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[21361] アッカンベーしてさよなら(ゼロの使い魔 オリ主召喚 チラ裏から移動)
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:43
アッカンベーしてさよなら(ゼロの使い魔 オリ主召喚)



以前読んでくれていた方、お久しぶりです。
そして長らく放置してすいませんでした。
また、ちょこちょこ更新させていただきます。

初めてこのSSを読むという方、はじめまして。
このSSは原作にある興奮と感動の一大スペクタクルそして萌えが著しく損なわれているアホなだけのSSです。
それでもよければぜひ読んでみてください。

最後に。
私の力量不足で皆様のアドバイスをこのSSで直ぐに活かすことができないかもしれません(努力はします)。
ごめんなさい。





投稿開始。

H22.8.22


自分の中である程度まとまってきたこともあり、前書きを改定しました。

H22.9.17


全話見なおして文章の構成などを修正しました。

H22.9.27


チラシの裏からゼロ魔板に移動しました。
それに伴い改めて全話を見なおし、前書きと後書きをスッキリさせました。

H22.10.4


タイトル、前書きを修正しました。
御指摘くださった方、ありがとございます。

H22.11.11

  
更新再開します。

H25.10.25


各話にサブタイトルをつけました。

H25.11.08



[21361] 第1話 鏡の中からボワッと
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:35




「アンタ誰よ」


「は?」


なんだコレ?なんで目の前に外国人の女の子がいるんだ?
…………というか色々おかしい。
まず場所がおかしい。何だこのだだっ広い草原は。
こんなとこ近所にあったっけ。
……いやいや、その前に俺はアパートの自分の部屋から出ただけだぞ……。

そんなことを考えながら大の字状態だった体を起こして辺りを見回す。

「ミスタ・コルベール!召喚をやり直させてください!」

「ミス・ヴァリエール、それはできない。この使い魔召喚は神聖な儀式なのだ。やり直しは認められない。」

「でも人間を使い魔にするなんて聞いたこと有りません!」

「はははっ!平民を召喚するなんて、さすがはゼロのルイズだ」

「ちがうわよっ!ちょっと間違っただけよ!!!!ミスタ・コルベール!もう一度だけ!」

「ミス・ヴァリエール。使い魔を選り好みすることはできない。それに彼が生きてる以上サモン・サーヴァントを唱えても彼の前にゲートが開くだけだ。それとも気に入る使い魔が召喚されるまで召喚された生き物を殺していくかね?」

なんか向こうで勝手に話が進んでる。
物騒なことも言ってるし……。

それにしても状況がわからん。
よく見りゃ周りにいるのは外国人の子供ばっかりだ。
先生らしき人もいるが……。
ということはなんかの学校か?インターナショナル・スクール?
しかし、みんなマントなんか羽織ってカッコがおかしい。
召喚とか使い魔ってのも気になる。

日本語の勉強で劇かなんかやってるのかな。
そういえば俺も中学で英語劇やったなぁ。あの頃に戻りてーな……。
……。

まあ劇だとしても俺が参加させられてる状況が良くわからん。
結局この状況全くわからん。
気づいたら外国人しかいないって心細いってレベルじゃねーぞ。

「さあコントラクト・サーヴァントをしなさい」

「…………わかりました……」

女の子が近づいてくる。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

っていうか近っ!

「光栄に思いなさい。貴族にこんなことされるなんて普通は一生ありえないんだからね!」

「んっ!!」

いきなりキスされた……。初めてのキスが外国人とは。やっぱり欧米では挨拶みたいなもんなのかな?
って!!!!

「ぐぅ!あっづうう!!!!」

「使い魔のルーンが刻まれてるだけよ。すぐ収まるわ」

そういう問題じゃねーだろ!いきなり何なんだ!左手あっつ!

「ぐっ!」

…・…・……っふーー。おさまった。

「コントラクト・サーヴァントは1回で成功したようですね。おめでとう、ミス・ヴァリエール。ふむ、珍しいルーンですね」

とか言いながらハゲた人は俺の左手の模様をスケッチしてる。
ここの人たち勝手すぎるだろ……。
俺への説明一切ないよ……。

「さあ、みなさん教室に戻りますよ」

「ルイズ。お前は、その平民と一緒に歩いて来いよ」

はははははっー。なんて笑いながら外国人の子供たちは先生のあとについて飛んでいった。

なんだコレ?
ワケ分からん。

こうなると、さっきから見ないふりしてたモンスターっぽい生き物たちも本物っぽく見える。
いや、初めからハンパないリアリティを放ってるんだけどね。
もういい加減コッチから聞いてみるか。
一段落付いたようだし。

「ねえ、アンタ」

だけど俺人見知りなんだよなー。
その上、最近は引きこもって他人との会話なんて数カ月ぶりだし。
日本語でおkとはいえ、いきなり外国人。
しかも女の子かよ。
この年代の女の子となんて数えるほどしか会話したことねぇよ。
やっぱり共学の高校行けばよかったなー。
行ったところで、だけどな……。

「ちょっと!!聞いてるの!!?」

「っ!ああ……」コクコク

「私たちも行くわよ。ついてきなさい」

あー。
自分のアタマの中に篭る癖がー。
長い間、引きこもってたからなー。

「アンタ名前は?」

「平賀才人……。いやサイト・ヒラガかな?」

「ヘンな名前ね。サイトがファースト・ネームなの?」

「……」コクコク

「ちゃんと返事しなさいよ!」

……この癖もあったな。とっさに声が出ない。とっさじゃなくても喋るの得意じゃないけども。
つい首振りで答えちゃうんだよな。

「ああ、はい。サイトがファースト・ネームです」





怒られたので年下の女の子に敬語で返してしまった。



[21361] 第2話 外出
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:36




「う~~~~~ん」

朝。
いや、もう昼かな?…………。
どうでもいいか。
ニートの俺にとっちゃ、午後2時までは朝の範囲だ。

…………。
4時か。
まあ、いいや。
それにしてもベッドのシーツ汚ぇ。
当然、万年床なんだが黄ばみを通り越して茶ばんでいる。
うーん。

……ま、いっか。

明日にでも洗おう。もう夕方だしな、うん。
どうせなら昼間干したほうがいいだろ。

そんで。
起床したら、まずスリープ状態になっているPCも起こす。
これニートの常識。

「……水飲も」

台所にいきとりあえず冷蔵庫を開け、中に調味料とビールしか入ってないのを確認して流しで水を飲む。
まあ冷蔵庫に食べ物が何も入ってないのは、わかってたけどね。
とりあえず開ける、これニート(?)の常識。

「実家で晩飯食わせてもらうかな」

ついでに一週間ぐらい、厄介になろう。
このダメ人間思考。
2ちゃんねるを巡回しながら考える。
実家は原チャリで1時間もあれば着く。
そもそも、ここは学生向けの下宿なんだが24歳になった今でも俺は此処に住んでる。

それは、なぜか?

子供の頃から妄想にふけりアタマの中に篭るくせのあった俺は何の疑問も持たずボッチで過ごしていた。
そんな俺も大学生になりようやく(これじゃダメなんじゃないか?)とちょっとだけ思った。
が、サークルの新歓コンパのリア充全開っぷりに衝撃を受け、さっさとボッチに戻った。
やっぱり慣れないことはするもんじゃないな。

と、いうわけで俺は大学卒業目前になっても当然のごとく就活をしてすらいなかった。
面接とか俺の人生で真っ先に避けるべきものだからな。
うん。絶対に、働きたくないでござる。
そのため元来、低いコミュ能力を一切上げることなく人生低レベルクリア縛りプレイ真っ最中なのである。

そんな俺が、なぜ2年間もニート出来ているかというと。
2年前たまたま買ってみたスクラッチでたまたま20万円が当たりたまたま5000円全員プレゼントキャンペーンを行っていたFX(外国為替)の口座開設を申し込んでいたので20万入金してやってみるとたまたまリーマンショックの為替大変動が起こりたまたまそれを勝ち抜け気づいたら所持金がウン百万円になっていたのだ。

やっぱり某RPG低レベル縛りではカジノ重要だからね。
失敗したらリセットするんだけど。
人生リセットはできないからな。失敗しなくてよかった。

「外でるからシャワー浴びなきゃな……」

基本的に外にでない俺は周囲の視線にやたら敏感だ。
俺(ニート)を見る世間の目は気にせんけども、外に出る場合のカッコには気を使う。清潔感的な意味で。

トランクスを脱いで風呂に向かう。
家の中じゃ俺は基本的にトランクス1枚だ。これがベッドを茶ばませる原因でもあるんだが。
Tシャツくらい着るかな。

「ふー」

シャワーを浴びながら自分の顔とボディーを確かめる。
顔は、うん相変わらず童顔だな。親戚のオバサン方によると高校生に見えるらしいし。

「なんで風呂場の鏡はイケメン補正がかかるんだろうな……」

実際の俺はフツメンだ。……と思う。
パッとしないがブサメンではない。……と思う。
妹に言わせるとボサボサの髪と顎ヒゲを何とかすればジャニ○ズの端っこのほうで踊ってるヤツにはなれそうなレベルらしい。

……うーん。
顎ヒゲは童顔の俺の最後の抵抗なんだよな。
今までに会った全ての人から似合ってない宣告もらってるが……。

「相変わらず、ふつくしい体だ……」

けしてナルシストではないが筋肉にはちょっと自信がある。
数年前の格闘技ブームに見事に影響され、時間を死ぬほど持て余していた俺は筋トレと電気ひもシャドーボクシングを日課にしていたのだ。
ので、結構良いガタイをしている。
とは言っても特にスポーツをやっているわけでもない。
だから脂肪も指でつまめるほどには付いているし、腹筋も脂肪でうっすらコーティングされ割れていない。
品川○司の庄○みたいな感じかな。
……。

「服着るか。綺麗な服あったかな……」

最近コインランドリーに行った記憶がない。当然のごとく洗濯済みの服などない。

「うーん。これでいいか……」

見つけたのはネット通販で適当に買ったため、サイズを2サイズも間違って買ってしまった上下黒のジャージ(未開封)。
それと、洗濯したら襟元のボタンが取れていたので放置していた白黒の花柄シャツ。

……なんかヤンキーとかチンピラみたいだな。

……ま、いっか。

黒のショルダーバッグに携帯ゲーム、携帯電話、音楽プレイヤー、財布なんかを放り込んでいく。
このカバンは大学卒業後もほっぽりっぱなしだったので筆記用具や教科書なんかがいくつか入ってる。
整理がめんどくさいのでそのまま使っているのだ

ジャージ(上)を羽織り、ショルダーバッグを担いで風呂場に向かう。
湯気でモワッとしている風呂場の鏡で全身をチェック。

「全身、真っ黒だな……」

髪も染めてないのでとにかく黒い。
葬式に紛れ込めるレベルで黒い。
夜になれば超忍んでるだろう。

そしてダボダボ。
ジャージ(下)の股が俺の股の20㎝下にある。
なんか恥ずかしくなってきた。大丈夫かな?

うーん。
でも、どうせ他に服ないし……。

……ま、いっか。

「久しぶりに外にでるからな……独り言を自重しなければ」

一人暮らしのせいなのか、なんなのか俺は独り言が多い。
人生において他人との会話より独り言の方が多いんじゃないかな。

よし……。

「行くか……」





「と、ドアを開けたらあそこに居たんです」

「……」

「ん?」

「わ、わわワケわかんないこと言ってんじゃないわよーーーーーーーーーーーー!!!!!」





外国人の女の子に怒られた。



[21361] 第3話 使い魔
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:36




時は戻って。


う~ん。

草原で歩きながら名前を聞かれたはいいが、そこから一切会話なし。

気まずすぎるだろ……。
なんかこの娘、怒ってるし。
まあ、相手の感情関係なしに女の子と会話なんてできないけどね。
24歳無職童貞ボッチ歴10年に迫る俺には。

なんて考えながら歩いてたら足が滑った。
ジャージの裾長ぇ。
踏んづけたら草の上でツルッツル滑る。
そして、そんな俺をピンク髪の女の子はゴミを見る目でみている。
外国人怖ぇ……。

そういや、みんな髪の色派手だったなー。
ココじゃ普通なのかな?
……やっぱり外国人怖ぇ。
……。





なんてことがありながら古臭い建物までやってきた。
今まで知らない人の中に放り出されている心細さであまり気にならなかったが場所についても、かなり不安になってきた。
まず確実に日本じゃない、建物的に考えて。

彼女の自室らしき部屋に入ると女の子はデッカいベッドに腰掛けた。
つっ立ってると床に座るように促されたので座ってみた。

……落ち着かねぇ。
女の子の部屋とか妹のぐらいしか入ったことねぇよ……。

「で?アンタどこから来たの!?なんで来たの!!?どうして私なの!!!?」

まくし立てられる。

なんか女の子が興奮するに従って自分は落ち着いてきた。
立て続けに起こった変なことを常識の範囲で考えようとしてたけどだめだ。
これは俺の居た世界じゃない。
もしくは現実じゃない。
だって人が飛んでたもん。
ドラゴンみたいのも飛んでたし。
夢だといいけど夢じゃない気がするな~。
意識はっきりしてるし。

ファンタジー?あると思います!

「ちょっと!聞いてんの!!?」

「……」コクコク

「じゃ、話しなさい」

「ああ、はいはい。実は……」





俺は今日の優雅な昼下がりを説明することにした。





@@@@@@@@@@





「なんなのよ!!アンタ!!!!」

もう泣きたい……。
人生をかけるつもりで挑んだ使い魔召喚の儀式で私が召喚したのは変な格好をした平民だった。

おまけに、どこから来たのか?なんでアンタが召喚されたのか?を責めるように聞いたらわけわかんないことを言い出した。
頭がおかしいのかもしれない。

平民は寮に入ったあたりから、なんかビクビクしてた。
今はボーっとしてるけど。
そういえばコイツとキスしたんだ……。
それを思い出したら途端に涙が溢れてくる。
そんな私をみて平民は分かりやすいほどアワアワ慌てだした。

「ちょっと!!落ち着きなさいよ!!」

私が言うとすぐにピタっと止まる。
何だコイツは。
さっきまで大勢のメイジに囲まれたり、デッカイ幻獣が目の前いたのにヌボーっとしてたクセに。

「とにかくアンタは私の使い魔なんだから!どこから来たのか、ちゃんと説明しなさい」

「ああ、う~~ん。とりあえずここがどこだか教えてほしいな。今のままじゃ自分がどこから来たのか説明しづらい……」

「ここはトリステイン王国にあるトリステイン魔法学院よ。アンタは使い魔召喚の儀式で私に呼ばれたの」

「……」

「ちょっと!!なんとか言いなさいよ!!」

「ああ、うーん。って、いやいや。動物がやるんじゃないの?使い魔って……?」

「そうよ!なんで私がアンタみたいな平民を使い魔にしなきゃいけないのよ!!」

「……」

「まあ、いいわ!全然良くないけど、まあ、いいわ!で?何度言わせるの?アンタどこから来たの?!」

「ああ、えーと、じゃあ世界地図ある?トリステインがどこか教えてほしんだけど……」





この平民の説明を聞いた結果、どうやらコイツはロバ・アル・カリイエからやってきたようだ。
まほうがくいんてなに?とアホ面で聞かれたので説明してやったら魔法を実際に見たことはないらしい。

魔法を見たこと無いなんて、どれだけ田舎ものなのよ!まったく!
コイツの故郷では魔法の代わりにカガクという技術があるらしいけど。

カガクというものの証拠を見せてみなさいと言ったらカバンの中身をぶちまけて珍しいペンと紙、音楽を奏でるマジックアイテムをだしてきた。
ホントかどうかわからないけどボールペンというペンはインクをつけるが必要なく本一冊ぐらいかけるほど持つらしい。
見た目もよかったので“「使い魔のものは主人のもの」理論”を振りかざそうとしたら、私が言う前にくれた。
すこしは気がきくようね。

異世界がどーの、こーの言っていたときはどうしようかと思ったが結局は遠いところ(おそらく東)から来たということだ。
突然の召喚で混乱でもしていたのだろう。

その後、コイツに魔法やこの国についてキラキラした顔で聞かれた。
どうしようかと思ったがコイツの非常識で恥を書きたくはないので一通り教える。
すると紙に見たこともない文字でメモを取り始めた。
キラキラした顔で、熱心に。

文字を扱えるということは、そこそこ学はあるのだろうか?
理解が早いし、私も教えた時のコイツの反応が面白かったので常識レベルの知識をある程度教える。
気がついたら日は沈んでいた。





@@@@@@@@@@





ふー。
いきなり泣き出したときはどうしようかと思った。
なんで泣いたかも分からないし。
これが女の武器ってヤツか……。
対処法がわからん。

慰めようにも言葉のチョイスが判断できない。
童貞だしね。

そんなんでワタワタしてたら女の子は勝手に立ち直って俺が怒られた。
まあ多分、俺が泣かしたんだろうから怒られてもおかしくはないけども。

それにしても使い魔って……。
なんか、ここの人たちは勝手に進めていくなー。
帰れないんだろーなー。
草原でハゲた人がなんか物騒なこと言ってたもん。
女の子も嫌がってるのに俺を使い魔にしようとしてるし。
……。

まあ、いっか。

その後、地図を見せてもらって異世界を確信した俺はカバンの道具を見せながら俺の世界の話をした。
ついでに所持品確認もしておく。
ソーラー充電器が入ってた。
ヤター。
これで、いつまでも携帯で着うたが聴けるし、ミュージックプレイヤーで音楽聞けるし、携帯ゲーム機で音楽聞けるぞ。
……。
まあゲームもできるけどね。

あとは写メが撮れるくらいか。
いや、圏外だ。メールできないから写メじゃないな。
写だな。写。

一応、異世界って言ってみたけど信じないしメンド臭いから遠い東の方からきたってことにした。
それでも間違いじゃないし。
間違いじゃないよな?この地図ヨーロッパっぽい形してるし。
たぶん……。

さらに説明してるとボールペンをガン見してたのであげた。
あんだけ見てれば、さすがに童貞の俺でもわかる。
ボールペンをあげたら彼女の顔がちょっとだけホニャっとした……かわいいな……。

……というか、この娘とんでもない美少女だな。

しかし、気後れしてしまう。
どうせならもっと素朴な感じの子が良かった。

一通り説明をすることによってコミュニケーションスキルがLv1からLv2に上がった俺は、ボールペンをもらって、ほんのり機嫌よさ気な彼女に聞きたいことを聞いてみる。
ちなみに24歳の一般社会人はコミュニケーションスキルがLv30はあるだろう。

彼女によるとここ、ハルケギニアのトリステイン王国は貴族と平民という身分差があるという。
封建制かな?
基本的に貴族はメイジで魔法が使える。平民は使えない。
身分を剥奪された人はどうなの?と聞いたら魔法は血筋的なもので使えるらしい。
王家の歴史が6000年とか言ってたし血も交じって平民でも使える人いっぱい居そうだけどなー。

俺は“ワクワクが止まらねぇ!”って感じで魔法の系統やらレベルの話を聞いていた。
この娘の系統とレベルを聞いたとき、ちょっと不穏な空気が流れたが、既にLv2である俺は立てなおすことに成功した。
もしかしたらLv3も近いな。

夢中で話してたら外が結構暗くなってる。
なぜか、この娘とは話しやすいな。
そういえば、この娘の名前ちゃんと聞いてないな。
いやルイズなんちゃらって言うのは聞いたけど、キスの時の呪文で。
本名かな?めっちゃ長いけど。

「あのー」

「なによ?」

「君の名前は?」

「人に名前を尋ねるときは自分から名乗るのが礼儀でしょ……。って、そういえばアンタの名前サイトだったわね。いいわ教えてあげる。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。ラ・ヴァリエール公爵家の三女よ」

「なるほど」

公爵家て。
めちゃくちゃ偉いがな……。
王位継承権も現実的なレベルだろ……。

「って、あーーーーーー!!!!」

「?」

「アンタが魔法やらナンやら色々聞いてくるから、アンタの仕事を説明すんの忘れてたじゃない!!!!」

「ああ。そっか」

使い魔っていうからには何か仕事しなくちゃいけないんだろうなーと嫌な予感がしてたので最後に聞こうと思ってたんだ。





ルイズの説明によると

1、 使い魔は主人と感覚を共有する
2、 硫黄とか苔とか魔法薬の材料を取ってくる
3、 主人を守る

う~ん。1はルイズによるとできないっぽい。
2と3は俺でもわかる。
無理。

特に3、魔法には定番のファイヤーボールとかもあるらしいし。
どうやって守るんだ……。

詠唱中に飛び道具で先手を打てればなんとかなるかもしれんが……。
ルイズの話から推測すると、この世界の武器は発達してないっぽい。
強力な武器があれば封建制で平民が黙っちゃいないだろうからな。
銃はあるらしいが精確性も威力もないんだろ、たぶん。
弓はかさばるし、そもそも使えない。
石投げたほうがまし。たぶん。
剣とか振れないし、剣を持ったとこで賊にも勝てないだろうな。
魔法使いなんて完全無理。

結局、身の回りの世話をすることで落ち着いた。

「じゃこれ、明日洗濯しておいてよね」

「……」

いきなり着替えてパンツを放ってきた。
確実に今、俺の顔は赤い。
自信がある、真っ赤だ。

アワワワワワワワワワワワ。

「なに慌ててんのよ。べつに平民に見られたって何とも思わないわよ」

…………。
人間扱いされてないのか……。
仲良く喋ってたと思うんだが。
童貞の思い過ごしだったようだ。

「じゃあ寝るわ」

「俺は?この部屋にいていいの?」

「そこに藁があるでしょ。そこで寝なさい」

「……」

無言で寝っ転がると同時に、ルイズがぱちんと指を鳴らし明かりを消した。
便利だな……。

それにしても、いきなり使い魔か。
扱いがいまいち悪い気もするが、そこまで嫌でもない。

元の世界でも、そもそも働きたくなかったというより就活が嫌だったのだ。
説明会を渡り歩いて、面接で緊張感のあるやりとりをする。耐えられる気がしない。
ニート生活を経た今は働くこと自体も多少面倒になっているが……。

俺の現状は、何もしてないのに公爵家三女の使用人に就職が決まったってことじゃないか。
パソコンがないのが辛いが、大丈夫だろう。
パンツもあるし(?)不自由しない。
なんか今日は1年分会話した気がする。

疲れた。

寝よう。





……。
じめっとしたアパートの布団が恋しい……。



[21361] 第4話 初仕事
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:36




夜明け。


全然、寝れてねぇ。
俺、枕が変わると寝れないような繊細な人間だったんだなぁ。
というか枕ないし……。
藁って……動物かよ……。

ああ、普通は動物か。
でも、召喚される動物のために部屋に藁準備しておくルイズかわいい……。

まあ、出てきたのはニートのオッサンなんですけど。鏡の中からボワッと~、ニートのオッサン登場~。
……。

なんかテンションおかしいな。
やっぱ人生で初めて女の子とガッツリ話したからかな?
寝てないのも原因か……。
そういやパンツ洗うんだっけ。
……。

この建物の構造聞いてなかったな……。
昨日は、はしゃぎ過ぎた。
ライフラインについて一切聞いてないとは……。

あ~。
トイレ行きたい、喉乾いた、顔洗いたい。

でもルイズ起こすのもな~。
かわいそうだよな。

夜明けだからな。
いつもの俺が寝る時間……。

……そうだよ!寝れるわけねー。
……。

うーん、どうするか。

ふと気づくと、なんか部屋の外を歩き回ってる音がする。
扉を開けてみるとメイドさんが忙しそうにしてた。

これが生メイドか……。
しかし、人見知りスキルが発動しそうだが……どうしよう。
……。

……よし!行こう。
大丈夫だ、今の俺なら。
ちょっと場所を聞くくらい。

テンションが変なギアに入ってるし。
……。

そういやパンツどうしよう。
そのまま手でもってくか?
……だめだ、ド変態だ。
パンツ持ちながら女の子に話しかけるって。

日本じゃ女児に挨拶しただけで不審者として連絡網が回るというのに……。
現代日本人にあるまじき危機管理に欠けた発想だ。

じゃあ、どうする?
ポケットに入れてくか?
……。

これもキツい。
水場までは余裕だ。
しかし洗うとき、どう出す?
絶対何人かメイドさん居るだろ。
「今日は暑いですね~」とか言いながら額の汗を押さえつつハンカチとして振舞うか。
いや無理だろ……。

だって、このパンツの色ピンクだし。
男がピンクのハンカチて……。

……いやそういう問題じゃないな。
なんか今日はホントに頭がおかしい。

いいや、ショルダーバッグに入れていこう。
パンツの為に大袈裟な入れ物だけど。

まったく。
洗濯物がパンツしかないから余計な心配をしなきゃいけないじゃないか。
シャツとかタオルとか、あれば問題ないのに……。

そういやベッドの端にキャミソール引っかかってんな。
どうしよう。もってくか?
……。

いいや、メンド臭い。
勝手に持ってって怒られるのやだし。





「あのー……。すいません」

「はい?」

「トイレと洗濯するトコ教えて欲しいんですけど」

「ええと……あなたは?」

「ああ、えーと」

「ああ!もしかして、あなたがミス・ヴァリエールの使い魔になった方ですか?」

「そうです。私が変なおじさんです」

「え?」

「え?」

「あのー?」

「ああ!はい。使い魔です」

「やっぱり!噂になってますよ。ミス・ヴァリエールが平民を呼びだしたって」

「ヘー……」

「ああトイレと水場でしたね。私も洗濯物を預かってるので案内しますね」





部屋を出てメイドさんを探してウロウロしていると黒髪のメイドさんを見つけた。
なんか親しみを覚えたのでこの娘に聞いてみる。

が、声をかけたはいいが変なことを口走って引かれてしまった。
やはり深夜のテンションは危険だ。
くだらない思いつきをつい口走ってしまう。
いや、独り言の弊害か?……まあ、いいや。

それはそうと噂になっているらしい。
やっぱり人が使い魔とかありえないんだな……。
憂鬱だ。
複数の人の注目を集めるのは苦手だ。

水場に向かいながらお互いに自己紹介する。
このメイドさんはシエスタというらしい。
それから、いざ水場につきパンツ出しながら必死で言い訳してみる。

シエスタは、そんな俺を不思議そうに見ながらルイズのパンツも自分が洗いましょうかと言ってくれた。

まあ、そうか。
使用人なんだから洗濯物のパンツくらい持ってても普通か。
でも過剰に考えちゃうのが俺なんだよな。

何でも貴族の服は生地が上等で洗うのが難しいらしい。
この娘ホンマにええ子や。
メンドくさかった俺は、ありがたく提案を受けシエスタにお礼を言ったあとルイズの部屋に帰る。





そろそろルイズを起こさなくては。部屋に帰る途中、制服らしきものを着た女の子たちが歩いていた。
もう登校時間が近いのかもしれない。

うーん。
目の前で美少女が寝ている。
ドキドキが止まらん。
だめだクールになれ、童貞丸出しだぞ。
よし。

「朝ですよー」

「う~ん……zzz」

起きないな……。
しょうがないので、ゆすりながら起こす。

「朝だぞー。みんな登校してるぞー」

「はにゃ?……って、アンタ誰よ!どっから入ったの?!」

「え?」

「え?」

「なにそれこわい」

「……アンタなに言ってんの?」

「ああ、えーと使い魔ですが」

「……。そうだったわね……。じゃ服」

「服?」

「着替させるの!貴族は使用人が居るときは自分で着替えないものなの!」

「……」

ナンテコッタ。
童貞には難易度高すぎるだろ。
VERY HARDモードだよ。
クソッ、硬ぇよ。このザコ敵。戦闘が厳しすぎてストーリーが楽しめないよ。
……。

基本的には嬉しい。
女の子のお着替えとか。
うん、めちゃくちゃ嬉しい。
役得。
ハンパない役得。

でも恥ずかしさが、それを大きく上回る。

キョドるな。
童貞だとバレる。
……。

うーん。いまさらか。





ふー。
着替終了。
顔真っ赤だな。
手馴れてますけど?なにか?みたいに振舞ってたけど顔真っ赤では意味が無い。

むしろ今考えると繕ってる感が余計恥ずかしい。





また夜中に思い出して、あーーーーーーーーってなる過去ができてしまった。



[21361] 第5話 まかない
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:37




行くか。

着替が完了してドアの外に出ていくルイズをショルダーバッグを担ぎながら追いかける。

海外のホテルではベッドメイクする人を信用してはいけないらしい。
ここのメイドさんを信用しないわけではないが一応ね。
精密機器もあるし。
所持品は持ち歩こう。

そんなんで廊下に出ると隣のドアも開いた。

「あら。おはよう、ヴァリエール」

「……おはよう。ツェルプストー」

「あなたの使い魔ってそれ?」

「うっ……」

「あなた、お名前は?」

「ああ、サイトです」

「私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。キュルケでいいわ」

「……どうも」

「アハハハハ、さすがゼロのルイズね。凄いじゃない平民を呼び出すなんて」

「……うるさいわね」

「私も昨日召喚したのよ、一回で。見て、私の使い魔。フレイム!」

「……それってサラマンダー?」

「そうよ~。火竜山脈のブランドものよ~。好事家に見せたら値段なんてつかないわよ~」

「う゛~っ」

「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよね~」

「なによ!それをいいに来たの?!」

「たまたま出遭わせただけよ。じゃあ私は行くわ。行くわよ、フレイム」

「う゛~~~~っ。ツェルプストーのヤツ~……」

「……えーと」

「私たちも行くわよ!」





いきなり、セクシー美女が現れた。

う~ん。
俺が苦手なタイプだ。
ボッチの引け目か強烈なリア充の臭いを感じる。

でも自己紹介してくれた。
いい人なのか……。

この世界にきてシエスタ以来、二人目だよ。
勝手に話を進めない人は。
今んトコ、ルイズとハゲてる人、シエスタとキュルケで五分五分だ。5割て。自分勝手率高いなー、ここ。

しかし、この娘おっぱいが凄い。
ついチラチラ目線が行ってしまう。
俺のショルダーバッグ担いでみてくれないかな。

そういえばショルダーでおっぱいを強調している女の子は俺みたいな男が邪な視線を送っているのに気づいてるのだろうか?
うーん。
まあ俺は、もうそんな女の子を見ることもないんだろう。

それはそうと、なんかルイズはからかわれてるな。
この二人、同い年ではないよな?入学年は特に決まってないのかココは。

キュルケが自分の使い魔を自慢してる。
つーか、このトカゲでかい。
そして、しっぽ燃えてる。
火事になるだろこれ……、木造建築では絶対飼えないぞ。
部屋を閉めきってたら、息苦しくなるんじゃないか?酸素減って。
というか死ぬんじゃないか?

それより俺はコイツと同等なのか。
使い魔仲間……。
まさか、こんなヤツが同僚とは……。

同僚って、もっとちがうイメージだったよ俺。
「うぉ~い平賀く~ん。どうだい、今日あたりぃ、一杯」
そんな日曜夕方6時みたいな感じだと思ってた。
まさか、こんなワイルドなヤツだとは。
アナゴではなくトカゲとは。

そんなことを考えてたら、同僚のトカゲさんを連れてキュルケは去っていった。
そして、からかわれて機嫌が悪いルイズのあとを俺も付いていく。





「どう?驚いた?ここがアルヴィーズの食堂よ」

「……朝から随分食べるんだなぁ」

「この学院ではね、魔法だけじゃなく貴族としての振る舞いやマナーも学ぶのよ」

「……へー」

「ボーっとしてないで椅子を引いてちょうだい!」

「……」コクコク

「これくらい言われなくてもやってよね!」

「わかった。で、俺の食べ物は?」

「そこに置いてあるでしょ」

「床か……」

「あのね。ホントはココには貴族しか入れないのよ。使い魔は外、アンタは私の特別な計らいで、床」

「…………うーん。でも、やっぱり床で食べるのは行儀よくないしコックさんがまかないを食べるトコ貸してもらってくるよ」

「ちょ、ちょっと!」

「だって体裁悪いよ。お互いに」

「……。わかったわよ。食べ終わったら食堂の外で待ってなさい」

「……」コクコク

「……なによ。調子狂うわね……」





豪華だなぁ。

食堂についた俺は、とんでもなく気後れしていた。
まさかこんな高級レストランみたいな感じとは……。
居心地悪すぎる。

ファミレスが限界なんだって、俺には。
まあファミレスもリア充がガヤガヤしだすと居心地悪いけどね。

それにしても朝から重い料理だ。
ないとは思うが俺もこれを食べさせられたらどうしよう。
確かに俺は、もう24時間以上なにも食ってない。
だけど今は俺にとって深夜。
睡眠準備態勢なんだ。
今、眠気はないが布団でゴロゴロすれば10分もしないで寝れる。
当然、胃腸もおやすみ状態。
胃が完全に空っぽというのもあり料理を見ただけで胸焼けがする。

そんな要らん心配をしてたらルイズに椅子を引けと言われた。
俺もやってもらった事あるけど絶対自分で座ったほうがイイよ、コレ。
座りづらいし、結局自分で調整しなきゃいけないし。
大体、座る寸前で椅子をスッと下げられたら公衆の面前で後転することになるじゃないか。
考えただけでも恥ずかしい。
……。

まあ、そんなことないけどね。

俺の食べ物を聞いたら床を指された。
スープとパンがある。
よかった軽い食事で……。
まったく、よく太らないなー、朝からこんなもの食べて……。
魔法ってカロリー消費凄いのかな。

なんて考えてたら、隣にデブが座った。
太るんかい。

うーん、でも床か……。
この食堂、土足なんだよね。
ホコリ入るだろ。
っていうか、もう入ってるだろ。
床においたまんま生徒たちが移動してたんだから。

それによく考えると、この食堂でたった一人この軽食を食べるのはツライ。
恥ずかしすぎるだろ。
高級レストランみたいな場所で、一人コレか……。

特別な計らいってルイズ言ってたな。
もしかしたら俺はトカゲさん達、同僚と外の餌場で食べなきゃいけなかったのかもしれん。
そう考えたら、まだマシか?俺が餌になりそうだもんな、その場合。

ルイズの優しさか……。
でも、この床で食べるのは恥ずかしい。
どうせ気を使ってくれるなら、あと一押し欲しかった。
ちょっと、わがまま言ってみるか。
平民のコックさんのトコなら入れてもらえるだろ。

よく考えたらルイズも恥ずかしいだろ。従者が床で飯食ってるのは。
よし、言おう。





結局ルイズはOKしてくれた。

うん、やっぱり体裁悪いもんな。

そんで調理場の方まで来たはいいが、忙しそうにしているみなさんに話しかけられずにいた。
人見知りスキルが直らないなー。
ルイズとは結構喋れるのに。
……。

そうでもないな、コクコクする癖も健在だし。
なんて考えてたらシエスタが話しかけてくれて、理由を話すとまかない場に案内してくれた。
いい娘すぎる……。

可愛いし、よく見るとおっぱいもでかい。
基本的に童貞は2回以上優しくされると好きになる。
だからと言って、どうということはないんだが。
シエスタと恋人同士になり結婚して、同じ墓に入るまでを妄想するくらいだ。
好きになっても、何も出来ない。
だからこその童貞なのだ。

案内された所でパンとスープを食べる。
シエスタが、まかないも少し持ってきましょうか?と言ってくれたが遠慮しておいた。
忙しそうなシエスタにそこまでしてもらえん。
それに、そんなに食べれないし。

それにしてもこのスープとパン、メチャクチャうめぇ。
そして、この場所メチャクチャ居心地悪ぃ。
コックのみなさんメッチャ忙しそうに働いてる。
そんな中で一人座って飯食ってる俺……。

タイミングが悪かった。
そりゃ生徒の食事の時間なんだから、みんな忙しいよな。
いや食堂で食うよりましだけどね。
飯を食べ終わり、シエスタにお礼を言おうと思ったが見当たらなかった。





仕方がないのでボッチ特有の小さな声で忙しそうなみなさんに向かって「ごちそうさまでした」とお礼を言い調理場をあとにした。





@@@@@@@@@@





*牛丼屋でごちそうさまとサラッと言える男になりたい……。



[21361] 第6話 2のルイズ
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:37




教室に到着。

中に入った途端、注目を集める。
そしてクスクス笑われてる。

マジかよ、まったく。
恥ずかしいってレベルじゃねーぞ。

ルイズは不機嫌そうにズンズン進み適当な席に座る。
うーん。
大学の講義室みたいになってんな。
俺どこに居ればいいのかな?座っていいのかな?

でも同僚のみんなは後ろの方に居るな。ちっさいのは生徒と一緒にいるけど。
ていうか同僚ェ……。
なんだコイツらは。
トカゲさんは勿論、ウニュウニュしたのとかバックベアード様とかいるし。
フクロウとかはマシな方だな、なんか普通だし。
しかしバックベアード様の威圧感はすごいな……。
俺はロリコンではないが冷や汗がでるぜ。

そして俺はコイツらと3年間、働くのか……。
コイツらとは忘年会とかできないな。
だってバックベアード様、口がないもん。
ていうか目しかない。
さすがに飲み食いできないのに宴会の席ってのはかわいそうだ。
つーか、どうやって生きてるんだ?
光合成?

そんなことを考えてたらルイズにアンタはそこに座ってなさいと言われた。
言われた通りにルイズの横の階段に座る。
そしてバッグから筆箱とノートを出して準備はOK。
ボッチは大学で他にやることがないから授業はしっかり受けるのだ。
ノート貸してもらう知り合いもいないしね。
知らない人にノート見せてって言う勇気はない。
もう大学生じゃないけどね。

ちょうど、そのとき扉が開いて先生らしきメタボな女性が教室に入ってきた。





「おはようございます。みなさん春の使い魔召喚は大成功のようですね。このシュブルーズ、毎年みなさんの使い魔を見るのを楽しみにしているんですよ」

そんなこと言ってる先生と目が合う。

「おやおや、ミス・ヴァリエールは随分と珍しい使い魔を召喚したんですね」

「はははははっ!おいゼロのルイズ。魔法が使えないからって、どこからその平民を連れてきたんだよ!」

「ちがうわよ!召喚したらコイツが来ちゃったのよ!いい加減なこと言わないで風邪っぴきのマリコルヌ!」

「誰が風邪っぴきだ!俺は風上のマリコルヌだ!」

「はいはい、お友達のことをゼロだの風邪っぴきだの言うものではありませんよ」

「でも先生、僕の風邪っぴきは侮辱ですがルイズのゼロは事実です」

教室が笑いに包まれる。
が、先生が杖を振ると笑っていた生徒の口に赤土が詰め込まれ静かになる。

「あなた達は、そのままで授業を受けなさい。それでは授業を始めます」





うーん。
ルイズはいじられキャラだな。
反応がいいから、からかい甲斐があるんだろう。

俺はリアクションが薄いからなー。
こんなの学生時代なかったぜ。
やっぱり、楽しい学生生活には多少のオーバーリアクションは必要なのか。
中高のとき話しかけられても「ヘー……」「ふーん……」「ああ……」で過ごしてたからな俺。
生まれ持ってのボッチ気質と中二病が相まって。
黒歴史だな……。
今日の夜思い出して、あーーーーーーーーーっていいそうだ……。

リアクションって大事。
ジュンジ・イナガワ、ツルタロウ・カタオカ、ダチョウのお三方、ESPイトー、リアクション神テツロウ・デガワ。
あなた達のリアクション芸を見て大爆笑してた俺が間違ってました。
あなた達から真面目に学んでいればこんな事(友達ゼロ)にはならなかったのでしょう……。
後悔先に立たずやで……。

それにしても、あのポッチャリはルイズのことが好きなんだな。
分かりやすい。
好きな子に意地悪って……。
小学生までだろ。
黒歴史になるぞ、ポッチャリ。ホドホドにしとけ。
まあ恋愛レベルが幼稚園で止まってる俺が言うことじゃないんだけどね。

そんなことを考えながら始まった授業に耳を傾ける。
なるほど虚無って言うのもあるのか。
ルイズ系統4つしか教えてくんなかったじゃん。
でも伝説か……。
実際は無いようなもんか。

うーん。
ドット、ライン、トライアングル、スクウェア。
魔法のレベルはそういう言い方するらしい。
そんでトライアングル以上は凄いらしい。
ナルホド。
本田△、本田□、みたいなことか?
そういやニートの有り余る時間をいかしてW杯見まくったけど今年の優勝国どこだっけ?
ブラジル?アルゼンチン?ドイツ?負けたよなぁここらへんは。
思い出せん……。
……まあ、いいや。

授業の方は先生が錬金というのをやっている。
金の錬金は難しいのか……。
合金である真鍮の方が難しそうだけどな……?

「アンタ平民なのに授業聞いて面白いの?」

「実に面白い」キリッ

突然ルイズに話しかけられた俺は、ちょっと福山っぽく返した。
しつこいようだが、どう考えても睡眠不足だ。
普段の俺はこんなこと絶対にしない。

そして福山を知らないルイズにやったところで当然スベる。
いや、スベる以前に怪訝な顔をされた。

「ミス・ヴァリエール!使い魔と喋るのもいいですが今は授業中ですよ!」

「は、はい。すいません……」

「おしゃべりする余裕があるようなら、この錬金はあなたにやってもらいましょうか」

なんか生徒がざわつく。

「先生。ヤメておいた方がいいです……」

「そうです!ゼロのルイズに魔法を使わせるなんて無茶です!」

「?……なぜですか?ミス・ヴァリエールはとても熱心な生徒と聞いていますが」

「先生!私やります!」

「お願い……。やめてヴァリエール!」

「失敗を恐れていては成功することはできませんよ。さあミス・ヴァリエール。やってみなさい」

なんかみんな隠れてる。

「あなたも机の下に隠れたほうがいいわよ」

「?」

キュルケに言われて、とりあえず隠れてみる。

瞬間。

ドガアアアアアアアアァァァァァン!!!!

轟音が響く。
なんだ、これは!?

ルイズは失敗してニトロでも錬金したのか?
ハンパねー。
阿鼻叫喚にもほどがある。

同僚の使い魔たちは食ったり食われたりしてるし大暴れだ!
バックベアード様も目にホコリが入って大変なはずだ。
生徒たちはルイズに文句を言いながら自分の使い魔の保護に向かっている。

バックベアード様の主人はすぐに目を洗ってやれ。

「ちょっと失敗したみたいね」

軽いな!
こんなこと引き起こして、そんな言い方されても。
そんな、アミバが「ん?間違ったかな?」って言うみたいにいわれても。
ケンシロウも気づけよ!慕ってた兄貴だろ。
どうみてもトキじゃないだろそれ!

頭の混乱がおさまらない。
回転の鈍った今の俺の脳じゃ理解できん。
思考停止。
……。





「……」

「……」

気まずい……。
ルイズは教室の片付けを言いつけられて俺と一緒に作業中だ。
あの後、授業は中止になり、シュブルーズ先生は医務室に運ばれ生徒たちもどっか行った。
最初は俺ひとりで片付けていたが様子を見に来た先生に言われルイズも軽作業に参加中だ。

「……どうして何も言わないのよ……」

「ん?」

「アンタも私のことバカにしてんでしょ!魔法の使えないゼロだって!心のなかで笑ってるんでしょ!」

「え?え?」

アワワワワワワ。どういうコトだ?
ルイズ泣いてるがな。
俺なんかしたか?

イヤ、何もしてないのがマズイのか……。
イケメン紳士なら当然行う、女性への気遣い。慰め。
それが無いために空気が重くなりルイズを追い詰めてしまったのか……。

だけど、それを童貞の俺に求められても……。
女の子を優しく慰める。
ハードル高いよ。高すぎるよ
目の前にチョモランマを幻視するレベルやで……。
そんなことができるなら俺は大学でハーレム√に突入していただろう。
ガッデム!HARDESTだ、このミッション。
クソッ、こんな弾幕の中、ボスをノーダメージで倒せだとっ!。
……。

でもやるしかない。
基本、俺は人間関係が気まずくなろうが付き合いをスーっとフェードアウトするため気にしない。
が、一生の雇い主となれば別だ。
とりあえず思いつくこと全部言ってみよう。
正しい言葉のチョイスは俺にはできない。
数打ちゃ当たるだろ。

イケる!
見える!見えるぞ!
ルイズの子供に「フォっフォっ。ルイズ奥様も若い頃はヤンチャでしてな」とか言うセバスチャンな俺が。

「ルイズ。成功者と失敗者の違いがなんだかわかるか?」キリッ

「ご主人様を呼び捨てにすんなっ!」

怒られた。
アワワワワワ。

そういえば俺が女の子を呼び捨てにしてしまうとは。
昨日までには考えられない進歩だな、俺。
日本人の女の子を相手には絶対に無理だと思うんだけど……。
外国の名前は呼び捨てにしやすいのかな。
まあ、いい。気にせず続きだ。

「100回叩けば壊れる壁を100回叩けるのが成功者、99回で諦めるのが失敗者だ」

「……」

睨まれた。
アワワワ。
これじゃないみたいだな……。

「それにルイズさんは、みんなの前で失敗するのを恐れずに堂々と挑戦したじゃないか。バカになんてしないよ」

これは、俺の本心だ。
俺には絶対できない。
人前で恥じかくような場面は絶対避ける。
そんなとこに出て行く勇気はない。

そして。
ふいー。
呼び捨てをやめた為かルイズが睨むのをやめてくれた。

よしっ!ドンドンいってみよう。

「いいかっ!失敗とは!挑戦することからかけ離れたところに居る者たちのことを言うのだ!」

スティールさん……。
つまり俺のことですね。

「転んだものを笑ってはいけない。彼は前に進もうとしたのだ!」

誰の言葉だっけ?
まあ、いいか。
テンション上って久しぶりに腹から声出してしまった。
恥ずかしい……。

「でも私一回も魔法を成功させたことない……。いくら練習しても、爆発しかしないゼロのルイズなのよ……。きっと家族も呆れてるわ……」

ルイズがショボーンとしてしまった。
どういうコトだ?
複雑すぎるだろ乙女心。
全然、紐解けねぇ。
糸口が見つからん。

う~ん。
とりあえず、それっぽい正論で言いくるめて何とかしよう。

うん。
もう、それしか手がない。
俺には、もうわからん。
いろんなことがわからん。
それにルイズがショボーンとしてると何故か俺の心が痛い。
やれるだけやってみよう。

「ルイズさんはサモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントを成功させてるじゃないか。もうゼロじゃないでしょ。2つ成功してるから2だね、2。2のルイズ」

「でも、召喚できたのはアンタみたいな平民じゃない……っていうかバカにしてんのっ!」

「まあまあ。人間出てきたら失敗ってワケではないんでしょ?やり直し、させられなかったんだから」

「……うん」

「それに、さっきのシュブルーズ先生の行動から見ると普通のメイジは失敗しても爆発なんてしないんでしょ?」

「そうよ。普通は何も起こらないわ」

「じゃあ過去にルイズさんみたいに魔法が爆発する人の話とか記録とか探した?」

「探したわよ!私も文献を読みあさったし、家は公爵家よ!お父様たちだって国中の書物を調べてくれたと思うわ!」

「じゃあルイズさんが初めてということで仮決定して。前例がないなら自分で模索した?」

「どういうこと?」

「自分の爆発の性質は調べた?爆発っていっても色々あるでしょ?ガス爆発、粉塵爆発、核爆発……は、わからないか。まあ、いいや。」

「……」

「熱は発生してるの?火は?唱えるスペルによっての違いはあるの?爆発のコントロールは?威力とか範囲とか」

「……」

「もしコントロールできるようになったらコモン・マジックは成功できるようになるんじゃないかな。既に2つ成功してるわけだし。系統魔法はわからないけど」

「……」

「とりあえず爆発の性質を調べて、その後コモン・マジックで爆発のコントロールを練習してみたらどうかな?」

「……」

「それで、だんだん爆発を小さく弱くしていく。それが一定のレベルまで抑えられたら爆発しないで成功するんじゃないかな?素人考えだけど」

「……」

「あれ?」

「あああああアンタっ!まま魔法を見たこともない、へへ平民のくせに偉そうなこと言ってんじゃないわよ!!」

「え?」

「罰として、お昼ごはん抜きっ!」





調子乗って、まくしたて過ぎた……。
ルイズ相手だと、うっすらエキサイトしてしまう。
途中までよかったと思うんだけど……。
ミッション失敗。
……。
まあ、いいや。過ぎたことはしょうがない。





シエスタにご飯もらいに行こっと。



[21361] 第7話 クリプトナイト(液体)
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:37




う~ん。


私は食堂に向かいながら考える。





爆破した教室の後片付けを言いつけられた私は、何も言わない使い魔に当り散らしてしまった。
私を馬鹿にするでもなく、何を考えてるんだかわからない顔で片付けをして、時々服の裾を踏んづけて滑っている。
そんな様子を見ていたら無性にイライラしてしまったのだ。

まったく。
なんなんだコイツは。

私が当たり散らしたあと、分かりやすく慌てだした。
と、思ったら急に何かカッコいいことを言い出した。
全然コイツには合わない。明らかにコイツの考えた言葉じゃない。
コイツのとぼけた顔と相まって増々アタマに血がのぼる。
ふざけてるの!?やっぱり心のなかで私をバカにしているんでしょ!
そう怒鳴ろうと思っていたら。

「それにルイズさんは、みんなの前で失敗するのを恐れずに堂々と挑戦したじゃないか。バカになんてしないよ」

今度は不思議とスンナリ言葉が私の胸に届く。
その後また、どこの誰が言ったのか分からないカッコいい言葉をなげかけてくる。

わかる。

召喚して1日しか経っていないが、少しわかった。
コイツの考えてることはよくわからない。
だけどコイツの思ってることは、とても分かりやすい。
向い合って話をしているとき、思っていることが完全に顔に出ている。
首をコクコクする仕草と併せて、言いたいことをまるで子供のように言葉ではなく顔で伝えてくる。
コイツは私をバカにしていないし、励まそうとしてくれている。

この慣れていない不器用な励ましが、私に情けない気持ちを沸き上がらせる。
おそらく、あまり年も変わらない使い魔の平民に慰められている。
でも、ホンのちょっと嬉しかったけど。

そんな私をみて、難しい顔をしたあとコイツは喋りだした。

曰く。
召喚と契約は成功している。
爆発は私だけ。
過去には?
前例がないなら自分で模索。
爆発の性質。コントロール。
コモンは召喚と契約が成功済みなので使えるようになるのでは?

急に、饒舌にしゃべりだす。

考えたこともなかった。
いや、目を背けていただけなのか……。

私だけ家族のように魔法が使えないという焦りがあった。
大好きな家族の中で私だけが。

爆発自体について考えるのを忌避していた。
コレは失敗なんだと。
練習すれば、みんなと同じようになると。
思考の外に追い出して。

スペルの詠唱、魔法のイメージ、これらを必死に練習した。
しかし、成功の気配すら無かった。

わかってる。

そういう問題ではないのだ。
もっと根本的なことが私はみんなと違う……。
私だけ違う。
それを認めたくない……。

だが突然、それを指摘された気がした。
「今までの努力は無駄だったんだよ。わかってるんでしょ?」
そう言われた気がした。
そう、そんなこと私だって解ってた……。

でも……。

「あああああアンタっ!まま魔法を見たこともない、へへ平民のくせに偉そうなこと言ってんじゃないわよ!!」

「え?」

「罰として、お昼ごはん抜きっ!」

呆然とする使い魔を残し教室を飛び出した。





教室を出てしばらく歩いていると少し冷静になってくる。

アイツの言うことはもっともだ。
前例がないなら私が自分でやるしか無い。
今までの私は逃げていたのだ。
自分だけが違うというのが、とても怖く思えて。
自分と向き合っていなかった。

でも、もういいだろう。
召喚と契約は成功したのだ。
もう私はゼロじゃない。
もう私は爆発だけじゃない。
やってみよう。
私ができることを。
早速、今日から。

思考が前向きになると他人のことを考える余裕が出てくる。
ちょっと可哀想なことをしたかしら。
一応アイツは励まそうとしてくれていたわけだし。
思い返すと、アイツは特に怒られるようなことはしていない。
私が理不尽に怒っただけだ。

そういえば、アイツのお昼ごはんを抜きにしてしまった。
アイツは結構体格が良い。
朝も粗末なスープとパンのみだ。
お昼も抜いたら辛いわよね。
しししし、仕方が無いわね!料理人に言って何か作ってもらって、持って行ってあげようかしら?
まったく!優しいご主人様に感謝して欲しいわね。

そんなことを考えてるとアルヴィーズの食堂についた。

中で何か揉めている。
人ごみの外から、騒ぎの中心を見てみると、

「決闘だ!」

何故か片手を掲げながら、ギーシュに決闘を申し込まれている自分の使い魔を見つけた。
……なにしてるのよ、アイツ……。





……やっぱりアイツ、晩ご飯も抜き。





@@@@@@@@@@





食堂についた俺は、そういえば使い魔は入っちゃいけないことを思い出し挙動不審で立ち尽くす。
どうしよう。
俺のカッコは、ますます此処にそぐわなくなっていた。
黒のジャージにはホコリが目立ち、裾は既に踏み潰してボロボロだ!
オデノジャージハボドボドダ!
……。

でもシエスタは、このなかで働いてるよな。たぶん。
シエスタの仲介なしで、調理場に入れるか?
朝に入ったけど、みなさん俺のことなんか見向きもして無かったもんな。
さすがに一人で調理場に踏み込むのは……。

「すいません」
「どちらさん?」
「俺に何か食わして貰いたいんですが、かまいませんね!!」
……。

う~ん。
たたき出されるだろ……。
ナランチャじゃあるまいし。

「サイトさん?どうしました?」

「!……ああ、シエスタ」

俺が困っていると現れるシエスタ。
君は俺にとってのスーパーマンだ。
……。
いや、ウーマンか。

理由を話すと心良く連れていってくれた。
「何度も助けてもらって本当に、ありがてぇ、ありがてぇ」という気持ちを伝えると、

「いいんですよ。私たち平民は助け合って生きていかないと」

との答えが笑顔で帰ってきた。
聖女かこの娘は……。
今日会ったばかりの人間に、ここまで親切にできるとは。

しかし助けあうか……。
俺はシエスタに何かできるだろうか?
とりあえず飯を貰ってから何か手伝うか。





調理場に着くと今は、みなさん余裕があるようだ。
まあ、教室の片付けで時間食ったからね。
もう食事が終わってる生徒も多いみたいだ。
それを見て、シエスタが調理場の皆さんに俺を紹介してくれる。

「マルトーさん。この方がミス・ヴァリエールの使い魔のサイトさんです」

「どうも」

「おう、おめぇが貴族の使い魔にされちまったってヤツか」

「まあ、はい」

「サイトさん。こちら料理長のマルトーさんです」

「おめぇも大変だなぁ。いきなり呼ばれて貴族の小間使いにされちまうなんてよ」

「まあ……」

「腹が減ったらいつでも言いな。美味いもん食わせてやっからよ」

肩をバシン、バシン叩いてくる。

いい人だ。
パーソナルエリアを一気に突破されてしまったが嫌な感じはしない。
他のコックさんたちも、みんないい人そうだ。
俺にシチューを出してくれた。

うめぇ。
ルイズの爆発で体が完全覚醒していた俺は、おかわりまで貰ってしまった。

「ご馳走様でした」

食べ終わった俺はマルトーさんに手伝いを申し出る。
「甘ったれた事言ってんじゃあねーぞッ!このクソガキがッ!もう一ペン同じ事をぬかしやがったら、てめーをブン殴るッ!」
とは、勿論言われなかった。
俺はナランチャじゃないし、マルトーさんもブチャラティじゃないからだ。

そんなこんなで今、シエスタと一緒にデザートのケーキを配っている。

飲食業とは、俺に一番向いてない仕事だ。
いつもニコニコ笑顔で接客しなくてはいけない。
どうやら俺は露骨に不機嫌が顔に出るらしい。
お客さんに怒られてしまうだろう。

しかし今はシエスタのあとに付いてケーキを持ってるだけだ。
俺にもできる。
ちなみに一番向いている仕事は、お刺身にたんぽぽを乗せる仕事だと思われる。

「デザートのケーキはいかがですか?」

シエスタのかわいい声を聞きながら食堂を回っていると足元に小さな小瓶が落ちていた。

それを拾ってから気づく。
コレ貴族の落とし物だよ……。

どうしよう。
床に戻すわけにはいかないし、落ちてた物をテーブルに置くわけにはいかないだろう。
落とし主が現れるまでマルトーさんに預かってもらうってのが無難なところだが……。
それにしても一回は呼びかけとかなきゃマズイだろう。

こんなガヤガヤしたトコで声を張り上げなきゃならんとは……。
まさか好きな娘(シエスタ)に任せるわけにもいかない。
情け無さすぎる。

やるしか無いか……。

「この小瓶を……」

ガッデム!
普段大声出さないから声がうわずってしまった。
恥ずかしっ……。

「ん゛ん゛っ」

よしっ。

「この小瓶を落とした方いませんかー」

指でつまんだ小瓶を掲げながら呼びかける。

うーん。
みんな、ちらっとコッチを見るが反応がない。

っていうか、こっちみんな。
まあ俺が呼びかけたんだけども。
大勢から注目されるのは苦手だ……。

「いませんかー」

再度呼びかけるが反応なし。
……。
いや、2人ほどコッチ見てるな。
視線に敏感な俺だ。
間違いない。

1人はくるくる縦ロールの女の子。
三次元で初めて見たわ、こんな髪型……。
なんとなく小瓶が女の子の物っぽかったので、その子に向かって小瓶をクイッとして「あなたの?」と顔で聞いてみる。

だがプイッと顔をそらされてしまった。
何だ違ったのか……。
じゃあ、なんでコッチ見てたんだ。
欲しかったのかな?コレ……。

もう1人は、派手なシャツを着ている男の子だ。
胸にバラがささってる。
どんなファッションセンスだ。
まあ、俺も人の事言えないが。

この男の子は小瓶を見ながら顔を青くしたり白くしたりして挙動不審だ。
なんだろう?
この小瓶、なんか危ないのかな。
中に毒でも入ってんのかな?
まあ、いいや。

「それでは、ここの料理長さんに預けておきますのでー。心あたりがある方はご確認ください」

「じゃシエスタ。ちょっとマルトーさんのトコ行ってくる」

「はい。わかりました」

念のため小瓶を掲げたまま調理場まで移動する。

その後マルトーさんに聞くと、トラブルが起きるといけないから貴族の持ち物は預かれないという。
なるほど。
たしかにそうだ。

だいたい調理場に毒かもしれない小瓶はマズイ。
結局、学院の先生に預けたほうがいいということだった。

俺は小瓶を掲げたままシエスタのところに戻る。
手が結構しびれてきた。
なんだコレ。
インドの苦行僧か、俺は。





シエスタのところに戻るとなんか揉めてる。

「ああ。君も戻ってきたのか。で?君たちこの責任をどう取るつもりだね?」

派手シャツが怒ってる。

なんだコレ?
派手シャツのシャツがワイン色に染まって一層派手だ。
ほっぺたも赤い。

……。

うん?
待てよ?
そうか!そういうことか!
これらの事柄から予想できることとは!
真実はいつも、じっちゃんの名にかけて!

う~ん。

なるほど!
まったくわからん!

ウミガメのスープか?コレは?
何が起こったか、ちっともわからん。

「君!何をすっとぼけた顔をしているのかね!」

「ん?」

「だいたい君が!今掲げているその小瓶を軽率にも拾いあげるから、2人のレディの心に傷をつけることになったんだよ!」

なんだそれ?全然ヒントにならん。

「はっ!よく見れば君はゼロのルイズの使い魔じゃないか」

「今はもう、2のルイズですけど」

「ふっ。主人が主人なら、使い魔も使い魔だな」

ナルホド。
とりあえず俺に分かるのはこの派手シャツがクレーマーということだけか……。

派手シャツ……。
……派手シャツってなんか刑事っぽいな。
ジーパン!ゴリさん!殿下!派手シャツ!
みたいな。
うん、違和感ないな。
……。

それにしても、どうしよう。
俺には分かんねーよ、クレーム処理とか。
飲食店でバイトしたことなんて無いし。
こんなことならマルトーさんに接客マニュアル見せてもらっておけばよかったよ。
手伝うつもりが迷惑をかけてしまうとは。
後悔先に立たずやで……。

「おい君!貴族に向かって、何だその顔は!」

あれ?
不機嫌が顔に出てたか。
やっぱり俺には向かないな、接客。

「どうやら真摯に謝罪するつもりはないようだね」

「なにを……」

何を謝ればいいんだ。
俺は何があったかも教えてもらってないのに……。
というか説明してくれよ。

「わかったよ……ならば、」

「ん?」

「決闘だ!」

勝手に進めすぎだろ、派手シャツ……。
もう思考回路はショート寸前。

思考回路は~ショート寸前っ、いますぐ~会いたい~の~。

……。
だめだ。
本気で頭がついていかん……。

「ゼロのルイズに代わって教育してあげよう。ヴェストリの広場へきたまえ!」

そんな月に代わってお仕置きよ!みたいに言われても……。

……派手シャツは行ってしまった。

「サイトさん……。貴方……」

「ん?」

今気づいたがシエスタが怯えている。
何だ?
どうしたシエスタ?
君はいつでも困ったときには俺を助けてくれるスーパーマンだったじゃないか。

ん?
スーパーマン?
え?まさか!

この小瓶の中に入っているのはクリプトナイトか!

ナルホド。
そう考えれば、くるくるロールの熱視線も派手シャツの挙動不審もマルトーさんの懸念も理解できる。

まさか俺が掲げているこの小瓶がシエスタの力を吸い取っていたとは……。
此処に来て、ようやく頭が冴えてきたようだ。

「貴方殺されちゃう……。貴族を本気で怒らせたら……。っ!ごめんなさいっ」

シエスタは調理場に逃げるように行ってしまった。

うーん。
どうしよう。

……。

とりあえず手を掲げ続けるこの苦行をやめよう。

そしてデザートのお盆返しに調理場に戻ろう。





ついでにシエスタに(クリプトナイトは)もう大丈夫だからとフォローしておこう。



[21361] 第8話 決闘~消えるオッサン~
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:37




「ちょっとアンタ!なにしてんのよ!」


「ん?」

シエスタと入れ違いでルイズが来た。

「貴族相手に問題なんか起こして!アンタ、ギーシュに何したの!?」

う~ん。
何したんだろ。

マルトーさんのトコに行ってる間に事態が様変わりしてたからなあ。
いや事態というか派手シャツの少年だけ色々変わってたんだ。

なんというかキング・クリムゾンを食らった気分。

ルイズにも聞いてみるか?
第三者なら何か分かるかも。

「というかアンタ、なんで右手を掲げてるの?」

……。
そうだった。

よし、いいこと考えた!
俺、右手を下ろそう!
右手を下ろすと肩に疲労が蓄積しているのが分かる。
三角筋がパンパンだぜ!

「え~。じゃあ、それを含めて説明すると……」

カクカクシカジカ。
ルイズに(俺が食らったスタンド攻撃とおぼしき)事態を説明する。

誰も名乗り出ない落とし物の小瓶を預けに行って帰ってきたら、派手なシャツがワインレッドに染まって、ほっぺたも赤くなっていて、彼は俺に怒っていた。

「……という事があったんだけど」

「なにそれ?ワケわかんない」

ルイズもわからないらしい。
小首を傾げている。

何この娘……すごくカワイイ……。
……。

……それはともかく。

「わからないよなぁ。ウミガメのスープくらい謎だ」

「ウミガメのスープ?」

「うん、推理ゲームだよ。海の見えるレストランで一人の男がウミガメのスープを注文した。彼は一口食べると料理人を呼び「コレは本当にウミガメのスープですか?」と聞く。料理人が「はい」と答えると男は店をあとにして、その後自殺してしまう」

「意味分かんないじゃない」

「うん。だから出題者に「はい」か「いいえ」で答えられる質問をして、真相を探るゲーム。さ~て、男はなんで自殺してしまったんでしょう?」

「え?え?「はい」か「いいえ」よね。じゃあ……」

……。





「まったくもう!アンタのせいでお昼ごはん逃しちゃうじゃない」


ルイズは思った以上にウミガメのスープに食いついてきた。
が、数十分ほど問答していたがルイズは答えにたどり着けなかった。

まあ女の子が思いつくような答えじゃないからな。

答えを教えるとルイズは「なるほど~」と唸っていた。
悔しかったらしく、今度はルイズが出題すると宣言してきた。

ふと気がつくとお昼休みも終りが近いらしい。

でも随分ゆったりした昼休みだな。
俺の高校の時の2倍はあるぞ。

それにしても俺が女の子とキャッキャウフフするときが来ようとは……。
なんでルイズとは見つめ合っても素直におしゃべりできるんだ?
風に戸惑う弱気な俺がなぜ……。
コミュニケーション・スキルがレベルアップしているのか?
この食堂の料理しあわせのたねでも使ってんのか。

急激に人生が充実していくことに理由のない不安感が湧き上がる。
夜中に将来のことを考えて漠然と不安になるような……。
なんかちょっと怖いな。
I know 怯えてる~ fu~。
……。
まあ、なるようになるか。

「じゃあマルトーさんのところに行って、直ぐ食べられるもの持ってくるよ」

ルイズに告げて調理場へGO。





調理場に入るとシエスタが駆け寄ってくる。

「サイトさん!大丈夫ですか!?」

「え?なにが?」

「え?さっきの……」

「ああ、クリプトナイトなら大丈夫だよ」

「え?」

「え?」

あれ?

「……。あのっ!ごめんなさい!一人で逃げてしまったりして」

「ん?ああ、大丈夫、大丈夫。(クリプトナイトは)もう解決した(ショルダーバッグに突っ込んだ)から」

「そうですか……。ケガはありませんか?」

「うん?……。うん、ないよ」

「よかったぁ」

なんか安心してるシエスタに時間がないことを告げ、ルイズの料理をお願いする。
そしたらクラッカーにチーズとかキャビア?とか色んなの乗ってるアレが、ごっそり乗ってるプレートを渡された。

「もうお昼の時間は10分程しかないですから、温めずに直ぐ出せる物はコレくらいですけど」

「ああ、丁度いいよ。食べやすいし」





ルイズのトコに持って行くと何故か「アンタも食べていいわよ」と言われた。

正直お腹いっぱいなんだが……。
断るのもなんなので2,3個食べる。
ちなみにルイズは既に10個以上食べてる。
ハグハグ言ってる。
何この娘……カワイイ……。
……。

よし。
いよいよ時間がやばい。
俺とルイズは上品に食い荒らかして教室まで急いだ。





@@@@@@@@@





*以下は後日、話を聞いたサイトの脳内補完です。
*実際の登場人物の言動、思考とは齟齬があるかもしれません。





@@@@@@@@@@





ちょっと前のとある場所。


はぁ~。

「眼福じゃのう」

「オールド・オスマン?」

「なんじゃ?ミス・ロングビル」

「貴方、覚悟している人ですわよね……」

「ん?」

「モートソグニルを私の足元に送り込んでくるということは……」

「え?」

「自分が墓の下に送り込まれる覚悟がある人、ということですわよね……」

マズイっ。
ミス・ロングビル!
彼女にはヤルと言ったらヤル、スゴ味があるっ!
……。





@@@@@@@@@@





「大変です!オールド・オスマン!」

ミス・ヴァリエールの使い魔のルーンを調べていた私は、ごく一般的なハゲ教師。
強いて違うところを挙げるとすれば魔法以外の技術に興味があるってとこかな。
名前はジャン・コルベール。
そんなわけで、魔法学院内の学院長室にやってきたのだ。
ふと気づくと、血だらけのジジイの顔が扉を突き破って廊下に飛び出している。

え?なんだコレ?

そう考えていると。

「助けてくれ……」

そいえば最近、ミス・ロングビル目当てに学院長室をたびたび尋ねているが学院長室は日に日に荒廃している。
そんなことを考えながら、ジジイに頭の上がらない私は頼まれるままにホイホイ助けてしまったのだ。

学院長室に入ると部屋の中は至る所に血痕が飛び散り、オーク鬼が暴れたかのように散乱している。
そして拳から血を滴らせ、肩で息をするミス・ロングビル。
目があったら、スっと逸らされてしまった……。
いったい何が……。

うん?
待てよ!
そうか!そういうことか!
これらの事柄から予想できるジジイ殺しの犯人とは!
真実はいつも、じっちゃんの名にかけて!

う~ん。

なるほど!
まったくわからん!





1分後。
ジジイが魔法で室内を修復し、ミス・ロングビルは紅茶を取りに行った。
何があったのか気になるが、それどころではない。
早速この発見を伝える。

「オールド・オスマン!この本を見てください!そしてコレも!ミス・ヴァリエールの使い魔の少年のルーンです!」

「ふむ……。ガンダールヴのルーンじゃのう」

「これは大発見ですぞ!急いで王宮に報告せねば!」

「ならん!」

「どうしてですか!オールド・オスマン!」

「報告をしてどうなる?研究か戦争か……。主人共々、碌なことにならんじゃろう」

「……確かに、……オールド・オスマンの彗眼。御見逸しました……」

「……。その使い魔を召喚したミス・ヴァリエールは優秀なメイジなのかの?」

「いえ……。勉強熱心ではありますが……」

「うーむ……」





「大変です!オールド・オスマン!」

「どうしたんじゃ?ミス・ロングビル」

「生徒がヴェストリの広場で決闘騒ぎを起こしています!」

「……誰が騒いでおるんじゃ?」

「一人はギーシュ・ド・グラモンです」

「グラモンのとこのバカ息子か……。もう一人は?」

「ミス・ヴァリエールの使い魔の少年のようです」

「うーむ……」

「既にギャラリーが多くて近づけず、教員たちは眠りの鐘の使用許可を求めています」

「ならん。たかが子供の喧嘩で秘宝なんか使えるか。ほっとけと言っておきなさい」

「はい、わかりました」

ミス・ロングビルが学院長室から慌しく出て行く。

「さて……。神の左手ガンダールヴ。見極めさせてもらうかの」

……。





……。





……。

「……来ないのう……。ガンダールヴの少年……」

「ええ……」

ミスタ・グラモンが来てから数十分経つが少年は来ない……。
ギャラリーも午後の授業の時間が迫ってきたので校舎にもどっている。
ミスタ・グラモンはまだ居るが……。
というか君も授業に向かいなさい。

「コルベールくん。わしゃ寝るから、少年が着たら起こしてくれ」

「はぁ……」

ジジイは私の返事を聞く前にすでに寝ている。
さすがに年寄りは寝るのがはやい。
早いし速い。
……。





@@@@@@@@@@





う~ん。

眠い。
久しぶりのこの感覚。
飯食ったあとの午後の授業って眠いよなー。
ラリホーマでも唱えてるのかな先生は。
それとも、あまい息かな?

しかし寝るわけにはいかない。
俺は座りながら寝ると突然ビクンっとしちゃうのだ。
コレで今まで何度恥をかいたことか……。
そのまま寝たフリをしてやり過ごすんだが、机に伏せている顔は当然真っ赤だ。

なんか高いところから落ちる夢をみるとなりやすいよなー。
足を地面につけたくなるのかな。
足がピーンて伸びちゃうんだよ。ピーンて。
この足ピーンキックで前席の人を驚かせたこと数知れず。

さらに。

ウトウトしながら、
アレッ!もしかして俺、おならしちゃったかも!?
って思って焦ることもある。

え?大丈夫だよな?確かに黄門様周辺に装填されてるのは感じるけど……。
ニオイもしないし発砲音がしたら、みんなコッチ見るよな?
もしかして、みんな気づかないふりか?

う~ん。
わからない……。
とりあえず、椅子を動かす音でごまかそう。
さっき何か音が鳴ってたとしても、椅子の音ですよ~。
おならじゃないですよ~。

てな感じだ。





まどろみながら中高時代のノスタルジーに浸っていると、先生が退出する。
授業終わりか。

この授業には、あまり興味がわかなかった。
魔法薬の調合の話だったが仕上げに魔法が要るとのことだ。
俺が知っていてもしょうがないだろう。

眠い目をこすりながら体を伸ばす。
う~ん。
眠い。

ルイズは「私の考えた問題をとけるかしらね~」とか言ってる。
お前ウミガメのスープ考えてたんかい。
というか授業受けろよ。





「ちょっと君!なんで来ないんだ!」

「ん?」

なんだ?
いきなり教室に飛び込んできたと思ったらクレーマーの少年じゃないか。
……。

そういえば、どこかの広場に来いとか言ってたな。
なんか、あの時アタマがついて行かなかったんだよな。
よくわかんないけど今度会ったら謝ればいいやって思ってたんだ。

それに。
ナルホド。
この教室なんか足りないなーと思ってたんだよ。
派手シャツか!
コイツがいないから何かクラスに不思議な調和を感じたのか。
余計な雑味がないというか……。
そうか、コイツは酢豚で言うところのパイナップルの役割を果たしていたんだ!
やるな派手シャツ。
俺は酢豚のパイナップルは認めないけどな。

「そういえば、そんなことあったわね……」

ルイズも忘れていたみたいだ。

「どうしてくれるんだ!集まったギャラリーに僕が文句を言われたじゃないか!」

いや、そんなの知らんし……。

「僕はヴェストリの広場でずっと待っていたんだよ!」

「いや俺ヴェストリの広場の場所知らないし……」

「誰か適当なヤツに連れてきてもらえばいいじゃないか!」

「いや知らない人に付いてっちゃダメってお母さんが……」

「子供かっ!」

!コイツ……!ツッコミのキレが……。
やるな……。

「いやまさか、魔法の使えない平民のオッサンと本気で決闘しようとするとは思わなかったので……」

「オッサンって……。君、僕とそんなに年齢変わらないだろう」

「24歳ですけど……」

「「いい大人じゃないかっ(のよっ)!」」

「アンタもっとしっかりしなさいよ!」

なんかルイズまでツッコミに加わってきた。
そういや年は言ってなかったか。

「日本人は農耕民族なんで耕すために若い期間が長いんです」

「ワケ分からんっ!」

さすがにドラゴンボールは知らなかったか。
しかし、知らないボケに対しても汎用性の高いツッコミで冷静に返すとは……。

「とにかく!明日!同じ時間にヴェストリの広場に来い!」

「ちょっとギーシュ!本気!?学院での決闘は禁じられてるでしょ!」

「それは貴族同士の話だろう?平民相手なら問題ないよ」

う~ん。

「ちなみに派手シャ……あなたの系統とレベルは?」

「僕は土のドットさ」

「う~ん。」

土のドット……。
ルイズに聞いた土系統ドットの魔法を思い出す。
……そこまで絶望的でもないな。

授業とルイズの話を聞いた限り、1対1となると風系統が一番ヤバイ気がする。
土は多対多、火は1対多に強いと思う。
現時点での浅い知識での判断だけど。

思い切って、やってみようかな?
魔法の戦いもちょっと見てみたい。
まあ見る前にヤラなきゃ勝てないんだけど。

「ちょっと!たとえドットでも平民は絶対メイジには勝てないのよ!」

「ふっ、どうしたゼロのルイズ。やけにその平民をかばうじゃないか。恋でもしたのか?」

「ふざけないで!自分の使い魔が傷つくのを黙って見てられるわけ無いでしょ!」

「まあいい、それでは君に少しでも誇りがあるなら明日ヴェストリの広場にきたまえ」

派手シャツは行ってしまった。

やけに決闘したがるなー。
ギャラリーに肩透かし食らわせて、いたたまれなくなっているのか。
期待させちゃって引っ込みがつかないんだろうな。
娯楽少なそうだもん、この学校。

それに俺がスッポカしたから怒りが倍増しているようにも思える。
……。





「ちょっと!アンタどうすんのよ!」

「大丈夫だよ。こんなに騒動になれば先生が止めるでしょ?」

「……。うーん。たしかに……」

「まあ一応決闘の準備はするけど。勝てないと思ったら直ぐ降参するから」

「でも、それでギーシュが許すかどうか分からないわ」

「いざとなったら、ルイズが派手シャツの眼球に錬金かましてよ」

「……アンタ発想が恐ろしいわ。それに派手シャツって……」

「……パトラッシュ。眠いからもう部屋に帰ろう……」

「誰よパトラッシュって……って此処で寝るな!」

もうダメ。
眠い。
限界。

寝ろ……ネロ…………。
……。





結局、決闘の理由は迷宮入りしてしまった。



[21361] 第9話 決闘~ファン○ム大魔球~
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:38




「なんか落ちてないかな~」


今、俺は武器になりそうなものを探しながら学院の周辺をぶらぶらしている。





昨日、あの後なんとかルイズの部屋に帰った俺は、そのまま藁にダイブして寝てしまった。
が、朝起きると俺に毛布がかけてあった。

え?なにこれ?

MASAKA!?ルイズか!
何この娘……優しい……。

召喚されてからこの世界の人に優しくされっぱなしだよ、俺。
初めてだよ、他人がこんなに優しいの……。
初めて知った~人の愛~その優しさに目覚めた男~。

よし目が覚めた。

昨日と同じようにルイズを起こして準備する。
毛布のお礼を言おうと思ったが何か照れくさい。
それに何か野暮な気がする。
よって心のなかで多大な感謝。

準備完了。
登校するルイズと一緒に部屋をでる。

「じゃあ決闘の準備してくるよ」

「……しょうがないわね。何かあったら直ぐ止めるからね」

「おk。というか止めてください、お願いします」

ルイズと別れ不思議探索に出発する。





時間はいくらでも無駄に消費できる俺だが無駄な行動というのは一切したくない。
先生に止められたら無駄になるが魔法の対策をしておくことは今後の為になるだろう。

ルイズが着替え中に聞いてみるとギーシュは人間サイズの青銅ゴーレムを6~7体出せるらしい。
決闘の決着は杖を落とす、降参、死ぬ、のどれかだそうだ。
それにしても何で戦おう……。

う~ん。

マルトーさんに何か借りるか?
いやダメだろう。
包丁は料理人の魂だ。
他の調理器具も同じだろう。
そんなもの借りることはできない。
ナイフとかフォークとか食器もダメだろう。
汚れちゃうし。
貴族用のだから高そうだ。

薪割り用の鉈とか……。
……やっぱりコレもダメなんじゃないかな?かな?

そもそも俺が貴族を傷つけたら、道具を貸してくれた人にも累が及ぶかもしれん。
マルトーさんに迷惑はかけられないだろ……常識的に考えて……。
そんなわけで学院の衛士さんにも剣とか槍とか借りられない。

いっそ素手で。
ステゴロで行くか。
強くなるために自らを鍛えるなんて女々しい。
持って生まれたモノだけで勝つ。
そんな花山イズム。
だが俺にそんな強烈な雄度はない。

だいたい鍛えちゃってるし。少しだけど。
うーん。
電気ひもシャドーが役立つかな。
デンプシーロールは使えそうな気がする。
……。
……無理か。

だいたいアイツら空飛べるしなー。
飛び道具じゃなきゃ、何も出来ない可能性がある。
優しさに目覚めたとはいえ俺にデビルウィングはない。
当然デビルビームも撃てないし、デビルチョップはパンチ力、デビルキックは破壊力、デビルアイなら透視力、デビルカッターは岩砕く。
……。

やっぱり初日に考えた石を投げつけるというのが一番よさそうだ。
シンプルイズベスト。
そうと決まれば投げつけるのに調度よさそうなモノを探そう。





「なんか落ちてないかな~」

懐かしい。
小学生時代は毎日地面を見ながら下校してたな。
BB弾とかネジとか拾って集めてた。
確か……。
ドラクエに出てくるような、古ぼけた大きな鍵を拾ったのがきっかけだったか。
あの鍵どうしたんだっけ?
……。





「結構、落ちてたな……」

投げやすそうなテニスボールサイズの石なんかを探してたら結構あった。
特に丸っこい金属がメチャクチャ落ちてる。
きっと生徒が錬金の練習かなんかで作ったものだろう。

「投球練習しておくか……」

肩を痛めそうだが……。

木を的にしてワインドアップで投げてみる。
ランナーがいない今は牽制球の必要がないからだ。

「そいっ」

ズガンッ!!!!!!

……。

一発でど真ん中に……。
しかも球速が……。

もしかして俺には野球の才能が在ったのか?
俺の家には鉄球回転の技術は伝わってないからな。
野球の才能の方だろう。
ナンテコッタ。
才能を無駄にしてしまった。
野球で飯を食っていくためにはアメリカか日本でなければ。
ここでは野球が盛んではないだろう(ヨーロッパぽい形してたし)。

ともあれ、もう一回だ。
……。





……。





うん。
サイ・ヤング賞は俺のものだ!

何回投げても狙った場所に寸分違わず豪速球が投げられる。
甲子園いけたよコレ。

高校で野球やっとけばよかった。
そうすれば、なぜかほぼ毎年出てくる「10年に一度の怪物」に俺も加わっていただろう。
なぜか毎年、過去最高の出来のボジョレー・ヌーヴォーにも加わっていたかもしれない。
それで手拭い王子とか呼ばれてたかもしれない。

よしっ。
次はセットポジションや。
ランナーを牽制できなくてはプロじゃやっていけん。

「あれっ」

金属球をセットポジションで構えると左手の文字が光ってるのに気づいた。

なんだコレ……。
気持ち悪っ……。

金属球を置いて、よく見ようとすると光は消えた。
もう一回球を持つ。
光る。

う~ん。

野球のボール型の痣がある超人たちの話は見たことあるが……。
まさか俺も沢村栄治の遺志を受け継ぐアストロ超人だったのか……?

危険だぜ……アイツらの野球は……。
ジャコビニ流星打法とか。
木製バットを地面にオモクソ叩きつけてヒビを入れて打球といっしょに破片を撒き散らすという何とも主人公に似合わない打法だったが。
つーか、あのマンガは野球の試合中に選手バンバン死んでいくからな。

やはり俺は野球選手には成れなさそうだ。
さすがに相手選手を殺してしまうのはマズイ。
アストロ超人たちも最終的に相手がいなくてアフリカに野球しに行ったからなあ。
……。

って、これは使い魔のルーンか。
そういえばルイズがルーンには能力付与の効果があると言ってたけど。

なるほど。
となると、俺の今の能力は、

球速        160km
スタミナ      F15
コントロール   A180

センス○、ノビ5、キレ4、ジャイロボール、重い球
肩爆弾、恋の病、サボりぐせ、左手に電灯機能

というところか。
変化球がないのがツライが初期能力と考えればバケモノだな。

ルイズすげーな。
ダイジョーブ博士もびっくりだ。





投球練習で疲れてきた俺は一番球体に近い綺麗な金属球を1個だけカバンに入れて調理場に向かう。

なんかメンド臭くなってきたのだ。
本当にするのかわからない決闘のためにこんなに重いものをたくさん持ち歩きたくない。
一個ぶん投げて、決着つかなかったら降参して終わろう。
そもそもギャラリーに注目されてる状況で長居をしたくない。





「サイトさん!大丈夫ですか!?」

調理場に入るといきなりシエスタが話しかけてきた。
あれ?デジャビュ。

「何が?」

「やっぱり貴族の方と決闘するって……」

「ああ、うん」

「危ないです!私も一緒に謝りますから、決闘をやめてもらいましょう!」

「う~ん」

女の子に一緒に謝ってもらうって……。
さすがにないだろう……。
プライドのプの字も無い俺だが羞恥心は人一倍だ。

恥ずかしすぎるだろ。
家族でファミレスいったときにクラスメイトに遭遇するようなレベルで……。

「いや大丈夫だよ。危ないと思ったら直ぐ降参するから」

「でも……」

「いざとなったらルイズさんがアイツの眼球を爆発することになってるから」

「……。そ、そうですか……。でも絶対無理はしないでくださいね」

シエスタがメッチャ心配してくれてる。

うーん。
カッコイイとこを見せたいがどうだろう。
情けないトコは見せたくないな。
よし一球入魂。
男球だ。
カッコいいフォームでおもいっきり投げよう。

マルトーさんたちにも心配されつつ昼飯をもらった。

よし!
いざ!
ヴェ……ヴェ……。
……ナントカ広場に向かう。

肩に不安はあるが大丈夫かな。
昨日の手を掲げ続ける苦行により疲労が蓄積している。
だが真夏の甲子園で戦う高校球児を思えばこんなもの!
特に決勝あたりになると毎日連投だからなピッチャーは。
俺だってイケる!

でも中4日とはいかないまでも1日肩を休めたかった。





「よく逃げずにきたな、平民。褒めてあげよう」

「どうも……」

結構人が集まってる。
先生方は止める気がないということか。
でも、どっかで見てるんだろ。
貴族の子息が死ぬのはマズイからな。
それとも平民相手じゃ大丈夫と思ってるのか。

それにしても人が多いな。
ああ嫌だ。

「諸君、決闘だ!」

ギャラリーが盛り上がる。
なんだコレ。
決闘ってこんな感じなのか。

もっと「十歩あるいてバンッ。だぜ?」っていう感じだと思ってた。
それか、ススキの揺れる草むらで剣客が向き合ってるような感じだと思ってた。
クールで渋い感じの……。

だが現実は派手な西洋人とクローズに出てくる不良みたいな格好のヤツが向かい合ってる。

ルイズは居るかな……。
……あー、居る居る。
ちょっと不安そうだな。

そんなことを考えてたら、

「さて、ぼくはメイジだからね。この通り魔法を使わせ……」

「っ!そいっ!」

「てもr!ぐはぁっ!!!」

俺の投げた金属球は、目を瞑りカッコつけながらスペルを唱えていたギーシュの右肩あたりにストライク。
ギーシュはバラの造花を落とした。

危ねぇ。
コイツ開始の合図も無しにスペル唱え始めやがった。
ゴーレム出かかってたよ……。
バラの造花が杖だったのか。
油断した……。

それにしてもコイツ超絶クソ卑怯だよ。
杖を持ってないと思わせて合図も無しに唱えてくるとは……。

「ぐっ!卑怯だぞ平民!いきなり攻撃してくるなんて!」

そうだーそうだー、という罵声が俺に飛んでくる。

「いや、オマエがいきなり魔法使おうとするから……」

「開始の合図も無しに攻撃するとは、どういうつもりだ!」

そうだーそうだー、という罵声が俺に飛んでくる。

「いや、オマエが開始の合図も無しに詠唱を始めるから……」

「とにかく。こんな決着は認められない。仕切りなおしだ!」

そうだーそうだー、という罵声が俺に飛んでくる。

「いや、俺もう投げつけるものないから」

俺がそう言うと俺の前に錬金で剣を出してきた。

「それで戦いたまえ。ぼくはこのワルキューレで戦わせてもらうがね」

「というか、さっきから右手がダラーんとしてるけど……」

鎖骨がイッちゃったのか。
さっきから左手でバラを持ち魔法を使っている。
根性あるな……コイツ。

というか、さりげなくゴーレムを7つ出してる。

魔法の事前詠唱ありかよ……。
結局、開始の合図もウヤムヤじゃねーか……。
もう全部コイツのルールかよ……。

どうしよう、もう降参しちゃおっかな……。

「どうした来ないのか?剣を拾ってかかってきたまえ」

剣じゃ無理だっつーの。
う~ん……。

何か投げるものカバンに入ってたっけ?
タオル、ティッシュ、ウエットテッシュ
筆箱、教科書、ノート
携帯、ゲーム、音楽プレイヤー、ソーラー充電器
お守り
財布、腕時計
……。

んっ?
カバンを漁っていた手に固いものが当たる。
コレがあったな。
コレならきっと何か奇跡を起こしてくれる。

「かかって来ないのなら、こちらから行かせてもらうよ」

ギーシュの言葉には答えずソレをワインドアップで構える。
さっきは突然だからカッコいいとは言えないフォームだった。

「ん?ソレは……?」

おおきく振りかぶって全力で投げる。
ドラマチックチック止められそうにない~止めたいと思わない~。

狙いはギーシュの近くに出してある護身用と思われるゴーレムだ。
中身をぶち撒ければ何か起こるだろ。

「そいっ!」

「……あ゛ーーー!!!モンモランシーの香水じゃないかっ!!」

なんか叫んでる。
どういうわけかギーシュは慌ててゴーレムを消して俺が投げた小瓶に飛びつく。

運動神経すげえな。
鎖骨折れてるのに。

「グハッ」

俺が投げた小瓶(160km/h)を素手で受け止めるギーシュ。
そんなに大事かクリプトナイト。
何か起こるのか?ビンが割れると。

それに……。
うわぁ……左手痛そう……。
というかコイツ杖落としてるがな。

……。





……。

「俺もう帰っていいかな……」


あの後、両手を粉砕したギーシュが杖を持てなくなったので決闘は良くわからない終決を迎えた。

ギャラリーからブーイングが起こるなか、金髪縦ロールの女の子がギーシュに近寄る。
その後、ありがちな痴話喧嘩が発生し、解決し、元鞘のようだ。
女の子がギーシュを魔法で治療している。
ギャラリーは生暖かい目でそれを見ていたが白けたようでみんな帰っていった。
というかルイズも帰ってしまった。
俺に何かあったらどうすんだ。

「ああ君、まだ居たのか」

「まあ……」

「それにしても君は度胸があるのかなんなのか……ある意味感心するよ」

は?

「貴族に囲まれた状況であんな(卑怯な)コトをするなんて」

何のこっちゃ。

「しかし勝つためだからな。勝つための戦術に卑怯など無いか……」

自分の卑怯さを自己弁護しだしたよコイツ……。

「僕はギーシュ・ド・グラモン。君の名を教えてくれないか?」

なんだ?
急に人当たりが良いじゃないか。

「サイト・ヒラガだけど……」

「そうか。これからはサイトと呼ぼう。君も呼び捨てでいいよ」

何か認められたみたいだ。

「ちょっとギーシュ!早く行きましょうよ!」

「ああ、そうだね。モンモランシー」

「……」

「じゃあ僕は行くよ。ケティにも謝罪してモンモランシー一筋だということを伝えなくては」

「もうっ、ギーシュったら」

ウフフフフ、アハハハハとか笑いあいながらバカップルは去っていった。

……。

カップルなんて、いなくなればいいのに……。
くそぅ……。
俺はもう2次元の嫁たちには会えないっつうのに……。
いや!待てよ。動画を携帯ゲームに入れていたな……。
ヒャッホウ!!
いつでも逢えるぜー!…………。
……。

……帰ろう。

僕も帰~ろ、おうちに帰ろ。
はぁ……。





もしかして俺は痴情の縺れに巻き込まれただけか?




[21361] 第10話 玉職人
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:38




「歌はいいね。リリンの生み出した文化の極みだよ……」


今の俺は広場で絶賛日向ぼっこ開催中だ。
音楽を聞きながらごろごろする。
最高だ。





あの決闘(?)から数日が経った。

ギーシュは恋人とヨリを戻せてゴキゲンなのか俺ともよく話す。
ヴェルダンデというデカモグラの使い魔も紹介された。
コイツはやたら俺に懐いて、隙あらば俺のショルダーバッグを漁ろうとしている。
ギーシュが言うには貴金属が好きらしいのだが……俺そんなモノ持ってたっけ。
まあヴェルダンデが懐いたことでギーシュの俺への好感度は、さらに上昇したようだ。

シエスタからの好感度も上がったように思える。
最初はカッコイイ投球フォームが項を奏したかと思ったが違うようだ。
貴族から決闘を申し込まれるというフリに対して俺のリアクションが余りにも薄かったため「この人、動じなさすぎ!」と思ったらしい。
無傷で帰ってきたのも良かったらしい。
「私とそんなに年が変わらないのにスゴイですねぇ」とか言われてしまった。
「スイマセン。24歳なんです」と告白すると驚かれて、謝られた。
ちなみにシエスタは17歳らしい。
日本じゃ何かあったら犯罪になってしまう。

マルトーさん達からの好感度はウナギ登りだ。
なんか頼りなさそうなヤツだと思ってたのに、
「貴族から売られた喧嘩を買い、武器も使わず骨をへし折った上に、その貴族に気に入られてしまったから」
ということらしい。
う~ん。
確かに結果だけを見るとオットコ前な人物だな。
それはそうと決闘の直後、調理場に入ると、
「我らの球」
という、何とも卑猥な称号を与えられていた。
金属球を投げつけただけで勝って(?)しまったから、らしい。
こんなことなら無理にでもギーシュの剣使っとけばよかった……。

ちなみにマルトーさんたちも俺の真似をして金属球を投げていたが完全に女投げだった。
野球の盛んでない国の人はキャッチボールをしないので、投げるという動作に慣れていないようだ。

さらに。
金属球ということで「我らの球」より1段階ひどい称号も考えられていたそうだ。
しかしシエスタをはじめとしたメイドさん達の凍てつく波動によりマルトーさんたちのテンションが一気に下がった為にそれは免れたようだ。
そんな称号、完全に歩く猥褻物陳列罪だ。
危なかった。
いや「我らの球」もどうかと思うけどね。

ルイズは、決闘のことなどもう完全にどうでもいいみたいだ。
ギーシュの痴情のもつれ、その八つ当たりという最高にくだらないことが原因と分かったからだ。

それにしても俺を置いて帰るのはヒドい。
俺になんかあったらどうするんだ、まったく。

ルイズの授業に同席することも少し減った。
最初の数日で1年次の基本的な復習が終わり、聞いてもよく分かんない授業が増えてきたからだ。
ルイズに時間割を聞いて面白そうな授業だけ出席するようにしている。
ルイズも許可をくれた。
だって俺以外の使い魔、もうほとんど教室にいないもん。

それはそうと俺が自分につけられた称号を教えると顔を真っ赤にしていた。
そして怒られた。
確かに俺も卑猥だなって考えたけど、
「女の子がそういう(エロい)勘ぐりをするのは良くないよ」
ということを言うと鞭で打たれそうになった。

これは今考えると確実に俺が悪い。
完全なるセクハラである。
まあナンダカンダで今度、王都に俺の武器を買いに行くことになった。
何時までも「我らの球」ではよろしくないからな。

あと最近ルイズは夜に爆発の研究をしている。
以前、俺が捲し立てた素人考えを調べようと思ったらしい。
もちろん言いだしっぺの俺も協力している。

現時点でわかったことは、
・爆発で熱は発生してないっぽい
・系統魔法によっての違いはないっぽい
・爆発のコントロールは出来そう。というかある程度できた。
こんな感じだった。

ぽい、というのは正確に確認できないからだ。
爆発自体の視認は人間の動体視力じゃ殆どできない。
爆発痕にも違いはない様に見えるし、触っても熱は感じなかった。

今では専ら、ルイズは成果が分かりやすい爆発のコントロールに力を入れている。
とりあえず2~3メイル先を爆破しても自分たちにダメージが及ばないレベルには抑えられるようになった。
コントロールは日増しに、ガンガン良くなっていく。

そして。
数日見ているとルイズの爆発の恐ろしさに気づいた。
いや教室爆破した時から恐ろしいけどね。

ともあれ。
ルイズの魔法はスペルを唱えた瞬間ノーウェイトで対象が爆発する。
目で見える何かが対象に飛んでいるわけでもない。
試しにルイズと対象の間に壁を作ってみたが対象は爆発した。
ルイズがイメージした座標、対象がノーウェイトで爆発……。
見えない上に防げない……。
戦闘だけで考えたらチートじゃねーか……?

考えたことをルイズに伝える。
ルイズは複雑な顔をしていたが戦闘を念頭においた爆発利用も考えておくそうだ。
結構素直だよなルイズ。
俺の言ったことスンナリ取り入れるし。





などと考えていると曲が終わる。
俺は曲を聴くとき基本的にジャンルごちゃ混ぜでランダムだ。

おっ、次はこの曲か。
懐かしいな池袋ウェ○トゲートパーク。

「だきゃら、びぃえる、びぇっとの、そりゃのし~てぃや~。うたうこえはききょえてる~」

ついサビに入ると口ずさんでしまう。
酔っぱらうと清○っぽく歌えるという特技がある俺だがシラフではこんなもんだ。
○春のようにカッコよく歌えるようになりたい。

「でてゃらめの、でゃうなー、きゃわしてる~。ぼくのきょえがききょえてる~」

ん?

フト目を開けると青髪メガネの女の子が無表情で俺を見下ろしている。

思考停止。

なん……だと……。
聞かれてしまったのか……。
俺が歌っているのを。
ちょっとモノマネして歌っているところを……。

黒歴史……。
アパートのお隣さん、自転車で追い越していく人……。
あらゆる人に変なテンションの時の歌を聞かれ、もう絶対に聞かれまいと決意していたのに……。
注意一秒怪我一生……。
大ケガしてしもーた……。
また、つまらぬ黒歴史をつくってしまった……。

「……何をしていたの?」

「音楽聴いてました……」

恥ずかしすぎて、年が一周り離れてそうな娘に敬語でかえす。

「音楽?」

完全無表情。
なんだコレ。
この娘の考えが読めない。

「聴いてみる?」

「……」コクリ

なんだろ。
興味があったのかな?

というかこの娘授業は……。

女の子は俺の横に座った。
一応、音を小さくしてからわたす。

「このボタンで音量調節、コッチで曲の変更だから……」

「わかった」





女の子がイヤホンを付けて聴き始める。

「頭の中から音が聞こえる……」

「確かに最初はそんな感じするなぁ」

「聴いたことない楽器の音……不思議な曲ばかり……」

此処にはないよな、そりゃ。

「……」

「……」

沈黙が……。

「君は……」

「タバサ」

「へ?」

「名前」

「……。そうか……。俺はサイト」

タバサは首をコクリとする。

「で、タバサは何をしていたの?」

授業中なのに。

タバサは本をクイッと上げる。

「本を読んでいたと」

タバサは首をコクリとする。

「どんな本?」

表紙を俺に見せてくる。

「いや俺、字読めないから」

「……。貴方は授業の内容を記録していた」

「ああ……俺、ハルケギニアの人間じゃないから」

「……。そう」

なんか一瞬目が輝いた気が……。

「イーヴァルディの勇者」

「え?」

「この本」

「ナルホド」

英雄譚か。
魔法が存在する世界の英雄てスゴそうだな……。
いや俺の世界の英雄譚でも魔法は普通にでてくるか。





「ん?」

なんかじっと見られてる。

「貴方は、なぜ決闘を受けたの?」

ん?

「真剣に謝れば許してもらえたはず」

そうか?

「貴方は相手の系統とランクを聞いていた。戦闘技術があり勝算があると計算したんだと思った」

ふむ。

「だけど貴方は金属球を投げつけただけ。確かに、ただ投げただけなのに威力は凄かった。でも戦闘技術があるとは思えない」

「貴族相手だと殺されてもおかしくない。なのに貴方は動揺すらしていなかった」

「貴方の戦う理由は?」

この娘、意外と喋るな。
初対面の俺にガンガンくるよ。
おしゃべり好きなのかな。

「う~ん。ちょっと魔法の戦闘見てみたいと思っただけで……」

タバサがじっと見てくる。

「あとは……」

「あらっ、タバサじゃない。サイトと何を話しているの?」

キュルケがやってきた。
授業終わったのか。

俺はキュルケにも気に入られたようだった。
あの決闘がツボに入ったらしい。
まあ面白かったなら何よりだ。

「……音楽を聴かせてもらっていた」

「そう。サイトの国の曲なの?それにしても珍しいわね、あなたが男の子と会話してるなんて。」

「……」コクリ

「ねえサイト。私にも聴かせてくれない?」

「いいよ」

タバサが操作を教えている。
仲いいんだな、この二人。
そういえばキュルケとタバサよく一緒にいるな。





「ちょっと!私の使い魔になにしてんのよ!」

ルイズも来た。

「アンタもツェルプストーなんかと話してるんじゃないわよ!」

「あら、サイトの国の曲を聴かせてもらってただけよ。別にいいじゃない」

「サイトの国の曲?そういえばそんなマジックアイテム持っていたわね」

マジックアイテムじゃないけどね。
さらに言うと最初ルイズに見せたとき楽器だと思われた。
まあ歌声が聴こえてきたから、マジックアイテムということになったんだけど。

「ともかく!ご主人様より先に他の女に何か教えるんじゃないの!」

怒られた。
仲間はずれにされたように感じたのかな。

「おk。じゃあルイズさんも何か聴いてみる?」

「え?」

ルイズには携帯ゲーム機の方で音楽を聴かせる。

……。





みんなでまったり音楽鑑賞の後、そのまま昼食に向かう。

ちなみにそれぞれが気に入った曲は。
ルイズがV系やHIPHOP、中2クサイ歌詞や激しかったりノリがいいのが好きみたいだ。
キュルケはス○ッツや小田○正など爽やかな恋愛ソングが良かったようだ。意外。
タバサは何故か格闘家の入場曲集が気に入っていた。この娘は良くわからん。

それにしても充電をかなり消費してしまった。





あ~した天気にな~れ(充電のために)。



[21361] 第11話 農夫
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:38




昼下がりの学院内。


「そろそろ潮時かねぇ……」

授業時間である今、静かな校舎内を歩きながら考える。
「ミス・ロングビル」とも、そろそろお別れしたほうがいいかもしれない。





情報収集がてら給仕をしていた酒場で出会ったスケベジジイ。
そのジジイにトリステイン魔法学院で働かないかと誘われた。
聞いてみるとこのジジイ、そこの学院長だという。
酒場と貴族の集まる学院では私の求める情報の濃さが違う。
誘われるまま学院の秘書を始めたが……。

いざ働き始めるとジジイのセクハラや貴族のガキの相手は疲れるが給料はかなり良い。
私が生活費を切り詰めればあの子たちに貧しい思いはさせないで済むだろう。

盗賊家業を続ければ遅かれ早かれいずれ捕まる。
あれだけ貴族を虚仮にして来たんだ。
死罪は免れないだろう。
ここに永久就職するのも悪くない。
最近そんな思いも湧いてくる。

しかし今更盗賊をやめても、私はいつどうなるかわからない。

あの子たちには私がいなくなった後も暮らしていけるだけのものを残しておきたい。

この学院には宝物庫がある。
なんでも破壊の杖という秘宝もあるらしい。
なのに教師たちは油断して当直をサボっている。
確かにメイジがこれだけ集まっている場所もそう無い。
王宮についで安全と言えるだろう。
気が緩むのも分かる。

だが私にとっては好都合だ。
未練が募らないうちに一仕事させてもらおう。





「どうしたもんかねぇ」

宝物庫についたが相変わらず侵入する術が思いつかない。
アンロックなんて当然効かないし錬金も受け付けない。
スクウェアのメイジによる固定化、硬化がかけられているのだろう。

やはり力づくしか無いか……。

以前、しつこく誘ってくるので食事をしたコッパゲによると、この宝物庫は物理攻撃には多少不安があるらしい。
あまり派手なことはしたくないんだけど……。
教師たちに不安はないが、ガキたちは名誉欲に駆られて戦おうとするかもしれない。
1人、2人なら何とかなるが、それ以上になると逃げるのも殺さないように戦うのも難しい。
うーん。

「盗むときに殺すのは流儀じゃないんだけどねぇ」

「そしてー輝く、ウ○トラソウっ!へイッ!」

「!」

突然の声に驚いて振り向くと変な服を着たヤツが立ち尽くしている。
全身黒ずくめだが顔だけ赤い。

なんだコイツ。
まさか今のつぶやきを聞かれたか……。





@@@@@@@@@@





「……油断し過ぎだろう……俺」


さっきまでの俺は超ゴキゲンだった。

最近、自分がどんどんリア充になっていってる気がする。
シエスタ、ルイズ、キュルケ、タバサ。
女の子の知り合いが4人もできてしまった。
マルトーさん達もいい人だし。
シエスタ以外のメイドさん達とも挨拶をかわす仲だ。
同僚である使い魔たちも気のいい奴らばかりだ。
ときどき青いドラゴンが俺をジーっと見てるのは気になるが。
あとついでにギーシュ。
アホだがいい奴だ。ツッコミも鋭い。

だがしかしッ。

浮かれすぎてた。
大音量で音楽聴きながら学院内を探索していた俺はまたやってしまった。
タバサ相手に生き恥かいたあと、あれだけ後悔したのに……。

決意の舌の根も乾かぬうちにTo Loveって(?)しまうとは。
こんなメガネ美人を相手に……。

だけどしょうがないか……。
あのサビは叫びたくなっちゃうもん。
そしてー輝く、ウル……

ん?この美人の人、俺になんか言ってるな。
それにしても何か睨まれてるような……。

急いでイヤホンを外す。

「あのー」

「聞いていましたか……?」

「え?」

「聞いていましたか?」

え?何このメガネのお姉さん。
なんかすごく怖い。
威圧感がパネェ……。

俺なんかしちゃったのかな。

「聞いていましたか?」か……。
俺が大音量で音楽聴いてるときに話しかけてくれてたのかな?

やっベー、超失礼だよ。
シカトしてたようなもんじゃないか。
そりゃ威圧感も出るわ。
とにかく謝らねば。

「スイマセンでした!B’z大音量で聴いていたので全く聞いてませんでした!」

「……そうですか」

「あのー、しっかり聞くので、もう一回お願いします」

「……いえ。大した事ではありませんので」

本格的に怒らせてしまったのか……。

「では……私はこれで」

行ってしまった……。

ナンテコッタ。
確実に嫌われたんじゃないだろうか?

ぐわああああああああ。

美人に嫌われるのがこんなに心をエグるとは……。
24年間、女の子に好かれも嫌われもしないニュートラルな人生を送ってきた俺には耐えられない。
ここ最近いい事尽くめだっただけに心が痛すぎる……。

別に好かれなくてもいいから嫌われたくないもんだ。
しかし、「嫌われないように、嫌われないように、生きてる人は嫌われてしまうものだ」と誰かが言ってた。
自業自得。

はあ……。
今直ぐシエスタに優しくされたい……。

……。





@@@@@@@@@@





翌日の朝。


とんでもなく侃々諤々している。

宝物庫が破られ、なんか秘宝が盗られたとかなんとか。
「破壊の杖。確かに頂戴しましたby土塊のフーケ」とかなんとか。

まあ、盗られるトコ見てたんだけどね。
昨日の夜に。





昨日の夜ルイズといつも通り外で練習してたら、まずギーシュが来た。
「爆発がうるさいから注意してきて」とモンモランシーにパシられたらしい。
が、ルイズは当然やめない。

しかしギーシュもアホなので「オマエこの時間に女子寮にいたのか」とツッコむとシドロモドロになり話はそれた。
そして何時の間にか俺と魔法戦術論を交わしていた。

そんな時。
バカでかい土のゴーレムが現れたのだ。
そして(ルイズによると)宝物庫らしい場所を壊そうとし始めた。

ぶっちゃけ死ぬかと思った。
土系統パネェ。
ランクが上がるごとにゴーレムが段違いにでかくなる。

マジ○ガーZより全然でかい。
コンバ○ラーVよりは小さいかもしれんが。
グレ○ダイザーくらいはあるんじゃないか?

まあスーパーロボットを実際に見たことあるわけじゃない。
つまり30mぐらいっぽいってことだ。

そんなことを考えながら周りを見ると。

ルイズはバーサク状態で爆発を乱発している。
いや、お前コントロールできるようになったじゃん。
なんで学院の壁まで壊してるんだ。
焦ってるのかなんなのか、ルイズの爆発はメチャクチャだ。

ギーシュは腰が限界まで引けた状態でワルキューレを出して立ち向かおうとしてる。
いや、そのガッツは凄いけど、どう考えても無理だからやめとけ。

そして。

誰だ?
空の彼方に踊る影。

よく見ると科学忍者隊の方々ではなく、青いドラゴンに乗ったタバサとキュルケだった。

ドラゴンは俺達を安全地帯までかっさらってくれた。
ルイズはなんか文句を言ってたが。

その後ルイズの主張(ゴネ)によりドラゴンに乗って、みんなでゴーレムを追っかけた。
が、突然グシャッとなった。
ゴーレムの肩に乗っていると思われた盗人も実はゴーレムの瘤だった。
つまり本体には逃げられた。
無駄足。
……。





……。
そんなわけで目撃者として今ここに居るわけだけど。
一向にルイズたちが目撃証言をする隙がない。

宝物庫前で教師陣の無駄な責任議論がつづく。

すると白髪ロンゲ髭という見るからに偉そうなお爺さんが来た。

「おお、オールド・オスマン」

「そこまでにしておきなさい。真面目に宿直を行っている者なんて居なかったんじゃからな」

槍玉に挙げられていたシュブルーズ先生はホッとしている。
お爺さんに尻を触られているが……。

気づいてないのか?

「それに今はそんなことを言い争っている暇はないじゃろ」

お爺さんは真面目な顔して話を続けている。
なんでそんなことが出来るんだ……。

「では今直ぐ王宮へ報告を……」

「それはならん。報告しても間に合わん、フーケは捕まえられんじゃろ。学院の恥を晒すだけじゃ」

「確かに……」

お爺さんが教師を見回す。
教師陣が沈黙。
視線をお爺さんから逸らしている。

まったく。
オマエらで取り返して来いってことだよ。
言わせんな、恥ずかしい。
教師陣に実戦派は居ないのか?

「ふむ、直ぐに捜索隊を向かわせたいところじゃが……手がかりがないのう」

お爺さんがコッチを見る。

「お主達が目撃者か」

……。

ルイズたちがあらましを説明している。
俺には訊かれていない。
よかった。
こんな衆人環視の中まともな証言なんて俺にはできない。

そして説明したもののルイズたちの証言に手がかりがあるわけでもなく。

「ふむ、お手上げかの……。そういえばミス・ロングビルが見当たらんのう」

すると。
ちょうどよく女の人が登場する。

「オールド・オスマン。只今もどりました」

「おお、ミス・ロングビル。どこに行っておったんじゃ」

「はい。昨日の夜、騒ぎを聞きつけると宝物庫が破られ土塊のフーケのメッセージがあるではありませんか。そこから急いで調査に向かいました」

「相変わらず仕事が早いのう。して、何か手がかりが見つかったのじゃろう?」

「はい。森の中の小屋に入る黒いローブの男を農夫が見かけたそうです」

「なるほど。その場所は?」

「ここから馬で4時間ほどです」

「ふむ……」

どうやら、お爺さんが学院長で眼鏡の人は秘書らしいな。

それにしても片道4時間か……。
昨日、ゴーレムが出てから8時間強しか経ってないんだよな。

時間的に考えてフーケは盗んで直ぐ馬で小屋に直行したのか。
そして目撃情報もタイムロス無しで4時間で学院に伝わったと。

それに4時間前ってド深夜だよな。
森の中の小屋に入る黒いローブの男を目撃……。
目が良すぎるだろ……。
何だその夜行性の獣みたいな農夫は。
それに、そんな時間に何やってんだ?農夫。

うん?
待てよ!
そうか!そういうことか!
これらの事柄から予想できる土塊のフーケの正体とは!
真実はいつも、じっちゃんの名にかけて!

ズバリ農夫!

間違いない。

目撃者とか第一発見者とか第一村人ってのは大抵怪しいもんだ。
そして大抵犯人だ。

謎は解けた!

あとはギーシュをこのキック力増強シューズで眠らせて……。

……まあ、そんなもん無いんだけどね。
鉄球ぶつけて眠らせることならできそうだが……。

……それにしても毛○のおっちゃんはド素人の麻酔を何発も食らってヤバクないんだろうか……?
いや何発もっていうか当たり所次第で……。

……いや、やめよう。
おそらく、それが原因で声が変わってしまったんだろう。

しかし新しい声にしなくともコ○ンが蝶ネクタイ型変声機でアテレコすればいいと思うんだが……。
……。





……。
妄想から帰ってくるとルイズが杖を掲げている。

「私が行きます!」

「何を言ってるんだねミス・ヴァリエール!君は生徒だろう」

「だって誰も名乗り出ないじゃないですか!」

ああ、討伐隊ね。
ルイズ行きたいのか。
まあ相手が見つかればルイズの瞬殺勝ちだろ。
「ロック」って唱えるだけで爆散だ。

隠れてゴーレム出されたら100%勝てないけど。

「私も行きますわ」

「ミス・ツェルプストー!君も……」

「ヴァリエールには負けてられませんもの」

……キュルケ。

「私も行く……」

タバサもクイッと杖を挙げてる。

「タバサ。あなたはいいのよ」

「心配」

……タバサ。

これが友情パワーか……。

「じゃあ俺も行く」

「ご主人様が行くのよ!アンタが来るのは当然でしょうが!」

怒られた。
たまの積極性が裏目に出てしまった。
……もう二度と積極的になんてならない。

「フッ、レディだけを危険な目に合わせるわけにはいかないからね。ならば僕も……」

「「「「どうぞどうぞ」」」」

みんな杖を下げてギーシュに譲る。

「え?ちょっ!待ちたまえ君たち!」

ルイズたちにはダチョウ師匠の十八番を教えていた。
そして、いつかギーシュにやってやろうとみんなで話していたのだ。

それにしても、待ちたまえって。
そんなツッコミは数年前のユー○ケ・サン○マリア以来だぞ。

「……じゃあ、ギーシュ・ド・グラモンが一人で向かうということでよいかの?」

「ちょっ!オールド・オスマン!」

ギーシュが慌てている。

と、此処でネタばらし。
実はこの4人(ルイズ、キュルケ、タバサ、俺)は仕掛け人だったのだ。
これにはターゲット(ギーシュ)も苦笑い。
……。





……。
ちょっと先生方に怒られたが討伐隊は結局ギーシュを含めた5人に決まった。
巫山戯てはいけない空気で巫山戯てしまったようだ。

……ていうか教師陣マジで来ないのかよ……。

「では私がその場所まで道案内を致します」

秘書のロングビルさんが名乗り出る。

いやでも、この人働き詰めだろ。
一晩中、情報収集してたんだろ。
昨日の残業引き継いでそのまま出社してるようなもんじゃん。
まるでブラック企業じゃないか。

この人には昨日、悪印象を与えてしまった。
ココでちょっと気遣いをして俺の印象を上げておきたい。
女性への気遣いなど考えたこともない俺だが……。
嫌われるってのは想像以上に辛かった。
うん。
今の俺なら出来る。

「あの……。ロングビルさんは夜通し働いて疲れてるんじゃ……?フーケのところに向かうのは危ないと思いますけど……」

「そうですな。ミス・ロングビルは休まれたほうがよろしいのでは?」

ハゲが同調してきた。
下心を感じる。

「そうですね。このギーシュ・ド・グラモンにまかせてミス・ロングビルはゆっくり休んでください」

ギーシュも乗って来た。
下心を感じる。

「そうじゃのう。みんなの言うとおり休んではどうじゃ?」

学院長も。
下心を……。
いや、よくわからないな……。
この人は悪い意味でのエロテロリストだと思ったんだが。
自分の秘書であるという余裕か?

「……いえ。一度携わったんです。最後までやらせて頂きますわ」

「いや、しかし……」

ハゲが食い下がる。

「この件が終わったらゆっくりお休みを頂きますので……」

「……そうじゃのう。では大変だと思うがよろしく頼んだぞ。ミス・ロングビル」

「はい」

死亡フラグのようなものを仄めかしたロングビルさんは結局行くことになった。
働き者すぎだよ、この人。
しかし俺の気遣いが完全に無に帰した……。
ホント、積極性をだすと良いこと無いな……。
せめて好感度が回復していればいいんだが……。
往復8時間もギスギスした空気はご遠慮願いたい……。





う~ん。
準備しに行くか、なにはともあれ獣の視力を持った農夫を捕まえねば。



[21361] 第12話 千の風になって
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:39




馬車って乗り心地最悪だな……。


俺達はロングビルさんが御者をする馬車で黒いローブの男が出入していた小屋に向かっている。

猛烈にケツが痛い。
サスペンションが効いて無いのか衝撃がダイレクトだ。
当然、道もアスファルトで舗装されてるわけでもなく石が散在してボコボコだし。
皆よく平気だな……。

しかし俺以外が全員綺麗な女の子というのがこの旅の救いだ。

ちなみにギーシュはいない。
女まみれの馬車に乗り込もうとしたところをモンモランシーに見つかり文字通り、引き摺り下ろされた。
そして結局行かないことになった。
行かないことになった時、ちょっとホッとした顔をしていたが。

昨日の夜はガッツを見せていたのに……。
結構ヘタレなのかな?





「そういえば、アンタなんでキュルケたちを呼び捨てにしてるのよ」

片道4時間の長旅だ。
暇つぶしに、しりとりやら指上げゲームやらを教えてみんなでワイワイしてたらルイズが突然言い出す。

「いや、呼び捨てでいいっていうから……」

女の子を呼び捨てにできるとは数日で俺も進化したものだ。

「友達だからよ。仲がよければ当然、名前で呼び合うものよ。あなたはご主人様なんでしょ?いいじゃない「ルイズさん」で」

キュルケ……。
そしてコクリと頷くタバサ。

好感度を上げることをした覚えはないが、……タバサは特に。
なんか気に入られたのかな?

それにしても、こんなおっさんを友達と言ってくれるか……。

悪い。
実は初めて会った時ビッチっぽいなあ、とか思っていました。

でも今となっちゃあシエスタに次ぐ良い人だよ。
リア充に対する偏見を改めなくては。

「アンタなんでご主人様よりキュルケ達と仲がいいのよ!」

「そんなこと言われても……」

ルイズご立腹。
いやアンタ呼び捨てにしたら怒ってたでしょーが。
俺はそれで、さん付けをしてたのに。

さすがに様づけする勇気はなかった。
なんか畏まった感じが自分には壊滅的に似合わない感じがしたのだ。
執事はイケメンがやるイメージというのが頭に定着してるからかな。
ブサメン執事って聞いたことないし。
まあ、なんにしろ「~様」とか自分が発すると思うと怖気が走る。

「ぐぬぬぬぬぬ。……いいわ!特別に私のことをルイズって呼んで!アンタのことはサイトって呼ばせてもらうからね!」

いや別にルイズさんでもいいんじゃ……。

「アンタは平民だけど使い魔だから特別よ!メイジと使い魔は信頼関係が大事なんだから!」

「素直じゃないわねぇ」

キュルケがなんか小さい声でつぶやいている。

「いい?他の人間にご主人様より懐いちゃだめなんだからね!」

懐くって。
わしゃ、犬猫か。

……でもまあ、使い魔だしな。
そんなもんか。

そして、まあルイズの気持ちもなんとなくわかる。
女心はワカラナイが今のルイズの気持ちはわかった。
自分のよく話す人が他の人間ともっと仲良くしているのを見るのは気分の良いもんじゃないからな。
でもまさか呼び捨てを許すとは。
意外。

だが呼称の変更をさらっと出来ないのは俺と同じだ。
仲良くなっても何気なく呼び捨てに移行できないんだよな。
~って呼んでいい?と、つい聞いちゃう。

まあそんなこと、ここ10年はないんだが。

結構ルイズもコミュ下手なのかな?
というより不器用なのか?

しかしワガママで構ってちゃんな妹が新たにできた気分だな。
リアル妹はしっかり者だったからな。
なんか新鮮。
……。





そういえば情報源の農夫ってどんなやつだろ。

「あのー……」

……。

ロングビルさんに話しかけたいのに間にいるルイズとキュルケがうるせえ。
飽きもせずにギャーギャー喧嘩してる。
キュルケはルイズで遊んでるって感じだけど。

「おーい……」

……。





10分後。

キュルケが気づいて静かにしてくれた。

「はい、皆さんのお口が静かになるまで10分もかかりました」

「なにそれ……」

……。
校長ギャグが通じない……。
魔法学院に朝礼はないのか。
まあいいや。

「あの、ロングビルさん。目撃証言をした農夫はどんな人でした?」

「え?」

「いや、フーケが森の中の小屋に入ったのはド深夜じゃないですか。真っ暗な森の中の小屋に入る黒いローブの男を目撃というのは怪しいと思いまして……」

「……」

「確かにそうね……」

ルイズたちも思案顔。

「……実は夜明け頃に学院と小屋の中間辺りで見つけて話を聞いたんです。まだ薄暗かったし焦っていたので……」

特徴は憶えていないと。

「そういえば、よくフーケの逃げた方向がわかりましたわね。私たちタバサの風竜に乗っていても撒かれてしまったのに」

ゴーレムが消えたあとルイズが五月蝿いから30分ぐらいドラゴンで旋回してた。

「……。運が良かったんですよ……」

疲れた微笑で答えるロングビルさん。

なるほど。
運が良かったのか。
そいつは良かった。
彼女の働きが無駄になったと思うと居た堪れない。

ん?
タバサがロングビルさんをジーッと見てる。
どうしたんだろ?

うーん。
しかし今の話によると、どう考えてもアレだな。

だいたい本物の農夫が深夜に森の中にいて、その後学院に向かってくる理由がわからん。
ますます農夫怪しい。

犯人は犯行現場に戻るという。
ということは犯人は学院内部の人間だ。
全く知らん人が学院に戻ってきたらオカシイからな。

きっと何食わぬ顔で学院に戻るつもりだったんだろう。
そこをロングビルさんと鉢合わせか。

やっぱり小屋は罠か、何も無いかだな。

しかし彼女の働きを無駄にしたくない。
いや何もなかったらそれでいい。
彼女は頑張ったということで。

だが罠だったら。
貴族の子女を危険に合わせた、と彼女の責任になるかもしれない。
かわいそうだそれは。
なんとか彼女の手柄で終わらせてあげたい。
……。





なんだかんだで小屋に到着。

……俺は森歩きの途中でおもいっきりコケてしまった。
なんか一気にテンション下がった……。
馬車の上ではあんなに楽しかったのに……。

「あれか……」

なんか……結構爽やかな小屋だな。
ボロいっちゃボロいけど。
日当たりいいし。

隠れ家というより
大人の隠れ家(キリッ
って感じ。

自分らしさの演出。
頑張った自分へのご褒美。
週末は趣味の陶芸に勤しむ。
スイーツ。
……。

「ちょっとサイト!聞いてるの!?」

「ん?」

「アンタがまず小屋の偵察をしてきて」

なんでやねん。
俺がこの中で最雑魚だろ。
なんかあったら死んじゃうじゃん。
戦闘用の武器すらないし……。

……ああ、だから捨て駒か。

「いや、それは流石になんかあったら死んじゃうんで勘弁して……」

「じゃあ、どうすんのよ!」

「……うーん」

どうしよ。





「あの、私は周辺を警戒してきますわ」

ロングビルさんの提案。
あんた、どんだけ働くんだ。
過労死してしまうで。

「待って、その必要はない」

タバサが止める。

「……どうしてでしょう?」

「……」

なんだ?
タバサの視線が鋭いような……。

まあ、だけど俺もタバサに賛成。
バラけるのは危ない。

「あの……俺も相手の正体も出方もわからない以上、単独行動は危険だと思いますけど……」

土のトライアングル以上としか判ってないからな。
なにしてくるかわからない。
一人になったら個別に倒される可能性が高い。

「……」

ロングビルさん思案顔。
あなた、もう休んでなさいって。
疲れてるでしょーに。

「で?これからどうするの?」

うーん。

「あの、皆の系統とランクはどんなもんでしょーか?」

……。





ふむふむ。
火と風のトライアングル、土のライン、爆発、と。

ポク、

ポク、

ポク、

ポク、

チーン。

よしきた。
これならそこそこ安全だ(特に俺が)。
ロングビルさんも活躍するし。

「はい。いいこと考えました」

挙手してみる。

「なによ?どうするの?」

よし、大学のゼミ以来のプレゼン開始。

「まず、ロングビルさんが10メイルぐらいのゴーレムを作ります」

「次に、そのゴーレムで小屋を潰します」

「小屋の残骸を砂に錬金します」

「風で飛ばします」

「跡地に破壊の杖があったらヤター」

「無かったらドンマイ」

「小屋の中にフーケがいたら(潰れちゃったら)皆でゴメンナサイしよう」

完璧。

「ちょっと!破壊の杖が壊れちゃったらどうすんのよ!秘宝なのよ!」

ルイズから反論が飛び出した。

「大丈夫だよ、秘宝なんだから強力に固定化かけてあるでしょ。それに、もし壊れたらフーケのせいでいいじゃん」

物理的衝撃にも、土のラインぐらいの錬金にも耐えるだろ。

「……うーん、でも」

「もしくは固定化かけたメイジのせいでいいじゃん。なんかもう飽きてきたよ、馬車の振動でケツ痛いし、転んで擦りむいたし、お腹すいてきたし……」

俺が体を鍛えたタフガイじゃなかったら、とっくに号泣してるところだ。
その上、罠になんか飛び込みたくない……。

「ちょっとサイト!真面目に考えなさいよ!」

「いや、でもこれなら安全だし……」

「……うーん」

「暗くなる前に帰って美味しい晩ご飯食べようよ……」

「……うーん」

まだ、悩むか。

「いいじゃない。他に案があるわけじゃないんでしょ?サイトの言うとおり、さっさと済ませて早く帰りましょ」

「……そうね。他にいい案無いし……」

よし決定。

役割は

ロングビルさん・・・・・小屋の破壊、残骸の錬金
キュルケ・・・・・・・・・周囲の警戒、残骸の錬金(補助)
タバサ・・・・・・・・・・・周囲の警戒、砂を飛ばす
ルイズ・・・・・・・・・・・フーケを見つけ次第爆殺
俺・・・・・・・・・・・・・・特になし

もしフーケがゴーレムを出したら速攻退却(ルイズはゴネたが)。
ただし本体が見つかった場合はルイズが即爆と(これで納得した)。

小屋の破壊役はルイズとキュルケの立候補があった。
しかし森の中で火はマズイし爆発じゃ杖がどっかに吹っ飛んでしまうかもしれない。
森の中で杖探しとか……。
役割=特になし、の俺が居残りで探すこともあり得る。
考えただけで恐ろしい。





「じゃ、まずロングビルさん。よろしくお願いします」

「……」

あれっ?

「あの……やはり秘宝があるかもしれないのに踏み潰すのは……」

困った顔で躊躇っている。
真面目さんだなあ。

「いや、皆の安全の方が大事ですって。罠の可能性高いですし安全に行きましょう」

「……」

「お疲れのところ、大変だと思いますけど……」

「……」

「最悪壊れたら俺のせいで良いですから……」

俺のせい=ルイズの責任、なんだけど。
壊れたら意地でもフーケのせいで押し通さなくては。

「……わかりました」

よしっ。
作戦開始。

……。





@@@@@@@@@@





……。

やっぱりケツ痛いな。


時間は跳んで既に帰りの馬車の上。

結果を言うと、
破壊の杖はあった
フーケはいなかった
罠も多分無かった
作戦は滞りなく終了。

そして今は俺が馬車の御者をしている。
ロングビルさんは荷台で仮眠中だ。

ロングビルさんは残骸を錬金している途中で精神力が切れた。
そんなに魔法を使ったわけではないんだが……。
キュルケたちによると肉体的な疲労や、特に精神的な疲労でも魔法行使に影響するらしい。
相当お疲れだったんだろう。

もし俺も報告する事になったら殆どロングビルさんのお手柄です、と口添えしとこう。
まあ、俺が言うまでもないけど。

砂を飛ばす作業は予想より大変だったのでルイズが小さい爆発で砂を巻きあげてタバサが風で飛ばすようにした。

そして。
砂の中から破壊の杖が現れた。

いやこれ、杖じゃないでしょ。
ロケットランチャーみたいなやつじゃないの?
詳しくは知らないけど。

完全なオーパーツ。
中世~近世ぐらいのレベルだと思ったんだけどな、この世界。
作れるところがあるのかな?

でも秘宝だっていうし、そうそう手に入る物じゃないんだろう。
俺みたいに召喚された可能性が高い。

ちょっと貸してってルイズに言ってみたが触らしてもらえなかった。
今はルイズが大事そうに抱えている。
クリスマスプレゼントを貰った子供みたいだ。
微笑ましい。
キュルケは生暖かい視線でルイズを見ている。

まあ、いいや。
帰ったら学院長に訊いてみよう。





空にはタバサの使い魔の風竜が飛んでいる。
一応連れてきたらしいが特に仕事はなかった。

しかし今は初めての御者で余裕が無い俺の為に学院までの案内をしてくれている。





ふと後ろを見ると俺以外みんな寝てる。
よく寝れるな、こんな乗り心地悪いのに。
乗り物っていうのは眠くなるものだがいくらなんでも……。

「おーい、お家に帰るまでが遠足ですよー」

タバサがこっちを向く。
タバサは起きてたのか。

しかし言ってはみたものの、やっぱり起こすのは可哀想なので他の皆はそのまま寝かせておく。

しかし案外あっさりミッション終了したものだ。
フーケが居なかったのは気になるが……。

学院にいるのかな?
でも小屋に秘宝置きっぱなしっていうのは……。

それとも小屋にいたけど潰されちゃったのか?
そして瓦礫と一緒に砂に……。

千の風になってしまったのか……。





青空に知らんオッサン(フーケの勝手なイメージ)の顔が大写しで微笑んでいるような気がする。

そして、あの人のテノール・ボイスが脳内に響く。

……。





うーん。
俺の発案で死んでいたとしたら心苦しいし、ちょっと怖い。

……。
……だけど悪い人だしな。
しょうがない。
泣かないでくださいって言ってるし(?)。

ドンマイドンマイ。





それにしても早く学院に着かないかなあ。
今日の晩ご飯なんだろう。




[21361] 第13話 副収入
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:39




「ついたー!」

木星ではなく学院に着いたのだが、たまのランニングの人の真似をしてみる。
ピテカントロプスになる日も近い。

「……アンタなに大声だしてんの?」

皆が怪訝な顔。

なんか最近、素が出せるように(漏れるように)なってきたかも。





いやー、やっぱりお家が一番だね。

旅行なんてするもんじゃない。

「よし。じゃあ今日はもう遅いし諸々は明日にして休もうか」

「そんなわけにはいかないでしょ!」

「でも俺、もう眠いんですけど……」

ルイズたちは馬車で寝てたからいいかもしれないけど。

「大体アンタが道を間違えるから、こんなに遅くなったんでしょーが!」

確かに。
晩ご飯の1~2時間前には帰れるはずが、とっぷり日は暮れていた。

「どうして殆ど一本道なのに道に迷うのよアンタ!シルフィードが道案内までしてくれたのに!」

どうしてでしょう。

ドナドナを口ずさみながらノリノリで馬車を走らせていたのに。

気づいたらシルフィードは10時の方向の空で小さい点になっていた。
俺が焦っているとタバサが隣に座って御者を手伝ってくれた。
そこからUターンして元の道に戻り、無事今に至るわけだ。

「とにかく!オールド・オスマンのところへ報告しにいくわよ!」

「そうね。さっさと報告して休みましょうよ」

それもそうだ。

……。
しかし今回で確信したがキュルケは優しい。
帰りの馬車で目覚めたルイズは道を間違えたことを知ると言葉の暴力で俺を殺しにかかった。
それをキュルケは庇ってくれたのだ。
やっぱり持つべきものは優しい友達だ。
それにおっぱいもデ……

「あの……」

ん?

「私は体を清めてから向かいますので先に行ってください……」

ああ、確かに。
ロングビルさんは昨日、風呂には入れていないはずだ。
その上、寝ないで外をかけずり回っていたのだ。
馬車で眠っている彼女は砂や髪が汗で肌に張り付き、艶っぽさがハンパなかった。

美人で働き者で……。
こんな人と結婚できたら幸せなんだろうなぁ。
……。

それにしても元気が無いな。
疲れているのは分かるが、落ち込んでるのはどういう事だろう。
折角、盗品を取り返せたのに。

「そうですね。では私たちは先に報告してきます」

はぁ……。
眠いけど行くか。





「オールド・オスマン。只今もどりました」

「皆、ご苦労じゃったの。良く無事で帰ってきてくれた。……して、首尾はどうじゃった?」

「はい。破壊の杖を取り戻してきました」

ルイズがロケットランチャー?を渡す。

「……ふむ、確かに破壊の杖じゃ。皆よくやってくれたの」

ルイズとキュルケは誇らしげだ。
タバサは無表情。

「……ところでミス・ロングビルの姿が無いようじゃが?」

「ミス・ロングビルなら体を清めてから来るそうです。昨日の夜から働き詰めで、だいぶ汚れてしまっていましたから」

「!……そうか。……帰ってきたか」

何だ?
そりゃ帰ってくるだろ。

だがブラック企業並のハードワークに加えエロ爺の秘書だからな。
逃げ出すことも十分ありえるか。

「そうか、そうか。では詳細は後日彼女から訊くとしよう」

なんか嬉しそうだな学院長。

「おお、そうじゃ。君たちには精霊勲章の申請をしておくぞい」

「「本当ですか!」」

ルイズとキュルケが食いついた。
タバサは無表情。

「うむ。秘宝を取り返したんじゃ、十分勲章に値する活躍じゃぞ。シュヴァリエも考えたんじゃがフーケを捕らえたわけではないからのう。そっちは難しいじゃろ」

「いえ、光栄ですわ」

シュヴァリエって騎士号だよな。
でも実際、小屋に取りに行っただけだからな。
危険なんだけど実際の内容だけなら子供のお使いとあんまり変わらなかった。
確かに堂々と騎士の称号を受け取れるような任務じゃなかったな。

「あの……サイトには何も無いんですか?」

「うーん、彼は貴族じゃないからのう。国から何かを与えるのは難しいじゃろう」

「そうですか」

「……やけにあっさり引くのう」

「いえ、そういえばコイツ何もしなかったので」

何もしなかったとは失敬な。
まるで俺に何かできる事があったような言い方じゃないか。
何も出来なかった、と言ってもらいたい。

それに、

「……帰りの御者したんですけど」

「アンタが道を間違えたせいでどれだ……「ゴメンなさい」」

食い気味に謝っとく。
まだ言うか。
蒸し返したのは俺だけども。

「大体アンタ、私たちが作業してるあいだ何してたのよ」

「アリの行列見てました……」

「……」

シエスタに貰ったクッキーがあったので欠片をアリにあげて運ぶ様子をずっと見てた。
俺は人だろうが虫だろうが働き者にはリスペクトなのだ。

「……うおっほん!まあ彼には儂からお小遣いを出しておこう」

「ヤター!どうもありがとうございます」

まさか俺もなんかもらえるとは。
俺が何かしても全部ルイズの手柄になると思ってた。

街に行ったとき何買おう。
とりあえず下着と替えの服だな。
あと枕も欲しいし。
……。

「さて、もう今日はもう遅い。部屋に戻ってゆっくり休みなさい」

「「はい」」

「おう、そうじゃ。ミス・ヴァリエール。サイトくんを少し借りるぞい」

「え?はい……」

「心配せんでもええ。ちょっと話を聞いてお小遣いを渡すだけじゃからな」

「わかりました。サイト、失礼なことするんじゃないわよ」





「さて」

学院長と二人っきりになってしまった。
なんだ?聞きたいことって。

「君は使い魔のルーンについて、どの程度知っておるかのう?」

「えっと……なんか特殊能力が付くとか……」

「ふむ、では君のルーンの能力は解るかな?」

「ああ、野球のピッチング能力upですよね?」

「え?」

「え?」

あれ?違うのか。

「……それはガンダールヴのルーンじゃ」

「ガンダールヴ?」

「始祖ブリミルの使い魔であったガンダールヴはあらゆる武器を使いこなし、その力は千人の軍隊に匹敵したという」

「へー……」

「へーって君……」

「じゃあこのルーンの能力はどんな武器でも使いこなせるってことですか?」

「そうだと思うんじゃが……。君はルーンが刻まれてから何か武器に触ってはいないかの?」

「ないと思いますけど……。そういえば金属の球を持ったときルーンが光ってましたが……」

「ふむ、決闘の時か……。おそらく金属球を武器として認識したんじゃろう」

なるほど。
やっぱり決闘見てたのか。

それにしても武器を使いこなすか。

……うーん。
なんていうか微妙な能力だなあ。

そんな努力次第でどうにかなる能力貰っても……。

どうせなら瞬間移動とか、透明人間とか、透視とか、未来予知とか、時止めとか……。
そういうのが良かった。

でも千人の軍隊と同レベルか。
身体能力も上がるのかな。
金属球を投げたときも球速すごかったもんな。

でも、あの程度で千人と戦えるかと言われると……。

あっ、そうだ!

「あの、破壊の杖を触らせてもらっていいですか?」

「む?かまわんが、どうしてじゃ」

「それ、たぶん俺の世界にあった武器です」

「君の世界とな?」

「ええ、俺の居たとこには魔法なんか無かったんで……」

「……なるほどのう」

「あれ?信じてくれるんですか?」

「儂も俄かには信じられんがの。心当たりがあるんじゃ」

……。





なるほど。
命の恩人の形見か。

何でもワイバーンの大群に襲われていた学院長をこれを使って助けてくれたらしい。

「彼はケガをしていてのう。その後すぐ、治療のかいなく逝ってしまった……。最期まで帰りたい帰りたいと言っておったのう……」

それが心当たりか。

「おお、そうじゃった。破壊の杖を持ってみなさい」

破壊の杖を受け取るとルーンが光り、体も軽くなる気がする。
そして。

M72 対戦車ロケットランチャーね。
使い方も理解できる。

「どうじゃね?」

「はい……これの正式名称も使い方も理解できました」

「そうか……やはりガンダールヴのようじゃの」

「あの……始祖の人って虚無なんですよね?じゃあルイズも虚無なんですか?」

「……彼女は系統魔法が使えないからの、そう考えるのが自然じゃが……なんとも言えんのう」

「そうですか」

「……とりあえずこのことは他言無用で頼むぞ。面倒事を呼び込むことになるからのう」

「ああ……わかりました」

ルイズにも言うなってことだろう。

「さて、儂からの話は以上じゃ。……おお、そうじゃった」

そう言って俺にジャラジャラした布袋をくれた。

「君も今回はご苦労じゃったのう。これは謝礼じゃ」

重っ。
お小遣いレベルでこんな重いのかよ。
紙幣造ろうぜ。

「秘宝と比べたら微々たるものじゃがの」

「いえ、ありがとうございます。……それでは」

「うむ、ゆっくり休みなさい。ミス・ヴァリエールのことよろしく頼むぞい」

「わかりました。……ああ!そういえば!」

「む?まだなにかあるかの?」

「あの……今回の功績は殆どロングビルさんのおかげですので……」

「…………そうか。では彼女にも十分な報酬を考えておくよ」

「そうしてください。では……」

……。





@@@@@@@@@@





はぁ……。
どうしてこうなった……。


お湯をもらってきて部屋で体を拭きながら思い返す。
そもそも宝物庫の前でアイツに会ってから全てが上手くいかなくなった気がする。

1週間程度、宝物庫の構造を調べたり外壁に細工をして崩れやすくしたかったのに……。
アイツに目撃されたせいで計画を早めてしまった。
どうやら、つぶやきは聞かれてはいなかったようだけど……。
それでも警戒するに越したことはない。

それにいざ盗むときも、またアイツいるし。
ヴァリエールの小娘が外壁を爆発してくれたのは助かったが。
その後ドラゴンで追いかけてきたので精神力を余計に使ってしまった。
ゴーレムを崩したあとも執拗に空から周囲を捜索してるし。
そのせいで馬が使えなくなり音を立てないようにフライの低空飛行で移動しなければならなかったから、さらに精神力を消費した。

しかも苦労して盗んだのに破壊の杖の使い方よくわかんないし。
ディテクトマジックにも反応しないし。
このままじゃガラクタと変わらない。
碌な値段で引きとってもらえないだろう。

だから学院の教師を誘いだして使わせてみようと思ったのに誰も来ないし。
ていうか、またアイツがきたし。
私は学院に残されそうになるし。

徹夜明けの疲れた脳で適当に考えた設定にスゴく食いついてくるし。
そのせいで青髪のちびっ子が私の正体に感づいたようだったし。
出発前の爺の話によれば、あの子は風のトライアングルでシュヴァリエを受勲しているらしいし。

同じトライアングルなら土のメイジが風のメイジに近距離で勝てる道理はない。
逃げることも難しいだろう。
離れようと思ったら案の定止められた。

もういっそ帰りの道中で破壊の杖を持っているところを無理やり襲ってみようかとも思ったけど……。
アイツの提案で私のなけなしの精神力は真っ先に空っぽにされた。
もう完全に破壊の杖を持って逃げることも出来ないだろう状況。

ふと見るとアイツはアリにクッキーをあげている。
……。

精神が限界まで疲れた私は馬車に戻った途端、意識を手放した。





はぁ……。
そろそろ学院長室に出頭しようかね……。

ちびっ子から私の正体について報告されてるだろうし、精神力もほとんど回復してない。
もう逃げられないだろう。
たった数ヶ月のあいだ側にいただけだが、あのエロ爺は只者じゃない。
それに今思えば初めから私の犯行だと気づいていた気がする。

ここまでか……。

「テファ……」

……。





「失礼します。……只今戻りましたわ、オールド・オスマン」

「おお、良く無事に戻ってきてくれたのう。ミス・ロングビル」

「……」

「……」

それだけ言って爺は黙る。
じれったい。

「…………はぁ……。それで?いつ私を王宮に引き渡すんだい?」

「ふむ?なぜ盗品を取り戻してくれた君を王宮に引き渡さなければならんのかの?」

「……もう全部わかってるんだろ?」

「……ふむ。……どうして学院の人間をおびき出すようなマネをしたんじゃ?」

「アレの使い方がわからなくてね。魔力もないし、使い方がわからなけりゃガラクタと変わらないだろ?」

「ふふ、そうか。でもアレの使い方を知っとるのはサイトくんだけじゃ。儂も知らんよ」

なんでアイツが……。

「彼が討伐隊に加わって運が良かったのう」

全然良くないよ!まったく……。

「私からも訊くけど、どうして私の正体が判っていたのに生徒たちを行かせたんだい?」

「……。儂はのう、君があのまま逃げてくれてもいいと考えていたんじゃ。それに君は子供たちを殺したりはせんじゃろ?」

殺したくはないけど……。
……それでも状況次第だ。

それに、

「……秘宝が盗まれてるんだよ?」

「あれは元々儂の私物みたいなもんじゃからのう。今までの迷惑(セクハラ)料のつもりでの」

「なんで……」

そこまで私を庇うようなことを……。

「君が給料の殆ど全てをどこかに送金しているのは知っておったよ」

「……」

どこまで知ってるんだ……。

「警戒しなくても儂ゃなんも知らんよ。ただ年寄りの勘で君が悪い人間じゃないと思っただけじゃ」

「……」

「さて、今後の話をしようかの」

来たか……。

「今回の活躍で昇給じゃ。給料は2倍にしよう」

「は?」

「ただし今までのようなアルバイトは止めてもらおうかの」

「ちょっと!どういうことだい!?」

「そのまんまじゃよ。これまで通りミス・ロングビルとして学院で働いてくれい」

……。

「でも、今更……。私はいつ王宮に正体が知れるかわからないんだよ?」

そんな人間を雇っていたら、いざという時の責任は全部学院長に行くだろうに。

「……どうやら土塊のフーケには模倣犯が出てきているようじゃのう?」

……。

確かに。
私の手口を真似て罪をフーケに被せようとしている奴らが何人かいるようだ。
盗まれた貴族側もたとえフーケではないと判っても無名の盗賊に盗まれたと言うよりはフーケに盗まれたというほうが体裁が良いのだろう。
その結果、最近はフーケの犯行と言われているもので実際に私がやったのは半分もない。

「王宮としても何時までもフーケに虚仮にされるわけにはいかん。君がしばらく大人しくしていて模倣犯の誰かが捕まれば、違うと判ってもフーケとして処断されるじゃろ」

「……」

フーケが捕まれば模倣犯も止むか……。

「どうじゃな?」

「でも……」

土塊のフーケの存在は私が始めた幻想だ。
どこかの誰かに押し付けるようなマネは……。

「どうしても嫌だというなら全部王宮に報告しなきゃならんかのう?」

……。
たとえ断っても、この爺さんは報告なんてしないだろう。
だけど……。

「……ふぅ、わかったよ。ありがたく続けさせてもらうよ」

私は捕まりたくない。
あの子たちのためにも。

「そうかそうか。そいつは良かったわい。その尻が触れなくなるのは寂しいと思ってたんじゃ」

はぁ……。
この爺はまったく……。

「そういえばタバサって子は私の正体に気づいていたようだけど」

「ふむ、一応口止めしておくが……。なあに、彼女は他言したりはせんよ。……それに彼女も訳ありじゃしの……」

タバサなんてわかり易い偽名。
それにシュヴァリエも……。

……。

だがまあ、踏み込むことじゃない。
興味もないし、お互い様だ。

「それじゃあ君も今日は休むといい」

「……そうさせてもらうよ」

「……。明日からは、いつものミス・ロングビルで頼むぞい?」

「わかってるよ」

「ああ、そういえばサイトくんじゃがな」

「……」

「今回の功績は殆ど君のおかげ、だそうじゃ」

……。

「……そうかい」

はぁ……。
……なんなんだアイツは。





@@@@@@@@@@





ルイズのいない部屋(入浴中)でお小遣いを数える。

うーん。
これ金貨だよなあ。
200枚もあるけど……。

お小遣いに金貨200枚か……。
ジンバブエもビックリのスーパーインフレが起こってるな、この国は。

いや、でも金貨の価値がそんなに下がるかな……?





まあ物価は今度武器を買いに行く時わかるか。
流石に200枚あればパンツぐらい買えるだろ。




[21361] 第14話 伝説の剣
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:39




ここ臭っせ……。


今日はルイズと一緒に王都で買物だ。
ということで馬を借りに馬小屋に来た。

しかし臭い。
動物園の香ばしい匂いがする。
あたりまえだが。

ちなみにデートに行くなら動物園より水族館の方が良いらしい。
匂いがしないからとか……。
何かの雑誌で読んだ。

俺にとっては完全にトリビア(ムダ知識)の領域だが。
真実かどうかも判らんし。

「というか俺、馬乗ったことないけど……」

「……アンタどんだけ田舎ものなのよ」

「……一応、俺の居たところは30万人くらいの人口だと思うけど……」

確かH市はそんぐらい人が居たはず。

「何それ!大都市じゃない!?」

「いや、大都市というわけでも……」

「で?そこでは何で移動してたの?」

「俺は原チャリかなぁ……」

俺は愛車の黒王号(H○NDAの黒スクーター、命名・俺)に乗っていた。

「原チャリ?」

「うーん……。2輪で……クイッとすると勝手に車輪が回る乗り物かな」

「へー……って!そんなことはいいのよ!とにかく一回馬に乗ってみなさいよ」

「えぇー……」

……。





パカラっパカラっパカラっ。

暴れん坊将軍!
テデ゙デーン!デデデデーン!
てーててー、ててーててー、てーてーてーててー。
……。

結局俺は今、ルイズの後ろに乗せてもらっている。
ヒヅメの音が小気味よく響く。

俺も馬に跨ってみたのだが全く言うことを聞いてくれなかった。

振り落とそうともしないんだが、ビクともしない。
俺が乗ってんのに普通に飼葉を食べ始めた。
挙句、寝た。

3頭乗ってもみんな同じだったのでルイズに乗せてもらうことになったのだ。

まさか馬にシカトされるとは……。

……うま……しか。
馬……鹿……。
Oh……。

「ちょっと、もっとしっかり力入れないと落ちるわよ?」

「ああ、はいはい……」

そしてルイズのお腹に手を回してるわけだが。
なんか力加減が……。
HENTAIと思われないかな。
お腹に回した手から童貞のイヤラしい邪心が伝わらないだろうか?

「ちょっと!ほんとに落ちるわよ?!」

「はいはい」

力を入れて、しっかり掴まる。

全く。
女の子に抱きつくなんてキョドるに決まってるじゃないか。
これが松平健なら安心して抱きつけるのに……。

まあ暴れん坊将軍に抱きつくというのもアレだが。





「そういえばルイズってお小遣い、いくら貰ってるの?」

「え?私は毎月500エキューだけど」

うーん。
なるほど。
じゃあ100エキュー1万円ぐらいかな?
思ったより買い物できそうだ。

学院長太っ腹だな。
日給2万円とは。

……。





なんだかんだで王都到着。

「腰が痛い……」

「アンタ軟弱ねぇ……」

「だって俺のところ鐙無いじゃん……衝撃が殺せないんだもん……」

鞍は二人乗り用があったんだが、鐙は前の人にしか付いてなかった。
なんで後ろにも付けないんだろ。
腰の丈夫な人しか後ろに乗らないルールでもあるのかな?





「しかし狭いな……」

「狭い?これでも大通りなんだけど」

「そうなの?人も多いし、歩きづらいんだけど……」

俺とルイズの財布(布袋)を突っ込んでパンパンになったショルダーバッグが邪魔で余計に歩きづらい。

「……スリには気をつけてよね。注意して無いと、魔法を使ってスられたら絶対気付けないわよ」

「ふーん」

そういえばさっきからショルダーバッグが軽くなったり重くなったりしている。
フワっとしたりドスンときたり……。
誰かがスろうとしてたのか。
ジッパーの開け方が解らないのかな?

なんにしろ腰に響くのでやめてもらいたい。

……。





ここ臭っせ……。


「う~ん。このあたりだと思うんだけど……」

ルイズに連れられてやって来たのはゴミや酔っぱらいの作品が散乱している小汚い場所だった。
女の子が来る場所じゃねーぞ、これ。
まずは武器を買おうということで来たのだが……。
さっさと選んでルイズをここから離さなくては。
教育によろしくない。

「ああ、アレじゃないか?」

剣を模した、いかにもそれっぽい看板がぶら下がってる。

「そうみたいね。じゃ行きましょ」

……。





店内に入ると、ところ狭しと武器が置いてある。

「いらっしゃい……。……おいおい、うちは貴族の御厄介になるようなことはしてませんぜ?」

「客よ」

「コイツは驚いた。貴族様が武器を?」

「コイツに持たせるのよ」

「……なるほど、最近は土塊のフーケなんていう盗賊が巷を騒がしてますからねぇ。従者に武器を持たす貴族様も増えていますよ」

「「……」」

フーケね。
結局何がしたかったんだろう。
盗んだなら、さっさと逃げて売っぱらえばいいのに。
あんな中途半端な場所に破壊の杖を置いて。

今は砂になって風に吹かれているのかもしれないが。

「じゃあ、この店で一番いい剣を持ってきてちょうだい」

「へぇ、少々お待ちを」

剣か……。
あんまり刃物は持ちたくないな。
それに一番いい剣か……高いだろうに。

「おまたせしやした。コイツがこの店一番の剣です」

「あら。なかなかカッコいいじゃない」

「コイツはゲルマニアの錬金術師シュペー卿・作の業物でさぁ。鉄だって切り裂きますぜ」

宝飾ゴテゴテの剣だ。
こんなもん恥ずかしくて持ち歩けないよ……。
どんなセンスだよ……。

それに、高そうだ。
なので、

「でも、お高いんでしょう?」

通販番組のサクラみたいに訊いてみる。

「金貨2000、新金貨で3000てとこですかねぇ」

「さらに同じ物をもう一つ付けて!」

「え?」

「え?」

「……あの、コイツはこれ1振りっきりですが……」

「ああ、そうですか」

せめて専用アタッチメントを1年分……。

「……サイトはちょっと黙ってて」

「……」

黙っててなんて人生で初めて言われた。
いつも、もっと喋れって言われるのに。

「それにしても、ちょっと!なんで剣一本で2000エキューもするのよ!庭付きの豪邸が買えるわよ!」

へー……そんな高い剣が寂びれた店に良くあるなぁ。

……。

……え?
2000で庭付きの豪邸買えるの……?
……。

マジかよ……。
じゃあ俺の200は……。

とんでもない大金じゃん。
何持ち歩いてんだ俺は。
大御所きどりか俺は。
まるで勝新太郎じゃないか。

学院長ェ……。
なんで、こんな大金を……。
一体どういうつもりなんだ?
……。

まあいい。
あとで物乞いさん10人くらいに、1枚づつあげよう。
一人でこんな金持ってても罪悪感で使う気にならん。
少しおすそ分けしなくては。

でも、やっぱり小市民なんだなぁ俺は。
みんな!俺が奢ってやる!付いて来い!っていつかは言ってみたい。
……。





ふと見るとルイズはなんか思案中だ。

「で?貴族様、お買い上げ頂けるんで?」

「う~ん……」

……。

「ルイズ。その剣はやめようよ」

「え?どうしてよ?」

「長すぎるって。狭い屋内じゃ絶対使えないし外でも俺には無理。大体持ち歩けないし」

1.5mぐらいある。

「そうねぇ……」

「それに刃物は持ちたくないんだけど……」

「なんでよ?」

「いや、刃物を躊躇いなく振り回せるような人生歩んでないんで……」

ヤダよ、人を切るとか。
紙でピッと切った傷でさえ見たくないのに。

「うーん。じゃあどうするのよ?」

と、突然。

「やめとけ!やめとけ!そんな腑抜けたこと言ってるやつは武器なんて使えねぇよ!」

「コラッ!お客サンに失礼なこと言うな!オメエは黙ってろ!」

なんだ?
下の方からオッサンの声が。
しかしルイズの声よりも下からだったぞ。
いるのか?そんなちっさいオッサン。

「おいおい、どこ見てんだ!ここだよここ!」

どうやら樽に乱雑に突っ込まれた武器から聞こえているらしい。

「これかな?」

手に取ってみる。

「おう、そうだよ。オメエさん武器持ったって、どうせ使わねーだろ?さっさと帰んな」

「確かに」

「……いや。ちょっと待て……、オメエさん“使い手”か……?」

使い手?

ガン……、ガンダー……。
……。

忘れた。
あの始祖の人の武器使えるってやつかな。

「よし!俺っちを買いな!」

「いや、いいです」

「いや!え?ちょっと!オマエ“使い手”だろ?俺だよ俺、オレオレ!相棒だよ!」

いや、そんな詐欺みたいに名乗られても……。
余計に買いたくない。

……。

「ちょっと、あの剣なによ?」

「ああ、アイツはインテリジェンス・ソードのデルフリンガーって言いましてね。客に暴言吐いて商売の邪魔する厄介者ですよ」

「ふーん」

「まったく、誰が始めたんでしょう。剣を喋らせるなんて」

……。

「ちょっと待て!今、昔のこと思い出すから!そしたら俺を買いたくなるって!」

「じゃあ、その間に武器を選んでるから思い出しておいてよ」

「おう!……え?いやいや……え?……。……わかった!とにかく思い出すから!」

うーん。
メンドくさいな、この剣。
いや片刃だし刀か?
よくわからん。

「結局どうするの?もうサイトが好きなの選んでいいわよ」

「ホントに?ヤター」

実はさっきから気になってたのだ。

「これにする」

「ウォーハンマー?」

俺が選んだのは無骨なウォーハンマー。
鎚の部分の大きさは制汗スプレーくらい、柄の長さは1m程だ。
柄の部分も金属で全体的にカクカクしている。
持ってみても、そんなに重くない。

「……刃物じゃないにしても、もっとカッコいいやつにしなさいよ。メイスとか」

「メイスはザ・鈍器って感じじゃん。普段持ってても使い道ないし」

使わないのに、あんな重いもの持ち歩きたくない。
ウォーハンマーは重いけど日常で使える場面もきっとある。

「……まあアンタが良いなら、いいけど」

「そのウォーハンマーは10エキューでさぁ」

「そ。じゃあ頂くわ」

10エキューって。
それでも数十万円位するんじゃないか?

なんか物価がよくわかんなくなってきたな。
ルイズのお小遣いが500エキュー。
俺の日給が200エキュー。
庭付きの豪邸が2000エキュー。
調理場のまかないプライスレス。
……。

「じゃ、行きましょうか」

「そうだね」

「ちょっと待ったー!オレオレ!忘れてるって!」

ああ、この剣か……。

「いや、忘れてるのは君じゃなかったっけ?」

「え?そうだけど……」

「なにか思い出した?」

「……」

……なんか可哀想になってきた。

「あの……この剣はいくらですか?」

「ソイツは厄介払いも込みで100で結構でさ」

高いよ……。
絶対いらない。

うーん。

「じゃあなんか思い出したら、魔法学院まで連絡ちょうだいよ。そしたら買いに来るから」

「……う~~~~ん…………わかった。……オヤジっ、そんときゃ頼むぜ!」

「めんどくせえなぁ」

「俺とオメエの仲じゃねぇか!」

「わーったよ……」

なんだかんだで仲いいな。
おやじさんとこの剣。

まあいいや、もう行こう。

「毎度ありー」

……。





「さて、次はどうしようかしら」

「俺、服買いたいんだけど。あと日用品」

「そうねぇ……。いいわっ!私が選んであげる!」

なんか楽しそうだな。
しかしルイズのセンスか……。
あの剣をカッコいいって言ってたからなあ。

「私が選んであげるのよ!光栄に思いなさい!」

まあ、よっぽどじゃなきゃ大丈夫か。

「さぁ、行くわよ!」

手を引っ張られる。
10代は元気だなー。
……。





@@@@@@@@@@





「どうしたのタバサ?手が止まってるわよ」

「……何でもない」

手が止まっていた事に気づいて食べ始める。

今日は虚無の曜日だ。
いつもなら読書で過ごすところだが、気が向いたのでキュルケと一緒に王都まで遊びに来ている。

「珍しいわねぇ。あなたが食事中に考え事なんて」

「……」

「……サイトの事かしら?」

「……」ピクッ

「最近シルフィードが、よくサイトを見てるのよねぇ」

……。
確かに最近、彼を観察している。

ギーシュとの決闘からなんとなく気になるのだ。
これから殺し、殺されるかもしれないのに心ひとつ乱さない。

フーケ討伐の時も……。
彼は初めからフーケの正体に気づいていたんじゃないだろうか?
彼は、あまりにも見事に封殺してみせた。
魔法一つ使わないで。

そしてハルケギニアの外から来たらしい。
もしかしたらエルフについての知識があるかもしれない。

だが、わからない。

観察していても彼の行動はよくわからない。

ルイズと一緒に授業を受けて。
他の使い魔たちと昼寝をして。
ときどき金属球を投げて遊んで。
しょっちゅう裾を踏んづけて転んでいる。

切れ者の雰囲気は微塵も感じない。

最近ルイズは殆ど1日中、彼を連れ回している。
彼が何かやってはキツイ言葉を投げかけている。
だが楽しそうだ。
そういえば最近ルイズは柔らかくなった気がする。
私たちにもよく話しかけるようになったし、お互い名前で呼ぶようになった。
キュルケとは相変わらずだが……。
それでも言葉のやり取りに刺が無くなったように思う。

……。

イーヴァルディの勇者。

彼は全然イメージではない。
イーヴァルディにも色々な話、性格あるが彼のようなイーヴァルディは読んだことない。

だけど。

中庭で読んでいる本の題名を答えようとしたとき、

何故か彼とイーヴァルディが重なった気がした。





@@@@@@@@@@





「あら、ルイズにサイトじゃない」

「キュルケにタバサ。アンタたちも来てたの?」

「せっかくの休日じゃない?部屋にこもっていても面白く無いでしょ?」

そうかな。
俺は家の中大好きだけど。
用がない限り絶対出たくない。
買い物はネット通販。
基本的に家出るのは食料買出しかゴミ出しだけだった。

「で?あなた達はデート?」

「な!そんなわけ無いでしょ!なんでサイトとデートしなきゃいけないのよ!」

「えー?ずいぶん楽しそうだったけど?」

「サイトの服を一緒に選んであげただけよ!どこがデートなのよ!」

「…………十分デートだと思うけど……」





ルイズに服を選んでもらったがセンスは普通だった。
何故か現代日本でも違和感無さそうな服が幾つかあって、それを選んでくれた。
そして買ってくれた。
従者に作業服を自分で買わせるなんて貴族のすることじゃないそうだ。
一応、私服でもあるんだけど……。

その後、一通り買い物を済ませたあとルイズがクックベリーパイというのを食べたいと言い出した。
どうやら1年ほど前から行ってみたい店があったらしい。
1人では行きづらいっていうのは同意するが、友達誘って行けばよかったのに。
俺みたいなボッチじゃあるまいし……。

そんなわけで手を引っ張られながらやってきた店にキュルケとタバサが先客としてダベっていた。
席は空いてるけど丁度いいから相席させてもらおう。

店員さんに注文してから適当に雑談。
……。





「あら?キュルケ達にルイズじゃない。それにサイトも」

「やあ、みんな奇遇だね」

モンモランシーとギーシュまで来た。

「あら、あなた達もデート?」

「……まあ、ね」

「おや、モンモランシー。恥ずかしがることはないよ。……でも恥じらう君もステキだね」

コイツのセリフ臭っせ……。

「ちょっと!私たちは違うって言ったでしょ!」

ルイズは何か言ってる。
からかわれてるだけなんだから黙ってればいいのに。

デートなんて俺だって一度もしたこと無いよ。
デートのやり方だって知らないし。
そんな俺がデートなんて出来るわけがないんだから……。





「あら?そういえば、サイトとモンモランシーって知り合いなの?」

「「……まあ」」

実は少し前に俺はモンモランシーから話しかけられた。
ギーシュと仲が良くて暇な俺に、「女の影を見つけたら報告して欲しい」という依頼をしてきたのだ。

本気で暇だった俺は「あれれー」、「バーロー」と呟きながら調査を開始。
丸一日ギーシュをストーキングし女の子との会話、スキンシップ、イヤラシい視線、等々を全て記録。
麻酔銃のついていない腕時計で確認した時間を、ノートに分単位で書き込み必要と有らばケータイで写真を撮りモンモランシーに報告していた。

我ながらやりすぎたと思ったがモンモランシーには気に入られたようだった。
もうストーキングはしていないが、見かけたら今も報告するようにしている。

「ハッハッハッ。恋人と友人が仲が良くて嬉しいよ。でもサイト、モンモランシーに惚れても無駄だよ。彼女は僕にベタ惚れだからね」

何も知らずに……。
報告するたびにモンモランシーは「あと5回……」「あと4回……」と低い声で呟いているんだぞ。
だんだん数字が減っているソレが何を意味するのか……。
まあ俺には、さっぱりわからんが。





「そういえば君たち、精霊勲章を申請してもらったそうじゃないか」

「ええ、そうよ。来れなくて残念だったわね。ギーシュ」

「く~。僕もあの時、馬車に乗れていれば……」

「何よ、ギーシュ!私というものがありながらキュルケ達と出かけたかったっていうの!?この浮気者!」

モンモランシー大激怒。

「サイテー……」

「色情狂……」

「強姦魔……」

「派手シャツ……」

キュルケ、ルイズ、タバサが追い打ちをかける。
ついでに俺も言っといた。

「ちょっと君たち!それは酷すぎるだろ!あとサイトは自分のシャツも派手じゃないか!」

「なによギーシュ、大声だして。他のお客さんの迷惑でしょ?」

「え?モンモランシー、君が初めに……」

「そういえばサイトは何か報酬を貰ったの?」

「モンモランシー……。話の逸らし方が大雑把すぎるよ……」

「ああ、勲章がもらえないからって学院長に200エキュー貰ったよ」

「え?何よそれ!すごいじゃない!……ちょっとギーシュ!アンタなんで行かなかったのよ!」

「え?それはモンモランシーが……」

「私のせいだっていうの?!酷い!」

モンモランシー大号泣。

「サイテー……」

「鬼畜……」

「暴力二男……」

「薔薇族……」

キュルケ、ルイズ、タバサが非道な行為をたしなめる。
ついでに俺も言っといた。

「ちょっと待て!オカシイだろ!だいたいタバサ!暴れカニ男って何!?」

「違う。ぼうりょくじなん」

「暴力なんて振るってないし僕は四男だ!あとサイト!それなんか変な意味だろ!」

「そんなことよりモンモランシーが……」

「モンモランシー可哀想~」

「酷い」

「い~けないんだ~、いけないんだ~、セーンセに言ってやろ~」

キュルケ、ルイズ、タバサが小学生化した。
ついでに俺も歌っといた。

これは日本の小学生が追い打ちに使う必殺スペルだ。
全国に様々なバリエーションがある。
これを唱えると1分前まではしゃいでいたお調子者も8割方泣く。

「ギーシュ、いい加減に謝っちゃいなさいよ」

「人間は誰でも間違えるものだけど謝罪は必要よ」

「誠意」

「カボチャじゃだめだぞ?」

キュルケ、ルイズ、タバサが人としての道を説く。
ついでに俺も言っといた。

「…………どうしてこうなった……」

立ち尽くすギーシュ。

ギーシュは2度と恋人へは戻れなかった…。
友人と恋人の中間の生命体となり永遠にハルケギニアをさ迷うのだ。
そして、なんかもう状況がよく解らないので、そのうちギーシュはツッコむのをやめた。

……。
まあ冗談だけどね。
なんだかんだでモンモランシーはギーシュが好きだし。

ただ流石に遊びすぎた……。
ギーシュが石のようになってしまった。





「あら、もう結構遅い時間ね」

「そろそろ帰りましょうか」

「そうね、みんなでシルフィードに乗せてもらって早く帰りましょ」

「ギーシュはどうするの?」

ギーシュは思考停止状態で立ったまま固まっている。

「私とギーシュは馬で来たんだけど……」

「私とサイトも馬で……1頭だけど」

「じゃあギーシュに伝言を残しておいてギーシュに3頭連れて帰ってもらいましょうか」

「そうね」

「決まり。じゃあ、行きましょう」

女性陣はさっさと店から出て行く。
どうやらお会計もギーシュに任せるようだ。
恐ろしい……。

さすがに不憫になったので代金は支払っておく。

「悪い、ギーシュ。俺は馬に乗れないんだ。あとは頼む……」

かなりの罪悪感。

「ちょっとサイトー。早く行くわよー」

「わかったー」

未だピクリともしないギーシュを置いて店をでる。
……。





行きとは違って帰りはシルフィードに乗って快適な空の旅だ。
腰も痛くないし、眺めもいい。
なんだ、外に出るのも悪くないじゃないか。
仲の良い友達との外出ってこんなに楽しいのか。

ただ人ごみはやっぱり苦手だけど……。





ギーシュには今度何か奢ってあげよう。



[21361] 第15話 コピーロボット
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:39




「わいは猿や!プロゴルファー猿や!」


最近、俺の目下の趣味は早朝ゴルフだ。

ルイズに買ってもらったウォーハンマーは確実に可能性(暇つぶし)の幅を広げてくれた。

初めはウォーハンマーを振り下ろすトレーニングでモハメド・アリのようにパワー不足を補おうとした。
が、そもそもおれはボクサーじゃない。
それに疲れる。
3分で飽きた。
何より端から見たらウォーハンマーを振り回す危ない人でしか無い。

そこで適当なサイズの金属球を拾ってきてゴルフを始めた。
勿論はにかむことは忘れていない。
しかし、これも振り回すのは危ない。
専らパターゴルフだ。
このウォーハンマー、丁度パタークラブを二回り、三回り、大きくした感じなのだ。

「俺になら見えるはず、カップまで続くシャイニングロードが……」

しかし、いくら地面に顔をつけて芝を読もうとしても全然光らない。
左手はチラチラ光ってるんだけど。
……やっぱりライジングインパクトのほうなのか?
……。

しかし趣味というのは人生にメリハリを与えてくれる。
規則正しい生活が身について毎日好調だ。
本当にウォーハンマー様様だ。

「え?最近の俺が好調な理由ですか?まいったなー。
実はこれ。そう、ウォーハンマーなんですよ。
これを買ってからというもの日に日に筋肉が付き始めて身長も30cm伸びました。
もともと冴えない顔をしていたんですが鼻も高くなり奥二重が二重に、今ではスッカリ福山雅治です。
女の子にもモテモテですよ。
それにこれ、見てください。宝くじも一等前後賞に大当たり。
偶然、道で助けたビル・ゲイツの遺産相続権も手に入りました。
今では毎日、美女と札束の風呂に浸かってますよ。重いから出るの大変なんですけどね(笑)。
さらに俺が何気なく放った一言、「そんなの関係ないじゃないですか」が今世紀の流行語大賞になってしまいました。
そして苦手だった科目も1日15秒のウォーハンマーで得意教科に。
全国模試で世界一になってしまいましたし、なんとなくリーマン予想も証明できてしまいました。
部活で差を開けられていた同級生からスタメンを奪取することにも成功しましたよ。
え?部活ですか?漫画研究会です。
活躍が認められて2014年W杯の代表にも既に内定してるらしいです。
さらには、ツンデレ幼馴染、人懐っこい義理の妹、ダダ甘お姉ちゃん、ボーイッシュな後輩、クーデレな先輩、物心つく前に結婚の約束をしたあの娘まで現れて全員に告白されました。
え?いまですか?勿論おっぱいの大きいハリウッド女優と付き合ってます。
いやー、皆さんも是非騙されたと思ってウォーハンマー買ってみてください。人生捗りますよ。」

「……」

「さらに今ならお手入れ用の専用布巾、持ち運び用ケース、1年保証までついて……」

「あの……」

「勿論送料はジャパネッ……ん?」

「あの……ミスタ・ヒラガ……?」

え?
なんでロングビルさんが。

「ロングビルさん、こんな早朝からどうしたんですか?」

「実は突然、王宮の勅使の方が学院にいらっしゃることになったんです」

「へー、こんなに朝早く来るんですか。大変ですねぇ」

「あの……それで、さっきのは……」

「そういえばロングビルさん、ミスタなんてつけなくていいですよ。俺は貴族じゃないですし」

「え?そうですか……。じゃあこれからはサイトさんと呼びますね」

「ええ、そうしてください」

「あの、ところでさっきのは……」

「え?」

「ツンデレとか、ハリウッド女優とか……」

……。

「…………声でてました?」

「はい……」

「……どこから聞いてました?」

「わいは猿や!プロゴルファー猿や!……のところから……」

「……」

だいぶ前からだな……。
俺の最悪予想よりだいぶ前だ。
というより初めの初めだよ……。

「…………何でも無いです……ただの独り言です……」

「そうですか……」

……。
うわあああああああああああああああああああああ!!!!
コクコクの癖はなくなったのに、独り言は治ってなかったのかあアアアアアアアア!
アホな妄想全部垂れ流してもーた……。

うわあ……今日寝れる気がしない……。
暗い部屋で目を瞑るたびにフラッシュバックしそうだ……。
それどころか、これからウォーハンマーを見るたびに思い出しそうだ……。
……。

武器……変えてもらおうかな……。

「あの……それで御忙しいところ申し訳ないのですがオールド・オスマンがお呼びです」

「そうですか……」

心臓……止まらないかな……。

それに忙しいところって……。
スイマセン……俺……ハルケギニア一の暇人です……。

「私は門の前で勅使の方をお迎えしなくてはいけないので……学院長室まで御足労願えますか?」

「はい……」

隕石……落ちてこないかな……。

「ではよろしくお願いしますね」

「はい……」

地球……爆発しないかな……。

って、ここ地球じゃないのか……。

……。





……。





「失礼します」

早速、俺は学院長室にやってきた。

「おう、よくきたのう。……なにやら元気が無いようじゃが……」

「いえ、何でも無いです……。それより学院長さんこそ顔面がボコボコですが……」

「いや、何でも無いんじゃ……」

「「……」」

……。

「ところで何で呼ばれたんでしょうか?」

「おう、そうじゃ。これを君に預かって欲しいんじゃ」

「……なんですか?この人形?」

机の上には7個の小さい人形が置かれている。

「これはスキルニルと言ってのう、本来は血を染み込ませるとその人間の姿、能力、記憶までコピー出来る人形なんじゃが……」

「ふむふむ」

パーマンのコピーロボットみたいなもんか。

「これは簡易版でのう、口づけするだけでコピーできるんじゃ。……ただし1時間ほどで勝手に効果が切れてしまうんじゃが」

「へー。でもなんで俺が預かるんですか?」

「実はのう……」

……。

学院長の話によるとロングビルさんをスキルニルでコピーしてハーレムを作ろうとしたらしい。
そこで10個のスキルニルを手に入れたそうだ。
しかし無理やり3個コピーしたところで4人のロングビルさんの抵抗にあい作戦を断念。
その後、4対1の60分デスマッチ(凶器有り)が始まってしまったということだ。

「さすがに二人に担がれて頭から落とされたときは死ぬかと思ったわい」

垂直落下式ブレーンバスターかな?
老人になんて技を……。

「しかし朝から元気ですねぇ」

「まぁのう、しかし折角スキルニルを手に入れたのに残りの7個もミス・ロングビルに処分されそうなんじゃ」

「なるほど、それでほとぼりが冷めるまで預かって欲しいと」

「そういうことなんじゃ。君ならミス・ロングビルも取り返せんじゃろ」

そうなのか?
でもなんで俺なら取り返せないんだ?

「どうじゃ?引き受けてくれんか?」

「いいですけど……」

「おお、そうか。ではサイトくんにも1個あげよう、それと他の6体のスキルニルも自由に使ってもらってかまわないからのう」

「そうですか、ありがとうございます」

「それでは頼んだぞい」

「了解しました」

スキルニルをショルダーバッグに詰めて学院長室を出る。

……。





@@@@@@@@@@





「来たか……」

大層な馬車が門の前に止まり、いけ好かない雰囲気の貴族が下りてくる。

「これはモット伯。こんなに朝早くからの御役目、頭が下がりますわ」

「おお、ミス・ロングビル。いや勅使は王宮のお触れを伝えるのが仕事ですからな、早ければ早いほど良いんですよ」

……コイツの視線は相変わらず気持ちが悪い。

「それにしても相変わらずお綺麗ですな」

「まあ、お上手ですわね」

……。
胸を見ながら言うな……。

この王宮勅使のジュール・ド・モット伯には前にも一度会ったことがある。
この学園で働き始めてすぐだったが、その頃から体を舐め回すように見てくる気持ち悪いヤツだった。

それに良くない噂も聞く。
なんでも気に入った平民の女の子を自分の屋敷に雇い入れては夜伽の相手をさせているとか……。
雇い入れる方法自体も強引だという話だ。
真実かは解らないが……。

噂の真偽がどうだろうと、コイツにはさっさと帰ってもらいたい。

「それでは学院長室までご案内いたしますわ」

「おお、それじゃあ頼みますぞ」

「それではこちらへ……。」

……。





「おや……?あの娘は……」

「どうしました?」

「ミス・ロングビル、少しだけ待ってもらっても宜しいかな?」

「ええ……構いませんが……」

そう言うとモット伯は一人のメイドに声をかける。

「おい君」

「……?はい。何か御用でしょうか?」

「君はこの学園のメイドかね?」

「はい……」

このメイドは確かシエスタといったか。
最近アイツの動向を伺っているのだが、アイツと仲が良さそうなので覚えていた。

シエスタもモット伯の視線が気になるのか不安げだ。

「どうだ?私の屋敷で働く気はないかね?」

「え……?」

「この学院より良い給料をだすぞ?」

「でも……」

「なに、学院長には私が話をつけよう」

「……」

「君は奉公に来ているんだろ?家族のためにも頷いたほうがいいと思うがね」

「!」

コイツ……。

これじゃあ「家族のためにお金が必要じゃないのか?」と言いながら、「家族がどうなってもいいのか?」と訊いてるようなもんだ。

「あの……私……」

「もし君にその気があるのなら、私が学院を離れるまでに荷物をまとめておきなさい」

「……」

シエスタは俯いてしまっている。

……評判通りのクズだコイツは。

「あの……モット伯。そろそろ……」

「おお、そうですな。……ではよく考えておきなさい」

シエスタに言い残すとモット伯はさっさと歩き出す。

本当に嫌な気分だ……。
あの爺ならコイツの提案を断るとは思うが……。

……。





「よくきたのう、モット君」

「オールド・オスマン、しばらくですな。相変わらず御壮健で」

「生徒たちの相手は元気じゃなきゃ務まらんよ。……ところで今日はどんな要件じゃ?」

「おお、そうですな。簡単に申しますとゲルマニア訪問を終えたアンリエッタ王女がこの学院に行幸なされるということです」

「ふむ、日取りは?」

「今日の午後には到着するかと」

「……なんとも急じゃのう……、急いで準備に取り掛からねば」

「そうですな、ですから私もこの時間に参上した次第です」

なるほど。
どおりで朝っぱらからコイツが来るわけだ。





「ところでオールド・オスマン、この学園のメイドを一人私の屋敷に召抱えたいんですがね」

「……急に言われてものう。学院の使用人にも余裕は無いんじゃがな」

「なにも2人、3人引き抜こうというわけではないですよ。1人だけ私のところで雇いたいメイドがいましてな」

「うーむ……」

「なに、厚遇は保証しますよ」

「……そのメイドの意思次第じゃの」

な!
爺……!

「おお、そうですか!では早速、手配してまいります」

端から断られるとは思ってないのか……。
さんざん同じやり方を使ってきたんだろう。

モット伯はそそくさと学院長室から出て行った。
……。





「ちょっと!どういうことだい!アンタだってアイツの噂は知ってるだろ!?」

「……知っておるよ」

「アイツは家族を盾にメイドを脅してるんだよ!」

「……一部始終モートソグニルを通して見ておったよ」

「じゃあなんで……」

「今ここでモット君の要求を突っぱねることは出来るが、……彼女の家族にまでは手を回せん」

「……」

「学院にも不利益を被せてくるじゃろう」

「……」

「シエスタ……彼女はタルブ出身じゃったかな」

この爺さん使用人の出身地まで覚えてるのか……。

「儂も少しは顔が利くが権力なんて殆ど無い、タルブの領主も王宮勅使の彼に嫌われてまで味方してくれはせんじゃろ」

「だけど……」

「同じように、逃げても彼女の家族を受け入れてくれるところはないじゃろ……」

王宮勅使に嫌われるということは貴族にとっては致命的だ。
宮仕えでコネがない限り、並の貴族じゃ逆らえない。
嫌われた貴族が有ること無いこと上に報告されて領地没収なんて十分ありえることだ。

……そもそも平民一人のために貴族が何かをしてくれるわけがない。

……。

「……わかったよ」

「……どうするつもりじゃ?」

「モット伯の屋敷を襲ってメイドを助ける」

「それはフーケとして……かのう」

「フーケに襲われたとしたらメイドがどうこう言ってる場合じゃないだろう?」

実際に断ったときモットが本当にシエスタの家族に手を出すのかはわからない。
でも貴族が力をチラつかせて平民を思い通りにしようとすること自体が気に食わない。

「今日のうちに、ということじゃな」

「今日やらなきゃ手遅れだろう?」

「……そうか」

「アンタからの恩を無駄にしちまうけどね……。……止めないのかい?」

「止めはせんよ、儂だって同じ気持じゃ」

「そ、……短い間世話になったね」

……。

それだけ言って学院長室をあとにする。

モット伯の屋敷の警備は比較的厳重だ。
構造も調べていないし、かなり分が悪いだろう。
でもモットのやろうとしていることは気に食わない。

助けたあとはシエスタは故郷に返さなくては。
学院にはモットがたびたびやって来る。

もし故郷に戻せないようならウエストウッドで匿うか……。
テファのことが気掛かりだが……。

……やはり私は“フーケ”と心中する運命なのか……。
……。





@@@@@@@@@@





「ルイズー、朝だぞー」

学院長室から帰ってきたら丁度いい時間だったのでルイズを起す。

と思ったら、もう起きてる。
まだベットの中だが。

それにしても珍しい。

「あら、またウォーハンマーで玉転がししてたの?」

「……それは暫くやめることにした……」

「そう、じゃあ何してたのよ?」

まあ今日までは一応ゴルフしてたんだが……。

「学院長にスキルニルっていう人形を預かってくれって言われて」

「へー、なんでアンタに……」

「さぁ……?なんでも口づけするだけでいい簡易版なんだって。使っていいってさ」

「……ふーん……それは丁度いいわね……」

「……使うの?」

「今日の午前中はミスタ・ギトーの授業なのよ」

ああ、サボるのか。

あの人の授業は風贔屓が凄くて他系統の生徒は結構暇そうにしている。
というか寝ている。
タバサは風系統なのに出席すらしていない。
卒業できるのか?

「サボって大丈夫か?」

「平気よ、モンモランシーとかそのへんにノートを見せてもらうから」

……だがちょっと待って欲しい。
いつものメンバーはあの先生の授業殆ど聞いてないんじゃないだろうか?
替え玉してまで出席する勉強熱心(?)なヤツなんてルイズしかいないんだぞ。

……。
まあ普段真面目に出席してるから大丈夫か。

「じゃあ、はい」

ルイズに一個渡す。

ルイズがそれにチュッとすると人形がムクムク大きくなりキャミソール姿のルイズがもう一人できた。
そして元人形のスキルニルイズはすぐさま布団に潜って眠り始めた。

「「……」」

確かに本人まんまだな……。

「……まあ、いいわ。私は朝食を食べたらタバサかモンモランシーのところで遊んでるから。サイト、コイツ教室に運んどいて」

ルイズ、ついさっきモンモランシーにノート見せてもらうとか言ってなかったっけ……?

考えてる間にルイズはさっさと着替えて出ていってしまった。

「……とりあえず人形を着替させなくては……」

クローゼットオープン。

……。

「……制服ないじゃん……」

そういえばもう一着は今日俺がシエスタに洗濯を頼んだ気がする。

どうすんだよ、これ……。
あとはドレスみたいなのしか無いぞ……。
これ着せて教室においておけばいいのか?
いや、そんなフォーマルなヤツおれへんやろ~。

というか俺こんなもん着せられないし。
授業まで、あまり時間はない。

……ルイズ着替えてからチュッとしろよ……。

……。





結局スキルニルイズに俺の服を着せて教室までおんぶで運んでいる。
この前買ってもらったうちの一つだ。
ルイズが自分で選んだ服だ文句無いだろ。

それにしてもスキルニルイズは一向に起きない。
着替え中も立ったまま寝ていた。

まあ、そんなことより早く教室に置いてこねば。
他の生徒にあまり目撃されたくない。
朝食の時間中になんとか……。

「おい!お前……」

ん?

振り向くと目つきのイヤラシい中年のおっさんが居た。

「その背中の娘は貴族なのかね?」

「え?違いますけど……」

人形ですけど。

「なんと……こんなに美しい平民が……」

なんか気持ち悪いなコイツ……。
ブツブツ言ってるし……。

「その娘はお前の恋人か何かかね?」

いや、それはないだろう。
いくら俺でも人形を恋人にはしない。
だがローゼンメ○デンなら無い事もないか……。
……いや、やっぱり無いな。

「いえ、ただの預かりものです……まぁ俺のものってことでもいいんですが……」

1個貰ったから。

「そうか……没落貴族が奉公にでも出されているのか……?」

ニヤつきながらブツブツ言ってる。
なにこれこわい。

「あっ……、サイトさん……」

「ああ、シエスタ。どうしたの?荷物まとめて」

シエスタが大荷物を持って現れた。
帰郷でもするのか?
何も聞いてないけど。

「おお……君か……」

シエスタの知り合いか?

……これはあとでシエスタに注意しておかなくては。
人付き合いには気をつけなさいと。
シエスタは優しすぎるからな。
このままじゃ、いつか痛い目にあってしまう。
変な宗教にもホイホイ入信しちゃいそうだ。

「サイトさん……私……」

「ん?」

なぜか怯えるシエスタ。
クリプトナイト以来だな。

「……おまえたちは知り合いかね?」

「まあ……」

「……ふむ、実はそのメイドを私の屋敷に雇い入れようと思っているのだがね……」

「え?」

「学院長に一人だけメイドを引き抜かせてもらう許可を貰っているんだ。勿論同意のもとでね」

やっぱりか……シエスタ……。
早速、痛い目に合いそうになっている。
よく解らないものに簡単に同意しちゃ駄目じゃないか。
変なもん売りつけられたらどうするんだ。
仕事を紹介しますけど事前に教材を買ってもらいますパターンじゃないのか?

「だが君とそのメイドは好い仲のようじゃないか。それを引き離すのは忍びない」

なにいってんだ?
このオッサン。

「どうだろう、代わりに背中のその娘を私に譲ってくれんかな……?君の判断でどうにでも出来るんだろ?」

「これですか?いいですよ」

「決断早いな!……まあいい、じゃあ背中の娘を渡してもらおう」

オッサンにスキルニルイズを渡す。

このオッサン人形好きなのか……。
しかしピグマリオン・コンプレックスの人をリアルで見ることになるとは……。
こういう人は人間も人形のように扱うことがあるっていうし。
シエスタが連れていかれなくて本当によかった。

「ふふふ、では私は失礼するよ」

人形を抱えニヤつきながらHENTAIは去っていった。

「サイトさん……」

「シエスタ、駄目じゃないか。変な人についてったらダメってお母さんに言われたろ……」

「いや……あの、サイトさん……ミス・ヴァリエールは……」

「え?タバサかモンモランシーの部屋で遊んでると思うけど……」

「え?じゃあ今のは……」

「アレ?授業の替え玉にしようとしたスキルニルイズ人形だけど……。でもまさか、あんなHENTAIが存在するとは夢にも……」

「ありがとうございますっ!」

え?
シエスタに抱きつかれた。

「私……本当に怖くて……」

アワワワワワワワワワワ。
どうなってんだ。
柔らかい。
こんなに柔らかいとは。
シエスタ!柔軟剤使っただろ!
洗剤だけでこんなにフワフワになんか……。
……。

「あれ?」

廊下の向こうからロングビルさんがコワイ顔をして歩いてくる。
なんだろう?
マジでカチコむ5秒前って感じだけど。

さっきの独り言のせいで俺キモがられてるのかな……。

「……サイトさん……モット伯はどちらに行かれました?」

「モット伯って……?」

「イヤラシい目つきの髭貴族です」

なんか言葉が悪いな……。

「え、と?その人ならニヤニヤしながら帰っちゃいましたが……」

「帰った……?でも……」

ロングビルさんがシエスタの方をチラッと見る。

「ミス・ロングビル!サイトさんが助けてくれたんです!」

「え?……。…………どういう事でしょうか?」

「いや、あのオッサンがシエスタの代わりにスキルニルイズが欲しいというのであげたら、ニヤつきながら帰っちゃいましたけど……」

「……」

「あんなHENTAIいるんですねぇ……」

「…………スキルニル……ミス・ヴァリエールの……」

ロングビルさんの顔から威圧感はなくなったが疲れた感じになってしまった。

「……そうですか…………サイトさん、流石ですね……」

流石って……。
俺の評価そんなに高かったのか?

基本的に俺、日本のニート時代とやってること変わらないんだが……。
飯食って遊んでるだけだし。
ルイズの世話はしてるけど……。

「では……私は学院長室に戻りますので……」

「あ、はい……」

ロングビルさんは気の抜けた足取りで行ってしまった。

「あの、サイトさん。私も使用人のみなさんに報告してきます。これからもここで働けるって!」

「ああ、うん。もう変な人についてっちゃ駄目だよ?」

「ふふっ、サイトさん、本当にありがとうございました」

シエスタは微笑みながら去っていった。
……。

ルイズの替え玉どうしよう。

うーん。
まあ、今まで休んだこと無いみたいだし1回ぐらい大丈夫か。

よし、どうせギーシュもサボってるだろうしギーシュのところに遊びに行こう。





@@@@@@@@@@





数時間後。


「いやー、まさか全員サボってるとは……」

ギーシュを探して歩いていたら丁度みんなに出くわした。

ルイズとタバサ、ギーシュとモンモランシー、キュルケはそれぞれ別にサボっていた。
そこへコッパゲことコルベール先生がトリステイン王女の来訪を伝えて回った。
コルベール先生に言われたとおりに王女の出迎えに行く途中で全員が丁度ご対面したのだ。

それにしても王女か……。
俺も近くで見れるのかな?





「おい!貴様!」

「ん?」

「よくも人形なんかで騙してくれたな!」

HENTAIのオッサンじゃないか。
顔面がひっかき傷だらけだが……。
スキルニルイズにやられたのかな?

「ちょっとアンタ!いきなりなによ!」

突然現れた目つきのイヤラシいオッサンにルイズが噛み付く。
他のみんなも怪訝な表情だ。

「ん?お前は?……今度こそ本物だろうな?!よし、来い!」

「ちょっと!何すんのよ!」

ルイズの手をつかんで連れていこうとするオッサン。

「やめなさいって……言ってるでしょ~がっ!」

いや言ってないけどな。

そして、

ドガアアアアアアン!!

「ぐはぁっ!」

ルイズはオッサンの顔面に爆発を叩き込んだ。

オッサン生きてるのか……?

「うぅぅ……貴様……王宮勅使である私にこんなことしてただで済むと思っているのか……」

「アンタこそ私にこんなことして、どうなるか判ってんでしょうね!」

「何を没落貴族が……。あれ……?学院の制服?」

「私はラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」

「そして、こっちがギーさん、こっちがタバさん。霞のモンモンにセクシー担当の陽炎おキュル、そして俺はちゃっかりサイトです」

頭が高い、控え居ろう!

「「「「「…………」」」」」

……。

……みんなは最近、俺が何か言ってもスルーだ。
ちょっと寂しい……。

というか水戸黄門を知ってるわけがないか……。

「……とにかく!文句があるならいつでも来なさい!」

ルイズが仕切り直す。

「ヴァリエール……」

そして青ざめるオッサン。

「ねえ、結局なんなの?」

「さぁ……?」

キュルケとモンモランシーもワケ分からんといった感じだ。

結局オッサンはそそくさと帰ってしまった。

……。





「で?サイト、どういう事なの?」

「いや、俺がスキルニルイズを教室に運んでいたら、あのオッサンが話しかけてきて……」

「うんうん」

「そこに荷物をまとめたシエスタがきたんだけど……」

「シエスタって、あのメイドの娘よね」

「それでオッサンがスキルニルイズをくれ、さもなきゃシエスタを屋敷に連れて行くとか何とか……」

「何それ、サイテーね。……それでサイトはどうしたの?」

「スキルニルイズあげたよ」

「…………え?」

「ん?」

「……」

「あれ?」

「なななななな、なにしてんのよ!!!!こここ、このバカ犬―――――――――!!!!!!」

「どうしたルイズ」

「どうしたじゃないでしょ!!!!じゃあアイツに私のスキルニル触られたっていうの?!!!!!!」

「お姫様だっこしてました」

「うがあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

なんか床に膝まづいて頭を抱えながら悶絶している。
……。

3分ぐらい経って、

「……許せない…………イヤラシイ目つき…………お父様に報告して……二度と……出来ないように…………」ブツブツ

ルイズが幽鬼のようにユラリと立ち上がり何か呟いている。

結局、王女様が現れるまでの間、ルイズはこの調子だった。





後日、あのオッサンが男として大事なモノを失い神官になったようだとロングビルさんが教えてくれた。



[21361] 第16話 訪問勧誘お断り
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:40




「眠い……」


今はもう夜。
ルイズはどこかへ行ってしまい、部屋で一人でお留守番中だ。

はぁ……。
今日は朝から色々ありすぎて疲れた……。

まったく。
恥ずかしい独り言を聞かれたり、HENTAIに絡まれたり、シエスタに抱きつかれたり、ルイズが壊れたり……。
こんな時どんな顔をすればいいかわからない。

そういえば王女様を見たりもしたんだっけ。
まあ、あんまりインパクトのある出来事ではなかった。

独り言>シエスタ>>>>>ルイズ(壊)>>>>HENTAI>>>>>>>>>>>>>>>王女様
こんなもんだ。

俺は遠目から見ただけだったし、よくわかんなかった。
綺麗な人だったとは思うけど、そんなこと言ったらここに来てから出会った女の人は全員綺麗だし。
なんか慣れた。
ルイズは嬉しそうだったけど。

そういえば王女様御一行を見たあとルイズの殺意の波動はひっこんだ。
代わりにボーっとしだしたけど。
その状態異常は未だに治らず、さっき部屋からフラフラ出ていってしまったのだ。

探しに行くか……?
……まあいい、放っておこう。

今寝れば夜明けまで10時間は寝れるだろう。
もう寝よう。






コンッ、コンッ……コココンッ!

「何だ?」

誰か来たのか?

今まさに藁の巣に潜り込もうと思ったのに扉をノックされた。
扉の前まで行って応対する。

「どちらサンでしょうか?」

「……」

コンッ、コンッ……コココンッ!

なんだコイツ……。
うぜぇ……。

まず扉の叩き方がウザい。
何だそのリズム。

っていうか、訊いてんだから答えてくれよ。
……。

コンッ、コンッ……コココンッ!

……。

しつこいなぁ……。

誰だ?
キュルケとかモンモランシーとかならノックとかしないで入ってくるもんな。
タバサはノックするかもしれんが返事はしてくれるだろう。

うーん。
今判ることは扉の前の人物は正体を言うことなく扉を開けて欲しいということだけか……。

なるほど。
と、なると思いつく人物は二人だ。

晩ごはんヨネスケorタウンページ良純。

……。

……どっちにしろ、ウゼェ……。
帰ってもらおう。

「あの……ここには晩ごはんもタウンページも無いですから帰ってください」

「……」

コンッ、コンッ……コココンッ!

……。
嫌がらせか?

ギーシュかな。
こんなアホなことするのは。
ちょっと開けてみるか。

ガチャ……

ガッ!

「うおっと!」

開けた瞬間、フードを深くかぶった怪しい人物が部屋に押し入ろうとしてきた。
それを慌ててブロック。

なんだよコイツ。
強引さがハンパない。
扉を閉めようとしたのに、足を扉の隙間に滑りこませている。

いったい押し入って何を……?

……。
いや、この強引さには覚えがある。

なるほど。

「すいません!家は東スポしか見ないんです!主要紙は見ないんです!」

洗剤一箱で新聞を何ヶ月も取ってたまるか!
テレビ欄と4コマしか見ないっつーのに!

「みこすり半劇場しか知りません!コボちゃんに妹ができたなんて知らないです!」

「え?あの……」

ん?
あれ、女の人?

不審者が初めて喋ったと思ったら声が女の子だ。
しかし、こんな強引な新聞勧誘する女の人なんて聞いたこと無いな……。
……と、いうことは……。

なるほど。

「勘弁してください!家は先祖代々ゾロアスター教の臨済宗シーア派なんです!」

「あの……ここはルイズの……」

「お金持ってないです!お布施なんて出来ません!ファミレスに連れて行って軟禁するのは勘弁してください!」

「あの……とりあえず、中に……」

入れてたまるか!





「何やってのよ、サイト……」

「ん?ルイズか?」

扉の向こうからルイズの声がする。

丁度いいところに帰ってきたな。
姿は見えないが心神喪失状態も良くなっているようだ。

「ルイズ!怪しい人が押し入ってこようとしてるんだ!」

「え?え?」

「とりあえず逃げろ、それから……男の人呼んでー!」

俺が言えることは、ザッツ・オール!

「……なんかよく解んないけど、わかったわ」

「ちょ、ちょっと待って!ルイズ・フランソワーズ!」

「え?女の子……?って、あなた誰よ!私の知り合い?!」

「私です……」

扉の隙間からフードをずらしてルイズに顔を見せる様子が伺える。

「あ、あなたは!!」

「シーッ……とりあえず中に……」

「わ、分かりましたわ。サイト!扉を開けなさい!」

「え?いいの?」

「いいから、早くっ!」

扉をあけて二人を入れる。

なんなんだいったい……。
……。





不審者は部屋でディテクト・マジックを唱えてからフードをとった。
フードの中から出てきたのは王女様。
ルイズとは友達のようだ。
何でも子供の頃から血で血を洗う抗争を繰り広げ、強敵と書いて親友(とも)と読む間柄だそうだ。

つまり俺はお姫さまと扉越しに攻防を繰り広げていたようだ。

俺はルイズに怒られた。
しかし、名乗らない、顔を見せない、押し入ってくる、こんな3拍子そろった人物を普通は家にあげないだろ……。
理不尽すぎる……。
……。

「ところで、そちらの方は……」

「使い魔ですわ……姫さま、先程はコイツが失礼しました……」

「使い魔……?ルイズ、あなた相変わらず変わっているわね」

「私も好きで召喚したわけじゃないんですけど……サイト、自己紹介しなさい」

「ああ、サイトです」

理不尽に怒られて不貞腐れ中なので適当に自己紹介。

「ちょっと!姫さまに失礼でしょ!」

「ちっ、うっせーな……反省してまーす」

「なんか、その返事とんでもなくムカつくわ……というかご主人様に向かって五月蝿いってどういうことよ!」

「ごめんなさい」

さすがに今の返事は不味かったか……。
火に油ってレベルじゃない。
そもそも俺は本気で不貞腐れているわけでもないので直ぐ謝る。

「ふふっ、仲がいいのね」

「ちょっと姫さま!そんなことないです!」

「ビジネス・ライクな関係です」

ルイズもオッサンと仲が良いと思われるのが嫌なのか慌てて否定する。
俺もあらぬ誤解で性犯罪者として捕まりたくないので否定する。

が、ルイズがちょっと顔をしかめた。
なんでやねん。
ワケわからん。
……。

「ところで姫さま、今日はどうしてこのような場所へ……?」

「……ルイズ……私、結婚するのよ……」

……。





なるほど。

お姫様はルイズに頼みごとのようだ。
お姫様とルイズの笑いなし、涙ありの二人芝居を暫く見ていたが、つまりはそういうことらしい。

政略結婚の障害になる手紙があるので内戦中のアルビオン王子からとってきて。

とのこと。

無茶だろ……。
内戦中の国に行くなんて。

だいたい渡航できないだろ。
できたとしても、どうやって王子に会うんだ。
王子の居場所なんて第一級の機密情報だろ。
事前にアポとってないし、取り次いでもらえるのか?
公爵家っていってもルイズは三女だ、顔も知られてないだろう。

そもそも何でルイズなんだ。
頼れる人がいないっていってもルイズ学生じゃん。
正式に護衛付けて使節を送った方がいいんじゃないかな。

というより、そもそも手紙なんて……

「わかりましたわ、姫さま!このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールにお任せ……」

「ちょっと、待ったー!」

「なによサイト」

「別に手紙取り戻さなくていいんじゃないかな」

「何言ってるのアンタ、姫さまの結婚の妨げになるのよ?」

「偽物の手紙ばらまいて、あとは知らぬ存ぜぬで押し通せばいいじゃん」

「ゲルマニアの皇帝がアルビオンの貴族派を信じて手紙に怒ったらどうするのよ!?」

そう。
アルビオンの貴族派は手紙を手に入れてゲルマニアの皇帝に突きつけ結婚を止めさせたいらしい。
内戦が終わったらトリステインに攻め込むつもりなのでゲルマニアと同盟されたくないとか。

「政略結婚なんだからゲルマニアにもメリットあるんでしょ?むしろ皇帝は貴族派を批判して味方してくれるんじゃないかな?」

偽の手紙をばらまかなくても事前にゲルマニアの皇帝に伝えておけば、それで済むとも思う。

「……」

「うーん……」

「そもそも王子さまも、そんな危ない手紙もう燃やしてるんじゃない?」

「「……」」

王子さまが、よっぽどの天然さんじゃなければ。

「姫さま……?」

お姫さまは俯いてしまった。
安心させてあげようと思って言ったのに……。

「実は私がウェールズ王子に送った手紙は恋文なのです……」

「え?じゃあ姫さまとウェールズ王子は……」

なるほど、じゃあ燃やしてはないかもしれないな。

でもキュルケが言ってたけどゲルマニアの皇帝ってオッサンだろ。
10代の女の子が書いたラブレターなんて気にしないと思うが……。

「手紙は問題ないというのは解りました……しかし本当の目的はウェールズさまに亡命を奨める手紙を渡してもらうことだったのです……」

さらに手紙を送ろうと思ってたんかい。
このお姫さまどんだけー。

本当にトリステインの王女様か?
こりん星の方じゃないのか?

いや、こりん星のお姫さまは事業経営に手を出すしっかり者だったな。
……。

そして。
お姫さまは再び泣き出してしまった。

どうしよう……。
……。





「わかりました!」

突然、ルイズが決意したように大声を出した。

「私がウェールズ王子を亡命させてきます!」

「……」

何言ってるんだ?この娘……?
なんで任務の難易度をあげるんだ……。

「ルイズ……王子さまに亡命する気があるなら今頃とっくにゲルマニアに亡命してるって……」

「なんでゲルマニアなのよ?」

「ゲルマニアならお互いにメリットあるじゃん」

もし亡命するならウェールズ王子はなるべく強国に亡命したいだろう。
トリステインじゃ駄目だ。
だいたい一国でアルビオンに対抗できないからゲルマニアと同盟するってさっき言ってたし。

ゲルマニアの方も始祖の人の血筋が欲しいらしいし。
お姫さまとの結婚もそういうことだろう。

と、いうことをルイズに説明する。

「……わかったわ」

やっと解ってくれたか……。

「姫さま!私がウェールズ王子を無理矢理にでも攫ってきます!」

……。
なん……だと……。

あ……ありのまま今起こったことを話すぜ……。
「俺は危険過ぎる任務を止めさせようとしていたら、任務の難易度がどんどん上がっていた……」
何を言ってるか解らねーと思うが俺も何が起こったのかわからなかった……。
超スピードだとか催眠術だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

「ルイズ……無理だって……そもそも王子さまに会わせても貰えないよ……」

「だいじょうぶよ。姫さま、なにか使者の証になるようなものはありませんか?」

「え……?じゃあ母君から頂いたこの水のルビーは……ウェールズさまが持っている風のルビーと共鳴するのですが……」

お姫さまも戸惑っておいででいらっしゃいまして候。

「じゃあ、それ貸してください」

軽いな!

ルイズこんな娘だったっけ。
もっと常識人だった気がするけど。

誰の影響でこんなに頭がゆるんでしまったんだ……。
まったく!どこのどいつだ!
ルイズをここまでユルユルにしてしまう、ゆるんだ頭の持ち主は!
……。
ギーシュかな。
……。

「ルイズ、それじゃあ結局王子さまに会うところまで行けないじゃないか」

「そういえばそうね……」

「ルイズでも王子さまのところまで顔パスとはいかないだろ?」

「……そうね……わかったわ……」

やっと解ってくれたか……。

「姫さま!一緒にアルビオンに行きましょう!」

「「……」」

…………。

それはギャグで言ってるのか……?

もう無理だ……。
事態が改善する気配まるでなし……。
むしろ何か言うたびに悪くなる……。

「姫さまならウェールズ王子のところまで顔パスで行けるわ!」

「そうかもしれんが……」

偽物だって疑われる可能性のほうが高いと思う……。
大した護衛もつけずに王女が内戦国にいるなんて。

「ルイズ、私もできることなら行きたいですが護衛の監視を抜け出すことは難しいのです……」

行きたいんかい。
ていうか今まさに護衛の監視から抜けだしてきとるがな。

「御安心ください姫さま。……サイト、スキルニルだして」

「はい……」

ルイズにスキルニルを渡す。
もう、諦めた。
成り行きに任せる……。

「姫さま、これに口づけをすれば1時間だけ自分そっくりの身代わりを作れます。これを使って抜けだしてきてください」

「……」

お姫さまが俯いて黙ってしまったじゃないか……。
本格的に困ってるんじゃ……?

「わかりました……私が直接ウェールズさまを説得します!」

え?

「では、明日の早朝。誰にも気付かれないように出発しましょう!」

「そうしましょう!」

それにしてもこのお姫さま、ノリノリである。
お姫さまもちょっとゆるんできたのか?

……いや、このお姫さまは最初からゆるゆるクライマックスだったな。

しかし、どうしてこうなった……。
……。

もう、どうにでもなーれ。
……。





コンッコンッ

「入りなさい」

「失礼します……」

当然のごとく俺もアルビオンに行くことになってしまった。
そこで学院長さんに何かアイテムを借りられないか相談にきたのだ。
このままじゃ、どう考えても死ぬ気がする。

「あのー……」

「アルビオンとはのう……」

「あれっ?知ってるんですか?」

「姫さまがコソコソっとしてたのでな。モートソグニルで、のう……」

「そうですか」

話が早い。
要件を言おう。

「それで……」

「ああ、宝物庫の中の破壊の杖を持って行きなさい」

「え?いいんですか?あれ単発ですよ」

「構わんよ。君しか使えないんじゃ、使用前だろうと使用後だろうと他のものには判らんて」

「ありがとうございます」

「そうだ、君の荷物にも固定化をかけておいてやろう」

「ホントですか!」

絶対音楽関係は壊したくない。
バッテリーは消耗品だから心配してたが固定化をかけてもらえれば何回充電しても使えそうだ。

「あ!そういえば、この学院にアルビオン出身の人っていませんか?」

「ふむ……それならミス・ロングビルがそうじゃが」

「事前にアルビオンについて教えてもらおうと思いまして」

「そういう事なら彼女の部屋を尋ねるといい、ちょうど宝物庫の目録を作ってもらおうと思って鍵を預けてあるからのう」

「そうですか、何から何までありがとうございます」

「君も気をつけての……」

「はい……」

……。





コンッコンッ

「はい」

「ええと、スイマセン。サイトですが……」

こんな夜更けに女の人の部屋を尋ねることになるとは……。

「サイトさん?どうしました?」

「実は……」

……。





@@@@@@@@@@





「ふう……」

アイツと別れて自分の部屋に向かう。

しかし、こんな夜更けにアイツが部屋を訪ねてくるとは……。
ちょっと身構えてしまった……。

なのにアルビオンへ行くことになったから情勢を教えてくれとは。
夜に女の部屋を訪ねてソレかい!
……。

…………いや、私は何を考えてるんだ……。

結局スヴェルの月夜のこと、国内の情勢を軽く教えて宝物庫の鍵を開けてやった。
内戦中の国に行くなんて何考えてんだか。
だけどアイツは何もなかったような顔で戻ってくるんだろう。





「土塊だな」

「!」

突然背後から呼びかけられる。

振り返ると白い仮面をつけたメイジが立っている。
反射的に杖に手をかける。

「そう警戒するな……別に危害を加えるわけじゃない。ちょっと勧誘に来ただけだ」

「勧誘?」

「そうだ、マチルダ・オブ・サウスゴータ」

「!」

コイツ……。
どこまで知ってるんだ……。

「どうだ我々の組織に……「お断りだね」

「……」

「フーケはもう止めたし、今の職場も気に入ってるんでね」

フーケへの誘いなんて碌なもんじゃない事は確かだ。

「……」

「別のフーケを誘いなよ。いっぱいいるだろ?」

……。
さて、断ったのはいいが無事で済むか……。
裏稼業で培った勘が告げている。
コイツは私より強い……。

「……まあいい。声をかけられるまで私に気づかないとは、だいぶ不抜けたようだしな」

……。

「……で?口封じはしないのかい?」

「なんだ?殺して欲しいのか?」

男が仮面の奥で笑っているのがわかる。

「もし、あれ以上の話を聞いていたら始末しただろうが……運が良かったな」

「……」

「まあ気が変わったのなら、さっきのガキと一緒にアルビオンに来い」

「え?」

アイツ絡みか……。

「遠慮しておくよ」

「ふっ、そうか」

笑ってる場合じゃないと思うけどねえ。

「あんたアイツの敵側だろ?ご愁傷さま」

「なんだと?」

「アンタの企みは絶対うまくいかないよ」

「……」

経験者として忠告しておいてやろう。

「あのガキが私より強いとでも……?」

「同じ土俵に立てるかどうかも怪しいね」

「……忠告、ありがたく頂いておこう。……では私は行くとしよう。ココの学院長はなかなか曲者だからな……」

そう言うと仮面の男は窓から去っていった。

なにやらキナ臭いことになってるねぇ……。

でも、爺が行かせるんだ。
それにアイツのことだし大丈夫だろう。

っていうかガキって。
アイツ24歳なのに。
……まあ、見た目はガキか……。
……。

……そういえば中身もガキだねぇ……。
……。

じゃあガキでいいのか。
年上だけど。





@@@@@@@@@@





「はい、じゃあ明日は雨天決行、メンバーが欠けたら中止にします」

「はい」

お姫さまを送り届け、明日の確認をする。

「オヤツは5スゥまで、バナナはオヤツに入りません」

「?……はい」

「それじゃあ、また明日の夜明けに……」

「はい。ありがとうございます、使い魔さん」

「いえいえ……」

「では……」

お姫さまと別れて部屋に戻る。

しかし酔い止めを飲んでおかなくては。
連鎖反応でバスがパニックになってしまう。
……。

いや、そういえばバスなんて無いし。
馬でいくのか……。

……。





俺、馬乗れないじゃん!



[21361] 第17話 特攻野郎ゼロチーム
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:40




デデデンッデンッデンッデンッ


トリステインで鳴らしたオレたち暇人部隊は、フーケから秘宝を取り返し精霊勲章を受勲させられたが特にやることもないので学院に潜った。
しかし、学院でくすぶってるようなオレ達じゃあない。
暇さえ持て余しゃ、気分次第で何でもやってのける命知らず。
ややこしい事態をさらにややこしくし、巨大なトラブルを巻き起こす。

オレ達!特攻野郎ゼロチーム!

テーテテー、テテーテー、テーテテー、テーテテーテー

俺はリーダー、サイト・ヒラガ大佐。通称アイドラー(穀潰し)。人見知り戦法と暇つぶしの名人。
オレのような天才策略家でなけりゃ、百戦錬磨の強者どものリーダーはつとまらん。

僕はギーシュ・ド・グラモン。通称ローズマン(薔薇男)。
自慢のルックスに女はみんなイチコロさ。
二股かまして香水から手作りお菓子まで、なんでも揃えてみせるぜ。

ようっおまちどう!
私こそルイズ・フランソワーズ、通称クレイジーレディ。
爆発使いとしての腕は天下一品!
ツンツン?デレデレ?だからナニ?!

アンリエッタ・ド・トリステイン。通称キング、泣き落としの天才だ。
ロマリア教皇でもブン殴ってみせらあ!
でも、政略結婚だけはカンベンな!

オレ達は道理のそこそこ通る世の中であえて秩序を乱す、迷惑極まりない神出鬼没の!

特攻野郎ゼロチーム!

助けを借りたい時は、いつでも言ってくれ!

……。





「?なにしてるのよ、サイト」

「ちょっと出発のOPナレーションを脳内で入れてみた」

「?」

ルイズとギーシュは怪訝な表情だ。

しかし、なかなかカッコいいんじゃないか?
今度みんなに提案してみよう。





「ところで僕は何でこんなに朝早くに呼ばれたんだい?」

「ああ、ちょっとした旅行だよ」

ギーシュは俺の馬係として叩き起してきた。
ラ・ロシェールまで馬で2日。
そんなに長い間ルイズに抱きつきっぱなしでは俺が色々ヤバい。
それにルイズも大変だろう。

「旅行って……授業はどうするのさ?……それにモンモランシーに何も言ってないよ」

「なあに、どうにかなるって」

「どうにかって……」

「それにモンモランシーの部屋には私が手紙を滑り込ませておいたわ」

「え?なんて書いたんだい?」

「ギーシュは私たちともう一人の女の子とで何日か出かけるって」

「…………僕は急用ができたようだ……」

「おいおい、そんなベタな嘘をついて逃げなくてもいいじゃないか」

「君たちのせいでホントに急用ができたんだよ!急いでモンモランシーに弁解しなくちゃいけないじゃないか!」

「まあ、待ってくれよ。旅行の内容を聞いたら行きたくなるから」

……俺はあんまり行きたくないんだけど。

「……そういえばどこに行くかも訊いてなかったね」

「行き先はアルビオンよ」

「目的はウェールズ王子の亡命or誘拐だ」

「……」

「どうしたのよギーシュ?」

「トイレなら今のうちに済ましてくれよ?」

「…………帰る」

「「ちょっと待ったー!」」

「……まだ何かあるのかい……?」

「一緒に行く女の子を見たら絶対行きたくなるわよ!」

「あとチョットで来ると思うからそれまで待ってくれ」

「……いくら僕でも女の子につられて内戦中の国に行くようなマネはしないよ」

……まあ、そうか。
ギーシュはAチームのフェイスマンと似て案外常識人だからな。

「だがまあ、とりあえず待ってみようじゃないか」

「「……」」

やっぱりコイツはアホだな。
……。





暫く待っているとメイドさんが1人こっちに向かってくる。

「彼女かい?」

「いや判らん……」

そういえばお姫さまはどんな格好してくるんだろう?
いくらなんでもドレスじゃないよなあ。
メイドさんの服を拝借してきたのかな?

というか、あのメイドさん顔が良く見えないんだよな……なんか銀色で。
……。





「お待たせしました」

俺達の前にきて挨拶をしたこのメイドさんはやっぱりお姫さまのようだ。
やっぱりというのは鉄仮面をかぶっていて顔が判らないからだ。

「姫さま?……その鉄仮面は……?」

ルイズが恐る恐る訊く。

「これですか?学院の中に甲冑が飾ってあったので借りてきました。これなら顔が判らないから目立たないでしょう?」

スーパー目立つだろ……。
鉄仮面をかぶったメイドさんとか。

「さっすが姫様ですわ!」

「ふふふっ、そうでしょう?」

「「……」」

どうやらルイズは姫さま相手だと、とんでもなくイエスマンになってしまうようだな。
昨日のはっちゃけっぷりはそれが原因のようだ。
お姫さまもお姫さまでルイズに持ち上げられているせいで変な方に暴走しても気づいていない。

なんだ、この負のスパイラル……。
……。





「……サイト、姫様というのはもしかして……」

「ああ昨日学院に来たじゃん、それだよ」

「それって言うな!でもまさか、本当に……」

ギーシュが鼻息荒く訊いてくる。
しかし、シンジラレナ~イという感じだ。

「姫さま、今回の任務に嫌々参加してくれたギーシュです。お顔を見せてあげてください」

ルイズに促されて鉄仮面をパカっと開けるお姫さま。

「本物!……アンリエッタ姫殿下!このギーシュ・ド・グラモン、命に変えましてもこの任務やり遂げてみせます!」

「グラモン?あのグラモン元帥の?」

「息子でございます」

「まあ、頼りにしていますわ」

「……ああ!姫殿下に頼りにされてしまった……」

ギーシュは感激した様子でぶっ倒れた。
……。





「じゃあ、そろそろ出発しましょうか」

そう言うとルイズとお姫さまは馬にまたがる。
俺もギーシュをたたき起こして、馬に乗ろうとした。

その時、

「どちらへ行こうというのですか?姫殿下」

「?」

振り向くとそこには、いつのまにか背の高い髭の人がいた。
お姫さま見つかってたのか。
よかった、この任務中止にならないかな……。

「ワルド様……」

ん?ルイズの様子が……。

「ルイズの知り合い?」

「私は魔法衛士隊のグリフォン隊隊長ワルド子爵、そしてルイズの婚約者だよ」

「え?」

ロリコン……。
まさかの2日連続HENTAIとの遭遇……。

「さて姫殿下、馬にまたがったりして如何したのですかな?」

まだ、お姫さまは一言も発してない。
しかしオロオロしていて、鉄仮面の中で焦っているのは何となくわかる。

「ワルド様、これは重要な任務なのです。トリステインの未来がかかっているのです」

いや、かかってないだろ。

「……ふむ、しかし姫殿下が自ら赴くにはいささか護衛が少なすぎるんじゃないかな?」

そういうレベルじゃないけどね。
ゲルマニアに訪問する為にあの御一行様なのに、内戦中のアルビオンに4人でのり込もうっていうんだから。

ワルドさんも苦笑いだ。

「ワルド様、お願いです!行かせてください!」

ワルド様、お願いです!止めてください!

「……」

考え込むワルドさん。
というか考えるなよ。
明らかに止めなきゃいかんでしょ。

「わかりました、トリステインにとって余程重要なことなのでしょう」

早いよ、わかるの!
どんだけ物分り良いんだよ!
ニートのお母さんだってここまでじゃないよ。

「ただし、君たちだけというわけにはいかない。私も付いて行きましょう。……宜しいですかな、姫殿下?」

「……ええ、あなたの力を貸してください。ワルド子爵」

「杖にかけて……」

そして鉄仮面メイドの手にキスをするワルドさん。

……なんだコレ……。
大丈夫か、この国?

……。





「さてどうしますか」

……。

いざ出発の時になり、ワルドさんがグリフォンを呼んだもんだから誰が何に乗るかややこしくなってしまった。

ワルドさんは何故か鉄仮面じゃなくてルイズをグリフォンに乗せようとするし。
ルイズはお姫さまを差し置いて乗れないっていうし、そもそもお姫さまと一緒が良いっていうし。
お姫さまはウェールズ王子以外の男と相乗りしたくないっていうし。
俺は馬に乗れないし。
ギーシュは蚊帳の外だし。

「じゃあルイズと姫殿下がワルド子爵のグリフォンに乗ったらどうかな?」

ギーシュの提案。
なんとか存在感を出そうとしているようだ。

しかし、そうなると男三人で馬に乗ってくことになるじゃないか。
むさ苦しい旅だな……。
ただでさえ気乗りしないのに……勘弁してください……。
それにワルドさんと一緒とか気まずいんですけど。
初対面だし。

「乗馬は得意だけど、さすがにグリフォンには乗ったことないわよ」

ルイズのできません宣言。
お姫さまも頷いている。

「サイトがワルド様の後ろに乗せてもらったら?」

言うと思ったよ……。
考えうる中で最悪なんだよ、それ。

初対面のオッサンと二人きりで空の旅とか、ロマンチック過ぎて勘弁してもらいたい。
だいたい共通の話題もないし、気まず過ぎる。
髭ぐらいじゃないか?共通点。
髭のオッサン同士でグリフォン二人乗りって……。

「それがいい、僕もサイトと馬で2日間二人乗りは疲れるし……」

「ちょっと待ったー!」

「何よサイト」

「ワルドさんにはグリフォンで先行してもらって安全を確保してもらえばいいんじゃないかな?」

「……それも、いいかもしれないわね」

「だいたい何かあったとき俺がグリフォンに乗ってたらワルドさんの邪魔でしょ?」

「それもそうね……。じゃあワルド様、お願いできますか?」

「……」

あれっ?

「ワルド様?」

「……あまり姫殿下から離れたくはないんだが……」

なんかこの人メンド臭いよ……。
元々飛び入りなのに、そこまで自己主張されても……。

「ワルド子爵、ルイズたちがいれば私は大丈夫ですから。旅の露払いをお願いします」

鉄仮面もあるしね。
目立つが確かに王女とは思われないし、防御力も高い。

「……わかりました」

ナイスお姫さま。
ワルドさんも了承してくれた。

よし、だいぶ無駄な時間を使ってしまったが出発だ。





@@@@@@@@@@





「出発したようですな……」

「ふむ、姫様を止めなくてよかったのか?」

「……あの方の行動を抑えつけても、あさっての方向に10倍になって跳ねてしまいますからな……」

「何でもウェールズ王子を亡命させる気のようじゃぞ?」

「……はぁ」

さすがに疲れた顔をしとるのう。

「まあ王子を受け入れようが、受け入れまいが、レコン・キスタを名乗る貴族派がトリステインを地上の足がかりにしようとするのは変わらないでしょう」

「しかし、なるべくなら公式には受け入れたくはない、というところかの?」

「まあ、そうですな……。しかし問題は王女の家出をドコまで隠し通せるか……」

「ふぉっふぉっ、家出か」

「これに懲りてマリアンヌ王妃がやる気を出してくれればいいんですが……」

「お主も苦労しておるのう……」

鳥の骨なんて言われるようになるわけじゃ。

「安全についてはオールド・オスマン、あなたが行かせるんだ。何かしら手は打ってあるんでしょう?」

「儂の偏在がコッソリついて行っておるよ。……まあ、彼がいれば出番もないとも思うがの」

「彼とは……ワルド子爵のことですかな?」

「……」

「では、あの少年が……」

「彼は儂らの考える最良より、さらに良い結果を持ってきてくれると思うぞい?」

「随分な信頼ですな」

「なあに、ただの年寄りの勘じゃよ……」

……。





@@@@@@@@@@





「はぁ……」

この状態で2日間か……。

今俺は疾走する馬の上でギーシュに抱きついている。
ルイズに抱きつくのも色々辛いが、これはこれで気分のいいもんじゃない。

「どうしたサイト?ルイズに婚約者がいたことがショックだったかい?」

笑いながら訊いてくるギーシュ。

まあ、それもそれでショックだが……。
妹みたいに思ってたのに髭のオッサンが婚約者とか。
ギャルゲーだったら、アンケートハガキで強くファンディスクでの是正を求めるところだ。
だけどまあ現実だしな。

「三次元ではよくあること」

「なんだい、それ?」

「気にすんな……」

しかしルイズが結婚したら俺どうするんだ?
ワルドさん家の使用人になるのか?
……。

……まあ、先のこと考えても仕方が無いか。





そのワルドさんは今は見えない。
ずいぶん先まで先行しているようだ。
まあ、あの人のおかげで旅の危険度がちょっとは下がったかな。
しかし、ゼロチームが5人になってしまった。
4人チームがカッコイイのに……。

ルイズとお姫さまは俺達の5馬身くらい前を仲良く並走している。

「それにしても一緒に移動することにならなくてホントに良かった……」

「君、そんなにワルド子爵が嫌いなのかい?」

「いや気まずいだろう……友達同士の楽しい旅行で一人だけ恋人連れてくるヤツがいたら……」

リア充たちはこんな思いをしょっちゅうしてるんだろうな。

「……確かに、じゃあ僕もモンモランシーを連れてくればよかったかな?」

「それじゃあ俺が鉄仮面さんとペアになっちゃうじゃないか」

「な!それはけしからん!」

おっそろしいよ、まったく。
あのお姫さまは何を起こすか想像がつかない。





ギーシュと話しているとルイズたちが近づいてきた。

「アンタたち何馬鹿なこと話してるのよ」

馬鹿な事って……。
そんなこと言ったら、そもそもこの任務自体……。

「ルイズはよくお姫さまを連れていこうと思ったよね」

「え?だって姫様がいないとウェールズ王子に会えないじゃない」

「しかし姫殿下を相当な危険に晒してるんじゃないかね……」

「はあ?!姫さまを危険に晒すようなヤツは私が魔法でハラワタをぶちまけてやるわよ!」

「まあ、頼もしいわルイズ」

「任せてください、姫さま!」

「「……」」

駄目だコイツら……早く何とかしないと……。

「それに最近、全部がいい方に向かってる気がするのよ。何でも上手くいく気がするわ」

「……確かに、最近のルイズは以前と見違えるね」

そうなのか?
昔のルイズが分からないからな、俺は。

「でも俺達の現状って、お姫さまを誘拐しつつウェールズ王子を誘拐しに行ってるようなもんだよね」

ようなもんというか、そのまんまだけど。
無事に帰ってきても犯罪者じゃないのか?

「大丈夫、なんとかなるわよ」

「……」

なんでこんなにポジティブなんだろ?
……。

はぁ……。
それにしても王子様か……。
どうせなら囚われのお姫さま(非鉄仮面)を助けに行きたかったよ。

クラリスみたいな。
……。

おじさま私を連れて行って!
ニートは出来ないけど、きっと覚えます、だから!

みたいなね。

おいおい、やっとお日様の下に出てこれたんじゃないか。
また、薄暗い部屋の中に戻りたいのか?

みたいなね。

ヤツは大変なものを盗んでいきました。
私たちの勤労意欲です。

みたいなね。

……。





「あれ?」

丁度、昼くらいの時間。

馬を降りてみんなで休憩をしていると見覚えのある風竜が飛んできた。

「はぁ~い、みんな」

そして見覚えのある二人が降りてくる。

キュルケとタバサか。
しかし、なんでタバサはパジャマなんだ?

「ちょっとキュルケ!何しに来たのよ!」

「なによ、朝出かけるのを見かけたから付いてきたのよ」

「これはお忍びなの!アンタみたいに派手なヤツは連れてけないわ!」

「……そっちの人よりは目立ってないと思うけど……」

キュルケの見ている方向を見る。
そこには鉄仮面の隙間からパンを突っ込んで食べているメイドさんが!

というか鉄仮面、外せよ!
首の隙間からパンのカスがボロボロこぼれてるんだよ!

そして鉄仮面メイドさんはこっちにやって来る。

「ルイズ、あなたのお友達?」

「……まあ」

「私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。それでこっちがタバサ」

「……」クイッ

キュルケの自己紹介に合わせて杖をクイッとするパジャマタバサ。

「ちょっと!姫さまに失礼でしょ!」

「ひめさま?」

……。

「……」ヒュー、スヒュー、ヒュー

口笛でごまかすルイズ。

「ああ、もういいわ。何となく判ったから」

そりゃ判るわな。

「いいのよ、ルイズ。キュルケさん、タバサさん、はじめまして。今はアンとだけ名乗らせて頂きますわ」

「お姫さま、それは馬です」

乗ってきた馬に向かって自己紹介をする鉄仮面メイド。

「まあ、ゴメンなさい。はじめまして……」

「それはギーシュと岩です」

だから鉄仮面外せよ!
せめて前のとこパカッと開けろよ!
視界も悪いのかよ、それ。
元々ただのオブジェだから被るようにできてないんだよ、きっと。

……。





なんかお忍び感ゼロになってきたなぁ。
ルイズはプンプン怒ってるし。
でも正直助かった。

「まあ、いいじゃんルイズ。折角だからシルフィードで連れていってもらおうよ」

「えー……」

「シルフィードなら今日中に着くんじゃない?お姫さまを野宿させないで済むかもよ」

「そうね!タバサ、ラ・ロシェールまで連れていってくれない?」

お姫さまの事となるとスゴイな……。

だけど俺も腰痛かったし丁度良かった。

「馬はどうするの?」

「馬は帰巣本能が強いから、この程度の距離なら帰れるわよ」

へー、そうなのか。

「鞍に学院のマークも入ってるし、貴族の馬に手を出すヤツも多分いないでしょ」

「よし、じゃあ行こうか」

タバサにお礼を言ってシルフィードにみんなで乗り込む。
シルフィードはメッチャ早いし、空だから道に沿わずに直線距離で行ける。
ずいぶん早く着くな。

だけどスヴェルの夜まで一日空いちゃうな……。

……。





……。




……。





「「「「「「カンパーイ」」」」」」

シルフィードに乗せてもらった俺達はあっさりラ・ロシェールに到着し、みんなで晩ご飯を食べている。
当然、この街一の宿だ。
しかし岩を切りだして造った街だけあって、いろんな物が岩々している。
……。

「いやー助かったね。丸2日間ギーシュに抱きつき続けなくて済んだよ」

「サイト、それを言うなら僕の方こそ大変だったんだよ。人を乗せながら2日間なんて」

「まあ、もういいじゃん。着いたんだから」

「……」

みんなで談笑。

そして、いいかげんにお姫さまは鉄仮面を外せ……。
いつまで被ってるんだ。
気に入っちゃったのか?

しかし、これじゃあ、ただの旅行と変わらないな。
……。





俺がワインを飲みながら、肉料理をつまんでいるとタバサがサラダをさし出してきた。

「ん?」

「食べて」

なんだ?
そういえばタバサはさっきからこのサラダばっかり食べてるな。
美味しいのか?

「……じゃあ、いただきます」

一口食べる。

……。

……。

……。

こっ、これは!

「口に入れた瞬間にフワッと広がる苦味に、噛み締めるたびにジュワッと染み出る濃厚な苦味、さらに苦々しい舌触りに苦い喉越し、口の中で後を引く苦味!」

まさに!

「まさに、苦味の宝石箱や~!」

……。

苦っ……。

タバサ……。
俺になんの恨みが……。

「美味しい?」

「……」

タバサの好物なのか……?
いっぱい食べてたし……。

くっ、そうなるとマズイとは言いにくい……。

「……美味しい……です……」





それだけを言い残し意識を失う直前、

そういえば、なにか忘れてるような気がした。



[21361] 第18話 決闘2~また消えるオッサン~
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:40


朝。


ふと目を覚ました俺は自分がフカフカのベッドに寝ていることに気づいた。

なんだコレ?

状況がつかめない。

半覚醒状態でゆっくり昨日を振り返る。
確か、みんなでアルビオンに向けて出発して……。
途中キュルケ達と合流して……。
みんなで乾杯して……。

……。

駄目だ。
そこから先が思い出せない。

ふと、横を見ると隣でギーシュが寝ている。
そして、胃のあたりに感じる強烈な不快感。

う~ん。

飲み過ぎたのかな?
その割に頭はスッキリしてるけど。

まあ、いいや。

忘れるっていうのは良い事だ。
下らないこと、嫌なこと。
覚えていてもしようがない。
楽しいことだけ覚えてればいいんだ。
うん。

それに久しぶりに人間らしい寝床で寝てるんだ。
よく解らないけど、誰かに起こされるまで寝続けよう。

「おやすみなさい……」

……。





ドンッドンッ!


「……う~ん」

ドンッドンッ!

…………。

うるさいなー。
朝っぱらからナンなんだ……。
せっかく人が人間らしい寝床で二度寝を楽しんでるのに……。

……。





「おはよう、使い魔くん」

「ああ、おはようございます……」

……。

睡魔に襲われている頭を抑えこんで、ベッドから出た俺。
胃の強烈な不快感のせいで若干痺れている四肢を酷使してドアに向かい応対すると……。

ロン毛髭が現れた。

だれ?
この髭紳士。

……。

「あのー……」

「使い魔くん、昨日は碌に護衛を努められなくて済まなかったね」

……。

そういえば……。
ワルドさんか。

スッカリ忘れてた。

確か、先行してもらって……。
……。

その後は……。

…………。

…………やっちまったな……。

パーティー全員、ワルドさんのことを忘れ去ってしまったようだ。

どうしよう……気まずい……。
……。

「そんなに気まずそうにしなくてもいいよ。深夜には合流できたんだ」

深夜……。
律儀に馬のペースに合わせてくれていたんだろうな。

速さ的には、
風竜>>>>>>>グリフォン>>>>>>>>>>>>>>>馬
だもんなぁ。

うん。

……。

「ところで、朝っぱらから何のようですか?」

「ふむ、是非君に手合わせ願おうと思ってね」

「え……?」

……。

完全に怒ってらっしゃる。

ワルドさんの先行提案したの俺だし、タバサの風竜に乗せてもらう提案を俺がしたのもバレてるんだろう。
俺をフルボッコにするようだ……。

どうしよう……。

「君はガンダールヴなんだろ?」

「……」

なんだよガンダールヴって?

どっかで聞いたことあるような気がするけど……。
そんな訳わかんない単語だされても……。

「えっと……?」

「この宿の裏に丁度いい広場がある、そこで手合わせしようじゃないか」

いやいや……。

ガンダールヴ?
この前ルイズたちと行ったカフェの名前だっけ?
それとも武器屋の名前?
学院の授業で聞いた歴史用語だっけ?

思い出せない……。
ナンテコッタイ。
凄く気になる。

「では、裏庭で待っているよ」

言うだけ言ってワルドさんは、さっさと行ってしまった。

……。





なんだよガンダールヴって?
凄く気になる……。

絶対どこかで聞いたことあるんだよ。

マルトーさんに食べさせてもらった料理の名前かな?
シエスタの弟の名前だっけ?

……。

クソーッ。

気になる……。

下らないことだが、思い出せないと無性に気になる……。
忘れるって言うのは良くないことだな、全く。

……。

「おい、起きろギーシュ!」

「うーん……、もう食べられないよ……ムニャムニャ……」

コイツ……。

「…………そんなベタな寝言が許されるのは20世紀までだぞ……」

……。

あれ?
じゃあ、良いのか。
中世っぽいもんな、ここ。

「モンモランシー……、それはサイトじゃなくてトロール鬼だよ……」

なんだコイツ!
ふざけんな!

せめてオーク鬼だろ!

「どんな夢見てんだ、起きろギーシュ!ガンダールヴって言葉と昨日何があったのかを教えてくれ!」

激しく揺さぶるとギーシュは起きた。

「うーん、サイトか……?」

「そうだよ、サイトだよ」

「ふわぁ~……、まったく昨日は大変だったんだよ」

大変?

「ワルド子爵が深夜に合流して、皆がスッカリ忘れてて気まずくなったり……」

あー……。
それは判る……。

「ワルド子爵がルイズと同室になりたいとゴネだしたり……」

ロリコン……!

「結局ルイズはアンと同室だけどね。サイトは早々に気絶したから憶えてないと思うけど……、そういえばサイトを運んだのは僕だよ」

俺、気絶したのかよ。
何があったんだ……。

「全く……、何で僕が男をベッドに運ばなくちゃいけないんだ……ブツブツ……」

「そんなことより、ガンダールヴってなんなのか知らないか?」

「え?……ガンダールヴ?…………う~ん、……なんか……子供の頃、学んだような……聞いたことあるような……うーん……思い出せない」

コイツ、使えねー。

「俺は奥歯に挟まったイカソーメンと同じレベルで気になってるんだ、今直ぐ思い出してくれ!」

「そんな、寝起きで聞かれても思い出せないよ……」

「頼む!思い出してくれ。このままじゃ俺は気になって歯も磨けないよ!」

「……うーん。ルイズなら知ってるんじゃないか?それと歯は、しっかり磨いたほうがいいよ」

「そうか……」

ルイズ、物知りだからな。
伊達に勉強してない。

「よしっ、ルイズのところにつれてってくれ」

「……いいけど……、一応僕は貴族だからね?最近、扱いが悪い気がするよ?」

「なあに、気にするなよ。ドンマイ」

「いやいや……、そのフォローはオカシイんじゃないかな……」

「そんなことはないだろ」

「最近は君の影響か、メイド達もやたら馴々しいんだが……」

「ギーシュの人徳だって」

「……。まあ、いいか……」

よし、行こう。
早くルイズに聞いてスッキリしなくては。

……。





……。





「ルイズー!」

「あらっ?どうしたのよサイト?」


ギーシュに案内をしてもらってルイズとお姫さまの泊まっている部屋に行ったが、そこには誰もいなかった。
どうやら街に繰り出したようだが……。
お忍びだって解ってんのかな?

でも、そうなると簡単には見つからないだろう。
街行く人に訊きながら地道に探すしか……、

と、思って街をぶらつくと簡単に見つかった。

ラ・ロシェールの道行く人に訊くたびに鉄仮面メイドさんとピンク髪の女の子の目撃情報が大量に聞けたからだ。

やっぱ目立つよな、アレ。

……。

「ルイズ、突然だがガンダールヴって何だ?」

「え?ガンダールヴ?始祖ブリミルの使い魔の一つで、あらゆる武器を使いこなしたっていうアレでしょ?」

「「ああ!」」

そうだった!

それだよ!
思い出したー!

メッチャ、清々しい気分だ。

ギーシュもすっきりした顔をしてる。
アイツも気になってたのか。

「ハルケギニアに来て一番のアハ体験だ」

「アハ体験?」

「うん。こういう思い出せそうで思い出せない、気が付きそうで気がつかないことに閃くと頭にいいんだってさ」

「へー、それをアハ体験っていうの?」

「そうそう」

「ふーん」

いやー、スッキリ、スッキリ。
朝っぱらから(もう昼近いけど)気分がイイや。

「……で?それを訊くためだけに、ここまで来たの?」

「うん」

「……。まあ、いいわ。暇なら私とひ……、アンの買い物に付き合いなさい」

「ああ、おkおk」

「ギーシュもいいわね?」

「モチロン!ひ……、アンと一緒なんて光栄だよ」

「じゃあ、早速そこの服屋に入るわよ」

「へーい」

いやー、全然お忍び任務って感じがしないなー。
良いのかコレ?

うーん。

まあ、結構こんなもんなのかもな。
この世界では。

というか、鉄仮面お姫さまは無言だと不気味でしょうがない……。

……。





「はー……、疲れたなー」

ルイズ達について、ショッピング。
途中でキュルケとタバサも加わり大所帯で普通に観光してしまった。

結局、女性陣に振り回された俺とギーシュ。
荷物持ちにさせられて散々連れまわされた。

ついさっき、買ったものを学院に運んでくれるという商人を見つけ、金を払い荷物を預けて腕の重みから開放されたところだ。

そして、なんだかんだで宿に戻ってきた俺たち。

ふぅ。
これホントに機密任務か?
なんだかんだで、みんなで楽しく街歩きをしてしまったが。

……。

まあ、いいや。
今日の晩ご飯何食べようかな?

……。




「……使い魔くん……」

「え?」

皆で食堂に向かう途中、裏庭で誰かに話しかけられる。
俺が振り返ると、そこには血管をヒクヒクさせているワルドさんが!

「どうしたんですか?ワルドさん。裏庭なんかで……」

「……。……君こそどうしたんだ……。僕は君に決闘を申し込んだと思うんだが……?」

決闘……?

……。

「……あ!」

「あ?……」

どうしよう……。

「……まさかというか、やっぱりというか……忘れていたのか……使い魔くん……?」

…………。
マズイ……。
俺、完全に屠られる……。

「ワルド様?こんなところでどうしたんですか?」

ルイズ助けてくれ……。

「ああ……ルイズ。何、君の使い魔くんとちょっと手合わせしようと思ってね」

「手合わせ?」

「ああ、本当は君の了解を貰ってから君の前でやろうと思ったんだが……」

ルイズ朝っぱらから、お姫さまと出かけちゃってたしな。

「でもどうしてサイトと手合わせを?」

「何、これから一緒に任務を行うんだ。そこで彼の実力を知りたくてね」

「「「「俺(サイト)の実力?」」」」

ルイズ、キュルケ、ギーシュが何いってんだ?という顔をしてる。

「俺の実力と言われても……素手なら多分、子羊とどっこいどっこいぐらいだと思いますけど」

「子羊……」

「毛がモコモコのアレです」

「いや、それは判るが……」

一応、角あるからなアイツら。
クルンッとしてるけど。
死に物狂いで来られたら子羊くらいが限界だろ。
大人羊は100㎏超えてくるからな。
草を食んでるところを不意討ちしても、まず勝てない。
大山倍達レベルなら牛を倒せるんだろうが……。

……。

「武器ありならアルパカといったところです」

「アルパカ?」

「毛がモコモコのラクダみたいなヤツです」

ハンマーがあればアルパカくらい倒せるだろ。
ただ、噴きかけてくるとても臭い唾には要注意だが……。

「……君は何で、毛がモコモコの生き物で自分の強さを伝えてくるんだ……?……しかし子羊……」

「無茶ですワルド様!サイトとワルド様とではエルフとトロール鬼くらいの差があります!」

……。

「そうねぇ、火竜とトロール鬼くらいは差があるわねぇ」

「イーヴァルディとトロール鬼くらい……」

「そうだね、僕もかの烈風カリンとトロール鬼位の差はあると思うよ」

というか何でみんな俺をトロール鬼で例えるんだよ。
結構強いだろトロール鬼。
せめてオーク鬼だろ。

「そうですわね。私も水の精霊とトロール鬼くらい差があると思いますわ」

いや、貴方は俺の実力知らないでしょ。
例えも何か変だし……。

……。
まあ、いいけど……。

「と、いうことなんですが……ワルドさん……」

「……君、聞いていたのと違って評価が凄く低いんだが……それでいいのか……?」

いいのかと言われても…………。

……ん?
聞いていたってなんだろ?

……うーん。
まあ、いいか。

「……そういえばワルドさんは風のスクウェアですか?」

「ああ、そうだ」

「じゃあ、偏在とかも出せちゃいますよね?」

「出せるな。4,5体」

「……」

仮にワルドさんが目隠し、手錠、亀甲縛り、ギャグボール完全装備でも俺は負けるな……。

「あの……昨日忘れてたのは謝りますので私刑でフルボッコは勘弁してもらえないでしょうか……?」

「ん?いや……さっきも言ったが君の実力を……」

「ワルド様!サイトだけのせいじゃないんです!私たちにも3%くらい責任があるんです!許してあげてください!」

ルイズ……俺を庇って……。
というか3%……。
俺の責任メッチャ重いな……。

「いやだから……」

「貴族が平民と決闘なんて名誉が傷つくだけです!」

「むぅ……」

ワルドさんはちょっと困った感じだ。

「そういえば、そんな恥知らずなヤツいたわねぇ」

「その上、負けていた」

キュルケ、タバサ……。

「……」

ギーシュ……。
今にも泣き出しそうな顔になってるぞ。

「いや……まあいい、解ったよ。確かに実力が知りたいと言っても少し無理があったな」

「ありがとうございますッ。それと忘れててスミマセンでした!」

一応、本気で申し訳ないと思っているので真剣に謝る。

「いや、それはもういいから……」

ふぅ。

助かった。

「ねぇ、話がまとまったなら、いい加減に食事にしましょうよ」

キュルケが急かす。
タバサも明らかにハングリーだ。

「そうね、ワルド様も御一緒にいかがですか?」

「ああ……そうさせてもらおうかな」

そんなこんなで宿の食堂に皆で向かう。

……。





……。





バタンっ。

「ふぅ……」

ワルドさんも含めての食事も終わり、俺は一人部屋に戻った。
他の面々はまだ酒盛りを続けているようだが、俺は朝から続く原因不明の胃の不快感のせいで早々に退場させてもらった。
まったく、ナンなんだこれは?
重い病気じゃないだろうな……。

……。
まあ、いいや。
寝よう。





ドガアアアアアアアアアアアアアン!!!!!

「!」

なんだ!?

ベッドに入って目を瞑った瞬間に宿の入口の方から大きい破壊音が響いた。
急いでルイズたちのところに向かうが、どうも野太い雄叫びのようなものも聞こえてくる。

「マジかよ……」

強盗か?
治安悪すぎだろ……。





「サイトっ、襲撃よ!おそらく貴族派の差金ね!」

階段を降りると、そこは正に戦場だった。
ルイズたちはテーブルを倒しそれを盾にして襲撃者の矢を防いでいる。
キュルケやタバサも応戦しているが多勢に無勢のようだ。
今はまだ宿の中に侵入を許していないが、そのうち雪崩込まれるんじゃないか?

「どうやら、彼らの中にはメイジはいないようだね」

ワルドさんの冷静な分析。
確かに、魔法はなんにも飛んでこない。

なんだ、じゃあ大丈夫そうだな。
こっちメイジ6人もいるし。

「諸君、こういう場合は部隊の半分が目的に辿りつければ任務は成功と言われている」

……。
これは大丈夫じゃないな……。
おとりか……。

ヤバい……。
このパーティーで捨て駒筆頭株はどう考えても俺じゃん……。
王族>>>>>貴族>>>|越えられない壁|>>>一般人>>|人の壁|>>>使い魔(ニート)
だからな……。
少なくとも俺は捨て駒当選確実!

メイジ6人もいるんだから戦おうよ……。
と、言いたいけど……。
どうしよう……。

この場合プロの軍人さんの意見は正しいだろ……多分……。
俺にとって問題があるだけで……。

……。

「そこでだ……」



「ワルドさんの偏在でコイツらを惹きつけておいて俺達は全員で裏口から脱出するんですね!?」

「え……?」

ナイス・アイディア!

「さっすがワルド様だわ!それなら誰も犠牲にせずに済むわ!」

「それに逃げたあとも偏在を通じてコイツらの動向を探れるわね……」

「ナルホド!この傭兵たちが依頼主に接触するかもしれないからね!」

「完璧」

「ワルド子爵、流石の冷静な判断ですわ。貴方を親衛隊として従える私も誇らしいです」

「……」

全員から褒められたせいかワルドさんは少し困り顔だ。

「じゃあ、ワルド様。早速お願いしますわ」

「…………ああ……」

ワルドさんがスペルを唱えると新しく、もう一人のワルドさんが現れた。

その瞬間、

「行くわよみんなっ!」

ルイズの声をきっかけに皆で裏口から逃げ出す。

……。





……。





「はぁ、はぁ……」

運動不足だ……。

まんまと宿から脱出した俺達は船着場に向かって巨大な木を駆け上がる。

が、俺はハルケギニアに来て最も命の危険を感じている。

「し、心臓が……」

高校を卒業してから、走ることなんて一切なかったからな……。
クソ……。

無駄に筋トレだけはしてしまったから、筋肉が酸素とエネルギーを大量消費している……。
心肺機能は初老の域に達しているというのに……。

マジで死んでしまう……。

前を見ると、先頭にルイズとお姫さま、ワルドさん(本体)、タバサ、キュルケ、ギーシュの順番で大木を駆け上がっている。

みんな余裕だな……。
どんどん離される。

ギーシュはそうでもないが。

……。





どのくらい走ったか。
死にそうになりながらもフネまであと少しのところまできた。

すると突然。

「!」

ハルケギニアに来てから覚えた音。
人がフライで飛ぶときの風切り音が背後から聞こえ、慌てて振り返る。

「な!?」

HENTAI!

白い仮面を被ったメイジがすごい勢いで俺を追い越す。
そして、そのまま前を行くみんなに迫る。

「ルイズ……!」

とっさにルイズの名前を叫ぶ俺。

「な…・・!」

辛うじて反応したキュルケ。

「……!」

ドンッ!

タバサはウィンド・ハンマーを放つが白仮面に躱される。

「む!」

ルイズとお姫さまを庇うように立ちはだかるワルドさん。

「うわっ」

ずっこけるギーシュ。

……。

そして。

「!」

ドオオオオオオオオオオオオン!!!!

顔面を爆発されて蚊のように落ちていく白仮面。

「……ふっ」

口角を釣り上げ、不敵に笑い、クールに杖をしまうルイズ。

……。





「「「……」」」

キュルケたち絶句。

「……やるじゃないか。ルイズ……?」

そしてルイズの行動に驚いているワルドさん。
しかし、なぜ疑問形……?

「はい!早打ちとコントロールは完璧に仕上げてきました!」

「スゴイわ、ルイズ!私、全くルイズの詠唱に気付かなかったわ!」

お姫さまも大興奮。

まあ、初めて見ればビックリするよな。
俺は、毎日練習に付き合ってたから慣れてるけど。

俺の簡単なアドバイスを素直に受け入れたルイズは元来の勤勉さで、とんでもない成長を遂げていた。
子供の頃から魔法の基本動作を誰よりも練習してたのも手伝ったんだろうが。

ルイズは現時点でボブ・マンデン並の早打ちをマスターしている。
そのあまりの速さの為に、2ヶ所爆破しているのに爆発音は1つしか聞こえないぐらいだ。
正確さもスゴイ。

「そうか……さすが僕の婚約者だ……」

そうは言いながらも完全に引いている。

「さっ、次の追手が来ないうちにフネに乗り込みましょう?」

「……ああ、そうだね」

……。





「な、なんだてめえら!」

手頃なnice boatを見つけた俺たち。
ワルドさんは直ぐに交渉に入る。

「悪いが今直ぐアルビオンに向けてフネを出してもらおう」

「な、そんなこと出来るわけ……!」

「コレは貴族の命令だ、断ればどうなるか……判るな……?」

ワルドさんが杖を突きつけ船長らしき人に凄む。

「……。……無理だ、風石が足りない……」

「ならば僕が魔力を補おう。風のスクウェアだ、文句はあるまい?」

「……。わかりましたよ……」

……。

ワルドさん……。
何この人……。
凄く頼りになる……。

……これが噂に聞くオラオラ系か……。





@@@@@@@@@@





翌朝。


フネで一夜を明かし起床する。

「おはよう」

「……」クイッ

タバサを見つけたので話しかける。
朝からシルフィードの上で読書のようだ。

シルフィードは俺達がフネで飛び立ってから直ぐに追いついてきた。
感覚の共有ってヤツで場所がわかったらしい。

「そういえば俺達の分の朝飯あんのかな?」

「……」

まあ、2,3日食べなくともダイジョブか……。

……。

「空賊だー!!!!」

「「!」」

よしなし事をタバサと話していると、突然そんな叫び声が聞こえた。

俺達は急いで船首の方に向かう。

……。





「サイト!」

「ルイズ、空賊って?」

「アレよ……」

ルイズが指を指す方向を見ると、確かにドクロマークを掲げた判り易い空賊船があった。
そして、その後ろにはラピュタのようなものが見えている。
あれがアルビオン……。
ホントに浮いてるのか……。

「船長!停船命令を出しながら近づいてきます!」

「クッ!……貴族様方、なんとかなりませんか……!?」

「悪いが僕の魔力は、ここまでフネを飛ばせたことで殆ど使い切っている。つまり戦うことも、フネで逃げることも厳しい」

ワルドさん、徹夜でご苦労様です。

「私は、やれるわよ!」

「……無理よ、ルイズ。さっきから空賊船の周りを風竜が飛んでるもの。メイジが何人かいるわ」

「全員メイジということもあり得る」

「じゃあ、このまま黙って掴まるって言うの!?こっちにはひ……アンが居るのよ!」

「ルイズ、正面からやっても勝てない。もしかしたら積荷を強奪されるだけかもしれないし、大人しく捕まってから逃げ出すほうが危険は少ない」

冷静なワルドさん。

「積荷……」

凹んでる船長たち。

……。

「……」

「ココは様子見かしらね……」

キュルケが肩をすくめながらつぶやく。

「「「「「……」」」」」

……。





うーん。

しょうがないか。
なるべく使わないで返したかったんだけど……。

「よいしょっと……」

「サイト、何してるの?」

「ああ、コレコレ」

「え?」

バッグからM72を取り出す。

「「「ああーっ!破壊の杖!」」」

「アンタなんで持ってるのよ!」

「いや、何か学院長さんが持って行っていいって……」

「なんですってー!!」

「コレ使えば、多分なんとかなると思うんだけど……」

「……使えばって、誰も使えないじゃない」

「ああ、俺使えるから」

「「「ええーーー!!!!」」」

「ちょっと!何でアンタが使えんのよ!?」

「そりゃ、ガンダ……」

そういやガンダールヴは秘密だったな。
今、思い出した。

「……いやコレ説明書読めば女の人だって簡単に撃てるんだよ」

「説明書って……」

「脳筋のバイブル、コマ○ドーでやってたんだ。間違いない」

「……なんかよくわかんないけど、とにかく撃てるのね?」

「うん」

「あのフネを撃ち落とせる?」

「うーん、少なくともマストをへし折って航行不能にはできると思うよ」

「よし!じゃあ、今直ぐ撃ちなさい!」

「へーい」

……。





「じゃあ、真後ろに立たないでくださいね」

ロケットランチャーを構えてあたりに気を配り、狙いをつける。

よし!

「発射!」

ボンッ!!!

小気味よい音をさせて、ロケット弾が一直線に飛んでいく。

そして、

ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!

轟音と閃光のあと、空賊船のマストがゆっくりと倒れていく。

「やったわ!スゴイじゃない、サイト!」

「見てよ、空賊のヤツら大慌てよ」

確かに、空賊船の上は蜂の巣を突付いたような騒ぎになっていた。
被弾した瞬間にマストの側に人はいなかったので死傷者は出ていないと思う。
というか、人がいない瞬間を狙って撃った。
人がいなかったから、折れたマストは地面に向かって一直線だ。
誰かいたらレビテーションと錬金で修理されちゃったかもしれない。

それに、流石に人は殺したくない。

……。





約10分後。


「あら?なんかゾロゾロとこちらに飛んでくるわね?」

「私たちに降参するつもりかしらね?許さないけど」

どうやら空賊は全員メイジだったようでフライや風竜でこちらに飛んでくる。

「なんかみんな鬼の形相だな……」

「……」

「どうした、ギーシュ?難しい顔して」

「……いや、自分たちのフネが駄目になったからこのフネを奪いに来たんじゃないかな……?」

「「「「「……」」」」」

……。





…………………………。





みんなの視線が痛い…………。



[21361] 第19話 パイレーツ・オブ・アルビオン
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:41

「使い魔くん……やってくれたね……」

「サイト……アンタってヤツは……」


ロケットランチャーで空賊船の一番でかいマストをへし折った俺。

一躍パーティーの主役に躍り出たと思われたが、それも束の間。
結果、空賊を怒らせただけの俺の行為にみんなの批難が集中する。

しかし待ってほしい。

「よし!じゃあ、今直ぐ撃ちなさい!ってルイズに言われた気がするんですけど……」

「知らないわよそんなの。だいたいアンタの手柄はわたしの手柄だけど、わたしの失敗はアンタの失敗だからね」

ええー……。
ジャイアン(クリスティーヌ剛田の兄)みたいなこと言い出した……。
いや、それより酷い。

それにみんなも……。

「みんなもヤメろとか言わなかったじゃん……」

「……でもまあ、サイトが提案したことだし……」

「……」

ギーシュ……。
庇ってくれてもいいじゃないか。
しかし、ここでも積極性が裏目に……。
世界一運の悪い男か、俺は……。
やること為すこと全部裏目だ。
もう死ぬまで食う寝る以外のことはするまい。

「いつまでもサイトを責めてたってしょうがないでしょ?……それで、どうするの?」

キュルケ……。
お母さんか君は……。
失敗した俺をいつも優しく庇ってくれるな。

「ワルド様、どうにかなりませんか?」

「ううむ……精神力が尽きてなければ少しはやりようもあるが……」

……。

「あっ!」

そうだよ!

「どうしたのよサイト?アンタが何を言っても採用はしないわよ」

ひでぇ……。
ただでさえ低い評価が大暴落したようだ。
だが一応言ってみる。

「シルフィードとグリフォンに乗って逃げよう」

「「「「「ああ!」」」」」

そう、さっさと逃げればよかったのだ。

「それはよさそうね」

「アイツらフネが目的っぽいもんね」

「そのままアルビオンに飛んで行けそうだし」

「やっぱりサイトは、やればできる子ね」

お母さん……。
じゃなくてキュルケ、俺6歳も年上、年上。

「よし、さっさとトンズラしましょう」

ルイズがシルフィードの方に向かおうとするが……。

「ちょっと待って下さいよ……わたしらはどうなるんで……?」

ああ……、そういえば。
このフネの船長と船員たち忘れてた。

さすがに、全員乗れるわけがない。
この人達を見捨てて逃げるか?

「うーん、どうしようか?」

「……アンもいるし……、でも……」

ルイズもお姫さま第一とはいえあまり気が進まないようだ。

「……ルイズ、私は誰かを犠牲にして逃げるようなことはしたくありません」

お姫さま……。
イイこと言っているけど……。
じゃあ、そもそもこんな任務持ってこないでください……。

「というか、フネを乗っ取った上に空賊怒らせて自分たちはトンズラって貴族さま……」

「「「「「……」」」」」

ごもっともですな。
俺たち極悪です……。

でも……。

「ルイズ、確かに貴族以前に人の道をそれた鬼畜の所業だが仕方ないよ。逃げよう」

「うーん……そうね……仕方ない……か……」

罪悪感で押しつぶされそうだが。
やっぱり、自分が死ぬのは怖いです……。





しかし、そこに異論を挟むヤツが。

「いや、やっぱり逃げるのは駄目だよ」

「……なんだよ、ギーシュのくせに良いこと言ったつもりか?今更1人だけ天国に行こうとしてるのか?」

「アンタは女の子を弄んだ罪でとっくに地獄行きよ?」

「……いや、そうじゃなくて……」

「「ん?」」

「もう僕達、空賊に囲まれちゃってるから……」

辺りを見回すと既にフネに乗り込んで俺たちを睨んでいる空賊さんたちが。

……。

「「……ああ、……じゃあ駄目だな(駄目ね)……」」





@@@@@@@@@@





「船長はどいつだっ!!!」

空賊の人垣がサーッと割れると空賊の親分っぽい人が現れた。
これは完全に怒ってらっしゃる。

「わたしだが……」

「テメエ、よくもやってくれたな!」

なんという逆切れ……。
空賊働こうとしたくせに……。
というか、現在進行形だし。

「いや……、あの攻撃はこの人が……」

「え?」

「テメエか……?」

怖っ。
船長バラすなよ……。
トンズラしようとした恨みか、クソぅ……。

しかたない……。

「スイマセン……。俺“達”がやりました……」

「コラー!僕達を巻き込むなよサイト!」

「サイトが提案してサイトが撃ったんでしょうが!」

シャラップ。

「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために、だよ」

「アンタがみんなの所為にしてるだけでしょ!」

「みんなの為を思って俺はやったんだよ。みんなが俺の所為にしてるんじゃないか」

「「はあ!?」」

ひとりはみんなのせいに、みんなはひとりのせいに。

「おい!テメエらいい加減にしやがれ!」

空賊の親分っぽい人がキレた。
コレはもうダメかもわからんね……。

「なんだテメエら貴族かよ、この人数に抵抗しても無駄なのは分かるだろ?大人しく杖を渡しな」

そう言って俺たちを見回す。

「……なんだ?……このメンツ……?」

空賊親分も困惑。
髭騎士1人、学院生徒4人(うちパジャマ1人)、変な黒尽くめ(ニート)1人、そして……。

「おい、なんだよこのメイド?こんなモンかぶらされて」

当然のごとく、お姫さまに興味が行ったようだ。

「へへっ、こりゃよっぽどの顔をしてるんだろうぜ!」

周りの空賊も馬鹿にしたように笑う。

「どーれ、顔を拝ませてもらおうか……」

「いやっ」

嫌がるお姫さまをよそに親分は無理矢理鉄仮面をカポッと外す。

「さて、どんな顔を……。…………………………」

……。



空賊親分は何故か固まってしまった。

「…………………………」

そして、なぜか鉄仮面をカポッと戻す。

何だって言うんだ?
親分はうずくまって頭を抱えてしまった。

そして1分ほどウンウン唸ったあと、また鉄仮面をカポッと外す。

「…………………………」

そしてカポッと戻す。
すると、またうずくまってしまった。



……。





……。





……。

あの後、空賊親分は何度もカポカポしている。
深呼吸をしたあと鉄仮面を外して、戻して。
腕を組んで考えごとしたあと外して、戻して。
フネの端っこでアルビオンを眺めたあと外して、戻して。

いい加減、フネの上のみんなも気になってしょうがない。
空賊子分たちもざわついている。

「ちょっとサイト、アンタ何とかしてきなさいよ」

「なんで俺なんだよ……」

「だってわたしには訳分かんないし、アンが何かされたらどうするのよ」

いや、俺だって訳分からん。

「俺には無理だよ。人見知りだし」

「アンタ普通に話せるじゃない」

「いや、話せるけど……話しかけるのは……」

話しかけられれば喋れるが、自分から行くのは駄目だ。
俺は究極受身人間なのだ。

「そういえば、サイトってあたしたちにも自分から話しかけないわよねぇ」

「アンタ、わたしには普通に話しかけてくるじゃない」

「うーん、ルイズは何か大丈夫なんだよな……」

「なによそれ……」

召喚された日から思ってたけど、なんでだろ?

「まあ、いいわ。とにかく何とかしてきなさい。アンも困ってるでしょ」

「……へーい」

まあ、命かかってるかもしれないし……。
人見知っていい場面でもないか。

……。





さて、お姫さまと親分の近くまで来たが……どうしよう。
カポカポの理由が未だに見当もつかん。

う~ん……。

……。



あれかな?

「アンさん」

「使い魔さん?」

「首をゆっくり左右に振ってもらえますか?」

「?いいですけど……」

よし。
お姫さまの首振りに合わせて鉄仮面を回す。

すると空を見上げて何かを考えていた親分が丁度こっちを向いた。

「……君は、やっぱりアンリ……」

「なんと!首が360度回るんです」

顔をこっちに向けた親分の前でぐーる、ぐーる、と鉄仮面を回す。

「…………………………」

まさか、ナポ○オンズのあったまぐるぐるがハルケギニアにまで伝わってきているとは。
やり方までは解らなかったようだが。

「はい、じゃあ鉄仮面外します。実は首を振っていただけでした」

「…………………………」

そして。
空賊親分は、また頭を抱えてしまった。

ネタバレしたのに何でだろ……?
これじゃなかったのか?

しかし、今の俺にはもう縦縞のハンカチを横縞にすることぐらいしか……。
耳をおっきくするのは小道具持ってないし……。
……。





ぶんっぶんっ。





ぶんっぶんっ。





「ああ、アンさん。もう首振りはいいです」

「そうですか?」

……。





@@@@@@@@@@





あれから時間が経って。


「と、いうわけで私はアルビオン皇太子のウェールズだ」


急展開だが空賊の親分っぽい人は何故かウェールズ王子だったようだ。
空賊の親分っぽい人は立ち直ると急にヅラと髭を剥ぎとりイケメンに生まれ変わった。

怪しすぎたのでみんな信用しなかったが、俺達も相当怪しいのでおあいこだ。
それにお姫さまの合言葉と指輪によると本物のようだ。

しかし、どういうことだ?
運が良すぎないだろうか?
拉致ターゲットがいきなり現れるなんて……。





「ウェールズ様……」

「アンリエッタ……」

気がつくと向こうでは二人の空気が完成してる……。
さて、説得できるのかな?

「ウェールズ様、トリステインに亡命してくだいまし!」

「いや、それは出来ない……」

「そんな!どうして……」

「……アンリエッタ……」

……。





……。





なるほど。

駄々をこねるお姫様を逆に説得する王子様によると、

内乱を防げずに民に迷惑かけちゃったから王族として逃げられないよ
亡命したらトリステインにレコン・キスタの矛先向いちゃうからやだよ
それに、生き残ってアンリエッタが他の男と結婚するのを見たくないよ

ということらしい。

「……」

「分かってくれアンリエッタ」

そう言うと王子様は部下たちの方へと行ってしまう。
お姫様は俯いて泣き出してしまった。





「さて、どうする?」

「何言ってんのよサイト、モチロン拐うわよ」

ルイズ……モチロンて。

「いや、無理だろう……あの人数相手じゃ……」

「う~ん、確かに空賊じゃないから爆殺するわけにもいかないわね」

そういう問題じゃないんだけどな……。

……。





「あの……」

「ん?」

みんなで誘拐計画を練っていると突然話しかけられた。
振り向くと王子様の部下の人がいた。

「なんでしょうか?」

「皆さんはウェールズ様を亡命させるためにアルビオンへいらっしゃったんですよね?」

「そうですけど」

「でしたら……」

……。





……。

なるほど。
この人によると王子様の亡命はアルビオン王宮でも提案されていたらしい。
そして、王様もそれを望んでいたようだが王子様が頑なに拒否。

「王子が……アルビオン王家の血筋が未来へ受け継がれると思えばこそ、命をかけて戦えるという者も多いのですが……」

王子様がやだって言うんじゃな……。

「いっそのこと、無理やり亡命させてしまえば良かったのでは?」

ルイズの乱暴な正論。
王様も望んでるんだから無理やりアルビオン脱出させちゃえばよかったのに。

「それも試みたんですが、精神力でスリープ・クラウドに耐えられてしまって……」

試してたんかい。
しかも耐えたのか……。
魔法ってそういう根性でどうにかなるものなのか?
っていうか王子に魔法使っていいの?

「その後はウェールズ様にも警戒されてしまって……」

なんかこの世界凄い。
主に王族関係が。

「お願いします、皆様!どうかウェールズ様を説得してください!」

「そう言われても、お姫様の説得でも断られちゃったしねえ」

キュルケがそう言いながら顔を向ける方には、まだメソメソしているお姫様がいる。

「乱暴な方法でなければ、多少強引でもかまいませんので……」

「「「「「うーん……」」」」」

そう言われてもな……。
全員で考え込んでしまう。

スリープ・クラウドも根性で耐えるような相手をガンジー・スタイル(非暴力)で行動不能にする方法……。
……。

……。

あれしか無いか……?





@@@@@@@@@@





「どうしたんだ君たち?全員で……」

なんやかんやで俺達はまたゾロゾロと甲板に居る王子様のところにやってきた。
王子様はちょうど部下の人と会議をしていたようだ。

「殿下、もう一度姫様のお話を聞いてください」

「……ラ・ヴァリエール嬢、アンリエッタに何を言われても私は……」

王子様がなにか言いかけたが、お姫様がズイっと前に出て叫ぶ。

「ウェールズ様!あの愛の言葉は嘘だったのですか!わたくしにあんなコトやこんなコトまでなされたのに!」

「ちょ!アンリエッタ!何を言って……」

「殿下……」

「酷い……」

「英雄色を好む……」

「監禁王子……」

ルイズ、キュルケ、タバサの波状攻撃+俺。

「ちょっと待ってくれ!……というか、そこの全身黒い君!変な二つ名をつけないでくれ……!」

王子様の部下の人もザワつく。

「アンリエッタ!いい加減な事を言わないで皆に説明を……」

「非道い!あれだけわたくしの有られもない姿を見ておきながら……!……しかも外で!」

「殿下……」

「酷い……」

「外で……」

「ナンテコッタイ……」

ざわ……、ざわ……、ざわ……

「皆待ってくれ!私はそんなこと……」

「じゃあ、有られもない姿を外で見たというのは間違いなんですか……?」

「いや……、それは……ラグドリアン湖で……」

ざわ……、ざわ……、ざわ……

「でもそれは……!アンリエッタ!ちゃんと説明を……!……アンリエッタ!?」

お姫様は突然口を押さえるとフネの縁まで走り身を乗り出した。

「オエー」

少しわざとらしい「オエー」という声が聞こえてくる。
そして、ゆっくり戻ってくるお姫様。

「アンリエッタ……大丈夫かい?」

「ウェールズ様、わたくし酸っぱいものが食べたいです」

「………………」

ざわ……、ざわ……、ざわ……

「チョットマチタマエ」

「あっ、今動いたわ!ルイズ、わたくしのお腹をさわってみて?」

「いいんですか?姫様」

だんだん動きの鈍くなってきた王子様そっちのけで話が進む。

「元気に生まれるのよー、ウェールズJr」

お腹を撫でながら話しかけるお姫様。

「あら、いい名前ですわね!姫様!」

「でしょう?うふふふ」

ざわ……、ざわ……、ざわ……

「待ってくれアンリエッタ!私の子供が出来るわけ無いだろう!?」

「……え?……この子を……ウェールズJrを認知してくださらないのですか……?」

「その名前もひとまずやめてくれ……」

「殿下……」

「酷い……」

「男ってそう……」

「ナンテコッタイ……」

ざわ……、ざわ……、ざわ……

「第一、私たちはまだ愛しあったことが無いじゃないか!」

王子様が大きな声で凄いこと言い出した。

「え?……ウェールズ様はわたくしを愛してくれてはいないんですか……?」

「殿下……」

「酷い……」

「所詮女はそういう宿命……」

「ナンテコッタイ……」

というか、さっきからタバサの発言がやたら女として達観している。
場末のスナックのママみたいだな……。

ざわ……、ざわ……、ざわ……

「いや、愛しているが……」

「わたくしも愛していますから、愛しあってますわ」

「そうなんだが……」

王子様困った。
ギーシュは前被害者として同情の眼差しをウェールズ王子におくっている。

「アンリエッタ。君はどうすればこどもが出来るか知っているのか……?」

「もちろん知ってますわ。二人が愛し合っていれば出来るんです。ウェールズ様も仰っしゃったじゃないですか」

「「「………………」」」

「君たち!アンリエッタにちゃんと教えてやってくれ!」

ウェールズ王子が俺達の方を向いて懇願する。
若干、目に光るものが見えるような……。

「しかし、そんな事言われても……」

というかこんな大勢の前で王子様は何を言ってるんだ。
だいたい童貞の俺には難しい……。

「ここは10万3000冊の官能小説を記憶している淫書目録、ギーシュが……」

「ちょっとまてサイト!僕に勝手な設定を付けるな!」

「えー……ギーシュが分からないんじゃ皆分かんないよ……」

「いや、僕以外の皆も……っていうか全員知ってるだろ……!」

……。

「あれ?そういえばアンリエッタは……」

王子様に言われて気づいたが少し目を離した間に女性陣の姿が見えない。

「アンリエッタ王女ならそこの船室に入って行きましたけど」

部下の方に教えてもらったドアを王子様が開ける。

すると。





「う、産まれる~~~~~」

「キュルケ!タバサ!お湯を沸かして!」

「わかったわ!」

「了解」

「姫様!ヒッ、ヒッ、フーです!ヒッ、ヒッ、フー」

「ヒッ、ヒッ、フー」

……。

「…………………………」

「殿下!姫様の手を握ってあげてください!」

「…………………………」

「ウェールズ様……きっと元気な子を産んで見せますわ……」

「…………………………」

「お父さんも御一緒に、ヒッ、ヒッ、フーですよ!」

「…………………………」

……。





「あの……ルイズたち、王子様もう石みたいになっちゃってるから……」

「あら、そう……」





@@@@@@@@@@





「皆さん、これは……?」


さてトンズラしようとみんなで話していると、さっき王子様を説得してくれと頼みに来た部下の人がやってきた。

「ああ、無事に説得?出来ましたよ」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

「それで、これからなんですが……」

……。

……。

王子様が亡命することになり、アルビオン側の人を全員集めて相談する。
固まってしまった王子様はとりあえず部屋の隅に置いてある。

「誰か一人アルビオン王宮に来ていただいてウェールズ様亡命の報告をしていただきたいのですが」

「姫様は論外として、わたしは姫様から離れないわよ」

「あたしたちはトリステインの人間じゃないからパスね」

「と、いうことでギーシュよろしくね」

「まあ……いいけど……」

アルビオン王に謁見できるのは嬉しいけど内戦国には行きたくないというギーシュの葛藤が分かりやすく伝わってくるな。

「ギーシュ、ガンバレよ。危なくなったら直ぐ逃げるんだぞ?」

「なに言ってんのサイト?アンタもいくのよ」

「……え?」

Why?

「あんた、マストへし折ったの私たちのせいにしようとしたでしょ?その罰よ」

「異議あり!罰が重すぎると思う!」

「悪いわねサイト。タバサのシルフィードは5人乗りなのよ」

「もっと乗れるだろ……」

スネ夫(スネ次の兄)みたいなこと言い出した。

「グラえもん、またルイズがいじわるするんだよ」

「いや、僕はグラモンだからね?」

……。

「そういえば王子様の格好はあのままでいいの?」

キュルケの発言で、みんなが一斉に部屋の隅に置いてある王子様を見る。

どう見ても賊です。
本当にありがとうございました。

「うーん、ちょっとまずいかもね」

「じゃあ、サイト。服を脱ぎなさい」

「え……?」

「え?じゃないわよ。早くして、アンタの服と殿下の服取り替えるんだから」

すると、あれよあれよと言う間に服を入れ替えられてしまった。





「俺、この服で王宮いくの?」

空賊装備の俺は、何故かカツラと付け髭まで装着されている。

「別にアンタは謁見しなくてもいいのよ」

ああ、そうか。
だいたい俺、平民だしな。

じゃあ、なんで俺はアルビオンに行くんだって話だけど。

「あのー、王子の服ならありますが……」

「……」

もっと早く言ってよ、部下の皆さん……。

「いいじゃない。もう着せちゃったし、あんまり身分が分かりやすい服着せるよりは」

それもそうか。
キュルケの言うとおりかもしれん。
トリステインで公に受け入れてもらえるか分からないのに王子丸出しじゃよろしくないだろ。
なにより今から着せ直すのはめんどくさい。

……。





その後は、王子の護衛として側近の2人が風竜でトリステインについてくること。
俺がぶっ壊したイーグル号(王子様たちのフネ)のマストを直すため俺達が乗ってきたフネのマストを貰うこと。
俺達の乗ってきたフネの積荷をアルビオン軍が言い値(新しいフネが買えるレベル)で買い取ること。
不幸な船長達は俺達と一緒にアルビオンへ行き、俺達と一緒に女子供脱出用のフネに乗って帰ること。
などなどが話し合われた。





「ふー、それにしてもなんで俺が内戦国に……」

もし捕まったりして帰ってきたら自己責任バッシングされるんじゃないだろうか?

「あれ?」

なにか、忘れてるような……。



そうだワルドさんだ。
そういえば何かずっと空気だったな、この旅では。

もしかしたらグリフォンに乗せて連れ帰ってくれるかもしれない。
一応、相談してみよう。

……。





「いた……」

居たけど頭を抱えてしゃがみ込み、なんかブツブツ言っている。
なにこれこわい……。

「あのー……」

「うーん……手紙か……王子の命とルイズ……うーん、でも精神力全くないし……」

「あのー……」

「うーん……手紙はそもそも形も場所も全くわからないし……、……む?どうした使い魔くん」(キリッ

「……あの、実は……」

……。





「なるほど……。だが姫殿下の護衛をする以上、グリフォンに誰かを乗せて動きを制限されたくはないな」

「やっぱりそうですよねー」

まあ、しょうがない。

「あれ?そういえばルイズや姫殿下は……?」

「とっくに帰りましたけど、シルフィードで」

「……」

「……」

「……え?……いやいや……え……?」

「ウェールズ王子を乗せて(括り付けて)行っちゃいましたけど……」

「……」

「……」

「さらばだ!使い魔くん!」

そう言うとワルドさんはグリフォンに跨り、すごいスピードで飛んでいった。

「グリフォンで風竜には追いつけないと思うけど……」

……。





「あれ?ワルド子爵も帰ってしまったのかい?」

「ああ、ギーシュ」

既にかなり小さくなっているワルドさんを眺めているとギーシュがやってきた。
そういえば、もう知り合いコイツだけになっちゃったんだよな……。

「ギーシュ、アルビオンでは絶対俺から目を離すなよ」

しっかり釘をさしておかなければ。

「いいか俺が頼りになる年上だという過信は捨てろ。3歳児、いや24歳児だと思って接してくれ」

「……サイトが頼りになるなんて思ったことはないよ……」

「俺は殆ど一本道でも道に迷うからな、それもシルフィードの案内付きで」

ないとは思うが異世界の上、内戦国で迷子になったら俺は泣くかもしれん。

「……わかったよ。ちゃんと手を引っ張ってトリステインまで連れて帰るよ」

「いや、それはいいや。気持ち悪ぃから」

「……」





しかし生きて帰れるのか俺は……。
ジョニー・デップみたいなカッコで……。

いや、しかしまあ。
お姫様と一緒に帰らないで大勢の大人たちに怒られずに済むのは良かったなぁ。



[21361] 第20話 迷子
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:41


「ギーシュのヤツ……だから俺から目を離すなって言ったのに……」


ギーシュに対する愚痴をこぼしながら何処ともしれない森の中をフラフラ歩く。
時々、なんとなく後ろを振り返ってみるが……。
もはやどっちから歩いてきたのかも判らない。
東西南北も分からない。
上と下も判らない。

「右も左もわからない若輩者ですがよろしくお願いします!」

……。

静かな森に俺の唐突なセリフが虚しく響く。

全く……。
何で俺がこんな目に……。

俺がアルビオンに上陸してから早100日。

大好評絶賛迷子中である。

……。





@@@@@@@@@@





サイト、アルビオン上陸1日目。


「じゃあ、サイト。僕はアルビオン国王に事の次第を報告してくるよ」

「ああ、行ってらっさい」

さて。
なんだかんだでニューカッスルの港に上陸し、お城までやって来た。
ギーシュは早速王様に謁見するらしい。
俺はどうしようかな……。
このカッコであまり彷徨きたくはないんだが。
……。

「それでは、お部屋にご案内しましょうか」

ここまで案内してくれたボブが言う。
ちなみに、この人がフネの上で王子様を説得してくれと頼みに来た人だ。
ちなみに、この人の名前がボブかどうかは知らない。
俺の脳内での勝手な名前だ。

さて、部屋に行って休むか……。
うーん。
…………。

そうだ!

「あのー王子さまの部屋に案内してもらってもいいですか?」

「?ウェールズさまの部屋ですか?なぜ……」

「ああ、そもそも俺達はお姫さまが王子さまに宛てたラブレターを回収しようっていう任務だったんですよ」

依頼の段階でいつのまにやら、こんな任務になってしまったが。
ルイズのせいで。

ラブレターなんかいまさらどうでもいいと思うけど、一応ね。
フネの上で失態をみんなに擦り付けようとして評価を落としてしまったからな。
手紙を持って帰れば、ルイズも俺のことを良く気がきくオッサンだと見直すに違いない。

「……なるほど、では今日お泊りいただく部屋にお連れした後に案内させていただきます」

「よろしくお願いします」

「それとウェールズさまが大事にしているような私物が見つかりましたら一緒に届けてもらえますか?」

「ああ、いいですよ」

……。





「……なんか随分質素な部屋だな……」

王子さまの部屋に到着したがベッドと机と椅子ぐらいしか無い。
俺のアパートでも冷蔵庫があるっていうのに……。

それにしてもボブは俺を案内したら、そそくさと退散してしまった。
忙しいのかな?
何故か信頼されてるな、俺。
王子の部屋に置き去りとは。
しかし、なるべく側にいて欲しかったんだが……。
さっき案内してもらった俺たちの部屋に帰れるかどうか分からないし。
俺はむしろ建物の中のほうが迷うからな。

まあ、油性ペンで壁に印をつけながら来たからいいけど……。

「さあて、部屋を漁って手紙を見つけますか」

何処かなー。
……。

ふっ、なんてな。
男の子が隠すといったら此処しかない。

ベッドの下をチェック。

……。

「……な……何も無い……」

なん……だと……。
ココに無いとなると、あとは机の引き出しぐらいしか無いぞ……。
しかし、机の中に大事なモノを入れるヤツなんて存在しないだろ。

諦めに似た気分で机の引き出しを開ける。

「……何か、あった……」

引き出しを開けると宝石が散りばめられた箱が出てきた。
これに手紙が入ってるのか?
しかし鍵穴があるな。

うーん……。
仕方ない。

「ウォ~ハンマ~(cv大○のぶ代)」

これでぶっ壊すしか無い。

「どっせ~い!」

バコーン!とハンマーを叩きつける。

飛び散る宝石。
箱の残骸から覗く手紙のような物。
そして砕けた箱の内装には、お姫さまの肖像のようなものが……。

……。

「……まあ、これはしょうがないよ。うん」

冷静に考えると、この箱かなり大事なものっぽい。
しかし過ぎたことを後悔してもしょうがない。
早速、箱から出てきた手紙の内容を確かめる。

「なるほど……」

うん。

全くわからん!

俺ハルケギニアの文字解らねえからな。
これかな?ラブレター。

……。

「まあ、いいか。これで」

きれいな箱(粉砕したけど)に入ってたし何にしても大事な手紙だろ。

……。





さて、部屋に帰って寝るか……。


「おい!貴様ッ!ウェールズ王子の部屋で何をしている!」

「えっ?」

すべてが終わった瞬間に突然怒鳴られる。
振り返ると部屋の入口でお城の警備兵のような人が俺を睨みつけている。

「ち、違うんです!俺、怪しい者じゃないんです!」

「どっからどうみても怪しいだろうが!お前は鏡を観たことないのか?!」

そう言われたので王子の部屋にあった姿見で自分の全身を確かめる。

「なるほど」

どう見ても賊です。
本当にありがとうございました。

「おらっ!こっちに来い!」

兵士に腕を極められて部屋から引きずりだされる。

「待ってください!ボブに!ボブに聞いてください!本当に怪しい者じゃないんです!」

「誰だよ、ボブって!」

「ボブ~~~~~~~!」

……。





@@@@@@@@@@





サイト、アルビオン上陸4日目。


「腹減った……」

王子の部屋に珍入した容疑で牢屋にぶち込まれてから3日も経ってしまった。
牢屋初日の晩飯と2日目の朝飯こそ出たがその後は何故か音沙汰なしだ。
ギーシュとかボブが迎えに来てくれるかとも思ったが、そんなことは無かった。

俺がやる気を出すとコレだ。
おとなしく案内された部屋で寝てりゃあ良かった。

まあ、食って寝るだけだから俺は飯さえあれば牢屋でもいいんだが、その飯が絶たれるとなれば話は別だ。

「お~い、ご飯くださ~い」

俺の叫びが虚しく響く。

ダメか……もう寝よう……。

……。





「おい」

「えっ」

空腹をごまかすために寝ようと思っていたら突然声をかけられる。
檻の外を見ると明らかにアウトローな装いの男が立っていた。

「あのー、アナタは?」

「ん?俺は貴族派の傭兵よ。まっ、ついでに火事場泥棒みたいな事もやってんだがよ」

「へー……」

そう言ってガハハハと豪快に笑う火事場泥棒。

「ところで、お前こそ檻なんぞに放りこまれて。何やってヘマしたんだ?」

「いやー、王子さまの部屋を漁ってたら賊と勘違いされてしまって……」

「……いやいや、お前……勘違いじゃねえだろ……、……しかし王子の部屋とはすげえな……」

「結構質素な部屋でしたよ」

「いや、部屋がすごいって言ったわけじゃなくて……、まあいいや、何にしても俺みたいなヤツとは格が違うってわけだ」

なんか火事場泥棒に感心されてしまった。

「あれっ?そういえば何で貴族派の傭兵さんがこんなところに?」

「ん?ああ、知らねえのか。2日前に貴族派と王党派がドンパチ始めたのよ」

「マジっすか……」

だから俺のご飯が来ないのか……。

「そんでまあ貴族派が勝ったから、今俺は此処で火事場泥棒みたいな真似が出来てるってわけよ」

なんてこった。
ギーシュとかボブとか大丈夫だったかな。
無事だといいけど……。

……。

「あのー、ところで何か食べ物もらえませんか?もう、2日も食べてないんです……」

「ん?食い物は持ってねえが……、とりあえず檻から出してやるよ」

そう言うと火事場泥棒さんは壁に掛けてあった鍵の束を使って牢屋の錠を開けてくれた。

「どうもありがとうございます」

「なあに、俺達みたいなヤツらはお互い様よ」

「そうですか……。じゃあ、俺は食い物探しに行きます」

「おう、そっちの階段上がって直ぐの所に炊事場があったぞ」

「そうですか、何から何まで……」

「いいってことよ。あとそろそろ貴族たちも城にやって来るから長居はしないほうがいいぜ」

そう言うと、ガハハハと豪快に笑って火事場泥棒さんは去っていった。
メッチャいい人だったな……。

よし、飯を探そう。

……。





……。





「うめぇ……」


涙出そう。
2日ぶりの食事は食材を素のまま、だったがすごく美味い。

ついでに日持ちしそうな食材を少し貰っていこう。
終戦直後の混乱ではいつ帰れるかわからん。
食べ物も手に入るかどうか。
ギーシュも探さなきゃならんし。

「しかし、このままじゃ泥棒だな……」

10エキューをまな板の上に置いていこう。
ちなみになぜ財布を持ってるかというと、教えてもらった階段の近くに俺のショルダーバッグとウォーハンマーが乱雑に放置されていたので、それを回収したからだ。
さらに、汚さないようにノートの間に挟んでいたおかげか、ラブレター(?)も無事だった。

よし。

「行くか……」

……しかし、出口はどっちだ……?

……。





@@@@@@@@@@





サイト、アルビオン上陸10日目。


「なんか、アルビオンの人が冷たいな……」


お城を出た俺はトリステイン行きのフネ(ついでにギーシュ)を探しながら、ふらんこふらんこアルビオンを彷徨っていた。
しかし、何処に向かえばいいのかは全く分からない。
優しそうな人に道を尋ねようにも何故か避けられてしまうのだ。
露店で食料を買い込むことはできたが……。
何か食べようと思って立ち寄った食堂から、お断りされてしまうこともあった。

「一見さんお断りなのかな……」

それともカッコが駄目だったのかな?
やっぱりノーネクタイじゃマズイのか……。

それにしても蹴り出すんじゃなく、もう少しソフトに断ってほしい。
ぶぶ漬けどうですか?みたいな感じで。
おかげでカバーガラスより繊細な俺のハートはボロボロだ……。
せめてスライドガラス並みのハートを持っていれば……。
俺、プレパラート作るのは上手かったんだけどなぁ。

結局、心に傷を負った俺は人に話しかけることができずに、ここ数日は野宿をしながら勘で適当な方向に歩いてきた。

……。

気がつくと辺りにはすっかり人気がない。
明らかに街道から逸れたようだ……。

うーん……。
……まあ、なんとかなるだろ。

……。




「それにしてもオリヴァーさんは王子に手紙を渡してくれただろうか……」

歩き疲れたので木陰に腰をおろし昼飯を食いながら、お城で会ったオリヴァーさんのことを思い出す。

あの日、お城を出ようと城内をウロウロしていたら突然神官のような人に話しかけられた。
俺が王子の部屋を漁っているところを賊と間違えられてしまった、と説明するとその人は異様に食いついてきた。
何でも、オリヴァーさんは近いうちにウェールズ王子に会って友達になるらしい。
それはグッドタイミングと俺は手紙をオリヴァーさんに預けたのだ。
ぶっちゃけ、いつ帰れるか判らないからな、俺は。
ギーシュも探さなきゃならないし。

「しかし、またオリヴァーさんに会えるかな……?」

この指輪を返さなきゃならない。
まあ、オリヴァーさんの指輪かどうか確証は無いんだが。

手紙を渡すと心なしテンションの上がったオリヴァーさんは俺のウォーハンマーに強か脛をぶつけてスッ転んだ。
しばらく悶絶していたが1分ぐらいしたらオリヴァーさんのお付の人がやって来た。
すると、オリヴァーさんは何事もなかったかのように立ち上がりCOOLに去っていった。
お付の人に情けないところを見せたくなかったんだろう。

そしてその場に残された持ち主不明の落とし物がこの指輪だ。

「まあ、王子さまの友達ならそのうち渡せるだろう」

昼飯を食べ終わった俺は指輪をカバンに放りこんで立ち上がる。

……。





@@@@@@@@@@





サイト、アルビオン上陸30日目。


「もう草を食べるのは嫌だ……」


20日前に街道から外れた俺は人の通る道を見失い、そして獣道すら見失い完全に森の中に迷い込んでいた。
買い込んだ食料も数日前に食べ尽くし、今では専ら草ばっかり食べている。
川を見つけたので水に困らないのが唯一の救いだ。

「草食系男子の世界ランク1位だろ……俺……」

2つの意味で草食系を極めてしまった……。
俺はやたら野草に詳しくなっている、体当たりの実地体験で……。

だけど草以外が食べたい……。

「アンパ○マ~ン……、助けてくれー……。俺はカバ○よりよっぽど飢えてるぞー……」

最悪、食パンマンでもいい……。

……。





@@@@@@@@@@





サイト、アルビオン上陸50日目。


「もうダメぽ……」


森を彷徨う俺の足取りは重く今直ぐにでも倒れたい。
しかし倒れるわけにはいかない。
なぜなら3日前から血に飢えた獰猛な森の住人たちが俺の後をつけて来ているのだ。
俺が弱り切るのを待ち、襲いかかるつもりなのだろう。

振り返ると、クマ、サル、ウサギ、リスがギラついた目で俺を見つめている。
……これが野生の掟か……。

……。

「ぐへっ!」

いよいよ疲れが限界に達し、杖がわりに使っていたウォーハンマーに躓いて倒れてしまった。

ここまでか……。

というか、ウォーハンマーめちゃくちゃ邪魔だったな……。
杖にしては重すぎるし、持ち運ぶことで確実に1.5倍くらい体力の消耗を早めたはず……。

まあ、今さらなんだが……。

立ち上がる気力もないので、そのまま仰向けになり目を瞑る。

「藤岡隊長……俺は、どうやらここまでのようです……」

必ず、野人ナトゥーを見つけてください……。

「川口隊長……、そっちでも謎の部族や人食いトラなんかを追いかけているんですか……?」

俺も、もうすぐ逝くんで川口浩の探検隊の末席に加えてください……。
俺、詳しいですから…………草とか…………。

……。





……。





「ん?」

どのくらいの間、気を失っていたのだろうか。
体を何かにつつかれているような感覚に意識を取り戻す。





そして!目を開けると、そこには!

我々の前に現れた驚愕の光景とは!





「お、お前たち……」

なんと、俺の屍肉を貪ろうとしていた(と思っていた)、森の住人たちが俺に食べ物をさし出してくれているではないか。
クマは蜂の巣、サルは果実、リスは木の実、ウサギは草。

「俺に、くれるのか……?」

動物たちは上半身を起こした俺の前に森のMEGUMIを置いていく。

「あ、ありがてぇ……ありがてぇ……」

草は、そんなに嬉しくないけど。
しかし、有り難く全てをいただく。

それにしても……。

俺は、なんという勘違いをしていたんだ。

俺は藤岡弘、の探検隊ではない。
ナトゥーを探しに来た訳じゃない。
ただの迷子だ。

そして、この動物たちは俺を心配して見守ってくれていたのに……。
よく考えればクマ、サル、ウサギ、リス、どれも猛獣とは程遠い大人しい動物ばかりじゃないか。
人に冷たくされ、草ばっかりの生活で心がささくれていたとはいえ、俺は……。

さっきまで新手のスタンド使いのような威圧感を放って見えたコイツらだが……。
今ではすっかりシル○ニアファミリーのように見える。

……。





@@@@@@@@@@





サイト、アルビオン上陸90日目。


「思えば、アルビオンに来てから多くの出会いがあったな……」


ボブ、火事場泥棒さん、オリヴァーさん、クマ、サル、ウサギ、リス……。
みんなにお世話になってしまった。

特に動物たちには1ヶ月以上も食べ物を都合してもらった。
それぞれの水場や餌場まで教えてもらって……。
最終的に、なんとなく動物と会話できるレベルに達してしまった。

しかし、出会いがあれば別れもある。
いつまでも動物たちにお世話してもらうわけにもいかない。
人家のある方角を教えてもらい、涙ながらに彼らと別れたのが今朝のことだ。
思いがけずにウルルン滞在してしまった。

……。





……。





「ん?……これは……」

動物たちと別れて、しばらく経ち。
お日様がてっぺんに昇った頃、それを見つけた。

「キノコか……」

周辺の木という木の根元に色とりどりのキノコが群生している。

うーん。
キノコ狩ってみるか……?
食料は貴重だからな。

だけど俺はタケノコ派なんだよな……。
キノコに魂を明け渡す事になってしまう。
せめて間をとってコアラと行きたいところだが……。
さすがにこの森にコアラはいないよな。
まあ、コアラが居たとしても俺には仕留められないだろうが。
ヤツらとんでもない握力を持ってるからな。
握撃をくらって俺の手足がハジけ飛ぶのがオチだ。
……。

「まあ、いいや。キノコ狩っていこう」

となると、気になるのは毒だが。
この辺にはカラフルなキノコしか生えていない。
しかし、サバイバル知識に長けた俺は慌てない。

「地味なキノコには毒がなく、派手なキノコには毒がある」

そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。

そうとは限らないのだ。

「よし。まず、この緑色のキノコ。これは1UPだ」

優先的に摘んでいこう。

「そして、赤いキノコ。これは巨大化だ」

食べてもいいんだが、巨大化すると食料を多く消費してしまう。
イザというとき用だな。

「最後に紫色のキノコ。これが毒だ」

一応、1本だけ持って行こう。
猛獣に出会ったときに使えるかもしれない。

そして残りのキノコには手を出さない。
きのこ狩りのプロでも判断のつかないキノコは山ほどある。
少しでも迷うようなら手を出さない。
それがプロというものだ。

「よし、早速1UPキノコでも食べるか」

……。





@@@@@@@@@@





サイトがキノコを食べている、すぐ近く。


「桃りんご、いっぱいとれたね。テファお姉ちゃん」

桃りんごをいれた籠を大きく振りながら歩くエマが楽しそうに言う。
今日はエマと二人で桃りんごを採りに森の奥までやって来た。

「そうね、みんな喧嘩しないですむわね」

子供たちはみんな元気だから。
みんな日に日に成長して、わたしは増々ふり回されるようになった。
この子たちには元気に育ってほしい……。

……。

だけどいつか、みんなが大きくなったらウエストウッドを出ていくときが来る。
そのときが来たら、わたしは……。

大きくなっても、みんなまたわたしに会いに来てくれるかしら……。

……。





「テファお姉ちゃ~ん!誰か倒れてるー!」

「え?」

考えこんでいた少しの間、足が止まっていたようだ。
エマの声が少し離れたところから聞こえる。

急いでエマの呼ぶ方に行くと、怖そうな格好をした男の人がうつ伏せで倒れていた。

「ア○パンマン……助けに来てくれたのは嬉しいけど……俺が欲しいのは、そっちのアンパンじゃなくて……食べる方の……」

男の人はなにか、ブツブツ呟いている。

「ジ○ムおじさんも何か言ってやってください……え?ジャ○おじさんじゃなくてシャブおじさん……?」

……。

「なんか気持ち悪いね……お姉ちゃん」

「うん……」

何か幻覚を見ているようだけど……。
よく見ると男の人は手にキレイな緑色をしたキノコを持っている。

「これ食べちゃったのかな……」

だけど何でこんなに派手なキノコを……。

「お姉ちゃん、どうする?」

「うん、何にしても放っておけないわ。助けてあげましょう」

「でも……」

「大丈夫。ちゃんと忘れてもらうから」

……。





すこし経って。

あの男の人は去っていった。
幻覚を治してあげた後に話した様子ではスゴク悪い人とは思えなかったけど。
やっぱり、あの格好は怖い。
わたしたちに会ったことは魔法で忘れてもらい、街道の場所を教えてあげた。
あと桃りんごを1個あげて、キノコは食べちゃダメということも説明した。

……。





@@@@@@@@@@





次の日(サイト、アルビオン上陸91日目)。


「また、倒れてる!」


「バタ○さん……なんで……新しい顔は……焼き上がりまで半球形だったのに……いつの間にか球形になるんですか……?」

男の人は昨日倒れていた場所の近くで同じように倒れていた。
違うところといえば手に持っているキノコが赤いものになっているぐらいだ。

「食べちゃダメって言ったのに……」

わたしは、また男の人の幻覚を治した。
そして記憶を消し、「キノコはダメっ」と強く言い聞かせて行かせてあげた。

……。





@@@@@@@@@@





次の日(サイト、アルビオン上陸92日目)。


「どうして食べちゃうの?!」


「3の倍数を数えて……落ち着くんだ……3の倍数は……数えるとアホになるマヌケな数字……俺に勇気を与えてくれる……」

男の人はやっぱりキノコを食べて倒れていた。
今日は右手に紫のキノコ、左手に赤いキノコを持っている。
わたしは3日連続でこの人の幻覚を治してあげた。

……。

「いやー、助かったよ」

「……もうキノコは食べちゃダメよ!」

「赤と紫を同時に食べれば巨大化しないで済むと思ったんだけど……、相殺されて」

「とにかく!もう食べちゃダメよ!」

「はい、肝に銘じておきます……」

そして記憶を消し、男の人が持っていたキノコを全部捨てる。
キノコはダメと、改めて強く強く!言い聞かせて行かせてあげた。

……。





@@@@@@@@@@





一週間後(サイト、アルビオン上陸99日目)。


「やっぱりいる……」


「あたし……メリーさん……今……ゴルゴ13の後ろにいるの……」

今日で10日連続、男の人はキノコを食べて幻覚を見ながら倒れていた。
しかも……。

「だんだん、倒れてる場所がウエストウッドに近づいてる……」

何か怖い……。

だけど何で食べちゃうの?こんなに派手なキノコを……。
今日この人が持っているキノコは虹色だ……。

しかし一連の流れに、わたしもだいぶ慣れてきた。
治して、消して、言い聞かせて、行かせる。

……でも。

「また、食べちゃうのかなぁ……」

……。

はぁ……。





@@@@@@@@@@





サイト、アルビオン上陸100日目。


「右も左もわからない若輩者ですがよろしくお願いします!」


………………。

虚しい……。

それに疲れた……。
何で街道に出れないんだろう。

誰かに教えてもらった通りに進んでるはずなんだけど……。

……。

誰に教えてもらったんだっけ……。
クマだったか?

……まあ、いいや。

「それにしてもお腹すいた……」

だが手持ちの食料といえば……。

緑のキノコ×3
赤いキノコ×1
虹色キノコ×1

こんなところだが……。

……うーん。

「よし!とりあえず、1UPしとくか」

いただきま~す。

「ああ~~~~~~~~~~!!!!」

「え?」

突然、女の子の声が森に響く。
声の方に顔を向けると胸の大きな森ガールが、プンスカッといった感じで、こっちにやってくる。

久しぶりの人間だ。
なんか怒ってるけど。

とりあえずトリステイン行きのフネが出る港までの道を教えてもらおうと思い声をかけ……。

「ぶへっ!」

声をかけようとしたら、ビンタされた。

「キノコは食べちゃダメってあれだけ言ったでしょう!」

「ええ~……?初対面ですけど……」

ビンタをくらってズサーっと倒れた体を起こし、ほっぺたを手でスリスリしながら答える。

「なんでそんな派手なキノコを食べちゃうの?!」

「え……?あの……お腹すいてたんで……」

「キノコを食べるにしても、もっと他にあるでしょう?!」

「えっと……あとは……赤いのと……虹色のを持ってますけど……」

「また採っちゃったの?!毎回捨ててるのに!」

女の子の剣幕に押され、俺はいつのまにやら正座をしている。
それにしても、なんで怒られてるんだ俺は……?

……。





……。





「お腹が空いてるなら家で何か食べさせてあげるから……」

「ホントに……?!」


あれから1時間ぐらい色々怒られていたが、俺がとにかくお腹がすいてるということを伝えると、そう言ってくれた。

「いやー、数カ月ぶりのマトモなご飯だよ」

「そういえば、あなたのお名前は?なんでずっと森の中にいたの?」

「俺はサイト、森の中に何で居たのかは今となっては俺にも判らないんだけど……とりあえずトリステインに帰りたい……」

「そう……、あなたのお名前はサイトっていうのね。わたしはティファニア、テファでいいわ」

「テファね、ありがとう」

「……」

「ん?どうしたの?」

「……サイトって、悪い人なの?」

「へ?基本的に人畜無害だけど……なんで?」

「その、格好……」

「……ああ、これ。ただのコスプレみたいなもんだから」

「コスプレ……?」

「訳あって、王子さまとユニフォーム・チェンジをしただけだから」

「?……。とにかく悪い人じゃないのね?」

「そう思ってもらって大丈夫だと思う」

……。

それから久しぶりの人との会話を楽しみながらテファの家へと向かった。
ただ、なぜ俺があんなに怒られたのかは結局、教えてくれなかった。

……。

「そうだわ!トリステインに帰りたいのよね?わたしのお姉さんみたいな人がトリステインで働いていて、そろそろ帰ってくるの」

「え?まじで?」

それはグッドタイミング。
やっとこさ運が向いてきた。

「姉さんにトリステインまで連れていってもらえばいいわ」

「なるほど」

「サイトって方向音痴でしょ……?」

「なぜそれを……」

……。





「ここがウエストウッド村よ」

「へー」

テファに連れられてやってきたウエストウッド村は、そう古くない木の家が10軒ほど建つ小さな村だった。
隠れ里みたいだな。

「それじゃあ、サイト。そっちの家が……」

「テファ!」

テファの指差す方を見ようとした、そのとき。
突然テファを呼ぶ女性の声が響いた。
そちらに顔を向けてみると見覚えのある緑髪の女性がいた。

「あっ、マチルダ姉さん!久しぶり」
「あっ、ロングビルさん!久しぶりです」

……。

あれっ?
テファと知り合い……?

いや、それより……。

久しぶりの再会に軽く挨拶をしたけれどもロングビルさんからの反応がない。
というか、なんか殺気立っている。
人形好きの髭貴族(モット伯)の時を思い出す。

さらに、なんかスペルを唱えている。
すると、あれよあれよという間に30メイルくらいのゴーレムが出来上がった。

「え?え?」

「テファに近づくんじゃないよ!この賊がっ!」

そう言うと同時に振り下ろされたゴーレムのビンタが、隣にいたテファを傷付けることなく正確に俺をふっ飛ばした。

「ぐへぇっ!」

「サイト!」





とんでもない勢いで吹っ飛ばされながら俺は、

なんで今日は、みんな出会い頭にビンタしてくるんだ……、

ああ、これは確実に死ぬな……、あのとき1UPしとけばよかった……、と思った。





@@@@@@@@@@





* 次回、サイト放浪中のルイズ達の100日間の話と、サイトの帰還でアルビオン編は終わりです。



[21361] 第21話 ハルケギニア動乱 前半
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:41


「いやー、それでそのクマはプ○さんって名前にしようとしたんですけどね」

「はぁ……」

「でも色々ヤバい気がするし、俺もある意味ぷーさんだから、ややこしいねってなことで……」

「あのサイトさん……」

「結局、レオナルド熊ということで落ち着いたんですが、今度はサルモネラがこの名前は嫌だと言い出して……」

「……サイトさん」

「サルモネラは猿なんですけど……、でも猿なのにビフィズスじゃオカシイだろと口論になって……」

「サイトさん!」

「はい?」

「そろそろ、こちらの事情も話したいのですが……」

「ああ……スイマセン……、数カ月ぶりに人の言葉で会話したもので嬉しくて……」

嬉しくて寝起きなのに捲したてるように話してしまった。
ロングビルさんは少し引いているし、テファも困惑顔だ。

……。





さて、なぜ俺が素敵なログハウスでロングビルさんたちと向かい合っているかというと、どうやら俺は行き倒れたらしい。
それを助けてくれたのが偶然帰省中で、森歩きをしていたロングビルさんと妹のテファということだ。
二人に介抱され、しこたま御馳走になった俺が久しぶりのベッドで倒れるように眠りについたのは昨夜のこと。

「ではまずサイトさん、身体は大丈夫ですか?」

「へ?身体ですか……?」

そう言われて自分の身体をあちこち確かめる。

「サイト大変だったのよ。心臓が止まっ……」

「100日も彷徨っていたそうですからね!体に負担を掛けてしまっているかもしれないですしね!」

「ああ、心配してもらってありがとうございます。ところで心臓って……」

「あーっと!ちょっと心音を確かめますね!」

そう言うとロングビルさんは俺の胸に耳を当ててくる。

「……うん、鼓動が速いけど問題はないと思います!」

「そうですか……」

というか、そりゃ鼓動も早くなるだろ……。
いきなり美人に密着されれば……。

「それに、サイト骨もいくつか折れ……」

「骨……?」

「あーっと!テファ!そろそろあの子たちのご飯を作ってあげなきゃ!」

「え?まだ、あの子たち朝御飯食べたばかり……」

「サイトさん!今回の任務は骨が折れたでしょう!」

「ええ、まぁ……」

何なんだろう……、今度はロングビルさんがペラペラ喋りだした……。

「あっ、ごめんなさい姉さん。記憶を消したのに喋っ……」

「記憶?」

「だああああああっ!……さっ、テファは準備をお願いね!」

そう言いながら、ロングビルさんはテファを部屋から押し出してしまった。





一体どうしたっていうん…………、!!!??

「だあああっーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

とんでもないことに気づいてしまった!

「っ!……サイトさん。どうかしました……?」

「ルーンが消えとる!!!!」

「え?」

「左手の紋紋が無くなってるんですよ!」

「……。へー、そうですか」

えっ?反応うすい……。

「便利だったのに……、懐中電灯がわりで……」

サバイバル中は、この左手にずっとお世話になっていた。
学院にいた頃はフォークを持つたびにチラチラ光って欝陶しかったが。

「しかし、一体何が……。ルイズは死なない限りとれない的なことを言っていたのに……」

「…………」

「う~ん……電池切れかな……?」

しかし、何処から電池をいれたらいいんだ……。

「…………。まぁ、いいんじゃないですか?別に……」

「えっ?……まぁ確かにそうですけど」

やけにドライなロングビルさんの言うとおり、別にいいっちゃ別にいい。
公衆浴場に入れないという懸念事項も解消されたわけだし。

「さて、テファも席を外してくれたし、サイトさんが居なくなってのこと、戦争のことなど説明しますね」

「……ああ、はい。お願いします」

なんか、やけにサクサク話をすすめるな……。

……。





@@@@@@@@@@





「ではまず、王党派と貴族派の戦争についてですが」

「貴族派が勝ったんですよね?」

「そうです。しかし王党派は玉砕戦に挑む前に若い貴族を中心とした部隊がごっそり離反してしまいます。結局、王と年輩の貴族たちは半日も持たずに玉砕、若い貴族たちはレコン・キスタに降伏しました。これは、どうやら王子が亡命した場合の作戦として前々から考えられていたようです」

「へー……、レコン・キスタは若い貴族たちを受け入れたんですか?」

「はい。王党派の旗色は元々圧倒的に悪かったので、土壇場での離反は怪しまれたようですが……。だけど王を見殺しにしているわけですからね……信用されたようです。しかし、その為今でも離反した彼らの評判は悪いですね」

なるほど。
王子も名誉を捨てて亡命したから、自分たちも名誉を捨てて後々の為にってことかな?

「後に王子が亡命したことが判明して、アルビオン共和国内で色々あったようですが……今はもう、あまり関係ないですね」

「?そうなんですか?」

「はい、レコン・キスタはクロムウェルを神聖皇帝として神聖アルビオン共和国建国を宣言したんですけど……。噂によると戦争の数日後からクロムウェルが急にオドオドし始めたようで……」

「オドオド?」

「はい。さらに求心力の要であった虚無の魔法を披露することも無くなったそうです。トップがそんな状態なので建国を宣言する頃には、レコン・キスタはまとまりを欠いていたようです」

「クロムウェルさんも大変ですねぇ」

「クロムウェルは少し前に行方をくらませてしまいました。さらに丁度その前後から何故かギアスが解けたかのように、貴族派からも王政復古の主張が出始めたそうです……」

「じゃあ、王子さまがアルビオンに戻って即位したんですか?」

「いえ、まだそこまでは……短い間に事態が二転三転して情勢も不安定です。それにレコン・キスタも完全に無くなったわけではないですし、その思想も残っています。しばらくの間は共和制を続けていくのでしょう」

「なるほど」

「アルビオン情勢については以上です」

「あれ?」

「?どうしました?」

「俺は何でアルビオンに来たんだっけ?」

「…………」

ロングビルさんの視線が冷たい……。
俺のアホさ加減に愛想を尽かしているのか……。

「ふふっ、相変わらずですね。……ではトリステインの話をしましょうか」

あれ?
冷たいと思ったけど、そんなことはなかったぜ。
微笑んでくれた。
それにしても笑うと、メチャクチャ綺麗だなこの人……。

「それでは説明しますね。まず、サイトさん達が出発してから2日後の昼すぎに風竜に乗ってアンリエッタ王女、ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ。さらにシッポに縛り付けられたウェールズ王子が魔法学院にやってきました。」

ああ、そういえばアルビオンへ王子様を誘拐しにきたのか……。

……。





@@@@@@@@@@





サイト出発から2日後のトリステイン魔法学院。


「ふぅ、まさか2日で帰ってくるとはのう……」

「あら、ずっと偏在で監視していたのでは?」

「そうじゃが、結局、出番は無かったのう」

まぁ、白仮面の中身は判ったんじゃが……。

「そういえば、アイツがいないようだけど……?」

「アイツ~?サイトくんのことかの~?……彼が気になるのかの~?」





バキッ!





「……殴らなくてもいいじゃろう」

「くだらないこと言ってないで、どうなんだい?」

「どうやらアルビオンに行ったようじゃが……偏在はアンリエッタ王女に(こっそり)付きっきりじゃからのう。フネの上から先は判らんなぁ……」

「…………」

「まぁ、彼なら大丈夫じゃろ。スッ転んだ拍子にレコン・キスタの大将をアルビオンから突き落とすぐらい、やってのけるかもしれんぞ?」

「そんなわけ……………………、いや…………やりかねない……」

「さて、おしゃべりはこのくらいにしてミス・ロングビル。ウェールズ王子を連れてきてくれんか」

「…………」

む?

「どうかしたかの?」

「……いえ、それでは行って参ります。オールド・オスマン」

………………。

…………。

……。






10分後。


「お待たせしました、オールド・オスマン」

ミス・ロングビルはそう言いながら扉を開けると、全長2メイル程のゴーレムで担いできたウェールズ王子を学院長室に投げ入れる。

ゴロンゴロンと転がる王子。

「……ちょっと乱暴すぎやせんか?」

「あら、そうですか?」

ふむ?
……ミス・ロングビル……なんか、ちょっと怖いのう。

「……アンリエッタ王女の様子はどうじゃった?」

「マザリーニ枢機卿が大大大お説教中です。ミス・ヴァリエールたちも一緒に」

ゲルマニア訪問の一行は、王女の体調が崩れたということにして今日まで魔法学院にとどまっていた。

「枢機卿も大変じゃのう。鳥の骨になるわけじゃ」

まあ、王女の失踪が表沙汰にならなかっただけマシか……。

「あと、王子のお付の二人が亡命を嘆願しているようでした」

「そうか……」

しかし枢機卿が受け入れることはないじゃろ。
となると、学院で……か。

……。

「それにしても、王子はまだ石化したままか……」

「ゴーレムで2、3回、引っぱたいてみましょうか?」

「…………君、なにか王子に恨みでもあるのか?」

「いえ、別に」

……。





しばらくして。


「ぐっ……、ここは…………」

部屋の真中で倒れていた王子がゆっくりと起き上がる。

「おお、目が覚めましたか殿下」

「アナタは……?」

「儂はトリステイン魔法学院の学院長、オスマンというものです」

「トリステイン……、そうか……私は生き恥を晒してしまったか……アンリエッタに迷惑をかけて……」

「ふむ……、アルビオンに帰らなくていいんですかな?」

「いや……、私がここにいるということは、……全て、私が亡命したときの手はずで動いてしまっているでしょう……」

「そうですか……。口惜しいでしょうが、アンリエッタ王女や部下の方々の気持ちも汲んでやってくだされ」

「………………はい……」

……。





「さて早速ですが、これからの話しをしましょうかの?」

「はい」

「今、殿下のお付の二人がトリステインのマザリーニ宰相に亡命を嘆願していますが、おそらく受け入れられないでしょうな」

「ええ……、当然です」

「というわけで、秘密裏に魔法学院に潜伏してもらうという形になると思いますが」

「……いや、しかし……ここに迷惑を掛けるわけには……」

「なあに、迷惑なんてことはありませんよ。それにマザリーニ宰相も、そのつもりでしょう」

「え?」

「今回のことは、うちのお姫様がやらかしたことですからの。公に受け入れられないとはいえ、突っぱねるようなことはしませんよ」

「…………」

「それに市井に紛れるよりもいいでしょう。木を隠すのは森の中、メイジを隠すのは…………の?」

「…………。……そうですか、……ありがとうございます」

……。





「しかし、堂々とお客様扱いするわけには行きませんからの」

「はい、なるべく目立たないかたちで……」

「では丁度その服を着ていることですし、ここでは殿下にサイトくんとして生活してもらいましょうか」

「?……そういえばこの服は?」

「フネの上に居たでしょう?彼はミス・ヴァリエールの使い魔のサイトくんです」

「使い魔……?」

「彼のような生活をしていればアナタがウェールズ王子だと疑うものは皆無ですよ」

「いや、学院の人たちも気づくでしょう……?」

「彼は学院に居着いた野良犬みたいなものですから。彼の変わった服は覚えていても顔までは覚えられてないんじゃないかのう」

「彼は何なのですか……、いったい……」

「犬猫の顔なんて見分けがつきませんじゃろ?」

「いやいや、でも……彼が帰って来たら……」

「サイトくんが2人になっても皆、気にしないんじゃなかろうか?」

「そんなバカな……」

「まあまあ、詳しい話はミス・ヴァリエールに聞いてくだされ。話は通しておきますから」

「はあ…………」

「では、ミス・ロングビル。怖い顔をやめて、殿下をご案内して差し上げなさい」

「……はい」

……。





@@@@@@@@@@





時は戻って、ウエストウッドのサイト達。


「いやいやいやいやいやいや」

どういう事やねん!
野良犬って!

急に2人になったらみんな気にするだろ、さすがに!
アメーバじゃないんだから!

「さすがに気づくでしょう!シエスタとかマルトーさんとか!」

「…………」

「あれっ……?」

「えっと……じゃあ、続きを話しますね……」





@@@@@@@@@@





ウェールズのサイト生活1日目(トリステイン到着翌日)


さて。

「ミス・ヴァリエールに聞いた、彼の生活その1・・・・調理場に行って餌をもらうとあるが……」

メモを読みながら学院内を歩く。
昨晩ミス・ヴァリエールが書いて渡してくれたものだ。

なんでも彼のような生活はダメ人間がおくるもので真人間が真似してはいけないらしい。
ましてや王族がするような生活ではないと……。

私がどうしてもと頼み込んで彼と同じ生活をさせてもらうことになったが……。

確かに藁の上で寝ることになるのは予想外だった。
しかし、女性のベッドを奪うわけにもいかない。
そもそも、女性と同室というのもどうかと思うが……、使い魔ということだし仕方ないのか……。

これを書いてもらうまでにも随分時間がかかってしまった。

「あらっ、サイトさん。朝御飯ですか?」

1人でふらついているとメイドの女の子に声をかけられた。
ちなみに2人の部下は学院の衛士として潜伏しているので別行動だ。

「え、と?……君は……」

「やだ、たった2日間お出かけしただけで忘れちゃったんですか?シエスタですよ」

「……そ、そうだったね。シエスタ……」

「まったく、サイトさんは相変わらずですね」

メイドの少女は可愛らしい笑顔でそう言いながら、私の手を引っ張る。

「さっ、マルトーさんも心配してますよ。サイトさんが3日もご飯もらいに来なかったから」

「いや、あの……」

……何で気づかないんだ……。

……。





「よう、我らの球!どうしたんだよ、食って寝る以外しないオマエが3日も飯をもらいに来ないなんて!」

調理場に案内されると、威勢のいい料理人に出迎えられた。
それにしても、我らの球とは、いったい……。

「マルトーさん、酷いんですよ!サイトさんったら私のことを忘れてたみたいなんです!」

「はははっ!我らの球は相変わらずだなぁ」

何で誰も気づかないんだ……?
というか彼は皆にどう思われているんだ……?

……。





「彼の生活その2・・・・玉っころを投げたり転がしたりして遊ぶ……」

なんだコレ……?

「この広場に落ちてる金属球を転がせばいいのか……?」

……。

メモのとおり、金属球を投げたり転がしたりしてみる。

「…………」

…………。

「何が面白いんだ……これは……?」

良く解らん……。

……。

「あっ、サイトじゃない!」

「ん?君は……?」

この遊びの面白さを見いだせないでいると、キレイな縦ロールの女の子に話しかけられた。

「ちょっとサイト!ギーシュはいつになったら帰ってくるのよ!」

「え?いや……」

「私をほったらかして、ルイズともう一人の女の子と旅行にいくなんて……!」

なにやら、この女の子からは、とてつもない威圧感を感じるが……。

「ルイズとサイトは帰って来てるっていうのに……!」

そう言うと彼女の目から光が消え、なにやらブツブツとつぶやき始めた。

「ふふっ……後3回だったけど……もういいわ……。……を手に入れて……作って……ギーシュに飲ませて……」

女の子は不穏な言葉をつぶやきながらフラフラと行ってしまった。

「なんだったんだ……?」

というか、やっぱり私に気づかないのか……。

……。





「彼の生活その3・・・・使い魔仲間と昼寝……」

メモに書いてあるのは、ここまでだ。

「…………」

どういう事だ……?
彼はこの3つをするだけで、1日を過ごしているのか……?

いや……、その1とその3は食事と睡眠だしな……。
実質、毎日何もしていないのと同じではないのか、これは?

……。

「しかし、使い魔仲間とは……」

あのサラマンダーとか風竜とかモグラとかバックベアードとかのことなのか?
と、広場で戯れる幻獣たちを見ながら考える。

「…………」

とりあえず寝てみるか……。

「あら、サイトじゃない」

広場で寝転がろうとしたら赤髪の派手な女の子に声をかけられた。
それにしても良く声をかけられるな、彼は。

「あら?アナタはウェール…」

赤髪の女の子が私の名前を呼ぼうとすると、隣にいた青髪の女の子が素早くその口を塞ぐ。

初めて気づかれたようだ……。
そういえば彼女たちはアンリエッタと一緒に居たな。

「今はサイトくんとして振舞っているので、そう呼んでくれないかな?」

「んぐぐぐぐ、……プハーッ。……分かったわ、サイト」

よし、一応聞いてみるか。

「ところでサイトくんは、毎日何をして過ごしているのかな?」

「え?サイト?」

どうも、このメモは信じられない。
こんな何もしない生活、人間が1日たりとも耐え切れるとは思えない。

「サイトは毎日、食べて寝て遊んで……それだけよ」

「…………」

どういう事だ……。

……。





@@@@@@@@@@





再び、ウエストウッドのサイト達。


「そうですか……、王子と会ったことのある……キュルケとタバサだけが……」

思いがけず、心に傷を負ってしまった……。

「あ、あのー。元気だしてください、サイトさん」

「ははっ……、俺なんか野良犬みたいなもんですから……顔も特徴ないですし……」

自分探しの旅に出ようかなぁ……。
100日間も1人旅した直後だけど……。

「サ、サイトさん!そういえばシエスタはサイトさんのこと好きだって言ってましたよ!」

何っ!

「マ、マジですか!?」

「はい」

……。





@@@@@@@@@@





ウェールズのサイト生活30日目


慣れたくもないこの生活に慣れてきたと実感している今日この頃。
私はシエスタに呼び出された。

「シエスタ、こんなところに呼び出してどうしたんだい?」

「あの……、わたし……サイトさんにどうしても伝えたい事があって……」

ふむ?
一体なんだろうな?こんな人気のないところで。

シエスタは顔を赤くして、なにやらモジモジしているが。

「わたし…………、サイトさんが好きです」

「ありえないだろう!!!!」

「え?」

「あ……、いや」

つい大声を出してしまった……。
だが、これは私が答えていいのかな……?

どうしたものか……。

シエスタは働きものだし、とても優しい子だ。
もし恋仲になれば、彼のような人間は彼女に頼り切りの爛れた生活をおくるに違いない。
まあ、現時点でも言えることだが。

そもそも、彼の何がシエスタを惹きつけたのか……。
それとも……、今の態度からも有り得ないとは思うが……彼女は私の正体に気づいているのか……?

「あー……、シエスタは私なんかの何がそんなに……」

「サイトさんは私があの貴族様に連れて行かれそうになったときに助けてくれましたし……」

ふむ。
やっぱり、私の正体に気づいているわけじゃないのか。

「サイトさんは、強くて、優しくて、何があっても動じなくて、キリッとして、かっこ良くて……」

「いや、それはない」

何があっても動かなくて、の間違いではないのか?

どうやら1回助けたことで(それも怪しいが)、彼女の中で彼はだいぶ神格化されているようだな。

…………うん。

よし!断ろう!

それが彼女のためだ。
彼のフリをしているからとはいえ、私はシエスタにとても良くしてもらっている。
この子は、とってもいい子だ。
そんな彼女が、不幸な人生を歩むのは見たくない。

「いいかい、シエスタ。私は食べて寝て遊んで、毎日働きもせず過ごしている、動物以下のダメ人間なんだ。君のような素敵な女の子とは釣り合わないよ」

「…………」

「君にはもっと素晴らしい人が……」

「サイトさん……、わたしじゃダメなんですか……?」

「いや……」

私(サイト)が、ダメ(人間)なんだけど。
断るための方便とかじゃなくて、本当に。

しかし、困ったな……。
これ以上、彼を卑下していいものか……。
女性の誘いを断るのがこんなに難しいのは初めてだ。

……。





@@@@@@@@@@





またまた、ウエストウッドのサイト達。


「DAMN IT!!!!」

「サ、サイトさん……?」

思わずアメリカ人になるほどの衝撃!

「あの王子様、なんで人の告白を勝手に断ってるんだ……」

オカシイだろ……。
色々と……。

第一級犯罪じゃないか。
24歳童貞に巡ってきた恋愛フラグを勝手に折るとか……。

「うわー!女の子が俺に好意をもつなんて10回輪廻転生しても有るか無いかというミラクルなのに!」

というかシエスタも告白するくらいなら気付こうよ……それ王子さまだよ……。

「………………はぁ……。それで……、結局どうなったんですか……?」

「はい、サイトさんはシエスタの兄代わりということで落ち着きました。あの子は兄弟でも一番上で、年上の兄や姉に憧れていたらしいんです」

「そっすか……」

「今では、その好意は恋愛感情じゃないと完全にウェールズ王子に丸め込まれたようです」

さすがイケメン王子様……、女性に断りを入れるのがウマイんだろうな……。

一等当選の宝くじをヤギさんに食べられた気分……。

それに……。

「なんていうか、王子様に俺のパーソナリティが完全に乗っ取られてませんか……?」

「……まあ、ウェールズ王子に気づいているのは、フネの上でウェールズ王子に会った面々とオールド・オスマンと私ぐらいですからね」

……。
どうなってるんだ、あの魔法学院は……。

「あっ、そういえば」

「え?他にも気づいてくれてる人がいるんですか?」

「いえ……、ミスタ・グラモンはフネの上で王子に会ったようですが、成りすましに気づいていませんね」

「…………」

ギーシュ……、マヌケにも程があるだろ……。

あれっ?

「と、言うか、アイツ無事にトリステインへ帰ってるんですか?」

「ええ、アンリエッタ王女たちが帰還した翌日の夜に、酷い二日酔い状態で……」

アイツ……俺が牢屋にぶち込まれてたのに、王宮で饗されていたというのか……?

「ミス・タバサがサイトさん達を迎えに風竜を飛ばしたらしいんですけど、ミスタ・グラモンだけを咥えて帰ってきたようです……」

「そのとき、俺は牢屋にぶち込まれてたからなぁ……」

はぁ……。

それにしてもタバサは優しいな……。

よし!
タバサや、みんなのために何かアルビオン土産を買っていこう。
俺の存在感を増すためにも。

……。





ただしギーシュ、テメーは駄目だ。





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*いつもより長くなったので21話は分割しました。
*ルイズやアンリエッタたちの話は後半で。
*後半は1週間以内に推敲して投稿するつもりです。



[21361] 第21話 ハルケギニア動乱 後半
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:18adeda4
Date: 2013/11/08 22:42




「え、と……。続きを話しても大丈夫ですか?サイトさん」

「ん?」

おみやげを何にしようか考えていたら、なにやら心配されてしまったようだ。

「あの……、シエスタの件で少しショックを受けられたようですから……」

「ああ……」

そういうことか。
確かにショックはでかいが、24歳のオッサンが17歳の女の子と付き合えないくらいで動揺したら……。
ロングビルさんに「こいつロリコンのうえに童貞かよ、キモっ!」と思われてしまうだろう。

オトナの余裕ってヤツを見せつけなければ。

「い、いやー、全然ショックなんて無いですよ!俺、前に居たところじゃ、しょっちゅう告白されてましたし!女の子とも100人ぐらい付き合ったかな?!」

「…………」

「……え、えっと、100人は言い過ぎましたけど10人くらい……いや、3人だったかな……」

「…………」

「……いや、あの……でも、1回もう少しでイケそうだって所まで行ったんですけど、お互いに酔いすぎちゃったって言うか……」

「…………」

「…………」

「…………さっき、女の子が俺に好意をもつなんて10輪廻転生しても、とかなんとか……?」

「…………スイマセン、キスすらしたことありません……(契約を除く)」

「いや、あの……、それはいいんですけど。……続きを話してもよろしいですか?」

「……はい、お願いします……」

「では、アンリエッタ王女の婚約から結婚式のあたりを……」

……。





@@@@@@@@@@





「なによコレ、全部白紙じゃない……」

まったく。
偽物を作るにしても、手を抜き過ぎじゃないかしら。

オールド・オスマンから渡された始祖の祈祷書は年代こそ感じさせるものの、明らかにニセモノだ。
しかも、肌身離さず持ち歩いて詔を考えなければいけないなんて。

でも、姫様たっての希望ということだ。
わたしは喜んで引き受けた。

……。

「おや、ミス・ヴァリエールじゃないか」

「あら、ウェー……サイト殿下」

考え事をしようと広場に出てきたらウェールズ王子に話しかけられた。

「……。やっぱりサイト殿下は止めてもらえないかな?」

「そんなこと出来ませんわ。殿下をサイト呼ばわりしているだけでも申し訳ないのに……」

「そ、そうか……。ところでその本は何かな?」

「コレですか……?これは……」

ウェールズ王子に一通り説明をする。

……。





「そうか……、アンリエッタの結婚式の……」

「ええ、でもなかなか思いつかなくて……」

「……。そうか……、では私も君が詔を作り上げる為に協力しようじゃないか」

「……え?……いやですわ、殿下。私は詔を考えているわけではありませんわ」

「ん?しかし君は今、なかなか思いつかなくて……、と……」

「わたしが考えていたのは、この結婚を破談に追い込む手段ですわ」

「…………」

「これで前日までに何もできなくとも、直接、式に参列できますし……」

「いや……」

「最悪、詔を読み上げる時にゲルマニア皇帝のアレを爆破しようと思ってるんですけど……」

「……そ、それは、なるべく止めてあげてくれないかな……」

「そうですわよね……。姫様に汚らしい血がかかってしまうかもしれませんし……」

「いや……、あの……、男として少し可哀想かなーっと……」

「……殿下、わたしに任せてくださいまし。必ず破談にして姫様と殿下を結びつけてみせますわ」

「アンリエッタが幸せなら私は別に……」

「姫様が殿下以外と結婚して、幸せになれるわけがないではありませんか!」

「それは…………」

「“貴族ならやってやれ”です!任せてください。必ず結婚式を潰してみせますわ!」

……。





@@@@@@@@@@





そして、アンリエッタの結婚式当日。


「ゔ~~~~、ウェールズ王子にあれだけ見栄を切っておいて結局なにも思いつかなかった……」

ゲルマニアの首府であるヴィンドボナにある大聖堂では、各国の王侯貴族がゲルマニア皇帝と姫様の結婚式を見守っている。
わたしも巫女として、端の方で待機していた。

もう結婚の誓いを行う寸前だ。
今は隅っこに居るわたしも、誓いが終わったら2人の前に行き、詔を読みあげなければならない。

姫様は先程からずっと悲しそうな顔をなされている……。
大聖堂に向かうまでのあいだは気丈にも観衆に笑顔で答えていたのに……。

「やっぱり、わたしが何とかしなくちゃ……!」

でもどうやって……?
やっぱり、爆破するしか……。

……こんな時サイトなら、どうするだろうか。
アイツはアホだけど、こういう土壇場ではそこそこ頭が回る。

「まったく、この大事なときに勝手に居なくなって!アイツは何処で油売ってんのよ!」

サイトへの怒りで拳を握りしめると、姫様からお借りした(借りパクした)水のルビーが光っていることに気づいた。

「あれ?」

始祖の祈祷書も光っている。
なんだろう、これは。
ゆっくり祈祷書を開く。





序文。
 
これより我が知りし真理をこの書に記す。
この世のすべての物質は、小さな粒より為る。
四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。
神は我にさらなる力を与えられた。
四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。
神が我に与えしその系統は、四の何れにも属せず。
我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。
四にあらざれば零。
零すなわちこれ虚無。
我は神が我に与えし零を虚無の系統と名づけん。

……。





「……フ、フフフフフッ……」

笑いが込み上げてくる。

虚無?

そんなことはどうでもいい。

今わたしは、姫様の結婚式を潰す手段を手に入れたのだ。
わたしを友だちと言ってくれた姫様の悲しい顔をこれ以上見なくて済むのだ。

大聖堂に居る全員がゲルマニア皇帝と姫様に注目している今。

「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ」

わたしは一人、後ろを向き壁に向かって祈祷書に書かれたルーン文字を小声で読み上げる。

「オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド」

わかりました、始祖ブリミル。

「ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ」

あなたの言いたいことが「言葉」ではなく「心」で。

「ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル」

つまり……。

「ブッ潰すと心のなかで思ったのなら、そのとき既に行動は終っているんですね……」





次の瞬間、大聖堂は白い光につつまれた。

……。





@@@@@@@@@@





「へー、白い光ですか」

「はい、そして光が止んで列席者が目を開けると大聖堂は綺麗サッパリ消え失せていました」

「え?人はそのままで、建物だけが?」

「はい、正確には大聖堂とアルブレヒト3世の衣服ですね」

「…………What?」

「はじめは何かの趣向かと静かにしていた列席者も、それに気がつくと流石にざわつき始めました……」





@@@@@@@@@@





ざわ…     ざわ…     ざわ…

「……誰か!早く閣下に羽織るものを……!」

「落ち着けい!そんなことより周囲に警戒しろ!レコン・キスタの仕業かもしれん!」

慌てる部下をたしなめ、冷静に行動するゲルマニア皇帝。

「おお……、流石は帝政ゲルマニアの皇帝だ……」

「こんな状況(全裸)でもなんと威厳のある姿……」

観衆も、その堂々とした振る舞いに感心する。

「アンリエッタ王女、大丈夫だ。オマエは私が守る」

そして、自らが全裸でも王女を気遣うアルブレヒト3世。

「…………」

「アンリエッタ……?」

皇帝と向い合ってはいるが、何故か目線が下を向いているアンリエッタ王女。

観衆も、俯き加減の王女様に心配を隠せない。

「…………………………ふっ」

ざわ…     ざわ…     ざわ…

「おお……、アンリエッタ王女が笑われた……」

「大聖堂に入ってから、ずっと悲しそうにしていたアンリエッタ王女が……」

「閣下の“閣下”を見て……」

「(鼻で)笑われた……」

観衆も、その笑顔に心を奪われる。

「グフッ……」

そして膝を付くアルブレヒト3世。

ざわ…     ざわ…     ざわ…

「ああっ、閣下が……」

「列席者どころか、大聖堂の周りに集まった大観衆に全裸を晒しても威厳を失わなかった閣下が……」

「膝から崩れ落ちた……」

「誰かー!早く閣下に羽織るものをー!」

……。





@@@@@@@@@@





世紀の結婚式から数日後。


「しかし、凄いことになってしまったな……」

学院の広場で昼寝をしながら思い出す。

自分の中で、ケジメをつけようと変装してアンリエッタの結婚式をコッソリ覗きに行ったのだが。
まさか、あのような事態になるとは……。

結局、式は中止に。
それに、いろいろな要素も絡んで、いまや婚約と同盟そのものが危ぶまれる状態だ。

「やはり、あれはミス・ヴァリエールがやったのだろうか……?」

爆破よりもましだが、アレはアレでヒドい……。
アルブレヒト3世は何も悪いことをしていないのに……。

「ウェールズさま~!」

「ん?」

目を開けて声のする方に顔を向けると、ミス・ヴァリエールが私に向かって駆け寄ってくる。

「ウェールズさま!」

そして、何故か私の胸に飛び込んでくるミス・ヴァリエール。

「ミ、ミス・ヴァリエール。その名は、ここでは……」

「え?どうしてなのですか?」

「え?今、私はサイトくんとして潜伏しているんだから、その名はマズイだろう……」

「そ、そうでしたわね!」

「…………?」

何か、おかしいな?

「ああ、ところで結婚式でのアレは……、君がやったのかな……?」

「アレ?」

「あの、白い光は……」

「ウェールズさま、わたくしの結婚式にいらしていたんですか!?」

「わたくしの……?」

「…………はっ!」

「君は……、もしかして……」

まさか……。
また、やってしまったのか……この娘は……?

……。

「サイト殿下~~」

「ん?」

後ろを振り向くと、またしてもミス・ヴァリエールが私の方へ駆け寄ってくる。

「サイト殿下……。あらっ……?…………ちょ、ちょっと何よ!なんでわたしがもう一人居るの?!」

「いや、ミス・ヴァリエール……これは……」

「アンタ……、わたしを騙って殿下に近づくとは、いい度胸ね……」

ユラリとした動きで杖を取り出し、構えるミス・ヴァリエール。

「まって、ルイズ!わたくしよ」

「え?」

「……あ~~……ミス・ヴァリエール、大変遺憾なのだが……アンリエッタが今度は一人で脱走してしまったらしい……」

「……そういえば、その胸……、そして、そのティアラ……」

自分の偽者をミス・ヴァリエールはじっくり眺め回す。

「わたくしですわ、ルイズ」

「ひ、姫様~」

がっしりと抱き合う同じ顔の二人。

たしかに、偽ミス・ヴァリエールは学院の制服こそ身につけているが……。
今思えば、本物よりも背が高いし、身体が成熟して見える。

しかし、ティアラは外さないとマズイだろう……。

「アンリエッタ……、それにしても、その顔はどうやって……?」

「フェイス・チェンジですわ」

「フェイス・チェンジって……、スクウェア・スペルじゃないか……」

「なんかやってみたら出来ました」

そんな簡単にスクウェア・スペルを……。

「スゴイじゃないですか!姫様!」

「ウェールズさまに会えると思えば、なんでもできますわ」

「そ、そうか……」

アンリエッタ……、こんなにアグレッシブな娘だったかな……?

……。





「なるほど……やはり、ミス・ヴァリエールが……それも虚無とは……」

本物のミス・ヴァリエールに白い光の事を尋ねると、やはり彼女の仕業ということだった。

「ええ、姫様に頂いた(借りパクした)水のルビーと始祖の祈祷書、この二つが鍵になっていたようです」

「スゴイわ、ルイズ!あなたが虚無の担い手だなんて。……でも、その指輪は確かアルビオン出発前日に貸しただけだったような……」

「姫様!このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、これから先、姫様に仇なす者は皆、光の彼方に葬り去ってみせますわ!」

「えと、とても頼もしいのですが……。……まあ、わたくしが持っていても役に立つものではありませんしね。その指輪はルイズに与えますわ」

「ありがとうございます!」

「…………」

これが、この国の王女と虚無の担い手か……。

トリステイン……。

……。





@@@@@@@@@@





「……結局、結婚はどうなったんですか?」

「式は即刻中止されました。そして、婚約や同盟についても見直されようとしていますね」

「え?そんな……」

何のために、俺達はアルビオンに乗り込んだんだ……。
何のために、俺は100日間も迷子になったというんだ……。

「まず、トリステインとゲルマニアにとって同盟や結婚のメリットが無くなってきているというのがあります」

「はぁ……」

「トリステインは元々ほとんどの貴族が心情的にゲルマニアとの同盟は反対ですし……、ましてや次期女王のアンリエッタ王女が嫁ぐわけですから……。同盟の最大の理由、アルビオンの脅威も現時点では無いに等しいですし」

王女様が嫁いだら、誰が王位を継ぐ予定だったんだろう?
ルイズのお父さんとか、かな?

「ゲルマニアは始祖の血筋が欲しいというのはあるのでしょうが……。アルブレヒト3世がアンリエッタ王女との結婚に消極的になっていて……」

「それは……」

しょうが無いよ……。
俺だったら、豆腐の角に頭ぶつけて自殺するレベル。

「……婚約が発表された直後からも良くない噂などがあったんです……」

「噂?」

「はい、アンリエッタ王女がウェールズ王子の子供を身篭っていたとか……、実は空賊の親分の子だとか……、既に出産しているとか……、空中で出産したとか……。丁度、噂の日付にアンリエッタ王女は体調不良ということで姿を表しませんでしたし……」

「…………」

「このような噂が何故かトリステインのフナ乗りたちから広まって……」

「…………」

「間の悪いことに、神聖アルビオン共和国からアンリエッタ王女直筆の王家の紋章入りラブレターが公開されて……」

「…………」

「アルブレヒト3世は噂を笑って受け流してくれていたんですけど……、式当日にあんな事が……」

「……不憫すぎる……」

そして、ごめんなさい……。
その噂100%俺達のせいです……。

そして、ラブレター……。
俺がオリバーさんに渡したヤツかな?
オリバーさんアルビオンの貴族派に手紙を取り上げられちゃったのか?

……。

まあ、いまさら考えてもしょうが無い。
あれがラブレターかどうかも俺は知らんし。
ドンマイ、ドンマイ。





「それにしても、お姫様は城を抜けだしてまで王子様に会いに来るとは……」

「ちょくちょく来ますよ」

「マジすか!」

「ええ、毎回だれかに化けて学院にやってくるんですけど……」

あの王子誘拐旅行で脱走癖がついてしまったのか……。

「いつもティアラを着けているので、すぐわかります」

それは……、化ける気あるのか……?

「バカ殿が白塗りで城下に遊びにいくようなものですね」

「バカ……?」

「ああ、こっちの話です、……しかし、それじゃあ爺も大変でしょうに……」

「じい……?……マザリーニ宰相のことでしょうか」

「学院にやって来た時もお姫様の近くにいましたよね。やっぱり、あの人が連れ戻しに来るんですか?」

「いえ、さすがに宰相が直接迎えに来るということは……」

そりゃそうか。

「毎回、銃士隊のアニエスという人が連れ戻しに来ますよ」

誰だ、それ?

「それに、マザリーニ宰相は……」

……。





@@@@@@@@@@





王女帰還直後、ある日のトリステイン王宮。


廊下を歩くヴァリエール公爵。

「おお、これは枢機卿」

「……これはヴァリエール公爵。お久しぶりですな……」

「ふむ……、なにやら顔色が悪いようだが。どうかなされたのかな?」

「はは……、少々、頭の痛いことがありましてな……やらなければならないことも山積みですし……」

「水のメイジに診てもらった方が良いのではないか?」

「……そうですな。時間ができたら診てもらうことにします……」

……。





アンリエッタ王女結婚式直後、ある日のトリステイン王宮。


廊下を歩くヴァリエール公爵。

「ん?……そこの者、大丈夫か?だいぶフラついているが?」

「……おお……、ヴァリエール公爵……」

「なっ!枢機卿!?以前にも増して顔色が悪くなっているぞ!」

「な……何……、姫殿下の式のことで、ゲルマニアや我が国の貴族たちから少々うるさく言われましてな……」

「とにかく、今すぐ水メイジに診せなくては……生まれたての仔羊が歩いているようだぞ」

「いや……、私は、まだやることが……」

「そんな場合では、ないだろう……」

……。





アンリエッタ数回目の脱走中、ある日のトリステイン王宮。


廊下を歩くヴァリエール公爵。

「ん?……誰だ、こんなところにボロ布を置いているのは……」

「……うう………………う……」

「枢機卿!?どうしたというのだ、いったい!」

「…………おお、……公爵、……なに……姫殿下が少々ヤンチャでしてな……おちおち仕事もしていられず……」

「いや!それより、アナタは大丈夫なのか!?」

「…………だ、……だいじょうぶい……」

「だ、誰かー!医者だ!医者を呼んでくれー!」

……。





@@@@@@@@@@





「……凄まじい、心労っすね……」

「ええ……、ただでさえトリステインの政治を一手に担っているのに、ここの最近の心労は計り知れないですね……」

桑マンも大変だなあ……。

「宰相に負担がかかりすぎている現状を見かねたヴァリエール公爵がマリアンヌ皇后に進言したようで……。近々、皇后様が女王に即位するようです」

「まあ、王女様がアレじゃあ……」

「ええ……、マリアンヌ皇后も、さすがに今のアンリエッタ王女が王位につくのは、よろしくないと思ったようです」

「あれ?桑マンといえば……、田代さんはどうしたんですか?」

「タシロ……?」

「ああ、田代じゃないや、……えーと」

……。

あの人の名前なんだっけ……?

「えと、ヒゲを生やして……、グラサン……はかけてないな……、帽子をかぶった……、グリフォンに乗ってる……」

「ああ、ワルド子爵ですね」

「!そうです!ワルドさん!」

「正確には元子爵ですが」

「元……?」

「彼は、爵位を剥奪されて、領地も没収されました」

「ええ?!一体何が……。もしやロリコンがバレて……」

「いえ、彼はレコン・キスタのスパイだったようです」

「ああ、そうなんですか」

「…………。……あまり、驚かないですね……」

「もう、あの人のこと、ほとんど覚えていないので……」

「…………。……実は旅の間、アンリエッタ王女をオールド・オスマンの偏在が見守っていたんですけど……」

「へー……」

「特に偏在が活躍することは無かったようですが、ワルド子爵の正体は影から丸見えだったようです」

「なるほど」

「サイトさんたちを襲った白仮面も彼の偏在だったようですよ」

「ああ……、ルイズに速攻で撃ち落されたアレが……」

しかし、ロリコンの上に白仮面とは……。

「魔法衛士隊隊長も当然解任されました」

「……それで、彼の後釜にダチョウCLUBというわけですね?」

「いえ、違いますが……。……ダチョウ?」

「スイマセン、なんでもないです……」

「?……よくわかりませんが……。彼は今、トリステインとレコン・キスタの2重スパイをしていて、どっちつかずのコウモリ状態のようです」

「どちらにも信用されてないと……」

「あと、ときどき学院に来てはミス・ヴァリエールを口説いていますね」

「そっすか……」

筋金入りのロリコンだな……。

「でも、ヴァリエール公爵が怒って婚約は解消されたようですし、ミス・ヴァリエールも相手にしていませんね」

「まあ、裏切り者ですしね」

「そういえばヴァリエール公爵はモット伯にも激怒しているようで、ワルドとモット伯の2人には刺客を送り込んだという噂が……」

モット伯……、人形好きのHENTAIさんだっけか……。

「なんか、物騒ですね……」

「ちなみにモット伯は男性機能を失って神官の道に進んだそうです」

「怖っ!」

「刺客の噂が本当かどうかは判りませんが……」

ルイズに近づくHENTAIは去勢されてしまうというのか……。
俺も気をつけなければ……。
俺はHENTAIじゃないけど……。





…………たぶん。





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* 20話のあとがきで、次回アルビオン編完結と書いたな……、アレは嘘だ。
* ……ごめんなさい、次回サイトが学院に帰還して本当に完結です。



[21361] 第22話 帰ってきたヨッパライ
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:e3208fd7
Date: 2013/11/08 22:42



「はぁ…………」

「もう、元気出しなさいよルイズ。サイトなら生きてるわよ、……きっと」


昼食後のキュルケ達とのティータイム中についつい溜め息が漏れてしまう。
アルビオンに向かうフネの上でサイトにアルビオン行きを命じたは良いが、それから数ヶ月なんの音沙汰もない。

姫さまの結婚式までの1ヶ月は、それの事しか考えられずサイトのことは大して気にしていなかった。
しかし、結婚式が見事失敗に終わり、張り詰めていた気持ちが一気に緩むとだんだん不安になってきた。

「まさか、サイトがルイズの大事な人になるとはねー」

「はぁっ!?ちょっと、勘違いしないでよ!可愛がってたペットに逃げられて怒りが収まらないだけなんだから!」

「可愛がってたんだ……」

「……言葉の綾よっ!」

あのときはギーシュ一人で行かせる不安と、その場のノリでサイトを行かせてしまったけど……。
そもそもサイトがついて行ったところで何になるわけでもないし。
むしろ、ギーシュに仕事が増えるだけのような気がする。
まあ実際のところギーシュは翌日に1人で帰ってきたんだけど。
それに、サイトとはアルビオン国王と謁見する前に別れてから一度も会ってないって言うし。

「……はぁ…………」

…………。

「…………そんなに気になるなら、サイトが生きているかどうか確かめてみたら?」

「え?」

「サモン・サーヴァント」

「……ああ!」

スッカリ忘れていた。
サモン・サーヴァント。
使い魔召喚のこの魔法は契約している使い魔がいると召喚のゲートは開かない。
つまりサイトが生きていればゲートは開かないが、死んでしまっていたらゲートが開いてしまう。

「そうね……。やってみるわ!」

……。





善は急げと広場に出てきて、早速スペルを唱える。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、使い魔を召還せよ!」

「「…………」」

……。





そして。

キュルケとタバサが見守るなか。

スペルを唱えたわたしの前に、召喚のゲートは開いてしまった。





@@@@@@@@@@





「……うむ、ふつくしい……」


木陰に腰をおろし、ウエストウッドの近くの街で買い込んだおみやげを眺めながらつぶやく。

俺が迷子中に何があったのか一通り説明を受けたあと、ロングビルさんが日用品の買い出しに行くということなので同行させてもらった。
俺は、そこで学院のみんなへのおみやげを買い込んできたのだ。

旅行のおみやげ選びは、その人のセンスが問われる。
迷いに迷ったが市場の露店で一際異彩を放っていた高さ10センチほどの木彫り人形をカバンに入るだけ買った。
というか買い占めてきた。

「見れば見るほど怪しい魅力を感じるな……」

何を模して作られたものだろうか?
顔は豚っぽいし体はでっぷりしているが……。
しかし、造形が雑なのでイマイチ判断がつかない。
また、その造りの雑さが人形になんとも言えないオーラをまとわせていて、人形の魅力を際立たせている。

「これは、やっぱり取り合いになっちゃうかもな……」

たくさん買って正解だろ、コレは。

……。





「サイトー。どこー?」


「ん?」

人形鑑賞に夢中になっているとテファの呼ぶ声が聞こえた。

「おーい、こっちこっち」

「ああ、サイト。こんなところに居…………」

「ん?」

「サイト……それは……」

テファの熱視線がおみやげの人形に注がれる。

「ああ、カッコイイだろコレ。学院のみんなにおみやげとして買ったんだ」

「…………」

「……どうしたの?」

「……それ……、あそこで昔から売っているけど……、1度も売れているところを見たことなかったの……」

「へー、カッコイイのに」

「子供たちも……、その人形の露店の前を通ると泣いちゃって……」

「あー、子供は欲しい物は手に入れないと気が済まないからね。ダダこねられると大変でしょ?」

「…………」

「俺が買い占めちゃったんだけど、何個かあげようか?」

「要らない!」

「そ、そう……」

そんなに遠慮しなくてもいいのに……。

「でも露店のオジサン、全部売れちゃったから仕入れがてら別の町に行っちゃうって言ってたよ?」

「ホント!?」

「うん」

「ありがとうサイト!」

「え?……どういたしまして?」

なぜかテファに感謝されてしまった。

……。

「ところで、俺に何か用?」

「あ、そうそう。サイト、水浴びしたほうがいいと思って」

「ああ……、確かに」

100日も彷徨っていた間、俺は当然風呂に入ってないし、動物たちと過ごしていたせいで獣臭もスゴイだろう。

「近くに川があるから案内するわ」

「うん。じゃあ、よろしく」

……。





@@@@@@@@@@





「…………」

「…………」


何故か空気が重い……。

テファに案内されながら森の中を進んでいたんだが、会話が弾まない。
テファ、結構しゃべる娘だったんだけどな。

ここに来てテファは何かを考え込んでいる。

「…………」

ここは俺が何か言って雰囲気を良くしないとマズイか……。

「…………オホン。先日、うちのワイフが……」

「ねぇ、サイト……わたしの耳を見てどう思う?」

「え?……すごく……大きいです……」

唐突に小粋なジョークを話そうとしたら唐突に耳の話題を振られてしまった。

「マチルダ姉さんがね、サイトになら見せても大丈夫だろうって言ってくれたから……隠してないんだけど……」

「え……あの、……うん、大丈夫」

何が大丈夫なのか、よく分からないけど……。
ロングビルさん、どういうこと?

耳が大きいのコンプレックスなのかな……?

「どうして、こんなに大きいんだと思う?」

「え?」

なにそれ。
ちょっと難しすぎるよ、そのなぞなぞ。

「え、と……、それは……、赤ずきんちゃんのかわいい声がよく聞こえるように……」

「…………」

「…………」

…………。

うん……、まあ……。
違うとは思ってたんだけど……。

テファは毛むくじゃらじゃないし、口も大きくないし。

「サイトは、わたしが怖くないの?」

「え?やっぱり狼なの?」

毛むくじゃらじゃないし、口も大きくないのに。

「え?狼……?……ではないけど……」

「いや……、じゃあ怖くはないけど……。俺も赤ずきんちゃんってわけじゃないし……」

「…………」

「…………」

なんか、ますます変な空気になっちゃったな……。
しかし、いきなりトークテーマ“耳”で話を振られても困る……。

とりあえずテファは耳がコンプレックスらしいからフォローしてあげよう。

「大丈夫。テファのその耳よく似合ってるよ。うん、カッコイイ」

「サイトにカッコイイって言われると……。アレもカッコイイって言ってたし……」

「…………」

「でも……、気にしてないみたいだし……ちょっと嬉しいかも……」

…………。

その後、テファは元気を取り戻し、歩きながら森の色々なものを俺に説明してくれた。

……。





「うん、川だな」

「わたしたちはここで水浴びするの」

テファに案内されて着いたそこは、正に清流というべき川だった。

「冷たそう……」

川の中にお湯湧いてるトコとか無いのかな。

っていうか温泉ないのかな。
JAPAN男児としては、どうせならお湯に浸かりたい。
折角、左手の紋紋がとれて公衆浴場に入れるようになったんだから。

……そういえば魔法学院に帰ったら、また契約で左手にアレが刻み込まれるんだろうか……?

「…………」

どうしよう……。

前回は、こっちに呼び出されてワケワカラナイうちに契約されたんだが。
あのときは、ゲロ吐きそうなぐらい痛かったからな……。

何か代わりの使い魔をルイズに持っていったほうがいいな……。

「う~ん……。……テファ、この辺にカエルっているかな?」

「え?……探せばいると思うけど。サイト、カエルが苦手なの?」

「ああ、いやいや。そうじゃなくて、捕まえて帰ろうかと思って」

「?」

たしか、モンモランシーの使い魔がカエルだった。
使い魔としてオカシくはないだろう。

問題はルイズが納得するかだが……。
まあ、ルイズは見栄っ張りだからな。
モンモランシーのより大きなカエルなら許してくれるだろう。

………………。

…………。

……。





「なかなか見つからないな……」

水浴びしたあとに汗をかきたくないから、先にカエルを探す。
しかし、小一時間ほど探しているがカエルは見つからない。

見つかったのは、どことなく卑猥な形をした石くらいだ。
Japanese Hentai フィギュアと同レベルのグラマラスな形をしている
これはギーシュにでもあげよう。

「テファー、カエルいたー?」

「……ごめんなさい。見つからないわ」

「いや、探してくれてありがとう」

「そもそも、どうしてカエルを探してるの?」

「それは学院に帰ったときに…………って、あれ?」

「……?どうしたの、サイト?」

「なんか目の前に変なモノが……」

カエルを探しながらテファと会話をしていると突然目の前に鏡のようなモノが出現した。

「なんだコレ……?」

なんかやばそうだな……。

「プラズマかな?」

大槻教授だったらハルケギニアの全てをプラズマで解決してくれるんだろうな……。

「これ、召喚のゲートじゃない?」

「そうなの?」

テファによるとサモン・サーヴァントのゲートではないかという。

「だけど、どうしてサイトの前に?」

「ルイズが呼んでるのかな?」

「ルイズ?」

「俺、前にもルイズに使い魔として召喚されたから」

「…………。サイトって人間よね……?」

「まあ、そうなんだけど……」

しかし。
前回の俺は知らないうちに、こんなものに飛び込んでいたのか……。
恐ろしい……。

だが、そういうことなら急がねば。
幸いカバンとウォーハンマーは持ってきているし、このゲートで帰れるなら楽でいい。
召喚のゲートが閉じる前に飛び込まねば。

「こうなったら、生物なら何でもいいや。…………何かいないか?」

辺りをざっと見回すと、近くの木の幹にカタツムリが這っていた。

「よし!君に決めた!」

カタツムリをひっぺがし、ポケットへ入れる。

「じゃあ、テファ!俺帰るから。ロングビルさんによろしく言っておいてくれ」

「え?本当に行っちゃうの……?」

「うん、俺は馬に乗れないから。普通に帰るとロングビルさんに迷惑かけるし」

「……そう。……サイト……また来てくれる?」

「う~ん、ロングビルさんに案内してもらえれば……来られるかも……」

「……約束よ?」

「おk、おk。……じゃあ、またね」

別れの挨拶を超スピードで済ませ、光るゲートに突入する。

「デュワッ!」

……。





@@@@@@@@@@





「ルイズ……」

「…………」

「残念だけど……」

「わたしのせいよ……」

「…………」

「わたしがアルビオンに行けなんて言ったから……」

「…………。とりあえず部屋に戻りましょう?」

「…………」

「ほら、立って……」


「どわああああああああああああああああああああああああああ」

「「「!!!!」」」

「ぐへっ!」

「な、なに?」

……。





「オエエエエ…………」

気持ち悪い……。
召喚のゲートに入った瞬間、上も下もわからなくなり変な無重力感を体験してしまった。
しかも、出口のゲート位置が微妙に高かったので地面にたたきつけられるというおまけ付き。
初めての時は、こんなことなかったのに……。

三半規管がやられてフラフラする体を何とか立たせて辺りを見回す。

「久しぶりだな……、この広場……」

などと感慨にふけろうとしたその時。

ドガアアアアアアン!!!!!!

「ブへっ!!!!」

突然目の前が真っ白になったかと思うと顔面に強い衝撃が走る。
首を限界まで仰け反らせるほどの衝撃に、俺は耐え切れず尻もちをついた。

「ちょっとルイズ!いきなりなにしてるのよ!」

「離してキュルケ!サイトが死んで唯でさえ辛いのに、新しい使い魔があんなに汚い物乞いなんて、わたし耐えられない!」

「だからっていきなり爆発を叩きこむことは無いでしょう?!」

「爆発で全てを消し去り、無かったことにするのよ!」

何か、物騒な言い争いが聞こえてくる。

「お願いキュルケ!わたしを少しでも哀れと思うなら止めないで!」

「…………。しようがないわね……」

「ちょっと待てー!!!!」

全然しようがなくないから!

「ルイズ!キュルケ!タバサ!俺だよオレオレ!サイトだよ!」

慌てて、フネの上から今まで一度も外さなかったズラと付け髭を取る。

「「え?」」

一瞬、呆気にとられた様子の二人だが恐る恐る、俺に近づいてくる。
そして、周囲をグルグル周りながらルイズとキュルケがジロジロと俺を観察してくる。

「サイトなの……?」

「うん」

「……アンタ、なんでそんなカッコしてるの?」

「ルイズ達が無理やり着せたんだろ……」

「生きてたの……?」

「まあ、なんとか……。……ルイズ?」

ルイズがうつむいてしまった。
様子を見に近づこう……。

「サイトー!!!!」

と、思ったら突然抱きついてきた。

「アンタ!こんなに長い間いなくなって!何考えてるのよ!」

「いや、ルイズがアルビオン行って来いって言うから……」

「一体アルビオンで何して…………って臭っ!!!!」

「ブへっ!!!!」

久しぶりの再開に胸が熱くなろうかというときに、拳で頬を殴られた。

だが、ちょっと待って欲しい。
この子、さっきから酷すぎないだろうか?

「ルイズ……女の子のパンチでも……顎に入ったら流石に効くぞ……」

「……だって、アンタとんでもなく臭いんだもん……」

「さっきもゲートから出た瞬間、爆発かまされたし……」

「……だって、とんでもなく汚いんだもん……」

まったく。
この格好で行き倒れていた俺を優しく介抱してくれたロングビルさんとテファを少しは見習って欲しい。

出会い頭に手を出すなんて最低だぞ。

……。





「そういえばサイト。あなた何でまた召喚されたの?使い魔の契約されていたでしょう?」

「そうよ!アンタなんで召喚されたの?!」

「え?いや、ルイズの使い魔だから召喚されたんじゃないの?」

「契約してる使い魔が居るとサモン・サーヴァントのゲートは開かないの!」

ああ、そういえばそうだっけ。
と、なると。

「じゃあ、左手のルーンが消えちゃったからかなぁ?」

「はぁ?!ルーンが消えた?!」

「うん。ほら」

ルイズ達に左手の甲を見せる。

「ちょっと!アンタこれどうしたのよ!」

「いや、俺もよくわかんないんだけど。行き倒れたところをロングビルさんに助けてもらって、気づいたら消えてたんだよ」

「ミス・ロングビルに?」

「そういえば学院が長期休暇に入ったら、少しの間帰省するって言っていたような……」

「故郷ってアルビオンだったのねぇ……」

ということは、学院は長期休暇中なのか。
なんで学院にいるんだ?この3人。

「って、そうじゃないでしょ!どうすんのよコレ!」

「どうするもなにも、またコントラクト・サーヴァントすればいいじゃない」

「「…………」」

すればいいじゃないって……。

「キュルケ……、簡単に言うけどアレめちゃくちゃ痛いんだからな……」

「えー……、またサイトにしなくちゃいけないの……?」

…………。

ルイズそんなに嫌そうな顔するなよ……。
心が砕け散りそうになるじゃないか……。

「そんな事言ったって、しようがないじゃない」

「「…………」」

あっ!

「そうだ!」

「どうしたのサイト?」

「こんな時のために持ってきたんだ」

ポケットを探り、それを取り出す。

「じゃーん!カタツムリ~」

「「「…………」」」

「ほら、ルイズ!このカタツムリと契約すればいいよ。本当はカエルを捕まえてこようと思ってたん……ブへっ!!」

全てを言いきる前に、先ほどとは反対側の頬を殴られた。

「アンタねぇ!カタツムリって、わたしを馬鹿にしてるのっ?!」

「いや、そんなことは……カエルが見つからなかったから仕方なく……」

「アンタ……、もしポケットから取り出したのがカエルだったら……その瞬間にハラワタぶちまけて死んでたわよ……?」

怖っ!
カタツムリでよかった……。

「だいたい、コントラクト・サーヴァントはサモン・サーヴァントで召喚した生き物としかできないの!」

「でも、アレ本当に痛いんだけど……」

「う~ん……・」

「それに、ほら!今のままならルイズが好きなときに俺を召喚できるじゃん!便利だよ!」

「……そっか、たしかに便利ね……」

元々、ルイズも再契約(というかキス)に乗り気じゃないからな。
なんとか丸め込めそう。

「じゃ、このままでいっか」

「まあ、あなたたちが良いなら、それでいいんじゃない?」

……。





「そういえば俺、みんなにおみやげ買ってきたんだった」

「……アンタ、アルビオンで何してたのよ……」

「心配して損したかも……」

「いや、昨日ロングビルさんに助けられるまでは結構やばかったんだけど……」

何故か呆れられてしまった。
とりあえずカバンから人形を一つ取り出す。

「じゃーん!」

「「「…………」」」

「おみやげと言ったら木彫りでしょ!」

北海道なら熊だがアルビオンではコレ。
一体なにがモデルなのかは判らないが。

「なにそれ……」

「オーク鬼……?」

「気持ち悪い……」

「え……?」

どういうことなの?
反応がよろしくない……。

というか、これオーク鬼か。
実物見たことなかったから全然わからなかった。

「アンタ、どんなセンスしてるのよ……」

「……まあ、魔除けにはなるかもね……、私はいらないけど……」

「気持ち悪い……」

マジか……。
カッコイイだろコレ……。

というか、タバサ。
やっと喋ったと思ったら気持ち悪い2連発かよ。
大事なことだから2回言ったのか。

「折角、いっぱい買ってきたのに……」

カバンをひっくり返して全ての人形を広場にぶちまける。

「!」

「「ぎゃあああああああああああ!!」」

そして、飛び退く3人。

「それは大げさだろ……」

「そんな物、大量に買い込んでくるな!」

「いや、取り合いになっちゃうかと思って……」

「なる訳ないでしょ!」

「禍々しい……」

「やっぱりアンタ帰ってこなくても良かったわね」

「ひどいいわれよう……」

ちょっと、おみやげが気に入らなかったからって……。
いくら100日間のサバイバルでGet Wild and Toughの俺でもいい加減に泣くぞ……。

…………。

「……まあ、サイト。こんなこと言っているけど、夜になるとルイズの部屋からサイトの名前を呼びながらすすり泣く声が聞こえてきたりもしていたのよ?」

「え?」

「ちょっと、キュルケ!何言ってるのよ!」

「なにそれこわい……」

完全に祟られてる……。
ハルケギニアに来てから、人の恨みを買うようなことしてないと思うんだけどな……。
いや、日本にいた時もしてないけど。
まさか、異世界でオカルティックなTo Loveるに巻き込まれることになろうとは……。
一応、お守りは持ってるけど異世界の幽霊にも効くのか?

「ルイズ。その泣き声の幽霊は、まだ除霊してないの?」

俺の名前をってことは、どう考えても俺が呪いのターゲット……。

「「「…………」」」

「そうだ!この魔除けの木彫人形を部屋中に配置しよう」

「ふざけんな!」

「ブへっ!」

今度はルイズに顔の正面を殴られる。
ちょっと理不尽な暴力多すぎるだろ……。

「サイト……、さすがにこれ以上はフォローできないわ……」

……。





@@@@@@@@@@





「おーい、ギーシュ」


ルイズ、キュルケ、タバサの3人組と別れたあと。
俺はギーシュのいる別の広場にやって来た。

本当はジャージを返してもらうために王子様のところへ向かうはずだったのだが……。
どうやら王子様は少し前から俺のふりを止めたらしい。

ニート生活がお気に召さなかったらしく、アンリエッタ王女にフェイス・チェンジの魔法を教わり速攻で習得。
かつての部下の顔を借りて、学院に潜伏しているということだ。

そして、どういうわけかコルベール先生と気が合ったらしく先生の研究室に入り浸り、何やら共同作業をしているらしい。

そんなこんなで今、俺のジャージは何故かギーシュが所持しているようだ。

……。

「サイト?!無事だったのか!……って怪我だらけじゃないか!」

「……いや、こっちに呼び出される前は無傷だったんだけど……」

「?」

「それよりギーシュ……、俺から目を離すなって言っただろう……?」

「…………。そんな事言われても、謁見している間に居なくなられたらどうにもならないよ……」

「まあ、いいや。ドンマイ、ギーシュ」

「…………。いや、まあ……無事で何よりだよ」

「そういえば、俺のジャージ。ギーシュが持ってるんだって?」

「ああ、預かっているよ。……ほら、あそこだよ」

そう言って、ギーシュは広場のスミの方を指さす。

そこにはシエスタと並んで歩く、俺のジャージを着たワルキューレが!

…………。

「なんじゃ、アレは…………」

……。





「いやー、僕も最初は驚いたよ。まさかウェールズ王子が君のフリをしていたなんて」

そういえばコイツは気づいてなかったってロングビルさんが言っていたな……。

「実はウェールズ王子が君のフリを止めて暫く経つと、メイドのあの娘がサイトの行方を心配しだしてね」

シエスタ…………。

「最初は僕が君のフリをしていたんだけど」

そうだったのか…………。

「女の子が悲しんでいるのを放っておけないだろう?」

…………。

「彼女、サイトのことを慕っていたから」

じゃあ、気づこうよ!
あのワルキューレ、全身ピッカピカやないかい!

あんなにメタリックじゃないだろ俺……。
俺、歩く時ガシャンガシャン言わないだろ……。

「あまりにも気づかれないから、どこまで大丈夫なのか挑戦したくなってね」

なにそのチキンレース。
っていうか俺のジャージで遊ぶなよ。

「俺のジャージがピッチピチになっとるやないかい」

唯でさえ大きいサイズなのに……。
2mはありそうなワルキューレに着せている所為で絶対に伸びてるはず……。

そもそも、あのジャージは何なんだ。
もしかして、アレが俺の本体なのか?
さかなクンさんの頭の上のアレと同じってことなのか?

……。





「まあ……、いいか……。ギーシュ、夜になって俺のフリが終わったらジャージを俺に届けてくれ」

「いいけど……、ルイズの部屋は女子寮だから僕は入れないよ?」

「ああ、たぶん俺は外で風呂に入ってると思うからそこに頼む」

「風呂?」

「ルイズが風呂に入ってこないと部屋には入れないって言うんだよ」

「そういえば、君……、かなり臭うね……」

「あと人形も全て処分しないと、入れてもらえ……」

そうだ!

「ギーシュ、アルビオンのおみやげやるよ」

そう言って、ギーシュに木彫りのオーク鬼(?)を手渡す。

「なんだい……?これは……」

「カッコイイだろ?それ。……でも何故かルイズ達には不評でさ」

「…………」

「やっぱり、男にしか解らないのかな。このカッコヨさは」

「……いや、僕も遠慮させてもらうよ……」

「え?」

なん……だと……?
どういうことだ?

「ちょっとアバンギャルド過ぎるのかな……?」

この時代の人には、理解されにくいのかもしれないな。
……。

「だけど、ギーシュ。人形がいらないなら、あとはこの石ぐらいしか無いぞ」

「石?」

「ほれ」

ギーシュに河原で見つけた卑猥な形をした石を渡す。

「なんでこんなものを僕に……?」

「え?だってギーシュ、石とか好きだし卑猥なものも好きだし……」

「……土系統の僕が石が好きっていうのは間違ってはいない……。が、最後の部分は断固否定する!」

「え~……。せっかくテファと探したのに……」

まあ、探してたのはカエルだけど……。

「…………。そのテファっていうのは誰だい?」

「ん?ロングビルさんの妹だけど……」

「なんと、ミス・ロングビルに妹君が……」

にわかにギーシュが色めき立つ。
女性の名前が出てくるだけでコレとは。
期待を裏切らないスケベ・ボーイだ。

「なぜ君がミス・ロングビルの妹君と知り合ったのか、疑問は尽きないが……。まずは、サイト!彼女の容姿を詳しく!」

「え、と。金髪で……、顔は当然可愛かったし……」

何しろロングビルさんの妹だからな。

「あとは、その石より更にボン、キュッ、ボンといったところかな……」

「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「うわっ!……急に叫ぶなよギーシュ」

「これ以上だって!?」

なにコイツ……。
急にエキサイトしだした。

「サササ、サイト!ちょっとこの石を基に彼女の容姿を錬金で再現しようと思うんだが!」

「え?」

「彼女のことを詳細に教えてくれ!」

「…………」

面倒くさい事になったな……。

………………。

…………。

……。





「「出来た……」」


あれからギーシュに2時間ほど付き合わされてテファの容姿を再現した。
テファとは1日しか過ごしていない割に、細かい部分まで証言出来たと思う。
仕上がりは上々。

ギーシュ、お前は海○堂に就職できるぞ。

「しかし……、コレは……」

「どうした?ギーシュ」

「……これは……、エルフじゃないか……?」

「エルフ?」

「だって、この耳……」

「おい、テファは耳のことを気にしてるんだから耳がどうとか言ってやるんじゃない」

「でも……」

「だいたい、ロングビルさんの妹なんだから人間に決まってるだろ」

あの二人が人間離れした美貌の持ち主というのは分かるが。

「そうか……」

「たまたま、ちょっと大きいだけだろ」

「ふむ……」

「だいたい、もっと常人離れした部分があるだろ?」

「確かに!」

耳が通常の3倍なら、おっぱいはルイズの10倍はあるぞ。

「よしっ、早速この世紀の傑作をマリコルヌたちに批評してもらわねば!」

そもそもエルフだから何だというのか解らないが……。

疑問が頭から吹き飛んだのかギーシュは男子寮の方へ去っていった。





@@@@@@@@@@





「トリステイン魔法学院名物!アロマ風呂!」


マルトーさんから貰った古い大鍋に水をいっぱいにはり、モンモランシーから購入したアロマオイル(1エキュー)を垂らす。
さらにアロマキャンドル(2エキュー)を乗せた笹舟を浮かべ下から火をたく!
お湯の温度は上昇し辺りに良い香りが漂うが、居眠りでもしてロウソクを倒せば残念な感じになるのは必定……。
その癒しと快楽はロウソク1本がなくなるまで続く、精神力の勝負である。

ミンメイ書房刊 サイト・ヒラガ著 ハルケギニア風俗奇譚 より

…………。

「よし、何はともあれバス・ロマンと洒落込みますか」

思えばハルケギニアに召喚されてからお湯に浸かるのは初めてだな……。
杭をウォーハンマーで7~8本地面に打ち込んで鍋を乗っけて、鍋底にスノコを敷いただけのお手軽風呂だが。
でもコレならモンモランシーから買った石鹸替わりの魔法薬(3エキュー)で体をゴシゴシ洗えそうだ。
やっぱりサウナじゃ駄目だよ。

よしっ。

「トリステイン魔法学院 使い魔筆頭!アロマ風呂のサイトとはワシのことじゃ~い!」

湯加減を確かめ、ゆっくりと足からお湯に浸か……。

ドガアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

「ブハァッ!!!!」

…………。

お湯に浸かろうとしたら、謎の爆発で吹き飛ばされた。

「ちょっとサイト!アンタこんなところで何やってるのよ!」

風呂桶がひっくり返り、あたり一面がビチャビチャである。
更に地面からアロマの良い香りが漂ってくる。

声の方に顔を向けるとルイズが杖を構えてご立腹の様子。

「いや、風呂に入ろうと思って……」

「こんな場所で裸になるな!」

「(風呂で)裸になって何が悪い!」

「女子寮の真横で風呂に入るな!」

…………。
確かに……。

風呂に入ったあと長い距離を歩いて汗をかきたくなかったから、ルイズの部屋の近くに風呂を設置したのだが。
ルイズの部屋=女子寮であること考えると、よろしくない判断だ。
サバイバル生活が長すぎて、少し社会的常識を喪失していたようだ。

「メンゴー!メンゴー!」

「謝るなら、ちゃんと謝りなさいよ!」

「ゴメンナサイ……」

「まったく……、学院の反対側の隅っこのほうでやりなさいよ」

「はい……」

…………。





「……周囲よし!……湯加減よし!……俺つよし!」

ここなら大丈夫だろう。
ルイズに言われた通り、女子寮から距離がある場所で目立たないポイントを見つけたので風呂を設置した。

「しかし、水汲みが重労働すぎる……」

まさかの汲み直しとは……。
このあと1ヶ月はやりたくない。

「まあ、いいか。今は久しぶりの湯を楽しもう」

…………。

「ババンバ、バンバンバン~っと~」

ゴキゲンで体を洗う。
さすがに100日溜めた汚れは凄まじく、お湯は真っ黒。
髪の毛もごっそり浮いている。
先に水場で軽く洗っておけば良かった。

でも、今更なので気にしない。

「……いい湯だな~っと~」

……。





「サイトさん」

「ん?シエスタ?」

ゆったりとお湯に浸かり心の垢を溶かしていると、タオルや諸々を持ったシエスタがやってきた。

「どうしたの?シエスタ?」

というか、ジャージを着てなくとも俺のことは俺とわかるのか……。
ますます何なんだ?あのジャージ?

「サイトさんがお風呂を作るみたいだってマルトーさんに聞いて、お背中を流すついでに私も入れてもらおうと思って……」

「ああそうなの……?でも……ちょっと今日は止めておいたほうがいいかも……」

「?」

「ほら」

シエスタに鍋の中のお湯を見せる。

「え?どうして、こんなことに……?」

なんて言うべきだろうか……?
シエスタの中では俺はいつも通り学院で過ごしてたことになってるからな……。

「サイトさん、さっきまでピカピカだったじゃないですか」

「…………うん、まあ……」

あそこまでピカピカなのもどうかと思うけどな……。
……。

「……実はさっき風呂を作りながら地面をのたうち回った挙句、いざ湯船に浸かったらあまりの気持ちよさに髪の毛を毟り取ってしまったんだ」

「そ、そうなんですか……」

心が痛い……。
仕方がないこととはいえ、巧妙な嘘で純粋な心をもつシエスタを騙してしまった……。

「まあ、また近いうちに水汲んできてお湯沸かすから。その時はシエスタに声をかけるよ」

俺が入る前に入れてあげよう。
衝立みたいなものも用意しなくちゃな。
女の子だし。

……。

「あれ?サイトさんもミス・モンモランシの魔法薬を買ったんですか?」

「ん?ああ」

よく見るとシエスタも俺と同じビンを持っている。
モンモランシー、平民にも売ってるのか……。

「でもシエスタ、よく買えたね」

結構高いのに。
俺が石鹸を売ってくれとモンモランシーに言ったら、アロマと合わせてエキュー金貨6枚もとられた。
ついでにあげようとした木彫りオーク鬼は投げ返されたが。

「え?これそんなに高くないですよ?」

「え?」

「ミス・モンモランシは上手く作れなかった魔法薬なんかをメイドの私たちに安く売って(売りつけて)くれるんです」

なん……だと……?

「その時々によってまちまちですけど、高い時でも5スゥしないですよ?」

ちょっと待て……。
スゥってエキューの100分の1だったような……。

「…………俺の……これが……、上手く作れた魔法薬の可能性は……?」

「え?……出来がいいのは貴族様用ですから、こんな粗雑なビンには入れないと思いますけど……」

「…………」

「香りも私たちのものと同じようですし……」

…………。

コレは間違いないな。

完全にボられた!

あの縦ロール!
5スゥしないものに6エキューも払わせやがった。

「ナンテコッタイ……」

「あの……、どうかしましたか?サイトさん」

「いや、なんでもないんだ……」

帰ってきて早々にボられるとは……。
いや、モンモランシーは俺の失踪に気づいてないんだったっけ。

しかし無職童貞からボるとは許せねぇ……。
何か反撃を……。

「シエスタ……明日のモンモランシーのランチに……ハシバミ草エキスを入れてやってくれないだろうか……?」

「ハシバミ……ですか?」

「ああ……、魔法薬の“お礼”がしたくてね……。彼女、好きらしいんだ……ハシバミ草……」

「はぁ……」

…………。





@@@@@@@@@@





翌日。

「このスープを作ったのは誰なのっ?!」

と、海原○山のように厨房に乗り込んできたモンモランシーに俺はフルボッコにされた。



[21361] 第23話 ガウリンガル
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:8c121941
Date: 2013/11/08 22:43





「おーい、サイトくん」

毎朝の日課であるルイズの世話をしたあと、マルトーさんに朝食を恵んでもらった俺が広場でゴロゴロしていると見慣れない顔をした男の人に呼び起こされた。

「あれ?ウェールズさんですか?」

「ああ、今日はロバートの顔を借りてみたんだ」

魔法学院に潜伏中のウェールズ王子はフェイス・チェンジの魔法で変装をして日常を過ごしている。
しかし刺客を警戒してのことなのか、それともただ単にその日の気分の問題なのかは判らないが日替わりで顔を変えるのはやめて貰いたい。
毎日知らない人に話しかけられる人見知りの俺の気持ちも考えて欲しい。

「ん?でも今日の顔はなんか見覚えがあるような……」

実のところコーカソイドな顔つきをしたハルケギニアの人たちは、俺にはみんな似たように見えてしまう。
それでもいま目の前にある顔には頭の隅に何か引っかかる何かがあった。

「あー!!ボブだ!!」

「ん?そういえばサイトくんはロバートとフネの上で会っていたんだったか」

そう。
ルイズとアンリエッタ王女が考えるのを止めたウェールズ王子を誘拐したあと、ギーシュと俺を空賊船からアルビオンのお城まで案内してくれたのがボブだ。
しかし、まさかボブの名前が本当にボブだったとは。
適当につけたあだ名だったのに。

「彼はいまアルビオンで忙しく働いてくれているよ」

「本当ですか?!それはよかった……」

ボブとはアルビオン内戦の前日に別れてそれっきりだったため、安否を聞けてホッとした。
同時に今まで忘れていた自分の薄情さに多少の自己嫌悪もあるが……。
でもそれも仕方がないかも知れない。
なぜならボブのことに限らず、アルビオンでのことは記憶が曖昧なことが多いのだ。
はっきり思い出せるのはウエストウッドでテファに助けられたあとからだ。
それ以前のことは記憶が混濁している上に無理に思い出そうとすると頭が痛くなる。
確か森で迷って、動物に助けられて……。

「うーん……、キノコ……、ゴーレム……、ビンタ……ぐっ!!」

記憶を掘り起こす作業はいつものように頭痛により中断される。
もういいや、どうせ遭難中の記憶なんて碌なもんじゃない。
金輪際、思い出そうとするのはやめよう。

「サイトくん大丈夫か?!具合が悪そうだが……」

「ああ、気にしないでください。大したことじゃないんです」

「そうか……、しかし無理はしないように」

「ありがとうございます。……ところで今日は?」

まだ心配そうな顔をしているウェールズ王子に今日の要件を聞いた。
トリステインにやってきてからというものウェールズ王子はコルベール先生とヘンテコ発明を繰り返している。
そんな彼がアイディアのきっかけを求めて毎日話しを聞きに来るのがハルケギニアの外からやってきた俺なのだ。

「そうだ!今日はサイトくんに是非これを試してみて欲しくてね」

本来の用事を思いだしたウェールズ王子は打って変わって嬉々とした表情で俺に白い手袋を渡してきた。

「あの、これは?」

なんだろう。
タクシーのドライバーさんや警備員の人がつけているような白いペラペラの手袋だ。

「以前君に聞いた偉大なメイジの魔法をマジックアイテムで再現してみたんだよ」

偉大なメイジ?
ウェールズ王子は何を言っているんだ。

「とにかくそれをつけてみてくれ」

俺は言われるままに手袋を装着した。

「そして拳を握る」

「拳を握る、っと」

ウェールズ王子の言葉を復唱しながら行動する。

「そして拳を顔の横に持って行き……、開くっ」

「開く」

…………。
いったいなんなのだろうか?
何も起こらないようだが。

「あのー、ウェールズさん……これは……?」

「ふふふ……、成功だ!」

「え?」

事態を飲み込めない俺にウェールズ王子はどこから取り出したのか鏡を向けた。

「耳がでっかくなっちゃった」

鏡を持ちながら嬉しそうにそう言うウェールズ王子。

「……」

「あれ?なにか間違っていたかな。君に聞いた通りにできたと思うんだが」

目の前の鏡には右耳だけがうちわサイズになった俺が映っていた。
これはあれか?
マ○ー一門の彼が得意とするあの魔法(芸)なのか?
そういえば以前、ウェールズ王子誘拐(亡命)事件のフネの上でのことを細かく話したような……。

「いい出来だろう?それにはフェイスチェンジの魔法が応用してあって……」

ウェールズ王子がとても楽しそうにこの手袋の説明をしてくれている。

「次は、縦縞から横縞に変わるハンカチを開発するつもりだよ」

「あ……そうですか……」

なんかすごく生き生きしてるな。
俺は王子に変なことを教えてしまったのだろうか。
こんな人だったっけ?ウェールズ王子。

「じゃあサイトくん。私はコルベール先生と研究の続きに励むとするよ」

「あ、ちょっと!俺の耳はどうすれば……」

…………。

行ってしまった……。
言いたいこと言ってやりたいことやったら嵐のように去っていったな。
前々から何度も思ってたことだがハルケギニアの人たちって自分本位がすぎるだろう……。
俺の耳どうすりゃええの……。
顔の右側がすごく重い。

「……。とりあえず左耳も大きくしておくか……」

バランスが悪いし。




@@@@@@@@@@





「サイトさーん、サイトさん宛に荷物が届いたんですけど品物のお代を頂きたいそうで……、って耳がでっかい!!」

耳が大きいせいでうまく腕を枕にすることができず、結局大の字で広場に横になっていた俺のところにシエスタがやってきた。

「ああ、シエスタ。俺宛に荷物って?」

「え?あの、サイトさん宛にトリスタニアの武器屋さんから大きな剣が届いたんですけど……」

「大きな剣……?」

「はい……って、いやいやそれよりもサイトさんどうしたんですかその耳!!」

「あ~……シエスタ。男ってやつにはそういう時があるんだ……」

「え?ああ、はい……」

シエスタはものすごく困った顔をしている。
しかし、彼女もこの数カ月でややこしくてわけわからん出来事に対する耐性がだいぶついたらしい。
すぐに察したようだ。
どうせ下らないことなんだな、と。
そして説明するのが面倒なんだな、と。

「それで着払いっていくらなの?」

「なんでも100エキューということなんですけど……」

「でええええええええ!!100エキュー?!」

完全に詐欺です。
本当にありがとうございました。

「とりあえず、配達してくれた人のところに行かなきゃマズいだろうな……」

なんとかお引取り願えないものか。

………………。

…………。

……。

「おう、久しぶりだな!相棒」

学院の正門まで行くと聞き覚えのあるオッサン声が響いた。

「すいません、どちら様でしたっけ……?」

「そっちじゃねーよ!!オレオレ!!インテリジェンス・ソードのデルフリンガー様だよ!!」

配達してくれた方に頭を下げたら、地面に置かれた長い包みからツッコミが入った。
なるほど、こ汚い布で包まれたこの長い棒がその剣か。

「約束通り全部思い出したぜ!!さあ、俺を手にとってみな!!伝説の力、とくと御覧じろってんだ!!」

ふむ。
このオッサン声でまくし立てられ、俺もだんだん思い出してきた。
フーケから杖を取り返した後、ルイズとトリスタニアに買い物に行ったときに武器屋においてあったあの剣だ。

「……だけど、思い出したら学院に連絡を~って話だったと思うけど」

いきなり送りつけられて100エキューって困るんですけど。

「な~に言ってんだ、しゃらくせえ!!俺っちとオマエの仲だろうが?!」

「いや……でも……」

「ほらほら!!いいから手に取りなって!!そうすりゃ俺のスゴさがわかるってもんよ!!」

この剣メチャクチャうるせぇ……。
これ以上騒がれても堪らないので、言われたとおりに包み布を解き剣を手に取る。

「よし!!相棒、心を震わせろ!!」

いや、急に無茶言わないでくれ。
ただでさえ、送りつけ商法に遭って気分が落ち込んでるのに。

「ほ~れ、みろ!!お前さんのルーンと俺っちが共鳴してとんでもない力を……」

「うわ、見た目通りとてつもなく重い……」

「力を……」

「わあ、サイトさんカッコイイです」

「え?そうかな」

フラフラしながらもなんとか剣をそれっぽく構えるとシエスタが褒めてくれた。
なんか照れる。

「伝説の……」

だけどやっぱり重い。
いくらなんでもこの剣は大きすぎる。
こんな剣、プロレスラーサイズの人間でも振り回せるもんじゃないと思う。

「あの~……」

「ん?」

「そろそろ、お代を頂戴したいんですが……」

蚊帳の外だった配達員さんが俺の耳をチラチラ見ながら代金を請求する。
彼はさっきから何かを言いたそうにしていたが、果たして俺の耳にツッコミたかったのか代金が早く欲しかったのか……?
しかし、使い道のないものに100エキューはさすがに躊躇われる。

「あの、申し訳ないんですが……受取拒否ということで……」

「ちょっとまてー!!どうして何も起きないんだ?!」

強引に送りつけられた剣が耳元で喚く。
声でかいんだって……。
今の俺は耳が大きいせいでデビルイヤー状態なんだから加減をしてくれ。

「……そういえば俺ルーンが取れちゃったんだったな」

「取れた?!なんで?!どうして?!ありえねえだろそんなの?!」

この剣、グイグイ来るな……。

「いや、そんなこと言われても……」

「そうだ!!あの娘っ子は?!あいつがいれば俺っちの偉大さが……」

「ルイズは実家に帰省中だけど」

「…………」

「じゃあ、受取拒否の旨を武器屋のおやじさんに……」

「待ってくれー!!頼む、全部思い出したのにまたあそこで埃かぶって過ごすのは辛すぎる!!」

なんか可哀想になってきたな……。
武器屋の時も思ったが。

「後生だから、俺を買ってくれ……」

う~ん。
仕方ないか。





@@@@@@@@@@





「痛い出費だな……」

100エキューって。
シエスタが目を丸くしてたよ。
庶民がポンッと出していい金額じゃない。
まだ庶民にとっては大金といえる額を所持してるとはいえ、平民の俺からぼったくろうって金髪縦ロール貴族がこの学院には居るからな。
いつ無一文になってもおかしくない。

「まあ、いいじゃねえか。伝説の剣がたった100エキューで手に入ったんだぜ?」

「…………」

なんか買ってやった途端に態度がでかいな、この剣……。
いや、始めからか?
一瞬の同情でとんでもない後悔を背負い込んだ気がする。
置き場もないし寮の部屋に持ち込んでしまったが帰ってきたらルイズも怒るだろうな。
デカいし、うるさいし、汚いし。

「しっかし、ルーンが取れちまったとはいえオマエさん使い魔だろ?娘っ子に付いて行かなくてよかったのか?」

「ああ、それは……」





………………。

…………。

……。





サイトが送りつけ商法に遭う数日前。



「サイト。あたし少しの間帰省することになったから」

「ん?」

「おとなしく留守番してるのよ。落ちてるもの拾って食べちゃダメよ?」

「食べるか!」

俺は犬か何かか?

「しかし、急だな」

「お父様から一度顔を見せるようにって手紙が来たのよ。虚無の系統をしっかり修得できるように色々協力したいからって」

「ふ~ん。……ん?」

きょむのけいとう……?

「え?ルイズ自分が虚無だってこと言っちゃったの?」

学院長先生は黙っとけって言ってた気がするが……。

「は?そんなの伝えるに決まってるでしょうが。お父様もお母様もお姉さまたちも……昔からすっごく心配してくださってたのよ?」

「いや、まあそうだろうけど」

「なんなら、虚無に目覚めた姫さまの結婚式の当日に手紙を送ったわよ。わたし虚無でしたって」

軽いな!
いいのかそれで。

「でも学院長先生は……」

「……ああ、オールド・オスマンには注意されたわ。お父様から確認の手紙がいったそうだから」

面白くなさそうにルイズが話す。

「でも、そりゃ言うわよ!だいたいサイトには黙っとけって言ったらしいけど、わたしは何も言われてなかったもん」

まあ、学院長先生もさすがにルイズが自分からペラペラ喋るとは思わなかったんだろう。
それが、親といえども。
しかし、読みが甘かった。
この子、すっごく素直なんです(自分の思いつきには)。
召喚直後の他人に対するツンツンの壁が半壊したなら、自分の思考の壁は全壊。
思い立ったが吉日生活。
一体なぜこんな娘になってしまったのか……。

「しかし、虚無のこととなると俺は行かなくていいの?いや、絶対に行きたくはないけど一応使い魔だし」

偉い人に会う。
人の家でそいつの親と出くわす。
両方苦手なんだよ。
ダブル役満じゃないか。

「あのねぇ、これがわたしの使い魔ですってアンタを紹介したら、その場でエクスプロージョンを炸裂させても虚無って信じてもらえなくなるでしょ」

「確かに」

ただのオッサンだし。

「じゃあサイト、わたしもうそろそろ行くから後のこと頼むわよ。他所の使い魔のエサとっちゃダメよ?」

「盗らんわ!」

他の使い魔のエサなんて8割方、生肉か虫じゃねえか!
どんだけハラペコキャラなんだ、俺は。
……いやハラペコキャラか?これ……。





………………。

…………。

……。





「ということがあってだな」

「オマエさん、一体どういう扱いを受けてるんだ……」

「犬なのかな?」

「いや俺っちに聞かれても……」

「…………」

「…………」

猫かな……?
そんなカワイイもんでもないしな。
カラスかな。

「っておい!!相棒!!そっちそっち!!」

「うおっ、急にどうした」

アホな思考は大剣の大声でかき消された。
お前は口も何もないんだから急に大声出されたらビビるじゃねえか。
っていうかそっちってどっちだよ。
何のジェスチャーもない剣の言う『そっち』が分からんわ。

「そっちだっつってんだろ!!」

剣が発するオッサンの怒鳴り声に促されて辺りを見回すと俺の真後ろに何時ぞやのプラズマが出現していた。
すでに日が落ちてマジックアイテムの灯りだけが照らす部屋にもう一つの光源現わる。

「ああ、これ召喚のゲートだな……」

「……やけに冷静じゃねえか」

「まあ、3度目だし……」

だが、どういうことだろう?
ルイズが自分から俺を自宅に召喚するとは思えないんだが。

「…………」

「どうした相棒。行ってやんねえのか」

「嫌な予感がする……」

「嫌な予感?」

「ゲートを出た瞬間、公爵家の面々に圧迫面接をくらう可能性がある……」

「なんだそりゃ……」

「これは、『私達がお前の使い魔を審査してあげよう。さあルイズ、サモン・サーヴァントを唱えなさい。なぁに、私達が気に入る使い魔が出るまでアレしてアレすれば何度でも……』ってパターンかもしれん」

ご家族と使用人の方々数十人で取り囲まれた状態で面接開始かもしれない。
そしてアレしてアレされるかもしれない……。

「……行きたくないなら、ほっときゃいいんじゃねーか?」

「公爵家からの呼び出し無視したらイカンでしょう……」

どうする俺?
どうすんのよ……。

「よしっ!!しゃあねーな!!他ならぬ相棒のピンチだ。俺っちを一緒に持っていきな!!」

なんとか先方の印象をよくしなければ……。

「俺が相棒がいかにスゴいやつかキッチリ説教してやるぜ!!」

とりあえず菓子折りを持って行こう。
ついさっきマルトーさんが焼いてくれたクック・ベリー・パイが手つかずである。
ギーシュがどうしても"アレ"をやりたいってことで作ってもらったんだが。
ろくな包装はできないが、この絶品パイなら多少は好印象を……。

「なあに、いざとなったら娘っ子にコントラクト・サーヴァントでルーンを刻んでもらえば無敵の戦士のいっちょあがりよ!!」

あとは服をジャージから一張羅に着替えて……。

「よし!ちょっと召喚されてくる。留守番頼むなデル……デルナントカ!」

「へ、おいちょと待……無敵の……」

「デュワ!」

無精者特有の朝の早着替えスキルを発動し、パイを抱えて鏡のようなプラズマに俺は飛び込んだ。

「デルナントカって……」





@@@@@@@@@@





「おええええええええええ……」

3度目だというのに相変わらずこの召喚ゲートの無重力感には慣れない。
だが上も下も判らないなかでもクック・ベリー・パイの形は死守できた。
草ソムリエ、アニマリンガルに続いて、またハルケギニアで特殊技能を身につけてしまった。
無重力菓子(運び)職人。

「ちょっとサイト!召喚したらさっさとゲートをくぐりなさいよ!どれだけ待たせるの……って耳デッカ!」

「おう、ルイズ……。男ってやつにはそういう時があるん……はっ!」

ノックもなしに部屋に闖入してしまった。
だが、召喚のゲートをどうやってノックすればいいんだろうか……?
いや、それよりまず状況の確認を……。

「あっ、よろしくお願い致します!」

まず最初に目に飛び込んできたのはルイズの横におられる女性だ。
真っ先に45°の礼で挨拶を。
なるほどピンク髪か。
ルイズの親族だろう。
しかし、おっぱいが大きい。
ルイズ……の親族……か?

「あら、こちらこそよろしくお願いしますね」

この部屋の中にはルイズとこの女性しか居ないようだ。
人間は。
代わりに大量のアニマルたちが所狭しとひしめき合っている。
ここはルイズの実家のお屋敷なのだろうが、ルイズの部屋ではなさそうだ。
しかし、大勢の面接官ではなく大勢の動物で圧力をかけてくる圧迫面接とは……。

「ルイズ、この亜人さんがあなたの使い魔なの?」

「あのちいねえさま……。なぜか耳が大きいけどサイトは一応人間……のはずで……」

「そうなの?ごめんなさいね。わたしすぐ間違えるのよ」

「トリステイン魔法学院の使い魔サイト・ヒラガ!平民です!本日はよろしくおなしゃす!」

そして45°。

「うっさいサイト!急に大声出すな!」

「…………」

人見知りが命がけで面接に挑んでいるというのに。
ちょっと酷くないだろうか?

「ちょっと……さっきから何で兵士みたいに突っ立ってるのよ……?」

「……ルイズ、こういう時は『どうぞ、お掛けください』って言われるまでこうしとくもんなんだぞ」

「あらあら、ごめんなさいね。どうぞお掛けになって」

「失礼いたします!」

今度は15°で頭を下げ、浅く亀に座り、軽く握った手を膝の上に。
パーフェクト!

「ちいねえさまの亀に座るな!!」

「ブヘェっ!!!!」

ルイズに強か顔面をぶん殴られる。
なるほど。
やはり、緊張は拭えない。
大きな陸ガメに座ってしまっていた。
しかし、俺の近くには椅子どころか他に座れるようなものは無いようだが……。

「なるほど、これが圧迫面接か……」

恐ろしい……。
入室、着席の段階でセオリー通りには行かないとは。
トンチ合戦の始まりか……。

「もう、サイト!ちいねえさまの前で恥をかかせないでよ!」

「ふふ、あなたたち仲がいいのね」

「そんなことないわ!こんなやつ野良犬みたいなもんよ!」

「…………」

そうか。
正解は、『野良犬扱い』だったのか。
惜しかった。





@@@@@@@@@@





「そういうことなら早く言ってくれればいいのに……」

「アンタがゲートから出てくるなり奇行に走りだしたんでしょうが!」

まあ、いつものことだけど。とルイズが続ける。
どうやら今回の召喚は面接目的ではないようだった。
お姉さんであるカトレアさんに俺を見せたかっただけらしい。

「まったく!ちいねえさまは体が弱いんだから、部屋でバタバタしないでよ。アンタみたいな野良犬と違って繊細なのよ」

「本当にすみません……」

「ごめんなさいね。あなたが動物と話せるってルイズ聞いて一度会ってみたくて」

「そうなんすか」

さっきまでのドタバタがどこへやら。
すっかりと落ち着きを取り戻し(主に俺が)、俺が持参したクック・ベリー・パイをお茶請けにティータイムの時間だ。
夜だけど。

「ちいねえさまだって鳥のしゃべっていることがわかるのよ!」

なぜかルイズが胸を張って得意げだ。

「サイトさんもうちの子たちとお話をしてあげてくれないかしら?」

「ああ、いいですよ」

さて。
どのアニマルと話そうか。

「よしっ、君に決めた」

このクマと話そう。
クマ語は俺の一番得意とするアニマル言葉だ。
しかし、デカいなコイツ……。
全長3メートルはある。
襲ってきやしないだろうか……。

「こほんっ、では。ガウガウ、ガガウ、ガルルルル……?」

「グルルルルルル……」

「ガ、ガガウガウ。ガルルル、ガウ?」

「グルルルルルルル……」

ふむ……。
なるほど。

「ねえサイト……そのクマはなんて言ってるの?」

「ガガウガウ、ガウガウ、ガルルル、ガぶへぇっ!!」

「人間の言葉でしゃべれっ!」

「何も殴らなくても……。じゃあ直訳するぞ?」

…………。

『どうもこんにちわ、ご機嫌いかがですか?』

『なんだオマエは、田舎臭い訛りで話しかけやがって。どこの出身だ耳亜人』

『ア、アルビオンのクマ語です。御存知ですか?』

『ああ、聞いたことは有るよ。空に浮いてんだろ』

…………。

「って感じ」

「……なんの中身もない会話ね……」

「いや、だって……初対面のクマと何を話せばいいのやら……」

「というかクマ相手にへりくだりすぎでしょアンタ……」

「だって怖いし……」

「そもそもクマは呻ってただけじゃないの……。ホントに会話出来てたの?」

失敬な。
アルビオンへの留学(遭難)でネイティブ相手に本格習得したというのに。
というか、疑ってるなら召喚するなよ。

「まあ、サイトさんはそんなにハッキリと会話ができるのね」

「え?まあ」

すごいわ。とカトレアさんが感心してくれる。
美人に褒められかなり照れる。
動物の言いたいことのわかるカトレアさんが信じてくれたため、ルイズは疑惑の眼差しを俺に向けつつも引き下がる。

「ねえサイトさん。実はその子、森に帰りたがってるようだから放してあげようと思ってるんだけど詳しいことを訊いてくれないかしら?」

「いいですよ」

カトレアさんの頼みに浮かれ気分で返事をし、クマと再び向き合う。

「ガウガウガウガウ、グルルルルルル、ガガガウガウガウ」

「グルルルルルルル……」

なるほど……。

「なんて言ってるの?」

「ガガウ、ガウガ……」

「だから人の言葉でしゃべれっつってんでしょうが!」

「えーと……」

…………。

『あなたは森に帰りたいようですが、そこの女性が理由を知りたいそうです』

『おう、実は狩人に撃たれて手負いの俺をそこのピンクが助けてくれたんだ。イイもんも食わしてもらって本当に感謝してるぜ。ただ体が回復してくると森に残してきた妻と子どもが気になってよ。俺が狩人を引き付けてるうちに棲み家の穴ぐらまで逃げられたとは思うんだが、まだ子どもは小さいし子育てを母ちゃんだけに任せっきりっていうのもな。無関心な父親と過保護な母親っていうのは子どもの性格形成に良くないと聞くし……。それにしても、あの時の俺の勇敢さといったらクマ界にも名が響き渡るって、』

「だああああああああ!長いのよ!というかさっきと同じグルルルルル……しか言ってないじゃないの!あとちいねえさまのことをピンクって言うな!」

「熊がそう言ってるんだからしょうがないだろう……。そもそもクマ語というのは呻り声と身振り手振りをミックスした全身言語で、その情報量は人語の遥か上を……」

「いいから、結局何なの!」

「……家族のトコに帰りたいそうです」

なんで俺がルイズに怒られなきゃならないんだ……。

「そうなの……、またいつでも遊びに来てねって伝えてもらえるかしら?」

「ガウ」

「グルル……」

「『もちろんだぜ。ありがとな』だそうです」

「……どんどん疑わしくなるんだけど」

ルイズのジト目が俺を襲う。

「サイトさん、サイトさん、他の子たちともお話してみてくださいな」

「いいですよー」

「…………ま、いっか。ちいねえさま楽しそうだし……」

………………。

…………。

……。





@@@@@@@@@@





「あら、ちいねえさま。もうこんな時間だわ」

「まあ、だいぶ話し込んでしまったわね」

あれからどれだけ時間が立っただろうか。
カトレアさんに催促されるまま部屋のすべての動物と会話してしまった。
途中、トラのシッポを踏んで噛み殺されそうになったり、大蛇の尻尾を踏んでしまい絞め殺されそうになったり、何もしてないの小鳥に突つき殺されそうになったりというベタなハプニングもあったがクマに仲裁してもらいつつ平謝りをし事なきを得た。
ただ俺の一張羅はアニマルパワーに圧倒されズタボロだ……。

「あら?」

「どうしたの?ちいねえさま」

「わたしのパイの中に指輪が入っているわ」

ティーセットを片付けてもらうためにメイドさんを呼ぼうか、というときにカトレアさんが皿に残ったパイの中から何かを見つけた。
そうだ!すっかり忘れていた。
そういえば、このパイはギーシュたちと王様ゲームをやるために焼いてもらったものだった。

「ああ、それはガレット・デ・ロワといって……ブヘェッ!!」

「あんた、ちいねえさまに何食べさせてるのよ!ぶん殴るわよ!」

もう殴ってるじゃないか……。
せめて宣言した後に殴ってくれ。

「ルイズ……説明させてくれ……」

つまりこれは運試しゲームであり、当たった人はなんでも命令できるということ。
ギーシュが(おそらく邪な気持ちで)やりたいと言い出したこと。
指輪はいつのまにか俺が持っていたものをキレイに洗浄消毒したのちパイに投入されているということ。

「そういえば、ガリアの方にそのような風習があるのを聞いたことがあるわ」

そうなのか。
俺の世界ではフランスだった気がするけど、その辺はなんかガリアと繋がりがあるのかな?

「……なによ、早く言いなさいよ。それを」

「いや言おうとしたら、ぶん殴られたんですけど……」

「食べる前によ!知らないで食べたらただの異物じゃない!」

「おっしゃる通りです……」

「あらあら、今日は最後まで素敵なことがあるわね」

殺伐としかけた雰囲気にすかさずフローラルな風を流しこんでくれるカトレアさん。
いいお姉さんだな。

「しかし、運がいいですね。俺とカトレアさんのパイは20°くらいしかなかったのに……角度が」

「……ヒュー、スヒュー、ヒュー」

全然ごまかせてないぞルイズ。
そして口笛吹けてないぞ。
というか、ルイズがメイドさんに任せず自分で切り分けた時点でバレバレだったぞ。
そもそもルイズのパイだけパックマンみたいな形だったし。
カトレアさんはあふれる慈愛で暖かくルイズが切り分ける様子を見守っていたが……。

「じゃあ、楽しい時間をおしまいにする前に二人にお願いごとをしてもいいかしら?」

高貴な雰囲気プンプンのハンカチーフで指輪の汚れを拭い落とし、それを指にはめたカトレアさんが言った。

「もちろんよ。ちいねえさま」

「死なない程度の命令でお願いします」

「ちいねえさまがそんなことさせるわけないでしょ!」

そりゃそうか。
しかし、お願いとなるとどうも。
アルビオン絡みでルイズと王女さまがやたら危険なことに巻き込んでくれたから、つい身構えてしまう。

「まず、サイトさんにはわたしのお友達になってもらおうかしら」

「え、いいともー」

「ちゃんと答えろ!」

「本当に?嬉しいわ。わたし同年代のお友達がいなくて」

「俺も同年代の友達とか存在しないんで……」

「あんた、ちいねえさまがお友達になってくれたからって調子に乗るんじゃないわよ」

ねえさまに何かあったら、ただじゃおかないわよ……。と杖をちらつかせながら俺を睨むルイズ。

「また、お話しましょうね。サイトさん」

「はい、また機会があったら」

あるかな、機会。
ルイズの里帰りくらいしか無い気もするが、それさえも俺は付いて行かないことのほうが多い気がする。

「ルイズには今晩久しぶりにわたしと一緒に寝てもらおうかしら?」

「ちいねえさまー!」

ルイズがカトレアさんの胸に飛び込む。
とはいっても彼女の体を気遣ってとても優しく、だ。
しかし、なんと優しいお願いであろうか。
どこぞの内戦国に行けだのというお願いをされた方には大いに見習ってもらいたい。





………………。

…………。

……。





「さて、じゃあ俺はどうすればいいんだ?」

この後、ルイズとカトレアさんは諸々の支度をして就寝ってところだろ。
俺はどこで過ごせばいいんだ?

「ああ、アンタは竜の背中に括りつけて明日の朝までには学院に送り返してあげるわよ」

ほらそこ。とルイズが指差す窓の外には小さめの竜(それでも全長5メイルは軽くあるのだが)が羽ばたいていた。

「Whats?]

「だから、アンタ馬乗れないでしょ?当然竜なんて乗れるわけ無いでしょ?だから背中に括りつけて……」

何を言ってるんだこの娘は……。

「ウェールズ王子を連れ帰った時も同じだったから括りつけ方はバッチリよ。それに怪我をしているところをちいねえさまが保護した竜だから人に慣れていて賢いし、朝にいなくなってても竜籠の竜と違って使用人たちが騒ぐこともないし……」

すごいな。
竜まで拾って手当してあげてるのか……。

「戦争で傷ついた竜騎兵の竜がドサクサではぐれてたみたいなのよ」

ふ~ん、そうなのか。
って、そうじゃなくて!

「いや、せめて馬車とか……」

「ヴァリエールの紋章が入った馬車勝手に使えるわけ無いでしょ」

「普通の馬車でもいいんだが……」

「アンタが馬車で帰る数日の間に賊に襲われてもいいならいいけど」

「いや、護衛の方を……」

「そうなったら、この平民は何者だってなっちゃうじゃない」

賊はさすがにないだろ……?
いや、あるか。
アルビオン行きの一日で宿とフネで2回も襲われたからな。
…………。

「いやいや、え?オレ今から本当に帰るの?」

「あたしが帰省する前に言ったでしょ?アンタをお父様たちに見せたら……」

「でもカトレアさんには……」

「ちいねえさまは特別よ。エレオノールお姉さまがアンタを見たら……考えるだけでも恐ろしいわ……」

「使い魔じゃなくただのこ汚い平民ということで何とか押し通せば……」

「ただのこ汚い平民がいつの間にか、しかもこんな時間にちいねえさまの部屋に居るのはおかしいでしょうが」

いや、そうだけど。
いや、ホントにそうか?
もっとないか?他の方法。
この娘、もう自分の思いつきで俺を竜に乗っけて飛ばしたいだけなんじゃなかろうか?
子どもがカエルやカニを笹舟に乗せて川に流すようなアレで……。

「とにかく!ここでのわたしの使い魔。つまりアンタの設定は、ロバ・アル・カリイエにある国の高位貴族出身で、スクウェア・メイジで、剣の腕前も一流で、あらゆる方面の知識に長けていて、動物にも好かれ、ハンサムで身長185サントで独身、気が強くてメガネをかけてる研究職の金髪女性(27)がタイプで……」

「ちょ、ちょーっと!後半どうなってんの?いや、最初からおかしいけども……」

「仕方ないじゃない。お父様たちに使い魔の説明をしてる時にちょっと脚色を加えてたらいつの間にか、こうっなちゃったんだから」

ちょっとって……。
話を盛り過ぎでしょ、この娘。
そしてピンポイントな後半は何……?

「お父様たちみんなに認められるような設定を考えてたんだけど、段々エレオノールお姉さまが興味を持っちゃって……最終的にはこんな感じになっちゃった」

なっちゃった。じゃなくて……。

「まだ、召喚してないことにすればよかったんじゃ……」

「それこそ、その場で召喚してみなさいってなるでしょ。それで、『私達がお前の使い魔を審査してあげよう。さあルイズ、サモン・サーヴァントを唱えなさい。なぁに、私達が気に入る使い魔が出るまでアレしてアレすれば何度でも……』ってことだって100%ないとは言い切れないわ」

とくにアンタみたいなやつが召喚されたら。とルイズは続ける。

「…………」

「だいたいサモン・サーヴァントは進級試験だったんだから、わたしが落第してることになっちゃうじゃない」

「…………」

俺は、カトレアさん以外のルイズの家族とは一生会えないな……。

………………。

…………。

……。





@@@@@@@@@@





翌早朝、トリステイン魔法学院本塔。





「まったく、なんであたしが朝っぱらっから塔に引っかかったボロ布を掃除しなきゃならないんだよ……」

朝日が昇り、地平線がだんだんと明るくなるのを眺めている俺のもとにフライの呪文でフワフワとロングビルさんがやってきた。

「すいません、お手数かけて……」

「どわああああああああああああああああああああ!!!!ってサイトさん!」

どうやらボロ布が突然喋ったので相当に驚かれたらしい。
杖を落っことしかけ、慌てて空中での体勢を立てなおしている。

「すいません、驚かせてしまって」

「って耳デカっ!!」

「あ、これ小さくできます」

あの白い手袋で耳をグイグイ丸め込む。
すると、みるみるうちに俺の耳が小さくなっていった。
結局、この手袋は耳限定で誰にもフェイス・チェンジが可能という意味不明なマジックアイテムだった。
耳の穴に耳全体を小さくして押し込むなんて一発芸も可能だし、当然耳元でグッと握ってパッと開くと耳が大きくなる。
少しでもイケメンに近づこうと邪願をいだき鼻を高くしようと試みたが、耳とは違い何の変化も起きなかった。

「いやいや、そんなことより、一体何があったんですか……」

「……男ってやつには、そういう時があるんですよ……」

「…………」

「…………」

「サイトさん、どうせ下らないことでしょうし説明するのも面倒なんでしょうけど、私もオールド・オスマンに報告しなければいけないので下に降りたら説明してくださいね」

「あ、はい……」

………………。

…………。

……。





「虎や熊や蛇の相手をしてボロボロになってしまった、と」

「カトレアさんやルイズには優しく甘えるのに、何故か俺にだけ本気でじゃれついてくるんですよ」

「竜に括られて魔法学院まで送還されたと……」

「途中で縄が解けて一回落ちそうになったんですけど、竜って賢いですね。口で咥えて学院まで運んでくれました。しかし、まさか学院の塔の屋根の上に引っ掛けてSAYONARAとは思いませんでしたけど」

マラソンランナーが折り返し地点を回るようなスムーズさで塔を折り返し竜は帰っていった。
それに夏とはいえ高度数百メイルを高速配送は辛かった。
主に巨大化した耳が。
凍えて千切れそうな痛みに耐えながら頭を巡らせて、この手袋の耳縮小機能を発見したのは学院到着10分前の事だった。

「毎度毎度、よく生きてますね……」

「実は1回くらい死んでたりして、ワハハハハハハハ」

「…………」

なんで彼女は俺から目をそらすんだろう……。
場を和ます小粋なジョークのつもりが完全にスベってしまったようだ。

「そうだ。この手袋をテファにあげてくださいよ」

「え?」

「屋根に引っかかってる間に考えたんです。この手袋はテファのために使えるんじゃないかって」

「あ、……」

「どうぞ受け取ってください」

ロングビルさんにウェールズ王子の手袋を渡す。

「ありがとうございます……」

「はい、それを使ってウエストウッド周辺の人たち全員の耳を大きくしてしまえばテファも自分の耳を……」

「テファのお出かけ時の変装用に使わせていただきますね!」

「あ、そうすか……」

最後まで言う前に俺のアイディアは却下されたようだ。

「でも、いいんですか?これはサイトさんがあのアホ……じゃなくて、ウェールズ王子から下賜されたものじゃ……」

下賜って……。
そんな大層なものかな?
ただのパーティーグッズだと思うが、やはり王族から頂くとなると特別なのかな。
ハルケギニアに来てからどうも俺の中の王族に対する認識が変わってるから、なんとも……。

「いいんですよ。俺が持ってたってアホのギーシュを笑いで窒息させることくらいしか使い道がありませんから」

ハルケギニアに来てから不運続きなので、自分の耳を少し福耳にしておいたがこれ以上はもうすることもない。

「……はい。では、サイトさんからの贈り物としてテファに届けてあげます。サイトさんもまたウエストウッドに会いに行ってあげてくださいね」

そう言って笑うロングビルさん。
やっぱりこの人の笑顔は眩しいぜ……。

「よし、じゃあ俺はベッドで(藁で)、ゆっくり寝るとしますよ」

「そうですね、ゆっくり眠……あ、そうそう!」

「ん?」

「昨日の夜、女子寮のミス・ヴァリエールの部屋からカチャカチャっていう物音と男のすすり泣く声が聞こえて眠れないって苦情が周りの部屋の子たちからあったんですが、なにか知りませんか?」





え、なにそれこわい……。





@@@@@@@@@@





長らく更新をしていませんでした。
もし、続きを待っていてくれた人が居たなら、ありがとうございます。
そして本当にごめんなさい。
USBメモリの整理をしてる時にこの23話の未投稿テキストを発見しました。
あらためて1話から読み返して、書いた自分でもわけがわからないこの駄文SSの投稿を再開するか迷いましたが、どんなものでも途中で投げ出すのは良くないなと思い直し23話の投稿に至りました。
なお残り数話でこのSSは完結ですが、もし再び投稿が長期にわたって滞りそうだなと私が感じた場合、すでに書き上げてある『あれから数年~』といういかにも打ち切り的な最終回を投稿して完結となります(順調に投稿できた場合も同じ最終回ですが……)。
その場合も、ごめんなさい。



[21361] 第24話 惚れ薬
Name: しがない社会人◆f26fa675 ID:8c121941
Date: 2013/11/08 22:45





「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ…………」

「ルイズー…………」

「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ…………」

「そろそろ昼メシだぞー…………」

「ぐおおおおおおおおおおお!!!!」

学院の女子寮にルイズの唸り声が響く。
つかの間の帰省を終え学院に帰還してからというもの、ルイズは日がな一日祈祷書とのにらめっこで過ごしていた。

「ルイズ、そんな風に祈祷書にガン飛ばしても何も見えないって……」

「うっさい!今なんかうっすらと見えてるんだから、黙ってて!」

うっすら見えてるのかよ。
それ、朝から目を見開き続けてるから目が霞んでるだけなんじゃないだろうか。

「なぁ、娘っ子。何度も言うように虚無の魔法ってのは必要な時が来れば自然に……」

「ほら、自称伝説のデルフもこう言ってるし……」

「必要なとき?今よ!今必要なのよ!」

くわっ、と目を見開きルイズが俺たちを睨む。
酷使されている目が血走っていて、とても怖い。

「あとでモンモンに目薬を作ってもらおうな?」

またボられるかもしれないが、仕方ない。

「あのねぇ、いざ姫さまの大ピンチって時に急にスペルが浮かんできたって遅いってのよ!」

祈祷書を机にバンバン叩きつけながらルイズが俺たちに熱弁を振るう。
おいおい、それトリステインの秘宝じゃなかったっけ……。

「ただでさえ長ったらしい虚無のスペルを祈祷書読みながら唱えて、その間に
姫さまに何かあったらどうするのよ?!」

「いや……そんなこと言われても分からないけど」

「じゃあ、いつ虚無覚えるの?!今でしょ!」

「…………」

ルイズは実家から帰ってきてからずっとこの調子だった。
帰省して魔法が使えるようになったことをルイズ自ら報告したところ、普段厳しい御両親もルイズを褒めてくれたらしい。
もともと努力家で真面目っ子のルイズが報われることを覚えたら、これはもう……。
正真正銘、褒められて伸びるタイプ。

「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬ…………」

そして一瞬の間にルイズは机に向かい、祈祷書にガンを飛ばす作業に戻っていた。

…………。





@@@@@@@@@@





「すいません、ミス・ヴァリエールは居られますか?」

ルイズを机からひっぺがし食堂で昼飯を取らせるという、ここ数週間のルーティンをこなしたあとのこと。
食休みもつかの間、ルイズの部屋にロングビルさんが訪れた。

「あれ?ルイズなら居ますけど、なんかありましたか?」

「ええ、そろそろミス・フォンティーヌが学院にお見えになるので一緒にお迎えにあがろうかと……」

「へ?」

なんでカトレアさんが学院に来るんだ?
体が丈夫じゃないから家からもあんまり出ないって聞いたんだが。

「ちょ、ちょっと待って下さい!なんでお姉さまが学院に?!」

来客にもかかわらず机に向かっていたルイズだがカトレアさんの名前聞いた途端に祈祷書をほっぽり出して詰め寄ってくる。
だから、それトリステインの秘宝ちゃうんかい……。

「え?1週間後に始まる新学期から学院に中途入学されるためですが……ご存じなかったんですか?」

「にゅうがく?!どうして?!お体は大丈夫なの?!」

「わわ私には詳しいことがわかりませんががががが、ごごごご自身の体調に大幅な回復と安定が見られたたたたためとかかか……」

ルイズにガックンガックン揺さぶられながらもロングビルさんは答えてくれる。

「へー、良かったじゃんルイズ」

「良かったじゃん。じゃないわよ!国中の水メイジに見てもらってもどうにもならなかったのよ?!」

「いいいいいいや、そんなこととととと俺に言われてももももも」

ルイズにガックンガックン揺さぶられながら答える俺。
つーか昼飯直後に体をシェイクしないでくれ。
阿鼻叫喚のもんじゃ焼きパーティが始まってしまうぞ……。

「あの、本当にご存じなかったんですか?てっきりお手紙などで知らされているとばかり……」

「手紙なんて……」

「……」

手紙なんて……、と呟いたルイズの動きが止まる。
思い当たるものがあるようだ。
そして、俺にも思い当たるものがある。
10日ほど前に一通、そして昨日も一通ルイズ宛にヴァリエールの封蝋がされた手紙が届いていた。

「ほらルイズ……、あれやっぱり大事な手紙だったんじゃん……」

ルイズは届いた手紙を開封していなかった。
何を思ったのか、祈祷書を透視(?)するための練習台にすると言い出して未開封で内容を読み取ろうとしたのだ。
その結果。

「……。まず間違いなく、お父様とお母様がわたしを絶賛する手紙だと思ったんだけど……」

そして……。
手紙は結局、確認の開封すらされずに放置されていた。
しかしどんだけポジティブなの、この娘。

「サイト!アンタがしっかりしてないから、ちいねえさまからの大事な手紙を読み過ごしちゃったじゃないの!」

「ええー……」

「使い魔なんだから、しっかりご主人様に進言しなさいよ!」

むちゃくちゃ過ぎるだろ……。
どんだけ自分勝手なの、この娘。

「……詳しい経緯はご本人から訊くということで、とりあえず正門まで行きませんか?そろそろ到着されてしまいますよ」

俺達のアホなやりとりに呆れたのか、なんともいえない表情をしたロングビルさんに促され俺達は正門に向かうことにした。





@@@@@@@@@@





「ルイズ!」

「ちいねえさま!」

俺達が学院の正門に着き10分もしない間に、ひと目でそれと分かる立派な馬車がやって来た。
正門の前にルイズを見つけたカトレアさんは馬車が完全に止まり切るか否かというところで身軽に馬車から降りる。
馬車から飛び出しルイズに抱きつく様子は、それだけでカトレアさんの体調の良さを感じさせた。

「サイトさんも」

「ああ、お久しぶりです」

数週間ぶりの家族の再開もそこそこに、思いのほか早くルイズから向き直りカトレアさんは俺にも挨拶をしてくれた。

「サイトさんこの度は本当に何と感謝を述べていいか……」

「え?」

「この御恩は一生かけても返せるものではないと思います……」

「え?え?」

「お父様も大変感謝していらして、ぜひ一度お会いしたいと……」

「え?え?え?」

「そしてトリステインでも爵位を得られるように働きかけるのもやぶさかではないと……」

「え?え?え?え?」

「あの……、ちいねえさま?一体何を……」

ごおん……?しゃくい……?
一体何の事だ……。
ルイズも困惑している。

「ちょ、ちょーっと待ってください!ルイズ、集合!」

カトレアさんから少し離れ、ルイズに手招きをする。

「アンタご主人様に向かって命令とか何考えてんのよ……」

「いいから来てくださいお願いします」

ルイズはブツブツ言いながらも俺の方にやってくる。
事態の把握と収拾を図るためルイズと秘密の作戦会議を行う。

「で?いったいどういうこと?なんでアンタに爵位がどうのなんてことになってるのよ……?」

「いや、全く分からん……」

カトレアさんの方に顔を向けると俺達に手を振ってくれている。
もちろん俺達も笑顔で振り返す。
間違いなく俺とルイズの笑顔は引き攣っているだろう。

「もしかしたら、アレじゃないか?ルイズがTHE・ハンサムを召喚したとかの嘘がこじれにこじれて……」

「…………」

「ルイズ……、俺が公爵に面会して好印象を与える可能性はあると思うか?」

「アンタが今から突然変異を起こして『ロバ・アル・カリイエにある国の高位貴族出身で、スクウェア・メイジで、剣の腕前も一流で、あらゆる方面の知識に長けていて、動物にも好かれ、ハンサムで身長185サントで独身、気が強くてメガネをかけてる研究職の金髪女性(27)がタイプ』になる可能性のほうがまだ高いわね……」

「……他はともかく、金髪女性の部分はとりあえずオッパイさえ大きければ……」

「胸は小さいわ」

「じゃあダメだ……。完全に詰んでる……」

全部言い切る前に、にべもなく否定されてしまった。
気が強いひとは苦手だし、そうなると別の意味での魔法使い予備軍の俺にはオッパイくらいしか女性を判断する条件が思いつかない。
ていうか突然変異って。
メタモンじゃないんだから……。

「…………」

「…………」

会議に行き詰まり、またカトレアさんの方に顔を向ける。
何やら、ロングビルさんと会話をしているようだ。

「ルイズ、今気づいたんだが……」

「なによ?」

「とりあえずカトレアさんに詳しく聞かないと何もわからないな……」

「……そうね」

俺とルイズの秘密の作戦会議は時間の無駄に終わった。

………………。

…………。

……。





「サイトさんは私とアルビオンにある孤児院を手伝うことになってるんですが……」

「あらあら、困りましたわね……。サイトさんはわたしの領地で一緒に動物たちのお世話をしてくださる予定なんですけど……」

「…………」

ナニコレ……?
作戦会議から戻ると何やらおかしな会話が展開していた。
そして、俺に気づいたカトレアさんが微笑みを浮かべながら問いかけてくる。

「あら、サイトさん。サイトさんはわたしのお友達でしたわよね?」

「え、ええ……」

「お友達としてフォンティーヌ領で生涯あの子たちのお世話をしてくださる約束でしたわよね?」

「ええ……。……えええええええええええええええええ?!」

カトレアさんがそう言いながら指をさす馬車からはこのまえ彼女の部屋で会った動物たちが顔をのぞかせていた。
よく見ると、クマが3頭いる。
あいつ結局家族も連れてきて、まるごとお世話になってるのかよ……。

「お願い聞いてくださったものね……?」

なんてことだ。
あのお願いにはそんな生涯雇用契約が含まれていたのか……。
生涯動物の世話(猛獣含む)って。
それなのにタモさんに明日のスケジュール聞かれるくらいの軽いノリで返事をしてしまっていた。
あのカトレアさんの優しいお願いの裏にそんな過酷な現実が待っているとは……。
そして今度は、ロングビルさんが同じように微笑みながら俺に問いかける。

「サイトさん。サイトさんはまたウエストウッドに来てくださるんですよね?」

「え、ええ……」

「ウエストウッドで私とテファと一緒に生涯子どもたちの世話をしていく約束でしたよね?」

「ええ……。……えええええええええええええええええ?!」

「あのとき頷いてくださいましたよね?」

なんてことだ。
まさかテファに会ってあげてって約束にそこまでの意味が含まれていたとは……。
対人コミュニケーション経験の浅い俺にはそこまでのことは読み取れなかった。
生涯保育士か。
無資格だけどいいのかな?
しかし黒ジャージの無資格保育士……。
『俺とおにごっこがしたい?では金貨で3000エキュー。君に払えるかな?』
『いいですとも!一生かかっても払ってみせます!』
『それを聞きたかった』
なんか、カッコイイな。
しかし、あのロングビルさんの眩しい笑顔の裏にまさかのブラック・ジ○ック的展開が待っているとは……。

「サイトさんは動物とお話できるんですよ。まさにあの子たちと暮らすためにピッタリだと思いませんか?」

「サイトさんは、うちの子どもたちともお話できるんですよ?」

そりゃできますよ、にんげんだもの。
さいと。

「それにこの指輪をわたしに贈ってくださって……。まさに命の恩人です。これはもう一生を掛けてサイトさんに恩返しするしか……」

「私達にもマジックアイテムの手袋をプレゼントしてくださって。ある意味、テファの命の恩人と言えなくもないです。これはもう一生私が養わないと……」

ダメだ……。
意味が分からん。
なぜ王様ゲームの指輪やパーティグッズの手袋をあげただけで命の恩人になってしまったのか。
なぜこの二人は、そんなに俺を働かせたいのか。
いや、ロングビルさんの方はなんか俺がヒモのようなことになってるが。

「ルイズ、よく分からんけど二人を何とかしてくれ。知らないうちに二重雇用の状態に陥っていたようだ」

「アンタねぇ……。そもそもわたしの使い魔ってこと忘れてんじゃないの?!」

「そうだった」

三重雇用だった。
そして、ルイズは俺にそんな叱責をしつつロングビルさんの方へ向かう。

「あの、ミス・ロングビル?サイトはわたしの使い魔ですので勝手に……」

「申し訳ありません、ミス・ヴァリエール。今は大人同士の話し合いですので」

「なっ!」

ルイズがロングビルさんに反論しようと試みるも意に介されず。
諦めて、今度はカトレアさんに向き合う。

「ちいねえさま、ちいねえさま!サイトはわたしの使い魔で……」

「ごめんなさいね、小さなルイズ。今お姉さんは大事な話をしているの」

「むぅ……」

なんか、小さなルイズという呼び方にいつもとは違う含みがあるような気がする……。
結局ルイズはすごすごと戻ってきた。

「まったく、二人ともわたしを子ども扱いして!失礼しちゃうわ!」

「何とかならなかったな」

それにしても、一体どうすればいいんだ……。
カトレアさんが学院に来てからの疑問が何一つ解決していない……。

「ルイズ、とりあえず手紙を開封してみるか……?」

「そうね……、わたしこれからはどんな手紙でもすぐ読むことにするわ……」

………………。

…………。

……。





ルイズの部屋に戻り手紙を読むと一通目のカトレアさんからの手紙に疑問の答えは全て書いてあった。
曰く、ルイズが学院に戻った後にカトレアさんが指輪をしているのを見た一番上のお姉さんであるエレオノールさんがひどく取り乱し、男性からの贈り物という勘違いを解くのに一苦労した。
曰く、勘の鋭いカトレアさんは指輪が何らかのマジックアイテムではないかと感じていたがエレオノールさんのディテクト・マジックには何の反応もしなかった。調査の結果、俺がパイに混入させた拾い物の指輪はアンドバリの指輪という水の精霊の守る秘宝で先住の水の力そのものといえるスゴイものだった。
曰く、どんなに高名な水メイジに見てもらっても治療できなかった体が、指輪の力で体内の水の流れを補いつづけることで驚くほど安定した。
そして、それならばと早速結婚相手を探そうとする公爵に最後のわがままを言って以前からの憧れであった魔法学院への入学を許可してもらい今に至ると。
ちなみに昨日届いた二通目の手紙は学院への到着時間とルイズと学院に通うことへの期待と喜びがつづられていたようだ。

「……しかしアンタ、とんでもないもの拾ってきたわねぇ……。魔法薬の原料を集めてくる使い魔はいるけどまさか精霊の秘宝なんて……」

「気がついたらカバンに入ってたんだけどな……」

おそらくアルビオンで拾ったであろうことは確かなんだが。
記憶の混濁で入手の経緯は思い出せなかった。
だが、これじゃ祈祷書をぞんざいに扱うルイズを注意できないな。
俺も秘宝をパイに投入するという暴挙を働いてしまった。

「だけど、お手柄よ!わたし初めてアンタを召喚した自分のことを許せる気がしてきたわ!」

「…………」

酷い言われようだな……。

「しかし、また『ルイズのかんがえたさいこうのつかいま』が無駄に公爵の評価を上げてしまったようだな……」

「なあに、なんとかなるわよ。それより、そろそろちいねえさまたちの所へ戻るわよ?」

最近そればっかりだなルイズ。
いくらなんでも後先考えなさ過ぎだろ。
なんとかなるかな……。






@@@@@@@@@@





同じ頃、トリステイン魔法学院 女子寮モンモランシーの部屋。





トリステイン魔法学院の長期休暇も残すところ一週間となった、ある日の昼下がり。
ようやく完成させたご禁制のアレを飲ませるために、わたしはギーシュを女子寮の自室へと呼びつけた。

「モンモランシー!やっと部屋に入れてくれたね」

「アンタわたしが呼んだらすぐに駆けつけなさいよ」

どうしてわたしが魔法薬を作ってる時に限ってしつこく誘っておいて、いざ完成して一服盛ってやろうって時に部屋にこもってるのよ。

「いやー、最近ちょっとした趣味ができてね」

「趣味?どうせ卑猥なことでしょ……」

「違うよモンモランシー!いったい君は僕を何だと思ってるんだよ!」

「二股万年発情好色一代……」

「あ、もういいです……」

「あらそう?」

あと20個は単語を並べてやろうと思ったのに。

「実はモンモランシーにプレゼントを、と思ってね」

そう言いながらギーシュは持参した何かの包みを剥がしていく。

「昨日から徹夜の作業で僕の心血を注ぎ込んだ会心の傑作……」

「…………」

「それがこの、『全身可動1/6モンモランシー』だああ!……ああああ?!」

ギーシュが大声を上げながら取り出したわたしの像を間髪入れずにウォーター・ウィップで粉砕する。

「なにをするんだモンモランシー!僕のモンモランシー(1/6)が粉々じゃないか!」

「なによ、それがアンタの趣味なの?やっぱり卑猥じゃない」

「聞き捨てならないなモンモランシー、これは芸術なんだよ。以前サイトと女神像を制作した時に目覚めたんだ。この世で一番美しいもの、それは女体だってね」

「…………」

なにを言ってるのこのアホは……。

「僕はその神の造形とも言える女体に人の身でありながら挑む、無謀な挑戦者……」

なんだろう、薔薇を咥えながらスカしているが全然かっこよくない。
そして、なんでだろう。
なんでわたしはコイツに惚れ薬を飲まそうとしていたんだろう。

「いずれ僕は究極に辿り着いてみせるよ……。究極の少女に……」

…………。

「……まあいいか」

「ん?なにがいいんだい?」

とりあえずコイツで惚れ薬の効果を試そう。
ご禁制の秘薬の効果に興味はあるし。
それに効能がいつまで持つのか計っておこう。

………………。

…………。

……。





「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!モンモランシイイイイイイイイイイイイイ!!!!うおおおおおおおおおお!!!!」

「いやああああああああああああああああ!!!!」

アホで無謀な挑戦者はわたしでした。
惚れ薬入りワインを飲ませた途端にギーシュは目が座り、わたしに襲いかかってきた。
そして完全に暴走。
わたしは学院中を逃げまわるはめになっている。
…………。

「あら、モンモランシーにギーシュじゃないの」

「ルイズ!」

休暇中で人の少ない五角形の学院を周回するレースも3週目に入ろうかというところで運良くルイズとその一行に出くわした。

「助けてルイズ!ギーシュが……」

「うおおおお……、ハアハア……モンモランシー……ハアハア、……」

振り返ってギーシュを指さすと思ったよりへばっていた。
それにしても体力ないわねコイツ……。
わたし以下って。

「ちょうど良かったわ。わたしのお姉さまが魔法学院に御入学なさることになったの」

「お、ちょうど良かったモンモランシー。ルイズに目薬を作ってやってくれないか」

「あら、ルイズのお友達かしら?」

「ミス・モンモランシ、廊下は静かに歩いていただかないと」

「ちょっと!それどころじゃないでしょ!」

なんなの、この人たちは!
どう見ても乙女のピンチ!
緊急事態でしょうが!

「え?なにが?」

「ギーシュよ!今大変なんだから、彼を止めてよ!」

「ハアハア、モンモランシー……、愛してるぞー、ハアハア……」

走り疲れたギーシュは息も絶え絶えでフラフラになりながらも、わたしに近づいてくる。

「え?そう言われても……なにかおかしいか?」

「どう見てもおかしいでしょうが!」

「ルイズどう思う?」

「え?わたしにはちょっと……」

「なんでわからないのよ?!」

「そう言われても、モンモンみたいにいつもギーシュと一緒にいるってわけじゃないから些細な違いには気づけ無いよ……」

「はあ?!明らかにいつもとは大違いでしょうが!」

「こんなに服をはだけて追っかけてくるのよ?!」

「いつもギーシュの服は、はだけてるし……」

「そうだけど!」

サイトの言葉に肯定しかできない……。

「いつも女の子を追っかけてるし……」

「そうだけど!」

ルイズの言葉にも肯定しかできない……。

「いつもハアハア言いながら女の子を舐め回すように見てるし……」

「今ハアハア言ってるのは散々走り回ったからよ!」

それに……。

「わ、わたしを愛してるとか言ってるし……」

「いつも言ってるじゃん」

「そ、そうだけど……」

「なんだノロケなの?モンモランシー」

あらためて言われるとそうね。
いつも言われてたわね……。
そう考えると悪い気はしない……。

「うおおおおお!!!!モンモランシー!!!!好きだー!!」

「きゃああああああああ!!」

と、そんな雰囲気に浸っている場合ではなかった。
体力が回復したのか、ギーシュが突然わたしに抱きついてきた。

「お、おいギーシュ。カトレアさんもロングビルさんもいるんだぞ。いつものような振る舞いは控えろよ……」

そう言いながらサイトがギーシュを羽交い締めにして、わたしから引き離す。

「って!だから、なんで今のギーシュが変だって意地でも認めないのよ?!」

「だってギーシュはいつも変だし……」

「それはそうだけど、そうじゃなくって!」

といか、お前が言うな!

…………。

「サイトさんはハルケギニアに来てからトリステインよりもアルビオンで暮らした(サバイバルした)期間のほうが長いですし……。ウエストウッドが一番落ち着くんじゃないかと思うんです」

「そうですわね……。でもアルビオンにはあまり良い思い出がないようなことを以前サイトさんは話していましたけど。やはりフォンティーヌ領で暮らした方がサイトさんのためにも……」

あと、ルイズのお姉さん(?)とミス・ロングビルは二人でなにか言い争っていてこっちのことなんか気にしてないように見えるんだけど。

…………。

「離してくれサイト!モンモランシー!!モンモランシイイイイイイイイイイ!!」

「おい、ギーシュ。前から思ってたがお前少し、自分がみんなにどう思われるか考えて行動するようにした方がいいぞ……」

「わたし達はギーシュのそういうところに多少の理解があるけど、本来は人前でしちゃダメなことなのよ?」

それにしても、コイツら……。
絶対にギーシュの異変を認めないつもりなの……?
ちっとも埒があかないじゃないの!

「もう!ギーシュはわたしが作った惚れ薬でおかしくなってるのよ!」

「惚れ薬?」

あ、やば……。
アホ主従の言動がもどかしくてつい口を滑らせて……。

「それって、ご禁制じゃないの……?」

「あー、……えーっと……。……まあ」

「モンモランシー、あなた……」

やばい、何とか誤魔化さないと。

「あなたにそんなもの作れるわけないじゃない」

「はあ?」

どう誤魔化そうかと焦っていたわたしに、ルイズから予想外の言葉が投げつけられた。

「あなたがポーションづくりを趣味にしているのは知ってるけど香水とかそういうのでしょ……?」

「バカにしないでよ!ギーシュはわたしの惚れ薬でおかしくなってるのよ!ちゃんとワインに混ぜて飲ませたもの!」

「じゃあワインで酔ってるだけじゃないの?」

「違うわよ!」

「ご禁制の薬はほとんどが高価な材料が必要なものだった気がするけど……、モンモランシーって守銭奴じゃない?」

「失礼ね!だいたい稀少で高価な精霊の涙は『学院で見かけても名前を呼んではいけないあの人(アンリエッタ王女)』が手に入れてくれたのよ!」

「え……?」

あ、やば……。
またしても口が滑ったわ……。

「ねえモンモランシー。姫さまが……」

こうなったら……!

「ほらサイト!アンタで惚れ薬の効果を証明してあげるわ!口開けなさい!はやく開けて!開けろおおおおおおおおおおお!!!!」

「ちょ、待っ、……おごごご…………」

話をそらすために小瓶に入れたポーションをサイトの口に直に流し込む。

「…………。おええええええ……、メチャクチャ苦い……」

「……あ、これはサイトにいつも盛ってるはしばみエキスだったわ」

「おええええ……、モンモンは今も隙あらば俺の飯に盛ってくるんだよな……」

当たり前じゃない。
学院を卒業するまで盛り続けるつもりだし。

「悪かったわよ。ほら、このワインで流し込みなさいな」

「どこに持ってたんだよ……ワインなんて……」

そう言いながら、サイトはわたしから受け取ったワインを瓶から直接飲んでいく。

「惚れ薬入りだけど」

「ぶうううううううううううううううううううううううううううううう!!!!」

「うわっ、汚い!ちょっとサイト!ご主人様に向かって毒霧とか言い度胸してるじゃない!」

せっかくの惚れ薬を小瓶から直になんて勿体無いことをするわけがない。
精霊の涙がタダで手に入ったとはいえ稀少なことには変わりないんだから。

「……?ちょっとサイト?」

「…………」

サイトはすっかり目が座り、ルイズを見つめたまま動かない。

「ほら、みなさいルイズ。わたしの惚れ薬は完璧な出来栄えなんだから」

「ル、ルイズ……」

「なによサイト?」

サイトがゆっくりとルイズに歩み寄っていく。

「ルイズ、ちょーっとオジサンとお出かけしようか……?ね……、オジサンと来ればお菓子とかオモチャとかいっぱい……。ほらオジサンこの辺りの道詳しくないから。ちょっと案内してくれるだけで……。オジサンは君のお父さんお母さんと知り合いだから大丈夫……。帰りは家まで送ってあげるから……」

「オラァ!」

「ぐふぇっ!」

ルイズの鉄拳がサイトの鳩尾にめり込む。

「ちょっと、モンモランシー……。なんかサイトがいつもとは違う方向で変人になっちゃったんだけど?」

「…………」

なんだろう……。
ルイズはサイトにお子様だと思われてるのかしら。
いや、そもそもそういう問題でも無い気が……。

「……これってやっぱり惚れ薬じゃないんじゃないの?」

「そんなはずないわよ!ほらサイト!アンタ女性を誘うときはそうじゃないでしょうが!今のじゃ、まるで人攫いじゃないの!ちゃんとやりなさい!」

「うぐぐ……」

お腹をおさえてうずくまっていたサイトを立たせ、もう一度起動させる。

「ル、ルイズ……」

「なによサイト?」

「チッチッチッチッチッチッ、ほらほら。おいでおいで~怖くな~い怖くな~い」

サイトは床に這いつくばってルイズに向かって手招きをしている。

「…………」

「…………」

何だコイツ……。
女性の誘い方を知らないとかいう次元の問題じゃないわ……。

「よ~しよ~しよし。この子はですねぇ。ルイズちゃんと言って……」

「オラァ!」

「ぐふぇっ!」

サイトは立ち上がってルイズを撫で回し始めたが、またもルイズの鉄拳に沈んだ。
が、今度のサイトは一味違った。

「うぐぐ……、この通り凶暴なんですが、そういう時はこうやって自分を噛ませてあげるんですねぇ」

「ちょ、止めなさ、うごごごごごご……」

なにを思ったのかサイトは自分の手をルイズの口に突っ込み始めた。

「こうすることによって人間に対する恐怖を……」

「フガァッ!」

「ぐふぇ!」

三度、ルイズの鉄拳でサイトは沈んだ。
更に今回は追い打ちに爆発を叩きこまれ、完全に活動を停止したようだった。

「好きだあああああああああああ!!モンモランシイイイイイイイイイイイイイ!!!!」

「アンタも寝てなさい!」

ついでにギーシュにも爆発を叩きこんでくれるルイズ。
これでようやく落ち着けるわね……。

…………。

「あの……、ミス・フォンティーヌ?やはりサイトさんを小さな子どもたちの居るところに連れて行くのは危険なような……、この件は少し考えさせてもらいますね……」

「あら……、わたくしもあのサイトさんと動物たちを会わせるとトンデモナイ行動を取りそうな予感がするので……、どうしようかと……」

そして、何故だかわからないけど二人の言い争いもクールダウンしてる……。

…………。

「はあ……はあ……、ねえ、モンモランシー……?」

「なによ?」

「やっぱり、その薬は惚れ薬じゃないってことでいいのよね?」

「ちょっと待ってよ!さすがに被験者が変人過ぎたのよ!もっと常識人で試させてよ!」

「常識人て言ったって、この学院にそんな人いたっけ……」

「…………」

確かに、思いつかない。
でも確か、すっごく常識的な人がいた気が……。
…………。

ちょうどその時。
『誰かいたっけ?』と必死に考えこむ私達の前を一陣の風が駆け抜けた。

「うふふふふ、ウェールズさまぁ~。早く、わたくしをつかまえてくださいな~」

「あははははは、逃さないぞ、私のアンリエッタ~」

頭にティアラをつけた女子生徒Aと発明小屋のボビーさん(仮)がピンク色の空気を撒き散らしながら、わたしたちの前をフライで飛びながら通り過ぎて行く。

「…………」

「…………」

「待ってください!殿下~!」

それに少し遅れて、銃士隊のアニエスが自らの足で駆け抜けていった。
あのお方とアニエスの追いかけっこはこの学院の日常だが、今のシーンにはいつもと違うところがあった。

「モンモランシー……、惚れ薬ってことは信じてあげる。だけど説明してもらえるわよね……」

「ちょっと……、杖をチラつかせながら言わないでよ。言うわよ全部……」

………………。

…………。

……。





「つまり、精霊の涙がとっても高価な上に入手ルートも見つけらなくて惚れ薬の調合は諦めかけてたけど、どこからか聞きつけた姫さまが惚れ薬を分けることを条件に手に入れてきてくれたのね?」

「そういうこと」

「あらあら……」

「アンリエッタ王女……」

ルイズのお姉さんのミス・フォンティーヌもミス・ロングビルも呆れた様子を隠さない。
それはそうだろう。
ことの張本人であるわたしが言うのもなんだけど……大丈夫なのかしら、トリステイン……。

「まあ、姫さまなら決して悪用なんてなさらないから問題ないわ」

「…………」

「…………」

「…………」

この娘は、さっきのアレを見てなぜそんなことが言えるのかしら……。

「で、どうすれば治るの?」

「ほっとけばそのうち元に戻るわよ」

「そのうちってどのくらいなのよ?」

「さあ?数ヶ月か一年か……」

「はあ!ちょっと待ちなさいよ!ギーシュは別にどうだっていいけど、うちのサイトは変人に輪をかけて変になってるのよ?それを数ヶ月?!一年?!」

「ちょっと……、だから杖を構えないでよ……。仕方ないじゃない、解除薬を作るのにも精霊の涙が必要なのよ」

あのお方がわたしに精霊の涙を渡してくださった時に、これ以上の入手は難しいらしいという事を教えてもらった。
というかギーシュがどうでもいいってなによ。

「どうすんのよ!サイトが子どもにいかがわしい行為を働いたり、動物王国を建国したりしたら!」

「なによそれ……」

…………。

とりあえずルイズを落ち着かせてから、さてどうしたものかと4人で考えこむ。
するとミス・フォンティーヌが何か思うところがあるような口ぶりでわたしに問いかけてきた。

「……精霊の涙は、水の精霊の一部だったかしら……?」

「ええそうですわ、よくご存知ですわね」

「水のメイジさんたちとは長い間、たくさんお付き合いがありましたから……」

なにか事情があるのだろう。
深くは訊かない。

「あの、直接ラグドリアン湖に行って水の精霊にお願いしてみるというのはどうでしょうか」

「ええ?」

「わたくしも、いつかは行かなくてはならないと思っていた場所ですから……」

白魚のような手にはめた指輪を撫でながら、ミス・フォンティーヌがつぶやく。

「こんなに早く機会が訪れるとは思っていませんでしたけど……」

いったいどういうことかしら?
やっぱり何か事情が……。
深くは訊かない……、けど訊きたい。
やたら意味深なミス・フォンティーヌの言い方のせいで好奇心がムズムズと湧き上がってくる。

「ちねえさま、まだ病み上がりじゃない!わたしが行くわ。わたしが水の精霊に爆発を叩き込んで精霊の肉片を……」

「あの、ルイズ?そうじゃなくてわたしはこの指輪を……」

ルイズ……。
いまのお姉さまの話し方で何も察していない……。
それに水の精霊に何する気なの、この娘は……。

「ルイズ……、あなた水の精霊に喧嘩売ってただで済むと思ってるの?」

「大丈夫よ、モンモランシー。実はわたし『アレ』の担い手だったのよ!『アレ』の!」

「…………。なによ『アレ』って……?」

「おおっとー!そいつは言えないわ!……だけど、ただひとつ言えることは……。わたしは無敵、ということね……」

ニヤリと笑みを浮かべながら、ルイズがわたしにウインクをする。
ムカつく……。
明らかに訊いて欲しいって言い方しておいて……。
そもそも、わたしたちルイズとよく話す面々はルイズが虚無だってもう知ってるし。
最近までの会話でルイズには全く隠す気がないと思ってたのに……、いまさら『アレ』とか言い出しても遅いでしょ……。
だけど、一つわかったことがある。
それは、ルイズをラグドリアン湖に行かせてはいけないということ。
何をするかはわからないけど、確実に無茶なことをするつもりだわ。

「ルイズ、わたしが行くからあなたは留守番。惚れ薬を飲んだアホ二人を見張っておきなさいな……」

「ちょっと、どうしてよ?!」

「だいたい、あなたじゃ水の精霊にコンタクトを取ることが出来ないでしょ……?」

「だから、わたしの『アレ』で無理矢理にでも引きずり出して……」

はい、この娘は留守番決定!





@@@@@@@@@@





トリステイン魔法学院 女子寮ルイズの部屋。





「ちいねえさま、大丈夫かしら……」

騒動の翌日早朝にちいねえさま、モンモランシー、そしてまたしても馬車の御者をかって出てくれたミス・ロングビルの三人はラグドリアン湖に出発した。
なぜか留守番を言い渡されたわたしは簀巻きにしたアホ二人をギーシュの部屋に放り込み、みんなの帰りを待っている。

「全然、祈祷書に集中できない……」

「だからな、娘っ子。集中とかの問題じゃなくてだな、そもそもそういう根性でどうにかなるものじゃ……」

「うるさい!黙らないと湖の底に沈めるわよ!」

「…………。もう、武器屋の親父のトコ帰ろうかな……」

まったくサイトのやつ!勝手にこんな剣を買った挙句、乙女の部屋の中に持ち込んで。
装飾の美しいレイピアならまだしも……。
やっぱり、サイトに返品させようかしら?デカいし、うるさいし、汚いし……。
…………。
剣の処分を検討していると、コンコンと部屋の扉を叩く音が響いた。

「ルイズー……、帰ったわよー……」

「モンモランシーなの?!ちいねえさまは?!ちいねえさまは無事?!」

急いで扉を開けてモンモランシーを確認すると、揺さぶりながら問いただす。

「ちちちちちちょっと、いいいいいい言うからららら、揺さぶらないでよよよ……」

「まったくもう……、疲れてるんだから乱暴にしないでよ……」

「それで、ちいねえさまはどこ?」

「ミス・フォンティーヌならヴァリエール領に一度帰るって……」

「ななな、なんで?!やっぱりお体が??!!」

「だだだだだから、ゆゆゆゆ揺さぶらないでよよよよ」

「いいから教えなさい!」

「もう、教えるからいちいち揺さぶらないでくれる?」

わたしが掴むのをやめると、モンモランシーは文句を言いながら乱れた制服を整える。
とりあえず、彼女を部屋に招き落ち着いて話を聞くことにした。

「あのね……」

…………。

モンモランシーの説明によると、ちいねえさまは水の精霊にアンドバリの指輪を返してしまったらしい。
なぜなら、指輪を取り返そうとする水の精霊が湖の水位を上昇させていて周囲の土地の人々に被害が出ていたから。

「わかったわ、ちょっとラグドリアン湖に行ってくる」

「ちょっと、ルイズ!なに言ってるのよ?!」

「水の精霊を消滅させて指輪を取り返すのよ!あれがないとちいねえさまが……」

「ルイズ、あなたのお姉さまは大丈夫だから最後まで話を聞いてよ……」

…………。

本来は、人のお願いをホイホイと聞いてくれるような存在ではないが、アンドバリの指輪を取り返してきたということで水の精霊がいくらか話を聞いてくれたという。
そこでモンモランシーが水の精霊にちいねえさまの体を治せないかと訊ねたが『単なるものの器の歪みの概念は理解できない』とかで断られてしまった。
しかし、アンドバリの指輪で体内の水の流れを補助していたことを説明すると、『そのようなことならば秘宝を使うまでもない』とちいねえさまの口の中に水滴を飛ばし、水の精霊の力で体内の水の流れを補強してくれたということだった。

「わ・た・し・が、交渉したのよルイズ。水の精霊に恩も売れたし、もしかしたらわたしの代からモンモランシ家が水の精霊との交渉役に返り咲けるかもしれないわ!これからはわたしのことをもっと敬って頂戴!」

「……ちいねえさまの口にって、その水ばっちくないんでしょうね……?」

「あなた水の精霊をなんだと思ってるのよ……」

…………。

そのあと精霊の涙も受け取ることができ、ちいねえさまはお父様たちに報告するためヴァリエール領に向かい、ミス・ロングビルとモンモランシーは学院へと戻ってきたという。

「そうなの……。だけど、一人で帰るなんて……。馬でヴァリエール領まで何日もかかるというのに、なんでそんな無茶を……、ちいねえさま心配だわ……」

そんなに急いで直接報告しなくったって。
お手紙でも良さそうなものなのに……。

「ミス・フォンティーヌはフライで帰ったわよ」

「フライで?!」

「実に馴染む、気分がイイから歌でも歌いながらヴァリエール領まで……、みたいなことおっしゃってたわ」

「なにが馴染んだの!?水の精霊!?」

「あの方、すごい魔法の使い手なのね。飛び立って一瞬でお姿が空の彼方の小さな点になったわ」

「…………」

「ねえ、ミス・フォンティーヌって本当にお体が悪かったの?わたしイマイチ信じられないんだけど……」

確かにちいねえさまは魔法が上手だったけど、そこまで超人じみた人じゃないわよ……。
水の精霊……、やりすぎでしょ……。
……でもまあ、ちいねえさまが元気なったのなら良い、……のかしら?

「さて、わたしは早速薬の調合とりかかるわね」

「はっ!そうだった!モンモランシー急いで頂戴」

「明日の朝までには、出来上がるわよ。」

………………。

…………。

……。





@@@@@@@@@@





翌朝。





「モンモランシー、薬は出来たの?」

夜が明けてすぐにモンモランシーの部屋を訪れ扉の前で彼女に呼びかける。

「ちょっと、朝早いんだから静かにしてって……、ルイズあなた目が真っ赤じゃないの……」

「ちょっと読みふけっちゃって……、というか見ふけちゃって、この本を……」

そう言って片時も離さずに持ち歩いてる祈祷書をモンモランシーに見せる。

「……あとで目薬作ったげるわ。お金もらうけど」

「あなたって本当にお金お金ね……。って、そんなことはいいから調合は?上手くいったの?」

「わたしを誰だと思っているの?もちろんよ」

モンモランシーは部屋の奥に戻り、徹夜で調合した薬であろうものを持ってきた。

「昨日から徹夜の作業でわたしの心血を注ぎ込んだ会心の傑作……」

そう言いながら、一つの小瓶をわたしの前に掲げる。

「それがこの『惚れ薬』よ!」

「…………は?」

「それがこの『惚れ……」

「いや、解除薬は……?」

「……………………。……てへっ」

「てへっ、じゃないでしょうが!解除薬はって訊いてるのよ?!」

「だって、『学院で見かけても名前を呼んではいけないあの人(アンリエッタ王女)』が、もしまた惚れ薬を作ることができたなら言い値で買ってくれるって言ってたのを思い出して」

「ぐぬぬぬぬ……」

姫さまか……。
そう言われると文句を言い難い……。

「あれっ、ルイズ。その本なにか光ってない?」

「え?」

モンモランシーに指摘されて、祈祷書を見ると確かに光っている。
え?このタイミングで?
いったい、どんな虚無の魔法が……。

「って、今はそれどころじゃないでしょモンモランシー!結局サイトたちはどうする…………、居ない……」

一瞬、目を祈祷書に向けた隙にモンモランシーは霞のように消えていた。

「あの、守銭奴縦ロール……」

今度あったときはあの髪を今以上にクルクルにしてやる、……爆発で。
……仕方ない、とりあえず新しい虚無の呪文を確認しよう。

…………。





@@@@@@@@@@





「いやー、とんだ赤っ恥かいちゃったよ。カトレアさんやロングビルさんの前であんなナンパ野郎になってしまうとは」

「まったくサイトはしようがない奴だな。でも僕もあんな万年発情好色一代男になってしまうとは、日ごろの僕からは考えられない醜態だよ」

「…………」

「ルイズもゴメンな?セクハラをしちゃって」

「元のハンサム貴族・純情派に戻れて助かったよ、ルイズ」

「…………」

ハハハハハハハ、とアホ二人がアホな会話をしてアホ丸出しの笑い声をあげる。
…………。

「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ……」

「ちょっ、ルイズ!なんでスペル唱えてるの?!」

「いや、やっぱりアンタたちには『解除(ディスペル)』じゃなくて、『爆発(エクスプロージョン)』かなと思って……」

「「どうして?!!!!」」





@@@@@@@@@@





只今、ご都合主義5割増しで話を進めております。
あと三話で完結の予定です。
なんとか今年中に最終話を投稿できたらいいなと思ってます。


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