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[16290] 【習作】タイトル未定(現実→ACfa 転生・憑依)
Name: 粗製◆44e097d2 ID:d989e560
Date: 2011/01/01 19:42
初めて投稿させていただきます。
誤字、脱字、表現の指摘がありましたら、感想掲示板までおねがいします。


注意 
主人公が少女です。
こんなのACじゃねぇ!!などあるかもしれません
ACの独自解釈なども含まれるかもしれません



[16290] 一章 出会い
Name: 粗製◆44e097d2 ID:d989e560
Date: 2011/01/01 19:43
――――ゴポゴポ――――



ココは?

私…、いや、俺は確か
『今の自分』より『前の自分』を思い出す。



『俺』は一般的な大学生だったはずだ、軍オタ、フロム信者だった事を除けば一般的な大学生

しかし、今、『私』は…
ゴミ捨て場にいる、コレは正直どうでもいい
シリンダーの中に居て、中は緑色の不明な液体が私をぷかぷか浮かばせている
コレも百歩くらい譲ってどうでもいい

私の一番の問題は、『俺』が少女になっていたと言うことだった
歳は…恐らく、8~10歳といったところ
髪、白く腰までとどくロングヘアー、顔は…、鏡がないので判断し難いが触った感じはバランスが整っていて美少女なのだろう、しかも全裸だった。
胸?喧嘩を売っているのか?ペッタンコで悪かったな!

良く、SSで観掛ける転生・憑依ってヤツだな

だとしたら前の自分は死んでいるのだろう
前の俺はACfA(アーマードコア・フォーアンサー)をプレイしていたら、突然テレビが此方に倒れ掛かってきてそのまま視界がブラックアウト!!
などと言う、アホな死に方をしてしまったのかと思うと笑えてくる

「さて、どうしたものか…」
溜息混じりにそう言うと今後の事を考える

「まぁ、外に出ても汚染されるだけか」

ゴミ捨て場とは以外に良い情報源だ、なんせここがどんな『世界』なのかさえ解る、私の目の前には破棄された人型ロボット
頭と胴体は半分に切り裂かれているが、肩には良く知っている『企業』のエンブレムがあった、重装甲、堅実な実弾武装、目の前には廃棄されたGAのノーマルACがあるのだ

しかしGA領内ではないらしい、複数の企業のノーマルACが廃棄されている
そして遥か彼方には企業連の旗が揺らめいている

「時代はfa(フォーアンサー)で間違ない」

『企業連』表向きはリンクス戦争後生き残った企業が無駄な争いを避けるために結成した組織

「外に出てみたいが」

外にはコジマ汚染により汚れた空気と大地があった、枯れた草木がとてもこんな少女が探索できる環境ではないことを告げている
しかし、ココでジッとしていてもシリンダーに入っている酸素と栄養がどれほど有るかも解らない

「せめて人が来てくれたらなぁ」

人が来てくれればなんとかなるか、五分五分だ
Faのオペレーターである『セレン・ヘイズ』が来てくれるのが一番好ましい
彼女なら多少は安全にココから出してくれるだろう
他は考えるだけでおぞましい
人売りに連れ出されてアレ系の人に売られる
アスピナで変な化学実験のモルモットにされる
――――などなど不安な未来もあるのだ

「…ハァ」
考えれば考えるほど鬱になる
なんでACの世界で少女なのかと今頃になって不服に思えてきた
せめて、男 欲を言えばムキムキの
そうすればこの体よりはずっと多くの選択ができた筈なのだ

そんな事を考えていると、足音が聞えてきた

ザッザッザッ

確実にこちらに近づいてくる――気配――

希望と絶望が交わったなんともいえない気持ちだ

(頼む!セレンさんであってくれ!!)

そんな望みをあざ笑うかのように太い男の声がする

絶望――

だが、現れた男は 予想を遥かに上回った存在だった

               興



[16290] ジャックじゃないよ、ホントだよ!
Name: 粗製◆44e097d2 ID:d989e560
Date: 2010/02/12 04:39
現状況を簡単に説明するとしよう
すごく…ピンチです…



少女になっていた
ゲイヴン(?)に遭遇した←new!!




男の服は作業員用の服を頭にはなぜかレイブンACの頭部パーツ、HAD-MM/003に酷似したものを被っている
男の視線が少しずつこちらにくる、そして俺に気付いたのか、歩をこちらに進めて来たのだ。

(ヤバッ!何とか逃げないとヤラレル!!)

俺はそう判断しみずからを外界と隔離しているシリンダーのガラスを割ろうとするが
所詮は非力な少女のパンチ、ガラスは割れず痛さと絶望が残る
だが、希望を見つけ出した

俺、今少女なんだ!!

ヤツはゲイヴンそうゲイヴンなのだ、ショタならともかく俺は完璧な幼女
最高助けてくれるか最悪でも無視だ、自分の純ケツが守れることに安堵している最中に
男が俺のシリンダーの前まで近づいてきた一言

「美しい…」

は?えっと、ゲイヴン?
そうか!ジャックはジナも誘っていた、二刀流(レイヴン的な意味で)だった…

ココまで近くに来られては逃げる術もない

絶望の中、俺は考える事を止めた



Bad end







「うわぁぁぁぁぁぁ!」

ベッドの中で俺は勢い良く目を覚ました。
状況を確認する、近くにジャック(?)は居ない
窓のない、保健室的な部屋に俺は居た、幸いなことに、服を着させて頂いたらしく患者が良く着ている服を羽織っていたし尻も痛くない

安堵の息をつこうとした時、ウイィンっとした音がして扉が開いた

「ツッ…」
同時に息を呑む、ジャック仮面をしてないが同じ服、間違えなくあの、ゲイヴンだ

「気が付いたね、良かったよ」
やさしい笑顔でそう言って俺の寝ているベッドの横に椅子を用意し、男はそこに座る

「早速だけど、君の名前を…、おっと、自分から名のるのが礼儀だったね」
俺の警戒に気付いてまたはそういう性格なのかやたらとフレンドリーに話しかけてきた。

「私の名前はアブ・マーシュ、アーキテクトをしているんだ」

「アーキテクト、アブ・マーシュ…」

俺はあまりに唐突に驚きで脳が完全にフリーズした


『アーキテクト』
ネクストのアセンブルを生業としている技術者、リンクスが副業ですることも珍しくない
それほどパーツを知り尽くしていないとできない、ある種の芸術家、職人
そのなかでもアブ・マーシュ、彼はリンクスではないが名機『ホワイト・グリント』を作った天才と呼ばれるほどのアーキテクト


「今度は君の事を教えてくれないかな?」

そう問いかけるアブ・マーシュに私は戸惑った
名前などこの体にあるのだろうか?解らない

「…」

沈黙を保つ私に彼は優しく、「話したくないんだったら良いよ、今日はゆっくりお休み」
と言い部屋から出て行ってしまった。

恩人(?)に無礼を働いてしまったと、反省しつつ

「名前か…」

この体の名前、考えてなかったなぁ、と思考
しかし、脳が睡眠を求めて働かない

「明日、考えよう…」

そのまま純白のベッドに身を任せた





――――アブ・マーシュ

彼女と会ったのは全くの偶然だった
私は仕事の依頼を受け、機体アセンブルを考えてた、良いアイディアがでない…


こういう時はどんなアセンブルが外にあるのか調べて参考にするに限る
身体のコジマ汚染を避けるため、ゴミの中から拾ったのを改造した空気浄化装置つきの仮面を付けると、車で外へと飛び出す、目的地は企業が不要になったゴミを捨てる処理場だ
メカの残骸をみていると発想力が湧き上がる、芸術は爆発なのだ
私は新しく廃棄されたGA社のノーマルに近づこうとして

――閉じ込められた『天使』――を見た
髪の毛は純白、眼は澄んだ青空のような青、歳は8~10といったところ

彼女を見ていると頭の中で機体のアイディアが沸いてくる
私は物思いにふける彼女をさらに近くで見ようと近寄りふっと呟いた

「美しい…」

それからは大変だった、なぜか気絶した彼女に驚きつつ仲間を呼び、シリンダーごと自分の研究所へと連れて帰る事にしたのだ

それから天使を檻の中から出し、ベッドに寝かせ、病室の隣の部屋でカメラにて見守っている

「うわぁぁぁぁぁぁ」

彼女は勢い良く起きた後、体を入念にチェックしている、何かなくした物が有るのだろうか?と不安になりつつも病室へと足を運んだ

「ツッ…」

彼女から最初に向けられた視線はまるで獲物が狩人を恐れるような眼だった
これはまずいとフレンドリーに接し、自分の正体と職業を証し安心させる
少し落ち着いた彼女に名前を聞いてみた

「…」

沈黙、まずい発言をしてしまっただろうか?私は逃げ出すように、なるべく不自然にならぬように病室を出た。

彼女の姿を見るとアイディアが浮かんでくる、今まで欠けていたものが…

「一度、私の作った機体を倒した鴉に前以上の機体を提供することができそうだ」


自然に笑みがこぼれる、自分の作品の為ならすべてを犠牲にしてもかまわないと言われる科学者、芸術家の笑みが



[16290] 計画の修正が必要だ
Name: 粗製◆44e097d2 ID:d989e560
Date: 2010/02/12 04:37
「――っん」


俺はゆっくり目を覚ました
周りを見渡し、昨日の事を思い出していく
ゲイヴンだと思ったらアブ・マーシュで助けられて、ココに居る
よし、整理終了

「今は何時なんだ?」

生憎、この部屋には時計が無いようだ、部屋の外から物音一つしない事から早く起きすぎたと言うことだけが解る
「ん~」とこれからどうするか思考
1.二度寝 2.自分の名前を考える 3.ボーっとする

1は今、眠くないので却下、2は自分で考えると中二も真っ青な名前になりそうなので止めておく、よし、ボーっとしようと決心
しかし、暇だ、何かもっと有益なことは―――
そうだ!前世の記憶にある転生モノ主人公の特徴を思い出すことにした、きっと自分の役にたってくれるだろう

大体イレギュラー的な能力・素質がある

「俺にもなんかチート性能あるかな?」

試してみよう、ベッドから降り地面に足を付いて起つ
起て―――

「へぷッッ」

奇妙な声をだして顔面から転ぶんだ

「足が完全に訛ってやがる」

この体はこれまで起ったことがないのか?ないな、最初は変な液体の中、プールみたいな感じで足を使わなかった、次にベッド、無論足を使わない
リハビリ、キツイだろうなぁと思いながらふて寝した








それから3日後


思ったより早く歩けるようになり、アブ・マーシュから研究所内なら何所でも行って良いと許可をもらった、まだうまく歩けない足で色々な部屋を回る

研究員は少なく、何時も暇そうにしていた、曰く「自分達の仕事はあくまで先生のサポートであり、先生が設計図を作っている時は大方暇」らしい
なんでも、「アーキテクトになる為に弟子入りしたのにあまり教えてくれない」と愚痴をこぼしているヤツもいたが師が悪かったと思ってもらうしかない

そんなこんなで俺は研究員達とすぐ仲良くなれた

俺は研究員達に付き合ってもらって色々とこの体について研究する
結果的に反射神経と五感がかなり良い事が判明
運動はどうだろうと100m走を廊下でしてみたが結果は1分30秒台という数字を叩き出しおまけに25mくらい走った所でスタミナが無くなり皆の応援の元やっとゴールした時はかなり恥ずかしかった、体力、筋力はかなり貧弱だ


それともう一つ大切な事をやらないと

「ねぇ、ちゃんと準備してくれた?」

俺は今日、研究員の一人にこれから簡単なAMS適正テストをさせて貰う約束になっていた


『AMS』アレゴリーマニュピレイトシステムの略称
この適正があることによりレイヴンACの数十倍にもなる情報を人の脳を経由して高速処理+ネクストを自分の手足のように動かせる(適性値にもよる)システム


きっと自分にも有るに違いない、無ければただの少女です、本当にありがとうございます

「まぁ譲ちゃん、急かすなよ」

機械の調整をしていた

「ほらできたぞ」

AMS適性を調べる方法は多々あるがもっとも簡単な検査装置を頭に乗せて調べる
方法にする

「いくぜ、譲ちゃん」
その言葉と共に機械が作動、痛いと思っていたがそうでもなかった




ピーと終了の合図である音が鳴る





俺は装置を頭の上から外し、結果を聞きに行く

「譲ちゃん、悪い結果だぜ、『反応なし』だ」

「じょ、冗談じゃ…」
いきなりフロム信者である俺の計画(ネクストに乗って俺無敵)が波状した
要する俺はただの少女です本当にありがとうございました

俺が落ち込んでいる最中に研究員は大笑いしてどっかに行ってしまった



なんてこった…この世界での楽しみが一つ無くなるなんて、一つね


「こうなったら…全リンクスのサインをゲットだ」

俺の第2の野望!『全リンクスサインノート』

アーキテクトの職業上世界各地に行き、リンクスに機体を提供するだろう
その時にサインしてもらえば良い、こんどアブ・マーシュに提案してみよう、そういえば最近姿を見てないな、何してるんだろう?
時間はたっぷりある、明日探せば良いか、俺は自室(病室)に戻った


翌日、起きると同時にアブ・マーシュが部屋に入ってきた
寝起きの乙女の部屋に入るとは、変態か!とも思ったが俺は中身が男だから気にしない
だが次の言葉で気にしないでられなくなった

「次の仕事、君にも付いて来て欲しい」

は?何イッテルのこの人…小さな存在が全ての人なのか?ロリコン?
しかしタイミング的には最高だ


「良いですよ…、ただし条件があります」

「ん?何かな?」

聞き返してくると言うことは交渉の覚悟はあるってことか


「最初付けていた仮面(弱王仮面)を貰えませんか?」

正直、フロム信者ならぜひとも欲しいアイテムだった

「そんな物もので良いのか?」


「はい」


「では、2日で遠出する準備をしておいてくれ」


後で取りに行って大事に部屋に飾ろう、そんなことを考えながら
「場所は?」と、どんなリンクスに会いに行くか気になるので聴いてみる




「ラインアーク」

素っ気無く答えられ、私は出て行く彼を呆然と見送るしかできなかった

――――アブ・マーシュ

私はあれからずっと部屋に閉じこもり機体設計図を作っていた
彼女の動きは研究員達から聞いている
色々やっている様だ、最初の人見知りが嘘のように誰彼構わず話しかけている
騒がしすぎる程に
AMS適性検査までしたようだった、結果は『反応なし』当然だ
地球人口から全部で五十数名しか発見されていないのだから、リンクスは



今回の仕事は彼女も同行してもらおうと思う
なぜかその方がいい、と何かが私に告げている
私は感情では動くタイプではないが…彼女をココに連れてきた時は感情による行動だった
ならば、またそれに任せてみるのも面白いだろう

それから彼女の病室に行き、一緒に来ないか?と提案すると眼を丸くされたが
了承を貰えた。

それしてもあの仮面を彼女は何に使うのだろうか?まるで懐かしい物を見る様にアレを見ていた、アレは彼女と昔つながりがあったのだろうか?
調べてみる価値はあるだろう



不思議な子である




           鴉



[16290] あの台詞には何度も踊らされた(4主)
Name: 粗製◆44e097d2 ID:d989e560
Date: 2010/02/18 02:10
―――『ラインアーク』
企業支配に反対する人々が作り上げた海上都市、自由主義の町
しかし、「来るものは拒まず」その思想の為か、反企業のテロリストなどの
巣窟になっている



「これは…ないだろ…」



俺はアブ・マーシュとその他数人の研究員と共にラインアークの橋の上をトレーラーで走行している
最初のうちはココで光が逆流とかするのか、と特撮モノの撮影場に行った
子供のような事を考えていた、だが――



一時間
橋は続いている



二時間
橋はまだ続いている






四時間
かゆ…うま…

長すぎるだろ、この橋…
この橋に来る為には数日要したが、外の景色を見ていてもその景色は毎度変わるので
飽きなかった

今は見渡すかぎりの海


なにもすることが無い、アブ・マーシュは引きこもってなんかしてるし
他研究員たちも代わる代わるの運転で疲れきっているため雑談できない



暇だ…

やることが無いのでフィオナと海水浴したいなー、AMIDA飼いたいなー、などと現実逃避することにした




――数時間後



「着いたぞ」

「――んんっ?」

ゆさゆさと体を揺さぶられる、どうやら寝てしまったらしい

「早く来いよ」

「解った、ありがとう」


寝ぼけ眼を擦りながら俺はアブ・マーシュにお礼を言った
『ラインアーク』、マップは橋だけである、コジマ脳を持つ者なら誰もが考えた筈だ、この先に巨大な都市があると


それが今、俺の眼前にあると言うのだ、見ない訳にはいかない、まだ鈍い動きで窓の外を見た、そこには巨大な柱が二本あっただけだった、恐らくPVP(プレイヤーVSプレイヤー)の初めに機体が乗っているやつだろう


あれ、都市は?巨大な都市は?

混乱しつつ、アブ・マーシュの方に視線をやると
携帯電話?みたいなものでどこかに電話しているようだった




―――ウィン



機械の作動音と共に巨大な柱から扉が出現、俺達はトレーラーに乗ったままそこに乗り込む



―――ウィン



また作動音、下がっていく感じがする、エレベータか?



――ガコン



十数秒後、軽い衝撃、着いたようだ、しかし、地下などで何をするのだろうか?
俺は疑問を抱きつつ、扉が開くのを待つ



――扉が開く



人、家、ビル、そこに海上都市『ラインアーク』はあった
なるほど、ゲーム中に水の中からでていたビルはココに繋がっていたのか

グレネードで面白がって破壊していたため多少の罪悪感と共に

これ、海上じゃなくて、海中都市だろ?

そんな事を思ったが、今は関係ないだろう、フィオナも輸送列車を輸送機と言って
プレイヤーを幾度も混乱の渦に陥れた事だし


ある程度車を走らせると、遠くに大きな人型が見えた

「凄い…」

それしか言葉が出ない、動いているのは初めて見る、重厚な装甲、堅実な実弾装備
GA製ノーマルAC、既に時代遅れとも言えるモノだがACはACだ
やはり凄い、俺はAMS適性がないからこっちに乗ろう、悔しくなんてない、ホントウダヨ?

ACを眺めていたら止められた、検問らしい

「なんの検問だね?」

アブ・マーシュは検問官にそう質問していた

「ラインアークに入る為に血液サンプルを採取させてもらう」

なるほど、サンプルを採取していればなんらかの事件が起こった時に便利だろう
でも注射は昔から苦手なんだよな…、献血とかも断ってたし

サンプルを取られ体の歳が若いだけに涙腺が弱いのか少し涙眼になりながら
依頼主のお偉方が居ると思われる建物に向かった。



[16290] この際プライドは抜きだ!
Name: 粗製◆44e097d2 ID:d989e560
Date: 2010/07/25 17:50
「依頼の内容を説明させてください…」

指示された部屋に入ってかけられた最初の言葉がこれだった
それを無視して椅子に座る、アブ・マーシュとそれに着いて俺は行く
うわぁ、気まずい、相手目を丸くしてるよ…

相手は気を取り直して、俺に目を向けてくる

「可愛い娘さんですね」

「「違います」」

俺も全力☆否定、もう相手がかわいそうになってきた

「君は部屋の外で待機してなさい」

1cを手渡される、前1cで平均的な家族が一ヶ月暮らせるって聴いたような…

「わかったよ、お父さん」

邪険にされたので少し悪ふざけをしてみたが反応がない、つまらん
部屋を出て、何か面白いことがないか散策することにしよう




――パァン

刹那、軽い銃声が響く

反射的に銃声がした方に走る、まったくスーツとは走りにくい
俺は服がなかったのでアブ・マーシュからのもらい物、俺の髪と同じ白色だ
露出は控えめ、中身が男なのでとても良いがスカートはやめて欲しかった…

走りにくさと俺の足の遅さが合さり、素晴らしく時間がかかり
現場に到着した時にはすでに人だかりができていた

話を聴くにどうやら訓練中に実弾が暴発、けが人はなし

まったく人騒がせな、引き返そうと振り返る瞬間、ある標識が眼に入った





―――[AC訓練施設 この先]





やる事が見つかった!







駆け出して、約三十分が経過

「ハァ…ハァ…、広すぎる…ぞ」


わき腹が痛いしワイシャツが汗で濡れて気持ち悪い

やっと着いた目的地、室内にあるとは、シュミレーションみたいな事をしているのか?
そっとドアを掛けて覗いて見る


そこにはが渦巻いていた歓声―熱風―

大きな画面にLRの初期機体に酷似している機体が二機戦闘をしていた
対戦できるのか?後ろの方で見ていよう

一方は小ジャンプもうまくできず、サイトロックもせずにただライフルを撃つっている
一方は明らかに戦いなれた感じ、OBを使った高速戦を展開しながらも熱量とENにちゃんと余裕があるし、的確な所でブレードを叩きこんでいる

「すげぇなぁ」  「あぁ、かないっこねぇ」

そんな会話が聞き取れる中に、一つの気になる言葉を聞いた

「さすがは国家解体で活躍した元レイヴンだな」  

元レイヴンだと?戦場にネクストが投入されてから、レイヴン課業は衰退の一途をたどり
もはや数が少ないだろう、当たり前だ、レイヴンACでネクストに挑む
それは死神の前にみずから進み出ると同意語なのだ
元がつくレイヴンもかなり少ないはず、国側は大量のレイヴンを雇い、企業に対抗したらしい、活躍したならもちろんネクストとも対峙しただろう、彼の可能性がある

観戦していた一番人の優しそうなのに声をかける

「ねぇ、今勝ってる方って、誰?」
「決まってるじゃないか、元レイヴンで、伝説とまで言われた人だよ」
こんな少女が何故ここに居るか疑問に思わないのか?どうやら画面に夢中で気付いてないらしい

伝説のレイヴンとまで言われているレイヴン、つまりは今戦っているの『アナトリアの傭兵』ってことかな?




『アナトリアの傭兵』
たった一機で企業を壊滅までに追いやったリンクス戦争の英雄





丁度良い、サインをして貰おう!

俺は圧倒的とも言える戦いを流し見しながら待つ

三分後、余裕そうな男と明らかに満身創痍気味の男がACコックピットに似せて作ってある装置から出て来た

俺は余裕そうな男に近づく、例えるならナイフのような人

「貴方がアナトリアの傭兵?」

「さぁ?そう言われていたこともあったような」
曖昧な返事だが違うとも言っていない、恐らく彼で間違えないだろう

「サイン下さい」










普通に貰えた、しかもやけに上手い…

思わぬ収穫を得たが、俺はこれだけでは終わらない!
本来の目的を達成する為に訓練装置に近づく
が、そこで止められた

「子供がこんな所にくるんじゃねぇ」

呼び止められたのはさっきまで満身創痍気味だった男

「少しくらい良いじゃないですか!」
俺は反論するがそれが男の勘に触ったらしい

「餓鬼が!!」

男の手が上に上げられる

避けられるか?無理だよなぁ、相手の拳は見えるがそれを避ける運動能力がない

覚悟を決め、目を瞑り衝撃に備える

一秒―二秒―三秒―来ない?

眼を少し開ける、そこに男の拳を受止めた彼の姿があった

「女、子供相手にグーはないだろ?」
彼は男の拳を握り潰さんとばかりに力を入れているのだろう、男の顔でそれが判断できる

スゲェ!ゲームや漫画の主人公みたいだ!主人公か!

「ま、子供がこんな所に居るのは俺も反対だが」

子供じゃないよ!中身は!!

「じゃあ、私がこの人にACで勝ったらココに時々来ても良いですか?」
俺は殴りかかってきた男を指さす

 周りからドッと笑声がする、当然か訓練してきた軍人にこんな少女が挑むのだから

「まぁ、良いだろうお前もそれで良いな?」

「あぁ、異存はねぇ」

対戦相手の了承を確認、よし、眼にもの見せてやる

「フィオナ、コイツをパイロットスーツに着替えさせてくれ」
彼はそういうと後ろの方から女性が出てきた、まだ若いかなりの美人

「!うん、解ったわ」
フィオナと呼ばれた女性は俺の手を引き、連れて行くことになったようだ




俺はテンションがかなり高い、まさか一日でバカップルに出会えるとは…

数回角を曲がった所で彼女は不意に止まった
そして彼女にこう言われた「逃げなさい」と

俺、今子供だからなぁ、でも子供って感情で動き易いものだろ?
あぁ、まったく子供だからしかたがない

「大丈夫だよ、フィオナさん」
俺は彼女の頭を撫でる、子供と話すときは相手の目と同じ高さにすると良い
それを無意識でやる、凄いよ、フィオナさん!


「必ず、必ず勝てるよ『俺』は」











パイロットスーツ、う~ん、なかなかマニアックだ
体が少し締め付けられる程度の圧迫間があるし多少ブカブカだがなんとかなるだろう
無論、着替えは一人でやった、フィオナさんは手伝おうとしたが断る

俺達は戻ってきている、フィオナさん、アレから何にも喋ってくれないな
怒らせてしまったか
彼女の方を見ると、笑顔を見せてくれたので笑顔を返す
内心かなり怖いです、怒ってるよこの人…女の笑顔には騙されないぜ!

他の奴らは賭けをやっている、俺とあの男どっちが勝つかだ
殆どが男の方に賭けている
俺は自分の方にアブ・マーシュから貰った1cを入れてから装置に入る

「へっ、負けても泣くなよ?」
「えぇ、逆恨みはなしですよ?」

受け言葉に買い言葉だ、扉が閉まり開始3分前を告げる

この隙に説明書を読むことにする

「これがブースターで右手武器使用、左手武器使用と武器切り替え」
よし、大体覚えた、瞬間記憶能力とも言うべきスピードで覚えられた
さすが若い脳は違う、前の俺の五倍くらい良い


残り十秒―画面が移る、ステージはアリーナか
残り五秒―深呼吸
残り三秒―軽く眼を瞑りそして開ける
残り一秒―準備体操完了





―――GO!

「Let's party!!」
俺の掛け声と共に機体のブーストを吹かす
相手はOBでライフルを連射しながら突撃してきた、そんなんじゃあこの先きのこれないぜ?アレでは熱量とENが持たない
俺は小ジャンプで後ろに下がり、敵弾を避けながらライフルで引き撃ちする

相手の機体が止まる、EN切れか
OB展開、懐に飛び込んだ所でブレードを振る
予定通りに足に命中、<敵、脚部損傷>AIアナウンスが成果を告げる

ここまで来れば一方的な戦闘

丁度だ、俺の訓練に付き合って貰おう

小ジャンプで相手の横に移動、試しに空中切りをする、成功
それで怒ったのか機体を動かし俺を捕らえようとする
甘いぞ!相手を軸に小ジャンプで円を描くように移動、サテライトも
問題なし

続いて接近、斬り続ける
「これは俺の分、これも俺の分、全部俺の分だァァ!!」
「なにふざけて、ぐぉ」

通信は相手にしか聞えないので少女のような口調を使う必要がない

「お前が泣くまで斬るのを止めない!!!」
テンション最高値、もう誰も俺を止められないと思える程に
前世で四六時中対戦していたのでかなり腕と自負している、大学のグループ内では
一番多く勝っていた

相手が動けぬまま敵APが0になったことを確認
それと同時に青色でWINの文字が表示される

汗を拭い出てくると皆、目を丸くして俺を見ている

見世物みたいで気分が悪い、俺は自分の服を取って早々とその場を後にした




―――4主

訓練を終え、フィオナの所へ戻る、全て何時もと同じ

その途中一人の白髪の少女に声をかけられた「貴方がアナトリアの傭兵?」と
警戒し曖昧な答えで返す、企業の連中は俺のことが邪魔と思っているはず
警戒を怠ってはいけない、例え相手が少女でもだ
彼女は自身の懐に手を伸ばす、少し身構える

次の瞬間彼女の口から出た言葉は俺の予想を遥かに上回っていた
「サイン下さい」

懐から取り出されたのはサインペンとノート
俺って子供にサインをねだられるほど国民的だったか?
一様、レイヴンになった最初の日からサイン練習は怠らなかったので上手く書ける

それを少女に手渡しその場を後にする

一歩 二歩 三歩

「子供がこんな所にくるんじゃねぇ」大声が後ろから聞える
面倒は嫌いだが、そっと後ろを振り返るとさっきまで対戦していた男が
さっきの少女に手を上げようとしている
無視しても良いが子供に泣かれると気分が悪いしフィオナに何言われるか解らない
軽く息を吸い、俊足ともとれる速さで男と少女の間に割り込み振り下げられた手を
掴んで少し力を入れる
「女子供相手にグーはないだろ?」

少女を庇うと同時に男の方の顔も立ててやる

「ま、子供がこんな所に居るのは俺も反対だが」
これで万事解決、世は全てこともなし

しかし、少女の方に視線を向けるといかにも不服そうな顔をしていた
人生の経験上から解る、絶対にコイツは余計な事を言う

「じゃあ、私がこの人にACで勝ったらココに来ても良いですか?」
少女は男を指さしながらそう言った

ほら、やっぱり、面倒な事になった…

ここはそれに乗ったふりをしよう
「まぁ、良いだろうお前もそれで良いな?」
「あぁ、異存はねぇ」
異存在ってくれ、頼むから!

「よし、フィオナ、コイツをパイロットスーツに着替えさせてくれ」
着替えると言う理由でここを離れフィオナにコイツを逃がしてもらう
完璧な計画だ、誰も子供一人逃げたからと言って責めるヤツは少ない
フィオナは少女を連れて更衣室の方へ向かうふりをする

こっちは暑苦しい男達が賭け試合にしようと活動中
無論、皆男の方に賭ける、賭けになってねぇ!

数分後、戻ってきたフィオナを見て俺は驚愕
あの少女が少し大きめのパイロットスーツに着替えて居た
しかも少女は自分の方へ賭けていた、1cという大金を
この賭け誰が儲けを払うんだよ!システム的におかしいぞ!!
これで負けたらあの少女は何されるかわからない、唯でさえ可愛い、八年後にはかなりのモノになっているだろう、俺が保障する

自分の預金額を確認、厳しい出費になりそうだ…

試合開始
男の方は初端からOBで接近、実戦では死にかねない行動だ
彼女は?棒立ちか明日の方向へ移動してない事を確かめる
冷静だ、怖いほど
さっきまで騒いでいた少女か?本当に

戦闘中の動きはランカー上位のレイヴンにも匹敵している、圧倒的技量の差


結果、一方的な交戦で終了


汗を拭いながら出て来た少女を俺も含めて呆然と見ている事しかできなかった
少女は恥ずかしそうに自分の荷物をまとめて急ぎ足で出て行く
なんだ?アイツは?少女への疑問は増えるばかり、だが唯一ついえる事がある、警戒すべき相手だという事だ

――――――――――――――


アナトリアの傭兵のサインをゲットした!
コンプリートまで後 40
オペ子さん・仲介人さん、サイン
コンプリートまで後 7




[16290] 心が折れそうだ
Name: 粗製◆44e097d2 ID:d989e560
Date: 2010/02/27 21:57
「こ、これは…」

あの後俺はアブ・マーシュと合流、ラインアーク側が用意してくれた
宿泊施設へ、大部屋ではなくそれぞれが個室だ、自分の部屋へ
運ばれた荷物も無視してシャワーを浴び
その後、かなり疲労がたまっていたのか直に寝てしまった


結論、髪を乾かさずに寝た 結果、寝癖が凄い

どうすんだよ、これ?前は機械が自動で手入れしてくれたが
ココにそんな便利なものは無さそうだ
髪は女の子の命!だが俺は中身が男、髪の手入れの仕方など全く知らない…



よし、無視しよう!
これも時がたてば何かのファッションの一部になるだろう、多分!!




髪をある程度整えて服を着替える、相変わらずのつるぺた、まぁ俺も小さな存在は
好きだが…自分のだし


そんな事を考えていると、ドアをノックする音が聞えた

「はい、少し待っていて下さい」

急いで新しいワイシャツを着てドアを開けた

「遅かったじゃないか…」

断じて興ではない、アブ・マーシュだ
確信犯なんじゃないか?最初といい、今回といい

何時に無く決心した感じがしたので気に留めないでおこう

「ついて来て欲しい場所がある…」
「はい、解りました」

どこに行くのだろうか?予定もないし興味もある、ホイホイ着いて行ってみるとしよう

俺は朝食にパンを齧りながらアブ・マーシュと宿泊施設を後にした







着いたのは昼過ぎ、移動はモノレールらしき物で行い、現在倉庫(?)の前に居る


ハッテン場やその他やばい物でないことを祈りつつ俺はアブ・マーシュに着いて行く

倉庫(?)に入る扉に警備が居た、俺が入るのを見て少し眉を顰めた様子だったが
アブ・マーシュと並んで歩いていたので問題なく入れた
中も中で厳重そのもの、カメラは到る所に配置してあるし指紋開錠式の扉まである
こんな所に何があるって言うんだ?

数回扉を越え、そこには黒で塗装された『ネクスト』があった


『ネクスト』
ノーマルACの次の世代、国家解体戦争においての企業側の主力
前世代であるノーマルACを遥かに凌ぐ性能を見せるが、AMS適性が
必要であるため非常に数が少ない


いやに淡々としてるじゃないかって?いちいち驚いてたらきのこれないぜ?この世界
ある程度予想してた
しかし、このネクストどんな戦闘したんだ?機体構成がわかり難い程ボロボロだぞ

胴体と頭パーツの尖り具合から推定するに03-AALIYAH(アリーヤ)だろう
フレームは歪み、巨大な弾丸が貫通した跡、高出力の何かが掠った跡などが
幾つも見られる
ゲームでは火花が散るだけのダメージ表現だが、ココが俺の現実って事を
思い出させる

「コレがそうかね?」

後ろから聞き覚えのない声
振り返る、白衣姿の三人の男が居た、その白衣の胸ポケットには社名ロゴがあった
『TORUS』とある


『TORUS』 
ACfa登場のオペ子さん、有沢社長公認の変態企業
「あんな物を浮かべて喜ぶか、変態共が!」「面妖な、変態技術者どもめ…」
何を浮かべたのかは自らお確かめ下さい


何故ラインアークに企業関係者が?アブ・マーシュは変態企業と合わせる為にココに連れて来たのか?というかこいつ等人の事をコレ呼ばわりしなかったか?

物扱いされて喜ぶヤツはいない、俺に向けられた言葉なのか確かめるべく
相手の目を見た

「なッッ」

明らかに俺を見ていた、物を見る眼で
怖い、草食動物が肉食動物に睨まれるとこんな感じではないだろうか




「あぁぁあぁ」



近づいてくる、怖い、俺は一歩体が勝手に下がる、相手が近づく、怖い、下がる
まるで本物の少女のように恐怖するしかなかった

気付くと後ろは既に壁、怖い 怖い 怖い 怖い コワイ こわい





「ぃゃぁぁぁぁ…」
小さく叫ぶと言うかコレが現在の喉の出せる最大の音量



白衣の男の一人が俺の首筋を触り、何かを確かめている

――十秒くらいだろうか?俺には一時間に感じたが

男は俺を話すと他の男二人と話していた、何時もならハッキリ聴き取れる筈の距離だが
上手く聞えない

「―――や―――り――」
「し――わ―――――も――」
「きた―――――ア―――――」




「ふむ、ありがとう、我がトーラスは貴方に協力しよう、アブ・マーシュ」

男達は俺に興味を無くしたようで無視、良かった…

アブ・マーシュの方は黙りこんでいたが、そんなことはお構い無しに話を続けている

「我々は本社へ帰る、必要な物は後日トーラス宛にメールで知らせてくれ」
そう言い終わるとガレージを出て行った




人形の用になっている俺にアブ・マーシュは一言「すまない」と










それからは良く覚えていない、気付いたら自室に居た
何だったんだ、今日の連中は…
考えるに考えられない、思考に霞が張っているようだ

「疲れた、異常な程に…」

今日はもう寝よう、着替えもせずにベッドに入る

「何かもう…」


「心が折れそうだ」


思考を沈めた












―――――――アブ・マーシュ





すまない、彼女にはコレでは足りないだろうが、謝罪の言葉は見つからない
今のラインアークの設備、技術では私の考える機体には届かない
そんな時だ、トーラスから接触があったのは
最初は何かの冗談かと思ったが、証明書を見せて貰い、尚且つコジマ技術にもかなり詳しく、信じてみる価値はあった
相手の条件はごく単純だったが私は肝を冷やす

「君は企業連の廃棄物処理場で何か…いや、誰か拾わなかったかね?そいつを私に見せてほしい」

私はその条件を飲んだ、彼女なら協力してくれると思ったからだ
甘かった…と、言えばそれまでになるだろう
結果として彼女の精神に多大な負荷を掛けてしまった



彼女には何か、安心でして頼れる者が必要なのかも知れない…『家族』のような

「お父さん」彼女に言われた言葉を思い出す
あの時は軽く受け流していたが…

「何を考えているんだろうな、私は」
らしくもない、自分でもそう思う





ただ、夜が更けていく




―――ラインアーク上層部



「この少女がそうなのか?」
手には白髪が特徴的な少女の写真がある

「はい、間違いありません、血液サンプルを調べた結果、反応がありました」

企業ではもはやAF(アームズフォート)が主力である為、リンクス戦争前
の様にAMS適性者を貴族からスラムに住むものまで調べ上げるなどと言うことは
していないが、ラインアークは違う
AFを製造する技術も物資もない、故に必要、リンクスが
血液サンプルを取るのは治安の為にもなるし、同時に人のDNAにも関連が
あるとされるAMS適性も調べられる

「さて、どうしたものか…」
相手は客人の連れ、手を出しにくい
企業のように拉致しまう手もあるにはあるのだが自由を歌うラインアーク
あまりしたくは無い、本人の了解が得られれば良い

「子供を説得するには、やはり女性か…」

一人、恐らくもっとも適してるいと思われる人物が居るのだが…



「彼女が引き受けてくれるか…いや、一つ手があった」





それでも五分五分と言った所だが試す価値はあるだろう



[16290] これが、私の
Name: 粗製◆44e097d2 ID:d989e560
Date: 2010/03/09 17:40
――アレから二週間くらいがたった、現在、俺は人間不信、引き篭もりの真最中


「ヤバイ、俺のフロム脳の想像力の限界に近づいてきた…」


この引き篭もり生活でしていたことは、初めに荷物の整理、貰い物の服が殆どなので直に終わった、興仮面は動物の剥製風に壁に掛けたのだが不自然過ぎたので机の上に放置

次はひたすらフロム脳を活性化させていた、主にゲイヴンネタを想像していたのだが
ネタが尽き、危うくリリウム×メイとかウィンディ×エイプールとか
そこら辺に走る所寸前の所だ、危なかった…

髪の寝癖の方は何度か無視してる内に合体して某運命の腹ペコ騎士王すら超えるくらい
たくましいアホ毛に成長している、予想どうり!ファッションになりました!!
これが私のドミナントだ、良く見ておくんだな!!!

さて、いよいよ何もすることが無い、テレビも企業の宣伝ばかりでバラエティーの
一つもない、ニュースは企業の隠蔽が露骨過ぎるくらいあり見るに耐えない
当然といえば当然なのだが…

[GA製ダンボールの提供は――]

リモコンでテレビを消し、ベッドの上で大の字に寝転がる

「寝ようかな…」

夢の中に退避すれば後二週間は戦える、と思う




―――――扉を叩く音



面倒だ!無視、居留守に限る


扉の向こうから「ねぇ、居る?」と女性の声

おぉ、この淡く切ないオペレート声はフィオナさんじゃないですか!?
紳士として恥ずべき行為をしてしまった!

下着にワイシャツの寝巻き姿だが、まぁ顔だけ出して話してれば問題ないだろう

「はい、ご用件は?」

少し扉を開けて覗くようにする

「えっと…!!」

何か言いかけてフィオナさんは俺のアホ毛を凝視していた
そりゃあそうか、前は無かったからな

「寝癖をほっといたらこんなになりまして」

とりあえず、こうなった経緯を説明しておく


「!!一緒に来なさい!」
「――――え?」

部屋から引きずり出され、俺を何処かへ連れて行こうとするフィオナさん



ちょ、ちょっと待って、せめて着替えさせてくれ!頼むから!!












なんとか準備させてもらい、今はフィオナさんの部屋に居る
お嫁に行けなくなる所だった、行く気も無いけど


それで何故かフィオナさんとシャワーに入る事になりました

ば、罰ゲーム?いや、ご褒美と捉えるべきか?

「いや、服くらい自分で脱げますから」


脱がそうとするフィオナさんを止める、子供じゃないから、見た目そうでも
どうやらこうなる運命らしい、観念しよう

近くにあったタオルを体に巻き、嬉しさ半分諦め半分シャワールームへ


ミッション開始!







無修正だ、修正が必要だ>⑨







ミッション終了!


アホ毛は直らなかった、流石私のドミナントだ、何ともないぜ!
俺はすっかりのぼせていた、シャワーなんて俺は二十分くらいしかかからないのに
二時間って…後ろはなんか柔らかかったし



「直らないわね…」
まだ方法を考えているらしい、もう良いのに

「あの、最初に言いかけてた事ってなんですか?」
またシャワー二時間コースを避けるために話を逸らす

「あっ…」
忘れてたのか、女性って解らない…


「うん、ハッキリ言うね…貴女に」


俺に?ただの少女の俺に何の用かな?


「貴女にAMS適性があるらしいの」
「はい?」
予想外、確かにあの時反応なしだったのに、復活か!?『俺無双』計画!ハラショオォオ!!!

「だからね、精密検査させて欲しい…」
そう言う事は早く言って欲しかった、アホ毛に気を取られずに


「はい、喜んで!」







それから病院みたいな所へ移動、全身ドックから血液検査まで
ありとあらゆる検査を行い宿泊施設へ帰された



まさか諦めかけた夢がココに来て復活するとは…
漲ってきた!!







――――――ラインアーク上層部


「反応が曖昧だと?」
「はい、原因は不明ですが」


どういうことだ?規格外のオーメルの寵児でさえこんな事は無かったと聞くが


「それと、彼女は既にかなり異型ではありますがAMS手術を受けています」
「既に手術を?それに異型とは?」
適性があることにも驚いたが、さらにまだあるのか…

「詳しいことは全く解りませんが、私の知るAMS装置とはかなり違いますね」


ただの少女であればリンクスとして雇う形をとれただろうが、怪しすぎる
その扱いをどうするか…
あまり時間は残されていないが、もう少し検討する必要があるだろう




[16290] 閃光の産声 (前編)
Name: 粗製◆7620d800 ID:d989e560
Date: 2010/07/10 07:58
ラインアーク某所

一台の輸送車両が徐々にスピードを落としていく、装甲やガラスに焦げた後や
ひび割れがありその姿はまるで戦場を突破してきたかのようである

「くそ!あちこちボロボロだ、新車なのによう!」
続けて「あのスラム街の糞野貧民共が!!」と吐き捨てるように運転している男が言った

「その台詞は何十回と聞いた、命あってのなんとやら、だ」
その言葉を聞いて助手席に座っている男が溜息混じりに言う
彼らは運び屋である、報酬が割に合えば戦地へ弾薬を運ぶことも犯罪に加担することも
厭わないのが彼らだ

元より今回の仕事はきな臭かった
依頼主は企業、目的はラインアークへの物資提供、報酬もこれまで見た事も無い額
怪しいとは思ったが目の前の餌はとても魅力的だった。
結局、彼らは二つ返事でそれを受け、使い込んだ愛車を現企業も使っている新車に変えて
鼻歌を歌いながら意気揚々発進した。
危険があるとしても所詮スラム街、奴らが何を持っている?どうせ原始的な武器か拳銃
程度が関の山だろう、そう楽観視していたのだ。

彼らのそれは脆くも崩れ去ることになる、待っていたのはまさに『火と鉄の雨』
四方八方からのロケット弾と鉄鋼弾の洗礼が彼らを待ち受けていた。



(本当に命が在って良かったぜ)
思い出すだけで背筋に冷たいものが走る

「でもよう、ありゃ一般人の動きじゃなかったぜ?」

彼らも無駄に戦場を幾つも駆け回った訳ではない、素人と玄人の動きの差などは遠目で
見てもわかるし、素人が仕掛けたような罠にかかるほど間抜けではない

「あぁ、俺もそれは気付いた、錬度がリリアナなんてレベルじゃなかった、恐らく企業の部隊だろうな」
助手席の男は溜息混じりに言った


「俺達が運んでいるのは企業の荷物だろ、なぜ襲われる?」
「ちったぁ頭使え、単純バカ」

助手席の男は「これは推測だが」と一言、それから喋りだす
ラインアークの扱い方で企業は割れている、その原因はあの『リンクス戦争の英雄』
彼はたった一人で企業を潰した英雄だ、ヘタに手を出せば噛まれかねない
故にご機嫌を取っている連中とそれに反対する連中が居るのだろう、と

「だが奴はリンクスだろ、ラインアークにネクストなんてあったか?」

ネクストが無いリンクスなど一般人と大差ない、実戦に慣れていたとしても
企業を止める力は無い

「機体と一緒に来た可能性だってある、試してみるにしてもリスクが多すぎるだろ、
お偉方は不利な賭けは好まないもんだ。それに…」

「あの噂か…」

数週間前から真しやかに囁かれている噂がある

曰く、ラインアークがネクスト技術を研究している
曰く、リンクスも既に何人か居る

何所まで本当なのかは不明なままだが、あるアーキテクトがラインアークに入った
と言う事はネクストに関する何かをしているのはまず間違いない


「っと、目的地到着だ」

目の前の巨大な倉庫らしき建物と後ろのコンテナをドッキングさせ、一呼吸いれる
後は機械が勝手にやってくれるので終了まで待機だ

「さっさと帰って冷たいので一杯やらないか?相棒」
「あぁ、家まで安全運転で頼むぞ」



―――御互いに笑い合いながら彼らは帰路についた







建物の中、輸送して来た荷物、何十にも検査され危険がないと判断された
荷物だけが入る倉庫内、動くはずの無い『物』のなかに一つ動く『モノ』
があった

「どおぉりゃああぁあ」

幼い声と共にGAとロゴが入ったダンボールが勢い良く開く
出てきたのは白い髪が特徴的な少女

「ふぅ、侵入成功か案外呆気ないな」

少女は外見から見る年齢に見合わないほど落ち着いて―――

「じゃあ、行こうか。ホワイト・グリントを見に!!」


―――はいなかった





俺が聞いたラインアークがネクストを作っていると言う噂
なぜこんな重要な事を忘れていたのか、灯台下暗しとはまさにこの事だろう
場所は恐らくは前に行ったあのACガレージだろう、あまりいい思い出は無いがそんな重要なことが在るならACファンとして見に行かなかったら肥溜めにぶち込まれてしまう。
しかし、入るのは無理、警備が厳重すぎるし、幾つかの治安が悪い地域も通らなくてはならない。
殆ど手詰まりの状態だったが某蛇のマネをしてコンテナに紛れ込んだら入れた、恐るべき!ダンボール!!(ダンボールは宿泊していた施設の物を拝借)


廊下を進む、外に警備が集中している為か中は驚く程手薄だ
歩いて進んでいく、すると一室から聞き覚えのある声が聞えてくる、気付かれないように忍び足になり近づく

「機体改修ってレベルじゃねぇぞ!!」
「OB(オーバードブースト)が複雑すぎる、じょ、冗談じゃ」
「QB(クイックブースト)の出力が足りねぇ、おい、誰か助けてくれ!」
「助けるつもりなど元よりない…!」

見覚えのある白衣、共にラインークに来たアブ・マーシュの弟子達だ
皆、書類やパソコンらしきものと睨めっこしていた、例えるとしたら締め切り
直前の漫画家が近いのではないだろうか、表情が皆かなり参っている



「そういや、あの娘(こ)どうしてるかな…」
唐突に弟子の一人が呟く
「あの娘…あぁ、先生が連れてきた」
その呟きを聴いた弟子が反応しそれが回りに感染していく、俺を肴に彼らの談笑が開始された


「可愛かったけど、俺はもう少し育っている方が好みだ、特に胸」
「同感だ、可愛いんだけどもう少し欲しい、特に胸」
「いや、俺はあれ位の方が…」
「お前、先生が聞いたら殺されるぞ…」
「かまわん!小さな存在こそ全てだ!!」

そんな談笑が聞えてくる、ハハハ、少し頭に血が上ってきたぞ

「そういや今回のネクスト、先生はあの娘を見て閃いたとか」
「実は先生はそっちの人なんじゃないか?」
しばらく身を潜めて聞いていると談笑に混じってとんでもない事が聞えてきた

「あ、えっと、へ?」

あれ?俺ってとてもヤバイ人のお世話になってるのか?いやそんなはず…
思考が固まると同時に足が自然に下がり部屋から離れようとする

「おい、お前!!」
「ッ!」

見つかった!声と逆の方を向き走る、しかし足幅が違いすぎる為か
グングンと距離が縮まっていく、打開策を考えながら走る、とにかく走る


――――ヤバイヤバイヤバイッ!!!

急に走りだいしたお陰で呼吸が整わずスタミナの消費が思った以上に早い
息が荒れ、思考が鈍くなる、限界が近いだろう、途中に積んであった荷物を崩し時間稼ぎをする

「また俺をコケにしやがって!」

男の罵声が遠くから聞えた。少し距離を離すことに成功、曲がり角を進むと男性二人、その脇を走り抜ける、はずだった



「―――のわっ!」
腕を引っ張られ後ろに倒れそうになったが腰の辺りを支えられ倒れずにすむ
腕を引っ張り尚且つ今俺を支えている相手の顔を確認すると同時に相手から一声

「お前がどうしてこんな所に居るんだよ…」
彼は『アナトリアの傭兵』は呆れながらそう言った


「あ、えっと――」
現状は酷く不利な状況、追いかけて来る男はもう十五秒くらいで此方に来るだろう
こんな所で話している場合ではない、しかし話さなければ彼は手を放してはくれ無そうだ
――考えろ、考えろ!全フロム脳を総動員!!総監督マシーンよ!俺に力を!!!



「――小さな存在好きの変態に追いかけられていて、助けて下さい!」
この際、何もかも抜きだ!WG(ホワイト・グリント)見るまで捕まる訳には
いかないのだ、許せ…

「そうか」
彼はそれだけ言うと俺が走ってきた方を向く、そして静かに拳を構える
足音が近づいて来る、彼は深く空気を吸い
角から人影が飛び出ると「ハッ!」と言う声と共に彼は拳を繰り出した。
男に見事に当たり前のめりに倒れる

「アリャー…」
つい、同情の声が出た
「やっちまったぜ」
彼はお茶目にそう言った

狙ったかは定かではないが当たった場所は男として絶対に守らなければならない場所
即ち、脚部射突型ブレードに見事に直撃、結果、男は口から泡を吹きながら気絶


「恨むなら変態な自分を恨めよ」
彼は気絶した男にそう呟いき、俺の方に向きなおる

「お前に負けてかなり悔しそうだったからなコイツ、まぁ許してやってくれ」
俺に負けた?男の顔をじっくり見る。あぁ、シュミレーターで戦ったAC乗りか!
あの時はついつい本気を出してしまった、反省はしている。ホントウダトモ

「一人行動は避けろ、あのアーキテクトの側に居た方が安全だ。連れてってやるから来い」
「いやでも、お客さんを待たせるのもどうかと」

彼の後ろの男を見る、どことなくだが『アナトリアの傭兵』と同じ感じがする
鋭いナイフのような、感じだ

「老人は気にせず好きにするといい、待つのは慣れている」
聞き覚えのある声、しかし顔は知らない誰だろうか?そんな事を考えている内に彼にグイグイと引きずられていた

「自分で歩けますから放して下さい、苦しいですよ…」
「こっちの方が早い」

引きずられて結局つれていかれる事になった






「何をやっている、お前は…」
声からでも怒気が分かる声でアブ・マーシュが言う

これまでの経路
アナトリアの傭兵は俺をアブ・マーシュの部屋に放り込んで帰った
そして現在、正座をして説教されています、足痛い…

「だいたいお前は無茶をしすぎる!」
「はい、反省しております…」


「どうしてこんな無茶をしたんだ!」
「えっと、その…」
怒気に圧されて声が小さくなってしまう

「はっきりと言わないか!!」

もう自棄だ、言ってしまおう、なにより足がもう持たない、かれこれ三十分も経つ

「ACを見たかったんです…」
「ACを?」
「はい…どうしても見たかった、貴方の機体だけは…ごめんなさい」

諦めるよりなさそうだ、それに今回は多少迷惑を回りに掛け過ぎた、今度はそれを反省して
見に来るとしよう

「まぁACは私も好きだ、そのなんだ、来い」

ゴホンと咳払いをした後手招きをされたので付いて行く、許しては貰えたようだが
恐らく帰されることになるだろう。

廊下を二人で歩く、中々に気まずい空気だ。他に人が通れば良いのだが
生憎此処は人が少ないらしい、無言と言うのが気まずいのだろう何か話題を作ろう

「好きなんですね、AC」
「ん、あぁ好きと言うより『思い入れが深い』と言った方が私の場合は的確だろう」
「思い入れですか…聞いても?」
「長くなる、別の機会に話そう。お前は何故ACが好きなのか?」

上手く流されてしまい、俺にカウンターがきた
ACがなぜ好きか…一言でいうとロマンかな、自分だけのアセンを組み『嫁機体』を作る
まさに男の子のロマンそれがACだと思う

「なんとなく、ですかね」
ロマンだよ!なんて言う少女は少しアレなので曖昧に返しておく

「なんとなく、か、深く詮索はしないでおこう」
「そうして頂けると助かります」

そんな話をしている内に厚そうな扉の前に、アブ・マーシュはその横の装置に
自分のIDカードを入れる、途端に上のランプが赤から青に変わった

「あと少しだ、来い」
「はぁーい」


名残惜しいが仕方が無い、見れるものがあるんだ、見れないものもあるさ



[16290] 閃光の産声 (中編)
Name: 粗製◆44e097d2 ID:d989e560
Date: 2010/08/08 13:22
扉を通過して三分、何所からかオイルだろうか、機械的なにおいがする
更に進むとモーター音なども聞えてきた

彼は何所に向かって居るのだろうか、解らない
だが、その足取りからしてただ目的も無く歩いているのでない事は解る

扉をまた一つ開け放つ、一層強い機械のにおいと音がした
彼は、アブ・マーシュは後ろを振り向き白い少女に話しかける

「私が作っているネクストだ、名前は――――」
「ホワイト・グリント…」
少女の何気ない呟きにアブ・マーシュは眼を大きく見開いた




「ホワイト・グリント…」

俺は何気なくそう呟いていた、まさか見せて貰えるとは感謝してもしきれないほどだ
もっと近くで見るために前へと進む、まだまだ完成前のようで白い装甲もなく
剥き出しの機械の塊だが特徴的なコアの左右に大きく張り出したブースターユニットと
腕部肩の独特の形で判る。企業が製作したのではなくアーキテクトの製作した『異端のネクスト』ホワイト・グリントということが

十数個の牙のようにギザギザと並べられたカメラ・アイが此方を見ているような気がする
情け無い事だが少し恐怖を感じた

「完成まで…って、あれ?」

後ろに居たはずのアブ・マーシュに問い掛けようとしたが彼は居なかった
急用でも入ったのだろうか?大人しくホワイト・グリントを見ている事にしよう

再び視線を戻す、無人工業用ロボットがアームで作業をしている
その音と共に人の談笑が聞えてきた、声のする歩にはラインアークのロゴが入った黄色いツナギ服を着た男数人が談笑をしている。

移動しなければ良いだろうし、聞きたいこともある。俺はその談笑に加わる事にしよう


――――アブ・マーシュ

彼女の呟きに私は少しの間、思考の海に沈んでいた
―――なぜ彼女はその名前を知っている?

その疑問が頭の中を回り続けるがいくら考えても答えは出ない

「―-」
声を出そうとした、その声は突然の訪問者によって遮られる

「あー。君が、アーキテクトのアブ・マーシュ君かね?」
振り返るとスーツ姿の中年男性が居た

「そうだが…貴方は?」
「私はこういう者だ」
男は自分のIDカードを見せる、そこにはこうあった

〔ラインアーク上院議員 ジョン・ミリーズ〕

「上院議員殿が私になにか?」
眼を細める。政治家や企業の老人達は狸が多い、警戒するに越したことはない

「なに、簡単な話だが私は足腰が弱くてね、コーヒーでも奢ろう。さぁこっちだ」
「…」
なにやら裏がありそうだが、断れも出来なさそうだ。あの娘(こ)はACに夢中らしい
私はミリーズに誘導されながらガレージを出た







案内された部屋は椅子二つにテーブル一つに壁に絵画がある簡単な作りだ、テーブルの上には既にコーヒーが二つ置いてあり湯気がまだあることから淹れたばかりと言う事が判る
ジョン・ミリーズは奥の椅子に腰掛け、その後ろには秘書と思われる女性が控えていた

私は手前の椅子に座り、男を見据える

「そう、怖い顔をするな。まずはコーヒーを飲もうじゃないか、リッチランド産だぞ?」
ジョン・ミリーズは鼻で香りを確かめ、その後コーヒーを口に運ぶ

「回りくどいのは好きじゃないし私も暇人じゃない、単刀直入に頼む」
男を強く睨みつけて言った

「ふむ、残念だ。私は駆け引きが好きなんだが」
さも残念そうに男は顔を歪め、それから喋りだす

「君の娘…いや、違ったな。君のテストパイロットかな?是非ラインアークのリンクスとして雇いたいとおもってね」
「テストパイロット…?」
テストパイロットなど居ないが、まさか…

「惚ける気かな?あの白い髪の娘だよ」
「あの娘が…だが此方の装置では反応なしだったが、証拠はあるのか?」

狸相手に対してはどんな条件を提示してきたとしても怒り、素の自分を見せてはいけない、その瞬間からはもはや相手の流れになってしまう。交渉術の基礎の一つだ

「キミ、彼にアレを。いやはや、中々喰えない男だなぁ君も」
ミリーズが指示を出し、後ろに控えていた女性秘書がテーブルに資料を置き私はそれに目を通す。

その資料には脳波がデータ化されておりその数値はまさしくリンクスのそれであった
偽造かと疑うが偽造しても意味が無い、研究所の適性検査装置を買いなおす必要がありそうだ

「確かに。だが其方には既にアナトリアの…いや『リンクス戦争の英雄』たる彼が居る、それでは満足できないか?」
「うん、ラインアークには既に彼が居る、だがリンクスは多いに超した事はないだろう?」
「ああ、そうだな。拒否する」
確かにその通り、そんな言い分であの娘を渡す気にはなれない

「それとね、彼はとても不安定だ、君も知っているだろ?彼が『アナトリアの傭兵』だった頃の伝説は、まさに英雄だ。だが、彼の払った代償はあまりにも大きい、なにせ彼は次にネクストに乗ったらAMSの負担でどうなるか解らない状態なのだから」
「彼が、か」

当たり前だ、彼の低いとされる適正で平均的な適性者でさえ潰れそうなほどネクストに乗ったのだ、コジマ汚染だけでも相当なものだろう、当然だ。
だが、私には彼を助ける義理も恩もない。私が此処に居る理由は一つだけだ、あの人に勝った彼に最高の機体を与えること、それ以上する気も無い

「私の答えは変わらないぞ、拒否する」
「そう、か。ではこれではどうか?」

―――チャ

金属と金属が触れ合った音と共、ミリーズの女性秘書が拳銃を構えていた
まったく、ご苦労なことだ

「撃ちたければ撃てば良い、ラインアークの権威や信頼が落ちるだけの話だ。そのまま企業の軍に押し潰される事になるだろうが」


沈黙、ほんの数秒だろうがかなり長く感じられた、その沈黙を破ったのはそれを作った張本人であるミリーズの笑い声、その声を聞くと呆れた様子で秘書は拳銃を懐にしまう

「いやぁまったく、なんとも喰えない男だ、ハハハ」
ミリーズが笑い終えると途端に場の空気が変わり鋭くなった

「時間もない、そろそろジョーカーを使わせてもらうよ。電話機を」
秘書が電話機を渡し、ミリーズが何所かに電話をしようとする、それは明らかに不可解な行動、私はミリーズに「何所に電話を?」と問う

その問いを聞いてミリーズは満面にまさに悪魔のような笑顔をしながら言った

「この施設はラインアークのトップシークレット、知っているだろう?軍事機密ってヤツかな。ラインアークは自由と民主主義を掲げている。が、もちろん守らなければならないルールはある、まだまだ小さく幼い白猫がそのルールを侵してしまった。可哀想だが捕まえる為に警備に電話をね、捕まればスパイ容疑は免れないだろう、最悪死刑だろうが仕方が無い事、そう思うよねぇ?アブ・マーシュ」

「貴様ッ…」
白猫か、嫌な言い回しをする、間違えなくあの娘の事だ

強く悪魔を睨むが悪魔は更に笑みを深くして愉快そうに言う

「私も悪魔ではない、言ったとおり駆け引きも好きだが賭け事も好きでね。このままでは君も決心がつかないのだろう?賭けをやろうじゃないか、運命に任せて、参加するなら着いて来たまえ、ルールを説明しよう」

ミリーズは椅子から立ち上がり部屋を出、それに彼の秘書も付いて行った

私はそれを見送り大きな溜息をした後、既に冷めてしまったコーヒーを一気に飲み込みミリーズを追う事にした。胃が痛い、それはコーヒーのせいなのか何処かの閃光のような早さで迷惑をかける幼い白猫のせいなのか…恐らく後者だろう


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「とっつきの威力は世界一ぃぃいいぃぃ!」
俺はラインアークの工員、整備士達に射突型ブレードの素晴らしさを熱く語っている
ところだ


『射突型ブレード』
初登場はAC3、とっつきやパイルとも言われるこの武器は名の通り巨大な杭で敵を
とっつく近接用武器である、同じ近接用武器のブレードとの違いは使用回数に限りが無いブレードにたいし射突型ブレード制限がある、しかしその威力はブレードを遥かに凌ぐ
AFですら一撃の威力をもっている[最高の威力と最高の当てにくさ]をもつ武器である
FAでは『KIKU』が有名


「しかしなぁお譲ちゃん、この機体は装備すらまだ決められて無いんだぜ?とっつきを装備するなんて無茶だ」
整備士の若い男がそう言った

「いや、私にゃ解る、BFFの051ANNRが装備される筈だ、そいつを改良すればいけるはず!」

「新しい…気に入った!そいつが本当ならお望みどうりに作ってやるわい」
年配の技術者が腕まくりをしながら言った。
流石は技術屋とても話がわかる人たちだ、しかしアブ・マーシュ遅いな…

気配がしたので後ろを見ると少し青い顔のアブ・マーシュが歩いてくる。見ない間に随分老けたような…心配事でもあるのか?
彼は俺に近づくと腕を掴み短く「来い…」とだけ呟いた

「あの、何所に?」
「…」

彼の手の力が強くなっているのを感じた、少し痛い
連れて行かれる形で整備士達と別れ、ガレージを出た所でアブ・マーシュはようやく口を
開く

「これからシュミレーターで戦闘をしてもらう」
「戦闘?いきなりですね」

「すまないが詳しいことは言えない、頼む。勝ってくれ」
訳が解らないが、シュミレーターか…久しぶりにACを動かして見ますか!






パイロットスーツに着替える、前回着たものを少し改造したようなものだ、ぴっちりと体に張り付き輪郭が細部まではっきり見える、うーん、マニアック!
シュミレーターがある部屋へ移動、何故だか空気が重い。部屋に居たのはアブ・マーシュと誰だろうか?見るからに胡散臭そうな中年男性と女性が居た

「勝って来ますね」
アブ・マーシュに笑顔でそう伝えた後、装置の中に入る。それと同時に疑問が浮んだ
AMSジャック形成手術ってしたかな?まぁジャックが無かったら繋がらないその時は仕方が無いよね

ドライバーシートに座し、装置が俺の体型に調整されるのを待つ
―――数秒後、機械音

「…痛ぅ」

あまり考えたくないが頸部の皮膚などが破かれたようだ、覚悟はしていたがかなり痛いおそらく血が出ているのだろう、スーツが少し紅く滲む

情報が送られてくる、システムとの通信に成功。このさい何時手術したかは些細な事だ
辺りが暗くなったかと思うと次に見えたのは自分から見た景色ではなくネクストからの景色が見えた。砂漠と無数の廃ビル、恐らくは旧ピースシティエリアだろう、一番基本的で戦い易いMAPだ。

「さっそく来たか」
レーダーに点が四つ、三時の方向から、此方にゆっくりと進んで来ている。スピードからしてMT、どう対応しようか考えていると声が聞えてきた

<こちらオペレーター、フィオナ・イェルネフェルトです>
「フィオナさん!?」
<貴方のオペレートをさせて頂きます、それと…ごめんなさい>
「なぜ謝る必要が?」
<それは――>

けたたましい警告音、AMSからの情報を確認する。ロック警告のようだゆっくり話す暇も与えてくれないらしい、一旦会話を中断しその警告の情報と共に自分がどんな機体はどんなものかを確認


―――フレームパーツ
HEAD:03‐AALIYAH/H
CORE:03‐AALIYAH/C
ARMS:03‐AALIYAH/A
LEGS:03‐AALIYAH/L

―――内部系
F,C,S:INBLUE
GENERATOR:03‐AALIYAH/G

―――ブースター系統
MAIN:03‐AALIYAH/M
BACK:03‐AALIYAH/B
SIDE:03‐AALIYAH/S
OVERED:03‐AALIYAH/O

―――外部武装
R,ARM:01‐HITMAN
L,ARM:02‐DRAGONSLAYER
R,BACK:―-----
L,BACK:TRESOR
SHOULDER:―---
R,HANGER:―--
L,HANGER:―----


「初期機体か」

『初期機体』
プレイヤーが最初に乗る機体、LRまではフレームや武装は決まった装備だったが
4シリーズになってから支援企業を選び、その企業の標準機体が初期機となる
アリーヤは支援を受けない独立傭兵を選んだ場合の初期機

『HAALIYAH(アリーヤ)』
今は無きレイレナードの標準機体、スワヒリ語で“最高の存在”と言う意味を持つ
機体自体の装甲は非常に薄く防御をPAに依存している
その軽さ故にとても速い、リンクス戦争後も既に旧式のパーツだが最新式のパーツと比べても見劣りしないまさに傑作機


<動かなければただの的よ!>

フィオナさんが急かしてくる。そんな事言われてもどう動かせば良いんだ?
とりあえずえーっと…前に進みたい!

―――そう念じてみた

「…」
<…>

動かない、アレか?“ふっかつのじゅもんがちがいます”てやつか?

そんなことをしている間に先行していた一機のMTが射程圏内にネクストを捉え四つの砲塔から弾丸を発射―――命中、微量だがAPが削られる、此方は動けないのを良いことに当て放題だ。


「いい加減にしろ!」

その叫びと共にネクストの右腕に装備されたマシンガン“01‐HITMAN”がMT
を蜂の巣にした

<その調子よ>

どうやって動かした?確か、自分の体を動かす感じで…

―――ネクストが前へと歩く

よし、あとは通常ブースターとクイックブースト(QB)の操作が解れば大体の戦闘はいけるだろう、QBはネクストとノーマルの違いの一つだ、これは一瞬だけブースターを高出力で噴射し前後左右への瞬間移動と思わせる程の速さで移動ができ、幾つかの応用も可能、これによりネクストは旧兵器を凌駕する機動力を得ている

人の体にそんなの付いて無い、とりあえず、それに近い動きをやってみよう

QBをしようと反復横飛びをするよう情報を流す

――ダァン、ダァン、砂煙をあげながら反復横飛びをするネクスト

「やっぱりかぁ…」
<落ち着いて、何時もどおりに>

畜生!無理だぜ、こんなの!!そう叫びたくなったが泣言でMTは止まっても自縛してもくれない、プランD発動!つまり思いつくものを全部やると言う事だ

「落ち着け…自分の一番慣れ親しんだ操作だ」
頭の中にコントローラーをイメージ、QBに該当するボタンを押す

途端にメインブースター(MB)から眩い光、コジマ粒子が放出され機体は一瞬だけ音速を突破した。成功だ、まだ気を抜く事は許されない、次は通常ブースターを同じ手順で起動させ、さっきより弱い光がMBから持続的に流れ出し約五百キロまで加速

「大体解った」

残り反応三つ、三機のMTがようやくこちらを射程圏内に捕らえたようだ、ロック警告がAMSを通して送られてくる

三機のMT、一機四門、計十二門の砲塔がこちらに向けられ同時に光った

―――爆音

発射された弾丸は空しくネクストの背後に土煙を上げるだけの結果に終る。本来当たるはずだったそれを俺が前QBで避けた為だ

QTの応用の一つクイックドリフト(QD)でMTの方向に機体正面を向け、言い放つ

「歓迎ありがとう、お返しだ。“穴空きチーズ”にしてやる!」

右QTでMTの正面から退避、此方を捉えようと旋回途中の一機に左腕のブレード“DRAGONSLAYER”で斬り付けスライス、その間に残り二機にロックされるが所詮は旧式兵器、ネクストの敵ではない。左QTにより相手のロックを外す

こちらのネクストのF,C,S(火器管制システム)“INBLUE”はロック速度に長けている
そのためどんな荒い機動をしてもまず近距離ならロックが外れることは無い
また一機“DRAGONSLAYER”で斬り付けスライスした

「フィオナさん、話の続き聞かせて」
余裕が出てきたためもう一機しかいないMTから距離をとる、少し操作練習をしよう

<うん、あのね>

QB練習をしながらフィオナさんの話を聞く
彼、4主が次ぎにネクストに乗ったら生きて帰れる保障の無いこと
彼を守る、その為に俺を利用してしまった事

そんな内容だった

「…」
<彼を戦地へ行かせない為に、貴女を行かせようとした…>
優しく凛とした声で続けられる
<彼を守れるなら…そう思ってしまったの、でも彼は違った『戦場で死ぬ覚悟ならレイヴンと呼ばれた日に出来てる、守って死ねるなら上等な死に方だ』って…その他にもね>
<私もやっと覚悟ができた、これは私達の戦い…それに貴女を巻き込もうとしてしまった
でも安心して、これ以上…貴女を巻き込ませない。もちろん、怒ってるよね…だからごめんなさい>

それを聞き終えた後、数秒考え言葉を返す「そんな事ですか」と


<そんな事?何に巻き込まれようとしたか、解って言っているの!?>
「でも、それに怯えて見殺しにしたら後悔ではすまない、だから無理やりにでも手助けします」

アーマードコア屈指のベストカップルを見殺しにする気など元よりない、それにネクストに乗ってみたい、ちょっと自分をカッコいいって思ってしまった

<…>
会話もとぎれたし、そろそろ決めるか。

コントローラーをイメージし、左腕のブレード“02‐DRAGONSLAYER”を右背のプラズマキャノン“TRESOR”に切り替え、それに続いてオーバードブースと(OB)の使用準備、コアの背が開き、OB専用のブースターが姿を現す。

甲高い音と共にコジマ粒子が集まり、それを放出、約十二メートルにもなるネクストが二千キロにまで数秒で加速、MTとの距離を一挙に縮めていく。OBはその圧倒的な加速力を得る換わりにENを大幅に消費するし、ネクストの防御の要たるPAを減衰させてしまうある種の賭けに近い。もちろん使い方によっては相手から逃げる事も逆に一気に間合いを積める事も可能だ

敵をロック、“TRESOR”を発射、青い光がMTを貫通し、爆散

二機はスライス、一機はとろけるチーズにしてしまったな。この程度の相手にアブ・マーシュは何を危惧していたのだろう?

「フィオナさん、聞えてますか?これでシュミレーター終了ですよね」
<あ、う、うん、今シャットダウンさせるから少し待って>

慣れないAMSで少し疲れたな、帰って寝よう

<待って、アクセス?そんな…これは何を!>

アクシデントだろうか、かなり焦っている事が声色から判った

視界が一瞬真っ黒になり、これはなんだ?

―――MAP 旧ピースシティエリア
―――制限時間 五分
―――対ネクスト戦 敵ネクスト、フィードバック

開始まで 残り 十秒

そんなデータが流れてきた
待て。初期機でフィードバックはキツイだろ、なんとか止めてもらわなければ

「フィオナさん!どうなっている!?」
<システムに何処かからの干渉が…駄目止まらない、戦うしかないわ!敵ネクスト・フィードバックを撃破しましょう、サポートは任せて、幸運を>

―――残り五秒

もしかしてアブ・マーシュが勝てって言ったのはコイツの事か!?約束してしまったし
同じネクストだ。勝てないことは無いだろう、勝算も少しはある

―――残り三秒

覚悟を決め、深呼吸。

―――残り二秒、一秒

―――――――――――――――――――――GO!



[16290] 閃光の産声(後編)
Name: 粗製◆44e097d2 ID:d989e560
Date: 2010/12/31 23:29
半分には廃墟となった廃ビルが森木の様に立ち並ぶコンクリートジャングル、もう半分は何も無い砂漠が続く土地、それが旧ピースシティエリアだ。何も無い筈の砂漠で爆音。それと共に二つの弾丸が赤渇色の重量級ネクスト『フィードバック』から黒の中量級ネクストに向けて発射された、黒い中量級ネクスト『アリーヤ』は右にクイックブースト(QB)でそれを避ける。それを見越していたのだろうフィードバックが追い討ちをかける様に左背のミサイル“POPLAR01”を発射

「―――チッ」
黒い機体、アリーヤのリンクスたる白い少女は小さく舌打ちをした。


ーーーーーーー―――――――――――――――――――――――――




「―――チッ」
俺は思わず舌打ちをしてしまう、一度データを初期化させているため前の戦闘での弾数・アーマーポイント(AP)は全回復している、戦闘に支障なし、だが今現在防戦一方だ。

フィードバックの『武器腕』“GAN01‐SS‐AW”の両腕のバズーカが咆哮を上げた。二つの弾丸を左QBで避け、再度フィードバックに視線を戻すと既にミサイルを発射されていた、ロックアイコンをフィードバックからミサイルに向け右腕のマシンガン“01‐HITMN”で撃ち落す。F,C,Sの性能の違いだろう、長所があれば短所があるのが物である、ロック速度が速いF,C,S “INBLUE”はロック距離が短いという欠点を抱えていた。


(このままじゃなぶり殺しか…ロックできないんじゃ攻撃が―――ッ!?)

ミサイルを打ち落とした後に残る煙それに二つの穴が開く、機体に衝撃。ネクストの耐久力であるAPがごっそりと削り取られた、ミサイルの爆発で視界を塞ぎそこに武器腕のバズーカを撃たれたらしい。

フィードバックの戦闘はミサイルで撹乱しつつ隙をつくり腕バズで大ダメージを与える。単純、それ故に弱点がなく鉄壁。
硬直が解けると同時に右QBでその場から移動、数秒と経たぬうちにそこに砂煙が舞い上った。



ミサイルは兎も角として近づいても弾速の遅いバズーカくらいは避けられる、F,C,S性能で此方が有利になる筈だ

オーバードブースト(OB)の使用準備、背中が開きOB専用が姿を現す。コジマ粒子が集まり放出。フィードバックはミサイルを発射させるがOBの加速の前にその追尾性能を十分に発揮する前に墜落していく、フィードバックへの接近に成功
ENが完全に切れない内に停止させ左手ブレード“02‐DRAGONSLAYER”を左背のプラズマキャノン“TRESOR”に切り替える。

マシンガンをフィードバックに連射、プライマルアーマー(PA)を削る。フィードバックは右背の高速ミサイル“VERMILLION01”を発射、応戦してくるが追尾性能を捨て高速化されたミサイル、数発当たったが殆どは目標を見失い有らぬ方向に消えていく

<機体損傷50パーセント!>

避けることは簡単だが避けない、ただひたすら腕バズに注意するのとマシンガンの連射に集中する。
フィードバックのPAが減衰。消滅を確認、左背のプラズマキャノン“TRESOR”を撃つ
プラズマキャノンはこの機体の射撃武器では一番の高火力兵器でありEN兵器である。実弾防御に特化したGA機体たるフィードバック実弾と対になるEN兵器は鬼門。そしてもう一つプラズマは別名ENグレネードと呼ばれている、グレネードとプラズマ双方はPA無しで当たると大きなダメージを受けるという特徴がある。

プラズマから発射された青い光をフィードバックは右QBで避け腕バズを放つ、それを左QBで避ける、GAは他企業よりコジマ技術が遅れている、その為かジェネレーターのAPを回復させる数値KP出力が低い。マシンガンを撃ち続けPAを回復させる隙を与えず、その間にもプラズマをもう一度撃つがやはり避けられる。当てるには何らかの工夫が必要か…

これまで御互いに地上絵を描きながらの地上戦闘をしていた。が、ここで戦況は変わるフィードバックはブースターから出る光を強めその数トンはあろうかという巨体を宙に浮かせた

「空へ逃げるか!」

アリーヤはEN消費が高い、空など飛んだらそれが更に高くなる。追いかけるのは良い選択ではないだろう

此方から一定の距離を取るとフィードバックの腕バズが咆哮をあげた、それに合わせてプラズマキャノンを撃つ。いくら安定性が高い重量級でも反動の高いバズーカを空中で撃てば反動で動きに支障がでる、此方も避けきれず二発の内の一発を食らうがプラズマを当てることに成功した。

そのとたんフィードバックの動きの切れが増す。まるで遊びは終わりだ、と今までは遊びであったと、いうように

ミサイル“POPLAR01”を発射するフィードバック、それをマシンガンと左右のQBで避ける。とたんに機体に衝撃、またAPを大きくもつていかれる


「まさか…行動を読まれた?」

QBを使用したネクストは瞬間的にではあるが音速を突破するほどのスピードが出る、その時に当てるのは困難であり、当てるとしたらQBで移動する距離を計算する必要がありマシンガンや突撃型ライフルなどの連射が利くものなら兎に角として単発、それも弾速の遅いバズーカならばかなり難しい筈だ。癖が見抜けないように左右にQBをしていたのに読まれたのか?

<機体損傷70パーセント、完全に読まれていると言うの?>

ゾッと背筋に冷たいものが走る。このままでは間違いなく負ける。OB起動しフィードバックの前から逃げ出した





旧ピースシティエリアの半分、廃ビルのコンクリートジャングルの一番高いビルの影に黒いネクストは隠れている。

荒い息遣い、自分は運動もしていないのに薄らと汗を掻いていた。

―――俺は勝てるだろうか?そんな不安が頭を過る

<ごめんなさい、貴女をこんなことに巻き込んでしまって…>
「…」


――――――――ガンッ!







<な、何をしたの!?>
「ちょっと自分に気合を入れただけです」

ちょっと強く頭をシュミレーターにぶつけただけだ。勝てない?諦める?なにそれおいしいの?相手は所詮NPC、その程度に負けるほど腕は錆付いてはいないドミナント(アホ毛)付きの俺を舐めるな!

気合を入れたら心に余裕が出来た。戦闘に支障なし、少し緊張しすぎたようだ。さぁこれからはいつもどおりの自分の戦闘をしよう

「よし、いいぞ!冴えてきた!!」
<えっと…>

正面からのぶつかり合いなら勝ち目が薄い、少し頭を使わせて貰おうか。隠れていた廃ビルが崩れる、発見されたらしい。メインブースター(MB)を起動させ、臨戦態勢へ

「じゃ、行こうか!」


――――ローディ

「誘われている様だが…」

ビル群に逃げ込んだ敵、黒いアリーヤ動く気配を見せないアイツに言い包められてのシュミレーターだがなかなかに面白い、本当にAIか、と疑うほどだ。
動きもカラードの中位リンクスより良いものだ、左右交互にQTをする癖を読まなければバズーカを当てるのは難しかっただろう。
しかし、アリーヤとは、な、懐かしい。ビル群に戦闘を移したのは此方を撹乱するためか、それ以外に目的があるのか…

感傷により深くなっていく思考を停止、ただ正面から行くだけだ


――――――――――――――――――――――――――――――――


フィードバックはアリーヤをロックしミサイルを放つ、アリーヤはそれを見て廃ビルの後ろに隠れそれを逃れる、ミサイルの全てがビルに当たり。消えたのを確認してからQBにより廃ビルから飛び出し、マシンガンを連射。

正面からの戦闘では勝てない、なら地形を利用しての戦闘だ。またしてもフィードバックはミサイルを放つがまた同じ手段で回避し攻める

「そろそろか」

それを何度か繰り返した後、相手が此方の動きに慣れ始めているのを見計らいアリーヤを飛んでいるフィードバックに向けて通常ブーストと前QBを混ぜながら高速接近。同じ行動を何回も繰り返す敵が突然違う行動を取った時、一瞬ではあるが状況が把握できなくなるのだ、AIに効くかはわからないが

バズーカを撃って足止めをしてくるが狙いが定まっていない

「成功てくれよ!」

激しい爆音と共にMBから通常のQB噴射炎より大きな光、一瞬にしてフィードバックの視界外である奴の下に潜り込む。QBの応用の一つ、二段クイックブースト(二段QB)を使用したのだ、通常のQBより速度や移動距離が大幅に上がり、尚且つ消費ENは同じ、使えればネクストの機動力を更に増強する事ができる。シュミレーターで使えるかは賭けであったが使えたようだ

マシンガンとプラズマキャノンを連射、プラズマを二発PAがある状態でだが当てることができた、大幅にフィードバックのAPを大幅に削る

<凄い…圧倒してる>

マシンガンでPAを削っているためOBでの退避は不可能、クーガー製のブースターはQB出力が低いためそれによる退避もまず不可能、フィードバックの選択肢は多くはないはずだ

フィードバックは高度を下げ捕捉しようとする。此方は前二段QBで奴の下を潜り抜け後ろを取り、クイックドリフト(QD)でフィードバックへ向き直る。あちらもクイックターン(QT)で此方を捉えようとするが重量級と中量級、QB出力の違いにより此方の方が早い。

左背のプラズマキャノンを武装解除(パージ)同時に左手のブレード“02‐DRAGONSLAYER”を構える。これは長さを犠牲に威力を上げたダガーブレード、同時にEN兵器。距離はQB二回分といったところ避けることはまず不可能。マシンガンとPA減衰の効果もあるプラズマによりフィードバックのPAはかなり減衰しており無いに等しい。決まれば必殺の一撃

ブースターが自動調節され高出力で噴射、盛り上がっている砂の山をスキージャンプ台のように使い飛んでいるフィードバックへ一挙に肉薄しブレードを形成

「堕ちろ!フィードバック!!」




―――鈍い爆音





ブレードは宙を切った、バズーカの衝撃でわざと体制を崩し、フィードバックはブレードを避けたのだ

「そんな…馬鹿な」

ブザー音が鳴り響き画面が暗くなる、恐らく撃墜されたのだろう。肩の力が抜け、溜息が出た。








<本当に凄い…貴女の勝ちよ!>
「はぇ?」

フィオナさんの予想外の発言に抜けた返事で返してしまう。そんな馬鹿な、勝因情報をAMSから検索、確認

――――タイムリミットによりAP勝利

「ナニコレ…カッコ悪い」
<そんな事ないわ、今システムをシャットダウンさせね。ゆっくり休んで>

無駄に疲れた気分だ、額から液体が垂れる、恐らく汗だろう。帰ってシャワー浴びよ

「勝ちましたー」
あまり誇れたものでもないがとりあえずアブ・マーシュへと報告する

「ああ、見ていた――――っ!」

此方を見たい瞬間に彼の顔は次第に険しくなっていき続けてこう叫んだ「ミリーズ、救護班を呼べ!お前も早く止血しろ!!」と

救護班?止血?何を言っているんだ?さっきから汗が酷いので手で拭っていたのだがその手が偶然眼に入った。

―――――紅く染まった手、紅い液体、即ち血液

「あの時か…」

なぜか冷静になれた、どうやら気合入れた時に強くし過ぎたらしい。致死量って奴なんじゃないか?これ。足の力が抜けてその場に崩れ落ちた、意識が薄れ-――


―――ブラックアウト



――――――――――――アブ・マーシュ

これはどう言うことなのか、元より分が悪い賭け、ミリーズは「現役のレイヴンがリンクス候補生にシュミレーターで負けた事実がある、可能性はゼロじゃないぞ?」と余裕の顔で言う。確実に負け勝負、ただの訓練経験も無い少女がカラードのトップクラスリンクスの一人に戦闘で勝つ、としたらそれは奇跡の親戚とまで言われる『ジャイアントキリング』以上の奇跡を起こすしかない。だが私は知っている、奇跡などと言うものは愚者の考えでありそんなものはありえしないと、だとしたら…これはどういうことだ。

画面にはアリーヤが勝った事をしらせるWINの文字が青々とある、放心状態である私の背後から暢気な声で「勝ちましたー」と聞えてくる。まったくあの娘らしいと言えばらしいが、自分がどれだけのことをしたのか分かっているのだろうか?

とは思いながらもアブ・マーシュは安堵していた。

「ああ、見ていた――――っ!」
振り返り見た彼女、血塗れ微笑む少女。その姿は酷く幻想的でそしてなぜかとても危うい未来を感じさせる姿、私の頭はまるでフリーズしたかのように動かなかったが幸いにも口は動いてくれた。

「ミリーズ、救護班を呼べ!お前も早く止血しろ!!」

ミリーズもその時やっと動けるようになったのか電話してくれている。もう一度あの娘に視線を移すと気絶して倒れる寸前をなんとか受止めることに成功

ハンカチで血をふき取りながら思う、どうかこの娘は血を見ぬことを、それはこの世界ではとても難しいことなのだがそう願った


―――ジョン・ミリーズ

意外だ、意外すぎる。ミリーズは救護班に連絡した後、自らの私室に篭り思考の海へともぐっていく。

「…ク」
状況はあまり芳しくない、だが何故だろうか?

「クックック」
何故か彼の口はつりあがり押し殺せない笑いが漏れた。あぁ、何故こんなに面白いのか
ミリーズの年齢は50を過ぎ、政治家としての脂が乗っているとされる歳はすでにこえている。熟れ過ぎた実、それが自分、後は落ちるだけの筈であった。

そこに光が二つ。一つは自らの親しい友人、現ラインアークの長、ブロック・セラノの新自由都市宣言でラインアークが組織されその上層部の一人として私が呼ばれた。あの人には感謝をしている、何も無い自分を救い上げてくれたのだから。

だが、私は諦め掛けていた。あの人は確かに恩人だがどうしようもない理想主義者でもあるのだ。『来るもの拒まず』この綺麗ごとでラインアークは過去・現在においても数々の損失を被っている、その一つが政治屋の増殖による上層部の腐敗だ。
私はそれをなんとか制御し今は少しずつではあるが改善の道へと進んでいる。しかし、最大の問題である企業による圧力が残っていた、そこに丁度よくリンクス。それも間違いなく最強クラスの彼が来たそのときはやっと希望が見えてきたと思った。が、世界は甘く無いそれを痛感させられる。そう、彼はもはやネクストに乗って戦えるような体では既になく偽りの抑止力にしか為りえなかった。

私は今度こそ諦めそうになった。そこにもう一つの光、あの幼い白猫。偽りのデータを見せ、連れてきたアーキテクトには“平凡なリンクス”と思い込ませた、尚且つ軍事機密に潜入したなどとお笑いにもならない罪状で逃げ道を塞いだ。確かに軍事機密だがあそこはわざと侵入され易くしており情報を企業に流す狙いがある、そうすることで現在ラインアークは裏で複数の企業から軍事・金銭面での援助が受けられている。そして此方が確実に有利な勝負を持ちかけ、勝つ筈だったのだが…子猫かと思ったらとんだ化け物だったようだ。

「私は…」

希望が見え私は思い出す。あの宣言を聞いたときの誓いを

――ラインアークは人種、政治信条、出身、宗教の別なく自立を望む者を受け入れる。

「ラインアークの為なら…」

-――そして彼らはラインアークを通して市場経済に参加し、何者にも侵されることのない基本的な権利をもって社会に参加する自由市民となるのだ。

「…なんだってする」

-――ラインアークは自由都市である誇りを忘れず、永遠に彼ら自由市民の生命と財産を守ることを誓うものである。

何度思い出してもあの時の興奮は変わらず、私を奮い起たせてくれた。

「さぁ、私の手札はまだ残っている。駆け引きを始めようじゃあないか」

ミリーズは一人笑う。今度は、たとえ閃光のような光でもしっかり掴んでみせる。どの様に攻めようか、そんな思考を回しながらミリーズは笑っていた。



[16290] 二章 決意と笑顔
Name: 粗製◆7620d800 ID:d989e560
Date: 2011/02/12 15:43
―――――ゴポゴポ――――




ここは知っている場所だ、肌から伝わる液体の感触がそう教えてくれた。ここは俺が最初に居たカプセルの中。目は開けられず、場所までは確認できない。

「【神話の御世にあって、神とは即ち力のことである】か」

どうしようか考えていると男の声が聞えてきた。声質から察するに独り言のようだ。

「作者不明の言葉だが、なかなか的を射ている。神が力だとするならば…鋼鉄の巨人が闊歩する世界を神話と捉えるのならば、私は神を作ったのだ!」

男はただ独り言を並べ、その後に狂ったように笑い出した。ここは何所だ?何故こんな所に居るんだ?解らない。ただ、意識が遠くなっていった。









「んっ、あ…れ…?」

ラインアークにある病院。その一室、少女は静かに目を覚ました。まだ頭が目覚めてはいないのか上半身だけを起こしただボーっとしている。

「女の子?ああ…そうか」

寝ているベッドの少し遠くにある洗面台の鏡が眼に入り、それに映った白髪碧眼の少女を見て呟く。それからまたベッドに横になり自分の手をジッと見つめた。その手はきめ細かくて小さい『男だった前の自分』とは違う『少女』の手。ただジッとその手を見つめていると頭の隅から“AC”“フィードバック”“ネクスト”この三つの単語が出てきた時、やっと頭が動き始めた。

「フィードバック…」

勝って、気絶したことが頭の中に蘇った。そしてまた単語“変な夢”、どんなものだったかは思い出せないが変な夢だった。夢なんてものはゾンビに追われたり、ビルの上から突き落とされてアッーだったりするので変な夢ぐらい見るだろう、気にしないことにした。

「アレから何時間経ったんだ?」

ベッドから見える範囲には時計は無かった。探しにいくしかなさそうだ、腕の点滴に繋がる針を取り素足を床につける、その鋭い冷たさが頭を更に目覚めさせてくれた。若干ぎこちないながら歩く、体が歩く感覚を忘れている、何日寝ていたのだろうか。

「何所にもないのか」

面倒だが外に出るか、出入り口に近づくとかなり騒がしい。急患だろうか、医療現場はどこも大変そうだ。こうなれば看護婦さんに聞くことも出来ない。仕方ない、リハビリがてら探検でもしよう。

「さぁ出ぱ―――!」

「脈がゼロとのことです!」
「緊急オペの準備整っています!」

出発しようと意気込んでいるとドアが開かれ医療関係者と思わしき人物が十数人騒がしく入ってきた。その目の前には脈拍が停止しているはずの少女、その場の空気はなんともいえない。

「ハ、ハロー」

その空気をなくすべく少女は気の抜けた挨拶をした。









ヘリのローター音があたりに響くヘリポートに男性二人が話し込んでいた。

「契約成立…だな?」
「GAグループはラインアークにたいして武装の提供を約束する。違いない」

『アナトリアの傭兵』の質問にGAから派遣され、外交官の一人としてきた『ローディ』は答える。

「武装を提供し、生産が難しい分裂ミサイル以外の弾丸生産は此方で、しかもライセンス料金なしで生産して良い。ここまでは理が通っている。だが、なぜお前が来る必要がある、ローディ?」

ネクスト武装を含め、ノーマルやMTをラインアークに武装提供。目的は二つ、一つはラインアークを強力にして他企業の邪魔をさせるため、もう一つはいずれアナトリアのようにネクスト傭兵を始めるであろうラインアークへの先行投資に他ならない、つまり「援助するから他のところより自分の所の依頼を優先的に受けて下さい」と言っているのだ。
そして解けない疑問、この為だけにGA最強リンクスであるローディが来る必要はない、それなのに何故来たのか、と言う疑問。

「疑うな。と言うほうが、無理があろうな…」

ローディは静かに続ける。

「グローバルアーマメンツ(GA)は私に悲劇的な死を望んでいるのだろう」

ローディはどこか寂しそうに言葉を続けた。

「タカフミが言っていた<月は想像した方が美しい>と」

アナトリアの傭兵は小さく呟く「英雄もまた然り、か」それを聞いてか聞かずかローディは待機しているヘリへ歩きながら言った。

「友よ、別れだ。もう会うことはあるまい」
「さらば友よ。次会うとしたら強敵として」

ヘリはローディが乗ると直に飛び立った。アナトリアの傭兵は知らないヘリの中でローディが「お前は守りきれよ」と呟いたことを。









「あぁああぁあ暇だぁー」

一週間後の昼下がりの病院の一室、少女はベッドの上で体に布団を包ませてゴロゴロと転がっていた。体には元気が満ちていて溢れんばかりで眠気の欠片すらない。テレビやラジオなどもない、この部屋には暇を潰せるものが一つも無いのだ。

「眼が回る~」

おまけに絶対安静宣言され部屋からでる事すら許されていない、故に転がるかコジマを爆発させるしかないのだ。
そうしていると扉がゆっくりと開いた。誰か来たのだろう、期待に眼を輝かせる。

「白ちゃーん、会いにきたよぉー」

病院全体を騒がせた事件からすぐに看護婦さん達に付けられた名前を叫びながら抱きついてきたのは元気ハツラツな看護婦さんの一人だ。

「んー、癒されるわぁ」
「ちょ、力強い!折れる!ドミナント(アホ毛)摘まないで」

ギチギチと体が悲鳴を上げ、必死の訴えが聞き入れられる時には満ち溢れていた元気がごっそりと持ってかれていた。「ごみんごみん」と平謝りをしながらドミナントを弄繰り回す看護婦さん。

「そうそう、白ちゃん。お客さん来たよぉ」
「お客さん?」

「んーと、ヘンなお爺さんだったよぅ」

ヘンなお爺さん、誰だろうかとこれまで出合った人物を思い返してみる。

「じゃあ私はお仕事の続きしてくるぅ」と看護婦さんは部屋を出る。丁度入れ替わりで入って来た男性、挨拶をした。

「こんにちは、お嬢さん。初めまして、になるかな。私はミリーズ、果物を持って来たのだが何所に置けばいいかな?」







「お姉さん。白ちゃん、以外に寂しがり屋なのでこれからも来てあげて下さいね。ああ、もうすぐ退院しちゃうなんてぇー」
「ええ、お仕事頑張ってください」


元気ハツラツな看護婦と別れた後、フィオナ=イェルネフェルトは清潔感のある白い廊下を歩いていた。目的は自分が巻き込んで怪我をさせてしまった少女への正式な謝罪をするためだ。本当はすぐに行きたかったのだが仕事の都合がつかなかったがようやく来ることが出来たのである。

「ここね。白ちゃん、元気かな」

『白ちゃん』とは先ほどの看護婦との会話で教えてもらった少女の名前である。フィオナはあの女の子らしくない少女もやはり女の子なのだと実感し少し頬が緩んだ。

扉を開けると廊下と同じ白を基準とした部屋、ベッド以外の物は簡易的な棚が一つしかない。

「白ちゃん?」
「―――っ、ああ、フィオナさん。どうも!」

元気に少女は笑った。その笑顔はどこかぎこちない笑顔だった。

「あの、私…ごめ―――」
「ごめんなさいはなしですよ、自業自得の結果ですし」

「で、でも…」

気がすまない、フィオナは意外と頑固な性格なのだ。少女はそれを見て少し考えた後言った。

「では、少しだけ話し相手になって下さい」
「それで…良いの?」
「はい!」

それは政治も戦いもなにも関係の無いただの談笑、「看護婦さんが襲ってきます」や「良い名前つけてもらったね」などの優しい会話。

「フィオナさんは、今幸せですか?」
「えぇ、もちろん」
「そうですか、良かったです!」


少女は笑った、今度は強く、きれいに笑った。ただ、軍靴と革命の音は確実に迫っていた。



[16290] 小さな存在だな、君も
Name: 粗製◆7620d800 ID:d989e560
Date: 2011/03/02 16:41
「そら、残り五週!ちんたらしてるともう一周増やすぞ!!」

鬼教官の声を聞きつつただ足を動かす。既に息は荒く、体も火が出そうなほど熱い。視界も歪んできて何時お迎えが来ても可笑しくない。その証拠に、ほら、地面が迫ってくる。

そして俺は地面とキスをした。









「ああ、生き返る」

トレーニングウェア姿の白い少女はそう言いながら一気に手に持っていた缶ジュースを飲み干した。スポーツドリンク特有の甘いのか酸っぱいのか不思議な味を楽しむ。

「何所の箱入りお嬢様だ?ちんちくりん」

鬼教官こと『アナトリアの傭兵』が呆れた顔でそう言った。
こちらは「カプセル入りお嬢様です。背の事は言わないで下さい」と言いながら空き缶をゴミ箱へ入れる。
退院してから数週間経っていた、現在は彼に頼み込みリンクスになるため訓練をつけてもらっているのだ。が…ごらんのありさまである。

「水泳も機械運動もジョギングも平均以下、詰みだ。カリキュラムの作りようがない」

この体の体力はかなり低い。しかも数週間のフィジカルトレーニングを経ても全く上がらない、特異体質と言ってもいい。

「体力なくてもなんとかなりませんか?」
「無理だな。AC操縦にも体力は必要だし、ドライバースーツ着たろ」

「あのマニアックなぴっちりスーツですよね」
「訓練ではアレだけだが実戦用だとなんやかんやで十数キロにまで増加するからな」

十数キロ。前の『俺』だったら少し歩き難い程度の重量だが、今の『私』ではヨロヨロと歩くのがやっとだろう。とても戦場ではいきのこれない。

「操縦技術なら負けないのに…」
「それをどうやって覚えたかが気になるんだが」

これは不味い、やれる所を見せなければならない。彼を誤魔化しつつどうするか思考を回す。

「AMSを使った訓練できませんか?」
「できるぞ、設備だけは整っているからな」

そう、体力がないなら別の所でそれを補えば良いのだ。

「まぁ、最後にやってみるか?」
「はい!」









「ふぅ、サッパリした」

現在、シャワールーム。AMS訓練用トレーナーの準備時間かつ休憩時間である。タオルを首にかけ、温まった体を良くほぐす。新しいトレーニングウェアに着替えながら残った時間を確認、三時間以上の余裕があった。

「久しぶりにゆっくりしようっと」

この身体、体力は無いが回復力はずば抜けている、若い体は元気の塊と言ったところだ。それでも数週間の酷使によってかなり疲労が溜まっている。鬼コーチ曰く「少しの時間で体力をどう的確に回復するか、を考えるのも訓練の内」とのことなので休むとしよう。

「疲労回復、となるとメシでも食うかな」

食堂の場所は何所だろうか、案内板を探して歩き出す。少し歩いた所で前方から騒がしい集団が見えた。服装からみてラインアークの軍人達、全員汗まみれ泥まみれだ。その集団とすれ違う、数人が此方を横目で見ていた。好意の類ではない目線だ。はて、なにかしただろうか、そんな疑問が浮ぶ。

「あ」
「ん?」

考えながら歩いていると、一人の男性の目が合った。その男性はシミュレーターで戦ったAC乗り。御互いに少しの沈黙の後、彼は浅い溜息をつき歩くのを再開した。
てっきりまた追いかけられるものだと思っていたのだが、元気が無い。心なしか彼は他の人よりも泥まみれである。

「どうかしたんですか?」

少女は問いかけたが、彼はただとぼとぼと歩く。むぅ、会話が成立しない。どうしたものかと考えていると、首から提げているタオルが眼にはった。

「これ、使ってください。では!」

彼にタオルを渡し、その場から離れた。









「なんなんだ…」

走り去る真っ白な髪を見ながら男はそう、呟いた。
渡されたタオルで顔のドロを拭きながら思う、なんで原因に励まされなきけりゃいけないのか、と。

男はラインアークの正規ACドライバーだ。ラインアークを守りたいという気持ちは『あの傭兵』よりずっとあると自負している。その上、男は他のACドライバーより腕が立ち次期隊長候補とまで呼ばれていたのだ。なにもかもが順調だった。そう、『ふざけた餓鬼』が現れるまでは…

それからと言うもの、毎日がふんだりけったり。最初は「まぐれだ」や「気にするな」など声をかけてくれた同期達は次第に男を笑いものにした。男はそれに耐えながら、ただ我武者羅に訓練を受けた。見返すために、過去の余裕や慢心をかなぐり捨てて。それもただ、空回りするばかりで一向に強くなれない。おまけにロリコンと言う不名誉な称号まで付けられた。

「チッ、ふざけた餓鬼だ」

タオルから甘いにおいがした。いい匂いだな、そんな考えが浮んだが直に消す。
しかし、どこか力を入れすぎていたものが無くなったような気がした。









「砂漠の嵐、気分ってね」

四つ肉包とレタス。ラインアークの食堂でも一番安いメニューである。四つとは少し多いな、と思いながらも食を進めるが熱いため中々進まない。それでも歩きながら食べる。迷ってしまった為、集合へ歩きながら食べるはめになったのだ。
どうにも喉が渇く、飲み物もってくればよかった。そんな事を思いつつも歩を進め、四つが二つになる頃には目的地に着いた。以外に早く着いたようで時間が余った、余ると言ってもそこまで余裕があるわけではないので適当に椅子を見つけて三つめの肉包を齧っていることにした。

「もう着ていたの?」

齧り続けて肉包が半分になる程度の時間がたった時、女性が声をかけてきた。
フィオナ=イェルネフェルトである。御互いに軽い挨拶をする。

「遅れるわけにもいきませんから、一つ質問いいですか?」
「ええ」

四つ目の肉包を頬張りながら少女言った。「なぜ訓練を認めてくれたんですか?」と。

「反対したほうが良かったの?」
「いや、そういうわけではないんですけど…」

不思議だったのだ。フィオナの性格から考えると大反対しても可笑しくないのだ、それがまさかの賛成であったからだ。

「彼のアドバイスでね」
「アドバイス?」

それを聞いて少し謎が解けた気がした。大方「訓練で諦めさせる」など言ったのだろう、そうはいかない。

「お仕事があるから、またね」

フィオナと別れ、五つ目を食べ終わる頃には丁度いい時間になっていた。









機械が動く音。狭く、薄暗い場所。

<準備いいか?>
「はい」

体に張り付くドライバースーツ、機械の音が無くなった数秒後、首に衝撃。

「っ…やっぱり痛い」

入院した時に正規の手術をしてくれていたので血が出ることは無いがそれでも痛い。
現在、AMS訓練用のトレーナーの中。トレーナーはノーマルACの手足を取り、総合制御体を組み込んだものだ。

<繋がるぞ>

彼の声を聞きながらそれを感じた。違和感、これは違うと言う違和感、それに慣れるまもなく情報が送られてくる。情報量はネクストと同等の設定、シミュレーターとは比べ物にならない。だが、耐えられないものでもなく若干の余裕もあった。

―――Hello Links-―――

総合制御体から無機質な電子音声が聞える。

―――Your name?―――

名前か…考えてなかった、どうしよう。彼に通信を繋ぐ。

<ん、どうした?>
「あの、名前決めてくれませんか」

彼は呆れたような溜息をつき<少しまっていろ>といって通信を切った。そんなに時間が経たないうちにその名前が決められた。

―――Please continue your favors toward Little in the future.―――

「ちょっ、リトルだと!?」

もちんちくりんとはいわれても、もう少しカッコいい名前があるだろう。文句を言おうと通信を彼に繋いだ。

「これはど――――」
<お前なんてリトルだ、リトルで十分だ!!>

その声は彼の声ではなく、良く知っているアーキテクトの声。かくして小さな少女の名が決まったのであった。






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