事…。」
「何が違う、どう違う?現にお前と知り合いだったメビウスは…こうして蒐集されてるじゃないか!!」

俯くはやてに何度も何度も同じ映像を再生し、見せ付けるシルヴァリアス。

「違う…違う違う違う違う…!!」
「なにをどういっても無駄か。…まぁ、良い。さぁ、なのはそこをどいて…僕がそいつを片付けてあげるから。」
「片付けるって…だ…駄目だよ!!」
「はやては…私達の友達…。お前なんかに触らせない!!」

2人にとって、シルヴァリアスの言葉など信じるに値せず、大切な友達であるはやての言葉を信じるのは当然である。
だが…シルヴァリアスにとって…なのは以外はどうでもいい存在。ゆえに…フェイト諸共、斬れば良いという思考に達するのだ。

「なら…人形ごと死ね…!!」
「っつ…バルディッシュ!!」
「ちぃ…メビウスと良い、貴様と良い…本当にむかつく兄妹だな!!」
「お前なんかが…お兄ちゃんの名前を口にするな…!!」

咄嗟にバルディッシュで斬撃を受け止めて、憎悪の眼をフェイトは向ける。
彼女にとって…最愛の人物であるメビウスの名を…シルヴァリアスが口にするだけでも許せないのだ。
舌打ちをして、フェイトから離れると、シルヴァリアスは別な魔法を仕掛けようとするが…それより早く上と右から接近してくる反応があった。

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なに…。上か…!?」
「あたしも…居るんだよ!!」
「がふっ!?」

上空からの斬撃、シグナムのレヴァンティンの一撃をフェンリアで受け止めるが、右から接近していたヴィータの横殴りのアイゼンの一撃をまともに胴体に受けて吹き飛ばされる。
どうやら、はやてが狙われているのに気が付いて、駆けつけてきたようだ。

「無事ですか、主!?」
「主って…それじゃ…本当に…。」

なのはが戸惑うようにして、駆け寄るシグナムとはやてを交互に見つめる。ヴィータとフェイトはお互いに若干、けん制しながらもシルヴァリアスの吹き飛んだ方向を警戒していた。

「な…なぁ、シグナム…。うそやろ?シグナムがメビウス君に大怪我させたって…嘘やろ…?」
「…………いいえ、本当の…ことです。」
「うそや…うそや嘘や嘘や…嘘やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

シグナムが後悔の念を浮かべながら…苦々しくはやての質問に答える。
一度言ったが、彼女が大怪我をさせたわけではない、だが…騎士として…己の責任だと…感じているのだ。
その言葉を聞いた瞬間に…はやては糸が切れた人形のように…車椅子の上に崩れた。
シグナムがあわてて、助け起こそうとするが…それを遮る様にして…闇の書が転移してきた。

「闇の書…!?なぜここに!?…あ…主!?」

シグナムの驚きの声とともに…はやてが浮き上がり、突然現れた奇妙な球体に吸い込まれていく。
そして…周囲に響き渡る不気味な声。

「はははは…。ようやくだ…ようやく…時が満ちた…。」
「誰だ、貴様!!闇の書の意思ではないな!?」
「いいや…。我らは闇の書の意思だ。…太古より寄生している存在ではあるがな…。礼を言うぞ、守護騎士どもよ。お前らのお陰で…我らは再び目覚めれた。」
「目覚めただと…何者だ!!」


「我らは…ダイモン。時空世界を真に支配すべき存在よ…!!」










あとがき

さて急展開を見せた今回。
そして登場、全ての元凶のダイモン。物語に付き物の…悪役です!!
うまく行けば4~3話で終わる予定です。





[21516] As編 10話 歩き出す真白き光
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/05/21 07:41
「主を…主を返せぇぇぇぇぇ!!!」

シグナムはダイモンと名乗った球体に、レヴァンティンを振り下ろし、はやてを包んでいる外殻を断ち切ろうとする。
だがそれは、硬い障壁に阻まれ、傷1つ付けることが出来ない。

「く…。ヴィータ、アイゼンで砕け!!」
「わかってる!!このぉぉぉぉ!!!」

しかし、アイゼンでの一撃でさえ、障壁に罅を入れることすら出来ずにもはじき返される。
流石のこれには、ヴィータやシグナムも眼を丸くして、驚愕の表情を浮かべる。アイゼンの重い一撃を意図も簡単に受け止められたのだ。


「あたしのアイゼンでも…だめだと…!?」
「くはははは。無駄な足掻きをする、守護騎士どもよ…。ほぉ、仲間が来た様だな。」
「シグナム、はやてちゃんは!?」
「…こいつは…?」

2人の後方に転移陣が開き、シャマルとザフィーラが転移してきた。最初こそ、フェイトも戦闘体制をとろうとしたが、動けないでいるなのはを庇う事で精一杯だった。

「はやてが…はやてがこいつに吸い込まれた…!!」
「…貴様、目的はなんだ…!?」

冷静に、だが威嚇するように構えるザフィーラの口からは、唸る様に声が漏れる。彼にとっても、はやては大切な主であり、家族でもある。

「我らの目的は…全てを支配する事。その為には、まだまだ力が足りんのでな。…貴様らも我等の為に、よく働いてくれた…。」
「どういうことだ…!?」
「魔力の蒐集…闇の書の中に眠りし我等が、目覚める為の手段にすぎん。くはははは、太古に改変を加えておいてよかったものだ。」

球体が鈍く光を放ち、耳障りで不気味な声で笑う。
それは守護騎士達を激怒させ…憎悪させるには充分だった。

「私達は…私達は断じて…貴様の為に集めていたわけでは…無い!!」
「だが…結果的には我らを目覚めさせた。しかし…まさか、あの子供が…主の知り合いとは思わなかった。…お陰で目覚めの時が早まった。」
「なんだと…」
「絶望も我等の糧となる。…はははは、幼き恋心が、絶望で塗り潰されていく様は…実に面白い余興であった。」
「貴様……!!」
「おっと、貴様らには最早用は無いが…最後の余興でもしようか…。」

ダイモンが怪しく光ると、シグナム達の足元に魔方陣が展開し、4人を包み込む。
その光が、徐々に強さを増していくと…4人の身体が透け始めていく。

「これは…私達が…消える…!?」
「完全には消さぬ。…貴様らの絶望も頂こうか…ははははは…。」
「ちくしょう…ちくしょぉぉぉ!!」

ザフィーラが消え、ヴィータも足掻きながら、ダイモンを睨み付ける。それ視線すら、心地良いのか、禍々しく笑うダイモンは…正に邪悪。
シグナムは消えそうになりながらも…後ろに居るフェイトの方を振り向く。
うずくまり動けないなのはを庇うので、フェイトも精一杯であり…シグナム達が消えるのを見ている事しか出来なかった。

「頼む…主だけでも…主、はやてだけでも…助けてくれ!!」
「この期に及んで…主の心配をするか。くくく…まぁ、よい、管理局の犬よ。…我らと戦うならば…追ってくるがいい。」

消えながらも…はやての事を想うシグナムの言葉を、哂うダイモン。フェイトは忌々しそうに睨み付けると…邪悪に哂いながら姿を消した。

「…みんなに…みんなに知らせないと…!!なのは、たって…!!」
「……あ…う…うん。」

フェイトは蹲っているなのはを無理やり立たせると、閃達に連絡しようと、携帯を取り出すが…後ろでドサと誰かが倒れる音が聞こえた。
振り向けば……柔らかな光に包まれたシャマルが…力なく倒れていた。



アースラ内部 艦橋


「ダイモン…か。聞いた事も無い名前だな。…何かしらの組織…か?」
「わからない。だが、フェイトの証言を考えるなら…こいつが全ての元凶なんだろうな。」

ブレイズはフェイトが撮影していた画像を何度も見直しながら、額に皺を作る。
クロノも何時も以上に険しい表情をしながら、モニターを捜査していく。

「ワザとらしく、追跡できるように足跡を残してやがる…。とことん、なめた真似をしてくれるな。」
「それだけ、自信があるという事なのか…。なんにせよ、明白な宣戦布告だ。…後悔させてやる。」

2人の目には、明らかに怒りの炎が燃え盛っていた。完全にとはいかないが…考えれば守護騎士達も被害者なのだ。
ダイモン、それがいかなる存在なのか…2人には関係が無い。
ただ…世界の平和を乱すものは敵であり…許す事の出来ない存在。

「発見次第、すぐに出撃できるようにして置こう。…フェイト、閃の2人は何時でも出れる。」
「なのはとオメガは?」
「オメガはデバイスの最終調整が途中らしい。今、閃が急ピッチで調整している。なのはは…無理だな。」

未だにメビウスの居なくなったショックから、立ち直れて居ないなのはを戦場に出すなど、愚の骨頂である。
だが、オメガも出れないとなると…戦力低下は免れないだろう。

「…メビウス…。おまえが居てくれればな…。」

ブレイズの零した言葉は…クロノの耳にだけ入り、消えていった。



艦内、メンテナンスルーム。

・閃・


最悪だ。今の俺の心境を表すなら…正にこの言葉だろう。
なのはは戦えないし、オメガのイジェクトも未だに調整中。そして…敵があのダイモン。
なんで奴らがこの世界居るのか…。ましてや闇の書の中に潜んでたなんて…本当に最悪すぎる。
頭では別な事を考えながらも、ウィンドウを操作する自分を褒めてやりたい気分だよ畜生。

「閃…オメガは間に合いそう?」
「無理かもな。…ダイモンを見つけたら、速攻しかけるそうだから…本当に時間との勝負だっての。」
「そっか。…主任は?」
「…医務室だ。あの守護騎士の事を看病してる。」

ウィンドウを覗き込んでくるフェイトの質問に、作業を止めずに答える。
…主任はシャマルが運び込まれて来ると同時に、医務室に猛ダッシュした。…多分だが、再構築はシャマルの身体の消失を、転移妨害はダイモンの転移魔法を防いだんだろう。
クロノ達に怪しまれたが…この事件が終わったら説明するといって、今は不問にしてもらっている。

「…くそ。なんでこんなタイミングに…。イジェクトも途中だし…メビウスもいない…。」
「…メビウス…君。」

俺の呟きが聞こえたのか、俯いて椅子に座っていたなのはがピクリと反応する。
…こいつが戦えれば…楽になるんだが…と思わない事も無い。
だが…無理して戦場に出しても、今のなのはでは…足手まといがいいところだろう。
振り向かずに、作業を進めようとすると…フェイトがなのはの所まで、歩き出した。

「なのは…お願い。今、なのはの力が必要なの。…戦って…!」
「……ごめん。フェイトちゃん…私、やっぱり無理だよ…。恐くて戦えない…。」

小さく震えながら、フェイトの事を見上げるなのはを見て…俺は確信した。
あぁ…本当にこいつは…メビウスに依存してるんだな…と。不屈の心は…もう無いのかと…絶望的な気持ちになってきたな。
だが、次の瞬間…パンと乾いた音が響き渡った。…フェイトがなのはの頬を…打った…?


「…なのはは…なのはは、お兄ちゃんに甘えてるだけだよ!!何時も、何時もお兄ちゃんが助けてくれたから…今度も助けてくれるって思ってるだけ!!
魔法が使えない…恐くて戦えない?それは甘えたいだけの口実だよ!!それが…お兄ちゃんが…メビウス・ランスロットが大切って言った白い魔道師の姿なの!?
それが、強くて優しくて…誰よりも一生懸命な高町なのはの姿なの!?」
「フェイト…ちゃん…。」

眼に涙を溜めて…今まで、心に溜まっていたかのように言葉を吐き出すフェイト。
…こんなフェイトは始めてみるな。…打たれた頬の痛みを忘れて…なのはは唖然としている。

「…ねぇ…答えてよ……なのはぁ…。戻って…きてよ…。」
「あ…!!」
「行くな、なのは。…お前には、その資格は無い。」

メンテナンスルームから泣きながら、飛び出していくフェイトを、追おうとするなのはを俺は引き止める。
…全部…吐き出しちまうか。なぁ、メビウス…お前だって…こんななのはは…望んでないだろ…?

「…お前さ、ジュエルシードの時とか…フェイトの事とか…何か考えてたか?」
「え…フェイトちゃんの…事?」
「まぁ、助けたいって思ってたのは事実だろうけど…。…お前、メビウスが決めたから…とか心の底で思ってなかったか?」
「っ!?」
「メビウスが褒めてくれるから、メビウスが一緒に居るから、そう言えばメビウスが喜んでくれるから…。そう思ってたんじゃないか?」
「そ…そんな…事…」
「…俺にはそう見えたよ。…なぁ、なのは、お前は…どうしたいんだ?」
「どうしたい…?」
「これから先、ずっとメビウスの背中に隠れてるのか?頼りっぱなしなのか?…お前がそれで良いなら、別に構わない。
メビウスは優しいから、受け入れてくれるとは思う。けど…フェイトは…多分違うぞ?…メビウスの隣に…フェイトは立ちたいと思ってる。」
「メビウス君の隣に…?」
「そう…だから、フェイトは…泣きながらも前に進んでんだよ。お前は…救いの手をさし伸ばされるのを…ただ待ってるだけだ。
そんなお前を…メビウスは好きになるのか…?」
「………」
「よく考えてみろよ。…とりあえず、アースラからは降りろ。…今のお前じゃ、何も出来ない。」





・なのは・

閃君に言われて…私はアースラから降りた。
…時間は夕方で…夕日が街全体を赤く照らしている。
何も考えないで…フェイトちゃんや閃君に言われた事を思い出しながら…私は歩いていた。
メビウス君に甘えてた…だけ。…そうかもしれない。
私はメビウス君が褒めてくれるから…お菓子作りも頑張った。魔導師になったのだって…メビウス君が…側に居てくれるから…て思った。
気が付けば…私は神社についていたの。

「…ここでメビウス君が…。」

倒れていた所は…神社の中心だったんだよね。
私は…そこまで歩いていくと…身体の力が抜けて…ペタンと座り込んじゃった。

「メビウス君…。声を聞きたいよう…笑顔が見たいよう…一杯一杯…一緒にいたいよ…。」

眼から涙があふれて…止まらない。どうして…どうしてメビウス君が…。あんなに優しいのに…あんなに…
誰も居ない神社に…私の泣き声だけが響いていく。

…どの位、泣いたんだろう…。気が付くと…チビ狐が心配そうに…私の顔を覗き込んでいた。
…この仔がメビウス君の事を…教えてくれたんだよね…。

「…チビ狐。…メビウス君は…なんであんな事になっちゃったの…?」
「…!!」

声をかけると…チビ狐は草陰に一目散に走っていった。…なにか、小さな袋を持ってきて…それを私の手の上にポンとおいた。
…袋の中を覗き込むと…そこには蒼い欠片が…沢山、入っていたの。

「これって…メビウス君の…コア…?」
「(コクコク)」

あぁ…そっか。チビ狐が…集めていたんだね…。メビウス君のコアのカケラを…。
そう思うと…また涙があふれて…。また泣いちゃう…よ。
けど、そんな私を…誰かが後ろから…優しく抱きしめてくれた。

「…なのはちゃん。そんなに泣いたら可愛い顔が台無しよ?」
「サイファー…さん…?」

優しく…まるでメビウス君のように抱きしめてくれたのは…母親のサイファーさん。
…なんで私がここに居るって…わかったんだろう?…けど、そんな事はどうでもよくて…やっぱり親子なんだ。
メビウス君と…本当に同じ。暖かさも…抱きしめてくれるのも…全部同じなの。
サイファーさんは、私を抱きしめながら…袋の中を覗き込む。

「…メビウスちゃんのコア…ね。…ねぇ、なのはちゃん。」
「…はい。」
「前に話したわよね?…メビウスちゃんは、なのはちゃんのお陰で強くなってるって。」
「…そんな事、無いです。私…やっぱり、メビウス君が居ないと…不安で…。」
「…だったら、ずっと一緒に居れば良いのよ。」
「え…?」
「ずっとずっとメビウスちゃんと一緒に居れば良いのよ。…大人になってからも…ずっとね。」

サイファーさんの笑顔は…本当に優しくて…私の心が…軽くなっていく気がしたの。
大人になってからも…ずっと一緒に…。

「メビウスちゃんはね…なのはちゃんの事が、好きで好きで…大好きなのよ。だから…大丈夫。全力全開でぶつかっちゃいなさい。」
「サイファー…さん。私…私…!!」

何か言おうとしたけど…うまく言葉が出てこない。けど…今の私は…やっぱり本当の私じゃないんだ…。
ふと…手の中の袋を見ると…メビウス君のコアの欠片がホンの少し光り始めていた。

「メビウスちゃんもなのはちゃんと一緒に居たいって、言ってるわね。」
「あ…。」

袋から欠片が勝手に浮いて…私の胸の中に溶け込んでいく…?
…胸が凄く熱い…。あぁ…感じるの…。

「メビウス君の…想いが…感じるよ…!!」
「…なのはちゃんの想いと…メビウスちゃんの想いが1つになったのね。…さぁ、なのはちゃん。…もう…飛べるわね?」
「はい…!!高町なのは…完全復活です!!」

久しぶり…本当の私。そうだよね…私はメビウス君と一緒に居たい。
だから……私は羽ばたくの。羽ばたいて羽ばたいて…飛び続ける。

≪なのは…。私の可愛いなのは。…ようやく…羽ばたき始めるのですね。≫
「アイスドール…?」
≪貴女に…光を…世界を照らす光を授けましょう。…さぁ、真白き光よ、一緒に…戦いましょう。≫

レイジングハートにも…光が集まる…?
そっか、アイスドール…あなたも見守ってくれてたんだ…。うん…また私は頑張れる。
フェイトちゃんや閃君…サイファーさんとアイスドールにも心配かけてた分…私は頑張らないと!!
胸元のレイジングハートを握り締めて…私はバリアジャケットを展開する。
今までのとは、ちょっと違うレイジングハート。蒼と赤のクリスタルが…交互に廻っているの。
これが…私の新しいデバイス。

「さぁ…行こう!!レイジングハート・エンジェラン!!」








高町 なのは
デバイス、レイジングハート・エンジェラン。
所持レアスキル ソラノココロ。ソラノキオクと効果は同じの模様。





あとがき
物凄く期間が開いて申し訳ないです。
アサルトホライズン…色々と不安になってきました…。
ACⅤのサイトを見たくても…重くて開かない今日この頃。…泣けてきますね。
Asは後2話位で終わらせる予定です。



[21516] As編 11話 舞い降りる空の王
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/06/28 21:44
アースラ 医務室

「……シャマルさん…。」

ベッドの上で静かに眠るシャマルの手を握り締め、ノヴァは彼女の名前を呼ぶ。
原作どおり…とまでは行かないが、守護騎士達の消失があったが…シャマルだけは消失を免れた。
以前に彼が作成していた再構築と転移妨害プログラムを、埋め込んだ髪飾りのお陰であろう。
だが…それでも事態は最悪だという事には、変わりない。ダイモンの登場により、闇の書だけでなく、はやてまで連れて行かれてしまった。
しかし、自分勝手だといわれようが…ノヴァにとって、シャマルの無事は何よりも嬉しい事だった。
9年間…ノヴァは彼女を救う為だけに生き…様々な手段を考えてきた。…それほどまでに、ノヴァはシャマルを愛していたのだ。
静かに彼女の髪を掬えば…身じろぎをしながら、おぼろげながらも、眼を開けた。

「…ノヴァさん…?あれ、私…どうして…。」
「シャマルさん…!!無事で…無事でよかった…!!」
「きゃ…。ノヴァさん…泣いてるん…ですか?」

身体を起こしたシャマルをノヴァは力いっぱい抱きしめた。突然、そんな事をされて、驚くシャマルだが…彼が涙を流し、泣いている事に気が付き…戸惑ってしまう。
一緒に出掛けていた時は、飄々として…何時も、胡散臭い笑顔を浮かべていた彼の泣き顔は、まったく想像できなかった。
それでも、シャマルは表情を和らげ、彼の背中を…ゆっくりと優しく…慈しむ様に撫で始めた。
、ふっとシャマルの頭の片隅で…昔、こうして誰かをあやして上げていた様な…そんな記憶が…よみがえってきた。

・5分後・

「落ち着きましたか?」
「いやはや…見っとも無い所をお見せしました。」

バツが悪いようにして、頭をかきながら、ノヴァはメガネを直すと、傍らの椅子に腰を下ろす。
幾ら好きだとは言え、泣き顔を見られるのは、流石に恥かしかったようだ。

「…ノヴァさん、ここはどこなんですか?」
「…ここは管理局の航行艦内医務室です。」
「管理局…!?…なんでノヴァさんが!?」
「シャマルさん、落ち着いてください!!…思い出してみてくださいよ。…公園でなにがあったのか。」
「公園で……あ…。」

詰め寄ったシャマルの肩を掴んで、ベッドにノヴァは押し戻し、落ち着かせる。最初こそ、何故自分がここに居るのか、わからなかったシャマルだが、
ノヴァの言葉で公園での出来事を…ダイモンと遭遇した事を思い出した。
はやてが連れ去られた事、魔方陣に囲まれ、シグナム達が消された事。…だが、何故、自分だけ無事なのだろうか…。
ふっと、考えるようにして…髪に触れると、何時もそこに付けてあった髪飾りが無くなっている事にシャマルは気が付いた。

「あ…。髪飾りが…。」
「それなら、ここにありますよ。」

そういって、ノヴァが差し出したのは、黒焦げになった髪飾り。確かに、所々に彼からプレゼントされた髪飾りの名残が、残っている。
折角、貰ったプレゼントがこんな風になってしまったのを見て、ほんの少し悲しそうにするシャマルだが…ノヴァは笑顔でその手を握る。

「…これは、シャマルさんを護る為に作ったんですから…これでよかったんですよ。」
「私を…護る為に…?ノヴァさん、貴方は…何者なんですか…?」
「そうですねぇ。…とりあえず、管理局と僕との関係について…お話しますか。」

ノヴァはおもむろに、管理局と自分の関係。今の状況等を簡単にシャマルに説明をする。
最初こそ、驚いたシャマルだが、ノヴァの真摯な態度で落ち着き理解をしていた。

「けど、これだけは信じてください。僕は…シャマルさんを騙す為に近づいたわけじゃありません。」
「…わかっています。貴方は、そんな事をする人じゃないですし…私も楽しかったですから。」

この青年の根は真面目だという事を、シャマルは理解していた。一緒に出かけてたときも、自分より早く待ち合わせ場所にいたし、こちらの事を優先してくれていた。
そんな彼だからこそ…シャマルも信じ、淡い想いを抱いているのだ。

「よかった。……これから、闇の書とダイモンとの戦闘があります。なにか知っている事があれば、教えてくれませんか?」
「…ダイモンについては、何もわかりません。同じ書の中に居ても…まったく気が付きませんでした。闇の書については……」
「大丈夫ですよ。…ここの船の人達は、みんな優しい。…きっと他の仲間の人たちを助けてくれます。」

握っている手に力を込めて、シャマルを勇気付ける。今はどんな情報でも欲しいのが本音だ。

「…闇の書には管制人格が存在します。恐らくですが…その意思もダイモンが乗っ取っていると思います。ですから…彼女もどうにかしないと…」
「主であるはやてちゃんや、他の守護騎士も助けれない…という事ですか。」
「お願いします…!!私達はどうなっても良いんです…。けど、はやてちゃんだけは…はやてちゃんだけは助けてあげてください…!!」

懇願するように…祈るようにするシャマルを再び抱きしめ、ノヴァは先ほどされたように背中を擦る。

「大丈夫ですよ。…絶対に助かります。助けます。…ここには多くの英雄達が居るんですから。」
「えい…ゆう?」
「えぇ。…きっと彼らなら、はやてちゃんだけでなく、守護騎士達を救えます。…戦乱が起こるから…英雄が現れるんです。
世界に意思があるからこそ…英雄達はここに居るんですよ。」

ブレイズ、オメガ、閃。この3人はきっと英雄になるべき存在だろう。だからこそ…ノヴァは信じることが出来る。
彼らなら…世界すら救えるのだと。そして…今、眠っている英雄も…きっと目覚めてくれるだろうと…。







・ブレイズ・

「ようやく見つけたぞ…。」

ダイモンの追跡を開始し、1時間。ようやく、奴らが居る座標を特定できた。
場所は無人世界の荒野。…サーチャーを送り込めば、ダイモンと名乗った球体と、3本の十字架が見えた。

「これは…公開処刑とでも言いたいのか…!?」
「とことんふざけた真似をしてくれるな。」

クロノと俺の口からこぼれる怒りの言葉。…十字架には、3人の守護騎士が貼り付けにされていた。
どうやら…奴は完全に消さずに、俺達の到着を待っているようだ。本来ならば降服勧告をするんだが…奴らには無用だ。
クロノも同じようで、控えている閃、フェイト、アルフに出撃指示を出す。…今回はもう1人居るが…組みたくは無い。

「フェイト、閃。出撃だ。…シルヴァリアスも出てくれ。」
『あいよ。…主任にイジェクトの調整は頼んであるから、出来たらオメガも出撃させてくれ。』
『………あんなのと一緒に戦いたくない。』
『同じく。』
「文句を言うなフェイト。一応はシルヴァリアスも局員になってるんだ。…はぁ。クロノ、俺も出る。」
「あぁ。…無事に帰ってきてくれ。」

現在、艦長は本局でダイモンについての報告を行っているはずだ。だから、今のアースラはクロノが艦長代理として指揮を執っている。
さて…シルヴァリアスも戦力として出るが……閃やフェイトとは折り合いが悪すぎる。フェイトにアルフなんて、あからさまに敵意をむき出しにしている。
…実際に、俺だって奴と共同前線などやりたくもない。
…だが…今の奴は【管理局評議会】直属の魔導師だ。…何時の間に、そんな地位に付いていたのか…。っと、余計な事を考えるな…。
今はダイモンとの戦闘だけを…考えろ。

「スペシネフ。…行くぞ。」
『イエス、マイロード。…見慣れぬ敵です。どうや油断なさらぬように…。』
「わかっている。…だが、ここまでコケにしてくれたのだ。…屠るぞ。」



無人世界 荒野


「くくく…来たか。管理局の犬どもよ。」
「ダイモン。散々、おちょくってくれたな。…覚悟は出来てるだろうな?」
「ははは…。覚悟とは…面白い事を言うものだ。…よかろう、守護騎士達を消す前に…面白い余興を演じようではないか…!!」

哂いながら、ダイモンは闇の書を転移させると、魔方陣を展開する。…攻撃じゃない…?
光が収まれば、奴の傍らに銀髪の女性が控えていた。なるほど、あれが官制人格か。…見た限りでは、完全に奴の支配化か。

「リインフォースと…主であった者は名づけていた。くくく…祝福の風か。…ならば、貴様らに風を与えよう。…死を運ぶ黒き風をなぁ…!!」
「来るぞ。閃はバックアップ、フェイトは上空の敵を殲滅、アルフはフェイトの援護だ。」
「わかった。…アルフ、背中、お願いね。」
「任せときなフェイト!!」
「ふん、僕は好きにやらせてもらうぞ。」
「……勝手にしろ。…行くぞ!!」

官制人格であるリインフォースが手を振るえば、ダイモンと名乗った球体より、一回り小さな球体が幾多も生み出される。
さしずめ、ダイモン・オーブと言ったところか…!!
閃は周囲に防御障壁を展開し、こちらのバックアップをしてくれる。…彼の妨害魔法のお陰で、多少は奴らの攻撃の誘導性能は下がるだろう。
俺は誘導攻撃をスペシネフで弾き飛ばし、一番近くに居たオーブに接近する。

(…これならば、簡単に破壊できるか…?)

だが…それを予期していたのか、オーブが光り、全方位に砲撃魔法を放つ。ちぃ…魔方陣が展開しないから…予備動作が無いか…!!
だが…スライディングで回避し、真下に潜り込めば…

「攻撃手段を持たんだろう…!!」

下段から魔力鎌を振り上げ、縦に両断し、オーブを破壊する。…耐久力自体はまだ強くないようだな。…これなら、いけるか…?
そのまま、クローに魔力を収束し、別のオーブの外郭を砕き割り、中枢になっているコアを引きずり出し、握りつぶす。培養液なのか…妙な液体が顔に付着するが…害はないようだな。

『マイロード。…戦い方が悪魔のようですね。』
「今更だな。…敵には容赦しない。次だ…!!」





・フェイト・

「はぁ!!」

身体を一回転させて、周りに居たオーブを両断する。…うん、これなら、勝てる。
新しいバルディッシュのモード、ザンバーフォームで私はオーブを切り裂いていく。

「よし、フェイト、こっちも粗方、片付けたよ。」

アルフにお願いしていたオーブに簡単に壊せたみたい。下を見れば、ブレイズがオーブを切り裂いたり、クローで砕いたりしている。
…ますます戦い方が激しく…そして凄くなっている。…私のハーケンより大きな魔力鎌を自由自在に扱えるなんて…やっぱり凄い。

「っと、フェイト、まだまだ来るみたいだよ。」
「…うん。わかってる。…こんな奴らに絶対に負けない…!!」

私は両手でバルディッシュを構え、周りに現れたオーブをにらみつける。

(…こいつらが居たせいでお兄ちゃんは…!!)

頭がカッと熱くなる。…だけど、駄目。ここで無理は出来ない、暴走して…戦ってもお兄ちゃんは喜んでくれない。
落ち着いて…落ち着くの私。
ソッと髪に付けている蒼いリボンに触れて、心を落ち着かせる。…うん、もう大丈夫。

「お前達なんか…私は負けない!!」

閃が組み込んでくれた慣性制御のお陰で、私もお兄ちゃんみたいに、急制動、急加速を使えるようになっている。
トップスピードで接近して、通り過ぎるようにして、急制動を使って180度ターンをして後ろに回りこんで、バルディッシュを振るう。
巨大な魔力刃に両断されて、オーブが地面に落ちていく。確かに…簡単に倒せるけど…

「数が…減らない…。」
「次から次へと沸いてきて、きりがないよ…!!」

アルフと背中を合わせて、構える。…さっきから、倒した数だけ、オーブが現われる。…ううん、倒した数より…多い。
まさか…遊ばれている…?

「それでも……絶対に負けない…!!」
「あたし達を…甘くみるんじゃないよ!!」






「くくく…予想外に頑張ってはいるが…時間の問題か。」

不気味な笑い声を響かせ、ダイモンは傍らのリインフォースを動かし、新たなオーブを作り上げる。
最初は弱いオーブを作り、ブレイズ達の魔力を消耗させる。そして、徐々に強いオーブを作り上げ、ジワジワと追い詰めていたのだ。
現に、フェイトとブレイズはオーブが強くなってきている事に気が付き、ダイモンの狙いに感づいていた。
そして気が付けば、周囲を完全に囲まれ、身動きが取れない状況にまで追い詰められていた。…シルヴァリアスは別のオーブを追撃し、前線から離れた場所に居る。

「はぁ…はぁ…!!」
「…ペース配分をしくじったか…。」
「つぁ…右手が思うように動かないね…。」

降りてきたフェイトは肩で息をし、ブレイズも額に汗をかいていた。アルフもオーブを砕きすぎたのか、右手が動かなくなってきている。
だが、ダイモンは容赦せずに、幾つものオーブを生み出し、更に包囲を厚くする。

「楽しませて…もらったぞ。管理局の犬どもよ。だが我らも暇ではないのだな。…幕引きといこうじゃないか。」

リインフォースが手を挙げ、魔方陣を展開すると、オーブも一斉に光り始めた。どうやら砲撃魔法を一斉に放とうとしているようだ・
これにはブレイズに焦りの表情を隠せない。

「流石に拙いか…。」
≪一か八か、俺の魔法で…≫
「駄目だ、閃。…その後がどうにもならないだろう…。」

如何に閃のアサルト・セルが強力とはいえ、ただの一発限りの特大魔法。その後の攻撃手段を持たないのだ。そんな危険な賭けをさせるわけにいかない
ここまでか…と、諦め気味のブレイズだったが…それすに吹き飛ばす…強い声が…響き渡った。

「スターライトブレイカぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「…なにぃ…?」


天から降り注ぐ桜色の魔力光。それが多数のオーブを巻き込み…文字通り、消滅させていく。
その魔力光は…ブレイズが知っていて、その声は…フェイトが望んだ声であり…その姿は閃が知っている…優しき白の魔導師 高町なのは。

「なの…はぁ…!!」
「お待たせ、フェイトちゃん!!」

涙声を出すフェイトの近くに降り立つと、なのはは今までと同じ笑顔を見せ、彼女を安心させる。

「まったく…心配してたが…もう大丈夫なのか?」
「ブレイズ君。もう大丈夫だよ。私はまた…飛べるの。」
≪遅いっての。…なのは、よくきてくれたな。≫
「閃君。…ありがとう。私…自分がどうしたいのか…決めたよ。」

なのはは決意を持った瞳で、ダイモンと対峙する。その後姿は…可憐でありながら強い。

「1人増えただけで…どうにかなるのか。リインフォース…片付けろ。」

忌々しそうにダイモンは声を荒らげ、リインフォースを操作し始める。彼女が右手を突き出すし…見知った蒼い魔方陣が展開される。
それは…アジムとゲランを葬ったメビウスの最強魔法…ユリシーズだ。

「ユリシーズだと…!?」
「くはははは!!!たかだか1人増えただけで、この魔法が防げるか…?」

高笑いするダイモンだが…なのはは静かに正面から向き合い…レイジングハート・エンジェランを握り締める。

「空よ…。私に力を…貸して!!」
「なん…だと…?」

その声と同時に…なのはの身体に集まり始める魔力。それは…メビウスのコアと彼女のコアが融合した事によって生まれたレアスキル【ソラノココロ】
メビウスのように常に供給されているわけではないが、それでも一瞬で特大魔法クラスの魔力を集める事が出来るのだ。
今までとは違う魔方陣を展開し…なのはは決意の篭った瞳で…リインフォースを見つめる。

「私には聞こえるよ。…貴女の助けてって声が。だから…私は全力でぶつかるの。手加減は…しないよ!!」
…ありがとう。けど…私より…はやてを…。
「放て、リインフォース!!」
「堕ちろ、暗き闇の悪意よ…ユリシーズ…!!」

なのは達目掛けて放たれる蒼い極光。だが…それを打ち返すかのように…既になのはは新しい砲撃魔法を…作り上げていた。

「一撃必殺…ホーリーライトブレイカぁぁぁぁぁ!!!!」

レイジングハートの蒼と赤のコアが光…スターライトブレイカー以上の魔力光がユリシーズとリインフォースを飲み込んでいく。
たとえ、メビウスには劣るユリシーズとはいえ…それを飲み込む程の威力を放てる彼女は…正に天才。
光が収まると、力なくリインフォースは地面に倒れこみ…消えていく。どうやら、闇の書の中に戻ったようだ。

「………」
「…凄まじいな。だが…ダイモン、これで貴様の手札はなくなった。…大人しく降伏しろ。」

なのはの砲撃の威力に呆気に取られていたが、ブレイズは頭を振り、一応ダイモンへ降伏勧告を始める。
オーブも消え、それを作っていたリインフォースも消失した今…残るのはダイモンのみ。
だが…ダイモンはそれすらも余興だと言わんばかりに…哂い始めた。

「くくくく…はははははははは。ここまで頑張るとは思いもしなかったよ、管理局の犬どもよ。…だが…この程度で追い詰めたつもりか…?」
「なんだと…?」
「まだ…こやつの相手をしてもらっていなかったのでなぁ…。さぁ、来たれ、処刑戦機…ジグラット。」

ダイモンの背後の空間が割れ…中から巨大な影が姿を現す。白く機械的なボディをし…4本の足で巨体を支える影。
ダイモンの保持する機動兵器、ジグラット。

「まだこんなものを…隠していたか…!!」
「はははは、さぁ、こいつとも…遊んでもらおうか!!」











・メビウス・

ここは…どこだろう…?
私は真っ白な空間を漂っていた。

「メビウス・ランスロット。私の声が聞こえますか…?」
「誰…?」
「あぁ…やっと、声が届いた。」

何処からともなく…女の人の声が聞こえてきた。
向こうも私の声が聞こえたみたいで…嬉しそうにしている。

「メビウス…よかった。私の声が聞こえるのですね…。」
「うん、聞こえてるけど…貴女は誰…?」

なんだろう…凄く懐かしくて…どこかで聞いた事のある…優しい声だ。

「私は…タングラム。貴方の心の空で…たゆたうもの。」
「タングラム…?」

…前に父さん達に聞いた事がある…因果律制御機構…?
どうして…それが私のところに…?

「私は貴方のお母さん、サイファーと…親しかったのです。…もう、彼女の願いに私は答える事が出来なくなってしまった。」
「…どうして…?」
「…それはいえません。けど…その代わりに、息子である…彼方の事を見守っていました。」

目の前に…綺麗な女の人の姿が浮かび上がる。…この人がタングラム…?
女の人は優しいえ笑顔を浮かべて、私の頭を優しく撫でる。

「メビウス。今、世界に…悪しき闇が訪れようとしています。」
「…悪しき闇…?」
「はい。…何れは世界を覆いつくし…全てに悲しみをもたらす存在。…過去の亡霊、ダイモン。…この者達を…放っておけません。」
「ダイモン…。」
「現に彼らは…既にその牙をむいています。…貴方の大切な者達に…。」

タングラムが指差した先には…なのちゃんやフェイト…ブレイズさん達が黒い球体と戦っている姿が映し出されていた。
みんなが…戦っている…!?

「ダイモンは闇の書に潜み…その主である八神はやてを吸収する事で…完全な復活を遂げようとしています。」
「はやてちゃん…を!?」
「メビウス、お願いです。ダイモンを…倒してください。これは…貴方にしか出来ない事です。」
「私に…しか…?」
「かつて…ベルカに貴方の様な魔導師が居ました。ただ、空と共にあることだけを望んだ魔導師、空王と呼ばれた彼と…貴方は似ている。」
「空王…?」
「ダイモンの野望を…幾度も阻んだ空王。その血を受け継いだ貴方なら…彼らの野望を砕くこともできるのです。」
「…私は野望とか…空王とか何も知らないよ。」

そう…何も知らない。どんな血筋だろうが…どんな役目があろうが…私は私。
だけど…

「だけどね。…なのちゃんやフェイト…そして、はやてちゃんを傷つけるのなら…私にとって…敵だ。」
「メビウス…!!」
「…みんなを護る事が…世界を護る事につながる。…そして、世界を護る事が…みんなを護る事につながる。…タングラム、私は…戦うよ。」
「あぁ…なら…私も貴方に…もてる全ての力を貸しましょう。ですが…覚えて置いてください。私を使うという事は…貴方は神にも等しい力を持っていると…」
「使わないよ。…力を貸してくれるのは嬉しいけど…私は貴女を使わない。…そうだな…相談相手になってくれる…?」

運命を操作したりとか…私はそんな事をしたくない。私は神様になんてなりたくないんだ。私は…私って言う人間。
その答えに驚きながら…けど、納得しながら、タングラムは優しく微笑んでくれた。

「…わかりました。なら…この剣を持っていってください。」
「…これは…?」
「騎士を殺す為に作られた…騎士の剣です。貴方になら…扱えます。」

紅い光で出来た剣を私が握ると、光が集まり、紅いペンダントに形を変えた。

「そして…この子もつれていって上げてください。」
「わっ……。君は?」

何時の間にか、私を抱きかかえるようにして、巨大な翳が後ろに控えていた。
なんだろう…甘えるようにして頭を擦り付けてくる。

「その子は…強大な力を持っていますが…まだ心は幼いのです。どうか…その子も大切にしてあげてください。」
「…うん。わかった。」
「ダイモンは…人知を超えた存在です。ですが…人智を超えた化け物を打ち倒すのは…それ以上の化け物が世に現れた時なのです。
だけど…その美しく気高き化け物を、人はきっと…こう呼ぶでしょう…【英雄】と。メビウス…貴方は…空の英雄なのです。」
「はは…英雄…か。恥かしいけど…そうなれるように頑張らないとね。」
「さぁ…貴方の大切な者達を…助けてあげてください…!!」






・なのは・

「ぐ…!?」
「ブレイズ君!?」

砲撃魔法を受け止めたブレイズ君がその場に膝を着いて…胸を押さえる。
ずっと前にも見たことがある…。戦いすぎると起こる発作だって言ってたけど…。

「なのは…余所見を…するな!!」
「あ…きゃぁ…!?」

ジグラットの誘導弾を障壁に防ぐけど…衝撃が完全に防ぎきれなかった…。
こっちが攻撃しても…向こうの障壁に全部阻まれちゃうし…砲撃魔法を使いたくても、詠唱をさせてくれない。
もう、フェイトちゃんも避けるだけで精一杯になってきているの。

「くくく…さぁ…管理局の犬どもよ。ここまでにしようか…。」
「ち…やばいぞ。」

ジグラットの頭の部分が延びて…凄く長い砲塔が出てきた。…4本の足にそれぞれついている魔力コアから、魔力が送り込まれている…?
感覚でわかる…あの魔法が直撃したら…耐えれない…。けど…私の後ろには…ブレイズ君やフェイトちゃんが居る…。
絶対に…避けれない。

「なのは…逃げて…!!」
「フェイトちゃん、私は…逃げないよ。絶対にもう逃げない…!!」
「くくく…すばらしい友情だ。…どうだ、高町なのは。…我らの元に来ると言うのならば…貴様だけでも助けてやろう。もう…諦めろ。」

…突然、なにを言うと思ったら…そんな事を言うんだ。
なんでかわからないけど…私は小さく笑って…大きな声で…想いを叫んでいた。


「諦めないもん…挫けないもん…絶対絶対…負けないよ…!!フェイトちゃんやブレイズ君を、みんなを傷つけて…メビウス君を…
あんなふうにしたお前なんかに…私は絶対に負けない!!私は…みんなと一緒に居るんだもん。
メビウス君と…ずっとずっとずっと!!一緒に居るだもん!お前なんかの仲間に絶対にならない!!」


心が叫ぶように…私は自分の想いをぶつける。絶対に…こんな奴らなんかに…負けない…!!

「そうか…ならば…散るが良い!!」
「なのはぁぁぁぁぁ!!!!」

後ろでフェイトちゃんの悲鳴が聞こえる…だけど、私は絶対に動かない。…絶対に受け止める…!!
大きな光が私の目の前に迫ってくる。眼を閉じて…最後の魔力を集めて、止めようとするけど…何時までも…何も来ない。
どうして…って眼を開ければ…。

「…お待たせ、なのちゃん。」
「え…あ…。」
「待たせて…ごめんね。」

私を庇うようにして…立ちふさがる男の子。好きで好きで…大好きで…ずっと一緒に居たいって…想っている男の子。
にゃはは、涙で…霞んじゃう。…だって…だって…優しく笑っているメビウス君が…目の前に居るんだもん。

「ば…かな…。何故、貴様がここに…。」
「さてね。…もう…私の大切ななのちゃんを…みんなを傷つけさせはしない…!!」

メビウス君は両手を広げて眼を閉じると…蒼と紅の光が…両手に集まっていく。

「汝は天駆ける真白き閃光。そして約束されし絶対勝利の剣なり!!来たれ!!エクスキャリバー・ホワイト・グリント!!」」

右手には…今までとは違って真っ白になったエクスさんが握られている。それにバリアジャケットも…蒼から純白で…袖には深紅のラインが入っていて…凄く綺麗。

「汝は紅き剣。騎士を屠る為に、創られた聖騎士なり、来たれ!!!!断罪の刃!!ファイアフライ・ホーリーナイト!!」

左手には、エクスさんと同じ形のデバイスだけど…色がこっちは深紅。メビウス君の新しい…デバイス…?
そして…メビウス君の背中からは…まるで光で出来たような翼が広がっていて…凄くかっこよくて凄く綺麗…。

「く…だが…貴様だけで、このジグラットに勝てるか…!?」
「私だけじゃ…ないんだよ。…この子も居る。」
「…馬鹿な…貴様…まさか…!!」
「我が盟約の名の下に…虚空の狭間にてまどろむ幻獣よ…我の元に…こい!!ヤガランデ!!」

メビウス君の声に答えるようにして…大きな翳が私とメビウス君を庇うようにして…姿を現した。
青紫色をした…大きな翳。けど…その眼には優しい光が…満ち溢れている。

「さて…ダイモン。私とも…戦ってもらおうか…!!」




右手には天駆ける純白の神剣。左手には騎士を殺す聖騎士の聖剣。付き従うは紅きガルムの魔犬。
王を守護するは虚空の幻獣。空を愛し、空に愛されは者…空王なり。
新たに受け継ぐ王の名は…メビウス・ランスロットなり。








メビウス・ランスロット、覚醒。

デバイス・エクスキャリバー・ホワイト・グリント。
      ファイアフライ・ホーリーナイト。
バリアジャケット 純白のコートに細部に深紅のライン。
光の翼習得。(某ガ○ダムV2のあれ。)




あとがき



主人公完全復活!!さて…次回でラストぉぉぉ!!
ヒロインのピンチに駆けつけるヒーロー!!(2回目)
最強主人公には欠かせない二刀流で翼!!
そして、この小説。これをしたくて書き始めました。…まだまだ「これがしたい」と言う事が沢山ありますので…ご期待を?(笑)




[21516]  (妄想ネタ)アナトリアの傭兵
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/06/11 23:00
久々の更新がこんなので申し訳ないです。
騙して悪いが妄想なんでな、ガッカリしてもらおう。
それでも、大丈夫だ、問題ない。と言う方はどうぞ…。
































旧ウスティオ領 森林地帯、野営地。

ゼロが傭兵団【レイヴンズ・ネスト】に保護され、半月が過ぎた。
最初こそ、戸惑った雰囲気の彼女だったが、気さくな傭兵達のお陰で、最近はずいぶんと溶け込んできている。
ちなみに、愛称は【お嬢】である。どうやら、丁寧な言葉遣いや、物腰の柔らかさでそう呼ばれているようだ。
最近では、レイピアと一緒に料理や洗濯などを行うようになってきており、マスコット的な存在となってきていた。
最もゼロの手料理を食べた一部の傭兵が、相次いで体調を崩しているが…。

「お嬢、洗濯物もってきましたよ。」
「あ、ありがとうございます。乾しておきますから、そこにおいててください。」
「あいさ。」

男性が持ってきて洗濯物を、木と木に張り巡らされたロープに乾しながら、ゼロは軽く肩をトントンと叩く。
如何にシーツ等とはいえ、数十人単位の物を乾すとなると、華奢な彼女には少々辛い。

「あ~…お嬢、辛いなら、俺がやりますぜ?」
「大丈夫です!!私のお仕事ですから。」

心配そうに、洗濯物を持ち上げようとした傭兵を止めて、ゼロは笑顔を作る。
彼女自体、この仕事は嫌いではない、むしろ、好きなのだ。こうして、誰かの役に立っている事が…なによりも楽しく感じている。
傭兵もそれを理解したのか、軽く頭をかきながら、向こうで冷やかしの声を上げている仲間達の方に歩いていった。

「残念だったな。アプローチ失敗か!!」
「うっせぇ!!テメーだって、失敗しただろが!!」
「んだとこら!!」

何故だか、取っ組み合いを始める傭兵達を見ながら、ゼロは笑顔を浮かべ、その光景を眺めながら、洗濯物を乾し始めた。
傭兵…と言うと、荒っぽく粗暴な印象があるだろう。実際に、ここの傭兵達もそうである。だが…それでも彼らは純粋な…そう、まるでヤンチャ坊主のような印象があった。
取っ組み合いをしている傭兵を止めるわけでもなく、逆にはやし立てて面白がっているものも居れば、賭けをするものも居る。
ただ…全員が楽しみながら…笑いながら愉快にしている。まるで…大きな家族のような傭兵団だと…ゼロは思っていた。
そして、家族には母親がつき物だ。

「こらぉ、お前ら、遊んでないで、訓練でもしな!!」
「ああ姐さん!!シューターはまずいですって!!いって!!」
「ったく…どいつもこいつも…」

レイピアが一喝すると、母親に怒られた子供のようにして、傭兵達はそれぞれが訓練に使っている広場に走り出した。
額を押さえながら、レイピアはため息をつくと、ゼロの方へと歩み寄ってくる。
彼女にとってゼロは妹のような存在であり、逆もまた然りである。

「お疲れ、ゼロ。あの馬鹿共から、なにもされなかったかい?」
「もう、大丈夫ですよ。レイピアさんは心配しすぎです。皆さん、いい人ですから。」

疑いを知らずに笑うゼロを見て、レイピアは再びため息をこぼす。
女である自分が見惚れるほど、ゼロは整った顔をしている。実際、若い傭兵達はゼロに好意を抱いている者も居るほどだ。
最も、一般的な良識を持ち合わせる彼らが、ゼロに妙な事をする訳は無いと思っているレイピアだが…それでも心配なのだ。

「はぁ…あんたはもう少し、人を疑いな。…洗濯物はあたしが乾しとくから、うちの旅団長を起こしてきてくれるかい?」
「スカーフェイスさんを…ですか?はい、わかりました!!」
「やれやれ…嬉しそうにしちゃって。」

走っていくゼロの後姿を眺めながら、レイピアは面白そうな笑顔を浮かべる。
何故だか、あの仏頂面のスカーフェイスにゼロは懐いていた。最初こそ、オドオドしていたのだが、今では彼を起こすのもゼロの役目になっていたのだ。
スカーフェイス自身は邪険にしているが、それが一種の照れ隠しなのだとレイピアもわかっている。

「…まっ、4歳の差なんて、大してないからね。どうなることやら。」

黒い笑顔を浮かべながら、レイピアは残っている洗濯物を乾し始めた。
…尖った黒い尻尾が見えるのは…錯覚だと思いたい。




「…スカーフェイスさん?」
「………」

何時も、彼が寛いでいるハンモックを覗き込むと、胸の上に読みかけの本を置いたまま、スカーフェイスは静かに寝息を立てていた。
半月ほど、生活をともにしているが、彼のこうした寝顔を見るのは、ゼロは始めてであった。
伸びた前髪が、サラサラと風に揺れ、何時ものスカーフェイスのとは違う印象をうけた。

「……なんだ?」
「ひゃ!?おお起きてたんですか!?」
「……さぁな。」

ワタワタするゼロを無視して、スカーフェイスは起き上がると、つまらなさそうに自分のテントに歩き出す。
慌てて、彼の後を追うゼロだが…

「ま…まってください!!どうして早歩きなんですか!?」
「俺の勝手だ。…お前こそ、なんで付いてくる。」
「私はレイピアさんに、起こしてくるように頼まれたんです!!」
「…起きてるから、問題はないだろう。」
「どうせ、テントに入ったら、寝るつもりなんですよね?だったら、食事の用意くらい、手伝ってください!!」
「…ちっ、いちいち、煩いな…。…お前は料理をするなよ。」
「なななんでですか!?」
「自分で考えろ阿呆。」

小さく舌打ちをしながらも、スカーフェイスはテントに無造作に本を投げ入れると、調理機材の置いてある場所に向かう。
面倒でも、ゼロには絶対に料理をさせたくないようだ。実は一度、ゼロが作った食事を食べたスカーフェイスだが…その後に胃が物凄い事になったのだ。
スカーフェイスだけでなく、チャーリーも一口食べただけで、卒倒しているのだ。…作った本人は食べても問題なかったようだが…。
こんな感じで、ゼロはネストに溶け込んできていた。





深夜、スカーフェイスのテント。

「…一度、戻るか。」
「だな。物資も心許無いし、この情勢じゃな。」
「仕事には困らないんだろうけど…。相手は選びたいね。」

スカーフェイス、チャーリー、レイピアの3人は地図を見ながら、何かを考えていた。
ウスティオ領をほぼ制圧したベルカ公国。恐らくは、次はミッドと管理局が相手になるだろう。
だが…正直に言うと、ベルカは量はともかく、質では圧倒的に管理局を上回っている。このままいくと、苦戦は免れないだろう。
そこで、彼等のような傭兵が必要になってくる。だが、それは質では勝るベルカも同じ事。ある程度の質と量を持つ傭兵団は、両者にとって重要な存在になる。

「どちらに付くべきか…。」
「あたし的には、管理局の方が良いと思うね。正直、今のベルカは好きになれないよ。」
「俺もだな。…聞いた話じゃ、軍の上層部の一部に、選民思想が入ってるらしいぞ。」
「…そうか。…確かに、あまり良い噂は聞かないな。…まぁ、向こうも俺達については、同じように思ってるだろう。」
「違いない。ずいぶん、派手にやったからなぁ。…お前が。」
「うんうん…フェイスが異様に大暴れしてと思うのは、あたしだけかい?」

ジトっとした眼でスカーフェイスを見る2人だが、当の本人は何処吹く風できっちりと無視している。
以前に、彼等の本拠地の街にベルカが侵攻してきたときに、派手に暴れたのだ。もっとも、一番派手に暴れ、ベルカに大打撃を与えたのは旅団長である彼だった。

「なんにせよ、戻るべきだな。…要らん荷物まで抱え込んでいる。」
「ゼロの事か。結構、良い娘だと思うんだがなぁ。気が利くし、明るいし。…料理は壊滅的だが。」
「そうそう。それに、フェイスによく懐いてるじゃないか。邪険にしちゃ可哀想だよ。」
「どうだかな。…何故、あいつは追われていたのか…。」
「確かに、気になるね。」

出会った頃は、常に何かに怯えていたゼロだが、最近になってようやく明るい笑顔を見せるようになってきた。
恐らくだが、ネストの皆が、彼女を気遣い、護ってあげているからだろう。本人は否定するだろうが、スカーフェイスも口では色々と言うが、心配はしていたのだ。
その反面、自分の事を一切話そうとはしない。何度か、レイピアがやんわりと問いかけても、何も答えようとはしなかった。
まぁ、答えないからといって、追い出すような真似をする彼らでもないので、良いのだが…。信じてもらえてないのかもと、少し悲しくはなるのだ。

「まっ、何れ話してくれるさ。んじゃ、明日から、移動って事で良いな?」
「あぁ。そうしてくれ。…しかし、妨害魔法がこれほど厄介だとはな。」
「そう言うなよ。のんびり行けると思えば良いじゃねぇかよ。」

沈んだ空気を吹き飛ばすように、チャーリーが笑顔でスカーフェイスの背中を叩く。
ベルカは自国領土と占領地に、特殊な結界発生システムを設置しているのだ。性能的には、転移魔法を完全に使用不可にし、管理局の長距離進行を妨害。
飛行魔法も妨害されるので、卓越したベルカの騎士達と渡り合うのも難しいのだ。ベルカ軍自体にはその効果を無力化するデータが、デバイスに登録されているので問題はない。
そのデータを解析するか、構築すれば良いのだろうが…そのシステムを作ったのは、かの有名なアントン・カプチェンコ。恐らく、解析までかなりの時間が必要となるだろう。
結局は車両やヘリ等の輸送手段に頼るしかない管理局・ミッドは攻めあぐねているのだ。
なお、ネストは馬車と言う、ある意味で傭兵団らしい移動手段を使っていた。…決して、資金難だから…と言う訳ではないと思う。

翌朝



「よし、荷物は積み込んだな。」
「うぃーす。チャーリー隊長、確認完了しやした。」
「おし、んじゃ、移動を開始すんぞ。…お嬢も乗っけたか?」
「乗っけやした!!」
「乗っけましたって…私、子供じゃありません!!」
「…それはガキの言う台詞だ。」

子供扱いされたのが気に食わないゼロが反論するのを聞いて、スカーフェイスがボソッと言葉を漏らす。
周囲に居た傭兵達は大笑いし、言われたゼロはスカーフェイスに詰め寄っているが、片手で頭を押さえられ、う~う~唸っているだけだった。



数日後


「うわ~…。綺麗なところ…。」
「でしょう?ここがあたし達の故郷、アナトリアさ。」

馬車の荷台から、身体を乗り出して景色を眺めるゼロの眼はキラキラと輝いていた。
レイピアも故郷であるここを自慢するかのように、笑顔で彼女に名前を告げる。
地球に例えるならば、中世ヨーロッパのような建物や、田園風景が広がる街、【アナトリア自治区】
小さな街だが、ここの地下にはウスティオとまでは行かないが、多くの天然資源が眠っている。故に、ベルカに狙われたのだ。
それを退けたのが、この街出身の傭兵団【レイヴンズ・ネスト】だ。…最も、大半はスカーフェイスが撃破したようなのだが。

「なんだ、お嬢。そんなに珍しいのか?」
「いえ…こんなに綺麗な所を見たのは…初めてです。」
「そいつぁ、よかった。俺達の故郷をそう言ってもらえるとは、嬉しいねぇ。なぁ、フェイス?」
「…子供だな。」

読んでいた本から視線を外さないスカーフェイスに、苦笑いしながら、チャーリーはゼロの頭を軽く撫でる。
予定では、ここで当分の間、駐留する事になっているのだ。
久々の故郷で、浮き足立つ傭兵達と一緒に笑いながら…ゼロは何時までも景色を眺めていた。






ウスティオ領 山岳地帯。
ヴァレー基地。

「うむ…残存兵力ではどうにもならんか…。」
「はい。既に9割の空軍戦力を失っています。」

基地の会議室に漂う重苦しい空気。そこに居るのは、ウスティオ家当主や、その側近や軍の幹部達だ。
彼らは、開戦僅か1週間で領地の大半を失ったのだ。それでもなお、管理局との反抗作戦に賭けようとはしているが…如何せん、自身の兵力が壊滅に近いのだ。
恐らくだが、ゲリラとして各地で戦ってくれている部隊も居るだろうが…それでも足りない。
沈黙が続く中、1人の若い幹部が手を上げる。 

「傭兵を…使うのはどうでしょうか?」
「…確かに、彼らならば…ベルカの騎士達とも対等に戦えるのも居るかもしれん。金さえ出せば…な。」
「その通りです。失礼ながら…当家の財宝の一部を売却すれば、雇えるだけの資金は確保できるはずです。」
「…ううむ。仮に雇うとして…誰を雇うのだ?」
「誰とは特定は出来ません。出来る限り、多くの傭兵を。…ですが…1つだけ、確実に味方に付けたい傭兵団は存在します。」
「それは…?」
「アナトリアの傭兵、スカーフェイス率いるレイヴンズ・ネストです。」

ザワザワとざわめき出す側近達。提案をした若い幹部はため息を付きながら、未だに迷っている老人達を呆れていた
騎士達とも戦える傭兵となるとそうそう多くはない。だが、今は少しでも戦力が欲しいのだ。その中でも…ネストの戦力は非常に魅力的だ。
その中でも【アナトリアの傭兵】と異名を取る、スカーフェイスの実力は超一流だ。彼ならば、ベルカの騎士達とも対等以上に戦えるだろう。
ざわめきが少しずつ収まり、上座に座っている当主が静かに口を開く。

「よかろう。…至急、アナトリアに使者を。…ネストと契約をするのだ。そして、財宝も売り払え。領土が戻らぬ以上、宝の持ち腐れだ。余った資金で、基地の整備、
そして、兵達に豪華な食事も出してやれ。…これで今回の会議は終了とする。」






ベルカ、ティンズマルク


「そうか。…逃がしたか。」
「はっ。何者かに邪魔をされたようです。…如何いたしますか?」


窓辺に立つ男性と、片膝を付き、なにやら報告をする女性の騎士。顔半分を銀色の仮面で覆い、素顔は見えないが、赤めの髪をポニーテールでくくっている。

「捨て置け。あの娘は力を嫌っている。…使いはしないだろう。」
「御意。主、管理局についてはどうしますか?」
「…軍部の連中のさせたいようにさせて置け。…私は私で勝手に動く。…烈火よ。お前にも働いてもらうぞ?」
「はっ。我が命、我が剣は主の為に…。」

烈火と呼ばれた女性は、立ち上がると背中を向けている男性に敬礼をする。

「…さて、世界はどう動いたものか。…王はまだ…誕生はせぬ。」





スカーフェイス・ランスロット 二つ名。 【アナトリアの傭兵】
ゼロフィリアス・??? ネスト内のマスコット。通称、お嬢。




[21516] As編 最終話 ホシノカケラ
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/06/28 21:45
蒼と紅の剣を携え、幻獣を従える少年の姿。それは神聖なものであり、力強いものである。

「馬鹿な。貴様は動ける身体ではなかった筈だ。それが…なぜだ…」
「答える義理はない。…第一、予想はついているんだろ?」
「…そうか、そうか…。くはははは、あの女が手を貸したか…!!貴様の内に眠っていたとはな!!」

愉快そうに笑い声を上げるダイモンを、忌々しそうに見つめるメビウス。
重体だった彼の身体を治療したのは、心の空でたゆたっていたタングラムの力だ。メビウスが重体だと言う運命を書き換え、身体だけでなくリンカーコアまで再生していたのだ。

「それで貴様は、我らと刃を交えるか。…くははは、脆弱な人間が…。」
「…過去の亡霊がよくほざく。現世の光につられた…哀れな亡者が。」
「メビウス…くん…?」

不敵に笑うメビウスの横顔。今までずっと一緒に居たなのはも、始めてみる表情だ。
今まで彼女が見てきた、優しげで…穏やかな彼の顔とはまったく違う。それが少し恐くなり、無意識に大好きな彼の名前が、口からこぼれる。

「…大丈夫だよ、なのちゃん。私は私だから。…終わったら、沢山、お話しようね?」
「う…うん…。…メビウス君、私…私…た、沢山…沢山、お話…したいよ…?」
「ふふ、そうだね。みんなで沢山、お話しようね。」

そんななのはの不安を、取り除くようにメビウスは優しく微笑む。その笑顔は、その声は…彼女が今まで見て、聞いてきた物とまったく同じ。
大切であり…大事ななのは達に向ける言葉や視線は…彼女達だけのものであり、それを敵であるダイモン等に向ける必要はない、と言う事なのだろう。
少女のような少年の笑顔は優しく…なのはの心の中に入り込み、癒していく。

「…ヤガ、手加減はしなくて良い。…倒すなんて、生半可な事をしなくても良い。…消せ。」

声色は優しいが…その内容は絶対零度。優しげに、ヤガランデの横顔を撫でるが…その表情も冷たい。
だが、その顔を決して、なのはの見せぬようにしている辺り…彼の心の内がわかる。

「くははは…よかろう。ならば、貴様とも遊んでくれる、ジグラット。」
「さて、エクス、ファイア。…行くよ。」
『はい、マスター。生まれ変わった私の力…見せ付けて上げます!!』
『王よ。貴方に使われる事…我は望んでおりました。我が刃、我が力。存分に振るいくだされ。』

咆哮を上げるヤガランデ。誇り高きエクス、気高きファイアを振るい、メビウスは翼を広げる。
零れる魔力光が、天使の羽毛のように舞い散る。

「くははは…。忘れては居ないか?我が手中には…闇の書がある。」
「だから、どうした?…そうか、覚醒した今…それは抜け殻か…!!」
「その通りだ。魔力は…充分よ。それに…この娘の魔力もあるのでなぁ!!」

ダイモンの上空に浮かび上がるのは、同じ大きさの球体。点滅するその中には…はやてが膝を抱えて眠っていた。
闇の書の魔力、そしてはやての魔力を使えば、新たなオーブとジグラットを生み出せるという事なのだろう。
その証拠に、最初のジグラットの周りに、3つの巨大な転移魔方陣に多数の小型転移陣が展開されていた。

「くははは、如何に貴様とて…これだけの数、倒しきれまい!!」
「…さてね。やってみなければ…わからない!!」





・メビウス・

翼を広げると、私のその場を最高速で飛び立つ。
1機目のジグラットはヤガが相手をしてくれる。なら…私は…オーブを破壊する。
ファイアに魔力刃を展開させ、1つのオーブをすれ違いざまに切り捨てて、そのまま別のに向かう。
エクスとは違い、ファイアは完全に近距離仕様になっている。その魔力刃の威力、収束率はエクスを超えれ程だ。

『マスター、前方から魔力反応!!』
「エクス、ラジカルザッパー!!」

3つのオーブの収束魔法を、ラジカルザッパーで乗り込んで、逆に消し飛ばす。近距離はファイアに、中遠距離はエクスのエリアだ。
最も、得意分野というだけで…ファイヤは遠距離でも使えるし、逆もまた然り。…用は私の実力次第って事だ。

「ツインズ…ザッパー!!」

2つの魔力光が地上を奔り、付近に居たオーブを纏めて消し飛ばす。…軽く10個くらいは倒せただろうな。
けど…また新しく転移してくるオーブのほうが多い。

「仕方がない。…ヤガ、なぎ払え!!」

ジグラットの砲塔部をへし折り、無骨な手で吹き飛ばしているヤガを指示を出す。
分かったといわんばかりに、両手の砲部に巨大な魔力を収束すると…そこから私のザッパー以上の魔力が放たれて、殴り飛ばしたジグラット諸共、オーブを消し飛ばしていく。
その魔力の暴力に逆らえるわけもなく、射線上にあったものは全て消えていく。…これで心が幼いか…。まだ力の使い方がわかってないんだね。

「なるほど…だが、まだ…3つ居るぞ?」
「…同じ事。全部、消し飛ばしてやる。」

愉快そうに笑うダイモンを囲むようにして、3機のジグラットが姿を現した。ヤガの力なら…こいつらを倒すなんて造作もないこと。
私が心配なのは…はやてちゃんの魔力の事だ。…どんなに才能があったって…限度がある。それに、彼女は何も訓練なんて受けてないんだ。
これ以上、吸収され続けたら…どんな後遺症が残るか…わからない!

「だったら…お前と闇の書、はやてとの回線を切っちまえば…良いんだろうが!!」
「閃…!?」

閃の声と同時に、後方から飛んできた一条の魔力光が、ダイモン本体に突き刺さる。満足なダメージは与えれてないみたいだけど…これは…。


「なんだ…と。貴様…このプログラムは…!!」
「俺と主任特製のワクチンプログラムだっての!!…メビウス、俺がこいつと回線を切る。…さっさと、眠り姫さんを助け出せ!!」
「小童が…!!」
「閃には…触れさせんよ!!」

閃目掛けて撃たれた砲撃魔法を、ブレイズさんが空間をゆがめて、弾道を逸らす。
そのまま、ブレイズさんはスペシネフを構えると、口元に笑みを浮かべる。
きっと、後方でガルムが残存していたオーブを片付けてくれているはず。…だからもこうして救援に来てくれたんだ。
…後でフェイトの機嫌とか…とらないとね。そんな場違いな事を考えるほど…私にも余裕が生まれている。

「まったく…ヒーローは遅れてくると言うが…遅いぞ、メビウス。…さぁ、片付けるぞ。」
「ブレイズさん…はい!!」
「貴様ごときに…回線など切らせるものか…!!」
「はっ!!簿記算盤パソコン電卓漢字英語検定一級習得者なめんじゃねぇぇぇ!!この位の妨害なんざぁ!!」
『この程度のスカスカ妨害プログラムなんて私達の手にかかれば!!』
「『マッハでハッキングしてやんよ!!』」


頼もしすぎる親友の言葉に、少し私は笑顔を浮かべる。…閃なら直になんとかしてくれる。だって…彼は今までも行動で示してくれていたからね。
…きっと、私たちを導いてくれいてるのは…閃なのかもしれない。

「スペシネフ、戦えるな。」
「イエス、マイロード。…私などより、マイロードのほうが…」
「構わん。…この程度で負ける俺ではないさ。」

相棒であるスペシネフに軽く答え、ブレイズさんは私の隣に並ぶ。…常に冷静で…対話を望むブレイズさん。
力より対話を望んで…誰よりも平和を愛しているこの人は…本当に強い。きっと…私なんかよりも何倍も強い。
だからなんだろうね。…クロノさんやリンディさん、ブレイズさんの周りには常に誰かが居る。…人を惹き付けるほどに、優しい人なんだ。

「ふん、だが…守護騎士どもを消し飛ばす時間はあるのだよ…!!」

ジグラットの1機が砲塔部を伸ばし、守護騎士達が貼り付けにされている十字架に砲塔を向ける。
最後の悪あがきか…。けど、残念だったね。…それは…既に上空に居る【あいつ】が…食い止めてくれる。

「スーパー!!」

聞き覚えがありすぎる声。

「稲妻!!」

雷撃を纏って…高高度から降下してくる私の親友。

「ライダー!!」

頼りになるもう1人の親友…オメガによって…防がれるんだよ。

「キィイィイィィック!!!」


雷撃を纏ったライダーキックが伸ばされた砲塔ほ、半分からへし折り、暴発させる。
盛大に舞う土煙が収まると…何時ものように、豪快に笑うオメガが親指を立てていた。
…本当に…頼りになる親友だ!!

「ハッハー!!オメガ・ガウェイン!!」
「アファームド・イジェクト・インパクト!!!」
「『俺達、登場!!』」


さてと…役者は…そろったね。
エクスとファイアの後部を連結し、ツインランス形態に移行すると、私ははやてちゃんが閉じ込められているオーブに視線を移す。

≪タングラム。…アクセスできる?≫
≪はい。…あの娘を助けるのですね。…あの娘の心の道まで…貴方を導きましょう。≫

慈愛に満ちたタングラムの声を聞いて、安心した。…運命なんて操作はしたくない。けど、それだけが彼女の力じゃない。
私の心の中に居たように…人の心にもアクセスすることが出来るんだ。

「眠っているはやてちゃんを…助け出す…!!」
「…どうやるかは知らないが…助けるまで、周りの敵は…」
「俺達が片付けるぜ、メビウゥゥゥス!!」




……

ブレイズがオーブを切り裂きながら、ジグラットの対空砲火を潜り抜けていく。
交わせないものは、ミラージュで空間をゆがめ、軌道を逸らす。強化されたスペシネフの性能のお陰で、以前より容易に空間制御が可能になっているのだ。
オメガはと言うと、砲塔をへし折ったジグラットの足元を潜りながら、対空火器とバリア発生器を破壊していた。
右腕全てを覆う巨大なパイルバンカーにより、破壊力は桁外れになり、足にもギアが取り付けられた足甲が取り付けられていた。
ギアが回転し、電撃を纏った蹴り技を使えるようになっている。
そして、パイルバンカー自体に取り付けられているブースターにより、加速度も更に上昇しているのだ。
…恐らくだが、主任が閃のものから、更に改造を加えたのだろう。

「オメガ、一気に片付けるぞ!!」
「おうよ!!」

ブレイズはジグラットの右前足を大型のチェーンバインドで絡め取ると、体勢を崩させる。
そして、倒した周囲に10個の魔方陣を展開させ、魔力球を構成し、高速で回転させる。
その回転が速くなるにつれて、ジグラットと周囲の空間が歪んでいく。

「さぁ…時の流れを垣間見ろ…!!」

スペシネフの性能と、彼の魔力を最大限に使い、編み出した必殺の魔法。
中性子魔力により、空間をゆがめ…目標を時間逆行させているのだ。
完全に倒すのならばどうすればいい?簡単な事だ。…目標が存在する前に戻してしまえばいい。
つまり…

「最初から…存在させなければ良いだけだ…SLOG!!」

10個の中性子魔力球が、ジグラットを文字通りの見込み…跡形もなく消し去る。
残るのは…静寂に満ちた荒野だけだ。





「おし、ブレイズも片付けたのなら…次は俺の番だぜ…!!」

オメガが火器を破壊したジグラットの正面に立ち、パイルバンカーに取り付けられているリボルバーカートリッジをリロードする。
6発のカートリッジが装填され、更に魔力がパイルバンカーに漲って行くのをオメガは感じた。

「分の悪い賭けは嫌いじゃないんだぜ!!」

眩しいほどに輝くパイルバンカー。その後部かに取り付けられているブースターからも魔力光があふれ出していた。

「俺のパイルバンカーは全魔法で最高の…ホーミング性能だぜ!!自力で手動だけどなぁぁぁぁ!!!!」
『OK、Brother。どうやって、ぶちのめすんだ?』
「決まってんだろ!!行くと決めたらど真ん中直球ストレートで直行だ!!おらおらおらぁあぁぁ!!」

相棒のイジェクトに答えると、オメガは地面を蹴り、ブースターを作動させる。
その姿は…ミサイルである。

「俺の右手が光って叫ぶ!!!正義を示せと轟き叫ぶううぅう!!!!」

更に輝きを増すパイルバンカー。それはただ真っ直ぐに…ジグラットへと向かっていく。

「必殺、ライジング!!インパクトおぉおぉぉ!!!!粉々になりやがれえぇえぇ!!!!」

真ん中に突き刺さったパイルバンカーから、溢れ出す魔力がジグラットを貫き穿つ。
光が収まれば…胴体に大きな風穴を開けられたジグラットがそこにはあった。







深層意識


「はやてちゃん…おきて。はやてちゃん。」
「…誰。私を呼ぶのは…誰…?」

暗い闇の中で自分に呼びかけてくる優しい声。
だが…少女、はやては椅子に座りうつむいていた。

「そんな暗くて寒いところに居ないで…暖かい場所に帰ろう。」
「…帰るって…何処に帰るん?…もう、私には居場所なんて…無い。」

思い出すのは…暖かかったシグナム達との生活。だが…それはもう終わってしまった。
メビウスが殺されかけて…シグナム達も消されてしまった今…1人で居るは辛すぎるのだ。

「居場所ならあるよ。君が気が付いてないだけで…待ってる人が居る。」
「…そんな事…ない。…それに帰っても…私はどうすればいいん…?メビウス君だけじゃなく…なのはちゃんやフェイトちゃんを…傷つけたんよ…。」

おぼろげながら…戦っていた風景が見えていたのだろう。満身創痍で戦っている友達。
だが…自分のせいで…自分の魔力のせいで彼女たちを傷つけたのだと。はやてはそう思っている。
なら…いっその事…。

「私が…このままここで死ねば…全部、解決…。」
「はやてちゃん!!君の…君だけの責任じゃない!!」
「けど…私がメビウス君を傷つけた…。なのはちゃんだって…フェイトちゃんだって…全部全部…私が悪い…」

だが…その言葉をさえぎるようにして…パン…という音と同時に…はやての頬を誰かが叩いた。
その痛みと感覚で…目の前に誰か居る事に気が付き…顔を上げる。


「…どうして…自分だけが悪いなんて決め付けるんだ…!!そうやって…はやてちゃんは逃げるのか!!
君だけが、全て背負っているわけじゃない!!皆が色々なものを背負ってるんだ!!それでも空を飛べるんだ!!自分ひとりが…悲しみを全て背負ってるなんて自惚れな!!」
「メビウス君…?」

頬を叩いたのは…はやてが恋心を抱いている少年…メビウス。
そのまま彼は…はやてを優しく抱きしめて…その背中を優しく擦る。

「…1人で背負わないで。…君だけが悪いんじゃない。…私も一緒に背負うから…だから、死ぬなんて悲しいことはいわないで…。」
「め…メビウス君、けど…私…もう…1人ぼっちは…いや…!!」
「…大丈夫だよ。…みんな…みんな、君と一緒に居るから。私がずっと一緒に居るから…1人にはさせないから。」

抱きしめる力を更に強くし、メビウスは優しく微笑み、語り掛ける。
はやての眼には大粒の涙が溜まり…ただ、彼の胸にすがり続けた。

「…さぁ、帰ろう。…みんなが待ってるから…。」
「みんな…?」
「うん。ほら、見て。」

メビウスは空中に外の映像を映し出す。そこには、十字架から助け出されるシグナム達の姿が映し出されていた。
最後のジグラットはオメガが相手取り、ブレイズとガルムが救助し、アースラへと転移させていく。
その映像が途切れると…一筋の光がはやての前に現れた。

「さぁ、はやてちゃん…手を伸ばして…掴み取って。」
「…うん…!!」

手を伸ばすと…まばゆい光がはやてを包み込んでいった。







・メビウス・

「はぁぁぁぁ!!!!」

私のツインランスで一撃。それがはやてちゃんを閉じ込めていたオーブを砕くき、閉じ込められていた彼女を解放する。
いや…違う。生きようとする彼女の意思が内部から、オーブをこじ開けたんだ。
こちらに向かって倒れ落ちるはやてちゃんを抱きとめて、安堵のため息をこぼす。

「はやてちゃん…無事でよかった…!!」
「…あぁ、やっぱり…メビウス君だ。…会いたかった…会いたかった…!!」

私の首に手を回して…はやてちゃんは胸に顔を受けて…少し泣き始める。
あの空間に1人は寂しすぎるからね…。

「もう大丈夫だよ。…また一緒にご飯を作ろう。」
「うん…うん…!!」
「メビウス様…守護騎士達の転移を完了しました。」
「はやてちゃん!!」

傍らに来たガルムが完了したとの報告をしてくれる。その後ろには、なのちゃんも一緒に来てくれていた。
きっと、はやてちゃんが心配だったんだよね。

「なのはちゃん…私…なんて言ったら…。」
「もぉ、大丈夫なの。…全部終わったら…私とはやてちゃんにフェイトちゃんの3人で…お話しよ?」
「…ありがとう…。」
≪眠り姫さんは救出したか。…こっちも回線はきった。後は…本体と残ってるジグラットだけだぞ。≫

閃からの念話のとおり、ダイモン本体の光が弱弱しくなってきている。
…決着を付けようか。

「ガルム、はやてちゃんを安全なところに。」
「御意。」

はやてちゃんをガルムにお願いして、私は下に居るダイモンをにらむ。
…タングラムの話だと…これだけがダイモンじゃないらしい。それでも構わない。
この一撃は…この戦いは奴らへの…宣戦布告だ…!!
眼を閉じて…私は空から魔力を受け取る。収まりきらなかった魔力は、背中で翼を形作る。

「メビウス君、私も一緒に…!!」
「なのちゃん…。なら…2人でやろう…!!」

寄り添うなのちゃんの手を握り…お互いのデバイスの切っ先をダイモンに向ける。

「エクス、ファイヤ…解放!!」
「レイジングハート、お願い!!」

握り合った手から…お互いの魔力が混ざり合い…切っ先に集まりだす。
更に強く…強く握って…お互いの心が少しでも近づくように…よりそう。
そして、2人で一緒に…詠唱を始める。

「「天に星を…空に欠片を…。天に願いを、空に想いを…
空に2人の願いを…2人の想いを欠片に…今ここに!!我らの想いと願い…そして希望を!!
それは誰もが手にする…ホシノカケラ!!!」」


空から地上に降り注ぐ…幾多の星。蒼と桜色の流れ星が…降り注ぐ。
その全てが…悪意の闇、ダイモンとジグラットを飲み込んでいく。

「おのれぇぇぇ…。だが、覚えておけ…我らは消えぬ。これが最後というわけではない…!!何れ、再び貴様らの前に現れるだろう。
それまで…偽りの平和を感受するが良い!!くはははは!!!」

それを最後にダイモンは消えていく。…偽りの平和…か。
なら…本当に平和にすればいい。…ダイモン、私は絶対にお前たちを認めない。
この空にとってお前達は…不要なんだ…!!

「やった…やったよ。メビウス君!!」
「っと…なのちゃん、危ない…なのちゃん?」
「…ぐす…メビウス君…メビウス君!!」

…けど、今は…泣き始めちゃったなのちゃんと…こっちに向かってくる泣き顔のフェイトを慰めないとね。
それに…閃達からの説教も…ね。





As編 終了







あとがき

アファームド・イジェクト・インパクト。
右腕全部大型パイルバンカー。リボルバーカートリッジ装着。6発分。
足甲にギア装備。回転することで魔力を電撃に変換可能。

…終わった。色々な意味で終わった。
戦闘描写(以下省略。)
そして定番?のヒロインとの合体技。…これがやりたかっただけです(え?)
地味に時間がかかって申し訳ないです。
とりあえずAs編はここまでですね。次回からは空白期もどき等を使用かと思っています。
…そして、最近はデモンズソウルにはまっている作者。
いやぁ…最高に面白いですね。…心が幾度も折れましたがね!!ガルさんとか出したい今日この頃。
応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。
では…これからも作者 ヘタレイヴンと習作 リリカルなのは×ACE COMBAT ×色々&オリ主&転生キャラをよろしくお願いします。





[21516] 空白期 1話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/06/29 23:43
・なのは・


ミッドチルダ 海上訓練施設
ケストレル停泊エリア。


「OK。それじゃ、なのは。次は誘導魔法の訓練だ。10秒以内に、50個のターゲットを破壊してみろ。ただし、その場から動くなよ。」
「ターゲットって…あんなに遠くだよ!?」
「眼で捉えようとするな。肌で気配を感じ取れ。…それじゃ、始め!!」

闇の書事件から数日が過ぎて…私達は日常を取り戻し始めた。
クロノ君とブレイズ君は、事件が終わった後の事後処理とかで忙しそうにしてるけど、元気なの。
詳しくは教えてもらえなかったけど、はやてちゃん達の事はリンディさんやハーリングさんが良い方向に話を進めてくれているらしい。
はやてちゃん達も今は、フレッシュリフォー社の医療施設で治療を受けているの。けど、閃君は「まぁ…時間稼ぎだろ」って言ってたけど…どういうことなんだろう?

「10秒経過。…残存数は20か。以前より上達したようだな。」
「はひぃ…イリヤ君…気配なんて感じないよぉ…。」
「ははは、流石にまだ無理か。だが、何れは気配を感じ取れるようにならないとな。任務地が昼間とは限らないんだぞ。」

そういって、私の頭をクシャクシャと撫でるイリヤ君。
今、私とフェイトちゃんはミッドチルダの海上訓練施設に居るの。前にメビウス君とアーサー君が戦った場所だね。
そこで、私達2人は魔法の指導を受ける事にしたんだ。それに丁度、ケストレルが停泊していて、イリヤ君とアーサー君が指導役で教えてくれる事になったの。
私にイリヤ君が、フェイトちゃんにはアーサー君が付いててくれてるんだけど…イリヤ君は丁寧に教えてくれるんだけど…内容が結構、厳しいんだよね…。

「データを見る限り、君は砲撃魔法は得意みたいだが…他は少し苦手のようだな。特に機動が重いな。」
「だ…だって…フェイトちゃんみたいに速く動けないよぉ…。」
「あそこまで速くとは言わないが…。ん~…君は本当に砲撃魔導師だな。完全な固定砲台でも良いが…少しは機動力を上げたほうが良いだろう。」
「うう…はい。」
「だが、君の砲撃魔法のスタイルは、機動力を補って余るほどの物だ。決して、君のスタイルを否定しているわけじゃないからな?そこは理解して欲しい。」

イリヤ君が笑顔を作って、私の肩をポンと叩いてくれる。…ホンの少しだけ気持ちが軽くなった気がするの。
けど、言われて通り、私は速く動くのが少し苦手。今までも動かないで、障壁で攻撃を防いで、砲撃魔法でドーン!!てやってたから…。

「なに、自分のスタイルを貫くのも良いが、ほんの少しの助言で変わるものは変わる。用はやわらかい頭を持てって事だ。」
「やわらかい頭…。わ、私は可哀想な子じゃないもん!!」
「…はははは!!そう言う意味で言ったわけじゃないが…。なのは…君は本当に面白いな。」

あ…あれ?もしかして…私、変なこと言ったかも…?
イリヤ君がお腹を抱えて笑い出しちゃった…。 

「あ~…久々に大笑いしたよ。…おっと、向こうでは派手にやってるみたいだな。」



・フェイト・

「機動力…そして、速度は驚異的だが、少し振り回されすぎだ…。俺の機動を読め。そうすれば、攻撃はあたる。」
「っ…。わかってる…!!」

ザンパーモードでの一撃を、アーサーは簡単にライデンの魔力刃で防ぐ。
遠距離では遠隔操作のデバイスに、正確無比な砲撃魔法。近距離では巨大な魔力刃と強固な魔法障壁。…それに速度だって、私以上…お兄ちゃんにも匹敵する。
私は弾く様にして、その場から離脱する。このまま競り合っても…絶対に勝てない。

「なるほど。キャンセル…か。」

アーサーの言うとおり…キャンセルを使って速度を上げれば…彼の一撃だって回避できる…

「だが…言っただろう。機動を読めば…良いのだと。」
「…読まれてる…!?」

私の最高速で飛んだ先に、アーサーの砲撃魔法が飛んでくる!?
そんな…キャンセルを使って速度も上げた…これが機動を読むって…事…?

「相手の機動を読めば…大抵は予測が付く。逆に読ませなければ…こちらの思い通りの戦闘が出来る。」
「…そんなに簡単に私のは、よめる…?」
「簡単には読めないだろう。ただ…幾つかのパターンの機動を覚えれば良い。」
「パターン…?」
「回避するときの機動パターン、攻撃する時の機動パターン等だ。大体の奴は一緒になる。それを覚えれば良い。」

…機動パターン…か。アーサーの言うとおりなら、気が付かないうちに私の機動を覚えてたって…事だよね。
確かに、相手の動きを覚えて…予測を立てれるなら、戦いを有利に進められる。
…私と同い年なのに…アーサーは凄い…。お兄ちゃんが「アーサーは、天才だよ。しかも、努力する天才だ」って…前に言っていた。


≪こちら、スカイアイだ。黄色の13、フェイト。訓練時間は終了だ。帰還せよ。≫
「了解。…今日はここまでだな。」
「あ、うん。…アーサー、ありがとう。」
「礼を言われる事じゃない。…戻るぞ。」

向こうで訓練していたなのは達と合流して、私達は海上施設に向かう。
…なのは、大丈夫かな。少し疲れてるみたい…。



海上訓練施設。訓練場入り口。


「つ…疲れたよぉ…。」
「まったく…魔力は凄いが、体力が無いな。」
「な、なのは、大丈夫…?」

ふにゃふにゃと倒れそうになるなのはを、慌てて支える。
わ…本当に疲れてるみたいで…少し眼が廻ってる。
…対照的にイリヤは元気そうだ。…やっぱり、私達とは体力づくりからして違うのかな…?
アーサーなんて、息1つ乱してないし…それなのに私は少し疲れてる。

「…毎日20キロ走れば体力も付く。」
「に…にじゅっきろなんて、無理だよ…アーサー君。」
「やれやれ…呂律も廻ってないな。向こうにカフェがあるから、休んでくるといい。」
「うん、そうする。ほら、なのは、行こ?」
「はにゃ~…。」

…本当に大丈夫かな…。なんだか、変な声もだしてるし…

「イリヤ達は行かないの?なのはがクッキー用意してきたみたいだよ?」
「お誘いは光栄なんだが…これからミーティングがあってね。またの機会にするさ。」
「…休むのは良いが…メビウスの見舞いは良いのか?」

肩を竦めるイリヤは、ホンの少し残念そうにしている。私も色々と話してみたかったけど…しょうがないよね。
その隣では、アーサーがバリアジャケットを解除して、お兄ちゃんの事を聞いてくる。

「行きたいけど…今日は検査があるから…後、1時間くらいかな…?」
「そうか。…機会があれば、俺も行こう。」
「はは、素直じゃないなアーサー。まぁ、その時は俺も一緒に行くよ。それじゃ、君達の王子様によろしく。」

笑いながらアーサーと肩を叩いて、イリヤはミーティングルームに向かっていく。
…それに続いてアーサーも歩いていくけど…ホンの少し笑顔をうかべている気がした。
お兄ちゃんは、怪我は治ったって言っても、色々と検査をしなくちゃいけなくて、まだフレッシュリフォーの施設から退院できていない。
速くて1週間後って言ってたけど…こんなに長く感じるなんて…やっぱり、お兄ちゃんが居ないと寂しい。
けど、それはなのはも同じだと思う。…時々、寂しそうに…お揃いのリボンにさわってるから。



施設内、カフェ

「はぁ~…今日も疲れたね。」
「うん。けど、勉強にはなったよね。」
「うんうん。イリヤ君もアーサー君も凄いよね。私ももっと頑張らないと。」

グッと両手を握るなのはを見て、私は小さく笑う。元気になったみたいでよかった。
テーブルの上にはなのは手作りのクッキーが広げられていた…本当に美味しい。。
ふっと…隣のテーブルを見ると、スーツを着た男の人がコーヒーを飲みながら、新聞を読んでいる。
けど、私の視線に気が付いて、男の人は新聞を下ろすと、にこやかな笑顔を作って、挨拶をきた。

「やぁ、こんにちわ。」
「あ、こんにちわ。」
「こんにちわ!」
「おぉ、元気があって良いね。可愛らしいお嬢さんたち。…ほぉ、美味しそうなクッキーだね。…私も注文しようかな。」
「あ、これ、私の手作りなんです。…よかったら、食べませんか?」

メニューを開く男の人に、なのはは小皿にクッキーを分けて手渡す。
すこしキョトンとした男の人は、すぐに笑顔を浮かべて、クッキーに手を伸ばして、美味しそうに食べ始めた。

「ほぉ…これは本当に美味しいね。…君の手作りといったが…いやはや、お店に出しても恥かしいくないね!」
「あはは、ありがとうございます。私のお家、喫茶店をやってるから…こう言うの作るのは得意なんです!!」
「なのはは、お菓子作り得意だからね。」
「おぉ、小さいのに偉いね。しかし…君達はどうしてここにいるんだい?ここは訓練施設だから、一般の…しかも、子供である君達が…?」
「私達、魔導師なんです。その…管理局の…と言う訳ではないですが…。」
「そうか。…君達みたいな子が…魔導師か。」

私がそう言うと男の人は、ほんの少し悲しそうな顔をして…けど、すぐに笑顔になった。
…なんだろう…。一瞬だけど…私達を心配してくれていた…?


「…お嬢さん達。ここは…ミッドチルダはどうだい?見て、聞いて、どんな印象を持っている?」
「うんと…凄く綺麗で…素敵な所だと思います!!」
「私もそう思う。それに、ここの人達も良くしてくれるし…。」
「そうか。…嬉しいね。」

大きな窓から町並みを眺める男の人は…本当に誇らしげにしている。

「私もね、ミッドは大好きなんだよ。…だから、君達のような子供が…安心して暮らせる所にしたい。子供の笑顔は、生きる希望につながるからね。」
「…えっと…。」
「はは、こんな事を言っては、困ってしまうか。なに、君達のような可愛らしいお嬢さんに、褒めてもらえて嬉しいと言う事だよ。」

なんて言えば良いのか…分からなくて困ってる私達を見て、男の人は更に笑顔を深める。
そのまま、男の人はスーツから端末を取り出して、何かを確認すると、置いてある鞄をもって立ち上がる。

「いやいや、君達と話していたら、すっかり用事を忘れる所だった。そろそろ、行かないとね。」
「あ、私、高町なのはです!」
「フェイト・T・ランスロットです。」
「おっと…私とした事が…お嬢さん達に先に名乗らせてしまったね。私はこういう者だ。それじゃ、お嬢さん達、ゆっくりお茶を楽しんで」

そう言って、男の人は私達に名刺を渡して、立ち去っていく。
えっと…なんて書いてあるんだろう…?

「うんと…ミッドチルダ政府首相…セリョージャ・ヴィクトロヴィッチ・ニカノール。…うう、舌を噛みそうなお名前だよぉ…。」
「うん、噛みそう…。……ねぇ、なのは。」
「なぁに、フェイトちゃん?」
「…首相って…一番偉い人だよね…?」
「うん、日本でも偉い人だか…ら………」

…ミッドチルダ政府首相って…名刺には書いてある…。
私となのはは顔を見合わせて……

「「えぇえぇぇぇぇ!!!???」」

なんて…大声を出していた。




あとがき


はい、ニカノールさん登場!!空白期はすこしエスコンネタを高めていこうかと思っています。
いやぁ…自分の妄想で書ける部分って…結構…楽ですね。
とりあえず、空白期は少し長めに続けていこうかと思っています。
さっさと行け!!と言う意見が沢山あったら、さっさと進めますので…では。



[21516] 空白期 2話 お見舞い
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/07/06 20:54
フレッシュリフォー社 医療施設

「…それじゃ、今回の検査は終了。服を着て、病室に戻ってくださいね。」
「あ、はい。」

白衣を着た男性に指示をされ、メビウスはカプセル型の機械から出ると、籠においてある病院服に着替える。
周囲では数人の医師やら、研究者やらがメビウスのデータを見て、色々と話しながら、チラチラと観察するように見ている。
その視線が居心地が悪く、メビウスはその場かか足早に立ち去っていく。一概にリフォー社の施設とはいえ…良い人物ばかり…と言う訳ではないのだろう。
ソラノカケラと言う規格外のレアスキルを持ち、強大な力を持つヤガランデを使役する幼き少年。ましてや、伝説と円卓の鬼神の息子となれば尚更だ。
研究者達から見れば、格好の研究対象だろう。

「はぁ……。速く帰りたいな。」

廊下でメビウスは、ポツリと一言零すと、足早に自分の病室に向かっていく。
予定ではあと5日ほどで退院できるそうだが…このまま行くと、あれこれ理由をつけられて研究対象にされそうで恐い。
それに、大人びて見えても、彼はまだ9歳。見舞いに来てくれるとは言え、尊敬する両親と家で過ごしたいし、大切な妹、大事な幼馴染と一緒にいたい。
そう思うのは、子供として当然だろう。

メビウスの病室

「…そっか、なのちゃん達、今日は遅くなるんだっけか。」
「?」
「いや、それまで寂しいなぁ…てね。」

ベッドに座りながら、メビウスは傍らに置いてある時計を見る。本来ならば、なのはとフェイトが見舞いに来ている時間なのだが…学校の用事があり遅くなるそうだ。
少し寂しそうに笑いながら、メビウスは子猫サイズで、膝の上で丸くなっているヤガランデの背中を優しく撫でる。
本来ならが数倍以上の巨体のヤガランデなのだが、どうやら自分の意思で身体のサイズを変化できるらしく、こうして子猫サイズでメビウスの膝の上に居るのが気に入ったようである。
声こそ出さないものの、人の言葉は理解してるらしいヤガランデは首をかしげると、すぐに膝の上で丸くなる。どうやら、まだ眠いようだ。
軽く喉元をかいてやると、気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らす仕草は正に猫。…質感はゴツゴツだが…猫にはまったく見えないが。
だが、メビウスにとっては関係ないらしく、優しく撫でながら、メビウスもサイドテーブルに置いてある本を取ると、パラパラとページをめくり流し読みを始める。…やはり、退屈なのだろう。
そんな静かな病室のドアをコンコン…と誰かが叩いた。

「どうぞ。」
「お邪魔します。…メビウス君、遊びに来たよ!!」
「やぁ、はやてちゃん。いらっしゃい。」

ドアを開けて入ってきたのは、車椅子に乗ったはやてだ。彼女の病室は少し離れた場所にあるのだが、こうして遊びに来てくれている。
本当ならば、シグナム達の所にも行きたい様だが…クロノ達により、何故か彼女達との面会を禁止されているのだ。
最初こそメビウスも疑問に思い、クロノやブレイズに理由を聞いた事がある。

「彼女達の事に付いては、本部と協議をしている所だ。未だにはやてを、犯罪者として見ている幹部も居る。その状況で、彼女とシグナム達を会わせれば…」
「また何かを企んでいる…と邪推する幹部が出るかもしれない。まぁ、メビウスの言いたいは分かるが…少しの我慢だ。」
「僕達だけでなく、ハーリング提督も動いてくれているから、悪いようにはならないさ。」

と、2人から説明されて理解はしているが…やはり釈然としない。はやては何も悪くないと言う事は、クロノ達も分かってはいる。
だが…それだけで上層部を納得はさせれなかった。かつてベルカ戦争時に守護騎士達と思われる者達に、多大な被害を受けていたのだ。
守護騎士達であると言う確たる証拠はないが、守護騎士ではないと言う証拠もない。

「どうしたん、メビウス君?なんか、難しい顔してるよ?」
「え、あ、ごめんね。なんでもないよ。」
「そうなん?だったら、笑ってよ。私はメビウス君の笑顔が好きなんやから。」

そう言うと、はやてはメビウスのベッドに近づき、直ぐに身体を倒してメビウスの膝の上に仰向けで寝転がる。…押し出されたヤガランデが不満そうに見ているが…。
メビウスも苦笑しながら、テーブルの引き出しから鈴入りのボールを取り出し、床に転がす。それに気が付いたヤガランデは、ボールを転がして遊び始めた。

「これで少しは、気が紛れると良いんだけど。」
「ええなぁ、ヤガは。」
「なんで?」
「だって、こうして…ずっとメビウス君の膝の上に居れるんよ?羨ましいなぁ。」
「ふふ…。今は、はやてちゃんの独り占めだね。」
「むふふ~。」

仰向けでメビウスの顔を見つめながら、はやては幸せそうに笑い、メビウスの右手を掴んで、自分の頬に擦り付ける。まるで母猫に甘える子猫のようだ。
自分の右手に指を絡めたり、頬に擦り付けたり…はやての好きにさせながら、メビウスは開いてる左手で彼女の頭を優しく撫でる。

「はぁ~…。やっぱり、こうしてると…安心するなぁ。」
「そう?ただ、触ってるだけじゃない?」
「触ってるだけやけど…触ってるから安心できるんよ。…私もうまく説明は出来ないんやけど…幸せや~。」
「あらあら…。くすぐったいよ、はやてちゃん。」

グリグリとメビウスのお腹に顔を押し付けて、はやては幸せそうに笑顔を浮かべる。今まで甘えれなかった分の反動がここに来て、出てきたようだ。
メビウスも少しくすぐったそうにするが…甘えてる彼女の顔が見れるのなら、我慢できるらしい。
そのまま、じゃれ合っていると、先ほどと同じように誰かが扉をノックする。

「お兄ちゃん、お見舞いに…ひゃあ!?…もぅ、ヤガ、危ないよ?」
「あはは、ヤガは元気だね。」

入ってきたのは、フェイトとなのはであった。用事が終わり、そのまま来たらしく学校の制服のままである。
ジャンプして、飛び込んできたヤガランデを抱きとめて注意するフェイトと、頭を撫でてあげるなのは。この2人にもヤガランデは、とても懐いている。

「なのはちゃん、フェイトちゃん、いらっしゃ~い。」
「あ、はやてちゃんも居たんだね…って、あぁ~、ずるいよ!!」
「…私達だって、我慢してるのに…。」
「早い者勝ちやもんね~。」

膝の上でゴロゴロするはやてを見て、なのははにゃ~にゃ~と声をあげ、フェイトも若干、ツインテールが下がり気味だ。
どうやら、この2人も甘えるのを随分我慢しているようだ。

「メビウス君!!私も、私も!!膝でゴロゴロしたいの!!」
「お兄ちゃん、私もしたいよ?」
「はいはい。順番でね。…それじゃ、なのちゃん、おいで。」
「わ~い♪えへへ、ゴロゴロ~。」
「なのは…次、私…!!」
「ま、まだやってもらったばかりだもん!!」
「あ~あ、取られてもうたなぁ。」

今日も彼の病室は…賑やかだ。





シグナムの病室

「入るぞ。」
「…トリスタンか。」
「具合はどうだ?」
「悪くない。むしろ、健康体だ。」

窓を眺めながらシグナムは答えると、視線を病室の扉に向ける。そこには、管理局の制服を着たブレイズがたっていた。右手には何かが入った袋を持っている。
監視…と言う名目で来ているが…まぁ、ただのお見舞いだ。
ベッド脇の椅子に腰掛けると、ブレイズは制服の首元を緩め、一息つく。

「やれやれ…頭の固い幹部でいやになる。」
「私達の処遇についてか?」
「あぁ。一時の感情で動いてどうなるんだか…。まぁ、ここに居る内は安心だろう。」
「…その…すまない。なにから何まで…。」
「気にするな。俺達が好きでやってることだ。」

申し訳なさそうにするシグナムとは、対照的にブレイズはにこやかに答えた。
最初こそ、刃を交えての激しい会話だったが…こうしてゆっくりと穏やかな対話を彼は望んでいた。
それは彼の恩人であるハーリングの信念が、彼の信念にもなっているからだろう。

「まぁ、礼を言うなら閃やリリンにもだな。…リフォー社の施設に居るだけで、幹部連中も手は出せない。時間稼ぎには最適だ。」
「そこまで、凄いのか?このフレッシュリフォー社とは…。」
「そうだな…。市民達からの信頼も厚いし…なにより、管理局有数の出資者だからな。下手に強制捜査なんてやらかして、関係を悪くしたくはないだろう。」
「なるほど。しかし…お前達は何故…そこまでして私達を庇ってくれる?過去には多くの罪を私達は、犯しているのだぞ?」
「…閃に聞いたのだが、日本にはこう言うことわざがあるらしいな。…罪を憎んで人を憎まず。お前達が悪いわけじゃない。元を正せば…ダイモンとか言う化け物の責任だろう。」
「……」
「それでも…自分達に罪があるのだと思うのなら、償えば良い。ただ、それだけの話だろう。」

何時もの真面目な表情とは違い、優しく笑うブレイズ。ホンの少しそれに眼を奪われたシグナムだが…直ぐに視線を逸らす。
何時までも見ているのは失礼であるし…若干、赤くなった顔を見られたくないのだろう。
だが、それに気が付く様子もなく、ブレイズは袋から、リンゴを取り出すと果物ナイフで切っていく。
品種はアップルボーイ・エスペランザ…と言うらしい。

「リンゴか?」
「あぁ、手ぶらで来るのもなんだから。」

機用に小さめのリンゴの、皮をむいていくブレイズだが…物の見事に皮が一枚で続いている。それには、流石のシグナムも眼を丸くして驚いている。

「か…皮が繋がっているだと…!?」
「練習したからな。」
「練習すればうまくなるのか…?」
「あぁ。…ほら、剥けたぞ。」
「す…すまん。」
「…こう言う時は、すまんじゃなくて、ありがとう、で良いと思うぞ?」
「…ありがとう。」

カットしたリンゴを皿に載せ、爪楊枝を刺してサイドテーブルに置く。中央には蜜がタップリと詰まっていて甘そうだ。
シャリシャリと良い音を立てて食べながら、シグナムは視線をブレイズの手元に向ける。
先ほどと同じように、リンゴを切っているのだが…どうやら、彼の手の動きを見極めようとしているらしい。…そこまで真剣になる必要は皆無だろう。

「よし、ウサギさんリンゴが出来たぞ。」
「う…ウサギさんカットだと…!?」
「可愛いだろ、自信作だ。」
「…た…確かに、可愛いな。…トリスタン、私にも教えてもらえるか…?」
「別に構わないぞ。…それじゃ、ナイフをこうもって…。」

なぜが病室で開かれるウサギさんリンゴ教室。…少しずつだが、2人の距離は、縮まっているのだろう。…たとえ、2人に自覚がなくとも。





ヴィータの病室

「遊びに来たぞヴィータぁぁぁ!!」
「び…病室では静かにしろって言われてるだろ馬鹿!!」

扉を蹴破る勢いで入ってきたオメガに、枕を全力で投げつけるヴィータ。ここに入院してから、毎回こんな事をしている。
もっとも…それで懲りるオメガ・ガウェイン等ではない。何故なら彼は…

「まだまだいけるぜ、ヴィタァァァ!!!」
「ああ、うっさい馬鹿!!」

真正の大馬鹿なのだから。



5分後

「んで、今日は何しに来たんだよ…」
「ハッハー!!勿論、お見舞いに来たんたぜ!!」
「…だから、来なくても良いっていってんだろ。けど……ありがと。」

頭に大きなタンコブを作りながらも、笑顔のオメガ。ヴィータも口では嫌そうにしているが…嬉しいのだろうが、素直に言うのがホンの少し苦手のようだ。

「しっかし…お前も本当に懲りないよな。…あたしの所なんかに来て楽しいか?」
「おう、ヴィータと話すのは楽しいぞ!!」
「…そっか。ありがとうな。なんか…気、きかせてくれて。」
「気にすんなよ。お前だって、1人じゃ退屈だろ?」
「…まぁな。あ~あ、速くはやて達に会いたいな。」

ベッドに仰向けにダイブしながら、ヴィータは不満げに愚痴を零す。
元気なのに、はやてやシグナム達と会えないのは、やはり寂しいのだろう。

「色々とゴタゴタしてるみたいだからなぁ。…けど、きっと閃やブレイズ達がなんとかしてくれるって。」
「なぁ、閃って…最初にあたし達をここに入れてくれた奴か?」
「おう。俺の親友なんだ。」
「親友…か。一体、どんな奴なんだ?」

何時もの豪快な笑顔を浮かべるオメガを見て、ヴィータも閃に興味が出てきたようだ。
彼は何時も、ヴィータが興味を持ちそうな話をしてくれる。…恐らくだが、何も難しい事は考えていないのだ。ムードメーカーとしての天性の才能なのだろう。

「ん~、一言で言えば…大人って感じなんだぜ!!何時も冷静で、困ったときには頼りになる兄貴分って感じもするな。」
「へぇ。…あんまり話してないから、あたしにはまだ分からないな。」
「そうか?なら、今度来た時に話してみると良いぞ。色々と相談にも乗ってくれるぜ!!俺も何度も助けられたしなぁ。」
「ふ~ん。…オメガも悩む事なんてあるんだな。」

この悩みのなさそうな少年がにそんな事があるのかと…ヴィータは不思議に思い聞いてみるが…帰って来たのは…

「あるぞぉ。ヴィータの事とかな!!」
「な…なんで、あたしの事なんだよ…。」
「ハッハー!!好きな奴の事で悩むのは当然なんだぜぇぇぇ!!」
「んな…!?」

面と向かって好きと言われたら…誰でも恥かしいだろう。顔を赤くしながら、俯くヴィータだが…なんだかオメガの笑顔が非常に…憎たらしい。
先ほどと同じように…枕を持つと…

「この馬鹿オメガぁぁぁぁぁ!!!!」
「ちょ、危ないんだ…ぜ!?」

全力で投げつけるヴィータと…至近距離で顔面に直撃を受け、転ぶオメガの姿。
不器用な少女と、天然真っ直ぐな少年。これからどうなるか…。
そして、この少年に想いを寄せるもう1人の少女とも…どうなるか。





シャマルの病室

「と、言う訳で、お医者さんゴッコしませうか、シャマルさん、フヒヒ。」
「の…ノヴァさん、キャラが変になってますよ…?」

手をワキワキしながら迫ってくるノヴァに怯えながら、ベッドの隅に逃げようとするシャマル。
変態的な笑顔と逆行メガネで、迫力満点だ。

「冗談ですよ冗談。……1%くらい。」
「それ、99%本気だった、て事じゃないですかぁぁ!!」

ひ~んと言う効果音が聞こえて来そうなほど、涙眼になりながら自分の身体を抱きしめるシャマルを見て、ノヴァもやりすぎたかと反省…。

「さぁさぁ、服を脱ぎ脱ぎしましょうね。げへへへ。」
「な…なーすこーるって何処!!??」

…する訳がなかったようだ。迫ってくるノヴァに怯え、必死にナースコールを探すシャマル。
今度こそ、流石にやりすぎたかと反省し、ノヴァは脇の椅子に腰を下ろす。

「いやぁ、相変わらず、シャマルさんの反応は可愛いなぁもぉ。」
「時々、何処まで本気なのか、分からなくなる時がありますよぉ。」
「失礼な。僕は何時でも本気です。」
「…そんな真面目な表情で言わないでください…。」

キリッと言う効果音が似合う位に、凛々しい表情を作るノヴァだが…先ほどの行為で台無しである。
がっくりと肩を落としてため息をするシャマルを、誰も攻める事など出来ないだろう。

「まぁ、僕がシャマルさんの事を愛している…と言う事は、偽りなき真実ですからね。」
「…い、いきなりそう言う事を言うのは、反則ですよ…。」

彼女の手を握りながら、幸せそうに告白するノヴァ。どうやら、恋人にはなれいたらしい。
シャマルだって、恥ずかしそうに顔を赤くしながらも、本当に嬉しそうに笑う。
飄々としていて…けど、真面目で一途に自分の事を好きでいてくれる青年。彼のお陰で…沢山沢山、楽しい想い出が出来ている。
ソッっとシャマルは、彼に身体を寄せてくるのに気が付く、ノヴァも優しく抱きしめる。

「…なんだが…夢みたいです。…本当に安心する。」
「僕もですよ。本当に…本当に幸せです。…貴女と出会えた事を、感謝しないといけないですね。」
「…私も…ノヴァさんと出会えて…良かった。」

背中に回す手に力を込めて、シャマルはノヴァの胸に耳を押し当てる。彼の心臓の鼓動まで…愛しい。
ノヴァも彼女の体温が…何もかもが愛しく…大切だ。

「シャマルさん。退院できたら…色々な所にいきましょう。」
「色々な所…ですか?」
「えぇ。沢山デートして…沢山写真とって…沢山、思い出を作りましょうよ。僕達が、共に居たって言う証を残すために。…良いですか?」
「…はい。喜んで。けど…はやてちゃん達になんて言われるか…。」
「その時は、僕がジャンピング土下座で頼み込みます。…シグナムさんに両断されようが…ヴィータちゃんに叩き潰されようが…なんとかします!!」
「ふふ…。ノヴァさん。」
「はい?」
「…す…好きです…よ。」

それだけ言うと、シャマルはノヴァの右頬に、唇を軽く押し付ける。一瞬、なにが起こったか分からなかった彼だが…音がしそうなほどに顔を赤くする。
それはシャマルも同じ事で…2人して、恥かしそうに…しかし、幸せそうに…抱きしめる力を少し強めるのだった。
9年間…たった1人の女性を想い続けた少年は…何時しか青年となり…女性に想いを告げた。
彼等の道に…光と幸があらんことを…。










あとがき

お見舞い&微妙なフラグの回でした。
…チビヤガランデとか…滅茶苦茶、欲しい…。
次回は、更にカオスになる予定です。時間系列は滅茶苦茶になると思いますが…とりあえず、季節や時間的には進んでいます。
戻る…と言う事はないように頑張ります。

気がつけば50話。ここまで良く続けれたと想います。
応援してくださっている読者の皆様、本当にありがとうございます。
まだまだ続きますので…これからもよろしくお願いします。

では…また次回に…。




[21516] 空白期 3話 拝啓(生前の)父さん、母さん。俺に妹が出来ました(義理の)
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/07/06 20:55
・閃・

闇の書事件も無事…とまでは行かないが、なんとか終わりを告げた
メビウスも無事に退院できたが、守護騎士達やはやてに関しては今のところ、まだ施設で匿っている状態だ。
聞いた話では、ハーリング提督が上層部を説得する事に成功したらしく、後は身元を作るだけらしい。…本当に凄いよな、我らの大統領は。
主任に関しては…本当の事をクロノ達に話したようだ。最初こそ、カプチェンコの人間と言うだけで、かなり驚かれていたな。
しかしリンディ提督が、事件への協力、そして今までの功績を考えて、その話は聞かなかった事にしてくれたらしい。
まぁ…それだけじゃなく、主任を捕まえて、リフォー社の全研究員を、敵に回したくないってのもあるんだろう。
シャマルともうまくやってるみたいだし…主任にとっては万々歳の結果だろうな。
そんなこんなで…ようやく俺も自宅に帰ることが出来た。いや…事後処理とか、色々と手伝ってたんだぞ…俺だって。
ようやく正月も過ぎて…冬休みを思いっきり満喫している最中だ。元旦は大変だったな…。
オメガが臼を医療施設に持ち込んで、餅つき大会始めて…しかも、ヴィータのアイゼンを杵に使おうとしたり…。
甘酒飲んで酔っ払ったなのは達が、メビウスの争奪戦を始めるし…。あ、これは何時もの事か。
騒がしくも、楽しい元旦だった…と言うのは確実だな。
そして、現在…自分の部屋で、俺は惰眠を貪っていた。いや…冬場は起きるのが辛いんだって、本当に。なぁ、分かるだろ?同じ人間じゃないか…。

「…さみ…。」

っう…今日は一段と冷えるな…。布団を引っ張り上げて、頭まで中に潜る。あぁ…温い…。
だが…何故か知らないが、俺の顔面に…何かが当たる。


「あ…ん…。」
「…はっ?」

布団の中から聞こえてくる…人の声。正確には…女の声。
眼を開けて、確認すると…暗い布団の中でも分かる全裸の少女が添い寝して…って

「待てぇえぇぇえ!!!!????」

俺は大声を上げて、飛び起きると、布団をめくり…激しく後悔する。相手は裸だぞ!?眼福…いや、違う!!ぁああぁ、頭が頭が混乱してるぞぉぉぉ!!!
頭を抱えて、唸っていると見知らぬ全裸の少女が眼を開ける。

「……寒いです。」
「え、あ…あぁ、そうだな。すまん…。じゃなくてえぇぇぇえ!!!!」

眠気眼で布団を被る少女に一瞬、ペースを持っていかれそうになる。いや、裸だから仕方がない…とかじゃなくて。

「どどどどちどちどど…どちらさ…誰だお前は!!??」
「……?」
「いやいや!!周りを見渡すな!!お前の事だよお前の!!」

しきりに周りを見渡して、誰の事を言ってるの?的な眼を向ける少女を全力で指差す俺。
何故に俺のベッドの中に居るんでしょうかね!?しかも、全裸で!!
だが…まだ睡魔の方が強いのか…直ぐに倒れこむようにして、布団にもぐっていく。何故か俺を巻き添えにして。

「…暖かいです。」
「いやいや!!そう言う問題じゃないから!!」

あぁあぁあ。なんだこのマイペース少女はぁぁぁぁ!!!拙いぞ、このままでは色々とまずい!!
いや、鋼の理性とだから、それは大丈夫だ!!なにがまずいって…。

『…閃、何時の間にか大人の階段を…2段飛びで…リリン様ぁぁぁぁ!!!不純異性交遊が起きてますよぉぉぉぉ!!!!』
「てめぇは、だぁってろぉぉおぉお!!!!」
『ロリコンぉぉぉぉ、変質者!そんなに可愛い子を手篭めにしたいんですか!!』

好き勝手叫んで、面白そうにするレーベンを止めたくても…この少女ががっちりとホールドしてて、離してくれねぇ!!
何とか布団を跳ね除けて、起き上がろうとするが…無常にも…部屋のドアを…一番、拙い人物が開けてしまう…。

「お兄様、起こしにきまし…た…わ…?」
「……おはよう、リリン。」

あ…俺、終わった。ドアの前で…固まるリリンだがと…別な意味で固まる俺。
この静寂が何時までも続くと思ったが…。

「…兄上…。」
「はいっ!?え、ちょ…まっ!?」
「…お兄様…?そちらは…どなたでしょうか…?」

見知らぬ少女の兄上発言…それは、この空間を砕くのには…最高の一言だった。
何時の間にか、フェイ・イェンを展開しているリリン。…前髪で顔が見えないんですが…長い髪がユラユラと揺れてるんですが…?
殺意の波動もびっくりな位…恐いんですが…?

「待て、リリン!!大変に凄まじく陳腐な言葉だか、俺はあえて使うぞ!!話せば分かる!!何故、これがありふれた陳腐な言葉になってしまったのかと言うと、物事の大半は話せば分るということだ!!だから、俺の…」
「お兄様の…馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

器用に…桃色の極光が…俺だけを包み込んで…盛大に爆発した。




10分後。

「んで…。君はどちら様?」
「…?」
「だから、君の事だからね!?なに、誰の事?みたいな顔してるのかな!?」

2度目の質問に、1度目とまったく同じ反応を返す少女に、早くも俺は頭が痛くなってきた。…精神的にもだし、肉体的には…滅茶苦茶痛い。
リリンの砲撃魔法を直撃した俺は…気を失ったらしい。…後で見たら、ベットが粉々になっていたから…なんつうか…生きてるってすばらしいな。
その間にリリンが自分の服を、少女に着せていてくれた。…誤解もなんとか解けてよかったよ…。父さん達は朝早くに仕事で出て行ったから…今は俺達3人だけだ。

「あ、私の事ですか?」
「…君以外、誰が居るっての…?」
「…そちらの方?」
「…お兄様、この子、私に喧嘩を売ってませんか?」
「おーし、落ち着け。冷静になれクールにだクールに。…君も挑発とかやめろ…。」
「挑発?」
「天然ですか…そうですか。」

ゴゴゴと効果音を立てて、黒い笑いを浮かべるリリンを落ち着かせて、ソファに押し戻す。最初は、分かっててやってるのかと思ったが…これは天然だ。
…本日、何度目か分からないため息をついて、もう一度、少女を確認する。
年齢的には…俺と同い年位か。……なんだか…なのはに似てないか…?

「とりあえず、名前だけでも教えてくれないか?」
「名前ですか?…私は星光の殲滅者です。」
「……それ、名前?」
「はい。これ以外に、私の名前はありません。別読みにするなら、シュテル・ザ・デストラクターですね。」
「…どこから来たとか、覚えていませんの?」
「分かりません。気がついたら、兄上の布団の中に居ました。」

真顔で答えてる以上…本当の事なんだろ。…どんな奴が名前付けたのか…見てみたいな。
流石にリリンも何も言えずに、俺にどうしましょう?的な視線を向けてくる。後、何故か俺は兄上呼ばわりされている…。なぜだ…!?

「あ、1つ、言える事がありました。」
「どんな事だ?」
「私は、闇の書の残滓が生み出した存在…でしたね。すっかり、忘れてました。ちなみに、高町なのはが、私のモデルです。」
「闇の書の残滓ねぇ…って、待て待て…闇の書…闇の書!?」
「はい。おそらくですが、ダイモンとの回線が切断されたので、私も出てこれたのだと思います。…兄上のお陰ですね。」
「あ~…リリン、俺、頭がやばいんだが。」
「大丈夫ですわ、お兄様。私も混乱していますの。」

……闇の書の残滓…なにそれ?俺…全然まったく知らないぞ!?なにが起こってるんだ!?
とりあえず、リリンに任せて、俺は自室の通信端末を起動させる。多分だが…主任なら何か知ってるんじゃないか…?



自室。

「ふむふむ。なるほどねぇ。…大体は分かったよ。」
「何か知ってるのか?」

画面の向こうでは、何時もの顔の主任が納得したように頷いていた。こいつが何かを知っていると思った、俺の感は正しかったみたいだな。

「閃君。君は、魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE - THE BATTLE OF ACES -ってゲームをしってるかい?」
「…いや、知らないな。原作とかは見てたけど…ゲームにまでは手を出してない。」
「ふむふむ。なら、知らないのも当然か。君の言っているその少女、星光の殲滅者は、そのゲームに出てくるキャラクターの1人だね。」

ゲームのキャラって…マジかよ。それじゃ、俺が知らないのもしょうがないだろ…。
原作はそれなりに見てたが…流石にゲームまでは知らなかった。…そう言えば、パッケージ位は見たことある気がする。

「だけど…なんでそれが俺のところに…?」
「さぁ、それは本人に聞いてみないと分からないよ。まぁ、話せるって事は、攻撃はしてこないでしょ。実は僕も詳しくは知らなくてねぇ。
買ってみようかなと思った矢先に、事故死で転生しちゃってさぁ。あははは。」
「…笑って言う事じゃないだろ。」

背筋がゾッとするような事を笑いながら言う主任に突っ込みを入れつつも、頭の中でいくらか整理をする。
ゲームのキャラって事は…本来は原作には居ないって事か…。…ACEのキャラが居るなら、納得…か?
なんにせよ…どうしたもんか…。

「まぁ、悩んでても仕方がないんじゃない?もう、出て来ちゃってる訳だし。それに、なのはちゃんをベースにしてるらしいから、戦闘能力は期待できるみたいだよ。」
「…あんまり、そう言う眼で見たくないんだよなぁ。…対ダイモンとかでは頼りになるんだろうけど…。」
「君らしいねぇ。まぁ、とりあえず、君のご両親には話しとくよ。…あの人達の事だ、きっと、迎え入れるんじゃないの?」
「…ありうるな。いや、別に構わないんだけどな。」
「そうと決まれば、話は早い。…とりあえず、ベットとか買ったほうが良いんじゃないの?…後ろの光景が悲惨だよ。」
「わぁってるっての…」

主任との通信を切ると、俺は後ろを振り返って自室を見渡す。…ベットの他に机とか…ボロボロだ。
…主任の言うとおり、買わないといけないよなぁ…。

「っと…着信か。…もしもし、父さん?」
「閃か。主任から話は聞いたよ。まさか、闇の書の残滓とは…。いや、そんな事は関係ないか。」
「そうなんだけど…どうする?行く宛ても無いと思うんだよ。」
「うぅむ。…ランスロットさんの家では、フェイトちゃんを引き取ったのだからな。…うむ、なら、その娘は私達が引き取ろう。」

難しい顔で考えている父さんだが…やはり、見捨てるなんて出来なかったみたいだな。
まぁ、大体は予想していた。…俺の両親も負けず劣らずのお人よしだからな。そこを、尊敬してると言えばそうだ。

「っと、会議中でね。詳しい話は、明日にしよう。今日は帰れそうにない。」
「珍しいね。…それと、会議中にごめん。」
「いや、構わないさ。その子の家具や食器などを買ってきなさい。今、私達のサインを送るから…それを店員に見せれば良い。それじゃ、よろしく頼むぞ。」
「了解。」


通信が切れると、直ぐに父さん達の署名がファックスで届く。これを見せれば、子供が買っても大丈夫だろう。…つまり、俺が選べって事か。責任重大だな。
必要なお金は…口座振込みか。…色々と良いのかこれは。
まぁ…大型店で買わないで、商店街の家具屋とかで買えば、融通は利くかな?
とりあえず、リビングの2人に説明しないとな。



「2人とも、話が…って、なにしてんだよ!?」
「…兄上は私のものです。」
「なにを言っていますの?お兄様は、私の物ですの!!」

2人はデバイスを展開し、睨み合いをしていた。…これ…本当に大丈夫なのか…?


海鳴市商店街


「……なぁ、2人とも。…少し休まないか?」
「兄上、まだ買い物は始まったばかりですよ?」
「シュテルの言うとおりですわ。」

あの後、2人のデスマッチを何とか止めて、買い物に出たわけなんだが…。流石は女の子…買うわ買うわ…。
仲が悪いのかと思ったが…リリンがシュテルの服を選んでいるから、そこまでではないらしい。…喧嘩するほどなんとやらって奴か…?
しかし…買い物を始めて早2時間。…結構…服とか嵩張ると…重いんだよな。

「…あちぃ…。冬なのに汗だくって…どういうこと?」
「本当ですね。…リリン、少し買い過ぎでしょう。兄上に迷惑をかけてはいけません。」
「あら…。シュテルの方こそ、沢山、買い過ぎては居ませんか?」
「「……」」
「さ…さみぃ…。体感温度が一気に下がったぞ…。」
『俗に言う修羅場と言う奴ですね。』

2人の背中に龍とか虎が、見えるんだが…。やばいぞ、このまま、街中で大決戦とか勘弁だぞ…。
どうしたものか…って、ここは翠屋の近くだったな。

「ふ…2人とも、翠屋で休んでいこうか。」
「…そうしましょうか。なのはお姉さま達に、紹介しないといきませんものね。」
「私のオリジナル…ですね。会ってみたいとは思っていました。」

…とりあえず、この場はなんとか押さえれたか…。正直言えば、俺が休みたかったから…ってのもある。
なんにせよ…荷物を下ろしたい…。

翠屋

「いらっしゃいませ。あら、閃君、こんにちわ。」
「どうも、桃子さん。ちょっと、休みに来ました。キンキンに冷えたオレンジジュース、ジョッキでお願いします。」
「こんにちわ、桃子様。」
「リリンちゃんもいらっしゃい。あら、そっちの子は?」
「始めまして、シュテルです。」

店内に入ると、笑顔の桃子さんが迎えてくれた。俺とリリンに挨拶をしながら、後ろに居るシュテルを見つけた。
シュテルも礼儀正しく一礼して、桃子さんに挨拶を返す。…基本的には礼儀正しいんだよな…。

「始めまして、高町桃子よ。…ん~、家の子に似てるわね。」
「あ…あははは、そうですか?」

さ…流石は母親。気がつくのが速い。若干、冷や汗をたらす俺だが…桃子さんは何か考えるようにして…何故か納得した表情を作る。

「あぁ。そう言う事ね。…閃君の所にも居たのね。」
「へ?…えっと?」
「ふふ。奥の席になのは達が居るから、行って見て。」

それだけ言うと、面白そうに厨房に戻っていった。…どういう事だ?
3人で顔を見合わせ、言われたとおりに、奥の席に向かう事にした。





「んで…メビウス、何時からフェイトは…蒼髪で2人に増えた?」
「ん~…お兄ぃ~♪」
「めめめめめ…メビウス君から離れてよぉぉぉ!!!」
「レヴィ…離れないと…。」
「べ~だ!!お兄ぃが、くっ付いても良いって言ってるもんね!!」
「あ…あはは……。とりあえず…閃、こんにちわ。」

………フェイトと瓜二つの少女が…メビウスに抱きついて、なのはとフェイトと威嚇していた。
髪の色はメビウスと同じ蒼で…それと性格以外は、本当にフェイトとそっくりだな。

「…レヴィ、ここに居たのですね。」
「あ、シュテル、やっほ~。…そっかぁ、君はそっちに居たんだね。」
「ほえ?…わ…私のそっくりさん!?」
「本当……。もしかして…レヴィと同じ?」
「閃の所にも…。とりあえず、座ってよ。」

レヴィと呼ばれた少女とシュテルは、やはり知り合いだったみたいだな。
いや…知り合いと言うより…同じ残滓って…事なのか?隣に席に座り、メビウス達と幾つかの情報を交換しあう事にした。

10分後


「雷刃の襲撃者…で、レヴィ・ザ・スラッシャー…ねぇ。」
「どうだ!!かっこいい名前でしょ!!」
「それで、私達はレヴィって呼ぶ事にしたんだ。…けど、レヴィの言ったとおり…闇の書の残滓なんだね。」
「けど、どうしてシュテルはお兄様の所に…レヴィさんはメビウス様の所に居るんですの?」

確かに…リリンの疑問は最もだな。なんで、俺らの所に着たのか…気になるな。
何かしらの目的があったりなら、別に俺達の所に来る必要性は皆無だ。

「ん~。なんでだろ?」
「私は…兄上が気になりました。」
「俺が…?なんでまた。」
「兄上の動かす力の源は…助けたいと言う思いでした。ダイモンに捕らわれていた時…兄上のプログラムに触れたのですが…。
とても優しく…友達を助けたい、と言う想いに満ちていました。友達とは何か…想いとは何か…。兄上の近くに居れば…それが分かる気がするんです。」
「…確かに、お兄様は何時でも、私達を助けてくださいます。その想いがシュテルを引き寄せた…と言う事なのでしょう。」

真摯な眼で…ジッと俺を見つめるシュテル。…なんつうか…滅茶苦茶、恥かしい事いってるんじゃないのか…?
けど…想い…ね。…確かにメビウス達を…みんなを助けたいって想いはあったんだが…別段、意識した事はない。…友達…か。

「僕は、なのはとフェイト、それに、はやての心の中に居たお兄ぃに惹かれたんだよね。」
「私達の心の中?」
「…レヴィ、どう言う事?」
「どうしてこの3人は、こんなにも想い続けることが出来るんだろう。どうして、ここまで3人の心の中にお兄ぃは居れるんだろって、気になってたんだ。
たった1人を、想い続けるって事の意味を知りたくて…僕はお兄ぃの所に着たんだよ。」
「…そっか。けど…なんだか、恥かしいね。」
「にゃはは…メビウス君の事…ずっと前から好きだったからね。」
「その想いが…レヴィを呼んだって事なんだ。」

困ったように笑うメビウスと、顔を赤くしながら笑うフェイトとなのは。…恋心が呼び寄せたって事か。
だが…闇の書の残滓…か。一体、これは何を意味するんだか…。なんにせよ…シュテル達は俺達の…友達で家族って事は間違いない。

「実はもう1人居る筈なのですが…何処で何をしているのでしょうか…」
「自由気ままだもんね~。」
「レヴィ達の他にも1人居るの?」
「そうだよ。んと、見た目はお兄ぃとそっくりなんだけど…髪とか眼は真っ黒だね。」
「名前は夜天の騎士皇。ナイツ・ロード・オブ・ノワール…ですね。私達以上に強大な力を持っていますが…」
「性格は適当でさ。何を考えてるのか、僕達にもサッパリなんだ。」

…夜天の騎士皇…ねぇ。名前的に厨二臭がすげぇな。
しかし…今の所は姿を見てないな。まぁ…出現する時間が違うのかもしれないし…とりあえず、覚えておこう。


「それじゃ、お兄ぃ。あ~ん♪」
「あぁあぁ!!ずるい!!メビウス君、私のも、私のも食べて!!」
「お、お兄ちゃん、私もする…!!」
「あ…あははは。」



3人にあ~んを迫られて、メビウスも流石に焦っている。…本当に主人公だなおい。ハーレムだよハーレム。
そんなメビウス達を観察していると…シュテルが俺の袖をクイクイと引っ張ってくる。

「なんだシュテル…って、おい。」
「はい、兄上、どうぞ。」

…あの、シュテルさん…?何故にポ○キーを咥えてるんですか?
そして、その反対を何故に俺に向けるのですか?ポ○キーゲームをやれと言う事ですか!?…隣でリリンが固まってるぞ…。


「レヴィには負けれません。勿論、リリンにもです。据え膳食らうならば、皿までといわずテーブルまでです。むしろ、私も食べてくださって大丈夫です。妹の務めですし。」
「いやいや!!どうぞじゃないからな!!むこうはメビウスの妹であって…」
「レヴィはメビウスさんの妹。つまり、私は兄上の妹で…兄上の物と言う事ですね。…嬉しいです。」
「お兄様…?」
「落ち着けぇぇぇぇぇ!!!!」

何故か頬を染めて、しな垂れかかって来るシュテルと黒いオーラを纏うリリンに挟まれて…本日何度目かの修羅場を経験する。
…いや…家族なのは良いんだが…俺の胃の事も考えてくれ…。













?????

「ふ~ん。ここが海鳴…ねぇ。」
『どうするのですか?2人に会いに行きますか?』
「…俺は面倒が嫌いなんだ。適当にフラフラして過ごすさ。」
『…見つかるのでは?』
「その時はその時で良いだろ。…しかし、このガトーショコラケーキ、テラうめぇ。」
『1人で1ホール完食するとは…甘党ですね。それにその時はって…本当に適当ですね。』
「風の吹くまま気の向くまま。明日は明日の風が吹くってね。」

それだけ言うと…黒い少年は一陣の風を纏い姿を消した。






夜天の騎士皇(ナイツ・ロード・オブ・ノワール) 所在不明。
星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター) 帝家の養女に。
雷刃の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー) ランスロットの養女に。




あとがき

今回はカオスな内容になりましたね。…登場人物増やしすぎて大丈夫か…作者の実力的に…。
とりあえず、ゲームから出てもらいました。将来の戦力強化…ですかね。
夜天の騎士皇については…作者の厨二頭脳で考えました。
一応はメビウスと瓜二つと言う事で…。色々と彼も役目があります。
次回からはランスロット家旅行記パート2をやりたいと思っています。レヴィが家族になった記念にですね。きっとサイファーお母さん、大喜びですね。
そろそろ妄想力が枯れそうですが…頑張ります。では…また次回。



[21516] 空白期 4話 ランスロット家ベルカ旅行記&導きの灯火と神鳥の雛
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/07/08 22:13
季節、春。ランスロット家、メビウスの自室。時刻、夜。


「お兄、ここはなんて書くの?」
「あぁ、ここは…」

現在は春休み。暖かな陽気が、夜まで残っている。
既に春休み空けには、学園への編入は決まっており、メビウスの部屋で、レヴィは猛勉強しているところだ。
彼女が家族となり一番喜んだのは、やはりサイファーであろう。メビウスもフェイトも可愛いが、レヴィも可愛い。家族が増えた嬉しくない者は、居ないだろう。

「………」
「ん?どうしたのフェイト?」
「な…なんでもない。」

自分を見つめる視線に気がつきメビウスは、ベットの上でこちらを見ているフェイトに声をかけるが、視線を反らされてしまう。
首をかしげ不思議に思ったメビウスだが、直ぐにレヴィに勉強を教え始める。
スカーフェイスに取ってもらったお気に入りのイルカの縫い包みを、抱きしめながらフェイトは、少し悲しそうに大好きな兄を見つめる。ツインテールにも元気がない。
これは…以前は自分が勉強を教えてもらっていた光景。ただ…それがレヴィに代わっただけなのだが…髪の色以外、自分とそっくりな彼女を見ていると、不思議な感じがしてくる。
自分とは性格も違い…明るいレヴィ。何時も何時も、フェイトがメビウスの甘えようとする前に、彼女が甘えている。そんな行動力の速さも羨ましい。
なにより…大好きなメビウスとサイファー、そしてレヴィの髪の色は殆ど同じ。それが本当に羨ましい。…スカーフェイスはどうなるのだと言えば…それまでだが。
自分の金色の髪も好きだが…やはり、大好きな彼らとお揃いの方が良かったと…何度も思うことがあった。レヴィが来てからは尚更だ。
知らず知らずに、イルカの縫い包みをギュッと抱きしめて、顔をうずめる。ホンの少し泣きそうなのは…寂しいから。

「メビウスちゃん、フェイトちゃん、レヴィちゃ~ん。ご飯よ~。」
「っと、それじゃ、今日はここまで。」
「やった、ご飯だご飯!!あ、その前にお兄。僕、今日も勉強頑張ったよね?」
「うん。昨日より進んだからね。これなら大丈夫だよ。」
「えへへ、ならさ、ご褒美に撫で撫でしてほしいな~。」
「はいはい。よく出来ました。」

メビウスは、甘えて擦り寄ってくるレヴィの頭を優しく撫でて上げる。なのは達ど同様に、レヴィも彼に撫でて貰うのが大好きのようだ。
本当はフェイトも甘えたい。彼に撫でて貰い…ギュッとしてもらいたい。だが…彼女はレヴィの姉だと…そう思っていた。
自分が我慢しないと…そう思い、甘えるのもずっと我慢しているのだ。

「…フェイト。」
「あ…お兄…ちゃん。」

名前を呼ばれ、顔を上げると…優しい笑顔のメビウスが自分の隣に座る。先にレヴィを夕食に向かわせたようで、部屋には2人だけだ。

「我慢しないの。…ほらフェイト、おいで。」
「~~…!!」

甘く…甘く優しい声で名前を呼ばれれば…我慢していたのが一気にあふれ出す。胸の中に飛び込んで…彼の背中に手を回して力いっぱい抱きしめる。

「フェイト、甘えたい時は、甘えて良いんだよ?」
「…だって、お兄ちゃん…レヴィの事ばかり…。それに、私はレヴィのお姉ちゃんだから。我慢…しないと。」

大好きな彼の温もりが…彼の鼓動が何よりも愛しくて…嬉しくてフェイトはぎゅっと力を込める。

「なるほどね。ねぇ、フェイト。確かにフェイトは、レヴィのお姉ちゃんなのかもしれない。けどさ…それ以前にフェイトは、私の妹なんだから…何時でも甘えていいんだよ。」
「何時でも…良いの?迷惑じゃない…いやじゃない…?」
「迷惑なわけないよ。…レヴィも大切な妹だけど…フェイトも大切な家族で妹なんだから、何時でも甘えなさい。私も甘えてくれないと、寂しいからね。」
「~…お兄ちゃん…!!」

そこまで言われたら…もう、フェイトも何もいえない、我慢できない…いや、する必要がない。彼の胸に顔を埋めて…さらに身体を密着させる。
今まで甘えれなかった分を取り戻すように…




ランスロット家、食卓。


「そうだ!!旅行に行きましょう!!」
「……あれ、前には似たような事あった気がするのは…気のせい?」
「奇遇だな、メビウス。俺も今、そう思っていたところだ。…突っ込みはお前に任せた。」
「ちょ…父さん!?」

夕食の席でのサイファーの一言。…確かにフェイトが家族になったときも、同じような事を言っていた。
何時も通りの、妻の突然の行動に最早疲れたのか、スカーフェイスはげっそりとし、突っ込みを息子であるメビウスに託した。だから、お前の妻だろう…。

「わ~い、旅行だ旅行!!母さん、何処に良くの?」
「ふふふ、良くぞ聞いてくれたわねレヴィちゃん!!行き先は勿論…ベルカよ!!」
「ぶはっ!?」
「お…お父さん、大丈夫!?」

レヴィの質問に笑顔で答え、何故かテレビのチャンネルを切り替えるサイファー。そこには…のどかな牧場風景が広がっている。…何時の間にテレビを改造したのだろうか。
だが…その映像を見た瞬間にスカーフェイスは激しく咳き込み始める。その背中を慌ててフェイトが擦ってあげているが…どうしたのだろうか。

「待て待て…まさか…あそこにいくつもりか!?」
「もちのろんよ!!…だってぇ、こんな可愛い子供達が居るのに自慢…じゃなくて、紹介しないのは駄目だと思わない?」
「きゃ…お母さん、苦しいよ。」
「母さん、だいた~ん♪」
「せめて、本音を隠せ…。」

ぎゅぅっとフェイトとレヴィを抱きしめて、幸せそうに頬擦りをするサイファーとは、対照的に疲れた顔をしてスカーフェイスは額を押さえる。
若干、置いてきぼりのメビウスは何時ものように、笑いながらその光景を眺めていた。膝の上に居るヤガランデも騒がしいなぁ的な眼を向けている。

「ベルカ…ですか。我も行った事がないので興味はありますが…。」
「あたしも無いね。…けど、フェイスは何か知ってるみたいじゃない?」
「…まぁな。しかし…よりにもよって…あそこか…。」

ガルムとアルフは、何時も通りに苦労をしているスカーフェイスに同情しながらも、今度の旅行先のベルカに興味があるようだ。


「ふふふ~。お爺ちゃんにも孫ですよ!!って紹介しないとね!!」
「ねね、お兄、旅行楽しみだね!!早速、準備しないと!!」
「お兄ちゃん、準備手伝ってくれる?」
「あぁ~。ずるい!!僕のも僕のも!!」
「はいはい。手伝ってあげるから、食べてるときは抱きつかないの。危ないでしょ。」

両脇から抱きついてくる妹達を宥めながら、メビウスは食事を再開する。
何故、牧場なのは…お爺ちゃんとは誰か…ランスロット家、ベルカ旅行記…始まります。




ベルカ自治領 
ビルネハイム地区


「ランスロット家IN!!」
「ベルカ~!!」

両手を挙げて、声高々に宣言するサイファーとレヴィ。後ろでは恥かしさからか、顔を赤くしたメビウスとフェイトが居た。
例の如く、スカーフェイスは無視を決め込み、ガルムもアルフと地図を見ながら、なにやら話している。
ティンズマルクよりバスに揺られる事1時間。周囲には、豊かな牧草地や田園風景が広がっていた。

「ここから少し歩いた所に、目的地の牧場があるのよ。さぁ、いきましょう!!」
「レンタカーを借りればよかった物を…。」

大きな麦藁帽子を被り、先頭を歩き出すサイファーに続き、スカーフェイス達も荷物を持ち歩き始める。
フェイトとレヴィもサイファーとお揃いの麦藁帽子を被り、トコトコと後を追いかける。ちなみに、メビウスの頭には、子猫サイズのヤガランデが乗っかっていた。

「うわ~。本当に広いね~。天気も良いし、旅行には最適だよね!」
「うん。風も気持ちいいし…空気も美味しい。」

手を繋ぎながら歩く彼女達は、双子の姉妹に見え本当に微笑ましい。後ろを歩くメビウスも嬉しそうに見ている。

「牧草地となると、牛や馬が居るんだな。」
「牛!?…牛肉、食べれるかなぁ。」
「お前は食べる事ばかりか…。ほら、涎が垂れてるぞ。」

周囲の景色を眺め特産物などを想像するガルムと、それが牛と言われ涎をたらすアルフ。2人の耳にはお揃いのイヤリングが光っている。
なにやら怪しい笑みを浮かべ、食事の事を想像する彼女をガルムも苦笑しながら見ていた。

「…しかし、なんでまたあそこ…。」
「まだそんな事言ってるの?フェイスもいい加減、慣れないと駄目よ?お爺ちゃんだって、フェイスの事を気に入ってるんだから。」
「………色々とこちらにも理由がある…。」

顔色が優れないスカーフェイスの頬をツンツンと突っついて笑みを浮かべるサイファー。
何故、彼はここまで嫌がっているのだろうか?…理由は簡単である。これから行く牧場の主は、サイファーの事を娘のように思っている。
…その大切な娘を盗って行った馬の骨の男の事など…好きになれるだろうか?…以前に何度か肉体言語で語り合った事があるが…

「…99戦99引き分け…だったか。」
「今度はメビウスちゃん達の取り合いですることになるかもね。」
「勘弁してくれ…!!」

青空の下…スカーフェイスの悲痛な声が響いた。


ズィルバー牧場

「さぁ、着いたわよ!!」
「到ちゃ~く!!凄い凄い、大きよ!!」
「わぁ、本当だ。大きな牧場。」
「…ほらほら、レヴィ。はしゃぐと、帽子落ちちゃうよ。」
「…胃が…。」
「ちょ…フェイス、あんた大丈夫かい?」
「顔色が優れませんが…。」

例によってはしゃぐサイファーとレヴィとは対照的に、胃を押さえるスカーフェイス。
はしゃいずり落ちそうになるレヴィの麦藁帽子を直しながら、フェイトも牧場の大きさにびっくりしている。

「さてと…まずは挨拶に行かなきゃね。向こうに母屋があるからいきましょう。」
「…すまん。俺はここで帰っても…」
「おじいちゃ~ん!!遊びにきたよ~!!」
「お…俺の話を聞けぇぇぇ…!!」
「…お父さん、こんな性格だった…?」
「私が知ってる限りでは…違ったんだけどね。」
「あはは、父さんも楽しそうじゃん。ほらほら、お兄もフェイトも行こ!!」

苦笑しながら頬をかくメビウスを見上げ、フェイトは首をかしげる。何時も冷静なスカーフェイスが、こんな風になるのは以前の温泉旅行以来だろう。
そんな2人の手を引っ張りながら、レヴィがサイファーの後に続いていく。何気に、彼女が一番楽しみにしているのだろう。
家族との始めての旅行、その楽しさ、嬉しさはフェイトも経験がした事があるので分かっている。
母屋らしき家に行くと、サイファーが1人の老人と抱き合い挨拶を交わしていた。

「ははは、よく来たねサイファー。」
「お久しぶり、お爺ちゃん!!」

老人…と呼ぶには、あまりにも若々しい…いや、精気に満ち溢れていると言った方が良いだろう。
後ろに居るメビウス達に気がつくと老人は、優しげな笑顔を浮かべ挨拶をしてきた。

「はじめまして、サイファーの子供達だね。うむうむ、みな、可愛い。」
「メビウス・ランスロットです。よろしくお願いします。」
「あ、フェイト・T・ランスロットです。お願いします。」
「僕はレヴィ・ランスロット!!よろしく、おじいちゃん!!」
「レ…レヴィ、失礼だよ?」

いきなり、老人をお爺ちゃんと呼ぶレヴィを慌てて注意するフェイトだが…言われた本人は嬉しそうに笑い声を上げた。

「ははは。いやいや、お爺ちゃんと呼んでくれて構わんよ。私もその方がうれしい。お爺ちゃんと思ってくれて構わないし、私も君達を孫だと思うよ。
敬語も無しで良いからね。」
「あ、はい。分かりま…分かったよ。お爺さん。」
「うむ。それで良い。」

大きな手でメビウス達の頭を順番になでる老人。ふっと…視線を後ろに向けて…若干、厳しくなる。

「…お久しぶりです。」
「ほぉ……若造が。生きておったか。」
「ぐ…ご、ご老体こそ、お元気のようで…。」
「「………」」
「お…お爺ちゃん?父さん?」

突然、無言で睨み合いを始める2人に驚いて、レヴィとフェイトがメビウスの背中に隠れる。一触即発の空気が流れるが…

「ふ…。孫達の手前、ここまでにしておこう。」
「…そうですね。」

2人とも雰囲気を和らげ、老人はメビウス達の荷物を持ち上げると、家の中に案内する。

「さぁ、家に入ろう。冷たいお茶も用意してるからね。」
「あ、ねぇねぇ、おじいちゃん。僕達、おじいちゃんの名前、知らないんだけど。」
「おぉ、そう言えば名乗ってなかったね。いや、これはすまない。…私はディトリッヒ・ケラーマンだ。これからよろしく。」


老人--ディトリッヒ・ケラーマンとの出会い。ベルカでの短い旅行は…どうなものになるのだろうか。




ミッドチルダ。
アピート国際空港


「すまない、トリスタン。待たせたか?」
「いや、俺も今来たところだ。」

空港のロビーでシグナムは、制服を着込んだブレイズと合流する。
何故、ここに2人は居るのだろうか?…決して、2人だけで旅行…と言うわけではない。

「しかし、ベルカに私達の身元保証人が居るとは…。」
「聖王教会の方で動いてくれてな。俺も何度か世話になったことがある人だ。今回は挨拶程度だが…よろしく頼む。」

はやて達の身元保証人となってくれた人物が居るのだが…相手は聖王教会の重要人物らしく、気軽にミッドにはこれないのだ。
なので、体調が一番優れているシグナムと、名目上の監視役のブレイズが挨拶に行く事になった。

「そう言えば…その人物の名前を聞いてなかったな。トリスタン、なんと言う名前なんだ?」
「言ってなかったか。…聖王教会所属、最も真摯な…と呼ばれる聖女アストラエア様だ。」
「聖女?…かなりの高位の人物じゃないのか…?」
「あぁ、教会代表のグラシア家並の人物だ。…俺も世話になったことがある。」

聖女アストラエア…それほどまでに高位の人物が、自分達の保証人になってくれた事に驚くと同時に、目の前のブレイズ、色々と手回ししてくれたハーリング達に
シグナムは深く感謝する。

(…これほどまでに優しく…暖かな人物に出会えた私達は…幸せなのだろう)

隣でスケジュールを確認しているブレイズの横顔を覗き、シグナムは静かにそう思う。

「あれ…?トリスタン補佐役じゃないですか!!」
「ん?…グレンさん。久しぶりですね。」

手を振ってこちらに走ってくるのは、元アースラ武装局員のグレン・ハーマンだった。制服姿の所を見ると、仕事のようだ。

「まさか、こんな所で補佐役に会えるなんて…。あれ、そちらの方は?」
「シグナムだ。トリスタンには世話になっている。」
「っと、俺はグレン・ハーマンです。…補佐役の彼女さんで?」
「んなっ!?かかかか…彼女だと!?」
「取り乱すな…。分かってると思いますが、違いますよ。…グレンさんこそ、どうしたんです?」
「俺は巡回中なんですよ。一応、空港のロビー内も見た方が良いと思いましてね。」
「なるほど。…そう言えば、地上勤務になったんでしたっけ。」

グレンはアースラから降りた後、地上勤務となって居たことをブレイズは思い出した。…隣で何故かオーバーヒートしているシグナムの事は無視らしい。

「えぇ。ティーダ君…あぁ、家の隣の子なんですがね。ティーダ・ランスターって子と、パートナー組んでやってるところですよ。」
「へぇ…そう言えば…2人目が生まれたから、地上勤務になったんですよね。」
「そうなんですよ!!ほらほら、見てください!!家の長男と長女、可愛いでしょ!!あと、嫁さんも美人でしょ!」

懐から写真を出してブレイズに見せるグレンの顔は…親馬鹿である。写真にはグレンの嫁に抱かれた1人の赤ん坊と、笑顔の少年が移っていた。

「嫁さんのメリッサ。そんで赤ん坊の方が、マティルダって名前なんですよ。いやぁ、眼に入れても痛くないってのは、この事ですね!!」
「こっちの子供は?」
「こいつが、俺の自慢の息子、ガルーダって言うんですよ。」

ガルーダ…神鳥の名を冠した少年。何故だがブレイズは…この少年と共に空を飛ぶような…気がしてならなかった。









ディトリッヒ・ケラーマン。ビルネハイム地区でズィルバー牧場を営む男性。
現在、ランスロット一家が宿泊中。スカーフェイスと若干、仲が悪い模様?




グレン・ハーマン。地上勤務中。ティーダ・ランスターとパートナー。
メリッサと言う奥さんと、ガルーダ、マティルダと幸せな家庭を持つ。








あとがき

はい、今回も微妙にキャラが増えましたね。stsに備えて戦力増強計画が進行してます。
ケラーマン教官との出会いが…メビウス君にどんな影響を与えるのか…。
そして、神鳥の雛は何時、羽ばたくのか…。
これから大変になりますね。…ところでソニーさん、一体、何時になったらパスワード変更メールが届くんです?泣




[21516] 空白期 5話 ランスロット家ベルカ旅行記2&評議会の魔導師
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/07/13 23:28
ズィルバー牧場、母屋

「わぁ、ひっろ~い!!」
「レ、レヴィ、走り回ったら危ないよ。けど、なんか日本の建物っぽい…?」
「よく気がついたね。日本家屋をイメージして作ってあるんだよ。」

楽しそうに走り回るレヴィを止めるフェイトを、ディトリッヒは笑顔で眺めてお茶を準備する。
確かによく田舎などで見かける、広い日本家屋のような作りになっていた。飾ってる風鈴が風に揺られ、チリンチリンと涼しげな音を立てる。
庭を見ると、井戸まである辺り…本当に日本の田舎である。

「さて、私は田んぼに行くが…君達も来るかい?なに、散歩がてらにいいだろう。」
「田んぼまであるんだ。何か手伝いますよ。」
「お兄が行くなら、僕も行く!!」
「あ、私も…。」

田んぼまである事に驚いたメビウスだが…何か手伝える事はないかと思い、行く事にした。そして、元気に手を上げるレヴィとは、対照的に控えめのフェイト。
ディトリッヒも可愛らしい孫達に表情を和らげ、腰を上げる。

「それじゃ、私達は夕食の準備してるわね~。アルフ、手伝ってね。」
「あいよ。それじゃ、3人とも、何するかわかんないけど、怪我はしないでおくれよ?」
「俺達は薪割りだな。ガルム、向こうに斧があるから持ってきてくれ。」
「御意。では、メビウス様、フェイト様、レヴィ様、お気をつけて。」

寛いでいたサイファーとアルフは、家から持ってきたエプロンをつけるとキッチン…と言うより、台所に向かう。
残りのスカーフェイスとガルムも庭先で薪割りを始める事にした。どうやら、風呂なども昔ながらの薪を使うもののようだ。つくづく…懐かしい風景である。

「それじゃ、3人とも行こうか。」
「うん、あ、おじいちゃん、手繋いでこ!!」
「あ、私も良い?」
「おぉ、勿論構わないよ。しかし、メビウスとは良いのかい?」
「お兄には後で沢山、甘えるから良いの!ね、フェイト。」
「う…うん。一緒に寝る約束もしたし…。」
「ははは、仲が良くてよろしい。」

フェイトとレヴィと手を繋ぐディトリッヒの顔は、実に嬉しそうだ。若干、メビウスも彼と手を繋ぎたかったようだが、ここは我慢しているようだ。
両親は居るが…祖父母と一度も会った事が無い彼ら…だが、ディトリッヒが祖父のように…優しく暖かい事を子供ながらに理解し、懐いているのだ。





田んぼには既に苗が植えられており、水がユラユラとゆれている。日本では、田植えはまだ先なのだが、こちらは少し季節が早いようで、初夏の陽気で暖かい。

「さて、私は水を見てくるとしよう。君達も田に入るのなら、そこの長靴を使いなさい。」
「はい。」

農機具を閉まってある小屋から、3人分の長靴を出してくる。それを3人に履かせると、ディトリッヒは水路の様子を見に行った。
水が多すぎても駄目であり、少なすぎても駄目なのだ。日々の管理が大切なのは、農業でも同じという事なのだろう。

「っと…凄い、足が取られるね…。」

田んぼに入り歩こうとするメビウスだが…足が取られて中々歩けない。足…と言うよりは長靴が取られ、歩こうとすると長靴が脱げそうになる。
田んぼに入った事のある子供なら、何度か経験した事はあるのではないだろうか。水を含んだ田の土は、粘り気が強く重い。
子供の力だとはまったら、抜け出せなくなるほどだ。現にメビウスも力いっぱい歩かないと、前に進めない。
まぁ…初めての田の中に入るのだから、表情は結構楽しそうだ。こうして、何事も経験する事が一番だろう。

「田植えとか…やってみたかったけど、終わっちゃってるんだ。…なら、稲刈りの時に来て見ようかな。」

夕焼け空の下、メビウスは気持ちよさそうに周囲を眺める。水の張ってある田んぼと…のどかな風景。
海鳴の景色も大好きだが…ここの景色も好きになりそうだ。なにより…空が本当に澄み切って、綺麗なのだ。ソラノカケラが反応しているのか…表情が生き生きとしている。
心地よい風に、彼の綺麗な蒼髪が揺れる。何時までも眺めていたい光景だが…そんなメビウスの耳に届く悲鳴。

「お、お兄ちゃん、助けて…!!」
「フェイト?…大丈夫…じゃ、なさそうだね。」

呼ばれて後ろを振り向くと、物の見事に泥に足を取られ、動けなくなったフェイトが必死に手を伸ばしていた。
苦笑しながら、メビウスが近くまで行くと、必死で抱きついてくる。そうとう焦ったらしく、涙目になっている。

「う…動けなくなっちゃった。」
「みたいだね。私も歩くの大変だから…とりあえず、落ち着いて。」

メビウスは彼女の背中を良し良しと撫でながら、落ち着かせる。それでも、倒れるのが恐いフェイトはヒシッと抱きついて、中々はなれようとしない。
…そんな2人を面白くなさそうにする見つめるレヴィだが…そんな彼女の頭に閃いたと電球がともる。その表情は…悪戯っ子の表情だ。

「きゃ~、お兄~♪。僕も動けなくなっちゃったよ~。」
「レ、レヴィ!?危ない…!?」

レヴィは後ろから思いっきりメビウスに抱きつく、背中に頬をスリスリと寄せるが…勢いがまずかった。軽い女の子とはいえ…2人を支えるのは流石にきつい。
一瞬、踏ん張って体制を保つが…。

「え…お兄ちゃ…ひゃぁぁ!?」
「レヴィ…時と場所を考えてねぇぇぇ!!??」
「あはは、ごめん!!」

3人仲良く、田んぼにダイブをしてしまったようだ…。戻ってきたディトリッヒに驚きと…少しの笑いをプレゼントする事になってしまった。
…最も、帰った後に、サイファー等に心配&爆笑されたのは言うまでも無い。


ディトリッヒの屋敷
浴室、脱衣所

「はふぅ…良いお湯だった。」
「始めての薪風呂は、どうだった?」
「結構、暖かかったよ。けど、お爺さんはなんで薪に拘ってるの?」

長い髪を拭きながら、メビウスは隣で身体を拭いているディトリッヒを見上げる。老いて尚盛んと言う事なのか、鍛えられ引き締まった身体をしている。
何故、薪が良いのか…と聞かれ、少し考えるそぶりを見せる彼だが…直ぐに答えてくれた。

「風情があり…何より薪割りは、体力作りには最適だ。それに古き良き伝統…と言う物だよ。」
「へぇ。けど、私も好きになりそう。なんだか、暖かな気分になるって言うか…。ん~、なんて言うんだろう?」
「はは、分かってもらえて嬉しいよ。」

ポンとメビウスの頭に手を載せて、優しく撫でながら笑みを浮かべるディトリッヒ。孫と一緒に風呂に入る…祖父としては何よりも嬉しい事だったようだ。
その風呂が好きだと言われれば、さらに嬉しくなる。
2人で居間に向かうと、サイファーの膝枕でフェイトとレヴィがスヤスヤと寝息を立てているところだった。どうやら、レヴィははしゃいで、フェイトはその世話で疲れたようだ。
優しげな笑みを浮かべ、2人の頭を撫でて上げるサイファーは、本当に幸せそうだ。
その光景を見たディトリッヒも…本当に嬉しそうに笑う。サイファーの事を色々と心配し、可愛がっていた彼だから、彼女の幸せがとても嬉しいのだろう。

「2人とも、寝ちゃったんだね。」
「そうね~。きっと、疲れちゃったのよ。…ふふ、メビウスちゃんのお布団に運んであげるから、手伝ってね。」
「うん。」

可愛い彼女たちを起こさないように、2人で静かに…ゆっくりと寝室まで連れて行く。居間を出るときに、涼んでいるディトリッヒに軽く会釈をし…2人は出て行った。
残ったら彼は…窓から空の見上げ…ポツリと静かに言葉を零した。

「…グラシア、あの娘は幸せを…手に入れたようだ。ふ…若造…アナトリアの傭兵に感謝せねば…なるまいな。」





管理局本部 会議室。


「失礼します。」
「やぁ、よく来たね。」

呼び出しを受け、イリヤとアーサーは本部にまで足を運んでいた。指定された会議室に向かうと1人の少年--シルヴァリアスが椅子に座り待っていた。


「イリヤ・パステルナークにアーサー・フォルク…だな。」
「あぁ。その通りだ。…噂は色々と聞いてるよ、シルヴァリアス・ゴッデンシュタイナー。」
「はは。そうか。まぁ、僕は有名だから。評議会直属の天才魔導師だからね。」
「……噂どおりか。」

イリヤは嫌味のつもりで言ったのだろうが…シルヴァリアスは褒められたのだと…いや、下手に出たのだと思い喜んでいる。
アーサーは小さく舌打ちをしながら、眉間に皺を寄せていた。
確かに…管理局評議会直属にしてAランク魔導師の彼を天才…と呼ぶ輩も居るが…それはゴッデンシュタイナー家に取り入ろうとしている連中だ。
実際、彼と対面したまともな人物達は、彼を毛嫌いしている。最近は柔和な笑みを浮かべているが…本性を感じ取っててるのだろう。
それに…色々ときな臭い噂も耐えない。

「君達を呼んだ理由は他でもない。実は、僕直属の部隊を作る話が出ていてね。」
「ゴッデンシュタイナー直属のだと…?」
「まぁ、評議会直属部隊と言った所だね。ふふ、選ばれた人間が所属するエリート部隊さ。」

前に映像資料が映し出され、2人は内容に眼を通していく。確かに…所属しているのは、高ランク魔導師ばかりだ。

「それで君達を、僕の部隊に入隊させようかと思って…呼び出したのさ。」
「…俺達はケストレル所属だ。」
「同じく。シュトリゴン隊に所属している身でね。異動なんてする気はないさ。」
「やれやれ…。そんな部隊なんかより、こちらの方が良いと思うけどね。評議会直属なら…権限も給料も倍以上だぞ?僕からも特別手当を出す。」

呆れたようにしてシルヴァリアスは権力と…金で2人を釣ろうとした。…最も心底呆れているのはイリヤとアーサーである。
まさか…金などで自分達が動くのだと思っているのかと…言いたかったが、それすら言う気が起きない。一刻も早くシルヴァリアスを視界から外したかった。

「話にならんな。…俺は帰らせてもらうぞ。」
「俺もそうさせてもらうさ。……お前とは、馬が合いそうに無い。」

アーサーが出て行くのに続き、イリヤも肩を竦めて退室していく。その後姿を眺めながらシルヴァリアスは不快そうに舌打ちをし、別のモニターを開く。

「…まぁ、良い。奴ら程度の魔導師なら、別部隊から引き抜けば良い。…それに、数年後にはなのはが…僕の隣に居るはずだ。」

アースラのデータベースから、抜き出したなのはのデータを嘗めるように見る姿は…異常だ。
原作を知っている彼は…なのはが教導隊に配属される前に、引き抜こうとしているのだ。…その時はありとあらゆる手を使うのだろう。

「僕だけの部隊…か。くくく…邪魔な奴らを排除するには…最適だな。」
≪…隊長。連中はどうでした?≫
「…ハミルトンか。お前の言う通り、断ったよ。まぁ…何れは後悔するさ。」

通信モニターが開き、生真面目な表情の少年--ハミルトンが映し出される。彼も評議会直属魔導師であり、シルヴァリアスの片腕となっている。

「それより、根回しはすんでるんだろうな?」
≪ご心配なく。着々と部隊員は揃っています。≫
「そうか。…評議会の魔導師…【ウィザード隊】完成まであと少しだ…!!」


本部廊下

「…反吐が出るな。」
「まったくだ。管理局も地に落ちたかもな。あんな奴が部隊長なんて…。」

そう言って、大げさに天を仰ぐイリヤと、未だに眉間に皺を寄せているアーサー。どうやら、この2人もシルヴァリアスを嫌いになったようだ。

「あんな奴に部隊を任せたら、どうなる事やら。」
「まともな事には、ならんだろう。」
「違いない…。」

ため息を零すアーサーを見て、イリヤは苦笑する。…このクールな彼がここまで嫌い、疲れる人物も珍しい。
そのまま無言で歩く2人だが…アーサーはポツリと言葉を零す。

「…メビウスの提案…。乗ってみる価値はあるか。」
「あぁ…。彼の提案か。…確かに、うまく行けば…ハーリング提督やアンダーセン艦長の目指す管理局が、出来るかもしれないな。」

以前、入院中のメビウスが、2人にある事を提案をしていた。新部隊を作る…と言う話だったが…あまりにも夢物語のような部隊。
だが…不思議と2人は、その話に興味があった。もし…メビウスの言う様な部隊が作れれば…管理局は変われる。

「……Independent Speed Assault Forceか。」
「独立速度強襲部隊。名前は物騒だが何処にも属さず、全てに属する独立部隊。確かに…シュトリゴン隊以上の存在にはなれそうだ。」
「頭だけを取ると…【ISAF】か。」






あとがき

いや~、翻訳って便利ですね。
本当はまだ後に出したかったネタなんですが…ACEネタを入れないと駄目かな…と思い書きました。
詳しい部隊内容に関しては、また後で書こうかと思います。
そして汁さんは…超絶特大な死亡フラグを立てたようです。
では、また今度~。




[21516] 空白期 6話 ランスロット家旅行記&烈火と聖女
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/08/18 22:46
時刻、早朝。
ズィルバー牧場付近、小高い丘。

「はぁ!!」

メビウスの幼くも力強い声。ファイアのセイバーの一閃で、白い幻影が両断される。時刻は早朝だと言うのに、何故彼はここに居るのだろうか。
よく見ると彼の周囲には、白い靄のような幻影が数体存在している。その幻影を相手に、メビウスは模擬戦を行っていたのだ。
幻影が振り下ろす剣を、エクスで弾き上げ、セイバーモードのファイアを突き刺し、押し倒す。そうすると幻影は静かに掻き消えて行った。

≪メビウス。これで10体目です。少しペースを下げた方が、良いと思います。≫
「ううん、大丈夫だよ、タングラム。残り5体位なら、なんとかなるよ。」
≪そうですか。けど、あまり無理はしないでくださいね。貴方が怪我するのは、悲しいですから。≫
「あは、ありがとう。」

耳に届く優しげなタングラムの声。この幻影はタングラムが訓練用に生み出した存在であり、靄のようではあるが攻撃を受ければダメージを貰う。
逆に攻撃すれば、撃破も出来るのだ。メビウスの希望で彼女の力を借りて、訓練していたのだろう。
何故、フェイト達が眠っている早朝から、彼は訓練などをしているのだろうか?
…話は変わるがメビウス・ランスロット。彼は紛れも無い天才である。優れた戦闘能力も持ち、思考も柔軟。
ソラノカケラと言うレアスキルを所持し、ヤガランデと言う強大な幻獣さえ扱える。そして、あの伝説スカーフェイス、鬼神サイファーの血をひいているのだ。
そんな彼に訓練など不要ではないか?…それこそ、メビウスの言わせれば「ありえない。」ことなのだ。
才能の上に胡坐を掻くだけならば、誰にでも出来る。仮に全てが完成された天才は、それでも良いだろう。成長する余地が無いのだから。
だが、メビウスはまだ成長できる天才なのだ。努力に勝る物は無し、成長の出来る天才が努力すれば…努力し、成長できる天才が居たならば、どんな可能性もあるのではないか?
いや、忘れていた。メビウスは天才、と呼ばれる事が好きではなかった。…確かに、彼は何でも出来る。だが、裏を返せば、なんにも出来ないのだ。
思考速度や知識は閃には負ける。接近戦、格闘戦はオメガには勝てない。ブレイズのように簡単にワームホール等作れるわけが無い。
…唯一、勝てると言えば速度だろうが…それもアーサーには通用しなかった。
周りにこの様な…一点突破の天才達が居る中で、自分だけ努力を怠れるか?…出来るわけが無い。
メビウスだって、男の子なのである。負けたら悔しいし、勝ちたいと思うのは当然だ。
…まぁ、結局、何が言いたいのかと言うと…彼は頑張り屋で努力家…と言う事なのだ。
全てに秀でれる可能性があるからこそ、彼は何時までも学び続ける。更に…更に高い場所へ…高い空に行く為に。

「これで…ラスト!!」

背中にある光の翼で、最後の幻影を切り裂き、メビウスは一息つく。
この翼が便利なもので、最大速度を引き上げれるし、攻撃、防御にも転用できるのだ。余剰魔力で作られているので、彼自身の魔力は殆ど消費しない。
最も、彼が規格外のソラノカケラを持っているからこそ出来るものであり、通常時には展開はしないだろう。ある意味で彼の切り札の1つなのだ。
エクスとファイアを地面に突き立てると、メビウスは大の字に仰向けに寝転がる。額に汗を掻いているが、丘を駆け抜ける風が気持ちいい。
見上げる空は雲ひとつ無い晴天。

「今日も良い天気になりそうだ。…はぁ~…疲れたけど、凄く気持ちが良い。」
「1人で特訓かい?」

頭の上から聞こえてくる声と、人影。

「おじいさん…。おはよう。まさか…見てた?」
「あぁ、おはよう。牛舎の様子を見に行ったら、空にメビウスが居たんでね。少し見させてもらったよ。」

寝転がるメビウスの隣に座り、ディトリッヒは突き立ててあるエクス達に視線を向ける。

「これが君の剣達か。…うむ、よく整備されているし、信頼しているようだな。」
「分かるんだ?」
「あぁ。…メビウス、君は素晴らしい才能を秘めているだろう。」

起き上がったメビウスの頭を撫で、ディトリッヒは優しげに彼を見つめる。その眼は吸い込まれそうなほど、透き通っている。
その眼にメビウスは見覚えがあった。ヴァイチェクとまったく同じ眼…空の男の眼だ。

「だが、君の飛び方はまだ未完成だな。」
「未完成?…どこか、変なところとかあったのかな?」
「ふふ。それは私には分からないよ。…君が見つけるべきことだ。ただ…感覚的に未完成だと、感じ取ったのだ。」

未完成…それはつまり、まだメビウスは成長が出来ると言うこと。本当は喜ぶべきところなのだろうが…やはり、すっきりしない。
だが、何処が未完成なのかは自分で見つけなければ、更なる成長は出来ないと、メビウスも理解はしている。

「…良いかい、メビウス。…戦場では大切な事がある。」
「大切な事?」
「そうだ。それは、憎しみを持たぬ事、生き残る事、そして…自分の決めたルールを守り抜くことだ。」
「自分のルール…まだ、私には分からないけど…なんとなく、おじいさんの言いたい事…分かる気がする。あは、なんだか変だけど。」
「まだそれで良い。君…いや、君達はこれから成長していく。だが、覚えておいて欲しい。憎しみは…更なる憎しみを呼ぶ。
そして犬死する者も出てくるのだ。…この空には…憎しみなど必要ないのだ。」
「…そうだよね。私もそう思う。…あはは、私も空が好きだけど、おじいさんも空が好きなんだね。」
「あぁ、そうだよ。…私も大好きだ。だからこそ…綺麗でいて欲しい。」

笑いながら、頬をかくメビウスを見て、ディトリッヒは満足したように頷く。
時代は受け継がれていくのだと…。これからは新しい彼等の時代だ。最早、己のような老兵は、出る幕はないだろう。

「…私はここで眺めていよう。メビウス、君達の姿を…。だが、もし何かあったら、相談しなさい。私は君達のおじいさんなのだから。」
「うん、ありがとう。…やっぱり、おじいさんは優しいね。」

新しい世代に託した老兵の想い…老兵の意思。言葉にしなくても…この少年には伝わったのだろう。
彼らは空に生きた…空の少年。少年は老兵となり…新たなる少年に時代を託す。
きっと…受け継がれていく物語…そして、想いなのだろう。




ベルカ自治領、ティンズマルク郊外。

「あそこだ。」
「あの教会がか?聖女と呼ばれるからには、大聖堂に居るのではないのか?」

ブレイズの指差したのは、小高い丘の上に立つ小さな教会。聖女と呼ばれる重要人物ならば、大聖堂に居るのだろうと、シグナムは思っていた。

「アストラエア様は身寄りの無い子供達の為に、孤児院もしている。教会兼孤児院…と言ったところだな。」
「…なるほど。…向こうにあるのは…墓地か?」

周りを見渡すと、別な丘に白い十字架が立てられているところがあった。遠目からでも色とりどりの花が添えられているのが見える。
その方向を向いて、ブレイズは少しだけだが、悲しそうな表情を浮かべるのを、シグナムは見逃さなかった。

「トリスタンの知り合いが、眠っているのか?」
「ん…あぁ。俺の両親だ。」
「……すまない。悪気はなかったのだが…。」
「良いさ。何年も前の話だ。…時間もあるから、寄って行って良いか?」
「構わない。」

5分ほど歩けば、添えられている花の香りが風に乗り、届いてくる。質素な門をくぐり、奥まで良くと、白い十字架が2本立っている墓がある。
ここがブレイズの両親が眠っている場所。管理局局員として、ベルカ戦争に参加し、勇敢に戦い…戦死したのだ。

「…父さん、母さん。花とかもって来れなくて…ごめん。俺は元気でやってるよ。」

両親の墓石に手を当てて、近況を少し話し始める。仕事の事、クロノやメビウス達の事。
何時もと違い、何処か子供っぽい口調のブレイズにシグナムは驚いた。
今まで、年齢以上に大人びている彼だが…思えばまだ14歳。…まだ子供なのだった。知らず知らずにシグナムは彼の隣に歩み寄ると、静かに墓石に手を合わせる。

「…シグナム?」
「私にも祈らせてくれ…トリスタン。」
「…そうか、ありがとう。きっと、父さん達も喜んでくれる。」

一瞬、呆気に取られたブレイズだが、直ぐに小さく笑みを浮かべ、自分も彼女の隣で手を合わせ、眼を閉じる。
分からないが、シグナムに祈られるのは、満更でもない気がするのだ。…まぁ、自分の気持ちとか彼女の気持ちとか…まだ理解はしてないのだろう。
祈りを終え、閉じていた眼を開けると同時に、後ろで誰かの足音が聞こえてきた。徐に振り返ると、1組の男女が立っていた。
女性は白い修道女服を纏い、手には花束を持っている。その後ろに控える白い制服の男性。一瞬、その男性を見てシグナムが身構える。
男性からは、紛れも無い強者の雰囲気が漂っている。そのシグナムの行動を見て、小さく笑いながら、ブレイズは一礼をした。

「お久しぶりです、アストラエア様。」
「えぇ。お久しぶりですね、ブレイズさん。ご両親のお墓参りですか?」
「すいません。予定の時刻まで余裕がありましたので…。」
「ふふ、構いません。…私も貴方のご両親に、花を供えに来たのですから。」

そう言うと女性--アストラエアは優しげな微笑を浮かべ、花束を墓石の前に備え、静かに祈りを捧げる。
祈り終わると、アストラエアはシグナムに向き直り、手を差し出す。それを見て、シグナムも直ぐに手を差し出し、握手を交わす。

「始めまして、烈火の将、八神シグナムさん。アストラエアと言います。歓迎しますわ。」
「こちらこそ。我々の後見人になっていただき…感謝します。」
「ふふ、貴女達の事はハーリング提督やブレイズさんから、色々とお聞きしています。これからの事について、お話しましょう。
…本当ははやてさんにもお会いしたかったのですが、まだ大変のようですからね。」
「一応、私が代理という事に。主が、本当にありがとうございます…と伝えてくれと、頼まれています。後に機会に改めて、挨拶を。」
「そうですか、楽しみにしていますね。」

クスリと笑みを零すアストラエアに、シグナムも優しげな笑みを浮かべる。聖女と呼ばれているだけあり、人をここまで信用させ、安心させる不思議な雰囲気を持っている。
そして、さり気なく後ろの男性を観察しているのに気がついてか、アストラエアも後ろの男性に声をかける。

「彼は私の護衛騎士なんですよ。ここまでだから、着いて来なくても良いと言ったのですが…。」
「御身の護衛が、我が任務です。…白虹騎士団所属、ガル・ヴィンランド。以後、お見知りおきを。」
「あぁ、よろしく。」
「ふふ、では、教会に行きましょう。お部屋も用意してますから。」

アストラエアとは対照的に仏頂面のガル。だが、彼女が大切な存在である…と言う気持ちは分かる。
そんなガルを信用しているからこそ、アストラエアは彼1人だけを護衛としているのだ。
短い挨拶を終え、ブレイズ達はアストラエアとガルの後について、墓地を後にする。

「……トリスタン。」
「なんだ?」
「…彼と戦ってみたい。」
「なにぃ…!?突然、小声で何を言うかと思えば…。」

いきなり、戦ってみたいなどと言われ、微妙な表情でシグナムを見るが、当の本人は大真面目のようだ。

「彼は、紛れも無い騎士だ。強者と戦ってみたいと思うのは、当然の事だろう。」
「まぁ、ガルさんは強いが……。一応、話をしてみるが、どうなってもしらんぞ?」
「あぁ、感謝する。」

騎士の性と言うか…強者と戦ってみたいと言うか…。更なる高みに行こうとするシグナムらしいと、ブレイズは納得する。
…と言うか、無理やり納得する。まさか、戦闘狂等とは違うと思いたいのだろう。
実際、シグナム自身、見境無くと言う訳は、絶対にない。ただ…己の実力がどれ程の物か…相手がどれ程の物なのか知りたいのだろう。

「だが、トリスタン。その…勘違いしないで欲しい。」
「勘違い?」
「私が一番戦いたいのは…その…トリスタン。お前なのだからな。」

何故か、シグナムは照れたようにして…ホンの少し頬を染める。
…もしかすると、戦うと言う事は…彼女なりの愛情表現なのかもしれない。







海鳴市、翠屋。

「うぅ~…。」
「まったく、さっきから唸ってばかりだな。」
「あはは。メビウス達が旅行に行っちゃってるからね。」

チビチビとオレンジジュースを飲みながら、う~う~唸っているなのは。
そんな彼女を見て、ユーノとクロノは苦笑いしながら、紅茶とケーキを楽しんでいた。
クロノは久々の休暇で、ユーノは発掘作業が1段楽したので、こうして遊びに来ていたのだ。

「これじゃまるで、僕達が歓迎されてないみたいだな。」
「そ、そんな事ないよ、クロノ君!!来てくれて、嬉しいよ!」
「冗談だよ。しかし、相変わらず、君はメビウスにべったりか。」
「レヴィが着てから、尚更みたいだよ。閃の所も似たようなものだったけど。」

ユーノは、ここに来る前にリフォー社の施設によって閃達の様子を見てきたようだが、リリンやシュテルに振り回されていたようだ。
それを想像してか、クロノも笑いながら、翠屋オリジナルブレンドのコーヒーを楽しむ。
なのは経由で桃子から送られて以来、クロノだけでなく、リンディやエイミィもお気に入りのコーヒーだ。

「だってだって、フェイトちゃん達はメビウス君と同じお家に、住んでるんだよ?一日中、ぎゅぅ~ってしてもらったり、撫で撫でしてもらえるんだよ?
私だって、やってもらいたいもん!!…今も旅行先で2人でメビウス君にくっついて……ズルイずるいずるいずるい…。」
「…な、なのは?…ねぇ、クロノ、メビウスが帰ってきたら…。」
「一悶着あるだろうな。…まぁ、彼ならなんとかできるだろう。」

最後の方は黒いオーラを出しながら、ブツブツと呟くなのはを見て、引きつった表情を浮かべるユーノ。
だが、対照的にクロノは何処吹く風である。…どうやら、耐性がついてきたようだ。
その時、誰かが店内に入ってきたのか、ドアベルが軽やかな音を立てる。

「ん、誰か着たみたい…って、なのは!?」
「おかえりなさい、メビウス君!!」

突然、なのはが笑顔で入店してきた人物の抱きつく。その速さには流石のクロノも驚いていた。
隣でユーノが「匂いで感知してるんだ…」と言っているが…実際、その通りなのかもしれない。
そのまま、抱きついて頬をスリスリしていたなのはだが…ホンの少し、違和感を覚える。
何時もなら、笑顔で「危ないよ、なのちゃん」と言いながら、頭を撫でたり、優しく抱きしめてくれるのに…今日はしてくれない。
それになんだか、何時ものメビウスの匂いと少し違うのだ。
頭に?マークを浮かべながら、顔を上げるなのはだが…。

「…人違いじゃね?」
「ほえ?…あ、え?…メビウス君じゃ…ない?」
「確実に100%絶対に、俺はメビウス君じゃないと思うな。」

そこに居たのは、帽子を目深に被った少年。頬をポリポリとかきながら、困ったようにする少年を見て、なのはは慌てて身体を離し頭を下げる。

「ごごごごめんなさい!!ま、間違えました!!」
「間違え乙。…ま、気にしなさんな。」
「あら、いらっしゃい、お客さん。…家のなのはが何かしました?」
「何でもないです。ま、人間誰しも以下略で。」
「お、お母さん、気にしなくても大丈夫だよ!!」

顔を真っ赤にして謝るなのはに、気にしてないと告げる少年。そして、なにやら騒がしいと、奥から出てきた桃子に適当にはぐらかす少年となのは。
そのまま少年は、ケースの中に入っているケーキ等に眼を向ける。どうやら、買いに来たようだ。

「ん~…ショコラケーキ5個と、イチゴケーキ5個。…あとはガトーショコラを10個で。シュークリーム20個で。」
「はい、沢山、買うのね。少し待っててね、シュークリームは今、作ってたところだから。」
「あいさ。…と言うか、この注文に答えれる翠屋パネェ。」
「ふふ、褒めてもらえて嬉しいわ。待ってる間、そこに座っていてね。なのは、お客さんに飲み物出してあげてね。」
「あ、うん。えっと、何を飲みますか?」
「オリンポス火山の天然水で。もしくは、リッチランド産青葉青汁で。」
「そ…そんなのないよぅ…。」
「冗談だ。…ま、コーヒーでよろしく。」

涙目になるなのはを、軽く流しながら運ばれてきたコーヒーを受け取る少年。
なのはも、クロノ達の居る場所に戻ると、なんと無しに少年を見つめる。

「まさか、なのはがメビウスと間違えるなんてな。」
「うぅ…私だってびっくりだよぉ。けど、匂いとか…雰囲気とか似てたんだもん。」
「あ…やっぱり、匂いで感知してたんだ…。」

未だに間違ったのが恥かしいらしく、ツインテールが元気なく垂れ下がっている。
クロノとユーノも、少年の方を見るが、当の本人の少年は気にした風も無く、徐に懐から何かのケースを取り出し、蓋を開ける。
どうやら、角砂糖が入っているようだ。そのまま、コーヒーに角砂糖をドババっと10個程…

「って、待て待て!!入れすぎにも程があるだろう!!」
「そ…そんなコーヒーで大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ない。…あとはガムシロップを20個位だな。」
「やめろ!!身体に悪すぎる!!家の母さんだって、そこまでは…しなくもないが…とりあえず、やめろ!!」

クロノが少年を慌てて制止し、それ以上の角砂糖やガムシロップの投入を防ぐ。
…身近に大の甘党が居るから、こういう事には敏感のようだ。

「ちっ…仕方が無い。ガムシロップ直飲みでも良いか。」
「だから、それもやめろ!!」


5分ほど、そんな事をしていると、奥から桃子がケースに入れた注文の品を持ってきて、少年のテーブルに置く。
少年もコーヒーを飲み干すと、財布からお金を取り出し、料金を支払う。

「はい。これで全部ね。」
「お手数かけます。…これで、足ります?」
「えぇ。丁度よ。」
「そんじゃ、俺はここで。…コーヒー美味しかったです、ご馳走様でした。」
「またのご来店をお待ちしてます。」

桃子に頭を下げると、少年は軽く頭を下げて、店から出て行こうとするが…入り口で立ち止まると、なのは達の方を見て、少し意地悪な笑みを浮かべる。

「それじゃな、クロノにユーノ。そして、なのは。」
「あ、うん。またね。」
「それじゃ。甘いのは控えたほうが良いよ。」
「君は取りすぎだ。ユーノの言う通り、控えたほうが良い。」

3人に挨拶をして、そのまま少年は店から出て行く。なのはもコーヒーカップを片付ける為に、奥に引っ込んでいった。
だが…クロノは少し違和感を感じ取った。
奇妙な違和感…その感じの正体に気がつき、クロノはユーノに視線を送る。

「そう言えば…僕達は彼に…名乗ったか?」
「…あれ、名乗ってないよ…ね?」

2人は勢い良く立ち上がり、先ほどの少年を後を追うようにして店から飛び出る。
すると、少し離れた場所で少年は、被っていた帽子を取り…2人の方を振り向く。
その顔は…メビウスと瓜二つ。違う所と言えば、髪の色と目の色程度だろう。

「君は…まさか、夜天の騎士皇…!!」
「へぇ、やっぱし聞いてたか。まぁ、その通りだな。んじゃな、帰ってケーキ食べたいんで…。」
「ま…待て!!」

クロノが走り出す前に、少年--ナイツを包むようにして、突風が吹き荒れる。
その突風が収まる頃には…ナイツの姿は何処にも無かった。












あとがき

いやはや…更新が物凄く開いて申し訳ないです。
案の定、ゲームにはまってました。デモンズソウル楽しすぎる…。
何処かにレガリア持ちのキャラが居たら作者かもしれませんので~。
ちなみに、名前はACE関係になってます。笑




[21516] 空白期 7話 新たなる剣を求めて&ランスロット家ベルカ旅行記
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/10/01 18:33
管理局本局
提督、ビンセント・ハーリングの部屋。

「…以上がメビウス・ランスロットの、提案している部隊案です。」
「ふむ、なるほど。…これは、彼からの依頼かな?」
「いいえ、作れたら…と、言う段階であり、提督にお伝えしたのは僕の独断です。」

大き目の机に広げられた資料を見て、ハーリングはなにやら考え事をしている。クロノはクロノで直立不動のまま、生真面目な表情を崩さない。
この少年はとても有能だ。なにより、ハーリングの為に、母親であるリンディと共に行動を起こしてくれる。
彼達だけでなく、多くの局員はハーリングを信頼し、信用し…忠誠を誓っている。だが、クロノ達に言わせれば、ハーリングには、それだけのモノがあるのだ。
誰よりも平和を愛し、人を愛している彼だからこそ…クロノ達は全てを賭ける事が出来る。

「そうか。…確かに、この部隊が作れれば、今まで以上に犯罪の検挙率、テロ行為への対応力は上がるだろうね。」
「はい。ですが…対テロ行為は表向きの役割でしかありません。」
「本当の目的は…対ダイモンと、ベルカの亡霊達と言う訳か。」
「えぇ。以前にお話したノヴァ・カプチェンコ。彼が言うには、ベルカには多くの亡霊が潜んでいるそうです。勿論ここ、ミッドチルダにも。」
「やはりね…。未だにベルカとも確執は残っている。…灰色の男達…か。それに、闇の書に潜んでいたダイモン。この両者が繋がっていたと言う事も…。」
「充分、考えられます。ですが、対処するには今の管理局では力不足です。なにより…連携が取れていません。」
「それが頭の痛い所だね。ヴォイチェクも良くやってくれているが…たった1部隊であり、ケストレルが出航してるときは、協力が出来ない。」

ベルカの亡霊達。今尚、ベルカ公国再建とミッド、管理局への復讐を企んでいる人間も多数居るのだ。それこそ、ベルカ内だけでなく、ミッドにも潜伏しているだろう。
その中で最大の存在が、灰色の男達…と呼ばれる存在だ。ベルカを支えた大企業の幹部から、軍部の将校。多くの有力者が灰色の男達であった可能性がある。
実際、その存在を感知し、調査しているのはハーリング派の局員達だけだ。管理局、特に上層部は「そんな物は最初から存在しない」とまで決め付けていた。
故に調査は思うように進んでいないのだ。唯一、例外と言えば地上部隊の責任者、レジアス中将がハーリングの考えに賛同してる所か。
堅物等と評されるほどレジアスは、本局の地上の介入を嫌っている。それは、本局が地上を軽んじてみているからだ。
事実、優秀な魔導師は海、空に優先的に配属され、人材不足の管理局内でも地上の深刻なのだ。
その中で、ハーリングの提案した【シュトリゴン隊】この部隊のおかげで、地上の人手不足は幾分かは楽になっている。
その借りを返している…と言えば、そうなるのだろう。

「陸海空、どの部隊の干渉も受けぬように独立とし、全てのテロ行為に介入を可能とする。これだけでも、各部署の反感は多いだろう。」
「ご尤もです。なおかつ、都市部での自由飛行、魔導師のリミッター制限解除等等…。反対される要素は目白押しです。」

2人して小さく苦笑を零す。干渉を受けぬ独立部隊と言うだけでも、各部署と衝突しそうなのに…リミッター解除まであるのだ。
こんな部隊を作るなど、到底不可能。そう…不可能な筈なのだが…。

「それでも、クロノ君。君はこの部隊を作る気かい?」
「はい。荒唐無稽…無茶苦茶な提案ではありますが…メビウス、彼には…いや、彼等にはそれを成す事が出来ます。むしろ、逆にこの評価を覆せるでしょう。」
「……ふふ、君も随分と、彼の肩を持つんだね。」
「彼等は、常に行動で示してくれました。PT事件も闇の書も…。彼等にならば…この管理局に変革を、新たなる体制を築けると思っています。」
「こらこら、クロノ君。滅多な事を言うものではない。新たなる体制と…。」
「ハーリング提督、貴方には鋭い剣が必要です。…彼らは貴方の剣と、切り札になるでしょう。」

クロノは真っ直ぐな目でハーリングを見つめる。クロノ自身、ハーリングには返しても返しきれない恩がある。
ベルカ戦争で父が戦死したときも…戦地から彼の遺品を送ってくれた。その後の生活の面倒等、色々と見てくれた。
もしかすると、彼はハーリングの事を父親と思っているのかもしれない。
だからこそ…ビンセント・ハーリング。彼には管理局を導いて欲しい。彼ならば…本当の平和へと…導けるのだから。

クロノが退出した後…ハーリングは椅子に深く腰掛け、引き出しの中から1枚の写真を取り出した。
そこにはスカーフェイスを初めとしたレイヴンズ・ネストの面々が、そして良く見ると、若かりしハーリングやヴォイチェク、バートレットにランパート達も写っている。
中心ではサイファーが笑顔で、スカーフェイスとラリーの腕を抱きしめている。…この頃の彼らは本当に仲が良かった。いや…今もそうなのだろう。
スカーフェイスとラリー、傭兵同士でライバルであり…親友のようになっていた。
写る彼らはみな…友であった。空を飛び…夢を語り合い、平和を願った。戦争を生業とする傭兵でありながら、ネストは誰よりも平和を望んでいた。
平和な空を飛びたいんだ。多くの傭兵達が望み、語った小さな夢。
ハーリングは優しげな笑みを浮かべ…天井を見上げる。

「全てに属さぬ自由の部隊…いや、鳥達か。ふふ、流石は鴉の子供だ。何者にも縛られぬ自由の存在だな。」




本部、廊下。

ハーリングとの会談を終え、クロノは廊下を歩いていた。
すれ違う局員達が軽く会釈してきたのを返しながら、前方から歩いてきた2人の人間に目が留まる。

「おやおや…クロノじゃないか。元気そうだなぁ。」
「…ゴッデンシュタイナー。僕に何か様か?」

態々、クロノの前を塞ぐ様にして、仰々しく手を広げる少年--シルヴァリアス。管理局の制服を纏い、ウィザードの部隊章をつけている。
クロノも噂では聞いていたが、彼が部隊を持ったと言う事は本当だったようだ。

だが、その後ろの人物を見て、クロノは表情を強張らせる。

「ハミルトン!?…そうか、君もウィザード隊に入っていたのか。」
「ハラオウンか。久しぶりだな。」

軽く笑顔を作るハミルトンに驚くクロノ。…ブレイズ達と同様に、クロノも嫌われていると思っていたのだが…何かの心境の変化だろうか?

「くく…ハミルトン、随分と驚かれているなぁ。」
「仕方がない事だ。以前は突き放す言い様だったからな。ハラオウン、以前の無礼は詫びる。色々とすまなかった。」
「い…いや、気にしないでくれ。…それより、君達は何故ここに…。」
「僕達は評議会直属のウィザード隊だよ?…本局に居て何が悪い?」
「…ここ一帯は提督階級のエリアだ。そこに何故居るのか…と聞いているんだ。」
「はは、簡単な事だ。僕は部隊長だけど…提督クラスの権限を与えられているんでね。まぁ、エリートの僕には当然さ。はははは!!!」
「…まったく、こんな所で高笑いをするな。まだやるべき事は残っている。…では、失礼するよ、ハラオウン。」
「まぁ、精々、コソコソと動き回るんだね。…君達の部隊なぞ、絶対に作らせないよ。」
「っ!貴様…!!!」
「君達と違って、僕は未来が見えるんでね。そこに君達の居場所は…ないかもね?はははは!!!」

擦れ違い様に、自分達が何をしているのか…それに気が付き、妨害するようなシルヴァリアスの言葉に怒りを覚え、後姿をにらみつける。
爪が食い込むほどに強く拳を握り…改めてクロノは感じた。
シルヴァリアスのウィザード隊。黒い噂も絶えぬ部隊だからこそ…彼等の好きにはさせれない。
ハーリングに鋭い剣を…切り札を。メビウスの部隊を絶対に作るのだと…心に決めた。

「僕達の居場所がない?…ふっ、だったら作れば良いだけの話だ。…貴様の好きにはさせないぞ、シルヴァリアス・ゴッデンシュタイナー…!!」







フレッシュリフォー社、開発部


「しゅに~ん。チェックお願いしま~す。」
「はいは~い。…あ~、ここはBにしたら?」
「やっぱり、そうですか。んじゃ、回路変更で?」
「その方が安定するでしょ。」

研究員が持ってきた資料に眼を通して、軽く変更点を伝えるノヴァ。
赤ペンでチェックをつけて研究員に渡し部屋から出て行かせて、椅子に深く腰掛ける。やはり、古くなったからかギシッ…と不穏な音を立てたが…。

「あぁ~…癒されたい…。」

溜まった仕事を片付けているが…何分、量が多く中々終わらない。頼りの閃はリリンとシュテルに振り回されて忙しいようだ。
まぁ…仕事をサボって、シャマルとデートしていたノヴァが悪いのだが…如何せん…。

「シャマルさん成分が足りないぃぃぃ…。」

変態である。机に突っ伏してもだえる姿は…変態そのものだ。他の研究員たちも、大概は変態だが…その中でもノヴァは一押しだ。
…決してフレッシュリフォーの研究員、科学者全員がと言うわけではない。ノヴァ率いる開発部のメンバーが変態なのだ。
ノヴァが突っ伏してグダっていると、誰かが部屋のドアをノックした音が響いた。

「あいてますよ~。」
「し…失礼します。…あの、ノヴァさん、こんにちわ。」
「………え゛?」

聞きたいと思っていた声が聞こえ…ノヴァが顔を上げると、入り口に笑顔のシャマルが立っていた。少し頬が赤いところがまた、初々しい。
一瞬、動きが止まったノヴァだが…シャマルの姿を見て、再起動を始める。

「嘘っ!?何故に、シャマルさんが!?え、夢?……夢なら何してもOKだよね、大丈夫だ、問題ないモーマンタイだよね…。」
「ゆ…夢でもないですし、服を脱ごうとしないで下さいぃぃぃ!!!」

バシーン!!と子気味良い音を立てて、服を脱ごうとしているノヴァの顔面に、一撃必殺と書かれたハリセンがめり込む。
肩で息しながら、正眼で構えたシャマルだが…どこから出したのだろうか…?

「おぉ~。奥様ハリセンが光ったようですな。」
「作っといて良かったな。」

隣の部屋で様子を伺っていた研究者数名が、満足したように頷いている所を見ると…彼らが作ったのだろう。

「いてて…それで、シャマルさん。なんでここに?」
「閃君から、ノヴァさんが私に会いたいって、暴走してるから止めてくれって言われたんですよ。」
「…閃君GJ!!後で缶コーヒー奢るよ!!」
「…ん~、ノヴァさん。少し良いですか?」

喜んでいるノヴァに近づくと、シャマルは徐に顔色を観察する。数秒ほど観察すると、腰に手を当てて、シャマルはため息を零した。

「ノヴァさん。少しお疲れじゃないですか?」
「え?そうでもないですよ。ただ、3日間ほど徹夜してるだけですが。」
「はぁ…それはお疲れを通り越してますよぉ。…ちゃんと寝てくださいよ。」
「いやはや…仕事が山積みでしてね~。ほら、闇の書の消失の原因とか、調査しないと。」

メビウスとなのはの合同魔法「ホシノカケラ」の直撃を受けて、闇の書は完全に消滅した…とされては居る。
だが…メビウスの所のレヴィに、閃の所に居るシュテル。そして、なのは達の前に姿を表したナイツの存在。
それが気になり、ノヴァは闇の書の残滓を感知するシステム等の開発に着手していたのだ。
苦笑しながら頭をかくノヴァに、シャマルは先ほどより大きなため息を零した。

「駄目ですよ。睡眠はちゃんととらないと。それに…ノヴァさんが倒れちゃったら、私…凄く心配なんですよ?」
「ズキューン。俺のハートがブレイクだぁぁぁ。けど…まだまだ残してる作業があるんですけどね…。」
「もぉ…。どうしても休まないんですか?」
「ん~…シャマルさんが膝枕してくれれば、休むかも?」

ニヤニヤとするノヴァの発言を聞いて、戸惑ったようにするシャマルだが…少し考えると…徐にソファに座り、膝を軽く叩く。
その顔は真っ赤に染まっている。…本当に初々しい。

「…え、シャマルさん?」
「わ、私の膝でよければ…どうぞ。」
「マジですか。言ってみるモンですねやっほぉい!!」

ハイテンションでシャマルの膝の上に頭を乗せるノヴァ。…自分の診察が間違ってたと思うほどに元気なのだが…。
ノヴァの頭を優しく撫でながら、シャマルはサイドテーブルにペン立てに気が付いた。カッターやら、ホッチキスやらと一緒に耳掻きも入っていた。

「あれ?なんで、ここに耳掻きがあるんですか?」
「あぁ、俺のですねぇ。耳掃除とかに使うんですが…最近はご無沙汰ですなぁ。」

ゴロゴロとシャマルの膝の上で、喉を鳴らすノヴァ。…本当に何者なのだろうか。一瞬、猫の耳と尻尾が生えてた気がするが…シャマルも深く考えない事にした。
彼と一緒に過ごすのなら、この程度では驚いてはいけない。

「へぇ…どれどれ、ノヴァさんのお耳は……凄く汚れてますね…。」
「1ヶ月位はしてないですからねぇ~。…少し聞き取りにくいのなんのって。」
「そうなんですか?…それじゃ、私がしてあげますね。」
「え?良いんですか?」
「はい。お耳だってキチンと掃除したほうが良いですし…ノヴァさんが私の声を聞こえなくなるのも、いやですから。」

優しく笑顔を浮かべると、シャマルは耳掻きでノヴァの耳掃除を始めた。
自分でするのと、人にされるのでは、気持ちよさが格段に違う。なんと表せば良いのだろうか…。
ともかく…ただでさえ、寝不足…そして愛してやまないシャマルの膝の上で耳掃除などされては…ノヴァも睡魔に身を委ねるしかない。

「わ…沢山、取れますよ。…あれ、ノヴァさん?」
「………」
「ふふ、寝ちゃってますね。…おやすみなさい、私の大好きなノヴァさん。」






ベルカ自治領、首都ティンズマルク。

時刻、夕方

メビウス達を連れて、ティンズマルクまで訪れたサイファーとスカーフェイス。
サイファーの手には、何処かの住所が書かれたメモが握られていた。

「ここら辺の筈なのよね~。」
「ねね、母さんはなに探してるの?」
「私達の知り合いのお店を探してるのよ。」

サイファーと一緒にレヴィもメモを覗き込む。確かに道路標識に書かれている住所とほぼ合っている。
キョロキョロと周囲を見渡すと、小さな階段をフェイトが見つけ、スカーフェイスの手を引っ張り、階段を指差す。

「お父さん、あそこのこと?」
「ん?…あぁ、そうみたいだな。サイファー、フェイトが見付だぞ。…ありがとう、フェイト。」
「あ…ふふ、どういたしまして。」

見つけたフェイトの頭をスカーフェイスは優しく撫でて上げる。
メビウスの撫でられるのは勿論だが、スカーフェイスの大きく暖かな手に撫でられるのも、サイファーの優しく撫でられるのも彼女は大好きだ。

「見たところ…酒場でしょうか?」
「あたし達は良いだろうけど、フェイト達も入れていいのかい?」
「大丈夫よ。知り合いのお店だからね~。」

看板を見ながら、未成年…と言うか子供のフェイト達を入れても良いのかと、心配するアルフだが…
ヒラヒラと手を振りながら、サイファーは階段を下りていく。


BAR エスパーダ。

階段を下りた先の扉を開けると…少しレトロな作りの空間が広がっていた。所謂、BARと言う奴だろう。だが、奥にはステージも見える。
店内には2人の男女が、サイファー達を待っていた。
カウンターの奥でコップを拭いている精悍な男性とフラメンコの衣装を着て、カウンター席に座っている長身の女性。

「あら、いらっしゃい。サイファー、スカーフェイス。」
「マルセラ、久しぶり!!」

立ち上がり、微笑みかける女性にサイファーは駆け寄ると、握手を交わす。
スカーフェイスも静かにカウンターに歩み寄り、男性と挨拶を交わしている。

「良い店じゃないか、アルベルト。」
「念願かなって、ようやく開けたよ。…ほぉ、その3人が子供達か?」
「アルベルトも久しぶりね~。そうよ、家の自慢の可愛い可愛い子供たちよ!!みんなに、自慢したくてしたくて連れて来たの!!」
「始めまして、メビウスです。」
「えっと、妹のフェイトです、はじめまして。」
「僕はレヴィ、よっろしく~!!」

3者3様で挨拶するメビウス達に、笑顔を浮かべ、2人も自己紹介をする。

「俺はここのマスター、アルベルト・ロペズだ。BARだから、子供には酒は飲ませれんから、ミルクで我慢してくれ。」
「私は、マルセラ・バスケス。ここでフラメンコのダンサーをやってるわ。よろしくね。」






あとがき


遅くなり申し訳ないです。ダークソウルに(以下略。
更新が遅くなるでしょうが、書き終わるまでは続けていきますので…よろしくお願いします。



[21516] 空白期 8話 ランスロット家ベルカ旅行記&空の騎士達
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/10/13 20:24
ベルカ自治領、首都ティンズマルク。時刻、夜

BAR エスパーダ

「それじゃ、アルベルトさんは、父さん達と戦った事があるんですか?」
「あぁ。一度だけだがな。今でも思い出すよ。あの空気…まるで肌が焼けるような感覚だった。
だが…とても心地よかったよ。あぁ、俺も戦士なのだと、実感した。」
「他には、どんなエースが居たんですか!?」
「そうだな…。ベルカの騎士達は…。」

サイファー達が訪れて、30分ほどが経過しただろうか。メビウスはカウンター席に座り、アルベルトの話に夢中になっていた。
ベルカ戦争で戦った騎士達の話…どんな戦いがあり…どんな人達が空を飛んでいたのか。
なにより、アルベルトもやはり、空の男の眼をしている。それが、メビウスを惹き付けてやまないのだろう。

「彼の事を気に入った見たいね。あんなに話すアルベルトを見たのは、久しぶりよ。」
「ふわぁ…凄く綺麗な刺繍。」
「ほんとほんと!!これ、マルセラが作ったの?」
「レ…レヴィ、失礼だよ…!」
「ふふ、気にしなくてはいいわ。そうよ、私が作ったの。作り方教えてあげましょうか?」
「うん!」

マルセラの方では、フラメンコの衣装についている刺繍を見て、フェイト達が質問などをしていた。
やはり、女の子。こう言う物には、興味があるのだろう。マルセラも満更ではないように、刺繍のやり方を丁寧におしえている。

「ぶ~…とられちゃった。」
「なんで、むくれてんだい…。」

テーブル席で面白くなさそうに、むくれ顔をするサイファーに呆れ顔のアルフ。
持ってきた飲み物を渡して、座りアルフもフェイト達の方に視線を向ける。

「…本当に明るくなったね。」
「そうよね~…。メビウスちゃん達のおかげね。」
「それもあるけど、サイファー、あんなには本当に感謝してるよ。」

以前とは比べ物にならないほど、笑顔を浮かべるようになったフェイト。家庭の温かさのお陰だと…そう思っている。
その温かさを与えてくれたサイファー達には、本当に感謝してもしきれないのだ。

「家族なんだから、助け合うのはあたりまえでしょ~。」
「まったく、本当にあんたは…。」

能天気に笑う彼女は優しく…美しい。もし、神が居るのならば感謝したい。
こんなにも、素敵な家族と出会えた事を…。アルフはそう思わずには居られなかった。

(プレシア、フェイトは幸せにしてるよ。…あんたが出来なかった分まで、サイファー達が幸せにしてくれるさ。)

「どうした、アルフ?」
「…なんでもないよ。って…あんた、それ…。」
「ん?酒場なのだから、酒を飲むのは当然だろう。ベルカのビールは絶品だと評判だ。」
「まったく…飲みすぎてもしらないよ?」
「その時は、頼むぞ。」
「あ~…はいはい。…まぁ、あたしゃ、そんなあんたが…。」

アルフの隣に座りながら、少し上機嫌にジョッキを持ち上げるガルム。何気に、彼も酒豪のようだ。
…まぁ、酒が入ると、少し表情が柔らかくなり、アルフにも更に優しくしてくれるから、問題は無いのだが…。素直に口にはしない彼女である。

「サイファー、あと10分ほどで来るそうだ。」
「そっかぁ。はやくみんなにメビウスちゃん達を紹介したいわね。」

携帯電話をしまいながら、スカーフェイスはサイファーの隣に腰を下ろす。誰かと連絡をとっていたようだ。
うきうきとするサイファーの視線の先には、眼を輝かせてアルベルトの話を聞いている可愛い息子と、マルセラにくっ付いて、刺繍を教わっている愛しい娘達が居る。
どうやら、これから来る知り合いに、自慢をしたくてしょうがないようだ。

「フェイス様。ベルカのビールは、本当に美味しいですね。」
「あぁ、特産だからな。俺は…ウィスキーで良いかな。」
「私はホットラム!!」
「うげぇ…あんた、見かけによらず強いの飲むんだね…。」





時刻は少し遡り…夕方

小さな教会の側、小高い丘の上で対峙するシグナムとガル。
彼女の希望通り、ブレイズがガルやアストラエアに話をし、模擬戦という形で戦う事になったのだ。
シグナムはやる気充分で、目の前のガルを注意深く観察する。まるでイカの頭部のような兜を被り、暗い光沢を放つ銀色の騎士甲冑を見に纏っている。
右手には無骨で巨大な槌と、左手にも暗い銀色の盾を持っている。

≪良いか、シグナム。ガルさんの攻撃だけは、絶対に避けろ。当たれば、速攻で終わりだ。≫
≪む…お前の言葉を疑うわけではないが…そこまでなのか?≫
≪聖女を護衛する騎士であり、彼は白虹騎士団ではトップクラスの魔導師だ。いや…魔導師というより、騎士だな。≫
≪…それほどまでの実力者か。…ふふ、楽しみだ。≫

念話でシグナムに注意を促すブレイズだが…それを聞いて更に楽しみにしているシグナムには、ため息しか出ない。
決して、彼女が弱いと思っては居ないが、目の前の騎士はガル・ヴィンランド。暗銀の騎士と呼ばれ…巨大な槌、ブラムドを軽々と使いこなす人だ。
正直言えば、ブレイズはシグナムの方が心配だ。一応は病み上がりなのだから。

「仕方がないか。シグナム、ガルさん。俺が手を下げたら…開始とします。」
「構わない。…ガル・ヴィンランド、よろしく頼む。」
「烈火の騎士、シグナム…か。お手並み、拝見させていただこう。」

シグナムはレヴァンティンを正眼に構え、ガルはブラムドを無造作に肩に背負う。世界に2人しか存在していないと思うほど、静けさが漂い始める。
ブレイズが静かに手を挙げ…振り下ろす。

「はぁ!!」
「はやい…!」

一足飛びで斬りかかってくるシグナムのスピードに驚いたガルだが…彼の反応速度も速い。振り下ろされるレヴァンティンを盾で防ぎきったのだ。
押し込もうとするシグナムだが…彼が無造作にブラムドを振り上げるのを見て、バックステップでその場を離れる。
刹那…先ほどまで彼女が居た場所にブラムドが振り下ろされ…地面を穿つ。

「………なるほど。トリスタンの言った通り、当たれば終わりだな。」
「避けられるとはな。…だが、そちらの剣も驚異的だ。」

言葉とは裏腹に、シグナムは口元に笑みを浮かべる。やはり、自分の眼は狂っていた無かった。これほどまでに強い騎士が…ベルカには居る。
胸に湧き上がる歓喜は本物。だが…やはり、後ろで見ているブレイズと戦った時ほどではない。それでも…目の前の騎士と戦えるのは彼のお陰。
ならば…目の前の騎士と戦い、更に高みを目指そうではないか。

(ふ…トリスタン、感謝するぞ。…だが、お前で無ければ…満たされぬのかもしれんな。)


やはり、彼女を満たせるのは、ブレイズだけのようだ。



「…っ、なんだか寒気が…。」
「大丈夫ですか、ブレイズさん?」
「え…えぇ、アストラエア様。…すいません、このような無理をいって。」
「ふふ。ガルも楽しんでますから、大丈夫ですよ。」

目の前で交差する剣閃、巻き上がる土煙を眺めながら、アストラエアはブレイズの隣に並ぶ。
優しく…愛しい者を見る眼で、ガルを見つめる彼女は…どこか美しい。

「…ブレイズさんは、シグナムさんの事が好きなんですか?」
「ぶふ…!?と、突然、何を言い出すんですか!!」
「あら、彼女の為にベルカに来て…模擬戦まで話してくれたじゃないですか。」

いきなり、好きだのなんだの言われて、赤面し焦るブレイズとは対象的に朗らかな笑顔を浮かべるアストラエア。
目の前で激戦が繰り広げられているのだが…流石は聖女。大物と言った所なのだろうか…少し間違ってる気もするが。
だが、その顔を見て、からかわれたのだと分かったブレイズは、取り繕うように何時もの真面目な表情を作る。…まだ顔が赤い。

「シグナムは、俺が担当した事件の重要人物です。…それ以下でもそれ以上でもありません。」
「あらあら、ブレイズさんも素直じゃありませんね。…けど、2人なら幸せになれますよ。」
「だから、俺達は違う…!!」

一瞬で真面目な表情を崩して、隣のアストラエアに色々と説明するブレイズだが…こう言う人に色々と誤魔化し等を言うのは逆効果だ。
事実、アストラエアは笑みを崩さずに、はいはい…と言った様子で彼の話を聞いている。恐るべし、聖女である。
そんな事をしていると…甲高い音が周囲に響き渡る。見れば…シグナムの振り下ろしたレヴァンティンを、ガルが盾で弾き上げていた。
体勢を立て直そうとするシグナムだが、それより早くガルのブラムドが唸る。

「しま…がはっ!?」
「シグナム!!…物の見事に決まったな、大丈夫か!!」

胴体にブラムドを叩き込まれ、数メートル程吹き飛び転がるシグナム。そのまま立ち上がらない所を見ると…気絶したのだろう。
一瞬、呆気に取られたブレイズだが、直ぐに彼女の元に走り出す。…どうやら、彼も彼で…思う所があるのだろう。

「ガル、お疲れ様でした。」
「アストラエア様も見ていたのですか。……シグナムでしたか。古き良き騎士の心を、受け継いでいます。」
「えぇ。後見人として名乗りでて、良かったと思います。それに…ブレイズさんとも良いパートナーのようですしね。」

2人の眺める先には…眼を回しているシグナムを助け起こすブレイズの姿があった…。


場所、時間が戻り、エスパーダ。

カランカランと、軽やかな音を立ててドアベルが鳴り響く。

「旅団長ぉぉぉぉ!!!お久ぶりっす!!」
「やれやれ…ポリスも元気そうだな。」

無駄に高いテンションで、スカーフェイスの元に駆け寄る1人の男性。
どうやら、知り合いの1人らしい。そのまま、近くに椅子に座ると頭を下げる。

「元気も元気ですよ。いや~…こうして旅団長に久々に会えるなんて…超幸運っす!!」
「偶然じゃなくて、呼んだんだがな。…っと、サイファー、ポリスが来たぞ。」
「うえ~?…ほりすらないのおお。げんきだったな~?」

名前はポリス・ジェームズ。かつてレイヴンズ・ネストのメンバーだった男性だ。ちなみに愛称はPJである。
隣で突っ伏しているサイファーを起こしたスカーフェイスだが…一瞬で後悔した。明らかに妻は…酔っ払っている。
ホットラムなんて物を飲んだから…かなりやばい。

「うっぷ…ちょ、サイファーさん。すんげえ、酒臭いんですけど…。」
「ひゃにおう!?こんなうらわきゃきおひょめにむらってぇぇぇ…ひっく。」
「…ああもう、サイファー、しっかりしなよ。」
「うぅ~。あるふ~!!」
「あああ、酒臭いから抱きつくな!!」

背中を擦ってあげるアルフに抱きついて頬擦りをし始めるサイファーだが…アルフも元は狼である。鋭い嗅覚は人並み以上に酒臭さを感じてしまうのだ。

「サイファー様、アルフは我のものですので、離れてください。」
「ちょ…ガルム、あんたいきなり…いや、まぁ嬉しいと言えば嬉しいんだけど…。」

ガルムはアルフからサイファーを引っぺがすと、彼女を抱きしめて腕の中に閉まってしまう。…どうやら、彼もかなり酔っ払っているようだ。
まぁ…アルフが物凄く幸せそうにしているから、別に良いだろう。

「あう~、とられひゃったああ。いいもん、フェ~トひゃ~ん、れひ~ひゃ~ん。」
「ひゃぁ!?お、お母さん、びっくりした…。」
「あはは、もうそんなに擦り擦りしたらくすぐったいよぉ。」
「まったく…お酒に弱いのに、強いのを飲むんだから。けど、本当に幸せそうね。」

フェイトとレヴィを両手で抱きしめて、擦り擦りと猫のように顔を擦り付けて幸せそうにふにゃ~と笑うサイファー。
そんな3人を優しく見つめるマルセラ。どうやら…これだけで、本当に幸せな家族なのだと理解できたようだ。

「…本当に酒癖、悪いっすねサイファーさん。」
「もう…慣れた。」

ポリスにビールを注いでいるスカーフェイスが、若干白くなっているが…気のせいだろう。

「あの3人がお子さんっすか。…みんな可愛らしい女の子ですね。」
「…1人、男の子だ。間違われると、ショック受けるから覚えておけ。」
「うそっ!?…え…誰が男の子っすか!?」

無言でスカーフェイスはカウンター椅子で、苦笑いを浮かべサイファー達を見ているメビウスを指差す。手にはアルベルトから渡されたミルクを持っていた。

「…いや、どうみても女の子でしょ。髪長いですし、リボンつけてますし。」
「サイファーの趣味だ。…それ以上いってやるな。」
「はぁぁ…世の中、奇妙なもんすね。」

メビウスを眺めた後、ポリスは徐に懐から写真を取り出し、スカーフェイスに手渡した。
そこには、1人の少年が写っていた。何処と無く、ポリスと似ている。

「お前の子供か?…なんか、似てるな。」
「でしょ!!俺と似てるんすよ~。ちなみに、名前はパトリックっていうすよ!!」
「パトリック・ジェームズ…か。…相変わらずのPJか。」

最後の方は聞こえないように小さく呟く。ポリスはネストでも弄られキャラと言うか…色々とからかわれる事の多かった人物だ。
そんな彼と同じ愛称、PJを持つパトリック。なんとなく…彼も父と同じキャラになるのだろうなと…スカーフェイスは思っていた。
そうこうしていると、1人、また1人とネストのメンバー達がエスパーダに集まってきた。

「団長、お久しぶりです!!」
「相変わらず、お嬢は暴走してますね…。」
「おぉ!!この子達が旅団長の子供ですか!!」

先ほどまで、サイファー達の声しかしなかったエスパーダは気が付けば…多くの人の声が聞こえるようになった。
そんなエスパーダと…新たに入っていく人物達が居た。

「まったく、相変わらず騒がしい奴らだ。」
「はは、そういうなよ。久々に羽目を外そうじゃないか。それに、俺は騒がしいのは好きだぞ、デトレフ。」
「エリッヒ…私は、授業を終えたばかりで疲れているんだ。…まぁ、賑やかなのは良い事か。」
「お~お~、良い店だな。俺の店と交換してほしいぜ。」
「ベルンハルトも着たのか。こりゃ、楽しい夜になりそうだな。」
「デミトリは、取引が終わったら来るとよ。ま、それまで楽しんでようや。」






あとがき

書きたいけど、妄想力が枯渇気味の今日この頃。
アサルトホライズン…どうしようか迷ってます。




[21516] 空白期 9話 ランスロット家ベルカ旅行記&誇りと戦局と覚悟の教え
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/10/18 21:44
ベルカ自治領、首都ティンズマルク
BAR エスパーダ。

「…なんつうか、凄い光景だな。」
「まさかの、ベルカンエースの登場だろ。まぁ、旅団長達の人脈考えりゃ、当たり前なんだろうが…。」
「…まだメビウス君と話してないんだけど…俺。」
「俺もだよ…。旅団長にお嬢の息子だろ?将来有望だよなぁ、あぁ、話してぇぇぇ。」

ネストの元傭兵達の視線の先には、元ベルカ空軍のエース達に囲まれ、楽しそうに話しているメビウスの姿があった。
敬愛する旅団長、スカーフェイスとお嬢こと、サイファーの息子であるメビウスと話をしたかった…と言う傭兵達が肩を落としている。
それならば、フェイトやレヴィと話せば…と思ったが…

「本当に可愛いわね~。」
「ですよね!!サイファーさんが、可愛がるのもわかるわね!!」

女性陣ががっちりと、フェイト達をホールドしているので、話せない。…まぁ、話せたとしても、傭兵、しかも男と年頃?の娘が何を話すと言うのだろうか。
そんなこんなで…男性陣は…近くで酒を飲んでいたガルムと飲み比べを始めるのだった。

「ちょっと、ガルム…飲みすぎじゃないかい?」
「心配するなアルフ。この程度では、負けないさ。」
「いいぞ~あんちゃん!!」

ワタワタと心配するアルフを他所に、ジョッキで飲み比べをするガルムと傭兵達。こちらは、かなりの盛り上がりを見せていた。
ちなみに、スカーフェイスとサイファーは、彼ら、彼女達にメビウス達を預けて出かけていった。なんでも、行かないといけない所があるらしい。

「ふむ…なんとも、素晴らしいなメビウス君。君には、騎士としての素質があるな。」
「うむ。しかし、少し甘さが残っている。それが君の美徳と言えば美徳かもしれない。」
「誇りも大切だけどよ、時には戦局も読めないと駄目だぜ?」
「それもそうだが、やはり戦い覚悟も必要だろう。それがないと、意味がないぞ。」
「はぁ…えっと、皆さんは、そう言う戦い方をしていたんですか?」

彼らがメビウスに語るのは、自分達のスタイルと経験、そして心だ。
デトレフとデミトリは騎士としての心と誇りを。ベルンハルトは戦局の見極めと空の流れを。エリッヒは覚悟を…。
ちなみに、デミトリもギリギリ間に合ったようだ。スーツ姿の彼だが、デトレフも同じ格好であり、なにより着こなしている。

「ふむ…君と話していると、まだ甘さが残っているのが分かるね。」
「甘さ…ですか?えっと、どう言う事ですか?」
「良いかねメビウス君。騎士道とは甘さではない。…仮にそうだな、戦時中、先ほどまで激戦を繰り広げていた敵が、君の一撃を受けて倒れた。
そして、君に賛辞の言葉と…殺してくれと頼んできた。どうみても助からない瀕死の身体でだ。そこで、君はどうするかね?」
「やっぱり、殺すんじゃ無くて…助けるべきだと思います。その…人を殺したくはないです。」
「それが甘さなのだ。慈悲をかけると言う事は、殺さないという事ではない。時には、殺す慈悲と言うのも必要になってくる。
仮にそこで助けたら、君はその敵の名誉と誇りを汚す事になるのだよ。」
「……けど、助けれる命は助けたいです…!!それが仮に戦争だったとしても私は…!!」
「ならば、不殺を志すより、不戦を志せば良い。力を振るい戦場に居る以上、それはただの我侭になってしまう。
私達には言葉がある。対話が出来るのだから、戦争も避けれるはずだ。まぁ…元軍人が言うべき事ではないか。」
「私達、軍人が戦うと言う事は最終手段だと言う事を、覚えておいてくれたまえ。」

誇り高く戦い、敵に賛辞の言葉を送り…その者の刃で倒れる。それは名誉の戦死であり、騎士にとては最上級の誇りだ。
弱者を護り、常に誇り高くありたい騎士。好敵手と戦うと言う事は…何よりの喜びだ。
それがメビウスに分かるには…まだまだ時間がかかるだろう。

「確かに、誇りも大切だがな、坊主。戦場じゃ、生き残んなきゃ意味がないっつう事も忘れんなよ。」
「わぷ…ベルンハルトさんは、どんな戦い方をしてたんです?」
「そうさな。まっ、こいつらみたいに誇りとか名誉とか、無縁の戦い方だな。」
「まったく、ベルンハルトらしいな。」
「はっはっは。良いじゃないか、私もワインを頼もうか。少し話しすぎて、喉が渇いた。」

硬い空気を流すように、上機嫌でメビウスの頭をコンと軽く小突くベルンハルト。その手にはジョッキが握られている。
どうやら、堅苦しい話をしてる間に頼んでいたようだ。
それに小さく苦笑しながら、デトレフとデミトリも、アルベルトに酒の注文を頼む。飲む姿は…実に優雅だ。

「俺の場合は、生き残る事が第一だったな。お偉いさん達はテーブルの上で、戦争をする。それこそ、チェスのようにな。
だが、実際に戦場に立つのは俺達だ。例え勝っても、死んじまったら元も子もない。…デトレフ達の事を批判するわけじゃないが、名誉の戦死なんて真っ平ごめんだ。」

チラっと、視線をデトレフ達の方に向けるが…彼らは小さく苦笑するだけで何も言わない。それぞれが違う戦い方を持っていることを、充分に理解している。
だからこそ、彼らはこうして戦争を戦いぬけたのだと…そう思っているのだ。

「死んだら何も意味が無いですし…悲しむ人も居るからですよね。」
「そうだ。死んだらそこまで。だからこそ、戦局を見極めなけりゃ、いけねぇんだよ。敵の戦力、魔法能力。詳しいこと言えば、空の気流とか場の流れもだな。
それを瞬時に見極めて、戦えば大抵の戦場は生き残れる。まっ、こっちが圧倒的有利な流れだったのを、ひっくり返した化け物達が居るんだがな。」
「わ、ちょ、ベルンハルトさん、髪乱れますよ!」
「坊主なんだから、気にすんなって。」

ベルンハルトは、喉でクックと小さく笑い、なぜかメビウスの頭をグシャグシャと撫でる。
全ての状況を見て、勝てる筈の戦闘だった。だが…その予想の上を行っていた傭兵達を彼は知っている。
この少年の両親と…紅き翼を宿していたもう1人の傭兵。別に恨んだりはしないのだが…ちょっと、この少年でウサ晴らしのようだ。
少し眼を回すメビウスに満足し、ベルンハルトは手を離して、ビールで喉を潤す。

「やれやれ、これじゃ、俺が話す事がなくなるな。」
「そう言うなよエリッヒ。なら、覚悟でもおしえてやりゃ良いだろ。」
「覚悟か…うん、そうしようか。…の前に、メビウス君。水でも飲みなさい。」
「あ…ありがとうございます、エリッヒさん。」

お茶らけた風に肩を下げて、ため息を吐くエリッヒにベルンハルトも小さく笑う。
眼を回してアウアウ言っているメビウスに水を飲ませ、落ち着いてきたところで、エリッヒも徐に話を始めた。

「良いか、俺達の仕事は、敵を落とす事だった。ここに居るネストの連中の仲間だって落としたし、逆もあった。」
「…はい、父さん達から聞きました。多くのベルカの騎士達を落としたけど、仲間達も沢山落とされた…って。」
「そうだ。そこで問題だ。…どうして、俺達は敵同士だった筈のネストの連中や、君の両親と仲が良いんだろうな?」
「あ…えっと…どうしてだろう?」

確かに、命を、生死を賭けた戦った彼らが、こうして一緒に酒を飲む姿は考えられなかった。現にベルンハルトは他の傭兵達と混ざって、雑談をしている。

「時間切れだな。俺達は軍人だった。戦争となれば、戦うのが仕事なんだ。傭兵達だって、戦う為に雇われたんだから、尚更だな。
仲間が落とされて、悲しい、とか、苦しいって思うのは当然だが引き連れば、次は自分が死んでしまう。まぁ、お互い様という事だ。」
「…死んでしまった人の事は…諦めて割り切るしかないって事ですか?」
「いやいや、仕方が無い事って言って割り切るのは、鬼畜とかのする事さ。殺す覚悟、殺される覚悟がなけりゃ、戦場に出る資格はないんだよ。
戦争程、悲しい事はないさ。しかし、筋と言う物がある。それこそ、一般人を殺さないとか、簡単なことから難しい事まである。
力を使うところは何処なのか、何のために戦うのか、それがはっきりしなけりゃ、戦場には出ないほうが良いって事だな。」

ポンポンと優しく頭を撫でながら、表情を柔らかくするエリッヒ。いや、彼だけでなく、デトレフにデミトリ、そしてベルンハルトも表情を柔らかくしている。
彼に理解できるには、まだまだ時間がかかるだろう。それでも良い…彼が空の男に成長してくれる事を、4人は願っている。
この少年を一目見たときから、彼らは気に入っていた。純粋に空が大好きな少年。かつての自分達の同じ眼を持つメビウスだからこそ、全てを教えたいと思ったのだ。

「まっ、堅苦しい話はここまでにしようぜ、ほら坊主これでも飲めよ。」
「あ、ありがとうございます。」

若干、怪しい笑顔のベルンハルトが。赤い液体の入ったコップをメビウスに手渡す。フルーティーな香りがするから…果実系の飲み物だろうか?
何も疑わずに一口飲むと、口の中に甘い香りが広がり…視界が歪んだ。

「…はへ…?」
「べ…ベルンハルト!!何を飲ませた…って、これは酒ではないか!!」
「おいおい、たった一口で酔っ払ったのかよ。」
「まだ未成年…と言うより、子供になんて物を飲ませるんだ!!」

様子が可笑しいメビウスに気が付く、デトレフが彼の持っていたコップを奪い取る。どうやら、果実酒をベルンハルトは渡したようだ。
最も、本人は何処吹く風と言った様子で、わざとらしく口笛を吹いている。

「ふむ、メビウス君、大丈夫かい?」
「ほええぇ…視界が、廻ってます」
「こりゃ、完全にアウトだな。…そういうや、あの嬢ちゃんも酒に弱かったっけか。」

デミトリが少し背中をさすってあげているが…どうやら駄目のようだ。ペタンとテーブルに突っ伏したメビウスを見て、エリッヒも肩を竦める。

「…ふ…ふふふふふ。」
「メ…メビウス君?」
「おいこりゃ…眼がいってるぞ。」

突然、怪しい笑顔を浮かべて…メビウスが起き上がる。隣に座っていたデミトリとエリッヒも、その異常な笑顔に少し引いてしまった。
…眼がトロンとし、少し潤んでおり、顔も赤い。完全に酔っ払っている。しかし、メビウスは徐に椅子から立つと…フェイト達の方に歩き出した…。




・フェイト・

「へぇ、フェイトちゃん達は養女なんだ。」
「はい。けど、お母さんとお父さん、凄く優しいから…。」
「うんうん!!僕の事も受け入れてくれたし!!」


笑顔でそう言うと、女の人達は「やっぱりね~」と言って笑い出す。お母さんとお父さんの性格を分かってるみたい。
本当はお兄ちゃんと一緒に話したかったけど…今、ベルカの人達と話してるから…。
あの人達の話しているお兄ちゃんは、本当に楽しそう。なんていうか…本当に眼を輝かせてお話をしていた。あんなお兄ちゃんを見たのは、私も始めてだね。

「あら、向こうの話終わったみたいね。メビウス君がこっちに来るわ。」
「あ…本当だ。」

振り返ると、お兄ちゃんがこっちに歩いてきてた。嬉しいな…来てくれたんだ。
…あれ、けど…少し顔が赤い…どうしたんだろう?

「ふふ~…ふぇいと~♪」
「お兄ちゃんどう…ひゃあ!?」

突然、笑顔を浮かべたお兄ちゃんが、後ろから私の事を抱きしめた。ななななんでどどうして…。
レヴィはなんか硬直してるし、女の人も眼を丸くして、私達の事を見ている。…目立ってるよぉ。
そのまま、笑顔を浮かべて、擦りすりと頬に顔を擦り付けてくるうう…あ、お兄ちゃんの肌すべすべ…。
…し、心臓が破裂しちゃう…凄く高鳴ってる…!!

「おに…ちゃん、し、心臓が破裂しちゃうよ…。」
「あう…ふぇいとはぁ…お兄ちゃんの事、嫌い?」
「っ…ず、ずるい…その質問はずるい…!!」

少し悲しそうに眼を潤ませるお兄ちゃん…。その表情は卑怯だ…!!
私の身体がラジカルザッパーに貫かれたような…そんなショックが走る程…か…可愛すぎる。

「おにいちゃんはぁ、ふぇいとのことすきだよぉ~?」
「すす…すきって…本当!?」
「うん~、ふぇいとのことがぁ、すきだよ。」

っ…心臓が一層高鳴る…。ずるい…お兄ちゃんは本当にずるい…そんな、トロンって蕩けた顔で好きなんて言われたら…何にも言えなくなっちゃう。
身体から力が抜けて…お兄ちゃんに身体を預けちゃう…。凄く…幸せ…。けど、お兄ちゃん…どうしたんだろう?
あれ、なんか少し甘い匂いと…お酒のにおいがする…?

「お兄ちゃん、お酒、飲んだ…の?」
「ん~?飲んでないよぉ~?…ふふ、ふぇいとはぁ、かわいいねぇ。」

あう…可愛いって言われるのは、嬉しいけど…絶対にお酒飲んでるよ…。ベルンハルトさん達が視線あわせてくれないよ。
私を優しく抱きしめたまま、お兄ちゃんの手がスルスルって上にあがって…って…

「きゃ…お、お兄ちゃん、駄目!」
「だいじょうぶだいじょうぶ~。すぐにぃ、きもちよくなるからぁ。」
「や…人が見てる…ん…!そ…そこ、駄目だよぉ…あん!」



5分後

「はふう~…満足満足。」

満足げな表情をして、腕の中のフェイトを解放するメビウス。解放された彼女は…眼がトロンとして、少し服が乱れている。…一体、なにをしたのだ。
そのまま、メビウスの身体にしな垂れかかるようにして、フェイトは座った。…時折、身体をビクビクさせているが…本当になにをしたのだろうか。
隣でその一部始終を見ていたレヴィも、少しモジモジしながら、メビウスに寄りかかる。

「お…お兄、僕の事は…好き?」
「ん~?当然だよぉ、私はぁレヴィも好きだよ~。…おいで~。」

メビウスは、満面の笑みでレヴィを抱きしめて、首筋に顔をうずめる。そして、彼女の匂いを嗅ぐ様にして、息を大きく吸い込んだ。

「レヴィは、甘い匂いがするね~。」
「お兄も甘い匂い…する。…す、凄いねこれ。心臓が壊れそう…。」

レヴィはメビウスの背中に手を回して、ギュッと抱きつくと彼の胸に顔をうずめる。彼女の顔はフェイトに負けないくらい、真っ赤に染まっていた。

「…ね。僕もフェイトみたいに…して?」
「ふふ…レヴィもいいこだねぇ。…ねぇ、レヴィはお兄ちゃんのことすき?」
「好きだよ。大好き!」
「わ~い、嬉しいなぁ…。さぁ、レヴィ…一緒に気持ちよくなろうね~。」
「あ…け、けど、みんな見てる…。」
「だいじょうぶだよ~。気にならないくらい…気持ちよくなるからさ~」

そのままレヴィを抱きしめて居た腕を動かし…満面の笑みを浮かべ始めるメビウスだった。
5分も立てば…レヴィもフェイトと同じように…蕩けた表情でメビウスに寄りかかっていた。…だから、一体なにをしたのだろうか。


「…いやぁ、本当にお嬢の息子だな。」
「そう…だな。末恐ろしいったらありゃしない。」
「酒癖は悪いのか…どうなんだろうな。」

遠めで見ていた傭兵達は…この少年の酒癖は母親のサイファー譲りだと…気が付いたらしい。
ちなみに、フェイトとレヴィは蕩けた頭の中で、似たような事を考えていたようだ。

(…絶対になのはやはやてと、お酒は飲ませない様にしないと…わ、私だけのお兄ちゃんなんだから…。)
(うう~…絶対にお酒は2人きりの時だけにしないと…。こんなの、みんな負けちゃうよぉ…。)

…とりあえず、お酒は二十歳になってから飲みましょう。




ティンズマルク郊外。グラシア家。

「あら…風が出てきたのですね。」

窓から流れ込んだ風が、美しい金色の髪をなびかせる。彼女はグラシア家の令嬢--カリム・グラシアである。
換気の為にあけていた窓を閉めると、机に向かい本を読み始める。古い文献の1つ、所謂歴史書である。
聖王教会に所属し、次期聖女とまで呼ばれる彼女。その期待に答えるために、日々の勉学を欠かさないのだ。
だが…こうしていると、1人の女性を思い出してしまう。

「…ふふ、姉さまなら、退屈してしまうのでしょうね。」

小さく…そして寂しそうに笑いを零す。彼女には…姉が居た。血の繋がりは無い姉だが…幼い頃のカリムは、姉が大好きだった。
勉強も出来きて、運動も出来る尊敬すべき姉。…料理が壊滅的だったのも覚えている。
幼いカリムの手を引っ張り、色々な事を教えてくれた大好きな姉。だが…そんな姉は突然、居なくなってしまった。
両親に聞いても、悲しそうな顔をするだけで…何も答えてくれなかったのだ。

「…姉さま、会いたい…です。」

机に置いてある写真に視線を移し、カリムは悲しそうに眼を伏せる。そこには…幼い頃の自分と、綺麗な蒼い髪をした少女が写っていた。
…すると、彼女の髪を風が揺らす。窓はさっき閉めたはず…と、カリムがそちらに眼を向けると…。

「カリムちゃん。久しぶり。」
「え…?」

窓辺に立つ1人の女性が居た。…蒼い髪をなびかせて、優しげな笑顔を浮かべる彼女は…成長しているが、カリムの大好きな姉。

「ほ…本当に…本当に、姉さま…なのですか?」
「ふふ、私以外、誰が居るのよ~。…カリムちゃん、寂しかった?」
「っ…姉さま!」

耳に届くのは…聞きたかった大好きな姉の声。気が付けば、カリムは…彼女の胸の中に飛び込み、泣いていた。

「姉さま…ゼロ姉さま…!!」
「はいはい、私はここに居るわよ。カリムちゃん。」

ゼロと呼ばれている女性は…メビウス達の母親であり…スカーフェイスの妻…サイファーだった。






あとがき

安西先生…メビウス×なのはの甘い話を…書きたいです…。
サイファーお母さん、カリムさんの義理のお姉さんだったようです。
旅行記は次でラストですね。…あと、空白期少し続けて、部隊設立話をしようかと思っています。では…また今度。
そして…妄想力が復活してきたようです。フロム脳の妄想力世界一ぃぃぃぃぃ!!!



[21516] 空白期 10話 王と皇と帝
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/10/20 19:55

ベルカ自治領、ティンズマルク郊外、グラシア家屋敷。

「どうカリムちゃん、落ち着いた?」
「はい…。もう、大丈夫です。」

ベッドに並んで座り、サイファーの腕に抱きついているカリム。その眼は泣いていたからか、少し赤い。

「姉さまが居なくなって、10年…たったのですね。」
「そうね~。その間にカリムちゃん、本当に美人になっちゃって。お姉ちゃん、びっくりよ。」

カリムの金色の髪を優しく梳きながら、サイファーは笑顔を零す。
可愛かった妹が自分の事を忘れずに、こうして覚えていてくれた事が凄く嬉しいのだ。
今ではこうして、本当に綺麗になった。

「ふふ、きっとカリムちゃんは、これからもっと綺麗になるのね。私なんかより、もっともっとよね~。」
「そんな、姉さまの方がずっと綺麗です!!」

顔を赤らめながら、サイファーの顔を見つめるカリム。やはり、自分の姉はとても綺麗だ。
青空の様な髪も、吸い込まれるほどの瞳も、白磁の肌も…全て自分の大好きな姉のもの。
だが…ぽーっとした表情でサイファーを見つめる彼女は…もしかすると、姉妹愛以上の感情を、抱いていたのかもしれない。

「ふふ、嬉しい事言ってくれるわね。…ねえ、カリムちゃん。…好きな人って居るのかしら?」
「もちろん、ねえさ…じゃなくて、誰も居ませんよ…!」

危うく姉さま…と言いそうになった口をどうにか修正して、答える事が出来た。
若干、冷や汗をたらしたサイファーだが…何か思いついたかのように笑顔を浮かべる。それは…所謂子悪魔の笑顔と言う奴だ。
いや…彼女の場合は鬼の笑顔だろうか。

「そっかぁ…。なら、丁度いいわね。」
「なにが、ちょうど良いのですか?」
「カリムちゃん!!」
「は、はい!!」

ビシッ!!と音がするような感じで、サイファーはカリムの鼻先に人差し指を突きつける。呼ばれた本人も姿勢をただし、何事かと言う顔をしてしまった。

「これから、カリムちゃんの前に、素敵な素敵な男性が現れます!!きっとメビ…じゃなくて、その人なら、カリムちゃんの事を愛してくれるし、
カリムちゃんも愛せると思うの!!だって、そう言う風に育ててきたんだから!!」
「は…はぁ、素敵な男性…ですか。」

正直言えば、目の前の姉より素敵な人など居るのだろうか…と疑問を浮かべるカリムだが。世間一般的に女性であるサイファーと、素敵な男性を比べるのはどうかと思う。
それほどまでに、尊敬していると言えばそうだろうが、カリムの場合…最早、神格化しているのではないだろうか。

「そうよぉ。必ず現れるからね。お姉ちゃんの予言を信じなさい!!」
「…そうですね。姉さまは、嘘ついた事…ないですものね。」

ギュッとサイファーの腕に抱きつき、カリムは頬すりをする。10年間…ずっと我慢してきた。
姉に抱きしめられるのは、何よりの喜び。この人の前では、カリム・グラシアではなく…ただのカリムちゃんとなってしまう自分が居る。
それでも良い…今は大好きな姉の温もりを感じていたい…。
しかし、時間とは無常なものである。

「…ごめんね。そろそろ行かないと。」
「…そう…ですか。あ、お父様やお母様には…。」
「ん~…会いたいけど、時間も無いし…私は家出した不良娘だから。」
「そんな事ありません!!2人とも、姉さまが帰って来ることを、どれほど望んでいたか…。」

何時も真面目な両親が、サイファーの話になると最初は嬉しそうにし…そして最後には悲しそうな表情を浮かべる。
思えば…彼女はグラシア家の光でもあったのだろう。何故、家出をしたのかは教えてもらえなかったが…両親はこういっていた。
あの娘は誰よりも純粋で強い。…どんな事があろうとも、挫けないさ…と。
それ位に、両親はサイファーを信頼していたのだ。

「ふふ、なら、カリムちゃんから伝えておいて。ゼロは…お父さん、お母さんの事を愛していますって。何時も、2人の事を想ってるってね。
勿論、カリムちゃんの事も愛してるし、想ってるからね。」
「…姉さま…卑怯です。」

泣きそうなカリムの額に、キスをしてサイファーはウインクをして、窓から飛び降りていく。
後を追いたくても…キスされた嬉しさと喜びで…カリムの身体は動けなくなっていた。きっと…あの姉なら大丈夫だろ。
だって……彼女は…。

「私の大好きな姉さま…ですからね。」






「ふふふふ…メビウスちゃんとカリムちゃんの結婚なんて、夢見たいよね~。」
「…お前、本人の意志はどうするんだ。」
「大丈夫!!メビウスちゃんなら、キチンと愛せるから!!…ふふふふふ、可愛い娘が5人になるわね…。」
「…やれやれ…なのはちゃんが知ったらショックで倒れるぞ…。」
「それこそ大丈夫よ。メビウスちゃんなら、5人くらい余裕で愛せるわ!!」
「……すまんなメビウス。サイファーを止めれる俺ではなかった…。」
「孫が最低5にん~。うまく行けば10にん~。楽しみね~。」





・閃・

「はい、静かにしなさい。今期から、新しく転入してきたお友達を、紹介するからね。」

…あれ、なんかデジャヴだな。そう思わずには居られないほど、見た事のある光景。
春休みも終わり、学年も上がったある日の事。…まぁ、誰が転入してくるのかは分かりきっている。
例の如く、メビウスはトロトロに溶けた笑顔を浮かべているし、なのはとフェイトは…あいつの両脇をキッチリとガードしてる。
学年が上がるに伴って、席替えがあったんだが、あいつらの行動は早かったな…。と言うか、メビウスを引っ張って、ここ!!って決めてたよ。
まっ、メビウス自身、しょうがないなぁ…って感じて笑ってたし、大丈夫だろ。
…ちなみに、ベルカに旅行に行っていたらしいが…それ以降、2人は今まで以上にべったりだ。
フェイトは旅行先でかなり甘えたらしく、タガが外れたんだろう。なのはは…曰くメビウス君成分の不足だそうだ。
っと、んな事を考えていると…教室に外に居た2人の女子が入ってくる。

「…女子来た女子!!」
「しかも、滅茶苦茶可愛いし…。あれ…けど、誰かと似てないか?」

…あ~、お前ら。前にも言ったが、本当に小学生か?
んで、メビウス。レヴィを見た瞬間に、更に笑顔を溶かすな。隣のなのはとフェイトから、負のオーラが溢れてんぞ。

「それじゃ、2人とも、自己紹介して。」
「僕はレヴィ・ランスロット!!よろしく~!!」
「帝シュテルです。よろしくお願いします。」

レヴィはVサインを元気良く決めて、シュテルは静かに頭を下げて、それぞれの自己紹介をする。
…ちなみに、苗字を聞いた瞬間に、男子達がざわめきだすのも前と同じだ。

「おい…今、ランスロットって…。」
「それより、帝だって…。まさか…。」

そんな男子を尻目に…レヴィは教室を見渡し…目当ての人物を見つけると、飛びつきハグを…っておい!?

「お兄ぃ~!!!あいたかったよぉぉ。」
「れ…レヴィ、家でもずっと一緒だったでしょ…。」
「ぶ~。僕はお兄から一瞬でも、離れたくないの!!」

勢い良く抱きついてきたレヴィを抱きとめて、困ったような笑顔を浮かべるメビウスだが…気が付け、隣からゴゴゴと効果音がなってんだぞ…。
窓ガラスが共鳴して…割れそうだっての…。

「レヴィちゃん…メビウス君から今すぐ…離れてよ…。」
「そうだよ、レヴィ。お兄ちゃんは…私のものなんだからね。」
「…フェイトちゃん、間違ってるよ、メビウス君は…私のものなの!!」
「べーだ。2人とも、黙っててよ!!お兄は僕だけのものなんだから!!」
「さ…3人とも、落ち着いて。ほら、みんな見てるし…。」

始まったよ…収拾不可能だよ。メビウスを中心に離れてだの、私のだの言い争い始める3人を視界から外し、ため息を零した俺だが…。
メビウスが助けてと視線を送ってきたが…無視する。…視界の端で絶望的な表情を浮かべていたが、気のせいだろう。

「まったく、見苦しいですね兄上。」
「そうだな…って、まてシュテル。なんで当然のように、俺の隣に居る。」
「レヴィがメビウスさんに突入した時点で、先生は諦めた表情で教室から出て行きました。なので、自由に座っても良いのだと判断し、ここに居ます。」

諦めるなよ先生…。いや、諦めたくなる事も分かるんだが…、とりあえず、俺の隣には男子が座ってたはずだぞ…?

「…さっきまでここに居た男子は…どうした?」
「…兄上、世の中には知らない方が、聞かない方が良いと言う事もあるのですよ。」

…やめろ、真面目な表情で、そんな物騒な事言うのは止めろ。洒落にならんくらい怖いぞ。
俺はそれ以上は詮索せずに…1時限目の教科書を取り出し始める。

「…なぁ、閃。シュテルちゃんって…お前の妹なのか?」
「まぁ、そう「いいえ、私は兄上のお嫁さんです」ちょ!?」

男子から聞かれた事を答えようとしたら…シュテルが物の見事にかぶせてきやがった。
しかも…腕を組んで頬を赤らめるな…。それだけで、もう…色々と終わりだぞ。

「…なんでだよ、ちくしょぉぉぉ!!!神は居ないのか!!」
「なんで、なのはちゃんもフェイトちゃんはメビウスで…シュテルちゃんはお前なんだよぉぉぉ!!」

「せぇぇぇぇん!!!俺達と同じ凡人組みだろお前はぁぁぁぁ!!!!」
「ふう…兄上に比べたら、月とすっぽんも良い所ですね。」
「「「………」」」

さみぃ…マジでさみぃ…。シュテルの一言で、男子連中が氷付けになったぞ…。
そんな男子連中を気にもせず…こいつは俺の腕を掴んで離さない。……これで、リリンが昼休みに来たらどうなるよ…。
痛む頭を押さえながら…俺は現実から逃避する事に決めた。


「お兄様!!一緒に御弁当食べましょう!!」
「……閃、今日からお前は敵だ。」
「彼らは、僕達に何が違う!?顔が良くて運動が出来て、頭が良くて性格が良いだけじゃないか!!」
「…勝てる要素が1つも無い事に絶望した。」







・メビウス・

放課後


「…マジで疲れた。」
「あ…あははは、私も疲れたよ…。」

下駄箱で靴を履き替えながら、閃は疲れた表情でため息を付いている。…まぁ、私も似たようなものだけど。
今日は1日、レヴィに振り回されっぱなしで、大変だったなぁ。それになのちゃん達も一緒だから…更に大変だった。
閃はシュテルちゃんとリリンちゃんに引っ張りだこになっていたみたいだから…本当に疲れたんだね。
なのちゃん達は、これからはやてちゃんの家に遊びに行くらしい。私も誘われたけど、断ったんだ。
…流石に…女の子だけの所に行くのは私だって辛い。


「…さて、帰るか。」
「そうだね。あ、閃、臨海公園の近くに、新しいクレープ屋さんが出来たらしいけど、一緒にいってみない?」
「あぁ、良いな。疲れたら、甘いモンが食べたいな。」
「でしょ。オメガがアリサちゃんと一緒に行ったら、凄く美味しかったって言ってたよ。」
「…あいつ、何時の間にアリサと…ヴィータは良いのかよ。」

なにかブツブツと考え事をしてるけど…どうしたんだろう。
様子を伺っている私に気が付いて、閃は小さく首を振り、「行こうぜ」と言って先に歩き出した。


海鳴臨海公園付近、クレープ・コジマ。


「ん~。おいしいね。」
「だなぁ。リリンも連れてくりゃよかったな。」

近くのベンチに座りながら、クレープを食べる私と閃。
私は普通のチョコクレープを、閃は少し大人向けのコーヒークレープのを頼んだそうだ。
春の暖かな日差し…だけど、涼しい風も吹いていてとても過ごしやすい。

「今頃、なのは達ははやての所かぁ。…良いのか、メビウス。行かなくて。」
「男子が私だけって状況は、結構つらいんだけど…。」
「ザフィーラが居るだろ。」
「…殆ど犬…って言うか狼形態だし…共通の話題が無いよ。」
「まっ、確かに。」

苦笑しつつ2人でクレープをかじる。本当に美味しいなぁ。…どうしようかな、はやてちゃん達に買って、私も行こうかな…。
少し迷っていると私達の目の前で、クレープを頼む帽子を被った、1人の男の子と眼が会った。
何となく、軽く会釈すると向こうも会釈して…そのままクレープ屋さんの店員に注文をする。

「え~と、チョコクレープとストロベリークレープ1個ずつ。」
「はい、2つで300円になります。」
「やっす…あ、開店記念セールか。」

店員さんにお金を渡して、クレープを受け取ると、男の子はなぜか足早に立ち去ろうとする。
顔を見合わせて首をかしげる私と閃。…っと、風が勢い良く拭いてきたなぁ。
そう思っていると…男の子の帽子が風で飛ばされてしまう。

「あ…やべ。」
「え……私…?」

帽子の下からは…私が出てきた…?いや、正確には私とそっくりな…男の子…?
フリーズする私とは対照的に、閃はクレープを一気に口に入れると、男の子を追いかけるようにして走り出す。

「メビウス、早くしろ!!クロノ達が言ってただろうが、夜天の騎士皇だ!!」
「え…あ、うん!!」
「ちっ、ばれたぞこんちくしょう。…三十六計逃げるにしかず。」

慌てて立ち上がる私を見て、男の子--ナイツはクレープを2つとも一気に口の中に入れて…食べちゃったよ…。どんな口してるんだろう…。
そのまま、なぜか腕を組んで…前傾姿勢で走り出す。凄い…上体が少しもぶれてない…。
って、感心してる場合じゃないね。急いで後を追わないと!!

「ちょ…お前、なんで素敵走法習得してんだよ!!」
「せ、閃、素敵走法ってなに!?」
「別名、十○集走りとも言う。ほらほら、どうした。追いつけねぇぞ。」

海鳴臨海公園、展望台。

20分後。

「ぜーぜー…よ…ようやく、追いつけたぞ…。」
「じ…20分も街中走って…結局、ここに戻ってくるんだね…。」
「お前ら、体力付けろ。たったの20分全力疾走じゃないかね。」
「ざけんな……素敵走法なんかしてた、お前が言うんじゃ…ねえよ。」

ベンチに優雅に座って、ため息を零すナイツとは対照的に、膝に手を当てて、呼吸を整える私達。
こんな事なら…オメガも連れてこれば…よかった。

「…んで、なんで俺を追ってきたわけ?」
「決まってる…はぁ…はぁ、でしょ、闇の書の残滓…その中でも君は、特別な存在だって…はーはー…レヴィが言ってた。」
「シュテルも…お前は…自分より強大な力と…知識を持つ言ってたからな…ぜぇ…ぜぇ。」

闇の書…正確には闇の書の悪意であるダイモンは消滅して、闇の書は、夜天の書の姿を取り戻した。
リフォー社と管理局、そして聖王教会の方でチェックをしても何も問題はないらしい、はやてちゃんも正式な夜天の書の主として認められた。

「ほうほう…とりあえず、お前らが疲れてんのは理解できた。」
「真面目に、話を聞いてよ…!!」
「聞いてるぞ。…そっか、あの2人は人としての歩き始めたか。よきかなよきかな。」

空を見上げて笑顔を浮かべるナイツは…本当に嬉しそうだ。…なるほど、あの2人の事を…本当に心配してたんだ。
息を整えて、私達は彼を正面から見つめる。

「…あの2人の危害を加えるような事は、無いんだよな?」
「もちのろん。俺は面倒が嫌いなんだよ。自由気ままに気の向くままに、明日は明日の風が吹く。それが俺のポリシーだ。」
「あはは…聞いた通り…適当な性格だね…。」
「…んで、本題はなんだ?」

3人で笑いあっていると…ナイツが真面目な表情を作る。すると…場の空気もガラリと変わった。多分、彼の出す雰囲気のせいだろう。
暗いけど…どこか安心できる雰囲気。…まるで…夜のようだ。

「…管理局に協力して欲しい。…ダイモン、あれが1つじゃないって事は、わかってんだろ?」
「あいつらを放っておけば、大変な事になる。…ナイツ、君の知っている事、そして力を貸してもらいたいんだ。」
「ダイモン…ねぇ。……そして、管理局…か。」

閃と私の言葉を聞いて…ナイツはため息を付いて…何処か馬鹿にした感じで、立ち上がる。

「…つまり、お前達の中では…管理局が正義で、ダイモンが悪…って事か?」
「…少なくとも、ダイモンが正義ではない…そう思っているよ。」
「管理局自体、不完全な組織だ。…全てが正義とはおもってねぇよ。」
「ほうほう…。なかなかの答えだ。…お前ら、本当に子供か?だが…仲間にはなれないね。」

私達の答えを聞いて、ナイツは呆れた顔をして…右手を無造作に宙にかざす。すると…黒・赤・水色の1つずつ光球が生まれる。
…これは…シャテルちゃんとレヴィの魔力光…?

「これは、あいつらのデータの一部。…残滓で構成する前に、俺が抜き出したのだよ。」
「抜き出したって…どうして?」
「…まさか…王を目覚めさせる…3つの鍵…って。」
「ご名答だ、帝 閃。これがその鍵。…恐らく、ダイモンはこいつを狙うだろう。あいつらが持ってたんじゃ、折角の幸せな生活がぶち壊しだ。」

光球をかき消すと、ナイツは私達に背を向けて、夕日の沈む海を眺める。その姿はとてもかっこよくて…凄く絵になる。
きっと、同じ姿の私では…絵にならないだろうね。彼の持つ雰囲気のお陰だろう。

「それを持ってる君だって、ダイモンに狙われるんじゃ…。」
「…眠りし王を手に入れた管理局が、2つ目のダイモンになるかもしれないだろう?」
「っ…!!」

私は息を飲む。…過ぎた力は人を狂わせ…牙を向かせる。…王って言うのがなんなのか分からないけど、それ程までに強大な何か…って事なのか。
けど…管理局は司法機関。…まだまだ改善すべき所は多いだろうけど、人の生活は守っている…簡単に言えば、正義のはずだ。
そんな私の考えを見透かしてか…ナイツはため息を零す。

「メビウスよ。お前の正義はなんだ?」
「私の…正義…?」

…なんだろう…私の正義って…なにがある?…思い出せば…ただ、護りたいから戦ってきた。なのちゃんを、フェイトを…はやてちゃんを。
戦って…戦ってきたけど…そこに私の正義はあったのか?エリッヒさんが言っていた…覚悟はあったのかな…。

「…今から言う事は覚えておけ…悪には悪の正義がある。正義には正義の悪がある。まぁ、世の理然りだ。」
「…矛盾してるようで…してないな。」
「閃は理解できるようだな。…メビウス、お前に1つ質問だ。」
「質問?」
「…今、お前の目の前には大量殺人犯が居る。そいつが、お前の大切な人を殺した。…それを見た、お前はその犯人を自分の手で殺したんだ。
だがな…裁判が起これば、お前も有罪になる。…おかしくないか?お前が殺したの、最低の屑だ。殺しても誰も文句は言わない。だが、なぜ罪に問われる?」
「それ…は…」

…私の大切な…人。…なのちゃんが目の前で…!!
そう考えるだけで、背筋がゾッとして…目の前が真っ暗になる。いやだ…なのちゃんが居なくなるなんて…いやだ…!!
それを何とか押し込んで…私は何とか言葉を発した。

「…殺人は…絶対にしちゃいけない事…だからだよ。大切な人が目の前でなんて…考えたのもない…!!」
「その通りだ。しかし、殺したのは大量殺人犯。この世の害悪だ。誰も攻めはしない、むしろ英雄として褒め称えられる行為の筈だ。なのに…罪となる。
…おかしいだろ。世界とはこれほどまでに、矛盾を抱えている。戦争では、正義の御旗の元に罪も無い人々を殺しても許される。…たとえ、街1つ焦土にしようが、
戦争中だから…の1つで許されてしまう。勝ってしまえば、なおさらだ。そんな世界で、正義だの悪だの…1つも見つけられないだろ。」
「……なら、私は何を信じれば良い…!!ダイモンと戦うと心に決めた、それでも1人じゃどうにもならない!!だから管理局に入って…戦おうとした!!
けど、君はその管理局も正義ではない。そう言った!!なら…私は何を正義にすれば良い…何を信じて…戦えば良い…!!」

きっと…最後の方は涙声になっていたと思う。視界が歪み…項垂れる。
私だって…管理局が全ての正義とは思っていない…。だけど、今は頼るしかない、信じるしかない…!!

「…はぁぁぁ、老成してると思ったが、まだまだ子供か。まぁ、これはこれで安心だわな…。
メビウス・ランスロット。そんなお前に俺が絶対であり、唯一無二の正義を教えてやろう。」
「唯一無二の…正義…?」
「…己が愛する者を護れ!!高町なのはを、フェイト・T・ランスロットを、八神はやてを!!心から愛して護り抜け!!
どうだ、これ以上に簡単で分かりやすい正義なんて、どこにも無いだろう?…絶対に誰にも文句はいわせねぇよ。」
「みんなを…護る事が…私の正義…?」
「そうだ。…メビウス、今のお前じゃ…どうにもならない。意志はあるが…剣が無い。1人じゃ、人間なんにも出来ないんだよ。
…だが、お前の周りには、多くの仲間が居る。そいつらと一緒になら、戦えるだろう?…いいかメビウス、お前は1人じゃない。
だから、作るんだ。お前の剣を、お前らの部隊を。…楽しみにしてんぞ。」

それだけ言うと…ナイツは左手を横にかざして、風を呼び寄せる。…彼を中心に風が集まっているのが分かる…。

「お前に会う為に待ってたが、これで終わりだな。俺は気ままに旅をしている。…見かけたら、声でもかけてくれ。」
「…ったく、風は捕まえられないって事か。」
「ご名答。風は気ままに吹いてんだよ。…ダイモンの闇は深い。それはミッドにも及んでいる。」
「…ナイツ!!私は…やるよ。絶対に、あいつらには負けない。そして…皆を護る!!」
「期待してるぞ、空の王さんよ!!」

浮き上がる彼に大声で伝えると…満足そうに笑顔を浮かべて…ナイツは何処かに消えていった。
…さぁ、私の部隊…ISAFを作らないとね…。
私はある決意をして…空を見上げるのだった。




あとがき

あと1話…その次は部隊設立話…。
次回こそ…メビウス×なのはの甘い話を…書きたいです。




[21516] 空白期 11話 別れと決意。
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/10/27 18:46
ミッドチルダ、某所

「…ふむ、なかなかに面白い。」

薄暗い研究室の中で、愉悦の笑みを浮かべる金色の瞳が特徴的な白衣の男性。
キーボードの指が滑り、何かを入力していく。

「アジムとゲラン、実に素晴らしい。一体、何者が作り出したのだろうか。…実に興味深い。」

モニターの写るのは、アジムとゲランの映像。ただ、破壊の嵐を起こす彼らに、白衣の男性は興味がひかれた。
そんな彼の側に、静かに現れる1人の女性。

「ドクター。入り口の監視カメラに何者かが映りました。」
「ほぉ…管理局か?」
「いえ、何者かは推測できませんが…その…。」

珍しく言いよどむ女性に首をかしげながら、白衣の男性はモニターを操作して、入り口に設置されている監視カメラに切り替える。
そこに映ったのは、行き倒れている黒衣の少年。

「…行き倒れのようだね。放置しなさい。」
「…おかしいですね。先ほどは動いていたのですが…。」
「む、確かに少し動いているね。」

モゾモゾと少年が顔を上げて、何故かこちら--監視カメラを凝視している。

「監視カメラに気がついただと?」
「それはありえません。周囲に溶け込むように設置してあるはずです。」

驚く男性と女性を知ってか知らずか、少年は徐にポケットから、大き目の画用紙帳を取り出し、何か文字を書いていく。

「眼の錯覚かな。確実にポケットの入るサイズじゃないはず…。」
「ドクター、安心してください。私の眼にもそう映りました。」

頬を引きつらせる男性と女性。2人ともパートナーがこんな表情をするのは初めてだが、気にしてる余裕が無い。
少年は画用紙を、一枚剥がすとカメラに掲げる。そこには…

「「腹減った…?」」

声を合わせて書いてある文字を読む2人。数秒間、沈黙が流れ…男性はモニターを別なカメラに切り替えた。
どうやら、みなかった事にしようとしたのだろう。

「やれやれ、何か幻覚でもみたような…。」
「ドクター。モニターを。」
「……カメラの故障かな。」

監視カメラを切り替えたはずなのに、そこには先ほどと同じ少年が映っていた。一瞬で移動した事に驚くべきなのだが…認めたくは無いらしい。
新しく書いた文字を掲げて、少年はジーっとカメラを見つめていた。

「無視すんなこら、だそうです。」
「無視しようそうしよう。今日は疲れてるようだ。」

男性はモニターの電源を落として、何も見なかった事にするようだ。女性もそれが良いと判断して、何も言わない。
だが、そんな男性の背後に近づく1つの影。

「おいこら、飢えて可哀相なバンビちゃんに、愛の手を捧げても良いだろが。」
「げふっ!?」
「ド、ドクター!!??」

男性の背中に、豪快なドロップキックをぶちかます黒衣の少年。
無様な声を出して、宙を舞い、ボロ雑巾の様に転がる男性と、フリーズしそうな身体を動かして駆け寄る女性。

「き…君は一体どこから…と言うか、何者だい…?」
「自由気ままな旅人です。とりあえず、腹減ってるんで飯食わしてくださいお願いします。」
「背中にドロップキックをしておいと、どの口が言うんでしょうか。」
「この口です。ちゅうか、無視したあんたらも酷いんじゃねぇの?」
「し…食事なら、固形食がある。食べると良い。」
「ドクター、よろしいのですか?」
「ふ…ふふふふ、中々面白いじゃないか。何かこう、感じるものがあった。後で話がしたい。だが、今は…ごふ。」

形振り構わず土下座する少年を見て、ため息を零し呆れ顔を作る女性。男性を助け起こせば…眼を回している。
ここの所、徹夜続きで疲れた所に、謎の少年の登場とドロップキック。どうやら、意識を刈り取るのは簡単だったようだ。
こうして、黒衣の少年--ナイツと白衣の男性--ジェイル・スカリエッティの出会いであり、奇妙な共同生活の始まりでもあった。





海鳴市 メビウス宅、近所の公園


「…ミッドに行くぅ?」
「うん、決めたんだ。」

ナイツとの出会いと別れから、1週間の時が流れた。
夕日が照らす公園で、メビウスは親友であるオメガに、自分の決意を話していた。

「向こうに行って部隊設立って、学校はどうすんだよ。こっちに通う暇なんてなくなるぞ?」
「こっちは転校って事で、止めるよ。クロノさんに話したら、ミッドの学校を紹介してくれるって。」
「はぁん。…呆れられたんじゃね?」
「わかる?」

やっぱりか、と言った様子でため息と、呆れた表情を作るクロノを思い出し、メビウスも小さく笑う。
彼にはナイツと会った事を話していたから、予想は出来ていたというのだろう。
鉄棒の上に座っていたオメガも、「やっぱなぁ」と豪快な笑顔を浮かべていた。

「けどよ、この事、話したのか?」
「父さん達は、お前の好きなようにしろ、俺達は全力で応援するって、言ってくれたよ。」
「まっ、あの人達らしいやな。んで、フェイトとかには?」
「一緒に行く!!って泣かれたけど、駄目って言ったよ。」

泣き顔で必死に止めるフェイトとレヴィを思い出し、少し胸が痛む。
止められないと分かれば、一緒に行くといった彼女達を、メビウスは無理やり押し止めた。彼女達には、普通の学校生活を送って欲しい。
例え、魔導師として活動するとしても、地球で学び、地球でも生けていける人達になって欲しいから。

「フェイトとレヴィには、地球でも幸せに暮らして欲しいからね。」
「お前と一緒なら、あいつらは何処でも幸せだと思うけどなぁ。」
「…言わないで。私だって、結構つらいんだから。」

ベンチに座り本格的にうなだれるメビウス。彼も可愛い妹達と、離れるのは辛いようだ。
だが、実際は重大な問題を先送りにしてるだけだ。…その問題にオメガも薄々気が付いている。

「ところで、なのはには…まだ言ってないんだな。」
「……その通り。はぁぁぁぁ、なんて言おう。」

頭を抱え、ブンブンとするメビウス。それにあわせて、少し大きめのリボンと長い髪が一緒に揺れる。
彼の大好きな高町なのは。彼女と別れるのは正直言えば、かなり辛く、ずっと一緒に居るからと言った手前、泣かせそうで怖い。

「しかし、なんでそんな事、俺に話したよ?」
「…そうだった。」

結構、肝心な事を忘れていたのに気が付き、メビウスは顔を上げる。ナイツが言った通り、1人では部隊なんて出来ない。
向こうでクロノや閃も協力してくれるとは言え、それでも足りない。しかし、自分の親友が一緒なら…なんとかなるのではないだろうか。

「自分勝手な我侭だと思う。…オメガ、私と一緒にミッドに「良いぜ。」はやっ!?」

メビウスが真面目に話そうとしたのに、オメガは夕日をバックに、親指を立てている。それは彼の決めポーズ。

「ミッドだろうが、ベルカだろうが。俺は何処でも着いてくぜ!!俺とお前は親友…いや、心友だ、メビウゥゥゥゥス!!!!
お前は俺に、着いてこい!!って言えば良いんだよ。大丈夫だ、俺はお前を、メビウス・ランスロットを信じてんだからな!!」
「…あはは、あれこれ悩んだ私が馬鹿だったかな。…オメガ!!私についてこい!!」
「任せろ!!お前の前に立ちはだかる奴は、俺が砕いてやるぜ!!」

夕日が見守る中…簡単でありすぎるが、彼らには関係ない、最も親しき友、親友であり…心が繋がっている友、心友なのだから。
拳と拳をコツンとぶつけて、笑顔を浮かべる少年達。友情とは、こういう物なのだろう。
だが忘れてはならない。この少年達に想い寄せる2人の少女。彼女たちにも、別れを告げる必要があった。
例え、永遠の別れでも無くても、部隊設立となれば暇など無い。会うのも難しいだろう。
だからこそ、想いを告げるのだ。若き騎士たちよ。





管理局本部

「やっと、夜勤終わりだな。」

コキコキと肩を回して、コリを解すブレイズ。その姿はどうみても、親父臭い。
だが、仕方が無いだろう。先ほどまで、デスクに噛り付いての書類作業。
ベルカから帰国しても、仕事は待ってくれない。それに加えて、メビウス達の部隊設立の手伝いもあるのだ。

「クロノもリンディ提督も賛成…か。」

休憩のために、エントランスでコーヒーを買いベンチに座る。
メビウスの部隊、ISAFに自分も参加すると、親友のクロノ、恩師のリンディとハーリングに話せば、諸手を上げて賛成してくれた。
有能な副官が居なくなるのは辛いが、それ以上にメビウスも辛いだろ。とクロノが言ってくれたのを思い出し、少し嬉しくなる。
誰しも、自分が頼りにされるのは嬉しいものだ。
何より、彼は自分自身がワクワクしている事に気が付いている。途方も無い理想、現実味などまったくな独立部隊。
だからこそ、作りたい。作らねばならない。そんな思いが渦巻いている。

「おや、ブレイズ君じゃないか。夜勤あけか?」
「ジン副隊長。お久しぶりですね。えぇ、今から帰って寝ようかと。」
「おいおい、ならコーヒーなんて飲むもんじゃないぞ?」
「あ~…いつもの癖ですね。」

そう言いながら、ブレイズの隣に座るジン。シュトリゴン隊の副隊長と、闇の書事件解決の功労者、ブレイズのペアは目立つようだ。
周囲に居た局員達も様子を伺うように、チラチラと見ている。まぁ、ジンの荷物も目立つ要因の1つだろう。

「しかし、大荷物ですね。どうしたんですか。」
「あぁ、実は家のケイが誕生日でね。そうしたら、部隊の連中がプレゼントくれてな。」

ジンは、笑顔で足元の紙袋を持ち上げて中身を見せる。そこには縫い包みから、可愛らしい服など色々と詰まっていた。
その中でも目を引くのが、起動していないデバイスだ。

「デバイスもプレゼント…ですか?」
「ヴォイチェク隊長がなぁ。あの人、何が良いのか分からなくて、これにしたって言ってたよ。」

戸惑い気味に頭をかいて、プレゼントしてくれた上司の姿を思い出して、ジンは更に笑顔を深くする。
娘のケイもヴォイチェクには、とても懐いている。彼からのプレゼントなら何でも喜ぶだろうが、何故デバイスなのだろうか。

「質実剛健で、ヴォイチェク隊長らしいと思いますよ。」
「俺もそう思うよ。いやはや、うちの娘がこれだけ愛されてるなんて、嬉しいねぇ。」

おどけた様子で荷物を見るジンを見て、ブレイズは思いついたように、持っていた鞄をあさり始めた。
中から目当ての物を見つけると、汚れ、傷が無いか確めてジンに手渡す。
それは1冊の古ぼけた童話の本だった。しかし、大切に保存されているのが良く分かるほど、綺麗なものだ。

「こんなのですいませんが、俺からのプレゼントです。」
「なんとも…ありがとう。きっと娘も喜ぶよ。これは…なんて言う童話だい?」
「姫君の青い鳩と言う童話ですよ。古い童話ですから、もう無いと思います。俺は何回も読んで覚えましたし、あげてください。」
「そんな貴重なものなのか。…大事にするように伝えるよ。」
「えぇ。それじゃ、俺はここで。」
「あぁ、部隊設立で忙しいんだってな。俺達に出来る事があったら何時でも言ってくれ。」

握手を交わして、ブレイズはその場を後にする。
渡した本は、自分が大好きな童話。だからこそ、多くの…新しい人のその話を知ってもらいたい。そう願ってのプレゼント。
会う事も無いケイと呼ばれた少女も、好きになってくれるだろうか。





・オメガ・

「…っても、どうやって、どうやって説明すりゃいいんだ。」
「どうしたのよオメガ。悩んでるなんて、あんたらしくないわよ?」
「人の気もしらないんだもんなぁ。」

昨日、メビウスと話した事をアリサに言おうとしたんだが、全然、声がでてこねぇ。
何時ものように、クレープ屋に寄って、臨海公園のベンチで好物のアイスクレープを食べてんだが…まったく味がしないぞ。
どうやら、柄にも無く緊張しちまってるようだ。チラっとアリサに視線を向ければ、美味しそうに笑顔でクレープを食べている。
ちくしょう…本当に可愛いぜ。…心底、アリサが好きなんだと実感した。
さっきから、あーでもないこーでもないって、頭の中が色々とこんがらがってるし、どうすりゃいいんだよ。

「ねぇ、オメガ?本当にどうしたのよ、クレープ美味しくないの?」
「あ、いや、クレープはうまいし、アリサと居るのは楽しいぞ?」
「さ…最後の方は聞いてないわよ!!」

バシっと良い音を立てて、アリサが俺の背中を叩く。いってぇぇぇ…耳まで真っ赤だけどビンタの威力は変わんねぇんだな。
しかし、俺らしくないかぁ。…実際、そうかもなぁ。…こいつの前じゃ、緊張しっぱなしだよ。

「そ、それで、本当にどうしたの?なんか、元気もないし、悩み事?」
「あ~、いやぁ~、そのなぁ。」
「もう、本当になによ?」

俺の顔を覗き込むようにして、寄って来るアリサにドキマギしながら、頭を掻く。
…ええい、男を見せろオメガ・ガウェイン。

「実はな、メビウスがミッドに行くんだよ。」
「ミッドって、向こうの世界でしょ?…なにしにいくのよ。」
「部隊を作るんだとよ。…それでさ、俺も一緒に行こうって、思ってんだ。」
「…あんたも一緒…に?」
「おう。きっと、こっちには帰ってくる暇が無い。多分、1年とか…更に超えると思う。」

重苦しい沈黙が流れる中、俺達の間を風が通り抜ける。
言っちまったよ。…いや、言うしかないんだけどよ。

「そ、そう。まぁ、あんたらしいんじゃないの?あいつとは親友だもんね。」
「おう、親友だな。」
「1年くらいなんて、直ぐよすぐ。それに、ずっと会えない訳でも無いし、全然寂しくなんてないわよ?」
「アリサ。」
「大丈夫よ。こっちの事は心配要らないわ。あ、けど、なのはは泣くかも…。」
「…お前だって泣きそうな顔してんぞ。」
「…うるさい…黙ってなさいよぉ…!!」

必死に我慢してるアリサが…本当に可哀想で、俺は不器用ながら抱きしめる。…なんで、メビウスはあんな簡単に出きんだろうな。
身体がサッカーした時みたいに、熱いぞ。
腕の中では…アリサが泣きながら、俺の胸に顔を押し付けている。

「なんでよ…。みんな一緒に居るって言ったじゃない…。あたしの事、護るって言ってくれたじゃない…!!」
「…ごめんな、アリサ。けど、お前は強いだろ?」
「馬鹿ぁ…。あんたが、オメガが居なきゃ、意味ないわよ…。寂しくなんて無い分けないでしょ…寂しいわよ…!!」
「…俺さ、アリサの事、好きだぜ…?」
「あたしだって、あんたの事、好きよ…!それなのに!なんで、一緒に居てくれないのよぉ。」


泣きじゃくるアリサを、俺は力強く抱きしめる。少しでも俺の心が…俺の想いが伝わるように…少しでも近くに行ける様に。

「怪我なんて、するんじゃないわよ。」
「おう、任せとけ。」
「…手紙、よこしなさいよね。」
「…字、汚かったらすまねぇ。」
「ばか…。絶対に…絶対に帰ってきなさいよ。」
「あぁ、迎えに来るぜ。…このキーホルダー、お守りにするさ。」







・メビウス・

「メビウス君どうしたの?急に呼び出すなんて、びっくりしちゃったよ。」
「ああ、ごめんね、なのちゃん。」

私は、学校の屋上になのちゃんを呼び出していた。ここに居るのは私達2人だけ。赤くて大きな夕日が私達を照らしてくれる。
…はぁ、何から話したものか。そう悩んでいると、なのちゃんが私の隣に来て、並んで空を眺める。

「綺麗な夕日だねぇ。」
「そうだね。…えっとさ、なのちゃん…。」

私が話そうとする前に…なのちゃんはこちらを向いて、ジッと見つめてくる。

「知ってるよ。ミッドに…行くんでしょ?」
「え、どうして…。」
「もう、私はねメビウス君の事だったら、何でも知ってるんだよ。なんてね…サイファーさんが教えてくれたの。」

下を出して、テヘっと笑うなのちゃんと反対に…私の顔は落ち込んでいるだろうね。

「ミッドで部隊を作るんでしょ?凄いなぁ、メビウス君は。何時でも何処でも頑張るんだね。」
「…ごめんね、なのちゃん。一緒に居るって約束したのに。」
「ううん、良いよ。メビウス君は、みんなの為に…護る為に行くんだもんね。なら、私は大丈夫だよ。」

笑顔を浮かべるなのちゃんが、凄く愛しくて、私はふわりと優しく抱きしめる。そうすれば、なのちやんも背中に手を回して抱きしめ返してくれた。

「なのちゃん…好きだよ。大好きだ。」
「うん、私もメビウス君の事…大好きだよ。えへへ、嬉しいなぁ。やっと言ってくれたね。」

甘えるみたいに擦り寄って、甘い笑顔を浮かべるなのちゃん。…本当に彼女の事が大好きだ。
だからこそ…私は行かないと。みんなを、なのちゃんが住むこの世界を護る為に…。

「…ごめんね、メビウス君…少し泣いて…良い?」
「うん、良いよ。…私の責任だしね…。」
「…寂しいよ、メビウス君…行っちゃやだよ…。もっともっと一緒に居たいよぉ…。」

身体を少し震わせて…なのちゃんは泣き始める。…応援してくれても居るけど、それ以上に別れたくない…そんな気持ちが伝わってくる。
なのちゃんの涙で制服が濡れていくのは、私の責任。だからこそ、その不安を少しでも軽くしてあげたい。

「なのちゃん、顔を上げて。」
「ぐす…なに?」

眼が赤いなのちゃんの頭を撫でてあげながら、私はポケットから1つのケースを取り出す。
父さん達に手伝ってもらって作った私からの贈り物。

「私の手作りだけど、受け取ってくれる…かな?」
「おくりもの…?…あ、これって指輪…?」
「うん。そうだよ。なのちゃんの為に作ったんだ。」

ケースの中には、小さな双翼を模して作った指輪が収められていた。
私はソッとなのちゃんの左手を持ち上げて、薬指に指輪をはめる。

「え…、メビウス君、ここって…。」
「高町なのはさん。私メビウス・ランスロットは貴女が好きです。大人になったら…結婚してください。」

今の自分に出来る精一杯の笑顔を浮かべて、私はなのちゃんに想いを込めて、プロポーズをする。
小学生の私がするんじゃ、格好がつかないけどね。
呆気に取られたなのちゃんだけど…直ぐに顔を赤くして、また私の胸に顔を埋める。

「うん…うん!!…私を、なのはを貰ってください…!!約束、約束だよ、メビウス君。」
「あはは、私が約束破った事ある?」
「ううん、無いよ。…私ね、絶対に…大人になったらメビウス君のお嫁さんになるね。」

最後に顔を上げてくれたなのちゃんは…本当に綺麗で可愛い笑顔を浮かべてくれた。
その額に口付けをして…私はぎゅっと彼女を抱きしめる。絶対に…なのちゃんの居る世界は護って見せるんだ…!!






3年後

ミッドチルダ、クラナガン。


「やれやれ、ようやく設立できたなぁ。」
「あぁ、長かったな。ようやく、第一歩と言った所か。」

地上本部の一室を借りて設立した部隊ISAF。その特異性から、テスト期間としての設立だが、本人達にとっては大きな一歩だ。
オメガはデスクに腰掛けて窓の外を眺め、ブレイズは制服の首元を緩めて緊張を解していた。

「これからが大変だな。人数も俺達、7人だけだ。」
「7人も…とも言う。本部は過小評価してるにすぎん。」

コーヒーを片手に笑顔を浮かべるイリヤと、何時もの様にクールな表情のアーサー。
だが、2人の顔には絶対的な自信が満ち溢れていた。

「そうだぜ、イリヤ。お堅い上の連中の、ド肝をぬいてやろうぜぇ。」
「チョッパーの言うとおりだ。なに、君達なら簡単だろう。なぁ、総隊長。」

パシンと拳を手の平にぶつけて、笑顔を浮かべるチョッパーと、メガネをかけなおすスカイアイ。
ブレイズが空戦魔導師としてチョッパーと、管制官のスカイアイも引き抜いたのだ。
全員の制服には、3つの鏃を模したスリーアローヘッズのエンブレムが刺繍されている。
そして…全員の視線の先に佇み、空を見上げる蒼髪の男性。

「その通りです。今の私達に必要な事。それは、上層部を認める功績と実績を出す事。」

長髪をなびかせて振り返るのは…メビウス・ランスロット。
皆例外なく成長し、空の男の眼をしている。だからこそ、この部隊に集ったのだ。

「さぁ、ここから始まりです。ここから始めるのです。私達の理想を、私達の物語を。」

静かに…自信に満ちたメビウスの声。幼き少年は…気高き空の戦士へと成長していた。

「…私達の想いと理想を。平和を願い、ここにISAFの設立を宣言します。」

さぁ、始めよう、空の物語を。紡ごう、空の英雄達の物語を。
君も何時か手に入れるだろう…。

それは、誰もが手にするソラノカケラなのだから…。








あとがき

空白期は終了です。
次回からはISAF編を書いてから、StSに行く予定です。メビウス君、丁寧口調に変更する予定ですので…。修正が大変になるかもですね。
ISAF編はエースコンバットのミッションを事件風に仕上げて書く予定です。
さぁ、頑張れ作者のフロム脳!!
しかし、空白期ダラダラとなってますね…。…なにより、はやての出番が少なかった感が…。



[21516] ISAF編 1話 アピート国際空港テロ事件
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/10/27 18:58
地上本部、最上階、司令官室

「まずは、おめでとう、とでも言っておこうか。」
「はい、ありがとうございます。」

直立不動の姿勢で、メビウスは目の前に人物を見つめる。
机に腕を乗せて、手を組むポーズをし、鋭い眼差しの男性。地上部隊の統括者にして、ISAF設立の賛同者の1人、レジアス・ゲイズ中将だ。
現在はハーリング及びレジアスが部隊の上司と言う立場になっている。だが、地上部隊所属という事ではない。

「ふん、だが、今は試用期間だ。使えんと分かれば、すぐに解散してもらうぞ。」
「ご心配は無用です。…失った対価に相応しい実績をあげてみせましょう。」
「ほほう、大きく出たな。シュトリゴン隊を超えると言うか。」

失われた対価--シュトリゴン隊。これはどう言う事なのだろうか。
…1年ほど前に、リフォー社のトリスタラム代表を護衛していた地上本部所属、ゼスト隊がダイモンに襲撃を受けたのだ。
隊長のゼスト・グランガイツが救援を要請したが、何者かが、ジャミングと共に「騙された、良く出来たな演習だな」と言う情報を流し、
各部署が、まともに取り合わないと言う自体が発生。唯一、付近を広域警備していたシュトリゴン隊が救援に駆け付けること成功した。
そこまでは良かったのだが、既にゼスト隊は壊滅状態であり、トリスタラム代表も殺害された後であった。
シュトリゴン隊隊長のヴォイチェクは、ゼスト隊を速やかに収容し、撤退を指示。自身は副隊長のジン・ナガセと殿を勤めたのだ。
これにより、ゼスト隊は奇跡的に死傷者0。しかし、多くがリンカーコアの破損や、後遺症により魔導師を続けられなくなり、ゼスト隊は解散となる。
隊長のゼスト・グランガイツも片腕をなくす重傷を負い、現在はレジアスの補佐官となっている。
なお、殿を務めたヴォイチェクも重傷を負い、魔導師生命を絶たれ教官に移動。副隊長のジン・ナカゼは殉職した。
リフォー社は代表を失い、一時は業績不振に陥るが、リリン・プラジナー、そして、その婚約者と噂される帝 閃が建て直しに成功する。
だが、デバイス市場など、別企業に奪われ力は弱体化している。噂では、帝 閃が新製品の開発に着手しているらしい。
この暗殺事件により地上本部はゼスト隊と、救援可能な特別部隊、シュトリゴン隊を失う事になる。
当然、レジアスは管理局本部に抗議、妨害犯の逮捕と、増援を要求。しかし、本部は拒否し、地上は更なる人事不足を強いられる事となった。
なお、これは本部が地上本部の力を削り、更なる弱体化を図ったからと言う噂もある。
そこに、ハーリングが独立部隊を提案して来たのだ。
当初は、滅茶苦茶な要求の部隊であり、実現できるはずが無いとレジアスは跳ね除けた。
だが…ハーリングの一言が、彼の心に突き刺さったのだ。

「君は力なき意志で民を護るつもりなのか。思い出して欲しい、レジアス。何のために、君は人を、この地を護っているのか。
今こそ、私達は手を取り合い協力すべきなのだ」

短いが、実に…実に分かりやすい説得だった。気がつけば、レジアスは若い頃の、希望と自信に満ち溢れていた頃の自分を思い出していたのだ。
なにより、この部隊案、面白いではないか。全てが管理局の常識を覆すものばかりだ。
だが、考えれば当たり前の事ではないのか?
何故、護る為に戦うのにリミッターをつける必要がある。心無いものが暴走するから? ならば、心を育てれば良いではないか。
事件が起これば迅速な行動が必要なのに、都市部で飛行を制限するのか。訓練不足で事故が起きるのではないか? ならば、訓練を重ねれば良いではないか。
…簡単な事だ。全て、自分達で制御できる物ばかりだ。
だからこそ、目の前の青年、メビウス・ランスロットに賭けたのだ。変革の風を、新たなる管理局を目指すために。

「上層部にとって、貴様らは邪魔な存在だ。地上を押さえておきたいからこそ、こちらには戦力が無い。」
「それを打破するために、私達は存在するのです。独立部隊だからこそ、全てのテロ行為へ介入が可能。
そして、全てに所属し、全てに所属しない独立部隊なのですから。」
「そうだ。…貴様らに求めるのは1つだけだ。実力を見せろ。精々、本局の連中の評価を覆すよう、頑張るんだな。」
「はい。…中将は、どう御考えですか?」
「同じだ。名前だけの部隊など認めん。ただそれだけだ。」

それだけ言うと、レジアスはメビウスに背を向けて、手を退出を指示する。
メビウスはそれに従い、敬礼をすると出入り口のドアに手をかける。

「…魔術師どもがなにやら動き出している。…連中には気をつけることだ。貴様は目の敵にされてるようだからな。」
「…はっ。中将もお気をつけて。」
「小僧ごときが心配するな。…貴様らは貴様らの職務を全うしろ。…力なき者達を護る盾となれ。」
「我が名に賭けて。…心に刻み付けておきましょう。」

メビウスが退出した後、沈黙が流れる部屋に…少しずつ笑い声が響く。
その身体を震わせて、レジアスは実に面白そうに笑い声を上げていたのだ。

「おもしろい。実に面白い。…まさか、ここまでとはな。ふん、本局の連中め。あいつらの実力も見抜けんほど、眼が腐ったか。
…ハーリング、お前の考えに乗って良かったと、思えるぞ。はっはっはっ!!!」

彼とて長い間、地上を守護してきた。人を見る眼はあるつもりだ。ISAFに集った者たちは、全員か気高く空の男の眼をしているのは、直ぐに見抜けた。
友であるヴォイチェクとまったく同じ眼。彼らならば、成し遂げてくれるだろう。我が悲願、地上の、民達の平和を。安らかに眠れる夜を…。
久しぶりに、本当に久しぶりにレジアスは腹の底から声を出して、笑い続けた。



アピート国際空港第1ロビー。

「あ~っと、手続きはどうすんだっけかな。」

ガリガリと頭をかきながら、メビウスに手渡された書類を捲るオメガ。
現在、彼は飛行機の飛行ルートなどのデータを貰うために、空港に訪れていた。
都市部で飛行するならば、飛行機等のルートを知る必要性が出てくる。その手続きをする為に来たのだが、如何せんオメガである。
なかなか、こう言う事はしないのか、何処にどう行けば良いのか、完全に分からなくなってしまった。
どうしたもんかな、と悩むオメガだが、1人の少女目が留まる。
先ほどからキョロキョロと周りを見て、誰かを探しているようだが、徐々に少女の顔が泣き顔へとなっていく。
どうやら、迷子のようだ。基本的に、困った人を見過ごせない性格のオメガだ。書類を鞄にしまうと少女に歩み寄り、しゃがんで目線を合わせる。

「よ、お嬢ちゃん。泣いて、どうしたよ?」
「ひっく…お、お姉ちゃんとはぐれちゃった…。」
「おおう、迷子かぁ。ほら、泣くな。兄ちゃんが一緒に探してやっからよ。」
「ぐす…ほんと?」
「おう、俺に任せとけ。ほら、兄ちゃんの手、握りな。一緒に探そうぜ。」
「うん…。」

ニカっと人懐っこい笑顔を浮かべて、少女の頭を優しく撫でてあげるオメガ。
彼独特の雰囲気のお陰でか、少女も泣くのを止めて、ぎこちなく笑顔を浮かべる。
笑顔に満足して、一緒に手を繋いで、少女のお姉ちゃんとやらを探し始めるオメガだが、少女の名前を聞いてない事に気がついた。

「そう言えば、名前はなんて言うんだ?」
「私はスバル、お姉ちゃんは、ギンガって言うの。…お兄ちゃんは?」
「俺はオメガって言うんだ。よし、スバル、お姉ちゃんの特徴教えて…んだぁ…?」

空港内を少女--スバルと話しながら、歩いていたオメガだが、背中にゾクリと嫌な予感が走る。
注意深く周囲に眼を配るが、何も異常は見られない。しかし、訓練の経験、そして彼の直感が何かを伝えているのだ。
刹那、爆発音が空港内に響き渡り、大きく建物を揺らす。
しかも、1回だけでなく、2回3回と何度も爆発が起きていた。これは、明らかに事故ではない。
空港は一瞬にして、火に包まれ、地獄絵図と化してしまった。崩れた瓦礫に挟まれた者が悲鳴をあげ、逃げ惑う人々の声が響く。
混乱の中、スバルはオメガに、しっかりとしがみつき、はぐれないようにしている。幼いながらも慌てない方が良いと、分かったのだろうる

「な、なにが起こったの…!?」
「わかんねえ。…とりあえず、スバル。兄ちゃんから離れんなよ。…イジェクトォォォォ!!」
『OK、待たせたなBrother!!…こりゃ、大変だな。』

相棒のイジェクトを展開すると、オメガは直ぐに通信機能を使い、ISAF本部へと連絡を取る。
恐らくだが…天高く舞っている【空の眼】は、この事態に気がついているだろう。

≪こちらオメガ11、アピート国際空港で爆発が発生!!テロか事故か分からんねぇが、救助を頼む!!≫
≪スカイアイ了解。現在、メビウス1達が現場に急行している。それに、教導隊の教導官らもだ。それまで、救助を続けよ。
頼むぞ、オメガ11。今は君が頼りだ。≫
≪あいよ!!任せとけ。≫
≪通信機は接続しておいてくれ、逐一、情報を伝えよう。≫

通信を切ると、オメガは気合を入れなおし、心配そうにしているスバルの頭を、その大きな手で撫でる。

「良いか、兄ちゃんにしっかりと捕まってるんだぞ。」
「う…うん。」

スバルを抱きかかえると、オメガは走り出した。邪魔な瓦礫は脚甲で蹴り砕くか、トンファーの一振りで粉々に砕く。
途中で大きな柱の下敷きになっている男性を見つけると、スバルを下ろし、パイルバンカーを構える。

「う…うぅ、助けてくれ…。」
「しっかりしろぉ、今、助けてやっからな!!」

重く大きな瓦礫だろうが、イジェクトのパイルバンカーにかかったら紙も同然だ。勢い良く振り下ろし、男性の上に乗っていた柱を砕くと、
動けない男性に肩を貸し、スバルも抱きかかえる。助けれる人は全員助ける。それが彼のポリシーだ。
その時、入り口らしき方から、女性の声が聞こえてきた。

「誰か、誰か居ませんか!!」
「っと、よかった。救援か、おーい、こっちだ!!」

大声を出し、場所を知らせるオメガ。燃え盛る炎の音でかき消されるかと思ったが、奇跡的に女性に届いたようだ。
邪魔な瓦礫を桃色の魔力光が破壊し、こちらに駆け寄ってくる。

「よかった、無事って…オメガ君!?」
「あん?……え、なのはか!?」

煙の向こうから現れたのは、純白のバリアジャケットを纏い、レイジングハート・エンジェランを握り締めた高町なのは。
彼女も成長し、とても美しく、可憐な女性へとなっていた。

「っと、久しぶりとか言ってる暇じゃねぇな。とりあえず、この2人を頼む!!」
「え、うん。さぁ、こっちに。」
「スバル、この姉ちゃんと、一緒に行くんだぞ。」
「私のお姉ちゃんが…まだお姉ちゃんが残ってるの!!」
「大丈夫。貴女のお姉ちゃんも、きっと無事だよ。…オメガ君だって居るし、あの人が来てくれたんだから。」
「ほ、本当?」
「うん、本当よ。さぁ、私と一緒に行こう。」
「う…うん、けど、お兄ちゃんは…?」
「俺の事は心配すんな。まだ助けてなくちゃいけない人は沢山いるんだ。困ってる人は助ける、当然のことをしてくるぜ。
それじゃ、なのは。…後はよろしく!!」

奥に向かって走り出すオメガを見送ると、なのははスバルを連れて、外に出る。
先ほど、なのはは見たのだ。翼を羽ばたかせ、空港の深部へと降り立ったある人物の姿を。




アピート国際空港第2ロビー。

「向こうは、火が消えている。はやく、避難するんだ。」
「あ、ありがとう。」

取り残されていた民間人を助け出すと、ブレイズは自分が来た方向を指差す。
未だに燃え盛る空港内で、彼も懸命に救助活動を続けていた。
しかし、1人で助け出せる人数に限界があるし、なにより…

「だいじょ…くっ、手遅れか…。」

力なく倒れている女性を助け起こすが…既に息は無い。
静かに寝かせて、手を合わせ冥福を祈る。彼女も連れて行きたいが…今は命を助けなくてはいけない。
ギリっと歯を噛締めながら、ブレイズはスペシネフで炎を切り払う。驚く事に、炎が2つに両断される現象がおき、その空間が捩れ圧縮し、炎をかき消した。
時空・空間制御、そして時間逆行を使い炎の存在を掻き消したのだろう。

「誰か、まだ残ってる人は居ないか!!聞こえたら返事をしろ!!」

大声を出して、周囲に眼を配る。これ以上、延焼が続けば単独での救助作業は大変になる。
しかし、外の部隊はまだ集まっていない以上、自分達で何とかするしかない。

「やはり、部隊展開が遅い…。いや、全ては人材不足が原因か…。ちっ、これ以上は限界か。」

目の前は火の海となり、幾ら空間を制御して炎を消しても、意味がない。
一度脱出しようとするブレイズだが、誰かが扉を弱弱しくだが、叩く音が聞こえてきた。

「この音は…どこだ!!」
『マイロード、ロッカールームのようです。』

スペシネフのセンサーが反応をキャッチしたのだろう。すぐにブレイズはロッカールームの扉を開けようとするが、熱で扉が曲がり開けれない。
隙間から黒煙が溢れているところを見ると、中は燃えては居ないが、有毒ガスが充満し危険な状況だ。
小さく舌打ちをすると、ブレイズは左手のクローに魔力を送り込み、魔力爪を構成し扉を突き破る。
そして、剥がした扉を適当に投げると、入り口でうずくまっている少女を見つけ助け起こした。

「大丈夫か!!返事をしろ!」

助け起こして、声をかけると弱弱しくだが、声が漏れる。無事のようだが、危険な事には変わりない。
それでも、少し安心して少女を抱えると、ブレイズはその場を足早に立ち去っていく。
ふっと…少女が何かを持っている事に気が付き、よく見ると…古い童話の本だ。

「これは…姫君の青い鳩?」

見間違えるはずのない本。所々、破れたり、焦げたりしているが、それは自分がジンの娘、ケイにプレゼントした本ではないのか?
確かに、少女は何処となくジンに似ている。

「…ジン副隊長、貴方の子供なんですか。…決して、こんな所でで死なせはしない…!!」

ジン・ナガセの娘、ケイ・ナガセを抱きかかえると、ブレイスは外へと走り出した。


アピート国際空港、外周部

「だから、さっさと救助部隊をよこしなさい言うとんの!!はぁ!?担当地区じゃない!?アホは休み休みに言うてな!!」
「ですから、もっと救急車を。えぇ、受け入れ態勢を整えてください!」
「放水車、準備して!!ほらほら、燃え広がる前になんとかしないと!!って、そこは救急車が止まるんだってぇぇ!!」

通信機のを握りつぶしそう勢いで、付近の部隊を呼び寄せるのは、八神はやて。その額には特大の青筋が浮かんでいる。
どうやら、付近の部隊の動きが遅く、救助部隊が集まらないようだ。
その隣では、フェイトが付近の病院にコンタクトし、救急車や受け入れ態勢を要請している。
レヴィは放水車の配置と、火災現場を空港の地図と照らし合わせて、消火作業の指示をしていた。
彼女達は空港近くで視察等を行っており、いち早くここに来る事が出来たのだ。
ちなみにフェイトは執務官、レヴィは補佐役として管理局に所属している。
なのはは、メビウスとの約束を守り、勉学と魔導師を両立し、教導官と言う立場に立っている。
最も、未だにバートレットにどやされたりしてるが、優秀な教導官には違いない。

「ああもう、どうしてこう、頭が固いんやろ…。」
「はやてちゃん!!2人、救助してきたよ!」
「おぉ、よかったぁ。なのはちゃんが飛び込んでった時は、どうしようか思ったやないの。」
「それで、救助部隊は…。」

男性とスバルを救急隊員に任せて、なのはがはやて達に駆け寄り、救助部隊の数を聞くが、はやては力なく首を振る。

「全然、足りないんよ。本当に動きが遅くて、泣きそう…。」
「受け入れ先もなかなか…。救急車も全然足りないの。」
「まだ火災だって起きてるし、もし燃料庫なんかに引火したら大惨事だよ!!」
「そう……なら、私ももう一度…。」
「ああもう、こう言う時、お兄が居てくれたら…。」

レヴィがポツリと零した言葉を聞いて、なのはは空港に視線を戻す。その時…天井を打ち砕く蒼い斬撃が眼に入った。
煙を突き抜けて、現れたのは白の翼を纏った1人の魔導師。一瞬、なのは達はその光景に眼を奪われた。
魔導師--メビウスは1人の少女を抱きかかえて、なのは達の元に舞い降りると、軽く敬礼をする。

「ISAF総隊長、メビウス・ランスロットです。迅速な救援に感謝します、八神陸佐。」
「え…あ、はい。ランスロット総隊長も。」
「では、私は救助を続けますので。こちらで陣頭指揮をお願いします。」
「あ、お姉ちゃん!!」
「…君がこの娘の妹ですか。無事でよかった。…大丈夫、お姉ちゃんは少し眠ってるだけですからね。」

担架に乗せられる少女--ギンガに走りよるスバルを見て、メビウスは安心させるように言葉をかける。
空港の奥に取り残されていたギンガを助け出した時に、「妹が…」と心配そうにしていたが、見つかった本当に良かった。
運ばれていく中…ギンガはうっすらと眼を開けて、メビウスを見つめ続けていたが…疲労とスバルが無事と言う安心感で深い眠りについてしまった。
直ぐに光翼を広げ、飛び立とうとするメビウスだが、スカイアイより通信が入る。

≪こちらスカイアイ。メビウス1、これは事故ではないようだ。≫
≪どう言う事ですか?≫
≪先ほど、周囲を検問していた部隊から通信が入った。どうやら、怪しいトラックを発見し、取り調べようとしたら逃走した模様。
ナンバーを哨戒すると、盗難車であり…ドライバーがストラグルのメンバーと分かった。≫
≪爆破テロと言う事ですか…!!そのトラックは?≫
≪バーナー学園都市部、358号線を逃走中。陸戦隊から援護要請が出ている。メビウス1、君も向かってくれ。≫
≪しかし、救助はどうするのです?≫

ストラグル、国際的テロ組織であり、幾度となく大規模テロ行為を実施し、管理局も壊滅できてない危険な組織だ。
テロ行為の犯人を捕まえるのも大事だが、目の前の命を見捨てる事も出来ない。
しかし、その心配は無用だとばかりに、メビウスの肩を誰かが叩く。振り返ると、バリアジャケットを灰で汚したブレイズとイリヤが立っていた。
恐らく、今まで救出作業を続けていたのだろう。

「救助は俺達が引き続き行う。メビウス、お前は犯人を追ってくれ。現在、チョッパーが追撃しているから、合流してくれ。」
「オメガ11も追撃している。なに、君の足なら直ぐに追いつけるさ。おっと、この場合は翼かな?」
「ブレイズさんにイリヤさん…。分かりました、メビウス1。追撃に移ります。」
≪そうしてくれ。位置情報を転送するぞ。≫

メビウスは、救助を終えて戻ってきたブレイズ達に頭を下げると、後ろに待機しているなのは達に目を向ける。
そして…バイザーで隠れているが、彼は優しく笑顔を浮かべた。

「…後はよろしくお願いします。…みんな、綺麗になりましたね。」
「…めびうす君、それはずるいよぉ…。」

全員揃って顔を赤くする彼女達の代表するかのように、なのはは小さく零す。
それが彼に届いたのかは定かではないが、ツインランス状態のエクスとファイヤを握り締め、メビウスは光翼を羽ばたかせて、空に舞い上がる。
舞い散る魔力光が天使の羽毛のように、幻想的で美しい。
久しぶりの再会だが…彼は変わっていなかったようだ。…本当に優しくてカッコよくて、大好きな人。
ため息を零しながら、ブレイズはパンと大きく手を叩く。

「まだ救助は終わってないぞ、気を抜くな!」
「「「「は…はい!!」」」」
「俺と八神陸佐は、これから合流してくる部隊の指揮とる。」
「他の部隊に連絡はとらなくて…?」
「取った所で、来る部隊は数が知れている。ランスロット執務官及び補佐官は、リフォー社と帝閃に連絡をとってくれ。
恐らく、医療施設を手配してくれる筈だ。高町教導官は上空から火災位置の指示を。俺がワームホールを作り、水を送り込む。
イリヤは、救助部隊の指揮を。奥で、アーサーが数人救出しているはずだ。」
「了解。誰か、着いて来てくれ!!」

ブレイズの指示に従い、はやて達もそれぞれの役割を始めた。
指示を出した本人もなのはの誘導に従い、次々とワームホールをつくり、空港内部に水を送り込んでいく。これならば、火災現場に直接水をかけることが出来る。
そして、イリヤは近くの陸戦隊を率いると、再び救助作業を開始する。

「遅れてすまん!!クォックス隊のアンソニー・ドイルだ!!」
「よし、救助活動はまだ続いている。人手が足りん、直ぐに入ってくれ!!」
「了解。俺達はまだ火がある所にいくぞ!!遅れてきたんだ、危険な所は任せてくれ!!」
「頼むぞ。Cエリア、Dエリアを中心に捜索してくれ。他が済み次第、他の部隊も向かわせる。」

新たに合流したクォックス陸戦隊のアンソニーに指示を出すと、ブレイズは地図にマーカーを示す。
隣でははやても、救助の進行具合や、部隊の指揮を忙しなく行っている。
だが、これにより、本来の事故より、この国際空港での死傷者は大幅に減少する事となった。


・メビウス・

バーナー学園都市部上空。

≪上空の魔導師、聞こえるか?こちらワーロック陸戦部隊のゲイリー・キャンベルだ。≫
≪こちらスカイアイ、聞こえている。現在の状況は?≫
≪連中は、検問を突破後、逃走を続けている。お前さん方で脚の速い奴、オメガ11が追跡している。そっちは空から監視してくれないか?
こっちは包囲網を敷いておく、うまく網に追い込んでくれ。≫
≪メビウス1了解。≫
≪チョッパー了解!!≫
≪後はくれぐれも砲撃魔法なんて、使わないでくれよ?無傷で確保して、色々と聞き出したいんだからな。≫
≪…なぁ、ちょっとでも駄目か?≫
≪駄目!!≫
「だとさ、メビウス。面倒だが、しっかりと見ときますか。」
「ふふ、仕方がありませんよ、チョッパーさん。」


隣でチョッパーさんが、肩を竦めて私に視線を向けてきました。
それに私は小さく苦笑を返すしかありません。恐らく、ワーロック隊は生きたまま確保するのが目的なのでしょう。
テログループには怒りが収まりませんが、仕方がないことと納得するしかありませんね。
それに、ここで犯人達を抑えれば、ストラグルのアジトなどの情報が得られるかもしれません。
現在、私とチョッパーさんは、バーナー学園都市部の上空を飛行し、逃走しているトラックを監視しているところです。
しかし、自分が通っている学園の上を飛行する事になるとは…何が起こるか分からないものです。

≪こちらメビウス1。ゲイリーさん、何処に追い込むつもりですか?≫
≪このまま行けば、王様橋がある。そこなら、追い込むのに最適な場所だ。こっちは真ん中辺りで、橋を封鎖している。≫
≪了解です。オメガ、聞こえましたか?≫
≪あぁ、聞こえたぜ。…っと、奴ら撃って来やがった!!≫

下を見ると、オメガの追跡してるトラックから、マズルフラッシュが漏れている。どうやら、銃火器で武装を施しているようですね。

「おいおい、オメガ大丈夫か?」
≪ぎりぎりで弾いてるし、がむしゃらに撃ってるだけみたいだな。≫

そう言いながら、トラックを追跡しているオメガですが、相変わらず、信じられませんね。
…普通に走ってるだけなんですから。…体力補助や、彼の脚甲に取り付けられたギアのお陰とはいえ…流石に驚きます。
それなのに、未だに飛行魔法は苦手なのですから、色々な意味でため息がつきません。
…テロリストのトラックは信号などお構い無しにへし折り、車体をボコボコにしながら、逃走を続けています。
付近一帯は、ワーロック陸戦部隊が封鎖済みなので、民間時の姿がないのが、救いですね。

「って、おいオメガ、お前、何処走ってんだ…?」
≪中央公園内だ!!こっちの方が、近道だぜ!!≫
「おいお~い。市民とオイラの憩いの場所を壊すなよ?」
「やれやれ、やる事なす事、滅茶苦茶ですね。」

お気に入りの公園をぶち壊されないかと心配し、ガックリと首を垂らすチョッパーさんには、私も同情するしかありません。
しかし、その行動のお陰で、オメガはトラックの真横に躍り出る事が出来たようです。
飛び出した勢いのまま、トラックの側面へ飛び蹴りをかまして、無理やり進路を王様橋へと変更させる事に成功したのです。
クラナガンの旧市街地と新市街地を繋ぐ巨大な橋。それが通称、王様橋です。何気に観光名所の1つなんですよね。私もお気に入りです。
長大な橋は真ん中あたりから、見事にワーロック陸戦部隊が封鎖し、デバイスやら銃火器を構えていました。

≪良くやってくれたな。後はこっちの仕事だ。≫
≪いえ、私達は何も…。≫
≪こちらスカイアイ、もう一仕事だ。レーダーに戦闘ヘリの姿を捉えた。恐らくは無人操作のヘリだろう。≫
≪かぁぁ、まだ悪あがきかよ。強行着陸で、即離脱って訳か!!≫
≪その通りだチョッパー。今日のパーティーはお開きだ。遅れてきた客人には、ご丁寧にお帰りいただいてくれ。勿論、紳士的にね。≫
≪あいよ。ジェントルマン了解。≫

軽いスカイアイの冗談に笑いながら、私とチョッパーさんは視界に捕らえたヘリへと向かう。
攻撃ヘリだけあって、対空ミサイルやら、機銃やらを搭載していますが…無人操作で動きが鈍い。
ツインランサーのエクスとファイヤに魔力刃を展開し、後部ローターを切断。バランスを失ったヘリは海に落ちて、爆発する。
チョッパーさんも、銃型のデバイスで、メインローターを吹き飛ばし、最小限の魔力と狙いでヘリを次々と撃ち落していきます。
流石は、あのバートレット教導官の教え子ですね。実力はかなりのものですね。

「ったく、1機じゃなくて、ご丁寧に6機かよ。」
「纏めて吹き飛ばします。ラジカルザッパー!!」

ツインランサーモードを解除して、エクスをラジカルザッパーモードに移行し、残る4機のヘリに照準を合わせます。
エクス本体に収束した魔力を、弾丸の様にして撃ちだすラジカルザッパー。
器用にラジカルザッパーを発射しているエクスを横にスライドさせ、並んで飛んでいたヘリを纏めて葬る。
その威力は、幼き頃の私より上昇しているでしょう。ただ、ヘリは蒼い魔力に飲まれ、空中で砕け散っていくのみです。
脱出の手段をとられたテロリスト達も、観念し投降したようですね。
下を見れば、ワーロック陸戦部隊が犯人達を、確保しているところでした。

≪こちらワーロックのゲイリーだ。空戦部隊の援護に感謝する!!≫
≪いえ、お役に立ててなによりですよ。≫
≪はは、馬鹿丁寧な奴だな。しかし、お前さん達、どこの部隊だ?≫
≪本日設立されたISAF所属のメビウス・ランスロットです。≫
≪おぉ、噂になってたあの部隊か!!これからも期待しているぞ!!≫
≪さぁ、パーティーはお終いだ。メビウス1、オメガ11、チョッパー、家に帰るとしよう。≫


こうして、私達ISAFの初日は幕を閉じました。
設立初日から、テロ事件が起こるとは…凄い偶然としか言いようがありません。
しかし、これにより私達の知名度は上がる事となりました。独立部隊ISAF、迅速かつ的確な行動…等など、ニュース番組に取り上げられ、注目されました。
そして、今回逮捕したテロリスト。恐らく彼等の情報を元に、ストラグル壊滅作戦が実施される事でしょう。
彼らは、テロ行為だけでなく、研究者の誘拐なども行い、非合法な研究を行っているそうです。
ですが、私が気になるのは、その背後。…ただの1組織が持てる武装や人員ではありません。
何かしらの組織が関与しているのか…。それも含めて、調査を行う事にしました。
なにはともあれ、ISAFの存在理由が認められるように、日々精進ですね。











ミッドチルダ、某所

「ちっ、連中はしくじったのか。折角、僕が資金も用意してやったのに。」
「所詮は捨て駒。この程度だろう。」
「…邪魔なシュトリゴン隊を消して、僕達の時代だと思ったら、ISAFだと…。ゴミの分際で余計な物を作ったな。」
「ビンセント・ハーリング、レジアス・ゲイズ。そして、グラシア家とミッド政府の後押しのお陰だろう。だが…資金面はどうだろうな。」
「…くくく、なるほど。資金面は脆弱か。そこを押さえて…後はそうだな。くく…はははは。ストラグルと遊んでおいて貰おうか」
「奴らも用済みだな。ふん、ブレイズも調子付いてるが…どちらかが消えてくれれば、清々するのだがな。」
「そうだ。すべては僕の手の平の上さ。…歴史は僕が作り、僕が管理するんだ。くくくく…ははははは!!!!!」






あとがき
シュトリゴン隊の事や、現在のリフォー社の様子などは追々書いていきます。
5のアピート国際空港ネタ、完了!!
さて、始まりましたISAF編。ACEのミッションを事件風に書いて、ISAFの有用性などを示す予定です。
あと、メビウス君、口調がですます。丁寧語に変更なりました。…だって王道厨二主人公ですから。
ちなみに、ストラグルは初代アーマードコアに出てくるテロ組織の名前です。
ゲーム中ではここで活躍するのはチャーリー11番。ミッション番号も11番
なら…オメガ11が頑張らなくては!!
さて、誰が出て、誰が仲間になるのかはお楽しみ~。
さぁ、頑張れ作者のフロム脳!!



[21516] ISAF編 2話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/12/06 21:52
ミッドチルダ 教導部隊訓練施設

「おらぁ、高町!!ぼけっとしてると、堕ちるぞ!!」
「は…はい!!」

訓練場に響く、バートレットの大声。
幾多の魔力弾を構成して、一斉に撃ち出すのを迎撃していくのは、期待の新人、高町なのは教導官だ。
一応は教導官という立場であり、成績も優秀ななのはだが、バートレットの方が経験、実力ともに上であり、こうして暇なときは訓練をしてもらっているのだ。
レイジングハート・エンジェランを両手で構え、自分の身体の前で1回転させると、円形の障壁が構成され、バートレットの魔力弾を全て防いでいく。

「へ、相変わらず、障壁は固いようだな。」
「で、でも、結構消耗します…。」
「当たり前だ。全部、真正面から受けりゃ、誰だって疲れる。ったく、少しは器用に受け流せ。俺がやってみせるから。撃ってこい。」
「…うぅ、分かりました。」

バートレットの物言いはぶっきらぼうだが、その中には優しさが含まれている事をなのはも分かっている。
シュンとした彼女だったが、直ぐに真面目な表情を作ると、エンジェランを構える。
魔力が送り込まれると赤と蒼のコアが輝き始め、桃色の魔方陣が展開される。

「メビウス君直伝、ディバイン・バスター!!」
「相変わらず、アホみたいな魔力だな!!」

膨大な魔力の塊が、バートレット目掛けて放たれる。ちなみに、メビウスが居るならば、「直伝してないのですが」と苦笑を零しているだろう。
エンジェランとソラノココロを受け取った彼女の魔力は、実に素晴らしいものがある。
しかし、その非常識極まりない砲撃魔法を前にして、バートレットは余裕の表情で、何枚もの薄い障壁を展開し、緩いカーブを描いていた。
なのはのディバインバスターは逸れるように障壁のカーブを滑り、明後日の方向に飛んでいってしまった。

「真正面から受け切れなけりゃ、こうして逸らせば良いんだよ。」
「…そ、そんな器用な事、出来ないですよぉ…。」
「阿呆、教導官なんだから、出来て当たり前だ。…まっ、筋は悪くねぇんだ。これから、頑張れよ。」
「はい。…私も、バートレットさんみたいに、出来る様になりますか?」
「だから、筋は悪くねぇって言ってんだろ。実践あるのみだ。よし、今日はここまでだ。しっかりと休息とるように。」
「あ、はい。ありがとうございました!!」

最初こそ、ぶっきらぼうな言い方だが、最後にはシュンとするなのはを励ますように、バートレットは肩をポンと叩く。
少し下がり気味だった、彼女のツインテールも、元気を取り戻したようだ。
訓練の終わりを告げられると、何時もの様に笑顔を浮かべ、バートレットに礼をし、訓練施設を後にしていく。

「いやはや、今日も今日とて、バートレット教導官、厳しい指導だったなぁ。」
「まぁ、高町教導官は若いからな。実績もあるからな。期待してるんだろ。」
「…俺、今度、食事にでも誘おうかと思ってんだけど。」
「はぁ?無理無理、噂じゃ、婚約者が居るらしいぞ。」

遠めでなのはを見ていた数人の若い魔導師達が、なにやら話をしている。
実際、高町なのは、彼女はとても綺麗になった。いや、彼女の場合は、可憐や可愛いと言った表現のほうが似合うだろう。
そこに居れば、誰もが安心し、笑顔を浮かべれる優しい女性、それが彼女だ。
なのはが、自分が見られていることに気がつき、軽く会釈すると、意を決したかのように、1人の魔導師が声をかけた。

「あ、あのさ、高町さん。これから、時間ある?」
「時間ですか?えっと、休むだけだったので、一応はありますけど?」

そう言って小首をかしげる彼女のドキドキしながら、男性は安堵の笑顔を浮かべ、話を続ける。
ちなみに、後ろの同僚達は、静かに成り行きを見守っていた。

「よかったら、これから食事でもどうかな?勿論、俺が奢るからさ。」
「食事…ですか。えっとその~…ごめんなさい。」
「え…あ、そう…。いや、良いんだよ。ははは…。」

申し訳なさそうに、頭を下げるなのを見て、男性は力なく笑うと、同僚達の下に戻っていった。
戻ってきた彼を励ますように、同僚達はポンポンと肩を叩いたり、慰めの言葉をかける。

「…あ、高町教導官。1つ、聞いても良いかな?」
「なんですか?」
「噂で聞いたんだけど、婚約者が居るって、本当?」

別な男性が気になっていた事を聞くと、他の同僚達もうんうんと頷き、口々に、気になっていた等の言葉を発する。
ん~…と考える素振りをしたなのはだが…直ぐにとても…とても幸せそうに蕩けた笑顔で…。

「はい。いますよ。私のとってもとっても、大好きな婚約者さん。」

そう言って、薬指にはめられている指輪を見せて、その場を立ち去っていく。
後に残されたのは…彼女の笑顔に見惚れる一方、彼女のあんな笑顔をさせるほどの婚約者に、少しの嫉妬を覚える男性達だった。



教導部隊宿舎、高町なのはの自室。



「はふ~。今日も疲れたなぁ…。」

ベットに倒れるようにして転がり、なのはは大きく息を吐いた。
自室の机の上には、学校のテキスト等が広がっている。
彼女初め、フェイトにレヴィ、そして、はやても魔導師と地球での学生生活を両立している。
それは、彼女達の大好きなメビウスとの約束。

「…メビウス君、かっこよかったなぁ。」

そう言いながら、サイドテーブルに置いてある新聞を見る。
その一面に、少女抱きかかえ、空港から脱出しているメビウスが映っていた。
他の新聞には、陣頭指揮を執るブレイズ、壁を砕いているイリヤ、救助者を助け出しているアーサー等が映っている。
その全ての記事が、新設部隊、ISAFの内容を語っている。
的確であり、迅速。なにより、彼等の活躍で死傷者は最小限に抑えられた等等。

「もう、こんなにかっこ良かったら、もっともっと好きになっちゃうよ、メビウス君?」

薬指にはめた指輪を幸せそうに見つめ、頬を染めて、笑顔を浮かべるなのは。
彼女はメビウスから貰ったリボン、そして、指輪は大切な宝物。
リボンは擦り切れてボロボロになってしまったが、未だに大切に閉まってある。
新聞の隣には、幼い頃のメビウスの写真が飾られている。…今度は、今の彼の写真を貰おうと、なのはは決意した。
そんな彼女の耳に、何処からか優しい声が届いた。

「ふふ、本当に幸せそうですね、なのは。」
「アイスドール、きてたんだ。」

フワリ…と優しげな声に気がつき、なのはは身体を起こす。
目の前に現れたのは、ただの光の球体。しかし、それがアイスドールだと、直ぐに気がつく。
どうやら理由があって、この姿じゃないと、彼女の元に来れない様だ。
しかし、なのはにとって、そんな事は関係ない。自分を見守ってくれている彼女は、どんな姿でも大切な友達だ。

「今日もお疲れ様です。つかれていませんか?」
「ううん、大丈夫。毎日が充実してるから、すっごく楽しいし、頑張れるよ!心配してくれてありがとう。」

胸の前でガッツポーズをするなのはを見て、アイスドールも笑うかのように、点滅する。
だが、彼女の元気の源が、それだけでないことを、アイスドールも見抜いていた。

「ふふ、メビウスさんの活躍で、頑張れますものね。」
「にゃ!?…えっと…バレバレ?」
「えぇ。勿論。新聞から、彼の記事を切り取って、ファイルにしてたのも知ってますよ。」
「はうう…なんで、みてるのぉぉ。だ、誰にも言わないでね!!絶対だよ!!」
「分かっていますよ。ふふ、本当になのはは可愛いですね。」

まるで姉のように、彼女を見守るアイスドール。ただ只管に真っ直ぐで、優しい高町なのは。
彼女のためならば、アイスドールは迷わずに力を貸すだろう。
今日も、なのはとアイスドールの静かで、楽しい時間が過ぎていく。



管理局本局。フェイト・T・ランスロットの執務室

「レヴィ、こっちの書類に眼を通しておいてね。」
「いいよ~。あ、フェイト、こっちのにサインよろしくね~。」

テキパキと書類を片付けていくフェイト。その隣の机では、レヴィが書類に眼を通して、それぞれの分類に纏めておく。
現在の彼女達の肩書きは、フェイト・T・ランスロット執務官。レヴィ・ランスロット補佐役である。
最初こそ、少し戸惑い続きの2人だったが、元が優秀な彼女達だ。今では立派な執務官と補佐役として、中々の評価を得ている。
ちなみに、なのはが可愛い系ならば、フェイトは綺麗…と言うべきだろう。金色の髪は長くなり、メビウスから貰った蒼いリボンで止めている。
レヴィも似たような髪形だが、彼女のなのはと同じ可愛い…であろう。
少し大人びた性格のフェイトと子供っぽさの残るレヴィ。外見は同じだかこれだけで、結構変わるようだ。


「…ねぇ、フェイト~。」
「なに?」
「もう書類仕事、飽きた!!遊びたい遊びたい遊びたいぃぃぃ!!!」
「レ、レヴィ~。駄目だよ、しっかりしないと。ハーリング提督に迷惑かかっちゃうよ?」
「ぶ~。ハーリングのおじさんも、僕達に書類仕事を押し付けないで欲しいよね!!
「押し付けられてないよ…。これは、私達の分でしょ?それに、おじさんじゃなくて、提督って呼ばないと。」

机に突っ伏して、パタパタと手を動かすレヴィと、ワタワタと慌てるフェイト。
…どうやら、この関係は何も変わっていなかったようだ。しっかり者の姉と甘えん坊な妹。
ハーリングは彼女達が執務官になった当初から、色々と世話を焼いてくれていたのだ。
最も、それはクロノやリンディも同じ事だ。仕事のアドバイスやサポートなど、沢山、支えられてここに居る。
…ちなみに、ハーリングはフェイト達に「おじさんと呼んでも構わないよ」と、笑顔で言っているそうだ。

「…ねぇ、フェイト~。お兄、かっこよかったね~。」
「…うん、全然、優しい所は変わってなかったけど、凄くかっこよくなったよね。」
「はぁ、お兄、あんなにかっこよくなったら、僕、もっと大好きになっちゃうなぁ。」
「ふふ、それは私も。けど、駄目だよ。お兄ちゃんは私のだから。」
「べーだ。お兄は僕のものだもんね!!」

どちらも笑顔を浮かべているが…何故かゴゴゴ…と効果音が室内に響いている。…ここもまったく全然変わってないようだ。
…どうやら、なのはに告白と言うか…プロポーズをした事を2人は知らないようだ。
今まで隠し通してきたなのはが凄いのが、気がつかない2人が凄いのか…。それについては、後の機会に。

「けどさ、あんなにかっこよかったら、お兄のファンになる人…居るよね。」
「……うぅ、お兄ちゃん、そう言う所、自覚してないよね。」

ISAFの活躍し新聞にとどまらず、テレビでも報じられていた。メビウス本人にインタビュー、と言う事はまだ無いが、
如何せん、少女を助けた姿や、ヘリを撃墜したときの姿など、写真やら映像やらで残されている。
なにより、ISAFへの取材の申し込みが、管理局に殺到しているらしいのだ。
…ちなみに、その対応をしているのは、今や提督と言う地位についているクロノなのだから、面白いものである。

「ねね、ブレイズとさぁ、シグナムってどうなったのかな?」
「仲良いみたいだよね。はやてが、一緒に買い物してたよ。て言ってた。」
「あはは。なんだかんだで、良い感じになってるんだね。羨ましいなぁ。僕もお兄と…きゃぁ~♪」

集中が切れると、中々元に戻らないものである。
何時の間にか、フェイトも手を止めて、レヴィとの雑談に花を咲かせてしまっている。
レヴィがクネクネとなにやら妄想してもだえる姿は…母親であるサイファーとそっくりだ。

「けど、大変な事も多いみたいだよ。…お兄ちゃん、無理してないと良いんだけど…。」

クネクネするレヴィと、反対に心配そうに、そして、寂しそうな笑顔を浮かべ、フェイトはデスクの上に飾ってある大好きな兄の写真を眺めるのだった。





フレッシュリフォー社、特別開発室。


「あ~、疲れた…。」
「お疲れ~。けど、もう一仕事だよ~。」

ネクタイを緩めながら、スーツ姿の男性は椅子にジャケットをかけて、デスクに腰掛ける。
その1段下のエリアでは、白衣の男性がある機器をチェックしていた。
スーツ姿の男性は帝 閃。彼もまた成長し、現在ではリフォー社代表代理、リリン・プラジナーの補佐役にして婚約者となっていた。
…彼が何故婚約者となったのかは…まぁ、説明しなくても分かるだろう。
元が優秀な彼が、リリンの補佐に回ったお陰で、リフォー社は比較的、早くに体勢を立て直せたと言っても良いだろう。
だが、デバイス関連などのシェア1位から転落し、追い上げてきた他の企業、クレスト・インダストリア、ミラージュ・コンツェルンと激しく競争を繰り広げている。
他にもゼネラルリソースやニューコムと言った新鋭勢力も頭角を現し、油断できない状況だ。
一方、白衣の男性--ノヴァは…殆ど変わっていない。唯一の変化といえば、薬指にはめられている指輪だろう。
そう…彼は念願かなって、シャマルと結婚をしていたのだ。現在は2人で幸せな生活を送っている。

「リリン嬢には付いてなくて良いのかい?」
「大丈夫だ。シュテルが付いてるよ。んで、最終調整はどうよ?」
「上出来上出来。…少し遅れたけど、ISAF…メビウス君に使って貰えれるよ。」
「そうか。…このプロジェクトが成功すれば、リフォー社の新しい分野の開拓だな。」
「そして、君のリフォー社代表選出に反対してる連中を一蹴だねぇ。」
「…あぁぁぁ。なんで俺なんかを代表に立てようとするかなぁ、リリンは…。」

本気で頭を抱え、悶える閃とは対照的に、ノヴァはメガネを押し上げて、カラカラと笑う。
義理とは言え娘であるリリンが、代表に納まれば何も問題は無い。…だが、幾ら天才とは言え…まだ幼すぎる。
どうしたものか…と幹部達が思案してる中、唐突にリリンは閃を代表に立てようと提案したのだ。
実際、閃はデバイス開発者として有名であり、実績もある。多くの幹部達は賛同したが…やはり、反対する者達も多い。
決して、反対派はリフォー社をどうこうしたい訳でなく、純粋に社の行く末を心配しての反対だ。
閃とノヴァ、2人は反対派を納得させるために、極秘裏にあるプロジェクトを行っていた。
その産物であり、プロトタイプの機器が…2人の目の前に鎮座していた。
ノヴァが電源を落としたので、薄暗くて分からないが、流線型のシルエットをし、大きさは2メートル前後だ。

「既に世界は動き始めた。良い意味でも悪い意味でも、僕達の知るStSから外れるだろうね。」
「あぁ。俺達がサポートしなきゃな。なにより、全ては世界と平穏の為に。」
「いやはや、本当に他の二次作品の転生キャラってどうしてたかなぁ。…もっと、読んどくべきだったよ。」
「だから、メタ発言は慎めよ…。」
「気にしない気にしない。…さて、今日はここまでにしようかな。」






クロノ・ハラオウン提督室



本局の自室で書類仕事を片付けているクロノ。
地位も上がり、行うべき事は増えたが、彼は黙々と仕事を片付けていた。
以前ならば、補佐役のブレイズも一緒に仕事をしていたのだが、ISAFに所属になってから、1人でする事が多い。
一応は今も補佐役が付いているが…どうしても、優秀だった彼と比べてしまう。

「ん…。コーヒーが切れたか。」


カップが空の事に気が付き、クロノはデスクに取り付けられているモニターを操作し始める。
補佐役に頼んで、持ってきて貰おうと思ったのだが…それより早く、補佐役が扉を蹴破る勢いで入ってきた。

「て、提督!!大変です!!」
「いきなりどうした?」
「ス…ストラグルのアジトの所在がつかめましたが、工作員が…発見されて…。」
「…落ち着いて簡潔に、全て話せ。」

肩で息する補佐役に、やれやれと言った様子のクロノだったが、補佐役の言葉を聞いて、真面目な表情を作る。
呼吸を整えた補佐役は、クロノのモニターを操作し、持ってきてデータを写し始めた。

「北西の山岳地帯に、ストラグルのアジトを発見。地上本部の工作部隊が潜入し、誘拐されていた科学者達を救出しました。」
「北西となると…ロスカナス山岳地帯か。…続けろ。」
「はい。救出までは良かったのですが、発見され、現在はヘリで逃亡している模様です。現地でアバランチ・スカイキッドが合流しましたが、
追撃部隊の攻撃が激しく、救援の要請が届いています。」

そこまでの説明を聞いて、クロノは一瞬、考える素振りを見せるが…直ぐに補佐役に指示を飛ばす

「至急、ISAFのランスロット空佐に出撃要請を。工作部隊の救出に向かわせるんだ。」
「し、しかし提督。彼らは本局所属ではないので、許可が必要なのでは…。」
「許可だと?…彼らは独立部隊だ。全てに属しているが、何処にも属していない。だから、許可など必要ないんだ。はやくしろ!!」
「は、はい!!」

入ってきたのと同じようにして、補佐役は勢い良く飛び出していった。
その後ろ姿を眺めることなく、クロノは自分の通信端末を起動させ、閃に通信を繋ぐ。

「僕だ。早速、君のプロジェクトが役に立ちそうだ。…あぁ、至急、メビウスの元に【猛禽】を送ってくれ。
地上本部とハーリング提督には僕から連絡しておく。…よろしく頼む。」

猛禽--恐らく、閃達が開発していた機器の名前なのだろうが…。








あとがき

さて…また更新があきましたね。申し訳ないです…。
後書きに何を書けば良いのか、分からなくなってきた今日この頃なのでした。




[21516] ISAF編 3話 エスコート
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/12/21 18:32
リフォー社 特別開発部

「カタパルトセットしろ!!」
「バーニア展開完了、両翼稼働率問題なし!!」
「コア出力、96%まで上昇!!何時でも飛べます!!」

世話しなく研究員達が室内を動き回っている。
格納庫のような作りになっていた開発部の扉が開放され、青空が広がっていた。
伸ばされたカタパルトの上には、飛び立つときを今か今かと待ちわびる、銀翼が鎮座している。
メインモニターの方で、ノヴァが優雅にし、流れるような手つきで、操作を行っていた。

「さ・て・と、こちらの準備はOK。…閃君、何時でも飛ばせるよぉ。」
「よし、目標はバーナー学園都市部上空。そこで、メビウスが待機してる筈だ。」

コアの最終チェックを終えた閃が、他の研究員達に離れるように指示する。
彼らが離れたのを確認すると、ロックを全て解除。ふわり…と銀翼は浮かび上がり、PPPと小さな電子音を立てる。
開け放たれた扉から、突風が舞い込み、閃は眼を細めながら、声張り上げる。

「さぁ、行け。ラプター!!憧れた青空、羽ばたきたいと思った大空。その先に、お前の主が待っている!!」

その声を聞きSubFlightSystemのプロトタイプ、コード名、猛禽。【F-22ラプター】が飛び立った…。



2時間前バーナー学園。

「……落ち着きませんね。」
「あはは…。新聞の1面、飾ったからね。」

隣を座るユーノは小さく苦笑を、私はため息を零す。今朝からというもの、他の生徒達から、遠巻きに注目されているんですよね。
ユーノが同じクラスでなければ、どうなっていた事やら。
今は授業の間の10分間休憩。何時もの様に、隣のユーノと話をしながら、時間を潰している。
残念な事に親友のオメガは、別のクラスとなってしまいましたが昼食は一緒にとるので、問題は無いでしょう。

「目立つ過ぎたのでしょうか…。」
「まぁ、ニュースでも色々と言ってるからね。…けど、目立つのは今更でしょ。」
「それは、どう言う事ですか…。」
「今朝、下駄箱にラブレター、何通入ってた?」
「……20通ほど。いや、関係ないでしょう。」
「何時もよりは少ないね。…はぁぁ、君は少し自分の容姿に、自覚を持った方がいいよ。」
「どこか変ですか?」
「…逆だよ、逆。」

制服を治す私を見て、何時もの様にユーノは呆れた感じで首を振る。
…どういうことなのでしょうか。容姿と言っても…特に何も変では無い筈。
小学生の頃と違って、髪が伸びた程度でしょうか…。

「ん~、メビウスの髪、伸びたよね。」
「えぇ。忙しくて、切る暇が無くて…。おかしいですか?」
「いや、そのままで良いんじゃないかな。けど、腰まで来ると、重そうだね。」
「慣れましたよ。リボンで1つに纏めてますから、動きやすいですし。」
「…とりあえず、リボンって所が、君らしいよね。」

彼の言葉に首をかしげると、周囲の男子達から「…やべ、メビウス、可愛いんだけど」や「見た目…つうか、全部女の子だよな。」等等…。
少し不本意な声が聞こえてきました。…少し強めの目線でそちらを見ますが…「つり眼美少女キタ!!」とか言われて、どうにもならないようです。

「そう言えば、オメガは?」
「ヴィータと電話してますよ。」
「…アリサとはどうなったのさ。」
「手紙でやり取りしてるみたいですね。…羨ましいですね。」
「あ~…。なのは達と会ってないんだっけ…?」
「テロ事件のときに少しだけ。…綺麗になりましたよね。」
「…君って、本当に変わらないよね。なのは達の事、大好きなんだね。」
「勿論。大切な人たちですからね。」

笑顔を浮かべて答える私を見て、ユーノは呆れたような…何時もの事かと言う様な、そんな感じのため息を零した。
…何故だろうか、色々と諦められている気がしてならない。
そんな時…制服の内ポケットの通信端末から、着信音が響く。これは、緊急着信音?
騒然となっている周囲のクラスメイト達を気にしながらも、通信機を取り出す。
恐らくは、スカイアイからの通信だろう。

≪メビウス1、緊急出撃だ。至急、ロスカナス山脈地帯に向かってくれ。≫
≪了解。詳しい事は、移動時に。≫
≪そのつもりだ。あと、リフォー社の帝 閃より、君の新しい相棒が向かったとの連絡が入った。これを使い、急行せよ。≫

相棒?…なんの事だろうか。疑問に思いながら、私はユーノに目配せをして、窓から一気に飛び降りる。

「先生には、僕から言っとくよ!!」
「頼みました!!エクス、ファイヤ!!」

空中でバリアジャケットを装着し、学園から飛び立とうとすると…。バイザーに何かの反応が映し出された。
その方角を見ると、銀色の翼を持つ…戦闘機?…いや、それにしては小さく、2m前後しかない。
私の前に空中停止すると、それは小さな電子音を鳴らす。…乗れと言う事か?これが、閃の用意した…相棒?


≪SubFlightSystem。魔導師の超高速移動用の装置だ。通常の飛行より、短時間で目的地につけるらしい。
プロトタイプで、制御は難しいらしいが…。君なら使いこなせるだろう。≫
≪なるほど…。名前は?≫
≪F-22ラプターだそうだ。君の世界の戦闘機がモデルらしい。≫

確かに、私の世界のF-22と同じ形をしている。唯一違うところと言えば、搭乗するのではなく、スノーボードや、スケートボードの用に、上に乗ることだろう。
私には、この乗り方は合っている。…ブルースライダーで何度もしてきましたから。

「頼みましたよ、ラプター!!」

PiPiと電子音が響くと、ラプターは私を乗せると、高度を上げ高速で飛行を始める。周囲に特殊なフィールドが構築されているのか、風等の障害は一切感じない。
これが普及すれば…更なる迅速な行動が可能になりますね。



ロスカナス山脈地帯。

「ちっ、増援はまだか!!」

スカイキッド、スティーブン・マッカーシーが誘導弾で、対空ミサイルを迎撃しながら、周囲に眼を配る。
特殊工作部隊がストラグルのアジトから、誘拐されていた科学者達を救出したのまでは良かったが…。

「くっそ…。まさか、こんなに戦力があったなんてな…!!」

アバランチ、フレディ・デュランも近づいてくるガジェットを、魔力刃で切り裂きながら、悪態を零す。
1テロ組織が持ちには、多すぎる兵器や人員。それなのに、工作部隊の護衛には、自分達2人だけだ。
流石に悪態もつきたくなる。だが、この2人とて、一流の空戦魔導師だ。テロ組織ごとに遅れは取らない。
2機のヘリを2人だけで、護衛しているのだから、その実力の高さは分かるだろ。

「アバランチ、生きてるか!!」
「余裕だな!!…って言いたい所だが、流石にきっついぞ。」
「ったく…本部の連中、何が楽な仕事だよ。戦う方の苦労も分かっちゃいない…!!」
「今に始まった事じゃない。…おいおい、今度は戦闘ヘリかよ…!!」

会話しながら、対空ミサイルを叩き落している2人も凄まじいが…それを嘲笑うかのように、最新式の戦闘ヘリが追撃してきた。
こちらは武装も何も無い輸送ヘリ。幾分かは頑丈だがミサイルなんて食らった日には、終わりだろう。
しかも、敵のヘリからも、数人の魔導師達が飛び出し、2人の襲いかかってくる。こんな高さで撃墜されれば…地面への激突死は免れないだろう。

≪こちらスカイキッド、管制官!!!増援はまだなのか!!≫
≪こちらスカイアイ。現在、増援が向かっている。後少しだけ、持ちこたえてくれ!!≫
≪本当だな、数は!?≫
≪1人だけだが…心配は知らない。…メビウス1、作戦領域に到達。遠距離砲撃を開始せよ。≫
≪なに…!?≫

刹那、輸送ヘリに取り付こうとしていた敵魔導師数名を、蒼い極光が飲み込んでいく。呆気に取られたスティーブンの横を何かが猛スピードで通り過ぎた。
甲高いジェット音を響かせて、敵の戦闘ヘリの脇を通り過ぎながら、蒼い魔力刃が胴体を両断する。

≪こちら、ISAF所属メビウス1です。貴官等の援護に来ました!!≫
≪殿はメビウス1に任せ、アバランチ・スカイキッド両名は輸送ヘリと共に現空域を離脱せよ。最寄の空港に救急車、消防車も待機させてある。≫
≪り…了解。メビウス1。後は頼んだぞ。≫
≪後で礼が言いたい!!無事に帰ってこいよ!≫
≪はい。2人も、お気をつけて。≫


・メビウス・



2人が輸送ヘリに乗り込み、離脱するのを援護する為に、私は発光性のボムを構築し、ストラグルの追撃部隊に投げつける。
眩い光が周囲を包み込むと、ラプターから飛び降り、エクス、ファイヤに魔力刃を展開し、眼を潰された魔導師達に襲い掛かった。

「眼が…眼がぁぁぁ!!!」
「く…。落ちて…貰います!!」

空中だと言うもに、眼を押さえて苦しんでいる魔導師に魔力刃を叩きつける。膨大な魔力が全身を流れ、魔導師は糸が切れた人形のように、堕ちて行く。
そう…堕ちて行く。堕ちて堕ちて堕ちて…地面に【紅い花】を咲かせた。

「…!!!」

そこで私は…自分が…【人を殺した事】に気が付きました。
幾ら非殺傷で気絶させたところで…この高度から堕ちれば…人は死にます。それほどまでに、人は脆弱でもろい。
思えば…先ほどの撃墜した戦闘ヘリ…あれにも、パイロットが乗っていたでしょう。
私は…湧き上がる吐き気、罪悪感を押し殺し、次の魔導師に向かう。

「あ…ああぁぁぁぁぁ!!!!」

何時の間にか…私は悲痛な声を出していました。
敵魔導師の首筋を切断…噴出す鮮血から逃げるように…また別な魔導師に向かっていく。
私は…今は非殺傷設定ではありません。…せめて、苦しむ時間を…死までの時間を短くしたい…と言うのは、都合のいい考えでしょう。
エクスを身体に突き刺し…事切れた魔導師の身体を脚で蹴り、引き抜く。…何人…殺したのだろうか…。
頬にこびり付いた…血を拭うのも億劫だ。…白いバリアジャケットの袖が…少し紅く染まっている。

≪…メビウス1、ご苦労だった。…辛い事を、させてしまったようだな…。≫
≪……≫

スカイアイの言葉に答えるのも…億劫だ。
私は、サテライトを起動させ、周囲の索敵を開始する。…もう…誰も居ないか…。下に咲いた…血で出来た紅い花を見ないように…する。
だが…バイザーの端に、大型のエネルギー反応が表示される。…ゆるゆるとその方角を見ると…。

「…なんだ…あれは。」

蜂の様な身体をした異型の物。背中には4基…大型のブースターを装着している。
これは…まさか、生体兵器!?


≪馬鹿な…大型の生体兵器だと…!?メビウス1。至急、現空域から離脱せよ!!≫

スカイアイの珍しい焦った声を聞きながら…私は虚ろな眼で生物兵器を見つめる。
背部から放たれる数発の対空ミサイル。…ただ、私は逃げる気力も…起きない。
…ここで殺されれば……この罪悪感から、逃げれるだろうか…。ここで死ねば…殺した事が許されるだろうか…。


-----メビウス君------

「っ…!!!」

脳内に響いた大好きな、なのちゃんの声。それが脳を再起動させ、着弾まで…考える時間を与えてくれた。
ミサイルが爆発を起こす寸前に、ラプターを呼び寄せると、最高速でその場から離脱していく。
後方から飛んでくるグレネードの弾丸を避けながら、エクスのランチャーで牽制。…まだ造られたばかりなのか、生物兵器は高速、長距離での飛行は出来ないようだ。
サテライトの情報を見ると、撤退していく様子が写されていた。


「殺す覚悟…殺される覚悟が無ければ、戦場に立つ資格はない…か。エリッヒさん…私は、覚悟が無かったんですね…。」

教えられた覚悟…それすら、私は出来ていなかった。…気が付けば、私の眼からは…止め処なく、涙が溢れていた。




空港

空港の滑走路では、慌しく救急隊員や、局員達が動き回っていました。後は…マスコミ…ですかね。
誘拐された科学者達は、病院に搬送され健康状態に異常は無いか、検査を行うようです。
ラプターで滑走路に降り立つと…フラッシュの嵐が私を歓迎する。

「メビウス・ランスロット空佐ですね!!少しお話を…。」
「今回の任務は如何でしたか!?」
「リフォー社の新製品を使用しての任務だったと聞いていますが…。」

マスコミの質問攻めに圧倒され、逃げようにも逃げれなくなってしまった。
戸惑い気味の私の肩を…誰かがポンと叩く。振り返ると…少し深刻な表情のイリヤさんが立っていた。

「すまないが、ランスロット総隊長は疲れている。取材は、またの機会に願いたいな。」

有無を言わさぬ、イリヤさんの声で記者達が少し静かになる。
その記者達を掻き分けて、何故か1人の少女が私の元に駆け寄ってきた。手には、花が握られている。

「おにいさん!!」
「あ…なんですか?」
「ぱぱをたすけてくれてありがとう!!」

そう言うと少女は笑顔で、私に花を手渡してくれた。…少女の来た方を見ると、泣きながら抱き合っている夫婦の姿が見えた。
恐らく…誘拐された科学者の子供なのでしょうね…。

「ありがとう。…パパに沢山、遊んでもらってくださいね。」
「うん!!」

何とか笑顔を浮かべ…少女の頭を撫でると、また再開したフラッシュの嵐。
イリヤさんはため息を付くと、私の庇うようにして、記者達を掻き分けてくれる。
…私はうまく…笑えたのだろうか…。
空港の内部の着くと…ブレイズさんが壁に寄りかかって待っていました。…彼の表情も深刻です。

「…メビウス、お疲れ様。」
「えぇ…。今回の任務も無事に終わりましたよ。」
「俺達は、ストラグルのアジトで攻撃を仕掛ける。レジアス中将の指示で、陸戦部隊も出るからな。」
「アーサー、オメガは先発部隊で先に行ったよ。俺とブレイズも今から出てくる。まっ、無事を祈っててくれ。」
「あ…なら、私も…。」

だが…イリヤさんは首を振ると、私をなぜが抱きし、背中をポンポンと叩いてくれる。…ちょ…いきなり、なにをするんですか…。

「無理はするな、メビウス。酷い顔をしているぞ。」
「身体だって、冷え切ってるし、震えてる。」
「え…あ。」
「…スカイアイから聞いてる。……2~3日、休暇を取れ。その間の部隊運営は、俺がなんとかする。
外に車を用意してある。…それで帰れ。」

イリヤさんの言うとおり…指先が冷たいし…震えが止まらなくなっている。
それだけ言うと、ブレイズさんは私の背中を押し…外に止まっていたヘリコプターに乗り込んだ。
……帰ろう。今の私では、なにも出来ない。
ヨロヨロと歩きながら、バリアジャケットを解除し、用意されていた車に乗り込み、運転手に家の住所を伝える。




メビウス・ランスロット、自宅

郊外の自宅着くと…私は玄関で崩れ落ちる。息は荒く…震えが止まらない。…ここに来て、再び罪悪感と吐き気が戻ってきた。
無理やり身体を起こすと、トレイに駆け込み、胃の中の物を全部吐き出す。
吐き出せる物は無いはずなのに…何度も何度もこみ上げて来る。

「…はは、惨めなもの…ですね。」

汗でぐっしょりと塗れた制服を脱ぎ捨てて、浴室に入ると頭から、お湯を浴びる。
長い髪が背中に張り付き…お湯が身体の上を流れていく。…殺したころしたコロシタ

「人を…殺した…!!!」

地面に落として殺した。頚動脈を斬って殺した。身体に魔力刃を突き刺して殺した…。
パシャ…と音を立てて、私は蹲る。震えが止まらない…罪悪感が…止まらない。


--それが甘さなのだ。慈悲をかけると言う事は、殺さないという事ではない。時には、殺す慈悲と言うのも必要になってくる。--
--例え勝っても、死んじまったら元も子もない--
--殺す覚悟、殺される覚悟がなけりゃ、戦場に出る資格はないんだよ。--

思い出すのは…楽しかった家族旅行の記憶。眼を輝かせて聞いた…空の騎士達の言葉。
分かろうとした、分かったつもりだった…しかし

「なにも…分かってなかった、理解してなかった。…私は…私はどうすれば…良いんですか…!!!」








あとがき

04のエスコートの筈がエスコートしてなかったぁぁぁぁ。
メビウス君、大いに悩む…でした。
いやはや、作者もこんなのは、あまり書きたくはないのですが…書かないと、色々と進まない…。泣
別に殺さなくても良いんじゃない?とか、そう言う意見もあるでしょうが…。ここで覚悟を決めとかないと、これから先は大変なんですよメビウス君。
次回は原作の男連中、クロノとユーノがちょっと活躍するお話。では…また次回。
甘い話が書きたい今日この頃。



[21516] 季節ネタ クリスマス特別企画
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/12/25 00:06
本編の時間系列とは一切関係の無い番外編です。
子供の姿で見るもよし、大人の姿で見るもよし!!
それでも、大丈夫だ、問題ないと言う人は…どうぞ。




12月24日クリスマスイヴ
ランスロット家。

「ジングルベ~ル、ジングルベ~ル♪」
「すっずが~なるう~♪」

能天気にだが、楽しそうに声を合わせて歌い、ツリーに飾り付けをしているサイファーとレヴィ。
色々な飾り物をつけたツリーは、とても華やかで自分の存在をアピールしていた。
…何気に小さなヤガランデを模して造った飾りまであるのには驚くが。
今日はクリスマスイヴ。ここランスロット家も例外なく、家族総出でパーティーの準備を行っていた。
キッチンの方では、スカーフェイスが腕によりをかけて、ご馳走を作っているところだ。
……何故サイファーに作らせないのかと言うと色々と察して欲しい。彼女の料理は…当たり外れ凄まじいのだ。

「フェイト、お料理運ぶの手伝って~。」
「うん。…ふわぁ、お父さんの料理、美味しそう。」
「いい匂いするよね。…ふふ、つまみ食いは駄目だよ?」
「し、しないよ!!」

皿に乗った料理を運びながら、メビウスは少しフェイトの事をからかう。
流石に真面目な彼女が、そんな事はする訳が無いのだが、からかった時の反応がとても可愛い。
顔を赤くして、否定するフェイトを見て、メビウスは更に笑顔を深くした。
徐にメビウスは、フライドポテトを1本摘むと、フェイトの口元に差し出した。
これは、彼の作った料理だ。…なので、これはつまみ食いではなく、味見である。…味見と言ったら味見なのだ。

「ふふ、フェイト、あ~ん。」
「お兄ちゃん…良いの?」
「手伝ってくれた御礼だよ。ほら、食べて。」

少し迷ったフェイトだが、大好きな兄の手料理にして…あ~んである。逆らえるわけが無い。
チラリ…とレヴィの方を見て、見つかっていないか確認をする。たまには彼を独占したいのだろう。
カリ…と揚げられたポテトはとても美味しい。

「ん…ちゅ…ちゅぷ…。」
「ちょ…フェイト?…く…。」

メビウスの摘んだポテトは食べ終えたフェイトだが…そこで終わらず、彼の白くて細い指を丁寧に舐め始める。
どうやら…あ~んで、頭のネジが数本飛んだのか…手についた油や塩を掃除しているのか…それは不明だ。
丁寧に、親指から人差し指と舐めて行き、小指を舐め終えるとチュポンと音を立てて、口を離す。

「…お兄ちゃん、ご馳走様。」
「あ…いや、御粗末さまでした。」

トロンとし、幸せそうな笑顔を浮かべるフェイトに、メビウスも何も言えなくなった。
…とりあえず、可愛い妹の頭を撫でれば、ゴロゴロと擦り寄ってくる。
しかし、それを見たレヴィが猛スピードで2人の間に割って入った。

「あああああ!!!フェイト、ずるいよ!!お兄、僕も、僕も撫で撫でしてほしい!!」
「…駄目。お兄ちゃんは私の事、撫でてくれてるの。」
「さっきまで、フェイトはお兄と居たじゃん!!今度は僕の番!!」
「変わってもいいけど…その代わり、今日はお兄ちゃんと私が一緒に寝るからね。」
「う…うぅぅぅ…。お兄~、フェイトがいじわるするよぉぉ」

珍しく、争奪戦の口論でフェイトが勝利したようだが…レヴィも唯では負けない。
口論…と言うか、争奪戦が始まると、メビウスはその場を離脱し、料理運びに戻っていたが…。
運び終えて、ソファで一息ついていた彼の胸に、レヴィは勢いよく飛び込む。流石に、フェイトはここまで大胆には出来ない。
しかし、メビウスは驚く事も無く、小さく笑みを浮かべながら、レヴィを優しく抱きしめ返し、頭を撫でて上げる。

「はいはい、レヴィは甘えん坊なんだから。」
「にゃふ~。だって、僕はお兄が好きなんだも~ん♪」
「ふふ、私もレヴィの事は好きだよ。」
「……お兄~!!」

耳元で、優しく…甘く好きだと言われたら、レヴィも流石に顔を赤くする。
今まで以上に力を込めて、抱きしめるが…メビウスは痛がる素振りを見せずに、優しく受けて入れてくれた。
ふっと…メビウスはフェイトの方を見ると…彼女は少し悲しそうに俯いていた。
フェイトには、我慢しないで…と言っているが、まだ我慢癖が残っているらしい。
メビウスは小さくため息を零すと…フェイト達が一番弱い…甘くて蕩けそうな笑顔を浮かべる。

「ふふ、フェイト。…おいで、甘えにおいで。」
「ず…ずるい。その笑顔はずるい…!!」

甘えにおいで…。それは、メビウスが最大最高に甘えさせてくれる時の言葉。
少し遅めに歩み寄ると…フェイトの手を掴んで、メビウスは自分の腕の中に閉まってしまう。

「ふふ、フェイトもいい匂い。」
「んっ!…お兄ちゃん、くすぐったいよ。」
「フェイトは、こうされるのは嫌?」
「う…うぅ、いやじゃ…ない。嫌じゃないよ、むしろ…好き。」
「よかった。私も、フェイトやレヴィをこうするのは…好きだよ。」

フェイトの首筋に顔を埋めて、匂いをかぐメビウス。大好きな彼女達の匂いは…とても心が安らぐ。
3人揃って抱締め合いながら、少しのまどろみに身を任せる。…クリスマスにはしゃぎすぎて…疲れてしまったのだろう。
パーティーまで、少しの間…おやすみなさい。


ランスロット家キッチン


「あれ、フェイスとサイファーはどうしたんだい?」
「少し材料が足りなくて、買い物に出かけた。」

仲良く眠っていた3人に毛布をかけて、戻ってきたアルフだが、キッチンにガルムしか居ない。
おかしいな、と思ったがガルムに聞いて、納得し、彼の手元を覗き込む。

「生クリームかい?」
「うむ。今日は手作りケーキだからな。トッピング用の果物が足りなくて、お2人は買い物にいったのだ。」
「なるほどねぇ。…あたしも手伝うよ。」
「助かる。ならば、クリームの方を頼むぞ。我はサラダを作る。」
「はいよ。…あんたって、本当にサラダ作るの好きだね。」
「栄養バランスは考えなければな。」

アルフにボウルを渡すと、ガルムは別なボウルに野菜を入れて、サラダを作り始めた。
ある程度は料理は作り終わっているので、後はこのケーキだけだ。
シャカシャカ…とリズミカルに生クリームを泡立てるアルフだが、なにかの拍子で少し跳ねてしまった。

「わぷ…。ああもう、汚れたよ…。」
「まったく、気をつけろ。」

ボウルを置いて、げんなりした様子のアルフ。沢山跳ねた訳ではないが、少し顔にもついてしまった。
指ですくって、口に運べば、甘い味と匂いが広がる。しかし、全部取るのは少し面倒だ。
いっその事、顔を洗ってしまおうかと思ったアルフだが…

「アルフ、ここにもついてるぞ。」
「ちょ、ガルム!?あんた、いきなり何を…。」

少し意地悪な笑顔を浮かべたガルムが、後ろから彼女を抱きしめた。
流石に突然の事で、ワタワタとするアルフだが…。数秒もたてば、落ち着いて、彼に身を任せる。

「ま…まったく。少しは場所や雰囲気を考えなよ…。」
「考えたつもりだぞ。メビウス様たちも眠っているし…ここは死角だ。」
「はぁ…しっかりしてるって言うか…。」

クスクスと笑うと、アルフは抱きしめているガルムの手の上に、自分の手を重ねる。
彼女も…こうしてガルムに抱きしめられるのは大好きだ。…まぁ、2人とも素直ではないので、なかなかこうできない。

「…ねぇ、ガルム。ここについたクリーム…とってくれるかい?」
「やれやれ…顔を上げろ。」

顔を真っ赤にしたアルフが指差すのは…自分の唇。それを見て、ガルムは首を振りながらも笑みを浮かべ、抱きしめる力を強くした。
クイ…と顔を上げたアルフに顔を近づけ静かに優しく…唇を重ねた。




ミッドチルダ トリスタン家

「…こんなものか。」

オーブンレンジから、チキンの丸焼きを取り出すと、ブレイズは野菜の乗った大皿に移す。

「運ぶの手伝おうか?」
「お~、いい匂いがしてんぞ~。」

リビングの方から覗き込んでいるは、彼の親友のクロノとチョッパー。
今日は3人で食事をする事になり、何時もの様にブレイズの家に来ていたのだ。
リビングのテーブルには、出来合いの料理やお菓子、飲み物が所狭しと並んである。
そして、コンポからは、ロック調のクリスマスソングが流れていた。これは、チョッパーの趣味だろう。

「クロノは、小皿を持ってきてくれ。チョッパー、チキンを置くから、少しテーブルの上のもの退けてくれないか。」
「あいよっ。…しっかし、野郎3人でのクリスマスかぁ。悲しくてオイラぁ、泣きそうだぜ。」
「企画したのは君だろう。まぁ、僕も暇だったから良かったがね。」

わざとらしく、泣く仕草をするチョッパーに苦笑いを零すクロノ。偶然にも休暇が重なり、チョッパーの提案での食事会だ。
2人もこれを快諾して、今に至るわけだ。…気心知れた親友達との食事ほど、楽しい物は無い。

「ったくなんだよぉ~。どいつもこいつも、浮いた話の1つもねぇのかよ。」
「チョッパーはどうなんだ?」
「オイラぁ、ロックと結婚するんだぜい。」
「…つまり、君もないって事か。」
「ジングルベェェェル!!」
「チョ…チョッパー、止めろ!!しまってる!!」

冷静に突っ込みを入れたクロノの頭にヘッドロックをかましながら、チョッパーはジングルベルをロック調で歌い始めた。
くだらなくも、居心地の良いやり取りを楽しみながら、ブレイズはメインのチキンを切り分けると、2人の皿に載せる。

「ほら、冷めない内に食べよう。」
「あぁ、そうすっか。…ブレイズ、わざわざありがとな!」
「まさか、チキンまで用意してくれるとは思わなかったよ。…僕達も何か作ればよかったんだが…。」
「気にするな。俺も2人と食べたかったしな。それに、なかなかどうして、楽しい。」
「よし、なら後で俺のお気に入りのロックCD、もってくるぜい。」
「はは、楽しみにしてる。それじゃ…。」
「「「乾杯!!」」」


3人でグラスを持つと、上に掲げてグラスを鳴らす。温かく、居心地の良い…親友達でのクリスマス。
きっと、この3人は何時までも、親友だ。何時までも、一緒に過ごせるのだ。そう…願いたいものだ。





あとがき

以上、季節ネタでした。うん、書きたかっただけなんだ。がっかりしても、知らないです!!
サンタさん、作者に文才と妄想力をプレゼントしてください!!

前回分の感想返信は次回の本編投稿後になります。ご了承ください。



[21516] ISAF編 4話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2011/12/26 22:48
ロスカナス山脈地帯 ストラグル秘密拠点上空付近。
輸送ヘリコプター内部

「さて…と、メビウスの方も心配だが、今は自分の任務だ。」
「あぁ。工作部隊の記録してきたマップを見る限り、対空火器が配備されているようだ。…さて、どこの馬鹿が資金援助をしてるものか。」
「なぁに、拠点を潰せば、そこら辺の情報も手に入るだろう。それに、本拠地も…な。」

真面目な表情のブレイズとは違い、飄々とした顔を崩さずにイリヤは、自分のデバイス、ノスフィラトを連結し、ロングレンジライフルモードに切り替える。
2人とも、緊張はしていない。逆に、その眼には自信が満ち溢れていた。

「イリヤ、お前は…人を殺したことはあるか?」
「……あぁ。これでもケストレル所属だったんだぞ。何度もテロ鎮圧はしてきたよ。」
「そう…か。…正直に言う、俺はまだ…無い。」
「そっちは警察みたいな役割だろう?俺達は、むしろ軍隊みたいだったからな。仕方がないさ。…覚悟は出来てるか?」
「してるつもりだ。…だが、メビウスのアレを見ると…な。」

可哀相になるくらい…震えていたメビウス。彼が覚悟をしてなかった訳ではない。ただ…心が追いつけなかったのだろう。
壁に寄りかかり、ブレイズは大きく息を吸い、大きく吐く。余計な熱、緊張を身体の外に出す。
この部隊設立の為に、走り回ってきた。…覚悟もしてきたのだ。こんなところで…

「躓けるか。例え、この手が血塗れようとも…。」
「全ては人々が安心して暮らせる為に、だろ。」

顔を見合わせて、2人は小さく笑う。そうだ、俺達は己のためでなく、誰かの為に戦うのだ。
この愛する世界と人々と…空の平和の為に。

「作戦領域に到達しました!!…対空火器の存在を確認、先発部隊が破壊していますが、数が多いようです。」
「わかった。俺はここで降下する。…イリヤ、ヘリから狙撃できるか?」
「任せてもらおうか。あと10分ほどで、後続の陸戦部隊のヘリが来る。それまでに片付けるぞ!!…幸運を祈る。」
「あぁ。…ブレイズ、降下する!!」

拳と拳をぶつけ合い、お互いの無事を祈ると、ブレイズは後部ハッチから飛び降りていく。
眼下には、カモフラージュされていたストラグルの拠点が広がっている。
各所から、対空火器の砲火、対空魔法の迎撃弾が打ち上げられ、ブレイズ達を歓迎していた。

≪こちらオメガ11!!わりぃ、ブレイズ!!まだ潰せてないぜ!!≫
≪気にするな。あと10分で後続が来る。それまでに潰すぞ。≫
≪こちら黄色の13。…迎撃の空魔導師が上がってきた。陸は任せるぞ。≫
≪頼む。チョッパーはどこだ?≫
≪あいよ。今、左翼の火力拠点に攻撃しかけてる。ったく、高射砲とか砲台とか、贅沢に配置してやがる。本当にテロ組織かぁ?≫

先行していたオメガ達の情報を聞きながら、ブレイズは降下を続け、砲台の1つにクローを撃ち付ける。
魔力爪を展開しているクローは、いとも容易く砲台の装甲を引き裂き、内部から爆発を起こさせた。
次の砲台に狙いを定めようとすると、上空からブレイズの横を魔力弾が通り過ぎる。
ピンポイントで砲台の砲口部に命中、暴発を起こし付近の砲台も火の海と化した。

≪こちらシュトリゴン1。上から潰せるだけ潰すから、降下してくれ!!≫
≪了解。オメガ11、チョッパー、地上の魔導師を叩くぞ!!≫



・オメガ・

「せいやぁ!!」

トンファーの一振りで、魔導師を殴り飛ばす。地上の敵を片付けろってったって…

「数が多いぜ。…しっかし、これって、最新のマシンガンだろ?」

別に殴り倒した武装兵士から、マシンガンを奪い取って、型式番号を確認する。
見た目で、最新式のマシンガンだってのは、わかったが…畜生。ご丁寧に型式番号は削り取られてやがる。
最近は、銃火器の規則も厳しくて、、犯罪に使われたら、型式番号を製造会社に問い合わせれば、購入者とか分かる仕組みなんだが…。

「ううん、削り取られたら意味が無いぜ~。…マイクロチップとかにすりゃ、問題無い気もすんだが…。金がかかるかぁ。」

まぁ、悩んでても仕方がない。マシンガンを持って立ち上がり、周囲に眼を配る。
……殺気とかは感じない。ここら辺は確保できたかな。近くの火器も潰したし…着陸地点は確保だぜ。

≪こちらオメガ11。着陸地点を確保したぜ。情報送るから、後続に伝えてくれ!!≫
≪スカイアイ、了解。…確認した、君はそのまま周囲を警戒してくれ。陸戦部隊が降下後、共に内部の制圧だ。≫
≪了解。…なぁ、メビウスは…どうなんだ?≫
≪……なんとも言えない。彼には辛い思いをさせてしまった。≫

スカイアイの沈んだ声。…メビウスが何をしたのか…それは、俺だって聞いている。
いや、別にあいつを軽蔑したり、嫌いになったりは絶対にしない。…俺はあいつの1番の心友なんだかんな。
…俺も…さっき、殺したから…な。砲台をパイルバンカーで砕き、爆発させた時に人の悲鳴が聞こえた。
…熱い熱い…死にたくない…ってな。正直、かなりつらい。…けど、立ち止る訳にゃあ、いかないんだよ。

「約束したからな…絶対にアリサを迎えにいくってな。」

ここで立ち止まったら、あいつの所にはいけない。…生き抜いて、迎えにいくんだ。
…なにより、ヴィータにも、頑張れよ…なんて言われてっからなぁ。…進むしかないんだぜ。
上から、ヘリの音が響いてきた。どうやら、陸戦部隊が到着したみたいだな。
着陸したヘリの後部ハッチが開くと、銃火器で武装した陸戦部隊が降りてきた。…ったく、本当に映画みたいだぜ。

「ISAF所属、オメガ・ガウェインだ。そちらさんと、合同で制圧任務を行う。よろしく頼むぜ!!」
「おう、元気な坊主だな。俺達は陸戦部隊ドラゴンバスターズさ。俺は隊長のアンドリュー・ギャラガーだ。」

ヘルメットを上げて、二カッっと笑顔を浮かべるアンドリューのおっちゃん。
…すげぇ、歴戦の叩き上げ兵士って感じがするぜ。

「さて、装填スタンバイ!!突撃すんぞ!!坊主、遅れんなよ!!」
「おう。おっちゃんもな!!」
「がはは!!その意気だ!!」

扉を蹴破って、俺とおっちゃんは施設内部に侵入する。…部隊員が、なんかやれやれって見てるのは…気のせいだ。
1つ1つ部屋をチェックしていく。面倒だが、敵の残りが居たら、まずいからな。

「…拍子抜けだな。対空火器とかは残ってたが…中はからっぽか。」
「だなぁ。…もしかして、時間稼ぎか?」
≪こちらスカイアイ、オメガ11。工作部隊の情報では、地下に大規模な研究施設があるらしい。捜査して来てくれ。
…メビウス1が交戦した生体兵器の事もある。充分に気をつけてくれ。≫
「了解…だとさ、おっちゃん。」
「よし、ここで2手に別れるぞ。コンピュータールームはお前らが行け、俺達は地下施設に行って見る。」

部隊を2つに別けて、俺とおっちゃん。後は数人の部隊員が、地下施設を探して奥に進んでいく。


拠点中庭

「ブレイズ、こっちだ!!」

中庭では、激しい銃撃戦が繰り広げられていた。
チョッパーの声を聞き、飛び出したブレイズがスライディングで塀に滑り込む。刹那、彼が通った場所に銃弾が降り注ぐ。

「すまない、遅れたな。…無事で何よりだ。」
「おう。しっかし、敵の数が多くてなぁ。…増援の陸戦部隊も…ほれ、向こうで応戦している。」

塀に背中を預けて、チョッパーは建物の物陰を指差す。
確かに、防弾ベストや、バリアジャケットを装備した陸戦部隊、魔導師達が誘導弾か銃で応戦していた。

「…必死の抵抗だな。頭があげれんぞ…。」
「統率とかまったく取れてねぇ。…けど、効果的っちゃあ効果的だな。」

統率も取れてなく、銃撃のタイミングもバラバラで、銃弾をまいている様だ。
しかし、チョッパーとブレイズに頭を上げさせない程度の効果はあるようだ。その時、2人の隠れている塀の近くで爆発が起きる。

「わっち!?…おいおい、手榴弾かよ。」
「やれやれ、最新式の武器、戦闘ヘリ。…後で背後関係を調べる必要があるな。」

破片から顔を庇いながら、ブレイズはインカムで、上空のアーサーに通信を繋げる。

≪こちらブレイズ、黄色の13。上空から砲撃できるか?≫
≪可能だが、この位置からだと、遮蔽物で効果は半減する。≫
≪問題ない。数と視界が減れば、こちらから攻撃できる。…奴らの体勢を崩してくれ。≫
≪了解。…少し頭を下げて、耳を塞げ。≫
「おいおい…。全員、備えろぉぉぉ!!!」

チョッパーの声を聞き、陸戦部隊の面々は防御体制をとる。
轟音と眩い黄金の魔力光が降り注ぎ、中庭に大穴を穿ち、土煙で視界を遮る。

「いまだ、撃て!!」
「言われなくても、わぁってる!!」

塀から飛び出し、ブレイズとチョッパーが魔力弾を撃ち出し、陸戦部隊もマシンガンやら誘導弾で一斉掃射を仕掛ける。
轟音と光で、耳と視界を奪われたテロリスト達は成すすべなく倒れていく。

「よし、制圧完了。陸戦部隊はここの維持を。チョッパー、着いてきてくれ。コンピューターエリア制圧の、ドラゴンバスターズが苦戦している。」
「あいよ。…ったく、少しは楽させてほしいねぇ。」
「後で特別賞与を申請しとくさ。…いくぞ。」

土煙が収まり、テロリスト達をあらかた片付けたのを確認すると、ブレイズとチョッパーはコンピューターエリアを目指して走り始めた。




・オメガ・

薄暗い通路を進むと、アンドリューのおっちゃんが手をあげて、扉の手前で俺達を止める。…静かにしろと、手で合図を送ってきたな。
息を潜めて、扉の隙間から中を覗き込む。

「速く運び出せ!!」
「し…しかし、まだ幼体です。下手に動かしては…。」
「管理局がそこまで来てるんだ!!データと、生き残りを本部に送るんだ!!」

…覆面をつけたテロリスト達がなにやら運び出そうとしてんな…。おっちゃんと俺は顔を見合わせて、1つ…うなづく。
おっちゃんがベストから、手榴弾を1個外すと、コロコロ…と隙間から室内に転がす。
テロリスト達が気がつく前に、手榴弾は閃光を発して、奴らの視界を真っ先に奪った。
光が収まり、奴らがのた打ち回ってる部屋に突入して、武器を奪い取る。

「動くな、管理局だ!!」
「そこまでだぜ!!上は既に制圧したぁぁ!!」

落とした銃を拾おうとしたテロリストにトンファーでアッパーをお見舞いして、意識を刈り取る。
ドラゴンバスターズの人達が、倒れているテロリスト達を捕縛して、一箇所に集め始めた。
…さて、奴らが運んでたのはなに…って、

「な…なんだこりゃあ…。」

おっちゃんが俺の心情を代弁してくれた。…目の前にあるのは…幾つもの培養槽。それが一定の間隔で広い室内に設置されていた。
中には、まるで虫みたいな…生き物…なのか?それが、つめられていた。
幼虫みたいなのから…形が出来てなくて、ボロボロに朽ちているのまで、様々だ。

「…とんでもない代物を見つけたぜ…。スカイアイ、映像送るから…調べてくれ。」
≪了解。…こ、これは…生体兵器の製造施設だとでも言うのか…。後で調査部隊を派遣しよう。≫
≪あぁ…。閃にも調べてもらおうぜ。なんかわかるかもしんねぇ。≫
「そうするとしよう。…ブレイズより通信、コンピューターエリアは制圧したそうだ。全施設の制圧を確認。諸君、ご苦労だった。」

それを聞くと、おっちゃん初め、ドラゴンバスターズの部隊員達は歓声をあげ…勝利と無事を喜んでた。
…なぁ、メビウス。はやく戻ってこいよな。…大丈夫だ、お前なら絶対に負けねぇよ。





同日

メビウス・ランスロット自宅

「ここが、彼の家か。」

そう言って見上げるのは、メビウスの友人のクロノ。
ブレイズから連絡が入り、彼の状況を聞いて心配になったのだろう。こうして様子を見に来ていた。
呼び鈴を鳴らして数秒。…反応が無い。扉に手をかければ、鍵は閉まってない様だ。

「まったく、具合が悪いのにぶよ…」

無用心…と言おうとして…扉を開けた形でクロノは、途轍もなく強大な殺気を身体に浴びる。
身体から冷や汗が噴出し、扉を開けた不恰好な体勢のまま、クロノは…殺気を放っている存在に眼を向けた。
玄関の中に居たのは…子猫サイズのヤガランデ。しかし、その大きさからは、想像も出来ない怒りと殺気を感じる。

「や…ヤガランデ、僕だ!!クロノだ!!」

搾り出すように声を出し、何もしないアピールすると、ヤガランデは両手の砲塔部を下ろし…踵を返す。
殺気から解放され、クロノは大きく息を吐いた。

「なにが無用心だ…。今のこの家は…1個師団でも落とせないんじゃないのか…。」

メビウスを守護する影の幻獣、ヤガランデ。メビウスの話を聞く限り、基本的には大人しいそうだが…。
主である彼や、ヤガランデの大好きななのは達に危害を加えるものがいれば…その強大な戦闘能力を発揮するだろう。
恐らく、ヤガランデ単体で管理局を相手取れるのではないか?そう思わずには、居られないほどだ。
ヤガランデの後についていき、リビングに入ると…ソファに寝そべり、ぐったりとしているメビウスを見つけた。

「メビウス…大丈夫か?」
「あ…クロノ…さん。きてたんですね。」

顔に乗せていた腕をどけて、メビウスは弱弱しく、微笑を浮かべる。それが、見ていて逆に辛い。

「具合は、良くなさそう…だな。食事はとったのか?」
「…いえ、食べる気になれなくて…。」

足元ではヤガランデが、心配そうにオロオロしている。ただでさえ、線が細く、色白なメビウス。
しかし、今は顔色は青い。

「まずは、ベットで休め。ここで眠ってたら、余計に体調を悪くするぞ。」
「あはは…そうします…。」

ソファから立ち上がろうとしたメビウスだが…バランスを崩して、よろけてしまった。
慌ててクロノが抱きとめるが…足元が覚束ないようだ。

「はぁ…仕方がない。僕が運ぶから…案内してくれ。」
「え…?う…わ、クロノさん、歩けます…よ。」
「病人は大人しくしてるんだ。」

ヒョイ…と簡単にメビウスの腰と膝の下に腕を回して、クロノは持ち上げる。…所謂、お姫様抱っこだ。
本来ならば、女性にする行為なのだろうが…別にメビウスにしても違和感が無いのは…何故だろうか。
顔を真っ赤にして、抵抗を試みるメビウスだがクロノの心配そうな顔を見て、大人しく身を任せる。
持ち上げた本人のクロノは、メビウスの軽さと…何故か少しの色っぽさを感じ戸惑ったという。


2階、寝室

「ありがとう…ございます。重くありませんでしたか?」
「逆に軽いくらいだよ。…食事はちゃんと取ってるのか?」
「えぇ。3食きちんと食べてますよ。…今は食欲、ありませんが…。」

頬をかきながら、メビウスは弱弱しく笑う。相変わらず、彼はどんな時でも笑顔を浮かべる。
だが…それが弱さを隠しての事だと、クロノだってわかっている。

「何か適当に用意しよう。待っていてくれ」
「はい…。クロノさん。」
「ん?」
「ありがとうございます…。」
「さっきも聞いたよ。…どういたしまして。」

小さく苦笑を浮かべるクロノだが、その時呼び鈴が響いた。
足元で丸くなっていたヤガランデがピクリ…と反応するが、クロノが制して、1階に降りていく。
何も知らない客人に、あの殺気はまずい。
モニターで確認すると、そこには、買い物袋を持った少年--ユーノが立っていた。

「ユーノ…?君も来たのか。」
「クロノ!?…そっかぁ、心配できてたんだね。…メビウスは?」
「2階の寝室で休んでいる。…会ってくるといい。」

両者とも、想像していなかった人物の登場で驚いたが、メビウスの事が心配なのは一緒だったようだ。
ユーノは制服姿のまま、ここに直行したのだろう。買い物袋には、栄養になる食材が沢山詰まっていた。

「僕が適当に作ってるから、ユーノはメビウスの様子を見ていてくれないか。」
「うん、わかった。…適当に買って来ちゃったけど…頼むよ。」

クロノに買い物袋を渡すと、ユーノは2階の寝室に向かい、扉を軽く叩く。

「はい、クロノさん?」
「あ、僕だよ、ユーノ。…メビウス、大丈夫?」
「ユーノ!?…貴方まで来てくれたのですか、どうぞ。」

驚いた声のメビウスだが、最後の方は少しうれしそうにしながら、ユーノを部屋に招き入れる。

「お邪魔しま…ごごごごめん!!」
「え…、あの?」

扉を開けて、中を見た瞬間、ユーノは顔を真っ赤にして閉めてしまう。
中では着替え途中なのか、上半身裸のメビウスが居ただけなのだが…。少し深呼吸を繰り返し…ユーノはハッと気がつく。

(いや…別に良いでしょ。メビウスは男の子なんだし…!!)

「…あ、や、なんでもないよ。…汗とかかいてない?タオル、持ってこようか?」
「先ほど、シャワーを浴びたのですが…お願いします。」
「わかった。少し待っててね。」

1分ほど時間がたつと、洗面器にお湯を入れ、タオルを持ったユーノが戻ってきた。
先ほどと同じように、静かに扉を開けて、メビウスのベットまで持っていくと、タオルを絞る。

「はい、拭いて上げるから、背中をこっちに向けて。」
「すいません…お願いします。」

申し訳なさそうに、メビウスはユーノの方に背中を向ける。
まるで女性のような綺麗な肌に、何故かゴクリ…と生唾を飲み込むユーノ。タオルを持つ手が少し緊張している。
…だが、その肌とはミスマッチな大きな傷跡が、背中には刻まれていた。
かつて…彼が子供の時に、生死の境を彷徨った、あの傷跡だ。

「んっ…!」
「あ、ごめん。痛かった?」
「あ、いえ。…そこは少し敏感なので…。大丈夫です、続けてください。」

妙に色っぽい声にドギマギしながら、ユーノはメビウスの背中を拭いていく。
粗方、拭き終わると、彼に着替えのシャツを渡し、ベットの近くに座る。

「もう、心配したよ。…その…大丈夫なの?」
「…心配かけたのは…謝ります。…大丈夫とは言い切れないですね。」

また弱弱しい表情を浮かべるメビウスを見て、ユーノも悲しそうにする。
そんな時…クロノが土鍋を持って、寝室に入ってきた。

「すまない、簡単なお粥だが、食べてくれ。」
「あはは…とても美味しそうな匂いですね。」

土鍋をテーブルに置き、クロノは器に小分けしていく。それをメビウスに手渡した。
玉子と鮭が入れられたお粥…いや、雑炊だろうか。なにはともあれ、とても美味しそうだ。
しかし…一口、食べると…メビウスはむせてしまった。どうやら、身体が受け付けないのだろう。

「メビウス、大丈夫!?」
「ごほ…ごほ、えぇ…なんとか。すいません、折角クロノさんが作ってくれたのに…。」
「気にしなくていい。ゆっくりと…ゆっくりと食べるんだ。」

ユーノが心配して、背中を擦ってあげるが…どうしたものか。流石に親友のこんな姿を見るのは辛い。
徐にクロノはメビウスから、器を受け取ると、1口掬い、彼の口元に運んでいく。

「ほら、あ~んして。」
「い…や、自分で食べれます…。」
「そう言ってむせたのは君だろう。…病人は看病されるんだ。」

戸惑ったメビウスだが…渋々とクロノからあ~んで食事を再開する。
その間も、ユーノが静かに背中を擦ってあげていた。…そのお陰だろうか、綺麗にお粥を食べ終えた。

「あとは…ゆっくりと休むといい。」
「うんうん。静かにしてるから、寝てていいよ。」
「あはは…そうします。」

メビウスを静かにベットに寝かせて、ユーノは布団をかける。それを見たヤガランデは、ピョン…とメビウスのお腹の上に昇ってしまった。
ヤガランデを優しく撫でてあげ…メビウスも静かに眼を閉じた。
よっぽど疲れていたのだろう、直ぐに静かな寝息が聞こえてくる。

「…メビウス、大変だったんだね…。」
「そうみたいだな。…僕達では、どうにも出来ない事…だ。」

ポツリと零すユーノに、心配そうに首を振るクロノ。…人を殺めたと言う事実。
それを受け入れきる事が、メビウスには出来なかったのだろう。
…2人も決してメビウスの事は嫌いにはならない。逆に大切な友達だ。…だからこそ、彼に元気になった欲しい。
静かに寝息を立てて眠るメビウスの顔は…とても安らかだ。
2人は知らないだろうが…彼を襲おうとする悪夢を、ヤガランデとタングラムが…全て阻んでいるのだ。
全ては愛しき彼の為に…。多くの人にメビウスは愛されている。だからこそ…彼には、世界を…空を護る意味がある。

「彼なら、大丈夫だろう。少し心の整理が必要なだけなんだ。」
「…そう…だね。よし、今日は僕、ここに泊まるよ。クロノは?」
「すまないが、帰らないといけない。…ユーノ。」

申し訳なさそうにするクロノだが、何故か次の瞬間には、がっしりとユーノの肩を掴み、真面目な表情を作る。
突然の事で戸惑った様子のユーノ。

「な…なに?」
「彼は…メビウスは男だからな。」
「……………だ、大丈夫。絶対に…うん、大丈夫。」

何が大丈夫なのだ、なにが。先ほど、パニックを起こしそうになったのは、お前だろう。
クロノはユーノの眼を見つめ、大丈夫だと信じると、寝室から出て行こうとして…なにか思いついた。

「…後で最高級の特効薬に、連絡して置こう。」
「特効薬?……ああ、それが良いね。彼女なら…メビウスの心を癒してくれるよ。」

メビウスが心から愛し、彼を心から愛している…白き聖女の姿を思い出し…2人は笑顔を浮かべた。








あとがき

サンタクロースが来なかった作者です。文才と妄想力くらいプレゼンしてくれても良いだろ!!
さて、ストラグルの拠点殲滅と、生体兵器のプラント。…色々と話も大きくなってきました。私に扱えるかとは別として(おい。
そして次回…色々と作者が壊れます。もうね、書きたくて仕方が無いの。
主人公のメインヒロインの甘いお話。





[21516] ISAF編 5話 主人公とメインヒロイン(一部オマケつき
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/01/04 23:29
「えっと、こっちのほうが可愛いかな…?」
「ふふ、まだ迷っていたのですか?」
「うぅ~、だって…」

アイスドールの笑い声を聞き、少しいじけた様子のなのは。
ISAFが科学者救出作戦及び、ストラグル秘密拠点攻撃を行った次の日。
教導隊宿舎の自室で、なのはは自分の髪型を色々と弄っていた。今まではツインテールにしてきたが…今日は別な髪型に挑戦したいようだ。
理由は、昨夜クロノから届いたメール。彼女の大好き…と言うか、愛してやまない男性--メビウスが体調を崩したそうだ。
詳しい事は書かれていなかったが、「君が行けば、メビウスも元気になるだろう」と最後はこう締められていた。
最も、彼が体調を崩してると知った瞬間に、なのははメビウスの家に行くつもりではあった。
…何より、今日は久々の休暇だ。予定も特に無い、仮にあってもメビウスの方が最優先なのだが。

「今までのツインテールでは駄目なのですか?」
「だって、メビウス君と久々に会うんだよ?…メビウス君、凄くかっこよくなってるし…私も少し、大人っぽくしたいなぁ…って。」
「クスクス。大人っぽくなくても、なのはは充分可愛いですよ。無理に飾るよりは、素の貴女の方が彼も安心するでしょう。」

頬を染めて、大好きなメビウスの事を思い出す。きっと、あの優しい笑顔で自分を受け入れてくれる。
本当に嬉しそうに…幸せそうに笑顔を浮かべる彼女を見て、アイスドールも幸せな気持ちになっていた。
彼女は、本当のメビウスを愛してやまないのだろう。…彼もなのはを心から愛しているのだから…ここまで2人の絆は強いのだ。

「そう…かな?…うん、なら同じ髪型で行って見るね!!」
「えぇ。その方が貴女らしいです。…さぁ、そろそろ時間ですよ。」
「にゃ!?わぁ、本当だ!!そ、それじゃ、アイスドール行って来ます!」
「えぇ。行ってらっしゃい。」

最後の方はバタバタと慌しく、部屋を出て行く。
その後姿を眺め、再びアイスドールはクスクスと笑い声を零す。何時まで立っても…彼女は初々しく、可愛らしいものだ。




・ユーノ・

「ただいま~。」

そう言って、僕は我が家の扉を開ける。奥からは、とても良い匂いが漂ってきた。
うん、彼女の手料理は、何時も美味しい。幼馴染のなのはだって、彼女には敵わない。

「あ、おかえりなさい。お疲れではないですか?鞄、下さい。」
「いや、大丈夫だよ。何時もありがと」

奥からパタパタと走ってきたのは、僕の可愛らしい妻、メビウス。…あれ…何か違和感が…。
妙な違和感を感じて、立ち止まった僕の顔を、メビウスは覗き込む。

「どうかしましたか?」
「あ、なんでもないよ。…今日の晩御飯は何?」
「ふふ、貴方の大好きなシチューですよ。」
「メビウスのシチューか~。うん、お代わりしないとね。」
「あら、貴方ったら。」

口元に手を当てて、クスクスと笑みを零すメビウス。…僕にとって自慢であり、最愛の妻だ。
前を歩く彼女を後ろから、ソッと抱きしめる。

「ひゃ!?…もう、貴方ったら…。」
「今日1日頑張ったんだから…さ。」
「ふふ、仕方のない人。」

2人で笑顔を浮かべて…静かに顔を近づけ、唇と唇が……




メビウス宅 寝室


「うわぁあぁぁぁぁぁあぁ!!!????」

と、大声を出して僕は飛び起きる。そして、周囲を見回して…あれが夢だった事に気がついた。
ぼ…僕はなんて夢を見てるんだ…!!頭を抱えると、ブンブンと横に振り回す。…雑念退散雑念退散…!!
どうして、僕とメビウスが結婚してて…ききき…キスなんて。それ以前に、どうして彼が女性になってるんだよ!?
彼のベットを覗き込むと…あんな大声を出したのに、静かに寝息を立てていた。…よっぽど、疲れてたんだね。
…何かの視線を感じ、その方向を向くと…

「………」
「や、やぁ、おはよう、ヤガランデ。」

首を上げたヤガランデが、物凄く冷たい視線を送ってきた。…え、まさか、君…夢の内容をしってるわけじゃないよね?
僕の心の中が見えたのか…ヤガランデは早くメビウスから離れろ、と言いたげに砲塔部を僕に突きつける。
…とりあえず、簡単な朝ごはん、用意しようかな。寝汗でビッショリのシャツは、着替えないと…。

「!!!」
「ちょ!?着替えるだけ、着替えるだけだからね!?なにもしないって!!!??」

シャツを脱ごうとした瞬間にヤガランデからの視線が強くなる。…出てけってことか…。
…うぅ、心配してきたのに、なんだろう…この扱いは。…とりあえず、ご飯作って、僕も学校行かないと…。
後は最高級の特効薬が、何とかしてくれるでしょ。







・メビウス・

「それじゃ、僕はそろそろ行くよ。」
「えぇ、わざわざ、ありがとうございました。」

朝食の食器を片付け終わると、ユーノは制服に着替えていました。
どうやら、このまま学園に直行するようです。本来ならば、私も行かないといけないのですが…。

「先生には、体調不良って伝えとくよ。…無理しないで、ゆっくりと静養して。」
「すいません。あとで何か、お礼をしますよ。」
「あはは、気にしないで良いよ。それじゃ、行ってきます。」
「えぇ。いってらっしゃい。」

手を振り合いながら、玄関先でユーノを見送る。本当の持つべき物は親友ですね。
彼やクロノさんのお陰で、随分と楽でした。…心の方も、なんとか…整理がついてきた。
リビングに戻り、ソファにゆっくりと腰掛けて大きく息を吐く。

「思えば、久々の休み…でしたね。」

ISAF設立の為に、走り回って、設立後は設立後で休み暇などありませんでした。
…現にブレイズさん達は、私の抜けた分を埋める為に頑張ってるでしょう。…我ながら、不甲斐ないものです。
徐に通信端末を開くと、そこにはブレイズさんからのメールが届いてしました。

「…ふふ、見透かされていました…か。」

そこには、体調が万全になるまで休んでろ。無理して出てきても何も出来ない。と書かれていました。
お言葉に甘えて、今日は…ゆっくりとさせてもらいましょうか。

「…タングラム、居ますか?」
「私は何時でも、貴方の側に居ますよ。…メビウス、大丈夫なのですか?」

耳に届く、タングラムの優しくて、心配そうな声。彼女にも随分と心配をかけさせてしまったようです。

「えぇ、随分と楽になりましたよ。…何か、話しましょうか、1人だと退屈ですので。」
「それなら、大丈夫です。もう少しで、大事なお客様が来ますよ。」
「お客様?…運命を見たのですか?」
「いいえ、貴方と同じ感情を抱いてる人が来てるのを、感じたのです。…メビウス、今日の言う日を大切に過ごしてください。」

優しげに言い残し、タングラムの気配が消える。また私の心の空とやらに戻ったのでしょう。
しかし、お客様…ですか。誰の事だろう…と首を捻っていると、呼び鈴が鳴る。

「ん…早速ですか。」

一体、誰が来たのか…とりあえず、玄関まで行き、扉を開ける。

「…あ、その…お、おはよう!!」
「え?あ…あぁ、おはよう…ございます。」

扉を開けると…そこには…。

「な、なのちゃん…ですか?」
「う、うん。…えへへ、来ちゃった。」

私の大好きななのちゃんが、立っていました





メビウス宅 リビング。


・なのは・

「わぁ、ここがメビウス君のお家なんだね。…綺麗にしてるね~。」
「えぇ。掃除だけは、欠かしませんから。」

ソファに座って、私はキョロキョロと彼の家の中を眺める。
最初は、驚いていたメビウス君も、今ではすっかり何時もの調子に戻っていた。慌てたメビウス君、ふふ、少し可愛かったなぁ。
キッチンで紅茶を用意してる彼の後姿を眺めて…彼の家に来てるんだと、改めて自覚する。…どうしよう、なんか私が緊張してきちゃった。

「はい、お待たせしました。」
「ありがとう。わぁ、良い匂い。」
「ハーリング提督から頂いたものなんです。気に入っていただけて、良かった。」

笑顔を浮かべて、メビウス君は私の向かいに座る。その距離感がちょっと寂しい。
そんな私に気がつかないで、メビウス君は静かに紅茶をカップに注いでくれる。

「しかし、なのちゃんが来てくれるとは、本当に驚きましたよ。」
「クロノ君から、メールが来てたの。メビウス君が、具合悪くなってるって聞いて、凄く心配したんだよ?」
「心配をかけて、すいません。今はもう大丈夫ですよ。」

優しく微笑むメビウス君を見て、頬が熱くなるのを感じる。…あはは、私って本当に…メビウス君が大好きなんだね。
だからこそ、少し悲しい気持ちになる。この距離感と…彼の話し方。

「…ねぇ、メビウス君。どうして、話し方…変えちゃったの?」
「え?…あぁ、この口調の事ですか。」
「うん、前は…なんて言うか、凄く安心できた話し方で、近くに居てくれるって思えたのに…今の…遠いよぉ。」

あれ…なんでだろう。最後の方は、泣きそうな声になっちゃった。…にゃはは、涙で視界が歪んじゃった。
今のメビウス君は…私の知っている小さい頃のメビウス君じゃないみたいで、凄く不安になる。
私だって分かってるの。彼が部隊を作るために、ここに来て…頑張っていた事は。

「メビウス君の周りは年上だらけだから、それに合わせないといけないのも分かってる。それでも…それでもね…寂しいよ、メビウス君。」

最後の方は…声に出ちゃったみたい。…俯いてしまった私の向かい側で、静かに…メビウス君が動く気配がした。
そして、私の隣に移動すると…フワリ…って優しく…本当に優しく抱きしめてくれたの。

「すいません…なのちゃん。少し遠かったですよね。…口調は…もう治せませんけど、距離なら簡単に埋めれます。」
「めびうす君…めびうす君、会いたかったよぉ、お話したかったよ…。抱きしめて欲しかった…!!」
「私もなのちゃんと会いたかったです。…ね、なのちゃん、泣かないで下さい。…笑って、私の大好きな笑顔を、見せてください。」

彼の胸に顔を埋めて、ギュッと抱きつく。…そうすれば、メビウス君は静かに、優しく抱きしめてくれる。
優しく髪を梳くようにして、私の頭を撫でてくれるのも、全然変わってなかった。…本当にメビウス君には、かなわないなぁ。
私は少しだけ、顔を上げて…何とか笑顔を浮かべる。

「にゃはは、メビウス君、これで良い…かな?」
「はい。私の大好きななのちゃんスマイル。…本当に、大好きですよ。」
「私も…だよ、メビウス君。好き…大好き。」

私は、静かに…静かに顔を寄せて、自分の唇とメビウス君の唇を重ねる。最初は少し驚いたメビウス君だけと…直ぐに優しく受け入れてくれた。
私の大事な…ファーストキス。メビウス君にあげるって決めてた…初めてのキス。今、あげちゃったんだ。
長いようで短いような時間が過ぎて、自然と唇を離す。触れ合うだけの優しいキスだけど、今の私の頭の中はぽわぽわしてる。

「メビウス君…私の始めてのキス…だからね。」
「ふふ、とても大事な物を、貰ってしまいましたね。」
「そうだよぉ。私の凄く大事な物。…私ね、初めては全部、メビウス君にあげるって…決めてたんだよ?」
「初めては、全部…ですか?」
「うん~。男の子と始めて手を繋いだのも…はじめて作ったお菓子も…初恋も全部全部メビウス君なの。」
「…なのちゃん、ありがとうございます。」

恥かしそうにして、メビウス君はまた抱きしめ返してくれた。ずっと…ずっとこうしていたいなぁ…。



時刻、お昼。
メビウス宅 キッチン

・なのは・

「あ、メビウス君、お皿はこれ使ってもいいの?」
「えぇ、構いませんよ。…よっと、こんな物でしょうか。」
「わぁ、厚焼き玉子上手だね。」

綺麗に巻かれた厚焼き玉子を、メビウス君はお皿に盛り付ける。
さっきまで2人でくっついて過ごし居たけど、お昼近くになって、一緒にご飯を作る事になったの。
けど、相変わらずメビウス君はお料理が上手。エプロンつけて、料理する彼の姿は…なんだかかっこいい。
何時ものメビウス君もかっこいいけど…なんだか、お料理作ってるのが凄く楽しそうに見えるんだ。

「なのちゃん、パスタの方は大丈夫ですか?」
「ちょっと待ってね。…はいっ、メビウス君、固さどうかな?」
「ん…。大丈夫ですね、茹で上がってますよ。トマトソースとあわせてしまいしまょう。」

茹でていたパスタを一本、お箸で取ると、メビウス君に食べさせてあげる。自分で食べるより、こうしたほうが…良いかな。
湯で加減も良いみたいで、メビウス君の言うとおり、パスタをあげるとトマトソースと絡めて行く。
…けど、こうして一緒に料理してると…。

「ねぇ、メビウス君。私達、新婚さんみたいだね。」
「ん~、新婚さんですか。まだまだ先ですけど、絶対になりますからね。…予行演習ですね。」
「…もぉ、メビウス君、少しは照れてよぉ。」

照れるかなぁ…って思って言ったのに…そんなに幸せな笑顔で言われたら、私が照れちゃうよ…。
けど…絶対になりますから…かぁ。にゃはは、メビウス君のお嫁さんになるんだ。
本当に…大好きで大好きで…愛しい人なんだから…。





・メビウス・

「…もしかすると、私は駄目人間かもしれませんね。」
「どうして?」

昼食を終えて、リビングのソファで寛いでいた時の一言。
腕の中に居るなのちゃんが、少し驚いた顔をして見上げてきました。
私の足と足の間に座っているなのちゃんを、後ろから抱きしめているのが、今の格好です。
なのちゃんの綺麗な髪を梳かし首筋に顔を近づけて、苦笑を零しました。


「こうして、なのちゃんの匂いを嗅いでいると…とても心が安らぎます。」
「それは、メビウス君だけじゃないよ。私もだもん。…凄く凄くドキドキしてるけど、安心できるよ。」

スリスリ…と私の胸に擦り寄るなのちゃんが可愛くて…顔が熱くなる。
抱きしめている私の腕に擽ったり、指と指を絡めたり…まるで子猫の様になのちゃんは甘えてきます。

「…なのちゃんの髪は、綺麗ですね。」
「あはは、ありがとう。けど…髪型が良いのが見つからないの。」
「あらあら。…少し弄ってみても良いですか?」
「うん、メビウス君なら良いよ。」

するリ…とリボンを解き、手櫛で髪を整えて、彼女に似合いそうな髪形を思い浮かべる。
…ツインテールがとても可愛らしかったですが…なら、こうしてみましょうか。
彼女の髪を傷めないように、細心の注意を払いながら、髪を片側に集めて、1つにまとめる。
所謂、サイドテール…といい物ですね。

「はい。これで完成です。」
「ありがとう!!…えっと、どうかな、似合ってる…?」
「えぇ、とても可愛らしいですよ。」
「えへへ、嬉しいなぁ。」

可愛らしい笑顔を浮かべるなのちゃん。本当に、彼女の事が愛しくて仕方が無い。
髪型が気に入ったのか、少し手で触れていたなのちゃんが、リボンの事に気が付いたようですね。

「あれ…あ、これってメビウス君のリボン…?」
「はい。…嫌でしたか?」
「そ、そんな事ないよ!!凄く凄く嬉しい!!…前に貰ったの、擦り切れちゃって…。」
「そうでしたか…。私のリボンでよければ…何時でもあげますよ。」

先ほどまで、私がしていたリボンを、なのちゃんに髪に結んであげたのですが…喜んでもらえてよかった。
なのちゃんがつけていた白いリボンを手渡すと、何故か満面の笑みを浮かべ、彼女は私の首の後ろ…髪に手を伸ばした。

「メビウス君、ごめんね。少し動かないで。…はい、出来た!!」
「…なのちゃんと私のリボンを交換…ですか。」
「うん!何時でもメビウス君の側に居れる様に、メビウス君を護ってくれる様に、想いを込めたから。…大切にしてね?」
「勿論です。…私のなのちゃんからのプレゼント、絶対に大事にしますよ。」

今日から…私のトレードマークは蒼いリボンではなく…なのちゃんの白いリボンに変更ですね。





・なのは・

「夕食の買い物に行ってきますね。なのちゃんは留守番をお願いします。」

そう言って、メビウス君はお買い物に行っちゃった。
私も一緒に行きたかったけど、少し天気が崩れてきたみたいで…お洗濯物を入れなくちゃいけなかった。
彼のシャツや…その…えっと、下着を畳んで、種類別にまとめていく。
曇った空からは、今にも雨が降ってきそう

「…ねぇ、ヤガ。…メビウス君の事、護ってあげてね。」

膝の上に乗って丸くなっているヤガのお願いする。メビウス君は凄く強くて…凄く優しい。
そんな彼に傷ついて欲しくない。けどね…私じゃまだ彼の側にいけない。きっと…私が護られちゃうから。

「けど、君なら…メビウス君のこと、護れるよね?」

ヤガの背中を優しく撫でてあげれば、眼を点滅をさせて…喜んでくれたみたい。
あ…ポツポツと雨が降ってきた。…大雨にはいかないけど…結構、降って来ちゃった。

「メビウス君、傘持ってったのかな…?」

少し心配になった来た時、電話の着信音が鳴り響く。…誰からだろう?
今、メビウス君が居ないから、私が出ないと…。膝の上のヤガに謝って下ろすと、受話器を取る。

「はい、もしもしランスロットです。」
「……あ、なのちゃん。私です。」
「メビウス君?どうしたの?」

何故か一拍おいて、メビウス君の声が聞こえてきた。電波が悪いのかな?

「今から帰るのですが、雨が降ってきたので…少し遅くなるかもしれません。」
「ううん、大丈夫だよ。タオル、準備しておくね。」
「えぇ、そうしてください。っと、長話してて、更に雨が強くなっては、意味が無いですね。では…。」
「うん、気をつけてね?」
「はい、…ふふ。」

最後の方に、悪戯っぽく笑ったメビウス君にどうしたの?って聞く前に…彼の言葉が私の耳に届いた。

「それじゃ、今から帰りますね。なのは・ランスロットさん。」
「にゃぁ!?」

短く…短く悪戯っぽい言葉を残して…電話が切れちゃった。あ…私…確かにランスロットですって言った。
わ、どうしよう、顔が熱い心臓が破裂しそうなくらいドキドキしてる。…それに…凄く凄く幸せな気持ちに…なってきたの。

「なのは・ランスロット…。どうしよう、幸せすぎて…幸せすぎるよぉ。」

蕩けた笑顔が止まらない。それは、メビウス君のお嫁さんになった証。
…うん、決めた。メビウス君が帰ってきたら…こう言うんだから。

「おかえりなさい、あなた♪」















管理局及びミッドチルダ政府、ベルカ自治政府合同議会。

「以上の理由を持って、我が地上本部はストラグル壊滅作戦を行う。」

静かに…威厳を持った声でレジアスは議会場を見渡す。
3大勢力の首脳陣が一挙に会する共同議会。…最も、大半が映像通信だが、致し方ないだろう。

「私も中将に賛成だ。…生体兵器の開発、度重なるテロ行為。最早、彼らは害悪でしかない。」

本来、平和主義者のハーリングも…難しい顔をしている。ストラグルのテロ行為は年々、拡大し、ベルカも被害を被っている。
地上本部の統括者と、信望者の多いハーリング。この2人のこう言われては…他の幹部達は何もいえなくなる。

「しかし、本当にストラグルが生体兵器を開発していたのか、疑問視されているのでは…。」
「秘密拠点の情報、地下プラントの施設を見れば、自ずと分かるではないのか?」
「…だが、所詮は1このテロ組織、何も大規模作戦を実施しなくても。」

だが、それでも反論してくる連中も居るようだ。…その大半は地上を重要視せず、ハーリングやレジアスとは政敵関係にある提督達だ。
この2人は実力や民衆からの支持はとても高い。だからこそ、この2人が邪魔だと思う連中も多いのだ。

「そのテロ行為で、何万と言う人間が死んでいるんだぞ。…それとも、貴様らはストラグルが潰されると…まずいことでもあるのかね?」

ギン…とレジアスの視線が音を立てる。
まさかとは思っていたが…どうやら、ストラグルと何かしらの繋がりがある連中が居るようだ。

「…ストラグル壊滅戦、良いじゃないか。僕達、ウィザードが参加させてもらうよ。」

静寂を打ち破ったのは…ウィザード隊隊長、シルヴァリアス。何時もの様に、柔和な笑顔の下に、下劣な哂いを隠していた。

「僕たちが参加すれば、連中など直ぐに片付けられる。…まぁ、他の部隊は要らな…。」
「それには及びません。今回はISAFを参加させます。」
「…なに?」

シルヴァリアスの発言を切るのは、ハーリングの隣に待機していたクロノだ。

「彼等の能力は、先の空港事件、拠点襲撃で立証されています。…彼らならば、この作戦、必ずや成功してくれるでしょう。」
「クロノ。君は少し連中を買いかぶりすぎじゃないのか?」
「…僕は事実を述べたまでだよ。なお、リフォー社の帝閃より、新型装備が提供さてました。」

シルヴァリアスを軽く一瞥しただけで、クロノは話に戻る。モニターを操作し、閃とノヴァが開発した新型装備を映し出した。

「対魔法装甲車及び、水陸両用バイクです。…今回の作戦に役立てて欲しいとの事です。」
「…他のなにか意見はありますか?」

議会の議長を務めるニカノールが、他の面々を見るが…何も返ってこない。彼もまた、ハーリングやレジアスと志を共にする者だ。
反論が無いと分かると、ニカノールは議会の閉会を宣言する。

「本日の議題、ストラグル本拠地攻撃作戦【バンカーショット作戦】は可決となりました。詳しい作戦開始日時などは追って連絡しましょう。
更なる発展と平和を願い、これで合同議会を閉会といたします。」








あとがき


あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
さて、メビウス君となのちゃんのラブラブでした。一部オマケがありますが気にしないで下さい。
メビウス君となのちゃんのラブラブが書きたくて書きたくて、見たくて見たくて仕方が無い作者でした。
そして、可笑しいな、初詣で文才と絵心と妄想力を頼んできたのに、なにもこないぞ…。





[21516] ISAF編 6話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/01/11 22:18
管理局本局 

・クロノ・



「バンカーショット作戦に参加する部隊を募るから、各部署に連絡をしておいてくれ。」
「はい、陸戦部隊と空魔導師もですよね。」
「あぁ。できる限り、多くの戦力が欲しい。僕はフレッシュリフォー社に新装備の受理に行く。
…後は、他の企業達からの協力も少しずつ持ちかけられ始めたからな。それの報告書を作るから、君は連絡を頼む。」
「分かりました。」

歩きながら副官にテキパキと指示を飛ばし、僕は今後の予定を頭の中で組み立て始めた。
ストラグル壊滅戦、バンカーショット作戦。これは一大作戦となるだろう。これが成功すれば、ハーリング派の力は更に強まる。
それに、ISAFの実力を世間にアピールする絶好の機会だ。逃す手など無い。

「クロノ!!」
「っと…、ブレイズ。…来ていたのか。」

呼ばれて振り返ると、投げ渡される缶コーヒー。そこには、僕の親友であるブレイズが壁に寄りかかって立っていた。
副官に先に行ってるように伝えると、ブレイズの隣に並び、壁に背中を預ける。

「合同議会、お疲れ。色々と決まったようだな。」
「流石は情報が速いな。ストラグル壊滅戦、バンカーショット作戦が可決された。君達、ISAFの参加も取り付けておいたよ。」
「やれやれ、休む暇が無いな。…俺達を過労死させるつもりか?」
「この程度で過労死する君達じゃないだろう。」
「ふ…。あとで特別賞与、申請しとくからな。」
「考えておこう。」

缶コーヒーを飲みながら、2人で小さく笑いあう。こうして、軽口を叩き合うのは久々だ。
彼がISAFに所属し、僕も提督と言う地位についてから、御互い多忙で会う時間等無かったからね。

「アースラの切り札が、今ではハーリング提督の右腕か…恐れ入る。」
「よく言う。君が残っていれば、僕は左腕だったと思うがね。」
「それはそれは、お褒めに頂き光栄だな。」

本気にせず仰々しく頭を下げたブレイズだが、僕は実際にそう思っている。
彼は僕の補佐役として、様々なサポートをこなしてくれた。状況にあわせ柔軟に、冷静に対応する能力も持ち合わせている。
まぁ、そんな彼の能力を頼りにして、ISAFに転属させたんだが…。

「…それで、詳しい内容は?」
「このファイルを見るといい。現時点で決まっている事が書いてある。」
「……くく、ウィザード隊は除外か。なかなかどうして…面白い事を考えたな。」
「当たり前だ。黒い噂が耐えないし、何より君達の邪魔になるだけだろう。」
「動き難いのは確かだな。…ほぉ、装甲車とバイク…か。これだけでも機動力は随分と違うな。」

ファイルの中身に軽く眼を通して、ブレイズは低く喉を鳴らして笑う。
陸戦部隊に配備される水陸両用バイクに、対魔法装甲車。…どこをどうみても、映画の装備にしか見えないからな。
まぁ、これを開発したのは閃と主任だ。恐らく、地球のデータを参考にしてるんだろう。

「…メビウスの所には行ってきてくれたか?」
「あぁ。辛そうだったが、彼女を派遣したから、今では元気になってるだろう。」
「……なるほどな。外面ではなく、内面の傷だから、なのはなら適任だ。」

今頃、仲睦まじく過ごしている2人を想像し、僕達は苦笑を零す。
なんだかんだでメビウスとなのは、2人が幸せそうにしているのを見ているのは嫌いではない。こちらも幸せな気持ちになるからね。

「…さて、時間を取らせてすまなかったな。」
「いや、気にしなくて良い。後で詳細をそちらに連絡しよう。…オメガ達は?」
「オメガは押収した銃火器の照合にいってもらってる。イリヤとアーサーは訓練だ。」
「そして、君は報告書の作成…か。副隊長も大変だな。」
「なに、少しの我慢だ。バンカーショット作戦を成功すれば、人手不足も解消するさ。」

寄りかかっていた壁から離れて、お互い背中を向けて歩き出す。
この作戦が成功すれば、ISAFの増員要請も可能だろう。…そこまで、彼は見越していたか。

「…魔術師連中に気をつけてくれ。俺達に肩入れするなら、眼を付けられるぞ。」
「今更だな。第一、あんな奴らに負けるほど、僕は柔じゃないよ。お互いの幸運と無事を。」
「「全ては、世界の平穏と、人々が安心して眠る為に。」」




クラナガン、裏路地のBAR。

「……」

カウンター席に座り、グラスにはいった酒を一口。店内には、彼と寡黙なマスターしか居ない。
彼--レジアスはある人物を待っていた。…そう、路地裏の隠れた店でなくては会えない相手。…裏の人間だ。
ドアが開き、静かに店に入ってきた1人の男性。帽子を眼深く被り、レジアスの隣に座る。

「ロックで一杯。…旦那の奢りでな。」
「ふん。その程度なら構わん。」
「くくく…。流石は中将、懐がデカイ。」

低く笑いながら、男性はグラスを受け取り、口に運ぶ。久々の酒は…とても旨い。

「それで、情報はどうなった。」
「そう急かすな。久々の酒なんだ。…ったく、分かってる。」
「なんの為に、貴様を捕まえないと思っている、ドミニク・ズボフ。」
「そりゃぁ、裏の世界の情報の為だろ。くくく、高い金を貰ってるんだ。安心しな、正確な情報だ。」

男性--ドミニクから手渡された数枚の手書きの用紙を受け取る。そこには、管理局の高官達の情報が書かれていた。
ドミニク・ズボフ、元ベルカ空軍のトップエースの1人にして、エスケープキラーと言う汚れ役を担当していた男。
戦後は戦犯容疑を逃れる為に逃亡し、裏の世界で情報屋として活動していた。
様々な経緯で彼と知り合ったレジアスは、逮捕しない代わりに定期的に裏の情報を集めさせていたのだ。
最も、レジアス自身、少々汚い事をしていた過去もある為に、ドミニクを捕まえたら困るというのもあるのだが。

「…まさかと思っていたが、ストラグルと癒着してるとはな…。」
「資金援助と人員援助か。そして、テロ行為を自分の部隊で鎮圧。くくく、人気取りには良い手段じゃないか。」
「その為に、己の部下と民衆の命を危機に晒すか…。」

ただでさえ鋭いレジアスの眼光が、更に鋭くなる。彼とて、犯罪すれすれの事を過去には行ってきた。
だが、それは全て民衆の命を護る為だ。決して、人気取りの為などではない。

「さて、どうするね、旦那。…消しちまうのか?」
「ふん、消しはしないが、それ相応の報いを受けてもらう。…ご苦労だった。金は何時もの所に用意してある。」
「毎度あり。…今後とも、ご贔屓に。くくくく。」

受け取った用紙を仕舞うと、レジアスはグラスの残っている酒を飲み干し、テーブルに置く。カラン…と氷が静かに音を立てた。

「しかし、今更紙か…アナログだな。」
「はっ、アナログの方が何かと便利なんだよ。データなんざぁ、ハッキングされて改竄されれば終わりだ。
だが、手書き…しかも、専属の情報屋の手書きなら、安心できるだろ。」
「貴様が、裏切ってると言う可能性は?」
「これでも、プロ意識ってのはあるんでね。高い金も貰って、裏切りゃしねぇよ。」

それだけ言うと、ドミニクは来た時と同じように帽子かを深く被り、レジアスに背を向ける。

「まっ、俺が捕まったら、旦那だけじゃなく、他の連中も困るだろ。なんせ、俺はあんたらの過去を知ってんだからな。くくく。」
「ふん、貴様に何も証言させずに処分するくらい、ワシの権限でとうとでもなるんだぞ?」
「おぉ~、怖い怖い。ま、今後とも仲良くやりましょうや、旦那。」





・ブレイズ・

トリスタン宅 

「やれやれ、やっと着いたか…。」

年寄り臭く、肩を回しながら俺は自宅マンションに帰ってきた。
メビウスが居ない今日、書類やらなんやらを片付けたのだが、デスクワークは肩がこる。
オメガは書類仕事をさせずに、押収した銃の製造会社に照会に行って貰った。…彼に書類仕事なんて任せられないだろう。
スカイアイが書類仕事の処理能力が高く、思ったより速く終わったのは幸運だった。

「ん…鍵が開いている…?」

自宅の扉を手を伸ばし、鍵が掛かっていない事に気がつく。今朝、出かける時にかけた筈なのだが…。
何時でもスペシネフを展開できるようにしながら、静かに扉を開ける。侵入者ならば、撃退しないとな…。
だが、そんな俺の鼻を届く、良い匂い。…これは、料理の匂いか…?
侵入者が料理なんて作るか?いや、作らない。脳内で俺の家で、料理を作る人物を最高速で検索。…該当は1名。
…確かに、彼女には鍵も渡している。

「ただいま。」
「む…か、帰ったか。勝手に入ってたが…よかったか?」
「お前には、鍵も渡してある。自由に出入りする権利はあるさ。」
「そ、そうか…そうか。いま、夕食を作ってたところだ、着替えてくると良い。」
「何時もすまないな。」
「気にするな。そ…その、ここここ恋人として当然の事だ。」

緊張を解き、普通に扉を開けて家の中に入れば、キッチンから顔を出す1人の女性。
…そう、シグナムだ。彼女には、出入りする権利があるからな。
若干、照れた様子でキッチンに戻る彼女を見て、笑みを浮かべて自室で着替える。
しかし、恋人…か。何時の間にそんな関係になっていた事やら。…いや、俺からの告白だったんだが…思い出すのも照れくさい。

「…何れ、話すとしようか。…誰に話すんだ誰に。」
『マイロード、如何されました?』
「いや、なんでもない。スペシネフも休んでてくれ。」
『御意。』

スペシネフを調整機械にセットして、ラフな格好に着替える。
…しかし、こうして夕食を作りに来てくれるのは、助かるな。
毎日、と言う訳ではないが、結構な頻度で来てくれているから、仕事疲れとかの時は本当に助かる。

「和食か。」
「あぁ、自信作だが…嫌だったか?」
「いや、作って貰ってるんだ。文句など無いさ。」

リビングに戻り、テーブルの上に並べられた料理を見て、笑みを浮かべる。
どうやら、はやてに料理を教えてもらっているようで、日増しにシグナムの腕前は上がっていく。
殆ど和食ばかりだが、別に嫌いではない。彼女の料理ならばなんでも好きだ…と思う俺はおめでたいか。
やれやれ、メビウス達の事を言えなくなるかもな。

「急に笑ってどうした?…へ、へんな所があったか?」
「いや…なんでもない。折角のシグナムの手料理だ。冷めない内に頂こう。」
「う…うむ、食べてくれ。」
「「いただきます。」」

2人で手を合わせて、食事を始める。…うん、旨い。家庭の味…と言うのだろうか。
1人のときは簡単なもので済ませてしまうから、こう言うのも良いな。

「ど、どうだろうか。主に教えられた料理なのだが…。」
「ん、文句の付け所が無い。本当に旨いよ。」
「そ…そうか。…お前にそう言ってもらえて、良かった。トリスタン…じゃ、なかったな。
ブ…ブレイズの為に作ったんだ。沢山食べてくれ。」

褒めるとシグナムは、ニコニコと目の前で笑みを浮かべる。しかし、名前で呼ぶときはまだ照れるようだな。
彼女は大抵の人物は、苗字で呼ぶ。メビウスなら、ランスロット。なのはなら、高町と言う様に。
…まぁ、一応は恋人同士、と言う事で俺の事は名前で呼ぶようだが…

「1年続けて、まだ照れるか…。」
「う、…うぅ。私だって、慣れようとしてるのだぞ?…だが…その、やはり照れると言うか…嬉しいというか…。」

珍しく顔を赤くして、モジモジとなるシグナム。…まったく、普段の凛々しい姿を見てる連中が見たら、どうなるか。
しかし、俺の前だけだと思えば…悪い気はしない。

「まったく…本当にお前は可愛いな。」
「んな!?かかかか、可愛いだと!?」

…しまった。無意識に口からこぼれたか。突然、可愛いなどと言われて、シグナムは顔を真っ赤にして固まってしまった。
初々しいと言うか…なんと言うか。…実に可愛らしい。

「くぅぅ…お、お前はなぜ、そう言う事を簡単に口に出せるのだ…。少しは照れるなりなにかしろ…。」
「無意識に零れた言葉だし、事実だからどうしようもない。」
「……そう言う性格だったんだな…。」

シグナムは達観したように、食事を再開する。未だに顔の赤いのは取れていないがな。

「そう言えば、大規模な作戦があるようだな。」
「耳が早いな。もう、聞いたのか。」
「あぁ、ハーリング提督が忙しそうにしていたし、主も手伝いに出た。」
「なるほど。…近日中にストラグル壊滅作戦が実施される予定だ。」
「ブレイズ達も出るのか?」
「当然だ。ISAFの存在意義と、有用性。この作戦が成功すれば、反対派も認めるしかなくなる。」
「ふふ、随分と気合が入っているな。」

シグナムはクスリと笑みを零した。…気合が入ってる、か。当然だろう。成功すれば、ISAFだけでなく、ハーリング派の力も強まる。
だが…反対派で一番厄介なのは、ウィザード隊だな。評議会直属という権限と、ゴッテンシュタイナー家の財力は侮れない。
…フレッシュリフォー社の援助だけでは、この先辛いかもな。幸いな事に、別の企業からの援助が申し込まれている。
今は様子見だが、後でハーリング提督やレジアス中将に相談してみるか。

「管理局の部隊だけが参加するのか?」
「いや、ミッド政府の部隊も参加する。今回はベルカは不参加だ。」
「むぅ…。ベルカの騎士達も参加するかと思ったのだが…。」
「仕方が無いさ。未だにベルカの方でもテロがある。そちらの鎮圧も怠れないからな。」
「ふむ、ベルカの騎士と言えば、ガル・ヴィンランド。彼と戦ったのが、随分と前の気がするな。」
「懐かしいな。今でもあの人は、アストラエア様の護衛騎士をしている。…あの時は、お前と…シグナムとこんな関係になるなんて夢にも思わなかったな。」
「それは私もだ、ブレイズ。…ふふ、運命とは判らぬものだな。」

ひとしきり、2人で笑い合い、食事の時間を終える。リビングに電子音が響くが…風呂が沸いたようだな。
どうやら既にシグナムは風呂の準備もしていてくれたらしい。

「先に入ると良い。私は片づけをする。」
「そうさせてもらう。…シグナム。」
「なんだ?」
「一緒に入るか?」
「ほ…本気か!?い…いや、お前が入りたいと言うならば、私も…。」
「はは、冗談だ冗談。」
「……さ、さっさと風呂に入れ馬鹿者ぉぉぉぉぉ!!!!」

っと、からかい過ぎたか。凄まじい剣幕のシグナムから逃げるようにして、浴室に向かった。



浴室


「…ふう…良いお湯だな。」
「ブレイズ、ゆ、湯加減はどうだ。」
「ん、ちょうどいいぞ。…さっきはからかってすまないな。」
「い…いや、気にするな。…良い湯加減か。…そうか。」

俺ががそう答えると、少しの間をおいて、何故かガサゴソと衣擦れの音が聞こえてきた。
…扉には、シグナムのシルエットが写っているが…。嫌な予感が頭をよぎる。


「まて、シグナム。何故、服を脱いでいる。」
「き、決まってるだろう。風呂に入るためだ!!」

なん…だと。まさか、からかった事で、頭のネジが数本吹き飛んだか!?

「待て…待て待て待て、俺が入ってるだろ!?」
「い、一緒に入ろうと言ったのはお前だろう!!今更、怖気づくな!!」
「冗談と言った筈だぞ!?お、落ち着け!!とりあえず、落ち着け!!」
「ええい!!騎士に二言は無い!!あけるぞ!!」
「ちょ…まて…せ、せめてタオルは巻けぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」










オメガ・ガウェイン自宅マンション。

「あ~…マジで本気でガチに疲れたぜ…。」

銃火器の製造会社から直帰したものの…マジで疲れたぜ。
銃ったって、1つのメーカーだけじゃなく、数種類のメーカーの製品だったから、何箇所も回ってきたんだよな。

「まぁ、書類仕事よりはマシだけどよぉぉ。」

ガサゴソとポケットから、鍵を開けて家のロックをはずす。
…さて、飯はどうすっかなぁ。なんて事を考えながら、家に入ると…奥から軽い足音が聞こえてきた。音からして、4足歩行だな
ん~?野良猫でも入り込んだか?

「!!!!!!」
「げふぁ!?」

の、能天気に靴を脱いでたら…なにかが、胸に飛び込んできたぜ…!?感覚からして、動物か…!?
飛び込んできた謎の不思議生命体Xを抱き上げる。ん、この感じ、なんかどっかで抱き上げた事があるような…。

「きゅ~ん!!」
「うおぉおぉ!!??…え、ち、チビ狐ぇ!?」

鼻を鳴らして、俺の顔面をペロペロトと嘗め回すのは、神社に居たチビ狐。
涎でベトベトになるのも構わずに、甘えてくるチビ狐を頭を撫でて落ち着かせる。

「…久しぶりだな、チビ狐。…つうか、本当にチビのまんまだな。お前は・」
「!!」

尻尾を一生懸命振り振りさせて…可愛いなぁ、チビ狐は。…けど、こいつはなんでこんな所に居るんだ?
頭に?マークを浮かべて、首をかしげていると…奥のリビングから、誰か出てきた。金髪のこれまた可愛い女の人…って、え゛?

「あ…オ、オメガ。おかえりなさい。」
「え…はっ?…いぃ?…アリサ…だったりする?」
「な、なによ。あたし以外の誰に見えるってのよ!?」
「…うぇええぇえぇぇえぇ!!??」


10分後

「落ち着いた?」
「OK。大丈夫だ問題無しだぜ。ちょっと物凄くかなり、混乱してるけどな!!」
「…問題ありまくりじゃないの…。」

ため息を零しながら、俺の向かいに座るアリサ。小学生の頃とは違って…髪が伸びたんだなぁ。
アリサが入れてくれた紅茶を飲みながら、ぼーっと姿を眺める。

「な、なによ。そんなにマジマジと見られると…は、恥かしいじゃない。」
「あ、わりぃ。…けどさ、なんでお前…ここに居んだ?」

手紙でのやり取りはしてたが…っかしいなぁ。何も聞いた無いんだが…。
そんな俺のを見て、何故かアリサは少し照れたような…怒ったような表情を作る。

「だ…だって、あんた。迎えに行くって言ったのに…全然、来ないじゃないの…。」
「え゛…?」
「それで…ああもぉ…我慢出来なくなったのよ!!あんたと一緒に居たかったのよ、悪い!?」
「おおお、落ち着け!!お前も落ち着け!!」



バン!!と力強くテーブルを叩いて詰め寄ってくるアリサを、なんとか押し止めて元に位置に戻す。
…あらまぁ、そんなに肩で息して顔も赤くしちまって…。

「…あたしだって、我慢してたわよ…。けど、会いたくなったんだもん…。仕方が無いじゃない…。」
「アリサ…。いや、俺だって、会いたかったぜ。…ただ、その、突然で少しビックリしてたんだよ。
けど、まさかミッドに来るなんてなぁ…。思いもしなかったぜ。」
「あら、知らなかったの。あたしは一途で、真っ直ぐなのよ?」

まるで花の咲いたような笑顔を浮かべるアリサを見て、俺の心臓はドキン…と高鳴る。やっべぇ…滅茶苦茶可愛いぞ。
膝の上のチビ狐が、楽しそうにパタパタと尻尾を動かしている。

「その子も、オメガに会いたがってたのよ。だから連れてきたの。」
「なるほどなぁ。……んで、今日は泊まってくんだよ…な?」
「その事なんだけど……あたしね、こっちに転校する事にしたから。それで、ここで暮らすわよ。」
「は…はぃいいぃぃい!!???」

再び5分後

「え~と、つまり、アリサの両親が、良い社会見学って賛成したのもあるし、家の親父殿とお袋殿から頼まれたと?」
「えぇ。ミッドに行きたいって言ったら諸手をあげて、賛成してくれたわ。
レイピアさんからは、あんたの世話を見てやってくれって頼まれたわよ。…ま、まぁ、あたしとあんたは婚約者…だし…。」
「ちょいまて、何時の間にそうなってたよ!?」
「…あんたと付き合ってるって言ったら、お父様がチャーリーさんと話して、そうなったわよ。
ちなみに、スカーフェイスさんや士朗さんも賛成してくれたわ。」

ほ…本当に仲が良すぎるぜ、俺達の両親…。まぁ、聞いた話じゃ、スカーフェイスさんと、親父殿はアリサの両親の護衛もした事があるらしい。
…それで意気投合したみたいだが…なんか凄まじいぜ。婚約者って、閃とリリンちゃんだけだと思ってたんだけどなぁ…。

「な、なによ、あんたは嬉しくないの!?」
「い、いや、すげぇ、嬉しいぜ?…けど、アリサは本当に俺なんかで…。」

困ったように頬をかく。…アリサは大企業の一人娘だ。そんな奴が俺みたいなのと、婚約者ってのも…なぁ。
しかし、そんな事を気にせずに、アリサは優しい笑みを浮かべて、俺の手をソッと握る。

「馬鹿ね。あたしは…オメガじゃないと嫌なの。本当は、お父様に話すときだって、緊張したんだから。反対させたらどうしようって…怖かったんだからね。」
「アリサ…。よし、俺に任せろ。絶対に確実にお前の事を幸せにするぜぇぇぇぇ!!」
「ふふ、当然じゃないの。そうしないと…許さないんだからね!」





メビウス・ランスロット宅
寝室

「狭くありませんか?」
「ううん、だいじょ~ぶ。えへへ、ぎゅぅ~♪」

同じベットに入りながら、なのちゃんは私のぎゅっと抱きついてくる。
…いやはや、まさか泊まるとは思いませんでしたよ。
買い物から帰ってきたら、「おかえりなさい、あなた♪」で少し沈みました。…いや、あんな幸せそうに蕩けた満面の笑顔で言われたら…ね。
夕食も一緒に作り、こうして寝る事になったのですが…。

「メビウス君と寝るのって…初めてだなぁ。」
「確かにそうですね。…ふふ、なのちゃんは甘い匂いがしますね。」
「ひゃふ…もぉ、くすぐったいよ~。」

解いた髪を梳きながら、2人でクスクスと笑いあう。
…実家に居た頃はフェイトやレヴィとこうして居ましたが…なのちゃんとは初めだ。
彼女達にこうしていたなんて、口が裂けても言えないですね。

「…ん~、めびうすく~ん。」
「はいはい、どうしました?」
「えへへ、呼んでみただけなの。」

ゴロゴロと胸に擦り寄ってくるなのちゃんは、まるで子猫のよう。
思えば、子供の時もこうして甘えてきていた。
優しく、ガラス細工を扱うように、フワリ…と彼女を抱きしめる。

「本当に幸せですね。まるで、夢のようです。」
「うん…。けど、夢じゃないよ。私は、メビウス君の前に居るからね。」
「えぇ、夢なら、覚めてしまいますからね。…ふふ、寝る所なんですけどね。」
「あはは。そうだね~。…ね、メビウス君。おやすみのキス…してほしいなぁ。」

静かに顔を上げて、なのちゃんは眼を閉じる。まったく…本当に可愛らしいんですから。
ソッ…と唇を重ねて、離す。触れ合うだけの優しいキスですが、これだけで幸せな気持ちになります。

「…キス、気持ちいいねぇ~。頭の中、ふわふわするの。」
「ふふ、そのフワフワに身を委ねて、眠りましょう。」
「うん…おやすみ、メビウス君。…大好きだよ。」
「おやすみなさい、なのちゃん。私も大好きですよ…。」

静かに2人で抱き合いながら、眼を閉じる。
私は…夢の中でも彼女と一緒に居たいと思い、睡魔に身を任せるのだった。






あとがき

目指せ、ナイスミドル、レジアス・ゲイズ。ちょっとハードボイルド気分。
ドミニクの口調が、今一掴めない!!裏の世界で情報屋をしてると言う設定です。
さて、ブレシグ、オメアリと来て、最後はやっぱりメビなのでした。
うん、書きたかっただけなんだ。ブレイズとシグナムは大人っぽいカップルと言うイメージで。
オメガとアリサは熱血馬鹿とツンデレカップルと言う、ある意味で鉄板テンプレ究極カップルです。
メビウスとなのは?ラブラブ最高カップルです。このカップル達のイチャイチャを間近で見たいと思う駄目作者でした。





[21516] ISAF編 7話 日常
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/01/23 23:02
バーナー学園 屋上

「アリサが、こっちに引っ越してきたぁ!?」
「おう。…昨日の話しだけどな。」
「また、いきなりの展開ですね。」


何時もの様に、メビウス、オメガ、ユーノの3人で屋上での昼食時間。
オメガは弁当を食べながら、昨日の事を話すと案の定、2人は驚いた表情をする。
ちなみに、体調が良くなったと言う事で、メビウスも登校してきていた。

「転校って事で、ここに通うらしいんだけどよ。思い切ったことをするよなぁ。」
「まぁ、彼女らしいと言えば彼女らしいでしょう。オメガだって、満更ではないのでは?」
「なんにせよ。よかったじゃないか。これから、購買の熾烈な争奪戦に参加しなくてすむんだから。」

恥かしそうに頭をかいているオメガを見て、2人は頷き笑顔を浮かべる。
こう見えても、筆まめの彼がアリサに手紙を書いてることはメビウスとユーノも知っている事だ。一途な2人らしいと、改めて認識したのだろう。
余談だが、学園と言うのは何処でも購買の競争率は激しい。
最近、購買を支配していたグループに反乱を起こしたグループがあり、熾烈な攻防戦が繰り広げられている。
…最も、そんな2つのグループを文字の如く、吹き飛ばして焼きそばパンやカツサンドをゲットしてるオメガには関係ないが、栄養が偏ってしまう。
なにより、今日の彼のお弁当はアリサの手作りだ。栄養バランスも考えられ、本当に彼の事を想っているのだと分かる。

「しかし、作戦も控えてっからなぁ。当分は一緒に登校も出来そうに無いぜ。」
「バンカーショット作戦…だっけか。君達なら大丈夫だろうけど、怪我はしないでよ?」
「大丈夫ですよ、ユーノ。私達には、お守りがありますから。」
「おう!!これがあれば、負ける気しないぜ!!」

そう言うと、メビウスは、髪に結んであるリボンに振れ、オメガはずっと前にアリサから貰った犬のキーホルダーを取り出す。
2人が心から愛している女性からのお守りであり、幸せにすると誓った証。
笑顔を浮かべるメビウス達を見て、ユーノはそうだったね、と小さく零す。

「エクス達は、リフォー社でメンテナンス中だったっけ?」
「えぇ。本格的な激戦のようですからね。ラプターも、更に調整を加えてもらっています。」
「SFSかぁ。あんなの、器用に扱える自信ないぜ~…。なぁ、メビウス。俺さ、陸戦部隊と一緒じゃ駄目か?」
「一応は、空魔導師として登録してますが、臨機応変に行きましょう。…と言うか、いい加減に、飛ぶのに慣れてください…。」
「君って、本当に飛ぶの苦手だよね…。その分、地上走るのは速いけどさ。」
「だってよぉ~。俺って格闘戦主体だから、地面に足着いてないと踏み込みとかがよぉ~。」

ため息を零すメビウスにユーノは苦笑を零す。本人のオメガは自分の戦闘スタイルについて、色々と話している。
確かにオメガの戦闘スタイルは、格闘戦…と言うか、簡単に言ってしまえば殴り合いだ。
間合いを詰める為の踏み込みや、微調整のすり足などが重要になるのだろう。空中だと、すり足など出来そうもない。

「しかし、ISAF全休暇って…良いの?」
「ブレイズさんのスペシネフやアーサーのライデンも調整中で、イリヤさんは特別休暇です。
一応は、レジアス中将とハーリング提督の指示なんですよ。」
「そうそう、中将なんか、貴様らには死ぬほど働いてもらう。精々、身体を休めるが良い…ってさ。迫力満点で言うんだぜ?」
「ぶ…。オメガ、それって…真似?…だ、駄目。笑える…。」

いかつい顔を作り、レジアスの真似をするオメガを見て、ユーノは噴出しお腹を押さえる。地味に来るものがあったようだ。
メビウスは小さな苦笑いをし、時計を確認すると弁当箱を片付け始めた。
それに気がつき、何故かユーノとオメガは同情したような、微妙な眼を向ける。

「…あ~、呼び出しか?」
「えぇ。いきたくはないのですが…ね。折角の好意ですから、無視は出来ません。」
「君のそう言うところが、更に引き付けるんだよね…。告白する人も、増える一方だし。」

ユーノは今朝、登校してきたメビウスの下駄箱に詰まっていたラブレターの数を思い出す。
まさか、身近にドラマレベルでラブレターを貰う人間が居るとは思わなかった。…まぁ、メビウスだから、納得できるのだが…。
以前からこうして、告白される事はあったが、数は多くなかった。しかし、ISAFでの活躍で、今やメビウスやオメガは時の人だ。
クラスメイト達は少し慣れた様だが、未だにメビウス達が通ると、黄色い声が噂話が絶えない。

「…しかし、何故でしょうか。時々、男子からも告白されるんですが…。」
「それは…うん、ある一定の趣味の人だから、気にしないで良いと思うよ。」


ポツリと零したメビウスの言葉に、何故か冷や汗を垂らすユーノ。
…傍目で見ても、メビウスは可愛い。…どちらかというと、女性に見える。白い肌や長髪でリボンが原因なのだろうが…。
そんな彼で、【向こう側の世界】に目覚めてしまった男子も居るようだ。余談だが、非公式でメビウスファンクラブ(男子のみ)が作られたようだ。
更なる余談だが、会長はフェレットのマスクをつけた男子生徒らしい…。

「逆に、男の子と付き合うのもありなんじゃない?」
「…ユーノ、冗談でもきついですよ。」
「あはは、冗談だよ。ほら、時間でしょ。………後でその男子生徒、消さないとね…。」

ユーノの怖い一言は…ただ風の乗って消えた。



フレッシュリフォー社、デバイス調整室。

『久々の出番…ではなく、落ち着いて話せますね。』
『そうだな、My Sister!!』
『何度言えば分かるのですか!?私の事はSisterと呼ばないで下さい、品性が疑われてしまいます!!』

机に両手を突き、向かいに座る男性--イジェクトを牽制する女性--エクス。
ここは、彼らデバイス達が作り出した仮想空間であり、それぞれが人の形を取っていた。

『…実際、エクスは姉ですよ。』
『同意。初期ナンバーだからな。別にSisterといわれても、問題はなかろう。』

静かにチェスをしているのは女性--スペシネフ・ラーズグリーズと男性--ライデン・エルジア。
そんな2人をキッとエクスはにらむが…元がクールと言うか落ち着いた彼らはどこ吹く風だ。

『まぁまぁ、姫殿も落ち着かれよ。久々の休養、無駄に力を使うでない。』
『む…むぅぅぅ、蛍卿がそう仰るなら…。』

エクスを宥め、座らせる男性はファイアフライだ。名前=蛍なので蛍卿なのだろう。

『いじけたエクスさん…萌え!!しかも、呼び名は姫ですか!?え、姫騎士?男装の麗人!?』
『レーベンさん…少し…頭冷やしましょうか?』

何故か眼を輝かせてエクスに詰め寄るナイトレーベンの襟首を捕まえて、引き離すレイジングハート。
彼女達もメンテ中なのか、この空間に招待されたようだ。
まぁ…レイジングハートはエンジェランの名を冠しているし、ナイトレーベンは閃の開発したデバイス、両者ともVRシリーズに近い存在だ。

『れ…レイちゃん、頭が頭痛で痛いんだけどね。』
『エクス姉様に妙な真似をしようとするからです。』
『…姉様…?…え、姉妹獅子舞てんてこ舞い!?禁断の関係!?それは、侵してはならない領域!?』
『バル・バス・バウ!!!こいつ殴ってください!!』
『さてさて、僕を巻き込まないでいただきたいね。』

エクスの隣に立つレイジングハートを見て、何か妄想したのか、ナイトレーベンが再び暴走を始める。
彼女を止めるために、エクスはファイアと談笑しているバル・バス・バウを呼ぶが…サラリと流されてしまう。

『どいつもこいつもマイペースばかりでやがりますかこらぁ!!』
『え、エクス姉さま。落ち着いてください。』
『あぁ、レイジングハートだけが心のよりどころです…。』

仲間であるデバイス達のマイペースぶりに頭を抱えるエクスを、レイジングハートが励ます。
主であるメビウス、なのはが仲が良い様に、彼女達もとても仲がいいようだ。

『しかし、空席が残っています。』

ラーズグリーズが--トン…と静かな音を立てて、駒を進める。

『我らが同胞…未だに集結せず…か。…目覚めておらんのか…あるいは機能を停止したか。』

ライデンも駒を進め、奥の間--円卓に眼を向ける。そこには、彼等のデバイスでの姿が投影されている。
1の座にはエクスだが、2の座は空席、3の座にイジェクト…と空席がまだ残っていた。

『致し方なかろう。今は居る者たちだけで、我らが王達を支えるのだ。』
『蛍翁の言うとおりだな。Brothersを支えれるのは、デバイスである俺たちだ。』


パン…と音を立てて、イジェクトは手の平に拳を打ちつき、ニヤリと笑みを浮かべる。

『…レイちゃん、こうしてると、私達って部外者ですね。』
『一応、私はエンジェランの名を冠してるので…それにほら、私も円卓に投影されています。』
『なにそれ!?え、私だけのけ者!?……こうなれば、現実世界に戻って、眠っているエクス達にあんなことやこんなことを…』
『ナイトレーベン、いい加減にふざけるのはやめろ…。』

レイジングハートが指差したとおり、彼女も投影されていたが…ナイトレーベンの姿は投影されていない。
それにショックを受けたのか、レーベンは怪しい笑みを浮かべるのを見て、ライデンが額を押さえている。

『失礼な!!私は何時でも真面目に全力全開でふざけてるんです!!』
『…なおさら、性質が悪いな…。』

ラーズグリーズの静かなツッコミが、冴えていた。





管理局、海上訓練施設

「これで、100…っと。」

魔法弾で的を撃ち抜き終わると、イリヤは額に汗を拭う。
特別休暇と言っても、いきなりの休暇では何も予定が立てれなかった。なので、日課のように訓練を行っていたのだ。

「見事だな、シュトリゴン1。」
「スカイアイ、見てたのか。…今は勤務時間じゃないぞ?」
「私も暇だったのでね。少し見させてもらっていた。…飲むと良い。」
「っと、ありがたいな。」

訓練場入り口で見ていたスカイアイ。どうやら、彼も休暇で暇を持て余していたようだ。
降りてきたイリヤにスポーツドリンクを投げ渡すと、彼と並んで台座に座り海を眺める。

「ふう…冷えた一杯は格別だな。」
「酒ではないぞ。…まだ未成年だからな。」
「はは、分かってる。…他の連中たちと、何時かは酒を飲み交わしたいものだ。」
「同感だな。…噂では、メビウス01…っと、今は勤務時間ではなかったな。」
「そういうことだ。俺もシュトリゴン1だが、今は違うぞ。」
「それは失礼。噂では、メビウスは酒を飲むと、性格が変わるらしい。」
「ほほう…。未成年で飲んでるのか?」
「いや、誰かに飲まされたようだ。まぁ、噂だがね。」

2人は小さく笑みを浮かべ、静かに海を眺める。

「…ケストレルに居た時は、甲板からこうして海を眺めていた。」
「君がヴァンピール1の頃か?」
「あぁ。あの時は、自分がシュトリゴン1になるとは思って居なかったよ。」

イリヤは師であるヴォイチェクから、シュトリゴン1を受け継いだときの事を思い出した。




リフォー社、医療施設。

「ヴォイチェク空佐!!」
「あぁ、パステルナーク空尉か。」
「…はぁぁ、ご無事でよかった…。」

病室に駆け込むと、上半身を起こしたヴォイチェクがイリヤを出迎える。
重傷だが、命には別状無いと聞いても、自分の眼で見なければ、安心できなかったようだ。
深く安堵のため息を零し、イリヤは胸をなでおろす。

「…話は聞きました…。ジン副隊長の事も…。」
「そう…か。…彼は勇敢に戦って…逝ったよ。実に…実に惜しい人物を無くした…。」

ヴォイチェクは窓の外を眺め、友であり副隊長であるジンを亡くした事を心から悔やんでいた。
イリヤも俯き、爪が食い込むほど拳を握り締めていた。管理局の杜撰な指示系統や、偽の情報を流した者に怒りが湧き上がる。
目の前のヴォイチェクも…二度と空を飛べない身体になってしまった。
恐らく、シュトリゴン隊は解散し、部隊員達も他の部隊に引き抜かれてしまうだろう。
偉大なるトップエース2人と精鋭部隊を無くなってしまうのだ
もっと連携が取れれば…もっと協力体制を築ければ…もっと人員が多ければ防げたのではないか…。悔やんでも悔やみきれない。

「…パステルナーク空尉。こちらに来て、手を出しなさい」
「は…なにか。」

ヴォイチェクは俯いていたイリヤにベットの近くに来るように言うと、自分の手を上げる。
そして…イリヤの差し出していた手の平にに…パン…と軽く己の手をぶつける。

「パステルナーク空尉、バトンタッチだ。」
「…バトンタッチ…ですか?」
「イリヤ・パステルナーク空尉。これより、貴官をシュトリゴン1に命ずる。…君に次代を託そう。」
「…隊長…。はい、確かに…確かに、受け取りました。最精鋭、シュトリゴン隊の名に恥じぬ活躍をお約束します。」

強く…強く、イリヤはヴォイチェクの手を握り…瞳に強き光を宿す。
それを見て、ヴォイチェクも…自分の役目が終わりを告げた事に少しの寂しさと…彼等の明るき未来を願った。






ミッドチルダ 某所

無機質で静寂に包まれた通路。
その静寂をぶち壊すようにして響くのは、合図。

「飯だぞぉぉぉ。」

オタマでフライパンをガンガンと叩き、食事の時間を知らせるのは、何故かエプロン姿のナイツ。
ちなみに、I LOVE トーレと書いてあるエプロンを付けているが、自作であり、家族全員分のを作っている。
ガンガンと何度も叩くうちに、静寂に包まれていた通路の奥から、我先にと走ってくる人物達が見えてきた。

「ナイツ兄!!今日のごはんなに!」
「八宝菜。」
「うへぇ、ピーマン苦手ッス。」
「同じく。残そうかな…。」
「好き嫌いしないで、残さず食べた奴には、デコチューしてやろう。」
「「「全部食べるぞー!!」」」

野菜嫌いなメンバーも居たが、ナイツのデコチュー発言でテンションが上がったようだ。自分の席に着き、今か今かと食事の時間を楽しみに始めた。
彼がジェイルやナンバーズと、一緒に生活を始めて数年。あとから作られたメンバーは、ナイツの妹として扱われている。
実際、彼女達もナイツを兄の様に慕っているし…なにより、ナンバーズ達はナイツが大好きだった。
適当な性格だが、自分達を気遣ってくれ、勉学、訓練だけでなく料理など様々な事を教えてくれた。
何時からか彼女達の目的が、ナイツのお嫁さんになる事になって居たのは秘密。

「…おい、トーレ、2人ほど足りない気がするんだが。」
「…分かって聞いてるだろ…。まだ、研究が終わらないらしい。」

隣に座るトーレと話しナイツは、大きなため息を零す。
自分達の向かいに座るはずの人物達が、未だに食堂に姿を表さないのだ。

「あんにゃろう…約束やぶりやがるかこんちくしょう。」
「研究で忙しいと言ってたな。…先に食べてて」
「駄目だ。飯は家族全員でと決まってる。…あの馬鹿どもに思い知らせてやるか…。」

ゆらり…と手に愛用の包丁「妖刀・村雨」を持つと、ナイツは食堂から出て行く。
その後姿を眺め、トーレは小さくため息を零し親である男性と、姉妹の1人の女性の冥福を祈った。
余談であるが、ナイツの隣に誰が座るのか…と言う事で争った事がある。その争奪戦を制したのはトーレである事からして、彼女も…他の姉妹達と同じだろう。
恋する乙女は強いのである。


ジェイルの研究室

「あの、ドクター、クアットロ。そろそろ御時間ですが…」
「あと少し。あと少しで解析が終わるんだ…!!」
「10分で終わらせるわ!!」

物凄い勢いでキーボードを叩くジェイルとクアットロ。研究に没頭しており、後ろで時計を見ながら、オロオロしているウーノの言葉に耳を貸さない。
先ほどから食事の時間を10分も過ぎている。…ここまま行くと、物凄くまずい事になるのだ。
軽いエア音が響き…ゆらりゆらりとナイツが入ってくるのに、ジェイル達は気が付かない。
唯一、気がついたウーノはアタフタと手をパタパタさせ、2人を隠そうとするが、無駄な行為だろう。

「あ~、そのナイツ。もう少しだけ、待ってあげてくれませんか?あと、10分ほどだそうですから…。」
「ほほう、この馬鹿どもは、俺様の料理を10分も放置すると申しやがりますか。合計20分だぞ?」
「…その、あまり手荒な事は…。」
「ウーノ、後でジェイルと一緒に風呂に入れてやる。」
「それでは、後はよろしくお願いしますね。」

先ほどとは打って変わって、ルンルンとした足取りで研究室を後にするウーノ。
彼女は彼女でジェイルに愛情を抱いているのは、誰が見ても明らかだ。やはり、彼等の生活が一変したからだろう。
無機質だった彼等の日常を一変させ、音を与え、色を添えたのは…他でもない、ナイツだ。

「…おいこら、研究馬鹿コンビ。…いい加減にしない、斬るぞ。」
「ちょ、待ちなさい!!後少しで解析終わるのよ!!」
「ナ、ナイツ君、少しだ、ほんの少しだから!!」

ゴキゴキと指を鳴らすナイツに気がつき、ジェイルとクアットロが更にキーボードを叩く速度を上げるが…
それで、納得する騎士皇様ではない。無慈悲に…冷酷に包丁「妖刀・村雨」を振り上げると…

「聞こえんなぁ…とりゃ。」

と…勢いよく、振り下ろし…コンピューターを両断する。…電源ではなく、本体を両断する。
もう一度言うが、本体を真っ二つに叩ききったのだ。…包丁で。
流石に、それにはジェイル達も顔を蒼くして固まってしまった。

「ききききき…きるってそっちなのかい!?物理的に斬る方なのかいナイツ君!?」
「あああ、あんたはぁぁ、人が折角解析してるのにぃぃ!!!」
「どうせ暗記してんだろ。…それともなにか、てめぇらは、俺様の料理より訳の分からん文字数列がお好きと?」
「「ひ…ひぃぃぃ…!!」」

スパークするコンピューターの火花で照らされたナイツの額には…特大の青筋が浮かんでいた。
どうやら、かなりご立腹のようだ。若干、抱き合って怯える2人にゆらり…ゆらりと歩み寄り…。

「まずは…ジェイルだな。」
「…おおお、落ち着きたまえ、話せば分かる!!」
「そうだな。肉体言語ではなそう…かぁ!!」

無造作にジェイルの後頭部を掴むと…ナイツは勢いよく、彼の額に頭突きをブチかます。
通称スーパーもやしっ子のジェイルは、その一撃で昇天。幾つかの脳細胞も一緒に昇天しただろう。
気絶したジェイルを適当に投げ捨てると…隅っこでぶるぶる震えているクアットロに眼を向ける。

「さて…覚悟は出来てるな。」
「ちょ…なななにをする気よ!?」
「勿論、ナニをする気だ。ふふふ、なぁに、直ぐに鳴かしてやろう。」
「なんだが、文字が色々と違う気がするんだけど!?」

逃げようにも、後ろと両脇は壁…目の前には、手をワキワキさせて迫ってくるナイツ。…逃げ場はない。

「さて…良い声でなけぇぇぇ!」
「ま、待ちなさい!!心の準備が…あ、あとお風呂にはいって…ひゃぁあああ!!」

施設内部にクアットロの悲鳴と言うか…色々と響き渡った。先ほども述べたが、ナンバーズはナイツが大好きである。
…彼女も例外ではない…と言うことだろう。



あとがき

さて、次回辺りから、バンカーショット作戦の出撃準備とか色々と書いていきたいですね。
ISAF編の重要な部分ですし、頑張って書かないと…。作者の実力なんて高が知れてますが…。泣






[21516] 作者の暴走、メビウス君がメビウスちゃんだったら、その1
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/01/19 22:25
本編とは一切関係のない黒歴史となっております。
騙して悪いが…ぼつねたなんでな。ガッカリしてもらおう。



深夜 海鳴市、公園

「はぁ…はぁ、まだ1個…か。」

深夜の公園で、1人の少年が力なく倒れこむ。
彼はユーノ・スクライア。ある遺跡で発見したロストロギアを管理局に輸送中に、何者かに襲撃を受けたのだ。
その際にロストロギアは四散。自力で回収を試みたが、ロストロギア--ジュエルシードの能力で、異形の力を手に入れた犬と交戦し、酷く消耗してしまった。
1個は回収したものの、体力、魔力共に限界寸前だ。

「はは…僕ってどうして…こうなんだろう。」

少し自嘲気味な笑いを零し、ユーノは回復するためにフェレットの姿に変身し…意識を手放した。



ランスロット宅 ???の部屋

暖かな感触と、優しく誰かが僕の身体を撫でている。
それが、深いまどろみに落ちていた意識を引き上げ、眼を覚まさせた。

「あ、フェレットさん、起きた?」

一番最初に、眼に飛び込んできたのは、鮮やかな蒼。
綺麗な蒼髪をストレートに伸ばし、とても優しげな雰囲気を持つ女の子が、優しく身体を撫でていてくれた。
周囲を見渡すと、女の子の部屋らしく可愛らしい縫い包みが沢山飾れている。
どうやら、僕はこの女の子に助けられた…と言うか、拾われたらしい。タオルの敷かれたバスケットに僕は入っていた。

「うん、怪我とかはしてなくて良かった。…けど、どうしてあんなところに居たの?…なんて、聞いても分からないよね。」

僕は、クスリと笑みを零す少女に、ドキ…と胸の高鳴りを感じた。
…凄く、凄く可愛い。声も鈴を転がすみたいに…綺麗だ。

「ねぇ、フェレットさん。お腹はすいてない?」

そう言えば、昨日から何も食べてない。…空腹って、意識すると余計に感じるよね。
少しぎこちなく、お腹が減ってると鳴けば、少女はまたクスリ…と笑って、待っててねと言うと、部屋を出て行った。
…どうしよう、はやくジュエルシードを集めないといけないのに、身体が思うように動かない。
やっぱり、体力を消耗しすぎたんだ…。…さっきの女の子、魔力の反応があったけど…魔導師なのかな。
そんな事を考えていると、女の子がパンとミルクを持って戻ってきた。

「はい、食べさせてあげるからね。」

いや、自分で食べれる…と言う訳にもいかない…みたい。今の僕はただのフェレットなんだから…ね。
女の子が僕を抱きかかえると、一口サイズにちぎったパンを食べさせてくれる。…女の子って、柔らかいんだ…。
パンを食べ終わる頃には、僕は彼女の膝の上で、すっかり寛いでいた。

「ふふ、フェレットさん。凄くお腹減ってたんだね。」

背中を撫でてくれる女の子の手は…凄く優しい。安心できて、また眠く…なってきちゃった。

「フェレットさんのお名前はなんて言うのかな?…あ、寝ちゃったんだね。…ふふ、おやすみなさい、フェレットさん。」





ランスロット家 ???の自室

僕が女の子に助けられてから数日が経過して、色々と分かった事がある。
まず、彼女のフルネームはメビウス・ランスロットと言うようだ。年齢は10歳で、僕より1つ年上。
だけど、病気で1年間、入院してたらしくて、学校では3年生。これは、彼女--メビウスが話してくれた。
毎日、楽しそうにその日の出来事を話してくれる。近所に幼馴染で、彼女を姉の様に慕っている女の子が居る事も教えてくれた。

「ん~、フェレットさん、気持ち良い?」

そう言いながら、メビウスは僕の背中を洗ってくれる。僕は今、彼女とお風呂入れてもらっていた。
…お風呂と言っても、洗面器にお湯を張ってもらって、僕が浸かってるだけ。勿論、彼女は服を着てるし、ここは自室。

「ふふ、凄く気持ちよさそう。お湯、熱くない?」

大丈夫と言う様に、尻尾を振ると、彼女はそっかと言いながら、クスリ…と笑みを零す。
メビウスは、何時でも優しげな微笑を浮かべている。誰もが安心できる…そんな微笑みだ。
そんな彼女の笑顔は…僕は凄く好きだ。…うん、最初見たときから好きだった。そう、僕は彼女に一目惚れしていた。
石鹸の泡を流し、僕をタオルで拭くと、メビウスは自分のベットに連れて行ってくれる。…あれ、僕の寝床は窓辺の籠じゃ…。

「今日は一緒に寝ようね、フェレットさん。」

…え、良いの?いや、僕的には大歓迎だけど…良いの?
枕の近くにタオルを敷くと、そこに僕を寝せて、メビウスもベットに入る。…す、凄く顔が近いんだけど…。
顔を見つめる僕に気がついて、またクスリと笑みを浮かべて、僕の頭を優しく撫でてくれていると、可愛らしく欠伸を1つ。

「ふぁ~…。おやすみ、フェレットさん。良い夢、見ようね~。」

少し間延びした声を出して、メビウスは静かに眼を閉じた。よっぽど眠かったのかな、直ぐに寝息が聞こえてきた。
天窓から差し込む月の光が、優しく彼女の顔を照らし出す。とても幻想的で…魅力的だ。
…メビウスの側にずっと居たいけど…僕にはやらないといけない事がある。その内、お別れしないといけないんだよ…ね。
けど、今は…今だけは、大好きな彼女と…一緒に居させて欲しい。





「おはよう、メビウスお姉ちゃん!!」
「ふふ、おはようなのは。…今日も元気だね。」
「えへへ、私は何時でも元気なの!!」

顔を赤くしてメビウスの腕に抱きつくのは、幼馴染の高町なのは。そのまま、幸せそうに頬すりをする彼女を、メビウスも笑顔で見ていた。
2人は、何時も一緒に学校に登校しており、病気の静養で1年遅れで学校に通う彼女に、なのはは姉の様にとても懐いている。

「今日も~お姉ちゃんと登校~♪」
「毎日、一緒に登校してるでしょ?」
「そうだけど、私は何時でも、お姉ちゃんと一緒に居たいの!」

頬を染めて、熱っぽい視線を送ってくるなのはに、少し困ったように笑みを浮かべる。
この子は、何事にも真面目で一直線だが…どうやら、自分の事に成ると暴走するようだ…とメビウスは改めて思ったようだ。

「そう言えば、最近、変な夢見るの。」
「ヘンな夢…って、どんなの?」
「うんとね、私やお姉ちゃんが…なんて言うのかな、お化けみたいなのと戦ってるの。…けど、お姉ちゃん、男の子みたいな格好してたなぁ。
あ、でもでも、凄くかっこよかったし、凄く可愛かったよ?」

男の子みたいな…と言う所で、少し首をかしげたメビウスだが、アタフタとフォローをするなのはを見て、またクスリ…と笑う。
そして…やはりと言うか、なんというか、それにまたしても見とれるなのは。そんなこんなで…2人はとても穏やかな日々を過ごしていた。
過ごせていたはずなのだ…。学校が終わり、2人で近所の公園に行くまでは…。


手を繋ぎ、公園のベンチで話をしていたメビウスとなのは。しかし…突然、周囲が無音となり…妙な雰囲気が漂い始めた。
それに気がつき、怯えるなのはをメビウスは抱きしめて、周囲に眼を配る。

「え…お姉ちゃん、なにが起こったの…?」
「分からないけど、大丈夫だよ。…なのはは、お姉ちゃんが護ってあげるから。」

抱きしめて、頭を優しく撫でてあげる。メビウスは、こうなる現象を知っていた。…空間を隔離する…すなわち、結界魔法だ。
耳を済ませていると…何かがざわめく音が聞こえると目の前に、黒い靄が現れ2人を包み込もうとし始めた。
咄嗟にメビウスは、なのはの手を引くと、その場を離れる。先ほどまで、2人が座っていたベンチを靄が包むと…ベンチが解けるように消えてしまった。

「ゆ…夢でみた…お化けだ…。」
「…魔法反応がある…?…何かの理由で思念が形を持ったのかしら…。」

震えるなのはを背中に庇いながら、メビウスは小声で呟く。それに、眼を凝らすと靄の中心に光を放つ石が見えた。

「あれが原因ね…。なんとかしないと…!?」
「お、お姉ちゃん!?」
「ゆ…油断した…そんなに、早く動ける…なんて…。」

ノロノロと漂っていたはずの靄が、突然すばやく動き、メビウスを絡め取ってしまう。
咄嗟になのはを押し離したまでは良かったが…身体が動かせず、口を靄でふさがれ呼吸が出来なくなってきた。

「なの…は。逃げて…。」
「や…やだよ!!お姉ちゃんを置いて逃げれないよ!」

せめてなのはだけでも逃がしてあげたいが…身動きがとれず、彼女の切り札を使える状況ではない。
徐々に締め付けが強くなり、意識が途切れそうな時…彼女を締め付けていた靄の触手を魔力弾が撃ち払った。

「げほ…げほっ!!だ…誰か居る…の?」
「お姉ちゃん!!」

解放されて、地面に座り込み咳き込むメビウスに駆け寄り、なのはは彼女を支える。
靄が蠢きながら、再び2人を捕まえ様とするが、メビウス達を庇うように障壁が展開され、1人の少年が立ちふさがった。

「…大丈夫、メビウス?」
「げほ…あ、貴方は…誰?」
「僕はユーノ、ユーノ・スクライア。…君に助けてもらった、フェレットだよ。」
「あのフェレット…さん!?…そっか、魔導師だったんだね。」
「騙すつもりはなかったんだけど…ね。…君も魔導師なんだ。」
「ふふ、そうだよ。…痛っ…。」
「お姉ちゃん、どこか痛いの!?…あ、ここ痣になってる…。」

痛がるメビウスを心配しなのはが袖をまくると、締め付けられた時に出来た痣が見えた。。
レイジングハートを構え、ユーノはキッ…と靄をにらみつける。メビウスを傷つけられたのが、余程頭にきたのだろう。

「この位、大丈夫。…フェレットさん…じゃなくて、ユーノ君。私も戦うよ。」
「え…いや、無理はしちゃ駄目だよ。その子と、後ろで…。」
「駄目。…フェレットに変身してたって事は、怪我をしたからでしょ?けが人を1人で戦わせれないよ。」
「お…お姉ちゃんだって、怪我してるよ…。ここは、えっと…ユーノ君に任せようよ!」
「大丈夫、お姉ちゃんは強いんだから。それに、言ったでしょ?なのはは、私が護るって。」

ニコリと笑い、なのはの頭を撫でるとメビウスはユーノの隣に並び立つ。黒い靄は障壁を囲むように広がり、形を大きく変えていた。
メビウスは首に下げていたペンダントを握り締めると…彼女の身体を光が包み込む。
それが収まると…蒼いバリアジャケットを装備したメビウスが立っていた。
胸元と腰に大きなリボンを着けた少し可愛らしいバリアジャケット。…変身の時に少しなのはとユーノは見惚れてしまったようだ。
少し惚けた表情をするが…メビウスが首をかしげるのを見て、2人は正気に戻る。
彼女の手には、例に漏れず、エクスが握られていた。女の子らしくないデバイスに戸惑うユーノだが…気にしてる暇はない。

「エクス、ブリッツセイバーで行くよ!」
『はい、マスター。…そこの魔導師、マスターに見惚れないように。』
「わ…分かってるよ!!」

スカートを翻し、セイバーを展開するメビウスに見惚れたユーノが、エクスの冷ややかな声を浴びて、眼を離す。
…ちなみに、後ろでは戸惑い気味の筈のなのはがメビウスに滅茶苦茶、熱い視線を送っている。

「お姉ちゃん…可愛い…。お持ち帰りしたいよ~…!!」

誰にも聞こえないように…小声で呟き、こんな状況で悶えている彼女は…大物かもしれない。





メビウス・ランスロット(女の子の場合)
一人称、私、お姉ちゃん。
病気の静養で1年遅れで学校に通ってる為、なのは達より年上だが同学年。
バリアジャケットは胸元と腰の大きなリボンが特徴。


書いてて思った事。男の子の時と大して変わらなかった。


感想返信は、本編投稿後にさせて頂きます。
本日1月19日より、エースコンバット アサルト・ホライゾンをプレイ開始しました。
さて、楽しめると…良いなぁ。



[21516] ISAF編 8話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/01/23 23:15
地上本部 最上階
レジアス・ゲイズ中将司令官室

「バンカーショット作戦の詳細について、説明しておこう。」
「はっ。」

レジアスに敬礼を返すと、メビウスはオーリスの操作するモニターに眼を映す。
そこには、ストラグル本拠地のセレス海孤島のマップが表示され、何個かの凸と矢印が書かれていた。
恐らく、凸は陸戦部隊、矢印は空戦部隊を表しているのだろう。

「陸戦部隊は海上より揚陸艇にて上陸、分散し進攻する。目的地は全て同じ。島中央の要塞だ。」
「私達、陸戦部隊の援護ですか。」
「無論だ。要塞までの道のりには、多数の火器が配備されてると予測している。…それに、トーチカの設置も確認された。
貴様らは、これらを速やかに排除し、陸戦部隊の被害を最小限に抑えろ。」
「了解しました。参加する部隊についての情報は?」
「オーリス、出してやれ。」

指示を出されたオーリスは静かに頷くと、モニター操作し部隊情報を映し出す。
軽く見る限り、かなりの数の部隊が参加するようだ。中には、メビウスの知っている部隊も存在していた。

「ワーロック陸戦隊、クォックス陸戦隊等はISAFと国際空港テロ事件で協力しましたね。」
「はい、覚えています。…旗艦、マリーゴールド…ですか?」

一応は知り合いのワーロック陸戦隊等が参加する事に、表情を和らげたメビウス。
しかし、モニターを良く見ると航行艦が1隻、参加する事に気がついた。しかも、型式番号を見ると建造ばかりの船だ。

「最新鋭航行艦、マリーゴールド。魔力砲の他に、レールガン、大口径砲塔が搭載されています。」
「れ…レールガンって…良いんですか?評議会から、質量兵器だと叩かれるのでは…?」
「ふん。貴様が心配する事ではない。魔法を使用しない兵器…か。その代わりの魔法がクリーンで安全?…笑わせてくれる。では、V1はなんなのだろうな?」

質量兵器が完全に無くなった訳ではないが、廃止の声が多くある。理由は、スイッチ1つで都市や環境を破壊可能であるから。
その代わり、純正魔法は比較的安全でクリーンと言われ、こちらを使用すべきだと言う意見が多数ある。
…だが、その声の持ち主達に聞きたい。…魔核弾頭はどうなるのだ?魔力吸収体や魔導師のコアを使った、魔力の核弾頭。
クリーンでありながら、都市を蒸発させたそれを、それの元の魔力が安全と言い切れるだろうか?

「…武器は持つ者の心によって、善にも悪なる。用は、人が如何にして扱うかの違いでしょう。」
「そうだ。志無き力は悲劇しか生まん。貴様も心しておけ。…なんにせよ、今回の作戦で流れは変わる。」
「そして作戦が成功すれば、私達の価値もあがるという事ですね。」
「その通りだ。本部の連中は、貴様らを捨て駒としてしか見ていない。…ふん、その評価を覆して見せろ。」
「了解です。…中将も…そう思っているのですか?」
「そうではないと言う事を証明すれば、認めてやろう。…話は終わりだ、オーリス、ISAFの連中にデータを渡してやれ。」
「はい。ランスロット空佐、こちらに。」
「はっ、失礼しました。」

背中を向けるレジアスに敬礼をすると、メビウスはオーリスの後を追い部屋から出て行った。
1人残されたレジアスは、幾度も見直したモニターのデータを見ると、深いため息を零す。

「…何人の戦士達が…平和の礎となるのか…。出来れば、無事に帰ってきて欲しいものだな…。」




「こちらが詳細データとなります。…そして、こちらが作戦内容のデータです。」
「ありがとうございます。…態々、すいません。転送してもらえれば、良かったのですが…。」
「気にしないで下さい、仕事ですから。」

申し訳なさそうに頬をかくメビウスに、オーリスはメモリーチップを手渡す。
それを受け取り、間借りしているISAFの本部に戻ろうとしたメビウスだが、何かに気が付き振り返る。

「オーリスさん、聞きたいことがあるのですが。」
「なにか?」
「次元航行艦、マリーゴールドはどこに配属されるのか、決まっているのですか?」
「…いえ、配属は未定のはずです。…ですが、もし何処かの部隊が活躍すれば…。」
「そこに配属されるかも…と言う事ですか。…なるほど、ありがとうございます。」
「ランスロット空佐、ISAFの活躍、期待していますよ。」

生真面目な表情を和らげ、少しだけオーリスは笑顔を浮かべて応援の言葉を口にした。
それを聞き、少し悪戯っぽくクスリと笑みを零して、メビウスは頭を下げる。どうやら、自分達は色々な人達から期待されているようだ。


地上本部 廊下


「これはこれは、ランスロットじゃないか。」
「……私に何か?」

ISAFの本部に戻ろうしたメビウスだが、目の前から最高に嫌な奴が歩いてきた。
魔術師のエンブレムを着け、嫌味な笑みを浮かべる青年、シルヴァリアス・ゴッテンシュタイナー。

「そんなに刺々しくしなくても良いだろ?…僕は君より偉いんだからさぁ?」
「失礼ながら、私は貴方の部下ではありませんので。…失礼させていただきます。」
「待てよ、話ぐらいしていっても良いんじゃないのか?」

何時も以上に丁寧口調で、メビウスは冷たくあしらう。だが、こう言う人物にどう言っても無駄なものだ。
邪険にされた事に気が付いてないのか、哂いを浮かべてシルヴァリアスはメビウスの進路を邪魔する。
温厚なメビウスが、一瞬、本気で殴り飛ばそうかと思ったが…性格は大人だ。ぐっと堪え、適当に付き合い事した。

「君の部隊…アイサフだったかな?…また、珍しいものを作ったもんだな。」
「…Independent Speed Assault Forceです。発音には、気をつけて頂きたい。」
「ふぅん。まぁ、独立だかなんだか知らないけど、子供の考えた部隊だな。理想ばかりみてないで、現実を見たらどうだい?」

大げさに肩を竦めて、ため息を零すシルヴァリアスとは対照的にメビウスは、冷ややかな表情と態度を崩さない。
第一、理想などと多くの人に言われてきた事だ。別に今更、こいつに言われてもなんとも思わない。

「僕のような地位も権限も無い君が、なにをしようというんだ?アイサフの本部だって、たかが間借りした部屋だろう?」
「貴方には関係の無い事です。…第一、地位や権限など、私は望んでいません。」
「ははは!!!笑わせるなよ、ランスロット。…部隊を作ったのは、権限が欲しいからだろう?人を従えたいからだろう?
まぁ、そんなのは選ばれた者である僕には、必要ないけど…何故か持ってこられたんだよなぁ。」

シルヴァリアスは笑みを浮かべ、空中に映像を映し出す。そこには、停泊しているであろう大型の次元航行艦が映し出されている。

「僕達の旗艦、パラケルススだよ。良い船だろう?家の出資だから、僕達の為に、建造されたばかりでね。」
「無駄な金を使ったものですね。」
「ははは、そう悔しがらなくても良いよ。まぁ、君達には無縁な話かな?ははは。それに、何れはなのはも…僕の部隊に配属される。
彼女の成績は優秀だ。僕のパートナーには相応しいじゃないか。ふふ、秘書官にしようかと検討してる所なんだよ。」
「…妄想もここまで来ると、救いようがありませんね。」
「なんだって…?」

メビウスは何時もの優しげな表情からは想像もつかない位、眼を鋭くする。空の様な蒼い瞳には、怒りの色が宿っていた。

「貴方が何を企んでいるのかは知りません。…ですが、貴方如きの企み程度、私が叩き潰してあげましょう。」
「き…さま…!!僕は評議会直属だぞ、貴様如きとは階級も違うんだぞ!?なんだ、その口の聞き方は!!」
「敬意を払うまでも無いと言うことです。…そして、話す言葉も持たない。」
「く…ふん!!貴様みたいなのを井の中の蛙って言うんだよ。身の程を弁えろ!!」
「確かに私は、井の中の蛙かもしれません。…ですが、そんな貴方も同じ事です。…しかし、私は同じ蛙でも違うつもりです」

冷たく言い残すと、メビウスは彼の隣を静かに通り過ぎる。忌々しそうに、舌打ちをするシルヴァリアスだが…メビウスの髪に結んであるリボンに気が付いた。

(どこかで見たことがあるリボン…。あれは、なのはの写真を集めていたときに…。)

「おいまて!!…そのリボン、僕のなのはのだろうが!!なんで貴様がつけている!?」
「…彼女は貴方のものではないですし、関係の無い事でしょう。」
「ふざけるな!!なのはは僕のものだぞ!?お前が近づいて良いわけ…がぁ!?」

何か喚き散らしているシルヴァリアスの襟首を掴み、メビウスは壁に押し付ける。
そして、静かに…怒りの篭った声で小さく話し始めた。

「良いですか…貴方が私に何をしようが、どうでもいい事です。ですが、なのちゃん達に危害…いや、近づいてみなさい。
…生まれて来た事を後悔させて差し上げます。何より…彼女達には夢がある。…その夢の実現の邪魔はさせません。」
「ぐ…ぁぁぁ。」

メビウスは。細身で華奢な身体からは想像もつかない力でシルヴァリアスの首元を締め上げる。
何時もの丁寧口調でありながら、それが逆に怖さを倍増していた。
数秒ほどそうしていると、シルヴァリアスを解放し、メビウスは咳き込む彼を無視して立ち去った。

「…ランスロット、何れ貴様は僕が潰す!!それでなのはも分かるだろう!!本当に愛すべき者は僕だって事がなぁ!!」






ISAF本部室
・メビウス・

「戻りました…って、何をしてるんですか?」
「お帰り、メビウス。…いや、さっき来て欲しくない奴が来たもんでな。…ほら、チョッパー、落ち着け。」
「イリヤ、離せぇぇぇ!!あんにゃろう、殴りに行かせろぉぉぉ!!そうじゃなきゃ、俺のロック魂が廃れるらぁぁぁ!!」
「どうしてそこでロックが出て来るんだ!」

室内に入ると、何故かイリヤさんがチョッパーさんを羽交い絞めにしていた。
…彼の言葉を聞く限り、シルヴァリアスが来たのでしょう。そう言えば、先ほどもなにやら言って気がします。
…まぁ、直ぐに記憶から削除しましたが。

「嫌味を色々と言ってったんだよ。…まったく、評議会直属とは、そこまで偉いものかね。」
「けっ!!権限がどうたら、階級がどうたらって、威張ってたぜ!!ああ、思い出してもムカつくぜい!!」

イリヤさんの羽交い絞めから解放されても、チョッパーさんは鼻息を荒くしていた。
どうやら、本当に頭に来たのでしょうね。いつもは上手くあしらってくれるブレイズさんが居ないから余計にでしょう。
そんな彼をやれやれと言った様子で、イリヤさんはコーヒーを私に手渡してくれた。

「君もどうやら、会ったようだな。…少し眼が釣りあがってるぞ。」
「あ、分かりますか…?」
「勿論だ。穏やかな雰囲気が少し殺気立ってるし、笑みが固い。はは、君は分かりやすいな」

にこやかな笑みを零して、イリヤさんは私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
…彼と身長を比べると、私は小さい。…いや、イリヤさんやチョッパーさんが大きいだけか。

「アーサーは?」
「オメガの奴と一緒に塩を買いに行った。お前んとこの風習らしいな。なんか、嫌な奴が帰ったら塩を撒くって。」
「ええ…まぁ。…出来れば、10k位は撒きたいですね。」
「よしてくれ。掃除が大変だ。」

チョッパーさんの言うとおり、確かに塩を撒く風習はありますが、まさか買いに行くとはね。
若干、げんなりしながら今の心境を零すと、イリヤさんは肩を竦めて掃除の心配をしていた。少しの間、3人でコーヒーを飲みながら小さく笑う。
ふふ、冗談なんですけどね。…この2人と居ると沈んだ気分がよくなってくる。天性のムードメーカーなんでしょうね。

「所でメビウス。レジアス中将とはどんな話をしてきたんだい?」
「オイラの予想が正しければ、今度の作戦のことだろ?」
「その通りです。みんなが帰ってきたら、バンカーショット作戦について説明をします。」

飄々としていても、2人は直ぐに真面目な表情を作れる。イリヤさんもそうですが、チョッパーさんもこう見えて模範的な魔導師なんですよね。
…さて、ISAFの一大作戦です。…何れシルヴァリアスには分からせてあげましょう。
例え私は井の中の蛙であっても構わない。彼は気がついてないだろうが、私は井戸の中に居たからこそ、気がつくべき事に気がついている。
井の中の蛙、大海を知らず。されど、空の高さを知る。






フレッシュリフォー社、本社ビル最上階 代表室
・閃・

「…落ち着かねんだけど。」
「兄上様、先ほどから何度同じ事を言ってるのですか…?」

そう言いながら、シュテルは秘書席でため息を零す。
いや、普通に考えたら可笑しいだろう。なんで俺がスーツを着て、代表…ってか、社長室。しかも社長席で仕事をしてる訳?

「可笑しいだろ。俺は穏やかな人生を送りたかったんだけど…。」
「まず、メビウスさん達と出会った時点で、穏やかな人生は無理です。」
『ばーかばーか!!調子に乗って海鳴に行きたい言うからだよ!!…ちょ、割れる砕けるいっちゃぅうぅぅらめぇぇぇぇ!!!』

首から下げていたレーベンを軽く握りつぶして、俺はため息を零す。
…確かに、転生して、原作に関わりたくない行ってた癖に、海鳴に行きたいって言ったからなぁ。
どこかでは介入したいって思いがあったのか。はたまた、何処かの女神様な声の因果律制御機構が導いたか。
フレッシュリフォー社があるから、タングラムも…って。

「んな訳ないか。…ってと、これが開発部の予算で…。こっちが医学部の新商品で…。」
「なんだかんだ口で言っても、仕事をこなしていく兄上様は、素敵です。」

自分の頬に手を添えて、シュテルは俺の事を見つめる。…転生して、リア充の気分が味わえるなんてな。
…こうして思うと、俺って結構、重要なファクターになってんのかもな。そうは言っても、開発とか後方援護な役割だけどな。

「ラプターの調整は主任がやってんだよな?」
「はい。先ほど怪しい笑顔を浮かべながら、格納庫に消えたそうです。」
「…何をやらかす気だ何を。」
「曰く、やっぱりミサイルも良いけど、ドリルも浪漫だよね。だそうです。」
「よし、今すぐクビにするぞ。危険分子は排除だ!!」
「その代わり、開発における兄上様の負担は激増しますね。」

シュテルの冷静なツッコミが冴え渡ってるな。…まぁ、アホな奴だけど、下手な改造はしないだろう。…多分。

「…ん、兄上様。リリンの所には行かれないのですか?」
「そんな時間か?…仕事が終わらないからなぁ。」
「どちらにせよ、この量ですから終わらないと思います。…私も明日のレポートを仕上げたいので、終わりにしたいのですが。」
「…そうするか。…シュテル、何時もすまないな。」
「あ…ふふ、兄上様、嬉しいです♪」

片付け始めたシュテルの頭を軽く撫でて、褒めてやればご機嫌な笑顔を浮かべる。アレ、俺ってニコポ持ちになってきた?
決裁済みの箱に書類を仕舞いこむと、俺は自分のモニターの電源を落として代表室を後にする。
多分、シュテルは気を使ってくれたんだろうな。前代表が亡くなってから、リリンは落ち込む暇も無く代表代理を続けてきた。
落ち込む以前に休む暇も無く…だな。それなのに、真面目に学校に通って、夜は徹夜で仕事仕事。俺が手伝っても焼け石に水だった。
俺を代表に立ててから、ようやく休む暇が出来たんだが…今までの反動でノックダウン、静養する事になった。
医療施設で静養しているから、見舞いに行くのが俺の日課だ。…さてと、今日も今日とて可愛い婚約者の見舞いにでも行きますか。


フレッシュリフォー社、医療施設、特別室


「お邪魔しますよっと。リリン、体調はどうだ?」
「あ、お兄様。…今日も来てくれたのですね。」

ベットの上で微笑むのは、今まで以上に可愛らしくなったリリン。…あれだな、完全に某ピンクの歌姫様だなおい。
今日は体調が良いみたいで良かったな。一安心しながら、ベットの側の椅子に腰掛ける。

「今日もお仕事お疲れ様でした。…大変ではありませんか?」
「いや、リリンのしてきた事に比べれば、余裕だな。…まっ、なんとかしてみせるな。」
「ふふ、お兄様、とても生き生きしていらっしゃいますわ。」

そう言うと、リリンはクスクスと楽しそうな笑みを浮かべる。最近はこうして楽しそうにしてくれるようになった。
前は落ち込んでた時が多かったからなぁ。…しかし、俺が婚約者…か。嫌な気はしない…と言うか、嬉しいけどな。

「…お兄様、その…お願いがあるのですが。」
「ん、どうした?俺に出来る事があるなら、言ってくれ。」
「その…ぎゅ~っとしてくださいませんか?」

ぶはっ!?…なんだこの可愛すぎる生き物は。顔を染めてモジモジしてくるなんて、どんだけ狙ってんだよ。
一瞬、クラッと来た、なんとか持ちこたえて、良いぞと答えてやる。すると、花の咲いたように笑顔を浮かべて、こっちに必死に手を伸ばしパタパタとしてきた。
ごめん、これでまた堕ちたわ。…あれ、俺って何気に幸せ路線歩んでないか?

「ん~、お兄様~…。凄く気持ちが良いです。」
「…ったく、何処かの誰かの真似か?」
「ふふ、そうですわ。なのはお姉さまが、メビウス様にこうしてもらうと、とても安心すると言ってましたの。…その通りですわ。」

ふにゃふにゃと溶けた笑顔を浮かべて、リリンは俺を見上げる。…案の定、あのバカップルの片割れの入れ知恵か。
…後で試験の予想範囲でも教えてやろう。

「お兄様、愛しておりますわ…。始めて見た時から、お慕いしておりました。」
「…正面から言われると、凄まじく恥かしいな。…あ~…うん、俺も愛してるぞ。」
「ふふ、照れながら、言ってくれるお兄様。可愛いですわ。」

腕の中でまたクスクスと笑うリリンの頭を撫でながら、幸せを噛締める。…顔は真っ赤だけどな!!
身体を離すと、少し色っぽい表情のリリンにドキマギしながら、乱れた服を治してやる。
…よく持った、偉いぞ俺の理性、全力で褒めてやる。決してヘタレではない。もう一度言うが、へタレではない。

「あ…もう、お帰りですの?」
「あぁ、面会終了時間だしな。…大規模作戦も控えてるし、ごめんな。」
「はう…寂しいですわ。」
「またくるよ。…それじゃ、ゆっくり休むんだぞ。」

苦笑を浮かべながら、俺はしょんぼりとするリリンの頭を撫でてやる。ここまで寂しがられると、帰りにくいが…な。
帰り際に、また来てくださいね。と何度も言われるのは毎度の事。そして、言われなくても来るよ。と答える自分に乾杯。






「…可笑しいですわね。乱れた服で甘えれば、一発で落とせる…とレーベンから聞きましたのに。」

…どうやら、乱れた服は確信犯だったようだ。恐るべし、リリン・プラジナー。





ミッドチルダ、某所。秘密ラボ


「…きもっ!!」
「ナイツ君…見た瞬間にそれかい。」


モニターに移っている映像--ディソーダーのプラント--を見て、ナイツは微妙な表情を浮かべる。
休憩用に持ってきたコーヒーをジェイルに手渡して、自分は机に腰掛けると、うへぇ…と言った顔でモニターを見ていた。

「なんじゃこりゃ。新手の怪奇の館かなんかか?」
「管理局のデータベースにハッキングして、見つけたんだよ。どうやら、生体兵器…コードはディソーダーと着いてるね。」

カタカタとジェイルはキーボードを操作して、別角度からの映像も映し出す。

「…どうやら、こちらが協力を断ったから、作ったみたいだね。」
「あぁ、あの…しし…シル…なんだっけ。まぁ、良いか。ナンバーズを提供しろって言ってたんだよな。」
「そのとおり。…君と出会う前なら、テストとかを兼ねて喜んで提供していたかもね。」
「はっ。俺の妹達兼嫁達をそんな事には、使わせれんなぁ。」

くくく…とワザとらしく黒い笑みを浮かべるナイツを見て、ジェイルは改めて出会えてよかった思う。
彼のお陰で、沢山の思い出や楽しい事が出来た。…確実に、自分は人間らしい生活を送れているだろう。

「…まっ、評議会とも手を切ったんだから、自由気ままに生きよう。」
「君は常に自由気ままだと思うけどね。」
「自由気ままに気の向くままに、明日は明日の風が吹く。フリーダム、それが俺のジャスティスだ。」

確かに、この少年は自由気ままだ。…自由気ままに、ジェイル達の生活を引っ掻き回すが…それがとつてもなく楽しい。
何より、まさか評議会と手を切る事までするとは思わなかった。…以前のラボも破壊して、自分達をここまで連れてきた時は、本当に驚いた物だ。

「…って待てよ。もしかして…このディソーダーって…ナンバーズの代わりってか?」
「まぁ…そうだろうね。誘拐されていた科学者達は、皆、遺伝子や生態工学の専門家達だ。」

ストラグルに誘拐されていた科学者達のデータを見ると、確かにその筋では有名な人々だ。

「…ふむ…。何を考えてんだか知らないが…気に食わんなぁ。」
「…ナイツ君、目が限りなく輝かせて、悪巧みを考えてる気がするんだけど…」
「失敬な。考えてる気が、じゃなくて、考えてんだよ。」

にやり…と笑みを浮かべるナイツを見て、ジェイルは額を押さえる。忘れていた。彼は…退屈が嫌いだったのだ。

「なに、ナンバーズの連中も良い運動になるだろうし…これは平和の為の犯罪だ。あんな生体兵器なんざ、存在すべきじゃない。」
「言いえて妙だね。…平和を護る管理局が、平和を乱すものを作ってる…か。ふふ、面白そうだね、協力させてもらうよ。」
「お、珍しく乗り気だな。…さて、楽しくなりそうだな。」

2人の大きなイタズラッ子達は、顔を見合わせた楽しそうに笑うのであった





あとがき

さて、次回よりバンカーショット作戦始動です。マリーゴールドが次元航行艦というより、戦艦と言うのはご愛嬌。
メビウスとシルヴァリアスの明確な対立関係が始まりました。これから、ちょくちょく入れていこうかと検討中。
そして…なんじゃこりゃあぁぁああ!!!!アサルトホライゾン…違うんだよ、違うんだ。
作者はヘリが操縦したいんじゃないんだよ。ヒコーきを、戦闘機を操縦したいんだよ…!!
蒼い空で飛行機雲を纏いながら、戦友たちと肩を並べて、称えるに値するライバル達と戦いたいんだよ!!
…とりあえず…進めてみますか。心が折れなければ良いのですが…。




[21516] 季節ネタ バレンタイン特別企画
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/02/14 00:12
2月14日、セントバレンタインデー。
世間では恋人達の祭典だの、愛の日だの言われている。
女神の祝日だったり、兵士を結婚させて、処刑された司祭の命日であり、その司祭に敬意を表した日とも言われている。
まぁ、恋人と愛を語らうのも良いだろう。…だが、何故チョコレートをプレゼントしなければいけないのだろうか。
実際、男性からプレゼントを贈る場合もあるし、チョコとは決まっては居ない。
騎士たる私には関係の無い事だ。…だ、だが、騎士たる者、あああ愛すべき者が居るのだから、プレゼントを送っても良いのではないだろうか?
な、なにより、私も人として生きるのだ。べ、別にチョコを作るくらい…おかしくはないだろう。


--トリスタン家、キッチン--

「むん!!」

エプロンを付け、何故かタスキと鉢巻を締めて気合十分のシグナム。何故、鉢巻に必殺と書かれてるのは、謎である。
…少し鉢巻を強く締めすぎたのか、頭を抑えて数秒唸るが、気を取り直して目の前の材料たちに眼を移す。

「…急がねばなるまい。ブレイズが帰ってくるまでに、作り終わらねば…。」

ガサゴソ…とエプロンのポケットからメモ帳を取り出し、最初の手順を確認する。

「…主と高町には感謝しなければ…。ふむふむ…まず製菓用のチョコを砕いて…。」

やはりと言うか、なんと言うか…調理メモを作ったのは、はやてとなのはの様だ。
2人とも料理上手であり、なのはに居たってはお菓子の腕は折り紙つきだ。…恐らく…いや、確実に蒼き青年の為に頑張って腕を上げたのだろう。
一通り、メモを読み終えるとシグナムは深呼吸し、緊張を解きほぐす。…お菓子作りに、ここまで真面目に取り組む人も珍しい。
…こっそりと、別なポケットからブレイズの写真を取り出し、眺める辺り…騎士とは言え、乙女である。

「よし、シグナム…参る!!」

どこにだ、どこに。



--ランスロット家、キッチン--


「お母さん、す、少し離れて…。」
「ぶ~、久々にフェイトちゃんが帰ってきたのに、なによぉ~。」
「フェイト、諦めなよ~。母さん、離してくれないと思うよ~。」
「もう、レヴィも、くっ付かないの!…お兄ちゃんにプレゼントするチョコ、作るんでしょ?」

プラプラとデフォルメされたサイファーとレヴィに腰に纏わり付かれても、フェイトはクリームを泡立てる手を止めない。
少し大人っぽくなった彼女とは対照的に、サイファーとレヴィは相変わらずのようだ。

「ふふ~ん、ボクは良いんだもんね~。自分にリボンを巻きつけて、お兄に食べて♪で完璧!!」
「レヴィちゃん、最高!!きっとメビウスちゃんも、それで一ころね!!」
「…レヴィ?もし、そんな事したら…どうなるか分かってるよね…?」

ガシャン…と音を立てて、ザンバーモードに切り替えたバルディッシュを構え、フェイトはとても可愛らしい笑顔を浮かべる
だが、背後ではゴゴゴと効果音が鳴り、よく見ると額には怒りマークが2個ほど浮かんでいた。
それを見て、レヴィは乾いた笑を浮かべてサイファーの後ろに隠れてしまった。

「まったく…お兄ちゃんは私の物なんだから、手を出さないで。それに、リボンつけるのは私がするんだから。」
「ちょ、ちょっとまった!!それはおかしいでしょ!?ボクはだめで、自分は良いの!?」
「…?どこかおかしい所、あった?」

本気で分からないと、頭上に?マークを浮かべてフェイトは首をかしげる。…ちゃんと口元に人差し指を着けるのも忘れない。…可愛すぎる。
自身の姉の、狙いすぎた天然にちょっとくらっときたレヴィだが、なんとか気を取り直して立ち上がる。
…もしかすると、レヴィの方が常識人なのかもしれない。

「だ、第一、お兄がフェイトの物って言うのはおかしいよ!!ボクだって、お兄の事、好きなんだから!」
「けど、…前に、必要にするから。絶対に離さないから…ずっと一緒にいるからって、私は言われてる。…それってつまり、プロポーズ…でしょ?」
「…うわぁ、メビウスちゃん大胆ね~。完璧にプロポーズだわ。…ふふ、孫は何人になるのかしら。」

確かに、PT事件の時にメビウスはフェイトにそう言い、家族として向かいいれた。
…聞き様によってはプロポーズと対して変わらないが…まぁ、メビウスである。仕方のないことだ。

「なにより、私はお兄ちゃんの物なんだよ?お兄ちゃんが望むなら、どんな事でもしてあげたいの。…全部、お兄ちゃんにあげても…ふふ。」

最後に顔を赤くして笑い、フェイトは再びクリームを泡立てる作業に戻る。
愛する男性に最高のプレゼントを…。真面目な彼女らしいと言えば、そうなのだが…。

「…か、母さん!!ボクもチョコ作る!!材料って何処!?」
「はいはい、今出すからね~。ふふ…楽しみね~。なのちゃんにフェイトちゃん、レヴィちゃん。そして、はやてちゃんかぁ。
孫は全員、可愛らしい子になるわね~♪」

慌ててエプロンを装着し、レヴィもチョコレート作りを始めだした。
瓜二つの可愛い娘達の後姿を眺めながら、可愛い息子の事を思い出し…更に孫の事まで妄想するサイファーであった。



--バーナー学園--

「おはよう、メビウス!」
「えぇ、おはようございます、ユーノ。」

昇降口でユーノに挨拶をして、メビウスは何時もの様に下駄箱を開けようとするが…何故か周囲に男子達が注目していた。
勿論、ユーノのも隣で、彼の動きを見逃さないようにしている。

「……みなさん、どうかしましたか?」
「いや、いいから。開けて開けて。」

戸惑いながら、メビウスは「はぁ…?」と声を零し、下駄箱を開けると…勢い良く落ちてくる色とりどりの箱やら手紙。
下駄箱にどうやって入ってたのだと、疑いたくなる量が落ちてきて流石のメビウスも一瞬、呆気に取られてしまった。
周囲では「流石はメビウスだ…。何個貰ったんだか…」とか「は…始めてチョコの雪崩見た…ドラマや漫画だけだと思ったのに…」とか聞こえ来た。

「は~い、僕の勝ちだね。ほらほら、掛け金出して。」
「ちぇ。何でそんなに正確に把握してんだよ…。」
「ちくしょぉ~。学食がぁぁ。」

落ちたチョコを紙袋にしまいつつ、ユーノは周囲に男子生徒達から、掛け金--学食の無料券--を受け取る。
どうゆら、メビウスが何個貰うのかを賭けていたらしい。
何となく…途方にくれたメビウスだが、ユーノに紙袋を手渡された所で正気に戻ったようだ。

「はい、メビウス。こっちが女の子達の分。」
「あ、すいません、ユーノ。私が拾うべきものを…。」
「いや、気にしないで良いよ。…ほらほら、何時までもメビウスの事を見てないで、散った散った。」

注目を集めているのを気にしてか、ユーノは周囲の男子生徒達を追い払いつつ、メビウスの腰に手を回して、人ごみを抜ける。
…何故、メビウスの腰に手を回す必要があるのだろうか…。

「そう言えば、そちらの紙袋は…?」
「あ、こっち?…これはぁ~…うん、後で渡すよ。紙袋3つも持てないでしょ?」
「そうですか…。しかし、こんなに貰ってどうしたものか…。」

クスリ…と困ったように両手に下げた紙袋の中身を見つめるメビウス。確かに、こんなに貰うのは嬉しいのだが、食べきれるかどうか…。
まぁ、彼は気がついてないだろうが…恐らく、全て本命のチョコだろう。…明らかにハート型やら、手紙つきばかりだ。
恐らくだが、彼の可愛い妹達、夜天の書の主からもチョコが届くだろう。なにより、彼が一番欲しいチョコは…やはり白き少女からのチョコだろう。
チョコを送ってきた名も知らぬ女子生徒達に、同情しつつ、ユーノは自分の持っている紙袋に眼を移す。

(まさか、ファンクラブ以外にメビウスに近づく男子が入るなんてね。…後で身の程を弁えさせてあげないと…。)

そこには、花束やリボン、鞄など…明らかに女性に贈るべき物が詰まっていた。
どうやら、メビウスに恋する一部の男子生徒達からのプレゼントだろう。…黒い笑みを浮かべながら、ユーノは…報復の手段を考え始めていた。

--教室--

「…こっちもこっちで、入っていたのですか…。」
「はい、回収回収。…教科書も、甘い匂いがしてるね。」

メビウスは若干、苦笑しつつロッカーの中を見つめる。下駄箱と同じ、中にはチョコレートが所狭しと詰め込まれていたのだ。
それを何とか片付けて、紙袋も仕舞うと自分の席に座り、一息つく。

「ふう…。片付きましたね。」
「なんとかね。…けど、メビウス、モテモテだねぇ。」
「ふふ、義理チョコでしょう。私より、素敵な男性は沢山いますよ。」

お前みたいなハイスペック人間がホイホイいて貯まるか!!…と教室内の男子生徒達の心はひとつになったようだ。
そして、案の定…まったく本命と気がついてないメビウス。…まぁ、彼が愛してるのは…彼女達だけだから致し方ない。
チラリ…と時計を確認し、メビウスは鞄から綺麗にラッピングされたチョコを取り出すと、ユーノに差し出した。

「はい、ユーノ。バレンタインチョコです。」
「…え、ぼぼぼ僕に!?」
「何時も御世話になっていますから、そのお礼です。手作りなので、少し形は変かもしれませんが…
受け取ってくれますか?」
「メビウス…それは、殺し文句だよ…!!」

パニックになり、どもりながらユーノは差し出されたチョコを受け取る。
渡した本人はニコニコと笑顔を浮かべて、「よかった。」と言葉を漏らしていた。
…それを見て、ユーノのハートをラジカルザッパーが貫いたが…耐え切った。
顔を真っ赤にして、メビウスの手を握ろうとしたユーノなのだが…何故かメビウスは別な袋を取り出すし、クラスメイトの男子にも配り始めたのだ。

「はい、みんなにもバレンタインチョコです。何時もありがとうございます。」
「マジですかぁぁぁ!!!いいい、生きててよかったぁぁ!!」
「やっべぇ、惚れる。これは惚れてしまう。…むしろ掘れてしまう…。」
「…僕だけじゃなかったんだ…。」

ガックリと項垂れたユーノ…。しかし、口元には小さく笑みを浮かべ…メビウスから貰ったチョコを見つめるのであった。





--トリスタン家--

「ただいま。…ん、シグナム…来てるのか?」

玄関を開けて中に入ると、ブレイズはシグナムの靴を見つけた。
しかし、家の中は薄暗く電気もついていない。おかしいなと思いつつ、リビングの扉を開けると…。

「…ああ、帰ったのか、ブレイズ…。」
「うぉ!?…ど、どうしたんだ、電気もつけず…。」

ズーン…と言う効果音が似合いそうな位に落ち込んだシグナムが、ソファに座っていた。
訳も分からず、冷や汗を垂らしながらもブレイズは、照明のスイッチを入れて、テーブルに眼を向けると…。

「…チョコ?…あぁ、今日は2月14か。」
「…うむ、お前の為にチョコを作りたかったのだが…失敗してしまったのだ。」

サラリと嬉しい事を言ってくれたシグナムだが、確かにテーブルの上には不恰好なチョコやら、こげた謎の物体がおいてあった。
「あ~…」と、なんて言って良いものかブレイズも悩んでしまった。
いや、別に失敗作だろうがなんだろうが、シグナムんら貰えると言う時点で、彼は最高に嬉しいのだ。
しかし、責任感が強いと言うか真面目なシグナムの事だ。失敗作を愛するブレイズに渡すのは、許さないだろう。
どうしたものか…と悩んだブレイズだが、言葉よりてっとりばやく。分かりやすい方法で表現する事にした。
徐に一欠けらのチョコを食べてみると…口の中に広がる苦い…と言うか苦すぎる味。

「く…苦いな。リンディ提督が食べたら、発狂するぞ。」
「やはりそうか…無理して食べなくてもいいぞ…。私にお菓子作りなど無理だったのだ…」
「…口直しをしたいから、こっちを向いてくれるか?」
「口直し…?」

何のことだと顔を上げたシグナムだが…次の瞬間、唇に柔らかな感触と口の中に広がるほろ苦い味。彼女の頬に手を添えて、ブレイズがキスをしていたのだ。
しかも、自分の口にチョコをくわえてだ。シグナムの閉じられた唇をこじ開けて、溶けたチョコを彼女の口に中に流し込み…一緒に味わう。
一瞬、眼を開いて驚いたシグナムだが…直ぐにトロン…と蕩けた眼でブレイズのキスを受け入れていた。
…10秒位だろうか、お互いの唇を離すと…ツゥー、と銀の糸がかかり…ぷつりと途切れた。

「ふう…甘くて美味かったぞ。…さて、着替えてくるか。」
「…はっ!ま…待て、待たんか!!今のは卑怯だぞ!!不意打ちだぞ!!も…もう一回だ!!もう一回しろ!!わ…私が損してるではないか!!
ずるいぞ、お前だけずるいぞ!!ブレイズだけ楽しむな!!私にも、味あわせろ!!」
「…絶対にやらない。二度とやらないぞ!!こっちだって、心臓がやばいんだ!!」

トロンと…溶けていたシグナムだが…逃げようとしたブレイズに気がつき正気に戻ったようだ。
慌てて、もう一度だ!!と叫びながら、逃げる彼を追いつつ…この人を愛してよかったと…思う彼女であった。











あとがき

バレンタイン特別企画終了。
ある意味で鉄板の季節ネタですよね。メビウスとなのは?…書くだけ野暮ってモンですよ。
みなさんの脳内で甘甘な展開を想像し、創造してください。
ブレイズとシグナムのキスシーン。何処まで書くべきか、物凄く迷いました。いや、何処までがセーフなんですかね…!?
しかし、本編の冒頭部分が思いつかない…。正確には出撃する時の部分が思いつかないいいい。
ACVにはまってないで、こっちも書かないといけませんね…。
感想の返信は本編投稿後になります。

以下、今後の予定。見なくても問題は確実にありません。
















「エリオ君、チョコ作ったんだけど…食べて…くれる…?」
「は、はい!!カティーナさんの手作りなら、喜んで!!」
「よかった…。貴方に喜んでもらえて、嬉しい。」





「…ガルーダ、はい、これ。」
「なんだよティア、いきなり。…なにこれ?」
「ち、チョコに決まってるでしょ!!さっさと受け取りなさいよ!!」




「クロス君。一緒にチョコ食べよ!!」
「良いよって…でかっ!?え、スバルちゃん、なにそのデカイケーキ…。」
「特別サイズのケーキなんだよ!!この日の為に、予約しといたんだ!!」



「あ、カラード君!!」
「ん…やぁ、キャロか。どうかしたの?」
「えっと…今日、バレンタインだから…はい、チョコ作ったの!…えっと、なのはさん達に教わって食ったから、美味しいはず…だよ?」
「…ふふ、ありがとう。君からのプレゼントなら、僕は何でもうれしいよ。」



[21516] ISAF編 9話 バンカーショット作戦 1
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:d77286e7
Date: 2012/05/17 00:41
ノヴァ宅

「そう言えば、明日…でしたよね。」
「んぉ?……デートでしたっけ?…あ、結婚しての月間記念日…、それとも、危けんげふぁ!?」

夕食も終え、ソファでコーヒーを飲みながら、のんびりと過ごしていた時のシャマルの呟き。
それを聞き、何の日かと脳内検索し…案の定、暴走したノヴァの顔面を、顔を真っ赤にしたシャマルの奥様ハリセンが叩き潰す。
こうして、一緒に暮らし始めて何度も思うが…彼の頭の中は冗談しかないのだろうか…。

(…でも、失敗した料理なのに、美味しい美味しいって言って、食べてくれますよね。)

お世辞にも良い出来、とは言えない料理を彼は、常に笑顔で残さず食べてくれる。それほどまでに自分はノヴァに愛されているのだろう。

(これでも、はやてちゃんに教わったんですけど…うう、もっと花嫁修業しておくんでした…。)

後悔先に立たずと言うが…しかし、少しずつだが彼女の料理の腕前は上がってきている。愛とは偉大なのだ。
…最も、同時期に料理の勉強を始めたシグナムの方が上なのは…素質の問題だろう。
そして、別な意味で真っ赤になった顔面を擦り、ノヴァはずり落ちた眼鏡を押し上げる。再起動まで15秒ほどだろうか。

「い…今更、恥かしがらなくても…。て言うか、真っ赤なシャマルたん萌えぇぇ!!!!」
「恥かしいですってば!!私だって、女性なんですからね!?って言うか、近いです、近いですってばぁぁ!!」

逆行眼鏡で迫ってくるノヴァにビビリながら、何時もの様に涙目で後退するシャマル。毎度毎度同じ事をしているが、飽きないのだろうか。
ソファの端に逃げたシャマルを捕まえ、ノヴァは腕の中にしまうと彼女を後ろから抱きしめる。
こうしてしまえば、涙目だろうが、不機嫌だろうが、関係無しに大人しくなってしまう。…本当に愛とは凄まじいものである。

「うぅ~。…誤魔化されませんからね…。」
「そう言いつつ、抵抗しないシャマルさん、最高です!!…んで、バンカーショット作戦ですか。…気になっちゃったりします?」
「それは…当たり前ですよ。シグナムやヴィータちゃんもソワソワしてますし…はやてちゃんなんか、物凄く心配してますよ。」

あっちをウロウロ、こっちをウロウロして心配そうにしていたはやての姿を思い出し、クスリシャマルは笑みをこぼす。
口では、心配はしてない。と何度も何度も言ってはいたが、やはり激戦となる任務。そこにメビウスが行くのだから、はやても気が気ではないのだろう。

「まっ、大丈夫だとは思いますがね~。…彼らは英雄なんですし。」
「…そう言えば、ノヴァさん。前々からメビウスさん達は英雄って言ってますけど、なんでです?確かに、私達の事も助けてくれましたけど…。」
「ふむ…そうですなぁ。…昔話をしましょうか。」

シャマルの質問に少し考える素振りを見せながら、ノヴァは眼を細めて昔--転生前--の記憶を思い出し、話を始めた。

「それは、世界に星が降った日から、その物語は始まりました。」

ゲームの世界…キャラクター、いや、プレイヤーの分身だった。しかし、それは今尚多くのプレイヤー達の心に残っている英雄。
1人で戦局を覆し、敗北寸前だった軍を復活させたパイロット。気高き黄金の鷲を倒したリボンの英雄。
再び星が落ちてくる悲劇を阻止した、大空の鳥。

「世界に星が…ですか?」
「はい、その星を砕く為に、無闇にでっかい大砲が作られました。そして、それを巡って戦争が起きたんですよね。
護る側の軍隊は負け続け、大陸の端まで追い詰められました。既に喉元に短剣を突きつけられた最後の基地。
最後の敗北で、幕を閉じる筈の軍に…その基地に、1人のパイロットが居ました。」

今日もノヴァとシャマルの夜は…穏やかに過ぎていった。








セレス海、ストラグル本拠地孤島沖合い 上空。

暗く鉛色に染まった空からは、今にも雨が降り出しそうです。
ラプターの上で空を見上げ、私は小さく息を吐く。…緊張してないわけが無い。
眼下には、着水した旗艦マリーゴールド。そこから、揚陸艇が出撃を開始していた。

≪こちら、マリーゴールド艦長、ケニス・ジョーンズ。揚陸艇は随時発進している。空戦部隊は彼等の援護を頼む。≫
≪こちらスカイアイ、了解。揚陸艇の護衛には、ブレイズ、チョッパー、シュトリゴン1が着いてくれ。
メビウス1、黄色の13は砲台及び敵空戦部隊を撃破せよ。≫
≪了解。…オメガ11は?≫
≪彼は、揚陸艇にて上陸し、陸戦部隊と共同で任務を行う。≫

少し離れた位置でブレイズさんが笑うのが見えました。ふふ、空戦魔導師なのに、オメガが陸戦部隊…ですか。確かに、少し可笑しいですね。
最も彼は揚陸艇に乗らず、水陸バイクで随伴しているはずです。
そう思い眼下に視線を移せば…ほら、一際大き目のバイクに跨ったオメガが見える。…彼特注で前面装甲と馬力を強化しているらしい。
…ふむ、突撃使用って事なんでしょうが…その前にオメガ、バイクの免許持ってましたっけか…?

「…メビウス1。俺達は先行だ。…敵をかき回すぞ。」
「えぇ、黄色の13。…しかし、ターミネーター…ですか。」

そんな事を取りとめもなく考えていると、隣に入るアーサーが声をかけてきた。。彼にもSFSが提供されたのです。私のラプターと同じ生産性を無視したSu-37 ターミネーター。
ラプターより、若干、格闘戦寄りのチューニングを受けているそうです。現在、ISAFに配備されてるのはこの2機だけ。
ブレイズさん達のは間に合わなかったそうですが…閃だって大変なはずですからね。
私とアーサーは単独行動にして、全戦域で戦う遊撃手です。イリヤさんは後方からの狙撃手。ブレイズさんとチョッパーはコンビでの戦闘になる。

≪島より砲撃を確認。それに、ガジェット、魔導師反応も多数確認。…先行していた空戦部隊と戦闘を開始。
メビウス1、黄色の13。彼らを援護せよ!!≫

前方で、多数の魔力光や対空ミサイルが交差し始めました。アーサーと眼を合わせ、頷きあうと私達はSFSの速度を上げ、前線へと飛び込んだ。

≪そうそう、メビウス1、黄色の13。今日は俺の誕生日なんでな。勝利をプレゼントしてくれ!!≫
≪了解。きっちりとプレゼントしますよ!!≫
≪ふ…プレゼントボックスを開けて待ってるんだな。≫




ブレイズ

≪こちら、陸戦部隊αチームのベルツだ!!敵部隊の攻撃が激しい、至急、援護を要請する!!≫
≪了解した。ブレイズ、チョッパー、αチームの援護に向かえ。スカイアイより、αチームへ、腕利きを向かわせた。彼らと共同で突破せよ。≫
≪本当だな!!よし、野郎ども、今空戦部隊の奴らが来る。なんとしても突破するぞ!!≫

ラーズグリーズの魔力鎌でガジェットを切り払い落とすと、インカムからスカイアイの声が聞こえてきた。
下で砲撃魔法やらロケットランチャーが飛び交い、爆音が響き渡っている。

≪ほら、走れ!!砂浜にキスなんてしてんじゃねぇ、立って走んだよ!!ほら、いけいけ!!≫

揚陸艇から降りている陸戦部隊に、悪態とも声援とも付かない事を言いながら、チョッパーは器用に二挺拳銃型のデバイスを取り回し、地対空ミサイルを迎撃していた。
降ろされた装甲車に砲撃魔法が直撃するが…なるほど。…傷1つ付かない…か。

≪閃も良い物を作ってくれたものだな。≫
≪だな。お陰で陸戦部隊の負担も減るぜ。…あ~あ、オイラ達にもなんか作ってくんねぇかなぁ。≫
≪少し我慢すれば、SFSが配備されるはずだ。≫

軽口を叩き合いながら、αチームの担当している戦域に高速で移動する。…なるほど、トーチカに防御陣地が構築されているな。
防御陣地から発射されたロケット砲弾が地面に炸裂し、砂煙を上げる。しかも、向こうの方が高所だ、狙撃や迎撃には持って来いだな。

≪こちらクォックス陸戦隊、アンソニー・ドイルだ!!…もしかして、上に居るのはISAFのブレイズ空佐か?≫
≪こちらブレイズ。久しぶりだな、アンソニー陸尉。≫
≪はは、お互い元気そうで何よりだ!!よし、頼りになる人達が着てくれたぞ!!≫
≪こちらαチームのベルツ中尉だ!!空戦部隊の活躍に期待する!!よし、行くぞ!!≫

下に居たのは、アピート国際空港で一緒に行動したクォックス陸戦隊だった。インカムから絶えず聞こえてくる爆音にも負けぬ声で、部下達に指示を出していた。

≪スカイアイよりブレイズ、チョッパーへ。敵防御陣地は強固だ。恐らく、君達だけでの攻撃では破壊は出来ないだろう。≫
≪そうみたいだな。しかたねぇ、火器を黙らして陸戦部隊の攻撃に託すか。≫

コキコキと首を動かし、チョッパーは防御陣地に炸裂性の魔力弾を打ち出し、砲座を破壊していく。
手間だが、この状態で大規模砲撃魔法を使えば、ただの的になる。陸戦部隊との連携にかけるか…。

≪わっち!?近くに着弾しやがった!?…ったく、うちの部隊の隊長殿はなんつう指示を出してくれんだか…。≫
≪あ~あ~、こちらβチームのとある兵士。空戦部隊の人達、聞こえてるか?≫
≪あいよ、こちらチョッパー聞こえてるぞ。なんだ、世間話か?オイラぁ、人見知りなんで口数は少ないぜ?≫
≪いやな、出来ればうちの鬼隊長を、上空から爆撃してくれない?このまま突撃続けたら、洒落にならないっつの。≫
≪よし分かった、位置を教えてくれ!≫
≪了解。今座標を…げ、嘘だろ。隊長、防御陣地落としやがった。…すまん、やっぱり無しだ無し!!≫

その兵士の言葉どおり、1人の陸戦部隊員がロケットランチャーで防御陣地を吹き飛ばしていた。
別の防御陣地にクローからの収束砲撃を打ち込みつつ、下の状況を確認。
クォックス陸戦部隊、α陸戦部隊、β陸戦部隊。こちらの戦域は3つの部隊で支えられている。
そして、サポートをする空戦部隊は…俺とチョッパーのみか。…スカイアイからの情報を照らし合わせると、こちらは陸戦が主体になるようだな。
そうなると…。

≪奥の渓谷が問題…だな。≫
≪あぁ、防御陣地が側面に配置されてやがるし、対地攻撃の良い的だな。…よし、ブレイズ、先行してヘリを、落としてきてくれないか?≫
≪そうした方が良さそうだな。…チョッパー、無理はするなよ。≫
≪あいよ。任しとけ!!≫

地上から打ち上げられてきた砲撃を、回避してチョッパーは発射地点に魔力弾を打ち込み爆発を起こす。
俺の親友は、模範的な魔導師だ。この程度の連中には…負けはしない。
バリアジャケットのステルス性能をナイトホークで引き上げると、俺は渓谷地帯に進路を向ける。




渓谷地帯上空


≪ったく、管理局の連中も、こんなに大規模で攻めてくるなんてな。≫
≪なに、連中も必死だって事だ。…それはそうと、速く対地ロケットランチャーで、連中を焼き払いたいぜ。≫

ヘリのパイロットは表示されているレーダーを見ながら、今か今かと攻撃の時を待っていた。
空戦魔導師が随伴しているらしいが…ヘリに勝てるわけも無いだろ。それが、彼の考えだ。

≪ん?≫
≪どうした、なにかトラブルか?≫
≪いや、レーダーに一瞬、反応があったんだが…気のせいか。…しっかし、曇りで今一、視界がよくねぇな。≫

愚痴りながら、パイロットはレーダーを見直して直ぐに興味を失う。薄暗い曇り空は重苦しい雰囲気を漂わせ、遠い視界の先では、爆発が絶えず起きている。
その時、…トン…と軽い音がヘリの中に響く、なんだ?…と思い視界を上げると…コックピットに上に、黒衣を纏った青年が立っていた。
パイロットが慌てふためく暇さえ与えず、黒衣の青年は鋭利なクローを振り上げ、ガラスを叩き割るとパイロットの頭を切り裂いた。
コックピット内に血が噴出し、力なく操縦桿から手が離れ、ヘリは錐揉み状態になり…下の防御陣地に落ちていった。

≪な、なんだ!?なにが起きた!?≫
≪へ、ヘリが落とされました!!…バカな、反応が無い!?≫

慌てて飛び出してきた敵兵士達は周囲を見渡すが、何も反応が無い。しかし、突然、最後に飛び出してきた兵士が、動きを止めた。

「た…隊長…。」
「なんだ、こんな時に!?」

隊長と呼ばれた男と、数名の兵士が振り返ると、最後尾に居た1人の兵士が、首から血を撒き散らし崩れ落ちた。

「う…うわぁぁぁあぁあ!!!???」

誰かか絶叫を上げると同時に、兵士達は闇雲に銃を乱射し始めた。見えない敵が何処かにいる。その恐怖が兵士達から、正常な思考を奪い去ったのだ。
土の地面に打ち込まれた弾丸は、兆弾はしないものの、視界を遮る土煙を発生させる。
その土煙で、視界が完全に遮られると、肩で息をしながら、隊長格の男は銃の降ろした。

「や…やったか!!…?…お、おい、誰かなんか…ひ…ひぃぃ!!??」

だが、土煙が収まった所に転がっていたのは…無残にも首を切り落とされたり、上半身と下半身を分断された部下達の死体。
そして、男の後ろで、ジャリ…と誰かが歩く音が聞こえた。
しかし、振り向く事が出来ない。明確な死が、恐怖が、絶望が彼の身体を支配していた。
それでも、振り向かなければ…殺される。男は雄叫びを上げて、振り向き様に銃を発砲。それで、襲撃者は死んだ…!!

「…これで、ここは制圧か。」

斬…と重苦しい音を立てて、男の首を切り落としたブレイズは、優れない顔色で、周囲を様子を観察する。
濃厚な血の匂いが漂い、無残な死体が転がる広間に立つ、黒衣、そして、鎌を携えた青年。その姿は…死神…いや、悪魔だろうか。
しかし、葬った青年の表情は暗く…恐怖で歪んで居る男の眼を閉じると、頭を垂れる。

「…誰が好きで、殺しなどするものか。…だが、俺がやらなければ、別な誰かがする。名も知らぬ者に、押し付けるなど…俺には出来ないのでな。」

バサッ…と音を立てて、黒衣を翻すと、視線を空に向ける。その先には、怒号を上げ、こちらに向かってくる魔導師の姿が見えた。
異常を感知し、こちらに戻ってきたのだろう。多数の魔力弾が、ブレイズ目掛けて降り注ぐが、彼は避けもせずに、短く「ミラージュ、起動」とだけ口にする。
ブレイズの周りの空間が湾曲し、表面の滑るような形で魔力弾は反れ、彼の周囲に穴を穿つだけ。
空間湾曲、空間跳躍、それは彼の最も得意とする魔法。攻撃も当たらず、無造作に命を刈り取る彼を見て、敵魔導師は、こう零した。

「悪魔だ…。漆黒の悪魔だ…!!」
「ふ、悪魔でも構わんよ。さて、散ってもらおうか…!!」

左手のクローに魔力爪を展開し、ラーズグリーズに魔力鎌を展開すると、ブレイズは空中の魔導師達に襲い掛かった。




--クォックス陸戦部隊--


「撃て撃て!!」

まるで地面を銃弾で耕すかのような攻撃。それに怯まずに、敵から奪い取った塹壕に隠れながら、クォックス陸戦部隊の面々は防御陣地に攻撃を仕掛けていた。
装甲車に装備された機銃が唸り、防御陣地の壁を貫き、中に居た敵兵士達をズタズタに引き裂くが…それでも攻撃はやまない。
まだ生き残りが入るのだろう。クォックス隊隊長、アンソニーは、小さく舌打ちすると、上空のチョッパーに通信を繋げる。

≪こちら、アンソニー。敵の防御陣地が頑丈で、落とせない!!一発、でかいの打ち込むから、攻撃を黙らせてくれないか!!≫
≪チョッパー了解。タイミングはそっちに任せるぞ!!≫
≪分かった。おい、バズーカ、もう一本持って来い!!≫

後ろからバズーカと砲弾を受け取ると、アンソニーは照準サイトを覗き込み、正常に稼動するか確認する。ここで、不発とかは洒落にならない。
正常な事を確認すると、バズーカを肩に乗せ、何時でも撃てる体勢を整えて、部下にフラッシュグレネード使用を指示を出した。
アサルトライフルに装着された、フラッシュグレネード弾が防御陣地に打ち込まれ、内部に残っていた兵士達の視界を白く塗りつぶし、攻撃が一瞬止まる。

≪チョッパー、いまだ!!≫
≪任せとけ!!≫

チョッパーの砲撃魔法が防御陣地の壁を砕き、その穴にアンソニーがバズーカを撃ち込んだ。
白煙を上げながら弾頭は穴に吸い込まれ、爆発し炎上。防御陣地内に合った爆薬に引火して、大規模な爆発、爆音が響き渡った。

「よし、これでここは黙らせたぞ!!次に向かうぞ!!チョッパー、援護に感謝する!!」
≪あぁ。だが、まだまだあるぞ。よし、俺っちも気合入れていくか!!≫

部下達の声を聞くと、アンソニーは再び銃を構え、次の防御陣地に向かって進撃を始めた。
戦闘は、まだ始まったばかり。






中央要塞、内部。

カタ…と音を立てて、通路の天井が外れると、音も無く降り立つ人影。

「ハァイ、天井裏からコンニチワァ。」
「…はぁ、ふざけてる場合か…。」
「ナイツ兄、なんか外人みたいなのりッス。」

スタ、スタッと、青年--ナイツ--に続いて降りてくるのは、トーレとウェンディ。
ナイツが最初の悪戯--テロ組織への攻撃、及び、管理局の暗部への攻撃--に選んだのが、ストラグルの本拠地。
つまり、現在、管理局に総攻撃を受けている場所だ。…危険極まりない。

≪あんたねぇ、正気とは思えないわよ…。攻撃中の基地に乗り込むなんて…頭、逝ってるとしか…≫
≪ふん、失敬だなクアットロ。正気はこんなバカをすまい。それに、昨日、ベットの上で先に逝ったのはお前…≫
≪わーわー!!ななな、なんて事言ってるのよ!!≫

クアットロの通信に、ふん!!と胸を張って答えるナイツだが…この男、しれっと、凄まじい事を言ってくれる。
…お気づきだろう。この男、エロい。かなり…と言うか、物凄く変態である。メビウスと瓜二つなのだが、中身が真逆すぎる。
…まぁ、これでもジェイル達には比較的優しい紳士。…つまり、変態紳士と言う事だ。

≪…クアットロ、少し話を聞かせてくれるかしら?≫
≪抜け駆けは、無しって話だったよね~?≫
≪ちょ、ドゥーエにセイン、笑顔が怖いわよ!!そ、それに一番、ナイツと寝てるのはトーレ…ひゃぁあぁあ!!!≫

ガタゴトガッシャンバキゴキ…とヤバイ音を立てながら、クアットロの声が通信機から消えていく。

「…トーレ姉、一番、ナイツ兄と寝てるんスか…。」
「べ、別に進んでと言う訳ではないぞ!?な、なんだウェンディ、その微妙な視線は!!」

ジトーっとした眼を、ウェンディはトーレに向ける。…まあ、この姉はスタイルが良い。ナイツが気に入るのも分かるが…。

「トーレはこう見えて、可愛く鳴いてくれるからなぁ。攻めていぢめてやりたくな…殺す気か。」
「~~~!!!よけるなぁぁ!!」

オーバーヒートする位顔を真っ赤にしたトーレの鉄拳が、ナイツの顔面に炸裂…するかと思ったが、首を動かすだけで回避してしまった。

「良いなぁ、…ナイツ兄、今度は私も可愛がって欲しいッス…。」
「ふむ。…どんぶりプレイも………だから、殺す気かと何度言えば分かる。しかし、そのスーツって身体のラインが出るから、たまらんな。」
「黙れ。そのエロ頭砕いてやる!!」

うっとりとしたウェンディを抱き寄せて、なにやら考えていたナイツに殴りかかるトーレだが、やはりあっさりと回避されてしまう。
ちなみに、ナイツもナンバーズと似た様なスニーキングスーツを着ているが、下半身は普通のジーパンだ。

「…ふふん、ヤキモチかトーレ?…愛い奴よなぁ。さぁさぁ、俺の胸に飛び込んでくると……前が見えねぇ。」
「本気で撃ち込んで、倒れないとか…。」
「あはは、ナイツ兄、ギャグ補正の塊ッスから。」

両手を広げてトーレを受け入れようとしたナイツだが…見事に彼女の鉄拳が顔面に炸裂する。
しかし、顔面がへこむ程度でダメージは対して受けてないようだ。…そして。ウェンディ、さり気なく逃げている辺り…すばやい。

≪…君達、そこが何処だか分かってるのかい…?≫
≪あぁ。分かってるぞ、オタコン。≫
≪…さて、今回は管理局が攻撃を仕掛けている。迅速に行動しないといけないよ。≫

クアットロから変わったのであろうジェイルが、3人のどたばた劇を止める。…そして、ナイツのボケを無視するという成長も見せた。

≪ちっ、鍛えすぎたか、つまらん。≫
≪今回はプラントと通信施設の破壊が目的。あまり見つからないように行動すること。…特にナイツ君、大暴れはしないように。≫
≪…なぜ、ばれたし。≫
≪…はぁっ、嬉々としてマシンガンやロケットランチャーをポケットにしまってたのは、何処の誰かな?≫

ジェイルの深いため息が、通信機の向こうから聞こえてきた。
前日に遠足に行く小学生のように、ナイツは嬉々と…楽しそうに爆薬やら、マシンガンを【ポケット】に仕舞い込んでいた。
…どこかがおかしい?…あぁ、ポケットの事だろうか。彼のジーパンのポケットは、無限空間になっているらしい。
どんな大きさ物も仕舞いこめる不思議空間。…一度、気になったジェイルが入り込み、遭難したのは懐かしい思い出。

≪何かあったら、通信しよう。…無理はしないように。≫
「あいよ。…さてと、んじゃまぁ、行くか、トーレ、ウェンディ。」
「了解ッス!!」
「まったく…ようやく進めるな。」

気合十分のウェンディと、若干、苦笑いのトーレを引き連れると、楽しそうにナイツは基地通路を静かに走り出した。





あとがき


更新が、とてつもなく遅くなってしまい申し訳ないです。
ACⅤに思いっきり、はまってしまいました。なにこれ超楽しい。
下手ですが、チームリーダーで奮闘する日々を送っていました。
さて、バンカーショット作戦、始まりましたね。まずは、ブレイズさんの戦闘シーンっと。
それぞれのメインキャストの活躍を書きたいので1話2つで…3話程続けると思います。
まぁ、これが終わってもISAF編は続く予定ではあります。まだ、他の主人公も出てませんし、フェイト達との恋人決定イベントがすんでませんしね。(おい。
さて、こんな駄文ですが、これからもよろしくお願いします。



[21516] ISAF編 10話 バンカーショット作戦 2
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/05/09 14:17
管理局本局 ビンセント・ハーリング提督執務室

「…はぁぁ、メビウス君、大丈夫かなぁ…。」
「ふふ、心配かね、はやてちゃん。」
「う…はい、心配です。」

書類を片付けながら零れた1言。
静かな執務室には、充分聞こえる大きさだったようだ。ハーリングの手伝いをしながら、はやては遠い空の下で戦っている想い人を思う。

「ふむ、彼らの事を信じているのではないのかね?」
「いや、信じてはいるんです。…メビウス君なら、絶対に勝つやろうし…ただ…」
「ただ?」

彼が負けるなど想像もつかない。彼が堕ちる等ありえない。それは、はやての中の絶対である。
闇の書--正確にはダイモン--から自分を救い出してくれたメビウスは、彼女にとって、盲目的に信じる存在なのだ。
しかし、ただ…と言葉を濁した彼女が気になり、ハーリングは手を止めて、優しげな瞳で言葉の続きを促す。

「…怪我とか、しないでほしいなぁ…なんて思ったんです。」
「…ぷ…はははは!!」
「て、提督、笑わんでもらえます!?私にとっては、重要なことなんですよ!?」

バン、と机に手を置き、顔を真っ赤にしてはやてはハーリングに詰め寄った。最も、笑ってる本人は腹を抱えて、実に楽しそうにしている。

「いや…失礼。恋する君も実に微笑ましく、可愛らしいと思ってね。」
「う……提督、その笑顔はずるいですって…。メビウス君に出会ってなかったら、惚れてまうやん…。」

ニコニコと笑顔を浮かべるハーリングは、とても魅力的であり、暖かい。はやては…と言うか、クロノを初めとする多くの局員は、彼の笑顔が大好きだ。
まるで太陽のように暖かく、道を照らしてくれる。だからこそ彼を信じ、また、彼と同じ様な笑顔を持つ、メビウスを信じているのだ。

「確かに、参加してる者達に怪我は…いや、無事に帰ってきて欲しい。それは、私も同じ気持ちだよ。」
「…はい。ようやく、動き始めたんですからね。まだまだやけど、これから、大きくしてくんです。提督の理想を…私達の希望を。」
「うむ。…その為にも、何れは君の部隊も作らねばね。」
「あはは、お見通しやったんですか。」

流石のはやても、自分が考えていた事がバレてたとは思って居なかったようだ。
国際空港での一件以来、はやてを筆頭になのは、フェイト、レヴィを初めとした海鳴メンバーで、部隊を作れないか…と言う話が出てきていた。
勿論、最初はメビウスのISAF入りも考えたが、彼の理想を邪魔する訳にも行かない。
ISAFは表向きはテロ行為対策。裏では、ダイモンと灰色の男達の調査を目的として設立されている。
はやて達が作りたい部隊…それは、特定のロストロギア専門の部隊だ。かつて、己を蝕んでいた闇の書。それを隠れ蓑にしていたダイモン。
もしかすると、他のロストロギアにも潜んでいるかもしれない。なにより、現在の管理局には、それ専門の部隊は存在しないのだ。
ベルカ自治政府には、白虹騎士団が存在するが、管理局上層部は、彼らの事を快く思っていない。
なにより、国際空港の一件も、調査の結果、レリックと呼ばれるロストロギアを使用してのテロ行為だったらしい。
いかにメビウスやブレイズ達が有能とは言え、ロストロギアに関してまでは、手が回らないだろう。

「ふふ、実にいい考えだと思うよ。何より、管理局は大きすぎる。…小回りの効く部隊が、ISAFだけだと、問題だからね。」
「提督にそう言って貰えると、助かります。」
「もし、私で力になれることがあったら、気軽にいってくれたまえ。」

そう言うと、ハーリングはウインクをすると、再び書類作業に戻った。
はやては、彼のお茶目な仕草に笑うと、机の上に飾られている写真立てに眼を移した。
自分の家族であるヴァルケンリッターの写真と、親友達の写真。そして…大好きな人の写真を眺めると、彼女も書類作業に取り掛かった。

地球、私立聖祥大附属中学校。

「フェイトちゃん、またね~。」
「うん、また明日。」

授業も終わり、昇降口は帰路に着く生徒達で賑わっていた。
その中でも、一際目立つ金髪の少女、フェイト。彼女は女子学部の中でも、トップランクの容姿を誇るだろう。
最も、フェイトは鈍感であるから、気がついていない。

「…相変わらず、フェイトちゃん、可愛いよなぁ。」
「だな。しかも、今日は、時々…ふっと、沈んだ表情してんだよな。…そこがまた、良いんだよなぁ。」

同じく昇降口から出てた、男子学部の生徒達が、遠めで彼女の事を噂していた。
小学校から一緒だった生徒達は、彼女の事は見慣れているのだが、他校から来た生徒にとっては、眩しく移る。

「いいよなぁ、閃は。…フェイトちゃんと、簡単に話せる仲だもんなぁ。」
「んで、いきなり俺が出てくんだよ。」
「転入してきた時だって、簡単に話してただろ。しかも、シュテルちゃんとも、凄まじく仲良いみたいだし?」
「噂じゃ、シュテルちゃんだけでなく、フェイトちゃんとも付き合ってるとか…。なぁ、マジか?」

帰ろうとしていた閃を見つけ、男子生徒達はジトッとした眼を彼に向けていた。実際、彼の周りには、なのはやフェイト達と言う、可愛らしい少女達が多い。
現に、閃の恋人だのなんだのと、噂される事もあるが、本人達は普通に否定している。
閃に至っては、眉間に皺を寄せ、口を開けて「はぁ?」とまで言う始末だ。

「んな訳ねぇだろうが。…お前ら、あいつの存在、忘れたわけじゃ無いだろうな?」
「……やっぱりかぁぁぁ。海外に行っても、あいつの存在は強いんだなぁ。」
「思ったんだけどさ、あいつ…もっと可愛くなってんのかな…?」
「…やめてくれ。あれ以上、可愛くなってたら、俺、正気保てないぞ…。」
「男に可愛い言うなっての。あいつ、落ち込むぞ」

ため息を零し、小学校時代の同級生を思い出させる。まあ、小学校から同じだった連中は、彼女達の好意を抱いている人物の存在を知っている。
だからこそ、彼らは遠くから眺めてるしかないのだ。…あんな「ぼくのかんがえたさいきょうのしゅじんこう」な人間が、ほいほい居たら洒落にならない。
そんな男子生徒達が見守る中、校庭でサッカーをしていた1人の男子生徒が、フェイトに駆け寄っていった。

「…おい、あれって、サッカー部主将の、村田だよな。」
「あぁ、そう言えば、あいつフェイトちゃんの事、狙ってたっけなぁ。」
「ふ~ん。…まぁ、結果は見えてるけどな。」
「…賭けるか?」
「アホ、賭ける対象にすらなんねっての。」
「まっ、確かにな。…閃、帰りにオーメル・チキンに行かね?」
「パス。リリンにシュテルが予約済みでな。」
「お前もか…お前もなのかぁぁぁ!!!」

ヒラヒラと手を振ると、閃は足早に行ってしまった。
リリンは年下であるが、その天然とデレデレの態度で、他の男子生徒達にも人気がある。そして、シュテルはクーデレと言う奴なのだろうか。
見ていて、こちらが恥かしくなるような事を閃にしている。…最も、されている本人は耐性が着き始めているので、動じなくなってきた。
…まぁ、何を言いたいのかと言うと、2人は閃一筋であり、他の男子生徒は眼中にないらしい。
後ろでは、残された生徒達が後姿に野次を飛ばし、そして、フェイト達の様子を窺う。
確かに、村田と呼ばれた男子生徒は、イケメンである。恐らく、女子生徒の中には、彼に想いを寄せる人物も入るだろうが…。
数分話したような2人だが、フェイトは困ったようにして頭を下げると、その場を立ち去ってしまった。後には、信じられない、という顔をした村田が残ってしまった。
やっぱりか…と言った様子で、見ていた男子生徒たちは歩み寄ると、残念そうに肩をポンと叩く。

「…俺が振られるなんて…嘘…だろ?」
「まっ、ドンマイ。…いくら、お前がイケメンで良い奴でも、彼女は無理だよ。」
「…なんで、お前らは達観したようにしてるんだ…?」
「…あぁ、お前は中学からだったか。…小学の頃にな、居たんだよ。」
「性格が良くて、顔が凄まじく良くて運動も出来るハイスペック人間がな。…ちなみに、フェイトちゃんの義理の兄ちゃん。」
「…俺は義理の兄に負けたってのか…!?」
「しかも、フェイトちゃんだけでなく、レヴィちゃんとなのはちゃんも、そいつに惚れてんだよ。…まっ、何時か、実物みたら分かるだろ。」



孤島沖合い、マリーゴールド艦橋

「ISAFブレイズが、渓谷エリア一帯の敵勢力を排除。クォックス陸戦隊、進撃を再開。ISAFチョッパーと合流を確認。」
「ワーロック陸戦隊、海岸部防御陣地制圧に梃子摺っている模様。」
「スカイキッド、アバランチより援護要請。ジャマー、スネークピットの護衛部隊損害増大。付近の空戦部隊は急行せよ。」

艦橋内ではオペレーター達が忙しなく、前線の状況を報告していた。
艦長のケニス・ジョーンズは軍帽を眼深に被りなおすと、モニターに視線を移す。

「予定通りとは行かないが、それでも進んでいるな。」
「はっ。速攻作戦及び、空戦部隊と陸戦部隊の連携が取れているからかと。」
「ふむ…ISAF…か。案外、眉唾物ではないのかもしれん。」

彼が敬愛するハーリング、アンダーセンが後見人となっているISAF。彼とて、全部信じていたわけではない。
だが、こうして全空域をカバーしている彼等の能力を知ると、信じてしまいたくなる。全ての部隊の統合を…。
その時、マリーゴールドが大きくゆれ、警報が鳴り響いた。

「何事だ!!」
「敵対艦ミサイル、左舷に着弾!!損害は軽微!!」
「対艦ミサイルだと…。連中はそんなものまで持っているのか…!!」
「第二波、第三波接近!!」
「迎撃用意!!ファランクス、撃ち方初め!!」

海面擦れ擦れで飛んでくる数十発の対艦ミサイル。如何に、次元航行艦であり、優秀な防御フィールドを備えているとは言え、直撃は避けなければまずい。
轟音と共に、ファランクスが銃弾を吐き出し、ミサイルを迎撃していく。

「迎撃確認…。いえ、一つ、撃ちもらしました!!迎撃…間に合いません!!」
「総員、衝撃に備えよ!!」

艦橋に緊迫した空気が流れ、乗組員達は何かにつかまるなどして、衝撃に備える。
しかし、その空気を打ち破るかのように、通信機からは、力強い声が聞こえてきたのだ。

≪シュトリゴン1、狙い撃つ!!≫

光線がミサイルを撃ち貫き、マリーゴールド着弾前に水柱を発生させ、爆発した。

≪こちらシュトリゴン1。マリーゴールド、被害はないか?≫
「こちら、マリーゴールド。損害無し、シュトリゴン1の援護に感謝する!!」
「…数キロも離れた前線から、ミサイルを狙撃する…か。恐るべき腕前よ。」




ストラグル本拠地、孤島。


≪こちらスカイアイ、シュトリゴン1。見事な腕前だ。≫
≪お褒めに預かり光栄だ。この位、朝飯前だよ。≫

イリヤは連結し、ロングレンジライフルモードに切り替えていたノスフェラトを、通常の二挺ライフルに切り替えスカイアイの通信に答える。
一発で海面を飛行するミサイルを、撃ち落す程の精密射撃。それすら彼は余裕で、乱戦であってもこなした。
それは、イリヤの類稀な才能と、幾多の日々も積み重ねてきた努力、ケストレルで養った経験が支えているのだ。

≪現在の状況は?≫
≪少し待て…。管理局、クォックス陸戦隊、ミッド政府、αチーム、βチームは順調に侵攻。
ワーロック陸戦隊は、海岸部。ドラゴンバスターズ陸戦隊は、山岳部防御陣地の制圧に移っている。≫
≪遅れているのは、ワーロックか?≫
≪そちらには、メビウス1。空戦部隊の援護には黄色の13を向かわせた。シュトリゴン1は現空域で、狙撃を行ってくれ。≫
≪了解した。…あれが、ミサイル砲台…か。≫

再びロングレンジライフルモードに切り替えると、イリヤはスコープを覗き込む。
その視線の先には、カモフラージュされたミサイル砲台があった。そこから白煙の尾を引きながら、ミサイルが発射され前線に突き刺さる。
素早くイリヤはライフルを構え、照準を合わせ、ロックオンカーソルを重ねると、光線のような魔力弾で砲台を撃ち貫く。
砲台を狙撃されたのに気がついた魔導師が、地上から対空魔法をイリヤに向かって放ってきた。
二挺ライフルに切り替えると、魔力刃を展開し弾き飛ばしながら、今度は弾丸の様な魔力弾を地上に撃ちこむ。

「狙撃だけだと思ったら、大間違いだぞ?」

余裕と言った様子で、12個の魔力球--ADMM--を展開。索敵するかのように、彼の周囲を漂った後に、12個の魔力球がそれぞれのターゲットに襲い掛かっていく。
地上に居た魔導師達に命中すると爆発を起こし、容赦なく命を刈り取っていく。

「戦いほど、悲しい物は無く…戦う者ほど、空しき者も居ない…か。」

自嘲気味に呟くと、再びスコープを覗き込む。今の自分はシュトリゴン1。尊敬する師、ヴォイチェクより、この名を受け継いだ。
ならば、それに恥じぬ戦果を上げねばならないだろう。





高高度上空。

≪こちらスカイキッド、ネクス1、ネクス2が落ちた!!≫
≪くっそ…増援はまだなのか!!≫

敵魔導師を叩き落し、アバランチは悪態を放つ。そんな彼の目の前を砲撃魔法が通過し、避けなければ落ちていた。
常に身体を動かしていなければ、攻撃を受ける。今は、何処から攻撃されてもおかしくない状況だ。
彼らに護られるようにして、スネークピット--ガイ・スチュワート--は器用に攻撃を避けながら、支援魔法--敵誘導弾低下、味方誘導率上昇--を使用している。
そのお陰で、アバランチ、スカイキッド等は数で上回るストラグルと戦えている。だが、それでも物量は敵の方が多い。
ましてや、大量のガジェット、ヘリと妨害魔法ではどうしようもない物だ。

≪こちらスカイアイ、黄色の13が急行している。…遠距離砲撃を行う、表示される空域の魔導師は退避せよ!!≫
≪了解した!!退避だ退避!!≫

スカイアイの通信を聞き、スカイキッドは急いで戦っていた場所から離脱する。敵魔導師がなにやら怒号を上げているが、聞く暇は無い。
全員が射線上から離脱するのが確認されると、金色の極光が敵魔導師、ガジェットを飲み込み奔り抜ける。
放たれた方を見ると、ライデンを構えターミネーターに膝立てで乗っているアーサーが見えた。
その両脇を飛行してたバル・バス・バウが、魔力刃を展開し、ガジェットを切り裂き、ヘリのコックピットを貫いていた。
その攻撃に浮き足立った魔導師達に、再びアーサーが砲撃魔法を撃ち放つ。その魔力の奔流には誰も逆らえずに落ちるのみだ。

≪こちら黄色の13。遅くなった。≫
≪いや、良く来てくれた!!さっきの砲撃魔法で、粗方落ちちまったみたいだが…また来たぞ!!≫

安堵したのも束の間、スカイキッドが指差した方向から多数の熱源が接近していた。
しかし、その中でも一際大きな熱源を感知したアーサーは、眼を細める。

≪あれは…。≫
≪こちらスカイアイより、黄色の13へ。大型の生体兵器ディソーダーを確認。ロスカナス山脈でメビウス1が交戦した生物兵器と同個体の模様。
他部隊に損害が出る前に、撃破せよ!!≫
≪こちら黄色の13。了解。…スネークピット、対ミサイルジャマーの使用を要請する。≫
≪了解した。展開中は、アバランチ、スカイキッド、護衛を頼むぞ。≫
≪任せておけ!!≫
≪黄色の13。気をつけろよ。≫



スネークピットの護衛に戻っていく2人に答え、アーサーは眼前のディソーダーに眼を向ける。

≪黄色の13へ、このタイプのコードは、リュシオルとなっている。≫
≪了解した。略すと、蛍か。≫

リュシオルがアーサーを捕捉し、背部からミサイルを放ってきた。ターミネーターから離脱し、アーサーは迎撃体制を整えライデンの砲撃で、ミサイルを一掃する。
煙で視界が遮られるが、リュシオルがその中から巨体を現し、ゆっくりとこちらに向かってきていた。
刹那、リュシオルから膨大な熱量の砲弾--グレネード--が放たれてきた。

「グレネードランチャーだと…!?なんて物を搭載させている。」

それには、流石のアーサーも驚きを隠せなかったようだが、誘導性も何も無いグレネードを回避するのは容易な事だ。
飛来してきたグレネードの上をすれ違うようにして、リュシオルの頭上を取る。
放たれたミサイルも、バル・バス・バウで切り裂き、爆風は己の強固な障壁で防ぎ、ライデンの魔力刃をリュシオルの頭部に突き刺す。


「確かに、驚異的な火力だが…それだけだ。」

膨大を魔力が流れ、不可に耐え切れずにリュシオルの身体に罅が入り始めた。
しかし、それでも動こうとするのは、人工で作られた生命の足掻きか。彼はその足掻きに終止符を打つように、ライデンに魔力を集め、金色の極光を生み出す。

「歪められた生命は、塵と消えよ。…お前は、空に居るべきではない。」

何度目か分からない極光が空を駆け、歪められた蛍は塵となり、空に消えていった。






本拠地内部

コンコン--
「ん?…なんの音だ?」

静かな廊下に響いた壁を叩く音。
警戒していた兵士が不審に思い、音のした方向をみる。しかし、通路の曲がり角から聞こえてきたらしく、何も見えない。
ここまで進攻はされていないが、工作部隊かもしれない。…しかし、味方を呼んで何も無かったら、赤っ恥だ。
兵士はマシンガンを構えると、慎重に足を進め…曲がり角を曲がる。

「…なんだ、気のせいか。」

しかし、曲がり角の向こうは行き止まりであり、掃除用のロッカーと、無造作に放置されたダンボールがあるだけだ。
ため息を零し、ふたたび警戒ルートに戻ろうとした兵士だが、天井--パイプの上--から、手が伸びてきて、兵士の頭と下顎を掴み…ゴキ。
首の骨を折られた兵士は、力なく崩れ倒れた。

「よし、排除排除っと。」

スタ--と静かに天井から下りてきたナイツは、兵士が事切れているのを確認すると、マシンガンやマップを奪う。

「…ぷはっ!!うへ~、ロッカーの中、凄い臭いっすよ…。」
「く、どこからこのダンボール、出したんだ。」

掃除用のロッカーの中から出てきたウェンディは、少しげっそりとした表情をしている。…雑巾やら、モップの匂いが酷かったのだろう。
そして、ダンボールの中からはトーレが出てきた。ロッカーに入れなかったので、ダンボールを被っていたようだが…何処から出したのか、疑問である。

「しかし、やべぇ。スニーキング超楽しい。」
「…首の骨を折っておいて、よく言うな…。」

何故か爽やかに笑みを浮かべるナイツとは対照的に、トーレは床に崩れている兵士の死体に眼を向けた。
躊躇なく、鮮やかに首の骨をへし折る彼に、少しの恐怖感を覚える。…彼に反旗を翻したら、自分もこうなるのだろうか…?

「安心しろ。お前を鳴かせるのは、ベットの上前が見えねぇ。」
「ひひ、人が真面目に考えているときに何処を触っている、貴様はぁぁぁ!!」

トーレの考えが顔に出たようで、そんな事はないぞ。と言う様に、ナイツは彼女の腰に手を回して抱き寄せる。…さり気なく、尻にも手を回している辺り、スケベも良い所だ。
まぁ…それで彼女が大人しくなるはずも無く、鉄拳が顔面にめり込むのは、何時もの事である。

「…ドクター、帰りたいッス。…なんか、イチャイチャされてるんスけど。」
『…諦めも肝心だよ。…はぁ、白髪が増えそうだ。』

ギャグ漫画よろしく、顔に縦線が入るウェンディと、通信機の向こうから疲れ切ったジェイルの声が聞こえてくる。


「まっ、冗談はおいといてっと。…ふむふむ、ここがプラントで…司令室…は、あいつらに任せるか。」
「まったく、さっさと破壊して離脱するぞ。…先ほどから、爆発音が近づいている。」
「見たいッスね。…ナイツ兄のオリジナルも戦ってるんスよね?」

静かに、素早く廊下を移動しながら、どこかのほほんとしているウェンディ。まぁ、この2人の兄姉はとても頼りになる。
正直に言うと自分は着いて来なくても良かったのだが…2人っきりにすると何が起こるか、分かったものではない。相思相愛バカップルは厄介なのだ。

「だろうな。苦労も絶えないだろうし、大変だなメビウスは。」
「…少しはその真面目なオリジナルとやらを見習え。」
「……トーレ、今夜は寝技の訓練な。」
「ぜ、絶対にやらない。やらないからな!!この生殖鬼が!!」
「色々とギリギリな台詞をありがとう。…自分で言って、照れるなんて本当に愛いやつよなぁ、トーレは。」
「黙れ!!いい加減にしないと、その顔面陥没させるぞ!!」

顔を真っ赤にして、走りながらナイツを殴ろうとするトーレだが、ギャグ補正の塊の彼が当たるわけが無い。

「いやか。なら、ウェンディ、お前がするか?」
「え…いいいい、良いんスか!?勿論、するッス!!」

隣を走るウェンディに話すと、こちらは別な意味で顔を染め、潤んだ眼でナイツを見つめる。…とことんだな、この変態紳士。
…が、そんな彼女の反対側を走るトーレの視線がギンと音を立てて、彼女をにらみつけた。

「…スイマセン、キョウミタイテレビガアルンス。」
「なんだ残念だな。…言葉がカタカナになってないか?」
「キノセイッス。」
「ナイツ、無理だと言ってるんだから、いい加減にしろ。…ど、どうしてもと言うなら、私が手伝ってやらんこともないぞ?」
「…トーレ姉、素直じゃないっスよね…。と言うか、あたしのチャンス~…!!!」




本拠地 司令室。


「ここまで攻め込まれるなんて、ね。」
「…く…最早、脱出するしかないか。」

モニターの前で、ガン…とキーボードを拳で叩く1人の男性。恐らく、彼がストラグルのリーダーなのだろう。
その彼の後ろに佇むフードを被り仮面を着けた青年。こちらは逆に、愉快そうな音が声に含まれている。

「まぁ、別にお前らがどうなろうと、僕には関係無い事だから、どうでも良いんだけどな。」
「なん…だと…!?俺達は貴様の指示通りに行動してきたんだぞ!?その俺達を切り捨てるってのか!?」
「当たり前じゃないか。僕が金を出してたんだ。…雇われ兵如きが、雇い主に口答えなんてするもんじゃないよ?」
「貴様ぁぁぁ!!!」

激昂した男性が仮面の青年に掴みかかろうとした瞬間、青年の瞳が赤い光を持つ。
それを見た途端に、男性は金縛りにあったかのように身体が動かなくなってしまった。
魔法とも異なる別の手段に男性は困惑を隠せない。

「なにを…なにをした…!?」
「お前には、最後まで役に立ってもらおう。」
「や、やめろ…やめてくれぇぇぇ!!!」

伸ばされた手が男性の顔面を鷲掴みにし、愉快そうに細められた眼が、大きく開かれ赤い光が強さを増し始めた。
徐々に、男性の身体に黒い靄が集まり…飲み込んでしまった。
飲み込んだ靄が数秒ほど蠢き、その中に居る男性の中に吸い込まれていく。
黒い靄を纏わりつかせ、項垂れていた顔を上げた男性。その顔、黒いラインが走っていた。
そして、男性は青年の前に片膝をつき、静かに指示を仰ぐ様にして待っている。

「くくく…ははは。さぁ、行け、馬鹿で愚かで間抜けに、あの男をズタズタに引き裂いてこい。」

青年の言葉を聞き、男性はモニターに移っている青年--メビウス--を見ると、静かにモニター室から出て行った。
その眼は、血の色のように紅で染め上げられている。

「…これが、これが僕の力か…!!くくくく、ははははは!!!最高だ、最高じゃないか!!」
『気に入って貰えたようだな。』

愉快そうに哂っている青年の側に、突如として黒い球体が表れる。それは、虚数空間に潜む物-ダイモン。

『その力があれば、人をお前に忠実なる兵士に…シャドウに変える事ができる。勿論、ただの洗脳、催眠にも使えるだろう。』
「催眠…そして、洗脳…!!素晴らしい、素晴らしいじゃないか。この力を使えば、僕は主人公に…王になれる。
催眠か。…ははは、なのはに使えば…僕の愛の奴隷にできる!!…」

狂気の哂いと、下劣な妄想を抱きながら青年は転移魔法で掻き消える。

『…使える物は、全て使わねばな。さて、愚かなる道化よ。貴様は何処まで、踊り続けてくれる?くははは…。』





あとがき

先生…誰かと誰かの…甘い話が書きたいです。…誰を書けば良いのか、教えてください…!!(おい。

さて、物凄く間隔があいてしまいました。
いやはや、文章が良い様にまとまらず、何時もの様にグダグダでしょぼい内容になりました。
次回でバンカーショット作戦は終了です。ISAF編自体はまだ続ける予定です。
新人補充とか新キャラとか出して行きたいのですが、作者の実力が絶望的なので期待は禁物です。



[21516] 季節ネタ 体育祭特別企画
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/05/11 21:57
季節は運動会。ならば、この企画をするしかないでしょう!!と言う、作者の暴走から生まれました。
まぁ、騙して悪いネタなんでな。がっかりしてもらおう。
それでも、いいぜ!!と言う、心がオカン級の方はどうぞ。
本編とは一切関係ない時間系列となっています。メビウス達も海鳴に留まったままです。
中学~高校の姿でご覧下さい。













季節は春。運動するには、とても快適な気候である。
さて、ここ聖祥大学付属でも運動会と言うか、体育祭と言うか、そんな物が行われる事になった。

「さて、諸君。ここに集まってもらったのは、他でもない。」
「明日、行われる体育祭の作戦についてだ。」

イケメンだが、フェイトに恋したが為に失恋人生を歩むサッカー部主将、村田が地面に枝で体育祭の内容を書き始めた。
その隣には、メビウス達とは小学校以来からの付き合いである千田が、一撃必滅と書いた鉢巻を締めている。

「我が白組、2年3組は宿敵、2年4組と紅白に分かれている。」
「それすなわち、日ごろの恨みをブチマケテ、ブチ当てて、どっちが優れているのか決める絶好の機会というわけだ!!」

無駄に燃える2人を他所に、集められた--と言う名の連行--他のメンバーは少し冷ややかになっている。
勿論、その中には、運動部最終兵器オメガ・ガウェインの姿、生徒会副会長、帝閃。そして、男女共に人気投票連覇中のメビウス・ランスロットの姿もあった。

「…千田は分かるけど、村田ってあんなに暑苦しかったっけ?」
「知らん。つか、宿敵でもなんでもないだろ、アホ。」

何時もの如く、苦笑するメビウスと心底呆れた閃。千田とは長い付き合いだが、やはり疲れるようだ。

「おいおい、2人とも、宿敵とかはどうでも良いけどよ。折角の体育祭、楽しもうぜ!!」
「オメガの言うとおりだな。まっ、こっちにはメビウスとお前が入るんだし、なんとかなんだろ。」
「甘いな、帝!!向こうには、バスケ部主将、大沢、陸上部エース黒崎がいるんだぞ!!」
「顔がちけぇよ!!つばを顔面に飛ばすなっての!!」

ぶるああ的な勢いで顔面を近づけてくる千田の横っ面を閃は、掌底で張り倒した。
閃の突込みが上手い具合に命中したらしい千田は地面に倒れ、なにやら悶え苦しんでいるが、誰も相手にしない。悲しすぎる男、千田。

「確かに、あの2人は凄いけど、村田の足なら勝てるのでは?」
「まぁ、俺の脚なら勝てるだろ。…だがな、あいつらは今年の体育祭は気合が違うらしい。」
「What?あいつら、なんか賭けてるのか?」

村田は深刻な顔つきで、大沢と黒崎の強固な決意を思い出す。それは、村田も持っているある種の決意。
そして、それを為すには、とてつもない敵を倒さなければならない。

「気合の入ったあいつらの身体能力は驚異的だ。しかも、大沢は高町さんに、黒崎はバニングスさんに、後夜祭で告白するらしい。」
「なん…だと…。アリサに告白だぁ…?」
「…へぇ。なのちゃんに…ですか。」

それを聞いた瞬間、オメガの笑顔が消え、メビウスも眼をスウっと細める。…どうやら、村田の策略どおり、2人のスイッチが入ったらしい。
まぁ、2人が告白しようとした事は事実であり、メビウスとオメガに勝てたら…と言う目標付きだ。

「…村田、大沢は私に任せておいて貰いましょう。…負けませんから。」
「よし、黒崎は俺が倒すぜ。…絶対に負けないんだぜ…!!」

オーラを纏う2人に、他の男子生徒達は「本気モードキタ!!」「メインスイッチ着たコレ、これで勝つる!!」とか好き勝手にほざいている。

「…まぁ、どうでも良いんだが…誰がどの種目に出るんだよ?」

何時もの如く、閃の冷静な突っ込みは謙遜に消えていった。




体育祭、当日



「ん~、良い天気でよかったですね。」
「だなぁ。…次は100m走か。」

体育祭進行委員の放送を聞きながら、オメガはプログラムを捲った。
晴れ渡った青空の中には、太陽が輝きとても気持ちの良い陽気を放っている。
白組の陣地で、2人はこれからの対策を考えているらしい。

「点差は、そんなに離れていませんか。」
「おう、100m走が鍵になりそうだな。後は一発逆転最終種目の、借り物障害物競争が重要になるな。」
「そこまでに、差を付けられたら良いのですが。」

オメガのプログラムを覗き込んだメビウスだが、ふっと日の光が遮られた。なんだ?と思い、顔を上げると…。

「メビウス君、何見てるの?」
「あぁ、なのちゃんですか。いえ、これからのプログラムの確認と、対策を練ろうかと。」
「ほへぇ~、凄いね。あ、隣良いかな?」
「えぇ。どうぞ。」

白い半そでのシャツと、短パン姿のなのはが、メビウスの前に立っていたのだ。その影で日の光が遮られたらしい。
メビウスの隣に座ると、彼女もオメガの持っているプログラムを覗き込む。…オメガ・メビウス・なのは。と言う感じに座っているので覗きこむのはかなり無理があるのだが、
…まぁ、唯単にメビウスに密着したいだけなのだろう。…ちなみに、なのはの温もりと柔らかさを、極力意識しないようにしているメビウスの姿は…涙ぐましい。
ちなみに、彼女もメビウスと同じ2年3組であるので、同じ白組だ。最も、フェイトやレヴィも同じなのだが。

「…メビウス君、少し汗かいてるね、疲れてない、大丈夫?」
「えぇ。問題ありませんよ。…えっと、なのちゃん、少し離れて…ああもう、そのままで良いですから、泣きそうにならないでください!!」

離れて、と言った瞬間に涙目になるなのはに、焦りながら全面降伏のメビウス。…それを聞いて、背中にゴロゴロとすりよる彼女の頭に、猫耳が見えたのは気のせいではないだろう。
それを見ている他の生徒達の反応は様々だ。

「…相変わらず、あいつらラブラブだよなぁ。」
「いいなぁ、メビウス君とくっ付けるなんて、なのはちゃん達の特権だよね。」
「なのは、そのポジション、僕と変わって…」
「…おい、あの男子誰だ?」
「さぁ、なんかメビウスの写真を撮影してるけど…。写真部じゃね?」


「次は女子の100mそうだね。…あっ、フェイトちゃん達の出番だよ!!」
「レヴィが第一走、フェイトが第二走ですね。応援に行きましょう。」
「うん、ほらほら、メビウス君はやく速く!!」
「はいはい、ほら、一緒に行きましょう。」

彼の手を握り、なのははメビウスを引っ張っていく。その後ろでは、何時もの如く、明るい笑顔を浮かべてオメガが見送っていた。






「…すう…はぁ。」

静かに息を吸って、余計な熱と一緒に空気を吐き出す。見るのは、目の前だけ。
歓声を耳にしても、高鳴る鼓動を押さえ込む。左右には、白いライン。横には、私と順位を競う他の女子生徒。


「位置について。」

係りの生徒の声を聞いて、私は静かに腰を落とす。鼓動がさらに高くなる。けど、それが逆に心地良い。

「よ~い。」

脚の裏に力を込めて、地面を蹴るのを今か今かと待ちわびている。しっかりと感覚を掴み、腰上げてクラウチングスタートの姿勢に持っていく。
他の走者は視界に入らず、かき消して…。目指すのはゴールのみ。
一番最初にテープを切る事を想像し、それを現実にするために走るだけ。


「どん!!」

パン--と乾いた火薬の炸裂音と同時に、私は地面を蹴る。
全力で全身を前に押し出す。私の金色の髪が後ろに流れて、金色の光が残るよう。
ただ、前に前に、速く、速く風を切る。集中しているから、時間の流れが遅く感じて、私だけが走ってるような感覚を感じる。
最後の一蹴りで、白いテープを切って、緩やかに速度を落とすと、時間の流れが元に戻る。

「わ~い、フェイトやったね!!」
「きゃ…もう、レヴィ、いきなり抱きついたら危ないよ?」
「だって、僕も1位だったしフェイトも1位だよ!!これで、得点沢山もらえるんだもん!」

抱きついてきたレヴィに、笑いながら答える。彼女も、1位の旗を手に持っていた。
これで、赤組とは点差が付いたはず。…凄く高揚してるのも感じるし、凄く楽しい。
空に輝く太陽はもう中天。そろそろお昼の時間だね。

「レヴィ、そろそろお昼だし、お母さん達の所に行こ。」
「もう、そんな時間か~。楽しいから、あっという間だね!」
「うん。ほら、お兄ちゃんも待ってるから急ごう。」
「おっひるごっはんはなぁにっかな~♪」



グラウンド 木陰


「2人とも、1位おめでとう。」
「あ、お兄、見ててくれた!!」
「えぇ。かなりの差を付けての1位でしたね。凄いですよ。」

先にシートに座っていたお兄ちゃんは、水筒から注いでくれた麦茶を渡してくれる。
そっか、見ててくれたんだ。…嬉しいなぁ。

「えへへ、頑張ったんだから、もっと褒めて褒めて。あ、そだ。今夜、ぎゅっ~てしてね。」
「あはは、その位なら良いですよ。…フェイトもしますか?」
「あ…う。…その、一緒に寝てくれる…?」
「ふふ、フェイトが嫌でなければ。」

そう言って、私とレヴィの頭をお兄ちゃんは交互に撫でてくれる。…どんなに大きくなっても、これは大好き。
顔を真っ赤にして、私は麦茶の入った紙コップを口に運ぶ。…レヴィは幸せそうに、笑ってるね。…少し羨ましいかな。

「やれやれ、我が子供たちは、相変わらず仲がいいな。」
「仲が良いのはいい事よ~。さ、みんなお弁当を食べましょう。」

お父さんがボックスから、重箱を取り出してシートの上に広げる。…相変わらず、お父さんの料理はおいしそう。
あ、少し焦げてる玉子焼きは、きっとお母さんの手作りだね。

「ほいフェイト、お絞りだよ。」
「ありがとう、アルフ。…見ててくれた?」
「勿論。大きな声で応援もしてたよ。ほら、レヴィも。」
「あっりがと~。」

アルフからおしぼりを受け取って、手を綺麗に拭き取る。そっか、応援しててくれたんだね。…集中しすぎてて聞こえなかったなぁ。

「まっ、フェイトの事だから、集中し過ぎて聞こえてなかったんじゃないのかい?」
「な、なんで分かるの…!?」
「何年一緒に居ると思ってるんだい。」

アルフはにこやかに、笑ってくれた。…うぅ、何でもばれてる気がする。

「メビウス様、こちらのお皿をお使いください。」
「えぇ、ありがとうガルム。…ふふ、応援、聞こえましたよ。」
「聞こえてましたか、良かった。メビウス様の勇姿は、しっかりと撮影しておきましたので、後で纏めておきます。」
「ふふ、そこまでしなくても良いのですが…あまり無茶はしないでくださいね。」
「御意。」

…お兄ちゃんとガルムは本当に心が通じ合ってるみたい。お兄ちゃんはガルムに最大級の信頼をおいてるし、ガルムは絶対の忠誠を誓っている。
けど、別に私がアルフに、そう言う事を望んでるわけじゃない。お母さんが言うには、私とアルフは姉妹みたい…て事らしい。
別にそれでも構わないし、私はそれが良い。アルフとはずっと一緒に側に居てくれて、側に居るって約束をしてるから…姉妹って事は凄く嬉しい。

「ん、なんだいフェイト。あたしの顔になにかついてる?」
「ううん、なんでもない。あ、おにぎりおいしそう。」
「おかしなフェイトだね。…そのおにぎり、あたしの手作りだよ、ほら沢山食べて午後も頑張って。」




白組陣地



「さて、次は棒倒しだな。」
「午後一に一番ハードな奴を持ってくるか…普通…。」
「今年の実行委員会は、ハッチャケてますからね。とりあえず、作戦を立てましょう。」

呆れた様子の閃を中心に、棒倒しに参加する男子生徒達は円陣を組んでいた。
棒倒しは敵陣の棒を倒せば、勝利という比較的簡単な内容だが…ほぼ肉体言語の交し合いとなる。
怪我人が出ないように、グローブの着用が義務付けられているが…どこか間違っていないだろうか。

「とりあえず、村田達は右側か突撃部隊を攻撃してくれ。あっちは、黒崎が張ってる筈だ。うまくおびき出して欲しいな。」
「よし、任せてくれ。…黒崎か、陸上部のエースが相手なら、不足無い。」

気合十分の村田。黒崎とは100m走でも同着だったので、ここで決着を付けたいようだ。…ちなみに、タイムではオメガがブッチギリなのは当然である。

「オメガは中央で、赤組の迎撃だ。一番、しんどい所だが…」
「ハッハー、俺に任せとけ、せぇぇぇん!!」
「言うと思ったよ。頼むぞ、ガーディアン。」

拳を掌に打ちつけるオメガを見て、閃は口元に笑み浮かべる。オメガが居るなら、中央は簡単には突破できないだろう。

「メビウスは千田と一緒に左側から大回りで、棒を狙ってくれ。…多分、抑えてるのは重量クラスだが、倒さなきゃ負ける。」
「えぇ。勿論ですよ。なんとかしてみせます。」
「俺が居るんだから、よゆ「さあ、出撃だ!!」ちょ、俺に話させろよ!!」



棒倒し、開始。

「さて…始まりましたか。」

メビウスの視界の先では、土煙をあげながら白組の防衛部隊に突撃してくる、赤組が見えた。
右側に展開していた村田部隊が、突撃部隊の横っ腹に攻撃を仕掛けるが、黒崎部隊がどうやらまとまりがあるらしくうまく崩せない。
突破しようとした赤組は、悉く、オメガの攻撃で宙に舞い迎撃されているが、こちらもそれなりの被害が出てしまっている。
前線で、オメガの攻撃から逃れた赤組を迎撃していた閃が、静かに後ろ手でメビウスに合図を送ってきた。

「よし、メビウス中隊、出撃です!!」
「了解。やろうども、いくぞ~!!」

メビウスと千田を先頭に、足の速いメンバーで構成された攻撃部隊が、左側から大外回りに敵陣地目指して走り始めた。
流石に、中央の激戦に眼が行っていた前線の赤組の反応が、一瞬遅れるが後方に控えていた防衛部隊は声を上げて、こちらに向かってきた。

「邪魔です、どいてもらいます!!」

突っ込んできた男子生徒の勢いを利用し、メビウスは合気道の如く手を掴み捻り上げて地面に落とす。
隣では千田が、豪快にラリアットを決めて、白目をむいた男子生徒を吹き飛ばしていた。…これで怪我人が出ないことが奇跡である。
しかし、防衛部隊がそう簡単に突破を許すはずも無く、棒の前に集結し完全に迎撃の態勢を整えていた。

「仕方がありません…。千田!!」
「なん「肩借りますよ!!」最後まで言わせろ…って、うげぇ!?」

メビウスは千田の後ろに回りこむと、彼に向かってジャンプをして、肩に足を乗せて、再び高く飛ぶ。所謂、俺を踏み台にしただとぉ!?である。
彼の運動神経と、速度を足せば充分であり、防衛部隊の人壁を乗り越え、棒を持っていた重量級男子生徒の顔面を…容赦なく踏みつける。
しかも、それだけで止まらず、その男子生徒をまた踏み台にして、棒本体に攻撃を加えたのだ。

「ガルム直伝、飛び回し蹴り!!」

突然の上からの攻撃と、支えが1人失った状態での攻撃は、とても効果的だったらしく、支えていたメンバーの体勢が崩れ、そこに突破してきたメビウス中隊が殺到する。
そうなってしまえば、もう終わりだ。最後に支えていた男子生徒が地面に倒れると、棒も静かに倒れ…土煙上げてグラウンドに横たわった。

「よっしゃ、おれた「さぁ、私達の勝利です。勝ち鬨を!!」…いわせろよ、いわせろよ!!」

何故か悔しがる千田を尻目に、メビウス達は腕を振り上げて勝どきを上げていた。





最終種目 一発逆転借り物障害物競走。



「…ここまで来ましたか。」

スニーカーの紐を結びなおし、私は軽く足を伸ばす。
棒倒しでは圧勝しましたが、その次の大玉転がしは逃してしまいました。その後も一進一退を繰り広げ、最終種目までもつれ込んだのです。
現在の点差は10ポイント差。ここで勝てば、100ポイント入るので、引き離す事も、逆転負けする事もありえる。
そして、その最後の出場者には私も含まれている。。ふふ、緊張感が凄いものですね。

「さて、行きましょうか。」

ランナー達がコースの位置に付き始め、私も自分のコース--中央--に脚を向ける。
白いリボンで髪をしっかりと結び、軽くジャンプする。…うん、身体は絶好調。これなら、勝てそうです。
しかし、問題は借り物が入った封筒の内容。好きな物をとって良い決まりなのですが、その分、面倒な物も入っている可能性もあります。

「それでは、最終種目。一発逆転借り物障害物を開始します。ランナーはスタート位置に。」

係りが、ピストルを空中に向ける。他のランナー達と同じように腰を落として、私もクラウチングスタートの体勢になる。
目指すは1位のみ。…それ以外は、意味がありません。パン-と音が響き、地面を思いっきり蹴りつける。
歓声を耳にしながら、最初の障害物--平均台--を速度を落とさずに走り抜ける。
ここで後ろの走者達とは幾らかの、差を付けることが出来ました。次は、ネット潜りですか。
頭を下げて、ヘッドスライディングの要領でネットの下に潜り込み、匍匐前進で進んでいく。
…っつ、地味に髪が引っかかるのがきついですね。…ここで時間を取るわけには行きませんが…。
地味に時間をくったからか、後続の走者との差が、詰まってしまった。…後は借り物の封筒を選ぶだけ。
ネット抜けた先の箱の中に用意されている封筒を開けて、中身を確認し、マイクで大声で宣言しなければいけないルールなのですが…。
取った封筒の中を見て、私は絶句してしまった。

「実行委員会…なにを考えているんですか…!!??」

本当に悪乗り…と言うか、はっちゃけ過ぎにも程があるでしょう…!!
…頭痛を感じながらも、ここで立ち止まる訳にも行きませんし、迷うわけもない。
後続が封筒の中を確認する間に、私はマイクを持つと…大きな声で封筒の中に書かれていた事と…借りる物の名を口にする。

「借り物の内容は、大好きな人!!なので、高町なのはさん、お願いします!!!」
「ふにゃ!?」

これ以上に無い位、顔を真っ赤にした私が宣言すると、一瞬、歓声が鳴り止み、後続の走者達も呆気に取られる。
…こ、公開処刑もいい所でしょう…これは。
出来る限り、他の生徒達を見ないように、白組の陣地で、私と同じくらい顔が真っ赤のなのちゃんの元に走り出す。

「…うう、メビウス君。心臓が破裂しそうだよぉ。」
「わ、私もですよ。…えっと、なのちゃんの事、借りていきますね。…よっと。」
「ひゃ、ひゃぁ!?え、お姫様だっこなの!?」
「こっちの方が速いんです!!あと、私が見せ付けたいだけです!!」
「ほ、本音が隠れてないよメビウス君!!」

なのちゃんをお姫様抱っこで抱きかかえると、私は再び最高速でコースに復帰する。
後ろでは、指笛の音やらお幸せに~とか、バカップル!!とかそんな声が聞こえてきますが、無視です、無視。
今は腕の中に居る、なのちゃんの安全が最優先です。最高速度なおかつ、ガラス細工を扱うように慎重に走る自分を褒めてあげたいものですね。

「め、めびうすくん、跳び箱があるよ!」
「しっかり捕まってて下さいね。跳びますから!!」
「え…ひゃあ!?」

地面を蹴って、跳躍して跳び箱を乗り越える。…どうやら、なのちゃんの前だからか、身体能力がかなり上がっているようですね。
我ながら…カッコいいところを見せたいと思っているのか…。
そして、最後は壁のぼりなのですが…ええい、面倒です。と言うか、今の私なら、普通に垂直に走り登れそうですね。

「か、壁があるけど…って、走りのぼっちゃうの!?」
「今の私は…阿修羅すら凌駕する存在です!!」
「めびうすくん、性格がかわってるよぉ!?」


垂直の壁を蹴りのぼり、着地するときは膝のクッションを使い、衝撃を最小限に止める。
そのまま、なのちゃんをお姫様抱っこしたまま、ゴールテープを切ると…待っていたのは大歓声。

「メビウス・ランスロットさん&高町なのはさん、1位です!!」

白組の陣地では、大歓声と冷やかしと祝福の声が聞こえてきますが…今は大人しく受け取っておきましょう。

「えっと…メビウス君、重くなかった…?」
「いえ、全然。羽のように軽かったですよ。」
「もぉ…メビウス君ったら。…大好きなんて言われたら…我慢できなくなっちゃうよ?私も、みんなの前で…言っちゃうよ?」

顔を真っ赤にして、なのちゃんは私の首に腕を回して更にくっ付いてきた。…彼女の温もりが本当に愛しい。

「えぇ。構いませんよ。…私も何度も言いますから。」
「…ふふ、メビウス君、だ~いすき。」

そう言うと、なのちゃんは、私の頬にキスをするのでした。


この後、フェイトとレヴィのご機嫌取りに奔走し、男子生徒達からのやっかみや冷やかし、女子生徒達からの質問攻めに苦労したのは、言うまでもありません。








あとがき


季節ネタですから、書きました。そろそろ運動会ですよね~。
晴れ渡る空の下、走り回った運動会。お昼には、冷たいお茶と、母親の作ってくれたお弁当。
それを家族みんなで食べた思い出。うん、やっぱり家族って最高ですね。ビリでも楽しんだ徒競走とか、懐かしすぎる。
と言う訳で、運動会ネタを書きたくなったので、書きました。後悔はしていない。
感想の返信は本編投稿後になります。では、またこんど。






[21516] ISAF編 11話 バンカーショット作戦3 白い閃光の通り名
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/05/17 00:55
フレッシュリフォー社所属、研究施設

「こちらが生物兵器、俗称ディソーダーのデータです。」
「あぁ、ご苦労さん。…あぁ、俺に気にせずに、解析を進めてくれ。遺伝子データ、元になった生物、生態機械の解析とか頼みたいんだが…。」
「お任せください、帝代表。こちらに予算を割いて頂いたのですから、良い成果を期待してください!!」

気合充分と言った様子で、白衣を翻して出て行く研究員を見送ると手元のデータに眼を通す。
懐かしの白衣と、眼鏡をつけた俺の頭の中は、混乱と考え事で一杯一杯だ。
ディソーダー…ARMORED COREに出てきていた生物兵器…。それがなんで、この世界に居るんだよ…。しかも、アレは作品が火星の頃だろ。
メビウスが交戦したのはリュシオルだったし…マジで洒落にならん。なんなんだ、この世界は。
…いや、既にある程度は覚悟してたけどな、ミラージュとか、クレストとかあった時点で、混ざってるし…って、諦めた。
ああ~、マジで胃に穴が開きそうだ…。

「絶対に、俺の死因は過労死か、心労死だろうな…。」
「ご安心ください、兄上様。そんな事、私が絶対にさせません。」
「うぉっ!?シュ…シュテル居たのか…。」

ガタタっと、椅子の上で体勢を崩しかけたぞ…。気が付くと、俺と同じように白衣を着たシュテルが、コーヒーカップを持って立っていた。
そのまま、カップを俺に手渡すと、そこら辺から適当な椅子を引っ張ってきて、俺の向かいに座る。

「ディソーダーの解析データですか?」
「あぁ、今のところ分かる所まで出してもらった。つっても、分からない所が多すぎるんだけどな。」
「そのようですね。…しかし、兄上様の決断力も素晴らしい。管理局からの要請を受けて、直ぐに調査部署の立ち上げ、機材の調達。
ふふ、一切の迷い無く進めましたね。」

頬に手を添えて、うっとりとした感じでシュテルは、俺の事を見つめてくる。うん、凄まじく恥かしい。
照れを誤魔化すために、コーヒーを口に運ぶが…畜生、クスクス笑ってやがる、この策士め…。

「詳細が分かれば、対策とかも立てれるんだが…今のところは、名前を決めるのが精一杯だな。」
「アーマイゼ、ビーネ、リュシオル。…まだ中型のデータは取れていないのですね。」
「あぁ、如何せん、回収した個体は、成長途中、もしくはぐすぐずに壊れてる。解析も楽じゃないな。」

ロスカナス山脈から回収した培養槽に入っていた大半の個体は、原型を止めずに成長途中で崩れた物だった。
残っていた個体も、小型の四脚の亀の様なディソーダー、アーマイゼ、それの色違いのビーネ程度だ。
大型はメビウスのデータでリュシオルと命名したが、中型のデータは一切見つからなかった。…個人的には、中型が厄介な気がする。
作中では、ある程度のスピード、ある程度の火力を持っていた。大型の様に馬鹿げたミサイルやらグレネードは搭載してないが、
中型は、どちらかと言うと白兵戦向きだった気がする。その為のレーザーブレードを持ってたのも居たしな。
…明らかに、マシンガンだと、致命傷を与えにくいだろう。…今度、特殊弾丸の作成でも、検討してみるか。
しかし、俺の記憶も古い…。色々とリリカルの世界や、転生前の記憶とか掠れて来てる。…まぁ、原作とかけ離れた世界観だから、要らんかもしれんが…。

「…そ~っと、そ~っと…。」
「おいこら、シュテル。口に出して、そ~っとも無いし、何故に俺の膝の上に乗っている。」
「いえ、白衣を着たら、こういう展開もありだと思います。それに、気が付いてないかもしれませんが、考え事をしてる兄上様は、とても魅力的なんです。」

何時の間にか、膝の上に横座りをしたシュテルが、俺の首に手を回して眼鏡を外す。…おい、ドラマとか漫画の見すぎだ。
ジーっと、見つめてくる視線に、眼を逸らすと、またクスクスと笑う。…こいつの場合は、リリンの様に明るく笑うんじゃなくて、静かに笑うんだよな。

「…リリンは太陽で、シュテルは月ってか。」
「兄上様、ロマンチストですね。月ですか…、良いですよ。暗い夜道も、兄上様の照らす月となりましょう。」

コツンと、お互いの額をくっつけて、今度は2人で笑い会う。
拝啓、生前の父さん、母さん。先立った貴方達の馬鹿息子は、転生先で幸せに暮らしています。





ストラグル本拠地孤島 山岳部

銃撃音が響き、幾多の弾丸、魔力弾が交差する。その中、姿勢を低くして木々の合間を走り抜けるフルフェイスヘルメットの人影。
人影の持つ魔力で構成されたトンファーが、ストラグル兵士の顎を下から砕き、別の兵士の首を、上段蹴りで砕き折る。

「っし、こっちは制圧したぜ!!」
「ったく、無茶苦茶しやがるな…。」

格闘戦で倒した兵士を確認すると、フルフェイスヘルメットの人物--オメガはバイザー部分を上げて、後方のドラゴンバスターズ部隊に合図を送る。
肩にライフルを担ぎながら、アンドリューはオメガの無茶苦茶さに、呆れた様にため息を零していた。
山岳部攻略を一緒に行っていたのだが、彼の極端な接近戦思考、桁外れの体力などには、本当に呆れるしかない。
他の部隊員達は、迷彩服を着込み、顔にもフェイスペイントを施して完全に密林戦闘を主眼においていた。
ちなみに、オメガのバイクは、目立ちすぎるので下に置いてきたらしい。ある程度の遠隔操作は出来るので、呼び出そうと思えれば呼び出せる。

「こっちから行けば、要塞の後方に出れるな。恐らくだが、撤退する連中も居る。」
「そいつらを、抑えるのが俺達の役割だぜ。…しかし、さっきから、なんか嫌な予感がするんだぜ。」

端末を操作して、アンドリューは現在地と目標までの距離を確認していた。要塞後方からの襲撃で、敵の混乱と撤退するストラグルメンバーの確保が役割となっている。
そしてやはりと言うべきか、後方に配備されている兵士、ガジェットの数は多くなくここまで、順調に進んでこれた。
しかし順調すぎる進軍に、オメガは違和感を覚えていた。むしろ、彼の直感が嫌な気配を感じ取っていたのだろう。

「っ…隊長、何か居ます。」
「なに…?」

先を歩いていた隊員が、手を上げて後続を止めてアンドリューに合図する。他の隊員達も、木々や岩の陰に隠れ始める。
顔を見合わせて、静かにアンドリューとオメガは岩陰から顔を出す。その視線の先には、緑色の物体が鎮座していた。
それを見た瞬間に、アンドリューの顔が歪み、小さく舌打ちを漏らす事になった。

「トニー、データ照会。分かりきってるが、一応してくれ。」
「了解です、隊長。………照会完了、ディソーダーです。タイプは小型、アーマイゼと判明。」

通信歩兵が継げた内容に、オメガも厄介そうな顔をして、足のギアの動作を確認する。どうやら、コレを使わなければいけないらしい。
緑色の物体--アーマイゼは確認するだけでも、30匹は見える。まだ起きていない、いや、起動してないと言うべきか、一向に動く気配は無い。

「さて、回り込むか…。それとも、突破するか。」
「回り込むと、時間が無くなるぜ。前線がどうなってるにしろ、俺達は時間通りに後方からの攻撃を、しなけりゃいけないぜ。」
「…そうなるな。この感じだと、あと1歩2歩進めば動きはじめるな。…総員、装填しろ。」

アンドリューの指示通りに、他の隊員達も弾丸の確認し、デバイスを構えて攻撃用意を整えていた。息を整え、オメガもヘルメットのバイザーを下ろし、トンファーに魔力を送り込む。
全員の用意が完了したの確認すると、アンドリューは指でカウントを始める、3、2、1…

「0。攻撃しろ、起動前に数を減らせ!!」

一斉に物陰から隊員達は、弾丸と魔力弾の掃射を開始する。それに一瞬送れて、アーマイゼ達も起動を始めた。
カサカサと不気味な足音を立てて、身体を上げると一斉に、細い光線--ラインビーム--をドラゴンバスターズに向けて放ってきたのだ。
岩陰に隠れるもの、咄嗟に伏せて回避する者も居れば、撃ち抜かれて倒れる者も居た。
ラインビームは、人間にとって致命傷となるのだが、アーマイゼ達にとって、マシンガンの弾は致命傷にならずに、硬い外殻で弾かれてしまっている。
唯一、魔力弾は致命傷となるのだが、魔導師の数とアーマイゼの数が釣り合わない。先ほどまで静寂だったのに、怒号、悲鳴、銃撃音が辺りを支配する。

「間接だ、間接部分を狙え!!」
「手榴弾を使う。伏せろぉぉぉ!!」
「こっちに弾寄越せ!!馬鹿やろう、ハンドガンじゃなくて、マシンガンのだ!!」
「接近戦で何匹か叩く…!!」

手榴弾の爆発で、視界が遮られるのを利用し、オメガは岩陰から、跳躍して前に躍り出る。
着地地点に居たアーマイゼの外殻を、脚甲のギアで砕き、トンファーを振るって別のアーマイゼの脚をへし折る。
接近した時の動きは緩慢のようで、オメガを撃とうとして、別のアーマイゼを撃つ、と言う同士討ちも利用して、少しずつ数を減らしていく。
パイルバンカーで砕き、トンファーで破壊しながら、オメガは縦横無尽にアーマイゼを翻弄する。

「っち、オメガ下がれ!!火炎放射器を使う!!」
「了解!!」

アンドリューの指示に従い、再び跳躍して群れの中から離脱を開始すると、オメガ目掛けて一斉にラインビームが放たれた。
その一本が、フルフェイスヘルメットのを貫き、オメガの頬に深い傷を刻み込んだ。一瞬、体勢を崩しそうになったオメガだが、直ぐにヘルメットを外してアーマイゼに投げつける。
そして、後方に着地すると、火炎放射器を構えた隊員達が、アーマイゼに火炎の洗礼を浴びせ始めたのだ。

「オメガ、大丈夫か!?」
「あぁ、少し頬が焼かれた程度だぜ。…あっちゃ~、こりゃ痕が残りそうだ…。」
「その位、口が聞ければ上出来だ。なぁに、更に男前になったぞ。…衛生兵、軽く止血しとけ。」
「はい、ガウェイン空尉、傷口を見せてください。」

粗方、アーマイゼを焼き終えると、アンドリューは衛生兵を呼び、オメガの頬の傷に止血を施させた。
ディソーダーは全滅させたが、こちらにもかなりの被害が出てしまった。しかし、まだ作戦は続いている。

「残るのは、要塞後方の制圧だ。各員、気を引き締めていくぞ。」

アンドリューの言葉に、低く返事をしながら、ドラゴンバスターズは進攻を再開した。




孤島、海岸エリア。

鉛色の空の下、爆音が響き渡る。
設置されている砲台からの、砲撃が砂地に突き刺さり、爆発、砂煙を大量に巻き起こす。
その下でワーロック陸戦部隊の隊長、ゲイリー・キャンベルも必死に戦っていた。

「砲撃確認、伏せろぉぉ!!」

誰かの声で、また頭を下げる。地響きと共に、再び火柱が上がった。宛ら、海岸は地獄絵図となっている。
大型砲台、トーチカの設置されている為、進攻が思うように出来ていないのだ。
歩兵や魔法には絶大な防御力を誇る装甲車も、砲台相手には棺桶にしかならず、大半が後方に隠れている。
上空では、メビウスが敵魔導師を相手に、戦闘を繰り広げてた。

≪スカイアイより、メビウス1。敵増援を確認した。気をつけてくれ!!≫
≪了解。…先ほどから、纏わり付いてきますね…!!≫

対峙していた魔導師をファイアで切り捨てて、メビウスにしては珍しく悪態をつく。
激戦区を担当し、尚且つ敵の撃墜数はかなりの数になる。そのまま、真下の居た戦車ににラジカルザッパーを叩き込み、爆発させて撃破した。
地上に展開していた敵魔導師達も、メビウスの存在に気が付いており、怒号を響かせていた。


「くそ…あの白い奴を落とせ!!一体、どれだけの砲台が破壊されてると思ってるんだ!!」
「無理です!!速過ぎて、捕らえきれません!!」
「畜生…あいつの下じゃ、戦車が棺桶だ…!!」

地上から、攻撃を打ち上げても、慣性を無視した機動で回避され、逆に正確無比な砲撃魔法やラプターに搭載されている魔力砲で攻撃される。
その姿は、ストラグル兵士達の士気を挫くのには時間が掛からなかった。

「凄いな。…まるで、閃光だな…。」
「はは。良いじゃないか、差し詰め、管理局の白い閃光か。うん、カッコいいな。」
「漆黒の悪魔に金色の鷲、深紅の不死者と鉄拳の騎士。そして、白い閃光か。…やれやれ、ISAF入りを志願してみるかな。」

必死で戦いながらも、ワーロック部隊の面々は軽口を叩き合う。歴戦の戦士であり、信用する仲間達。そして、空に居るのは共闘したエース。
これほどまでに、心強い事はない。再び、蒼い光が走り、砲台が爆発を起こす。

「邪魔です。落ちてもらいまますよ!!」

エクスとファイアを十字に構え、ヘリに向かってフリーケンシーを叩き込む。その威力は、ヘリを両断し、その後ろに居たガジェットまで粉砕した。
空戦魔導師と戦いながら、地上兵器の破壊は幾らメビウスとは言え、かなりの重労働だ。

『メビウス、大丈夫ですか?』
「えぇ、なんとか。最初よりは、数が減ってきたので…このまま行くと良いのですが。」

心配そうなタングラムの声に答えながら、敵魔導師の魔力刃を防ぎ、下段から切り上げたエクスで撃破する。
その太刀筋には、最早迷いなどカケラも無かった。人の死を背負い飛び続ける覚悟。その覚悟は…もう出来ていた。

≪こちらマリーゴールド、メビウス1、ワーロックへ。これより艦砲射撃を行う。着弾予想地点より、退避せよ。≫
≪メビウス1了解。現空域の敵を足止めしておきます。≫
≪了解だ。ターゲットガン、発射用意!!≫

発光性のボムを作成すると、周囲に居た魔導師に投げ付けると、眩い光が生まれ視力を奪い去る。
下では、ゲイリーの指示で、正確な着弾と誘導率を上げるためのターゲットガンが、砲台や戦車に撃ちこまれていた。


沖合い、マリーゴールド


「第2、第3艦砲、装填問題ありません。」
「角度、良し!!着弾地点、確認完了。退避率、98%。」
「魔力砲、角度上げ!!転移魔方陣、展開完了。」

大きな音を立てて、マリーゴールドに装着された砲塔が一斉に動き始める。
特に中央の実弾大型主砲と、その両脇に設置されている魔力砲が派手に動いていた。
魔力砲の前方には、転移魔方陣が展開されており、ピンポイントで前線の攻撃を加える事が可能になっている

「主砲、弾薬装填。角度良好、何時でも撃てます。」

最後のオペレーターの言葉を聞き、ケニス艦長は大きく頷き、颯爽と手を真横に払う。

「一斉掃射、てぇぇぇ!!!」

その言葉を合図に、砲塔が一斉に爆音を響かせ、鉛色の空に向けて弾薬を吐き出した。




海岸エリア


「来たぞ来たぞ来たぞぉぉぉ!!全員、伏せろぉぉぉぉ!!!!」

鉛色の空を切り裂き、現れた砲弾の雨。ワーロック部隊の面々は頭を下げて耳を塞ぎ、ショック耐性を整えていた。
空に居たメビウスも、充分な距離をとり、ラプターに内蔵されているシールドを展開すると、バイザーに閃光妨害に切り替える。
砲弾が地面に着弾するごとに、火柱が起き、地上に居た哀れな敵兵士達は宙に投げ出された。
それを逃れても、膨大な熱量に焼かれ、死のファイヤーダンスを踊る者も居た。そして、転移魔方陣から撃ち込まれる、膨大な魔力の奔流。
マリーゴールドの出力から生み出された魔力砲が地面をなぎ払い、トーチカ、砲台を消滅させていく。
そして、最後に鉛色の空を突き破ったのは、大型主砲の砲弾。それが、地面に触れれば、まるで地震の様な揺れと、耳を劈く爆音が響き渡る。
その音に、慌てて耳を塞いだメビウスだが、それでも頭に響いたようで、眉間に皺がよっていた。
砲撃が収まると、海岸は形を変え、多数設置されていた砲台も、戦車も破壊しつくされ、無残に散った敵兵士達の亡骸が残ってるだけだった。

「…本当に凄まじい物ですね。」

サテライトで周囲を索敵し、反応が無いのが分かるとメビウスは、地上に降り立つ。
ラブターから降りて、地面を踏みしめると、焦げた臭いが鼻に付く。

≪こちらスカイアイだ。敵要塞内部にクォックス陸戦部隊、及びミッド政府部隊、αチーム、βチームが突入を開始した。
後方より、ドラゴンバスターズとオメガ11の攻撃も確認。要塞陥落も時間の問題だろう。君は、敵残存部隊の…うん?≫
≪どうしました、スカイアイ。なにかトラブルでも?≫
≪…っ、高速で接近してくる反応を確認。…これは…魔導師?馬鹿な、速過ぎる…!?気をつけろ、メビウス1。敵の狙いは君だ!!≫

スカイアイの慌てた声、そして、肌に突き刺さってくる感覚を感じ、メビウスは咄嗟にツインランス形態に移行した両デバイスを振り向き様に振るう。
刹那、魔力弾がツインランスに突き刺さり、火花を散らして掻き消える。

「く…ぁぁ。なんて、反動ですか。手が、痺れました…!?」

魔力弾が飛んできた方向を見ると、メビウスに向かって高速で突っ込んでくる魔導師の姿が見えた。そのまま、速度を殺さず魔力刃を展開したまま突っ込んでくる。
ツインランスを解除したメビウスも、構えて迎撃体勢を整えて、正面からぶつかり合う。しかし、地面に脚をつけているメビウスが徐々に押し負けていった。

「馬鹿な…。こちらが、押し負ける…!?」

魔導師が無造作に手を振るい、メビウスの事を弾き飛ばし、トーチカの残骸に背中から叩きつける。
衝撃で、一瞬、呼吸が出来なくなり、視界が暗くなる。しかし、再び肌に突き刺さってくる殺気を感じ取り、咄嗟に姿勢を低くした。
頭上で、何かが砕く音が聞こえ、視界が戻ると、魔導師の腕が深々と分厚い壁を持つトーチカに、突き刺さっていたのだ。
それを顔面に食らったら…自分の背筋が冷たくなるのを感じながらも、メビウスは下段からエクスを切り上げ、魔導師の突き刺さっている左腕を狙う。
本来、魔導師、いや、人間だったら避けるはずだ。しかし、この魔導師は避ける事も、せずに右腕で攻撃してきたのだ。
その結果、切り上げたエクスで、左腕は切断され宙に舞うが、右の拳がメビウスの肋骨に突き刺さり、嫌な音が響く。
姿勢を低くしたまま、距離をとりメビウスはわき腹を押さえ込む。恐らく、数本は折られただろう。内臓に突き刺さらなかっただけでも、幸いだ。
痛みに耐えながら、目の前の魔導師に視線を移す。

「がはっ…!?こいつ、人間ですか…。左腕一本と、肋骨を賭けるとは…。どちらが、代償が大きいか分かるでしょうに…。」

しかし、魔導師は何も感じないかのように、メビウスと対峙する。切断された左腕の付け根からは、夥しいほどの出血をしているのに、まるで意に介していない。
むしろ、最初からそこには何も無かったかのように振舞う魔導師に、メビウスも恐怖を感じた。

『まさか…シャドウ…!?』
『タングラム、何か知っているのですか?』

頭に響き、タングラムの声。それは、恐怖してるようにも、驚愕してるようにも聞こえる。
何時もの彼女の穏やかな声とは違うのに、メビウスも何か知ってるのかと問い詰めた。

『哀れな翳です。戦う事しか知らず、戦う事しか出来ない存在。気をつけてください、彼らは人間ではありません。
右腕が使えなくなれば、左腕を、左腕が使えなくなれば、脚を。…痛みなど感じずに、敵を殺す事だけの存在です。』
『…後で詳しく教えてもらいましょう。…つぅ、痛みが激しくなってきましたね。直ぐに終わらせましょう。』

ズキズキと痛みが激しくなり、額に脂汗をかきつつも、メビウスは両手にエクスとファイヤを構え、翼を広げる。
こちらに突っ込んでくる魔導師の魔力刃を交わし、コマのように回転し、ブリッツトルネードですれ違い様に腹部を切り裂く。
そして、キャンセルで慣性を無視して振り向くと、エクスを魔導師に向けて投擲する。それを追う様にメビウスは翼を広げて、飛び立つる
そして、嫌な音を立てて背中に突き刺さったエクスを引き抜きつつ、背中の翼を攻撃性能に切り替えると、上半身と下半身を…断ち切る。

「はぁ…はぁっ…!!これで、死ななかったら、化け物ですね…。」

血飛沫を撒き散らし、砂地に倒れる魔導師の下半身。上半身は、翼の熱量に耐え切れずに蒸発したようだ。
しかしメビウスも、片膝をつき荒い呼吸を繰り返す、本格的にわき腹の痛みが、大きくなってきた。

≪こちらスカイアイ、よくやったメビウス1。…要塞より情報が入った。内部の制圧は完了。この作戦は、我々の勝利だ!!
…しかし、一部施設が爆薬で破壊されていたらしい。…一体、誰がやったのか。≫
≪こちらブレイズ。爆発した所は、プラントのようだ。…だが、データはきっちりと残ってる。訳が分からんな。≫
≪ふむ…データは、後で解析班に回して置こう。…αチーム、ベルツ中尉、戦果はどうか?≫
≪…こちら、コリンズ軍曹。中尉より、αチームの指揮を引き継ぎました。空戦部隊の支援に感謝します。≫
≪……了解した。皆にも、そう…伝えて置こう。≫

通信機から、沈んだスカイアイの声が聞こえ、ブレイズも静かに沈黙を保っていた。
静かに…ただ、静かにメビウスは、眼を閉じて、この地に散った勇敢な兵士と…その仲間達に祈りを捧げるのだった。




数分前、本部基地内部、プラント。






「蟲か…。ふむ、虫って書くより、蟲の方が…。」
「…また、妙な事を考えているな。…大体、貴様の考えは想像が付くが。」
「阿呆。蟲如きにお前らを触れさせるか。と言うか、そんなプレイは好きじゃない。やるなら、俺直々に愛でて鳴か前がみえねぇ。」
「…愛されてるって良いスね。」
「ウェンディ、どうやったらそう解釈をする!?」

培養層を見ながら、妙な事を口走るナイツの顔面に、再びトーレの鉄拳がめり込む。
どうやら、そう言うプレイは好みではないようだ。


≪…もう一度言うけど、爆薬をセットしたら直ぐに離脱するように。どうやら、外の決着は付いたようだよ。≫
≪アイアイサー。まぁ、いざとなったら、風で出るから問題ないだろう。…ジェイル、サンプル欲しいか?≫
≪実に興味深いけど、君の事だ。持って帰ってくる気は…ないのだろう?≫
≪勿論。こんな気色悪いのは、ひゃっはー、汚物は消毒だぁぁぁ!!!に限る。≫

一瞬、サングラスをかけてモヒカン頭のナイツが、脳内に浮かんだジェイルだが直ぐに消去する。
彼の台詞とインパクトには一々、付いていけない。

「さっ・て・っ・と。プラスチック爆弾は、どこだっけな。」
「…ナイツ兄、何でもポケットに入ってるっスね。」
「便利だろ。流れ着く前に、青い狸から貰ったんだ。」
「…そんな狸、入るわけ無いだろ。というか、設置しすぎだ馬鹿!!」
「ここ、破壊する所か、基地全部が吹き飛ぶッスよ!!」

トーレの冷ややかな突込みを無視して、ナイツは嬉々として爆薬をカプセルや、柱にセットする。
…どうでも良いが、一体、どれだけ入っていたのだろう。と言うか、1個のカプセルに、10個も付ける必要性は皆無である。
慌ててトーレとウェンディが、爆弾を剥がしてナイツのポケットに押し込む。

「…ち、花火を打ち上げる予定が。」
「目立つなって最初に言われただろう!!」
「…あ、いじけるナイツ兄、可愛いかも知れないっス。」
『ウェンディ、後で詳細と映像、私達にも見せなさい。』

地面にのの字を書くナイツの姿を、ちゃっかりと撮影していたウェンディ。ボソリと零した言葉が聞こえたのか、通信機の向こう側からドゥーエの興奮した声が聞こえてきた。
…とことん変態紳士のナイツだが、凄まじく愛されているようだ。

「…んで、データのコピーは完了したか、ウェンディ。」
「完璧っスよ、ナイツ兄!!」
「よしよし、ご褒美にデコちゅーしてやろう。」
「やったっス!!」

ウェンディの前髪をかき上げて、ナイツは額に口付けを落とす。メビウスは撫でて、彼はデコちゅーが褒美のようだ。…これも性格の差か。
コピーしたデータの内容は、ここ以外のプラントの情報と、ディソーダーの内容データ。これから、起こす『悪戯』の重要な手がかりとなる。
そのまま、フワフワと天国状態のウェンディを抱きかかえ、トーレの腰にも手を回して抱き寄せる。

「さてと、離脱しませうか。」
「く…この体勢で離脱するのか…だ、だから尻を撫で回すなぁぁぁ!!!」
「よいではないか、よいで…ばぁ!?…顎を打ち上げるな、首が抜けるかと思っただろ。」
「お前が悪いのだろ、馬鹿!!」
「…よし、では…ポチっとな。」

ふざけつつも、往年の名台詞と共に、爆破スイッチを押すと、ナイツは転移魔法【風】を起動させると、その場に風が集まり、3人を包み込む。
爆発が起きる中、風に包まれた3人の姿は一瞬で掻き消え、そこには最初から何も居なかったかのように思えてしまう。
炎がプラントを包み、盛大な爆音を響かせるのだった。









あとがき


バンカーショット作戦は、ここでひとまず終了。
うん、微妙すぎて泣けて来ますね。次回は、バンカーショット作戦のまとめに入る予定です。
前半は報告書的な感じで書いて、後半は…色々とやる予定です。
現在、少し時間を飛ばして、書きたい事を書くか、時間通りに進めるか迷っています。
どっちにしますかね~。では、また次回。



[21516] ISAF編 12話 BRAVE HEART--不屈の心--
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/05/23 00:54
旧市街地、港湾エリア

寂れた港の一角。その場所に、似つかわしくない重機や、建造資材が多数運び込まれていた。
いや、その一角だけでなく、周囲の区画整理や、停泊港、滑走路の建設も平行して行われている。
そう、ここにISAFの本部が建設される事になったのだ。
国際空港テロ事件だけでなく、バンカーショット作戦での功績を認められ、尚且つ、参加した多くの部隊がISAF入りを志願したのだ。
地上勢力はワーロック陸戦部隊、クォックス陸戦隊、ドラゴンバスターズ陸戦部隊等が。空魔導師はスカイキッド、アバランチ等多数が志願異動を申請。
そして、功績を認められ航行艦、マリーゴールドがISAFに配属される事になったのだ。
これにより、新たな本部建設が認められることになったのだ。
最も、その背景には、ミッドチルダ政府、ベルカ自治領グラシア家の後押し。フレッシュリフォー社を初めとする各企業の出資要請があったからだろう。
ミッドチルダ政府首相、ニカノールはハーリングと志を共にする同志であり、グラシア家もまた同じである。まぁ、グラシア家に冠しては、メビウスの存在が少なからず関係しているだろう。
フレッシュリフォー社の閃は言わずもがなである。そして、その他の企業、クレスト、ミラージュ、ゼネラル等は自社製品のアピールと、コネの為であろう。
何時の時代も、企業とは逞しいものである。
そんな建設中の本部の下で、ヘルメットを被り見上げる人物--ブレイズとイリヤだ。

「…しかし、行動に移すのがはやいな。」
「はは。まさか、中将がここまで手配してくれるとはな。」

手元の見取り図を見ながら、ブレイズはカンカンと人が何かを叩く音やら、重機が音を立てて動く現場を眺める。
地上本部の部隊が異動する際、一悶着あると思ったブレイズだったが、レジアスはアッサリと認め、土地まで提供してくれたのだ。
それには、流石のクロノも驚きを隠せていなかったらしい。ハーリング提督に説明するまで、微妙な表情をしていたと言う話まである。
しかし、イリヤの言うとおり、土地まで手配してくれるとは、思っても居なかった。最初こそ、郊外の何処かに…と言う予定だったのだが。

「マリーゴールドは海上でも使える航行艦だからな。海の近くが良いと、言えばそうなる。」
「ケストレルも同じような艦だったから、俺としては嬉しいね。何より、海の近くなら模擬戦も海上で行える。」
「地上での模擬戦場も作っているそうだ。…やれやれ、ここまでされると、後が怖い。」
「違いない。中将の事だ、ここまでしたんだから、更に働け。とか言ってきそうだ。」

肩を竦めるブレイズに、イリヤも心底楽しそうに笑みを浮かべる。なんやかんやで、2人は自分達の活躍が認められて嬉しいのだろう。
だが、そんな2人にも気になることがあった。

「だが、あの魔術師連中が何も言わなかったのは、妙だな。うちを眼の敵にしてる筈なんだがな。」
「あぁ。…なにを考えているのか。最近は、企業研究所への強行視察を行っているらしい。そして、研究成果を片っ端から押収してるそうだ。」
「おいおい、そんな事してみろ。企業から出資されなくなるぞ?…ただでさえ、管理局は苦しいんだ。今回だって、企業が友好的じゃなけりゃ、どうなってたか。」
「その通りだ。…管理局、ではなく、ISAFに対しての出資だ。とハーリング提督も、苦笑していたよ。」
「あの人には、何時も苦労をかけるな。…何れは、奴らの好きにはさせないが。」


不適に笑うイリヤを見て、ブレイズも静かに頷く。全ては名も知らぬ誰かの未来のために。

「…そう言えば、我らが白い閃光殿はどうした?」
「入院中。どうやら、肋骨をへし折られてるらしい。…確実に、記者の連中が殺到してるだろうけどな。」
「なるほど。…んで、俺達の後ろに居るのは、どうする?」

静かにイリヤは、後ろを親指で指差す。確かに、立ち入り禁止と書かれた看板の向こうには、新聞記者やテレビカメラの一団が待ち構えていた。
短期間でのISAFの活躍や、本部建設の話題はミッド市民達の注目の的であり、記者達にとっては、記事を書く恰好の対象と言う訳だ。
ため息を零しつつ、建設現場を見上げるブレイズなのであった。





廃工場地区。

「さて、最近、ここら辺で何やら怪しい物音がするっつう、情報が入ってきた。その調査を行う。
もし不振人物が居たら、逮捕。抵抗された場合は、構わずにぶっ放せ。いいな。」
「は、はい。…けど、良いんですか?指示では、穏便に済ませろって言われてた…ふにゃ!?」
「阿呆、高町。そんな事言ってて、手遅れになったらどうすんだ。」
「な、なのは、大丈夫か?…痣になってんぞ。」
「うぅ~、う゛ぃーたちゃ~ん。」

なのはの額にデコピンをお見舞いすると、バートレットは自身の剣型のデバイスを展開すると、ザッと周囲を見渡す。
後ろでは、涙目のなのはをヴィータがよしよしと慰めていた。教導官…と言っても、新米に等しい2人を連れて、バートレットは現場に出てきていた。
傍目から見れば、なのははとても優秀な教導官だが、歴戦の勇士であるバートレットから見れば、ひよっこ同然である。ヴィータも然り
しかし、バートレットは口には絶対に出さないが、彼女達に多大な期待をしているのだ。だからこそ、危険な任務だが、連れてきた。
現場の空気になれて置くべきだし、模擬戦は所詮は模擬戦。実戦を経験してナンボの物である。
100回聞くより、1回見ろ、そして、100回見るなら、1回触れ。その方がなんでも分かるのだ。

「いいか、何処に何が潜んでるか分かったもんじゃねぇ。注意を怠るなよ。高町とヴィータの嬢ちゃんは、お互いをカバーして動け。良いな?」
「了解です。ヴィータちゃん、よろしくね。」
「任せろ、なのは。…さて、何が潜んでるのか。」

それぞれデバイスを構えると、廃工場が纏まっている地区の捜査を開始した。廃棄されてから、長い時間がたっているからか、壁が崩れたりしているところもある。
天気が曇りと言う事もあり、何処か陰鬱な空気が漂っている。

「あの、バートレット隊長。ここって、なんの工場だったんですか?」
「化学薬品の生産工場だそうだ。まっ、廃棄されて長いからな、妙な物は残ってないと思いたいが、用心しろ。」
「はい。…化学薬品かぁ。…お薬とか作ってたのかな、ヴィータちゃん。」
「…多分だけど、なのはの思ってる薬とは、カケラも関係ねぇと思うぞ。」
「え、風邪薬とかじゃないの!?」

若干、能天気ななのはに呆れ、流石のヴィータもため息を零す。結構な付き合いもあり、親友と呼べる関係ではあるんだが…何処か抜けていると改めて思う。

「…ん、こいつは…。」
「どうしたんだ、ジャック…って、タバコか、これ?」

何かに気が付きバートレットが拾い上げた物を、ヴィータが覗き込む。それは、タバコの吸殻であった。
注意深く観察していたバートレットが、小さく舌打ちをすると適当に吸殻を投げ捨てると、通信機を起動させる。

「バートレットだ。どうやら、何者かが廃工場を利用してるらしい。…あぁ、増援を送ってくれ、大至急な。…あぁ?阿呆、つべこべ言わずに送れ!!」
「ば、バートレット隊長。どうかしたんですか?」
「…このタバコ、ここが廃棄された時に捨てられたにしちゃあ、新しすぎる。」
「何処かの不良とかが捨てたって事は?」
「ヴィータの言うとおりなら、良いんだが…。街から離れた廃工場を、態々使う不良小僧なんて、居る訳がねぇな。…こっちだ、着いてこい。」

足早に歩き出すバートレットを不思議に思い、顔を見合わせながらも2人は後を追いかける。彼が向かった先には、電子ロックが掛けられた扉が設置してあった。

「大当たりだ。ここのロックはまだ生きてやがる。…誰かが、態々設置したんだろう。」
「そうみたいですね。…少し、稼動音も聞こえます。でも、誰がなんの為に…?」
「良いか、高町。…ここは化学薬品の製造工場だったんだぞ。薬品を短期間で、しかも大量に生産する設備が整ってる。
それを不当に、尚且つ、ばれない様に使う連中は、誰だろうな?」
「あ…え、まさか、ストラグル…ですか?け、けど、前のバンカーショット作戦でメビウス君達が壊滅させたはずです!!」
「その通りだ。壊滅させたはず…だが、その後を継いだ大馬鹿野朗が居るのかもしれねぇ。…ヴィータ、ブチ開けろ。」
「任せろ。アイゼン、セット。…おらぁぁぁ!!!」

アイゼンを構えたヴィータの渾身の一撃が、扉をブチ破る。その後ろでは、なのはがシューターを展開し、何時でも魔力弾を放てる準備を行う。
だが、中には誰も居らず、製造機械だけが稼動していた。素早く、進入しバートレットは注意深く周囲に眼を配る。

「…無人か。高町、そこの端末で製造されてる薬品を調べろ。ヴィータは、入り口の警戒だ。」
「はい!…えっと、ここを操作して…。」
「了解。今のところは、誰も来る気配は無いな。」

入り口の側で、ヴィータは体勢を低くして見張りを行い、指示されなのはも端末を若干、慣れない手つきで操作し始めた。
その間に、バートレットは製造機器をチェックして、何時頃から使われているのかを調べようとしている。

「バートレット隊長、出ました!!…どうやら、神経毒のガス薬品みたいです。」
「上出来だ高町。他に何か情報は…」
「ジャック、誰か来たぞ。」

再び端末を操作しようとしたなのはとバートレットだが、ヴィータの声を聞き、直ぐにデバイスを構える。
走ってくる足音が聞こえ、入り口から見ると、武装した兵士達とガジェットが確認できた。


「どこかに侵入者がいる筈だ、探せ!!」
「…どうします、バートレット隊長?」
「どうしますも、こうしますもねぇな。…俺が合図を出すから、一斉に攻撃を開始しろ。」

静かに頷く2人を見て、バートレットは指でカウントを開始した。その指が全て折り畳まれると、一斉に飛び出し攻撃を加え始める。

「か、管理局だ!!迎撃しろ!!」
「はっ、動きがおせぇんだよ!!」
「なのは、援護頼むぞ、おらぁぁぁ!!」
「うん、任せてヴィータちゃん!!」

魔力刃で兵士を1人切り捨てると、返す刃でガジェットを粉砕し、兵士の落としたマシンガンを拾い上げると、バートレットは引き金を引く。
奇襲で体勢を崩された兵士達には、充分な威力があるマシンガンにより撃たれ倒れていく。
ヴィータのアイゼンが、ガジェットを砕き、兵士の腹に突き刺さると、宙に舞い上げる。
その後ろでは、ヴィータの背中を護るように、なのはが誘導弾でサポートし、必要となればバレットスフィアで攻撃を加えていた。
後から駆けつけてきた魔導師も、なのはのディバインバスターの魔力に巻き込まれ、撃墜されていくしかなかったようだ。
教導隊でも、指折りの実力者であるバートレット、その教え子でもあるなのはとヴィータの能力も凄まじく、ものの数分で迎撃に出た兵士達は全滅してしまった。
気絶した者、攻撃を食らい動けない者をバイトンで拘束すると、バートレットも一息つく。

「よし、粗方の敵は片付けたな。…増援が着たら、こいつら、全員連れて行くしかないか。」
「何か情報、持ってるといいな。…ん?なのは、どうしたんだ?」
「あ、私、ガジェットって始めてみるから、本当に機械なんだなぁって。」

アイゼンを担いだヴィータより少し離れた位置で、なのはは興味津々と言った様子で、破壊されたガジェットを眺める。
しかし、彼女達は気が付いていなかった。その残骸の下、一機の…たった一機の壊れかけたガジェットが、ショートを起こしながらも、ミサイルランチャーを構えている事に。
バス--と言う音を立てて、一発のミサイルが、白い魔導師--なのは--に向かって放たれる。その音に気が付いたヴィータが眼を向け…そして、叫んでいた。

「なのは、よけろぉぉぉぉ!!!」
「え…?」

彼女の声で振り向くなのはだが、突然の出来事には人間、誰しも思考が止まるものだ。こちらに近づいてくるミサイルが、ゆっくりと見える。
それに気が付き、防御体勢を取るが…身体の動きが間に合わない。眼をつぶり、覚悟を決めたなのはと、最悪の事態に顔を真っ青にして駆け寄ろうとするヴィータ。
ゆっくりと感じた時間は、無常にも過ぎ去り…着弾し、爆発を起こした。

「なのはぁぁぁぁ!!!!!」

ヴィータの悲痛な叫び声が廃工場に響き渡る。ガクガクと彼女を失う恐怖で崩れそうな足を何とか奮立たせると、爆発が起きた場所まで向かう。

「いちょう…バートレット隊長!!!」
「馬鹿、涙声なんて出してんじゃねぇ…。こんなの、かすり傷程度だ…。」

だが、そこには無傷のなのはが立っていた。そして、彼女の前で血を流している人物--バートレット。
そう着弾する寸前に彼が身体を滑り込ませ、ミサイルからなのはを護ったのだ。
涙声を出し、なのはは倒れているバートレットを助け起こす。白いバリアジャケットが赤い血で染まるが、そんな事を言っている暇ではない。

「なのは、無事だったのか…。ジャック、しっかりしろ!!」
「叫ぶな、頭に響くだろうが。…おい、高町、怪我はしてないか?」
「はい…!!隊長が庇ってくれたお陰です。すぐに救援が着ますから…お願いです。…死なないで…!!」
「そうか…無事で…なによ…り。なく…な」
「こちら八神ヴィータ、ジャック・バートレット教導官が怪我をした。大至急、ヘリと病院の手配を頼む!!」

なのはの涙が、バートレットの顔にポタポタと零れ落ちる。泣くなと言っても、この状況では仕方が無い事だろう。
彼女の無事を確認すると、バートレットは静かに眼を閉じて、意識を手放す事にした。なんだか、異様に疲れた。
ヴィータが連絡を取っている間、なのははずっとバートレットの傷口を押さえ、これ以上の出血を抑えているのだった。




中央病院。
ジャック・バートレットの病室
--コンコン--

「おう、入れ。」
「失礼します。…隊長、怪我は具合はどうですか…?」

先の任務から数日が過ぎ去り、なのははバートレットの見舞いに来ていた。病院に搬送され、直ぐに治療を受けたお陰で、一命を取り留めることが出来たのだ。
ベットの上で、退屈そうに新聞を読んでいた彼の姿を見て、なのははホッと胸をなでおろす。

「…隊長、本当に無事でよかったです…。」
「ったく、心配しすぎだ。あの程度で死ぬ俺じゃねぇよ。」
「それでも!!…それでも、すごく心配したんですから…。私を庇ったせいで、こんな大怪我を…。」
「はっ。別にお前のせいなんて思ってなねぇな。まぁ、なんだ、そんな所に突っ立ってねぇで、こっちに着て座れ。」
「あ、はい。失礼します。」

ベットの近くの椅子に座り、改めてなのははバートレットを見る。顔色もいいし、包帯は巻いているが、別に痛そうでもない。本当に彼は無事なのだ。

「ところで廃工場の一件はどうなった?」
「あの後、クロノ君…じゃなくて、ハラオウン提督が調査部隊を派遣してくれました。逮捕した兵士からも、情報が引き出せたそうです。」
「ほほう、あの坊主がか。んで、どんな情報だ?
「彼らはピースメイカーと言う組織の構成員であり、ガスはテロ目的に使うようだった…そうです。」
「まぁ、思ったとおりだな。…ピースメイカーねぇ、平和の担い手か。面白い名前を付けたモンじゃないか。」

バートレットはテロ組織がピースメイカー、平和の担い手の名前を付けたことに、心底不愉快そうに顔をゆがめる。
恐らくだが、ストラグルの後継組織だろう。…また厄介な戦いが始まる事になった。

「…隊長、私…駄目ですね。」
「あん?どうしたんだ、高町らしくねぇな。弱音なんて。」

俯き加減のなのはが、ポツリと言葉を零した。何時もの明るい彼女とは違う様子に、バートレットもベットの上で姿勢を出す。

「…私、隊長が怪我をした時、頭が真っ白になりました。…パニックになったんです。怖くて…怖くて仕方がありませんでした。」
「……怖かったか。」
「はい。…私が小さい頃、似た様な事がありました。…私の…一番大切な人が大怪我をしたんです。その時も…私は唯泣いてるだけで…何も出来なかったんです。
…怖いんです。大切な人達が怪我するのが…凄く凄く…怖いんです。」

手を膝の上でギュッと握りながら、なのははポツリポツリと思いを吐き出す。かつて、メビウスが大怪我をした時、彼女は泣く事しかできなかった。
あの時から、強くなったと思っていたのに、目の前でバートレットが自分を庇い怪我をした時、頭が真っ白になってしまい、どうする事も出来なかったのを彼女は悔いている。
話を聞き、バートレットは深くため息を付くと、ガリガリと自分の頭をかいた。

「あ~…別に良いんじゃねぇのか?」
「え…?」
「お前のそれは、優しいの現われだ。…良いか、大切な人が傷ついたのに、泣かない奴なんて居やしねぇよ。…もし、泣かない奴が居たら、俺はそいつを絶対に信じない。
誰かの為に泣く事が出来る奴こそ、信じるに値する奴なんだよ。」
「…誰かの為の泣く事が…ですか。」
「そうだ。誰かの為に泣き、その涙を止めてくれる奴こそ、最高の友になるだろう。」

最高の友…それを聞き、なのはの脳裏に浮かぶ…多くの仲間達。
フェイト、はやて達。ブレイズやクロノ。そして…笑顔を浮かべて、何時も自分を見守ってくれる世界で一番大好きな人、メビウス。

「良いか、なのは。何事も大事なのは間合いだ。そして、引かねぇ心だ。無謀さと勇気をはき違うなよ。少し長くなるが、ちゃんと聞けよ。」
「は…はい!」
「ベルカ戦争があった事は知ってるな?…良いか、戦争ほど悲しい物はねえ。けどな、俺達は戦うしかなかったんだ。高町…お前も覚えとけ。
俺達の後ろには、多くの命がある。多くの笑顔が、夢が、希望がある。前には、明日が、未来があるんだ。見知らぬ誰かの為に、俺達は戦うんだよ。
感謝もされねぇかも知れん。戦ってる事を知らないかもしれん。それでも、良いじゃねぇか。…誰かは俺達の事を知ってくれる。
誰かは覚えててくれる。…それだけで充分だ。俺達が戦い、誰かが助かるのなら、本望だろう?」
「…はい…はいっ…!!」
「それじゃ、お前に質問だ。…最高の魔導師には、何が必要だと思う?」
「最高の魔導師に…ですか?…魔力や、戦況把握能力…とか…です?」
「はっ、確かに必要かも知れんな。しかし、そんな物じゃない。それを持ってる奴だったら、大勢入るぜ。
良いか、今のお前に必要なのはな、何事にも挫けず、折れぬ不屈の心だ。」
「不屈の…心。」
「そうだ。その心は、如何なる武器でも砕けぬ最高の盾になるし、折れぬ最強の剣になる。」

そう言うと、バートレットは自分の胸を力強く叩き、二ッと笑顔を浮かべる。

「お前は、これからまだまだ成長するんだ。…良く学び、良く見ろ。
きっと、お前は強くなる。勿論、心ももっと強くなるんだ。心配はいらねぇよ。この俺が太鼓判を押してやるんだ。…その期待を裏切るなよ?高町なのは」
「はい…!!高町なのは、全力全開で…がんばります!!」

そう言って、笑顔を作る彼女は…光り輝き、力強いものだった。












あとがき

よし、撃墜事件アレンジ編完了!!
ちなみに、BRAVE HEART=不屈の心は完全なご都合解釈です。…多分、意味的にはあってますよね…?
次回から、少し時間が飛びますね。まだまだ続き、ISAF編。だってオリジナル展開で書きたいこと沢山あるんですもの。
では、また次回!!




[21516] ISAF編 13話 勲章及び称号授与式--新しき英雄--
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/06/06 18:33
クラナガン 中央式典場

本日の天気は晴天。ISAF設立より、再び数年が流れ、今や知らぬ物は居ない部隊にまで成長していた。
バンカーショット作戦を皮切りに、アジム・ゲラン討伐戦、ピースメイカーとの攻防戦等等、多くの作戦に参加し多大な戦果をたたき出してきた。
それと平行して、秘密裏にダイモンの捜索及び灰色の男達の調査も行っている。
忙しい日々を送っているISAFだが、今回の式典にはどうしても参加しなくてはならなかった。多くの部隊員達は正装に着替え、式典場で待機している。
いや、ISAFばかりでなく、管理局の多くの部隊が今回の式典に、参加する事になっていた。
本日の式典の内容--勲章及び称号授与式--なのである。管理局の中でも、多くの活躍をした人物達に対して、数年に一度のペースで行われる式典だ。
その会場に、彼女達の姿もあった。

「あ、なのはちゃん、こっちこっち!…見つかってよかったな~。」
「はふ~…。ようやく見つかったよぉ。」
「ふふ、人、多いもんね。」

ようやく、はやてとフェイトを見つけたなのはは、呼吸を整える。この大人数の中、2人を探すのはとても苦労したのだろう。
それぞれ、執務官、教導官、提督補佐官の制服に身を包んだ彼女達も姿…と言うか、容姿はとても眼を引く。
アピート国際空港事件より、更に綺麗に、そして可憐に成長した3人の姿は、とても魅力的だ。
なのはは、教導隊の活躍だけではなく現場でも優れた功績を残したし、フェイトも執務官として多くの事件解決に尽力したという事で、今回の式典で称号を授かる事になっていた。

「それにしても、今回の授与式は、大変やね。なのはちゃんだけでなく、フェイトちゃんも受賞やろ?はやいけど、2人とも、おめでとう。」
「ありがとう、はやてちゃん。けど、私だけの成果じゃないよ。沢山の人に協力してもらったもん。」
「うん。レヴィとか閃にも沢山協力してもらったよね。…勿論、はやてもありがとう。」
「あはは、2人は相変わらずやね。けど、ハーリング提督も楽しみにしとったよ。どんな称号、貰うんやろ。なな、レヴィちゃん、手伝いに言ってるやろ?
フェイトちゃん、称号の内容とか何か聞いてないん?」
「ん~…少し気になって、聞いたんだけど、秘密って言われちゃったから…。」

興味津々の様子で、問いかけたはやてだが、聞かれたフェイトは小さく笑みを浮かべて首を振る。
今回の式典の準備に、レヴィも借り出され、裏方のほうで忙しく動いているところだろう。

「あ、そう言えば、授与式に閃君とか来るのかな?」
「あぁ~。なんか、言うてたな~。確か、賓客扱いで来るらしいって。…今や、リフォー社の代表やもんね。なんか変わってるんかな~。」
「最近会ったけど、閃君。相変わらず、閃君だったよ?」
「…なのは、何を言ってるか、分からないよ…。なんとなくだけど、一応分かるけど。」
「あはは、きっと忙しいっつの、とか、主任、真面目にしろ~!!とか言ってるんやろね。」
「…なのはにはやて。お前ら、人が居ないのを良い事に、好き勝手言ってるんじゃねぇっつの。」

3人で友人の閃の様子を思い浮かべて、笑い合っていたが…その後ろに、額に青筋を浮かべて青年が立っている。
眼鏡をかけ、黒いスーツに身を包んでいる青年の声に、なのはは固まり、はやては冷や汗を。フェイトは苦笑を浮かべていた。
今や勢いを取り戻し、再び企業界のトップに君臨した超巨大企業、フレッシュリフォー社の若き代表にして、神の頭脳と呼ばれる青年--帝 閃--その人である。

「せせせ閃君、何時の間に来てたの!?って言うか、どこから聞いてたの!?」
「なのはちゃん、こっち~辺りからだな。」
「最初から聞いてたん!?なんで、声をかけなかったんよ!?」
「あのな、注目の的であるお前らに話しかけて、俺まで注目されたらどうするんだ。…好き勝手に話してるから、声をかけたけどな。」

慌てる2人の額に軽くチョップを落とし、閃はため息を零す。2人のふにゃ~、とか、痛いやんか、と言う声は完全に無視している。

「本当に相変わらずだね、閃。けど、私達、注目されて無いと思うよ…?」
「…お前は相変わらずのド天然かフェイト。…周りの男達の眼を…いや、言わない。お前ら、あいつ以外眼中に無いからな。」

首を傾げるフェイトを見て、額を押さえながら首を横に振る。…先ほども述べたが、3人はとても可愛らしく、綺麗であり可憐である。
この式典の後には、パーティーも予定されているので、そこで声をかけようとしている局員達も大勢入る。
中には上級官位の人物もいるので、下手に近づいて眼を付けられたくないと言うのが、閃の本音だ。
…最も、リフォー社の代表である彼に危害を加えたら最後、文字の如く全世界に散らばる支社から、狙われる事になるだろう。

「けどさ、別に閃君だけでも充分、目立ってたと思うよ?」
「んな訳ねぇだろ。俺は、ただの一般賓客で、一般人だ、い・っ・ぱ・ん・じ・ん。他の逸般人と一緒にするなっつの。」
「賓客の時点で、一般人やないし、私達と同い年でリフォー社の代表言う事で、閃君も立派な逸般人だと思う…いたたた、なにするんよ!?」
「そんな事を考える頭脳は、ここか、ん?このマメ狸ぃぃ!!」

冷静に分析していたはやての頭に、閃がアイアンクローをブチかます。どうやら、未だに一般人と言う拘りを捨てきれないようだ。
…原作介入したし、婚約者×2--その内の1人が義理の妹--であり、超巨大企業のトップ。…確かに、一般人ではない。
余談だが、彼のような一部特権階級には重婚が可能な法律が適用されていた。彼の場合は、1夫多妻制度だろうか。
…その制度を利用されて、リリンだけでなく、シュテルの策略に巻き込まれた話は、またの機会にしよう。
目立ちたくない云々はどこに言ったのか、ぎゃ~ぎゃ~騒ぎあう閃とはやては、物の見事に注目されていた。

「あはは、本当に閃君は変わらないね。なんだが、安心しちゃった。」
「お兄様、どちらに居るんですの?…あ、なのはお姉さま!」
「リリンちゃん、お久しぶり!!」

キョロキョロを辺りを見渡しながら歩いてくるピンクのドレスの少女。勿論、閃の第一婚約者にして、天才リリン・プラジナーである。
なのはの姿を見つけると、花の咲いたような笑顔を浮かべ走り寄って来る。…宛ら、ワンコの様だがこの2人は本当に仲が良い。
彼女の元にたどり着くと、リリンは姿勢をただし恭しく、ドレスの両脇を掴むとお辞儀をした。

「お久しぶりです、なのはお姉さま、フェイトお姉さま。それに、はやてお姉さま。リリンは会えて、とても嬉しいです。」
「うん、久しぶりだね、リリン。…ふふ、ドレス凄く可愛い。」
「うんうん!!リリンちゃん、ピンクの服似合うよね。髪も伸ばしたんだぁ。」
「はい、お兄様が選んでくれたんです。それに、伸ばした方が可愛いと、言ってくれましたし。」

リリンがポっと頬を染めて、閃の腕に自分の腕を絡ませる。その姿は、本当に仲睦まじい。

「なんやなんや、閃君。良い旦那様をやっとるようやね~。このこの~。」
「その親父くさい眼と態度は止めろ!!…リリン、別に待ってても良かったんだぞ?」
「ふふ、私はお兄様が側に居たかっただけですから、気になさらないでください。」

ニヤニヤと笑って、肘ではやては、閃の事をツンツンと突っついている。…その行動は、本当に親父臭い。
それに閃は顔を赤くしながらも、ここまできたリリンの事を気遣っていた。これだけ人が多い中、ドレスでの移動は大変だっただろう。
しかし、彼女はそんな事は無いと首を振り、愛しき夫--正確には婚約者--の事を見つめる。

「あれ、そう言えばシュテルちゃんは?」
「研究所のほうで、外せないそうだ。授賞式には来れないが、後のパーティーには顔を出すそうだよ。レヴィに伝えといてくれ、会いたがってるだろうからな。」
「そっか。ちゃんと伝えておくよ。…あ、そろそろ時間だね。」

フェイトが腕時計で時間を確めると、そろそろ授賞式が始まる時間だ。軽く別れの挨拶を交わすと、閃はリリンをエスコートしつつ賓客席に戻っていった。
その後姿を眺めながら、3人は更に笑みを深くした。

「本当に仲がいいよね。…きっと、リリンちゃん、凄く幸せなんだろうね。」
「そうやね。あんなに幸せオーラだしてるんやもん。…これは、私達もうかうかしてられよ~。」
「ふふ、そうだね。……お兄ちゃん、このまま活躍すれば、特権階級になるのかな…?」
「…そうなったら、皆でメビウス君のお嫁さんかぁ~。…うぅ、争奪戦が更に大変になるよぉ。」





授賞式開始時刻


壇上には、ミッドチルダ政府首相であるニカノールが立ち、挨拶を行っていた。

「本日は忙しい中、授賞式典にご参加くださいまして、誠にありがとうございます。
この度、ミッドチルダ政府、時空管理局、ベルカ自治領の合同議会を代表し、この役割を頂き、誠に恐縮です。
…今回も、多くの称号及び勲章授与者が出て、私も実に嬉しく思います。さて、長話はここまでにしまして、早速、授与者の表彰に映りたいと思います。」

隣に控えていた長身の女性に、ニカノールは目配せをして、表彰状や勲章等を持ってきてもらう。…彼の秘書官なのだろうか?

「では、最初に--」








ナカジマ家

「お母さん、録画しててくれた!?」
「はいはい、そんなに慌てなくても、大丈夫よ。」
「ありがとう!!…テレビつけるよ!」

リビングに駆け込んできた娘に、笑いながら母親クイントはリモコンを手渡す。テレビを付けると、娘--ギンガ--は食い入るようにして、映像を見つめていた。
この時間は、授賞式の生中継を行っており、朝からギンガは楽しみにしていたのだ。

「…この角度じゃ、見えない…。もう、何で一般公開はしてくれないんだろう…。」
「見たいのはギンガだけじゃないのよ。…本当にすきなのね、あの人の事。」
「すす、好き!?…あ、そう言う訳じゃなくて…でも好きだけど、それより…凄く憧れてるの。…あ、映った!」

クスクスと笑うクイントとは反対に、ギンガは顔を赤く染めている。
そして、ギンガの目当ての人物が映ると、その姿を眼に焼き付けようとしていた。目当ての人物とはISAF総部隊長、メビウス・ランスロット空佐である。
かつて空港事件の時、ギンガはメビウスに助けられた。燃え盛る空港内で、スバルを探し迷った彼女。
有毒な煙を吸い、熱で体力も消耗しきり倒れたギンガは、朦朧とする意識の中で、翼を持った人物に助けられた。
その人は、天使と見間違えるような美しき翼を持ち、優しく抱きかかえてくれた。後にそれが、メビウス・ランスロットだと知った彼女が、憧れるのには早々、時間はかからなかったのだ。

『ギンガ、テレビは離れて見た方が良いわよ。』
「しっかりと見たいの、パイパー。…ああもう、別カメラになっちゃった…。」
『そこまで、しょんぼりしなくても良いじゃない。また映るわよ。』

メビウスが映らなくなり、ションボリとするギンガの胸元で、紫色の宝石がチカチカと光り、声を発していた。
その声は何処か、お姉さんぽく、呆れたような感じを含んでいた。






式典会場


「第8教導部隊、一等空尉高町なのは殿。…壇上に。」
「はい。」


ニカノールに名前を呼ばれたなのはは、教導部隊の席から立ち上がり、中央の通路を通り壇上に向かう。
壇上に上がると、振り返り一礼。…一瞬、背筋が震えた。この会場に居る多くの人達が、彼女に注目していたのだ。
中央で待っているニカノールの前に立つと、再び一礼し、視線を合わせる。

「高町なのは殿、貴官は教導官として、優れた指導能力を発揮し、多くの功績を残しました。
また、捜査官としても活躍し、とても素晴らしい結果を残してきました。よって、この称号を授けたいと思います。
おめでとう不屈の心を持つ魔導師よ-、エース・オブ・エース--。…貴女には、この称号が相応しいでしょう。」
「はい…。ありがとうございます…!!」

エース・オブ・エース。文字の如く、エースの中のエース。決して諦めず、決して折れぬ不屈の心を手に入れたなのはには、正に相応しい称号である。
表彰状を受け取り、勲章--双翼に抱かれた魔導師の杖…いや、明らかにレイジングハートエンジェラン同じ形だ--を頂くと、なのはは深々と頭を下げる。
会場からは、拍手が巻き起こり、彼女の受賞を心から祝福していた。教導部隊の席に戻ると、小声で同僚達がなのはに祝福の言葉を掛ける。
…その中で、バートレットが当然だなと言った様子で、笑っていたのが、なのははとても嬉しかった。

「管理局執務官、フェイト・T・ランスロット殿、壇上に。」

その次に呼ばれたのは、フェイトであった。なのはと同じ様に壇上に上がると、彼女にも注目が集まる。

「フェイト・T・ランスロット殿。貴官は執務官として、多くの事件解決に尽力し、各方面の連携強化に貢献。
戦う貴官の姿は、正に雷光の如くでありました。…ここに、ソニック・エースの称号を授けたいと思います。」
「はい、ありがたく、頂戴いたします。」

ソニック・エース。正に高速で天を掛ける彼女に相応しい称号だろう。金色のバルディッシュを模した勲章を受け取り、フェイトは笑顔を浮かべる。
チラリ…と視線を移すと、レヴィが小さくVサインを作っていた。どうやら、この勲章の形は彼女がデザインしたのだろう。
そしてなにより、この勲章。明らかに彼女達の両親が作ったものだろう。…小さく、英語でおめでとう、フェイト。と刻んである。
お茶目な両親に、感謝しながら…フェイトは母親に胸の中で言葉を伝える。

(プレシア母さん。…私、ここまで強くなったよ。…大丈夫、2人の分まで笑って生きるよ。)




ISAF席

「…長いな。」
「アーサー、いきなり何を言うんですか。」
スリーヘッズ・アローが刺繍された制服を纏った一団。そう、ここはISAFの部隊員達が座る席である。
その中、隣でアーサーがポツリと零した言葉に、メビウスは小さく笑う。
式典に参加しているISAFの隊員の中には、当然この2人も含まれていた。
本部で待機している最低限の隊員以外は、殆ど出席しているのでかなりの大所帯になっている。
今では、ISAFは管理局の一大勢力として台頭し、そのトップエース2人が並ぶと、かなり壮観である。
白い閃光、メビウス・ランスロットを筆頭に、漆黒の悪魔--仲間内では灯火--ブレイズ・トリスタン、金色の鷲--アーサー・フォルクは有名である。
しかし、改めてこの2人を見ると、やはり成長していた。アーサーは、細身だが逞しくなり、何処か空の男と行った雰囲気が更に強くなっている。
メビウスに居たっては、男性に使うべきではないだろうが、更に綺麗になってきた。髪も伸び、本当にサイファーに似て来ている。
…そして、相変わらず白いリボンで髪を結んでいた。どうやら、髪を短くすると言う選択肢は無いらしい。

「貴方も呼ばれるんですから、準備しておいた方が良いのでは?」
「…はぁ、俺もイリヤの様に待機していればよかった…。」

イリヤ、チョッパー、オメガは式典の参加を断ってしまったのだ。。
この3人も勲章を貰う予定だったのだが、何か合っては大変だと言って、ISAF本部で待機していた。…唯単に面倒なだけだった気もする。

「Independent Speed Assault Force所属、アーサー・フォルク殿、こちらに。」
「ほら、よばれましたよ。」
「はっ。…最初は俺か。」

今まで、カメラのフラッシュが多かったが、ISAFの受賞に移った瞬間に、更にフラッシュが増える。
若干、煩わしそうにしながらもアーサーは、表情に出さず壇上に上る。…きっと、中継されているのを見て、イリヤは笑っているのだろう。
提督席では、アンダーセンとハーリング、教官席ではヴォイチェクもにこやかに笑っていた。

「アーサー・フォルク殿。貴官は、ケストレル所属時より、多大な戦果を上げ、ISAF所属後も多くの貢献をしていただきました。
その黄金の姿に相応しい勲章、黄金双翼章--ゴールデンウイング--を授けたいと思います。」
「はっ。ありがとうございます。」

敬礼を返すと、ISAF席を中心に拍手が起こる。金色の双翼を模した翼の勲章を頂くと、アーサーは満更でもないと言った様子で壇上を後にする。
席に戻ると、メビウスも小さく祝福の言葉を送り、次に呼ばれるであろう人物に視線を送る。

「同じくIndependent Speed Assault Force所属、副総隊長ブレイズ・トリスタン殿。」
「はい。…お前ら、拍手が早すぎる。」

何故か返事をした瞬間に、拍手する部下達に苦笑を浮かべつつ、ブレイズは壇上に向かう。
提督席で、同じ様に苦笑しながらクロノが眺めていた。親友であるブレイズの受賞は、彼も嬉しいのだろう。

「ブレイズ・トリスタン殿。貴官は執務官として優れた功績を残し、またISAF設立に貢献。更に、多くの事件解決に尽力。
外交に関しても、優れた実績を残していただきました。
ここに魔力の象徴たる月を模した勲章、月光剣章--ムーンライトソード--を送りたいと思います。おめでとう。」
「はっ、恐縮です。」

淡い月明かりを思わせる青い剣の勲章を頂くと、ブレイズは深々と頭を下げる。ベルカ自治政府領席では、聖女アストラエアがにこやかに笑い、祝福の拍手を送っていた。
その後も、滞りなく授賞式は進み、とうとう閉幕の時間になってきて。

「以上を持ちまして、今回の授与者の発表を終えたいと思います。」

ニカノールは静かに頭を下げると、秘書官の長身の女性と共に壇上を後にする。
だが、その行動に多くの局員、記者達はざわめき立ち、なのはもおかしいと言った表情を浮かべていた。
…なぜ、【彼】が呼ばれないのだろうか。多くの人物達はそう思い、そのざわめきを生み出していたのだ。
しかし、そのざわめきを沈めるようにして、1人の提督が席から立ち上がり、壇上に上る。その提督は、そう、ビンセント・ハーリングである。
突然の彼の登壇に戸惑った会場の人間達だったが、彼が言葉を発すると少しずつ静かになって言った。

「突然の登壇の無礼。許していただきたい。…私はビンセント・ハーリング。管理局提督の役職を頂いております。
…さて、私がここに登壇した理由。…先ほどのざわめきを聞く限り、もしかすると、察しがついているかもしれません。
とある方に、何故勲章が授与されないのか。…恐らく、そう思ったのではないでしょうか。…それは、私達も同じ気持ちです。
しかし、私達は、多くの勲章を考え…そして、全て取り消したのです。彼には…今までの勲章では相応しくないと…と。
ならば、せめて称号だけでは、送りたいと思い、代表して私が登壇した次第です。その方の名前を呼びましょう。
Independent Speed Assault Force総隊長、メビウス・ランスロット空佐。」
「…はい。」

突然、名前を呼ばれたことに戸惑いつつも、メビウスは立ち上がり壇上に向かう。その彼の姿に、更に注目とカメラのフラッシュが集まる。
今回授与されるのは、アーサーとブレイズの両名であり、自分の名前は除外されていたはず…。
壇上で一礼し、局員達を見渡す。…みな、メビウスに注目していた。そして、ハーリングの前に立つと、敬礼を両者とも行う。

「…メビウス・ランスロット殿。突然の授与、さぞ驚いたでしょう。」
「はっ。…私の名前は名簿にはありませんでしたのだ。」
「その様に指示出しておいたのです。…さて、貴官に送りたい称号。それは…多くの者が貴官だと、メビウス・ランスロットだと分かる称号。
…貴方は、この世界の平和の為に、多くの作戦に参加し、戦い抜きました。全ては人々の笑顔の為に、誰か知らぬ誰かの為に。
それは簡単にできる様で、簡単に出来る事ではありません。…貴官は、正に管理局が求めていたヒーローなのです。
かつて、貴官はPT事件最終局面で、アジムとゲランを幼き身ながら撃破すると言う偉業も成し遂げた。」
「提督、その話はしないと言う…。」
「隠す事はない。その活躍により、次元震が静まり救われた世界がある。そして、続く闇の書事件においても、重傷を負いながら、前線に復帰。
闇の書に潜みし悪意の闇--ダイモン--の撃破も行った。…正にヒーローに相応しき活躍です。」

ハーリングは、彼を称えるかのようにかかわった事件の内容を話す。今まで、当事者達以外知らなかった内容に、記者達や局員達は驚きを隠せない。
ましてや、アジム・ゲラン破壊など、子供の頃のメビウスが行ったという事は、その頃から彼が優秀な魔導師だと物語っている事になる。

「長々と話すことは、この事ではないですな。…さて、改めて、貴官には、この称号を送りたい。
誰もが考え付くでしょう、誰もが子供の考えたものだと思うでしょう。だからこそ、良いのです。貴官は、この世界に生きる者達の希望。
誰もが知る名前だからこそ、貴官に合い相応しい。…おめでとう、英雄の中の英雄よ。【ヒーロー・オブ・ヒーロー。】」
「ヒーロー・オブ・ヒーロー。…それが、私の称号…でしょうか。」
「その通りです。おめでとう、この世で、新しき伝説、この世で最も新しき英雄よ。我らは、貴方を称えよう。」

ヒーロー・オブ・ヒーロー。その称号に静まり返る会場内。その静寂を打ち破るかのように、1つの大きな拍手の音が響き渡った。
しかし、その拍手は、なのはでも、フェイトでもなく、はやて、閃とは違い、アーサー、ブレイズではなかった。
…その拍手の主は、管理局地上本部司令官、レジアス・ゲイズ中将であった。
この世界で、最も最初に彼の力を認め、皮肉を言いながらの力を貸し続けた、地上を支える巨人。空に憧れ続けた巨人が支え続けた、翼が…世界に認められたのだ。
その拍手を皮切りに、なのはが、フェイトが、全ての局員達が立ち上がり、割れんばかりの拍手がメビウスを祝福する。
…全ては、ここから始まるのだ。

ヒーロー・オブ・ヒーロー、新しき伝説にして、最も新しき英雄の物語。
















あとがき


はい、これが書きたくてこの小説を書き始めまして、第二段です。
ヒーロー・オブ・ヒーロー。…凄まじく簡単でしょう。凄まじく分かりやすい称号でしょう。だから、良いんです。
英雄の中の英雄。きっと、世界はそんなヒーローを望んでいたんでしょう。
これからも続く当作品、ISAF編はまだ続きますが、ここを節目に出来たらなぁ。なんて思ったりしております。
作者こと、へタレイヴンと習作 リリカルなのは×ACE COMBAT ×色々&オリ主&転生キャラをよろしくお願いします。






[21516] ISAF編 14話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/05/29 22:02

バンカーショット作戦。
数年前にセレス海沖合い孤島にて行われたストラグル壊滅作戦の通称。なお、これは私的目的のレポート。
なお、公開されている情報は少ないので、私個人の考えも交えて、ここにまとめる事にする。
参加した部隊は、管理局勢力、ワーロック陸戦部隊、クォックス陸戦隊、ドラゴンバスターズ陸戦隊。ミッド政府部隊、αチーム、βチーム。
空戦部隊、スカイキッド、アバランチ、スネークピット等多数。詳しい部隊内容は、多すぎるので省略します。
海上には、戦艦マリーゴールド。
そして、ISAFの総戦力。6名ですが、多くの戦果を残してします。
ブレイズ・トリスタン、アルヴィン・H・ダヴェンポート両名は、渓谷部の制圧及び、要塞内部の制圧に尽力。
アーサー・フォルクは、スネークピット護衛、ディソーダー、リュシオルの撃破。
イリヤ・パステルナークは狙撃、ミサイル迎撃の功績。
オメガ・ガウェインは、山岳部制圧と要塞後方制圧、ディソーダー、アーマイゼ制圧に貢献
そして、メビウス・ランスロット。海岸部エリアの制圧と、未確認魔導師--シャドウ化魔導師--の撃破。
なお、この戦いで、メビウス・ランスロットは【白い閃光】と異名をとる事になった。…彼に似合ってて、とても素敵だと思う。
…あ、いけないけいない。個人使用だからって、余計な文章は打ち込んじゃ駄目ね…。…けど、個人使用だし、別に良いよね、うん。
メビウス・ランスロット、ISAFの隊長であり、憧れの人。そして、今回の授与式で、称号、ヒーロー・オブ・ヒーローを授与しました!!
授与式の話を聞くとPT事件、闇の書事件の解決にも関わっているようで…。ううん、この辺りの情報も少し欲しい。
最後に、この作戦を機に、ISAFの本部が旧市街地エリア、港湾部に建設された。
陸戦部隊、ワーロック、クォックス、ドラゴンバスターズが所属し、アバランチ、スカイキッドを初めとする空魔導師達も志願異動を行った。



『ギンガ、最早、レポートと言わない気がするけど…。』
「私的目的だから、良いの、バイパー。」

少女の首元で、紫色のネックレスが呆れたように言葉を漏らす。自分の主である少女は、どうやら白い閃光に夢中のようだ。
国際空港テロ事件で助けてもらって以来、彼の記事はファイルに纏め、成長してからはこれまでの事件の内容を、個人的に考察し纏めてあげている。

『…はぁ、ナガセが呆れるのも、分かるわね。』
「ケイだって、似たような物だと思うけど…。トリスタン空佐の資料とか、集めてたもの。」

クスクスと少女は、親友の密かな趣味を思い出す。親友も、空港でブレイズに助けられた者の1人だ。
なにより、父親が彼とかかわりがあったらしい。

「ギン姉~、ご飯だってよ~。」
「あ、は~い、今行く。」

階下から、妹の呼び声に返事をして少女--ギンガはレポートを保存すると、パソコンの電源を落とす。



ナカジマ家 食卓

「…ギンガ、また新聞、切り取ったのか。」
「あ、ごめん。…その、メビウスさんが写ってたから、ファイリングしたの。」

コーヒーを注ぐと、父親のゲンヤの前に置く。…彼が読んでいる新聞の一部が、確かに綺麗に切り抜かれていた。
ギンガのメビウス・ファイルは今に始まった事ではないが、朝一の新聞を切り抜くとは…どうやっているのか。
ゲンヤは若干、娘の行動力に呆れるも、苦笑いを浮かべる。

「ふふ、ギンガはメビウスさんに、スバルは、オメガさんと、文通相手さんに夢中ね。」

クスクスと笑みを浮かべて、母親のクイントはトーストを焼きながら、娘達の行動を思い出す。
アピート国際空港の事件はとても悲惨であった。最初は、テロ事件のニュースを見たときは、頭が真っ白になった。
ギンガとスバル2人に、空港まで荷物の受け取りのお使いを頼んだ日に、その事件が起きたのだ。
現場に駆けつければ、空港は火の海と化し、生存は絶望的かと思ったが…娘達は生きていた。
それこそ2人が夢中になり、憧れている人達、管理局の白い閃光、メビウス・ランスロット。鉄拳の騎士、オメガ・ガウェインにそれぞれ救助されていたのだ。
ギンガはメビウス・ランスロットに憧れ、空魔導師を目指して、スバルはオメガとなのはに憧れを抱いていた。
スバルにはデバイスは用意されていないが、銀河にはあるデバイスが用意されていた。かつて、娘達を保護した機人研究施設で、そのデバイスは眠っていたのだ。
主である彼女に寄り添うようにして安置されていたデバイスは、紫色の宝石であり、ギンガの胸元で光っている。

「お母さん、この手紙、出しておいてね!!」
「はいはい。また文通相手さんに?…あら、結構厚くなったのね。」
「うん!1週間あった事を、まとめて書いたから、沢山になったよ。」

ニコニコとスバルは、クイントに手紙を渡し、自分の席に座る。結構な封筒の厚さに驚きながらも、クイントも同じようにニコニコと笑い買い物籠にしまった。
恐らく、買い物に行くときに一緒に出すのだろう。…魔導師として活躍したクイントだが、トリスタラム暗殺事件の際に負傷、魔導師生命を絶たれ引退したのである。
まぁ、そのお陰と言うのは皮肉かもしれないが、こうして娘達と夫と幸せに暮らせるのは…良いのかもしれない。

≪クイント、幸せそうね。≫
≪当然よ、バイパー。…そう言う貴女はどうなの?≫
≪幸せに決まってるでしょ。…ギンガの笑顔が見れて、スバルが元気にはしゃいでる。…こんな、幸せな事は無いわよ。≫

静かに念話で語りかけてくるギンガのデバイス--バイパー・カスタム--。かの有名なVRデバイスの1世代目であり…エクスキャリバーの妹でもある。






ハーマン家、屋根裏部屋


「……はぁ、起きて来ないと思ったら、まだ寝てたのね…。」

腰に手を当てながら、ツインテールの少女は目の前のベットで寝ている少年を見つめる。
この人物の母親から、呼んできてと頼まれてきてみたら、ご丁寧にZZZzzzをつけて眠っていた。
とりあえず、何時もの様に軽く肩をゆすって、起こす事を試みる。

「ほら、ガルーダ。そろそろ起きないと、遅刻するわよ?」
「ティアか……あと、24時間…。」
「1日たっちゃうでしょ!!ほら、さっさと、お~き~る~!!」

モゾモゾとベットの中に逃げ込む少年の毛布を、ギリギリと奪い取る。
少女--ティアナ・ランスターと少年--ガルーダ・ハーマンの朝の攻防は何時もの事である
彼女の両親は、幼い頃に事故で無くなり、兄であり、魔導師であったティーダ・ランスターも犯罪者追撃で、殉職してしまった。
その時に、ガルーダの父親であるグレン・ハーマンも、一緒に亡くなっている。
家も近所であり、家族ぐるみの付き合いのあったハーマン家がティアナを引き取るのは、ある意味で当然の事でもあった。
この家てせ、母親のメリッサ、長男のガルーダと妹のマティルダ。そして、ティアナの4人で暮らす事になったのだ。
幸い、管理局地上本部から充分すぎる分の謝罪料と生活保護を受けているので、生活には困っていない。

「…ふぁぁぁあ。…よ~、ティア。おはよう。」
「あんたね…。いい加減に、自分で起きなさいよ。毎日毎日、起こしてるあたしの身にもなりなさいよ…。」

眠気眼で、ボサボサの赤い髪をかきながらガルーダは、ようやくベットから起き上がる。自分より、年上なのだが…なんか頼りない。
大あくびをしながら、ガルーダは部屋のカーテンを開けて思いっきり背伸びをして、眠気を吹き飛ばす。

「あ~、よく寝た。さて、朝飯だっけかね。」
「そうよ。メリッサさんとマティルダが、待ってるから、さっさと降りてきなさいよ。…って、あたしの前で着替えないでよ、馬鹿!!」
「え?…いや、上だけだから、別に…って、あぶなっ!?辞書を投げるな!!」
「あたしが出てくまで、待ってなさい!!」


ハーマン家食卓

「おはよう、母さん、マティルダ。」
「えぇ。、おはようガルーダ。…顔洗ってきた?」
「飯食ったら、洗うよ。」
「ガルーダ、また夜更かししたの?あ、ソースとって。」
「まぁな~。ほい。」
「サンキュー。」
「…マティルダちゃん、こいつの真似なんてしちゃ駄目だからね。」
「おいまて、ティア。お前、俺にはなんか厳しくないか?」
「知らないっ!!」

ふん、っと言った様子でそっぽを向くティアナに、何なんだ…と思いつつ、ガルーダもテーブルに着くと食事を始める。
先ほどまでの、パジャマ姿ではなく、バーナー学園の制服に着替えていた。彼はそこの魔導師専攻コースの生徒なのだ。
学園都市とも呼ばれる大型学園の為、一般生徒とは少し離れた所に校舎がある。しかも、クラスも多いため、更に校舎が広い。
母親であるメリッサは、何時もの事かと笑顔を浮かべているし、妹のマティルダはなんか呆れたようにしていた。
トーストにジャムを塗りつつ、ガルーダは時計を眺め、まだ余裕がある事を確認する。

「まだ余裕があるな。…ティア、何時も思うんだが、態々起こしに来る必要性無いんじゃないか?」
「そう言って、遅刻したのは誰よ。良いから、あんたは大人しく起こされなさい。」
「ふふ、ティアちゃんは、何時もガルーダの事を気にかけてくれるからね。大助かりよ。」
「め、メリッサさん、違いますよ!!こいつが、しっかりしてないから…って、別に起こすのが嫌なわけじゃ…。…ああもう、さっさと食べて、行きなさい!!」
「まてまてまて、どうして俺に当たる!?今のは、明らかに母さんの方…いって、足踏むなぁぁ!!」

顔を真っ赤にして、ガルーダの足を踏みつけるティアナ。そんな彼女を眺めつつ、メリッサもその優しい笑顔を更に深めた。
少し賑やかな食事を終えると、ガルーダは窓辺に飾ってある1つの写真を眺める。
そこには、何時も優しく、力強い笑顔を浮かべている父親--グレン--と、兄の様に慕っていた青年--ティーダ--が写っていた。

「おはよう、父さん、ティーダさん。よし、今日も頑張って行って来ます。」

憧れの2人に挨拶を交わすと、ガルーダはバンダナを頭にしっかりと被り結ぶ。
赤地に天使の刺繍がされたそのバンダナは、父親からの誕生日プレゼントであり、彼の一番の宝物だ。
しっかりと結んだのを確認すると、ガレージに向かい、何時も通学に使っているスケートボードを取り出すと、勢いをつけて滑り出す。

「よし、それじゃ、今日も天使と」
「ダンスでもしてな!!」

ガルーダは見送りに出たマティルダに、何時もの挨拶を交わす。
父親のグレンが、出撃する時に空には天使が居るんだ、と口癖のように言っていたのだ。
子供達が生まれるまで、1人家に残されたメリッサが「天使とダンスでもしてな」と、皮肉を込めていたグレンに送っていた言葉だが、2人の子供達には合言葉…いや、挨拶になっていたのだろう。





通学路


「~~♪」

良い天気で気持ちが良い朝。鼻歌を歌いながら、通学路をスケボーで滑っていくガルーダ。
そんな彼を追いかけるようにして、後ろから自転車の音が聞こえてきた。

「お、クロス。おはよう~。」
「やぁ、ガルーダ。おはよう。」

並ぶ形で、自転車の速度を降ろした金髪の少年もガルーダと同じ制服を着ていた。
彼は、クロス・グリスウォール。ガルーダのパートナーであり、親友だ。
眼鏡をかけて、ヘッドホンを首から下げている彼だが、やはり最大の特徴は、フヨフヨと風に揺れているアホ毛だろう。
物の見事に、くの字でアホ毛になっている。

「良い天気だなぁ。…あ、今日、実践演習あるんだっけか…。」
「だね。まぁ、僕達の班は、大丈夫じゃない?ギンガもケイも居るし、僕は後ろでサボってるからさ。」
「…お前、サボりすぎて、単位まずいんじゃなかったっけ?」
「いや、ガルーダの単位を、少し動かしといたから問題ないよ。」
「おまっ!?どうりで、出席してんのに単位が少ないと思ったぞ、この腹黒!!」
「世の中、騙される方が悪いのさ。無知とは罪だよ。」
「…良い性格してやがるな、お前。…文通相手も騙してんじゃないだろうな?」
「まさか、騙すなんて事は、君以外にしないよ。第一、文通相手は年下の女の子だし。」
「…お前さ、本気で危ない趣味してないよな…?」
「さてさて、なんのことやら。あ、知ってるかい?小五とロリを足すとね、悟りになるんだよ?」
「おまわりさん、こっちです!!」



さてさて、若き鳥達の登場は、もう少し後の物語。








メビウス・ランスロット宅


「ん~…ふぁぁ。…朝ですか。」

カーテンの隙間から差し込む日の光でメビウスは、眼を覚ました。
授与式から1ヶ月。彼自身、特に変わったこともなければ、変わることも無い。変わる必要が無い。
胸の上に重さを感じ、クスクスと笑いながら彼はそこにいる存在に声をかける。

「おはよう、ヤガ。…ほら、起きるから、どいてくれるかな?」

まだ眠い…と言った雰囲気の子猫サイズのヤガランデを胸から降ろし、背伸びをしてカーテンを開ける。
晴れ渡った青空に太陽が燦々と輝きだしていた。クローゼットを開けて、学園の制服に着替え、身だしなみを整える。
寝癖が付いてないか鏡で確認すると、適当に手櫛で整えて、白いリボンで綺麗にまとめ結ぶ。
それだけで、整うのだから、本当のサイファー譲りの綺麗な髪である。

『おはようございます、マスター。今日もいい天気になりそうですね。』
「えぇ、おはようエクス。…洗濯日和なのですが、昨日してしまいましたものね。」

ネックレス状態のエクスの声に答え、彼女を首から下げる。そして、赤いブレスレットのファイヤを手首に装着し、身だしなみは完璧。

『我が王よ、おはようございます。…相変わらず、お美しい姿ですな。…しかし、洗濯日和とは…いやはや、やはり王は性別を間違えたのでは…?』
「朝から、面白い冗談ありがとう、ファイヤ。…まったく、何度も言いますが、私は男なんですから。」
『まずは、王よ。口元に手を当てて、笑い仕草をどうかされよ。』

クスクスと口元に手を当てて笑う彼の姿は…確かに女性…と言うか、サイファーとそっくりである。
冗談のつもりでは合ったが、本当に性別を間違っていないかと、心配になるファイヤであった。
後を追いかけ、足元でちょろちょろするヤガランデを注意しつつ、メビウスはキッチンで軽い朝食--トーストとスクランブルエッグ、そしてウィンナーを作ると、リビングで食べ始める。
そして、日課のように朝のテレビ番組、ファンタズマTVにチャンネルを合わせる。
小難しいニュースばかりでなく、音楽情報やスポーツニュースなどもあるので、朝の定番はこれと言う人も多いだろう。
しかし、付けた時はCMだったらしく、スポーツ飲料のCMが流れていた。

「汗をかいたら水分補給、アミダエリオス、好評発売中!…さぁ、次の訓練に行きましょう。」
『あ、マスターのCMですね。』
「ごほっ…。…もう流れているんですね…これ。」

咳き込みつつ、メビウスはテレビの中の自分を見て、乾いた笑みを浮かべた。そこには、トレーニングウェアを着た彼が、笑顔でドリンク持ち宣伝を行っていたのだ。
ヒーロー・オブ・ヒーローを受賞したからと言うもの、CM出演や企業のイメージキャラクターとして、メビウスに…いや、ISAFの隊長陣に多数のオファーが届いている。
最初は断っていたのだが、クロノの「資金提供もあるし、管理局の印象を柔らかく、かつ、さり気ない宣伝の為に出ておいてくれ」と言う指示で、渋々参加しているのだ。
知名度が上がるのは良い事ではあるのだが…どこかむず痒い。

「管理局は、新たな人材を常に求めています。貴方の力で、誰かを護る為に。…我々は何時までも、貴方の参加を心待ちにしています。一緒に平和の空を…。」

ピッ-と電子音を立てて、テレビの電源が切れる。…消した本人であるメビウスは顔は若干、赤く染まっていた。
…如何に管理局の宣伝CMでも、自分が出ているのだ…凄まじく恥かしい。
朝食の片づけをしていると、呼び鈴の音が響き渡る。時計を見ると、そろそろ家を出る時間だ。
鞄を持ち、窓の鍵やガスの元栓をチェックして、足に擦り寄ってくるヤガランデに行って来ますと伝えると、メビウスは玄関を開ける。
泥棒が居たとしても、流石にメビウス宅に侵入はしないだろう。ヤガランデも居るし…何より彼を慕うISAF全部隊員を敵に回したくない。
誰だって命は惜しいのである。



「ランスロット空佐、お迎えに参りました。」
「何時もありがとうございます。…ですが、登校位、私1人でも良いでしょうに。」

家の前に止まっている車に乗り込むと、メビウスは運転手に声をかけた。
授与式が終わってから、何故かメビウスは登下校は管理局--と言うかISAF所有--の車で送迎される事になっていた。

「それはできません。今や貴方は有名人です。」
「有名人って…それほど、有名でもないですし、重要人物でもないですよ。私は。」

クスクスと笑う彼に、毎度の事ながら運転手はため息を零す。
ISAFの総隊長にして、ヒーロー・オブ・ヒーローの彼が重要でない訳が無い。今や、そこらのアイドルなんか目じゃないほどに、彼は有名である。
知名度もあるし、何より見た目もある。どこに行っても注目の的になるのだ。
なにより、市街地の中央通を通れば、彼のポスターや、他の隊長陣のポスターが至る所に存在していた。管理局や企業の広告塔にも使われている。

「ハラオウン提督の指示です。…なにより、空佐の身を案じた事ですので、ご理解を。」
「…分かってはいるのですが、クロノさんも心配性ですよね。」
「…むしろ、貴方が鈍感すぎるのだと思いますが。」

今日も今日とて、運転手のため息は積もるばかりなのであった。





教導部隊宿舎


「…評議会直轄地にですか?」
「はい、ぜひ高町教導官にお越しいただきたいと、強いご希望でして。」

その日、女性士官に呼び止められたなのはは、迷っていた。
女性士官が持ってきた話は、約1ヶ月に及ぶ評議会直轄地への長期演習の事であった。
なのはも、今や時の人であるが、1ヶ月の長期演習は初めての事だ。
どうしようか…と迷っている彼女に気が付き、女性士官は更に話を続ける。

「確かに、直轄地は辺境の地ではありますが、施設も充分に整っていますし、付近には街もあります。
ある程度の自由時間も保障されていますので、如何でしょうか?更なるスキルアップに繋がると思いますよ。」
「スキルアップ…ですかぁ。」
「はい。直轄地の教導隊はベルカ戦争を戦い抜いた魔導師を中心に、構成されています。良い機会だと思いますが?」

なのはは、向上心の塊と言っても良いだろう。スキルアップと言われれば、確かに良い機会かもしれない。
ましてや、ベルカ戦争を戦い抜いた魔導師なら、尚更だろう。

「分かりました。お受けする事にします。」
「ありがとうございます。では、こちらの方で手続きはしておきますので。詳しい日程は後ほど。」

少し悩んだなのはだったが、女性士官に行く事を伝えると、彼女もにこやかに頭を下げる。
幸い、学生生活も単位や出席日数も足りているので、問題は無いだろう。…しかし、なんと説明するのだろうか…。
女性士官と別れると、そのまま今日の教導内容を思い出しながら、なのはも演習場に向かっていった。








とある邸宅


「…ご苦労だった。それで、うまい具合に誘えたのか?」
「は…はい、ご指示通りに…。」

ソファに座り、ククク…っと笑い声を上げる人物--シルヴァリアス。彼の前には、先ほどの女性士官が立っていた。
しかし、何処か熱っぽいように眼を潤ませ、何かを待っているような表情をしている。

「ふん、ご苦労だったな。…どうした、さっきから。もう用は無い、出て行け。」
「あぁ…シルヴァリアス様…どうか、どうか私を…。」

シッシッと追い払う仕草をされても、女性士官は出て行かずに、逆に彼の足に纏わりつく。
それを見て、シルヴァリアスは実に愉快そうに口を歪め、眼を赤く染める。

「ふん、良いだろう。…せいぜい、僕を満足させてみろ。」
「は…はい…!」

赤い瞳に魅せられたようにして女性士官は、一枚ずつ服を脱ぎ去っていく。
しかし、シルヴァリアスは頭の中では、まったく別な事を考えていた。

(計画通りだ。…1ヶ月と言う長期間…なのはは僕の懐の中に入れることが出来た。…その位あれば、充分すぎる。
あの蒼髪カスから離れれば、なのはも眼が覚めるだろう。…なにより、うまく近づいてこの力を使えば、僕のものになる。
…ははは、今から楽しみだな…!!)


下賎な俗物は下劣な妄想を抱き、誇れ高い蒼き王が護る、穢れ無き白い女神を付けねらう。


しかし、下賎の者よ、知るが良い。…真実の愛とは、如何なるものでも砕けぬのだと。いや、傷一つ付かぬだと、知るが良い。









ギンガ・ナカジマ
所有デバイス、バイパー・カスタム。




あとがき


はい、洗脳系を持った阿呆がやらかす事はきったないね!!
最後のほうとか書きたくなかったけど、更にシルを落とす為に書きました。
…こいつが汚い事を考えれば考えるほど、メビウスとなのはの恋愛模様が綺麗になる!!…筈。
え、NTR?…そんな事、させないです。させませんし、させないですし、させないです(大事な事なので2回言いました。
さて、ISAF編、まだまだまだまだ続きます。
ちなみに、ギンガがバイパーの理由は、紫繋がりです(おい。
まぁ、空戦魔導師に憧れてるって言うオリジナル設定上、これが丁度良いかなと。苦笑
では、また次回~。





[21516] ISAF編 15話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/06/13 00:26


管理局 本局。八神はやて、執務室

「…なぁ、シャマル。具合、悪いん?」
「え、そんな事ありませんよ?」

書類仕事を手伝ってくれていたシャマルの顔を見て、はやては首を傾げる。
何時も、一緒に仕事をしているし、少し前までは一緒に住んでいたのだ。何時ものシャマルとは違うと彼女は感じたのだろう。
それを聞きシグナムとザフィーラも手を止めて、シャマルの顔色を窺ってみた。

「…確かに、言われると少し顔色が悪い、大丈夫か?」
「あぁ、あまり無理はするな。…熱は無いようだ。」
「シグナム、額に手を当てなくても、私は大丈夫だから…。ザフィーラも、薬は要らないわ。」

額に手を当てて、体温を調べるシグナムの顔は本当に心配そうだ。ザフィーラに居たっては薬箱を持ってくる始末だ。
自分達は家族であり、その一員のシャマルの具合が悪いとなると、心配するのは当然の事だろう。
教導部隊に行っているヴィータが、ここに居たら確実にシャマルを寝かしつけるか、主任の所に殴り込みを掛けるだろう。…彼女の中で、原因は主任と決め付けてしまうのか。
まぁ、治癒担当であるシャマルだって、自分の体調が優れない事くらい、分かっては居るが…そこまでの事ではない。

「けどなぁ…シグナム、ザフィーラ。書類は終わりそう?」
「はい、後は主の決裁を頂くだけです。」
「同じく。シャマルの分は我等が片付けましょう。…そう言う訳で、帰ったほうが良い。」
「うんうん。無理は禁物やよ。身体を壊して、主任になんか言われるのは、嫌やからなぁ。」
「あの男の事です。我らの責任にして、殴り込みを掛けてくるやもしれませんな。」
「そん時は、ザフィーラ。軽くひねっといてや。」
「はっ。」

シャマルの手元にあった書類を奪い取ると、シグナムは自分の分とザフィーラの分に混ぜる。
どうやら、シャマルの帰宅は決定事項のようだ。

「…シャマル。私達、守護騎士は夜天の書から、既に接続が切れている。…それはつまり、ただの人と、同じようなものなのだ。
体調を崩せば、倒れるし、怪我だってする。だから、あまり無理はするな。」
「そうそう。シグナムの言う通りや。上司権限で命令!!至急、病院に行って帰宅するように!!」
「…はやてちゃん…。はい、命令に従います。」
「よろしい。…さぁ、シャマルの分を片付けようなぁ。…シグナムかて、ブレイズ君の所に帰りたいやろうしね。」
「あ、あるじ!?な、なぜそこでブレイズの名が!?」

荷物を纏めて部屋を後にする前に聞こえてきたのは、烈火の将の照れ隠しの声であった。











「おめでとうございます。」
「…ほ、本当…ですか…?」















フレッシュリフォー社、研究施設


「へっっっっきしょぉぉぉぉい!!!」
「…主任、また派手なくしゃみですね。」

盛大にくしゃみをブチかます主任に、しかめっ面をしながらシュテルはティッシュを手渡す。
本社から離れた研究施設で、2人はディソーダーの解析や、新製品の開発を行っていたのだ。
閃やリリンは取引等を、主任とシュテルは裏方である開発等を担当する事になっている。
最も、閃とリリンは開発も可能であり、シュテルも取引の能力は充分にある。…主任?…聞かない方が良いだろう。

「いやはや、誰か僕の噂でもしてるのかね~。」
「大方、兄上様が、何か怒ってらっしゃるのでは?」
「まっずいなぁ。閃君の緑茶に、メロンソーダ混ぜたのがばれたかな…。」
「…はぁ、貴方は子供ですか…主任。」
「頭脳は子供、身体は大人!!迷反低、主任くん!!」
「あ、こちらのデータは、転送しておいてください。…えぇ、本社の方に。」
「…同僚にシカトされるのって、つらいなぁ…。」

妙な事を口走る主任を、綺麗に無視して部下にシュテルは指示を出す。…無視された本人は涙を流しながら、キーボードをポチポチと叩いている。
主任の奇行は今に始まった事ではないので、一々相手にしていたらきりが無いと皆分かっているのだ。

「あと少しで、兄上様の記者会見が始まりますので、準備しておいてくださいね。」
「あいあい。…閃君も今や、リフォー社の顔だもんねぇ。」
「当然ではありませんか。兄上様以外、誰が代表に立つというのです?」
「…シュテルちゃんの、盲信度に全僕が泣いた。」
「凄いですね。細胞単位で、涙を流すのですか?どんな身体の構造をしているのでしょうか。」
「全身ずぶぬれだぜ、やっほぉぉぉい!!」

シュテルの冷ややかな視線にめげない主任。…ある意味で、彼も不屈の心の持ち主ではないだろうか。
だが、そんなふざけた空気を吹き飛ばすようにして、研究所内に緊急ブザーが鳴り響く。
ガタっ…と音を立てて、シュテルは立ち上がると、備え付けてある端末を起動させた。

「こちら、帝シュテル。一体、なにが起こりました!?」
『は、はい。管理局の強行視察だそうです!!…ほ、保安部隊が出ましたが、対処できません!!」
「っ…直ぐに保安部隊を下がらせてください。各員、抵抗はしないように!!」

端末の電源を切ると、シュテルは直ぐ自分の携帯端末を起動させると、閃に緊急メールを送信する。
管理局の強行視察。…最近、企業の研究所に強制的に視察を行い、違法行為は無いか調べているのだ。
しかし、そのやり方は無理やりであり、多くの研究結果や研究機材などを無理やり押収される事がある。
フレッシュリフォー社も、その被害にあっており、再三、抗議を申立てたが、意味が無かったようだ。
隣では、主任が研究データを保存し、幾重にもパスワードを掛け、更に隠蔽を行っていた。

「こちら、管理局評議会直属、ウィザード隊だ。視察を行う、動かないで貰おうか!!」
「…視察ですか。押し入りの間違いでは?」
「はいは~い。全面降伏で~す。」

扉を開けて入ってきた魔導師や完全武装した兵士に、悪態をつきながらシュテルは椅子に腰を下ろし、主任は何時もの様にふざけて手を上げていた。
武装した兵士が、2人に銃を突きつけて、脅している間に、魔導師達がラボの中の物を手当たり次第に調べている。

「…おい、SFSのデータはどこだ?」
「あれは我が社の最高機密です。教える訳にもいきません。」
「質量兵器になる可能性もある。これからは我がウィザード隊が開発、研究を行い、各部署に配布する。良いから、データをよこせ!!」
「…馬鹿ですか?兄上様や主任が開発した製品を横取りする権限が、貴方達にあると思っているのですか?」
「貴様…我々は管理局だ!!秩序と平和を管理する権限があり、貴様らは我々に黙って従えば良い!!」

本気で痛む頭を押さえ、シュテルは頑なに研究データを教えようとはしない。隊長らしき魔導師が、何か怒鳴り散らしているが聞くのも馬鹿らしい。
どうやら、彼らは自分達が最高位の人間であり、その他は完全に下に見ているようだ。こんなのが管理局となると、かなり心配になってくる。
ましてや、評議会直属の部隊がこんなのでは…評議会自体、マズイのではないだろうか?
無視を決め込んだシュテルに切れたのか…。魔導師は華奢な彼女の胸倉を掴むと、容赦なく締め上げ始めた。

「ぐ…なにを…するんですか…!?」
「良いか女。貴様なんてな、軽く殺せるし…慰み者にだって出来るんだぞ…!」
「そ…れが、管理局のする事…ですか…!?」
「何度も言うが、貴様らは我々に黙って従っていれば良い。…おい、そこの眼鏡。研究データを全てよこせ。さもないと…」
「あ~。分かりました、分かりましたから。シュテルちゃんから手を離して!!」

焦ったようにして、主任は再びキーボードを叩き、操作を始める。助けたくても、腕っ節はからっきしであり、銃を突きつけられた状態ではどうしようもない。
小声で、大人しく、データを渡し、新製品を作るしかないかなぁ…と呟き、パスワードを解除しようと思った矢先に、別の兵士がラボに走りこんできた。
何事かと、大声を出す魔導師に駆け寄り、兵士が何やら耳打ちをし始める。
それと同時に、ラボ内部に放送が流れ始めた。

『…こちら、ISAFのブレイズ・トリスタン副総隊長だ。ウィザード隊各員に伝達する。至急、視察を中断し、押収物は返却せよ。
現在、我々ISAFはフレッシュリフォー社、帝閃代表の要請を受けている。返却後、速やかに離脱せよ。さもなくば、不法占拠及び暴行罪で、貴官らを逮捕する事になる。』
「…だ、そうだよ?」
「ぐ…同じ管理局が邪魔をしあう等と…何を考えている、ISAFの連中は…!!」
「俺としては、てめぇらが何を考えてるのか、理解に苦しむっての。」
「兄上…様…!!」

入り口を見ると、額に特大の青筋を浮かべ、両脇にISAFの陸戦隊員を従えた閃が立っていた。
シュテルを掴んでいた魔導師をギロリ…と効果音つきで睨むと、その腕を掴んで捻り上げる。

「てめぇらの汚い手でシュテルに触ってんじゃねぇぞおい!!さっさと、出て行け、阿呆ども!!」
「ISAF、クォックス隊だ。早急に撤収せよ!!さもなくば、敵対とみなして、攻撃する!!」

10分後


「それでは、帝代表。我々も撤収します。また何かありましたら、ご連絡を。」
「ありがとう。貴方達のお陰で助かりました。…我がリフォー社はISAFに、更なる協力をすることを約束しましょう。」
「はっ。ランスロット総隊長も喜ばれると思います。」

最後に失礼します。と敬礼を行った部隊員達がラボから出て行った。あの後、戦闘も起こらずに、ウィザード隊は撤収していった。
後に残されたのは、少し散らかったラボと、超特大のため息を零す閃。その腕の中には、シュテルが納まっていた。


「…シュテル、大丈夫か?」
「はい…。大丈夫です。…大丈夫ですが…もう少しこのままで居させてください。」

スリスリと赤く頬を染めて胸に顔を埋めるシュテルを見て、閃も安堵の表情を浮かべる。
彼女が締め上げられているのを見て、一瞬、陸戦隊の銃を奪って魔導師を射殺しようかと本気で考えた。

「主任も大丈夫みたいだな。」
「もちのろ~ん。…いやはや、研究データも無事だったし、よかったよかった。」

ヒラヒラと手を上げる主任も、怪我はしてないようだ。
しかし…最近の管理局--正確には評議会直属部隊--の越権行為は酷いものがある。

「研究データと新製品の強奪なんて…本当に何を考えて居るんだか…。」
「だねぇ。ミラージュとか、クレストも被害にあってるんでしょう?」
「あぁ。その度に、リフォー社は管理局と強い繋がりがあるんだから、なんとかしてくれ…って言われるよ。」

他の企業も同じ被害を受けていた。その度に、閃の所に各企業から多数の要請が募るのだ。
管理局の最大の出資者であり、ISAFと太い繋がりのある閃ならば、止めてくれるだろう…と言う期待しているのだ。

「期待されてる方も大変だねぇ。」
「まぁな。…けど、逆に考えると…他の企業は、リフォー社をトップだと、認めてる…って事だろ。」

ニヤリ…と閃は意味ありげに口元に笑みを作っていた。以前から、彼はある事を考え、話を進めてきた。
そして、最近のウィザード隊の強行視察の事もあり、それが形を成し、他の企業からも賛成を受けたのだ。
その内容を伝える為に、記者会見の準備をしていたのだが…このトラブルで少し遅れてしまっていた。

「さてと、そろそろ記者会見にいかないとな。」
「あ…はい。兄上様の晴れ舞台、ちゃんと録画しておきますね。」


抱きしめていた腕を放すし、名残惜しそうにシュテルは離れ、閃の事を見送る。
今日、これから行われる会見は…ミッドチルダ全企業にとって、凄まじく重要な意味を持つ会見になるのだ。






1時間後 フレッシュリフォー社、記者会見場

所狭しと並べられたテレビカメラ、記者達の録音マイク。そして、光り続けるフラッシュ。
それは全て、壇上に入るスーツの青年--帝閃--に向けられていた。

「予定の時刻より、遅れての会見。まことに申し訳ありません。…先ほど、我がリフォー社の研究施設が、強行視察の対象になり、その事で遅れたのです。」

頭を下げて、遅れてきた事を謝罪する。ザワザワとざわめく記者達は、その視察の話も聞きたいようだが…今はもっと重要な話があるのだ。

「ですが、ある意味で強行視察は今回の会見の内容にも、かかわりがあります。…昨今、管理局…いや、正確には評議会直轄部隊の越権行為は酷いものがある。
皆さんも、知っての通り、多くの企業の研究施設や開発施設に強制的に視察を行い、管理と称し、研究結果や新製品を押収していきます。
いや、最早押収ではない。略奪と言って良いでしょう。」

その言葉に、更にフラッシュが多くなる。記者達だって、その行為の事は知っている。しかし、記事にしようとすると、圧力が掛かるのだ。
特にウィザード隊は叩けば叩くほど埃が出てくるだろう。しかし、その後ろ盾--評議会とゴッテンシュタイナー家--の力は大きすぎた。
下手すると…自分達が消されてしまうだろう。その事を知っているはずの閃が話しているのだ、否応にも記者達はスクープの匂いを嗅ぎつける。

「このままでは、経済の発展、技術の発展は滞り、我々企業は停滞してしまう。…いや、もしかすると、既に停滞し始めているのかもしれません。
しかし、評議会直轄部隊は、その事を理解せずに、無駄に技術を押収し、自分達だけが使用している。…これは許せるべき行為ではありません。
ならば、我々はどうするば良いのでしょう。…技術の協力と更なる経済の発展の為に、私は各企業に提案を行い…先日、多くの企業から、良い返事を頂いたのです。
…今ここに、我がフレッシュリフォー社を盟主とし、健全なる経済の発展と、技術進化の為に企業合同連盟…企業連の設立を宣言します。」

企業連--リフォー社を盟主とした、文字の如く企業の連盟である。お互いの技術提供と経済の発展…と謳っているが、様は評議会に潰されないようにする…と言う事だ。
リフォー社がトップに立つ事に関しては、表立って反論の声は出なかった。経済規模も最大級であり、管理局とも太い繋がりがある。
仮に何か合っても、盾に出来るから賛成したのであろう。

「我々、企業連は断固として評議会直轄部隊の強行視察を拒否し、もしこれ以上の越権行為が続けば、即刻管理局の出資を停止します。
勿論、連盟内の企業の同様です。仮に、我が企業連内部で、条約違反があった場合も、それ相応の制裁を加えるでしょう。」
「そ、それは、管理局に反旗を翻すと言う事ですか!?」
「いえ、違います。…我々は共存をしたいのです。管理局に支配される…ではなく、共存を。」
「しかし、管理局は司法機関です。指示に従わなければ、犯罪者に…。」

堰を切ったかのように質問をしてくる記者達に答えながら、閃は静かに笑みを浮かべた。
仮に管理局が強硬手段に出た場合、全企業の戦力を当てれば対等に戦えるし…もっと別な方法がある。

「…我がリフォー社は医療機器の開発も行っていますし、クレスト・インダストリアル、ミラージュ・コンツェルンは工業品の開発を。
キサラギ製薬は薬品の開発を。…他には、食品の開発を行っている大火食品等も企業連に参加しています。
…もし、この全ての企業が、開発及び生産を止めたら…どうなるでしょうね。」

その言葉を聞き、記者達は背筋が凍りついた。…企業連はミッドチルダ全域の経済と…生命線を握った事になるのだ。
人間は食べなければ生きていけないし、怪我をした時だって薬が必要になる。工業品だって、無ければ大変だ。
その全ては、企業連が握り…管理局が潰そうとすれば、全ての生産を中止する。
経済制裁--それは武力より、効果的な抵抗手段である。


「以上が、我がリフォー社…いえ、企業連からの発表でした。」






夜 
ノヴァ宅


「たっだいまでござるっすよぉぉ!!」

玄関をブチ破る勢いで開けると、ノヴァは靴を脱ぎ捨てる。どうやら、直ぐに愛するシャマルに会いたい様だ。
…しかし、何時もなら、出迎えてくれる筈の妻が来ない。…少ししょんぼりしながら、リビングの扉を開ける。
すると、テーブルには沢山のご馳走が並んでいるではないか。

「うぉっ!?これ、どうしたんですか…?」
「あ、ノヴァさん、おかえりなさい。」

シャマルが、パタパタとキッチンから出てきて、ノヴァの鞄を受け取りネクタイを外した。
…エプロンをつけてそうする姿は、完璧に奥様である。

「…えっと~、シャマルさん。今日ってなにかのイベントでしたっけ…?誕生日でもないですし…。」
「あ…えっと…。」

シャマルはポリポリと頬をかくノヴァを見て、どうしようと、何事かを迷う。
そして、意を決したように、シャマルは静かにノヴァの胸に抱きつき…背中に手を回した。

「おおう、シャマルさん。今日は積極的「ノヴァ…しゃん。」はい。…何故、涙声?」

グスグス…と涙声を出しながらも、シャマルは顔を上げて、それは…それはとても綺麗な泣き笑いを作り…言葉を続けた。


「赤ちゃんが…私とノヴァさんの赤ちゃんが…出来ましたよぉ…。」


「…………え、赤ちゃん…?」


「はい。…私のお腹の中に…ノヴァさんの子供がいるんです…!!」




静かにシャマルは手をお腹に持っていき…とても幸せそうに笑っている。
そして、固まっていた筈のノヴァは…何故か、シャマルから離れるとリビングの窓を全開にして、深呼吸を繰り返し…。

「我が世の春がきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

と、大絶叫を上げるのだった。














あとがき


いやぁ、ドラゴンズドグマ、面白いですね~。(おい。
とりあえず、シャマルさんと主任の子供。…うん、幸せになってもらいます。
守護騎士は妊娠なんてしない?…愛は全てを可能にする!!
なんかで夜天の書と接続が切れた守護騎士は、人間と変わりないんだ。っての見たので書きました。
StS行く頃には、シャマルさん、お母さんになってますなぁ。…お幸せに!!(作者なのに。



[21516] ISAF編 16話 灯火と烈火が1つになる時 1
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/07/15 22:54
フレッシュリフォー本社ビル。最上階、代表室


「いやはや、先日の演説。実に見事なものでした。」
「いえ、私のような若輩者を盟主にしていただき、本当にありがとうございます。」
「はっはっは。何を言っているのですか。今や、貴方はリフォー社の代表にして、我等が企業連の盟主です。管理局との関係も含め、よろしくお願いします。
いやはや、昨今の管理局の越権行為は酷いものがありますからな。我がミラージュも幾度も被害を被りました。
…あ、いや、決して管理局全てが悪いと言ってる訳ではないのですが。」
「えぇ。それはこちらでも、重々承知しております。こちらとしても、管理局とは共存の道を歩みたいと思っていますから。」
「それは良かった。そうそう以前より言われていたISAFへの出資につきましては、我が社も賛成の声が上がっております。」
「ありがたいことですね。きっとランスロット総隊長やハーリング提督が、喜ばれるでしょう。」
「なんの、全ては平和の為です。…更なる経済の発展と繁栄のために。」

そう言うと、年配の男性--ミラージュ・コンツェルンの重役--とスーツ姿の青年--帝閃--がソファから立ち上がり、握手を交わす。
先日の企業連発足の演説からこうして各大企業の幹部達が、入れ替わり立ち代り挨拶に訪れていたのだ。
ミラージュ社の重役を見送ると、閃は年代物の椅子に座り、深くため息を零す。

「…古狸どもめ。中々に食えないっての。」

盟主として企業連に担ぎ上げられたが、所属企業の考えは恐らくこうだろう。管理局との交渉、それに発する費用は全てリフォー社に支払ってもらう。
結局は厄介ごとを防いでくれる盾…と言う事も兼ねていた。
いかに閃とは言え、百戦錬磨の古狸達相手では、分が悪すぎる。柔和な笑みの下に、何を隠しているのかまったく持って分からない。

「管理局との関係は俺達に任せる…って事は、分かったんだが。あぁ~、マジで頭痛い。」

管理局との関係が良好になれば、各企業は便乗し、悪くなればリフォー社に責任を押し付けるだろう。
リフォー社--閃--の責任は重大と言う事だ。

『代表、クレスト・インダストリアルのスフィア・カーン様が、いらっしゃいました。』
『…そうか、通してくれ。』

階下の受付から、今度はクレストの代表が来たと連絡が入り、閃は姿勢をただし、表情を引き締める。
そうしていると、部屋の扉が開き、1人の女性が入ってきた。クレスト・インダストリアルの社長、スフィア・カーン。
女性でありながらその手腕は優秀--と言うか優秀すぎる--で、企業連内部ではミラージュ・コンツェルンと双璧を為している大企業だ。
しかし、ミラージュは重役を寄越したというのに、クレストの社長が来るとは、閃も想像していなかった。

「これは、カーン代表。態々お越し頂きありがとうございます。しかし、貴女自らお越しとは…。」
「いや、何事も自分自身でしなければ、気がすまない性質なのでね。」
「そうでしたか。…それで、今日は一体どのようなご用件で。」

椅子から立ち上がり握手を交わすと閃は、スフィアを応対用のソファに座らせて、自分は備え付けのコーヒーメイカーでコーヒーを入れる。
誰かに頼めば良いのだが、この位は自分でやりたいようだ。注ぎ終えると、スフィアの前において閃も対面に座る。
実は閃は彼女が苦手だった。見透かすような眼に、何処か不遜な態度。いや、それ自体は決して嫌ではないのだが…。

「まずは先日の演説。…実に見事だった。」
「そう言って頂けると、幸いです。我々、企業連の意思を伝える事が出来たと、思っています。」
「管理局とて、我々を全面的に敵に回しはしないだろう。…まぁ、一部の俗物はどうかは知らんが。」
「ははは、これは手厳しい。」


余談だが今の閃は、転生前の記憶を殆ど失っている。家族の事は覚えてはいるが、リリカルの知識等、もう殆ど消えてしまった。
まぁ、本人曰く原作の欠片も無いので、問題は無いらしい。
しかし…どうやら、彼女の声で、俗物、と聞くと別な人を思い出すらしい。見た目もどこぞの摂政と似て居るし。キュピーンと閃光と一緒に効果音が走りそうな人的に。
それが閃がスフィアが苦手だと、思っている理由だ。…本当に心が見透かされているようで怖いのだろう。

「時に、帝代表よ。…貴殿は、トリスタン副総隊長とは、交流は深いのか?」
「えぇ…まぁ。私的には友人と呼べる間柄だと思っています。…それが何か?」
「ふむ。そうか。…実はな、折り入って彼に頼みたい事案があるのだ。」

スフィアは、少し考える素振りを見せ、懐から端末を取り出すと、閃に手渡してきた。恐らく、表示されている内容を見て欲しいのだろう。
そこには、とある女性が写っていた。見覚えの有る女性に、閃は脳内検索を行い、程なく1人の人間が該当、ヒットした。

「…確か、クレスト社重役の…。」
「そう、我が社の重役の令嬢だ。…頼みたい事案と言うのは、彼女とトリスタン副総隊長との間を、取り持って欲しいのだ。」
「…取り持つと言われますと、一体…?」
「至極簡単に言えば、見合いのセッティングをしていただきたい。」
「はぁ、見合いですか…って、見合い…!?」

シレっと、凄まじい事を言うスフィアに、閃は言葉をなくした。まぁ、誰だって、友人と取引先の令嬢の見合いをセットしてくれといわれれば、驚くだろう。

「トリスタン副総隊長も、そろそろ良い年齢だろう。…なにより、我がクレストとしても、ISAFとは厚意にしたいのでな。」
「は、はぁ…。しかし、いきなり言われましても…。」
「令嬢は乗り気でね。こちらとしても、うまく話を進めたいのだ。…よもや、断る…とは言うまいな?」
「…それは脅迫になってるっつの…。」
「なにか言ったか?」
「いえ、何も。…分かりました。こちらからも、話をしてみましょう。ただし、彼の意思が第一としますので。」
「それでかまわない。…これで私の肩の荷も下りる。…ほぉ、香りも味も良いコーヒーだ。」
「知り合いから頂いたものですが、気に入っていただけたようで。」

コーヒーの香りを確め、口に運んだスフィアの顔が少し綻ぶ。なのはの母親、桃子から貰った物で閃のお気に入りでもある。
彼もコーヒーを飲みつつ、新たな問題に早くも、頭を痛めるのだった。


・ブレイズ・

トリスタン宅

「……どうしたものか。」

恐らく、今の俺に似合う効果音はズーン…だろう。ソファに腰を下ろす、序に肩も下ろして、本気で悩んでいた。
先ほど、閃から通信が入り、緊急事態だという話を聞いていたのだが…。

「俺が見合い…か。」

天井を見上げて、閃からの話を思い出す。内容は、クレスト社重役令嬢と見合いをしてくれないか…と言う簡潔なもの。
断るのは簡単だが、仲介役となっているリフォー社とクレスト社の関係を考えると、そうする訳にもいかないし、ISAFとクレスト社の関係の事もある。
俺個人としては断りたいが、ISAF総副隊長ブレイズ・トリスタンとしては中々に断れない。
正に板ばさみ状態という事で、俺は頭を痛めていた。

「…はぁ、なんでこんな事に…。」
「どうした、ブレイズ。なにか疲れているようだが…?」

大きなため息を零し、手で顔を覆っていると隣に誰かが座る気配がした。…いや、家の中には誰かと言うか、彼女--シグナム--しか居ない。
何時もは結んでいる髪を解き、タオルで水気を拭き取っていた。…そう言えば、風呂に入っていたんだったか。…と言うか、彼女が入っている間、ずっと考え込んでいたのか。

「ん…いや、なんでもない。」
「む、なんでもないのなら、私の顔を見ろ。…ほら、何か隠しているな。」
「…隠してないんだが。」
「嘘をつくな。お前は、隠し事をする時に、耳のスペシネフを触る癖がある。」

自信満々にそう言って、シグナムは俺の耳を指差した。…確かに、触っているな。俺自身、まったく気が付かなかった。

「…良く気が付いたな。」
「当然だ。お前の事は、私は何でも知っているぞ。」

胸を張って、答える彼女に、俺は呆れるやら照れるやら…。俺の事は何でも知っている…か。
それはつまり…愛されていると自惚れても良いのだろうか。…そんなシグナムが居ると言うのに、見合いとは…な。
こんな話を持ってきた閃に少し腹が立つ…そして、断れない自分が居る事にも腹立たしい。

「それで、何を悩んで居るんだ?私にも、話してみろ。」
「いや、そこまでの悩みと言う訳でもないんだが…。」
「…ブレイズ、私には…話せないこと…なのか?私では、お前の力になれぬのか…?」

そう言って、シグナムが少しシュンとなる。こ、こいつ…どこでそんな真似を覚えてきた…!?
恥ずかしながら、一瞬鼓動が高まった。…そんな事を言われ、そんなに悲しそうな顔をされると…言うしかなくなる。
しかし、言ったら言ったで、悲しませる気もするが…。あぁ、またそんな顔をするな。こちらが悪い事をしている…のか。

「…その…な。…閃からの頼みで、見合いをすることに…なった。」
「なんだ、その程度のことか。…見合い…?…みみみ見合いだと!!??」

うんうんと頷いて、話を聞いていたシグナムが数拍置いて突然、テーブルに両手を突いて立ち上がる。
そのまま、なにやらアタフタとする彼女を眺めながら、珍しい物が見れたと思う俺は……駄目なのだろうな。

「見合いとは、つまり…見合いだな!?お付き合いを前提に結婚をして婚約を行うという、あのお見合いの事か!?」
「お、落ち着け!!色々と合ってはいるが、色々と間違っている!!深呼吸しろ、深呼吸!!」

微妙に青い顔をしながら、眼を回すシグナムを落ち着かせて、俺の隣に座りなおさせる。
…あぁ、だから言いたくなかった。…彼女は隠してはいるが、傷ついてるのが分かる。…俺だって、シグナムを見てきたんだ。それ位…余裕で分かる。

「相手は誰なんだ…?私やブレイズが知ってる者か?」
「…相手は、クレスト社重役の令嬢。俺も直接話したことは無い。ただ…何度かクレスト社主宰のパーティーで、面識がある程度だ。」
「く…私以外に、こいつの魅力が分かる者が居たなんて…」
「何か言ったか?」
「いや…その…見合いをする事になったと言ったが…するんだな?」
「俺個人としては、したくない。たが…ISAF副総隊長、ブレイズ・トリスタンとしては…無碍に断れん。クレストも出資者の1つだし、関係もある。」

顔を上げて、隣のシグナムを見ると案の定、悲しそうな顔をしていた。…本当に…悲しませると言うのは、辛いな。
メビウスが、なのはやフェイト達を大切に思う気持ちが、今なら痛いほどに分かる。

「…すまない。俺には、お前が居るのにな。…断れない自分が、腹立たしい。」
「っ!!…ず、ずるいぞ。そんな事言われたら、怒る事も…す、拗ねる事も出来ないではないか。」

そう言って、シグナムは俯きながら、俺の腕に抱きついてきた。何時もは、凛とした騎士の姿をしている彼女だが、俺の前では時折…とても幼い仕草をする。
リラックスして、俺に心を許してくれている証なのだろう。…何度も言うが、そんな彼女が居るのに見合いを断れない自分が…本当に嫌だな。
俯いているシグナムの頭を、撫で…無言のまま夜の時間が過ぎ去っていった…。





フレッシュリフォー社 医療施設

「では、ランスロット補佐官。こちらに座ってください。」
「は~い。…あ~あ、定期検査なんて面倒だなぁ。…ねね、直ぐに終わる?」
「何度も言いましたが、シュテル所長からの指示で、定期検査は厳密に行うように言われています。…もう、5回目ですよ?」

青い髪の少女--レヴィ--が椅子型の医療器具に座ると、女性の研究員がテキパキと彼女に器具を装着していく。
闇の書の残滓から生まれたナイツ、シュテル、レヴィの3人。人と同じ生活を送っては居るが、もし何かの問題が出たらいけないと、後者2人は定期的に、リフォー社の施設で検査を受ける事になっていた。前者のナイツは、消息が不明なのでどうしようもない。まぁ、彼は闇の書のプログラムの中でも、特別な存在だったらしい。
退屈そうに、器具の上で足をプラプラさせながらレヴィは、5回目になる質問を繰り返す。
フェイトと違い、まだ子供っぽい雰囲気を多く残す彼女は、この検査が退屈でしょうがないようだ。
しかし、所長でも有るシュテルから厳命を受けている研究員は、手を抜かない。

「それでは、器具の装着は完了しました。約180分程で検査は終了しますので。」
「…え~っと、1時間は60分だから……3時間も掛かるの!?む~り~、退屈になるよ~!!」
「はぁ…我慢してください。…では、セキリュティフィールドを起動させてますので、部外者は入ってこれません。…退屈でも、我慢してくださいね。」

溜息と冷や汗をかいて女性研究員は端末を操作し、レヴィの周りにドーム状のセキリュティフィールドを展開させると、部屋から出て行った。
これで、誰かが無理に破ろうとすれば、保安部隊が駆けつけてくるし、フィールド自体にも攻勢能力があるので安心である。

「…ぶ~、今頃、フェイトはお仕事中かぁ。…そっちはそっちで退屈だけど、検査よりはまだ良いよ~。」

比較的自由になっている足をプラプラとさせて、部屋の備え付けの時計を見るが、まだ3分も経過していない。…飽きるのが速過ぎる。
まぁ、3時間もジッとしているのは、元気一杯活発なレヴィにとっては至難の業、苦行だろう。
医療器具のモニターや、機器からは規則正しくピッピッピッと電子音が聞こえ、静かな部屋には良く響く。
その音をなんとなしに聞いている内に、少しだけレヴィの瞼が重くなってきた。そういえば、昨夜はテスト勉強で遅くまで机に向かっていた。

「ふぁ~あ…はふぅ、眠いし…まだ時間もあるし…寝ちゃおっかなぁ…。」

そう零すと、レヴィは心地よい睡魔に身を任せる事にした。


医療施設、モニター室

「109室の様子は?」
「はい、問題ありません。」

モニター室では白衣姿のシュテルが、部下の研究員達と施設内部をモニターしていた。
レヴィが検査を行っている109室にモニターを切り替えると、大人しく--と言うか眠っている--検査を受けているレヴィが写った。

「ふう…。また器具を悪戯するかと思いましたが、大丈夫のようですね。」
「あはは…前の検査のとき、コードを絡ませてましたよね…。」

部下の女性研究員は乾いた笑みを浮かべて、前回の検査の事を思い出す。…退出前までは、コードが一本一本、独立していた筈なのに、終了後には何故か太いーー全てが絡まった--太いコードのみになっていた事が有る。

「まったく、あの娘は退屈だと、何をするか……」

腰に手を当てて、苦笑するシュテルだが、懐の通信端末から着信音が響き、慌てて手に取る。
女性研究員から離れ、数言話すと端末を切ると、クスリと笑みを零した。

「109室のロックと、セキリュティフィールドを解除してください。」
「え、しかし所長、まだ検査途中ですが…。」
「レヴィに来客です。心配ありません。あの娘がとても喜んで、退屈でなくなりますから。」

そう言って、いぶかしむ部下がロックを解除すると、モニターに慈愛の眼を向ける。画面の向こうでは、解除された扉から1人の男性が入ってきた。
その姿を見て、研究員も納得したように頷くとシュテルと視線を合わせて109室のモニターの電源を落とすのだった。


109号室

「ん……。」

サワサワと誰かが、レヴィの頭…いや、髪の毛を梳いでいる。とても優しくて、とても気持ち良いその感触は、大好きなサイファーと同じ。
その心地よい感触に身を委ねながら、身動ぎをして、その手を掴むと頬をスリスリと擦り付けた。
柔らかくて、スベスベの手はサイファーと同じ…の筈なのに、少し匂いが違う。…まだ眠っている頭で?マークを浮かべながら、スンスンと匂いを嗅ぐ。

「ふふ…くすぐったいですよ、レヴィ。余程疲れていたのですね。」

耳に届くのは、小さく笑った優しい声。自然と耳に入り込み、レヴィの大好きな…甘い声。

「ふにゃぁ…おにい~…?」
「はいはい、どうしましたレヴィ。…寝言…ですか?」
「…わぁ~、お兄だぁ~…。お兄~、おにい~。」


レヴィが、薄っすらと眼を開けてるとそこには、彼女が大好きで大好きで仕方の無い兄--メビウス--が居た。
椅子に座り、ニコニコと笑顔で優しく彼女の髪を梳いでいる。
寝起きで焦点の定まってない眼でも、メビウスの姿ははっきりと映り、少し舌足らずの声でレヴィは、メビウスの首に手を回して抱きつく。
そんな彼女に、クスクスと笑うと、メビウスも背中に手を回し優しく抱きしめながら、一定のリズムで背中を叩いてあげる。
--ぽん--ぽん--

「おにい~、会いたかった~。…えへ~、おにいの匂いだぁ、おにいのあったかさだぁ~。」
「ふふ、こらこら、そんなに顔をグリグリしたら、制服が皺になってしまいます。」
「いいの~、おにいは~、ボクの事をぎゅう~ってしてれば良いの~。」
「まったく…困ったお嬢さんですね。…これで良いですか?」
「うん~、あったかいなぁ、きもちいいなぁ~。」
--ぽん--ぽん--

大好きな兄の温もりを感じながら、レヴィは再び眼を閉じる。子供の頃、背中を一定のリズムで優しく叩かれている、何時の間にか眠っていた経験は、誰もがしたことはあるだろう。
その気持ちよさに、大好きなメビウスの存在は、レヴィを深く深く眠らせるには最高の組み合わせであった。
所用で、この医療施設に立ち寄った時に、レヴィが居る事をしったメビウスが、シュテルに頼んで会わせてもらったのだ。
最近は、仕事で忙しくて海鳴市にも帰っていないし、フェイト達とも会っていなかった。

「…ふふ、元気そうでよかった。…レヴィ、とても可愛く…そして、綺麗になりましたね。…それでは、良い夢を…。」

抱き付いているレヴィの腕を、優しく解き頭を撫でると、メビウスは椅子から立ち上がる。
出来れば、付き添っていたいが、彼も多忙極める身だ。

「…そう言えば…フェイトも無理はしていないと良いのですが…。」

もう1人、大切な妹の姿を思い出し…退室する彼なのであった。



本局、執務室

「……」
「ねぇ、シグナム、凄く難しい顔して、どうしたの?」
「む…シャマルか。…な、なんでもない。」
「そう?けど根の詰め過ぎは良くないし、休憩にしましょう。…あ、コーヒー、飲む?」
「…うむ、そうだな。貰うとしよう。」

先ほどから、難しい顔をして書類と睨めっこしているシグナムを不思議に思いながら、シャマルが備え付けられているコーヒーメイカーからコーヒーを注ぐ。
その間に、シグナムは自分の分と、シャマルの分の書類を適当に片付けて、スペースを確保していた。
2人分注ぎ終えると、暖かな湯気を出しているカップをシグナムに置くと、彼女も自分の椅子に座る。

「…ふふ、2人でお茶するのって、久しぶり。」
「うむ、そうだな。何時もは、主とザフィーラも居るのだが。」

現在、はやては視察に出ており、ザフィーラはその護衛で席を外していた。なので、今日は2人だけで書類仕事をしていたのだ。
コーヒーを飲みながら、シグナムはなんとなく、目の前のシャマルを観察する。
結婚してから、天然気味は少し収まり、どこか落ち着いた感じの彼女だが…妊娠が発覚してからは、母性や、深かった慈愛の心が更に深くなってきた。
久々に、八神家が勢ぞろいしたときに、シャマルがノヴァの子供を妊娠したと聞いたときは、本当に驚いた。シグナムだけでなく、はやても一瞬呆気に取られてしまった位だ。
その後で、はやてとヴィータが2人揃って嬉し泣きし、それに釣られてシャマルもまた泣いてしまった。シグナムも少しウルっと来たのは内緒だ。
…ザフィーラに至っては、直ぐにベビー用品のカタログを取り寄せるなど…もしかすると彼が一番、テンパってたのかもしれない。

「ん~…シグナム。やっぱり、貴女…少し変よ?私の顔に、何か付いてる?」
「あ、いや…すまない。シャマル…その、今幸せか…?」
「もぉ、本当にどうしたの?…今は幸せかって聞かれたら…当然ね。」

頬を少し赤く染めて、シャマルはニッコリと答える。そして、自分のお腹を優しくなでる彼女の顔は…聖母のようだ。
その表情に、シグナムは良かったと思い…そして、少しの羨ましさを覚えた。
烈火の将、シグナムとて…女性であり、愛する者--ブレイズ--が居るのだ。シャマルの様に…子供が欲しいと思うのは当然ではないか?
その後も、シャマルに心配されながらも、シグナムは大丈夫と答え、仕事を片付けるのだった。




トリスタン宅


「…帰ってこない…か。…そうだ、入浴してる間に帰ってくるかも知れん。うん、きっとそうだ。」

何時もの様に、夕食の材料を買い、何時もの様に彼--と言うか最早2人の家--に帰ってきたシグナム。
そして、何時もの様に2人分夕食を作り…待っていたが…時計が22時を過ぎてもブレイズは帰ってこない。
まるで自分を励ますかのように、独り言を零すと、シグナムは風呂に向かった。…どうやら、ジッとして待って入れないのだろう。
そのまま、風呂に入り、念入りに身体を洗い温まる事60分。…少し顔が赤くなり、上せた様な表情でシグナムは、リビングのソファに倒れこむ。

「…くぅ…長風呂すぎたか…。しかし、ブレイズ…まだ帰ってこない…のか?」

時計を見れば…既に23時。それでも、彼は帰ってこない。…今日は、休みを取り、約束どおり…見合いに行っている筈だ。
何事も無ければ、21時には帰宅すると言われていたのだが…既に2時間前だ。
時計の針が進む音が、薄暗いリビングに響き渡る。…時計から視線をずらし、壁の棚を見る。
そこには、2人で出かけた時に撮影した写真が、多数飾られていた。恥かしがるかと思ったが、逆にブレイズは進んで記録しようと言い出したのだ。
ここに2人が居た証として…一緒に居る証が、記憶が欲しいから。…そう言われたとき、シグナムが少し泣きそうになったのは内緒である。
春、海鳴臨海公園で、桜の下で撮影した写真。夏、夏祭りに出かけ、初めて着る浴衣に、四苦八苦している2人の写真。
秋、郊外の山に、紅葉を見に行ったときの写真。冬、クリスマス、雪化粧の王様橋をバックに手を繋ぎながら、撮影した写真。
全て…全て覚えている。楽しくて幸せすぎる記憶。

「…それなのに、私は…1人でなにをしている…?」

写真から眼を反らし、天井を見上げる。…自分は捨てられてしまったのだろうか。なぜ…1人でこの時間を過ごしているのだろうか。
なぜ…なぜ…

「あいつを…ブレイズを…好きになってしまった…。愛してしまった…。」

孤独が怖いのならば、愛さなければ良かった。何時までも、騎士として生きればよかった。
だが…知ってしまった。人を好きになることを…愛する事を。そうなってしまえば、止める事ができなかった。
だからこそ、怖い。彼を失う事が…いや、違う。彼に捨てられる事が、何よりも怖い。

「私は、なんと愚かで…なんと醜いのだろうな。」

自嘲気味に呟き、腕で眼を覆う。…そうしなければ、涙が止まらない。
寂しさで胸が締め付けられるなど、自分にはこないだろうと思っていたが…そうでもなかったらしい。

「ブレイズ…帰ってきてくれ…。」

懇願するように…愛する人の名前を呼んで、シグナムは眼を閉じた。
次に眼を開けた時に、彼が居るように…。


1時間後


「ただいま。…って、暗いな。」

鍵を開けて、帰宅したブレイズは、少し疲れた顔をしていた。本当ならば、もっと前に帰宅出来ていた筈なのだが…。
最初は、お茶だけと言う約束だったのだが、何時の間にか夕食まで食べる事になってしまった。
高級レストランでの食事は、異様に疲れたらしい。作法は完璧なので、気疲れの方が多いだろう。
確かに、良い食材を使い、一流のシェフが作った料理は美味しい。…だが、どうにも彼の好みではなかった。

「あれならば…いや、違うか。確実にシグナムの料理の方が、好きだな。」

革靴を脱ぎ、首もとのネクタイを緩める。呟いた事で自然と、口元に笑みが浮かぶ。
クレストの令嬢と適当に話をしてきたが、最後の方で、こちらにはその気が無い事はハッキリと告げてきた。
閃にも連絡を入れたが、「まぁ、そうだろうな」的な事を言われ、こっちでなんとかするとも言われたようだ。

「…シグナム…寝てるのか?」

リビングに入ると、ソファの上で、髪を解いたシグナムが、横たわっていた。静かに歩み寄り、彼女の顔を眺め、ブレイズは眉間に皺を寄せる。
頬に、涙の後が見えたのだ。

「…泣かしてしまったか。本当に、俺は大馬鹿…だな。」

手で自分の顔を覆い、首を横に振る。やはり、あの時断って置けばよかった。…だが、この見合いで、決意をした事もある。
そうこうしていると、人の気配で眼を覚ましたのか、シグナムがゆっくりと眼を開ける。

「…ぶれいず…帰ってきたのか…?」
「あぁ…ただいま、シグナム。」

ゆっくりと起き上がる彼女を、支えつつブレイズは隣に腰を下ろした。

「…随分、遅かったんだな。」
「まぁな。最初はお茶だけだったが、夕食まで誘われた。…すまん。」
「…いや、気にするな。仕方の無い事だったんだ。しかたの…ない。」

そこまで言うと、シグナムは俯いてしまった。泣かない様に、我慢しているらしい。
何時もならば、こんな事は無いのだが…色々と頭が混乱しているのだろう。
そんなシグナムに心を痛めながら、ブレイズは言おうとして居た言葉を…口にした。

「…なぁ、シグナム。そろそろ…俺達の関係をはっきりさせようか。」
「ハッキリ…させる…?」
「あぁ、何時までも、このまま中途半端には行かないだろう。」
「……そう…だな。」

静かな…冷静な彼の声を聴き、先ほどまで考えていた事がシグナムの頭をよぎる。あぁ…自分は捨てられてしまうのだろうか。
そう考えると、もう止める事ができなかった。大粒の涙が、ポロポロと零れ落ちる。
そのシグナムに戸惑いつつも、ブレイズは隣から立ち上がる。離れたくない…彼と離れたくないと心が裂けんでも、身体が動かない。
しかし、ブレイズは出て行くわけでもなく、何故かシグナムの前に片膝をついて、左手を持ち上げる。

「八神シグナム、伝えたい事が有る。」
「なん…だ。改まって、何を伝えたい…?」

ブレイズは、大きく深呼吸すると懐から、1つの小さな箱を取り出し、蓋を開ける。そこには、ガーネットの指輪が鎮座していた。

「八神シグナムではなく…シグナム・トリスタンになってくれないか?」
「…シグナム…トリスタンに…?…そ、それは…つまり…。」
「シグナム、俺と結婚してくれ。共に歩み…共に生きよう。」
「~~…ばかものぉ…ばかものぉ…!!わ、わたしが…どんなきもちでまってたのかもしらずに…ばかものぉ…!!」

先ほどとは違う種類の涙を流し、シグナムは立ち上がったブレイズの胸に抱きつくと、ポカポカと擬音つきで胸を叩く。
その行為を甘んじて受けながら、ブレイズは静かに問いかけた。

「…答えて…くれるかな?」
「わかってるくせにきくな。…よろこんでうけよう…我が愛しき人よ…我が愛しき夫よ…。」









あとがき

え~っと…これシグナムさん…と言うか誰?(おい。
また期間が開いて、申し訳ないです。いやはや、ペルソナ4G面白いですね(おいまて。
さて、今回ブレイズさん、シグナムさんにプロポーズ…の巻でした。
次回は、2人の結婚式を書いて…その後、なのは、評議会直轄地に行くの巻きでお送りしようかと思っています。
季節も夏になって参りました、居ると思いたい読者の皆様も、体調に気をつけてください。では、また次回。



[21516] ISAF編 17話 灯火と烈火が1つになる時 2 姫君に忠誠を。
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/08/20 18:18
ベルカ自治領 ティンズマルク。聖王教会 大聖堂

荘厳であり、美しい作りの大聖堂。そこでは、修道女の演奏するパイプオルガンと合わせて、静かだが、喜びに満ちた賛美歌が響き渡っている。
今日、この場で祝福を受ける2人の前には、聖女アストラエアが聖書と十字架を持ち、傍らには白虹騎士団正装のガル・ヴィンランドが控えていた。

「それではこれより、新郎ブレイズ・トリスタン、新婦八神シグナムの結婚式を行います。聖書13章を拝読。」

純白のウェディングドレスを着たシグナムと、その隣では同じく純白のタキシード姿のブレイズ。今日は、この2人の結婚式なのだ。
客席には、メビウスやオメガを筆頭にISAFの関係者、閃やリリン等の企業連関係者に、クロノ、ハーリング等の管理局の人物達の姿もある。
如何にISAF副総隊長や夜天の書の守護騎士とは言え、ベルカの大聖堂。ましてや、聖王教会の中でも最重要人物であるアストラエアが祝福を行うなど、異例中の異例だろう。
しかし、ブレイズが結婚すると聞いた時に、大聖堂で式を行うとアストラエア自身が申し出たのだから、教会幹部達も何も言えなかった。
まぁ、ISAFの評判はベルカ内部でも悪くはないし、借りを作ったと思えば良いと言う意見もあったのは事実だが。
勿論、この事はマスコミだけでなく、各企業にも知れ渡りっていた。だが、式を挙げる場所が場所だけに、押しかける事も出来ないのも、また事実。
万が一のテロ行為に備え、大聖堂周囲を白虹騎士団とISAFの面々が合同で警備をしているのも、また珍しい。
最も、この2勢力に喧嘩を売るテロ組織など、どこにも居ないだろう。ただでさえ、片方だけでも厄介なのに、2つ相手とは…軽く全滅させられる。
静かに、透き通った声でアストラエアが聖書を読み始めた。

「例え我、多くの国の言葉、及び天の御使いの言葉語ろうとも、愛無くば、雑音の如し。例え我、予言する能力、全ての知識、技を覚え、山の如く信仰あろうとも、愛無くば意味が無し。
例え我が財産、人に尽くし施し、人の為に我が身焼かれる事になろうとも、愛無くば、我の益になし。
愛は偉大であり、寛大、そして慈悲である。愛はねたまず、愛は誇らず、高ぶらぬ。己が利を求めず、憤らず、人の悪と思わぬこと。不義を喜ばず、まことの、人の喜びを喜ぶ事。
おおよそ事忍び、おおよそ事信じ、おおよそ事望み、おおよそ事耐えうるなり。愛は決して絶えぬのだ。。
大いなる祝福を…。2人で愛に満ち、愛で支えられた優しく暖かな家庭を、築かれる事を願います。」

静かに、聞きながらシグナムは隣のブレイズを見つめる。
以前--出会った当初--は自分の方が高かった身長も、何時の間にか追い越され、逆にこちらが見上げるようになってしまった。
思えば、彼と最初に出会ったのは、戦場であった。はやての為にと信じて行っていた、魔導師を襲撃して魔力を蒐集していた事で出会ったのだった。
今や好敵手と呼べるフェイトとの交戦中に、彼女を庇うようにして現れたのが…ブレイズだ。
夜闇を思わせるバリアジャケットを纏い、死神の如き大鎌を扱う彼は、その姿とは反した紳士であった。
その鎌を振るい、戦うを求めることは無く、静かで穏やかな対話を求めてきた。言葉があるのだから、言葉を交わそう…と。
彼は何時でもそうだった、馬鹿な位にお人好し。無人世界の砂漠の時だって、自分を捕まえれば良いのに、砂竜から庇い助けてくれた。
その後で、また対話を望んだ。結局はシグナムの望んだ、剣での対話になってしまったが。
ブレイズ--夜闇を照らし、導きの灯火の名を冠した青年。確かに、彼は自分を導いてくれたのかもしれない。

(ふふ、最初は好敵手だった筈なのだが…何時の間にか、愛すべき人になっていたとはな。…やはり、私を満たせるのはお前だけなのだな。)

超えられた身長は、出会ってからの時の長さ。心に積もった想いは、全て愛。人として生きれるのは、彼を愛せよと言う世界の意思。
しかし、改めて彼のタキシード姿を見ると、とても新鮮だ。管理局の制服や漆黒のバリアジャケット等、少しクールな色合いの服装が多いブレイズだが…白も似合っている。

(しかし、騎士たる私が、この様な服を着る日が来るとはな。ふふ、運命とは分からぬものだ。…そ、それにブレイズが着ているのも、私とけ…結婚する為の服だと想うと…。)

嬉しいやら、恥かしいやらで、シグナムの頬は赤く染まってしまった。…本当に幸せなのであろう。




(やれやれ、見惚れるとは、この事を言うのだろうな。我ながら本当に、ゾッコンだな。)

隣で、シグナムが自分の事を見つめているのに気が付かずに、ブレイズは先ほどのことを考えていた。
プロポーズしてから、ドレスや式場の視察などは行ってきたが、その間シグナムは、頑なにブレイズにはドレス姿を見せようとはしなかった。
はやてやシャマル達は見ているのに、何故自分だけ…と釈然としなかった…と言うか、年甲斐もなく仲間はずれにされて寂しかったらしい。
八神家やなのは達に聞いても、口止めをされていると言われて、教えてもくれなかったようだ。
しかし後で、シグナムに聞くと恥かしいし、式まで楽しみにしておいて欲しいからと言う、なんとも可愛らしい理由だった。流石に、そう言われてしまっては、彼も我慢するしかない。
まぁ、そんなこんなで式開始直後まで、お預けを食らっていたブレイズだが、いざドレス姿のシグナムを見ると、言葉が出なかったのだ。
純白のウェディングドレスを纏い、色とりどりの花が飾られたブーケを持つ彼女は、とても美しかった。
何時ものポニーテールとは違い、ストレートに伸ばした髪、少し頬を染めた嬉しそうな笑顔は、とても魅力的である。

(惚れた者の弱みとも言うが…まったく、この時ほど貴方達に見て欲しいと思うときは、二度と来ないよ。…父さん、母さん。)

ステンドグラスから差し込む光を眺め、今は亡き両親を思う。きっと…空の上で笑っていてくれているだろう。

(父さん、母さん。俺は今…最高に幸せです。愛する人が、心から護りたいと願う人が出来ました。)

静かにシグナムに視線を向けると、彼女とも眼が合い、2人で小さく笑い合う。

アストラエアの優しく透き通った慈しみの声が教会に響く。

「では、新郎新婦に誓約をしてたただきましょう。」

純白のタキシードを纏うブレイズに視線を向ける。

「新郎、ブレイズ・トリスタン。汝、この者を妻とし、神の定めにおいて夫婦とならんとす。
汝、健やかなる時も病める時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、助けて、命ある限り共にあることを誓うか。
そして、如何なる厄災を退け、この者の為にある事を誓うか。」

ただ只管に、シグナムを愛せよ。ただ只管に、シグナムと共にあれ。
静かに、自信に満ちた声で、ブレイズは言葉を紡ぐ。…なんだ、そんな事、今更問われるまでも無い、と。

「我が命。全てはシグナムの為に捧げましょう。この者を護る為ならば、如何なる厄災を退ける事を誓います。」 

その言葉にアストラエアは満足げに頷き、今度は純白のウェディングドレスのシグナムに視線を移す。

「新婦、八神シグナム。汝、この者を夫とし、神の定めにおいて夫婦とならんとす。
汝、健やかなる時も病める時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、助けて、命ある限り共にあることを誓うか。
そして、この者を癒し、慈しみ、季節を超え、共にある事を誓うか。」

当たり前だ。私がブレイズを癒すのだ。私がブレイズを慈しむのだ。私は、ブレイズと一緒に居たいのだ。
全て、私が願ってきたことなのだ。優しい笑み浮かべ、シグナムも言葉を紡ぐ。

「我が命。全てはブレイズの為に。如何なるときも癒し、慈しみ、共にある事を誓います。」


人の言葉に本当に満足し、アストラエアは嬉しそうに笑顔を浮かべる。あぁ、なんと美しいのだろう。チラリと視線を向けると、ガルも笑みを浮かべていた。
弟の様に想って来ていた少年が、何時の間にか青年となり、自分達の目の前で式を挙げている。これほどうれしいことは無い。

「では…神の前にて、偽りなき事だと証明する為に、誓いのキスを…。」

向き直り、見つめあう2人。シグナムは照れた様に、しかし幸せそうな笑顔を浮かべ、ブレイズは彼女を優しく抱き寄せた。

「シグナム。…好きだ。」
「…ならば、私の勝ちだな。私は愛しているのだからな。」

静かに唇が重なり合う。触れ合った唇から、お互いの想いが、愛情を感じながら、2人は眼を閉じる。
列席の方では、特別に入場を許可されていたカメラマン達が、撮影をしている。何故かその中に、はやての姿もあるが気にしないで置こう。
そして、アストラエアも何故かカメラを構えている。いや、それ何処から出した。と言うか、そんなので良いのか聖女。
大聖堂の中に祝福の鐘の音が響き渡る。

「今ここに大いなる祝福を受け、1つの夫婦が誕生した。さぁ、祝福を…!!」

感激と祝いに満ちた拍手が、教会内に響き渡る。キスを終えて、振り返った2人が見たのは本当に嬉しそうにしている仲間達。
自分達は、これ程の人に愛され…大事にされてきたのだと…皆に出会ったことを本当に感謝する2人。

「さぁ、次は誓いの印として、指輪の交換を行います。…指輪をこちらに。」

修道女がリングピローに乗った指輪を運んできた。
そして、ブレイズの手袋とシグナムのブーケを一旦預かると、傍らに控える。

「これより2人には、これより心臓に一番近いとされる、左手の薬指へリングを通されます。まずは、新郎から新婦へ」

ブレイズはシグナムの左手を引き寄せ、白く美しい指に指輪を通す。
中心に輝くのは、ガーネット。以前、プロポーズしたときのあの指輪だ。

「では、新婦から新郎へ。」

同じようにシグナムはブレイズの左手を引き寄せる。少年から、青年へと成った彼の手は、逞しくなっていた。
彼に送る指輪の中心に輝くのは、シグナムの髪と同じ色のルビー。常に共にありたいと言う願いだろう。

指輪の交換を済ませると、2人はアストラエアの元で結婚証書に署名を行う。
そして、立会人になるのは、彼らの共通の友人、メビウスとなのはだ。本当はハラオウン夫婦、ノヴァ夫婦にしてもらおうかと思ったが…ほんの少しの感謝だろうか。
メビウスは、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべ、なのははシグナムのドレス姿に見惚れながら、何時か自分も…と隣の大好きな彼を見る。

「2人の誓いが、神と世界中の皆様の前で、真実永久に守られますように、お祈りを致します。では皆様、黙祷を願います。」

アストラエアによって聖書の上に2人--今やトリスタン夫婦--の手が重ねて乗せられると、2人は眼を閉じて祈りを捧げる。
そして黙祷を終えると、アストラエアは声高々に列席者達に向かって、結婚宣言を口にした。

「新郎、ブレイズ・トリスタン。新婦、シグナム・トリスタン。神と皆の前にて夫婦たる誓約をなせり。
ゆえに我、父と子と精霊の御名において、この男女の夫婦たることを宣言す。この者達の幸せなる前途を阻む者は、我らの怒りにて焼かれるであろう。
2人の幸せを願い…共に歩まん事を…。」

大な拍手が巻き起こり…2人を祝福する。笑顔でうなづきあいながら、ブレイズとシグナムは手を握り合う。

「では、最後に祝福の讃美歌を、ここにいる皆さんと一緒に歌いましょう。」

アストラエアが宣言すると、列席者達は立ち上がりオルガンの演奏と共に歌い出す。

「俺の!!」「私の!!」「歌を聞けぇぇぇ」「美声を聞きたまえ!!」

ISAFの席では、チョッパーとスカイアイが自慢の歌声を披露し、ISAFのメンバー達に笑いを提供していた。
クロノとエイミィも寄り添いながら、2人で親友であるブレイズを祝福し、ハーリングとリンディは…若干、涙ぐみながら彼の姿を眼に焼き付けていた。
息子だと思ってきたのだから、2人は嬉しくて仕方が無いのだろう。
ノヴァは何処から出したのか、大量の紙ふぶきを撒き散らし、閃は額に青筋を浮かべ、そんなノヴァを張った押していた。
シャマルは仕方が無いなぁ、と言った様子で、ノヴァを見つつ、その笑顔に負けぬ優しいな歌声を響かせる。
後ろでは、ザフィーラが、デジカメと携帯とフィルム式カメラと言う3段構えで撮影を行っていた。…八神家アルバム担当恐るべしである。
そして、なんと言うか当たり前と言うか、立会人席に居たメビウスとなのはも、2人で寄り添い、手を握り合い綺麗な歌っていた。
余談だが、なのははこれより1週間後、評議会直轄地に演習という形で、行く事になっていた。その間を埋めるように、手を握り合う。

先ほど、アストラエアが言ったとおり、ブレイズとシグナムの仲を引き裂こうとするものが居たら、神だろうと容赦はしないだろう。
最も、引き裂こうとした瞬間に、2人の怒りで生まれて来た事を後悔する事になるのは、眼に見えているが。

「これをもちまして、お二人の結婚式を閉式と致します。さあ皆さん、二人を祝福の拍手でお送りください。」

アストラエアとガルが2人を送り出す。
ブレイズはシグナムの手を引いて祭壇から降りると、右腕を少し曲げる。その腕に、シグナムは自分の腕を巻きつけると、ゆっくりと歩き始めた。
祝福するかのように、ステンドグラスから差し込む光が、純白のバージンロードに虹色の光を落とす。


控え室

「やれやれ、緊張感が凄まじいな。」
「ふふ、同じくだ。先ほどから、心臓が鳴りっぱなしだ。」

椅子に座り、シグナムは隣に立っているブレイズに優しく微笑みかける。今頃、大聖堂の前ではフラワーシャワーの準備が行われているだろう。
シグナムは手元に視線を移した。白いリボンで留められ、色とりどりの花が作られているブーケからは、甘い香りが漂ってくる。
これがあと少しで、自分の手から無くなってしまうと考えると…少し残念だ。

「まったく、手元から無くなるからと言って、そんな残念そうな顔をするな。」
「そ、そんな事は思ってない…と言いたい所だが、やはり少し残念だ。折角、こんなに綺麗なのに…。」
「確かに。そのブーケを持っているシグナムは、とても綺麗だからな。」
「~~。よ、良くも照れずに言えるな、そんな事…。」
「事実なのだから、仕方があるまい。」

窓から差し込んだ光が、シグナムへと降り注ぐ。純白のウェディングドレスがキラキラと輝き、とても幻想的な光景を映していた。

「さて、シグナム。またお前に言う事がある。聞いてくれるか?」
「また改まってどうしたのだ?」

キョトンとする彼女を前にブレイズは片膝をついて、頭を垂れる。
そして、先ほどまでの甘い声とは違い、凛とした声で言葉を紡ぎ始めた。

「ぶ、ブレイズ、どうしたのだ?」
「…シグナム・トリスタン、我が姫よ。我が名はブレイズ・トリスタン。これより、我が命、我が力、我が名、全て貴女に捧げましょう。」
「そ…れは、騎士宣誓…か?ま、待て、ブレイズ、そんな事をしなくても…。」

古きベルカの騎士達が、主君に誓った証の言葉。それをブレイズは、シグナムへと誓っている。すなわち、彼は、彼女の騎士になると言っているのだ。
突然の宣誓に戸惑うシグナム。まぁ、当たり前であろう。目の前の夫が、そんな事をすれば驚くし、何よりシグナムも烈火の将の名を冠する騎士だ。
騎士が騎士に忠誠を誓うとなると、少しおかしい気がする。だからであろうか、ブレイズはあえてシグナムを、騎士では無く姫と呼んでいた。

「我が姫よ。我が全てを賭けて、貴女を護ろう。貴女を愛そう。…全ては、貴女--シグナム--の為に。」
「…本気なのだな。…ならば、我が騎士、ブレイズ・トリスタンよ。主であるシグナム・トリスタンが命ずる。」
「はっ。」
「…常に我が側に居よ。常に我が元に帰ってこい。…私を1人にしない事だ。…約束…出来るか?」
「Yes,your majesty。」


シグナムは笑顔で左手を差し出すと、その手の甲にブレイズは唇を落とす。今ここに、烈火の将…いや、今は烈火の姫と漆黒の騎士が誓いを立てたのである。
準備が終わり、修道女たちが控え室の扉を叩く。そして、案内されるままに大聖堂の扉を開けると、祝福のするかの様に降り注ぐ太陽の光と、色とりどりの花。

「シグナムさん、ブレイズさん、おめでとうございます!!」
「シグナム、こっちむいて!!そうそう、良い笑顔やよ~!!」
「ブレイズ、シグナム。おめでとう!…いいなぁ、私も何時かお兄ちゃんと…。」

沢山の人達から祝福の言葉を受け、2人は本当に嬉しそうに手を振る。そして、徐にブレイズは、シグナムの事を抱き上げた。
所謂、お姫様抱っこだ。突然の行動で驚いたシグナムだが、直ぐにブレイズの首に手を回して幸せそうに笑う。
そして、徐に持っているブーケを勢い良く宙に送り出した。キラキラと光を反射しながら、ブーケは宙に舞い…1人の女性--なのは--の元に降り立った。

「あ~あ。やっぱりなのはちゃんかぁ。まっ、そうやとは思ったけど。…負けへんよ?」
「けど、私は嬉しいかな。お兄ちゃんとなのはが結婚するの。…私もするけどね。」
「2人とも…うん、ありがとう。けど、私も負けないよ?」

クスクスと笑い合うなのは、フェイト、はやて。…現在、2人の狙いはなのはが不在時の1ヶ月間。…メビウスにアタックを仕掛けるのは好都合だが、これは別の話。
そして、上空には、ISAF所属の魔導師達が、魔力光で祝福の言葉を空に残している。その中には、メビウスやアーサーの姿もあった。
新たなる門出を、我等が友の為に祝福を、我等が灯火の為に。
これより、ブレイズとシグナムは共に歩んでいく事だろう。共に生きることを願った、2人に…盛大なる祝福があらんことを。









時刻 夜。







「ブ…ブレイズ、電気は…消さないのか…?」
「消したら、可愛いお前が見えないだろう?」
「かか、かわいいだと!?…いや、しかしだな…その、は、恥かしい…」
「ふむ、そうか。別に消しても構わんが、知っているか?人間は、視野が極端に制限されると、聴覚に頼るらしい。…意味が分かるな?」
「~~…!!お、お前…キャラが変わりすぎだ…ばかもの。」
「魅力的過ぎるシグナムが悪い。…手加減は出来そうも無いな。」
「ま…待て!!…や、優しくしてくれ…。」








あとがき


あっついですね~。夏ですね~。扇風機フル稼働ですね~。猫がソファをボロボロにしてくれますね~。
パソコンの熱とPS3の熱と液晶TVの放熱が凄まじいですね~。猫が網戸によじ登りますね~。
こんな感じに溶けておりますへタレイヴンです。某所にて別の名前でSS書いてる大馬鹿です。ライ×カレンは最高です…!!
今更ながらダークソウルに熱中。ブラウン管だとやりづらかったんですもの…。
ようやくブレイズとシグナムは結婚しましたね。これから、時々はこの夫婦の話も挟んでいこうかと。
次回はなのはが評議会直轄に行く話し。そして、メビウスの忍び寄る金色の影。さて、一体どうなる!!で行こうかと思います。
…いい加減、なのは以外にも良い思いをさせなくては。片思いは何時までも続けるのは大変なのです。
では、皆様も夏の暑さに負けないでくださいね。へタレイヴンでした。







[21516] ISAF編 18話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/08/23 20:47



クラナガン 旧市街地エリア 港湾地区



新市街地より、王様橋を渡った旧市街地の港湾地区。
ほんの少し前までは寂れた港湾地区だったが、今では綺麗に区画整備がなされ、お洒落な店が並ぶようになっていた。
何故、この様な劇的な変化が起こったのか。それは、一際目立つ大きな建物がその理由だ。
Independent Speed Assault Force 独立速度強襲部隊。通称、ISAFの本部がここにあるからだ。
メビウス・ランスロットを初めとした名立たるエースが所属する部隊の本部がある。それだけで、充分な観光資源になっている。
その資源にいち早く飛びついたのは、やはり企業である。観光ツアーや観光目的の団体の為の宿泊施設や店などを展開。
そして、整備された一部区画は居住区としても利用されていた。
何より、他の部隊と違いISAF本部は、1階ロビーまでなら、許可無く誰でも立ち入る事が可能となっている。
管理局を身近に感じてもらうためであり、これも観光資源の1つだ。当初は、テロの標的にされたらどうするのだと言われたが…彼らは対テロ部隊だ。そんな心配など無用。
付近の売店では、ISAFに関連するお土産も売り出されている。定番のレターセットや写真。中には、玩具のエクスキャリバーやスペシネフまで売っていた。
勿論、収録されている声はエクスやスペシネフも彼女達の声である。
「ブリッツセイバー、展開します!!」や「目標捕捉、今なら倒せます。」と言うカッコいい子供向けの台詞が収録されているが、
中には「マスター、心配をかけさせないでください」や「マイロードしか興味ありません」等の台詞もあり、一部のそう言うマニアも購入するらしい
ISAFのエンブレム、スリーヘッズアローのキーホルダーに、メビウスと同じ色のリボンなども多数販売されている。
売り上げ金額は、ISAFの運営資金に回されている。…企業等から提供されている金額には及ばないが、馬鹿には出来ないのだ。
今日も今日とて、下は観光客でにぎわっているが、最上階--総隊長室--まではその喧騒は聞こえてこない。
広い部屋の中、メビウスは黙々と端末を操作しながら、仕事を片付けていた。

「ふむ。これは秘書官の育成が必要かもしれませんね。」

大き目の机の上に詰まれた書類を見て、メビウスは苦笑を浮かべる。如何に彼が有能とは言え、片付けれる仕事量にも限界がある。
以前はブレイズが手伝ってくれたが、彼も彼で部隊の訓練や編成で忙しい。なにより、優秀なブレイズを秘書官と言う鎖で繋ぐわけにも行かない。
オメガ?…彼に書類仕事など出来るのだろうか。第一、彼は殆ど本部に居ない。ISAFの方針により、一部の部隊は広域警邏を行っているのだ。
まぁ、広域警邏と言っても難しいものではない。日本で言う、お巡りさんだ。自転車に乗った警察官を、見たことは無いだろうか?
それだけで、民間人は守ってもらえてると実感できるだろうし、後ろめたい事が有る者は、隠れたり怪しい行動を起す。それが、逆に目立つのだが。

『マスター、少しお疲れではありませんか?学園が終わってから、直行でしたでしょう?』
『左様、我が王よ。あまり無理はなさらぬよう。臣下たる我等が、何も出来ぬのが歯痒いですが…。』
「ふふ、心配してくれてありがとう。まぁ、人手不足はどこの部隊でも変わりませんし、その内なんとかなるでしょう。」

クスクスと笑みを零すと、メビウスは再び端末のキーボードを叩き始める。ISAFが設立されてからと言うもの、管理局への所属志願者は少しずつでは有るが増えてきているのだ。
なにより、ハーリングが立案し、企業連が後押しをした新しい武装局員の装備についても理由になっている。
魔法に頼らないライフル等の銃器やバイク・装甲車で武装し、魔導師に追従する形をとれば、魔力が少ない者でも活動を行える。
そんな事が可能なのか?と疑問視もされたが、現にISAFの陸戦部隊はそれで実績を出してきている。まぁ、以前から銃器の使用を行ってきたから、慣れていると言うのもあるのだが。
それに、銃器の扱い、威力、性能を知っておかなければ、敵に回したときの怖さも知ることが出来ないだろう。
百聞は一見にしかず、百見は一触に如かずなのである。

『…マスター、秘書官ならばフェイト様を採用されては?以前からISAF所属を希望しておりましたし、良いと思いますが。』
「フェイトをですか。…彼女は優秀です。ISAFより活躍すべき所はありますよ。」
『ならば、王よ。王妃様ならばよろしいのでは。王の背中を護る事も出来るでしょうし、王の最愛のお方。申し分ないと思われます。』
「王妃って…なのちゃんの事ですか?はは、一緒に居たら仕事が手に付かなくなってしまいます。それに、忘れていませんか。今、評議会直轄地に長期演習に出ているんです。」

エクスの言うとおり、フェイトは執務官として優秀な実績を残して居るし、有能な人材だ。それに以前から、ISAF所属を打診してきてはいる。
だが、そんな彼女だからこそ、活躍すべき場所は他にある、とメビウスは考えて、断ってきた。それは今でも変わらない。
しかし、ファイヤが自分の事を王と呼ぶのは知っていたが、まさかなのはの事を、王妃と呼ぶとは思っていなかったようだ。
なのはを秘書官にすれば、四六時中一緒に居れるのだが…。恐らく幸せすぎて仕事に身が入らない。
現在、彼女は評議会直轄地に長期演習と言う名目で、1ヶ月ほど出向している。向こうには、精鋭部隊が存在するので、彼女は更なるスキルアップをしてくるだろう。
そこまで考えると、メビウスの表情が少し陰る。
1ヶ月も会えなくなるのは寂しいが…理由はされだけではない。何故かクロノが緊急通達として送ってきた書類に、出向する魔導師の名簿や飛行機の席順があった。。

「なのちゃん以外、殆どウィザード隊の面々で固められていましたね…。なにより…名前の頭文字も違うのに、どうしてこいつが…彼女の隣なのでしょうね。」

ギリッ…と小さく歯を鳴らし、メビウスは眉間に皺を寄せる。そこには、なのはの隣に、メビウスが嫌いな人間筆頭に上げる人物、シルヴァリアス・ゴッテンシュタイナーの名前があった。




「向こうの部隊は、精鋭揃いだ。きっとなのはのスキルアップに繋がるよ!!」
「あ、うん。そう…なんだ。」
「そんなに緊張しなくても、大丈夫だよ。なのはには僕が付いてるし、僕に任せて!」

熱の入った事を口にしながら、シルヴァリアスはなのはの肩に手を回す。馴れ馴れしく、名前を呼び捨てであり、過剰なボディタッチ。セクハラで訴えられても文句は言えない。
ただ、今回の演習は彼の推薦も有ると言う事で、なのはも露骨に拒絶が出来ない。人の良い彼女らしく、愛想笑いを浮かべるのが精一杯だ。
周囲の局員達は我関せずの態度であり、飛行機の中という狭い空間で、騒ぐ事も出来ない。…隣では騒いでいるが。

「それで、どうかな?考えてくれた?僕のウィザード隊に来ないかって話だよ。」
「あ、ごめんなさい。まだ教導部隊で学びたいし、ちょっと…。」
「いや、絶対にウィザード隊に来た方が勉強になるよ!!それに、丁度僕も秘書官が欲しいって思ってたんだ。なのはなら僕も大歓迎だよ!!」

そう言って、シルヴァリアスはなのはの手を握る。これがメビウスならば、2つ返事で答えていたし、心が暖かくなっていただろう。
しかし、握っているのは、なのはが苦手としている青年。…鳥肌が凄まじい事になっている。振り払いたいのだが…先ほども言ったとおり、なのはは人が良い。
なかなか、そんな大胆な事は出来ないのだ。

「…シルヴァリアス、少し静かにしたらどうだ。他の乗客に迷惑がかかるぞ?」
「ハミルトン、僕はなのはと話をして居るんだ、邪魔しないでくれるかなぁ…!?」

前の座席に座っていたハミルトンが振り返り、溜息交じりにシルヴァリアスに注意を促す。だが、そんな言葉を聞く彼ではなく、なのはとの時間を邪魔されたくないようだ。

「高町教導官だって、少し小声で話しているんだ。君も少し見習うと良い。…そうは思いませんか、高町教導官?」
「え、あ、はい。ハミルトンさんの言うとおり、少し静かにした方が良いと思うよ、シルヴァリアス君。」
「そうだよね。人に迷惑を掛けるのは最低の行為だ。僕も静かにしようと思っていたんだよ!!」

ハミルトンに話を振られ、慌ててなのはは答える。…彼は比較的常識人のようで、なのはも安心しているようだ。
しかし、シルヴァリアスの手の平の返しようも凄まじい。なのはの言われた瞬間に、声のトーンを落とす。…なんなんだろうか、こいつは。
その後も、しつこくなのはに触れようとするシルヴァリアスだが、ハミルトンが一々注意するので気が削がれた様で、寝入ってしまった




バルトライヒ山脈麓 評議会直轄地

飛行機で数時間、なのは達が到着した街は、どこか陰鬱な空気が漂っていた。山脈で構成された厚い雲が上空を覆っているからだろうか。
ブレイズ達の結婚式が行われたベルカ自治領首都ティンズマルクとは似ても似つかない。
その中で、郊外に作られた近未来的な建物--訓練施設--は異様な景観を醸し出している。

「ここで、1ヶ月間生活するんだよ。こんな寂れた街だけど、大丈夫だ。施設の方が内容的には充実しているからさ。」
「まぁ、街には降りない方が良い。管理局の制服は目立つし、あまり良い印象をもたれていない。私も最初は苦労した。」

シルヴァリアスはどこか子馬鹿にしたように、街を見下ろし、ハミルトンは苦笑が混じっている。
確かに、ここまで来る途中にバスの中から街の様子を見たが、住んでいる人々は、管理局の制服に良い顔をしなかった。いや、正確にはウィザード隊の制服であろうか。
自治領の方でも、ここまで嫌な顔はされない。まぁ、向こうの場合は、ISAFの活躍やハーリングの影響力もあるのだろう。

「…ここは、評議会直轄地…なんだよね?それにしたら、その…あんまり賑わってないんだね。」
「態々、占領地を賑わす事もないだろう?大体、ベルカの馬鹿が管理局に喧嘩を売らなければ、ここは未だにベルカのままだったのにね。」
「そんな言い方は、良くないよ。ここに住んでいる人達は、きっと自分達はベルカの人間だって思ってるんだから。」
「いいや、事実だよ。…正しい力の使い道が理解できなかったから、こいつらはこんな風になってるんだ。誰かが、導かないと駄目なのさ。」

心優しいなのはの、悲しげな表情に気が付かずに、シルヴァリアスは吐き捨てる。その表情は、何処か歪んでいた。




施設内部--なのはの部屋


「…はぁぁ~、なんだかやっていけるか心配になってきたなぁ。」

ポフっと柔らかなベットにダイブすると、なのはは大きく愚痴を零す。
最初こそ、スキルアップのチャンスだと思っていたが…いざ来て見ると、重苦しい空気の訓練施設、何処かくすんだ様な見える街。ウィザード隊の雰囲気。
どれをとっても、なのはには慣れそうも無い空気ばかりだ。本格的な訓練は、明日からとなるらしいが…どうなることやら。
取れあえず、なのはは制服から楽な恰好に着替えようかと思い、ボタンに手をかけるが、突然、頭にアイスドールの声が響く。

≪なのは。少し待ってください!!あと、声は出さないで。≫
≪アイスドール?一体、どうしたの?≫

突然、アイスドールに静止され、念話でなのはが聞き返した。何時もならば、光の球体で現れるのに、今回は何故か念話だ。
しかし、アイスドールは答えずに、静かにレイジングハートに語りかける。

≪レイ、反応はありますか?≫
≪はい、各所に仕掛けられています。…下劣な。浴室や洗面所だけでなく、トイレにも仕掛けられています。≫
≪やはり…。なのは、聞いてください。どうやら、各所に盗聴器、隠しカメラが仕掛けられているようです。≫

アイスドールにそう言われ、なのはは思わず絶句してしまった。何故、隠しカメラと盗聴器が?
しかも、レイジングハートの話だと、トイレにまで?そんな事をされる覚えはないし、されたくもない。
訳の分からぬ事で、指先が冷たくなり、身体が震えだす。それを止めるかのように、なのはは自分で身体を抱きしめると、頭を横に振る。

≪なのは、大丈夫ですか?≫
≪…だいじょうぶ。少し怖くなっただけなの。こう言う時だからこそ、落ち着かないと。…誰が仕掛けたんだろう。≫
≪決まっています。ご主人様に、しつこく迫っていたあの男です。こんな行為までするなんて、信じられません。≫
≪…シルヴァリアス君…が?≫

そう思うだけで、更に背筋が冷たくなる。あの粘ついた…舐めるような眼で、自分の事を見ているのだろうか。
隠しカメラの先で、彼はなにをしているのだろうか…そこまで考えて、思いっきり頭を振って考えるのを中断する。…想像するだけで、吐き気がした。

≪安心してください、ご主人様。私が全力を持ってジャミングを展開します。…メビウス様以外に、見せてなるものですか。≫
≪私の方でも、出来る限り手伝います。なのはは安心してください。…これは後で、タングラム姉様に知らせねばいけませんね。≫
≪うん、レイジングハート、アイスドール…ありがとう。…メビウス君、私…やっていけるのかな。≫

アイスドールの最後の呟きは意味が分からなかったが、なのはは2人--で良いのだろうか--に礼を言うと、大好きな青年を思い浮かべる。
彼が好きだという気持ちは揺るがないのだが…これからの1ヶ月間に不安が募るなのはであった。









「くそ!!どうして映らない!!これだから、レサスの連中は…!!僕はなのはの全てを見る必要があるのに…!!」

ガン--とシルヴァリアスはキーボードを叩く。先ほどまで、鮮明に映っていたなのはの映像が、突然途切れ砂嵐へと変貌してしまった。
折角の着替えシーンが見れずに、イラつきながら、彼は薄暗い部屋でモニターを操作し始める。

「ちっ、盗聴器も全滅か…!!まぁ、良い。1ヶ月あるんだ…その間になのはを奪ってしまえば、問題は無い筈だ…ははは…はははは!!!」

下劣な笑い声が室内に響き渡る。邪魔する者は誰も居ない。いざとなれば、強硬手段もあるのだと…邪な思いは膨らんでいく。










ミッドチルダ 某所 ナイツ&愉快な--ジェイルとナンバーズ--の仲間達の秘密ラボ

「さぁ、諸君。朝メシ食べて、遊びと戦闘に勉強に。ついでに犯罪を今日も1日頑張ろう~。手を合わせていただきます。」
「「「いただきます!!」」」」
「あぁ、ウェンディ、それあたしの!!」
「早い者勝ちっすよ、セイン~。」
「オットー、1人で取り過ぎだ!!」
「ノーヴェが遅いだけ…。あ、それも貰い。」
「あたしのコロッケぇぇぇ!!!」

我先にと、ナイツ特製のコロッケを奪い合う妹達を見つつ、年長者組には笑みが絶えない。今日も今日とて、妹達は育ち盛りのようだ。

「う~ん、本当にナイツは料理が上手ね~。」
「ドゥーエ姉様の言う通りね。あなた、なんでも作れるんじゃないの?」
「むしろお前らが、致命的なだけだと思われる。…料理の腕と命的な意味で。」
「そう言って、2人の料理を食べたのは誰かしら、ナイツ?」
「さてさて、何のことやら。」

ナイツの料理に舌鼓を打ちつつ、褒めていた2人だが、彼の冷静な突っ込みを受けて、ピキッっとドゥーエとクアットロは石化してしまった。
以前、彼女達の料理を食べたのだが…それはもう凄まじかったようだ。一緒に食べたジェイルは卒倒し、1週間ほど点滴で過ごす羽目になってしまったのだ。
しかし、ナイツは「なんだこれ、凄まじくまじぃ」と文句を言いつつ、2人の料理をしっかりと完食。その後、落ち込んでいる2人をしっかりと励ましていた。
ちなみに、後でウーノが大丈夫かと聞くと「嫁の料理はまずくても食べるんだよ。愛してんだから当然だ」と返してきた。
それを思い出して、ナイツをからかうが、本人は何処吹く風だ。

「うまい、ナイツ、座布団1枚。」
「…チンク、また変な事を…。こいつの影響で妙な番組は見るな…。」
「つれないなぁ、トーレ。お前だって、昨夜は5回目辺りから、変な事を言いだし前が見えねぇ。」
「貴様は、時と場所を考えろと言っているだろうがぁぁぁ!!!」

何時もの如く、赤面したトーレの顔面パンチが炸裂し、ナイツの顔が陥没する。…昨日は彼女と寝たようだ。
相変わらずの馬鹿ップルぶりに、笑ってしまうウーノ。…石化した2人は、まだ元に戻らない。

「…ナイツ兄って皆と寝てるんだよね。ウーノ姉様以外だけど。」
「ティードの言うとおりだと…えっと11人?わ、凄いね。」
「セイン…態々計算する事もないでしょ。…けど、確かに、凄い。」
「あれ?セッテって時々、トーレ姉と一緒に、ナイツ兄の所に行くッスよね?」
「ウェンディ!?余計な事言わないで!!」

慌てて、セッテはウェンディの口を塞ぐが…遅かったようだ。ゴゴゴと効果音が響き渡り、ギギギと音を立てて、後ろを振り向くと…オットー、ディエチが無表情で立っていた。
…額に特大の青筋を浮かべているが。

「…順番、守ったけど、2回。」
「2回だね。…1人1回ずつの筈。」
「わ、わたしだけじゃない!!ノーヴェもだ!!」
「ぶ、な、なにあたしまで巻き込んでんだよ!!…ふ、2人とも、落ち着け…ひにゃぁぁぁ!!!」

「…セイン、計画通りッス。」
「ふふふ、これで順番は早まる。」

お前ら、それだけの為に…。どうやら、ナイツを巡る戦いは熾烈を極めるようだ。


「ふう、送れてすまない…って、みんなどうしたんだい?…特にナイツ、君…顔面陥没してるけど…。」
「気にするな。少しアグレッシブな愛情表現だ。世に言うツンデレだなうん。」
「よ、良く分からないけど…まぁ、君の事だから大丈夫だろう。」

あはは…と微妙な笑いを浮かべながら、ジェイルも自分の席に座る。

「それで、次のターゲットはどこさね。あ、ご飯は少なめで良いんだな。」
「あぁ、あれがとう。…次はちょっと大胆に行こうかと思ってるんだ。…評議会直轄地のラボだ。」
「ほうほう。最近はISAFにタレコミばかりだったからなぁ。たまには、自分達で悪戯したいしな。」

ジェイルにご飯をよそいつつ、ナイツは次の悪戯--ディソーダー製造ラボ及びテロ組織の基地破壊工作--の標的を聞く。
確かに最近は、適当に内部を破壊した後に、ISAFや地上本部に情報を流す活動が多く、自分達で完全に破壊する内容は皆無だった。

「けど、評議会直轄地ねぇ。聞くだけで、胡散臭さ全開なんだが。3大脳味噌の土地か。…うん、なんかむかついてきた。」
「君は本当に評議会の事が嫌いなんだね…。」
「当たり前だ。俺のキョーダイであるジェイルと、愛する嫁達を物扱いしおってからに…。完膚なきまでに叩き潰す。」
「やれやれ、サラリと愛するとか言える君は、本当に凄いね。」

この夜天の騎士皇は本当にジェイルの娘達--ナンバーズ--の事を、心から愛してくれているし、自分の事をキョーダイと呼んでくれる。
だからこそ、ジェイルと彼女達は、彼の事を全面的に信頼しているのだ。彼ならば、自分達の事を想ってくれると…。
…チラリと彼女達の方を見ると、物の見事に赤面し眼を潤ませている。…余程愛してるといわれたのが、嬉しかったのだろう。

「…とりあえず、アホの子数の子ナンバーズ。さっさと飯を食え。…って、まてなんでこっちに雪崩れてうおおお~。」
「「「ナイツ~~!!!」」」

雪崩れの様に向かってくるナンバーズ--嫁達--に巻き込まれながら、ナイツのやる気の無い悲鳴が食堂に響くのだった。







あとがき

雷なりますね~。入道雲出てますね~。あそこにラピ○タがあるんですね~。
良い感じに溶けております作者です。とりあえず、思い浮かんだ話を書きました。
う~ん。評議会直轄地の話、こんなのを書きたかったのではない気がする作者ですが、書き始めた物は最後まで書きましょう。
次回からナイツの悪戯やなのはの訓練や、メビウスに忍び寄る狸と妹達を書いて行こうかと思います。
…ISAF編、合計100話までに終わる自信が無いです…いっその事ISAF×StS編とかにすれば良いのでしょうか。
では、また次回~。




[21516] ISAF編 19話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/09/07 21:30


バーナー学園都市、魔導師専攻学部

「ギンガ、一緒にお昼食べましょう」
「うん。学食に行く?それとも、教室で食べる?」
「今日は学食、サービスデーで混んでるから、教室にしましょう。」

時刻は昼。午前の授業が終わった教室では、お昼休みと言う事で、生徒達は雑談に花を咲かせたり、友達とお弁当を広げる者、学食に向かう者なの様々だ。
そんな中、彼女--ギンガ--も同級生にして、親友である黒髪の少女と机を合わせて、お弁当を広げる。
彼女の名前は、ケイ・ナガセ。かつて、シュトリゴン隊副隊長であった、ジン・ナガセの1人娘だ。ナカジマ家とナガセ家と親交が深く、幼い時から一緒に遊んだものだ。
今では、同じクラスであり、ギンガの実技パートナーを務めている。
他にも、男子2名が同じ班なのだが、1人は机に突っ伏して寝て居るし、もう1人は姿が見えない。

「クロスは何時もの事として、ガルーダは?」
「飲み物を買いに行くって言ってたわよ。私とギンガの分も頼んでおいたから、少し時間かかるかも。」
「そっか、ケイ。ありがとう。」
「…ほら、クロス。いい加減に起きなさい。もうお昼よ?」


ケイが隣の席で眠っている男子生徒--クロス・グリスウォール--に声をかけるが、微動だにしない。彼はこうして授業中も良く眠っている。
フヨフヨとアホ毛だけが風に揺れていた。ため息を零し、ケイは起すのを諦めたようだ。クロスは起きてても、寝てるときが有る。…意味が分からないが、そうなのだから仕方が無い。
そうこうしていると、購買の袋を提げた紅いバンダナの男子生徒--ガルーダ・ハーマン--がギンガの隣の席に座った

「お待ち。ケイは緑茶で、ギンガは紅茶で良いんだよな。」
「えぇ、ありがとうガルーダ。」
「ありがとう。幾らだった?お金、渡すから。」
「あぁ、気にしなくて良いよ。前のテストの山教えてもらったから、それで返したって事にしてくれ。」

ガサゴソと袋から、2人の飲み物を渡すと、ガルーダもメリッサ特製の弁当を机の上に広げる。そして、残っていた袋をクロスの脇に置く。

「ほれ、お前の分の飲み物とパンだ。」
「…ガル子さんや、飯はまだかいのぉ。」
「今から飯だっ!!つうか、ガル子さんって誰だよ…。」

ガルーダの突込みを無視しつつ、クロスは起き上がり背伸びをする。バキバキと背骨が音を立てるのを聞きながら、ギンガは苦笑を浮かべている。
一見つかみ所の無い不思議な少年のクロスと、紅いバンダナと言う少し派手な外見のガルーダだが、仲はとても良い。
なにより、2人とも実技、筆記共に優秀な成績を収めているのだ。…最も、現在ギンガは主席、ケイが準主席なのであるが。


「ジャンクフードうまし!!…ギンガ、その玉子焼き頂戴。」
「はいはい。クロスがお弁当なしなんて、珍しいわね。」
「母さんが、昨日の夜遅くてさ。起すのも可哀相だから、寝かせたまま出てきた。」
「管理局本部勤めだもんなぁ。最近、忙しいのか?確か、人事管理部だったっけ?」
「そうそう。就職希望者が多くて、大変だけど、嬉しい悲鳴って言ってたよ。」

クロスはピザパンを頬張りながら、ギンガの玉子焼きを受け取りつつ、母親--管理局人事管理部所属--の言っていた事を思い出す。

「シュトリゴン隊が壊滅してから、大変だったらしいけどISAFの設立で、かなりマシに…あ、ケイ、ごめん…。」
「ん…?あぁ、良いのよ。前の事だし、父さんは仲間を護って死んだんだから、きっと本望よ。」

バツが悪そうに頭をかくクロスに、ケイは気にしてないと伝えて小さく笑みを浮かべる。
ケイはシュトリゴン隊の魔導師達とは、子供の頃に良く遊んでもらっていた。今でもヴォイチェクと交流もあるし、何より…彼女は父を尊敬している。
きっと、誇りを持って逝けただろう。父--ジン・ナガセ--にとって、部隊員達は家族同然だったのだ。
だからこそ、彼女もそんな父親に憧れ、魔導師を目指している。そして、もう1人、憧れの人が居た。
灯火と呼ばれる漆黒の魔導師。かつて、国際空港テロ事件で、自分を助けてくれた、彼女の英雄だ。

「ISAFかぁ。クラスの中でも所属を狙ってる奴も居るらしいな。」
「そう簡単には行かないわよ。学生から直接なんて、聞いたことがないわ。」
「けど、ギンガは狙ってるんじゃないの?」
「ん~、そうなんだけど…。まだ分からない。」

フルフルとギンガは首を横に振り、窓から青空を眺める。白い閃光、メビウス・ランスロットに憧れ、空魔導師を目指し学んできた。
幸い、彼女の空戦ランクはAクラスであり、相棒のバイパー・カスタムも空戦に特化されたデバイスだ。
彼女に合わせてバイパー・カスタムが用意されたのか…それとも、バイパー・カスタムに合わせて彼女が用意されたのか…それを知る者は誰も居ない。

「さてと、お昼も食べたし、寝るかな。」
「はぁ、まったく…。クロス、午後の授業はどうするのよ?実技は無いけど、寝てたら怒られる…って、もう寝てるのね…。」

ため息をつき、クロスに注意するケイだが…既に、彼は夢の世界に旅立ってしまった。彼の居眠りは今日に始まった事ではないが、多すぎる。

「気にするな、ケイ。クロス、43の段言ってみろ。」
「43、86、129、172、215、258、301、344、387」
「全部足すと幾らだ。」
「1935でございます。…終わりでやんすかね?」
「OK、寝てて良いぞ。この通り、馬鹿だけど天才だ。」
「…まさに、何とかと天才は紙一重ね…。」








セレス海沖合い
ISAF旗艦マリーゴールド。

「第四砲塔、てぇぇぇ!!!」
「敵誘導弾着弾!!フィールド出力95%に低下!!」
「総隊長、本体コアへの接近を確認!!」
≪こちら、スネークピット。誘導弾妨害を行う!!その中で戦ってくれると助かる!!≫
≪アバランチ了解。メビウス1を援護する≫
≪スカイキッド了解!!スネークピット、あまり前に出すぎるなよ!!≫


マリーゴールドに搭載された実弾砲塔が火を噴き、目の前の敵--アジム、ゲラン--に突き刺さる。
現在、ISAFはセレス海沖合いに出現したアジムとゲラン討伐戦を行っていた。
戦場が海の上と言う事もあり、重火器を所持している陸戦部隊は出撃できず、マリーゴールドと空戦魔導師と言う戦力で、討伐作戦に挑んでいた。
如何に最新鋭艦のマリーゴールドとは言え、破壊の権化であるアジムとゲランの両方相手にするのは、まず無理だ。
空戦魔導師達はゲランを、マリーゴールドはアジムを相手に砲撃戦を繰り広げている。
ゲランの魔力流を回避しながら、白い閃光--メビウス--が本体コアに肉薄する。
誘導弾が追尾しているが、アバランチが持っていた妨害装備--フレア--を撒き散らし、援護を行っていた。
セイバー状態のエクスとファイヤを、本体コアに突き立てると、バチバチと魔力同士がぶつかり合い、火花が散る。

「くっ…。流石に、硬いですね…!!」
≪メビウス1、退避しろ!!収束魔法で、外殻を削る!!≫

肉薄していたメビウスを捕まえようと腕を伸ばしたゲランから、クイックターンで離脱すると、ウィンドホバー--ダニエル・ポリーニ--と部下達が、一斉に収束魔法を放ち外殻を削る。


「エクス、少し反応が遅いです。速度をもう少し引き上げてください。」
『……了解です、マスター。』

一旦離脱し、スネークピットのジャミング及び防御フィールド内部に撤退し、メビウスはバイザーの情報を見直す。
その時、エクスに反応速度の底上げを頼むが、少しだけ彼女が沈黙するが…気が付かなかったようだ。

≪…蛍卿。気が付いていますか。≫
≪うむ、王の速度が、姫を超えてきておる。…まさか、ここまで成長するとは、思わなかった…。≫
≪私では、マスターのデバイスには…役不足…と?マスターの剣には、なれないと…?≫
≪そう泣きそうになるな。王は姫を必要にしておる。…そうさな、この戦いが終わったら、王に相談しよう。≫

秘匿回線での念話で、エクスはファイヤに自分の性能の限界を語る。確かに、彼女は優秀なデバイスだ。
しかし、その性能を限界に…限界以上にメビウスは引き出していた。恐らく、製作者とてここまで使いこなす者がいるとは思わなかっただろう。
泣きそうになるエクスを励ましつつ、ファイヤは王--メビウス--の成長振りに驚きを隠せない。
そんなデバイス達の葛藤を知らずに、メビウスは以前とアジム、ゲランの能力が違う事を分析していた。

≪やはり、以前より耐久度、魔力密度が上昇していますね。成長していると言っても良い。ケニス艦長、レールガンの使用をお願いします。≫
≪よろしいのですかな?まだ上から、無断使用と言われますが。≫
≪我々は独立部隊です。一々、上から許可を取っていては、手遅れになります。…また私が責任を被れば、良いだけの事です。≫

小さくメビウスは笑みを零し、ソラノカケラを最大出力まで発揮する。どうやら、一気にケリをつけるらしい。
彼の指示を聞き、ケニスも深くため息を零す。なぜこの人は、部下--たとえ年上でも--の為に、全ての責任を被るのか。
恐らく、ここでレールガンを使用すれば、上層部から無断使用だのなんだのと叩かれるのは当然だ。しかし、その責任は全てメビウスが被っている。
以前、その理由を聞いた事がある。

「総隊長、失礼ながら、全ての責任を貴方が被る事も無いのでは。…少なくとも、マリーゴールドの艦長は私です。搭載兵器使用の責任ならば…」
「良いんですよ、ケニス艦長。…年下の私の指示を、貴方達は文句を言わずに従ってくれている。それだけで充分なのに、責任まで押し付けたら、私の居る意味が無いんです。
生意気だと思うかもしれませんが、私の心配ではなく、自分と仲間の心配をお願いします。全力を尽くせば、出来る事は多いんです。
助けれるのに、助けれない。倒せるのに、倒す事が出来ない。…そんな事では、意味がありません。お願いします…私に力を貸してください。」

そう言うと、メビウスは深々とケニスに頭を下げたのだ。正直、ケニスは彼を心配していた。あまりにもお人好し過ぎる。
そのお人好しが、問題を呼び込まなければ良いのだが…と危惧しているのだ。それは、尊敬するハーリングにも同じだ。
一瞬、思考の海に潜ったケニスだが、直ぐに頭を振ると、部下にレールガン使用の指示を出し始めた。

「レールガン発射用意!!目標、アジム本体コア!!」
「了解!!…メビウス1、高度上昇を確認。…ユリシーズ発射体勢です!!範囲内の魔導師は至急退避せよ!!」

遥か上空まで高度を上げたメビウスは、エクスとファイヤを連結させ、砲撃体勢を整えている。再び、空から供給された魔力が、2つのコアに集まり始める。
そして、零れた魔力は、球体になり彼の周りを漂い始めた。最強最大の広範囲殲滅魔法、ユリシーズだ。
眼下では、マリーゴールドのレールガンが帯電し、青白い光を放ち始めた。艦橋のメーターが、1つ上がるごとに、光は増していき、発射体勢が整っていく。

「充電率100%。艦長、撃てます!!」
「よし、全砲塔発射用意!!…てぇぇぇ!!!」

レールガンから超高速で撃ち出された砲弾が、アジムのコアを貫き砕き、その後を追う様に灼熱の砲弾が降り注ぐ。
上空では、その爆煙を払うかのように、光が集まり…堕ちてきた

「堕ちろ、ユリシーズ!!!!」

超巨大な魔力の塊と、大小様々な魔力球が堕ちてくる様は、正に流星群。一つ一つがゲランの外殻を砕き貫いていき、最後のユリシーズ本体が全てを飲み込み、海上に着弾する。
爆発で巨大な水柱がおこり、まるで雨が降ったかのように、海水が落ちてくる。
その全てが終われば、周囲には穏やかな空と、静かな海だけが残っていた。

≪アジム、ゲランの反応消失を確認!!作戦は、無事終了しました!!≫

艦橋で歓声があがり、ケニスも艦長席に深く腰掛け帽子を被りなおす。歴戦の艦長とは言え、緊張しないわけが無い。
だからこそ、誰一人掛ける事が無い事を喜びたかった。
外でも空戦魔導師達が、思い思いに歓声をあげ、勝利を喜び合っている。
そして、上空から降りてきたメビウスを揉みくちゃにするのは、何時もの事。

「相変わらず、ド派手な魔法だな、メビウス1!!」
「この野郎、何時も何時も1人で良い所持って行きやがって!!」
「わふ、ちょ、苦しいですって…」

ヘッドロックを食らいながらも、メビウスはあははと笑みを零す。しかし、その頭の片隅では、嫌な予感が渦巻いていた。

(今年に入って、出現回数は10回。…明らかに増えていますね。なにより成長していると考えると…まさか、戦闘データを蓄積している。
…これは、ダイモンと関係があるのでしょうか…。調べる必要がありそうですね。)







あとがき

戦闘描写が絶望(以下省略。
最近、妄想力が枯れてきた作者です。ガンダム・バトルオペレーションに地味にはまっています。どこかで見かけたら、バズーカ撃ち込んで下さい。多分、倒れます(笑
PSPの液晶が割れました。半分画面が消えてるとです。修理に9000円近くかかるとです。
そんな事より、次回はナイツの悪戯となのはの訓練風景を書こうかと思います。…それまでに、妄想力が復活していると良いのですが。
では、また次回~。




[21516] ISAF編 20話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/09/15 00:22



管理局本部 八神はやての執務室

「なぁなぁ、シグナム。どうなんや?」
「どう…とは、何の事でしょう、主?」
「決まってるやないの。ブレイズ君との新婚生活の事。」
「ぶっ!?ごほごほ!!いいい、いきなり何を言うのですか主!?」」
「………布巾布巾」

仕事もひと段落して、お茶を飲んでいた時の出来事。
飲んでいたコーヒーをザフィーラの顔面に噴出し、シグナムは顔を真っ赤に染める。

「シグナムの実家の人間としては、とても気になる所なんよ。ちゃんと会話しとる?ブレイズ君って、クールなイメージがあるからなぁ。」
「し、しております。ちゃんといってらっしゃいも、おかえりも言っていますし…」
「そして、キスもしてるのか。」
「ザフィーラ、何故知ってい…あ゛。」
「本当にしてるとは…。シャマルと主任もビックリだな。」

毎回、キスをせがんでいる事がばれて、シグナムは顔を真っ赤にして俯く。彼との口付けほど、幸せな気分になる物は無いのだろう。
ニヤニヤと笑いながら、はやてはウンウンと頷いているが、その頭と腰から狸の尻尾が見えているのは気のせいだろうか。

「いやぁ、幸せそうで良かったわぁ。で、予定では何時なんよ?」
「予定ではとは、何の事ですか?新婚旅行は、既に行きましたが…。」
「違う違う。シグナムとブレイズ君の子供の事。」
「こここ子供!?なな、何を言うのですか!?」
「照れなくても良いやろ。シャマルと主任には子供出来たんやから、次は2人の子供やろ?」
「子供…私とブレイズの子供。」

お母さん、まって~。
はいはい、ほら、こっちに来なさい。もう直ぐ、お父さんが帰ってくるからね。
2人とも、ただいま。ふう、腹が減ったな。
あ、お父さんだ!!おかえりなさい!!
貴方、おかえりなさい。ご飯は出来てるから、食べよう。

「シグナム?お~い、シ~グ~ナ~ム~?…駄目や、完全に妄想の世界にはいっとる。」

はやてが呼びかけても、シグナムから反応が返ってくる事は無い。…それはそうだろう。物凄く顔を真っ赤にして、ポワポワとした笑顔を浮かべている。
どうやら、将来の家族図を想像--妄想--して、幸せな気分になっているところなのだろう。

「幸せそうやなぁ…。よし、なのはちゃん居ない内に、メビウス君に仕掛けてみよう…。本人が良いよって言ってたし…ね」

なのはが直轄地に旅立つときに、フェイトやはやて、レヴィにある事を告げていた。

皆がメビウス君の事が好きなのは知ってるよ。…だから、1ヶ月間チャンスなんだよ。…大丈夫、メビウス君は受け入れてくれるよ。

「最初からその気やったけど…なのはちゃんには叶わないなぁ。」

あははとはやては、能天気に笑顔を浮かべる。メビウスの中で、なのはは絶対の位置に居ると…自分だって分かっている。
だからだろう、なのはが何も心配していないのは。…別に彼女達は1番になろうとはしていない。自惚れでは無いが、メビウスは自分達の事を好きでいてくれている。
だから…だからこそ、勇気を振り絞り…彼に想いを伝えてみよう。




評議会直轄地、屋外訓練施設

「ディバインシューター、行って!!」

なのはの周りから桃色の光球が放たれると、空中に展開されている静止目標を砕き破壊する。
直轄地での訓練は、基礎から始まり応用訓練、模擬戦と多岐にわたり行われていた。

≪ふむ、高町教導官。次は、移動目標の破壊だ。これが終われば、午前の訓練は終了とする。≫
≪はい、アシュレイ教導官。あの、私、基礎訓練ばかりなんですが…≫
≪基礎がしっかりとしてなくては、どんな強固な建物だろうと崩れる。…本部では習わなかったのかね?≫
≪は、はい。分かりました。≫

インカムから聞こえてくる少し陰気な声。評議会直轄航空隊隊長のアシュレイ・ベルニッツの声である。
なのはが訓練を始めたときに、監督役として彼が付いているのだが…彼女はアシュレイが苦手のようだ。
何処か陰のある雰囲気と、近寄りがたい存在である。失礼かもしれないが、この陰鬱な空にピッタリの人間だとなのはは思っていた。
高速で移動する目標を、シューターで砕きながら、なのはは内心溜息を零していた。別に訓練が詰まらない訳ではない。
本部に居た時だって、他の教導官と切磋琢磨してきたし、バートレットにビシバシと扱かれていた。疲れるが、楽しい日々を送っていたのは確かだ。
しかし、評議会直轄地での訓練は、何処か色が無い。確かに、アシュレイを初めとする部隊員達は優れた魔導師では有るが…色が無いのだ。
雰囲気と言い、眼の輝きと言い…何か曇っている。仮に色を付けるとしたら…灰色であろうか。
移動目標を全て撃破し終えると、アシュレイが訓練の終了を伝えてきた。

≪これで午前の訓練は終了とする。午後は、長距離砲撃訓練だ。それまでは、休憩とする。≫

それだけ告げると、アシュレイは訓練施設の中に入っていってしまう。
空中から降りて、なのははバリアジャケットを解除すると、再びため息零した。

「スキルアップの為に来たのに…これじゃ上がらないよぉ…。」

色も無く、上達すると感じない。なのはが全てが完成された…と言う訳ではない。訳ではないのだが、訓練の内容が身に付かないのは何故なのだろうか。

「なのは、お疲れ様。君も訓練が終わったのなら、少し話さないか?流石は、なのはだ。誘導魔法に関しては完璧だね!!」
「あ、シルヴァリアス君…えっと、その~…。」

どうやら、シルヴァリアスはなのはが訓練をしている所をずっと見ていたようだ。馴れ馴れしくなのはの肩に手を回して、抱き寄せようとするが、拒絶するかのようにかわす。
しかし、それをどう取ったのか、シルヴァリアスはにこやかな笑みを浮かべていた。

「はは、そんなに照れる事は無いよ。僕となのはの仲じゃないか。」
「え、私とシルヴァリアス君って…そんな仲じゃないんだけど…。」

むしろ逆で、なのはは彼が苦手…どころか大嫌いであった。子供の頃に、メビウスやフェイトに浴びせた暴言の数々、舐めるように粘ついた視線。全てが嫌いだ。
だが、彼女は基本的に優しく、人が良い。はっきりと拒絶する事が中々出来ない。…それに漬け込まれていると言えば、そうかもしれない。

「高町なのは教導官、高町なのは教導官。至急、施設エントランスにお越しください。お客様が見えております。高町教導官、至急--」
「あ、誰だろう。…そ、それじゃ、私行くね。」

天の助けとは、この事だろう。シルヴァリアスから逃げるようにして、なのはは駆け出した。後ろで、何か喋っているが無視だ無視。
しかし、お客とは誰なのだろうか…。ベルカに知り合いは居ないし…と考えているうちにエントランスについてしまった。
キョロキョロと周囲を見渡すと…見知った白い修道女服の女性と、純白の制服--白虹騎士団のもの--の男性が見えた。
なのはに気が付くと、修道女服の女性--聖女アストラエア--が、手を振っている。

「なのはさん、こちらです。お久しぶりですね。」
「あ、アストラエア様!?えっと…もしかして、私を呼んだのって…。それに、どうしてここに?」
「はい、私です。ふふ、こちらの方に巡礼に来ていたのです。カリムさんから、なのはさんがこちらに来ているのも聞いていましたので。」
「そうだったんですか。もしかして、会いに来てくれたんですか?」
「勿論です。ふふ、慣れない土地で大変でしょうから、少し用意を見に来たのですが。」

クスリと笑って、アストラエアは窓から外を眺める。カリム・グラシアとはなのはも面識があった。聖王教会の重職でもあり、はやてと親交が有るから当然と言えば当然だ。
それにメビウスからも、ISAFの設立に協力してもらっていたとも聞いている。
にこやかな表情のアストラエアに幾分か癒されたなのはは、表情を和らげた。

「ガルさんもお久しぶりです。何時も一緒なんですね。」
「アストラエア様の護衛が任務だ。…しかし、高町の教官が、アシュレイ・ベルニッツだったか。」

アストラエアの後ろに控えていたガルが、少し苦虫を噛み潰したような表情をした。
何故だろうと首を傾げるなのはだが、アストラエアは仕方が無い人、と言った様子でクスクスと小さく笑う。

「アシュレイは、元はベルカの軍人だったのです。アグレッサー部隊として管理局に所属しているのですよ。」
「えぇ!?そうだったんですか!?ぜ、全然知りませんでした…。」
「ふふ、彼は寡黙な方ですから。…ほら、ガルもそんなに嫌な表情をしてはいけませんよ。」
「失礼ながら、彼らは……いや、話すべき事ではありませんね。」

それだけ言うと、ガルは口を閉ざしてしまい、再び頭に?マークを浮かべるなのは。
どうやら、ガルはアシュレイの事が嫌いのようだ。理由は分からないが…先ほどの表情で何となく理解できた。

「ふふ、固いお話はここまでにしましょう。折角、なのはさんの様子を見に来たのですから、別のお話をしましょう。」
「あ、はい。そうだ、アストラエア様。前から気になっていたんですけど、教会の聖女ってどうやって選んでいるんですか?」
「聖女について…ですか。ふふ、そうですね~。」


何時の間にか、なのははリラックスした表情で、アストラエアとの雑談に花を咲かせるようになっていた。
女性2人の話に入る気が無いガルは、コーヒーを飲みながら、通路の先をジッと監視しているのだった。




「気が付かれたか、流石はヴィンランド家…いや、暗銀の騎士と言えば良いか。」
「良いのですか。高町は優れた魔導師。今のうちに我々の手の内に入れねば…。」
「焦るな、ハミルトン。まだ時間はある。…精々、ゴッテンシュタイナーの小僧に好きにさせて置け。」
「はっ。…ダイモンと呼ばれる連中は如何されます。」
「…貴様が知るべき事ではない。本局の監視を続けろ。」







バルトライヒ山脈 新興テロ組織--ピースメイカー、地下研究所

「さ・て・と・今日も楽しい楽しい犯罪た~いむ。」

ガコっと音を立てて、通気口の蓋が外れ、何時もの様に妙な事を口走りながら、ナイツが天井裏から降りてくる。
それに続いて…と思ったが、誰も降りてこない。どうやら、今回は彼単独の潜入のようだ。

≪ちょっとナイツ兄~。今回はあたしの予定でしょ~?なんで単独なわけ?≫
≪同じく。私も潜入する予定だったんだけど…なんで行き成り変えたのか教えて欲しい。≫

インカムからはぶ~ぶ~と文句を言う妹達--セインとセッテ--の声が聞こえてきた。どうやら、彼女達も一緒に潜入する予定だったらしい。

≪2人とも、文句を言うな。…ナイツにだって何か考えがあるんだろう。≫
≪その通り。流石はトーレ、俺の事を良くご存知で。…愛されてるな、俺。やったね、俺。≫
≪…前言撤回。何も考えてないかもしれん。≫

飄々と、平坦な声で嬉しそうにしているが…何時もの様にトーレがバッサリと切り捨てる。

≪なんだ、トーレ。お前は俺の事を愛してないと言う訳か。≫
≪べ、別にそうは言っていないだろう!!真面目に行動しろ!!≫
≪やれやれ、俺はこんなにも愛してると言うのに。愛されてないとか、ショックだな。≫
≪す、すねるな!!…なんだ、セイン、セッテ…。ああ、そんなジト眼で見るな!!ええい、通信終わるぞ!!≫

ブツリっと音を立てて、通信がきれる。どうやら、からかいすぎたらしい。少し苦笑を浮かべると、ナイツはコキコキと首の骨を鳴らす。
どうやら、今回こそは真面目に--

「まっ、愛してるなんて台詞、毎回毎回、ベットの上で鳴かせながら聞いてるから、良いんだが。」

--するわけが無かった。どうやら、この男…紳士的なメビウスとは正反対の存在のようだ。まぁ、根本的な所--愛してる人は全力で護る--と言う所は変わってない。
彼にとって、ジェイルとキョーダイであり、ナンバーズは嫁なのだ。

「さて、1人じゃ大変かもしれんが…黒い風が鳴き始めた。連れてくる訳にも行かない…な。」

一瞬、ナイツの表情が暗く沈んだものになるが…直ぐに通路の闇に熔けて行った。


研究所--ディソーダー製造プラント--


「よっと…まったく、働きすぎは身体に毒だぞ研究員っと。」

適当に気絶させた研究員達を、ロッカーに押し込むとナイツはふう、と息を吐く。
ここまで来る間に、大きな騒ぎにはならなかった。敵兵士に見つからないように、時にはダンボールを被り、時には適当に気絶させてここまで来た。
…見つかってるじゃないかと言う突っ込みは無しにしておこう。彼にとって、騒ぎにならなかったと言う事が重要らしい。

「さてと、今日も今日とて、昆虫モドキを作ってやがりましたか。」

眼下のフロアには、培養槽が所狭しと並んでおり、多数のディソーダーが蠢いていた。
コントロールパネルを操作して、ナイツは新型ディソーダーのデータや製造工程の内容を手持ちの端末に移し始めた。
それか終わると、持っていたマシンガンでコンピューター郡を蜂の巣にしていく。後で爆薬もセットするが、完全に破壊しておきたいようだ。

「よし、これで完了っと。…さて、次はこの奥…か。」

培養槽エリアを通り抜けて、奥に進むと鋼鉄で出来た扉が存在していた。まるで何かを厳重に閉じ込めているような扉だ。

「まっ、バルトライヒ山脈なら…あれが埋まってんだろうな。それの一つが…ここか。」

備え付けられているレバーを操作して、ナイツは扉を開ける。そして、薄暗い扉の内部に足を踏み入れる。
厳重にカプセルに入れられた黒い物体が保存されていた。たった一つの物を保存するだけにしては厳重な扉。
それは、ナイツの予感が的中した事を表している。

「ビンゴ、ここも廃棄…いや、隠し場所の1つだったか。魔核弾頭V1の。」

それは、忌まわしきベルカの狂気、魔力を用いた核弾頭、V1。たった1発で、大都市を蒸発させるほどの威力を持つ魔力兵器。
ベルカ戦争時に使用された物以外にも、存在していたようだ。徐にV1の入ったカプセルにナイツが触れようとすると、バチっと音を立てて火花が散る。

「げ。ガード付きかよ…。そんでもって警報かよ。俺は面倒が嫌いなんだがなぁ…仕方が無い」

赤いランプが点灯し、警報装置が鳴り響く。めんどくさそうにナイツは頭をかいていると、後ろから兵士達の足音が聞こえてきた。


「侵入者が居るぞ!!探せ!!」
「め、メインコンピューターが破壊されてやがる…管理局の連中か!?」
「いや、単独だ!!見つけ次第殺せ!!」
「ひーふーみー…数えるのも面倒だな。」

物陰に隠れ、どうしたものかと様子を伺っていると、突然兵士達の悲鳴が響く。

「ば、馬鹿な、まだ動けない筈…ぎゃぁぁぁ!!!」
「う、撃てぇぇぇ!!テストタイプだろうと構わん!!殺されるよりはましだ!!」
「なんだこのテンプレ展開。…んで、何がどうなったんだ?」

悲鳴と銃撃音が響き渡り始めるが、1つ悲鳴が上がるごとに銃音が消え、最後の悲鳴と共に最後の音も完全に消えた。
静かにナイツが物陰から顔を出すと、1体の異形が血溜まりの上に佇んでいた。両手には魔力刃が展開され、それで兵士達を切り裂いたのだろう。

「新型ディソーダー、プレディカドールだったか。やれやれ、警報音で目覚めて暴走したか。」

パシャパシャとプレディカドールは静かにだが、確実にナイツとの間合いを詰めていく。手持ちのマシンガンで攻撃したところで、対してダメージは与えれないだろう。
仕方が無い…と言った様子で、ナイツは髪をかき上げる。

「仕方が無い。久々に出番だな。」

右手を広げると、その上に黒い魔力をかき集め、ナイツ--夜天の騎士皇--は剣を構成し始めた。

「汝は月夜の駆ける祝福の風。我、夜天の騎士皇の名において、汝を呼ぶ。汝は我が剣にして、我が友なり…来い、エーレンベルク・リィンフォース。」

黒い魔力が風となり、ナイツの右手に集まり…夜闇のデバイスが構築されていた。それは、メビウスのスライプナー・エクスキャリバーと同じ物。
唯一違うのは、色がまったくの黒…と言った所だろうか。そのデバイス--エーレンベルク・リィンフォース--を肩に担ぐと、ナイツは左手でプレディカドールを呼び寄せた。

「さて、テストタイプらしいが、俺が試してやろう。…リィン、久々だからって、緊張するなよ。」
『心配は無用。…我が主、はやてに与えられた名は、伊達ではありません、騎士皇よ。』
「それは何より。さて、派手にやらかすとしましょうか。」



不敵な笑みを浮かべると、ナイツはプレディカドールに切りかかっていくのだった。









ナイツ・ロード・オブ・ノワール

使用デバイス、エーレンベルク・リィンフォース。黒一色以外はエクスキャリバーと完全に同じタイプ。官制人格は、勿論リィンフォースⅠ。







あとがき


何が書きたいのか分からなくなってきた作者です。う~ん、評議会直轄地編…書くんじゃなかったなぁと若干後悔。まぁ、最後まで書きますけど!!

さて、次回は…もうね、糖分が足りないんですよ。主にヒーローとメインヒロインの話。

と言う訳で、次回はあの2人の甘い話を書きます。異論は認めません。






[21516] ISAF編 21話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/10/23 22:19
「ナイツ、おい!!くそ…あの大馬鹿が…!!」
「新型ディソーダーって…ドクター、今までのデータには無かったんですか!?」
「落ち着きなさい、トーレ、クァットロ。通りで単独で行くと言った訳だ。」

ガンとトーレが端末を叩くと、機器が抗議の声を上げる。ジェイルと一緒にモニターを見ていた、クアットロも珍しく焦った表情を浮かべていた。
ただ1人、ジェイルだけは落ち着いた態度で状況を分析し始める。

「まずは、彼が言ったV1の存在。恐らくだが、ここ以外にも秘匿されてるのだろうね。魔核弾頭か、実に興味深い。」
「ドクター、今はそんな事より、あの大馬鹿を助けなければ!」
「だから、落ち着きたまえ。良いかい、トーレ。彼は、君達を危険に晒したくないから、単独で行くと言ったんだ。、黒い風がなんなのかし知らないが、
僕達とは違い、危険を察知したんだろうね。…何より、彼は君達相手に一歩も引かない…と言うか、逆に圧倒した男だよ?心配は要らない。」
「ですが!!…あの大馬鹿…人の事を離さないとか言っておきながら…ええい、帰ってきたら、顔面陥没させてやる…!!」

心配そうなトーレを初めとした妹達の気を知らずに、画面の向こう側の夜天の騎士皇--ナイツ--は、不敵な笑みを口元に浮かべている。
何時だって、ナイツは飄々として、自分に絶対的自信を持っている。その表れなのか、ナンバーズを相手にしても、彼は圧倒する戦闘能力を持っていた。
彼が負ける所など想像できないが、心から愛している男が1人で戦うとなると、彼の背中を護れるのは自分以外居ないと自負しているトーレには歯痒いようだ。




--地下研究所--

プレディカドールが両手の魔力刃を振るうたびに、培養槽が2つに斬れ、内部に眠っていた幼生ディソーダーが零れ落ちる。
無造作に振られる攻撃を、ナイツはエーレンベルクで受け流し、時には弾き返しながらバックステップで距離をとった。

「切れ味抜群だな。そして、見境なしっと。まぁ、暴走してるから、仕方が無いか。」
『騎士皇、随分と落ち着いていますね。このまま下がり続けて、V1に攻撃が当たったらどうするのです?』
「その時は、風で逃げる。今でも逃げれるけど。」
『ならば、今は何故逃げないのです?』
「良いか、リイン、男って言うのはな、生まれて来た時から、遺伝子レベルでカッコよさを求める生き物なんだ。」
『はぁ?…それで、逃げないのと何か関係が有るのですか?』
「逃げると、かっこ悪いだろ。」
『…理解できません。正確に言えば、貴方と言う人が理解できません。』

バチバチと音を立てて、両者の魔力刃がぶつかり合う。そんな場合だというのに、戦っているナイツとリインには緊張感の欠片も無い。

「しっかし、トーレとかに心配かけてるのは、いかんか。」
『トーレは貴方の事を、一番に愛してますからね。』
「愛されてるつて良いねぇ。…うおっと。」

あほな事を言ってるナイツの右頬を、プレディカドールの魔力刃が掠る。先ほどと比べて、徐々にだが動きが速くなってきていた。
プレディカドール自身の意思に、ようやく身体が追いつき始めたのだろう。

「ふむ、メビウスみたいに傷口を舐めてもらうプレイもありか。」
『その前に、殴られて顔面陥没する確立が高いと思いますが。』
「リイン、最近冷たいな。」
『…トーレ、トーレと言われたら、ヤキモチを焼きたくなります。以前は一緒に、書の深淵で過ごしていたというのに…!!』
「あれ、ものすごく嬉しい事言われた気がするぞ。っと、そんな場合じゃないか。」

ポタポタと頬から血が垂れているというのに、この男、何時でも能天気と言うか、何を考えているのか分からない。
再び振りかざされた魔力刃を目の前にして、リインフォースを持っている--右手--方とは逆の手--左手--をかざす。

「武装構築、身体は武器で出来ている以下省略。命名アファームド・レプリカ。さて、殴り倒すかね。」

黒い魔力光が集まったかと思うと、彼の左手にはオメガのデバイス--アファームド・イジェクト--と同じ形のトンファーが装着されていた。
それでプレディカドールの魔力刃を受け止め、弾き返す。

『相変わらず、武装構築は出来るようですね。』
「まぁな。俺が知ってるデバイスなら、魔力で作れる。まぁ、自我は無い、文字の如く武器だけどな。」
『騎士皇の名は伊達ではないという事ですか。…貴方も貴方で、メビウスに劣らずのチートです。』

これが夜天の騎士皇--ナイツ・ロード・オブ・ノワール--の能力であり切り札。
漆黒のアファームドを振るう度に、黒い残光が周囲に零れ落ちる。先ほどまで、防戦一方であったナイツだが、様子見だったらしい。
プレティカドールが左手の魔力刃を振るおうとすれば、アファームドで左手を叩き潰し、右手を振るおうとすれば、リインフォースのセイバーで叩き切る。
容赦なく、無慈悲に武具を振るう姿は、まるで修羅の如く。両手を破壊されたプレティカドールには、最早何も武器は残されていない。
それでも尚、こちらに迫ってくるのは戦う事しか知らない、悲しき性ゆえか。

「ふむ、テストタイプらしく、武装は魔力刃程度だったか。」
『ナイツ、見ていられません。…楽にしてあげてください。』
「そうだな。すまんな、許しは乞わん。…死んでくれ。」

それだけ言うと、セイバーモードのリインフォースを振るい、上半身と下半身を両断する。切られた所から体液が噴出し、上半身が下に落ちようとも、プレティカドールはズルズルと這いずり回り、最後には…自分が納まっていたであろう培養層の前まで来ると、安心しきったように見上げ…その眼から光が消えた。

「例え歪められても、命は命か。…それすら、理解出来んとは、魔術師連中め。いや、ダイモンもか。」

珍しく苦い表情を浮かべるナイツに、リインフォースは驚いていた。やはり、彼もまた正義を…黒き正義を宿す存在なのだと。
そして、振り返り鎮座してあるV1の前でどうしたもんかなぁ…と悩んでいた。

「このまま埋めといた方が良いんだろうが、また掘り起こすアホも出てくるだろうしなぁ。」
『持って帰りますか?その方が、安全だと思いますよ。』
「でも良いんだが…どうにも、黒い風が泣き止まない。持っていくと、なんか悪い予感がするんだよなぁ。」
『ならば、どうするのです?ナイツも言いましたが、掘り起こされては元も子もありません。』
「そうなんだよなぁ。…仕方が無い、もって帰るか。」

嫌な予感がするが、おいていくわけにも行かず、ナイツはカプセルの中のV1に触れたまま、転移魔法【風】を起動させ、一緒に包み込む。
そして、風が吹き荒れると、一瞬にして彼の姿は掻き消えてしまう。
…後に、そのV1が原因で、ナイツがトーレを初めとするナンバーズと離れ離れになってしまうとは、誰も予想しなかったであろう。






フレッシュリフォー本社ビル、最上階、帝代表室


--閃--

「しかし、こうしてお前と話すのは、久々だな。」
「えぇ、学校も違いますし、なにより閃は忙しいでしょうから。」
「ふふ、お兄様もメビウス様には会いたがっておりました。あ、勿論、私もですわ。」

そういって、俺とリリンの目の前に座る蒼髪の美人--メビウス--はクスリと笑みを零す。…相変わらず、サイファーさんと似てやがるな。
テーブルの上には、俺の入れたコーヒーとリリン手作りのクッキーが並んでいる。

「ふふ、光栄です。けど、良いのでしょうか。私なんかの為に、2人の時間を使わせてしまって…。」
「おいお、今更だろ。リリンだってメビウスの会いたがってたんだから、問題ないさ。」
「はい、そうですわ。…けど、メビウス様、相変わらずお綺麗ですわね。…はぁ、サラサラの髪、羨ましいです。」

ウットリとした表情で、リリンはメビウスの長髪に熱い視線を送っている。まぁ、こいつの髪は母親譲りだろうからな。
しかし、リリンの髪も負けず劣らずに、サラサラしてるんだが…。俺はリリンの髪に触れて優しく撫でる。

「お兄様?どうかなさいました?」
「ん~、俺はリリンの方が綺麗だと思うんだが。」
「…お、お兄様、メビウス様がいる前でそんな…。」
「あ、あははは、やっぱり私、お邪魔みたいですね…。」

ポッと顔を染めてリリンは、俺の腕に抱きついてくる。なんか俺も、少し妙な性格になってきてないか?…いかんぞ、俺はれっきとした転生者で常識人のはずだ!!

『けっ、義理の妹2人に手を出して何が常識人だ。あ~あ、こんなロリコン捕まればばばばバクッてわれちゃうぅぅぅ!!!』
「…相変わらず、レーベンとも仲が良いみたいですね。」
「どこをどうみたらそう捉えるんだ、メビウス・ランスロットぉぉぉ!!!」

首もとで可笑しなことを言い始めるレーベンを、何時もの如く握りつぶし黙らせる。畜生、メビウスはメビウスで誤解してやがるし。

「べ、別にこいつなんかと仲が良い訳じゃないんだからな!!」
『うっぷ…吐き気を催す邪悪とは!!貴様の様な男のツンデレレレのレぇぇぇぇ!!!!』
「…やっぱり、仲良いですよね。」
「レーベンが!!砕けるまで!!握りつぶすのを、俺は!!止めない!!!!」

手の中で、バキバキとかゴキゴキとか音がなってるが気にしない。こいつ、砕けても自己修復するだろ。
そのまま、厳重のレーベン専用ゴミ箱に叩き込むと、再びソファに座り…コーヒーを一気飲みする。…喉が渇くんだよ。

「けど、メビウス様も随分と成長なさったのですね。まさか、エクスキャリバーの反応速度が追いつかないなんて。」

リリンがそう言うと、メビウスは困ったように笑顔を浮かべる。こいつが、ここを訪れた理由は、エクスの改良のためだ。
数日前から、エクスの反応速度の遅さに疑問を感じたメビウスが、うちの施設で検査を行った結果、こいつの反応速度にエクスが追いつけていない事が判明した。
…第一世代のVRデバイスは、超高級限定モデルだ。それこそ、当時の最高技術を駆使して作られているし、今でもその能力は健在。
リフォー社の最高傑作であり最高機密が、何故メビウスやオメガにわたったのかは、分からないが…恐らく、傭兵をしていた両親に関係するんだろう。

「まぁ、主任がバージョンアップするらしいから、安心してくれ。…安心してくれ。」
「大事な事なので、2回言いましたの♪」
「あはははは…閃、せめて目線をあわせて言って下さい。」

そうジト眼で見るなメビウス。…だってしょうがないじゃん。主任だよ?大丈夫?主任の改造だよ?な気分だっつの。
まあ、こいつにとってエクスは長年連れ添った相棒だ。…きっと強い絆で結ばれているんだろう。
リリンの手作りクッキーに手を伸ばしかけた時、代表室の扉が開き、逆行眼鏡で白衣の変人…改め、我が社最高の科学者が姿を表した。

「ふひひ、エクスたんぺろぺろ。ああもう、あんな所まで僕はみちゃったよ!!」
『うう…マスター、私…汚されてしまいました。』
「エ、エクス!?どうしたのですか、ああ、泣かないで下さい!!」
「これでエクスたんは僕のもげぶらぁ!!??」

超絶変態な笑みを浮かべる主任を殴り倒し、エクスを奪取するとメビウスに手渡す。そのまま、転がった主任に容赦なくキャメルクラッチを喰らわして、床に沈める。
…おいおい、本気でメビウスが心配してんだろうが。エクスを両手で抱きしめてるし、若干、涙目だぞ。
こら、リリン、小さく「可愛いですわぁ、メビウス様」とか言うな。ヤキモチ妬くぞ。

「ああ、エクス、大丈夫ですか?どこもおかしくないですか?」
『は、はい、大丈夫ですマスター。…ちょっと、マスターのお優しさに胸がキュンとしました。』

…デバイスに胸が有るのか…と突っ込みたいが、止めておこう。人の恋路を邪魔する奴はなんとかだ。…え、違うか?

「んで、主任。真面目にエクスに何をしたか説明しろ。」
「お、おほん。では、説明をば。まぁ、僕が手を加えたのは、処理速度上昇と外部装甲のメンテナンスだ。
外部装甲の一部に魔力吸収体を埋め込んだから、今まで以上の出力を出せるし、メビウス君の余剰魔力を保管して置くことも出来る。」
「魔力吸収体ですか。けど、私の魔力を保存して、どうするのです…?」
「一々、ソラノカケラを使わないでもユリシーズを連発できるし、自身の魔力を温存したいときには、そこに保存されてる魔力を使えば良いのさ。」

…サラリと、怖いこと言いやがったな、主任の野郎。…ユリシーズを連発できるなんて、なんつう改造をしやがった。

「後はまぁ…ちょっと特別なシステムを搭載したよ。」
「特別なシステム?お前、また危ない奴じゃないだろう?」
「閃君、そんなに僕は信用してないのかなぁ。」
「マッドサイエンティストが良く言うよ。…んで、どんなのを搭載したんだよ?言っとくが、メビウスに危険がありそうなら、即刻削除だからな。」
「大丈夫大丈夫。さっきも言ったけど、エクスの処理速度と反応速度を上昇させるついでに、メビウス君の動きをフィードバックしてサポートするシステムさ。
ただ、その副産物か分からないけど…リミッターを解除すると、相手の動きとか、ある程度は予測できるみたい。」
「相手の動きをですか?…それはつまり、予知能力と言う事…ですか?」
「いや、幾つもあるパターンから、相手の動きを予測する…って事さ。100%当たるわけじゃない。そうだね…95%の確立くらいかな。
ただし、リミッター解除には、多大な負担が掛かるし、予測する=メビウス君の脳内での処理速度を無理やり上げるから、多様は出来ないよ。」
「おまっ…充分危ないだろ。…どうする、メビウス。今なら、まだ削除できそうだが…。」

脳の処理速度を無理やり上げるって…下手すれば廃人確定だぞ。しかし、戸惑う俺を他所に、メビウスは小さく首を横に振る。

「いえ、これからの戦いは、更に厳しいものになるでしょう。…ならば、切り札は多いほうが良い。…私が使いこなせば問題は無いのでしょうし。」
「まぁ、そうだね。さっきも言ったけど、絶対に多様は出来ない。使用のタイミングはしっかりと見極めて欲しい。そして、まずいと思ったら、リミッターを掛ける事。
無理をすれば…良くて気絶、最悪は廃人になる。…搭載した僕が言うのもなんだけど、気をつけてほしい。」
「大丈夫ですよ、主任さん。私には、まだやりたい事が沢山ありますから。」
「なのはお姉様との結婚式ですわね。」
「リ、リリンちゃん…。」

リリンがクスクスと笑っているのに対して、メビウスは耳まで真っ赤にしてやがる。…こいつ、本当に初々しいな。
…そう言えば、前々から気になっていた事があったのを思い出した。…ふむ、聞いてみるか?

「なぁ、メビウス。お前さ、何時までなのはのこと【なのちゃん】って呼ぶんだ?」
「…え、なのちゃんの事を…ですか?…あはは、考えた事もありませんでした。」
「ったく、お前らもいい加減、ちょっとは前に進め。見てこっちが歯痒いっての。」

相思相愛なのに、こいつは…まだ名前で呼ぶのが恥かしいってのか。…はぁ、フェイト達がヤキモキする気持ちが分かる。
確かに、こんな態度じゃ諦めきれないよなぁ。…あ、諦める気は無いのか。

「まぁまぁ、閃君。彼らには彼らのスピードがあるんだから。」
「黙れ、三十路一歩手前。子供が出来てから、偉く余裕だなおい。」
「ふはははは!!転生者だから、三十路どころじゃげふぁ!?」

メタ発言の主任を、再び殴り倒して、俺はため息を零す。…確かに、考えれば、俺もトータルで三十路過ぎてるのか…。
まぁ、性格とかは身体の方に引っ張られてるから、若いままなんだが…。本当、不思議な人生だな。

「えっと…天性社…?」
「メビウス、気にするな。…んで、主任、システムの名前、なんか決めてるのか?」

こう言うシステムには、やっぱり名前がないと締まらないだろ。…うるさい、男の浪漫だ。
俺の声を聞き、沈んでいた筈の主任が逆行眼鏡を光らせて、立ち上がる。…すっげぇ、気持ち悪いな、こいつ。

「ふふふふ、良くぞ聞いてくれました!!その名も、NBシステム!!」
「NBシステム…ですか。なにか意味のある言葉なんですか?」
「ふふふふ、壮大で絶大で最高な意味がありますが!!教えません、さあ、皆で考えよう!!」

…NBシステムねぇ…主任の言葉を無視して、このシステムの危険性について考える。下手すれば廃人だが、予測は心強いだろうな。
メビウスなら使いこなせれるだろうが…やっぱり不安だ。しかし、そんな俺の心配を他所に、メビウスは何時もの様に優しげな微笑を浮かべ、手元のエクスを慈しんでいる。
まったく、こいつは本当に優しいな。微笑ましい光景を見ながら、俺はリリンのクッキーを楽しむのだった。
…しっかし、NBって何かで見たことがあるきがするんだよなぁ…。







ナイツ・ロード・オブ・ノワール
能力 武装構築
ナイツが見た事のあるデバイスならば、魔力で作成可能。性能、外見共にオリジナルと同じだが、自意識が無いデバイスである。
なお、作成個数には限度が無い。その気になれば、○限の○製とか出来るらしい。






あとがき



はい、長期間開いたのに、なんだこの駄文は。甘い話は次回になります。
最近、頭が痛い作者です。…肩こりからくる頭痛でしょうか。PC使うときに猫背なのもいけないかも知れませんね。
10/25が楽しみな今日この頃、待ってろよ、アルトリウス!!ダークソウル楽しみだぜやっふぅぅぅ!!!!
黒騎士斧で頭が上級騎士、身体が銀騎士を見かけたら作者かも…。




[21516] ISAF編 22話 主人公とメインヒロイン。運命の赤い糸。
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/11/29 20:46
ISAF本部 最上階 総隊長室

「何度も申し上げておりますが、マリーゴールドの兵器使用は、妥当な結果だと思っています。」
『その使用の許可は誰が出したのかね?』
「勿論、私です。アジム・ゲランの破壊には大火力が必要でしたので。」
『現場の独断で、質量兵器を無断使用とは、君は何を考えているのだ!?本部の指示を仰ぐべきではないのか?』

机に備え付けられているモニターの向こうから、大きな声が響く。画面には、神経質そうな男性--階級は提督だろうか?--が映っている。
こちら側--ISAF--では、椅子に座っているメビウスと、その隣に後ろで手を組んでいるマリーゴールド艦長、ケニスが控えていた。
通信の内容は、前回のアジム・ゲラン討伐作戦の内容についてであり、マリーゴールドに搭載されている兵器の無断使用に付いての事だ。

「ですが、アップルルース提督。本部に指示を仰いでいては、その場での迅速な対応が出来ません。仮に指示を仰ぎ、甚大な被害が出たらどうするのですか。」
『現場は海上だったのだろう?ならば、被害も何もでたものではない!!』
「…我々は、現場で戦っていたのです。部隊員達を見殺しにする事は、指揮官として出来ません。何より、マリーゴールドの火力なくしては、アジムとゲランの撃破は不可能でした。」
『だから、その兵器を君1人の独断で使用する事が、問題あると言っているのだ!!第一、君の部隊はリミッターも付けていないし、都市部での飛行許可も本部に要請してないではないか!!
それでは、指示系統に乱れが生じるのだよ。何よりも、各部署の管轄を超えた、越権行為に等しい!』
「我々は独立部隊です。すべての指揮系統から外れ、迅速な対応を行う。…設立時に、そう説明させていただきましたが。なにより、我々はそれに見合う実績を出してきております。
バンカーショット作戦、先ほども述べたアジム・ゲラン討伐。そして、ピースメイカー鎮圧戦。兵器の無断使用、無断飛行に見合う実績を出していると思いますが。
確かに、我々にも非があるのでしょう。…ですが、それでもスタンスを代えるつもりはありません。どうか、ご理解いただきたい。」

画面の提督--アップルルース--とは対照的に、メビウスは冷静にこれまで自分達が上げてきた実績を述べる。
確かに、重大作戦には必ずといって良いほど、ISAFは参加し、中核を担い、それ相応の活躍もしてきているのだ。
冷静なメビウスの言葉に、アップルルースはぐっ…と言葉を詰まらせる。

『な、ならばせめて、本部つきの管理官を入れてはどうかね?それならば、我々も君達の動きを知る事が…。』
「構いませんが、最前線まで付いてこれる管理官をお願いします。勿論、自分の身は自分で護って頂きますが。」

メビウスがニッコリと擬音が付く笑顔を浮かべ、後ろのケニスも小さく噴出してしまった。
ISAFの最前線ともなれば、命が幾つあっても足りたものではない。本部付きの優秀な魔導師を管理官などと言う、良く分からない役職に付けて殉職などさせたら…。
アップルルース自身の政敵達に餌を与えるようなものだ。それを理解しているからか、彼は口元をピクピクと引きつらせていた。


「それでは、これから会議がありますので、失礼させていただきます。」
『あ、待ちたまえ、ランスロッ…』

まだ何か言おうとしているアップルルースを無視して、メビウスはモニターの通信を落とし、椅子に深く座りなおすとため息を零した。
後ろのケニスも苦笑を浮かべつつ、海帽を被りなおして、メビウスの肩をポンと叩いた。

「いやはや、お疲れ様ですな、総隊長。本来ならば、私の責なのですが…。」
「はは、自分のまいた種とは言え、やはり疲れますね。艦長は気にしないで下さい。その為に、私が居るんですから。」

机においてあったカップを取ると、メビウスは口に運ぶ。…口の中に、すっかり冷めたコーヒーの苦味が広がり、頭がクリアになっていく。

「しかし、どうして上層部は私達の事を、眼の敵にするのでしょうね。…いや、確かに飛行許可を取らなかったり、無断で兵器の使用はしてますから、当然といえば当然なのですが…。」
「たしかに、それはありますな。…ですが、総隊長。上が恐れているのは、その事だけではないのです。」
「それだけの事ではない…と言うと、どういう事ですか?」
「上は、総隊長を、貴方を恐れているのですよ。」

ケニスはメビウスの正面に回り、彼と眼を合わせてみる。…静かな空の蒼色の瞳だが、強い光が宿っている。

「PT事件の際にアジム・ゲラン破壊から始まり、闇の書事件の鎮圧、空港テロ事件で更に頭角を現し、僅か数年でISAFをここまで大きくされた。
上層部は、ISAFが貴方の私兵になる事を恐れているのです。そしてなにより…メビウス・ランスロットと言う個人を最も恐れている。」
「…ISAFを恐れるのならば分かりますが、私個人を恐れるとは…そんな事は無いと思いますが。現に最低条件であるヤガランデ召喚は破っていません。」
「それなのです。虚空の幻獣ヤガランデを従え、ソラノカケラと言うレアスキルを持つ魔導師。それに加えて貴方の血筋です。」
「伝説と鬼神の息子、と言う事ですか。確かに、この肩書きは大いに利用させてもらいましたが。」

苦笑を浮かべ、メビウスは設立前の頃を思い出す。アナトリアの伝説又は傭兵、スカーフェイスと円卓の鬼神、サイファーの名は交渉を運ぶのに実に便利なカードであった。
しかし、ISAF設立からは自分達の実力で大きくしてきたのだ。メビウスだって、何時までも親の七光に頼ってはいれない。

「今や、貴方はミッドチルダの希望であり、民衆のヒーロー、英雄なのです。…上層部は、貴方が自分達の地位を脅かすのではないかと恐れているのです。
いや、私達は貴方がそんな事をする筈は無いと思っておりますが…。」
「…あはは、買い被りすぎですよ。ですが、ありがとうございます艦長。私の事を心配してくれたんですよね。…大丈夫ですよ、私は。負けません、くじけません、諦めません。」

負けない、くじけない、諦めない。それは彼が大好きで仕方が無い、白い魔導師--彼にとっては白い女神--の台詞。

「はは、余計な心配でしたかな。ですが、これだけは覚えて置いてください。貴方は今やISAFの至宝なのです。どうか、ご自愛ください。…では、失礼します。」
「…えぇ、お疲れ様です。至宝、ですか。そこまで大げさなものではないでしょう。」

お互いに敬礼を行うと、メビウスは出て行くケニスを見送った後、再び深い溜息を零す。
しかし、そんな彼を慈しむように、白い幻影が後ろから抱きしめていた。

「タングラム…ふふ、慰めてくれているのですか?」
「勿論です。私の可愛いメビウス。…少し心が疲れていますね。あまり無理はしないでください。」
「無理はしてないつもりなのですが…そうですね、少し疲れているのかもしれません。」
「…貴方を癒せるのは、彼女だけですもの。…なのはに会いたいですか?」
「そう、ですね。なのちゃんに会いたいですよ。…元気にしてるかな…。」



時刻、夜

評議会直轄地、教導隊宿舎

「はふ~、つかれたよぉつかれたよぉ~。」

ボフと大きな音を立てて、なのははベットの上に倒れこむ。連日の訓練と重苦しい空気で、彼女の体力も限界のようだ。
周りでは、フヨフヨと光球--アイスドール--が心配そうに漂っていた。

「なのは、大丈夫ですか?…大丈夫じゃなさそうですね…。」
「うぅ~、あいすどーる~。弱音なんて言わないって決めてたけど…もう帰りたいよぉ。シルヴァリアス君は変な眼で私を見るし、ベルニッツ教導官は厳しいし、空気重いし…。
スキルアップの為に来たけど…上がってる気が全然しないの。」

確かに、優秀な教導官も多いし、管理局の教導隊とは実力も違うのだが…ただそれだけだ。
学ぶ事も多いが、環境が悪すぎる。まるで牢獄のような雰囲気に、なのはは限界が来ているようだ。

「…会いたいなぁ…メビウス君に…会いたいなぁ。」
「なのは。…そんなに会いたいのですか?」
「そうだよ。…もう、めびうす君にぎゅ~ってしてもらったり、撫で撫でしてもらいたくてしょうがないの。」

若干、涙目になりつつ、なのはは顔を枕に押し当てる。…そのまま、眠ってしまいたいらしい。
出来れば、夢の中では、大好きな彼と一緒に居たい。メビウスから送られ、薬指にはめている双翼の指輪に祈る。

≪なのはも限界に来ていますね。…タングラム姉様、聞こえますか?≫
≪えぇ、聞こえてますよ。アイスドール…。メビウスもなのはさんに会いたがっています。…そうですね。私達の大切な人の為です。行使しましょう。≫
≪分かりました。では、私はなのはの心を繋げます。…そちらはメビウスの心をお願いします。≫




メビウスとなのはの心層空間


「…あれ、ここは…どこでしょうか?」

先ほどまで、家の自室で寝ていた筈のメビウスは、見知らぬ場所で仰向けに倒れていた。なにが起こったのか良く分からないが、起き上がり周囲を観察する。
上は気持ちが良いほど、晴れ渡った青空が広がり、周囲は色とりどりの花が咲き誇る花畑だ。…まったくもって理解できない。
さて、どうしたものか…と途方にくれていたメビウスだが、ふっと隣に誰か居る事に気が付き、そちらに眼を向ける。
そこにはなんと、すぅすぅと安らかな寝息を立てているなのはが居るではないか。

「…は、え?…なの…ちゃん?…と言う事は、ここはベルカ?え、どう言う事ですか?私は無意識に転移魔法を使ったと?…いや、そこまで無我の境地に達しては…。」

アタフタと妙な事を口走りながら、メビウスは頭を振る。どうやら、彼でも混乱する事があるようだ。
だが、そんに風に動いていると…隣で眠っていたなのはを起してしまう事に、気が付かないらしい。

「うぅ~、もう朝?さっき、眼をつぶったばかりだよぉ~。…ふぁあ。…あれ、ここどこ?」

可愛らしい欠伸をしつつ、なのはも眼を擦りながら起き上がった。そして、ぼけぇっとした眼で周囲を見渡し、メビウスと同じような事を口走る。
とりあえず、メビウスは笑顔を浮かべて、挨拶をする事にして見た。…まぁ、例え夢とは言え、大好きな彼女に会えたのだ。

「ふふ、おはようございます、なのちゃん。」
「ふえ?あ、うん、おはようメビウス君。…メビウス君?…めびうすくん!?」

あ、最後の方が平仮名になっている…と思った瞬間には、なのはが彼の胸の中に飛び込んでいた。
背中に手を回して、ぎゅーっと痛い位…ではないが、思いっきり抱きついてくる姿は微笑ましい。

「めびうすくんだぁ、めびうすくんだぁ。えへへ、夢だけどめびうすくんなの~。」
「ふふ、そんなにスリスリされたらくすぐったいですよ。けど、どうやら夢…と言う事だけでは済まされないですね。」
「ほえ?あれ、私の夢じゃないの?メビウス君に会いたいから、こういう夢見てると思ってるけど。」
「私もそう思いましたが、なのちゃんにも意識があり、私にも意識がある。それを夢だけで片付けるには、少し無理があるかと。」

とりあえず--なにがとりあえずなのかは不明だが--なのはの事を抱きしめ返しつつ、メビウスは現状に付いて考える。
しかし、考えても考えても納得する答えが出ずに、困り果てていると、聞きなれた声が耳に届いた。

「ふふ、2人とも、本当に嬉しそうですね。」
「その声は、タングラム?…その姿は…?もしかして、この空間は貴女が作ったんですか?」

何時の間にか、目の前にローブ姿の女性が佇んでいた。しかし、その声は何度も聞いたことのあるタングラムの声。
女性は静かに頷くと、メビウス達の側に腰を下ろして、微笑みかけてくれた。

「貴方達は頑張りすぎています。偶には、こうしてゆっくりする事も大切だと思いまして。貴方となのはさんの心を繋げたのですよ。
私とアイスドールの力で…ね。どうですか、綺麗なところでしょう?」
「アイスドールの力?…あれ、タングラムって何処かで聞いたことあるような…。アイスドールが言ってたような…?」
「その事に付いては、後で説明しますよ。私もアイスドールについて聞いてないですし…ね。」

胸の中で、タングラムについて疑問を持ったなのはだが、メビウスは少し意地悪な笑顔で答えた。…彼だって、なのはの言うアイスドールについては知らないのだ。
その笑顔に、また顔を紅くして、なのはは胸の中に顔をうずめてしまう。改めて、大好きな彼がそこに居ると思うと、嬉しくて嬉しくて仕方が無い。

「ここは、貴方達の心の世界。無限に広がる青空は、メビウスの心を。一面に広がる花畑は、なのはさんの心を表しています。
現実での2人は眠っていますから、安心してください。意識だけ、こちらに連れてこさせてもらいました。」
「さ、サラリと怖いことを言いますね。意識だけとか。ですが、タングラム。本当にありがとう御座います。」
「あ、ありがとうございます。タングラムさん!…あの、アイスドールは何処に?」
「彼女は、この空間の根底に居ます。空間を支える役目がありますから。私もそちらに戻らねばなりませんから、2人でゆっくり過ごしてください。」

それだけ告げると、タングラムは立ち上がり静かに掻き消えて言った。残された2人は、顔を見合わせ…クスクスと笑みを浮かべる。

「やれやれ、そこまで疲れていたように見えたのでしょうか。」
「けど、私は嬉しいなぁ。こうして、メビウス君に会えたんだもん。…ねぇ、メビウス君。優しくて、甘くて素敵な…きす、してほしいなぁ。」

蕩けた声で呟くと、なのはは眼を閉じ、顔を上げた。どうやら、思考回路がメビウスの事しか考えられなくなったようだ。
例え鉄壁の理性を誇るメビウスとは言え、大好きななのはにこんな事をされては…我慢など出来訳がない。静かに、唇を寄せて口付けを交わす。
…一応、言っておくが深い方ではない。合わせるだけの優しい口付けだ.…深いほうをしてしまったら、確実に理性が吹き飛ぶ。
長いようで短い口づけが終わり、お互いが唇を離す頃には、2人とも顔が真っ赤に染まっていた。嬉しいのやら、恥かしいのやら。

「えへへ、すてきなキスをありがとう、めびうすくん。」
「こちらこそ、甘い口付けをありがとう。…なのは。」
「うん~。…あれ、めびうすくん。今、私の事…あれ?」
「ふふ、どうしたんですか、なのは。そんなに驚いて。名前を呼んでも不思議ではないでしょう、私達は、恋人なんですから。」
「あ、う~…!!ひきょうだよぉ、そんな笑顔で呼び捨てなんて…。な、なのちゃんって呼んでくれるだけでも嬉しかったのに、なのはなんて言われたら…し、心臓が破裂しちゃうんだよ?」

自分達は、もう子供ではないのだ。だからこそ、そろそろなのちゃんを止めて、なのはと呼ぶ。親友である閃からも言われた事だ。
案の定、なのちゃんからなのはと呼ばれた彼女は、メビウスの胸の中に逆戻りしてしまう。彼女がメビウスの事をめびうすと呼ぶときは、甘えている時なのだ。
クスクスと笑い声を零し、メビウスはなのはの頭を優しく撫でてあげる。小さい頃から、なのはがこうされるのが好きだという事は知っていた。

「ふふ、相変わらずなのはは可愛いですね。私達の心の世界。花畑はなのはを現していると言っていましたが、本当に可愛い。」
「う、うう~、めびうすくんの心だって、何時も見ている大好きな青空だよ。…本当に、綺麗な青空。」

ウットリとした表情で、無限に広がる青空を、なのはは見上げ、大好きなメビウスの様だと思う。吸い込まれるように蒼くて、透き通っている空は…本当に彼にお似合いだ。
サラサラとメビウスの髪が、風にゆれ静かなに時が流れていく。
フッと、なのはが何かに気が付いたようにして、彼の腕の中でモゾモゾと動き出した。

「っと、なのは。どうしたのですか?」
「ううん、良いこと思いついたんだ。…えっと、メビウス君。眼を閉じててね。良いよって言うまで、開けちゃ駄目だよ?」

名残惜しそうにメビウスの腕から出ると、なのはは少し離れた位置に座りなおす。なにをするのだろうか、と頭に?マークを浮かべつつ、メビウスも言われたとおりに眼を閉じた。
その間になのはが、「わ、出来た」とか「本当に戻れるんだぁ。」と言っているので、更に疑問が深まるが、次の瞬間、軽くて小さい何かが彼の胸の中に飛び込んできた。

「えへへ~、めびうすくん。もう、眼を開けても良いよ?」
「っと、なのは。一体どうしたのです…かぁ!?」
「あはは、変な声上げてるよ。どう、驚いた?ビックリした?」

眼を開けて、飛び込んできた者の正体を知ると、メビウスは変な声を上げて驚く事になった。
なぜならば、そこには小学生サイズのなのはが居たのだから、驚くのも無理は無い。あの時と同じ制服にツインテールと言う完璧っぷりだ。

「はふう~、一度こう…お兄ちゃんメビウス君に甘えたかったんだぁ~。幸せだよ~、凄く幸せ~。」
「ははは、ここはそんな事まで出来るのですね。流石は心の空間、なんでもありなんですね。」

ゴロゴロと猫の様に甘えてくる小学生なのはと青年メビウス。…傍から見ると、仲の良い兄妹に見えなくも無い。

「まったく。その姿だと、本当に甘えん坊みたいですよ。」
「良いの。私は小さい頃から、小学生の頃の前から、めびうすくんの事が大好きだったんだよ。こうして、抱きついたりしてたの、覚えてない?」
「ふふ、覚えていますよ。思えば、あの時から、なのはは私の事を、一途に思ってくれていたんですね。」
「当たり前なの。めびうすくんは、私の王子様。なんだからね。」

流石にそこまで言われると、メビウスも顔を真っ赤にしてしまう。だが、一方的に好きだと言われ、答えないと言うのも、男として問題ある。
そこで、彼は言葉ではなく、もっと別の方法で伝えてみる事にした。

「なのは、眼を閉じてください。そして、私の心と重ねてみてください。」
「メビウス君の心と?…うん、やってみるね。」

2人で眼を閉じて、心を重ね合わせるように祈る。そうすると…ビウスの左手の小指と、なのはの左手の小指に赤い糸が繋がり始めた。

「あ、メビウス君。これって…。」
「ふふ、運命の赤い糸ですね。…嫌でしたか?生まれた時から、私となのはは繋がっていたと、思いたいのです。」
「め、めびうすくん…!!い、いやじゃないよ!凄く、凄く嬉しいよ!!…ぐす、嬉しすぎて涙出てきちゃった。」

ポロポロと嬉し涙を零しながら、なのはは力いっぱいメビウスに抱きついた。それを受け入れ、彼もまた優しく優しく包み込む。
世界で最も愛しき人よ、側から離れないで欲しい。たとえ、どの様な困難にあっても…繋がる赤い糸は切れないのだ。











あとがき

ISAFの部隊員達の名前って、設定&用語集に付け加えた方が良いでしょうか。
アバランチの名前とか、スカイキッドの名前とかです。
その方が良いと思うならば、言ってください。調べて載せて置きます。


ずいぶんと間が開きましたね。本当に申し訳ないです。季節ネタも書いてないし…あぁぁぁ。
次回辺りから、時間をすっ飛ばして行く予定です。そうしないと、間に合わない!!かもしれない。
鉄拳の騎士と竜の巫女の出会い、ヒーローと雷槍との出会い、騎士皇と砕け得ぬ闇との出会いなど等
書きたい事は沸いてくるのですが、文章に纏まらない!!
誰か、脳内妄想を文章化する装置を開発してくれ!!5万までだったら買うから!!

季節は冬、読者の皆様も風邪をひかないようにご注意ください。後、事故も起さないように。
さぁ、雪かきの季節が始まるぜぃ。



[21516] ISAF編 23話
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:dcfd38fc
Date: 2012/12/11 00:13





ミッドチルダ クラナガン 新アピート国際空港

数年前に、ストラグルによるテロ行為で破壊された空港は、修復及び増築され、今日も各地から飛行機を向かい入れていた。
人々が行き交うロビーに、2人の女性が佇んでいた。金髪の女性--聖王教会聖女カリム・グラシア--と白い制服の女性--白虹騎士団聖女護焔騎士シャッハ・ヌエラ--である。

「流石は、クラナガンの空の玄関口。賑やかですね。」
「はい。そのようですね。…この制服、目立って仕方がないですよ。」
「ふふ、後で着替えなさい。まったく、態々制服で来なくても良かったでしょうに。」
「で、ですが、私はカリムの護衛ですし…威厳も一応は必要かと思いまして…。」

とりあえず、照れた顔をしている時点で威厳も何も無い、と思ったもののカリムは口に出さず、クスクスと笑うだけにした。
自分の友人兼護衛役の彼女は、こう見えても騎士団有数の使い手だ。
…最も、暗銀の騎士、ガル・ヴィンランドや白虹騎士筆頭の1人、クリアリア・バイアステン等には勝てないが…。まぁ、彼らが人外レベルで強いだけなので、気にしないで置こう。
少し注目されながらも、2人がロビーから出て、空港の入り口に行くと、スリーヘッズアロー--ISAFのエンブレム--が施された迎えの車が待っていた。
運転手らしき部隊員はカリム達を見つけると、慌てて敬礼を行うと、ドアを開けた。

「グラシア理事官、騎士ヌエラ、お待ちしておりました。ランスロット総隊長の命により迎えに参りました。どうぞ、お乗りください。」
「お迎えご苦労様です。しかし、総隊長、自らの命…ですか。」
「はい、丁重にお迎えせよとの厳命です。お荷物はこちらに。先にホテルに向かいますか?」
「いえ、直接ISAF本部に向かってください。ランスロット総隊長に挨拶もしたいので。」
「了解しました。シートベルトを締めてください。…では、出発します。」

カリム達が乗る間に2人の荷物を受け取り、トランクに仕舞うと運転手も席に座り、シートベルト等を確認すると静かに車を発進させる。
どうやら、メビウスの命令で迎えに来たようだ。車窓から流れる町並みを眺めつつ、総隊長--メビウスと始めてであった時の事を思い出していた。




あれは、随分と前の出来事だ。まだ聖女となる前の事。自室で読書を楽しんでいたカリムを、両親が呼んだのだ。
来客があると言われ、邪魔しないようにしていたのだが、自分に何か関係あるのだろうか?と首を傾げつつ、本を仕舞うと居間に向かう。

「来客があると言ったのに…。ま、まさかまたお見合いの話…?」

両親が頻繁に見合いの話を持ってくることを思い出し、カリムは若干げんなりしながら、居間に入ると、予想とは違う人物達が待っていた。

「やあ、カリム。久しぶりだね。」
「は、ハーリング提督!?い、入らしていたのですね。」
「ははは、そんな畏まらなくても良いじゃないか。それに、提督も止してくれないかね。君と私の仲じゃないか。」

ソファに座り、にこやかな笑顔でカリムに手を上げるのは、ビンセント・ハーリングその人だ。
彼女の両親もハーリングの向かいに座り、紅茶を楽しんでいる。ふと、両親の座っている方のソファ見ると、誰か間に座っているではないか。

「ふふ、メビウス君、紅茶のお代わりはどうかね?庭で取れた、自家製の茶葉なんだよ。」
「あなたばかり話して、ズルイですわ。メビウスちゃん、このクッキーはどうかしら。私の手作りなのよ。」
「は、はい。凄く美味しいですよ。紅茶も、良い匂いで、とても落ち着きます。」

どうやら、両親は間に座っている子供に夢中のようだ。その様子を見ながら、ハーリングもニコニコと笑っていた。
察するに、ハーリングが連れてきたのだろうが…彼の子供だろうか。と疑問に思いながら、カリムも開いているソファに座る事にした。
まぁ、開いているソファと言っても、ハーリングと両親が対面に座っているので、テーブル横なのだが。
静かに座り、改めて両親の間に居る子供を見ようとしたカリムだが、顔を見た瞬間に驚きの表情を浮かべた。

「え、ゼロ…姉様…?」
「ゼロネエサマ?…あ、カリム・グラシアさんですよね。っと、座ってじゃなくて、立ってしないといけませんよね。始めまして、メビウス・ランスロットと申します。」

蒼髪の子供は、あどけない外見に似合わぬ言葉遣いで、深々と頭を下げた。その態度にも驚くが、彼女が一番驚いたのは子供の外見。
多少の違いはあれど、幼い頃のゼロ--サイファー--とそっくりではないか。蒼髪にリボンもまったく同じ。
混乱して、あ、とか、え、等しか言葉を発せないカリムを見て、彼女の母親が助け舟を出してくれた。

「この子はゼ…サイファーさんの息子なのよ。本当に、あの人の小さい頃にそっくりよね。ほら、貴女も挨拶なさい。」
「あ、はい。始めまして、メビウス…さん。カリム・グラシアです。よろしくお願いします。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。…あぁ、そっか。私が母と似ていたから、驚いたんですね。」
「そうみたいだね。私達でさえ、驚いたくらいだ。カリムもさぞビックリした事だろう。しかし、本当にそっくりだよ。」

そう言いながら、カリムの両親は、2人して笑顔でメビウスの頭を撫でていた。その笑顔は、本当に嬉しそうで…泣き出しそうなもの。
義理とは言え愛している娘の子供、彼らにとっては孫なのだ。始めてみる孫の可愛い事可愛い事。そして、離れ離れになった娘とそっくり。
本当ならば、自分達が祖父祖母と言いたいが、言えない悲しさ。

「けど、いきなり来てどうなさったのです、ハーリングおじさま?」
「あぁ、実は……ふむ、やはり具体的な話は後日にしようか。なに、今日はメビウス君と挨拶に来ただけだよ。」
「はい。これから迷惑をかける事があるかもしれないので、そのことで挨拶に来ました。」
「そうそう、ハーリング。この後の予定はなにかあるのか?無いのならば、ゆっくりお茶を楽しんでもらいたいのだが。」
「すまないね、グラシア。メビウス君の希望で、B7Rに行く事になって居るんだ。」
「ほほう、円卓にか。」

ベルカ絶対防衛戦略空域B7R--通称、円卓。直径400kmの隆起地形が広がる円形の地域であり、膨大な資源埋蔵量を誇る鉱山地帯でもある。
かつてのベルカ公国の政治的、軍事的、産業的にも象徴的な地域・空域。
地下に眠る資源が原因で、通信傷害が多発する地域であり、撃墜されて助かったとしても、救助が難しいため、多数の魔導師達にとっては、己の実力が試される戦場であった。
ベルカ戦争時、管理局・ミッドチルダ政府・ウスティオ連合軍の魔導師たちの間で、ここで戦うときに言われている言葉あった。
【当空域の交戦規定は唯一つ、生き残れ】
円形の空域であり、階級も生まれも関係がなく実力だけが求められる事から、上座も下座も無い円形のテーブル、ベルカの騎士達にかけて、何時しか【円卓】と呼ばれるようになった。

「よし、すぐに自家用機を手配しよう。それならば、直ぐに着けるだろうからね。」
「え!?あ、そこまでしていただかなくても…。それに、私のわがままですから。」
「良いのだよ、メビウス君。 君のお願いならば、どんな事でも叶えよう。」
「はは、ここはグラシアの言葉に甘えようか。車だと、着く頃には真夜中になってしまってたからね。ふむ、私達は一度ホテルに戻っているよ。」
「うむ、そうしてくれ。準備が出来たら、迎えを寄越そう。…ではね、メビウス君。何時でも遊びに着て良いのだからね。」
「そうよ、メビウスちゃん。ふふ、そうよメビウスちゃん。今度は、妹のフェイトちゃんとレヴィちゃんも連れてきてね。」
「はい、分かりました!!」

ハーリングとメビウスを玄関まで見送り終えて、リビングに戻ってくると、グラシア夫妻はメビウスが座っていた場所を見つめて、小さく言葉を漏らす。

「本当にそっくりでしたわね。本当に…ゼロと…そっくりで…!!」
「泣くな。確かに、メビウス君は私達の孫だ。だから…泣くな。」
「えぇ、そうです。私達の孫なのです。なのに…なのにどうして言っては駄目なのですか…!!私がお祖母ちゃんだと、貴方は私の孫なのよと…!!」

夫人がポロポロと涙を流すのを、夫が慰めているが…その夫の方も貰い泣きしそうだ。それを後ろで見ていたカリムもポツリと言葉を漏らす。

「…ゼロ姉様の子供…なんですよね、本当に…。」
「あぁ、そうだよ。…彼は、メビウス君は本当にゼロの息子だ。…目元や、笑う仕草がそっくりだろう?…それに、あの空の様な瞳。本当にゼロと同じだよ。」
「はい。…あの、ランスロット…と名乗っていましたが、もしかして、アナトリアの…?」
「そう、ゼロの夫は、アナトリアの伝説、スカーフェイス・ランスロットだよ。まったく、あの娘は…。」

やれやれと言った様子で首を振る父親に、カリムは少し笑みがこぼれる。口ではそう言っていても、表情は綻んでいる。

「どうして、名乗ってはいけないのですか?もう戦争は終わっているのですよ?」
「ゼロはグラシアを出て、ゼロフィリアスと言う名も捨て、サイファーと名乗っているのだ。今更、彼に名乗れまい。…ましてや、私達はゼロの事を…助けれなかったのだ。」
「…以前から、気になっていたのですが、どうしてゼロ姉様は家を出て行ったのですか、お父様。グラシア家は戦争に否定的でしたし、軍部にも眼を付けられていたかもしれません。
それでも、危害は何も無かった筈です。どうして、姉様は…!!」
「すまないカリム…それはまだ言えないのだ。…良いかね、カリム。メビウス君は、これから部隊を作るらしいのだ。具体的な話はされていないが、私達はそれに協力するつもりだ。
…できれば、お前も協力してあげなさい。」
「…・はい、分かりました。お父様、出来れば円卓への案内をしたいのですが。」
「そうか、分かった。メビウス君とゆっくり話してみると言い。」



円卓



「わぁ…。ここが円卓…!!」
「め、メビウスさん、そんなに走ったら危ないですよ!」

赤茶けた大地とその上には、透き通るほどの青空が広がっていた。吹きぬける風は冷たいが、メビウスはそんなのお構い無しで、丘を駆け上がっていく。
その後ろを、風で乱れそうになる髪を押さえながら、カリムが追いかけていた。時々、石につまずきそうになる彼女とは反対に、メビウスはどんどん先に行ってしまう。
丘の上で、ようやくカリムが追いつくが…少し息が切れている。どうやら、体力が無いようだ。

「凄い凄い、空が広くて…大きくて透き通ってます!!凄いなぁ、こんな空、初めて見ました…。」
「ふふ、そんなにはしゃぐくらい、楽しいですか?」
「はい!!ベルカに来る前から、楽しみにしてたんです。父さんや母さん達から聞いてた通りです。澄み切った空で凄く綺麗です。」

カリムの目の前で、メビウスは両手を広げてクルクルと踊るように回りだした。大人びた少年だと思っていたが、こうしてみるとまだまだ子供だ。

「…ここで沢山の騎士が戦っていた事を聞きました。沢山の人が堕ちた事も聞いていました。それでも、ここに来たかった。」
「ベルカの騎士達はみな勇敢ですからね。…けど、堕ちた話も聞いてるのならば、気味が悪く感じるのでは?」
「そんな事は無いですよ。きっと、ここで戦った人達は、恨みも何もなかったんですよ。…こんな大空で戦えて、本当に本望だったと思います。ほら、空が歌っていますよ。」

そう言うと、メビウスの周りに蒼い光が集まり零れ落ちる。彼のソラノカケラが反応しているのだろう。
その光を纏い、再びメビウスはクルクルと回りだす。幼い頃、こうして彼の母も、クルクルと踊っていたものだと…カリムは思い出すのであった。






「グラシア理事官、ISAF本部が見えましたよ。グラシア理事官?どうかされましたか?」
「あ、いえ。なんでもありません。」

物思いに耽っていると、何時の間にか車は王様橋を渡るところだったようだ。運転手の声で、我に返ったカリムは王様橋から見える景色を眺め始めた。

「けど、この王様橋、本当に大きな橋ですね。こんな大きな橋は、ベルカにはないですよ。」
「そうでしょ、騎士ヌエラ。この橋は、我々クラナガン市民の自慢ですから。自分も子供の頃は、この橋を見て育ちました。」

橋の立派さに感心するシャッハの言葉を聞いて、運転手は嬉しそうに、誇らしそうな笑みを浮かべている。
クラナガン市民にとって、身近であり大きな王様橋は皆が見て育つほどなのだ。それを褒められて嬉しいのだろう。

「けど、これからの子供達は、違うかもしれませんね。…きっと、この王様橋と、ここから見えるISAF本部やマリーゴールドを見て育つんでしょう。」
「確かに、ここからなら、本部も良く見えますし、航行艦が停泊しているのも見えますね。」
「えぇ、我等がISAFの旗艦、マリーゴールドです。本部に到着しましたら、そちらの方も視察していただく事になっていますが。」
「はい、事前に資料を渡されてますので、大丈夫です。」
「それは良かった。後30分ほどで付きますので、それまで景色を眺めてて居てください。」

王様橋からは、旧市街地に立っているISAF本部と港に停泊しているマリーゴールドも、見渡す事が出来た。
少し遠いかもしれないが、ここからなら2つを写真の中に収める事もできるだろう。

「あ、恐らくですが、今日はリフォー社の帝代表も着ていらっしゃるかと。」
「帝代表もいらっしゃるのですか。それなら、挨拶をしなければいけませんね。」
「他にもいらっしゃるかもしれませんね。今日は新型装備の受理が予定されていますから。」
「新しいSFSですか?」
「いえ、今回は歩兵用特殊シールドですよ。陸戦部隊の生存率を上げるために開発された装備です。現物は、本部でご覧下さい。」


ISAFは様々な環境で活動を行い、その環境・状況下で必要となる装備などを本部と企業連に提案し開発を行っているのだ。
本来は、企業連に直接依頼したほうが、早くに開発されるのだが…本部の許可なしでそんな事をすれば、今まで以上に眼の敵にされてしまう。
クロノやレジアス、ハーリングが後ろ盾にいるお陰で、開発案は通るが、やはり一言二言は難癖を付けられるのだ。
その度にメビウスやブレイズが「命を張ってるのは部下達だ。その部下の命を捨てれるか」と言っているのだが、一部の上層部はやはり気に食わないようだ。
最近、ISAFは勢力を拡大しており、それにあわせてハーリング派も力を強めてきている。恐らく妨害しているのは、ハーリング派を敵視している政敵達であろう。
何処の世界でも、政治家や官僚達は自分の地位が大事のようだ。

「ランスロット総隊長も苦労されてるのですね。」
「はい。それでも、自分達の為に矢面に立ってくれてます。ですから、我々は総隊長を信じているのですよ。なんたって総隊長は、我々の英雄ですから。」

ヒーロー・オブ・ヒーロー。英雄の中の英雄に憧れるのは子供だけではない。こうして、彼を信じる者達がISAFには集っているのだ










あとがき


これは着たか、なんかフィーバーモードが来そうで来ない様な…微妙な状態です。
寒くなりましたね。雪が降りましたね。ストーブの季節ですね。ひび割れが凄まじいですね。手の指10本中、8本くらい絆創膏張ってますよ。
キーボード押すときに、違うところが押ささるのなんのって。ただでさえ誤字多いのには、笑えない状況です。
季節ネタはクリスマスを予定しています。…今回は灯火&烈火の夫婦ネタでいってみますかねぇ。
これから寒くなってきますので、皆様も体調には充分お気をつけ下さい
さぁ、雪かき&ストーブの灯油補給のお仕事が始まるぜぃ。






[21516] 季節ネタ クリスマス特別企画 灯火と烈火
Name: ヘタレイヴン◆68301820 ID:0d629775
Date: 2012/12/25 21:47
毎回恒例、季節ネタとなっております。日にちがずれてる?ナンノコトカナ。
今回は灯火&烈火夫婦で送りします、メビウス&なのはの様な甘い話ではなく、少しサラリとした大人の甘さを目指しました。
それでは、メリークリスマス!!
























12月24日クリスマス・イヴ

ミッドチルダ クラナガン 中央公園

「ふむ…今日は私のほうが早かったようだな。」

腕時計をつけているのに、なぜ公園の大きな時計を見てしまうのだろうか…と他愛のないことを白いコートの女性--シグナム--は時刻を確認する。
真冬だというのに、このクラナガンで最大規模の公園は、にぎわっている。子供達が元気に追いかけっこをしたり、恋人達が手をつなぎながら歩いていた。
ちょうど目の前を、親子連れが歩いているが、子供はしきりに両親の手を引っ張っている。

「サンタさんって、いつ来るのかな?僕ね、絶対にサンタさんと会うまでおきてるんだ!!」
「ふふ、サンタさんはまだ来ないわよ。けど、そうね、会えると良いわね。」
「はっはっは。なら、サンタさんの分のケーキも用意しないとな。」

ポンポンと父親は子供の頭をなでて、笑顔を浮かべているのを見て、シグナムは少しうらやましく思った。
もし、自分と愛する【彼】に子供ができたのならば…。それを想像--妄想とも言う--すると、シグナムはにへら~と溶けたような--間抜けなとも言える--笑みを浮かべ、幸せな気分に浸っている。…時々、行きかう人々が、微妙な目で見てくることに、妄想モード全開の彼女は気がついていないが、その方がよいだろう。
1分ほど妄想していたが、正気に戻ると首を振る。

「くっ、いかんいかん。あいつにこんな顔は見せれん。…しかし、ふふ。デ、デートか…私とあいつのク、クリスマスデート…。」

またもや、妄想モード全開かと思ったが、違うようだ。その顔は、本当に幸せそうな笑顔。
しかし、同じ家に住んでいるというのに、なぜ態々、別々に待ち合わせしているのだろうか。…そう思った男性陣に、女性陣は声を大にして、こう言うのだろう。

「この待ち時間も、デートの内だと誰かが言っていたな。ふふ、確かに、待ち遠しく思うが、実に楽しみだ。」

そう、待ち時間もデート。なのである。大好きで、愛する【彼】を待つ時間が、こんなにも楽しいものだとはシグナムも知らなかった。
しかし、ISAF副総隊長となると多忙である…のだが、彼を初めとする隊長陣にレジアスから休暇命令が出ていたのだ。
理由は、彼ら隊長陣はここ最近、まともに休暇を取っていないのだ。溜まりに溜まった休暇を一気に消化しろ!!とレジアスに青筋を立てられて言われては、従うしかない。
まあ、最近は大規模なテロ行為も無く、ISAFもそこまで激務とは言いがたくなってきているし、管理局の人員不足もだいぶ楽になってきている。
偏に、企業連の提供する新武装、ハーリングの尽力による陸海空間の摩擦低下、ISAFの活躍および宣伝効果のおかげだろう。
まっ、とりあえず小難しいことは無しにしよう。待ち合わせ時間まで、後15分ほどと言ったところで、シグナムの待ち人が歩いてきた。
黒いコート姿の男性--勿論、ブレイズ--はシグナムが入るのに気がついて、申し訳なさそうに頭を下げる。

「すまない。待たせたようだな。」
「いや、気にしなくていい。私も今来たところだ。…しかし、相変わらず、時間に余裕を持って来るのだな。」
「お前を待たせるわけにもいかないからな。だが、今回は待たせてしまったか。本当にすまないな。」
「だから、気にしなくて良いと言っている。まったく、お前は本当に律儀だな。」

律儀な彼に、シグナムは自然に笑みがこぼれる。本当に、この夫はは、妻である自分の事を気にかけてくれている。
きっと何時もは、自分より早く来て、待っていてくれたのだろう。そう思うと、心が温かくなる。

「さて、今日はどうするか。…っくしゅ。少し肌寒いな。」
「そうか?…む、ブレイズ。少しいいか?」

公園を歩きながら、何処に行こうかと話しているときに、ブレイズが小さくくしゃみするのを聞いて、シグナムは少し眉間にしわを寄せた。
そして、彼の着ているコートを見て、ブレイズが肌寒いといった理由がわかったようだ。

「ブレイズ。このコート、少し薄手だな。それに、ずいぶんと使い込んでるではないか。」
「あぁ。結構、昔に買ったコートだな。軽くて動きやすいと思ったんだが…結構、薄くてな。」
「ふむ。よし、今日はお前のコートを買いに行こう!!そんなに薄手のコートでは、風邪を引いてしまう。」
「良いのか?久々に、一緒の休みなんだし、別にコートは後でも…。」
「だめだ。あ、愛するお前に風邪を引いてほしくないんだ。夫の健康管理も、つ、妻の役割なのだからな!!」

シグナムが頬を赤く染めて、照れたように笑みを浮かべる。誰だって愛する人には健康でいてほしい。
膳は急げと言う様に、彼女はブレイズの手を握り、近くにある複合商業施設--まぁ、デパートだ--に向かうことにした。
引っ張られながらブレイズも、嬉しそうにそして、楽しそうに笑顔を浮かべるのだった。



「シグナム、このコートはどうだ?」
「駄目だ。それも少し薄いぞ。」

デパートの洋服店で冬物のコートを選んでいる2人だが、ブレイズがコートを手に取り、シグナムが却下する流れになっていた。
彼が手に取るコートは、動きやすい薄手の物なので今来ているのと大差が無い。

「ブレイズ、少しは暖かそうな物を選んだらどうだ?」
「そ、そんなに薄いのか、これは…?だが、黒で良い感じだと思うのだが。」
「ふむ…ならば、お前が持っている服の色を思い出してくれ。」
「色?…そうだな、黒、紺、灰色。それがどうかしたのか?」
「暗い色ばかりだろう?…たまには、黒以外の服を買って見てはどうだ?」

ため息をこぼしつつ、シグナムは少し明るい色のコートを探し始めた。確かに、ブレイズの持っている洋服の大半は、暗い色でクールな印象のものが多い。
彼女的に、ブレイズには明るい色の服も着てほしいのだろう。妻の贔屓目に見ても彼はかっこいい。きっと色々な服が似合うだろう。

「ふむ。流石に赤は派手すぎるか。…いや、何気に似合うかも知れんな。」
「…いや、それはきついだろう。第一、いきなり派手な色を選んでどうする。」

どこぞのデビルハンターが来ていそうな真っ赤なコートをシグナムが手に取るが、流石に派手すぎるようだ。
どうしたものか…と悩んでいると、新作コーナーと言う立て札が目に入り、新しいコートが数点飾られている。

「む、ブレイズ。このコートはどうだ?手触りも良いし、暖かそうだ。なにより、色が良い。」
「白…か。お前と同じ色だが…俺に似合うか?」
「その点は安心しろ。け…結婚式の時だって。その…似合っていたぞ。」

結婚式の時の、純白のタキシード姿を思い出して、シグナムが笑みを浮かべる。そうだ、きっと彼には白が似合う。あの時もそう思った位だ。
肩幅も、サイズも丁度いい感じであり、ブレイズも進められるがままに、試着室で着てみる事にした。

「中々に良いな。軽いし、暖かい。…まぁ、似合ってるかはシグナムが決めてくれ。」
「うむ、大丈夫だ。かっこいいぞ。ふふ、やはり私の見立てに間違いは無かったな。お前には、白も似合う。よし、そのまま、それを着て行こう。」
「…そうするか。ついでにマフラーも買うか。…少し明るい色のやつをな。」

店員に値札を切ってもらい、会計を済ませると、今度はマフラーを選ぶことにしたようだ。
…その後、ブレイズがシグナムの首にマフラーを巻いてみたりと、少し積極的になった彼にアタフタするシグナムであった。






「もうお昼か。どこかで適当に食べていくか?」
「あぁ、そうしよう。食べたら、今夜の食材も買わないとな。ふふ、私の腕前を披露しよう。」
「…それと合わせて、新しい調理器具も買わないとな。昨日、鍋1個とフライパン2つ駄目にしただろ。」
「あ、あれは…その…火加減を間違っただけだ!!」
「烈火の将が火加減を間違えるとは、これ如何に。っと、すまんすまん。そんなにいじけるな。」
「うぅ…どうせ私は、主やランスロットの用に、うまくないさ…。」

いじけて、泣きそうなシグナムに頭をポンポンと撫でて慰めつつ、ブレイズは小さく苦笑をもらす。
別にシグナムの料理はまずい、下手、と言う訳ではない。確かに失敗はあるが、自分の事を思ってくれている愛情たっぷりの料理だとわかる。
彼女の講師をしているはやて曰く「筋はいいんやけどね。時々、妄想モードにはいるからなぁ。」だそうだ。おそらく、ブレイズが喜ぶ姿でも妄想しているのだろう。

「まったく、お前はかわいいな。…そして、俺は最高に幸せ者だ。」







食器・調理器具売り場


「ふむ、こっちはステンレス加工。…おぉ、これはIH対応か。ううむ、迷うな。」
「やれやれ。そんな目を輝かせるとはな。…この包丁、軽くて良いな。」

目をキラキラさせながら調理器具を選んでいるシグナムだが、ブレイズも人の事は言えない。自分だって、切れ味の良い包丁を選んでいる。
フライパンを持って、料理するような手つきで動かして手首の負担やら、返しやすさなどを調べつつ選ぶシグナムも流石というべきか。
カートには、厳選した調理器具が乗っており、最早デートと言えなくなって来た気がするが、本人たちが楽しそうなので問題は無いだろう。
ブレイズは1人暮らしが長かったので、それなりに料理は作れるし、好きなのだ。シグナムはそんな彼に、美味しい料理を食べさせたいと言う事で、彼女も料理好きである。

「あ、そうだ、ブレイズ。新しい圧力鍋が欲しいのだが、良いか?」
「圧力鍋なら、まだ使えるのがあるぞ?別に、急いで買わなくても良いんじゃないか?」
「甘いなブレイズ。最近の圧力鍋の見くびらないことだ。肉じゃがのじゃがいもが更にホクホクになるし、牛スジもトロトロに煮込めるのだぞ!!」
「ね、熱弁してくれるな。…だが、そこまで言うなら、新しいのを買おうか。…ホクホクトロトロか。」
「ふふ、後で美味しい肉じゃがを作ってやる。楽しみにしていてくれ。」
「あぁ。楽しみにしているよ。」


ホクホクの肉じゃがと聞いて、涎がたれそうになっているブレイズに、シグナムは自信満々に胸を張る。きっと今まで以上の肉じゃがが作れるだろう。
その後、2人は今夜のパーティーに使う食材を選び、帰路に着くことにした。
ん?どこかの高級レストランで、ディナーを楽しむのではないか?…それも良いだろうが、2人にとってお互いの手料理が最高の食事なのだ。
それこそ、高級レストランにも負けない位だ。そして、最高の隠し味【愛情】がはいっているのだから、負けないのは当たり前なのである。





トリスタン宅


「あぁ、ブレイズ。私があけるから、鍵を渡してくれ。」
「鍵は…っと、これだな。…」

家の鍵を渡されたシグナムはロックをあけて、中に入るとニコリと笑みを浮かべて、両手を広げ。

「ふふ、おかえり、ブレイズ。ふふ、夫を出迎えるのは妻の役目だからな。」
「あ、あぁ。ただいま、シグナム。…まったく、そう言う所で笑顔は反則だぞ。」
「む、照れたのか?照れたんだな?ふふふ~、何時もお前に負けては入られないからな!!」

こうして不意打ち気味の甘い雰囲気には、ブレイズも慣れていない様だ。何時もは、完全に受けに回っているシグナムも彼が照れたので、少し上機嫌。
暖房のスイッチを入れて、コートをハンガーにかけると、それぞれが自分たちのエプロンをつけてキッチンに立つ。
ブレイズはこれまた黒いエプロンで、シグナムは…にゃんこ--猫ではなく、にゃんこ--のプリントがされているエプロンを身に着けている。
よく見ると、スリッパにも猫耳が付いているが…かわいいものが好きなのだろう。

「まずはシチューとローストチキンだな。後はサラダに…パスタも作るか。」
「うむ、少し多めに作っておくとしよう。…よし、ローストチキンは…。」
「俺が作る。お前は、パスタとシチューを頼む。」
「な、なぜだ、ブレイズ!!私にも、作らせてくれ!」
「ぶっつけ本番で、ローストチキンを成功させようと思うなよ…。せっかくの一羽鶏を丸焦げチキンにされたら、しゃれにならん。」

心外だと言わんばかりに、肩をがっくりと落としているシグナムを無視しつつ、ブレイズは買ってきた鶏に下処理や味付けをしつつ、料理を開始した。
何時までも落ち込んでるわけにも行かずに、シグナムも気を取り直して、与えられた料理を作り始め、新しい調理器具を手に取る。
それだけで、これから料理すると言うのがワクワクと楽しくなってきた。
2人で仲睦まじく、料理を作り始めれば、1時間後には立派なご馳走がリビングのテーブルに並んでいた。その中央には、翠屋特製ケーキが鎮座している。
流石に、ケーキばかりは翠屋以上のものは作れないので、買ってきたのだ。
リビングには、小さなツリーを初め、CDコンポからはクリスマスソングが流れ、2人の頭にもカラフルなとんがり帽子が乗っている。

「よし、準備はこんなものだな。シグナム、シャンパンはどうだ?」
「うむ、よく冷えている問題ない。ところで、そろそろ来る時間じゃないのか?」

チラリと時計を見ると、そろそろ【彼ら】が来る時間だ。そして、噂をすれば何とやら、玄関のほうでチャイムがなる。

「メリークリスマス、クロノ、エイミィ。それに、チョッパーも。」
「ハッピークリスマス!!ブレイズ君。今日は呼んでくれてありがとう!」
「エイミィ、そんなにはしゃぐな。料理が崩れるぞ。メリークリスマス、ブレイズ。すまないな、君のうちでパーティーなんて。」
「かまわないさ。みんなで楽しんだほうが、ずっと良い。」
「そうだぜ、クロノ~。ブレイズ、クリスマスおめでとうさんっと。…しっかし、お前さん、はしゃぐ時は思いっきりはしゃぐな。その帽子とか。」
「似合ってるだろう?チョッパーには、トナカイ帽子を用意してある。」
「おいおい、オイラはトナカイかよ!!せめて、ロックなサンタにしてくんな。お、シグナム、お邪魔するぜ。」
「あぁ、3人ともよく来たな。ほら、座ってくれ。外は寒かっただろう?」
「はい、これは私とクロノ君で作った料理だよ。わぁ~、立派なチキンだね~。」
「僕達のは、フライドチキンだが、良いか。プレゼントは、後で渡すよ。」
「俺からは、ワインとロックなクリスマスCDだ。ブレイズ、コンポ借りるぞ?」

やはりは言うか、なんと言うか。来客は、クロノとエイミィ夫婦。そして、チョッパーの3人であった。
それぞれ挨拶しつつ、席に付くとエイミィが持ってきた料理をテーブルの上に広げる。作りたてで、どれも美味しそうだ。
早速、持ってきたロックにアレンジされたクリスマスソングを流しながら、チョッパーは陽気に歌い始める。

「ジングッベール、ジングッベール、ホーリーッナイツ、イエイ!」
「…チョッパーの場合は、ジングルベルじゃなくて、シングルベル…いたた!!ヘッドロックはやめろ!!」
「誰がシングルベルだこんちくしょう!!第一、親父ギャグ過ぎて笑えないんだよ!!お前らも結婚したからって、ずいぶんと余裕だな!!昔はむさ苦しい男だけで祝ったってのによ!!」
「落ち着けチョッパー。こうして招待してるんだ。…俺とシグナムの家だがな。」
「慰めてんのか、自慢してんのかどっちかにしろい!!」

ぎゃあぎゃあと騒ぎあう男性陣を見ながら、シグナムとエイミィはコップやら用意してシャンパンを注ぎ始めていた。チョッパーの持ってきたワインは後で飲むのだろう。

「まったく。この3人は何時までたっても、子供だな。」
「そうだね~。けど、あんなにはしゃぐのって、珍しいよ。…やっぱり、親友同士なんだね。」
「ふふ、私たちの前では、かっこいい夫…なんだがな。」
「シグナムさん、良いこと言ってるけど、顔真っ赤。」

クスクスとエイミィは笑みをこぼす。最初こそ、真面目な人だと思っていたが、中身は自分と同じ乙女だと理解するのは、そう難しくは無かった。
エイミィは、未だにじゃれあっている夫とその親友達に声をかけて、おとなしく座らせる。

「ほらほら、折角の料理が冷めちゃうよ。はい、みんなグラスは持った?」
「あぁ、持ったよ。…それじゃ、挨拶は代表して、ブレイズに。」
「挨拶って何をするんだ、何を。…まぁ、良いか。…では、よく食べ、よく飲んで、楽しいクリスマスパーティーにしよう。…乾杯!!」
「「「「乾杯!!」」」」


「う~ん、ブレイズ君の料理、おいしい~!!」
「いや、シグナムのパスタもなかなかいけるぞ。」
「でっけぇチキンだなぁ。よし、俺が切り分けるから、ナイフ貸してくれるか?」
「あぁ。これだ。ふふ、ブレイズのお手製だからな。私も楽しみだ。」
「まだまだ料理はあるからな。たくさん食べてくれ。」

















「そう言えば、シグナム。クリスマスプレゼント用意しなくて良いと言っていたが、結局は何が欲しかったんだ?」
「…あ、その~…うぅ、決まってるではないか。…お、お前と…私の…その…。」
「はっきり言わないとわからないんだが…。」
「ええい、相変わらず、鈍感な奴だ!!…お、お前の子供が…欲しいんだ。」
「………お前、俺の理性を崩壊させるつもりか…!!」





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