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[19055] 【習作】 ルイズは地獄の一丁目を呼び出したようです ゼロ魔xエリア88クロス
Name: mie◆16737260 ID:65fd7c42
Date: 2010/06/22 23:26
はじめまして。このたび勢いに任せてこんなものを書いてみました。まぁ温い目で見ていただけると嬉しいかも。かなりの独自解釈、ご都合設定あると思います。誤字脱字、文章的におかしいところ等あると思いますが、こんな作品でもよろしければご笑覧ください。
mie





 魔法学院。そこから離れた広場では毎年恒例に春の使い魔召還の儀が行われていた。
 みんな滞りなく召還していったが、ただ一人召還に失敗する者がいる。
もう何度目の失敗だろうか?はじめは野次を飛ばしていたクラスメイト達も、もうすでに興味はなく昼を過ぎたあたりに他の生徒は、監督官である中年教師の許可を得て学園に戻っていった。
 それから数時間…失敗失敗、また失敗。
 監督官、ジャン・コルベールはとうとう疲れた声で彼女に告げる。
「ミスヴァリエール、次の召還で成功しなかったら本日は終了とします。よろしいですね?」
 ミスヴァリエールと呼ばれた生徒はその言葉を受け、悲壮な決意とともに、本日もう何度唱えたかわからない言葉をつむぎだす。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、五つの力を司るペンタゴンよ、
我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!神聖で美しくそして強力な騎士たちよ。わたしは心より訴えるわ!我が導きに答えなさい!」
 その直後その日一番の大爆発が起きた。
 煙で塞がれた視界が徐々に晴れ、たった今まであったはずの草原が消えていた。
 そして目の前にあったのは大きな岸壁。
「ミ、ミスタコルベール?こ、こ、これは…?」
 彼女、ルイズ・ヴァリエールはその鳶色の瞳を大きく開き後方にいるであろうコルベールに問うた。
「ミス・ヴァリエール?これはあなたがやったのですか?…いえ失礼。監督官たる私も見ていたので間違いのはずはないですね。しかしサモンサーヴァントで山が出てくるなんて…」
「山??」
 そう問い直し彼女は視線を徐々に上に上げていく。10メイル20メイル…どんどん顔の角度が上がりその全貌がようやく見える。
 それは高さ数百メイルはあろうかという、まごう事なき山だった。奥行きなどはここからでは分からないがきっと数リーグはあるに違いない。
 コルベールも冷静を装ってはいるが、頭の中はパニックを起こしている。何せただのコモンマジック、メイジなら少々の失敗はあっても普通はこの世界にいる動物や幻獣を呼び出し、使い魔として使役するための魔法なのだ。
 それがよりにもよって山を呼び出すなんて有り得ない。きっと6000年の歴史の中でも初めてじゃないだろうか?そもそも魔法を失敗ばかりしている彼女がこんなことをできるのかも疑わしい。
 そんな風に彼は思案にふけり、そしてとなりに並んだルイズは硬直したまま暫く過ぎたころ、突然山から甲高い音が聞こえたかと思うと1匹の竜のようなものが轟音とともに飛び出していった。
 その音に二人は我にかえり、ルイズはコルベールに向かい目を輝かせ、
「ミスタコルベール!ひょっとしてわたし、竜を巣ごと召喚したのかも!そしてあそこが巣穴なんだわ!そうだとしたら早速あそこまで上ってコントラクトサーヴァントをしなくちゃ!」
「ミスヴァリエール、お待ちなさい。そもそもどうやってあそこまで登るのです?」
 コルベールの言うことはもっともだ。上に上る道はなく、断崖絶壁というほどではないにせよ角度もきつい。魔法の使えない彼女が自力で上がるとしたら日が暮れてしまうだろう。
「ミスタコルベール、わたしをあそこまで運んでもらえませんか?」
 彼女は少々遠慮がちにこう問うてきた。
「…しょうがないですね私につかまりなさい。」
 まぁ、もしルイズが一人で上って何か、竜の群れがいたりしたら一大事だ。サモンサーヴァントで呼ばれやってきた幻獣、動物の類はどう言うわけか召喚者に対しては比較的おとなしいが、今回はかなり訳が違う。もし群れをなしていたりしたら洒落にならない。
「…しょうがないですね私につかまりなさい。」
 コルベールはルイズを抱きとめると空いた手で杖を振るいレビテーションを唱える。すると二人に体は宙に浮き、どんどん高度を上げていく。そして先ほど竜の出た穴のある辺りにたどり着いたとき二人は驚愕することになる。
「こ、これは…」
どちらともなくつぶやいた言葉。その洞穴はきれいな長方形の口を開き、幅はトリスタニアの大通りの数倍、奥行きに至っては先が見えないくらいのまっすぐな道が伸びている。どう考えても竜の巣なんかじゃない、しかしあまりにも不自然な光景。
「いったい何なの?これは?」
ルイズは自分の常識の範疇からあまりにも逸脱したこの場所に対して疑問を投げる。
「魔法がかかってるようでもありませんし、私にもいったい何がないやら…」
 二人がここについて思考をめぐらせているとき数人の人間がやってきた。
そして彼らは見慣れない銃のようなものをこちらに向け叫んだ。
「動くな!手を頭の上に上げろ!」


「砂嵐がやみませんねぇ。気象班によると二日ぐらい続くようです。」
 司令所にいるオペレーターが、わりとのんびりした声で言う。
「当分はこっちからも向こうからも動けんな。たまにはいい、骨休みできる。警戒員も人数を半分に減らしておけ」
 司令官らしいサングラスをかけた男が指示を出す。その刹那。
「サキ司令!第2レーダーからの連絡途絶!」
 別のオペレーターが緊張した声で報告する。
「まさかこの嵐の中襲撃か!?」
「軍本部も不通です!」
 司令所に一気に緊張が走る。
「サキ指令、外が…砂嵐がおさまって…草原が広がってます、しかも近くに建物が。」
施設を監視しているオペレーターが基地外を写すモニターを指し報告する。
そこに今までの砂嵐のせいで暇をし、そして何か異変を感じた面々が司令所にやってきた。
「おいサキ、コリャどうしたこった?周りの山も消えて草原があるぞ?」
 今しがたやってきた連中の一人、ひげ面の男が目を白黒させながら聞いてくる。
「そんな馬鹿な、集団幻覚でも見ているのか?それとも反政府軍の新兵器か?」
 みな口々に似たようなことを言い出す。
「とにかく山頂レーダーしか使えない今、どちらにしても周囲を確認する必要がある。周囲を哨戒して記録を見れば現状が確認できる。ミッキー、お前の機にケンを乗せて行ってくれるか?」
 サキはミッキーと呼ばれた黒い飛行服を着た男に尋ねる。
「了解、早速行ってくらぁ。ケン、後席は楽しくないだろうが頼むぜ」
「記録はしっかり取るからよろしく頼むぜ、運転手」
 普段から毛糸の帽子をかぶってるケンはのんきに言った。
「ミッキー、ケン、何が起こるかわからんから気をつけろよ。」
管制から離陸準備中のミッキーたちに無線が入る。
「わかってるって、このマジックのタネを見つけてくるぜ!コントロール、これより離陸する」
 偵察用ポッドと自衛用のミサイルを積んだF-14は滑走路を飛び出し、異世界の空(もっとも彼らはまだその事実を知らないが)に翔けて行った。
 これで彼らから入る無線連絡と、持ち帰ってくるはずの各種データ待ちだ。指令所は活気づいてくる。
「司令、滑走路入り口に人が!」
 モニターに二人の人物が写っている。男の格好はかなり異様だ、右手には長い杖を持っている。傍らにはその娘のような少女。
「どうやってここに上ってきたんだ?兵士でもないようだし、トレッカーが来れるような場所でもないはずだ。警備班を向かわせろ」
 サキは一連の出来事に頭を抱えながら指示を出した。






10.5.26少し改訂



[19055] 第2話
Name: mie◆16737260 ID:65fd7c42
Date: 2010/06/01 22:11
第2話


「おとなしくその棒を捨てて両手を挙げろ」
 衛兵だろうか?数名の兵士たちは鎧もまとわず剣も持ってない。だが銃?なんだろうか、奇妙なものをこちらに構えてる。ハルケギニアにある銃は指が突っ込めるほどの大きな銃口と横にフリント、もしくは火縄のついたハンマーがあるはずだ。それらがことごとく無い。仮に杖だろうが銃だろうが人一人を担いで300メイル近く飛んだその直後に、この人数を相手にするのは、自分だけならまだしもルイズを守りながらとなると正直厳しい。そこでコルベールは杖を捨て両手を挙げる。
「あ、あんた達平民のくせに貴族に命令するつもり?」
 そんなことはお構いなしに腰に挿しているタクト状の杖を抜こうとするが、コルベールに止められる。
「ミスヴァリエール、ここはおとなしく従ったほうがいい」
「で、でもコルベール先生、こんな平民の言うことなんて…」
 ルイズは憮然として表情でコルベールに言う。
「ここはきっと彼らの町なんだろう、そうなると侵入者は私達だ。しかも私達とは少々毛色が違うようだ。おとなしくしていたら危害は加えられないと思う。」
 そう言いながら杖を放すコルベール、貴族にとっては屈辱であり軍人ならば武装解除と同義だ。
「さぁ、ミスヴァリエールも」
「…わかりました」
 コルベールが杖を捨てた時点でルイズにはこの選択肢しかない。一人の少女が武装?している男数人に立ち回るなんてことができるわけがない。
 そして衛兵に連れられて後部が観音開きになった馬車?のようなものに乗せられる二人。衛兵がしっかり両端に座っている。(何せ航空基地はかなり広いので自動車なしでは非常につらい。)そして全員が乗り込んだ後車は発進した。
(この馬車のようなものは何だ?周りを鉄板で囲ってるし何よりこの音と振動、マジックアイテム?でもこんなものはアカデミーでも開発しているなんて聞いてないし)
 コルベールは向かいに座る憮然とした表情のままのルイズを気にすることなく少年のような目をきらきら輝かせだした。
鉄のような硬い材質に馬車だ。きっと想像以上に乗り語地は悪いかも。と思ったらその馬車もどきは想像以上によい乗り心地で動き出した。
 少し車で移動した後、二人は馬車もどきから降ろされたかと思うと殺風景な部屋に通される。
「しばらくここで待つように」
 そう言うとその兵士は入口の扉まで下がる。
 ほんっっとに何なのよ?こいつら。貴族に対する礼が全くなってない、ルイズの怒りゲージはどんどん上がってゆく。だがそんなことを知ってか知らずか、コルベールが口を開いた。
「ミスヴァリエール、すごいと思いませんか?」
「何がですか?ここの衛兵の無礼さとか?全く、マントを見れば貴族って一目で分かるのにあの態度って、少なくとも鞭打ちものです!」
「いいえ違います。ここの施設ですよ。」
 ルイズはきょとんとした顔をして、改めてここへ来てからの数分を思い出す。
「そうですね、あの広い道と馬がいないのに動く馬車もどき、そして殺風景な部屋!美的センスなんてあったもんじゃない」
 コルベールはルイズの不満と感心がない交ぜになった答えにニコニコと笑い、話し出す。
「そう、まずあの広い道、何のためにあるのかさっぱり分かりませんが、決して石を組んだものでも砂や土を敷き詰めたものでもない。そして馬車もどきですが鉄でできた箱にハルケギニアでは見たことも無い幅の太い黒い車輪をつけていました。この部屋も窓が無いのに我々の使うランプよりはるかに明るい。すばらしい!彼らは我々には無い未知の魔法、もしくは技術を持っている。」
 その後もコルベールはあーだこーだと自分の考察なんかを熱っぽく語りだし、いい加減ルイズが辟易としたころ、そこに助け舟というわけではないが突然ドアが開いた。



「待たせたな。私はサキ・ヴァシュタール、この施設の責任者だ。」
 そこには漆黒の髪を腰まで伸ばし、黒メガネをかけているせいで瞳が見えにくい、額に大きな傷を持った男がやってきた。
「トリステイン王立魔法学院、教師をしておりますジャン・コルベールです」
 コルベールは先ほどのハイテンションをどこかにすっ飛ばしたかのように落ち着いた声音で自己紹介をする。
「ルイズ・フランソワーズ・ヴァリエール学院の生徒よ。それよりもどういうこと?ここの衛兵の態度!あなたも平民のくせにそう、貴族に対する礼儀ってものを知らないようね。謝罪もなければお茶の一杯も出さないなんて!」
 召喚の儀式からここにいたるまでの訳の分からない、しかも彼女にとっては竜を召喚したと思ったら(そう、彼女にとっては既に山が出てきたことなんてほんの些事なのだ)使い魔なんてなれそうもないあまりに不躾な平民どもの集落らしきもの、ときたもんだ。彼女は落胆し、同時に怒りもふつふつと湧き上がる。
「威勢のいいお嬢さんだ。君がパイロットだったらここにスカウトしたいぐらいだ。だが今彼と話がしたい。すまないが君は黙っていてくれないか?その代わりといっては何か飲み物くらいはお出ししよう」
 サキは室内に備えられている電話で飲み物を持ってくるよう指示を出す。そして電話を切ると視線をコルベールに向け、
「さて、どうやら君はこの異常事態のいきさつをご存知のようだが説明をしてもらえないか?」
 有無を言わせぬ口調で尋ねだす。



 コルベールによるとハルケギニア大陸にあるトリステイン魔法学院の春の進級行事である使い魔召喚の儀を学園の少し離れた草原でしていたそうだ。使い魔とは主人と契約するとお互いのどちらかが死ぬまで契約は解除されないという。このとき、召喚し使い魔にすることが出来なければ進級できないというルールになっている。普通ならこちらの世界の動物、幻獣、その他が召喚ゲートをくぐってやってくるのだが、今回は違ったらしい。隣にいるルイズの魔法によって彼らの住む山が丸ごと召喚されたと言うのだ。
「我々の世界ではトリスタニア大陸もトリステイン王国も寡聞に聞いたことがないのだが、また魔法などという便利なものもない」
「それは私どもも同じです、アスラン王国なんて国も見たことも聞いたこともありません」
 普通なら一笑にふす与太話だが、悲しいことに彼らの目はそれを真実だといっている。
「よしんば百歩譲ってそれが事実としよう、だが我々にはこちらの学生が進級しようが落第しようが全く関係ない。我々はアスラン王国空軍の軍人だ。誰一人として君たちの言う使い魔などという奴隷のような境遇に私の部下をさせる訳にはいかない。そしてそもそもの原因が君たちにあるのなら、君たちの責任において我々を元のアスランに返していただこう」
 サキは静かに、だが有無を言わさぬ迫力で言う。
「…それはできないわ。」
その言葉に気圧されながらも、ルイズはかろうじてこの科白を言う。
「どういうことだ?呼ぶことができるのなら帰すこともできなければおかしいではないか?先ほども言ったが、子供の遊びに付き合う暇も時間もない」
「それはできないの。使い魔は召喚されたら主人の忠実な僕となり命を共にするものだから。返す魔法なんてないのよ!」
 子供の遊びといわれカチンときたルイズは語気を荒げて答える。
「それならば早急にその魔法とやらを研究でもして、一日でも早く我々の故国へ返していただこう」
 子供との問答は終わりだとばかりにコルベールに視線を向ける。
「それは私からはなんとも…」
 歯切れの悪いコルベールの返事。それはそうだ、仮に魔法学園の教師陣やアカデミーを総動員してもそれが可能かどうか分からない、ひょっとしたら明日完成するかもしれないし、何年もかかるかもしれないのだ。
 その返事を聞いてサキは意地の悪い笑顔を作り言い放つ。
「ああ、君は一教師だったね。それではそちらの責任者と協議させてもらうとしようか」
 そこに電話がかかってきた。
「私だ。どうかしたか?」
「ミッキーからの連絡です。周辺に対空脅威なしとのことです。」
 司令室のオペレータが答える。
「分かった。引き続き付近哨戒を続けるよう指示を。それから今からヘリを用意しろ。それとグレッグの小隊を出撃させる。」
 オペレーターの指示確認の声を聞き受話器を置く。


 
「コルベール先生…私どうなっちゃうの?」
 ルイズは今のやり取りで不安になってきたようだ。何せ杖のない貴族は平民と変わらない、しかもどうやらここは〝貴族である”ということが全く役に立たないのだ。
「安心してください、ミス。幸い彼は話が通じるようですし、いまさらどうこうしようとするなら最初からしてるでしょう。もし何かあってもあなたは私の生徒だ。あなただけは守って見せます。」
 静かに、しかしはっきりとコルベールは言う。
「いえ、それは当然ですが私の進級は?」
 そのルイズの科白に腰が砕けそうになったコルベールであった。
「…まぁ、校長とも話してみます」
「それでは学院とやらにへ向かおうか、君達もお送りしよう。さ、こちらへ」
 その言葉に促されサキを先頭について行く二人。その後ろには二人の兵士がつかず離れずついてくる。そして通路をしばらく歩き、何度目かのドアを開けると耳をつんざく轟音が聞こえてくる。
 ルイズたちの目の前にいるのは1台の鉄の箱。先ほど乗せられた馬車もどきより大きく頭の上に風車が回っている、そして箱から後ろへ向けて尾びれのようなモノが伸び、その先にも風車。その箱部分の扉が開き、ずいぶん質素な椅子が設えている。
「まさかこれに乗れっていうの?何あのでっかい風車、こんなので空を飛べるわけないじゃない。コルベール先生、もう一度私と飛んでもらえませんか?」
「ミス、そうしたいのは山々なんだが私は杖を預けていてね。学院に戻るまで返してもらえないんだ。だからしょうがないのでこれに乗せてもらうしかない。」
 そんな問答を爆音の中二人がしていると後方から山の下から聞いた轟音が聞こえてきた。それは魚のような胴体に鳥の羽をつけたような巨大な物体で、羽ばたくわけでもなく二人の横を猛スピードで通り過ぎていく。すると彼女たちの入ってきた入り口から出て行く。
それを唖然とした顔で二人が見送るとまた後ろから1機、また1機と合計3機の鉄の竜が空へ飛んでいった。
「も、もしかしてさっきの竜も…」
「ええ。きっと彼らの乗り物でしょう。そうとわかればこの乗り物も大丈夫でしょう、学園に送ってもらいましょうか。」
 そしてヘリに乗り込む二人。ルイズはその轟音とシートのあまりの窮屈さに顔をゆがめるが、コルベールの目は爛々と先ほどよりも輝き、やもすれば危ないおっさんになっている。
 そしてサキは護衛を伴い乗り込むと、機長が離陸を宣言し、ヘリは学園に向かい飛行を始めた。




6/1 少しだけ改訂



[19055] 第3話
Name: mie◆16737260 ID:65fd7c42
Date: 2010/06/10 21:15
side コルベール


 私達はサキ司令について通路を歩いてゆく。そして何度目かの扉を抜けるとそこは私達が入ってきた広い道に出た。するとそこは耳をつんざく轟音とその音とともに飛び出す竜ではない竜のようなもの。そして我々が乗せてもらえるらしい先ほど飛んでいった竜とは明らかに違うモノ。促されそれに乗り込む。うなりを上げる機体、徐々に回転しだす頭上の風車。
「こ…これが本当に飛ぶのですか?」
 私はいまだ信じられず向かいに座るサキ司令に聞く。
「何を言っている?これが飛ばなければ君たちの学園とやらにどう向かうんだ」
 彼は何をいまさら、という風に軽く笑っている。
「これもマジックアイテム、風石を使い飛ぶ、などではないんですか?」
 私はこちらの常識からの疑問を発する。
「先ほども言ったろう、我々の世界には魔法などという便利なものはない。後どんなモノ知らないがたかが石が飛ぶ訳なかろう?今乗っているのはヘリコプター、燃料を使いエンジンを回し、空を飛ぶ機械だ。」
 彼は耳飾りのような物をつけつつ答える。
「離陸します」
 御者がそういうとこの乗り物は本当に浮き上がった。
 果たしてこのヘリコプターなる乗り物はふわりと浮き上がり、あっという間にこの穴の出口を飛び出していった。
「と…飛んでる」
 この鉄で出来た機械はさも当たり前に、学園上空をゆっくり旋回し始める。この世界のフネでは推進に風を使うためここまで器用な動きは出来ない、そもそもこのサイズだとせいぜいが脱出艇程度の大きさで、たいてい操縦はおろかゆっくり降りることが出来る程度のものだ。
 私は夕暮れがかった空を魔法でもなく、竜や竜籠でもない違う世界から来た人々の機械に乗り空を舞っている。
「…んだ?」
 私は感慨深く空を見ているとサキ司令の声が聞こえてきた。
「どのあたりに着陸すればいいんだ?」
「…あぁ、それでしたらあの五つの塔の真ん中、あそこに学院長室があります。あの付近に下ろしていただければ」
竜なら私の言ったところへ着陸するのはたやすいだろう、だがいくら異世界の機械とはいえこんなものにそんな器用なことが出来るとは思えない。きっと私は試してみたく、確かめたいのだ。彼らの技術、技能を。あの施設でも散々見たがひとたび外へ出るとやはりどこか信じられない自分がいる。そこでこんなことを言ったみた。もしも出来たら私は…





 午後過ぎに現れたあの山のせいで学院はてんやわんやだ。やれ天変地異だ、やれ始祖の何たらだ、と非常にやかましい。この大陸はこんなことが起こっても不思議もなかろうに。そうでも考えなければあの浮遊大陸なんぞどう説明するんじゃ。で、今は臨時の職員会議。いい大人がそろいもそろって無駄に時間だけが過ぎてゆく。もう夕暮れ時だというのに何の進展もない。
 当初、職員は全員集められ、臨時の探索隊を編成しようとしているときに、中腹あたりから禍々しい咆哮とともに竜が飛び出したた時点でみな腰が引けてしまった。そして今に至る。
「全くどいつもこいつも…こういう不測の事態には全く役に立たん。」
 あきれるオスマン。彼はこの学院の校長だ。彼に言わせればすべてのことは些事である。もちろん今回の騒ぎにおいてもだ。それでも頭の痛くなるだろうことが増えることは間違いない。どちらにしてもこう事が大きいと間違いなく王宮の方から使者が来る。その後に調査団も来るだろう。そいつらをどう誤魔化し、のらりくらりとかわすかだがまぁ、それも良い。まだ時間もある。
 それよりも今一番の問題は学院の井戸が涸れた。この学院を預かる身としてはこちらのほうが問題の優先順位としては大きい。職員である水と土系統の教師に言わせれば、学院付近の水脈が移動したらしい。これに関してはどうやらあの山が原因みたいだが山を人間ごときでどうこうできるわけでもない。まぁ、このあたりも明日から職員にがんばってもらおう。
 そんなことをつらつら考えていると、ぞろぞろと今まで会議をしていた職員達が動き出す。
「おぬし達、結論は出たのかの?」
「はいオールドオスマン、このまま議論をしたところで決着がつきません。そこでそろそろ夕食なので結論は明日以降に、ということに決まりました。」
 職員代表として中年の女教師が言う。
「…結局議論したていにして先送りかい」
 オスマンは小さく呟くとぞろぞろと出てゆく職員達を見送る。その中に自分の秘書も含まれていた。
「ミス・ロングビル、おぬしもか…」
 オスマンは心で泣いた。

「さて、これからどうなることやら…」
 誰もいなくなった学院長室で一人ごちる。そもそも今日は2年生の使い魔召喚の儀があの山のある辺りであったはずだ。生徒のほとんどは昼前には戻ってきたのに、ただ2人コルベールとヴァリエールの末娘がいまだに帰ってこん。嘆かわしいことに学院教師からも変わり者扱いされている2人なので、いまだに帰ってこないのに誰も気にかけていなかった。コルベールはまぁいい、あやつは鉄砲玉のようなやつだ。授業中でも何かひらめくとすぐ自習にして自分の工房に引きこもる。だがヴァリエールの末娘が心配だ。彼女は実技はあれだが座学、その他はトップクラスで外面は品行方正を絵に書いたような人物らしい。そんな彼女までもが戻ってこないとは何かあったと見るべきか。
 そんなことをもうすでに誰もいない、本塔の一番最上階で思っていると明らかに異質な轟音が間近にやってきた。
 いったい何かと思わず窓のほうへ向かうと異質な物体が本塔の真横に着陸し、人を吐き出すとすぐさま飛び立っていく。
「何じゃ、あれは…」
オールドオスマン、齢百とも百五十とも言われる人物にして初めて見る異形の物体だった。




 ヘリは何の問題もなく中央本塔の横に着陸し、少しだけ懸念された野次馬も無く関係者は降り立った。ヘリから降りた後、約束通りに二人には杖が返される。だが二人ともそれを使おうとはしない。その間にヘリはまた、もと居た基地にいったん帰投するべく飛び立った。そして空を見上げるとヘリの前に飛び立った飛行機が音も無く上空をゆっくりと旋回している。
「さぁ、それでは学院長のところへ案内したまえ」
 サキはコルベールを促し先導させる、コルベールは言われるがままサキたちを案内してゆく。こうなると面白くないのはルイズだ。
「ちょっと平民、あんたたち先に行って、公爵令嬢たる私に何か言うことはないの?」
「は…公爵令嬢ときましたか。それならばもう少し堂々たる態度とそれに見合った振る舞いをなささるが良いでしょう」
サキはそうそっけなく言うとコルベールについて学院長室へ向かう。
「たかが平民の分際でここまでーーー」
そう叫ぶなり杖を向けようとする刹那、
「ミス・ヴァリエール、あなたは当事者なんですからさっさと着いて来なさい」
「…はい」
コルベールにぴしゃりと言われ振り上げた杖を下ろすしかないのであった。




 学院長室は中央塔の最上階にあり、5人はその扉をくぐると老人が一人水パイプをくゆらせていた。コルベールは早速今までのいきさつを説明する。その言葉を胡散臭げに聴くオスマン、だが何とか理解した風にうなずきサキたちのほうを向いた。
「にわかには信じられんが、今飛んできたヘリコプターといい、君達の見たことも無い服装といいどうやら本当のことのようじゃの。ようこそ異国の人。わしがこのトリステイン学院の院長、オスマンじゃ。オールドオスマンと呼ばれておる」
「アスラン王国空軍エリア88司令、サキ・ヴァシュタール中佐だ」
 お互いわずかな緊張の中、名乗りあう。
「わしも長く生きているがアスラン王国なんて国は聞いた事がないのぉ」
「それはこちらも同じだ」
「にわかには信じられんのぉ、見ればおぬし達は平民の様じゃがその様な者が貴族たるメイジになに用かの?」
 オスマンはあまり身分を気にする人間ではないが、今回ヴァリエールの娘の進級もかかっているのでこう言ってみる。
「何、簡単なことだ。われわれを即刻もとの世界に帰してもらいたい」
「それは無理というものじゃ、本来サモンサーヴァントは使い魔を召喚すればそれで目的は達成される。よって送り返す魔法など研究されてないし、これからもされんじゃろう。何、ここもそんなに悪くないところじゃよ。そのついでに君でもミス・ヴァリエールの使い魔になれば彼女も安泰、わしらも安泰じゃ」
 オスマンは飄々とした口調で言う。
「ふざけるな、そんな理屈が通るわけ無かろう!…ミスタ・オスマン、ここに来るとき気付いたがこの下の階は何かの倉庫なのかね?」
 怒気を強めたかと思うとサキは薄く笑いながら問う。
「いかにもこの下はわが学院の宝物庫じゃが、魔法で厳重に強化しておる。平民風情の武器なんぞ束になったところでビクともせんよ。脅迫するならまだわしを人質にしたほうが頭が良いと思うがの?」」
「何をしようとしてるか分かんないけど平民の癖に悪あがきはやめるのね。わたしとしても不本意だけど使い魔にしてやるわ」
 勝ち誇ったようにルイズがオスマンの台詞に乗っかる。そんな彼らを視界に入れつつ、サキはヘッドセットを通じて、上空にいるグレッグたちに指示を出し始めた。
”射撃目標。中央の塔、先端から10メートルほど下。上下に散らすなよ、私にも被害が及ぶ”
”かかかっ、殺しても死にそうにねぇ奴が吹いてんじゃねぇよ!ちびんじゃねぇぞ。行くぜ!”
 上空3000メートルで旋回待機していたグレッグはそう答えると、機体をダイブさせる。
「ミスタ・オスマン。確かに我々は魔法などというものは使えない、だからその魔法とやらで我々を元の世界に帰して頂けるようお願いしてるのだ」
 なにやら急に独り言を言い出したかと思うとやおらこちらを向き静かに語るサキ。その行動に学院側の3人が首をひねろうとしたとき。 

 嵐が起こった。

 突如塔に爆音が響いたかと思うと、学院長室の窓ガラスが衝撃で全て割れ、その後に空から短く牛のような、オーク鬼のような声、それに重なるように竜の鳴き声が轟いて行った。 
 オスマンたちがその衝撃に呆然としていると、ノックをするのもそこそこにロングビルが息せき切って報告する。
「大変です、オールドオスマン。突如現れた竜に宝物庫が破壊されました!」
 その言葉を聞いて顔を青ざめさせるオスマン達。そもそも宝物庫の壁は確かに厳重に固定化や硬化の魔法もかかり、普通の武器なら歯が立たない。そう、ハルケギニアの武器なら。今放たれたのは戦車をも屠るために作られた30ミリバルカン砲。そんなものにかかっては強化されたところで土壁は所詮土壁なのだ。
「あなた達がお望みならここの施設、2秒で更地にしてみるが?」
 サキは先ほどと変わらない口調でなんでもない事のように言う。オスマンはソファーに腰掛け深くため息をついた。
「…何が望みじゃ」
「元の世界への速やかなる帰還を。使い魔などというものには私も、部下達もさせるわけにはいかない。」
「帰還する方法じゃが今すぐにとはいかん、早急に研究し完成させるからそれまで待ってくれ」
 オスマンはそうとしか答えられない、実際どれだけ時間がかかるのか皆目見当がつかない。
「それでいいだろう。それならば我々がここにとどまっている間の安全も。」
「おぬし達ならそんなもの自分達で何とかできるだろうに?」
 不思議そうに尋ねる。
「いきなり後ろから撃たれたらたまらんのでね、少なくとも我々からはそちらに攻め込む気は無い。だからそちらもそうして欲しい」
 単騎でもこれだけの威力の兵器を持ちながらも、攻める気は無いというのはトリステインの貴族の感覚では信じがたいが、彼らは異邦人なのだ。しかも早急に帰りたがっている。それなら何の問題もない、こちらが仕掛けなければいいだけだ。
「君達の安全は始祖ブリミルとこのわしの名にかけて保証しよう」
 オスマンがそういうと横からコルベールが割り込んできた。
「ちょっと待ってください、これじゃあ、あまりに一方的ではないですか」  
 コルベールのあまりに空気の読めない行動にオスマンは頭を抱える。今彼らの機嫌を損ねると、本当に数秒のうちに学院が消えてなくなるだろう。貴族の子女と職員あわせて数百人をあずかる身としては、この程度の譲歩は譲歩のうちには入らない。実際彼らはもっととんでもないことをも学院、ひいてはトリステインの国から引き出せるだけの武力がきっとある。
 オスマンが頭を抱えてる横で、その言葉を聞いていたサキは愉快そうに尋ねる。
「ギヴアンドテイクという奴だな、よろしい。君は我々に何を望む?」
「あなた達の知恵を、技術を私にご教授いただきたい」
 コルベールは瞳を輝かせ答える。
「面白いことを言う。よかろう、君の望むものすべては無理だろうが出来る限りのことはしよう、こちらも短い間だろうがこちらのことを知らなければならない。オブザーバーとしても歓迎しよう」
 サキは愉快そうにそう答えると今にも踊りださんとするコルベールからルイズへ視線を向けた。
「ミス・ヴァリエール、元はといえば君が我々をこんなところに呼び出したんだ。私にできる範囲で何か望みはあるかね?無論代価は求めるが。」
 いまだに信じられないが彼女が、基地をこの世界に呼んだのは間違いないようだ。こんな理不尽な目に合わされているのに彼女に施しをあたえる気は無い。だが今の彼女の表情を見ていると何かしてやろうという気になった。
「わたしに、つ、使い魔を…」
 ルイズはまさか自分にそんな話を振られるとは思ってなかったので、思わず反射的にそう答える。その答えにサキは苦笑いをしつつ、
「ふむ…ミスタコルベール、使い魔とはどういうものがあるのかね?」 
「いえ、特には。一般的にはそのものの持つ魔法属性に合ったものが召喚されます。一般的には動物、幻獣の類ですが、ごくまれにその範疇から外れたものを召喚するものもいると聞きます。」
 コルベールは一般的な使い魔の説明を改めてする。
 サキとしては自分を含む基地のスタッフを使い魔なんてものされるわけにはいかない、だが今の説明を聞くとどうやらモノでもいいのかもしれない。
「それはモノでも問題はないのかね?」
「ごくまれに人形のようなものを召喚する者もいるらしいので問題はないかと」
「それならば何か基地にあるもので気に入ったものがあればお譲りしよう。無論代価はもらうが」
 サキのその言葉はルイズにとってもいい話のはずだが、
「あんた達の言うモノがどんなものか分からないから、まずは見せて頂戴。話はそれからよ」
 何せとてつもない攻撃力の空飛ぶ兵器がある今の出来事でも分かった。平民にも扱えるものらしいから貴族の自分なら簡単に扱えるだろう、とは言うものの果たしてそれが使い魔といえるのだろうか?っていうかそれじゃ進級できないじゃない!ルイズは複雑な顔をしながら思う。
「気に入るものがあるかどうかは分からんが、もし気に入ったものがあれば君の使い魔とやらの問題もカタはつく。進級も問題なかろう?」
 そう言いながらオスマン達に顔を向ける。オスマンは髭をなでつつ、コルベールは少し難しい顔をしているが、
「なぁに、我々が黙っていれば何の問題もない。逆にミス・ヴァリエール、考え方によったら使い魔を自分で選べるんじゃからラッキーじゃぞ」
 飄々と言うオスマン、彼らにとっても渡りに舟な提案だ。…ルイズがごねさえしなければ。
「とりあえずそれでいいわ」
 不承不承といった顔でルイズは答える。
「それでは今日は遅い。明日の昼にでも迎えをよこすから基地に来てくれたまえ、それでは私たちは戻らせてもらう」
 そういうとサキたちは席を立つ。階下に降りたころには迎えのヘリが来る手はずだ。
「それではミス・ヴァリエール、コルベール君、明日基地で会おう」
 そしてサキ達が学院長室から退出し、しばらくしたころに彼らが来たときと同じヘリの轟音がとどろき、夜の闇に消えていった。




[19055] 第4話
Name: mie◆16737260 ID:65fd7c42
Date: 2010/06/07 22:39
 それはあまりに突然だった。
 夕食を終え、皆各々寮に、宿舎に、研究室に戻っていく。本塔に残っているのは明日の仕込をするコック達や夕食の片づけをするメイドたち、そしてオスマンだけだ。
 月明かりの中食後の散歩と言うわけではないが歩いていると破裂音とともに宝物庫のあたりが爆ぜた。
 その直後空からオーク鬼の鳴き声が短く聞こえたかと思うと竜が咆哮とともに上昇していく。そして土煙が晴れたとき私はきっとすごい顔をしていたに違いない

「…なんてこったい」

 宝物庫に風穴が開いている。これじゃ中のお宝も無事ではないだろう

「私の獲物を掻っ攫うならともかく壊してくれるなんて!」

 私は駆け出そうとし、はたと思いつく
所蔵する宝物は宝物庫の固定化とは別に、それぞれもまた強固に固定化の呪文をかけている。それならばお宝は無事かも知れない。

「ふふっ、これで仕事がしやすくなったじゃないか」

 そして秘書の仮面をかぶり直し本塔へ急いだ。
 学院長室へ向かう途中にある宝物庫、本来厳重に施錠された分厚い扉がまるで紙のように破壊されている。

「何とまぁ、所詮メイジっていってもなんて竜の前じゃ無力なのかね」

 自分の魔力をもってしても壊せそうになかった扉がいともたやすく破壊されている。そんなことを思いつつ学院長室の扉を開けるとそこにはソファーに座ったセクハラジジィと後ろに控えるハゲに問題児で有名なチビ。そしてオスマンに向かい合うように座った見慣れない格好の額に大きな傷を持ち長い黒髪の平民と同じく後ろに控えた2人の平民。なぜここに平民が?いろいろ疑問はあるがそれはあとだ、まずは事の報告を。

「大変です、オールドオスマン。突如現れた竜に宝物庫が破壊されました!」

 私の報告にオスマンたち3人は見る見る顔色を失い、そして私は退室を命じられた。




「どうやら本当にここは異世界のようだな」

 迎えのヘリに乗り込む直前月明かりに空を見上げるとそこには二つの月。サキはため息を吐きつつ、ヘリのシートに着く。

「反政府軍との戦いのほうが楽かも知れんな」

 そう一人ごちるとヘリは基地へと向かった




 基地に戻るとミッキーたちが集めた情報が整理されていた。航空写真やレーダーチャートが並べられる。

「全く信じられないぜ、強いてあげるなら中世世界だ。大都市も工場地帯もない」

 確かに出来上がった写真を見てみるとビルや工場の類がが全くない。街道はどこも舗装なんてしてないし、都市らしいところは巨大な城塞都市のみ。あとは小さい集落ばかり、どれも現実味がない、その中にひときわ一枚気になる写真があった。

「ミッキーこの写真は?」

 それは山間部にあると言うのを除けばまるで港だった、木造船があたりに並んでいる。

「造船所じゃないか?何でそんな山間にあるのかは皆目見当もつかないけどな。あまり高度も落としてないし」

 何せろくに情報もない中一番に飛んだのだ。何があるのか分からない中うかつに高度は下げられない。

「そのあたりは明日こちらに来る現地協力者に聞けばいいさ、彼らが言うに我々の世界とは違うようだ。信じられんことに魔法使いがいる、その一人が我々を基地ごと呼んだんだそうだ」

 サキは先ほど学院で得た情報を簡単に説明した。

「しかし自分の目で見てきてなんだがこれ(偵察写真)を前にしても信じられんな…全くどこのファンタジーだ?魔法使いまでいるって?俺たちゃトールキンの世界にでも飛ばされたのか?」

 ミッキーとペアで飛んだケンは目で見た現実はどうあれ、魔法使いには信じられないと言う顔だ。

「なぁに我々のやることなんてどこに居ようがそう変わらんさ。とりあえずは明日の夜明けから本格的な調査だ。出来るだけ広範囲の詳細な航空地図の作成からだな。そして昼には件の魔法使いと対面できる、お前達、粗相の無いようにな」

 そう言うとサキはその場にいる者たちと笑いあう

「魔法使いのばぁさんなんて見たくもねぇや、目の毒だ」

グレッグはおとぎ話の魔法使いのイメージでそんなことを言う。

「それが信じられんが一人は小さな女の子だ、相当なはねっ返りだがな。もう一人は学者然とした冴えないやつだが」

サキのそんな言葉に皆目を丸くする。ここの連中にとっては魔法使いなんて禍々しい年寄りのイメージしかない。

「そんなわけで明日からは忙しくなるぞ、反政府軍はいないだろうが違う危険があると思われる。各中隊はメンバーを選出しておけ。ブリーフィングは明朝3時からだ」

その言葉に司令室に集まった連中はわらわらと部屋から出て行く。その姿を見ながらサキは電話を手にする。

「私だ。どうやらここでも商売が出来そうだぞ。詳しくはこちらに来てくれ」





 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの朝は遅い。
ただでさえ昨日はろくでもないことばかりだった、サモンサーヴァントで呼び出したのはよりにもよって平民ばかりの軍基地。しかもそこの平民どもはことごとく貴族に対する敬意というものがない。あまつさえ学院相手に脅迫まがいの交渉をしてきた。だが恐ろしいことにそれだけの実力を持っているようなのだ。
 そしてわたしもその平民の提案を受け入れてしまった。それだけでも屈辱なのに、昨日あのあとオールドオスマンから今回の召喚に関してまだ何も言うなと言われた。…私サモンサーヴァントは失敗してないのに。初めて成功した魔法なのに”ゼロ”じゃない証明になるのに…
 そんなことを悶々と考えているとなかなか寝付けなかった。そして明け方ようやくまどろみかけた頃、昨日聞いた轟音が轟いた。

「こんな騒音の中じゃ寝れる訳ないじゃない!!」
 ルイズはコモンマジックすらろくに使えない。だからサイレントで外音を遮断するなんてことも出来ない。そこにジェット機の騒音だ、たまったもんじゃない。
 この騒音は小一時間続き、ルイズは目が冴えてしまった。だから今日のルイズは普段より遥かに朝は早かった。人は徹夜とも言う。
 そしてそんなこんなで朝食の時間が近づき、いつものように一人で着替え、髪を梳き、身だしなみを整える。

「…ひどい顔」

 寝不足と精神的疲労で目の下には隈ができ生気もない。
 だが今日の昼には使い魔とはいえないかも知れないが、何かが手に入るはずだ。自身のプライドは正直傷つくが公爵家の人間が留年するという最悪事態は回避できる…きっと。
 微妙にマイナス志向のまま食堂へ向かうため自室のドアを開けると、今一番会いたくない奴があまりにいいタイミングで現れた。

「…キュルケ」

「おはようルイズ」

意地悪そうな笑顔を浮かべたこの背も高く、スタイルのいい褐色赤毛娘はルイズの顔を見ると急に心配そうな顔をする。

「どうしたのルイズ、ひどい顔よ?ひょっとして昨日の召喚の儀、使い魔を呼べないいまま中止になってしまったせい?でもあんな竜の群れのいる山が出てきたんだもの。あなたじゃ集中できなくなるからしょうがないわよ」

キュルケは心配してるのか遠まわしに皮肉を言ってるのかよく分からない慰めをくれた。

(あー、コルベール先生以外みんな帰ったしね。そう思うのもしょうがないかも。)

そうルイズが心で思っているとき、キュルケの後ろから大きく真っ赤なトカゲが現れた。

「サラマンダーね」

何か心ここにあらずと言う体ででルイズはサラマンダーに近づく。

「そ、いいでしょう、名前はフレイム。この子きっと火竜山脈のサラマンダーよ。ブランド物よー」

 キュルケは思いっきり自慢げにいう。

「いいなぁ~わたしはここまでじゃなくてもいいから普通の使い魔がよかったなぁ~」

 そう言いながらフレイムを撫で回すルイズ。そのルイズの言葉にキュルケは目を白黒させ、

「ちょっと何その反応は、いつもみたいに悔しがらないの?」  

「悔しいけど、わたし今それどころじゃないし。今日のお昼からのことを考えると憂鬱だったり…いろいろ考えることが多いのよ」

 どんよりとした声でつぶやくルイズ。

「昨日は練習だと思って、今日成功させればいいじゃない。さぁ、ご飯にいきましょう」

 こんなに落ち込んでるルイズをからかうなんて、いくらキュルケでもしない。ルイズの纏った暗い雰囲気を飛ばすような明るい声で、この悪友を連れ食堂に向かった。 




 食堂に着くと食事に入る前にオスマンから全生徒に対し、昨日突如現れた山には決して近寄らないようにとの訓示があり、その後いつもと変わらない朝食が始まった。
 この食堂の何階か上にある惨状は件の山の中腹にすんでる竜の群れによる破壊と説明され、努々近づかないようにと皆は念を押された。

 午前の授業。ルイズは目だないように、昨日の件を莫迦にされても怒らず、おとなしく昼までの時間をすごした。




 そして午前の授業が終わり、ルイズたち生徒が食堂に向かおうとしたそのとき、教室の扉が突然開いた。 

「ミス・ヴァリエール、時間ですよ。さぁまいりましょう!」

 そこに居たのは肩から膨らんだ鞄をかけ、瞳を輝かせた怪しいハゲがいた。

「ミスタコルベール、せめて午後の始業からでもいいと思うのですが」

 ルイズは自分と真反対のテンションのコルベールにやんわりと提案する。どう見ても補習の監督のテンションではない。

「いえ、ミス・ヴァリエール、整列は前に、休暇はあとに。と言う格言もあります。早くに用意して損はありません。さぁ、まいりましょう」

 そう言うとルイズを引きずるように去ってゆくコルベール。あとは残された生徒達が何事もなかったかのように食堂へ向かってゆく。
 ただ一人の女生徒を除いて。
 
 
 

 学園から少し離れたところに森がある。森と言っても全てが木々に覆われてるわけではなく、所々は木のない開けたところもある。そんなところにルイズたちは居た。

 「・・・そろそろですね。」

 昨日から何度か聞いた音がしてきた。その音を聞いてコルベールは魔法で目印となる煙を作り始める。それから数分と待たずにその音の主、ヘリコプターがダウンウオッシュを巻き上げながら降りてくる。

「早く乗ってください」

 ヘリのクルーの声に促され乗り込む二人。乗り込むのを確認するとドアが閉じられ、エンジンがうなりだす。

「離陸します」

 機長の声とともにふわりと浮き上がるヘリ、コルベールは昨日よりはこれに関しては落ち着いているせいかしきりに顔が外の景色と機内を行ったりきたりしている。はたで見ていると落ち着きのないことこの上ない。ルイズはというとやはり反対で、下ばかり向いて使い魔がどうとか平民がどうとかぶつぶつ言っている。
 そんな後席にいる二人の感情などお構いなしにヘリはエリア88に向かっていく。



[19055] 第5話
Name: mie◆16737260 ID:65fd7c42
Date: 2010/06/14 18:29
 学院の裏にある森、そこに向かって二つの影が歩いてゆく。そして森の中にぽっかり開いた、広場のようになってるところで彼らは止まり、男のほうが魔法で煙を上げ始める。
 するとばたばたと何かをたたくような音が近づいてきたかと思うと、そこら一帯に目を開けてられないほどの風が巻きあがる。

「何なの一体」

 そう彼女は悪態をつくとその音のある方向に目を向けると、果たしてそれは。
 見たこともないフネがそこにいた。
 そもそも昼、ルイズを迎えに来たコルベールの様子があまりに不自然だったのだ。普通補習というのにあんなにテンションが上がる訳がない。もしかして召喚できなかったルイズに進級を条件に、あんなこととかこんなことを?などとも思ったが彼のあの状態ではそれはないだろう。もしそんなことをするならば事はもっとスマートに、かつ陰険にやるものだ。よってこの思考は却下。だが彼らの不自然な行動に対する興味には抗いがたく、こうして今尾行してきたのだ。そして今に至る。
 そのフネの扉が開いたと思ったら、さも当然のようにそれに乗り込む二人。
 そして船はその騒々しい音とともに飛び立地、朝オスマンが近づくな。と言っていた竜の巣へ向かっていった。
「驚いた。何あのフネ?」
 目を丸くしてその光景を見送る。
 帆もない。その代わり大きい風車が上についている。しかも今まで見たどのフネの形でもない。珍しいなんてもんじゃない。
「ふふふっ、これは何か面白くなりそうね」
 彼女キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは笑いながらその好奇心に抗うことなく、次の手をを打つために学院に戻っていった。


 学院についたキュルケはすぐに親友のところに向かう、彼女のことだからまだ昼食を食べているだろう。
 そしてアルヴィーズの食堂に向かい、彼女の席に向おうとした時、食事を終えたであろう廊下のあたりにたむろっている男子生徒に肩がぶつかる。 
「あら失礼」
 そう軽く謝罪した後、改めて彼女の席に向う、彼女はしっかりそこにいた。横には積み上げられた皿。今は食後のデザートに口をつけようとしている。

「タバサ、お願い」

「今食事中」

 タバサという青髪の幼く見える少女はにべもなく言う。たとえ友人のキュルケといえども食事は邪魔されたくない。

「それなら食後でいいからお願い聞いて。ね?」

 そんなマイペースな親友に笑みを浮かべ、キュルケは微笑みながら言う。

「ん、分かった」

 一体何を頼むのかは知らないが、そんなに大層な事にはならないだろう。そう思いタバサは何も聞かないまま了承する。


一方その頃キュルケとぶつかった男子生徒は、ぶつかった拍子に落とした壜を友人たちに見られ、あまつさえその持ち主、そして二股をかけていた女生徒にもばれ折檻を受けていたが、それはまた別の話。


「それで、お願いって何?」

 食事を終えたタバサは一息ついてからキュルケにたずねる。

「簡単なことよ?あなたの使い魔を貸してほしいの」

 まぁ、貸すだけなら簡単だ。とは言うものの当然私も付き合うことになるんだが。
 
「どこに行きたいの?」

 明日も学校がある。遠くてもせいぜいトリステイン位なもんだろうけど、わざわざ今行く必要はない。だからタバサは訊ねてみる。

「あそこ、昨日突然降って沸いた山にある竜の巣!」
 
キュルケはさも当然のように、そして楽しそうに言う。

「あそこに行くのは学院が禁止している。しかも竜の巣なんて危険すぎる」

 学院が禁止などはただの方便だが、得体の知れない竜の巣なんて何を好き好んで行かなければいけないのか?あまりにリスクが大きすぎる。

「あそこにルイズとミスタ・コルベールが行ったのを見たのよ、しかも見たこともないフネで。何かあると思わない?」

 好奇心に目を輝かせ、タバサを見つめるキュルケ。

「分かった。でも危険があるようならすぐ引き返す」

 その瞳に負けたタバサは条件付きで了承する。

 「さっすがタバサ、持つべきものは親友よねぇ~」

 そう言いながらタバサに抱きつくキュルケ。だがすぐにタバサは彼女を引き剥がし、空に向って口笛を吹く。するとたいして間をおかず、空から青い竜が舞い降りた。

「やっぱり凄い竜ねぇ…」

 そうつぶやくキュルケ、タバサは先に竜の背に乗り、キュルケに乗るよう促す。

「そういえばこの子名前なんて付けたの?」

 この竜の名前を聞いていないキュルケがたずねる。

「この子はシルフィード。風竜の幼生」

「そう、シルフィードね。いい名前ね」

 その言葉にタバサは嬉しそうだ。シルフィードも嬉しそうにきゅいきゅい鳴いている。

「さぁてそれじゃ行きましょ」

 キュルケのその言葉にタバサはシルフィードはふわりと浮き上がる。

「行き先はあの山の中腹の大きな穴」

 その言葉にシルフィードは嫌がるようにきゅいきゅいと抗議の声を上げる。何せあの穴から得体の知れない、明らかに同族ではない何かが夜明け前から轟音を立てて出たり入ったりしてるのだ。気味が悪くてしょうがない。

「黙って行くの」

 タバサから杖で頭をたたかれ、涙混じりになりながらも目的地に向って飛んでゆく。

「きゅいぃ…」

 幸か不幸か山と学院はまさに目と鼻の先だ。断崖絶壁と高度があるせいで地上から直接上るのはかなり辛いが空からだと別だ。キュルケたちを乗せたシルフィードは程なくして山の開口部に近づく。あと少しでその口に着きそうな時、山から竜のような物が飛び出した。

「きゅいきゅい~!」

 恐慌状態に陥ったシルフィード。このままでは振り落とされそうだ。そこでキュルケはとっさにフライの呪文を使い一番近い足の着けるところ、エリア88の滑走路に降り立った。その直後にシルフィードを何とか立て直し、タバサも滑走路に着いた。

「一体何なの?ここ?」

「私にも分からない」

 キュルケの問いに同じく呆然と滑走路を見てるタバサ。しばらくそこに立ち尽くしていると、コルベールがやってきた。




 時間は少しさかのぼる


 迎えに来たヘリでまた平民達のところにやってきた。
こ のヘリコプターって言うのは確かに凄いが、魔法やフネで飛ぶほうがはるかに静かだし楽なはずだ。でもこんなのを操れれば、それはそれで楽しいのかもしれない。
 私は昨日は暗くなってあまり見えなかった学院を見下ろしながらそんなことを考えていた。
 横に居るコルベール先生は、自分でも飛べるのに何が楽しいのか中と外落ち着きなくを交互に見ている。少しは自重しろ、あんたも貴族の端くれでしょうに。
 そんなこんなでヘリは短い空の旅を終え、基地に着いた。
 出迎えは昨日と違いサキ司令と執事だろうか?同じような服を着た初老の男性の二人だけだ。その周りには昨日も見たひこおきや、それに群がる人たちが居るが、わたしには一体何をやっているのかすら分からない。

「ようこそ、ミスタ・コルベール、ミス・ヴァリエール、君たちを歓迎しよう」

 サキ司令が微笑みながら挨拶してくる。なんか立ち居振る舞いが様になって見える。やはり平民とはいえ、司令官にもなった人物だからだろうか?

「お招きいただきありがとうございます、サキ司令。私など今日が待ちきれなくておかげで寝不足になりました」

 コルベール先生が興奮気味にあいさつを返す。これじゃどっちが貴族だかわかりゃしない。こうなるとトリステイン貴族としての誇りにかけて平民相手とはいえ無様なことは出来ない。

「お招きいただきありがとうございます。サキ司令。今日はわたしの使い魔を見立ててくれる言うことでかんニャッ」

 …かんだ。なんて無様な。そしてわたしのかぶった猫はあっという間にはがれた。

「で、サキ司令?わたしの使い魔になりそうな物は?」

 わたしはいつもの口調になりそうたずねる。

「まぁ、そう急かないでくれたまえ。まずはこの基地を見学するといい。案内役として彼をつけよう」

 そう言って紹介されたのはサキ司令の少し後ろに居た初老の男性。

「このエリア88の副司令ラウンデルだ」

「はじめまして、ミス・ヴァリエール」

 そうサキ司令に紹介された後こちらにあいさつしてくる。副司令だって、執事じゃないのね。軍関係には疎いが副司令に比べるとサキ司令って若すぎよね?普通貴族でも平民でも組織は大体は年功序列のはずだ。そうじゃない場合は貴族が上司で平民が部下にいると言う図式は、こちらの軍ではよくある。でもこの基地はみんな平民のはずなのに、これはどういうことだろう?
 そんなことを悩んでいるとラウンデル副司令がわたしを促す。

「それではむさくるしいところですがどうぞ」

 そう言い先に立って歩き出す。

「あ、待ちなさいよ」

 わたしは彼において行かれないように歩き始める。何でもコルベール先生とサキ司令は話があるそうなので別行動らしい。
 歩きながら彼はこの施設の説明をしてくれる。今歩いている廊下にしても両側が壁なのにこんなに明るいのは何でも電気という物で照明を光らせているそうだ。この電気はいろんなところで使われているらしい。コルベール先生が聞いたら狂喜乱舞しそうな話だ。
 そして大まかな説明の後にひこおきの格納庫に連れて行かれる。

「これがわがエリア88の主戦力の飛行機群です。当然魔法の力などは使ってません」

 昨日帰るときに横を通り過ぎ、そして宝物庫を穴だらけに変えた鉄の化け物がそこでは静かにしている。
 近づいてみるとかなり大きい。タバサとかいう子が竜を召喚したけど小さい物でもそれの倍以上ある。

「こんなのが空を飛ぶんだ…」

 昨日も遠目では見たけどやっぱり信じられない。まだヘリコプターのほうか風を下にたたきつけてる分信じられるけど。それに昨日今日と乗せてもらったし。

「飛ぶだけではありません、こいつらは音より早く飛んでゆきます」

 ラウンデル副司令がそんな説明をするがさっぱり分からない

「音より早く?音に速度なんてあるの?」

「ミスヴァリエールは山彦というのをご存知かな?」

「あの山とかでやる遊びでしょ?したことあるわよ。それが音の速さとがどう関係するのよ?」

「山に向って声を出すとしばらくしてからその声が返ってきますな。それが音の早さです」

 そう言われればそうだ。でもそういうことをする時のの山は結構遠い。そう言うことは音もかなりの速度なんじゃないの?そんなことが有り得るの?

「有り得ないわそんなの。風竜ですら時速600リーグも出ないのに」

「リーグ?果てそれはどれくらいの単位ですか?」

 どうも彼らはわたし達とは違う単位を使ってるようだ。そこで軽く単位のすり合わせをする。

「この機体の中にはは最高時速2000リーグ、最高高度は軽く12000メイルを超えるものもあります」

 当たり前に言う副司令。でもそんなの信じられるわけがない。あのアルビオンに登るのもフネだと一苦労だ。その4倍の高度なんて想像もつかないしハルケギニアでそんなに昇った竜の話も聞いた事がない

「そんなの信じられるわけないでしょ!私を莫迦にするつもり?」

「それならば一度お乗りになりますか?」

 ラウンデル副司令、もぉいいや、こんな奴に副指令とかつけてらんない、ラウンデルでいいや。がニヤニヤしながら言ってきた。

「乗ってやろうじゃない、これで嘘だったらただじゃ済まないんだからね!」

「それではこちらで着替えてください」

 何を言うのだこの男はなぜ貴族の私が平民と同じ服を着なければいけないの?

「着替えなんて何故しなくちゃいけないのよ、それに貴族たる私がそんな平民と同じ服なんて着れる訳無いでしょう?」

「専用のパイロットスーツに着替えてもらわないと高空の寒さで凍死しますよ?」

ラウンデルはため息を吐きつつ、そんなことを言う。

「そんなに寒くなる訳無いじゃない。私が何も知らないからってからかってるのね?」

「ミスヴァリエールの身を案じて申し上げているのですが、そこまで言うのでしたらいいでしょう。ですがハーネスとヘルメットは着けてもらいます。それだけは譲れません。よろしいですね?」

 まぁ、それくらいは妥協しようじゃないの。ヘルメットはあのヘリの御者もかぶっていた物だし、ハーネスって何かはわかんないけど着替えなくていいのならまぁ我慢することにしよう。

「では、こちらへ」

 格納庫の近くに控え室のようなところがある、そこに通されると色彩こそ地味だが、色んな柄の、でもデザインはみんな同じ服を着た見るからに怖そうな連中がたむろしていた。

「グエンは居るか?」

 ラウンデルがそう尋ねると奥のほうで何かゲームをしている男が返事をしてきた。

「オウ、ここに居るぜ。俺に何の用だ?」

 そう言いながらそのゲームに使っていただろう竿のような物を置いて彼はこちらにやってくる。
 彼は顔中に傷があり、ひげを蓄えたいかにも軍人と言う風貌だ。正直ちょっと怖い。

「何、このお嬢さんをつれて遊覧飛行をしてほしい」

「副司令正気か?こんな小さな子を?遊覧飛行って言ったって俺達の乗る機体は旅客機じゃない。お上品な操縦なんて出来ないが、それでもいいのか?」

 信じられないという顔でわたしとラウンデルを見るグエンとかいう男、…言うに事欠いて小さいですって?

「失礼ね、これでも私は16よ!そっちの世界じゃどうか知らないけどもう立派な大人よ!」

それを聞いたそこに居る男達はみんなしてぽかんとした顔をする。その中でグエンが口を開いた。

「お嬢ちゃん16歳だって?それじゃキムと同い年じゃないか。それにしてもそうは見えないな、せいぜいジュニア・ハイの1年生ってところだな」

 ジュニア・ハイって言うのが何かは知らないけど、かなり年齢を過小に見られたのだけはなんとなく分かる。

「ま、いいだろう。キムと同い年なら遠慮はいらないよな?」

 キムって言うのが誰かは知らないけど私と同い年の子もいるのか。その子には負けらんない。

「当然遠慮なんていらないわ、だからお願いできます?ミスタ・グエン」

 敬称なんて平民に付けるのもなにかとは思うが、一緒に飛んでくれる人だ。これくらいはいいだろう。

「ミスタなんてよしてくれ、お嬢さん。副司令、俺達が乗る機体はどれだ?」

「連絡用のT-38を、と思ったが一応何があるか分からんからな。F-4を用意する」

「了解、それじゃお嬢さん、空の旅としゃれ込もうか」

 ミスタは止せ、というのは分かったがそのあとのラウンデルとの会話はさっぱり分からない。でも彼が私と飛んでくれるのは決定したようだ。

「じゃ、よろしくね、グエン」

 私達は再び格納庫に向う。
 そのあと、飛行機に乗るまでも大変だった。まずハーネスを付ける。これがいけない、何せスカートがめくれあがるのだ。そしてこのハーネスを付けないと機体の機動で体が投げ出されるらしい。…結局私はパイロットスーツを借りた。そして杖も刺さると危ないという理由でまた取り上げられた。

 本当にこの基地の平民どもは。いつか思い知らせてやる。

 そして機体に乗り込む。想像以上に狭い、しかもなんだか分からないものが所狭しと並んでる。それだけで目が回りそうだ。外にいるラウンデルからヘルメットを受け取り、顔の下半分を覆う仮面を無理やり付けさせられる。ちょっと息苦しいがここまできたら少しは我慢しなくちゃ、そう思っているとヘルメットから声が聞こえた。

「どうだいお嬢ちゃん初めての飛行機は」

 何これ?どうやって聞こえるの?後ろに居るグエンとはガラスで隔てられている。こんなに鮮明に聞こえるわけが無い。

「驚きなさんな、こうやって機内で、そして基地とも通話できる。便利だろ」

 そういって笑うグエン、よほど私はびっくりしていたんだろう。

「そろそろ離陸するぞ。びびんじゃねぇぞ。コントロール、グエンだ。離陸許可を」

 私たちの機体は山の入り口から1500メイルほどのところにいる、全長でいうと2000メイル程あるそうだ。ここから助走を付けて飛び立つらしい。なんでも以前は1000メイルしかこの道(滑走路というらしい)が無かったせいで、カタパルトとか言うもので無理やりはじき出してたそうだ。そう考えるとこんな道がいる分ずいぶんと飛行機というのは結構不便だ。

”コントロールよりグエン、離陸を許可する。グッドラック”

「サンクス」

 一連の通話のあと後ろにあるエンジンがうなりを上げ、機体が動き出す。その速度は馬車より、馬より、竜籠よりも速い。私はその加速に体が押さえつけられる。
 その速度に声も出ない

「さぁ、飛ぶぞ!」

 そう言うグエンの言葉とともに足元からの振動は無くなり、機体は基地から飛び出した。
 そのとき何か下から飛んできたような気がしたが、そんなことを考える間も無く機体は上昇を続ける。途中にある雲を突き抜け、どんどん昇ってゆく。

「すごいすごい!」

 私はそんなありきたりの言葉しか出なかった。頭上に広がる蒼い空、眼下に広がる雲と箱庭のような私の居る世界。昔家族でアルビオンに行ったときですらこんな光景は見たことが無い。

「グエン、今の高度は?」

 ラウンデルの言ったことは嘘じゃなかった、でも一応確認のためにグエンに聞いてみる。

「現在高度12000メートル、どうだいお嬢ちゃん」

「こんなすごいの初めて。」

 そしてラウンデルの言ってたもうひとつの言葉を思い出す。

「もうこの機体は音を超えてるの?」

「まだ音速は超えてない。お望みならばいっちょ出してみようか?」

 音の速さを超えるというのはどんな感じなんだろう?もしかしてグエンの声も聞こえなくなるとか?

「お願い、音の速度の向こうに私を連れて行って」

 私はきわめてシンプルに望んだことを口にする。  

「了解、ちょっとGがかかるが我慢しろよ」

 そして後ろのエンジンがさらに唸りを上げ、私の体がシートの背に押し付けられる。
 目の前の針のいくつかが震えだした。そしてその数瞬後、音が消えた。
 今まで震えていた針が静かに安定し、エンジンの音だけが機体を通して聞こえてくる。
 今までの風切音なんかが嘘の様な静寂。

「…これが音の向こう?」

 私はただ呆然とその状態に、下を流れる雲を眺める。
 
「あれは海岸線?」

 私が驚いてる間に海岸線が見えてきた。もうこんな所まで来たなんて信じられない。これが魔法のない世界の乗り物?私達より遥かに凄いじゃない。

「そうさ。そろそろ戻るか。少し高度を落とすから地上の風景を見物してればいいさ」

そう言う彼の言葉に眼下を見下ろすと小さくラ・ロシェールの港が見える、その近くにある平原は確かタルブの村だ。信じられない、ここまで学園から馬でも2~3日かかる距離をわずか数十分で来れるなんて。そしてしばらくするとトリステインの王城が見える。もう基地はすぐそこだ。

「さて、お嬢ちゃん、名残惜しいだろうが遊覧飛行はもう終わりだ。基地へ戻る」

本当に名残惜しい、もっとこれに乗っていたい。これを自分の手足のように操ってみたい。この飛行機というのは魔法なんて関係ない世界の乗り物だ。魔法が使えなくても操ることが出来るなら私にだって…

「…ィズよ」

「どうした?気分でも悪くなったか?」

「私はルイズよ。お嬢ちゃんなんて呼ばないで」

 なんだか平民だ貴族だなんてどうでもよくなってきた。だから私はグエンにそう言う。

「OKルイズそれじゃ帰ろうか」

 そして私たちを乗せた機体は基地へと機首を向けた。







10.6.12 改訂



[19055] 第6話
Name: mie◆16737260 ID:65fd7c42
Date: 2010/06/23 01:25
 ルイズと別行動になったが大して気にする風でもなくサキについて行くコルベール。
 連れられた先でこちらの一般常識、魔法や空飛ぶフネその他諸々のこちらの世界の基礎知識をサキをはじめとするエリア88スタッフに教え、そのあとこの基地にある設備を見学させてもらい、航空写真をはじめとする技術に驚いたとき、サキからルイズがあの"飛行機"に乗せてもらい、今から飛び立つと聞いた。

「見送りに行くかね?」

 そう聞いてくるサキにコルベールは間髪いれずに

「ぜひ参りましょう」

 まさしく少年のような目でそう返事をする。その目にサキは苦笑いをしつつ

「ここからでは滑走路につく頃には彼らは飛び立ってしまう。コントロールルームへ行こう、ついて来たまえ」

 そう言いつつ歩いた先には、所狭しと並んだ何か機械のついた机。中央付近にはここの滑走路だろうか?の形の地図にチェス駒みたいな物がが所々に置いてある。そして壁には先ほど見せてもらった航空写真に私にはまだ読めない文字でいろいろなことが書き込まれている。

「そろそろ飛び立つようだ。こちらへ」

 そう窓を指差しながらサキは言い、コルベールはその少し先にいる飛行機を見つける。

「あの機体にミスヴァリエールが乗っているんですか」

 かなりうらやましそうな声でそんなことを言うコルベール。

「そんな声を出さなくても君にも体験させてやる。安心したまえ」

 その声音に応えた訳でもないみたいだがサキはそう言う。そしてコルベールの横にいるスタッフがいまだ飛び立たない飛行機に指示を出す。

「コントロールよりグエン、離陸を許可する。グッドラック」

 その言葉に飛行機は動き出し、どんどんこちらへと向ってくる。そしてこの管制室を過ぎたあたりで浮き上がり、洞穴の出口、空へと飛び立ってゆく。
 その直後違うスタッフが何か接近するものがあると報告する。

「基地外周モニターに映像切り替えます」

 そこに映ったのはこちらに向って飛んでくる青い竜と、その上に乗っている二人の女性。モニターを見ているコルベールの顔が青くなっていく、どうも彼の生徒達のようだ。

「あ…あの二人は」

 コルベールが一人ごちる。だがそんな声はここにいるスタッフ達には聞こえない。

「竜だ!竜が出た!」
「こちらに向ってるぞ」
「あ、一人落ちた…浮いてる?」
「飛んでる人物が滑走路に下りました」

 スタッフ達ははじめて見る異界の幻獣、そしてその竜から落ちた人間が浮いているということに愕然とし、パニック状態に陥る。

「皆さん、あの竜に乗っているのは私の生徒です。この基地に危害を加えることはありません。ここは私に任せてくれないでしょうか?それと、彼女が飛んでいるのは魔法でフライの呪文を使い、飛んでいるのです」

 コルベールは自分の生徒をいきなり攻撃される訳にもいかない、そこで彼らに教師らしく通る声でこう提案する。すると彼らはその声のおかげで静かになり、コルベールに視線を向ける。

「どうやら彼女達はコルベール君の生徒らしいし、君に任せよう」
 
 サキはそうコルベールに向って言う。

「コルベール君を滑走路まで案内してくれ」

 近くにいる部下にそう言い、コルベールを引っ張って行かせる。そして滑走路に飛び出したコルベールを確認すると

「どんな世界にもはねっ返りというのはいるんだな」
 
 そうため息を吐きつつサキは言った。




「一体何なの?ここ?」

 昨日突然沸いた山の中腹の洞穴に、ルイズたちが見たこともないフネに乗って入っていったしばらくあと、あたしはタバサに頼み込み彼女の使い魔に乗って、この洞穴を目指していた。
 もうすぐ入り口に差し掛かろうとしたところに突然洞穴から竜がすごいスピードで飛び出して行き、そのせいで驚いたシルフィードの背からあたしは落ちた。そのときに咄嗟に”フライ”で洞穴の開口部に降り立ったときに発した言葉がこれだった。
 それはあまりにも想像とかけ離れた風景だった。
 変なフネでルイズたちが入っていったからそこは竜の巣などではなく、人の集落のようなものがあるのかも?とは思ってはいたが、何この道路?しかも洞穴なのにとても明るい。こんな風景は見たことも聞いたこともない。

「私にも分からない」

 隣にいるタバサも同じ感想みたいだ。そしてシルフィードはこの得体の知れない場所におびえているのか隅っこで小さくなっている。
 そんなこんなであたし達が呆然としていると、ハゲ教師が飛んできた。

「やはりあなた達でしたか。ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ」

 そうコッパゲがあたし達を呆れながら見つめる。

「この場所は危険ですから近寄らないようにと、朝に言われたはずですが?」
 
さらにそう畳み掛けるハゲ。

「あら、あたしはルイズとミスタが妙なフネに乗りこの場所に来たことを心配して級友に頼み込みここまで来ただけですの。で、ミスタ。ここは竜の巣などではないようですが何なのですか?」

 あたしの言葉を聞いて一瞬うろたえるハゲ。

「ことはミス・ヴァリエールの進級にかかわることです。どうかこのまま何も見なかったことにして帰ってはいただけないでしょうか?」

直後そんなことを言ってきた。そんなことを言われたらますます興味がわいてくるに決まってるのに。

「ルイズのような実技がダメダメな子がこんなところで使い魔を呼んだとしてもミスタだけじゃ説得力に欠けます。ですので私たちも彼女の召喚の証人になるべくここに留まりたく思いますが」

あたしは暗にこのまま帰したりした日にはあることないこと言いふらすぞ。という含みを持たせ言ってみる。するとハゲはあっさり折れた。

「…しょうがないですね、ですがこの場所のことは他言無用に願います。今ミスヴァリエールはここには居ません。ですので戻ってくるまでこちらで待たせてもらいましょう」

「他言無用ね。と、いうことは人に話さなければいいのね、ミスタ。では、ここは何なのですか?」

 こんな面白そうなところ他人に言いふらすわけ無いじゃない、ま、その代わりにいろいろ教えてもらいますか。

「私もまだ詳しくは知らないので、ミス・ヴァリエールを待つあいだに話を聞きましょうか」

 そう言ってハゲは後に来たここに住んでいるらしい人物に尋ねる。するとその人は何やら箱を取り出し二言三言独り言をつぶやいたかと思うと、

「皆さん、こちらへどうぞ」

 と私たちを案内するように歩き、あたし達は彼についていった。


 そして通されたのは質素な応接室。必要最低限の調度品とソファーがあるだけの部屋だ。でも洞窟の中の部屋なのに異様に、それこそ寮の自室など目じゃないくらい明るい。

「明るいけどむさくるしい部屋ね」

「……」

タバサはあまり気にしてないようだけど。

「そりゃあ、むさくるしいさ、男所帯だからな。コルベール君、彼女らは?」

 そう言いながら部屋に入ってきた男性。この辺じゃあまり見ない黒髪を背中までのばし、黒眼鏡をかけている。眼鏡で瞳までは分からないけどかなりのいい男と見た。額の傷もワイルド。

「二人は私の学院の留学生で、私の生徒でもあるミス・ツェルプストーとミス・タバサです。ご覧のように少々おてんばが過ぎますが」

 この淑女たるあたしをおてんばとか言うか?このハゲ。

「初めまして、ジェントルマン。あたしはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。ゲルマニアからここトリステイン魔法学院に留学しております。以後お見知りおきを」

 あたしは、まぁ当たり障り無い挨拶をする。いくらいい男とはいえ得体の知れない相手だ。これくらいが丁度いいだろう。

「タバサ。ガリアから来た」

 タバサはどこでも変わらない簡潔な自己紹介にとどめてる。

「エリア88の司令官をしているサキ・ヴァシュタールだ。よろしくお嬢さん方」

 ヴァシュタールって姓があるということは貴族なんだろうか?でも杖もマントも羽織ってない。

「失礼ですがミスタ・ヴァシュタール。姓があるということは、あなたは貴族なのでしょうか?」
 
 私は率直に疑問に思ったことを口にする。

「我々の故郷ではこちらで言う平民にも姓があるのだよミス・ツェルプストー」
 
ということは彼は平民?でもなんとなく貴族のような気がする。

「あの、ミスタ?」

「お嬢さん、言うは無用、聞くは無作法という言葉がある。あまり個人を詮索するのは感心しないな」

「はぁ…」

そんなことを言われると聞きたいけど、聞きにくくなっちゃうじゃない。とりあえず今回は彼に関することは聞けなさそうだ。

「それでは、ルイズは今どこに?」
 
 あたしはもうひとつの、今となっては大した事じゃないことを尋ねる。そんなことよりもここの設備のほうが気になる。ここは故国ゲルマニアの技術をはるかに超えている。

「ミス・ヴァリエールなら空に出ている。だがそろそろ帰って来る頃だ」

「空って、さっきここを出て行った竜に乗って?」

 ひょっとしてあたしたちとすれ違った竜にルイズが乗っていたんだろうか?

「そう、君たちとニアミスした機体に彼女は乗っている」

 ミスタ・ヴァシュタールはあたしの質問に答えた。と言う事はあのルイズが竜を召喚したの?  

「なんてこと!あのルイズが竜を召喚するなんて!やっぱりあの子、只者じゃなかったのね」
 
 私は自分のことのように、あの悪友の初めての成功を喜ぶ。
 だがミスタ・ヴァシュタールとハゲは、なんか微妙な顔をしている。

「あたし何か間違ってる?」

 悪友の成功を祝って何が悪いんだ。ヴァリエールとは先祖代々の因縁はあるが、そんなのあたしには関係が無い。ま、使い魔が人間の男の子だったりしたら違ったかもだけど。
 その言葉に慌てて愛想笑いをするハゲ。何か気になる。

「まぁ、それではミス・ヴァリエールが戻ってくるまで私どもはこちらで待っていましょう」

「それまでお嬢さん方には何か飲み物でもお出ししよう」

 男二人が話しを逸らそうとしてる気がするが、まぁいいだろう。どうせルイズが戻ってきたら尋ねるんだから。それまでは殿方の顔を立てて…




 グエンとルイズを乗せたF-4が基地に戻ると滑走路の端になにやら人だかりが出来ていた。一体何の騒ぎなのかは気になるが、ルイズは初めての体験の余韻を味わいたいのかそれを流した。
 そしてグエンの横をトコトコついて歩いてるとなにやら倉庫の様な所に連れてこられた。

「爺さん、マッコイ爺さんはいるか?」

グエンが倉庫に向ってそう呼ぶ。すると

「そんな大声出さんでも聞こえとるわい。この子か、サキの言ってた客っていうのは」

 そう答えた老人。白髪で少々腰を曲げ気味にしていていかにも爺さんという風貌だ。
 そういえば昨日サキは、使い魔の代わりを用意する代わりに代価を求めるとか言っていた。そして今わたしはこの老人を紹介されている

。ということは、これは商取引であって使い魔契約ではない。昨日からうすうす思ってはいたがルイズの心は複雑だ。

「あなたは?」

 ルイズはいぶかしげにその老人に尋ねる。
「わしはマッコイ。核からティッシュペーパーまで何でも売らせてもらう商売人さね。サキから聞いてるぜ、何が欲しいんだ?お嬢ちゃん」

 ルイズの頭には核?ティッシュペーパー?等という?マークが飛んでいるが、とりあえずそんな疑問はおいておく。

「それじゃ私を乗せた飛行機も売ってくれるの?」
 開口一番、昨日からの悩みなんてどこかに吹き飛ばしたかのように瞳を輝かせルイズは尋ねる。

「あぁ、金さえだしゃなんでも売るが…お嬢ちゃんこれに乗れるのかい?」

 マッコイはこの無垢な瞳の少女に聞いてみる。

「乗馬は得意よ。この飛行機も似たようなもんでしょ?」

 ルイズは言い切った。頭を抱えるマッコイ、そして笑いをこらえるグエン。

「あによ。グエンみたいな中年でも乗れるんだから私にも乗れるはずよ」

 その言葉にグエンは堪らなくなり、とうとうこらえきれずに吹きだした。その姿を見てルイズは怒りで見る見る顔が赤くなる。

「すまんすまん、まぁ確かにルイズなら乗れるようになるだろうが、そんな金あるのか?」

 ひとしきり笑ったあと真顔に戻りグエンは言う。

「そんなに高いの?」
 一応こんなこともあろうかと、いくらかお金は持ってきてはいるがいかんせん値段が分からない。ルイズはマッコイを見る。

「一応何機かは今在庫で持ってるのがあるから売るのは吝かじゃないが。一番安くても30万ドルからじゃぞ。こっちの貨幣で言うと…金貨3千枚じゃな」

 ルイズは驚いた。高いというから数万エキューいや、もしかしたら数十万エキュー位するのかと思っていたら、今の仕送りを貯めていたお金で何とかなる額だ。今すぐ、とは行かないがすぐに何とでもなる。

「だが飛行機って言うのは金食い虫でな。これを手足のように飛ばせるようになるまでに同じくらいの金がかかる。それに燃料、武器、弾薬、整備と、とにかく金を食う」

 マッコイの言葉に今度は見る見る顔が蒼くなってゆく。機体を買うだけでも屋敷が軽く買える額なのにそれを乗りこなし、維持しようとするとその何倍もかかるなんて。

「そ…そんなに」

「それにな、ルイズ。こいつらは純粋に戦う為の物だ。一度飛び出せば何百、何千という命を奪う。お前さんにその覚悟があるか?」

 グエンが言う。そう言えばここは彼らの世界の空軍基地なのだ。昨日サキは学院を2秒で灰にしてやるとも言っていた。そして今なら分かる。昨日のサキの言っていたことが事実だと。竜のブレスより、どんなメイジの攻撃よりはるかに速く、遠く、広範囲に死を撒き散らすそんなモノ達なのだ。ルイズは改めてここにある機体を眺める。どれも色こそ地味だが美しく繊細な機体たち、こんなきれいな機体が戦争のための道具なんて。

「まぁ、何故かこんな所に今は居るがもともとここはエリア88。地獄の一丁目さ。司令こそアレだが、お嬢ちゃんのような貴族様の居る

ような場所じゃない。この件に関してはよく考えればいい」

しみじみとマッコイが言う。何か引っかかるものがあったが気のせいだろう。

「とは言ってもこのままじゃお嬢ちゃんの進級にかかわるんだってな?それじゃこいつはどうだ。こいつならお嬢ちゃんならすぐ乗りこなせるだろうよ」

今までの暗い雰囲気を払うかのように言うと、マッコイは倉庫の奥にあるものを引っ張り出してきた。

「これは…」

「これなら学院でも堂々と使える。しかも誰も見たことが無いから使い魔とやらだと言い張ることも出来る、しかもたいした手間も無い。まぁ。細かいことはあとで教えるがな。なぁにお嬢ちゃんなら2~30分もありゃ扱えるだろうて」

 そこから出てきたのは昨日乗せられたのとは違う屋根の無い車、正直飛行機に比べると雲泥の差だが今は少し考える時間も欲しい。でもそれまでにクラスの、特にキュルケあたりに”また補習?だっさー”とか言われるのはたまったもんじゃない。

「今ならおまけに護身用カービン銃も付けてたったの200エキュー!」

「買った!」

 マッコイの景気のいい声がし、思わず反射的にルイズは叫んだ。







10/6/22小改訂 Amon様くろしお様に感謝



[19055] 第7話
Name: mie◆16737260 ID:65fd7c42
Date: 2010/07/07 19:49
 代金をマッコイに渡すと教習が始まる。運転台には大きな舵輪その奥に飛行機と同じ私の読めない文字列が刻まれている計器類。でも、さっきまで乗っていたF-4に比べるとはるかに少ない。足元には3つのペダル、そして右側には何本かのレバー。
 最初お手本ということで、爺さんが運転し、わたしはその横に座らされる。そしてハンガーを一回りした後わたしの番が来た。
 まずはこの車を乗りこなせないことには飛行機なんて夢のまた夢だ。はやる気持ちを抑えつつそろそろとクラッチを放す、すると車体はわたしの思い通りに…ならずに、ガタガタとしゃくるように上下動しながら少し進んで止まった。

「何でこんな動きになるのよ!」

 爺さんはさも簡単そうに運転してたのに、ひょっとしてこの子に嫌われてる?

「思い切りが足りないんじゃよ。だからエンストするんじゃ」

 そういう所は馬と同じなんだ、馬は乗り手が怖気づいたりしてると乗り手を莫迦にするような行動をとる。それならこうすれば。
 再びエンジンをスタートさせ、今度はアクセルをあおり、クラッチを一気に離す。すると車体は急発進し、目の前には壁がどんどん迫ってくる!

「ぶつかるー!」

「ブレーキ!ブレーキ!」

 爺さんが何か叫んでるけどパニクってしまって理解できない。
 私が思わず左足も踏ん張ったときエンジンが唸り、その直後車が止まった。そして右足をゆるめると唸っていたエンジンが静かになる。

「…死ぬかと思った」

 ぜいぜいと肩で息をするわたし。この基地にある乗り物はこんな危険なものばかりなんだろうか?そうだとしたらあの飛行機も乗りこなすには、お金だけじゃなくかなりの時間もかかるかもしれない。

「こんなところで死ぬ気か?極端から極端に走ってからに」

 爺さんが蒼い顔でわたしをにらむ。左手はサイドブレーキを思いっきり引いてたんだろう、力の入れすぎで白くなってる。

「もう少し大人しくな?この老いぼれの寿命が縮む」

「殺しても死にそうに無いくせに(ボソッ)」

 その科白が聞こえたのか爺さんがさらにわたしをにらむ。

「分かったわよ。もう少し大人しめで…」

 そして数十分後。わたしの運転はまぁ形になってきた。こうなってくると、車を運転するのが楽しくなってくる。

「たいしたもんじゃ、動かすだけとはいえ飲み込みが早いの。お嬢ちゃん」

 爺さんは感心してそう言う。

「どんなもんよ、魔法は確かに苦手だけど、この程度の車このルイズ様にかかればこんなもんよ」

 わたしの身体能力なめんじゃないわよ。

「あとは広いところで練習するんじゃな。せいぜい事故らんようにな」
 
 そう言ってからからと笑う爺さん。一言多いってば、このくそジジィ

「ところでおまけのかーびん銃って何?鉄砲?どこにあるの?」

 ある程度運転に慣れた頃、おまけのほうにも興味がわいてきた。

「お前さんの国には銃はないのか?ほれ、お前さんの左手、そこのへりに突っ込んでるものじゃよ」

 爺さんの言葉に目を車のへりに向けると鉄砲と言われれば何となくそうかもしれない物がケースに突っ込まれている。

「失礼ね、銃くらいこっちの世界にもあるわよ、大砲だってあるんだから。もっとも貴族には魔法があるからそんなもの必要ないのよ。まぁ、おまけだから貰っておくけど」

 わたしの科白を聞きながら爺さんは車から降り、私のほうに回りこむと、ケースに入った銃を取り出し私に見せる。

「ちっちゃー。ほっそーい。爺さん、わたしを騙してるの?」

 それは見たこともない形。わたしもこの世界の銃はよく知ってる訳じゃないけど、こっちの銃って言うのはわたしの背丈ほどある筈だ。それに比べるとその半分ほどの長さだ。

「いまさらお前さんを騙した所でどうなる?使い方だが、これをここに突っ込み、ここを引く。そして安全装置をはずして狙いをつける」

 そう言いながら爺さんは箱みたいなのを銃に入れ、銃から突き出た棒を引っ張り、銃床を肩に当てる。

「そして狙ったら引き金を引く」

 そして銃から軽い発射音が連続で聞こえる。その光景に昨日から何度目だろう、わたしは目が点になる。

「こここ…これって連発できるの?」

 この基地の非常識さに改めて感心する。

「何を当たり前のことを。弾は200発ほどサービスしておいた、この箱にマガジンと一緒に入れてある」

 さも当然。という顔の爺さん、そう言いながら緑色の缶を開けて見せてくれる。

「一度使ってみな」

 そう言ってカービン銃を渡された。その大きさから予想はしてたが結構軽い。そして爺さんのした様に弾倉を入れ、コッキングハンドルを引き、安全装置をかける。そして遠くにある布袋に狙いをつけ、安全装置を解除し、引き金を引く。
 肩にかかる軽い衝撃と乾いた音。そして狙い違わず飛んでいった弾が布袋に当たった。砂でも入っていたんだろう、土煙が見える。わたしはそのまま弾が切れるまで引き金を引いた。

「何これ楽しい!」

 これは楽しすぎる。呪文を詠唱する必要もなく、いとも簡単に遠くの的を連続で当てれる。わたしの魔法とえらい違いだわ。

「少し練習すりゃ200メイルでも人に当てることが出来るぜ。」

「そんな遠くを当てれるの?」

「まぁ練習しだいだがな、そんな物騒なもんだから使うときはよく考えな」

「そうね。こんな物使わないに越したことはないわよね」

 そう言ってわたしは、もとあったところに銃をしまう。これだけは寮の自室にしまっておこう、誰かが触ったりしたら一大事だ。

「もうじきあんたのところの学者先生がこっちに来るぜ」

「それまでにもう少し運転に慣れないとね」

 そう言いながらコルベール先生が来るまでの間運転の練習を再開する。これで遠乗りなんてしたらきっと楽しいでしょうね。狭いハンガーだからスピードがあまり出せないけど広いところだとどんなにスピードが出るんだろう?わたしはそれを考えるとわくわくしてきた。
 しばらくしてコルベール先生がなぜかおまけ二人を連れてやってきた。

「はぁいルイズ…って何その格好?」

そういえばまだ飛行機に乗ってから着替えてなかった。今のわたしの格好はここで借りただぼだぼのオレンジ色ののパイロットスーツにハーネスをつけたまま、当然マントも外している。格好だけならばこの基地にいるパイロットと変わりがない。

「何であんたが…」

わたしは心底いやそうな顔でその声の主、キュルケを見つめる。

「ごあいさつねぇ、ミスタ・コルベールだけじゃ情に流されるかも、と思う皆の不信を除くべく同級生たる私達が使い魔召喚の見届け人としてはせ参じたって言うのに」

「何を心にもないことを」

 キュルケのことだ、どうせ興味半分でこの基地を探検にでも来たんだろう。でもなんでわたしたちがここに居るのがばれたんだ?

「エー、オホンところでミス・ヴァリエール?あなたが召喚した使い魔と言うのはどれでしょうか?」

 このまま口論を続けかねないわたしたちを見かね、コルベール先生は強引に話を戻す。だがその目は何かの期待に満ちていた。

「はい。ミスタ、とりあえずはこの子になります」

 その瞳が微妙に曇る。コルベール先生は私が飛行機を手に入れるのを期待してたんだろう、わたしだって本当ならそうしたいわよ。でも今はこの子がわたしの相棒だ。地味な砂色の車、改めて正面から見ると顔のような造作で愛嬌がある。

「とりあえず?」

 わたしの言葉尻を捕まえて突っ込みを入れるキュルケ、そんなとこは耳聡いんだから。

「ぅオッホン!これは…異国のガーゴイルのようですね。また珍しいものを召喚しましたね」

 心なし棒読みでコルベール先生が話をひったくる。アドリブには弱いみたい。

「これにてミス・ヴァリエールの使い魔召喚の儀は滞りなく終了です。進級おめでとう」
 
「ありがとうございます」

 これまた台本どおりのせりふをいい、話を無理やり完結させる私たち二人。

「な~んか怪しいわねぇ、お二人さん、私たちに何か隠してない?」

 そこに鋭いツッコミが入る。

「「な、何も隠し事ナンテナイデスヨ?」」

 どうもわたしもアドリブには弱いようだ。それでもこの事は、ばれるわけにいかないんだけどね。

「ま、いいか、とにかく進級おめでとうルイズところでこれは何?」

 ニヤニヤしながらもそれ以上は詮索しないキュルケ、やっぱりこいつってばいい奴なのかしら?

「馬車のガーゴイルよ。自動車って言うんだって」

 わたしは簡単に説明する、細かいことはわたしにも分からないし。そのうちコルベール先生経由で改めて聞こう。

「それじゃ動くの?この自動車」

「もっちろん。あ、でもこの自動車地上に下ろさなきゃ」

 この車を学院まで持っていかないと、使い魔召喚の証明にはならないだろうし。

「それならシルフィードを使えばいい」

「シルフィードってあなたの使い魔の?」

「…タバサ」

「タバサ、ありがたいけどこれ結構重いみたいよ?」

「多分大丈夫」

 コミュニケーションをとるのが苦手なのだろうか?そっけない態度のタバサ。ま、キュルケの友達みたいだし良くも悪くも個性的な子ね。

「それじゃシルフィードのところまで行きましょうかみんな、乗って」

 わたしはみんなに車に乗るよう促す。

「へぇ、結構乗れそうね」

「4~5人は乗れるみたいよ。それじゃ行くわよ」

 安っぽいシートを改めてみるとそれ位は乗れるみたい。興味深く覗きながら乗り込むキュルケと珍しいはずだと思うのに、あっさりと乗り込むタバサ。なんとも対照的な二人ね。

「私はまだこちらに用事がありますので。私からオールドオスマンには報告しておきますので皆様は安心して学院にお戻りなさい」

 コルベール先生はまだここに残るみたいだ。まぁ、彼にしては宝の山みたいなもんだし、多分あのパンパンに膨らんだカバンにはお泊りセットやら何やら入れていたんだろう。

「それでは一足先にもどります」

 そうと分かれば先生を待つ必要は無い、きっと彼のことだそれこそ夜を徹してここのスタッフを質問攻めにすることだろう。
 エンジンをかけ滑走路に向う。そしてタバサの案内で何故か人だかりのあるほうへと車を走らせる。

「何これ、ホントに動いてる!・・・で?あんたは何してるのよ?」
 横に乗ってるキュルケが聞いてくる。普通あんたは後ろでしょうに、タバサが案内するんだから。

「何って運転」

 ハンドルを持ち、チョコチョコとレバーを動かし、横ではじめて見ればそりゃ不思議な動きにしか見えないだろう、キュルケは不思議そうな顔で見てる。

「ひょっとしてあたしにも出来るかな?あなたに出来るんだからあたしにも出来そうじゃない?」

「教えないわよ」

 ツェルプストーがどうのはおいといても、教えてやるもんですか。どんだけ苦労したと思ってるんだ、死にそうな目にもあったし。
 そんなことを言いながらタバサの指示のもと車を走らせるとそこには人だかりあった。その真ん中には楽しそうな青い竜。
 そこには食い散らかしたソーセージやベーコン、そして基地スタッフにやたらと慣れた巨大な犬っコロと化したシルフィード、タバサの使い魔たる風竜が居た。

「あ、ミス・ヴァリエール、あなたのクラスメイトの使い魔?の竜かわいいですねぇ、よく人に懐いてるし大人しい。思わず写真撮りまくっちゃいましたよ」

 わいわいやってる連中の一人がこちらに気付き声を掛けてくる。

「それはどうも…」

 自分の竜じゃないので私に話しを振られても困る、返事をしつつタバサのほうに顔を向けるが、表情を読もうにあまり感情が顔に出ないみたいでどうにも分からない。
 するとつかつかとシルフィードの方へタバサは向かい大きな杖で頭をはたいた。
 きゅいきゅいと悲鳴を上げるシルフィード。その声を無視しスタッフ達に向い頭を下げる。

「この子が迷惑かけてごめんなさい」

「迷惑なんてとんでもない、俺達にしてみりゃこんなファンタジーの生き物に会えただけでも凄いって言うのにこんなに人懐っこいから俺達のほうこそ調子に乗っちまったみたいだ。すまなかったな。お嬢ちゃん」

 黒いパイロットスーツを着た金髪の男がタバサに謝罪しながらタバサの頭を撫でる。
「お嬢ちゃんじゃない、私の名はタバサ」
 タバサは撫でられる頭はそのままに、自己紹介する。

「OKタバサ。俺はミッキー、ミッキーサイモンだ」

 黒いパイロットスーツの男は言う、やたらと陽気そうな人だ。タバサをひとしきり撫でるとまたシルフィードと遊ぼうとする。きっとちいねぇさまと同じで動物が好きなんだろう。

「そろそろいいかしら」

 そのまま放っておくといつまでも遊んでいそうだ。だからわたしは急かす、もう夕食の時間も近い。

「それじゃシルフィードにこれ持ってもらいましょう」

 キュルケも言う。いつの間にやら車にはワイヤーが掛けられていていつでも空輸可能な状態になっていた。88スタッフ恐るべし。
 シルフィードはそのワイヤーを持ち、浮き上がろうとするがどうも浮き上がらない。

「ちょっとルイズ、何なの?あの車ってのは、馬車くらいなら軽く持てるはずの竜が力負けするなんて。一体どんな重量よ?」

 見た目は確かに屋根もなく軽そうな車だが、その中身は鉄の塊みたいなものだ。さすがに竜といえども持ち上がらない。

「なぜ持ち上がらないの?」

 タバサが不思議そうにシルフィードを見る。シルフィードはこんな重いの持てるかっ!てな風に抗議してる。

「そんなに重そうに見えないのにね。どういう仕掛けはは分からないけど軽々動いてたのに」

「さすが竜といえど1トン以上あるものは持ち上げられないようですな。予定通りヘリで下ろしましょう」

 いつの間にやらやって来たラウンデルが、その光景を楽しそうに眺めつつ言う。
「それじゃよろしく、ラウンデル副司令」

「そちらのおふた方も一緒にどうです?」
 
 二人にもヘリに載るよう誘うラウンデル副司令。

「え、良いの?」
 嬉しそうなキュルケ、珍しいもの、新しいものが好きなゲルマニア人らしい反応だ。

「私はいい、この子に乗って帰る」

 まぁ、そうよね。なんてったって昨日召喚したばかりの使い魔だしね。当然の反応といえるタバサ。

「タバサがそう言うんだったらあたしもシルフィードで帰るわ」

 ちょっと残念そうなキュルケ。友情と好奇心を天秤に掛けたら、ツェルプストーと言えど友情のほうが勝ったみたいだ

「そう?それじゃ一足先に帰ってて。私も用意できたらすぐ戻るわ」

 横目で作業を見ると、もう少しかかりそうだ。

「それじゃあルイズ、またあとでね」

「それじゃ」

 なんとも騒がしくキュルケとタバサのコンビは学院に戻っていった。大勢の見送りに送られて。
 さて、そろそろわたしのほうも準備できたかな?

「ミス・ヴァリエール、用意が出来ました」

 準備していたスタッフが声を掛けてきた。

「ミス・ヴァリエール、これを」
 
 ラウンデル副司令が箱のようなものをわたしに手渡してくれる。…何?これ?

「無線です。これからこちらに来たいとき、何か状況が変わったとき、そして我々を帰すことが可能になったた時に必ずこちらに話しかけてください。さすれば我々がはせ参じましょう」

そう言って優しく微笑むラウンデル副司令。

「そうでしたら有難く使わせてもらいます。それではまた」

そう言ってヘリに乗り込む。そしてわたしは夕焼けの中魔法学院に戻っていった。




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