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[16769] 男子中学生の非日常(リリなの オリ主)
Name: 赤砂◆ad9b75c7 ID:4c3baf91
Date: 2010/02/24 14:53
若干特殊な嗜好を持っているオリ主の主観のみで構成されるSSです。
転生や憑依等ではありません。

更に処女作です。鍛えてください。


注意点

・原作の時間軸と一致するようにしていますが、ズレが有るかも知れません。このSSの最初の朝は、アニメの一話の朝と同じ時間帯です。
・男子中学生のオリキャラの一人称で物語は進みます。主観で理解出来ないものは未知のものとして認識します。
・他にもオリキャラは出ます。序盤は殆どオリキャラだけです。
・基本ローテンションです。熱血にならないです。
・アルフの外見が二歳ほど若くなっています。テスタロッサ性を名乗っていますが、血縁関係は有りません。大体原作と同じです。
・物語の進行上、どうしても達成しないといけない場面ではご都合主義が発生します。
  (例:テストで100点取らないと地球が崩壊する!!→100点取れた)
・それ以外の場所でもご都合主義が発生しますが、大筋以外では出来る限りリアルに近づけたいと思います。
・意味の判らない場所が有ったら伏線かも知れませんが、ただのミスの可能性の方が高いのでどんどん指摘してください。



長々と書いて申し訳ありません。
最後に、この作品を書く上で一番の目標は皆さんに楽しんでもらう事です。
不快な表現や矛盾点、表現方法や用法の間違いなどが有りましたら報告お願いします。



[16769] 1話
Name: 赤砂◆ad9b75c7 ID:4c3baf91
Date: 2010/02/24 14:35
俺がこの世は途轍もなく平凡な物だと気付いたのはいつ頃だった?


呪文を唱えても何も起きなかった時?


病気だった曾祖母をドラえもんに治してくれと頼んでも無駄だった時?

いや、どちらも違う。


後者の時は子供心に「裏切られた」とも思った。

しかしその後もある程度の年齢になるまでは普通に、毎年クリスマスになると一晩で日本全国の子供の居る家屋に侵入したのち子供の頭をマインドスキャンして望み通りの物を置いていく変態爺様が存在するものだと信じていた。
つまりその頃はまだ、世界は自分にとってもっと夢と希望に溢れていたと感じられる物だったのだろう。
それすらもある事件によって木っ端微塵に砕かれたんだけど。


前者はもう今となっては黒歴史。
所謂ブラック・ヒストリーとなっている為多くは語るまい。


一つだけいうならば、唱えた呪文はクトゥルフの化け物を召喚するためのものだったという事だ。
寧ろ、なにも起きなくてよかったかもしれない。
しかし……

「ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ」
「朝から何恥ずかしい事考えてたんだよ……俺は……」

寝坊しない為に二つ仕掛けてあった、時間差目覚まし時計の遅い方によって俺の意識は現実へと引き戻された。
1つしかボタンを止めていなかった為、まるでスーパーマンのようになっていたシャツを規定の形に押し込んで中学校に行くための用意を進めていった。

「1日の始まりとしては最悪なパターンだな……」



ここらで一つ、自己紹介でもしておこう。

俺の名前は宇野 薄(うの すすき)である。名前はもう有る。

どこで生れたかというと、至って普通の病院で生まれた。

何でも幼稚園に入る前のことはすでに忘却の彼方である。記憶喪失などではない。

ちなみに海鳴市なる所に住んでいる。



「そろそろ家を出なきゃ駄目かな……」

我が家の家族仲は決していい方ではない。
更に言うなら、離婚して片親しか居ない。
もっと言うと、昔は今とでは苗字が違う。

唯一家に居る母親とは、定型文的な挨拶等を除外すると、数日間会話をしないこともザラにある。
昼飯はいつの間にか、こうして玄関に置いてある小銭によって手に入れるのだ。

手作り弁当なんて何年間も食べた事が無い。
寂しくないと言えば嘘になるが、納得もしているので不満はあまり無い。

そして俺は毎朝、玄関の小銭を掴んで

「行ってきます」

家を出る。

返事は無い。

恐らく奥のキッチンで自分の朝食でも作っているんだろう、などとどうでも良いことを考えながら俺は中学校へと足を進めて行った……。




通学途中に、急に声をかけられた。

「よぉ!薄じゃねーか!」

「おはよう、宇野君」

「おはよう、二人とも。今日も一緒?」

「おうともよ!志保が毎日起こしてくれないと遅刻確定だからな!」

「家が近いから仕方無しに、よ。少しは自分で起きる努力もしなさいよもう……」


出会い頭にどこのギャルゲーだと言いたくなるような会話を繰り広げているこの男女、
既に解っているかも知れないが共に俺の友達である。

「俺が自分で起きられる訳が無いだろう!」

なんて馬鹿みたいに女の方に言い返しているのが小林 大(こばやし まさる)。
あだ名はマサ。
クラスメイト兼クラブメンバーでもある。

それに若干恥ずかしながら小さな声で

「べ、別に毎日起こしに行っても良いんだけどね……」

なんて言ってるほうが中村 志保(なかむら しほ)だ。
こちらとは同じクラスではないが、クラブメンバーである。

一体お前らは朝から何をしているんだ。

「いつも二人の邪魔してるみたいで悪いね」

「そんなことないぜ。俺達親友だろ?」

「そうね、貴方とは友達以上にはならないと思うけど」

「今の所彼女とか欲しいとは思わないけど、直接女の子にそう言われるとちょっとなぁ……」

中村さんは相変わらずマサ以外には強烈だなぁ……

特にそこに憧れたり痺れたりなんかはしない。
マゾじゃないしね。

三人で中学校への道のりを談笑しながら歩いていると、マサがいきなりこう切り出してきた。

「ところで、今日から二年生だな!薄よ!!」

「今日から二年生だったんだ……すっかり忘れてたよ」

少し言い訳をするならば、現在通っている中学校にクラス替えの概念は無く
進級の儀式と呼べる物は単に教室の入り口の札が『Ⅰ-A』から『Ⅱ-A』に書き換えられるだけという
なんともお粗末な物だから印象に残っていなかったのだ。

因みにこの情報はクラブの先輩から聞いた。
学校非公認クラブの、だけど。

「それで一昨日、偶然出会ったうちの担任から凄い情報を手に入れたんだ!聞きたいか?聞きたいか!?」

「何がそれで、なんだか。どうせ聞きたくないって言っても言うんだろうから、その無駄な溜めもいらないよ……」

相変わらずこいつはテンションの上限知らずだな。
まだ起きてから一時間も経ってないっていうのに。

「では発表しよう!なんと我がクラスに転校生が転校してくることになったのだ!!」

転校生意外に転校してくる物好きな奴はいないだろう。
意味が少し重複してるぞ、マサよ。
しかし転校生か……

「へぇ、どんな人か知ってる?」

「もちろんだ。聞きたいか?」

「いや……後の楽しみにとっておくよ」

「楽しみにしとくといいぜ。なんせこの学校初だと思うからな」


何だこいつ……こう言われると凄く


「やっぱり聞かせてくれ。気になるじゃないか」

「よしきた。その我がクラスへとやって来る転校生は、実はなんと海外から転校してくるのだ!!」

「って事は外人さんか。一概にそうだとは言えないけど」

日本から海外に出て行って、帰ってきた日本人かも知れないしな。
その場合帰国子女になるのか。

「外国人みたいな名前だったから外国人だと思うぜ。 ……それに、可愛い女の子らしいぞ。ここだけの話だが」

やめてくれ、お前の声は無駄にデカイんだ。
そんな大きな声で話すから中村さんがお前のことを凄い目で見ているぞ。
こいつ、相変わらずの朴念仁だな……

「どんな名前か知ってる?ステファニーって感じの名前だったりする?外人みたいな名前って」

「確か名前はテ、テ……テイストさんだったか?テイスト・某さんだ。」

テイスト・ナニガシさん、か。
この時点で俺の中の転校生像は北欧の方のお嬢様であり、高飛車であるというイメージを形どっていた。

非常に勝手だけど。


と、そうこうしているうちにもう中学校か。
中村さんは、残念ながら別クラスなので此処でお別れだ。

俺は、二人が昼ご飯の約束をするのを待ってから声を掛けた。

「じゃ、今までと大して変わらないかも知れないけど、これからもよろしくな」

「……今言う事か?そんなこと」

こいつなら「おう!これからもよろしくな!!」ぐらいの事を言うと思ったのに……

なんだか俺が浮かれてたみたいじゃないか。
今日は朝から散々だ……

非常にやる気が削がれた状態でマサと共に教室に入る。

「おはよー」

「おはよう」

挨拶を適当に返しつつ自分の席へと向かい、そして適当に友人達と話しながら先生が来るのを待つ。
これはいつもの事だ。

「今日は転校生が来るんだってな、知ってたか?」

「朝一でマサから聞いたよ」

「なんだ、お前も小林から聞いたのか」

これはクラスメイトの一人との会話。
さてはマサの奴、出会った奴全員に言い回っているな。

周りに少し耳を傾けると、殆ど皆がまだ見ぬ転校生についての推測や希望について話していた。
普通の中学校で有るならば、春休みの間会わなかった友達との情報交換に励んだりするのだけど、春期講習なる悪魔のせいで、この前までほぼ毎日顔を合わせていたので特に話題もないのだろう。

実を言うと、俺も少し海外から来る転校生に興味があるのだ。
少しお話しをしたい、程度だけど。

特にする事も無かったので、椅子に座って机に頬杖をついて先生が来るのを待っていると、どこからか「先生が来たぞー!」なんていう声が聞こえてきた。
大抵何処の学校にも居る、いわゆる見張り役だ。

この声が聞こえると後は早い。
皆がそれぞれ最短の動きで自らの机へと向かって行き、僅か十秒程で優等生クラスが出来上がる。
そして教室の扉が開いた後、最善のタイミングで我らが学級代表が号令をかける訳だ。

「起立!!気をつけ!!礼!!」

「「「おはようございます」」」

「はい、皆さんおはようございます」

「着席!!」

相変わらずいい仕事をするなぁ、代表は……

「皆さん進級おめでとうございます。この度は――――」

おそらくこの時、そんな事よりも転校生を出せという思いがこのクラスの大半を占めていただろう。
そういう堅っ苦しい挨拶は大人相手だけにやっておけばいいのだ。

それを知ってか知らずか、僅か数分で話は転校生へと移っていった。

「えー皆さん。知っている人が居るかも知れませんが、実は今日から新しい生徒が私達のクラスの一員に加わります。
日本語はほぼ完璧に話せるそうですが、海外からの転校生と言うことで色々困ることがあるかも知れないので、そういう時は手伝ってあげてください。」

結構焦らすな、この先生。
そういう諸注意はその転校生が入ってきてからするものじゃないのか。

「では入って来てもらいましょうか。どうぞ、テスタロッサさん。中に入ってきてください」

ガラ、と扉が開かれた。

最初に目に付いたのは、特徴的な長い“オレンジ”色の髪。
次に目に付いたのが、強気な瞳と尖った犬歯。

この強気な瞳と犬歯。
二つの要素が転校生から、なんとなくコヨーテかあるいは狼のような肉食の獣のような印象をもたらしている。

最後に、彼女が教室の前に立ち教室を見渡した時に初めて認識できたある物体。


なんで額に宝石が付いてるんだ……?
もしかしたら住んでいた外国の風習かも知れないし、会話することが有ったら話題には出さない方がいいかな。
興味心は有るけど。

「じゃあテスタロッサさん、自己紹介をお願いしますね。」
「あたしの名前は、アルフ・テスタロッサ。出来れば『アルフ』って呼んでちょうだいね?」

……それだけ?
あまりにも簡潔で、自己紹介が終わったのか判断がつかない為か、誰も行動を起こさない。
俺も様子を見るべきかどうか悩んだが、自己紹介でコケては彼女も後が大変だろうと思い、先陣を切って手を叩くことにした。

すると後は堰を切ったように、拍手が起こった。
この調子ならすぐにクラスの中に打ち解けれる事だろう。

別に俺のお陰だとは言わないが、ちょっとは感謝して欲しい。

何気に勇気が要るのだ。
物事を最初にすることは。

「えっと……はい、じゃあ席は一番後ろに誰も使ってないのが有るから、そこに座ってくれる?」

「はいは~い」

何と言うか、気負いを感じさせないな。
まぁ外人さんならそんなものか、などと半分位の日本人が外人に持っていそうな偏見を持ちながら、移動している彼女を眺めていると目が合った。



本当に、偶然に合っただけだった。
気まずくならない程度に自然に目を逸らした。

朝、マサからは「可愛い女の子」と聞いていたが、彼女はどちらかと言うと美人系だと思う。
いや、美人系と言うよりも姉御系か?


ふと、今日の一時間目に提出しなければいけない宿題が有った事と、その宿題に全く手を付けていなかった事との二つを思い出し、どうしようも無くダウナーな気分になった。

今から、どうやったら怒られないで済む言い訳が出来るか考えておこう。



[16769] 2話
Name: 赤砂◆ad9b75c7 ID:4c3baf91
Date: 2010/02/25 15:57
放課後になった。

授業は特に変わったことなく終わり、非常に退屈な一日だったことを此処に記す。

例の転校生もといテスタロッサさんは一日中、フレンドリーな我がクラスの女子達に囲まれていたせいで、ついに今まで話す機会は訪れなかった。
あの女の子しかいないグループに割り込んでまで話そうとは思わない。
少し残念だったけど、特に残念でも無かった。

提出すべき宿題は飼い犬に食べられたと言っておいた。
飼ってないけど。


今日は二年生になってから一日目ということも有って、午前中の授業のみで終わりだった。
だというのに、まだ教室に残っているのは、マサが非常に彼女と話したがっていたからだ。
確かに外人さんは珍しいと思うけど、そういう物見遊山的な気持ちで話しかけるのはどうかと思う。

と、どうやら彼女の周りから人が居なくなったようだ。
こういうタイミングはさっきから有ったのだが、今の教室に残っている人間はどうも皆が彼女狙いらしく、矢次早に他の人との話に移行してしまっていた。
その為に、何度も出端をくじかれていたのだ。

おあずけをされてたマサが、半分走るように近づいていった。
俺はその後をゆっくりと歩いて着いて行った。
まるでウサギと亀だな。

「アルフさん? 俺の名前は小林 大って言うんだけど、少しいいか?」

「あんたもあたしに何か用かい? あんた、確か授業中に騒いでたね?印象に残ってるよ」

「その小林で合ってるぜ。気楽にマサって呼んでくれよ!」

この二人、初対面って感じの硬さじゃないよな……
普通の人間はもっとギクシャクするのが普通だろう。

というか、そういう覚え方されてるって駄目じゃないか?
もう少し落ち着きをだな……


「そっちのあんたは、よくマサと一緒にいた人だね?」

「あ、あぁ……宇野っていうんだ。これからよろしく頼むよ、テスタロッサさん」

「あんまり家名の方で呼ばないでくれるかい? あんまり慣れてないんだよ」

いきなり話を振られて動揺してしまった。

そうか、外国では名前で呼ぶのが常識だったな。
確かファーストネームとかなんとか。
多分合ってるはずだ。

しかし、女子を名前で呼ぶのは少し気が引けるな……

「アルフさん、って呼んでもいいかな?」

「別に呼び捨てでも何でも構わないよ、そう言えば途中で話を止めてたね。いったいなんの用だい?」

「色々話してみたかっただけだぜ。なんで転校してきたのかー?とか」

「んーっと、親の都合だよ。それにしてもここの生徒は皆暇なのかい? あたし、今日は一日中話しっぱなしでもうクタクタだよ~」

「珍しいんだと思うよ? 今まで転校生は居なかったし」

ついでに言うと、そのフランクな所も良かったからだよ。

などとも言おうとしたけど、言わない。
普通に褒めるのは恥ずかしいし、空気を読めないわけでもないからだ。

「そんなもんかねぇ……ところで、この周りで変わった事とかはないかい? 怪奇事件みたいなものが起こってたら教えて欲しいんだけど」

「何?アルフってミステリーみたいなのが好きなのか?」

マサは早速呼び捨て、か。
後でこれを知った時の中村さんの嫉妬が怖いな。
いつもの事だけど。


「好きなのか……ね?取りあえず有ったらあたしに教えて欲しいんだけど」

「なら俺達の入ってるクラブに入らないか? クラブと言っても学校非公認だけどなっ!」

「クラブ?あんた達何かクラブやってんのかい?いや、それより先に何か変わった事がなかったか教えておくれよ。それだけでいいんだけど」

「情報収集クラブっていうのに入ってるんだ。まぁ、活動内容は名前の通りなんだけど」

元から話に参加していなかった俺はともかく、当事者のテスタロッサさんまで蚊帳の外になってるな。
大体、マサはいつも話の細かいところが抜けすぎているんだ。
話を聞かなかったり。

「一応説明しとくとね、新聞部みたいな感じだよ。紙媒体じゃないから情報収集クラブなんて名前になっちゃってるけど」

ではなぜ情報発信クラブではないのか、と聞かれると答えられないけど。
今の名前になった由来なんて聞いたことも無いし、考えたことも無い。

なんでも、前々代のクラブ長が『情報募集中!!』とチェーンメールのような内容で無差別的に宣伝したせいで、ここらの情報ならそこらのニュースより早く確認できる。
こういうチェーンメール的なものは、無視されて消えていく物じゃないかと初めに聞いた時は思ったのだが、どうもこの周辺の住民はその手の物に疎いらしい。

そういえば、一年ぐらい前に、不幸の手紙も流行してたな。

それで、そういう所から投稿されてきた情報をクラブで運営してるサイトで公開する。
それが大体の活動だ。

無論、個人名等は無し。
精々が建物単位とか店単位での情報だ。

ちなみにクラブにかかる費用はアフィで手に入れているらしい。
そりゃ非公認で活動するしかないわけだ。

自分はただ、面白い情報が優先的に知れるというだけでこのクラブに入ってしまった普通の一般人だ。
金儲けをしようなどとはこれっぽっちも考えていない。

「アルフ、まだクラブとか入って無いだろ?入っちゃおうぜ!」

確かに、色々便利だけどね。
変わった情報でも特売情報でも、何でも入って来るし。

そういえば……俺たち二人揃ってまったく質問に答えて無かったな。
今さらだけど。

テスタロッサさん、気を悪くしてないだろうか。

「んー忙しいから、毎日すぐ帰らなきゃいけないし…… 本当に情報は入ってくるんだろうね?」

「保証するぜ。とりあえず、来てみるだけ来てみたらどうだ?」

「じゃ、とりあえず行ってみるだけ行ってみるよ。宇野も来るんだよね?」

あ……れ……?
まったく気にしてないのか。
それとも、お互い別の話をしている間に忘れちゃったとか?

……まさか、な。

「俺は今日は遠慮しとくよ。他にしなきゃいけない事が有るんだ。」

「お?なんだ?」

「言っても解らないと思うけど『夜想』っていう雑誌の、最新刊を買いに行くんだ。この前初めて店で売ってるの見たんだけど、その時は手持ちのお金が足りなくてね」

あの時は残念だった。
欲しいものが金欠で買えないのは本当に悔しい。

「やそー……?よく解らんが、今日は買えるといいな。じゃ、また明日な」

「うん、じゃあね。アルフさんもまた明日」

「あぁ、また明日」


此処で二人と別れる。


俺は下駄箱で靴を履き替え家、ではなく本屋の方向へと足を向けた……




「いらっしゃいませー」

確かあの本は入り口からちょうど対角線の位置のコーナーに置いてあったはずだ。


この店は、漢字の「目」のような形に本棚を置いているため、若干通路が狭い。
端まで行くには、どこかで曲がらなくてはいけないのだが……

一本目の通路、緑色の髪をショートにしている女性が本を選んでいる。

無理に通ることもないだろう。
チャイナ服を着ているのが気になったが次へ。

二本目、車椅子に乗った少女が立ち読み、もとい座り読みをしていた。

こういう時は、便利そうだなぁ……などと不謹慎な事を考えつつ

三本目、人が居ない。

予想が外れた為に行き過ぎそうになる足を止め、棚の角に鞄をぶつけないように気をつけながら左に曲がる。

次は右に曲がる。

行き止まりまで歩いた後は、本を探す。

確かここら辺に積んであったはずだ。

ん?これは……

「ハンス・ベルメール写真集!?」

無茶苦茶欲しい……
しかしながら、自分はただの中学生。
そうポンポンと数千円もするものが買える訳もなく、断腸の思いで諦める。

関係ないけど、断腸の思いって言葉の由来って案外壮絶なんだよな。
気になって調べてみたら、何とも言えない気持ちになった記憶が有る。

それから少しして、本来の目的の物を見つけた。

若干嫌らしい気もするが、どうせ買うならと、積まれている本の下の方から綺麗な本を抜き出した。
一応、落丁や折れたページが無いかを調べた後、レジに持って行く。

「1575円になりまーす」

「ありがとうございましたー」



「いい買い物をした……」

普段より若干気分が高揚している。
自分の意志とは関係なく、足がスキップしそうだ。

紙袋に入っているだけなので非常に持ちにくい。
せっかく持っているのだからと思い、通学鞄に押し込む。

これでよし。

俺は非常に軽やかな足取りで家に向かって歩き始めた……



そして今に至ったわけだ。
今はすこしでも早く家に着こうとするために、ショートカットとなる公園を横断している途中である。

中程まで差し掛かったとき、ふと視界の片隅に何かが反射ような光を感じた。

少し気になったので立ち止まりそれを確認しようとする。
つい、と目をやると確かに木のうろで何かが光っている。

何だ……?

近づいてうろに手を入れると、それは程よい冷たさを感じさせながら、手の中に収まった。
「宝石……か?」

アクリルの玩具などにしては、やけに重量感が有るし、宝石にしては不用心過ぎる。

釈然としない物を感じつつ、その宝石を制服の内ポケットにしまい込んだ。

警察には持って行く。

持って行くが、まずは自分の用事を最優先だ。

落とし物を届けると手続きに時間がかかるんだよ……などと痛む良心をごまかしつつ、早歩きで家へと向かう。

確か、拾った日から一週間以内に警察に届ければ問題は無かったはずだ。
一週間以上後でも報労金が貰えないだけだが、早く届けても罰は当たらないだろう。


帰ったらシャワーを浴びてから本を読もうか。
宝石はいつ警察に持って行こうか。
犬に喰われたと言った宿題を明日提出するか。

などと様々な事を歩きながら頭の片隅で考えていたが、どれも考えが纏まらないから、考える事をやめた。

帰る。本を読む。
取り敢えずこの2つが達成出来れば今日は満足だ。


「ただいま」

「おかえり……今日はどうだった?二年生最初の登校日でしょ?」

「別に……大したことなかったよ」

「そう……」

非常に気まずい。
今の俺と母親が、こういう関係になったのはいつ頃からだっけ……

確か、4年前程前だ。

名字が「宇野」に変わった事とも関係している。

その時の母の狂乱もぼんやりとだが思い出せる。

何よりも衝撃的だったのが、離婚した直後、一番不安定な時期に母が俺に辛く当たった事だ。
生まれてから10年弱、無条件の愛に抱かれて過ごしていた当時の自分にとって、肯定者が居なくなった状況はとても辛かった。


嫌な思い出だからか、または昔の出来事だからか、その当時の事は詳しくは覚えていない。

きちんと覚えてるのは、全てが終わった時、既に母との溝が埋まりようの無いほどに広がっていた事だ。
今の今までずるずると引きずっていたが、いつかきちんと話し合わなければいけない。



時刻はまだ4時。
世界広しと言えども、このタイミングでこんなに面倒な事を考えながら着替えているのは自分くらいだろう。
非常に憂鬱になった。

買ってきた本を読もう。
一度だけじゃ心は晴れない。
何度も読み直そう。

読んで食べて入浴して読んで読んで寝よう。

それだけ他の事に没頭したならば、この遣る瀬無さも忘れられるだろう。

こうして進級一日目の夜は、過ぎて行った。



平穏の全てと共に、過ぎて行った。



[16769] 3話
Name: 赤砂◆ad9b75c7 ID:4c3baf91
Date: 2010/02/26 20:07
「頭いてぇ……」

昨日、もとい今日の午前4時まで起きていたから馬鹿みたいに頭が痛い。
本来ロングスリーパーなのに遅くまで起きるからこうなるんだ、俺の馬鹿。

痛む頭を抱えつつ、洗顔整髪歯磨きその他諸々をするために、俺は洗面所へと向かった……


体調を除けば、学校に到着するまでは今までの一年間とおおよそ変わり無かった。
この日常に変化が起こったのは登校後の事である。

「おはよー」

「おはよう」

今日はあの二人は学校に来てないのか?

中村さんがマサを起こさずに学校に来るとは思わないし、マサの方は体調不良になっている姿が想像出来ない。

中村さんが体調不良の場合は、マサはまともに起きないので遅刻となる。


何時頃に登校して来るだろうな……と遅刻を前提に考えていると、驚いた事に息を切らしたマサが勢い良く教室の扉を開いて現れた。
チャイムはまだ、ギリギリ鳴っていない。

「おはよう。今日はどうしたの?」

「よ、よう薄……すまんが落ち着くまで待ってくれないか……フゥ……」

「もうそろそろ先生も来るし、朝礼が終わった後に聞くよ。取り敢えず、お疲れさま」

「あ、あぁ……悪いな……」

本気で辛そうだな。
息も絶え絶えなこの様子を見るに、全力疾走してきたんじゃないかと推測してみる。

やはり中村さんが体調を崩したか?などと僅かに鈍痛を放つ頭に耐えながら考えていると、いつの間にやら朝礼が終わっていたようだ。
特に連絡事項がない日はこんなものだろう。

マサがこちらに向かって来ているため、一時間目の用意もそこそこに話をする用意を調える。

「中村さん、どうしたの? 今日は一緒に来れなかった?」

「それなんだがな……昨日からどうもあいつの様子がおかしいんだ」

話を聞くと、昨日テスタロッサさんにクラブを紹介した後、彼女と別れて中村さんと一緒に帰ったらしいのだが、どうもその途中で事が起こったらしい。

二人で仲良く帰宅している途中に、中村さんが突然
「何……?この声は昨日の夢の……っ!?」
と言い、その場で倒れてしまったらしい。

その場所は、幸いにして二人の家からそう遠くない位地だった為、マサが彼女を支えて家まで送ったとの事。

そしてその晩、心配したマサが電話をかけて話していると、またもやいきなり彼女が
「誰かが助けを呼んでる……聞こえないの!?この声が!!」
と半狂乱気味になり、宥めるのに相当な時間を有したらしい。

それで、マサも流石に拙いと思ったらしく、彼女の母親に「中村さんを休ませるべき」と連絡を入れたため、今日は中村さんは学校に来ていないらしい。

ちなみに、この二人の家庭は家族ぐるみの付き合いをしている。
一対一ですら危うい俺の家とは大違いだ。

それで今日一日は、色々と病院やらカウンセリングやらで学校には来れないらしい。


色々解らない所もあったけど、マサの説明をまとめると大体こんなものだ。
にしても幻聴って……

「中村さんも大変だな。早く良くなるといいんだけど」

「あぁ……そうだな……」

流石のマサもへこむ、か。
それにしても、助けを求める幻聴って……

「薬でもやってるのか?」

確認するように、小さく呟く。
まぁ確実に有り得ないが。

「ん、何か言ったか?」

「いや、独り言だよ」

取り敢えず、誰にも休んでる理由は言わない方がいいな。
人の善行は伝わりにくいが、悪事は一瞬で広まる。
実際何も悪いことはしてないだろうけど、幻聴で休んでると聞いて誰も良いイメージは持たないだろう。

マイナスイメージにしかならないこの事は、俺達二人だけの秘密にしておいた方が良い。

中村さんの母親も、学校には「家の用事で休ませます」と言っているらしいし。

「マサ、判ってるとは思うけど、くれぐれも言いふらさないようにね」

「もちろんだ。そっちこそ他の奴らには黙っといてくれよ。あいつはあれで、なかなか繊細なんだ」

その性格に気付いてるなら恋心にも気付いてやれよ。
直接そうは言えない自分のこの性格がもどかしい。

「今日はクラブに行かずに見舞いに行ってあげなよ。そうしたら中村さんも元気出ると思うし」

「昨日の時点で、『会えるようになるまで会いたくない』って言われたんだよ俺。だから向こうがOKを出すまで俺からは会いに行かないぜ」

結構深刻なんだな。
早く復帰出来ればいいんだけど……などと考えつつ、マサの話に適当に相槌をして終わらせた。
もうそろそろチャイムが鳴る頃だし。

俺は一時間目の始まりのチャイムが鳴る少し前に、準備を終わらせて椅子に座った。
先生は数分遅れで入ってきた。

せっかくきちんと用意をしたというのに。

若干の不満を胸に抱え、俺は挨拶をするために他の皆とともに立ち上がった。
今日も一日、頑張ろう。



色々と授業を受けて今は六時間目、国語の授業を受けている所だ。
本日最後の授業ということで若干テンションがあがる。

授業は、十分位毎に更新される黒板の内容をそのままノートに写すだけの単純な作業だけである。

当然ノートを書いた後は、先生が注釈やらポイントについて講釈をたれる訳だが、殆ど聞いていない。
不良ぶってるわけでもなく、単に必要ないだけなんだけど。

聞かなくてもテストで100点が取れる、などとは口が裂けても言えないけど70点ぐらいなら安定して取れる。
すべてにおいて「中の上」を目標にしている俺にとってそれ以上の点数は特に必要無いのだ。

いつもはこの余った時間を、机の影に隠して本を読んだり腕枕で寝たり様々な手段を講じて授業からのエスケープを図るのだが、今日は少し違った。
不思議なものを見つけてしまったのだ。

今もそう、どのタイミングで視線を向けてもテスタロッサさんが猛烈な勢いでノートに何かを書き込んでいる。
もしかして先生の話を全部書き留めていってるのか?

まさか、な。

ノートなんてものは自分だけが解ればそれでいいのだ。
現に俺のノートはそうしてる。
他人に見せても「ミミズしかいない」などと言われるレベルの汚さだけど、俺は読めるので特に問題ないのだ。

まぁ転校したばっかりで頑張ってるってだけかな。
学期途中の転校と違って、授業の進度は大体どの中学校も一緒だと思うし。
外国の授業がどんな物かは知らないけど、義務教育中の中学一年生がする勉強なんてどこも大差ないだろうしね。

結局ちらちらとテスタロッサさんを観察するのにも飽きて、最後の20分間は寝てしまった。
時々オーバーヒートしそうになってるテスタロッサさんは可愛かったけど。



ウェストミンスターの鐘、すなわち学校のチャイムが鳴った。
今日の学校の終わりの合図だ。

学校のチャイムにウェストミンスターの鐘なんてイカつい名前が付いていると知ったときは結構驚いたな、関係ないけど。

今日は架空の犬に喰われたはずの宿題を提出したが、特に何も言われなかった。
もしかしたら最初からお見通しだったのかもしれない。

テスタロッサさんに経緯を話したら笑われたけど。
若干打ち解けたかも知れない。

「薄、今日はクラブ行くんだろ?」

「あぁ、行くよ。そう言えば昨日のあの後、テスタロッサさんは結局どうなったの?」

うっかりしていた。
今日一日中、昨日の話を聞くことをすっかり忘れていた。

「それなんだけど、やっぱり少し考えさせてくれだってよ。まぁ転校して一日じゃ決められないよな。引っ越しの片付けでも有ったのか、すぐに帰っちゃったし」

引越しの片付けか。
普通は転校してくる数日前には終わらせておくもんだと思うんだけどな。
ちなみに今日は、さらに早く、学校が終わると同時に飛び出して行ってしまった。

そういえばどんな家に住んでるんだろう、テスタロッサさん。
家族構成とかも聞かないし。
まだあまり話して無いっていうのもあるんだけど。

明日はメールアドレスでも聞いてみようか。

言葉は通じるっていうのは昨日の時点で分かってるんだけど、人種の壁は大きいね。
容姿も、人並み以上に整ってるし。

話すときは結構緊張する。


「取り敢えず、クラブに行こうか」

「おう! そうするか!」


二人で移動している途中に、ふと、懐に手を入れると、そこには昨日から入れっぱなしにしている宝石が有った。
そういえばこの宝石も、早くどうにかしないとと駄目だな。

「そういえばマサ、突然だけどこの石の種類とかわかる?」

俺は石を取り出しつつ、もしかしたら……程度の期待を抱き、マサに聞いた。

「なんだその石? まさか……宝石か!?」

この反応はハズレみたいだな。
むしろ宝石についての薀蓄を語られてもしょうがないから、こっちの方が良かったかも知れないけど。

「昨日俺、本買いに行ったでしょ?クラブに行かずに。その時に拾ったんだ」

「まさかネコババか!? 犯罪だぞ?」

「違うよ……一応警察に届けようと思ってるんだけど、ただの綺麗な石だったら赤っ恥でしょ? だから届ける前に、この石が価値の有る物かどうか知りたかったんだ」

警察に持って行って「これはただの石だから持って帰っていいよ」なんて言われた日には、遺書を書いて東尋坊や三段壁に行かなければならない。
そしてテレビで「十四歳の少年が石と宝石を間違えたために自殺しました」と報道されるのが夢だ。
嘘だけど。

ガラ、と扉を開く。

「お久し振りです、先輩」

「久しぶりね、薄君」

この人が、普段からクラブの中心となっている人である。
三年生がまだ在校中の時から、二年生の彼女がリーダーシップを取っており、中々の信頼も得ていた。
文科系クラブの上下関係の緩さが無せる技であろう。

そして、元三年生が卒業した今となっては彼女が年齢と信頼、共にトップになっているのだ、多分。
昨日の集まりには顔を出さなかったため、詳細は解らないが。

「なんか変わったことは有りませんか? 最近」

「それなんだけどね、新入生をどうやってスカウトしようかな~って昨日から考えてるの。何かイイ案無いかしら?」

「新入生……ですか。そういえば昨日マサが連れてきた彼女はどうでした?」

「あぁ~あの子ね。彼女さえ良ければいつでも入ってもらいたいんだけど。まぁそれは置いといて、私が言ってるのは1年生の方ね」

「大規模な宣伝は駄目なんですよね、確か。興味を持ってもらうために面白いネタでチラシ作ってそこらに張るとか駄目なんですか?」

「それナイス! 丁度面白そうなネタ有ったし、今から向かって確認してきてくれない? 他の皆もちょっと来て~」

え、本気で。
流されるつもりで言ってみたんだけど。

「え~と、面白そうなネタになりそうな情報がこの前から幾らか溜まってきてるから、皆でそれの裏付けとか取って紙媒体で面白おかしく語ってこのクラブの知名度を上げたいと思いま~す。今から其々の携帯に行って欲しい場所についての情報転送するから各自で頑張ってね~。今日はもう解散で適当に取り組んでくれていいから」

間延びした喋り方なのにこの頭の回転の速さと指示の迷いの無さ。
いつもの事ながら若干の違和感を感じずにはいられない。

これだけ喋った後、彼女は端の方に置いてあるパソコンへと向かった。

「今日は解散なんですよね? じゃ、先輩、お先に失礼してもいいですか?今日警察に落し物届けに行かなくちゃいけないんで」

「いいわよ~。けどこっちのも忘れないでね。携帯に送っとくから。」

「解りました。では、失礼します」

「ばいば~い」

挨拶を済ませた後、入り口付近に居たマサに声をかける。

「マサはどうする? 一緒に帰る?」

「あぁ、一緒に帰ろうぜ。 センパーイ!!俺も帰っていいっすかァー!?」

「いいわよ~。今日はもう解散だから。他の皆も、もう帰っていいわよー」

「OKもらったぜ。帰ろうか」

「そうだね、帰ろうか」

いつもの事ながら上下関係の境界が曖昧だな。
そういう所もこのクラブが好きな理由だけど。



学校を出て、二人で話しながら帰っていると携帯の着信音が鳴り出した。

「おい薄、お前レベルアップしてんぞ」

「着信音だよ……」

知っている人なら知っている独特のレベルアップ音が俺の携帯電話のメールの着信音なのだ。
寝ている時に耳元で「よぉー! ドドドン ドドドン ドドドンドン はぁっ!!」などと鳴られると若干怖いけど、中々のお気に入りだ。

「多分、先輩からのメールだと思うんだけど……」


From:なっちゃん先輩
題名:Fw:危険地域!!
本文:初めまして、Pert Ripと申します。
   突然ですがこれからの季節、長い石段の有る神社は危ないので
   近づかない方がいいですよ?

   PS:こっから私だよ〓
     ↑の場所探してきてね〓
     見つからなかったら見つからなかったでもいいよ〓〓


「……何だ? このイコールみたいなの」

「絵文字だよ……機種違うから見れないってあの人には言ってる筈なんだけど……」

それにしてもこの内容だ。
折角Pert Ripさんとやらが危ないから近づくなって言ってくれてるのに……

まぁ探しに行くけど。

「それにしても、この近くで長い石段の有る神社なんて有るの?」

「あ、俺知ってるかも」

「何処?簡単に説明してよ」

「俺んちの近くに自転車屋有るだろ?そこを山の有る方に曲がって、しばらく真っ直ぐ行って…………」

そっちの方向は普段から全くと行っていいほど行かないから知らなかった。

帰って着替えたら、道を忘れないうちにそっちに行ってから警察に持っていった方が良いな。
危ないって言っても昼なら大した事無いと思うし。

そうこう言ってる間に別れる場所まで来てしまった。

「マサも、先輩からメール来たら頑張りなよ」

「そっちこそ。危ないって言ってるんだし、気をつけろよ?」

「当然。じゃ、また明日」

「おう、また明日な」

俺たちは軽口を交わしつつ、お互いの家に向かって歩き始めた。


帰ったら着替えて、適当に準備をして家を出よう。
神社の後は警察に行くのだから、一応生徒手帳とかは持っていった方がいいかな……


俺は、そのどうやら危ないらしい神社へと向かうために、若干の早足で家へと向かった。



[16769] 4話
Name: 赤砂◆ad9b75c7 ID:4c3baf91
Date: 2010/02/28 10:59
「ただい……」

ガッ、と言う反応に言葉を遮られる。
家の鍵が開いていなかった。

とりあえず、自分の鞄に入っている鍵でドアを開けて入る。
玄関で靴を脱ぎ、服を緩めながら自分の部屋へと向かった。

自分の部屋に入った後は、適当に制服をハンガーにかけつつ、私服へと着替えていく。
今日はジーパンに無地で茶色のタートルネックだ。

着替えた後は財布やら生徒手帳やらを取り出して適当にポケットに詰め込んで、今更な気もするが宝石はハンカチで包んでポケットに入れておく。

多分、これでいいだろう。
宝石の傷付けない運び方なんて知らないし、単なる好意でやろうとしてるんだから。

部屋を出て、冷蔵庫から飲み物を取り出しコップに移して飲む。
ついでに、メモ用紙に「晩には帰る」と書いて机の上に置いておこう。
棚に置いてあるママチャリの鍵を持ち、家を出て家の鍵を閉める。

とりあえず、マサの家の近くの自転車屋とやらを目標にすればいいか。
俺はママチャリのスタンドを蹴っ飛ばし、ケセラ・セラの精神で移動を開始した……



なんとか、迷いながらも情報にあった神社まで来ることができた。
単純に高低差のありそうな場所に向かって進めば良いとは思わなかったな。

今は石段を登っているのだが、どうにも落ち着かない。


確かに何もない、平日のこんな時間から人が参拝しに来るような栄えた神社では無いと思うけど、何処か異空間然としている。
世界から隔絶されているようだ。

何が自分の心を此処までざわつかせているのか、その理由はすぐに知れた。

生きた音が聞こえないのだ。
普段なら耳にする自動車の走行音や話し声、犬の鳴き声や鳥の囀り。

そのどれもが聞こえない、と言っても決して無音では無い。
木々がざわめいているのだ。

まるで侵入者に対する警告を出しているように……


この音のせいで、無音よりむしろ恐怖感を煽る……のだろう。
何が怖いのかを考えているうちに、何が怖かったのか解らなくなってしまった。

恐怖……それは謎が有るゆえだ。
今となっては恐れるものは何もない。

しかし、石段のすぐ横は林になっているし、これで夜に来ていたなら確かに心霊スポット扱いくらいにはされそうだ。

俺は幽霊の正体見たり枯れ尾花、と満足して石段を登りきった。
意味は少し違うかも知れないが。
結局何が危険だったか解らなかったな。

丁度鳥居の下で後ろを振り向いて海鳴を一望すっ!?

「いっつつ……ちょっと擦りむいたな……」

誰も見ていないと思って、勢いをつけて振り向いたのが間違いだった。

靴で丸い石ころを踏んでしまってバランスを崩した、らしい。
らしい、というのは辺りにそれらしい石が見つからなかったからだ。
恐らく転んだ際に、石段の下の方へと弾き飛ばしたのだろう。

もしかしたらこれが神社が危険と言われた原因かとも思ったが、自分の中でその思いを打ち消した。
あまりにも馬鹿らしい危険だ。

鳥居の上に石を乗っけようとする人間が居るからこういう事になったのだ、とも思ったがどうにも違うらしい。
境内の中ほどまで進んだ後、鳥居の上を見てみたが、何一つ乗っている物は無かった。

憤りを感じていた対象が実は存在しないものと解ったせいで、胸にもやがかかった気分になってしまった。
ついでにそんな馬鹿なことに腹を立てていた自分にも呆れて、テンションも下がってしまった。

最後に、適当に境内を見回るだけ見回って帰ろうと思う。
一応手水舎で清めておく。


普通に参拝してみたが、当然のごとく何も無かった。
Pert Ripさんは何が危ないと言いたかったのだろうか……

普通にみれる場所は見終わったので最後に適当に林の中に入ろうか、などと木々の方を見ながらぼんやりと考えていると、遠くから犬の鳴き声が聞こえてきた。
鳴き声からして小型犬だろう。
小さいのにこんな場所までお疲れ様だ。

林の方に向けていた体を鳥居の方へ向けなおし、自分の家へと帰ろうとする。

神社の中をうろついて、あまつさえ林の中に突撃しようとしている姿を見られるのは勘弁だ。

今から帰って、石段ですれ違えば「一人で少年が神社に居た」というだけの認識で済む。
神社の中をうろつくだけなら参拝と言う言い訳が出来るが、林に入って行くのは色々まずい……と思う。

そんな訳で帰ろうとして、鳥居のある場所まで帰って来たのだが、この場所は意外と遠くまで見通せて気分がいい。
さっきは振り向いてずっこけた分、微妙な気持ちにもなったが。

家から少し離れただけの場所にこんな場所が有るとは思いもしなかった。
お気に入りスポットにでもしておこうか、などど考えながら石段を降りようとする。

下の方には、先の鳴き声であろう小さな犬と、その飼い主が石段を登ってきているのが見えた。
あの犬は随分と小さいのによく登ってきたな、随分とチャレンジャーなことだ……!?

突然、可視範囲を遥かに超えた光に目を眩まされた。
とっさのことで自分が既に石段に踏み出していた事も忘れて後ろに下がろうとする。

当然足を引っ掛け転ぶ。尾てい骨を強打した。
腰が痛い。

すぐさまに立ち上がろうとし、その行動を止める。

自分は今石段で転んでいるのだ。
この目が見えない状態で立ち上がって転んだら十分に死ねる。

パニックになりそうな場面でここまでの事を考えれたのは不幸中の幸いだった。

それにしても今の光はなんだったのか、日光が反射しただとかそんな生易しい物ではなかった。

徐々に回復してきた思考力で考える。

スタングレネードか?
しかし、あれは音も凄かった筈だ。
レインボーブリッジを封鎖する某映画での情報だから正しいかは解らないが。

そろそろ目の痛みもとれてきた。

今度は二の舞を踏まないように、手で光量を抑えつつ、ゆっくりとその『何か』を視界に入れようとする。
ややあって、その全貌を目にする事が出来たのだが

「なんだよこれ…………」

そこには光の柱が鎮座しているだけだった。

眩しさに耐え根元を見てみたが、何も無い地面から光の柱が伸びている。

下に向けていた視線を上の方、つまり空の方へとも向けてみたが終わりが見えない。

宇宙まで届いてるんじゃないかと思う程に、その光の柱は長かった。

しかし、その光の柱も次第に途切れ途切れになって消えていった。

俺がその突発的に現れた光の柱に対して出来た事は、阿呆みたいに茫然と見上げる事だけだった。

「一体なんだったんだ……」

感動とも驚愕ともとれない心情で光の柱が消えていった空を眺めていたのだが、ふとこの光に巻き込まれたかも知れない女性の飼い主の事を思い出し、一気に視点を空から地面に引きずり下ろした。


『ソレ』はそこに居た。
明らかにこの地球に存在しない姿をしてそこに立っていた。
自分の目を疑ったがそう簡単に幻覚が見えるわけもなく、それが本物である事は明白だった。

顎に、まるで刺突が目的のように伸びた何かを付けている、全身をどす黒い色に染めた化け犬がそこに居たのだ。

その横に目をやると女性が倒れていた。

出来の悪いB級ホラーを見せられているような気分だった。
なんで昼間からこんなことが起こるんだと言う意味の判らない出来事に対する混乱と、ライオンよりよっぽど危険そうな外見をしている化け犬に対する恐怖心が混ざり合い、俺はその光景をどこか他人事のように感じていた。

しかしそうも言ってられなくなった。
視界の中で化け犬が動いたのだ、女性のほうに。

化け犬はまだこちらに気づいていない。

このままでは目の前でとんでもなくグロい事が起こるかも知れない、そう思ったとき既に俺は石段を駆け下りていた。
善人だとは言えないが、困っている人を助ける事に疑問を挟むほど腐った性根はしていない。

化け犬がこちらに顔を向けた、胴体はまだ自分に対して横向き……!!

「離れろ!!」

横っ腹を思いっ切り蹴飛ばす。
いわゆるヤクザキックで。

一体この神社は何なんだよ!!

とっさに行動してしまったがこの状況は明らかにマズい。

しかし、どうやら助かったようだ。

僅かに10センチ程ずれただけだったが、足を石段から踏み外したのだろう、化け犬は唐突に視界から消えた。
化け犬はその巨体が災いしたのか、途中で止まることもなく猛烈な勢いで下へと転がり落ちていった。

ドッと冷や汗が出た。
考えなしで行動したが、うまくいかなかったら俺は冷や汗をかくことすらも出来なかったかも知れない。

すかさず女性に呼びかける。

「大丈夫ですか!? 起きてください!! 危ないですよ!!」

全く起きる気配が無い。
別に化け犬に襲われた様子も無いし、気絶しているだけか。

あの化け犬は……もしかして死んだか?
もしかしたら外見だけ好戦的で本来は人懐っこい種類だったらどうしようなどど混乱した頭で考える。
どっちにせよ脅威だが。

熊レベルになるとじゃれつくだけで人が死ぬし。

まあなんにせよ……助かったんだな……

一体この神社は何だって言うんだ。光の柱に化け犬。
神に護られている聖域で起こったら駄目だろ両方……

確かに凄く危険だったな、この神社。
忠告を守ってれば良かった。

もう二度と此処には来ないだろう。
と言うより近づかないだろう。

近づくだけで嫌だ。


俺は立ち上がり、深呼吸をした。
全く理解できない事が目の前で次々に起こり、更に俺自身がそのよく判らない生き物を蹴り飛ばしたことを思い出すと、膝から力が抜けてしまった。
結構ふらついてしまった。

「帰って寝るか……」



瞬間、視界が横転した。地面が迫ってくる。視界がぶれる。
体の何処かが痛い。激痛のショックで酸欠状態になる。目の裏も痛む。

「───────ッッ!!」

自分が何を言ってるのかも解らない。

反射的に右腕が抑えているのが、左腕だとその時にやっと気づいて、更に出血の量を見て血の気が引いた。
本当に血が足りて無いのかも知れないが。

周りを必死に見渡した。
何が起こったかを知ろうとした。


林の木々が一直線に薙ぎ倒されていた。
姿は見えないが、あの化け犬は恐らくその先にいるのだろう。


「嘘だろ…………」

車で突っ込んだってこうはならないだろう。
アニメじゃあるまいし、こうも簡単に木が折れるなんて一体どういう事なんだ……

痛みには慣れてきた。
出血も今見れば大して酷くも無い。
鼻血が大量に出た時の二倍程度だ。

服を切られた場所に手繰り寄せて一応の止血をする。
生暖かさが気持ち悪い。

今なら走れる。

「追いかけてくんなよ……ッ!!」

化け犬が飛び込んで消えて行った方向とは反対の林の中へと飛び込む。
今から走って距離をとれば逃げ切れるかも知れない!!

しかしそう上手くはいかなかった。
目眩と吐き気がしてきた。
瞳孔が絞られ、周囲が夜のように暗くなる。
明らかにまずい。

両手を固定した状態なので走るスピードも格段に遅い。
まさかここまで走りにくくなるとは……

ついには足を引っ掛けて転倒してしまった。
今日一日で何回転べばいいんだ、と悪態をつこうとしたが、舌が縺れて上手くしゃべれない。

冗談じゃない。
立ち上がる、動けない。
今の転倒で一気に体力を失ったのだろうか。

周囲を見渡すと、数メートル先に隠れれそうな茂みを見つけた。
さっきまで役立たずだと思っていた神に感謝したい気持ちになった。

足を引き摺るようにその茂みに近づき、かき分けて少し進んだ後、限界が訪れてその場に膝を付いた。
そのまま怪我をした左肩を庇うように右肩から地面に倒れる。
頬にあたる草が痛い。
後はここでなんとかなるまで隠れているか……

ふと目の前に有る、服で隠れて見えない傷を見てみる。
心臓が脈打つために痛みが襲ってくるが、痛みを感じているなら多分、まだ平気だろう。

親指から小指まで、全ての指が動く。
神経は切れていないようだ。

血の色は、服の茶色と混ざって良く解らなかったが、手に付いている色を見る限り静脈からの出血。
これが綺麗な赤色だったらまずかった。
ドス黒い方が安全なのは変な気持ちだ

保険の授業で習った知識を総動員させてみたが、大体合ってるはずだ。
しかし、顔の近くに傷口が有ると血の匂いがキツすぎて……

ドクンと、心臓が跳ねた気がした。

あの化け犬の嗅覚はどうなっている?

心を読んだかのようなタイミングで遠くから唸り声が聞こえてきた。
階段に落ちている血の匂いでも嗅いだのだろうか。

地面に耳をつける。
ゆっくりとだが、確かに小枝を折りながら近づいて来るナニカの音が聞こえてきた。
頭身の毛も太るような気持ちで、俺はそれを聞いていた。


こんな場所であんな物に喰われて俺は死ぬのか。
意識が飛びそうだ。
まだ可能性は有る。
見つけることが出来ずに素通りしてくれればいいのだ。

果たしてそんな事が起こり得るのだろうか。
俺は一心に祈り続けた。
あの化け犬が気づかずに茂みを通り過ぎてくれる事を。
俺は一心に祈り続けた。
あの化け犬がこの茂みに向かって血の匂いが移動していることに気づかないことを。

俺は……一心に祈り続けた……

絶対に見つからない事を……


駄目だ……意識飛ぶ…………

人生初の気絶だ。
最後に閉じていく視界の中で、自分が光の中に居る事に気付いたが、その光がさっきの光の柱と同じものか、俺には解らなかった。

次に……目が覚ませますように……

ここで、完全に意識が絶たれた。


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