半分には廃墟となった廃ビルが森木の様に立ち並ぶコンクリートジャングル、もう半分は何も無い砂漠が続く土地、それが旧ピースシティエリアだ。何も無い筈の砂漠で爆音。それと共に二つの弾丸が赤渇色の重量級ネクスト『フィードバック』から黒の中量級ネクストに向けて発射された、黒い中量級ネクスト『アリーヤ』は右にクイックブースト(QB)でそれを避ける。それを見越していたのだろうフィードバックが追い討ちをかける様に左背のミサイル“POPLAR01”を発射
「―――チッ」
黒い機体、アリーヤのリンクスたる白い少女は小さく舌打ちをした。
ーーーーーーー―――――――――――――――――――――――――
「―――チッ」
俺は思わず舌打ちをしてしまう、一度データを初期化させているため前の戦闘での弾数・アーマーポイント(AP)は全回復している、戦闘に支障なし、だが今現在防戦一方だ。
フィードバックの『武器腕』“GAN01‐SS‐AW”の両腕のバズーカが咆哮を上げた。二つの弾丸を左QBで避け、再度フィードバックに視線を戻すと既にミサイルを発射されていた、ロックアイコンをフィードバックからミサイルに向け右腕のマシンガン“01‐HITMN”で撃ち落す。F,C,Sの性能の違いだろう、長所があれば短所があるのが物である、ロック速度が速いF,C,S “INBLUE”はロック距離が短いという欠点を抱えていた。
(このままじゃなぶり殺しか…ロックできないんじゃ攻撃が―――ッ!?)
ミサイルを打ち落とした後に残る煙それに二つの穴が開く、機体に衝撃。ネクストの耐久力であるAPがごっそりと削り取られた、ミサイルの爆発で視界を塞ぎそこに武器腕のバズーカを撃たれたらしい。
フィードバックの戦闘はミサイルで撹乱しつつ隙をつくり腕バズで大ダメージを与える。単純、それ故に弱点がなく鉄壁。
硬直が解けると同時に右QBでその場から移動、数秒と経たぬうちにそこに砂煙が舞い上った。
ミサイルは兎も角として近づいても弾速の遅いバズーカくらいは避けられる、F,C,S性能で此方が有利になる筈だ
オーバードブースト(OB)の使用準備、背中が開きOB専用が姿を現す。コジマ粒子が集まり放出。フィードバックはミサイルを発射させるがOBの加速の前にその追尾性能を十分に発揮する前に墜落していく、フィードバックへの接近に成功
ENが完全に切れない内に停止させ左手ブレード“02‐DRAGONSLAYER”を左背のプラズマキャノン“TRESOR”に切り替える。
マシンガンをフィードバックに連射、プライマルアーマー(PA)を削る。フィードバックは右背の高速ミサイル“VERMILLION01”を発射、応戦してくるが追尾性能を捨て高速化されたミサイル、数発当たったが殆どは目標を見失い有らぬ方向に消えていく
<機体損傷50パーセント!>
避けることは簡単だが避けない、ただひたすら腕バズに注意するのとマシンガンの連射に集中する。
フィードバックのPAが減衰。消滅を確認、左背のプラズマキャノン“TRESOR”を撃つ
プラズマキャノンはこの機体の射撃武器では一番の高火力兵器でありEN兵器である。実弾防御に特化したGA機体たるフィードバック実弾と対になるEN兵器は鬼門。そしてもう一つプラズマは別名ENグレネードと呼ばれている、グレネードとプラズマ双方はPA無しで当たると大きなダメージを受けるという特徴がある。
プラズマから発射された青い光をフィードバックは右QBで避け腕バズを放つ、それを左QBで避ける、GAは他企業よりコジマ技術が遅れている、その為かジェネレーターのAPを回復させる数値KP出力が低い。マシンガンを撃ち続けPAを回復させる隙を与えず、その間にもプラズマをもう一度撃つがやはり避けられる。当てるには何らかの工夫が必要か…
これまで御互いに地上絵を描きながらの地上戦闘をしていた。が、ここで戦況は変わるフィードバックはブースターから出る光を強めその数トンはあろうかという巨体を宙に浮かせた
「空へ逃げるか!」
アリーヤはEN消費が高い、空など飛んだらそれが更に高くなる。追いかけるのは良い選択ではないだろう
此方から一定の距離を取るとフィードバックの腕バズが咆哮をあげた、それに合わせてプラズマキャノンを撃つ。いくら安定性が高い重量級でも反動の高いバズーカを空中で撃てば反動で動きに支障がでる、此方も避けきれず二発の内の一発を食らうがプラズマを当てることに成功した。
そのとたんフィードバックの動きの切れが増す。まるで遊びは終わりだ、と今までは遊びであったと、いうように
ミサイル“POPLAR01”を発射するフィードバック、それをマシンガンと左右のQBで避ける。とたんに機体に衝撃、またAPを大きくもつていかれる
「まさか…行動を読まれた?」
QBを使用したネクストは瞬間的にではあるが音速を突破するほどのスピードが出る、その時に当てるのは困難であり、当てるとしたらQBで移動する距離を計算する必要がありマシンガンや突撃型ライフルなどの連射が利くものなら兎に角として単発、それも弾速の遅いバズーカならばかなり難しい筈だ。癖が見抜けないように左右にQBをしていたのに読まれたのか?
<機体損傷70パーセント、完全に読まれていると言うの?>
ゾッと背筋に冷たいものが走る。このままでは間違いなく負ける。OB起動しフィードバックの前から逃げ出した
旧ピースシティエリアの半分、廃ビルのコンクリートジャングルの一番高いビルの影に黒いネクストは隠れている。
荒い息遣い、自分は運動もしていないのに薄らと汗を掻いていた。
―――俺は勝てるだろうか?そんな不安が頭を過る
<ごめんなさい、貴女をこんなことに巻き込んでしまって…>
「…」
――――――――ガンッ!
<な、何をしたの!?>
「ちょっと自分に気合を入れただけです」
ちょっと強く頭をシュミレーターにぶつけただけだ。勝てない?諦める?なにそれおいしいの?相手は所詮NPC、その程度に負けるほど腕は錆付いてはいないドミナント(アホ毛)付きの俺を舐めるな!
気合を入れたら心に余裕が出来た。戦闘に支障なし、少し緊張しすぎたようだ。さぁこれからはいつもどおりの自分の戦闘をしよう
「よし、いいぞ!冴えてきた!!」
<えっと…>
正面からのぶつかり合いなら勝ち目が薄い、少し頭を使わせて貰おうか。隠れていた廃ビルが崩れる、発見されたらしい。メインブースター(MB)を起動させ、臨戦態勢へ
「じゃ、行こうか!」
――――ローディ
「誘われている様だが…」
ビル群に逃げ込んだ敵、黒いアリーヤ動く気配を見せないアイツに言い包められてのシュミレーターだがなかなかに面白い、本当にAIか、と疑うほどだ。
動きもカラードの中位リンクスより良いものだ、左右交互にQTをする癖を読まなければバズーカを当てるのは難しかっただろう。
しかし、アリーヤとは、な、懐かしい。ビル群に戦闘を移したのは此方を撹乱するためか、それ以外に目的があるのか…
感傷により深くなっていく思考を停止、ただ正面から行くだけだ
――――――――――――――――――――――――――――――――
フィードバックはアリーヤをロックしミサイルを放つ、アリーヤはそれを見て廃ビルの後ろに隠れそれを逃れる、ミサイルの全てがビルに当たり。消えたのを確認してからQBにより廃ビルから飛び出し、マシンガンを連射。
正面からの戦闘では勝てない、なら地形を利用しての戦闘だ。またしてもフィードバックはミサイルを放つがまた同じ手段で回避し攻める
「そろそろか」
それを何度か繰り返した後、相手が此方の動きに慣れ始めているのを見計らいアリーヤを飛んでいるフィードバックに向けて通常ブーストと前QBを混ぜながら高速接近。同じ行動を何回も繰り返す敵が突然違う行動を取った時、一瞬ではあるが状況が把握できなくなるのだ、AIに効くかはわからないが
バズーカを撃って足止めをしてくるが狙いが定まっていない
「成功てくれよ!」
激しい爆音と共にMBから通常のQB噴射炎より大きな光、一瞬にしてフィードバックの視界外である奴の下に潜り込む。QBの応用の一つ、二段クイックブースト(二段QB)を使用したのだ、通常のQBより速度や移動距離が大幅に上がり、尚且つ消費ENは同じ、使えればネクストの機動力を更に増強する事ができる。シュミレーターで使えるかは賭けであったが使えたようだ
マシンガンとプラズマキャノンを連射、プラズマを二発PAがある状態でだが当てることができた、大幅にフィードバックのAPを大幅に削る
<凄い…圧倒してる>
マシンガンでPAを削っているためOBでの退避は不可能、クーガー製のブースターはQB出力が低いためそれによる退避もまず不可能、フィードバックの選択肢は多くはないはずだ
フィードバックは高度を下げ捕捉しようとする。此方は前二段QBで奴の下を潜り抜け後ろを取り、クイックドリフト(QD)でフィードバックへ向き直る。あちらもクイックターン(QT)で此方を捉えようとするが重量級と中量級、QB出力の違いにより此方の方が早い。
左背のプラズマキャノンを武装解除(パージ)同時に左手のブレード“02‐DRAGONSLAYER”を構える。これは長さを犠牲に威力を上げたダガーブレード、同時にEN兵器。距離はQB二回分といったところ避けることはまず不可能。マシンガンとPA減衰の効果もあるプラズマによりフィードバックのPAはかなり減衰しており無いに等しい。決まれば必殺の一撃
ブースターが自動調節され高出力で噴射、盛り上がっている砂の山をスキージャンプ台のように使い飛んでいるフィードバックへ一挙に肉薄しブレードを形成
「堕ちろ!フィードバック!!」
―――鈍い爆音
ブレードは宙を切った、バズーカの衝撃でわざと体制を崩し、フィードバックはブレードを避けたのだ
「そんな…馬鹿な」
ブザー音が鳴り響き画面が暗くなる、恐らく撃墜されたのだろう。肩の力が抜け、溜息が出た。
<本当に凄い…貴女の勝ちよ!>
「はぇ?」
フィオナさんの予想外の発言に抜けた返事で返してしまう。そんな馬鹿な、勝因情報をAMSから検索、確認
――――タイムリミットによりAP勝利
「ナニコレ…カッコ悪い」
<そんな事ないわ、今システムをシャットダウンさせね。ゆっくり休んで>
無駄に疲れた気分だ、額から液体が垂れる、恐らく汗だろう。帰ってシャワー浴びよ
「勝ちましたー」
あまり誇れたものでもないがとりあえずアブ・マーシュへと報告する
「ああ、見ていた――――っ!」
此方を見たい瞬間に彼の顔は次第に険しくなっていき続けてこう叫んだ「ミリーズ、救護班を呼べ!お前も早く止血しろ!!」と
救護班?止血?何を言っているんだ?さっきから汗が酷いので手で拭っていたのだがその手が偶然眼に入った。
―――――紅く染まった手、紅い液体、即ち血液
「あの時か…」
なぜか冷静になれた、どうやら気合入れた時に強くし過ぎたらしい。致死量って奴なんじゃないか?これ。足の力が抜けてその場に崩れ落ちた、意識が薄れ-――
―――ブラックアウト
――――――――――――アブ・マーシュ
これはどう言うことなのか、元より分が悪い賭け、ミリーズは「現役のレイヴンがリンクス候補生にシュミレーターで負けた事実がある、可能性はゼロじゃないぞ?」と余裕の顔で言う。確実に負け勝負、ただの訓練経験も無い少女がカラードのトップクラスリンクスの一人に戦闘で勝つ、としたらそれは奇跡の親戚とまで言われる『ジャイアントキリング』以上の奇跡を起こすしかない。だが私は知っている、奇跡などと言うものは愚者の考えでありそんなものはありえしないと、だとしたら…これはどういうことだ。
画面にはアリーヤが勝った事をしらせるWINの文字が青々とある、放心状態である私の背後から暢気な声で「勝ちましたー」と聞えてくる。まったくあの娘らしいと言えばらしいが、自分がどれだけのことをしたのか分かっているのだろうか?
とは思いながらもアブ・マーシュは安堵していた。
「ああ、見ていた――――っ!」
振り返り見た彼女、血塗れ微笑む少女。その姿は酷く幻想的でそしてなぜかとても危うい未来を感じさせる姿、私の頭はまるでフリーズしたかのように動かなかったが幸いにも口は動いてくれた。
「ミリーズ、救護班を呼べ!お前も早く止血しろ!!」
ミリーズもその時やっと動けるようになったのか電話してくれている。もう一度あの娘に視線を移すと気絶して倒れる寸前をなんとか受止めることに成功
ハンカチで血をふき取りながら思う、どうかこの娘は血を見ぬことを、それはこの世界ではとても難しいことなのだがそう願った
―――ジョン・ミリーズ
意外だ、意外すぎる。ミリーズは救護班に連絡した後、自らの私室に篭り思考の海へともぐっていく。
「…ク」
状況はあまり芳しくない、だが何故だろうか?
「クックック」
何故か彼の口はつりあがり押し殺せない笑いが漏れた。あぁ、何故こんなに面白いのか
ミリーズの年齢は50を過ぎ、政治家としての脂が乗っているとされる歳はすでにこえている。熟れ過ぎた実、それが自分、後は落ちるだけの筈であった。
そこに光が二つ。一つは自らの親しい友人、現ラインアークの長、ブロック・セラノの新自由都市宣言でラインアークが組織されその上層部の一人として私が呼ばれた。あの人には感謝をしている、何も無い自分を救い上げてくれたのだから。
だが、私は諦め掛けていた。あの人は確かに恩人だがどうしようもない理想主義者でもあるのだ。『来るもの拒まず』この綺麗ごとでラインアークは過去・現在においても数々の損失を被っている、その一つが政治屋の増殖による上層部の腐敗だ。
私はそれをなんとか制御し今は少しずつではあるが改善の道へと進んでいる。しかし、最大の問題である企業による圧力が残っていた、そこに丁度よくリンクス。それも間違いなく最強クラスの彼が来たそのときはやっと希望が見えてきたと思った。が、世界は甘く無いそれを痛感させられる。そう、彼はもはやネクストに乗って戦えるような体では既になく偽りの抑止力にしか為りえなかった。
私は今度こそ諦めそうになった。そこにもう一つの光、あの幼い白猫。偽りのデータを見せ、連れてきたアーキテクトには“平凡なリンクス”と思い込ませた、尚且つ軍事機密に潜入したなどとお笑いにもならない罪状で逃げ道を塞いだ。確かに軍事機密だがあそこはわざと侵入され易くしており情報を企業に流す狙いがある、そうすることで現在ラインアークは裏で複数の企業から軍事・金銭面での援助が受けられている。そして此方が確実に有利な勝負を持ちかけ、勝つ筈だったのだが…子猫かと思ったらとんだ化け物だったようだ。
「私は…」
希望が見え私は思い出す。あの宣言を聞いたときの誓いを
――ラインアークは人種、政治信条、出身、宗教の別なく自立を望む者を受け入れる。
「ラインアークの為なら…」
-――そして彼らはラインアークを通して市場経済に参加し、何者にも侵されることのない基本的な権利をもって社会に参加する自由市民となるのだ。
「…なんだってする」
-――ラインアークは自由都市である誇りを忘れず、永遠に彼ら自由市民の生命と財産を守ることを誓うものである。
何度思い出してもあの時の興奮は変わらず、私を奮い起たせてくれた。
「さぁ、私の手札はまだ残っている。駆け引きを始めようじゃあないか」
ミリーズは一人笑う。今度は、たとえ閃光のような光でもしっかり掴んでみせる。どの様に攻めようか、そんな思考を回しながらミリーズは笑っていた。