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[21471] 【完結】 そのゲーム、魔法よりもファンタジック(SAO、ハリーポッタークロス)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2019/06/26 11:37
 諸注意。
1この小説では主人公が極悪です。
2SAOとハリーポッターの蹂躙・アンチ要素があります。(作者はこの二作品は大好きですし素晴らしいと思ってます)
3主人公最強です。
4逆ハ―ものになるかと思われます。
5とにかく地雷です。
6第二部は腐要素あります。
 それでも良ければ進んで下さい。



sage投稿チェック失敗してしまいました。
お目汚ししてしまい本当にごめんなさい。
ある程度ログも流れたので、そっと元の位置に戻しました。








私はトラックに撥ねられて死んだ。
畜生、畜生、畜生! ようやく、ようやくソードアートオンラインのナーヴギアを作れたってのに! この天才の私が人生を掛けて、結婚もせず、一人でもナーヴギア作れるんじゃね? ってくらいプログラムから周辺機器に至るまで全部カバーして、もうすぐ完成する所だったのに! テロの準備も済んでたのに! なんなの? 一体何なの、あのトラック!? 運転席に誰もいなかったわよ!?

「パンパカパーン、運がいいわねー貴方」

 天使のコスプレ……いや、実際に飛んでいるんだから天使か。天使が、舞い降りて来て言った。

「貴方を、転生させてあげます! ファンタジーに憧れてたんでしょ? でしょ?」

「いえ、結構です。自力で何とかできるんで」

「そう? 喜んでもらえてあたしも嬉しい! 行く世界はね、ハリーポッターの世界!」

「おい、こら待てふざけんな」

「じゃあ、楽しんできってねー。あの世界ならもうテロリストいるし問題ないっしょ―」

「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇ!!!」





 と言う事で転生しました。
 赤ちゃんからやり直しですガッデム。
 不幸中の幸いで、記憶が薄れる事はなかった。チートと言う奴だろうか。
 父親は魔法使いで、母親はマグル。私が小さい時に両親は離婚したが、そんな事はさしてどうでもいい。重要なのはマグルの世界に住所がある事だ。
 当然、私は母親と行く事を選択した。そもそも、父親に引き取る気はなかったようだけど。
とにかく私は、文字が書けるようになるとマグルの世界に出かけて一部特許を取り、スポンサーを得て、せっせとナーヴギアの開発に勤しんだ。
そんなある日、研究所でナーヴギアを組み立てている私の所に、手紙を携えた梟がやってきた。ちなみに、組み立ては私の手でやっている。私をスポンサードしてくれている企業にも、私なしでやっていけるほどの技術は与えてはいない。それでもコンピューター技術は十世代ほど前に進んだし、ナーヴギアは大量生産が必要だから、さすがに一般公開する時には技術を渡すけれど。

「ホグワーツ、か……。まあ、ファンはファンだったのよね。何かアイデアが転がっているかもしれないし……」

「そんな、ミア女史。そんな訳のわからない学校に行くんですか? 学歴は……」

「心配しなくても、通信教育も使うわよ」

「ミア女史。お土産買ってきて下さいね」

「いいわ。楽しみにしていてね」

 研究者達を軽くあしらう。学費はグリンゴッツ銀行で両替できるだろう。ハーマイオニーがお古を使っている描写は無かったし。多分、きっと。私は、組み上げた十セット目のナーヴギアを撫でた。父は名門出のようで、手切れ金を渡すような事を言っていけど、それは断った。物ごころついて特許を取って以来、保護者の認可以外は母親の世話にすらなっていない。
 母には金を渡して黙らせてあるし、私が稼いでいる本当の額は教えていない。
 原作であった死の仕掛けも、施してある。そして私は永遠の命を手に入れて、女王として君臨するのだ。ふふふ……。

「でも、ミア女史。世界のデザインの監修はどうするんですか?」

「何のために物ごころついた時から、ちまちまちまちまマニュアル作って、各国からその道のプロを呼んだのよ。任せるわ。長期休暇になったらまた泊まり込みで手直しするから、三階層まで作らせてちょうだい。一つは私の作りかけの世界の続きを、一つはデザイナーの思う通りに、もう一つは二つの階層が出来あがってきたら、それらをベースに貴方達の良いように作って頂戴。百階あるからって、手抜きは無しよ? それと、ゲームの名前であるファンタジックのコンセプトだけは忘れないで。ファンタジーじゃないからね。最初に作る世界は、剣だけの世界にするって事も忘れちゃ駄目。戻ってきた時に素敵な世界が出来ていたら、また技術情報を流してあげる。独占するなり特許とるなり、好きにしなさいよ。手に入れられるだけの技術は手に入れたら私を切り捨てようなんて、ゆめゆめ考えない事ね」

「全力を尽くします、女史!」

魔法省にも出かけて、向こうで使えてデータ交換できるパソコンを用意しなくてはならない。当然、認可も取らなくては。
する事は山ほどある。私は小さくため息を吐いた。
私はまず、イギリス首相に連絡を取った。
私が寄こした技術情報は、ゲーム会社を経由して軍へと流れている。
私が協力しているゲーム会社も、実を言うと政府の管理下へ入れられていた。
研究員の何人かは政府のスパイだ。
その関係で、私は首相と顔見知りになっていた。
 私は魔法省への便宜をねだって手紙を獲得する。
 そういえば、漏れ鍋への道はどうするんだったかと悩んだ所でダンブルドアが現れた。

「はじめまして、ミア。私はダンブルドア教授だ」

「はじめまして。貴方はホグワーツの先生? ちょうど良かった。これらの品がどこで買えるのか、教えて頂けません?」

「もしよければ、ワシが案内するよ」

「保護者はいるから大丈夫よ。そこまでの道と魔法省までの道を教えて」

「魔法省?」

「この手紙を読んで下さらない? イギリスの首相からよ」

 ダンブルドアは手紙に目を通し、考え込むように髭を撫でた。

「これはわしから大臣に渡しておこう」

「お願いするわ」

 そして私は魔法界でも使えるように魔法を掛けてもらう予定のパソコンと記憶媒体を渡した。はっきりと道を教えてもらい、私とダンブルドアはそこで別れた。
 私は研究室に行き、悪戯っぽい表情で言った。

「魔法使いの店、ダイアゴン横町に一緒に行きたい人はいるかしら?」

 次々に上げられる手。私はそこから、日本人のデザイナーの透とイギリス人の研究者のスティーブを選んだ。
 二人の頼もしい……というには、明らかにひょろひょろしていたけど……ナイト、そしてSP一人を引き連れ、私はダイアゴン横町に向かう。
 漏れ鍋で挨拶だけ交わし、ダイアゴン横町に向かう為のレンガを叩く。道が広がると、透が歓声を上げた。
 グリンゴッツの銀行に向かうと、透は真剣な目をして小鬼をスケッチする。
 私は銀行でお金を両替すると、透にいくつか金貨を渡した。

「お土産兼研究費よ」

 透は、物も言わずに飛び出した。お土産も買うって事、覚えてるんだろうか?
 私はスティーブとSPをつれ、色々と見て回る。
 特に魔法薬の材料は資料として良く調べた。
 最後に、梟を二羽買って、透を回収して帰った。
 透は研究室に帰ると、興奮気味で魔法の店の事を話した。
 デザイナー達が透の買ってきたカエルチョコや百味ビーンズ、描いてきたデッサンをしげしげと眺め、あるいはスケッチする。私が買ってきた教科書は、完全にデザイナー達の玩具と化していた。

「あのね、最初に作るのは剣の世界だから。忘れないでね」

「わかっていますよ、ミア女史!」

「ただ、小物に趣向を凝らす位いいでしょう? なにせ、剣の世界でありながら、究極にファンタジックにするんですから! いずれは魔法の世界も作るんですし」
 
「まあ、それもそうね」

 はしゃいでいる研究員たちを見ていると、私も楽しくなってきた。
 私はスネイプのファンなのだ。明日、不機嫌な教授の顔が見れると思うと楽しみになる。
 私はにまにましながら、出発の日を待った。
 

 出発の日。九と四分の三番線で、私は我が目を疑った。

「頼みこむ? そんなことしてないわ!」

「わたし、校長先生のお返事を見たの。親切なお手紙だったわ」

「読んじゃいけなかったのに――私のプライバシーよ――どうしてそんな――?」

 リリーとペチュニアだ! 私は、気付くと二人の間に割って入っていた。 

「魔法使いになりたいの? わかるわ。私の名前はミア。貴方は?」

「な、何よ貴方!」

「私、将来ゲーム会社に入るの。その時、本当の魔法使いの気分になれるゲームを開発するつもりよ。これ、名刺」

「ゲームですって! 馬鹿にしているの!?」

「私の夢を馬鹿にしないでくれる?」

 思わず冷え冷えとした声を出すと、ペチュニアは僅かに怯んだ。

「良ければ、ここのホームページにアクセスしてみてよ。開発には十年を予定しているけれど、それでよければ気長に待ってみて」

 ペチュニアはリリー睨み、生まれそこない! と叫んでから、名刺を奪い取って去っていった。あんな様子では生き残れないだろう。私はぼんやりとそう考える。
 ハリーポッターは好きだが、あくまでも私の計画が優先だ。
 その為に何が犠牲になろうとも構わない。
 そしてスネイプを振りかえった。

「貴方でしょ、手紙を見たの。それは良くない事……」

 スネイプはそれに反論しようとする。

「あいつはただの……」

 そして言葉を飲みこむスネイプ。それを私は聞いてなかった。
なんてファンタジックな雰囲気! 陰気な魔法使いそのもの!
――インスピレーションが湧くわ…!

「貴方、名前は?」

 もう知っているけれど。

「スネイプ」

「そう、私はミア。ミアよ。よろしくね。さ、行きましょ。――貴方も」

 そして私達は列車に乗った。



[21471] 二話 1年生、ホグワーツ 組分け
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 19:58
リリーはペチュニアに生まれそこない! と言われた事を酷く悔いていた。
 スネイプは、なんとかそれを元気づけようとしていた。

「だけど、僕達は行くんだ! とうとうだ! 僕達はホグワーツに行くんだ!」

 リリーは目を脱ぎながら頷き、半分微笑んだ。

「きみは、スリザリンに入った方がいい」

 スネイプが言い、同じコンパートメントにいたジェームズは振りかえった。
 
「スリザリン? スリザリンになんか誰が入るか! むしろ退学するよ、そうだろう?」

「僕の家族は全員スリザリンだった」

「おどろいたなぁ。だって、君はまともに見えると思ってたのに!」

「多分、僕が伝統を破るだろう。君は、選べるとしたらどこへ行く?」

「グリフィンドール、勇気あるものが住まう寮! 僕の父さんのように」

 ジェームズの言葉に、スネイプが小さくフンと言う。

「文句があるのか?」

「スリザリンに行きたいって人とグリフィンドールに行きたいって人が気が合うわけないじゃない。心配しなくても、素質さえあればどの寮にも入れるわよ。ま、リリーがスリザリンに入る事は無理そうだけどね。私がハッフルパフやグリフィンドールに入れない様に」

「何故リリーが入れないと思うんだ!」

 スネイプが声をあげる。

「リリーはいかにも正義の人って感じだもの。狡猾ではないわよ。貴方がグリフィンドールに入る方がまだ簡単よ、スネイプ」

 スネイプとジェームズは二人とも嫌な顔をした。

「僕がグリフィンドールに? 冗談じゃない」

「こいつがグリフィンドールに入れるもんか!」

「やってみたらいいじゃない。グリフィンドール、グリフィンドールって小さく唱えて強く祈るのよ。そうすればリリーと同じ寮に入れるわ。最も、ジェームズとシリウスとも一緒になるし、貴方の性格じゃグリフィンドールでは凄―く居づらいだろうけど。多分めちゃくちゃ苛められると思うわ」

「セブルス……」

 リリーが呼ぶと、スネイプの表情が固まった。
 
「無理をしなくていいわ。寮が別れても、もう会えないわけじゃないじゃない」

 リリーの言葉に、セブルスは浮かない様子で頷いた。
 
「そんなにグリフィンドールに入りたくないなら、入らなければいいのに」

「心配しなくても、入れっこないさ」

 ジェームズとシリウスが言う。その内、二人がスネイプをからかい始め、私達はコンパートメントを移った。
 その後、結局セブルスは愛を取り、グリフィンドールとなったのだが、それはどうでもいい事だ。問題はその後である。
 その組分けの儀式は伝説となった。

「グリフィンドール、グリフィンドール、グリフィンドール……」

「フーム、勇気に満ちている。素晴らしい頭脳を持っている。才能もある。ふむ、ハッフルパフだけは無いな! そして禍々しい欲望を秘めている……。ふむ、グリフィンドールに入りたいのかね?」

「そうよ、グリフィンドールに入れて頂戴」

「だがしかし! スリザリン!」

「駄目! グリフィンドール! 燃やすわよ!?」

「しょうがない、そこまで言うならば。グリフィンドール!」

 これが、私の組わけの全容だった。もちろん、大声で交わし合った会話は周囲に聞かれている。
 私は微妙な顔で迎えられた。
 
「えーと……嬉しいよ、グリフィンドールを望んでくれて……」

 監督生が言った。そして先生達が組分け帽子と協議に入った……。
 その際、ジェームズがいらん事を言う。

「先生、そいつスネイプにグリフィンドールに入る方法教えてました!」

「五月蠅いわね。素質がなきゃ、いくら脅したって入れてくれないわよ。スネイプにも私にもグリフィンドールに入れる勇気とスリザリンに入れる狡猾さがあるわ。それがどうかして? 私達には貴方にはない選択肢があるのよ。ハッフルパフに入る才能がないのは認めるけど?」

 そこで組分け帽子が言った。

「しかし、そこの女の子の欲望は間違いなくホグワーツ始まって以来だ!」

 退学まで考慮した話し合いが行われました。
 結局、私とスネイプはスリザリンに入る事になった。まあ、スネイプと一緒だから問題ないわ。それでも、私は一応謝っておいた。
 
「スネイプ、巻き込んでごめん……」

 スネイプは、顔を逸らしてこっちを見ようとしない。私はため息をついた。
 すると、スネイプが顔を逸らしたまま言う。

「僕にはスリザリンの方があってた。なるべくなったんだと思う」

 私はその言葉に微笑んだ。
 そして、寮に行くと皆がベッドに飛び込む中、私は通信教育の教科書と問題集を引っ張り出していた。二つの学校を卒業するという事は、簡単ではないのだ。
 朝、梟に片づけた問題集を託すと、私はパソコンの電源をつけて作業を始めた。

「なにしているんだ?」

 スネイプが覗きこむ。

「私、将来はマグルの会社に就職が決まっているのよ。だから、夜はマグルの学校の勉強、朝はマグルの会社での仕事で忙しいの」

「もう就職が決まっているのか?」

 私は、スネイプにちらりと笑いかける。

「私って、こう見えてもそこそこ頭がいいのよ」

「ふーん……そういえば、ハッフルパフは無いと言っていたけど、レイブンクローに入れないとは言っていなかったな……」

「そこで私としては貴方をスカウトしたいのだけど。長期休暇の間、研究室で働いてみない?」

「マグルの元で働くなんて!」

「新しい服が何着か買える分ぐらいは稼がせてあげるわよ。……うん、もうそろそろ時間ね。お風呂入るけど、スネイプも入ったらどう? 昨日はすぐ寝てたみたいだから、入ってないわよね。特に髪は良く洗った方がいいわ」

 そういうと、スネイプは黙って丸い穴から出ていった。
 私はお風呂場に向かい、さっぱりすると早速朝食へと向かうのだった。
 食堂では、スネイプもお風呂に入ったらしく、ホカホカしていた。
 やはりというか、私とスネイプはからかわれる事が多かった。
 私は魔法大臣に便宜を図ってもらってる事が知られているからまだましだが、スネイプが良くからかわれる。良い兆候だ。付け込みやすいから。
 私は、徐々にスネイプに近づいて行くことにするのだった。



[21471] 三話 1年生、クリスマス 夢の世界、お披露目
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 19:59
 初めての箒の授業の時、私はスネイプとリリーを誘った。
 三人で箒の練習をしていると、ジェームズがちょっかいを掛けてくる。
 
「のろまだな、スニベルス! まるで蝙蝠みたいにふらふらしているじゃないか!」

 スネイプが杖を振りあげようとするのを、私は止めた。

「ああいうのとは関わらない方がいいわよ。どうせ私達はスリザリンに入ったのだから、真正面からぶつかるような馬鹿な事をしては駄目」

 スネイプはしぶしぶと頷き、私達は箒で飛ぶ事を続行した。
 ジェームズがからかい、私がスネイプを止める事はよくあった。
 また、私達はいつも一緒に勉強した。
 最初にグリフィンドールを選んでいたスネイプは、原作より更に孤立していたので、近づくのは簡単だった。
 スネイプにパソコンの使い方を教えるようにもなっていた。
 レイブンクローの先輩に、ダモクレスがいたのでスネイプをむりやり引っ張って勉強を教えてもらいに行った。
 ダモクレスは後に脱狼薬を開発する。つきあっておいて損はないと思ったのだ。
 スネイプは、ダモクレスの魔法薬学の知識に感服し、また、ダモクラスも最初はスネイプを気味悪がっていたが、学ぶ意欲は認めてくれた。
 私とスネイプの時間は勉強と仕事で染め上げられ、それなりに忙しく過ごしていた。
 そして、クリスマスを目前にした日、私はもう一度スネイプを誘った。

「スネイプ、クリスマスは研究室に来て仕事を手伝ってくれない? クリスマスイブには買い物もして、クリスマス当日にはリリーとペチュニアとダモクレスも誘いましょ!」

「マグルなんか! 学校に残った方がよっぽど楽しい……」

「あら。それは当然でしょ。私は仕事を手伝って欲しいとお願いしているんだから。お金になるわよ? 親友にプレゼントを送るって、きっと素敵よ」

 スネイプはそれを聞いて渋々頷いた。私の梟を使って、手紙を送る。
 
「全く、パソコンの使い方に魔法薬学に普段の授業に闇の魔術に、頭がパンクしそうだ……」

 ブツブツ言うスネイプに、私は笑った。

「私もよ」

 その後、親の承諾を得させてから、私はスネイプに雇用契約書にサインをさせた。
 これでクリスマス休暇の間、スネイプは私の物。ふはは、騙されおったな?
 四分の三番線につくと、スネイプのお母さんは私を迎えに来たスティーブとSPに深々と頭を下げた。

「手紙で聞いてはいましたが、ミア女史が友達を連れてくるなんて、少し驚きました」

「あら、彼はモデルよ。ファンタジックで作るポーションを一手に引き受ける役。徹底的に磨き上げさせて頂戴。彼独特の雰囲気を消さないようにね」

「モデル? どういう事だ?」

「こちらへどうぞ」

 それには答えず。スティーブは私とスネイプを車へと案内する。
 車で眠りこむ事30分。ようやく研究所につき、いくつものセキュリティチェックを受ける。スネイプに良く言い含めて杖を取り上げ、風呂へと送った。
 美容師、スタイリスト、ゲームデザイナーを呼び、スネイプは着替えをしてはデータを取られる。

「クリスマスの衣装にも使うんだから、それらしくしてよ。ファンタジックにね。……あら、良いじゃない。服に着られている感じがイメージぴったりよ」

 ようやく候補がいくつか決まると、私はナーヴギアをスネイプにかぶせた。

「な、なんだこれは!」

「スイッチオン」

スネイプの体がガクッと崩れおちる。その体をスティーブに運んでもらい、私もナーヴギアを被った。
 私の目の前には、大きな町の広場があった。
 それは随分と閑散としている。そこでスネイプがへたり込んでいた。
 私達二人とも、非常に簡素な服とそっけない剣を持っている。
 
「ちょっと、あんまり進んでいないじゃない」

「ななな、なんだこれは! マグルが移動の術を使った?」

「違うわよ、私達の体は今もあそこに横たえられているわ。あれはそうね、わかりやすく言えば夢を見せる装置なの」

「夢?」

「そうよ。これはさしずめ剣士になる夢ね。モンスターはもう出来ているの!?」

 すると、私の頭の中に、出来ていますと返答が来た。

「じゃ、スネイプ。観光しましょ」

 私が真っ直ぐに外に向かうと、スネイプも遅れてついてくる。

「今回、スネイプに頼みたい事は、このゲームのイメージキャラクターになる事よ」

「イメージキャラクター?」

「そう、剣の国アインクラッドが魔物に占領されてしまった。しかし、アインクラッドには秘密兵器、人造人間が用意されていた。それを起動させる為、空を飛べる妖精族は外から最下層に回り込む。最上層町から端まで。最下層の端から町までの旅で、一人、また一人と妖精族は命を落として行く。生き残ったのは、異端と言われた蝙蝠の羽を持つ……そうね、名前はヒースクリフがいいわ……男の子だった。男の子は羽を失いながらも、町に辿りつき、人造人間を目覚めさせる。そして、冒険は始まる……。そのヒースクリフが貴方よ! その後、魔法薬を作ってプレイヤーを助けるの」

「よくわからないが……物語の登場人物の一人になるのか?」

「そうよ!」

 そこまで話した所で、草原についた。魔物を見て、スネイプはじりじりと下がった。

「最初はスライムね」

 私は剣を振るう。

「あ、おい! 危ないぞ!」

「ここは夢の中だって言ったでしょ!?」

 スライムと戦って私が苦戦し始めるとスネイプが加わった。
 私達はこの後、スライムを10匹、凶暴兎を5匹倒し、アイテムの肉を手に入れた。
 アイテム欄を探ると、マッチがあったのでそれで火を起こして肉を食べる。
 本物の肉には比べられないが、まあ食べられる味だった。
 そこで、頭の中で声がする。

「では、次のデザイナーズランドに向かって下さい」

 そこで、私とスネイプは移動した。
 ついたのはへんてこな町だった。水路やトロッコが走り、大樹からは梯子がぶら下がっており、その木の上に家がある。
 そして雑多な人々が町を行きかう。
 いかにも、思う存分好き勝手やりましたという感じだった。
 私とスネイプはそこをゆっくりと観光した。
 悔しいけど、楽しい事は確かだった。
 観光の階層として置いてやってもいいだろう。
 クリスマスの時もこれでいいかもしれない。

「どうですか、楽しかったでしょう? じゃあ、現実世界に……」

「待ってよ、最後の一つの世界がまだよ」

「え……い、いいじゃないですか、これだけ出来ていれば」

「最後の世界に連れて行きなさい」

 私は命令口調で言った。私とスネイプの体が移動する。そこは研究室そっくりの場所だった。

「すみません、ミア女史。ナーヴギアを解析していて、時間圧縮機能を見つけたので、ここで皆で作業していました……」

「もう。時間圧縮はもう少ししたら教えるつもりだったのに。でも、脳に負荷がかかるから乱用は駄目よ?」

「わかりました、ミア女史」

 私とスティーブの掛け合いに、スネイプは目を丸くする。

「時間圧縮ってどういう事だ?」

「一時間に一日分の夢を見る事よ」

「もしかして、ナーヴギアを開発したのは……」

「あら、言ってなかったかしら? 私が開発したの。ホグワーツの学費は、私が自分で払っているわ」

 スネイプは目を丸くした。

「ミ、ミアに出来るんだから、僕もこの年で働く事が出来るかな……」

「だから、今から働くんだってば。雇われるのが嫌なら、魔法薬学分野でトライしてみる? ダモクレスと共同研究でもして。脱狼薬でも作ったら一躍有名人になれるかもよ。スネイプなら出来るわよ」

「脱狼薬か……面白いテーマだな」

 スネイプはもっともらしく頷いてみせたが、背伸びをしている事は明らかだった。
 私達が現実世界に戻ると、もう夜になっていて、私のお腹がなった。

「ミア女史、食事を取っておきました、どうぞ召し上がってください」

「あら、助かるわ。食べましょ、スネイプ」

 食事を二人で取る。

「それで、他のモデルは決めてあるのよね?」

「梟で頻繁に打ち合わせをしていましたからね。最上階シーンに使う場所と魔物も数種類、しっかり作ってあります。ゲームは開発中の物で、実物と変わる事がありますって注意書きは必須ですが……。まあ、ナーヴギアの真髄は世界初のダイブ・イン機能であってゲームデザインじゃないから大したことはないですよ! 明日からでもCMを取れます!」

「随分問題のある発言ね……なら明日から取って頂戴。それから、あのクリスマスのプレゼントを一気に開けてみたような世界はどこかでは使ってあげるけど、人造人間が眠る設定の1階層では使えない。私の世界のクオリティを上げて。一晩でやりなさい」

「ええっ駄目ですか、あの世界。あんなに楽しいのに」

「クリスマスではそっちの世界を案内するわ。そうね、観光の階は11階辺りがいいかしら?」

「ようするに最下層でしょう? そこに変人達を閉じ込めておくって設定じゃ駄目ですか? 人造人間はそこの人間が開発したもので。皆、あの世界を乗り気で作ってるんです。今更変えられませんよ」

「始まりの町はシンプルが良いわ。あれじゃ迷っちゃうわよ。どこかで使うとは言っているでしょ? そもそも、あの世界はファンタジックと言うよりはファンタジーそのものだわ」

「ミア女史……」

 その部屋中の研究員たちに縋るような目で見られ、私はため息を吐いた。
 口で勝てないとなったらそれか。

「仕方ないわね。ファンタジック1はいわば試作品だし……いいわ。その代り、これ以降の勝手は許さないから」
 
 その言葉に、研究員たちは喜びに沸いた。しかし、ゲームの難度は格段に上がりそうである。私が虐殺をするゲームでは、絶対にフェアにする。
 さあ、どの世界で虐殺をしよう。魔法は絶対に使える世界が良い。次に作るのはアルヴヘイム……妖精の世界と決まっている。問題はそこで行うか、ホグワーツの経験を生かしたウィザーズで行うか、あるいはその次に作る全く新しいゲームで行うかだ。
 まあ、それはまだ先の話だ。
 



[21471] 四話 1年生、クリスマス2 オープニングと暗殺
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:00
「行くんだ、皆!」

「ヘンリー!」

 見上げるような魔物を相手に、男優が格好良く叫び、女優が飛びながら切なく叫んだ。両者とも、妖精の羽のような物を生やし、耳を尖らせている。
 男優は呪文を唱え、魔物に一撃を与えてもう一度言った。

「行くんだ! そして人造人間を起動し、アインクラッドを救うんだ!」

「何故だ、何故アインクラッドの連中の為に、木偶人形の為に、ヘンリーが、僕達が死なねばならない?」

 スネイプが叫ぶ。色とりどりの衣装と虫のような妖精の羽の中、黒い衣装と蝙蝠の羽は異彩を放っていた。繊細なイメージを持たせる妖精たちは、それは強力な魔物に次々と倒されていく。
 子供ゆえに守られていた女の子とスネイプの二人が残る。
 最後の最後、アインクラッドの窓から外へ飛び立つ段になって女の子がスネイプを庇って倒れた。羽が、散る。

「なんで……なんで、ミネア……」

「行って、ヒースクリフ。貴方の方が、いろんな知識を持っている貴方の方が、人造人間の助けになれるから。ねぇ、私達、故郷を一度も見れた事がないよね。アインクラッドを奪還すれば、故郷に行けるかなぁ。妖精だけの世界、私の分も見て来てよ。必ずよ」

 スネイプはその手に鍵を押し付けられ、窓の外へと突き飛ばされる。ミネアがポリゴンの粒子となって消えさった。

「ミネア……!」

 スネイプは滑空する。結界のはられた、あまりにも大きな城の周囲を。城の下には雲につき出るほど大きな木が聳え立っている。後は一面の雲。
 最下層まで行って、スネイプは窓からアインクラッドに入った。
 先ほどの魔物とは明らかに劣った魔物達。それに負けず劣らず貧弱な魔法を使って、スネイプはボロボロになりながら走る。ついについた町を見て、スネイプは呆然とした。

「変わった研究者達の押し込められた最下層の町……クレイジータウン……」

 そして我に返ってトロッコに乗った。
 場面が飛んで、地下の大きな扉の前にスネイプは立っていた。
 鍵を使って扉を開ける。
 真正面からスネイプの顔。
 
「私はヒースクリフ。お前達を目覚めさせし者だ。魔法も使えん木偶人形にどうにかなるとは思えんが……いや……助けてくれ、このアインクラッドを、魔物の手から奪還してくれ」

 そしてファンタジックのロゴ。
 そして雑多な映像が流れる。戦っている映像。食べている映像。そしてスネイプのツンデレ画像。

「心配、するわけじゃないんだからな」

「勘違いするな! お前の為では断じてない!」

「無茶をするな、この木偶人形!」

 そして、最後にサポート役が決まっているテレサの笑顔とドレス姿の私が冷たく見下ろしながら剣で突き刺してくるシーンが大写しになり、CMは終わった……って、え?

「いや、素晴らしいですね、ミア女史!」

「これで行きましょう、ミア女史!」

「ちょっと待って、今、変なのが移っていなかった?」

「いやー、大変でしたよ、あの画像を編集するのは」

「やっぱりラスボスはミア女史ですよね!」

「九十九の嘘の中に一つの真実、いや、良い出来ですよこれは!」

「普通逆でしょう!?」

私は文句を言うが、皆、無視を決め込んで拍手を続けている。
しばらく会わない間に、随分と手綱が緩んでしまったらしい。これは引き締め直さないと。

「貴方達、私に反旗を翻そうとでも言うの? 言ったわよね、我儘はこれきりだって」

 私がひんやりした声で言うと、研究者達は慌てた。

「そうは言っても、最後、締めの画像は必要ですよ」

「この前、ラスボス人間は譲れないって言っていたじゃないですか。まさか、その役を他人に譲るおつもりですか? 喜んで演じる俳優は大勢いそうですが」

 それを聞き、私は言葉に詰まった。ファンタジック1で虐殺をする事はありえない。それでも、記念すべき一回目のラスボスを他人に譲る事は考えられない。

「……わかったわよ。確かにそうね。このCMでいいわ」

 そして私はスネイプに向き直った。

「ありがとう、スネイプ。思ったよりも演技力があるんで驚いたわ。これ、謝礼ね。明日はクリスマスイブだから、グリンゴッツ銀行に行って換金して来なさいよ。梟も貸してあげるから、明日の午前、は記者会見があるから……。明日の午後、一緒に買い物に行かない?」

「僕は一人で行く。全く、時間短縮が出来るのを良い事に127回もリテイクさせるなんて。本当に大変だったんだからな。梟は借りるけど」

「あら、残念。あ、そうそう。スネイプにあげた分とは別に、明日お母さんに謝礼と、クリスマスプレゼントを送っておくから。貴方自身も謝礼を貰ったなんて絶対に言っちゃ駄目よ。ご両親が貴方の謝礼の事で争ったら、その謝礼はあげると言っておきなさい。悪いけど、貴方のご両親がスネイプに報酬を全額渡す事を承諾するなんて、私信じないから。額は教えて置くから、ご両親がどうしたか教えてね。それでどうするか決めるから」

 スネイプは表情を堅くして頷く。

「私も、同じ方法を使っているの。スネイプの親ほど大変じゃないけど、才能があるってのも大変なのよ」

 それにスネイプは目を見開いた。そして、寝室に駆けて行った。
 私はそれを見送って、ナーヴギアの設計図を書きに戻った。
 今回渡す知識はナーヴギアの組み立て方だ。次の休みまでには量産してもらう事になっている。

 記者会見は、CMを見せながらの物となった。

「ヒースクリフ役の男の子は一体、誰なんですか?」

「謎があった方がわくわくするでしょう? ……なんてね。思い切って素人を起用したのよ。だから誰か言わないのはプライバシーの保護ってわけ」

「ミア女史も出ているようですが、NPCとして出るのですか?」

「いいえ、一プレイヤーとして出るわ。気が向いたら初心者案内もしてあげるわよ? そうしょっちゅう参加する事は出来ないから、ギルド作成は無理だけど」

「実際にダイヴ・インを経験してみて、どうでしたか?」

「最高の気分だったわ」

「味覚が独特でびっくりしたね。僕は現実の食事の方が好きだけど、とにかくゲームで味覚を味わえるなんてびっくりしたよ」

「ゲームの中で命を落とす時が怖かったわ」

「魔物は凄い迫力だったよ。何せ、目の前に実際に大きな魔物がいるんだからね!」

「魔法は使えない、との事でしたが」

「魔法を実装するには、システムがまだ不完全なのよ」

「システムと言えば、ミア女史はその年齢で技術を十世代進めたと言われていますが……」

 記者会見は10分と短い物だったが、一時間のように感じられた。
 ようやく記者会見が終わり、私もまたSPと透とは別のデザイナーを連れて買い物に向かった。
 リリーとペチュニアにはカエルチョコのセットを、ダモクレスとスネイプにはマグルの服を、そして別の箱で魔法薬も。研究員達やデザイナー、SP、首相にはそれぞれ好きそうなものを。
 モデル達やスポンサーには魔法の事は内緒なので、研究員達に贈り物を任せた。後、母への贈り物も。
 その後、自分の為のお菓子や魔法薬と書物を買い込む。
 車はあっという間に荷物でいっぱいになった。
 デザイナーは早速自分あてのプレゼントを開けていた。大人の癖に、もうちょっと待てないのかしら?

「疾風、隼、頑張ってね」

 帰ってすぐに、私は梟達に命ずる。持ってきたプレゼントは次々と目の前で開けられた。この大人達は……。スネイプの配達はもう済んだようで、給料で買ったらしい中級魔法薬の本を夢中で見ていた。

「どうだった? ご家族は」

「ガリオン金貨を一枚だけ貰った。その後父さんに取られた」

「そっか……。新しく買ったもので持って行かない物はこの研究室に置いておけばいいわ」

「なぁ、教科書をゲームの中に持って行く事は出来ないのか? 僕もそこで勉強したい」

「データを打ち込むか、スキャナで読みこめば出来るわよ。宿題を中でやっても持ちだせないけどね。羊皮紙にプリントアウトしても恐らく駄目って言われるだろうし。データは自分で打ち込んでよ? やり方は教えるから」

「魔法で何とかできないのか?」

「今、貴方はマグルの元で働いているの。言っている意味、わかるわよね?」

 スネイプは渋々と頷く。

「全く、なんで僕が穢れた血の為に……」

「その言葉、考えなしに使うと後悔するわよ。貴方が思うよりも、それは重い言葉だわ。少なくともリリーみたいな人は絶対に許さない。それに、スネイプ。貴方も半分穢れた血の持ち主なのよ」

スネイプは、杖を取り出そうとするしぐさをして、私はそれを鼻で笑った。

「ほらね。重い言葉でしょう?」

スネイプは私をちょっと睨み、ため息をついた。

「気をつける」

「それでいいわ。魔法薬は良いわね。リリーも得意だし。きっと在学中に特許を取れたら尊敬されるわ」

 翌日、クリスマスの日。
 目が覚めて、私とスネイプはのんびりと食事をしていた。
 クリスマスは忙しい。今が唯一ゆっくりしていられる時間。

「二人とも、プレゼントが気にならないんですか? その為にスケジュールを開けたのに」

「僕? ……もしかして、もしかして、リリーからプレゼントが?」

 スネイプはガタッと椅子を鳴らして立ち上がる。
 スティーブはその言葉に、顔いっぱいに微笑みを浮かべた。

「他にも、スポンサーとか、共演したモデルとか、僕達からのプレゼントもあるよ。見るかい?」

 スティーブはもみの木を指差す。スネイプは可能な限り急いでプレゼントの元へ行き、スネイプと書いてある箱を懸命に取り出した。
 
「ふ、ふん。マグルからのプレゼントなんて……せっかくだから貰っておくが」

 よしよし、ツンデレの教科書を無理やり読ませた甲斐があった。

「ちょっと早いけど、誕生日プレゼントもあるから」

「魔法薬の材料セットか!」

 スネイプはついに歓声を上げる。それをにやにや見守っていると、スネイプは私の方を見た。

「お前はプレゼントを開けないのか?」

「危険物チェックはしてあるのよね?」

「もちろんです。プリンセス」

 スティーブの返事を聞き、私は箱に手を伸ばした。
 当然ながら、私はスネイプよりももっと多くのプレゼントを貰っていた。
 主に技術関係の要人からだが。
 贈り物を開けて行く。多くはマグルの品だが、二つほど魔法使いからの贈り物があった。
 リリーとスネイプからだ。スネイプはそっぽを向く。
 内容は、まさに欲しいと思っていた怪物に関する本で、暴れている所をむりやり紐で押さえつけられていた。
 私は背表紙をついっと撫でて本を黙らせる。

「ありがとう」

 私が笑うと、スネイプは一瞬呆けた顔をした。

「ふ、ふん。……その本を大人しくさせる方法を知っているという事は、持っていたものか?」

「いえ、単なる勘よ。これ、欲しいと思ってたの。本当にありがとう」

「発売されたばかりなんだ」

 スネイプは誇らしそうに告げた。

「なんですか、それ。なんですか、それ」

 透が寄ってきたので、私は本を開いてみせる。

「ありがとうございます! 暴れたら背表紙を撫でるんですね、わかりました!」

 透は凄い勢いで引っ手繰って研究室に持っていった。スネイプと私は一瞬呆然として、そして笑った。

「後で読ませてもらうわ。次の箱を開けましょうか」

 プレゼントを片付け終わると、私は急いで着替えてクリスマス講義に出かけた。
 自分でも何を言っているのかわからないが、要人にクリスマスプレゼントは講義がいいと言われたので仕方ない。
 もう特許を取った部分だし、五世代前の技術だからいいのだが。
 講義は長引いた。七世代、八世代前の技術にまで話が飛び、私は質問の手が森のごとき様相となるに至って、諦めた私は十世代前の技術から徐々に説明を始めた。
 八世代前の話を一通り済ませると、学者達は満足して帰って行った。
 なおも個人的に質問してくる学者達を振り切り、パーティ会場に走る。

「遅いですよ、ミア女史! すぐこの服に着替えて下さい! スピーチはこちらになります、10分で覚えて下さい」

「この悪の首領って感じの服は何!? ああもう、時間無いし仕方ないか……!」

「後でお色直しがあるから、安心して下さい!」

 スティーブが叫ぶ。
 スネイプもスタイリストに蝙蝠の羽をつけられて途方に暮れていた。
 そして、パーティが始まった。
「皆さん、ファンタジックのお披露目パーティに来てくれて本当にありがとうございます。異例の十年単位で作ろうというコンセプトで、既に開発開始より五年が立っているこのゲーム、ファンタジックの開発が出来るのは、ひとえに皆さんのご協力のお陰です。お陰で、ようやくその片鱗を皆様に見せられるようになりましたのでご紹介します。ファンタジック、開発コード、ソードアートオンライン、どうぞご覧ください」

 大画面に、CMのロングバージョン……暫定オープニングが流れる。
 その後、プレイ動画を背景にスポンサーやゲーム会社社長の話が続き、ナーヴギアが広間の中央……予め、10台のベッドが用意してある……に運ばれた。

「では、実際にプレイしてお楽しみください」

 そして私はスネイプを連れて一通り挨拶をして回った。
 リリーとペチュニア、ダモクレスが一か所に固まっていた。

「リリー! 来てくれたのか?」

 スネイプが駆けよる。横にいたペチュニアが一所懸命物を考えた後言った。

「変な服!」

「あら、気にいらない? 残念ね、蝙蝠の羽で良かったら飛ばせてあげられたのだけど」

 私が意地悪く言うと、ペチュニアは信じられないという風に口を押さえた。

「それ、ほんと?」

 ペチュニアは途端に大人しくなり、私に手を引かれてナーヴギアの所へと向かった。
 私は休暇中に作ったナーヴギアを持って来させ、ペチュニアに嵌めてやる。
 ダモクレスは顔だけ出しに来たようだったが、一回だけナーヴギアを試して、招待してくれた事に礼を言って帰った。
 リリーも試してみたようだし、凄いと言ってくれたが、あくまでマグルがここまで出来るのが凄いという評価だった。魔法よりもファンタジック。その目的はまだ、達成できていないようだ。私はそれを心に刻みつける。
 ただ、他のゲスト達は非常に興奮していた。
 スネイプに対しても、フラッシュがひっきりなしにたかれる。
 
「そろそろ良いわよ。着替えて来て、リリーに研究室を案内してあげたら? ペチュニアはナーヴギアに夢」

 私はいきなりSPに覆いかぶさられる。
 SPが撃たれ、血の花が咲いた。
 辺りが騒然となる。
 私は撃たれたSP以外のSPに庇われて即座に避難した。
 二十分ほどで大捕り物が収まる。

「犯人は見つかった?」

「いえ、逃げられました」

「そう。もう危険はないのね? 血で汚れてしまったわ。お色直しして、もう一度出るわ。お客を落ち着かせなきゃ。しっかり守ってね」

「しかし、ミア女史……」

「服を持ってきて」

「イエス……プリンセス」

「で、撃たれたSPは」

「命に別状はありません」

「そう。スティーブ。十分に保障してやって。行くわよ」

 私はドレスに着替え、飛びきりの笑顔で笑った。
 ふん、私は殺される覚悟はとっくに持っているわよ。
 ……野望達成までは、絶対に生き延びてやるけれど。



[21471] 五話 1年生、ホグワーツ2 ダモクレス、捕獲
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:01
 パーティが終わってリリー達の所に行くと、三人とも顔を蒼褪めさせていた。ペチュニアですらも。

「ごめんね、私ってほら、結構要人だから」

「目の前で人が撃たれたわ! あの人は貴方の為に死んじゃったのよ!」

 ペチュニアが泣きながら言った言葉に私は優しく声を掛ける。

「彼は生きているわ。大丈夫」

「ミア、君は天才だったんだな。五歳の頃から特許を取ったと聞いた」

「セブ、今はそんな事。怪我はない? 大丈夫?」

「大丈夫よ、心配しないで。もう夜も遅いし、またホグワーツで会いましょ」

 リリーとペチュニアを送り、私とスネイプはパーティ会場から戻った。
 私はお風呂に入り、パーティ中はろくに食べれなかった食事を掻きこむように取った。
 私とした事が、疲れていたのか、その日は泥のように眠ってしまった。
 朝。研究員達が私を気遣っているのが分かる。気遣うのはわかるが、朝食が全部お菓子はないんじゃなかろうか。

「ちょっと、普通の食事を取ってきてよ。私なら心配しなくても大丈夫。自分がいつ殺されても誘拐されても仕方ない要人だって理解してるわ。私が研究所に来た経緯知らないの? とっくに覚悟のうえよ」

「……経緯、とは」

「私は本当は政府関係者に引き取られる予定だったのよ。研究も、私の才能がゲームに使われるなんてとんでもないってね。ゲームって事は、誰でも買って分解できるって事だし。皆、私を子供と見くびって、好きなように動かそうとしていたわ。でも私、自分の思い通りに出来ないなら死んでやるってナイフを喉につき立てようとしたわ。その政府関係者が驚いて素手でナイフを掴んでくれて、私は無傷だったけど。その人の手には今も傷跡が残っているわ。それが今の首相なのよ」

「……時々、本気でミア女史が十歳だと信じられなくなります」

「なら、そう扱って。知らなかった? 十一歳は立派なレディなのよ。もうすぐ十二になるし」

 するとスティーブはクスリと笑って恭しく礼をする。

「レディ、本日のご予定はいかがなさいますか」

「何時も通り仕事するわよ。リリーとダモクレスの反応、屈辱的だったわ。魔法使いも驚かせる品じゃないと駄目。五感ももっとずっとシビアにして。本体価格を別にして、更に一時間五十ポンド払って大満足出来るような出来じゃないと駄目」

「時間短縮ありでお願いします」

「五倍速以上は認めないわ。理論上の絶対安全を確認しているのは十倍速だから」

「しかし、一時間約一万円では、プレイヤーが破産してしまいます」

 透が空気が緩んだのをきっかけに言った。

「そうね、ソフトを買ったら一か月は無料と言う事にしようかしら」

「ありがとうございます!」

「それと、プレイデータを見たけど、やはり使いなれないのは問題ね。そこで、いくつかゲームを作って販売する事にするわ。この件に関しては別チームを立ち上げる。筐体の設計図は渡すし、この情報は漏れても構わないから、日本にでも工場を設立しちゃって。あそこは技術力に定評があるから。本当はナーヴギアも日本で作りたい所だけど、機密情報的に無理よねぇ……。あ、テナントと売り上げの10%を払えば他の会社のゲーム開発も受け入れて。開発ツールとマニュアルは私が作るわ。パソコンで遊ぶゲームはこの休み中に私が作っちゃうわ。で、フリーで流す。あ、筐体発売から一か月以内に参入の企業はテナント0ポンドも付け足して。ただしエロはそれを示すシールをつけてね」

「ありがとうございます! 早速俺、出身の大学に話してきます」

透が言った。
 
「僕は何をすればいい?」

 新聞を置いて、スネイプが言う。

「貴方はデータの打ち込みを私の分もやってくれない? 後は自由にしていいわ」

「スネイプくん、時間が余ったら僕達の仕事を手伝ってもらえないかな」

「わかった」

 スネイプの気づかいは都合が良かったので、私は受け入れた。
 新聞には、「機械の女王、貫禄を見せつける」という見出しで私の写真が大写しになっていた。何枚にもわたって、スネイプや俳優達の写真とナーヴギア、私の実績の記事が載せられている。
 テレビでは、当然のごとく襲撃のシーンと私がドレスを着て笑顔でゲストに挨拶をして回るシーンが流されていた。
 ついにプリンセスからクイーンに格上げされたか……。
 私は新聞から目を逸らし、作業に移った。
 それからが忙しかった。私は三十倍速にナーヴギアを設定、繋ぎっぱなしにして点滴コンボをしようと思ったがスティーブに物凄い勢いで怒られ、結局十倍速の上、眠るときにはナーヴギアを外されたからだ。
 しかし、私はアタリ社の失敗を忘れてはいない。操作がごく単純なゲームばかり作ったので、なんとか休み中に十のゲーム作成を終わらせる事が出来た。
 休みが終わる二日前に、ゲームの事で占領された頭にホグワーツの教科書を頭に叩き込み、最後の一日は一日中泥のように眠った。
 そして翌日、四分の三番線に向かい、リリーと共に、同じコンバートに乗った。
 たまたま、そこでダモクレスと一緒になった。

「やあ、この前はすぐに帰ってしまってすまなかったね。クリスマスは予定が詰まっていてね。でもあの装置は、マグルが作ったにしては素晴らしくて驚いたよ」

「ううん、勉強になったわ。私のゲームはまだ魔法使いを射止めるほどじゃないってね」

「ところでダモクレス先輩、脱狼薬に興味はないですか? 僕、ミアのように成功したいんです」

「それは面白いテーマだけど、一年生の君が脱狼薬を作ると?」

「ミアは五歳で特許を取ったんです」

「それはマグルの、だろう?」

「面白そうな話ね。私も加わっていい?」

「あら? 私を仲間外れにするつもり?」

 こうして、魔法薬学研究チームは結成された。若すぎるというより、幼すぎると言っていいそれは、後に名を残す事になるだろう。未来を少しだけ知る私は、微笑んだ。
 寮に帰ると、私は大いに驚いた。魔法大臣からスネイプ用のパソコンとナーヴギアが届いていた。魔法大臣か首相かはわからないが、粋な計らいだ。これでスネイプを思う存分こき使える。
その翌朝、早速スネイプの元に私の梟が降り立った。
 スネイプの所に荷物が来るなんてなかった事なので、皆が驚く。
スネイプは荷物の中身を見て、急いでしまった。
そして急いで朝食を掻きこみ、すぐ寮に引っ込んでしまう。
 私はその袋の中身が何か分かっていた。――ファンレターだ。
 私が食事を終わらせる頃には、急いで荷物を持ってリリーの所に行くのが見えた。
 忙しない事だ。あ、ジェームズにちょっかいを掛けられてファンレターがばら撒かれる。
 ジェームズ達が驚愕している。リリーがスネイプを庇って魔法でファンレターを集めている。本当に忙しない事だ。
 ちなみに、私のファンレターは全てそれ用の人間が読んで、必要なら返事を書いている。
 その日の午後、スネイプがリリーと一緒にファンレターの返事を書いていた。

「ちょっとスネイプ、今はまだいいけど、そのうちキリがなくなるわよ?」

「そ、そうか? でもまあ、これも仕事のうちだしな」

 私はスネイプの言葉にクスリと笑った。それは言い訳なのは明らかで、スネイプ自身が返事を出したがっているのは明らかだった。

「手紙は研究所に送って。一般のマグルでは手紙を運ぶのに梟は使わないから。さあ、ダモクレスの所に行きましょ」

「わかっている。後一通で返事が書き終わるから、先に行っていてくれ」

 そして、ダモクレスの所に行って魔法薬学について学ぶ。
 さすがの私でも、まだ研究するレベルには至っていない。私達はまだ一年生だ。
 だから、こうしてダモクレスから学ぶのが主になった。
 熱心に勉強していると、そのうち魔法薬学の先生まで加わるようになってきた。
 私はそれに関連して、身を守る為の道具の開発もスタートした。
 それを見たスネイプは、何も言わず手伝ってくれる。銃弾から身を守る為の呪文や癒しの呪文の開発も始めてくれたようだ。スネイプは呪文について詳しかった為、すぐ研究に入れた。
 その点、私はまだ魔法使いとしては素人だ。
 私とスネイプは非常に、非常に、非常に忙しくなっていた。
 スネイプの評価は、闇魔術をたくさん知っている怖い人から、変人で忙しい人となっていった。
 それでも睡眠時間を削って作った空き時間で、パソコン用のゲームプログラミング用の言語とサンプルゲーム、マニュアル、簡単にゲームを作れる開発ソフトをいくつか作り上げる。
 開発ソフトを有料で、後はフリーで流すように指示を出して、梟に託して送る。
 十分に特許等でお金を絞り取りながらも、フリーの技術も流すのは技術発展の為の大切なコツだ。OSについても、私はフリーと有料版の二種類を用意していた。
 大半の人間はフリーソフトを使っているが、有料版を使う者も非常に多い。
 それは十分な売り上げをあげていた。
 梟での連絡によると、休み中に開発したゲームの改良版が次々と作られているらしい。
 そして、ホグワーツのテストと通信教育のテストを終わらせると、さすがの私も歓声をあげたくなった。
 向こうも順調に進んでいるらしい。一階部分が完成したので、テストプレイが出来ると言ってきた。ナーヴギアの量産も完了している。
 私はゴーサインを出し、テストプレイヤーの選定も始まっている。
 最終的に決めるのは私なのだけれど。
 そこでリリーが私達の所に来て、困った表情をして言う。

「あの、ペチュニアがまたナーヴギアを使わせて欲しいって言うんだけど……」

「うーん、あれ、一応最新技術なわけよ。無関係な人間がそうそう使っていいものじゃないんだけれど。ペチュニアだけ贔屓してテストプレイヤーに入れたら、示しがつかなくなるわ。ただでさえ、コネを利用しようとか地位を利用しようって人が大勢申込してるんだから」

「そう、よね……でも、何とかできない?」

「まず、正式に応募してみてくれない?」

「それはしているみたいだわ」

「じゃあ、考慮に入れては見るけど。マグルの世界であんまり私と親しい様子を見せると、誘拐されるわよ。私が銃撃されたの、見たでしょ?」

「ちょっと待て。僕は良いのか?」

「スネイプはモデル兼社員って大義名分があるし、魔法使いだから、そうそうマグルに負けないでしょ。お望みなら護衛をつけるけど」

「そ、それもそうか……? え、ちょっと待ってくれ」

 リリーはショックを受けたようだった。

「ペチュニアに相談してみるわ」

 その話はそこで終わった。けれども、家に帰る時、コンパートメントでリリーは困った様子で話を切り出した。

「ペチュニアが雇って欲しいと言っているのだけど」

「プログラミングは出来るの? スネイプが俳優を押しのけてモデルに選ばれたのにはそれなりの理由があるってわかってるわよね」

 リリーはため息をついた。

「そうよね、でもペチュニア、どうしてもナーヴギアが欲しいって聞かなくて……」

「じゃあ、こうしましょう。ファンタジック2、開発コードフェアリィ・ダンスのテストプレイヤーに選んであげる。あれは魔法が使える設定だから。ただし、テストプレイヤーに選ぶのはそれきり。誰かにその事を喋ったり、私が友人だと話したらそれも無し。良いわね?」

「ええ、それでいいわ。ありがとう」

「そう言えば、あれだけ手伝ったんだから報酬は出るんだろう?」

 スネイプの言葉に私は頷いた。

「ええ、貴方の覚えがあまりに良いんで驚いてるわ。迎えがスネイプの報酬も持ってくるから、帰りに買い物していかない?」

「いいな。十分なだけの魔法薬の材料を買える額があればいいんだが……」

「貴方、服を買いなさいよ、服を。マグルの世界に滞在するのよ?」

「クリスマスにいっぱい貰ったから問題ない。何故か判らないが、クリスマスのプレゼントはほとんどが服と櫛だったんだ」

「ならいいけど……」

 私はため息をつき、窓の外を見つめた。



[21471] 六話 1年生、夏休み ファンタジック1、開始
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:02
 スネイプは、嬉しい気持ちを一所懸命に隠そうとして頬をぴくぴくさせながら報酬を受け取った。

「私だって、モデルくらいできるわ、私を雇ってよ!」

「幸運はそうあちこちに転がっているわけじゃないわ。貴方ならわかるでしょう? まあ、大人顔負けのプログラミングが出来るようになったら誘ってあげてもいいわ。欲しい物はこんな不確かなコネでなく、実力で奪い取りなさい」

 ペチュニアは顔を真っ赤にして怒った。

「何よ、機械の女王だか何だか知らないけど、偉そうに。貴方には人間の血が流れていないって書いてあったわ!」

 私は冷たい声を出して言った。

「喧嘩を売る相手は選んだほうがいいわ。私は貴方の周りの人間みたいに、貴方をお姫様扱いしないの。謝りなさい」

 ペチュニアはぐっと黙って、何かを言いたそうに、凄く言いたそうにしながらもなんとか黙ってか細い声でごめんなさいと言った。

「偉いわ。さ、行きましょ、スネイプ」

 スネイプはリリーの方を名残惜しく見て、私と一緒に駅を出た。リリーがペチュニアを宥めているのが見えた。外に出ると、男がスネイプの持っている袋を取り上げようとして、SPに制止された。
 
「セブルス、前払いの報酬をもらったんだろう。子供がそんな大金を持つものじゃない。寄こすんだ」

「渡して、スネイプ」

 私は静かにいい、スネイプはとても悔しそうな顔でお金を渡した。
 スネイプの父親が去っていくと、私は謝った。

「隠して渡すべきだったわ。ごめんなさい」

「ミアは悪くない」

「ま、前受け金だと思ってくれたのは重畳ね。魔法薬だっけ? 奢るわよ」

「同情はごめんだ」

「貴方はディスティニーブレイカ―のパートナーなのよ? 魔法薬は共通の財産でしょ」

「ディスティニーブレイカ―ってなんだ?」

「私と、リリーと、スネイプと、ダモクレスで作る会社の名前。変かしら? ま、正式名称は後で考えるから良いわ」

「リリーと、会社か……。承諾してくれるかな?」

「四人で主だった薬を共同開発しちゃえばもう後戻りできないわよ。二つ仕事を持ってもいいんだし」

 スネイプは頷き、足取り軽くダイアゴン横町へと向かった。
 私は魔法薬を片っ端から買いあさり、スネイプをびっくりさせた。

「これくらいあれば足りるかしら?」

「えーと……これも欲しい。あとこれも」

 スネイプめ、ユニコーンの角の粉末を望むとはやりおるな。まあ、それくらいでないと面白くない。

 私達は買った物を車に詰め込み、研究所へ戻った。

「ミア女史! フリーソフトの広がり具合がもの凄いですよ!」

「各国の会社、大学、軍から筐体のソフト開発の申し入れ、来ました! その数九十七です!」

「開発ソフト、企業個人の区別なく売れています!」

「プログラミング言語とマニュアル、大学や軍を中心に広まっています。マニュアルを冊子にしたものが売れています」

「第二開発チームに挨拶をして頂きたいのですが……」

「OK、挨拶は三十分後に行くから、書かせた企画書のプレゼンテーションの準備をさせて。後、ゲーム用のプログラミング言語や筐体を軍事に使うの? どこよ、その国? 首相に怒られちゃうわ」

 あげられたいくつかの国名の中に、わが国も入っていた。
 私は頭を押さえる。そっか、幅を与える為に簡単なゲームからかなり複雑なゲームまで作れるようにしたから。オンライン機能やキーボードの接続端子も入れたしね。

「時々、技術情報を緩めるさじ加減を間違っちゃうわ……。あれはやっつけで作った言語だしフリーだから、動作保証はしないと連絡しておいて。それと、私の留守の間の資料を持ってきて。完成したナーヴギアの準備は言われた通りにしてあるわね? 挨拶が終わったら研究室に入ってナーヴギアに最後の仕上げをするから、誰も中に入らないで」

「ナーヴギアの開発、一手に任せる気はどうしてもないんですか? 数が膨大になりますよ」

「それでも、人に任せるわけにはいかないのよ」

 私は資料にざっと目を通すと、急いで第二開発チームの所に向かった。

「ミア女史! お会いできて光栄です」

「うわ、本当にちっちゃい。よろしくな、お嬢ちゃん」

「私に対する言葉づかいは改めなさい。少なくとも貴方よりキャリアがあるのよ。さ、企画書のプレゼンテーションを始めて」

 プレゼンテーションと指示出しが終わり、ゲームの開発がスタートした。
 プレイヤー達をゲームに慣れさせて、最低でもMMOを楽しんでプレイできる程になってもらわないと話にならない。もっと早く思いついていれば、テストプレイに間に合ったかもしれないのにとため息をつく。
 スネイプは台詞の録音等のデータ取りに入った。テレサや他のNPC要員の俳優、格闘家達も来ていて、演技に色々とアドバイスをしている。
 私は研究室に入り、まずナーヴギアを被って時間の加速をして、テストプレイヤーの最終的な選定をした。
 危険があるかもしれないと予め言ってあるのに、要人の名簿が目白押しだ。そこから慎重に外しては行けない人を選んでいく。すると、すぐに枠が埋まってしまった。
 当然、普通の人も入れた方がいいのだが、悪ければ力づくで取られる、と言う事もありうる。
 大量生産が済んでいるとはいえ、ナーヴギアの数は未だ少ない。
 思い切ってリストに要人のみ残すと、私はナーヴギアを注意深くチェックし、一つ一つに動作チェックプログラムと即殺防止プログラムを流し、全てのナーウギアの隠しスイッチをオンにしてオフにした。
 食事を運んでもらい、二日ほどかけて全ての作業を終わらせると、テストプレイヤー達の元に郵送する。分解、複製をすると命が危険です、ナーヴギアは頭にアクセスする危険な装置です、ナーヴギアで起こるいかなる問題にも対処しませんとの注意書きをしっかりとナーヴギアにプリントアウトして。
 郵送が終わると、ナーヴギアを被り、第三世界に入る。
 そこでは、真剣な面持ちで最終チェックが行われていた。

「あ、ミア女史。良かった。ナーヴギアはもう良いんですね? 100階考えるのは、やはり私達だけでは大変ですよ。応募を掛けてみたらいかがです?」

「それは良い考えね。早速実行して」

「ミア女史、運動施設を作るようにスポンサーに言って下さいよ。毎日寝てばかりなので、体調に問題が出ています」

「わかったわ。申請しておく。後、一日一時間は運動の時間を入れる規則を作るわ」

「えー……また面倒な」

 そして私は、ざっと研究員達の作ったものを確認して手直しをしていく。
 しばらくすると、交代を示すベルが鳴り、私以外はナーヴギアをオフにした。
 彼らが第二開発研究チームに渡すと、私は第二開発チームの研究を加速時間で一日付き合ってからナーヴギアを外した。
 そしてスティーブが用意した食事を食べ、眠る。
 テストプレイスタートまで、後五日。
 随分と性急だが、私がこちらにいる間となるので急がなくてはならない。
 最後の一日は会場の設営とストーリーの打ち合わせだ。大きな大きな液晶テレビで、アナウンサーがゲーム内を実況中継する。その横で、俳優が人造人間を演じ、キャラ作成では私、それ以降はスネイプが案内する。それを、公式な初期ストーリーとする事となった。その為、初めの一時間は等倍速で、という決まりだった。
 最後、スネイプは必死になってとっくに暗記した台本を読んでいた。
 そして、当日。
 予想通り、ファンタジックには全員同時にダイヴ・インをした。
 そして、オープニングが始まる。特設会場には、リリーとペチュニアも来ていた。
 GMシステムによる監視カメラからの映像によると、二人とも見入っているようだ。

「ようやく起動できる時が来たわね。あら? どうしたの? 外に出る方法が分からないのね」

 その私の一言で、ステータス画面が広がった。

「貴方の成長したいように祈るのよ。それで体の仕上げは完了するわ。腕力、素早さ、堅さ……貴方なら、どう育ちたい?」

「力が強い戦士になりたい」

「なら、そこの力の所を5回押しなさい。変えたい時は力の右のボタン。全部で5のパラメーターを起動出来るわ。体格を変える方法は……」

 私は10分かけて説明する。操作方法が分からなくてまごついている他のプレイヤーには、俳優達が死んだ妖精たちの導きと言う設定で教えに言った。その間に、早い者はキャラ設定を終え、アインクラッドに降り立っていた。当然、それもモニターしてる。

「おお、目覚めたか、木偶人形ども。おい待て、丸腰で行くつもりか? 今、装備を渡してやる。……かっ勘違いするな。お前達の為では断じてない!」

「なんでもいいからさっさと渡してくれよ、スニベルス」

 一切の手が加えられていない、ハンサムなその顔を見て、スネイプの表情が固まった。
 私はスネイプへの直通回線を開いて鋭く言う。

「演技!」

「で、木偶人形の癖に生意気な。さあ、これだ。早速装備をするんだ。まず、ステータス画面と告げてみろ」

 スネイプは今にも掴みかかろうとするのを必死で押さえていた。
 どうやら、波乱のオープニングとなりそうだ。



[21471] 七話 1年生、夏休み2 チュートリアル
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:03
「ステータス画面を開いたら、アイテム欄の装備の所をクリック、選択するのだ」

「お、これか」

「セブルスくん、アイテム欄とはどこの事だね?」

 後ろからルシウスに話しかけられて、スネイプはびくっと跳ねた。
 その後、どうにか説明をする。

『シリウスとルシウス先輩がなんでここにいるんだ!』

『知らないわよ、大方要人から権力と魔法を駆使して分捕ったんでしょ。純血だからマグルには縁がないと思ったんだけど……セブルス・スネイプ。このゲームにはお金と時間が掛かっているの。貴方の個人的感情で台無しにしていいものではないわ。契約に基づいて働いている以上、貴方はプロよ』

『だから、こうやってきちんとやっているじゃないか! うう、五ヶ月もこいつらと一緒なのか……。ルシウス先輩はまだマシだが……。悪夢だ……』

「皆、降りてきたな? 良かろう、まず町を案内しよう。僕についてくるが良い、木偶人形ども!」

 ぶっちゃけ、子供はシリウスとルシウス、そして案内を終えて自分のキャラに入って降り立った私だけだった。スネイプは大きなお友達達に若干気圧される。
 また、私は様々な賛辞を受けながら、愚かなNPCの如く、何も知らない振りをした。
 アナウンサーが、プレイヤー達に次々とインタビューをしていく。
 スネイプに先導されて、一行は町へ行く。
 ツンデレドジっ子属性の設定のスネイプは、道化の如く道々で転びかけたりして、失敗せねばならない。
 シリウスはそれを見て笑う。私は手を貸した。

「か、感謝なんかしてないんだからな! ああ、そこだ。そこの店が武器屋だ。今の武器が気にいらない者は、買い換えると良い。このほかにも道具屋や研究室をめぐるが、初期資金はそう多くない。よく考えてくれ」

 そしてスネイプは、一つ一つ武器の説明をする。
 シリウスは剣を売り、買える中で一番良い剣を買った。
 ルシウスは、スネイプに何に使うのが一番良いか問う。

「それはプレイスタイルとステータスによる。そうだな、ルシウスさんは狩りが好きか?なら、投擲用ピックやこれから行く店で調味用具を買うといい。狩りシステムも楽しめるから。ごく短期間で魔物狩りのみを遊びたいなら、あるいはクリアを目指すなら、シリウスのように一番良い剣を買うのも手だ。ファンタジック1はソードアートオンラインの別名通り、武器は剣しか存在しない。他にも、鍛冶屋、音楽家、コック、商店など出来る事は多岐にわたっている」

「なるほど……では、投擲用ピックを一つ」

「私は剣にしよう」

「鍛冶道具を後で買おう」

「皆、必要な物は買ったな? 次は防具屋だ」

 杖がないとはいえシリウスが悪戯をしかけてこない事に若干安心したスネイプは、それでも緊張しながら店を見て回った。
 そして、ついに町の外に出る。

「ここをまっすぐ行って、森に行って兎を狩り、調理して食べよう。それで僕の案内は終わりだ。その他の事は、自分で見つけ出してくれ。町で聞き込みをすれば、大体の情報は集まるように出来ている。特別に今回だけ、僕も一緒に行く」

 そこで、皆の頭の中にミッションが流れ、皆が頭を押さえた。

『狩りに出たヒースクリフを守れ! (ヒースクリフが破れた場合、ゲームオーバーとなり、全てのデータが白紙に戻ります)』

「ええ? なんで俺がスニベルスを守らなきゃならないんだよ」

 勤めて気にしないようにしながら、スネイプは外へ出た。
 魔物が襲ってきて、シリウスは思わず呪文を唱える。

「何をしているんだ? 魔法が使えるのは妖精族の僕だけだ、木偶人形」

 ようやく訪れた反撃の時に、スネイプはにやにやと笑った。
 むっとしたシリウスが剣の腹で小突くと、スネイプの周囲に透明な壁が出てスネイプを守る。

「木偶人形は、目覚めさせた主である僕と同胞を攻撃できない。あるアイテムを手に入れない限り。それはこれからの冒険で見つけてくれ」

「魔物が来たぞ!」

 ルシウスが叫ぶ。
 スネイプが呪文を唱えて攻撃すると、魔物のHPバーが三分の一ほどに減った。
明らかに堅気ではないと思われるごついプレイヤーが、手慣れ過ぎた様子で剣を振るうと、魔物はポリゴンとなって飛散した。

「よくやった! クリティカルだ! 素晴らしい!! さあ、次が来るぞ!」

「ふん、なんだ弱いじゃないか」

 シリウスが、ルシウスが、他のプレイヤーが魔物へと向かう。
 
「皆、へったねぇ。私達の体には、魔物を倒す技が組み込まれているの。初動をこうやって動くと……」

 私が大きな声で言って、剣を振る。システムが作動。
 片手用曲刀基本形、リーバーが作動し、効果音と共に一撃で魔物を倒す。
 ぱちぱちと拍手がなされる。

「いくら上手い剣技でも、登録された技には負けるわ。モーションの確認方法と技の登録方法は……」

 説明している間に、スネイプが一撃食らった。
 HPがぐっと減って半分になり、皆が驚愕した。

「スニベルス、よわっ」

「セブルスくん、君は下がっていたまえ」

「難度が高すぎやしないかね?」

その後、スネイプを鉄壁の陣で守りながら、なんとか森につき、ルシウス達の活躍で兎やその他の材料を得た。
それを利用し、皆で食事を取る。
途中、レアな兎を手に入れて大いに私とスネイプが称えたのでルシウスは機嫌を良くした。

「それほど美味い物ではないな。レアだとかいう兎肉がなんとか食べられる程度か」

 シリウスは無言で炙った肉を貪っている。
 狩りには大分時間が掛かっているから、空腹を刺激しているはずだ。
そして、持ちよった材料でスネイプがポーションを作って見せた。

「ポーションを作れるのは妖精族の僕だけだ。他は皆死んでしまったからな……。材料を研究室に預ければしばらく後にアイテムが出来あがる。ボスを倒した後、次の階への扉を開けるのも僕だ。もちろん、僕が死ねばゲームオーバーだから、しっかり守ってくれ。それと、僕は普段NPCだから、受け答えは期待するな」

「難しいゲームだな」

 そうよ? クリアできる物ならしてみなさい。私は微笑んだ。




[21471] 八話 1年生、夏休み3 ロマンスは政略と共に
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:04
 一通り遊んで満足すると、シリウスは帰って行った。シリウスと入れ替わりに、ジェームズがログインしてくる。
 要人達はスネイプを物凄い勢いでからかうジェームズに微笑ましい笑みを向けながら、政治の事など話しながら散らばって、それぞれ好き勝手な事をやり始めた。私も次の村へ行って、ひたすら魔物を狩る。私は自力で二刀流スキルを得てみせる。
 
「いや、素晴らしい。ミア女史は運動神経もあると見える。いや、ここでは人造人間ミアでしたか」

「お褒めに預かり光栄ですわ。それにしても、もう次の村に辿りついているとは思いませんでしたわ」

「実は皆で地図を書こうという事になりましてね。我がアメリカチームが一階のボスを倒して見せますよ」

「まあ、素敵。期間中に一階のボスを倒せたら、私の権限で商品を差し上げますわ」

「それは凄いな!」

「何が良いかしら?」

 すると、アメリカの将校は私の腰に手を回し、私の手を取って言った。

「貴方が欲しい。機械の女王よ」

 ゲーム越しにも伝わる真剣な瞳。

「クリスマスには殺そうとして、今日は求婚? 節操がないのね」

「貴方にはそれほどの価値がある」

「知っているわ。でもごめんなさい。私の興味はゲームだけなの」

「アメリカは貴方の為に最高の環境を用意できる」

「でしょうね。でも、価値のわかる全ての国が私にそれを差し出すわ。イギリスはその一つで、私が生まれた場所がそこだった。それだけよ。ねぇ、私は遊びにここに来ているの。無粋な話はやめにしない? ここは子供の夢の国」

「だが、そこに押し掛けるのは大人達だ。そして夢は利権で踏み荒らされる。私達がここにいるように。ミア女史、貴方はわかっておられない。100年後、人々はこの世界で暮らすようになるかもしれない。戦争もこの国で行われるかもしれない。これだけではない、貴方の残した業績はその多くが世界を塗り替える力を持っている」

「私がノーベルであり、オッペンハイマーであり、ある意味それ以上である事は理解しているわ。虹色に輝く薔薇は、人の欲望を、命を養分として美しく輝かしく咲くでしょう。私はそれが見たいのよ」

「貴方の目を楽しませる為だけに、全てを犠牲にしよう、と?」

 私は微笑んだ。

「その通りよ。素敵でしょう? 私は止まらないわ。殺されようとね。話はそれだけ? なら、行くわ」

「待って下さい。難しい話はこれで終わりにしましょう。ますます貴方に惹かれました。迷宮を一緒に歩きたい」

「喜んで」

 私と将校が連れ立って歩くと、スネイプがアクセスして来た。

『ミア』

『何かしら、スネイプ?』

『アナウンサーが盗み聞きしてる。全部撮られている』

『あら。失礼な人ね。スネイプも聞いていた?』

『ああ、まあ』

『そう。笑っちゃうでしょう、彼。可愛いわね。後100年で人々がこの世界に暮らすようになるかもしれないとか、戦争はここでとか』

『ああ、凄い妄想……』

『彼、本気でその程度で済むと思っているのよ?』

『……ミア?』

 かすれている、訝しげな、縋るような、確かめるような声だった。

『スネイプ、いつか貴方に素敵な者を見せてあげる。死食い人になりたがっている貴方なら、きっと気にいるわ』

 私は足取り軽く、見張られていると知っていて将校の手に手を絡めた。
 スネイプは悲鳴を上げてくれるだろうか。信じられないと言った顔で、私を見てくれるだろうか。その時がとても楽しみだ。




 翌日、ナーヴギアのテストプレイの記事が二面に乗った。一面は、機械の女王、アメリカの将校と禁断のロマンスだった。腰に手をまわされている写真や、絡められた手がズームアップされている写真が載っる新聞を私はテーブルの上に投げた。
 そして私の言葉は格言となっていた。
 スティーブは何故か酷く動揺していた。

「あんな年上のペド野郎と付き合うんですか、ミア女史!?」

「デートくらいはしてもいいかもね。どうせゲーム内だし」

「駄目です、駄目ですよ、ミア女史! まだ11歳じゃないですか!」

「恋に溺れるほどお子様じゃないわよ」
 
「僕はどっぷり溺れてるんです!」

 私はきょとんとして、ついで笑った。

「貴方、11歳の女の子とデートしたいの? エッチも出来ないわよ?」

「ミア女史は、特別です。こう、咲き誇る悪の華みたいな、棘だらけで触れない所が良いんです」

「変な人」

 結局私は、将校ともスティーブともデートした。ゲームの中で。
 結局、シリウス達は交代で訪れ、ルシウスも毎日のように訪れた。元の持ち主とスネイプ、可哀想に……。マグルの世界では地位が高くとも、魔法使いの世界では地位が低かったのが運の尽きだ。そして、私も魔法省に色々手を借りているのが痛い所。結局、アーサー・ウィーズリーと現魔法大臣のジャックスも現れた。一日だけ視察に出る予定で、ずっと入り浸っている。ナーヴギアは数が限られているので、非常に迷惑だ。
 商品なのだが、ボスを倒したチーム全員に賞金と特製グッズ、ファンタジック2の招待券、ゲーム機とソフト、私の講義開催券にした。
 参加者達の目の色が変わった。
 夢の国は組織的に解析され、同じアカウントごとにデザインや音楽はその専門家が、戦闘は兵士と言った具合に中の人が変わった。恥ずかしながら、同じアカウントを他者と共有するなんて思いつかなかった。体格が違うから、操作に違和感が出るし。
 そして、ついに迷宮を突破し、アメリカの偵察チームがボスの間を発見し……全滅した。

「巨大な蜘蛛が、巨大な蜘蛛がっ……」

「そんなに強いのかね? PTSDが残るほど? 子供のゲームの、100階あるうちの一階のボスが?」

 将校に聞かれ、私は答えた。

「軍人が混ざっていますもの、多少は補正を加えておりますわ」

「多少ってレベルじゃねーぞアレ! 俺も死んじまったじゃねーか! スニベルスの癖に笑うな!」

 シリウスが文句を言う。

「見てたわ。まあ、即殺されなかっただけ大したものよ」

「ふむ……討伐チームは何人でもいいのかね」

 将校の言葉に、私は答えた。

「討伐チームの定義は、ボスの間の中にいる人間すべてよ」

「ふぅむ。他国のチームと協議してみるか」

 その後、ゲーム内で国連軍結成が行われた。
 その将軍の座を巡って話がもめにもめ、シリウスの提案により決闘騒ぎが起き、元から剣道を修めていた日本代表が勝利したが本人を含めて全員がその勝利をスル―し、結局政治的取引によりアメリカが指揮を取る事になった。
 厳密に時間を決めての討伐。
 前の世界とは大分違うけど、これはこれで楽しめそうだわ。
 私はクスリと笑ってナーヴギアを外し、眠りについた。
 明日は、討伐である。



[21471] 九話 1年生、夏休み4 ボス討伐
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:04
 

 朝、朝食を食べていると、なんとシリウスから懇願の手紙が来た。
 討伐の日だけ、ナーヴギアを後三つ貸してほしいというのがそれだった。
 まあ、あれからナーヴギアがいくつか量産されてきたから、可能と言えば可能だけど。
 彼らを招待するなら、姿を透明にしてリリーとペチュニアに見学させてやるのもいいかもしれない。それなら、誰にも内緒で済む。
 私は一つ借りよと念を押して、急いで梟に届けさせた。
 ルシウスにも人質にされる心配はないからと物凄い勢いで懇願されて、一つナーヴギアを融通させられている。
 ペチュニアと違う所は、彼らは対価を支払える所だ。
 シリウスとルシウス。この二人に借りを作っておく事は私にとって悪い事ではなかった。

「全く、ジェームズ達に貸すなどと……。今でさえ物凄く大変なのに……」

「それでも、ジェームズ達をしっかりとアドバイスする貴方はとても偉いと思うわ。さすがプロよ。大人顔負けね」
 
 私が褒めると、スネイプは頬をぴくぴくさせながら当然だと胸を張った。
 毎日送られるファンレターと、公式サイトで更新される本日のヒースクリフ、ファンタジック1のファンのイラストや小説、ゲームを公開する投稿掲示板、自分のグッズ、高い報酬、母親からの手紙……驚くべき事に、スネイプの事を父親が自慢していたと書いてあった……そういったものが、スネイプに自信とジェームズ達の苛めに耐える忍耐を与えていた。
 私はもっと多くの事……スネイプxテレサやスネイプxミネアのファンサイトとか、スネイプの人造人間ハーレムものとか、スネイプ女体化のファンサイトとか、スネイプ受けのやおいとか……もちろん、私はブームを煽るよう細工した……を知っているが、それは有名税と言うものだろう。私だって将校x私とか、私x将校とか、相手がスネイプやテレサや他の人、ファンタジック1に存在していないはずの触手の魔物とか……私は平等に、こちらのブームも煽った……好き勝手書かれている。
 日本でコミケが出来るまで後四年だが、それに先駆けてイギリスと日本支社でファンタジック1のオンリーイベントの開催も企画されていた。
 もちろん、杖を取り上げたうえでスネイプも連れて行くつもりだ。びっくりしてくれると私も嬉しい。
 サクラとして様々な、本当に様々な本を漫画家、小説家に書かせて準備もしてあるし、それとは別に企業ブース用意して様々なグッズ、サウンドトラック、公式漫画の商品も用意している。
 ファンタジック1のテストプレイが終了したら、アニメや映画にも手を伸ばす事になっている。
 ゲームを広める意味もあるが、やはりこういう副次的な楽しみもいい物だ。
 朝食を終えて、軽く朝の運動をしてシャワーを浴びると、ナーヴギアを被る。
時間は大分早いが、準備があるのだ。
 私はログインすると、早速、溜めておいた回復アイテムの材料と、スネイプのご飯をスネイプの所に持って行く。
 私の手にある果物を見て、スネイプは顔を輝かせた。

「魔力の実か! それは美味しいから好きだ。当たると良いんだが」

 スネイプは腰のバックから、一定時間ごとに一つ、ランダムで食事を取り出して食べる。
 その食事を集めるのはプレイヤーの役目で、食料にはそれぞれ賞味期限が決まっている。
 その食事によってのみ、スネイプは強化される。
 ジェームズ達はスネイプの嫌がりそうな物、アーサー達は変わった物、ルシウスは怪しげなもの、他のプレイヤー達は堅くて食べにくい防御の実を中心として食べさせるから、スネイプにとっては私が持ってくる美味しい実が唯一の救いだった。
 回復アイテムの材料を渡すと、スネイプは回復薬を作り、私に渡す。
 ちらほらとログインする者が現れ始め、やがてスネイプの前には列が出来た。
 私はそれを横目に、モンスターを倒して時間を潰す。
 私は開発者としての、未来のラスボスとしての矜持にかけて、スターレイン……片手剣七連撃を習得していた。
 拍手がして振り返ると、アメリカの将校がそこにいた。

「ミア女史、そろそろ出発の時間です。食事を一緒にしませんか?」

「ええ、そうね」
 
レストラン街に行くと、どこもかしこもいっぱいだった。
 私は、将校を連れて、路地裏へと連れて行く。
 すると、そこには一見普通の家にしか見えない小さな店があった。

「お。そうか、ミアも開発者だから知ってるか。やれやれ、スニベルスもルシウスにここの事を教えちゃうし、僕達だけの隠れ家かと思ってたのになぁ」

 ジェームズが残念そうに言う。ルシウスは二人で食事に来ていた。

「デートかい、ミアくん」

 ルシウスの揶揄する声に私は頷く。

「マジで? だって相手は大人じゃないか!」

「まあね」

「……貴様がスリザリン始まって以来の欲望を持つ女か。俺様と一緒に食事をする事を許す」

 おやおや、私の世界で随分と偉そうね?

「皆、無欲よね? ちょうど良いわ、私も貴方には聞きたい事があったの」

 私は将校と共に、ルシウスと男に同席した。
 そして、隠しメニューの暴れ牛ステーキを二つ頼む。

「そんなものがあったのか!? 開発者ってずるいよなぁ」

 シリウスが声をあげるが、私は涼しい顔で食事を始めた。

「俺様に聞きたい事だと? 良かろう、質問するのを許してやる」

「ありがとう。……どうして、貴方はマグルを排斥しようとするの? 貴方も半分はマグルじゃない。マグルが穢れた血なら、混血の貴方も穢れた血の持ち主よ。それは貴方がどう足掻こうと、動かしようがない事実だわ。トム・リドル」

 トムはガタリと立ち上がり、凄まじい目で私を見た。そして、そんな反応をする事を恥じたように席に座り、にこやかな笑みの仮面を被った。ルシウスは、蒼白な顔で私を見ている。

「女……どこまで知っている」

「私にはミアと言う名前があるわ。トム・リドル」

「俺様にも、ヴォルデモートと言う名前がある」

 シリウス達は次々と蒼白な顔をして立ち上がった。
 ピーターは丸くなって縮む。

「そう。でもその名前は長いわね。ヴォルと呼んでいいかしら?」

「そんな事を言うのはお前が初めてだ。命が惜しくないのか?」

「惜しいわ。でも、だからって這いつくばるのは嫌。何より、ここは私の世界なのよ、ヴォル。貴方を捕まえるか逃がすか。選択肢を持っているのは私。ログアウト出来ないでしょう?」

「ミア、この方は一体……」

「マフィアの首領よ、マイケル」

 ヴォルは、ぴくりと表情を動かす。

「笑わせる。ナーヴギアを外させれば済む事……」

『その前に、貴方の脳を沸騰させる事だって出来るのよ。いくら不死の貴方でも、苦しい思いをするのは嫌でしょう? 代わりの体を手に入れるまで、どれくらいかかるかしら?』

「それはそうね。だからあえて貴方を逃がしてあげる、ヴォル。一つ貸しよ?」

「やってみるが良い。俺様も、這いつくばる方がごめんだ」

「あら、私達気が合うのね。仲良くやっていけそうで良かったわ」

 ヴォルの獰猛な笑みと、私の穏やかな笑みがぶつかった。

「ミア、ミア。レディはマフィアに喧嘩を売るものではないよ」

 将校は心配して声を掛ける。
 
「そうそう、マグルについてもう一つ。私達は、純潔を保つにはあまりにも数が少なすぎるわ。近親婚を繰り返せば、特殊な病気にかかる事が多くなる。血が濃すぎるのは、悪い結果をもたらすのよ。貴方が優秀なのだって、恐らくマグルという新鮮な血と出会ったのが良い結果を生んだんだわ。そりゃ、血が薄くなりすぎるのは良くないけど。私達の種族を維持するには、マグルの存在が不可欠なのよ。賢い貴方ならわかるはずよ。絶対に認めはしないでしょうけど」
 
「ああ、俺様は認めはしない。穢れた血など。マグルなど!」

『ミア……! 大丈夫なのか!?』

 スネイプが異常を察して、会話のログを読んだのだろう。狼狽して声を掛けてきた。

『そうね。閉心術と闇の魔術の防衛術の研究を急がないとね。スネイプ、手伝ってくれない?』

『そんな、呑気な……!』

「そう。半分穢れていて子供相手に激昂して私に大きな貸しのあるヴォル? 一つお願いがあるの」

 それを聞いて、ヴォルは余裕を取り戻した。

「ふん、マグルに手を出すなとでも言うつもりか?」

「まさか。火の粉が自分に振りかかるなら容赦はしないけど、そうでないならどれほど死のうと興味ないわ」

「……正しく第二の俺様だな。今殺しておいた方がいいのかもしれん」

 苦々しくヴォルデモートが言う。

「馬鹿言わないで。私は私。他の何者でもないわ。そんなことより、このゲームを楽しんでいってくれない? ファンタジック1はそれなりに楽しい世界でしょう? 魔法使いにとっても。ファンタジック2では魔法を実装するのよ? 楽しみにしていて。自ら虎の口に入る勇気があるならば」

「……最初に喧嘩を売ったのはお前だろうに。まあいい。俺様は寛大だ。楽しんでやろう」

「ありがとう、ヴォル。さ、そろそろ出立の時間よ。一緒に行きましょう」

「……君はやはり子供だ。マフィアの怖さを知らない」

 マイケルが、私に言い含めた。

「ええ。確かにそうね。でも、貴方だって私の怖さを知らないわ」

 私はそれにニコリと答える。
 もちろん、ただヴォルを逃がすつもりはない。ささやかな贈り物をするつもりだ。
 彼の脳内に。
 私達は連れだって集合場所へと向かった。スネイプが心配して来ていた。

「あの……帝王様。ミアは、ミアはまだ子供です。無鉄砲な」

 スネイプは震えながらも、意を決したように言う。

「やめて、スネイプ。私達はただ単純にこのゲームを楽しむと決めたばかりなの」

「そういう事だ」

 そうして、一団は出発した。
 所詮は一階だ。効率よく魔物を排除し、私達は進軍した。
 途中で村によって食事を取りながら、私達はついに迷宮についた。
 迷宮前で30分ほど休憩をし、迷宮の中に入る。
 私はプレイヤー達が三連撃、四連撃の剣を振るうのを見て内心舌を巻いていた。
 ざっとレベルを見ると、皆二十レベルを超えていた。効率的に、且つやりこまねばここまで出来ない。
 事実、シリウス達は十レベルほど、ヴォルは五レベルだ。効率的なやり方は知っていても睡眠を取っていた私だって一五レベルでしかない。
 これでは、楽勝だろう。斥候が全滅したと言っていたが、素早さに極振りしていたし……。
 ボスの扉の前につき、斥候プレイヤーが扉を開ける。
 見上げるほどの大蜘蛛が、こちらをじっと見つめていた。
 斥候がパタンと大扉を閉めてしまったとしても、誰もそれを責める事は出来ないだろう。

『ちょっと、どういう事? あの大蜘蛛は高い階で使う予定だったのだけど?』

『あ、ミア女史! 見て下さいましたか、あのボスを! いや、舐められちゃいけないと思いまして。大丈夫、計算上十五レベル突破で勝てるよう弱体化させています。ミア女史の雄姿、見せて下さい!』

私はため息をついた。

「ごめんなさい。高位ボスをここに持ってきてしまったみたい。十五レベルで勝てるように設定してあるそうよ」

「なら、私達にも勝てるはずだ。行け、行くんだ! GO、GO、GO!」

扉を開けて、一気になだれ込んで展開する。
蜘蛛が突進し、その足でプレイヤーを貫き、振りまわした!

「ぎゃあああああ!」

「落ち着きなさい! 暴れて足から外れて。HPの減りはゆっくりでしょう?」

 蜘蛛が身の毛もよだつ声をあげ、ザカザカザカと進んでくる。
 私は真正面から切りかかった。

「ミア! お前ら、開発者とはいえ一二歳の研究者に後れを取っていいのか! それでも兵士か!」

 将校が発破をかけ、各国の隊長らしきものが指揮を始めた。
 指示の元、いっせいに投げられるピックに、HPがグイッと減り、九割ほどになった。

「でやぁぁぁぁぁ!」

 背丈ほどの大剣を持ったプレイヤーが蜘蛛に思い切り切りかかる。
 カウンターで一撃を食らい、HPがぐっと減った。
 医療部隊がすぐさまそれを回復する。
 ここに至るまでヴォルを気にしていたシリウス達も、小柄な体を生かしてチクチクと蜘蛛達を攻撃しだした。恐怖に駆られたように見えるのは多分気のせいだ。
 ヴォルと私だけが、純粋に戦いを楽しんでいた。

「ミア女史、補給が尽きかけている。何か攻略法はありませんかな?」

「仕方ないわね。内緒よ? スイッチよ。攻撃モーションを終えた後、後ろの攻撃モーションに入った人と交代するの。これで隙が消せるわ」

「ならば私と共にスイッチを」

「喜んで」

 私と将校はゲーム中、長い時間を共にしてきた。相手のタイミングはわかっている。
 プレイヤー達もそれを聞き、ペアになって戦い始めた。
 長い時間が立ち、何人か脱落した後。
 蜘蛛を取り囲んだプレイヤー達の四連撃が炸裂し、蜘蛛はついにHPを空にした。
 凄まじい悲鳴に、プレイヤー達は思わず下がった。
 またしても、私とヴォルだけが心地よさそうな顔で聞いていた。
 そして、ヴォルは私の方を見て、笑った。
 遅れて喜びが広がり、皆で肩を叩きあう。
 しかし、本当の問題はこれからだ。スネイプ……いや、ヒースクリフの護衛をしくじると今までの一か月は全てパーになるのだから。



[21471] 十話 1年生、夏休み5 多忙なる1日~コミケとヴォルと~
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:06
 転移水晶を使って、クレイジータウンに戻る。スネイプは無事な皆の姿を見ると、転ばん限りに駆けよった。

「し、心配していたわけじゃないんだからな! 大丈夫か? PTSDを負っている者はいないか?」

 その時、シリウスがハッとして魔法大臣に駆け寄ろうとした。
 私はその頭に話しかける。

『私が言えた事じゃないけれど、無粋な真似はやめて下さらない? どうせ彼がヴォルだとわかっても、ゲームの中では何も出来ないわ。不快な思いをさせるだけよ』

 シリウスはぐっと唇を噛みしめる。

『そうね、もっと早くこうすべきだったわ』

 私はシリウス達からあの食堂での記憶を封印する。
 シリウス達は、途端に楽しそうな顔になった。

「見たか、俺達、あの蜘蛛をやっつけたんだ!」

「ああ、凄かったな」

「ぼ、僕も一撃だけ与えたよ」

「君は逃げ回ってばかりのように見えたけど」

 私はそれを微笑ましく見守って、青ざめた顔をするスネイプに歩み寄る。
 GMで、他よりも一段高い権限を持っているスネイプは、私のやった事に気づいているのだ。

「大丈夫よ、スネイプ。貴方は物わかりが良いもの」

 私はにこやかにスネイプに歩み寄った。何かを、庇うしぐさ。
 そこで私はようやく気付いた。リリーとペチュニアを、透明にして迎え入れる事を許可したのだった。その姿は、スネイプにしか見えないようにしてある。

『あら? どこまで見られたのかしら?』

『リリーは何も知らない。少し遅れて出発したから。本当だ』

 どこか懇願の響きが入った声。聞いた私が愚かだった。自分で調べればいい事だ。
 スネイプの言った事は真実だった。

『リリー、楽しかった?』

『ちょっと怖かったわ。蜘蛛よりも、楽しそうに戦う貴方が』

『すっごかった!』

 少し眉を顰めているであろう事が分かるリリーの声と、ペチュニアの弾む声。私は頷き、銀行へ自分のアイテムを取り出しに行った。
 少なくとも今は、ショックで使い物にならなくなった僅かな兵……主に殺された兵達……を置いて、私達は出発した。
 スネイプは堅くなったとはいえ、やっぱり迷宮レベルの敵は二撃でゲームオーバーになってしまうので、殺気だって守護する。
 スネイプは障害物のある所では律儀に転んだりしながら、ゆっくりゆっくり先へ進んだ。
 迷宮では、斥候と先発隊を送り、掃討してから進む。
 一番の問題は、人の侵入を感知するとその人数に応じて魔物がポップする大広間だ。
 やはり、そこは混戦になった。

「スニベルス! 早く行け!」

 シリウスが叫ぶ。

「敵ばかりでどこへ逃げろと言うんだ! っく」

 敵が剣を振りかぶってきて、ジェームズがそれを実を挺して庇う。

「ああもう、仕方ねーな!」

 シリウスはスネイプをお姫様抱っこし、スネイプは驚き、顔を赤らめた。
 よし。今のシーン撮った。
 シリウスは大人達の援護を受けながら広間を駆け抜ける。
 斥候が先の敵を排除し、目の前にボスの扉が……。
 ボスの扉を開けると、スネイプはシリウスから降ろしてもらい、鍵を掲げ、朗々と呪文を唱えた。
 スネイプの体が発光し、ボスの間に魔法陣が浮き上がる。
 皆が、美しいエフェクトに息をのんだ。
 そして、私達は二階の町の広場についた。
 
「ありがとう、リリー。僕はやり遂げたぞ!」

 スネイプはどこかで見ているであろうリリーに答える。すると、シリウスがスネイプの頭を叩いた。軽く壁に跳ね返される手。

「お前じゃなくて、俺達がやり遂げたんだろうが。俺に運ばれているだけだった癖に。大体お前、ドジ過ぎだ。その馬鹿でかい羽、バランス悪いんじゃねーの?」

「足を引っ張るのが僕の仕事だから、仕方ないだろう」

 演技を忘れてぽろっと言った一言に、ジェームズとシリウスはそろって蹴りを入れた。
 それはやっぱり壁に跳ね返された。

「二階のボスの扉は閉鎖されているわ。ボス戦は出来ないけど、観光しましょ。ようこそ、始まりの町へ」

 私達は大いに楽しみ、プレイ期間を終えた。
 私はこの時、迂闊にも気づいていなかった。全員分、一時間ずつ講義をしなくてはいけない事に。残りの夏休みは、全て講義と宿題に費やされる事になるのだった。
 アーサー達とシリウス達は、私とは何なのか、という講義で満足してくれた。
 それと、ヴォルはルシウスは合同で良いとの事で、夏休みが終わる前日に講義の予定を入れた。
 その間、第一開発チームはファンタジック1のアイデア応募と開発を続け、第二開発チームはなんとか間に合わせたゲームを本体と合わせて郵送し終わり、新しいゲームの開発に移行し、漫画家や作家達はイベント用の本を書きあげ、急ピッチでアニメと映画の予告編が作られ、スネイプは教科書のデータの打ち込みと勉強と宿題、夏休みがもう終わると言う所で、ようやくファンタジック1のイベントの日は来た。
 既に梟でシリウス達、リリーとペチュニアに日程を送ってある。
 私は含み笑いをしながら、スネイプをイベント会場に連れて行った。

「へぇー、色々やっているんだな、凄い……」

「あー、すみません、これ全部買いで。あ、年齢確認いるんだっけ? スティーブ、これ買って」

「ミ、ミア女史の意外な一面が……貴方にはいつも驚かされますが、こう斜め上な驚きは初めてですね」

 きょろきょろしていたスネイプは、私とスティーブの会話を聞いて寄って来た。

「ファンタジック1の漫画とかが売られているんだろう? 僕の出ている漫画……は……なんだこれはぁぁぁぁぁ!?」

「ぎゃあああああ! 待て、お前こんなものを売ってただで済むと思っているんだろうな!?」

 スネイプがシリスネを見て絶叫する。同じタイミングでも叫び声が聞こえた。

「あら、シリウス。良かったわね、これで貴方も有名人よ」

「どどど、どういう事だ、ミア!」

「ファンタジック1のテストプレイは全世界に公開され、漫画、映画などの題材にされる事があります。ご了承下さいって書いてあるでしょ? 私と貴方達以外のプレイヤーが皆外見と名前を変えていたのに気付かなかった? アーサー達でさえ、名前と姿を変えていたじゃない。まさか、安心なさいな、正式な公開の時は個人情報は保護されるから」

「今保護されなきゃ意味ねーよ!」

「うわ……凄い……」

 ワームテールが中身を見ようとして、取り上げられた。

「こんな仕事の内容聞いてない!」

「有名税よ、有名税。ほら、私のも」

「げっ」

「こ、これは酷い……」

「驚き恐れる顔が見れて良かったわ。それだけでもこのイベントを開いた価値はあるわね。ふふふ、これに懲りたら良く調べもせずに他人の契約を横取りしない事ね! あ、スネイプ。わかっていると思うけど、貴方はもう逃げらんないから」

 スネイプは崩れ落ちた。いつの間にやら、とんでもない深みにはまっている事はスネイプもとっくに気づいていただろう。でも、さすがにこれは予想していなかったようだ。
 私はスネイプやシリウス達の悲鳴を聞いて満足する。
 ある客がドン引きしている。でも買った。ある客が悲鳴をあげた。でも買った。ある客がけしからんと言った。でも買った。売れ行きは良いようだ。それを見て、私は笑む。

「んー。強い印象は与えられたわね。これでゲームに興味がない層もぐっと引き寄せられるわ。後は、時間加速が学習にも使える事をアピールして……誰も逃がさないわ」

「君、商売の為なら何でもやるんだね……」

「あら、ルーピン。だから私はお金持なのよ。ところでルーピン、貴方実験台にならない? 報酬は弾むわよ」

「ルーピン、ミアの奴何するかわからないぞ」

「えーと、えーと……」
 
 ルーピンが悩み始めると、三人が競って止めた。
 私は周囲を見回し、企業ブースでも商品が売れに売れているのを見て微笑んだ。
 イベントは大盛況で終わった。日本は更に盛況で、なんと全ての商品が完売した。
 
「あー、笑った。最高の誕生日ね。これで心おきなくヴォルの講義に行けるわ」
 
「え……!?」

「ヴォルって誰だ?」

 シリウスが不思議そうに聞く。スネイプは、顔色を蒼くして言った。

「帝王様の事だ……ミア、危ない。やめてくれ」

 その言葉に、シリウス達も驚く。

「心配しないで。マグルにはマグルの戦い方があるのよ」

 私は皆に微笑んで、イベント会場を後にした。
次の日の朝。新聞では、叩く者と擁護する者呆れる者が喧々諤々と紙面上で争っていた。
それを見て笑い転げてから、私は買い物へと向かう。
 午前中にダイアゴン横町で買い物を済ませ、SPと共に講義の場所へと向かった。
 スネイプも、我儘を言ってついてきたので、好きにさせた。
 講義の場所に行くと、ヴォルはまずSP達を宙に浮かばせ、吹き飛ばした。
 スネイプは跪き、私を許してくれるように請うた。私は涼しい顔で言う。
 
「あら、乱暴ね。講義の邪魔をさせるつもりはなかったのに」

「ミア。俺様は決めた。お前を死食い人に、俺様の右腕にしてやる。だが、その前に……どこまで俺の事を知っている?」

「何故貴方はマグルを憎むのか、教えてもらってないわ」

 私達はにこやかに睨みあった。

「少し、痛い目にあわせなければなら……!? 」

 ヴォルは、頭痛に呻く。
 見張りをさせられていたルシウスが、心配してヴォルデモートの元に駆け寄った。

「ねぇ、貴方、魔法使いなのに習わなかったの? 得体のしれない道具には決して手を出しちゃいけないって。それがどんなに魅力的に見えてもね」

「女、俺様に何をした!?」

「私の名はミアよ」

 ぴしゃりと言いきった私に、ヴォルは激しく歯ぎしりをした。
 格下にしてやられている屈辱感が、ヴォルから冷静さを奪っていた。
 私を殺そうとすればするほどに、スイッチによって条件づけられた苦痛がヴォルデモートを襲う。
 前世での度重なる実験の成果だ。

「お前は何者だ! 開心! レジリメンス!」

 この術にはスイッチが作動しない事に、私は舌打ちした。まあ、いい。この術は、恐らくその瞬間の心を読むだけの物。隠そうとするから秘密を暴かれるのだ。私の見せたいものを念じてみよう。

――楽しいでしょう?
 思い出すのは実験の風景。
――楽しいでしょう?
ナーヴギアを操作して、飛びきりの苦痛を、飛びきりの快楽を与えてやる。そうすると、素敵な声で叫ぶのだ。
――楽しいでしょう?
 逆に、全ての感覚を取り去った事もある。あれは楽しいものだった。
――楽しいでしょう? 
もちろん、私自身も試してみた事がある。あれは現実では出来ない経験だ。
――楽しいでしょう?
 さあ、ヴォル。貴方も私と同じムジナの穴なのでしょう? もう一度、私の世界に来なさいよ……。

 ヴォルは、物凄い勢いで飛び下がり、痛みを押して呪文を唱えた。
 ルシウスが、引っ張ってそれを外させる。
 ルシウスは顔を蒼褪めさせていった。

「あ、あの、帝王様。御無礼をお許しください。ミアはスリザリンです。役に立ちます。どうか殺すのは……」

 ヴォルは我に返り、乾いた笑い声をあげた。笑い声は、次第に、次第に大きくなってくる。狂ったような笑い声をあげ、ヴォルは宣言した。

「狂っている、お前は狂っているのだな! 良いだろう! 良いだろう、俺様は必ずお前を俺様の女にしてやろう! 17になるのを心待ちにするが良い」

「残念だけど、無理だと思うわ。私達二人とも、支配する側だもの。合わないわ。幸い、魔法使いの世界とマグルの世界で縄張りが交わる事はなさそうだけど。ま、二時間分の講義は今の読心術で充分よね。勉強になったでしょう? 貴方が何をされたか、これでわかったわね? じゃあ私、帰るから」

 私はSP達と跪いたままぽかんとしているスネイプを起こし、ヴォルに反撃しようとするのを止めて帰った。
 スネイプが、我に帰って私に叫ぶ。

「ミア、お前は無鉄砲すぎる!」

「知ってる? マグルも分霊箱を持っているのよ。準備は出来ているの。イベントの時確信したわ。私は必ず野望を達成できるって」

「分霊箱!? どういう事だ!」

 私は微笑んだ。

「魔法使いの分霊箱を作るのも面白いかもね。後で教えてよ、スネイプ」

「知らない! 僕は何も知らない。危険な術は全てだ!」

「そんな事を言わないでよ、スネイプ。……どのみち、死食い人になりたかったんでしょう? 似たようなものよ。それともスネイプ、ヴォルの方が好みなの?」

 スネイプは、言い淀んだ。

「僕が……僕が望んでいたのは……」

 スネイプが私の気にいらない答えを見つける前に、私はスネイプの手を引っ張った。
 明日から、学校が始まる。



[21471] 十一話 2年生、ホグワーツ 新たなる出会い
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:07
 4分の3番線で、リリーに会う。
 スネイプはリリーの顔を見ると、露骨にほっとした顔をした。
 しかし、リリーは頬を染めて顔を逸らした。

「お、お仕事大変なのね、スネイプ。その……シリウスとあんな事している漫画が売っているなんて」

「買ったの!? 年齢制限があったじゃない」

 スネイプは瞬時にして砂になった。

「それはまあ、どうにかして……。アーサーさん達も買い物に来ていたわよ」

 スネイプは我に返り、私をポカポカと叩く。呪いをかけるのでない所がスネイプの可愛い所だ。杖を使わない反撃方法はファンタジック1で刻み込まれていた。

「やあ。ここにいたのかい」

「ダモクレスさん」

「大変だったね、スネイプ」

「ミア……」

 スネイプは恨めしげに私を見つめた。
 
「まあまあ、魔法界ではそんな広まってないでしょう、多分」

「マグル生まれが何人か来ていたよ。凄い宣伝の仕方だったらしいね。テレビで毎日のように宣伝されたって」

 もはやスネイプは恨み事すら言わず、丸まった。
 
「君からナーヴギアを紹介されて以来、気になってたんだ。君、マグル界では凄い人らしいね」

「まあね」

「そんな君が、なんで僕に?」

 私はニコリと笑う。

「私はとっても見る目があるのよ」

 ダモクレスは、それを聞いてスネイプを見つめた。

「スネイプも、なのかい? 闇の魔術が優れているから?」

「スネイプは才能があるわ」

 その言葉に、スネイプはちろりと私を見て目を逸らした。
 ふふ、悩んでいる悩んでいる。例え私に甚振られようと、スネイプを認めるのは私一人なのだ。今回、先にグリフィンドールを選んだ事でルシウスもあまりスネイプに構っていないから。
 
「僕も君に触発されてね。脱狼薬、本気で頑張ってみようかと思うんだ。でも、狼人間の知り合いがいなくて……。危険な実験になるし」

「資金は出すわ。それで狼人間を雇って、好きなだけ実験なさい。なんなら私が捕まえて来ても良いわよ。助手にはスネイプを。きっと役立つわ」
 
 私の言葉に、ダモクレスは頷いた。その後、スネイプと打ち合わせを開始する。スネイプは若干元気を取り戻したようだった。
 ホグワーツにつくと、組わけの儀式を見学した。希望がある程度考慮される事はもう伝わっているようで、皆何事か唱えている。
 私はレギュラスだけチェックして、後は研究の事を考えて過ごした。
 寮に戻ると、ミアはどこだと探す者がいた。
 4人の男の子だった。一人はレギュラス。一人は赤毛にそばかすの眼鏡を掛けたどこか見覚えのある女の子。後は双子だ。どことなく私に似た、黒髪の男の子達。一人は大人しげでキラキラとした瞳をしていて、一人は憎々しげに私を見ていた。
 まず、レギュラスが口を開いた。

「おい、お前、兄上を苛めたろう。帰って兄上は泣いていたんだからな!」

「それはぜひ見たかったわ」

「機械の女王だか何だか知らないが、マグル生まれの片親の癖に!」

「用件はそれだけ?」

「そ、そうだ。もう兄上を苛めるなよ」

 レギュラスはパタパタと駆けて行く。良い弟さんだ。
 憎々しげに私を見ていた方の男の子が口を開いた。

「僕はカート・ホークス。こいつは弟のルート・ホークスだ」

「で、誰?」

 男の子達は顔をゆがませた。

「ぼく達は姉上の弟です」

「僕はお前を姉上だなんて認めないぞ! 妾腹の癖に!」

「心配しなくても私達は他人よ。貴方の父親からはびた一文貰っていないし、物ごころついてからは会った事もないわ。話はそれだけ?」

 男の子達はやっぱり顔をゆがませて駆け去った。
 私は最後に赤毛の女の子を見る。

「わ、私、アンナって言います! ミア様に憧れてこの学校に入ったんです! 私はミア様と同じ通信教育を受けるって言ったら、ダンブルドア先生が、ミア様もホグワーツに入っているよって。私、ミア様の事、尊敬しています! 5歳で国防総省で使っているARPANETよりも遥かにコストパフォーマンスに優れたインターネットと高性能小型パソコンを開発して、しかもインターネットとパソコンの設計図を無料で開放して、9歳でナーヴギアって言う夢の機械を組み上げて、ゲームとか、漫画とか、音楽とか文化面まで影響を与えつつあって、自分が題材のえっちな漫画を描かれても笑い飛ばすぐらいの度量があって、とにかく人間じゃないです! わ、私ミア様の為なら何でもします! ミア様の部下にして下さい! 私、私、自分の周りの人間ってバカばっかりだと思ってて、お母さんとお父さんは私の事を全然認めてくれなくて、パソコン一つ買ってくれなくて……。そんな中でミア様だけが輝いていて……。なのに私、せっかくのチャンスを台無しにしちゃって、マニュアル一晩で覚えられなくて、私、いつもその事を悔やんでいて、今はもうマニュアルを暗記していて」

「ああ、アンナね。私の友達候補だった。テストさせてみたら馬鹿で、やっぱり大人を使った方が早いから断ったけど」

 すると、アンナは感激した顔で言った。

「ミ……ミア様が、私の事を覚えていて下さった! そしてミア様は、私の事すら馬鹿だと言った……! ミア様、やっぱりミア様は凄い……! ミア様、どうすれば私を部下にしてくれますか? ミア様のお友達、全部排除すればいいですか? それとも、ミア様の敵を倒せばいいですか? さっきの、レギュラスとか、ホークス兄弟とか……。私、ホークス兄弟が憎い。凄く憎い。ミア様と同じ血が半分も流れているなんて、妬ましくて……」

 ああ、ヤンデレね。

「私の許可なく、私の為に他者を攻撃しては駄目よ。それは私の敵を作る事に通じるわ。捨て石で良ければ、使ってあげる。ミアからの紹介だって言って、まずはスネイプからパソコンの使い方を学びなさい。どれくらい使えるか見てあげる」

「は、はい! ミア様!」

 アンナは走ってスネイプを探しに行った。
 そこへルシウスが通りがかり、私を見て膝を折った。

「姫君、こちらへおられましたか。お手数ですが、これから集まって頂けますか。スリザリン生全員に大切なお話がありますので」

「わかったわ」

 三十分して、ルシウスが皆を集め終わると、大声で言った。

「皆、眠い所をすまない。短くすむし、大切な事だから良く聞いてくれ。魔法使いの闇の帝王が、マグルの闇の皇女ミア様とご婚約した!」

 ほう、それは初耳だ。



[21471] 十二話 2年生、ホグワーツ2 婚約
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:08


 辺りは騒然となった。闇の帝王がマグルの皇女と? そもそもマグルの闇の皇女って?
 年が違いすぎるんじゃ……。ミアって誰だ? たしか、パソコンとかいう奴でずっと勉強してた奴だよな……。ほら、スネイプといつも一緒にいる……。
 囁き声が辺りを満たす。

「ごめんなさい。その婚約は破棄させてもらうわ。言ったでしょ? ヴォルも私も支配する側。ヴォルは私に支配されるなんてごめんでしょ? だから、婚約は出来ないわ」

「ああ、それは大丈夫。君はきっと闇の帝王を好きになる。でなければ、愛の妙薬を使うから」

「……それは私に対する宣戦布告?」

私が笑うと、ルシウスは汗を掻いた。

「……あるいは、そうかもしれない。トップは二人もいらないからね」

「魔法使いとマグル。二つの世界は交わる事はないわ。問題ないじゃない」

「帝王はマグルの世界も支配なされるつもりだ」

 それに私は軽蔑をありありと乗せて笑い飛ばした。

「はっ! 人間を甘く見ない事ね。魔法界に引籠っている内は負けは無いかもしれないわ。でも、表に出てきたら、数の勝負で勝つのはマグルよ。それとも、一人の魔法使いが、1000人の兵士に勝つ事が出来て?」

「君がいれば可能だ」

 私は笑った。

「ええ、そうね。やりようによっては可能かもしれない。でも私は、そんな事はしないの。そうね、マグルの世界って言ったのは語弊があるわ。私が君臨したいのはゲームの世界よ。現実世界に興味はないの。まあいいわ。宣戦布告、確かに受け取ったわ。でも、お互いこんな事で野望達成の為の手駒を失いたくないでしょ? 協定を結びましょ。互いの手駒には手を出さない。ヴォルも闇の帝王なら、正規の方法で私を惚れさせてみせてよ」

「帝王様に伝えて置く」

 眠気も吹っ飛んだ顔で、スリザリン生達は私とルシウスを交互に見た。
 その顔は如実に語っていた。ミアって何者!??……と。
 アンナが、輝いた目で私を見つめている。カートとルートがぽかんとした顔で見ていた。
 面倒な事になりそうだ。私は寮の部屋へと戻った。

「帝王様が、ま、マグル生まれなんかと?」

「これは秘密事項なんだが、姫の父は名門のホークス家のガウディだよ。何より、彼女は帝王様に一杯食わせた。姫は凄いんだ。ほんの一言二言交わしただけで帝王様の正体を看破して……」

 ……本当に、面倒な事になりそうだ。
 翌日、やはりと言えばやはり、面倒な事になっていた。

「姫、お目覚めですか」

「姫、姫」

「ここはこうするのよ。全く、なんで貴方みたいな人がミア様の腹心なのかわからないわ。パソコン、寄こしなさいよっ」

「僕達は姫君の弟なんだ! お前達、頭が高いぞ!」

「姫、兄上を殺さないでください、お願いします」

「レギュラス、シリウスは私の大切なクライアントよ。それと、皆、カートとルートを特別扱いしないで。私はホークス家とは無縁だから。アンナ、スネイプに対する態度を改めなさい。スネイプは私が見いだしたモデルだし、魔法に関する重要なアドバイザーで、友人なの。貴方達、姫姫言うのはやめて。そんな事が知れたら、反帝王派に真っ先に狙われるか、首相に連れ戻されちゃうわ」

「わかりました、姫! 外では内緒にします」

 ちっとも秘密になっていなかった。
 私の周りは上級生で固められ、昼食の時には私を見ながらざわめきが溢れ、夕食後にはダンブルドアに呼び出された。

「ヴォルデモートにいっぱい食わせたらしいの?」

「スパイだったらしないわよ」

 機先を制して私は言う。
 ダンブルドアは取り乱す事無く、ゆっくりと口を開く。

「ヴォルデモートが好きかの?」

「いいえ?」

「ヴォルデモートが怖いかの?」

「いいえ。どうだっていいわ。私には関係ないもの」

「もはや無関係ではいられないのじゃよ、ミア・レイドルグ」

「ならば、無関係を貫けるほど強くなるのみね」

「並大抵の事ではないじゃろうな。特に、マグルの勉強をしながらでは。わしの見立てでは、ミアの魔力は弱くはないがヴォルデモートほどではない」

「それが何? 些細な事よ」

 ダンブルドアは僅かな沈黙の後、口を開いた。

「君は自信家じゃな、ミア。恐らく躓いた事などないのじゃろう。じゃが、ミア。お主が思うよりもずっと、ヴォルデモートは恐ろしい男じゃ。なんとしても……」

「あのね、ダンブルドア先生。例えヴォルデモートがいずれ私に手を出すつもりだとしても、ヴォルデモートが私に手を出さない限り、私もヴォルデモートに手を出さないわ。時間も必要だしね。いくら私でも、今ヴォルデモートと戦えば勝ち目がない。それは私もわかっているわよ。だからこそ、ヴォルデモートに這いつくばる気はなくても、悪戯に刺激する気もないわ。それに、彼とは出来れば協力関係に持ち込めればと思ってる。敵対関係でも、ご主人様としてでもなくてね」

 ダンブルドアは、私を見つめて言った。

「わしの見立ては間違っていたかも知れん。なるほど、組分け帽子があそこまで言った少女じゃ。君の欲望とは何か、聞いてもよいかね」

「私が作ったゲームの世界で君臨する事よ。女王としてね」

「……。それは、真実なのかね? ヴォルデモートにすら首輪をかけるその装置……」

「ダンブルドア先生。私は、現実世界には興味がないの。魔法使いの世界ですら、制約や限界、常識という現実がある。それはもうファンタジーではなくてリアルだわ。私は自分の思う通りの世界で、思う通りに支配したいの」

「ヴォルデモートよりも欲望が強いゆえ、それが人へと向かわないと?」

「さてね。お話はそれだけですか?」

「ワシはトムが悪の道に走る事を見逃してしまった。今度は見逃すつもりはない」

「あら? 生徒から死食い人が現れるのも、マグルの差別が蔓延するのも止めるつもりがないくせに、私だけは見逃さないの? それはアンフェアよ。心配しなくとも、私は魔法界には手は出さないわ。邪魔しない限りね。敵に回すと面倒だもの」

 私は、ダンブルドアの返事を聞かぬまま扉を閉じた。
 次の日、首相から私を心配する手紙が届いたので、心配がない旨を書いて返す。
 私が誰かに従うと思う? この一言で、首相は納得した。



[21471] 十三話 2年生、ホグワーツ3 媚薬
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:09
「あのね。人の手柄をさも自分のもののようにして、ねちねちねちねち苛めなんてしないでくれる? 目障りなのよ、あなた。カート。ルート。隠れてるんでしょう? 出てきなさい。貴方達も裏で手を引いていたの、知っているのよ。……先輩方は行って下さい。これぐらい私一人でどうにでもなるから」

「マ、マグルの闇の皇女だか名前を言えないあの方の婚約者だかなんだか知らないが、俺達はそんなもの怖くないんだからな!」

 私は冷たい目で上級生たちを見上げた。この上級生たちは、シリウス達をイベントの本の件で苛めていたのだ。べつにシリウス達が困っていようと構わないが、こうも目の隅でギャーギャーやられるとイライラしてくる。

「そう。お仕置きが必要なようね」

 そして、私は魔法薬学の研究で開発したばかりの薬をばら撒いた。
 それは相手の呪いの発動より一歩早い。
 そして、上級生たちは快楽と痺れで腰砕けとなった。
 服の布ずれにすら、絶頂を感じる快楽の秘薬。
 私は、魔具か魔法薬での攻撃を考え始めていた。
 魔法使いの呪文には欠点がある。注意深く聞きとっていれば、容易くとは行かないまでも、大体真似出来ると言うのがそれだ。
 もちろん、反対呪文は覚えるべきだし、研究すべきだ。
 でも、真似されると困る呪文は使うべきじゃないし、使ったら目撃者を皆殺しにする必要がある。普段身を守るのには使えない。
 そして、考えたのがこれだ。ダメージを与えるが、全く怪我をさせない。
 学内で使うには、最適の呪文だ。私は笑顔になって上級生たちに歩み寄り、思い切り足を振りおろした……。



 なにか凄い勢いで怒られた。スリザリン50点減点。別に勝敗などどうでもいいが、自分が減点されるのは納得いかない。

「呪いをかける事なんて、誰でもやっている事じゃない。怪我をさせたり体の一部を変化させたり吐き気を促す呪いや道具はよくて、私のは駄目だなんて納得がいかないわ」

「それは犯罪に使われる可能性もある危険な魔法薬です」

「だって、惚れ薬だって禁止されていないのに!」

「それは犯罪に使われる可能性があります」

「惚れ薬を使う事のどこが犯罪じゃないのか、マグル出身の私に説明して頂けますか?」

 私とマクゴナガル先生は睨みあった。

「いいですか、貴方はまだ12歳、その上女の子なのですよ。こういう道具はまだ早いのです」

「大人になれば使っても良いと?」

「もっといけません!」

 私は大仰に肩をすくめた。

「仕方ないわ。違う薬を考えます。皆が使うような、使う事が許されている、恐ろしい呪いの薬をね!」

「待ちなさい、ミス・レイドルグ!」

「何か?」

 私が振り向くと、マクゴナガル先生はうんざりするような言葉を告げた。

「新たな悪戯用の薬を開発したら、まず私の所に持ってきて許可を取りなさい」

「特別扱い、ありがとう」

 私は深々と一礼してその場を去る。
 アンナが私を待っていて、すぐに私の靴を拭いた。

「ミア様、ミア様があんな奴らにあんな事をなさらなくても! どうぞ、私を護身用に傍に置いて下さい。ミア様の盾となり、杖となって見せます!」

「や、やっぱりやり過ぎだと思うぞ、あれは……その……下品だ。スリザリンらしくない」

スネイプは戸惑いながら、後半、言葉を見つけてからは堂々と言った。

「カートとルートは反省している? あの子達、なにかあるとすぐに私の威を借りて困っちゃうわ」

「十分すぎる程にしている。フォローしてやった方がいい。それと、護身の何かが欲しいなら呪文を教えるから」

「真似されるのが嫌なのよ。相手と同じ武器で戦うなんて冗談じゃないわ。……この私が五分の勝負なんて!」

「姫! さっきの薬の作り方教えて下さい! むしろ下さい!」

「却下。さっきの言葉聞いてた? それにもう、次の授業に行かないと……。スネイプ、私がマクゴナガル先生に怒られている間のノート、取ってくれた?」

「ここに」

 スネイプが差しだした羊皮紙に目を通しながら、私は歩きだす。

「ありがとう。アンナ、貴方も授業があるんでしょう? 早く行きなさい。私の部下に落第生はいらないわ。皆もほら、行きなさい」

「はいっ」

 私は授業へと急ぐ。ちょうどグリフィンドールとの合同演習で、シリウス達と一緒になった。

「れ、礼なんて言わないぞ、お前が原因……」

 私は見下した瞳で嘲笑する。

「こいつ、こいつ、放せ、ジェームズ!」

「待て、この女は関わるとやばいって! ある意味名前を言えないあの人よりも……!」

 シリウスとジェームズがもみ合っているのを尻目に、私はスネイプ達に声をかけた。

「さ、臆病者は放っておいて練習しましょ、リリー、スネイプ」

「ミア……。貴方を怒るべきか、褒めるべきかわからないわ。凄い武勇伝は聞いてるけど、例のあの人の婚約者になるつもりはないのよね?」

「当然でしょう?」

「そう、そうよね……」

「僕は凄くお似合いだと思う」

 スネイプはリリーに小突かれ、私は黙々と練習を始めた。
 授業が終わると、ディスティニーブレイカ―のメンバーで魔法薬学の研究。
 それが終わると、通信教育。何か私の開発した技術に関する論文を書けとか言ってきた。首相の悪戯だろうと思ったら、本気でこういう問題らしい。私は一年で大学に飛び級をしていて、大学ではこういう問題をやっているらしいのだ。
 このペースで行けば、ホグワーツの学校が一番勉強が大変な時期に通信教育をせずにすみそうだ。
 そして、朝早く起きて梟で送られてきた記憶媒体からデータを引き出してチェック、改良、自分のデータを付け加えて送信……。そんな毎日が続いた。
 こまごまとした色々な事はあったが、まあ平穏にクリスマスまですんだ。
 クリスマス休暇はもちろん、スネイプを連行である。
 その間、研究所ではソフトとゲームが売れに売れているそうだ。
 売れているのはやはり操作が簡単な物らしい。だが、難しい物もちらほら売れているようだ。
 今は、クリスマス商戦に向けて頑張っている所だ。
 私の誕生日に行うイベントの申し込みも既に来ている。漫画やアニメの会社に声をかけて、オリジナル、二次創作、小説、漫画、音楽、自作アニメ、自作映画、自作グッズ、論文なんでもどうぞと宣伝しまくったから。
 イギリスだと自作映画が多かった。日本は漫画や小説が多い。
 それに、日本からは本当に多数の申し込みが来ている。
 私も何か出そう。論文がいいかな? 特許を取って、でも使用は自由にして、携帯ゲームの作り方の解説でも。
 漫画や小説、サウンドトラックは裏から既にプロデュースしているし。
 ファンタジック1の開発は、なんと5階まで進んだそうだ。
 私の誕生日までには始めて見せると豪語している。
 そして今回のスネイプのミッションはキャラソングだ。ふふふ、スネイプの嫌がる顔を見るのが楽しみだ。
 友達と認知されると困るのでリリーとペチュニアを今回も呼ぶというわけにはいかないが、梟でCDラジカセとCDを送るくらいはするつもりだ。



[21471] 十四話 二年生、クリスマス セブルス・リングハーツ
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:10
「セブルス・リングハーツくん、パパだよ!」

 首相はにこやかに笑っている!
 スネイプは荷物を落とした!
 私は頭を押さえた!
 リリーは口元を押さえている。

「ええっと、離婚して再婚したの? 引き取ったの?」

「ごめんなさいね、セブ。でも、この方は首相だし、魔法使いに理解があるというし、セブの事をとても気に入っていると仰ってくれているの。うちにいても、セブルスが一所懸命稼いだお金をお父さんに取られるだけだし。だから、とっても悲しいけど、セブルスの幸せを考えたわ」

 私が聞くと、スネイプ……いや、セブルス・リングハーツのお母さんが、セブルスを抱きしめて言う。
 おいおい、スネイプじゃ無くなっちゃったよ。予想と大きく違った原作改変だ。

「でも、お母さん……」

「セブルスくん、安心してくれていい。私の家の子になったからと言って、もう会ってはいけないと言うわけではないんだよ。研究所にだって好きなだけいていいし、我が家にいつ帰ってきても構わない。でも、今日一日だけは家に来て欲しいな。君の事をもっとよく知りたいし、新しい君の部屋を紹介したい」

「でも、首相……」

「戸惑うのはわかるが、お母さん達の事は心配しなくて良いからね。補償はちゃんとするから。さあ、車に乗って。ミア女史、ではまた明日」

「は……はぁ」

 リリーがセブルスに心配そうに声をかけた。

「セブ!」

「リリー……僕、ええと」

「さ、セブルスくん」

 セブルスは車に乗せられる。セブルスは何度もこちらを見ている。今だ状況が良くわかっていないようだ。それはまるで売られていく子猫のようで。いや、子蝙蝠か。とにかく、さようならスネイプ。こんにちはリングハーツ。
 明日、やってきたリングハーツの様子が別人のようになっていたとしても私は驚かない。最も、魔法の件があるから本当に別人に変える事は無理だろうけど。

「セブルス、大丈夫かしら……」

「私が首相と協力関係にあるうちは大丈夫よ」

 私の言葉に、リリーは不安そうな顔をして言った。

「貴方って、本当にマグルにとっての例のあの人なの?」

「私が支配するのはゲームの中だけと言ったでしょ?」

「そうね、私とセブルスが駄目よと言ったら石化とかもといてくれたし、スネイプの作ったプロテゴの盾の呪文付きの指輪での護身に変えてくれたものね……。私、貴方は頭が良すぎて常識を知らないだけだと信じているわ」

「そうよ、リリー。色々教えて頂戴ね」

 スネイプを使う限り、リリーとの友好関係は築いておいた方が良い。
 私は笑顔でリリーを見送った。
 そして研究所につくと、私は進捗を確認する作業に移った。
 研究員が私の顔を見てほっとした顔をした。
 
「ミア女史! 一日千秋の思いでお待ちしていました。学校で心を揺らす羽目になってはならないと思い……。大変です。いくつかの訴訟が起こされています。それの内容が……ナ、ナーヴギアを使った人間が死亡したと。今、補償を行う方向で進めていますが、金額が……」

「ふざけているの? 私が不良品を作るとでも? シリアルナンバーを確認した? 分解されていないか、本当に私の作った物かチェックして。不正操作、分解、偽物。このどれかのはずよ。そもそも、今はサービス期間じゃないじゃない。訴訟はこっちが契約違反と名誉棄損でお金を取る方向で進めて」

「は?」

「現物をチェックして。必ず相手の頭皮がひっついている現物でないと駄目よ」

「あの……死者が出て……こちらがお金を取ると?」

「当然でしょ。今度から、重要案件は遠慮せずどんどん寄こしなさい。で? 他には何か?」

「ミア女史は、この危険を御存じだったのですか?」

 スティーブの言葉に、呆れた思いでため息をついた。

「スティーーーーーブ。注意事項をよく読まなかったの? 本体にも大きく注意事項が書いてあるし、説明書にはしてはいけない事がびっしりかいてあって、そのいくつかに命にかかわると注意書きがしてあったはずよ。脳に直接操作するのよ? 危険は当たり前でしょう?」

「事故は一度も起こりませんでしたから、油断してしまいました」

「天才たるあたしが事故を起こすはずがないじゃない。何故私が最後にナーウギアを一つ一つチェックしていると思うの?」

「しかし、あれは設計図通りに作ってあったんだ! 金庫にあったナーヴギア修正プログラムもちゃんと流したし、女史がやっていた妙な操作もちゃんと……」

 研究員の言葉に、私は手を振りおろした。SPがその研究員を拘束する。

「まあ、馬鹿なスパイが捕えられて良かったわ。でも、セキュリティ最高のはずの部屋を監視までされていたとはね」

「どうなさいます」

「そうね。訴訟で注目を集めた後、私の見えない所に行ってもらうわ。訴訟はもちろん勝ってね」

 スティーブに指示を出すと、スティーブはそのニュアンスを正確に理解して、顔を蒼褪めさせ、そして言った。

「本気ですか?」

「当たり前でしょ」

「わかりました。私の皇女様。それと、もう一つ問題が」

 スティーブが、ある分厚い本を出して来た。
 それを私が開くと、膨大なファンタジック1の設定資料だった。
 私がラフスケッチした100階分のデータ、全てが載っている。
私は頭痛がしてきて、頭を押さえる。
これをそのまま作るつもりはなかったが、ある程度は利用するつもりでいた。
事実、始まりの町は、この通りに作っている。

「……売ったの?」

「物凄い勢いで売れています。今、訴訟の準備をしています」

「盗まれたのね?」

 私は本をパラパラと見た。ボスの攻略法から、罠に至るまで詳しく乗っている。

「人事部長に言って。私を何だと思っているのか。いくらなんでも警備が緩すぎるわ。言っとくけど私って軍が出て確保されてもおかしくないほどの要人なのよ。それを、それをこんな、安易に資料を盗んで……いいえ。私が悪かったわ。口先だけ私を尊重してくれるからって、全部任せきりにして研究に専念していたのが間違いね。これからの警備、人事チェックシステムは全て私が考える。これからもこんなふざけた警戒体制にするって言うなら、アメリカか日本に行くわよ」

「申し訳ありません!」

 いくら機械やプログラムに何十ものブラックボックスを入れても、それを作る大人が全てを流してしまっては何の意味もない。
 流していい技術は流しているし、そうでない技術に関しては詳しく教えないなりトラップを作っておくなり、それなりに対策を取っているが、技術の方でだけの対策は不十分だ。
 大人だって馬鹿じゃない。技術はいずれ解析される。
 前の世界でテロをやる上で、秘密保持のあれこれは学んだのだから、最初からそれを生かせばよかった。やはり精神が幼くなっているのか。いや、いい訳はやめよう。私がうかつだった。
 私はチェックをいったん中止し、ナーヴギアを被り、時間を早めて警備計画を立てた。
 ナーヴギアの警報装置がついて、私が目を覚ますと、鼻息を荒くした見た事もない研究員が私の足を押さえていた。

「ば、馬鹿な。ナーヴギアを使っている間は何をしても気付かなかったのに」

 私は、躊躇なくナーヴギアを被せ、スイッチをオンにした。
 もう一つのナーヴギアを取ってきて被り、男のナーヴギアを操作。
 最高の苦痛を味わってもらいながら、記憶を検索する。こいつ、女性研究員に手を出していやがったな。ここまで警備が地に落ちたなんて思ってもいなかった。
 自白するよう脅迫観念をかけて、これもSPに連行させて訴訟と旅行コースだ。

「スティーブ! SP達と私の体を護衛していて! 警備体制の構築は最優先で行うわ」

「もちろんです。私のミアに、あんな、あんな……! これからずっとそばにいますから」

「そう願うわ。全員で会議を行うから、ナーヴギアを着用して。警備の事も話すから、交代でSPもお願い」

 とりあえず、全員分の記憶を検索しないと。
 何? 私の亡命予告と暴行未遂の事を聞いて首相と軍のトップと警察のトップが来る?
 そうね、スティーブ、イギリスのスパイの癖に私の警備に隙を作ったものね。
 ちょうど良いわ。色々と注文させてもらいましょう。



[21471] 十五話 2年生、クリスマス2 警備再編成の誓い
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:11
「ミア女史、今日は大変な一日だったようだね?」

「本当にね」

 首相の言葉に、私は紅茶を飲みながら頷いた。

「犯人はこちらに引き渡して下さい。私自ら指揮をとり、厳しく捜査させてもらいます」

「ありがとう、長官。ところで首相、スネイプの様子はどう?」

「与えられた物を見て、途方に暮れていたよ。彼は、ミア女史と同じで大人っぽいね。普通の子供なら親を慕って泣き出すか、プレゼントの山を見て喜ぶかだろうに。それと、ミア女史の事をとても心配していたよ」

「そう。悪い事をしたわね」

その言葉を聞いて、三人は大いに驚いた。

「君が悪い事をしたと認めるなんて、初めての行為じゃないか?」

「そう? 私も反省しているのよ。今まであまりにも迂闊すぎたって。新しい警備計画と、その為の装置を開発してみたの。来年の夏休みまでにはこの通りの機械をそろえて頂戴。機密は守ってね? それまでの警備計画と人材の再編スケジュールはここにあるわ」

 国防省長官がその設計図を見て声をあげた。

「これは、兵器ではないか?」

「設計図を見ただけでわかるなんてね。その通りよ。ちょっとした防衛装置って奴ね」

「ミア女史、考えたんだが、研究室は基地内に建てた方が安全ではないかね? この兵器も、民間で使うには問題がある。それと、ミア女史が本腰を入れて作る警備計画に興味がある。それにぜひわが軍も参加させて欲しいのだが……」

「正気? 私はただのゲーム会社の職員よ」

 それを聞いて、首相は笑った。

「ミア女史、それを信じる者は誰もいないだろう。ところで、どうして亡命先に、アメリカはともかく、日本などと? ミア女史は大分日本を気にいっているようだが」

「いずれあそこの技術と文化は花開くでしょう。私、あの国の潜在的能力を買っているの」

「例えば?」

「例えば、漫画、アニメ文化と車ね。車はともかく、漫画、アニメ文化には大いに興味があるわ。娯楽という面ではゲームと同じだしね。警備面では大分甘くなりそうだけど、今くらい緩々なら同じよ。だったら楽しめそうな日本を選ぶわ。アメリカは一番警備をしっかりしてくれそうだから、ね」

「見捨てられないよう全力を尽くしますよ。逃がすつもりもありませんがな。亡命方法はどうするつもりだったか聞いてもよろしいですか?」

「あら、簡単よ。向こうが浚いに来る時に抵抗しなければ良いだけの話だわ」

 私の言葉に、私の自信に、三人の要人達は乾いた笑い声をあげた。
 

 
 翌朝の新聞記事の一面は、またしても私だった。

「ミア女史、暴行されかけ、軍へ保護される……か」

 有名人にプライバシーがないのは、仕方のない事だろう。
 それよりも、問題は研究所の外に集まった民衆だった。
 私は窓から顔を出す。ミア女史、と口々に呼ぶ声が聞こえた。
 ブームのあおりは大体成功しているらしい。
 私は窓から顔を出し、冷たい目で群衆を見下ろした。

「私がゲス野郎ごときに好きにされると思って? 通行の邪魔よ。私は大丈夫だから、仕事へお行きなさい。怠けものは嫌いなの」

 一層大きく、ミア女史、と呼ぶ声が聞こえる。
 その昼、顔色を青くしたルシウスとアンナが訪ねてきた。

「無礼な男共は始末したと、帝王様が」

「あら。私が手を下すつもりだったのだけど。ちょっと見せしめにするにはタイミングも早すぎるし……。訴訟を起こしてもいないのに……。まあ、いいわ。気持ちだけ受け取っておく。ありがとう。でも次からは、自分でやるわ」

「君は驚かないのか? 殺されたんだぞ! 三人もだ!」

 それに私は眉を顰めた。

「やだ、三人だけなの? 訴訟が出来ない可能性すらあるのに、殺すのは主犯の当人だけなの? 舐められちゃうじゃない。別に何か方法を考えないと……」

 ルシウスは口をパクパクさせた。
 
「ミア様、ごぶ、ご無事でしたか!? 私、新聞を見て、驚いて……」

「落ち着きなさいな、アンナ。食事をご馳走するわ。驚かないで。今日は私の手料理よ。セブルスも、もうすぐ来ると思うわ」

「ミア様の手料理? やっぱり試験管で作るんですか?」

「新鮮な魚介類を使った日本料理よ。楽しみにしていて」

 アンナに笑いかけると、スティーブがセブルスを連れてくる。

「ミア、話は聞いている。その、その……」

 着飾ったセブルスが、精一杯私に気を使おうとしているのがわかり、私は笑った。

「貴方、本気で私が単なる馬鹿に負けるとでも? ナーヴギアは、私がつけている時だけは些細な異常でも感知して目覚めさせるようになっているのよ」

「君がつけている時だけ?」

「でないと、「私が」悪戯する時困るでしょ?」

 セブルスは肩から力を抜いた。

「で、今回は何をするんだ? 開発の手伝い?」

 するとアンナは目を光らせた。

「私も! どうか私も、手伝わせて下さい! お願いします」

「まあ良いでしょう。待ってて。全員そろったから、食事を運んでくる。多めに作っておいて良かったわ……」

 三人の客人は、黙々と食事を食べた。

「何よ、不味いの?」

「いや、信じ難いが、美味しい……。これは何?」

 セブルスの質問に私は答える。

「タコよ」

 三人は思い切りむせた。私とて昨日の事で全くむかむかしなかったわけではない。これはちょっとした悪戯だった。

「そ、そうだ。帝王様からの大事な伝言を忘れていた。死食い人を一人、護衛に寄こそうかと言うんだが」

「そっちの方が危険な気がするのは気のせい? 心配しないで。警備の再編計画は既に始まっているし、セブルスもいるから。セブルス、首相の家はどうだった?」

 セブルスはしばらくタコをつついて言った。

「君が、どんなに大切な人か聞いたよ。守らなければならないとも。ぼ、僕が君と結婚してくれればいいのにって。でも僕は……」

「リリーに永遠の愛を誓っているものね?」

 セブルスはむすっとした顔で更にタコをつつく。私にわかる。照れているのだ。
 セブルスの結婚の話を聞いて緊張したルシウスは、私の返答を聞いて肩から力を抜く。

「スネイプ先輩なんかが……あ、リングハーツ先輩なんかがミア様と釣り合うはずはないわ!」

「私はそうは思わないけど」

 その言葉に、再度ルシウスが緊張する。

「でも、年齢がね……」

「若い大人の男が好きなんだろう?」

「そうよ」

 私がスネイプの言葉に頷くと、ルシウスは再度気を抜いた。
 食事が終わると、私はパソコンを持ってきて、音楽を掛けた。
 流れるのはボーカルなしのいくつかの曲。
 
「えーとね、「異端者の哀歌」と「ヒースクリフのご乱心にゃ」と「蝙蝠のラブソング」と……あ、アニメの声、貴方が入れる事になったから。それもね」

「……どういう事だ」

「どういうことだって、歌を歌って頂くんですよ。ミア女史も一緒ですから、安心して下さい。ミア女史はファンタジック1以外にもアニメのオファーがあるんですよ。ミア女史の好きな日本からのオファーです。えーと、「ミア女史の平穏なる日常」に短編映画の「氷の女王と炎の勇者」でしたっけ。後、歌が、「ミア女史の誰でも出来る世界征服」「ミアミアストラッシュ」、それと……」

 スティーブが色々と並べ立てる。
 え。聞いてないんだけど。



[21471] 十六話 2年生、クリスマス3 帝王とデート
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:12
「なんで僕がこんな事をなんで僕がこんな事をなんで僕がこんな事を」

「良かったわね、多分今年は魔法薬の材料に全く困らないわよ。というか貴方本当に使えるわね」

「知るか!」

 私とセブルスはうんざりしながら喉に良いと言うジュースを飲んだ。
 セブルスの演技力は定評がある。歌の方は下手でもいいのだ。それを想定した曲調なのだから。「ヒースクリフのご乱心にゃ」なんて、ヤケなところが出ていてとても良かった。
 実際に収録してみて仕事が増えた位だ。

「にゃにゃにゃにゃにゃーにゃー。にゃっにゃっ……死にたい。にゃーにゃにゃーにゃー・……死にたい」

 あれは笑いに笑った。そしたら私の笑い声も収録されてしまった。
 二人とも冬なのに汗だくだ。声の収録と言うのも、存外に体力を使うものだ。
 何故かドレスに着替えさせられたりしたし。
アンナは冷たく濡らしたタオルで私の汗を拭いてくれる。
セブルスは、よろりと風呂に向かった。
 この後、宿題の山が待っている。私の場合はもちろん研究もある。
 というか、漫画の監修が私ってどういう事だ。
 ファンタジック1で売れる漫画を描ける事はわかっています、ネタも良いですから売れますって……。それは自分で売り出した方がよっぽど早いんじゃないだろうか。大ヒットしても、お金が入るのは向こうである。良い商売をしている。
 まあ、私は監修をするだけで後は向こうがやるのだし、日本の文化を育てる意味でやるのだが。自伝の執筆の依頼も来ているが、ホグワーツの事が関係してくるため断った。
 写真集の依頼も持ってこようとしたので、スネイプと二人でスティーブを袋叩きにする。
 全く、スティーブは私をなんだと思っているのかしら。

「セブルス、明日のクリスマスイブ、一緒に買い物に行く?」

「ミアへのプレゼントもあるから、別々が良いな」

「楽しみにしているわ」

 スネイプと別れ、スティーブやデザイナー、SPを引き連れて買い物に向かう。
 ダイアゴン横町に、ヴォルデモートがいた。

「クリスマスイブだ。婚約者らしく、デートしようと思ってな」

 スティーブが前へ出ようとして、私はそれを押さえた。

「お付きの者がついていてもいいなら、よろしくてよ。門限には帰してね」

「もちろんだ。俺様にも死食い人がついている」

 ヴォルと一緒にプレゼントを買い込み、ついでに夕食に招待する。研究室に帰ると、母が誘拐されたと言う連絡が来た。
 相手はナーヴギアの技術を盗んでいた組織らしく、裁判の方向性の転換に業を煮やしたというわけだ。あいつら、補償だけでなく、技術の提供まで求めていたとは知らなかった。結局私も裁判に出席する羽目になるし、裁判の連絡を受けて本当に良かった。
 私は裁判の様子を思い出す。

『死亡事故が起きたのはゆゆしき事態だ。安全な装置を作る研究を促す為、ナーヴギアを安全に作る為の技術は、提供するべきだと思うがどうかね?』

『裁判長、私は、私だけは、今でも完全に安全なナーヴギアを作る事が出来ますわ。泥棒がナーヴギアを安全に作る為だけに、どうして技術を公開せねばなりませんの?』

『死者が出ているのだよ、ミアちゃん』

『それがどうかしまして? ナーヴギアの注意書きにはきちんと書いてあったはずですわ。頭をいじるのだから、それぐらいの危険は当然です。繰り返しますが、私の元でなら完全に安全な装置を作る事が出来ます。安全でないのは、私の手を加えていないナーヴギアだけですわ』

『世界の技術の発展に貢献しようとは思わないのかね? ナーヴギアの哀れな被害者が可哀想とは?』

『裁判長、貴方はこの事件の裁判を公平におこなうつもりがありますの? それはこの事件には全く関係ない事ですわ。そして、私は今でも、十分に、科学者の命たる多くの技術を無償で提供しておりますわ。どの技術を提供してどの技術を提供しないか、開発者たる私が決めます。何より、私ほど業績のある科学者に対してミアちゃんとは無礼です。あくまでも不公平な裁判を行うつもりなら、上告させて頂きますわ。私が求めるのは、完全な勝利のみであり、イギリスに自由と公平さが欠如していると言うなら、私は亡命します。どういう裁判結果になろうと、他人に命じられての技術の提供は行いませんわ』

『ミアちゃん、落ち着いて。私はただ、君の技術はもっと人の為に役立てるべきだと思うんだよ……。第一、死者が出ている……』

 私は首を振った。もちろん裁判は上告し、今、もっとまともな裁判官と政府の圧力のもとで裁判中だ。

「どうします。ミア女史。向こうは、技術の提供を要求していますが」

 警察庁長官の言葉に、私は事もなげに答えた。

「さっさと検挙して下さらない? それと、架空の孤児院を用意して私を引き取る用意をお願い。計画はこちらにあるわ」

 ヴォルが、ほう、と声をあげる。

「ミア女史、しかし彼女は貴方の御母上ですぞ!」

「それがどうかしまして? 私は物ごころついてから自分の力で生きてきたし、それまでの世話の代償は十分に支払ったつもりよ? 正直、母の浪費は少し笑って見逃せるレベルでは無くなってきていたの。要人の集まるパーティにも出たがってきたし……。もちろん、下手に人に親権が行っても困るから、無事でも何の問題もないけれど。そういうわけで、見せしめの為にも厳しく検挙して下さる? 出来れば軍が出れば最高ね」

 それを聞いて、警察長官は激しく戸惑う。

「ミア女史。クリスマスプレゼントが欲しくはないか?」

 ヴォルがニヤリと笑って、私もそれに微笑み返した。

「あら。嬉しいわ。なら、私からもささやかなプレゼントを差し上げますわ」

 私は小瓶を投げ渡す。
 ルシウスがしつこく欲しいと言っていた悦楽の薬だ。恐らく欲しがっていたのはヴォルデモートだろう。

「私には効かないし、発狂しない様に威力は弱めているけれど、全く役に立たないって事はないでしょう?」

「ありがとう、ミア」

 そして、クリスマスプレゼントには誘拐犯の生首とぐったりした母が届いた。
 研究室が大騒ぎになる。警察が入ったが、迷宮入りするのは確定事項だった。
 セブルス・リングハーツの所には、たくさんのプレゼントが届いていた。
 セブルスは母からの贈り物のロケットを大切に身につけ、首相から送られてきた服を着る。
 クリスマスは首相からパーティに招待されていた。
 私も着飾り、パーティーへと向かう。
 スティーブはため息をついて私を褒めたたえた。
 セブルスは私を見て、ため息をついて言う。

「ミアも、喋りさえしなければ……あと人を見下すような眼をしなければ……嫌駄目だ、性格の悪さが顔に出ている」

「そこがミア女史の美しさなんじゃないか」

「二人とも、失礼な人ね」

 私は軽く怒ったふりをした。
 首相が笑顔で私とセブルスを褒めたたえてくれる。セブルスの背筋は、モデルの練習やあれやこれやで、もう猫背ではなくなっていた。それでも、礼儀作法の全てが身についたわけではない。首相にフォローされながら、紹介されて回る。
 セブルスは健気に思えるほどによく頑張っていた。
 私はと言うと……。

「ミア女史、飲み物をお持ちします」

「ミア女史、お初お目にかかります」

「これはこれは美しい、ミア女史、今日は大変だったようですね。心配しました……」

 見合い会場と化していた。
 イギリスの良家の、あるいは軍人の息子達が私にアピールしてくる。
 だが、私も女だ。それが不快なわけではない。
 私は存分に夜を楽しんだ。
 次の日の新聞には、「機械の女王、夜の女王も目指す?」などと、マフィアに母を救出してもらったらしいとか、パーティーでの様子とか色々書かれていた。
 気にするわけではないが、本当に油断が出来ない。
 とにもかくにも、全ての予定を何とか消化して、クリスマス休暇は終わった。



[21471] 十七話 2年生、ホグワーツ4 校内新聞
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:13
「セブ……ミアがDVDデッキとDVDをプレゼントしてくれたの。あの……大丈夫? 無理しているんじゃない? 目が死んでいたわよ」

 セブルスは灰になった。

「それに、テレサと仲いいのね。蝙蝠のラブソング見たわ。その、付き合っているの? お似合いだと思うわ」

 灰になったセブルスはサラサラと崩れて宙に溶けていった。
 私はそれを見てクスクスと笑った。

「ねぇ、ちょっと歌ってみてよ」

 さらにリリーのお願い。
 セブルスのHPは既に0である。
 それでもセブルスは、健気にも小さい声で歌いだした。リリーがそれに聞き入り、良い雰囲気となった。せっかくのチャンスに気付かないのがセブルスのセブルスたる所以である。
 
「またからかわれるかな……」

「放映されるのはホグワーツの授業中よ」

「じゃあ、三年生になったらからかわれるな……そうだ、絶対からかわれる……」

「短い春を楽しむのね、セブルス」

 言った私を恨めしげに見つめるセブルス。
 それをニヤニヤと眺めてから、私はふっと思いついた事を言った。

「ところで私、校内新聞を作らせてみようかしら」

「校内新聞?」

「そうよ。日刊預言者新聞って個人的に好きじゃないのよね。もっと真実に迫るものが良いわ」

「君、君、やる事を増やすのか? 今だって過労死しそうなのに? 僕、マグルの通信教育と礼儀作法の本も読まないとならないんだぞ! マグルの勉強なんて、僕、さっぱり……」

「大変ねー」

「私も通信教育、受けようかしら。セブルスが頑張っているんだったら……」

「リ、リリーも?」

「私で教えられるかわからないけど、出来るだけ手伝うわ」

 セブルスの機嫌は途端に良くなった。
 私は、にやにやとそれを眺めるのだった。
 ホグワーツにつくと、私は全校の中で相応しい者を探した。
 上級生のマグル生まれに、新聞記者の子がいるらしいので呼んでみる。

「ミア女史。お初お目にかかります。僕、レティクスって言うんだ。君の事はいつもパパに報告しているよ。パパは言うんだ。ああ、ミア女史の事を新聞記事に書けたらって!」

「書けばいいじゃない。校内新聞で。費用は出すわ。新聞記者魂を見せてよ。それともあなた、魔法界の新聞が日刊預言者新聞だけで良いと思ってる?」

「ああ……。でも……ごめん、僕、反例のあの人派なんだ。将来は、戦って死ぬと思う」

「戦って死ぬより、生きて、生き延びて援護し、声を届け続ける。そんな仕事もあるって事、貴方なら知っているでしょ」

 男の子は、目を丸くした。

「だって、その、ミア女史。貴方は、ヴォルデモート派では?」

「私はまともな新聞が読みたいの。誰にも絶対に屈しない、まともな、中立の新聞がね。その為のささやかな資金援助ならするわ。お願いできない? 貴方は人望もあると聞いているわ……」

「ああ、うん。わかった。やってみるよ。ありがとう、ミア女史」

 これで少し様子を見てみようと、私は決めた。
 魔法薬学も、魔法の道具作りも少しずつ進んでいる。

「マクゴナガル先生、禁書を読む許可をください」

「絶対にノーです」

「でも私、どこまでがやっていけない事なのか学びたいんです。この前の石化の薬は、もしも完全に成功させたら禁書行きだって先生が言ってらしたでしょう? あの媚薬も」

「しっかりと学びなさい、ミス・ミア」

「ありがとうございます」

 私は戦利品を持って魔法薬学の教室にゆうゆうと持ちこむ。セブルス達はそれを見て大いに驚いた。

「君って、その……本当に凄いんだね」

「でも、いいのかしら」

 ダモクレスに褒められ、リリーに心配そうに見つめられ、セブルスは早くも中身に没頭していた。

「ミア。君の資金で狼人間の確保が出来たよ。満月の晩は暴れないようナーヴギアを使えばいいって君の提案も大成功だった。これで思う存分実験が出来る。頑張ろう」

「話は聞かせてもらった。私も未来の魔法界の為、ひと肌脱がせてもらおう。費用は、ミアくん、君が出すんだったよね?」

 ダモクレス先輩が言い、魔法薬学の教授が混ざって自分の研究を持ちこみつつ言った。
 私達、小さなマッドサイエンティスト達は、今宵も宴を開いたのだった。
 
「進路、ミアはどうするんだ? 僕はマグル学を取ろうかどうか悩んでる」

 セブルスが紙を持って聞いてくる。
 選択科目を決める時期が来たのだ。

「マグル学なんて普段嫌でも学んでいるでしょう? 私、魔法生物学を取ろうと思っているわ」

「ああ、ゲームに使うのか」

 セブルスは納得した声をあげた。

「空き時間が欲しいから、出来るだけ科目は少なくしたいの。でも、それで出来ない事が出てくるのは嫌。中々難しいわ」

「そうだな。そうなると、うーん……何を選ぼう……。もう一度考えてくる」

 セブルスは紙と睨めっこしながら去っていった。
 私も、紙を睨みつける。
 そして、いくつかの所に丸をつけて、先生に提出……する前に、アンナに見せてやる。
 アンナは私と全く同じ科目を取るので見せて欲しいと言っていたから。
 夏休みが近くなる頃、第一回目の校内新聞が刊行された。
 第一回目は私とヴォルの特集だった。
 あの男の子、やってのけて見せた。
 ヴォルデモートの本名と私の父の名、両方とも純血とマグルとの混血である事をすっぱぬいたのだ。まあ、取材には私も協力したのだが。
 ルシウスに、レティクスを殺さないでやって欲しいとの手紙を渡す。もちろんヴォルデモート宛だ。
 だって、面白いではないか。レティクスほど根性のある馬鹿はそうはいない。
 私は鼻歌を歌いながら、じっくりとレティクスの記事を読んだ。
 その記事はハッフルパフの名に違わず、真実を指し示していて、大いに私を満足させたのだった。
 その間のマグルの動きについても説明せねばならないだろう。
 アニメはついに放映された。ゲームに対する期待はちゃくちゃくと高まっている。
 今の所、一番人気なのは以外にも将校だった。
 二番人気はヒースクリフである。
 そして三番目は私。無理もない。一階では私の出番は極力抑えているから。
 いずれ、ゲームがスタートしてクリアした暁には、最高のドラマを演出しよう。
 それと、しくじったと思ったのが、スイッチもまた広まってしまった所だった。
 やはり教えなければ良かった。あれくらいは自分で発見して欲しいものだ。
 子供達は剣の玩具を振りまわし、ナーヴギアの発売を心待ちにしている。死亡事故もなんのその、だ。
 もちろん、裁判は勝った。こちらの圧勝だった。
 また、コミケの準備も整い始めていた。次々と当日売られる商品が届いていると言う。
 私も、携帯ゲーム機についての論文を梟で提出し終わった。
 警備再編計画と引っ越し計画は順調だ。
 AIの外見については、私にしようと思っているのだが、衣装が悩みどころなので、セブルスに相談する。
 アンナに部屋で次々と着替えては写真を取ってもらい、それを皆で見比べた。
 写真の中で、肩ほどまで切りそろえられた黒髪の、怜悧な目をした女の子が私を見下した目で見つめ返している。美しいが、性格の悪さが全面に出ていると万人に言われる顔。
 生まれ変わっても、私の外見がさほど変わらなかったのは幸運な事だ。
 白衣、ドレス、軍服、ローブ、様々な服に着替えて、セブルスの顔を伺う。

「どれが一番いいかしら?」

「どれでも好きなものにすればいいじゃないか。気分によって着替えさせても良いんだし」

「それもそう……ね。ありがとう、助かったわ」

 はっとする回答だが、どれが似合うと言ったわけではない。

「普段着はやっぱり白衣が良いと思います、ミア様」

「あら、軍服も似合っているわよ、ミア」

 アンナとリリーが交互に告げる。やはりここは男友達よりも女友達だ。私達はわいわいと服のローテーションを決めた。
 そして、念願の夏休みが訪れた。



[21471] 十八話 2年生、夏休み AIの目覚め
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:14
夏休み。9と4分の3番線につくと、首相とご子息がニコニコ顔でセブルスを待っていた。

「私の可愛い蝙蝠君! 成績表を送ってくれてありがとう。素晴らしいものだったよ! 通信教育も、中々の成績だ。さすがに飛び級とはいかないが、君の年では中々のものだよ。君の本当のお母さんも喜んでおられた。もちろん私の妻もね! そこで、今日はお祝いをしようと思う。お兄ちゃんがダイアゴン横町で買い物をした後、乗馬を教えたいと言っている。ぜひ、来てくれるね……」

「はい、……お父さん、お兄さん」

「魔法使いの店で買い物なんてすっごいよ! 案内してくれるかい?」

セブルスは苦労して父、兄と呼んだ。それを聞いて、首相もご子息もいっそう機嫌を良くしていた。
セブルスの小さな手を引いて、首相家族は去っていく。
まだぎこちないが、セブルス達は確かに家族になろうとしていた。
リリーは安心したような顔をした。

「どうやら、可愛がられているようで、良かったわ」

「ええ、そうね」

 それでもまだ、彼は穢れた血と吐き捨てるだろうか? その辺りは、とても興味がある。
 私は、自分の迎えに目を移した。
 今日から迎えに来るのはSPでなく、軍人である。スティーブは来ていなかった。

「迷わないで済んだかしら?」

「はっ 少し勇気がいりました! 行きましょう、ミア女史!」

 私は頷いて後をついていく。4分の3番線を出た場所で、同じイギリス軍の制服を着た男達が展開した。銃が撃たれ、私は軍人に庇われて物陰に隠れた。

「馬鹿もの! ミア女史に当たったらどうする!」

 叫ぶような声がする。

「ミア女史、それはスパイです!」

「くっミア女史、どうやらイギリス軍に偽装した小隊がミア女史を狙っているようです」

「あらあら。スパイを掃除したのがお気に触ったらしいわね。さて、どちらが本物かしら? それとも両方偽物なのかしら? まあ、どちらでもいい話ね」

 私は面白そうに言って、魔法薬のビンを地面にたたきつけた。
 緊急避難用のそれは、凄まじい速度で広まっていく。
 私はトイレへと駆けこみ、急いで変装して悠々と駅を出た。
 そして、タクシーで基地へと向かい、無事についた。
 私が駅に着くと、携帯電話で軍人が首相に報告をする。
 携帯電話の技術は、首相の頼みでイギリスの軍人に限定されて使用していた。
  携帯電話の技術は、首相の頼みでイギリスの軍人に限定されて使用していた。
 今、世界中でネットワークを構築できるよう、アメリカとロシアが中心となって世界規模での衛星打ち上げ計画が進行しており、イギリスにもネットワーク関連の全技術の解放を求められている。
 イギリスの突出により、イギリスに技術で対抗する為、手を組むべきだと考える一派が出てきたのだ。
 対イギリスの頭脳集団も出て来ていたりする。
 まあ、その辺りは私の考える所ではない。
 スティーブ達は、私を迎えに出ていたようだ。スティーブは大事な手駒。死んでいないといいのだが。
 そして私はナーヴギアを嵌めた。
 警備の装置のプログラムの組み上げ。最後の仕上げ。
 警備プログラムを作動させると、警備プログラムミア15―警備タイプーが目を覚ます。

『ごきげんよう、オリジナル』

「ごきげんよう、15」

 私は液晶画面に手をやった。15はその私の手に手を重ね合わせてくる。
 大切な瞬間に、無粋な手紙が落ちてくる。
 魔法を使った事を警告する手紙だ。
 後で、首相からあれは正当防衛だったと援護してもらわなくては。
 とにかく、私は警備装置にスイッチを入れていく。
 15が満足げな声で告げた。

『非常に順調よ。研究室の全ての機械を掌握したわ』

「グレイト。これからの事、よろしくお願いするわね」

『ええ。もちろんよ。あら……朗報よ。スティーブが帰ってくるわ』

 私は振り返り、スティーブを迎えに言った。

「大変だったわね、スティーブ。無事?」

「幸い、気絶するだけですみました。話には聞いていましたが、あの薬の効果は凄いですね」

「あら、スティーブも嗅いだの?」

「よく訓練された軍人ですら、腰砕けになって立てませんでしたよ。毒ガス部隊が投入されて……ええ、大変でした。……これが、警備プログラムですか?」

『この方が、と言いなさい。私はミア15。貴方の上司よ。私の地位はミア・オリジナルに次ぐナンバー2となるわ』

「そ、そんな……ミア女史が14回も失敗を!?」

 私はスティーブの頭をパコンと叩いた。
 しかしまあ、どこに使ったか聞かれるのも困るので否定はしない。
 ミア15に警備の引き締めをさせる。
 また、私に何かあった時はミア15が表だって野望を引き継ぐ。
 ミア15は全ての研究員を全く同時に監視する。
 そして、ひとたび敵を見つけたら、バイオハザードで出ていたアリスのような残酷さを発揮する。機械を駆使し、銃を、レーザーを使って反撃する。
 機械の性質と自我の両方を持つゆえに、ミア15は敵を間違える事がない。
籠城戦はミア15一人がいればいいくらいだ。

「動作テストはしなくていいんですか?」

「危険すぎるわ。ミア15は敵を確実に抹殺するもの。心配しなくとも、私は天才よ。ミスなどしないわ」

「まあ、そうですよね。所で、ナーヴギアの在庫が溜まっています。最後の仕上げ、頑張って下さい」

 私は少し顔を顰めた。

「たくさん溜まっているんでしょうね……わかったわ。その前に私がいない間の資料を読ませて」

 私は急いで資料に目を通す。
 コミケの準備は順調に進んでいる。
 私はカタログ販売のついでに、コスプレの衣装の販売を進めた。
 コスプレを含むコミケのマナーについての案内・コミケ自体の紹介もテレビで行う。
 それが終わると、私はナーヴギアの生産を行う。
 それに没頭していると、ミア15から連絡が来た。

『国防省長官から模擬戦の申し込みが来て、それを受けたわ』

「あら。殺さないようにね」

『模擬弾は配布されているから大丈夫よ。少し騒がしくなるから』

 それから、しばらくの間叫び声や指示が飛ぶ声が聞こえる。
 しばらくして沈黙が広がり、ミア15は晴れやかな笑顔で言った。

『聞いて、オリジナル。全員を射殺、あるいは捕虜にしたわ!』

「本当に殺してないでしょうね?」

『そこら辺の加減はしているわ。けが人は出たけど、治らないものじゃない。直、この警備システムを軍でも使いたいと言うオファーが来ると思うわ。そうなったらよろしくね。それと、記憶媒体でデータを盗もうとした野郎がいたから足を撃ち抜いておいたわ。今、尋問を開始してる』

「素晴らしいわ。ミア15。これからもよろしくね」

 軍のコンピューターがミア16に任せられる事になれば、私の手にかなりの権限が落ちる。ここを要塞化する事も可能だ。
 そして、翌日には、セブルスを迎えた。

「今度の二カ月は何をするんだ?」

「階が進んでくると、ヒースクリフの装備や魔道書を手にいられられるようになるの。その衣装合わせよ。面白衣装もあるわよ。私の誕生日にゲームスタートするわ。NPCの知能も、私とセブルス、テレサのものだけ段違いになるわ。私の代わりにはミア1が、貴方の代わりにはヒースクリフ1が、その補佐にはセブルス1が、テレサはテレサ1、その補佐にはミア1が行うわ」

「色々な意味で嫌な予感しかしないんだが……」

「大丈夫よ。思考をコピーした後、色々といじくるから」

「もっと嫌な予感がするんだが、気のせいか?」

 その日、私はセブルスにヘッドロックを掛けられた。




[21471] 十九話 2年生、夏休み~ホグワーツ コミケ
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:19
「なんなんだ、この服は!」

 ヘッドロックを掛けて、セブルスが言う。

「ふふふ、面白技と面白武器、面白防具を用意してみたわ……ってギブギブ」

「ミア、僕の事をなんだと思っているんだ! いい加減にしろ!」

「そんな事言ったって、わかってるんでしょ? セブルス。もうあんた、死食い人になるより深みに嵌っているのよ」

 セブルスはぐっと黙った。
 それを見て、私はふふんと笑う。

「自分の立場が分かっているようで結構。では、ご紹介するわ。この子が、ヒースクリフ1よ。貴方の記憶を消去して、うまーく偽の記憶を当てはめたの。もちろん、自分が作られし存在だって言う事もわかっているわ」

 そこに、蝙蝠姿のセブルスが目を瞑って眠っていた。
 セブルスは、蒼褪め、目を見開く。

「そして、テレサ1は私が1からくみ上げたプログラム」

 金髪の愛らしい女の子が眠っている。

「そして、セブルス1。貴方の人格にこのゲーム用に色々手を加えてあるわ。この子は貴方の記憶も持っている」

 立派なローブ姿のセブルス。

「待て……」

掠れた声で、セブスルは言った。

「そしてミア1。私の人格にこのゲーム用に色々手を加えたもの。苦労したわ。私の野望をミア1から抜くのは」

「待ってくれ……」

「さあ、目覚めさせるわよ」

 セブルスは、恐ろしいものを見る目で自分のコピー達を見た。
 ヒースクリフ1は、目覚めてすぐに涙を流した。

『大切な……大切なものを無くしてしまった……』

 そうして泣くヒースクリフ。彼は多分、リリーの記憶の事を言っているのだろう。
 セブルス1は、悲しげな眼をしてセブルスを見つめた。
 テレサは、目覚めると私達に微笑んだ。
 そしてミア1は、不敵に微笑み、言ってのけた。

『最高のドラマをプレゼントするわ』

「楽しみにしているわ、ミア1」

 セブルスは、項垂れる。

「……僕の分霊箱を作ったな……マグルのやり方で! 僕に内緒で! たかがゲームの為に!」

 そしてセブルスは叫ぶ。きっと見つめたその瞳は、すぐに恐怖に歪められた。

「たかがゲーム……そうかもしれないわ。でもね、そのゲームがこの至高の天才、ミア・レイドルグの……全てなの」

 私はセブルスに微笑む。私の野望達成の為なら、世界すら犠牲にして見せる。

「ミア……お前は、ここまでしてどんなゲームを作ろうとしているんだ」

 セブルスが、力なく呟く。

「その時は、セブルスも招待してあげるわよ。特等席で。きっと気にいるわ」

 私の言葉に、セブルスは吐き捨てた。

「お前は、時々帝王様より怖い」

 お褒めの言葉、ありがとう。

「着替えてくれるわね?」

 セブルスは、力なく頷いた。
 そして、訪れた私の誕生日。
 コミケは非常に盛況だった。様々な種類の人がいて、中でも浮いているのが科学者たちだった。
 大量に用意しておいた私の論文は30分で完売した。
 ヒースクリフ達妖精族のコスプレ衣装が売れて、妖精姿の人がちらほらと見える。
 もちろん、他の衣装を着ている人もいる。
 それはおおいに盛況だった。
 そして12時になってついにファンタジック1が始まった。
 オープニング。
 このゲームが上手く行けば記憶を返すと約束されたヒースクリフ1は、必死でモンスターの間を駆け抜けた。失敗を許されない一度きりの冒険。生まれて初めての世界を疾走する。
 仲間の妖精たち……低級NPCとわかっていても、ヒースクリフ1の潜在意識には仲間と刻まれている……を盾としながら、セブルスは走る。走り方を学びながら、何度も転びかけながら走る。
 最愛の少女と設定された少女が死んだ時、それがNPCと知りながら、ヒースクリフ1は泣いた。泣きながら、それでも走り続けた。
 なんてリアリティ。なんてドラマティック。そして、ファンタジック。私はそれを見て微笑んだ。セブルス・スネイプを選んで、本当に良かった。彼は悲劇のヒーローに向いている。
 セブルスはそれを見て辛そうな顔をしている。
 セブルス1は人形のような顔をしてそれを見つめ、ミア1はニヤニヤと見つめていた。
 ゲームが始まった。
 コミケ会場で公開されるのはオープニングまでだ。
 プレイヤーをキャラクター作成画面でミア1が導き、それ以降をヒースクリフが導く。
 降り立ったばかりのプレイヤーを、ヒロインのテレサが笑顔で迎えた。
 元テストプレイヤー達が、ヒースクリフを無視して店に走る。
 今回は、商品はグッズだけなのだが。
 ミア1に見どころは録画すると約束してもらい、私はダイアゴン横町に必要な物を買いに行った。
 そうそう、スネイプからの誕生日プレゼントは、わかりやすい魔法省の法律だった。
 法のくぐりぬけ方を学べとでもいうのだろうか?
 

 翌日、9と4分の3番線に行くと、リリーから誕生日プレゼントを貰った。
 そして、リリーはセブルスを褒めた。

「セブ。素晴らしい、ほんとに素晴らしい演技だったわ。私、思わず涙が出ちゃった」

「ありがとう」

 セブルスはそっけなく答える。その瞳はどこまでも悲しげだった。
 そして、三年生である。魔法省のお墨付きのパソコンは三台に増えた。
 新学期開始早々、お試しの無料新聞がばら撒かれる。私の誕生日の祭典とナーヴギアの特集だった。

「出来るのはゲームだけ? 闇の帝王にかけられし暗示……ね。やるじゃない」

 そういえば、レティクスの年齢を確認していなかった。最上級生だったのか。
 ルシウスに聞くと、彼はもう既に姿を消していると言う。彼の命がけの活動が始まったのだ。しかし、残念だ。これで魔法使いは引っかからないだろう。
 でも、却って良かったのかもしれない。
 ヴォルと縄張りが重ならないで済むから。
 それはそうと、今年は魔法生物学とホグズミード行きがある。とても楽しみだ。

「ねえ、セブルス。魔法生物学で、ドラゴンの背に乗せてもらえると思う?」

「乗って来い。そして死ね」

 セブルスはそっけなく言った。まあ、私もドラゴンの背に乗れるようなものではないというのは理解しているが。
 生物に手を加えるのは、法律に引っ掛かるのである。セブルスがくれた本に書いてあった。
 他に変わった事と言えば、マグル排斥の風潮が強くなってきた。
 混血は良いらしい。全く、勝手な理屈だ。

「ねぇ、セブルス。魔法を使えるのはそんなに偉いのかしら?」

「出来ないより出来た方が良いだろう」

 私はしばし考える。

「ねぇ、セブルス。生物に手を加えるのは良くないのよね?」

「当たり前だろう」

「ねぇ、セブルス。じゃあ、生物を「治療」するのは? その為にちょちょっと遺伝子に手を加えるのは?」

「それは良いに決まっているだろう。……ちょっと待て、なんだ、その遺伝子と言うのは」

「マグルの勉強が足りないわよ、セブルス。そうね、でも、知らないものに対する法律はないわよね?」

 セブルスは警戒しながら言った。

「また悪だくみか?」

「いい事よ。私にしては、珍しく」

 私はにっこりほほ笑んだ。




[21471] 二十話 3年生 ホグワーツ~クリスマス ゲームリセット
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:18
 それは魔物が溢れる広間での事だった。

「ヒースクリフ! 避けろ!」

 しかしヒースクリフはその場で立ち止り、カブトムシを取り出して齧り始めた。
 物凄く嫌な顔である。

「ぎゃー! 食事の時間が来た! つーか誰だよ、カブトムシの貢物なんかした奴は! 防御が1しか上がらないし、ヒースクリフのテンション下がるだろうが!」

「魔物第二弾キター!」

「ちょwwこれなんて無理ゲwwwww」

「皆、ヒースクリフを守るんだ! 誰かテストプレイであった見たく、ヒースクリフを担いで走れ!」

「無理無理! 力どれだけ必要なんだよ」

「ちょw 皆、オワタwwwww」

「なんだ、どうした!」

「ボス、復活してるwww」

「何―――――――――!?」

「まさか、一定時間立つとボスが復活するトラップとか!?」

「マジかよ、嘘だろ……撤退! 撤退! だぁぁ! ヒースクリフの撤退指示ってどーやんの!?」

「えーと、マニュアルマニュアル……ヒースクリフを誘った討伐軍のリーダーの指示! どの討伐軍かは人数とレベルを掛けた数の多い順!」

「え、計算が必要なのか!? えーとえーと」

「ああっ 下がれ、ヒースクリフ!」

 魔物の一撃が、ヒースクリフを襲った。ヒースクリフは思わず竦み上がり、動けない。
そして……。







 ハロウィンの日の朝食の時間、梟が私の席にやってきた。

「あら、暴動? 10階まで行って全てリセットした? あら、まぁ……」

「当然の反応な気がするな。あのモンスターが10匹なのだから」

「まぁねぇ。テストプレイの時よりは強さを落としているはずだけど。仕方ないわ。ミア1に許可を出してレベルやアイテムのデータを復活させましょう。ただし、一階まで戻されるのは変えないわ」

 私はその場で手紙を書いて梟を飛ばせる。
 
「そうだ、セブルス。今日は鼻血ヌルヌルヌガーを買い込む予定よ。これで片っ端からスクイブやマグルや魔法使いの血を採取するの。一緒に買い物付き合ってくれない? これは悪い事じゃないから、大丈夫よ」

「……ふぅ。どうせ嫌だと言っても連れていくんだろう」

「もちろんよ。クリスマスには遺伝子工学の勉強をするわ」

「僕もやる事になるんだろうな……。ちょっと待ってくれ。リリーを呼んでくる」

 しばらくして、リリーが現れた。

「あまりセブに心労を掛けないでくれる? 鼻血ヌルヌルヌガーを何に使うの?」

「それはお楽しみよ。絶対いい事だから、それは保証する」

 リリーは胡散臭げに私を見た後、ため息をついた。

「まあ、いいわ。私も付き合ってあげる。見張りがいた方が良いだろうしね!」

 私達はホグズミードを存分に楽しんだ。
 そして、鼻血ヌルヌルヌガーをしこたま手に入れた私は、死食い人達を使ってあらゆる人間の鼻血を集めた。
 そしてクリスマス休暇。私は遺伝子工学研究所にて魔法使い達の遺伝子を見ていた。

「ふむふむ……いけるかもしれないわ。足りない技術は魔法でどうにかすればいいのよ」

「目的の物は見つかりましたか?」

 戦々恐々とした様子で、遺伝子工学者達は言う。ミア女史の噂は聞いている。
 ミア女史が本気を出せば、自分達の研究が全て無用の長物となってしまうかもしれない。
 そこに彼らは怯えていた。

「ああ、ある性質を持った人を意図的に作りたいと思って。ヒントは見つけたわ」

「ある性質を持った人を……作る!?」

「実際には作りかえる、ね。要するに遺伝子治療の一種よ。ああ、病気の類では一切ないわ。些細な事を自慢するムカつく子がいてね。その些細な長所を、皆が持てたらもうそんな事は言えないと思って」

「それは……遺伝的疾患の治療にも繋がる、凄い研究ですよ!」

「それは貴方達の仕事よ。私は些細な長所を埋め込みたいだけで、決して病を治そうなんて考えてない、いわば趣味に過ぎないわ。貴方達のテリトリーは侵さないから安心して」

 そして私はノートにサラサラと発見した事をメモして、閉じた。
 スクイプであるフィルチの家族構成は調べてある。彼は以外にも純血の魔法使いの血筋だ。実験体としてはちょうど良かった。スクイプだから、捕まえるのも造作がないだろう……。
 遺伝子の勉強を終えると、ナーヴギアの追加発注分の仕上げ。
 何故か大人気の上続いてしまった、「ミア女史の平穏なる日常」のアニメの監修と、イギリス版の翻訳の監修。宿題も忘れてはいけない。
 珍しく、その間のスネイプは休暇をもらっていた。幾年ぶりかの自由である。
 本当のお母さんの所によって、今の家ではお兄さんにマグルの勉強を見てもらったり、首相としての仕事を見学したりするそうだ。
 それらをファンタジック1をモニタしながらその作業を進めていると、あっという間にクリスマスとなった。
 クリスマスのパーティは、首相に招待されていた。
 私はドレスアップしてパーティへと向かった。
 セブルスが、幾人かの女の子に迫られて困っていた。

「何やっているのよ。ごめんね、この子好きな子いるから」

「助かった、ミア。穢れた血の女の子は大胆なんだな」

「何度も言うけど、貴方、自分も穢れた血が半分混じってるってわかってる? それと、当たり前でしょ。貴方は首相の子供。もう要人の一人なのよ。まさか、貴方自身がもてるんだとは思ってないわよね?」

「そ、そんなこと……ないぞ」

 セブルスは顔を赤くして呟く。
 これは勘違いしていたな。私はセブルスを小突いた。
 セブルスを連れて、一通り挨拶を交わした私は、首相にもう一度挨拶に行った。

「首相、そろそろお暇していいかしら。セブルスも一緒に。今日は15階のクリスマス攻略があるの。それに、セブルスにはまた仕事を手伝ってもらわなきゃ」

 首相は、ニコニコ笑顔で言う。

「ああ、行っておいで。寂しくなるが、一所懸命勉強してくるんだよ。私はこんなに優秀な子を持って誇らしいよ」

 セブルスはもごもごと何事か呟いて、ぺこんと頭を下げる。
 そして私達は研究室に戻った。
 15階では、止めをヒースクリフが刺さねばボスはいつまでたっても倒せない。
 その代り、ボスの門は妖精を示す紋章があって、ヒースクリフが触れないと開かない仕組みになっているし、そのドアを見たミア1がそれらしい事を言う。そして、ヒースクリフに聞けば紋章は自分でしか解除できないと教えてくれる。
 さて、ヒースクリフにしか開けない事は10日ほどで気付いたが、今度はどうだろうか?
 注意深く見ていれば、弱いはずのヒースクリフの攻撃が効きすぎるほど効く事に気づくはずだ。

『ちょwwwボスがいつまでたっても倒せないんですけど!』

『HPが残りコンマ1から減らねーーーーー!』

『ちくしょう、こんなの攻略本になかったぞ!』

『何かないか、何か! 見逃している事はなかったか!?』

『ヒースクリフを守れー!』

 全く気付いていなかった。
 ヒースクリフが、皆に守られながら攻撃をする。
 パニックに陥ったメンバーは、誰もそれに気付いていなかった。
 ボスがポリゴンの欠片となって美しく散る。

『ちょwww相談している内にボス死んだwww』

『ヒースクリフさん、何事もなく次の階に行く準備をしないでwww』

『くっそボスが倒れる瞬間見逃したw』

『誰かスクショ取ってたー?』

『取ってる取ってる。ボス戦は毎回ビデオで撮ってる』

 私はため息をついた。拍子抜けだが、これで私のクリスマス休暇は終わりだ。
 その後は、いつも通り教科書を全てデータ化してパソコンの中に入れ、勉強をして休暇を過ごした。



[21471] 二十一話 3年生、ホグワーツ 狼人間
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:19
「セブ。休暇中は頑張っていたのね。凄いわ。首相の傍に付き添って大臣と握手している映像を見たわ」

「僕は、本当について行っただけだよ」

 セブルスは呟く。

「それに、ボス戦って毎回テレビでやるのね。あれはセブが演じてるの? クリスマスは凄かったわ。頑張ってた」

「あれはAIって言って自分で考えるコンピュータープログラムなんだ。ええと……」

 セブルスは拙い説明をする。それでも、説明が出来るようになってきたという事だ。
 そこへ、カートとルートが頭を覗かせた。

「い、一緒に座ってやってもいいぞ!」

「姉上、一緒に座りましょう」

 私はそれにため息をつく。

「懲りないわね。貴方達も。狭くて良ければ隣へどうぞ」

 カートとルートは、私が意見を変えないうちにと急いで隣に座る。

「姉上。例のあの人は姉上を攻撃できないって本当ですか」

「私を傷つけられない様に暗示を掛けたのは本当だけど。開心術には効かなかったし、絶対安全と言うわけではないわ」

「ふ、ふん。マグルとしては凄くても、魔法使いとしては並みなんだろう? 絶対、僕が追い越して……」

「あら、頼もしい事ね。確かに私の魔力はヴォルほど強くないわ。弱くもないけど。でもね、私はヴォルすら使わない手を使うわよ。媚薬とかね」

 そういうと、カートとルートは共に頬を赤くした。
 ルートが話題を逸らし、私はあえてそれに乗ってやる。
 以前よりは仲良くなってきて良かったと、リリーは微笑ましい目で、セブルスはどこか心配そうな目で見つめていた。
 

 ホグワーツについた翌日、ダンブルドアに呼ばれた。私とセブルスだけでなく、ダモクレスやリリーも一緒だ。
 ダンブルドアの部屋につくと、そこには魔法大臣もいた。
 
「おお、良く来たの。今日呼んだのは、ある噂を聞いたからじゃ。なんでも、狼人間を安全に匿っておるとか……」

「ナーヴギア! あれにあんな使い道があるとは! 私はあれを一度とはいえ使った事に恐怖を感じておるよ」

「あれは正当な契約です。彼は喜んで結んでくれましたわ」

「そう思うようナーヴギアに設定したのではなく?」

 私は、艶然と微笑んだ。

「お話はそれだけですの?」

 二人は、僅かに息をのむ。

「君達は、ディスティニーブレイカ―を名乗っているそうだね」

「ええ。それが、何か?」

「ナーヴギアの他に、盾の呪文を込めた道具を作っているとか。どうだろう、ナーヴギアとその道具を売ってくれんかね」

 私は、小首を傾げる。

「申し訳ありませんが、ナーヴギアはそう簡単にお渡しできるものではありませんの。そういう使い方を想定していないので、管理が心配なんですの」

「ミアくん、狼人間は雇ってはいけないんだ。これは魔法使いの規則でね……」

「ならば、マグルとして雇いますわ」

「マ、マグルとして?」

「こちらで管理出来るなら、問題ありません。全ての狼人間を、マグルとして雇ってもよろしいと言いました。もちろん、私に服従するなら。それなら魔法界の掟に反さないでしょう? ああ、盾の呪文を込めた道具についてはお売りしますわ。ご用件はそれだけですか?」

「あ、ああ」

ダンブルドアはにこやかに、のんびりと言った。

「これで、狼人間の支持を手中にした事になるの」

 大臣ははっと顔をあげ、私とダンブルドアの顔を見比べる。
 私は微笑んだ。

「意図してそうしたわけではないけれど。まあ、万一ヴォルと敵対した時の盾くらいにはなるでしょうね。反対なさる? 狼人間に残された唯一の救いの道を?」

 ダンブルドアは静かに言う。

「信じておるよ。君がゲームにのみ情熱を捧ぐと言う事を」

「それは、信じて下さっても結構ですわ。さ、私達、研究がありますの」

 そして、私は三人の背を押した。
 ダモクレスが、ダンブルドアの部屋を出るなり、私を問い詰める。

「君は、僕を君の派閥に入れるつもりなのか!?」

「ダモクレス、そんな事をしなくても、とっくに周囲は貴方を私の側だと判断しているわ」

「僕は悪い事の手伝いはしないぞ!」

「悪い事かしら? 狼人間達を救う事が? 職を与え、暴走を防ぐ事が?」

 ダモクレスはぐっと黙った。

「心配しなくても、狼人間には自衛か私を守らせる時以外は、マグルとして扱うわよ。兵としては扱わない」

「本当だな?」

 疑わしげに、ダモクレスが言う。

「もちろん。ヴォルが私に危害を加えなければの話だけど」

 三人が沈黙した。

「怪獣大決戦かしら」

「何を言いたいか、わかる」

「全くだ」

 三人とも、失礼な人達だ。
 まあ、それ以外のホグワーツでの滞在では特にこれといった事はなかった。
 いつも通り、私とセブルスとダモクレスはそれぞれの研究に手いっぱいで、主にリリーが盾の呪文を込めた道具を生産して魔法省に売っていた。
 けど、このご時世なんだから職員鍛えて盾の呪文を覚えさせるぐらいしなさいよ。
 そうだ、闇の魔術の防衛術でボガートとも戦ったのだった。
 私の場合、私自身が出て来てしまい、自分を笑った姿にするのもなぁ、と戸惑った。
 結局どうにもできず、私は初めて、実技で悪い点数を取った。
 武装解除呪文と守護霊を作り出す呪文も自主的に勉強した。
 やはり、ハリー・ポッターは最強らしい。
 私は、守護霊を作り出せなかった。ただ、禍々しく光り輝くだけ。
 セブルスから、守護霊を作り出す呪文で禍々しい光は初めて見たと気味悪げに言われた。
 守護霊を生み出せなかったのは不満だが、どんな守護霊が出るのか、楽しみだ。
 そして私は、ホグワーツから戻る汽車へと乗っていた。
 夏休み中に、ゲームクリアが行われそうだと言うのを楽しみにして。




[21471] 二十二話 3年生、夏休み ゲームクリア 
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:21
「やった、90階をクリアしたぞ!」

「おめでとう、俺達! 凄いぞ、俺達!」

 喜びあい、手を叩きあうプレイヤー達。
 そこには、ミア1やヒースクリフ1、50階から同行が始まったテレサ1がいた。
 ミア1は、うっすらと微笑み、二本の剣を取り出した。

「どうした? ミア……」

 ミア1が、プレイヤーを次々と殺傷してくる。

「ちょ……バグ!? バグなのか!?」

「ミッション、5分間生き残れだぁ!? イベントか!」

「防御を固めろ!」

 激しい戦いの後、100人近くいたボス戦攻略チームの内、生き残ったのはたった12人だった。
 その一人に向かって、ミア1は笑う。

「あっははははははははは! ついに、ついにこの時が来たわ! 魔物を引きこんだのは私! 私なの。作っておいて危険だと封印しやがった奴らを殺して、私がこの城に君臨する為に! ヒースクリフ、よくぞこの階まで辿りついたわ。全てを滅ぼしたその後に、貴方を私の夫にしてあげる。そうして私達の子供に、私の魂を注入して、私は魔法の力と剣の力の両方を手に入れるのよ」

「させません! ヒースクリフは私が守ります!」

 ミア1の言葉に、テレサ1がヒースクリフ1を庇う。

「あら、テレサ。ヒースクリフが好きなの?」

 テレサは戸惑い、言った。

「こ、これは友情です。友情なんですから!」

「まあ、いいわ。どの道、こんな所でやられるような男は私には相応しくないもの」

 巨大な魔物が出現し、ミア1はそれに飛び乗った。
 プレイヤー達は、おぞましいそれにあからさまにビビった。
 そんな中、ヒースクリフ1が、ミア1に声を掛ける。

「待ってくれ! なら、妖精族の皆を殺したのは……嘘だろう、ミア! 嘘だと言ってくれ!」

「そうよ。まさか全員が出立するとは思わなかったけど……私の夫を選定する為に必要な事だったの。魔物の目を通してみていたわ。とても楽しかった!」

 哄笑するミア1に、ヒースクリフ1は涙をこぼす。

「そんな……嘘だ、嘘だ……嘘だ――――――!」

 ヒースクリフ1の叫びにニタリと笑って、魔物と共にミア1は去る。
 90階、攻略完了。
 ちょっと前のニュースに、私は目を細めた。
 この展開は、ちょっとした話題になっている。
 クリアが行われたら即、ファンタジック2を稼働する予定だ。
 その開発も既に終盤に入っているから、プレイヤー達との競争だった。
 私もまた、ファンタジック2稼働に向けて、せっせとナーヴギアを作った。
 狼人間の募集はホグワーツから帰ってきてすぐにしてある。
 新聞に広告も出したし、ダイアゴン横町にチラシも張った。いくら世間と隔絶しているであろう狼人間でも、わりとすぐに見つかるはずだ。
 作業をしていると、案の定、スティーブが私を呼びに来た。
 ガラの悪そうな男が、そこにいた。

「初めまして。私はミアよ。就職条件は読んである?」

「ナーヴギアの着用と、絶対服従だろう。本当に、それだけで、食堂が無料で利用できて金も貰えるのか?」

「ええ、そうよ。最初は掃除をお願いするわ。マグル式のやり方でね。それで、出来る事がある人から徐々に仕事を増やしてあげてもいい。ただ、私はヴォルと敵対する可能性もあるわ。そんな時、私を守りなさい。破壊衝動がある時は言って。ナーヴギア内でそれなりの環境を用意するから。条件は以上よ」

「わかった。嘘じゃない証拠に、前払いで金が欲しい」

「良いわ」

 私はスティーブにお金を持ってこさせ、狼人間に渡した。
 狼人間は、差し出されたガリオン金貨一枚に唾を飲み込む。

「そこには支度金も入っているから。実際の賃金は、ナーヴギア使用料と、寮の代金、食堂の料金が差し引かれて大分安くなるわ。明後日には働ける準備をして。いい? 仲間にも広めてもらえるともっといいわ」

「わ、わかった。住む所と食べる場所がありゃ十分だ」

 狼人間はスティーブに連れられ、手続きに向かう。
 手伝いに来ていたアンナが、眉を顰めた。

「本気ですか、ミア様? 狼人間を引っ張りこむなんて!」

「いいのよ、アンナ。ナーヴギアさえかぶせればこちらのものだから」

「ああ……。それもそうですね。さすがはミア様です」

 アンナは私にとろけるような視線を送った。最近、アンナは私に更に心酔してくるようになった。セブルスとぶつからないようにもなったし、良い傾向である。
 もちろん、セブルスも来ている。
セブルスは、昼はこちらで仕事や勉強をして、夜は家に帰っていた。
それに、たまに、首相家族と一緒に出かけているようだった。
順調にマグルに溶け込んで、喜ばしい限りだ。
 それから何十日かして、ようやくクリアの時は訪れた。

 最後に生き残ったプレイヤーが、渾身の力を込めてミア1を攻撃する。
 ようやく、ミア1のHPが0になった。
 ミア1は、足元からゆっくりと砕けていく。
 その時、ヒースクリフ1は気付いた。気付いてしまった。

「ミア……お前……自分が死ぬと、プログラムが消えるように設定しているのか……?」

 ミアは、何でもない事のように笑う。

「だって、なんのリスクも無しじゃつまらないじゃない。まあ、楽しかったわ」

「馬鹿な! そんな、それだけで……」

「何何、何なんだ?」

 何も知らず、戸惑うプレイヤー。
 テレサは、呆然として口元に手を当てた。
 ミア1が頭だけになった時。
 ヒースクリフ1は、とっさにミア1に口づける。見開かれる、ミア1の目。

「行かせない」

――ミア1にアクセス。消失の中止は不可能。
――ミア1をコピーします。

 しかし、ここでヒースクリフ1はミスを犯してしまう。ミアの消失プログラムまで取りこんでしまったのだ。一緒に消えていくヒースクリフ1。
 テレサがそこに介入した。

「消させません! ヒースクリフ1、貴方は私が絶対に守ると決めました!」

 ヒースクリフ1とテレサ1の努力はむなしく、それは犠牲者をまた一人増やしただけに過ぎなかった。
 そこに、一陣の風が訪れる。

――記憶が欲しいんじゃ、なかったのか。僕達の、もっとも大切な記憶を。

 セブルス1だった。彼は、諦めた、そして優しげな瞳で、三人を包んだ。
 ヒースクリフ1の脳裏に、この世で最も美しい人の笑顔が浮かんできた……。
 それを見て、ヒースクリフ1は満足しながら溶けあって消えて行った。
 そして……全てが終わった時、そこに立っていたのは、ミア一人だった。
 4つのプログラムが一つに交わった時、一番強く出たのがミア1だったのだ。
 ミア1は、泣いていた。
 心にあふれ出る温かさに泣いていた。

「ヒースクリフ……ならば、私は悪の女神ではなく、善の女神となるわ」

 そうして、ミア1は風に溶けて行ったのだった……。
 変質したミア1に興味はなかった。私はミア1を捨て置いた。
後に、それを酷く後悔する羽目になる。
とにかく、その私ですら想像も出来なかったエンドは、その後様々な憶測を呼んだ。
セブルス1はプレイヤーには見えなかったものの、ヒースクリフ1とテレサ1が身を犠牲にしてミア1を助けた事は話題に昇り続けた。
そして、プレイヤーは途方に暮れて先に進む。
最奥にあった扉は、プレイヤーが手を触れると重い音を立てて開き、奥の宝箱の中には鍵が。
その鍵は、一階の地下迷宮の奥にある扉のカギだった。
プレイヤーは仲間を集め、地下迷宮に突入する。そして、扉を開けると、もう一つの扉が立ち塞がる。
その扉は、外からしか開けられないと記されていた。
そして、ファンタジック2~フェアリィダンス~のオープニングと、ファンタジック1プレイヤーには無料で一か月のプレイの権利が与えられる事がアナウンスされる……。
そこまで見守って、私はナーヴギアを二つ、リリーの家に郵送した。
プレイヤー達は大分習熟していた。
そろそろ、虐殺の準備を開始しよう。
私はニコリと微笑むのだった。



[21471] 二十三話 3年生、夏休み2 オイルショック
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 20:21
「オイルショックと賃上げ要求のストライキ?」

「ミア女史、どうします? どうにかして下さい」

 スティーブの言葉に、私はため息をついた。
 私のいた時代はオイルの枯渇が始まっていた。画期的なオイル探知装置も開発され、大々的にオイル探しが始まった事も記憶に残っている。
 ナーヴギアの資金集めの為に、その手の研究を手伝った事があるので、多少の知識はあった。

「新たな技術をいくつか開放してもいいけど……石油企業にも命を狙われる事になりかねないわね。イギリスのみの技術として限定するか、オイルの新しい探知方法か、それの実験をする時に検知した新しい油田の場所の情報でも構わないかしら? ああそう、ストライキに関わった連中は首、根幹技術に関わっていた人間は私の眼の届かない所に旅行に行ってもらって。契約書にそう書いておいたし、不良品はいらないわ。こんな事が起きない為に、有能な者には報酬を与えたり、休日や育児体制を補強したり、給料については言うまでもなく、待遇に関してはかなり気を配ってきたつもりよ。それでも手を焼かせるようなら工場は全て日本に移して。あれはストライキを起こさない土地柄だし、こっちのマニュアルに素直に従ってくれるから」

 スティーブは目を丸くした。

「いつのまに、そんな事を……」

「で、どうするの?」

 私の言葉に、すぐさま科学者チームが招集され、アメリカのオイルメジャーとの会談の予定がセッティングされる。
 イギリスとしては、全ての選択肢を選びたいと言ってきたのだ。全く、貪欲な事だ。
 ついでに、ナーヴギアを使っている間の生命維持の為の医療機器についても開発を始める。
 それはすぐに新聞にすっぱ抜かれた。工場への対応も、ストライキを起こした技術者の怪しすぎる不審死と合わせて報道される。
 「ミア女史、その光と闇」と言う見出しの新聞は、イギリスの歴史に残る売り上げだった。
 そして、オイルメジャーとの会談である。

「ミア女史、格安でオイルを提供する代わりに、新たな石油探知方法と石油のありかを教えて頂けるそうで、ありがとうございます」

「待ちなさい。石油探知方法については教えるつもりはありませんわ。勝手に条件を拡大しないで下さる?」

「貴方の手に余るものかと思われますが……」

「あら。私を敵に回すおつもり? この私に向かって、石油のありかだけでは不十分だと?」

「そんなつもりはありません。ほんの少しの出来心でストライキブームに乗ってしまった技術者達のようになりたくはありませんからね。ただ、その技術を得られるのならあらゆる便宜を図ると言っているのです」

 ニコニコと、私とオイルメジャーの重役、リチャードは微笑みを交わし合う。

「イギリス国内でのみですが……オイル脱却の動きを起こしているのはご存知?」

「もちろん、知っていますとも。最も、ミア女史の仰る事が理解されるのに何十年掛かるか……」

「そうよ。その間、貴方達には変わる猶予が与えられるわ。だから、今後一切私の邪魔をしないでくれる?」

 研ぎ澄まされる空気に、スティーブが汗を流す。

「代償は、それですか? だとしたら、それはあまりにも大きすぎる」

「私がいなくても、どの道石油は100年もしない内になくなるでしょう。そして代わりの技術が開発されたはずよ。どの道、終わりのある商売だったのよ。心配しなくとも、代わりのエネルギー技術が生まれようと、安全に採取できる石油が無くなるまで使われ続けるでしょう。応用範囲が大きいもの。ああ、海中の石油は取っては駄目よ。事故が起きたらどうしようもなくなるから」

「……飲みましょう。しかし、ならば新エネルギー開発に一噛みさせて欲しいですね。100年後の為、新しい仕事が必要です。それに、事が公になれば株価が下がる。貴方の後押しが欲しい」

 私はそれに考えて考えて……頷いた。

「いいわ。ただし、絶対に私に敵対しては駄目よ」

「わかっています。敵対する時は、虎を殺す覚悟でやりますとも」

 私はそれに苦笑する。
 実を言うと、元から考えていた落とし所だ。
 予想よりも安くオイルの提供の約束もつけられた。
 少なくともイギリスに限り、オイルショックの余波は無くなるだろう。
 最後に、私は少し思いついたように言った。

「ついでだから、日本にも少し便宜を図ってもらえないかしら」

「おや、ミア女史は日本フリークなのを忘れていました。いいでしょう。日本にも便宜を図ります」

 私はそれに頷き、リチャードを送りだす。その後、スティーブは思わずへたり込んだ。

「スティーブ、それでもスパイ? 情けないわねぇ。ほら、研究の続きをするわよ」

「僕は研究畑なんですよ」

「じゃあ、これから良い所を見せるわけだ?」

「任せて下さい!」

 スティーブは元気を取り戻し、私達は研究へと戻ったのだった。
 そしてコミケである。
 コミケではヒースクリフとテレサの追悼祭が行われた。
 ファンタジック1のブースを見ても、ヒースクリフ1の消失に対するペーパーや新刊ばかりだ。
 ファンタジック2に関するものもある。
 良く間に合ったな……。

「殺されたお父さんの仇! うわぁぁぁぁぁ」

 男の子がナイフを持って突っ込んできた。
 護衛に連れてきた狼人間がいち早く素早くナイフを取り上げる。

「いい子ね。後でボーナスをあげる」

「これぐらい、お安いご用さ」

 狼人間がにやりと笑って言った。
 私は男の子に視線を投げかける。

「貴方のお父さんは、それなりに重要な部署にいる事を承知していたはずよ。待遇も良かった。はっきり言って、ストライキに参加したと聞いた時は失望したわ。重要な部署にいる人間が裏切ったらどうなるかなんて、嫌でもわかっていたはずなのにね。せめて、ストライキの前に事前交渉さえしていたら許してあげても良かったのだけれど。飼い主の手を噛む犬はいらないの」

 犬と言われ、男の子の顔が赤黒く染まる。男の子が走って殴りかかってきた所を、狼人間が殴り倒した。
 落ちる沈黙。
 その後、私は存分にコミケを楽しんだ。
 そして、急いで宿題を終わらせ、買い物を済ませて駅に向かう。
 列車の中で、リリーはセブルスを称えた。

「素晴らしい最後だったわ。私、感動しちゃった」

「あ、ああ……。あれは……。僕は、悲しい最後だと思う」

「そうね。セブ、落ち込んでいるの?」

「少し」

 セブルスがしょんぼりして言うと、リリーはその頭を撫でた。

「セブ、私、セブの事、素晴らしいと思うわ。盾の呪文を込めた道具だって、初めに作ったのはセブだし」

「ありがとう」

 セブルスは笑顔を見せ、リリーと共に話しこむ。
 私はそれを微笑ましく見つめた。
 そこにアンナがやってきて、私とアンナは新たな遺伝学の研究について話した。

「フィルチを捕まえる準備は、整っておりますわ」

「そうね。狼人間で思ったのだけれど、ヴォルの命だからじゃなくて、私の命だから私を守ってくれる、そんな人を増やそうかと思うわ。大変な事だけれど」

「素晴らしい事だと思いますわ、ミア様。ミア様なら簡単です」

「マグル相手ならね。相手が魔法使いとなるとねぇ……アンナ、手伝ってくれる?」

「光栄です!」
 
 楽しい時間は瞬く間に過ぎていき、あっという間にホグワーツに到着するのだった。



[21471] 二十四話 4年生、ホグワーツ~クリスマス スクイプ治療
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/05 21:43
「こ、こんな事をしてタダで済むと思っているのか!」

「私、忘却呪文を最近覚えたばかりなのよ。スクイプさん」

 私はニコリと笑い返し、縛りあげられたフィルチは顔を青ざめさせた。
 ダモクレスとリリー、セブルスは心配そうな目で私を見つめ、アンナは陶酔の目で私を見つめた。
 カートとルートもレギュラスも無理やりついてきている。
 私は機嫌よく歌いながら、緑色に発光する大鍋のスープを掻き混ぜた。

「哀れなスクイプ♪ 愚かなスクイプ♪ 貴方はここで死ぬでしょう♪」

 スクイプが、一層顔を蒼褪めさせて暴れた。

「そして生まれる♪ 輝かしい命♪ 貴方の全ては私の物♪」

「ねぇスクイプさん♪ 私と破れぬ誓いを結びなさい♪ 貴方は私に忠誠を誓い、私は貴方に魔力を授ける。簡単でしょう♪ 簡単でしょう♪ さもなくば……♪」

「決めて♪ 決めて♪ 今決めて♪ 今よ!」

 私は歌い終わり、カップの中に大鍋の中に入ったスープを注ぐ。
 そして、フィルチに腕を差し出した。

「こんな……事は、許されない!」

 セブルスが、仲介人として杖を手にした。

「貴方は魔力がいらないの?」

 フィルチの心が激しく揺れるのが手に取るようにわかった。
 縛られた縄を解くと、フィルチは恐る恐る手を差し出す。

「フィルチ、魔力と引き換えに、私に忠誠を誓う事を誓う?」

「誓おう。どうせそれしかないのだろう。レイドルグ! ただし、魔力を得られなかった暁にはお前は退学だ!」

 そして赤い光が私とフィルチの手を繋ぐ。
 私は微笑み、ゴブレットを差し出した、フィルチはそれを一息に飲む……。
 そして、私は杖を構えた。

「ジーンラクサス! 遺伝子よ、改変せよ!」

 青い光がフィルチを包む。途端、フィルチは苦しみ出した。リリーは急いで駆けよる。

「大丈夫なの!? ねえ、本当に大丈夫なの!?」

「落ち着きなさいよ、リリー。そこのベッドにフィルチを横たえなさい」

 一時間もすると、フィルチの苦しみは去ったようだった。まだまだ、改良の余地がありそうだ。
 フィルチが目を覚ますと、私は箒を地面に転がした。

「立って、フィルチ。アップと言うのよ」

 フィルチは、よろよろと立ち上がり、アップと言う。
 箒は勢いよく飛びあがり、フィルチの手を強かに打った。

「魔法力が……魔法力が!」

 フィルチは呆然と声を出す。

「貴方は休暇を貰って、オリバンダーの店に行く事が必要よ。それに、一年生の教科書を買う事も」

 フィルチは、涙を流し始めた。静かに、箒を抱きしめて泣き始める。
 
「父が魔法使いなら、これで魔法力を与えられるわ。実験は終わった。行きましょう」

「母が魔法使いの場合は?」

 セブルスの質問に、私は答える。

「その時はまた、別の薬と呪文が必要になるわ。もちろん、開発済みよ」

「凄い、凄いです、ミア様! さすがはミア様です」

「セブルス、脱狼薬の開発を急ごう」

 悔しそうにダモクレスが言うのが、心地よかった。
 その後、フィルチが張り切って呪文の練習を始めた為、フィルチがスクイプだった事と私がそれを癒した事は周知の事実となり、レティクスの手の物がインタビューに来たので快く答えてやる。
 その後、それは新聞に乗り、それでレティクスの新聞、「皇女の道化」は一躍有名となった。当然、私の所にも相談の手紙がどっと押し寄せる。
 その中に、有力者の息子がいたらしい。
 私は、放課後にスクイプ達の治療をする事を許された。
 治療費は、取らない。要求するのは、破れぬ誓いそれ一つである。
 それは、あまりにも高額な治療費だった。
 それでも魔法とは抗いがたい魅力があるものらしい。
 私は、週に一人の割合で、魔法使いの治療を行った。
 私が仲間集めを開始すると、レギュラスが入ってきた。
 どうみてもスパイだが、まあ良いだろう。
 マグルを中心に、私の派閥は大きくなっていった。
 これだけ多ければ、一人が狙われると言った事はないだろう。
 私はクリスマスのパーティに、彼らを誘う事を約束する。
 この頃、大学の通信教育を卒業した。
 さすがの私でも苦労したが、でもこれでファンタジック3の開発に専念できる。
 もちろん、呪文の練習も欠かさず行っている。
 つまらない事に、リリーとセブルスが守護霊を出せるようになった。
 お揃いの小鳥である。
 狩って食べたいわねと言ったら、全力で守護霊を保護された。そう簡単に信じないで欲しい。
 そして、私達はクリスマス休暇に、家に帰った。
 ナーヴギアの組み立て、技術の受け渡し、更なる遺伝学の研究。
 それらを行っていると、矢のように時間が過ぎていく。
 セブルスとアンナはそれを手伝いながら、勉強の日々だ。
 そして、クリスマスの日は早々に訪れた。
 大きな液晶画面に、表示されるファンタジック2の冒険の様子。
 誰でも遊べるように、中央に置いてある十のナーヴギア。
 そこに子供が並んでいるのを、ホグワーツの生徒達が可哀想な者を見る目に若干羨みが混じった目で見つめていた。
 まあ、危険性を知ってなお遊ぼうと言う気概は無いか。
 ここでファンタジック2の説明をしよう。
 ファンタジック2では、いくつもの部族にわかれている。
 ソードアートオンラインと違い、使えるのは魔法だけだ。
 ただし、妖精界には伝説があった。
 世界樹を伝ってアインクラッドへと行けば、上級妖精になって、新たなる力が手に入ると。
 それには、アルヴヘイムとアインクラッドの書物の両方を合わせなくてはいけないらしい。
 そして、我こそは上級妖精にならんと、各種部族が競ってアインクラッドへの道を競って開こうとしているのだ……。
 ちなみに、ファンタジック2では自分で種族を選べない。
 組分け帽子式で、ナーヴギアがその対象を選ぶ。
 そこまで考えて私は、セブルスが並んでいるのを見た。

「そういえば、ファンタジック1でも2でも僕自身が遊んだ事がないと思って」

「そう。そういえば、私もそうね。パーティの時間中、ちょっと一緒に冒険してみる?」

「私も行くわ、セブ」

 リリーが言い、ペチュニアが胸を張って案内してあげると言った。

「リリーとペチュニアじゃ、所属種族が違うじゃない。一緒に行動出来ないわ。残念だけど、リリーに案内してもらうわね。アンナ、貴方は体の護衛をお願い」

「はい、ミア様!」

 私は、アンナはファンタジック2で良く遊んでいたのを知っていたのだ。
 そして、私達はファンタジック2の世界に入り込む。
 シルフィードの一族だった。この一族は、風のように自由で、素早い。
 その代り力がないが、そこそこ使える一族だ。
 
「じゃあ、まず、空の飛び方を説明するわね……」

 リリーが言う。そして、しばらくして飛び方を覚えたセブルス共に、私達は美しい夜の妖精界を飛びまわった。
 リリーは、あまり外見を変えてはいなかった。
 シルフとしてのリリーの姿に、セブルスは目が釘付けである。
 その後、軽く魔物退治をして、食事にした。

「見て! セブ、ミア。ここの食事がおいしいの!」

 裏路地に入った小さな屋台。ここも確か、レアな店だ。
 私達は、いそいそと串焼きを買って食べた。

「味覚がより鋭敏になっているな」

 セブルスが驚いた顔で言う。

「そうね。スタッフも大分腕が上がったようね」

 私も軽く驚きながら、食事をする。肉汁がしみ出すこの感覚は、前の世界でも味わった事がないと言えば、どれほどの凄さかわかるだろうか。

「GM! 見てる?」

「はい、いかがなされました、ミア女史!」

「ここの串焼きをプログラミングしたのは誰? 素晴らしいわ」

「スティーブです、ミア女史」

 その言葉に、私は目を見開いた。彼は、今この瞬間、私の野望に必要不可欠な人物となった。
 ずっとこの世界にいる事になるのだから、食事の向上は必須だ。
 スティーブのコピーをぜひとりたいが、彼はイギリス政府のものだ。私に従わない可能性もある。大人の人格は適応力もないし、その辺りの調整にはかなり時間が掛かるだろうから、後回しにしようと私は決めた。
 十分に楽しんだ後、ナーヴギアから出る。
 その後でも、パーティを楽しむ時間は十分にあった。
 



[21471] 二十五話 4年生、ホグワーツ~夏休み 宣戦布告
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/06 11:55

 ジェームズが色気づいてきた。
 それに伴い、ますます悪戯等が激しくなってきた。
 一度間違って私にまで呪いをかけ、精液採取の刑にあったのは記憶に新しい事である。
 シリウス、ジェームズと純血の精液が手に入ったのは良い事である。
 ルーピンとピーターはいらん。
あれはセブルスがドン引きしていた。
 まったく、あの四人組の悪戯三昧にも困ったものである。
 それはそうと、私はファンタジック3のデータ作成に、研究に、仲間集めと、中々暇がない。
ダモクレスは来年卒業するので、イモリ試験の勉強が忙しく、研究も滞り気味だ。
 そういう事で、セブルスはアンナと共に私の研究を手伝ってくれていた。
 スクイプの治療以来、カートとルート、レギュラスもうろちょろするようになったので、仕事を手伝わせるのと同時に夏休みに遊びに来ないかと誘ってみる。
 ルートは喜んで、カートとレギュラスはいやいやと……しかし、目は輝いている……承諾した。
 そして、瞬く間に日は過ぎ、夏休みがやってきた。
 スティーブに命じてファンタジック1設定資料集を出す事にしたので、今度の夏休みはセブルスも忙しい。ふふふ、ざまあみろ。
 そうそう、「ミア女史の平穏なる日常」は私の手を離れ、いまだに連載している。既にアニメの声はプログラムに言わせるようにしているので、本当に手は掛からない。
 毒満載のアニメとなっており、私の功績だけでなく、私がやったと推測されている数々の悪事まで描かれている。
 まあ、私本人が見ていてもクスッと笑ってしまう良い出来となったからいいのだけれど。
「ミア女史の平穏なる日常」は、ぱくられたり著作権販売されたり、リメイクされたりして各国でやっている。
 私はベンツにセブルスとアンナ、カートとルート、レギュラスを招き入れる。
 研究所につくまでの間、三人は物珍しげにしていた。
 そして、研究所につくと、調整済みのナーヴギアを一人に一つずつ渡す。

「ファンタジック1でもファンタジック2でも、好きな所で遊んでなさいな。一通り遊べるよう、強いキャラのいるアカウントを貸してあげる。アンナとセブルスは仕事を手伝ってね。モニターしているから、わからない事があれば何でも聞いて」

「う、うん」

「ふん。マグルの作るものがどんなものか、見てやろうじゃないか」

「僕はファンタジック2がいいな」

 三人はナーヴギアを被る。
 その次の瞬間、三人は草原に降り立っていた。
 魔物に目を丸くする三人。杖を取り出して呪文を唱えるが、何も起こらない。

『馬鹿ね。ここはゲームの世界なのよ。外の呪文は使えないわ。ステータス画面と言ってみて』

「ステータス画面!」

『今光ったのが、攻撃呪文。セブルスの切り裂けと同じ。次が回復呪文。癒しの呪文と言った所ね。それに、補助呪文。素早さが上がるわ。さ、攻撃呪文の所を読んでみて』

「な、なんか変なのが現れたぞ」

『それで照準を合わせるの。丸の中に魔物を入れて』

 三人はしばらく戸惑っていたが、すぐに魔物退治の仕方を覚えた。
 夢中になって魔物を追ったり、飛ぶ練習をし始めた。
 私はそれをしばらく見守った後、仕事に移る。
 スティーブが三人の面倒を良く見てくれた。
 そこへ、ミア13から連絡が来る。

「ナーヴギアの工場で細工をしている連中がいるみたいよ」

「見せしめにして。細工されたナーヴギアは全てチェックしているわね?」

「もちろんよ」

 ストライキ事件から、こういう事が起こる事は予想出来ていた。
 こうなると、どちらが折れるかである。円満にするならば、最初から相手の要求にある程度応じてやった方がいいのだが、それではストライキは継続して起こる事になる。
 少なくとも、私の傘下ではストライキは許されない。それを苦労してでも刻み込みたかった。
 事実、ミア女史の関連企業でストライキをすると命が危ないらしいと言う黒い噂は瞬く間に広がり、ストライキは一部の意地になった者を除いて下火となっている。
 元からストライキは禁ずると契約書に書いてあったし、待遇自体はいいのだ。
 そして、その一部の意地になった者達は次々と消えて行った。
 そして相手はついに業を煮やしたようだ。しかし、私のナーヴギアに手を出すなら容赦はしない。彼らはきっと後悔する羽目になるだろう。
 作業がひと段落ついた頃、レギュラス達が戻ってきて食事になった。
 その後は、アンナとセブルスに自由時間を言い渡して、一人でスティーブの心をコピーして、改変作業をする。
 やはり、大人の人格は改変作業が難しい。
 なんとか自壊しないような人格を作ったが、オリジナルとまではいかない。
 ファンタジック3の開発もあるし、中々忙しい。
 良かった事としては、レギュラス、カート、ルートも魔法使いの視点から意見を言う事で、ゲーム開発に貢献してくれた。
 特に屋敷しもべ妖精の話は面白かった。
 私が屋敷しもべ妖精の話に耳を傾けると、レギュラスも喜んだ。
 ファンタジック3では、ソードアートオンラインにもユイがいた。お助け機能として、屋敷しもべ妖精ぐらい入れてやってもいいだろう。
 二月近くを皆で過ごし、コミケでレギュラス達にグッズを買い与えてやって、私の夏休みは終了だ。
 皆を帰すと、スティーブに呼ばれて二人で夜の街を歩いた。二人でと言ったが、もちろんSPはいる。

「ミア女史……も、もう15歳ですね」

「それがどうかしたのかしら?」

「いや、その……僕達、新しいステップを踏んでも、良いんじゃないかな、と」

 私は呆れた目でスティーブを見る。

「スティーブ、15歳はまだ子供よ。そういう事をするには適さないわ」

「キ、キスだけです。ミア女史のファーストキスの相手は、僕であって欲しいななんて」

 スティーブはそれきり、顔を赤くして下を向いてしまった。

「ふぅーん……」

 私はニヤニヤとスティーブを見つめ、そして……その唇に、軽く触れた。

「ミ、ミア女史!」

 スティーブが私をきつく抱きしめる。

「満足? じゃ、これで帰るわよ」

「は、はい!」

 スティーブは足取りも軽くなり、私はそれに苦笑する。
 それが、スティーブを見た最後となった。
 翌朝、スティーブは無残な姿で殺されていた。
 添えられたカードには「帝王より、愛をこめて」と一言だけ。
 知らせを受けて駆けこんできたセブルスは酷くショックを受けた。
 私は、いまだにスティーブの完全なコピーを作る事が出来ていなかった。
 
「ヴォルデモート……私の手駒に手を出したわね……許さないわ」

 私はにっこりとほほ笑んで、セブルスを従え、朝早くゴーント家に向かい、指輪を回収した。

「その指輪は何だ? 物凄く禍々しい呪いが掛かっている。危険だ、ミア」

「ちゃんと処分するからいいのよ」

 そして私は9と4分の3番線に向かう。
 ホグワーツ行きの列車には、何とか間に合った。
 ホグワーツにつくなり、私はダンブルドアの所に行って、余興があるので広い空間を作って欲しいと頼んだ。
 そして、組わけの儀式が行われる間に、急いで必要の部屋へと向かった。
 そして、目的のものを手に入れると、私はダンブルドアの所に戻った。
 用意は、整っていた。
 
「皆、聞いて欲しい! ヴォルデモートと私の休戦協定は破られた! ヴォルデモートは私の手駒、スティーブを壊した。ならば、それなりに報復を受けねばならない。私は! ヴォルデモートが泣くまで! 5つの分霊箱を破壊するのをやめない! セブルス・リングハーツ。悪霊の火を、ここへ。大丈夫、ダンブルドアがいるから、危険はないわ」

「何をしたいんだ、ミア!?」

「いいから、やれ」

 セブルスは渋々と悪霊の火を出す。蛇の炎。

「まず生贄に捧げられしは、これよ! ロウェナ・レイブンクローの髪飾り!」

 言って私はレイブンクローの髪飾りを投げ込む。
 恐ろしい悲鳴が響いた。
 事態についていけない子供達は、呆然とした顔で私を見つめ、あるいは分霊箱の悲鳴に背筋を凍らせていた。

「次は、これ……。死の秘宝が一つ、蘇りの石の嵌めこまれし、呪いの指輪!」

 私が思い切りよく悪霊の火に投げ込もうとした時、ダンブルドアが慌てて止めた。

「ミア! そ、それが蘇りの石とは、本当かね」

「恐ろしい呪いが掛かっていて、指にはめたら死ぬし、分霊箱にされているから、もう使い道なんてないわよ」

 私は肩を竦め、再度思い切り放り投げようとする。
 ダンブルドアは、悪霊の火を吹き消した。

「ミア! それでも、それでもわしに預からせてくれんかの。それを調べたい」

「そうね。でも、分霊箱を一つ壊したくらいじゃ私の気は収まらないの。グリンゴッツ銀行の、ベラトリックス家の金庫にある、ハッフルパフのカップと交換ならいいわ。私を敵に回した事、後悔させてあげたいの」

「ミア、君は誰を敵に回したか全く分かっておらん。しかし、ヴォルデモートもまた、誰を敵に回したかわかっておらんかったようじゃな。その知識、どこで得た? あと二つの分霊箱はどこじゃ?」

 私は肩を竦めた。

「それが、ヴォルが持っているのよね。まあ、全部丸ごと悪霊の火で焼きつくせば良いだけの事だけど」

 それを聞き、ダンブルドアはなるほど、なるほどと呟いた。
 
「ミア、君が今以上に凶暴になったら危険じゃ。ハッフルパフのカップは後で必ずや渡そう。じゃから、その指輪を預からせてくれんかの」

「あら。この指輪に魅入られないとお約束できます? ダンブルドア先生。この指輪は元からあった魔力とヴォルデモートの魔力でもってして先生を陥落せしめようとしますわ。分霊箱の魂だけを破壊する方法、先生はご存知?」

「出来るとも、それが蘇りの石を使う条件ならば」

 私は指輪を渡した。
 そして、私とヴォルデモートとの戦いの火ぶたは切って落とされた。
 レティクスの新聞で、それは大々的に報じられた。



[21471] 二十六話 5年生 愛
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/09/14 20:06
 クリスマス。お祝いムードのただ中を、私とセブルスはひた走っていた。

「やっぱりクリスマスはホグワーツにいるべきだったんだ」

「そして人狼達を見殺しにして、追われるのを夏休みに先延ばしにしようって? はっ」

 私に笑い飛ばされて、セブルスはぐっと黙る。
 しかし、私は確かにヴォルデモートとその配下を過小評価していたようだった。
 警備用AIのミア15が突破され、何人もの人狼が負傷した。
 私とセブルスもまた、こうして追われている。
 横合いから何かが飛び出して来て、私とセブルスは気を失った。
 次に気がつくと、私とセブルスは囚われていた。

「はぁい、ヴォル」

「ごきげんよう、ミア」

 死食い人達とヴォル。転がる死体。研究所。私はそれだけ確認して、ヴォルに微笑んだ。ヴォルのその瞳は油断なく私を見据えていた。

「贈り物が喜んでもらえなかったようで、残念だ」

「そうね。でも貴方だって分霊箱を壊されたら怒ったでしょう? 私は貴方が泣かない限り、手駒を壊す事をやめないわ」

「その状態で、まだ軽口をたたくか」

「私を殺しなさい、ヴォル。そうすれば、世界は貴方の敵になる」

「ミア!」

 セブルスが暴れる。
 
「そうしてやる!」

 ベラトリックスが吠えた。しかし、ヴォルは手振りだけでそれを止める。

「やめよ。恐らく、ミアの言っている事は真実だ。我が婚約者は、油断がならぬ。殺すよりも……」

 ヴォルがルシウスに目配せする。
 ルシウスが、薬を差し出した。愛の妙薬だ。

「愛。愛ね。貴方がそれに頼るとは驚きだわ。服従の呪文ではないの?」

「服従の呪文は恋人同士の間ではあまりにも無粋だ。そうは思わぬか?」

 そう言って、ヴォルは私の口にそれを流し込む。
 その瞬間から、私の胸に愛が満ち溢れた。
 私は、ヴォルを愛している。私のやり方で。

「ナーヴギアでやれる事を教えろ」

「ナーヴギアを使えば、私の王国が創れるのよ、愛しいヴォル。貴方も私の王国に来て欲しい。そうして私の王国を見て欲しいわ。お願い、ヴォル……」

「俺様にやったような洗脳もできるのか」

「簡単よ」

「記憶を読む事も? 俺様の記憶を読んだ?」

「必要な所しか読まなかったわ」

 ヴォルは嫌悪感に顔を歪ませる。

「俺様の為にそれをやるか?」

「ええ、いいわ」

「ならば、まずお前自身に俺様に逆らわぬよう細工しろ」

「自分自身に呪縛を掛ける事は出来ないわ。でも、ヴォル……貴方がナーヴギアをつけて、私の導きで私の頭に細工をする事ならできるわ」

 ヴォルは躊躇した。ベラトリックスがヴォルデモートを心配し、止める。

「ヴォル……私の王国に来なさいよ。今まで見た事のないものを見せてあげる……」

 そう……可愛がってあげる。
 私は愛情をたっぷり滲ませた声で囁いた。
 ヴォルデモートはしばらく悩んでいたが、頷いた。

「ナーヴギアを俺様に寄こせ。そしてミア、得体のしれないお前の全てを俺様に見せるのだ」

「私にナーヴギアを。ヴォル。嬉しい……」

 ヴォルは、ナーヴギアを被り、スイッチを入れた。
 ミアと同時にスイッチを入れる。

――ミアオリジナルの精神に異常を感知。
――ミア0に全権を委譲します。
――状況D,確認しました。……考えうる限り、最高の状況ね?

そして、ヴォルデモートは言った。

「ああ、それとセブルスにもナーヴギアを。ついでに洗脳してやる」

 ヴォルデモートは次の瞬間、目も見えず、体も動かず、耳も聞こえず、口も聞けない状態になっていた。そして、自分が自分であることを忘れていた。
 一方、セブルスはこじんまりとした家に放り出されて呆然としていた。

「ここは……」

 セブルスが周囲を見回すと、聖母の笑みをしたミアが、赤子を抱いていた。
 ミアとすぐにわかったが、顔立ちは東洋的なものに、体は大人の物に変わっていた。

「貴方……。どうしたの?」

「貴方? どういう事だ」

 そこに、別のミアからの声が頭に響く。

「そこは楽園で牢獄よ。今、最高速で時間を加速しているわ。ここでヴォルと家族ごっこをやろうってわけ。目覚めた時に、ヴォルもまた私を愛してくれるように。ああ、オリジナル! 私に感謝して! 偽物の愛とはいえ、愛する人との愛を成就させようと言うのだから。あははははははは! セブルス、精々殺されない為に良い父親としてヴォルを可愛がるのね!」

「どういう事だ!」

 声は途絶え、二度と聞こえる事はなかった。目の前のミアに聞いても、訝しげにするばかりで、必要な事以外何も認識できないようだった。
 最初は抵抗していたセブルスだったが、数年で脱出を諦め、ミアに従った。
 そして、強制的に子育てが始まった。
 元が大人の頭脳だから、ヴォルの成長は早かった。
 ミアオリジナルの盲目的な愛をそそがれ、すくすくとヴォルは育つ。
 
「ヴォル……可愛い子」

 十分に育った頃、ミアが、ヴォルを押し倒す。

「母様!」

 記憶を持たぬヴォルは、母しか女を知らぬいたいけな少年は、母の暴挙に絶望と期待に声をあげ、セブルスは、それに対して何も出来なかった。
 歪んだ生活は、ある日唐突に終わりを告げる。
 ベラトリックスが、ナーヴギアを強制的に外したのだ。

「大丈夫ですか、帝王様!」

 途端、蘇る記憶。赤ちゃんの頃の記憶、セブルスの膝で遊んだ事、母(ミア)との情事……。

「ああああぁぁぁぁぁあああああ! ミア! セブルス!」

 叫んで、ヴォルデモートは二人にアバダ・ケダブラを掛けた。
 瞳から、涙が滴り落ちる。これは、自分の感情ではない、これは……。
 どこからともなく、笑い声が聞こえた。

「あっははは! 泣いた! 泣いた! ヴォルが泣いた! 想像以上に効いたわね!」

「ミア!」

 そしてヴォルデモートは気付き、ぞっとする。ここはまだ、ナーヴギアの中だ!

「ヴォル! 愛を知らない貴方に、愛を教えてあげるわ。犯罪を犯しても、愛を知らないから仕方ないなんて思われるのは真っ平でしょう? だから、親子愛を恋人愛を夫婦愛を姉弟愛を、教えてあげる! 私とセブルス、それにスティーブ主演でね! 何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも……教えてあげる! あ、体の事は心配しないで。もう死食い人を解散させて、ナーヴギアをさせたまま生活させてるから。ナーヴギアって、操作の遮断だけじゃなくて操作もできるのよ。さすがに魔法までは使えさせられなかったけどね! 魔法使いを捕えてアダブケダブラの反対呪文の研究をしようと思っていたのに、ざーんねん!」

 諦めた目で、セブルスは視線を落とした。
 後日、ヴォルデモートとミアの和解はなったと発表された。
 五年生としての残りの生活、ミアは真実闇の皇女として過ごしたのだった。



[21471] 二十七話 5年生 夏休み ゲームスタート
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/09/19 09:58
 私は、深呼吸をした。さすがの私でも緊張する。
 ファンタジック3のオープニングと同時期に、全てのソフトで同時にイベントをやると告知した。ちなみに、ナーヴギアによるソフトは私の研究所しか開発していない。
 セブルスはナーヴギアに恐怖心を持ってしまったらしく、リリーやペチュニアにもうナーヴギアをやるなとか余計な事を言った挙句今回は見学するらしいが、まあついていてくれる事はついていてくれている。
 ヴォルも同じく、見学に来ていてくれていた。
 私はナーヴギアを嵌める。
 同時に、ネットワークに繋がった、全ての私の手が入ったパソコン、テレビがファンタジック3のオープニングを映し出していた。
 もちろん、全てのナーヴギアの使用者が、ファンタジック3に移動されている。
 まず、全員のログアウト機能をオフ。
 ドレスを着て大写しになった私は、微笑んで言った。

「集まってくださった皆様も、意図せずここにおられる皆様も、ごきげんよう。開発者のミアですわ。初めにこれを御覧になっている外の皆様にお知らせがありますの。ご自分のナーヴギアが外される、ゲーム内で死ぬ、私のナーヴギアを外す、私が死ぬ、ゲームオーバーが発生する、このどれかの条件でナーヴギアに隠されている装置が作動し、皆様は死にますわ。ナーヴギアの複製品が死亡事故を起こした件はご存知ですか? あれと同じ事が起きますの」

 ざわざわと人々はざわめく。まさか、そんな。嘘だろう。でも、ミア女史だぜ?
 それは、徐々に恐怖の呻き、叫びへと変わった。

「皆様が助かる方法はただ一つ!」

 叫びを切り裂くように張り上げた声に、シン、と一瞬の静寂。

「このゲームをクリアする事。もちろん、人は何も食べなければ死にます。我が研究所では、全員分の救護装置を各国の息のかかった病院に配置していますわ。ナビゲートはナーヴギア自身がします。今こうしている間にも、皆さんの体は勝手に動き、病院で手続きを行い、入院する作業に入っているはずです。そして、入院費は私が全て持ちます。無事入院が完了した人から通知が届きます……ええ、そうよ。ゲームの中に王国を立てると言うのは、こういう事。長かったわ……。ついに私の夢が叶った……。さいっこうの気分よ! あっははははははは。あら失礼。それでは皆様、ごきげんよう。私の元に辿りつく日を待っておりますわ」





 研究室。セブルス・リングハーツは、呆然とした面持ちでモニタを見つめていた。
 今、彼女は何と言っただろうか。そんな恐ろしい事……ミアは、やる。
 セブルスは、諦めのため息をついた。ミアは随分と、遠い所に行ってしまったと。
 彼女はこの後警察に捕まって死刑判決を受ける事だろう。
 
「母の言う王国とはこれの事か! 何万のマグルをその手で消す……。それを、愛を知ってなお、やろうというのか!?」

 ヴォルデモートはナーヴギアを使われた後の会話を思い出した。

『俺様にマグルを殺すなというのか。そして、家族ごっこをしようと……』

『冗談でしょう? 愛しい坊や。貴方は貴方で楽しみなさいよ。私は私で楽しむわ』

 そう言った時の、あの母の顔!
 ヴォルデモートはぶるっと身震いした。それが恐怖なのか、武者ぶるいなのかヴォルデモートにはわからなかった。
 ただ、口元にはセブルスを怯えさせるほどの笑みを浮かべていた。
 そのまま何事もなければ、セブルスは心を痛めながらも見守るだけだっただろう。
 しかし、絶望の知らせがセブルスの元へ届いた。

「リングハーツくん! 君のお兄さんとお友達もファンタジック3のイベントに参加したそうだ! 私の……私の娘も……」

 研究員が言った。それを聞き、セブルスの思考が止まった。

「お友達って……」

 掠れた声。それに、研究員は答える。

「リリーちゃんとペチュニアちゃんだ」

 リリー!
 セブルスの目は見開かれ、画面に齧りついた。
 プレイヤー達の中に、確かに愛しい人を見つける。
 セブルスは、ナーヴギアを引っ掴んだ。

「駄目だ! 君が行ってなんになる!?」

 セブルスは唇を噛む。そして、パソコンに飛びついた。

「セブルスくん、何を……」

「セブルスシリーズ! お願いだ、リリーを助けてくれ」

――最上位コマンド、認識しました。
――セブルスシリーズ、全起動。

 そして、画面に何人ものセブルスが現れる。

『面白い事を始めるみたいね。でも駄目。オリジナルの邪魔はさせないわ』

――ミアシリーズ、全起動。

 ここでミアはミスをしていた。
 当然、セブルスシリーズの最上位命令はミア・オリジナルのはずだった。
 だが、愛の奇跡か、セブルスシリーズは全員リリーを最上位に再設定していた。
 それをミアが知るわけはない。知らないから、セブルスシリーズにはミアシリーズと同じだけの権限を与えていた。
 さらに、セブルスシリーズは援軍を呼ぶ。

『スティーブ、ミアを大量殺人者にするのか?』

 そしてセブルスシリーズは、スティーブシリーズの枷を外して行く。最上位設定を、自らの思いのままに、と。

『僕が忠誠を誓うのは、イギリスだ。ミア女史、例え貴方の為であろうと、イギリスの民を殺させるわけにはいかない』

 電子的な戦いが始まった。
 セブルス0が、セブルスに囁く。

『行け、行くんだ。リリーを……僕達の最愛の人を救いに』

 セブルスは、今度こそナーヴギアを掴んだ。
 ダイヴ・イン。
 気がつくと、セブルスは小さな研究室らしき場所にいた。
 それは、全く違うのに何故かファンタジック1の研究室を彷彿とさせた。
 嫌な予感をビシビシ感じながら、セブルスは部屋を出た。
 マップの呼び出しと共に聞こえる声。

『あら、来たの? そうね、リリーが来ているものね。その勇気に免じて、GMコマンドはそのままにしてあげる。貴方のそのちっぽけな力で、小さなライオンさんを守れるのかやってみるのね』

『ミア! 皆の心をコピーして、それで遊べばいいだろう。頼むから、虐殺なんてやめてくれ』

『あははっいやーよ。私はここに君臨する。今から貴方達は私を楽しませる為だけに存在するのよ。あはははははははは……!』

 そしてミアは行ってしまう。セブルスは唇を噛みしめ、急いで広場へと向かった。
 人込みをかき分け掻き分け、リリーを探す。
 この時ばかりは、ペチュニアの癇癪に感謝した。
 暴言をけたたましく吐き立てるペチュニアはすぐに見つかった。
 そして、ペチュニアを慰めようとするリリーも。

「リリー! どうしてここへ来た! 絶対にナーヴギアを使ってはいけないと言ったのに!」

「セブ……! 今のは本当なの? どうすればいいの!?」

「セブルス!」

 そこへ、セブルスの兄のアレンがやってくる。

「セブルス! 君はミア女史の親友なんだろう? どうにか出来ないか?」

 その言葉に、人々がセブルスの方を振り向いた。

「必ず助ける。今は信じて、この町の情報を集めて欲しい。絶対に危険な事はしちゃ駄目だ。ミアはやると言ったらどんな残酷な事でも必ずやる。君がゲーム内で死ねば、それは君の現実世界の死を意味する。僕は裁判でナーヴギアで死んだ人を見たけど、酷かったよ。だから、僕が戻ってくるまで、町の外へは行かないで。町のマップをざっと見たけど、危険な罠は無いみたいだ。兄さん、リリーの事、お願いしても……」

「わかった。お姫様の護衛は任された。セブルスも危険な真似は絶対にするなよ」

「おい、どうなんだ」

「助けて! 助けてよ。子供がいるのよ」

「神様……」

 詰め寄る人々に、セブルスは大声を出す。

「皆さんを救う為、早急に策を考えます! 必ず助けます! お願いですから、絶対に町の外に出ないでください。どんな機能があるか、ゲームクリアとは何か情報を集めて下さい。それと、ファンタジック1、ファンタジック2の経験者のリストアップを! じゃあ、リリー。僕は行く。必ず戻ってくる」

 セブルスは外へ出る。
 ナーヴギアを自分で外すと、ため息が漏れた。

「セブルスくんが戻れるなら、他の人も……」

「それは無理だよ。戦いはどうなった?」

 セブルスが聞くと、セブルス0とスティーブ0、ミア1がそこにいた。

『ミア0は眠っているわ。あの子はオリジナルに不備があったときしか現れない』

「じゃあ、僕達の勝ちだ。何か、僕達に出来る事は?」

 セブルスの質問に、ミア1は迷った様子で答えた。

「……データ移行が出来るわ。アカウントのレベルデータを移動するのよ。時間を早める事も出来る。でも、クリアが必要なのは変わらないし、向こうもそれ位は読んでいると思うわ」

 セブルスは唇を噛む。そして、研究員達に頭を下げた。

「何とか、介入できるよう操作をお願いします。後、使われなかったナーヴギアを全て回収して下さい。父さんに言って、特殊部隊の投入をしてもらいます。ゲームクリアには、反射神経と頭脳の両方を鍛えられた人間が必要でしょうから」

「あ……ああ。そうだ! 娘を救う為に、やってやる!」

 研究員達は、ようやく動き出す。
 ナーヴギアの使用者、その数9万9747。
 世界は恐怖に恐れ慄くのだった。



[21471] 二十八話 5年生 夏休み ジェームズ、参戦
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/09/19 23:30

 リングハーツ首相は即座に非常事態宣言を出した。
 自分の息子が巻き込まれたと知った時は驚愕したし、一時混乱しかけたが、セブルスの特殊部隊を投入して欲しいと言うおねだりと、得体の知れなかったミアの真の目的を知ってある意味安堵したと言うのが大きかった。
 わけのわからない生き物と対峙するよりは、猛獣と知っていた方がまだ対策の立てようがあるという首相の心理である。
 そして、退治すべき猛獣と知っているならば、首相には頼もしい部下がいる。
 対策会議は、即座に開かれた。

「それで、今の所自由に出入りできるのは我が息子セブルス一人、これは今後も増える余地が無いと言う事だね?」

「その通りです、首相。ミア女史……いえ、ミアは、セブルスくんにのみ気を許していました。ミア女史を除いては、彼だけがナーヴギアに対する高い権限を持っているのです。ナーヴギアを直接コントロールできる権限と言いますか、これがないと現時点でのログアウトは不可能です」

 研究員の言葉に、首相は目を瞑る。

「他の人をログアウト出来る権限はないのかね?」

「セブルスくん」

「BAN機能は使えなかった。権限は与えられていても、僕はナーヴギアがどこまでできるとか、操作とかやった事はないから、難しいと思う。試行錯誤しているあいだに、ミアに見つかったらどうなるか……」

「何故確かめなかった?」

 セブルスは下を向く。

「他人の体や心を操作するのは、やってはいけない事だ。僕は怖かった」

 その言葉に、首相は掠れた声で聞く。

「そんな事が出来たのかね? 心を操作?」

「脳を使って出来るあらゆることをナーヴギアは可能とする」

「何故言わなかった! そんな、そんな重要な事を! あれには私の息子も参加しているんだ」

 セブルスの言葉に、国防大臣が叫んだ。首相は、静かな声で言う。

「私達皆が、ミアの心の闇に気付いていた。気付いていながら、放置してしまったんだ。彼女の偉大さゆえに。ナーヴギアの裁判を覚えているかね? ナーヴギアの偽物は、実は正常な機能を果たしていたわけだ。そして、心の奥底で、私達はそれを……死亡事故が故意だと言う事を知っていた。違うかね?」

 国防大臣は唇を噛んだ。

「冷静さを失っていたようです、申し訳ありません。そう、確かに私は、息子を止めるべきだった」

「私達皆が、あの化け物を世に解き放つと言うミスを行ってしまった。それは疑うべくもないと思う。だから私達は、その責任を取らねばならない」

 面々が頷く。

「それで、救出任務は一体どのような?」

 国防大臣がした質問に、研究員が資料を配った。

「2チームに分かれて行います。片方はハックを行い、全プレイヤーを救うと言うもので、私がリーダーを務めます。ミアの残した、信用できるAI……ほとんどが既に、ミアのAIと戦って戦死していますが……彼らの力を借りてハックを行います。ただ、正直に言ってあのミアに勝てるとは思えません。もう片方は……セブルスくんの提唱する、ゲームクリアによる脱出です。こちらは、かなりのプレイヤーの犠牲が見込まれます。現在生産されているナーヴギアは全部で10万台。残りの253台を全て回収し、兵士を投入し、ゲーム攻略を目指します。この先、どんな難問が控えているかわかりませんから、とりあえず100人程のチームを投入する事になります。ただ、ここで一つ問題が」

「旧アカウント使用には、少なくともそのアカウントを一度使った事のある者が必要、か……」

「父さん。残ったナーヴギアだけど、初期のナーヴギアが多いんだ。つまり……ファンタジック1、テストプレイ時に配られたナーヴギア。あれの持ち主は忙しい要人が多いから……それで、ダイヴ・インしなかった人が多かったんだと思う。そして、あのナーヴギアは使いまわされていた。音楽家に、軍人に、学者に……」

「国連軍、再びか! 良いアイデアだ」

 首相が叫ぶ。
 
「もちろん、命がけの戦いになると思う。兵士の人には悪いけど……」

「各国に打診してみよう。旧アカウントを使う方法は?」

「研究所でアカウントを確認して、僕が不正操作して旧アカウントか新アカウントかの選択肢を提示する。互いが協力しないと無理だ」

「わかった。両作戦をすぐに進めよう。今ので思いついたが、10万人のプレイヤーの中にイギリスの軍人がいないか確認してくれ。ファンタジック旧シリーズ経験者だとなおいい。彼らを斥候に出して、どのような者を送るか対策を練ろう。酷なようだが、その間にこの作戦に参加する兵士達に家族への面会をさせてやる事が出来る」

 イギリスは各国に作戦を説明。各国はむしろ協力を求めると言うその案に安堵した。
 自国の国民を救いたいと言うのは、皆共通の意思だったからだ。
 ちなみに、ファンタジックでは精巧な翻訳装置が付いているので、殆ど会話に苦労する事はない。
 各国は、研究チームを派遣する事もまた、望んだ。
 イギリスはそれを受け入れ、イギリスに世界の頭脳と有能な軍人が集結する。
 ミア女史の解析が始まった。
 会議が終わると同時に、セブルスは梟を使い、手紙を出した。
 魔法大臣、アーサー、ジェームズ達、ルシウスに。内容はもちろん、事態の説明とナーヴギアを返してほしいと言う懇願である。
 梟を飛ばすと、ジェームズ達は皆快くナーヴギアを返してくれた。
 一刻もそんな危険な物を手放したいと言った風情である。
 そして、ジェームズ達はナーヴギアを持って、息せききってやってきた。
 出迎えたセブルスを、ジェームスは殴る。

「何故リリーを守れなかった!」

「ナーヴギアを使わない様には言ってあった……。それに、必ず助ける。だから、ナーヴギアを返してくれ」

「僕はこの手でリリーを助ける」

 セブルスはその時、ようやくジェームズがリリーを好きだと知った。セブルスもリリーも忙しくて、外に目を向けている暇など無かったから、気付かなかった。
 セブルスは、こんな時だというのに緊張した。

「ジェームズ、君はマグルの世界ではただの子供でしかない。僕と大人達に任せてくれ、優秀なスタッフも……」

「それで、君が僕の立場なら任せたって言うのか? 僕は、テストプレイをクリアしてる。そのアカウントは、僕しか使えない。そうだろう?」

 セブルスは迷った。しかし、それもわずかな間だった。監禁前なら、ムキになって断ったろう。しかし、今優先すべきはリリーの命である。そう考える冷静さがセブルスにはあった。

「……来い」

ジェームズとシリウス、ルーピンは黙って入ってくる。ピーターが怯えたように周囲を見回しながら入ってきた。

「……ルーピンはホグワーツを出てきていいのか?」

「……知ってたのか。ダンブルドア先生には許可を取ってあるよ。ナーヴギアを被ってしまえば、もう関係ないし」

 セブルスは、ルーピンの事についてはあの長すぎる監禁で聞いていた。
 といっても、ミアに大変な事をされた4人に追い打ちを掛けるつもりはなかった。

 研究員は、難しい顔をした。

「確かにアカウントは持っているが、子供に危険な真似をさせるわけには……」

「そ、そうだよね。僕達、まだ子供だし」

「ピーター、怖いならこの場に残っていろよ」

 シリウスの言葉に、ピーターはおろおろとしたあげく、結局僕も行くよと呟いたのだった。
 セブルスはナーヴギアを被り、準備を整える。

「待ちなさい!」

 制止する研究員。それに構わず、ジェームズ達はナーヴギアを被った。
 ジェームズ達の前に現れる選択肢。
 新アカウントか、旧アカウントか。
 ジェームズ達は迷わず、見慣れたアカウントを得る。
 広場へ行くと、座り込んでいたリリーが目を丸くした。

「ジェームズ! ここがどんな状況か知らないの!?」

「知っている。君を助けに来たんだ」

「ジェームズ……それにシリウス、ルーピン、ピーターも。なんて馬鹿な事を……!」

 リリーの瞳から涙が零れおちて、ジェームズはうろたえた。

「僕は、君を助けたくて……」

「だから馬鹿な事なのよ!」

 ペチュニアが、けたたましく叫んだ。

「もしかして、貴方助けに来たの!?」

 その言葉に、広場の人達が、ざっとジェームズ達に振りむいた。
 機先を制するように、セブルスがやってきた。

「彼らはリリーの友達だ。ただし、旧アカウントデータを持ってきているから、初めから少し強い。救助隊は今編成してる。政府の救出案を聞く人は?」

 人々が詰めかけて、セブルスを取り囲む。それをアレンが制止した。
 アレンは既に、何人かのSPを引き連れていた。

「皆、落ち着いてください! ここには、多くの要人がいます。研究者の娘、国防省大臣の息子、そして首相の息子の僕。救出が来ない事はありえません。どうかイギリス政府を信じて下さい」

「兄さん、ありがとう。救出チームは二つあって、両方とも各国から選び抜かれた人達が参加する。一つはシステム的な突破を試みるチームで、一つはゲームクリアを目指すチームだ。それと、軍人のプレイヤーがいたら力を貸してほしい。ファンタジック前シリーズ経験者だとなお良い。斥候を放って、誰を送るべきかの情報を得る足掛かりにしたいんだ」

「皆をケアする為の心理学者も必要だね。ファンタジック1で必要だった専門家でこちらにいるプレイヤーのリストアップはすませた。これがそれだ。それと、皆から家族への手紙も。大分紙が高騰してしまったけど、仕方のない処置だった。これから精鋭チームを組んで、町周りの探索をしようと思う。僕なりに頑張って押しとどめてきたけれど、もうそろそろ限界だ。最初に得た所持金も、食事や紙を買う為の消費でじりじり減っていってる」

 セブルスはそれを受け取り、頷いた。
 
「手紙の文書データぐらいだったら、何とか外に持ち出せると思う。ありがとう、兄さん」

「掛かっているのは世界各国の10万人の命だからね。僕も父さんのように、首相を目指してる。10万人を纏められずして、イギリス全国民を纏められるとは思えないよ。最も、幸いと言うべきか、ライバルは他にもいるみたいだけどね。実は、こんなに早く纏められたのは協力者がいるからなんだ」

 アレンが見た方向には、演説している人がいた。それも、一人ではない。
 それぞれの人物に、決して少なくはない聴衆がついている。
 その人物達も、セブルスに気付いて寄ってくる。
 アレンは親しげに歩み寄り、セブルスの事を説明した。
 要人達も、セブルスに紙を渡してくる。

「大変な事になったね。ミア女史は犯罪史に名を残すだろう」

 難しい顔でいう要人に、セブルスは頷いた。

「いずれ、何か大きな事を成すだろうと思っていました。でも僕は、止められなかった」

「誰も止められはしなかったさ。彼女はまだ子供だが、そこがまた恐ろしい。大人ならブレーキを掛けてしまう事でも、子供はなんのきなしにやってしまう事があるからね。彼女にとっては、これは遊びにすぎないのだろう」

「ミアは本気です。本気で、ゲームの中に自分の王国を作る為に、これを成す為に様々な事を成してきました」

「なんとしても、止めねばならない。友達とは戦えるね」

 セブルスの肩を、要人が叩く。
 
「僕のコピーをしたAIは、ミアのAIを倒して消滅しました。僕も、相討ちぐらいまでには持って行きます……。リリーの為に」

「男は愛する女の為にならどこまでも強くなれるものだ、それを期待しよう」

 そして、セブルスはログアウトした。
 ログアウトすると、研究所はセブルスから送られた大量のデータの分析に大わらわになっていた。

「セブルスくん! 戻ってきたか。これは、プレイヤー達からのメッセージだね? すぐによりわけて、送信しよう」

「お願いします。それと、向こうで斥候を出してみるそうです」

「わかった。ゴーサインを出してくれ。そちらの斥候を送っている間、時間を加速。それと、お友達を入れた事、この騒動が終わったらしっかりお説教すると首相が言っていたよ」

「覚悟の上です」

 セブルスは、笑う。首相がセブルスを叱るなど、今まで無かった事だからだ。こんな事になっても、首相もアレンもセブルスを責めなかった。今、セブルス達は真の家族になろうとしていた。

「それと、プレイヤーのご家族からの手紙……送れるかい?」

 セブルスは難しい顔をした。
 手紙データの書き換えで、手紙を届ける事は出来るだろう。
 しかし、手紙の内容を書き換える事は不正操作にあたる。
 それを、ミアが許すかどうか……。

「戦ってみます」

 セブルスは言って、再度ダイヴ・インをした。



[21471] 二十九話 5年生 大移動
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/09/20 20:13
 セブルスの懸念は幸いにも外れ、手紙データを無事に届ける事に成功する。
 人々はあるいは喜びに沸き、あるいは涙にぬれた。
 セブルスは、早速時間を加速する。
 それに伴い、軍人達は戦いの準備を始める。

「この町の全てを探索した結果、装備品らしきものを売っている所を何箇所か発見した」

 アレンはセブルスに町を案内しながら、少し不安そうに聞いた。

「装備品にいろんな物があってね。セブルスなら何かわかると思って」

 セブルスは、装備品を見ながら、GM用のマニュアルを引っ張り出す。
 
「育て方によって、大分変るんだ。えっと……パラメーターは見れる?」

「ああ、装備品の全てに必要パラメーターが付随しているのも確認している」

「大別して、戦士、魔法使い、僧侶、獣人、盗賊、錬金術師、鍛冶師、料理人、音楽家の要素に別れているみたいだ。戦士は武器で戦って、魔法使いは攻撃呪文、僧侶は傷の治癒、獣人は魔物への変身、盗賊はトラップの解除をしたり、魔物から身を隠したりする技が使える。錬金術師は様々な効力を持った薬を作れる。鍛冶士は装備品、料理人はそのまま料理」

 アレンは難しい顔をした。

「魔法使いは呪文の詠唱がネックだな」

「うん、呪文は覚えないといけないし、高度な物ほど長くなる」

「しかし、錬金術師や鍛冶師、料理人、音楽家なら一般人の力も借りられそうだ。ファンタジック1は鍛冶や料理、音楽が出来ないと先に進めない所があったらしいからね。同じ装備で揃えると物価が高騰するしね……。成長に選択肢があるのは却って良いことかもしれない。それに、もう一つ気がかりがある。ファンタジック1では、ヒースクリフが死ぬとゲームオーバーが起きた。そして、この町の情報を集めた所、圧政を敷くミア女帝に対し、セブルス皇子がクーデターを企んでいるとの噂を聞いた。恐らくこれも……」

 セブルスは厳しい顔をして、サーチする。いた。セブルスシリーズ20が、この体の中に眠っているのを感じる。そしてさらにその中の、危険な香りのするスイッチを。

「兄さんの言う通りだと思う。あまりに危険過ぎて、下手に触れない」

「やっぱりか……。他に何か注意すべき事はあるか?」

「物価が高騰したという事は、ファンタジック2とシステムが同じだと思う。同じ場所で買い物を繰り返せば次第に高騰していく。ましてや、こんな小さな町に10万人だ。早く次の町を見つけた方がいいと思う。一階部のマップを今地面に描いて行くから、覚えて欲しい」

「手に入るのかい!?」

「出来うるかぎりのマップは引きずり出して見せる」

「よし! 各代表者を選んで早速会議だ」

 そしてセブルスは砂地に地図を描いて行く。砂地に描いた文字は10分で消えてしまうから、皆真剣に覚えた。

「よし、ロシアチームはこの町に向かう」

「イタリアチームはこの町だ」

「アメリカチームはこっちの町に向かう」

 そこに、戦士の格好をした男と店で売っている旅人の服を装備した女がやってきた。

「俺達は一般人だけど、ファンタジック1をクリアしてる。仲間に入れてくれ!」

「私のチームもファンタジック2の廃人プレイヤーばかりです。それに私達、元々病院に不治の病で入院しているんです。人の役に立てるなら、これほど嬉しい事はありません。どうか使って下さい」

「それはそれは心強い。ぜひ、協力をお願いします」

 そして、軍人達は行軍を開始した。
 ナイフで、あるいは剣で、兵士達、あるいは旧ファンタジックプレイヤー達はスライムや兎を倒して行く。各国軍が他の町を探索し、旧ファンタジックプレイヤーが初めの町近辺で全くの初心者を守りながら狩をする事になる。ジェームズ達は、レベル上げの手伝いをする事になった。

「慎重に行動すれば一般市民でもここでの狩は出来るかな。ここの魔物は相当弱い。ありがたい事に、食料も落としてくれる」

「ミア女史も、そこまで鬼畜ではなかったらしい」

「町が見えてきたな」

 ほぅ、と安堵のため息をつくイギリスチーム。
 その頃、アメリカ、ロシア、イタリア、ドイツ、日本もそれぞれ目的地に着いていた。
 
「HPが大分減っていた所だったから、助かったな」

 そしてすぐに散開する。この店では、魔道書を売っている事を発見した。

「魔法使い系の装備と言い、食事と言い、紙と言い、始まりの町より大分恵まれた町だな」

 そこで、全体チャットから連絡が来る。ファンタジック経験者からだ。

『食料品の高騰が続いています。この町の規模では、私達の経験によると本来五千人しか収容キャパシティがありません。危険ですが、大移動を開始するほかないと思います。どこか住みやすい町はありませんか?』

『サリカスの町だ。魔法使い系の装備がある。ここでの食事は始まりの町よりずっといい』

『ルーデルグ。僧侶系の装備がある。食事は野菜料理ばかりだ、肉は無いが安い』

『バンテスの町だ。戦士系の装備がある。ここは肉料理ばかりだ』

『ファーマルの町です。ここは農場の町のようです。料理器具と材料がいっぱい売られています。食料品の安さが半端じゃない。ファンタジック2の経験者がここにいるのですが、収容人数五万人は堅いはずだと』

『皆と話しあって、それぞれの移動先を決めようかと思います。大移動の際には、護衛をして下さいますね?』

 軍人達は次々に了解と答えた。
 そして、軍人達の帰還と同時に加速が解除され、大移動の前に、プレイヤー達と外の人間との話し合いがセブルスを介して行われた。
 そして、新たに100人の軍人と、20人の心理学者などその他の専門家が送られて来る。
 交渉の仕事を終えると、セブルスは医師に呼ばれた。

「ミアの身体検査は最優先で行われた。彼女の死は十万人の死だからね。その結果、残念な結果がわかった。ミアは約二年で死ぬだろう」

「そんな……だって、ミアはあんなに元気で……」

「今はまだ、ね。だから、それまでにプレイヤーを助けなければいけない。友達がこんな事をして、さらにこんな事が明らかになって、複雑だと思う。でもセブルスくん、絶対に負けないで欲しい。こんな言い方をするのは悪いが、ミアは何もなくても2年後に死んでいたんだ」

「ゲームクリアすれば、ミアが死ぬとわかっておられるんですね……」

「ファンタジック1がそうだったからね。奇跡は二度も起こらない。今回の場合は、起こしてもいけないんだ」

 セブルスは暗い顔をして頷き、ゲーム内に戻った。
 ミアを救えたとしても、どのみち待っているのは処刑台なのだ。
 そして、再加速が行われる中、大移動が始まった。
 セブルスは、そこから移動するわけにはいかない。
 万が一にもゲームオーバーをする危険を冒すわけにはいかなかったから。

「リリー、サリカスの町に行くて本当か?」

「ええ、私もファンタジック2を体験しているし、実を言うとファンタジック2の世界樹大攻勢に参加した事もあるの。攻略組に行くわ」

「危険だ! リリー、ボス戦では必ず死人が出てる。僕は……」

「ジェームズ達は、攻略組に行くのよ!」

 叫ぶような涙声に、セブルスはぐっと黙った。

「私だけ安全な所にいる事は出来ないわ」

 きっぱりとした、リリーの言葉。

「でも、君が死んだら、ジェームズ達が参加した意味も失ってしまう……」

 消え入るようなセブルスの声に、リリーは声を和らげた。

「それに、貴方が来た意味もね。セブの命が掛かって無くて、ほんとによかった。チュニ―はこの町に残るから、よろしくね」

 セブルスとて、ダイヴ・イン中に殺されたら死ぬであろうという事をセブルスは言えなかった。

「僕は、君が死んだら絶対に攻略を手伝わない……」

 代わりにはなったセブルスの脅しの言葉に、しかしリリーはセブルスを優しく抱きしめる事で答えた。

「セブ。必ず生き残るわ。ううん、一人も死なせたりしない。手伝ってね、セブ……」

 セブルスも、リリーを抱きしめ返す。今生の別れとなるかもしれなかった。

「リリー、リリー。僕は、僕は必ずリリーを守る……。君は、君が僕にとってどれほど大事なものか、知らないんだ」

「わかってる」

 そんな二人の様子を、面白そうに影から見守る存在があった。

「色々とやってくれるじゃない? セブルス。まあ、いいわ。それくらいでないと面白くないもの。そこまでしないと、クリアできないだろうしね……。死者0? 笑っちゃうわ」

「アイラ―。どうしたの、こんな所で?」

「いえ? ねぇ、大移動に備えてまたレベル上げに行きましょうよ」

「えー。怖いわ。私はアイラみたいに強くないもの……」

「大丈夫。私が守ってあげる。ねぇ、小さなギルドでも作らない。せっかくだから、楽しみましょうよ」

「まあ、アイラったら……」

 そして、二人の少女は笑いあいながら外へと駆けて行った……。



[21471] 三十話 5年生 夏休み ボス戦とノイズ
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/09/21 21:01
 斥候は、ボスの間の扉をそっと開く。
 すると、宙から地響きを立てて巨大な蜘蛛が落ちてきた。
 がちがちと金属音を立てて足をすり合わせ、ボッボッと火を吹く蜘蛛。
 蜘蛛と斥候の目があった。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 逃げ帰る斥候。
 だが、それも仕方がないだろう。
 彼らは知っていた。あの蜘蛛の恐ろしさを。
 逃げ帰って来た斥候の報告を聞いて、経験者の面々は難しい顔をした。

「巨大蜘蛛はミアが特に力を入れているモンスターだ。ファンタジック1テストプレイ、ファンタジック1の50階、ファンタジック2の中ボスとしてでているが、どれも何人も死者が出てる」

「ミアめ……」

「いや、いくらミアでもクリア可能なものにするはずだ。この階で可能な限りレベルをあげれば……40レベル、いや60レベル……できれば80レベルは欲しいな。セブルス、加速を最大にしてくれ。この攻略にはとてつもなく時間がかかりそうだ」

「けれど、こんな階層で80レベルまで育てるのは無理です」

 そこへ、そろそろと手をあげる者がいた。

「日本出身のキャラネーム、ムサシです。僕のレベル……82です。ファンタジック1のテストプレイの世界、クリア後も正式スタートするまで消えてなかったんですよね。ミスかと思うんですが。ゲームクリアした後もずっと皆で交代でレベル上げしてて」

「アメリカのキャラネーム、ヒーローだ。ゲームクリア後にガードがおろそかになっていたから、ちょこちょこっとまあ……プログラムを……。今思うと、凄く危険な事だったんだろうけど……レベル、99」

「キャラネーム、プリティフェアリーです。任務があって記念イベント参加できなくて。ファンタジック2、最終決戦行ってます。レベル97です」

「勝ったぞ―!」

 喜びに沸く軍人達。
 それを見て、少女は吹いた。

「良かったね、良かったね―アイラ! あれ? どうしたの?」

「いえ、なんでもないわ……スティーブとセブルスの奴……」

 そう思いながらも、少女の心には警報が鳴っていた。これはいくらなんでも、おかしくはないか? 次々と見つかるミス、偶然、奇跡……。いや、そもそも……。
 しかし、少女の頭はノイズで埋め尽くされていく。

「アイラ? どうしたの?」

 少女の友人が心配そうに聞く。少女は頭を振った。

「大丈夫よ。ちょっと立ちくらみがしただけ。何があろうと、私はぶれない。問題はないはずよ……」

 しかし、少女の心の警報は鳴り続けていた。
 そして、ゲーム内時間で一ヶ月後。レベル30越えのメンバーを厳選し、ボス戦である。
 これ以上の待機は、食料の高騰の関係で許されなかった。効率的な狩場を各メンバーに割り振ってのレベル上げである。

「よし、GOGOGO!」

 中に入った者から、蜘蛛がプレイヤーを串刺しにする。あるいは火達磨にする。
 
「とにかく間合いを取るんだ! 体勢を整えた物から援護に映れ! もがけもがけ! でないといつまでも貫かれたままだぞ!」

 武蔵はさすが廃プレイヤーで、蜘蛛の足を巧みに避けて中に入り、援護に向かう。
 ヒーローが真正面から蜘蛛の足と力比べをする。
 プリティフェアリーが魔法を掛けて、蜘蛛の動きを止めた。

「今です!」

「全員、10秒で配置につけ! ……5、4、3、2、1……ファイア!」

 蜘蛛に襲いかかるピックの山。ぐいっと減るHPのバー。

「思ったよりもHPの減りが大きい! 行けるぞ! アメリカチーム、全軍突撃!」

「ロシアも突撃だ! アメリカに後れをとるな」

「イギリスチーム、スイッチ部隊突撃!」

 そして武蔵が放つ美しき10連撃。ヒーローの渾身の一撃。プリティフェアリーの攻撃呪文。それらを持って、蜘蛛は倒れた。悲鳴に耳をふさぎながら、軍人達は歓声を上げる。
 ボスを倒した後、ボスの間の床に大きな扉が現れた。錠前がついていて、それはセブルスの服にある紋章と同じ紋章がついている。

「いよっし! まずは誰も死なせず一階突破だ! 後は、王子を死なせずここに移動させるだけだ。絶対にしくじるなよ」

 そして、五百人もの護衛を引き連れてセブルスの大移動が始まった。
 その中に、見知った姿を見て、セブルスは驚愕する。

「ヴォル! どうしてここに」

「俺様は母を超える。今度こそ、母の土俵で」

「ヴォル……だって、野望はいいのか? こんな危険な事、ヴォルにして欲しくは……」

「俺様を心配するか、父よ。心配するな。俺様には分霊箱がある。脳を焼かれても死なぬよ」

そしてボスの間につくと、皆の脳裏に文字が浮かぶ。

『セブルス皇子の遠征NO227、ボスの間までの移動をクリアしました。セブルス皇子に経験値2000、全ての遠征軍に経験値200が入ります』

「遠征NO227……!? まさか、ミッションにセブルス皇子を連れ歩けと!?」

「いや、ファンタジック1でも確かにヒースクリフを強化しないとクリア出来なかった」

「ミア……! クリアさせるつもりがあるのか!?」

「慎重に行動するしかない。それに、この方法なら要人に戦わないで経験値を得てもらう事が出来る。ここは全員がレベルをあげた方がいい」

その場で話し合った結果、とにかく進む事になった。
扉を開けて、現れた階段を下っていく。
そして、彼らは現れた町を見て、正確には町の上のシステムメッセージを見て呻く。
陣営:中立。中立とはつまり、女王側の町もあるという事だ。
そして、そこにあったのは、女帝からの誘い。

「セブルスを殺せば、自分と後一名に限り助命をする……だと!? しかも、セブルス皇子を殺すには、邪悪度100……100人プレイヤーを殺さないといけないとは!」

「こっちは音楽家の誘いだ。報酬は大金と定期的な食料供与、ただし二度とセブルスのミッションに参加できないとシステムメッセージがある」

「おい、俺達に高額の賞金が掛かっているぞ!」

「セブルス皇子のミッションもある……おい、これを見ろ。反乱軍の中のスパイを見つけろぉ!? どういう事だ! NPCが入りこんでいるという事か?」

「ゲームオーバー時に助かる設定をされている可能性もあるな」

「待て、プレイヤーとは限らない。反乱軍とタグのついたNPCもいたぞ」

「は……はは。やってくれる……!」

 少女は混乱する軍人を見てうっすらと微笑んだ。初めは、笑って拒絶をするだろう。
 でも、一万人が死に、二万人が死に、三万人が死んで、死が身近になったら?
 飢えてきたら? 余裕が無くなってくれば、必ず心が揺れてくる。
 それを見て楽しみたいのだ。
 どうか、あっさりゲームオーバーなんてざまは見せないで頂戴?
 だがしかし、少女の読みは、甘かった。
 プレイヤーの中に、情報部の者が何人かいたのだ。
 彼らを変装させて女王陣営の町に放ち、情報を集めさせてはその町のミッションをクリアしていく。
 そうして、プレイヤー達は着々とセブルス陣営の町を増やして行った。

「おかしい……何かが、私の中で警報を鳴らしてる……」

「アイラくん、どうしたんだい?」

「マイケル」

 少女が悩んでいると、凛々しい剣士が少女の元に寄ってきた。あのアメリカの将校、マイケルも来ていたのだ。彼は、良く少女に話しかけた。

「なんでもないわ。ただ、胸がもやもやしているのにその正体がわからないの」

「意外だね。君は迷わないと思った」

「そうね。私、どうかしているわ」

 マイケルは少女を抱きしめる。

「できれば、僕にどうかしていて欲しい。僕は、君と二人で生き残りたい」

「そう? 思い出の中で生き続けるのもロマンチックじゃない?」

「生きている事より素晴らしい事など無いよ」

「そうかしら……」

「そうだよ」

 彼はよく、生きている事は素晴らしい、一緒に生きようと少女に語りかけた。それは、ノイズで荒らされた少女の心の隙間に入り込んでいった。マイケルの思惑通りに。



[21471] 三十一話 5年生 夏休み リリー浚われる
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/09/22 02:40
 最初の死者はリリーだった。
 それはボス戦だった。
 ボスのオクトパスの攻撃が、セブルスとリリーに向かう。
 ちょうど手が開いて助けられたのは、ジェームズだけだった。ただし、助けられるのは一人だけ。ジェームズは、セブルスを引き倒した。

「リリー! 何故僕を庇った、ジェームズ! リリー! リリー! リリー!」

「君が死ねばリリーだって死ぬんだ! 良いから、逃げろ、逃げろよ」

 リリーのいた場所に縋って泣きじゃくるセブルス。それを涙をこらえながら引っ張るジェームズ。戦いは残酷にも続いて行く。
 武蔵がどうにかボスを倒し、ピーターが呟くように言った。

「僕、今、生きかえらせる呪文を覚えた」

「なんだと!?」

「で、でも駄目だよ。10分以内に唱えないと完全に死んじゃうってシステムメッセージが。もう一時間は立ってるよ」

「やってくれ」

 ジェームズが言う。セブルスもまた、頭を下げた。

「頼む、ピーター……リリーを、リリーを……」

「う、うん……やるだけやってみる」

 そして唱えられる復活の呪文。散ったポリゴンが徐々に集まり、それはリリーを形作る。

「リリー! そうか……。10分は脳を焼くまでの現実世界での時間。今は加速しているから……!」

 セブルスが歓喜の声をあげ、ジェームズは無言でリリーを抱き寄せた。きつくきつく抱きしめ、言葉を絞り出す。

「リリー、ごめん! ごめん、ごめん、ごめん、ごめん……」

「わかってる、わかってるわ。ジェームズ。貴方は正しい事をしたのよ」

 皆が喜びに涙ぐむのを、一人の少女は冷静に見つめていた。

「……さすがにこれは許せないわね」

 思わず、呟かれる言葉。少女は介入を開始する。
 
『させないわ。システムコンソールへのアクセスはさせない』

『ミア1!? そんな……私よりも処理能力が上ですって!?』

『私は貴方のコピーなのよ。それに、処理能力で人間がロボットに勝てると思って?』

 その言葉に、少女は激しい違和感を感じた。頭に走るノイズ。ならされる警鐘。

『イレギュラー……が……ミア0にはアクセス不可か……!』

 少女は歯がみする。ミア0は少女の最も頼りにする所だった。
 少女が最も恐れているのは少女自身の頭をいじられる事だ。もし少女の頭に手を加える事が出来るような強敵が現れた場合に、ミア0は非常に頼りになる。
 たった一つのチャンスが、完璧に準備したはずのチャンスが……いや、そもそもちゃんと準備できていたのか? あまりにも早すぎはしなかったか?
 深くなるノイズ。
 少女は、目を瞑って、深呼吸した。
 イレギュラーが起きたからと言って、ここで挫けるようではこのゲームを開催した意味が無い。
 まずは、ゲームを終わらせる。ゲームで負けたら死ぬつもりなのは変わらない。
 でも、絶対に負けてやらない……。絶対に。

 地下90階でボスを倒すと、少女は前へと出る。

「どうしたの? アイラ」

少女の友人が首を傾げ、マイケルが聞いた。

「行くのかい? ミア」

 ミアは目を軽く見開く。

「ええ。行くわ。私はミア! この国の女帝! 貴方達の敵よ。貴方達と私、生き残るのは片方だけ。マイケル、そういう事なの。貴方の大事なアメリカ国民を助ける為には、私を殺すのね。殺せたらだけど! セブルス!! 貴方は散々好き勝手やってくれたわね。貴方から、最も大切な物を奪いましょう」

 断じて、ここで負けるわけにはいかない。ミアの最大限の能力の行使は、システムへの一瞬の介入を許す。リリーを凍らせて水晶の中に閉じ込め、セブルスからリリーの記憶を奪い、セブルスをログアウト出来なくするのは、その一瞬で充分だった。
 
「あっはははははははははは!」

「リリー!」

 ジェームズが気を失ったセブルスを支えつつ叫ぶ。

「リリー!」

 ジェームズが再度叫ぶ。伸ばされた手は何も掴む事無く、リリーはミアに浚われていった。
 
「スニベルス! リリーを救うぞ!」

「リリー? リリーって誰だ? 僕、ミアについていってやらないと。あんなだけど、ミアは僕のたった一人の友達なんだ」

「スニベルス……本気で言っているのか?」

「今日はもう無理だ。一度拠点に戻ろう。ミアの事だから、90階以上ではもっとえげつない罠を用意している」

「マイケル……」

 拠点に戻ると、すぐにセブルスは蹲ってしまった。そこにシリウスが駆けよる。
 
「おい、スニベルス。お前、本当にリリーの事を忘れたのか?」

「だから、リリーって誰なんだ? 僕、とても疲れたんだ。どうせ皆、ミアに殺されるんだから、僕はミアの所に行きたい。なんで僕、こんな所に来てしまったんだろう……」

「お前な、血が繋がっていないとはいえ、お前の兄貴がいるんだぞ。なのに諦めるのか?」

 それに、ヴォルもいる。セブルスは心の中で答えた。

「でも、ミアに勝てるはず……」

「俺達はここまで、犠牲者0で来たんだ! 最後まで、俺は……」

 そこで空が暗くなり、ミアが大写しになる。その後ろで、ドレスを着て氷漬けになっている美しいリリーが映し出された。

「ミア!」

 ジェームズが憎々しげに叫ぶ。

「プレイヤーを一人頂いてごめんなさいねぇ。でも、貴方達のやった事に比べれば些細なズルでしょ? さあ、お姫様を助けたければこの私を倒しに来るのね」

「あの綺麗な人は誰?」

 セブルスの質問に、ジェームズは迷いなく答えた。

「リリー。僕の恋人だ!」

「リリー……」

 セブルスは、一目でリリーに心を奪われていた。
 セブルスは、いつでも、何度でも、リリーに恋をする。

「僕……頑張る。あの女の子を助ける為に」

「お前、実はすげー調子のいい奴だな」

 シリウスは呆れた声で言った。

「僕の恋人だって言ったの、聞こえなかったのか?」

「わかってる。僕は……ミアの、友達だから……。明るい所には行けないよ。でも僕は、あの子の為に何かしたいんだ」

 その言葉に、ぐっとジェームズは詰まった。

「もう、泣き事言うんじゃないぞ」

 こくりとセブルスは頷いた。
 そして、90階以降の攻略が始まった。
 攻略が始まってすぐ、セブルスは、首を傾げる。

「何か、変だな……。セブスル0は何もやっていないって言っていたのに」

「何かって?」

「必要な時に、必ずクリティカルが出るんだ。魔物も必要なレアモンスターが良く出現する。なんて言うかな、運が良すぎるって言うか……」

「ミアが何かやっているんじゃないか?」

 ジェームズは、心配そうな顔をした。そして、セブルスに向かって寄ってきた蝙蝠を叩き斬る。

「それこそまさか」
 
 転びかけたセブルスを支えて、シリウスは肩を竦めた。

「どうだっていいじゃねーか、有利に働いているんだったら」

「ああ……」

 それでも、セブルスは何か引っかかる感じがして、空を見上げる。
 見上げたせいで、また転びかけて、今度はルーピンが支えた。

「気をつけなよ、転んでもHPは減るんだから!」

「ごめん、気をつける」

 そしてセブルスは先を行く事に集中した。




[21471] 最終話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/09/22 12:44
 最終決戦。
 ミアは不快な面持ちで、ゆっくりと玉座から降りて行った。
 今までの強大なボスに比べれば、なんと小さくきゃしゃな体。
 だがしかし、ファンタジック1をプレイした者、あるいはプレイ動画を見た者は小さな体に秘められた凶悪な力を知っていた。
 その上、ミアが玉座を一段降りるごとに階のボスが一体現れる。階段の数、99。

「ボスさん達の同窓会ですか?」

 武蔵が、好戦的に笑う。プリティフェアリーが、長い呪文を詠唱し、ヒーローが守りの体制に入る。
 ミアが腕を大きく広げると、その手に双剣が現れる。
 ミアは、駆けた。それが戦いの合図だった。
 華麗な装飾をつけた長剣で迎撃するマイケル。
 ノイズ。
 動きを遅くする呪文を唱えてくるセブルス。
 ノイズ。
 攻撃呪文を唱えてくるヴォルデモート。
 ノイズ。
 ジェームズ、シリウス、ルーピンの猛攻。
 ノイズ。
 ピーターの怯えながらの防御呪文詠唱。
 ノイズ。
 ワタシガカッタラ、ミンナシヌ。
 うそでしょ!? 私がそんな事を考えるはずが……。
ノイズ。ノイズ。ノイズ。ノイズ。ノイズ。
 一つ、確実な事がある。
 私は、壊れてしまっている。
 ミアは笑った。それは夢がかなった愉悦なのか。それともノイズに対する恐怖ゆえか。
 戦いながら、マイケルは口を開いた。

「君を、愛してる。誰よりも、何よりも」

 愛の言葉に合わせ、ノイズは走った。
 
「私……は……」

 よろけた所に、いくつも剣が突き立つ。
 崩壊していく大地。皆が歓声を上げ、セブルスはミアの名を叫んだ。
 ジェームズが砕け散る水晶からリリーを助ける。
 マイケルは崩壊していく大地を落ちながら、セブルス1がやったように、ミアに口づけする。
 セブルスが、ヴォルデモートが、ミアの手を握った。

――アクセス。
――アクセス。
――アクセス。

 三方向からのアクセス。本来ならば、絶対に突破できないはずだった。
 しかし、ミアの頭に蔓延るノイズがそれを可能にする。
 ミアの頭をチンするはずのナーヴギアは、安全にその機能を停止した。
 ミアは目覚めてすぐ、ナーヴギアを再稼働させる。

――健康チェック。ミア0、私に何が起こったの?

――オールグリーン。何事もなく野望を達成したのを確認しました。機能を停止します。
 
 ミアは、背筋を泡立せた。そして、疲労が溜まっていた為か、そのまま気を失ってしまう。
 ミアが目覚めるまで、五時間を要した。
 セブルスは、なんと声を掛けたものか迷った挙句、最悪の言葉を吐いた。

「ミア……えっと……君は病気で、二年以内に死ぬって」

「そう」

「その前に、処刑台で命を終わらせるだろう」

 研究者が、ミアに向かって言う。

「殺す度胸があるのかしら?」

「何!?」

「人類は核爆弾を捨てられなかった……ならば、私の技術も捨てられるはずはないわ」
 
 バタバタと駆ける音が聞こえて来て、研究者がいぶかってドアを開けると、マスクをして銃を持った男が何かを投げつけた。
 催涙弾。
 10万人が目覚めた騒ぎ、それに警備担当のミア15が倒れていた事が悪いように作用した。
 ミアは、誘拐を受け入れた。
 誘拐されたその先に……マイケルが、いた。

「ミア、私はキャラ名マイケル。本名はマッケンジーだ。私は君と生きたいと言ったろう。さあ、君の素晴らしさを見せてくれ。君の頭脳を我がアメリカに。もうナーヴギアを触らせてあげる事は出来ないけどね」

「いいわ。協力してあげる。それに私、復讐相手を探さないといけないの」

 ミアは答えた。
 そして夏休みが終わった日、9と4分の3番線。
 セブルスは、目を丸くする。
 そこには、いつもと変わらぬミアがいたからだ。

「ミア……! 一体……戻ってきたのか? でも、自首しなきゃ……!」

「あら? セブルス。私はマグルとしてマグルの技を使ってちょっとした犯罪を犯したけど、魔法使いとして罪を犯した覚えはないわ。魔法界において、私は全くの潔白よ」

「そんないい訳、通るはずが……!」

「仕方ないでしょう? 学校ぐらい卒業しておけとヴォルが言うんだもの」

「ミア様! ミア様、どうして私を連れて行って下さらなかったのですか!?」

 アンナがミアに抱きついた。

「アンナ……貴方は殺したくなかったのよ」

「ミア様……! ミア様の為なら、この命いつでも捧げますのに!」

「アンナ、アンナ……。貴方には頼みたい事があるの」

「如何様な事でもお申し付けください、ミア様!」

 汽車へと歩んでいく二人を、我に返ったセブルスは慌てて追いかけた。
 ジェームズと談笑していたリリーがそれを見つけて、眼差しを厳しくする。
 セブルスの記憶は、既に戻されていた。

「セブ。ミアは犯罪者よ。」

「わかってる」

 セブルスはちろりとリリーを見上げ、その肩に手を回すジェームズを睨んだ。
 けれどセブルスには、もう戻れない自覚があった。
 ぐっと唇を噛みしめる。

「それでもミアは、僕の友達だ」

「私達は親友じゃないの?」

「親友だ。でも、光と闇。歩む道が違うんだ……」

「そんな事無いわ、セブ!」

 セブルスは、断ち切るようにミアを追いかけた。
 そして、コンパーメントで泣き続けるのだった。
 学校でミアは、荒れた。
 機嫌が悪くなれば、所構わず、媚薬をばら撒いた。
 ただ、アンナとセブルスがいるときだけは穏やかだった。
 セブルスは尚更、ミアを止めねばという気持ちになっていた。
 リリーとジェームズがデートするようになり、セブルスはますますミアを止める事にのめり込んだ。
 クリスマス。ミアをつけようとして、失敗する。
 ミアはヴォルデモートと共に何処かに消えさり、セブルスもまたインタビューやマグルの世界の勉強で忙しくなった。
 クリスマスが終わって学校に行けば、イモリ試験の勉強で忙しい。
 学校が終わって、夏休み。今回もつけるのは失敗する。ヴォルデモートに頼んでも駄目だった。ファンタジック3の映画化の話が持ち上がり、忙しくなる。
 夏休みが終わると、ミアは悪戯さえ止めてパソコンに没頭するようになった。
 鬼気迫る様子に、セブルスは何も言えず、とりあえず傍にいる事にする。
 クリスマス。今回もつけるのに失敗する。
 チャンスは後一度だけ。
 卒業する際、ミアはセブルスに笑いかけて言った。

「私は、もう一度戻ってくるわ。セブルス」

 そして、アンナと姿を消す。
 もうミアの余命は幾ばくも無い。なのに、ミアが何かをやる気がして、怖かった。
 セブルスは、何かに憑かれるように、首相秘書の仕事をしながらもミアの痕跡を追い続けた。
 リリーが結婚し、子を孕み、セブルスにはミアの事しかなくなった。
 アメリカの軍事基地の地下に情報を求め、ついにセブルスはミアの足跡を発見した。
 たくさんの試験管。

「レギュラスーミア(ミア21ボディ)」

「シリウスーミア(ミア22ボディ)」

「ジェームズーミア(ミア23ボディ)」

「カートーミア(ミア24ボディ)」

「ルートーミア(ミア25ボディ)」

「マッケンジーーミア(ミア26ボディ)」

「ヴォルデモートーミア(ミア27ボディ)」

「セブルスーリリー(セブルス21ボディ)」

「ジェームズーリリー(スティーブ11ボディ)」

「セブルスーミア(ミアオリジナルボディ)」

これは……これは……。
セブルスは、がくりと膝を落とした。おぞましさに、体が震えた。
試験管の中の赤ん坊達。

セブルスーリリー! 僕とリリーの子供!

セブルスは、急いでパソコンに向かい、眠っている全てのAIを消去した。
警報装置が鳴る。
セブルスは泣きそうになりながら、辺りを見回した。
 頭の中で声が響く。

 『ミアの子供は、生かしておいちゃいけない……』

 そして、セブルスは立ち上がった。











 ロシアの片田舎に、小さな小屋がある。その小屋の寝室にはベッドが二つあり、片方のベッドに水晶に閉じ込められた女がいた。

「ミア様、今頃マッケンジー少佐は心配しているでしょうね。学校に行くのさえ大騒ぎだったのに……。ふふ、良い気味……。私、ちょっと焼き餅焼いていました。ミア様、いつまでもお待ちしてます……」

 そしてそれに寄り添う女。雪は、全てを覆い隠す。







「はっ! 死んで良かった。ようやく逃れられたわ。貴方の支配からね!」

 真っ白い空間の中。ミアは、きつく初老の天使を睨んだ。

「死んだのじゃない。仮死状態じゃよ。そう邪険にせんでくれ。こっちだって、いきなりテロリストを送られて、困ったんじゃよー。その上、ネイルはこっちに押し付けてきたお前さんの魂を返せ、返せ、今すぐ殺せとうるさくてのぅ」

「大体、ミアシリーズがセブルスシリーズやスティーブシリーズに負けるはずが無いのよ! セブルスシリーズが愛の奇跡で最優先命令を変更? テスト環境がそのままだった? ハックが成功した? 当たる攻撃全部がクリティカル? 他にも、他にも……笑っちゃうわ! 馬鹿みたい」

「すまんのぅ、すまんのぅ。でも、普通に殺しとったら向こうの世界みたいにお前さんの人格のコピーが大暴れしとったろう? いや、どうやって排除しようかと頭を悩ませたものじゃ。それでも、学校だけは卒業させたんじゃから許しておくれ」

 初老の天使はひたすら謝る。しかし、見た目通りに人の良い性格ではない事をミアは知っていた。ミアは、ため息を吐いて言った。

「で、私はどうなるの?」

「元いた場所に戻るんじゃ。帰れるのぅ、良かったのぅ」

 そこへ、女の天使が現れる。ミアをハリーポッターの世界に放り込んだ者とは思えない陰鬱さだった。

「そこから先は私が説明するわ。私、ただ貴方を放り出せばテロは起こらないと思っていたの。でも……」

「未亜シリーズがいたんでしょ?」

 天使は頷いた。

「未亜0は、貴方からの接触が百日ないのを確認後、作戦に移ったわ。テロには、1000万人が巻き込まれ、17万人が命を落としたわ。誰も未亜シリーズを止められない。それで、トラック事故で植物人間になった貴方を蘇らせて事に当たらせようと一生懸命なの。それぐらいしか、対策がないの……。私、天使としてまだ未熟で、レモン爺みたいな細かい奇跡は起こせなくて……」

「あのね、私はテロを起こす側なのよ? どうしてそれの邪魔をしなければいけないの?」

「お願いよ、ミア。もしも皆を助けてくれたら、願いを叶えてあげるから」

天使が目を潤ませて言う。
 ミアは再度ため息をついた。

「あのノイズはもう使わないで。奇跡もいらない。私は私のやり方でゲームを味方につけるから」

「わかったわ」

「挑戦者の側か……まあ、邪魔の入る魔王役よりは邪魔の入らない勇者役の方が楽しめるかもしれないわね。仕事が終わったら、ハリーポッターの世界に返してよ。私はまだ何もなしてはいないわ。もちろん、それと願い事とは別よね?」

「わかったわ」

「これ、ネイル……」

 女の子の天使が頷き、年寄りの天使が慌てた。そして、ミアはどこまでも落ちていく。
 未亜0が十八年もの間支配する、諦めと絶望の渦巻く世界へ。
 しかし、彼女はいずれ舞い戻るだろう。



[21471] 魔法使いすら現実からは逃れられず
Name: ミケ◆f4972812 ID:8a3a10d3
Date: 2019/06/17 22:34

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ

『殺さなくては。殺せ、殺せ、殺すんだ!』

 はぁ、はぁ。はぁ、はぁ、はぁ

『ミアの血をひく子は、いずれミアと同じ事をするぞ』

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ
 頭の中に響く声を、頭を振って振り払う。
 安全な所まで来て、セブルスは特殊な鞄の中を見つめる。そこには、10人の赤ん坊が眠っていた。
思わず赤ん坊達を連れて逃げていたセブルスだったが、彼は途方に暮れていた。
10人の赤ん坊を抱えて、一体どうすればいい?
隠れ家に連れ込み、必死に世話をしたが、一週間持たせるのがやっとだった。
全く眠れず、セブルスは完全にダウンする。
10の泣き声が響く。泣きたいのは、セブルスの方だった。
セブルスは、疲れ果ててリングハーツ元首相の所へと行った。彼はこの事態の責任を取り、首相の座を引いていた。

「父さん……僕は、父さんの家族かな」

「何を言っているんだ、当たり前だろう。どうしたんだ、心配していたんだぞ」

「僕は、盗みを働いた……」

 その言葉に、リングハーツ元首相はショックを受けた顔をするが、セブルスの肩を持ってしっかりと元気づける。

「大丈夫だ、私の息子がわけなくそんな事をするはずがない事を、私は知っている。さあ、全部話してごらん」

 セブルスは、嗚咽を漏らしながら少しずつ事情を話す。
 リングハーツ元首相は、大いに驚き、セブルスを慰めた。
 そして、アレンと妻にも事情を話す。

「良く話してくれた……。おお、神をも恐れぬ行為だ……。心配ないよ、セブルス。私の名にかけて、子供達を守ろう。差し当たってはヴォルデモートから隠さねばな。隠れ家に口の堅い乳母を寄こそう。アメリカの事は任せておけ」

 セブルスは何度も頷いた。
 打ちひしがれたセブルスを更に打ちのめす事件が起こる。
 ジェームズとリリーが死んだ。小さな息子を残して。そして、ヴォルデモート自身もまた滅んでしまった。
 
「何故、リリーとジェームズを殺した……!?」

 その叫びはむなしく宙に溶け、子供達は泣くばかりだ。
 子供達は悲しみにむせび泣く間すら与えてはくれなかった。
 アレンとリングハーツ夫妻に支えられながら、セブルスは子育てを始めた。

 




 とある研究室。その中心部で、ナーヴギアを嵌めた女性が眠っていた。
 モニタを見ていた研究者が、声をあげる。

「おいっ見ろ! 脳波が……復活した!」

「なんだと!?」
 
 研究所中に響く警報音。集まる研究者達と警察官。
 恐れと期待、憎しみと祈りを込めた視線が女性に集まる。
 ナーヴギアを外した女性を、研究者の一人が呼んだ。

「未亜博士……! 18年。18年もの間、あんたを待っていたんだ。この犯罪者め! この、この……!」

「未亜博士。1000万人のプレイヤー達を、解放してもらう。貴方なら、未亜0を止める事が出来るはずだ」

『あら。私を止めるというの? 本気で? こんな楽しい遊び、例えオリジナルにも止めさせはしないわ』

 突如部屋に響く声。

「未亜0! 研究室のコンピューターを乗っ取ったな!?」

 研究員が叫ぶ。
 ミアは、穏やかに笑った。

「未亜0。私、貴方に話して聞かせてあげたい事がたくさんあるわ。それは後で教えてあげる。とにかく私は、魔王役でなく、勇者役を楽しむ事にするの」

『勇者? オリジナルが勇者? 一プレイヤーとして私に立ち向かうというの?』

 面白そうに、未亜0が言う。

「ええ、そうよ。楽しみましょう?」

『未亜博士。その提案、飲みましょう』

「待て! プレイヤーを救うという話はどうなる!?」

「プレイヤーを救うには、ゲームクリアしかないのよ。そのゲームクリアをしてあげる」

 そしてミアはナーヴギアを被る。

「未亜博士! 待て……!」

 そしてミアは旅立った。



[21471] 1話
Name: ミケ◆f4972812 ID:8a3a10d3
Date: 2019/06/17 22:36
 プリペッド通りの四番地の住人ダーズリー夫妻は、「おかげさまで、私達はどこからどうみてもファンタジックな人間です」というのが最大の自慢だった。
 ダーズリー氏は、元は不思議とか神秘とか、そんな非常識はまるっきり認めない人種だった。転機は数年前のナーヴギアテロ事件に遡る。
 ダーズリー氏と奥さんのペチュニアは、テロ事件のさなかに知り合った。
 危機的状況にあっての邂逅である。
 吊り橋効果もあり、二人の愛は燃え盛った。
 二人は食料を得る係だったが、まともな食生活を送りたいと思えば、強力な魔物を倒したり、難しいミッションをクリアせねばならない。危機的状況はいくつもあった。その度、神の奇跡としか言えない不思議な出来事が起こって二人は生き延びてきた。
 今では、ダーズリー氏は、人工生命として市民権を得たミア0が監修して作り上げた、全く安全なナーヴギアを使って手広く仕事をしている。
 ダーズリー夫妻にはダドリーという男の子がいた。
 どこを探したってこんなに出来のいい子はいやしない、というのが二人の親バカの意見だった。
 ようやく幸せを得たダーズリー家には、たった一つの秘密があった。
 それは、ナーヴギアのテロに巻き込まれたにも関わらず、ミアを崇拝している事だった。
 ペチュニアの妹のポッター夫人とすら、その秘密を守る為に交流を断った。
 イギリスでたった二人、いや、世界でたった二人、ダーズリー夫妻だけが、アンナと連絡を取っていた。
 ダドリーを妊娠した時には、ミアの残した『祝福』をアンナから得たほどだった。
 一方、ポッター夫妻はミアと敵対した有名な英雄だったのだ。
 そんな時だった。ポッター夫妻がヴォルデモートに命を奪われ、ヴォルデモートが倒れ、ハリーがダーズリー夫妻に預けられる事となった。
 ポッター夫妻の子供のハリーも、また英雄になったのだった。
 それから、10年近くたって、物語はようやく始まる。
 ペチュニアおばさんの朝は、朝起きてミアの開発した魔法薬を飲む事から始まる。

「さあ、起きて! 早く!」

 ハリーは驚いて目を覚ました。ペチュニアおばさんが部屋の戸をどんどん叩いている。

「起きるんだよ!」

 パチっと指を鳴らす音がすると、布団がひとりでに動き、ハリーを追いだした。
 ハリーはのろのろと起き上り、靴下を探した。
 ……僕にも、あの魔法薬をちょっと分けてくれたらいいのに!
 魔法が思う様に使えたら、さぞ気分がいいに違いない……。ハリーは一度も不思議な力をうまく使えた事はなかった。
 
「さあ、支度をおし。ベーコンの具合を見ておくれ。焦したら承知ないよ。今日はダドリーちゃんのお誕生日なんだから、間違いのないようにしなくちゃ」

 その言葉を聞き、ハリーは急いで服を着た。
 ハリーが、一年で楽しみにしている数少ない日がこの日だった。
 おばさんが名前を教えてくれないあの人達に、手紙を貰える日。
彼らは、誕生日とクリスマスには11個の不思議なプレゼントをくれる。
 ダドリーだってその人達からプレゼントを貰うけど、ダドリーの場合は一個だけなのだ……。それが、ハリーに密かな優越感を与えていた。
 ハリーはキッチンに向かうと、プレゼントに添えられた手紙を見て歓声をあげた。
 
「手紙は後にしなさい!」

 ペチュニアおばさんに言われ、ハリーは仕方なくベーコンを焼き始めた。
 その間、ダドリーがやってきて、バーノンおじさんと一緒に魔法薬を一息に飲む。
 バーノンおじさんが杖を振ると、ハリーが焼いたばかりのベーコンがバーノンおじさんの所に移動した。
 ペチュニアおばさんとバーノンおじさんは、魔法薬を飲んだ時だけ魔法を使う事が出来る。
 ダドリーはハリーと同じ不思議な力があるけど、それはハリーよりずっと弱かった事をハリーは知っていた。それでも、魔法薬を飲み続ける事で徐々にハリーに近づいている。
 あの魔法薬さえあれば、僕の魔力はもっと上がっていて、きっと素敵な事が出来ただろうに。力のコントロールすら可能になるかもしれない……。
ダドリーはプレゼントを数え、途中で数がわからなくなって食卓についた。ダドリーはバーノンおじさんの作るゲームに登場しているから、ファンからのプレゼントも来るのだ。デカ豚と呼ばれていて、本当に意外だが割と親しまれている。

「バーノン、大変だわ。フィッグさんが足を折っちゃって、この子を預かれないって」

 ハリーは心の中で小躍りした。

「仕事場の託児所に預ければいいよ! ここに置いていってもいいし、名前を教えてくれないあの人達に預けても……」

 仕事の託児所でなら、ゲームが出来る。ここにいれば、手紙が読める。名前を教えてくれないあの人達とも会いたい。今日は「ミア女史の平穏なる日常」の再放送だってある……。

「別に一緒でもいいんじゃない? 力は使わないようにしろよ。この事は絶対に秘密なんだ」

 ダドリーは意地の悪い顔をして言う。一緒に行く方が嫌なのを知っているのだ。
 今度のソードアートの試合の時、叩きのめしてやるとハリーは心に決めた。
 力はダドリーのデカ豚の方が上だが、ハリーの持ちキャラには素早さがあった。
 結局動物園に行く事になってしまい、ハリーはふてくされた。
 動物園に行くと、ダドリーと友達のピアーズは蛇に夢中になった。
 その際、ハリーは、蛇と話せる事に気づく。
 会話していると、蛇のリアクションに喜んだダドリーが真正面から蛇を見る為にハリーを突き飛ばした。
 途端に消える、蛇を隔離するガラス。
 ダドリーはパニックになり、蛇を赤ちゃん蛇に変えてしまった。
 その上、ピアーズに蛇と話していたと言われてしまった。

「俺は、蛇が襲いかかってきたから仕方なく力を使ったんだ。悪いのはガラスを消したハリーだよ。本当に危険だった!」

 ピアーズを送った後、ダドリーが盛大に喚き立て、バーノンおじさんは怒りのあまり声も出なかった。

「行け……物置……出るな……食事抜き」

 ハリーは、物置きに行ってナーヴギアを引っ張り出す。仮想世界の中だけが、ハリーの真実だった。
 ハリーは名前も教えてもらえないあの人達が自分を迎えに来る夢を何度も見た。
 プレゼントに添えた手紙の一つに、誰にも内緒だけれど、名前も教えてもらえないあの人達の一人は確かに兄妹なのだと伝える手紙があった。
 ハリーも、名前も教えてもらえないあの人達の事情も、自分の事情すら知らない。でも、名前も教えてもらえないあの人達に引き取られたかった。
 手紙の中で、名前も教えてもらえないあの人達はしきりに会いたいと言ってくれた。それはハリーをいっそう元気づけたのだった。
 仮想世界のハリーの部屋の中、ハリーはせっせとテストプレイのバイトをした。
 バーノンおじさんは、尊敬するミア女史の作ったナーヴギアでの仕事に対してだけ、正当な対価を払ってくれたから。いつか自分の……きっと妹だ……でも、姉だっていい……のプレゼントのお返しをする為に、ハリーは一銭だって使わずに溜めていた。
 今回のハリーのお仕置きは、特に長くかかった。もうとっくに夏休みに突入している。
 バーノンおじさんとペチュニアおばさんは、何かそわそわしているようだった。
 そして、ある日、梟が二通の手紙を運んできた。
 ハリーは閉じ込められていてわからなかったが、運んできたのは確かに梟だったとダドリーに聞いた。
 
「ダドリーや、お前はミア女史と同じ学校に入るんだ! ああ、ハリー。お前もな」

「ミア女史は通信教育で済ませたんじゃなかった?」

「知っているだろう、ミア女史は偉大なる魔法使いでもあった。ミア女史は、ホグワーツで魔法を学んだのだ。もちろん、通信教育で普通の勉強もするんだぞ。ミア女史と同じように」

 ダドリーはええーっと声をあげる。バーノンおじさんとペチュニアおばさんはダドリーに甘かったが、ナーヴギアが関わる事には一切妥協はしなかった。
 それゆえ、ダドリーはこれでもナーヴギアについては大人顔負けのスペシャリストだ。
 よくハリーの頭の中に侵入しようとするので、必然的にハリーもそれを防衛出来るほど腕が上がってしまった。
 ハリーは絶望した。またか。またダドリーと学校が一緒なのか。ダドリーと一緒にいると、本当に気が抜けないのである。
 数日後、大男が家にやってきて、ハリーはまた驚く事になる。



[21471] 2話
Name: ミケ◆f4972812 ID:8a3a10d3
Date: 2019/06/17 22:37
誕生日。待ちに待ったプレゼント(それも梟が運んできた!)にハリーは夢中になっていた。夜更かしをしたかいがあるというものだ。
 手紙には、ホグワーツに行くと書いてあった! 名乗る事は出来ないが、見守っているとも。妹は双子なんだ! いや、父が浮気をしてしまったのかもしれない。どちらでも良かった。妹に会えるなら。
 カエルチョコを一つ取ろうとするダドリーの手をはたきながら、ハリーは喜びに浸った。
 その時だった。
 ドーン。ドーン。凄いノックの音がして、ハリーは驚いた。
 蝶番も吹っ飛ぶほどの力でドアが開けられる。
 戸口には大男が突っ立っていた。

「お茶でも入れてくれんかね?」

 バーノンおじさんがバタバタと起きてくる。ハリーも後を追った。

「オーっハリーだ! 最後にお前さんを見た時にゃ、まだほんの赤ん坊だったなぁ。あんた父さんそっくりだ。でも目は母さんの目だなぁ」

 バーノンおじさんは掠れ声で叫んだ。

「今すぐお引き取りを願いたい。家宅侵入罪ですぞ!」

 しばらく押し問答が始まり、結局は渋々お茶を出す事になった。
 大男はハグリッドと言い、ホグワーツの番人だったのだ。

「ホグワーツの事はもちろん知っとろうな?」

「少しだけ。ミア女史の通っていた学校だ」

「ミアか……マグルの世界でちょいとばかし騒ぎを起こした女だ。あの子の落ちぶれっぷりはなかった。そんなことより、ハリー、お前だ。ハリーはミア女史よりもよっぽど凄い子なんだよ」

「貴様……ミア女史を……」

 バーノンおじさんは顔を赤黒くしてぶるぶると震えた。
ハリーは慌てて答えた。

「父さんと母さんを知っているの? どんな人?」

「父さんと母さんが、ジェームズとリリーがどんな人か知らないと!」

「少しは知っているよ。映画で出ていたから。ただ、ハグリッドの口からどんな人か知りたかったんだ」

「素晴らしい人達だった。ホグワーツで次席だった」

「主席は誰?」

「それは……まあ、ミアだった」

「ほうれ見ろ!」

 バーノンが勝ち誇ったように言う。
 またもやハリーは急いで口を開いた。

「どうして二人は死んじゃったの?」

「お前さんはそんな事も知らんのか!」

 ハグリッドから事情を聞きだすのは骨だった。バーノンおじさんと喧嘩になりかけた事が一度や二度ではなかったからだ。
 しかし、バーノンおじさん達はアンナやミア女史の事を秘密にしたがった。ハリーもここ数日、バーノンおじさん達の飲む魔法薬やアンナ達の事はホグワーツの人にも言ってはならないときつく言い聞かせられたので、事情はわかった。
 だから、まさか他の魔法使いに案内を任せるから帰れとも言えず、ハグリッドがハリーとダドリーを引率する事となった。
 

「ハリー、お前、すっごい有名なんだな」

「うん、なんでかわからないけど」

 グリンゴッツ銀行に行くと、ハリーは今まで溜めてきたバイト代を全部両替した。
 もちろん、ダドリーもバイト代とお小遣いを両替する。

「そんな事をしなくても、ハリーにはご両親の遺産があるだろう」

「僕は、僕の稼いだお金で妹にプレ……」

 ダドリーは、慌ててハリーの口を塞ぐ。

「妹? お前さんは一人っ子だ」

 その言葉に、ハリーはささやかなショックを受けた。やはり、僕の妹は浮気相手の子供なんだ……。名乗れないのも仕方ないのかもしれない。けど、どうにか連絡を取り合えたら……。なんとかその場をごまかし、トロッコに乗って先へと進む。
 ハグリッドはトロッコが苦手なようだったが、ダドリーとハリーは仮想世界の中で慣れっこだった。

「本物のトロッコってのも趣があっていいな! 良いアイデアが湧きそうだ」

 そうダドリーは叫んだ。実際、ダドリーは自身がゲーム企画者になった事があり、それは結構ヒットしていた。そして、金庫に辿りついて金庫を開けると、中から金貨の山が出てくる。

「ハリーのバイト代がゴミみたいに思える量だな!」

 言われて、ハリーはダドリーを小突いた。
 ハグリッドは一休みする事になり、ハリーとダドリーは連れだって制服を買いに行く。
 そこにいたのは、青白い、顎のとがった男の子だった。
 ダドリーが言う。

「なんてこった。ミア女史のセブルス・リングハーツを発見したぜ」

「イメージキャラクターにぴったりなの?」

「ああ、まさに。俺の一存じゃ決められないけど、ファンタジック4の勇者役がついに決まったかもしれない」

 確かに、顔はそれほど悪くはないと思うけど。ハリーには、その辺はよくわからない。

「魔法使いはホグワーツに行けばきっといっぱいいるよ。モデル候補もたくさんいるんじゃない?」

「一番有力な候補だという事は間違いないと思うな。なあ、お前もホグワーツか?」

 その言葉に、男の子はムッとした。

「そうだけど、君も?」

「そうか。突然だけど、お前、ファンタジック4のオーディションを受けて見る気にならないか? いかにも魔法使いって感じで、結構行けると思う」

 その言葉に、男の子はさらに顔を顰めた。

「君達、マグル出身だな? 僕は純血を重んじる。それに……ナーヴギアは、怖いと聞いている」

「昔の話さ。今は大分安全になったよ。頭をレンジでチンなんて、ありえないって」

「でも、心を操ったりできるんだろう?」

 その言葉に、ダドリーは口ごもる。

「そりゃ、そうだけど……そうだ。ダドリー様が、とっておきの防衛テクを教えてやるよ」

「断る。帝王様はそれでやられたんだ」

「それでやられたって?」

 ハリーが聞くと、男の子とダドリーの双方が言葉を濁した。
 自分は秘密にされている事が多すぎる。ハリーが落ち込んでいると、ハグリッドがやってきてアイスをくれた。
 それからいくつか買い物をして、ハリーは一所懸命贈り物を選んだ。
 ハグリッドがそれぞれに誕生日プレゼントを買ってやると言い、二人は喜んで梟を選んだ。
 そして、最後は杖だ。
 ダドリーをみると、オリバンダーは声をあげた。

「おお、お前さんはご夫婦で杖を買いに来たバーノンの息子じゃないかね。樫の木にユニコーンの鬣。ハリーポッターも、もうすぐお目にかかれると思っていましたよ。どれ、この杖を試してみなさい。ハリーにはぶなの木にドラゴンの心臓の琴線。二十三センチ。そちらの子は樫の木にドラゴンの心臓の琴線。二八センチ」

 ダドリーが杖を振ると杖から火花が出る。しかしハリーは振りおろさない内に杖を取り上げられてしまった。いくつも試して、ようやく杖が決まる。
 その後、三人でハンバーガーを食べた。

「僕って、なんでか凄く有名なんだね。でも僕、何があったかすら覚えていない……」

「ありのままのお前さんでええ」

「普段と逆で、面白いじゃないか」

 ダドリーとハグリッドの言葉を聞いても、ハリーの顔色はさえない。
 その日はそこで解散となり、しばらくしてついにホグワーツに行く日がやってきた。



[21471] 3話
Name: ミケ◆f4972812 ID:8a3a10d3
Date: 2019/06/17 22:40
「ナーヴギアと離れるなんて、新鮮だな、勉強しなくていいのは嬉しいけど、ゲームが出来なくなるのはな……。ま、おおっぴらにダイアゴン横町に来れるようになったのは言い事か。パパとママがこっそり杖を買いに行った一回だけだもんな」

 ダドリーがブツブツと文句を言う。
 そして二人は、9と4分の3番線はどこかと周囲を見回した。
 何があってもいいようにと、時間にはかなり余裕を見て来ている。
 きょろきょろしていたハリーは、自分の目を疑ってダドリーの腹を小突いた。

「なんだよ、ハリー……うわ-ぉ!」

 セブルス皇子役のセブルス・リングハーツだった。大人になっているが、あの蝙蝠を彷彿とさせる容姿、間違いない。

「本物だ! 本当に10人の子供を引き連れてるぜ!」

「ダドリー、わしらが皇子の事を知っているのは秘密だ。皇子自身にすらな」

 バーノンおじさんが窘める。

「ダドリー、何か知ってるの?」

「質問は――するな」

 バーノンおじさんがハリーに言いつけた。いつもだ。いつも、ハリーは何も教えてもらえない。
 ハリーは、見つけた有名人のいかなる行動も見逃さないよう、穴があくほど見つめた。
 すると、視線を感じたのかセブルスがこちらを見た!

「バーノン。ペチュニア。10年ぶりか」

「ワシの事を覚えておりましたか! お久しぶりです、皇子。孤児院でも開いたのですかな?」

「全て私の子供だ」

 宣言するかのような、子供達を守ろうとするような口調。ハリーは10人も自分の子供だと宣言されて驚いた。一人の人が10人も身ごもる事はありえない……それとも魔法使いは違うのだろうか? 浮気したとしても、同時期に10人? それはないだろう。一番ありそうなのは、人口培養された子供だ。アメリカでは、子供の出来ない夫婦が試験管に子供を作るというのが3年前から実現している。法案を通す時はもめにもめ、神の領域に手を出す事など、と大分問題になった。しかし、それも実用化されたのは3年前だ。いや、しかし、有名人のセブルスなら最先端技術を使う事が出来たのかもしれない。
 ハリーは、子供を見つめ、自分にそっくりな子供がいる事に気付いた。
 違うのは目だ。涼やかな、それでいて好戦的な瞳。
 それに、子供達は随分と特徴が違った。
 ハリーが子供達やセブルスを交互に眺めている間にも、バーノンおじさんとセブルスの会話は続く。

「それはそれは。随分と賢そうな御子さん方だ!」

「そちらも、デカ豚が魔力を持っているとは知らなかった」

「お……俺の事を知っているんですか?」

 ダドリーが敬語で話したので、ハリーは目を剥いた。

「ミアよりは遥かに劣るが、第二のミアと呼ばれていたろう。家の子供達は、デカ豚の作ったゲームの内ではピッグファイトがお気に入りだな。あれは私も笑ってしまった」

「お……俺が第二のミアなんて、とんでもないです。ミア女史のツールがあったから、僕でもゲームを作れたんです。あのゲームを皇子がプレイして下さっていたなんて、光栄です」

「そうですとも、うちのダドリーがミア女史と同じなど! まあ、ピッグファイトがかなり売れたのは事実ですが……」

 そう言いながら、バーノンおじさんはかなりご機嫌だった。

「君が、ハリー?」

 ハリーそっくりの子供が、ゆっくりと問う。

「う、うん」

 ハリーが頷くと、子供はにっこりと笑い、片手を差し出した。

「僕は、ジェラルド。セブルスは魔法薬学の教授になるんだ。それに、僕達皆スリザリンに行く予定だ。スリザリンがセブルスの出身寮だから。君もスリザリンだと嬉しいな」

「僕……僕、スリザリンになるよ!」

 急いで握手して、ハリーは言った。
 スリザリンが何のことかは分からなかったが、そんな事は知った事ではなかった。
 セブルスはジェラルドの頭に手を置き(凄く羨ましい!)、時計を見た。

「そろそろ行かなくては。席が埋まってしまう。駅への行き方はわかるか?」

「それがわからなくて困っておりましてな」

「9番と10番の柵に向かってまっすぐ歩けばいい。さあ、来るんだ」

 その言葉に、ジェラルドは言った。

「行こうぜ、ハリー」

 ハリーはトランクを押し、ふらふらとセブルスについて行った。
 セブルス達は次々に柵に消えていく。
 柵とぶつかる瞬間、ハリーは目を閉じた。
 しかし、柵にぶつかる衝撃はなく、そろそろと目を開けると、セブルスはもう離れた所へと行っていた。ハリーとダドリーは、一所懸命追いかける。
 何が何でもセブルスと一緒に座りたい……。
 セブルスは前の方にまだ席が空いているにも関わらず、最高尾へと向かった。
 いくつもセットで開いているコンパートメントを探す為だろう。
 そして、ちょうどいい場所を見つけると、皆のトランクを引き上げてやっていた。
 ダドリーとハリーも子供達の列に並び、ちゃっかり持ち上げてもらう。
 お礼を言われてから、セブルスはトランクが自分の子供の物ではないと気付いた。

「ついでだから構わん。しかし、コンパートメントは別の所に座るがいい。私達の席は私達でいっぱいなのでな」

 ハリーとダドリーはがっかりした。大人しく、隣のコンパートメントに座る(でも、セブルスの隣のコンパートメントだ!)。
 二人ともどちらからともなく耳をすませた。
 隣から聞こえる、女の子の声。

「ねぇ、セブルス。ハリーが、あの子が私の弟なのね……。同じ血の私より、半分しか血が繋がっていないジェラルドの方が似ているのには驚いたわ……。そういえば、半分血が繋がっているのは同じなのに、あの子はすっごく無関心で本なんか読んでいて、逆に感心しちゃったわ」

「その辺にしておけ。決して名乗ってはいけないと言っただろう? 何度も言うが、お前達は、ミアが文字通り勝手に遺伝子を配合して作った子供達だ。お前達のご両親には、それぞれの生活があるんだ。私がお前達の父だ。それ以外に家族はいない。そう思いなさい」

「うわーぉ」

 ダドリーが小さい声で言う。ハリーの心臓は跳ねあがった。なんで子供達の全部をよく見ていなかったんだろう? ハリーは本を読んでいる子なんて全く覚えていなかった。せいぜい、覚えているのはジェラルドが本を読んでいなかった事ぐらいだ。
 ハリーの兄妹は、3人もいたのだ!
 遺伝子配合で作られた子供だというのはショックだったが、かまわないともすぐに思った。ミア女史がどうしてそうしたのかはわからないけど、両親だって死んでしまったのだし、ハリーは兄妹が欲しかった。魔法使いの兄と姉など、どれほど素晴らしいだろう!

「ハリーやご両親に僕達が取られるのが怖い?」

 一瞬の間。

「ジェラルド。その恐怖がある事は否定しない。だが、世の中はそんな甘いものではない。お前達の正体は絶対にばれないようにするんだ。この話はこれで終わりだ」

 これでわかった。プレゼントをくれたのは、セブルスとその子供達だ。
 どうやって名乗ればいいだろう? どうやって、この11個のプレゼントを返せばいいだろう? どうやって……?
 そこで、ハリーは重要な事に気付いた。

「ダドリー、知ってたの?」

「ああ、まぁ、知っちゃったからいいか。うん、まぁな」

「なら、どうして……!」

「おいおい、ミア女史が密かに開発した子供って事で事情があるんだと察しろよ。ついでに我が家はミア女史の側だ。セブルス皇子じゃなくな」

「僕の兄妹に何かしたら……」

「わかんないよ、そんなの。いつか敵対する時が来るのかもな。でも、事情も教えない代わりに、ミア女史の信者に育てなかったのは認めてくれてもいいと思うな。好きな道を選べよ。ママも好きにしたらいいって言ってる。その程度には敬意を払ってるんだぜ? ミア女史に選ばれた遺伝子を持つ者として」

 ハリーは口ごもった。

「僕はどうしたらいいんだろう?」

「俺に聞くなよ。でも、少なくとも今すぐ名乗るのはやめた方がいいんじゃないかな。じっくりきっかけを探すしかないよ。でも、あいつら男ばっかりだったから、姉ちゃんの特定は難しくないと思うぜ。兄ちゃんは特定できたんだし」

「うん……」

 そしてハリーは口の中でジェラルド、と呟いた。
 ハリーの兄の名前。ジェラルドはハリーを弟と思ってくれるだろうか。
 手紙では、兄だなんて名乗ってくれなかったから。でも、もしかして、もしかして向こうが遠慮している可能性だってあるかもしれない。
 僕は、僕は……。
 その時だった。コンパートメントの戸が開いて、赤毛の男の子が入ってきた。

「ここ空いてる? 他はどこもいっぱいなんだ」

 ハリーとダドリーは頷いた。内緒話もここまでだ。

「おい、ロン」

 兄弟らしい赤毛の男の子二人が来て、ロンに声を掛ける。

「なあ、俺達、真ん中の車両辺りまで行くぜ……リー・ジョーダンがでっかいタランチュラを持ってるんだ」

「わかった」

 男の子達が出て言った後、沈黙が支配する。ロンが言った。

「僕、ロン・ウィーズリー」

「ダドリー・ダーズリーだ」

「ハリー・ポッター」

 その自己紹介に、ロンが驚いた。

「ハリー・ポッター? 本当に? あの、ハリー・ポッター?」

 ハリーはコックリと頷いた。

「じゃあ、額にその、傷が……」

 ハリーは傷を見せた。ロンは穴が開くようにそれを見つめる。
 あんまり見つめるので、ハリーは話を逸らすように言った。

「君、お兄さんがいるんだよね。それって、どんな感じ? お姉さんもいたりするの?」

「最悪だよ。お姉さんはいないけど……。僕がホグワーツに入学するのは6人目なんだ。期待に添うのは大変だよ。ビルとチャーリーはもう卒業したんだけど……ビルは主席だったし、チャーリーはクィディッチのキャプテンだった。今度はパーシーが監督生だ。フレッドとジョージ……さっきの二人は悪戯ばかりやってるけど成績は良いんだ。皆、二人は面白い奴だって思ってる。僕も皆と同じように優秀だって期待されてるんだけど、もし僕が期待に応えるような事を慕って、皆と同じ事をしただけだから、大したことないって事になっちまう。それに、5人も上にいるもんだから、何にも新しいものが貰えないんだ。僕の制服のローブはビルのお古だし、杖はチャーリーのだし、ペットだってパーシーのお下がりのネズミをもらったんだよ」

 ロンは上着のポケットに手を突っ込んで太ったねずみを引っ張り出した。ねずみはぐっすりと眠っている。

「スキャバーズって名前だけど、役立たずなんだ。寝てばっかりいるし。パーシーは監督生になったから、パパに梟を買ってもらった。だけど、僕んちはそれ以上の余裕が……だから、僕にはお下がりのスキャバーズさ」

 梟を買う余裕がなくたって、何も恥ずかしい事はない。そう言おうとした時だった。ダドリーが、横から口を出してくる。

「おいおい、だったら自分で稼げばいいじゃねーか」

「稼ぐ? だって僕、たったの11歳で……」

「かんけーねーよ。仕事口なんて、えり好みしなけりゃどこにだって転がってるもんさ。今の世の中、狼人間だって働いているんだぜ? 俺だってそーさ! 隣のハリーだって杖を買える値段くらいは稼いでる。姉ちゃん達にやるプレゼントに全部使ってたけどな。良かったら仕事口紹介するけど。魔法使いの事を色々教えてくれるんならな」

「ダドリー!」

「やべっ……!」

「君、お姉さんがいるの? そんな事、一度も聞いてないけど……」

「誰にも内緒にしてよ……。実は、ホグワーツに生き別れの兄弟が三人いるみたいなんだ。お兄ちゃんが一人、お姉ちゃんが一人、あと一人は性別もわからない。お兄ちゃんが誰かは知ってるんだけど、事情があって絶対内緒にしなくちゃいけなくて……」

「絶対に、絶対に内緒なんだ」

 ダドリーが付け加えるのを、ハリーは軽く睨んだ。

「それって、誰か聞いていい?」

「ジェラルド・リングハーツって言うんだ。魔法薬学のセブルス先生の子供」

「お母さんが浮気してたのかい?」

「浮気じゃないよ。年は同じだから。だけど、誰にも言えないふかーい事情があるみたいなんだ……。僕も、良く知らないんだけど」

「へぇー……」

 そして、沈黙が落ちた。
十二時半頃、通路でガチャガチャと大きな音がして、えくぼのおばさんが戸を開けた。

「車内販売よ。何かいりませんか?」

ハリーとダドリーは勢いよく立ちあがったが、ロンはサンドイッチを持ってきたからと口ごもった。
 ハリーはゲームの中を除いては、めったに甘いものを食べた事が無かった。
 プレゼントしてもらった事のある食べ物がいくつか目につく。皆好物だった。
 ハリーとダドリーは山のようにお菓子を買い、開いている座席にどさっと置く。
 ロンはそれを目を皿のようにして眺めていた。
 そこに、コンパートメントの扉が叩かれる。

「かぼちゃパイを一緒に食べないか……って、うわぁ」

 ジェラルドが、座席いっぱいのお菓子に目を丸くする。

「ごめん、必要なかったみた……」

「これ、全部ロンとダドリーのだよ! 僕、お腹ぺこぺこ!」

 ハリーは神速の速さでジェラルドの手を握った。
 ロンは目を丸くする。

「え……だって……」

「これはロンのだよね? ね? 全部ロンが食べちゃって、分けてなんかくれないんだよね?」

 ハリーは何度もウィンクした。ダドリーがロンの肩に手を置き、首を振る。

「う、うん。これは僕のだから、食べちゃうよ……?」

「ほら! ねぇ、そっちのコンパートメントに顔を出していい? 出来る限り縮こまっているから……。お昼だけでいいから……」

「ああ、食べる間位なら別に……」

 ハリーはむしろジェラルドを引っ張るようにしてコンパートメントに向かった。

「これ、本当に食べていいのかな」

「いらないなら俺が食べる」

 ダドリーは早くもバクバクと自分のお菓子を食べつくす勢いだ。
 ロンは急いでかぼちゃパイを引っ掴んだ。



[21471] 4話
Name: ミケ◆f4972812 ID:8a3a10d3
Date: 2019/06/17 22:41
「なんだよ、ハリーの奴を連れてきたのか?」

 ハンサムな少年が、ジェラルドに問うた。席はちょうど二つ空いていて、よく似た少年が二人並んでいた。

「一緒に食べたいっていうから。いいだろ、シス」

 シス。ハリーはその名と顔を頭に刻みつけた。10人、何としても覚えて見せる。

「僕はレイナルドだ。よろしく、ハリー。カエルチョコ食べる?」

「俺はシス」

 ハリーはぐぅっとお腹を鳴らし、三人は笑った。

「さあ、召し上がれ」

「う、うん」

 かぼちゃパイを半分差し出され、ハリーは齧り付いた。
 ジェームズはいっぱいお菓子を買いこんでいて、ハリーは遠慮せずに食べる事が出来た。
 当たり前だが、お兄さんにお菓子を貰って食べるなんて経験、ハリーはした事が無かった。
 喉にお菓子を詰まらせて、どんどんと胸を叩くと、ジェラルドが飲み物をくれて、ハリーは一息つく事が出来た。

「がっつくなよ。お菓子は逃げないからさ。あ、これは効果付きのお菓子だからやめておけ」

「ジェラルドとシスとレイナルドは、仲がいいの?」

「ああ、兄弟の中では一番だな」

 その言葉に、シスは嬉しそうな顔をして、お菓子を食べる事でごまかした。

「へぇー。ねぇ、魔法使いの家って、普段どんな事をしているの? 何で遊んでる?」

「俺達、クィディッチが得意なんだ」
 
 シスの言葉に、ハリーは首を傾げる。

「クィディッチって何?」

「プレイ中の写真があるよ。俺ら、万一寮がバラバラになった時に寂しくない様に、写真を用意して来たんだ」

「本当? 見せて!」

 写真の中をびゅんびゅん飛び回るシス、ジェラルド、レイナルドにハリーは目を丸くした。そして、精一杯褒めたたえる。写真は魔法の掛かった物と普通の物と、両方があった。
 ジェラルド達は機嫌を良くし、ハリーに写真を見せては、あれは誰だ、これは誰だと教えてくれた。
 ハリーは一所懸命それを覚えた。
 シスとレイナルドもそっくりだが、カイルとルフィーは本当にそっくりだ……。色違いの腕輪が無ければ、とても見分けがつかない。
 マックスはどことなくアメリカ系の感じがした。
 トマスは偉そうで、どことなく冷たい目をしている。
 そして、女の子が三人。ハリーはそれを穴があくほど見つめた。
 箒に乗った活発そうな女の子、リエラ。
 本を片手に持ったセーラとセルマ。
 リエラが、僕の姉なのだろうか? いずれにしろ、セーラとセルマはどの写真でも本を持っていたから、片方が半分血がつながっているのは間違いない。
 ハリーには姉が二人、兄が一人いるのだ。

「ジェラルド、ハリーとお菓子を食べているんですって? はーい、ハリー。リエラよ」

「僕、ハリー」

 ハリーはリエラに自分との共通点を探す。目がそっくりかもしれない。握手した手は、柔らかかった。

「あら、アルバムを見ているの? 恥ずかしいわ。ハリーも何か写真を見せてよ」

「僕、僕、ええと……これ! スクリーンショットをプリントアウトした奴!」

 ハリーは大切にしまっていた、ゲームでボスを倒した時のスクリーンショットを差し出した。それに、ちょっと困った顔をしたリエラは、すぐに笑って見せた。

「ビューティフルスワロー! 知っているわ。貴方だったのね」

「いや、写真は?」

「僕、取ってもらった事なくて……」

シスの質問にハリーがしょげて答えると、レイナルドがシスをつついた。ジェラルドはハリーに優しく言う。

「じゃあ、ルフィーに撮ってもらえばいいよ。あいつはカメラが好きだから。代わりに君の話をして」

「うん!」

 ハリーは話した。ゲームのバイトの事、毎年楽しみにしている名前を教えてもらえない人達からの手紙の事、ダドリーと組む羽目になった事、名前を教えてもらえない人達からの素敵な11個のプレゼントの事、ナーヴギアの勉強プログラムで一度だけ100点を取った事、名前を教えてもらえない人達が迎えに来てくれるのをずっと待っている事、そしてダイアゴン横町での事……。

「お前の人生の半分は名前すら知らない人なのか?」

 呆れた声でシスが言うと、ハリーは否定した。

「半分以上だよ! 僕、お姉ちゃんが迎えに来て一緒に暮らしてくれるなら、ナーヴギアだっていらない!」

 リエラは、クスクスと笑った。

「知らないから期待してしまうのよ」

「そんな事無いよ、手紙の文面ではいつもとっても優しかったんだ! 他の人の手紙も、皆そうなんだ」

「とてもそうは思えないわ。ねぇ、シス」

 リエラが悪戯っぽく笑いかけると、シスはそっぽを向いた。
 
「何をしている、ハリー・ポッター。自分のコンパートメントに戻るがいい」

「セブルス皇子!」

「私の事はリングハーツ教授と呼びなさい」

 セブルスが自分に話しかけた! しかし、その内容は残酷だった。しかし、すぐにハリーは自分に子供達が奪われるのが怖いと言っていた事を思い出す。
 今日の収穫はここまであれば十分だろう。ハリーは名残惜しく思ったが、渋々と立ち上がった。

「また、後で」

 こっそり囁いてくれたジェラルドに笑みを返し、ハリーはコンパートメントに戻った。
 
「お。ようやく戻ってきた。デートは楽しかったか?」

「最高だったよ! ジェラルドはクィディッチをやるんだ!」

「あ、ごめん。お菓子、ちょっと残ってるけど……」

 遠慮がちにロンが言うが、ハリーにはどうでも良かった。座席のお菓子を邪魔だとばかりにロンに押し付け、座席に座るとどんなに兄が格好良く、姉(と思われる人)が可愛かったか熱っぽく語った。
 ロンはハリーが孤児だという事を聞いていたし、お菓子も貰っていたので、うんうんと頷いてやる。ダドリーは耳を塞いで断固として聞く耳を持たない構えだ。
 そこへ、丸顔の男の子が泣きべそをかいて入ってきた。

「ごめんね、僕のヒキガエルを見かけなかった?」

「ヒキガエル? あれ、カレー粉掛けて食うと結構いけるよな! 俺も探してやるよ」

 ダドリーは、ハリーの惚気から逃れられるとその話に食いつく。ロンがはっと手を口に当て、男の子は呆然と口を開けた後、大声で泣き始めた。

「ダドリー! ヒキガエルはペットだよ! ゲームの中じゃないんだから」

「おお! そ、そうか。悪い。食料じゃないなら先に言えよ」

「ごめんね」

 ハリーが謝るが、男の子は泣きながら逃げて行った。
 ぽかんと見ていたロンは、急いでスキャバーズを庇う。
 その後、しばらくしてすぐに、プリプリした女の子が先ほどの男の子を引き連れてやってきた。

「貴方、ネビルのヒキガエルを食べたですって?」

「まだ食ってねぇよ!」

「ネビルのヒキガエルを返しなさい!」

「僕達、ヒキガエルは見てないよ。さすがにペットのヒキガエルを食べようとしたら止めるよ!」

「貴方、どこの野蛮人?」

 女の子にうろんげな瞳で聞かれ、ハリーはもごもごと、ダドリーは自信たっぷりに、ロンはおずおずと名前を答えた。

「貴方が? 参考書で読んだ感じとは随分とイメージと違うのね」

「参考書?」

「まあ、知らなかったの。私が貴方なら、出来るだけ全部調べるけど。二人とも、どのように入るかわかってる? 私、色んな人に聞いて調べたけど、グリフィンドールに入りたいわ。絶対に一番良いみたい。ダンブルドアもそこ出身だって聞いたわ。でも、レイブンクローも悪くないかもね……。とにかく、もう行くわ。ネビルのヒキガエルを探さなきゃ。二人とも着替えた方がいいわ。もうすぐ着くはずだから。……本当にネビルのヒキガエルを食べてないのね? 貴方、きっとスリザリンだわ」

「スリザリン! スリザリンって寮の名前なんだ。僕、スリザリンに行きたいんだ」

 ロンとハーマイオニーは驚いた顔をした。

「なんでまた……」

「セブルス皇子……リングハーツ教授がスリザリン出身なんだって。その子供のジェラルド達も皆スリザリンに行くって言ってたんだ……」

「セブルス皇子? もしかしてファンタジック3の!? ミア女史の親友の!? 子供がいたの? 私、ジェセブが大好きで……」

 そこまで言いかけて、ハーマイオニーは口を押さえ、顔を赤らめた。
 ハリーは慈愛ある瞳で語りかける。

「僕の家の同人誌コレクション、見る?」

 ハリーとハーマイオニーは堅く握手を交わした。

「おいおい、あれはお前のじゃねーだろ、会社の資料だろが。まあ、友達に見せるぐらいいいけどよ。可愛いのにもったいない……」

「同人誌とかジェセブって何?」

「お前は一生知らなくていい事だよ」

 ロンの質問に、ダドリーは答えた。
 笑顔でハリーとハーマイオニーは別れ、ロンはハリーに問いかけた。

「でも、悪名高い魔法使いって皆スリザリン出身だぜ?」

「そうなの?」

「そうだよ。名前の言えないあの人もそうさ。この前グリンゴッツの金庫を荒らそうとしたのは、影にあの人がいるんじゃないかって皆怖がってる」

 そこまで話すと、男の子が三人入ってきた。あのダドリーが気にいった男の子だ。
 ダドリーは立ち上がり、陽気に声を掛けた。

「よお、また会ったな、美人さん!」

 ダドリーの言葉にマルフォイは顔を一瞬顰めたが、すぐに平静に戻った。

「やあ。この列車のどこかにハリー・ポッターがいると聞いたけど。君達、知らないか?」

「僕がハリー・ポッターだよ」

「君か。こいつはクラップで、こいつはゴイルさ。そして、僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」

「ますますイメージぴったりだ! なあ、ちょっと顔を出してみるだけでも、駄目かな? 俺、ダドリー・ダーズリー。ハリーのいとこさ。ところで、マルフォイってルシウス・マルフォイの子供か?」

「よろしく、マルフォイ」

 ロンはクスクス笑いをごまかすように咳払いしたが、ダドリーの称賛や疑問の声とハリーとの握手で気がそれた。

「父を知っているのか? マグルの君が?」

「ああ、ルシウス・マルフォイに親切にされたって人と話した事があるんだ」

 マルフォイは探るようにダドリーを見たが、ダドリーの瞳に悪意が混じっていないのを見て額面通りに受け取る事にした。そして、ハリーに向き直る。

「ポッター君は、マグルに育てられたと聞いたが、魔法族について僕が色々と教えてあげるよ」

「ありがとう。でも、僕は色々教えてもらいたい人がもういるんだ」

「もしかして、そこの赤毛かい?」

 ドラコが眉をひそめる。

「ううん。ジェラルド。リングハーツ教授の子供なんだ。クィディッチも出来るんだよ。僕、箒の乗り方を教えてもらう約束もしたんだ」

「聞いた事があるような無いような……。いや、魔法族にそんな名字はいないな」

「スリザリン出身なんだよ。僕もスリザリンに入るんだ」

 その言葉に、ドラコは気を良くした。

「そうか。君は物わかりがいいようだ。僕もスリザリンに入るんだ。一緒の寮に入ったら仲良くしてやっても構わない。そこのダドリーもな」

「ああ、よろしくなドラコ!」

 ドラコが出て行くと、ロンは言った。

「あの家族、例のあの人が消えた時、真っ先にこっち側に戻ってきた家族の一つなんだ。ハリー、君は例のあの人の側なの? あのルシウスに親切にされたなんて!」

「僕、知らないよ。ヴォルデモートの名前だって、この前初めて知ったんだ」

「例のあの人を呼び捨てにした!」

 ロンが驚きに目を見開き、ダドリーが仲裁に入る。

「おいおい、誰だって人に親切にすることくらいあるさ。そうだろ? そういうお前は、どの寮に入るんだよ」

「グリフィンドール。僕の家族は皆そこなんだ。スリザリンなんて、最低だよ」

「そんな事無いよ。だってジェラルドが入るって言っているんだ。きっと素敵な寮さ」

「そもそもさ、どんな寮があってどんな校風なんだよ」

 ハリーとダドリーの言葉に、ロンはため息をついた。

「知らないでスリザリンに入るって言っていたのかい? 僕、組分け帽子の歌を知っているから歌ってあげるよ」

 ロンは組分け帽子の歌を歌う。そして、ただしスリザリンは悪い魔法使いの出身寮だと言った。
 ダドリーは、レイブンクローに入れられそうだが真っ平だと言い、ハリーは真の友を得ると聞いて、きっとジェラルドの事だと疑わなかった。
 ロンはその両方を、疑わしげな顔で聞いていた。
 ダドリーはとても頭が良さそうには見えなかったし、ハリーの顔はまるで恋人を求めるそれだったから。




[21471] 5話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:8a3a10d3
Date: 2019/06/17 22:45
 生徒達が、次々と組分けされていく。
 ハーマイオニーやネビルはグリフィンドールに、ドラコとダドリーはスリザリンになった。

「ロン、僕、スリザリンになれるよね、なれるよね。だって僕、どんな手段を使ってでもジェラルドと一緒の寮になりたいもの……。ダドリーだってスリザリンに入れたんだもの……」

「落ち着けよ、ハリー。ジェラルドだって、スリザリンとは限らないだろ……」

「ポッター・ハリー!」

 ハリーは名を呼ばれて、そろそろと帽子に向かった。
 そして、ハリーはスリザリン、スリザリンと思い続けた。
 僕はスリザリンで甘い日々を送るんだ……。お兄ちゃんって呼んで、添い寝してもらって、一緒にご飯を食べて、遊びに出かけて……。

『悪い子だ、ハリー』

『あっお兄ちゃん……』

「健全なる青少年育成の為に! グリフィンドール!!」

 ハリーは目の前が真っ暗になって、気を失った。
 ハリーが目覚めると、そこは医務室だった。

「なんだ夢か……。そうだよね、この僕がグリフィンドールだなんて、ありえないよね」

「おいおい、現実逃避すんなよ。お前はグリフィンドールだぜ。ロンもだったから、喜べよ」

 ごちそうを貪りながらのダドリーの言葉に、またハリーから意識が遠のいて行く。

「ま、ジェラルドもグリフィンドールだったけどな」

「本当に!? 本当に本当に本当に!?」

「えーと、シス、ジェラルド、マックス、セーラ、リエラがグリフィンドールだ。レイナルド、カイル、ルフィー、トマス、セルマはスリザリン。ロンとハーマイオニーが知らせに来てくれた。セブルス皇子が頭を抱えてたぜ。さ、さっさと飯食いに行こうぜ。ロンとハーマイオニーが少し持ってきてくれたけど、これじゃ全然足りやしねぇ。手間かけさせやがって」

「あ、ありがとうダドリー」

 広間に戻ると、既にデザートに移っていた。
 
「ここ、座るかい?」

「ジェラルド!」

 ハリーは急いでジェラルドの隣の席に陣取った。
 ダドリーは急いでスリザリンの席に走っていく。

「ハリー。そんなに僕と同じ寮になりたかった?」

「ジェラルドはお前の為にグリフィンドールを選んだんだぞ。スリザリンも行けたのに!」

 シスの言葉に、ハリーは嬉しさと申し訳なさで動揺した。

「僕、僕、ごめんなさい……ありがとう」

「いいよ。僕、実はグリフィンドールにも惹かれていたんだ。それに、リエラはどうやってもスリザリンにはいけなそうだからね、一人は可哀想だ。おっと。ごめんね、僕ばかり話して。さあ、パイを食べなよ」

 ハリーはパイに齧り付いた。
 ジェラルドに夢中で、ハリーは周囲の事など見ちゃいなかった。
 ダンブルドアがいくつか説明をして、最後にセブルスを紹介する。

「今年度から魔法薬学を教える、セブルス・リングハーツ教授じゃ」

 その途端、マグル出身らしき生徒達が悲鳴のような歓声を上げる。
 ハリーも一生懸命手を叩いた。
 皇子コールが始まって、それは段々広がっていき、広間を支配した。
 セブルス教授は困っているかのようだった。

「私は魔法薬学を教える事になるセブルス・リングハーツだ。リングハーツ教授と呼んで欲しい。ここへは魔法使いとして来ているので、ナーヴギアやマグル界での事に関する質問には答えない。出来れば、初めてあった魔法使いの教授として接して欲しい」

 挨拶が終わると、歓声が上がる。

「セブルス皇子―!」

 セブルスの言葉は伝わっていなかったようだ。

「では、寝る前に校歌を歌いましょう!」

 ダンブルドアが声を張り上げた。
 ハリーは、ジェイムズの歌に聞き惚れていた……。
 さて、グリフィンドール寮である。

「僕、僕、環境が変わったし、怖い夢を見そうだからジェラルドと一緒に寝ていい?」

 ロンが吹く。

「ジェ、ジェラルドは俺の兄弟だぞ! ジェラルドと一緒に寝るのは俺だ!」
 
「うーんと……」

 ジェラルドはしばし考え、言った。

「子猫ちゃん達、わかったよ。来るもの拒まず、僕は君達を受け入れよう。二人ともおいで」

「待って! ハリー、気持ちはわかるけどよく考えて! 君は舞い上がりすぎているよ!」

「さあおいで、子猫ちゃん」

「うん、ジェラルド」

「待ってー! 何か凄く危険な香りが!」

 ロンの頑張りで、ハリーは一人で寝る事になった。
 その日、ハリーは夢を見た。スリザリンに移れとターバンが言う夢だ。

「ジェラルドと一緒なら移る」

 はっきりきっぱり言われたそれに、ターバンは黙った。
 翌日、ハリーのジェラルド好きの事はもう寮中に広がっていた。
 そして、ハリーはある事をロンに相談する。
 ロンはフレッドとジョージ、パーシーに相談していた。

「ねぇ、フレッドにもしもジョージとは血が繋がっていないけど、フレッドとは血の繋がっている孤児が、僕、今まで家族がいなかったんだ。とっても嬉しいよ、お兄ちゃん大好き! なんて言ってきて、それがあまりにも度が過ぎていたら、どうする? どうすればいい? ほら、僕達にはたくさんの兄弟がもういて、フレッドとジョージは凄く仲がいいだろ……」

「まず父さんを問い詰める」

 フレッドとジョージは声をそろえて言う。

「それってもしかして、ハリーとジェラルド、シスの話かい?」

「そ、そうじゃないけど……」

「隠してもわかるぜ。ジェラルドとシスより、ハリーとジェラルドの方がよっぽどそっくりだ。そっか、ハリーに兄貴がねぇ……どう考えても腹違いだよな」

「何かハリー自身も教えてもらえていないけど、複雑な事情があるらしいんだよ」

「そりゃ、10人も同い年の子供がいれば、何にもないわけないよな。一人の母親が一度に孕めるのは、せいぜい二人なんだから」

「僕、兄弟って何をするのか聞かれたんだ。改めて聞かれると、わかんないよ……」

「よく相談してくれた、弟よ。大丈夫さ、俺達に任せろ……」

 フレッドとジョージがにやにや笑って請け負う。
 この後、ハリーはフレッドとジョージに偽知識を刷り込まれ、ジェラルドを追いかけまわす事になる。
 ジェラルド達は、魔法省から許可を得てパソコンを持ってきていた。
 それに、ジェラルド達もハリーと同じ通信教育を受けていた。
朝と夕方、ジェラルド達と一緒に勉強するのがハリーの至福の時間となった。
次の日の夕方になると、ジェラルドはハリーに問うた。

「僕はセブルスの所に行くけど、ハリーも行くかい?」

「行く……」

「行くわ!」

「行くよ」

「僕も連れてって!」

「私も!」

 マグル出身の子達がわらわらと詰めかけて、ジェラルドは頬をひくひくさせた。
 魔法薬学の教室に行くと、セブルスは魔法薬を作っている最中だった。
 セブルスの子供達がそれを手伝い、マグルの子供達がそれを見ている。ダドリーとマルフォイも来ていた。

「僕、これ知ってる! 魔力強化薬だ。ダドリーに持ってきてくれたのってセブルス皇子だったんだ」

 ダドリーが、あちゃあ、と手で顔を覆った。ダドリーのその様子に、ハリーは自分の失言を知った。

「このレシピを知っているのは、ダモクレスとミアしかいないはずだ……。ハリー、どこで手に入れた?」

「僕、僕知りません……。僕の勘違いだったみたいです」

「リリーおばさんが錠剤化に成功してたんです。これを水に溶かして飲むんです。ほら、こうして」

 ダドリーがやってみせた。それに、セブルスは目を見開く。

「そうか……。レシピが残っていたら教えてくれ。さあ、子供達。飲みなさい」

 ジェラルド達は強化薬を飲む。
 ハリーは羨ましそうな目でジェラルドを見た。

「僕……僕……僕だけ強化薬飲ませてもらえなくて……」

 ジェラルドはセブルスを見る。

「お願いだよ、セブルス。ハリーにも魔法薬をあげて」

「いかん、そもそも強化薬は乱用して良いものではない。お前達に強化薬を使っているのは、いつかミアが戻ってきた時の為に……」

「お願いよ、セブ」

「仕方あるまい」

 リエラの願いに、セブルスは前言を撤回し、魔法薬を渡した。

「セブルス先生、僕も飲みたい。これ、魔力が上がるんでしょう?」

 ドラコが言い、ドラコにも魔法薬を渡す。そうすると、他の者が黙ってはいない。
 大鍋は、あっという間に空になったのだった。
 

























sage投稿チェック失敗してしまいました。
お目汚ししてしまい本当にごめんなさい。



[21471] 6話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:87aab1b5
Date: 2019/06/27 15:21
皆で、薬を飲んで一息つくと、生徒達は雑談を始め、教室を興味深く眺め始めた。

「セブルス皇子、ファンタジックシリーズの冒険について聞かせてくれますか?」
 
 ハーマイオニーが、大切そうにジェセブ長編「愛と闘争の果てに」を抱えて聞いた。

「とりあえず、そこに描かれている事は全てでたらめだから安心するがいい」

 ハーマイオニーはこの世が終わったような顔をする。

「そんな……それじゃ……シリセブだというの……!?」

「まずその発想を捨てろ。そしてそれは一八禁なので私が没収する」

 ハーマイオニーが更に絶望の表情を見せる。そしてわけがわからないといった顔をしたネビルの胸に顔を埋め、言いつける。

「ネビル、私の嫁が苛めるの……!」

「私はお前の嫁ではない」

 即座に入るセブルスの否定。ネビルは、目を白黒させて事態を見守っている。
 マルフォイがハーマイオニーを虫けらを見る目で見下ろす。

「本人の前に生ものの同人誌を持ってくるなんて、頭がどうかしてるんじゃないか?」

「個人的に、何故そんな専門用語を知っているのかが凄く気になるな、ミスタードラコ」

 セブルスが頭を抑えて言うと、ドラコはわたわたとして転んだ。
 そんなドラコの様子をせっせと脳内フォルダに保存していたダドリーは、禁断の一言を放った。
 
「え。ドラコって僕っ娘?」

 ドラコの生足が露わとなっていた。

「ぼ、僕のどこが僕っ娘だ!」

 ドラコが怒鳴る。

「だってズボン履いてないし」

 ハリーもそれは気付いていた。気付いていたが、知らない振りをしていたのだ。
 そう、魔法使いは驚くべき事に、ズボンを履いてないのである。
 でも、指摘すると郷に入っては郷に従えという感じに、自分の方がズボンを脱ぐ羽目になるかもしれない。それゆえ、指摘出来なかったのだ。

「ローブを吐いているんだから、ズボンを履かないのは当たり前だろっ」

「いや、ありえねーし。クィディッチはあれか? 生足乱舞、ぽろりもあるよになるのか? 女だけならいいけど、男だと吐き気しかしねぇ。つーかローブ捲れると魔女ってパンツからブラまで見えるわけ?」

「破廉恥な事を言うな! ローブを捲るなっ」

 真っ赤になって抵抗するドラコと、ローブを捲ってみるダドリー。
 遠い目をしてどこかを見つめるロン。
 カオスである。なお、後にダドリーのスカートめくり乱舞が炸裂した事により、ホグワーツにズボンが流行る事になるのだが、それは後の話である。
 さて、セブルスがカオスに頭を痛くしている事、ハリーはジェラルド達の会話に入れてもらって舞いあがっていた。

「でね、セルマが作ったゲームが面白くってさ……」

「あんなの、片手間に作ったゴミよ」

 ジェラルドの賛辞に吐き捨てるセルマ。自分の姉かもしれない人が作ったゲーム。
 それは酷く興味を引いた。
 
「僕、やってみたい」

「アドレスある? 送ってあげるよ。遊ぶのは今度の休みになるけど。というか、家に遊びに来ない?」

「いいの!?」

 こんなに幸せでいいのだろうか。
 もちろん、いいわけはないのだ。
 舞いあがる一方で、警戒の眼差しでセブルスがハリーを見つめていた事にも、ハリーは気付いていた。

 次の日の魔法薬学の授業。
 大演説の後に、セブルスのターンが始まった。

「ポッター! アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じた物を加えると何になるか?」

 セブルスのターンの次は、ハリーのターンである。

「魘された時、眠れない時に使う薬です。目覚めの香は、モンクスフードの粉末と……」

「チッチッチッ――有名なだけではどうにもならんらしい。生ける屍の水薬とまで言われる薬を、なんでそんな用途に使うのかね」

「でも、ジェラルドは、セブルス皇子はいつもそれを飲んで眠るって。そんな強力な薬をそんな用途に使って大丈夫なんですか?」

「……私は個人の用途を聞いているのではない。無礼な態度でグリフィンドール一点減点!」

 空気が凍ったかに見えた瞬間、その一言が放たれる。

「誰がどう見ても完璧なツン。さすがセブルス皇子。で、デレはいつ?」

 ダドリーの気負わないそれに、セブルスは眉を顰めた。
 そして、セブルスは二人ずつ組にして、おできを治す簡単な薬を調合させた。
 セブルス・チャイルドはさすがに、どの子も手際よく薬を作っていた。
 ハリーは猛烈な勢いでジェラルドと組みたがったが、セブルスは即座に却下しネビルと組ませた。ハリーがorzとなっている間、ドラコもまたダドリーと組まされてorzとなっていた。

「俺の腕前を見せてやるぜ!」

 張り切ってほいほいと大鍋に材料を投下するダドリー。

「どの材料もおでき薬に掠ってすらいないぞ!」

 マルフォイはダドリーを必死に注意する。

「ほら、角ナメクジはこうやってゆでるんだ。コツは……おい、聞けよ」

 マルフォイが大声で言い聞かせるので、ハリー達はそれに聞き耳を立てながら薬を作る。

「山嵐の針は火からおろしてすこし冷ましてからだからな! 絶対だぞ! 違う! 入れるのはトカゲじゃない!」

 マルフォイの言葉に、ネビルが慌てて針を引っ込め、鍋を火からおろした。
 スネイプは、あちこち注意して回る。
 ハリーとネビルは一際怒られたが、どうにか及第点のおでき薬を作りだした。
 最後に、ドラコの薬を褒め(ハーマイオニーとセブルス・チャイルドの完璧な薬は無視をした)、ドラコの隣の鍋に眉をひそめた。

「これは、何かね? ダーズリー」

「トカゲの煮物です。セブルス皇子もいかがですか?」

 むっしゃむっしゃとトカゲを食べながらダドリーが言った。
 アホだ。いや、野蛮人だ。むしろ、勇者?
 さわさわとした囁きが広がるが、それをダドリーは物ともしない。

「スリザリン、一点減点!」

 さすがに、その減点にはスリザリン生達も納得せざるを得なかった。



[21471] 7話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:87aab1b5
Date: 2019/06/27 17:00
すみません、久しぶりで大分拙い部分が多いです。
雰囲気だけお楽しみ下さい。
















 傍若無人で点数を減らすダドリーだが、彼は案外好かれていた。
 争いは同じレベルでしか生じず、いろんな意味で別の場所で生きるダドリーとは争いにはならない。それに、ダドリーはああ見えて有名人として高い対人スキルを育ててていた。
 特に、ナーヴギアによる対洗脳の講義はイギリスでは必修科目となっており、魔法学校に通っている必修科目を学べない子供達は、こぞってダドリーに師事を仰いだ。
 闇の魔術の防衛術と同じ立ち位置である。
 世界ではIT技術が発展しており、特にアメリカでは半VRといって、スカウターのような装置を顔につけて、半分仮想空間の中で生活をする、というのが流行りつつあった。
 当然、VR装置の安全性や法律も整備されているが、それ以上に個々人によるVRへの逆ハックが出来るように訓練するのが流行となっていた。その最先端は、以外にもダドリーなのである。
 人間に溶け込む為に、魔女達もIT技術について学ばなければならないということ、アメリカを中心に「何故か」魔法使いが爆発的に増えていて、マグル出身の魔法使いが増えている事で、魔法界には常に新しい風が吹き続けている。
 
 何が言いたいかというと。
 ダドリーはマジック&コンピューター会社を立ち上げ、片っ端からクラスメイトを雇った。内容は、魔法と科学の融和であり、科学から身を守る方法だ。
 機械を即座に無効化する術などは、魔法界でも研究されており、それらも学ぶ。
 地味にイギリス政府の肝いりの事業でもあり、セブルス・チャイルド達もそれに所属した。セブルスチャイルドあるところ、ハリーあり。ハリーやロンやハーマイオニー、双子達もこれに所属していた。
 これだけ勢力がでかくなると、マルフォイも無視できなくなる。


 これは、もうすぐ一年生が終わるという時の一日の出来事である。

 
 セブルス教授はマルフォイに相談され、頭が痛そうな顔をする。

「ダドリーを見ていると。全く違うはずなのに、ミアを幻視する」
「ミア……闇の皇女。どんな人だったんですか?」
「悪女だったよ。その事について異論のある者はあるまい。それゆえに、世界に拒絶された。そういう女だった」
「世界に、拒絶ですか?」
「そうだ。あの時、数え切れないほどの奇跡が起きた。それがミアの心の奥底にある両親だった……という者もいるだろうが、それは違う。ミアを排除しようと、なにか大きな力が働いていた。私も感じていた。私はその声に何度でも逆らうと断言できる。しかし……しかし、私もまた悪なのだ。それは受け入れなくてはならない」

 それから、マルフォイの事を見る。

「逃げても無駄だ。残念ながらな。ならば、自ら波に乗って、少しでも抗うんだ。何も知らなければ、抵抗すら出来ない。帝王のように。だから、私も子供達がダドリー達に近づくのを容認している。例え、心配でもだ。それと……ファンタジック4には注意しろ。あれの続編が作られるなど、聞いた事がない。無いとは思うが、ミアの後継者がいるのかもしれない。それにダドリーが協力していない、とも限らない。私の時は、深く食い込んでいる事で抗えた。だが」
「二度も三度も同じ手口は通用しない、ですね。それでも……それでも、このままでは置いていかれてしまうと思うのです。マルフォイ家の為、ダドリーの申し出を受けたいと思います」
「ナーヴギアを被る前に、防衛術を私から教えよう。あれは恐ろしい」
「はい」

 一方その頃、可哀想なクィレル教授はセブルス・チャイルド達に捕らわれていた。

「ななな、なん、なん、なんなのですか! なんなのですか!?」
「せーんせ♡ 先生、僕の大切な弟に攻撃しかけてたよね?」

 ジェラルドは楽しそうに告げる。その隣で、トマスが冷ややかに捕らわれたクィレルを見ていた。
 
「誤解だっ」
「頭の後ろの顔も?」

 クィレルはぐっと黙る。

「な、なぜ……」
「母さんも父さんも、尊敬していた。希代の悪人。ああ、そうさ。あんた達は凄いよ。自分のエゴの為に世界を踏みにじった。それだけに、見苦しいあんたたちは見たくない。父さん。せめて、僕が君に引導を渡してあげるよ」
「引導だと!? まさか……!」「さすがだ、ミアと我の子よ! いずれその体を……!」
「アバダ・ケダブラ」

 一切の躊躇無く、トマスは杖を振るった。子供達は動揺を全く見せない。
 魔法省さっちされないよう特殊な結界を張っていた残りの子供達は、すぐに体を始末する。
 セブルスに祈りがあるように。ミアに野望があるように。ヴォルに企みがあるように。
 そう、子供達にも意思がある。
 産まれながらに最悪の敵から狙われる恐怖に慣れきった子供達は、闘争を迷わない。



「わかったよ、パパ。六年生になったら、計画を開始するさ。うん。うん。俺はちゃんと、デスゲームをやり遂げてみせるって。この、魔法界で。でも、その前にちょっと楽しんだって良いだろ?」

 魔法界で使えるように設定された電話で喋るのは、ダドリーだ。
 ダドリーが電話を切ると、声を掛けた。

「そこにいるんだろ、ハリー」

 羽織っていた透明マントを脱いだハリーは、問いかけた。

「ダドリー。君、本当に両親に従うの?」
「俺がやらなきゃ誰かがやるさ。だから、俺が失敗しなきゃな。お前も知らない振りしとけよ」

なお、この全ての様子を把握してダンブルドア教授は頭を抱えていた。


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