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[18350] 【逆行】ゼロの使い魔の悠久【ゼロの使い魔】
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2012/08/30 19:03
他の作者様の作品を読み漁り、
とうとう自分でも書いてみたくなりました。

今まで小説をきちんと書いたことのない素人なので
至らない点もあるかと思いますがどうぞ、よろしくお願いします。

<注意点>
若干原作キャラが崩れてることがあります。
サイト(主人公)は最強じゃないです。←嘘だ!!
話の構成状、進展はゆっくりです。
パロディネタがあります。
題名に * つきは若干R-18です。(エロは副菜のようなもので重点的エロじゃないです)

題名に■現在と明記があるものは、6千年かけて何度も繰り返し続けたサイトが主人公になります。本編です。
原作にない新しいスキルを使い、物語の謎を解決するため奮闘しハーレムエンドを目指しています。

題名に●過去と明記があるものは、6千年繰り返した中の一部を抜粋したいわば短編集のようなものです。
濃厚な絶望と不条理をお楽しみください。殆どが1話読み切りで話数でつながっている時もあります。

■現在と●過去と絡み合って物語を形作っていきたいと思っています。
その為、若干話の構成や時間軸が分かりにくい場合もありますが、ご了承ください。




サイトがんばれ!!超がんばれ!
作者もがんばれ!!!

若干見ない展開の本作品ですが、
皆様の考える展開をいい方向に裏切れるように頑張ります。

4/24 チラ裏にて更新開始
4/26 板をxxxに移動
5/3 原作一巻完了を機に話の再構成して話の順序を若干入れ替えました。説明が足りないと思った箇所も若干修正しました。
5/25 原作二巻完了、大量の誤字を修正始める
8/23 原作三巻完了、修正率は50%ぐらい?執筆速度が遅くなっている…
2012/8/26 震災その他トラブルから復帰。お待たせしました。またよろしくお願いします。



[18350] ■現在1「終わりの始まり、全ての始まり」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2012/10/20 12:03
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは必死に己を奮い立たせていた。

トリステイン王国屈指の名門貴族であるラ・ヴァリエール領の三女であり、
朝露をまとった絹を思わせるような桃色がかったブロンドと、鳶色のくりくりとした眼差し、透き通るような白い肌。
10人が見れば、10人とも認めるような美少女は、小柄で細身の体を大きく見せるように反り返し、不安にうちふるえながらも草原に立っていた。



春の使い魔召喚の儀式。

伝統あるトリステイン魔法学院の二年生昇格の為に課せられる試練は、
本来魔法を使うことが可能な貴族であれば、試練ともいえないような課題である。
基本中の基本のコモンマジックを使った言うなれば通過儀礼だった。


トリステイン魔法学園に通う生徒は、皆何かしらに優れている選ばれし貴族だ。
家柄、血筋、領地しかり、もちろんルイズもその例に漏れない。
魔法学院というだけあり、教えることにたけた高名なメイジ多数をもって
魔法はもちろんのこと貴族の在り方、伝統なども親から離れた場所で徹底的に学ばされる。

魔法の使役は「魔法をもってして貴族とする」という言葉通り、貴族の血により魔法をなすとされている。
貴族ないし王族は、魔法を使い平民を支配することによってハルケギニア各国の支配階級を形成していた。
ルイズの魔法を使う素養は、他の貴族とは比べようがない由緒ある高貴な血をもってして、
尊敬と畏怖の念をもたらせられるべきはずのものだった。



しかし試練とは無縁のはずのルイズは、顔を青ざめ不安をかみ殺し己を奮い立たせていた。
そうしないと立っていられないのだ。

勝気な眼差しは不安に濡れ、すらりとした足はがちがちと震え、
指揮棒(タクト)のような杖を組んだ手に持つが、その姿はまるで自分を守るように抱きしめてるようにも見える。
一人、また一人と儀式を成功させていく。早く自分の番が来てほしい気もするし何か問題があって中止してほしくも思える。
時折周りで珍しい使い魔を召喚したのか生徒達がざわめいているが、ルイズはあまり傾注していない。


(…大丈夫、きっと出来る。始祖ブリミルの加護よ、どうかお守りください。ちい姉さま…母さま、父さま…)


公爵家の三女として生まれ、今まで、今の今までずっと迷惑をかけてきた。
貴族が使えるはずの魔法が使えない、どんなに理論を学んでも、本を読み漁っても高名な師に教えを仰いでも解決できなかった。
優秀な家族に囲まれて、厳しい教えを受けてもついに成功することがなかった。

公爵家の娘が魔法を使えない。姉様もちい姉様も母さまも父さまも皆優秀なメイジなのに?
自分だけなぜ?本当は家族じゃなく例えば橋の下で拾われた孤児なのだろうか?そんな馬鹿な考えも浮かんだりした。
それでもルイズは家族が好きだったし、絶望しては何度も己を奮い立たせ精進した。

環境が変われば、魔法が使えるようになるだろうか?
そんな一握りの思いから、通わせてもらった魔法学院でも未だ成功したためしがない。

基本の基本すら、失敗し爆発するのだ。「火」「水」「風」「土」どの系統も爆発する。
不名誉なゼロのあだ名までつけられ屈辱にまみれようと、
ここまで本当の意味で腐れず、足りないものはないかと座学も実技もがんばってきたのだ。


(…絶対、絶対に成功する。いや、させなきゃ…)


この試験に受からなければ、進級することができない。
そしたらもう誰にも何にもごまかしができない。なにより自分をごまかすことも…もう出来ない。
きっと家に戻され、一族の恥とし一生を屋敷の中から出ずに暮らすことになるのだろう。

さらに杖を握りしめる。強くなくてもいい、美しくなくてもいい、
ネズミや蝙蝠でも…蛙でもこの際我慢する。


どうか、どうか。


「ミス・ヴァリエール、貴女が最後の一人ですぞ」


研究熱心でありながら、人との繋がりも疎かにしない温厚な教育者と周囲から評価されているこのトライアングル・メイジ、
ジャン・コルベールはルイズの姿を見て鼓舞するように優しく声をかける。
40代に差し掛かろう中年男性は、その残念な頭を煌びやかせながら、
安心させるような声で、肩を軽く押した。


「そう緊張していては、上手くいくことも成功しませんぞ」


慈愛に満ちた教育者の声も残念ながらルイズには届かなかった。
周りにいた生徒達はそれを見て騒ぎ立てる、子供とは残酷なものだ。


「ルイズに成功なんかするものか」


「いつもいつも失敗して周りに迷惑をかけるだけだしな」


「そもそもコモン・マジックすら成功したことがないのに」


「爆発したら召喚された使い魔も死んでしまうんじゃないのか?」


「そしたら、とうとう留年だな、いや魔法も使えなければ貴族じゃない。退学して領地に引きこもっていればいいのさ」


貴族の封建社会の縮図でもあるこの学院では、他人を嘲笑し貶めることも、そう変ったことではないのである。
ましてや子供である。どんなに親が言い聞かせたとしても魔法が使えないともすれば十二分に嘲笑の対象となったのだ。
しかしそんな嘲笑すら、集中しすぎた今のルイズには届かなかったが。


「やります」


ルイズは意を決し、杖を構える。
周りで囃し立てていた生徒も危険を察知し一定の距離を保つ。ルイズの杖の先に魔力が集中していく。
震え祈るようなその姿に普段馬鹿にしている生徒も息を飲む。

何度も何度も練習したその呪文を流れるように紡ぐ。
一字一句間違えずここまで完璧によどみなくこの魔法を唱えられる人物がいるだろうか?
その祈りに答えるようにルイズのたつ草原に、祝福を表すような優しい悠久の風がなびき、そして……









その尊い願いをあざ笑うかのように魔法が爆発した。



[18350] ●過去1「再帰呼び出し、またはオルダーソンループ的な」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2012/10/22 17:37
サイトが元の世界へと帰るための方法を探してあげたい。でも、サイトに帰ってほしくない。
そんな気持ちに揺れ動き、実際にその方法を見つけてしまってもなおルイズは悩み続けていた。
これまでの短くも激動の日々は、ルイズを大きく成長させ世界を繋ぐ事さえ可能にさせていた。


(なぜ!こんな短い時間しか一緒にいれないの・・・?
どうして「違う世界の住人」なのよォオオオ~ッ!!)


とても大切なサイト、故郷を思い涙したサイト。
普段はスケベでちょっと頼りないところもあるけれど、
大切な場面でいつもわたしを守ってくれた。

何時だってわたしの使い魔でいてくれた。
離れたくない、ずっと傍にいてくれるっていったじゃない。その言葉は本当じゃないの?
嘘つき・・・嫌い、大嫌いよ!



違う、本当は大好き。わかってる。
サイトがいなくなってしまった1度目は自殺してしまうところだった。
2度目は、記憶を消してもらい全て忘れ貴族の名誉に殉ずるところだった。

サイトがいるだけで、優しい気持ちになった。
サイトがいない世界なんて、耐えられない。
だからこそ、思う・・・元の世界に帰してあげよう、わたしと同じようにサイトを必要としている人がいる。
サイトの家族から、サイトを奪ったのは私だ。
周りに戦争のない平和な世界から、サイトを奪い人殺しをさせてしまったのは私だ。


ごめんなさい。


才人は英雄になった。タルブでの戦い、七万の兵を一人で足止めしたこと。
エルフと対峙したことだって、ガリアとの戦争だってサイトは何時だって運命を切り伏せてきた。
イーヴァルディの勇者の再見だともいわれている才人のあげた功績は、信じられないようなものばかり。
トリステインに留まらず、世界レベルでの偉業といえる。


しかし、それがいったい何になるというの?
サイトが活躍する度に、死ぬような思いをさせてしまった。
実際に1回死んだようなものだし、何度も無縁のはずの命の危険にあわせてしまった。


ごめんなさい。


サイトは一人で何でも生きていけるくらい強い、意地を張り迷惑しかかけた覚えがない。
「お前の使い魔だろ?ずっと守ってやるって」
それでも笑ってなんでもないかのように、いってのけるのだ。

心から強くて、誇れるような使い魔・・・虚無よりも最良といえるはじめて成功した魔法。
私の騎士(シュヴァリエ)・・・私の使い魔。
だからサイトを元の安全な世界に返し、この思いを胸に私は生きていこう。そう決めたのだ。








平賀才人(ヒラガサイト)は思った。
元の世界に戻ることは悲願だったし、何度故郷を思い涙したかわからない。
けれども・・・本当にこのまま元の世界に戻っていいのかとも考えはした。

皆と仲良くなって、本当にぎりぎりなんとかやってこれた。
辛いことも沢山あった、でもそれ以上に楽しいこともあった。
かけがえのない仲間も出来た、なんだかんだいって最愛のご主人様もいる。
ルイズは、そりゃ色々不満はあるけれど、
本当に頑張っている守ってあげなきゃいけない女の子なのだ。

虚無の魔法をつかえたとしても、俺がいなくなって本当に大丈夫なのだろうか。
皆がいてくれるし世界が平和になったといえど、やっぱり心配なのは変わりない。
散々迷ったが親になにも言わずに来てしまったことも後悔していた。
歩けばコンビニがあり、パソコンでも何でもそろっている便利すぎる世界。
違いすぎる世界にまだ骨を埋める覚悟も、それを覆す出来事も無かった。

元の世界にもどるということはルイズとの約束なんだ。
一度訪れたことのある世界だ、また訪れることも出来るかもしれないという楽観もあった。
ちゃんと両親に告げたら、今度こそハルケギニアに永住してもいい。
今生の別れにはならない予感もあったのだ、それが元の世界に戻ると決めた理由だ。


そして皆との別れが近づいていた。






「……サイトさん」


シエスタ。この世界に来て、周りに助けてくれる人が誰もいない
そんな不安な生活で最初に優しく接してくれた女の子。


「俺、感謝してもしたりないよ、料理だけじゃないよ、
その優しさに何度救われたか分からないんだ」


サイトさん…いかないで、一番じゃなくてもいい、贅沢は言わない。
只のメイドでもいいから、傍にいさせてほしい。
いかないで、その一言が言葉にならなくて涙があふれ出てくる。



「本当にいっちゃうの?サイト」

彼に会って、明るく強いその在り方を知ってお友達になりたいと思った。
恐れられるはずのエルフなのに、最初から全然こわがられなくてとても嬉しかった。
ティファニアはサイトのお陰で友達が沢山出来たし、こうして外の世界も見ることができた。
ずっと諦めていたことが出来た、感謝しても感謝しきれない。


「テファ向こうにいっても忘れないよ。
せっかく沢山できた友達と仲良くな、まっ優しいテファなら心配ないか」


最初のお友達、ううん今はそれ以上の気持ちだってもっているのに・・・
私はサイトに笑顔を作ろうとして、失敗した物悲しい笑顔にしかならない。



「サイト・・・」
「きゅい、きゅい」


タバサは、サイトの洋服の袖をつかむ。
私の勇者(イーヴァルディ)未だ認めてくれないけれど。
サイトの事を殺そうとした私を許してくれて頭をなでてくれた。
囚われた私を助けてくれた。母様を救ってくれた。私は誓った。今度は私の番、一生を掛けて貴方に仕えると。
それなのに・・・約束も守らせてもらえず本当の思いもつげられない。
想いをこめて掴んだ指をそっと離す。


「タバサはもうちょっと笑顔にな、今までの分これから沢山幸せになるんだぞ?シルフィードと仲良くな」


そういうとタバサは、小さくコクンとうなずいた。



「ゲルマニアに来ちゃえばいいのに、わたしが一生面倒みてあげるわよ」


キュルケはそうやって、笑うが目じりに涙が溜まっていつもの妖艶さが出ていない。
サイトが来てから、退屈する暇が全然なかった。周りにどれだけ良い影響を与えたか計り知れない。
それなのに馬鹿な事ばかりして出来の悪い手のかかる弟ができたみたいで嬉しかった。


「キュルケ…ありがと、コルベール先生とも仲良くな」


キュルケにも随分世話になった、振り回されただけのような気もするが楽しかった。



「サイトくん、いつか君の世界にいったら、ぜひ案内してくれ」

何も知らない世界から、彼をさらってしまったようなもんと後悔したが彼は何時だってまっすぐ歩いてきた。
私のような贖罪だらけの人間からみればとてもまぶしく見える。
そして彼の世界の技術は興味が尽きず自分も一緒にいってみたかったが、今のトリステインを見捨てていくこともできない。


「コルベール先生、本当にお世話になりました。
地球につれていけなくてすいません」


大人の中で一番世話になった人だ、
教師としても人としても、とても尊敬している。



「サイト、こっちは僕等に任せて安心してくれたまえ。君がいなくなるのは少し寂しいがね」


彼と馬鹿みたいな理由で決闘したことが、それほど時間はたっていないのに凄く昔のことのように思える。
僕はサイトのことを平民ながら、親友だと思っているし、尊敬もしている。
恥ずかしくって一度もいったことがないけれどね。


「ああ、頼んだぜ。でもお前少し抜けてるからな。
それと余所見ばかりしないでモンモンとも仲良くな」


そういって、お互いの拳を軽く合わせる。ギーシュ、キザでアホだけど信頼している親友だ。
二人して馬鹿やってばかりだけど、本当楽しかった。




未練を振り切るように頃合いをみてルイズが、杖を振るうとそこに煌びやかな扉が現れた。
サイトを世界に戻す、戻してしまう”世界扉”だ。


「ルイズ、俺・・・」


サイトは何か言おうとして、口を開いたものの言葉にならなかった。


「早く行っちゃいなさいよ、サイトの家族がまっているわ。
アンタがいなくても十分やっていけるわ、寂しくなんかないんだからね!?」


泣いちゃだめ、泣いちゃだめ。
ここで泣いたら、サイトは帰らないかもしれない。
私はサイトのご主人様だ。笑って送り出してあげなければ。


「ああ、わかった、ありがとな、ルイズ。じゃあな元気でな!」


本心じゃないと判っているルイズらしい発破の掛け方だった。
最後まで素直じゃないなと笑いながら、やり取りに安心して元気に手を上げた。

そして扉に消えていくサイトの背中。
サイトは仲間と別れる悲しみと焦がれた帰郷の念が叶うことのうれしさ、
複雑な思いを胸に、光の中に包まれ奥へ奥へと進んでいった。


「あっ・・・」


ルイズは何かにすがるように指先を伸ばす、まるで最初から誰もいなかったかのように消えてしまった。
扉が消える。最後までお互いを思ってすれ違った心。半身どころか全身を奪われたような喪失感。
我慢していた涙がとめどなくあふれ出す、ルイズは止める事さえしなかった。
女の子達は寄り添い、そして誰もが別れを惜しみ涙していた、望めるならもう一度サイトに会いたい。
先のことは判らない、いつかは立ち直り歩きはじめなくてはならない。でも今はただただ悲しかった。




























「あんた誰?」


あれ?ここは日本じゃないのか?家に戻るつもりだったのに。
俺の家は?退屈でかけがえのない毎日は?てりやきバーガーは!?
そこは見知った草原。見知った建物。そして見知ったさっき涙ながらに分かれたご主人様。


「誰って、平賀才人。覚えてないのか?さっきまで一緒にいたじゃないか」


何が起こっているんだろう。意味が全然わからない。なんだこれは?あの断腸の思い出やった別れはどうした、これが感動の再開?
違う・・・自分にはこの景色に見覚えがあった、これってもしかして・・・
周囲の生徒達が、ルイズの失敗を騒ぎ立て、ルイズがコルベールにサモン・サーヴァントのやり直しを要求している。
サイトは取りあえず成り行きに身を任せることにした。


「あんた、どこの平民?少し馴れ馴れしいわよ」


平民?今は曲りなりにも貴族だったような…というか、これは覚えがある。
この妙にツンツンとした棘のある態度、こんな顔だっけと見間違うような余裕のなさそうなつりあがった目。
何か悪い夢でも見ているのだろうか、あの時に戻ってきてしまったのか?
呆けている間に周りの状況は流れていく。


「あんた感謝しなさいよね、貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだからね」


それにしてもやっぱりルイズは、怒っていても可愛いよな。
いきなり近づいてきたルイズに、そんな事を考えていたまだ状況のつかめていないサイトだった。
あまりの出来事、理解できない状況にいきなり放り出され冷静に混乱していた。


「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。このものに祝福を与え、我の使い魔とせよ」


ルイズの唇が、サイトの唇に触れる。
まったくしょうがないご主人様だな・・・こんな皆の前でなんて。
なんて思いながら、舌を絡めていく。腰に手を廻していく。順調に混乱していくサイトだった。


「んー、んーー!?んんぅー!!!!」


なんなの、なんなの!この失礼な使い魔はとルイズは思った。
混乱し続けるサイトは徐々に落ち着き始め、持ち前の楽観さと好奇心と前向きな思いで考えた。
訳のわからないことが起きているけれど、結局前とやることは変わらない。
またルイズをこの愛すべき便りないご主人様を守ろう、そう心に強く誓った。


「お前は、俺が守るから!」


サイトは相変わらずヌケていた。
ルイズは、キッとサイトを見据える。


「ここっこ、ここここ…」


「鶏?」


「この、馬鹿犬ぅーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


そして、サイトはご褒美という名の懐かしい爆発をくらい、かりかりのもふもふになって飛んで行った。




「もしあの時ああしていれば・・・」誰もが一度は思う夢物語。

サイトは、前回の記憶を持っているゆえに悩んでいた。結論としてはここは前とまったく同じハルケギニアだった。
前は仲の良い皆と生きて笑って別れることができたが、後悔したことも多い。
この記憶を使えば、誰もが幸せな結末を望めるんじゃないのか?
死んでしまう人を救えることも、皆が危ない目にあうことも、誰かが悲しみ涙を悲しむことがなくなるかも知れない。
でも、そこでハッと思い当った。未来を変えて、前以上に酷い事にならないだろうか?
誰も保障してくれない未来が怖かった、前に映画でみた内容の過去を変えて碌な目にあってない主人公のことを思い出したのだ。

ルイズ、アンリエッタ、シエスタ、タバサ、テファ・・・
悲しい事は確かにあった、でもみんな笑顔で生きていたのだ。それが未来を変えてしまうことで死んでしまったら?

このままいけば沢山痛いことや辛いことが待ち受けている。
でも悲しみも痛みも全部受け止め、本当に大切なものを守るため、
見捨ててしまう罪を抱えることにした。それは修羅の道なのかもしれない。

馬鹿な事だ、酷い事だ、体が傷つくことも心が傷つくことも全部知っている孤独・疎外感も全てが前以上。
もしこの事を誰かが知っていたらとめただろうか?
しかし、誰も彼を宥め止めることができる人も本当の意味で慰めることもできなかった。

知っていて変えないということがどれだけ辛いことか誰も知らないしサイトも言うつもりがなかった。
サイトは、どんなにひどい扱いされても、傷つけられても、薄くやわらかく笑っているだけだった。ただ一つの希望と強い信念を胸に。

そして、サイトはやり遂げた。
ギーシュに腕を折られぼろぼろになり、ワルドの稲妻に打たれ、右手が火傷に水膨れで酷い事になり、
アンリエッタの思い人である王子を見殺しにし、姫と王子の魔法に体を切り刻まれ、
七万の軍に挑み、矢や魔法で死の寸前まで追い込まれて、彼は信念を守り通した。



体も心も壊れてしまう程の事をやり遂げた、回避しようと思えばできたかもしれないこと。
皆を守りたい、ただそれだけで・・・何時か別れることも知っていた、でもただ守りたかった。
本当に自分をほめてあげたい。生半可なことじゃ成し遂げられないと自分を誇った。

過去を知っていて落ち着いて周りをみれたサイトは、前以上に皆を好きになり優しくする事が出来た。
そしてそんな落ち着いたサイトのことを、ルイズを含め周りの少女たちは前回以上にサイトが好きになった。
優柔不断でヌケていることは変わらなかったけれども。



「今度こそ、俺帰るよ」


最後まで、戻ってきたことは誰にも言わなかった。こんなことを知ってるのは俺一人でいい。
万感の思いで、今”世界扉”をくぐった。

前の約束どおり元の世界に戻る。本当に必死で生きて、日本のこともおぼろげになりつつあった。
本当は、日本での事なんか夢なんじゃないのかそんな風に思い涙する夜もあった。
そんな故郷を思い出すことも少なくなっていった。

それでも前の世界のルイズとの約束だ。


やっと俺は元の世界に戻る。


光に包まれ、そして光の先に出た。



[18350] ■現在2「虚無の使い魔」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2012/10/22 17:39
何度となく時を繰り返し、何度となく絶望し、そして何度となく死んだ。



幸せな時も、辛い時も、まるで砂時計をひっくり返すかのように元に戻されてしまう。



嘲笑うように神に弄ばれるように繰り返し、
今の今まで、元の世界に戻ることはおろか正しく死ぬことすら許されなかった。



終わりなき悠久なる繰り返しの条件は、いずれか2つ。

1、虚無の”世界扉”をくぐる。
2、サイトが死ぬ。

魂に記憶として継承されるのは、繰り返し重ねてきた知識と経験。


どれだけ鍛えても、やり直しハルケギニアに戻った体は最初のときのように貧弱なまま。
どれだけ関係を気付いても、愛し憎みあった人もまるで世界に取り残されたように他人。
どれだけ死を焦がれても、死ねず忘れず永劫回帰繰り返す。

まるで出来の悪い作家が書いた悪夢のような話。



絶望した。絶望した。救いの無い世界に絶望した・・・

それでも、サイトは幾度となく立ち上がり模索し続けた。
「あの時ああしておけば……」と後悔の無い世界を目指して進み続けた。
蝶の羽ばたき一つで変わる、開けるまで猫がいるか判らないような世界。
いつか納得の行く結末を、閉じられた世界を安らかに終われる方法があることを信じて。






そして……







「デルフ…俺とうとうお前と同い年になっちまったよ」

はははっと乾いた笑いを洩らすが、まったく笑えない話だった。
終わりがないのが終わり・・・なんて遠い昔どこかで聞いたような言葉が浮かぶ。





サイトは繰り返した、繰り返して繰り返して繰り返し続けた、この終わりなき世界を。

初めてハルケギニアに訪れてから合わせて約6000年。故郷の日本なんて、もう記憶の片隅にしかない。
むしろ日本で過ごした時間よりもハルケギニアで過ごした時間のほうが長いとあれば、どう言葉にしていいか判らない。


起点となるときは、ルイズに召喚されたあの日。
同じようで違う並行世界に移動するのではなく、召喚された日に魂と記憶が上書きされる。
そこから枝分かれするように、行動一つでまるで違う人生のように新しい物語となる。
異世界へ召喚されただけなら普通じゃないが、まだ判るし同じような立場の人もいた。
人生を繰り返し続けるなんて聞いた事がない普通じゃないの枠も超えている。

それでも、サイトは前回までまぎれもない人だった、だったと思う。
ガンダールヴのルーンを刻まれると人間ならざる力を出せるが、人間と呼んでいいものだった。
起点に戻った時、魂は上書きされる。その度重なる上書きは不具合のように人としてのたがを外してしまったのか。
研磨された魂は霊格まであげてしまったかとでもいうような力の本流を感じる。
人間にかぎりなく近い何かとでもいうのだろうか、神でもないが人間でもないよくわからない存在になってしまった。
そのことを頭ではなく魂で理解した。


けれども、大きく変わりはなかった・・・恐らく死んでも元に戻って繰り返すのは人であった時も同じだろう。
奇跡を起こして世界をサイトの望みのまま変えてしまうことも出来ないし、思いのまま壊してしまうことも出来ない。
あくまで人のように細々と限りある未来を変えて、信じる世界を掴みとることが出来るだけ。

この世界の住人を蟻のような目でみることもないし、ある程度落ち着いたし達観した考えも繰り返し続けた弊害のようなもの。
前向きでどこか抜けててスケベで、馬鹿は死んでも治らない。根っこの部分ではサイトは死んでもサイトなのだ。
お調子者で楽天主義だが如何なる困難や障害にも挫けず諦めない不屈の闘志を胸に秘めた熱血漢、平賀才人だった。


身体からにじみ出る魂の輝きは、まるで絶対的な管理者のように溢れ他人にも判るほど顕著していた。
それにともない新しく、人ならざる体になり得た力があった。


ギンナル(τσαρλατάνος αποπλανητής)というルーンが新たに右の腰骨あたりに刻まれている。


人では持ちえない圧倒的な魅力をもって周りに影響を与え、嫌悪感を抱かせず、敵対心を持ちにくくさせる。
心の隙間のある弱い者に解放感と安心感を感じさせ傾倒させ、牢獄のような幸福感を与える。
自身の行動なしに不可思議な新しい力を得たのは、これだけ繰り返していて初めてだった。
閉塞気味だった世界に何か予感を感じる・・・この力があれば、今度こそこの永遠と続く地獄を抜け出せるだろうか?
この新しい世界では、俺はまた皆を護ることが出来るだろうか?
些細なきっかけで、蝶の羽ばたきが違う場所で嵐に変わるように様変わりしつづける世界を渡りきれるだろうか?
その時俺は…どんなふうに笑うのだろうか






祝福を表すような優しい悠久の風がなびいた。


















ルイズはわけもわからず、地に膝をつけたくなった。

周りを見ると既に何かに屈し膝をついている生徒達がいる。
爆発の煙が風によって徐々に薄れ、召喚した使い魔の姿があらわになりはじめる。

前の生徒の誰かがドラゴンを召喚したと騒ぎになっていたが、
ルイズが召喚した使い魔は姿が見えても騒ぎはおきず静まり返っている。



人間?
いや違う。


とうとうサモン・サーヴァントの魔法さえ間違えてしまったのか?今まで人間を召喚し使い魔にしたことなど聞いたことがない。
幻獣のかわりに天の使いでも降臨させてしまったのかもしれない・・・
私は神だ。と言われたらまた騙されたお前だったのか。と言い返してしまいたくなるような神々しさを感じる。
大げさかもしれないがそう感じたのだ。わたしはどこか遠い異国の王族を召喚してしまったのだろうか?
それとも何処か人里離れた場所に暮らし何百年も魔法の研究を続ける大魔導師。
はたまた、異国の何万人と信者のいる宗教を束ねる教祖か……


でも確かに人のようにも見えるし、もしかしたら話が通じるかもしれない。
改めて全身を見る、格好から分かったことは恐らくハルケギニアの人間ではないのでは?ということ。

その姿はハルケギニアでは、見たこともない奇怪な丈の短いローブ。深い深淵を思わすようなボトムス。
青と白を基調とした波形の文様で装飾された靴。右手に携えるは、神器だとでもいうのだろうか、
滑らかな光沢をもった見たこともない素材で出来た石板のようなものだった。
(後でノートパソコンだと教えられたが、結局なにか判らない魔道具だということしかわからなかった)



草原に佇むその姿は、その場に額縁を持ってきて覗いてみれば
高名な画家が生涯を通じて完成させた一枚の絵画だといっても遜色がない。
いや、それ以上だった。この場に居合わせた奇跡を生涯を掛けて語るような…そのように思わせる何かがあった。



初めてあったはずのルイズを酷く慈愛に満ち柔らかい表情をして見つめ言葉を待っている。
神の使い。そう私を導くために召喚に応じてくれたのかもしれない。




わたしは、召喚した。召喚した!



喜び涙しそうになる。きっと今年一番の使い魔だ。
貴族、まだ子供とは言え貴族がひれ伏す人型の使い魔?こんな使い魔聞いたことがない。
コルベール先生を見ると、黙ってうなずいた。




ルイズは、サイトに導かれるように近付き失礼のないように一礼してからその鈴のような声で話しかけた。


「貴方を召喚したルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。
まずは召喚に応じていただけた感謝と突然このような地へお呼び立てしてしまった謝罪を。
そして許されるのであれば儀に従い使い魔の契約を結ぶことをお許しいただけないでしょうか。」


サイトは不安そうなルイズににこやかな笑みを浮かべ一歩ルイズへ歩み寄る。

ただ立ち、そして歩く。それだけの所為が、途方もなく優雅だった。
長く王宮で身に付けた動作は、隠しても隠しきれない気品さと魂の輝きとあいまって見るものを魅了した。


ルイズは了承の意とみなし、素早く呪文を唱え杖を振るう。
そして、唇を近づける。




誰もがその光景に息を飲んだ。
一瞬のはずの口付けが一分、二分たっても終わらない儀式のように感じる。。
ルイズは多幸感に襲われていた。今までの辛く苦しい日々は無駄じゃなかった。
ゼロと嘲笑され、力がないゆえに血筋も相まって汚された誇りも全て。



わたしは、救われた。



ルイズのくりくりした目から涙があふれてくる。
終わらない儀式の神々しさと淫靡さに膝を地につきながら前のめりになるもの多数。
目をそらしたいのに、赤くなりながらそらすことが出来ないもの多数。




気絶したルイズは、素早く裾を伸ばしルーンを隠したサイトに抱きかかえられ、ルイズの部屋に連れて行かれた。


サイトが立ち去ったことで皆糸の切れた人形のように脱力した。
気だるさと羨望を含むようなため息がどこかで漏れた。



誰も左手のルーンについて、追及などしなかったしサイトがルイズの部屋を知っていた事に気がつかなかった。
それどころか、サイトの名前すら聞くことができなかったのだ。




こうしてサイトの新たな物語は幕をあげたのだった。



[18350] ■現在3「宵闇が陰る前に」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2012/10/27 19:29
ルイズが目を覚ますと、そこは十二畳ほどのいつもの自分の部屋だった。
何度も読み返しぼろぼろの魔法関連の書籍がそこらに立ち並んでいる。
今日の為にと動物用に寝床として準備し、無造作にわら束がなんだか恥ずかしい。

気絶から目を覚ましたわたしはベッドに寝かされていた。
すでに夜の帳が部屋に満たされ、召喚の儀式が行われた草原を窓から見ることが出来る。
今日も双月は変わらず夜を優しく包んでくれている。

ぎしりとベッドがきしむ音が聞こえる、考えないようにしていたが現実に引き戻される。
あっ、と小さく声を漏らし毛布に身をうずめる。


「今日の儀式に随分と注力していたようだね、
あの後糸が切れたように倒れこんだから、メイドに部屋の場所を聞いて運ばせてもらったよ」


昼間のようにむせかえる様な魅力は収まったものの、全てを見透かすような瞳に目をそらす。
流れるように恋人にするような動作で右髪と耳を流すように撫ぜられる。
家族にすら同じようにされた事があまりないのに、不思議に不快に感じる事がなく
どちらかといえば温かみがある気持ちが胸に押し寄せてくる。

わたしは、一つ一つの動作がいやみがなく何時までも見ていたくなる。
作法にも厳しく王宮ともかかわりの深い家に生まれたルイズにはわかる洗練された動き。
所作立ち振る舞いが一朝一夕ではなくにじみ出る隠し切れない高貴な魅力として溢れている。
寝ぼけていた頭が覚醒し始め、昼間の醜態を思い出し、ことさらベッドに身を深めるルイズだった。


「あの・・・貴方様の名を伺っても?」


私ったら名前も聞かずに倒れこんで、無作法にもベッドに身をうずめたままだったが今更立った。
優しげに見える眼差しに甘えてしまったのだ、若く見えるけど同い年に見えない、きっと年上だと思う。


「平賀才人というんだ、よろしくな」


ヒラガサイト・・・サイト、サイト様。ハルケギニアでも聞いた事ない名前の感じだ。
窓から月明かりが逆光になり、彼の顔が見えないがきっと微笑んでいるのだろう。


「サイト様は随分と珍しい名をお持ちのようですね、身に着けている衣服も見た事がありません。
使い魔の儀式で人を召喚することは今までありませんでした、
ですが事故とはいえご迷惑をかけてしまったことをまずは謝罪させてくださいまし」


手短に使い間の儀式や今の状況について説明をしていく。
自分が貴族でトリステイン魔法学院にかよっていること、本来であれば動物などを召還し使い魔とすること、
この儀式の成功を持って進級を決める事・・・出来れば協力してほしいこと。


「いきなり人攫いのように呼び出して不躾で失礼を重ねるようですが、
どうしてもサイト様が今のわたしには必要なのです・・・
もちろん呼び出した国へ帰れるよう手配します、それまでどうかお願いできないでしょうか??」


きっと遠い異国の地の貴族に違いない、今頃騒ぎになってやしないだろうか。
冷静に考えたら、国際問題に発展しかねないか顔を青ざめながら恐る恐る頼み込んでみる。


「実は半ば自分の意志で来たようなものだしね。ルイズがそこまで気にするようなことじゃないないんだ。
もちろん出来るだけ協力するし、君の手助けだってしてあげれると思うよ」


ずっと昔、そうずっと昔、目の前に鏡が出てきてどう考えても怪しげな状況に、
面白そうだからと好奇心片手によく考えず飛び込んだのは自分だ。なぜルイズを責めることができようか・・・
しかしたまにふと考え苦笑する、あの何でもない退屈な日常は本当に夢のようにかけがえのないものだったのではないか?

すらりと伸びた白い指先で毛布をおさえ、生意気そうな眉は少し下がりルイズの瞳はまだ不安げに揺れている。
そんなルイズの不安をぬぐうように優しい声色でサイトは尋ねる。


「それで使い魔っていうのは、いったい何をすればいいんだ?」


ルイズは考えた、目となり耳となる能力。こっそりと試してみたが、無理だった。
そもそも他人の目線を無理やりこちらにつないでみたら失礼に値しないだろうか?覗きのようなものだ。

主人の望むものを見つける能力。秘薬?わたしには使えない。
わたしが望むもの、それは貴族としての在り方。貴族としての本質。そう魔法の使い方なんてどうかしら?
わたしたちでは、想像もつかないような魔法を知っているかもしれない。

主人を守る存在・・・サイト様は魔法を使うのだろうか?剣のような野蛮な武器で戦うようには見えない。
おぼろげな記憶では、石板のようなものをもっていた。
トリステインでは聞いたことないが、杖の代わりに契約しているのかもしれない。


「主人の望むものを見つけ、主人を守ることです?」


自信なさげにしおらしく小首を傾げ答える。そして、もじもじと恥ずかしそうにルイズは尋ねてみた。
どうしても確認しておきたかった、もしかしたらと一縷の望みをかけて。


「その・・・サイト様は、魔法が使えたり・・・するのでしょうか?
あの、魔法・・・わたし魔法を使うのが下手で・・・」


誰にも話せなかった人並みに魔法が使いたいという願い、話し終わって後悔した。
なんでわたしは話してしまったんだろう。そして不安になった、笑われたりしないだろうか
それとも魔法も使えない主人など、と見捨てられたりしないだろうか
この人に見放されたら、とてつもない絶望に落ちてしまいそうだ。

身を包む後悔と襲いかかるであろう絶望から両手で守るように自分を包む。


「残念ながら魔法は使う事が出来ないけれど、少しばかり魔法理論には詳しくてね。
そういう意味では役に立つ事が出来ると思うよ

ルイズが望むなら、魔法以外にも教えてあげれると思うよ・・・色々とね」


それともう少し砕けてくれると嬉しいかな?と付け加えた。


「わかりま・・・わかったわ、サイト・・・様」


そういってルイズが頷くとサイトはルイズを優しく抱きしめた。
いきなりの事に少し身構えたが直ぐに暖かい気持ちが流れてくる。
ルイズはサイトのちょうど胸の辺りに顔をうずめた、心音がとくとくと聞こえ安心する。
いいんだ、わたしはわたしのままで・・・この人に任せておけば大丈夫という不思議な感覚。






そして、サイトは相変わらずだった。なんか新鮮だなー、こういうルイズも。
初めて見た、最初からことさらしおらしいルイズ。
勝気なルイズもいいけど、これはこれで・・・。

いつも不安と理不尽に潰れないよう虚勢をはり、周り全部が敵のように振舞っていたルイズ。
6000年も付き合っていれば、そんな反応も憎くなんて思えず可愛くしか見えない。
常であれば時間をかけてゆっくりと心を解きほぐしてあげるところだったんだが・・・

新しい能力も少し便利になったかというぐらいで一番の武器はやっぱり記憶といえよう。
誰が何を望んで何をほしがっているか?ここでこうしたらどうなるか?嫌というほど判っているのだ
ハルケギニア統一だって、何度もしてきたしどれだけ早く効率的に統一できるか挑戦した事もある。

もちろん始めのほうは目も覆うような失敗の連続だったが・・・
流石に同じ環境でこれだけ繰り返していると慣れるし、流れでどうにでも出来る。
やりつくした感があるぐらい色々な事も試したし、国だって転々としてみたこともある。
それでもここ数年でとうとう世界の真実に近づきつつあった。
そして新しい能力、悠久なる時に終わりを告げることも出来るかもしれない。

と、すれば今回はどのように動くか?過去を思い出しルイズを撫でながら思考を没頭させていく。









崩れると知りながら波打ち際で永遠と砂場の城を作る様な作業。
どれだけ美麗にどれだけ醜悪に築き上げた城も一瞬で崩れ去る。
賽の河原とでもいうのか、サイトが罪を重ね、おわりなきいしをつみあげていく。



[18350] ■現在4 * 「それはとても幸せな契約」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2012/10/29 16:24
「っ、ん、ぅぅ、ぁ・・・あ」


痛い、痛い、痛い、気が狂いそうな幸せが身体を貫く。わけもわからず、とろけるような痛みに溺れていく。
痛い、苦しい、内臓が圧迫される、身体の弱いところ一番奥の上側をすられている。
やめて、どうして?辛いのに幸せなの。これは何?

受け入れるには小さな身体に、背を這うようにブロンドの桃色の髪が広がる。
白い肌はピンク色の染まり、犬のように這いつくばり
前方に延ばされた手は、掌を広げてサイトの手に重ねるように合わせられ拘束されている。

サイト、サイト…、助けてサイト。名前を呼ぶたびに幸せがこみ上げてくる。
こんなこと教えてほしいわけじゃなかったはずなのに、今苦しみも困惑も幸せも今サイトが与えてくれる。


「なんでぇ・・・う・・・許して・・・ぇ」


ずちゅずちゅと粘膜のこすれあう音がして、華奢なルイズの肢体は飛魚のように跳ねていた。
鋭敏すぎる感覚に意識を追いやる事すら出来なかった。
覆いかぶされられる重みに圧迫感とどうしようもない幸せを感じてしまう。
凶悪なサイトの剛直が未成熟の膣に出入りしている。玉のように汗を流しながら、涙を流し懇願するルイズは幻惑的だった。

どうしてどうして?何故こんなことをされているの?無意味な考えだけがめぐっていく。









サイトにとって、生と死は同価値である。快楽も苦しみも同価値である。
全ては無意味で価値のないものだからだ、どうせ終わりには元通りになることに重みを見出す事が出来なかった。
自分の命は1エキューよりも価値がないとも考えている、だからどんな事でも耐えれるし何でもすることが出来た。

マイナス感情を抑え何にでも幸福感を感じる新しい能力は、その意味では便利だった。
サイトはおそらく一番付き合いが長く、ルイズ以上にルイズを知っていたので、結局一番手軽で無慈悲な手段をとることにした。
傾倒依存させるデメリットよりメリットを大きく感じたのだ。

ルイズは、まるで籠の中の鳥のように蝶よ花よと寵愛を受けてそだてられてきた。
殿方に全て任せるようにとルイズの母カリーヌから教わっていて性に詳しいことをしらなかったし、
サイトとともに冒険を繰り返し、平民の知り合いが増え、貴族にも友達と呼べる間柄がいた頃ならばいざしれず、
今のルイズは、幸福を教わることもなく、興味は魔法一辺倒で勉強や書籍も魔法に関するものばかりだった。


「何をするの?」


きょとんとした顔つきで布団を剥ぎ取られたルイズはサイトを見つめる。
色気のないナイトビスチェも無知で健康的な肢体をさらしている、下着をはいてないのと合わさっていけない雰囲気をかもし出している。
この期に及んで危機を感じていない、いったいどうしたのか?何か粗相をしたのか不安になっている。

さっきまで優しく抱きしめて背を撫でていた手がねころばされた手にかさねられている。
何をされているんだろうか?わかるようなわからないようなもどかしい気分でサイトに任せる。
少しずつ近づく距離に目を離せない、意外に長い睫黒い瞳に映る自分が見える。


「んっ・・・え?」


ふいに唇に柔らかい感触がした、何が触れた?サイトの唇が触れたのだ。
知っている契約のときにした行為だった、もう一つ意味があったような・・・


(そうだ、キスだ・・・わたしキスしちゃったんだ)


一度経験している、あの時は何がなんだか判らなかったが・・・もちろん今も判ってはいないがキスの意味は知っている。
いけないことをしている?わたしなんだかいけないことをしちゃっているの?
でもそうすると使い魔の契約もいけないことで・・・

何も知らないルイズ。キャベツ畑やコウノトリを信じている可愛い女の子に、
無修正のポルノをつきつける時を想像するような下卑た行為と罵られても可笑しくない事をされようとしていた。


「嫌だった?」


どうしていいかわからず目をつぶることも出来ずに見つめ続ける。
嫌か?と聞かれたが全然嫌じゃなかった、ただ答えを出す事も出来なかった。
上の唇と下の唇でついばむ様に優しく押し付けられると、甘い痺れが柔らかく脳に響く。


「くふふぅ」


桃色の髪を掻き分けるように耳元に顔を押し付けられるとくすぐったさに身をよじった。
瞬間発展途上の小さな胸が可愛らしく主張するふくらみにサイトの手がそっと乗せられる。
恥ずかしいし、流石にこれはいけないことなんじゃと手で胸を隠そうとする。


「手、どけて」


ルイズを抱きしめながら耳元でサイトは言う。
ちゃんと拒否しなきゃいけないのに、何を言えばいいのか判らない。
胸をさわるなんて結婚した相手と最初の夜じゃないよ許してはいけないはず、それに・・・


「胸ちいさくて恥ずかしいから・・・」


ルイズは自分の言葉に顔を赤く染めた。


「なんで?可愛い胸だよ、ルイズ・・・手をどけて?」


再度続けられる要求に、恐る恐る手を外してしまった。
男の人に抱き寄せられる事がこんなに幸せなことだと知らなかった、全て任せてしまいたい。
ずっと天井を見続けていた目をゆっくりと閉じた。

サイトの膝が足を押し割って入ってくると、考えないようにしていた部分に触れる。
さらっとした愛液がお漏らしをしたようで恥ずかしいくて足を閉じようとしたが駄目だった。


「い・・・意地悪しないで」


考えられないくらい弱弱しい声で頼んだが全く受け入れられてもらえない。
服を押し上げるほど乳首はぷっくりと盛り上がり、優しく撫でられるたびに指や手のひらに引っかかり転がされる。
足はぐっとひらかされて羞恥に染まり、衣擦れや水音が目をつぶったルイズに襲い掛かる。


「サイトっ・・・あっ・・ぁっ・・・なんだかこわい」


このままでは皿の上のミルクをこぼしてしまうような自分が変わってしまうような不安。
そんな葛藤もうなじや首筋にふる唇の熱ですぐに溶けてしまう。
胸を撫でる手のくすぐったさと気持ちよさに体温があがっていく。
足の付け根の間から零れる粘液を何度も執拗に拭われ擦り付けられる。
上も下も良い部分にサイトが触れるたびにピリリとした痛みにも似た甘い刺激の痺れる魔法を流されたかのように跳ねる。
御へその少し下の奥のほうがきゅんきゅんと悲鳴をあげている。


「んふぅぅ・・・ちゅる。」


抱きしめられ閉じる事が出来なくなった口内にぬめりとした感触が侵入してきた。
息苦しさに押し返すように抵抗しても下側からなぞられ巻きつかせられ翻弄される。


(知らない、こんなこと知らなかった、お母様、お父様、ごめんなさい)


「ぷはぁ・・・っっ・・ふぁ・・・ぁ、ハアハア」


息をする方法も判らず蹂躙されていたルイズは名残惜しそうに舌と舌が離れようやく呼吸する事が出来た。
顔は紅潮し目元は潤み息苦しさから開放される、それすらも好意的に解釈してしまう。
全てサイトにまかせておけば大丈夫、だってこんなに幸せなのだから。
ルイズは無垢で美しく、とても・・・淫らだった。









「あっ・・?」


幼く未成熟なすじに熱い熱い肉の塊を押し付けられる。
まだ解されてもいない体の内側に無理やり押し入ろうとしている。
入り口が押し広げられ鋭い痛みが鈍痛となって身体の奥から拷問機械でばらばらにされているかのようだ。


「ぎぃいい!!!」


あまりの痛みにサイトを抱き寄せてギュッと両手で抱きしめ、頬に涙が零れた。。
一気に幕を破り貫かれ断裂した秘奥はぎちぎちと大きすぎる剛直を締め上げる。
一つの隔たりもなくサイトとつながる身体は、痛みと同じように無理やり幸福感を感じさせる。


「っ動かないで!絶対絶対!!動かないで!!」


ふうふうと息を整えようと懸命に呼吸をする。
それを許さないかのように止まっていた動きがゆっくりと再開しはじめる。
逃げられないように下から手を回しルイズと同じように抱きしめる。

痛い、幸せ、痛い、幸せ、痛い、幸せ。

交互にせめぎ合う鈍い圧迫感と鑢がけられたような痛み、脳髄を螺子で締め上げられたような幸福感。


「やっ、ゃ、あぁあー」


涙と涎でぼろぼろになった箇所がすすられる。
冒涜的に与えられる多幸感、脳に麻薬でも打たれたかのように幸せに屈し笑みまでこぼれる。


「酷い・・・ぃ・・・よぉ」


痛みとそれだけじゃない、甘い疼きにも似た何かが込みあがる。
わたしは、今わかるのは、サイトが与えてくれることが幸せだということ。


「嫌いになった?」


ふるふると一生懸命首を振り否定し、そして同じ言葉を幸せそうにつぶやく。


「酷いよぉ」



わたしは、もしかしたら悪魔を召喚してしまったのかもしれない。
それでもいい。わたしはサイトを拒めない、嫌いになれない。


冒頭に戻りサイトはルイズの逃げる体を押しつぶすように後背位で攻め立て上げる。
手は逃げられないように、片方ずつ上から絡めるように握っている。
ありえないほどぎちぎちと締め上げられる感触も血と精液が潤滑油となって心地いい。
ずちゅずちゅと濡れた音と小さな喘ぎ声が部屋に響き渡る。
ルイズの涙も汗も舌でなめとるとまるで甘露のように甘い。

自分の下でわけもわからず涙を流すルイズが綺麗で可愛くて愛しい。
知らないことは全部教えてやる。痛みも悲しみも全部幸せで塗りつぶしてやる。

だから、俺だけをみていればいい。今度こそ絶対幸せにしてあげるから。








ルイズは薄れゆく意識の中で、月明かりに照らされるサイトのその濁った瞳をみて、なんて綺麗なんだろうと思った。



[18350] ■現在5「使い魔とのとある一日」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2012/11/05 06:45
明日を不安がり消耗しつつ寝る夜も、また来てしまったと布団から出たがらない朝もなくルイズは何時もより早く目が覚めた。
窓辺から差し込む光も鳥の鳴き声も違って見えるのは気のせいだろうか?
自分とは違う匂い、体温、ゆっくりと覚醒する意識の中に暖かい幸せな気持ちを感じる。

起き上がろうとすると形を覚えてしまったのかまだ股に挟まっているような気がする。
その鈍い痛みも違和感も不快でなく、昨日の事は確かにあって夢ではない事を告げる。
隣で無邪気に眠っているサイトを見ると幸せな気分になってくる。
訳もわからないうちに契約の続きのようにキスから始まり、身体まで繋げた使い魔。
初めて魔法を成功させてから、一夜で随分と様変わりしてしまったのはどうして?


「まったく、起きなさいよ。ご主人様より遅く起きるなんて懲罰ものよ」


言葉の内容とは裏腹に、声色はどこまでも優しく、
そっと頬をつつくだけで、起こさないようにベッドを降りる。
触れた指先からいとおしい感触が伝わってくる。

身体を少し水を浸した布で拭き内太ももにシュッと香を振りかける。
どれだけ効果があるか分からないが、何もしないよりはましなはず・・・水魔法が使えればいいのに。
日の下でみなければわからなかったが、体のそこらに幸せの証がついている。
幸い服で隠れそうな部分であったが、なんだか気恥ずかしい気もする。
サイトが起きていたので汚れ物を頼む事にする、こればかりは申し訳ないが頼むしかない。


「おはよう、ルイズ。身体は平気・・じゃなさそうだけどなんとかなりそうだね」


なんだか気恥かしくて、こくんと頷く。
昨日の愛された痴態を思い出し耳を真っ赤にしてうつむく。


「自分で着替えたのか、着替えさせなくていいのか」


「いいわ、貴方にそんなことさせられないもの。
護ってくれるんでしょう?魔法も、・・・その期待しているから」


「そうか残念だ、着替えさせるのも好きなんだけどそれは今度だね。
魔法は、まず見てみないと判断つかないけど1~2カ月で有効な方法を見つけてあげるよ」


「な・・・なにを言うのよ」


いきなり変な事をいうから、どもってしまった。
それよりルイズが驚いたのは、わたしが魔法を使えるようになる期間の事だ。
十数年待ったのに、あとそれくらいでいいの?期待してもし失敗したら・・・
でも・・・自分の初めて成功した魔法のことを信じてみることにしたのだ。


「それじゃ、洗濯は流石に人にさせられないし今のうちにしてくる事にするよ。
その後軽く朝ごはんを食べることにしようか?この時間でも頼めば何とかしてくれるかな」

そういうと、サイトは手を差し伸べた。
ルイズは、おずおずと手を出したり引っ込めたりしながら最後にはゆっくりと手を握るのだった。



ルイズと部屋を出ると、同じタイミングで燃えるような赤い髪の女の子が現れた。
ルイズより背が高く、サイトと大して変わらない身長、そしてむせるような色気流石キュルケだな。


「おはようルイズ」


「・・・おはようキュルケ」


ルイズは顔をしかめると、嫌そうに挨拶を返した。
面倒見のよさと母性、常日頃からからかう気性に隠され機微に疎いルイズはキュルケが嫌いだった。
勿論領地の関係もあったし、家族以外に好意を寄せれる相手のいないルイズには仕方のないことだが・・・
それにしてもせっかくのいい気分だというのに、台無しにされてしまった。


「そちらは、あなたがルイズの召喚した使い魔ね。紹介してくださる?ねぇ貴方、微熱はご存知?」


何時もの調子でメロン見たいな胸を強調するように、サイトに目配せをしてきた。
確かに人が使い魔になるのは珍しいし、昨日は驚いたけれどそれだけで微熱が燃え上がったりはしない。
ただ面白そうな予感はあったし、これをネタにルイズをからかってもいいちょっとした興味本位だった。


「サイトっていうんだ、よろしくな。じゃ、ルイズ行こうか」


昨日召喚したサラマンダーを自慢しようと扉の前でまっていたキュルケは、
思いがけずサイトの笑顔をまじかに見てしまい生娘のように顔を赤くし固まっていた。
気のない振りをした男でも年のいった老人でもキュルケの誘いを見て鼻の下を伸ばさない人はいなかった。
確かに妻子もちや聖職者、軍人にも誘いにまったく動揺しないのもいるが、ほんの一部。
年の近い異性で今みたいななんでもないというような反応をされたのは初めてだった。

にべもなく立ち去っていくサイトと、振り返り勝ち誇った顔をしたルイズが、
んべっと舌を出しながら去っていくのを百戦錬磨のはずのキュルケは茫然としぶつぶつと呟きながら見つめ続けていた。


「そ、そうよ。洗い場に向かうようだったし忙しかったのよ、じゃなかったら可笑しいじゃない・・・」







アルヴィーズの食堂では、もちろんサイトには隣に座ってもらった。
(マルコリヌが席を主張したが、サイトが目を合わすと顔を真っ赤にし逃げて行った)
ルイズが食事をしているのを見ていた思ったのが、なんて綺麗な食べ方をするのだろうといことだ。
勿論6千年の間にルイズを筆頭に叩き込まれた所以だが、マナーも言語も完璧に習得していた。

とても一朝一夕で身に着く仕草ではない。ルイズも厳しくしつけれらた方だと自負するがサイトはさらに洗練されている。
ちらほら煩わしい羨望に似た視線を感じたが、ルイズは誇らしいだけだった。


その後の教室では失敗したため落ち込んだ。ミセス・シュヴルーズも爆発で気絶させてしまった。
サイトはわたしの失敗した魔法をみて、興味深いと言っていた。虚無の曜日に実験をしたいから、つきあってくれといわれた。
この失敗魔法に何か意味があるのだろうか?それとも魔法が使えるようになるためのステップだろうか。
確かに失敗は成功の母ともいう、わたしに出来るのはサイトを信じ虚無の曜日を待つだけである。
教室の掃除もサイトに教えてもらいながらだったので楽しかった。この使い魔は掃除ですら完璧にこなしてみせた。
すぐにサイトが慰めてくれた、傷はついてないかと心配してくれたからそう思えたのかも知れない。



皆がいうゼロのルイズ、そんな嘲笑も前ほど気にならない。
わたしには、最高の使い魔がいる。






サイトはこれからのタイムスケジュールを整理する。
右の道左の道どちらに行くか、前に進むか後ろに戻るか、動かないというのも一つの手だ。
ガリアは今回は無しか、最速アタックといえば手堅い手だが・・・
ゲルマニアは序盤から影響の大きな手が使えないから全体攻略をする場合は選ばないし、
アルビオンは内紛状態から始まるので最初だけは難しいといえる。
ロマリアだとある意味ベリーハードモードになる、手中に収めてしまえば楽だがしがらみも少なくない。
サハラはそれ以上の難易度ルナティックでほぼ全部敵対でしんどいから、特別な用がなければ選びたくない。

一見国力の少ないトリステインは不利な様に見えるが、繰り返しすぎてその問題も些細なことだ。
全体への影響力の高さと初期ボーナスともいえる優遇された状況が素晴らしい。
魔法学院の生徒やアンリエッタとの接触そして何よりルイズと、組し易さが半端でない。

新しいルーンの事もあるからどう転んでも復旧が容易い慣れた環境を選ぶ事にした。
それに、少し前の過去の出来事で判った可笑しなことについても調べなくてはいけない。
本質に近づきつつあるのを肌で感じている、それくらい衝撃的な出来事だった。

その為には・・・やるべき事が山ほどあるが不安はない。
それこそ幾度となくなぞってきた道なのだから、今度こそ物語にLa Fin.を刻むと空に浮かぶ二つの月を見続けた。



[18350] ●過去2「run away or run a way?」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2012/11/05 07:35
「あんた誰?」


知ってる草原だ・・・天井じゃない何処までも広がる空、馬鹿にしたような青さに眩暈を感じる。
どこぞの決戦兵器の主人公よろしく馬鹿な事いってる場合じゃない。
いや、この展開を想像していなかったかといわれれば嘘になる。嫌な凄く嫌な予感はあったでも信じたくなかった。

混乱していた。それにしてもあんまりではないか。
何故?何故?何故?意味が意図がわからない、何か成し遂げなくてはいけないのか?
悪い冗談だ。悪い夢だ。2回目、2回、2回!!あれだけ頑張った、頑張ったよね?モグラもうゴールしていいんだよね??

もう駄目だ。折れた。心が折れた・・・ばっきばきに折れた。心折設計もかくや。
おい、神様!いるんだろ!?見てるんだろ!?笑ってるのか!?!ふざけんじゃねーぞ・・・
参りました、負けました、本当まいりました、おでれーた!!

何がいけなかった・・・俺が何をした。頼むよ家に帰してくれよ・・・じゃなきゃ教えてくれ。
どうすればいいんだ、何をさせたいんだ、お願い神様仏様ルイズ様ッ!!!


(・・・・・・・)


が、駄目・・・反応無し。両手を組膝を突き全身全霊心の底から何かに祈った。


「早く、何かいいなさいよ!」


爆風で舞い上がった埃が晴れ、愛しのご主人様の姿が見え始める。
限界だった、何もかもが怖かった。


「う…うぁ、うあぁああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


なりふり構ってられない、こんな所にいられない、でも何処へ何処へ行けばいい?
判らない、ワカラナイ・・・でも少なくともここではない何処かへ、サイトは走り出していた。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」


「ゼロのルイズが平民に逃げられたぞ」


周りの生徒達はゲラゲラ笑っている。所詮他人事である。
動かなくてはいけないコルベールもあまりの事に呆けている、どんな事情があれ失態だった。
ルイズも現実が見えていないのか、動けていない。


「でもいいのかゼロのルイズ。使い魔と契約出来ていないんじゃ留年かもしれないぞ」


その言葉に我に返ったルイズは、急いで平民を探したが時すでに遅くどこに逃げたかもわからなかった。


サイトは契約前だったので、ガンダールヴでもない普通の人間だったが見つからないように街道をそれ、走りに走った。
最後の死力を尽して、サイトは走った。サイトの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。
ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。逃げた。
陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時・・・


平民に逃げられ憤慨しているルイズと、使い魔とはいえ人間であることを心配した魔法学院が
周辺を魔法で探したところ、思いのほか簡単にサイトは見つかった。




街道を外れた森の中で、焦りすぎたのか足を踏み外し、高低差のある場所から落ちたことにより打ち所が悪かったのか死んでいた。
かつて英雄とまで言われた者の救いのない哀れすぎる呆気のない末路である。




サイトは死の間際に思った。

ルイズ、約束を守れなくてごめん。
父さん、母さん、帰れなくてごめん、親不幸でごめん。


でもこれで、やっと楽になれる。
サイト享年17歳?18?まあいいか、早すぎる死。
その激動の生涯に幕を閉じた、骨は灰にして海に・・・お供えはテリヤキバーガーで。





















「あんた誰?」


許されないだろ、こんなことは・・・なんだこれは、誰か助けてくれ。
死んだら終わりっていうのが、唯一無二の理じゃないのか?死んでも許されないのか?


「・・・平賀才人」


呆然と立ちすくみ嘆いた、何も考えたくなかった。


「ひっ」


やっとの思いで召喚した使い魔の目はこれでもないかってくらい濁っていた。
それを見てルイズは、後ざすった。


これは、拙い・・・コルベールはこういう目をした人物を幾度となく見て知っていた。
この目は絶望した目だ、全てを失い、打ちひしがれる姿。
その姿にとてもよく似た目前の光景を思い返していた。

それでも契約は続けなくてはならない。
念のため自暴自棄になって、危害をくわえないか素早く杖を振るったが、危険なものは何もなかった。
召還前にどれほどの事があったのかうかがい知れない、しかしこの出会いがかつての自分のようにいい方向に向かうのを願った。


「ミス・ヴァリエール、契約を進めなさい」


「あの!もう一回召喚させてください」


「これは伝統なんだ、例外は認められない」


「でも、平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません。」


「ただの平民かも知れないが、呼び出した以上君の使い魔にしなくてはならない」


「そんな…」


「では儀式を続けなさい」


サイトの自身を取り巻くやり取りのはずも、どこか心此処にあらずでブツブツと呟いている。
ルイズも、サイトをちらちら見ながら若干引き気味だ。
なんで、こんな気持ちの悪い平民みたいなのに・・・とため息をつきながら歩み寄る。


「あんた感謝しなさいよね、貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだからね」


それでも照れているのは自分だけでなんだかむかむかしてきた。


「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。このものに祝福を与え、我の使い魔とせよ」


甘いはずのキスはサイトに何の感動も祝福も与えなかった。
ルーンが手に焼かれる痛みが体を襲うが、呻き声をあげることもない、この痛みは夢じゃない生きてる痛みだ。
祝福?呪いの間違いじゃないのか?召還さえ失敗していれば・・・そんな思い返せば検討違いな憎い想いすら浮かぶ。


これから、どうすればいいんだろうか。
空を仰ぎ見ても、気持ちの悪いくらいの吐き気のするような青空だった。


ルイズはいやいやながらも自分の部屋にサイトを誘導する。
不気味で意思の疎通ができるか不安だったが、声を出したりはしないものの質問にはうなずき返す。
時折、嘆き声が聞こえるが、それも小事だ。使い魔を召喚できた、契約をすることができた。

もう自分はゼロじゃない!魔法が成功したのだ。

部屋に戻り、今にしてふつふつと喜びがわきあがってきた。これが私の成功の証しだ。
一見人間に見えるが、きちんと主従関係を結ばなきゃいけない。
これから、躾をしてこの使い魔を使いこなして見せる。失敗した魔法もこれから少しずつ成功させていけばいい。

コモン・マジックが成功した今、それも時間の問題だ。
二つの月を眺め、これからの栄光の道に思いをはせにやつく。


ルイズは、あくびをしながら床を指した。


「あなたはそこで寝なさい」


反応のないサイトに呆れながらブラウスを脱ぎ、するすると下着に手を掛け脱いでいく。
下着を投げつけるとネグリジュに着替え、驚くほどの速さで寝付いた。
今日はとても、いい夢が見れそうだ。






サイトは、投げつけられた白い小さなくしゅくしゅになっている下着を机に載せ、テーブルの上にそっと置いた。
テーブルの引き出しを開けると、もしもの時にと渡されたが貴族らしくないとしまってある護身用のナイフを取り出す。

ベットを覗くとルイズの桃色のブロンドが、ベットに広がり月明かりで艶かしく輝いている。

ギシッという音とともに腰かける。右手にナイフを構え、力強く握りこむ。
このまま振りおろせば、ルイズの命をいとも簡単に奪うことが出来る。
ガンダールヴのルーンが怪しく光、効率的に殺す武器としての使い方が浮かんでくる。
次の明かりが逆光になり、ナイフの刃は濡れるように光っている。












どのくらい時間がたっただろうか、
んうという鼻の抜けたような声とすーすーという寝息に左手で優しくルイズ髪をなでている。

サイトの目はルイズを撫でている時ににまるで妹でも愛でるように慈愛で満ち溢れていた。


すっと立ち上がると軽やかなステップで、窓から滑り落ち壁を伝い、静やかな音で森へと消えていった。

既に契約をすませガンダールヴとなったサイト。
前回は人間だったから、上手くいかなかった。ガンダールヴの力なら、一人でも生きていける。
皆が辛い目にあうのを見るのが嫌だった、それ以上に皆に関わるのが怖かった。

全てから、逃げるのだ。今度こそ上手くやってやる。
また死んだらどうなるのか、それがとても怖かったが無茶をしなければ長くすごせるだろう。
現実逃避、ただ只森を駆け抜けていった。









その後、身の丈を超える大剣を携えた凄腕のメイジ殺しの傭兵が各地の戦場で見かけられるようになった。
大柄とはいえない身体が持つには、それは剣というにはあまりにも大きすぎた。
大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。切るというよりは叩き潰す、それはまさに鉄塊だった。
何度も鉄と溶かし重ね錬金し、固定化を掛け続けた象徴とも呼べる大剣。


全身鎧をまとい義手のゼンマイ仕掛けの弓と、投げナイフを器用に扱い大きな戦場に風のように現れるのだった。
奇抜な姿だったが「我らが凶戦士」や「イーヴァルディの勇者」といわれ平民にはとても人気であった。


貴族でもない平民ごときが生意気よ!と、ルイズは文句をいっていたが、
使い魔もいなくなり領地にこもる前に戦争に巻き込まれた時にはどこからともなく現れ助けてくれた。
とても複雑な思いだったが、本心では嫌な気分ではなかったのだ。
まるで大きな加護で守られているように暖かく感じたのだ。





多くの人に語り継がれ、英雄譚にもなり歌わた傭兵のその生涯はなぞに包まれ、
ついに伴侶もとらず誰とも知らない静かな場所で息を引き取ったという。









幻想的な森の中には、いまも大剣が突き刺さっていた。
誰も訪れないその場所は、その剣はまるで墓標のようだった。



[18350] ●過去3-1「護るべきもの」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/03 19:57
「あんた誰?」

筋肉は裏切らない。そんなことは嘘だ。

あんなに鍛え上げた上腕二頭筋も今や貧弱な棒のようだ。
一騎当千の黒い狂戦士なんていわれた、屈強な体が今やこの様だ。
これで繰り返したのが、5回目。2回は世界扉で2回は逃げて死んで。

前回は体を鍛えに鍛えた。屈強で鋼の肉体といってもいいようなものだ。
傷一つ一つがまるで勲章のようなものだった。
記憶が引き継ぐなら、肉体だって鍛えた分だけ引き継がれるかと思ったのにとんだ骨折り損だったようだ。


本当にやる気が起きない。だらりと脱力し、なすがままだった。
今はきっと5月なのだろう、そしてこれからもずっと5月なのだ。May Day!


あまりの喪失感に、あまりの虚無感に震え落ちた。
今なら護衛艦もびっくりするほどの虚無魔法が打てるぞ!!!
虚無魔法なんて使えないけど…


このまま何をしても元に戻るなら、何かを成すことに意味はあるのだろうか?
誰かを守ることに意味はあるのだろうか?
生きてることに意味はあるのだろうか?


空気を吸わないエコな体になりたい。
そうサイトは思うのだった。



「聞いてるの?犬っ!!!」
なんなの、こいつは。ルイズは思った。
覇気がない、反応が薄い。せっかく召喚できたとおもったら平民の子供だったのだ。
カラスにも負けてしまいそうなよわよわしい見た目。本当に役に立つのかしら?

雑用は完璧にこなすが、これでは召使いと変わらない。
いや、きちんと受け答えする召使いのがましだ。

召喚できたことはうれしかったが、肝心の使い魔については気に入らないことだらけだった。
なによりルイズは、その目が気に入らなかった。
わたしの使い魔なんだから、ちゃんとわたしを見なさいよ。



そんなサイトが珍しく反応したことがある。
アルヴィーズの食堂でのことだ。

仕事を忠実にこなし、気遣いもしっかりできる私の使い魔に
このあたしの席の隣につくという名誉なご褒美をとらせ、
(飴をあげることも躾のひとつよね)

堅いパンじゃなくて、貴族用の朝ごはんを与え、
(もちろん、鳥の皮はサイトにあげるわ、ご主人様を助けるのも立派な使い魔の仕事よ)

それは、大変名誉なことだった。
ちょっと反応薄いけど、きっと今は緊張しているだけよ。
こんなに素晴らしいご褒美をあげたんだから、ちゃんとご主人様にしっぽを振って頑張ってほしいものだわ。


それでも少しずつ気に入り始めていたのだ、わたしの使い魔だし最低限のことは出来るのだ。
これから、従者としての心得を躾け、護衛の師をつけてわたしを守らせる力をつけ、
芸を覚えさせてどこにだしても恥ずかしくない使い魔にするのだ。
ちょっとにやにやしていたかもしれない、顔を引き締めないと。


それをいきなり音もなく立ちあがったかと思うと
わたしは見てないから何が原因なのかわからないが、ギーシュがメイドに手を挙げる瞬間に割って入ったのだ。




「ちょっと、わたしの使い魔のくせに何勝手なことしてるのよ!」

いつもと違う、濁りのない凛とした目に不覚にもドキドキした。
でも、嬉しかった。理由はなんであれこれからはもう少し反応を返してくれるかもしれない。
ギーシュが怒りの収まりがつかないのか、「おぉーマリアー」「決闘だー」なんて棒読みで、
さながらオペラのようにサイトに決闘を挑んでいる。

勝手にわたしの使い魔を連れていかないで!
そう言おうとして、サイト顔をみると申し訳なさそうな顔をしている。

なんて顔するのよ、そんな顔されたら……何も言えないじゃない。














で、マリアって誰?












サイトはギーシュは相変わらずだよなと思った。
最近はなんだかご主人様の様子も優しい。
そんな態度に徐々に気持ちが復活してきたサイトだが、
なんだか面と向かってルイズにそんなことをいうのが恥ずかしい。


とにかく今はギーシュだ、シエスタに手を挙げようとしているところをみてしまったので
つい体が動いてしまったのだ、ルイズもびっくりしたのかぷりぷりしながら文句を言っている。
なんだかすごく申し訳ないので謝っておいた。



そして、ヴェストリの広場でいつもと変わらない展開。


やれやれだぜ………
他にやることないのかね
それにしても 人形の動きなんてガンダールヴに比べると全然のろいんだよなァ
武器持たないでも結構見えるもんだな、無手じゃ早くは動けないだろうけど
まるで止まって見えるぜ
ほら まだあんなところだ
よけるのは簡単だけど よけたらよけたで こいつ ムキになるだろうし……
わざとなぐられるのは シャクだけど こんなのろいパンチなら もらっても大したことないかもしれないしな
前回あれだけ鍛えたし、ひよっこギーシュの青銅くらいなんてことはない
あ~~~~~~
もうめんどくせェ













「痛ってええぇええーーーー」

当たり前だ馬鹿!お前を守る筋肉はもうないのだというのに。
ルーンは左手なんだから、ヒダリーとでも名付けるつもりだったのか。
とんでもなくセンスがないぞ。これだから脳筋は。



思いのほか痛かったがサイトは耐えることには慣れていた。
切れた口から血を吐きだす。
こんなパンチならルイズの爆発のほうがよっぽど痛い。


チラッとルイズを見ると目に涙目を浮かべている。

しょうがないなールイズは、ゼロの使い魔は最強だってことをわからせてやるか
だから、そんな目で見るなよ。すぐに終わるからさ。

手頃な木の枝を二本拾うと、軽く凪いだ。
これは武器、これは武器。木の枝でも人は殺せる。そう強く頭に思い浮かべた。
ヒュンとい音と左手が淡く光るのが見えた。両腕とも違和感無いな、いける!




余裕なのか今まで手を出さず、何をするのか見守っていたギーシュは鼻で笑う。

「そんな木の棒で何が出来るっていうのだね。
僕の青銅はそんなに柔じゃないぞ」

「お前なんて、これで十分さ」

サイトは構わず不敵ににやりと笑い断言する。

「ふむ、平民の研ぎ澄まされた牙ということだね、
では、こちらもそれ相応の準備をしないといけないね」

造花の薔薇を振るうと、6体の人形が陣形を組んでいる。
ギーシュの取り巻きもげらげらと笑っている。
勝ちを確信し余裕のギーシュも澄まし顔だ。


「それでは、来たm」


ギーシュが全てを言う前に事は終わっていた。
気が付いたら目と首筋に木の枝が押し当てられていた。

「ひっ」

青銅を切る必要ないのだ。
今やその木の枝は立派な武器だった。
少し力を込めれば、右手の木の枝によって失明し、左手の木の枝によって首から血を流す。
前回死線をくぐりぬけ、武器を振り回した身からすれば児戯のようなものだ。


「ま、参った」

決闘を見学していた誰もが声を出せなかった、
ルイズも可愛い口をぽかんとあけて呆けるだけだった。



サイトは呆けたルイズの小さな手を握ると部屋に連れ帰った。
この命に意味はないかもしれない、でも誰かを守ろう。
サイトはそう強く強く思ったのだ。



[18350] ●過去3-2「護りたかったもの」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2012/08/26 17:58
なんなのよ、あいつ。

はにかんだように、「ルイズ、ごめんな」なんていって
…馬鹿、使い魔なんだから、わたしの傍にいてわたしを守っていればいいのよ
でも、少し格好良かったかも、少しよ、少し。犬なことには変わりないんだから。

それでもちゃんと会話出来るようになった。
笑いかけてくれるようになった。
これまで随分甘やかしてきたから、これからきっちり躾ないとね。




サイトは相変わらず馬鹿だった。

ちょっとだけ大人になったサイトは、ルイズが拗ねても怒っても可愛く見えるのだ。
落ち込んでるときに優しくしてくれた、それだけで完全無欠の美少女が今まで以上に愛おしく見えた。
時代はルイズだよね。ルイズ可愛いよ、可愛いよルイズ。
おれ絶対間違わないよ、これからルイズだけ。ルイズだけにするんだ。そう固く決意したのだ。

決闘のおかげかキュルケに夜誘われたけど、
断腸の思いで断った。ルイズ怖いからね。

サイトはルイズをこれまで以上に甲斐甲斐しく世話し、
猫のようにつれないルイズを如何にして手なずけるかで頭がいっぱいだった。


そして夢中になりすぎて虚無の曜日を忘れて、城下町に出かけデルフを買いに行かなかった。
サイトはルイズに構うことに忙しかったのだ。


タイムテーブルを守るかのようにフーケが襲来し、
まるで予定調和のご都合主義のように調子に乗りすぎたサイトにお仕置きの爆発をさせようとしたら、
宝物庫に魔法を当ててしまい、それを利用してフーケのゴーレムが壁を破壊し、とうとう破壊の杖が盗まれてしまった。

ルイズはフーケ討伐に名乗りを上げ、何故かキュルケ、タバサも目撃していたからと名乗りを上げた。






サイトは相変わらず馬鹿だった。

武器を持たないサイトは、ただのサイト。
結局あわただしく急かされるまま武器を準備することが出来なかった。
破壊の杖があれば十分かと何の武器も借りなかった。要は慢心していたのだ。

そのためゴーレムに踏みつぶされそうなルイズに体当たりして助けることしかできなかった。
そして運悪くサイトは両足を踏みつぶされ、骨まで粉々になった。
命が助かっただけ御の字だろうか。

意識が途切れそうになりながらも、破壊の杖でゴーレムを破壊し、
フーケを気絶させ、周りの安全を確認しそれから意識を手放した。
ルイズを護れあことだけは手放しで褒められる箇所であろうか?




サイトは酷く後悔した。
両足が動かないことじゃない。
ルイズを悲しませたこと、ルイズをもう守ってあげれないことに。


ルイズは後悔した。
初めてのわたしの魔法。
優秀な使い魔を壊してしまったこと。

もっと優しくしてあげとけばよかった。
フーケを対峙するなんて身の丈知らずのようなことしなければよかった。
意地なんてはらなければよかった……



もうサイトの両足は元のように動かないらしい。
水の秘薬を使って治癒したけど駄目だった。

わたしは、初めて涙を流し謝った。
貴族が平民に謝ってしまった、屈辱なんて感じなかった。心の底から謝った。
あれだけわたしに尽くしてくれたサイトの未来を奪ってしまった。


それでも、申し訳なさそうにサイトはこういうのだ。

「ルイズ、ごめんな」

馬鹿、馬鹿……いっそ恨んでくれればいいのに。
なんでそんなにふうに笑っていられるの?




ルイズは、シエスタというメイドと交代でサイトの世話をした。
シエスタはギーシュから護ってもらった恩もあり、喜んで世話を引き受けた。
学院から、サイトを手放し教会に預けては、といわれたが認めなかった。



こいつは、わたしの使い魔よ。
ずっとわたしの傍にいればいいのよ。

サイトの世話は大変だったけれど、
サイトをベットに寝かせて、抱きついて頭をなでてもらうのは好きだった。
知らない異国の話が面白くて好きだった。
一緒にいるとぽかぽかしてよく眠れるのだ、最初は恥ずかしかったけれどなんでだろう安心するのだ。



そしてアンリエッタ姫様が来た。
ゲルマニアとの同盟を破たんさせるような重大なものが今アルビオンにあるらしい。
わたししか信用できるものがいない。
そういっていた。

サイトは、この両足じゃ連れていくことが出来ない。
残していくことは心配だったけれども、
姫様の話では、この任務を成功させないとトリステインが危ないそうだ。


サイトは泣いて反対してくれた。
危険だと、ルイズじゃなくてもいいじゃないかと。


でもこのままじゃ、戦争が起こったらサイトも死んでしまうわ。
サイトは死なないわ、わたしが守るもの。
まったく使い魔をご主人様に守らせるだなんてあべこべじゃない。
しかたないから、守ってあげるわよ。


あんたは偉大なるご主人様の帰りを大人しく待っていればいいのよ!
















そういって、サイトはルイズを止めることも出来ず、
ワルドとルイズはアルビオンへ向かっていき、
そして、二度とトリステインに、サイトの元に帰ることはなかった。



サイトは、机の引き出しをそっと開けた。そこに何が入っているか知っていた。
フーケの時にこれをもってさえいれば……過ぎた取り返しのつかない話だった。

今のルイズのいない世界なんて、必要ない。




シエスタが、ルイズとサイトの部屋に入ってきて見たのは
ナイフを首筋に当て既に事切れたサイトだけだった。







[18350] ●過去4 「きみは太陽」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/07 21:14
俺、絶対ルイズを護るよ。

ゼロの使い魔は最強だって。
ルイズが成功させた初めての魔法は最強だって。

そう皆に、何よりルイズに伝えたいんだ。













召喚した使い魔は、やたら馴れ馴れしかった。

見た目頼りになりそうにないカラスにすらやられてしまいそうな使い魔。
ルイズを馬鹿にするやつは許さないって、ギーシュに護身用のナイフを片手に向かって行ったときはハラハラしたが
心配は杞憂で目にもとまらぬ速さでギーシュを打倒していた。


サイト曰くルーンのお陰だそうだ。
伝説の使い魔なんだから、感謝しろよな。
それに、俺が伝説ならご主人様のルイズだって伝説なんだからな。
もっとない胸はれよな!と

もちろんお仕置きしたが、純粋に嬉しかった。




それでも、実感が全然湧かなかった。

焦っても焦っても失敗ばかり。魔法を使っても爆発する。

サイトは、そのうち覚えるよと、のほほんとしていた。



サイトが活躍し認められても相変わらずゼロというあだ名は変わらなかった。
誰かがいったサイトの動きはまるで魔法のようだな、普通の平民には無理だよ、と。



フーケ討伐に名乗りを上げた時もわたしは一人だけ褒められなかった。
魔法も使えない貴族は褒めるような箇所がないの?
サイトは褒められていた。貴族じゃないのに、主人は褒められなかったのに……。

そのかわりサイトが沢山褒めてくれた。嬉しかった!
自分でも呆れるくらい、わたしのいい所をたくさん、本当にたくさん上げてくるのだ。
嬉しくて恥ずかしくて照れかくしにお仕置きしてしまった。それでも柔らかに笑いかけてくれるサイト。


フーケに対峙したとき、結局わたしは何もできなかった。
「貴族は背を向けないものの事をいうのよ」わたしは一端の言葉をはいた。
確かに背を向けてはいなかった。その大きな背中に護られていた。
サイトは恐るべき速さでゴーレムを翻弄し、破壊の杖でトライアングルのメイジを圧倒した。

傷一つないサイトは、向日葵のような笑顔でにかっと笑い
やったなルイズ、というのだった。サイトの手柄は、わたしの手柄となった。
そしてサイトは使い魔の手柄は、ご主人様の手柄だと嬉しそうにいうのだ。


いつか、この使い魔を従えるにふさわしいご主人様になれるだろうか?
今は時々…そう時々よ?魔法を失敗してしまうけれども魔法の一つでも覚えたら、
すぐに誰もが認めるメイジになってみせるわ。みてなさい!
その為にはもっと知識も理論も必要ね、どんな魔法でも必ず使いこなしてみせるわ。



盗賊さわぎの後、人当たりのいいサイトは誰とでも仲良くなった。
貴族・平民の垣根を越えて、サイトの周りにはいつも誰かがいて笑っている。太陽のような不思議な使い魔だった。
あの無愛想なタバサまでもがサイトに懐いていたのは驚きだった。






わたしは、まだ魔法が使えない。

サイトは、すぐに覚えるよと、素敵な笑みでこたえた。


姫様の密命をうけ、わたしたちはアルビオンへ向かった。

驚くことにワルドは裏切りものだった。

それでもサイトは、傭兵による奇襲を圧倒し、フーケの襲撃を圧倒し、
ワルドの謀を圧倒し、偏在ごと切り伏せた。
全てを見通す目をもち、大きな問題もなく無事トリステインに戻って行った。


アルビオンから帰った後に、すぐに私たちの功績がうわさになった。
サイトは何を聞かれても、ただルイズが姫様の依頼を解決し憂いをはねのけたとだけいった。
サイトの手柄は、わたしの手柄となった。
使い魔の手柄は、ご主人様の手柄だと嬉しそうにいうのだ。


本当に活躍したのはだれか?死地に一緒に向かった皆も何も言わない。
サイトは当然人気が出たが、それもどこ吹く風。ルイズ、ルイズとわたしを一番に考えてくれた。

面と向かっていったことはないけれども嬉しかった。


どこかの平民のメイドはいう、あなたの誇りでサイトさんを危険な目にあわせないでと
どこかの貴族はいう、魔法も使えない癖に使い魔だけは立派で、ルイズの手柄もあやしいものだなと
どこかの赤毛はいう、魔法も胸もゼロなご主人様より、サイトこちらにきなさいよと

それを少し困ったようにして、サイトははにかむように言うのだった。

「おれ……ルイズが凄い奴だって知ってる。本当にいつも頑張ってるの皆知らないだろ?
だからこそルイズの傍にいたいんだ。」

ば…馬鹿じゃないの!?犬のくせに!犬のくせに……
赤くなって俯きながら憤慨した。でも嬉しかった。たった一人でも認めてくれる人がいる。








わたしは、まだ魔法が使えない。

あるとき、思い切ってサイトに聞いた。

「わたしは、いつ魔法を使えるようになるのかしら」

「すぐに覚えるさ、それに魔法なんか使えなくても俺がずっとルイズを護るから。
おれ……絶対にルイズを護るって決めたんだ」

見惚れるような笑みでサイトは答えた。
本当に輝く太陽のような人だと思った。
















わたしは、サイトにベッドで寝ることを許し、
寝息をたてた愛しの使い魔にナイフを立てた。

わたしの、二つ名はゼロ、魔法が使えない。



[18350] ●過去5-1「魔法学院の幽霊」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/03 20:09
サイトは、夜ルイズが寝静まると、部屋を抜け出して穴倉の中で酒をあおっていた。
一人と一匹穴の中、ヴェルダンテを抱きしめてくだを巻いている。

召喚されて、三日ルイズにどう接していいのかわからなかったのだ。
何がいけなかったんだろう。
いくら考えても分からずじまいだった、
どう考えても最善の行いだったはずなんだけれどなあ。

考えすぎて、でも解決なんかしなくて
酔いに酔ってふらふらにならないと眠れないのだ。

「はぁー、逃げるなよーヴェルダンテ、もぐら同士なぐさめてくれよー
おれ、がんばったんだよー、きいてくれよー」

三角すわりでしくしくと嘆くサイト
穴倉には既にビンが6本も転がっている。

ヴェルダンテに逃げられたサイトは、うぉんうぉんと泣くのだった。





マチルダ・オブ・サウスゴータ。
今はロングビルの名で学院長オスマンの秘書となっているが、
その正体は、トリステインはじめ各国の貴族をふるえあがらせる凄腕のメイジの盗賊。二つ名は「土くれ」のフーケという。


二つの月が雲に隠れ、常闇が辺りを包む。
エンピツくらいの長さの杖を、指揮棒並みの長さに変える。

宝物庫の扉の前で、大きな錠前に「アン・ロック」の呪文を掛けてみる。
続けて錬金を試し、扉にも呪文を掛け、最後には外に出て壁にも呪文を掛けてみた。


「まぁ通用するとは思ってなかったけど、
スクウェアクラスのメイジが対策しているみたいね」

土系統のエキスパートの呪文でさえ効果がないのだ。
では、物理的な力ではどうだろうか?
ゴーレムを使えば可能かもしれないが、よほど魔力を込めないと難しいだろう。
何より巨大なゴーレムは目立つのだ。


これは、厄介だね。でもこれだけ厳重に守られているんだ。
破壊の杖は相当高値で売れる、もっとしっかり準備しないといけないね。
そう思い一人ほくそ笑むのだった。

そして、杖を元に戻して部屋に帰ろうとして、
何もない場所からいきなり呻き声があがるのを聞いてしまった。


「ひっ」


まったくの不意打ちに小娘のように悲鳴を上げ尻餅をついてしまったフーケは、
赤面しつつきょろきょろと辺りを見回し、コホンとひとつ咳をして
恐る恐る声のするほうに近づいて行った。


幽霊の正体見たり、枯れ尾花。


なんの事はない、穴倉でみえなかっただけで人がいたのだった。
それによく見れば、ミス・ヴァリエールの使い魔じゃないか、
どうすべきか思考を巡らせる、貴族の坊っちゃんであるならば、ほおっておくんだけどね。

どうも平民だっていうじゃないか。
いきなり召喚されて、見栄と威張ることにご執心な貴族に囲まれちゃ酒も飲みたくなるか。

一つため息をつく。

今夜は冷える、このままにしておくわけにもいかない、今から女子寮に連れて行くのも難しい。
杖を振るいレビテーションの魔法を掛ける、
ついでにうるさいのでサイレントの魔法を掛けた。









あれ?ここは、どこだっけ…たしか穴倉で。

「フ…!?ミス・ロングビル…さん?」

うっかりサイト頑張った。何時も抜けてるけどやるときはやる子なのだ。
混乱する頭で考える。フーケは敵で、でもまだ虚無の日きてなくない?


「あの、おれ、どうしてここに?」

恐る恐るサイトはフーケに尋ねてみた。

「呆れたね、覚えてないのかい?まあ、仕方ないか。あれだけ飲んだんじゃね。
酒を飲んで穴倉でぶっ倒れてたから連れてきたのさ。
今日は冷えるから、学院に仕えるはしくれとしても見捨てておけなかったのさ、感謝おしよ」

「その…ありがとうございます、すいません、助けていただいて」

素直にお礼をいってから、はたと考える。
フーケってこんな感じだったっけ?
いつも敵対していたし、きついイメージがあったけれど…
はすっぱ、というかさばさばしたお姉さんというか。

「いいって、いいって」

ひらひらと手をふり、さらに手に持ったワインを仰ぐ。
形のいいのどがこくこくとなるのが見える。
サイトはじー、とフーケを見る。

「じっとこっちなんか見て、どうしたっていうんだい」

「いえ、ミス・ロングビルってもっときっちりしたイメージというか、きついイメージというか、す…すいません」

形のいい眉をしかめながら睨まれ、つい謝ってしまった。

「はっ、もう務める時間も終わっているんだ、ちょっとぐらいくだけたっていいじゃないか
だいたい……」

ぼそぼそと学院の愚痴をいいだす。

「あんた、今日はここで寝て行きな、そこのソファを使えばいいから。
取って食いやしないよ、安心しな」

にぃと悪戯好きな猫が獲物を見つけたような笑みを浮かべる。
そして、からかうように一言付け加える。

「それとも、……食われてみるかい?」


「いいいい、いえ、いえ!?」

経験のないサイトに出来ることと言えば、顔を赤くして
激しく両手をふることだけだった。
この人酔ってるのかな?なんていぶかしんでみたりもする。

フーケを改めて見ると、ふわっとした素材の良い大きめの寝巻を
丈の短いワンピースのように来ているだけで、大きな胸が押し上げるように服を持ちあげている。
丸い首回りは少しかがめばみえてしまうんじゃなかろうか。
もちろん下は下着のみだ。

とんでもない色気にあわてて目線をそらし、所在なさげにしているサイト。


「ほらっ、ささっと水でも飲んで寝ちまいな。それとも酌でもしてくれるかい?」

そういうと、フーケは腰かけていたベットの近くにあったサイドテーブルからグラスを持ち上げる。
サイトは水の入ったグラスを受け取ろうとして、フーケに近づき派手にすっ転んだ。

もちろんフーケに向かって。








うっかりサイトやるときはやる子なのだ。



[18350] ●過去5-2 * 「姉、ちゃんとしようよ」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/03 20:45
「おやおやおやおや、押し倒すつもりかい?」


フーケの服は、こぼれた水で濡れてしまい形の良い胸がすけている。
そしてサイトは、押し倒すようにフーケに覆いかぶさっていて、
さらに右手はあろうことか、胸をおさえつけている。

右手は添えるだけ…って違う、違う、違う。


「何時まで、触ってるんだい。おっぱいが恋しい年齢でもなかろうに」

慌てた風でもなく、笑いながら少し咎めるように叱る。

「あっ、あ…うあぁああーーーーー」

サイトは逃げ出した、ふらふらになりながらも逃げ出した。
サイトに出来ることと言えばそれだけだった。
けれどもドアを開けて、逃げ出す寸前でついにドアから出ることは出来なかった。

フーケが杖を振り、レビテーションを掛けていたのだ。
体が宙に浮き逃げ出そうとした足は空を切り、乱暴にベッドの上に放り投げられた。

フーケがもう一度杖を振ると、かちゃりと音がして鍵がしまった。







フーケには自身の体よりも心よりも守るべきものがあったのだ。
親が命がけで守った妹のような存在。ティファニア。大公の忘れ形見。

女の武器を知っているフーケは、生きるために護るためにそれを使うこともあった。
そんなフーケは、酒のまわった頭で考えた。
ミス・ヴァリエールの使い魔ったら、よく見れば可愛い顔をしてるじゃないか。
年の離れた弟みたいなものかな?憎たらしい貴族じゃないし。

フーケは快楽を知り酸いも甘いも知った女盛りの年齢である。
破壊の杖の襲撃を控えたたぎる感覚と、久しぶりに触られた肢体(セクハラを除く)
微かに男を感じさせるもまだ若い御しやすい体。貴族でもない後腐れなさそうな存在。

パチンと指を鳴らすと、部屋の明かりが消え
フーケは獲物の上にゆっくりと馬乗りになった。




サイトはくらくらしていた。
酒による酔いとベッドにこもるフーケのむせかえるような淫靡な匂いに。

さっき胸を触ってしまった時から、盛り上がってしまっている節操なしの股間に
あろうことか下着越しに腰をずりずりとすりつけられている。
しなだれかかる上半身に、生クリームのように柔らかい感触の胸が潰れてこすりつけられている。
ぐにゃりと形を変えた胸は、水で濡れた服と相まっていやらしい。


何でこんなことになんて思ってみても事態は好転せず金縛りにかかったように動けない。

サイトの首筋にフーケの形のいい鼻を押し付けられる。
すんすんと匂いをかがれ恥ずかしがるが、もう恥ずかしさは許容量をはるかに超えている。
今仮にサイトが死んだら、死因は恥死だ。死んで繰り返したとたん恥ずかしすぎて、恥死ワンモアセしてしまいそうだ。童貞なんてそんなものなのだ。

フーケはサイトの少し男くさい汗の匂いを楽しみながら、
パーカーの隙間にひやりとした腕が侵入させていく。

万歳するような形で、抵抗させないままサイトの上半身の服を脱がしていく。
ズボンに手を掛けられた時には、サイトも流石に抵抗したが、フーケは一枚も二枚も上手だった。
かぷりと鎖骨をかまれると甘いしびれに手を離してしまった。

サイトを護るのは、もはやトランクス一枚。最後のZ戦士も砂上の楼閣でしかなかった。


痛いほどに膨張した股間に、布と布一枚をこすりつけ合わせながら興奮しながらフーケが言った。
泣きそうな期待するような子犬みたいな目にぞくぞくし、なんだかいけないことをしている気分になる。

「そういえばっ、まだ名前を聞いていなかったね」

「ぅ……サイト。ヒラガ・サイトです」

もう色んな意味で限界だった。

「ふーん、サイト。サイトね。」

フーケは、少し考え込むような仕草をしていう。


「そうね、サイト。お姉ちゃんっていってごらん。マチルダお姉ちゃんって
そしたら、もっといい事してあげるからさ、ね。」

おまちさん、いくらお酒やらなんやらのせいとはいえ、ちょっと危ない発言なのでは!?

マチルダの目はとうの昔にとろけ切っていて、酒以外の何かに酔いしれているように見える。
ゆっくりと見せつけるように、下にさがっていくマチルダ。
トランクスは愛液と先走りで既にてらてらと濡れている。

唇でついばむようにトランクスのゴムを持ち上げ、脱がしていく。
隔てる布のないサイトの剛直は、そそり立つようにピンとたち青臭いにおいを放っている。
マチルダはほぅと、熱いため息をついた。

「お姉ちゃんと、いいこと、しよっか…?」

マチルダお姉ちゃんが、早く早くと急かすように促す。
外気にふれ、涼しくなった剛直に息を吹きかける。






俺ってば、ルイズ一筋のはずなのに。
ルイズが好きなはずなのに。

ごめん、ルイズ。俺…俺……ごめん。







「お姉ちゃん、マチルダおねえちゃんっ!」

サイトは何かが、男としての誇りが、信念が、思いが、崩壊したかのように叫んだ。

嬉しそうに我慢していたものを解放するかのようにマチルダは、微笑むと一気に口の中に頬張った。
そしてサイトが放出するのも同時だった。心が堕ちる音がした。





ドクドクドクと口の中にサイトの雄が広がる。

サイトの噴出を頬に当てるようにして全て収め、
ちゅるちゅると最後まで吸い出すようにし、そして見せつけるようにこくこくと飲みこんでいく。


フーケはなんだか自分にこんな倒錯した趣味があったのかと苦笑いしてしまう。
サイトは、ハァハァと激しく息を整えつつも未だ萎える気配が見えない。

ちゅっと先端に口づけて、逆手にもつようにしてまたがる。
口に咥えてて思ったが結構大きい。

興奮しすぎてべっちゃりと愛液で濡れた下着をもどかしそうに下ろしていく。
まともにほぐしてないからきついかもしれないが、もう待てそうにない。

くちゅくちゅと手に持ったサイトのを、
自分のものにすりつけて遊んびながら、せつなそうに期待するようにこちらを見ているサイト。
本当にぞくぞくするいけない弟くんだ。

「サイトはじっとしていてね、お姉ちゃんが全部、全部してあげるから」

「うん」

ゆっくりと入口に当てて、そして一気に押し込んだ。





「んぅぁあああぁあああ」

やっぱりサイトのは大きかったみたいで、対面騎乗位入れた途端に軽い絶頂を感じてしまった。
ふたつのやわらかな胸がたゆんたゆんではなく、ぐいんぐいんと暴れまわる。
腰の動きは凄く激しいのに、サイトを包み込む感触はほうけてしまうほど柔らかい。

サイトもすぐに放出した。2回目なのにすごい量で粘っこい液体はマチルダの奥の小部屋を満たすくらいだった。

はぁはぁと荒い息を吐きながらマチルダはくたりとサイトに倒れこみ、
首筋にキスをしながら流石にこれ以上は無理かなと思ったのだがまた中でむくむくと大きくなる感触がするのを感じた。
腰をゆるゆると捻りながら、柔らかな腕をのばして陰のうを揉みしだく。
きゅっきゅっと縮まっていき、中のものがぐぐっとさらに大きくなった。

「あはっ、全部すっきりするまで、搾り取ってあげる」

怪しく腰を動かす上気したマチルダの顔は、満足そうに微笑んでいた。







「……は、はぁ!? ぁ……うっ……いぃ」

くぷくぷと音がしている。もう何度放出したかわからない。
妖艶な腰の動き、胸をすりつけるな動き、口や耳や目まだ舌で蹂躙されたりもした。
サイトは圧倒されるばかり、ほとんど何もできなかった。
最後だというかのようにぴゅっと、放出するとマチルダお姉ちゃんもようやく止まった。

荒い息を整え、少し余韻を楽しんでいたかとおもうと
ずりずりとゆっくり引き抜いていく。

「…んぁ……ふぅっ……」


マチルダは中腰で立ちあがり、たぷたぷとお腹にサイトの白いものと愛液の混じって泡となっている液体をたらし
んふふと笑いながら、薄く塗りひきのばしていく。正直やめてほしい。

「沢山だしたねー。どう?…お姉ちゃんの中気持ちよかった?」

「凄すぎ…もう一滴だってでないよ」


満ち足りたように胸に頭を預けてくるフーケを撫でながら、
こんな強烈な初体験をしたやつなんて、そうはいるまいと思った。
敵だと思っていた、死闘だってしたことがある複雑な関係。
それが今じゃなんていうか、愛おしい。やっぱり初体験っていうのは男にとって特別なのかもしれない。

二人は仲のいい姉弟のように眠りこけた。

















「いつまで、眠りこけてるんだい」

そういうとたたき起こされる、
それなりに朝早かったが、フーケの部屋から出て行くところなんて目撃されたらおおごとだ。

別れ際にフーケは言う。

「わかってると思うけど昨日のことは、誰にもいうんじゃないよ、
きちんと守れたら、また部屋に呼んであげるよ」

「ん、わかった。……勝手に何処かに行ったりしないでね、お姉ちゃん。」

サイトは、捨てられそうな子犬のような目をマチルダに向けた。




次の次の日は、虚無の曜日。フーケの騒動は起きなかった。

サイトはフーケの魅力にすっかりはまり、
フーケもフーケで、日増しに頼もしくなっていくサイトにはまっていくのだった。


サイトは、今までの経験とルーンの力で無茶をしない程度に功績を残し小さな領地を貰った。
フーケとティファニアと孤児たちを呼んで、子供には恵まれなかったが慎ましくも幸せな日々を送った。

領地を治め、20年程立ったころフーケは流行り病で死んでしまった。
悲しみにくれながらも、ティファニアを頼んだよという最後の言葉を胸に頑張るのだった。
すっかり年をとったサイトは、孤児院の子供たちやティファニアに看取られ
死んでしまうのだがその最後は満ち足りた笑顔だったという。






===================================
<後書きというか一言?>
やったね、サイト。家族が増えたよ!
初めてのハッピーエンドでしょうか。



[18350] ●過去6 * 「ちょこれぃと・くらっしゃー」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/03 21:01
見誤っていた。本当の意味で理解していなかった。
最悪だとおもった、この繰り返しも捨てたもんじゃないかもな、なんて考えてた数時間前の自分を殴りつけたい。

例えば、「最強の使い魔」と称される平賀才人を壊すのに虚無の魔法も七万の兵隊もいらない。
ほんの少しの幸せ、夢のような幸せを見せてあげればいい。
痛みも苦しみも乗り越えられる人間はいても、幸せを拒絶出来る人間なんてそうはいないのだから…。







泡沫の夢、幸せだったあの日。
ヴェストリの広場、俺は戻ってきた。俺だって幸せになれるんだ。
誰かを護ることが出来るんだって、そんなことをお決まりの爆風の中で思ったんだ。

サイトはある意味何も考えてなかった。自分は未来を知ってるから何とかなる。
今回は、どんな人生になるのかな、まあ本質が楽観的なサイトの本領発揮でもあった。

だから、そう、昼間にあの人を見かけたときに、にこやかに手を振りながら近寄っていた。

「フー、ぁー、マチ、ぁー」

フーケでもないし、マチルダでもないし、ミス・ロングビルだった。やっかいだなーと思いつつ
一瞬こちらを怪訝そうにみたミス・ロングビルは興味がないとでもいうように自然に学院室に向かうために歩いて行った。
無理からぬことだった、このミス・ロングビルはサイトと幸せの時間を過ごしたマチルダお姉ちゃんではないのだから。


「あー、あはは、あははー」

ごまかすように両手を空回りさせながら走り去る、一寸恥ずかしい感じのサイトだった。
サイトは、夜になってヴェルダンテに掘らせた穴で、酒瓶をぎゅっと握りしめ一口も飲まずにマチルダを待った。
出会いの始まりは重要だよね、っといくつも最初に交わす言葉を考え健気に待った。待った。待ち続けた。
勿論激しくむせび泣かないサイトにマチルダが気がつくわけもなかったのだが。

無情にも虚無の曜日が過ぎ、フーケはまんまと破壊の杖を盗み。
サイトは皆を守りつつも最後には結局フーケを捕まえることが出来なかった。逃がしてしまった。





そしてやっぱり、昼間からテントで飲んだくれるサイトだった。





キュルケは、持ち前のお姉さん気質で実は以外にも面倒見がいいので、飲んだくれたサイトが心配になってみにきたのだった、
しかし中に入ろうとしたら「テントに入りたいならおっぱいを要求するー」なんていうから、炎で酔いを醒ましてあげて、まあ優しく抱きしめてあげたのだった。
キュルケからしてみれば、サイトは可愛いところが多いし、強いし、他の男と違って媚びない、
それに不倶戴天のヴァリエールの所有物なのだ、今一番情熱を燃やしている相手でもある。

サイトはルイズは可愛いけど面倒だし、シエスタは本気で求愛してくるし、
男に慣れたキュルケみたいな、遊びでつきあえるような女がいいかもと不謹慎ながらもおもった。
孤独が辛かったし癒してほしかったのだ、でももう本気で人を好きになるのが怖かったのだ。
そうだ、キュルケで行こう!身勝手な男の性だった。







夜豊かな紅い長髪を指先で弄びながら、ベッドに気だるげに体を投げ出し窓から差し込む双月を眺める。
今キュルケの微熱は緩やかに燃え上がっている、昼間見たサイトが気になるのだ。
からかえば純朴な反応をするし、鍛えているのか逞しい体をしている、気遣いもできるしそれを押し付けない正直一緒にいて楽しい。
そして時折みせる深い悲しみの瞳が気になるのだ。なんとなしに考えていると部屋をノックする音が聞こえた。

「あら、誰かしら?」

最近は、サイト以外に興味がないので今までの恋人達と夜逢う約束はしていなかったはずだが。

「え、ダーリン来てくれたの?」

少し遠慮がちにこちらを窺うその顔は、つい先ほどまで思考の中心にいたサイトだった。
そそくさと招き入れると、ドアの扉を閉め鍵を掛ける。

「今日は月が綺麗よ、いいワインがあるわあ、一緒に飲んで語りあかしましょう?
それともベッドの上で語り合ってみる?」

そういって悪戯っぽい笑みでしな垂れかかると、案の定サイトは真っ赤になってあたふたしている。
キュルケとしては、自分の色気になびかない男なんていないし、こちらが主導権を握ってしまえばいい。
ガチガチになった男が無謀な行為をしようとしても、杖であしらう自信があった。サイトなんて可愛いものだ。

「こんな夜に悪いかなとおもったんだけど、キュルケがいうように月が綺麗だろ?
一人で飲むのは少し寂しい気がしてさ」

「謝ることなんてないわよ?お相手にツェルプストーを選んでくれるなんて光栄ね」

薄手のベビードールを盛り上げるように、たゆんと押しのけるように胸が揺れたのだった。

「「綺麗な月夜に…乾杯」」

そういって、チンッとグラスを鳴らす。取り留めのない話をしながら、
ゆっくりとワインを廻し、手練手管でサイトを酔わせることはキュルケにとって造作もないことだった。幸いキュルケは酒にも強い。
キュルケとしては、このままサイトを酔いつぶして、半裸にでもなってサイトをベッドに寝かせてからかえば
サイトはことさら勘違いするだろうし、絶対ヴァリエールが乗り込んで、それはそれは楽しいことになるはずだった。


いい感じで酔い始めたサイトはこれ以上は拙いと思い、飲みかけで少なくなったワインをキュルケの胸元に手が滑ったとかけたのだ。

「ひゃ、何するのよ。ダーリンったら酷いわあ
ほら、着替えるから、無粋な目線を向こうにむけてくださる?」

そういうと怒るでもなく見せつけるように煽情的に立ち上がり着替えようとする。
それを無視するかのようにサイトはキュルケの手を押さえ、するりと胸元の杖を抜き取ってドアのほうに投げ捨てた。

「あ、あら?」

あまりの素早さに反応できなかったキュルケは、気が付いたらサイトに押し倒されていた。

「ごめんな、粗相しちまって、綺麗に拭いてあげるから大人しく、な?」

「ちょっと、まって、まってサイト。自分でできるわあ、いいのよ、気にしないで自分でふくわあ」

「遠慮するなよ、でも拭くのだとワインが勿体ないな」

そういうと胸元に口づけをしようとする。キュルケは慌ててそれを両手で押しのけた結構凄い力だ。

「駄目、だめよお、違うのよお。落ち着いてサイト。まずは落ち着きましょ?」

だだだだだだめよお、サイトおちついて、それは、そういうのはだめよお?
これいじょうは、いけないわあ、そうだ、誰かいいタイミングで、…こないわあ!?
誰が相手でも一時間おきに邪魔がはいるはずなのに、きょうは、だれも予定にいれてなかったわあ
そう、杖よ。いつものように炎のまほうで…つ、つえがないわああああ。もう先ほどの余裕なんてかけらもない。完全にぱにっくをおこすきゅるけだった。

「…駄目か?」

悲しそうな深い目でキュルケを見つめる。気になっているその深い悲しみの瞳。
心臓がきゅんとなって体から力が抜けていく、了承の意とみなしサイトは胸元にキスをしようとする。

きゅん、きゅんじゃないわあ、きゅるけ。て…ていそうのききよおぉお!?
あ、さいとやさしい…。ちがう、ちがうのお、だめなのよお

じたばたと暴れるキュルケを抱きしめキスの嵐を服の上からふらせる。
薄手の生地はワイン以外にも湿り気を帯びていた。

どんどん大人しくなるキュルケのすらりと長い脚や、くびれた腰つき、そして大きなメロンのような美乳にキスをする。
お願い、止まってとギュッと胸元にサイトの顔を抱きしめて息の根を落とそうとしたものの痕がつくほど胸を吸われ、キュルケは手を緩めてしまった。
サイトはこれ幸いと褐色の反応のいい肌を蹂躙していくのだった。キュルケは頬が紅潮し、目が潤んでいる。

サイトはベビードールを脱がせ、たぷんとゆれるその胸に目を奪われる。
マチルダの胸は大きいけどひたすら柔らかくてしっとり包み込むような胸なのに対し、
キュルケはどこまでも張りがあってゴムまりのような感触がありはじくように瑞々しい胸だ。

「え?あ、はぁ、はぅん…」

脱がされ正気に戻りそうなキュルケの胸を口に含み、舌で乳首を潰しながら、もう片方は遠慮なく手でもみしだいていく。
脇に近い胸、下乳にも傲慢に痕をつけていく、臍のまわりも丁寧に愛撫し太ももに到達する。
紫のパンティーを下ろすと銀の橋が出来あがる。

「ぁ、そこ、駄目ぇ…それ以上はだめよお」

キュルケが内またを閉じようとするが、一瞬早くサイトの指が濡れそぼった部分に触れる。
それだけで、堅く閉じることが出来ず優しく柔らかくサイトの指を包むだけだった。
くちくちと筋をなぞるように刺激しながら、太ももと膝横に痕をつけていく。
サイトはキュルケの弱くて良い部分をねちっこく探っていく。流石マチルダに仕込まれただけはある。

「キュルケの唇とキュルケの言葉、どっちを信用したらいいのかな」

サイトの変態発言に若干引きつつも、上手くものを考えられないキュルケ。
あるときは舌で筋をなぞり、あるときはあふれる汁をじゅるじゅると子宮まで吸い込む勢いで吸い、
30分、1時間と執拗に続けられる愛撫は、キュルケをバターのように溶かしていくのだった。
そして頃合いかと我慢できなくなった剛直を入口に押し当てる、
サイトとキュルケの性器がキスしていて、とろけ切ったそこは少し押し出せば中に入ってしまう危うさで保たれていた。

「キュルケいいよね?」

確認事項でもなんでもない、ただの声かけだった

「らめ、まって、サイト、まってえ」

「否!待たない!」

サイトは快感をむさぼるように、正常位で一気に腰を推し進めた。
快感でとろとろに溶け切った中も、ぎゅうぎゅうと締め付けて狭い。
肉のひだがせり出したて狭くなって部分も特に考えずぐっと押しこみ貫いた。

ぶちぶちぶちっ、肉を破る感覚。

「えっ?」

みると、キュルケは痛そうにしている。少し引き抜くと肉棒に血が付着している。
サイトは混乱していた。え?なんで?キュルケ…処女?
ぇ?ウソだろ?でも血が出てる…でもあのキュルケが?

それでも腰を動かすのをやめられないサイト。
ぬるぬるがからみついて、しかも中が独特のいやらしい動きをして搾り取る様に動いている。
ずりずりと中を膜をかきむしる感触がかり首に引っかかる。

「熱ぃ、なかが熱いわあ……んっ、ゆっくり、お願い、ゆっくり…サイトぉ」

ふっ、ふうと息を整えているキュルケ。少し顔をしかめている。
キュルケの意志と反し、中がぐにぐにと動いているいやらしい体だ。

サイトはゆっくり動く代わりに、腕を掴んで胸を強調させる。
たゆんたゆんと揺れる乳は眼福だった。

「ん、ふぅ…慣れてきたかも。サイト…キスはしてくれないの?」

「いいのか?」

これだけしといて、今さらだがサイトはキュルケの唇にキスをした。
軽く小鳥のようにキスを交わし、どんどん大胆に舌を絡めていく。
唾液と唾液を交換し、口内を舌でなぞっていく。ぞくぞくとした快感がキュルケの体をめぐっていく。

「んあっ、また、おっきくなったわあ」

キュルケの中は微熱にふさわしい熱をもち、ぬめり絡みつきサイトを包み込んでいた。
本能なのかゆっくりと腰をこね回し、あふれ出た愛液とこすれあう粘着質な音が卑猥だ。サイトはどんどん追い込まれていく。
もうサイトにはキュルケを気遣う余裕はなかった。

「キュルケ、ごめん」

ギシギシとベッドをゆらし、形のいい肉にパシンパシンと腰を打ちつける。
キュルケの胸が勢いよく揺れ、ばいんばいんと揺さぶられている。
キュルケはシーツを掴み何かを耐えるようにしている、脚は優しくサイトを包んでいる。
全身でしっとりとサイトを受けとめ、全てを迎え入れようとしていた。

サイトの陰嚢がキュッと胡桃状に縮こまり、脊髄から脳天に射精感がこみ上げる。

ドクッ!ビュグ!ビチャビチャ!ビュッ!ドクドクッ!

間一髪でサイトはキュルケの中から、引き抜き形のいい胸に射精していく。
久しぶりで溜まりに溜まった黄ばみがかかったような白いゼリー状の液体が、
キュルケの褐色の肌、褐色の胸にぶちまけられる。











はぁ、はぁと荒い息を整え、くてりとキュルケは寝転がる。
サイトも息を整えながらベッドの端に腰かけキュルケに問いかける。どうしても聞かなきゃいけないことがあったのだ。

「キュルケって、処女?」

そんなデリカシーのない一言に、キュルケは顔を真っ赤にし、シーツに顔をうずめ枕やクッションをサイトに投げつける。

「ばか、ばか、ばか、ばかぁ…!!」

ぐずぐずと涙を流しながら、抗議するように物を投げつける。
なにこの可愛いキュルケ、いや、こいつはもうきゅるけだな。
「はっはっはっはっはっ」とどこからともなくヒーローが現れて、「すり替えておいたのさ」と言われてもおかしくない。
今や年相応の少女のような反応しか返さないきゅるけなのであった。


そして、きゅるけは衝撃のツェルプストー家の習性について話し始めた。



「知ってる?サイト、ツェルプストー家の女はね。ナイフやフォークの持ち方より先に流し眼の送り方を教えられるのよお」

そういうと、ちらりと流し眼を送る、確かに凄い色気だ。

「そうやって、ツェルプストーでは、それこそ息をするように誘惑することを覚えさせられるのよ。
杖を構えるしぐさ、歩く姿、髪をかきあげる仕草、その全てが洗練され体に叩き込まされたわあ」

遠くを見るような眼をしている、お母様は厳しかったのよおと嘆く。

「でも、お前凄いもてるじゃないか、夜中にだって男が忍び込んでくるし、
すぐに抱きついたり、胸押し付けたり、…それに恋人だって沢山いるじゃないか」

「恋人なんかじゃないわあ、彼らが勝手にいいよってくるのよー、「おいしいお菓子はどうか?」とか、
「この宝石は君にこそふさわしい」とか、そして、決まって私はこういうのよ「ウィ」って」

キュルケなんて恐ろしい子。

「でもお前、そんなことして、本当に襲われたりしたら危ないじゃないか
男はみんな狼なんだぞ、もぐらじゃないんだぞ」

襲っておいて、何をいいだすサイトさん。
お前にそれを言う資格はない。

「あら、心配してくれるの?だから、夜になると1時間おきぐらいに沢山のお友達とデートの約束をするわあ、
良いところでも人がいたら、何かする気にならないでしょぉ?たいていは酔わせてしまうし、最後には杖があるわあ
おかげでゲルマニアの学院を退学になっちゃったんだけどね

わたしだって、初めてに夢をみたりするのよお、いけないことかしら?
貴族のなよなよっとしたお坊ちゃんやじいさんはいやよ」


サイトも結構人生繰り返して、それなりにキュルケと信仰を深めていたが初めて聞いた衝撃の事実だった。


「だから、本当に初めてだったのよお?ああ、本当にびっくりしたわあ。
それにしても……こんなことあなたのご主人様が知ったら、どう思うかしら?
鞭打ち?爆発?あららサイトったら死んじゃうかもねえ」

ニヤニヤと不敵な笑みをたたえてこちらを見ている。
完全復活したようだ、サイトはもう完全にキュルケの手のひらの上だった。

「あぅ、ごめんなしゃい。なんでもしますから、許してくだしゃい」

サイトはもう完全にもぐらだった。


「ふぅん、なんでもねえ?…そうねえ、そしたら、こっちにきてもらおうかしら」

びくびくとサイトはキュルケに近づいていく。サッと右手をあげ、平手打ちの構えをする。
サイトはぎゅっと目をつぶり衝撃に備えた、いつまでも来ない衝撃にいぶかしげにしているとチュッと唇が重ねられる。


驚き目を開けて、キュルケをみると真っ赤にしてシーツに埋もれている。
ずきゅうううんと音がした。もう見事に心臓打ち抜かれていたのだった。
所詮サイト学習せずにまた人を好きになるのだった。しかしそれは泣けるくらい幸せで不幸で素敵なことだった。


「これで、サイト満足したわけじゃないんでしょ?
きっと色気たっぷりのきゅるけは無理やり犯されてどぴゅどぴゅ種付けされちゃうのよお
それもこれもわたしのからだがわるいんだわあ、これは、けっしてサイトのせいじゃないの」

シーツからメロンのような見事胸があふれ、舐めかましい褐色のすらりとした脚がのばされる。
一度経験して自信のついたキュルケに死角はなかった。

「きゅる…きゅる……きゅる…きゅる……」

よくもあんなキチガイレコードを!!とでもいうようにきゅるきゅる繰り返すサイトに、キュルケは優しく手招きするのだった。

「きゅ、きゅきゅきゅるけえええええ」

そんなとんでもない物言いにサイトはかくも見事なルパンダイブで返すのだった。

「きゃぁああああ♪」


その後も密会を続けるキュルケとサイトの仲は良好で、
それからしばらくしてルイズにばれたサイトは、
見事にハルゲニアの花火とでも言うように打ち上げられるお仕置きがまっているのだった。













================================================
いかがだったでしょうか?
そんなわけで、本作品の本編副編のきゅるけは、
耳年まで娼婦のようであり、初心で処女な二律背反を抱えたきゅるけなのでした。

原作キュルケからは外れてますが、
違和感あっても、そこはまぁ見逃してやってください。

今回のフーケは、死闘を交わすサイトの敵になってしまいました。
前回が前回だっただけに、そのショックははかり知れません。
それでも人を本気で好きになれるサイトさんはまだループ回数が少ないからでしょうね。

サイトがんばれ、超がんばれ!!



[18350] ●過去7「土の貴公子」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/03 21:16
※注意:作者が中二病をわずらってるようです、苦手な方はおもどりください。









元帥を父に持つ名門・グラモン伯爵家の四男、青銅のギーシュ。
グラモン伯爵家歴代最強とうたわれるメイジを語るには、少年時代まで遡らなくてはならない。
「稀代の英雄」「青銅の守り手」「人形公」と称される彼も少年時代は臆病な性格であったとされるから驚きだ。

彼はトライアングルながら、魔法としてはドットレベルの「青銅」にこだわり、
またゴーレムの新しい戦闘手法を編み出し、戦場を駆け抜けたといわれている。

その強さ故、彼は歴史の脈動に飲みこまれていくのであった。

~土の貴公子 序章 序文~







「なあ、ギーシュ、お前俺と一緒に強くならないか?」

そう声を掛けてきたのは、ヒラガ・サイト、ルイズの使い魔だった。
僕はヴェストリの広場で負けてから、平民ながらも尊敬していたし、
貴族への礼義はなっていないものの、どこか憎めずそんな彼を気に入っていた。

「しかし、僕としては薔薇の役目もあってだね」

強くなりたいって思いは、男子共通の思いだ。僕にだって当然ある。
しかし、今は自分のせいとはいえ、傷つけてしまった愛しのモンモランシーの機嫌をとるほうが先だった。

「ギーシュ!強くなればもてるぞ、どんな女だって強くて頼りになる男が好きだ。
美系で強いなんて最強じゃないか、モンモンだってすぐに見直すだろうし
今以上に色んな女の子からキャーキャーいわれるぞ、それでこそ薔薇だろ」

「君ってば……」

がしっと、ぐっと手を握りお互いに重ねる。

「君ってば……本当にいいやつだったんだな」

どうも載せられやすいギーシュだった。







「で、具体的に楽してずるしていただきな案があるのかい?」

「お前なー、ちっとは強くなろうっていう気概をみせろよな、まあいいか、今回は俺が考えてきたよ。
でも土のスペシャリストじゃないからな、お前もちゃんと考えるんだぞ?」

一呼吸置くとサイトは続ける。

「まず、ギーシュの利点はゴーレムを複数扱えるってところにあるな
この長所をもとに伸ばしていこうと思う」

「ふむふむ、扱うゴーレムが100体、200体とどんどん増えていくんだね。
すごいな、まるで軍隊じゃないか」

平野に並ぶ一万体の戦乙女の姿を思い浮かべうっとりとしている。

「馬鹿、お前7体でもまともに扱えないだろ?例えば100体いたとしても複雑な動きは難しいんじゃないか?
せいぜい、右から突っ込めとか、まっすぐ突撃とか簡単な動作だけしかできないだろう?それで勝てるか?」

「たしかに、その通りだね、そしたらいったいどうするんだい?」

「基本扱うのは3体(スリーマンセル)とする。この三体を完璧に連携できるようにする。
そして、一体一体に個性を持たせる。今は個性の時代だし、今の7体で7個の個性をもったゴーレムをつくる」

ふむふむ、と頷いてみる。個性的なのはいいことだ。
薔薇で素敵に装飾するってのもいいじゃないか、流石サイトだね、薔薇を理解している。

「ギーシュ…お前が考えてる個性はたぶん違うぞ。戦術的な個性のことで武器だけじゃなくて
戦い方や攻撃できる距離も別にするんだ。組み合わせ事態で何万通りもの戦術がだせるぞ」

「ふむ、なんだか強そうだね」

「青銅の特性からいろんな戦術を組みたてられるような個性を考えてみた。
移ろいやすく流動的で、加工しやすくしなやかな金属、うん、ギーシュにピッタリだ」

そして紙に書いておいた原案を見せる。
流石に長い人生でハルゲニアでの文字もばっちり覚えてある。


血弾ブレット:カタパルトの容量で投石などを行う。投げるものは石でもいいし、錬金したなにかでもいい(遠距離攻撃主体)
爆弾マイン:巻き込んだ武器と共に爆発する広範囲攻撃、一部切り離し罠にすることも可能(中距離防御主体)
鋭岩ピアス:とがった岩を設置していく、空間的に相手を制限していく(中距離攻撃型サポート主体)
追突チャージ:バネの容量で突撃する、上に飛び上がることも可能。(中距離攻撃主体)
多刀ダンサー:2本の剣腕のほかに、体のどの場所からでも4本の剣腕が出せる(近距離攻撃主体)
捕縛キャンサー:流動系の体で受け流したり、衝撃を和らげたりする。また触れた際に相手に付着し動きを制限できる。(近距離防御型サポート主体)
銅鏡ワルツ:3枚の銅鏡を衛星のように自信まとわりつかせながら銅鏡を操作し戦う(近距離防御主体)

※マイン、ピアス、キャンサーは流動系で同じような体をさせ、何をだしたか分かりづらくすることで混乱させる。
※チャージは槍、ダンサーは剣、ワルツは盾を武器とする。



「なんだか、あまり優雅じゃないね」

「優雅で勝てるんだったらいいけどよ、戦いってのは優雅さだけじゃないだろ?
強けりゃ優雅さなんて後からついてくるよ」

「なんだか卑怯そうな戦い方もちらほらみえるが…」

「戦術といってくれよ、不意打ちとかするわけじゃないんだから卑怯でも何でもない。
ギーシュは、敵の技が少し思いもよらないものだったら、卑怯だから負けましたとでもいうのか?」

「いわれてみれば、そんな気もしてきたよ、しかし、これで勝てるようになるのかね…」

「それは、やってみなければ分からないだろ?他にいい案があるならそれでいってもいいけど
少なくとも俺を倒せるくらいにはなると思うぜ。ゴーレムだから人間がちょっとやそっとじゃできない動きも可能だろ?
本当は、触ったらマヒするとかつけたかったんだけどなあ」

ギーシュは思った。サイトに勝てる?一度しか戦ったことないが人間離れし圧倒的強さを見せつけられたあのサイトに?
しかもこれは、そのサイトが自分のために一生懸命考えてきてくれたものだ。自分では強くなる方法なんて考えもつかないのだ。





それからが大変だった。ギーシュなりに造形にこだわりサイトともめたり、
操作方法と魔力の向上のため、四六時中ゴーレムを出して自分の世話を
それこそ、ご飯食べる動きだってなんだってさせたため、変な目で見られたり、
サイトと一緒になって倒れるまで戦術の組み合わせを試したりしたのだ。

お陰で自信もついたし、ゴーレムの操作も向上し、メイジとしてもラインに達していた。
アルビオンに潜入する前に、模擬戦とはいえサイトから一本とったのであった。

その傍らで、ご主人様をほおっておいて何ギーシュとばかり遊んでいるのよ、と憤慨する桃毛の女性と
ギーシュったら最近来ないわね…でもなんだか一生懸命なギーシュもいいかもしれないと金髪縦巻の女性が物陰から覗いていたりするのだった。


それからアルビオンへの潜入では、ワルドの偏在を2体倒し、アルビオンでの撤退戦ではサイトと共に2人でほぼ壊滅状態にし、
ガリアでの戦争ではヨムンガルド破壊とまではいかなかったが、足止めなどサポートし戦力として貢献した。














そして束の間の平和を得て3年ほどたったあくる日、
ギーシュは4男でありながら多大なる功績ゆえにアンリエッタ王女の後押しもあり家を継ぎ、
モンモランシーという生涯の伴侶を手に入れそのお腹には今新しい命が宿っている幸せの絶頂にいるはずの男は、
苦虫をかみしめたような顔をし貴族の兵を数多く束ね、タルブ平原に陣を敷いていた。



「ギーシュ!なんでだギーシュ!!なぜお前がそこにいる」

サイトは悲痛な面持ちでさけんでいた。
貴族を信用できず能力があれば平民ですら雇用するアンリエッタ率いる王党派、
伝統と誇りと血筋のみで慢心し、隅に追いやられようとしている貴族派。

今や国内を2分するような勢力となり、
そして今まさに反乱を起こそうとタルブ平原にあつまり、
サイトはそれを鎮圧するためと噂を確認するために無理を言って先陣をきっていた。

「強さとはままならないものだね、サイト」

ギーシュは気障ったらしく薔薇を口に咥えながら、シニカルな笑いを浮かべている。
仲間であるはずの、ギーシュがこの反乱の首謀者だという噂をサイトは最後まで信じたくなかった。

「お前、なんでだよ、ギーシュ。この間赤ちゃんが出来たってよろこんでいた所じゃないか
こっちに来い!お前と俺がいればどんな軍隊だって倒せる、そうだろ?」

確かに、その通りだ。ギーシュが王党派につけば貴族派を蹴散らすのはたやすいはずだった。
しかし、サイトには先が見えていなかった。
ここで貴族派を倒せば国力は半分以下になり混乱する。
只でさえ、まだ国としての力が弱く、内乱など起こしていい状態ではないのだ。
それを曲がりながりにも元帥を務めるギーシュには分かっていた。


「おい、モンモンはモンモンはどうするんだよ、お前が死んじまったら……
頼む、戻ってきてくれギーシュ、頼む!!」

サイトは力の限り叫んだ。


僕だって死にたくない、死にたくなかった。モンモランシーを愛していた。
でも同じようにサイトや仲間の皆、いやトリステインを愛していた。

貴族派は陰謀にたけた老いてなお狡猾な人物が多かった。
気がついたときには無数の襲撃、陰謀が実行段階にまでまとめあげられ、もうどうにもならないような状態だった。
誰かがやらなくちゃならなくて、それをすることが自分には出来た、それだけだった。
そのタイムテーブルを止めることはできなくても進めることができると反乱を企てる貴族達をまとめ上げた。


モンモランシーには泣かれた、でも最後には納得してもらった。
僕の死後には今回の全ての経緯の手紙ととも王宮に身を寄せるように伝えてある。
サイトになら、全て任せられる。


先走り突撃しようとする兵に手をあげ制す、
あまりの胆力に誰も前へと出るものはいなかった。
そうだ、それでいい。これが僕の最後の花道だ。



「グラモン伯爵家が元帥、「青銅」のギーシュが参る。「トリステインの盾」と見受けられる。
貴族の誇りをもって決闘にて勝負を決しようではないか。皆のものは手出し無用」

魂の叫びをもって、数万の兵たちを退かせる。そうだ、それでいい。
お互い手の内を知り尽くしているが、最終的には僕が勝ち越している。サイト、君との最後の戦いだ。
僕は自分の完全勝利を信じているし、それが成すことも知っているそれだけの準備をしてきたつもりだ。

杖を振るい、「人形公」と称されるほどのゴーレムを3体準備する
キャンサーとマインを主体に機動力をまず奪う、そしてワルツを自分の手元に置き不測の事態に備える。


「ギーシュ…お前……ばかやろおおおおおお!!!!!」


サイトは涙を流しながら投げナイフを数十本力任せに投げた。
自分のほうにくるナイフはワルツの銅鏡で撃ち落とし、それ以外のほとんどはマインに巻き込ませる。
マインをサイトの方向に向けて逃れる場所がない広範囲で破裂させた


サイトはよけることも防ぎきることもできず傷ついていく。
それに合わせるようにキャンサーの青銅をサイトに付着させていく。
剣の柄、脚、二の腕、体、徐々に機動力を奪っていく。

サイトは全然心が震えてないのか、いつも以上に動きが鈍い。
このままじゃ本当にサイトを殺してしまう、それじゃあ駄目なんだ。


「サイト、もし君が負けて戦意ががた落ちし王党派が負けたらどうなると思う?
君の大切なご主人様もアンリエッタ女王も間違いなく殺されるだろうね。
わかるかい?このままでは僕たちはルイズを殺すんことになるんだよ、ガンダールヴ」

軽薄そうに見えるように笑みを浮かべる。ちゃんと笑えているだろうか。
そして僕が死ねば、今までも日和見逃げ出す程度で陰謀と謀しかできなかった貴族に何が出来る。
表に出ている王党派より少ない数の兵力で有る貴族派達の戦意は落ち、モンモランシーに託した手紙が内乱を終結させるだろう。


サイトは涙をぬぐい、剣を構えた。デルフと相談でもしているのだろうか。
それでこそ、サイト。僕らの英雄だ。僕が唯一尊敬する男だ。
サイトがいたから、僕はここまで強くなれた。誰かを守れる男になれた。感謝している。


「ちくしょおおぉお!!」
サイトは叫びながら突撃してくる。やはり本気になったときのサイトは素早い。それに圧倒的な威圧感だ。

僕も杖を振るい、新しい組み合わせを作り出す。
ピアスとチャージとダンサーだ。完璧な攻撃主体。魔力もゴーレムを強化するためにかなりつぎ込む。
本気のサイトが相手では、生半可な魔力ではバターを切る様に切り崩されてしまう。


チャージが空高く槍をもって舞い上がる。かなりの跳躍力だ。
そしてピアスがとがった岩を地面から打ち出す、攻撃ではなくサイトの動きに合わせて誘導するように制限するように攻撃していく。
ダンサーがサイトと切り結ぶのに少し遅れて上空からチャージが槍を構えながら一直線に落ちてくる。

サイトはデルフリンガーでチャージを防御しきり伏せたが、
その隙を突くようにダンサーで傷を負わせ、まるで詰め将棋のようにサイトを追い詰めていく。
もうかなりの出血量だ、早く来いサイト。

二本の双剣の陰から、剣を打ち出しまたダンサーの背後から見えない死角を切った。
同時にダンサーは切り伏せられた、もうサイトはボロボロだ。

仕上げとばかりに最後の魔力を使い、土のブレードを作る。
サイトの動きは鈍い、このまま首をはねてしまえばおしまいだ。



























「……え?…なんで?……おい、ギーシュ、うそだろ?おい!!!」











そこにはサイトによって、体を貫かれたギーシュがいた。
サイトは目の前の光景がにわかには信じられなかった、負けたと思った。
でも残念だが、死んでも自分には次の世界がある。そう思っていた。

意味がわからなかった。

「ギーシュ……ギーシュ…」

ギーシュは、ごぼりと口から血を流しながら、満足そうに微笑んでいた。やっぱり僕の完全勝利さサイト。

「…げほっ、…あとは……頼んだ。…僕の……英雄」






「馬鹿やろ!ギーシュ、お前え?なんで!ギーシュっ…うあぁあああああああああああああ!!!!!?!」

泣き崩れるように、ギーシュの亡骸を抱きしめるサイトに。
王党派も貴族派も誰も動けなかった。





サイトは、この後ギーシュとの誓いを護るかのように
生涯をかけてトリステインを護った。
何度も何度も悔やんだ。力さえあれば、でも本当の力っていったい…と苦悶しながら。




この内乱は、国全体を巻き込んだ大規模な内乱で有りながら、
戦場では只一人の死者を出すだけで解決した史上類をみない内乱として「青銅の乱」と称し長く語り継がれるのであった。







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これにて、とりあえずひと段落とさせていただきます。
しばらく再構成を行う作業に入りますので、新作はしばらくお待ちください。

書いていて、ギーシュゥと少しうるうるしてしまったのは内緒です。



[18350] ■現在6「ヴェストリ広場での導き」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/03 22:14
ルイズに皮手袋と護身用のナイフを準備してもらう。
虚無の曜日までは、この装備で乗り切らなくてはならない。

それにしてもルイズは、今だ素直で可愛い。
そう考えると新しく得たスキルも中々に使えるのかもしれない。
初期のルイズからの信頼のある/なしでは、こんなに進行する難易度が違うものなのか。
カリスマのスキルは、上手く使えば化ける可能性を秘めている。
ただ強い意志やその人の核となるような思いを反故にするようなことはカリスマでは不可能。
使いどころの難しい力だが、新しい事柄はこの呪われた事象を打破する手掛かりになるはずだ、と信じている。

しかし、ナイフを手にして分かったことだがデメリットも多い。
ガンダールヴを発動すると、同時に干渉するのか双方の威力が落ちる。
さらに言うと、ガンダールヴの力は、心の震えで決まる。怒り、悲しみ、愛、喜び。
どれも今となってはとるにたらないもので平坦な感情しかなく、
自身に与える影響も感情の揺れ幅も小さい。
ループの弊害である、記憶をもちつづけることもいいことだけではないらしい。

絶望で人が殺せるなら、誰にも負けない自信があるのに。
虚無の使い魔なのだから絶望を糧にしてもよさそうだが、絶望は虚無の領分なのかガンダールブの糧にはならなかった。


世の中ままはならないものだ。
純粋なガンダールヴとしての力なら、初代、いや2代目が一番だろうか。あのころが懐かしい。

ワルド1対1は、ギリギリ負けそうで七万となるとまず生き残れなさそうだ。
これは、どうにか対策を立てないといけないかもしれない。
















いきなりだが召喚されて今日までに、経験上クリアしておかないといけないポイントが四つある。
1、デルフリンガー以外の武器を手に入れること(ここで怪我をして無作為に日々を過ごすと後に影響する)
2、ルーンを見せないこと(ガンダールヴと知られると後に影響する)
3、ルイズとある程度の親交を深めること(今回はあまりあるくらいのアドバンテージがある、展開を読みづらくなったが)


食堂ではカチューシャで纏めた黒髪とそばかすが可愛らしいメイドの少女が配ぜんをしている。もちろんシエスタだ。
そして、重要なポイントがもう一つ。ここテストにでますよ。
4、小瓶を拾い、ギーシュに喧嘩をふっかけること。

この4っつを無駄に回避したり、無理やりことを運ぼうとしたりすると碌な目に合わない。

案の定、ギーシュが小瓶を落とす。大切なら部屋にでも置いて飾っておけよ。


「落とし物だよ、色男」

そして、雪崩式に栗色の髪をした少女に頬をたたかれ、
金髪縦ロールの少女にワインをぶっかけられながらも、気丈にも有り難い薔薇の在り方を示している。

ギーシュの信念を否定する。その信念が、もてたいという原動力なのはなんとも情けないような気もするが…

「そこまでいうか、君は。使い魔くんには貴族への礼節を教えてあげないといけないようだね。ヴェストリの広場にきたまえ」



ルイズが心配そうにこちらをうかがっている。

「まずは、ルイズを護る力を示そうか、
魔法も1カ月で使えるようにするよ必ずね、これはその約束の一端だ」

そういって、ルイズの頭を撫でる。
嫌がるそぶりをしないルイズを周りは驚きで見ている。


「ルイズを導く使い魔が、どれほどのものかってことを、
ヴェストリの広場まで見に来るといい」

決まった!っとサイトは心の中で思う。
今回はスキルのお陰かシエスタが心配してくれないのは残念だけど
ルイズもシエスタもキラキラした目でサイトを見てるし
周りも平民がどうのなどということもない。





魔法学院の敷地内、風と火の塔の間にあるそこそこの広さがあり、決闘にはうってつけの中庭である。


「諸君!決闘だ!!」

ギーシュが薔薇の造花を掲げる。うおーッと歓声が上がる。
日も立っていないのに、何かと目を引く使い魔をみるためかかなりの数の生徒が集まっていた。

「ギーシュが決闘するぞ、相手はルイズの使い魔だ」

「逃げずに来たことは、褒めてやろうじゃないか」

薔薇の造花を弄びながら、優雅にギーシュが答える。


「無駄口をたたいている暇があったら、杖を構えるんだな。
まずは、名乗ろう。ルイズの使い魔にて導き手、ヒラガ・サイト、お見知りおきを」

王宮式の真礼にて一礼する。
気品さも相まって、格としてはギーシュを超えているように見受けられる。

「それでは、僕も名乗りを上げるとしよう。二つ名は「青銅」。
グラモン伯爵家が四男、ギーシュ・ド・グラモンが参る。
僕はメイジだからね、魔法を使うよ、よもや文句などはないだろうね?」

「問題ない。俺も魔法のようなものを使うからな。
いっておくが、貴族ではないから、そこのところは安心してほしい」

ルイズから、借り受けた護身用のナイフは、一見して分からないが
装飾剣でありながら、華美さを抑え鍛えられ紋様が妖しく浮かぶ技ものであり、
さらにはカリーヌとラ・ヴァリエール公の二人がかりの固定化がかかっている。
そこらの剣では太刀打ちできないようなもので、分かりづらいながらもルイズへの愛が見え隠れしている。


ギーシュが杖を振い、ひとひらの花弁が地面についたかと思うと甲冑を来た女戦士の形をした人形(ゴーレム)が姿を現し突撃してきた。
これが、興味深いことで魔法をこめた瞬間ではなく、条件を満たした時点でゴーレムとしての形になるのだ。
サイトも魔法が使えたらなと常々思うのだった、その応用力の高さは六千年あれば、どれほど昇華できたろうか。
まあそこらへんは、ルイズ(虚無)やギーシュ(土)やタバサ(水風)やキュルケ(火)を使って実現していくわけだが。


無駄な事を考えつつも一閃。
まだこの段階のギーシュなんぞは、練度の高さが違う。
サイト六千年の歴史みせてやる!!



無手のゴーレムが、無残にも真っ二つに割れる。
半分以下のガンダールヴの力でも、さらには本気を出していないといえども直線的な動きにカウンターであわせて切れば二つに割ることは造作もないことだ。

二つに割れた切り口が、まるで磨き上げられた鏡面のようにもみえる。
サイトは少しずつずれていく上半身を3度拍子(リズム)をつけるように蹴り上げる。

下半身を足場に空中に浮かび上がり、体操のように捻りを加え、
上下逆さまになると足でしっかりとゴーレムを挟むように固定し
ぐるぐると連続で捻りながら、着地の瞬間に衝撃を全て渡し下半身だけのゴーレムに打ちつける。


ぐしゃりと音がして、ゴーレムがボロボロに砕け落ちる。


瞬きをする間に起こったような出来事に、
誰もが当事者のギーシュでさえも呆気にとられて見ほれている。


膝についた誇りをポンポンと払うと、何事もなかったのように優雅に歩き出す。
ゆっくりとした歩みは、隙がある様でどこから攻めたらいいのかわからなくなるような不気味さがある。


「ギーシュ、これで終わりか?」

たいしたことがないだろうと、油断していた所に思いもかけない動き、
パニックになりそうな心を無理やり抑え、杖を振るうと6体のゴーレムが現れた。

全部で七体のゴーレムがギーシュの武器だ。

「どうやら舐めすぎたようだね…。
今僕がもつ、最大の威力をもって相手をするとしよう」

どんなに本気になっても軽薄で余裕がありそうな口上になってしまうのは、
貴族だからだろうか?ギーシュだからだろうか?

6体のゴーレムは、剣を持つゴーレムが4体、槍を持つゴーレムが2体。
剣3体が扇状にサイトの前に布陣し、槍がその間を埋めさらに並ぶ
最後の剣一体は、完璧にサイトの後ろに回り込んだ。
全てがサイトから等間隔で一定の距離を保っている。
その間サイトは悠然と立ち止り、手を出さなかった。

「余裕のつもりかい?この完璧な布陣による波状攻撃をしのげるかな」

ギーシュは、後ろのゴーレムにけん制させつつ、
左右のゴーレムで挟み込み切り込みつつ、同時に槍の攻撃を上下に展開させた。
いつも通過儀礼としてほとんど一瞬で終わらせてたからサイトも気がつかなかったが
軍事にたける家系であるといえる、なかなか良い動きをさせる。

ドットでありながら、複数体のゴーレムを並行して操る思考能力は流石だとしかいいようがない。


サイトは、右側の剣ゴーレムを引っかけるように引き寄せ、
打ち流して剣を逸らし左側の剣ゴーレムと同志討ちさせると、
合わせる動きでナイフで上からの尽き下ろしの槍を防御する、
さらに片足で下からの槍を抑えつけるようにする。

回し蹴りの要領で左右の剣ゴーレムを吹き飛ばし破壊すると、
上攻撃を行った槍を引っ張り、体制をくずした槍ゴーレムを、五、六、七と連撃で切り刻む。

「動きが綺麗すぎる、多方向からの攻撃は有用だが、あまりに動きが同時展開すぎる。
今は6体だがそれ以上でも基本3~4体に注意を向ければ避けられる。
きちんと考えないとタイミングを読まれて、このように利用されるのが落ちだ、次!」


なんだこれは、ありえない。化けものかと嘆きながらゴーレムを繰る。

今度は前方からの攻撃に合わせ、完全に死角の背後からの攻撃。
さらには、少しタイミングをずらして、剣ゴーレムの陰から槍。

勝った!流石に見えない箇所からの連続攻撃さけられまいとにやりと笑った。


サイトは上後方に回転し、後ろの剣ゴーレムの背後に回ると
首をはね蹴りで前方に蹴り飛ばす。
勢いを止めることができず胸元を仲間の剣と槍で貫かれボロボロになった。

武器を封じられた剣ゴーレムはまたたく間に切り伏せられ、
残る槍も懐に入られ、掌底で吹き飛ばされる。


「せっかくの死角が対面のゴーレムが対角線上を意識しすぎて、動きがばればれだ。
けど、そのゴーレムの死角を突いた槍の動きは良かった…が、
ただ敵は的じゃないんだ。動いたり逃げたりすることを頭に入れて動かさないと意味がないぞ。以上。」


課題点は沢山あるが、しかしこれだけ動けたギーシュに驚きつつ、
久しぶりの実戦ということで、これもいい機会だと自分の戦闘用の感覚を修正していく。




「ひっ」

つかつかと歩み寄りナイフを差し向けるサイトに
ギーシュは尻餅をついて、後ずさった。

「続けるか?」
意地の悪い笑みを浮かべてみる。

「ま、参った」
魔法を使い切り、脳を酷使し、緊張にさらされ続けたギーシュは、
完全に戦意を喪失し、ゆっくりと意識を手放した。




ヒュッと癖で血を払うようにナイフを振り払い、一礼した後ギーシュを運ぼうとすると
しんとしていた観客も徐々に事態を把握したのか、割れんばかりの歓声をあげた。
ギーシュの取り巻きが、レビテーションでギーシュを運んで行くと、

二つの塊がサイトに飛び込んできた。

ルイズとシエスタである。
二人を抱きとめ、サイトはやりすぎたかなっと思ったりもした。
可愛い子に抱きつかれて悪い気はしなかったが、ギーシュLv1に大人げなかったかもしれない。





遠見で見ていたオスマンとコルベールは、
あまりのサイトの動きに驚愕した。
コルベールは、召喚の儀の時に詳しく調査できなかったことを悔やんだ。



[18350] ■現在7 * 「おいしいちょこれぃとのつくりかた1」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/03 22:37
決闘騒ぎから数日して。



どこか少し離れた場所で、くぐもった水音のような音が聞こえる。
キュルケは昏倒から目を覚ました時に感じる特有の気持ち悪さを感じた。

え…っと、頭が覚醒しないのか上手く考えがまとまらない。
確かさっきまで部屋にいて、ルイズの使い魔が気になっていて
そう、一番最初にドアの前で話しかけた時から、微熱の炎にやられてしまっていた。
ギーシュとの決闘をみて、さらにその火種が燃え上がるのを感じた。

だからフレイムを使って監視して、
夜中を過ぎて、部屋を抜け出すことが多いようなので
3日目にしてようやくタイミングを見て部屋に招き入れたのだ。

レースのベビードールと共にさっと香水をふりまきくぐらせる。
準備万端で、ゲルマニアの情熱を伝えようとして……そこから記憶がない。


キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは動けないでいた。
アンティーク調の意向を凝らした木目の椅子に座らされ、
手は胸元を押し上げるように交差させ、左右の肘掛に左右反対の手が縛られている。
そのせいでベビードールに収まらないのか、メロンのような胸がはしたなくこぼれおちている。
足は椅子の脚に固定されまったく動けない。

今の状態はあまりにも異常で取り乱し、叫びあげるような場面だが、
キュルケは、それよりもさらに異常な目の前の情景に目を奪われていた。



この部屋は自分の部屋ではなく、ルイズの部屋なのだろう。
今自分の位置は、さながら最前列だとでもいうようにルイズのベッドの上がよく見える位置に陣取っている。
その白い真新しいベッドシーツの上で、ルイズの使い魔つまりサイトの下半身に覆いかぶさるようにし頭をゆらゆらと動かしている。



「ルイズ、あんた……あんた…

いったい何をしているのよ」

今見ている光景はなんなのだろうか?
卑猥な冗談をいってからかっても、何それ?っと心底不思議そうな顔をしていたルイズ
過度な純粋培養、いうなれば鳥かごの鳥。
頭はよく貴族のマナー等には詳しいくせに普通の一般教養ともいえる部分が致命的に抜け落ちている、あのルイズが。

「ふぁにって、へらちお?」

唇でしごくように…吸い付くように…口内へと吸引し舌を絡めながらしゃべる。
夢中になっているのか、答えながらも奉仕を続けている。
さらさらとしたブロンドの髪が、サイトの太ももを流れるように刺激する。

「やめなさい!あなた…今やっていることがどういう行為か…分かっているの?」

キュルケには何かわからない、いらいらとした感情が頭をめぐる。
ルイズは興がそがれたとでもいうように、ゆったりとした動きでちゅぽんと口を離すと、
それでも股間に添えた陶磁器のような手を動かしながら答える。

「大切な人にしてあげる気持ちのいい事でしょ?サイトがわたしに色々教えてくれたわ。
わたしにしてくれる時もあるし、サイトは大切な使い魔よ。ちゃんと分かってるの、間違ってないでしょ?」

サイトは、ルイズに任せたまま押し黙って髪の毛を撫でている。
ルイズには、この三日で性知識を実施込みで教えている。
まだ本番は最初の1度のみで、都合のいいようにその教えはゆがめられてはいるが。

「ルイズ……馬鹿みたいなことをいうのはやめて頂戴。
あなたは知らないかも知れないけれど、それはとても恥ずかしいことなのよ。」

ヒステリックにキュルケは答える。こんなの許されない。

「なぜ?大人たちはよくやっているとサイトから聞いたわ。
人前じゃなければ、恥ずかしい行為じゃないって」

「それは……、それをいうなら今人前じゃない。
しかもなんで、わたしが縛られてるのよ」

今さらのように聞こえるがそれだけ動転していたのだろう

「キュルケはいいのよ」

え?何を言い出すのこの子。本当にルイズ?スキルニルやなんかだといわれても信じてしまいそうだ。

「わたし、知ってるのよ。キュルケってば恋人のような男が沢山いるんですって
二つ名が「微熱」ですものね、しかもさっきはサイトを誘惑しようとまでして、それなのに、ふふっ」


ころころと笑いながら、熱をもったようにルイズはいう。


「あなた、体を重ねたこともないんですって?
さっきの行為も、たとえばこういうことも…」

サイトを引き寄せて、唇を合わせると慣れたように舌を忍び込ませ、絡ませ存分に堪能した後に、ぷはぁと口をはなす。
勝ち誇ったように妖艶な色気のある笑みを浮かべる。

色気も魅力もまさってるはずのキュルケは、うぅ、とかあぅとか言葉にならない声しかでない。


「普段あれだけ偉そうにいっておきながら、ほとんど経験もないなんて、ゲルマニアの情熱もたかが知れてるわね。
その、脳味噌の栄養が全部いっちゃったようなむむむむむむねは飾りなの?」


そういうと、キュルケに近づき、可愛らしくぷっくりと膨らんだ乳首をぎゅむむと引っ張ってねじる。

「痛い、痛ぃ、やめて、ひぎぅ千切れる、ぃたい、本当に痛いの」


ルイズ何かぞくぞくしたものを感じながら、普段いいようにあしらわれていたキュルケの土俵で優位にたてたという愉悦と自尊心が膨れ上がっていくのを感じる。
本当だった、サイトの言うことは全て本当だった。サイトはわたしを導いてくれる。


「何感じてるのよキュルケ、こんなことして喜ぶなんて本当にはしたないのは貴方じゃない」

キュルケは違うと否定しかったが言葉が出なかった、
そのぷっくりとした胸、汗とはごまかせないように濡れた下着。
違う、わたしが弄ぶのはいい。でも弄ばれるなんてわたしじゃない。

「ほら、なんてったって一応先輩じゃない?だから教えてあげようと思って連れてきてもらったのよ。」


もう無茶苦茶だ。心もぐちゃぐちゃ、体は心を裏切って反応する。ぐちゃぐちゃだ。


「ねぇ…サイト、キュルケの胸ためしてみる?」


そういってパチンと乳首から指を離し、
ルイズはキュルケを後ろから抱きしめるようにして、股間の入口を柔らかく刺激していく。
完全に湿り気をおびて、指が布越しでも襞に吸いつかれるように感じる。

わざと興味なさそうにしてそっけなくサイトは答える。

「そうだな、試してみるか」

少し乾いたモノは、圧縮された胸の割れ目をまるで膣のようにみたてて
割りこむように入っていくが潤滑油が少ないため引っかかり若干の痛みがある。
キュルケの両腕で抑えてあるのでさらに強調されているゴムまりのような弾力を楽しみながら、一度ぶちまければスムーズに動けて気持よさそうだが……なんて思うのだった。


「いや、いやぁ、もうやだぁ、やめてよ」


キュルケがうわずったようにいうので、ずちゅずちゅと数度動かした後ゆっくりと引き抜く。
水気を含んで下着の間から指をさしこみ撫でていたルイズも動かすのをやめる。

「え?」

「じゃぁやめるか」


そういうとサイトとルイズは、もう一度ベッドに乗りなおし。
サイトはルイズに素早く耳打ちをする。
ルイズは覚悟したようにこくりと頷くと、四つん這いになりながら、キュルケのほうに顔をむける。

サイトは形のいいお尻に指を這わせながらと、顔を近づけて舌をすぼめながら刺激していく。
キュルケを苛めていたからか、もうどうしようもないほどぐちゃぐちゃになっていたが、念入りにほぐしていく。

「ひぁ……っっ!」

ルイズはサイトから逃げようと腰を動かすが、サイトの両手がしっかり抱えて放さない。
逃げようとした反動からか、さらにサイトにおしつける形になる。

「あっ…はぁ、ん…んぅ…はっ…ぁ…ぁ」

強い刺激に耐えるように頭を振りながら、ただ快感が通り抜けることを享受する。
10分、20分、ぐったりしてしまうくらい頭が真っ白になるまで攻め立てられたルイズの膝はがくがく震える。
途中何度も視線を感じては、キュルケと目があったりしていた。

もう十分かなと、サイトは腰に手を廻し狙いをさだめて、ずぷずぷと剛直を埋め込んでいく。

「ぅー…ぅぐ…ん…はぁ、あぁ来てる、サイトがはいってるよぅ」

桃尻の柔らかい部分をぎゅっとつかみ、ゆっくりと腰を打ちつけては、引いていく。
ぐちゅりぐちゅりと泡立ったような音がこだまする。

「サイト、サイトっ、キス、キスしてぇ」

ルイズ腰をひねりながら、後ろを振り向きサイトにキスをねだる。
サイトはキスをしながら、片手をルイズの薄い胸にあてがう。ルイズの胸は小さいながらも柔らかく感度がすごく高い。

「ぁーあー、お胸が、ピリピリする、ピリピリするのー」

徐々に、中の鈍い感覚がなんとも表現しがたい甘い疼きに変わってくる。
ありえないような今のシチュエーションで、興奮しているのか脳内から素敵な快楽物質が垂れ流されているようだ。

「ぁ…っ、ぁ、あ、ぃい。ぁーすごい、サイトの形がわかる」

どうにか気持ちよくなろうと形を把握しようとしてるのか、ルイズの中がぞわぞわと蠢いているのがわかる。たまらないのはサイトだ。

「あー、ルイズ、それやばい、ちょっと緩めて。出ちゃいそうだ」

速めていた腰の動きを少し緩める。その変わり出し入れする深さを変える。

「ぃ…ぃふっ、いいの、そのまま、ぁー、これ、すごい。奥に響く、…っの」

しばらく緩やかな動きを繰り返していたが、そろそろ頃合いかと
サイトは、どんどん腰を振る速度を上げていく。

「んっ、んっ、んっ、…っ、ぁ!サイトの、膨れ上がってる」

そして限界の来たサイトはルイズの腰を抱え込んでは、ぐりぐりと押し付けて容赦なく一番奥に放出する。

「っぁあーー、んひぅ、ぁー、どくどくって、どくどくっていってるぅ」


満ち足りたような顔をしたルイズは、キュルケを見てみた。
キュルケは中途半端に高められたもどかしい快楽と、羞恥と、屈辱とで思考回路の許容量を超え、涙を流しながら思考を放棄し気絶していた。
同じように精神的にも肉艇的にも無茶をしていたルイズも、限界まで体を行使し心地よいまどろみに沈んでいった。


サイトはルイズの体を手早く拭くと、ベットに寝かしつけると、
気絶したキュルケの縄をはずし、廊下を伺い人の気配がしないことを確かめるとキュルケの部屋に戻して下着を着せかえてから寝かしつけた。



[18350] ■現在8「捕獲のための下準備」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/06/21 23:08
あれから、目が覚めたキュルケは、まずはじめに体に異変がないか確認し、縄のあとが見えたくらいだったので安心した。
明るく行動的な彼女にしては、珍しく厳重にロックを掛けて引き籠って考えていた。


ツェルプストー家はゲルマニアの貴族、ここトリステインでは外様。
異性は1ダース近い恋人がいるが、それもお坊ちゃんともいえるような者ばかり。
華があるが実がない。その癖誇りだけは一人前だ。そんな雄に本気になれるわけがない。
そのくせ色気をちょっと振りまくだけで簡単になびくつまらない男だらけだ。

同性は同性で陰からやっかむことしかできず、
自信もないくせに、傲慢でいやな女ばっかりだ。

キュルケが親友だと思っているタバサは別だ。ある一件で仲良くなったが、こういうことに興味が薄い。
小柄で小動物みたいで可愛い、また魔法の扱いも上手く、一度対峙しただけだがかなりの実力がある。
だけど、今回の件では頼りにすることはできなさそうだ。


「なんなのよ、なんなのよ」

ベッドにもぐりこんだキュルケは嘆いた。

キュルケは別にルイズのことは嫌いじゃない。ルイズからしたら信じられないかもしれないが…。
ルイズの実家であるヴァリエール家と国境を挟んだ隣にあり、
トリステイン・ゲルマニア両国の戦争ではしばしば杖を交えた間柄である上、ヴァリエール家の恋人を先祖代々奪ってきたという因縁がある。
その為、喧嘩のようないい争いもするし、ゼロだゼロだとからかいはするが
面と向かって裏なくやり取りを返してくるし、陰で本当に努力しているのはしっている。清々しいほどまっすぐだ。
不倶戴天の敵ではありながらもキュルケなりに、ルイズを気に入っていたのだ。

「あんなの、ルイズじゃ……ヴァリエールじゃないわあ!
プライドの塊で、なびくことがなくて、無垢で…」

昨日の夜を思い返す、あんな淫らなルイズみたことない…。
あ…生でみてしまったけど、なんか、すごかった…あれ。
違う、違う、とにかくツルペタ色気0なのがルイズ
あんな娼婦みたいなルイズなんて認められない、色気で我がツェルプストーが負けるなんてあってはならないことだ。こんなことがお母様にばれたら…

「ふんっ、目を覚まさせてあげるわあ!ルイズ。
見てなさい、栄光はツェルプストーと共にあるのよお」

でもそうなるとサイトを奪うのが、一番いいのかしら。
ルイズが変わったのってあの使い魔が来てからよね?随分ご執心のようだし。
そりゃあれだけ魅力的だったら仕方がないのかも知れないけれど、わたしの情熱も一瞬でもえあがるくらいだもの。

ぐにょん、と形のいい胸を揉んでみる。
そうよお、ルイズにはない武器がここにあるわあ。
サイトだってあんな胸じゃ満足できるはずがないわあ。
古今東西この胸の魔力から、のがれられた男なんていないのよ!!

キュルケはサイトに軽くあしらわられたことは都合よくなかったことにした。
そして汚名返上へ奮闘しようと気概を高めるキュルケであった。













一方サイトは、使い魔生活を満喫しつつも目的を実現するために下準備に余念がない。

ルイズとの関係は良好で寝場所もわら束ではなくベッドの上。
カリスマのお陰でルイズの信念に反しないようなものであればたいてい受け入れられる。
ルイズの失敗魔法は、虚無だけあって失敗しつつも強力で簡単なスペルですら、高位のスペルと匹敵するような威力がある。
詠唱時間は最速で、少ない言葉でも十分に威力を発揮し、かつ4属性によって失敗も効果が違うのだ。
魔力の容量も多く、応用力も高いのでかなり強力。流石最強の系統といわれるだけのことがある。

ルイズは、失敗ということに囚われて本質を見極めることが出来なかったのだが、
6千年の歴史はだてじゃない、1生涯を掛けて切磋琢磨したルイズの魔法を受け継がせるいい機会かもしれない。

このタイミングから、ルイズの地力を底上げできるだなんて今までなかったことだ。
素直ルイズだからこそ出来ることかもしれない。
戦闘や普段の心構えから、魔法の扱いを覚えさせればかなりの戦力として期待できる。

かなり新しい展開だが、大局には影響はなさそうだ。
押さえるところは押さえつつ、変化させていく。これがサイトにとってとても大切なことなのだ。


夜のルイズは、素直デレルイズだ。
容姿的にはかなりの好みであるし、穢れのない真っ白な真摯キャンバスを、真黒な紳士で塗りたくるのは楽しい。変態という名の紳士ではあったが。
ツンツンルイズも、慣れれば可愛げもあるように見えてくるが…、
そんなのがご褒美になるのは良く訓練されたサイトや読者だけ、一般的に考えるのであればツンツンしないほうが好ましいのである。

サイトはルイズをゆっくりじっくりと誘導してあげて楔を打ち込むのだ。
ルイズってば、ワルドやジュリオ・チェザーレにふらふらして、おれが捕まえておいてやらないとな。
サイトは人の事をいえる立場じゃないが、自分のことは得てして分からないものである。いや分かったとしても目をつぶるのだ。
ルイズの価値観は壊され、自信のない黒い自尊心を刺激してあげれば
昨晩のように思惑通りに動いてくれるし、偽りの虚栄心も満足させてあげることが出来、ますますサイトに依存させることが出来るのだ。
よい協力者となってくれそうな感じがする、いやご主人様と使い魔という位置づけ上なってくれないと困るのだ。

今はとてもキスが気に入っているようで、持ち前の勉強熱心さをもって
間違えた方向へすくすくと成長している。
なんというか、今までにないルイズなので違和感を感じつつも、こういうのも新鮮でいいかもとサイトはでれるのであった。




シエスタとの関係は、ゆっくり進展だ。
ギーシュから助けたこともあり、英雄視し恩も感じているようだが
サイトの立ち振る舞いから、どうしても未だにサイトが貴族のように思え慣れずにいるようだ。

ルイズの世話関連は、気楽に話しかけて任せているので慣れるのも時間の問題だと思っている。
正直気やせするが、スタイルもよく、その黒髪はお気に入りだし
性格もやさしく面倒見がいいうえに積極的て一途でもある、それゆえに暴走することも少々…いや結構あるのだが…。
惜しい気もするが、他の件よりは優先順位がさがる。

取りあえずは、洗濯やお茶の準備をいちいち指示しては、
やり遂げるたびに、ペットみたいに頭をなでてやっている。


関連してマルトーとの関係も気薄だ。
ギーシュを打倒しつつも、サイトのカリスマとあまり厨房によらないせいか、「我らが剣」とは言われないし少し寂しい思いもある。
こちらも同じ平民だとは思えていないようである。
基本的にいい人なので、これも時間をかければ大丈夫だろう。後回しで平気だ。





ギーシュとの関係は良好だ。あれから仲直りもしている。
何度となく親友になっているし、馬鹿なギーシュとは気が合うのだ。
今回はモンモンは射程範囲内なので、ケティと頑張ってもらうとして。

戦闘能力としてはドットで有りながら、魔法容量も多く何よりも並行思考出来るため小器用な部分がある。
青銅に特化し、それのみを昇華させているため、状況によってはタバサにも匹敵するほどでもある。

6千年の中でも1度スーパーギーシュ化させた事があるが、一つ考えがあり今回は前とは違う強化を試そうと考えている。
これもカリスマのお陰で受け入れてもらうことができたので可能な事なのだが
アルビオンに向かう前に立派な戦力になってもらわないと困るのでこちらとしては必死だ。

その為、試行錯誤しつつ、ギーシュには皆に秘密裏に特訓してもらっている。
これが物になれば、皆の驚く顔がみれること間違いなしだ。




そしてタバサ。これは今もどうするか考えあぐね保留している。
早めに対応したほうがいいかもしれないが、今抱え込んだとしても獅子身中の虫になってしまう。
問題が大きすぎるので、タバサのみに集中しないと早期解決は出来ないのだ。
タバサの一番は、復讐ではなく母親の回復で、どちらにしても難しい。

今の段階からタバサのみに集中するととタバサ以外が窮地に立たされる。しかし放っておいてもこちらが窮地に立たされる。

なので、タバサも絡め手でいくことにした。
ギーシュとの戦闘でもイーヴァルディの勇者としての資質を見せた。
キュルケがいい具合にうごいてくれれば、接点をもつこともできるだろう。
経験上タバサもよきパートナーになってくれるが、とりあえず後回しにした。






タイムテーブル上、今一番重要になっているのがフーケ対策だ。
はじめての相手でもあり、事情を知っているフーケは出来れば幸せになってほしい。
そして今回は攻略対象だ。むしろ幸せにさせる。

フーケは、この時点で対応しておかないと、転がり込むように戦争に巻き込まれ逃亡生活を余儀なくさせられる。
しかも、ワルドと組んでこちら側の敵となるのだ。
逆にこちら側に組み込んでしまえば、ある程度裏の顔も聞くので今後の展開をかなり進めやすくしてくれる。

ロマリアから秘伝書籍を盗み、数々の貴族を震撼させてきた盗賊としての裏世界の技能、
魔法学院の長をサポートするのも片手間でできるという秘書としての技能、大公の娘としての政治技能。
戦闘能力としては盗賊として特化していたため、他のメンバーには劣るものの魔法もトライアングル級で、巨大なゴーレムを操り、体術にもたける。
加えてあの美貌である。タバサに並ぶかなりの優良物件だ。

フーケにとっての一番はティファニアの安全、安定した生活だ。
それさえかなえば自分はどうなってもいいという節がある。

だけど、そんなことは認めない。
そのため、今日の今日まで準備してきた。
覚悟していろよ、フーケ。いや、マチルダお姉ちゃん、か



[18350] ■現在9「使い魔の失敗魔法講座(応用編)」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/03 22:46
キュルケは昼前に目覚めた。今日は虚無の曜日である。

覚悟を決めて化粧をする、キュルケは狩人なのだ。
自分の部屋を出て、ルイズの部屋の部屋の扉をノックした。
サイトが出てきたらキスをする、そして豊満な胸を押し付ける。
ルイズが出てきたら、胸部を強調して意味ありげに流し眼を送ろう。その後ぶらぶらしていれば向こうからアプローチを仕掛けてくるだろう。
そして少し考えた。…この前みたいなことをしていたらどうしよう。その時は逃げよう、きっと日が悪かったのだ。

キュルケは自分の求愛が成功すると信じていた、拒まれるということは現実的じゃないと考えられなかったのだ。
それにしてもノックの返事がない、開けようとしたが鍵がかかっていた。

躊躇せずアンロックを掛ける、本来は学院内では校則違反のはずの呪文も問題としない。
恋の情熱のルールは、全てのルールに優越する、それがツェルプストーの家訓なのだ。
恐る恐る扉を開けたが、部屋はもぬけの殻だった。
取りあえず最悪の事態にはならなかったので安心しつつ、きょろきょろとあたりを見渡すと窓から門を馬に乗っていくルイズとサイトの姿が見えた。
馬を操る姿が妙に様になっていたルイズが前方で横座りになり全てを任せるように胸に頭を預けそれをサイトが包み込むように馬を操っている。



そして、読書の世界に没頭しているタバサに泣きつくのだった。
虚無の曜日をタバサは大切にしていたが、親友の頼みとあらばしかたない。
こうなった時のキュルケはなりふりかまっていないのだから。

話を要約すると
「この馬は二人用なのよ、悪いわねキュルケ」

「ご主人様には逆らえないのさ、その素敵なお胸にはくらくらするけどね、
魅力あふれるきみにも色々教えたいが、そろそろ時間だ残念だがアドュー」

「タバえもーん、サイトが馬に乗って今からじゃ追いつけないの、
追いついてサイトを誘惑しなきゃいけないのよ、たすけてタバえもーん」

「空を自由に飛びたいなっ!はい、シルフィード」

というわけで、語弊が生じ上手く説明出来ていないかもしれないが概ね展開としてはこれであっていると思われる。


「どっち?」

タバサは短くキュルケに尋ねた。キュルケは、あっと声にならない声をあげた。

「わかんない…慌てていたから」

タバサは別に文句を告げるわけでもなく、ウインドドラゴンに命じた。
先ほどでてきたサイトという言葉、ヴァリエールの使い魔のことも珍しく気になってはいたのだ。

「馬1頭。食べちゃだめ」

そういうと、風竜の背びれを背もたれにして本を楽しむ作業に戻った。








トリステイン城下町、ピエモンの秘薬やの近く剣の形をした看板、武器屋に来た。
壁や棚に所狭しと剣や槍が乱雑に並べられ、立派な甲冑が飾ってあった。

「旦那、貴族の旦那。うちは真っ当な商売をしてまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」

何も言われてないのに釈明をはじめるなんて怪しいことこの上ないが。
サイトは、ルイズからあずかっていた金貨を200エキュー程置いた。

「投剣をいくつかみせてくれ、それに武器をおさめるベルト、棚の上の短棒もだ」

「貴族が剣を!王宮の衛士隊にでも入隊してらすんですか?
それなら、このような剣はいかかでさあ、宮廷の貴族の方々が従者にもたせるのがこれでございまして、杖を使いながらも扱えるようになってまさあ」

成程細身で手の甲を覆う歪曲した金属片がつき。柄には煌びやかな装飾がなされている貴族に似合いの剣だ。

「そちらの短棒は、いい鉄を使っていて短いのに値ははりまさあ。
偏狭な鍛冶職人が作った武器なんですけどねえ、無骨ですし値段が張るのであまり人気がないんですよ。
それよりも値段が上がりますが、こちらのほうが旦那さまにはお似合いですぜ」

「…突くことに特化したレイピアは、折れたり曲がったりすることが多い。
別に試合や魅せるために使うような目的じゃないから、飾りじゃないなら、華美なものより頑丈なほうがいいんだ」

武器に詳しそうなサイトに、ちっと短く舌打ちし頼まれた品をだす。
今度はターゲットを変えて、物を知らなそうなルイズに矛先を向ける。

「若奥様、これなんかはいかがですか?
旦那様は剣にお詳しいようで、このような大剣もお似合いですよ、店一番の技物でさ

なんとかの有名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿の作品で。魔法がかかっているから鉄だって一刀両断でさ。
ごらんなさい、ここにその名が刻まれているでしょう?エキュー金貨で二千。新金貨なら三千。おやすかあ、ありませんぜ」

武器の事は良く分からないが若奥様なんていわれて嬉しくおもったし、ルイズは店のおやじが1番といったことも気に入った。
確かに魔力を感じるし所々に宝石が散りばめられ、鏡のように刀身が光っている。見るからに切れそうな頑丈そうな大剣だった。

「サイト、これにしましょうよ。お金ならあるもの、わたしの使い魔にふさわしい立派な剣をもってほしいわ」

くいくいと裾を引っ張りながら、提案してみる。
怪我もしていないので、水の秘薬にお金に使っていないためある程度はお金がある。
懐が寂しくなるが、魅力あふれるサイトには似合いの剣を持ってほしい。


「ルイズ、それは装飾剣だ。魔法は最低限の固定化しか掛ってない。
それに戦闘になれば磨かれた刀身だって曇るし宝石だって削れるぞ、何より武器としては二流もいいとこ、すぐ折れるぞ」

そうなの…と残念そうに肩を落とすルイズ。サイト結末を知ってるだけに豪語出来ているが最初は魅せられていたくせに。
悲惨なのは店主である。大枚を叩いて店の格をあげるために買った品が役に立たないと言われたのだ。

とぼとぼと短棒を棚の上から下ろして、準備したものと一緒に用意した。
短棒は全体が一体化していて棒の手元に剣を受けとめるためのガードが付いている。十手のような形状と言えば分かりやすいだろう。

「ただ、装飾剣としてはかなりのものだと思うよ、その刻名も本物のようだし、
装飾剣として売るか、宝石商に売れば良い値で売れるんじゃないかな」

意気消沈していた店主は、光明をみたとばかりにふっかつした。

「こりゃ、おでれえた。随分武器にくわしい貴族もいたもんだ。
棒っきれがお似合いだとおもってたら、本当に棒っきれを買いやがるんだからなあ」

乱雑に積み上げられた剣の中から、声がした。低い、男の声だった。

店主は頭を抱えてうなだれた。

「やい!デル公、お客様に失礼な事を言うんじゃねえ」

いつまでたってもデルフは変わらないなっと思った。デルフと同い年になったといったら、おでれえた、おでれえたと言いながら騒ぐだろうか。

「それってインテリジェンスソード?」

「そうでさ、若奥様。意志を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。インテリジェンスソードといえば一つは特殊な能力をもってるんですが、
こいつときたら錆ついてるわ、口が悪いわ客に喧嘩は売るわで閉口してまして、きっと特殊な力で口が悪いでしょうさね。
やい!デル公!これ以上失礼があったら、貴族に頼んでてめえを溶かしちまうからな」

「おもしれ!やれるもんなら、やってみな!どうせこの世にゃ飽き飽きしているんだ。溶かしてくれるなら上等だ。」

サイトは薄く羨望のまなざしを向ける。そうだ同い年といってもデルフは溶ければ終わることが出来るし
年齢を重ねても六千とちょっとだ。これからも繰り返す可能性が高い自分とは違うのだ。

「店主これは、いくらだ?」

「旦那様、本気ですかい?旦那様にならおまけでつけまさあ。さっきの大剣のお礼ですぜ」

「サイト、本当にそれにするの?もっと綺麗でしゃべらないのにしましょうよ」

サイトが掴んだそれは薄手の長剣で表面がさびて、見栄えが悪い。
ルイズは眉をしかめ嫌そうな声をあげた。サイトは間違ったことはしないとは分かっていても、サイトには合わない言葉使いと見た目なのだ。


「おでれーた、見損なってた。てめ、「使い手」か」

おでれえた、おでれえたと繰り返す剣を鞘に納めると店主は準備した武器を全てサイトに手渡した。

「どうしても、煩いと思いましたらこうして鞘に入れれば大人しくなりまさあ」

武器屋を出ると、つかつかと路地の陰に歩いていく。
キュルケは慌てて隠れたが、無駄だった。サイトとしては、ここで無駄なお金を使わせる気はない。




「あら、キュルケじゃない、こんな所でどうしたの?」

ルイズはサイトに寄り添い勝者の余裕の笑みを浮かべている。
タバサは我関せずと本を読んでいる、どうも気になるのかあまりページは進んでないようだが。
キュルケは、ルイズのくせにプレゼント攻撃なんて生意気よ。と憤慨している。

ずずいとサイトに近づくと胸元を強調し、空いてるほうの手を握りしめた。

「ダーリンってば、剣の扱いが凄かったのに自分の剣をもっていないじゃない?
だからプレゼントしようと思ったのだけれど…」

「結構よ、使い魔の使う道具は間に合ってるわ」

「そうね、ねぇ、剣以外にも、お役にたてることがあるとおもうのだけれど…どうかしら?」

しなだれかかり、上目づかいのキュルケ、流石に凄い色気だ。

鼻の下が伸びそうになるのを我慢しつつ、悪戯そうな眼差しを向ける。

「そうだな、そしたら夜にでも頼みたいことがあるんだ」

ルイズは、そんなっ!と驚いた顔をしているし、それを見たキュルケは勝った!と思った次の一言を聞くまでは。

「ルイズと一緒にだけどね」

びくっとキュルケは離れる、この前の夜の事を思い出してしまったのだ、ルイズは持ち直したのかにやりと笑みを浮かべる。

「しかも外で」

びくびくっとキュルケは後ずさる。変態よお、変態がここにいるわあと心の中でパニックを起こしている。

「ルイズの魔法の実験があるからね、ついでに買った剣に固定化を掛けてほしいんだ」

そういって笑いながら、ルイズと馬のほうに戻っていく。
どこまでも遊ばれてしまったキュルケであった。








学院に戻ると、既に月が出るほど暗くなっていた。
先に戻っていたキュルケと何故かタバサがルイズの部屋にやってきた。

タバサはゼロのルイズの実験が気になるのかサイトが気になるのか
「私も見に行きたい」と許可を求めに来たのだ。
サイトとしては、固定化を掛けてくれるなら多いほうがいいしせっかくの接点なので受け入れた。


中庭に全員で現れるとさっそく装備に固定化を掛けてもらう。デルフは煩いので置いてきた。

皆を集めるとサイトは説明を始める。

「ルイズの魔法は失敗魔法と言われている。普通のメイジが魔法に失敗した場合何も起こらないが、ルイズの場合は爆発する。ここまではいい?」

「そうね、ルイズはどの系統魔法をつかっても失敗するわ」

キュルケがからかうように言うと、ルイズは悔しそうにうつむく。
キュルケを咎めることもなくサイトは先を続ける。

「ところがこの失敗魔法、初歩の魔法でもかなりの威力がある。
同じような威力の魔法を使おうとしたら、火のトライアングルでも中々難しいと思う」

キュルケはハッとしたように頷く。
タバサも興味がわいてきたようで静かに聞いている。

「しかも驚くことに、系統によって現れる効果が違ってくる。
さて、この場合ルイズの魔法で一番凶悪な系統は何だと思う?」

「火かしら?爆発と相性がよさそうだわ」

ルイズが自信なさげにいう。
他の二人も同じ意見なようである。

「強力なのは火になるけれど、命中させるコントロールは難しいって点もあるね。
それに強力じゃなくて、凶悪。答えは水なんだよ」

皆一斉に頭の上にはてなを浮かべている。
水といえば、攻撃には向いていないスペルだ。

「水魔法の中には、ヒーリングという魔法があるね。本来は人体の病気や怪我を治す魔法だけどルイズが使うとどうなると思う?」

血の気が一斉に引いて行くのが分かる、凶悪なんてものじゃない。
治癒魔法なので防御もできないし、人体に直接かかって内部から爆発するのだ掛けられた場所は、どんなに小さな魔力でも致命傷になりえる。

「だから、ルイズは間違っても治癒の魔法は使わないでね。
それじゃあ、一番やっかいな系統は何だと思う?」

こくこくとルイズが頷いている。タバサが少し考えて答えた。

「土?」

「正解。一番一般的な土の基本魔法に錬金という魔法がある。ほとんど全ての物質に効果を及ぼす。
小石を投げたら爆発した。壁がいきなり爆発したなんて怖いだろ?
錬金した所で爆発するわけだけど。これは魔法を流す時間を調節することでさらに厄介になる。
遅延魔法と俺は考えているけれど、これによってタイミングを図ることで、攻撃にも防御にも使えるし罠にもなるわけ」

一呼吸おいて、サイトは話を進める。

「風の初歩、ウインドを使うと爆風になる。範囲が広く素早いので乱戦向きだね。
こんな感じで失敗とないがしろにされてるけれど、応用と発想の転換で武器となるんだ。
貴族としては魔法を成功させることじゃなく、正しく使うことが必要なんじゃないかな。貴族<魔法じゃないんだからさ」

ルイズの目は今やキラキラと輝いている。
失敗だ失敗だと下げずまれていた魔法がこんなにも素晴らしいものだったなんて

「あくまで、ちゃんと魔法が使えるようになるまでの代用だけどね。
魔法は使えるようになるから心配すんな」

そういうとルイズの頭をくしゃくしゃと撫でる。
キュルケは、ダーリンったら博識なのねと感心している。
逆にタバサは警戒心を少しあらわにした。

「何者?」

「ただのルイズを導く使い魔だよ」

そういうと、さっそく練習しようかと、タバサとキュルケにはシールドを張ってもらう。
土の魔法は、調整が難しく手元を離れてすぐ爆発した。風の魔法は上手くいった。
そして火の魔法は宝物庫の壁がある本塔を爆発させひびをいれさせた。


人が来たために、隠れていたフーケはほくそ笑みながらゴーレムを錬金した。
ローブを着ているので周りに人がいようが多少は問題ない、これは千載一遇のチャンスだ。
鮮やかに破壊の杖を盗んだフーケはメッセージを残しつつもゴーレムをおとりに消えていった。

ルイズ達は奮闘むなしく、取り逃がしてしまうのだった。



[18350] ■現在10「盗賊の正しい捕まえ方」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/16 23:32
翌朝……。トリステイン魔法学院では、昨夜から蜂の巣をつついた騒ぎが続いていた。

何せ、秘宝の「破壊の杖」が盗まれたのである。
それも巨大なゴーレムが、壁を破壊するといった大胆な方法で。壁にはお決まりのサインが書いてあった。

「破壊の杖、確かに領収しました。土くれのフーケ」

教師たちは集まり口々に好き勝手な事をわめいている。
だれかを糾弾し、責任の所在を押し付け、厄介事が自分にまわってくることを恐れている。

「衛兵はいったい何をしていたんだね?」

「衛兵などあてにならん。所詮は平民ではないか、それより当直の貴族は誰だったんだね」

ミセス・シュヴルーズは震えあがった。昨晩の当直は自分で有った。
本来は夜通し詰め所に待機しなければならないが、形式的に夕方一度見回りを行いさっさと家に帰って寝ていたのだ。

「も…申し訳ありません」

ボロボロと泣き崩れた、当直なんてまともにやる教師なんていないのだ。
ましてや土くれのフーケ。魔法衛士隊を蹴散らし白昼堂々と盗みを行う程の強力なメイジ。
その正体は誰ともしられていないのだ。当直についていたとして犯行を止めれたかといわれると難しいところである。

「泣いたってお宝は戻ってこないのですぞ、それとも「破壊の杖」を弁償出来るのですかな」

「ですが、当直をまともにやっていないのはわたしだけじゃないはずです、
それに土くれのフーケなんて、誰にだって止められません」

「詭弁ですな、開き直りとは見苦しい。今問題となっているのは昨晩当直をさぼっていたのは誰かということですな。
たとえば、私たちがまともに当直をしていなかったとしても貴女がさぼってもいいということにはなりませんぞ」

「そうですな、責任は彼女にあり、我々にはありませんぞ」

黙って成り行きを任せていたオールド・オスマン、魔法学院の学院長は残念そうに全員を咎めた。

「これこれ、責任の所在というのであれば、わしを含め全員にあるのじゃ。
この中の誰もが、まさかこの魔法学院に賊に襲われるなぞ、夢にも思っていなかったのじゃからの。
それを協力して解決するかと思いきや責任のなすりつけ合い、それが生徒の模倣となる教師の行いか」

誰もがうなだれるように、顔を伏せている。

「…で、犯行現場を見ていたのは誰だね?」

「この三人です」

ルイズとキュルケとタバサがコルベールに指差された。
サイトはさらに後ろに控え大人しくしている。
オスマンは興味深そうに、サイトを見つめた。

「ふむ、君たちか、くわしく説明したまえ」

ルイズが進み出て、昨夜の記憶を思い返し説明を始めた。

「大きなゴーレムが現れて、ここの壁を何度か殴り破壊したのです。肩に乗っていたメイジが宝物庫の中から何かを…、その破壊の杖だと思うのですが…盗み出した後、またゴーレムにのって城壁を超え逃げ出し最後にはゴーレムは土になり、肩に乗っていたメイジは影も形もなくなっていました」

「ふむ、後を追おうにも手掛かりもなしか。」

頷き何かを考え込むようにオスマンは髭をこする。

「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」

学院長の秘書である、この非常時にどうしたのだろうかと尋ねた。

「それが…その、朝から姿が見えませんで」

噂をすれば影とでもいうかのように、ミス・ロングビルが現れた。

「申し訳ありません、朝から、急いで調査をしておりましたの。
今朝がた起きたら、大騒ぎじゃありませんか。宝物庫はこの通り。
すぐに壁のフーケのサインを見つけたので調査をいたしました」

「ふむ、仕事が早いの。して、結果は?」

「フーケと思われる賊の居場所が分かりました」

「な、なんですと」

コルベールは素っ頓狂な声を上げた。

「周辺の廃屋等盗賊が潜めそうな場所を絞り込み、近在に住む農民に聞き込みを行ったところ
運よく近くの森の廃屋に黒ずくめのローブの男を見たようです。恐らく彼はフーケで、廃屋はフーケの仮の隠れ家ではないかと」

ルイズは叫んだ。

「黒ずくめのローブ、それは、フーケです。間違いありません」

オスマンは目を鋭くして、ミス・ロングビルに尋ねた。

「そこは近いのかね?」

「はい、徒歩で半日。馬で4時間といったところでしょうか?」

「すぐに王室に報告しましょう!王宮衛士隊に頼んで兵隊を差し向けてもらわなくては」

コルベールは提案したが、オスマンは首を振ると年寄りとは思えぬ迫力で怒鳴った。

「馬鹿者!王室なぞに知らせてる間にフーケは逃げてしまうわ、しかも盗賊ごときとまともに取り合ってもらえるかもわからん。
その上…身に降りかかる火の粉を己で振り払えぬようで何が貴族じゃ!魔法学院の宝が盗まれた、我々の力で解決する。
我々の持っている杖は玩具ではないのじゃ、そうじゃろう?では、捜索隊を編成する。我をと思うものは杖を掲げよ」

オスマンは期待した目であたりを見回す。魔法学院の教師といえば殆どがトライアングルクラス。
あれだけ魔法に自信を持ち、能力の高い者たちが多いのだ。しかし、誰も杖を掲げない。困ったように顔を見合すだけだ。

「おらんのか?フーケを捕まえて名をあげようと思う貴族はおらんのか?ミスタ・ギトーどうじゃね?
先ほどあれだけ文句をいっていたんじゃ名乗りをあげないのかの。コルベールくんはどうじゃ」

「いえ…今日は少し調子が悪く…」

ギトーはそそくさと後ろに下がる、コルベールは戦いたくないのでうつむいたままだ。

ルイズは俯いていたが、やがて決心したかのように杖を掲げた。

「ミス・ヴァリエール!何をしているのです、あなたは生徒なのですよ、ここは教師に任せて…」

ミセス・シュヴリーズが驚いたように声を上げる。

「誰も杖を掲げないじゃないですか?」

結局大人たちは誰もが責任を取りたくないのだった。
ルイズはキッと唇を強く結び前を見据えるその姿は凛凛しく美しかった。

そんなルイズを見て、キュルケも杖を掲げた。

「ふん、ヴァリエールだけに任せてはおけませんわ」

そしてタバサも杖を掲げる。

「タバサ、あなたまで危険な目にあおうとしなくてもいいのに…」

キュルケがそういうと、タバサは短く答えた。

「心配」

キュルケは、感動した面持ちでタバサを見つめ、ルイズも唇をかみしめつつお礼を言った。


「そうか、では頼むとしようかの」

誰も何も言わなかった。杖を掲げなかったうえにこれ以上何をいっても偽善だ。
オスマンは、ふむ、と笑いながら続けた。

「ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いている」

タバサはこたえずにぼーっとしているが、教師たちもキュルケやルイズも驚いている。
王室から与えられる爵位としては、最下級の称号ではあるもののタバサの年齢で取得しているのが驚きだ。
継承や金や地位で与えられるものと違い、純粋な業績に対して与えられる実力の称号なのだ。

「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人を多く出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も強力だと聞いている」

キュルケは、得意げに髪をかきあげた。
次は自分の番だとばかりにルイズは可愛らしい胸をはった。

「ミス・ヴァリエールは、優秀なメイジを多く輩出したヴァリエール公爵家の息女で、
まだ魔法の才は開花してないが、座学は優秀で必ずやこの窮地を打破してくれる案をだすと信じている。
その上、グラモン元帥の息子に決闘して打ち勝った、珍しい使い魔を従えてもいる」

魔法の部分は残念だが、思ってた以上に持ち上げられ嬉しそうにサイトの顔を見る。サイトは優しく微笑んでいた。

「魔法学院は諸君らの努力と貴族の義務に期待する。
魔力を温存させるために馬車を用意しよう、ミス・ロングビルは彼女らを手伝ってくれ、よいな」

ルイズとキュルケとタバサは、真顔になって直立すると「杖にかけて!」と同時に唱和し、可愛らしくスカートの裾をつまみ恭しく礼をする。














4人はミス・ロングビルを案内役に出発した。
サイトは今回も煩いのでデルフは部屋に置いてきた。隠密行動には向いていないのだ。

馬車はすぐに外に飛び出せるように屋根のない荷馬車のようなものが準備され、
道中、オスマンの秘書なのに御者を買って出たミス・ロングビルにキュルケが過去を根掘り葉掘り聞き出そうとしていた。
葉っぱは掘れるかっつーのどういう事だよ、くそっくそっ!と何処かで叫ぶ声が聞こえたような気がしたが気のせいだろう。



鬱蒼とした森に差し掛かり、馬車を降り徒歩でしばらくして一行は開けた場所に出た。
森の中の空き地といったような場所で確かに廃屋があり、朽ちた焼窯と壁板のはがれた物置がある。

5人は小屋の中から見えないように、森の茂みに身を隠したまま廃屋を警戒して見つめた。

「わたしの聞いた情報だと、フーケはあの中にいるという話です」

サイトたちは、ゆっくりと相談しあの中にいるなら奇襲が一番だという結論に至った。寝ていてくれたならなおさらである。

サイトは、作戦を説明し始める。
まず、素早いサイトが偵察兼囮をやる。フーケが中にいなければ一人で部屋を調査する。建物も大きくはないので一人で十分だろう。
もしフーケがいた場合は、挑発して外におびき寄せる。廃屋には土がないので外に出るとおもうので、魔法を使わせる間もなく一網打尽にする。
魔法を使える三人はどちらにせよ、外で警戒し不測の事態に備えるようにすることとした。
ミス・ロングビルは危険も多いので、危なくなったら構わず逃げるということで周辺の探索をしてもらうことにした。

ミス・ロングビルが一人離れ周辺の探索に向かうと、警戒し始めようとした三人を集め、こっそりと作戦を言い渡す。
もし、廃屋に誰もいなくてゴーレムが出てきた場合は、自分がゴーレムを使って無防備に近い本体を捕縛するので、足止めしてほしいこと。またその具体的な作戦を。


素早く十手を掴みルーンが発動するのを確認すると、小屋の中の様子を一応なりとも確認した。
誰もいなかった時の合図をして皆を呼び寄せた。

「罠はないみたい」

タバサが魔法の杖を振るい確認すると、サイトはゆっくりと小屋に入っていた。

「中に人もいなそうだ、杖状のものがあるか探してみる。皆は警戒を続けてくれ」

そういうと皆こくりと頷く。小屋の中にいない以上戻ってきたフーケと鉢合わせになる可能性もあるのだ。
程なくしてチェストの中から、破壊の杖を見つけたサイトは外に出て皆に告げる。

「なんか、凄く呆気なく見つかったけど、これかな?」

「それ、見たことあるわ。確かに破壊の杖よ」

キュルケがそういって、破壊の杖であることをみとめた。
ルイズに破壊の杖を渡すと、続けてサイトは言った。

「フーケはいなかったけど、危険が少ないことにこしたことはないな。
ミス・ロングビルさんを呼んで学院に帰ろうか」

タバサが重ねるようにして言う。

「任務完了」


しかし、それを見越したかのように少し離れた場所の土が盛り上がり、徐々に大きくなってフーケのゴーレムが姿を現した。

「ゴーレム!」

キュルケが叫んだ。

「よし、みんな手はず通りに頼む」

そういうとサイトは、すごい速さで森の奥に消えていった。
最初に反応したのはタバサだった。

凄まじい錬度で魔法を紡いでいく。空気中の水蒸気を凍らせ、何十にも及ぶ氷の矢で相手を貫くタバサの得意魔法だ。

「ウィンディ・アイシクル」

ところが、何十という氷の矢は大きく防御力はあるが的でしかないゴーレムをことごとく外れ地面に突き刺さる。
それを離れた場所で確認していたフーケは鼻で笑う、貴族でシュヴァリエとはいえ所詮子供かと、
このままゴーレムを暴れさせれば、誰かが私にわからなかった破壊の杖のつかってくれるかもしれない、あとはそれを奪えば…

「ファイヤー・ボール」

今度はキュルケが胸元から杖を取り出し、火の玉を打ち出している。
しかし、今度もまたゴーレムに当たらず、地面に刺さった氷の矢を溶かしている。蒸発するでもなく溶けるだけにとどまっている。

「なんだいあれは、威力もてんで低いし全然当たってないじゃないか。
あれだけ、大口たたいていてふざけているのかい」

もはや、笑いを通り越してあきれていた。これでは、破壊の杖の使い方なんて分からないかもしれないとうな垂れながら、
それじゃあ、もう用はないねとこの貴族の娘っ子らを蹴散らして次に期待しようかなんて思っているとゴーレムの動きが鈍くなっていることに気がついた。

周りの土を使いゴーレムを作り上げたせいか、地盤が緩くなっていて、さらには溶けだした氷の矢が地面をものすごいぬかるみに変えていっている。

「な、そんな!魔法をそんな使い方にするなんて」

馬鹿にしていた全部外れていた魔法は、このための布石だったとでもいうのかい。
そう舌打ちするも既に遅く、あがけばあがくほどゴーレムは深みにはまっている。




「あっ、ミス・ロングビルさん、こんな所にいたんですね探しましたよ」

驚愕し注意が散漫していたため、気がつかなかったのか近くに立っていたサイトに声を掛けられ慌てて振り向く。
当然ゴーレムの動きは鈍くなり、これ幸いとルイズはありったけの風魔法を唱えた。

大きな爆音と爆風が面の攻撃でゴーレムの上半身にうちつけられる。傷は殆どつかないもののゴーレムがよろめいた。それだけで十分だった。
ぬかるみに足をとられ、ずしんと大きな音がしたかと思うと完全にゴーレムは転び地面に倒れもがいている。

タバサはさらに水の魔法を唱え、ゴーレムをぬかるみにはめ、キュルケとルイズが、火の魔法と爆発でちくちくと削っている。


「なっ、なっ」

慌てたのはフーケだ、今や魔法を使っているのがばれ言い逃れはできないうえに
頼みのゴーレムも動きが鈍くぬかるみから這いだせない。その上こっちには人もいて集中できない。

「おっと、そのまま話を聞いてください、ミス・ロングビルさん、ようやくフーケを見つけたんですよ」

来た、フーケは思った。もう言い逃れは無理だ、どうやって逃げるか、素早く策を張り巡らせる。
まずは話を長引かせ、隙を見て…

「あっ、怖がって逃げないでくださいね。一緒に捕まえましょう。ミス・ロングビルさん大手柄ですよ
俺がいます、安心してください。フーケが逃げたりなんかしたら、不幸な孤児の人たちが増えるかもしれないでしょう?」

何を知っていると続けようとして、うすら寒い笑みを浮かべているサイトの目を見た。
なんだい、その目は、なんて…なんて目をしてるんだい。今まで見かけたどの孤児たちよりも濁り淀んだ目をしていた。
まるで極悪なフーケが逃げたら孤児が増えるといいつつ、その実お前が逃げたらティファニアが不幸になるぞとほのめかしている。
サイトは構わず続ける。

「やっぱり、フーケは男でしたよ、わけもわからず縛られてました。
黒いローブを着ていたし、錯乱してるようですけど、ミス・ロングビルが捕まえてくれたんでしょう?」

何をいいだすんだ、無茶苦茶だ。
これは事前にサイトが捕まえていたラインの貴族崩れの犯罪もこそこそと行っている土メイジだ。
誰もフーケの正体を知らない、この茶番が終わればフーケの盗みもなくなる。
よって、世紀の大怪盗フーケはいなくなり、貴族は安心して暮らせるようになる。真実と事実は違うのだ。


「こっちは全部知っているってのに、相手は何も知らないって、それだけで敵を捕まえられると思いませんか?
向こうは何も知らなくて、こっちはフーケの居場所もしってたってのが勝因ですね。
それにフーケを捕まえたなんて事になったら、報奨金がでますね、誰か大切な人がいたらその人の助けとなるお金にできますよ」

本当にうれしそうにサイトは言う。
全部、全部知られているというの?罠にはめたつもりが、はめられてたのはこっち?
もしここで逃げ出したり、抵抗したらティファニアが危ないって言うの?
絶望がフーケを満たしていく。

「何が望みなの…」

「望み?俺は皆が幸せになればなーと思っているんですよ。
孤児がいたら、助けてあげたいなとも思うんですよ、いい事でしょ?」

「まさか…ミス・ヴァリエールが…?」

「ルイズは全然関係ないですよ、全部を知っているのは俺だけです。
手柄を立てて、ゆくゆくは自分の領地を持とうと考えてるんです。
その手伝いをしてほしいなって、望みっていうか只の独り言みたいなもんですけどね」

そして、サイトは笑いながら、そうだ思いついたとでもいうように続ける。

「望み、うーん、頑張ったご褒美に綺麗なお姉さんからキスってのもいいかもしれませんね」

フーケは絶句する。





「悪魔……」





「よく言われます」

ブリミルのくそったれなんか信仰できない。神がいつ助けてくれた!神がいたならお父様は助かった。私が辛い思いをすることもなかった。
貴族に頼るのはもってのほかだ。あいつらは、私たちから奪うばかりだ!!
でも、悪魔になら…それで、ティファニアが助かるなら…。
フーケは諦めたように屈辱で震えながら、サイトにゆっくり近づき口づけを交わす。

「マチルダ・オブ・サウスゴータ。この杖にかけて、忠誠を誓います」

短く杖を振るうと、ボロボロのフーケのゴーレムは崩れ去った。










そうして、サイトは有能な駒を手に入れ、破壊の杖を温存することに成功した。
ルイズ達は、破壊の杖奪還とフーケを捕まえるという偉業を成し遂げたのだった。
褒美としてルイズとキュルケはシュヴァリエの申請をしてもらい、タバサは精霊勲章を申請された。
フーケを捕まえたミス・ロングビルは少なくない報奨金を貰うのだった。
サイトは今回直接的には何もしていないと辞退していた。

フリッグの舞踏会では、着飾ったルイズの魅力に気が付き男たちが群がろうとしたが、それを完璧に無視しルイズはサイトに踊りを申し込んだ。
サイトもきちんと盛装し、流石長年仕込まれただけあり優雅にルイズをリードするのだった。
ますますうっとりするルイズと優雅に踊るサイトに、デルフリンガーはおでれえた、おでれえたといい。
キュルケは男どもに囲まれながらも、サイトに踊りを申し込んではルイズと同じようにうっとりしていた。
タバサは相も変わらず一人大食いを続けていた。



二つの月がホールに月明かりを送り、蝋燭と絡んで幻想的な雰囲気を作り上げていた。




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<あとがき>

ようやく原作第一巻まで進めることが出来ました。
小説を書くのが初めてで、ずぶの素人である本作品にここまで読んでいただきありがとうございます。

どうだったでしょうか?稚拙ながらもまぁまぁ面白いところもあったよなんて思っていただければ幸いです。



「現在」は六千年繰り返し続けたサイトが主人公となっております。
その6千年の間に色々試し、時には幸せに時には不幸になりながら、経験と記憶をかさねていったサイトです。
新スキル・カリスマと合わさり、ルイズはサイトからしたら御しやすく、簡単に手籠めにしています。
精神的にもろい部分があるため、魔法を使えるようにするという言葉にルイズは盲信し傾倒していくことになるのです。
本編は解決編で、なぜ繰り返すのかということが明らかになっていきます。

「過去」は、繰り返し絶望していくサイトが主人公の回想のような短編集です。
家に帰れると思っていたがループし、何をしても死んでも終わらない。終われない無限の牢獄。
大切なものがわからなくなって、心が傷つき運命に翻弄されていきます。

サイトが足掻き、絶望し、諦めきれず、だいたいが酷い目にあうお話です。





本作品を書いていて話の進みが遅く焦っていたのと、説明も少なくても、ある程度含める程度の言葉を書けば、
読者に理解してもらえ、むしろ色々想像してもらえるんじゃという作者の甘えが分かりにくい文章、構成になってしまったように思います。

そもそも一週間でここまで進めるということに無茶があったのかもしれないですね。
(書きたいことがあふれて暴走したように思います)

この後過去を2話程入れる予定です。きゅるけの*話で、みなさんをきゅるっきゅるけにしてやんよお
もう1話はスーパーギーシュで、作者はとんでもない中二病こじらせたの?黄色い病院にいくの?って話です。

そこまで終わりましたら、一度話を進めるのをやめ全体を見直し再構成したいと思います。
気が向いたらでいいのですが、ここがダメだった、ここが分かりにくい、こういう展開になるのではという考察や、その他要望を感想に書いていただきますと作者が喜びます。
(上手く反映できるかは、作者の力量次第ですが・・・)


本編サイトは、正常のように見えてやっぱり壊れていて、
副編も含めてあんまり救いのない話ですが、あまり重くならないように心がけたいと思います。
xxxもがんばるぞーっと、取り留めもなく書き連ねましたが、最後にこんな後書きまでみていただいありがとうございました。

それでは、また、次は副編でお会いしましょう。。)ノシ



[18350] ■現在11 * 「姉弟ごっこ」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/04 18:05
土くれのフーケが捕まった日の夜。

さっそくマチルダはサイトに呼び出されていた。
フリッグの舞踏会が終了した後の夜も更け午前3時に差し掛かろうという時間だった。

「なんだってんだい、こんな時間に」

呼び出された場所は宝物庫の近くの森。
修復された宝物庫でも見せようっていうのかい?嫌味な奴だよ。
そう思いながらもマチルダはサイトの真意を測りかねていた。
なにせ得体が知れないうえにこちらの事は全てばれている。

一体どこにいるんだろうね。

それにしても……月明かりの差しにくいこんな森じゃ視界も悪いし
信じちゃいないけど幽霊でもでそうじゃないか、早いところおいとましたいね。


注意深くあたりを見渡すと不自然に穴があいている場所がある。
仕方なしに中を覗いてみると、予測した通りサイトがいてなぜか三角すわりでうずくまっていた。


「何をしているんですか?ご主人様」

覚悟はしている、出来るだけ媚びるように囁いてみる。
食いつぶされるのだけはごめんだ、どうにか対等の状態にもっていきたい。
今日はいつもの秘書のスタイルだ。下着も黒のレースで煽情的なものを選んだつもりだ。


「あはは、やっと来たんだ?ずっと待ってたんだよね。
これタルブの年代物のワイン。一緒に飲もうと思ってさ。ささやかながら祝賀会?」

そうやって、見つけられてしまったことが嬉しいとでもいうように
無邪気な悪戯っぽい笑みを浮かべている。

本当に意味がわからない。

小さくため息をつく。

「それは失礼しました。どのくらい待っていたんですか?」

「ん、10分程」

このっ、たいして待ってないないじゃないか。
まったくおちょくるのはやめにしてほしいね。

「本当、ずっと待ってたんだけどねぇ?」

そういって、笑って凄く寂しそうな瞳をする。
……なんだか、こちらが凄い悪いことをした気分になってくる。
何もしちゃいないっていうのに…

「で、マチルダの部屋に案内して欲しいんだ」

来た。別に嫌悪感はない。外じゃないだけましでもあるし、
良く見れば可愛い顔をしている、ただただ得体が知れない感があるけれども。




部屋に着くなり犯されるかとも思ったがそんなことはなかった。
サイトはテーブルにワインを置くと、何の感慨もなくマチルダに命令する。

「服を脱いで?」

マチルダは出来るだけいやらしく見えるように媚びるようにスーツを脱いでいく。
丈がミニのスカートはかがんだだけで下着が見えてしまう。
黒のガーターにストッキングも見せつけるように脱いでいく。

全部脱ぎ終わって、両手で下着とブラを隠すようにおさまえる。

「脱ぐのは全部だよ」

まったくワインの話はどうなったんだい。少々あきれながらも文句を言わず脱いでいく。
月明かりにモデル体型の美しい肢体が映える。

全部脱ぎおわるとサイトは一つ頷きクローゼットをあさり始めた。

「ちょっと、何をしてるんだい」

流石に口調が砕けてしまったが、その何を攻めることが出来よう。
マチルダは終始ペースを乱されっぱなしだ。もう気にしないことにした。

本気で咎めることもできず、諦めてみていると
ふわっとした素材の良い大きめの丈の短いワンピース寝巻と何の変哲もないショーツを取り出した。
少なくない着替えの中から、わざわざそれを選んだらしい。気になって尋ねてみた。

「そういう地味なのが好きなのかい?」

「いや、どちらかっていうとさっきみたいなのが、色気があって好きだよ。
まあ、どうでもいいことだし。取りあえずこれ着てくれる?」

ますます、意味がわからないけれど従っておく。


着替えが終わるとワイングラスが二つ。
ワインが注がれている。月が透けて綺麗な色をしている。
なんだ、本当に飲みに来ただけ?ほっとしたような少し残念なような。

「何に乾杯をするんだい?」

マチルダは少しにこやかに聞いてみた。
わけわかんない奴だけど、以外に良い奴かもしれないじゃないか。















「そうだね、森の妖精の幸せに乾杯」










顔が凍りつき、全身が泡立つのが分かる。完全に油断してた。
驚きでワインを落としそうになってしまった。
良い奴?今この目の前でにこやかにしている奴が?

「……乾杯」

正直ワインの味がしない。ドロでも飲んでるような気分だ。
嫌な汗がふつふつとながれている。

ふぅと一息つく。


「そんな怖い顔しないでよ、せっかくのワインの味が落ちる」

何も答えられない、なんとか気分を落ち着かせようとする。
構わずサイトはなんでもないことかのように言葉を続ける。

「アルビオンの森のさ、妖精さんや孤児たちを引き取れる環境を作りたいんだ。
でもサウスゴータの名は出せないし、領地を得ることが出来るまでそこは我慢してほしいんだ」

知られているということがこんなに恐ろしいなんて、
わたしたちに得があっても、サイトに何の得があるの?
エルフを、いや王族の血?ティファニアまで毒牙にかけるつもりだろうか?
……その時はさしちがえてもこいつだけは殺さなくてはならない。

「なぜ?そんなことを」

「マチルダの幸せのため、じゃ駄目かな?」

結局意味がわからない。ますます意味が分からなくなっただけだ。
サイトはワインを飲み干すと話は終わりだとばかりに、水をついで少し飲む。

そしてサイトはマチルダにゆっくりと近づくと水を上から胸元にたらす。

「ぁ、つめたっ…」

ベッドに押し倒される。よくわからないことだらけで考えがまとまらない。
胸を服の上から揉まれ、唇に口づけられる。




「気持ちいいことしよっか、マチルダお姉ちゃん」

甘いしびれと得体の知れない幸福感と、目の前の男に欲情していく自分が分かる。
意味がわからない、でも全てをゆだねてしまいたい。

何度も何度も口づけをかわす。
まるで操られるかのように、ふらふらとサイトの服を脱がしていく。
脱がし終わると目の前にサイトの大きな剛直がそそりたっている。

全部してあげなきゃ……
ちろちろと先のほうから丁寧に舐めまわしていく。
かり首に舌を巻きつけるように、裏筋を舌先で刺激するように。

手は使わずに口だけで刺激していく。
サイトのを飲みこみ、頬や喉も使って奉仕する。

「ぁっ……んぅ……お姉ちゃん、きもちぃ」

その声を聞くとぞくぞくする。してあげることが幸せに感じる。
いっそう熱をこめて奉仕していく。

もうそろそろサイトも限界だ。

「ん、そろそろ、出そう。全部飲んでお姉ちゃん」

そういうと頭をむりやり押さえつけられる。
正直苦しい、息苦しくてでも心地よくて、触られてないのにありえないくらい自分が濡れてるのがわかる。
サイトの根元から膨らんでいくのが分かる。


びゅるびゅる。ごくっ。びゅくびゅ。ごくごく。びゅー。

出された先から精飲していく。濃くて粘りが強くて鼻から精臭がしてむせかえりそうだ。
きちんとお掃除してから、サイトの上にまたがりゆっくりと腰をおろしていく。

口に入れた時もおもったがやっぱり大きい。
久しぶりの性行為なので、きつく感じるが気持ちよすぎる。
夢遊病のように腰を動かす。リズムを合わせるようにサイトが腰を突き上げる。

徐々に激しくなる腰使い。
胸に手がのばされ愛撫されてく、強い刺激だがそのくらいがちょうどいい。

「ぁっ…あっ…その動きいい。サイトもっと。もっと動いて……ん」

答えるようにじょじょに腰の突き上げが増えていく。
気持ちの良い場所が弱い場所が知られている。

「ああぁああ、ああ、くる。きちゃう。いきそう……いく、いく!!んううっーーーー!!」


いったのに、腰の動きをとめてくれない。
いやいやするように頭を振る。

「ぁん、いっちゃった。ぅぁん、すこしぃ、ゆっくり、して、ね?」

言い聞かせるように頼んでみたら、腰の動きが速くなった。
なんで、ぁ、もうすぐ出るの終わるの?

「ぁっ、あ、あっ、あ、ぁ、おね、がいっ、おわっ、てえ、だしてえ、はやくっ、だしてえ」

「もっ、むい、だめ、ほんと。いってる、いってるからっ。もうっ、あっ」

くるりと体位を変更させられる。後背位だ。
胸をぐにぐにと掴まれ、揉みしだかれている。

手の力は入らなくてベットに顔を、上半身をつっぷしている。
下半身は無理やり腰を持たれて打ちつけられる。

サイトの剛直が膨れ上がるのをマチルダは感じた。

「あっ、きてる。ふくらんでる。全部でるの、ねっ。ぁぁあ、あぐ、きて。
はあ、きた、ぁ、ぁ、でてる、びゅっるびゅるでてる。ぁああ」

サイトはマチルダの中にびゅくびゅく出しながら腰の動きをやめない。


「ぁ、ぁ?え?おわった!、いまでたよ、ぁん、たくさん、でたよっ、ね?
おしまい!とめてっ、あ、あ、あ、あぎぅ、だめ」

ベッドにぐりぐりと頭を押し付ける。

「サイトっ、ぁ、サイトぉ、おねが、おれがいします。サイ、トッ。
おわり。これで、おね、ちゃんの、ぁ、おねがぃ」

もちろんサイトが満足してマチルダが失神するまでこの行為は続けられた。












朝一人で目を覚ましたマチルダは、ベッドに寝転びながらなんてむちゃする子だい。
と悪態をつきながらも昨夜の恥体を思い返していた。
不思議と嫌いに慣れないが、やっぱり警戒しとくにこしたことはないね、と思うのだった。

================
構成してページが余ったので即興で作りました。

サイトとマチルダちょっとしたすれ違い。



[18350] ■現在12 * 「おいしいちょこれぃとのつくりかた2」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/04 23:24
少し時間を遡って、フリッグの舞踏会直後。

長い桃色がかかった髪を、バレッタにまとめ、ホワイトのパーティードレスに身を包み、
肘までの白い手袋をした正真正銘のお姫様であるルイズは、ふわりとパニエを膨らましひざまづいていた。

昼間の自分の活躍に興奮し、まるで興奮と喜びを表すかのように、
頬張りきれないサイトの剛直を、ちろりちろり、ちうちうと蜜蜂のようにあちらこちらへと舌を這わすのだった。
ルイズは小さな唇を使いサイトに懸命に奉仕していた。

まだ中に収めると鈍い痛みがあり、入れられるのはまだ辛い部分もあるので
直接サイトを感じられる、その口での遊びが今のお気に入りでもあった。



そんなルイズの部屋での秘めたる授業を覗きこむ人物がいた。
ワインレッドと黒の二つの布を交互に重ね合わせ左肩を大胆にさらした斬新なデザイン。
燃える炎のような赤い髪をまとめ、褐色の肌を惜しげもなく魅せるキュルケだった。

舞踏会の帰りに通りがかったルイズの部屋の鍵穴から、
小さくもくぐもったような音が聞こえてきたのだ、今までであれば無視して自分の部屋に戻るところだが……
キュルケはきょろきょろとあたりを見まわし、誰もいないことを確認してから
そっと鍵穴を覗きこむ、残念な事に天蓋の支柱に邪魔され良く見えなかった。
だいたい何をしているか想像はできるが……どうにも気になり良く見える位置はないかと試行錯誤してみた。

ところがあまりに夢中になりすぎたのか、髪留めがドアノブに当たりかちゃりと音をだしてしまう。
慌ててその場を離れようとしたきゅるけは慌てすぎて転んでしまった。
ついてないわあ、と思いつつ後ろを振り向くとドアの前で仁王立ちになるルイズがいた。
起き上って逃げようとするが、ルイズはどこにそれだけの力があるのか不思議になるくらいの力でキュルケの足首を掴みずるずると部屋の中に引きずり込んだ。








「ツェルプストー家ともあろう方がいったいわたしの部屋の前で何をしていたのかしら?」

良いところで止められたルイズがジト目できゅるけをにらみつける。
サイトもルイズも佇まいを直し何事もなかったかのようにふるまっている。

「……ほら、舞踏会から帰るときにルイズの部屋の前を通ったら、
何か物音がするじゃない?最近物騒だしお隣さんだし心配になって様子を伺おうかとおもったのよ
それで、慌ててたのか転んでしまったのよ。本当ついてないわあ」

「へぇ……部屋を覗いていたんじゃなくて?」

まだ信じられないとでもいうようにきゅるけをにらみつける。

「ほ…本当よお、誓って覗いてなんかいないわあ。
そもそもベッドの陰になって、何をしているか分からないくらいで……」


あっ…。ちがうのよ、ちがうのよ。わたしわるくないのよお。
わたしはわるくないきゅるけよー、いじめないで。とあたふたとあとずさる。


「きゅ~~~~る~~~け~~~~~~~~」

白いドレスを着た小鬼がたっていた。
ゆらりゆらりときゅるけに近づいていくルイズだったが、
すぐに雰囲気が元に戻り、かつかつとテーブルの周りをゆっくりと歩きまわる。
静まり返った部屋の中に足音が響く。



「と、いうことは、わたしがしてた事に興味があるってことかしら?」

きゅるけは首を横にぶんぶんとふる。

「鍵穴からのぞきこんでまでじっくり見たかった、と」

きゅるけは首を横にぶんぶんとふる。
なんだか、嫌な汗が一筋流れ落ちる。

「そうだ、わたし用事があったんだわ、か、かえるわあ」

慌てて立ち上がろうとするきゅるけの腕は、素早くルイズによって掴まれていた。
そのまま、いやああと暴れるきゅるけはベッドの上に押し倒された。



「サイト、放置しちゃったままでごめんね、中途半端で辛かったでしょ?」

そう言って布の上からゆっくりとサイトを刺激していく。
ルイズもベッドの上に乗り、すぐに大きくなったサイトの剛直を解放する。
ぶるんと音がするかのように外に放たれ、そびえるようにそそり立っている。

白い絹の手袋を使い、しゅるしゅるとリズミカルに手でしごいていく。
冷たい布の感触が何とも心地よい。
ルイズはきゅるけにきちんと見えるように逆側に回り込んで
唇ではむはむと啄ばむように奉仕していく。

きゅるけは目を離せず、じっとその行為を見つめるのだった。
前と違って縛られているわけでもなくいつでも逃げることが出来るというのに。

「あむっ、んむっ、んはぁ……ちゅっ。はぁん…くちゅ、ちゅ……」

きゅるけに良く見えるように、見せつけるようにその小さな口にサイトを頬張る。

きゅるけは驚いていた。
あ、あんな小さな口で頬張ってくるしくないの?
目なんかとろんとしちゃって、きもちいいの?
なんかぷっくりとした唇から、赤黒いてらてらとした肉の塊がゆっくりと出入りしている。

なんだか、にくのすじまでみえるくらい。
りょうほうのみみから、ずぷずぷとおとがするわあ。
すごい……かたいのかしら?やわらかいのかしらあ?きっとびねつのようにあついんだわあ

じりじりと近づくきゅるけを横目で見ながら、
ジュルジュルとわざと卑猥な音を立てながら口を動かす速度を上げ、同時に手でも刺激していく。

腰を突き腰を引くたびにぬめりと舌を絡みつける。
射精の兆候が見えてきたのか、サイトもルイズの動きに合わせて腰を動かしてくる。
ルイズは苦しげに顔を歪めているが、目は快楽で濡れている。

ぷはぁと一息つくように、一度口を離す。

「んっ、我慢しなくていいわ。中に、口の中に頂戴っ」

唇をすぼめるようにして鈴口に吸いつくと、ごしゅごしゅとしごく。
ビュビューッ!と口の中にたたきつけるように射精が行われる。
溢さないようにしっかり最後まで口の中に納めてちゅぽんと口から引き抜く。
それでもまだタイミングを完璧に取れなかったのか、
一筋の白い液体が近づきすぎたきゅるけの褐色の肌を汚した。




茫然自失でなにもいわずふらふらとベッドを降りて部屋に戻っていくキュルケを横目に、
お仕置きがすぎたかしら?とルイズはくすくす笑うのだった。


行為を再開するかとでもいうかのように、ルイズは慎重に口をひらく。
先ほど出されたサイトの種が口の中に溜まっている。
サイトはそれを人差し指でぐちゅぐちゅとかき混ぜる。
指を離すときにちゅぷっと吸われ、それを確認するかのようにルイズは幸せそうに中身を全て飲みほした。


ルイズはゆっくりとドレスの裾を持ち上げていく。
はいてないルイズは、ふとももから愛液が垂れ流しになり、ベッドにしみをつくっていた。

そしてご褒美とばかりに夢も見ないくらいの深い眠りにつくまで上り詰めさせられるのだった。








========================================
再構成につき即興。次回から風のアルビオン編



[18350] ■現在13「勘違いチェルノボーク」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/05 18:54
トリステインの城下町の一角にあるチェルノボークの監獄で
「土くれ」のフーケとして捕まった男は、ベッドに寝転がり茫然と壁を見詰めていた。
男は確かに犯罪まがいなことに手も染めていたが、
それでも、城下で一番監視と防備が厳重なここにぶちこまれる程ではなかったはずだ。


意味がわからなかった、数日前にいきなり襲撃され捕まえられ森の中に縛られ放置された。
たまにパンが置いてあることから、監視されているのだと思ったが心当たりがなかった。
巧妙に縛られていて全然抜け出せなかったので、涙を飲んで土のついた堅いパンに口をつけた。
そして、衛兵につきだされ否定しても話も聞いてもらえず、今ここにいるというわけだ。男は身勝手にもブリミルに悪態をついた。

このまま処刑されてしまうのだろうか?不安だった。
「土くれ」じゃないってことを理解してもらえばあるいは……それも難しそうだった。
そして粗末なベッド、木の机、食器まで木で出来ている念の入れよう。
ここからは抜け出すことができなさそうだ。やっぱり大人しくするしかなかった。

まどろんでいると、階上から足音と拍車の音がする。
こんな時間に牢番だろうか?それでもすぐに興味は薄れ目をつぶろうとする。

自分の牢の鉄格子の前で足音がとまったので、男はベッドから身を乗り出しぎょっとした。
長身の体に黒マントをまとい、白い仮面で顔を覆っている男がそこにたたずんでいたのだ。
マントの中から長い魔法の杖が突き出ている、どうやらメイジのようだ「土くれ」のフーケ本人だろうか?
捕まえられた男は沈黙を守った、これでも犯罪者のはしくれ、褒められるようなことじゃないが黙るくらいの知恵はある。




「土くれだな」

黙って値踏みしていた仮面の男は口を開いた、以外にも年若く力強い声だった。
仮面の男は両手を広げ敵意がないことを示し、沈黙を肯定ととったのか話を続ける。

「話をしにきた」

それでも牢屋の男は沈黙を守っている、仮面の男は観察しながら思った。
こいつ本当に「土くれ」のフーケか?レコン・キスタの情報では没落した貴族の女メイジだと聞いたが飛んだ偽情報だったようだな。
案外レコン・キスタも大したことがないのかもしれない、それともそれを出し抜くくらい優秀だったのか。
大盗賊というよりはどうみても小物にしか見えないが、それも演技だろうかといぶかしんだが話を進めることにした。

「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連名さ。我々に国境はない。
ハルケギニアは我々の手で一つになり、始祖ブリミルの光臨せし「聖地」を取り戻すのさ」

牢屋の男、偽フーケは薄ら笑いを浮かべた。先ほどブリミルに悪態をついたばかりなのにそれを信仰する不審な男が現れて夢物語を語る。
小物は小物なりに物を知っていた、強力なエルフたちによって、数多の国が何度も兵を送りその度に返り討ちにあったことを。
絵に描いた餅のようなもので、どう考えても成功するとは思えない。
それにどうやらこの仮面の男は都合がいい事に勘違いしている。思うにここが自分の剣が峰らしい、このまま何もしなくても座して死を待つだけだ。

「で、その国境を越えた貴族の連盟が、貴族でもないコソ泥になんのようだ」

「我々は優秀なメイジが一人でも多くほしい、協力してくれないかね「土くれ」のフーケよ」

話の内容からしてここから出られそうだ、仲間になるふりをして隙を見て逃げだせばいい。聖地なんて自分には不相応だ。

「ここまでしゃべられては、同士になるか、死ぬだけなんだろ?
協力なんて言葉を使わずに強制させれば無駄もないだろうに。間抜けなのか?」

鼻で笑うように仮面の男にこたえる。勿論挑発する演技だ。

「……味方になるのか、ならないのか?どっちなんだ」

仮面の男は、長柄の杖を構えていらいらしながら言い放った。
凍るような胆力に流れ落ちそうになる冷や汗を押しとどめながら、反応が若いなと思った。

「もちろん、死にたくはないからね、喜んで協力させてもらうよ。
して連名の名前は教えて貰えるんだろうね」

男はポケットから鍵を取り出し、鉄格子についた錠前に差しこんで言った。

「レコン・キスタ」























朝。
気だるさを加味したような色気を出すルイズ、若干お疲れのサイト。
そして結局眠れなくて、目に少し隈をつくったキュルケが特に騒動もなく教室に現れた。
皆も思い思いに雑談をしつつ授業が始まるのをまっている。

しばらくして、ミスタ・ギトーが現れた。
彼は怒りやすく冷たく不気味な雰囲気から生徒達から嫌われている先生だった。
教室はしんと静まり返った。

「私の二つ名は「疾風」疾風のギトーだ。さて、最強の系統は知ってるかね?ミス・ツェルプストー」

ミスタ・ギトーは優秀な貴族にありがちな、自分の系統を重要視するような授業を進めていく。

「虚無じゃないんですか?」

疲れたようにキュルケは言い放つ。

「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いているんだ」

いちいち引っかかるような物言いをするギトーにかちんときたキュルケは少し考えて答える。

「それは、「火」の系統だと言いたいところですが、……わたしはルイズの「魔法」が最強だと思いますわ」

気だるそうに髪をかき上げながら、仕返しよとでも言うように悪戯っぽい目でルイズを見る。
周りの生徒もとたんにくすくすと笑い囃し立てる。

「確かに、誰にも真似できそうにもないな」

「ああ、ルイズの魔法の被害といったら、同じクラスで被害にあってない人がいない程さ」

ギトーは腰の杖を引き抜くと面白そうに言い放った。

「ほう、それではミス・ヴァリエール。試しに君の得意な系統の魔法をぶつけてきたまえ」

得意な系統の魔法と聞いてさらに笑いが起こった。
それを煩わしそうにギトーは杖を振るい黙らせる。

「万が一先生に怪我をさせてはいけません、それに皆に迷惑をかけてしまうかもしれないわ?そうでしょ」

刺すような笑みを浮かべぷるぷると震えながら立ちあがるルイズ。
それでもサイトが横にいるのを確かめると落ち着き自信ありげな笑みに変えた。少し成長したようだ。
皆事の重大さを理解したのか、悪態をつきながら机の下にもぐり始める。

「かまわない、これは授業だ。最強の系統というものを諸君らに教えよう」

そして修練を積んだルイズの魔法がいきなり腹で爆発し、風の魔法で跳ね返す間もなく吹き飛ばされギトーは気絶した。
驚くことに教室に大きな被害はなく、ギトーの一部のみを爆破していたのだった。


そこに慌てたようにミスタ・コルベールが入ってきた。
コルベールはギトーを踏みつけて転び、頭に乗せていた珍妙で馬鹿でかいロールの金髪のかつらが吹っ飛んだ。
それは図ったように教卓に乗っかり、まるで往年のドリフのコントでも見ているようだった。

突然の事に固まり静まっていた教室は、

「滑りやすい」

小さく嘆くように言ったタバサの一言をかわきりに爆笑の渦に包まれた。








「黙りなさい、ええい、黙りなさい小童どもが!大口を開けて下品に笑うとはまったく貴族にあるまじき行い!
貴族はおかしい時は下を向いてこっそり笑うものですぞ!これでは王宮に教育の成果が疑われる」

とりあえずその剣幕に教室中が大人しくなった。ギトーは相変わらず気絶したままだった。

「えーおほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって良き日であります。
始祖ブリミルの降臨際に並ぶめでたい日でありますぞ」

コルベールは横を向くと、後ろ手に手を組んだ。

「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、
本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」

教室がざわめいた。

「したがって、粗相があってはいけません。急な事ですが、今から全力を挙げて、歓迎式典の準備を行います。
そのために本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列すること」

生徒達は、緊張した面持ちになると一斉に頷いた。ミスタ・コルベールは重々しげに頷くと窓辺に移動しながら目を見張って怒鳴った。

「諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ!
覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい!よろしいですかな!」

そういうとしっかりと磨かれたコルベールの頭に太陽光が反射した。



「うおっ、まぶし」




サイトが叫び、教室はまたも爆笑の渦に包まれた。最後までしまらなかったコルベールであった。



[18350] ■現在14「その花の価値は」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/07 02:37
魔法学院に続く街道を、金の冠を御者台の隣につけた四頭立ての馬車が静々と歩んでいた。
馬車の所々には、金と銀とプラチナでできたリレーフが形どられた王家の紋章がある。
聖獣ユニコーンと水晶の杖が組み合わさった紋章は、この馬車が王女の馬車であることを示していた。

馬車の窓には、綺麗なレースのカーテンが下ろされ、中がうかがえないようになっていた。
馬車が通る街道は花々が咲き乱れ、口々に歓呼の声を上げる。

「トリステイン万歳、アンリエッタ姫殿下万歳」

ときおり、馬車の窓がそっと開き、うら若い王女が顔を見せると、街道の観衆たちの歓声が一段と高くなる。
王女は優雅に微笑を観衆になげかけた。




アンリエッタ王女はカーテンをおろし、深いため息をついた。
そこには先ほど観衆たちに見せた、薔薇のような笑顔はない。
あるのは年に似合わない苦悩と、深い憂いの色であった。

アンリエッタは、湖を思わすような薄いブルーの瞳に、すみれ色の淡い色みが波打つ髪、
気品のある顔立ち、瑞々しい体には白いドレスをつんと押しだすように豊かな胸が押し上げているのが見える。

白魚のような細い指で、水晶のついた杖をいじっている。
アンリエッタは王族であり、優秀な水のトライアングルメイジでもあった。

「これで本日十三回目ですぞ、殿下」

マザリーニは呆れたようにアンリエッタを嗜めた。

分かっている、分かっているがため息もつきたくなってしまう。
憂いは増えるばかりで、心配事は目下継続中、ままならない事ばかり。

「なにがですの?」

「ため息です。王族たるもの、無闇に臣下の前でため息などつくものではありませぬ」

国王が崩御した後、喪に服し続ける母親。
国の内政、外交を一手に引きうけるロマリア皇国の枢機卿。
殿下とは名ばかりの只の供物である自分。

「あら、トリステインの王はあなたでは?わたしはあなたのいいつけどおり。
ゲルマニアの皇帝に嫁ぐのですから」

ゲルマニアの皇帝アルブレヒト3世は、かなり年のはなれた厳格な顔つきをした男だった。
熾烈な権力争いを勝ち抜き皇帝についたというが、それがいったいなんだというのだろうか?
いずれ、いずれは、望まぬ結婚をしなくてはならないというのは分かっている。
それでも今母親は喪にふくしているというのだから、わたしもそっとしておいてくれればいいのに。

「しかたがありませぬ。ゲルマニアとの同盟は、トリステインにとって急務なのです」

でもわたしにとっては、同盟をしてトリステインを守れるか疑問だった。
親族ですら塔に幽閉しているという。トリステインの伝統が汚され乗っ取られてしまうのが落ちではないか。
それに……

「アルビオンに起きているあの忌々しい革命ですね。
ねえ、枢機卿、もし同盟が成立したらアルビオンの貴族派を止める手伝いを出来ますでしょうか」

「無理でしょうな」

そうなのだ、結局意味なんてないのだ。同盟がトリステインという小国に必要なのは分かる。
でも私には無意味だ。こうして供物のように取引されるのを我慢するのだ。ため息くらい許してほしい。

「先を読み、先に手を打つのが政治なのです、殿下。
革命後ハルゲニアを統一するなどと夢物語を掲げる貴族どもは恐らくはこのトリステインに矛先を向けてくるでしょう。
そうなってからでは遅いのです。ゲルマニアと同盟を結び、新政府対抗せねばトリステインは生き残れませぬ」

マザリーニは先の先まで考えていた。ゲルマニアと同盟を組み国の地盤を強化する。
アンリエッタ姫殿下が結婚後、第一子嫡男を授かればトリステインの空位を埋めることもできる。
そのように同盟には盛り込んであるし、軍事的にも習うべき箇所もたくさんある。
挟撃されることも取りあえずなくなるし、長期的に見てもこの同盟は成し遂げたい。

まさにトリステインのことであれば火竜の鱗の数まで知っているといわれる上に国一番の忠義をもつものだった。
ただ、その忠義は”トリステイン”への忠義であり、かつ乙女というものがどういうものかは知らなかったが……。


アンリエッタはつまらなそうに、だったら枢機卿が代わりに結婚すればいいのにと窓の外を見つめるだけだった。











マザリーニは、窓のカーテンをずらして外を見た。

羽帽子に長い口髭が凛凛しい精悍な顔立ちで、黒いマントの胸にグリフォンの刺繍がされている腹心の部下だった。
三つの魔法衛士隊の一つで特に枢機卿の覚えがいいグリフォン隊の若き隊長ワルド子爵である。
選りすぐりの貴族で構成された魔法衛士隊は、それぞれの隊の名前を冠する厳重に騎乗し、強力な魔法を操る畏怖とあこがれの象徴だった。

「ワルド子爵、殿下のご機嫌がうるわしゅうない。何か御気晴らしになるものを見つけてきれくれないかね」

「かしこまりました、猊下」

ワルドは高のような目で街道を見回すと、短くルーンを唱え軽い仕草で杖を振った。
つむじ風が舞い上がり、街道に咲いた花が摘まれワルドの手元にたぐりよせられた。

「殿下がおん手ずから受け取ってくださるそうだ」

花を渡されそうになってマザリーニは口髭をひねりながら伝えた。

「光栄にございます」

一礼すると馬車の反対側にまわりアンリエッタに手渡した。
アンリエッタは反対側の手を差し出し、口づけを許した。

「あなたは貴族の鏡のように、立派でございますわね」

「殿下の卑しきしもべにすぎませぬ」

最近ではこのような物言いをする貴族は減ってしまった。
地に落ちてしまう勢いの王族にも変わらぬ忠誠をしめそうという心意気に感動する。

「あなたの忠誠には期待してよろしいのでしょうか?もし、わたくしが困った時には……」

「そのような際には、戦の最中であろうが、空の上だろうが、なにをおいても駆けつける所在でございます」

アンリエッタは頷いた。ワルドは再び一礼すると馬車から離れていった。

「あの貴族は、使えるのかしら?」

「二つ名は「閃光」かのものに匹敵する使い手は、アルビオンにもそうそうおりますまい」

ワルド聞いたことある地名だった。
確かラ・ヴァリエール公爵領の近くだったはずだ、ヴァリエールといえば……懐かしい。
記憶の底をたどり、昔を懐かしみ微笑んだ。


「殿下、最近、宮廷と一部の貴族の間で、不穏な動きが確認されております」

アンリエッタはぴくりと体をふるわせた。

「殿下のめでたき御婚礼を、ないがしろにして、トリステインとゲルマニアの同盟を阻止しようとする
アルビオンの貴族の暗躍があるとか……」

もちろんマザリーニは、アンリエッタの手紙の事は知っていたが、本当に取るに足らないことなのだ。
少々面倒な事にはなるかもしれないが、ゲルマニアの皇帝はそんなことで同盟を破棄したりはしない。
そんなことよりも、先ほどからため息をつき、浮足立っているアンリエッタ姫殿下がかどわかされたり、事件に巻き込まれるのを心配したのだ。

「そのようなものたちに、つけこまれるような隙はありませんな?殿下」

だがそんなマザリーニの思いも、王族とはいえ政治の裏どころか、表門の入口にすらたどり着いていない十七の小娘に期待するだけ無駄なのだ。
マザリーニの言葉にアンリエッタには思い当たる節が一つあり、冷や汗をかくのだった。


「……ありませんわ」


動揺を気取られぬよう話題を変えるきっかけをさがし、
それからアンリエッタはため息をついて、手元の花をじっと見つめ寂しそうに呟いた。




「……花は街道に咲くのが、幸せなのではなくって?枢機卿」

「人の手によって摘み取られるのも、また花の幸せと存じます」




でも、それは摘み取る側の利己的な思いではないの?
摘み取られる花としては迷惑以上のなにものでもないわ。
やはり乙女というものを知らない枢機卿だった。



[18350] ■現在15 * 「鳥籠の鳥は空の夢を見る」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/09 05:30
魔法学院の正門をくぐって、王女の一行が現れると整列した生徒達はしゃんと小気味よい音とともに杖を掲げた。

馬車が止まると、召使いたちが駆け寄り、緋毛氈の絨毯を本塔の正門と馬車の扉まで敷き詰めた。
呼び出しの衛士が、緊張した声で王女の登場を告げる。

「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーーーーーーーーりーーーーーーーーッ!」

枢機卿の後に続くように王女が馬車から降り、薔薇のような微笑を浮かべると、優雅に手を振った。


サイトはその歓声と王女一行を少し離れた場所で見ていた。
隣にいるルイズを撫でながら思いをはせる。

サイトと見事な羽帽子をかぶり、鷲の頭と獅子の胴をもった幻獣にまたがるワルドの視線が合う。
何事もなかったように、業務に戻っているがワルド以上にワルドを知っているサイトには手に取る様に分かる。
今疑念で渦巻いて、今後の展開の修正でもめぐらしているのだろう。
残念だけど、どれも実現させてやるわけにはいかない。

ルイズの柔らかな髪に手櫛を通し、にこやかにほほ笑んでいるアンリエッタを見据える。






そして、その日の夜……。

窓の外をを覗けば双月の一つがまるでチャシャ猫の笑みのように形を変えている。
ルイズはベッドの上に人形のように座り込んでいる。
サイトに身を預け大人しくしている。静寂と夜風の音だけの心地よい時間を楽しんでいた。

規則正しいノックの音が静寂をやぶる。
ルイズは、聞き覚えのあるノックの音にはっとしながらドアを開ける。

真黒な頭巾をかぶった少女が、そそくさと部屋に入ると後ろ手で扉を閉めた。
頭巾と同じ漆黒のマントの隙間から魔法の杖を軽く振おうとしてを掴まれた。

「なっ」

サイトに頭巾を取られると現れたのはアンリエッタ王女だった。

「姫殿下!」

ルイズが慌てて膝をつく。

サイトは一礼し、窓に近づく。
しばらくして宵闇の音すら遮断されたように静寂に包まれた。

「この部屋は魔法の耳も目もなく、中の音が漏れることもありません。密会にはうってつけですよ」

後ろに下がったサイトを驚いたようにを見ていたアンリエッタは、
視線をルイズに動かし涼しげな心地よい声で言った。

「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」

ルイズの部屋に現れたアンリエッタは感極まった表情を浮かべ、膝をついたルイズを抱きしめた。

「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ」

「……姫殿下、こんな下賤な場所へ、お越しになるなんて一体何を」

堅い調子のルイズを寂しく思いながらも、幼少のころの幼い二人のお転婆話を続けていく。
そんなアンリエッタの様子にルイズも昔を懐かしむように二人の調子を戻していく。

「結婚するのよ、わたくし」

にっこりルイズの手を取り、笑って言った。どこか悲しみを含んだ声だった。

「……おめでとうございます」

それに答えるルイズも悲しみをまとった空気を感じ沈んだ声だった。
そこで、はたと気がついたのようにアンリエッタは尋ねった。

「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら?」

「姫様がお邪魔だなんて?どうして?」

「だって、そこの彼、あなたの恋人なんでしょう?どこの子息のかたかしら。
気がつかなくて申し訳ないわ、ルイズ紹介してくださらないの?」

「いえ、違うのです姫様。……その彼はわたしの最高の使い魔です」

少し照れたようにいういうルイズにきょとんとした面持ちでアンリエッタは聞き返す。

「使い魔?人にしかみえませんが……」

「人です。姫様」

するとみるみる顔を青ざめていくアンリエッタはすぐに確認した。

「ル、ルイズ。彼は、……その人なんですよね?使い魔を人に?
もしそれが本当だというのならば、外交問題にならないかしら」

所作一つみても優雅さがあり、完成された美と隠しきれない高貴さを感じるサイト。
トリステインなら、まだいい。ガリア、ゲルマニア、ロマリア、アルビオン……どの国だとしても大きな問題になりそうだ。

「姫様、どうか安心してください。彼はこの世界とは異なる世界から来ました。
いきなり召喚してしまったわたしを恨むでもなく協力してくれています。」

そう聞くとアンリエッタは安心したのか一息ついた。
にわかには信じがたいが、あのルイズがこれだけ信頼しているのだ。きっと嘘ではないのだろう。

「サイト・ヒラガと申します。お見知りおきを」

そういうと優雅に一礼する。ほぅと見ほれるルイズとアンリエッタだった。




「姫様、なにか心配事がおありでしょうか?」

ルイズはときたま心此処に非ずというようにため息をつくアンリエッタを心配していった。

「いえ、何でもないわ、あなたにまで心配させてしまうなんて恥ずかしいわ。
あなたにお話しできるような内容じゃないのに……」

「おっしゃってください。あんなに明るかった姫様がそんな風にため息をつくなんて、
なにかとんでもないようなお悩みがおありなのでしょう?」

ルイズは興奮したように問いただす。

「……いえ、話せません。悩みがあるということは忘れてちょうだい。ルイズ」

「いけません!昔はなんでも話しあったじゃございませんか。
わたしをお友達とよんでくださったのは姫様です。そのお友達に悩みを話せないのですか」

まるで三流の演劇でも見るかのように、つまらなそうにその光景を見るサイト。
何度見てもトリステインの劇場で見た演劇のがましだといえる。
少しは変化があるかと期待していたが、そんなこともなさそうだ。

「わたくしは、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが…」

「ゲルマニアに……ですか?あんな野蛮な成り上がりの国に!」

ゲルマニア嫌いのルイズは驚いたように声を上げた。

「そうよ、でも仕方がないの。同盟を結ぶためなのですから。
隣国アルビオンでは革命と称し貴族達が王室に反乱を起こしています。
その後には恥知らずにもトリステインへ進行してくるでしょう。」

そういうと、ハルケギニアの政治情勢を説明した。

「そうだったのですか……」

「いいのですよ、ルイズ。好きな相手と結婚するなんて、物心ついたときから諦めていますわ。
ただ出来ることなら、アルビオンが倒れる前になんとか手助けしたかったのですが……」

思い人の力に慣れない、それがアンリエッタには悔しかった。

「姫様……」

「さらにため息をつきたくもなるのですが、どうやら同盟の妨げとなる材料を血眼になり探す貴族達がいるようです。」

「もしや……その同盟を妨げる材料と婚姻に関係があるのですか?」

ルイズは顔を蒼白にしながら尋ねた。アンリエッタは悲しそうに悲劇に酔うように頷いた。

「おお、始祖ブリミルよ……この不幸な姫をお救いください」

アンリエッタは顔を両手で覆うと、床に崩れ落ちた。

「……それは、わたくしが以前したためた一通の手紙なのです」

「手紙?その手紙とはいったい、どんな内容が記されていたのでしょうか?」

「それは……言えません。ですが、その手紙がゲルマニアの皇室に渡れば、けして私を許してはくれないでしょう。
トリステインとの同盟は反故。となると、トリステインはあの一国にてあの強力なアルビオンに立ち向かわなければならないでしょう」

そんなことにはならないよ、姫様。
この同盟は、もっと利権の絡んだどろどろとしたもんなんだよ。
実際長い繰り返しでアルビオンの手紙を無視した時も何もなかったしね。

だから別に無理してアルビオンに行かなくてもいい。なにせ一番初めに遭遇する死亡率の高い難所でもある。
それでも王室に食い込めるこのイベントを利用しない手はない。だからマザリーニにも言わない。
慎重に行けば危険度も低くなるし、新しいスキルもある今多少の無茶もできる。

「いったい、その手紙はどこにあるのですか?まさか、既に敵の手に!?」

アンリエッタは首を振った。

「いいえ、確かにアルビオンに手紙はあります。その手紙を持っているのはアルビオンの反乱勢と
骨肉の争いを繰り広げている、王家のウェールズ皇太子が持っているのです……」

「では、姫様わたしに頼みたいということは……」

「無理よ、無理よルイズ!わたくしったら、なんてことでしょう。混乱しているんだわ。
考えてみれば、貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険な事、頼めるわけがありませんわ」

まるで自分に酔うようにアンリエッタの意をくむように答えようとするルイズをサイトは制する。


「本当に分かっていますか?それとも自覚なしにこんなことをしているのですか?」


それまで黙っていたサイトがいきなり口を挟んできたことにアンリエッタは驚いている。
まさか話に加わってくるとは思わなかったのだ。

「ええ分かっております、こんな危険な事頼むことはできないわ」

悲しそうに目を伏せるアンリエッタ。

「姫様!「土くれ」のフーケを捕まえたわたくしめにお任せください」

サイトは周りが見えなくなっているルイズをとらえるとベッドに座らせる。

「こんな風に友達が死地に向かおうとするのが分かっていましたか?
まさか友達の口から自主的にそんな言葉が出てくることを狙ったわけじゃないでしょう?」

「それは……」

「サイト…少し言いすぎじゃ」

「いえ、いいのですよルイズ。たしかにわたくしも淡く期待してしまった部分もあります。
けして否定できることではないのです……」

それでも、ルイズは姫様に頼られるということがとても嬉しかった。
サイトは話を先に進める。

「苦言を呈しますが最初から友達としてではなく、部下として忠義を求めればよかったのです。
これはルイズだけじゃなく姫様自信も貶める行為ですよ」

アンリエッタは申し訳なさそうにルイズをみてうなだれている。

「司書で調べたところ、アルビオンは陸路ではなく空路、一介の学生では潜入は難しいです。
戦時中であれば、通行手段が一つしかない船は必ず調べられてしまうでしょう。
さらに戦況は悪く、既に追い詰められている皇太子の元にたどりつくのも難しいです、
例え辿りたどりついても、皇太子側からの信用を得られるか……」

ルイズは考えてもみもしなかったことをつきつけられ青ざめた。

「姫様。もしルイズが死んでしまったらどうするのですか?
ヴァリエール家にはなんといって説明するのですか?ヴァリエール家は真実をしったらどうするでしょうかね。
アルビオンの二の舞になりかねませんよ。
もしルイズがアルビオンの反乱勢側に捉えられたら?間違いなく皇太子側の枷になるでしょうね。
そしてその後トリステインに攻め入られる時に、不利な交渉の材料となるでしょうね。たとえ同盟が成しえたとしてもです」

アンリエッタは蒼白になり両手を覆っていてルイズはそれを慰めている。

「サイト、本当にどうにもならないの……?」

状況は絶望的だった、それでもわたしの最高の導き手ならどうにかしてくれるのでは。そんな一抹の願いだった。

「なんとかなるよ」

「「え!?」」

アンリエッタとルイズは顔を上げてサイトを見た。

「でも危険なことには変わりないんだ。それを知ってほしかったし、しっかりと考えてほしかった」

サイト……ルイズは熱っぽい目で見つめる。
ちゃんとサイトはわたしのことを考えてくれている。

「サイトさん……忠言痛み入ります。どうか、どうかよろしくお願いします」

誰にも頼ることが出来ず、自分のせいで国が危険にさらされるところだったのだ。
安堵のため息をつくアンリエッタ。





安堵するアンリエッタに悪魔の誘惑とでもいうようにサイトはいう。

「姫様、もし皇太子を生きて連れてこれるとしたらどうします?」

するとそれまで行動が嘘のようにサイトにすがりつく問いただすアンリエッタ。その行動にルイズも驚いている。

「サイトさん、本当ですか!?本当にそんなことが可能なのですか?
お願いします。どうかあの可愛そうなウェールズ皇太子をお救いください。」

サイトはそんなアンリエッタを見つめながら呟く。

「姫様はどのくらい覚悟がおありですか?」

アンリエッタは取り乱しながら懸命に考える。
そんな様子をサイトは綺麗な笑顔で見つめている。

「報酬ならいくらでも準備します。宝物であれば……用意できるものであれば
トリステインの地位も少し時間がかかりますが準備します。わたしに用意できるものであればなんでも、なんでも準備します!!」

サイトは頷きながら、肯定とも否定ともつかない言葉をゆっくりと紡ぐ。

「お金、物、地位。それが姫様の覚悟であるならば。
それがあなたの考えるウェールズ皇太子の命の価値であれば」

アンリエッタは涙目になった。分からなかった。
何を差し出せば、あの人の価値に釣り合うのか。



「ルイズ、ルイズが姫様の手助けをするのを叶えるために契約しようか」

ルイズはいきなりの事にびっくりしたが、抱き寄せられてまるで密に誘われる蝶のようにサイトに近づき口づけをした。
それを驚いたようにアンリエッタは見ていた。アンリエッタを見ていたサイトと目があった。

わたし、ウェールズ様のことが好きなのに……好きなのに?

少しずつサイトににじりよる。

わたしは、わたしはウェールズ様の命の価値に届くくらいの価値はあるだろうか。

涙が頬を伝う。ウェールズ様……。ウェールズ様………。
好きな人と関係を結ぶこともできないのなら、ウェールズ様を助けるために。



「サイトさん、わたくしともウェールズ様を助けるため契約をしてくれませんか?」

そして涙を流しながら、サイトの唇に近づく。
ああ、ごめんなさいウェールズ様……。アンリエッタは絶望しながらその口づけに幸せを感じていた。


そして鳥籠の鳥は差し出された。









「んちゅっ、ん、んうっ、ぁぅ」

涙を流し困惑しながらキスを続けるアンリエッタ。
ルイズは丁寧にマントや絹の手袋をはぎ取っていく。
イブニングドレスもするりと下ろされ、生まれたままの姿だった。

「ルイズ、姫様が痛くないように手伝ってくれ」

同性も見ほれるような染み一つない透明な透き通る肌。
南の海のように鮮やかな瞳、魅力的な胸。

恐る恐るサイトに習いアンリエッタの体を撫でていく。

白い肌と肌が絡み合い、月明かりが幻想的に彩る。
サイトが口づけを肌に落とすと、ルイズも同じように口づける。
初めてあった男に、懐かしい友達に体を嬲られる。

「あぁ……あああ」

気持ちがいい、とろけてしまう。
普通じゃない状況にもう何も考えられそうにない。

「あふ、ふぁぅ……もう立っていられません。せめてベッドに……」

そう言われサイトはアンリエッタをベッドではなく窓の近くに連れて行った。

「そんな…誰かに、誰かに見られてしまいます!」

両手で体を隠しながら首を振る。
サイトはその両手を掴み、背面立位にするために窓ガラスに手をつかせる。

「こんな夜更けに高い階の窓を見る人なんていやしないよ」

「やっ! は…あぁ……ひどい…」

でも、でも……わたくしに覚悟が足りないのでしょうか?また涙が一筋出る。
ぐいっと腰を押し付けられると、胸が窓ガラスに張りつき形をぐにゃりとかえる。
ひんやりとした感触だが、体の中心は燃えるように熱い。そのアンバランスがますます体を震わせていった。

「ふぁっ……あぁっ…んっ…」

ルイズとサイトに二人がかりで攻められる。キスをしながら大きな胸や背中に手をすべらされていく。
アンリエッタの中心に指がはうとびくびくっと体を震わせる。ルイズとサイトは二人で交互に何度も中心に指を這わせる。

「姫様……可愛い」

「やぁっ……いわないで」

ルイズとアンリエッタもキスをする。

それを見計らったかのように、くちゅという音がしてサイトの剛直が入口にあてられゆっくりと挿入される。
じわりとした痛みを堪えて涙を流す。

ルイズはアンリエッタの淫らな血が滴り落ちる割れ目に痛みを和らげるように舌を伸ばす。
柔らかい茂みがルイズを撫でる。割れ目や刺激されてぷっくりと腫れ上った突起を舐めていく。
サイトとアンリエッタの味が混ざり、とても不思議な味がする。

「ああ、ルイズ。そんな所に口をつけては……」

サイトが動いているので舌がたまにサイトの肉に触れるのが少しせつない。
アンリエッタも痛みがやわらいでいたのか、中をすると甘い痛みに身をよじる。
サイトはあまり負担を掛けないように、こみ上げる射精感を我慢しなかった。

「アンリエッタ、中にだすぞ」

「ふぁ?……あぁ…ああああ」

アンリエッタは思いきり躰をしならせてサイトを締め付けて登りつめると気絶し、
サイトもアンリエッタを支えるようにしながら中に欲望を吐き出した。
ルイズは赤と白の混じりあう液体が流れ落ちるのを懸命になめとった。



アンリエッタが目を覚ますと自分の体に押しつぶされるようにルイズの上に乗せられていた。
ルイズは快感に溺れるように呆けた表情をしている。
ルイズの小さな胸のビンビンに膨れている乳首をアンリエッタの胸で潰すようにしている。
サイトが動くたびに、ルイズとアンリエッタの乳首がすれてしびれるような快感を生み出している。

「ぁ…っ…あ、やっ…ぁ…やぁ…ぁん」

二人の声が混ざっていく。恥丘がこすれあい二人でどこまでも上り詰めていく。
まるで二つの異なる最高級の楽器を調律するようにサイトは快楽を刻んでいく。



その鮮やかで艶かしいメロディーは宵闇に吸い込まれていった。



[18350] ■現在16「ロシェール渓谷の策略」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/10 01:49
細工は流々仕上げを御覧じろってことでアルビオン行きの準備は整えた。

昨夜はマチルダのお陰で部屋の声はもれないし、部屋を見張らせているのでギーシュやワルドの乱入もない。
せっかくギーシュとは友好的なのにここで波風立てる必要はない。
もちろん水の指輪と手紙を受け取ってあるし、アンリエッタは部屋まで送って行った。



朝もやの中、ギーシュとサイトは、馬に蔵をつけている。
錆びたデルフリンガーを背おい、ナイフをベルトにさし、ギーシュに作ってもらった1サント程の青銅の球を100個ずつ二つの筒にいれている。
マルトー印の燻製圧縮したチーズ等の携帯食料に、対魔コーティングを施した手袋、これが今回の装備だ。
ギーシュとルイズは私服に乗馬用のブーツを履いている。それぞれの杖とマントをつけるだけの軽装だ。魔法使いは楽でいい。

当たり前のようにギーシュがいるが、今回の任務の要なので姫様からの重要な任務を受けたとだけ伝えて連れてきた。
基本女の人の頼みは断れないギーシュだ。しかも姫様の頼みとあらば、なんたる名誉かと二つ返事で了承した。

サイトはルイズを二人乗り用の大きめの駿馬に乗せると、ギーシュが困ったように言った。

「サイト、僕の使い魔も連れて行きたいんだがかまわないだろうか?」

決闘後に和解し能力開発につきあったため関係は良好、今回大幅に戦闘能力の下がってしまったサイトとしては是非とも協力してもらわなければならない。
ルイズも戦力に数えているし、過去英雄と呼ばれたギーシュの伸び代を考えると二人とも今のうちから鍛えたい。
タバサ、キュルケは既にトライアングルであるうえに戦闘能力には長ける。最低でもそこまでは行ってほしい。

「ああ、ヴェルダンテも任務を達成するために必要だからな」

そういうと、ルイズの馬にまとわりつこうとするヴェルダンテを優しく手で制する。

「今回一番重要なのはルイズだ。戦力としても期待しているし絶対に守る。
だから、自分の身は自分で守ってほしいけど、成果はでてるんだろ?」

「あれから、君も特訓の成果をみていないからね、楽しみにしていいよ」

そういうと造花の杖を口に咥える。こういう所がなければ尚良いと思うんだがギーシュの本質でもあるし仕方がない所である。


ルイズは、最初ギーシュなんかを連れていくのかと思ったが、サイトをみると結構信頼しているようなので任せることにした。
今回改めて思ったけれども、本当にサイトは頼りになるわたしも姫様もきっと導いてくれるに違いない。
なにより姫様に頼られ、サイトに頼られ、今まで頼られることのなかったルイズはなにか胸が温かくなるような思いだった。


そして、馬に乗りこもうとしたサイトとギーシュだったが、タイミングを見計らったかのように朝もやの中から一人の長身の貴族が現れた。
朝もやで遠目には分かりにくいが、羽帽子をかぶっている魔法衛士隊、グリフォン隊隊長ワルドだ。

「誰だ」

ギーシュを手で制し、サイトが尋ねる。

「僕は敵じゃない。姫殿下より、君達に同行することを命じられてね。君達だけではやはり心もとないらしい。
しかし、お忍びの任務である故、一部隊つけるわけにはいかぬ。そこで僕が指名されたって訳だ」

長身の貴族は帽子を取ると一礼した。

「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」

アンリエッタにはあれだけ念を入れたので本当に同行だけしか頼んでないのだろう。
今ワルドがいることもアンリエッタに問い詰めた結果だろう、流石に四六時中アンリエッタの近くにいるわけにはいかないから仕方がない。
下手な事をいっても証拠がないため、変に混乱させるだけとあれば、まあ出来る範囲でしか対策は取れない。
前に一度出会いがしらに問答無用でワルドを殺した時は、まったく孤立し処刑されるまでいってしまって悲惨だった……。

ワルドとしても3つの目標を達成するためにも、絶対にここは外せない。



サイト、ギーシュ、ルイズは馬から降り、失礼のないように一礼する。

「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!!」

人懐っこい笑みを浮かべると、ルイズに駆け寄り抱き上げようとする。
それをサイトは体で制し、ルイズの間にわって入る。ルイズも完全にサイトの背中に隠れてしまった。

「むっ、なんだね君は。失礼じゃないか」

「ルイズの使い魔のサイト・ヒラガと申します。
僭越ながら子爵様、女王陛下から勅命を受けた証はございますか?
任務の特性上、その場で勅命を確認したわけでもないので……。
例えそれが自分の親であれ信用できません」

ふむっと困ったように頷きながらワルドは答える。

「なんともしっかりした使い魔くんだね。最初見たときはどこぞの貴族かと思ったが……
まさか、人を使い魔とするなんてね。流石僕のルイズといったところかな。
たしかに君のいうとおり保証は出来ないが、同行を頼まれたのも確かだ。今から姫様の元に向かうかい?」

これがブラフだとしたらそうとうな胆力だ。まあ本当に同行は頼まれたのだろう。

「そうでしたか、わかりました。失礼な行為をしてしまい申し訳ありません」

ワルドは気さくな感じでこたえた。

「いやいや、こちらもいささか配慮に欠けていたよ。学生といえ少し侮っていたかな。
本当にぼくの婚約者がお世話になっているようだね。
しかし、安心してくれたまえ。どんな困難な任務であれ、私がルイズを護り必ずや成功させることを誓おう。
それに久しぶりの婚約者との再会だ。長く離れた時を埋めるように語らうのもよかろう」

ルイズに近づこうとするワルド。

「ごめんなさい、ワルド子爵様……」

さらにサイトの後ろに隠れるルイズ。
それを驚いたように見るワルド。

「もうしわけありません、ワルド子爵。アンリエッタ姫にもルイズにも口を酸っぱくして教えたのですが、
今回の任務の詳細は三人しか知りませんし、今後増える予定もありません。
婚約者であろうと今回に限って言えば、全面的にまかせられないのです。

そして仮にも任務の最中です、語らうのはまた平時にしてはいただけませんか?時間はあるのですから。
主人を護るのもお任せください。その為の使い魔なのですから」

なるほど、それでいくら聞いても詳細が分からなかったわけだ。
任務内容の予測はついているからいいが、この使い魔正直やりにくい……。

「そうか、それでは仕方ないな。くれぐれも頼んだよ、使い魔くん」

ワルドは内心の思いを微塵も出さずに、残念そうな顔をしながらグリフォンにまたがった。
三人も予定通り馬にまたがりアルビオンに向けて出発した。






アンリエッタは出発する一行を学園長室の窓から見つめていた。

「彼女たちに加護をお与えください。始祖ブリミルよ……」

目を閉じて、手を組んで祈る。困難な任務に向かう一行の無事を願い一心に祈った。

その祈りを破る様に扉がどんどんとたたかれ、ミスタ・コルベールが飛び込んできた。

「いいいい、一大事ですぞ!オールド・オスマン」

「きみはいつでも一大事ではないか。どうも君はあわてんぼでいかん」

「慌てもしますぞ!なにせ、城からの知らせですが、チェルノボークの牢獄から、フーケが脱獄しました」

「ふむ……」

オスマンは口髭をひねりながらうなった。

「門番の話では、さる貴族を名乗る怪しい人物に風の魔法で気絶させられたそうです。
魔法衛士隊が、王女のお供で出払っている隙に、何者かが脱獄の手引をしたのですぞ!
つまり、城下に裏切り者がいるということです。これが大事でなくてなんなのですか!」

アンリエッタの顔が蒼白になった。

オスマンは手を振ると、コルベールに退室を促した。
コルベールがいなくなると、アンリエッタは、机に手をついてため息をついた。

「城下に裏切り者が!間違いありません、アルビオン貴族の暗躍ですわ」

「そうかもしれませんな……」

オスマンの煮え切らない態度に、アンリエッタは業を煮やした。

「トリステインの未来がかかっているのですよ、なぜそのような余裕の態度を……」

「すでに杖は振られたのですぞ。我々にできることは、信じて待つことだけ。違いますかな?」

「そうですが……」

「なあに、彼ならば、どんな困難があろうとも、やってくれますでな」

「彼というと……ルイズの使い魔でしょうか」

オスマンは、すぐに彼の事を言い当てたのを驚きながら頷いた。

「未だ底の見えない使い魔ですな。途方もない魅力をもち全てを見据えるような眼をしている。
まだひよっこのような年でありながら、このわしをもってしても全てを測りきれない程ですのじゃ」

「オールド・オスマンをもってしてもですか……」

アンリエッタは遠くを見つめるような目になった。
その少年の唇の感触どころか、情熱の芯が自分の体に残っている。鈍い痛みの残る太ももに力を入れて閉じた。
アンリエッタは唇を指でなぞり、目をつむり祈りながら心の中でつぶやいた。

(祈りましょう、異世界から吹く風に)







港町ラ・ロシェールは、トリステインから離れること早馬で二日、アルビオンでの玄関口である。
港町でありながら、狭い峡谷の間の山道に設けられた小さな町である。
人口はおよそ三百程だが、アルビオンと行き来する人々で、常に十倍以上の人間が街を闊歩している。

狭い山道を挟むようにしてそそり立つ崖の一枚岩をうがって、旅籠やら商店が並んでいた。
立派な建物の形をしているが、並ぶ建物の一軒一軒が、同じ岩から削りだされたものであることが近づくとわかる。
土系統のスクウェアメイジたちの巧みの技である、魔法にはこのように色々な使い道があるのだ。

峡谷に挟まれた街なので、昼間でも薄暗い。
狭い裏通りの奥深く、さらに狭い路地裏の一角に、はね扉のついた居酒屋があった。
酒樽の形をした看板には「金の酒樽亭」と書かれている、金どころか廃屋にしかみえないほど小汚い。

所詮は傭兵やならず者がつどう場末の酒場だ。
そんな金の酒樽亭も本日は満員御礼だった、内戦状態のアルビオンから帰ってきた傭兵たちだった。

「アルビオンの王様はもう終わりだね」

「いやはや!共和制って奴の始まりなのか」

「では、共和制に乾杯」

そう言ってがははと笑っているのは、アルビオンの王党派についていた傭兵たちであった。
別に恥じる行為ではない、敗軍に最後まで付き合う傭兵などいないのだ。
職業意識よりも命のほうが惜しい、命あっての物種である。それゆえ命よりも誇りを重きとする貴族とは相いれない存在でもある。

ひとしきり乾杯がすむと、はね扉をががたんと開き、小柄な男が一人酒場に現れた。
こんな場所に一人で来るのは珍しいのか一瞬注目を浴びたが、すぐに興味を失ったのか思い思いにまた飲み始める。
男はワインと肉料理を注文すると、隅っこの席に腰かけた。酒と料理が運ばれてくると、給仕に金貨を渡した。

「こ、こんなに、よろしいんで?」

「泊り賃もはいっている。部屋はあいてるか?」

似合わない自分らしからぬ行動だが、これも仕方がないと割り切っている。
金を持っているとわかると、酒を飲んで気が大きくなったのか幾人かの男が席に近づいてきた。

「よーお、兄弟。一人で飲んでたって楽しくないだろ」

肩を軽々しくたたきにやにやした笑いを浮かべている。

「いや、静かに飲みたい質でね」

そういうと小物らしい笑いを浮かべた。偽フーケだった。

「おいおーい、兄弟、つれねえなあ。んな寂しいこといってねーでよお。
一緒にのもーじゃねーか。ついでに奢ってくれるとうれしいんだけどな」

「そうだそうだ、なあ結構もってんだろ?俺達負け戦についちまってよ。
ちいとばっかし、懐が寂しいんだよ、な、いいだろ?」

そういい下婢た笑いを浮かべ、取りだしたナイフでぺちぺちと頬を叩く。

偽フーケは杖を一振りすると、懐からジンジャークッキー人形のような15サント程のゴーレムが出てきた。
素早い動きでナイフの刃を折り、傭兵の男に破片を投げつけた。それは頬をかすり、はね扉に刺さった。

「き、貴族!?」

マントを羽織ってないのでメイジだとは気がつかなかったのである。

「魔法は使うが貴族じゃないな」

男たちは呆気にとられて顔を見合わせた。貴族でないなら命を落とす心配はなさそうだ。
今のような行いを貴族にすれば、それはもう殺されても文句がいえないのである。

この土の少ない酒場で男は器用にゴーレムを作り出していた。
ゴーレムはてくてくと懐から金貨の袋を取り、傭兵のほうへよちよちと歩いていく。

「お前たちを雇いに来た。報酬はそれだ」

そう聞くと年かさの男が人形から恐る恐る金貨袋を受け取り中身を確認する。

「おほ、エキュー金貨じゃねえか」

はね扉を開いて、今度は白い仮面にマントの男が現れた。偽フーケを脱獄させた貴族である。

「おや、早かったね」

その奇妙ないでたちをみて傭兵たちは息を飲んだ。

「連中が出発した」

「こっちもあんたに言われた通り、人を雇ったよ」

白い仮面の男は、偽フーケに雇われた傭兵たちを見回した。

「ところで、貴様ら、アルビオンの王党派に雇われてたのか?」

傭兵たちは愛想笑いを浮かべて答えた。

「へい、先月までは」

「でも、負けるような奴は主人じゃねえや」

傭兵たちは笑った、白い仮面の男もわらった。

「金は言い値を払おう。しかし俺はあまっちょろい王様じゃない。逃げたら殺す」






サイト達は急ぎながらも無茶のない旅を楽しんでした。
サイトの馬術は相当なもので、ルイズはただただ身を任せていればいいのだった。
時折サイトとルイズは会話を交わしては、ルイズは華のような笑みを浮かべている。
それを一人先行するわけにもいかないワルドは少し上空からグリフォンに乗り見ているだけしかできなかった。

歯噛みしながらもすぐに心を落ち着かせた、手はず通りであればラ・ロシェールの入口で襲撃がある。
無理はしてないが長時間の馬での進行である。疲れきっているところで何が出来ようか、
その時にルイズを護り、あの使い魔から引き離す。そうすれば手なずけるの訳ないだろう。なあに時間はあるのだ。


そして、その日の夜中にラ・ロシェールの入口についた。
良い感じに皆の体力が落ちているし、もうすぐ一息つける安心感で緊張も一度ほぐれているだろう。

「使い魔くん達、少し待ちたまえ」

ここだと思い、ワルドは声を掛ける。

「ふむ、こう気の抜けた場面で襲撃があることもそう少ないことでもない。
街の入口とはいえ、山道を利用しているから高低差もあり見晴らしも良くない。
そしてここら辺は治安もよくない、夜盗や山賊でもいるかもしれん。警戒することにこしたことはないよ」

なんだそんなことかとサイトは答える。

「大丈夫です、早く行きましょう」

「むっ、きみも年長者の意見に少しは耳を傾けてもいいんじゃないか」

ワルドは少し気分を害したように言った。

「奇襲だ!」

風の音が聞こえたのか、月に向かってワルドは杖を構えようとする。
月をバックに見慣れた幻獣が姿を見せた。ルイズが驚いて声を上げた。

「シルフィード」

確かにそれはタバサの風竜であった。地面に降りてくると、赤い髪の少女が風竜からぴょんと飛び降りて髪をかきあげた。

「お待たせ」

ルイズがサイトにしがみついたままキュルケに怒鳴った。

「お待たせじゃないわよ、何しにきたの!」

「朝方、窓から見てたらあなたたちが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、
急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」

恐るべきはあの朝もやのなかでも面白いものを逃さないキュルケの目である。
タバサもきちんと着替えたらしく、風竜の背で本をめくっている。目を悪くするぞ。

「ツェルプストー。あのねえ、これはお忍びなのよ?」

「お忍び?だったら、そういいなさいよ。行ってくれなきゃ分からないじゃないのよ」

何とも無茶苦茶な事を言う。

「それより、さっき面白いものをみたのよ。崖の上に首だけ埋まった人たちがいたわ。
何をしてたのかしら?トリステインでは岩の中に埋まるのが流行っているの?」

疑問に答えるようにサイトが言う。

「それは、きっと夜盗だろうねキュルケ。おれの子飼いに先行して此処まで梅雨払いさせたんだよ。
というわけで、港町までは絶対安全な道を通ってきていたんですよ。ワルド子爵」

ルイズは、サイトすごいと一層しがみつくのだった。
キュルケも対抗して馬に乗って背中にしがみつこうとしたが無理があるとサイトにたしなめられていた。

振る場所のない構えていた杖をゆっくりおろしてワルドは、一言そうかと呟いた。




道の向こうに両脇を渓谷で挟まれた、ラ・ロシェールの街の灯りが妖しく輝いていた。



[18350] ■現在17「ワルドくずし」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/13 00:32
ラ・ロシェールで一番上等な宿「女神の杵」亭に泊ることにした一行は、一階の酒場でくつろいでいた。
流石に一日中馬や竜に乗っていたのでクタクタになっていた。
「女神の杵」亭は貴族を相手するだけあって豪華な造りである。
テーブルは床と同じ一枚岩からの削りだしで人が写るくらいピカピカにみがきあげられていた。顔が映るくらいである。


そこに「桟橋」へ乗船の交渉に行っていたサイトとルイズが帰ってきた。

「皆明日昼、アルビオンに出航する」

ワルドが驚いたように慌てて聞き返す。

「明日!?明日はスヴェルの月夜ではないのか?ラ・ロシェールに一番近づくのは明後日の朝だろう?
ここから出る船は風石を最低限しか積まないだろうに、よくそんな船があったな」

「いえ、子爵。おれが交渉した船も最低限しか積んでいませんでしたよ」

「ならどうして、明日昼に出向できるのかね。明後日の朝までは出航出来ないはずだ」

サイドは驚いたような子爵にゆっくりとこたえる。

「子爵、もし出航出来る一番いい日が一ヶ月後ならそこまで待つのですか?
足りないなら、足せばいいだけじゃないですか。
すぐにでも出航したかったのですが、皆の疲れも少なくない。
他の船から風石を移す時間も考えて、明日昼に出航するのです」

「なるほど、しかし……」

それでも納得がいかないかのようにワルドはいう。

「子爵、これは急務です。多少の出費は姫様とも話し合い済みです。
過ぎ去った時間はお金では買えませんよ?それとも他に理由でも?」

「いや、早いに越したことはない。その手腕に驚いたのさ」

ワルドは本当に驚いたというように両手を挙げた。

「では、部屋もとりましたので今日は寝ましょうか」

サイトは鍵束を机の上に置いた。


「キュルケとタバサは相部屋。子爵とギーシュが相部屋。そしておれとルイズが同室です」

ワルドはぎょっとして、サイトに問いかけた。

「少し待ちたまえ、なぜ男の君がルイズと同室なんだね。
婚約者である僕とルイズが一緒の部屋になるべきだ!」

ワルドのその物言いに今度はワルド以外の全員がぎょっとする。

「子爵落ち着いてください、おれは男である前に使い魔です。
今までも魔法学院でずっとルイズと同室でした、なにかおかしいことがございましょうか。
そして子爵は婚約者とあれども男ですよ、婚前前に同室になるなどいったい何を考えているのですか!」

タバサもキュルケもギーシュもうんうんと頷く。
無茶苦茶を言っているようで、きちんとトリステインの理にかなっている。

「そ、そうか。ルイズと大事な話があったのだが……」

「子爵……重ねて申し上げますが任務中ですよ?それは本当に今じゃなきゃいけませんか?
今夜は皆疲れています。休むことに専念したほうがいいでしょう」

もうワルドも黙る以外すべはなかった。これではどちらが大人か分からないくらいである。
なんとか明日こそは挽回しようとそう心に誓うワルドであった。








翌朝の早朝扉がノックされた音でサイトは目が覚めた。ルイズはまだ眠っている。
扉をあけるとワルドが目の前に立っていた。

「おはよう、使い魔くん」

おはようにも少し早い時間である。出発はお昼なのでもう少し惰眠をむさぼりたかったが…まあ史実通りということなのだろう。

「おはようございます、ワルド子爵。こんな朝早くにどうしました?
出航準備にもまだ時間がありますが、それにルイズもまだ寝ています」

「そうか、流石に朝早いからね。ルイズというよりも実は君に用があってね、
まあそのルイズにも用があるのだが起こしてもらえないかな?」

「……わかりました。着替えもありますのでロビーでおまちください」

サイトは戦闘準備をしつつ、ルイズを優しく起こした。
それでも朝が弱いルイズ、不機嫌ルイズの出来あがりである。

サイトとルイズがロビーに到着するとワルドは万全の格好で待っていた。

「ワルド子爵、おはようございます」

少し不機嫌そうだが優雅にルイズは一礼する。

「おはよう、ルイズ。よく昨日は眠れたかい?」

ワルドはにっこりと笑うが、ルイズの体調を心配した言葉も朝早く起こされたルイズからすると嫌味にしかとれない。
こっちだとでも言うようにロビーから中庭にあるきだすワルド、しかたなくサイトとルイズは後ろに続く。

「それで、子爵。おれとルイズに何のようですか?」

ワルドは不敵に笑うと杖を引き抜いた。

「使い魔くん、君に手合わせをお願いしたくてね。
この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦だったんだよ、その為の中庭に練兵場があるんだ」

いきなりのことで驚きルイズは言葉も出ない。


練兵場は、今ではただの物置き場となっている。
樽や空き箱が積まれ、かつての栄華を懐かしむかのように、石でできた旗立て台が苔むして佇んでいる。

「昔……、といっても君にはわからんだろうが、かのフィリップ三世の治下には、ここでよく貴族が決闘したものさ」

「はぁ」

何度も聞いたので知っていたのだが、話が進まなくなるので相槌をうった。

「古き良き時代、王がまだ力を持ち貴族たちがそれに従った時代…、貴族が貴族らしかった時代、
名誉と誇りを掛けて僕たちは貴族は魔法を唱えあった。でも実際はくだらないことで杖を抜きあったものさ。そう例えば女を取り合ったりね」

我に返ったルイズは驚いてワルドを止めた。

「ワルド子爵、今はそのようなことをしている場合では……」

「しかしだね、ルイズ。これから向かう場所は戦場なんだよ。
僕はもちろんルイズを護る力があるが、使い魔くんの実力が分からないだろう?
婚約者を護るという以上、その実力を知らなければとても任せられない」

ここまで来ると何を言ってももはや無駄だった。
ルイズは十分サイトの実力を知っていたが、相手は魔法衛士隊隊長である。
不安そうにサイトをうかがうルイズの頭を優しくなでながら、大丈夫とサイトはにこりと微笑んだ。

「分かりました子爵。若輩者故全力で参ります」



そういうと練兵場の真ん中まで向かい10歩程右側に向かって歩き剣を構えた。


「ふむ、かまわん。きたまえ」


ワルドはサイトとは反対側に10歩程歩き杖を構えた。
ルイズは顔を赤くしながら、勝利を祈る様に両手を合わせた。もちろんサイトの勝利をである。



サイトは両者がそろうのを確認すると一呼吸置いてからデルフリンガーを引き抜き、一足飛びに飛んで切りかかった。
ワルドは杖でサイトの剣を受けとめた。細身の杖で受け流すようにがっちりと長剣を受けとめている。
そのまま後ろに下がったかと思うと、風切り音とともに驚く頬の速さで突きを返した。

サイトはワルドの突きを切り上げた剣で払う。
魔法衛士隊の黒いマントを翻らせて、ワルドは優雅に飛び退り構えを整えた。

「なんでぇ、あいつ、魔法を使わないのか?」

デルフがとぼけた声で言いサイトは冷静に返答する。

「いや、最初の切り結びは様子見だろ。隙があれば使ってくるさ。
まあ手合わせだから、そこまで強力なのは来ないと思う」

「しっかし、相棒の心は平坦だな。あんまり力がわいてこねえや」

デルフの一言にサイトは困ったように苦笑する。



「魔法衛士隊のメイジは、ただ魔法を唱えるわけじゃないんだ」

ワルドは羽帽子に手をかけて言った。

「詠唱さえ、戦いに特化している。杖を構える仕草、突き出す動作……、
杖を剣のように扱いつつ詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本さ」

サイトは低く構えると、愚直に攻め続けた。大振りの一撃で風切り音がうなる。
風をも切る連撃をワルドはなんなくかわした。あるときは見切り、あるときは杖で受け流し、それでいて息一つ乱さない。

「きみは確かに素早い。しかし動きが単調で隙も多い。早いだけで動きも素人だ」

サイトの攻撃をかわし、後頭部に一撃を入れようとするが、
攻撃しているようで防御に専念しているサイトはこの一撃を防ぐ。

「そろそろ、こちらからも攻撃させてもらおうか」

勝利を確信し洗練された動きで、杖を構え一定のリズムを刻もうとする。
杖で攻撃しながら、魔法を唱えるつもりだ。

「デル・イr……ぐぁあああ!!」


常人では見えない程のゆるぎない勝利をもたらすはずの突きが途中で崩れた。
それはサイトにとって何度も何度も刻まれたリズムだった。

ワルドは瞬間何をされたか分からなかった、
見ると杖を握っている人差し指があらぬ方向に曲がっている。
コトッと青銅の玉が床に落ちる。

サイトが切り払うとデルフリンガーが杖に当たり闘技場の壁のほうまでふっ飛ばされた。
指のしびれと痛みで杖を握りしめることが出来なかったのだ。
返す刀でワルドの首筋にあてている。サイトは初めからこの一打を狙っていたのだ。

「杖を狙われたか…、参った……」

ワルドがうなだれて敗北を認めた。
信じられないと膝をつき屈辱に震える。

サイトはワルドにゆっくりと手をさしのばし、立ち上がらせて回復用のポーションを手渡した。

「ワルド子爵が油断してくれていなければとても勝てませんでしたよ。
所詮素人の動作ですし、初めから魔法を使わず手加減してくれたからこそですね。
で、どうですか?ルイズを護る使い魔として十分に役目を果たせると思いますが」

ワルドは低く唸り黙るしかなかった。
確かにサイトの言うとおり、素早くとも動きはどうみても素人
最後の一撃も油断していなければ食らうはずのないものだし、
そう…最初から魔法を使っていれば負けるはずはない戦いだった、
全てが遅すぎた…、口惜しいが戦力の分析は出来た。
まったくこれが本番でなくて良かった、隠し玉も把握できたし次は絶対勝てる。

「まさしく全力で来られたわけだ、いやまいったね
使い魔くんになら安心してまかせられそうだね。この任務中は頼んだよ」

「ええ、もちろんです」

ルイズはまたも驚いてサイトを見ていた。
サイトには驚かされてばかりだが、今度は魔法衛士隊の隊長に手加減されたとはいえ勝ったのだ。
陛下を護る守護隊、その中でも一握りの選ばれた猛者だ。

「ワルド子爵急ぎましょう。本来こんなことをして油を売っている場合じゃないですよ。
旅籠を出る準備は出来ていますか?回復用のポーションも今回用意したのはそれで最後です……
そんなことより長いは無用ですね。ルイズはおれと一緒に準備しようか」

ちらりと心配そうにルイズはワルドに視線を向けたが、
薬もあるし、思い返してみれば自分は止めたのだ、いうなれば自業自得なところもある。
すぐにサイトの手を握り部屋に戻っていった。

ワルドは心配しているルイズに一瞬笑みを浮かべ嬉しそうにしたが、
すぐに去っていくのを見ると歯噛みした、それに先ほどのサイトの言葉もちくちくと突きささる。
こんなはずじゃなかったはずなのに、どうも上手く歯車がかみ合わないと感じるワルドだった。











昼も近づきはじめたころ「女神の杵」亭のロビーで5人は待ち呆けていた。
サイト、ルイズ、タバサ、キュルケ、ギーシュである。
決闘終了から一時間ほど時間が過ぎていたが、まだワルドの準備が終わってないのか部屋から出てこない。

サイトに声かけられた後割りとすぐに準備が終わったタバサ、キュルケ、ギーシュ。
少し遅れてサイトとルイズが現れ、ワルドの決闘の件を伝え遅れたことを詫びた。

その後何時まで経っても準備が終わらないワルドにサイトとギーシュが手伝いを申し出たが、
ワルドは何かと理由をつけてやんわりと断っていた。
ワルドとしても予定が変わりすぎてしまい、なんとか帳尻を合わせるために時間を稼いでいるのだった。


堪え気のないルイズはいらいらしつつも、ワルド子爵という手前表に出せなかった。
ロビーをせわしなく行ったり来たりしている。
同じくらい堪え気のないキュルケはまったく隠そうとしていないが、

「まったく、急務だっていっているのにいったい何をしているのかしらね。どこが閃光なのか教えてほしいわあ
もしかして女でも口説く早さが閃光なのかしら?きっと今頃は立派なひげをととのえてる最中よ」

「キュルケ、いくらなんでも失礼だわ」

そうたしなめるルイズも限界を超えてしまいそうだ。

「ワルド子爵は怪我をしているんだろう?僕も手伝いを申し出てみたんだけどね、断られてしまったよ」

ギーシュもやれやれと困った顔をしている。
タバサは、こんな時でもマイペースに本を読んでいる。



それからさらに時間がたち、ようやくワルドの準備が終わったのかロビーに現れた。

「皆手間取ってしまいすまない、どうもまだ指が痺れるようで上手くいかなくてね」

キュルケも何か言いたそうにしていたが、流石に大人でもありそれなりに高い地位にいるワルドに面と向かって文句は言えないでいた。

「使い魔くん、先ほどは最後の回復用のポーションを使わせてしまってすまないね。
一つ提案なのだが、急ぎの任務といえど考えていたより早く出発出来る事だし装備を少し整えてはどうかな」

そんな提案も二の句をつげさせずサイトは答えた。

「いえ、ワルド子爵。今から店を探し装備を整える時間は惜しいです。
普通であれば明後日のところを急務であるため昼に出航出来るよう調整しました。
それを考えると早いどころか、色々あって遅れているくらいです……。
ですが……これだけ子爵を待つ時間が余るなら補充しておけばよかったですね、気がつかなくて申し訳ありません」

「そうか、いや、すまない。それでは出発しようじゃないか」

ワルドは皆の視線にいたたまれなくなり先を促す。




そこへ、ヒュッという音と共に一本の矢が床に突き刺さった。
幸い周りの宿泊客もすぐに気がつき蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「敵襲だ!!!」

ワルドが鋭い声を上げると床と一体化しているテーブルの脚を折り盾とした。
わらわらと傭兵たちが次々に現れる、ラ・ロシェール中の傭兵が束になって掛ってきているらしく手に負えないくらいだ。
歴戦の傭兵たちは戦いに慣れているのか、緒戦でキュルケ達の魔法の射程を見極めると
魔法の射程外から、矢をあられのように射かけてきた。日の光を背にした傭兵たちに地の利があり屋内の一行は分が悪い。

さらに悪いことに巨大なゴーレムの足が、吹きさらしの向こうに見えている。
遠くからずしんずしんという音が聞こえる。

「あの巨大なゴーレムはなんだ!」

同じ土系統の使い手としてギーシュは驚いている。
サイトは首をかしげている。これはいったいどういうことなのだろうか?
フーケのゴーレムより一回り大きい。フーケはこちらの仲間にいれたはずだが……どれほどの使い手をそろえたのだろうか。


「やつらはちびちびとこっちに魔法を使わせて、精神力が切れたところを見計らい一斉に突撃するわよ、どうするの?」

キュルケが杖をいじりながら呟いた。確かにこのままではジリ貧だ。
ロビーから遮蔽物の多い酒場のほうに後退していく。
サイトはすぐに考え、本来の作戦に修正をいれ決断した。

「キュルケ、タバサ。足止め任せていいか?」

ワルドが発言しようとするのを遮ってサイトが二人に頼み込んだ。
貴重な戦力だがこうなってしまった以上やむをえない。
襲撃を見越して随分時間を早めたつもりだったが、それでもこれだけ兵力をそろえるとはそう簡単にはいかないということか。


キュルケは、魅力的な燃えるように赤い髪をかきあげ、つまらなそうに口をとがらせながら言った。

「まっトリステインの任務だものしかたないわね。
ここはわたしたちが止めとくから、さっさといっちゃいなさい」

こんなときでも優雅に本を読んでいたタバサが本を閉じて、自分とキュルケを指差す。

「囮」

「ああ、二人とも頼りにしている。深追いせずに危険を感じたら戦線離脱してほしい」

そういうと、最後にタバサに耳打ちをしてルイズを抱きかかえるとサイトは走り出した。


「ギーシュは先頭で警戒、ワルド子爵はしんがりをお願いします」

先頭を先行していきたかったワルドだったが、もう二人は先に進んでしまった仕方がない。





酒場から厨房に出て、通用口にたどりつくと酒場のほうから怒声や喧騒が聞こえてくる。

「……始まったようだね」

ギーシュが先頭を警戒しながら話しかける。

「それにしても二人だけで大丈夫だろうか、僕も残ったほうがよかったんじゃないかい?」

男として女性だけを残していくことが不満なのだろう。
初めての戦闘で気分が高揚している、サイトと修練したからか不思議と恐怖が少ない。

「いや、トライアングルクラスが二人もいれば十分だろ?
一応策は与えてきたし、ゴーレムだけなら速度もないし逃げ切れるだろう?
大切なのは姫様の任務の成功だよ、ギーシュ」

心配ないとサイトはギーシュに答える。

「でもあれだけ頑張ってくれるなんて、きゅるけにはご褒美が必要かしら?」

ルイズは小首をかしげながら言った。
酒場のテーブルの後ろで、タバサと作戦を練っていたキュルケの背筋に一瞬悪寒が走った。


ワルドがそろったのを見計らい、ギーシュは裏口から向こうの様子をうかがった。
誰もいないのを確認し、ラ・ロシェールの街へ一行は駈け出して行った。



[18350] ■現在18「中身のない襲撃戦」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/14 02:08
裏口の方へサイトたちが向かったことを確認すると、タバサとキュルケは作戦を実行に移す。


比較的軽装の傭兵たちは後ろに構え、弓を打ってけん制している。
それに合わせるように鉄や銅などの複合金属で出来た鎧をまとった重装備の傭兵がこちらの距離を詰めて攻め込もうとしていた。
重装備の傭兵は剣や斧などをもって、魔法を警戒しながらゆっくりと進んでいく。

その中には大きめな盾までもっている兵士もいる。
下手な魔法も1~2撃程であれば耐えれそうである。
しっかりとした手がたい布陣である。


タバサは、その傭兵軍団を迎え撃つようにしてテーブルの盾に身を隠しながらすらすらと呪文を詠唱する。
唱えたのは風の基本魔法で射られた矢も失速させるくらいの強さをもっている。
それでも重装備の傭兵からしてみれば、かなり進みにくくなるが痛みもなくむしろ心地いいくらいであった。

タバサの呪文は風の刃や不可視の槌のように殺傷能力はないものの敵全体に効果を及ぼしている。
敵も数に物をいわせてきているので、風の刃等では一方を攻撃している間にもう一方に攻め込まれてしまうので、うかつに範囲の狭い魔法を使うことは出来なかった


「おいおい、嬢ちゃんたち、気持ちのいい風で歓迎でもしてくれるつもりかあ。
大人しくしてりゃ、おれたちもお礼に気持ちのいい歓迎をしてやってもいいがな、なあ?」

ぎゃはは、と下品な笑い声が響く。
メイジといえど女子供が二人だけどあって、完全に勝ち戦のつもりだ。


キュルケはつまらなそうに立ち上がり、優雅に髪をかきあげる。

「あら、あなたたちじゃとても満足できそうにありませんけど、
それでも構わないというのであれば、この微熱のキュルケが謹んでお相手つかまつりますわ」

キュルケは魅惑的な褐色の肌をさらし杖を構えた、両腕を前のほうで組んでいるので胸が押しあがっている。
ヒューと傭兵どもから口笛が鳴った。

「ありゃかなりの上玉じゃねえか、面白みのねえ依頼だと思ったが存外楽しめそうだ」

じりじりと傭兵どもが近づいてくる。近づくほど風が強くなるが進めない程ではない。
キュルケは色気たっぷりの仕草で呪文を詠唱し杖を振るう。


「でへへ、おれなんか興奮で体の芯から熱くなってきちまったよ」

「お前もか?本当に熱くなってっ………て状態じゃねえぞ」

見ると周りも同じような状態で、酷いものだと呻き声をあげてる者もいる。
比較的後ろにいたからよかったものの、殆どの傭兵が武器を持つことが出来ず地面に落としている。

前のほうの傭兵たちは、肉が焦げるような臭いとともにのたうちまわっていた。
お陰でさらに進むことも難しくなっている。まるで地獄絵図だ。


すると、恵みの雨とでもいうようにかポツポツと水滴が飛んでくる。

「雨…?でもここ室内じゃ…」

本当に雨であれば熱も下がるところだが、攻め込んで室内にいるここで雨が降るわけもなかった。
鼻をさすような匂いにこれが恵みの雨じゃないことに気がつき顔を青ざめる。

「あ、油だぁああ!!!!」

撤退しようにも鎧が熱くて上手くいかない、鎧もすぐにはぎ取れるわけなく成すすべがない。
軽装備の傭兵にまで油が届いたかと思うと、キュルケから発火の魔法が詠唱された。

風の防壁にまぎれていた油に引火し、またたく間に炎が広がっていく。
後方支援していた傭兵の装備は燃えやすく、どうにか火を消しながら逃げ惑っている
もはや連携して攻撃など出来るわけがなく、ただただ蜘蛛の子を散らすように逃げるばかりだ。
前方まで攻めていた傭兵たちで逃げれた者はいない。みな鎧の中でローストされたようになっている。

「それにしても、えげつない作戦ね…」

キュルケは若干冷や汗をかいている。タバサもこくりと頷いた。
タバサもキュルケもトライアングルのメイジなので技の威力は強い。
それでも今回しようした魔法は系統の中でも初歩の初歩。人を殺すほどの威力はないはずだった。

タバサは最初風の魔法で敵の動きを遅くし、それをキュルケが火の魔法で温める。
さしずめ殺人ドライヤーといったところだろうか?
しっかり装備された鎧は銅や鉄を混ぜた質の悪い合金で出来ているが熱が伝わりやすい。
そして皮膚に密着しているため熱された鎧に肌が焼けただれ、機動力を奪っていく。
追い打ちで油を少量ずつ混ぜた風が全体にいきわたると同時に発火で火をつける。
制限が多い限定的な作戦だが、今回は上手くはまり最大効率で戦果をあげたようだ。





「ほう、上手いな」

巨大ゴーレムのうえで偽フーケは感嘆の声をあげた。

「まあ平民どもに初めから期待はしてないさ、戦力を分担できただけ御の字といったところだな
あれだけの使い手がいれば、今後の作戦も少々厄介になっただろうからな」

白い仮面の男は冷静に言うのを聞き、偽フーケは呆れたように確認する。

「それよりいいのか?追わなくて。もう一方もまるで疾風のように素早い行動じゃないか」

「分かっている。あとは煮るなり焼くなり好きにしろ。
それほどのゴーレムを錬金できるのならあとは任せられるな、合流は例の酒場で」

男はひらりとゴーレムの肩から飛び降りると暗闇に消えた。
風のように柔らかく、それでいてひやっとするような動きだった。


完全に仮面の男が見えなくなると、虚勢の仮面を脱ぎ棄て偽フーケはようやく安堵の息をつき呟いた。

「ふぅ、ようやくいったか。
このゴーレムの秘密、今奴に知られるわけにはいかないからな」

もちろん例の酒場になんかいくつもりはゼロである。







タバサとキュルケは、完全に傭兵たちがいなくなるのを見ると入口から外に向かって飛び出した。

前方には偽フーケが作ったゴーレムがゆっくりと歩いてきている。
その大きさは、魔法学院を襲撃したゴーレムよりも巨大だった。
キュルケは慌てたようにタバサに確認する。

「サイトから何か作戦は?」

タバサはふるふると首を振る。

「聞いてない」

「ど、どうするのよ、これ。この前よりずっと大きいじゃない」

「前と同じ作戦は無理」

タバサの言うことは最もだった。
ここラ・ロシェールは岩場が多く、ぬかるみをつくるに十分な土が足りなかった。

「くっ、万事休すじゃないのお」

巨大なゴーレムが近づいてくる威圧感に二人は慌てる。
攻撃をするわけでもないのにただずしりずしりと近づいてくるだけで効果は絶大だ。
先ほど油を使いきってしまったしギーシュがいないので大容量の炎も作れない。




「なにか変」

タバサが何かを感じ取っている。

「前と違う」

「前と違って大きいわね」

キュルケが頷きながら答える。タバサは首を振りながら答える。

「攻撃してこない」

たしかに、拳を振るうなり腕を廻すなり岩を飛ばすなり方法があるはずだ。
もちろん前だって、大いに暴れていたのだ。
それなのに思い返してみればこのゴーレムったら歩くだけしかしていないのである。

あまりの大きさに怖がっていたがおかしすぎる。

「ちょっと攻撃してみよっか?」

こくりとタバサが頷くと鋭い氷の槍を作り、キュルケも炎の玉を作る。

「えいっ!」

気の抜けるような声で二人は魔法を放つ、ゴーレムは魔法をもろともせず跳ね返……したりしなかった

「え!?効いた?」

キュルケは間の抜けた声をあげる。


「あっやばっ!」


それを見た偽フーケはガンダールヴ並みの速さで一目散に逃げ出した。
あまりの素早さと巨大ゴーレムの状態に驚き追うことが出来なかった。

巨大ゴーレムは魔法をくらった部分に見事な風穴をあけて青空を覗かせている。




「わたしたちの魔法ってこんなに強力だったかしら」

「違う」

タバサが指差す所をみるとキュルケは大きな声で笑い出した。

「なにこれ、くふふっ、こんなゴーレム、ふふっ、みたことないわ、あははは」

タバサも堪え切れないのか小刻みに震えて笑っている。


なんと巨大ゴーレムの中身は空洞で外郭は薄く中はすかすかだった。まるで張り子の虎のようである。
しかも偽フーケが支える術を止めたため、自重に耐えきれずぐしゃりと崩れてしまった。

まったく攻撃できないわけがである。

まあ偽フーケはラインメイジなのでそもそもこれほど巨大なゴーレムを作ることができるはずがない。
フーケだと勘違いされた所以の苦肉の策だった。見事にワルドは騙されたようだが……。
偽フーケがラインメイジだということを知ってるのは本人とサイトだけだし、
今回の偽フーケは初めてだったのでこう展開が変わるとは知らなかったが、終わりよければ全てよしである。









キュルケとタバサが笑い転げているころ、桟橋へとサイト達は走った。
長い長い階段を上がると丘の上に出た。巨大な樹が四方八方に枝を広げている。
その枝の先のほうに巨大な木の実のようにぶら下がっているのが目的の空を飛ぶ船なのだ。

樹の根元に近づき目当てのプレートを見つけると一行はかけ上がり始めた。
木でできた階段は一段ごとにしなる。手すりが付いているものの、ぼろくて心もとない。

途中の踊り場で、後ろから追いすがる足音にワルドは気がついてにやりと笑った。
サイトが振り向くとワルドの頭上を飛び越し白い仮面の男が現れるところだった。

ワルドはじりじりと距離を詰めつつも攻撃しない。
サイトはルイズをおろし剣を構えた。ギーシュはルイズを護る様に杖を構えている。

「使い魔くん、挟み撃ちだ!どちらか一方を攻撃する隙をつくぞ」

もちろんワルドに攻撃が来るわけもなく、サイトを攻撃させたいので呪文を唱えるのを律儀に待っている。
サイトはデルフリンガー(未覚醒)の魔法軽減と魔法抵抗の装備である程度対策をしているがそれでもダメージを覚悟した。
白い仮面の男は腰から黒塗りの杖を引き抜き魔法の詠唱を始めた。

男の頭上の空気が冷え始める。
サイトは牽制とばかりにナイフを一本投げたが、上空へ飛びなんなく一撃をかわした。

「ファイヤーボール!」

そこへ鈴の音を鳴らすような凛とした声が響く。
ルイズが杖を振るってよけた先に魔法を詠唱していた。

仮面の男は避けるのが間に合わぬと感じると風の壁を作ろうとして失敗した。
予告もなしに手元が爆発したため杖を落とし階段から落ちて行ったのだった。

「なっ…」

ワルドは火の玉であればどさくさに紛れて風でかきけそうとしていた所を、
ルイズが目を合わせた座標がいきなり爆発するのをみて驚愕した。


「また、失敗しちゃったわね」

なんていいながら照れているルイズの頭をサイトはなでなでと撫でながら褒める。

「流石ルイズの魔法だな、本当に助かった。
ワルド子爵がしんがりを務めてたから安心しすぎていたよ、
こうも簡単に襲われるとは思わなかったんだ」

油断はしてなかったが、まさかここまで露骨に手を抜くとは思わなかった。
前はワルドも形なりにも応戦していたのに……なので、しっかり嫌味を言うのも忘れない。
そしてまたルイズを抱き上げる、ルイズも嬉しそうに首に手をまわした。
柔らかな重みを堪能しつつ、目的地に向かって駈け出して行った。


ワルドは不憫にも本当にいいところが一つもなかった。





そして無事火の秘薬という餌を積んだ商船は、なんの問題もなく四人を乗せラ・ロシェールから出航した。



[18350] ■現在19 * 「アンコンディショナル」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/16 23:47
「出航だ!もやいを放て!帆を打て」

既に準備万全だった船は、風石の力をもって空中に浮かびあがる。

「アルビオンには何時つく?」

ワルドが尋ねると船長は答えた。

「明日朝になる前にはつきまさあ」

大樹の隙間からラ・ロシェールの街並みが凄い勢いで遠ざかるのが見える。





甲板でサイトは痛むことがないはずの腕をさする。
アルビオンの大使任務を受けるときに、火傷をしなかったのは本当に久しぶりだ。

大使任務を受けない場合は、王宮への介入が難しくなる。
大使任務を受けた場合は、ワルドへの対応次第で今後の戦況が大きく変わってくる。
前に一度デルフ事前覚醒でふるぼっこにしたら、侮りがたしとでも思ったのか対策を練られて厄介だった。
勢い余って礼拝堂で殺してしまった時は、こちらが準備をする前にトリステインに攻め込まれた。あれは悲惨だった。

なので最近は面倒になって、闘技場でも負けてたし雷も食らっていた。
サイトにとって痛みも死も退屈を紛らわす程度のことでしかないのだから問題なかった。



少しオレンジがかかったような薄い雲と、夕闇を切り裂くような赤い積雲が雲間から見える。
川の流れが切れた大地から雲に滝のように水が流れる。この水がハルケギニアに降り注ぎ雨となるらしい。
高々と見える山々に所々鬱蒼とした森のように木々が生い茂っているのが見える。まるでラピュタだ。

日没と共にみるアルビオンはまた格別だった。サイトは日没が好きだった。
何年たっても太陽が沈むのみるのは、変わらず物悲しいものであったから。



「外は少し寒いわね」

サイトがいなくなって探しに来たルイズだった。
本当はもっと前にサイトを見つけていたのだが憂いを帯びたサイトの表情があまりに綺麗で声をかけづらかったのだ。
ルイズはサイトの背中にぽふっと頭を擦り付けて押し黙った。

わたしの最強の使い魔は強く聡明で芯がぶれない。そしていつも正しくわたしを導いてくれる。
でも最近気がついたのだけれど、稀に今みたいな顔をしているときがある。
薄く柔らかい笑みを浮かべながら笑っていない。わたしなんかではサイトがわからないのかも知れない。
わからない、けれど知りたい。
サイトの事好きなのかな?好きだけどそれは違うと思った。自分の事もよくわからない。

それでも大切な使い魔がそんな顔をしているのが許せなかった。
護られてばかりのわたしがいうのもおかしいかも知れないけれど、サイトに降り注ぐ全てのものから護ってあげたい。
この思いは何だろう?ちいねえさまなら、意味を教えてくれるかしら。

「ああ、ルイズか。今アルビオンの夕陽をみていたんだ。
寒さで空気が澄んで、空の赤が綺麗に見えるだろ?もうすぐ日の入りも終わるころだ。
時間的にあと一刻程でアルビオン大陸につくよ、予定より遅くなってしまったけどね」

その眼はどれだけ遠くをどれだけ先を見ているのかしら。
サイト、わたしはそこに映っているの?

甲板は凄く冷える、えいえいとサイトを物陰に押しやる。
もうすぐ戦場へアルビオンへ到着するという。不安になる。

「サイト、寒いの。温めて?ご主人様命令よ」

命令という名のただのお願い。
サイトにくっついてブロンドの髪を押し付ける。
サイトにくっつくと幸せを感じる。もっと幸せを感じたい。
サイトにも温かくなってもらいたい。

サイトは優しく髪を撫でている。言葉はないけれどその優しさに凄く大人を感じる。
年なんてそう離れていないはずなのに、所為の一つ一つに不思議と安心させられる。

足りないもっとサイトが欲しい、サイトを感じたい。
あんな眼で空を見ないでほしい。

チャックを降ろすと柔らかいサイトのそれを手で掴む。
膝立ちでサイトを包み込むように座り、スカートで見えなくなっている部分の薄布をずらす。
まだ濡れてなく解されていないそこにやわらかいサイトのをむりやり押しこむ。

「ぁ……かはっ、ぁ、はぅん、ぁー……」

「ル、ルイズ?」

ルイズらしからぬ行動にサイトは驚いた。ルイズからサイトを求めるのも今回でははじめてだ。
みちみち押し込まれきゅうきゅうとサイトを包む。

「んぅ、くぅ…ぅ…ん……おっ…きくなってきたぁ…」

こんな所見られたらまずいと思いつつもルイズの顔を見たら咎められなかった。
切なそうに悲しそうに幸せそうに純真で清楚なルイズの顔がとろけている。

「サイトぉ……サイトきもちい?あったかい?」

ぐんっと大きくなるのがわかる。
堪えるように拳を握ってサイトの胸の上に置かれていた手を、
顔を抑えて眼を合わすように固定する。

「ぁは♪ぁっ、サイト、んぅ、ちゅっ、んちゅ」

キスをしながら、踊る様に腰を動かす。
桃色の髪がスカートがマントがひらひらと揺れる淫らなダンスだ。
こぷこぷと蜜があふれ潤滑油となっている。
きつい締め付けで奥まで咥えこんで子宮にキスをしている。

「あ、ひくひくしてる。だす?んはぅ、昨日しなかったもんね。
いっぱいでるよね?サイト、だしてぇ、ぅぅ、ぃきそう」

ぎちぎちに締め付けられているのを押し返すように膨らみ始めている。
このまま中に出すのは、風呂にも入れないうえに空賊イベントが控えてる今は拙い。
ルイズの中から引き抜くと、ルイズを下にさがらせ口の中にねじ込む。
その乱暴な行いに、ルイズはぷしっと蜜があふれショーツを濡らしていく。

「ルイズ出すぞ、全部受け取れ」

ルイズは舌で動きを邪魔しないようにして小さな可愛らしい口で受けとめる。

どくどくどくっ!

頭を押さえ逃げられないようにして大量の精液が、ルイズの口内に吐き出される。

ごくっ、ごきゅっ、ごくっ。
きゅうぅっ!きゅきゅぅっ!ぷしゅぅっ!

潮が容赦なくショーツを濡らし、快感が脳髄を突き抜ける。幸せの味だ。
ねばりついて喉にひっかかる牡を溢さないように飲んでいく。
ゼリーのような固りをちゅるちゅると吸い上げ、口の中にこびりついたそれも舌で綺麗にしていく。


サイトはハンカチを水で濡らし、ルイズを綺麗にしていく。
二人の熱気をアルビオンの空気が覚ますかのようにして強い風が吹いた。




その時鐘楼に上った見張りの船員が大きな声をあげた。

「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」

強い風によって払われた雲間から、船が一隻近づいてきている。
サイトの乗った船より一回り大きく、舷側に空いた穴からは、大砲が突き出ているのが見える。

ルイズとサイトは顔を見合わせると船長室へ向かう。
ワルドとギーシュも既に到着していた。

「おや、ルイズとサイトもどこへ行ってたんだい?」

「ああ、甲板で外の景色を見ていた。騒ぎを聞いて駆けつけてきたんだよ」

「ところで、あまり穏やかには見えそうにもないが大丈夫だろうか」

「あれは旗も見えなかったし、空賊の類じゃないかな」

そんなサイトとギーシュの会話を聞いていた船長は慌てたように答える。

「く、空賊!?逃げなくては、貴族派の積み荷がとられたらうちは破産だ」

内乱の混乱に乗じて空賊の動きが活発になっていると噂を聞いている。
この積み荷は貴族派に売りつけて儲けようとかき集めた硫黄なのだ。
慌てて船長は船を空賊から遠ざけようとした。

「雲間からかなり接近されていたから、逃げるのは無理だろうね」

サイトがそういうと船の針路に向けて脅しの一発が放たれた。
ぼごん!と鈍い音がして、砲弾が雲の彼方へ消えていく。

黒船のマストに四色の旗流信号が上がっていく。

「停船命令です、船長」

船長が助けを求めるようにこちらを見る。

「ふむ、僕の風の魔法で撃退してみせようじゃないか。
今の今まで温存出来ているからね、スクウェアクラスの魔法だ悪くない作戦だと思うよ」

船長は驚き助かったという表情でワルドを見た。
ワルドとしてもこんな予定にない襲撃はごめんこうむりたい。
幸いアルビオンまでの距離もそんなにあるわけではない。
相手は二十数門の片舷側にずらりと並び、こちらの装備といえば三門の移動式の大砲のみだ。

しかしすべての砲弾を風の盾で防ぎ、こちらの砲弾で牽制しつつ逃げに徹する。
メイジがいた場合は少々きついことになるが、そう分の悪いかけでもないように思える。
何よりワルドは自分の魔法に絶対の自信をもっていた。ルイズへの見せ場にもなる。

「ワルド子爵、あなたはルイズの安全を願わないのですか?
あちらに数多くメイジがいたらどうするのですか?こちらは戦える人間が四人。
向こうは空賊を今まで続けてこれたのですから襲撃に敏い、もし抵抗した撤退に失敗したら殺されてしまうでしょうね」

かつてワルドに言われた言葉だった。
ワルドはいらいらとしながら言い返す。

「ならば、何かいい案があるというのかね?確かに確実に安全であるとは言い切れない。
しかしここで捕まってしまっては、元も子もなくなってしまうのではないのかね。
危険は承知だし、考えた上で最善の案をだしたつもりだ。
君は戦のイロハもしらない子供ではないか、魔法衛士隊の隊長でもある僕の案に従えないのか?
そもそも反論するなら、何かまともな策でもあるんだろうね?」

激昂するワルドに平然とサイトは答える。

「捕まりましょう。捕まっても貴族であれば悪いようには扱われないでしょう。
杖や剣を渡してしまえば何も出来ないと油断します。
何せ大人一人に子供三人だ。おまけに皆貴族に見えますからね。
そこを内部から切り崩しましょう、頭さえ抑えれば乗っ取れます」

ルイズは、このまま逃げても積み荷は貴族派に渡ってしまうし、
最終的に乗っ取れるならサイト案のほうが分が良いように聞こえた。
わたしの信じるサイトならば絶対になんとかしてくれる。

「ワルド子爵、サイトの案にしましょう」

なっ!とワルドは驚いた、まさかルイズが魔法衛士隊の自分の意見より使い魔ごときの意見を優先するとは思わなかったからだ。
ギーシュを睨みつけるように見据えた。ギーシュは、単純にサイト案のほうが安全だと思った。

「僕もサイトの案がいいと思います。ワルド子爵の案では最悪の場合死んでしまいます」

そういわれてしまうと流石にこれ以上押しとおすわけにも行かなかった。
それに反発したのはこの船の船長だった。

「そんな、勘弁してくださいよ旦那さん方逃げれる可能性があるなら逃げましょうや、
この積み荷が無事貴族派に届きましたら、運賃は只でいいですぜ。
いや、報酬も支払いやすよ、悪い話じゃないでしょう」

そんな船長にサイトはにっこり笑って言い放つ。

「悪いね船長。僕ら王党派なんだ」

貴族派も一人いるけどねとこっそり心の中で付け加えた。
がっくり項垂れる船長であった。





黒船の舷側に弓やフリント・ロック銃を持った男たちが並びこちらに狙いを定めている。
鉤のついたロープがはなたれ、船の舷縁に引っかかる。
手に斧や曲刀で武装した屈強な男たちが乗り込んできた。

ワルドのグリフォンがぎゃんぎゃん騒いだが、頭に青白い雲が現れ寝かしつけられた。

「メイジが少なくとも一人いるようですね。手練のようですよ?危なかったですね」

ワルドは歯噛みするしかなかった。



サイト主導で安全に?捕まり船の船倉に押し込められた。
サイト達は武器や杖を取られ扉の鍵を閉められた。したがって手も足も出ない状態である。

「これで本当に何とかなるんだろうね?」

ワルドがジト目でこちらを見ている。
倉には穀物や火薬樽が並んでいる重たい砲弾が積まれているが役に立ちそうにもない。
サイトはしゅるりと自分のベルトを抜いて手に持った、淡く力がめぐるのを感じる。

扉が開き、少し太った男がスープを乗せた皿をもって扉の中に入ってきた。

「飯だ」

サイトが受け取ろうと立ち上がると、男がそれを制す。

「おっと、男たちは動くなよ。嬢ちゃんが受け取りな」

ルイズが悔しそうに受け取ろうとすると、男はルイズが取れないように皿を持ち上げた。

「皿を受け取るのは、こちらの質問に答えてからだ」

「皿ぐらい置きなさいよ、安全を保障してくれるなら質問くらい答えるわ」

そうだな、と頷くと皿をルイズに渡し見せつけるように腰の剣に触ると、
ドアを閉めようと目線をドアノブに移した。
その隙を突くようにサイトはベルトを両手でつかみ、音もなく忍び寄り男の首にかけ背負った。

ルイズもギーシュもワルドも唖然とした。

「俺らの武器はどこだ」

「ぐへっ、とびらをでてづきあだりのへや」

そう聞くや否や男を閉め落とした。静かにとさっと男を降ろすと慣れた手つきで縛り上げる。

「ねっ、簡単でしょ?」

無理無理とみな呆気にとられて首を振るだけだった。

「じゃっ、ちょっと行ってきます」

そういうと素早くあたりを確認し、部屋を出て行った。
とさっとさっとまた人が静かに倒れる音がした。

「彼は本当に何者なんだね」

呆れたようにワルドが聞くが、ルイズは「私の使い魔です」と照れて答えるだけだった。
サイトが無事に杖と武器を取り戻してくると素早く装備し始めた。

「では、安全第一で相手は殺さないようにしてくださいね?
交渉が面倒になりますから、お願いしますよ。
おれが船長室に先行して終わらすんで、ルイズを確実に守りながらゆっくり来てください」

ワルドとギーシュが頷く。デルフリンガーは鞘に収め、ギーシュに持たせてある。
サイトは両手に敵の長剣とルイズのナイフを逆手に装備した。
これで白ひげがあればユパ様っぽいナウシカごっこが出来るのにとのんきに思う。
そして黒い旋風とでもいうような速さで船を制圧した。

ルイズ達が遅れて船長室に入ってきたときには既に事が終わっていた。
サイトがナイフを水晶の杖をもつ船長の首筋にあて、長剣を他の船員に向けるようにして構えている。

「やあ、君達落ち着いて武装を解除してほしい」

「くっ、貴様無礼であるぞ。頭を離したまえ」

あまりの事に素が出かかってる。

「ほら、船長からもお願いしてくださいよ」

首筋のナイフをさらに深く当てた。
ルイズ達も杖を構える。

「皆言うことを聞いてくれ、それで何は望みなんだね」

「船ごと全部買うのさ、もちろん料金は君達の命でね。
おれらは王党派でね、この船と硫黄は手土産にして城へ向かおうと思ってね」

白々しくサイトが答える。

「待ってくれ、君達王党派なのか」

船長が慌てて動こうとし、サイトがそれを制する。

「おっと、勝手に動くなよ船長」

「私はアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

それを聞いてルイズは怒って言い返す。

「人質を取って船を襲う空賊が、王族ですって!?
誇り高き皇太子様がそんなことするわけがないでしょう?
サイト、その男立派な詐称罪よ。よりにもよって皇太子様を語るだなんて死刑に等しいわ」

「そうだな、証拠もないし死刑だな」

はっとして、慌てて船長も言い返す。

「本当なんだ。かつら、かつらを取らせてくれ」

急いで縮れた黒髪をはいで、眼帯を外し付けひげをとる。
現れたのは金髪の若者だった。

「ルイズどうだ?」

「わたしは最後にお会いしたのも随分昔よ、分からないわ……
それに良く似た偽物かも」

「だ、そうだが?」

そう言われると船長は慌てて考え始めた。

「指輪、風のルビーある。貴族のお嬢さん、今貴女が指にしているのは水のルビーであろう。
それを近づけてくれ、頼む信じてくれないか」

ルイズはサイトを伺ってみる、サイトが頷いたので水のルビーを近づけると綺麗な虹の架け橋が見えた。

「水と風は虹を作る、王家の間にかかる虹さ」


キリッとした顔でいうが、何ともしまらない虹だった。
そして誤解を解き謝りあった一行は、目的の手紙が手元にないことを聞き、ニューカッスルに向かうのだった。



[18350] ■現在20「ニューカッスル決戦前夜」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/20 04:21
サイト達を乗せた軍艦、「イーグル」号は浮遊大陸のジグザグした海岸線を雲に隠れるように航海した。
城の遥か上空に居を構える「レキシントン」を横目にニューカッスルの港に到着した。
巨大な鍾乳洞を利用した船着き場は、大陸の下の座礁しやすい視界ゼロ雲中を航海する正に秘密の港だった。

ウェールズと共にタラップへ降りていくと、背の高い年老いた老メイジが近寄ってきた。

「ほほっ、これはまた大した戦果ですな、殿下」

「喜べ、パリー。硫黄だ、硫黄!」

ウェールズがそう叫ぶと、集まった兵隊がうおぉーと歓声を上げた。

「おお!硫黄ですと?火の秘薬ではござらぬか!
これで我々の名誉も護られるというものですな」

おいおいと泣きながら老メイジは続ける。

「陛下よりお仕えして六十年……、こんな嬉しい日はありませぬぞ、殿下。
反乱がおこってからは、苦汁を舐めっぱなしでありましたが、何これだけの硫黄があれば……」

にっこりとウェールズは笑った。

「王家の誇りと名誉を、叛徒どもに示しつつ敗北できるだろう」

「栄光ある敗北ですな!この老骨、武者ぶるいがしますぞ。して、ご報告なのですが
叛徒どもは明後日の正午に攻城を開始するとの旨伝えてまいりました。まったく殿下が間に合ってよかったですわい」

「ふむ、丁度良い時期に帰ることが出来たというわけだな。戦に間に合わねば武人の恥。
まさに始祖ブリミルのお導きかもしれないな」

ウェールズ達は、心底楽しそうに笑い合っている。
ルイズとギーシュは敗北という言葉に顔色を変えた。

「して、その方たちは?」

「トリステインからの大使殿だ。重要な用件で王国に参られたのだ」

パリーは一瞬滅びゆく王政府に大使が一体何のようだというのだろうか?という顔つきになったが、すぐに表情を改めて微笑んだ。

「これはこれは、大使殿。殿下の侍従を仰せつかっておりまする、パリーでございます。
遠路はるばるようこそこのアルビオン王国へいらっしゃった。
陛下は王室にござりまする、戦時ゆえ公式的な謁見にはなりませぬ所以ご理解いただきたい」


城の一番高い天守の一角にある王室は、洗練された調度品によって彩られていた。
年老いたジェームズ一世は、深々と椅子に腰かけている。

「老体ゆえに座したままの謁見になることを許せ」

老いてなお精悍な顔つきも、たび重なる反乱により疲労の色が隠しきれない。
ルイズ達は緊張した面持ちで大使の礼を尽くし答える。

「こちらが姫殿下より預かりし密書にございます」

ジェームズ一世は、書を目を通し驚き何度も読み返した。

「ふむっ、用件はわかった……して」

話を中断するようにサイトは言った。

「陛下、その前にお人払いを」

そう聞くと、ふむとジェームズは頷きパリーを見ると、パリーは一礼し部屋を出ていこうとする。

「ギーシュ、ワルド子爵も申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

「たしかに僕らは姫殿下から直接話を聞いてないからね」

ギーシュは快く頷き、ワルドはしぶしぶといった感じで部屋を退出した。

「ウェールズ王子、大変恐縮ではございますが王室で私たちが魔法を唱えるわけにもいきませぬ。
どこに耳と目が潜んでおるかも分かりませんのでふさいでいただけないでしょうか」

確かにと一つ頷くとウェールズは探知魔法とサイレントの魔法を使う。

「して、女子供をトリステインで請け負うという話は有り難い。
が、このウェールズの身柄まで請け負いたいとは一体どういう了見であるか」

ウェールズとルイズは驚いている。

「父上!それは……書を伺ってもよろしいでしょうか?」

ジェームズはひらりと手紙をウェールズに渡し、
ウェールズは一字一句洩らさぬように手紙を読みだす。
そこには黒髪の少年に詳しく内容を伺うようにと記述もされている。

ルイズは心配そうにサイトを見ている。

「王家の血を絶やさぬためにでございます、陛下」

「馬鹿な!私は真っ先に死ぬつもりだぞ。王家の誇りと名誉を愚弄するつもりか!」

激昂してウェールズはサイトを怒鳴りつけた。
ジェームズは落ち着いてウェールズを制す、確かに頭を痛めていた部分でもあるのだ。
王といえど親である優秀な息子をこの若さで散らしてしまうのは嘆かわしい。

「しかしそれは無理な話だ。我らにも名誉がある。
それに王子の亡命とあらば悪戯に戦禍を広げようぞ。
民草は疲弊し、これ以上の内憂を持ち続けるのも厳しい」

静かに見定めるような王を前にサイトは平然として答える。

「陛下、状況が変わりました」

そういうと近くにあるチェス板をテーブルごと移動する。
ことりことりと綺麗に並べるといきなり三分の一程の駒をサイト側に移動する。

ふむと頷きながらその様子をジェームズは見守る。

ことりことりと動かすお互いの大駒が相打ちとなり側面に追いやられる。
あるときは少ない兵力ながら敵軍の大駒を殺し、あるときは自軍の大駒が無残にも殺された。

そしてサイトはいきなり脇に追いやられた死に駒をサイト側の敵軍に加える。

「なっ、無茶苦茶だ」

ウェールズは驚きで声を上げる。ジェームズは険しい顔をしている。

「これが此度の戦です、陛下」

「どういうことなの?サイト説明して!」

ルイズは驚きのあまり、周りを忘れサイトに問いかけた、ウェールズも頷き先を促す。

「裏切るはずのない忠誠の高い将軍が寝返ったことは?
戦を続けるたびに敵の戦力が大幅に増えたことは?思い当ることはありますでしょう」

まさにジェームスが憔悴し心痛めていた部分である。

「しかし……そんなことが可能なのかね?」

「人体のおおよそは水で出来ております、それを利用し心を操る禁呪の魔法があります。
死してなお、体を操ることができてもおかしくはありません。
そして、それを可能とする水の精霊の宝が人の手により盗まれたと聞きます。
忠臣を捕縛し操るのは難しいでしょう、恐らく殺され……操られているのでしょう」

「おお……なんということだ…神をもおそれぬ許されぬ所業ではないか…」

「そのような事なおさら、私は許せぬ、撃って出るぞ」

「落ち着きください、ウェールズ殿下。敵の狙いは貴方でもあるのです。
王家の名誉?死して敵が名誉を保障してくれると?都合よく事実を捻じ曲げられて終わりです。名誉ある敗北なんて夢のまた夢。
民草の疲弊は内乱がおわってもかわりませぬ。レコンキスタは聖地の奪還を掲げハルケギニアの統一を目指しています。
その為、次に狙うのはトリステインでしょう。終息後も戦禍はなおも広がるばかりです」

一つ一つジェームズの質問へ答えていく、ルイズの顔は蒼白だ。

「ゲルマニアとの急ごしらえの同盟などあっという間に吹き飛びましょう。
そしてあの麗しきアンリエッタ姫殿下はどうなってしまうのか、考えたくもないですね」

それを聞き、ウェールズも顔面が蒼白となった。

「なるほど、状況が変わったのも分かった。
して、この状況を改善する策が大使殿にはあるようだが?」

そういうとルイズとウェールズは一斉にサイトをみた。
サイトは神妙な顔つきで頷いた。

「城内にいる土のメイジを全てと火のメイジを、あと城内に残る武器によっては風のメイジをお借りしたい。
ウェールズ殿下には、亡命の際に連れていく信頼のおける家臣と囮の小隊を一つ準備していただきたい」

「我が軍は三百、相手は五万、戦になるとは思えないのだが……」

「名誉ある敗北といくかわかりませぬが、敵軍の半数以上を減らしてみせましょう」

「馬鹿なありえん!亡国だからとたばかっているのではなかろうな!」

「それこそまさかですよ、トリステインになんの益がありましょうか。
このニューカッスルが落ちるのが前提なので使える策でもあります。
それもウェールズ殿下が完全に指揮下にはいっていただければの話です」

「しかし……」

ここに来てウェールズの決心が揺らぐ、このままやみくもに攻めるよりも効果が高そうだ。
自分は国のため、従妹姫のため、殉ずるつもりだった。
それでもふと思うのだ、そう愛しのアンリエッタ……手紙を読んだりすると特に。

「よかろう、ウェールズはお主に預ける。必ずや戦果をあげい」

「父上!」

「今宵はちと疲れた、続きは明日でもよかろう」

そう少し咳きこみながらジェームズが言うとサイトとルイズは部屋を下がっていった。
ルイズはサイトを少しでも手助けしようと思っていたが、あまりに推測の範疇を超えていて頭の回転が追いつかなかった。
サイトはにこりとして頭を撫でてくれたが、それが悲しかった。


「父上……」

「ウェールズよ、朕はあの者に託してみたくなったのだよ。
不思議な男だ、突拍子のない事ばかり語るがどうにも惹かれてしまう。
それにそう悪い話ではあるまい、このまま特攻するよりはましじゃろう……不甲斐ない思いだがな」

「………」

「そうしょぼくれるな息子よ。王とは国ぞ。お前が残るなら安心していける。
それに好いたものを守るのも男の本懐というものだ、そうだろう?」

そうにやりと笑って見せる。
ウェールズは涙が流れおち止めることも拭うことも出来なかった。
ジェームズはその頭に煌びやかなそっと王冠を乗せる。

「……父上、あとはお任せください」

「うむ、アルビオンは任せたぞ!今日は実に良き日だ。
どれ、たしか朕の生まれと同じロンディニウムの年代物があったな」

ウェールズは頷くとグラスをふたつ準備し、ワインを注ぐ。

「アルビオンの未来に乾杯」

「アルビオンの若き王に乾杯」

二人は最後の語らいを慈しむように酒をかわすのだった。












翌朝、早くからサイトとウェールズは準備をするため城をめぐるらしい。
ルイズもついて行きたかったが、サイトに止められてしまった。
仕方がないので、客間でワルドとギーシュと共に待つことになった。
夜にはパーティがあるので、その前には戻るらしい。

サイトのお陰で、姫様の一番の願いでもあるウェールズ殿下の身柄は保証された。
しかも、反乱軍に手痛い反撃をするらしい、その方法は聞いていないし思いつかなかった。
サイトがいなかったら、ここまで上手く事がすすんだろうか?
わたしの使い魔ってば、本当に凄すぎるわ、そして、はっと不安に顔を曇らせる。
わたしはサイトの主人として胸を張れるときがくるのかしら?
いえ、絶対になってみせる!………だからあまり遠くに行かないで、お願い


「まったく暇だな。サイトはウェールズ皇太子と何処かへ行ってしまったし、いったい何をしているんだろうね?」

ギーシュは考え込むルイズに軽口をたたいた。

「さあ?とても気があったのじゃないのかしら。城を案内してもらうそうよ」

「僕としては、あまりここに長居はしたくないのだけれどもね
その姫様からの秘密の任務はおわったのかい?」

「まだ全ては終わってないわ、それに明日に出る船に乗らないと帰れないのだから大人しくまちなさいよ」

「そうかい?じゃぁ夜まで寝ていようかな。
ここまで無事に護衛できたのだから、姫様から何か言葉を戴けるかな?」

あんた何もしてないじゃない、とルイズは思ったが黙っていた。
ギーシュは欠伸をしながら、部屋を出て割り当てられた客室へ向かった。


「ワルド子爵はどうします?昨日からの強行軍でお疲れでしょうしお部屋でお休みになられますか?」

「せっかく二人きりになれたし、きみに大切な話があるんだルイズ」

ワルドはこのチャンスを逃すつもりはなかった。
ルイズに近づいて抱き上げようとするが、するりとルイズは逃れソファに座る。

「つれないな、僕たちは婚約者じゃないか」

「それでも婚前前の男女が軽々しく触れていい訳ではないわ。
わたしももう小さい頃のままではないのよ?」

そんな軽口にルイズの態度も少し砕けてくる。

「そうだね、謝ろう。君は随分きれいになったね。もう立派なレディさ、見違えたよ。
覚えているかい?あの日の約束……。ほら、君のお屋敷の中庭で……」

「あの、池に浮かんだ小舟?」

ワルドは頷く。

「君はいつもご両親に怒られた後、あそこでいじけていたな。
まるで捨てられた子猫のように、うずくまって……」

「ほんとに、もう。変な事ばかり、覚えているのね」

そういえば、あのあと両親に取りなして守ってくれた覚えがある。
頼りになり、憧れだったのだ。
随分昔の事で今まで忘れていたが、なんだか懐かしい。

「君は不器用で失敗ばかりだったけれど、誰にももっていないオーラを放っていたよ
この子は何か特別な力をもっている、そんな魅力にあふれていたよ」

真正面に見据えてそういわれるとなんだか照れてしまう。

「きみに釣り合うために今まで精進してきたつもりだよ、
魔法衛士隊の隊長にまで上り詰めて、ようやく地に足がついたところさ」

しかし、そこまでだった異例の若さで後ろ盾も殆どない実力での出世だったが、
伝統あるトリステインではこれ以上は無理という所まできたのだ。

「随分寂しい思いをさせてしまったけれど、これから埋めていこうと思っているんだ。
この任務が終わったら、僕と結婚しようルイズ」

それまでにこにこと聞いていたルイズはいきなりの事に驚く。

「え……」

「僕には君が必要なんだ。あった時に言おうと思っていたんだが、
実はついこの前正式にヴァリエール公から結婚の許可をいただいているんだ」

もちろん許可など貰ってないが、結婚してしまえば後でどうとでもなる。
それにしばらくはトリステインには戻らない予定なのだから

「それに少し早まるが、婚姻の媒酌を勇敢なウェールズ皇太子にお願いしようと思っているんだ。
きっと皆が祝福してくれるに違いない」

「で、でも……」

「ルイズ、僕じゃ不満かい?」

「違うの、違うのよ……ごめんなさい、少し混乱して」

そういうと部屋のほうに走り逃げて行った。
ベッドに体を沈めると胎児のように両膝を抱きしめ考える。
ワルドがわたしの大切な人になる?
サイトとしているようなことをするの?それって、すごく……いやだ。

逃げられないように追い詰められているような感じがする。
急すぎて息がつまりそう、結婚ってこんなに苦しいものなの?

そして気まずい思いのまま夜になり、手紙を受け取った。



パーティは城のホールで行われた。
王党派の貴族達はまるで園遊会のように着飾り、この日のために取っておかれた様々な料理が並べられた。

「諸君忠勇なる臣下の諸君につげる。
いよいよ明日、このニューカッスルの城に立てこもった我ら王軍に反乱軍「レコンキスタ」の総攻撃が行われる。
この無能な王に諸君らはよく従い、よく戦ってくれた。
朕は諸君らに暇を与えようと思う、長年よくぞこの王に突き従ってくれた。
故にこれ以上忠臣が蹂躙されるのはみとうない。
明日の朝、巡洋艦「イーグル」号が女子供を乗せてここから離れる。
諸君らも、この艦に乗り、この忌まわしき大陸を離れるがよい」

しかし、誰も返事をしない。一人の貴族が、大声で王に告げた。

「陛下!我らはただ一つの命令をお待ちしております。「全軍前へ!全軍前へ!全軍前へ!」
今宵うまい酒のせいでいささか耳が遠くなっております!はて、それ以外の命令が耳に届きませぬ」

その勇ましい言葉に、集まった全員が頷いた。

「おやおや、今の陛下のお言葉は、なにやら異国の呟きに聞こえたぞ?」

「耄碌するには早いですぞ!陛下!」

老王は目頭をぬぐい、馬鹿ものどもめ……と短く呟き杖を掲げた。

「よかろう、しからばこの王に続くがよい!今宵重なりし月は、始祖からの祝福の調べである。
よく飲み、食べ、踊り、楽しもうではないか!」

辺りは喧騒に包まれ、こんなときにやってきたトリステインからの客が珍しいのか、
かわるがわる王党派の貴族がやってくる、悲観にくれず冗談を交わしながら明るく料理や酒を勧めるのだ。
そして、最後にアルビオン万歳!と怒鳴って去っていくのである。

ルイズとギーシュは憂鬱になった。勇ましさよりも悲しさを感じ耐えきれなくなった。

「なぜ、あんな顔して笑うことが出来るの……明日には死んでしまうのに」

「僕だったら怖くて逃げだしているかもしれないな」

そんな二人にサイトが答える。

「怖いだろうさ、それでも人は何かを守るときに強くなれるのかもしれない。
ルイズはアンリエッタ姫がこのアルビオンのようになったら、自分が逃げ出すと思う?」

ふるふると首を振った、そう言われると彼らの気持ちも少し分かるような気がした。

「家族を守るってこともあるさ、ギーシュだって女の子を守るためならいくらでも強くなりそうだし」

そういうと、そうかもしれないねとギーシュも軽口で返す。

「とにかく明日にはトリステインに戻るんだ。
無事任務も終わったし、休んで英気を養おう」

解散して、それぞれ割り当てられた部屋に戻っていった。
ルイズも今日は色々ありすぎて、考えもまとまらないうちに疲れて眠ってしまった。



[18350] ■現在21「決戦!ワルドエンド」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/05/23 15:53
始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂で、ウェールズ皇太子は新郎と新婦の登場を待っていた。
周りにサイトとギーシュ以外の他の人間はいない。皆戦の準備で忙しいのであった。
ウェールズもすぐに式を終わらせ、戦の準備に駆けつけるつもりだった。

扉が開き、ルイズとワルドが現れた。
ルイズは不機嫌そうに立っている。ワルドに促され、ウェールズの前に歩み寄った。
朝早くいきなり起こされ、ワルドに連れてこられたのだった。
ワルドは何をいってもはぐらかし聞く耳をもたない。

もっとお互いを知らないといけないわと言えば、結婚してから知ればいいという。
こんな場所じゃ嫌だといえば、戦に向かうアルビオン軍に祝福をしたい、後日きちんと上げようという。
まだ姫様や家族に報告できていないといえば、もう自分で考えれる年だという。
じゃあ、今は嫌ですといえば、照れているんだね緊張しなくてもいいという。
サイトやギーシュが反対すれば、これは二人の問題だという。

もう本当に嫌だった。わたしのこと全然考えてくれていない。
不機嫌だった、ご立腹だった、信じられなかった。
ワルドったら今回の任務で全然活躍していないじゃない。
昔は頼りになると思ったけど、殆ど何もしていないというかむしろ邪魔された?
ルイズの中のワルド株は、未曾有の大暴落をおこしていたのだった。


アルビオン王家から借り受けた魔法の力で永久に枯れない花であしらわれた新婦の冠を頭に載せられ、
新婦しか身につけることのできない純白のマントをまとわせられた。

「では、式を始める」

王子の声がルイズの耳に届く。
その頃には怒りが一周し冷ややかな心持になっていた。

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
汝は始祖ブリミルの名においてこのものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」

ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。

「誓います」

ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズに視線を移した。

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
汝は始祖ブリミルの名においてこのものを敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか」

ルイズはワルドに向き直り、にっこりとした笑みを浮かべた。

「誓いません」

ワルドは驚いたような声を上げる。

「緊張しているのかい?僕のルイズ。何も不安がることはないんだよ。
きみが魔法衛士隊の隊長である僕との結婚を拒むわけがない」

ルイズは静かに首を振る。

「ワルド子爵何度も申しあげましたが、今結婚したくありません。
話を聞いてください、お願いします」

「話なら、昨日何度も聞いたではないか」

ワルドの顔にさっと朱がさした。

「あれは、聞いていたのではありません。理詰めで追い詰めてただけです。とにかくお断りします」

ギーシュもうんうん頷いている。
ワルドはルイズの肩を掴んで目を吊り上げる。

「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる。その為にはきみが必要なんだ」

いよいよ狂ったようにおかしなことを言い始める。
ウェールズも驚きで目を見開いている。

「……わたし世界なんていらないわ、馬鹿な事をいっていないで目を覚まして」

ワルドは両手を広げ、ルイズに詰め寄ろうとしている。

「僕にはきみが必要なんだ!きみの能力が!きみの力が!」


ルイズに対するワルドの剣幕を見かねたウェールズが間に入って取りなそうとした。

「子爵……、君はふられたのだ、いさぎよく……」

が、ワルドはその手を撥ね退ける。

「煩い、黙っておれ!」

そこに、ひゅっと青銅の球がワルドめがけて飛んできた。
間に入る様にサイトがデルフを構え、ルイズを背に庇う。
みるとギーシュも杖を構えている。

「主人から離れてもらいましょうか、ワルド子爵。ウェールズ殿下にまで手をあげるなんてとても正気じゃない」

「まったく忌々しい使い魔だね、きみは。
僕とルイズの結婚の邪魔をしないでくれたまえ」

どこまでも優しい笑みを浮かべる。しかしその笑みは嘘で塗り固められていた。

「絶対にいやよ、誰があなたなんかと結婚するものですか」

ワルドは天を仰ぎ、杖を引き抜きながらブツブツとつぶやき始めた。
サイトは青銅の球を投げつけるが、ワルドは器用によけている。

「こうなっては仕方ない、目的の一つはあきらめよう」

「目的?」

ルイズは首をかしげた。どういうつもりだと思った。

「そうだ。この旅における僕の目的は三つあった。その一つはあきらめよう。
っと、やめたまえ。話をしているのに無粋な輩だ」

構わずサイトは球を投げ続ける。

「まず一つはきみだ。ルイズ、きみを手に入れることだ。しかしこれは果たせないようだ」

「あたりまえじゃないないの」

「二つ目の目的は、ルイズ、君が持っているアンリエッタの手紙だ」

サイトはめんどくさくなって、青銅の球が入った筒を二つ構える。

「ワルド、あなた……」

「そして、三つ目は……」

会話を遮る様にアンダースローの要領で、筒を滑らせるとまるで散弾銃のように青銅の球が飛び散る。
これは逃げ場所がない、ワルドは慌てたように呪文を完成させた。

「ワルド子爵の最後の目的は、ウェールズ殿下の命しかない。
ルイズ、ギーシュ護衛は頼んだ。ウェールズ殿下は万が一に備えて下がってください」

壁や床にあたり、もくもくと破壊された破片や石埃が舞い上がり視界が悪い。
サイトはルイズに杖を渡し、ウェールズを囲むように下がらせる。

「貴族派!あなたアルビオンの貴族派だったのね!ワルド」

「そうとも。いかにも僕はアルビオンの貴族派「レコン・キスタ」の一員さ」

ワルドは冷たい、感情のない声で言った。

「どうして!トリステインの貴族である貴方がどうして!?」

「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連名さ。我々に国境はない」

少し離れた場所で声が聞こえる。

「ワルド子爵、あきらめてください。こちらは四人であなたは一人です。
勝ち目はありません、大人しく投降してください」

ギーシュが諭すようにいう。

「ドットのメイジと、少し素早いだけの使い魔と、失敗だらけのメイジで何をしようというのかね?
それともウェールズ皇太子に守ってもらうのかい、そもそも一人だと思うことが早計」

また離れた場所から声が聞こえる。

「いかん、風のスクウェア・スペル。ユビキタス!遍在だ!」

ウェールズが注意を促すように怒鳴る。

「いかにも、風は遍在する。その一つ一つが意志を持ち魔法を唱える」

「五人いるぞ、気をつけろ!」

サイトが剣を構える。

「まったく、きみには本当に邪魔されるな。思えば最初から邪魔されっぱなしだ。
きみがいなければもっと仕事が楽だったよ、使い魔くん。
さっきの球も闘技場で一度見ていなければ危なかった。油断ならん奴だ」

そういうとワルドの風で視界が晴れ、五人のワルドが姿を現した。
風の盾で青銅の球を防御した後、すぐに遍在を唱えて分身したのだ。









サイトは駈け出し牽制するように三人に剣を向けた。

「ギーシュ、残りの二人は頼む。今幾つくらいいけるんだ?」

「150は行けるようになったよ」

「十分じゃないか、おれたちの修行の成果をみせてやろうじゃないか!」

ワルドのプレッシャーに威圧されていたギーシュは、
サイトに鼓舞されると、不思議と勇気がふつふつとわいてきた。
そうだ、あれだけ頑張ってきたのだ、不安は消えうせた。
まるで自分が英雄にでもなったかのように力が湧いてくるのだった。


サイトに牽制された三人のうち一人が風の刃を繰り出す。
油断なくよけると、その隙をついて一人がウェールズの方へ走り出した。












ルイズは杖を構えて、ワルドに向かって失敗魔法を唱えた。
冠は邪魔だったので遍在ワルドに向かって投げる。目くらましだ。
何もない座標がいきなり爆発する。詠唱も殆どないようなものだ、考えられないくらいの素早さだ。

「……だが、よけられないわけではない。一度見たものは対処ぐらい考えているのさ」

まるで爆発する場所があらかじめ分かっているかのようによけながら近づいてくる。
風の槌の魔法を使い牽制もしてくる、ルイズはそれを失敗魔法で防御しなければならなかった。

「ルイズ、きみの魔法はまったくもって恐ろしいね。
だけど、知ってるかい?目線が全てをものがっているのさ」

そういうと、もう2,3歩踏み出せば捉えられる位置まで来た。

「本当にお転婆だね、大人しくしたらどうだい?
そうしたら、ほら苦しまないようにしてあげるからさ」

にやにやと勝利を確信しながら一歩踏み出す。

「絶対に!いや!!」

そういうと杖を振るう。

「あなたがそこに来るのを待っていたのよ!」

いやな予感がして、ワルドは後ろに跳び下がる。
ワルドが足をつけていた床がいきなり爆発した。

「なっ!ばかなっ!!」

今度はよけた先の机の角が爆発した。
それも間一髪よけると今度は直接失敗魔法だ。

「なんだこれは!こんなことがあってたまるか!!」

よけた先でよけた先で爆発する。
まるで玉突きのように体力が奪われ、破片が突き刺さる。

ルイズは火の失敗魔法で目線の先を座標で指定するのと交互に、
土の魔法で錬金していたものが遅延し魔力が溜まった瞬間爆発させているのだ。
恐ろしく緻密な計算で繰り広げられるまるで誘導するような攻撃をワルドは避けまくっている。
ルイズの魔法はワルドがいた場所が爆発するため、風の盾で防御するわけにもいかないのだ。

もうこちらを攻撃する余裕もない。ウェールズも驚きすぎて援護するでもなく見ている。

「ルイズ!僕と一緒にならないなんて、どうかしている!
きみの魔法があれば、ぼくらは何処へだっていけるんだ」

「どうかしているのは、あなたよワルド!
……その花は貴方の墓標であり、せめてもの手向けよ」

かさり、ワルドがよけた先で何かを踏みつけた。
つい足元を見ると先ほどルイズが投げた新婦の冠だった。

「まさか…まさか……やめろ、ルイズ!やめるんだー!!!」

冠が盛大に爆破され、ワルドの遍在がかき消えた。
魔法で固定化された花がひらひらと舞い落ちた。














ギーシュに対峙したワルド達は余裕の表情で杖を構えている。

「ドットメイジ風情がスクウェアメイジにかなうと思っているのかね?
きみを相手している暇等ないのさ、すぐに殺して皇太子や使い魔くんの所にいかせてもらおうかね」

ギーシュはそれでも落ち着いて杖を構えた。

「グラモン伯爵家の四男。ギーシュ・ド・グラモンを馬鹿にしないでいただきたい。
ドットとはいえど油断していると足元をすくいますよ?子爵。
生まれ変わった「青銅」をとくとご覧くだされ」

ワルドは挑発され顔を赤くするがすぐに冷静になり杖を構える、ギーシュは足をたんと踏み鳴らす。

「えっ、な……なにを、ぐっ、なにをしたっ!」

見ると後ろに位置していたワルドの心臓に針のようなものが突き刺さっている。
そして苦しそうな声をあげて、遍在はかき消えた。あまりの呆気なさにもう一人のワルドも驚いている。

ギーシュはさらに踊る様にステップを鳴らす。
たんったんっというような音とともに杖をかきならす。

「ギーシュって、青銅のゴーレムが得意魔法じゃなかったの!?」

戦闘の終わったルイズが荒い息を整えながら驚いている。

「青銅の蛇「ウロボロス」と名付けているよ。これが修行の成果さ」

そういうと次々とステップを踏み鳴らす。
良く見ると針じゃない、ぬるぬると小さな小さな目のないミミズのような蛇のようなものが床を這っている。
驚いたことにサイトがまき散らした青銅の球がギーシュのステップ事に数十匹づつ生まれ変わっている。

それが、まるでばらばらにワルドを襲う。飛びかかる蛇の先端が尖りかなり危険だ。
撃ち落としても防いでも、まるで意を返さないように上下左右前後から距離をつめて容赦なく襲いかかる。
切ったり砕いたりすれば動かなくなるが、次々と襲いかかり一つ一つ対処するようなそんな暇がない。
生半可に防御しても、流石青銅なのかやわらかく受け流している。

「まさか、150といっていたのは、150匹も同時に操れるのか!?」

「……」

ギーシュは何も言わず不敵に笑う。

「なんと恐ろしい……、恐ろしい…!だが本体が無防備じゃないか」

ワルドがそう言いながら、ギーシュに近づこうとする。
軽やかなステップを踏みながら、ギーシュは答える。

「これは、攻防一体の技なのですよ、子爵」

するとギーシュを中心に、浮かび上がった蛇がドーム状にぐるぐると凄まじい速さで回り始めた。
ワルドは驚いて、風の槌を繰り出したがいなされ射線がそらされギーシュに届かない。
風の刃も同じだった、数匹撃ち落としたが、ギーシュの周りを旋回する蛇は百近く存在する。

ギーシュが動くと合わせるように、青銅の蛇の嵐がギーシュを中心に動く。
ワルドは後ずさるしかなかった。

「馬鹿な、ありえん。この僕がドット風情に?馬鹿な!!」

ギーシュが杖を振るうと、嵐の中から一匹蛇が飛び出した。
逃げてる間にも、地を這う蛇は次々と攻撃を繰り出している。
ワルドも致命傷は避けているが、いくつか突き刺さっている。

「ふざけるな!こんなことありえない!!何もできず、後ずさる?
魔法衛士隊の隊長だぞ、それが、こんな……」

このギーシュの新魔法は本当に凄まじかった。
だが、蛇の総量は合わせるとだいたい前のゴーレム五体分くらいの量でしかない。
ギーシュは青銅のゴーレムに一応こだわりをもっていたが、
サイトに強くなれば女にもてるといいくるめられ、魔法の形態を変えることにしたのだ。
カリスマスキルがなければ大人しく従わず完成しなかったかもしれない。

青銅の蛇は、昔の英雄とまで言われたギーシュの人形ごとに個性を持つ手法とはまるっきり違う手法だ。
錬金した青銅の蛇にあらかじめ命令を付与させる。そうオート(自動)に目を向けたのだった。

だから、いまでもギーシュが正確に操れるのは七体だけである。
それ以外は、「対象の背後から50サントまで近づき攻撃」とか「対象の50サント近づいたら上に飛び上がり攻撃」とか命令を付加させる。
守っているのは、「限界の速さで30サントまで自分に近づき、自分を中心に他とぶつからないように旋回」と命令されている。
上下左右背後からだが、位置がそれぞれ違うため連続で攻撃したり、同時に攻撃してるように見える。
守っている部分や、まだ距離が到達していない蛇を直接操作し終わったらまた別の蛇を操作する。
そうすると既に命令されたものをまた実行しようとする。そうしてあたかも全て操っているかのようにしているのだ。


ワルドは成すすべもなく徐々に動きが鈍くなり、次々と蛇の餌食になり遍在のダメージ許容量を超えかき消えてしまった。

「っし!やった!やったぞ!!」

小さく拳を握り、喜びをかみしめた。この魔法はスクウェア・メイジにすら通用する。
一対一は勿論、一対多でも自動だから隙が少ない。魔力が上がれば数は増えるし、毒なども使えばさらに戦略が広がる。
考え付いたサイトも嫌らしく恐ろしい技だと思うぐらいの代物であった。
ウェールズはまたも驚いて、ただただ見ているしか出来なかった。










残るは本体と遍在一体だけである。ワルドは焦りまくった。
遍在が不用意に杖を光らせサイトに攻撃しようとした。その攻撃はまるですり抜けるようにして遍在が切り伏せられる。

「なっ!」

ワルドは驚いた、いつも相手をしていたギーシュも驚いた、ルイズも驚いて、もちろんウェールズも驚いた。

「おでれえた、俺様おでれえた」

もちろんデルフもおでれえた、驚くのはデルフの専売特許でもある。

「見えなかった……」

早くない。闘技場でみた使い魔の動き。そちらの方が今の2倍以上速かった。
確実にとらえたと思った。いや、とらえたはずだった。胸を杖で貫いた。

「遍在!?いや…」

サイトが動くたびにまるで何人もいるかのように見えるが、
止まっていれば実際に残っているのはサイト一人。その緩急をつけた足運び翻弄される。

「残心っていうのさ、遍在みたいな高度な技じゃないよ」

自嘲気味に薄く笑うサイトだが、ワルドからすればたまったものじゃない。
攻撃して、当たるのに、当たらないのだ。早くないのに全然捉えられない。

「貴様たばかったな!闘技場でとの動きと比べ物にならん!!」

サイトは完膚なきまでに封殺してきたが、サイトはワルドを舐めていない。
ワルドは恐ろしいまでの戦闘能力を持っているのだ。
それに全盛期のガンダールヴの速さは止める者がいないくらいだったのに、今では本当に弱くなった。
弱体してしまった今、身体能力ではなく恐ろしく長い年月を掛けて編み出した技の極意を使うしかないのだ。


「デルフいつまでも寝ぼけてないで魔法を吸う準備をしてくれ」

デルフは驚いたかのようにぶつぶついいだした。

「そうだ!相棒、なんでこんな大切なこと忘れちまってたんだ。耄碌してた、思いだした」

「ああ、デルフ、最高の左腕なんだろ?」

「おお!おお!嬉しいねえ、懐かしいねえ。いや心の震えがない担い手で少しがっかりしてた。
けど、ものすごい強さじゃねえか、技がさえにさえてやがる。俺もこんな格好している場合じゃねえ!!」

そう叫ぶなり、デルフリンガーの刀身がひかり、まばゆく輝く一振りの刀となった。

「うそっ、あのボロ剣。あんなに綺麗な剣だったの?」

今までぼろぼろだった剣も輝き、ルイズからみると一層サイトの神々しさが増しているかに見える。

「いっきにいくぞ!衝刃(しょうは)!」

なにもない空を切る、風の使い手だからこそわかる。これは空気の刃だ。
刀を振る速さはそれほど必要ない、太刀筋の鋭さと振りきることで風の刃が発生するコツがあるのだ。

サイトはゆったりして、それでいて早いような訳のわからない歩き方で近づく。

「衝刃!!」

ワルドもすぐに技の本質を掴む、剣を振り切られないように杖で風の槍を作りいなそうとする。
ところが、杖に当たった衝撃で風の刃が飛ぶ、きしりと音がして、体に傷がつく。致命傷ではないが血が流れている。

サイトは舌打ちをしながら距離をとる。本来であれば腕の一本くらいは取れる技なのだ……。
間髪いれずに風の槌をワルドが放つ。

「パリィ」

デルフで受け流し魔法を吸収する。

「くっ!魔法まで吸い取るか!!」

そういうと、今度は魔法を吸収しきれないように杖に魔力を込める。

「朧二連(おぼろにれん)、ソードダンススラッシュ」

デルフを水平に振るい、その影を縫い十手を繰り出す。
回転するような足さばきで二つの剣を交互に合わせる8連撃、合わせて10連撃だ。

ワルドはそれを杖でいなしたが、十手まで見えず間一髪で左手で受ける。
ぼきりと鈍い音がして左手が折れる。負けじと連撃に合わせるように、鋭い突きを放ち迎撃する。

「終いだ、飛燕蔦(ひえんかずら)」

十手の取ってを杖に絡ませ、デルフで撃ちつける。てこの原理で杖がはじかれ、返す刀でワルドの左腕が切られた。

「ぐうぅ!!貴様……」

ワルドが切られた腕を振るい、血を飛ばす。
サイトはそれをデルフの刀で防御する。

うなりながら必死の形相で飛ばされた杖まで行くと風の魔法をルイズに飛ばす。
サイトはそれを防御するように駆けつけ魔法をかきけす。

「くっ、今は引く……だが、ここにはすぐに我が「レコン・キスタ」の大群が押し寄せる。
馬の蹄や竜の羽音が聞こえるだろう?五万の兵がすぐに押し寄せるだろうさ。
愚かな主人と共に貴様らも果てるがいい」

ワルドは布で血が流れすぎるのを防ぎながら、フライの呪文で逃げ出す。
サイトはそれを悲しそうな眼差しで見つめた。


「いや、おでれえた。凄いぜ相棒、勲章ものだ」

「ああ、まったくだ、きみたちほどの強者が我が軍にもいれば……」

ウェールズが驚きながら、全員を称賛する。
ルイズもギーシュも誇らしげな顔をしている。

「それより、ウェールズ殿下!あとはお願いしますよ」

「ああ、分かっているよ。お互い検討を祈る」

そういうとウェールズは戦場へ走って行った。

「サイト!!ウェールズ様が一人で!!」

「大丈夫、ルイズ。これも作戦なんだ。アンリエッタ姫と約束しただろ?
かならずウェールズ殿下を連れてみんな無事に戻ると、おれが約束をたがえたことがあったか?」

そういって抱きしめるとルイズは赤くなりかぶりを振った。

「ギーシュ、そろそろ来るんだろ?」

「ああ、まったく君ってやつは称賛に値するよ、いったい何手先まで読んでいるのだい」

ギーシュは畏怖と尊敬の念でサイトを見る。
その足元へヴェルダンテが顔をだす、主人の元まで穴を掘ってきたのだ。

「あら、こんなところにいたの?」

キュルケが顔をだす。

「キュルケ!」

タバサがサイトにいわれた通り、戦闘が終わった後、ヴェルダンテを連れてここまでやってきたのだ。

「ねえ、聞いて?惜しいところでフーケに逃げられたわあ。
あの巨大ゴーレム中身空洞だったのよ、凄まじい速さで逃げていったのよお」

身振り手振りを交え興奮した様子でサイトに報告する。
通常の大人の雰囲気とは違って可愛らしい。
そうか、きゅるけ達を襲ったのは偽フーケだったのかとサイトは頷いた。

「よし、この穴をつたって逃げるぞ」

「逃げるって、任務は?ワルド子爵は?」

「あとで説明する、とりあえず急げ、五万近い兵がくるぞ」

「なぁんだ。よくわからないけど、もう、終わっちゃったのね」




そして合流した一行は雲の大陸アルビオンを後にするのだった。



[18350] ■現在22「決戦!ニューカッスル包囲戦」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/07/18 16:39
ニューカッスル城門前にウェールズ率いる一個中隊が現れた。

城は岬の先端に位置するため、後方からの大量の軍が投入される心配のない天然の要塞だった。
城門から二十リーグ先まで切り立った平原になっていて、さらにそこから森が広がっている。
さらに十リーグ先には城下町があるが、そこは完全に落とされ、所狭しと陸上部隊が立ち並んでいる。

空にはロイヤル・ソヴリンが浮かび、さらにそれを囲むように50騎程の竜騎兵が浮かんでいる。
あくまで陸上で決着をつけたいため、牽制するように居を構えている程度だった。

まさに陸上の兵たちは圧巻で、各国のレコン・キスタに組みする貴族達が集まり全体の4割を占めている。
残りは勝ち馬に乗るための寄せ集めのアルビオンの傭兵軍団だった。

身分の高いものや艦を操るもの、または後方支援を除く三万五千にも及ぶ兵が平原を埋めている。
各隊では士気を高めるための演説が執り行われる。怒号のような声が響いている。
それらがまるでうねりのような風となってウェールズに降り注ぐ。


対するウェールズは、五十に満たない早馬にまたがった歴戦の兵たちだ。
ジェームズに忠誠を誓うまごうことなき強者をお借りしている。
誰をみても臆した面がなく、堂々とした面持ちだ。


ウェールズは何か印のたくさんついた羊皮紙を片手に頷く。

「よくぞここまで付き従ってくれた。敵の数は膨大なれど我々はけして負けない。
名誉ある敗北ではないかもしれない、しかし……しかしだ!
明日へつなぐ希望の道を示そうぞ、……アルビオン万歳!」

「アルビオン万歳!ウェールズ陛下万歳!!」

口々に叫び剣や槍を掲げる。
勝利条件はウェールズが生き残ることだ。
そのため、あのトリステインの賢人と評せるサイトと入念な計画を練ってきた。

彼の打ちたてた作戦は、そのどれもが斬新で恐ろしいものだった。
もしサイトがいなければ、犬死もいいところだったであろう。
サイト監修の元でウェールズが命令をだし、残りの全軍を使い全て滞りなく準備した。
一日でよくぞここまでお膳立てが出来たものだ。

全員の目には、以前と違い自暴自棄ではなく希望の光が見えている。



正午の鐘が鳴り、決戦の合図が鳴り響いた。
割れんばかりの喊声が響く陸上軍隊を軍艦の中から見下ろしている人物がいる。
オリヴァー・クロムウェル、貴族連合レコン・キスタの総司令官だった。

上空から見る平原は正に圧巻の一言であった。

「圧倒的ではないかね、我が軍は」

全軍が歩兵で構成されレコン・キスタの旗を掲げている。もはや籠城している城も防衛機能が殆どないため歩兵のみで十分だった。
対する王党派軍は籠城ではなく、いくつかの兵を従え立ち並んでいた。
城門は破壊されたまま開ききり、攻め込めば圧倒的物量の一捻りで終わってしまうだろう。
軍の上層部が寝返り、付き従うように殆どの兵が貴族派に従っているからこその戦力差でもあった。

「これが、王党派の最後とは、いっそ哀れじゃないか」

約束されている王の地位に、今まさに手が届いている。
それを思うと顔がにやつくのがおさまらない。

「進め進め!踏みつぶせ!!私にアルビオンの王冠をもってこい」

愉悦に浮かんだ歪んだ笑みを浮かべ呟いた。







正午の鐘が鳴り、兵が足並みをそろえて進もうとする。
開戦すぐに最初に攻撃を仕掛けたのは、なんと王党派だった。

驚くことに射程範囲をはるかに超えた超長距離から、矢や投石器の襲撃が繰り広げられる。
雨霰のように降り注ぐそれは、風の魔法で無理やり射程の範囲外からやってくる。

平民の武器と魔法を組み合わせるそれは誰も考えつきもしない案だったが効果は絶大だった。


少しも進むことなく数百の兵が絶命する。
高低差に加え魔法で加速された大きな礫は、味方に挟まれて逃げ場さえ持たない傭兵達を、問答無用に薙ぎ倒し轢き潰していく。

「落ち着け、隊列を揃えろ!敵の攻撃なぞたかが知れてる。
こちらの勝利にゆるぎはない、殲滅戦だ全軍進め!!」

浮足立った隊列を即座に揃え突き進ませる、上空では竜騎兵が露払いに向かい始めた。
超長距離攻撃も尽きたのか、怒涛の攻撃も止んでいる。

ウェールズ達の隊は少数で素早く動き既に平原の中央までたどり着いていた。
羊皮紙を片手に何もない平原をくねくねと不思議に動きながら進んでいる。
そして、中央にたどりつくなりいきなり右の森へ向かって進路を変え始めた。

「王族ともあろうものが臆したか!右舷の兵は森を囲め。
素早く森を囲み蟻一匹通さぬようにし討伐しろ、逃げられてはかなわぬぞ。
ウェールズ皇太子の首をもつものには報酬を渡すぞ」

一万程の兵が逃げ道がないように森を取り囲み、プレスするように王党派の兵を追い詰めていこうとする。

しばらくして深い森の中報奨金目当てに徒党を組んで追い詰めてる一隊に一人の兵士が逃げてきていた。

「王党派だ、王党派に追われている。俺らの隊はやられた。
奴ら手練ぞろいだ。すぐそこまで近づいてきている頼む」

所属を確認しようとしたが追討してきている一隊がいきなり攻撃を仕掛けていた。

「くっ、此処が正念場だぞ、これに勝てば凱旋だ。ものどもかかれ!!」

広い森の中のそこかしこでつばぜり合いの音が聞こえる。
逃げてきた兵士は、にやりと笑うとまた別の隊に向かって走り出した。
おかしいと感じている兵もいたが、なんにせよ出会いがしらに攻撃してくるのだ。
暗い森の中ということも災いし、次々と同志討ちを始めた。



その頃、ウェールズを追わずに平原へ向かおうとする陸上軍隊も大変な目にあっていた。

隊列を組んで城へ向かって行進する軍隊が平原に差し掛かるといきなり足元で爆発し鉄球などが飛び出してきていた。
足を負傷し動けなくなる傭兵や飛び出した鉄球で絶命していく兵士が多数。
平原に足を踏み入れると、予測もしない場所で地面が爆発するのだ。
聞いたこともないような恐ろしい戦法に、軍に動揺が走った。

それでも軍上層部からの命令で突撃をしなくてはならない。探知魔法にも反応がなかった。
貴族達は魔力温存も考え仕方なく傭兵を盾にして進軍をはじめさせた。貴族ではない兵の使い道は露払いぐらいしかない。
傭兵からするとたまったものではない。勝ち戦で報酬がよかろうと命は一つしかないのだ。
しかも戦って死ぬわけではない、歩いているだけで死んでしまうのだ。こんな戦い聞いたことがない。


また爆発した所から、卵の腐ったような異臭がし始める。
火の秘薬でもあるそれは、傭兵たちにはなじみがあまりない硫黄独特の匂いだ。
普通であれば臭気をけして加工するが、今回の爆弾はむしろ臭気を強めてある。

すると匂いも届きそうにもない後ろの方から大声がする。

「この匂い毒だっ!!こんな戦やってられるもんか、俺は命が大事だ逃げるぞ!」

そして一目散に大声で喚き散らしながら逃げ出す傭兵の一人を見ると、もう後は止めようがなかった。
もちろん王党派の仕込みである、文句なしのタイミングだった。

「毒の煙だ!死にたくねえ、逃げろ!!」

「このままじゃ、爆発の盾にされるだけだ、やってられるか」

まるで蜘蛛の子を散らすように逃げていく、それに同調するかのように傭兵のほとんどが逃げ始めた。
陸上軍隊の上層部は苦い顔でそれを眺めるしかなかった。
無理に止めようとすれば、それこそ同志討ちになりかねない。
幸い貴族が残っているのだ、フライなりレビテーションでなり進めば問題ない。

しかし、それも無理だった。
浮かびながら平原を進もうとするといきなり地面が爆発しはじめた。
なんと城の城壁から火のメイジが様子を伺い、タイミング合わせて爆破させているのだった。

牽制の竜騎兵も重りに縄が括り付けられている武器(アチコ)を風の魔法で投げられ、
なかなか思うように攻められない、羽に縄が巻きついたり重りで羽を撃たれ迎撃されている兵もいるほどである。

「ゴーレム隊を先行させろ!一直線に道を作れ!!」

魔力温存など言ってられないメイジは土ゴーレムを先行させていく。爆発に巻き込まれるも次々にゴーレムが作成され城までの道を作成していく。
悪夢のような出来事だったが、もうすぐ城まで到達できそうだ。まだ一万近い兵が残っている。
そこへ陸上軍の上層部に、右舷の森を包囲していた一部隊が報告にやってきた。


「報告します、ウェールズ皇太子を追った部隊がいきなり同志討ちを始めました」

本当に頭を抱えたくなるような出来事だ。
数刻も立たず一捻りできるような戦とも呼べないような戦いじゃなかったのかこれは?


アルビオン軍隊の長所といえる部隊は、空軍で空での戦いを非常に得意としていた。
そのため、空を得意とする生粋の軍人達は今回の陸上での殲滅戦には参加しなかった。
なにせ、オーダーは「殲滅せよ!殲滅せよ!」のそれだけ、赤子でもできる簡単な戦のはずだった。

圧倒的な戦力差だったが、数が多すぎたのも災いした。
連携もなく功ばかり欲しがる業突く張りの烏合の衆だ。それをまとめ上げられる主だった軍の上層部は空の上。
軍人としては下の下の能力のものばかりだった。それでも圧倒的な戦力差に負けることがないと軍上層部は考えていたのだ。

しかし蓋をあけてみれば……聞いたことないような戦法で翻弄されている。
射程外からの攻撃、浮足立ったところでの戦力の分担、視界の悪い森での同志討ち。
戦場を歩けば足元が爆破し、異様な匂いが辺りに立ち込めている。

一つ一つ冷静に対処できていれば打破できたろうか?
いや……これだけの大群で伝達速度も遅く、連携もままならない、加えて傭兵が逃げ出してしまったのも痛い。
未だに目に見える形でつばぜり合いを行っていないのだ、私たちは何と戦っているのか、そんなことも分からなくなるような状態だった。

名ばかりの陸上部隊の総指令は頭を抱える。
いったい上にどのように報告すればいい、これはもう責任を取るどころの話にはならないだろう。
何処で何を間違えてしまったのか分からなかった。


そこへ、先ほど報告をしに来た一部隊からいきなり風の魔法が飛んできた。

「なにをする!」


間一髪で風の魔法を避けると、慌てた陸上軍司令部を守る兵隊がその混乱した部隊を殲滅した。
何がどうなってるいるのか混乱の極みだった。

そこへまた一部隊が右舷の森から戻ってくる。
一瞬杖を構えるも、報告を確認するため警戒するのみで先を促した。
ところが、今度は話をする前に一人がいきなり攻撃魔法を打ってくる。
戻ってきた部隊もその一人を止めようと思ったが、守備部隊に攻撃され訳も分からず敗走しながらも攻撃を返した。

それからは地獄だった、三度目はなく右舷から戻ってくる部隊は問答無用で殉滅されていく。
少なくない抵抗にあい更に兵が減っていた、今や六千程になっていた。
百倍以上いた兵が、いまや十倍程度しか残っていない。

「馬鹿な、なんでこんなことに……まだ城に到達していないんだぞ」

極度の疲弊と疑心暗鬼に軍全体が苛まされていた。
せめてもの救いなのは、竜騎兵が上空を制圧しゴーレム部隊が城まで到達していたことぐらいだ。
城門前に陣を敷くと約五百ずつの兵に分け、城内を進行させることにした。
一気に攻め込むことにより、何かの罠にかかるのを恐れたのだ。

五百とはいえ王党派全体と同等以上であり、兵を分け時間差をもって攻めることによって完璧に追い詰めることにした。
そして第一部隊が城内へ先行することになった、全てが貴族で構成された部隊だ。


しばらく進むと三方向に別れた道に出た、しばらく見ないうちに城内も完璧に様相が変わっていた。

「よし、慎重に左へ進むぞ」

通路はせまく薄暗かった、壁には四角い穴が所々に空いていて薄明かりが差しこんでいる。
三列に立ち並び隊を進行させることを決定させた。
足元や壁などに罠がないか探知魔法で確認しながら進むと、いきなり壁の四角い穴から槍が突き出された。

「敵襲!かまわず進めっ」

走りながら進む先にはつっかえ棒のようなものがあり何人か転び、それにつられるようにまた転ぶ兵も出た。
それらを踏みつぶしながら兵は進んでいく。
しかし到達した先は行き止まりだった、錬金する間もなくまた四角い穴から槍が突き出される。

「転進!全軍戻れ、このことを総指令に伝えろ」

ここで犬死は出来ない、この情報一つで戦局が変わるか分からないが
この卑劣な罠を伝える必要がある、倒れた仲間の屍を乗り越えつつ戻る。
そして、来た道を戻ってまっていたのは絶望だった。なんと大胆にも通路が壁で行き止まりになっている。
一本道で来て戻ってきたのだ、抜け出せるはずが行き止まり、信じられないことだったがこれが現実だった。

「馬鹿な、このことを伝えなくては……」

そう嘆きながら最後の兵が息を引き取った。



断末魔の悲鳴を聞いて、第二部隊がやってきた。
二つに道が分かれ右とまっすぐへ進むことが出来る道がある、
慎重に慎重を重ね右に進むことを伝令に伝え進むことにした。
結果は左の道と同様の結果に終わった。

そして三番目の部隊が、分かれ道にやってきた。

「前の部隊は右へ向かったと聞くが……」

見ると右に通路はなく、左とまっすぐのみの道である。

「いったいどういうことだ?……戦場で恐怖し耄碌したか!?」

そう鼻で笑った第三部隊を率いる隊長は、まっさきに貴族派についた上昇志向の高い人間だった。

「よし、まっすぐ進むぞ。左は敵の罠にはまったようだな、軟弱な奴らだ。
ということは、この道が正解というわけだ、ふふふっ」

そういってにたりと笑うと怒声を上げる。

「我と思うものは続け!この先の玉座に聖地を目指すレコン・キスタに仇なす王党派がいるぞ。
始祖ブリミルに反旗を翻す輩どもに変わり、我らがアルビオンを支配するのだ。正義は我らにあり、ものども進め!!」

そして奮闘むなしく無残にも他の部隊と同様の結果になった。


第四部隊が到達したときには、右と左の分かれ道になっていた。
左の道は戦いの跡があるものの死体もなく狭い道が続いている。
右の道にはおびただしい死体が敷き詰められている。

「右に行ったものは全滅か…まっすぐ進行した部隊はどうなった?
先に進んだ道にまた枝分かれする道があるのだろうか?」

こうなっては、左に進むのみである。伝令に左に進行することを伝える。
狭く暗い道を進むにつれて嫌な予感しかしなかった。そして誰も帰ってこなかった。









「どういうことだ!!!」

兵を分散したのが間違いだったのか?
しかし狭い城内でそんなに大軍を率いて侵攻できるはずがない。

「くっ、全軍だ、全軍を集めろ」

「よろしいので?」

「かなわぬっ!なにか、からくりがあるはずだ。
数で押せばそれも物ともないわ、押し切るぞ!」

ならば、最初からそうしろと誰もが思ったが口にできなかった。
誰だって死にたくはなかったし、部隊をいくつかにわけることはそう悪手であるとは思えなかった。
しかし玉座を目前とし、これだけの被害をだして成果をださないわけにはいかない。もう進むしか道は残されていないのだ。


全軍を率いて進路を進ませる。もう兵は三千程度しか残っていない。
問題の分かれ道に到達すると右とまっすぐの二つに分かれた道しか残っていない。

「伝令では、右と左と真っすぐと聞いていたが……」

まっすぐの道にはおびただしい数の死体が敷き詰められている。
報告と違うことと目の前の異様な光景に動揺する部隊。
そこへ一人の貴族が声を荒立たせる。

「卑劣な罠だ!貴族の風上にもおけん奴らだ、ここは軍を二手に分け進行すべき」

するともう一人の貴族が驚き叫んだ。

「指令!!この分かれ道の壁の材質がどうもおかしいです」

「なにっ!そうかでかした。だれか急いで調査しろ」

探知魔法をかけ何もないことを確認すると、今度は錬金を掛けて壁を崩した。
壁が崩れた先には、薄暗い通路と真新しい死体が並んでいる、それを見た皆が息を飲んだ。

「五十名ほどで兵を率いて、三方向を調査しろ。
怪しい個所を発見次第、急いで戻れ、絶対に攻略するぞ」

そういうと三方向に調査隊を派遣した。
進む先で断末魔が聞こえる、固唾をのんで帰還をまつ。
それぞれの通路から、命からがら数名が帰還した。

「報告しろ!」

「はっ!左側の通路は罠が張られていました。
侵攻先の通路の穴からいきなり槍が突き出され……、
最終的には行き止まりでした。戻り際にも攻撃されましたが何とか帰還できました」

「右側も同じです。進んだ先は行き止まりでした」

最後に報告しようとした男は、顔を真っ青にしている。

「真ん中の通路も同様でした……」

総指令は顔を朱に染め激昂している。

「ふざけるな!虚仮にしおって、これが王のやることか!
三部隊に別れろ、穴は潰せ!行き止まりは錬金を掛けて道を開け」



そして三部隊がたどり着いた先は開けた玉座のある部屋だった。
玉座には老体のジェームズが座っている。そのかたわらにパリーが立っていた。
進行している全ての兵に囲まれ、剣や槍を構えられている。


「のう、パリー。この光景圧巻ではないか」

「誠に言葉もありません」

「げに恐ろしきは、トリステインの賢人よ。これほど敵に回したくないと思った人物は初めてだ。
これは名誉ある敗北ではないかもしれん。しかし、それも次の世代に道を残してこそぞ」

「はっ」

「初めに目にした時から、朕には分かっていた。
あの者には何者もあらがえぬ、鎖をつけることもできぬ。
しかし、我が新しき王を気に入ってくれたようだ。その先はあやつにまかせよう」

パリーは涙している、最後の最後で王家の血を絶やすことはなかった。
憂いもいくらか此処で払うことが出来た。
あとは未来に任せるのみである、先は暗いかもしれない。
だが絶望ではなかった、我らの希望が生きているのだから。

「アルビオン万歳!!」

二人のその言葉と共に、ニューカッスル城のどこかで小さな爆発音がし、城を支えている支柱が崩れた。
たび重なる錬金と何度も受けた攻撃により城は耐えきれなくなり、ジェームズが事切れるのに合わせるように崩れ全ての兵が生き埋めになった。


戦争は終結し振りかえると死者はなんと二万にも及んでいた。他はすべて逃走し残っている陸上部隊はいない。
百倍近い戦力差をひっくり返し相打ちとなったその戦は、正しく伝達され広く語り継がれることとなる。
またウェールズの死体もなく森の中から行方がしれなかったため、アルビオンの何処かに潜んでいると噂が流れた。


















ワルドとの死闘を繰り広げたサイト達は、難民船「イーグル」号の一室の部屋に招待された。
部屋にたどり着くとある人物がサイト達を迎え入れたのだった。

「皆無事にたどり着いたようだね」

ウェールズ皇太子、いや今や冠を受け取った最後のアルビオンの王であった。

「はっ、無事全ての任務を完了しました」

そう一礼するサイトとウェールズを交互にルイズは見つめた。

「ウェールズ様!?戦場に向かわれたのでは?」

「あれはスキルニルでね。こうして生き恥を晒しているわけだ」

悲しそうにウェールズは笑った。

「父上は上手くやってくれているだろうか……」

「ええ、貴族派に大きな打撃をあたえていることでしょう、
それはアルビオンの未来に、ひいてはトリステインの未来につながります」

陸上軍隊は全滅であることを知ったら驚くだろう。
ウェールズは厳しい顔で頷く。

「きみには感謝の念をつくしても尽くしきれないよ」

サイトは首を振る。そして静かに言葉を続ける。

「トリステインに亡命なさいませ、ウェールズ王」

今度はウェールズがゆっくり首を振る。

「いや、それはできん!散って行った者たち、散らせてしまった者たちに顔向けできん。
かならずや、かならずや王家を復興する。何年かかってもかならずだ!!
だから……手伝えとは言わん、せめて助言をもらいたい」

サイトは悲しそうにうなずく。

「分かりました、出来うる限り協力しましょう。
しかし、アンリエッタ姫に一度お会いしてください。それが条件です」

「そうだな、きみをアルビオンまで使わしてくれたアンリエッタ姫にもお礼をいわねばなるまい。
正式的な挨拶は出来ないだろうが……いたしかたあるまい」

ウェールズは微笑むのだった。


ルイズは嬉しそうにサイトの手を握った。
またこの使い魔はやってくれたのだ、全ての約束を守ってくれたのだ。
サイトはにこりと微笑んで、ルイズの手を握り返した。



[18350] ■現在23 * 「蜘蛛の糸」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/06/03 02:10
トリステインの王宮は、ブルドンネ街の突き当たりにあった。
王宮の門の前には、当直の魔法衛士隊の隊たちが幻獣に跨り闊歩している。
戦争が近いという噂が、二、三日前から街に流れ始めていた。

よって、周りを守る衛士隊の空気も戦時のようにピリピリしたものになってきている。
王宮の上空は、幻獣、船を問わず飛行禁止令が出され、門をくぐる人物のチェックも厳しかった。

そんな時だったから、王宮の上に船があらわれたとき、警備の魔法衛士隊の隊員たちは色めきだった。
マンティコアに騎乗したメイジたちは、王宮の上空に現れた船めがけていっせいに飛び上がる。

船は難民を示す信号を掲げ、王宮近くの広場に着陸した。
マンティコアに跨った隊員たちは、着陸した船を取り囲んだ。

腰からレイピアのような形状をした杖を引き抜き一斉に掲げる。
いつでも呪文が詠唱出来るような体制をとると、ごつい体にいかめしい髭面の隊長が大声で怪しい侵入者たちに命令する。

「責任者、杖を捨てて出てこい。
現在王宮の上空は飛行禁止だ、ふれを知らんのか?」

桃色がかかったブロンドの髪の少女が、船のタラップからあらわれ毅然とした声で名乗った。

「わたしは、ラ・ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズです。
怪しいものじゃありません。姫殿下に取次ぎ願いたいわ」

ラ・ヴァリエール公爵夫妻なら知っている。
隊長は掲げた杖を降ろした。

「なるほど、みれば目元が母君にそっくりだ。して、要件を伺おうか」

傍らにたつ黒髪の少年がルイズから何かを受け取り、隊長に恭しく手渡す。

「これは?」

鮮やかな青の色の石をもつ指輪だった、探知魔法を使うと淡く魔法の反応を感じる。
しかし特に危険があるような代物ではなかった。

「姫様より預かりし王家の秘宝水のルビーでございます。これを姫様にお渡しください、それで要件が伝わります」

隊長は頷くと、宮廷内にいるアンリエッタ姫に取り次いだ。
武器の携帯は認められないので、それらは一時預け謁見待機室に集められた。
ルイズとサイト、変装したウェールズがアンリエッタ姫の居室へ通される。


ルイズとアンリエッタは静かにひっしと抱き合った。
最悪の事態にはならず、最高の結果を出すことが出来たのだ。

「ああ、無事に帰ってきたのね。うれしいわ。ルイズ・フランソワーズ」

「姫様……」

アンリエッタに抱きしめられ、ようやく任務を達成させた実感がふつふつとわき涙があふれる。
しっかりと抱擁しかえし安堵した笑みを浮かべる。そして……

「おお、おお……」

アンリエッタはこの世の全ての春が訪れたような笑みを浮かべながら涙を流した。

「ウェールズさま……」

感極まり、よくぞご無事でという言葉が続かなかった。
ウェールズも愛してやまない従妹姫の姿を見て顔をほころばせた。

「心配掛けてしまってすまなかった」

ウェールズも目に涙を浮かべ、しばらくは身分も忘れ、抱き合う二人だった。

それから、サイトはワルドの裏切りや、アルビオンでの攻城戦への対応と
その後の調査依頼、ならびに難民船への対応等こまごましたことを話すのだった。
日も陰り始め、長旅を労われ王宮内に泊ることになった。






欠けた月の光が淡く照らす夜も更けたころ、人払いをしてあったアンリエッタ姫の私室に
足音も立てずに忍び込む一人の男の姿があった。
音もなく扉をあけると素早く部屋に入ってきたのはサイトだった。

「サイトさん、こんな夜更けにいったい何の用でしょうか?」

諦めたようなどこか熱のこもったような咎める視線をサイトに向ける。
薄紫のキャミソールが白い肌を透かし、形のいい胸がそれを押し上げる。
高貴さと淫靡さを兼ね備えたような美しさだった。

「耳打ちした通り、人払いをしたということは、
もう分かっていて覚悟もできているのでしょう?」

そういわれるとアンリエッタは目を伏せ、体を抱き寄せる。
確かに帰り際に言われ、人払いをしたのは自分だった。
要求を撥ね退ければよかったのだろうか?

「まあいいか、今日は報酬の話に来たんだよ」

「報酬……ですか?」

いったい何を要求されるのだろうか。王族なれど自身で出せるものはそう多くない。
金銭でかたがつくといいのだけれど、そうではないのだろう。そうなると……

「三つあってね、一つはトリステイン王族の婚姻の際に立ち会う巫女をルイズに選ぶこと。
二つはおれの考えた施策を王家甲案という形で実行すること、これは狙いや効果等詳細にまとめてあるから、
枢機卿に相談し有用であると判断できたら施策という形で構わない」

「どういうことでしょうか?」

アンリエッタは聞き返した。

「一つ目は、ルイズを他の人や家族に認めてもらうための一歩。
二つ目は、トリステイン王国とアンリエッタ姫さまの権力の強化が目的かな。
自分や周りを守るのに一番効率がいい」

一つ目は、元々そうするつもりだったので問題ない。
二つ目は、わたしを傀儡にしてトリステインを牛耳るつもりだろうか?
しかし、わたしが結婚してしまうとそれも難しい、少し矛盾しているような気がする。
しかも有用であると判断できればいいということは、自信もありこちらにも利益があるということだろう。
この人のことがわたしはよくわからない。

「三つ目は、姫様かな。アンリエッタが欲しいんだ」

覚悟していたことがとうとう来たと思った。後ろから抱きしめられ力強くストレートに言われ赤面してしまう。
はりと柔らかさのある胸が左右に形を変えながら、もどかしい手つきで愛撫されていく。

「へえ、抵抗しないんだ?」

「忠誠には…ぁ…報いるところがなくては…なりませんから…ぁぅ」

恥ずかしさと快感と幸福感がじわじわと体をあぶっていく。

「ギーシュも今回活躍したけど、アンリエッタはこういうことをして報いるの?
今の言葉だと忠誠を示す人には、こうするって聞こえるけど?」

それでは、まるで娼婦ではないか。
そんな酷い指摘にあわててかぶりを振る。

「ぁ…サイトさんだけ、ぁあ、サイトさんだけなんです…」

耳元で囁き続けられ、傲慢に動く手で肌を蹂躙されていく。

「それって、俺だけ特別ってこと?」

耳たぶに首筋に口づけされ遊ばれている。

「ちが……そうです、サイトさんが特別なんです……くふぅ」

否定すれば他の人にもしなければならない、認めるしかなかった。
そもそも人払いをし、キャミソール一枚で出迎え、
そわそわと待っていた時点で期待していなかったと言えないわけがない。

そう叫びながら秘所の表面を撫で上げられ、サイトの指が細やかに振動を加える。
わたしの体は自信の意思を裏切り、勝手に上り詰めて淫らな反応を返していた。



背後からピッタリとアンリエッタを抱きしめ、片手で胸を絞り上げる。
どくどくと脈打つ自分の分身を尻に押し付け堪能する。
指を震わせるたびに体がびくりとはね、愛液が飛び散る。
快楽に呆けるアンリエッタに頃合いを見計らい挿入する。

「くぅ……ぅ……ぁ」

まだ慣れない中の刺激に悶えながらも、様々な不安が吹き飛び幸福を感じる。
穏やかな抽送に全てを忘れ快楽に身をゆだねたくなる。
しかしサイトはそれを許さず、アンリエッタをさらに追い詰めていく。

「そういえば、ウェールズ陛下、アルビオンに戻るそうですね」

その一言にアンリエッタは冷や水を掛けられたように我にかえり、
腰をひねり体を揺らしながら抵抗し始めた。
しかし、サイトにしっかり押さえつけれていて、お互いに快楽を増すばかりだった。

ウェールズさまが同じ王宮内に泊っているのに、
いったい自分は何をやっているのだろうか?
愛し全てを掛け救ったウェールズさまもまた死地に向かうという。
そんな日にわたしはいったい何をしているのだろうか……

「ごめんなさい…ぁ…ウェールズさま…ぁん…いかないで、っあ……ごめんなさい…ああ」

快感と背徳感とでむせび泣くアンリエッタは神々しく美しかった。
ぎちぎちと締め付け快感と幸せが押し寄せるたびに悲しくなった。

「こんなに騒いでたら、ウェールズ陛下も気がついてこの部屋に来てしまうかもしれませんね」

それはあり得ない話だった。しかし、ぐちゅぐちゅぱんぱんと音がする腰を
さらに深く押しつけて、口に手を当てるしかできなかった。
その行為も、また快感を増すだけだった。さらに涙が頬を伝う。

「んぅ、んっ…ん…」

笑いながら腰を動かすサイトも限界が近かった。
そろそろかなと思い、腰を動かすのを早める。
アンリエッタは必死に声を漏らさないように気をつけ、快感で頭が焼き切れそうだ。


コンコン。


誰も来ないはずの部屋の扉にノックをする音が聞こえる。
驚き本気で抵抗するアンリエッタだったが、サイトにかなうはずもなく成すすべなく腰の動きが続けられる。
抵抗とはうらはらに、アンリエッタの膣はぎちぎちと締め付けサイトを離さない。

「んー!!んー!!」

帰って、お願い帰って…そんな願いもむなしく、
かちりとドアを開ける音がする。

「ああん!ごめんなさい、ウェールズさま!!あぁもう無理、イッちゃう!
イク、ぁああ!イキますう、ごめんなさい……ぁあ…」

ぎゅぎゅぎゅっと断続的に締め上げると、絶望しアンリエッタは盛大にいってから気絶した。
サイトも容赦なく中に欲望を吐き出した。

そして一息つくと、部屋に入ってきた人物に声をかけた。




「ルイズ、ばっちりのタイミングだったよ。
よくやった、ご褒美をあげるよ、こっちへおいで」




目が覚めると、ベッドに横たわらされていた。
見るとサイトはルイズを愛撫しながらキスしている。
未だにサイトはアンリエッタの中に挿入したままで、気絶している最中も犯されていたらしい。
アンリエッタが目覚めたことに気がついたサイトはルイズから唇を離す。
ルイズは名残惜しそうにしながら、サイトから少し離れた。

「アンが欲しいんだ、アン、俺のものになれ」

もう涙し頷くしかなかった。
抜け出せないようにからめとられた、それはまるで蜘蛛の糸。
アンリエッタもまた、こうして心身ともにサイトに屈したのだった。





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原作二巻も終了しました。
アンリエッタを絡め取った蜘蛛の糸は果たして、
アンリエッタを救う蜘蛛の糸となるのでしょうか?

この後は、過去話を何話か出す予定です。
まだまだお話は続いていきますが、ここまで読んでくださった方ありがとうございます。



[18350] ●過去8「風の悔恨」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/06/03 02:13
アルビオンの手紙イベントは、序盤にしては難易度が高い。
それもワルドが無駄に優秀で、また立場的に微妙な位置にいるためでもあった。
サイトもこの時点では地位や発言力もなく殆ど手づまり状態なのだ。

そのため、ワルドはサイトの苦手人物の五本指にすら入る人物でもある。
ちなみに余談であるが苦手人物の一位はカトレアである。


姫様に進言しても聞き入れられず、ルイズにいっても駄目、
ルイズの信頼を得れるよう頑張りワルドに疑いをもたせようとしても
結局ルイズとサイトの身分の差で中々上手くいかず駄目、
闘技場で負かしてみれば、油断がなくなり注意人物とみなされ駄目、
出会いがしらに問答無用でワルドを殺した時は、まったく孤立し処刑されるまでいってしまって悲惨だった。

何かすれば柔軟に対応されるし、まだ経験も少ないサイトは翻弄されるばかりだった。


「彼を知り己を知れば百戦危うからず」昔何かで聞いた偉い人の言葉だ。
そうだ、もう何度も繰り返しているんだから、敵対人物についていけば新しい見解が得られるかもしれないと思ったのだ。
どうせ何をしても繰り返す身、これは次の人生へ繋ぐ布石だと自分に言い聞かせた。


そこでサイトは、一計を案じることにした。



ニューカッスルでの結婚の場での一戦、ウェールズ皇太子が討ち死にしルイズは気絶している、
サイトがガンダールヴの力を振るいワルドの遍在を全てかきけした場面だった。


「ワルドさん、どうかルイズだけでも見逃してやってください」

サイトは油断なく剣を構えながら、ワルドに語りかけた。

「何の真似だ、ガンダールヴ。臆したか?」

ワルドは疲労を隠しながらも、じりじりと隙を探している。

「神の左手が貴方の左手となります。ガンダールヴだからこそ分かることもあります。
ワルドさんの目的が何かは分かりませんが、必ず役に立ちます。
だから、ルイズだけは見逃してやってください。ウェールズ皇太子を倒したとあれば功績も十分でしょう?」

まだ相手には余裕がある様に見える、隙も少なくまたそれ以上に目で追うのがやっとというくらい素早い動きは対処が難しい。

「なら、ルイズも連れていくんだな。わたしたちは「聖地」を取り戻すために虚無を欲している」

サイトは首を振る。

「ルイズが姫様を裏切って虚無を使うことはありません、そしてルイズを連れていくことはさせません。
脱出手段だってちゃんと用意してあります。おれはここでワルドさんと相打ちになっても良い覚悟でいます。
だけどルイズに万が一がないように、見逃してほしいんです」

「相棒……お前さんってやつは…泣けるじゃねえか」

デルフがかたかたと嘆いた。
ワルドは考える、ここまで手回しされている以上ガンダールヴを自分の手元に置いた方が得かもしれない。
もうすでに戦場は動き、ここに長居するのも危険である。

「よかろう、準備したまえ。お前にはわたしのためにしっかり働いてもらおう」

サイトは頷くと血で紙にさらさらと文字を書き、ルイズの上に置いた。
そこには、「ワルドにルイズを見逃してもらうためについていく、ルイズを頼む」と書いてあった。


そして壁に空いた穴から飛び出し、呼び出したグリフォンに跨って城から脱出した。






戦が終わった二日後、照りつける太陽の下、死体と瓦礫の入り混じる中、長身の貴族が戦跡を検分していた。
羽のついた帽子に、アルビオンでは珍しいトリステインの魔法衛士隊の制服をきたワルドだった。
その後ろには、フードを目深に被った女のメイジと白い仮面をかぶり長剣をもった剣士がいた。

サイトは礼拝堂までたどり着くと、瓦礫を寄せ始めた。
有名な絵画の複製の下に穴を発見するとようやく安心した。

「それが言っていた脱出経路か?」

「はい、ちゃんと脱出できたようです」

ワルドが後ろから近づいてきていた。

「まったく大したもんだよ、こんな子供に煮え湯を飲まされるなんてね」

フードをかぶった女は「土くれ」のフーケだった。

「それより、昨日言っていた話に偽りはないだろうな」

「裏は取れますよ、とにかく僕たちは離れていますので話を合わせてきてください」


ワルドは丸い球帽をかぶり、緑色のローブとマントを身につけている男に近づいて行った。
ワルドは頭を下げ、畏まりながら話をしている。
瓦礫に埋もれたウェールズの死体を掘り起こすと恭しく一歩後ろへ下がる。

「偉そうに見えるけど、あれがクロムウェルかい?」

「ええ、おそらく」

サイトとフーケは宝を漁るふりをしながら、様子をみている。
クロムウェルは杖を構え魔法をウェールズの死体に振りかけた。

「なっ……死体が蘇った!?」

フーケの顔を青ざめさせている。ワルドも狼狽しているようだ。
クロムウェルはにこやかに、ワルドに二、三言伝えている。
しばらくするとクロムウェルは生き返ったウェールズをたずさえその場を去って行った。



「虚無は生命を操る系統……クロムウェル閣下がいうには、そういうことらしい。
信じられんが、目のあたりにすると疑うのも難しいな。
今まで生きてきてあのような魔法はみたことがない」

「そうですね」

サイトは頷く。

「どうだ、これでもクロムウェル閣下は虚無ではないと?
あのような死者を生き返し意のままに操る恐ろしい魔法が聞いたことがない。
虚無だという方がまだ理解できる」

サイトは否定するように首を振る。

「直接見ましたが、やはり虚無ではありませんね。
あれはアンドバリの指輪です、ラグドリアン湖の水の精霊が守る秘宝と聞きました」

「眉唾ものじゃないかい、そんなお宝であれば盗んでみたいね」

フーケも盗賊としての血が騒ぐのか物欲しそうな目をしている。

「やめてください、フーケさん。操られておしまいですよ」


ワルドは髭に手をやり、考え込んでいる。

「で、どうするんだい?隊長さん。わたしとしてはこんな薄気味悪い軍隊からは一刻も早く遠のきたいね」

フーケは、嫌そうな顔をしながら首をすくめた。

「まずは裏を取る、サイトの事をまだ完全に信用しているわけじゃないからな。
そのため、しばらく暇をもらってきた。まだ正式に契約したわけじゃないからな
見極めてから、今後どうするか決めても遅くはあるまい」

「どっちでもいいさ、命令にしたがうだけだよ。
わたしたちは、もうあんたについていくしかないのさ」

サイトはその言葉に頷いた。








一行はド・ワルドの中のぼろぼろの廃屋を拠点としていた。
ラグドリアン湖に到着し指輪について真偽を確認した後、ここを仮住まいとしたのだ。

「全てを捨てトリステインを裏切り、レコン・キスタに未来はない、八方ふさがりだな」

ワルドは少し疲れたような顔をしている。

「前から気になってたんだけどね、なんだってあんたはそんなにも聖地に執着するんだい?」

フーケは廃屋を人が過ごせるように魔法で環境を整えながら尋ねる。
サイトも片づけを手伝っている。

ワルドは、考え込むように黙っている。

「教えてくれたっていいじゃないか。わたしたちはあんたを手伝ってるんだ。
聞くくらいの権利はあるんだろ?」

「……」

ワルドは首から下がるペンダントを握りしめ、しばらくしてから口を開いた。

「俺の母は、アカデミーの主席研究員だったんだ」

「アカデミーって、あの怪しげな研究をしているところかい?」

「ああ、そこで歴史と地学の研究を行っていたが、ある時を境に心を病んでね。
うわごとのように、”ジャン・ジャック、聖地を目指すのよ”と何度も繰り返すのさ。
しまいには、父は奥の部屋に母を閉じ込めたよ」

フーケは眉をひそめた。

「呆れた。そんな理由で全てを捨てて、聖地なんかを目指すっていうわけ?」

「いや、俺も母を恥に思い辛く当ってばかりだったよ、いい加減にしてくれと……」

「それなら、なぜ、その母の願いをかなえようと考えたのさ」

ワルドは、懐から一冊のぼろぼろの本を取り出した。それを無言でフーケに手渡す。

「母の日記帳だ」

「本当にどこまで親離れできてないのさ」

日記帳は、ワルド出生から研究員としての日々がつづられていた。
ハルケギニアの大地に眠る風石について研究していたようだ。

「効率のいい採鉱について研究していたようだね。歴史についてもちらほらと書かれているよ
これがいったい聖地とどうして結び付くというのさ」

ある時から中身は狂気じみた聖地への渇望で埋め尽くされていた。
研究の末発見した秘密を抱え、心を病んでしまったらしい。
フーケは読み終わった日記をサイトに手渡した。

「俺がその日記を見つけたのは二十歳の時だ。母の部屋を整理していて発見したんだ」

「あんたの母親は気の毒だと思うけれど、具体的な事がなくて妄想としか思えないよ。
まさかこの内容を信じて聖地を目指すなんていうんじゃないだろうね?」

「信じる信じないじゃないんだ」

ワルドは疲れた声で言った。

「何をいってるんだい?」

「母は俺が死なせた……十二の時だったよ。屋敷で俺の誕生パーティが開かれたんだ。
その日どういうわけか、奥に閉じ込められていた母が出てきてしまってね。
廊下を大騒ぎで何度も俺の名を呼びながらね。

心底嫌になって奥の部屋に連れ戻そうとしたんだ。そして階段の上で母は俺に抱きついてこようとした……」

まるで、何かの感触を思い出しているかのように両手を見つめている。

「俺は思わず母を突き飛ばしてしまった。
あの年は母親なんていうのは疎ましくなり始める年なんだ。
ましてや、病んでしまっていてはなおさらね。

ほんの少し押したつもりだったんだ……
だけど気が付いたら階段から転げ落ちて首がぽきりと折れていたよ。
今でも夢に見るよ……母の折れた首とそのうつろな瞳」

ワルドは目をつむり抑揚のない声で話を続けた。

「それから、八年間ただひたすら修行に明け暮れた。
そうでもしないと、母殺しの罪から逃れられないと思ってね。
そして気が付いたら魔法衛士隊の隊長になっていたよ
二十歳になったときに、その日記を見つけて気がついたんだ。母には何か心を病むぐらいの理由があったとね」

ワルドは椅子の背に体を預けるようにして身を沈めた。

「わかるだろ、マチルダ。俺にとって聖地に向かうことは義務なんだ。
そこに何があるかなんてどうだっていいんだ。これは殺してしまった母の最期の願いだ。
何をおいても聖地にいかなきゃいけないんだ」

フーケは手を伸ばすとワルドの首をかき抱いた。

「やっとわかったよ、なんであんたが気になってしかたがないのかね。
あんたは自分で自分を捨てちまった可愛そうな孤児。
わたしはそんな子供を見るとほうっておけないのさ」

フーケは優しくワルドを抱きしめると、慈愛に満ちたまなざしを向けた。
まるで告白のような台詞と共に甘い空気が流れている。
サイトがこほんと一つ咳をすると、我に返ったフーケがワルドから離れぶつぶつと、空気が読めない子だねと呟いている。

「ワルドさん、聖地へ行ってどうするんですか?」

「そんなことは聖地に行ってから考えればいい」

「目的と手段が違えています、聖地に行くことじゃなくて聖地で何かすることが母君の願いじゃないんですか?」

ワルドは心底嫌そうな顔をし疲れた声で話す。

「ああ、もちろんそうだ。しかし日記からは殆ど分かることがなかったんだ。
聖地に行くことすら難しいというのに、どうしろというんだ」

サイトは今まで敵としてしか知らなかったワルドにこんな理由があったなんて思ってもいなかった。
ルイズを裏切り皇太子を殺した事を許せるわけではなかったが、
サイトはワルドを自分に当てはめた時に悲しくなってしまったのだ。
思い出すのは今は懐かしい故郷の母親、もし自分の手で殺してしまったとしたら……


「実家に日記以外の母君の手記は他にありませんか?研究資料とか…
もしかしたら、アカデミーに資料が残ってたりとか」

「いや、母が既に処分したんじゃないだろうか。
それにもう何年もたっているのにそれらしい発表もない。
探したことはないが残っていないだろうさ」

そうですか…とサイトはしょんぼりした。

「いや、調べたことがないんだろ?目的もなく聖地を目指すよりかは建設的じゃないか。
今は八方ふさがりで資金も少なくなってきたし、調べるついでに何か盗んでくるさ」

フーケが妙案だとでもいうように答える。
ワルドは顔をあげ、そんな二人を見回す。

「分かった。俺とサイトはなんとか実家に向かって他に手記がないか探してみる。
マチルダはアカデミーに潜入して研究資料がないか探してみてくれ、頼む」

数日一緒に暮らして分かったことだが、ワルドは不器用なのだ。
戦闘能力は高いが生活能力はゼロだし、普段は良く今まで一人で生きてこれたという生活をしている。
隊長を務めてただけあって教えるのも上手く、たまに稽古をつけてもらっている。

駄目な兄と面倒見のいい姉と一人っ子だったサイトには新鮮な生活で嫌じゃなかったのだ。
だから、このまま最後まで手伝うのもありかなと今では思っている。





それから、半月ほど経過した頃再び三人は廃屋に集まっていた。


「久しぶりだな、まずは俺達から報告しよう。結論から言うと収穫はなかった。
いくつか手記を見つけたが持っている日記帳以上の情報はなかったんだ
そっちはどうだったんだ、マチルダ」

マチルダは、机の上にいくつかの書類を置いて行った。

「何!アカデミーにあったのか!?」

「ああ、本当にあって驚いたよ。しかも研究資料がある棚じゃなくてね。
収穫がなかったから、諦めてお宝でも盗もうかと思ったら、これが金庫に厳重に保管されてあったのさ」

お陰でこんだけ時間がかかってしまったと呟く。

「こんな……こんな所に手掛かりがあったなんて……
もう中身はみて確認したのか?」

ワルドの目にうっすらと涙が浮かんでいる、もらい泣きしてしまいそうだ。

「いや、まずはあんたにみせようかとおもってね。
素直にお礼をいってくれてもいいんだよ」

フーケはうまくやったといわんばかりの得意そうな顔つきをしている。
そんなフーケをワルドは抱きしめる。

「ああ、なんとお礼をいっていいかわからん……マチルダありがとう」

「なっ!……ばかっ、こんなところでサイトがみてるじゃないか」

「ああ、すまん。それでは先に見させてもらおう」

フーケは顔を赤らめながら、二人きりなら別に…なんて危ない発言をしている。
それを丸で流すかのように真剣に読んでいるワルドの顔が次第に青ざめていく。

読み終わった資料を黙ってフーケに手渡す。
急かされるように資料を読んでいくフーケは驚いて声を上げる。

「なんだいこれは、風石の増加量がおかしいじゃないか。
間違っているんじゃ……いやもしあっていたとしたら…ハルケギニアが宙に浮かぶっていうのかい?
アルビオンがその名残じゃないかって……しかも徐々に浮上率が上がっている。このままじゃ何処までもあがって行く?」

フーケは今アルビオンの森に隠れ住んでいる妹の事を思いやった。
サイトは昔ロマリアでのやり取りを思い出していた、ロマリアも危惧していたことに
ワルドの母親は単独で答えにたどりついていたというのだ。確かに一人で抱え込み心を病んでしまってもおかしくない。

ロマリアの教皇ヴィットーリオもこの件で多くの人も巻き込み戦争を起こしたくらいなのである。


「確かにそれも恐ろしい。天変地異によるハルケギニアの崩壊は各国の人口の4分の1を減らす可能性があるらしい。
しかし、それよりも恐ろしいことが、仮説としてあがっている」

それを聞くとフーケはさらに資料を読み進めていく。
フーケも読み進めると共に次第に顔を青ざめていく。

「これは……これは、厳重に保管されるだけあるわね」

サイトも資料を読み進めていく。

「魔法の残滓による各系統の石の蓄積と関係性?」

「簡単にいうと風石なんかを使うと空を飛べるし、風の魔法を強化できるんだ。
この仮説の大胆なところは、魔法を使った時の残滓が地下に溜まり系統の石になるという仮説らしい」

確かに前にエルフのビダーシャルが火石を作っていたことがあった。
ということはこの理論もあながち間違いではないらしい。

「ということは、魔法を使えば使う程、国が危険になるということですか?」

ワルドはゆっくり頷く。
風石が溜まれば地表が浮き、水石が溜まれば洪水になり、
火石が大爆発や噴火、土石は土地の不自然なほどの盛り上がるという。

「ああ、アルビオンなんかは風の使い手が多い、人と土地相互に干渉している可能性が高そうだ。
実はトリステインも風の使い手が多い土地なんだ……」

サイトはごくりと唾を飲み込む、ワルドは水を飲み一息つくとさらに続けた。

「魔法を使えないということは貴族としての役割が薄くなるということでもある」

「それは、いいことじゃないんですか?」

フーケがやれやれと首をすくめる。

「馬鹿だね。抑止力がなくなり秩序がなくなった国なんて崩壊するばかりだよ
そうでなくても、貴族に不満をもつ平民は多いんだからね。
それに、生活も魔法を頼りにしている部分が多いんだ」

確かに軍事だけでなく、以外に魔法が生活の一部に貢献している部分を否定できない。
平民にだって見えにくいが、ちゃんと魔法の恩恵があるのだ。


「聖地へ行けば何とかなるんですか?」

あの聖地で何かが出来るとは思えないがとサイトは思った。

「分からないが、母がいっていたように何かがあるのだろう。
それを探し出せばいいだけだ、それよりも……」

ワルドはぎりりと苦い顔をしている。

「これが厳重に保管してあったということは、母は一人で抱えていたわけじゃなかったんだ。
誰かに相談したんだ……そう、例えば上司とかに。
だが、貴族にこれをやすやすと認めることが出来るとは思えない。
恐らく、異端だなどと難癖を付けられ、追い詰められ誰にも相談出来なかったのだろう」

ドンっと机を握りこぶしを作りたたく。

「当時の上司は、今の評議会議長ゴンドランだね、知ってるかい?」

「いやに印象の薄い男だったはずだな……
これは復讐ではない、そうケジメだ。過去を清算し先へ進もう」

サイトは黙ったままだった。
もはや最後まで付いていくと覚悟を決めているのだ。



そうして、それからの一行の足取りはつかめなくなった。
彼らが聖地へたどり着いたか、だれも知る物がいなかった。



[18350] ●過去9-1「最強の使い魔」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/06/09 20:45
サイトは悩んでいた。

ガンダールヴとは無類の強さを誇るが局地限定的な力でもあり弱点が多かった。
心の強さ、感情の震えによって、自身の強弱も変わるうえに力を振るえる時間も変わる。
ウルトラマンの三分タイマーより使い勝手の悪い強さだった。

このままではサウスゴータでの撤退戦で相対する七万を見据えたときに途中で力が切れてしまう恐れがある。
経験を元に考案したところ、いくつかの妙案が浮かんだ。
それを試してみようとサイトは力強く拳を握った。



ヴェストリの広場に、ギーシュとタバサとキュルケが集まってきた。
サイトが訓練のため、頼み込んで呼び寄せたのだった。


「君には負けたからね、一度くらいは頼みを聞いてもいいと思っていたけれど
それが、まさか訓練につきあってくれだとはね」

ギーシュが薔薇の造花を構えている。

「あら、わたし以外にも声をかけていたの?
訓練を口実にしたデートかと思ったら、ダーリンも気が多いのね」

キュルケは赤い髪を煽情的にかき上げている。

「手伝う」

タバサは言葉すくなに答えた。
彼の訓練を手伝うことで自分の能力を向上できると思ったからだ。
なにより、あの洗練された動きにも興味がある。


「三人同時に魔法で攻撃してきてほしい」

「三人?ダーリンったら本気で言ってるの?ギーシュはドットだけど、
こっちにはトライアングルが二人いるのわかってる?」

「ああ、別に侮ってるわけじゃないんだ。
最初はコツをつかめるよう手加減してほしい」

適当に貴族たち何人かに粉をかけて、向こうに手を出させようかと思ったけれど
ちょっと考えたら、終わった後関係が悪くなりそうなので協力してくれそうな人を探したのだ。

「いい、やる」

タバサが大きな杖を構えた。
サイトを中心に三方向にそれぞれが位置している。

ギーシュは、ワルキューレを二体出している。キュルケは杖を構えているが心持やる気が見えない。
タバサの立ち方は自然体で隙があるようで隙がない無理のない構えだった。
対するサイトは、デルフリンガーを逆手に構え、柄を頭の上部に上げている。
意外に大きな剣で体の中心を隠すように構えている。



ギーシュのワルキューレの突撃を合図に、キュルケが小さな炎の球を、タバサは小さな氷の塊を飛ばす。
サイトはそれをよけずに剣でいなし受けている、ワルキューレも破壊せず弾きとばす。
ワルキューレは弾かれた個所から動きが鈍くなっていた。

サイトは手首を器用に動かし、連続や同時に起こる攻撃を上手く受けていた。

「おでれぇたぜ、相棒。俺をこんな風に使うなんて今まで誰も考えつかなかったぞ」

最小限のサイトの動きも徐々に早くなり、半刻程たった所でギーシュはリタイアしていた。
今やキュルケもタバサも本気になり、あの手この手で攻撃していた。

しかし、サイトは最小限に動き、あるときは大胆に動き、
全て受け全ていなし動き続けていた、それはさながら踊りのようだった。


一時間もたつ頃には、広場には見物人が集まり始めていた。
キュルケは流石に疲れ始めてきたのか動きが鈍くなってきていた。

「なんだ、なんだ。情けないな。平民にこうも遅れをとろうだなんて、
僕が君の仇をとってあげようじゃないか」

ベリッソンが声をキュルケに声をかける。

「やってみなさいよ、ダーリンに勝てるわけないじゃない。
そうね、最後に立ってた人と、デートしてあげてもいいわよ?」


そういって、意味深な眼差しを周りに向ける。
観戦に来ていた周りの男たちは色めき立ち、我先にと魔法をサイトに向けだした。
サイトにとっては、実戦を想定できるまたとない機会だった。




騒ぎを聞きつけ、ようやくルイズが到着した時には、
サイトの周りにまだ2,3人立ち、息もつかせぬ間もなく魔法を繰り出している。

「ちょっと!あんたたち、わたしの使い魔になにやっているのよ?
そんなに取り囲んではずか……むぐーー!?」

「ちょっと、ルイズもう少しで終わるから、黙ってみてなさいよ
ダーリンったら凄いわよ。私たちも含めあそこに倒れている奴ら全員相手したんだから」

キュルケが背後から、ルイズを抑えつけている。

「もう彼は二時間は動いている。しかも怪我ひとつなく」

珍しくタバサが興奮した面持ちで話している。


「二時間!?怪我ひとつなく?」

見ればサイトも周りも怪我ひとつない。
倒れているのは魔法を行使しすぎて、精神力が切れているだけなのだ。
もう立てない奴は、勝手に最後に立つのは誰かかけ始めていた。

「相棒、すげえじゃねぇか。見てみろよ。四十人はかたいぜ。
いやー、これだけ使いこなされると剣冥利に尽きるってやつだね」

サイトも興奮していた、多数との戦いでの戦法の一つが功を奏したのだ。
種を明かせば、デルフリンガーで魔法を吸収して、溜まった魔力を利用し体を動かしているのだ。
ガンダールヴの力を最小限に体の操りを魔法でカバー。
途切れることのない供給は、さらにサイトを加速させ、それでも余りあるくらいだった。
これなら、いくらでも相手が倒れるまで続けられる。もう一つ武器をもてばさらに効率がいい。


ルイズはぷるぷる震えながら、杖を構えた。
最後の一人が倒れた辺りで、ルイズは呪文を唱える。

「二時間もご主人様ほおっておいて、遊んでんじゃないわよ。
このっ…!馬鹿犬ーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

サイトの頭上で爆発し、目を廻したサイトは地に倒れた。
腐っても虚無、よける暇もなく被弾するサイトだった。

「まったくこんなのにも、勝てないなんて、あんたら鍛錬がたりないんじゃないの?」

ふんっと荒く息を吐きながら、爆発で膨れたサイトの頭をがしりと掴み、
そのままずりずりと引きずって部屋に連れ帰って行った。

「もしかして、ルイズが最強ってこと?」

キュルケが驚きながら、肩をすくめている。

「ルイズとデート?」

そんなタバサの言葉に冷や汗を流しながら。








アルビオンの手紙編では、一人で約三万を相手に見事に立ち回った。
そして、アルビオンではこのような噂が立つのだった。「黒い悪魔」とか「黒いアレは飛ぶ」とか酷い話である。

タルブでも、ゼロ戦と虚無の力でもってして見事に解決した。
トリステインは、現代のイーヴァルディと称され街では大きな話題となっていた。

アニエスとのメイジごろしの剣技、ワルドとの王宮衛士隊の剣技、
傭兵時代の生き汚い戦い方、タバサとの格上と戦う戦略観、
デルフリンガーの広域戦闘把握、魔法吸収と体の操り方。

二刀による攻防一体の動き、様々な武器を使う戦闘判断。
技に名称を与え叫ぶことによる心の震え、ご褒美を設定することによる心の震え。

そのとてつもない強さから、サイトには「最終兵器」の二つ名がつけられた。
戦場に投入したが最後、その後はもう戦場が終わるまで戦い続け最後に立つのはサイト。

まさに最終兵器であった。


軍部では、優勢時にはサイトを温存し全員で突入し手柄を取得する。
ひとたび劣勢になれば全軍撤退し、サイト一人を出し処理させる戦法をとった。
平民であるため手柄もそれほどなくていい、失敗すれば全部サイトに押しつければいい。
幸い今のところ失敗もないが、まさにていのいい道具であった。




そして、舞台はシティオブサウスゴータの撤退戦に移る。
今まで仲間だったものが自分たちに弓を引くのだ。突然の事で応戦もできなかった。
昨日まで共に、飯を共にし、笑い、泣き、戦いぬいてきたのだ。

サイトもこの件には心を痛めていたので、秘密裏に原因を探っていたのだが
隊にも不満は特になく、金を積まれた形跡もなく、まったく分からないままだったのだ。


「魅惑の妖精亭」にも退却命令を伝え、撤退するのを手伝っていた。
みな我先に逃げ出し、応援に駆け付けた他の人間には目もくれていなかった。
それでもサイトは文句を言わなかった、意味がないことだったからだ。

ロサイスに到着した全軍は、本国に中々撤退を受け入れてもらえなかった。
連勝に次ぐ連勝のせいで偽報であるなど言われ認められなかった。
ようやく退却を認められた時には、既に半日が経過していた。今の自分たちには貴重な半日である。

撤退命令を受けるまで待機していた軍を全て撤退させるには丸一日かかる。
四万に離反した兵を合わせて七万の軍を足止めしなければならない。
正に死にに行くようなもんだ、だれも引き受けたがらないだろう。
そして、その最悪の状態で軍部が出した答えは至極明快だった。



「我が軍には切り札があるじゃないか、「虚無」と「最終兵器」を呼べ。
今使わずしていつ使う。まさにうってつけの存在だ」

そして、ルイズに伝令を飛ばすのだった。










ワインで眠ってしまったルイズをジュリオに渡すと教会を後にした。
「ちょっといってくるよ」とまるで散歩でもするかのように。



「冷えるな」

夜通し走り続け眼下には緩やかに下る綺麗な草原が見渡される。
小高い丘の上を、朝日が暗闇に光を与えていた。

また望んでもいない今日という日が来る、サイトは希望の象徴ともいえる朝日が嫌いだった。

「そうか?」

デルフが答える。

「これから、また沢山殺さなきゃいけない。
怖くはないんだ、ただただ虚しいよ。別の道はなかったかなって」

サイトは思考を切り替える。ここは舞台、演じるはイーヴァルディ、周りはカボチャの観客。

「そうさな、でも殺らなきゃ殺られるっつのは分かってるんだろ?」

デルフが答える。

「なあ、デルフ、一人殺せば殺人者。百人殺せば英雄。
じゃあ七万人殺したら何になるのかな」

手甲を握り具合を確かめデルフリンガーを構える、脇差に近い長さの固定化と硬化を付与された剣を構える。
余分な武器は全部はずしてあるのは軽量化のためだ。これだけいれば武器は何処にでもある。

「さあな、おれっちには分らんよ。逃げてったみんなは助かるだろうよ。
娘っ子も感謝して、キスのひとつでもしてくれるんじゃねえか?なあ、相棒」

デルフが答え、サイトが笑う。

「そうだな、帰れたらまた猫耳でも付けてキスしてもらおうか
きっと恥ずかしくて顔を真っ赤にさせるぞ」

そしてサイトは七万の軍団目掛けて駆け抜けていった。




「黒い悪魔が出たぞっ!」

それは正に悪魔だった。アルビオン軍にとっては悪夢そのものだった。
余りにも早すぎる進軍、黒い剣士は攻撃を受けるたびに素早くなっている。

風の刃、氷の槍、炎の球、次々に吸い込まれていく。
同士討ちを避けるため、銃や投射武器は控えられていたが、もし使用していても当たりそうにもなかった。
徐々に加速するサイトを止めるすべはなく次々と兵は蹂躙されていくのだった。


先陣をになっていた前方の部隊は槍ぶすまも弓も効かず混乱を極めた。
しかし今まで止まらなかった黒い風がとうとう動きを鈍くした。

攻撃に使っていた長剣が折れてしまったのだ。
たび重なる鎧への攻撃、血や肉が付着することによる劣化が原因だった。

「よし、悪魔の動きが鈍ったぞ!ここが正念場だ。突撃っ!!」

これは、好機と攻め入るも勢いむなしく叶わずに終わることになった。


今度はサイトは戦場に落ちていた槍を使い始めたのだ。
壊れては別の武器に持ち変える、持っている武器にこだわらず平気で投擲する。
指揮官とおぼわしき人物が次々と倒れていく。


風のように目に見えぬ速さで、火のように蹂躙し、
土のように全てを包み、水のように形を見せない戦いかただ。

「化け物め……」

歴戦の将軍であるホーキンスは苦々しく呟いた。
数えるのも鬱になりたくなるくらいの甚大すぎる被害だ。

サイトとしては全滅させたかったが、先の三万の戦いが敵側の撤退を早めさせた。全滅は避けなければならないのだ。
それでも朝もやの同士討ちや大群であるがゆえの情報伝達の遅さ、敵が単騎だということによる恐怖。
死者重軽傷者が四万を超える被害は、軍を維持し追撃させることが出来ない程に膨れ上がっていた。



サイトは軍の撤退を確認後近い森の中に、身を隠すように逃げ込んだ。
数刻して生存していたウェールズの戦艦が、ガリアの協力を受けアルビオンを平定したが関係のないことだった。


撤退した船の中でルイズは絶望に座り込んでいた。
泣き叫ぶこともなかった、理解したのだった。

いつも無茶をする使い魔だった、でもわたしには虚無がある。
不謹慎にも姫様の役に立つ以上に、隣に立てることがうれしかった。
そうでないと、いつかサイトが何処か行ってしまうような気がしたのだ。

それなのに……わたし、また背負わせてしまったの?

ルイズの絶望が、遠ざかる白の国に向けて響いた。



[18350] ●過去9-2「本当の強さとは」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/08/23 17:22


サイトは森に逃げ込むと一つの集落の前に来ていた。

木の陰に隠れ小屋を伺うように覗いている。
テファにどの面下げて逢いに行けるというのだろうか?それでもこの森へ足を踏み入れてしまったのは何故なんだろうか。
酷い恰好だった黒い衣服も赤黒く染まり、返り血が乾きパリパリになっている。

一目だけでも見て離れよう、そう思い小屋の近くまで来たのだ。
ところがそれを裏切るかのように、金色の髪をもつ少女に後ろから声をかけられる。
気を逸らしていて気がつかなかった。そう現れたのは森の妖精、エルフのティファニアだった。

「あなた、そんなに血を流して大怪我しているの?
た…大変だわ、治療しないと!」

いつもの気弱そうな雰囲気とは異なり、必死にサイトの手を握り促す。
あまりの事にサイトもびっくりしてされるがままだ。部屋まで連れてこられると、さらに驚愕の言葉を促す。

「何してるの、早く脱いで」

サイトが戸惑っていると、テファはサイトの服を脱がし始めた。
抵抗らしい抵抗もできないまま、上半身があらわになる。
そこには傷一つない、引き締まった裸体があるだけだった。

「ぇ?あれ?あんなに血がついてたのに…」

ぺたぺたとサイトを触りだす。

「その……怪我はしていないんだ」

サイトが申し訳なさそうにそういうとテファは林檎のように顔を真っ赤にさせていく。

「ぁ…その…ごめんなさい、早とちりしてしまって」

弱弱しく謝ると、形のいい胸がふよんと揺れた。

「こっちこそ、ごめん。取りあえずおれ出ていくよ」

そういうと血で汚れた服を来て部屋を出ようとする。

「待って」

テファがサイトを呼びとめた、その寂しそうに濡れた眼差しが気になったのだ。
でも声はかけたは良いが、何を言えばいいのか分からず下を向いた。

「相棒、服は綺麗にした方がいいし、今日は疲れちまってるだろ?
休んだ方がいいんじゃないか、とおれは思うけどね」

「そ、そうよ。そうした方がいいと思うの。
もし嫌じゃなかったらなんだけど……」

「嬉しいけど、いいのかな。その迷惑にならないかな?」

サイトがおずおずと聞くと、テファは首を横に振る。

「大丈夫、一人ぐらい変わらないわ」

そういうともじもじして、手を動かしている。
その度に胸革命がぐにぐにと形を変えていく、正直目の毒だ。


するとどこかで監視していたのか子供たちがわらわらと現れた。

「おねえちゃんに変な事をしたら許さないからな!」

一人はフライパンをもち、他はテファを守る様に囲んでいる。

「ほらっ、そんなこといわないの。彼はお客様なんだから」

そういいながら、子供たちを部屋から追い出してテファも部屋から出ていく。
心なしか嬉しそうなのは気のせいだろうか?エルフがいきなり目の前に出ても驚かなかった人は久しぶりだ。
それとも、急だったからこの尖った耳を良く見ていなかったかもしれない。そんなことが気になり始めた。

「相棒、あの娘っ子いいこだったな」

「ああ、そうだな。でもいいのかな?」

「いいじゃねえか、相棒頑張ったよ。少しくらい休んだって罰はあたらねえさ、
それにご主人様より優しそうじゃねえか、ありゃ包容力がちがわな」

そう言われるとあの豊満な胸を思い出し、顔を赤くするのだった。


それから、ガンダールヴのルーンの残るサイトとテファ達の仮初の生活は上手くいっていた。
薪だって楽々と切れるし、盗賊だって撃退できた、ルーンが切れていなかったからこその芸当だ。
テファは困っている人は助けたいと、行く場所がないならうちにいてほしいと言った。
自分を恐れない同年代の男の子が珍しく、また年を重ねたサイトの話が面白かったからだ。

デルフリンガーは、この少し抜けた相棒が大好きだった。
剣として振るわれるのは嬉しかったが、使い捨て去る様に軍に使われるのは我慢できなかった。
虚無のことだって、思い出してもあまり伝えなかった。
頑張りすぎるサイトの事を本当に心配していたのだ。
少し前まで感じていた追い詰められるような修練もしていない、ここは本当に安らぎだけだった。
願わくばこんな日々がずっと続けばいい。そうも思っていたのだ。


しかし、そんな主人思いの剣の願いをあざ笑うかのように物語は加速していく。










ロンディニウムでは、終戦後の諸国へのお詫びを兼ねたパーティが繰り広げられた。
ガリアには協力を仰いだため幾つか港を明け渡した。
トリステインには内戦の飛び火した謝罪として多額の賠償金を支払うことになった。
同盟を結ぶことなく、王女になったアンリエッタは義援金としていくらか返却していた。

ロマリアもゲルマニアも幾ばくかの義援金を支払っていた。
国に借りなど作りたくなかったが、そうもいっていられなかった。
ウェールズが昔のように強大な軍事国として名をはすには、
自分の代では成すことが出来ないかもしれないと悲しみにくれた。


とはいえ終戦、目出度いことだった。
アンリエッタは思い人でもあるウェールズの部屋にうきうきと訪れるた。
しかし部屋には既に先客がいた、反乱軍を率いていたホーキンスであった。

後ろ手で縛り頭を垂れた格好だった。
呼び出されたウェールズのもとに向かうに当たり自分で反逆の意思がないことを示したのだった。


「アンリエッタ姫か、今回は酷く迷惑をかけてしまったね」

そう優しく微笑まれると感極まり涙が出てきそうになる。
今すぐにでも飛びつき抱きしめたい思いにかられた。

「いえ、本当に…本当にご無事で良かった」

ウェールズの前には、かしずいた臣下がいたためそれもかなわなかったが。


「すまないね、彼に少し話を聞きたくてね。
本当はこんな堅苦しい形ではないことを望んでいたんだが、
まぁ、仕方がないのかもしれないね」

「それでは、お話が終わるまで退席しましょう」

本来であれば、王女を優先するべき、心情的にも優先してほしかったが、
彼がどうしてもこの話を先に聞きたそうにしていたので辞退しようとした。

「いや、アンリエッタもぜひ聞いていってくれ。
これは君にも関係があることなんだよ」


そういうとウェールズは静かにホーキンスに尋ねた。

「して、やはりロサイスで反乱軍に対峙したのはたった一人なのだな?」

「はい、黒髪の剣士、「黒い悪魔」と呼ばれている剣士でした。
正に人間とは思えない動きで我々七万のうち四万を戦闘不能に追い込みました。
彼がいなければトリステイン軍部は全滅していたでしょうな」

そんなホーキンスを咎めるようにウェールズは答える。

「滅多な事を言うものじゃない。
ニューカッスルでも彼に救われた、いわば国の恩人、英雄だよ」

アンリエッタは驚いたように二人のやり取りを聞いていた。
確かにサイトの所有する鉄の竜は凄かったが、それ以上にサイトが凄かったなんて思いもしなかったのだ。
サイト自身も別に言いふらすことじゃないので言わなかったし、
軍もサイトの手柄や噂などを王宮に届けさせる前にもみつぶしていたのだ。

「やはり、聞いていなかったようだね。
保身に走る将というのは、国を隔てても変わらないものだね」

ウェールズは首を振る、アンリエッタは胸が熱くなるような思いだった。
ウェールズが居なくなったと思い込んでいた時も彼には随分支えてもらったのだ。

「しかし、何だって彼はまた一人で戦場にいたのだろうか…、
かの英雄は何処へ行ったというのだね?」

「分かりませぬ…ただトリステイン王国との戦いでこちらが優勢になると
必ず奇怪な魔法や剣士が現れ、戦場をひっくり返していました。
今回もあと一歩のところまで追いつめたと思いきや、一人彼が丘の上に立っていました」

「なんてことだ、それじゃ彼は…いやすまない失言だった」

顔を青くしたアンリエッタを見て、ウェールズがすまなそうな顔をした。
虚無を積極的に使っていこうといっていたが、まさかこのような仕打ちを受けていたとは。
手紙の件の頃からそうだった、何といって報いればいいのか分からなかった。

そこでようやく友達の事を思い出したのだった。
戦後で忙しかったが、何故私は彼女に声をかけようとしなかったのだろうか。
あの使い魔をとても気にしていたのを知っていたはずなのに。

「彼は生きているでしょうな。あれだけの事を成し遂げていながら無傷だったのですから」

ホーキンスが抑揚のない声で二人に伝える。

「では、ホーキンスに王として命じる。必ずや祖国を救った英雄を探し出して此処へ丁重にお連れしろ。
それが成すまで軍に戻ることを許さぬ。これをもって罰とする、必要があれば申し立てろ」

ホーキンスは涙を流して頭を垂れた、それは反逆者としては寛大すぎる処置だった。
ウェールズとしても、優秀な人材をそう切るわけにもいかなかったのだ。

「わたしも全力をもって彼を捜し出します。
必ずやその働きに見合った報酬を渡したいと思います」

アンリエッタはウェールズとの感動的な再開のはずが一転して、青い顔をして部屋を飛び出した。
彼はこんな愚かなわたしをも救ってくれたのだ復讐という連鎖から。



そうして命令されたアニエスが村に訪れたのだった。

「苦労するかと思ったが、あっさり見つかるとはな。気が抜けた」

そして事情を話したアニエスがサイトを連れて行こうと、
金貨の入った袋をテファに投げ渡した。

それを遮るべく声をあげたものがいた。

「姉ちゃんよ、ちぃとばかし待ってもらおうか」

デルフリンガーだった。

「サイトを連れて行って、どうしようっていうんだ」

まさか止められるとは思わなかったためいらいらした口調で答えた。

「サイトの帰還を姫様が所望しているんだ」

「それでまた捨て駒にするつもりかい?
こちとら七万の軍との戦いに一人で行かされたんだぞ
もう、相棒が死地に向かわされるのはごめんだね」

テファは絶句した、そういえばはじめてサイトとあった日、血まみれだったけ。
とても隣にいる男の子が、そんなことをしただなんて思えなかった。

「ほう英雄じゃないか、褒章がもらえるかもしれないぞ。
それに戦士なんだろ?そんな大役を任されるなんて名誉なことじゃないか」

話には聞いていたが、とても目の前の少年がそんな伝説的な事をなしとげるとは思えなかった。

「馬鹿じゃねえのか?報酬なんて死んじまったら意味がねえよ。
そんなんじゃねえんだ、相棒は周りの奴らを守りたかっただけなんだ……
あんな血反吐吐くような鍛え方までして……姫様のお使いか知らんが判ったら帰れ帰れ」

「デルフ、言いすぎだぞ!すいません、こいつ少し口が悪くて……
でもおれとしても、もうしばらくは、帰るつもりがありません。
ここが居心地がよくて、そう姫様に伝えてもらえませんか」

しかし、帰ってきた答えはとんでもないような内容だった。

「駄目だ、姫様はどんなことがあろうと連れ帰って来いと命令を受けている」

そういって、アニエスはテファに剣を向けてきた。
まさに曲解とも言うべき内容だった。

サイトは一つため息をついて、ゆらりと立ち上がった。
それだけで、周りの空気が一段と下がった。

テファは慌ててサイトの背後に隠れるようにすると、二人から少し離れた。

アニエスは少し痛めつけて無理やり連れて帰れば良いと思ったが、
向かい合ったサイトと対峙して冷や汗を流した。
まるで隙がないのだ、年端もいかない少年に歴戦の古豪と戦っているような錯覚を受ける。

「馬鹿な…」

「アニエスさん。こないなら、こちらからいきます」

そういうと、残像が残るくらいの速さで切り結ぶ。
何度か防御することができたが、目が追いつかない。
そこへ、サイトに格好の隙が出来た。

しかし、それもサイトの罠だった。
崩れた剣筋からいきなり柄の部分で腹を殴られてアニエスは気絶した。
まさに年季の違う剣技による一撃だった。

「サイト、凄い…」

争いの嫌いなテファだったが、自分を守ってくれたサイトが物語に出てくる騎士のように見えたのだ。
そして直ぐに連れ帰るのが難しいと判断したアニエスと
執念でサイトを探し当てたルイズと奇妙な生活がホーキンスが来るまで続いた。

流石にこれ以上は迷惑がかかり長居は出来ないと判断したサイトは、ロンディニウムに向かった。
ロンディニウムに向かうと待っていたのは、栄誉ある褒章だけではなかった。
ふれを受けて城下に集まってきたのは、好意的な民衆だけでなかったのだ。


広場を闊歩する一団に男の子が泣きながらサイトに小さな石を投げた。

「黒い悪魔、父ちゃんを返せ!」

大人が自重するような行為も子供には関係なかった。
戦争が終結した安堵と、自分たちが傷つけられた複雑な思いが全てサイトにあてられた。
母親と思わしき人物が、子供を抱きしめながら死を覚悟し涙を流した。
サイトは静粛を行おうとする兵を止め歩き出した。

石をよけずにこめかみから血を流したサイトに、
泣きながらルイズがハンカチを当てている。

王宮につくとサイトは、ウェールズ王から直々に名誉勲章を受け取らされた。
他国のしかも平民でありながら、驚きの褒章でもあった。

けれどもサイトは別にこんな褒章はいらなかった、
助けたかったから助けた、それだけなのだから……
ただ城下の広場での男の子の言葉が気になった。



自国に戻ったサイトを待っていたのは、さらなる褒章だった。
貴族としての地位、ド・オルニエールの領地、水精霊騎士隊副隊長の役職。

余りあるほどの褒章だったが、それは名誉以上に周りの貴族に不満を持たせる材料になった。
サイトの働きを考えれば、妥当といえなくもない褒章である。
しかし、それをすんなりと受け入れられるようならトリステインで貴族などやっていないのだ。
その為、あえば小言のように嫌味を言われ、何か失態をおかさないか目くじらをたてた。

それ以上にサイトを落ち込ませたのは魔法学院や街での出来事だった。



学院に戻ると何人かの女性たちが徒党を組んでやってきた。
何でも恋人がアルビオンへ向かう兵として志願していたらしい。
サウスゴータの内乱に巻き込まれたようだ。

「あんた向こうで黒い悪魔だなんて呼ばれてるんでしょ?
あんたがもっと上手くやってれば、彼は死なずに済んだのに……返して!彼を返してよ!!

本当悪魔よ、平民上がりのくせに……あんたが代わりに死ねばよかったんだわ」

周りの女子も口々に謝れと促している。
少し考えればどれだけ、理不尽で恐ろしい言葉を投げているか分かるはず。
いや、分かるつもりもないのだ。彼女の中ではそれが真実なのだから。
サイトは謝り続け、ルイズが来るまでそれは続けられた。


あれだけ仲の良かったマルトーとも仲たがい。
街に出れば、戦で仲間が沢山死んだことも税が上がったことも、何もかもが全てサイトのせいになっていた。
いつの間にか流れたのかサイトへの妙な噂のせいでトリステインで好意的に接してくれるのはごく一部だけだった。


更には方々から刺客・暗殺者が派遣された。
一人で国を落とすほどの力があるのだ、当然と言えば当然であったが…
しかし、それも他国よりも自国から派遣されるのが多いとあらば笑っていられない。
驚くことに派遣された暗殺者の中には元素兄弟も入っていたのだった。


しかし、それすらも跳ね返す正しく最強の使い魔だったのだ。

















「ルイズ、あなたの奥さんの名前よ」

「テファ、あなたのお妾さんです」

「シエスタ、あなたさまのメイドです」


つぎはぎがあるが質素で仕立てのいい服に日本語のカタカナで「ルイズ」と書かれた
ネームプレートをスカートにつけた桃色の髪をしたスレンダーな女性。

あふれんばかりの胸に「テファ」とネームプレートを付けた金色の髪から尖った耳が見えるエルフの女性。

黒髪にそばかす純朴そうな顔をした「シエスタ」とネームプレートが付けられたメイドの女性。


彼らの朝はこの挨拶から始まる。

「ルイズ、テファ、シエスタ」

まるで大事な言葉のように舌ったらずな声でサイトは繰り返す。
そして着替えさせられ食卓に向かうとまるで王様のようにご飯を食べさせてもらう。

そしてゆっくりとした廃屋に差し込む森の木漏れ日を浴びながら
優しくも穏やかな時間が過ぎていくのだった。







初めに異変に気がついたのはサイトだった。
少し前の事が思い出せない、それがある日から凄い勢いで増えていたのだ。
おかしいと思った今までこんな病気にかかったことがなかった。

「まさかエルフの毒!?襲撃がなくなったと思ったら……」

食べ物には必ず探知魔法をかけていたのだが、先代の魔法は見抜けなかったらしい。
その日から部屋にこもり、気をつけること、身の振り方について書き始めた。
書き終わるとルイズとシエスタを呼び、事の顛末を告げ泣きながら謝った。


そして、日に日に記憶が薄れていくサイト。

あるとき、トリステインの軍部がやってきた。どうやら聖地へ赴くらしい。

「あんたらのせいで……サイトは酷い目にあったのに。あれだけ、身を粉にして仕えた仕打ちがこれよ……。
どうして、軍に出向しろだなんて言えるの?自業自得じゃないの。「虚無」もサイトも軍には力を貸さないわ」

そしてルイズはマントを投げつけて、虚無で追い返した。

あるとき、ルイズの父親とカリーヌがやってきた。

「いつまで、その平民の成り上がりと一緒にいるつもりだ。
聞けば病をわずらっているようではないか、そこのメイド風情に任せて戻ってこい。
婚約者ならわしが、もっとちゃんとした男を用意してやる」

「ルイズ、貴方姫様に貴族のあかしであるマントを突き返したとか……いったい何を考えているのです。
名誉ある恩賞を仇で返すとは、それでも名門の貴族の娘ですか」

ルイズは静かに押し黙りながら答えた。
その姿は今まで一度もみたことがない姿だった。

「王家の危機に家にこもり戦にでもしなかった家が今さら貴族?
わたしを守るために一人で七万の軍に対峙して半数以上減らし生き返ってくる男でもいれば考えてもいいわ。
わたしはサイト以外いらないの。それを否定するならヴァリエールなんていらないわ」

ルイズは、ヴァリエールの名を捨て、虚無で追い返した。

その後はシエスタと相談して、サイトの書きおきに従い逃げるようにアルビオンに向かったのだった。








テファはエルフであることが知られ、孤児達に迷惑がかかる前に抜け出そうと思っていた。
そこに、サイトを連れたルイズとシエスタがやってきた。

そして今三人は森のはずれで二つの虚無を使いサイトを守りひっそりと暮らしている。幻影、忘却まさに鉄壁であった。
シエスタとテファは協力して家事を請け負った、驚くことにルイズも簡単な家事なら行えるようになった。
三人の関係もサイトを中心として良好な関係だった。

廃屋の庭には、優しく木漏れ日が差している。そこに皆集まっていた。
サイトはきょとんとした顔や子供みたいな無垢な笑顔を三人に向けている。

サイトの手には、デルフリンガーと布が与えられていた。
この剣を磨くのも殆ど記憶がないサイトのお気に入りの行為だった。
鞘から抜かれたデルフがサイトに語りかける。

「相棒よぉ……そういえば前にいってたっけな。
自分は何も生み出せない。この手は、幸せをただ壊すだけだって」

かたかたとつばが鳴る。サイトはにこにこと笑いながら夢中で剣を磨いている。

「でもよ、見てみろよ。少なくとも三人の娘っ子は幸せにしたんだよ。
ああ、間違いねえ。お前さんはそれを誇ってもいいんだぜ?」

優しく木漏れ日が差し込み、ちちちと鳥の鳴き声が遠くでする。

「相棒は今幸せかい?そんな笑顔をしているんだ、聞くまでもなかったな。
お前さんは歴代最強のガンダールヴだっておれっちは思うんだよ。
剣の強さもそうだけど、それだけじゃないんだ。本当の強さって奴を見せられた気がするよ。

っと、ありゃ、寝ちまったか……」

そういうと、近くにいるテファに声をかける。






「おやすみ、相棒」

柔らかい風が、優しく森の中を吹きぬけて行った。






















=====================================
やった、第二部完っ!次は現在に戻り原作第三部からです。
内政強化あたりからはじめたいとおもっています。


サイトは武力が最強の強さではないと気がついたのでしょうか?
本当の強さっていうのは、実は繰り返す前から持っていたんですよね。

そしてxxx板のくせに今回はエロパート何か違うなと思い、
途中まで書いていたものをごっそりけずってしまいました。
過去は面白い題材が考えつくことが多いのですが、
こればかりに力を注いでしまうと、
現在編が進まなくなってしまうので書いていない部分が多いです。

そこらへんは、また現在編であとにフォローできればなと思ったりもします。
とはいえ、ここまでお付き合いいただいた皆様には重ねてお礼を申し上げます。



[18350] ■現在24「良い国作るよ、ワン・ツー・さん・しっ!」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/06/12 23:17
「殿下、もう一度お聞かせいただけませんか?」

皇室に呼び出されたマザリーニは、アンリエッタがいった台詞を聞きなおした。
聞こえてはいたのだが、耳を疑ってしまうような言葉だった。

「もう一度言います、税率をあげますわ、マザリーニ枢機卿」



しれっと、アンリエッタは枢機卿に告げる。
何を言い出すかと思ったら、姫殿下は正気だろうか?
なんだか頭が痛くなってきた、今の一言で恐らく白髪も増えたかも知れない。
自分の立場が分かっているのだろうか?
その発言は、絵空事ではなく実行出来てしまうのだというのに…

「殿下、もう一度お考えください。平民といえども何もパンのみで生きているのではありません。
これ以上税を取り立てて反乱でも起きたらことですぞ」

優しくさとすようにアンリエッタを説得しようとする。
言い方は悪いが、帝王学を学んだわけでもなく政治のなんたるかも分かっていない小娘なのだ。
ついこの間も自身の事ばかり考えため息をついていたばかりではないか。
それがなんだ、いきなり税率をあげようなどと言われるとは。

先代が生きてさえいれば…、しかしそんな事はいくら考えても仕方がないことだった。

「まずは、これをお読みなさい。反論を聞くのはそれからです」



目の前にいるのは、本当に姫殿下だろうか?
妙な自信のようなものが見える、纏う雰囲気も数日前とは明らかに違う。
しかしいきなり偽物を暴くような魔法をかけるわけにはいかない。

話を聞いて、それから判断しても遅くはないだろう。
目の前に置かれた資料に目を通す、所々に図や数値が記述されている。
なんというか斬新な資料だった。それなりに量があるようだ。

「一つ目は、水魔法を使った医療の確立です」

確かに水魔法を利用して怪我や病気などを治すことは出来るが、
それを事業にするなど考えたこともなかった。
怪我をすれば、それぞれの家庭や集落の長、教会などで薬草などを使うばかりだ。魔法を使うこともあるが、それも一部の貴族が高い金を払ってすることで、その貴族も治療を生業としているわけではない。

「税金をきちんと支払ったもののみ、その施設を利用できます。
その時の利用料の八割を税金から負担するとします。
そうですね、一年ぐらいは無料で請け負ってもかまいません」

さらにアンリエッタは続ける。

「税金を払う平民や貴族に手形を発行させなさい。
そこに家族、団体の形態を名前、年だけでもいい記述させます。
それを王宮で管理し、利用時に提示させます」

これは、考えていた以上の施策かもしれない。
平民も死亡率が下がるのであれば、喜んで協力するだろう。
出生率も上がり死亡率も下がる、それは国力を増加させる一歩となる。
しかも、この施策はそれだけには留まらない。
手形を管理することによって、国民全体を把握出来るのだ。
これが意外に重要な事で、名前、年だけでも殆ど把握できず大まかな数くらいしかわかっていないのだ。

「しかし…姫殿下、重要な事が一つ。貴族が協力しますでしょうか?」

これは、トリステインであれば、なおさら難しい問題でもあった。

「それは給金を払います。トリステインは伝統ある国ではありますが、領地が少ないのです。
その少ない領地を維持するため、少なくない社交を行うため、どれほどの金が動くか。
それが余裕のなさとなり、貴族が貴族らしく振舞えなくなった一端となったといえるでしょう」

余裕があれば、平民に無理を強いる貴族も少なくなるであろう。
貴族をやめ、傭兵になったり犯罪をおかすことも少なくなる。
それでも不正を行う者は、不正を行うわけであるが…

「水の魔法を使えるものは、こぞって参加するでしょう。
王宮直々の依頼ともあれば、外聞を気にする必要もありません」

まさしくその通りだった、しかしそうなると他の属性を持つ貴族はどうするのだろうか。



「次は、風の魔法を主とした施策です、これは清掃業と名付けましょう。
枢機卿は城下の表の街道から少し離れた道を存じていますか?」

マザリーニは黙ってうなずく。
どこの国でもそうだ、大通りを外れた裏の道といえば臭く汚い場所だ。

「それを水と風を使い清潔に保ちます。その資料にある通り、不潔であれば疫病の元ともなりましょう。
トリステインは爽やかな匂いと清潔な水に包まれた国に生まれ変わるのです」

そこには風を使って爽やかな空気を使い、水を使い洗い流し綺麗に保つ効率のいい試案が記述されている。
そして、それに影響される死亡率の減少などが線で分かりやすく書かれている。

「さらには、その清掃を組織だって行うことで、街や城の形状をきちんと把握するのです。
それは、今後戦時にも役立つこととなりましょう」

さらにアンリエッタの説明は続く。


「次は火の魔法を使った施策です、それは冶金です。
残念ながら、これは一歩も二歩もゲルマニアに進まれています。
しかし、今からでも遅くはないでしょう。
必ずや民の生活を助け、国の武力を上げることとなるでしょう」

冶金技術が上がれば、今以上に生活していく上で必要な加工技術が上がる。
それ以上に武器としての錬度もあがっていくことになるのだ。しかも他国に頼らずに。

アンリエッタは一息つけると、グラスに入れてあるワインを飲みほした。



「もうひとつ、火と水の魔法を使い、大きな風呂を作ります。
これを平民用として大きな町に常備させます。火石や水石を使い効率的な運用を目指します」

平民に普及されているのは、蒸し風呂のような蒸気で汗を流す仕組みの風呂だ。
夏場は川水を利用して清潔さを保つが、冬ともなるとどうすることもできない。
これも利用料を取ったとしても、多くの平民が利用すること間違いないだろう。

さらには火や水の石は、軍事的な扱いが難しく風石よりもはるかに知名度が低い。
最近発掘量が増えたと聞くが、持て余してもいた代物だった。


「次は土の魔法を使った施策、これは農作物に関する事です。
ゴミを錬金することで肥料を作ります。また水を効率的に供給できるような道を作らせます。
ポモドーロやフレソン等水気の強い野菜・果物には効果があるでしょうね」

ポモドーロは赤い丸みのある果実でソースにしてもスープにしてもいい家庭でも多く使われている植物だ。
フレソン(苺)は赤い甘みのある果実で、潰してジャムのように使われる。紅茶やお菓子にも利用される。
ワインを作る葡萄が特産として上がりやすいが、広く見れば特産となりえるものは多い。

麦や芋等を含めて自国の生産量が上がれば、それだけ飢え餓死するものが少なくなる。
トリステインは痩せた土地が多く、なぜなら領地の場所によっては、水の供給が足りないからだ。
その為、中々領地を開拓することが出来ないという現状もあるのだ。
魔法で土を耕し肥料も使えば、自国の生産量はすごい勢いで上がるだろう。
さらにはゴミまで減るというのだ。良いことづくしである。


「最後は、土と風の魔法による道の作成、整備です。
煉瓦を錬金し、風の魔法で乾かします。これで自国をしっかりと繋ぎます。
貴族の一部が竜籠を利用するとはいえ、徒歩や馬車が主流です。
道が出来れば、おのずと他の地域との交流はさかんになります」

この施策は、何より商人に喜ばれると思われる。
またこの商人という生き物が厄介なもので、利と益をもってして生きている。
大きな商人ともあれば、貴族といえども表立って敵対することは難しい。
商人の支持を得るということは、貴族とはまた違った意味で必要なことでもあった。

またこの煉瓦という代物、加工しやすく建築物として利用されるが耐久性はよくない。
5年も持てばいいほうだろう、ということはこの施策は半永久的に持続できるのだ。




資料を見ると、所々丸い文字で補足がしてある。これは姫様の文字だろう。
明らかに資料にある文字とは違う、そうすると裏で誰かに操られているのだろうか?
見た所、禁呪を掛けられているようには見えない。
すると誰かと繋がっているのだろうか?しかし、そのような形跡は未だなかった。
仮にもわたしを差し置いて、このような綿密な資料のやり取りを出来るような貴族はいない。

アンリエッタを見据えて、その後ろの人物を見ようとする。
その人物はいったい何を考えているのだろうか?


「姫殿下、一つ質問があります。この施策はご自分で考えられましたか?」

「その通りよ、枢機卿」

顔色一つ変えないアンリエッタにマザリーニはわずかに目を細める。
姫殿下は変わられた、それが良い成長なのか今は分からない。
こちらが裏に糸引く人物がいると警戒していることを理解していてのこの台詞だ。

そうなるとその人物の目的はなんだろうか?
裏で王宮を操る?しかし、この全ての施策は一見して貴族に多く利益をもたらすように見えているが
国、貴族、平民、全てが利益を得ることが出来るようになっている。
例えば、貴族だけであるとか、国だけであるとか偏りが見えない。

ますますその意図が分からなくなってくる。
この施策が通れば王宮の力はますます強くなるだろう。
姫殿下が補足している文字も、鋭い視点で指摘をしている。
何か間違いをしようとするのであれば、わたしが修正してあげればよい。

まだまだ王の資質としては足りない部分があるが、政(まつりごと)を担う資質としては期待できる。
なぜ、姫は王子ではなかったか、同盟のための交渉の一つとしてみてしまったのか今となって悔やまれる。



「わかりました、殿下。この案を検討してみましょう」

複雑な顔をしながら、マザリーニが資料をもって退室しようとする。
それをアンリエッタが止める。

「待ちなさい、枢機卿、わたしの話はまだ終わってないわ」


何処かで、ひょ?とでも聞こえてきそうな物言いだ。
驚いたマザリーニが振りかえる。これ以上何があるというのだろうか?
数々の有意義な施策だが、これを成すには貴族の采配やその他細かい絶妙な調整が必要となる。
慢性的な財政難でもあるトリステインを救うべく一手と十分なりえるのだ。

恐らく他国がこれをすぐに真似する可能性は少ない。
詳細な根拠に基づく資料によって裏打ちされたからこそ実行しようと踏み切れるのだ。
事の本質を理解して、真似しようとしても形にするのは時間がかかるだろう。

その為にやることがやまほどある。
それ以上に国を憂いていたマザリーニとしては、早く吟味検討する必要があるのだ。
しかし、姫殿下の言葉とあらば、無碍にすることはできない。

恐れはある。しかし期待もあった。
毒を食らわば皿まで、こうなったら最後まで話を聞く覚悟を決めたのだった。



[18350] ■現在25「良い国作るよ、ごー、ろく、なな、テン!」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/06/13 23:40
王国の司法権を担う「高等法院」の長、リッシュモンが急な召集により王宮に駆け付けた時には既に日も暮れ始めていた。
豪華な細工を散りばめた外套をただし、風が入り込まないようにする。この年になると、そのような些細なことが辛いのだ。

「リッシュモン高等法院長、到着しました」

なるほど、部屋に入ってみると既に他にも貴族が集まっていた。
どうやら、自分は最後に到着したらしく空いている席は一つだけだった。

財務、行政、ならびに自分の部下、見たことがある顔ぶれがそろっている。
殆どが自分の息がかかった、または貸しのある人物ばかり。
これならばどのような無理難題を押し付けられても、主導権を握っていけるだろう。


「アンリエッタ姫殿下が参られました」

しばらくして、アンリエッタとマザリーニが一番奥の席についた。
二人が到着した時点で、喧騒がぴたりとやみ皆が席をたっていた。

アンリエッタが席に着いた時点で、杖を掲げ席に着く。


「皆さん、このような急な召集にも及ばず、全ての人たちに漏れなく集まっていただけたことに感謝します」

「陛下。我ら、トリステインの杖。王命とあるならばいかなる事も置いて駆け付ける次第です」

「そうですね、これほど多くの人の忠誠があるとすれば、トリステインは安泰でしょう」

アンリエッタ姫が微笑んで、周りを見渡した。
直々にそのような言葉を受け取り、中には感動している者までいる。
それを見て小娘の言葉一つで、翻弄されるなど程度が知れているなとリッシュモンはその貴族への評価を改めたのだった


「まずは、手元にある資料をみてください」

その後は、マザリーニ枢機卿に財務卿のデムリが補足する形で説明を加えていく。
なるほど、良くできた法案・施策で貴族の事をよく考えて作られている。

この場に自分がいたのは、この案を通すために呼ばれたのだ。
税も少し上がるが、殆どの貴族の年金が増える。平民からしても負担は増えるがそれ以上に望まれる施策となるだろう。
自分の号令があれば、すぐにでも始まり早ければ次の月から少なくない国家の収入が見込めることになる。
付加価値としてある国力の増加等は、それでも時間がかかるだろうが……

今以上に金が手元に来ることに悪いことなど何もない。
金はいくらあっても私にとっては都合がいい、それが自国のために使われなかったとしてもだ。

各系統のまとめ役には、名門グラモン伯爵家や水の精霊との盟約の交渉役を任されていたモンモランシ家、
そして、王家とは血縁関係にもあるヴァリエール公爵家があげられている。
火の系統に関しては、特に候補はなく、こちらは適当に選抜する必要がありそうだ。


「なるほど、よろしいでしょう。かならずや実現し国家を繁栄させることをこの杖に誓いましょう」


リッシュモンはにこやかに、アンリエッタ姫に告げる。
周りも厳格にうなずいている、裏では金策を走らせる計画でも練っているのだろうか。


長かった議会も終わり、場も和やかな雰囲気が辺りを流れた。
そこへ、アンリエッタ姫が笑顔で周りの貴族に答えた。

「実はですね、この場にいる皆さまには予定より多めに年金を増加する予定なのです」

おお、と辺りで感嘆のため息がもれている。
笑顔でアンリエッタは続ける。

「今日ここに集まっていただいた方には、実はある共通点があるのですよ。
だれか、わかるかたはいらっしゃいますか?」

一人の人のよさそうな老貴族が答えた。

「それは、恐らく名家で優秀な人物という共通点でしょうかな」

はははっ、と周りでも笑いの声が上がる。一人の貴族が合いの手を打つ。

「リッシュモン法院長をはじめ、愛国心に満ちているという共通点かもしれませんな」

リッシュモンは心の中でにやりと笑う。
彼には後で直々にお礼を述べる必要があるかもしれないな。






「ある意味優秀かもしれませんね、例えば金策に関して言えばのことですが…。
残念ながら、あまり愛国心というものはないのかもしれませんが」

にこやかなアンリエッタとは対照的に部屋の温度が2,3度下がったような気がした。





「何を馬鹿な事をおっしゃるのですか、これほど王家に協力しようとしている
我らに向かってそのような事をおおせられるとは、いくら殿下といえども捨て置けませんぞ」

一人の貴族が顔を赤くしている。

「このような仕打ち我慢できませぬ、私は帰らせていただきます」

そういって、席を立とうとする貴族も出てきた。

マザリーニが鋭く言葉を放つ。

「席に戻りなさい、まだ姫殿下の話は終わっていませんぞ。
今この部屋をでた瞬間に、王家への反逆罪として取り締まる手立てになっています」

成程、妙に人の気配が多いと感じていたが万全の準備を行われていたわけだ。
リッシュモンは辺りをもう一度見まわした。
どうも見知った顔が多いと思っていたが、言われてみれば納得出来る顔ぶれだった。


「アンリエッタ姫殿下、世迷い事を。
今国家繁栄に向けて団結したばかりではないですか、
証拠も無しにそのようなことをいってはなりませぬぞ

今なら、誰も聞かなかったことにしましょう。
大きな会議の場とあれば、気分が高揚して思いもしないことを口走ってしまうこともあることです」

そう周りを見渡すと、うんうんと頷く者ばかりだ。
此処にいる全員が腹に一物どころか、二物、三物と抱えているのだ。
自領に帰った後には近辺を整理し、しばらく大人しく過ごすことにはなりそうだ。


「証拠ですか?今私の権限をもってして、招かれた皆さまの領地や書類を調べさせています。
枢機卿と財務卿の手の者がしっかりと確認するので、ごまかしは聞きませんよ」

それを聞いて、顔を青ざめさせるもの、席を立とうとする者と様々な反応を見せ室内は色目気だっている。
最悪の事態だった、こんな小娘にしてやられるとは……杖を握る手に血管が浮かんでいる。

「なんと破廉恥な行為。仮にも国に属する貴族の領地を断りも無しに調べるとは!」

若い貴族が声を荒立てる。


「席に戻りなさい、何も後ろめたいことがないのであれば、後で告発なり何なりと申し出なさい」


再度マザリーニが告げる。忌々しい鳥の骨が、これも奴の案だろうか。
周りは通夜のように静まり返っている。手に杖は握っているものの此処で反乱してもすぐに囲まれ鎮圧されてしまう。


「ですが、わたしは別に重き懲罰を与えようとは思っていないのです。
皆に今回の法案を通じて国家のため尽くしていただきたいと願っているのです。
その為に、年金を他の者より多めに出す算段なのですから」

そう笑顔で告げるアンリエッタ姫に安堵を漏らす者もいる。
このように場を乱して、甘い言葉?そんなことはないのだろう。




「しかし、罰は罰です。今まで賄賂に使った金額、不正に税を操作した分全て返却していただきましょう。
その代わり今回は事を荒立てず、そのままの地位で返済に尽くしてもらいます」

国庫に害をなしたとあれば、懲罰として一番重いものであれば一族郎党惨殺されることもありえる。
それぐらいの金額を使いこみ、不正をし、甘い汁をすすってきたのだ。

観念したようにリッシュモンが言う。

「姫殿下……そのようなことがあったやも知れません。
しかし、その全てを返すともなると申し訳ありませんが難しいでしょう」

周りも頷いている。

「では王国の司法権を担う長が不正をおこなったとあればおおごとです。
リッシュモンさまの、地位を剥奪させていただき、国内から追放させていただきます。
であれば、他の方への罰は免除としましょう」


周りのすがるような視線が痛い、何故自分だけが割に合わない目にあわなくてはならないのだ。
とても了承できる案ではない、理不尽すぎる。
国外へ逃げるにしても、今の地位がなかったらどれだけ安く見積もられてしまうか…

しかし、ここで断れば他の貴族は納得せず関係は良くなくなるだろう……
その言葉を言わせたいのだ、どうにかごまかし修正したい。

「今の地位を奪うのだけは、どうか広い心で許していただきたい。
しかし、しかしです。罰として返却する金額をもう一度考え直していただけないでしょうか?」

断ったことで心証は良くないかもしれないが、これが自分に出来るぎりぎりの交渉だ。

「わかりました」

その言葉に安堵の息が漏れる。

「返却する金額は二倍にしましょう」

リッシュモンは絶句した。

「なっ、そんな…」

「おや?罰が足りないなら三倍にしましょうか」

もう誰も反論するものはなかった。


「いえ……二倍でお願いします」

一気に疲労が襲ってくる。どうしてこうなった。
まったくの不意打ち、何の準備もなく打開する策が浮かばない。


「今までためてきた、家財の一部を徴収し売り払います。
この施策が成功すれば、早ければ二年、遅くても五年で返せる計算です」

今までの数年にも及ぶ不正金をそれだけの年数で返済することが可能なのだ。
それ以降の年金については全て懐に入るのだ。

「働きに応じては、奨励金を出しましょう。自分が担当する施策案について切磋琢磨してください。
今回残念なことがありましたが、それもトリステインが貧しかったのがいけなかったのです。
皆さんには苦労をかけましたね、全てを水に流し共に手を取りあい、国を良くしていこうじゃありませんか
リッシュモン様の言うとおり、我々は結束しなくてはならないのです」

熱演するアンリエッタを見て、感涙を流す貴族までいる。
寛大すぎる処置は、多くの貴族を崇拝させることになるのだった。
勿論要注意人物には、マザリーニの息のかかったものがしっかりと監視する予定だ。



リッシュモンは、来た時よりさらに寒さに身を縮こませ帰っていくのだった。
















「アンリエッタ姫殿下、ご立派でした。
しかしあれでよかったのですか?」

アンリエッタは、流石に緊張と疲労で座り込み答える。
その顔には幼いながらにも王としての風格がみえはじめている。

書類には、一部貴族は粛清対象とすると記述があったのだ。
確かに甘いかもしれない、しかしそれすらも抱えていく覚悟がアンリエッタには出来ていた。


「ええ……粛清しても国が痛むだけです。トリステインは結局毒を抱え込んででも歩まねばならないのです。
枢機卿、あなたには矢面に立ってもらいます。ですが……わたしの許可なく死んではなりませんよ?」


そう儚げな表情を浮かべる、いつの間にか姫殿下は大人になってしまわれたのだ。

「杖に掛けて」

こうして、国を再生するべく一大プロジェクトが、驚異の速さで進行されていくのだった。




=====================================
原作三巻に入る前に内政を若干整えてみました。
国力増加はすぐに反映されませんが、国庫だけはすぐに増加する予定です。
軍事的にも強化する予定ですが、これは物語を交えて降ろしていこうと思います。



[18350] ■現在26「始祖の祈祷書」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/06/17 08:34
戦争が終結したアルビオンの惨状は酷いものだった。
名城と謳われたニューカスルの城は、瓦礫の山と死体であふれかえっていた。

反乱軍は仮の政府となり、復興を進めていた。
クロムウェルの手駒だった上層部の人間が死んだ数も少なくはない。
しかも王位は継承され、王冠の継承主であったウェールズも行方知れず。

継承に及ぶ前に事を進めていれば、ここまで面倒な事にならなかったはずだ。
おかげで、新政府として認められることがなかったのだ。
ほぼ国を掌握することが出来ていたが、最後の一手が足りない。

むろん、ウェールズ一人で何かが出来るとは思えない。
しかし、中には王族派につくものも出てくる可能性がある。
それだけ、今回の決戦による王族派の劣勢を覆した戦いは効果があり軍に動揺が走った。
風の速さで噂は広がっていたし、各地でウェールズの目撃情報が出ていた。
軍はその度に翻弄され、困惑をきわめていた。


まったく面倒になったものだ、しかしそれでも最終的に勝つのは自分だ。
手駒ならまた増やせばいい、クロムウェルは、そう指に付けたアンドバリの指輪を撫でるのだった。





「子爵!ワルド君!件の手紙は見つかったかね?
ゲルマニアとトリステインの婚姻を阻む救世主は」

こんな手紙一つで何が変わろうか?
しかし陰謀の手は多いにこしたことがないのだ。貴族なんて生き物は何が爆発の導火線になるかわからないのだから。
それに、一つ策が増えれば、そちらに頭を悩ませなくてはならない。

「閣下、どうやら手紙は穴からすり抜けたようです。
私のミスです、申し訳ありません。なんなりと罰をお与えください」

ワルドは地面に膝をつき、低く頭を垂れた。

「何を言うか、子爵!今回の戦は予定外のことが多すぎた。
確かに多くの兵を失い、血を流し過ぎた。我が軍もそこから学ぶことがあろう。

王軍に優秀な兵が多かったことも誤算だった。
しかし、死んでしまえば誰もがともだちだったな」

死んでしまえば、敵も味方も貴賎も関係ない只の肉である。ワルドは僅かに頬をゆがめた。

ワルドにとっても学ぶことが多かった、一対一なら負けることはないが負けてしまった。
要は焦り各個撃破せずに、全てを相手しようとしたのがいけなかったのだ。
片手は失ったが、怒りと覚悟により精神力が跳ね上がった。今なら遍在も八体までなら作り出せるほどだ。次相対した時には必ず……。

「同盟阻止は出来なかったが、一歩一歩歩むことが大切なのだ。
今回は王族派を退けてよしとしようじゃないか。それよりも大切な事がある。なんだかわかるかね?子爵」

「総指令の深いお考えは、凡人の私にははかりかねます」

クロムウェルは目を見開き、両手を振り上げると、大げさな身振りで演説を開始した。

「『結束』だ!鉄の『結束』だ!ハルケギニアは我々、選ばれた貴族たちによって結束し、
聖地をあの忌まわしきエルフどもから取り返す!それが始祖ブリミルより余に与えられし使命なのだ!
皆が力を合わし一丸となってことを運ばなくてはならないのだ。些細な失敗を責めはしない」

ワルドは深々と頭を下げた。

「その偉大なる使命のために、始祖ブリミルは余に力を授けたのだ。
四代系統を外れた今は失われし、零番目の系統だ真実、根源、万物の祖となる系統だ」

虚無……、ワルドはそう低く呟いた。

「だからこそ、貴族議会の諸君は余をハルケギニアの皇帝とすることを決めたのだ。
今こそ、見せようではないか。虚無の奇跡を!」

ワルドが瓦礫の中から、発掘した王族派貴族派の死体が数百体並んでいる。
その戦闘には老体のジェームズ元閣下もいた。

クロムウェルの口から、呪文の詠唱が行われる今まで聞いたこともないような言葉だった。

杖を振るうと死体たちはゆっくりと起き上り、地面に膝をつき頭を垂れていく。
目を疑うような信じがたい光景が続き、最後にジェームズが起き上りクロムウェルに近づいてきた。

「おはよう、ジェームズくん」

親と子ほどの年が離れ、元とはいえ国王だった人物はそんな言葉に嫌な顔をせずに微笑み返した。

「久しぶりだな、大司教」

「ご老体に働かせるのは忍びないが、困ったことに人手不足でね。猫の手も借りたいほどなのだよ
剣を交えるばかりが戦ではない、余のために働いてはくれないかね?」

「喜んで」

「なら友人たちに引き合わせてあげよう」

そういうとクロムウェルは歩き出した。その後ろにジェームズが続き更には亡者が群れをなす。
一糸乱れぬその姿は、まさに死の行進、亡者の軍団。身の毛もよだつような光景だった。
唖然として見送るワルドに、クロムウェルは立ち止り言い放った。

「ワルド君、安心したまえ。同盟は結ばれても構わない。
余の計画に変更はない、次はトリステインだ」

ワルドは会釈した。

「外交には二種類あってだな。杖とパンだ。
とりあえずトリステインとゲルマニアには温かいパンをくれてやる。

トリステインはなんとしてでも余の版図にくわえねばならぬ。
あの王室には『始祖の祈祷書』が眠っておるからな。
聖地に赴く際には、是非とも携えたいものだな」

そう言って満足げに頷くと、クロムウェルは去っていった。
懐に紙きれを隠しもっていたワルドも、そっと戦跡を離れるのだった。














そのトリステイン王家秘蔵の『始祖の祈祷書』の所在は、現在王家に保管されてはいなかった。
アンリエッタから、直々にルイズに手渡され共にトリステイン魔法学院に存在している。

さらに水のルビーは、報酬として渡されルイズのしなやかな細い指にぴたりとおさまっている。

「ルイズ、その祈祷書を開いてごらん?そこにきみの魔法がある。
ただし、許可なくその書にある呪文を唱えることは禁止する」

帰りがけにみた祈祷書は全て白紙だった。
しかし、ルイズがサイトの言う言葉を信じないわけがなかった。
サイトが白といえば白だし、わたしの魔法が書いてあるというのであれば真実そうなのである。

「はい」

やっとわたしも魔法が使えるようになる。
高鳴る胸の鼓動を抑えつつ表紙をめくる。

溢れる光の中、古代語であるルーン文字で書かれた文字が現れる。
古代の文字について勉強していた甲斐があり、難なく読むことが出来る。

序文
『これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、
小さな粒よりなる。四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、
かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』、『水』、『土』、『風』となす』

はやる気持ちをおさえ、ページをめくり文字を追う。

『神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、
さらに小さな粒よりなる。神が我に与えしその系統は、四のいずれにも属せず、
我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。
四にあらざれば零。零すなわちこれ『虚無』。我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん』


「虚無の系統…伝説じゃないの」

これで、さらにサイトの役に立つことが出来る。そう思うと、頬が緩んだ。


『これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。
またそのための力を担いしものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。
志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。
『虚無』は強力なり。また、その詠唱は永きにわたり、
多大な精神力を消耗する。詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力により命を削る。
したがって我はこの書の読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが
指輪をはめても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪をはめよ。
さればこの書は開かれん。

ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ

以下に我が扱いし『虚無』の呪文を記す。
初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン(爆発)』


失敗した魔法が爆発する理由、ようやく誰もだせなかった答えに納得がいった。
サイトのお陰で好きになれた爆発。それは正しい魔法だったのだ。
失敗は失敗でも、それは大いなる失敗だったのだ。

そして、いつも正しくわたしを導いてくれるサイト。
魔法を教えてくれるという言葉、本当だったことが証明された。
その言葉を疑ったことなどなかったけれども。


ルイズは、口に出さず心の中で呪文を何度もなぞった。
その言葉、その章節、一つ一つによって懐かしさを感じるリズムが心にめぐっていく。

「その魔法は、巨大な戦艦ですら紙きれのように吹き飛ばすことが出来る。
だから無闇に唱えてはいけないよ?一つの単語だけでも今までの魔法とは比べられないくらいの威力があるからね」

一単語だけなら精神力の消費はそんなに多くない、なのに威力は桁一つ跳ね上がる。
白兵戦だけ考えれば、並みの魔法使いでは歯が立たないだろう。
虚無に系統を重ねることで今までと同じような使い方も可能だ。

「自分の系統が定まった今ならコモン・マジックを使えるはずだよ」

ルイズは、試しに恐る恐るライトの呪文を唱えた。
まばゆい光が辺りを照らし、ルイズとサイトの影を強くする。

「本当に使えた!今まで爆発しかしなかったのに…」

はらはらと静かに涙を流すルイズをサイトは抱きしめた。

「魔法なら成功していたじゃないか。おれを召喚し契約する魔法がさ」

そんな温かい言葉と抱擁で、ルイズの心は穏やかに静まって行くのだった。






しかし、何もかも上手くいっているような虚無の魔法の習得も、
実はどの過去よりも状況が悪いことをサイトは理解していた。

それは、何故か?

虚無の魔法は、使い手の精神力の許容量は多いが消費精神力も多い。
さらに回復のスピードが使い手の精神状態によって変化することがあり、
ルイズの場合は怒りや嫉妬などの精神状態のときに精神力が溜まりやすくなる。

今のルイズはどうか?

精神は殆ど安定し、幸せに満ち溢れている。
サイトが他の女性といても、それは当然のことでむしろルイズから助長している部分もある。

虚無は不幸だからこそ力を増し、力を渇望するが故に新たな魔法に目覚めるのだ。
魔法を目覚めさせることは可能だが、過去よりも威力は衰え回復も見込めないのだ。
使い切ってしまったら、回復するためにどれだけ時間がかかってしまうか……




カリスマのルーンによる弊害は、ガンダールヴの能力だけではなく
副次的にルイズの虚無の魔法へすら悪影響を及ぼしていた。


使い方によっては、強力なルーンでもあったがそれが不満な点でもあった。
どうあってもガンダールブの身体能力は以前のような強力な戦力として望めなかったし、
魔法道具ともいまいち相性が良くなく、一般人より少し性能が上がるぐらい。
武器を理解し、利用方法が瞬時に把握できることぐらいしか使えない。

場違いな工芸品であっても、武器事態は殆ど使い捨てで再現出来ないのだ。
それは恐らく冶金技術があがったとしても見込めないだろう……。



しかしそれでもサイトは悲観など全然していなかった。
ガンダールヴの能力も勿論必要だが、サイトの一番の武器は何か。
それは、六千年という長い時をかけて試行錯誤かさねた魂に刻まれた記憶である。

十二分に生かすのであれば、カリスマの能力はとても都合がいいのだ。


「歓迎の準備は出来ているんだ、退屈はさせないでくれよ?」


そろそろ、過去の軌跡がずれ始めても良い頃合いだ。
窓辺に座り、翳りゆく夕日を見つめながらサイトは笑った。



[18350] ■現在27 * 「メイドの午後」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/06/20 17:32
その日の夕方、サイトは風呂の準備をしていた。
トリステインの魔法学院にも風呂はある。
プールのように大きく、香水が混じった湯が張られている。

サイトは貴族ではなかったが、入ろうと思えば貴族の使っている風呂に入れる。
それでも、こうしてマルトーから徴収した大釜を直して風呂にすることにしている。
貴族の風呂は広いだけあってぬるく、社交的の要素も兼ねているため若干わずらわしい。

現状を変えようと望む思い、過去に縛られる思い。
本当は、過去をなぞっているだけかもしれない。
熱く開放的なこの風呂を気に入っていることも本当だが、
そんな未だにどこか人並み臭い思いをもつ自分に苦笑するサイトだった。


日が翳り、二つの月がうっすらと姿を見せてきた。
熱い湯に顔をつけると、疲れが湯に溶けだしていくように感じる。
ひとまずは幕間といった所だろうか?この間にも、もちろんやるべきことは沢山あるが、
そう張りつめてばかりでは、上手くいくことも上手くいかなくなってしまうのだ。
今日は、そんな疲れを癒すべく準備もしてある。



暗がりから、人影があらわれた。

「誰?」

「メイドのシエスタでございます」

トレイの上にサイトの私物であるティーポットとカップがひと組のっている。
恐る恐るという感じで、慎重に運んでいる。

シエスタは最近サイトから、こまごまとした用事を頼まれることが多い。
周りの貴族達の反応や、ルイズやギーシュがサイトを傾倒しているのを見ると細かな頼まれごとも無碍にも扱えない。
それでも不思議な力を使い、知識も豊富なのに、他の貴族と違い威張り散らすことがない。
そんなわけで、シエスタはサイトに対して比較的好意的な感覚をもっていた。

今日頼まれていたのは、当方の珍しいお茶をお湯ではなく、
水で時間を掛けて冷やしながら抽出したものだ。

「お、ちょうど良かった。そろそろ飲み物を飲みたいと思っていたんだよ」

そういってサイトはおもむろに立ち上がる。

「たっ、立ち上がらないでください」

立ち上がった瞬間に、上半身を見てしまった。
慌てて眼を逸らしてみたが、引き締まった体だったのを見てしまった。
ごつごつとした筋肉ではなく、少年特有の柔らかい薄い筋肉をしている。

あの一瞬でそこまでわかってしまうくらい、目に焼き付いてしまった。
彼はどこか人にはない魅力があって、遠目からでも他の人と見分けがつくくらいなのだ。

メイド仲間の評判もよくて、贔屓にされているとからかわれることもある
たしかに素敵な人物だとおもうが、どうも高貴すぎて気遅ればかりしてしまう。


「こちらに持ってきてくれるかい」

その言葉にシエスタは、はっと意識を取り戻した。
備え付けの階段を上って大釜の近くまでやってきた。
揺れる水面に月が映っている。

「どうぞ、東方、ロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しい品だとか」

確かに珍しい品で、中々目にする機会が少ない。
サイトにとっては、珍しい茶器も珍しいお茶も策を進める一要素にしか過ぎない。

お茶を受け取って、一気に飲み干すとわざとトレイのふちに飲み終わったカップを置く。
勢いよく湯船につかると水があふれてシエスタの服を少し濡らした。

「きゃっ」

驚いて飛びのいてしまったシエスタの手にもたれたトレイからカップが落ちてしまった。
トレイを強く握り、ティーポットを落とすことだけは免れたが、
奮闘むなしく、カップは地面に吸い込まれ、カシャンという陶器の割れる音がした。

「あっ…ぁーー」

さっと顔が青ざめ、鼻の奥がつんとしてくる。
シエスタは涙を流すことを耐えながら、サイトの顔色をうかがう。

「ああ、やっちゃったね。高かったんだよね、それ」

このティーポットは、魔法で中の飲み物を冷やすらしい。
これ一つで平民が一生暮らしていけるくらいの値段がすると聞いていた。

それを思い出して、とめどなく涙を流す。
返せるわけがない、家族に迷惑をかけてしまうのだろうか。
それとも、ここで殺されてしまうのか…。

「サイトさま……申し訳ありません」

とまらない涙、かすれた声、ぐしゃぐしゃになった顔で謝る。
それをサイトは無機質な声で命令する。

「ティーポットを置いて戻ってきなさい」

ティーポットを近くのテーブルに置いてとぼとぼと大釜の前まで戻ると、服を着たサイトが待っていた。

「まずは、このタオルを衝立に掛けてもらおうか」

サイトから衝立までの距離は歩けば数歩しかない。
シエスタはタオルを受け取ると、サイトの前まで戻ってくる。
サイトはシエスタの頭をなで、ハンカチを取り出し涙の跡を拭いてあげた。

シエスタのカチューシャを取り出し頭に取り付ける。

「次は、割ってしまったカップの破片を集めようか」

割れたカップを見ると、また涙が出そうになった。
破片を集めると、サイトの前まで持ってくる。
サイトはまたシエスタの頭をなでると、次の命令を命じた。

「破片は危ないから、トレイに纏めてくるように」

先ほどのトレイの場所に破片を置いて戻ってくると、また撫でられた。

「次はパンツを脱ごうか」

ロングスカートに手を掛けて、下着を脱ぎサイトに手渡す。
そしてサイトに頭を撫でられて気がつく。

「サ、サイトさま、それ返してください」

「返しても何もシエスタが渡したんじゃないか。
いいからそのまま、とまって立っていなさい」

ぐるりとシエスタの周りを回る。小さな事を命令して、それを褒める。
最近仕込んでいたことがようやく効いてきたようだ。
過度のストレスを掛けることがよかったのかもしれない。

シエスタは、自分が下着をすんなりと渡したことに驚いたが、
それ以上に命令されることを喜んでいる自分に驚いていた。

「スカートをたくしあげてみようか?」

首をいやいやと振りながら、自分の意志を裏切ってスカートを手でたくしあげていく。
やめて、やめて、と心の中で呟きながらドキドキとした興奮も感じていた。
これでは、まるで粗相をしてしまったメイドが旦那様に仕置きされているようではないか。
そんな本を友達に見せてもらったことがある。

シエスタの心は羞恥と疑心と興奮で渦巻き、頭の中で何か考えても次々と考え事が泡のように消えていく。

「シエスタは、命令されて喜ぶような変態だったんだね。
普通言われてもこんなことしないとおもうよ」

にこにこと笑いながらサイトがいう。
平民という時点で既に下地が出来ているのだ。
平民は貴族に逆らえない、それを親から友達から言い聞かされ自分でも心に刻んでいるのだ。

「ああ…そんなことありません。サイトさま手を降ろさせてください」

「シエスタは、おれの命令がないと何もできないの?」

何度も手を降ろそうと頑張っているのだが、体が言うことを聞いてくれないのだ。

「次はスカートの裾を口に咥えてみようか」

今までどんなに意識しても動かなかった両手がゆるゆると動き、
血色のいいふるふると柔らかそうな唇でスカートを咥える。
サイトがシエスタの目の前にやってくるが、隠すことが出来ず顔が赤くなる。

「綺麗に整えているんだね。黒い毛も柔らかそうだね。
それにしても見られて興奮しているの?触ってもいないのに濡れているよもしかしてお漏らし?」

「ひょんあこお……」

意識してしまうともう駄目だった、こぽりと中から溢れてるのが自分で分かってしまった。
涙が一筋零れ落ちた、それをサイトが指ですくう。

「じゃあ、両手を使って自分のを慰めてみようか。やり方は知っている?」

首を縦に振り、そろそろと右手が秘所に向かう。
否定できなかった、知られてしまった。
悲鳴をあげて逃げ出したかったが、それは命令されていなかったし、許されていなかった。
こんな外で、人が通るかもしれないのに、言われるがままに動いている。

くちゅり……

右手が柔らかい毛をかき分け幼いすじを触ると、こぷこぷと愛液を垂らしているのが分かる。
わたし、命令されて…見られて、喜んでいる……。


目はとろりとうるみ、スカートは涎で濡れている。
左手は尖ったクリトリスに触れ、ぐにぐにと潰すように小刻みに動いている


「んっ、っ…」


サイトは満足していた、公開メイドオナニーショーだ。
シエスタは夢中になって喘ぎながら、凄い勢いで自分を苛めている。
すぐにでもイってしまいそうなくらい激しい、口をふさいでいるスカートのせいで漏れるような声がえろい。

「手を止めなさい」

シエスタは安堵した、体が熱をもちあと少しでサイトの目の前で絶頂にたっしてしまいそうだったのだ。
サイトはゆっくりとシエスタの後ろに回り込み、ブラウスのボタンを外して胸を揉んでいる。

「シエスタって、胸結構大きいよね。着やせするタイプだよ」

乱暴に揉みしだきながら、乳首をきつくつまんだ。

「いひゃぅ」

「休んで落ち着いた?そしたらまた続けようか。ただし、イきそうになったら手を止めること」

「ぁぁぅ……」

そんな絶望的な命令にも幸せを感じていた。
じんじんと痛む乳首をサイトが優しく指でこねるように撫でる。





「ゆふして……ゆふしてふあさい」

それから数分命じられるままにいじり続けていた。
涙と涎で顔をぐちゃぐちゃに、右手と左手で秘所をぐちゃぐちゃにしながらシエスタは許しを請いていた。
中がきゅうきゅうと締め付けられ始めると、すぐに手が止まる。

「どうしたら、許してもらえるか教えたよね、言ってごらんシエスタ」

涎でべちょべちょになったスカートを口から外し、早口でまくしたてる。


「ああ、粗相をしてしまった駄目メイドにどうかお仕置きしてくださいませ。
口マンコを使って奉仕させてください、そして処女マンコに赤ちゃんの元を注いで孕ませてください」

あまりにも酷い台詞だった。
でも自分でも望んでいるのかもしれない。こんなにも体が喜んでいるのだから。

「失礼します」

そういうと初めて見た肉棒をいきなり口に含む。
鼻孔に男くさいにおいが広がっていく。

「舌を動かして、吸うように口を動かして」

めちゃくちゃに舌で撫でまわしながら、鼻で息をしつつ弾力のあるそれをすする。
サイトは我慢せずにがしがしと腰を動かし欲望を吐き出した。
白い塊は勢いをもって喉に当たり、鼻の奥まで達しようとしていた。

ちゅうちゅうと最後まで吸うのを確認して、サイトは腰を引き抜いた。
ちゅぽんと音がして口から出された肉棒は、まだ衰える兆しがみえていなかった。
けほけほと咽ながら、口から精子を出すシエスタ。鼻からも少し垂れている。

ふらふらと近くの木に手をつき、スカートをたくしあげる。
白いタイツも愛液で濡れて湿っている。

両手で割れ目を開きながら、サイトの挿入を待っている。

「それじゃ、入れるね。シエスタ」

サイトがゆっくりと挿入するとじんわり鈍い感触はするものの余り痛みを感じなかった。
激しく動くシエスタの膜は既に破れていて、とろとろにほぐされた中は、殆ど痛みがなくサイトを迎え入れた。

「ぁぁ……」

ずずっずずとゆっくりとサイトは動かす。

「あれ?痛くなさそうだね、大丈夫シエスタ?」

こくりと首を縦に振る、始めては痛いと聞いていたが個人差があるのだろう。
わたしを心配してくれたのかと嬉しくなったがそんなことはなかった。

「痛くないとお仕置きにならないね」

そう、おもむろに言うと、後ろの方でヒュッと音がする。
これは、何の音だろうか?
疑問を感じたシエスタにすぐ答えを教えるように、間を開けずにパチーンと音がした。

「きゃあう」

シエスタの白いお尻に赤い紅葉のような痕が出来ていた。
さらに、後ろの方でヒュッと音がする。ひっ、と体を構えようとするが上手くいかない。
パチーンと良い音がして、ひりひりと痛む肌に新しい痕を残していく。

「ああ、ごめんなさい旦那様」

その言葉に満足したのか、サイトは腫れた痕をなでていく。
その間にも腰が容赦なく動かされ、ブラウスからはみ出した乳がたゆたゆと揺れている。
エプロンドレスにぷくりと膨れ上がった乳首が擦れてひりひりとした感触に責められる。

「あと八回だ」

そんな言葉に絶望か歓喜か分からない声が漏れる。
ヒュッという音に膣がさらにしまり、パチーンという音に狭い膣がさらにぎゅうと肉棒を締め付ける。

「よん」

叩かれるたびに、服従のあかしが刻まれていく。

「ご」

叩かれるたびに、愛液が飛び絶頂に上っていく。

「ろく、なな、はち、きゅう」

つま先立ちした足ががくがくと震える。
叩かれた箇所から、熱い熱のようなものが広がっていく。

「じゅう」

叩くと同時に、口に出した以上の精液をシエスタに注いでいく。
脳がぱちぱちと焼けるように感じ、視界が白で埋め尽くされる。
木にしがみつきながら、シエスタは気絶したのだった。






シエスタが目を覚ますと、裸で大釜の中に入っていた。
サイトに抱きかかえられ、肌が触れている。
さっき起きたことは夢じゃないのか?でもまだ中に何か入っているような違和感を感じる。
身じろぎ動こうとするがサイトに止められてしまった。

「目が覚めたみたいだね、気絶しちゃったみたいだけど大丈夫?
あ、暴れると危ないからやめてね」

それだけで、大きく動くことが出来なくなるのだ。

「や、やめてください」

ふにふにとサイトが胸を揉んでいたのだ。
消え入りそうな声で胸を抑えながら逃げようとする。
今までの事が夢じゃなかったことが分かってしまった。

「分かった、触るのをやめるよ」

そう言いながら、サイトは手を胸から離す。
シエスタは安堵した、もう体ががくがくして感覚が鋭敏になりすぎているのだ。

「シエスタから、キスして胸押し付けてよ」

そう言われると、シエスタは情熱的なキスをサイトにしながら豊満な胸を押し付ける。
シエスタは考え違いをしていた、まだ何も終わっていやしなかったのだ。

「自分で入れて腰を動かして」

サイトに向かいあい、キスをしながら腰をおろしていく。
ちゃぷちゃぷと水面が揺れて、二つの月が乱れ映っている。

サイトが満足するまでシエスタへの命令は終わることがなかった。



[18350] ■現在28 * 「王家の椅子」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/06/29 00:35
ルイズとサイトが食事を終えて、教室に入るとすぐにクラスメイト達が取り囲んだ。
ルイズたちは学院を数日開けたときに、何か危険な冒険をして、
とんでもない手柄をたてたらしいともっぱらの噂であったからだ。

事実、魔法衛士隊の隊長と出発する所を何人かの生徒達が見ていたのである。
穏やかじゃない光景である。
何があったのか、クラスメイト達は聞きたくてうずうずしていたのだ。

しかし、キュルケは優雅に化粧を直していたし、タバサはじっと本を読んでいる。
ギーシュは自信がついたのか余裕のある態度で女の子に囲まれている。
それでも、詳しい話を聞けなかったので今度はルイズの所までやってきたのだ。

ルイズはルイズで、サイトと一緒にいるため拒絶の壁を作っていたが、
それを恐れずに腕を組みながら近寄ってくる人物がいた。

「ねえルイズ、あなたたち、授業を休んでいったい何処へ行っていたの?」

腕を組んで、そう話しかけたのは香水のモンモランシーだった。
ギーシュが冒険に出かけ、何かが変わったような気がする。
それが、なんなのかどうしても知りたかったのだ。

「なんでもないわ、ちょっとオスマン氏に頼まれて王宮に使いに行ってただけよ」

取り付く島もないので、クラスメートたちはつまらなそうに、自分たちの席に戻って行った。
それでも、なおモンモランシーはルイズにくいついた。

「話をする時ぐらいこちらを向いたらどうかしら?」

少し小ぶりな胸を反らせて、上からルイズを見降ろした。
ルイズは、少しため息をついてモンモランシーに気だるそうに向き直った。

「何度聞かれても、同じ答えしか返せないわ」

「あなたと使い魔とギーシュが一緒に出かけたのを見た人がいるのよ。
なんでそんなことになっているか、聞いているのよ」

「へぇ、ギーシュが気になるのかい?直接聞きに行けばいいのに」

傍にいるルイズの使い魔がゆっくりと手を伸ばしてくる。

「なにをするのよ!」

モンモランシーは慌てて飛びのいて後ろに下がる。

「袖に糸くずがついていたから取ってあげようかと思ったんだけどね」

そう残念そうにサイトは笑った。この使い魔はなんというか得体が知れない。
決闘までしたギーシュだっていつの間にか懐いてしまっているし、
あのプライドの塊だったルイズもすっかり使い魔の虜になっているようだ。

「ふん、まあいいわ。ゼロのルイズだもの。
魔法もできないのだから、どうせたいした手柄ではないわね。
フーケを捕まえたのだって、きっと偶然なんでしょう?」

「簡単なコモン・マジックなら出来るようになったわ」

もう既に虚無に目覚めているので、
簡単な魔法なら正しく使えるのだ、数は少ないが大きな進歩でもある。

「それで?王宮でも明るくしてきたっていうつもりなの?」

モンモランシーは口元を手で隠してくすくすと笑った。

「ねえ、まだどこにも出回っていない情報だけど、あなたにだけ特別に教えてあげるわ。
我がド・モンモランシ家は、今度王宮試案の施策のまとめ役に抜擢されたのよ。

王家への忠誠がようやく報われたってことね。
多くの貴族をまとめあげるには名門といわれる貴族でなくてはね」

ここだけといいつつ、声を大きめにしていうと席に戻って行った。
何も話さないルイズたちに興味をなくした生徒達は、
今の話を聞いて、我先にモンモランシーの近くに集まりだした。

「なんだか、可愛そうね。
あんなに喜んじゃって本当の事を知ったらどうするのかしら?」

実際はまとめ役の一柱であるし、
配置する貴族は癒着が起こらないように王家で取り仕切る予定である。
そして、裏で決定権を持っているのは他でもないサイトなのだ。

サイトの指先一つでまとめ役は変えることが出来る。
もし、まとめ役が交代でもされようものなら、王家の不和を得たとでも噂がたち、
今度こそ他の貴族から相手にされなくなってしまうだろう。

別に昔のように足を出して転ばせる必要もないのだ。

モンモランシーの話はコルベールが教室に来るまで続くのだった。





その夜、サイト達は城の寝室に来ていた。
ド・オルニエールの秘密通路を使ったのである。
これがあれば、寝室に警備にばれることなく侵入することが出来るのだ。

机の上には、リッシュモン達が馬車馬のように働くことによって
改善されまとめ上げられた施策の資料が乱雑に置かれている。
けっして少なくない資料を、ざっと目を通していく。

「問題なさそうだね。姫様読み終わるまであと少しだからがんばってくださいね。
時間まで我慢できなかったら、この資料はいくつか返させてもらいますね」

机の下では、ぴちゃぴちゃと水音がしている。
サイトが資料を読んでいる間にご奉仕をしているのだ。

サイトが読んでいる資料は、どれをとっても平民や貴族を救うことが出来る。
過程の数字だが、返すわけにはいかない。
資料がないとなると一から作り直しとなる。難しくはないが数日の遅れが出てしまう。
戦争を控えた今、その貴重な数日を費やするわけにはいかない。

「ああ、サイトさん。まだですか?あっ…お願いルイズあまり揺らさないで、
もう…もう…腕が痺れて、ぁあ、お願い刺激しないでください」

サイトはぴちゃぴちゃと奉仕を続けるルイズの頭を撫でつける。
その振動がアンリエッタに伝わり、アンリエッタを責め上げる。

アンリエッタも机の下にいた。
ただし、手と膝を床につけて、上にサイトが座っていたが。

アンリエッタ姫の人間椅子である。

これまでの歴史上、王家の人間を椅子にした人物などいないのではないだろうか。
とにかく手を伸ばし、腕を張っているが痺れて限界が来ていた。
少年といえどそこそこ重さがあるサイトに乗られ、
ルイズが熱心に奉仕をするたびに振動が伝わり、
さらには、少し開いた足の間から、シエスタが秘所を責めている。

時々思い出したようにアンリエッタの艶やかな胸をルイズが刺激したりもしている。
サイトも指で尻穴をさわさわと撫でている。

その度にアンリエッタの力が抜け、足や腕ががくがくと震える。


「そういえば、ゲルマニアと無事同盟を結んだようだね。
でもアルビオンの貴族派も半数は潰れたけど、まだ壊滅には遠いし、
近いうちにトリステインに攻めてくると思うよ、その場合、侵攻される場所はどこかわかる?」

「そんな…アルビオンとは不可侵条約を結んだばかり…」

ぺらぺらと資料をめくりながら、構わずサイトは続ける。

「狙うとしたらタルブ村の辺りだろうね。
レコン・キスタは統一を目指す特性上、攻め続けなくてはいけない。
貴族に領地を分配しなくてはないないからね。

そう考えると、王のいないトリステインは狙い目なのさ。
不可侵を破るなんて統一してしまえば、どうとでもなるからね」

シエスタがぴくりと震え、アンリエッタを責める手を止めていまう。

「ほら、シエスタも姫様にお願いして。
せめて住民だけでも避難させてもらえるように」

サイトの言葉通り、姫様を責める手を強める。
ぐちゃぐちゃと飛沫が飛んで、目は虚ろでだらだらと涎をこぼしている。

「ああ、もう無理です。あぁ、お願い早く早く読み終わって」

アンリエッタが崩れ落ちてしまうのと、サイトが資料を読み終わるのは同時だった。
そうなるようにサイトが調整しただけのことでもあるが。




崩れ落ちたアンリエッタに体重を掛けていたサイトは立ち上がり、
オルニエールの秘密部屋にアンリエッタを運んでいく。

本格的にアンリエッタを責めるためだ。
ルイズとシエスタがあとに続く。

大貴族や王家の人間が服従しているサイトにシエスタが逆らうことなど出来なかった。
アンリエッタも抵抗意識が戻ってくるたびにサイトに責められている。


ベッドの上では、アンリエッタの手はルイズに抑えつけられ、
アンリエッタの上にシエスタがのしかかっている。

形のいい胸がつぶれ、お互いの乳首が刺激し合い、
交互にアンリエッタとシエスタの中を比べながらサイトは腰を振っている。
アンリエッタの頬に伝う涙をシエスタが懸命になめている。


「んっ、タルブ村はっ、わたしの、生れた村なんですっ、
なんでもしますからぁ、旦那さま、どうか村をっ、救って……あぁあ…」

「あぁ…もう許してぇ…わたしはあなたのものです。
だからぁ、もう責めないで。気持ちよすぎて辛ひぃ…」

懇願する二人を見ながら、ルイズと情熱的なキスを繰り返す。
ルイズは幸せそうにとろんとした笑みをサイトに向けていた。

こうしてサイトは、幸せなハーレムに向けて順調に進んでいくのだった。



[18350] ■現在29「可弱い生き物」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/07/02 03:12
「サイトいるんでしょぉ?」

そういいながら、部屋に入ってきたのはキュルケだった。
ノックもせずにアンロックで部屋に入ってくるのは、
相変わらず学習能力がないからなのか、それともキュルケだからこそなのだろうか?

「キュルケあなた一言断ってから入ったらどうなの?」

「そうね、ルイズ部屋に入るわよ」

さらりと流すキュルケにルイズは一つため息をつく。
これから、部屋にシエスタを呼んでサイトにご奉仕させる予定だったのだ。
シエスタにはもっと所有物としての心得を叩きこんであげなくてはいけない。

それが、みんなの幸せなのだ。わたしだって幸せになれたんだからみなと分かち合いたい。
シエスタも最近は虚ろな目で幸せそうにご奉仕出来るようになったけれどまだ足りない。
もっとサイトのことを一番に考えるようになるのが、
サイトにとっても、シエスタにとっても幸せなのだ。

この際だからキュルケも混ぜてしまおうかしら?
そう微笑みながらルイズはキュルケを見る。
キュルケは扉の方に戻りながら、慌てて早口でまくしたてた。


「今日はサイトに良い話をもってきたのよ。
ほら、これ分かる?宝の地図なのよ。あなた貴族になりたくない?
もし宝が見つかれば、それを売ってお金にしてゲルマニアに来ればいいわ」


確かにトリステインでは貴族に慣れないかもしれない。
しかし、姫様がサイトのものである限り、トリステインにて平民のままでも問題はなさそうだ。
結局のところは、サイトの答え次第なのだが

「ねぇ、貴族になれたら……、きちんと手順をふんで、あたしにプロポーズしてね?
あたし、そういう男の人が好きよ。平民でも貴族でも、なんだっていいの。
困難を乗り越えてありえない何かを手にしちゃう人、そんな人が好き……」

サイトなら、何だって乗り越えてしまいそうな予感がするのだ。
それに最近気がついたのだが、サイトにくっつくと心が温かくなるのだ。
こんなわたしでも包み込んでくれるような、大人の雰囲気もする時がある。とても不思議な人。

そんな言葉をルイズがいる前で平然と言いのけるキュルケ。


「そうだね、ちょうどタルブの方面へ行く用事があったんだ。
その周辺でいいなら、全部じゃないけど付き合うよ。そうだ、ギーシュも連れていくか」

今や修行中毒にもなっているギーシュなら、喜んで参加するだろう。
ギーシュの新しい魔法は、欠点といえば防御力の高い土系統のゴーレムに弱いくらいで、
対人戦であれば、毒などを薬で付加効果として付けることもできるし伸びしろがある。
単純なだけに応用がいくらでも出来るうえに、
強くなっている実感も操れる蛇が増えることでとても分かりやすい。

今じゃ、サイトでもギーシュに勝つのは難しいくらいなのだ。
オークどもが相手とあれば、少しは修行にもなるだろう。

「ええ、構わないわよ。そうと決まればさっそく準備ね。
なんで、こんな面白そうな話があるのにタバサはいないのかしら。
まったく、あの子ったら、たまにふらっと何処かへ行ってしまうのだから」

そう心配そうに言いながら、慌てて部屋を出て行った。


入れ違いに重い足取りで、ルイズの部屋に入ってきたのはシエスタだった。

「今キュルケ様が見えましたが、何かありましたか?」

「何でも宝の地図を見つけたらしくてね。
これから、出かける予定なんだがシエスタもくるかい?」

シエスタは安堵した。
最近ではサイトとの行為にも慣れつつ、いやむしろ自分でも望むようになりつつあった。
酷い事されてるのに嫌悪感がない、それがとても怖かった。
しばらく、離れればこの気持ちも変わるかもしれない。

「いえ、私は料理しか出来ませんから……」

「そうね、料理は重要よ。それにサイトに快適な環境を提供するのもあなたの大切な仕事よ。
他にもタルブ村による予定もあるのだから、あなたも来なさい」

そうルイズが言うと、シエスタは決心した顔つきになった。
家族に危機を伝えることが出来るのだ、それだけでも幸せなことなのだ。
そう自分に言い聞かせる。

「分かりました、よろしくお願いします。ルイズさま、旦那様」

「そうだね、シエスタのご両親にも挨拶しないとね」

そう言いながら、頬を撫でながらシエスタにキスをするサイト。
シエスタは「ぇ?そんな…」と絶望した面持ちになり、
諦めたように「ああ……幸せです…」と虚ろに悲しみ嘆きながら涙を流した。







「お姉さまお相手して、シルフィのお相手して、きゅいきゅい」

顔に似合わぬ可愛い声で、伝説の幻獣、風韻竜のシルフィードはおねだりした。
しかし、タバサは広げた本から目を離そうとしない。
なんとか気をひこうとして、シルフィードは話題を振ってみた。
タバサが通う魔法学院の出来事である。

「ねぇお姉さま、あの人すごいですわね。変な名前の男の子!
つがいも二人いるようだし、お姉さまに言われて監視してるけど、
お肉もくれるし、とっても良い人よ!」

杖で体を叩かれる。

「いひゃい。何で叩くのね!シルフィ悪いことしてないのね。
あの人見てると従いたくなるし、お肉もおいしいけど、お姉さま一筋なのね。
だから、安心するといいのね。そしてお肉をもっとよこすのね!

それよりも、今度は何の本を読んでいるの?」

タバサは手を伸ばして、本の表紙をシルフィードの目の前に突き出した。

「『ハルケギニアの多種多様な吸血鬼について』ですって?まあ怖い。
もしかして今度の相手は、吸血鬼なの?」

タバサは頷いた。

「お姉さま、吸血鬼は危険な相手ですわ!太陽の光に弱い点を除けば、
人間と見分けがつかないし、先住の魔法を使うし!きゅいきゅい、怖い!」

シルフィードはぶるぶると震えた。しかし、タバサは動じない。
じっと本を見つめるばかり。

「おまけに血を吸った人間を一人、手足のように操ることだって出来るのだから」

しかし、ハルケギニアの吸血鬼といえば、人間をやめて時を止めたり、年々姿が若返ったりしたりしないし、
白と黒の拳銃で戦い、頭や心臓を潰しても死ななかったりもしないし、空間具現化したりしないのだ。

力はオークよりも劣り、魔法はエルフよりも劣る。
なにより人間がいないと生きることが出来ない、凶悪で可弱い生き物なのだ。




ザビエラ村。

ガリアの首都リュティスから五百リーグ程南東に下った、山間の片田舎の村であった。
人口三百五十程のこの寒村では、現在十三人の吸血鬼による被害者が出ている。

ここまで被害が増えたのはガリア郊外周辺で、なぜか傭兵が暴れる事件が多発したため対応が遅れたのであった。

恐るべきことに、犠牲者の十三人の中には、先々週王室から派遣されたガリアの正騎士も交じっている。
彼はトライアングルクラスの火の使い手であった。
そんな強力なメイジである彼さえも、到着して三日目の朝、村の真ん中の広場で死体となって発見された。

そんな狡猾な妖魔が相手だったので、タバサは慎重にいくつもりのようだった。
正体さえ暴いてしまえば、難しい相手ではない。
シルフィードを騎士に見立て、狡猾な吸血鬼を見破るのだ。









「こっちなの」

吸血鬼を退治した後、幼く人形のような村長の義理娘に誘われて夜道を森に向けて進んでいた。

村に養生しにきた占い師の老婆と息子の家族が吸血鬼ではないかと怪しまれていたが
やはり息子が屍人鬼だったので、屋敷に村人が火を放ち老婆も殺したので解決となった。
老婆は只の人であったのだが……。

タバサは聡明な考察で、まだ事件は解決していないことを悟っていた。
煙突に老婆の布切れがついていたが、そこは既に調べたあとだったのだ。
しかし、閉まりきった扉に侵入するには、子供のような大きさでなくてはならない。

夜が明け明日の朝になれば帰宅しなければならない。
そんな夜中にお土産をと誘いに来た子供、エルザ。
メイジに親を殺されたからと杖におびえるエルザに安心させるように何も持たずにタバサは出かける。
それも、エルザを油断させるための事、口笛を一つ吹きシルフィードに伝える。
あのどこか抜けた使い魔も流石に察してくるだろう。

シルフィードの部屋には、サイレントが掛かっていていて口笛が聞こえることがなかったが……


「口笛?上手だね。でも夜中にふいちゃいけないんだよ?縁起が悪いんだから」

とエルザが可愛らしい声でくるくると回りながら言った。

「魔よけのおまじない」

とタバサはうそぶくのだった。


かくして森の中に、ムラサキヨモギの群生地があった。
ムラサキヨモギとは村に来た時に出された特産品で栄養価が高いが、もの凄く苦い草だ。
タバサは少しでも強くなるために、悪食してる間に強い苦みのある食べ物が好きになったのだ。

「すごいでしょ!こんなにたくさん生えてるの。ほら!ほらほら!」

月明かりの下、楽しそうな声でエルザは駆け回った。

「お姉ちゃん、この苦い草、おいしいって食べていたよね。だからいっぱい摘んで?」

タバサはしゃがむと、ムラサキヨモギを摘み始めた。
両手いっぱいにムラサキヨモギを抱えたタバサの耳元に口を寄せた。

「ねえ、お姉ちゃん」

タバサは振り向いた。いつもの冷たい目でエルザを見つめる。
その瞳には何の感情も伺えない。
無邪気な声でエルザは言った。


「ムラサキヨモギの悲鳴が聞こえるよ?いたい、いたいってね。きゃはは」

タバサはムラサキヨモギを放り出し、駈け出した。
しかし、エルザが先住の魔法を唱えると、容易に伸びる木の枝に捕まってしまった。
それでも顔色一つ変えずにエルザを見据えた。
エルザが指を振るとびりびりとタバサの服を破り捨てた。

「ねえ、お姉ちゃん。もう一度質問するわ。お姉ちゃんがムラサキヨモギを摘むのと
わたしがこうして、おねえちゃんの血を吸うのと何が違うの?」

それは、前日に人間は牛や豚などの家畜を食べるのに、吸血鬼は何故人間を食べてはいけないのかという質問の続きだった。

「どこも、ちがわない」

タバサはエルザをにらみつけながら言った。

「そうだよね、ああ、わたしお姉ちゃんがすき。だから血を吸ってあげる。
あなたの暖かい命でわたしは生きるの。そしてお姉ちゃんはわたしの中で生き続けるの。
それって、素敵じゃない?そうなったら、わたしは幸せよ」


少女は牙をタバサの首筋へ運んだ。
牙が肌に触れそうになった瞬間……




地中から、土の手が飛び出しエルザを拘束した。
サイトが颯爽と現れタバサを捕まえていた木の枝を剣で払いのけると抱き上げた。

突然に現れたサイトに、流石のタバサも驚いた。
しかも自分が窮地の時に救いに現れた、まるで使い古された芝居のような……
彼はイーヴァルディの勇者?そんな馬鹿な思いも一瞬めぐったが頭を振って否定する。
サイトの触れている個所から、温かくなる気がする。


しかし、その御姫様抱っこをタバサはそっと押しのけて立ち上がる。
肌をさらしたまま、ゆっくりと後ろに下がる。
まだ、復讐も終わっていないのに、ここで幸せや温もりに呆けるわけにはいかない。
私はタバサ、雪風のタバサなのだから。

「協力を要請する、その子は吸血鬼」

彼が何をしにここに来たのかは分からない。怪しさばかりが際立つ。
しかし、都合よくエルザを捕まえてくれている。
今は疑うよりも先に、任務を達成しなくてはならないのだ。

「お兄ちゃんいったい何なの?何でこんなことするの…ひどいよ」

土の手がエルザの両手と頭を抑えつけている。
上目使いにサイトを見て涙を流す。この人には逆らえない。
自分が人間じゃないからこそ、理解してしまった。

一縷の望みを掛けて、可愛らしい声でタバサに懇願し始めた。

「お姉ちゃんお願い。殺さないで。わたしは悪くない。
人間の血を吸わなきゃ、生きていけないだけ。
人間だって獣や家畜を殺して肉を食べる。どこも違わないんでしょ?
お姉ちゃん、そういったよね」

タバサは頷いた、事実、そうだと思っていた。

「だったら、このまま放って行って。わたし別の村に行く。
おねえちゃんに迷惑をかけないから……」

サイトがゆっくりとエルザに向かって歩く。
振り上げた剣が影となり月を隠す。

「どうして!悪くないのに!どうして!!」



さしゅっ!剣を体に突き立てたにしてはいやに軽い音がした。
サイトは片膝をつけると、剣の刃を指でなぞると赤くぷっくりとした血が膨らみ指から流れた。

「ぁ?ぇ・・ぁ!ああ!!」

口の前に出された指を赤子のように夢中で吸うエルザ。
サイトがそれをひきぬくと、ちゅぽんと音がして、エルザは名残惜しそうに唇を舌でなめた。


「どういうつもり?」

タバサは、杖をもってきていないことを悔やんだ。
あの使い魔はいったい何をしているんだろう。

「何も殺すことはないよ。吸血鬼だって幸せになる権利はあるだろう?
血だって本当は少量でいいんだ、でも誰も与えてはくれないから奪うしかないんだよ。
本当は、共存することも出来るんだよ」

サイトは優しく諭すようにタバサに向かって言った。

「でも吸血鬼は人間の敵」

タバサは冷たく言い放った。


「では、そうだね。例えば王家に兄弟がいて、権力争いの上弟が殺されました。
弟は兄の敵だったのです。これは認められること?共存の道はなかったのかな」

それは、何度も自答したことだった。
なぜ、あの優しかったお父さんが死ななければならなかったのか。
タバサの心に苦い思いが広がった、それはムラサキヨモギよりも苦いものだった。

「……」

認めてしまったら、わたしの今までは…

「どうして……そんなことをいうの」

タバサは涙が流れそうになるのを懸命にこらえた。


「意地悪したいわけじゃないんだよ、命が助かっただけいいじゃないか。
この子だって、まだ子供なんだからさ」

「お兄ちゃんより、わたしのが年上なんだからね。
それよりも、もっと…吸わせて。お兄ちゃんの血凄すぎ」

幼い顔つきを恍惚ととろけさせながら、エルザが言う。
それを聞いてサイトは鼻で笑った。


「感謝はしている」

そういいながら、タバサは後ろへ下がり始める。
杖もない状態では何も出来ないのだ。
そして、少なくともあと一人気配を感じないが潜んでいるはずだ。

「きみに見逃してもらう代わりに、そうだね。
水と風の系統魔法を強化する方法をあとで教えるってことでどうだい?」

タバサはうなずくと、背を向けて走り出した。
ギーシュやルイズを強くしたサイトなら、願ってもいないことだ。
吸血鬼の事件は結局解決したのだ、相互にとって利益のある話だった。


サイトは、タバサが去ったのを確認するとエルザと手をつなぎながら群生地を離れて行った。

タバサは宿に着くと気持ちよさそうな顔でぐっすりと寝付いているシルフィードを、
杖でたたき起こしてプチ・トロワに報告に戻って行くのだった。



[18350] ■現在30 * 「ちょこれぃとぴーぴんぐ」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/07/07 00:18
「それにしても、よかったのかい?あのまま行かせちまって。
魔法学院にいた子だろ?随分無口な子だった印象があるけれど……」

そう木陰から姿を見せたマチルダが言う。

「構わない、というよりも打つ手がないといったところかな」

「驚いたね、お前さんでも難しいことがあったなんてね」

そう皮肉げな目線を向ける。

「まあね、全知全能なんてないよ。もしそんな奴がいても何でも出来るのだから生きてないも一緒さ。
神なんて理不尽な事ばかり押しつけて、出来ることなんか何もないだろ?

それに、タバサね……あの子、あれでガリアの王族なんだよ」

それを聞くと、更に驚きで目を見開く。

「あの嬢ちゃんがかい?……人それぞれ事情があるんだろうね」

そんな事情も知っているんだろうねと、ちらりとサイトを見た。
サイトは構わずマチルダに近づくと、エキューのぎっしり入った袋を手渡した。


「!……こんなに、いいのかい?」

「今回も良い働きだったよ。でもまた頼みたいこともあるんだ。
残ったお金は子供たちに使うと良いよ。

それと、近いうちにアルビオンの戦が激化する。
子供たちが心配なら、その紙に幾つか案を書いておいたから実行すると良いよ」

至れり尽くせりである、いったいどれだけ先を見据えているのか。
疑ってかかると、その一挙一足全てに思惑が掛かっているように思える。
マチルダは紙をさっと読むと魔法でボロボロに処分した。

「その子、エルザだっけ?どうするんだい?」

マチルダが、エルザの頭を撫でようと近寄ると、エルザはサイトの背中に隠れてしまった。

「勿論連れていくよ。人じゃないから殺されなくてはならないなんて、
そんなこと馬鹿げているって、マチルダはよく分かっているはずだとおもうけど?」

マチルダは、神妙そうな顔つきで頷いた。
恐ろしい人間の敵である吸血鬼すら、物おじせず助けてしまう。
自ら血を差し出すなんて、自分でも出来るか分からない。

いつかサイトにティファニアの事を任せることができるだろうか?
まだ分からない。もっと見極めなくてはならない。妹だけは幸せにしてあげたい。
そうでなくては、今までの事がなんだったのか分からなくなってしまう。

「それじゃ、わたしはもう行くよ。お互い余り悠長にのんびりしていれる身じゃなさそうだからね」

そういうと、踵を返して目的地へ向かおうとする。
そんなマチルダをサイトは服の裾を掴んで止める。

「なんだってんだい」

サイトは、今までの人間離れした面持ちから、何処か抜けた頼りなさそうな顔になっている。
こうしてみてみると、年よりも随分と若く少年のように見える。

「んんっ」

改まって一つ咳をすると、少し俯きながら早口でまくしたてる。

「いつも頼っちゃってごめんね。ありがとう。
怪我しちゃ駄目だから!いってらっしゃい、マチルダお姉ちゃん」

ぴくりとマチルダの動きが止まる、それが、嘘だとマチルダは分かっていても堪らなかった。
サイトは、目をつむって口を突き出している。それがまたなんとも情けない。
ニヤニヤしながら、急いでサイトに近づくとぎゅっと抱きしめてキスをする。
豊満な胸がぐにゃりと形を変えて、サイトの胸板を圧迫する。

マチルダは、正直良い大人がするような顔じゃない犯罪者的な顔をしている。

「まったく、いけない子だよ。サイトは!
大人しくいい子にしてるんだよ、お姉ちゃん頑張っちゃうんだから」

そう言いながら、とてもいい笑顔で颯爽と去って行った。








サイトが、にこにこと手を振りながら見送り終わり、
振り返ってみると、エルザがしらっとした顔で見ていた。

「お兄ちゃん達って、もしかして変態さん?」

なんだか、もう色々台無しだった。




「ねぇ、お兄ちゃんは、年上さんが好きなの?
ちっちゃい子に興味はない?血を分けてくれるなら、
エルザにもえっちな事してもいいよ」

そう挑発的な目線を向ける。幼さと色気が交じりなんとも妖艶な雰囲気を作り出している。
命の恩人でもあるし、なんとかしてサイトに気に入られたい。
何より、一度あの血を吸ってしまっては、他の血を吸えなくなるくらいの極上な味の血なのだ。

それに、もう何かに脅えて暮らすのはいやだった。
父と母を亡くし、数十年孤独に耐えてきたのだ。

今まで出逢った人間とは違う。タバサとは違った人間的魅力もある。
いや、それ以上に本能が従いたがっている。

ふいに、サイトが怪我をした指を目の前に差し出した。
もう既に血は出ていないが、目が釘付けになる。

ゆらりと、左に動かすとエルザの目線も左に、
右に動かすとまるで猫のように動かし指を追うのだった。

そして、ぴたりと指先が止まった。
エルザはごくりと唾を飲み込み上目使いでサイトを見る。

「少しだけだぞ、血は駄目だからな」

そう、くすりと笑うとエルザの唇を指でなぞり、
突き出す舌に絡めて、口の奥に指を突っ込むとぐちゃぐちゃとかき混ぜた。

「ふぁん、おひいひゃんのあふぇもおいひい……」

恍惚とした表情のエルザであった。










周りの景色がまるでバターのように流れていく。
吸血鬼のエルザは目を開けるのも辛く、サイトの背中にしがみついていた。
サイトは風の精霊達に愛されているような、それぐらいの速さがあった。

サイトが移動するために使っていたのは、己の足だった。
これが六千年かけてまで、会得した移動手段かと思うと我ながら涙が出てくる。

国境を跨いで移動しなくてはならない場合が多く、
かつ幻獣は目立つ、それ以外も足がつきやすいことから、
地位が向上するまでは、どうしても己の力のみに頼る場面が増えてくる。

そこで戦闘力の落ち、伸びしろのなくなったサイトが考え鍛えたのは、
複合的な諜報術や暗殺術で、これもその一環だった。
種をあかせば、デルフリンガーに魔法を貯めて、走ることだけに利用する。
消費も少なく、流しの魔法使いや、仲間に貯めてもらえれば長距離も走行可能だ。
酷使した体も水魔法で直すことが出来るため、総合的にこの方法に落ち着いた。


サイトが遥か昔住んでいた地球でも、月にまで到達する技術力がありながら
傘は傘のままだった、情けないがシンプ ルイズ ベストと考えるほかない。


エルザの先住魔法も利用しているので、遅くとも今日の夜には合流できるだろう。
一人別行動をしていたため、なんとかオーク狩りが終わるまでには到着したいもんだ。








ギーシュの目の前には、廃墟となった寺院がある。
かつては壮麗を誇った門柱は崩れ、鉄の柵は錆びて朽ちていた。

明かり窓のステンドグラスは割れ、庭には雑草が生い茂っている。

ここは、数十年前にうち捨てられた開拓村の寺院であった。
荒れ果て、今では近づく者もいない。
しかし、明るい陽光に照らされたそこは、牧歌的な雰囲気が漂っている。
旅するものがここを訪れたなら、昼飯の席をここに設けようなどと思うかもしれない。


そんな牧歌的な村に、かさかさと不穏な音が無数忍び寄っていた。
しかし、そんな音にもこの村の住人は気がついたりしない。

住人といってもオーク鬼であるが。

身の丈は二メイル程もある。体重は標準の人間の優に五倍はあるだろう。
醜く太った体を獣から剥いだ皮に包んでいる。突き出た鼻を持つ顔は、豚のそれにそっくりだ。
二本足で立った豚、という形容がしっくりくる体をいからせている。

その数はおおよそ十数匹。人間の子供が大好物という、
困った思考をもつこのオーク鬼の群れに襲われたせいで、
開拓民たちは村を放棄して逃げ出したのだった。

オーク鬼は、村を闊歩しながら巡回している。

「ぷぎぃ!ぴぎっ!んぎいいぃ!!」

なんと、見張りをしていたオーク鬼に小さな蛇のようなものが無数に捲きつき始めた。
慌てて仲間を助けに向かったオーク鬼にも被害が及んでいる。

風下の遠く離れた木の上から、ギーシュが更に魔法を唱えている。
振り放っても柔軟な青銅蛇が絡みつき、重しとなって身動きが取れなくなっている。
強靭な肉体を避け、目や口などの柔らかな急所ともいえる場所を食い破る様に侵入していく。

一匹、一匹とオーク鬼が倒れると比例するように一匹に群がる蛇の数が増える。
学習能力がないのか、棍棒を振るい青銅蛇を何体か破壊するが、
その間に体が見えなくなるぐらい、うじゅるうじゅると埋め尽くし蹂躙されている。


「ギーシュ、あなた一人でいいなんて大口叩くから、
どんなものかと思ったけど、恐ろしくえげつない技ねぇ…」

キュルケが若干引きながら答えた。

「そうだね、今のところ敵味方の区別がつかないから、
動くものに反応してるだけだけど上手い具合に組織だった動きをするようになったよ」

「ワルキューレはどうしたのよ、あの綺麗な青銅人形は」

「確かにワルキューレも気に入っていたんだけどね。サイトに言われて実を取ることにしたんだ。
まずは勝ち生きること、いくら綺麗でも実力(中身)がなかったり、死んでしまっては何も残らないだろう?」

そんな風に落ち着いて答えるギーシュを見ると、なんだか格好よく見えてしまうから不思議だ。
ワルドと命のやり取りを経験したことがあるギーシュは、本当に一皮むけたのだった。

「へぇ、随分と格好良くなっちゃったじゃなぁい。
それにしても、ルイズも魔法失敗する癖に妙に強くなっちゃうし、
わたしもサイトに手とり足とり教えてもらっちゃおうかしら」

キュルケのそんな態度を見て、ギーシュはやれやれと肩をすくめた。
ルイズは、それよりも離れた場所でシエスタに入れてもらった紅茶を優雅に飲んでいる。





夜になると魔法力を使い果たしたギーシュはすぐさまテントにこもり眠ってしまった。
結局宝は見つからなかった、目当てのサイトも途中から何処かへ行ってしまったし、
キュルケはつまらなそうに爪の手入れをしながら焚火に薪をくべていた。

おもむろにキュルケは杖を構えると虚空に向けて構えた。

「誰?こそこそと隠れていないで出てきなさいよ。って、サイトじゃない!」

その声に反応して、サイトに飛びついたのはルイズだった。

「お帰りなさい、サイト。怪我しなかった?心配したんだから!」

そういって、しがみつくと離すものかと頬ずりし始める。

「あら?サイトその子は誰?」

そこでようやくサイトの後ろに隠れている子供に気がついた。

「用事を済ます途中でね、オーク鬼に家族が襲われて運よく一人生き残っていたんだ。
体も弱いらしく天涯孤独になってしまったからね、専属メイドとして雇うことにしたんだ」

シエスタは同情した目でエルザを見ている。
深くかぶった真黒なローブから、病的なほど白い肌が見えている。

「今日はみんな疲れただろうし、おれが見張りをしているからテントで寝ると良いよ」

もちろんルイズは、サイト分を補充するために隣に座ったし、
エルザもサイトにくっついて離れなかった。









結局テントに戻ったのは、シエスタとキュルケだった。
シエスタはすぐにテントのなかでもお構いなしに寝転がってしまったが
キュルケは、なんだか寝付けなくごろごろと寝返りをうってばかりだった。


サイト達は何を話しているのだろうか?
一端気になると寝付けないのも合わさって、起きてみようかなという気持ちになった。
隣で眠りこけているメイドを起こさないようにそろそろと出口に近づくとくぐもった音が聞こえてきた。

きゅるけは、ハッと息を飲んでその場から動けなくなってしまった。
この音、あの時ルイズの部屋で聞いた音だ。外でしているの?
あのサイトが連れてきた子供は、もう寝たのだろうか。

まさか、ルイズといえども子供の前ではしないだろうときゅるけは思った。
だが現実は、そのエルザこそ積極的に動いているのだが……

エルザは、サイトの肉棒に軽く牙を立てて、小さな口を懸命に動かしている。
大きく口を開けても入りきらず、閉まらない口から涎が垂れている。
薄くにじむ血を、汗を、性をエルザは夢中になってすすった。

きゅるけはテントの隙間から、サイトを覗き見てようやく気がつくのだった。
メイドが起きやしないかちらりと一瞥し、また出口から覗いてみる。

ルイズとエルザは、サイトに群がる蝶のように、下半身に口づけをしていく。
ルイズが側面から舐め上げれば、合わせるように反対側から舐め上げ、
エルザが小さな口いっぱいに頬張れば、ルイズは陰のうを啄ばむ。
たまらずサイトが性を吐き出せば、ルイズがちうちうと最後まですすり、エルザに口移しで精子を分け与えている。

「ふぁ…あんなぁ、蕩け切った顔してぇ、はぁ……
美味しいの?あんな場所絶対美味しくないのに……」

きゅるけは、口元を手でおさえながら、夢中になっている。
空いた手が自然と濡れそぼった秘所に伸びていく。
口をぱくぱくと開き、テント内にくちゅくちゅとはしたない音が鳴り響いている。

「ぁあ、駄目ぇ。メイド起きちゃ…ぅ。
ルイズたちにぃ…ぃひぃ…ばれちゃう。あはっ、やめないと……うぅ、いきそうだわぁ」


きゅるけは、一人遊びに夢中になってしまった。
指を動かす速度が速まり、もう少しでイケそうなくらとろけている。
だから、テントの傍に人が近づくことに全然気がつかなかった。




「あら、きゅるけったら、一人で遊んでないでこっちにいらっしゃいよ。
それに、シエスタも寝たふりなんか、やめて起きてらっしゃい」

そんな容赦のないルイズの一言に、テントの中のきゅるけは座り込んでしまった。
口元に布を噛み、切なそうにドロワーズをぐしょりと濡らしたシエスタは、
のそりと起き上り、申し訳なさそうにきゅるけを一瞥するとテントから抜け出してきた。

「みら……れたぁ?ふぇ…」

きゅるけもふらふらと涙を浮かべながらテントを出た、
暗い闇の中で、二つの影がゆらゆらとダンスしている。

エルザが肩にしがみつき、首筋を甘噛みしている。
完全に奥まで到達し、さらにあまっている結合部がしぶきを上げながらサイトを咥えこんでいる。


「ぁっ…おにぃちゃん、すごぃ……おいし……とろけぅ」

シエスタは後ろからサイトを抱きしめ、ルイズはエルザの後ろから膨らみかけの胸を刺激する。
夢遊病者のようにきゅるけは、サイトに引き付けられ吸いこまれるように近づく。

「ぁっ…ぁ…ぁは……あ…ふぅ」

エルザの力があふれ、蔦が自身の両足を固定して、離れないように地面に縫い付けている。
蔦に後ろ手に縛られ、焚火に白い肌が映えまるで供物のようにも見える。
幼く毛も生えていないぷにっとした秘所がぎちぎちとサイトを締め付ける。

「ごめんなさぃ、もうイッちゃう。お兄ちゃんっ」

エルザはびくびくと痙攣したかと思うとかくりと気絶してしまった。
シエスタが丁寧に蔦を払って、横にエルザを寝かせるとサイトの汚れた肉棒に懸命に奉仕し始める。
炎の揺らめきと淫靡な匂いで正常に考えられず、
何度も慣らされた体は、快楽と幸せに抵抗するすべがなかった。

サイト用に形が変わりつつある奥はふあふあと柔らかくサイトを包み込む。
熱に当てられ高まりすぎた体が、鍵穴に鍵を差し込むように求めていた物を受ける。
シエスタは安堵と快楽のため息を漏らす。

簡素で色気の少ない通常の仕事用のメイド服が逆にいやらしい。

「あぁ……気持ちぃ。旦那様のが、癖になっちゃてるぅ。」

もどかしさに耐えきれず、断続的に短く喘ぎながら、性急な動きで腰を動かす。


「随分と積極的になったね、シエスタ」

「あんなに中の形が変わるくらい躾けられて、
毎日毎日責めたてられて、なのに昨日は何もなくて……
いやなはずなのに……こんなこといけないのに……」

シエスタは泣き笑いの顔を浮かべている。

「わたしおかしくなっちゃった。
だから、旦那様、何も考えられなくくらい犯してください」

スカートの裾を口で掴み、繋がっている個所がみんなにも見えるようにする。
くびれた腰をくねくねと蛇のように動かして、サイトを挑発する。

「ああ、シエスタも良いメイドになってきたね。
激しく犯してあげるから、犬みたいに伏せるんだ」

シエスタは今度は、地面に伏せると四つん這いになり頭を低く下げ、
桃のように可愛らしいお尻をサイトに向けた。

「はい、旦那様。あぁ、ずんずん来る。おかしくなる。
おかしくして、もう…ぁ…あぁん。ぁん!ぁ!ぁ!!」


シエスタはサイトが激しく腰をうちつけ出すと、歓喜の声をあげた。

ふらふらとそれを近くで見ていたきゅるけは、とうとう緊張と過度のストレスで気絶してしまった。
ルイズはため息をつきながらエルザの横に寝かせると、シエスタに混ざり始めるのだった。



[18350] ■現在31「卑劣な罠」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/07/11 03:06
ロンディニウムの街を見渡せる場所に、鬱蒼とした感じの森がある。
その中でも、ひときわ背の高い木の上に一人の男がいる、ウェールズその人だった。

苦汁辛酸をなめ、逃げ出したあの日、誓って王座を街を取り戻すと決めた日。
あの日から、頭を下げ泥水をすすり、兵をそろえてきた。
貴族派を快く思わぬ派閥もようやく事の重大さに気がつき重い腰を上げた。
日和見でどっちつかず、しかも王党派寄りだった貴族達はもう王党派につくしかなかった。

不気味なのは、今まで中立派だった貴族が、貴族派をのきなみ指示し始めたことだった。

「して、パリーよ。その話確かなのだろうな」

「ウェールズ様、ご立派になられまして、この爺嬉しく思いますぞ。
あの戦の後、王家秘密の抜け道を使い命からがら逃げ出した後、
憎きクロムウェルに捉えられ、ジェームズ元王は各方面に書簡を出されました……」

部下を、民衆を人質に取られいたしかたなかったとパリーは泣き崩れた。
今まで中立を保っていた貴族も、元王とはいえジェームズと勝ち馬でもあるクロムウェルに迫られては、
断ることも出来なかったのだろう、それ以上に損得勘定も大いにあるとおもうが。


ウェールズは悔しさにぎりりと歯を食いしばった。
パリーはジェームズ元王の計らいによって、スキルニルを使い逃げてきたらしい。

「しかし、何より無事でよかった。それにしても、クロムウェル卑劣な行いをする奴だ!
奴は、恥を知らぬのか……これほど残虐的な仕打ちは聞いたことがない」

さらにパリーから聞かされた話は、絶望的な話だった。

「ジェームズ元王様の公開処刑が明日行われるようです。
更には、一昨日から部下や民衆が見せしめに一人づつ殺されています」

民衆には、ウェールズを捕まえれば民衆への手出しをやめると通達がされていた。
最初は、そのような恐れ多いことは出来ぬと反抗していた民もすぐさま鎮圧された。
今となっては、生きたい、家族を守りたいという必死な思いで、街を巡回、山狩りまで出ている始末だ。



そして、とうとう明日ジェームズ元王が処刑される。

「ウェールズ様、もしやジェームズ元王を救いに出るとはいうまいでしょうな?
分かりやす過ぎるほどの罠ですぞ、明日は十中八九警備を強化してきましょうぞ」

まったく頭が痛い、その通りであった。

「なあに、心配なさることはありません。この老骨、老いてなお健在でございまする。
王の一人や二人、命に掛けて救いだしてみせましょう」

「いや、許さぬぞパリー。ここで力を振るわずいつ振るう。
罠と分かっていても行かねばならぬ時がある、民衆も父上も救って見せようぞ」


勝算はあった、確かに兵の増援があるだろうが、こちらもただ遊んでいたわけではない。
今街にいる兵を上回るだけの兵は揃えてある。
風のように攻め、風のように去る、電撃作戦を行うつもりだ。

パリーは感涙の涙を流し、咽び泣いた。

「おお、おお、本当にご立派になられて……。
今の姿を見たら、ジェームズ元王もお喜びになられるかと」

ウェールズは木の上から、明日決戦の舞台となる街を見下ろした。








処刑を目前として、街はあわただしくざわめいていた。
始祖に祈りを請う者、元王の最後を一目でも見ようとする者、
生きるために街を警備する者、様々な人がいた。

警備は厳重に厳重をかさね、蟻の子一匹通さぬ勢いをもっていた。

「ウェールズ達が現れたぞ!!」

建物が魔法で四散する音を聞きつけ、警備の一部が警戒しながら向かった。

「奴の目的地はここだ!守りを固めろ」

飛び交う魔法の応酬、派手な爆発音が鳴り響いた。
その一団は陽動だった、適当な所で引くように命令している。
悪戯に兵を消耗させるわけにもいかない。

ここは少数精鋭で行くのだ。
本命のウエールズはフライの魔法で、超高度から処刑場に舞い降りた。

怒りで魔法のランクが上がっていたウェールズにとって造作もないことだった。
着地すると同時に、繊細なコントロールで衛兵を鎮圧していく。

ざわざわと街の人たちのささやき声が聞こえる。
ようやく救われたことに対する安堵のささやきだろうか?
それとも称賛の声があがるのだろうか。

「おい、あれ、ウェールズ様じゃないか!
捕まえれば、俺達助かるぞ!!」

遠方からそんな声が聞こえる、ウェールズは絶句した。
そこまで闇は浸透していたのか。

戸惑い、一歩踏み出そうとする民衆にウェールズは大声で訴えた。

「待て!私たちは民衆を解放するためにやってきたのだ。
本当の悪はなんなのか、今一度思い出してほしい。
王を処刑するよう画策し、民衆を殺めたのはクロムウェルじゃないか!」

再度ざわめき始める民衆だった、誰だってこんなことをしたいわけじゃないのだ。
しかし、また違う方から、今度は石が飛んできた。

「なんで、今さらのこのこ出てきた。
もっと早く来ていれば殺される命もなかったんだ。大人しく掴まれ!」

その言葉を聞き、他の男が涙を流しながら訴えた。

「王様、なんで、うちの娘は死ななければならなかったんですか……
かえしてくだせぃ…娘をかえしてくだせぃ」

ウェールズは血が出るほど唇を噛んだ。
しかし、このまま時を無作為に過ごすわけにもいかない。
まずは、ジェームズ元王を捉えている枷を外さなければならない。

何処からともなく、石が飛んでくる。
それを魔法でよけるわけでもなく、あえてその身に受けた。

「馬鹿め……、こんなところまできおって。
罠だと分かっていたろうに、無茶をしてどうする?
王家はお前に託したのだぞ。ウェールズ!」

「しかし、父上。私には我慢ならなかったのです。
あの卑劣な男の手によって、処刑されるのを手をこまねいてみてるわけにいきませぬ。

肉親一人救えずして、何が王家を救うでしょうか」

ジェームズは涙を流し、抱擁すべくウェールズに近づいた。

「この大馬鹿ものめ!……しかし、良くやった。
ウェールズ、一目会いたいとずっとズット願っておったのじゃ」

ウェールズも涙を流し感動の再会を行う予定だった。
民衆も静まり返り、二人の再会を固唾をのんで見守る。

しかし、その感動の再会も、ウェールズの燃えるような脇腹の痛みによって引き裂かれた。

「ち…ちちうえ?いったい…何を」

父王の手にはナイフが握られ、ウェールズの脇腹をえぐっていた。
ジェームズは何とも悲しそうな顔をしながら追撃を始める。
ウェールズは水魔法で損傷した個所を瞬時に回復させる。

「おお、可愛そうなウェールズや。罠だといったではないか。
何故ここに来てしまったのだ」

そして辛そうな顔とは別に、風の魔法がウェールズを襲う。

「おやめください、父上」

「無理だ、ウェールズ。分かるじゃろう?クロムウェルに操られているのだ」

その言葉は、本当なのだろう。言動まで操られているかは分からないが、
繰り出す魔法の一つ一つが命を燃やし、ウェールズを殺す勢いで放たれている。

「父上!!父上!!!」

「パリーもなぁ。死にながら操られているのじゃよ。
今頃は、お前が必死に集めた兵を殺しまわっているじゃろう。
それとも、半ばで倒れたかな?
どちらにせよ、クロムウェルの懐は痛まぬ……」

確かに再開したときに、かわした抱擁で肌の冷たさが気になっていた。
そんな……パリーまで。いや、再編成した虎の子の兵が殺される。
忠臣と謳われたパリーの姿は、皆知っているはず。
杖を上げて反撃するのも、戸惑ってしまうだろう。

ウェールズは、杖を痛いほど握り返した。

「ウェールズ、父のために死んでくれ」

今目の前にいるのは、愛し尊敬した父ではない。
死してなお、命と尊厳を凌辱されているのだ。

「己、おのれえええ!!!クロムウェル!!!!!!!」

それは、まさに咆哮だった。
ウェールズの周りで風が渦巻くと、ずたずたとジェームズを切り裂いていく。
返り血が飛び、涙で霞んで前が見えなかった。


ただ、助けたかった。それだけで罠を承知で来たというのに……


勝てないと分かると、穏やかな表情を向けてウェールズを見る父王。

「ウェールズ、燃やしつくすのだ。でなければ、また操られてしまうじゃろう。
なに気にすることはない、痛みはとうにないのじゃから」

「おお、ブリミルよ。なぜこのような仕打ちを許すのか。
クロムウェルを百度天の罰で焼いても足りぬほど、何故父を焼かねばならぬ。
なぜ、なぜ、私たちが何をしたというのだ……」

ウェールズは魔法の業火でジェームズを焼き尽くそうとした。
すると、まるでそれを見越して仕組まれたように、ジェームズの顔が虚ろになる。

「ああ、やめてくれ。ウェールズ。あつい。あついのじゃ。
なぜ、この父を燃やす……親不孝者め。
助けてくれ、死にとうない。火を、火を消してくれ」

「なんてことを…なんてことを……」

最後まで死者を冒涜するような行為。
ウェールズは、杖を握りながらジェームズを焼き尽くした。

そして、その狼煙を受けたかのように、アルビオン上空に戦艦が現れた。
拡張機のようにクロムウェルがウェールズに語りかける。

「ウェールズ君、感動の再会はどうだったかな?
見事ジェームズの所までたどり着いたようじゃないか。
その執念、まったく称賛に値するよ」

ウェールズは杖を構える。しかしこの距離では魔法も届きそうにない。

「感動の対面を演出してあげたというのに、君は実に馬鹿だな。
助けに来た親を殺してしまって、いったいどうしたというのだね、ウェールズ君」

魔法の事が良く分からない民衆は、みな戸惑っている。

それは、何重にも重ねられた卑劣な罠だった。
例え助けに行かなくても、真綿で首を締め上げるように追い詰めるような恐ろしい罠だ。

「君の部下もついていけないと、こちらの陣営に着くものばかりだよ。
民衆よ、親殺しのウェールズがそこにいるぞ。捕まえたものは金一封だ」

一人が動き出すと、また一人と動きだした。
心ない言葉もそうだが、この日のために民衆に何人かクロムウェルがさくらを仕込んでいたのだ。
ウェールズは、民衆に成すすべはないことを分かっていたため、
攻撃もできず、風の魔法で逃げ出した。

「はっはっはっは、何処へ行こうというのだね。
親殺しの大罪、逃げ場所はどこにだってありはしないぞ」

ウェールズは、ふらふらと蛇行しながら力の限り逃げ出した。
途中パリーが息絶えているのを見ると、涙を一つ流した。




「しかし、クロムウェル閣下、よろしかったのですか?」

「よい、ウェールズが逃げた所で、もう王を名乗っても問題ないであろう。
反乱の目も潰すことが出来た。ジェームズは最後までよく働いてくれたよ」

クロムウェルは、目を細めた。
何もかも上手くいっていた、途中危なげない所もあったが
とうとうアルビオンの王というところまで上り詰めた。

あの酒場での願いがようやく形になるのだ。
それまで、どのような非道の行いも目をつぶってきたのだ。



クロムウェルは静かに目をつぶった。

「私は、今夢を見ているのだよ」

上機嫌なような、何かに脅えているような、震えた声で独り言を漏らした。
その思いがいかなるものか、隣にいた下士官にはわかりえるようなものではなかった。



[18350] ■現在32 * 「シエスタの草原」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/07/18 16:36
夜も更け、皆が寝静まった頃、2匹の梟がサイトの下へと降り立った。
音を電気信号に乗せて発進することも出来ないこの世界では、
鳥等は割とポピュラーな通信手段でもあった。
元現代っ子なサイトには、時間もかかるうえに使い勝手の悪すぎる代物でもあったが。


手紙には、件のアルビオンの騒動について書かれていた。

「随分対応が早いない。このえげつないやり方はジョゼフのおっさんか。
ウェールズを危険視した…いや、手紙の時にウェールズを使ってやりすぎたようだな」

手紙はウェールズとマチルダからで、騒動について異なった視点で書かれている。
ジョゼフがシナリオを修正してきたとなると、これまで以上に慎重に事を運ぶ必要がある。
だが、ウェールズに目を向けているということは、自分にまでたどりつくには時間がかかりそうだ。

「これで反撃の目はない終わりと油断してくれるかな?
まぁ興味をなくして任せるといったところか」

ジェームズが傀儡子の展開はそれほど多いわけじゃないが経験済だ。
しかしここに来て未体験のシナリオを準備してくるとは、流石はジョゼフと笑う。
備え付けの手紙にさらさらと指示を書くと、梟につけて飛ばした。
羽音力強く梟は夜空へ飛び立っていった。





「お兄ちゃん、まだ寝ないの?」

目をごしごしと擦りながら、エルザが起きてきた。
本来夜行性なので夜は強いエルザだが、満腹になって眠くなり皆と一緒に寝ていた。
目が覚めずとろりとした姿はコケティッシュで、くまのぬいぐるみでも買ってあげたくなる容姿だ。

「んー、いい匂い」

美しい絹のような金髪を撫でると、気持ちよさそうにすんすんと鼻を鳴らした。
抱きついて胸に顔を押し付けられると、子供特有の体温の高い熱っぽさを感じる。
静寂の中ぱちぱちと、火のはじける音が森に吸い込まれていく。

「エルザは寝てても良いんだぞ?
一人は野営をしなくてはいけないからね。いい子はもう寝る時間だぞ」

「エルザはいい子じゃないから、夜更かししても平気だもん」

ぷいとそっぽを向くと、サイトを抱きしめる力を強くした。
こんなに甘えたさんだったっけな?まだ慣れていないからかもしれない。
まだ夜の守は寒く、手が冷えたのか服の中に手を突っ込んできた。

「えへへ、お兄ちゃんあったかぁい」

ご機嫌なエルザに少し長めのローブに捲きつける。

「冷たいよ、エルザ。まったく…しょうがないな。
どう?ルイズとは上手くやっていけそう?」

シエスタは魔法を使えないが、ルイズは杖をもっている。
キュルケは、まだ深くこちらに関わっているわけじゃない
とりあえずはルイズに慣れてもらうより他はない。

「うん、お姉ちゃんったら、お兄ちゃんのことばっかしだったよ。
たぶん、魔法使いとか人間とかじゃなくて、
お兄ちゃんにとってどうなのか?ってことが重要なんだと思う。
だから、怖くない。吸血鬼だって別にいいっていってた」

サイトは頷いた。

「ルイズ、シエスタ、あとここにはいないけど、マチルダとアンリエッタ
この4人は安全だから、心許してもいいと思うよ」

今度はエルザが頷いた。
エルザは少し真剣な顔になっている。

「お兄ちゃんが、何で私を助けてくれたのかは分からないけれど感謝しているの。
私にもなにか手伝えることがあったら遠慮なくいってほしい。
じゃないと、怖いんだ。いつか、捨てられちゃうような気がして。
私が吸血鬼だなんてばれたら大変でしょ?

それなのに、殆ど無償で囲ってくれるなんて…信じられないもの」

不安そうにサイトを見つめる。

「夜みたいなことしたら、お兄ちゃんも夢中になってくれるかなっておもったけど、
なんだか気持ちいいしお腹もいっぱいになるし私ばっかり得してる!
それにお兄ちゃんの周り、綺麗な人多いし……本当はいらないんじゃないの?

面倒なだけだもの。だから……本当に…本当に」

遠くで虫のざわめきが聞こえる。


「怖いの……」

サイトはぎゅっとエルザを抱きしめた。

「エルザは幸せになっても良いんだ。
エルザを見捨てたり、いなくなったりしないよ。嘘じゃない、約束したんだ」

そう聞くとエルザは安心したように、サイトの胸の中で眠りこけてしまった。








翌朝、サイト達は「竜の羽衣」を見つめていた。

シエスタの故郷、タルブ村の近くに建てられた寺院にきていた。
曾祖父が建てたという寺院は、丸木が組み合わされた門の形、
板と漆喰で作られた壁、白い紙と縄で作られた紐飾り。
それらは、どこか日本を感じさせるような建物だった。

濃緑の塗装が施された「竜の羽衣」は固定化のお陰か錆もなくそのままの姿を見せていた。

「しかし、竜の羽衣というが、纏うような薄いものではなく乗り物のようだね。
カヌーに玩具の羽を付けたように見えるけれど、これがどうして飛ぶのか驚きが隠せないね」

ギーシュがうんうんとうなずいている。

「サイトくん、本当にこれはカヌーじゃないのかい?
見ると金属でできているようだが、重さもドラゴンほどありそうだよ。
魔法も無しに飛ぶだなんて、君の言葉じゃなければ到底信じられないよ」

「それにしても、大きいわぁ。生き物じゃないわよね?」

キュルケも興味津々で機体に触っている。

「これが、サイトの国の乗り物なの?」

ルイズは珍しそうにくるくると竜の羽衣の周りを回って見ている。

「ああ、ゼロ戦っていうんだ、空も飛ぶし戦争に使われる代物だ」

エルザは羽の木陰で休んでいる。

「ひいおじいちゃんは、これに乗って村にやってきたそうです。
旦那様が、これを知っていたことに驚きました。とても宝とはいえない代物ですが…」

「シエスタ、これの他に何か残されたものはあるか?」

「えっと……あとはたいしたものは…、お墓と遺品が少しですけど」

「それを見せてくれ」



シエスタの曾祖父の墓は、他の墓石とは一線をおいた趣をしていた。

「ひいおじいちゃんが、死ぬ前に自分で作った墓石だそうです。
異国の文字で書いてあるので、誰も読むことが出来なくて。
なんて書いてあるんでしょうね?」

ミミズが踊ったような文字は、ついてきた誰もが読むことが出来なかった。

「海軍少尉佐々木武雄、異界ニ眠ル」

すらすらと読みあげるサイトに、シエスタを始め周りは驚いた。
サイトはそのまま、目をつむり黙祷している。

「凄いな君の所の文字は、暗号といわれても納得できるよ。
僕にはさっぱり何を書いているのか分からなかったよ」

「読めるけど、かなり昔の文字なんだよ。
俺のいた場所では文字だけでも、1000以上の形とその倍以上の意味があるからね」


それを聞いたルイズ達は絶句する。
ハルケギニアでは、文字としては50に達しないくらいで
その組み合わせを単語として使っているのだ。

「さらに言うと地域や国ごとに言語や文字すら違うからね。
その中でも俺のいた場所は、複雑で趣があり世界で一番響きが綺麗な言語といわれていたよ」

ルイズは一度でいいから、サイトの住んでいた世界に行ってみたいと思うのだった。






再び一行はゼロ戦まで戻ってきていた。
サイトがガンダールヴで状態を確かめると、ガソリンさえあれば問題なく飛ばすことができそうだ。

固定化が掛かっているくせに細かな部品が摩耗しやすく
武器にあう精密な弾薬を作ることもできず、ハルケギニアにはないガソリンを大量に必要とする。
回数制限のある強力な武器だが、他にも得体の知れない武器のためデメリットも多くなる。

平時であり、かつ地位を得ていると、こういう所から足を引っ張ろうとする貴族も出てくるのでやっかいだ。


「予定よりも、二週間も早く帰ってきてしまったから、皆に驚かれてしまいました」

シエスタはいそいそと手に持った品物を、サイトに手渡した。
それは、古ぼけたゴーグルだけだった、それ以外は何も残していなかったのだ。

「ひいおじいちゃんの形見は、これだけだそうです。日記も何も残さなかったみたいで。
ただ父が言っていたのですけど、遺言を遺したようです」

「遺言?」

「そうです。なんでもあの墓石の銘を読めるものが現れたら、
その者に「竜の羽衣」を渡すようにって……
大きいので管理も面倒だし、今じゃ村のお荷物だそうです」

使い道が分からなければ、ただの奇妙なオブジェにしか見えないだろう。
六十年以上も前の戦闘兵器、物言わぬ機械、天かける翼……

「ありがたく使わせてもらうよ、シエスタ」




その日、サイトたちはシエスタの生家に泊ることになった。
貴族の客をお泊めするというので、村長まで挨拶に来るしまつだった。

サイトはシエスタの家族に紹介された。
父母に兄弟姉妹たち。シエスタは、八人兄弟の長女だった。
わたしが奉公先でお世話になっている人よ、とシエスタが紹介すると
父母は、頭を低くして平伏し歓迎するのだった。

シエスタは、久しぶりに家族にあったがもじもじと顔を赤くし、
サイトの近くで甲斐甲斐しく世話をしようとしている。
しかし、動きがぎこちなく家族に話しかけられるたびにびくりと震えるのだった。

「シエスタや、どこか調子が悪いのかい?」

母親がシエスタの身を案じて声をかける。
シエスタはふるふると首を振った、マチルダ特性の桃の木で作った張型で、
サイトと同じサイズで作られたものが、中に入っているのだ。

裾の長いスカートにはいていないので、圧力をかけないと落ちてしまうのだ。
力を入れると余計にサイトの大きさを意識してしまいおかしくなりそうだ。


サイトは父親にタルブ産のワインを進められ優雅に飲んでいる。
時折こちらに意味ありげに目線を投げられ、その度にどきりとする。

兄弟姉妹たちはそんなシエスタの様子になんだかドキドキしつつも
久しぶりの姉に王都や学院の様子をせがむのだった。


(わたしがこんな目にあっているのに、みんな楽しそう…)

シエスタはその様子に絶望に似た何かを感じた。
母親は少し様子を最初はいぶかしんだが、恐らく娘は恋をしているのだろうと
見当違いの勘違いをして微笑ましく見ていた、まさかこんな行為を家族の前でしているとは思わなかったのだ。

(わたしこんな目にあっているのに、家族の前なのに…)

今もし張型が落ちたら、どうなってしまうのだろう…

(誰も助けてくれなくて、みんな笑顔でわたしもばれないように笑顔でいて
みんなに歓迎されてて、わたし…気持ちよくて、どうしよう……)

足を伝って愛液が垂れそうなのをもじもじと器用にスカートの内生地で拭う。
足を動かすたびに、中が擦れて頭がかーっと熱くなる。

自然と動きもしゃなりと色っぽく誘っているようにくねくねした動きになっている。
口を開けば我慢できず、喘いではしたなくおねだりする言葉が出てしまいそうだ。



「少し酔ってしまったようだよ、そういえばシエスタ。
シエスタの好きな草原を見せてくれるっていってたじゃないか、
熱を冷ましに散歩にでもいかないか?」

シエスタの限界を見極めていうと、シエスタはこくりと頷き後に続く。
シエスタの家族は、微笑ましく見送るのだった。






「あっ…旦那様もっと、ゆっくり…ぁっ」

サイトとシエスタは仲良く手をつないで歩いている。
サイトの歩く速度は少し早く、その度にごりごりと奥までえぐられる。


夕方、サイト達はシエスタが「見せたい」といっていた草原にいた。
夕日が悲しみも絶望もしまいこむように山の間に沈んでいく。

草色の木綿のシャツ、茶色のスカートの裾をゆっくりとした動きでたくしあげる。
白い健康そうな太ももが徐々に見え始める。
恥ずかしそうに裾で顔を隠すと、秘所が丸見えになってしまっている。

そこは赤く濡れ柔らかい陰毛もしっとりと濡れ綺麗に光っていた、そして張型がしっかりと咥えこまれている。
まじまじとサイトに見つめられると、こぽりと愛液がこぼれた。


「旦那様、シエスタはもう我慢できません。
どうか、どうかお情けをくださいまし」

サイトはシエスタに近づいて、張方を動かすと甘いしびれを感じる。

「シエスタって、別にこれでも満足なんじゃないの?」

「ああ、旦那様ぁ、違うんです。本物、本物がほしいんです。
本当なんです、ずっと我慢していて、さっきだって家族の前で……
お願いします、お願いします、悪いメイドにお仕置きしてください」

必死で懇願する、張型じゃ気持ちよくても幸せになれない。

どこからともなく蔦が伸びてきて、シエスタの両手を拘束して宙に浮かばせる。
片足は膝から限界まで上に延ばされ挿入しやすそうな格好だ。

「やっ、何これ、ぁ、あぁあ」

何かを考える前にシエスタに待ち望んでいたサイトが挿入された。

「あはぁ、来たぁ……これ、いい、ぁぁん、旦那さまぁ…ぁ…あぁあ」

サイトの動きに合わせるように蔦が上下に動く、
更に絡まる様にシエスタをまさぐっている。

「しゅごい、これぇ、やぁああ、あん、ぁ、ぁん」

サイトが突くたびに跳ねるようにシエスタが強制的に跳躍している。
蔦が液体を出しながら、後ろの穴の周りを蹂躙し始めた。
慣れない刺激にひくひくとひくついている。

「違う、そこ、やだ、壊れちゃうの。それらめぇええええ」

ぎゅうぎゅうとイキっぱなしの膣がサイトを締め上げる。
蔦は関係ないとでも言うように張型に捲きつくとほぐされた後ろの穴に挿入した。

「ひぁああああ、やっ、きついよぉ、お腹の奥が変になるぅうう」

前から後ろからサイトに犯されてるような感覚を受ける
容赦なく蔦がシエスタを破壊・蹂躙していく。
いくらほぐされたといえども、初めてのお尻は裂けて処女血が出ている。

腸内が焼けるように疼き、お腹の奥でサイトと張型が重なるたびに、
脳がぱちぱちと焼けるような快感と幸福感が流し込まれる。



「あは、シエスタ。この草原がもっともっとお気に入りになるね。
こんなに喜んじゃって、準備した甲斐があったってもんだよ」

サイトがさも楽しそうにそういうと、
シエスタは涙を流し、穴という穴から液体を流しながら、
幸せそうに頬笑みながらかくかくと頷くのだった。




「あぁ、シエスタは、旦那様のお陰でとても幸せものですぅ、うぅう…
ぁは、ぁああん、もうやだぁ、イキたくない。気持ちいぃ、幸せになっちゃう…あぁぁあああああ」


草原を赤々と照らしていた夕日は完全に沈んでいた。



[18350] ■現在33「戦争の火蓋」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/07/26 02:38
そこは、まぎれもなく戦場だった……
心半ばに倒れるもの、重圧に気がふれてしまうもの、阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

議会室には書類の束が山積みされ、怒声を上げながら指示していく。
倒れている屍のようなものには、水の秘薬を無理やり飲ませていく。

「倒れるなら、仕事を終わらせてからにしろ」

まったく、高齢である自分ですらまだ休んでいないというのに
最近の若い者は軟弱すぎる、とリッシュモンは水の秘薬を一気飲みした。

王宮の打ちたてた施策は、思いのほか上手くいっていた。
民衆も急な税率増加に当初は不満を上げていたが、すぐにそれも収まった。
やはり一番大きかったのは、医療の確立でそれまで文句をいっていた平民どもは諸手を挙げて、手形を取得しにくるのだった。

一時金として支払う金額はけして安くはなかったが、
手形さえあれば怪我や病気ですら大抵のことであれば解決してしまう。

驚いたことに、貴族の婦人会からも義援金として結構な額が寄付されている。
街の景観や治安が良くなったことも大きいのかもしれない。


戸籍標本、莫大に流れる金、仕事を割り振るために広がる貴族達との交友関係。
多方面から感謝されている、恩を売るのはとてもいいことでもある。
忙しすぎるのを除けば、充実した仕事場だ。本来の法に関する仕事も、それに伴い増えている。

しかしながら、忌まわしきは鳥の骨だ。
我らに鎖をつけて、動かそうなどとは……
確かに金の入りは良くなった、金以外の利益も大きい。
しかし、それも忙しすぎて生かす暇もない。金は得た傍から殆どが返済に充てられている。
3年…いや2年は身動きが取れそうにもない。

手伝いと称して手のものに監視をされているし、
施策事態はまっとうで、王家、貴族、平民、全てに利益があるので反論も出せない。

アンリエッタ姫が考えた施策といっているが、ここまで緻密な案を考えれるものか
裏で操られているといえば、聞こえは悪いがよくある話だ。
そのような不届きものに、王家を任せてなどおけるかと、自分の事を棚に上げて笑うのだった。



「皆さまお疲れ様です、新しい書類と差し入れです」

丁度考えていた所に、アンリエッタ姫がやってくる。
アンリエッタ姫は、両手に手ずから作られたクッキーをもっている。
味はパサパサして正直食べれたものではないが、感動している貴族も多い。
しかもどういう原理か、気力が充実し活力がわいてくる怪しいことこのうえないしろものだ。
正直、皆度々出てくるこの不思議なお菓子と水の秘薬漬になっている。

その後ろには、今広い机の上に乱雑に置かれている書類と同じ量の書類をもった侍女達がいる。
何時まで経っても仕事が終わりそうになる気配が見えずため息をつくのだった。


「お陰さまで、順調に利益が上がっています。
これも皆様のがんばりのお陰ですよ、ここに書いてある金額はここにいる皆さまの純利益です」

その桁違いの数値に部屋にはどよめきが走った。
一瞬周りと同じように喜びのあまり顔をにやけつけさせてしまいそうになったが、
よくよく考えてみたら、この殆どが借金の返済にあてがわれ、最終的に国庫に返還される。
そう思うと、極上の貴金属が目の前に無防備に置いてあるのに、
自分の手に入れることができないような言いようのないもどかしさを感じる。


「リッシュモン様は、皆さまのようにお喜びにはなられないのですか?」

少し離れた場所で覚めた目で見ていた所を、アンリエッタ姫に声かけられた。
取り繕うように苦笑を浮かべ、リッシュモンは答える。

「いえいえ、アンリエッタ姫様、我らも王家に貢献できて光栄に思っております。
ただ、この老体が働くにはいささか仕事の量が多く辛いですな」

するとアンリエッタ姫は、笑みを浮かべ頷いた。

「おっしゃる通りでしたわ、いささか配慮に欠けていました。
皆様に言って一人だけ仕事の量を減らし、家にも毎日帰れるようにしましょう」

にこにこと提案された内容は、あまりに醜聞の悪い内容だった。
もし実行されれば、批難を受けるのは火を見るよりも明らかだ。

「私だけというのであっては、他のものに示しがつきませぬな。
皆も少し休んだ方が、効率もあがるでしょう。どうでしょうか?」

アンリエッタ姫は悲しそうに首を振った。

「今やこの施策は国の要になっているのです。
仕事の量を減らすとなるとその分人員を増やさなくてはなりませぬ。
そうなれば、皆様に払う給金も少なくなります。
そうなると皆の国へ返す返済期間が膨れ上がってしまいます……」

暗に自業自得といわれてるようで腹が立つ。
利子もあるため、期間が延びれば倍苦しい思いをしなくてはならない。
分かってはいても正論ほど頭にくることはない…おのれ、鳥の骨…小娘!
どこまで我らを苦しめればいいのだ。

「しかし、こう休みがなくては体も壊してしまいますぞ。
水の秘薬もに頼るものまで出る始末、あまり良くない状態といえましょう」

しかも水の秘薬は王家から支給され、給金から引かれる仕組みになっている。

「まぁ、それはいけませんね。では、こうしてはどうでしょうか?
今より仕事の量を増やして、2年の所を1年で解放される。
もしくは、仕事の結果を倍以上に出してもらって、虚無の曜日にゆっくり休んでいただく」

名案だとでもいうような顔をしているアンリエッタ姫を見てため息をついて、
弱弱しく今のままで結構ですというのが、リッシュモンの限界だった。









タルブ村では、シエスタの家族が旅行の準備をしていた。
ルイズがシエスタには、お世話になっているから是非王都観光にといったのだ。
入用だろうと数十エキューも渡され、貴族にお願いされては断るわけにもいかない。
そのお金もサイトの懐から出たわけだが、シエスタは感謝するばかりだった。

「おれは、やることがあるから、しばらくここに残るよ」

そうサイトがいうと、ルイズが少しぐずったが、あらかじめ聞いていたのかすぐに顔を引き締める。

「頼んだよ?ルイズ」

そういうと優しく抱きしめ、軽くキスをした。
それだけで、幸せがルイズの脳内を幸福な麻薬が駆け巡るのだった。

エルザが走り寄って抱きつくと、くるくるとそのまままわしてあげた。
キャッキャと喜びながら、ほっぺに軽くキスをすると嬉しそうにするのだった。

シエスタが羨ましそうに見ていたので軽く頭を撫でてあげる。

そうして、ルイズ達は最後の詰めをするべく、
大所帯なので荷馬車も二つに分けて、トリステインの王都に向かうのだった。



ガソリンに関しては、マチルダに準備させてあった。
自分で錬金したか、他の人間を雇ったか分からないが、
注文していたタル五つ分を入念に固定化して、タルブ村へ送らせていたのだ。
ルイズに伝えてある内容、マチルダにさせている準備、そして、悲劇の王ウェールズ。
少々イレギュラーもあるものの、細工は流々、仕上げはごろうじろというものだ。




サイトは無人のシエスタ宅の地下ワイナリーから、年代物のワインを幾つか取り出すと、
グラスにいれると月を見ながら、ちびちびと飲みだした。
なかなか酔えないので、今度はワインを蒸留して度数を高める。

若い香味が鼻と喉に引っかかるが、胃に熱を持ち始め良い感じに酔いが回り始める。
名産であるタルブワインを蒸留して樽で数年寝かせれば、サイト好みの力強い酒が出来あがる。
工程によって出てくる個性も変わるため、レシピ次第ではハルケギニアでも飛ぶように流行るだろう。
金を稼ぐのは沢山あるし簡単だが、その流通をコントロールするのは難しい。
その下地は少しずつ整えていけばいい。
どうとだって楽しむことが出来るのだ、でなければやっていけない。

「今回は、楽しましてくれるんだろうね、ハルケギニアよ」


サイトは、ブランデーに浮かべた月を飲みほした。
















ゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世と、トリステイン王女アンリエッタの結婚式は、
ゲルマニアの首都、ヴィンドボナで行われる予定であった。
式の日取りは、来月三日後のニューイの月の一日に行われる。

王宮で式に纏う花嫁のドレスを準備するときは大変だった。
太后マリアンヌが見守る中、アンリエッタはまるで心此処に非ずといった面持で、
仮縫いのための縫子達が袖の位置や具合を聞いても、あいまいに頷くばかり。

「愛しい娘や、元気がないようね」

「母さま……」

アンリエッタは冷たい眼差しで、母后を見つめた・

「望まぬ結婚なのは、分かっていますよ」

マリアンヌは、優しく娘の頭を撫でた。

「恋人がいるのですね?」

「「いた」と申すべきですわ。深い、深い沼の底にアンリエッタは沈み込んでいるような気分ですわ。
すべてが私の知らない場所で起こり、気がついた時には膝の上まで飲みこまれている」

マリアンヌは首を振った。

「恋ははしかのようなもの。熱が冷めればすぐに忘れてますよ」

はしかよりもひどい熱病にでもかかってしまった気分だ。

「あなたは王女なのです。忘れねばならぬことは、忘れなくてはなりませんよ。
あなたがそんな顔をしていたら、民は不安になるでしょう」

諭すような口調で、マリアンヌはいった。

「では、なぜ母さまは、父を忘れずに喪に伏したままなのですか?
王家についてわたしを守ってくだされば、
こんな思いなどせずに小娘のままでいられたかもしれませんのに……
わたしは、いったい何のために嫁ぐのですか?」

マリアンヌは絶句した。

「なぜわたしに全てを押し付けて、父さまは逝ってしまったの。
なぜわたしに全てを押し付けて、母さまはここにいるの。
わたしは、何かの道具になるために生まれてきたのですか」

アンリエッタはさめざめと泣きながら立ちつくした。

「ああ、あなたにそのような思いをさせていたなんて、
ごめんなさい、ほんとうにごめんなさい」

「ごめんなさい、母さま……言い過ぎました」

「レコンキスタのクロムウェルは野心あふれる男。
不可侵条約を結んだとはいえ、空の上から大人しくハルケギニアの大地を見降ろして満足するとは思えません。
軍事強国のゲルマニアにいたほうが、あなたのためなのですよ」

母娘は泣きながら抱きしめあった。




かくして不可侵条約を結んだ親善訪問のために、トリステインの艦隊旗艦の「メルカトール」号は、
新生アルビオン政府の客を迎えるために、艦隊を率いてラ・ロシェールの上空に停泊していた。
後甲板では、艦隊司令長官のラ・ラメー伯爵が、国賓を迎えるために正装して居住まいを正している。
アルビオン艦隊は、約束の刻限をとうに過ぎている。

「やつらは遅いではないか。艦長」

イライラしたような口調で、ラ・ラメーが呟くと左舷よりようやくアルビオン艦隊が現れた。
雲とみまごうばかりの巨艦を先頭に、アルビオン艦隊が静静と降下してくるところだった。

「ふむ、あれがアルビオンの「ロイヤル・ソヴリン」級か」

「しかし、あの戦艦は巨大ですな。後続の戦列艦がまるで小さなスループ船のようにみえますぞ」

「戦場では遭遇したくないものだな」

互いに礼砲を撃つと空砲でありながら、ラ・ラメー提督があとじらせるほどの禍々しい迫力を「レキシントン」号はもっていた
それよりも恐ろしいことに空砲を撃ったはずが、アルビオン艦隊の一番最後尾にある船で火災が発生し空中爆発し落ちたのだ。

その艦隊が落ちていくのを眺めながら、「レキシントン」を任されているボーウッドは矢継ぎ早に指令を下していく。
政治上のいきさつも、人間らしい情も、卑怯なだまし討ちである作戦への批判も全て吹っ飛ぶ。
彼はまさに軍人の鏡であった。


「な、何事だ?火災が火薬庫に回ったのか?」

「メルカトール」号の艦上が騒然となる。

手旗手の信号が「レキシントン」から送られてくる。

「「レキシントン」号艦長ヨリ、トリステイン艦隊旗艦。「ホバート」号ヲ撃沈セシ、
貴艦ノ砲撃ノ意図ヲ説明セヨ」

「撃沈?何を言っているんだ。勝手に爆発したんじゃないか」

ラ・ラメーは慌てた、それは戦争の口火を勝手に切るような卑劣な作戦だった。

「すぐに返信しろ。「本艦ノ射撃ハ答砲ナリ。実弾ニアラズ」」

「タダイマノ貴艦ノ砲撃ハ空砲ニアラズ。
我ハ、貴艦ノ攻撃ニ対シ応戦セントス」

有無を言わさず、一斉射撃の轟音が鳴り響き、ラ・ラメーの絶叫を打ち消す。

「砲撃ヲ中止セヨ。我ニ交戦ノ意志アラズ」

「メルカトール」号から、悲鳴のような信号が何度も送られる。
その返答は着弾をもって、ラ・ラメーを吹き飛ばすことで返された。
アルビオンに嵌められたのである。

アルビオン艦隊は一定の距離をとりつつ、冷静に射撃をくわえていく。
艦隊数で二倍、それにくわえ新型の大砲を装備し、砲力はくらべものにならない。

トリステインの艦隊をいたぶるように砲撃はつづけられ、
ついに「メルカトール」号は、爆沈し空中で飛散した。


「レキシントン」号の艦上のあちこちから、「アルビオン万歳、神聖皇帝クロムウェル万歳」の叫び声が響く。
ボーウッドはその行為を醒めた目でみつめるのだった。



束の間の不可侵条約は破られ、トリステインの艦隊の全滅が戦争開始の合図となったのだった。



[18350] ■現在34「襲来」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/08/03 07:34
トリステインの王宮に、国賓歓迎のため、ラ・ロシェール上空に停泊していた戦艦が全滅したとの報せがもたらせられたのは、それからすぐのことだった。

ほぼ同時に、アルビオン政府からの宣戦布告文が急使によって届いた。
不可侵条約を無視するような、親善艦隊への理由なき攻撃に対する批難がそこに書かれ、
最後に「自衛ノ為神聖アルビオン共和国政府ハ、トリステイン王国ニ対シ宣戦ヲ布告ス」と締められていた。

すぐに将軍や大臣たちが集められ、会議が開かれたが意見や主張が対立しまとまらない。
まずは、アルビオンへことの次第を問い合わせるべきだ、との意見や
ゲルマニアに急使を派遣し、同盟に基づいた軍の派遣を要請すべしとの意見が飛び交った。

会議室の上座には、眩いばかりのウエディングドレスに身を包み、
難しい顔をしたアンリエッタの姿も見えたが、今この場では、誰も気にとめるものはいない。

「アルビオンは我が艦隊が先に攻撃したと言い張っておる!
しかしながら、我が方は礼砲を発射しただけというではないか」

「偶然の事故が、誤解を生んだようですな」

「アルビオンに会議の開催を打診しましょう。
今ならまだ、誤解は解けるかもしれない」

各有力貴族の意見を聞いていた枢機卿マザリーニは頷いた。

「よし、アルビオンに特使を派遣する。ことは慎重を期する。
この双方の誤解が生んだ遺憾なる交戦が、全面戦争へと発展しないうちに…」

そのとき伝書フクロウによって急報が届いた。
書簡を手にした伝令が、息せき切って会議室に飛び込んでくる。

「急報です、アルビオン艦隊は、降下して占領行動に移りました」

「場所はどこだ?」

「ラ・ロシェールの近郊!タルブ草原のようです」






タルブ村では、そらから何隻もの燃え上がる船が落ちてきて、山肌にぶつかり、森に落ちて行った。
雲とみまごうばかりの巨大な船が、草原に錨をおろし空中に停泊している。
その上から、何匹ものドラゴンが飛び上がり村を蹂躙しはじめた。
騎士を乗せたドラゴンは村の中まで飛んできて、辺りの家々に火を吐きかけた。

草原の向こうから、近在の領主のものらしい、数十人の軍勢が突撃してくるのが見えた。
上陸を開始しようとしている部隊に突っ込まれたのでは面倒な事になる。

竜騎士隊の隊長は合図をすると、小部隊を蹴散らすために村から反転し急行した。







昼をすぎて、なお王宮での会議はまとまらなかった。
マザリーニも、また結論を出しかねていた。未だ彼は、外交での解決を望んでいるのだった。
あまりに不毛な議論が繰り返されている中で、考え込んでいるアンリエッタ姫に声をかけた。

「どうおもわれますか?アンリエッタ姫殿下」

アンリエッタは、随分と長い間考えていた。
そして、ここに来て多くの事が繋がったのだった。
まさか、本当にあの日の夜の言葉が現実となるなんて……

「迎え撃ちましょう」

その静かだがよく響く声に、会議室が静まり返った。

「国土が敵に侵されている今、早急に軍を準備し総力をもって迎え撃つ他ありません」

「しかし……、姫殿下…誤解から発生した小競り合いですぞ」

「アルビオンから返答がない以上、誤解を解く意志がないようですね。
いえ、恐らく条約すら元より守るつもりがなかったのでしょう……
かの国は、世界統一を掲げております。時を稼ぎ、虚を突くための作戦だったのでしょう」

「では、ゲルマニアに同盟に基づき、軍の派遣を要請しては?」

「要請を出すのは必要でしょう、しかし何日後に援軍が届きましょうか。
急使が到着し、援軍を出すか、出すならばどの程度派遣するか議論し
ゲルマニアが軍の派遣を準備する間に、トリステインは落ち、我が国は敗戦国となりましょう」

「しかし……」

ゲルマニアに嫁ぐ予定であるのに、構わず手を出されたこと。
斬新な施策、アンリエッタ姫の城内での実質的な地位も向上している。
そしてタルブ村を向かったサイト一行。全てが今ここで攻め入るべきだと主張していた。

「このような危急の際に、民を守るからこそ我らは、王族・貴族を名乗っているのではないのですか?
それに、ようやく整い始めた我が国をみすみす敵国に蹂躙を許すのですか?」

アンリエッタはゆっくりとした声でつづけた。

「確かにアルビオンは大国。恐れる気持ちは十分承知しています。
負けて燻ったまま生きるか、勝って国の英雄となるか。
もう前に進むしか道がない以上、トリステインはここにありという所を見せようじゃありませんか」

「我が国は勝てるのでしょうか?」

「勝てるように考えるのが、あなた方の仕事でしょう……」

呆れた声を上げながら、アンリエッタ姫は立ち上がった。

「我をと思う者は続きなさい。私がトリステインに勝利をもたらして見せましょう」

アンリエッタの堂々としたふるまいに、日和見でいた貴族達も立ち上がり次々に後に続いた。
アンリエッタがこのように自信をもって勝利を確信したのは、何もトリステインの貴族や自分を信じたからではない。
自分に酷いことをしたあの少年こそが、私を救ってくれる。そんな予感ではなく確信めいた思いがあったのだ。


「姫殿下に続け!」

「続け!遅れをとっては家名が泣くぞ」

アンリエッタは、誇らしげに角を陽光に輝かせたユニコーンに跨り走り出した。
幻獣に騎乗した魔法衛士隊も一斉に敬礼し後へ続く。
各貴族も伝令を飛ばし、軍を率いて後に続く予定だ。


どのように努力を払おうともいずれアルビオンとは戦になるとおもっていたのだ。
時計の針を姫様が進めただけ、せめて国内の準備が整ってからと思ったが……
マザリーニとて命を惜しんだわけではない、彼なりに国を憂い、民を思ってこその判断だった。
小を切ってでも、負ける戦はしたくなかったのである。

アンリエッタ姫の影響力は、マザリーニが考えるより大きかったようだ。
それに姫様の言うとおりであり、彼が傾注した外交もすでに水の泡となっている。
今ここでアンリエッタ姫を失うことや、国を荒らされるのは痛手が大きすぎる。

「おのおの方、馬へ!遅れめされるな!
姫殿下に任せ何もせずとは、我ら末代までの恥ですぞ!」





トリステイン魔法学院に、アルビオンの宣戦布告の報せが入ったのは、翌朝のことだった。
王宮では軍の編成に集中していたため、連絡が遅れたのであった。

式に出席するための用意で忙しかった。
一週間ほど学院を留守にするため、様々な書類を片付け荷物をまとめていた。
こんなときに、優秀な秘書がいれば……と嘆くのだった。

猛烈な勢いで扉が叩かれると王宮からの使者が飛び込んできた。

「王宮からです、申し上げます。アルビオンがトリステインに宣戦布告!
姫殿下の式は無期延期となりました。王軍は現在ラ・ロシェールに展開中。
したがって、学院におかれましては、安全のため、生徒及び職員の禁足令を願います」

「宣戦布告とな?戦争かね。現在の戦況は?」

「それが……詳しいことは分かっておりません。ただ、タルブ村が焼かれた報せが届いたきり。
ゲルマニアへ急使を送ったものの、良い返事が得られませんでした」

オスマンはため息をついて言った。

「見捨てる気じゃな……、しかも戦況も不明とは、いったいどうなっているんじゃ。
このままでは、トリステインの城下町もあっさりと落とされてしまうのじゃなかろうか……」



敵の竜騎兵によりタルブ村が炎で焼かれていると聞いて、
タルブ村から戻ってきて学院長の扉に張り付き聞き耳を立てていたシエスタは顔を青くするのだった。
しかも、ゲルマニアに軍の派遣を要請したが、先陣が到着するのは三週間後完全に見捨てられた形だ。
もし、サイトの言葉を聞かずに、タルブに家族と共にとどまってたらとおもうとぞっとするような思いだった。

タルブ村に残ったサイト、戦場に向かったルイズ。
シエスタは震えながらエルザを抱え、タルブ村へ続く空へ祈るのだった。







無謀にも上陸する艦隊に特攻しようとしている小隊を見つけ狩りでも行うががごとく、
タルブ村から上昇しようとした竜騎士隊に、乾いたコルクを連続で抜いたようなパパパッという音がなり銃撃が浴びせられる。

射程外から高速で繰り出された銃弾は振り返る間もなく、騎乗した人ごと打ち抜き竜の頸椎を破壊し燃焼性の高い火炎袋に引火した。
ブレを少なく連続して同じ個所に当て貫通力を増す、デスムーミンも驚きの命中率だった。
いきなりの攻撃に訳も分からず浮足立ったが、目を凝らし耳をすますすと遠くから羽ばたきもしない不可思議な竜が轟音を上げながら近づいてくる。

「くっ、なんだあの竜は?くそっ、仲間が一人やられた。各々散開して敵を迎え撃て!!
何訳のわからない竜とて火竜のブレスをくらえばひとたまりもない。一人で何が出来るというのだ」

火竜のブレスの射程外から、悠々と7.7mmを叩きこむ。
速度も射程も違いすぎるハルケギニアの火竜では、まるで止まった的のようだ。


「相棒!やるじゃねえか。本当にこの鉄の塊が浮いたときはおでれぇたが、
それ以上にあんな遠く火竜を撃ち落とすとはよ」

デルフリンガーが興奮したように叫ぶ。

「おーおー、やっこさん挟み撃ちにするつもりだぜ。
右舷より2、左舷より1、火竜のブレスに当たるなよ、一発でお釈迦だぜ」

身体能力は衰えても、操縦の腕前はそこまで変わらない。長年の経験による腕前は、すでにベテランの領域だ。
射程外からの一撃で右舷の一匹を落とすと、今度は左舷に回り込んで横腹を打つ。
無理なく上昇しまるで極上の航空ショーのように、宙返りで上空からきりもみしながら空中ダンスを踊る。
これほどの腕前があれば、エリア88でも1,2を争うくらいの腕前といえよう。


いきなり現れた物体にタルブの小隊は驚いたが、サイトの手旗による信号を受け取り、
敵ではないと判別すると喜び勇んで艦隊から上陸しようとしている無防備な兵を襲い始めた。



味方が花火のように散るのを見て上空で展開していた火竜も集まってきた。
艦隊から降下する兵を強襲する小隊よりも先に、この邪魔な竜を撃ち落とそうって算段だったのだ。

「右舷から10。敵さんも本気出し始めたみたいだぜ」

「ああ、分かってる。デルフも索敵を頼む」

上昇し火竜に対し高度を保つ、急降下しながら驚くほどの速度で加速しながら火竜の射程外から撃ち落とす。
操縦桿を傾け、機体をくるりと回転させると返す刀でさらに撃墜していった。
両腕を白く光らせたかと思うと、パシッパシッと音がして器用に火炎袋を狙い、少ない弾数で火竜をはじけさせる。

「天下無双の火竜がまるで羽虫みたいにおちてくぜ」

偵察に向かってきた竜騎士隊もサイトは、艦隊を降下し兵を整えようとしている個所に向かわせた。
タルブに上陸させられると厄介なのだ、空中に追いやる必要がある。
偵察隊もいきなりの命令で驚き反発しようとしたが、そんなことを言っている暇などないのだ。

散弾の当たらない艦隊の下にもぐりこみ、降下タラップを潰していく。
地上の小隊は降りてくる途中や降りたばかりの兵を確実に潰していく。
降りてきた火竜はサイトが撃ち落とす、まさに総力戦だった。


堪らず錨をあげ艦隊は空に浮かび上がった。戦略を整える必要がある。
地上に小隊だけ降下出来ても意味がないのだ、大部隊を降ろすためにこの小うるさい輩を殲滅しなくてはならない
まだ制空権はアルビオンのものなのだ。トリステインの部隊がそろうまでまだまだ時間がかかるだろう。
ゲルマニアの援軍が届くなどは、どう考えても先なのだ。数刻の遅れなどすぐに取り返せる。そう判断したのだった。



[18350] ■現在35「詰めタルブ」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/08/11 22:58
アンリエッタは純白に光り輝くユニコーンがタルブ草原に向かう。
その後ろに幻獣にのった衛士隊が勇ましく続いていく。
蹄や羽音が鳴り響き、鎧の金鳴音が平野に響く。


前方の小高い丘の上に、ピンクのかかったブロンドの髪の人物が馬に乗って見える。
警戒し杖を構える兵を制し、アンリエッタは急いで近づいていく。
待ち望んでいた人物とは違うが、恐らく彼女はメッセンジャーなのだろう。
サイトとアンリエッタの中で公式的に接触して問題なく、かつ裏の裏まで知り尽くした仲間。

「ルイズ!」

「姫様!!」

ひとしきり再開を喜んだあと、慌てたようにアンリエッタは切り出した。

「サイトさんから、何か言伝は?」

ルイズは、そんなアンリエッタの手を優しく握り答えた。

「姫様、まずは落ち着いてください」

いくら心が大人になり、政(まつりごと)が分かり始めたとはいえ、
戦争・人の生き死には初めてなのだ、今この瞬間にさえも誰かが死んでいるかもしれない。

「必ずここに来ると信じていました。タルブはサイトがいますので大きな被害はでていないでしょう。
そしてこれがサイトから託されたものです」

ホッと一息をつき、手渡されたものをまじまじとみる。
それは見事な彫刻の施された仕掛け時計だった。何故か時間があっていない。

「え?これだけ…ですか?他に何か伝言とか。
何か敵に勝利する秘策とか、思いもつかないような武器とか……」

この時計には、何か秘密があるのだろうか?少し落胆してしまう。
しかし……きっと何かわけがあるに違いない。実は恐ろしい魔法の仕掛け時計でたちどころに敵を焼き尽くすとか
この壊れた仕掛け時計を、もとよりサイトを信じるしか道はないのだ。

「サイトさんからのプレゼント……」

そう考えるとなんだか特別で、どんな状況でも負ける気がしなくなってきた。

「それでは、姫様これで。素敵な午後を」

そういうとルイズは颯爽とさっていった。
あっ、と嘆く間もなかった、出来れば一緒にいてくれば心強かったのに……
何かを断ち切る様に2、3度首を振ると後ろに控える兵に声をかける。
良い休憩になったようで気力も十分だ。

「それでは、皆さま参りましょう」









ラ・ロシェールに立てこもったトリステインの前方上空に敵の艦隊が見えた。
大艦隊は「レキシントン」を中心に密集しまるで空中要塞のように堅牢な砦に見えた。
アンリエッタは思わず祈りをささげた。

まるで戦力が違いすぎるのが容易に想像できたのだ。
制空権を抑えられ、そしてあの艦隊に属している兵士が全てそろえば、トリステインの集まった兵の倍以上になる。

空中では、見たこともない竜が地響きを立てて飛び交い、降下しようとする火竜を撃ち落としている。
トリステインから偵察に向かった竜騎士達も地上に兵を降ろさないように牽制している。
しかし、それも時間の問題だろう。密集した艦隊から放たれる散弾銃に一匹、また一匹と撃ち落とされている。

不思議な竜だけは、器用に飛び交い恐るべき速さで飛び交っている。

トリステイン軍は、射程外に陣をとっていた。
彼らが疲弊し降りてきたところを、決死の覚悟で突撃する。
空を抑えられたトリステインが、アルビオンを撃退するための唯一の策だった。

「あの竜は味方かしら?」

「わかりませぬ…しかし、あの竜のお陰でこちらは落ち着いて布陣を敷くことが出来ました。
いつでも姫の号令と共に出撃出来る手はずが整っております」

アンリエッタはサイトから受け取った時計を抱え見る。
既に午後を過ぎていたが、時計の針ではもうすぐ正午になる所だ。

「ふむ…壊れていますな」

不思議なものを見るような目つきでマザリーニ枢機卿が言う。

「この時計が午後をつげた時、出撃しましょう。
私たちには、大いなる加護がついているのですから」

夢見る瞳で語りだすアンリエッタをますます怪訝な目で見つめるのだった。










少し離れたタルブの森では、水のルビーと始祖の祈祷書を掲げたルイズが上空を見ていた。
サイトから送られた懐中時計に目を落とし、光の中の文字を読み始めた。
何度もなぞった呪文、虚無の系統、伝説の系統である。

呪文を口語にする独特のリズムは、まるで子守唄のように自分の中にしみこむ。
初めて呪文を唱える高揚感に、つい定められた章節以上読んでしまいそうになる。

時計の鳴る音が聞こえる……丁度いい時間だ。
ルイズは己の衝動を制し、杖を振ると虚空にめがけて魔法を放った。









ぽーん、ぽーん、アンリエッタの仕掛け時計の鐘が鳴る。
中から可愛らしい赤い鳥がくるくる、くるくると回っている。

「まぁ、可愛らしい」

戦場には似つかわない可愛らしいダンスになんだか癒されるような気がする。
金が鳴り響くと同時に、味方の陣営から大きな歓声が沸いた。

「あれはなんだ!?…鳥か?……火竜か?」

アンリエッタは信じられない光景を目のあたりにした。
密集していた大艦隊、巨大な空中要塞に向けて、赤い赤い巨大な炎の光が現れたのだった。

目を凝らして見てみると、仕掛け時計の中で踊っている赤い鳥に似ているようだった。
羽まで火で出来ているかのように赤々と、周りの景色が陽炎のように揺れている。
光り輝く炎の奔流が、巨大艦隊を飲み込むかのように近づいていく。

ぶつかる、アンリエッタはとっさに目をつむった。

火の鳥は空を遊弋する艦隊を包み込み、視界を覆う程の赤い炎で覆い尽くした。
その光景は一瞬の間に終わり、光は熱さもなく蜃気楼のように立ち消えた

そして……炎が晴れた後、巨艦「レキシントン」号を筆頭に緩やかに地面に向かって墜落していく。
どうみても戦略的に降下しているようには見えない。

一番初めに我に返ったのはマザリーニだった。

「いや、あれは、トリステインが危機に訪れた時に現れるという、伝説の不死鳥、フェニックスですぞ。
おのおのがた、始祖の祝福は我にあり」

するとすぐにあちこちで歓声が上がり、大きなうねりとなった。

「うおおおおおおおーーっ、トリステイン万歳、フェニックス万歳」









「レキシントン」号になにがあったのか……

忌々しい不思議な竜によって、一度空に戻らざるを得なかった艦隊は密集形態をもってタルブに陣を降ろすことにした。
ちまちまと邪魔をされていたが、上陸もまじかの問題だった。
眼前にみえるトリステイン軍の倍以上の兵をおろし、空から陸から責めたてればいい。勝利の見えた戦いのはずだった。

一番最初に異変を見つけたのは、名もない小艦隊の甲板に立っていた新兵のライリーだった。
同郷の先輩兵と一緒に初めての戦場に震えながらも甲板から、下方に飛び交う竜に向けて魔法や大砲を撃っていたのだ。
するといきなり炎の球が膨れ上がり、鳥のような形を模し始めた。

炎に揺らめく立派な尾羽に、羽を広げるとゆらめきとともに全てのものを焼き尽くしてしまいそうな迫力がある。
焦りとは裏腹に、余りの神々しさに見ほれていると、艦隊にぶつかる様に包み込み消えていった。

炎の羽に触れたような気がしたが、熱さも何もなくただただ幻のように消えていったのだ。


「さっきのは、なんだったんだろう……綺麗だったな」

ライリーはそういうと、とさりと甲板に倒れ動かなくなった。

「おい、ライリー何をふざけてるんだ。お前結婚したばかりなんだぞ。
絶対勝てるから、手柄を立てて戻るんだっていってたじゃないか」

いつからかふさぎこんだようにライリーはなっていたような気がする。
あんなに明るく笑っていたライリーは笑わなくなり、その体も不気味な冷たさをもっていた気がする。

「俺だって、帰って母上に報酬をもっていって楽にしてあげるんだ。
こんな所で、死んでたまるか!!なんとしても生き延び……」


そういいながら、とさりと甲板に倒れ込んだ。
そういえば、俺死んでたんだっけ……最後に思い出したのはそのことだけだった。









周りを固めていた艦隊で起こった異変は、またたく間にひろまっていった。
原因不明に今まで生きていた周りの者たちが、静かに眠る様にとさりとさりと倒れていく。
毒でもなく、魔法攻撃でもなく、死の輪廻から外れ動いていた魔法を解除され動かなくなったのだ。

それをみて、周りの兵士たちも、次は自分の番なのか?茫然と立ち尽くすしかなかったのだ。

嫌な事は重なるもので、程なくして動力庫から、ずがんと小さな爆発音が聞こえる。



「な、なんだ、今度は襲撃か!?」


ボーウッドは、死んだように動かないジョンストンを見つめていたがすぐに我に返った。
動力庫には大量の風石がある、もし何かの間違いで一つでも暴発すればひとたまりもない。

息を切らして一人の兵士が司令部に入ってきた。


「報告します、船の動力部が破壊されました」

「こんな時に……それで、被害は、賊は侵入しているのか?」

「いえ、賊は侵入していません…火薬で動力部のみ破壊されたようで、
それ以外は無事なのですが、とても飛行を続けられる状態ではありません」

「動力部の交換はできるか?」

「いえ…このような事態は想定しておらず……港につけばすぐに修復できますが現状では……」

「そうか……」


どうして、こうなってしまったのか…負けるはずのない戦いではなかったのか。
辺りに錯乱する死体、動力が破壊され緩やかに降下していく船。
士気はもうこれ以上下げられないという程下がっていてとても交戦出来るような状態ではない。
玉砕もかなわず、苦渋の選択を飲まざるを得ない。


「……」

生き残っているものは固唾をのんで、現在の最高権力者でもあるジョンストンを見つめている。

「白旗を上げろ……我々の完敗だ…。我々は投降する」











「レキシントン」号からあがる白旗をラ・ロシェールの岩肌の上からマチルダが満足そうに見ていた。

「いくら兵士を操っていたって、平民の整備士までは目が届かなかったようだね。
魔法で従えようなんて気も起きなかったんじゃないのかい?騙して仕掛けをするくらい楽な仕事だったよ」

幹部や兵士の大半は操られていたが、それゆえに管理・監視が不十分となっていたのだ。
技師に時限式の仕掛け爆弾を動力の部分だけに取り付ける。
そして、生きてる人間をなるべく殺さず、船も壊さずに戦意だけ消失させる。
「レキシントン」をはじめとしたアルビオンの空の艦隊が手に入るのだ。

こうして死を超越した不死の軍隊は、戦いを開始する前に呆気なく敗れ去ったのだった。







「あれが、フェニックス……サイトさん…」

金が鳴りやみ火の鳥の踊りが終わった仕掛け時計を握りしめる。
アンリエッタは、水晶の杖を高く掲げ勝鬨を上げた。


「あれこそが、トリステインを勝利に導く始祖の加護です。
全軍突撃!艦隊を包囲し蟻の子一匹通さぬように、
白旗を上げたとて、不可侵条約をやぶったような相手です。油断しませぬように」












森の中で、虚無魔法を二つも使ったルイズはへたり込んでいた。

「これが、わたしの魔法……虚無の魔法」

長年貯めた魔法の半分近くを消費したのだ、腰を抜かしても仕方がない。
ゼロ戦で近くまで降りてきていたサイトは、ゆっくりとルイズに近づき抱きしめた。

「サイト…わたし……」

一つ頷くとルイズはぼろぼろと涙を流し始めた。
優しくハンカチでぬぐうと、頭を撫でる。

「わたし、魔法を使ったわ。もうゼロじゃない。
サイトがいるから、わたしはここまでこれた……その…ありがとう」

人前で魔法を披露できなくてもいい、魔法を使えた事実がある。
そしてサイトの役に立てた、それがただただ嬉しい。
サイトを信じて、サイトにゆだねていけばいい。

トリステインを陰ながらとはいえ、無事守り抜いたのだ。
もし、サイトがいなかったら、いったいどうなっていたのか想像したくない。


幸福が、栄光が、望みが、サイトの行く道にある。
ルイズは静かにサイトに寄り添い、赤い夕陽が沈むのを眺めた。



[18350] ■現在36 * 「虚無に響く音は、朝に続く永遠は」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/08/23 18:50
タルブ平原に不時着したアルビオン軍は、杖を取り上げられトリステイン軍に囲まれながら戦艦を後にした。
煙を上げた戦艦には、捕虜となった人数以上の死体が錯乱し、中を調査しに入った貴族たちを驚かせていた。

捕虜になっていた技師の一人が、仲間の制止を振り切り一歩前へ出る。
杖を向けられながらも、頭に手をやるとゆっくりとかつらを脱ぎ棄てた。

誰もが言葉を失い、杖を構えていた兵士ですら、いまやその光景をみつめていた。
潜伏し行方をくらましていたアンリエッタの従兄であるアルビオン王国のウェールズである。
ウェールズは金髪が夕日に濡れ、右手に嵌めている風のルビーを掲げた。


「ウェールズ様!ご無事でいらしたのですね」

良くない噂を聞きつけていたアンリエッタは無事を喜んだ。
ただ以前のように、その姿を見ても罪悪感を感じれど胸がときめくことはなかった。

「ああ…すまない心配掛けた。なんとか、生きてはいるよ」

死体は平原に山積みの集められ、将軍より下位の兵は土の魔法で埋められた。
将軍以上の貴族には、腐敗を遅らせ丁寧に扱いアルビオンに送り返すのだ。
小高い塚が出来あがり、夕日がそれを照らしている。
ウェールズは悔しそうに唇を噛んでいた。


「ウェールズ様……」

「これが、アルビオン貴族派のやり方さ。死体を操り死をも恐れぬ軍隊を作り出した。
そして………僕は父上を殺したよ……この手でね」

アンリエッタは、静かに目を伏せた。

「技師に紛れていたのは、船の損傷を少なく沈めるためでね。
上手くいっただろ?もう王党派の兵もいなかったし、誰かを頼るしかなかったのだよ」

「あれは、ウェールズ様だったのですね。では突如現れたフェニックスもですか?」

「いや、それは違う。不思議な体験だったよ。燃え盛るような炎に触れているのに、熱も感じなかった。
まるで聖なる炎に焼かれたように、かつての仲間達は浄化されていったよ」

杖を振るうと丘の上に墓碑を錬金する。

「まさに奇跡としかいいようがないよ。人が想像できる限界を超えている神の御霊さ。
もしかしたら、あの人なら何か知っているかもしれないけどね」

アンリエッタは仕掛け時計を撫でる。

「それで、申し訳ないが戦艦と捕虜は返してもらうよ。
時間はかかるが同等以上の金額をトリステインに支払う予定でだ」

トリステインとしても引き時だ、ウェールズ王がいる今これ以上戦争を続けて無駄に疲弊する意味がない。
一番厄介な報奨金に関しても、賄えるだけの計画はある。今回は領地については考えなくても良い。

「本当なら手伝うことが出来ればいいのですが…」

「いや、そこまで甘えることはできないよ。
このままトリステインの傘下に入っても文句のつけようがなかったからね。
感謝する、これで敵を…クロムウェルをうつことが出来る」

「勝つことが出来るのでしょうか?」

「ロイヤルソブリンさえあれば、空から優位に戦うことが出来る。
そしてクロムウェルさえ、うちとってしまえばそれで終わりだよ。
もともと内乱等起きるはずがなかったのだから」

ウェールズは墓碑に向かって祈ると、アンリエッタに向き直った。

「それより、君なんていわれてるかしってるかい?
火の鳥の聖女と噂されているよ」

「いやですわ、ウェールズ様ったら」

「僕は今や王だ。内乱を収めたら正式に即位するつもりだ。
君も恐らく凱旋後、王となるだろう。トリステインをここまで盛りたてたのだ。
名実ともに、トリステインにとってなくてはならない存在だからね」

「そんなこと……」

「君と僕が王になったら、今よりずっと豊かで平和になるだろう。
約束しようじゃないか、必ず生きて一緒に平和な国を作ると」

ウェールズは膝をつくと、アンリエッタの手の甲にキスを落とした。

「これで、僕は火の鳥の聖女の加護を得た、
これで負けることはそうあるまいよ」

そういうと、踵を返し戦艦へ向かっていった。
もうすぐ、動力炉の修繕が終わる。アルビオンへ国を誇りを取り戻しにいくのだ。







タルブ村から離れた森の中、うっそうと光の余りささないような場所。
その樹の幹に押し付けられるように、ルイズは立っていた。

少し背の高いサイトに、近づくようにつま先立ちになっている。
背中にマントを付け、学院の制服を身にまっとっているが、
今では胸元のボタンは外され、スカートはたくしあげられている。

キスだけで直接触られていないのに、ルイズを守るはずの小さな布生地は、
ぐっしょりと濡れていて、意味をなしていない。

サイトが耳を撫でながら、優しく唇を啄ばまれる。
舌先を吸い取られ、口内を舐めまわされるたびに甘いしびれを感じる。
頭の中は焼き切られそうなくらいの幸福感に、
最近は、それに追いつくくらいの快感を感じている。

もうどのくらい、1分、5分、1時間……いや十秒に満たないかもしれない。
サイトとルイズは唾液を交換し、舌を絡ませている。


「んふぁ……」

息が上手く出来ないくらい頭が真っ白になる。

「んっ、んんんっ、ちゅっ…んんっっっ」

いつかキスだけで死んでしまうのではないかと怖くなる。
でも、求められれば拒むことなどできるはずがない。

「ぁぃとぉ……」

かろうじてしゃべれても声にならない。
良すぎるくらい気持ちいいけど、あれからずっとキスだけで、もっと欲しくなる。
足がふるふると震え、このまま空まで飛んで行ってしまうかと錯覚する。






漸く口づけが終わった後には、知らず知らずに涙を流していた。

ストンと尻餅をつきそうになるところをサイトに受けとめられた。
荒い息を必死で整えようとしているうちにパンツを脱がされた。
べしゃと音がして、パンツが足を伝って地面に落とされる。

「良く頑張ったね。初めて魔法を使えた時は高揚感があるらしい。。
ルイズは魔法を貯めていた事と、虚無という特異性のお陰で反動が大きいと思うよ」

ルイズはこれほど体が鋭敏になっているのは、魔法の所為でもあったのかと納得した。

「今鎮めてあげるからね、肩の力を抜いて体を任せて」

ゆらゆらとゆっくり体が揺らされている、波のようなリズムが体をめぐる。

「ルイズの首から下は動かなくなるよ」

そういわれると、もうルイズは自分の意思で首から下を動かすことは出来なくなってしまった。
ルイズは一瞬戸惑ったが、既に全てを任せきった身なのだと落ち着いた。

「……んぅ…サイト」

サイトが優しく瞼を指でおろした。

「もう目をあけることも出来ないよ」

そういわれると、光も見えない世界にはサイトと自分しかいないようにも思える。
サイトが、離れると世界に一人取り残されたような気がする。

「大丈夫だよ」

凄く近くで声がした、その声を頼りに顔を向けると口づけられる。
体が触れると安心する、そしてまた離れる、二度、三度繰り返される。

一瞬浮遊感を感じ、サイトの上に抱きしめながら乗せられる。
じゅくじゅくと濡れそぼった入口とサイトのがふれあいキスをしている。
見えないからか、見えているとき以上にサイトの形が分かるような気がする。

「んんんっふぅぅうう!!!!!」

子宮から脊椎、脳にまで稲妻のように甘いしびれが走る。
とうとう中に挿入されたのだ、ほぐされていなかったがきついのは最初だけで、
すぐにずぶずぶと奥まで入ると、きゅうきゅうと心地よい締め付けをサイトに与えた。
体が動かず体重を調節出来ないため、ルイズの軽いといえそれなりにある重さがそのまま加わる。


「ルイズの中は、ルイズの手。優しく優しく撫で上げるよ」

ルイズの中が自信の意思とは関係なく吸いつくように奥に導くように舐めかましく動き始めた

「ぁ…やだ……凄いサイトの形がはっきり……」

どんどん複雑な動きをしながらサイトを包み込む。
まるで、本当に手のひらでサイトを奉仕しているように、サイトの形を確かめながらしごいていく。
自分で止めることもできず、二人は少しも動いていないのに快感だけ蓄積される。
ゆっくりと上り詰めていくのがもどかしく、恥ずかしい。
思い切り腰を動かしたいが、自分ではどうしようもない。


「ぁぁ……お願いサイト。少しだけでも……動かして」

「まだ駄目だよ、今度は俺の声以外は聞こえなくなるよ」

それまで、静かっだったが聞こえていた森の音がなくなる。
真っ暗やみの中一瞬不安に思ったが、それもサイトの声と今まで以上に中の感触が分かることで吹き飛んだ。

「ぁ……わたしの……えっちな動きして……止まらなくなっちゃった。壊れちゃったぁ」

ぐちゃぐちゃにかき混ぜてほしい。お願いサイト。

「っ…ぁ…なんか…へん……ぁ、ぁ…ぁあああ」

快感がどんどん増してくる。
叫んでるのに自分の声すら聞こえないから何も起きていないような。

体中から水分が溢れ、自分がどこにいて何をしているのかも分からなくなってきた。
口をパクパクと動かし、水を空気を求めるように息をする。
その状態になって初めてサイトが腰を動かし始めた。
一突きごとに焼けつくような快感をめぐる。体がまるで玩具になったようだ。


「あぁああああああ………ぁあ……あぁ…んっんん!!!!!」

息も出来ないくらい感じすぎて死にそうだ。
体の一部分だけがルイズの全てになったように錯覚する。


「ぁ…ゃらぁ…くふぅ……ぁっ」

ゆっくりとした動きで、中の壁をそがれるたびにまるで逃がさないというように締め付けを繰り返す。

「!……っ!!………ん!」

自由に動けない体は胸を張り体を動かし快感を逃がすこともできない。
腰を浮かし足先まで張りつめたようになっている。
意識も手放せず地獄のような快楽が溜まって行く。


「ぁ……ぁっ……ゅぅしてっっ……もっ……」

「ルイズを叩いたら、貯めた快楽が吐き出されるよ。
辛いことも悲しいことも全て全て吐き出されるよ」

「めっなのにっ……ぁあっ……ぃぅ…」

ぴしゃりとお尻を軽くたたく音に、激しくルイズは痙攣し締め上げる。

「ああああああああああああああっっっっ!!!!」

ぴしゃり、体の動きが少しずつ戻り、その度に気絶するくらいの快楽が流し込まれる。
まるで体の中を虚無の魔法でばらばらにされたのでは、と感じるくらいだ。









「ふーーーーーっ、ふーーーーーっ」

荒い息を整える全ての体の感覚がもどったルイズの中は、サイトを気持ち良くするために蠢いている
まだ大きくなったままで一度も放出していないサイトが入ったままだ。
意識すると中が自在に動かせるようになっているのが分かる。
すぐにルイズは自分の快楽を求めるのではなく、サイトを射精に導くために動き始めた。

サイトにキスをし、薄い胸を張りながら乳首同志を擦り合わせる。
奉仕できる喜びを感じながら、愛液をだらだらとたらし、きつく締めつけ優しく撫で上げる。
子宮口で鈴口にフェラチオをしながら、一流娼婦も驚きな複雑な膣の動きを繰り返す。

「ぁ……はぁ……いっぱい……出てるっ………ふふぅ」


ルイズはサイトを受けとめながら、一緒に達していて、
出された精液は一滴も漏らさずに吸い上げ、サイトを心身共に最高の状態にしていた。





こんなに愛しくて、何でもしてあげたくて、死が二人を分かつまで一緒にいたい。
この思い、気持ちにルイズは名前を付けることは出来なかった。
ただただ静かに寄り添い、サイトを見つめ続けた。


================================
「勝ったッ!第3部完!」

ルイズさんでれでれすなぁ

六千年生き続けたサイトさんに死角はないぜ状態。何重にも保険いれてます。
でもガリア王なら、きっとやってくれるはず!!

過去も濃い生活を繰り返してきているので経験値が高いんですよね。
何が出来て、何が出来ないのか、何をしたら駄目なのか
知っている。何度でもやり直せる。それっていつかは勝てますもんね。



この後は、過去を二人ほど進めようかなと
エルザを考えてますが、もう一人どうしようかな?
リクエストいただけると喜んで頑張ります。
※リクエストあるならば出来れば現在編で登場しているキャラでお願いします。



今回も長らくお付き合いいただき誠にありがとうございました。
まだまだ、続くのでこれからもよろしくお願いします。



[18350] ●過去10 * 「エルザ症候群」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2010/08/27 07:43
「なんだ、お主も話を聞きたいのか?もう少し近くにくるといい。
ここらへんはゲルマニアでも田舎の方でね、なかなか娯楽と呼べるものがすくないのさ、
今から話すのは、ほれ、あそこに見える精悍な城で起きた悲劇の物語さ」









ゲルマニアの首都ヴィンドボナから、遠く離れた片田舎。
金さえあれば、貴族にすらなることの出来るこの国は、二人にとって都合のいい場所だった。
目立たぬようにこつこつとお金を貯めることは、骨だったがそう苦ではなかった。

冷たい地下の煉瓦を素足で歩きながら、ベッドに腰を掛ける。
エルザは足をぷらぷらさせながら、待ち人を来るのを待つ。
あれから、少し成長をしたエルザは、少女の身でありながら危うい色香を放っていた。
胸は大きく成長し、陶磁器のような肌は青白く光るっていた。
腰や腕は折れそうなほど細く、意志の強そうな釣り目に腰まで伸びた髪がたなびいていた。

まるで地下牢にどこぞの令嬢をさらい、調教し性交を目的に囲っているような妖しさがその部屋にはあった。


こつこつと回廊を歩く足音が聞こえるとエルザの顔に
部屋の暗闇には似合わないような、向日葵のような笑顔が咲き誇った。


「やあ、エルザ待たせたかな?」

黒髪の偉丈夫な男が現れた、モノクルを付け貴族らしい服を身につけているのはサイトだった。
少し白髪の交じった髪の毛を油で纏めた姿は、威厳も備え付けられている。
洗練された見た目、隙のない動作、完璧な紳士がそこにはいた。

傍にいるは少し顔を赤くし、目を潤ませながら心此処に非ずといった面持ちのメイド服に身をまとった少女だった。

「あら、新顔ね」

そう言うと、髪の先からつま先まで眺める。

「あのご主人様…この方は?」

少し脅えた顔で交互にサイトとエルザの顔を見る。
垂れ目の顔は素朴で可愛らしく、このような田舎に良く似合う血色のいい肌。
年を重ねれば綺麗な村娘になるであろう、生気に満ちた若々しい体をしていた。

「いいわ、その娘気に入ったわ」

そうエルザがいうのを聞くと、サイトは小娘を抱き寄せてキスをする。

「あっ、ご主人様、おやめになってください。人が見ているのに・・・」

しかし、そんな言葉も思いもすぐにかき消される。
舌を絡め、ベッドに押し倒されていたのだ。
スカートから覗く白いニーソックスに、黒い革靴が足からこぼれおちる。
いつも屋敷を綺麗にするための、仕事用のメイド服が艶かしい。

「素敵な処女臭がするわねー」

与えられた白のコットンの下着の濡れている部分に鼻を当てられ思い切り匂いを嗅がれる。

「や…やめてください、お願い。嗅がないで」

嘆く間も翻弄されるように指を這わされ、服が脱がされていく。
もう残っているのは、濡れに濡れた下着と眩しく光るニーソックスだけだった。
下着もすぐに紐を外され、幼い筋があらわになる。

サイトに両手を抑えられ身動きが出来ず、同じ年ごろに見えるエルザにねっとりと舌でなめられる。

「とっても美味しいわ。まさに甘露ね」

そんな言葉を少女に投げられるとどう反応していいのか分からなくなる。

「どれ、それではわたしも楽しむとするかな」

そういうとサイトはメイドの少女の口に舌を割り込ませる。
もう職務中に何度されたかわからない行為は、それだけで少女を夢中にさせた。

エルザは、へその周りから、脇やうなじまで汗の溜まりそうな場所を舌でなぞる。
サイトの鍛えられた腕に抑えられた体はいくら快感で体をはねさせても動かない。
少し太めの指で乱暴に中をかき混ぜると、エルザは繊細な指でぷくりと腫れあがった小さな豆を指の腹でいじめる。

少女の涙と快楽の混じったあえぎ声は回廊に渡ってそして消えていった。












破瓜の血と精液が混じった未だおさまりの付かないものをちろちろと舐めているのはエルザだ。
ひとしきり舐めて満足すると、エルザは片膝をついてベッドに足を立てる。
濡れた筋が、ぱっくりと開きさらさらとした愛液がライトの光を映している。

処女を散らされたメイド少女は、別のメイドに運ばれて自分の部屋に戻っているだろう。
つまりこの場所には、エルザとサイトしかいないのだ。


「とても満足したわ、ご褒美よ」

それは、ご褒美という名の本当のご主人様への奉仕の要求である。
手を振ってサイトを呼び寄せると、熱い胸板にキスを降らす。
少女の体には似合わないようなメロンのように大きな胸を太い指できついぐらい揉みしだかれ、
衰えの知らない剛直を自ら開いた膣を貫かせる。
髪の毛がベットに広がり、突かれるたびに跳ねるように動く。

「あ……あぁ…んんっ、ちゅ…ちゅぶ、ちゅ……」

舌を絡ませ、犬歯を撫ぜられる。ぞくぞくとした快感が頭をめぐる。

「あっ、あはっ、はあぁぁっ」

逞しい体に胸を潰され、鍛え抜かれた腕で折れるくらい抱きしめられながら
激しく前後に腰を動かされると小刻みに蠢く膣が絡みつく。中が削り取られるようにすられている。
背筋に走る甘いしびれについつい首筋にかみついてしまう。
そこには見慣れた従僕の証が赤々と付いていた。


「あぁぁあーーっっ!深いぃぃ!!!イ…きそっ」

しかし、それを見越したように、動きをゆっくりとしてぎりぎりの境界線で見極めながらサイトは動く。

「やっ、やぁーーー、イかしてぇ!!!我慢できないの」

いやいやと首を振ってサイトに懇願するが、
サイトは動きをとめて、じっとエルザを見ている。
本当はねっとりじっくりと責められるのが好きなのをしっているサイトは
いくら主人が懇願しようとも、嬲り高ぶらせ責めるのをやめない出来た従僕なのだった。


しかしそれもいつしか限界が来る、
切れ長の眼を快楽で歪ませ、愛液が潮をふくように溢れ、涎を垂らし口をだらしなく開く
ずんずんと子宮の奥を突かれながら、お腹が膨れてしまうくらい小部屋に精子を注がれる。

「あぁっ!!あああああ!!!!!イク!イっちゃう。
サイト愛しているの、あぁああああああっっっっ!!!!!!」


ビクビクと震えながら、肩で息をしながらくてりと白いシーツに倒れ込む。






情事のあとの寝物語。
サイトの太い腕に頭を任せながら、エルザは細い指をサイトに這わせる。
こうしていると昔を思い出して切なくなる。

ニガヨモギの咲く平原、突然の偶然で助けてくれたサイトを騙して血を吸って従僕としたのはエルザだった。
人を信じられず、人に恐怖したエルザにとってそれは仕方がないことだった。
サイトの現代の知識と積み重ねたハルケギニアの知識は、エルザ達を大いに助けてくれた。
サイトは女性の扱いも上手く、またセックスもプロ並みで、今まで食事に困ったことはなかった。
血を吸わなくても、汗や精液で十分食事をすることが出来たのも大きかった。
そして城を建ててからも目立たぬように、環境を整えた続けた。

お陰でサイトは評判の城主だ、少しばかり女性が好きだといわれているが、
それも他の貴族に比べれば大したことのない悪評とも言えないようなことでもあった。

魔法は使えなかったが、長年の経験からか人を見る目も確かだったサイトは、
部下にも恵まれ、屋敷内でも慕われていた。
その素晴らしい剣技は、常勝無敗の歴戦の兵士を思わせる程の強さだった。
そんなわけで、この城はどこよりも安全な場所になっていた。



初めて、興味本位でサイト自信の話を聞いたときは自分の耳を疑った。
何度も生を繰り返し、本当の意味で死ぬことはない。
しかも、別の世界から召喚されてハルケギニアに来たというのだ。

それでも、自分の眷属となったサイトが、嘘をつくことはできないので信じるほかなかった。
お陰でここまで来ることが出来たのだが、最近困ったことになりはじめた。




サイトの体に寿命が来たのだ。
それなりに無理もしたし、若く見えるがもう80才でもある。
むしろ体を若く保つために、命を消費してもいた。
吸血鬼は本当であれば、もっと使い古すように人を従僕とする。
しかし、エルザはそうしなかった。する必要もなかったししたくなかった。

サイトをいつの間にか愛していたのだ。そう愛していたのだ。




「でも、これじゃただの人形遊びじゃない……」


何にでも答えてくれるわたしの最高の従僕。でもそれはサイトが従僕だから。
いくら愛していても、本当に答えてくれることはない。

それが、それがただただ虚しい。確かに幸せだった、仕方がなかった…でも後悔していた。

サイトの寿命が近づくにつれ、愛しさと焦燥とやるせなさがつもる。
では、サイトを従僕にしなかったら?恐らく自分は生きていられなかっただろう。
だから、もしの世界なんてないのだ。


「サイト、先に逝くのなんて許さないんだからね」


そう言いながら、エルザはサイトの指に細い指を絡ませるのだった。









その年の厳しい冬、とうとうサイトに限界が来た。
既に感じ取っていたエルザは、サイトに命じ屋敷の者たちに暇を取らせていた。


地下室のベッドの上、エルザはその柔らかい胸にサイトを抱きしめていた。


「サイトやだよ、いかないで、一人にしないで。
これは、命令よ!!絶対命令なんだから!!!」

そんな言葉もむなしく部屋に吸い込まれる。
苦しそうにサイトは微笑むばかりだ。

「エルザ、ごめんな」

その言葉にかっとなって、ワインの入ったグラスを投げつける。
割れた破片がサイトを傷つける。

「あっ……ああぁ……ごめんなさい。
そんなつもりは……サイト」

よろよろと近づくと、切れた頬に舌を這わせる。

「愛してるの、愛してるのよサイト」

「おれもエルザを愛しているよ」

「違う、違う!愛してるのなら、何で一人にするの」

子供のように泣きじゃくるエルザの髪を優しく撫でる。
エルザはふらふらと割れたグラスの破片を手に取る。
何をするか気がついたサイトは止めようと動いたが止めることが出来なかった。


ワインよりも赤々とした鮮血が首筋からとめどなくあふれる。
エルザの死を目前としてようやく吸血鬼の永遠の呪縛からサイトは解かれたのだ。


「サイト愛してるの」

「おれも愛してるよ」

「その言葉がずっと聞きたかった。ずっとずっと聞きたかったの」


それは、サイトを従僕としてから絶対に聞くことが出来なかった本当の言葉だった。
サイトがいなくなった世界に一人でこれから何百年も生きる?そんなことはエルザには無理だった。
二人は泣きながら口づけを交わしていた。
言いたいことは本当はもっと沢山あったけれど、きちんとサイトの心も確認できた。
ようやく一つになれたのだ、エルザはそれを死よりも感謝していた。
何百年も生き、人を用意に従える吸血鬼は、グラスの破片だけで死んでしまうのだ。

あと一言だけ、サイトに伝えなくてはならない言葉があった。





「次のエルザによろしくね」





薔薇が咲いたような真っ赤なシーツの上に少女が倒れる。満足そうな笑顔だった。
その上に覆いかぶさるように、寿命がきたサイトが倒れた。












「それが、この城の悲劇ってわけさ。なんで城主と少女が一緒に心中していたかは分からないままだったけどね。
それにあの城主は、いつまでも若かったから吸血鬼なんじゃないかって馬鹿な噂もあったのさ。女好きだったしね。
そんな話があるかって、誰も信じなかったけどね。みんなあの城主様が好きだったのさ。
今でも務めていたメイド達が掃除していたりするんだよ、っておい、もう行くのかい?」


話を聞き終わるとピンクのブロンドの少女は、言いたいことも伝えたいことも出来なくなったと
今は亡き祖母からもらったロケットを手に旅の終点を見つけ領地に戻って行くのだった。



[18350] ●過去11 * 「酩酊コンチネス」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:d0e6a332
Date: 2010/10/18 00:56
金、かね、カネ……

世の真理の一つで、武器であり、力である。
何をなしとげうにも、誰かを助けるにも、秘密を守るにも、金が必要なのだ。

改めてそれを思い知らされた。
一兵卒の力が少しくらい桁を外れたとして、それがいったい何になるのか。

何にもならない。現実は非情だ。

思えば、ずっと守られてきていたのだ、権力や金という力に。
今さらながらに、深く自覚するのだった。
人間ってのは、間違えて痛い目に合わないと中々学習できないのだ。
力を権力を暴力を金を手に入れなくてはならない。
力のない正義ほど滑稽なものはないのだから。





サイトは召喚された夜、月明かりの中両の手を掲げて見る。
あまりにも小さなこの手でいったいどれだけすくえるのか。
救うという考え自体がおこがましいのかもしれない……。
前向きなのか後ろ向きなのか、どちらに向かうにしても全力で行くしかない。

ぼんやりと考えている。
もうあの何も知らなくて弱くて幸せな無邪気なサイトはいない。
これまで以上に色々な事を試してみるべきかもしれない。

そこで考えてみたのは、まずは商売をしてみようということであった。
経済からハルケギニアを把握するのだ。そのために、何をすればいいかサイトには考えがあった。

武器か食料か、需要が高くまたサイトの知識を存分に生かせるのではないかと思ったからだ。
生産職か商人か、長い目で見た時に先に生産を知っていた方がいい気がした。
辛い設定から始めてみるのがいいかもしれない。
それに、どうせ失敗してもリセットしてしまえばいいのだから、
構うことはない思う存分ゲームのように遊べばいいだけ。






そもそもトリステインで始める時点で詰んでる処もあるんだが、
無理をいっても仕方がないことだし、最近は随分と慣れたものだ。

今回は百薬の長、酒に目を付けることにした。
タルブ村のワインといえば有名であるし、サイトの現代知識でもてこ入れが出来そうな余地がある。
加えて各地を巡った記憶から、どのようなものに需要があるかは少しは分かっているつもりだ。

そのためには、まずやらなくてはいけないことがある。

今タルブ村へ向けて侵攻中の「レキシントン」号の艦隊に忍び込んでいる。
夜間の高高度からの単騎侵攻は、まさか侵略されるなんて思ってもなく
人的警戒であるため、どうしてもおざなりになってしまう。
風石を利用した簡易ホバリングで風竜から一人甲板に降り立つ。

魔法の明かりがあるとはいえども現代社会にあるような、
機械的な明るさはなく、明かりは揺れ照らしきれない場所がある。
その隙間を縫うように、音も気配もなく床や天井に隠れながら進むサイト。

目的地にたどり着くとその足でジョンストンを人質にする。
邪魔なボーウッドを鉄針を投げ毒で無力化する、そして唯一の扉を背に低い声を上げた。この間一秒。


「なっ、なんだ・・・お、お前は」

「騒ぐな、動くな、質問をするな。この可愛そうな上官に突き付けられた毒はかすり傷でも死ぬ。
これからお前たちは俺が言うことに黙ってうなずくだけでいい。そうだな?」

あまりの手際の良さに気がついていなかったのか、首筋にジョンストンは顔を青ざめこくこくと頷く。
闇に紛れて襲撃しているサイトの顔も見えていないことがなおさら不気味だ。

「俺たちは、これから進路を変更し、アルビオンに向かう。はむかう艦隊には大砲をプレゼントしてやれ。
アルビオンに向かったら、上空からクロムウェルを強襲。蟻の子一匹逃すな」

あまりのことに静まり返っている部屋に再び低い声が響く。

「返事はどうした」

ジョンストンの首筋に羽毛を当てるように優しくナイフを押し付ける。

「お前ら、早くしろ。死んでしまったらどうする。言うことを聞くんだ」

だらだらと汗をかきながらジョンストンがわめく。アイサーという返答を元に部隊は進路を変更し、
アルビオンに鉛の雨を降らしに行く。その後に警戒しながらやってくるマザリーニとアンリエッタが平定するだろう。
その後の事は興味ないし、知らない。タルブが安全ならそれで問題ないのだ。









草原でのシエスタからの告白を受けて、今はタルブ村に身を置いている。
親父さんからワインについて手ほどきを受けている最中だ。

考えているのは、ワインを蒸留したブランデー、炭酸を含めたスパークリングワイン。
ワインよりも濃厚な葡萄ジュース。お菓子用のリキュール。珍しいベリーを使ったワイン。
畑を三つ分けてもらい樽に使う樹から厳選して作り始める。
沁みつける匂いからワインの味は全然変わってくる。

「サイトさんって、ワインの知識もあったんですね。わたし驚いちゃいました。
本当こんな素敵な旦那様と一緒になれて幸せ者です」

そういいながらシエスタは肩にこてんと頭を載せてくる。
腕に絡ませられるやわ肌と胸の感触を楽しみながら、パソコンにメモ書きし情報をまとめ上げる。
気温、室温、天気、細かいメモをとって行く。欲を言えばネットにつながればと思うが難しい。

サイトは今度は算盤を作る、シエスタ兄弟姉妹の分だ。
平民にしては裕福な家庭なので、今のうちから基礎を叩きあげるつもりだ。
出来れば商人になってほしいが、そうでなくても文字や数学を知ることはいいことだ。
元々頭の回転もよく行動力のあるシエスタもサイトを手助けするべく熱心に覚えた。



王道から邪道まで幅広く斬新なワインの種類をもったシエスタとサイトのワインブランドは、
タルブとシエスタから名前をとって「シェルブ」として売り出した。
最後までサイトの文字を入れたいとシエスタは残念そうにしていた。


戦略としては、王宮に献上する最高級のワインと同じものを限定数本として高値で貴族に出す。
それだけで貴族の中では価値は何倍にも膨れ上がり、とんでもない金額になった。
意外に評判がいいのは、葡萄のジュースで本来お酒を飲んではいけない教会や、
社交場が多くお酒が飲めなかったり弱い体質の貴族などにも好まれた。
慈善事業として一年に一回トリステイン城下でただで酒をふるまっていることも評価が高く宣伝にもなった。


ハルケギニアでは珍しく瓶のデザインやパッケージにも拘りコレクター心をくすぐったことも大きい。


一年もたつとそれまで見向きもしなかった商人たちも、
こぞって揉み手をしながら市場に加わろうと競うように契約を交わしたがってきた。

サイトとシエスタは国や貴賎を問わず有能そうな商人と契約し、
また義弟達を下につかせることでシエスタ家の繁栄を盤石とさせていた。
兄弟姉妹は素朴ながら可愛く、シエスタ家と関係を持ちたがる商人や貴族から粉がかかったが、
それらを払いのけ、自由に好きな事をさせることが出来るだけの力もついた。
今まで以上に自分で運用できる莫大な金額と信用とコネを作ることが出来た。





だが、そんなことをしていれば目をつけられるのは必然で・・・






「これはこれは、驚いた。ハルケギニアを牛耳るバッカスがこのように年若い青年であるとは」

大げさな身振りをしながらも、タルブ村の本亭へずかずかと入り込んできたのは
青い髪がたなびき、惚れ惚れするような筋肉がまるで古代の剣士を思わせる。
本亭でもワインを出すため、給士のようでシンプルながら華美な制服を着ているサイトが対応している。
世間では、本亭と管理職にだけに許されたこの制服を着るのも立派なステータスとなっている。

「ジョゼフ様でしたか、このような場所にお越しいただけなくてもワインであれば最高の物をお届けしますが?」

サイトがカウンターの前の椅子に座るジョゼフにワインを進めようとしたが、
いや結構と手で制し用意してあるワインをグラスに注ぐ、それはつい先日ガリアに送ったワインだった。
まさかいきなり本人が乗り込んでくるとは思わなかった。


「ふむ、どうもこのワインは飲みやすくていかんな。
お陰で酒に酔ってしまうのか、最近では部下が仕事をしなくなってしまってね」

豪快に笑いながら、ワインを飲み干すジョゼフは、
暗にワインの価格や仕入れた情報を操作して裏で暗躍していることを言っているのだ。
噂や井戸端での情報収集、人の口に戸は立てられず、情報インフラの乏しいこの世界では、
ユビキタス的な情報戦略を重要視するような人物はいなかった。
また、酒の製造から得た商業ラインや、貴族が購入する商品リストやその時に得る話は十二分に役に立った。
お陰でガリアもロマリアも絶妙なラインで戦線の機能出来ず、水面下ではとても安定して見えていた。

ここに来るまで部下には怪訝な顔をされ一国の王が城を抜け出し他国へ等と苦言されたが、
本当の意味でこの王を止めることが出来る人物はいなかった。
何より今まで尻尾も掴ませず、まだロマリアの裏ですら把握出来ていない人物を直接見てみたかった。
ようは思い通りにいかず面白いこともないゆえの気まぐれでもあった。



サイトが気配を探るとオープナーを武器代わりにに手を掛けるまでもなく辺りの様子がうかがえた。
周りを兵士に囲まれ、少しの合図でもあれば責め入れるようになっている。
シエスタはきょとんとしていたが、奥にさがらせている。


「あまりにも献上されたワインが美味でな、畑ごと欲しくなってしまったんだよ。
ぜひ譲ってくれないか、言い値はだそうじゃないか。サイト君」

そういいながら力強くサイトの肩を叩く。にやりと嫌らしい笑みを浮かべるも様になっている。
ワインもその情報操作力もシェルブというブランドもそれを考えついた能力も全て強欲に欲しがったのだ。

サイトは一つため息をつきつつ、ゆっくりとワインカウンターを歩く。
広がるワインの匂いと一緒に、素人には見分けもつかないほのかに甘ったるいワインとは違う匂いが混ざっている。

「残念ながらジョゼフ様、畑をお譲りすることはできません。まがりなりにも王領ですので。
おや、少しお酒に酔ってしまわれたようですね。
そんなことでは、今は亡き弟王様に笑われてしまいますよ?」

見る見るうちに赤らめた顔が怒りで青ざめるジョゼフは杖を構えようとしてくらりとふらついてしまった。

「得意の魔法もそんなにふらふらでは使えませんよ?
ほら、構えている杖だって・・・」

その後聞きとることはできなかった。ワイン?いや中身は葡萄ジュースだったはず。
部屋には甘い匂いがたちこめてるくらい・・・で?
嗚呼、部屋に入った時点でこちらの負けだったのかと酩酊した頭で最後に理解するのだった。








目が覚めた時には、ガリアの宮殿内の自分の寝室内であった。
シェフィールドの柔らかな太ももの上で優しく髪を撫ぜられているところだった。

「おはようございます、ジョゼフ様」

少し痛むこめかみを抑えながら、半裸の体をベッドから起こす。


「ふはっ、はははっ、は・・・あの若造めっ!!!これ程心が躍るのは久しぶりだ。
殺したいほど愛おしいぞ・・・、愛しのミューズよ、準備は出来ているのだろうな」

「はい、滞りなく」

ジョゼフが起きぬけに流し込んだシェルブワインは今まで以上に芳香で濃厚な苦い味がした。
ワインを壁に投げつけると、血のように赤いワインが床を染めた。

















しかし、そんな狂喜にも似た笑みも長く続かなかった。
いくら知略を尽くし策を練っても、武力の限りを尽くしてもまるで全てを見透かしたように潰された。
あるときは罠をはられ、一個師団が全滅。ガーゴイルの軍団を出した時は、その隙をついて城に反乱軍やロマリアが攻め込んでくる。
仕方なく城にシェフィールドを帰還させたが、一体あの平民にどれだけの情報と兵力があるというのだろうか、前以上に未だ全貌が見えてこない。

ビダーシャルを攻め込ませてみれば、顔面蒼白になりながら戻りこの件には絶対に協力しないという。
これで研究中のゴーレムも、あの男には使えなくなった。

そうであるならば、搦手とサイトに近しい人物を攫おうとした時は一番ひどかった。
計画をあげたばかりの、まだ実行にもうつしていない段階の朝目が覚めた時のことだった。
自室に帰ると白い手紙に流暢な文字で書かれた手紙があった。



「馬鹿な事を考えるな」

それだけを書いた紙だった。つまり、寝ているときでもトイレにいるときでも何時でも殺せるということだ。
何故殺さなかったのか、それを言ってしまえば一番初めの時や、兵を攻め込ませた時もそうだ。

北花壇騎士団を出すか?・・・いや成功する気にならない。
ここまで虚仮にされたのは初めてだ。どす黒い破壊の衝動に身を包まれる。
とっておきの火石を使い、燃やしつくしてしまうか?
いやそれよりも、あのとき試せなかったが加速を使うのはどうだろうか。
小賢しい小細工も辞さないぐらい老獪に準備をし、一気に制圧するのだ。

どれだけ力があろうとこの忌まわしき魔法の前にはひれ伏すよりほかにはないのだ。
そうだ、そうしよう。なにより、世界を全て壊すには、あいつは邪魔以外の何物でもないのだ。


「ミューズよ、タルブに向かう。準備をしろ」

ジョゼフは、再度タルブに侵攻することに決定した。
今度は、兵もシェフィールドだけ、それも情報も出さずに忽然とだ。
しばらくは王宮も騒然となるだろうが、同時に撹乱も出来るはずだ。

シェフィールドの操る竜に乗り、タルブ近郊で降りると前に一度見たサイトの拠点ともなる本亭に足を踏み込もうとした。
シェフィールドは後ろに下がらせている、一度小型のガーゴイルに先行させ、
魔力反応などの妖しい効力のありそうな物は何一つないことも確認した。
何時でも虚無を反応できるように杖に手を掛けることも忘れていない。
加速の魔法の恐ろしいところは、唱えた時点で加速が始まるため、その間まるで時を止めたように動けることだ。

そして、慎重に扉を開け、一つの時を与えることなく制圧しようとしてそこから記憶がない。














次にジョゼフが目を覚ました時は、ひんやりとした空間だった。
完全に光も入らず、仄かにワインの香りがする。
目隠しをされ四肢を縛られてベッドのよな場所に固定されている。
ぴちゃりと水が等間隔で落ちる音がする。人の気配がするということはすぐ近くにいるということだ。

「そこにいるのか、サイト」

何故捕まったのか、その後助けがないということは同時にシェフィールドも捕まったということか。
いったいどうやって?それが分からない。完全に裏をかき完璧な策略のはずだった。

「ええ、いますともジョゼフ様も良くお眠りで」

「いったい、どうやった?」

今回は誰にも何処に行くかも知らせていない、裏目に出たかどうにか抜け出す方法を考えなくてはならない。

「何分協力者がいましてね、とても簡単な仕事でしたよ」

協力者?俺の裏をかけるほど頭も周り、対立していて俺をとらえることで得をする人物・・・

「シャルロット・・・か?」

弟の敵を討つまでにそこまで成長していたのだろうか?
俺に気配も感じさせず、情報を操り、シェフィールドさえも捉えたと?
正直信じられない・・・が、それぐらいしか思いつかなかった。

「確かにタバサにも協力してもらってますけど、
今回の捕獲劇には無関係ですよ、本当に思いつきませんか?」

ロマリア?王宮の人物か?トリステインはないとして・・・まったくわからん。

「わからん、降参だ、教えてくれ」

素直に問いただす、一体誰が無能王をとらえるのに協力したのかを。




「すぐそばにいますよ」

サイトの他には、誰もいるようにみえない。
俺と確かに囚われているはずのシェフィールドの気配は感じるが・・・


「ありえない」


頭の中に浮かんだ考えに、血の気が引くのが分かる。これでは本当に無能ではないか。
ありえない・・・一体どうして







「どうして、お前が敵なんだ、愛しのミューズよ」


嗚呼、しかししっくりくる、どうしようもな納得のいく説明だ。
もし、シェフィールドが仲間にいれば、ビダーシャルの件は別として、殆どの事に説明がつく。
分からないのは、何故だということだ。どう考えても納得いかない。
あれほど自分に傾倒していたことも、演技だったというのか、何時から?


「それは、ジョゼフ様、僕が彼女に一番欲しいものを与えたからですよ」

金や地位に傾くような女じゃない、快楽にでも縛ったか?
いや、一番欲しいもの、彼女が一番欲しいもの?それはなんだ、今まで一緒にいてそのようなものはあったか?
何か、何かを欲しがるようなことが・・・





「ジョゼフ様、それは貴方ですよ。それではごゆっくり」

サイトの遠ざかる気配がすると同時に、ベッドが軋む音がした。

「ああ、ジョゼフ様が目を覚ましているときにと一つになれるなんて夢のようですわ」

今まで聞いたことのないような甘い浮ついたような声だ。
傾倒したまま、愛したまま、裏切ったのだ。欲望に赴くままに。

「逞しい胸、輝く髪、凛凛しい声、深い思慮、空虚な感情。
全て、愛しているのです、全て、欲しかったのです」

豊かな胸が太ももを挟んだまま押しつけ形を変えている。
反応した竿を戸惑うことなく口に含み、ゆっくりと飲みこんでいく。

「ジョゼフ様の子種をいただくのは久しぶりですわ。
最近はワインもあまり飲んでいただけなくて、ミューズは寂しかったのですよ?」

一端口を離して言い放ったあと、まるで極上のワインを飲むような快感を与えて
ミューズの口撃は激しさを増していく。


「くっ、せめて拘束を解いてくれ。これではお前を抱きしめることが出来ない」

ぴくりとしてシェフィールドの動きが止まる。
拘束さえ解かれてしまえば、何とかなるかもしれない。

「ああ、ジョゼフ様の今の言葉だけではしたなくイってしまいましたわ。
拘束を解くのはお薬を飲んだ後ですよ、そしたら二人で愛し合いましょう?
何度でも中にいっぱいくださいね、きっとお腹の子も喜びますわ」

シェフィールドは、口にワインを含みじゅぷじゅぷとジョゼフを責めたてる。
堪らず放出した精液をワインと一緒に撹拌し飲みほした。
最後の一滴までごちそうを吸い取ると、ゆっくりと剛直に跨る。
ずぷりと埋まって行き艶かしい肉の壁に絞られていく。
ぱちゅんぱちゅんと恥骨がぶつかり、柔らかい重みと甘い匂いが響く。

「あっんあ、ああ、また奥まで満たされて、お腹の子まで孕んでしまいそうな勢いですわ
もっともっと、いっぱいにして、好きな時に出して孕ませて。
んっ、ぁぁ、びゅるびゅる出てる。溢れるくらい奥にびゅーって出てるぅ」

手も腕も足も絡ませながら、腰だけ貪欲に動かされている。
口づけと共にワインに似た甘いどろりとした液体を飲まされる。
ジョゼフに待っているのは、破壊衝動も後悔も忘れた偽りの幸せな絶望だった。









それで、俺はどうやって死んだかって?歴代死因の上位にいくくらい情けない結果で
シエスタの妹に手を出した後に、しばらくして妹に刺されちゃったよ。
一ついえることは、女って怖いってことかな?



[18350] ■現在37 * 「魔宴」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:d0e6a332
Date: 2010/11/01 04:42

チチチという小鳥のさえずり、まだ日も昇り始めた時間、
ルイズの部屋の大きなベッドの上に、サイトを囲むように眠っている。

右側に腕枕をする様に頭を乗せ体を寄せてるのがシエスタ。
左側で体をちぢこませて、すり寄ってきてるのがエルザ。
そして・・・

サイトの鍛えられながらもまだ薄い胸に柔らかく手をつき、
膝立ちになりながら、ゆっくりと出し入れを繰り返している。
朝すっきりと目覚めてもらうために、激しさはいらない。

サイトが起きそうな気配を感じ、そっとベッドから出たのはシエスタ。
柑橘を少し向き、水をベッドまでもってくる。

「ぁあふぁ…サイト…め……っ覚めた?」

柔らかく自在に締め上げて、ルイズはサイトの様子を伺う。
タルブの森の後から、感覚が鋭敏になっている。
例えば、サイトが何をしてほしいかとか、あっ、今だしたそうとか
後ろを見ていないのに、シエスタが柑橘を向き終わったなとか。
エルザが起きて羨ましそうに見ているなとか。

ちょっとした人の感情の動きや周りの物ごとが見えるようになってきた。
サイトが言うには鍛え上げれば、魔力や体の流れも分かる様になるらしい。

「お早うございます、旦那様」

そういうと向きたての柑橘を手ずからサイトにあーんと食べさせる。
軽く唇に指を触れるのも忘れない、そして水を一杯口に含むと口移しで飲ませるのだ。

「おはよ、お兄ちゃん」

エルザが軽くサイトの背中に回り込むとゆりかごを揺らすようにサイトをゆする。
射精感が高まっているのがルイズには分かった、そして我慢せずに朝一番の濃い精子を中に収めるのだ。


「っあ……凄いとぷとぷ出てる……うぅ」

頭の先から指先から足のつま先まで痺れるように快感がいきわたると堪らず少し腰をおろしてしまった。
ルイズの狭くて入りきらない奥にぐっと押し込まれ、息を吐きながらびくびくと気をやる。
油断せずにぬぷりと引き抜くと膣を締め上げて、漏れ出さないように紙布で蓋をしてから
ショーツに足を通し、モンモランシ特性の香水を振りかける。

エルザとシエスタはぴちゃぴちゃと舌を這わせ、サイトを綺麗にしている。
いたって平和な朝の始まりだった。





日が昇り始めるころ、まだ4人は部屋の中でゆっくりとしていた。
今日はタルブ戦での勝利を国を挙げて祝っているのだ。
ある者は街へ向かい、ある者は部屋で自国の勝利に酔いしれるのだった。

ルイズおもむろに立ち上がり、締め切られた部屋の扉を開けた。
驚いたのは目の前でフードを被り、今まさにノックをしようとしていたアンリエッタ姫だった。

驚き立ちすくんだものの、すぐに部屋に入ると短くサイレントの魔法を唱える。
シエスタは窓を締め切り外から見えなくする、エルザが種を放り短く魔法を唱えると蔦が扉を窓を抑え込んだ。


「医療、清掃業は反応もよく順調にいっているわ。
反面平民用の風呂や農作物、道の整備等には時間がかかっているみたい。
なかでも治金の進みは芳しくないようね……」

特に武具や農具の生成については、平民と関わる部分が多いため、
貴族としてのプライドが邪魔をして中々上手く進んでいないようだ。
他には石の有無や、単純に時間がかかってしまうものはしかたがない。

「うぐぅ……んぅ」

「それとやはり、裏切る者が出てきたようね。まあお互いを監視しているような状況じゃ無理ね。
すぐ発覚してしたから、逆に疑心暗鬼になってしまってる、いいことだわ。
それと……タルブ戦のこと裏で色々と処理してくれたようよ」

「うぁ……ん……ぐぅ…」

「なるほどね、内政自体は予定より少し進みが良いね、問題の所も予定していた通りだ。
人を何人かだそう、石に関しては地図に印をつけておいた
特に風石に関しては数や量も多い、大々的に発掘しておいてほしい」

ルイズがサイトの言葉に頷き地図を書類に増やす。

「まだ表に出る時ではないからね、しばらくは矢面に立ってがんばってもらうよ、アン」

アンリエッタ姫はがくがくと首を強制的にふらさせられている。

アンリエッタは暗がりの中、裸のまま四つん這いになりサイトの椅子となっている。
頭には王家のあかしである王冠が乗っているのが滑稽でもある。

サイトに執拗に後ろの穴を人差し指でほぐされながら、サイトの体重に耐えている。
ひたいや脇には脂汗が浮かんでいる上に口もふさがっているために上手く呼吸もできない。


口をふさいでいるのはエルザで、腰のあたりには奇妙なオブジェがそそり立っている。
エルザの腰には魔法で生成した蔦が絡み合いまるで肉棒のような形を保っている。
それをゆっくりと出し入れを繰り返し、アンリエッタの細い食道を犯しているのだ。
喉元を突かれるたびに、えづき涙を流しているのである。
加えきれず歯が当たるたびに、どろりとした白い汁が出てくるのだった。


「あは、アンお姉ちゃんったら、美味しそうに咥えてエルザの噛み噛みしてるよぅ」



アンリエッタの少し開いた股ぐらで腰を動かしているのはシエスタだった。
こちらもエルザの蔦が複雑に絡み合い、エルザよりも大きなオブジェが出来あがっている。
しかも濡れるたびにかゆみの成分がにじみ出てきて、もっとえぐってほしくなる。
ゆっくりとした出し入れがもどかしく、腰を振り振りと動かしてしまう。


「アンリエッタ姫ったら、凄く艶かしい腰の動きをしていますよ、
これでは、姫ではなくて娼婦の方がお似合いですね、うふふ」

シエスタも自身のかゆみに耐えながら、焦らすように動いている。
前後から異形の張り方で前後を責められ、まるでサバトのようだ。


手も足も責苦と支えきれない体重に震えながら、絶え間ない焼き切れるような快感と、
サイトが座る腰のあたりから、脳髄にかけてただれるような幸福感にさいなまされる。
既に変わってしまったアンリエッタはサイトに隷属することこそが幸せなのである。

「んぐぐぐぐぅうう、ぅううーーぅ、ぅあぁあ」

アンリエッタは涙を流し喜びにただただ浸った。









所は変わってワルド領の寂れた屋内に、怪我を直したワルドが書物を調べていた。
母の残した日記や、アルビオンで取得した紙切れに書いてある名簿にかいてある人物について調べている。
もがれた左腕の代わりに魔法杖を仕込んだ義手を忌々しげにさすりながら……。

今はレコンキスタよりもこちらを調べる方が先だ。
情勢を見る限り、レコンキスタの分が悪い。
例え逆転の一手をもっていても、恐らくレコンキスタに勝ちの目はないだろう。
むしろ、そうでないと困る、この痛む腕の敵が取れなくなってしまう。

相対して肌で感じたのは、恐らくあの使い魔が一手も二手もいやそれ以上の先を見据えている。
トリステインは急激に変わってきている、他国はこれに気が付いているのだろうか?

6体の遍在を操り情報収集しているが、出来ればもう一人信用に足る部下がいれば…と一人ごちる。

魔法研究所アカデミー、それとリッシュモン、ガードが固く思うように情報が集まらない。
特に魔法研究所は、出入りも厳しく制限されている。

どうにもここが妖しくないだろうか、ゴンドラン?記憶にない名前だった。
いや、一度、一度だけあったあれは母の気が狂う前の前日、ぼそりと呟いていたような。
だとしたら、魔法研究所に何かがあるのか?
いや、わからない、まずは念密な調査が必要になる。

ぞわりとした悪寒が広がる、これは丸で国の裏の暗部を調べるようなものだ。

本当にこのまま調べていいのだろうか?後悔は……いや、何のために敢えて汚れた水をすすってきた。
胸のペンダントをぎゅっと握る。まるで…らしくないな、母の無念を願いを叶える、その為に自身があるというのに。



窓からちらつく曇り空に、義手の付け根が軋む痛みに顔をしかめながら堅く誓った。



[18350] ■現在38「タバサの秘密」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:d0e6a332
Date: 2010/11/21 23:36
キュルケとタバサは馬車に揺られて、魔法学院から伸びた街道を南東へと下っていた。
最近は王都へと続く道は整備され、その干し煉瓦で出来た道は馬車でも揺れが少なく
その心地に慣れ切っていたため、田舎道を走るときの揺れに疲れが少し増すような気がした。

「タバサ、ほら見て!牛よ…って、ずっとそんな顔して考え込んでいたら、
元気な体も病気になっちゃうわよ?」

街道の傍の牧場にも目をくれず、じっと何かを考え込んでいるタバサは、
学院からずっとこのような調子だった。

キュルケが部屋に遊びにいった時に、荷物をまとめていたタバサに
いつもと違う雰囲気を感じ取り、生来の好奇心も手伝い、
授業をさぼってまで帰省するタバサについてやってきたのだ。

「あなたのお国がトリステインじゃなくて、ガリアだって初めて知ったわ。
留学だったのね、私達って本当に一緒ね、そう思わない?
どうして、貴方トリステインなんかに留学してきたの?」

いつも自分の身の上を話すことのないタバサだったが、
キュルケはある一件からタバサを気に入っていたし、もっと仲良くなりたいとおもっていたのだ
お互いを尊重し、適度な距離をもっていて、その距離さえも気に入っていたが、
今回帰省につきあうことで、もっとタバサを知ることができるそんな予感もしていたのだ。

一向にめくりもしなかった本を閉じて、タバサはキュルケに向かい合った。


「サイトのこと、どう思う?」


聞きたかった答えは、はぐらかされてしまったものの
すぐに思考を切り替える、話したくないなら無理に聞く必要はないきっといつか答えてくれる。
本当は話の内容なんて、だらない話でも良くて、要は暇だったのだ。


「そうね、凄い変態かしら」

なんどか手を出されそうになっているし、ルイズ達の様子を見ていれば窺い知れることもある。
忘れがちだけど、あの人ってば平民なのよね。

「それ以外はいたって、紳士的で日常の動き方から洗練されて貴族より貴族らしいわ。
人にものを教えるのも上手ね、何を考えてるのか全然わからないけど」

タバサはこくりと頷いた。実際教師でもしていたかのように教えるのが上手い。
魔法の理論や使い方、体の動かし方、目線や言葉での誘導方法、
あの若さでどれほどの経験を積んできたのか伺い知れないが、
まるで本当に見てきたかのようにたとえ話を混ぜて説明してくれる。

「そう…でも危険」

キュルケは、警戒しつつも面白がっているが危険だと修羅場をくぐってきた本能が告げる。
何よりも、触られたときに感じる父にも似た安らぎというか幸せを感じさせる感覚が、
私の中の雪風を晴らしてしまいそうで、とても…怖い。
観察はしつつも、あまり不用意に近づかない方がいい。

「まぁ、でも大丈夫よ。私達強くなったわ。
例えばサイトが何かしてきたとして、負けやしないわ」

確かに強くなった、そのサイトに鍛えられて。
1対1であれば、不意を突かれたとしても負けることはほぼないだろう。
素早いけれど何とか目で追えるし、対処法も考えてある。

「だといいのだけれど」



国境まで二泊して二人はゆるゆると旅を続けた。
関所で通行手形を見せて通るとそこはガリアであった。
ガリアとトリステインは、言葉も文化も似ているため、「双子の王冠」と称されることも多い。

国境沿いのラグドリアン湖から溢れた水で街道が沈没しているらしい。
開けた道まで進むと、今まで緑の丘があった場所が、水の底に沈み幻想的だ。

「あなたのご実家、この変なの?」

「もうすぐ」

それから十分程で、タバサの実家が見えてきた。
途中あった農民から、ここが直轄領であることがわかった。
風光明媚で王が欲しがるのも分かる手入れの息届いた素晴らしい景色だ。
しかし、タバサは実家が近づくにつれ、押し黙り緊張が支配するのが分かる。

キュルケも黙って景色を見ていた。
ガリア王家に二つ線のバツ印、王族の権利を剥奪された不名誉印だ。
玄関前の上手周りに着くと、一人の老僕が近づいてきて馬車の扉をあける。
迎えはこれだけだった、家族中が悪いのだろうか?
例えどんなことがあっても私はタバサの味方でいたいと思っている。


「お嬢様、お帰りなさいませ」

さびしい出迎え、静まり返った屋敷に足を踏み入れていく。
タバサは、少し待っていてと言い残して客間をあとにした。

「このオルレアン家の執事を務めておりまするペルスランでございます。
恐れながらシャルロットお嬢様のお友達でございますか?」

ワインと菓子を用意した老僕を見ながらキュルケは頷いた。
オルレアン家のシャルロットそれが、タバサの本名らしい。
オルレアン…思考を張り巡らせて、はたと気付く。ガリア王の弟、王弟家ではないか。

「どうして王弟家の紋章を掲げずに、不名誉印なんか門に飾っておくのかしら」

「御見受けしたところ、外国のお方と存じますが……。
お許しがいただければ、お名前をお伺い戴いてもよろしいでしょうか?」

「ゲルマニアのフォン・ツェルプストーよ。ところでこの家はどんな家なの?
タバサは何故偽名を使って留学してきたの?あの子、何も話してくれないのよ」

キュルケがそう言うと、ペルスランは切なげにため息をついた。

「お嬢様は「タバサ」と名乗ってらっしゃるのですか…。お嬢様が友達を連れてくるなど絶えてないこと。
心許すかたなら、かまいますまい。ツェルプストーさまを信用してお話しましょう」

それからペルスランは、深く一礼すると語りだした。

「この屋敷は牢獄なのです」




「継承争いの犠牲者?」

「そうでございます。先王が崩御された後、現在、玉座についておられるご長男のジョゼフさま。
そして、シャルロットお嬢様のお父上であられたご次男オルレアン公のお二人です」

キュルケは静かにうなづいた。

「しかし、ジョゼフさまは王の器ではない暗愚なおかたでした。
オルレアン公は才能と人望に溢れ、そして宮廷は二つに分かれての醜い争いとなり
不幸な事にオルレアン公は魔法ではない下賤な毒矢にて謀殺されました」

ペルスランは胸を詰まらせるような声で続けた。

「凶行はそれだけにとどまりませんでした。ジョゼフさまを王座に付けた連中は次にお嬢様を狙いました。
将来の禍根を断とうと、奥様と屋敷に呼びつけ、酒肴と偽り毒を差し出したのです。
それを知った奥様はお嬢様の代わりに毒の料理を口にしました。
心を狂わせる水魔法の秘毒を……今ではお嬢様のことも分からない始末」

キュルケは茫然と言葉を失ったままだ。

「お嬢様は……その日より、言葉と表情を失いました。
そして幼いながら生還不能と言われる任務に志願し、王家への忠誠を知らしめました。
本来なら土地を下賜されるべき功績にも、シュヴァリエの称号を与えるだけ

その後も便利な道具として、解決困難な汚れ仕事がまわされてくるのです。
父を殺され、母を狂わされた娘が、自分の仇に牛馬のようにこき使われている…
私はこれほどの悲劇を聞いたことがありませぬ…」

確かにタバサはいつもふらりといなくなっては、傷だらけになって帰ってくる時があった。
キュルケはタバサが口を開かぬわけを、決してマントに縫い付けないシュヴァリエの称号の意味を知った。

「お嬢さまは、タバサと名乗っておられる。そうおっしゃいましたね?」

「ええ」


「いつもお忙しい奥様が、ある日手ずから選んだ人形をお嬢さんにプレゼントしたことがあります。
その時の喜びようと言ったら…人形に名前を付けてまるで妹のように可愛がっておられました。
今その人形は、正気のなくなった奥様がシャルロットお嬢様だと思い、肌身離さずお抱きになっております」

キュルケははっとした。

「「タバサ」。それはお嬢さまが人形におつけになった名前でございます」


扉が開いて現れたタバサに、ペルスランは苦しそうな顔をして一通の手紙を取り出した。
ちらりと一瞥すると、一言告げて自分の部屋に戻るのをキュルケは慌てて追いかけた。


その夜二人は同じ部屋で寝た。
気が張りつめていたのか、タバサはすぐに寝てしまったが、キュルケは中々寝つけずにいた。
任務はタバサと二人なら、達成できる自信はあるが、とても一人では難しい内容だった。
昼に聞いたタバサの生い立ちが、ずしりとのしかかる。

一体このような任務をいったいどれだけこなしてきたのか、
あれほどの仕打ちを受けて、いつも一人でどれだけの寂しさを抱えているのか。

眼鏡を外した寝顔はどこまでもあどけなく、柔らかい表情をしていた。

「母さま」

タバサは眉間にしわを寄せて寝言を呟いた。

「母さま、それ食べちゃ駄目……お願い、母さま」

何度も寝言で訴えるタバサに、キュルケはそっと近づき抱きしめた。
胸に顔をうずめ、きゅっと小さな手を握り、少しでも温かみを感じたいのだろうか?
しばらくすると、安心したようにタバサは寝息を立て始めた。

彼女の心は凍てついてなどいない。雪風のベールに覆われているが芯には熱いものが渦巻いている。
それをはらってくれる火のようなものを求めているのだ。


「ねぇ、シャルロット。この微熱が全部優しく温めて溶かしてあげる。
だから、安心してゆっくりおやすみなさい」

キュルケは聖母のように柔らかな笑みを浮かべていた。







その頃トリステインでは、修業に明け暮れ中々構ってくれなくなった
ギーシュに飲ますために惚れ薬を作るモンモランシーの姿があった。



[18350] ■現在39 * 「小瓶」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:d0e6a332
Date: 2010/12/01 08:17
アウストリの広場の隅の方で、魔法を使い訓練をしているのはギーシュ・ド・グラモンだ。
体と魔法の両方を酷使し、同じステップの組み合わせを確認している。

薔薇の杖は、手甲を覆う部分を薔薇に模した実践的なレイピアをもっている。
まるで指揮棒のように杖を振るい、まるでワルツでも踊っているようだ。


少し離れた木陰には、黄色い歓声をあげ彼になんとか取り入ろうとしている女児の集団が見える。
以前から持っていた軽薄さは少し残したまま、鍛錬に打ち込む姿は、
元々ある端正な顔立ちと家柄を含め、学院の男子のなかでは将来の伴侶にする一番の有望株だ。

虎視眈眈と狙う一団をちらり横目に、院内をすたすたと歩く。
私から、彼のとこに行くにはプライドが邪魔をし過ぎている。

「はぁ…」

どうしてこうなったのだろうか。
今でも気にかけてくれるし、ギーシュの方から好きだといってきていたのだから、
私は気にしなくていいし、まだ私たちはつき合っているのだと思うのだけれど、
ギーシュは前ほど構ってくれなくなってしまったし、少しだけ、そう少しだけ格好良くなった。

……要は不安なのだ、何か、確かな証が欲しい。
言葉だけじゃなくて、まだそういうことは早いけれど……

「違う、違う……そうじゃないでしょ、モンモランシー」

これでは、色ボケのルイズ達と変わらないではないか。
私なりになにか出来ることがある。モンモランシーは手に持った小瓶を見つめるのだった。





その夜、長い金色の巻き毛と鮮やかな青い瞳が自慢のモンモランシーは、
寮の自分の部屋でるつぼの中の秘薬をすりこぎでこねまわし、ポーションを調合していた。

水系統メイジである「香水」のモンモランシーの趣味は魔法の薬……ポーション造りである。
香りに敏感な彼女は生来の器用さで、貴婦人や街女に人気の香水を作っては小遣いを稼いでいた。
そして、貯めていたお金を使い、闇の魔法屋で禁断のポーションのレシピと必要な高価な秘薬を手に入れていた。

趣味は道徳にも勝る、なによりモンモランシーには目的があった。
見つかれば大変な罰金を科せられると知りつつも、「惚れ薬」を調合するのだった。

かくして、竜硫黄やマンドラゴラなどを繊細に調合した中に、
肝心かなめの水の秘薬をるつぼの中に傾けていく。
そして複雑な幾つかの過程をえて、小さな香水瓶に治まる程度の僅かな薬が出来る。
調合にかかった費用はエキュー金貨にして七百枚。平民が五、六年は暮らせるだけの額だ。


全ての調合を終え、無味無臭無色のその液体をゆるゆると振り、出来あいを光にかざしてみる。
完璧に出来上がったと思うのだけれで、下手に試せないのが不安もあるが自分を信じることにした。



その出来あいにうっとりしていると、小さく部屋の戸を叩く音が聞こえる。

「ルイズよ、モンモランシー。こんな夜分に申し訳ないけれどここを開けて頂戴?話があるの」

少し焦ったような声が聞こえる、確かに夜も更け訪問には遅いが、
まだ夜も始まったばかり、秘密の話をするにはもってこいの時間でもある。
最近のルイズは少し落ち着きが見え、話しやすく好感のもてる子に変わっていた。
まぁ、隣にいてよく見かける使い魔は得体が知れなかったが……
ここで、公爵家令嬢に恩を売っておくのも悪くないかもしれない。
そっと、調合した小瓶を引き出しにしまいこみ、扉を開けた。

「本当に……こんな夜更けに何かし…んぐ」

何かの種が投げ込まれたかと思うと、凄い勢いで成長してモンモランシーを縛りつけ始める。
そっと黒髪のメイドが部屋に入ってきたかと思うと、口枷をされる。
ゆっくりとピンク色の髪と、小さな肌の白い女の子が入ってきた。
さらに、サイトが部屋の中に入り扉を静かに閉める。

この間わずか数秒悲鳴を上げる間もない完璧な連携だった。
わけもわからず視線だけを追っていくと、サイトと目が合いキッと目を吊り上げた。
こいつのせいで、ギーシュは変わってしまったのだ。

「旦那様ありましたわ」

はっ、と動かせる首をメイドの方に向ける。
そこには、先ほど隠したばかりの禁制の薬が……

「ぐっ……あなたたちいったいどういうつもりなのかしら?」

口枷を外されると、モンモランシーは静かに言った。
ここで、なりふり構わず悲鳴のひとつでもあげていれば、
もしかしたら、助かっていたかもしれない。

じっとりとした目をきつくあげ、形のいい眉をゆがませて、
無知と気位によって、サイトをにらみあげまくしたてる。

ことり。シエスタがゆっくりと香水をテーブルの前にのせ、しずしずと下がる。
ルイズはゆっくりとモンモランシーに近づき、頬を撫でる。

「この御禁制の薬、貴方いったいどうするつもりだったの?」

モンモランシーの後ろに周り、金色の柔らかい捲き毛を弄ぶ。

「ぐっ……ちょっとした興味本位よ、あなたには関係ないでしょ?」

ルイズはくすくすと笑いながら、金色の髪から首筋へと指を這わせていく。

「あら?わたしとしては、こんなものを見つけてしまっては姫様に報告するしかないわね」

さっ、とお顔を青ざめるモンモランシーに構わず話を続ける。

「もしかして、罰金だけで済むと思ってるの?時期が良くなかったわね
貴方が教室で自慢していた、新事業への総括の話……確実に降ろされるわね」

ようやく状況を把握してきたのか、少しずつ強がっている仮面が剥がれていく。

「まぁそんなことがなくても、新事業を考えたのはわたしの使い魔のサイトよ?
姫様も随分慕っているわ、だから、貴方がさんざん暴言を吐いてきたことは、貴方の首を絞めていたのよ?
もちろん、こんなすぐ分かるような嘘わたしはつかないわ、分かるでしょ?」

絶望した表情でサイトを見つめる、こんな平民の良く分からない使い魔に、
ギーシュを変えてしまった張本人に…私が頭をさげなくてはいけないの?

「そしたら、あなた今日の事は不問にするからなんとかしなさい」

「…なぜ?」

なぜ?平民のくせに逆らうつもりなの?しかし…ルイズに掴まれた肩の痛みで我に帰る。
サイトは楽しそうに笑っているが、周りの温度が下がっていくような鋭い視線を感じる。
不本意だが取引をするより、仕方がない。

「その秘薬をあげるわ、それでいいんでしょ?」

そう、どこからか情報を仕入れてわざわざここに来たということは、
秘密裏にこの薬が欲しいから、こんなまわりくどいやり方で逃げ道がないように追い詰めてきているはず…

「いや、それは、別にいらない」

サイトがゆっくりとベッドに移動すると、いつの間にか蔦がはずされルイズに背中を押される。













モンモランシーは羞恥にうちふるえながら、サイトにキスをしている。
自分でシャツのボタンを外し、まだギーシュにもみせたことがない白い肌を晒しながら

「んっ……ちゅっ」

もはや、モンモランシーにはどうすることもできなかった。
杖を取られ魔物の前にほうりだされた、魔法使いのように絶望するしかないのだ。
慣れないキスにさえ、時間を掛けて自分の意思でさせられる。

いっそ勝手にやってくれればいいのに。
いちいち手が止まり動きが止まり、その度に、後ろに控えてるルイズに叱責される。
嫌悪感と胸に広がる温かい何かに困惑しながら……行為を続けていく。


「次は、これを口でするんだ」

涙を流し、いやいやと首を振る。出来るわけがない。
ルイズとシエスタに抑えつけられ、目の前につれてこられる。
敏感な鼻孔に、嗅いだ事のないオスの匂いをつきつけられる。

頭を動かせられ、その赤く小さな唇に熱い肉が触れるたびに涙があふれてくる。
全てを諦めゆっくりと口づけていくたびに、大切な何かが崩れていくような感じがする。

「口全体で咥えろ」

貴族であるはずの私が、まるで奴隷のようにひざまづきながら、口に含んでいく。
今まで甘い砂糖菓子しかいれたことのない、口の中を熱く匂いの強い肉で埋め尽くされる。

涙を流し舌も動かせず止まったままでいると、頭をエルザにゆるゆると動かされた。

シャツの間から覗く形のいい胸をルイズに愛撫され、体全体をシエスタに撫でまわされる。

「んぇ!……ぐっ……んんん」

サファイアのような輝きだった目は深い深海のように濁り、
プレゼントのように赤いリボンで飾りつけられただけの自分をサイトに奪われていく。

ベッドに投げ出され、舌で三人から責めたてられても虚空をみるだけだった。

白いシーツに金色の毛が広がる。

そして、一度も穢されたことのない純潔に、熱い塊を押しつけられ我に返った。




「やっ…!?いや……お願い…します。それだけは……どうか、どうか……」

えぐえぐと嗚咽まみれになりふり構わず懇願する。
両手を掴まれ涙し懇願するその姿が加虐心に火をつけるだけだとも知らず、
解剖される前の蛙のように抑えつけられて……


「ひっ……いぃい……痛い!痛いよぉ……」

呆気なく破瓜され、鋭い痛みに悲鳴を上げる間もなく、
遠慮のない動きに血が絡み、痛みと幸福感で気が狂いそうになる。
足をぴんと張り、舌を突出しながら、痛みを分散できずに拳を握りながら少し声を上げる。

「んっんっんっんんっうっ……」

体の内部をやすりで削られるような痛みを我慢する。
ゆらゆらと揺れる蝋燭の陰りが、強く光を放っていく。


目の前に紫色の小瓶がさしだされた…。自分が作った惚れ薬の秘薬だ。
モンモランシーの手にゆっくりと持たされる。

「あっ……あっ…っやぁ……」

体もあの人を好きだった心も犯されるのだ。
慈悲のない避けることの出来ないバッドエンドの選択肢を自分で選ばされる。
なんて恐ろしい薬を自分は作ってしまったのか……



「ごきゅっ……んっ……んぐっ……ぁ…あはっ」

痛みは疼くような甘味に変えられ、憎悪は愛情に変わり、
強い思いも痛みも、全部全部塗り替えられていく。

胸板にキスの雨を降らし、指をからませ
外れないように腰に白い足を組んで絡ませ、中も腰も動かしていく。

「あっぁあっあっあっ……」

徐々に呼吸の感覚が短くなり、サイトの頭を抱えて、
愛しい唇に貪りつき、舌を絡ませていく。洪水のように愛液が流れ滑りをよくする。



「ぅ、ぁっあんぁ、やっ、……すごっ……っ…!!!」

腰ががくがくと震え、部屋の揺らめきが白と黒と交互に強くなっていく。


「ああっ、はああんっ。な…んかっ…きちゃうっ」

サイトの動きも短く激しくなって行き、射精するために精子袋が縮んでいく。
次の瞬間、子宮と亀頭が隙間もないくらいぴったりとくっつき、
白い精子の奔流が子宮の奥の奥まで埋め尽くすようにぶちまけられた。

「はぁんっ、やっ、ぁっああ、でてる、びゅっるびゅる中に………っあああ」

気をやりながらも、がっちりと腰を抑え込み、さらに射精を促すように伸縮し貪欲に腰を振る。
最後の一滴まで搾り取ったところで、愛しさと好きな人と結ばれた幸せで、


モンモランシーは、はらはらと涙を流した。



[18350] ■現在40「惚れ薬の力」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:d0e6a332
Date: 2011/01/02 08:01
モンモランシーがサイトの仲間に加わって、変わったことがいくつかある。

まずは、ギーシュとモンモランシーの関係である。
サイトが来る前のギーシュは、多くの女性にうつつを抜かしていたため、
明確に付き合っていたわけではなかったが、一番好意を寄せていた相手だった。
それが、今はサイトやルイズたちと一緒にいる所を良く見かける。

本人に聞いてみても、笑ってはぐらかせられるだけだった。


そして、学内の勢力である。とはいっても、女子内だけでのことでもあるが…
男子はどちらかというと、群れるのを好まないし数人が友として集まるくらいだ。

女子は一部の例外を除いては、友達だけではなく学年の上の女子と自然とつるみ、
コミュニティが形成されていく、それが派閥である。
普段の生活、優雅なお茶会、魔法の授業でさえ密接に関連してくる。
若いながらも学院は、女の世界の縮図でもあった。

力が強い人間でも一人でできることは限られていて、
ときにそうした人脈というものは、利害の敵対する力の強い者も淘汰する時がある。


ルイズにももちろん派閥はある。公爵令嬢でもあり影響力があるため庇護されようと集まるのだ。
魔法が使えずサイトが来るまでのルイズは、とても毛嫌いしていたが今では上手くコントロールし付き合っている。

平民の屋敷使えにももちろん派閥はあるが、こちらはシエスタが完璧にまとめ上げていた。
力も弱く貴族に不当な扱いを受けやすい平民にとって、問題が起こっても助けを受け入れてくれたり、
願いを聞いてくれるシエスタ派は、なくてはならない存在だった。

それだけ貴族・平民間でのトラブルは多いのだ。


そして、面倒見も良く女子に一番多い水メイジの筆頭でもあるモンモランシーは、
意外や学院の中でも一番大きな派閥でもあった。
お金自体は少ないが家柄もそこそこあり、趣味としている香水の小遣い稼ぎでも周りと良い関係を結んでいた。
貴族は屋敷と領地を維持するのに精いっぱいで子にまで、あまり気を掛けてあげられる親は少ないのだ。



それが、今ではルイズとモンモランシーが掛け合い、巨大なコミュニティになっていた。
通常であれば、大きすぎる派閥も善し悪しだが、上手くコントロールしている。
幾つかのグループに分け、切磋琢磨させ、生徒達の発する要求を聞いていく。
今は小さなモデルケースでもあるが、常に変わって行く未来の情報を収拾し、
仕事をやりやすく問題を解決しやすくする、サイトが培ってきたいくつかのこの世界への対処法の一つだ。

王宮での新施策もいくつかのグループに分けたのもこのような意図がある。
アンリエッタ派は、サイトが来るまで本当に本当に少なかった。皆無といっても良い。
いつ国家転覆が起きてもおかしくない、むしろ当人すらやる気がなくよく機能していたとしかいいようがない。

不穏分子の一つでもあるリッシュモンを下せたのも大きい。
意見を通すのと意見が歓迎され受け入れられるのは違う。
信用を力を財力を手に入れ、国内で損と得を出さず、しわ寄せはほかの国に与える。

そうでなければ、トリステインはケーキのように分配されるだけである。
アルビオンが生きながらえてる今が土台を固める機会なのだから。






「で、これからどうするのよ、それ?」

金色の巻き毛がサイトに跨り、鎖骨に甘いキスを落としながら愛おしそうに腰を振っている。
さも当然のように、黒髪メイドのシエスタが飲み物を準備し傍らに立っいる。

ルイズは、そんなモンモランシーを指差した。


「うん、ルイズが危惧するように、この薬は完全じゃない。
一日後、一か月後、一年後……個人差はあれど必ず効き目が切れるときがある。
魔法でも検知出来てしまうしね、禁制とはいえ書生でも作れる代物だからね」

モンモランシーのおでこに口づけをすると、
それだけでひくひくと締め付け、気をやってしまった。

「大切な場面で、混乱する事態だけは避けたいからね。
解除薬を作り、強制的に元の状態にすることにする。
薬の材料はあるものを除き、既にそろっている状態だ」

これだけ、楔が打ってあるモンモランシーは既に何処にも行く場所はなく、
サイトの傍にいるしかないのだ。あとは時間を掛けていけばいい。


「もしかして、それが出かける準備をしている理由なの?ラグドリアン湖に向かうのね」

「正解だよ、おいでルイズ」

禁制の惚れ薬の材料や、最近のサイトが準備している内容を考えれば明確だった。
サイトは金とピンクの髪が入り乱れるコントラストを楽しみながら、シエスタに目線を合わせる。
シエスタはすぐに一礼し、出発の準備を完成させるために部屋を出て行った。


ラグドリアン湖には水の精霊と、それにおあつらえ向きにタバサとキュルケがいる。
駒を進めるには、都合のいいイベントだ。




ラグドリアン湖へは、サイト・ルイズ・モンモランシーの三人で向かう。
ギーシュはモンモランシーとの関係上今回は連れて行かないことにした。

農民の話では、水の精霊の機嫌が悪く村一つ飲み込むくらいに水を氾濫させたようだ。
黒い家に苔がつき、緑の草がまるで水藻のように揺れている。
眩しい湖の青が、陽光をきらきらと反射させガラスの粉のように美しく輝いていた。

水の精霊との交渉役でもあったモンモランシ家の娘でもあるモンモランシーは、
惚れ薬の解除薬でもある「水の精霊の涙」を分けてもらうべく、
使い魔のカエルのロビンに指を傷つけ出来た血を垂らし、水の精霊を呼び寄せた。


既知の事だが、水の精霊が困っている内容を聞き出し、水の精霊の涙を分けてもらえるように説得する。
何事にも順序が大切なのだ。水の精霊を襲撃した人物をとめ、水の精霊に交渉し、
そして、最後に水かさの増減を取りやめてもらう。
それに始祖ブリミルより前から存在しているという水の精霊に試したいことがあった。


襲撃者は、タバサとキュルケなので、今まではサイトが水の精霊を襲撃して疲労した所を排除したり、
大声で存在を明かし二人と交渉したりして対処していたのだが、
今回は、ルイズとモンモランシーの組み合わせで排除させることにした。

それも、襲撃前の万全の状態でである。

サイトが直々に鍛錬したキュルケとタバサではあるが、
それ以上に完成されたルイズと、この水の多い場所でのモンモランシー、
何よりサイトに敬愛傾倒する二人の連携にどこまであの二人が食い込めるか楽しみにしていた。








二つの月が、天の頂点を挟むようにして光っている深夜。
岸辺に人影現れた、漆黒のローブを身にまとい、深くフードを被っている。

ルイズ達も深くフードを被り準備を行う。
モンモランシーは、杖を湖に浸し、呪文を唱えた。

「コンデンセイション!」

多数の水の塊が、タバサとキュルケを襲う。
瞬時に襲撃を察知した二人は、別々の方向に散り呪文を詠唱し始めた。


速度の異なる火球が詰め将棋のようにホーミングしながら、モンモランシーを狙う。
前後左右から次々と襲いかかる火球を、モンモランシーは水の盾で消化していく。
しかし、本命は土の中に忍ばせた火球である。
流石に死角の外である足元からの炎を防げないはずだ、蒸発する煙に紛れ杖を振るった。


「モンモランシー下から来るわ」

それを敏感に察知したのはルイズである。
魔力の流れをなんとなく感じることが出来るようになった利点がここに出てきた。

「「エア・ハンマー」」

合わせるようにタバサが唱えた不可視の風槌を、ルイズが爆風で打ち消す。
すかさずモンモランシーが呪文の詠唱を行う。


「ウォーターウィップ」

触手のようにうねうねとした水の鞭が二人を襲う。
タバサは凍らせ、キュルケは発火させ、再び距離をとる。
モンモランシーが杖を振るうたびに、甘い香りが広がった。



「ちっ、なんなのよ。あいつら……」


キュルケはひとりごちながら、大きめの火球を作って行く。フレイムボールだ。
さらにそれをゆっくりと回転・圧縮させていく。
蛍のように白く、周りの温度差で陽炎のように景色がぶれている。


「フレイム・ランサー」

モンモランシーが慌てて張った何重もの水盾を次々にかき消しながら突き進む。
直線的な攻撃なので、なんとかよけることは出来たが、問題はその数が多いことである。
もし食らえば、フレイムボールのように火傷では済まずに、肉が溶けるだろう。よけるしかないのだ。

そして、よける先には氷のシャベリンが襲いかかってくる。素晴らしい連携である。


キュルケは水蒸気が立ち込め視界の悪い中から、岩陰に隠れているタバサを見つけた。
そこは、ルイズやモンモランシーが居る場所から、死角になっている。
いきなり襲撃があったのだから、何も打ち合わせが出来ていない。

逃げるにしても撃退するにしても少し話したい。
さっと隙のないように杖を構えながら、岩陰に滑り込む。
無口なタバサさがちらりとキュルケを確認すると、すぐに目線をルイズ達二人に戻す。

「どうする、タバサ。なんのために襲撃されたかは分からないけど、
一度戻って体制を立て直す?かなりの手だれみたいだし……」

そこで、ハッと気がつき岩場から離れようとした。
タバサがにぃと笑ったかと思うと膨れてはじけた。水の球が辺りに飛び散る。
勢いよく飛び散った水の塊が、肌を服を傷つける。

「いっ!!」

粘度のある水の塊でダメージを結構受けた、
視界が悪かったがよく確認すれば、まだ別の方で戦ってる音が聞こえた。
油断した?違う、なんだかこの甘い匂い……集中できない。頭がボーっとしてくる。
確かにこの水の多い場所では、火は水に弱いかもしれない。
でも自信はあったし、こっちが有利だったはずなのに…。

キュルケは、自分に迫る多数の水の鞭を見…そして観念した。
タバサなら、もっと上手くやってくれるはず、せめてもう少し有利になる様に……


「バタフライ・トーチ……」

本来ならこれを触媒に集まった熱源を操作して、様々な魔法を出すのだが単体でもそこそこ嫌らしい魔法でもある。
酸素を大量に消費しながら、ゆらゆらと炎の蝶が数匹漂っている。
目的もないかのように広がりながら、ゆっくりと草木に燃え移った。
少しでも熱源を感知すると術者以外に飛びつくのだ。そして、燃え移った先から新たに蝶が生まれ舞い踊る。
酸素が、燃えるものがなくなるまで、無差別に焼き尽くし、増えまくるのだ。
優しい炎の色と綺麗な蝶の外見に似合わずえげつない魔法だ。



「なにこの魔法、うっとおしいわね」

タバサは、蝶が放たれてすぐに周りの温度を低くし、空気を自分の周りに供給しはじめた。
ルイズ達は、消化しながらも息苦しく、動けば動くほど体が熱くなり蝶に群がられていく。
一見自分を狙ってるように見えて、こちらに向かってくる気配がない蝶もいる。
しかも、消しても消しても増えてきりがない。


「キュルケ……」

タバサは後悔していた。あれから、キュルケが魔法を繰り出している感じがない。
恐らく攻撃を受け、戦力にはならない状態なのだろう。

やはり連れてこなければよかった。そうすればこんな目に合わせなくても済んだのに。
この戦い絶対に負けられない。ここで、負けてしまえば自分はともかくキュルケにまで迷惑がかかる。
タバサは浮かびそうになる涙を凍らし、頭を冷やしていく。



「ルイズ、これじゃ埒があかないわ。湖の水で全体的に消化するわ」

ルイズ達は、湖の方向に駈け出した。
モンモランシーは湖に杖を浸し、水の壁で消化しはじめた。
全体の消化をしおえたあとに、モンモランシーは杖に伝う冷気から手を離した。

「つめたいっ」

見ると湖に薄い氷の膜が張り、杖が白く凍り始めて固定されている。
杖から手を離したモンモランシーに、氷のつぶてが襲いかかる。

ルイズは土砂を爆発で上げさせ、氷のつぶてをかき消す。
舞い上がるほこりが、薄れると同時に目の前に呪文を詠唱し始めているタバサが現れた。





「これで終わり」

タバサは確信していた。詰めに詰めた故の確信だった。
炎の蝶から逃れるには、どうしても湖の水が必要だ。
杖を固定させ、一人を無力化した後、あらかじめ詠唱していた魔法を放つ。

そして、それをよけたとしても恐らく呪文を使うはず。
よけられない距離で雪風の呪文を最大最速で詠唱し、もう一人の敵を倒す。

一度呪文を唱えたあとに、対抗するための呪文を唱える時間はない。
たった一小節の呪文の言葉すら発生させない。
例え発動したとしても、それを打ち消しながら呪文をぶつけるだけだ。



そして勝ちを確信したタバサの手元が爆発し、
先に唱え始めたはずの呪文が完成前に中断され暴発し……
薄れゆく意識の中で最後に見たのは、フードからちらりと見えるピンク色の髪の毛だった。



[18350] ■現在41 * 「ちょこれーとすのーぼーる」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:d0e6a332
Date: 2011/01/03 06:58
(……状況を確認しなくては)

敵にやられ、拘束し目隠しをされたタバサがまず行ったのは周りの状況を確認することだった。
やられた瞬間は、生き延びれるとは思わず、死とはこんなものかと思ったものだった。

死んだお父様を思い出し、お母様に詫び、未練は残りつつも、
ほんの少し心の中で、「終わったんだ……」と安堵したのだ。

しかし、まだ生きている。であるならば、私に出来ることは、そう精いっぱい足掻くことだけ…

(…杖はない。拘束はきつくないが動けばなお締まるようだ。
湖からは移動自体はしていないよう。二人とも一応無事…キュルケ……)

複数の息遣いと、キュルケのすすり泣くような声が聞こえる。私が巻き込んでしまったのだ…。
その声を聞いて冷静でいられなくなり、締まるのも構わず体をゆすった。



タバサが目覚めるほんの少し前に、比較的ダメージの少なかったキュルケは目を覚ましていた。
タバサと同様に目隠しと一緒に拘束され、転がされていた。

(捕まってしまったようね。タバサは無事?みたい…死んでいないのは、不幸中の幸いだわ。
何が目的か分からないけれど、死んでいないということはまだ利用価値があるということ。
なんとか交渉の場に引きづり込んで、隙を見てタバサだけでも…)

さわっ…

(…?へっ?うそ)

さわっ……ぷちぷち

「ちょ!ちょっと……なにおむねをさわってるのよう。
それにボタンまで外してなななななにをするつもり!?」

思いのほか響く声とあまりにも頭になかった行動に、
最後の方は尻つぼみで聞こえない程声が小さくなっていた。
服の上から胸をさわられ、ボタンが外され下着を降ろされると
たゆんという音と共に、弾力のある褐色のメロンのような胸が飛び出してきた。

「おかねならあるわぁ、ほら、じっかにもじゅんびさせる…から
めがとびでるようなおかねよ?いえだって立てれちゃうわよぅ…だから、ね?」

きゅるけが震えていたのは、何もさらされた外気が胸が寒かっただけではない。
殿方といえば、することしか考えない野蛮な動物。
何時だって胸に視線を寄せていて、上手くコントロールしてあげないとすぐ暴発しちゃうようなものだ。
それが今やきゅるけは拘束され育ちきった体をおしみなくさらしている。
今の状態ときたら、鴨が鍋にネギと軟骨入りの肉団子、
アクセントにハシバミ草を付けてやってきていつでもおいしく召し上がれ状態だ。

拘束されながらも隠しきれない色気は、さらに暴走しはじめる。
意志とは裏腹に体が上気し、しっとりとした肌が甘い甘い匂いを嗅ぐわせる。


(そしてそして、なんにんものおとこのひとたちにむりやりせいどれいにされて、
くちにはだせないような、あーんなことやこんなことされて、
どぴゅどぴゅはらまされて、ちょうきょうされてもりのおくのうらびれたいっけんやでくらすんだわぁ)

知識だけは凄い脳内きゅるけ大混乱オーバーヒート寸前で、しくしくと泣き崩れるのであった。
しかし、それも長くは続かなかった。
乱暴な手つきと繊細な手つきで感覚を乱され、細く長い幼女のような舌と柔らかい唇で責められる。

「ぁ……ぁ…っ…っぁ……」

何とか声を出さないように我慢するが、
次第に鳴き声がすすり声に代わり、嬌声に変わろうとしていた。

思い出したのはサイトのことだった。
こんなわけのわからない人たちに始めてを奪われるくらいなら…
かなり変態だけど間近で見てしまったこともあるし、不思議と大人っぽいし、
なんだか気になるし、ヴァリエールのものはわたしのものだし……

「さいと……」

無意識に出た嘆きだった。瞬間ぐちょぐちょに湿ったパンツを脱がされ口に押し込められた。
お漏らしでもしたかのように濡れ、口の中に広がる自分の味に頭がくらくらする。

「…ぁぅ……んぐ」

誰かが耳元に近づいてきて、甘い声で静かに囁く。

「さっきから、貴方の胸を揉んでいるのは、そのサイトよ?おねだりなんてはしたないわね。
そう思わなくて?キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー」

髪の毛がピンク色をしてそうな、何度も聞いた覚えのある声だ。

「え?え!?」

一瞬何を言ってるのか理解できなかった、嘆きの声も布に阻まれくぐもった音がでるだけだ。
そして耐えに耐え否定したかった快感は、サイトという免罪符によって解放された。

「ん~~♪うぅ~♪ふうぅぅうう!!!!!」

慣れた体は気絶を許さず、ルイズとモンモランシーの繊細な手つきと
いやらしい舌の動きをもって何度も何度も羞恥と快感で気をやるまで嬲り続けられるのだった。







「話がある」

タバサは誰にともない虚空に声を投げかけた。

「彼女はさる貴族のご息女、どうか最後の一線まで越えないで欲しい。
そのほうが身代金を要求するときに交渉しやすい」

生かしておくからには、それなりに利用価値があるのだろう。
避けなくてはならないのは、二人とも死んでしまうことだ。
そして、出来ることならばキュルケを守りたい。自分を犠牲にしてでも…

以前キュルケが言っていたが、男性は初めてかどうかを特に気にするらしい。
そして常に男の影があるような彼女自身も、気軽にあげる予定はないわぁと言っていたのを覚えている。
タバサ自信も積極的に読んだことはないがいくつか文献でも確認していた。
それに、裏の道を歩いていれば、その手の行為の話は嫌でも聞こえてくる。

「その変わり私の事を好きにして欲しい。
どんな行為でも受け入れるし、キュルケを今のように触りながら、
好き勝手に私を犯してもかまわない。それに……私もはじめて」

雪風のような能面に、長く付き合った人間にはわかるような羞恥の色を少し混ぜ早口でまくしたてる。
他人に欲情した高ぶりを只の穴として自分を使うようにいったのだ。
どんな変態行為にも対応するという決意の表れだった。


「おねがい」


サイトは、タバサの冷えた顔にゆっくりと手のひらを当てる。
びくりと体が動き、眉間にしわを寄せ耐えようとしているのが微笑ましい。


「きて……」

子供のような薄い唇が危うい色気を放っていた。
さて、どうするべきか……壊したりするつもりもないので、あまり乱暴には出来ない。
少し考えお仕置きと称して悪戯をして、楔をうつことにした。



「なぜ?」

タバサは頭をゆっくりと優しい手つきで撫でられていた。
お父様も、サイトも同じように撫でるのだった。
誰かも分からぬこの人も、何故こんなに優しく撫でるのか
心になにか温かい想いがわき出るのを懸命に抑え、心を冷たくしようとする。

騙されてはいけない今撫でている同じ手で、
キュルケを責めていたのだから。

それとも、想像していたよりもましなのだろうか?
問答無用で犯されていた方がよかった?……分からない。

そんな混乱しているタバサの耳元に近づき、
ルイズと同じようにサイトが甘い言葉を紡ぎだす。


「何でもしていいなんて、積極的なんだねシャルロットは」

心がざわめき立つ。どういうこと?
焦燥すればいいのか?それとも安堵すればいいのか?
彼は、彼は…サイトだった…これは、考えてもいなかったことだ。


「…なぜ?」

何故ここにいるのか?何故私をシャルロットと呼んだのか?
何故私たちに酷いことをしたのか?
何故私を撫でるのか?何故私を抱きしめたのか…?


「水の精霊に用事があったら、襲撃者が居て困っている頼まれてしまってね。
しかたなしに悪い人たちにお仕置きしにきたのさ」

それだけのはずがない…、目隠ししていてもにやにや笑ってるのが見えるようだ。
貴方は一体何を知っているの?


「離して」

「何故?」

意地悪くタバサの口調を真似して返す。

「……離して」

「確か、キュルケを触りながら、
好き勝手に私を犯してもかまわない…だっけ?」

「……それは…嘘」

「嘘つきはやっぱりお仕置きだね。
結構鍛えてあげたはずなのに、ルイズとモンモランシーに負けちゃって、
ルイズは仕方がないとはいえ、モンモンと同程度って恥ずかしくないの」

キュルケも私も元々弱くないし、むしろ一般的からいえばかなり強い部類だ。
確かにほんの少しだが理論や戦術、体さばきも教えてもらった。それなのに……
慢心も少しあったかもしれないが完璧にサイトに鍛え上げられた二人は、あれほど強いだなんて。

「……っ」

いきなり胸を触られた。触られた。
悲しいが学院の中で一番胸がないかもしれないというのに…。
よりによって、ひそかに気にしていた平均よりも発育の遅いその部分に触れられるとは。
そしていつの間にか後ろから抱きしめられ、頭をすんすん嗅がれながら触られている。

「………!……っ!!」

やめてほしい。温かいものなんてこみ上げないでほしい。
気持ちよくなんかない。気持ちよくなってはいけない。

「……っ………くない」

そわそわするような、熱いような感覚を見ないようにする。
意識を手放したいが容易に気絶してくれるようなこともない。
絶対に声を上げない、負けない。




「っ!っっ!……!!…!」

あれから、一刻程経っただろうか?それとも数分だったのだろうか。
この人は私の胸なんか触って楽しいのだろうか?
それともどうしようもないくらいの特殊な変態なのだろうか…

執拗に胸ばかり責められ、ぴりぴりとした疼きのような痺れのような
痛痒い感覚で頭が上手くまとまらない。

膨張した塊がお尻を通して伝わってくる。
後ろ手に縛られた手が丁度いい位置に当たっていやがおうにも意識してしまう。


はぁはぁと荒く息を吐きながら、どうにか体を動かし感覚を逃がそうとする。
声にならない声をあげても、終わらない。もう楽になりたい。

「……ごめんなさい」

何に謝ったのか、何が悲しいのか分からないが
一筋の涙がこぼれ、そしてとうとう気を失ったのだった。





身を整え二人が目を覚ました後に、簡単に事情を説明した。
きゅるけはショックでもとに戻らなかったし、
タバサはずっとそっぽを向いたまま気まずい雰囲気をだしていた。

そして、一言だけ「わかった」と呟くときゅるけを連れてタバサは湖を後にしたのだった。



[18350] ■現在42 * 「水の精隷」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:e26d5104
Date: 2011/11/09 09:09
きらきらと宝石のように輝く水面がうねうねと動く。
まるで意思があるように盛り上がっている。

モンモランシーの姿に似せた氷の彫像のような姿・・・水の精霊だ。

「単なる者よ、望みどおり我の一部を進呈しよう」

微笑んでるように見えるが、実際に水の精霊にしてみればただの記号。
水の精霊は人の心になど興味をしめさない高位な存在なのだ。

ピッとはじき出した体の一部をルイズは小瓶に受け取る。



水の精霊が体の一部を変質させ水に戻ろうとするのをサイトは呼びとめた。


「少し待て、水の精霊よ」


今回も水の精霊の協力を得ようと考えていたのだ・・・いや今回は従わせる名目で。
そう、何度も繰り返していれば、精霊の中でも人間に友好的な存在の水の精霊に協力関係を仰ぐという答えが出るのも難しくないだろう。
この悪夢を終わらせるために、役に立つことはあるのだろうか?
たとえば、水の精霊に殺されたらこれは終わるのか?
なにか原因や解消法を知らないか、永遠に取り込まれたらどうなるか??
そう思い何度か確かめた生もあった。


といっても友好的とはいえ存在の違う精霊、思い通りにはならなかったが・・・。
何度も死んだし、少しは有用な知識もえることはできた。
しかし、サイトがこうして繰り返しているということは、成功しなかったといえるが・・・
前回死ぬときに気になったこともある、だから手に入れてしまいたかった。
六千年よりもさらに長い時間存在してきた生物。その本当の情報を正しく得ることができたら?


新たな力を手に入れたサイトは思った、吸血鬼・人間・ドラゴン・・・魅了し屈服させ思いのままにできた。
では、精霊はどうだ?精霊を従えることはできるのか?
この新しい力は、きっと自分をいい方向へ導いてくれる。

サイトの願いは、ただひとつ・・・結末を望んでいた。


富も生も快楽も重要じゃない。数多の数国を滅ぼし、それ以上に人を殺し、その何倍もの人を救い
ありとあらゆる宝を手にし、種族に限らずいい女を抱き、この世のすべてを食べてきた男のささやかな願いだった。



ナイフで指に傷をつけると水面にそっと流し込む。
そして、ゆっくりと体を進ませ湖に足を踏み入れていく。

ルイズとモンモランシーははらはらしながら見つめている。
サイトを信じてはいるものの、もしサイトを失ったらどうしなるかわからない。
いやわかっているサイトのいない世界になんの価値がある?きっと全てを壊してしまうだろう。
どうかご無事で・・・そう心から魂から願うルイズたちなのであった。








水の精霊は、流れてきた赤い液体を体に含んだ。
そのたった数滴でわかる尋常じゃない人間の記憶。

これは全部じゃない、こんなことじゃわからない。
執着にもにた興味がわいてくる、生命と精神を操ってでも知りたい。
気が遠くなるほどずっと長い間湖にいるが、このような強い欲求を覚えたものはいつ振りだろうか。


「単なるものよ、近づくことを許そう」


その言葉を受けさらにゆっくりと水につかるサイト。
水の精霊が手を伸ばし、まるで触れれば壊れてしまう宝石を扱うように触れた。


「・・・?」


水の精霊は一瞬電撃にも似たピリッとした感触を覚えた。
しかし、それもつかの間すぐに体を伸ばしサイトを包み込んでいく。
ただの人間が水に触れ我に勝てるはずがないのだ、ゆっくりとこの人間の魂を吟味する。

そして、サイトの魂の一部に触れたときそれは起こった。


「$”%#’¥#$&%&#’#‘*@#%$%」


水面が盛り上がり声にならない悲鳴を上げる。
気の強そうな女の顔、聡明そうな初老の男の顔、聖人君子のような青年の顔、
自愛に満ちた母親のような顔、わがままそうな少女の顔、英雄を目指すような少年の顔、
まるでいくつもの御伽噺を一度に見せられたかのように形を変えながら、その本質までも変えられていく。


「あれって・・・」


ルイズやモンモランシーにも見覚えのある顔がいくつも現れたからだ。
水の精霊の記憶だろうか?サイトに触れていったい何が起きているの??

そして、ようやく落ち着いたのか誰のものでもない透き通った彫像のような顔が現れる。
青のウェーブのかかったような髪の毛がうねり、透き通ったガラス細工のような瞳が濡れて輝いている。
ヴェールのようなものを身にまとい、豊かな胸とすらりとした体が水面に浮かんでいる。

陽光を受け輝く神秘的な肢体は、なるほど人ではなしとげられない魅惑的な魅力を放っている。


「主様・・・。」


人外の力でサイトを壊してしまわないように最新の注意を払いながら、もどかしそうに足を絡めてくる。
どうやら、うまく水の精霊を凋落させることに成功したようだ。


「水の精霊よ、お前に何が起こったか説明してほしい」

「はい、主様。」


くるくると器用に巻きつき弾力のある胸を押し付けながら説明する。
世界を内包する魂の情報を幾度となく読み取らされたこと、溢れる情報に弱りきったこと、
さらに本質的に位相の高い種族は逆らうことが出来ず隷属を魂に刻まれたこと、
そのため、サイトに都合がいいように魂も体も在り方が変わったこと(おそらく位相の低い種族はゆっくりと変質していくこと)
サイトが一番知りたがっている世界の成り立ちは自分ではわからないこと、そして・・・


「・・・我が抑えきれないほど欲情しているということ」


より人間に近い感情とあるはずもない浴場を植えつけられ、きらきらとした目でサイトを見つめる水の精霊は
我慢できないとばかりに口付けを交わし、まるで人間同士のように。


「くっ・・・うぐ」


しかし、見た目情熱的な接吻とは違いサイトはおよそ人間では味わえないような快楽を享受していた。
口の中から喉の奥にかけて水の舌で蹂躙され、水の精霊がふれた肌から毛穴の一本、一本まで愛されていた。
慣れない後ろの穴に触手が入り込み、内側からぬるりとした無数の舌で犯され、
へそにのめり込んだサイトの男根をまるで極上の膣穴がうめきとカリの先端をなぞる様に締め付け嘗め回し
さらにはいんのうを口で含んだようにぱっくりと包み込みころころと転がす。


「あっ・・・あっん・・・」


一度に複数のこの世の誰もが味わったことがない攻めを与えながら、
目がとろんと惚けオスのにおいの混じる水を一滴も残さないように受け取りながら、
数え切れないほどの絶頂を受け限界が近いのは水の精霊だった。


「ぷっは・・・ぁ・・・」


粘性の高い液体を唇から滴らせながら、とさりと湖に横たわる。
まるで湖が極上のウォーターベッドのようになったかのようだ。

豊かな胸をやわらかそうにひしゃげながら水面にしなだれかかりながら、
まるで人間のように濡れ美味しそうに熟したとろとろの女陰をさらけだして誘っている。


「まったく、恐ろしいほどの技だな」


そう言い放つサイトに体から集めた精液を口を開き、ぬちゃっとした音がしそうなくらい魅せ許可をもらい飲み下す。
何度も放出した精を受けても、白濁するようすはなくさらにきらめきを増したように見える。
抱き寄せた水の精霊の体は、火照った体にひんやりと心地よく隠微な甘い香りはさらに情欲を掻き立てる。

水の精霊はひくひくと制御の聞かない体をサイトのほうに向け、
後ろ向きにまるで犬のように犯してくれといわないばかりにふりふりと突き出している。


「ぬ・・しさまぁ・・・んっ」


この水の精霊を満足させるのに、いったい何度月が交差すれば事足りるか?
極上の肢体を満足げに蹂躙しながらサイトは思うのだった。


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心配とおまたせをしてしまい申し訳ないです。
掲示板にて返答していきます。



[18350] ■現在43 * 「甘い香りの堕ちる時」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:e26d5104
Date: 2011/11/16 01:03
あの後水の精霊は湖の水かさを引かせ、小さくなり消えていった。


「我は主様とひと時も離れたくないゆえに主様の中で眠る、用入りとあらばすぐに出てこよう。
その・・・なんだ、用がなくとも・・・呼んでもいいのだぞ?」


最後のほうは小さく早口で纏め上げると、今度こそサイトの中に消えていった。
あれだけの量の水が体に収まったのに、見た目大きく変化がないから驚きだ。

水の精霊の話では簡単な水魔法であれば使えるらしい。今までも何度か魔法を行使したことがあるが、自在に制限なく使えるというのはうれしい。
攻撃に回復、応用すればいくらでも面白い効果が期待できる、触れただけで精神を操ることも可能な能力も受け継いでいる。
さらに体内に水の精霊がいることで、毒や状態異常なども完全に遮断、おそらく一瞬で粉々にするか膨大な魔力が切れるまで殺し続けない限り死なないらしい。
ますます化物に磨きがかかってきている気もするが、つまらない理由で死ぬこともなくなったため今後の展開も安定してきたといえる。


「よし、帰るぞ」


少し疲れたと着替えた後馬車で眠りこけるサイトの寝息を聞きながら、
ラグドリアン湖から帰る馬車の中でルイズとモンモランシーは少しでも心地よく眠れるようにサイトを支えるのだった。






夜になり、モンモランシーはルイズの部屋に足を運んでいた。
珍しく部屋にはルイズしかいないため、しんと静まり返っている。
部屋の扉を素早く締めると、締め切った部屋の暗さが増し動いた空気で光が揺れ動く。

テーブルの上にことりと小瓶を置く、中の液体はとぷりと蠱惑的に揺れている。
もちろん中身は解除薬で、モンモランシーが飲むために帰った後にすぐに作ったものだった。
モンモランシーは、サイトへの思いは薬による偽りだと言われ少しだけ悲しんだが、
元に戻っても必ず今以上に好きになると、そう思っている。


「こっちへおいで、モンモランシー」


薄い水色のネグリジュを揺らし、特注でお揃いのピンクのネグリジュを着ているルイズの横から、
しずしずとベッドに向かって歩いていく、歩くたびに薄暗い部屋にこぼれる光をまとい、
その姿は扇情的で、まるで絵本の中からにんげんを惑わす妖精が飛び出したようだった。

名前を呼ばれただけで漏らし粗相をしてしまいそうになるのを耐え、ベッドの上にきしりと身体を預けていく。
柔らかな羽毛に金の巻き髪が広がり、透けたネグリジュを形のいい胸がつんと押しやり、
ショーツと柔らかそうな陰毛は隠すことなくてらてらとぬめり水けを帯びて隠すべき場所は隠しようもないほど明らかになっていた。

天蓋を仰ぎ見ながら胸の上で手を軽くくみ祈るような面持ちでサイトを待っている。

きし、きし、と少しずつ歩み寄る音、気配に否応なしに期待が高まっていく。


「あんっ」


サイトの指先が足の指先に触れただけで、電流のように幸福感があふれ出す。
いきなりの刺激に驚いて、きゅっと足の指を閉じて耐えようとしてしまう。

もっと触ってほしいのに、すぐに離れてしまい、ついため息を漏らしそうになる。
サイトの伸びた指先は太ももをつたい、腰骨までわたっていく。
甘い痺れに翻弄されながらぴくぴくと体を痙攣させる。脳みそがとろけてしまいそうだ。


「んっ・・・お願いします、もっと・・・」


はいよる指先は、モンモランシーを頼りないながらも守っている牙城に手をかける。
喋々結びをしゅるりと紐解けば、そんな牙城もまるで海辺の砂の城のようにほどけるのだった。


「ほぅ・・・」


ため息ひとつ、腰を浮かし意味をなくした布切れが取り除かれる。
じらすつもりはないらしい、すぐに濡れそぼった入り口に入っていく。
何度もサイトの形を覚えさせられた中を脳髄が焼切れるくらいかきまぜられてしまうのか?

かりっ・・・かりかり。


「あっ・・・え?」


甘いような痛いようなぞわりとしたしびれがモンモランシーの身体を駆け巡る。
あるはずのないもの、奪っていただいた膜が水の精霊の力で元に戻っていた。
また、刻み付けてもらえる喜びにきゅっと指をしめつけてしまう。


「あっ・・・はぁ・・あっん」


ほっそりとした脚を広げながらサイトを受け入れようと身体を動かす。
入り口に押し当てられた剛直をひくひくと迎え入れ、とどめを刺されるのを今か今かと待ち構える。


「モンモランシー、これをお飲みなさい。そして、本当の幸せを手に入れるのよ」

「ええ、ありがとうルイズ。今までもずっと良くしてくれて・・・これを飲んだら元に戻ってしまうのね。
でも、またすぐ私たち仲良くなれるわ。戻ったわたしによろしくね」


大輪の花のような笑顔を浮かべ、形のいい喉をこくりこくりと動かしながら小瓶を開けていく。
少し苦みのある味は次第に意識を元に戻していく。意識が薬を飲む前の自分が戻ってくる。




「けぷっ」



可愛らしい吐息と共に、花のような笑顔が固まり赤く可愛らしく火照っていた顔からさあっと血の気が引いていくのが分かる。
空気を求めるようにパクパクと口が開く。嘘・・だれか嘘だって言って。
周りを見渡す、ルイズが優しく笑っている。全部忘れていない覚えている。
どうしてこうなったのか、今まで何をしていたのか、そして、これからどうなるのか・・・



「あっ・・・あ・・いや!!いや!!!やだ!!!!ぬいて!!!!やっ!!!
なんで・・・やだっ!!!こんなことってないわ!あんまりよ!!!」


叫んでも無駄なことは分かっている。念入りにサイレントの魔法をかけたのは自分だ。
もうどうしようもないのも分かっている身体にしみ込んだ快楽・幸福を忘れられはしない。
学園での今までの生活だって、もう変わってしまった。戻れない、戻れない・・・。
純潔も淡い思いも貴族の尊厳も何もかも蹂躙されてしまうのだ。

もう何もかも手遅れなのに分かっていても理不尽な行為に叫ばずにいられない。


「あっ・・・あっ・・・動いて、動いてよ・・・なんで・・・なんでよぉ・・・」


先ほどから無駄と分かりつつ身体を動かそうとしても自分の意志とは裏腹にひとつも動かない。
水の精霊の力で、モンモランシーはもう自分で逃げることが出来なくなっていたのだ。

ルイズが耳元に近寄って声をかけてくる。

「さあ、モンモランシーこういうのよ。『わたしはこれからサイトに純潔を散らして貰い』」

「わ・・たしは、これから、ヒック・・・サイトに純潔を散らして貰い・・・やだ・・いわせないで・・・言いたくないわ。
おねがいルイズ・・・それ以上私に言わせないで」

「『永遠にサイトのものになることを水の精霊に誓います』・・・ほら」

「え・・いえんに、ううっサイトのものに・・・ぁぁ・・・なることを水の精霊にちか・・・・・・・・・います」


水の精霊の誓いだなんてなんたる冒涜・・・ああでももう水の精霊もサイトの・・・
かぶりをふって否定しようにも体も動かない。目を背けることも目をつぶって忘れることもできない。


もうあきらめて楽になってしまいたい・・・。


身をゆだねてしまえば・・・あとは、もう・・・転がり堕ちていくだけ。





「さあ、もう一度元気よくね、モンモランシー」


涙を伝う瞼に優しくキスを落とすルイズ。


「わたしはこれからサイトに純潔を散らして貰い、永遠にサイトのものになることを水の精霊に誓います」


すらすらとよどみなく言葉が口から出てくる。泣き笑いのような笑顔が浮かんでくる。
ぐぐっという音と共にめりめりと飲み込まれていくのが分かる。
シーツを握りしめ、足先をピンと爪立たせ痛みを逃がそうとする。


「ぐううぎぎひぎいいいぃぃいいい!!いたいいたい!!いたい!!!!!!あっ!!あっあ!!!
や!!いやああああ!!んんぅ!!ぁ!!!いや!!あああああーー!!」


痛くて幸せ、絶望に堕ちて幸せ。


「ぁ!あっ・・あん!!あん!!わったし!!しあわっ・・あっ!・・せにっ!!なっちゃうううういいいいい!!
サイト!!サイト!!!あっ!!!あっ!!!!あっあっ!!!!!!」


激しい痛みも最初だけ温かいサイトの治癒魔法を受け、慣れ親しんだ感覚にすぐに涎を垂らす。
諤々と腰を動かしながら気持ちのいい位置に誘導される。
脳が馬鹿になるくらいの幸福感に自分を抱きしめると、ルイズよりは大きいものの小ぶりの胸が、
くにゅりと形を変えて盛り上がりたぷたぷと揺れに合わせて動いている。


ぐりぐりこつこつと奥の奥の弱いところまで突かれていく。
小さく狭かった膣も押し広げられ、ぱっくりと飲み込みやさしく中の熱い肉を撫で上げる。
未完成の美しいからだが珠のような汗を散らばせ跳ねあがる。
何度も白い光を頭に感じながら、失神することも許されない。時間が分からなくなるような狂おしい宴が夜が明けるまで続くのだった。









朝を迎えモンモランシーは、ひんやりとした廊下を自分の部屋に向けて歩いていた。




廊下を歩く窓の外にいつかの景色のようにギーシュ・ド・グラモンの姿が見える。

黄色い歓声を受けつつも真面目に鍛錬を行う姿を懐かしそうに名残惜しそうに目を細めて見つめる。







その視線もすぐに伏せ、別れを告げるかのようにゆっくりとその場を立ち去っていくのだった。








[18350] ■現在44 * 「王宮の調べ」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:e26d5104
Date: 2011/12/12 04:34
リッシュモンがアンリエッタに従わされ、王宮から急なお触れが発せられてから4の週が過ぎようとしていた。

税率が上がることに平民から大きな反発はなかった。
逆に伝統としきたりに固執する貴族から、魔法の恩恵をわざわざ平民に還元するなど愚の骨頂など意見もあったが、
マザリーニやリッシュモンが御しているせいかすぐに沈静した。ヴァリエール家の後押しも大きいといえる。
アンリエッタは領地の運営と並行する形で各施策の義務化を貴族に命じた。

さらに今学院では魔法だけではなく、マナー・教養・道徳など少しずつ教育を見直すようにしている。
すぐに変わるわけではないが、やらないよりはましだろう。今までが魔法に特化しつつも貴族の子息ということから歪すぎたのだ。



そして瞬く間にトリスタニアの町並みは大きく変わっていた。
銃士隊を交えての清掃業は町の治安と衛生環境を大きく向上させた。
突貫ではあるが街道は少し広がり、町の中心には温水施設、医療施設が建設された。

現代的な外科はないが、大きく死亡率が下がり平民に喜ばれたことはいうまでもない。
包帯などの理療器具や薬なども充実していく、特に魔法と医療道具を組み合わせたものが優秀で、
この経験は戦時にも大きく貢献するとみられている。

医療についてはケーキを食べ社交に身を費やし飾り立てることが好きな貴族の女性たちに比べれば小数だが、
女性貴族が積極的に参加することも多い母性なのか強かなのか図りかねるが先見の明があるのは確かだ。


町の外には、白を基調とした日干し煉瓦に似たものが練成され各町に続く道が少しずつ整備されていく。
道とともに治水がなされていき、乾燥した土地に対する不安も解消されつつあった。
いつだったかマザリーニは煉瓦の耐久について、アンリエッタに苦言したことがあった。
アンリエッタが考えた煉瓦の作り方では、長くて5年しか持たないため時間がかかってももっと強度を上げるべきではないかと。
アンリエッタ、いやサイトが進言した煉瓦はある程度もろくなるよう考えられていた。


「長くもたない、壊れてしまう、また街道を整備しなくてはならない。
・・・だからこそいいんじゃないですか枢機卿」


マザリーニはそれ以上言葉を継ぐことは出来なかった。



武具に始まり生活器具、はては農作物の改良まで次々と向上され便利になっていく。
大量生産とはいかないまでも、効率的な生産が可能になっていた。
マジックアイテムにも力をいれ異世界ならではの発明も行っている。なにせ6千年分の研究の成果があるのだ。
成功したなかでも勝手のいいものを採用していくことにしている。


各隊は棒(火)、剣(風)、杯(水)、硬貨(地)を模った腕章を掲げ、
切磋琢磨し競い合うように王宮の掲げた方針に沿って仕事を進めていく。
不正を行う暇も旨みもなく、仮に起こしてもすぐ発覚してしまうぐらい徹底されていた。
戸籍についても順調に調べられ、税の徴収もうまくいっている。現状を把握することが大切なのだ。
何が出来て何が出来ない、近代の視点で見るとまだまだ足りてない部分も多い。


貴族のしてのあり方に固執しすぎ、沈みつつあったトリステインがアンリエッタの絶対君主という形で浮上しようとしていた。
サイトからすれば緩やかな改革ではあったが、ハルケギニアでは考えられないような斬新で大胆な施策がなされていった。
ひとつ、またひとつと恩恵をもたらすたびに異を唱える貴族はいなくなっていた。

これらは種が割れてしまえば真似れるようなそんなある意味では稚拙な施策でもあるが、
内政は緩やかに無理なく、気がつかないうちに浸透してさせ進めることが重要でもあり、
どの国でも取り入れ利用したくなるようで、それでいてほんの少しだけ他国より優位にたてる位置こそが大切なのだ。

起こる予定のある戦争はともかく、それ以外は数十年は雇用が溢れ戦争を起こせず、どの国でも内政を整えなくては仕方がない状況にもっていく。
そして無理に技術レベルを上げない、貴族と平民のあり方は変えない・・・それが何度も繰り返し得たサイトの結論である。
場違いな工芸品などを利用し現代の技術の記憶を頼りに技術レベルを上げ時刻を強化しすぎたり、
貴族と平民の垣根をなくしてみたり、貴族という概念を大きく変えても、悲惨な結果にしかならなかったからだ。








「んっ、んくっ、っ、ふぁっ…」

ロイヤル級の豊かな柔らかい双球をサイトの胸板に押し付けて、首筋に口付けを落としている。
夜の魔性のようなねっとりとした色香は落ち着き、昼の聖女の顔と混ざり合ったような慎ましい奉仕を行っていた。

短く揃えられたスミレ色の髪の毛を撫で付けられ耳元に指先が触れるとくすぐったそうにしている。
王宮御用達の仕立て屋が生涯をかけ完成させたような極上の肌触りの脚を絡めやわやわと肉棒を刺激している。
王宮の施策、今後の方針をまとめた紙を見ながらサイトは寝物語を語るようにアンリエッタを教育していた。
アンリエッタにとって、どの話もとても興味深く一言一言をスポンジで水を吸収するように得ていく。

「んうっ」


尻肉を柔らかくもまれ、ふうと息を吐きながらサイトの腕に頭を乗せる。
すんすんと鼻を鳴らし首筋に押し付け、匂いを嗅ぐ。
とろとろに溶かされた身体は心地よい疲労とそれ以上の充実感をもたらしていた。
いつも不思議なのだがサイトと交わるたびに活力のようなものが沸いてくる。


ルイズたちには無理を言って二人きりにしてもらっている分がんばらなくてはと思う。
今だけはただの町娘のように、全てを忘れ全てをゆだねれる人がいる。
こんな気持ちになれるなんて、本当の幸せはここにあるのだって。
サイトさんのためならなんだって出来る、わたしは何処までも上り詰める。
でも、その前に・・・


アンリエッタは胸に、腰に、脚にキスを降らし剛直を口内に納める。
我慢できなくなってしまったのだ。


「んふぅ、んちゅうっ。ひもひいでふか?いふでもだひてくださいまし」


じゅるじゅると吸い込みながら、こっそりと脚に高まった火照りを擦り付けているがばれているだろう。
喉でしごき鼻で息をするたびに脳が焼け切れそうなほど幸せを感じる。

ずちゅっずちゅっ。ずっずっずっずちゅ。にゅくっ。ぬぷっ。

ゆれる炎、重なる影、部屋に響く音が速度を上げていく。
激しく頭を動かしながら、舌を滑らすように巻きつかせるように絡ませる。


「ぷはっ…んっ、乗るん…ですか。はぃ…」


ぶるんと両胸を期待で膨らまし、片手で押さえながら肉棒に指を添えて腰の上に立つ。
肉ひだが先端を咥えるだけで、こぽりと自分でも分かってしまうくらい溢れてしまう。


「ふぅぅぅうううぅぐうう」


最初はまるで口付けを交わすように入り口で甘く包み込み、
ぞるるっとナカを押し開くように一気に腰を落とす。きゅうきゅうと締め付けてしまい喜んでるのが分かる。
そのどうしようもない圧迫感と隙間の埋まった一体感に背中をのけぞらした。


「がっ、ぁ!あはっ!!ぁっあっいい…」


ひざ立ちになりながらゆっくりと前後に動かすと、陰毛とクリがすれてしびれるような甘さがひろがる、声が漏れる。
涎がたれそうになりながらも、すぐに奉仕するためにベッドの弾力を利用して跳ねる。
腰をゆすり踊るように円の動きでくねらせ刺激していく。足の指を快感を逃がすようにぎゅっと握る。
何度もイキ過ぎて少しでも気を抜くと気絶しそうになるのを舌を噛みながら耐え動かす。


じゅくじゅくたぷたぷずちゅ…ぬちゃずちゅっずちゅ……


いきなり乱暴に押し倒され犬のように四つんばいにされる、枕にほうけた顔を押し付けられ息苦しさを感じる。
どうやら本気にさせてしまったようだ・・・。
期待するように尻を高く掲げれば、すぐ愛液に濡れそそり立つ肉棒をねじ込まれ乱暴に腰を動かされる。
一突きごとにイッてしまい、飛沫がぴゅっぴゅと布団をぬらしていく。

酸欠になりそうになれば、後ろ手を引かれ背をそらし姫乳をぶるんぶるんと揺らさせられる
無遠慮に犯され、痛いくらい揉みしだかれ、ちぎれるほど乳首をつままれる。
玉のような汗が飛び散り、つかまれた手首は赤く染まり、指は虚空をつかむ。



「あーーーーっ、あっぁっ、あああっ、はぁああああーーーーーーっ」


叫ぶことでしか快感を逃がすことが出来ない。
ときたま声も出ずにひゅーひゅーと息が漏れるばかり、
何度でも死んでしまうくらいの歓喜をもたらせられ、白い光に迎えられる。

もう無理と逃げようとするたびに、腰を引き戻されさらに責められる。


(死んじゃう…また死んだ、おねがい……お願いします。もう許して)



「は……ひぃ……はぁっ、はーっ、はー…ぅぁ…ぁ……いぃ……」


後ろからに満足したのか、今度は寝転がされる。
いやいやと両手で顔を隠し首を振るが、すぐに手を頭の上に押し付けられる。
そしてばちんばちんと胸をたたかれるたびに、被虐心と倒錯感が交じり合い言いようのない事実をつきつけていただける。





アア、ワタシハコノヒトノ、モノ






どのくらい耐えただろうか一段とサイトの肉棒が大きくなりもうすぐ来るのが分かる。
アンリエッタは不意に腰をつかまれ一番奥の子宮口まで貫かれた。アンリエッタの脚はサイトの腰に絡み抱きつく。
強引に頭を抱き寄せられ、血が滴り傷ついた舌を撫でまわされる。



「あ…くぅ…。あぁ…、ぷはっ…」


どぴゅるるる。どぴゅぴゅくくっ。どぴゅるるるっ。びゅびゅーーっ。

精液が収まりきらずにあふれ出てる。最後の一滴まで絞りとってから意識を失い倒れこんだ。
全部出し切った一物をひきぬくとこぽりと溢れてくる。
精液と愛液で濡れた愚直を胸で拭き、精液拭きだとでもいうように唇と頬になすりつけ、充実感に笑みを浮かべながら寝転んだ。






蒸し暑い空気が二人に纏わりつく、トリステインの夏が近づいていた。



[18350] ■現在45 * 「不自由な選択」
Name: 紫陽花◆caa3c2fd ID:08063534
Date: 2012/08/26 07:20

石造りの王宮にかつかつと靴の音が響く。
靴の音を奏でていたのは、カリーヌ・デジレ…ラ・ヴァリエール公爵夫人その人であった。
簡素ながら一つ一つが格式の高い素材で作られたドレスを纏い早足で目的地に向かっている。

夕暮れ時の日の光の差し込む窓辺を覗き見ると、
ひところとはまるで変わった城下が見て取れる。
そして、ふと物思いにふける。

マザリーニ枢機卿をもってしても変えることの出来なかった国を
誰もが考え付かなかったような斬新な政策をもって嵐のように塗り替えたが、
娘とそう年の変わらない皇女アンリエッタだと知ったときには、
どの系統魔法にも属さない魔法でも見せられたかのような衝撃を受けたものだ。

ドロドロとした宮廷争いの末に操られたか、はたまた何者かが暗躍しているのか
マリアンヌとも話合い調べに調べたが結局は白、何も出てこなかった。
愛し変えれなかった国を立て直した皇女には、尊敬のまなざしを禁じえない。

その皇女が、夫である公爵ではなく自分を私室に呼ぶ。
いったい何事だろうかっと少女時代を思い出し、期待に目を細めた。




私室前の兵が扉をあけ、促されるように中に入るとそこには末娘が控えていた…ルイズである。
宮廷つきの付き人になったとも聞いていないが?と驚くのもつかの間ルイズが口を開いた。


「お母様、アンリエッタ姫が奥でお待ちです」


戸惑うまもなく大鏡に迷いなく入り込んでいく。
少し感じた違和感も些細なことだ、娘のあれやこれやは話の後に聞けばいい。
いやもしかしたら今回のことも何かしら娘がかかわることかも知れない
親子に二代に渡って姫に仕える…かと優しい笑みを浮かべるもすぐに首を軽く振り、
カリーヌは姿勢をただし娘の後に続いていったのだった。












・・・そして目の前に広がる光景に唖然と立ち尽くした。
部屋の中央の天蓋つきのベッドに腰掛ける少年、部屋の奥に杖を突きつけられて立ち尽くすアンリエッタ皇女、
離れて反対側に同じように杖を突きつけられている愛娘のルイズ…


「なっ…」


何をしているとも、何の冗談かとも口にする前に首筋に杖の感触を感じた。
不意打ちっ!実践を離れて長いがこうもたやすく捕らえられてしまうとは己を恥じる以外ない。
しかし、まだすべてをあきらめたわけではない…この土壇場に来て神経が研ぎ澄まされていくのがわかる。
巡るめかしい展開だからこそ、冷静に窮地を乗り切る。
マンティコア隊を率いていた烈風の名に恥じないよう。


姫が捕らえられているのは利用価値があるからに違いない。多少無茶をしてでもすぐに殺されることはないはず…
どのような意図があるのか分からないが、殺されないことは自分にも当てはまる…とすればここで動かないのは悪手だ。
隠してある奥の手で少年を捉えれば交渉できるかもしれない、最悪刺し違えてもいい…自分がいなくなれば誰もが異変に気がつく。
ようやく変わり始めたトリステインを荒らされてなるものか。そう、今こそ殉ずる思いを勇気に変えて…


「何を考えているのか分からないけど、それ以上無意味なことは止めてもらおうか」


しかし、その決意に水を差すように
声変わりし始めるくらいの少年のそれでいて低く脳に響くような声が部屋に響いた。
カリーヌは言葉では答えず全体の気配、隙をうかがう。


「魔法はおしゃべり駄剣で無効化出来るし…それに」


鞘の中から、相棒ひでぇや…と愚痴が聞こえる。
それが嘘か真か分からないが真実だとしても試してみなければ分からないではないか
目の前の少年を睨み付けるが、不思議なことに王よりも王らしく威厳があり指先ひとつの所作さえも魅力的で目が離せない。


「太ももに隠された杖なしでは魔法も使えないだろうからね」


「えっ?」


(しまった!!)


年甲斐もなく杖を突きつけられているのも忘れ自分の太ももに触ってみる…が、ない。
少年はベッドに腰掛けながら薄暗がりの中、見覚えのある杖を弄んでいる。
まるで皇帝が家臣への悪戯を成功させてそれをばらす時のような笑顔を浮かべながら。


「残念ながら刺し違えて殺すのも無理なんだ」


そう笑顔のまま、杖を振るうと少年の左腕を切断するように鋭利なガラス面が現れた。
魔法で覆われて血の一滴も飛び散らない切断面を見せ付けてくる。
笑いながら腕を元に戻すと魔法がかかり何事もなかったかのようにくっついてしまった。


「水の精霊と契約してるから、毒も刃物も効かないって訳」


ぞるりと少年の影から水のような人を形作ったものが浮かび上がり自分と同じような顔を現した。
矢継ぎ早な展開に思考がついていかないが分かったことがある。
それは、こいつらが正気を疑うくらい常軌を逸していて手に負えないってことだけだ。
この場でなければ、立場がなければ、神の奇跡として平伏しているところだ。


「それで……いったい何が望みなのです」


搾り出すように震える声を隠して問いただす。


「何もかもさ」


値踏みするように目線を向けられても不思議なことに不快に感じない。


「姫を捕らえたのなら王宮は貴方の物でしょう、貴族だってこう事を荒げずとも従っています。
それだけの力をもってすれば、黄金の未来は容易く掴み取れるでしょうに…
私にいったい何を望んでいるというのですか」


サイトは知っていた。
未来なんていうものは蝶の羽ばたき一つであざ笑うかのように変わるものだし、
運命なんていうものは残酷で、よほどの事がない限り詰んでいる正史のトリステインの結末よりもひどいものだと。
結局未来は変わらなくとも、退屈を紛らわすにしても、たとえまた繰り返すことになろうとも

準備しすぎるということはないと、ぼそりと呟いた。


「鋼鉄の規律が…いや、烈風カリンが欲しい」


カリーヌは真っ直ぐな瞳で見つめられて、くらりとし顔面が紅潮するのを感じた。
生娘でもあるまいに、と勘違いしそうになる自分の心を嗜める。
烈風カリン…いったいどこで調べたのか、まったく思考を放棄したくなる。


「改めて言われずともそれほどの力の差を見せられて私は屈服しております。
貴族等ももはや私の名前なくとも今の王宮に逆らおうともしないでしょう。
それを烈風カリンの名を持って誓いましょう」


抗うにしろ受け入れるにしろ、時間が欲しい。
それに、今すぐこの場所から逃れるべきと部隊を率いていたころの感が告げるのだ。


「耳障りのいい言葉はいくらでも吐けるな……脱げ」


無礼とも、夫がいる身とも言えなかった。
ここまで用立てられて逆らうことの意味があるだろうか。
恥辱にまみれようとも耐え抜き、この悪魔のような少年をどうにかしなくてはいけない。

頬杖をつきながら見続ける娘と同い年頃の男を前に睨みつつもするするとドレスを脱いでいく。
静まり返った部屋に衣擦れの音だけが響き渡る。


蝋燭の炎の照りかえる中、下着姿になったカリーヌの姿があらわになる。
自身の髪の色よりも淡い染物のレースの下着が平均よりやや小さめの胸を隠している。
布の小さめな同じ色のショーツには意向を凝らした百合があしらわれている。
すらりとした長身からなる長い脚は、眩く光る白い絹のガーターストッキングが包み込み
それを抑えるガーターが全体を魅力的に纏め上げていた。

夫にしか娘にすら晒した事のない下着姿に羞恥を感じ少年から目をそらす。
子供を三人も生んだとは思えない、衰えるわけでもなく若さからくる硬さが取れた肌に
鍛えてるためかしなやかに磨き上げられた理想的な極上の身体がそこにあった。


目を細めたサイトが続けて言う。


「そんな所にいないでこっちに来い」


ベッドに足をかけると、まるで断罪へと向かうべくようにぎしりという音が無常にも響く。
まとわりつく周りの視線が気になって仕方がない。


「せめて…人払いを」


自分の思ったよりも弱弱しい声に、これが烈風と言われた女かと自嘲する。


「駄目だ」


当たり前のように受け入れられない意見に諦めたようにベッドに横たわる。
本当は薄布に包まり身体を隠してしまいたいがそれも適わない。
意を決し、どうぞとでもいうように目をつぶり今か今かと待つ。

布越しに足先に触れる肌が熱い。


「まったく…何を勘違いしているんだ、カリーヌ
何もせず、そのままで男が満足できるとでも?」


呆れられたように言われ、何度目か分からぬ羞恥に顔を染める。
だというのに普通であれば、三度殺しても飽き足らぬような殺意すら沸かない。
耳元で嘆かれただけで、脳が甘く揺れいつもの調子でいることが出来ないのだ。

しかし、勝手が分からないのだ。

生来の勝気さで素直に甘えることも出来なかった。
今までは下着姿で薄布から少し顔を出し夫の名前を呼べば、荒々しくも優しく甲斐甲斐しくしてくれていた。
娘に伝えてある殿方に任せておけばいい、それは別に比喩でもなくまったく自身にあてはまるからだ。


「そうだ、そうだったな」


全てを見透かした言葉に安心し、あとは身をまかし嵐が過ぎるのを我慢するだけ。
そう思った矢先に信じられない言葉を告げられる。


「手か、口か、下か…選ばせてやる。屈服したという言葉が真であれば出来るだろう?
そうだな、それだけじゃ面白くないな…そうだ、あの大き目の蝋燭、燃え尽きるまで二刻程か
あれが尽きる前に一度でも射精させたら認めて開放し、この国から手を引こうではないか」


聞きたくない…気が進まないが、聞かなくてはならない・・・


「・・・もし出来なかったら?」


「その時は、アンリエッタ姫を犯して孕ませる」


内外からの圧力で疲弊した国を支える唯一の皇女が出所の分からない子を孕む。
それだけで混乱し最悪崩壊もありえてしまう…
さらに言えば万が一子を産む場合、後継者問題に発展する。
こんな事をしている場合ではないのに、争いが発生すること間違いない嫌らしい手だ。


(そんな事、了承できるわけが…)


守らなくてはいけない、姫を、娘を、そして国を!


「それより、いつまで呆けているつもりだ!まずは服も脱がせろ、丁寧にな
まぁ、それも出来ずに火が燃え尽きるまでそうしていても構わないがな」


カッと憤怒で顔が熱くなる、平民のように召使のように娼婦のようにしろと
どこまでも尊厳を奪い平伏させようというのか!!
唇を痛いほどかみ締め血の味が口に広がる中、丁寧にボタンを外し服を脱がす。
だというのに少年が時折悪戯に胸や肌に触れるのを拒むことが出来ない…むしろ


「出来・・・ました」


年の割に鍛え上げられた胸板に下を覗えばそそり立つモノがちらりと見えた。
親ほども離れた年月の自分の身体に興奮しているなんて少年も業の深い、が
それも好都合だ、一度出してしまえばきっと…だから手で・・・


「うっ…くぅ・・・や、やめ」


緩慢な動きで剛直にふれる手を強制的に動かされる。
握る手のひらに伝わる温度が熱い、あつい、あつい
少年の指が触れるたび、胸やうなじや肌にまるで媚薬でも流されたかのように電流が走る。


(何一つ、何一つ、上手くいかない。どうしてこんなことに)


手を動かすと同時に息が漏れる。
抑えきれない熱がショーツを汚し脚にたれるのがわかる。
こんなはず、いやなのに、なんで・・・


「さわ…らないで…おねが・・・いやぁ…あっ・・・ぁっ」


教え込まれた手の動きを追従するようにますます熱がこもる。


「おいおい、手伝ってあげてるのに酷い言い草だな。
こんなんじゃいつまでたっても終わらないぞ
そうだショーツを脱いで巻きつかせてみたらどうだ?」


そんな酷い提案ではなくて命令してくれればいいのに、
そのまま何もせずにいられるなんていう都合のいい選択肢はない。
緩急をつけて手を動かしながら、自身のショーツをのろのろと片手で脱ぐ。
ぐっしょりと重みを増した布を膝立ちの脚から抜き去り熱の塊に巻きつける。
水気を吸った布のおかげでさっきよりも動かしやすい。


「はぁ…ぁ…はっ…んっ」


布の取り払われた秘所から水が滴って気持ち悪い。
拭っても拭ってもあふれて来るのだ。だから仕方がないのだ。


「ほら、お母さんの頑張りを姫も娘も見ているぞ」


悲しみの視線は感じていて気がつかない振りをしていたのに
やめて、それ以上見ないでくれ…声にならない悲鳴をあげる。
厳格な母親が烈風カリンの威光がぼろぼろと崩れ去っていく。
何よりも自分の心が否定し、そして拒否していないのだ。
そしてどうしようもなく甘美な心地よさに身を委ねて、触れるだけで何倍も幸せなのだ。


(そんな…あぁ…)


耳元で辱められた言葉に脳が揺れた。そして…
こんなことが・・・何倍も心地よいと、何倍も幸せだと




それは・・・誰と比べて??




(ああ…そんな・・・・・・ごめんなさい・・・あなた)




それに気がついた時、カリーヌは手を動かすのをやめ座り込んでしまった。
背徳だった、ぐずぐずに腐れきった甘い果実。
知って屈服したのだ、この王たる少年に・・・



「あーあ、仕方ないな、口をあけて」


言われた通りに口をあけるとぷっくりとした肉が口の中の薄い粘膜を引っかく
抵抗し舌を絡めるのも構わず蹂躙されえづくほど喉を衝かれても
身体が跳ね上がり脳裏に火花が散るほどの快感と、使われる幸福感が広がるだけ。
触れるのみで幸福になるだけではなく、快楽を伴う水の精霊の媚薬が流し込まれる。
進化したサイトの力は、人間にとって毒を超えた抗いようのない劇薬だった。


「はふ、ん……んむ」


カリーヌは涎を零さないように口いっぱいに頬張りながら賢明に頭を動かす。
ずずずじゅるじゅりゅると吸い込みながら喉を犯され、
離れるときは先端に舌を絡ませ巻きつかせる。
もう頭を押さえつけられなくても教えられたとおり出来るのだ。


「んぅ…ちゅっ…ん、あむ、じゅ、じゅる」


ちらりと蝋燭を見るともう半分まで溶けてしまっていた。
このまま口でするか、それとも…
それを私は選択することが出来る。


「っぷはっ…少年、寝転がってくれ」


国の為に少年には射精してもらわなくてはいけない。
片手で少年のモノに手を添えると膝立ちから腰をおろして行く。
白く泡立つ秘所の入り口は、まったくほぐされていないため進入を拒んでいる。
にも関わらず心が急かすように早鐘を打っている。


「んんんっ・・・あは♪」


ぎちぎちぎちみしりと無理やり腰を沈めてみれば、
まるで自分の心のように拒んでいたのは最初だけ、その後は容易に受け入れていた。
優しく導かれる手の動きに沿うように腰を前後にゆっくりと動かせば、
稲妻のような快感が潰れた小さくぷっくりと膨らんだクリトリスを通して与えられる。
入れただけで達してしまったため、ゆっくりと動いていたが
それも許されず直ぐに上下への激しい動きを強要される。



「あぁっ、は、はっ、……ぁぁっ!!っっ!!!!」


一突きされるたびに意識を飛ばすほど達し、息も出来ないくらい脳髄に甘い痺れを覚えさせられ
壊れるくらい無茶苦茶にされるほど身体を差し出しても、水の精霊がコントロールしているサイトの身体は射精には及ばなかった。


「おねがっ…いっ…、中に!!中にだしてくれ!!!もうっ…、イきすぎてっ」


死んでしまうっ…
快感に絶えるように頭を振りながら、涙を流し懇願しても少年をいかせられない。
ちらりと視線の先に目をそらし泣いている愛娘ルイズの顔が見えた。ああ、私は・・・


「ああ…ルイズ、愛しのルイズ・・・傍に」


・・・・・・
自分の希望で、水の精霊によって記憶を一時的に改変され穢れのない身体に戻ったルイズは、
悲痛な母親の声に首筋に添えられた杖を振り切り寄り添った。


「お母様・・・」


自分が召還した平民のサイトに尊敬する母の誇りも尊厳も踏みにじられたのだった。
虚ろな目をする母親を抱きしめることしか出来ない不甲斐ない自分に涙した。
戦い抜いた母親をいったい誰が責められよう、ただただ慈しむように抱きしめた。

カリーヌも求めるように愛娘であるルイズを抱き寄せて







そして、カリーヌはルイズをサイトの方へ押し倒した。







「えっ?」


力も絶え絶えに桃色のブロンドの髪を母親の手によってつかまれる。
弱弱しい動きにもまったく逆らうことが出来ない。



「うそ…え!?お母様???」


顔がどんどんサイトのモノへと近づいていく。
カリーヌの中に包まれ汚された剛直が頬に擦り付けられていく。


「やだ…いやっ…お母様!!やめて、おねがい!!んぶっ!!!うぐぐっ…」


記憶を変えられても一度口にしてしまえば
身体が覚えているのか、心とは裏腹に鈴口の奥まで穢れを吸い取っていく。


「じゅちゅ…ちゅるる・・・ぷはっ!!そんなっ・・・お母様」


非難に満ちた声も背徳も禁忌すらも、ぞくりとカリーヌの背筋に甘い響きを与えるだけだった。
抵抗の弱い娘のショーツを乱暴に剥ぎ取りベッドに転がすと両手を抑え込んだ。


「さあ、少年。ヴァリエール家の末娘、少々華奢だが王族にも引けをとらぬ美しさだ。
厳しくも自分の命よりも大切に育ててきた愛しいわが子を捧げる。どうか抱いてやってくれ」


国の…いや少年の為に全てを捧げるのだ。それがひいてや国のためになる。
カリーヌは、いまや正しく狂っていた。そして筋書きを書いた娘は鳶色の瞳を闇に沈ませていた。


「おかぁ…さま、いた…痛いのっ……裂けるぅ、やだ、やだ・・・どうしてっ」


みちみちと無理やり抉じ開けられた膣口は、二度目の破瓜に血塗れ歓喜していた。
どうしようもなく幸せを覚えさせている奥、子宮の奥の奥は記憶を塗り替えただけでは隠しようもなく。
快感と幸福感に覚えた腰の動きは、水の滑りと響く水音を巻き込みかき混ぜられていく。


「助けて!おかあさまっ!!どうしようっ…ぁっ、痛かったのにっ!!痛かったっ筈なのにっっ!!!
さいっこうに!あふっ…んっ、きっもちいいのっ!!!!」








蝋燭はとうに熔け、少女が偽りの記憶から目覚めるまであと一寸。



[18350] ●過去12 「童話病」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:08063534
Date: 2012/08/31 00:15
ふぅ、何度目か分からないため息をつく。
アンリエッタの薄いブルーの瞳は深い憂いの色に沈み込んでいた。

想いを寄せるアルビオン王国の皇太子ウェールズ様は、
恥知らずな貴族によって潰えるのも時間の問題風前の灯となっていた。
お飾りな自分では、なんの手助けも出来ない。

それどころか、ゲルマニアの誰ともわからぬ方のもとへと嫁がなくてはならない。
何もかも知らない場所で進み決められていく…
皇女とは名ばかりの自分の行く末さえ決めることが出来ない籠の鳥。

わたくしの人生とはいったいなんであったのでしょうか?
あの湖での夢のような思い出だけが、唯一宝石のように輝くだけで。


(ああ、誰かわたくしを連れ去って、物語のように!)


ふぅ、歌劇のように気持ちを込めて両の手を組んで神に祈ってみても静寂が部屋にかえるばかりで虚しい。
こんな事で願いがかなうなら、世界はもっと誰にでも優しくて
餓えも争いもなく幸せな日々を過ごしている事でしょう。
わたくしの願いは、青い鳥のように馬鹿げた事と誰も彼にも鼻で笑われてしまうかもしれない。
でも何が辛いかなんて自身にしかわからない。
そうでなくて?例えそれがどんなに図々しい願いだったとしても。





ふるふると身をゆする、いくら暖かくなったとはいえ夜風は身体に染みる。
城下が一望できる窓を閉めようと近寄ったそんなおりに、信じられない心底驚く出来事があり
悲鳴と共に座り込むことしか出来なかったわたくしをどうか笑わないで欲しい。


「きゃっ」


ツンツンとした黒髪にあわせるように、漆黒のマントを身に纏った男が窓の近くに立っていたのだ。
ええ、ええ貴方はわたくしの王子様?それとも世間をにぎわかす大怪盗?


「やあやあ、籠から抜け出すにはいい夜だと思わないかい?ミ・レディ」


「はい!!王子様!!!」


可笑しな事だらけの言葉に、疑いも無く手を差し伸べてしまった。
見ると外壁に剣を刺して足場としていた、抱きかかえられた後は踊るように城を跳ね瞬く間に地上へと降り立っていく。
後で聞いた話ではあのマントには風石のおかげでゆっくりと降下し少しの間滞空する効果があるらしい。


「ふふふ」


自然に笑みがこぼれていた。なんて痛快なのでしょう!
誰もわたくしのことを考えてくれないというのに、わたくしが皆のことを省みる必要があるでしょうか?
ええ、考えなくてかまいませんとも、だってこんなにも自由なのですもの。
トリステイン皇女アンリエッタが許します。


「どうしたの?アンリエッタ」


「いえ、何でもありませんわ。そう、それにただのアンと呼んでください」


先ほどのちぐはぐな芝居がかった台詞がなりを潜め心配そうにこちらを覗っている
にっこりと笑みを浮かべ収まらない胸のたかまりを告げるように押し付け更に抱きつくのだった。
今日という日を思い出せば、脚をぱたぱたさせ枕に顔をうずめ、
きゃーきゃーごろごろとのた打ち回ってしまうような恥ずかしくて暖かい思い出。







それから本当に色々な場所を旅して周った、東へ西へ空へ海を通じてと。
サイトさんは実は商人で、情勢や商機に聡くそして不思議なほどコネがあった。
移動するたびにどんどんお金が増えていく様は少し怖いくらいだった。

わたくしといえば王宮での常識しかしらず染み付いた所作は一朝一夕ではぬぐえないといわれ
どうにも気楽に商人の娘になどというわけにも行かなかったらしく、
ぷらぷらと脚をぶらつかせ不思議な力に守られた馬車でお留守番。


「ただいま、変わりない?」


「いたって平和でしたわ。小鳥の囀りなどを聞いて大人しくしていましたのよ」


「良かった。そういえば今日は街でお祭があると聞いたんだが・・・、
一緒にどうかな??アン」


なーんて気楽に気ままにその日暮らし、ときたま街の人とお友達になったり
あの日夢にまでみた生活をすごしたのでした。





でもそんなささやかな幸せも長く続かなかった…
ある時、アンリエッタは原因不明の奇病にかかってしまう。
ラ・ヴァリエール公爵家の次女カトレアも煩っている身体の衰弱する病気だ。
それを境にサイトは商人をやめ、貴族になり医者になった。


「ただいま…っとアン、外に出て平気なのかい?」


「ええ、今日はとても気分が良くてたまには日光浴にでもと」


薄く笑うアンリエッタはいっそう儚く触れれば泡のように消えてしまいそうな気配を漂わせていた。
お手製の車椅子を侍女に引かれ身体の調子がいい時に編んだブランケットを膝かけて庭で涼んでいた。


「もう少し待っていてくれ、奇病の原因も分かって目処が立ち始めたんだ」


「…ですが、サイトさんも少しは休んでください。
目の隈が酷いことになってますわ…よろしいですわね?」


久しぶりの朗報に何時もの難しそうな顔も綻ばせたサイトだったが、
誰よりも弱いはずのアンリエッタの有無を言わさぬ笑顔にはまったくもって勝てないのだった。


これが現在「異端医師」「切断卿」「平民くずれの魔法」と呼ばれ忌み嫌われ
後世で「医療を400年進歩させた医学の父ヒリガール・ド・サイトーン」とは誰も思わないだろう。
彼の残した著書は資料としてのこっているし、通常教育を受けていれば知らない人はいないと思われる。
違う血液同士の凝固から型を選別したり、多くの抗体の発見、病気への有効成分の抽出、
徹底した観察による原因究明、環境改善による予防学、毒と麻酔を含む薬学、
魔法医療の発展、臓器の切除・移植など多岐に渡って確立されていた業績は数知れない。

幸運なことにさわり程度の現代医学すら奇跡のように効果があるものだったし、
どうやらガンダールヴと外科医療は相性が良かったらしい。

法外な値段を要求したりはしなかったが、
患者を煽り「その言葉が聞きたかった!」と遊び心も忘れないサイトだった。




「でも、嬉しいわ。また一緒に馬で湖の畔に出かけたり、
街の市場なんてものにもいけるかしら?」


出会ってすぐに各国を放浪したのが酷く昔に思えるくらい懐かしい。


「まずはアンの病気を治してからね。今回は長く出てたしアンにはずっと寂しい想いをさせたね」


柔らかく髪をなでる手つきにくすぐったそうに身をすくめる。


「それはもう…凄く」


それ以上に心配もしていたのだ、噂は寝ていても聞こえるものだ。
身体を刻むなんて始祖をも冒涜する行為だといわれたり
ロマリアから流行った数万人規模の疫病を解決したお陰で世界的に認められたり、
サイトさんの生涯を書いただけで一冊の本になりそう・・・書いてみようかしら?


「でも、わたくしが窮地のときには駆けつけてくれますもの。
いつまでもサイトさんはわたくしの王子様ですわ」


幸せなのですよ、とサイトさんに伝わるように微笑んでみせる。
それに何時だったか酔った勢いで話してくれた、わたくしを城から連れ出して後悔した話。
そんなことは全然ないしむしろ感謝している気持ちも伝わって欲しい。
逆にこの身体のせいでサイトさんの一生を左右してしまったのでは?と申し訳なくなる。


「ね、久しぶりに新しい話を聞きたいわ」


アンはサイトの寝物語に語る童話や昔話がとっても好きだった。
お姫様が出てくる話、少し教訓めいた話、ちょっぴり悲しい話だったり、淡い恋の物語…そしてハッピーエンド。
それをハルケギニア用に書き下ろした絵本作家アンといえば、ちまたではちょっとばかり有名なのだ。




「そうかな?じゃぁ・・・」









数日してサイトが手術の説明に入る。

「まず身体を血液が正常に循環することで肉体を保つと同様に、
精神を魔力が正常に循環することが肉体を保っている。

そして肉体と精神は互いに大きく影響する。
病気になれば魔力も落ちるし、魔力を使いすぎれば疲弊したり、
落ち込んだり塞ぎ込むと魔力の流れが乱れて病気になりやすくなったりする」


アンはつい最近新しく建てられた医院のベッドに横たわり、
真新しいシーツの感触と少し鼻につく薬品の匂いを嗅ぎながら白い天井を見ていた。


「なぜ全ての人間に魔力の流れが?と突き詰めると、貴族と平民の垣根が無くなってしまって
まぁまた冒涜だと異端審問にかけられてしまいそうなのであまり追求できないけど、
これも素晴らしい先祖様が分け隔てなく腰を振ったお陰だろうね」


さらに遺伝を突き詰めると亜人やら、ヴリミルも聖地を100回爆発させるレベルのこともあるが割愛する。


「もう、サイトさん!少し下品が過ぎますわよ」


サイトは肩を竦めて話を進める。


「とにかく貴族病なんて言われてる原因不明の奇病の原因が特定出来たんだ。
厄災がこんな形で影響があったなんて想いも拠らなかった。
まったく医療と関係なさそうな事が原因とか、学校でもっと勉強しておけばよかったよ」


その道の権威とよばれるサイトさんを教えるとは彼の国の教育機関は本当に興味を沸かずにはいられない。
考え始めると、そんな異世界の住人達にもし攻め入られたら…なんて空想にもふけってしまう所です。


「ある特定状況下における限定的箇所への長期滞在による風土病的な症状。
つまり風石などの魔石過多に置ける魔力磁場の乱れによる高魔力保持者への悪影響が原因だったんだ」


ことり、と置かれた円状の筒に浮く鉱石が揺らめいている。
どうやら特殊な磁場を測定する機械のようだ。魔力磁場によって大きく反応が出るらしい。


「この新しい医院はそれらを極力排除している、
現在では人為的でない場合そのような土地はないみたいだね」


もうそろそろ理解が追いつかなくて頭から煙が出てきそうだ。
それにしても、白衣をきてキリリとしているサイトさんは素敵ですわねと逃避しそうになる。


「そんなわけで、魔力経路がずたずたになってるので体調を崩したり、
魔法を使うと症状が悪化する結果が出ているんだよね」


魔力経路をみる魔法道具と今までのアンリエッタの医療情報(魔力経路含む)を記るした紙を見比べながら診断する。


「要約すると磁場の安定した環境で養生しながら、経路を接続しなおしちゃえばいいって訳。
あの日アンを連れ出した事よりも簡単な仕事って事オッケー?」


今までの真剣な表情を崩し、勤めて明るく軽口を叩くようにいうサイトの台詞に、
今も色あせることなく思い出せるあの日を脳裏に浮かべ顔を赤くさせ身じろぎするアンリエッタだった。


「もう…///大丈夫信じてますわ、お願いします」


その言葉を受けサイトは、アンリエッタに麻酔を打つ。
専用の魔法道具を使い、身体にも傷はつかない。外科手術より簡単なものだ。
とはいえサイトは患者を安心させる顔つきをやめまたも真剣な顔をしていた、実際は予断を許さない状況なのだ。
今回の手術は見るからに衰弱しているアンリエッタを見つめ決断したゆえの苦渋の選択。

それがこの時もっと症状が軽ければ、近親者の魔力経路情報があれば、
失敗しても十分なこの病気に関する医療経験があれば……

たらればと事実とは無関係の仮定をたて、意味の無い後悔を繰り返すはめになるとは。







=サイトの手記=

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ギューフの月○○

手術は無事成功した。もろもろの心配は杞憂だった。
本当に・・・本当によかった。

術後のアンの経過は良く、目覚める前から比べ顔色が見違えるほど良くなった。
同症状の患者は少ないが、どうしても位の高い人物が発症している報告がある。
お陰で慎重な展開を進めるしかないし、失敗はゆるされない。
もっと他の患者で経過を見てからなどと物騒な考えが浮かんでしまう。

ともあれ、まずは手術の成功を素直に祝おう。

実はエルフにも患者がいるため、これが巡り巡って何かしらのいい傾向になればいいが…

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「サイトさん、こんなに調子が良いの本当に久しぶりだわ。
ふふふっ、とっても可笑しいの。やりたい事があり過ぎて興奮して眠れないなんて
わたくし子供に戻ってしまったみたい…とっても恥ずかしいわ」


布団からちょこんと顔をだしサイトに照れながら告げる。


「しばらく休みを取ったからね、何処へなりと…お姫様」


サイトはアンリエッタの童心に返ったような笑顔に何よりの報酬を感じていた。



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ギューフの月××

以前の倍以上に元気でよく食べる。
長年病気だったことが嘘のように元気だ。
魔力経路を繋ぎ間違えた?と思うくらいな程。

山、川、街へとしばらく行けなかった時間を埋めるように出かける。

健康的な体つきに戻ったしアンに新しいドレスでも買ってあげよう。
ついでにナース服なんかも(以降興奮したような殴り書きで読めない)

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「まったくこんな服を着せるだなんて、
その…はしたない女だなんていわないでくださいね」


くるりと一回転して唇に人差し指を当てて見せる
少し屈むとボタンがはちきれそうなくらいの女王様な胸は健在だ。
サイトはそれは見事な早業で自身の洋服を脱ぎ捨てると飛び掛る。


「きゃーーーー」


棒読みな悲鳴を他所に夜は更けていく。



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ウィンの月△△

各患者に磁場測定器と貴族病と魔石の関係性を纏めた論文を送る。
アンの経過を見ながら、他の患者の深刻度具合で手術をするか決定する。
こと大貴族になると何事にも慎重にならざるを得ない。

折り良く各患者の領土からの魔石除去をした結果経過の良好も覗えるとのこと。
魔石に関しては国単位での話し合いに発展するやも知れない。

アンの体調経過は良好、一時期早かった魔力経路の流れも安定期に入る。

(以下他の病気に関する担当患者について考察)

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「サイトさん!また徹夜をして…忙しいのは分かりますけど
身体を労わってくださいと何度も…それにとっても寂しいですし
最近のわたくしを見習って早めに寝てですね」


くどくどという姿はかつての姫様なんてかけらも、それにしても……
健康的を通り越して眠るの早くないですか?子供ですらもっと遅くに寝るでしょ



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ウィンの月□□

アンの定期診察の結果が出た。
体調はまったくもって健康体、だ。

今も良く寝ている、寝る時間が増えたように思われる。
念のため多角的な視点で検査を進めてみる。杞憂だと良いが…


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「zzz」


「まったく人の気も知らないで暢気に寝てる。
幾つになってもまったく可愛いもんだ」


優しくアンリエッタの血色のいい頬を突いてみると、んっと寝息を立てる。



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ヤラの月☆☆

今日も良く寝ている。一日中寝ていることも・・・

魔力経路の再接続手術計画は仮凍結。
重度の症状で無い限り手術なしでも一生の付き合いになる病気になるかもしれないが、
自然療法で大きく改善できそうだ。一般生活に支障はないとのこと。

各国で貴族病患者が増える、魔石の増加?
海に廃棄するか、廃棄箇所を決め人工的にアルビオン的な土地を作る等草案を模索中らしい
エルフとも秘密裏に調整を進めるための調停役に選定された。

是非もないが、今以上に時間を取られるためアンの容態が心配だ。
世界的危機とアンと天秤にかければ戸惑い無くアンを取るが、
何せ前例もなにもないので情報が欲しい。

諦めるのは嫌いだ、やるだけやろう。

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「zzz」


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ハガルの月##

助手の報告では、アンは三日に一度の割合で起きるとのこと。
調査の結果魔力経路の流れが非常にゆったりとしたものになっているらしい。

原因は再接続によるなにかしらの経路不調だろうか?
そもそもなぜアンは症状が重かったのか、カトレアでも症状は中度だったのは何故?
土地?接触する人物?血統?過去のループでこのような例はなかったが、なぜか?
×水の精霊に頼む←現実的ではない

(数式や考察と思われし羅列があるが横線で塗りつぶされている)



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「zzz」



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フィオの月&&

今日も良く寝ている。もう十日に一度の割合でしか起きて来ない。
寝ている間はお腹もすかないらしい。そして起きているときは元気だ。

一緒に喋っているだけで不意に涙が出そうになる。
それを見るとアンが謝るのだ…不甲斐ない


共通の厄災に各国が今一つになろうとしている。
相変わらず利権を求めて衝突することもあるが、概ね良好。
見知った顔もあるが、自身の顔を変えているためばれる事も無い。
しかし心細さに声を掛けたくなる。今更何を…

この年で男なのに化粧を覚えた、目の隈が酷すぎるのだ。
水の秘薬では改善できないので仕方が無い。
何か薬を発明してみるのはどうか?←本末転倒
アンが自分の代わりに眠ってくれている。がんばろう。

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「zzz」


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ギューフの月**

今日もすやすやと良く寝ている。もう2ヶ月は目を覚ましていない。
このまま、どんどん眠る時間が増えたら…

貴族病は各国の協力の下減少の兆しを見せ始めた。
そんな中、ゲルマニア皇族の子供が中度の貴族病を発症。
健康時の魔力経路図もあり、多くの親族の魔力経路図もある。

アンに限りなく近い都合の良いモデルケース。
初期診療所に連れて行く。戸惑いも罪悪感もなかった。
彼女は重度の貴族病と再診断。魔石のお陰か非常にアンに近い状態の魔力経路。
ゲルマニアへの少なくない利権の付与と共に医学は進歩するだろう。

手術はもちろん成功。健康体だ。
同患者に傾注し、術後の経過を観察する。

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「zzz」


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ウィンの月@@

今日もアンは良く眠っている。
彼女の精神も高揚が見られるが、その後魔力経路の安定化が見られる。
同患者が眠りやすくなった後、貴重な検体とし様々な実験を開始予定。

エルフとの協力により、反魔力物質の開発に成功する。
磁場の影響を今後考えなくて気にせずいい事に喜ぶ反面、
戦争に使う馬鹿が出てきそうで頭が痛くもある。

貴族病のワクチンを発見、同日ハルケギニア合同条約の発効。
この日を各国共通の初めての休日に認定される。

街でお祭をしていた、アンの好きだった角羊のスープがあったので買ってきた。
行儀が悪いがアンのベッドに腰掛けて食べてみる。
良い匂いがするが、少し塩気が効きすぎている気がする。

枕元に隠してあったアンの手紙なんて見つけなければ良かった。

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「zzz」


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ヤラの月・・

彼女の術後は変わらず良好。魔力経路安定以後変化なし。

眠りやすさ、魔力の流れる速度共に異常なし。寛解と見なす。

来月退院予定。めでたい。

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「zzzz」









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アン、もう何年も君の声を聞いていない。

君の声が聞きたいよ。

君は嘘みたいにあの日の身体のままで、自分だけが年をとっていく。

すぐにでも起きて駆け回っても可笑しくないように見える。

何時まで寝てるつもりだい?

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「zzzzzz」









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アンの病名、最初で最後の貴族病末期症状「童話病」という名称にした。

現代医学では解決出来ないようだ、すまないと思ってる。

いつか病気をなおせる時代がくるといいんだけど…

君は童話が好きだったから、目が覚めても寂しくないように

七人の小人にちなんで世界観測と身の回りの世話と守護をするガーゴイルと

反魔力物質で作られた部屋にふかふかのベッド、

ハルケギニアの魔石の魔力を少しずつ集めて再構成し続ける茨の森を作ってみたよ。




少し休むとするよ。

おやすみなさい、アン

ぼくの眠り姫

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「zzzzz……・・・・・・・・・・・・・ふぁー」



[18350] ■現在46「運命の一振り」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:08063534
Date: 2012/09/14 00:03
ガリア王国・・・地球に比べると取るに足らない人口だが、
人口1500万人を超えるハルケギニア一の大国でもある。
それゆえに貴族も多く魔法先進国、また様々な魔法道具について研究が進んでいる。

王都リュティスに建つ二本の杖を組み合わせた紋章を掲げるヴェルサルテイル宮殿。
なかでも世界中から招かれた建築家や造園師の手により今もなお拡大を続けている
薔薇色の大理石と王家の象徴でもある青い髪色と同じレンガで作られた巨大な城「グラントロワ」

政治とは程遠い文化の象徴とも言える建物の一番奥、その場所こそが、ガリアの中心であった。


そこには現実を見れぬ者からは「無能王」と言われているが、
ミョズニトニルンというたった一手でアルビオンを分裂させ
獅子身中の虫を飼いながら、その大国の頂点に君臨し続ける鬼謀の持ち主ジョゼフがいる。
彼こそが紛れもなくガリアの中心であった。






「あら、とても綺麗な箱庭ですわね、このような素晴らしい模型みたことありませんわ」


ガリア王宮に伺候するモリエール夫人は、ジョゼフから頼まれていた探し物を見つけ届けにきていた。
グラントロワの奥の部屋で遊んでいるジョゼフに声を掛ける。
常に優秀な弟と比べられ、王座を脅かされ、政争の渦中にさらされ・・・
その心を思うと抱きしめ慈しみたくなるのだった。


(お可愛そうなお方、今度はどんな一人遊びソリティアをしているのかしら)


青みのかかった髪と髭を蓄えた美丈夫は、きがついたように振り向きながら答える。


「この箱庭はハルケギニアを模していてな、その再現度といえば中々のものさ
国中の細工師を呼んで魔法道具も使い作らせた、完成に3ヶ月もかかってしまったよ」


なるほど差し渡し10メイルはある巨大な模型は、精巧な情景を形作っている。
魔法で流れる水は川のように海に流れ、森や草原にはそよ風でも吹いたように揺らめいている。
大きな岩石も立ち並び、箱庭の端の方には砂漠が続き途切れている。
雲に囲まれた小島が魔法でぷかぷかと漂っている…これはアルビオンだろうか?


「ここがシレ川で、その先にグラントロワ・・・私達のいる場所ですわね。
とても精巧でお綺麗ですわ、今度はいったいどのような遊びなのですか?」


まるでハルケギニアという世界を切り取り、魔法で縮小させたような精巧な造りに感嘆の声をあげる。


「現実のような地形に、槍兵、弓兵、軍艦など様々な軍種を模した駒を用いて戦わせる。
二つの六面ダイスを振り結果を裁定し、舞台に戦物語を作っていくのだ。
このダイスの揺らぎが実際の指揮を取るかのようで面白みが生まれている」


夫人はまるで戦争のごっこ遊びのようなものの面白さは分からなかったが、
愛人の子供のような笑顔を見れば嬉しくもなるものだった。
そしてふと自分が持ってきた魔法騎士人形も並べられている駒と同じ大きさであることを思い出した。


「では、私の騎士兵も陛下の親衛隊に加えていただけるのかしら」


思いついたように冗談めかして言ってみる。
はっとされるような美貌のとろけるような笑顔が見たくてごっこ遊びに付き合う。


「おおモリエール夫人、では、この騎士兵をもって貴方をガリア花壇騎士団の団長としましょう。
世界一美しい騎士団長の誕生に乾杯!」


そういうとジョゼフは錫の騎士人形に口付けてグラントロワに配置させる。


「まあ!栄えあるガリア花壇騎士にしていただけるなんて、きっとみなに妬まれてしまいますわね。
でも陛下、この遊びも一人で敵と味方を兼ねておられますの?」


勝ちも負けも一人で作る、相手のいない遊びに喜びはあるのだろうか?


「当然だよ、このハルケギニアに余ほどの指し手はおらぬ。
自分で緻密な作戦を立てそれを受ける、勝利に酔いしれる己を己で慈悲深く粉砕する
この箱庭を舞台に芝居を演出する劇作家といったところか」


「では、今はどのような物語で進んでらっしゃるの?」


「よくぞ聞いてくれた。題して「宮廷革命の悲劇~聖地に掲げる炎~」と言ったところか。
赤軍が妙手に大群に最強の竜騎士団を率いてあわや後一歩まで追い詰めたが、
なんの青軍も負けてはおられぬと反撃の一手を繰り出している場面である」


赤軍はロンディニウムに竜を模した兵、サウスゴータに大量の軍隊を集め陣取り
青軍はロサイスに本軍、ダータルネスに少数の軍を集めている。
青に比べて赤の軍対数は約五倍、通常であれば物量で押し通している場面だ。


「まあ、内乱を舞台になんて…不謹慎だとまた噂されてしまいますわ」


ただでさえ、内政も外交も疎かにして一人遊びに夢中な王として噂されているのに、
他国の内乱をこんなにも大げさに模して戦争ごっこなどと顔を少ししかめる。


「それにこんな勝ちの決まりきったシナリオでは、
まるでいたぶっている様で心が痛みますわ」


「ふむたしかに…ほぼ結果の見えたゲームであっては面白みに欠けるか
ちょうど赤の手番であるか、最後の一振りをもって勝利を決め大局を終わらせるとしよう」


そして二つのダイスを握ると、ふと面白い事を思いついたのか笑顔になる。


「ふむ・・・慈悲深き花壇騎士団長殿、着任して早々だが任務を受け渡す。
このダイスによって勝利の女神も微笑む一振りをお願いしても?」


芝居がかったような言葉に、夫人はまあ!と笑顔でダイスを受け取ると恭しく一礼する。
戦争などしらぬ華奢で美しい手で握り、場に運命のダイスを転がした。


ころっ…ころろろ・・・・・・・ことっ!


「1と4・・・なるほど素晴らしい!!流石モリエール夫人盛り上がりが判っている。
大軍による一斉攻撃で迎え撃つのに加え、竜騎士団を使った側面からの港奪取!!
3もしくは6であれば青の大逆転勝利もあったが、なになに王道もまた悪くない」


良い出目だったらしい、この遊びも終わりを迎えたなら、物騒な駒は片付けて
この美しいハルケギニアの模型を眺めながら、お茶を頂くのも良いかもしれない。


「大臣、詔勅である」


緞子の影から小男が現れて頭を下げた。
模型では小姓に動かされた港にいる青い兵が蹴散らされ、平原の青い軍も赤い大軍に蹂躙されている。


「艦隊を召集しろ。革命軍がアルビオンを平定し次第、”敵”を蹴散らせ」


模型を動かす小姓に命じるような気安さで大臣に告げる。


「御意」


大臣は何の表情も浮かべずに頭を下げて退出した。
モリエール夫人は呆気に取られその様子を見つめ、直後がたがたと振るえ始めた。
自分が何の気なしに振ったダイスの一振りは…


この箱庭は遊びではない。
その一振りの結果によって本物の戦の命令が下された。
蹂躙された青い軍から悲鳴が聞こえてくる気がする、
落し割れたグラスから零れた赤い赤いワインはまるで血のようではないか。


「ああ・・・陛下、そんな・・・」


青ざめた顔を両手でおさえ呻く。


「どうした夫人?由緒あるガリア花壇騎士団の団長が
そのような臆病ではこまってしまうぞ」


ジョゼフはその姿を満足そうに見つめ、ワインを一気に仰ぐ。
しかし、最近ようやく面白くなってきたところでもあった。
思い通りに行かないなど何時ぶりか?想定を超える事態は何時ぶりか?

アルビオンをはじめとして、対局盤にすらならなかったトリステイン
変わりつつある情勢に気がついている人間はいるのだろうか??
この変化は点のように一見関係のないように見えて、
その実線のようにつながってるようにも思える。

次の玩具は決まっているが、万が一アルビオンが勝てばもっと面白くなりそうだ。
むしろ、自分はそうなる事を望んでいるのかもしれない。

何にせよダイスは振られたのだ、楽しもうじゃないか!






[18350] ■現在47 * 「寂寥マッチポンプ」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:08063534
Date: 2012/10/03 03:36

ロサイス軍港に到着したサイトは、サウスゴータへ向かう途中の街道から少し離れた森の中にいた。
世間から忘れられたようにひっそりと立てられた集落は、小さな藁葺きの家がいくつかある程度だ。

商人からもほとんど寄り付かない自給自足の生活を余儀なくされ、
年少ばかりの集落で普段は硬い黒パンに具の少ないスープで飢えをしのいでいる。
それが今日ばかりはささやかな祝い事を行っていた。


「テファもちゃんと楽しんでる?」


マチルダ姉さんと難しい話をしていた少年サイトさんは気安く声を掛けてくれた。
少し前に突然マチルダ姉さんに紹介された年が同じくらいの男の子。
高貴な所も鼻にかけず親切に接してくれて身構えてたのが嘘みたいに仲良くなれた最初のお友達。
ハーフエルフだって判っても物怖じしないとっても優しい良い人だ。

戦争が激化して危険が増している、大事になる前に移住してほしいとマチルダ姉さんの提案だった。
最近は怖い人たちもこの村に来ることが増えていて、その事を心配しているのも判る。
ヴァリエール領の孤児院に子供達は預かってもらえるということで離れるのは寂しいが一安心している。
だから本当の別れになったとしても移住することに決めたのだ。


「はい、どれも本当に美味しくって」


荷物を軽くするため備蓄は全て消費したし、サイトさんが準備してくれたおかげで
最後に子供達も今まで食べた事が無いような豪華な食事を振舞う事が出来た。
なかでもはじめてみたミソという調味料が素晴らしく、
ご飯を握ったものにミソを塗りこめて鉄網に載せて藁と一緒に焼いたものの香ばしさときたら…
おまけに油の乗った川魚を塩と香り付けの草で焼くと串を伝ってじゅうじゅうと脂がたれてくるのを見るだけで涎も…。

空の近いアルビオンでは日が落ちると木漏れ日の差していた森も寒くなってくる。
だからもうボロボロになった大なべに馬鈴薯や南瓜、灰汁の強い根菜を入れて豚肉を入れたスープはありがたい。
このトンズィルは身体の芯までぽかぽかと暖かくなる、本当に具沢山でこれだけでもお腹がいっぱいになりそう。
最後に焼いた石を入れるのが秘訣らしい、いままで食べた事がないとマチルダ姉さんも感心してました。


「でも、良かったのですか?こんなに良くしてもらって…
私達何も返せないのに、マチルダ姉さんにだってずっと迷惑かけて」


「感謝ならマチルダさんとヴァリエール公爵夫人にしてくれれば、
それよりも今日は子供達と一緒にいるのがいいよ、テファが沢山覚えておけるように」


「そうですよね、あの子達とも今日で最後になりますもんね」


少し憂いを帯びた顔つきになったティファニアもかぶりを振り笑顔にもどし子供達の輪に飛び込んでいった。
そしてティファニアとサイトのやり取りを警戒し抜け目なく見ていたマチルダがすっと近づいてきた。


「正直助かったよ、そろそろここもきな臭くなってきたしね。
しかしヴァリエール領ね…いや、いい、どうやったかは聞かないよ。
あんたがちゃんと約束を守ってくれた、それだけで身を粉にして働いたかいがあったよ」


マチルダからすれば裏も底も背景も見えないサイトだったが、こと仕事に関しては信用していた。
ティファニアを抑えられているが自分を泳がして採用するだけの懐の広さもあるために忘れてしまいそうにるが、
今は一見して気安さしかみられない不思議な男も、これで年下だというのだから恐ろしい。


「でも、記憶の件でちゃんと協力してくれるとは思いませんでしたよ
少しは反対されるかと思ったんですけどね」


「まぁハーフエルフで虚無だなんてね…今は辛いかも知れないけれど最良の選択だと思うよ
わたしも耄碌したのかもね、もっとあの子に目を掛けてあげれば今頃…不甲斐ないものさ」


楽しそうに言葉を交わすティファニアと子供達を優しい目で見つめる。
もっとティファニアの特異な魔法に目を向けてあげれば、いたずらに孤児を増やしていなければと
まだ小さい子供達も外を知ればいつかティファニアに向ける目も変わるかもしれない
ハーフエルフでもあるし可笑しな魔法も使うのだ、そうとも知らず他人に無邪気に話せばそれだけ危険な目になる
その爆弾を抱えるわけにもいかず、最悪の展開になるよりはマシだと割り切るしかない


「あの子も判ってくれてるさ、今夜は慰めてあげないとね」


そしてささやかなお別れ会は終わりを告げ、ティファニアは子供達一人一人念入りにお別れをしたのだった。
最後のお別れだった、今までの暮らしの記憶から自分の存在を涙を流しながら魔法で消していく。
そして馬車が村を離れて見えなくなっても見送り続けるのだった。









夜もふけ虫の声すら止んだころ、サイトのいる家に忍び込む影があった。
簡素な外套を羽織った元怪盗土くれのフーケあらためマチルダだ。


「っと、やっぱり起きてたのかい」


「来るんじゃないかと思って起きていたんですよ。
でも本当によかったんですか?テファについていてあげなくて」


「テファならワイン飲んで泣き疲れて、ベッドで寝ているよ。
…わたしも少し堪えててさ、あんなに悲しむなんてあの子達にしていたことは間違いだったのかって」


何も言わずにワインを注ぐサイトからグラスを受け取る。
一気に仰ぐと舌に苦い後悔の味が広がる、飲み干すとテーブルにグラスを置いて明かりを消す。
そして雲が月を隠すたびに二人の距離が変わっていく。


「もしとか、もっと他にやりようがあったんじゃないかって…
あの子を幸せにしてあげたかっただけなんだけどね…」


掛け布に潜り身体を折りたたむように丸くなると後ろから抱きしめられた。
うなじに優しく口付けられる甘い感触に身じろぐ。
触れられた箇所からじんわりと暖かく幸せな気分になる、今は優しくしないでほしい。


「……やっ…今そんなっ気分じゃ…んむっ」


寝転がり向かい合って目を覗き込まれると観念した。嘘だ、本当は甘えに…おぼれにきたのだ。
指の腹で鼻をなぞり唇をなぞり喉仏に触れる、確かめるように指を這わす。
もう言葉はいらない、首に手を回し溺れ空気をもとめるようにキスをした。







チチチという鳥の鳴き声と心地よい朝の森の空気で目が覚めたティファニアは隣にいるはずの人がいないことに気がついた。
朝というには少し早い時間だというのに、いったい何処へいっているのか?
待てども戻ってこないマチルダに、不安と心配を混ぜた気持ちになりはじめる。


「本当に遅いわ、どうしたのかしら?」


薄手のケープをはおって外を見回すが見つかる気配がしない。
サイトさんに聞いてみようかしら?もしかしたら部屋でお話しているのかもしれない。
早足で部屋まで向かうと控えめにノックをする。


「サイトさんおきてる?」


どうぞという声に部屋に招かれるとシャツの肌蹴たサイトが立っていた。
指を口先にあてて静かにと身振りで伝える、肩越しに見えるベッドに緑色の髪の毛が見える。


「あの、マチルダ姉さんはどうしてここに?」


「テファを寝かせた後に酔っ払ってここに、それで話をした後に寝ちゃってね」


お互いの耳に口がつきそうなくらい近づいて囁きあう。形のいい耳に息がかかるたびにくすぐったくてもだえそうになる。
でもどうせ寝るならわざわざここに来ないでわたしの所で寝ればよかったに。
そう考えると姉とお友達を一変に奪われてなくした様で酷く悲しくなってきた。


「テファ?」


「マチルダ姉さんと随分なかよしなのね」


はっ、と自分の棘のある発言に気がついて口を閉ざす。こんなこと言うつもりなかったのに…
知らずに涙があふれてくる、無意識に置いていかないで独りにしないでと呟く。
もう子供達もわたしのことを覚えていない、だから自分にはサイトとマチルダしかいないのに。
知らないところで仲間はずれにして二人だけで仲良くしないでと思い出溢れて鼻がつんとなる。


「なんでかな、わたし泣き虫でいけないわ…」


酷く寒くてこのままじゃ自分が消えてしまいそうで震えた。


「あっ…」


ぎゅっと抱きしめられた場所から暖かさが広がる、潰れた胸の苦しさも忘れるくらい幸せな感じ。
安心する…何も言わなくても欲しい時、欲しい物が判ってもらえるような最高のお友達。
サイトが猛毒のような治療薬のような、どちらにしても劇薬に近しい言葉をつむぐ。


「テファもマチルダみたいに一緒に仲良くする?」


わたしがお姉ちゃんと一緒?それはとても魅力的な提案に聞こえた。どうすればいいのと覗うように上目見る。
抱きしめられたままベッドに連れて行かれるとマチルダ姉さんを起こさないように優しく下ろされる。
子供達のベッドを二つ付け合せているのでキングサイズ並みの広さがあるベッドだ。
寝る前にするような頬にキスをすると、抱きしめたまま頭をなでたり背中を優しくポンポンと叩いたりする。


「優しくてぽかぽか陽だまりにいるみたいな気持ちね」


無くなってしまった何かを埋めるようにマチルダが起きるまでじゃれあいは続いた。






ようやく目が醒めたマチルダはぼんやりと考える。


(なんだか凄くよく寝てしまったけど、寝坊だなんて何年ぶりかい…)


父の家が取り潰されて以来、ティファニアを匿うと決め手から奔走し続けてきた
ティファニアの傍にいても生活を未来をずっと考え、本当に心休まる日はなかった。
誰にも頼れないお家事情、何時つかまるか判らない泥棒家業
平気だと思っていたが知らぬ間に風船のように張り詰めていたのだろうか?
それがすっかりと抜けて何も気にせず気恥ずかしくなるくらい寝つける日が来るなんてね。
出会いは最悪(自業自得)とはいえ、最高の幸せを貰えたと思え…


「…ったっていうのに、いったい何しているんだい二人とも!!」


対面座位のような形で向かい合って密着しながら朗らかにひそひそと語り合う二人。
マチルダが起きた事に気がつくと嬉しそうに横にずれて声を掛けるティファニア。


「おはようマチルダ姉さん、珍しくお寝坊さんなのね」


うっと赤面するしそうじゃないってつっこみたいし、いつの間にか服も着てるし答えに困る。
服は長く辛い下積み時代に得た経験で着せるの脱がすのも得意なサイトによる仕業である。


「ほら、マチルダ姉さんと一緒に寝たはずなのに朝起きたら隣にいなくて凄く心配したの
それで、探しにきたらサイトさんのベッドで寝てて、だから起きるの待ってたの」


「いや、そうじゃなくて…何時の間にサイトとそんなに仲良くなったんだい?
昨日だって仲良かったけど、そんなにくっついて話すような間柄じゃなかったと思うけど」


「子供達とあんな別れかたして…あ、一応理解はしているのよ?
でもとても寂しくて…朝起きたら誰もいなくて、村も死んだように静かで…
サイトさんが慰めてくれて、マチルダ姉さんみたく仲良くしてくれるって言うから」


暗に二人は仲良しでずるいといわれ、違うと反論したかったが、
そういわれると、そんなティファニアを置いてここに来てしまった手前強く言い出せなかった。


「ね、いいでしょ?これからは姉弟みたいに一緒に仲良くしましょう?
マチルダ姉さんもそんなところにいないで、一緒にくっつかってお話しましょ」


期待したような目線に訳もわからないまま押し切られ、罪悪感からか断れない。
マチルダは意を決してえいと勢い込んでティファニアの反対側からサイトに抱きついてみると存外悪くない気持ちになる。
サイトからしたら両手に花もとい両手に桃りんご、名状しがたい素晴らしい感触を楽しむばかり。


「わたしのせいでずっと無理させていて謝りたかった。ごめんなさい、そしてありがとう。
これね、ずっと言いたかったの。今回のことはいい区切りだったし…
ねえ、これからは暫く一緒にいられるんでしょう?」


「それは…」


答えに言いよどむ解決したけど、元大怪盗だという気持ちが邪魔をする。


「何か後ろめたいことを感じていたとしてもわたしたちの為だったんでしょ?
独りで抱えて背負い込まないでわたしにも分けてほしい。
例えマチルダ姉さんになにか罪があったとしても、それを享受したわたしもおんなじなんだよ?

だから、離れていこうだなんて考えないで……お願い、お願いよ」


村を一手に預かるティファニアは薄々何か良くない事をしているんじゃないか感づいていた。
何度聞いても教えてもらえないし危険な事もやめてほしかったが養ってもらっていて咎められなかった。
いい機会だと胸のうちを全部吐き出してしまっていた。


「テファ……そうだね、悪かったよ。
これからは出来るだけ一緒にいるし、勝手にいなくなったりしない約束する」


いつの間にか二人して涙を流してしまっていた。
マチルダもサイトが隣にいればいくらでも素直になれるような気がした。


「それじゃ、二人がもっと仲良くなれた記念に特別なもてなしをしてあげるよ
絶対に気に入ると思うんだよね、どうかな?」


それまで空気に徹していたサイトが口を開く。マチルダは訝しげにティファニアは小首を傾げている。
胸元から不思議な細い棒を取り出す、それでいったいどうやってもてなすのか見当もつかない。
それは13サント程の細長い小枝のような棒の先端が薄いへら状になっていて反対側には羽毛を纏めたものがついてる。


「わたしやってみたい!どうすればいいの??」


元気よく答えるティファニアに、サイトは正座しながらタオルをしいた自分の太ももをぽんと叩く。


「ここに頭を乗せて横になって、耳掃除してあげる」


言われるとおりの格好になるティファニアに、変な事したら承知しないよと少し離れた場所から見るマチルダ。
耳掃除なんて聞いた事が無い、耳が悪くなったときに水魔法で綺麗にするぐらい。
しかもあんな細い棒を身体の中にいれるのを他人に許すなんて信じられないがマチルダは黙って見守る事にした。


「動くと危ないからじっとしてね」


サイトはにやりと笑いながら言いやる、過去これをしてあげて堕ちなかった人は例外なくいない。
これは異世界ハルケギニア人を落す三種の神器の一つでもある。
本来は魅了や能力や魔法洗脳などせず、絡め手など手練手管で落すのが好みなのだ。

ティファニアは耳穴に棒を入れられる初めての感覚に戸惑いつつも服を握りながら耐える。


(かりかりっ……こすっ…すすすっ…)


静寂した部屋にティファニアの耳を掻く音が響いているように感じる。
完全無欠の美少女も耳の中までは綺麗にできていなかったらしくしっかり塊がある。


「テファの汚れが結構溜まってるね」


「っあ…ぁ…んんっ…ぁーーーーーーーー」


軽めに罵られ羞恥に反応する余裕もなくだらだらと声を漏らしながら涎をたらす。
目を閉じ息を荒げながら、ぐっぱっと足の指を閉じたり開いたりしている。


「あーーーーーううーーーーあああーーーーーーあーーーーーー」


(ちょっとやばいくらい呆けた顔して涎たらしてるけど大丈夫なのかい、これは…)


ごくりと唾を飲み込みながら目を離せないマチルダ。
人間より聴覚の鋭いエルフは、こりこりと耳壁をこすり垢が取れるたびに、
脳みそをぐちゃぐちゃにかき混ぜられてまぶたの裏がちかちかと瞬く錯覚に陥る。
羽毛で耳の中を荒らされたときは身体中掻き毟りたくなる位大変だった。
口を閉じるのもかなわず意図せずに声を漏らしながら快感を逃がすしかすべがなかった。
性に未成熟なティファニアもこんなことで絶頂を叩きこまれるとは思わなかっただろう。


「じゃあ、次はマチルダの番ね」


反対側も終わり白目をむきながら倒れているティファニアを見て遠慮したくなったが拒めない。
涎でぐしょぐしょのタオルも新しいのに取り替えられると、ぽんと膝の叩く音がしマチルダには地獄への門が開いた音のように聞こえた。


「やっ……や”あ”ーーーーいいいいひいいぃぃ」


マチルダもはじめての感覚に手足の先をぎゅっとして身悶える。
こんな美人でも汚れている耳穴を緩急つけてかりかりすると大きな塊にふれたことが指先から伝わる。
絶対にたらすまいと考え涎を一生懸命すすっているがまったく効果がなくタオルがべちょべちょになっている。

この行為に確実に性的快感を感じティファニアよりも激しくイッているのが自分でもわかる。
パンツの中までぐしゅぐしゅだし、声を抑えようとしてもすることができない。


「マチルダ姉さん……すごい」


極めつけは目が醒めて腰が砕けたまま起き上がれないティファニアの嘆きだ。
先ほど見てやばいと思ったのと同じレベルのイキ顔を娘や妹のように思っているティファニアに見られている。
二人の気恥ずかしさも不和も蕩ける力技での開放だった。


そしていつの間にかの早業でひん剥かれた二人は交代でサイトにキスをする。


「二人とも綺麗だよ」


もう倫理もタブーも関係なかった。先ほどよりも力強く両方からサンドイッチにする。
感触の異なる二種類のマシュマロ桃りんごで腕を挟むとずりずりと刷り上げる。
見よう見まねをするティファニアとマチルダは時々目が合い恥ずかしそうにするが競い合うように奉仕する。


「んんっ、それすごっ…」


先ほどの仕返しとばかりに左耳にマチルダ、右耳にティファニアが舌をいれ蹂躙しながら
がちがちに反り返り先走る剛直をしごきあげる行為にサイトも声を漏らさずにいられなかった。


「もう我慢できなやしないよっ」


そういうと、マチルダは、あむっと肉棒を咥え口の上や頬袋に刷り上げたりはむはむと歯で甘噛みしながら刺激する。


「あっ胸つよっ…引っ張らないでぇ」


ティファニアは初めてにしては強い感覚に抗議の声を漏らす。
ゴムまりのように乱暴に両手に収まらないおっぱいを揉みしだいたり、ぷっくりと美味しそうな乳首を捻ったりされたのだ。


「やぁあああ、耳はだめぇ!!んんんっ、ぃやああああ」


悲鳴のようなソプラノの囀り声が響き渡る。
サイトが仕返しの仕返しとばかりに尖った耳を口に入れてみたり、わざと音を立てて耳穴をすすったりするとびくびくと跳ね上がる。
さらに遠慮なしに上下する緑の髪に捕まりながら、激しく腰をふるとあわせる様にずずずずと吸い込む音がした。


「ふぇふぁふぃあふぁえるえど」


咥えていた口を離すと、張りのあるむねを両手に持つと右胸だけで洗濯物をこする様にごしごしとずる。
その様子を凄い…わたしにも出来るかなと熱心に見つめるティファニア。


「どうだい?大きさでは負けるけど捨てたもんなじゃないだろ」


両乳を寄せると右手でおさえて優しく挟み出てきた亀頭を舌でぐるぐるとなぞる。
今度は両手で乳首を挟みながら、右、左と胸に圧力をかけながら激しく上下させる。
恐ろしいぐらいのテクニックの嵐だ。


「テファもしてみるかい?」


こくりと頷くとおずおずと口に含んでみる。


(変な味…マチルダ姉さんの味もするかも…)


ぷはっと口を離すと舐めるの難しいともらす。ならというと、マチルダに教えられたとおりに準備する。
下乳を持ち上げるように両手を組んで肘を持ち、腕を絞り上げるように胸を抱き上げる。
圧巻ともいえる白い肉壁である乳ができ、試しに指を差し込んでみるとやわやわと圧迫祭が始まる。

二人に舐められ潤滑油ですべりが良くなった熱い剛直を肉壁の間に無理やり押し込むと、
ぐにっとした水袋に挟まれたような感触に心地よさを感じ夢中で垂直に腰を打ち付ける。


「ふあっ…凄い暴れてる」


丸々と飲み込んでしまった双丘を、ものともせず蹂躙する姿に感嘆の声をティファニアが漏らす。
物足りなくなって両方の胸を鷲づかみにし圧力をましながら夢中で腰を振る。


「ねっ、こっちも」


キスをねだるように舌を出すマチルダにあわせる様に舌を纏わす。
口の中に入れて舌を唇でしごいたり、先端でなぞったりして遊びながら胸桃のたゆたゆとした感触を楽しむ。
ティファニアはその様子を顔を真っ赤にして羨ましそうに見ながら嵐がすぎるのを待った。
そろそろ射精感が溜まってきたサイトは我慢も予告もせずにティファニアの胸の中にびゅくびゅくと性を放った。


「えっ?あれ?わっ!!!え??え??」


水の精霊の加護で尋常じゃなく量が増えた精液を一滴まで漏らさず出し尽くした後もゆっくりと腰を動かし予後を楽しむ。
ぬちょべちゃっとした音をさせながら抜くとぬちぬちと乳首になすりつける甘い痺れにティファニアは戸惑う。
こぷっという音にずれた胸の間から精液が垂れ、谷間には精液溜りが出来上がっている。

成すがままにされた呆けたティファニアを流石に可愛そうだとサイトはタオルで優しく綺麗にしてあげる。


「あっきれた…凄い量、どんだけ溜めてたんだい…まったく」


マチルダは細い手足を伸ばし放心したように寝転がるティファニアに跨ると軽く口付けて頬をなでる。
胸を胸で押しつぶしたり、胸が触れるか触れないかの加減で硬くなった乳首をこすり合わせたり、
緑の草原と金色の小麦畑をこすり合わせたりすると無意識に切なげに声をあげる。


「妹みたいに育ててきたテファとこんな風になるなんて想いもしなかったよ。
…いいかい、サイト…テファは初めてなんだから優しくしなかったら承知しないよ」


そういいながら蛙を仰向けにしたような格好になるように、膝でティファニアの足を押し上げていく。
羞恥から足を閉じれないように限界まで開かせる。


「マチルダ姉さ・・・んあッ」


ゆっくりと確かめるように指を膣にいれられる、蕩けきっているが一度も男を迎え入れた事のない
ぎちぎちとした狭い中をほぐすように指を折り曲げながら拡張していく。
むあっと湯気が出るくらいに熟成されたマチルダの中も比べるように指をだしいれすると、
目を覚ましたティファニアと共に淫靡なオーケストラが開かれる。目と目があい自然にキスをする二人に教え込むように舌を絡ませる。


「んひィ!!!」


予告なしにマチルダは尻たぶを掴まれ突っ込まれる突然の陵辱に快感を逃がすように腰をうねらせる。
突然の嬌声に驚いたティファニアに気をかけるまもなく密壺を引っかくように引き抜かれる。


「ぁっ・・・」


蚊の泣くようなか細い声がティファニアから漏れる。入り口にぐいっと肉棒が押し付けられているのだ。
マチルダが安心できるように体重をかけると、不安そうに抱きしめてきた。
過去歯を食いしばりながら痛みにたえたと語るティファニアを案じ、サイトは最初から媚薬ローション全開で行く事にする。


「はあぁっ、ゃぁぁ、ゆっっくり押し分けて…中にっ入ってくるぅ」


ずぶずぶと水音と肉を掻き分ける音が聞こえてくるような気がした。
痛みはまったくなく焼け焦げるような快感が身体中をめぐって脳に響く。
家族であるマチルダ姉さんと抱き合って感じる幸せで涙が溢れてくる。


「テファ我慢せず辛かったらいうんだよ…」


「ううん、全然いたくなくて、その…幸せだなって…」


宝石のようなエルフの涙を優しく拭ってあげる。正しい形ではなかったかもしれないけれど確かに幸せだった。
二人溶け合って孤独もわだかまりも全部全部なくなってしまったように感じる。


「っあ!!今度はこっちにきたあっ!!!」


「マチルダ姉さんの顔も幸せそうに蕩けてるね」


ゆっくりとだけど確実に速度を上げて、上に下に突いていく。
ぱちゅっぱちゅという水音とともに四つんばいになってぶら下がった胸がぶるんぶるんと大きく揺れる。
下では、ゆさゆさどたぷんと前後に大地震のように揺れている。
バストレボリューションカルテットに、流石アルビオン大隆起が起きただけあるなとサイトは不謹慎なことを考えるのだった。


「二人とも少し休憩しよっか」


「これっ、この格好好きぃいいい」


「本当に休憩できるのか大きく疑問だね」


朝していた格好がどれだけ恥ずかしかったか思い出しながら、サイトの頭を抱え下から突き上げられる。
窒息して死ぬんじゃないかってぐらい両胸で隙間なく顔を挟まれてゆっさゆっさと揺れる。
全身密着感のあるこの形をティファニアは物凄く気に入ったようだ。
後ろからはマチルダがサイトに抱き付いて背中にこりこりと胸の先端を押し付けている。
口ではティファニアの胸をふくんで舌で転がして遊んでいた。

それからも名前ばかりの休憩で休む間もなく交わりが続く。




「やっ、ゃぁっ、また凄いのっ!来ちゃう!!!」


「そういう時は、ちゃんと教えたとおりイクって言うんだ!!」


「イクっ、イキますっ!!満杯赤ちゃんの部屋がまた溢れちゃうう」


卑猥な言葉を教え込まれながら可笑しくなったように絶頂を告げる。
今二人は横に並べさせられ比べられながら犬のように這い蹲り何度目か判らない中だしセックスさせられていた。
本当に一度の量が多くて出しながら掻き混ぜられ泡出しながら掻き出される。
ばるんばるんと暴れるティファニアの胸に分身して下から顔をうずめて抱きしめたい。


「ぁああああ、やらぁ、もうやらぁああっ、けほっけほっ」


ティファニアと違い容赦なく責められてるマチルダは姉の威厳なぞ当になくし、もうイキたくないと懇願し続ける。
後ろから抱きしめられ弓なりに背をそらせながら、両手で胸をつかみ、中指と人差し指でぎりぎりと乳首を痛めつけられている。
叫びすぎて呼吸困難になりながらも窒息感も相乗して快感で膣奥が小刻みに痙攣し続けている。

幾ら気をやっても終わらせてもらえない快感に翻弄される。
それでも、間が空くと思い出したようにお尻をふり媚びるように卑猥におねだりする。


「こっちの熟れたとろとろおまんこを楽しむのはどうだい?疲れたら腰だって目いっぱい振るし、
あんたのお気に入りの口に大好物の精液をびゅっびゅーって出してくれても構わないよ」


「それならサイトさんが下になって、わたしが上から抱きついて完璧に形覚えちゃった中で休憩しながら
お気に入りのエルフ桃りんごでおっぱい圧殺してもいいんですよ?」


マチルダとティファニアは互いに目をあわすとにっこりする。


「それともまた一緒に仲良くするかい?」
「それともまた一緒に仲良くします?」


重なるような言葉に黙って腰を突き出せば、了解とでもいうように二人で口をつける。
竿に左右から包み込むと綺麗に掃除し、硬く縮こまった玉も揉むほぐすようについばむ。


「テファは仰向けになって、マチルダはここ」


寝転んだティファニアの顔に跨ると胸に肉棒を挟んで腰を動かしはじめた。
玉筋にも尻穴にも抵抗なくちろちろと舌を伸ばす。
マチルダはテファの胸の谷間に下から顔を押し付け亀頭が胸から飛び出さないように構える。
冒涜的な擬似性器扱いにも文句を言わずむしろ喜んで受け入れる。

ぬれた剛直が柔らかい胸を貫き、最後に待ち構えていた口の中に納まる。
早まる水音に満足したように乳首をひねるといっそう舌の動きが活発になる。


「出すけど飲んじゃ駄目だよ?」


慌てて口に集中し、いってきもこぼさないように受け止める。
未だ粘度が衰えずスライムのように粘つく精液を舌にのせもてあそぶ。


「次はテファにあげるからマチルダは仰向け、テファはマチルダ姉さんをいじめてあげて」


言うが早いか遠慮なくとろとろに熟れた密壺に上のほうをえぐるように出し入れしはじめた。
ティファニアは、マチルダの乳首を奥歯で潰したり爪でかりかりかいたりしてあげた。
負けじとティファニアのクリトリスを指でいじって抵抗する。


「はああっ、姉さっ!それ、はげしっ…ぃい!!!」


たまらないと言うようにティファニアもマチルダのクリトリスに吸い付くと皮をむくようにちゅうちゅうと吸い付いた。
サイトがつく度に少し盛り上がるお腹もおして膣壁への刺激を強くする。


「んーーーーーーーーっんんっーーーー!!!!!!」


そうなるともう口の中に溜めた精液をこぼさないようにしているマチルダは抵抗するすべがなかった。
連続でイキまくりきゅうきゅうと締め付ける膣圧でサイトの射精を促す。


「あっ、出る出る出そう!!テファ、口」


そういわれると、あーっと直ぐ口を開けて迎え入れる準備する。
愛液でぬれた剛直を優しく口で包むと、頬をへこませるくらい吸い付いてめちゃくちゃに舌を動かす。
蛇口を捻ったように出る精液を口で受け止めながら柔らかく玉袋を揉む。



そしてティファニアとマチルダは膝立ちで抱き合うように密着すると、お互いの精液を交換し合った。
指と身体と舌を絡ませ、大きな胸を合わせるようにくっつく。
その二つの潰された横乳を擬似性器にしたてて突っ込み始めた。

左右で圧力も柔らかさも違う乳袋に、奥に行けば二つの乳首がかりや竿を刺激する。
少し上では精液と唾液の混ざったジュースを交換するぴちゃぴちゃという音が響く。
直接するだけでも切ないのに、横から無理やり引っかかれると甘美なうずきになって襲い掛かる。

見つめあいながらこくこくと精液を飲み干すと、サイトにあーと口をあけて催促する。


「よし、マチルダ、テファ出すぞ!!!」


胸の一番奥で出すと胸圧で行き場をなくした精液が谷間という名の胸杯に溜まりだす。
それをお互いの胸からずずずっと飲み干すと飛び散った精液にも優しく掃除しあうに舌を這わす。
二人に限界が来ていたので大の字になって寝転ぶと、右腕にティファニアが左腕にマチルダが腕枕するようにくっついてきた。


「サイトさん、だぁいすき」


「姉妹で美味しく食べたんだから、きっちり最後まで面倒みるんだよ、いいね」


言葉は違えど耳元で幸せそうにさえずる二人だった。



[18350] ■現在48 「嵐の前の」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:08063534
Date: 2012/10/16 08:57
アルビオンの首都ロンディニウムでは、何度目か判らない対策会議が行われていた。
無能な王家を廃し貴族をまとめあげレコン・キスタとした所まではよかった。
しかし肝心のウェールズを逃がした事から坂を転がり落ちるように失敗続きだった。

事故を装い不意をうち勝てるはずだったタルブ戦に敗北し、ロサイスは敵に落ちた。
トリステインをゲルマニアを攻め、ハルケギニアを纏め上げることなど遥か遠く、
とうとう自国にまで攻め込むのを許してしまったのだ。


「そも、王党派も息を吹き返しつつあるとか、やはり草の根わけてもウェールズを見つけ
アルビオン帝国を磐石なものとするのが先決だったのでは?」


「親殺しで孤立している皇太子などものの数ではないわ!
捕られるのを待っている餌のような小国を落すのが早い」


「足元を疎かにしては勝てるものも勝てないのでは??
ロサイスが落ちたのも皇太子のせいとか・・・勝ちも見えずに泥臭くあがくのお」


「ふん、吹けば飛ぶような軍勢よ。援軍も千を少し超えた数とかたかが知れとる
まずはロサイスを取り戻し、返す刀でトリステインに攻め入ればいい」


喧々囂々と騒がしく議会は続き、白熱した議論が進んでいた。
攻めるにしろ守るにしろロサイスは無視出来ない。


「なんでもかの国の皇女も火の鳥の聖女とあがめられてるとか、未知の魔法に怯える兵も少ないない。
国を落ち着かせガリアとの連携を密にすることも視野にいれるべきかと」


「所詮こけおどしよ、それ程強力な魔法ならなぜまだ我々は健在か?
援軍なぞちまちまとしたことをせず、攻め入るなら一思いにすればよい。
噂に聞く大魔法もそう何度も打てまい、ここで悠長に会議をすることが出来ているのが何よりの証拠」


タルブでは苦い敗北を味わったとはいえ、一部を失ったに過ぎない。
陸では五万を超えた軍が現存し、制空権は未だアルビオンのもの。
最強の竜騎士団も丸々残し、空軍艦隊は四十隻が戦闘可能である。


「確かにいくつかの謀略は失敗に終わった」


議会を黙り見守っていたクロムウェルがゆっくりと周りを見渡しながら口を開く。
ジェームズを使った皇太子の暗殺の罠は悪評はもたらせたものの不発、
タルブの不意をうった進行は失敗しみすみす戦力を明け渡す事に、
秘密裏に行おうとした魔法学園の子弟を害す作戦も白炎となのる傭兵メイジを雇われ悉く潰された。

裏を描いた作戦は成功せずとも王党派を排し軍をまとめ大きな視点での勝ちはゆるぎない。
裏の裏は表、こにいたっては正攻法で押しつぶせばよいのである。


「依然空はわれ等のもの、地の利も数もあり負ける道理があろうか?
国も聖地奪還という目標に向けて徐々に団結しつつある」


神聖皇帝の下に貴族派はもとより、アンドバリの指輪の力で王党派も組み込まれつつある。
国がまとまれば、ガリアとも表立って同盟を進める事が出来る、
二本の交差した杖と赤地の三匹の竜が並び立つのも間近、その為に憂いは絶っておきたい。


「我々はロンディニウムで迎え撃つ」


あまりの事に先ほどまで騒がしかった場が一瞬で静まった。


「なっ・・・座してロサイスを見捨てるおつもりか?
港を押さえずにいれば、次々と援軍をよばれ数の利をなくされますぞ」


意見をあげるアルビオン軍主力の実質的な指揮をとるホーキンスを軍部の皆が見守る。
クロムウェルはその鋭いまなざしを受け流しゆっくりと首を振る。


「わたしは、ロサイスに次いでサウスゴータがウェールズの手で落とされたのも掴んでいる」


予期していなかった言葉を受け議会は途端にざわめきだす。


「街道の結束点でもある重要な大都市で、首都も目と鼻の先でもある場所が落とされたと?
皇太子殿は援軍を待たずにいったい何故、しかしまだ軍にも届いていない情報をどうやって」


「むろん”虚無”の魔法だ」


にっこりと微笑むクロムウェルが頼もしく見える。
初めてシェフィールドから話を聞いたときは、ここにいる誰よりも慌てふためいたものだ。
小人を使い情報を得たというが理解できなかったが、告げられた作戦を聞き自信を取り戻す。
作戦通り虚無として利用する事で導かれた筋書き通り進めていく。


「ロサイスを落としたことを大々的に広め目を向け、その隙にサウスゴータを落す。
われ等が知らずに援軍を見越して港に主力を動かせばしめたものよ、既に喉元に剣はつきさしておるのだからな」


あまりの事に誰も口を挟めず聞き入っている。


「電光石火のような作戦も種が割れればおそるるに足らず、鋭き剣のごときサウスゴータの切っ先も直ぐに墓標と変えてくれよう。
ロサイスはもちろん落そうとも、念のため最強の空軍全部をもってして事を成す」


静かに確信を持って告げられ呆気にとられる全員を満足そうに見渡すとクロムウェルは言葉を続ける。


「主力は王都で待ち構え皇太子をサウスゴータにて包囲する、ロサイスの退路を断ち背面から挟撃する
鼠の一匹たりとも逃がさぬ、仮に街に篭城しても悪評高きことまた住人に狩らせればよい」


死者もよみがえらせ知りえぬ情報も見通す圧倒的な虚無の魔法に、それを運用する戦略。
勝ちを確信した軍部は色めき立ち、その熱気を受けバルコニーに降り立つ。
各将軍や閣僚は揺ぎ無い面持ちで、クロムウェルに熱狂的な信頼をささげる親衛隊を迎える。


「争いはなくならず貧困はたえない、けっして満たされず安寧も無い
人同士手を取り合わず、隣人を傷つけあっている・・・何故か」


クロムウェルの静かな語り口調で始まる、熱気のこもった会場と爆発を押しとどめたような緊迫した静けさ。


「『聖地』だ、心のよりどころをなくしたわれ等は今こそ手を取り合い血の団結を行わなくてはならない。
進むべき道は困難で痛み傷つくことになるだろう。しかし、我々人は求めて止まない!」


徐々に感情を込めて声高に語る。


「そのひめたる思いを吐き出した時、わたしは祝福された。虚無にだッ!
迷えるハルケギニアを導くために、始祖に力を託された!!」


高く指輪を掲げるとバルコニーに並べた死体が、まるで息を吹き返したように立ち上がった。
割れんばかりの歓声が鳴り響き、その熱気はバルコニーにまで届きそうな勢いだ。


「忠勇なる革命兵士諸君ッ!聖地奪還の時は満ちた!真に国を思わぬ無能なる王から奪った冠はその一歩に過ぎない。
誇り高き理想に共感し賛同するものには手を!相容れず驕りはむかうものには杖を!
始祖に託されし虚無を信じる同胞には栄光の勝利を!!!!」


『虚無!虚無!虚無!虚無!虚無!虚無!虚無!虚無!』


バルコニーから見下ろされる中庭の熱狂は最骨頂に達していた。
革命万歳、共和国万歳と尽きる事なき連呼がアルビオンの空へと吸い込まれていった。










「攻める・・・ですか?」


高高度の快適空のたび、空気の層に守られ潤沢な風石をつかって
アルビオンのはるか上空の改造船の要人客室内のウェールズが質問した。


「系統の魔法は守りに向かない、ハルケギニアでは攻めないと勝てないんだ」


固定化しかり反属性魔法しかりであると、この剣と魔法の世界では兵法などあってないようなものだと。
攻めないと勝てないのは当たり前では?という疑問をウェールズが飲み込んだ。
余人では図る事のできない人物であるという事は理解していた。


「確かにそうかも知れませんが、どうやって攻略するのか検討もつきません。
魔法を使うにも数が足りませんし、空を抑えられては船で攻めることもかないません」


「時にすぐれた計算は人を殺すに足る、政略気にせず壊すだけなら楽であるのに」


もってまわしたような言い回しに要領を得ず疑問ばかり膨れ上がり沈黙で答えた。
「アルビオンを」、その一言でサイトの言動に注意を払った。


「アルビオンをガリアに落したら多くが解決すると思わない?」


どうやってとか、無理だとか、やめてくれという言葉もでずに嫌な汗がながれる。


「その縮小版、材料を持ってきて空から錬金して城に落せば先住魔法ですら返せない」


陸では数と魔法を制すれば、空では船と竜を制すれば万全と言われている。
壊すだけならと簡単に言うなと考えたが、数分前の自分を叱咤したい。
どうやって実現するかはわからないが、目の前の人物が出来るというのならば出来るのだろう。
初めてあった時とはまったくもって違う在り方に戸惑いを覚えずにはいられなかった。


「では、そのように進めるのですか?」


影に日向に援助され、繊細にして大胆、一つ一つ物が進むたびにあらゆることを想定しているような展開を魅せられた。
敵味方あらゆる動き、行動原理、機微を理解しているとしか思えない、いったいその目にはどれだけ先が見えているのか?
今では自分の前で隠しもしない神々しさとあいまって従順の道を選ぶのも無理なかった。


「いや、もっと酷い事をするのさ」


これ以上に酷い事といわれ、ウェールズは早々に思考を放棄したのだった。









シティオブサウスゴータの南の丘、寺院、アルビオンに上陸した際に憂いを帯びたサイトとルイズは見て回っていたことを思い出した。
初めて訪れるはずの場所に悲しげな顔をするサイトを気遣いそっと寄り添った。
故郷を思い出したのか違う何かを思ったのか判らなかったが、拒絶の雰囲気はなく沈む夕日が二人を見守っていた。

今その丘に再びルイズは私兵を率いてたっていた。
朝もやの中からゆっくりと地響きと共にあらわれ、回想を邪魔した無粋な大軍を感慨もなく見ていた。
恐怖もなく約束された勝利に向けて注文を追行すればいいだけである。

ここにルイズがいるのはお披露目とか実験とか、戦場にそぐわない様な目的だった。
言うなればここで戦う事はさして重要ではなかったし、錬度を高めるにはいい機会だった。
千とはいえサイトの為に切磋琢磨することに幸福を感じる兵達でもある。
好きこそ物の上手なれではないが、筆頭のルイズやギーシュやモンモランシーをはじめ狂信者の粋に達していた。

千対五万、1対七万には遠く及ばないものの後世の歴史に記るされるような戦いの火蓋が気って落されようとしていた。



[18350] ■現在49「戦争の終わった日」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:08063534
Date: 2012/10/30 02:15
解体され新設されたトリステインの王立研究所では日夜生活を向上するべく研究がなされていた。
サイトは派手な事はいらない消して無理せず緩やかに繁栄しているというが、
ある意味閉塞されていた国家にしたら平民と協力するものや魔法をもっと身近にするなど、どの視点も考えられない物が多かった。

特に飽和状態にある精霊石を応用する研究が盛んに行われていた。
既存の暖房や照明から軍艦まで幅広く、食料の冷保存や原動機の動力など恐るべき速さで世間に浸透していった。
さらには大量の発掘場所や正しい保存方法、鉱物による病への影響に関する対処、どれもが国家を凌駕する知識量であった。
国家の影に隠れ表立った大きな功績はなかったが、トリステインの重鎮からは重要視されていた。

アンリエッタの鶴の一声で決まったコルベールだったが、天性の職業ともいえた。
原動機を使った新たな概念を持った船や、戦争とは関係ないような発明をすることができる。
それは、子供達を育てる楽しみにも勝るとも劣らなかったしなにより好奇心がみたされた。


「サイトくんによれば、これからは戦争も様変わりするらしいですし、
どうやって実現するかはまだ判らないですが、争いが無くなるというのなら早くそのような世界がきてほしいものですな」


そう隣にいる人物に話しかけた、普段は深くローブをかぶっているが今はなにもつけていず尖った耳があらわになっている。


「そうだな、少年の考えは私にもまったくわからない。
蛮人はみな君や彼のようではないとおもうが・・・思考も理論も飛びぬけて可笑しい、いや失礼。」


蛮人と交渉役のビダーシャルは、サイトの働きによってアカデミーに所属していた。
この場所は技術バカと呼ぶにふさわしい人間が多数所属していた、ビダーシャルもその一人だった。
彼もサイトの要請によって惜しみなく研究を行っており、その無茶ぶりを聞く被害者でもあった。
紆余曲折はあったものの、話してみればエルフといえども気にしない人ばかりであったため不自由はしていなかった。

コルベールは楽観していたが、エルフや悪魔についても詳しい知識を持ち自分に交渉を持ちかけることや
一時的な同盟と金銭と引き換えにゲルマニアとガリアに風石で動く初期の自動車を送り、
殆どの技術を他国に惜しみなく流出させる裏サイトとでもいうような手腕をしっているだけに
提唱される戦争の様変わりも碌なことではないに違いないと考えていた。
ビダーシャルはサイトに最重要監視対象であると同時に、閉塞されたエルフ世界を開放してくれるような希望も持っていた。


「そういえば、あの子は上手くやっているんでしょうか?」


ふと、コルベールは先日までここにいたもののことを思い浮かべた。
今回お披露目とのこともあって、サイトに同行しアルビオンの空へ向かっている。


「ああ、万が一もなく上手くやっているだろうな。
わたしが技術の粋をつぎ込んだのだ、そうでなくては困る。」


それに可愛らしくとても良い子だと、誇るように告げた。


「頬がほころんでますよ、ビダーシャル殿」


このネタで何度もからかわれたことのあるビダーシャルは心外な顔つきをしたが、
思い返せば自分がこんなに変わったのは、あの子の影響も大きいかもしれない。
だとしたら、やはり業が深いのかも知れないなと一人つぶやくのだった。









場所はアルビオンのサウスゴータの丘に戻る。
小高い丘ではルイズの指示によってすでに組み立てられ終わった遠投投石器があった。
残念ながらサイトの予想道理、空から軍艦の横槍は来なかった。
着たらきたで『地上から空へ飛ぶ蛇くん』の餌食にあわせられたというのに・・・
こちらの軍艦は数は少ないものの全てサイトのほうに回っている。

レコンキスタもまだ数キロも離れている大軍隊を念のため隊をばらけさせている。
だがそれも目の前の皿に盛られたケーキをどのように平らげるか勝利後の報酬や今後を考えるもの達ばかりだった。
侮るなというのも難しく、奇襲を潰した少数の軍などおそるるに足らなかったからだ。
純粋な陸での千対五万、普通であれば勝利の軍配はどちらに上がるか子供でもわかる計算だった。
いくら剣と魔法の世界でも50倍の戦力、数の暴力である。
それを覆す一手が大砲でもなく原始的な野戦での遠投投石器だというのだ。
大量の火の秘薬や爆発物も考慮して水のベールを展開するように指示をしている。

諸侯も多く陣形を敷くだけでも一苦労、しかしそれが終わればあとは地響きを鳴らすような号令の元
驕り高ぶった国への一振りとして杖を振るうだけのはずだった。


「それにしても壮観ね、こんなに遠く離れても熱気を感じるわ。
少し怖いくらいだわ・・・本当に大丈夫なの?包囲とかされていない?」


金髪の縦ロールモンモランシーが不安げにもらす、戦いは好きではなかったが作戦の一部を担っている。
しかし、これを少し怖いで済ましてしまう辺り随分染まってしまったのかもしれない。


「そう心配する事無いよモンモランシ、サイトの話では向こうも結束を強めるためのデモンストレーションでしかないし、
連携や勝ち戦を学ばせるって前提があるらしいからね、ないとおもうけどもしここまでたどり着くようなら命にかけても守るさ

それよりも・・・ルイズ、あれ本当に飛ばすのかい?」


頼もしい台詞にたつ程の実力をもったギーシュは投石器の一つに自分の魔法蛇を入れていた。
建物内部を侵略するほうが向いている魔法でもあるが、
王城を攻め壊すわけではなかったので万が一を考えてこちらの攻略に参加していた。
今回は作戦的に大きく貢献するわけではなかったが問題なかった。


「まあ、”本人”のたっての希望なんだからしかたないでしょ・・・
わたしだって別にあの子を飛ばしたくて飛ばすわけじゃないの、わかる?
それよりもそろそろ十分な魔力が込められたわ、貴方達も手はずどおりはじめて頂戴」


そういうと見えるように杖を掲げた。
コルベールの手によって超長距離飛ばす事が可能になった遠投投石器は、その用途どおり石を飛ばした。
朝もやに反応しきらきらと輝く宝石は、見れば見慣れた宝石だった。

敵軍は意図がわからず違う意味で動揺した。
飛ばされたものは爆弾でも何でもなかった、加速度を持って飛ばされた石は確かにそれだけで凶器だった。
しかし、それだけだった、これが何だというのだ・・・トリステインの切り札じゃないのか?一応なりとも対策はしたというのに。
そんな心配も杞憂に終わった、それも最悪に嫌な方向で。






「・・・爆発<エクスプロージョン>」







敵地にほうり込められた風石の一つに込められた悪魔の業が放たれる。
それだけで十分だった、虚無の魔法によって暴発し風の本流となって暴走し始めた。


「ぎゃあああああああああああああああああ」


竜巻と土砂の嵐、一つの風石の暴走をうけ次々と連鎖的にばら撒かれた風石が暴発する。
局所で巻き起こる洗礼は悪夢以外の何でもなかった。


「いてえ・・・いてえよ、なんだよこれ聞いてねえよ。
勝てる戦じゃ!簡単な作戦じゃないのかよ!!!」


「前が全然みえねえ、どうなってるんだ・・・無事な奴はいるか!!!」


天を突くほどの嵐、舞い上がる粉塵。災害級の威力は鎧すら紙くずののように切り裂いた。
逃げる暇もなくアルビオンの大軍を貴賎なく巻き込んでいく。
広範囲に散らばった風石は一つ残らず、竜巻となり時に重なり合いすりつぶしていく。


「ううっ・・・嫌だ、こんなことで死にたくない」


「くそっ!俺の腕がっ・・・血が止まらない、誰か・・・たす」


各所であがる悲鳴、一瞬で絶命できたものは幸せだった、風圧や切り傷、飛んできた破片、打ち上げられる体。
たったの一瞬で3万もの兵が戦闘不能状態に追いやられた。
比較的後方に位置した無事だった部隊は立ち尽くして目の前の光景を見ていた。


「悪夢か・・・これは」


ホーキンスは今なお視界に移る竜巻群に呆気にとられていた。
まだ2万の兵は残っているとはいえ、天地を切り裂くような魔法に軍は浮き足立っていた。


「あれは、風石か?しかし、爆発するものなのか?いや敵にそれを可能とする魔法があるということか
あれほど危険なものを使っていたのか・・・」


便利な精霊石は日常生活としてもう切っては切れない関係だった。
どの街や城にだって使われているし、適当に採掘すれば当たるほど何処にでもあるものだった。


「どう報告すればいいのだ、安全な場所など何処にも無いとでも言えばいいのか」


安価に大量に手に入れる事が可能で、自身から火薬庫に住んでいるような物だ。
軍艦を捨て原始的な生活をすることなど出来るはずもない、頭を抱えるばかりだった。
形なりとも後方に軍を下がらせたが、この嵐が止むまで動かせそうにないし戦える状態じゃない。
正直撤退も頭に掠めたがそれが許される立場に無かった、あざ笑うように曇り始めた空に疲れた顔を見せた。




「戦っているって気はしなかったけど終わったわ。ルイズ悪いけど、少しだけ休ませて頂戴」


打って変わってカラッと晴れた空の自軍に少し青い顔をしたモンモランシーが戻ってきた。
水石を使った魔法を敵陣に放ってきたばかりだった。
それ自体に殺傷能力はなく、ジョークみたいな魔法だったが効果は恐ろしいほどあった。


「お疲れ様、モンモランシ。これで間違いなく敵の士気はもっと下がるでしょうね。
十分よ、後ろでゆっくり休んで頂戴、帰ったらサイトにほめてもらいましょう」


『魔女の可笑しな雨<コミカルキャンディ>』と名づけられたその魔法は敵陣に雲となって現れた。
竜巻の影響かとおもっていた兵は、その魔法に気がつく初動が遅れた。
アルビオン軍が気がついて雲を払うまでに千に及ぶ軍が雨にさらされた。


「お前よく見れば格好いいな」


「なにっ!こんな場所にまでトリステインの軍が紛れ込んでるんだ!?ふざけやがって、ぶっ殺してやる」


「ひい、いきなりオークに化けやがった」


「Zzz・・・」


いきなり隣の人物に好意を持ち出す人間や、仲間がトリステインの軍に見えるもの、
姿が化け物のように周りに見えるようになったもの、気分が高揚するもの、眠くなり始めるもの
しびれて動けないもの、気分が悪くなり始めるもの、体力が回復し始めるもの、はては髪の毛が伸びるもの。

今までモンモランシが作った薬をランダムに再現し雨に触れたものに発動するだけの魔法だった。
しかし、混乱し浮き足たっていた軍には効果的だった。
同士討ちをし始める人間に軍がとった行動は雨の影響にあった人間を全員排除する・・・だった。


「やめてくれ!!おれは正気だ、仲間に殺されるなんて嫌だ。
嘘だろ?剣を向けないでくれ、頼む、お願いだ・・・まだ死にたくない」


「すまない・・・」


命乞いをしながら攻撃してきた人間もいた・・・今の兵が正気かどうか判らないが、こうするしかなかった。
反論の余地がないとわかった軍は、回復した体力や昂揚した面持ちで吼え反乱しはじめた。
最悪の気分だった、同じ国で育ち同じ理想を掲げ言葉を交わし酒を酌み交わした人間を自分の手にかける。
仲間を殺した兵は涙を流していた、敵とも剣を交えていないのに同胞を殺したのかと・・・

それに加えて蛇のようなものに襲われて足元まで注意を払わなくてはいけなかった。
密集し鎧で動きが阻害され小さな銅蛇に対処するのは至難の業だった。


「将軍、報告します!敵の魔法で混乱した兵は静めたものの士気は低下、大きく動揺が広がっています。
また敵の土魔法で負傷者が多数出ているようです、いかがしますか?」


視界もようやく晴れてきた、これ以上敵に好きに攻められる前に数の優位があるうちに戦わなくてはいけない。
この戦が終わった後処分は免れないだろう、とはいえ終わらせなくてはならない。
報告に来た兵をねぎらい軍に号令をかけようとした。


「報告ご苦労だっ・・・」


しかし、それも最後まで続かなかった。右肩を氷の魔法ウィンディ・アイシクルで貫かれたのだ。
驚愕で目の前の兵を見た、激痛に耐え杖を振るうと味方のはずの兵を両断した。


「な、何故だ!!敵と通じていたのか!!!何時からだ!!!」


報告に来たのは厳選した私兵、顔を覚えていて家族を知っているくらい面識がある兵だった。
信じられなかった、信じたくなかった、薬か魔法か?このタイミングで仕掛けてくるなんて。
歴戦の将軍と言われた自分の白髪が増えたような気がした。


「将軍、申し訳ありません。われ等がいながら本陣まで敵の手を伸ばさせてしまうとは・・・
味方の手で傷をつけられてしまうなんて、閣下にどのように報告すればよいか!」


少し大きすぎる声に眉をしかめた、今はそれよりも早く傷を癒したかった。
仮にも軍の指揮をする将官が手傷を負わされたと動揺を広めたくなかったのだ。


「かくなる上は、コロシテツグナイマス、将軍」


今度は熱狂的なレコンキスタの信者で有名だった兵だった。
避けられたのは偶然だった、よろけながらウィンドの魔法を唱え吹き飛ばした。
離反なのかという線が消え敵の術だという考えにいたったが、今どう対処すればいいかわからなかった。
苦手な治癒魔法を唱えるが、出来れば薬がほしい。今私が倒れるわけにいかない。



「ホーキンス様!なんて酷い怪我・・・薬を、薬をお持ちしました」


痛みにこらえながら言葉をかけてきた女性の衛生兵をみて、「すまない」という言葉を飲み込まざるを得なかった。
疑うまでもなく目の前で薬を地面に叩きつけ、笑いながら杖を構えていたのだ。
二度目の襲撃に混乱したが、今度は周りの人間がなんとか間に合った。
吹き飛ばされた兵は錯乱したのか最後の力を振り絞って握っていたナイフをあらぬ方向に投げた。


「次はど・・・どこから・・・い・・・いつ「襲って」くるんだ!? オレは! オレはッ!」


いきなり立て続けに襲ってきた仲間に疑心難儀になった、誰も彼もが敵に見え始める。
自分の言動すら怪しくなってきはじめた、杖を構え知らずに大声で叫んでいた。


「オレのそばに近寄るなああーーーーーーーーーッ」




バケツリレーのように兵の手から手に渡ったインテリジェンスナイフの傭兵”地下水”は、
水の魔法を得意とし、自身を手にした人物を意のままに操れる上に魔力を増幅させることが可能な凄腕の傭兵だった。
今回は名声とは関係なしにあばれ、名前を挙げずひところに長いせずに戦場を混乱させていた。
下地が出来ていたとはいえ、その効果は新たに話すまでもないと思う。


「にしても、使い手はよくもこうまでえげつない事考えるもんだ。
一寸見習うべきか悩むほどだぞ、これは・・・っと、そろそろ嬢ちゃんも来るようだし、合流する事にするか」







視界がはれ最後の遠投投石器によって、絶望がアルビオン軍に投げ込まれた。
城攻めであれば、死体を場内に投下し疫病を撒き散らす事もあったが、それよりも酷い者だった。


「こうやって飛ぶのも気持ちいもんだね?”おにいちゃん”」


「コッペリアは凄い速度で飛んでるってのに暢気に笑ってるなんてな
相棒にはおよばないけど妹凄い!てーしたもんだ」


駄剣を兄と呼ぶのは、ふんわりとした紫色の髪を持ちくりっとした赤い目の幼い女の子だった。
バレットに出てくる踊り子のようにフリルのふんだんに使われたチュチュから白い足が見え足先はトゥシューズをはいている。
10人がみれば10人ともほっこりと笑顔にさせるような雰囲気を持っている。
しかし、よく見れば表情は少し硬く球体関節の見えるゴーレム人形だというのが判る。
小さいながら土石をふんだんに使い、インテリジェンスドールとしてエルフに魂を吹き込まれた人形だった。
人形ながら使い魔になり特殊なルーンを持ち、全ての魔法を返す反射<カウンター>の先住魔法がふんだんに込められている。

おとーさんとよびビダーシャルを親馬鹿にしてしまうぐらいのコケティッシュな魅力も備えていた。。
ミョズニトニルンのルーンを持つシェフィールドとの相性は最悪だが、それ以外に対処しづらい死をも恐れぬ凶兵。
サイトが一番最初に作った時は、戦いにくりだすために作ったわけではなかったが

ルーンは、ハーナル(Dexterous πρόσωπο)と左の内太ももに刻まれている。
触れたものの得意な技術を一日だけ任意で真似ることが出来る能力だった。
コルベールも知らないような特殊なルーンで、その驚きと有用性からアカデミーでは新たにルーンを研究する部署も出来たほどだ。
それとは別にコッペリアの後に可愛さを競い合うよう自動人形を作成する部署も出来たが、この件については割愛することにする。


「もう、おにいちゃんったらそればっかり!妹の初陣なんだから、しっかりしてよね?」


ぷうなんて膨れる姿を見て、剣なのにでれっとしてしまうのも仕方がなかった。
この会話も投石器で投げられ空を飛んで、身の丈以上の大剣にボードみたいに乗りながらしているのでシュールだ。


「おう、そろそろ着地の準備をするんだぞ」


「はーい」


間延びした声とは裏腹に、ドゴンという音と共に戦場に舞い降りた幼女を見て、
混乱した戦場はさらにカオスな状況に陥いりあまりに場にそぐわない女の子の登場に皆が手を止めて見入ってしまった。

コッペリアはくるりと回転しぺこりとお辞儀をするとその場にあったナイフを見つけ拾うと服の中にしまった。
デルフリンガーの柄を持つと地面に垂直に逆立ちをした「見えたッ!」という台詞は残念ながらなかった。
サイトからコピーした劣化ガンダールヴにデルフリンガーのサポート、さらには地下水の魔法まで使う。


「うー!こんにちは、そしてさよーなら」


遠心力で直角に振り下ろしながら飛んでいく、空中の不自然な場所に水の足場をつくり方向転換をする。
横に小さな身体ごとなぎ払うとその反動で違う場所に飛んでいく。
決死の覚悟で撃った矢もはずれいたずらに被害は広まり、何とか魔法を当てようとすれば吸収される。
運良くあたった魔法は不思議な力で全部跳ね返されている。


絶望に膝をつく兵も少なくなかった。ただの一歩も軍を進める前に機能は崩壊していた。
指揮官は地下水にやられ烏合の衆となり気力があるもので逃げ出した兵もいた。
抵抗しようとした兵もコッペリアに頭を叩き潰された、魔法で返り血も浴びていない無邪気な笑顔で舞っている。
拍手や賞賛の声はなく、悲鳴と血しぶきが今回の踊りの報酬だった。
それを見て何をしてくるかわからないまだ遠く離れたトリステイン軍に足を進めるものは誰もいず投降した。



これが戦争でもなく戦略と戦術のお披露目だというのだから救いがない。
しかも他国で出来事であり時期や規模的にもちょうど良いという理由だった。
確かに今後は戦争も変わっていくだろう、自ら火薬庫を抱えトリステイン自国ですらその例に漏れない。
多少は小競り合いや謀略はあるが、国同士での戦争は意味がない無意味なものになってしまっていた。
もしルイズたちのように精霊石を暴発するすべを得ても完全に壊しては無駄になってしまう。
世界を焦土に変えようとする人物でもいれば話は変わってくるかもしれないが・・・




そして、まだサイトの攻撃は終わっていなかった。



[18350] ■現在50「Dirty Deeds Done Dirt Cheap」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:08063534
Date: 2012/10/31 19:38
「損害なし、敵大破で壊滅・・・」


通信を聞き絶句するように口を閉じるウェールズ。改めて言葉にすると信じられないような成果だ。
概要は聞いていたため少しは軽減したが、それを超えてなお驚きに値する内容だった。

結果的に見れば最良の結果を出したともいえるが、例えば一つ破綻しただけでも全滅を免れない采配だった。
それを危なげもなく最適な道筋を一見歩いているようにも見えた。
時間もあったので今のうちにと聞いておきたかったのだ。


「結局空からの援護や索敵はなかったと」


既にロンディニウムの上空に位置していた軍船に索敵一つ出ていなかった。
サウスゴータにも一隻もなかった事から全軍ロサイスに向かった事が判る。


「その為の奇襲だったからね、何が欲しいか判ればプレゼント選びにも失敗しない。
ロサイスにいくつか置いてきたレキシントンをはじめとした軍船もタルブでの戦役もその一つですよ王陛下」


敵があえて奇襲を潰すために陸のみに絞ったのも判る、背面挟撃を仕掛けるためにロサイスを落すのも判る。
結束を強くするため勝利を体験させるのも、勝利を確信してしまったため疎かになったのも頷ける。
それでも全軍を動かすというのは中々信じがたかった。


「レコンキスタはそうまでして、私の首が必要だったのか・・・」


「ウェールズ王陛下がこれまで派手に活動していたお陰で無視出来ない被害でした。
目に見えないので実感しづらいかも知れないですがね・・・
ここにレコンキスタの貴族共和制という大儀が加わってくるわけです」


時に偏在、フェイスチェンジを使って単騎ゲリラ活動を行ってきた、必ず本物には王家の杖を持たせていた。
今サウスゴータにいる偏在は王家の杖をもっている、つまりそういうことだ。
共和制・・・王政と真っ向対立する政略は、ゲルマニア・トリステイン・ガリア三国のみならず、
聖地奪還を掲げながらブリミルの血を否定することでロマニアにすら弓を引く行為になりかねない。
その為に正当なる王権復活の口実は見逃せなかったし、血の結束が必要になるということだろう。


「・・・誰の」


「ん?」


「・・・これは誰の絵なのですか?サイトさんは何時から知っていたのですか」


苦々しく端正な顔をゆがめうつむく。

最初に会ったときクロムウェルが死体を操っている事を都合よく知っていた事、
敵が”なんらかの方法でウェールズが既にサウスゴータを落としているのを知っている”ことを知っていて
”即座に二面攻撃を行う時間”を把握していて、”王城が空軍を含め空になること”を確信していて
自分の必死のゲリラ活動ですら布石の一つで、”ガリアに落したら多くが解決する”と裏の意図を匂わせる。
状況が敵ではないと言っているがそれは味方だと本当にいえるのか??

父やパリーや民は苦しむ必要があったのか?
いやもしそれが可能だったとしても他人に頼るのは間違いと言葉を飲み込んだ。


「ほぅ・・・」


疑問をもち反しようとするウェールズをサイトは面白そうに見た。
もちろんちゃんと最初からアルビオンを救う方法もあるし、ガリア側に回れば早いというよりも一瞬終わらせられることも一理ある。
お望みであれば息も飲み込むような絶望的で心震える撤退戦だって出来るし、
血で血をあらうような決戦だって、英雄製造機にボタンを押すかのように一人で特攻する事だって出来る。

このハルケギニアを繰り返す同士、・・・嗚呼敵でも大歓迎だが出る事も大変残念ながらない。


「そのような”過去”のことを話も良いですが、ちょうど時間のようです。
変えたくなるような後悔をしないよう未来に向けて動き出そうとしようじゃないですか」


偽装していた雲が晴れ、王城の庭に到着した音だった。










突然の訪問者にロンディニウムは騒然としていた。
対空装備も準備する前に浮かぶ軍船に落とされ、安全だと思われていて想定していない事態だった。


「おおおおお!ミス!ミス・シェフィールド!!敵が、敵が攻めてきました。
我々の作戦は完璧だったのではないですか?赤子に魔法をかけるより容易いと」


謁見での豪胆さが嘘のように、威厳の仮面が取れただただ怯える様を見せるクロムウェルがいた。


「まったく直ぐにうろたえるんじゃないよ、甘える事しか出来ないの?
死人を使うなり、なんなりして時間を稼ぎなさい・・・本陣が戻るまでの兵は残してあるじゃない」


「あの方は、あの方はご存知なのですか?わたくしめを助けてくださるのでしょうか?
わたしは・・・わたしは、あの無能な王達のように吊られたくないのです」


シェフィールドはそこで、ふむと考える。
小人の目でサウスゴータの敗戦を知っている、随分と興味深い内容ばかりだった。
特に類をみない自動人形は、ミョズニトニルンとしても気になるばかりだ。
アルビオンが落ちるにしよ守りきるにしろ、ここまで攻め込んできた人物を一目見るのも良いかもしれない。
アンドバリの指輪があれば、脱出ぐらいどうとでもなる。


(ジョゼフ様はお喜びになるかもしれない)


「指輪を渡しなさい、死体を動かすなどこの指輪の力の一部にしかすぎない
その真髄・・・本当の使い方を教えてあげるわ。」


怪しく額を光らせるシェフィールドは、足元に広がる薄い水面に気がつかなかった。














(広げろ、城の中に・・・判るだろ?そうだ、ついでに面倒なのは解いておけ)


サイトがそう考えると、一瞬背後にアメーバのような水の彫像が浮かび上がり微笑んだ。
ゆっくりと這いよるようにロンデニゥムが浸水していく。


(諒解、主様。私の片割れ・・・感謝)


「では、進みましょう」


その言葉に冷や汗を垂らしながら、ウェールズが続く。
軍船から降りて以降、杖をもった軍人達に囲まれたままだった。
どんな魔法かわからないが、敵は困惑したまま杖を構えるものの一行に攻撃してこない。


(なんだこれは?なぜ誰も攻撃をしようとしない?敵だぞ!?
今魔法でも繰り出せば死んでしまうかもしれないのに・・・そしてこの人物は一体)


一緒に降りた目いっぱいにフードをかぶった怪しげな人物の仕業だろうか?
サイトからはまったく説明がなかったが、この強襲に必要なのだと思い口を閉ざした。
そうたった三人で嘗て知りうる王宮のようにどうどうと歩いているのだった。

一人警戒している自分が馬鹿みたいだが、こればかりはしようもない。


跳ね橋も城門もなんら障害にならないどころか、時折意味不明に死んだように兵士や貴族が倒れている。
いつだって驚くべき光景を見せ続けてくるが、立ち止まってはいられない・・・小さく黙祷を掲げ進む。
まるで現実的じゃない風景に足を進める、まるで悪い夢でも見ているようだ。

庭を歩いても城を歩いても手厚い歓迎もなく、陽動も潜入も何もない。
本来であれば本拠地を制圧してから行う予定だったが、能力があるだけに省略したのだった。
先の見えてるリアルリアルタイムストラテジーはお腹一杯だ。


「王の・・・父上の寝室」


ゆっくりと扉を開けると、部屋のすみでうずくまり震える司教と黒髪の女性が立っていた。
これはいったい・・・いや、すぐに思い至った、一連の裏に糸引くものがいるのだと。


「ガリアの手先かっ!!」


シェフィールドは驚いたように見開いた目を猛禽類のように細める。
本物というのはこういうのを言うものかも知れないわね・・・ちらりと侮蔑の眼差しを隅に向ける。


「何をおっしゃっているのか判りませんわ?
それに杖ではなく剣など構えて・・・無抵抗な人間を切り捨てるとウェールズ様はおっしゃるのですか?」


「待て、それ以上近づくな、怪しい動きを見せるな、後ろを向いて両手を挙げろ」


しかし、シェフィールドはその言葉にも余裕を崩さなかった。
未だ言葉を交わし、その剣で一刀だにしない甘い考えをもつ人物になど遅れをとるいわれはない。
少数で強行してきたとあっても、後ろの二人すら何もしようとしていないのだ。


「その前に水を一杯だけ、頂いても?」


指輪を少し溶かして躓いた振りをして三人にかければそれだけで詰みだ。
戦場のような剣呑な音もせず慌てふためく宮中の声がここにまで聞こえる。
大方陽動をめぐらし、首謀者の首を取りにきたのだろう・・・たしかに私らが抑えられてしまえば後はどうとでもなる。
ウェールズは水を飲もうとするシェフィールドを怪しい動きでもあれば即座に切ってすてる覚悟で見守る。


(ふふっ、遅いのよ)


そして、もっていたグラスを勢いよくぶちまけた。


「え?あれ?えい!あれ??」


振っても振ってもグラスの中の水が物理法則に反して出てこない。
あまりの事にウェールズは呆然としたまま剣を構えている。サイトはくすくすと笑っている。


「くっ!!」


醜態を晒したもののすぐに思考を切り替え、強烈に光を放つ魔道具を使い離脱しようと試みる。
それすらも無理だった、みると顔を覗く体中を粘液のような水が覆っている。
水の魔法を使ったのかと怪しげなローブをかぶった人物を睨みつける。


「み・・・水の精r」


クロムウェルはそれ以上言葉をしゃべることなくあっけなく気絶した。
魔法だと思っていたよりも最悪な事態にシェフィールドは顔を青ざめる。
アンドバリの指輪以上の力をもち、心すら一瞬で操るのを盗んだ自身はよく心得ていた。


「離せっ!離しなさいっ!!!何をするつもりなの?
ひっ・・・まさか・・・やめて!乱暴する気でしょ!メイドの午後みたいに!!!!」


それを聞いてさらに笑い出すサイト、どうしていいか判らず固まったままのウェールズ。
ねぇ可哀想だしもう楽にしてあげたほうがいいんじゃ?というローブの女の声に、
勘違いをしたように、ひっ、と怯えた声をだすシェフィールド・・・混沌が場を支配していた。










「使い魔として主人に忠誠を誓っているか?」


シェフィールドは当たり前で言う事もないとふふんと鼻を鳴らす。
ウェールズはその言葉を聞き頭を今まで以上に働かす、人の使い魔・・・ガリア・・・水の精霊・・・


「主人を愛しているか?」


「使い魔は使い魔として忠実であればいいのよ、
そこにああああいとか、不順な動機はまったく必要ないわ

・・・ひっ!まさか!!!」


寂しそうな顔も一転、主人を愛していると言葉で嘯いても身体は正直だなっとか、
水の精霊に心を壊され穴という穴をおぞましい触手で犯されつくす姿や、
もうジョゼフとしたのか?初めてはジョゼフではないッ!このヒラガサイトだッ!!!とか妄想を繰り広げる。


「疑問を感じなかったか?都合がよすぎる感情に、偽りの動機に・・・
人を従え、殺め、利用する事に少しも心揺れなかったことに」


構わず続けられるサイトの言葉に冷や水を掛けられたように凍る。


「それは・・・」


「それを消して元に戻してあげるよ」


「余計なお世話よッ!!」


昔の自分に戻りたくない、甘くて冷静さの欠片もなくて弱い心ばかりの自分。
任務に忠実で妄信していればよかった今を無くして、どうやってあの人の役に立てばいいのか・・・
わたしにはこれしかないのに・・・戻って上手くいくなんて思えない、捨てられるのは嫌だ。
今まで以上に暴れるシェフィールドにローブに身を包んだティファニアが呪文を唱えていく。


「やだやだやだ!嫌いやいやイヤーーーーーーーーーーー!!!!!」


執務室に悲鳴と変わり果てたように弱弱しいシェフィールドの姿があった。
さぁ今回はどう動いてくれるのか?随分と変わってしまったシェフィールドの背後を覗う。
何でもアリになったら詰まらないだけだ、そう地獄よりも楽しい事をしよう・・・何度でも泣かせてやるさジョゼフ









「本当に逃がしてよかったのですか?ウェールズ王陛下」


「サイトさんが、それが最善だと思ったのなら、そうなんでしょうね
心も操らず泳がせるようですし・・・良いか悪いか検討がつかなかったので、任せることにしました」


最後まで都合の悪いと思われる事について聞く事も口に出す事もなかった。
誰もまったく攻撃しようとしないし、その気になれば誰でも操れる事が出来、それ以上に恐ろしい情報精度をもっている。

望めば世界ですら手に入る力さえ持っている・・・城下町の屋台で串焼きを買うような気分で王城に向かい洗脳すればいい。
・・・だというのに、もっとも容易な手だてを取らずにいるのがとてつもなく恐ろしかった。
それ以上に魅せられ、欲しがるものについて知ってみたいと思ったのだ。


「ふむ・・・ともかくこれでアルビオンも落ち着くでしょう。
トリステインとしっかり同盟も組むことですし、暫くは建て直しに翻弄ですね。
助力できる事があればいつでもいってください、勿論些細な力にしかならないと思いますが」


革命のトップを落として、はいおしまいと行かないのが辛い所。
今までの苦労が児戯のように魂をすり減らすお仕事がまっている。
反乱軍の処置、軍の再建、各国との交渉、統治と改革・・・そして借金の返済。
湯水のように金が湧き出るわけもなく、そして時間は有限・・・頭が痛いが幸せな痛みだろう。
生きて屈辱を注ぎ再び王座につく事が出来た、今はまだ十二分に実感が沸いてないが喜びもひとしおだ。


「まずは疲弊した国に注力して、今回の件について色々調べて・・・
出来れば貴方が欲しがっているものについても考えてみたい所ですね」


清濁合わせのんで、ウェールズがにっこりと微笑む姿は感嘆に値するほどだった。
まったく男にしておくのは惜しい人だと同じようににっこりとサイトも微笑んだ。



[18350] ■現在51 * 「お口の恋人」
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:7ee07b58
Date: 2012/11/09 01:11
アルビオンの内乱を収め、トリステインに戻ってきたサイトは紅茶にたっぷりの蜂蜜をいれて飲んでいた。
今の所危なげなく予定道理に事が進んでる、裏でもかなり手を回してきた。
石橋を叩くまでもなく隣に近未来な橋を作って渡るような行為、間違いはないが上手くいっていれば安心出来る。

ジョゼフが今回はどのような趣向を凝らすか楽しみで仕方ない、閉塞気味な世界に楔を打つ事を期待して。
それから残っている危険度の高い案件について対処している段階でふと思い出した。
そういえばヒューミントでハニーなトラップなものを忘れていた事を・・・重要度は高くないが。
不確定なため失態程でもなかったがもっと早くに対処する事も可能だったのに忘れていたのは、
新しい能力や水の精霊の能力があった為何があっても問題ないという慢心があったのかもしれない。






魔法学院女子寮の一部屋、薬品の調合器具が調度品のように一角を占めるモンモンの部屋。
ベッドに座るサイトに対面するようにもたれかかっている。
隠れるように鎖骨に顔をうずめて、髪の毛を束ねた大きな赤いリボンがふりふりとゆれている。
半立ちでつんと突き出したお尻、学生服のスカートがずり上がり黒いストッキングに白い下着が透けている。
透けた下着が水っぽく湿りぴっちりと形を浮き彫りにしていて、後ろから丸見えなので隠したいが許されていない。


(すーはーすーはー)


深呼吸をするたびに鼻腔をくすぐる匂い、普段調合する香水のおかげで少し敏感な鼻は幸せな匂いを運んでくる。
ずっと嗅いでいたくなる匂いは瓶に詰めて売ったら何エキューで売れるかなんて馬鹿みたいな現実逃避をしている。


「それで最近のギーシュはどんな様子か教えてくれ」


少し茶のかかった長い髪をストレートに伸ばし前髪は切りそろえてある。
薄紫の瞳に可愛らしいが大人しそうな顔つき、お菓子作りが得意な女の子ケティ・ド・ラ・ロッタだった。


「最近のギーシュ様は・・・」


まるで自分のことのように嬉しそうに修行の頑張りや一緒にいられる時間が少ないとかを一生懸命に話ている。
モンモランシーの部屋で部屋の主を玩んでいるサイトにまるでおかしさを感じずに接している。
モンモンが自分でうけている非日常な行為をケティは認識出来ていないようだった。


「・・・それで、遠乗りなんかも・・・」


日常会話が繰り広げられている中、自分だけ高ぶらされて非日常に沈む。ギーシュの話も頭に入らない。
腰は勝手に動き顔は幸せで破綻している、ライバルだった後輩には羞恥を晒しそれを何処かほの暗い快感に変えていた。


「ううぅ・・・ぁぅぅ・・・んむっ」


ストッキングの股の部分に指を引っ掛けて破かれるのを腰を浮かせて手助けする。
布一枚でも外気に晒される空気はわかる、いつケティが正気に戻るか判らず声を押し殺す。
何度となくサイトのものだと確かめさせられたそこが下着越しに押されただけで喜びくちゅりとあふれ出す。


(こんなに可笑しな状況なのに、ばればれなくらい期待しちゃってる・・・)


身体を徐々に下にずらしていくと、顔がサイトの股間の位置まで来ている。
大きくしてくれているのが嬉しい、ズボンから取り出すと篭っていた匂いが一気に開放される。
その匂いに反応して自分でも判る位、身体の奥から溢れ濡れ汚すのを感じる。


「わっ、モンモランシー先輩の下着お漏らし見たくなってますよ!」


悪気のない素の反応、認識を狂わされてるケティの何気ない一言で羞恥に腰が砕けそうになる。
サイトが頭に手を置き促すとそれに堪えるように、ぴちゃぴちゃと舌を動かし奉仕を始める。
さらに亀頭の先端をはみ、楽器を吹くかのようにまぶしながら陰茎をすべるように刺激する。


「性的に興奮すると女性は、こういう風に準備を始めるんだ。
好きな人の事を考えたり、触れたりしても同じようになったりするね、ケティは覚えない?」


「あ、あります。ギーシュ様の事考えたりすると・・・たまに。
自分の身体のことなので不安だったのですが、母様にも聞くのも少し恥ずかしくて」


「触ってみる?」


「いいんですか?・・・それでは失礼して・・・あ、私より粘り気が強い感じがします」


拒否する暇もなくつんつんぷにぷにとすじを細い指で突付かれる。
驚きと羞恥で顔を真っ赤にさせ動きが止まってしまうが、再度喉の奥を突付かれて催促される。


「それに、なんだか(くんくん)匂いも大人な感じがします・・・
そういえばサイトさんとモンモランシー先輩は先ほどから何をしているのです?」


あまりにも無慈悲な言動に自分をごまかすように今まで大きく開ける事のなかった口に懸命に頬張っての口奉仕、
口を窄めてちゅうちゅうと吸いながら、舌の腹で肉の塊を下から包み込むように撫でる。


「キスのような親愛の証の一つかな?気持ちがいいし、されると嬉しい
ケティもギーシュにしてあげたら、絶対喜ぶと思うよ・・・上手くいけば虜になるかも」


ケティの認識を狂わせて思考を誘導する。
言われた場面を思い浮かべたのか、照れながらいやいやするように頬に手を当てて頭をふる。


「でもでも・・・ギーシュ様が喜ぶなら頑張ってみます」


口を離すとちゅぽんという音と反り返るようにたつサイトの剛直。
おそらくこのままケティも毒牙にかかり、練習という名の凌辱が始まるのだろうと考える。
場所をケティに譲ろうとするモンモランシーを、座ったまま抱き寄せると膝の裏から足を持ち上げかかえる。
少女の香りと部屋の香りが混ざっていっそう濃くなり鼻腔をくすぐり続ける。


「やっ・・・やだ、この格好」


前以上に丸見えで否が応でもケティの姿が目に入ってくる。
目をそらし手で隠すのは許されず、指摘道理に水気を吸って重くなった下着をずらされる。
痛みをもった幸せにも慣れ、いつしか甘い疼きと気持ちよさをあわせもつようになった幸せな行為に期待してしまう。
乱暴に扱われる事すらもはや快楽の一要素にしかすぎなかった。


「ん、あぅんっ・・・ぁっ、あっ」


「ちゃんと後輩に見えるようにするんだ」


命令されぴっちりと閉じた太ももに割り込むように手を差し入れる。
自身とつながっている場所の周辺に人差し指と中指でゆっくりと指をはわし、
恥辱にもだえながらくわえ込む幼いひだをゆっくりと広げていく。
とろりとした愛液に濡れた秘肉の層があらわになり、貫かれている存在感がいっそう増してみえる。


「凄いです・・・こんなにいっぱい・・・」


ケティが飛沫がかかるくらい近づき興味深げにしげしげと眺める。


「ケティ、モンモンの口の前に指をだして」


ゆらりと誘われるままに唇の前に指を差し出す。
お菓子作りで染み付いた甘いにおい、形よく整えられた短く丸い爪、苦労など無縁の白く柔らかい手。
意を得たりとでも言うようにちゅぷと咥え、まるでサイトに奉仕するかのように唇も舌も口内も使って後輩に指導する。


「モンモンも指」


集中できるように無理な体勢を解かれ、シャツのボタンを二つだけ外し控えめな胸を周辺から焦らす様に撫でられながらも
サイトの太ももに手をつきながら、ふわりと隠されたスカートのなかでぐちょぐちょに溶かされているモンモランシー。
ケティの指を器用にしゃぶりながら、同じように指を差し出す。もう二人に言葉は要らなかった。
お互いに目と目が合い見詰め合う互いの魅力舌技に溺れ沈んでいく。しかし・・・


(なんで?ケティ、この子の口良すぎるわ)


模倣していた舌の動きも突付き舐り纏わり吸い込みも、どれも教えている自分を遥かに超えた快感に変えて与えてくる。
少し高めの口の温度に粘りつくような唾液、つぶつぶざらりとした舌の感触ちろちろと長くて細い先端。
天然極上物の環境に好きこそものの上手なれとでもいうかのように思考付けられた向上心。
過去サイトにお口の恋人と言わしめさせる程の力量をもつケティの覚醒の第一歩だった。
おとなしい顔をしているくせに超一級の口奉仕のできるケティには何度となくお世話になったもんだ。

ふらりと女に傾倒しやすいギーシュをケティに射止めてもらうこと、お互い気に入っている同士ちょうどいい。
魔法や薬での洗脳の類は短期には望ましいが長期だと不安が残る、人の精神も馬鹿に出来ないというか実際解けたことも何度もある。
がちがちに機械や道具のように洗脳してもあまり良くないというより意味がない。
思考誘導してお互いにずぶずぶと嵌って依存することは、トリステインひいてはサイトにとって望ましくある。
その為のギーシュの相方を今回はケティにすることに決めたのだった。














ギーシュは懐かしい小さな湖畔に馬を走らせていた、背中に小さく主張する膨らみを感じながら。
最近は自信もつき魔法を勉強する事も本当に楽しい、女の子達の自分を見る目も変わっているのを感じていた。
自分が傷つけてしまった少女も許してくれて、自ら遠乗りを提案してくれるほどだった。


「自分が成長しているの楽しくってね、寂しい想いをさせたかい」


森の木々の緑と空の青さが湖畔に切り取られ混ざり合っている。
陽光が葉を縫うように射し、どこまでも静かに二人を包み込む。


「魔法に少し、妬いてしまいそうです」


取り巻きのように愛でられるのもいいが、こうストレートに表現されるのも悪くない。
可愛らしい顔つきをぷりぷりさせながら、何か準備をしている。
バスケットから四角く切られたパンにチキンやマッシュされたポテト、チーズとハムとトマトを挟んだものが用意されていた。


「で、それはいったいなんだい?城下でも領地でも見た事ないよ」


鉄板を二つあわせた様なものに取っ手がついている、用途がわからず少しわくわくする。


「これはですね、こうして使うんです」


おもむろにパンを取り出すと鉄板に挟んで魔法を使い熱し始めた。
じゅっと焼ける小気味のいい音に香ばしい匂いが食欲を刺激する。


「凄いね、こんな食べ方があったなんて大発見じゃないかい。
可愛くて料理も上手いなんて、ケティを妻に迎える貴族は幸せに違いない。
僕も君の料理なら毎日食べてみたいし、もしそれが叶うならとても幸せになれるだろうね」


街に繰り出しては上品じゃない屋台を冷やかし軽食を食べる事もあるギーシュも初めて食べる料理にはしゃぎ喜んだ。
サイトのお陰で充実し始めた軍の携帯食や野戦料理にも劣らない一品といってもよかった。
暖められた鳥の肉汁を潰されたポテトが吸って深みを増し、あふれ出すくらい蕩けたチーズはトマトの酸味と厚みのあるハムに絡む。
ついつい夢中になって食べてしまい、垂れたチーズがギーシュの指にかかる。


「熱っ!!!」


「ギーシュ様っ!」


躊躇なく火傷しそうな手を両手で掴み、ピンッと伸ばした指を口に含み見上げながらゆっくりと見せ付けるように舐めて治療する。
プライドが高く素直でないトリステイン女を相手し、手に口付けを許されても向こうから行動されることのなかったギーシュは慌てた。
見知ったはずの少女なのに、怪しげな雰囲気にドキドキと胸が高まる。


「ケ、ケティ?いけない、そ・・・そんな事しなくてもいいんだ」


ちうちうと指をしゃぶるケティの舌の動きは尋常じゃなく快感をあたえ治療を逸脱していた。
名残惜しそうに離す口と指を涎がつり橋のようにかかっている。
つい残念そうな顔つきをしてしまい、ギーシュは自分の貴族らしからぬ行動に恥じる。


「ギーシュ様、私ったら慌ててしまって・・・水の魔法が使えたら良かったのに
汚してしまって嫌な思いをさせてしまいました・・・」


そういいながら、怪しい手つきで指をハンカチで綺麗にするケティ。


「嫌な思いというか気持ちよか・・・ちがう助かったよ
ただケティ、淑女にこんなことをさせてしまっては僕は貴族として薔薇としてだね」


「そうですよね、わたしなんかじゃ嫌でしたよね」


シュンと顔を下げるケティ。


「違う、誤解だよケティ。嬉かったし気持ちよかったよ、ただ僕は・・・」


慌てたように弁解するギーシュの言葉にやっぱり殿方は口でされるのが好きなのだと自信を取り戻す。
そして喜んでもらえた事に心がぽかぽかと温かくなるのを感じた。


「まぁ!嬉しいですギーシュ様・・・・・・蜂も薔薇の蜜を好んで吸うと聞きます。

・・・ところで、まだ指が赤く腫れていますね、大変です責任をもって治療をしませんと」


ぺろりと舌で唇を舐めるとゆっくりと指に顔を近づける。触れるか触れないかの距離がもどかしい。
まるで夢遊病者のようにケティの口に指を差し出し触れるギーシュ、虫の音がやけに耳に響く。


「あっ・・・ぁっ、いけない、本当にこれはいけないことなんだよケティ」


うわ言のように繰り返しながら、口内を指で掻き混ぜるのを優しく舌で包み込まれる。
自身のギンギンに勃起した部分にすら気がつかず、言葉とは裏腹に夢中で蹂躙を楽しむ。


「あら?」


含んでいた指をはなして、主張の激しい逸物にわざとらしくちらりと視線を投げる。


「いや、違うんだこれは、ケティのがあまりに気持ち・・・いや、頼む見ないでくれ」


「そうですか・・・わたしのせいで、こんなに苦しそうに・・・」


言質得たりと杖をふりズボンに手をかけ一気に脱がすとぶるんと柔らかくて大きめな肉棒が勢いよく飛び出す。
大人しいはずのケティ・ド・ラ・ロッタの猛攻になすすべもなく成すがままのギーシュ。
痛いほどぎちぎちに膨れ上がったそれに今にも触れそうな程顔が近づくが、それ以上動かない。


「ケティ・・・」


「私はギーシュ様をお慕いしています、これもギーシュ様には非はありません・・・ただ」


「嗚呼、駄目だよケティ」


話す度に吐き出される息が敏感な先端にふきつけられ震え先走りがだらだらと零れる。
拒絶の言葉を吐きながらも、指での快感を知ってしまった心は真逆に止めを刺されるのを期待している。

誰がこの拷問に抗う事ができようか?


「駄目だと仰せならば先輩でもあり家の格も違いすぎますので従います。
でも・・・私を求めてくださるなら、その苦しみも受け止めてみせます、私のせいで苦しくなってしまったのですよね?
そうギーシュ様は何も、何も悪くありません・・・だから言葉はいりません、腰をほんの少し浮かしてくださいまし」


免罪符は発行されてしまった。


「・・・ああ、あぁ」


すまないと心の中で謝ったのは目の前の少女にだろうか?それとも・・・
腰をうかすといきり立った剛直と可憐な唇が契約のキスを交わす。
それを受けて嬉しそうにあーんと口を開けるとご馳走を得たかのようにはしたなく頬張り遠慮なしに舌を動かす。


「うわぁああああああああひいいいいいいぃぃぃいいいいいいい」


自分でいじったことさえろくになく勿論女性にさわらせたこともない、未知の刺激。
耐えられるわけもなく情けない声を出しながらどびゅるびゅると勢いよく口内射精を行う。
頬袋にためながら精飲し逃げられないように腰を掴むとじゅるじゅるとはしたない音を出しながら一滴も溢さぬようにすする。
ギーシュが口に咥えていた薔薇の杖はとうに地面に落ち、涎がふりふりのシャツを構わず汚す。
やわやわと陰嚢を揉んで射精を促しながら、柔らかい肉棒をスキャンでもするかのように口を窄めながら頭を上下に動かす。
びゅーびゅーとロイヤルミルクティが作れるぐらい長い長い射精が終わりようやく勢いが落ち着く。


「あぁぁあああぁああああああああああああああ」


先端の肉の膨らみを螺旋状に舐られ、尿道に残らないくらい啜られ中から刺激されるような感覚。
初めての人間にはまるでむき出しの神経を快楽で攻め立てられているようだった。
苦しい程の快感に涙を流し言語中枢がいかれたように叫び続ける。
それを落ち着かせるように全ての動きをゆっくりしたものに変えていく。

ああとか、ううとか嘆きながら極上の奉仕に身を任せる。
腰が勝手に動くまでもなく喉奥へと導かれ、快楽を最適解で解いていく。


「また出てしまいそうだよ・・・」


また暖かい口の中に思い切りびゅーっと射精できる事を期待して呟くと
楽しめるようにわざとゆっくりよわく刺激していた口を離し、舌だけでしかもただ押し当てるだけの刺激に変わる。
射精感が収まり始めるとまた焦らすようにゆっくり弱く口で包み始める。


「ああ、ケティ出そうだよ、そのまま・・・ああ、どうして」


腰を動かそうにも動かせず、陰嚢に舌をはわしすべすべの白い手捌きはゆっくりとした動きに変わる。
もうギーシュの頭は出したくて出したくて馬鹿になってしまいそうだった。
また無理やり射精感が収まるまで焦らされると、今度は徐々に口の動きが早くなる。


「ケティ出そう、出そう、出る出る出る出るッ・・・・・・・そんな、酷いっ!!」


あと1サントでも動かせば・・・それを今度は人差し指と親指で輪を作るようにしてカリ首を締め付け射精するのをとめる。
鈴口からは透明に白が混ざったような液体がぷっくりと膨れ上がる、輪を緩めればそれだけで射精しそうだった。


(なぜ指を離してくれないのかい・・・嗚呼出したいケティの熱い口の中に出したい)


「ギーシュ様は夜むらっときたら、ギーシュ様のためにあけてある窓から私の部屋に忍び込んでいつでも口にだします。
最後までは付き合ってからでないと駄目ですが、それ以外なら貧相ですが胸も使っちゃいます。
朝だって命令して口で優しく起こさせます、全部全部ケティのせいですから」


出したいという気持ちばかりが高まり上手く考えられない。


「授業中だって出したくなったらトイレに連れ込みますし、面倒なら後ろの席を陣取って奉仕させますし、
訓練中も訓練後も気が向けば暗がりに連れ込んでびゅーびゅーお口に射精します」


「汚いしケティに悪・・・」


「・・・しますよね?」


キスの雨を降らしさくらんぼの茎さえ蝶結びにするほどの舌の動きで舐めとると黙ってしまった。


「ケティはギーシュ様のモノ・・・そうですよね?」


ケティはモノじゃない、嗚呼でも精液を出したい。どうして、どうして出したい・・・早く


「ああ・・・君は・・・ケティは僕のモノ・・・」


まるで見えない契約書にサインを書いているかのようにぶつぶつと呟く。


「モノには遠慮も許可もいらない・・・ですね?」


「ああ・・・いいんだ、いらないんだ・・・」


「両手で頭をしっかり抑えて、そうです流石ギーシュ様素晴らしいです・・・
口に狙いをつけてねじ込んだら、無茶苦茶に動かして、何度も何度もなんどもなんども遠慮なしに射精するんです」


亀頭を可愛らしい唇に押し付けるとそれだけで電気が走ったような快楽と共に指が解かれ射精が始まる。
いつの間にか自分はケティの栗色の髪を言葉道理つかみ、
何度も上下に頭を無理やり動かし、ぐるんぐるんと円を書くように頭を動かさせる。
ケティは鼻から逆流しそうなほどの量の精液ものみくだし、綺麗に掃除する。


(ケティは幸せモノですぅ)


その後もケティはあの手この手でギーシュを興奮させ、口に欲望を吐き出させるのだった。





[18350] 【設定】攻略進行表
Name: 紫陽花◆a4abb9b7 ID:c457f379
Date: 2012/10/22 17:40
<オリジナル魔法>
ガンダールヴ(サイト)
→衝刃、剣を振り切る事で10メイルに風の刃を出す
→朧二連、水平に振るう剣の影に紛れてもう一撃を繰り出す
→ソードダンススラッシュ、回転する毎に速さを増す8連撃
→飛燕蔦、武器を絡ませてこの原理ではじき無効化

エクスプロージョン(ルイズ)
→火、目線内の点での攻撃、威力が高く命中にぶれあり
→水、人体を内部から爆発させる回復魔法
→風、爆風になる。範囲が広く素早いので乱戦向き
→土、触れた物を爆弾にする、時間差化

青銅の蛇/ウロボロス(ギーシュ)
150体の半自動の小さな目のない蛇を操る。
自身を囲みドーム状に高速回転する攻防一体の魔法。
実際は単純な命令を永続的に実行するゴーレム。
有効な状態の蛇7対に直接命令を下す事が可能


気まぐれな蝶/バタフライトーチ(きゅるけ)
熱源と探査魔法をあわせた微追尾魔法
速度は遅いが羽のような回避と気流にのって不思議な動きをする。
周囲に酸素あるかぎり存在し、接触し燃やす事で同じ魔法存在を増やし続けるため厄介
敵味方無差別で使いどころが難しいが嵌れば強い。



裏攻略進行表

現在編を対象としています。一部過去のみ攻略対象としているものの記述もあり。
攻略が進むたびに追記します。攻略対象は変動の可能性あり。
※攻略対象は、けして全てがハーレムの対象ではない。

好感値:0~100(Max100)サイトに対する好意の数値、高いほど盲目的に愛す
抵抗値:100~0(Max0)サイトに対する警戒、非服従の数値、低いほど支配の影響を受ける
状態:現在の状態、またはサイトへの心証など



平賀才人
スキル:
【ガンダールブ】触れた全ての武器の知識をもち自在に操る左手に記されたルーン。心の震えにより能力強化
【???】どこかに記された謎のルーン、この能力をギンナルの一部だと勘違いしている
→【διαχειριστής】位相の高い種族にも効果を及ぼし隷属など
【ギンナル】新しく右の腰骨に記されたルーン、姿をみた人々をひきつけ魅了させる
→【τσαρλατάνος】敵意、嫌悪、疑心をもてなくなり反感を考える事が出来ない。
→【αποπλανητής】あらゆる感覚、特に快楽と痛みを幸福感にして与え屈服させ魅了する。
【医療の知識】人体、魔力の流れに詳しい。魔力の経路を止め使用不可状態も可能
【水の加護】水の精霊と同様のスキル保有


<攻略済>
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
好感値:490
スキル:
【虚無Lv2】エクスプロージョン、イリュージョン等
【房中術】行為毎に成長ボーナス、知覚鋭敏化、周囲からの魔力寄与
【計略】有用な意見を進言し実行可能
【リーダーシップ】配下を纏め上げる素質大

アンリエッタ・ド・トリステイン
好感値:150
スキル:
【水の魔法Lv3】治癒が得意、王族間での特別な魔法あり
【服従】服従させられることで好感上昇大
【王の心得/聖女】民心をつかむ政治、帝王学について成長中

シエスタ
好感値:90
【服従】服従させられることがすき
【メイドの極意】身の回りの世話や掃除選択が得意
【器用】手先が器用、道具の扱いや管理が得意

モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ
好感値:70
【水の魔法Lv2】治癒が得意
【薬の知識】薬剤系統の知識、香水の知識

カリーヌ・デジレ
好感値:70
【風の魔法Lv4】完成された部隊長クラスの魔法
【折れた心】高飛車/威圧的な態度が改まり服従で好感上昇大
【リーダーシップ極】配下を纏め上げる素質大/貴族への影響ボーナス

ロングビル(マチルダ・オブ・サウスゴータ、フーケ)
好感値:75->90、抵抗値:20->0
スキル:
【土の魔法Lv3】ゴーレムが得意
【盗賊の極意】盗み、間諜が得意
【従事】仕えることに喜びを見出す好感上昇小
【近親相姦願望】おねしょた、姉妹丼の好感上昇大

ティファニア・ウエストウッド <= New!!
好感値:100
スキル:
【エルフ耳】聞き耳、感度抜群
【虚無Lv1】忘却
【桃りんご】胸を使った行為での好感上昇大

水の精霊
好感値:MAX(300)
【水の魔法Lv5】祖にして全、最高峰の水魔法、精神操作、水辺ボーナス
【媚薬ローション体】身体から自在に媚薬ローションを射出する
【水鎧】サイトをより代に、毒・病気・洗脳などの状態異常、火の魔法を完全オートで遮断、襲撃も半数を遮断
【不死】死ねない


<攻略中>
キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー
好感値:55、抵抗値:40
スキル:
【火の魔法Lv3】火球など攻撃魔法が得意
【パニック】不測の事態になると正常な判断が出来ない
【幼女化】パニック時に発動。体は大人、頭脳は子供!!

タバサ(シャルロット)
好感値:5、抵抗値:80
スキル:
【風の魔法Lv3】水魔法とあわせた魔法が得意
【水の魔法Lv2】氷系統が得意
【警戒】冷静に油断せず全てを警戒する
【復讐心】恨みを持つ相手に対し能力を向上させるが、冷静さが減少
【王の心得】政治、帝王学について成長中

エルザ(吸血鬼)
好感値:85、抵抗値:15
【吸血鬼】陽光に弱く洗脳が得意。生きるために人の血が必要。一時的に体の限界を開放できる。
【精霊魔法Lv3】植物の成長を促し操る程度
【植物の知識】植物に詳しい

シルフィード / イルククゥ
好感値:30、抵抗値:80
【幼竜】高位な存在だが、世間知らず
【精霊魔法Lv1】人化が可能


<攻略予定>
ケティ・ド・ラ・ロッタ
ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフ
マリアンヌ
エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール
カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ
アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン
ジェシカ
シェフィールド
イザベラ
ジョゼット
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