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[21213] 物見高き貴腐人(現実→HxH)【完結】
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/11/15 23:05
用語説明

貴腐人=腐った貴婦人=BL好きな貴婦人=ボーイズラブの好きな貴婦人
以上を踏まえたうえでご覧下さい。





「ああ!? 信ちゃん、しっかりしてよね! ファンはファンでも頭のおかしい人はごめんよ! しかも狩人教会ってあれでしょ? たち悪い冒険者の集まりなんでしょ? しっかりしてよ、私、結構この会社に貢献しているわよね!」

 私はペンを振りまわして抗議する。冗談じゃない。狩人教会の会長なんかと会わないといけないなんて! 担当の信ちゃんは、どうどうと私を落ち着かせようとする。
 そもそも、BL漫画の担当に何故男がつくのだろう。出版社、変えてやろうかしら? 例えこの時代に共通語が出来ない鳥頭でも、性格が悪くとも、それが出来るほどには、私は名前が売れていた。有名漫画家になると、頭のおかしいファンが沸いてくるものだ。この出版社なら、しっかり守ってもらえて安心だと思っていたのに。
 いや、私はしょせん、前世の著名な漫画家達の漫画を盗作してしかもBLに編集して描いている小者でファンにあるまじき大罪人だ。新しい出版社に移っても、新しい作品を思いつけるはずがないか。私はイライラして髪を掻きあげた。
 この世界は、結構怖い。冒険者がいて魔物がいる、まるでドラクエのような世界だ。
 その冒険者の中に頭のおかしいファンがいるというのなら、守ってくれる出版社は慎重に選ばなければならない。私はじっと信ちゃんを見据えた。

「愛さん、君だって冒険者もの描いてるんですから……。ほら、良い取材になると思って」

「取材なんて必要ないわよ。下手に冒険者の漫画なんか書いたら、また俺の事をネタにしただろって人が増えるでしょ。冒険者って本当、頭のおかしい人が多いんだから。私、絶対に狩人教会物は書かないわ。で、どうなの。この出版社は、私の事を守ってくれるの? くれないの?」

 本当に困った事だ。結局、それで私のホームページが閉鎖に追い込まれた。
 やけに細かい拷問の事を書いた気持ち悪いメールが来て、閉鎖せざるを得なかったのだ。
 せっかくハンターハンターのクロロの18禁長編ものが乗りに乗っていた時だったのに。
 信ちゃんは、困った顔をして頭を掻いた。

「会長は人格者だと聞いています。それに、君の言う頭のおかしい人が増えています。それで、会長が代表して確認に来る事になっているんです。正直、狩人教会に僕らじゃ太刀打ちできません。これでも、この部屋で会うようにしたり、会長さんに自ら来てもらったり、色々便宜を図ってもらってるんです。愛さん、どうかここは我慢してくれませんか。簡単な質問に答えるだけでいいそうだし、僕も傍にいますから」

 私はしばらく考えて、考えて、考えて……頷いた。

「信ちゃん、信じるからね」

 信ちゃんは最近担当になったばかりだけど、エスコートは出来るし、脅迫事件が起こった時も頭のおかしいファンに脅された時も守ってくれた、とても頼もしい人だ。顔だって良い。眼鏡に黒髪のちょっと女顔で、ハンターハンターのノヴが自分に似ていると思い込んでいて、デザインを変えてほしいという可愛い人。確かに眼鏡で髪型同じだけど、ねぇ……。でも、信ちゃんが担当になってから、ファンから頭のおかしい人が減った……のではないだろうけど、少なくとも変な感想が私の所に届かなくなった。時々……そう、ハンターハンターのモラノヴ編を描いている時とか、もういっそのこと……とか呟きながら鬱に入っている困った所があるけれど。どうやら、信ちゃんはやおいが苦手らしいのだ。ノヴが自分に似てるって思いこんでいるから尚更。当然、エッチシーンもどんどん減らしてシリアスを描こうと誘ってきたりもする。少年漫画に転向しようとの誘いもしょっちゅうだ。特に私の看板漫画であるハンターハンターシリーズに対して、それは顕著だ。私からしたら、冗談じゃない。私も男に編集されるのは恥ずかしいし、どうして信ちゃんが選ばれたんだろう。信ちゃんは嫌いじゃないけれど、編集者に抗議したい。

「会ってくれますか! 良かった……では、今日の午後にでも会いましょう」

 信ちゃんはほっとした顔をして、むちゃな日時を提示した。

「ええ、今日の午後なの!? 掃除しなきゃ! 信ちゃん、お茶とお茶菓子と今流行りの服一着買ってきて! 一番良いのね! 経費は出版社で落ちなきゃ私の給料から払っていいから!」

 私はバタバタとお風呂に向かった。

「ハイハイ……それくらい、お安いご用ですよ、今までの我慢に比べたら、ね……。あ、メンチさんですか? 少し頼みごとがあるのですが……」

 信ちゃんの声がうっすらと聞こえてくる。今、我慢って聞こえたような……まあ、仕方ないか。でも、私だって我慢してたんだからね!
 お風呂に入って、髪を乾かした私は掃除を頑張った。特に、エロい原稿、資料は出来るだけ片づける。大体片付いた頃に面智さんが訪ねてきた。変わった名の外国人だけど、料理がすっごく美味しいのだ。

「はーい、愛ちゃん。ハンターハンターの原稿は進んでる?」

 面智さんがバスケットを掲げて言う。

「うん、エロ爺が爆死した所まで描き終わった! もしかして差しいれあるの? あるの?」

 その時、面智さんが僅かに震え、表情が揺れた。信さんがさりげなく面智さんの前に立ち、表情が見えなくなる。どうしたのかな、面智さん……。

「う……うん、サンドイッチと、口が滑りやすくなるようなアルコールが入ったお菓子をちょっとねー」

 私が甘えると、面智さんはにっこりと笑って言った。
 嘘! 超嬉しいんだけど!

「信ちゃん、お茶出してお茶! 買ってきた良いお茶!」

「あ、あたし、ノヴに頼まれて買って来たわよ。服はこれでいい?」

 面智さんがお茶とお茶菓子と服を出す。

「うわー。高そう……。こんな高級なの買ってくれなくても……」

「いいのよ。あたしのおごり」

「うっわ面智さんありがとー! 大好きー! 早速着替えてくるね!」

 私はいそいそと服を着替え、三人で食事をし、歯磨きと化粧を終わらせて会長を待った。
 会長は私の予想に反して、小さな白ひげのお爺さんだった。
 護衛としてか、体格の凄く大きな人がついてきている。普段だったら怖がっただろうけど、私は酷く良い気分だった。

「貴方が、冒険者の会長さんですか? 「狩人物語」の作者の、綱渡、本名日比野愛です」

 私は、機嫌のいい微笑みで握手した。

「わしは狩人教会の会長をやっておるネテロと言う。後ろの大男はモラウじゃ。ところで愛ちゃんや、これが見えるかの?」

 会長が指を立てる。

「一……ですか? いや、二かも。いやーん、私酔って来たー」

「……では、後ろの男に見覚えはあるかの?」

 ネテロ会長の質問に、私は首を傾げた。

「初めて見ましたよー。こんな大きな人、一度見たら忘れませんもーん」

「……愛ちゃんはとてもリアルな漫画を描くの。元ネタはあるのかの?」

「いやーだ、そんなもんないわよーぅ。逆に、狩人教会とは関わらないようにしている位ねー」

 私は大嘘を吐く。本当は全部パクリの癖に。

「ほぅほぅ。所で、モラウ、ノヴ、メンチ、ネテロという名前に聞き覚えはあるかの」

「んー。なんか私の狩人物語みたいですねー」

「そして、ここにいる全員の本名なのじゃよ。モラウ」

 モラウは大きなパイプを出して、煙を吐いた。それが私を縛り上げる。

「あはははは! コスプレ? 手品!? なんなのこれ!」

 会長はため息を吐いた。

「無実じゃの。ある意味可哀想な子じゃ……」

「ああっくそ。けどよ、知らないでやった事にしても、限度が……」

 モラウさんが毒づいた。
 信ちゃんが、立ち上がった。

「会長、もうネタばらししましょう」

「あたし達、狩人教会の人間なの」

 え。何それ意味が分からない。



[21213] 二話 
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/08/17 19:43
 私は土下座していた。

「ごめんなさい! ほんっっっっっとうにごめんなさい! だって実在の人物とかいると思わなくて……! あああ、どうしようどうしようどうしよう」

「全くです。お陰で私とモラウさんがどんなに迷惑を被ったと……いっそのこと息の根を止めてやろうかと何度も思いましたよ」

 私はぷるぷると震えた。物凄い勢いで今まで書いた話が頭の中をめぐる。
 ええっここ、HxHの世界だったの!? 未来にしてはちょっちおかしいし、異星にしては言葉が通じるしで、パラレルワールドかなくらいの事は思ってたけど……!

「悪気がないのはわかっとるよ。落ち着くんじゃ、愛ちゃん。」

 会長は優しく言い募る。

「念、というものを愛ちゃんは知っとるの。愛ちゃんは恐らく、予知系統の念を持っておる。ノヴが見た所、能力を使っている所を見る事は出来んかったがの」

「え、それは無いと思うけど……」

 だって原作知識だし。
 でも、あったら団長に盗まれそうだなぁ……団長……団長……18禁小説……。
 私の顔色は一気に悪くなった。
 あの気持ち悪いメール! あれってもしかしてフェイタン!?
 

「蜘蛛ー! ゾルディックー! 天空闘技場ー! マフィアー! ジンー! ハンター協会―! どうしよう、どうしようどうしようどうしよう。私世界を敵に回したに等しい!? はぅっ」

 私は気絶しかけて、ノヴに後ろから容赦なく活を入れられて復活した。

「落ち着くんじゃ、愛ちゃん。ハンター協会で、いや、ワシ自ら匿ってやってもよい。ただし、それには条件があるんじゃ」

「じょじょじょ、条件ってなんですか!?」

「キメラアント退治に協力して欲しいんじゃ。その予知能力を使っての」

「無理。無理です。そんな、私……」

「わしらが保護せんと、愛ちゃんが大変な事になると思うんじゃがのぅ……。全く、却って日本語のBLで良かったわい。発見も遅れたが、情報の拡散を防ぐ事も出来た。まあ、それでも愛ちゃんの漫画から念能力を取得したものが現れとるんじゃがのぅ。その上、徐々にその情報が広がっておる。良いかの、愛ちゃんが悪いと思うなら、世界を救う事で贖罪するんじゃ」

 さ、さすがネテロ会長、優しい……! 私は感涙した。

「おや、ここに来月発売のネテロxゼノの漫画の原稿が」

 ノヴさんが、ぺらりと紙を見せる。
 ネテロ会長が吐血した。

「ほ……ほっほっほ、本当に……本当に愛ちゃんは命知らずじゃのう」

 半分震える声でネテロ会長は言い、私は急いで机の下に隠れたのだった。

「私って、どこかのホテル住まいになったりするんですか」

 するとノヴがちょっと笑って言った。

「ここが僕のハイドアアンドシークですよ」

「……そ、そうですか……。本は、どうするんですか?」

「もう回収しておるよ。全部ではないがの。最近のファンレターは全てダミーで、描いた漫画は全て分析班に回しておる。すまんの」

「い、いえ。仕方ないです」

 落ちる、沈黙。私は、ぽつりと口を開いた。

「今、どれくらいの時期なんですか」

「そうじゃの、明日、ゴンくんが出発する事になっておる」

「明日、ゴンくんが……」

「それでじゃ。お主の描く漫画は、虚実が入り混じっておる。ノヴとモラウが出来ていたりの。それを差し引く作業は出来るかの? 後、念をきちんと学んで、コントロールできるようになって欲しいんじゃ。自衛の方法も学ばなくてはならんしの。言いにくいが、お主は怨まれておる。わかるの?」

 私は唇を噛みしめ、頷いた。そりゃ自分のやおい漫画が能力の解説付きで流れたら、怒るわよ。怒らないはずがない。ノヴさんが、私を念に無理やり目覚めさせる。
 私は蒸気を懸命にコントロールしようとした。
 無理だった。
 当然のごとく、私は気絶した。

「うー……ありがとう、ノヴさん」

 三日後、ようやく起き上れるようになった私はノヴにお茶を貰って、人心地ついた。
 起きたら、へたくそな纏いは出来るようになっていた……なんて事はなく、元気になったらもう一度やり直しだ。具体的に言うと私が覚えるまで。

「随分と殊勝ですね」

 ノヴさんの言葉に、私は蹲る。

「自分のした事くらい、わきまえてるわよ。拷問されて殺されるのが関の山でしょうね。ノヴさんだって、そうしたいと思っているんでしょう?」

 ノヴさんは頭を押さえる。

「そこまでわかっているなら、何故あんな真似をしたのです」

「だって、本当にいる人間だとか思わないじゃない?」

 そして私は、凄く嫌な顔をして、呟いた。

「メール、見なきゃ」

「やめて置きなさい。内容を見ても辛いだけですよ」

「私の罪を自覚したいの」

 そして私はメールボックスを開いた。
 それは私に対する心からの心配の声だった。涙ながらの被害者の訴えだった。
 純粋なファンからの手紙だった。そして、フェイタンらしき人の脅しだった。
 ああ、頭がおかしいのは私だったよ。

「ノヴさん、原稿かして。とびっきりの漫画を描いてあげる。ノヴさんが望んでた、少年漫画。題名は……そう、ハンターハンター」

 そして私は原稿に筆を滑らせた。私は漫画家になりたくて、一時期好きな漫画を一日中模写していた事がある。ハンターハンターの細部まで、指が覚えていた。
 私は神経を集中させて、筆を滑らせていく。
 クラピカがハンター試験で旅団に捕まって殺される物語(エロあり)が描けました。

「…………ノヴさん、ごめんなさい。こんなものを描くつもりはなかったんだけど……」

「いえ、それが貴方の念能力です。素人だとは信じられないほどの陰ですね。ですが、よく目を凝らせば腐敗した貴婦人があなたの腕に纏わりついているのが見える」

「私に念能力が!? 嘘、嘘!もしかして、予知じゃないわよね!? つーか貴腐人かぁ……」

 うなだれた私は、しばらくしてがばっと起き上った。

「なんでクラピカが旅団に襲われるのよ!」

「クラピカが旅団を倒すという設定はサイトに描いたんでしょう?」

「あ、そっか……そう……そんな……!」

 私のせいで、クラピカ死んじゃうの?
 私は声を震わせながら、ノヴを見据えた。

「お願い……! 私を、ハンター試験に連れて行って!」

「それが貴方の寿命を縮める事になっても?」

「私のせいで誰かが死ぬなんて真っ平ごめんよ。何も出来ないかもしれないけど……ううん、どうにかするのよ。ノヴさん、私に念を教えて!」

 ノヴさんはため息をついた。

「あまり流れを変えたくはないのですよ。しかし、協力はしましょう。その代り、貴方はその漫画の解読を急いで下さい」

 私は不安を抱えながら頷くのだった。
 ハンター試験が、始まる。



[21213] 三話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/08/18 20:54
 シャルナークは悩んでいた。とても……悩んでいた。
 目の前にあるのは団長の一八禁小説サイトである。もはやどうしていいかわからない。
 そうだんするのは簡単だ。でも、シャルナークはこの一言が怖かった。

「……ところで、どーやってこれを発見したの?」

 言えない。言えるわけがないのだ。検索で偶然飛んでしまったエロサイト。
 ここまではいい。まだいい訳が聞く。しかし。
団長にどことなく似た青年が受けである漫画に、つい……そう、つい出来ごころで覗いてみたら団長本人の事でした、などと言えるわけがないのだ。
ましてや全部読んでしまった事など、口が裂けても言えるはずがない。
最初は気のせいかと思った。次に我が目を疑った。次に旅団のメンバーの顔が過ぎった。
誰がこれを描いたんだと。
仲間を疑わなければならない事にむかむかする。
日本語と言う事はまさかノブナガ……!? いや、まさか!
クロロへの愛は十二分に感じ取れたが、これはジョークにしてはあまりにもたちが悪すぎる。
黙っている罪悪感と事の大きさに、さすがのシャルナークも食欲を失った。
団長と仕事で会った時、顔がまともに見れなかった。
……自分一人でこれを解決するしかない。
そして、さりげなく旅団を探るシャルナーク。
シャルナークとしては、ここまで旅団に詳しいのは仲間としか思い浮かばなかったのだ。
いや、メインキャラでもう一人出てくるクラピカと言う男か?
馬鹿な。復讐にしては阿呆過ぎる。
悩むあまりシャルナークは気付かなかったが、そんなシャルナークの様子を気付かない旅団ではなかった。
クロロの顔が見れない。旅団の皆にそれとなく探りを入れてくる。これは裏切りの予兆に受け取られてしまったのだ。
シャルナークは、パクノダとフェイタンに呼び出される。

「シャルナーク……何も言わずに貴方の記憶を読ませてちょうだい。貴方が旅団を裏切っていないというならね」

パクノダがついに口火を切った。

「え……!? い、いや、いいよ。僕一人で解決する」

 シャルナークは思わず口走った言葉に、舌打ちした。

「解決すべき案件があるのね? それは本当に貴方一人で解決できるものなの?」

 シャルナークは瞳を逸らした。正直、いろんな意味で解決策が思い浮かばない。
 
「シャルナーク……私に相談出来ない事なの? しない事なの?」

「あはは、両方、かな……。とにかく、僕一人で何とかするからさ」

「大人しくお縄につくね。団長の顔が見れないなんてよぽどね」

フェイタンが殺気を出す。
シャルナークは悩んだ。いっそのこと、パクノダに協力してもらった方がいいのかもしれない。

「読んでもいい……けど、その代り秘密は守ってよ?」

「ええ、秘密は守るわ」

 そしてパクノダは鼻血を吹いた。

「パク!? どしたね? しかりするよ!」

「ひひひひひひひ、秘密は守るわ。恋愛は個人の自由……」

「何読んだの!? ねぇ、何をどういう風に読んだの!? それは誤解だよ! ああもう、実物を見てもらった方が早いか……。フェイタン、ちょっと見張りしていてもらえないかな」

 シャルナークはパクノダを部屋へと呼び、深刻な顔でパソコンをつけた。
 パクノダはそのサイトを見て、信じられないような眼でシャルナークを見る。

「シャル、これは……」

「うん、この事について悩んでいるんだ」

「こんなものを作っていたの!? フェイタン! シャルが旅団を裏切ったわ!」

 シャルナークは吹いた。フェイタンが素早く入ってきて、パソコンの画面を見て固まる。
 数瞬後に、物凄い表情でシャルを見つめ、刀を構えた。しかし、じりじりと後退している。

「そんなわけないじゃないか! 僕がやっていたのは犯人探し! これを描いた作者が誰なのか探っていたんだ」

「え……ええー……」

 パクノダとフェイタンは不審げにシャルを見つめた。その腰を見ればわかる。明らかにドン引いている。

「深刻なんだよ! 僕らの能力も載っているし……でも、内容が内容だけに誰にも相談できなくて……」

 パクノダは頭を押さえた。フェイタンは、ちらちらとパソコンの画面を見る。

「本当にこれを作ったのはシャルじゃないのね? ……訳してもらえないかしら? 私も一緒に調査するわ。日記とかプロフィールがいいかもしれないわね」

「旅団相手に、凄い喧嘩の売り方ね。シャル、なんとしても犯人を捕まえるね」

 シャルナークは頷いた。
 訳してみると、話は簡単だった。ホームページで、自分が発刊していた本を紹介していたのだ。それに、自分をモデルにしたろう、という頭のおかしい人間が現れて困っている、という記述から、本人か近しい物が予知・遠視系統の念能力者だという事も想像がついた。

「よっぽど錯乱していたのね。シャルがこんな事も調べられなかったなんて」

「う、うん……助かったよ、パク」

「ところで、シャル……どーやってこれを発見したの?」

 フェイタンが振りかえった。













 

 ハンター試験会場で、サトツは予知と比べ、何か変わった事はないか周囲を見回した。
 ありまくりだった。
 ジャポンの者らしき着物姿の御婦人達が……いや、愛によると御腐人達が、戸惑った顔でおしゃべりをしていた。

「私達、ハンター試験会場にきちゃったのかしら」
「申込してないし、大丈夫じゃない?」

 受付の男が、そんな御腐人にさりげなく近寄る。

「間違っていらした方は、こちらから外に出られるようになっております。危ないですから、どうかこちらの方へ」

「あら、御親切にありがとう。でも、こうなったらクラピカ達が現れるか……」

「こちらにはヒソカも来ていますよ」

 その言葉に、御腐人達は渋々と頷いて移動する。
 サトツもまた、間違って来たらしい御腐人を探して外へと連れ出した。
 ひとまず時系列通りに進む、というのは無理なのかもしれない。
 せめて、合言葉は変えるべきだった。
 それでも、愛の予知に主人公としてゴンが登場するのは、何か意味があるのかもしれないという事で、ギリギリまで時系列にそって進む努力はしよう、という話になっていた。
 問題はゴンに手を出すと勘違いされてジンに袋叩きにされたあげく傷心の旅に出たカイトの力を借りられないという事だ。代わりのハンターはノヴかモラウ、難しい所である。ノヴの能力が最上だが、ノヴがピトーの円に触れると心が折れて使い物にならなくなる事も確定事項だからだ。
 それに、ポックルを救うか、あえて蟻の餌食にして、能力を予測できるものにするか、という選択肢もある。
 難しい選択肢にため息をつき、サトツはまた一人、御腐人を連れ出した。











損しないタイトル案募集中です。よろしくお願いします。



[21213] 四話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/08/31 01:19
 トンパは周囲を見回した。
 今回のハンター試験は一癖も二癖もある奴ばかりだ。
 まず、ヒソカ。こいつは危険人物だ。それと、ヒソカと対等に話しているフェイタンとか言う野郎。こいつはやばい香りがぷんぷん匂う……。

「どうしたんだい、急にハンター試験に出るだなんて◆」

「うるさいね。ヒソカが何か企んでいるの知てるね。団長に手出しすると殺すよ。懸想してても殺すよ。……どちらにしても殺していいのか。殺すね」

急に戦いだした二人に、トンパは慌てて避難した。巻き込まれた人間が何人か命を落とす。

 ハンゾー達忍者集団。

「だから、私はレオクラがね……」

「だぁぁぁっ恥ずかしいからこんなとこでエロ本の話をするな!」

「何よぅ、貴方だってゴンと……」

「それが例えどんな奴だろうと、俺に少年趣味はねぇ!」

「ああっ早くトンパさんが媚薬入りジュース持って来ないかしら!」

「聞けよ!」

 トンパは半端に言い当てられてドキリとした。しかも女の目がギラギラしてやばい。こいつらには関わらない方がいい。
 そして着物を着た女。こいつらはホホホと笑うだけでジュースを飲もうとしない。
 こいつらもどこか不気味だ。
 そしてニコル。ほっそりした男。
 こいつは何か緊張していたり、きょろきょろ落ち着きなく周囲を見回していて心ここにあらずで楽そうだ。
 キルアとゼノとカナリア。

「じいちゃん、もう帰れよ。ハンター試験は一度合格したらもう受けられないんだってさ。カナリアも連れてってくれよ」

「むぅ、頼んだぞ、カナリア」

「キルア様は私が守ります」

 ゼノはやばい。トンパの本能がそう告げていた。今回のハンター試験、波乱が待ち受けていそうである。
最後に、ゴンとカピラクとレオリオ、それに絡む女達。
この女達も、先にあげた女達と同じ反応だった。
ゴンは凄まじく鋭い味覚を持っていて、残り二人の実力はわからない。
一つあげるとするなら、カピラクが緊張している様子が見えるという事か。
しかし、こんな所でも女といちゃついているなんてムカつく野郎だ。
 トンパは最後にもう一度周囲を見回して頷く。
……ま、これぐらい面倒な方がやりがいがあるぜ。
 トンパは心中でそうつぶやいた。

 けたたましいベルの音がする。サトツは、ハンター試験受付の終了を告げた。
 サトツは試験の説明をして、走り始める。
 サトツについて来れたものが一次試験合格だ。
そして、サトツは軽やかに歩き始めながら、全身を耳にした。

「ねぇ君、年いくつ?」

「キャー!」

「もうすぐ12!」

「キャー!」

「キャーキャーうるせーな……。知り合い?」

「ううん? なんかよくわからないけど、視線を感じるんだ。聞いても何も答えてくれないし……」

「……ふーん。げっカナリアなんだよその目。……ま、いっか。俺も走ろっと」

「かっこいー」

「オレ、キルア」

「キャー」

「オレはゴン」

「キャー」

「キルア様に手を出すなら私を倒してからになさい!」

「キャーキャー五月蠅いって! 何なんだよ、あんたら! 写真とるな! カナリア! お前も何言ってんだ!」

……どうやら、大まかには予知通りに進んでいるようだ。本当に、大まかにだが。
そして、ヌメーレ平原につく。
ここで、ご婦人がたの何人かとニコルが立ち止った。

「僕はここまでのようです。先頭集団を維持できなければここでリタイアすると決めていましたし、カンニングは趣味じゃありませんからね」

「私達も、ここから先は行けそうにありませんわ。写真、いっぱい取ってらしてね」

「わかりましたわ。ニコル、お姉さま方。後は任せて下さいまし」

 そしてシャッターが下りる。

「いやー、会話が狩人物語そっ……」

 ハンゾーが呟きかけて、顔を真っ赤にして自分の口を慌ててふさいだ。
 サトツは思う。こいつとニコル、男の癖に読んでたんだ、と。
 ヌメーレ平原の説明をしてサトツが走り出すと、キルアは急いだ。

「あいつ、殺したくてうずうずしてる! すげー危険だから、逃げようぜ」

「うん、俺にもわかる。急ごう。レオリオー! カピラク―! 急いでー!」

「そんな事言ってもよー!」

 ゴンはしばらく気にしていたが、振りむいて救出に向かった。
 
「私も覗いてみようかしら」

「おやめになって。危ないわ」

「萌えの為ならこの命、掛けてみせますわ」

「ああ、お姉さま……!」

 御腐人が振りかえってゴンを追いかける。
 サトツは心の中で盛大に突っ込みを入れたのだった。




[21213] 五話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/08/31 13:04
 ヒソカはゴンの前にしゃがみ込んで言う。

「うん、君も合格♡ 良いハンターになりなよ♣」

 それをパシャパシャと取るものがいた。

「ところで君、なんなの? 助けに来たわけじゃないよね」

 貴腐人は微笑んで言った。

「私、魅力的な殿方が仲良くなさっている所を見るのがだいっっっ好きですの! 命を掛けてもいいと思えるほどに!」

「……レロン」

「キャー!」

 パシャリ。
 ヒソカがゴンの頬を舐める。
 貴腐人は鼻血を吹いて倒れた。

「へ……変な人だなぁ……。とりあえず、行こうか、ゴンくん」

「う、うん、でもこんなとこに置き去りにして大丈夫かな……」

「僕が試験官ごっこをしている所に飛び込む位だから大丈夫じゃないかな? 一人で戻れるかい?」

 ゴンは無言で頷く。

「いい子だ♣」

 奇術師ヒソカ。それはゴンにとってこの旅で出会った奇妙で底知れない生き物の一人だった。



「あ、生きて帰ってきましたね。意外です」

 戻って行った貴腐人を見つけ、サトツが言う。
 そして、ため息をついた。200人もの人間が残ってしまった。
 このうち、50名もが余計なのである。しかし、出来るだけ原作沿いと言うのが会長の意向だ。
 ブラハ達の健闘を祈るのみである。
 サトツは静かに成り行きを見守った。
 メンチ達が二次試験の説明を始める。

「二次試験は豚の丸や……」

言い終わらないうちに、ほとんどが散った。
これだけの人数がいる以上、早さが勝負なのである。
ましてや、増えているのは貴腐人方。
予習がばっちりな上、料理が上手なのは自明の理であった。

「あー食った食った。もーお腹いっぱい……」

「ちょっとブハラ! もうちょっと頑張ってよ。狩人物語のわき役キャラが落ちてるわよ!」

「もー無理だよ、どうせわき役だから大丈夫だって。大体、これで原作通りに行こうってのが無理なんだよ。あれ、明らかに幻影旅団じゃん」

 ぼそぼそとブハラとメンチが話し合う。
 二人の視線の先には、ヒソカと睨みあうフェイタンがいた。
 また、貴腐人と腐の一達も話しあっていた。

「わざと失敗いたします? 成功いたします? どうします?」

「私は堂々と作りますわ。私達以外にも狩人物語を読んでいるものがいるかもしれないし、ハンゾーは間違いなく作りますわ。答えを知っているものが大勢いるとなれば、メンチ様も考えざるを得なくなると思いますわ」

「そうですわね」

 そして、貴婦人方は川へと大移動を開始する。
 そこへ、レオリオが大声を出した。

「魚ぁ!?」

 そして、川に殺到する試験者達。
 フェイタンは落ち着いて、昼寝を開始した。この試験が失敗するのはわかっている。
 翻って、メンチの役目は簡単だった。難癖つけて、全てを落とせばいいのである。
 そして、会長とゴンとの出会いのきっかけを作る。
 幸い、メンチを唸らせるほどの料理が出来る者など一握りだ。こんな所にいるはずはないだろう。
 しばらく待つと、やはり普通の寿司を持ってくるものが大勢いた。
 真っ先に持ってきたハンゾーの寿司を食べ、メンチは顔を顰めた。
 メンチにはわかる。こいつ、寿司職人についてきちんと修行して来てやがる。
 そうか、こいつは腐男子か……。
 メンチは生温かい目でハンゾーを見据えて、はっきりと言った。

「駄目ね。不味い」

「な……それはちょっと厳し過ぎないか……?」

 ハンゾーはひくひくと唇を引くつかせたが、渋々と戻った。
 この後、もう一つの試験がある事を知っての余裕だろう。
 そこに、貴腐人方がやってきた。

「私達の真心こめて作ったお寿司、お召し上がりになって」

 メンチはその尽くに難癖つけて駄目だしをしていく。
 しかし。
 口の中でほどよく解けるシャリ……。ちょうどいい歯ごたえ……。
 脂ののった魚……。そしてそこに宿る念が訴えかける。美味しいでしょう? 美味しいと言え!
 至高の寿司がそこにあった。試験の形式上、避けられぬ罠がそこにあった。メンチは、気がつけば叫んでいた。

「合格!」

 そして、同じような能力者は三人いた。
 ブハラがぎょっとした目でメンチを見る。
 メンチは頭を掻きながら言った。

「いやー。自分の舌には嘘つけないわー。美味しく料理を作る念能力って奴ね。合格者、三名で」

「さ、三名……!」

 それは会長が出てくるにはあまりに無理がありすぎる。
 しかし、掛かっているのは世界の命運。
 こんな事もあろうかと、サクラとして受験者に混じっていたハンターは必死でいちゃもんつけを開始した……。

「えー。もうあきらめましょうよ。予知通りなんて無理なのよー」

「それでも、やってみるって約束だったろ?」

 メンチにブハラが小声で言う。
 そして、ハンターは見事狩人物語通りにメンチの判定にいちゃもんをつけ、わざとブハラにブッ飛ばされて見せた。
 そこに到着する飛空船。
 会長の、到着だった。
 フェイタンが飛び起きて会長に刃を向ける。

「ハンター協会が保護した予知能力者を渡すね」

「彼女は、知らなかったんじゃ」

「関係ない。蜘蛛に喧嘩を売た罪は重いね」

「彼女は今しばし必要じゃ。お引き取り願うしかないようじゃの」

 そして、会長とフェイタンの戦いが始まった。
 フェイタンの服が戦いの最中に肌蹴、蜘蛛の印が見える。
 クラピカはぎゅっと手を押さえて歯を食いしばった。

『予知の関係で、蜘蛛が、この会場に来ています。そして貴方の事を知っている可能性が高い。今、貴方は絶対に蜘蛛にはかないません。しかし、貴方は未来で、蜘蛛を倒す力を手に入れる。だから、名前を伏せて目立たぬようにしていなさい』

 試験管からの、忠告。
 そして、本当に蜘蛛は現れた。
 予知など信じられないが、実際に蜘蛛はここに来た。
 そして、自分は将来蜘蛛を倒す力を手に入れると言う。
 だから、クラピカは我慢した。唇を噛みしめ、必死で我慢した。
 事情を聞いているレオリオが無言でクラピカの肩を叩いた。
 それを貴腐人方が喜んで写真に撮る。
 レオリオは石を投げた。
 しばらくの戦いの後、フェイタンは引いた。フェイタンもまた、ギリッと唇を噛みしめる。会長はそんなフェイタンに追い打ちをかける為に殴りかかる振りをして、フェイタンに囁いた。

「まあ、愛ちゃんを絶対に渡さない、というわけではないよ」

「どういう事ね」

「問題は、キメラアントなんじゃ。キメラアントを事前に駆除できれば、愛ちゃんを渡そう」

「……キメラアント? なにねそれは」

「ハンター協会に来るが良い。それは、流星街の為にもなる事じゃ。今はただ試験を受けるが良い」

「……」

 フェイタンは剣を引く。
 そして、卵を取ってくる試験は予定通り行われた。落ちたのはサクラのハンターただ一人だった。



[21213] 幕間ーそれぞれの夜ー
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/01 20:54
「うわーすげー」

「宝石みたいだねー」

 キルアとゴンは、家族の事など、色々な事を話す。キルアに注意されて以来、出来るだけ静かにしていたカナリアだが、それでもキルアが自分の道を歩きたがっている事と、着実に仲良くなってきている事に動揺する。
 駄目よ、カナリア落ち着いて! あの予知は元々男の子同士の恋愛と言うフィルターが掛かるとゼノ様が言っていたじゃない。
 しかし、本当なのかもしれない。
 仮にゴンとキルア様の間にラブが生じたとしても、フィルターと真実、それを見分ける手段はない。それに、火のない所に煙は立たないと言うではないか?
 カップリングとやらは、仲のいい人同士で作られている事も確かなのだ。
 カナリアには少し早いが、いや本来一生縁のないものだが、と見せられた漫画の中、キルア様は主人公のパートナーという役柄だった。
 ゴンが、キルア様のかけがえのない人間になる事を予知されているのは間違いないし、見ている限りどんどん仲良くなってきている。
 何か間違いが起こったらどうしよう。カナリアは仲良く話す二人を見て汗を流した。
 しかし、直接キルア様を問い詰めたり引き離したりする事は出来ない。
 そうすればジンの二の舞だ。

『キメラアントに殺されて玩具にされるという予知よりも……BL漫画に勝手に載せられていたという事実よりも……! 俺はジンさんがそれを信じたと言う事実の方がショックです……!』

 そう言ってカイトは旅立って行った。だってよぉ……そう、ぐだぐだといい訳を繰り返しながら、ジンは会長の所でやけ酒を飲み、その後カイトを追って出て行った。
カイトに許してもらった後で、二人で愛をぶん殴ると言い残して。
しかし余計な知識を得てしまったカナリアは、二人の仲を疑っていた。
……それって二人の愛の共同作業ですか?
話がそれた。
今、色々とばらす事は好ましくない。カナリアはキルア様に傷心の旅に出て欲しくはない。
むしろ、キルア様には永久にそんな事を知らないでいて欲しい。
知ったミルキ様は……。
話がそれた。
とにかく、キルア様の健やかな成長の為に、カナリアはなんでもするつもりだった。
パシャパシャとキルアとゴンを取りまくる貴腐人に二人が何事か聞こうとするのを邪魔しながら、カナリアは決意を新たにするのだった。
そこに、殺気。
カナリアがキルアを庇う。

「どうかしたかの?」

 そこでカナリアは思いだす。会長のゲームの申し出だ。
 カナリアは事態を見守った。大丈夫、ゼノ様からこのゲームの訓練はバッチリ受けている。少なくとも醜態を晒す事はない。
 カナリアは、キルアの成長を心して見守った。

「キルア様―! 頑張って―!」

 貴腐人達の黄色い声援の中、ボールとりゲームが始まった。





 その頃、フェイタンはシャルナークと連絡を取っていた。
 クラピカと言う男はウボォーをその……あまり言いたくない、考えたくない事をした後に殺すど変態だ。それはヒソカの遥か上を行く。
 正直、フェイタンはあまり関わり合いになりたくないが、シャルナークはだからこそ今のうちに殺しておいた方がいいという。
 クラピカについてわかっている事は、この試験に参加している事。
 三人の多大な、神経を擦り減る作業により、ゴンキルサイトで試験内容の粗筋の概要を掴んだが、それまでだった。
 必要最低限の情報を得た時点で、情報を漁る気力が尽きてしまったのだ。
 廃刊されて、行方不明になった作者の漫画である。
 旅団の他のメンバーに怪しまれている状況下で探すのは難しかったし、ファンサイトをめぐる為に必要とする気力は尋常ではなかった。
 それでも、ハンター協会に保護された事を調べ上げた自分達をフェイタンは褒めたい。
 それもこれも、団長の安寧の為であり、自衛の為である。
 フェイタンも、もちろんサイトに載せられていた。
 フェイフラとか、マジやめて。
 それはもはやフェイタンのトラウマである。
 幸い……と言っていいのかどうか、未来は変わる。
 どうやらクラピカはこの試験には参加していないようだった。
 ヒソカや貴腐人達等、変態っぽいのは何人かいたが、ど変態っぽかったのはいなかったからだ。
 フェイタンがシャルナークに報告しながら安堵の息を吐く後ろで、貴腐人は眠るクラピカの横に座り込み、ごく自然にクラピカに寄りかかった。
 クラピカはちらりと目を開け、状況を確認するとそのまま眠る。
 貴婦人はそれを確認し、ゆっくりゆっくりと力を入れてクラピカに寄りかかる。
 クラピカはそれに押されて、徐々にレオリオに寄りかかった。
コテン。クラピカの頭がレオリオの肩に乗せられた時、無音でたかれまくるフラッシュ。フラッシュ。フラッシュ。
 しかし、フェイタンは気付かない。断じて気付かない。
 気付けば戦わなくてはいけなくなるから。
 いつか、この事でシャルナークに怒られる日が来るのだろう。
 しかし、フェイタンだって自分の貞操は大切だった。



 こうして、夜は更けていくのだった。



[21213] 六話 IF
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/11 01:14
「ここはトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。ここが三次試験のスタート地点になります。さて試験内容ですが、試験官の伝言です。生きて下まで降りてくる事。制限時間は72時間。それではスタート! 頑張って下さいね」

 その言葉に、貴婦人達はさっと散らばり、床を調べた。

「ここに扉がありますわ!」

「ここにもありましてよ!」

 次々と扉を見つけては、周囲を調べて放置していく貴腐人に、他の参加者達は動いた。
 そして、腐の一がついに5つ扉が密集している所を見つける。

「ゴン様! キルア様! レオリオ様! クラピカ様! ここ! ここがよろしくてよ!」

「あ、本当だ。密集してる」

 ゴン達はなんの気なしにその扉に入って行く。
 そして、貴腐人達は睨みあった。

「私はトンパ様がこの扉に入る事を推しますわ」

「私、どうしてもこの先に行きたくてよ」

「私はキルア様の護衛です。この扉には私が入ります」

 貴腐人とカナリアが睨みあう中、急に煙幕が張られた。

「悪いな!」

 ハンゾーの声に、貴腐人達はハンカチを噛みしめて悔しがる。

「よりによってハンゾー! 良くもやったわね。見ていらっしゃい……」

 腐の一が殺気だった様子で、既に発見した扉に次々と入って行く。
カナリアと貴腐人も、次々とそれに続いた。
さて、トリックタワーの中では。ハンゾーが、周囲を確認してガッツポーズを取った。
 
「よしっこれでこの試験は楽勝!」

「なんで楽勝なんだ?」

 ハンゾーは途端に慌てる。

「い、いや、あんたたちみたいな強い人達と一緒に来れて、楽勝! みたいな……」

 そういうと、レオリオは一気に気を良くした。

「いや、そうか! お前、良い目をしてるじゃねーか」

 そして5人がタイマーをセットすると、扉が現れた。
 そして、5人は順調に進んでいく。
 しばらくすると、闘技場が現れた。
 ハンゾーはそれを確認して、更にガッツポーズをとる。
 しかし、問題はこれからだ。
 ハンゾーは実は、あれはBLフィルターを通した未来図だという事までは突き止めていたのだ。実際にハンター協会が動いている事からも、裏付けが取れている。
 ようは、漫画からBLっぽい記述を全て取り除けば未来図になるのだ。
 漫画から推測した勝負方法が違っていたら、本当に変態的なものだったらどうしようという迷いもあるが、何もしなくてもクラピカ達は辛勝とはいえ、勝つのである。
 やばかったらすぐさま参りましたと言えば良いだけの話だ。
 つまり、この試験はこの4人と一緒に参加できた時点で勝ったも同然なのである。
 試験官に汚らしいものを見る目で見られていたのは気付いていたし、カンニングしているのもばれているんだろうな―と思うが、カンニングしてはいけないという試験の規約は無い。
 情報収集も忍びの技の一つである。だからハンゾーは胸を張ってカンニングをする。
 
「俺が一番最初に戦うぜ! あんたらは仲良し4人組だが俺は違う。俺の事信用できねーだろ? そこで、俺が一番初めに戦えばダメージが少ないってわけだ!」

「ううん、そんな事無いよ!」

「強そうだもんな、あんた」

「出来れば後の方で戦って欲しい」

 口々に言われる言葉に、ハンゾーは大いに焦った。

「い、いや、俺は始めが良いんだ。ほら、それに一番初めは弱い奴が出そうだろ? だから、頼む、初めに戦わせてくれ」

 ハンゾーは頼み込んで、一番初めに戦う事となった。
 
「勝負の方法を決めようか」

 ハンゾーは、ごくりと唾を飲み込む。

「俺は、デスマッチを提案する!」

「良かった―! 信じてたぜ、おっさん!」

 ハンゾーは嬉しげに息を吐いた。

「ほう、デスマッチが好きなのか?」

「ああ、大方、負けを認めるか、死ぬかのどちらかで勝負を決めようって腹だろ?」

「そうだ!」

「ほっとしたぜ。俺はそういうのを期待していたんだ」

 そして、ハンゾーは手裏剣を取り出す。
 観戦していたリッポーは、ますます蛇蝎をみるような眼でハンゾーを見た。
 戦いは順調に進み、ハンゾーが勝った。
 次の試合でゴンが勝ち、クラピカが戦う前にハンゾーは慌てて言った。

「おい! 気絶したりして、意思が確認できない、しかし生きている状態の時はどうするんだ?」

「そういえば、その場合の取り決めをしていないな」

「止めをさせば良いじゃない?」

「こちらはそれでいいが、こっちが気絶に持ち込んだ場合は勝ちにしてもらいたい」

「……仕方ないわね」

 ここで再度、ハンゾーはガッツポーズを取った。
 そして、その勝負、クラピカが勝った。
 その後も様々な試練が続き、ついに最後の試練。

「5人でいけるが長く困難な道……3人しかいけないが、短く簡単な道……どちらを選びますか?」

「長く困難な道だよな」

「ああ、俺たちならできる!」

「じゃあ、早速壁を壊そうぜ!」

 ハンゾーの言葉に、視線が集中した。

「俺、長く困難な道をちゃんと通りたいな」

「何言ってるんだよ、ゴン!」

 レオリオが叫ぶ。

「だって、それってズルみたいじゃないか」

 ゴンの言葉に、レオリオは唸った。

「良いんじゃないか? 長く困難な道で」

「え、ええ!? そ、そんな! お、俺は一人でも短い道に穴開けていくぞ!」

「ハンゾー。うん、悲しいけど、ここでバイバイだね。じゃあね」

 ハンゾーは大いに戸惑った。戸惑って……結局、長く困難な道を皆と共に行った。
 その後、ぎりぎりの時間で会場につき、生き残った貴腐人方に半殺しの目にあったのはいうまでもない。



[21213] 六話 
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/11 01:14
「ここはトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。ここが三次試験のスタート地点になります。さて試験内容ですが、試験官の伝言です。生きて下まで降りてくる事。制限時間は72時間。それではスタート! 頑張って下さいね」

 その言葉に、貴婦人達はさっと散らばり、床を調べた。

「ここに扉がありますわ!」

「ここにもありましてよ!」

 次々と扉を見つけては、周囲を調べて放置していく貴腐人に、他の参加者達は動いた。
 なお、フェイタンはいち早く扉を見つけて下へと降りていた。
 そして、腐の一がついに5つ扉が密集している所を見つける。

「ゴン様! キルア様! レオリオ様! クラピカ様! ここ! ここがよろしくてよ!」

「あ、本当だ。密集してる」

 ゴン達はなんの気なしにその扉に入って行く。
 そして、貴腐人達は睨みあった。

「私はトンパ様がこの扉に入る事を推しますわ」

「私、どうしてもこの先に行きたくてよ」

「私はキルア様の護衛です。この扉には私が入ります」

 貴腐人とカナリアが睨みあう中、急に煙幕が張られた。

「悪いな!」

 ハンゾーの声に、貴腐人達はハンカチを噛みしめて悔しがる。

「よりによってハンゾー! 良くもやったわね。見ていらっしゃい……」

 腐の一が殺気だった様子になる。
ハンゾーはその扉に入ろうとして……入れない。入れない。入れない。
おもわずorz状態になったハンゾーを、腐の一達は袋叩きにするのだった……。
さて、トリックタワーの中では。フェイタンとクラピカが、互いを凝視したまま固まっていた。
更に説明を聞き、双方絶望にorzする。

「タ……ターキーね」

「カピラクだ」

 それきり、落ちる沈黙。

「おおお、俺はゴンだよ!」

「お、俺はレオリオだ!」

 キルアが、二人を見比べて言う。

「なんなんだ、この雰囲気? ゴン、何か知っているのか?」

「後で話すよ。今はちょっと」

 そして、ゴンはキルアの背を押した。
 一方、フェイタンは恐れ慄くと同時に安堵していた。
 ゴンキルとレオクラ。よし、一人余る。余るったら余るのである。
 そこにクラフェイの入る余地は絶対的にないのである。
 事前情報によるとレオクラ>>>クラ蜘蛛という事だから、大丈夫ったら大丈夫なのである。
 だがしかし、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオと変態に囲まれて試験を受けねばならない事にフェイタンは非常に強いストレスを感じていた。
 
「あー、5人で協力しなければこの先へは進めないんだからな!」

 進まなくってもいいじゃない。フェイタンは思う。いっそここで棄権して……いや、フェイタンには団長を、ウボォーギンを、流星街を守ると言う使命があるのだ。
 ここで挫けるわけには……挫けていいあるか?
 互いに十分に離れた状態で5人がタイマーをセットすると、扉が現れた。
 そして、5人はぎこちないものを感じながらも順調に進んでいく。
 カピラクの視線が獲物を見るそれのようで、非常に痛かった。
 しばらくすると、闘技場が現れた。
 あらすじでは、どうだったか……。
 そこでフェイタンは思考停止した。まさか、そんな勝負方法が!?
 もはや頭は真っ白である。
 もはやフェイタンは最速でまいったを言う気満々だった。

「気分が悪いね。ささと試合に出てまいた言てくるね」

「おいおい……」

 レオリオが咎めかけたが、フェイタンの顔色を見て考え直した。

「気分が悪いのか? 大丈夫か? 見てやろうか?」

 レオリオは医者志望である。彼からそんなセリフが出てくるのはあまりにも当然だった。
 しかしそれはレオリオのお医者さんプレイをHPで見ていたフェイタンには恐怖の誘いである。フェイタンは強く飛んで闘技場に降り立った。

「本当に顔色が悪そうだな。しかし、手加減はしないぞ。勝負の方法はデスマッチだ。一方が負けを認めるか死ぬまで、戦う!」

 それを聞いて、フェイタンは耳を疑った。

「もう一度言うね」

「一方が負けを認めるか死ぬまで戦う!」

 フェイタンは動いた。一瞬で首を切り落としていた。
 フェイタンの安堵が、いかほどだったか。
 一息ついたフェイタンだったが、悲しい事に気付いた。
 勝負が終わったら、またあいつらとともに行動せねばならないのである。
 その後、フェイタンは安堵の息を吐く事になる。
 その後の勝負もまともなものだったのだ。
 ゴンがセドカンを下し、カピラクがマジタニを殺した。
 特にマジタニに対する相対の仕方は、フェイタンを大きく勇気づけるものだった。
 あの程度なのである。
 そうだ、落ち着いてみてみれば、念だって覚えていない。
 カピラクが蜘蛛を騙った者に対して行ったのは、殺人、ただそれだけ。
 そこでようやくフェイタンは、団長の情報を改変しているのと同じように、カピラクの情報も改変されているのではないかというシャルナークの明らかにその場限りの出任せとしかとれなかった言葉を思い出す。
 それに、これだけまともそうな人間なのだから、別人という可能性も非常に大きい。
 ならば……殺すべきだ。ただ、今は流星街の事が気になる。
 少なくとも、塔を出るまで待たなくてはならない。
 その後も様々な試練が続き、ついに最後の試練。

「5人でいけるが長く困難な道……3人しかいけないが、短く簡単な道……どちらを選びますか?」

「長く困難な道だよな」

「ああ、俺たちならできる!」

 そして、最後の長く困難な道を通った後、フェイタンが刃を閃かせようとして。

「お姉さま、あれ、気になっていたのですけれど、フェイタンじゃありません事?」

「作者様のサイトにしか出てこなかった……? あら、あらあらあら、そうですわ!」

 そして遠回しに寄ってくる貴腐人方。
 その好奇の視線にフェイタンが剣を向ける先を変える頃、試験官のメンチがさりげなくカピラクの前に立った。

「フェイタン、流星街についての情報はカピラクの存命と引き換えよ。そう予知者が望んでいるの」

「まあ……もしかして愛ちゃん様ですの?」

「愛ちゃん様、やはりご無事でしたのね!」

 貴腐人達はざわめく。事情を知らない者たちは、ひたすら戸惑うしかなかった。

「……」

 フェイタンは沈黙する。そこには酷い迷いがあった。
 結局、フェイタンは頷いた。
 クラピカを睨みながら。
 クラピカは、メンチに小声で問う。

「予知の事を……教えて欲しい。幻影旅団、つい先ほど力の片鱗を見たが、とても私の力の及ぶものではなかった。その幻影旅団がそこまで恐れる程の何を、私は手に入れるのだ? それが何であろうと、私はそれを……手に入れよう」

 フェイタンが恐れに背中を押される形でクラピカに切りかかる。
 その時、フェイタンはいきなり急停止する。
 地面に、映像が映し出されていた。
 フェイフラの映像が。
 フェイタンは背筋をぞわっとさせ、思わず地面に刃を突き刺す。

「フェイタン、二拓よ。クラピカを殺すなら愛ちゃんは渡さない。クラピカを殺すか、愛ちゃんを殺すか……」

「聞くまでもないね!」

 フェイタンとクラピカはきつく睨みあう。
 そして、三次試験は終わりを告げた。



[21213] 七話 
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/09/11 01:14
 四次試験に行くまでの船旅。そこで、クラピカはメンチから説明を受けていた。

「つまり……予知能力者が、自分のそれを予知とは知らずに、漫画を描いて、その中に幻影旅団と私の事があったと?」

「そういう事ね」

「その予知では、私は幻影旅団を倒していたと?」

「そうよ」

「その未来は、予知が公開された事で崩された?」

「その通り」

「その予知者は、自分の予知が予知だと知る事は出来なかったのか?」

 メンチは、肩を竦めた。

「極東の島国の子でね。世間知らずで馬鹿だったのよ」

 クラピカは、ぎゅっと拳を握った。

「知らないのなら、仕方ない。仕方ないが……。どういう風に幻影旅団を倒したのか、予知の書を見せてはもらえないか」

 メンチは、躊躇した様子を見せる。

「あのね。もう一つ重要な事があって……愛ちゃんって、BL漫画家なのよ」

「BL漫画家? なんだそれは?」

「見ればわかるわ」

 メンチが差し出した漫画。表紙から既にやな予感がビンビンにした。
 パラ見して、クラピカから表情が消えた。

「これを公表していたと?」

「ええ、その……」

「こんなもので私の復讐が駄目になったと?」

「ええ、でね……」

 ビリッビリビリビリ。
 クラピカは一心不乱に漫画を破る。

「で、クラピカ。確かにこの漫画の通りにすれば、幻影旅団から恐れられる存在になるけど……本当にやるの?」

 クラピカから、オーラが吹き上がった。
 念の覚醒である。
 メンチは凄まじい負のオーラを感じ、数歩下がった。
 こんなオーラを感じるのは初めて愛ちゃんの漫画を見たカイトとノヴとモラヴとシュートとナックル以来である。
 ちなみにシュートはその後数日寝込んだ。

「私は……私は……!」

 こいつ……悩んでやがる……! メンチは驚愕に固まった。
 その後、クラピカの言う言葉に、メンチは納得した。

「とりあえず……愛ちゃんを殺す……!! ふふふ……自分が怖いよメンチ。幻影旅団以上に愛ちゃんを憎んでしまいそうな自分が!」

 一応、愛ちゃんはクラピカを救うべく奔走しているのだが。クラピカが殺されそうになったときだって、コップをトリックタワーの窓から出して水見式をする事で、地面にラブシーンを投影してフェイタンを止めた。あれはかなり危険な綱渡りだった。
 フェイタンが頭上に気付いていたら、念弾を放たれて終わりだった。
 しかし、メンチはその事は言わずに、クラピカの肩を叩いた。

「そこで、相談があるのだけど。これ、愛ちゃんの予知からBLを取った漫画なのだけど……。貴方、結構良い念能力を得るのよね。で、キメラアントを倒せば愛ちゃんを渡してもいいんだけどなー」

「……キメラアント?」

「それは試験の後で説明するわ。じゃあ、試験頑張ってね」

 そしてメンチはクラピカを皆の所へと送りだした。
 その頃、ヒソカはフェイタンに予知の事や地面に映ったリアルすぎる画像について聞いて、切りかかられていた。
 さて、4次試験である。参加人数は62名。
 もはやイモリ三兄弟もトンパも落ちている。そこで、会長はヒソカのプレートをゴンが取る事になるようにだけ調整した。後は野となれ山となれである。
 ヒソカの獲物は、ナンバープレートに関わらず決まっていた。
 謎多き貴腐人たちである。
 その一人にトランプをつきつけると、貴腐人は恥ずかしげに頬を染めた。

「あら、ヒソカ様ったら……だ・い・た・ん」

「本当に変わっているね君達。さっき言ってた、予知がどうとか。教えてくれない?」

「ええ、良いですわよ? そこにお座りになって」

 そして貴腐人も地面にハンカチを敷いて座る。
 その素直さにヒソカは殺す事をやめにして、情報収集に専念した。
 意外にも、全てを知ったヒソカは苦笑するのみであった。
 ヒソカの能力は知られても問題がさほどないものである。
 自分が将来立てる計画がめちゃくちゃにされる事は腹が立つが、どうやらハンター協会に保護されるのが早く、その計画の辺りは漫画で広まっていない。HPでも、情報が断片的で、ヒソカが旅団員でない事などは載っていなかったのである。
 それよりは、フェイタンのそんな反応を見れた事の方が面白かった。
 もちろん。このヒソカの余裕は、実物を見ていないからである。
 そしてヒソカは円満にナンバープレートを貰い、手合わせしてやった。
 そこでつい面白くなり、貴腐人を殺そうとする瞬間、ナンバープレートを取られた。
 
「お姉さま!」

 腐の一が移動系の念能力で貴腐人を救う・
 そして、ゴンとヒソカの原作通りの展開がなされた。
 その頃、他の貴腐人とクラピカが対峙していた。

「念に目覚められましたのね、クラピカ様。ならば、遊びましょう……?」

「汚らわしい目で私を見るのはやめろ。知った以上、私は手加減しない」

「おいおい、念ってなんだよ、クラピカ?」

 クラピカは答えず貴腐人を攻撃する。
 しかし、目覚めたばかりの念能力者が熟練の念能力者に叶うべくもない。
 貴腐人はクラピカを導くように戦いだした……。
 そこかしこで、念能力者同士の、あるいは念能力者と一般人の戦いが行われていた。
 何故なら、貴腐人と腐の一は、全員念能力者だったのだから。
 もちろん、ゴン達も巻き込まれないはずはなく……。
 4次試験合格者、21名。全員が念能力者となっていた。



[21213] 八話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/09/16 23:15
「第一試合、ゴンvsハンゾー!」

「あ、俺棄権するわ」

 ハンゾーのあっさりとした言葉に、試験官、貴腐人、腐の一達は蛇蝎のごとくハンゾーを見る。
 ハンゾーはその視線に気圧されて、一歩二歩下がった。

「き、棄権しようがなにしようが俺の勝手だろ!」

「でも、なんで?」

 ゴンが聞くと、ハンゾーは口をもごもごとさせた。

「あー、気分だよ、気分!」

ハンゾーはなんとかごまかし、次に猛り狂った腐の一に負けた。

「げっ後一戦しかねぇ! なんで俺の成績がこんなに悪いんだ?」

 それはハンゾー自身の胸に聞いて欲しいものである。
 そして、原作通りキルアの尋問が始まった。
 カナリアは心配そうにそれを見守る。
 原作とは違って、扉の前ではなく、ゴンの前にクラピカとレオリオが立ちはだかった。

「キルア! 俺はキルアの友達だ。もしもイルミがキルアに意にそわない人殺しをさせてるんなら、俺が守る!」

「ゴン様……!」

 貴腐人、感涙である。
 しかし、兄のイルミとしては非常に困る発言である。

「キル……ゴンが好き?」

「わからない……でも、友達になりたいと思っている」

「でも、キルには跡継ぎを残す義務があるんだ。わかってる?」

「なんだよそれ! 俺は、レールの上なんて歩きたくないんだ!」

「……僕は、キルの為にも、ゴンには今すぐ死んでほしい。でも父さんは、キルがそれで成長できるんならって言うんだ。だから僕は、母さんに頼まれて見極める為に来た。君はキルの事をどう思っているの?」

「大事な友達だ!」

「本当に? 違うって言えば、今僕に殺されないで済むんだよ?」

 ゴンは激昂した。

「俺を見くびるな! キルアは俺の友達だ! 殺されたって否定するもんか」

「ゴン……!」

 キルアは目を見開く。イルミのオーラがほとばしる。それでも、ゴンは真っ直ぐにイルミを見つめた。

「想いは本物、か。まあ、いざとなったらグリードアイランドのカードがあるし、血筋的にも問題なさそうだしね。跡継ぎは是が非でも作ってもらうよ。それに、キルには一度帰ってもらう。母さんも凄く心配しているし、本当にキルが大事なら、ゴンが取り戻しにくればいいよ。キルを取り戻せたら、その時には友達づきあいを認めてあげる」

「受けてたってやる!」

「兄貴……!」

「イルミ様……!」

 ゴンは請負い、キルアは驚き、カナリアはイルミを信じられない目で見つめた。
 イルミは、無表情なまま笑う。

「はっはっは。心中かなり複雑だけど、僕はキルの味方だよ」

「良いのかい♣」

「もちろん、キルがゴンを嫌いになったらすぐに殺しに行ってあげるけど」

「ならないよ!」

 キルアが叫ぶ。
 そして、残りの試験は和やかな雰囲気で進んだ。
 最後に負けたのは料理の念能力を持った貴腐人だった。
 ここで、会長は全員に問うた。

「では、念の初期講習を受ける者は手をあげるがよい。講師はウィングじゃ。期間は三日。それ以上はそれぞれで師匠を見つけるが良い」

 意外にも、フェイタンとヒソカ、イルミ以外は全員が手をあげた。

「おお、これは盛況じゃの。ではウィング、頼むぞ」

 その言葉に応え、黒髪の青年が前に出る。

「私の名前はウィングです。心源流拳法師範代です。初めに言っておきますが、私には少年趣味はいっさいありません」

 その言葉に、貴腐人達は不満の声をあげたが、その一切をウィングは黙殺する。

「じゃあ、ビシバシ行きますよー」

 ニコリと笑ったウィングの、三日間一睡もさせない地獄の特訓が今始まった。
 その間、フェイタンとイルミは会長に呼び出されていた。

「さて、これは門外不出の愛ちゃんの狩人物語の続きじゃ。名を、キメラアント編という」

「キメラアント……」

「それがどうしたね」

「まずは読んで欲しいの。安心するが良い、BL成分は完全に抜いておる。いやはや、愛ちゃんは苦労しとったようじゃ」

 フェイタンはそれを見て、眉を顰めた。パクノダとヒソカ、団長とウボォーギンがいない。それだけが、フェイタンにとって重要だった。
 話の内容は、キメラアントの亜種。
 その話を見て、イルミが眉を顰めた。

「キルアには、少し荷が重いんじゃないかな」

 可愛い子には旅させよ。しかし、安全弁の針も抜いてしまうようだし、ネテロですら適わない相手と戦えと言うのは些か厳しすぎる。
 ゴンがそこそこの優良物件というのはわかったが。
 話の内容から、ネテロの弟子のノヴ、ジンの弟子のカイトよりも大きく育つ可能性はあるようだ。
 イルミとしては弟がそんな道に入ってしまうのは胸が痛むが、家が存続しさえすればいいのである。
 ちなみに、BL成分を抜いているにもかかわらずの仲の良い様子に、イルミはある意味諦めている。
 
「で、キメラアントの暗殺の報酬が愛ちゃんの身柄というわけだね」

「そうじゃ」

「安すぎるんじゃない? ハンター協会の懐は痛まないわけだし」

「そういうな。後始末と警備費を考えると、頭が痛いわい」

「請け負ってもいいね。ただし、前渡しとして幻影旅団に関わる予知漫画を全部渡すね」

「それはフィルター抜きをまだしていないから、BL入るがいいかの?」

「!!…………いいね」

 もちろん、フェイタンはそれに頷いた事を後悔するのだった。



[21213] 九話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/09/23 22:32
 それはある晴れた平和な日の事だった。
 ゼノは久々にネテロに茶を誘われ、まったりと茶を飲んでいた。

「珍しいな。ジジイ。ただお茶に来たわけじゃないんじゃろ?」

「まあな」

 そして、ネテロはお茶を一口口にする。
 中々口に出さないネテロ。ゼノは辛抱強く待った。

「今、ハンター協会で信頼できる……いや、ある意味全く信頼できないんじゃが……予知能力者を保護しておる。それの予知が問題での……」

「どう問題なんだ」

「予知の内容が、全て男同士の恋愛漫画として出るんじゃ。その予知能力者の趣味なのか、誓約なのかはまだわからん。その予知者は、自分の予知が予知だと気付かずに漫画を連載していたんじゃ」

 それを聞いて、ゼノはぷっと吹き出した。

「深刻な顔をするから何かと思えば……面白いじゃないか。ワシはそいつを使う気はないがな」

「漫画形式だから、当然主人公がいての」

「まさか、ジジイが描かれて、それでへこんでいるとかいうんじゃあるまい?」
 
「それもあるの」

ゼノは堪え切れずに笑いだす。ネテロは憮然とした顔になった。

「それで、的中率はどうなんだ」

「恋愛事を除けばほぼ100%。しかし、恋愛事を除く作業が大変での……。それの主人公の恋人役がの」

「恋人役が?」

「ここのキルアなんじゃ」

 時が、止まった。

「ジジイがうちのキルと……?」

 ゼノから殺気が放たれ、ネテロは慌てて否定した。

「ゴンくんという少年じゃよ。ほら、ジンの息子の。それに、恋愛事については全くの嘘じゃ。誓約に過ぎんからの。ワシの弟子のモラウとノヴも恋人同士という設定での。まあからかわれてからかわれて……」

「どっちにしろ、キルに深く関わる事は変わりないんじゃないか? ちょっとそれ、見せてみろ」

「ショック死したらいかんぞ」

「するか」

 5分後、ネテロはゼノに心臓マッサージを施していた。
 復活するなり、ゼノは奇声をあげて原稿をめちゃくちゃに破る。
 ゼノを心配して慌ててやってきた執事達が、事情が分からないまでも心配そうな顔をしている。

「それでの。その漫画に、わしより強い厄介な生き物が出るんじゃ」

 その言葉で、ようやくゼノは止まる。

「なんだと……?」

「それは、ようするにゴンくんを主人公に据えた物語なんじゃがな。そこで出てくる、キメラアントという敵が問題なんじゃよ。いやー、その予知者は自分の漫画が予知じゃと気付いてないと言ったの? 編集者として潜り込ませたノヴが、会長はいずれ王に殺されるの~なんて言葉を聞いてきてな。困っているんじゃよ。その上、作者自身も、主人公が勝つと願っているけど、実際に戦ってみたらどうなるかわからないと言っておっての。どちらにしろ、キルアがキメラアント退治に大きな役割を果たすのは確かじゃ。それで、相談に来たんじゃよ。キルアが、お母上とミルキを刺して逃げたんじゃろ? ほどなくハンター試験に出るはずじゃ。ゴンくんとキルアがそんなにも成長するなら、ここはシナリオ通りに動くのも良いのじゃないかと思っての。これは公開できる範囲の漫画じゃ。ヨークシン編の前の辺りまでじゃの。これを見て、じっくり考えてくれんかの。協力するなら、これ以降の話も見せよう」

「家族会議に掛けてみよう」

 今度はゼノがオナイの心臓マッサージをする番だった。
 後カナリアが前倒しで罰せられた。



「……というわけで、レオリオ。恥を忍んで頼む。私の復讐を果たす為に練習相手になってくれないか」

「やったら自殺する」

「そこを何とか」

「頭を冷やせ! そりゃ創作だ! 創作! 801穴なんて男にゃねぇの! 穴はあるけど実際に男同士でするのはそんなに簡単じゃねぇ! ましてやそんな行為無理! 不可能!」

「レオリオも医者ならそこをなんとか出来る方法を考えたらどうだ!」

「知ってても絶対教えねーーーーーー! つーかそれ本当にやってたのか? 連載して公共の場に流れてたのか? マジで? ねえマジで? 俺、どんな形で登場してんの?」

クラピカは視線を逸らす。

「愛ちゃん殺―――す!! ぜってー殺―――――す!」

 観光バスの中でレオリオとクラピカが押し問答するが、意味がわからない。二人に聞いても言葉を濁すので、ゴンはただ、景色を見て楽しむ事にした。
 観光バスでキルア宅に行くと、ゼブロは慌てて執事に連絡した。
 そして、物凄い勢いでゴンをじろじろと見る。

「あんたがキルア様の……」

「俺がキルアの友達だ。中に入れてよ」

「それは出来ません。キルア様のパートナー足るもの、この2トンの扉ぐらい軽く押しあけられるようにならなくては。それも、絶でね」

「絶で2トンだぁ!? フルで念能力を使っても、動かせるかどうかだろ!」

「俺は気にいらないな。友達に資格なんていらないよ」

 そしてゴンは執事室に電話する。

「はいゾルディック家執事室」

「あ、もしもし。僕キルアくんの友達でゴンと言います。あのキルアくんいますか?」

「キルア様に男の恋人など必要ありません」

 ガチャッ
 ゴンは無言で電話を再開した。

「はいゾルディック家執事室」

「俺、恋人じゃないです! 友達です! 友達! 俺はキルアにそういう思いは全く抱いてないから!」

「このホモ野郎、キルア様をもて遊んだとでも言うのか!?」

「どうしてそうなるの!?」

 クラピカとレオリオはハンカチでそっと涙を拭き、愛ちゃん殺すと呟いた。
 ゴンは最終的に喧嘩腰で電話を切り、そしてしょんぼりした顔で言った。

「もしかして、キルアは俺の事そういう風に思ってたのかな……。俺、勘違いさせるような事したっけ……?」

「いや、俺にはわかる。執事の勘違いだ」

「そうだ、私にもわかる。キルアはゴンの事を友達だと思っているよ。今までそういう仲のいい相手がいなかったから、執事が動揺して暴走しているんだろう」

「そっか。執事さん、そんなにキルアの事心配なんだ……。でも、友達に資格なんていらないよ。俺は侵入者扱いで良い」

「それも良いですね……いやいや! 例えどんな腐れた可能性でも、私ごときがキルア様の将来の道を狭めていいわけは……でもそれは魅力的な提案ですね……いやいや! 命令に反するわけには! とにかくですね、キルア様とお友達でいるという事は、いつ人質に取られてもおかしくないのですよ」

「人質……?」

「それで、最低限身を守れるくらいの強さが必要なのです。わかりますね?」

「っかし、絶でかぁ……」

「ちょうどいい特訓の機会じゃないか、ゴン」

 三人は話し合い、特訓をしていく事になった。
 しかし、三人は気付いていた。どこからか無数の目が自分達を見張っている事を……。
 そして、一ヶ月後。ついに三人は門を突破して、先に進んでいく。
 その先に立ちはだかったのはカナリアだった。

「カナリア! 久しぶり……」

「近寄らないで。貴方達がいるのは私有地よ。キルア様には会わせない」

「カナリアだったら知ってるよね。俺達、ただの友達なんだよ」

「今はね。でも、キルア様は世間知らずな方だから、うっかり騙される事があるかもしれないわ」

「俺はキルアを騙さない!」

「とにかく、大目に見るのはそこまでよ。この線から一歩でも入ったら実力で排除します」

 ゴンは、何度殴られながらも、ひたすら前へ進む。纏すらしなかった。
 カナリアの表情は徐々に歪み、最後は泣きながら攻撃する。

「私は! 私は、キルア様を守るのよ……!」

「信じて。俺はキルアを傷つけない」

カナリアはついにしゃがみ込み、泣きだしてしまう。
ゴンが慰めようとしたその時、ゴンの手を弾が掠める。

「カナリア。見習いとはいえ、執事の誇りを持ちなさい。なんですか、大切な方の前で醜態を晒して」









[21213] 十話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/09/26 23:34
「私はキキョウと言います。この子はカルト。貴方がゴンですね。単刀直入に言いましょう。キメラアントの王を倒せば、キルアとの交際を認めます。ですがそれまで、キルアと旅をする事は許しても、それ以上は許しません」

「キメラアントって? それに、友達に資格なんていらないよ」

「キキョウさん! 貴方は勘違いしている。愛ちゃんの漫画で恋愛事は全て出鱈目だ!」

 レオリオの突っ込みに、キキョウは頷いた。

「それでも、ゴン。貴方がキルアと友達になりたい事は事実でしょう?」

「違うよ。俺はもう、キルアと友達だ」

「ならば、間違いがあるかもしれません」

「ねぇよ」

 レオリオがすかさず突っ込む。
 言っている事はよくわからないが、空気を読んだゴンは言った。

「俺は、キルアに対して恋愛感情は全く全く全く全く全く全く全く全く抱いていません。友達になりたいだけです。どうしてそう思うのかはわからないけど、愛ちゃんって人が言っているのは出鱈目です。信じて下さい」

「パパも同じ事を言っていたわ。これはキルアが大きく成長するチャンスだと……。でも、相手がもしキメラアントの王を倒すほどの子なら……」

「だから、ねぇよ。創作だって、あんたもわかってるんだろ?」

「信じて下さい」

 レオリオと、真っ直ぐに見つめるゴン。

「……わかりました。ただし、カナリアを護衛としてつけさせます。もしも足手まといになったら即座に切り捨てて結構」

 そして、キキョウはカナリアを呼び出し、小声で命ずる。

「ゴンがキルに手を出そうとした時は……わかっていますね」

「命に掛けても抹殺します、奥様」

「そして、ゴンがキメラアントを倒した時は……わかってますね」

「ゴ、ゴンより強い女性探しに全力を尽くします」

 キキョウがにっこりとカナリアを見つめる。

「……ぜ、全力を尽くしてお二人の仲を応援します……」

 打ちひしがれたカナリアに、クラピカとレオリオは同情の視線を送る。
 カナリアの肩に手を置き、レオリオはぐっと親指を立てた。

「カナリア、いつか強くなって愛ちゃん殺そうぜ」

「はい……はい……!」

 カナリアが不幸になっている時、ミルキもまた不幸になっていた。
 漫画の内容が頭から離れないのである。
 これはもう、実物を見てほらやっぱり実物なんて……と納得するしかない。
 漫画版キルアと実物版キルアは別物なのだ。だから漫画版キルアにどきっとしちゃってもミルキのせいじゃないのだ。
 ミルキは決死の思いでキルアを鞭叩いた。
 一方キルアは、纏いを覚えたので楽なもんである。疲れていた事もあり、天使のような寝顔を披露していた。その体には傷一つつかない。
 ミルキの頭に、あっはんな漫画内容が過ぎる。過ぎる。過ぎる。
 ミルキは唐突に鞭を投げ出し、泣きながら駆け去った。

「俺は女王様じゃねー!!!!!!!!! 弟に懸想する変態でもねー!!!!!!」

 泣きながら駆け去るミルキは、心労で痩せていた。
 思春期の少年に、BLとはいえエロ漫画は刺激が強かったのである。
 もちろん、ミルキは年相応以上にそういった物を見知っていたが、愛ちゃんのそれは今までのそれを遥かに超えていたのであった。
 今ミルキは、邪念を消し去る念能力を開発中だが、それは遅々として進んでいない。

「何なんだ豚君の奴。すっかり痩せてるし」

 わけがわからないのは置いてけぼりのキルアである。
 ゼノが現れて言った。

「放っておいてやれ。それより、シルバがよんどるぞ」

「親父が?」

 そしてキルアは父親の所に駆けて行った。

「やれやれ、ここまでは概ね予知通り……か? ヨークシン、どーなるのかのぅ」

 それは誰にもわからない事である。
 さて、キルアがゴン達の所に向かっている最中、執事達はゴン達をもてなしていた。

「キルア様を奪うお前らが憎い……! 猛烈に憎い!」

「奪わない! 奪わないから落ち着いて! 俺とキルアは友達! 友達だから!」

「ゴトーさん、キルア様は私がお守りしますから……!」

「お前ら、創作だっていい加減わかれ!」

「これほど人を恐れさせるBLとやら……やはり私は手に入れるべきなのでは……」

「正気にかえれクラピカ!」

 原作以上の迫真の「演技」で。
 結局、その後、レオリオとクラピカは一緒に師匠探しに行く事になった。
 とてもではないが、クラピカを放置できる状態ではなかったのだ。
 ゴンとキルアはもちろん、闘技場である。
 さて、その頃、愛ちゃんは新たな予知を描き上げて、ノヴに止められていた。

「放して! 私のせいでシャルナークが、フェイタンが! 助けに行かなきゃ!」

「落ち着いて下さい! 殺されるわけじゃないでしょう」

「だけど!」

 愛ちゃんが描きあげた漫画とは、フェイタンとシャルナークのエロ漫画である。内容はクロロ団長自らのお仕置きである。

「わかりました。こうしましょう。フェイタン宛てにこの原稿を送りましょう。そして注意をしてもらうのです」

「わかったわ」

 渋々、愛ちゃんはノヴの提案を飲んだ。それはもちろん、シャルナークとフェイタンを更なる苦境に追い込むのである。



[21213] 十一話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/10/03 21:53
 天空闘技場である。
 ゴン、キルア、カナリアは無事50階まで到達していた。
 途中、ズシと言う少年に会う。彼はビスケという少女に師事していた。
 そして、ウィングが50階の受付にいた。

「ウィングさん!」

「よく来たね。待っていたよ。ネテロ会長に君達に念能力の指導の続きをするように言われてね」

「げ。またあの修行をするのか?」

「今度は、ゆっくりしますのでご心配なく。まずは念なしで200階まで辿りついて下さい。それまでは点と燃のみするように」

 ウィングはにっこりと笑った。
 そしてゴン、キルアは順調に勝利していく。
 200階に到達すると、ウィングから早速次の修行を習い始めた。
 カストロはとあるファンのプレゼントした漫画によりひきこもりになっていた為、ゴンは原作よりも早くヒソカと対決する事になった。無事因縁の対決を終え、ヒソカは用事があるからと天空闘技場から姿を消した。多少の違いはあるものの順調にほぼ原作通りの道を歩んでいた。
 その一方、原作通りの道を歩めない者もまたいたのだった。
 シャルナークの様子がおかしいからと、フェイタンとパクノダに調べさせたのだが、時間が欲しいと言ってきた。
 三人でこそこそ何かやっているようだし、どうも様子が変だ。
 シャルナークとパクノダは遥々ジャポンまで出かけたし、フェイタンはハンター試験に出かけた。
 フェイタンはクロロの顔を見なくなったし、パクノダも何か可哀想なものを見る目でクロロを見るのだ。
 そして、またもや三人でコソコソしている。
 クロロは、当然の選択として、それとなく調べてみる事にした。
 そんな時だった。フェイタンへの郵便が蜘蛛の隠れ家の一つに届いたのは。
 フィンクスは、迷わずそれをクロロの所に持って行った。
 そのニ三日後、シャルナーク、フェイタン、パクノダはクロロから密命を受けてとある宝石を盗みに行った。
 言うまでもなく罠である。
 その後、クロロ団長自らの手による、三人の部屋の大捜索が始まった。
 フィンクス達は、ガタガタ震えながら直立して部屋の外でじっと待っているしか術はなかったのである。
 そして、シャルナーク達が帰ってきた。
 物凄く空気が不自然な事に、シャルナーク達は眉をひそめる。
 クロロが三人を出迎えた。やはり、三人はクロロの顔をまともに見れなかった。

「シャルナーク。話があるんだ」

 穏やかな団長の言葉。しかし、シャルナークは背を泡立たせた。
 ウボォーギンとフィンクスがシャルナークとフェイタンを羽交い絞めする。

「な、なんで……?」

「いや、二人の願いを叶えてやりたいと思ってね」

 そしてクロロが取り出した漫画に、二人は噴き出した。

「な、なんで愛ちゃんの漫画がここに!?」

「へぇ、随分仲がよさそうなんだな。彼女についてもじっくり話を聞かないとな」

「だ、団長! これには深いわけが! 全部話すから……」

「ハハハ。拷問が先だ。いや、二人にはご褒美になるのかな……?」

 そして、シャルの頬に怪しく手を当てる。

「落ち着くね団長! 悪いのは愛ちゃん一人ね! そんな事してもお互い気持ち悪いだけね!」

「もちろん、その事に対する対策は立ててある。ヒソカ―」

「ぎゃああああああああ!!」

「団長! ぼ、僕達は団長の為を思って!」

「へぇ……俺を思って俺のエロ漫画を全世界に配信したんだ?」

「違うんだー!」

 ヒソカの魔の手が、二人に伸びる。






























 結局、パクノダの決死のメモリーボムによって二人は助かった。しかし、二人の心に深い……深い傷が出来たのは確かである。
 シャルナークとフェイタンはまだ涙ぐんでいた。
 
「何故すぐに報告しなかった」

 尋問は終わったわけではなかった。

「団長の知らない所で完全に処理したかったんだ」

「能力を知られている事を知らないでいろと?」

 その言葉に、シャルナークは口ごもる。
 
「愛とクラピカか……要注意人物だな。フェイタン、何故クラピカを殺さなかった。漫画の中の出来事はフィルターだって、わかってたんだろ?」

「面目ないね」

「愛については、俺達が殺さなくとも誰かが殺すだろう。クラピカを殺す事を優先すべきだったんじゃないか?」

「……」

 フェイタンは項垂れた。クロロはため息をつき、言った。

「とりあえず、予知の解析をしよう。フェイタンは、キメラアントについて知った事を教えてくれ」

「ウボォー達がいなかた事以外覚えてないね……」

「ヒソカ―」

「ウェルカム❤」

「死ぬ気で思い出すね!」

 そして、全員で解読を始める。
 解読に夢中になっている間に、ヒソカは買い出しに出かけたきり消えていた。

「うわぁ……」

「こりゃ凄いわ」

 シズクとマチが感嘆の声をあげる。

「どうやってころそーかねー」

「やっぱり拷問の後だよねー」

 解読の甲斐あって、クラピカの能力と方法、ヒソカの裏切りが判明する。
 しかし、フィンクスとマチが染まってしまうと言う大きな代償も支払う事になったのだった……。



[21213] 十二話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/11/15 23:03
 ヨークシン。クロロは、予定通りにオークションの品物を全て盗み出した。
 目的の念能力もゲットである。意外な事に、一切の邪魔は入らなかった。
 しかし、一つ問題があった。

「どうしよう、俺、愛ちゃんの漫画が頭に焼きついて離れないんだ……団長……」

「正気に戻るね。気持ち悪いね。私を抱きしめるのやめるよろし」

 フェイタンをぎゅうっと抱きしめ、おとめチックに悩むフィンクス。
 フェイタンはさっくりフィンクスの手を刺しているのだが、フィンクスは一顧だにしない。

「あの漫画エロかったしな―!」

 がははとウボォーギンが笑う。
 あからさまに毒されたマチとフィンクスの扱いをどうしようか、パクノダに頑張ってもらって記憶を消す念能力を取得してもらおうか現在相談中である。
 もちろん、任意の記憶を消す念能力者も並行して捜索中だ。
 皆と一緒に冷たい目を送りながら、ノブナガはこっそり考えていた。
 ……ノブナガxウボォーギンが無かったのに自分はほっとしているのか? 残念がっているのか? そう考えてしまう自分にノブナガは激しく動揺していた。
 一歩間違えれば、ウボォー受けなんぞ書いてあったら、自分はフィンクスのようになっていたかもしれない。ならば、感謝すべきなのであろう。……そう結論付けるノブナガ。しかし、そう考えてしまう時点で疑いの予知も無くアウトォォォォォッ!!である事にノブナガはまだ気付いていなかった。そして、ウボォーギン受けはあるのだが、クロロ・パクノダ・フェイタン・シャルナークが一致してあまりにも酷過ぎると伝えないでいたのもまた知らなかった。
 ノブナガは今現在だけ、幸せである。
 速やかに蜘蛛が現地解散した後も、パクノダ、シャルナーク、フェイタン、フィンクス、マチは一緒である。彼らは調査を義務付けられていた。後、重病人の介護。……拷問である。主にマチに引っ張られて同人誌ショップに連れて行かれた時や、悶々と狩人物語の同人誌を読んでいるフィンクスを目撃してしまい、失った物の尊さを考える時が。
 シャルナークチームが頑張っている間、クラピカは一体何をしていたのか?

「ぎゃー! クラピカ、正気に戻れ―!」

「レオリオ! お前弟子として身代わりになれ!」

「私は蜘蛛を倒さなければならないのだ……どんな手を使っても!」

「そんなんで蜘蛛が倒せるはずが……ぎゃああああぁぁぁああ」

 取り込み中のようなので少し時間を進めよう!
 ゴンとキルアはバッテラ氏に採用され、大いなる冒険を楽しもうとしていた。
 ただし、今回は初めからビスケが一緒である。
 ズシが身を守れる位に育ったと判断されたので、改めてウィングに預け、ゴンとキルア、ついでにカナリアを育てようと言うのだ。
 幸い、グリードアイランドは外界と隔絶されていた為、スムーズに原作通りの道を歩めた。そして……。

「レオリオ! どうしてここに?」

 ゴン達が現実世界に戻ると、レオリオがバッテラ氏と談笑していた。レオリオは鎖を握っており、その鎖にはクラピカが結びつけられている。

「おお! ゴン! 元気か!?」

「レオリオ! どうしてここに!?」
 
ゴンが聞くと、レオリオは念能力を出して見せた。明らかにそれは医者の格好をしていた。

「いや、ここにいいるバッテラ氏が俺の能力を必要としているって聞いてな。お前ら、クリア報酬が必要なんだろ? それで、な」

「レオリオ、ありがとう」

 ゴンが礼を言うと、レオリオもまた照れくさげに笑った。
 そして、真剣な顔になる。

「愛ちゃんの事は、うすうす知ってるよな。愛ちゃんってのは未来を男同士のれない物の物語として描き出す力を持った厄介な女でな」

「俺としちゃあんま知りたくないけど……」

 キルアが、不満げに言った。

「それで、それによると会長より強い奴とお前らが戦うらしいんだよ。それで、俺じゃなんの助けにも慣れねーと思うけど、カイトさんにゴン達の事を頼むのと、医者として待機する事位はしようと思ってな」

「カイトさんに?」

「お前の考えていた方法だと、カイトの方に飛ばされるんだ」

 それに、ゴンは若干がっかりしたようだったが、すぐに気を取り直した。

「わかった。じゃあ、レオリオも一緒に来てくれるんだね?」

「おう!」

「で、クラピカはどうするの?」

「もちろん、私も参加させてもらう。だからレオリオ、この鎖を解いてくれないか」

「危険だから駄目だ」

 レオリオは一刀両断にして、ゲームに戻るゴン達を見送った。
 そして、ゲームクリアをすると、4人組はカイトの元へと向かったのだった。

「全く、ジンさんはいつもいつも自分勝手すぎないか? 平謝りして来たと思ったら、いきなり、急用を思い出したなんて……」

 ぷりぷり怒っているカイト。カイトは、ゴン達を見ると笑顔になった。
 ちなみにカイトの周りは宝飾品で埋まっている。宝石の一つを見つめながら呟くカイトは、さながら恋に悩める乙女のようだった(カナリア談)。

「おお、来たか! 愛ちゃんぶっ殺すぞ!」

「愛ちゃんぶっ殺しますか!」

「そうだな、愛ちゃんはぶっ殺さないとな」

 カイト、レオリオ、クラピカは意気投合する。
 そこでゴンが聞いた。

「カイト、ここってどこなの?」

 それにカイトはにやりと笑った。

「キメラアント発生地区だよ。何人かのハンターが既に捜索に入っている。そして……」

 カイトがレオリオに目をやると、レオリオは心得たと言う風に、荷物を降ろした。
 数々の電子機器。通信機。そしてハンター界最高の爆弾。

「さあ、ハントを開始しようゴン。ご褒美は愛ちゃんを殺せる権利だ」

 レオリオが鎖を離した。そして、獣は解き放たれる。

「あ、クラピカ……!」

「クラピカは大丈夫だろ。俺達は固まっていこうぜ」

 レオリオが追いかけようとしたゴンを引きとめ、そしてゴン達は積もる話をしながらハントを始めた。
 そして、解き放たれたクラピカである。
 クラピカは、いかに旅団を効率的に殺せるか考えていた。そして、クラピカが考えた方法とは……王に、なる事である。確率はこの上なく低い。
 しかし、クラピカは人間を捨ててでも幻影旅団に復讐がしたかった。
 どうせプライドなどとうの昔にどぶに捨てた。
 愛ちゃんに正当な復讐方法が潰された今、クラピカにはこれしかなかったのである。
 一人で行動できるよう、狂った振りをしていて本当に良かった。
 そして、クラピカはレオリオにも見せなかった能力を使う。

「ダウジングチェーン。私を、女王の元へ」



[21213] 最終回
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/11/15 23:50
「いや……ああ……あああ……」

 愛ちゃんは、震えていた。あっという間の事だった。影から手が出て来て、愛ちゃんを影の中に引きずり込んだ。そして、愛ちゃんは丸裸の動かない人間達のいる場所に囚われていた。周囲の人知を超えた化け物。それももちろん怖かった。
しかし、いっそう恐ろしいのは、それが、それが……。

「クラピカなの!? く、クラピ、クラピカ、食べられ……蟻になって……」

 愛ちゃんの瞳からぽろぽろと涙がこぼれる。愛ちゃんは、決して誰かを傷つけるつもりなど無かったのだ。そして、愛ちゃんの知る未来では、愛ちゃんの干渉前の未来では、クラピカが蟻になる事は無かった。つまり、これはまぎれもなく愛ちゃんのせいで。

「ごめ、ごめんな……くぎゃ」

 そうして、愛ちゃんは肉団子にされて女王の餌にされる。それを序章として、人間を捨てる事で大きな力を得たクラピカの復讐は始まる……。
 護衛軍が一人となったクラピカの目的は一つ。幻影旅団を、女王様に捧げる事。
 一人ずつ、一人ずつ……。
 そうして、ようやくクラピカは王に忠誠を誓う事が出来るのだ。























 ……哀しい。
 ……哀しい。
 何故、人は憎むのだろう。何故、人は争うのだろう。
 この世に愛が溢れればいいのに。愛さえあれば、人は生きていける。
 愛で溢れさせるにはどうしたらいいのか? ……簡単だ。
 この世の全ての人を男に。そして全ての男に801穴を。それで世界は救われる。
 私はやるわ……!
 そこに、どこからか聞こえてくる言葉。

「危険です、女王様! 敵が接近しています。護衛軍の内二人は爆殺されました!」

『……わかりました。今ここで、王を生みます……!』

 そして、開かれる世界。
 私は、この身の全てを使って念能力を使用した。

『こ……これは王の念能力!?』

「腐っていながら、何と気高い……何と美しい女神……!」

 女神が、微笑んで舞った。
 それと共に、私の体はひんやりとした棺桶に閉じ込められる。
 そう。私はもはやこの場を動けない。
 無防備な私は容易く死ぬだろう。そして、私の念能力は死者の念となり、世界を覆うのだ……。
 ああ、侵入者が鎌を振りあげるのが見える……。

















「と言う事で、愛ちゃん抹殺会議を開催する」

 ネテロ会長の言葉は、ぎすぎすした空気に何の影響も及ぼさなかった。

「しかし、会長。キメラアントの王……愛ちゃんは既にカイトによって抹殺されています」

 ノヴがキビキビと指摘した。クラピカは忠誠心と憎しみの狭間で未だ迷っていて使い物にならない。

「死者の念を抹殺するんじゃ。やってくれるの。……ミルキくん」

 ミルキは、皆の視線を受けて緊張して頷いた。そして、念能力の説明に入る。

「俺の力は除夜の鐘(セイントベル)だ。目的の念を、念能力者の強い欲望と引き換えに消して行く念だ」

 そこで、しゅびっと手が上げられた。腐の一だ。

「それで、私達はどうして呼ばれましたの?」

「欲望は同じ方が効率よく消せる」

 ミルキの指摘に、腐の一は嫌々と首を振った。

「嫌ですわ! 雑念無くして何が私だといいますの!?」

「全ハンターが、いや、全念能力者が協力して事に当たる事になっておるのだよ」

 もちろん、ハンターたちも自分の根幹たる願望を消してしまうのは耐え難い。だがしかし。だがしかし。世界の危機なのだ。

「801穴がついているんだから人類滅亡はしなくってよ!?」

「さー、世迷い事は無視してどんどん行くぞい」

 ゴンは、悲痛な面持ちで鐘の前に並ぶ。
 そして、鐘突きが始まる。

 ゴォン。

 ミルキの、オタ魂。

 ゴォン。

 キルアの、自由を求める心。

 ゴォン。

 カイトの、ジンへの憧れ。

 ゴォン。

 クロロの、渇望。

 ゴォン。

 ヒソカの、性欲。

 ゴォン。

 ノブナガの、淡い恋心。

 ゴォン。

 ウボォーギンの、野望。

 ゴォン。

 クラピカの、復讐の心。

 ゴォン。

 会長の、武術への愛。

 ゴォン。

 ゴォン。

 ゴォン。

 ゴォン。

 ゴォン……。

 鐘が鳴るたびに、ハンターが放心していき、そして世界にちょっぴり女性が戻る。
 愛ちゃんの死んだところで舞っていた貴腐人は、舞いながら崩れ落ちていった。
 美しく、儚く……。
 そして、最も強い者達が原動力を失ってしまった世界は、ほんの少し平和で、ほんの少し不幸になりました。一部幸せになったかも。
 しかし、ハンターたちはいずれ探し始めるでしょう。失ってしまった物を。
 これで、この物語はおしまいです。ご愛読ありがとうございました。
 追伸:愛ちゃんの煩悩強すぎて、801穴だけ消せませんでした。



[21213] 読切 私は知らなかったのよー!
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:e453b056
Date: 2010/08/19 22:05
 私は偽名でホテルにチェックインした。
 持ちこんだノートパソコンとペンタブで漫画を描く。全ての作業を終えた私はぐっすりと眠る。
 そして、朝早くホテルのパソコンに繋ぎ、偽装を何度も施して原稿を出版社に送る。
 その後、メールのやり取り。ファンレターの流し読み。それが済んでパソコンの電源を落とすと、私は荷物を引っ掴み、ホテルを飛びだした。
 ……私には前世の記憶がある。
 それはさして問題ではない。問題は、ここが前世であった漫画の世界だという事。
 その事を知った日から、私は逃亡を余儀なくされている。
 私のいた孤児院は既にハンター協会が調べに入ったという。
 私は、一生逃亡者として生活をするのだ。
 本当は、漫画家もやめた方がいいのかもしれない。でも、私はこれ以外生きる術を知らないし、ファンレターなしでは生きていけない。まだ冷える朝の空気の中、私は白いため息を吐いた。
 今日は、どこに行こう。出来るだけ遠くに行かなくては。用心しすぎない事はない。
 そして私は列車に飛び乗った。
 ……事の始まりは、私が異世界に生まれ変わったのを良い事に、盗作を試みようとした事だった。
 私は原稿を書き溜めて、10歳で出版社に持ち込んだ。
 題名はハンターハンター。10歳と言うのは幼すぎるから、覆面ライター。
 契約金は粘って、既に書き溜めた原稿を渡して一杯もらった。
 初めは幸せだった。あの名作は、こちらの世界でも多くのファンを生んだ。自分のサイトも作り、そこで思う存分愛を叫び、BL、GL、NL、わけ隔てなく書きなぐった。でも、私はすぐに祖語に気付いた。それは真正面からやってきた。
「でも、愛ちゃん凄いよねぇ。ハンター協会の事をこれほど真正面から書くなんてさぁ」
「え……?」
「ハンター協会。ネテロ会長とか、人物名そのまんまだしさぁ」
「あ、はは。ところでハンター協会ってなんですか?」
 説明を聞いた私は、全ての現金を下ろし、町を飛び出していた。
 ここはハンターハンターの世界だったのだ!
 そろそろ、原作開始時期だ。
 渡した原稿は、キメラアントを見て会長が、あれってわしより強くねー? と呟いた辺りまで。
 今発刊しているのは幻影旅団のウボォーギンをクラピカが降したあたり。
 そこでハンター協会の調べが出版社に入って、それは廃刊・回収騒ぎとなった。
 今、私には賞金が掛けられている。
 私は、ひたすら疲れ切っていた。
 いったい、いつまでこんな逃避行を続ければ。わかっている。終わりなんてない。
 増えるお金よりも、減るお金の方が圧倒的に多い。終わりは目に見えていた。
私は、ふらふらと河に近寄った。
 目を閉じて、力を抜いて寄りかかる。
 私の体が河に落ちる……その直前、私は後ろから引きとめられていた。
 男の人が、何事か私に話しかけている。
 私はへたり込んだ。お腹の音がなった。

「食べなよ」

 鼻先につきだされた焼き鳥。
 私はそのいい匂いに、齧り付いた。
 差しだされた三本の焼き鳥を平らげて人心地つき、顔をあげると金髪の優しげな男の人が微笑んでいた。

「君、こんな所でどうしたの? 若い女の子が身投げなんて」

「ただ、疲れただけよ。逃げ続ける毎日に。私は知らなかったの。知らなかったのよ」

 知らなかったの、と繰り返す私を男の人は立たせた。

「そこの喫茶でお茶しない? 話せば楽になるよ。ね?」

「うん、うん……」

 何度も頷き、私は喫茶店へと向かった。
 喫茶店につくと、男の人はいくつもいくつも料理を注文する。

「さ、好きなだけ食べてよ!」

「あ、ありがとう……」

 私は、料理に手をつけた。それを眺めながら、男が聞く。

「僕はシャルって言うんだ。君の名前はなんて言うの?」

「愛……」

「そう、愛ちゃんか。愛ちゃんは、どうして、その……」

「昔、知らずに怖い人の秘密を明かしてしまったの。それからずっと逃げてる」

「どうしてそんな秘密を知ってしまったの?」

「夢で見たの。それを漫画にして売りさばけばお金になると思った。それだけだったの・……」

 そう、前世はさしずめ夢の如く。私がやった事は、そんなにも罪深い事なのだろうか。
 私はぽろぽろと涙をこぼす。

「泣かないで。ほら、君にプレゼントがあるんだ。ずっと君が私の嫁ー! とか、超会いたいとか、愛してるって言っていた人に会わせてあげるから」

「……?」

「と言う事で、愛ちゃん見つけたよ、団長。後は団長の仕事だね」

 現れたのは黒髪の格好いい人。私は頭に?マークをいっぱい浮かべた。団長と言われた人が笑う。
 
「あんなに好き好きって言っていた割には、実際に会うとわからないものなんだな。君は俺のファンなんだろう? 俺の名はクロロ……」

 私は逃げた。
 だがしかし回り込まれた!

「私は知らなかったのよー! どうしてあのまま死なせてくれなかったの!? 死んで詫びます! 死んで詫びますから!」

 半泣きになりながら私は言う。

「その必要はないよ。君はただ俺に能力をくれるだけでいいんだから」

「それはちょっと待ってもらいましょう」

 黒髪の眼鏡の人が現れて言った。

「ようやく見つけましたよ、愛さん」

「キメラアントについて話があるんだがよ」

 大きくて長髪の男が私に近寄った。いくら私でも、ここまでくれば何が起こっているかわかる。

「私は知らなかったのよー! もう私を放っておいて!」

 うわーん、と泣きだすも、それを聞き届ける者は誰もいなかった。



[21213] 大切なお知らせ
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2010/10/03 22:07
えー。うー。あー。
正直に言います。ミケ腐ってます。別サイトで腐った事を書いてます。
そちらのクオリティは、こちらで書かせてもらっているものより遥かに低いです。
腐っているのはもちろんですが、ぶっちぎりでキモいです。
一発で原作嫌いになる、あるいはあまりの崩壊っぷりに頭がパーンする事請け合いです。
なので、舌の肥えた皆さまには完全に縁が無いサイトです。
ですが、もしかしてここのどなた様かが通りかかる事があるかもしれません。
酔狂にも見たいと思う事があるかもしれません。
その時は、どうか原作その他とは切り離してご覧ください。
私を見破った皆様の事、そのサイトに行けばああ、ミケだなとわかると思います。
というのも、そのサイトに近々ミケの三次創作載せているんですよね……。
それと共に、新しくここで連載を始める物からは腐ネタはばっさり切る努力をするつもりです。あくまで努力ですが。なんか、落第生は夢を見ないであまりのヒロインを描く下手さっぷりに愕然としたので……。こうして宣言して、男女の恋愛ものを書ける努力をしようかと。
その分、サイトの方で腐ネタを好き放題書こうと思います。
後、そのサイトに関してはそっとしておいて頂けるとありがたいです。

ここまでお読み頂きありがとうございました。


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