<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[18320] 【ネタ】赤ペン先生久門(ネギま オリ主)
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/05/16 01:29
『さあ、次の試合に参ります!! 麻帆良女子中等部3-A所属、桜咲刹那選手、
そしてこれまた麻帆良女子中等部3-A担当副担任国語教師、久門紅助(ひさかどこうすけ)選手。女子中等部3-Aの関係者が再び対戦です!』


ワアアアアア、とふりそそぐ歓声を流しながら私と隣で歩く対戦相手、久門先生は舞台に上がる。



『キュートな猫耳メイド服に身を包んでおります女子中学生、桜咲刹那選手。先ほどの神楽坂選手同様の可愛らしい女子中学生の登場に会場も盛り上がっております。』


ムッハー!
カワイイ―!
カメラが!カメラが!?


うう、考えないようにしているのに。
朝倉さんのせいで今着ている服の恥かしさに少し落ち込む。



『対するはその採点スピードの速さと正確さから赤ペン先生クモンのあだ名で親しまれている久門紅助選手。はたして彼の実力は如何に!』


ザケンナー引っ込め―
もっと採点おまけしろー
赤い字怖い赤い字怖い


対象的に声援とは言い難い観衆の声も久門先生にはどこ吹く風といったようでいつものように緊張感なく舞台の向こう側に歩いていく。



正直意外ではある。3-Aには裏に関係する者が多くいる。例え本人が自覚していなくとも何らかの関わりを持つ者もいる。

けれど久門先生は一年の頃から私達の副担任だったが裏はおろか簡単な力仕事すら僕は体力ないからと言ってよく新田先生に怒られていたぐらいの人だ。

とても戦うどころかこのような試合に参加していることが信じられない。

予選を見ていないためどのように勝ち残ったか分からないが今こうして面と向かっても素人としか思えず何かの間違いなのではないかと勘ぐってしまう。



「うーん、まいったねぇ」

「?何がですか?」

首を傾けつつ唸る久門先生に問いかける。


「いやね。僕はちょっと目的があってここにいるんだけど、そのためにはまず桜咲、君に勝たなきゃいけない。
でも僕は教師だから生徒である君に怪我をさせるわけにはいかないんだよね」

ポリポリ頬を掻いて「高畑先生は正直やりすぎだね」と愚痴を漏らす久門先生。

それは…なるほど。確かに普通に考えればためらう理由にはなるだろう。けれど

「お心使いはうれしい限りですが遠慮は無用ですよ久門先生。私は武道に身を置く者です。怪我などすることに恐れはありません。
それに、お言葉ですが私はそれなりに腕は立つ方ですので、この場においてはそのような気遣いはなさらないでください」


そう。一般人の感性なら確かに抵抗を感じるだろうけれども私は裏の世界の住人。怪我等数えきれないくらいしているしそれに対してどうこう思ってもいない。

何より気も魔力も使えない、戦う者独特の雰囲気すらない一般人である久門先生に私を倒す術があるとは思えなかった。

傲慢のように思えるかもしれないが一般人と裏の者にはそれくらいの実力差があるのだ。



「うーん、でもねー」

未だに納得のいかない様子の久門先生だったが突然何か思いついたようでこちらを見た。

「ねえ桜咲、君は剣道部だったよね?」

「え?あ、はい確かに所属していますがそれが何か?」

私の答えを聞くと何処か嬉しそうにうなずきながら「ならこれが使えるね」と彼のトレードマークでもある赤ペンを胸ポケットから取り出す。

「桜咲、提案があるんだけど」

「?はい、何でしょう?」




「試合が始まったら僕は君を

“殺す”
 
 そうしたら負けを認めてもらえるかな?」




場が一瞬シン、と静まり返ったかのように感じた。

「あ、あの先生?一体何を…」

「だから、僕は君を“殺す”から君がそれで自分の負けと感じたら審判に棄権するって言ってほしいんだよね。
それなら僕は君を傷つけずに済むし試合に勝つこともできるからね」

どうやら“殺す”というのは比喩表現らしい。それは理解できた。だけれども納得が出来るかと言われればまるで出来ない。

「それは冗談のつもりですか?だとしたらあまり上手くはありませんよ?」

「いやいや僕は至って真面目だよー」

話しながらくるくるくるくるペンを回す久門先生。



…どうやら本気で私を怪我させずに“殺”そうと思っているようだ。

正直これが敵に言われたものならば舐められたものだと感じるだろう。

だが久門先生は一般人。どのような方法を使うつもりか分からないけれど恐らくこちらの実力も分からず私を無力化させようと思っているのだろう。

ならばその条件を飲み真正面から打ち破ることで逆に先生に無傷で退場してもらうことにしよう。

私としても一般人である久門先生に裏の技を使う気にはなれないし渡りに船だ。



「いいでしょう。ですがそれを私が防いだ場合は先生が棄権していただけますか?」

「うん、いいよ。朝倉も聞いてたね?」

審判である朝倉さんに確認を取るとパシッとペンを掴みこちらに軽く腕を曲げた状態で「いつでもいいよ」と促した。

「朝倉さん。私も始めてもらって構いません」

「え?ああオッケー。それではみなさまお待たせしました

 第七試合~…Fight!!」



開始と同時にデッキブラシを片手で持ちすぐに対応できるように構える。

約束通り初手は久門先生に譲ることにしよう。

さあ久門先生は何を仕掛けてくる?




……

…………

…………………?

最初の構えから微動だにしない久門先生。

「先生。もう始まってますよ?」

一応確認してみるが久門先生はにやにや笑うばかりで一向に動こうとしない。

「どうしたんですか?来ないのならばこちらから行きますよ?」

再び確認を取っても何もしようとしないのを見てこれ以上は時間の無駄かもしれないと判断し行動に移すことにする。

瞬動で久門先生の後ろに回り込みデッキブラシを突き付けることで戦意を喪失させる。

これなら怪我をさせることなく終わらせられるだろう。

いざ動こうとした時、私は何か違和感を覚えた。

何だ?先生は何も動いていない。なのに最初と何かが違う気がする。

一体何が―――




「ちょっちょっと桜咲さん、首、首!」

「え?首?」

何かに気づいたらしい朝倉さんが私を見て急に騒ぎ始めた。

何やら私と自分の首を交互に指指している。

首?別に首には特に何かあった訳でもないはずだが。

そう思いながらも何処か気になり視線は先生から外さず片手で軽く首筋に触れ視界に入る位置に指を運んだ。





紅いナニカが指先に着いていた。

血?


“殺す”

久門先生の言葉が頭をよぎり指を凝視する。首筋に痛みはない。ならばこれは――

「赤インク?」

はっと先生を、いや先生の持っているペンを見る。

違和感の正体に気づいた。

試合前には確かについていた赤ペンの蓋がいつの間にか外れている。

まさか、あれで引いたのか。私が気付かぬ内に首に線を引いたのか?

驚いている私を見てペンを再びくるくる回し始めた先生はにやにやとからかうような笑顔のまま私に止めを刺す。

「描かれたのは首だけかな?」

先生から、敵から視線を外すという愚行であるにも関わらず私は自分の体を確認せざるを得なかった。

両手親指、両手首、両足、腹部、それぞれに紅いラインが走っていた。

信じられない。間違いなく動いてはいなかった。
縮地でもない。
いつ描かれたのか分からない。
どうやって描かれたのか分からない。


分かるのは描いたのは久門先生で、もし赤ペンではなくナイフのようなものだった場合私は確実に“殺されていた”ということ。

ぞっとする。

声が漏れそうになる。

今まで死を感じたことは何度もある。

だがこんな恐怖は知らない。こんな殺意も敵意もなく攻撃の予兆すら実感出来ない死は感じたことがない―――!!




「で、どうする?」


声を掛けられ今が試合中だと気付く。


「まだ戦う?」


いつもと同じのんびりとした穏やかな口調。

威圧感もない。試合が始まる前と何も変わっていない。

なのに、どうして先生が全く知らない別人のように感じるのだろう。

にやにやしたまま先生は手に持つペンをくるくる回す。

くるくるくるくる、クルクルクルクル

それがまるでカウントダウンを刻む秒針のように思えた。

別に怪我をした訳ではない。まだ戦闘は可能だ。けれどもここから久門先生と、得体のしれない何者かと戦うという気にはなれなかった。

「………朝倉さん、私は棄権します。この勝負は久門先生の勝ちです」

『へ?あ、えっと、はい。試合終了ー!桜咲選手棄権のため久門選手の勝利ー』

ええもう終わりー?戦ってねえじゃんーといった野次が飛ぶがそんなのはどうでもいい。

ああ良かった。PTAは怖いからねえ、と肩をすくめて舞台裏に戻っていく久門先生を追いかける。

「待って下さい久門先生」

「おお桜咲、いやあお互い怪我もせずにすんでよかったねえ」

先のからかうようなものではなく純粋な笑顔でほっとしたようにこちらに振り返る久門先生。

「あなたは何者ですか?」

「うん?何者って僕は君達3-Aの副担任であり国語教師でもある久門紅助だけど」

「そうじゃありません。先生は、その、一般人のはずです。先生が知っているかは分かりませんが先生からは裏の気配がないんです」

そう、試合前も、試合中も、そしてあれだけ凄いことを行なった後である今も、久門先生からは気も魔力も感じられないのだ。

隠しているという風ではない。本当に感じられないのだ。なのにあんな芸当を行なえるだなんて普通ではない。

普通なのに普通でない。こんな矛盾したことができる人がいるだなんて―――



「答えてください。あなたは何故あんなことが出来るのですか?」

私の問いかけに未だくるくる回していたペンを握りなおし胸に納めると「何だそんなことか」と首のみこちらに向けた。

「ほら、良く言うだろ?








 ペンは剣より強しってさ」


*****************************************

イメージ的にはDBのシンを意識してみた。

初登場時の界王神はかっこよかったのになあ




[18320] 第2話
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/05/16 23:33

「どうカナ高畑先生。私の仲間にならないカ?」

超の質問に表情を曇らせる高畑。

その隙を超は見逃さなかった。



すぐさまカシオペアを発動し後ろに回り込み跳躍弾を背に当てる。

高畑もすぐに気付くがもう遅い。

跳躍弾が発動し黒い球体に包まれながら苦々しげに超を見つめるしか高畑には出来なかった。

音を立て高畑が空間に消え去るのを確認した後、新たな跳躍弾を手にし明日菜と刹那も未来へと飛ばそうとする超。

だが振り返った先に倒れているはずの二人の姿はなかった。

「む。ぬむ」

何処へ、と疑問に思い辺りを見回し二人を探す。




「神楽坂と桜咲なら春日が連れて行ったよ」




声のする方に超が顔を向けると超が今回の計画で不確定要素であると判断している久門紅助がいた。



「…ふむ。まあ美空やあの二人が逃げたところで計画には何の問題もないヨ

ところで久門先生。こんなところに何の用カナ?」

「ん。君に用があってね」

「ほう?私にカ?もしかして久門先生は私が今何をしようとしているのか知っているのカナ?」

「まあ一応ね。君の行動と他の人たちの行動、情報から導き出した結果、答えは出たから」

肩をすくめつつも超の方をまっすぐに見る久門。

はっきりとは言わないが恐らく自分の計画はばれているのだろうと当たりをつける超。

正直なところ得体のしれないということもありあまり会いたくなかった相手でもある。




先日のまほら武道大会では一回戦の刹那との戦いではいつの間にか刹那に攻撃と取れる赤い線をつけることで勝利。

二回戦目のエヴァンジェリンとの対戦では幻想空間を使ったため詳細は知れないがそれでも最強の魔法使いと恐れられる吸血鬼に勝利した。

試合後は幻想空間内で何があったか誰が聞いてもエヴァンジェリンは「奴の話をしたら殺す」と言い結局分からず仕舞いだった。

準決勝のネギとの対戦では終始攻撃を受けたり避けたりするのみだったが見る者が見ればそれがネギに修行をつけているものだと分かった。

試合結果はネギの勝ちとなったが本来の実力はどちらが上かは誰の目にも明らかだった。

久門の戦闘と言えるデータはたったこれだけ。それもその実態が分からないものである以上警戒するのは当然だった。




故に超はこの不確定要素とここで会えたことを逆に幸運と考える。

まだ最終段階までは時間がある。ならば最後の最後で邪魔されるよりはここで戦闘し退場してもらうほうがリスクは少ない。

手にある跳躍弾を握ったまま久門との会話を続ける。

隙があれば先ほどの高畑と同じように未来へと飛ばすために。




「私の計画が分かるというなら話は早いネ。久門先生。貴方はそれに対してどう思うネ」

余裕を持った笑みのまま隙を探す。

カシオペアがある以上わずかな隙すらも逃すことはない。

自信はある。学園最強クラスの高畑ですらこれには勝てなかった。久門がどれほど強かろうと時を操る自分には勝てない、と。



「ん?そうだね。その思いは素晴らしいものだと思うよ。未来をよりよいものにしたいというのは誰もが考えることだしね」

予想外の賛同を受け逆に超のほうが少し戸惑う。だが表情はそのままでいるのは流石といえよう。

「それに僕は教師だ。基本的には生徒の意志は尊重してあげたいとも思う」

「ほう。ならば久門先生。ものは相談だが私の計画を手伝ってはくれないカ?」

超の質問に眉を動かしたあと腕を組み「うーん」と唸りながら悩む久門。その両目は物思いにふけるように閉じられていた。




敵から眼を離すという明らかな隙。

カシオペアを発動。高畑の時のように背に回り跳躍弾を当てる。

コンッと音が鳴り久門の体に当たったことが手に伝わる。

よし、予想よりもはるかに簡単に久門先生を封じることが出来た、と笑みを濃くする。

同時に得体が知れなかったとは言えやはりこんなものか、と少し落胆もする。

まあそれは仕方がない。今回の計画で自分の敵になる可能性があるのはネギ先生だけだ、と結論付ける。

後は跳躍弾の黒い球体が久門を飲みこみそれで終わる。









黒い球体が……球体が………























……球体が……出ない…?











「ナ……ゼ……?」

「うーん。やっぱり協力してあげたいのは山々なんだけど…ってあれ?いつの間に僕の後ろに回ったんだい超?」

思考から戻り視界から動いている超に気づき声をかける久門。


「―――っ」

このまま至近距離はまずい、と後ろに跳び距離をとる。

だが頭の中では自分でも珍しいほど動揺していることが分かる。



「何故ネ。何故転移しないネ!確かに弾は当たったハズ!」

「弾?ああ、これのこと?」

そう言って組んでいた腕を解き右手を超の方に向ける。

その手には跳躍弾が握られていた。




「なっ!」

「いや、ここに来る途中ロボットとかどっかにいる狙撃手から狙われたおかげでコレが危険な物と分かってたからね。超の手にあるのに気づけたから取っておいた」

ロボットや狙撃手に狙われたという話も気になるが一番気にかかるのは『手から取った』という発言。もしもそれが本当なら今も自分が握っているモノは一体何だ?

自分が握っているモノ。それは―――








「キャップ?」

赤いキャップがいつの間にか手の中にあった。





どういうこと、と超の思考は先ほどの比ではないほど混乱する。




久門が跳躍しなかった理由は分かった。自分が当てたのは跳躍弾ではなかったのだから。

だが一体いつすり替えた?どうやってすり替えた?間違いなくそんな気配はなかった。

少なくとも話し始めた時には持っていた。それを気付かれることなくすり替えるなんて―――




ふと刹那と久門の試合を思い出す。いつ攻撃を受けたか分からない。あの試合でも久門は今と似たような行動をとっていなかったか?

映像で確認した時は一瞬自分と同じ時を操ることでそう見せているのかと考えた。だがいくら調べてもどうやったのか分からなかったではないか!

超は今ので確信した。方法は分からないが久門には相手に気づかれることなく移動、攻撃が出来るのだと。

そこまで考えてあることに気づく。今、久門の手には跳躍弾がある。もしもそれを使われたら、先のように回避すらも出来ない方法で使われたら―――




間違いなく自分は三時間後の未来へ飛ばされ『計画』は潰えてしまう!!



それだけは防がなくては、とカシオペアを使い逃げようとする。




「どこへ行く気だい?」




だが、そのわずかに前に久門から声を掛けられ動きが止まる。



行動を…読まれている!?



「そんな不思議なことでもないだろう?これでも君の副担任だよ僕は。二年近く面倒見ていた教え子が何を考えているか位は想像着くさ」

思考すらも読んでいるかのように超の疑問に答える久門。



最早下手に動くことすら出来ず、笑みなどとうに消え去った顔を久門へと向ける。

「うん?ああ心配しなくてもいいよ。こんなものは僕は使わない」

そう言うと久門は右手の跳躍弾を後ろに投げ捨てた。

地面に当たった跳躍弾は誰も巻き込むことなく発動しその効果を果たした。




超には理解出来なかった。明らかに今の状況では跳躍弾は切り札になるものだ。

例え使う気がなかったとしても久門が持っているというだけで超は自由に動くことが出来なかったのだから。

「何で?って顔してるけど当たり前だろ。生徒に武器を向けるようなことはしないよ。僕が使うのは何時だってこれだけさ」

空になった右手の代わりに伸ばした左手には蓋の外れた赤ペンが握られていた。




「そうそう、さっきの質問、『協力してくれないか』というやつだけど答えはノーだ。手伝うことは出来ない。なぜなら僕がここに来たのは超、君を止めるためだからね」

「……さっきと言ってることが違くないカ、久門先生。私の考えに賛同してくれていたのではなかったカ?」

「うん。考えは素晴らしいと思うよ。でもね、例えその考えが正しいものでもそこから導き出した君の答えは間違っている。テストなら文法があってても文章が間違っているようなものかな。



そして何度も言うが僕は教師だ。



間違った答えに、いけない行動を取った者に、行なうことは決まっている。」



ペン先を超へと向ける久門。




超は理解した。



自分が一番気にかけねばならなかった相手はネギ先生でも高畑先生でも他のどの魔法関係者でもない。



今目の前にいるこの男だったのだと。



だがもう遅い。



既に採点は終了したのだ。









「僕はまほらの赤ペン先生。










君にバツを与えよう」



[18320] 第3話
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/05/29 05:18




期末テスト当日。

遅刻組のテストを新田先生から預かった学園長は学園長室に戻ると採点を始めようと筆をとりだした。

その時、




「失礼します。久門ですが入ってもよろしいでしょうか?」

ノックの音と共に聞こえてきたのは今回最終課題が出されたネギの指導教員の久門だった。

断る理由もなく笑いながら許可を出す。



「失礼します」

部屋に入ってきた久門を見た時、学園長はおや、と眉をひそめた。

久門紅助という人間は学生の頃から見てきたが、基本的ににこにこ笑っているような温和な人物だ。

だが今入ってきた久門は表情を硬く締めこちらを強く睨んでいる。

こういう時の久門は大抵何かに対して強く怒っている時であり、その場合彼が普段ほど優しくないことも学園長は経験から知っていた。



「どうしたのかの久門君。何か問題でも起きたのかの?」

表面上は気づかぬふりをしながら久門に質問をする。

「ええ。今回のネギ先生のことです」

対して久門はその表情を変えることなく淡々とここに来た理由を述べた。



(ああそうじゃったのう)



久門の理由を聞き学園長も久門が何に怒っているか納得する。

子供達に優しい彼からすれば今回のネギへの試練の内容は看過出来るものではないのだろう。

そう当たりをつけた学園長は久門がなるべく怒らぬように言葉を選ぶ。

「その事なら心配せんでも良い。ちゃんと考えておる」

「そうですか。何も考えてないのではと思っていたので安心しました。

念のため聞かせていただきますがどのようになさるおつもりで?」

「うむ。もし万が一今回の課題がクリア出来ずとも次がないわけではない。

来年度は無理じゃがまた次に頑張れば良いということじゃ」

「は?何のことです?」

「む?」

「…………」

「…………」




しばらく沈黙が続く。




「一応聞くがネギ君のことについて聞きに来たんじゃよな?」

「ええ。そうです」

「じゃから今回が駄目でもちゃんと次のチャンスがあると言ったのじゃが…」

「……?ですからなぜ次の話などしているんです?」



どうやら二人の間には妙なすれ違いが起きているようだ。

お互いネギに関して話しているはずだが話がかみ合わない。

久門が何を聞きたいのか、考えてみるもネギに関してと言った以上学園長には最終課題の事しか思い浮かばなかったため諦めて久門に聞くことにする。

「久門君。ワシと君とでは少しズレがあるみたいでのう。すまんがネギ君の何を聞きに来たのか教えてもらっても良いかの?」

「………本当に分からないんですか?」

「ふぉ?う、うむ。すまんがワシには課題のこと以外には思い当らなくてのう」

眼光が鋭くなった久門を見て冷や汗がだらだらと流れだすが久門に嘘をついても見破られる可能性のほうが高いので素直に答えた。

学園長の返答を聞いた久門は肩を落としながら深くため息をつくとここへ来た要件を述べた。




「ネギ・スプリングフィールドの処×についてです」

久門から発せられた言葉に学園長は眼を見開いた。

久門は確かに処罰と言った。まだ最終課題は終わっていない。にも関わらず処分を下すとはどういうことか。



「久門君、それは何の処罰かの?課題はまだ終わっとらん。その前に処罰とは少々早計じゃぞ」

「課題の結果云々ではなく僕が言いに来たのは彼の職務怠慢に関してです」

「ふぉ?」

「彼、ネギ・スプリングフィールドは期末前という大事な時期でありながら行方不明になり自らの職務を無断で放棄したばかりか生徒達にも不安を募らせるという失態を犯しています。

ましてや複数の生徒達も数日巻き添えにするなど言語道断です。それに関して学園長はどのようにお考えですか?」

ようやく久門が何を聞きに来たのか、何に対して怒っていたのか理解した学園長は苦い顔をした。

久門は確かに子供に優しいが彼が何よりも大切にするのは教師として生徒を守ることだ。

確かに今回のネギの行動ははたから見れば久門のように見えてしまうだろう。だがその裏には学園長自らが関与していたのだ。

そのため罰などということは考えもしていなかったのである。



「む、むう。実はのう。ネギ君は行方不明になったとは言っても実際にはちゃんと何処にいるかはこちらが把握していてのう。

ネギ君やその他の生徒も危険を晒させることなく管理はしておったんじゃよ」

「どんな理由があろうと実際がどうであろうと彼が職務怠慢だったことに違いはありません。教師ならまず生徒のことを考え危険が及ばないようにすることを第一にするはずです。

時には心を鬼にしても生徒を止めなければならないことだってあるんです。違いますか?」

「む、た、確かにそうじゃが…」

「では彼への処×はどうしますか?」

「い、いやしかしのう、彼はまだ…」

「何です?」

言いかけた言葉を飲み込む。飲み込まざるを得なかった。




『彼はまだ子供だから』




そう言ってしまうのは簡単だったがその言葉はこの男の前でだけは言ってはいけないと思いだしたからだ。

ネギ・スプリングフィールドが教育実習とは言え2-Aの担任を行なうと決まった時、一番反対したのは神楽坂明日菜ではなく久門紅助だった。

まだ十にもならない子供に教師をさせるとは何を考えているのか。生徒達もそうだがその子だって大変な目にあうのは目に見えているはずだと最後まで抗議していた。

何度も説得を続け渋々承諾した彼が代わりに出した条件は



『教師をやる以上ネギ・スプリングフィールドを一切子供扱いしない』



というものだった。

もし今子供だから、という理由で罰を与えねば目の前の、生徒だった頃から見てきたが未だにその正体がつかめないこの男が、何をするつもりか分からなかった。

「まだ何です?」

「いや何でもないわい。っとネギ君の処罰じゃったな。まあまだ教育実習ということで」

「教育実習ということなら教育指導員である僕が×を与えます」

話を被らせれて次のセリフにつなぐことが出来なくなる。

何とか軽いものに出来る要因を出したが逆に向こうに手を打たせる口実を作ってしまった。

「安心してください。いくら僕でもチャンスは与えます。ただし、それは今回の最終課題とは別物になってしまいますが構いませんね?」

出来る事なら否定したかった。だが学園長として彼のほうが正論だということも分かっており頷くしかなかった。



せめてネギに対する彼の罰が少しでも軽い物であることを願って―――

















「皆さんお疲れ様でしたー」

「あーもーやるだけやったわよ」

「つ、つかれたアル」

「ネギ君、私がんばったよ~」

「随分頭を使った感じがするでござる」

「まあ後は結果を待つしかないです」




バカレンジャー達遅刻組がテストを終えたため迎えに行きそのまま一緒に帰るネギ。

自分の進退がかかっているがそれを顔に出すことなく生徒達をねぎらった。

「夕映のゆうとおりやね。そや!これから取りあえず前祝いとお疲れ様ゆうことで皆で食べにいかへん?」

このかの提案にすぐさま賛同する一同。

既に最下位だった場合はネギがクビになるのは皆知っているがその不安を払うかのように騒ぎ立てた。

ネギとしてもその心遣いが嬉しく先に走りだした生徒達に追いつこうと足を動かす。




だが、




「悪いけどネギ先生はこれから用事があるから食べに行くのはまた今度にしてね」

ゆらり、と姿を現した久門のために立ち止まる。

「く、久門先生。え、えっと用事って?」

ネギは正直この自分の指導教員である久門が苦手だった。

何か失敗した時、タカミチやしずな先生は笑って許してくれるのに対して久門はいつも強く叱るのでつい身がまえてしまう。

「期末テストが終わったんだ。やることがあるでしょ?採点ていう仕事が」

言われてからはっと気づき、同時にそのことを忘れていたことでまた久門に怒られやしないかとびくびくしながら様子をうかがう。

しかし久門はそんなネギに気づかず先に行った明日菜達に断りを入れるとさっさと校舎に向かっていた。

怒られずにほっとしながらも遅れては大変と慌てて後を追いかけた。














「えっと、これを採点するんですか?」

「ああ」

「全部ですか?」

「ああ」

「ぼ、僕一人でですか?」

「ああ」

最後の方は泣き声に近いものだったが久門の返事は一切変わらなかった。




ネギが戸惑うのも無理はない。後をついて行った先は職員室ではなくとある空き部屋だった。

そこに入って目に入ったのは一つの机と椅子。そして自分の身長よりも高い答案の山だった。

明らかにネギが担当しているクラス以上ある。

「正確には女子中等部二学年全24クラス737人分。当然期日までに終わらせるように」

聞いてもいないのにこちらの疑問を返す久門。だがネギには何故自分の担当分以上行なうのかが分からずただおろおろしている。

「何でか分かってないっぽいから教えるけどネギ先生。君二日間教師の職務してないよね。他にも色々あるけどまあ分かりやすく言えば君への×だ」

自分への罰と聞き青ざめるネギ。確かに結果的には何事もなかったが一歩間違えればどうなっていたか分からないことだった。

多くの人に迷惑をかけてしまった。そのことに気づいたネギはまず自分がいない間自分の負担を掛けてしまった久門に謝ろうとする。

しかしそれをやんわりと出された手で止められる。

「謝るのも大事だけど先に続きを伝えておくよ。さっきも言ったけどこれは×だ。期日までに終わらせなければ最終課題の結果に関わらず君は教職を辞めてもらうから。

本来なら僕としては生徒を危険に晒した時点で零点なんだけどこれは追試みたいなものだね」

「!!そんな!?」

今日の天気のことのように軽く言われたがネギにとっては一大事である。予想だにしていなかった問題にまた涙目になるが久門から差し出された赤ペンに目が行く。

「甘えないでね。教師っていうのは自分だけの問題じゃないんだ。僕達教師が駄目になった時一番被害を受けるのは生徒なんだ。

もし君が本当に教師を続ける気があるならここにある生徒達の答案も一つ残らず間違えずに採点をするくらい出来ると思うけど?」



明らかに挑発だった。教師だからと言ってこれだけの量を僅か数日で行なうのは無理だ。

だがネギは良くも悪くも子供だった。

教師としてという言葉からくる純粋な責任感と挑発に対する憤慨から「はい!」と元気良く頷くと机に座り目の前の山に取り掛かり始めた。

その姿を見た久門は黙って部屋を後にした。










しばらくキュッキュッと赤ペン独特の音が続く。

先ほど明日菜達が来てくれたのだが答案があるため声を交わすだけにとどまった。

ネギはふと右手首を見てここ数日ついていた封印のラインが消えているのに気づく。

(そうだ。魔法を使えばもっと早く採点が出来るかも)

思ったら即実行しようと壁に立てかけた杖を持とうと右手を伸ばすが

「言い忘れてたけど」

突然ガチャリとドアノブを回し顔をだした久門に慌てて手を引っ込める。

一般人に魔法を見られてはいけないため今自分の行動がそれに繋がるものだと感づかれてはいないか冷や冷やする。

「何やってんの?」

「べべべ別に何もしてませんよ!魔法とか考えてませんよ!」

微妙に危険なことを口走っているがそのことに久門は気にせず話を戻す。

「言い忘れてたけどネギ先生がイカサマとかしないように僕がドアの外で見張ってるからね。当然誰かに手伝ってもらうのも禁止。

それから終わるまではここで続けるように。君の相部屋の神楽坂や近衛には僕から連絡入れとくから」

じゃ、と言いたいことだけ言ってまたドアから引っ込む久門。

ふう、とため息をつくと再び杖に手を伸ばそうとしたところで右手首に赤いラインが三本ついていることに気づく。

どうやら赤ペンのラインらしいがさっきまでなかったはずなのに、と首をひねる。

(さっき久門先生が入ってきた時慌ててたからその時ついちゃったのかな?)

そう結論づけるがその赤い三本線は自分の封印を思い出させた。

……そうだ。封印だって安易に魔法に頼らず一教師として生徒と向き合うためにしたんじゃないか。またすぐ魔法に頼るところだった。

ムン、と気合を入れ直すと再び手に持つ赤ペンを動かし始めた。

















数日後、期日前日。

夜遅い学校の中で一つだけ明りが灯っている。

中からはペンを動かす音と時折紙をめくる音が聞こえてくる。

その部屋から漏れる光の横で廊下の壁に寄りかかりながらじっとしている久門だったが、カツカツと暗闇の向こうから誰かが歩いてくる音が聞こえ目を開き組んでいた腕を解く。

「こんばんは久門先生」

「こんばんは高畑先生。こんな遅くに何か御用ですか?

確か僕の記憶が正しければ今日やっと出張から帰ってお疲れでしょうに」

ポケットに手を突っこんだまま歩いてきた高畑にあくまで自然体として話す久門。

対する高畑は笑顔で話してはいるが目は笑っていない。

「聞いたよ。久門先生。全クラスの採点をネギ君にやらせて間に合わなかったらクビにするらしいね」

「ええ。そうですが」

「…少し厳しすぎやしないかい?」

「これでも譲歩したほうです」

「手伝うくらいは」

「様子を見に来た神楽坂達もそう言いましたが却下しました」

「でも彼はまだ」

「それ以上言ったら高畑先輩でも容赦しません」

二人しかいない廊下の温度が一気に下がったように感じられる。

高畑にとって自分の後輩でもある久門だがこうやって相対してもまるで勝てる気はしない。

学園内で高畑は裏の関係者の中でも学園長に次ぐ実力(エヴァは含まれていないものとして考えた場合だが)と認識されているが、

それはこの学園の大半が久門のことを知らないからだろう。

いや、久門が普通でないと知っているのは自分と学園長、そしてエヴァくらいだが実際の彼の能力を知っているのはエヴァしかいない。

そのエヴァですら久門とは未だに一勝も出来ていないと言われているのに自分などが相手になるのか?

そう自問自答する高畑を見ていた久門だが部屋から聞こえてくる音が先ほどから聞こえてこないことに気づき部屋を開ける。

部屋には大半の採点し終えたテストと残りの分。そして机の上で赤ペンをもったまま船をこいでいるネギがいた。

「たった一人でここまで……」

ネギが終わらせた分を見て驚く高畑。

そんな高畑を置いておいて久門はネギに近づく。

「皆ネギを甘やかしすぎなんですよ。やると決めたならこの子だって出来るのに厳しくする人がいなければそりゃミスもしますよ」

久門の言葉を聞き顔を歪める高畑だが気にすることなくネギの残りのテストを確認する。

「あと数時間でこの量か。まあ頑張ったけどこれまでのペースから見てまず無理ですね」

「っ!!もういいじゃないか!ネギ君だってここまで頑張ったんだ。少しくらい手伝わせてくれたって」

「駄目です。ほらネギ先生起きて。あとちょっとしか時間ないよ」

肩を揺らしネギを起こす。少しうとうとしていたが自分が寝ていたことに気づくと慌てて久門に自分がどれだけ寝ていたか問いだした。

「ん。まあ少し寝ていたみたいだけどでもその間も筆はちゃんと動かしていたみたいだね。ほら。あとこんだけなんだから頑張って」

「あ、はい。あれ?」

久門が指し示した残りのテストを見てネギは首を傾げた。

高畑には何故首を傾げているか分からずネギに問う。

ネギは高畑がいることに気が付いていなかったらしく驚いていたがすぐに落ち着くと答えを高畑に返した。

「えっと寝る前にあった量に比べて随分減ってる気がするんだ」

「え?」

言われてみると確かに最初部屋に入った時に見た時と比べて減っている。

ネギは確実に寝ていたから採点をしたということはない。

ということは――――

「あ、もしかして久門先生がやったんですか?」

「おいおい。これはネギ先生への×なんだよ?僕が与えた×に僕が手助けするはずないでしょ?

高畑先生も見てましたよね?僕がこの部屋に入ってから一度も答案に触ってませんよね?」

「あ、ああ」

確かに久門は触っていない。正確には久門が触った所を見ていない。

だが高畑は知っている。長年たっても未だ分からない決して見えることなく気づかれることなく行動が出来る自分の後輩の能力を―――

「もちろん高畑先生だってやってない。多分無意識のうちに自分でやっちゃったんじゃない?」

「そうですか?えへへ」

自分がやったと聞き顔を崩すネギ。

数日間の採点で疲弊しているがその表情は生き生きしていた。

「僕らが手伝ってないのがそんなに嬉しいかい?」

「はい!ここまで頑張ったんですから全部自分でやりたいんです!」

ネギと久門の会話を聞いた高畑は殴られたかのような感覚になりその後久門に言われるままに一緒に部屋を出た。







「あの分じゃ後一時間もいりませんね。すみませんけどトイレ行きたいんで少しここにいて下さい。念のため誰かがいないと寝ちゃったり倒れたりしたら大変なんで」

「……結局自分は手を出しているじゃないか」

「何のことです?僕は何かしたとこ見たんですか?」

八つ当たり気味の皮肉もあっさり流され口を閉ざす。

暗闇に歩いていった久門だったが姿が完全に闇に飲まれたころ高畑に対し忠告をする。

「先輩にこんなこと言うのも何ですけど人と話す時ポケットに手を突っこんだままというのは正直×ですよ」

言うだけ言うとそのまま足音が遠ざかっていく。

足音が聞こえなくなったころ高畑はポケットからおもむろに両手を取り出し僅かに見える光にかざした。

半ば予測出来ていた通り両手の甲には×印がついていた。

久門に会う前から既に臨戦態勢は整えていた。久門に会ってから今まで一度もポケットから手を出していない。

「…ははっ」

苦笑がこぼれる。

「まったく、敵わないな。戦士としても。







教師としても」



部屋の中から聞こえるネギの歓声を聞きながらしみじみと呟いた。




[18320] 第4話
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/06/08 00:21
第4話







新学期から数日たち、春休みで浮かれていた空気もようやく抜け始めたころ。

早朝の鐘の音が迫るなか遅刻しないように生徒達は足早にそれぞれの学校へと向かう。

そんな中、女子中等部へと通う初等部くらいの少年がいる。

しかし彼は当然女子学生ではない。否、生徒ですらない。

彼はこの麻帆良女子中等部の教師である。

昨年度の期末テストにて見事に課題を達成した彼、ネギ・スプリングフィールドは正式に英語科教員となり3-Aの担任として働くこととなった。

就任時には多くの者に祝福され普段は厳しい彼の指導教員も「大変だろうけど頑張れ」と励まされ意気揚々と新学期に取り組むはずだった。

しかし今、初日にはあれだけ元気だったはずのネギはまるで何かに怯えるようにきょろきょろとまわりを見渡しながら登校している。

当然そんな姿は他の者にもすぐ分かりそれはネギの肩に乗るオコジョ、アルベール・カモミールとて例外ではなかった。

「よう兄貴。さっきから何をキョロキョロしてんだよ?」

「え……いやちょっとね……」

笑顔で返事をするネギだったが笑いきれていないその顔は嘘をついていることがばればれだった。

カモとしては自分のご主人であり兄貴と慕う大切な人であるネギが何か困っているのなら力になろうと思うのは当然である。

「なァ~に落ち込んでんだよ?相談にのるぜ兄貴!!」

心強いカモの言葉に己の抱える問題を漏らすネギ。

「うーん…じ、実はうちのクラスに問題児が…」

だが、




「おはよう。ネギ先生」

ネギが話し終える前に当の問題児である生徒達が現れてしまった。

声を掛けられたネギは挨拶への返答もせずにびくりと身体をすくませる。

そんなネギの様子がおかしいのか口許を軽く上げながら問題児、エヴァンジェリンは一方的に話を進める。

「今日もまったりサボらせてもらうよ。フフ、ネギ先生が担任になってから色々楽になった」

「くっ」

思わず背中の杖に手が伸びるネギだったがエヴァに学校ではおとなしくしている方がお互い都合がいいと言われぐうの音も出なくなる。

悔しくて拳を握りしめる様を見たエヴァはネギをからかうことに満足したのかその足を屋上へ続く階段へと向ける。

「そうそうタカミチや学園長に助けを求めようなどと思うなよ。また生徒を襲われたくはないだろ?」

フフフと冷笑を浮かべつつネギに視線を向けたまま足を進める。

何か言い返したい、サボる生徒を止めたい、といくら思っても口は自分のものではないようにただ進んでいくエヴァを見ているしか出来ない。

悔しい。悔しい。でも、何か言ってその後どうなるか、それが怖い。

自分の情けなさにその場にいられなくなり駆けだそうとした時、





「何処へ行く気だお前は?」

そんな声が響き動きを止める。

だが動きを止めたのは自分だけではなかった。

いや違う。正確には今の言葉は自分に掛けられたのではなくもう一人の動きを止めた人物、エヴァにかけられたものだった。

なぜなら足を止めている彼女の眼の前には3-A副担任である久門がいたからだ。

「コウスケか。何、今日は天気がいいから屋上へ行って昼寝でもしようかと思ってな」

「はいはい、寝言は教室に行ってからにしようね。ホームルームまで時間もないしさっさと行くよ」

それなりに高い背である久門とは随分身長差があるため見上げる形での会話であったがエヴァの言葉をおざなりに聞き流した久門はエヴァの頭に手を乗せくるりと向きを変えるとそのまま頭を押すように進み始めた。

「あ、こら何をする。やめろ、頭を掴むな」

「離したら教室行くかい?」

「誰が行くか!!」

「なら誰が離すか」

「それでも教師か貴様」

「教師だからこそサボりをする生徒を見逃しちゃいけないでしょ。あんまり往生際が悪いと×を与えるよ?」

ギャーギャー騒いでいたエヴァだったが久門の言葉にウグッと唸ると抵抗をやめ大人しくなった。

それを見た久門は掴んでいた頭を一撫ですると手を優しく離した。

「見ていろよ。呪いが解ければ貴様なんぞコテンパンに…ぶつぶつ…」

小さく独り言を呟くエヴァに続いて茶々丸も教室へ向かうのを確認すると久門は今度はネギの方へと視線を向ける。

「駄目だろネギ先生。どんな理由があっても生徒が間違った行動を取った時それを止めるのは教師の役目なんだから。

いつも言ってるよね。『教師が一番に考えなきゃいけないのは生徒の事だ』って。自分のことばかり考えて怯えていたらちゃんとした教師にはなれないよ」

そう言って職員室へと去っていく久門の姿は自分と違い自信に満ちていて。

それがなおさら自分の教師としての未熟さを浮き彫りにするようで。




「うわあああ~~~ん」

泣きながら走り出すことしか出来なかった。

「ネギ!待ちなさいよ」

「ネギの兄貴しっかりしろよ!」

後ろからカモと明日菜の二人が追ってきて慰めてくれるが項垂れるネギには届かない。

「あの二人ッすか?あの二人が問題児なんすね!?それともあの何か胡散臭そうな男が原因すか?

許せねえ!あいつらネギの兄貴をこんなに悩ませるなんて!!」

舎弟の俺っちがぶっちめてやんよぉー、と何処から取り出したか分からないが釘バットを片手にエヴァ達の元へ向かおうとするカモ。

しかしエヴァが真祖の吸血鬼と聞いた途端にこれまた何処から取り出したか分からない帽子とカバンを持って逃げだそうとするカモを明日菜は呆れながらもその尻尾を捕まえた。

「あ、なら男の方はどうッすか!アイツからは特になんの力も感じなかったっすけど?」

「久門先生?久門先生は一般人の普通の人だよ」

オッシャー待ってろやーっと再び突撃しそうになったカモはだからやめなさいというように明日菜にどつかれた。

落ち着いたカモだったがふと疑問を抱きネギ達に尋ねる。

何故真祖の吸血鬼などという最強クラスの者に狙われ命が無事なのか、と。

返ってきたネギ達の言葉にカモはにやりと妖しい笑みを浮かべた。

それならばいい手がある、とネギ達を誘惑するように………




















時は過ぎ放課後。生徒達は各々好きな行動を取る。

或る者は教室に残り友との会話に花を咲かせ

また或る者はさっさと自分の部屋に戻り趣味の時間にし

そしてまた或る者は部活へと勤しんだ。

エヴァと茶々丸も茶道部へと進み静かな和室の中でお茶を楽しんだ。

ホームルームの後も何度も授業をサボろうとしていたエヴァだったがその度に先回りしていたかのような久門に連れ戻された。

そんな不真面目な彼女も自ら選び所属している茶道は楽しいのか取り組む姿勢も見事なものである。

短くとも充実した時間を楽しみ部室を後にしたエヴァと茶々丸だったがその帰り道、今朝のネギの肩にいたオコジョのことを思い出した。

所詮は妖精にすぎないが用心しておくことに越したことはない。

「ネギ・スプリングフィールドに助言者がついたかもしれん。しばらく私のそばを離れるなよ」

傍らに立つ茶々丸へ注意を促す。茶々丸も少しの沈黙の後了承の意を伝えそれでその話は終わりとなった。

そんな二人を陰から除く姿が。ネギ、明日菜、カモである。

カモの出したアイデア、それはネギと明日菜が仮契約を交わして敵の一方を二人がかりで倒してしまうというものであった。

難色を示す二人ではあったがカモの巧みな話術に乗せられこのように様子をうかがう次第である。

尤も、仮契約はおでこ、という中途半端なものではあったが。

ともかくカモの言うとおり一方を襲うのであればまずどちらかが一人になるのを待たなければならない。

そしてその時は意外に早く訪れた。





「おーい。エヴァ」

「……何か用かコウスケ」

少しぶすっとしながらも返事をした相手、久門はそんなことを気にすることなく要件を伝える。

「学園長が一人で来いってさ」

「…………分かった直ぐ行くと伝えろ。茶々丸、直ぐ戻るが必ず人目のある所を歩くんだぞ」

「エヴァじゃあるまいし迷子とか誘拐とかになんかならないでしょ茶々丸は」

「私だってならんわ!というか何でお前もついてくる!?」

「いや念のため?途中で迷っても困るし」

「だから迷わん!何年いると思ってる!?」

騒がしく話しながら離れていく二人を見送った茶々丸はそのまま帰路とは違う道へと向かった。


















「よく来たのうエヴァや」

「呼びつけたのはお前だろうが。一体何の用だ」

学園の最高権力者の前だと言うのにその態度を変えることなく接するエヴァだったが学園長もいつものこととばかりに注意することは無かった。

「いや実はのう。ちょっと面白い噂を耳にしたんじゃが桜通りの吸血鬼、という噂を知っとるかの?」

「ああクラスでも噂になってたな。それがどうかしたか?」

まるで他人事のように聞き返すエヴァ。

「ふむ。いやの、ワシとしても噂であってほしいんじゃが少し気になっての。この前なんかエヴァ、お主のクラスでも桜通りで倒れていた者がおるそうじゃのう」

「佐々木まき絵か。どうやら貧血だったらしいが確かに心配だな。私も気をつけなければな」

「お主は関係ないんじゃな?」

「何の事だ?」

「………」

「………」

「まあいいわい。そういうわけじゃからお主もあまり夜遅くに出歩かんほうがよいぞ」

「ああそうだな。そうさせてもらおう」

キツネとタヌキの馬鹿し合いも終わり要件は済んだ、と帰ろうとするエヴァだったがドアの前に立つ久門を前にして動きを止める。

今学園長に釘を刺された以上もう他者の血を吸うことは出来ない。

だが戦力になるものはあって困る事はない。

万が一ネギが何か策を用意しても眼の前の男の力さえあればたやすくネギなど捕らえることが出来る。

そう結論づけたエヴァは帰るのをやめると代わりに常に学園長室に置いてある囲碁の用意をし始めた。

「せっかくだコウスケ。久しぶりに一局打たないか?」

「うん?そういやもう随分やってないねえ。やだなあ、もうエヴァかなり強くなってんじゃないの?」

「ふん当然だろう。伊達に十五年も部に所属しとらんわ。別にやらんでもいいぞ?その時は私の不戦勝だがな」

「そうやってすぐ約束のこと出すんだから困るなあ。アレまだ有効なの?」

「当たり前だ。ほれ貴様が黒で構わんぞ」

準備を終えたエヴァは敷いた座布団の上に座り久門を促す。

ちなみに久門の分の座布団はないため仕方なく直に床の上に座った久門はそのまま石を握った。

「ホント、面倒な約束したもんだなあ」

「違えるなよ。『何でも良いから私が勝てれば即下僕』だ」

打ち出した石と共にため息をつく久門だったがその姿からは負けを恐れてはいなかった。

対して今日こそは勝つ、とばかりにエヴァは強く石を打ち返した。

「あの、ここワシの部屋なんじゃけど………」

聞き入れる者は皆無だった。



















眼の前の光景はまるで聖母を見ているようだった。

あれから一人になった茶々丸を襲うタイミングを測っていたネギ一行だったが茶々丸の行動は悪、という言葉から最も縁のないものだった。

子供のために飛ばされた風船を取り階段を上るのに苦労している老人がいれば手を貸す。

川に流された仔猫がいれば身が汚れることなど気にせず川に入り救出。

そして今、協会の裏で野良猫達に餌を与えている茶々丸の表情はかすかに微笑んでいるように見える。

ほろり、と涙を流す二人にカモは焦る。

このままではせっかくのチャンスをふいにすることになる。

煮え切らない二人をはやし立て半ば嫌々ながらも茶々丸の前へと進ませることに成功する。

「……こんにちはネギ先生、神楽坂さん。

 ……油断しました。でもお相手はします……」

向こうも気づいた。ここまでくればもう後戻りは出来ない。

「茶々丸さん、あの……僕を狙うのはやめていただけませんか?」

「…申し訳ありませんネギ先生。私にとってマスターの命令は絶対ですので」

そう言いながら頭のネジ巻きを外した茶々丸は詫びるように軽く礼をした。

ネギとてこんなことはしたくない。だが命がかかっている状況でためらえば死ぬのは自分だと思うとその杖を握るしかなかった。

お互いが戦闘準備を済ませた。

後はただ始まるだけ。

「では茶々丸さん」

「……ごめんね」

「はい。神楽坂明日菜さん。いいパートナーを見つけましたね」

一瞬、風が木を揺らす音が聞こえるほど場は静かになった。

だがそれは一瞬。戦いの幕は切って落とされた。





















「うーん。うーん。おー?」

「ほれほれどうした?このままいけば私の勝ちだぞ?」

学園長室での二人の対局は終盤を迎えていた。趣味でやる程度の久門に対し十五年それなりのものを学んできたエヴァでは実力差が違いすぎた。

少し離れた学園長からみてもそこから逆転するのはほとんど不可能だと分かった。

「もう諦めた方がいいんじゃないかコウスケ?そしてさっさと私の下僕になれ」

ここまで有利に進んでいるのがよほど嬉しいのか凄くイイ笑顔で投了を促すエヴァだが負ければ下僕になるというのに簡単に負けを認めるはずがなく唸り続ける久門。

だが何かに気づいたのかふと顔を上げるとエヴァのほうを見る。

「そういやさっき茶々丸にすぐ戻るって言ってたけど大丈夫なのか?もう帰ったほうがいいんじゃない?」

「は?そんなんで勝負を終わらせようというのならふざけるなよ。確かにすぐ戻るとは言ったがこれくらいどうってことはない」

「でもさ。万が一茶々丸が例えば誰かに襲われてたらどうする?」

「それこそふざけるなよ。茶々丸がそこらの奴に負けるわけがないし万が一そうなるならこの私が直々にそいつを殺してくれるわ」

たとえ話でもそんなことを話題にされて不快になったエヴァを見てごめんごめんと謝ると再び視線を碁盤に戻した。

「そうだね。もしホントにそんなことするようじゃ駄目だね。




………まあ保険は打ってあるけど」

ほい、と久門は随分悩んでたわりには簡単に石を置いた。



















「やあ三人とも。こんなところで何をしているんだい?」

戦いの幕は切って落とされた。

そしてあっという間に閉幕となった。

三人しかいなかったこの場に新たな者が現れたからだ。

その者は―――

「タ、タカミチ!?」

「高畑先生!?」

「………」

現れたのは元は担任であった高畑だった。

微笑を浮かべながらも高畑は突然現れた高畑のために動きが取れない三人に近づく。

「タカミチ、何でこんなとこに?」

「いやあ、実は茶々丸君に用があってね。探していたんだよ。えっと今大丈夫かい?何か三人でしていたのかな?」

質問に答えられるわけがない。

まさか今から戦おうとしていたなんて。

誰も何も言わないのを見て問題ないと見た高畑はそれじゃいこうか、と茶々丸を連れて歩きだした。

「ああそうそうネギ先生」

「………え?あ、何?」

茶々丸と高畑が歩いて行くのをぼうっと見ていたネギは自分に話しかけられたことに直ぐに反応出来なかった。

高畑の方はネギがしっかりとこっちを向いているのを確認すると少しだけ怒っているような、悲しそうな、それでいて思いやるような顔をした。

「久門先生からの問題だよ。『教師が一番に考えなきゃいけないことは何か?』だとさ」

そう言うと高畑は振り返ることなく歩いていき茶々丸はネギ達に一礼すると高畑の後を追った。


二人がいなくなりその場にいるのがネギ一行のみになるとそれまで黙っていたカモがわめきだした。

「チクショー、肝心なとこで邪魔が入っちまったな兄貴。仕方ないからまた次の機会を待って……兄貴?」

ネギにはカモの言葉など聞こえていなかった。聞こえているのは高畑の最後の言葉。

いや、久門の問題だった。


『教師が一番に考えなきゃいけないことは何か?』



そんなものはすぐに答えられる。なぜならそれはネギが久門の元で指導を受けて以来何度言われたか分からないくらい言われた言葉だからだ。

答えは     『生徒』

だからこそネギには何も言えなかった。



今さっきまでの自分は何をしていた?

自分の事ばかり考えていた。

さっき自分は何をしようとしていた?

茶々丸を襲おうとしていた

茶々丸は誰だ?

自分の命を狙う者の従者か?

違う。彼女は自分の生徒だ。

何があっても守る相手だ。

いつも言われていたのにまた忘れてしまっていた。

これじゃ本当に教師失格だ。




ぐいっと腕で眼をこする。

空を仰ぐ。

答えは出た。さっきまでの心にあったもやもやも消えている。

よし、と気合を入れたネギは杖を背中に戻した。

「兄貴。気を落とすことはねえぜ?またチャンスは「しないよ」……へ?」

「もうこんなことはしない。僕は先生になったんだ。戦わなきゃいけないのなら正面から向き合って応じる。それが教師なんだ」

先ほどまでとは違い強い意志でカモの誘いを断るネギ。

呆けるカモをよそにネギは明日菜に向き直るとそのまま頭を下げた。

「すみませんでしたアスナさん。クラスメイトを襲わせるような真似をさせてしまって。嫌な思いをさせてしまう所でした。

ですが無理を承知でお願いします。僕はエヴァンジェリンさん達と正面から向き合おうと思います。でもそれは僕一人ではとても難しくて。

だからお願いします。僕と一緒に戦って下さい!!」

いつもの何処か抜けた雰囲気とは違うネギを見て少し頬を赤らめた明日菜だったが苦笑しながらもその手をネギの肩に置いた。

「構わないわよ。私としてもその方がすっきりするしね。ここまで来たんだから最後まで付き合ってあげるわよ」

「明日菜さん……ハイ!宜しくお願いします!!」

二人して笑顔でいる中でカモのみが納得いっていなかったがいくら甘いだのもっと非情になれと言っても二人がカモの意見に耳を貸すことは無かった。


















「よし。整地終わり。えーと僕の勝ちだね」

「バ、バカな……」

終局後。

明らかに勝っていたと思われていたはずのエヴァだったが最後に笑ったのは久門だった。

あー危なかったと言う久門に対しエヴァは未だに信じられないと勝負の終わった碁盤を見つめる。

「ん?あれ、これは……」

「さー夜も遅いしさっさと片づけよっか」

少し違和感を感じよく見ようとした時ひょいっと伸びた久門の手が盤上の石をどかしてしまう。

だが対局の棋譜を覚えていたエヴァは違和感の正体に気づく。

「おいコウスケ貴様今イカサマ「エヴァも早く帰ったほうがいいよ」待て茶々丸の話をした時か「それじゃ学園長お疲れ様でした」能力を使ったな「じゃあまた明日」って待たんかー!!」

最後まで騒がしく出て行った二人を見ていた学園長だったがその表情は孫を見る老人そのものだった。

「あんなやりとりを十年近く続けとるのじゃから凄いのう」

やれやれ、と頭を振ったあと学園長はようやく自分の仕事に集中出来る、と筆を動かし始めた。













おまけ


部屋に戻ったネギと明日菜はまずはエヴァ達とどうやって向き合うかと話し始めたがそんな様子をカモは何処か引いた眼で見ていた。

「全く兄貴も姐さんも甘すぎだぜ。ここはひとつ俺っちが一肌脱いで「ピーンポーン」ん?客?」

カモ君静かにね。と言われ普通のペットの振りをしながら明日菜が向かった玄関先に眼をやる。

開いた扉の先には今朝見かけた背の高く胡散臭そうな男、確か久門と呼ばれていた、が立っていた。

「久門先生?何でここに、ここは女子寮ですよ?」

「うんちょっとだけ用があってね。それを済ませたらすぐ出ていくよ。何かネギがペットを飼ったと聞いたんだけど見せてもらえるかな?」

俺っち?とあくまで普通のオコジョの振りをしているため話すことは出来なかったがネギの手から久門に渡された時何か嫌な予感がした。

「へーこれがネギのペットか。でもいくらペットだからって何でも許されるってわけじゃないよね。そう思うでしょ神楽坂?」

「え?はあ、まあ」

「だよね。しかもそれが僕の生徒に被害が及ぶようなら×を与えないとね」

首を上から掴まれ宙ぶらりんになる。

久門と視線が合う。

獣の本能が言っている。

コイツには逆らってはいけない。

敵対すらしてはいけない。

狙われれば最後、喰われる、と。

「もしも今後何かとんでもない悪さをするようなら」

カモを自分の前に引きよせ耳元でカモにしか聞こえない小さな声で告げる。

「真っ赤に塗りつぶすぞ」

身体がはねる。冷や汗が止まらない。

カモの様子に満足した久門はカモをネギの手に戻すと手を振って去って行った。

「何だったのかしら?」

「さあ?あれ、カモ君?震えてるけど大丈夫?」

「エ、エエダイジョブデサア、シンパイシネエデクダセエ」

カモは誓った。

絶対にあの男を怒らせるような事だけはしない、と。

そのためにはまずエヴァ達と真っ向から戦うネギをサポートすることから始めるとしよう。






[18320] 第5話
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/07/17 20:03




ホテル嵐山。今この宿には修学旅行を楽しむ女子中学生達がその日行った場所についての思いで話に花を咲かせていた。

パーララパラララパララララー

そんなロビーにゴットファーザー愛のテーマが鳴り響く。

パラ「長瀬でござる。おや?バカリーダー?」

着信を受けた長瀬楓にすぐ傍にいた古菲とギターケースを担いだ龍宮真名が注意を払う。

電話の相手に何度か頷きながら話を聞き「すぐ行くでござる」と言い通話を切ると二人に向き直った。

「クラスメイトがピンチのようでござるが二人はどうするでござるか?」

笑顔で返された返事は語るまでもなかった。



一度部屋に戻って再びロビーに集合した三人はすぐさま連絡を受けた場所へ向かおうと玄関へ足を進めた。

だが、

「こんな時間にどこ行くんだい?外出時間はもうとうに過ぎているんだけどね」

腕を組んだまま壁に寄りかかった久門がいたため立ち止まざるをえなかった。

「アーいや久門先生。実は仲間のピンチアルね。すぐに行かなきゃ行けないアル。だからそこを通してもらえないアルか?」

古菲が素直に理由を告げているが長瀬としては内心しまったと愚痴をこぼす。

先ほどまでは誰も玄関に教員はいなかったため急いで抜ければ誰にも気づかれずに済むと考えていたのだがまさか自分達の副担任が見張っているとは。

ここで見つかったのは正直痛い。この先生は規律やルールは新田先生ほどではないが守るほうだ。今ここでやり過ごして他の方法で外に出てもすぐに抜け出した事がばれるだろう。

案の定古菲の意見を聞いても久門が道をあけることはなかった。

「仲間って誰の事を言ってるのかな?もうウチのクラスの人は全員帰ってきているよ」

そう言って早く部屋に戻るように言った久門先生だったがその時PiPiPiと単純な携帯の着信が久門の胸元から鳴る。

「はい久門です。おや学園長?…ああちょっと待って下さい」

一旦電話から耳を離すと久門は長瀬達三人の間を通りぬけホテルの奥へと行く。その際に

「いいかい。僕は今から学園長と話があるから少しここを離れるけど、その間に自分達の部屋に戻ってるようにね。まあ昨日あれだけ騒いだから反省しているだろうし確認しにいったりはしないけど”ちゃんと戻る”ようにね」

そう言い残すとさらに奥へ行き久門の姿がロビーから見えなくなる。

「チャンスアルよ!今のうちに行くアル!」

「…ああそうだな。先生の好意に甘えるとしよう」

気づいているのか微妙な古菲としっかりと分かっている龍宮を追いながら長瀬は小さく久門に礼を言った。

言われた通りちゃんと戻って来ると呟いて。





「やれやれ、世話の焼ける。ああすみません学園長、それで要件は?……はい……はい…ハア、また何とも面倒なことに。…分かりました。

ですが僕はここを離れるわけにはいきませんよ。万が一ってこともありますし。……ええ。それなら問題ないです…ってあれ、エヴァ?何?

……え、来るの?いや別に嫌じゃないけど……はいはい分かった。待ってるからなるべく早く来てね。同僚や生徒が傷つくのは見たくないしね」

携帯を胸にしまい戻ったロビーに誰もいないことに満足した久門は再び壁に寄りかかりながら見張りを続けた。














その後、宿を出た長瀬、古菲、龍宮がそれぞれ敵と交戦を行ない、

麻帆良にいたエヴァと茶々丸が転移魔法を使いスクナを圧倒的な戦力で倒し、

石化しかけたネギがこのかとの仮契約により皆の傷と共に回復した後、



森の中を走る一人の女がいた。



ハアッハアッ

自分の息遣いがやけに耳に残る。

ハアッハアッ

それは走り続けて息が上がっているのもあるだろうが先の出来事の所為だと容易に分かった。

自分が考えうる最大戦力、それがあっという間に破れた。

あんな氷を使った化け物が現れるとは思ってもみなかった。

あんなのがいるとは聞いていない。

近衛お嬢様を奪い返せればまだ分からなかったが何故かあの後投げた札は発動せずその直ぐ後にあの化け物が来てしまったためどうしようもなかった。

ハアッハアッ

これで今の自分には手駒が消えた。復讐を再び行なうにはまた一からやり直しだ。

まあ仕方がない。今は逃げることが先決だ。この森を抜ければ街に出る。後は念のため用意していた逃走経路を使ってしばらく身を隠そう。

そう思うと少し余裕が出来たのか息遣いだけでなく草をかき分ける音も聞こえてくる。

追手が来ないか心配だが今のところは自分の立てる音や気配しかしない。

このままいけばすぐ抜けられそうだ。

逃亡者にして首謀者、天ヶ崎千草の思考が安定してきた時、それは起こった。




走っている中で見える物はほとんどが緑だ。

だがその中に一瞬赤い何かが見えた気がして千草はそちらへ目をやる。

見えた物は先ほどから何度も目にしている何の変哲もない木だった。



そこに赤い字が書かれていなければ。


『逃げられると思っているのか』


文字の意味を理解するのに少し時間が必要だった。

それが自分を追ってきている敵の仕業だと考えた千草はすぐに周りを見渡す。

だがその行為は今回に限って言えば下策だった。

視線を移すと先ほどまでは何もなかった木に同じように文字が書かれている。


『随分と派手な真似をしてくれたな』


誰もいなかったはずだ。少なくともその方向は自分がさっきまで逃げていた方向なのだから。

だがその文字は無視するにはあまりにも赤々しくて―――

視線を移す。また赤い文字が


『僕の生徒を誘拐した ×』


視線を移す。また赤い文字が


『復讐のために傷つけた ×』


視線を移す。また赤い文字が


『僕の生徒を傷つけた ×』


視線を移す。また赤い文字が


『僕の同僚を傷つけた ×』


シセンをウツス。またアカイモジが


『この×が許されると思っているのか』


目を向けた場所には必ず何者かの言葉が書かれていて。


『我慢するのも正直限界だった』


確実にさっきまではついていなかったはずなのに次から次へと書かれてあって。


『お前は僕の生徒じゃない』


なのに誰もいない。最早音など全く聞こえないのに、誰かがいる気配など微塵もないのに。それなのに赤い文字は増えていく。

ただの赤い文字なのに、魔法的な気配も感じない、呪術でも何でもないただの赤い文字なのに


『だから僕も容赦しない』


その赤い字からは強い怒りが伝わってきて―――

逃げ出そうと足を踏み出した先にはまた文字が

『逃がさないと言っているだろう』

ヒッと声が漏れ懐から札を取り出す。

札の名は三枚符術京都大文字焼き。

こんな場所で使えばすぐに木々が燃え上がり人目にもつきやすいのは分かっていた。

だがそれよりもこの赤い文字の溢れた空間をどうにかしたい。書くものがなくなれば文字も消える。敵の姿も見える。そうすれば少しはこの意味の分からない恐怖から抜け出せる。

札を投げつけ呪文を唱える。だが札は炎どころか火花すら出さずに静かに地に落ちる。

あの時、ハーフの娘に近衛お嬢様を取られた時のように。

失敗した?そんなはずはない。今まで何度もやってきた術を失敗などするはずがない。もう一度、と奇妙に思いながらも二枚目の札を出す。

その時風が吹き落ちた札が表になる。

そこに書かれているはずの文字は赤く塗りつぶされていていた。

思考が凍る。背中から冷水を浴びたような、言いようのない怖気が走る。

ぞっとしながら今投げようとした札を見る。いやな予感通り真っ赤になっている。

持っている札を全て取り出す。札は一枚残らず赤く塗りつぶされていて―――

叫びながら札を捨てる。自分の札なのに持っているだけで恐ろしくなる。

恐怖は大きく分けて二種類ある。

一つは”目に見える恐怖”、もう一つは”未知の恐怖”だ。

さきほどまであった”目に見える恐怖”は克服することが可能だ。確かにあの魔法使いの力は強大だった。だが理解出来なかったわけではない。人はその恐怖を理解し対処することが出来る力を持っているのだから。

だが今味わっている恐怖は違う。これは”未知の恐怖”。人が人である限り決して克服することの出来ない根底的な恐怖。

逃げたい。ここから逃げたい。荒くなった息を半ば無視してまた走り出そうとする。

けれど少し視線を札にやっている間に目の前は真っ赤になっていて。

木も葉も枝も草も岩も地も全部赤く。

いつの間にか自分以外の全てが真っ赤になっていて。

赤い紅い朱い赫い絳い赭いあかいアカイ赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤

目を強くつむる。

その上に手を覆って完全に暗闇にし震える足を無理やり動かして走り抜ける。

もう嫌だ!何?これは何?自分は何処にいる?これは本当に現実なの?

夢なら覚めて欲しい。この血のような赤い夢から覚めてほしい!!

どのくらい走ったのか。一瞬だったような長く走ったような。

時間の間隔すら分からない。

視界なしで走ったため何かに躓いて転ぶ。

転んだ姿勢のままその場で身動きが取れなくなる。

身体が震える。背筋がぞくぞくする。歯がガチガチと何度もぶつかりあう。つむった目から涙がこぼれる。自分の息が自分の物でないみたいに収まってくれない。

心臓は爆発するんじゃないかというくらいに早鐘を打っていて、もういっそ止まってくれないかと思ってしまう。

今の自分の回りはどうなっているのか。

あの悪夢からは抜け出せたのか。

そのまま暗闇に沈めば何も見る事はなかった。

見なくて済んだ。

だが何も見えないとは”未知の恐怖”だ。未知は恐怖をさらに引きたてる。

恐る恐る手をどかして重いまぶたをゆっくりと開ける。

当然、最初に目に入るのはどかした両手の平で。

そこには千草が一番見たくない血のような赤い文字が




















『お前に×を与えよう』




















自分がその後どんな悲鳴を上げたのか

千草は覚えていない。












「アーアー、モウ終ワッチマッタノカヨ」

チャチャゼロがその場に駆け付けた時そこには何か恐ろしいものをみたように震えたまま気絶している天ヶ崎千草と、

その横の地面に『後は任せたチャチャゼロwww』と書かれた赤い文字だった。

「wジャネーヨ全ク。ドウセ動ケルンナラコウスケト殺リ合イタカッタゼ」

アア、バラシテーナと呟きながらもご主人たるエヴァと久門の書き置き通りに後始末を始めるチャチャゼロだった。








早朝、ホテル嵐山では軽い乱痴気騒ぎが起きていた。

身代わりに立てていた式紙がストリップショーを始めるという意味のわからない事件が起きているらしく急いでホテルへと急いでいたネギ一行。

だが先頭にいた古菲が玄関を見据えた瞬間壁に身を寄せ姿を隠した。

「ちょっと古、急がないとヤバいのに何隠れてんのよ?」

「分かってるアルがあそこを見るアル」

指差された先には何と久門が腕組みしながら壁に寄りかかっているではないか。

「げげ!何で久門先生が玄関にいんの?」

「知らないアル!」

「昨日もいたでござるから恐らく見張りでござろう」

「よりにもよって久門先生とはね」

出る時と同じような状況に顔をしかめる古菲と長瀬と龍宮。

それはネギ達にとっても同様だったが何かに気づいたのか後ろから見ていたこのかはゆっくりと玄関の久門へと近づく。当然、このちゃん第一な刹那は焦り引きとめようと後に続くが、

「なあせっちゃん。久門せんせー寝とるみたいやけど?」

言われて久門を見ると確かに目はつむったままで一定のリズムで呼吸音、寝息が聞こえる。

「……みたいですね。皆さんチャンスです、今のうちに中に入りましょう」

刹那の意見に反対意見などあるはずもなく皆静かに久門の前を通りすぎていった。

そして最後にネギが久門の前を通りすぎた時、ふと立ち止まって後ろの久門を見やる。

久門は相変わらず器用に壁に寄りかかったまま寝ていてその姿をしばらく眺めていたネギだったが先に行った明日菜達の呼び声で我に帰るとその場を離れていった。

「どうしたでござるかネギ坊主?何やら久門先生の事が気になっていたようでござるが」

「あ、いえ大したことじゃないんです。前を通った時に声が聞こえたんですけど多分寝言だと思います」

「……寝言でござるか。因みになんと聞こえたでござるか?」

「えーとですね『お疲れ様』って聞こえました」

「……そうでござるか」

ネギの言葉を聞いた楓は相槌の後、玄関にいる久門に対して言い忘れていた言葉を小さく呟いた。

「ただいまでござるよ。久門先生」


















ネギ達が去った後、寄りかかったままの久門に近づく大小二つの影があった。

小さい影は目を閉じたままの久門を見てその腹にフンッと正拳を繰り出した。

が、

「おお、エヴァ、絡繰、いらっしゃい」

その拳は久門には当たらず僅かに右にそれていた。

「はん、役者にでもなったつもりかコウスケ?」

「何の事かな?それより遅れての参加だけど昨日宿の人に頼んで部屋は用意してもらったから二人で使って」

よっと言いながら身を起こすとすたすたといく久門に続いてエヴァと茶々丸は歩き出した。

「まあ後一泊しかできないけど今日は自由行動だからたっぷり楽しみなさいな」

「言われんでもそのつもりだ。そうだコウスケ、京都観光に行くぞ!!お前も来い!!」

「パス」

「却下だ」

「僕は仕事があるんだよ」

「そんなものほっておけ」

「待機しなきゃいけない先生が必要なの。それに修学旅行なんだから僕とじゃなくて他の生徒と一緒に行きなよ」

あるいはネギ君でもいいけど、とあくまで自分は行かないと言う久門に腹を立てるエヴァだったが今の自分の状況ににやりと笑う。

「ほほう?いいのか貴様?今の私はほぼ全盛期だぞ?そうだ丁度いい機会だからここで貴様を倒して下僕に「もしもし学園長、今すぐ判子押すの止めてください」ってやめろ!!何するつもりだ!?」

一瞬で電話をかけた久門の手から携帯を奪い取る。

「おいジジイ!今の久門の言ったことは「ピッピッピッポーン 午前8時丁度をお知らせします」って時報か―!!」

うがあーっと携帯を地面にたたきつけようとしたがいつの間にか携帯はなく久門の元に戻っていた。

「冗談だよ。……今回は助けに来てくれてありがとね。正直もう少し遅かったら僕がやるとこだった。本当にありがとう」

手放しのお礼にうっ、と照れて顔を染めるエヴァとぺこりとお辞儀をする茶々丸。

「っ……ふん、最初からそう言えばいい物を。…ああチャチャゼロから連絡があったぞ。無事敵の女は詠春に引き渡したそうだ」

「ふうん、そっか。まあ昨日は疲れた。万が一こっちを別個で奇襲されないとも限らないからおかげで一晩中注意してなきゃ行けなかったからね」

「……一応確認しておくが本当に昨日ずっとここにいたのか?」

「うん?当たり前だろ?大体教師が勝手に外に行くわけにもいかないじゃないか。ホントはちょっとそのことでネギ先生を怒りたいんだけど、まあ今回はよく頑張ったし学園長の命令でもあったから大目に見るよ。あれは子供云々じゃないしね」

「…………分かってはいるが本当にでたらめな能力だな」

「何か言った?」

「気にするな。それよりさっさと行くぞ」

「だから行かないってば」

朝からギャーギャーと騒がしい二人。

結局は久門の口先三寸にまかれ京都観光にはネギ達と他のメンバーとめぐり十分堪能したエヴァだったそうな。









後書き

マテパの方が少し詰まってるので息抜きがてら久門を投下。

生徒や学園関係者以外には容赦しない久門。

けど使う武器はやっぱり赤ペン。










[18320] 第6話
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/09/07 20:08
赤ペン先生久門 第6話













麻帆良文化祭最終日の上空。地上での喧騒など全て見世物と言わんばかりにゆったりと宙に浮かびながら楽しむ者がいた。

箒の上で品のいい猪口を傾け、たった今自身の真下で行なわれていた戦闘を肴にしているのは最強の魔法使い、エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル。

眼下にいる一人佇む男性を見ていると笑いが込み上げてきたのか口からククッと外見に似合わぬ声を漏らし始めた。

抑えていた笑いは身体へ伝わり興奮となり、ぞくぞく、と身を震わせた。

「ご機嫌そうじゃのうエヴァよ」

そんな彼女に何もない空を歩き、ふぉふぉふぉと笑いながら近づく老人、学園の最高権力者である近衛近右衛門。

麻帆良において最高レベルの力を持つ二人だが二人とも世界に混乱をもたらすであろう超の計画を止めようとはしておらず傍観を決め込んでいるようだ。

「じじぃか。フン、何をしに来た、あっちへいけ酒が不味くなる」

「そう言わずに混ぜとくれぃ」

あ、コラ人の酒を飲むな、と言うエヴァの声を無視し横に座りながら先ほどまでエヴァが見ていた方へ眼を向ける。

「ふむ。それで久門君の戦いはどうなったんじゃ?」

見とったんじゃろう、と学園長が尋ねると酒を取られてふくれっ面だったエヴァはフフンと鼻をならし何処か得意げに話し始める。

「あんなのは戦いとは呼ばんさ。完全なワンサイドゲームだ。

罰を与えると宣言した後もコウスケは超自身には一撃も"あてなかった"。だが超はコウスケに一撃も"あてられなかった"。

超の背中の機械は火花を放っていたから後どのくらい持つかも分からんだろう。

教師になって以来奴が守っている『生徒を傷付けない』という制約など何の縛りにもならんな」

「なるほどのう。それで超鈴音はどこへ行ったんじゃ?」

「ああ。『君の×は付け終えたから。あとはネギ先生に任せるとしよう』と言って見逃していたぞ。

奴が捕まえてしまえば片がつくと言うのにどこか甘い所は変わらんな。まあそこが奴らしいと言えば奴らしいが」

「ふぉふぉふぉ、流石じゃのう久門君は」

「当たり前だ。アイツは私の下僕となる男だぞ?あの程度出来んでどうする?」

まるで自分が褒められたかのようにケラケラと喜びながらエヴァは酒を再び猪口に注ぐ。

「ふぉふぉ、そんな事を言い続けてもう何年になるかのう?確かエヴァと久門君が同級生じゃった頃からじゃから大体10年近く前になるのう」

だが学園長の一言を聞くとピタリと動きを止めた。

「最初の頃は久門君も困っとったそうじゃが最近では軽く流されておるそうじゃのう?

おお、そう言えば聞いたぞぃ。まほら武道大会で久門君と久しぶりに戦ったそうじゃな?

儂の記憶が正しければ久門君に何でも良いから勝てれば即下僕にするという約束をしとったと思うんじゃがどうだったかのう?」

俯いてぷるぷる震えるエヴァに恐らくは気づいていながら平気な顔をして話を続ける学園長。

その姿は孫をからかうひょうきんな年寄りそのものだ。

「幻想空間で戦ったそうじゃからおぬしも本気でやれたんじゃろううがそれでも「やかましいわッ!!」ぶふぉっ?!」

手にした酒瓶を学園長の後頭部に叩きつけると半泣きの状態で学園長の襟を掴み、がくがく前後に揺らし始めた。

「アイツめ!『生徒になったお前とは戦えない』とか言うからわざわざ幻想空間で戦ってやろうとしたのに大人ヴァージョンの私を見ても『結局中身は子供でしょうが』だと?!

学生の頃は大人になったら本気でやるとか言っていた癖になんだ?!そんなに見た目が大事か?!ナギと言いコウスケと言い一体私の何が悪いんだ?!」

「ちょ、ま、待って、儂が悪かったから、止め」

うがー、と顔を真っ赤にさせながら久門への不満を漏らすエヴァに、がくがく揺らされる後頭部から血がぴゅーぴゅー吹き出つつも何とか止めようとする学園長。

シリアスな雰囲気など皆無だった。





「ぜぇ、ぜぇ、全く余計な手間を掛けさせおって」

「ふう。死ぬかと思ったわい。久門君もよくつきあっておるのう」

「何か言ったか!」

「ふぉふぉ、何も」

落ち着いたため再び晩酌を始める二人。

先ほどの酒は殴ったため割れてしまったので新しく出したワインを楽しんでいる。

「ところでエヴァよ。そろそろ教えてくれんか?」

「ん? 何をだ?」

「決まっておるじゃろう。久門君の能力じゃよ」

「……何だ、まだ知らなかったのか?」

「まあのう。元々久門君は一般人として認識されておったからな。彼が実は普通でないことを知っとったのは学園関係者でも儂と高畑君、エヴァの三人のみ。そしてその中で唯一久門君の能力を教えてもらったのはエヴァ、お主だけじゃ」

自分しか教えてもらってない、という言葉にまた口をつりあげる。学園長にも歳の近い高畑にも教えておらず自分だけ、と考えると先ほどまであれほど文句を言っていた相手であるにも関わらずつい気がよくなってしまう。

「いくら調べても分からん。そもそも魔力も気も使っとらんのにあれは反則じゃろう。そろそろ儂も久門君の能力を知りたいんじゃよ」

「ふん。その答えならノーだ。前にも言っただろう? 私はそれを言わない代わりに奴に勝負の約束を取付けたんだぞ。」

「まあそうじゃろうな。じゃったらせめていつ知ったのかくらいは話してくれんかのう」

その時のエヴァは上機嫌だった。

久しぶりの解放状態によい酒と肴。だから普段なら一蹴していた問いにもその位は話してもよい気分になっていた。

「確かあれは二度目の卒業のころだったな―――…」



























「はい、また僕の勝ち。どうしたの? 今日はいつもより調子わるそうだったけど」

目の前でいつものようにやにやしながら話す男子の問いに対して「何でもない」としか返せなかった。

「あ、もしかしてあれかな? 明日卒業だから柄にもなくセンチメンタルになってるとか?」

目の前の馬鹿がありえない、といった風に聞いてくるが当たらずとも遠からずだ。

麻帆良に来て6年目。サウザンドマスター、ナギにかけられた登校地獄のせいで二度も中学生を送るはめになった。

そしてそれはもうすぐ三度目に入る。

最初の頃は良かった。中学生などと馬鹿にしてるのかと思いながらもクラスメイトと同じ授業を学び体験していくというのは一人で生きてきた私には無かった事だ。

一年、二年と過ごしていく間に少しずつ、少しずつこんなのも悪くはないか、と思えるようになってきた。

ナギの言った光の中に生きてみろという言葉も少しだけ分かったような気がした。

だがそんな思いも三年目を終え卒業を迎えた時、暗い闇の絶望へと変わった。

卒業する時に帰って来ると言ったナギは来なかった。

待っていたのに、来た時にたくさんの文句と僅かなお礼を言おうと思っていたのに。

それだけでは済まなかった。呪いを唯一解けるナギが来なかったせいで卒業をすることが出来ずにまた一年からやり直しとなった。

そんなあり得ないことに他の者が疑問を持たないように一般人の記憶から自分の存在は無かったことにされた。

昨日まで親しげに話してきたクラスメイトは一瞬で会った事もない先輩になった。

ふざけるな、と思った。何が光に生きてみろだ、と。

遅刻したナギの奴が帰ってきたら思いっきり殴ってやると決めた。ついでに唇も奪ってやると決めた。

そう思う事で寂しさをごまかした。

けれどそれすら運命は許してはくれなかった。

「と思うんだけど……エヴァ?」

去年、ナギが死んだ。

信じられなかった。あのバカが死ぬはずがない、と何度も耳を疑った。

けれど結果は変わらず、取り残されたのだと分かった。

もうどれだけ待ってもアイツは来ない。時は勝手に流れて回りだけが動き私はたった一人いつまでも中学生のまま。

「おーい、もしもーし」

今親しげに話しかけているコイツも明日を過ぎれば私の事を忘れてしまう。

なんとも情けない話だ。

600年以上の時を生きた真祖の吸血鬼たるこの私が随分と弱くなったものだ。

こんな気分になるのなら最初から

「ていっ」

「プギャッ!」

思考の海に沈んでいるといきなりチョップをされた。

「何をするコウスケ!」

「いや、エヴァ上の空で話を全然聞こえてないみたいだったから、ほら、ちょっと…ね?」

「ちょっとで叩くな!…ったく。で、なんの話をしていたんだったか?」

「やっぱり聞いてないじゃん。明日卒業式終えたら囲碁部の部室で打ち上げしない? 囲碁部っつっても今は僕とエヴァの二人しかいないけど」

「―――っ!!」

それは今、一番聞きたくない言葉だった。

思い出す。

三年前、クラスの打ち上げをしよう、と誘われたことを。

卒業後集合場所に言っても誰も私を見て反応しなかったことを。

ああ、くそ。こんな思いをするのなら

「どうだ? なんだったら高畑先輩も誘って「いかん」……エヴァ?」

「聞こえなかったのか? いかない、と言ったんだ」

最初から全部拒絶してしまえば良かったんだ。

「貴様はクラスの奴らにも誘われているんだろう? ならそいつらとでも遊んでいろ。私は馬鹿騒ぎは嫌いなんでね」

「いや、だから「うるさい!今日はもう終わりだ!さっさと出ていけ!」………」

気がつけばさっきまでここにいた恐らく"今回"最も親しい同級生はいなくなっていた。

ただ記憶の中には碁を片づけて「先に帰るね」と言って出て行った姿がある。

その時の顔がどこか悲しそうな顔をしていたのを思い出しそれを振り払うように走って自宅へと向かった。

これでいい。どうせ明日になればアイツも私のことを忘れる。

わざわざ嫌な思いをする必要はない。

よく考えればせいせいした。アイツはいつもいつも人をくったような言動ばかりする奴だった。

にやにやしてばかりでいくら追い払っても近寄ってきた。

結局押し切られて三年間過ごしたがアイツに勝ったことが無かった。

だったら最後にひと泡吹かせてやった、と笑った。

ただ、上手く笑えていたのかは、分からなかった。












































「すまん。ちょっと待ってくれエヴァよ」

「ん? なんだジジィ?」

「それ本当にお主の話か? まるで少女漫画のか弱いヒロインみたいなんじゃが」

「やかましい! あの頃は少し色々あって情緒不安定というやつだっただけだ! 今考えればあの時の私は私であって私ではないわ、文句あるか! 下らん事言うようなら話すの止めるぞ!」

「すまんかった。謝るから続きを話してくれんかの」

「全く、余計なチャチャをいれるな。えーっとどこまで話したか……」



































「これにて卒業式を閉会します」

アナウンスの声と共に拍手がまき上がる。

ある者は笑顔で、またある者は涙を流し、他の者と喜びと悲しみと感動を分かち合っている。

そんな姿を私は冷めた目で見ていた。

本来なら私もあの輪に加われたのだろうか?

呪いさえなければ、吸血鬼などでなければあんな風に素直に喜べたのだろうか?

前回と違いあまり話すことの無かったクラスメイト達が何処かへ向かうなか自分の家へ向かった。



部屋でごろごろとベットの上に寝そべる。

いつの間にか外は暗くなっていた。クラスのやつらは昼から打ち上げしていただろうからもう終わっているだろう。



―――明日卒業式終えたら囲碁部で打ち上げしない?―――


ッ! うるさい黙れ!

僅かに浮かび上がった誘惑を強引に打ち消す。

既に"卒業"した以上もうアイツも私の事を忘れている。

そんな約束をしたことすら忘れている。

心が騒ぐ。

いらいらする。

ざわざわする。

むかむかする。

じくじくする。

酷く気分が悪い。

だから麻帆良の結界に反応があった時、封印状態にも関わらず憂さを晴らせる、と魔法薬を持って飛びだした。








「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 氷の精霊7頭 集い来たりて敵を切り裂け! 魔法の射手 連弾・氷の7矢!!」

侵入してきた悪魔達は予想以上に多かった。

全力ならともかく今の私ならタカミチや学園長に連絡するなりすべき数だった。

だがそんなのはもうどうでもよかった。

「がっ!! くそっなめるな! 氷爆!!」

守りなど考えずに魔法を討ち放つ。

何体か吹き飛ぶが避けた奴らが追撃して来る。

どうせこのままここにいても一体何の意味がある?

待ち人は消えた。死んでしまった。

振り切って生きようにも自分は呪いのせいでとらわれたまま。

たった一人で、皆の記憶から無くなり、孤独に生きていく。

昔に戻るだけのはずなのに。

今までそうやって生きてきたのに。

光を少し知っただけでこの有り様だ。

「はあっはあっ、まだまだ! リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!」

それもこれも全部ナギの所為だ。

余計な事をして勝手にいなくなって。

無責任にも程がある。

あの大嘘つきめ。

「ぐっ!?」

「ズイブントヤッテクレタナコムスメ」

魔法薬が切れた瞬間迫ってきた悪魔に頭を押さえつけられる。

全開時なら楽に倒せるレベルにこんな風にやられるなんて。

いや違う。全開でなくともこんな奴に遅れを取るほど私は甘くなかった。

ああ、これもやっぱりナギの所為だ。

「ダガ残念ダッタナ。安心シロ。セメテ苦シマナイヨウニ一撃デ殺シテヤル」

文句を言ってやる。お前の所為でこんな雑魚に負けてしまったぞ、と。

死ねば私が行くのは地獄だろう。

けれどナギが天国にいるとは思わない。

約束を破るようなやつは地獄にいるに決まってる。

大体天国なんかナギには似合わない。

だからきっと会えるだろう。

だから文句を言ってやる。

自嘲した私の頭に悪魔のこぶしが狙いを定めた時

「………何これ?」

そんなのんきな声が辺りに響いた。

「コウ……スケ?」

「あ、いたいた。エヴァ、これ何? 映画? それとも化学部の失敗作が脱走したとか?

いつまでたっても部室に来ないから探しに来たけどどうなってんの?」

何でここに、とか

何で覚えている、とか

聞きたい事はたくさんあったけれど

そんなことよりも

「バカ!! 早く逃げろ!! 映画でもなんでもない! 現実だ!」

これも運命だというのか

親しかった友人が目の前で殺されるのを見させられるのも運命だというのか

「現実? でもこれ明らかに普通じゃないぞ?」

「ああそうだ、普通じゃない! だからさっさと逃げろ! 殺されるぞ!」

私らしくもない必死な声に対して動いたのはコウスケではなく他の悪魔達だった。

目撃者は消す。そう命令されているのだろう。棒立ちしたままのガキなど格好の的だ。

「……そうか。普通じゃないんだ」

一直線に向かってくる悪魔に対してまるで反応することもなくただ何かをかみしめるように呟いた。

そして次に顔を上げたコウスケは爛々と目を輝かせ宝物を見つけたように表情をほころばせた。

「僕だけじゃなかったんだ。












   ”普通じゃない”のは」





























何が起きた?

何故コウスケは無事なんだ?

何故悪魔達は全員倒れている?

何故私はコウスケに抱きかかえられている?

「いやー吃驚したよ。こんな事ってあるんだねぇ」

他の誰もが何が起こったのか分からないなかで私をおろしたコウスケは一人ぼやいている。

まるでこの状況に何の疑問も抱いていない。

つまりこれは、この不可解な状況を作ったのは

「コ、小僧。貴様、イッタイ何ヲシタ?」

さっきまで私を抑えていた悪魔がゆっくりと立ち上がる。

「ん? 別に。ただお前らも普通じゃないって分かったから"使った"だけ。普通じゃないなら問題ないだろうし」

「ナ、何ヲイッテイル?」

「気にしなくていいよ。どうせ聞いたところで意味はないし。

 それよりも」

立ちあがった悪魔にコウスケが向き直ったため表情が見えなくなる。

ただし

「お前ら今エヴァを殺そうとしてた?」

その声は今まで一度も効いた事のない声色だった。

「ハ、ソンナモノ決マッテイルダロウ。貴様ガ何者カワカランガマトメテ殺シテヤル」

「…ふ~ん、悪いけどそれ無理だよ。

 
 だって」

再び飛びかかってきた悪魔だったがコウスケにその攻撃が届く事は無かった。

「僕は僕の大切な者に手を出したやつは絶対に許さないから」

あと少しで当たるというところで何故か動きを止め、そのままさらさらと煙となって還っていった。

いつの間にか他の悪魔達もいなくなっておりその場にいるのは私とコウスケの二人だけとなっていた。

「あれ? 何かアイツら消えちゃったけどどうなってんの?」

「……召喚された悪魔はやられると元の自分の世界へ還る。死んだわけではないがもうここにはいない」

「あっそうなの。へ~あれ悪魔なんだ、初めて見たよ。いや~エヴァが襲われてたから吃驚しちゃったよ」

口では感心したように言っているが実際はどうでもよさそうにも見えた。

そこにはさっき悪魔と相対した時のような硬さは無くいつも通りのコウスケで。

この何考えているのか分からない言動も私に対する態度も

昨日までと何一つ変わらなかった。

「まあいいや。随分遅くなっちゃったけど今から部室に言って「それどころじゃない!」ん?」

「何だ今のは!? 気も魔力も何も感じなかったのに一体何をした!?」

「キ? 魔力? 何それ?」

「まさか本当に知らんのか! と言うか大体なぜここにいる!? いや、何より」

聞きだしたら止まらなかった。

「なんでお前は私を覚えている!?」

何だ、何だ、何だ!

何でこんなに、

さっきまでどうでもよかったのに

死んでも別にかまわないと思っていたのに

何でこんなに!

「変な事聞くなぁエヴァは」

そんなこっちの心情なんか知らないと言う風にコイツは

「僕がエヴァを忘れるはずがないだろう」

いつも通り人をくったような表情を取りながら最も臨んだ台詞を言った。























「――――と言う事があってだな。その後は部室でお互いの話をしてその時にコウスケの能力を聞いたのさ」

「あ~そう言えばあったのう。いつかの卒業式のあと真夜中にいきなり今日は飲むぞ!と部屋に来たがあの時かの?」

「うむ、その時だ。コウスケはまだ飲めなかったからジジィのコレクションでも飲もうと突っこんだんだったな。

因みにそれまでコウスケはまるで裏を知らなかったから自分だけがおかしいんだと思っていたらしい。

今でもアイツは気や魔力は使えんしな。当時は感じ取ることすら出来なかったんだろう。その代わり、使っている能力は異常だが」

「なるほどの。…ん? そんな簡単にエヴァに教えたのに何で儂や高畑君には教えてくれんのじゃ?」

「それは簡単だ。奴が秘密を言う代わりに私はこちら側の事を教えるといういわば等価交換をしたにすぎん。元々は誰にも言いたくなかったようだったからついでに脅して例の約束を結ばせたのさ」

「鬼かお主」

「ハン、悪の魔法使いには最高の褒め言葉だな」

「う~む、のう、頼むエヴァよ。せめてヒントだけでもくれんかのう? やっぱり長としては下にいる者の力は知っときたいんじゃよ」

「まだ言ってるのか。だから…………」

「如何した?」

しつこい学園長にうんざりしながら向き直ると突然黙ったエヴァに学園長が首をかしげる。

「……ククク」

「? 何がおかしいんじゃ?」

「なあに。ジジィ、そのご自慢の長い白髭を見てみろ」

髭?と学園長が手で持ち上げてみると

『カンニングはだめですよ』

と赤い字が。

「ぬぅうおおおおぅ!?」

思わずのけぞり次いで遥か下にいるはずの久門を探すがいつの間にかそこには誰もおらず超の装備していた武装の破片だけがあった。

「クハハハハハハ!!さすがだな。それでこそアイツだ。それでこそ私の物にする価値があるというものだ」

「いやはや、驚いたわい。久々にやられたが本当にいつどうやってやったか分からんの。…それにしても随分と久門君にこだわるのう。

何じゃ、もしやナギから久門君に鞍替え「どうやらひ孫を見ずに死にたいらしいな」すまん悪かっただからエクスキューショナー・ソードはやめて儂本当に死んじゃう」

だらだら、と脂汗を流す学園長を見てエヴァは首筋に当てたエクスキューショナー・ソードを解除する。

「全く、下らん事をぬかすな。いいかジジィ。コウスケと私はな、喧嘩もするし妙な助け合いもするがそれによって関係が変わる事はない。アイツと私は何があろうが……」






















































「なるほどねえ、呪いで中学生を繰り返していると。それで昨日あんな態度を取ったのか」

「フン、悪かったな。気も魔力も感じられないお前がそんな妙な能力持ちだなどと思わなくてな」

「いや、別にいいよ。ツンデレのツンが来たのかな、と思っただけだから」

「あの時あんな悲しそうな顔してそんなこと考えてたのか!」

「デレられても困るとか思ってたんだけどね」

「殺す!!」

「まあまあいいじゃない。結果としてこうして打ち上げは出来るんだし」

「……そうだな。だが結局コウスケは上の学年になって私はまた一年からか。こればかりはどうしようもない。…今回はこうなったがいつかはお前もここ(麻帆良)を去る時が来るのだろうな」

「ん? ん~そう言う事なら問題ないと思うよ」

「ハア? 何故だ?」

「僕は教師になるつもりだから」

「教師」

「前々から尊敬する先生がいてね。その人の影響で考えてたんだ。それに今のエヴァの話聞いて決心した」

「……決心だと? 何をだ?」

「うん。僕は絶対に自分の大切な人を忘れない。教師になれば必ず多くの生徒が卒業していくだろうけどその誰ひとりだって忘れやしない。

三年間のその子達の学園生活を全部覚えておく。だからもし僕が教師になってもまだエヴァが中学生だったなら、卒業するまで教師でいてあげるよ」




   『ずっと、覚えていてあげるさ』




「――っ、お、おまえ、な、なんて恥ずかしいことを堂々と!」

「おいおい顔が赤いぞ。僕に惚れるなよ」

「誰が惚れるか!! 私が好きなやつは他にいるわ!」

「まあそうだろうね。お互い恋愛感情を抱くような相手じゃないしね」

「……貴様が教師になる前に負かして私の下僕にしてやる」

「それは勘弁してほしいなぁ、流石にそんな趣味はないし。―――まあ、心配しなくていいよ。例え教師と教え子になろうと主従関係になろうと結局僕達はずっと」














































「「友人さ」」






























あとがき


久門やエヴァもらしくないと思うなら書いてある通りの理由だと思って。

ナギが死んだ頃のさみしさを友人という枠で埋めたと思って。

久門も若かったんだと思って。

二人の間に恋愛感情はないから。

……それにしてもおかしいな。


どうしてこうなった?




[18320] 第7話
Name: 古時計◆c134cf19 ID:d842e1e7
Date: 2010/09/15 13:54
赤ペン先生第7話





草木も眠る丑三つ時。

魔帆良中学3-Aの教室の最前列窓際の席。

座ると寒気がすると言う事から通称『座らずの席』と呼ばれている。

そんな座席の前に立つ男は一人きりだと言うのに誰かと話しているかのように独り言を言っている。

その独り言の合間にキュキュキュと手に持つペンが紙に文字を綴る。



「よし。それじゃあそろそろ遅いし僕も帰るね」

『は、はい。どうもありがとうございました』



男の言葉に対し男の書いた文章が返事をする。

一見奇妙な行動だがそれを行う男は当たり前のように続ける。


「ああそうそう。僕明日から出張で少し来れなくなるけど大丈夫?」

『えっと、大丈夫です。寂しいですけど怖くなったらコンビニとかにいきますから』

「…いいかげんその怖がりも直そうね。でないといつまでたっても僕としか話せないよ」

せっかく今回はお化け屋敷なのに、とため息をつきながらもその手は止まらない。

『はい…分かってはいるんですけど……』

「…ふぅ、まあどうしても寂しくなったらアイツが話し相手になってくれるだろうから」

『そうでしょうか? 何か普段は怖くて話しかけづらいんですけど』

「ああそれは……」



ガタンッ



『「!」』

男が音のした方、廊下の方に意識を向けると何者かが走り去っていく音が聞こえた。

「まいったなあ。話に夢中になってて気付かなかった」

ぽりぽり、と頬を掻きながらも急いで片づけを行い教室の出口へ向かう。

「じゃあまた。対処はするけど今ので少し騒ぎになるかもしれないから気をつけてね」

既に紙もペンもしまっているので声に対する返事の文は無かったが男は手を振りながら教室を後にした。



















「ねえ聞いた~? ウチの教室に幽霊でるらしいよ?」

翌日、文化祭の準備をしている3-Aの生徒達だが突然上がった話題にお祭り好きなクラスメイトは食らいついた。

「なになに? どういうこと?」

「なんか昨日3-Bの子が忘れ物して夜中に学校に来たらしいんだけどその時ウチの教室のなかで誰かが立ってたんだって。しかもあの"座らずの席"の前で!!」

えー、ホント―? と多くの者が疑問の声を上げるがその中で報道部、朝倉和美がさらに新事実を告げる。

「その話なら知ってるよ! というかもっと凄いことにそれを見たって子はどうもその事を見てから帰る途中でルームメイトに電話で伝えたらしいんだけど

何故か部屋に戻ってきたらその事どころか電話したことすら忘れてたんだって! 電話を受けた張本人に聞いたから間違いないよ!」

朝倉の話に怖い話が嫌いな宮崎や鳴滝姉妹は涙目になりプルプル震えている。

他の生徒達も嘘―、こわーい、と作業する手を止めて騒ぎ始めている。


「ちょ、ちょっとネギ。これってもしかしてまた魔法がらみ?」

「う~~ん、でも僕幽霊は見た事ないですし……」

「幽霊の話はウチの教室には昔からあったんよ。ここ数年はなかったんやけど」


騒いでいるクラスメイト達を見ながらネギと傍にいる明日菜やこのかは今回の騒ぎについてヒソヒソと相談をしている。

そうこうしているうちに騒いでいたクラスメイト達は何故か除霊討伐隊なるものを作って今夜集合という方向にまとまっていた。



「……何をやっているんだアイツは」

「どうしましたマスター?」

文化祭の準備を手伝わずにもったいないお化けの絵本を読んでいたエヴァの呟きに反応した茶々丸が首を主に向ける。

「いや、珍しくポカをやらかしたアイツに呆れているだけだ。…仕方がない。茶々丸、私達も今夜参加するぞ。念のため準備しておけ」

「分かりました。ですが珍しいですね、マスターがこのようなことに自ら参加なされるなんて」

「なあに、奴に良い貸しになる。……それに「それじゃあやるよー、エイエイオー!!」だからな」

クラスの気合いを入れる声に邪魔されたため小さくこぼしたエヴァの声は近くにいた茶々丸にすら聞こえなかった。




















その日の深夜。

がやがや、と3-Aに集まってきた面々は化学班の超達に作ってもらった装備を手にしながら問題の座席に向かう。

「あの、朝倉さん。この子について調べてもらえました?」

「バッチリ調べたよ」

参加しているネギ達だが昼の時点でネギがクラス名簿にある『相坂さよ』に気が付いていた。

その事を他の関係者達には既に伝えてあったが朝倉から聞く話や写真を見る限りではどうも悪霊には思えない。

ネギがそんなふうに頭を悩ませているうちに除霊班は次の行動に移っていた。


「まずはこの机! 幽霊がもしこの机の前で何かしてたら証拠が残ってるかもしれない。 てな訳で化学班特製の粉、『痕跡DR』!! 

これを振りかければおかしいことがあれば何か出てくるらしい!!」


また妖しい物を、何人かは呆れかえるが大半はオー、と感心している。

因みに痕跡DRのDRは"出る"のDRである。

早乙女ハルナの号令と共に机に無色の粉末がかけられる。

回りのメンバーは半分は冗談のつもりで楽しんでいたがここで予想外の事が起きる。

粉末がかかった机の上。何も書かれておらず綺麗だった表面にうっすらと文字が浮かび上がる。














『わ、私   分かる   か?』


『あ は 私 坂さ  といい す』


『そ  す  見え   で  』


『   嬉しい  』


『   ずっと独りで 寂し て 』


『お願い   私と   って   』


『な で久  生 私         』


『  です 怖くなったら   にいきます  』











そこにはかすれて読めない文字から嫌にはっきり読める文字まである無数の赤い文字が折り重なっており机の上に余白などほとんど残されていなかった。

重なっているため読める文章は僅かしかなかったが誰かの言葉であることだけははっきりと分かった。

想像してみるといい。何も書かれていなかったはずの机の上にまるで誰かと会話をするような赤い文字が大量に浮かび上がってくればどうなるかを。

「「「「きゃーーーーー!!!」」」」

まさかそんなものが出てくるとは思わず叫び声を上げる生徒達。

悪霊退散ー! 撃てー! と除霊銃をもつ者達は銃を乱射しまくる。

魔法という異常に身を置くネギ達も予想だにしない事態に慌て始める。

ただ一人、エヴァのみが「ちゃんと消せあのバカが」とこめかみを押さえていた。







そしてその事態に最も驚いていたのは話の中心人物、相坂さよ本人だった。

昨夜、いつものように訪ねてきたクラスの副担任との筆談を楽しんでいたが最後に誰かに見られてしまった。

だから彼の言ったように大人しくしていたのに何故か回りが勝手に盛り上がり勝手に騒ぎいつの間にか自分が悪霊にされている。

誤解を解こうとしたらポルターガイストが起きてしまいさらに事態が悪化していく。

何故かテンション高く激写!と叫んでいる生徒もいたが大半は怯えてしまっている。

「なんでこんな事に~!! 助けて久門先生ー!!」

ひ~ん、と泣きながら相坂にとって唯一の話し相手、久門に助けを求める。





夜の筆談自体は彼がこのクラスの副担任になってしばらくしてから続いている。

独りで寂しく座席に座り時折聞こえるラップ音に身をすくませているとガラリ、と教室に入ってきた彼、久門紅助は真っすぐに自分の席へと向かってきた。

何をするつもりなのだろう、と見ていると白紙と彼がいつも胸に入れている赤ペンをとりだし机の上に置いた。

「これでよし、と。えーっと相坂でいいんだよね? もしいるんなら僕の手に触れてみて」

自分の名前を呼ばれ心底驚く。

今確かに目の前の男は自分の名前を呼んだ。

誰かに名前を呼ばれるなんて何年ぶりだろう。

「あれ? いないのかな? それともなんか間違えたかな?」

感動に浸っているとせっかく話しかけてくれた相手が首をかしげてしまっている。

慌てて久門の言うとおりに赤ペンを持つ彼の手に触れる。

すると不思議な事に相坂が触れた手は自然と彼女の考え通りに動き始めた。

『わ、私のことが分かるんですか?』

「おお! 本当に動いた! ああうん分かる分かる。で、相坂であってるよね?」

『あ、はい。私相坂さよといいます』

動いた手に驚いていたがコクンと縦に振る久門を見て感動が倍増する。

『もしかして私の姿も見えてますか?』

「あ~ごめん。残念ながら僕には君の姿も見えないし声も聞こえない。これだって友人が教えてくれたから出来たようなものだしね」

そう言って自分と相坂の手が触れているペンを指差す久門。

どういう原理かは相坂には分からないがどうやらこのペンのおかげで会話が出来ているようだ。

『そうですか…見えないんですか』

「うん、ごめんね」

自分の残念な声(文章)に申し訳なさそうに謝る久門に見えてないにも関わらず手を振り否定する。

『いいえ! 今までだれも私と話そうとする人なんていませんでした! だから凄く嬉しいです!』

「そっか。それは良かった。僕には君が見えないからもしかしたら独りの方がいい子かと心配してたんだよね」

『そんな事ないです! 私、ずっと独りで、寂しくて、誰かと話がしたいってずっと思ってました』

『だからお願いです。私と友達になってください』

「いいよ。まあ正確には友達ではなく教師と教え子だけどね」

生徒のメンタルケアも先生の仕事さね、と呟く久門。

若干の違いはあったが相坂にとっては大した問題ではなかった。

話し相手が出来た。

もう一人ぼっちではないのだ。

そう考えると思わず天にも昇る気持ちだった。

『って駄目です駄目です! せっかくなのにまだ早いです!』

「え? 何いきなり?」

『ああいえ何でもないです』

強く考えたことがそのままペンに伝わるようで変な会話になってしまった。

と、そう言えば何故久門先生は自分の事が分かるのだろう。

見えてもいないし声も聞こえないのなら何故?

そう聞いてみると久門は以外な事を口にした。

「いや、このクラスに君のこと気にかけてる子がもう一人いるんだよ」

そう言って彼が告げた名前は――――――









「あー、お前達。少し静かにしろ」

騒いでいた教室に静かな、それでいて威厳のある声が響く。

声の主に皆が目をやると普段クラスのイベントに関わらないエヴァンジェリンがゆっくりと相坂の席に近づいていた。

「今回の騒ぎだがなんのことは無い。ここには本当に幽霊がいる。それだけの話だ」

突然のエヴァの出した答えに一同は皆ざわつく。

特に弟子であり魔法を隠匿する者であるネギやその回りはエヴァがそんな事を言ったのを信じられない、と言った目で見ている。

もちろん、相坂自身も驚いている一人だ。

だがそんなのは関係ないとばかりにエヴァは説明を続ける。

「私はオカルト研に少し知り合いがいてな。そいつに教えてもらったのだがここには友達を欲しがっている幽霊がいるそうだ。

ところで話は変わるがお前達はコックリさん、というものを知っているか?」

エヴァがクラスの者たちを見渡すと多くの者が頷いている。

コックリさん。

狐狗狸さんとも書き西洋ではテーブル・ターニング、オートマティスムなどとも呼ばれる降霊術である。

内容など裏を知らない一般人でも知っているほど有名なものだ。

ましてや年頃の女の子である彼女達にとってそんなことは説明されるまでも無かった。

その様子を見てエヴァは満足そうに頷く。

「知っているなら話は早い。そいつはここの霊とそれをよくやっているそうだ。

まあ正確にはコックリさんではなく自動書記だそうだがな。私は実際やった事はないがその机に書かれた文字が何よりの証拠だろう」

「で、でもエヴァちゃん、それでもこの幽霊が悪霊じゃないとは限らないじゃん!」

「確かにな。なら本人に聞いてみるか」

そう言ってエヴァは相坂の前に立ち白紙の紙を置き手に赤ペンを持つ。

その姿は相坂にとって見覚えがあった。

忘れるはずがない。だってあの日は幽霊になってから一番嬉しかったんだから。

だから何をすべきかもすぐ分かった。

『わ、私は悪霊なんかじゃありません。エヴァンジェリンさんの言うとおり本当に友達がほしいだけのただの幽霊です』

「うお、本当に動いてる!」

「嘘! エバちゃんが動かしてんじゃないの!?」

「て言うかただの幽霊って…」

書きつづられた文字を読みエヴァの話の信憑性が増す。

さらに、

「あ~あのさ。さっき取った写真に幽霊の姿映ってたんだけど…」

朝倉の出したデジカメ。

そこには半泣きで写る色素の薄いがかわいらしい女の子、相坂の姿があった。

その姿を見て誰も相坂が悪霊だとは思わなかった。

皆がデジカメに集中しているのを確認したエヴァは家から持ってきたある薬を同じようにデジカメを見ていた相坂に振りかける。

すると淡い光が灯ったと思えばデジカメに写る姿そのままが皆の目に映った。

自身に注目するまなざしを感じてまさか、と恐る恐る声を出す。

「あ、あの、もしかして皆さん私の事見えてます?」

相坂の質問に唖然としながらも頷くクラスメイト達。

「どうだ相坂? 何か言いたい事があるんじゃないのか?」

相坂がエヴァの方を見ると腕を組み尊大に構えながらも何処か優しさを感じる目をしていた。

それがいつも来る副担任と被りなけなしの勇気を奮い起す。

「え、えっと、み、皆さん。私とお友達になってください!」

気が弱いと自覚している相坂自身よく出せたと思えるような大声でお願いしながら頭を下げる。

返答は…ない。

ああ、やっぱり自分みたいに暗い子には友達なんか出来ないんだ。

そう思った時

「僕で良ければ」

声が聞こえた。

顔を上げると冬から担任になった子供先生、ネギが手を伸ばしながら笑顔で返事をしてくれている。

「私で良ければ。 席隣だしね」

続いて手を伸ばしてくれたのは二年前から隣の席だった朝倉和美。

私も、私も、と次々とクラスの皆が自分と友達になると言ってくれた。

先ほどまでとは違う理由で涙がこぼれそうになる。

そうしていると相坂の身体がすう、と薄れやがて見えなくなる。

回りのクラスメイト達は成仏したんだね、と空の方を向き感動にふけっているが実際はただ薬の効果が切れたためである。

けれど相坂にそんな事を気にする余裕はなかった。

友達が出来た。

いつも久門先生から頑張ってみれば、と言われても勇気が出ずにいたけれどついに出来た。

しかもこんなにもたくさんのお友達が。

嬉しさに頬を染めていると他の誰もが見えてないなか一人だけ傍に寄ってきた。

その人はさっきまでと同じように尊大さと少しだけ感じる優しさのある声で明らかに自分の方を向いて言った。

「良かったな」






今日はとても良い日だ。

幽霊になって二回目の嬉しい日だ。

帰ってきたら久門先生に教えてあげよう。








先生の言うとおり彼女は優しかった、と。













「いやーごめんごめん。まさかそんな大事になるとは思わなかったよ」

「何がごめんだ全く。お前の所為で私はオカルトに興味を持つ子というように見られるところだったんだぞ」

「そんなこと言ったらなんで僕がオカルト研ってことになっているんだい?」

「説明上仕方がないだろう。まさかクラスの副担任が毎日教室でコックリさんもどきをやっていたなんて知れたら問題だろうが」

「そういやそうだね。ありがとうエヴァ」

「フン、一つ貸しだな」

エヴァ宅にて。

夜の騒動も終わり自宅に帰ったエヴァは今日の事の顛末を原因の発端となった久門へと愚痴を混ぜながらも報告した。

既に深夜だと言うのにワンコールで出た久門は怒る友人をなだめるようにしながらその話を聞く。

「それにしてもネギ先生も成長したねえ。そういう場では誰かが率先して行動すれば皆はついてきてくれるからね。うん、帰ったら少し褒めてあげよう」

「坊やはそんな難しいことは考えていないだろうがな。お前ならもっとうまい事やるだろうに。

大体なんだ今回の事は? 他者に気づかれずに行動する事に関しては右に出る者などいないお前が人に見られるのもそうだがその後の不始末もらしく無さ過ぎるぞ!?」

「まあいいじゃない。結果として相坂は皆と友達になれたんだろ? こんなことでもなきゃ相坂はいつまでたっても動かなかっただろうからねぇ」

「確かにそうだが……っちょっと待て」

よく考えるとそうだ。

今自分でも言ったがあまりにもらしくないではないか。

異常な能力を持ったこの通話相手が一般人に姿を見られるのもそうだが自分の生徒がピンチ、下手をすれば成仏させられそうだったと言うのにコイツが何もしないはずがない。

つまりこれは―――

「全部お前のシナリオ通りと言うことか」

「何の事?」

受話器から伝わる声はいつもと何ら変わらぬ声音で心情などまるで想像できなかった。

ただ向こうで話している久門の顔は絶対ににやにやとしていると確信した。

「…はあ、もういい。クソッ、貸しを作ったつもりがまんまと乗せられたわけか」

「別にどうとらえても構わないけど。でも良かったね」

「ん? ああ、まあこれで相坂さよも少しはマシな時間を過ごせるだろうな」

「いや、それもそうだけど僕が言いたかったのは

  

 

 "相坂と話せて良かったね"」

「……何を言っている? なんでこの私があんな幽霊と話せて喜ばなきゃいけないんだ?」

「本当に素直じゃないねぇ。副担任になった頃の僕に相坂の存在と自動書記の仕方を教えたのはエヴァでしょうが」

僕は霊とかは見れないからね、と向こうで苦笑する声が聞こえる。

「…あれはただの気まぐれだ。お前が見えもしない者にどう対応するか見たかっただけだ」

「はいはい、じゃあそう言うことにしときましょ。それじゃ夜も遅いからお休み」

寝坊しないようにね、と言うだけ言って切れた受話器を見つめたあと腹立たしげにガチャン、と強く元に戻す。






全く、本当に昔から勝てたためしがない。

こちらのことなど全てお見通しとばかりに先回りされている気分になる。

だからと言って胸中を教えてやる気なんか微塵もないのだけれど。



誰が言うか。

あの時孤独を感じた自分と相坂を重ねたなどと。




誰が言うか。

そんな相坂にどう声を掛けていいか悩んで結局出来なかったなどと。




けれどそんな事すらもコウスケは知っていて、それでもこうして自分に合わせてるんだろうと思うと全くもって腹立たしい。

自分のほうが年上なのだ。

アイツの方がガキなのだ。

だから絶対に教えてなんかやるものか。













アイツの言ったように相坂と話せて少し嬉しかったなどと。































あとがき


おかしい


なんで相坂がメインのはずだったのにエヴァがいいとこ持っていってるんだ?

そしてネギパーティが空気になってた



まあいいか



[18320] 第8話
Name: 古時計◆c134cf19 ID:86ac8b53
Date: 2012/03/15 23:16
第8話




夏祭り。

普段と違い出店が並んだ道をこれまた普段は着ない浴衣を着て歩いていく。

空には花火が打ち上がるこの時は皆が楽しく過ごすためにあるのだろう。

当然、お祭り騒ぎが大好きな3-Aの面々が参加しないはずがなかった。


その中でとある集団、この夏からネギま部(仮)改め『白き翼』のメンバーは彼女達の名誉顧問から通達を受けていた。

メンバーの証となる白いバッジを狙う敵から守るように。

それが出来なければ強制退部だと。

さらに、と、神楽坂明日菜、近衛木乃香、桜咲刹那に渡しながら絡繰茶々丸は条件を告げる。

「今回バッジは全員必ず左胸につけておくように。だそうです」

「左胸? 何でなん?」

「恐らくは戦闘を意識したものと思われます。つまり心臓のある位置を守れないようでは命はない、と言うことでしょう」

「へー、随分甘く見られたもんじゃない! いいわ。やってやろうじゃないの! がんばるわよ、このか! 刹那さん!」

「皆さん頑張ってください。それと最後に今回は特別審査員がいるそうです」

「審査員? 誰?」

「それは―――…」










「やれやれ、エヴァから電話があったと思えばいきなり「祭りに来い」だもんな。…まあエヴァなりの優しさってことなんだろうけど採点ということなら僕は甘くはしないよ」

祭りが行われている会場を一瞥出来る高台で一人佇んだまま久門は呟く。

言葉だけなら嫌々なようだがその口元はいつものにやにやとした笑いが張り付いている。

「さて、と。試験時間は一時間。試験内容はバッチの死守。対象はネギま部(仮)改め『白き翼』所属全員。道具の持ち込みは可。それでは」

両腕を軽く横に上げ彼のトレードマークである赤ペンを構える。

彼の腕時計の長針が12時を指す。











「テスト開始」














名誉顧問、エヴァンジェリンに半ばそそのかされた明石裕奈を始めとした猛追にも『白き翼』のメンバーは見事に対処していった。

ある者は機転を利かせ逃亡を測り

ある者は不意打ちにも動じず一瞬で仕留め

またある者は数の不利を物ともせずに真っ向から全滅させた。

知る者にとっては当たり前の、知らない者にとっては驚くほど一方的なバッジ争奪戦の締めは二人の親友が争い、一方の覚悟をもう一方が理解を示すことで終局を迎えた。

この時点で3-Aの面々でバッジを狙う者は1人もいなくなった。

元々はお祭り好き、熱しやすく冷めやすい体質の多い彼女たちはバッジ争奪戦という騒ぎから自然と本来の夏祭りへと意識を向けていった。

少しずつ

少しずつ『白き翼』のメンバーでない者達が彼女達から離れていく。

そして時計の長針が10の数字を指す時

その場に居るのがメンバーのみになった時



『彼』は来た。




「うん。全員バッジは奪われなかったみたいだね」

感心感心、と唐突に『白き翼』のメンバーの後ろから声がかかる。

それにいち早く反応したのはネギ、桜咲、長瀬の3人だけだった。

3人は久門の声が聞こえた瞬間にそれぞれの経験から恐怖を感じ取った。

他のメンバーは突然現れた久門に驚いているばかりだ。

その様子を見た久門は不満だったようで少し眉をハの字に曲げる。

「…うーん、たった3人か。いくらまだまだ経験が足りないとはいえもうちょっと反応して欲しかったんだけどな」

まあいいや、とぽりぽり頭を掻きつつ久門はここへ来た用件を伝える。

「取りあえず途中経過を伝えるね。まずは宮崎、綾瀬」

「ふぇ?」

「わ、私ですか?」

いきなり名前を呼ばれビクリとする2人に対して半ば無視した形で話を続ける久門。

「自分達の力量を理解し自分達に出来る最善を行なったことは実に素晴らしい。

勝たなければならない勝負ならともかく今回のように守る戦いなら何を行うべきかの判断は大切になってくる。今後もこの調子で頑張るように」

「え、えっとー」

「はぁ、ありがとうございます」

「うん。じゃあ次。どんどんいくよ」

次々と名前を呼んでは良かった点、悪かった点を伝えていく久門。

聞いた者はある者は素直に喜び、またある者はなるほどと感心していた。

だが何人かのメンバーは久門が読み上げていくうちにある事に気づく。

――どうやってそれを知った――?

彼女達が合流したのはつい数分前。それまでは別々に行動していた以上全員の観察を行うのは不可能ではないか?

魔法を使って見た? いや、彼が魔力を持たないのはもう周知の事実だ。

ではどうやって?

「最後に神楽坂。親友である雪広との戦闘は君にとってちゃんと迎え撃たなければならない相手だった。そう言う意味ではよくやったね。

それにただ戦うだけでなくちゃんと自身の確固たる意志を伝えた事は実に評価すべき点だ。

ただし雪広から一撃もらったのはいただけない。彼女を一般人として甘く見ていた故の結果なんだろうけどそういう意識は油断を招く。

一般人の気配を持ちながら異常な能力を持つ者だっているんだから誰かと戦う時にはどんな相手であれ見くびることだけはしない事。

以上でここまでの採点は終了っと」

そんな彼女達の思惑とは別に久門の評価が終わる。

「ところで神楽坂? "勝って兜の緒を締めよ"ってことわざは知っているかい?」

「へ? え、えーっと…」

「"百里の道をゆくものは九十九里を半ばとす"は?」

「それは、えーと、ほら、あれよ! あれあれ!」

「出来れば意味を答えてほしいんだけど。じゃあ英語で出してみようか。『Don't halloo till you are out of the woods』の意味は?」

「だからなんで私にばっかり聞くんですかー!!」

いきなりの問題に涙目になった神楽坂を見て国語教師の久門と英語教師のネギは少し残念そうに目を伏せた。

「ネ、ネギまで何よー!」

「落ち着いてください明日菜さん! "油断するな"という意味です」

暴れ出しそうな神楽坂を後ろから桜咲が羽交い絞めして止めながら答えを教える。

「まあそう言う事。君達は何の因果か裏に関わる事になった。まあ大半は誰かの所為だけどそれは置いておく。問題はその事に優越感を抱くような馬鹿な感情を持ってほしくはないんだよね」

「優越感、でござるか?」

誰か、の辺りで1人と1匹が焦ったが気にせず長瀬が油断なく構えつつ聞き返す。

「そう。一般人とは違う力を持っている、一般人が何をしても自分達には敵わない、自分達は特別だ、なんていう優越感。

そんな事はない、なんて否定するのは簡単だ。けれど君達は今そんな状況にいる。特に最近関わった者は特にね」

反論をしようにも何故か出来ない。

皆が久門の言葉に聞き入っている。

これは普段の彼の授業そのものだ。

普通に話しているのに何処か違う雰囲気を持つ独特の光景だ。

「故に今さっきまでのような状況でも君達は楽しく対処出来たんだろう。気楽に行動も出来ただろう。

超の事件の時でも本当の意味で危機感を抱いた者はほとんどいないだろう。

未来が変わるとか、もしかしたら体験するかもしれないけど世界が滅ぶとか、そんな大層な領域にまで行くと恐怖と言うのも感じづらいしね。

でもね、本当の危機は、本当の恐怖は、君達"ごとき"に耐えられるようなものじゃないんだ。

肌からじわりじわりと侵されて脳が現実を拒否するほどの怖気の走る恐怖は簡単に越えられる物ではないんだ」

そして胸元から彼のトレードマークである赤ペンを取り出す。

「だからここからが本番であり最後の試験だ。残り5分。これから僕は君達の『バッジ』を奪う。それを誰か一人でも阻止出来ればクリアだ。それまで君達は何をしても構わない。

殴っても蹴っても折っても曲げても叩いても踏んでも砕いても極めても締めても吊るしても縛っても投げても斬っても刺しても突いても刻んでも抉っても染めても引っこ抜いても撃っても盛っても読んでも詠んでも否定しても拒絶しても罵っても甚振っても潰しても壊しても逃げても隠れても降伏してもズルしても売っても泣いても怒っても悲しんでも笑っても暴走しても変化しても

殺してくれても構わない。

もっとも、それが正解とは限らないけどね」

言葉を紡ぐ度に真夏だと言うのに気温が下がっていくような錯覚を覚える。



「いや、くもんせんせー。悪いけどあたし達かなり強いと思うしせんせー1人で相手するっていくらなんでも無理じゃない?」

少し汗を流しながらも苦笑いを浮かべつつ一番経験の少ない早乙女がそんな空気を祓うかのように強気な声を出す。

その科白は決して的外れとも言えない。

彼女達は曲がりなりにも闇の福音の元で修行を積んだメンバーだ。

実際大したことのない魔法使いならば敵にすらならず上位のメンバーにおいては早々負ける事は無い顔ぶれだ。

そして何より敵対する相手、久門紅助からは魔力も気も感じられないのだ。

もちろん実際に戦った、いや相対した刹那やネギからその不可思議にて奇妙な相手の強さを聞かされていても実感は出来ない。

理解も出来ない。

だから気づけない。

メンバー内で一二を争う者たちが異常なほど警戒心を上げているのを。

早乙女の言葉に対して久門はいつものにやにや笑いを浮かべながら赤ペンを前に突きだす。

「早乙女、日本語は正しく使わなきゃいけないよ。"強い"という言葉は"弱い"の対義語であって類義語ではないよ」

淡々と久門は告げる。

君達は弱いのだと。

強い等とは真逆なのだと。

「それでは”始め” 初手は譲るよ」

開始の声がかかった。その瞬間まるで異空間に飲まれていたような感覚が消え去る。

ハッとしたメンバーはそれぞれが自分にできる構えを取る。

最初に動いたのは意外にも宮崎のどかだった。

「アデアット。『いどのえにっき』!久門紅助先生!」

宮崎のアーティファクトが現れ久門の心を読み取る。

「これで久門先生の考えてる事が……へ?」

『心を読むという宮崎、君の能力は中々に強力だ。使い方によっては格上の敵でも簡単に倒せるだろう』

現れた文字はまるで宮崎本人に語りかけているような文章で、絵も久門が腕を組んでこちらを見ているように感じられる。

『けれどそれは決して敵に知られてはならない要素だ。敵にとって真っ先に潰したいのは君のようなタイプや回復役の近衛だからね』

『けれど僕には知られている。まして君はその能力上あまり遠くに離れる事が出来ない。ゆえに今この状況においては』

「『君の行動は×へと繋がる』」

久門の文章と声が重なると同時に絵も動きデフォルメされた久門がペンを抜いて何かを書くしぐさをした。

次の瞬間

『いどのえにっき』は全てのページが真っ赤に染まった。

隙間など無く

絵欄も行も関係なく

全てが赤く染まった。

「ひやあああ!」

バン!と音を立てながら本を閉じ叫び声を上げて身を竦める宮崎。

そのすぐ傍にいた長谷川は驚きつつも涙目となった宮崎を落ち着かせようと肩に手をやるが

「戦闘中に『敵』から簡単に視線をそらすな。


死ぬよ?」

死、と言う言葉に思わずドキリとし顔を上げる。

久門は先ほどの位置から一歩も動いてはいない。

何かされた訳でもなく心中で小さくほっとするが


「まず二人、心臓を抜きとられて死亡」

あ、声を声を上げたのは誰だったか。

伸ばした指の間には二つの翼を模した白いバッジ。

それが誰の物かは確認するまでもなかった。

「言っておくけれど僕は体力はないし筋力もない。ましてや気やら魔力やらも使えないからまともに喧嘩をすれば簡単に負けるだろうね。でも実際はそうはならない。何でか分かる?」

いきなり二人の脱落。加えて相変わらずの妙な感覚に隙だらけにも関わらず久門の話中には皆行動が取れない。



さあ、次は誰かな?



にやにやとした目が言外にそう言っている。


不安と理解不能な感覚に陥り皆がためらう中、小太郎が瞬動を使い久門の懐に踏み込む。

小太郎が一番に反応出来たのは先日の大会での経験による。

圧倒的な格上と戦う際にはどうするべきか。何度も何度もあの日から考えてきたのだ。

正直に言えば以前のクウネル・サンダース、もとい紅き翼のアルビレオ・イマとの戦闘と酷似したこの状況で不用意に近づくのは避けたかった。

だがそうも言ってはいられない。敵は、久門は明らかに移動せずにこちらに攻撃を仕掛けている。

それでは下手に距離を取った所で全員のバッジを奪われるのが落ちだ。

ならば自分の得意分野である接近戦を仕掛ける事で少しでも時間を稼ぐ方がいいだろう。

幸いにも勝利条件は倒す事ではない。5分という時間を耐えきればいいのだから。

抜きの姿勢に入ったが久門は先ほどと同じ姿勢のままこちらを見てもいない。

とにかく一撃を! 思考と同時に抜き手を放つ。

鋭く突き出した右手は何ら問題なく久門の鳩尾に吸い込まれ―――

「勝ちたいのならば僕の領域で戦うか僕をそっちの領域に引き込むかしなきゃいけない。そう言う意味で今の犬上君の判断は実に正しい」

空を切るにとどまった。

「っ!!」

予想しつつもあっさりと外れた事に驚くが動きを止めずに全力でその場から離脱する。

瞬間、小太郎のいた位置に紅い線が引かれた。

一見すれば斬られて血が吹き出たようにも見える光景に何人かのメンバーから悲鳴が上がる。



「超の時を止める能力。あれは惜しかったね。僕の能力は任意発動だから気づけないうちに攻撃すれば何とかなったかもしれない。あと昔、麻帆良に侵入した人の中に四字熟語言いながら『これぞ最強の能力! アイゼン様の完・全・催・眠! ふははチートすげえ!』とか良く分かんないこと言ってくる人もいたけど幻術なんかは僕の能力上まるで意味が無い。…関係なかったね。とにかく今の判断は良かった、攻撃の後の○をあげよう」

体勢を整えた小太郎に向き直りながら久門は笑顔を浮かべる。

まるで安心できない笑顔を見ながら小太郎はさすり、と胸を触る。

(…よし、まだある)

バッジを奪われなかったことにほっとしている小太郎をよそに笑みを浮かべる久門の背後から刹那、楓の二人が飛びかかる。

正確には楓の分身を含めた5人が。

しかしそれも“何故か”全て空振りに終わる。

「いいよ、その調子。圧倒的な敵が相手なんだ。下手に正々堂々なんて考えないように。そんなこと毛ほども気にせず攻撃して来る外道もいるんだから」

不意打ちされたにもかかわらずどこか嬉しそうに笑いながら両手を役者のように持ち上げる。


「さて、このまま続けてもいいけどどうもジリ貧になりそうだから少しだけ僕の攻略のヒントをあげよう。




僕の能力は■■を■■■から■■し■■する能力。




聞き取れなかった? そりゃあそう言う風に聞こえるように言ったからね。後は自分で考えるように。

残り4分。さて、誰か一人くらい最後まで生き残れるかな?」




























時刻は長針が180°ほど回った頃、皆と別れた絡繰茶々丸は落ち着いた急ぎ足、という器用な真似をしながらあらかじめ言われていた場所へと足を運ぶ。

あまり人気のない道の先には高台へと登る階段。その一番下に目的の人物は座っていた。

「遅かったな茶々丸。全く、待ちくたびれたではないか」

「申し訳ありませんマスター。宮崎さんを始め何人かがしばらく行動不能となってしまっていたので」

ふん、と石段の上で座り込むエヴァにぺこりと頭を下げて謝罪する茶々丸。

退屈していたと言わんばかりのエヴァの態度だったが足元には綿あめの袋や射撃の景品が置いてある事に触れるものは幸か不幸かいなかった。

「まあいい。で? 結果はどうだった?」

「はい。久門先生による最終試験ですが…」

「宮崎、綾瀬、早乙女の三人は自身の主武装の本が真っ赤になったのを見てパニック。これをなだめようと朝倉、長谷川の二人が僕から不用意に目線を外した。ここで5人死亡。

長瀬、古、犬上君達は僕を警戒しながらのヒット&アウェイを繰り返す戦法に出るも決定打を与えられず徐々に戦闘不能と言える怪我を負ったとして死亡。

桜咲は前の僕との試合の経験か非常に慎重になっていたけど近衛の心臓部に紅い花が咲いてるのを見て激昂。ここで無理に突っ込んできて死亡。もちろん近衛もここで死亡。
絡繰は今回戦闘不参加となっていたから除外して残るはネギ君と神楽坂。

出来る限り本当に殺されているように見せたのと僕が『怖いね。こんな目にあうなら関わらなきゃ良かったね』と挑発したからそれなりに“自分と関わったことで人が死ぬ”と言う事を意識できたみたいだね。

それでも二人とも暴走しなかったのは花○。正直ここで暴走してたら悪いけど直ぐに終わらせるつもりだった。

そしてその後の僕の意地悪な問いにもしっかりと答えを返した後で二人で僕に突撃。勿論バッジは奪ったけど時間を計測していた茶々丸の申請により約1秒8時を過ぎていたとしてセーフ。

晴れてあの子達は僕の試験に合格したというわけさ」

エヴァの問いに答えたのは眼前にいる茶々丸ではなくいつの間にかすぐ傍に来ていた久門だった。

他の者ならともかく10年来の付き合いのため特に驚く事もなく「そうか」と相槌を返す。

「はぁ~それにしても疲れた。全くなれない事はするもんじゃないねぇ」

「どこがだ。どうせお前の事だ。物凄くイキイキしてやっていたんだろうが」

ん、と空を仰ぎながら伸びをするも今回の依頼者の苦言に視線を下げる。

「いや、エヴァが言ったんでしょうが。『出来る限り奴らに恐怖を与えてやれ』って」

「実際見ればそういう感想を抱くを想うがな。まあこっちとしては狙い通りだしよしとしよう」

「…………」

「ん? 何だ?」

皮肉げに笑うエヴァだが普段の笑みではなくじっと真顔で見つめる久門に何事かと問い返す。

「いや、エヴァは相変わらず優しいなあと思ってね」

「っな、バ、バカか貴様! どうしてそう言う答えが出てくる!」

いつものからかうのではなく純粋な褒め言葉を受け顔を真っ赤にするエヴァに対し10年来の友人は何を簡単な事を、と理由を述べる。

「弟子達が強くなるのはいいけど、もし本当の強敵、それも血も涙もないような外道に会った時に少しでも対応出来るように僕にやらせたんでしょ?

いくら彼女達が強くなってもそういうのだけは経験しないとどうにもならないからね。理不尽な暴力は一度身に受けなきゃ分からないものだし。

エヴァの事だから自分がやっても彼女達がどこか無意識に殺されはしないって安心感を持っちゃう事も分かってたってとこかな」

「…………ふん、アイツらは基本甘ちゃんだからな。どんな覚悟をしててもどうしようもない事などこの世界ではザラだ。修学旅行や超の時のように敵の爪が甘かったり身内に近い存在などの方が少ないくらいだからな」

小さくぼそぼそと返事をする姿は先生に指摘されて少しバツが悪そうにそっぽを向く生徒そのものだ。

そんな生徒を眺めつつ久門はいつものにやにやした笑顔を浮かべる。

「それで僕に極悪な敵をやらせたと。酷いなあエヴァは。多分僕しばらく彼女達に怯えられるよ?」

「貴様は教師だろう、それこそ甘んじて受けろ。大体、学園祭前に来た悪魔を貴様が倒さなければ丁度良い経験をさせられたはずだったんだぞ?」

「ん? …ああ、あの似非紳士っぽい悪魔ね」

少しばかり沈黙が下りる。

久門は魔法先生ではない。そもそも最近では数を増やしてはいるが久門の正体を知っていたのは極わずかだ。久門本人も別段戦いを好むわけでも使命感に燃えている訳でもなく警備に参加することもなかった。

しかしごくまれに、例えば誰にも気づかれず侵入したような敵に対して彼は率先して動いた。そして誰にも気づかれぬ内に全て対処した。

それらを知っているのはやはり、学園長、高畑、そしてエヴァの3人だけだった。

「それはしょうがないでしょ。アレは他の状況と違って僕の生徒の命を脅かしかねない『敵』だ。そう言う点では僕は学園長や高畑先輩ほど甘くはない。まあネギ君の仇だと知った時はちょっとどうしよっかなとも思ったけど」

「平然と始末した奴が何を言う。……まあいい、この話はこれで終わりだ。ところでコウスケ、貴様今のこの私の姿を見て何か言う事はないか?」

ん? 問われてエヴァを観察すると黒地に所々に星のように黄色の装飾が施された浴衣を身に着けていた。

少し考える素振りを見せる間エヴァは早く言えと言わんばかりの顔で催促を続ける。

「ん~まあ毎年見てるから今さらかな」

「………」

無言で握りこぶしを作ったエヴァを見て苦笑しながら手を振ってなだめる。

「うん、毎年見てるけど良く似合ってるよ。外国人なのにホントによく似合う」

「……フフン、そうだろうそうだろう。よしコウスケ、まだ時間もある。祭り見物に付き合え。茶々丸。お前は先に帰ってもいいぞ」

「悪いけど教師と一生徒が一緒にってのはちょっとなあ」

「なら『エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル』の一友人の『久門紅助』として付き合え」

「そう言う事なら喜んで」

命令に従いぺこりとお辞儀をする茶々丸に見送られながら機嫌良く腕を振るエヴァと並んで毎年のやりとりを行いつつ出店に向かう。

身長も年齢もあっていない二人組だが何故かそれを不自然と思う者はいなかった。








あとがき


ネギまがついに完結。

よっしゃあーこれで吃驚展開も何もねえから好きに設定つけられるぜー、と思いつつもまずはオリジナルに手をつけたいので大分前に書いた久門を投稿。

因みに久門が途中で言った能力の■は全部漢字です。


しかし、最終回……いや、何も言うまい。





[18320] 番外編 音楽先生ヤマハ
Name: 古時計◆c134cf19 ID:75bd0308
Date: 2013/01/10 00:35

番外編 音楽先生ヤマハ



注意!

この物語は久門は全く出てきません。というか関係ないです。

ちょいとグロいです。

別話でやれと言われたらそれまでの作品です。

それでもいいならどうぞ。














麻帆良は日本では有名な学園都市である。

幼等部から大学部まではもちろん、研究機関や共同企業もありここにいるだけで一生を過ごすことも可能な正に「ゆりかごから墓場まで」を地で行く土地である。

そのため教育に力はそそがれており主要教科以外の副教科も実に充実した環境で学ぶことが出来る。

「はい、じゃあ皆、もう一度一緒に歌ってみましょう。よく音を聞いてリズムも合わせてくださいね」

女子中等部音楽担当山葉詩音(やまは しおん)もその例に漏れることなく普通の中学などにはない音楽の専門学校などにある高級なピアノを奏でながら生徒達に歌を教えていた。

~~~~♪

総勢30名の歌声はそれぞれに個性がありプロやコンサートなどとは違う独特のハーモニーとなり耳をくすぐる。

それに柔らかな笑みを浮かべながら詩音は文字通り音を楽しむように鍵盤に指を躍らせる。

聞いているクラスの女子達にはその音に色が付き物語が浮かんでくるような錯覚を受ける。

誰もがこの授業を好いていた。

勉強嫌いな馬鹿レンジャーも

馬鹿騒ぎばかりするクラスに呆れている冷めた生徒も

今まで何度も同じような授業を繰り返してきた生徒も

この時間を心から楽しんでいた。

やがて少女達の歌声が止み詩音の指が一層早く鍵盤を鳴らした後にシン、と余韻を浸すように静寂に包まれた。

「素晴らしいわ。本当に皆の歌への気持ちが伝わってきて先生も嬉しくなっちゃった」

パチパチパチと拍手と共に送られた賛辞に少女達も顔をほころばせる。

そうしているうちに授業の終わりを告げる鐘が鳴り挨拶を終えた生徒達は教室へと戻っていく。





「山葉先生って凄いよねー。美人だしあんなにピアノ上手なんだもんねー」

「学生の頃から何度も賞とか取ってたらしいわよ」

「それだけではありませんわ。山葉先生は若くしてピアノだけでなく他の多くの楽器に精通し作詞作曲はもちろんそれを自身で歌うこともやってのける今日本で最も優れた音楽家と呼ばれていますわ」

「そんな凄い人がどうして中学校の音楽の先生なんかやってるんだろうね」

「あ、あたし知ってるよ。前にインタビューしたんだけど『ここでは他では味わうことの出来ない素晴らしい音を聞く事が出来るから』だってさ。くぅ~、流石しずな先生や葛葉先生と人気を分かつ美人先生は言う事が違うね~!」

「へー、でもそのおかげで私達は詩音先生の授業が受けられるんだから感謝しなくっちゃね」





授業が終わり一人音楽室に残った詩音だがすることは変わらなかった。

愛しむように楽しむようにピアノの音を響かせる。

開けてある窓からは涼しい風が流れ込んでくる。

風に長くウェーブのかかった黒髪をなびかせながら微笑むその姿はまるで女神のようで

その光景を見る者がいればいつまでも見ていたいと感じただろう。

日は傾き間もなく夜になろうかという頃。

まるで別の生き物のように動き回っていた詩音の指が突然動きを止めそれに伴い流れていたメロディも止んでしまった。

その張本人である詩音は窓の方をじっと見ているとフウッと軽い溜息をついた。

「嫌な音が聞こえてきたわね」

そうは言ったが部屋の中はもちろん外からも詩音の言う嫌な音と呼べるような音は聞こえてこない。

しかし詩音はピアノの蓋を閉めると手早く支度を整え音楽室を後にした。

その顔に不快とも歓喜ともとれるような微笑を浮かべたまま。








麻帆良には学園都市とは異なるもう一つの顔がある。

魔法使いによって作られた日本を代表する魔法使いの拠点の一つでありそのため貴重な物や人材も数多くある。

当然それらを狙う輩から守るための結界や警備は行なわれているが全ての人が悪に走らないなどという事がないようにどれだけ備えても侵入者は後を絶たない。

いや、むしろ厳重であるがゆえにそこにある物が間違いなく価値のある物だと言う証明になっているのかもしれない。

つまり今日もまた麻帆良へと侵入を試みる者達がいた。





「ホントすげえな旦那の認識障害。まさか"結界"まで騙しちまうなんてよ」

麻帆良の敷地の端に位置する森の中。

複数の男達が木々に隠れながら話をしていた。

「あまり騒ぐな。いくら侵入に成功したとは言え敵の本拠地はまだまだここからなんだ。警戒しておくにこしたことはない」

明るく語る浅葱色の袴の長い太刀を持った若い男に対し狩衣を来た壮年の呪術師は苦言を呈する。

「いえでもやっぱり凄いですよ。麻帆良って言えば関東の魔法使い達の本拠地と言っても過言じゃないのにこんな簡単に入れるなんて思いませんでした」

その横にいた剣士の男よりも若いローブを羽織った真面目そうな青年の称賛にフンと鼻を鳴らす。

「今までこのような仕事は何度も行なってきたのだ。いくら強力な結界とは言え一点に集中してズラせば気取られることなく入ることくらいは出来る。

それよりも今回の仕事の確認を行うぞ」

「相変わらず旦那はお堅いねえ。俺ら三人ならもし見つかっても大抵は始末出来んでしょうに」

褒められても仏頂面なままの旦那と呼ばれた男に何処までも軽い感じの剣士、その二人を見て苦笑する若い青年。

三人は裏ではそれなりに名の知れたチームだった。

リーダーである呪術師を主として構え、前衛を神鳴流剣士が、遊撃を若い青年が行なうという単純であるがそれゆえに強い布陣を用いて生きてきた三人は今回の依頼であるこの魔帆良への侵入を行なったのだ。

「もうすぐ夜も更ける。その後は都市部へ向かい依頼されたターゲットの確保。認識障害を用いながら進むがもし敵に気づかれた場合は抹殺。一般人にみられた場合も抹殺。むろん相手が女子供だろうが関係ない。以上だ」

「ようするにいつも通りってことだろ?軽い軽い」

「ここの人達は自分達を優秀と考える傾向がありますからね。特に若い魔法生徒達がそう思っているようです」

「もう侵入してそれなりに時間が立つが未だに誰も来ないのが助長している証拠だな。まあ油断してくれているならばその方が我々としても都合が良い」

敵地であるにも関わらず談笑している彼らの態度は決して油断や傲慢などではない多くの経験から培った自信から来るものだった。

「俺としちゃあかわいい女の子が気づいてくれるといいんだけどな」

「またですか?前もそれで時間喰ったんじゃないですか」

「いいじゃねえか。どうせ殺すんならたっぷり楽しんでからのほうが気分がいいだろ?」

「逃げられないように両手両足を斬り落としてヤる人のセリフじゃありませんよ」

「そういうお前だって逃げようとしてるガキをいつもじわじわいたぶってんじゃねえか」

「いえいえ僕なんかまだまだですよ。ボスに至っては気が狂うような幻術を相手に見せて発狂死ですよ?」

「当然だ。お前らとは殺してきた数が違うのだ。まともな殺し方などとうに飽きている」

「ククク」

「あはは」

「フッ」

談笑だった。少なくとも彼らにとってこれは”いつものこと”なのだ。

結界すらごまかす術を持ちながら”何故か”毎回一般人に見つかるのも

その度に彼らの欲求を満たすような行動に出るのも

いつものことなのだ。

けれど






「随分と耳障りな音を出してくれるわね」






術を発動している状況で他者に声を掛けられたのは初めてだった。

「「「!?」」」

動揺も一瞬、すぐさまいつも敷いている戦闘隊形に移る三人。

声のした先には腰まであるウェーブのかかった長い黒髪にゆったりとした服を着たスタイルの良い20代の女性だった。

予想だにしなかった相手だがその姿を見て剣士の男は口笛を鳴らす。

「音が聞こえたのに誰も行かないから来てみればやっぱり嫌な音を出す奴らばかりね。ホント嫌になっちゃう」

遠かったから来るのに時間かかっちゃったし、と不満を隠そうともせずに肩をすくめる女性。

そんな仕草も色っぽさを感じさせますます興奮している剣士をよそに呪術師の男は冷静に女を観察する。

見たところ武器を持っているようには見えないし身体も鍛えられたものではないから恐らくは魔法使いかそれに準じたものだろう。一般人という可能性は自分の認識障害を破った以上まずない。

そう、この女は自分の認識障害を破ったのだ。それがどれほど異常な物かは自分が一番よく知っている。

呪術師の男は精神干渉系に関しては絶対の自信を誇っている。例え相手が格上でもそう簡単には破れないものであるはずだ。

にも関わらず眼の前の女はいとも簡単に自分達を見つけた。

自分達が気づくよりも先に。

「……女、貴様一体何者だ?」

呪術師の呼びかけに女性は一層顔を歪めながらも答えた。

「麻帆良女子中等部音楽担当教師、山葉詩音よ。ついでだから言っておくけどあなた達に気づいたのはあなた達の出す音があまりにも不快だったからよ。だからあまりしゃべらないでくれるかしら」

音?と疑問に思う呪術師の横を太刀を鞘から抜き放った剣士の男が進み出る。

「ひゃっほー!女教師ってか?いいねえそそるぜぇ。音楽だってか。ならせいぜいイイ声で鳴いてくれんだろうな」

詩音は舌舐めずりをしながら身体をなめるように見回す男に身震いをする。

「音だけでなく態度まで不快ね。ここまでくれば嫌悪を通りこしてむしろ呆れるわ」

「ありゃ、嫌われちまったか?まあいいや。すぐに気持ち良くしてやんよ」



もう剣士の男には詩音しか目に入っていないようだ。

こうなってはいくら言っても聞かないのを長い付き合いから知っている呪術師は止めるのを諦めた。

腕は立つがこれだけは欠点だな、とローブを着た青年に目配せして何かサポート出来るように構える。

「んじゃ行くぜ先生よぉ!」

肩に太刀を担ぎ一気に詩音へと間合いを詰める剣士。

それに対して詩音は何もしない。反応が出来ていないのかそれとも…

はたしてその太刀が振り下ろされたが、ピタリ、と剣士は動きを止め切っ先も詩音の身体の数センチ手前で止まった。

「ッ!?」

自身の剣が止まったことに驚きつつもその場で硬直し続けるほど剣士の男は馬鹿ではない。

すぐさま後ろへ跳び仲間二人の前へと立つ。

「危ねえ危ねえ。障壁…じゃねえよな。そんな感じじゃなかった。なんつうか止められたと言うより"止まった"って感じだったな」

一度攻撃を防がれて冷静さを取り戻したようで剣士の男にも得体のしれない女に対する警戒心が生まれる。

「…油断するなと言ったろう。構えろ二人とも。狩りを始める」

「分かりました」

「あいよ」

陰陽師の言葉をうけ二人は武器を構える。

ローブを着た魔法使いの青年は杖を。

剣士の男は太刀を"持ちかえた。"

柄ではなく"刃"を両手で握っている。

当然のように握った手からは血がぼたぼたこぼれているが剣士は意にも介さない。

そしてその太刀を

そのまま勢いよく自分の心臓に突き刺した。

「ぎやゃあああああああああああああ!!!」

ずぶり、と長年使いこまれた愛刀は主人の胸を抵抗なく貫通する。

血が勢いよく吹き出し剣士は絶叫を上げた。

立ったままガクガク、と二三度の痙攣を果たした剣士は目を見開き詩音を見つめ次いで仲間の方へ首だけ回し、こふっ、と泡のような血を口からこぼした。

パタン、と前のめりに倒れ込んだ時に地面に押されてさらに刃が食い込み背中から水風船が弾けるように血が辺りに飛び散る。

当然、助かる余地などない。




何が起きた?

うつ伏せに倒れた剣士を見て魔法使いの青年は呆然とした。

背中から生えた刀伝いに、まだ完全には停止していないのかビュクッビュクッ、と脈動を撃つように血がこぼれ続けている。

自分の心臓に刀を突き刺した剣士の死に顔は何故そんなことをしたのか自分でも分からないと言ったものだった。

何故? そんなものこの女以外にないだろう!!

仲間を殺したであろう詩音を見やると先ほどの不快な表情はまるでなく口許を上げて笑顔になっている。

うすら笑っているのでもなく嘲笑しているのでもなくどこか蕩けるような恍惚とした表情だ。

そこに悪意のようなものが見えない事が逆に彼女を得体のしれない物にしていく。

そしてその口が何かを唱えるように動いてるのを確認するや否や杖を突き付け詠唱する。


ビス・デス・ゴルデス・デスパイア ものみな焼き尽くす浄化の炎、破壊の主にして再生の微よ、我が手に宿りて敵を喰らえ 紅き焔!!


自身の威力の高い中で最も早く出せる呪文を唱える。

詩音はまだ何かを唱えている。自身の呪文の方が先に終わった、こちらの勝ちだ!

確信を持って杖を突き出し数瞬後に彼女が炎に飲まれ焼けただれていく姿を幻視する。

焼かれて助けを求める彼女の声を聞くより先に彼の耳はこの場にいるもう一人の声を捉えた。

「おい、何を黙っている!!早く詠唱をしろ!!」

ボスである陰陽師から奇妙な警告が届く。

黙っている?

何を言っているのだ?今しがた自分の方が呪文を唱え終えたではないか。

そこまで考えて焼かれるはずの彼女がいつまで経っても悲鳴を上げない事に気付く。

防いだ?

いや待て、そもそも今彼女に魔法は当たったのか?

そこでようやく魔法使いの青年は自分の魔法が発動していない事に気付く。

え?

何故?

詠唱は完璧だったはず

混乱した青年の眼が詩音の口を捕らえる。

その時、唇がゆっくりと動いた。

同時に、眼前にいるはずの詩音の声がまるで閨で耳元で愛を囁かれているように

耳元のすぐ傍でこう聞こえた。



   死  ね




「―――ぁ」

かすれたようなせつない声が自分の出した声だと

気付く前に青年の命は潰えた。










瞬く間に二人やられた。

陰陽師はその事実が信じ難かった。

今まで数々の修羅場を潜ってきた自分達がこうもあっさりと、しかもどうやったかも分からずに。

だが一つ分かったことがある。この女は敵だ。だがそれ以上に―――

「ああ、ああ、やっぱりたまらない! いつになってもこれだけはやめられない!」

両腕を抱くようにして身もだえし頬を上気させ艶めかしい声を出し始めた詩音を見て確信する。

狂っている。

この女は二人の人間を殺した事を心から喜んでいる。そこには罪悪感など欠片も感じられず

美しい顔のままワラッテいる。

知らない人が見れば見とれてしまうような

惚れてしまいそうな

きれいな顔でワラッテいる。

そんな狂気に陰陽師は気づいた。

いや気づけて当然だった。なぜなら

「…何故だ? 何故お前のような奴がここにいる? お前はコチラ側の人間だろう!?」

俺達のような殺人狂だろう、と陰陽師は問う。

そう、詩音の狂喜は普段自分達がよく感じているものとよく似ていた。

普通の喜びでは満足できない、道を踏み外したもの特有の狂気。

世間をにぎわす犯罪者など話にもならない、異常者でしかない狂気。

するとさきほどまであれほど昂揚していた詩音は急にまた、最初に現れた時のように不快な表情に戻った。

「本当に嫌な音ね。見事なほどに不協和音。せっかくの気分が台無しよ。どうしてくれるのかしら」

まるで別人のように冷めた声で話してくる詩音にうすら寒いものを感じながらも話を続ける。

「一体何をやったんだ?よければ教えてほしいものだが」

無論こんな会話に意味はない。ただ男は時間稼ぎがしたかっただけである。

本来ならば前衛の二人が戦っている間に自分が準備を整え止めを刺す。

それが彼らの強敵との戦い方だった。

しかしこうなった以上援護は期待できないため昔のように1人で彼女を殺すしかない。

逃げるという選択肢はない。それは“そもそも頭の中にない”

時間稼ぎをして幻術の術式を編み続ける。

話に乗らなくてもいい。僅かな時間があればいいのだから。

故にまともな返答など帰って来るとは思っていなかったが詩音はあっさりと答えた。

「あなたさっきどうして私みたいなのがここにいるんだって言ってたわよね」

月に照らされながら口の端を持ち上げ嗤うその姿はまるで悪魔のようで

「うふふ。教えて・あ・げ・る。ここにいるとあなた達みたいな不快な音ばかり出す人達がよく来るの。

貴方達の音はそのほとんどが不協和音だけれど一つだけどんな素晴らしい音楽にも勝る音を出してくれるの。

ストラディバリウスの奏でる音よりも
教会の讃美歌よりも
世界一のオーケストラよりも

私はそれが聞きたくて聞きたくてしょうがないの。だから私はここにいるのよ」

どこか上機嫌に戻った彼女は舞台挨拶を行う役者のように手を掲げる。

その瞬間、呪術師は彼女に幻術をかけようとした。

かけようとしたのだ。

だが、伸ばすはずの手も唱えるはずの呪言も何一つ自分の思い通りにはなってくれなかった。

「あら、時間稼ぎはもう良いのかしら?」

「!?」

「何? 気付いてないとでも思ったの? でもごめんなさい、最初からその事は分かってたわ。だってあなたの『声』すっごく耳障りだから良く聞こえちゃうもの。

でも時間稼ぎしてたのはこっちも同じだから許してあげる。あなたも心や脳を操るタイプみたいだから随分時間がかかっちゃったわ。でも、それももう終わりね」

そう言ってトン、と彼女に押されるも抵抗どころか受け身すら取る事が出来ずに倒れこむ。

全く自由が効かない身体でも脳だけははっきりと動いてくれた。

ああ、そう言う事か。

そこでようやく呪術師は気付いた。

なぜ剣士が意識しない動きをしたのか
なぜ青年が突然死んだのか
なぜ自分が明らかに危険な人物から逃げ出すと言う選択肢がわかなかったのか


何の事は無い。彼女は自分と同じ精神干渉するタイプだったのだ。

ただ違うのが無意識の領域にまで支配し明確な死をイメージさせるだけで殺せるほどの実力の持ち主だっただけ。

でも気付いたところで既にどうしようもなく

月明かりを背にする彼女はどうしようもなく淫靡で綺麗でこれから起こる事が待ち遠しいように期待に満ちた笑顔でこちらを見ていて


「せいか~い。さあ、お話はもうお終い。それじゃああなたの最後の音を聞かせて


人が一生に一度しかだせない


断末魔の音を」




誰も近づかない森の中

恐怖に染まったその声を聞いたのは

たった1人だけだった。











次の日もまた彼女の授業は生徒たちの心をとらえた。

歌の練習で彼女の声を聞いた生徒が教室を出る前に詩音に近づく。

「詩音先生の声って凄く綺麗で私好きです」

生徒の純粋な尊敬のまなざしを受けた詩音は

「ありがとう。私もあなた達の音はとても好きよ。

あなた達なら“もっと良い音”が出せると思うから期待しているわ」


そう言って美しくほほ笑んだ。






あとがき

最近全くSS書けてなくてそれでも何か投稿したくなったので以前余所で上げたものを修正して上げました。

久門全く関係ないしどこぞの音使いな殺人鬼とキャラ被りまくってるけどなんかもったいなかったんで。



感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.12170886993408