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[15953] なのはの頭になんか住んでるの…。(いろいろカオス・魔王を魔改造・非十八禁の限界に挑戦)
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:dffb9f54
Date: 2010/01/28 00:14
<思考盗撮、、、高町桃子。>

 高町桃子にとって次女のなのはの誕生には特別な意味があった。いや勿論長男の恭也や長女の美由希にも愛情は惜しみ無く注いでいるが、二人は夫の士郎が自分と再婚した際に連れて来た子供達な為自分の腹を痛めて子供を産むのはこれが初めてなのだ。それでなくとも自分の娘、特別でないと嘘を吐く必要も無いという事もある。

 そんな中産まれたなのはなのだが、普通の赤子とは言い難かった。

 健康面では問題は無い。健全で理想的そのものの成長を続けていた。

 問題は精神面とでも言うべきなのか。おとなし過ぎた。授乳やおしめの交換などを要請する時の必要最低限でしか泣くのを見た事が無い。それでさえ一般的な甲高い悲鳴に近い泣き声でなく、呻く様に相手に聴こえる最低限度の声量で呼び出し、こちらがなのはの要求を理解したと判断したらそれも収まる。じゃれてみたり胸に抱いてみたりしても滅多に反応を返さなかった。

 更に時が経つに連れ異常は際立っていった。地面を這い、二つの足で立ち、やがて泣き声でなくとも自分の要求を伝えられる様になると殆ど全く喉を震わせる事が無くなったのだ。子育ての本で赤子が片言でも言葉を話せる様になるとされる時期の倍を待っても喋る気配を見せない。

 病院に行ったが声帯に異常は無かった。それ以前に色々な所になのはの様子を相談したが、解決する気配はとんと無い。

 さぞかし不気味な子供だろう。なにせ何時言葉を発してもおかしくない程度の知能はとっくに持っているのだ。此方の言うことはきちんと理解して従うし、全文ひらがなの文章なら労さず読む事が出来ている。その意味では寧ろ普通より速すぎる知能の発達を見せているのに言葉を発そうとしない。だが情の深い高町家の面々は根気よく待つと決めた。

 そしてなのはが初めて言葉を発した日。その声はいつまで経っても桃子の耳からこびりついて離れる事は無いだろう。

 自宅、一人で家事をしていたところをなのはに服の裾を引っ張られる。こちらを真っ直ぐ見つめる視線。何だろうと思いながらもよく見れば唇と喉が微かに動いていると気付き期待の感情が沸き上がる。

 桃子はその時、気の早い喜びさえ感じていた。この娘が人生で初めて発する一言は何だろう?やはり『まま』や『まんま』だろうか?そうでなくても、日常よく使われる言葉らしい。知能は十分発達している為そちらの可能性の方が高いだろうか?でも取り敢えず母と呼んでくれると嬉しい。

 そんな桃子の期待に、なのはは半分応え半分裏切った。囀ずる様な可愛らしい音色の声を発しはしたのだ。

 今まで口を利かなかったなど嘘の様に流暢な声を。

 冷たさを含んだおぞましい声を。

 滅多に見た事の無い笑顔と共に。

 反して虚ろな瞳と共に。

「 そ の 目 、 だ れ の 目 ? 」

 と。

 直後電話が鳴り響く。夫が爆弾により重傷を負った事を報せる電話が――。

 プツッ―――――。

<接続終了。>



<思考盗撮、、、高町士郎。>

 その夜、高町士郎がなのはの部屋を訪ねたのに深い理由は無かった。

 まだ幼いなのはには早い気もしたが、自宅を建てた際に元々それを見越していた為なのはにあてがう部屋が空室のままだった事もあり、つい先日なのはだけの部屋を五歳の誕生日に贈ったのだ。

 家族全員が風呂から上がり、なのはなら寝ていても何もおかしくない時間帯。現に部屋の電気は消えている。だが剣術というものをやっている―――以前の大怪我から現役の剣士は引退したが―――彼はなのはが起きている気配を感じ、そっとドアを開けた。まさか『勝手に入らないで』などと怒鳴ってくる年頃でもあるまい。

 入ってみると、なのはは真っ暗な部屋で士郎に背を向けた状態で明るいパソコン画面を見ていた。買い換えた際に古いパソコンをなのはの部屋に置いておいたのは失敗だったか、あれでは目を悪くする―――と取り敢えず部屋の電気を点ける為にスイッチに手を掛ける。

「ハァハァ………しおりんテラモエスww」

「ッ!?」

 親の贔屓目を抜いても近所のアイドルになる程度には可愛らしい幼女からあり得ない言葉が漏れた気がしてスイッチに掛けた手をつい引っ込めてしまった。その時、ふとそろそろ目が慣れたのかなのはが見ているパソコン画面が詳しく眺められた。

 大事な部分を隠すという用を成していない、現実世界ではなかなか見られないフリフリの制服を着崩して絶妙に首から上が画面の外に出ている男子学生に抱き締められている女の子の絵。露出した下腹部には申し訳程度のモザイク。いわゆる、十八禁のエロゲという………って待て。幼児の健全な精神の成長に著しく悪影響を与えそうなゲームを中止させようと近付いて、

「ふふ……っ、可愛い、……はぁっ、ねぇ拓巳っ?なのはは?ふぅ……なのははどう?…………ひゃあ!?」

「なの、は……?」

「なのはは、きゃはうぅ……っ…なのはは萌える?ふ、はっ、ねえ拓巳ぃ……あはぁんっ!!」

 遅すぎる、というべきか。士郎はここに来て漸くなのはの様子も尋常でない事に気が付いた。なのはもパジャマをはだけ、譫言を誰にともなく呟きながら毛も生えていない秘部を小さな手で掻き回している。

「……っ!うふぁ、嬉しい、嬉しいのたくみぃああああっ。ひゃ、す、しゅ、しゅしゅごいよぉぉぉ~~~~っっっ!!!」

 息が荒くなり、抜き差しする指の動きが激しくなる。パソコンの灯りで辛うじて分かる、汗でぬめる柔肌。

 自慰をしているのか。まだ生理も遥か先の幼子が。

 否、と本能が告げる。なのはのそれは自慰ではない。『拓巳』という相手のいる、立派な性交渉だと。

「ひ、は、は、は、はぅ……。来る、来る、なに…ぃか……っ、来る、来るくるくるくるっ!!ぃひゃああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ――――――――――――――――――――――!!!!!」

 そんな中なのはの動きがより激しさを増し、やがてぴくぴくと痙攣する。絶頂を迎えたのだと悟る余裕も無く、士郎の頭は余りの事態に回転を停止している。

 パソコンの中の女の子もいわゆるロリに分類される容姿で、白濁した液が結合部から垂れているのもやけに生々しかった。

 結局、その後唯一彼が行動に移す事が出来たのは。

「なのは!」

「………っ?」

 くったりと全身の力が抜けたなのはを主に下半身から込み上げる衝動のままに押し倒すくらいだった。

 プツッ―――――。

<接続終了。>



<思考盗撮、、、高町恭也。>

 その日、高町家では一家揃って卓に付き、家族会議を始めようとしていた。

 腕を組み、じっと動かない恭也。

 そわそわと落ち着きの無い美由希。

 真剣な表情で佇んでいる桃子。

 ばつの悪そうに視線を落とす士郎。

 そして、

「……うん、そうだね。今日は何も無かったと思うけど…………うん、うん、いいよ。ありがと拓巳。」

 それには興味を示さずに明後日の方角に向かって何事か喋っているなのは。

 家族会議といっても、実は話自体はある程度もとから進んでいる。議題はなのはについて。

 もう小学生に上がろうかという年頃のなのはだが、何かに熱中したのも誰かに甘える様子も家族の誰も見た事が無かった。奨学金が楽々取れる程度の頭脳を持っていても、彼らはなのはに友達というものがいるかどうかも知らない。おそらくはいないだろう、と予測は出来てしまうが。

 なのはの異常性は増すばかりで、こちらから何かを言っても返答が無い事はないが大抵が生返事と呼ばれるもの。瞳に輝きは無いし今の様によく分からない一人言も多い。外でもそれならば、友達になってくれる子は少ないのではないか。

 おそらく、なのはのそれには士郎の大怪我が関わっているとなのはを除いた話し合いで結論されていた。士郎が長期入院して、他の面々は看病と生活費を稼ぐのに非常に忙しくなり、その間幼児のなのははずっと構われる事なく過ごした。ただでさえ少し変な子供だったなのはが更に歪んでしまうには十分だっただろう。今のなのはは個性と言うには多少逸脱してしまっている。

 ちなみに士郎がばつが悪そうにしているのもそれを気にしていると思われた。まさか『それ以上の自分が原因の心当たりがある』訳でもあるまいし。

 そんな過程はともかく、この集まりの目的はなのはの真っ当な成長を意図していた。

 まずは、友達。取り敢えずいるかどうかを訊いて、いないなら人付き合いの大切さを説いて作らせる。それだけで得る物があるだろう。何より今更ながら寂しい思いをさせたくない。

 まず桃子がなのはに婉曲にそれを実行しようと話し掛けた。

「ねえ、なのは。幼稚園はどう?」

「……どう、って?」

「ほら、楽しい~、とか、こんな事があった~、とか。」

「普通。」

「普通じゃなくてね。なのはがどんな風に過ごしてるかとか知りたいなあ、って。」

「普通。」

「あ、あの、なのは?普通ってどういう―――、」

「普通は普通なの。」

「…………ぐぅ。」

 桃子、撃沈。そう言えば小学生の時分クラスに一人は感想などで先生に何を訊かれても『フツー』としか答えない生徒がいたなあ、と恭也は遠い目になりかけた。

 だが遠回りが駄目なら次は直接というのが鉄板で、それに口下手だから出来るならこれぐらいだと自分で立候補したのだ。現実逃避している暇は無いと恭也が選手交替する。

「なのは。兄はお前に友達がいるかどうかを知りたい。」

 すると間が空いて少しだけなのはが考え込む。だがすぐに顔を上げると、至極軽い調子でさらっと言った。

「いないんじゃないかな。」

「「………っ。」」

 何の気負いも感慨も無く、まるで電線を見上げたら一羽も鳥が止まっていなかったとそんな風にどうでもよさげな答えが出た事に唖然とする。

「、だったら、幼稚園とか外で何をしてるんだ?」

「ずっとお話してるよ?拓巳と。外でも家でも。」

「たくみ……?」

 まるでその『拓巳』がいればそれで全て良いかの様な態度。言われてみればなのはの一人言にもよくその名前が出ている。幼稚園の先生にはそんな人はいなかったと思うし、近所のお兄さんか誰かだろうか。

「なのは、その拓巳さんと会えるだろうか?」

「え………?」

 何故かそこでなのはの顔に動揺が走る。

「………拓巳?わたしの望む事?…………そんな、わたしだけでいい。拓巳は、わたしだけとずっと一緒……!」

「なのは……?」

「周囲共通認識なんかいらない。………そう、そうだよ?わたしたちは二人で一つなんだからね?」

「なのはっ!」

「お兄ちゃん。」

「っ、何だ?」

 いつもの一人言とは違う、不安定にぶつぶつと喋るなのはに半ば怒鳴り付ける様に呼び掛けると、ぬっと顔を上げる。唇が歪んでいるだけの笑顔が恭也の顔の正面に来た。何故か、解離性同一性障害などという言葉が浮かぶ。

「お兄ちゃんは、いや、わたし以外の誰も拓巳には会えないよ。話もできない。わたしが望まないから、絶対に。」

「何故だ?」

「だって。――――――西條拓巳は、妄想の存在だから。」

 プツッ―――――。

<接続終了。>



<思考盗撮、、、アリサ・バニングス。>

 彼女にとって高町なのはというのは、惰性の友人と言うのが一番正確だろうか。

 話は小学校入学当初まで遡る。

 資産家として名を知られるデビット・バニングスの一人娘として育てられた彼女は、当時初の学校生活に緊張していた。英才教育を受けて来た自分は周りの同年代の子供とは精神年齢が違う。それは悪く言えば自分が異質・異端であり、そんな差異を彼女は敏感に感じ取っていたのだ。

 事実大抵の子供はアリサを遠巻きに見守るだけで孤立していた。一言輪に入れて欲しいと言えば済む話なのだが、意地っ張りで変に臆病な性格のせいでそれも出来ない。

 そんな中アリサは無意識に自分と同類の、休み時間も一人でいる面々を探していた。精神年齢が高いと言っても、それと寂しいという感情は別物なのだ。

 二人見つけた。一人は授業中だろうが所構わず自分の世界に浸って一人言を漏らす女の子。もう一人は物静かそうで、空気と馴染む様に周りと関わらず本を読んでいる少女。彼女なら、とアリサは後者の方に―――前者は少し無理だった―――精一杯の勇気を振り絞って声を掛けた。

…………それが、何故その子―――月村すずかのカチューシャが寄越せ・嫌だ・じゃあ無理矢理なんて流れになっていたのかはあまり覚えていない。緊張でいっぱいいっぱいだったから。だが気付いた時には意地で後に引けなくなっていて、すずかの髪の毛を引っ張ったりしてカチューシャを力ずくで取るしかないと思い込む状況だった。

 傍からみるといきなりいじめが発生した、その光景を目撃した生徒の数は少なくは無かった。当たり前だ、校舎裏に来い~などの学生の不良みたいな状況のセッティングをしていた訳ではなかったのだから。

 だから放っておけばその内正義感の強い子供あたりがアリサを止めただろう。そしてその子供とアリサ・すずかで夕暮れの河原の殴り合い理論で友情が芽生えたかも知れない。

 が、アリサの行動が止められたのは全く別の要因だった。更にその後の彼女らの関係も全く違う形のものになる。

「いい加減、うるさいの……っ!」

「なに………、えっ!?」

「ひぃっ!!?」

 その光景は、ある種のトラウマとしても彼女らの中に鮮烈に残っている。

 無骨にして魅了的。

 流麗にして破滅的。

 絢爛にして絶望的。

 壮烈にして神聖的。

 それが現代に於いて飾られる以外の用いられ方がある筈がない。現実的に考えれば。

 それが十にも満たない幼子の手に在っていいものである筈がない。現実的に考えれば。

 乱雑に見える紋様が刻み付けられた握り手の、両端から生えた両刃の凶気。赤とも青とも緑とも黄とも、何色とも言える不可思議な光沢がその重圧を増す。慈悲と冷酷さが、狂気と穏健さが、愛嬌と醜悪さが、恋慕と薄情さが、二つの刃が一対となって柄で繋がっている。それは何時か彼女が言った、二人で一つという在り方の鏡像。

 限りなく直線に近い曲線で構成された、全長ニメートルを超える武器。ディソードの名を持つそれが、片方の刃はアリサの眉間に、もう片方の刃はすずかの首筋に、薄皮一枚の所で突き付けられている。

 先程アリサが話しかけなかった方の女の子、高町なのはによって。

「きゃあああぁぁぁぁっっ!!」

「……。ほんっとうにうるさいなあ。もう―――、」

「―――!!!」

 面倒くさげに振りかぶる。巨大な武器をランドセル一つで登校した彼女がどこに持っていたとかその小さな腕では持ち上げる事すら無理だろうとかそんな現実的な疑問を無視して。『現実的』。それに照らして有り得ないのならば現実ではないのだろうか。否。それは基の現実が間違っているだけだ。二人の少女に刃が振り落とされる『事実』は変わらない。

 と、思われた。

「―――え、拓巳?でも…………うぅ、わかったの。拓巳がそういうなら。」

「「………っ?」」

「アリサちゃんにすずかちゃんだっけ。よかったね。」

 ぴたり、と止まってまた一人言を言ったかと思うと、にこやかに二人に笑いかけて立ち去るなのは。何が起こったのかも分からず次から次へと動く事態に、二人とも泣く事も忘れてぺたんとその場に座り込むしかなかった。

「……っ。」

「アリサちゃん、どうしたの?」

 あの時の光景を思い出し、ついぶるっと震える。お茶を濁したが、鋭いすずかには分かってしまったらしく微笑みが引きつっていた。

 本気で死を覚悟した瞬間。この平和な日本で何故小学校に上がったばかりの自分達がそんな思いをしなければならなかったのか。おかげで滅多な事では動揺しなくなってしまった。

 まあ、言っても理不尽でしかないのだろう。強いて言えばなのはが同じクラスになってしまった不幸か。

 なのはがディソードというらしいあの武器を振り回した件。結局先生側にも伝えられたが、当の凶器が見つからなかった為うやむやに終わってしまったのだった。

 一方でアリサとすずかは暫くすっかりなのはに怯え、言い方は悪いが金魚のフンの様になのはのご機嫌取りばかりする学校生活を送っていた。奇妙な緊張感を共有して変わった友情を二人で育んだりもしたのだが、最近になってみるとそれがある程度は被害妄想だった事も悟った。

 なのはは自分の領域を煩わせない限り周囲に害を与える事は全く無い。逆に奇嬌な言動に慣れさえすれば適度な距離感を常に一定に保てる一人ぐらいならいてもいい友人たり得る。現にすずかと三人で今学校の屋上でお弁当を広げている辺り、何故か嫌いにはなれそうにないのだ、高町なのはという少女を。それはすずかも一緒だろう。

「いい天気だねー。暖かいし、でももうすぐ夏かぁー。…………ぅ、拓巳はいいよね、暑いのわたし嫌い。………………そんなの、べたべたするし疲れるし。夏なんか来なければいいのに。時間よ止まれーなんて。……………え?やだなぁ、本当にやったりしないよそんな無駄遣い。…………うん、うん。」

「毎度の事だけど拓巳って何なんだろうね……。」

「っていうかその気になればなのはは時間止められるの?」

 なのはは相変わらずこの調子だが、一人言しながらでも聴こえる周囲の会話は全て拾っていたり弁当を食べるペースがそんなに遅くないのがさりげに凄い。挙げ句にこの奇妙な空気がアリサは気に入ってしまっているから始末が悪い。

 弁当を食べ終え、至極リラックスした気分で伸びをしながら空を見上げる。晩春の暖かい風と広々とした青空。本当に青一色の空は逆に気持ち悪いという主義のアリサにとってぽつぽつと忘れられた様に幾つか雲が浮かんでいるのも高得点だ。景品は無いが。

「…………ぅん?」

 ふと、その雲の内の細長い一つが。一振りの剣に見えた気がした。

 プツッ―――――。

<接続終了。>



<おまけで思考盗撮、、、神っぽい視点を持つ誰か。>

………結局、どういう事なんだい?

………さあ。

………そんな無責任な。

………責任の持てる見解なんて無理だもん。そもそも何の話なのかも分からない。

………変な高町なのはの話じゃないの?タイトル通り頭になんか住んでる。

………その割には決定的に描写が足りないんだよ。

………みんななのはについて語ってるよ?

………肝心ななのは自身の内面の描写が無い。所詮主観での人物判断でしかないから、それが合ってる必然性も無い。

………どういうこと?

………確かに解釈出来る通りカオスヘッド原作の西條拓巳と星来・オルジェルの関係の様に、半ば人格を持っていると錯覚出来る程の確かさを持った妄想の西條拓巳をなのはが作り出したのかも知れない。

………あるいはお約束に則って最終決戦後咲畑梨深に殺された西條拓巳が何故かなのはが生まれた時に彼女の頭の中に住み着いた、とかでもいいね。

………だがそれは視点を垣間見た私達が二次的に作った印象でしかない。

………結論を先に言うね。視点となった人物がきちんと事実に即して描写しているかどうかすら怪しいんだよ。

………うわー、屁理屈。

………え?え?

………つまりね、さっき言った様な解釈が一般的だけれども、それを導き出す材料がフェイクの可能性があるって事だよ。

………なのはがディソード『みたいな剣』なんか持ってなくて、アリサが何かを錯覚していた可能性。なのはに一人言でいない誰かに話し掛ける癖なんか無い、唯の恭也達の聞き間違えの可能性。ただパソコンで遊んでいただけなのにラリってた士郎が勝手に想像で興奮して襲い掛かった可能性。桃子が若くして痴呆でなのはは本当は何回も喋っているのにその度に忘れちゃってる可能せぅわ何をするやめ(ry

………思えば士郎さんってかなり鬼畜よね。『つい先日五歳の誕生日~』の『つい先日』を十年以上水増しするのかしら。まあそれは置いといて、うん。なんとなく解ったわ。

………更に言えば切り替わった四人の視点に出て来る『なのは』が同一人物である確証すら、実は無いという。

………それは屁理屈以外の何物でもないわね。

………屁理屈と理屈の差異なんて紙一枚ほどもないの。

………例えそうだとしても、こんな理論で話を読んでたら何も成立しなくなるよ。ミステリーのトリックになら使えるかも知れないけど。

………だからここで責任の持てる見解は無理だって話に戻るんだよ。書き手が勝手すればいくらでもどうにかなってしまう物語だから。特にこの作品は。

………あれ?

………どうしたの?

………書き手が勝手すれば、って。そんな実力も度胸も作者にある訳ないと思うけど。

………ぎくっ!

………((怪しい。))

………あ。描写不足ってそういう事。

………わーわーっ!

………つまり?

………単に文章力の関係で描写が足りない部分やこれ以降破綻するかも知れない展開を言い訳する為にこの会話で変な理論捏ね回して―――、

………ふっ、そう。わたしが犯人<さくしゃ>だよ。でも同時にあなた達が犯人でもある。だってこれは――――あなたが望んだ妄想だから。

………あ、こら、また適当な事言って誤魔化――、

 プツッ―――――。

<接続が、切られた。>



※この会話だってどこまで正しいかなんて判りません。それ以前にこれを映している画面は、読んでいるあなた自身は………どこからが現実でしょうか?実は意外と――――。


※というのは置いといて、この物語は無印編、A’s編、空白期編、Sts編へと続きます。もしそれを読んでくださる場合、おまけのメタな文章は無かった事にして進んだ方がいいかもしれません。ただカオスヘッド的テーマな考察がやってみたかっただけなんです。




[15953] 無印編(捏造設定かもしれない。だって難しいんだもん……(コラ。)
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:dffb9f54
Date: 2010/01/31 00:14
<思考盗撮、、、ユーノ・スクライア。>

 ああ、確かに言った。

『誰か………力を貸して。』

 力を貸してとは言ったのだ。だが、こうも言った筈だ。

『魔法のチカラを。』

 相手の力量を知っていたのにのこのこ出向いて返り討ちに遭った自分に選り好みする資格は本来無いだろう。無関係の人間を巻き込んだ、これからも巻き込み続ける事に関して言えばこの世界の文化である土下座とやらで謝っても足りないかも知れない。それでもだ。

「取り敢えず斬っちゃったけど………うん、そうだよね。滅して殺すでオールライトだよね。さっすが拓巳なの。」

 こんな物騒な事を言う少女―――サーチしてみたらこの歳で常軌を逸する魔力量―――が、『魔法を使わず』刃が柄の両端に伸びている変な剣でジュエルシードの暴走体を切り伏せ、あろうことかロストロギア本体ごと消し飛ばしてしまった時。とんでもないモノを呼び寄せてしまったと思ったのは当然の如く…………生温い認識だった。

 そもそも食欲性欲睡眠欲を全て知識欲で捩じ伏せてしまう様な考古学バカ集団のスクライア一族が、無駄に危険度の高いだけのロストロギアを掘り当ててしまったのがケチの付き始めだっただろうか。ジュエルシードという、祈願実現型魔法の究極形とかその秘めた魔力を利用すればとんでもない事が出来るロストロギアとか言ってもそっち方面に全く興味の無い彼らにとってはいつ暴走するか分からない危険物でしかなかった。時空管理局に押し付けてしまえ、と無責任にも長老達が三秒で即決したのも当然と言えば当然なのだが、そのバチが当たったのか丁度割ける人員がいなかったなどというふざけた理由で送って来たのはミッドチルダまでの交通費だけ。いくら人材不足だからってお前ら一人暮らしの子供と同じ扱いかよとかぼやいても事態が解決する筈もなく、発掘チームのリーダーなんかやっていたユーノが貧乏籤を引く事になった。かくして彼は次元空間をジュエルシード在中のトランク抱え、ミッドチルダ向けてがったんがったん。いや電車じゃないから揺れはしないんだけど気分的に。――なんてやってたら本当に揺れ始めてボロそうな輸送艇は沈みジュエルシードは最寄りの管理外世界に落着。まあ大変、と子供だからか純粋で責任感の強いユーノは自分で回収しようと追い掛けたのだった。時空管理局に通報しなかったのは、きっと思い当たる余裕が無かったからだろう。決してわざわざ遠いミッドチルダまで出向かされ挙げ句途中で事故に遭ってむしゃくしゃして連絡する気になれなかった、なんて事はない、筈だ。勿論。

 そして案の定暴走しているジュエルシードを見つけ封印しようとしたが返り討ち。省エネモードのフェレット変化で倒れている所を親切なロリっこ……けふん、子供が動物病院に運んでくれて。療養していた彼を今度は逆に暴走体が襲って来て絶体絶命。ままよと広域念話で助けを呼ぶと都合よく資質の有りそうな少女が現れたので断片的な事情を話しつつ自分では扱えない魔法のデバイス・レイジングハートを渡―――そうとしたら少女はいきなりどこからともなくごつい剣を取り出し一閃。かくして今に到る、と。

 そんな感じで呆然としていたユーノだが、何故かすぐに至近のなのはもまた『!?』マークを浮かべて自分の剣を見る。何やら呟いている様なので耳を澄ましてみると。

「…………うん。ディソードにストックされてたエラーが全部消えてる。……え、それどころかプラス?何で…………………うん、うん……………ごめんよく解らなかった。…………にゃはは。取り敢えずジュエルシードとかいうののおかげなんだね?………………うん。」

「……?」

「そういえば。確か全部で21個あるって言ってたね。…………、そう、そうだよ!これなら……………大丈夫なの。拓巳を消す気なんか元々全然無かったからあと十年くらいで死んじゃっても仕方ないと思ってたけど、あと20個もあれば拓巳とずっとずっといられるよ!!」

「あ、あのー?」

 だんだん喜色と興奮をましていく少女の一人言。それに何か不安なものを感じユーノは声を掛ける。どうも聴いてる印象だと理由は分からないが残りのジュエルシードも全部あの剣で斬って消滅させる予定に聴こえる気がするのだが。それは色々とまずいのではないだろうか。

 チャキ。

 そんなユーノに時代劇などでお馴染みの刃物を構える擬音が。少女が外見小動物の腹に凶器を押し当てていた。すっごくいい笑顔で。

「何か言いたいこと、あるかな?」

「イエ、ナニモアリマセン!!」

 そうですよねジュエルシードが一般人に危難をもたらさない様にするのが最優先ですよねそれに貴女はジュエルシードが無ければあと十年くらいで死ぬ予定だったんですか理由も原理も意味不明ですがそれはいけませんねどちらにせよ利害の一致もある事ですしこれからのジュエルシード探索精一杯サポートさせて頂きますその動機として僕は決して脅されてなんかいないのですね分かってますよあははー。

 ユーノ・スクライア。考古学が絡まなければ人畜無害―――オブラート無しで言えばヘタレなスクライア一族の性質を色濃く受け継ぐ少年だった。「よろしい♪」となのはがディソードを引っ込めると涙を流しながらころんと腹を表にして服従のポーズを取っている所なんか見ると彼は人間でもフェレットでも無い。ヘタレという名の生き物でしかなかった。

 この後も勿論彼の災難は続く事になるのだが、それはまた別の話。因みに暫くしてなのはと同年代くらいの金髪の少女が魔導師としてジュエルシードを求めてかち合った時なのはは相手のデバイスを一撃で真っ二つにして撃退したなんてイベントがあり、その舞台となった月村すずかの家の庭では諦めきった眼で散漫な拍手をしているフェレットの姿が見られたとか見られなかったとか。合掌。

 プツッ―――――。

<接続終了。>



<思考盗撮、、、プレシア・テスタロッサ。>

 定期報告まで随分時間があるというのに、つい数日前に拠点を発ったばかりの人形が戻って来た事に苛立ちしか感じなかった。

 幼くして死んだ娘アリシアを甦らせるという目的の下クローン技術に手を出した際に生み出してしまった顔だけそっくりの紛い物の人形。自業自得だとしても偽物の癖に愛しいアリシアの声で母さんなどと懐いてくるのは憎しみしか覚えさせない。

 それでも病弱になった自分自身に代わる労働力として生かしておいているというのに、それすら役立たずというのはどういう事なのか。探して来いと言ったジュエルシードを一つも持ってなく、挙げ句野良魔導師に負けてデバイスを破壊されるなどと。

 流石に我慢の限界が来て、うわべだけの優しさを取り繕うのも忘れて徹底的に制裁しておいた。丸一日は痛みで動けないだろうが、どうせ彼女のデバイス、バルディッシュを元通りにするのはそれ以上優に掛かる。他にジュエルシードを探索している魔導師がいる以上ゆっくりしていられないが、デバイス無しでジュエルシードを封印回収出来るとも思っていない。

「………はぁ。」

 余命短い鈍い体に鞭打ちバルディッシュの修理、というよりレストアを進める。まるでレーザーでじっくり加工した様な綺麗な真っ二つという破壊のされ方だった為思ったよりは時間はかからなさそうだ。

 しかし、どの様にすればこんな事が出来るのか?そもそも人形自体その名前の由来でありクローン技術の元となったプロジェクト・フェイトの性質上そこらの魔導師には負け様がない資質を持っているのだが。気になったし、対策をフェイトに与えなければならない為、プレシアは無事だった記憶領域からその戦いの記録映像を再生した。

―――フェイトと同年代くらいの白い魔導師。猫に取り憑いたと思しきジュエルシードに近付こうとした所でフェイトが乱入し、それを貰っていくと宣言する。そんな彼女に冷たい眼を向けると、白い魔導師はいきなり身長の倍ほどもありそうな巨大な剣を手にし振り被った。その後何をしたのか把握する間も無く切れる映像。ここで破壊されたのだろう。

「くく……くくくく、あは、あははははははははははははははははははっっっっ!!!」

 詳しいデータを解析したプレシアは笑いが止まらない。フェイトには何をされたかそれこそ全く分からなかっただろうが、娘を甦らせる最後の手段として伝説の都アルハザードを頼りそこへの行き方として虚数空間を研究していたプレシアには一目瞭然だ。この白い魔導師は、おそらくレアスキルの類だろうが虚数の闇を完全に制御している。それどころか物質世界に具体的な形を持たせて発現させるなどという非常識な真似事までしているが、プレシアにとっては最初だけで十分だった。

 アルハザードへ行く為に扉として虚数空間を開く。ジュエルシードの魔力で次元震を起こしその歪みを利用するなんて半ば賭けの様な真似をしなくても、この少女の力があればそれはより確実かつ簡単に出来る筈だ。

 デバイスの修理を待つまでも無い。未だ虐待された痛みに蹲っているだろうフェイトの事など一切斟酌する事なく今すぐこの少女をここまで連れて来いと命令したプレシアだった。

 プツッ―――――。

<接続終了。>



<思考盗撮、、、フェイト・テスタロッサ。>

 目の前で白い魔導師が話している。己の母……、母『だった』存在と。

「本当にいいの?『あれ』の中に行きたいなんてよっぽどの酔狂なの。」

「承知の上よ。もう私には、他に縋るものなんか無いのだから。」

「………そう。まあ、貴女に運があれば、『貴女かもしれない誰か』が望んだ事でそのアルハザードとかいうのが実在するかも知れないし。ぐっどらっく、って事で。」

「どういう事?」

「べつに。信じる者は救われるといいね、なただの願望論だよ。…………え?ああ、拓巳からも伝言。『貴女が深淵を覗き込む時、深淵もまた貴女を覗いている』だって。こっちも悪趣味で無意味に意味深にしただけの戯れ言だから気にしないでいいと思うよ。」

 まんまパクリだしね、と無意味ににこにこしながらプレシアに語る少女。高町なのは、という名前らしい彼女は別にプレシアに対してどうこうで笑顔を振り撒いている訳ではないらしい。どうも最近とても良い事があったらしく、若干の警戒はあったがフェイトの拠点である時の庭園まで来て欲しいという頼みもそこでのプレシアの用件もわりとあっさり受け入れていた。後者に関しては遺跡にも見える時の庭園を指して『リアルRPGダンジョンが見れたからお礼してあげる』なんて事も言っていたが。

 自分とは正反対だと思う。今までの自分の全てが否定されるというこれ以上ない程の悪い事があり、何かをする気力も湧かないまま座り込んでプレシアとなのはの会話をただ聴いている自分と。

 プレシアの用件。なのはに対して虚数空間の扉を開けというもの。理由はフェイトにも纏めて説明された。普通ならざる生まれも、扉の向こうにフェイトを連れて行く気が更々無い事も。アリシアの死体が入ったポッドも見た。本当の娘という嫉妬を感じる暇も無かった。

「さよなら、用済みの人形。ずっと言いたかったのだけど、漸く言えるわ。―――私、あなたの事、大嫌いだったの。」

 そう言われた瞬間、自分の中の大事な何かが壊れる音がした。

 そうして動けないフェイトを置き去りにして。なのはがディソードを無造作に一閃すると、その太刀筋から空間が裂け暗黒が顔を覗く。その様を見てプレシアの表情が喜悦に歪んだ。

「行ってらっしゃい。深淵の彼方へ。」

「………私を覗いているかも知れない深淵へ、ね。なるほど悪趣味な冗談だわ。」

「怖じ気付いた?」

「まさか。」

 そう言うと何の躊躇いも無くプレシアはアリシアのポッドと最低限の装備を持って空間の裂け目に飛び込む。黒い裂け目はプレシアを飲み込むと一瞬で閉じ、後には何事も無かったかの様な静寂だけ。

「あ…………。」

 気付けば為す術なく母親を永遠に失ったフェイトを残して。

「ん、ん……じゃ、帰ろう。ねえ、拓巳。今日の晩ごはん何かな?」

「………待って。」

「いや、『待って』も何もフェイトちゃんが送ってくれないとわたし帰れないんだけど。で、何?」

 別に疲れている風でもなさそうに伸びの仕草だけするなのはに、ぼぅっとする頭でフェイトは声を掛けた。プレシアを失った間接的な原因であるなのはに怒りは感じない。色々な事があり過ぎて、そんな八つ当たりに患わっていられないくらい感情が飽和していた。

 ただ、訊きたかった。

「わたし……これからどうすればいいの?」

 今まで時の庭園内という閉じた世界でだけ過ごし、母親に依存して生きて来た少女が。その全てとも言える母親を失いそれどころか過去今に至るまでの人生を完全に否定され途方に暮れるしかなかった。

 いや、今はまだ感情と事実を処理仕切れていないだけで、時間が経ち全てを受け入れてしまえば最早生きる気力自体を失ってしまうだろう。

 暫く俯いて考えた後そんなフェイトの正面にしゃがみ込むと、なのははへたり込んでいる彼女としっかり目を合わせた。

「フェイトちゃん。全部嘘だよ?」

「……う、そ?」

「クローンとか、本当の娘じゃないとか全部大嘘。」

「え?でも、そんな、だって………。」

「フェイトちゃんの事が大嫌いなんて、そんな事言うのフェイトちゃんのプレシアさんじゃないでしょ。だったら違うんだよ。あれは姿形を似せた紛い物。」

「にせもの……母さんじゃ、ない?」

「そう!」

 よく出来ました、とばかりになのはが頭を撫でてくれる感触が心地よい。そう言われれば、確かにそうだ。あんなモノを何故自分は母親だと思っていたのか、気持ち悪い。それを気付かせてくれたなのははなんて優しいんだろう。こちらを覗き込む眼はとても深く、心地好く、ぐちゃぐちゃの心を落ち着けて、その隙間に侵食しテきテクレテ……。

「認識と現実が食い違ってるなら、間違ってるのは現実なんだよ。」

 世界に自分一人しかいない場合かギガロマニアックスに限った話だけどね、とぼそっと続けられたのには気付かない。じわじわとなのはの言葉が染み込んでいく。

「じゃあ、本当の母さんは何処?」

「何言ってるの。プレシアさんはフェイトちゃんとずっと一緒にいてくれるんでしょ。」

 そうだった。母さんはそう言ってくれた事があった。

「母さん!」

『何かしら、フェイト?』

 呼び掛けてみるとやっぱりだ。応えてくれた。聞こえる、母さんの声が。視界に入ってなくても見える、母さんの姿が。身体全体で感じられる、母さんの温もりが。何で今まで気付かなかったんだろう。それもあんな偽物を信じてしまうなんて。

「ごめんね、母さん。」

『謝る事なんて何も無いわ、私の愛しいフェイト。』

「ああっ!」

 母さん!母さん、母さん。母さん、母さん、母さん、母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さんかあさんかあさんかあさんかあさんかあさんかあさんかあさんかあさんかあさんかあさんかあさんカアサンカアサンッッ!!!

 認識すると一気に絶頂が訪れた。幸せ過ぎて、ひきつった様に全身がぴくぴくしてしまう。

『ふふ。フェイトったら本当に可愛い娘ね。』

「んあぅっ!かあひゃぁ~~~~~~っっっんあぁぁぁぁぁっっっっ!!!」

 幸せだ。正気を保っていられるかどうかも怪しい程で、目の前で白い火花がぱちぱち鳴り、体に上手く力が入らない。呂律も回らなくなり、白眼を剥いたいかれた笑顔に固定される。

(あぁ……母さん、ずっと一緒………。)

『ええ。ずっと一緒にいてあげるわ、フェイト……。』

――――。

「………洗脳完了?……擬似的でかつ本物よりも余程強力な催眠術で一種の解離性同一性障害に陥らせる?拓巳、人聞きの悪い事言わないでよ。ちょっとフェイトちゃんが立ち直れる様にアドバイスしてデッドスポットからイメージ送っただけなの。…………そう、わたし今拓巳とずっと一緒にいられるってなってすごく機嫌がいいから幸せのお裾分けついでにアフターサービス。……………まあ、うん。フェイトちゃんがあのまま壊れるとここから帰れなくなるしね。…………うぅ、だよね。あーあ、フェイトちゃん気絶してる。今度は逆に落ち着くの待たないとだめかぁ。おーい……………………。」

 プツッ―――――。

<接続終了。>



※この後復活したフェイトに送られて地球に帰還したなのはが、ジュエルシードを全てディソードに食わせて無印終了。

※アースラ?ジュエルシードが暴走しても次元震を起こす暇も無くなのはが全部片付けちゃうので事件自体に気付かない。

※ある意味かなり幸せな結末。

※空気なのが約一名いる?だってそれはフェイトに優しくないお話だとあの人周りにやたら噛み付くだけの安易なキャラになりやすくて、使いにくい事この上ないし。え?お前一回でもフェイトに優しい話なんか書いた事があるのか、って?……………。

 プツッ―――――。




[15953] A’s編(虐殺注意報。)
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:f564bbb8
Date: 2010/02/05 00:20
<思考盗撮、、、ヴィータ。>

 信じられない。この数分で随分と頼もしさを感じられなくなってしまった相棒を振るいながらも、その思いが心の中に濁流の様に押し寄せる。

 人形、道具として扱われてきた自分達を、初めて家族として傍に置いてくれた主、八神はやて。ロストロギア・闇の書の守護騎士ヴォルケンリッターとしてではなく只のヴィータとして、命に代えても守りたいと思った温もりをくれた人。

 だが、その闇の書が主を侵食し下半身からやがて生命に拘わる部分まで麻痺させていっていると知った時。『他人を傷付けてはならない』という約束を破り生物から魔力の源たるリンカーコアを蒐集し闇の書にくべる決断を仲間達とした。闇の書が真の覚醒を見れば侵食は止まり、はやては健康体に戻り再び歩ける様になる筈だから。

 蒐集が半ばまで来た所で灯台もと暗しという事か自分達の世界である地球、それも住んでいる海鳴市に尋常でない魔力を持っている少女がいるのに気付いた時、ヴィータは迷わず蒐集する為に戦闘を仕掛けた。拠点の目と鼻の先で行動を起こし管理局にはやてが見つかるリスクもあったが何より時間がないし一刻もはやくはやてを回復させてあげたい。魔力は大きいが経験が浅いのも、自分の初撃を捌く手際で分かった。失敗する危険は殆ど無い。悪いがはやての為に何日かでも入院してもらう。死にはしないからいいだろう。

「お断りだよ。なんでたかが見ず知らずのガキの為にそんな思いしないといけないの。」

「………え?」

 その思考を読んだとしか思えない言葉を発しながら、少女はバリアジャケットの帯に杖のデバイスを差す。最初はミッドチルダ式の魔導師らしく誘導弾と砲撃で戦っていたのに、どこからともなく空いた両手に握った長大な剣をこちらに向けていた。

「――――ッ!!」

 ゾクリ、と。戦場で従って損した事が無い勘が、その奇妙な色彩と形の剣を未曾有の危険と告げている。咄嗟に回避行動を取ったヴィータの頬を、投擲された剣が回転しながら削って行った。

 間一髪躱した剣は、重力下の物理法則に反逆して完全な直線を描いて空の向こうへ飛んで行く。すぐに結界の境界線に届くと――――それこそ戦術級の砲撃でなければ破壊できない筈の結界が、紙の様に切り裂かれ崩壊した。

 それに戦慄する暇も無い。慌ててしゃがんだ上を何の前触れもなく今投擲したばかりの筈の剣で少女が薙ぐ。勢い余って後ろにあった信号機が綺麗に両断された。魔力を持たない人が入れない様に事前に張ってあった結界が壊れた事で、位相が重なり残骸の落下音に上を見上げた目撃者達が騒ぎ出す。それに構っている余裕も、無かった。

「…………うん。拓巳も怒ってるし、三十倍にして送り返してあげる。もちろん入院なんかで済むとか思わないでね、通り魔さん?」

 いっそ愛らしい笑顔。だがヴィータは、本能的に標的の選択をミスした事を悟るのだった。


 信じられない。何度も何度も心の中で繰り返す。

 すぐに異変に気付いたシグナム・シャマル・ザフィーラ三人共が駆けつけシャマルが結界を張り直した。そしてシグナムとザフィーラと、三人合わせて接近戦を仕掛け………未だ少女は無傷。

 あり得ない話だ。いくら切れ味の良すぎる刃物を持っていても、空中での構えはまるで素人。柄の両端から刃が出るという特殊な形状の剣故に、何時自分を切ってもおかしくない程にその振り方も大雑把。たとえ剣の異常な切れ味に警戒しなければならないとしても、ヴィータ達に負ける要因はそれ以外皆無。

 どんな武術の達人でも、三人以上で囲まれたら絶対に敗北するという。まして長い戦いを共に経験し互いの呼吸も完全に理解している騎士達が同時に掛かっているのだ。

 なのに―――。

(なんで………なんで掠りもしないんだよぉっ!)

「どこ狙ってるの。」

 シグナムが大上段から仕掛ける。その腕を切り落とさんと振られた異常な切れ味の剣にレヴァンテインを交わす事を試す気も無く攻撃を中止して体一つ分下がるしか無い。

 ザフィーラが剣の合間を縫って組み付こうとする。やる気の無さそうな蹴りがしかしもろにカウンターとして側頭部に食らわされよろける。

 後ろからヴィータが鉄槌を小刻みにスイング。阿呆を見る様な目で腰を引いた少女に、距離的にはあと一センチほど届かない。

 三人全く同時に仕掛ける。少女がギリギリまで引き付けた様なタイミングで体を捻りながら剣を一回転させ、全員が慌てて退くしかない。

 さっきからずっとこんな感じだ。こちらの攻撃を見切っている様子は無い。スピードだってさっきピンク色の魔力光を撒き散らしていた時と変わらない。なのに雲を掴む様に攻撃が当たる気すらしない。

「………あ。」

 そんな少女の胸から、突如腕が生えた。シャマルの転移術式『旅の鏡』による遠隔蒐集。それがここまでの苦労が嘘の様にあっさりと決まったのか。

『きゃあああああぁぁっっっっ!!?』

「「っ!?」」

「……シャマルッ!!」

 そんな淡い期待は、念話でうるさいくらいに響いた悲鳴によって断ち切られる。腕が少女のリンカーコアを抜き取る筈が、引っ張られてシャマル自身が旅の鏡を通ってこちら側に来てしまう。

 それどころか。腕が。沈んでいく。少女の体の中に。肘まで飲み込まれ、ずるずるとそのまま引き込まれる。もがいても動かない。

 ずるっ、ずるっ。獲物を丸呑みにする食虫植物の様に、ゆっくりと少女の体がそれよりも二回りも大きいシャマルを飲み込んでいく。

「い、いやぁぁ………っっ!」

 既に右半身が飲み込まれてしまった。左脚。腹。無闇にばたばたと残った左腕を動かして唯空を切る様は食われる昆虫そのもの。制御の利かない未知の恐怖にシャマルの顔が涙でくしゃくしゃに歪んでいる。いきなりの光景に呆けるしかなかったヴィータと視線が合った。

「っ、助けて、ヴィータちゃん助け、――――――――――。」

「あ……、シャマルッ!シャマルーーーーー!!!」

 我に返って助けようと動いた時にはもう遅い。持っていた闇の書ごと、シャマルは完全に飲み込まれてしまった。

「………ふぅ。で、もういい加減ネタ切れ?飽きちゃったんだけど。」

 飲み込んだ少女は何事も無かったかの様に戦慄しているヴィータ達に話しかける。その平然さが、何よりも恐ろしかった。

「あ、悪魔………!」

「悪魔?………もう、拓巳!そりゃ次元を異にするって意味では広義でそう捉えられなくも無いけど。女の子にそんな事言うなんて酷いの。」

「何を、ふざけた事を……!?」

 思った事が率直に口に出てしまったヴィータと、恐怖に震えているのを隠せないまま反応するシグナム。

「…………真剣なんだよ乙女にとっては切実だよ?…………それはさておきって、まあ誤魔化されてあげるけど。………………そうだね。俺tueeeとか最強って見てる分には嫌いじゃないんだけど、自分がやると本当につまらないよ。初めてなのにノーミスクリアが当たり前のゲームと同じ。ちょっと遊んでみたけどすぐに飽きちゃう。」

「…………。」

 その恐怖に囚われた心でも遠回しに自分達が弱すぎると言われている事に気付き騎士の誇りが傷付けられ、ザフィーラの目が細まる。

「うん。いや、あなた達が弱い訳じゃないんだろうけど。フェイトちゃんくらいなら確実に勝てるんだろうけど。でも。どれだけあなた達が強くても、0と1でしか世界を認識出来ない以上ギガロマニアックスには絶対勝てない、ってだけなんだよ。文字通り次元が違うから。」

 そう言って少女は剣を振り翳す。この期に及んでその姿は、不思議とやけに綺麗に見えた。

「それじゃあ、さよなら。あなた達も送ってあげる。」

 そして、ヴィータの身体のナカを冷たくて熱い風が駆け抜ける。

(あ、れ………?)

 気の抜けた声が出ようとして、何故か出ない。視線を下に降ろしてみる。腕が何故か無い。脚も無かった。見慣れた胴体は、どこ?視界が急にぐんと流れた。その中に、為す術無く切り刻まれてバラバラになるシグナムとザフィーラが映る。

 どんくさい奴らだ。声が出ないので表情だけで苦笑して、そうしている間にも景色の流れる速度はどんどん速くなっていく。なにか、大きくて、かたいモノが、ちかい?なんていうんだったっけ、あれ。

 ああ。

(じめん、だ………。)

 プツッ―――――。

<接続終了。>



<思考盗撮、、、クロノ・ハラオウン。>

 突如かつての父の上司であり恩師であるギル・グレアムに呼び出され、母息子共々彼の邸宅に赴いた。それに少なからず困惑を抱えていたのは否定しきれない。なにせグレアムは自身の提督権限を使ってハラオウン母子の仕事を最低限に減らしてまで自分に会わせる様な無茶までしたのだ。ただ事ではないと容易に知れた。

 最近十年ぶりに闇の書の守護騎士の蒐集活動が始まっている。前回父を犠牲にして終息した事件だ、浅い因縁ではない。あるいはそれかと予想していたが、実際はその斜め上を行っていたのだった。

 挨拶もそこそこに見せられた映像。守護騎士が次々と現れ一人の魔導師と思しき少女を襲っている。少女の動きは危なっかしく、途轍もない強運で粘っているが撃墜も間もなくと思われた。そして決着を付けるべく不意討ちと予想される目的の為に、分割された映像、つまり別の場所で湖の騎士が旅の鏡を使おうとした時、それが起こった。

 父の因縁で調べていたデータと違う、真っ黒なゲートが湖の騎士の前に開くと、それに手を突っ込んだ湖の騎士は闇の書を持ったまま逆に飲み込まれ出てこない。執務官としてその黒いゲートの様なものに違う心当たりがあるクロノ達にまさか、という考えが即座に過った。

 そこに追い討ちを掛けられる。湖の騎士が飲み込まれるのと時を同じくしてそれを認識した筈も無いのに何か恐ろしいものを見た様な表情で微動だにしなくなる烈火の将、紅の鉄騎、盾の守護獣。それに少女がゆっくりと近付くと、持っていたアームドデバイスと思われる剣で―――。

「ウッ………!!」

 惨殺。いくら忌まわしきロストロギアの付属品のプログラムといえど、見た目はヒトガタの破壊としては常に現場で働いているクロノですら吐きそうになるほどの『解体』だった。殺害、という生易しい言い方では足りない、血飛沫を上げさせながら首を腕を脚を腹を容赦なく無造作に斬断する。

 すぐに映像は終わる。重い沈黙が流れそうになったが、表情だけでも取り繕ったリンディがか細い声で質問した。

「結局、闇の書事件はこの後どうなったのですか?湖の騎士が、闇の書が飲み込まれたアレはまさか……。」

「その『まさか』だ、リンディくん。音声や魔力反応等のデータ解析の結果九割方あの少女のレアスキル―――仮称『ギガロマニアックス』―――虚数空間の完全制御の発動と予想された。」

「「………っ!?」」

 過去類を見ない程強力かつ凶悪なレアスキル。あのアームドデバイスらしいものの異常な切れ味も、それ――無限に崩壊する負の性質の応用と考えれば納得が行く。

「闇の書事件はもう二度と起こる事は無いだろう。流石の闇の書も虚数空間に放り込まれてしまえば暴走も転生も出来まい。君達の人生を狂わせた元凶が――――ずいぶんと呆気ない幕切れだったよ。」

 今日はそれを教える為に呼んだんだ、とグレアムは言葉を切った。

「「………。」」

 今度こそ重い沈黙が流れた。

 クロノの胸に様々な想いが去来する。幼少の記憶の中の朧気な父、殺した理不尽な世界への嘆きと怒り、そんな世界で一人でも救おうと力を求めた事。それらの体験を通して時空管理局執務官の自分の今がある。ある意味闇の書事件はそんな自分の原点とも言えるものだった。

 憎んだのは世界の理不尽で、闇の書自体には心が囚われる程のものは感じていない。だが父の仇となる以上やがて再び活動を開始した時、捜査するなら自分がという思いも少しはあったにはあった。それが、聞いた話ではフリーの管理外世界の魔導師、それも僅か九歳の少女に返り討ちに遭って異界の彼方に葬り去られたとは。

 寂しさとも怒りとも付かない不思議な感情が去来する。それに答えを出せないまま、取り敢えず別の気になった事を訊いた。

「何故、こんな映像があるのですか?」

 映像の内容の途中までを考えればこの映像を撮った人物は、危険な闇の書の守護騎士に狙われている少女を見捨て冷静に観察していたとしか思えない。誰が、何の目的で?どうやってグレアムはその映像を得た?

 それにグレアムは答えを返さない。ちらりと視線が執務机の方に向いた。先を追うと何かの書類が乗っている事に気付く。

「……養子縁組の書類だよ。」

「養子?」

「八神はやてくんという。会う事があったら宜しくしてくれ。」

「それが何の関係――、っ!」

 老いと共に増えていく深い皺に悔恨の情が刻まれているのを見て、察する。詳しい事情までは分からないが、後ろ暗い事を尊敬する恩師がしていたと半ば直感だった。

「仇敵は勝手に滅び、私のした事は幼い少女に家族を二度も失わせ徒に孤独にしただけだった。分かっているさ。こんな事は今更で、偽善で、……自己満足でしかないと。だが、だからといって償わなくていい筈も無い……。」

 疲れ切ったため息と同時に吐き出す様にグレアムは言い、それきり項垂れる。どんな過ちを犯したのかさえ知らないクロノには声を掛ける事も出来ない。困っているとリンディに横から引っ張られた。

「本日はお教えいただきありがとうございました。では。」

 そのまま礼をしながら小さく言うとグレアム邸を辞する。

 広い前庭を突っ切り通りに出た辺りで重い面持ちでリンディが再び口を開いた。

「……私達は人々の平和を守る為に、残酷な様でも出来る最善を尽くさなくてはならない。でもね、そうやっていってると、いろんな事を積み重ねていく過程でどんどん後悔が増えていくの。なまじ自分自身が正しいと信じてやったから、他人に頼る事さえ出来ずに抱えこむしかなくなる。」

「僕らに何か出来る事は―――、」

「無いわね。何よりあの人自身が『ギル・グレアム』として望まない。――――――あ、でも一つだけあるかしら。」

「?」

 言葉を途中で区切り、いきなり今までの真剣さが嘘の様な小悪魔な笑みを浮かべ始めたリンディ。また非常識な事を言い出す、という経験則は今回も狂ってはくれなかった。

「あの、高町なのはちゃんって言ったかしら?管理外世界でフリーの魔導師らしいわね。管理局にスカウトしちゃいましょう♪」

「……はあっ!!?」

 プツッ―――――。

<接続終了。>



※フェイトとはやてが名前しか出てこないA’s、完。

※主観のヴィータ達と客観のクロノ達の認識の差異。

※チートスペック主人公限定だがある意味最も手っ取り早く後腐れの無い闇の書事件解決法。………ぬぉ、ヴォルケン好きの方々、石を投げないでっ!?

※テンプレ通りの最強蹂躙モノじゃね?って気付いたのは書き終わってから。でも上げる。だって虫シャマル書いてて楽しかったんだもん…………あれ、なんか上から降ってき(ry

※そして三人娘は管理局へ。展開が多少強引なのは半ばわざとな部分もあります。

※それに関連して、詳しい解説などで空白期編が多少長くなるかも……。




[15953] 空白期編;なのは
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:f564bbb8
Date: 2010/02/11 00:19
<思考盗撮、、、猫?>

 我輩は猫である。まだ名はない。

 そんな猫世界伝統のモノローグをしたかどうかは定かではないが、その猫はある場所を目指していた。町内の野良猫に大人気のスポット、午睡に丁度良い日だまり。狭いブロック塀の上を器用に渡り、軽やかに木の枝に跳び移る。枝が体重で折れない内に更に跳躍。二メートル近い落下の衝撃を四肢のバネで殺し、そこに辿り着いた。

 他の何処を探してもなかなか見当たらない、道場付きの日本家屋。その南に接する縁側が目的地だった。

「にゃー。」

 しかし、運がいい。自分と同じく日向ぼっこに来た先客は一匹もいなかった。一人ニンゲンのメスが自分達のマネだろうか奇声を上げていたが、寧ろ好都合だ。猫達がここに来る理由は彼女か彼女の兄で、そうでなければわさわざ場所を固定しなくともその日の気まぐれで昼寝場所を決めればいい話なのだから。

 猫は感情に繊細な生き物だ。構い過ぎると機嫌を悪くし、しかし好奇心の湧くものには飛びついてじゃれたりもする。自由気ままでいたいが独りはつまらない、というややこしい性質なのである。

 そして、そんな猫達は彼女らを気に入っていた。兄の黒いオスは静かでしかし優しく暖かい雰囲気が。妹の白いメスは手慰みにじゃれたりはするが基本他に無関心でこちらの領域を全く犯そうとしない辺りが。

 まあ、その猫は後者の方が好みだが、ニンゲンに飼い慣らされた猫はメスの方は苦手だろう。現に山の方で大量に一ヶ所で飼われている猫共は、白いメスが来ると一斉に逃げ出すらしい。

「………違う、って?もっと甘く?えっと、こう……『にゃあ』?」

「にゃー。」

「それでいて………、って、もう拓巳ってば注文が多いなあ。こう?『にゃ~』。」

 しかし何をしているのか。メスは猫を両手で脇を挟む様にして持ち上げ顔の正面で視線を合わせながらこくりと首を傾げている。面白いのは、回数を重ねるにつれてどんどん猫の鳴き方とは離れて行くところか。

 だが、視線は合っていても基本的に聴覚に重きを置く猫は分かっている。たまに自分を見掛けた通りすがりがやる様に鳴き真似で自分に話し掛けてきている訳ではなく、ましてや猫の鳴き声に似せようとすら思っていない。

―――それでも、正しいのだろう。『発情したニンゲンのメス』の鳴き方としては。

「にゃ~ぁ。……ちょっとずれた。え?…………拓巳!?それはハードル高くない!?」

「みゃ?」

「うぅ………その、えっと。すぅ~。」

 中断したかと思うと、素頓狂な声を上げてから深呼吸を始める。相変わらず見ていて面白い。自分を持ち変えて膝に乗せ、背中を撫でまでしながらよくもまあ猫に何の感情も懐かずに自分の世界に集中出来るものだ。まあ、だからこそ野良猫達はこのメスが気に入っているのだが。

 一拍の間。そしてメスが口を開ける。

 なのは、がんばる。

「ご主人様、大好きにゃん!」

「…………。」

「ご主人様、大好きにゃん♪」

「…………。」

「ご主人様、大好きにゃん☆」

「…………。」

「………ご主人様、大好きにゃんww」

「…………。」

「…………。」

「…………。」

「…………。」

「………にゃ~。」

 痛い沈黙が降りていた。メスは器用にも自分を撫でながらも頭を抱えて震える。

「………イタいの。あいたたた、なの。確かに拓巳のお願いは何でも聞くけど、これはなんていうかそれ以前の問題じゃ………………、え?萌えた!?GJ!じゃあいいや。うん?…………えへへ、ありがと。」

 しかし、立ち直るのもなんか早かった。

 一段落したのか、それきり奇行は影を潜め緩やかに和んでいる。

「ねえ、拓巳……うん、あの年齢詐称ミドリの話ね、どうしよう?………そうだね、怪しいよね。電波だし、仮にあのミドリの言ってた話が全部本当だとしても、絶対裏がありそうだよねー。」

「にゃー?」

 和んで、いる?

「管理局、か。名前からしてなんかの一部門が権力闘争で成り上がってそのまま組織の名前として呼ばれる様になっちゃった感じの…………え、最初からその名前だって言ってた?…………にゃはは、実は半分聞き流してました。」

「にゃ。」

「……でも、だとしたら何を管理するんだろ?ロストロギアとかいうの?けど警察行政と司法も統括してるらしいし…………うん、わたしもそれは無茶だと思う。…………もしかして『世界全てを管理するのだーっ、わはは』とか言ってる組織だったりして。………にゃはは、まさかだよねー、冗談だよ冗談。」

「にゃぅ?」

「でも怪しい事には変わりないよね。九歳の女の子に突然話し掛けて『貴女には魔法の素質があります』だもん…………うん、新手の誘拐犯かと思った。話の流れによってはディソードでばっさり殺ってたかも。」

 猫の前脚を軽く掴んでわたわたさせたりしながら少女は話を続ける。

「そもそも素質って何、みたいな。ユーノくんにもすごいって言われたけど、ジュエルシードの時もこないだの通り魔もディソードの力で片付けちゃったし。…………なんかお話染みてて現実感無いよねー。ほら、わたしどこにでもいる女の子Aだし。こんないたいけな少女をつかまえて悪の犯罪者や危険な古代の遺物と戦えなんて、なんて鬼畜な……っ。」

「にゃっ!!」

 メスの胸を猫がぺち、と叩く。どうしてもそうしなければならない気がした。

「…………うん、まあ受けるって決めてるんだけど。だって面白そうじゃない。………ふふっ、『事実は小説より奇なり』なんて言いたくないけど、わたし一人の妄想よりもよっぽど面白い現実や他人の妄想があるから、この世界は楽しいからね。………享楽主義?別に何も悪くない。嫌なら脳味噌だけになって培養液にずっと浸かってればいいの。」

「にゃ~。」

「………しかし、そうなるとディソードは暫く封印かぁ………いくらジュエルシードのおかげで向こう二百年は大丈夫とはいっても、寿命を削る力を日常的に使う訳にもいかないし。……………あ、本当だ。今の発言中二病っぽい。わーい。」

「にゃ……。」

 猫がほどよく遊び疲れたのを何故か一瞬で察知し、膝に乗せたまま放っておく。メスの顔を見上げながらも、猫は眠気が襲って来るのを感じた。

「………うん。でも拓巳とのお話だけはやめられないの。ずっと一緒なんだからね。……………だって、なのはは拓巳の嫁、だもん。」

「に……。」

「くすっ。ずっと、ずっとだからね。…………ずぅっと、愛してるよ、拓巳―――。」

 プツッ―――――。

<接続終了。>



<思考盗撮、、、高町桃子。>

 高町家の食卓は基本賑やかである。テレビなど点けていなくともコミュニケーションを欠かさない彼女らに話題が途絶える事は無い。父士郎と母桃子は結婚から十年過ぎた今でさえ年がら年中いちゃついているし、兄恭也と姉美由希だって互いを気遣う理想的な兄妹関係を築いている。そんなやり取りの中で時折BGMの様になのはの一人言がぽつぽつと聞こえてくるのがミソだ。

 なのはの一人言にいちいち反応していたらキリが無いという事を学習せざるを得なかった彼女らは、なのはが何か言っていても笑顔で聞かなかったふりをする特技を全員習得済みである。そう、たとえ一人言の中で2ちゃん用語をにやにや笑いと共に呟こうが華麗にスルー。F言葉を可愛らしく文節に織り交ぜようが見事にスルー。高らかに十八禁ワードを天に吼えようがあくまでもスルーなのだ。本来なら小学生の女の子に対して家族がしていい事である筈がなく子供がいつグレても文句は言えない対応なのだが、なのははグレるを通り越して生まれた時から変態なので仕方ない。

 そんな高町一家の食卓だが、極稀に、そう、緊迫した沈黙に包まれる一瞬がある。それは―――、

「お茶。」

「はいなのはッ!」

 お茶。醤油。スプーン。『~を取って。』を省略した、お前はオヤジかとツッコみたくなる様な名詞だけの要求なのだが、桃子はどこぞのアメフト高校生もかくやの反応でそれに応える。

 なのはは短い腕で届く範囲なら大抵無理してでも取るし、出来ないなら出来ないで諦めて生サラダをドレッシング無しでも食べたりする。どうしても飲み物が要る時などしかそれらを口に出さない為頻度は1ヶ月に一回あるか無いかなのだが、

『ちょっとオモテ出ようか?』

 かつて家族全員が不幸にも一人言スルーフィルターを最大にしていた所為でなのはの飲み物の要求に気付かなかった時に、それに一番近かった恭也を謎のピンク色の光でガラスを突き破って庭まで吹き飛ばし言った台詞である。いや、あなたがオモテに叩き出したんでしょと思う暇もあらばこそ、いきなりの事態に何処からか取り出した二メートル強の両側にでも長すぎる剣で恭也に打ち掛かるなのはを抑える事も出来なかった。

 後にこの時の事を恭也はこう語る。

『………九歳の妹が相手とは情けないが、あれが今まで俺が最も死を覚悟した瞬間だった。構えも雰囲気も素人そのものなのに勝てる気がしない。実際に対峙してさえ殆どの人間には分からないだろうが。』

 それ以来なのは用フィルターは更に先鋭化し、なのはが何か外に向けて発信しようとする気配をも素早く反応出来る様になっていた。

………とある機会に遊びに来たアリサとすずかは寧ろそんななのはの家族に引いていたが。

『『『なのはは普段ずっと自分の世界で話してるから、気を付けてさえいれば外に発信する時の雰囲気の違いがはっきり判る。』』』

 元々父母が十歳以上若作りで半分以上が暗殺剣術を嗜んでいる、どちらにも当てはまらないなのははと言えばご存知の通りな化け物家庭・高町家。こんな事を家族全員が断言出来る時点で更にいい感じになのはの汚染を受けていた。

 さて、そんな彼女らであるから、その時も神速の反応を見せていた。実際に視界がモノクロかつスローモーションの状態で。

 食事中、なのはが自分達に何かを言う気配。過去の悪夢を思い出さない為に全身の神経の末端まで意識を行き渡らせる。何が来ても即座に対応出来る様に。

 だが。だからこそ。

「わたし、正義に目覚めたの!」

「「「…………は?」」」

 なのはのいきなりの発言の意味を理解出来ずに、いや理解したくなくて全員が固まるしかなかった。

 呆ける面々を置いて何故か演説が始まる。世界中で紛争に巻き込まれ故郷を追われた難民達や、災害に遭い今も苦しんでいる人々。いつの間に調べていたのかやけに詳細な数字も付けて、弱者の置かれた立場やらなんやらを切々と語っていた。

「今こそ、わたしは立ち上がらねばならないの!」

 弱者に差し伸べられるべき救いの手。正義の名の下に悪を挫き平和を敷く行い。力あるもの、強者とは何か。

 それはまるで聖人の様な語り口で、暇そうな爺さん婆さんやらが聴いていれば感涙に噎せた者もいただろう。だが聴いているのは人格的な意味では常識人の高町家であり、語るのがなのはでは胡散臭いにも程があるだけだった。

 しかし、胡散臭いが故になのはの言いたい真意を図りかねて困惑する。

「と、いうわけでっ!!」

「「―――っ!?」」

 何がどういう訳なのか。なのはの初めて見るかも知れない身振り手振りを交えた熱心な発言に気圧される。

 気圧されたまま―――、

「………なんで私達、あんなの了承しちゃったのかしら。」

「何も言うな、桃子……。」

 正義の活動的な感じで、スカウトされたらしい組織に参加する許可を出してしまった。

 なのはの言う組織の名前は『国際連合平和福祉NGO法人管理局地上部』。調べるまでもなく、実在すら怪しい名前であるのは言うまでもないのだった………。

 プツッ―――――。

<接続終了。>



※数年前はうるさいってだけで他人に斬りかかっていたのがディソード封印を考えたり、家族に向かっても何の躊躇いも無く電波を垂れ流していたのが学外活動の許可を求める様になったり。判りにくいけど成長はしてるらしいなのはさん。…………建前と詐惘と打算が混じりはじめてる辺り悪化と言えなくもないが。

※ていうかなのはが管理局に行くまでの話だけで一話分掛かってる……!?




[15953] 空白期編;フェイト
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2010/02/16 23:58
<思考盗撮、、、シャリオ·フィニーノ。>

 彼女は緊張していた。それはどこか戸惑いを含むものでもあった。

 つい最近彗星の如く現れ噂になった、最年少合格記録を塗り替える形で執務官の地位を得たフェイト·テスタロッサ。若干九歳という年齢は就業年齢の低いミッドチルダでも十分子供の部類に入るものであり、しかしながら管理局の僅か五パーセントのAAA以上の魔導師ランクを取得している。学科は極めて優秀、実技では同ランクだが経験は豊富な筈の試験官を瞬殺。面接でも教科書通りの回答ばかりを即答し、やや応用力に疑問が残るが執務官たる資格に否を唱えられるほどのものでもなかった。

 そんな大物から、補佐官就任の要請が人事部を通して来たのはまさに青天の霹靂としか言い様がない。何せ執務官の相当権限を考えると、一介の通信士である彼女とは階級が優に五つは違う。そんな人間の補佐官など、畏れ多いだけだ。出世の糸口と考えて素直に喜べる程の欲は彼女にはないのだった。拒否権もまた、無かったのだが。

(うぅ、緊張するなぁ……。)

 大体テスタロッサ執務官との縁と言えば、副業のデバイスマイスターの仕事で一度彼女のデバイス『バルディッシュ』のレストアを行った事があるぐらいなのに。その時は高級品のパーツを惜しみなく使ったワンオフのインテリジェントデバイスだった事と、つい口を滑らせてバルディッシュに話してしまったカートリッジシステムを半ばデバイスのストライキを呑む形で(半ば自分自身の趣味と好奇心で)搭載する羽目になったからよく覚えている。『バルディッシュ·アサルト』としてきちんと再誕させられたからいい様なものの、デリケートなインテリジェントデバイスと出力優先のカートリッジシステムとの擦り合わせは大変と一言で表すのも躊躇われる程だったのだ。

 まさかそれで変に気に入られたのだろうか。相手は子供である。但し、自分より遥かに階級の高い子供。難しく考えないでいいのかどうかも判らず、ただただ相手が気難しい性質でない事を祈るばかりであった。

―――その祈りは、ある意味で、叶う。



「シャリオ·フィニーノ三等陸曹、本日1100を以てフェイト·テスタロッサ執務官補佐に着任致します。」

「着任、了承しました。以後宜しくお願いします。」

 最初のやり取りはひどく事務的だった。だからこそ、彼女には意外。背の低さ、体の細さは仕方ない事ながら、ルビーを嵌め込んだ様な澄んだ紅眼に淡雪の様に白く艶やかな肌。腰まで下ろした明るい金の髪も細く綺麗な曲線を描く眉も、小さくふっくらとした唇も………そうやって語っていけばきりがない様な美少女で、よそ行きのドレスを着ればさぞ育ちのいいお嬢様にしか見えないだろう。だからこそ、制服をきっちりと着こなし真っ当に仕事をする姿勢はその外見もましてや事前のイメージをも見事に裏切っていた。

 その後の挨拶回りや仕事の引き受けなどもそつなくこなし、隙らしい隙は見当たらない。それだけに近寄り難い感覚も憶えたが、数日すれば慣れる。

 なので、共にした昼食の席で訊いてみた。

「あの、テスタロッサ執務官。」

「なんですか?」

「何故私を補佐官に指名したんですか?」

 辞令が来た時からの疑問。本局―――『海』の官職の補佐官に『陸』出身の自分が宛てられるこのケース自体が実はそれなりに稀少だ。逆もまた然りだが、それだけ部門が離れている事もあるし、ヨコの仲も悪い。そんな中で自分がレアケースになる根拠が分からなかった。

 それにフェイトはこう答える。

「母さんが言ってたからです。」

「………はい?」

 一見実に子供らしい理由かと思ったが、引っ掛かる。

「あの、失礼ですが、あなたの母君はお亡くなりになられていたと―――、」

 補佐官として渡されていた事前資料にはフェイトの個人情報もあり、それによればフェイトはプレシア·テスタロッサの届出なしの私生児だと書いてあった。そしてプレシア自身は行方不明後の一定年数経過で既に戸籍上死亡扱いとなっている。

「生きていますよ?」

「え?」

「母さんはまだ………ずっと、私の中で生き続けます。」

「―――っ!」

 迂闊な事を聞いた、と思うと同時に目の前の少女に自然と敬意が湧いた。まだ十にも満たぬ少女が母親の死を乗り越え執務官という過酷な業務に身を投じる覚悟をしているのだ。強い。胸の奥からこの健気な少女を支えてあげたい、という思いが沸々と込み上げてくる。

………彼女が自分の勘違いに気付くまで、そう長くは掛からなかったが。



 ずるずる………。

―――床を削る様な音を立てて引き摺る音が響く。

 ずる、ずる………。

―――漆黒に塗られた鈍器。同色の衣を纏った少女の背丈に比したその全長を考えれば確かに重量からして引き摺るのも仕方ない、と理解は出来る。たとえそれがデバイスで、見た目程の重量が存在しないとしても視覚的なインパクトは変わらない。異様なのは重量云々ではなく、年端も行かない少女がそれを引き摺ってゆっくりと歩いて来るその光景なのだから。

「時空管理局執務官フェイト·テスタロッサです。あなた達に存在する選択肢は二つ。投降して大人しく裁きを受けるか、抵抗して愚劣にも罪状を重ねるか―――、」

 ガキン―――ッ!

 片手で肩に担ぎ直し、魔力刃を展開。重さと力だけで相手を叩き斬る、武骨な戦斧。執務官、という法の武力行使の代名詞の様な役職も相まって、少女に対峙する悪どい顔をした犯罪者達の表情は青ざめていた。

「――――と、言いたいところですが。ふふ。母さんが言ってるよ?あなた達が選べる道は唯一つ。抵抗してもしなくても捕縛する時に『ついうっかり加減を間違えて』いっぺんくらい死んでみる、ってねええぇぇぇっ!!!」

『ってちょっと待って下さいフェイト執務官ーーーっ!!』

「するぅおおぉぉぉぉぅぅたああぁぁぁぁっっっ!!」

『虐殺しちゃダメですーーーっ!!?』

 いきなりバチッと体表に稲妻を走らせながら表情を歪めるフェイトに念話越しに必死に叫ぶ。

 ただでさえ規模の小さいテロリスト集団相手に管轄部隊との連携を無視して単騎突入した挙げ句、犯罪者とはいえ無用な死傷者を出してしまうなど、今から始末書の山が浮かんで頭が痛い。

「止めないでシャーリー。母さんが言う事は絶対正しいの。」

『あああ………っ。』

 あの時の『母さんが心の中で生きている』という言葉が文字通りのものだなんて誰が思うだろうか。性質が悪いのは、一度『母さん』という言葉が出てしまうとどんなに説得しようと頑張っても絶対に譲歩すらしようとしないのだ。というか、心の中に自分とは別の人格がいてそれに完全に服従しているなど明らかな精神障害だろうに、何故執務官試験の面接が通ったのだろうか?………ああ、『母さん』が絡まなければ幼いながら何処に出しても恥ずかしくない立派な人間にしか見えないからか。

――――わたしが送ったのはプレシア·テスタロッサの漠然としたイメージだけ。確かにそれが切っ掛けかもしれないけど、かくあるべき自分勝手なプレシアの人格を定義して今「母さんの言ってること」を本当に形作ってるのはフェイトちゃん自身なの。自分が思った事なのにそれを「母さん」に言わせるという形を取るっていう回りくどい自作自演のおままごと。ただそこに「母さん」を絶対神聖化するというファクターが噛んだせいで、誰の話も聴かない暴走特急になっちゃったんだね。

 フェイトが一目置いている―――それも宜なるかな―――フェイト以上の人格破綻者のエース級魔導師の少女の台詞を思い出す。お前が言うな、と何度もツッコミを入れそうになったが内容自体は説得力があった。

 それでも、原因らしいあの少女に、フェイトにせめてまともな考え方を戻して欲しいと思うのは儚すぎる願望だろうか?

「………母さんは優しいから、こう言ってるよ?せめて今の内に派手に悲鳴を上げておきなさい。どうせ死んだら何も言えなくなるのだから。」

「ひ、ひ……ひああぁぁぁぁ――――っっ!!?」

『………。』

 あの台詞も実際の大元はフェイトが考えたものである事を鑑みると、まあ儚いどころかあり得ない願望なのだろうが。

 テンションが上がりまくったフェイトが逃げ惑う犯罪者達を狩り尽くす音を聴きながら、頭痛を必死に堪えるのだった。

(どこで、間違えたのかな……。)

 彼女は知っている。自分が補佐官を務める執務官のその苛烈さと捜査の無法ぶりが風の噂で何と呼ばれているか。

 『黒き破壊<アシュタロン>』。

 古代ミッド語で魔王の一柱を表す言葉である。

 プツッ―――――。

<接続終了。>



※ちなみに力ずくと少しの屁理屈で唯一フェイトを止められなくもない(滅多にしないが)なのはは『魔王の嫁』と呼ばれているとか。…………あれ??




[15953] 空白期編;はやて1
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2010/03/03 14:48
<思考盗撮、、、オーリス・ゲイズ。>

 次元世界の中心、ミッドチルダの治安と平和を守る時空管理局地上部門、通称『陸』。次元世界のあちこちに艦艇で駆けつけロストロギアや次元震に立ち向かう管理局の花形部門である『海』に予算と人材を取られながらも、その中心で辣腕を振るい日々犯罪と戦う鉄の男、レジアス・ゲイズ。そんな父には最近名前を口にするのも忌々しい人物がいる。

 高町なのは。

 管理外世界から来て、何故かあちらからすれば他所の世界を専門に守らなければならない『陸』に志願してきた変わり種の少女。魔導師ランクは最近Sに届き、『陸』では首都防衛隊隊長ゼスト・グランガイツに並んで双角を成せる程の逸材。

 実力には文句を付けようが無いし、仕事も早く正確。だが、問題は態度だった。

 規律や命令の違反ギリギリの所を見極めて好き勝手するきらいがある。犯罪者相手に『最短スコア』だの『ノーミスクリア』だのとまるで遊びか何かの様に言い、書類は補佐官に任せっきりでどうしても自分のサインが必要なものをろくに見もせずに適当に名前を書くだけ。しかも最低限の義務以上の事を全くしようとしない。挙げ句にぶつぶつと独り言を繰り返す癖があり、他の陸士達とコミュニケーション不全かついらないトラブルをよく起こしている。

 止めに彼女の補佐官をやっている月村すずかに聞き出した『陸』への志望理由が、

――――ほら、『海』ってなんか艦であちこち回るから休暇とか不定期になりそうじゃないですか。あと地球……ああ、第97管理外世界のゲームしたりアニメ見るのに規格合わせとか色々と改造出来るスペースが要る―――まあ実際にやったのは私ですけど―――からかな。艦の中だとそういうのやりにくそうですし。なのはちゃんはなんでも自分が楽しければそれでいい人ですから、人生全て『誰かを助ける』とか高尚な使命に懸けるなんてあり得ません。

 なんとも楽そうな生き方だな、と半ば呆れながらもそれを伝えられた父の血管が切れた音は今でも耳に残っている。

 高町なのはにとってこの仕事は魔法を使って敵を倒すゲームかつそれで給料を貰えるだけの仕事で、それだけに全てを懸けるつもりはなく自分の趣味にも邁進しているのだ。そんななのはの態度はそれこそミッドチルダの治安に人生全てを懸けている父には断じて許せないものがあるのだろう。

 彼女が起こすトラブルの中には、彼女の考え方に反発した正義感溢れる陸士とのものも少なくはないと思われる。まあその悉くを高町なのはは時には口で、時にはSランクという事で最低限上げざるを得なかった立場(監視の意味も籠めてレジアス直属部隊)によって、あるいは問答無用の力ずくで叩き伏せて来たのだが。巧妙な事に相手に殆どの責任を負わせられる状況にしてから。

 今ではすっかり彼女に真正面から何かを言える人間は少なくなり、陰口を叩かれる始末。主にその内容はと言えば、行き過ぎにも程がある捜査の強硬さと犯罪者への果断さで有名なフェイト・テスタロッサ本局執務官との交友関係をあげつらうもの。『海』のテスタロッサ『陸』の高町、管理局が抱える問題人物トップツーとか。魔王夫妻とか―――夫がテスタロッサ執務官な扱いの辺りもしかしたらあちらの方が酷いのかもしれない。直属の上司として高町なのはのトラブルの度に仕事が少しだが増える父の秘書としては、テスタロッサ執務官の周りにいる人達とは仲良くやれそうな気がする。

 だが、そんな彼女でも『陸』には滅多に来ない高ランク魔導師である事には変わりない。彼女のおかげで命を落とさずに済んだ陸士も、何より犠牲になる事の無くなった市民だって多くいる筈だ。寧ろ、だからこそ、か。実力を持っていながら信念の無い心構えが何よりも父にとって許せないのだろう。

 さて、そんな高町なのはの考察を何故今しているかと言うと。

「決闘状、ですか?」

「うむ。名目上では模擬戦だが、実質そうだ。」

「リミッターの全解除、郊外の屋外訓練所使用許可。それに三等空尉がわざわざ一等陸尉を指名して………。成る程。」

「高町がどこで因縁を拾っていても何時もの事だが、これだからベルカは。無駄に手間を取らせるだけだと言うのに。」

 高町なのはへの模擬戦の申し込みの書類を見て眉を潜める父。

「断るのですか?」

 微妙に男の子な部分のある父には決闘という概念は好ましいものだと思うのだが、ベルカ教会嫌いの関係で『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』のだろう。そこは追求せずに話を進める事にした。

「いや。何故かハラオウンの方からもやれと要請が来ている。」

「『海』のリンディ・ハラオウン提督がですか?航空武装隊員と地上部隊員の模擬戦に口出しを?」

 どう考えてもお門違いだろうに、と暗に込めた問いを流す父。

「ふん、『海』の雌狐の事情など一々把握しておらんわ。しかし、小さいが奴に貸し一つと思えば承認とスケジュール調整程度は安いものだろう。」

「………そうですね。しかし、だとすれば配慮して彼女には手加減する様に言っておくべきでしょうか?資料によると相手はランクAAとなっていますが。」

「お前は………。」

「?……あ。」

 言って、父に呆れた眼で見られてから気付く。あの高町なのはが胡麻擂りをやってくれる可能性など一分も無いに決まっている。沈黙が非常に痛かった。

 八つ当たりの様に高町なのはの対戦相手のプロフィールの顔写真を睨んだ。ミッドチルダでは中々見ないタイプの顔つき、可愛いとは言えるがどちらかと言えば高町なのはに似ている。………そういえば、彼女とて中身を完全に無視すれば可愛らしい女の子だな、と考えてしまった。

 しかし、二ランク上の相手、それも『魔王の嫁』に正々堂々と挑むなど正気なのだろうかこの少女は。

 この――――ハヤテ・Y・グレアムという少女は。

 プツッ―――――。

<接続終了。>



<思考盗撮、、、リンディ・ハラオウン。>

 嫌に晴れ渡った空の下。リンディは立ち上がった少女にため息を吐いた。

「……本当にやるのか、はやて?今からでも、リミッターを掛けてもらうくらいは――、」

「ええって。これ以上待てへんのや。どうしても、せなあかん。」

 新しく出来た妹の様な少女に心配そうな声を掛ける息子にも耳を貸さず、強情な顔で向こうだけを見ている。自身にも頑固な所があると自覚しているクロノが、処置無しとすぐに引き下がった。ここに至るまで、散々繰り返したやり取りなのだから。

 梃子でも動かないはやての態度を見ずとも、解ってはいるのだ。はやての焦りも、憤りも、遣る瀬なさも。この数年、ずっと見て来たから。見ずとも、境遇を聴いただけでさえ想像出来る筈のものだから。

――――見ていられないものだった。自傷・錯乱・虚脱・人間不信。僅か九歳だった少女が二度も家族を失ったのだ。しかも二度目は、他人に殺されるという形で。殺した人間は、今回の事件だけでも何人もの罪の無い人々に重傷を負わせてきた危険なロストロギアのプログラムに襲われたのを返り討ちにした緊急避難―――『正当防衛』ですらない、なにしろヴォルケンリッターに人格が認められていない以上彼女らは『器物<モノ>』なのだから―――でお咎め無し。第三者ならば確実にヴォルケンリッターが悪いと口を揃える状況で。

 そうした声を聞かせない様にリンディらは気をつけていたし(もちろん例の惨殺映像など見せていない)忙しい仕事の合間を縫って出来る限りはやての事を気に掛けていた。だが、最初の半年は食事も喉を通らず誰の言葉にも耳を貸さない有り様で。全て夢だったらいいのに、と一言だけ呟いた痛々しい様子はよく覚えている。

 正直、あれから立ち直れたのは奇跡に等しいと思っている。その過程を語れるとすればはやて自身だけであろうし、語るにしても一朝一夕で終わる様な単純な話では決して無いに違いない。現実を拒絶し生きる人形となる事も覚悟していただけに、今不器用でも前を向けているはやては強い娘だと思う。

(――――でも。)

 もう少しでも、待って欲しかった。せめて相手との魔導師ランクの差が一つになるくらいまでは。

 相手は『魔王の嫁』高町なのは。その奇怪な言動と逸脱した思考原理で周囲と激しい摩擦を起こしながらも、『陸』の主力として犯罪者達を震え上がらせるSランクの名は伊達ではない。まして彼女の持つレアスキル『ギガロマニアックス』の凶悪さ―――あれが上限でない可能性すらある―――は解っているつもりだ。非殺傷設定に出来ない以上登録もされていないレアスキルだが、裏を返せばその補正を受けず純粋な魔法の実力だけでSランクを勝ち得ているという事でもある。

 はやての勝ち目は殆どゼロ。それだけならまだいい。非殺傷にはしているだろうが、模擬戦でもあの高町なのはがはやてに容赦するとはとても思えなかった。

 補佐官を隣に到着した彼女を遠目に見る。はやてがきっと睨み付けているのと見比べながら、あるいは彼女を管理局にスカウトしなければ、と詮無いifが頭を掠めた。

 リンディは、決して才能や実力だけで高町なのはをスカウトした訳ではない。人材収集癖と息子に呆れられる自分とて人格の考慮くらいする。考慮したからこそ、彼女を絶対に管理局に入れるべき、と判断したのだが。

 あの映像でリンディが最も衝撃を受けたのは、年端もいかない少女が躊躇いなく人を斬り殺す光景そのものだった。あの時点で彼女は敵がプログラム体(はやての話では実は人格があったらしいが)である事を知らなかった筈だ。つまり、同族殺しに何の忌避感も持っていないという事で、何より一児の母としてそんな子供を放置する事が出来なかった。生憎何処で魔法を知りデバイスを得たのかいまいち判然としなかったが、彼女の力は管理外世界では絶対に持て余す。倫理観を矯正しその力に振り回されない事を願って管理局に入れたのだ。

――――それが何の意味も無いという事実に気付いたのは何時だっただろうか。

 彼女は人の最低限の規律を守る事は出来る。かくあるべしという規範意識からではなく、他人に必要以上に煩わされない為に。高町なのはという人間はそこで完結してしまっている、決定的に違ってしまっている。何より恐ろしいのは、自分が高町なのはという単位で完結し自分以外の全ての人間と違っている事を自覚し、それでもなお社会の中での自らの位置を確かに出来るという事だ。

 だからこそ自分が―――管理局が―――何をしようとも彼女に出来る干渉は無い。それでも無理矢理干渉しようとすれば?決まっている。あのヴォルケンリッターの様に、高町なのはというバケモノの闇に喰われて消えるだけだ。あくまで管理局の紹介という形を取ったから今自分は幸運にも無事なだけで、もし入局の強制など手段を間違えていたらと思うとぞっとする。

 時間が迫った。長く考えにはまっていた様だ。あるいはその瞬間が来て欲しくないという願望か。

 形ばかりの握手を交わし、所定の位置に付く二人。監督役の合図と共にデバイスを起動する。高町なのはは、デザインこそオリジナルだがミッド式ではありふれた杖型のデバイス。そしてはやては、

「頼むで。――――――レヴァンテインッ!!」

 家族の形見の剣型デバイスを構える娘の様に想っている少女に、リンディは祈る事しか出来なかった。

<接続終了。>



※さりげに初めての前後編。

※番外編のすずかsideについて普通にアウト判定を出されまくったのでxxx板(http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=18&all=16746&n=0&count=1)にまるごと移動。まあすずかがなのはについていって補佐官やってる、とだけ理解しておけば十分かと。

※この話でのなのはの魔法への感情なんてこんなもの。

※リンディさんはギガロマニアックスの真骨頂『視覚投影・思考盗撮・五感制御』は知らず、あくまで物理的なレアスキルだと思っている。

※シリアスを決めようとはしているが、この世界ではまともな神経の人間から犠牲になるという法則が………。




[15953] 空白期編;はやて2
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2010/03/15 06:26
<思考盗撮、、、月村すずか。>

 航空武装隊所属、八神はやて三等空尉。彼女と愛しのなのはちゃんとの模擬戦が決定した際―――上官のレジアスから回って来た話だから拒否権は無いし拒否する程のものでもない―――それを伝えたなのはの反応はまさに予想通りのものだった。

 即ち、誰それ、と。

 なのはが消し飛ばした闇の書の元マスター、と言っても思い出すのにかなり時間が掛かる辺り流石だと言える。なのはにとって忘れるくらいどうでもいい事だったので、思い出してもだからどうしたという訳ではないのだが。ただたまにはケチで魔力ランクも低過ぎる犯罪者相手では出来ない全力全開の弱い者いじめもいいよね、とは言っていた。

 なのはに関しては頭のネジが数本飛ぶすずかは概要を聴いて楽しそうにしている彼女を微笑ましく見ているだけだ。ただ、なのはが面白そうにする相手が人間の女性である事に多少胸がちくりとはする。そんな幸福感と同時の嫉妬な心境にポエムっぽく『心のマルチタスク』と名付けてみた。なのはに鼻で笑われた。

 それはそれでイイのだが、その感情は実際になのはとはやてが対峙した時に大きくなる。

「………。言葉にすればやっと見つけた、って感じや。不思議と殺意は湧かんもんやな。」

「へぇ?」

 言葉と裏腹に眼にこもるのは不穏極まりない負の感情。それを真っ直ぐに態度に表す様にするはやてと対照的になのはの機嫌がぐんぐん上昇していくのが分かった。

 『魔王の嫁』と恐れられる様になってからなかなかなくなった、直接ぶつけられる悪意。それを管理局に入ってから半ば日課の様に、真実面白半分で叩き潰す策謀を組んでいたのはすずかだった。中でも二人がかりで性犯罪者の汚名を上司に着せた時は傑作だった。なのはのさも純潔を無理矢理奪われそうになった乙女の様な涙目の仕草―――今となっては騙せる奴はいないどころかこの世の終わりかと思って卒倒する人が出るだろう。主に直属の上司の秘書辺りが―――に萌えまくって。が、最近やり過ぎてめっきりなくなったのでなのはにとって久しぶりの叩きのめして楽しめる敵意なのだ。

 そして、そんな事情を知る事も無いはやては、自身の激情のみに囚われるのみ。知っていれば、却って益々怒り狂うだろうが。

 そんな中で、模擬戦は始まった。

 開始早々、様子を見る事もせずに八神はやては前進する。前進、と言うには些か乱暴に風を引き千切る様な雰囲気でレヴァンテインを掲げ突進。

(まあ、そう来るよね……。)

 それを見て呆れた風にすずかは肩を落とし溜め息を吐く。

 その気になれば射撃どころか砲撃魔法で弾幕を張る事の出来るなのはに遠距離戦を挑むのは自殺行為だというのは彼女を少しでも調べればすぐに判る話だ。それが近接戦に特化したベルカ式の使い手ならばなおのこと。故になのは相手にひたすら接近戦を挑む魔導師は多い……見飽きる程に。

 敢えて特筆するとすれば、模擬戦開始時の互いの距離が二十五メートルと近め―――高速移動魔法を使えば一秒足らずで詰められる―――である事と、八神はやてのバリアジャケットが文字通りの『騎士甲冑』と言える程に装甲でガっチガチになっている事。肩·腕·胴·背·脚と、通常の魔導師の衣の上に間接の妨げにならない最大限の範囲をプレートで固めている。あれが見た目通りの鉄塊ならば大の男でなければ重みで身動きが取れなくなるだろう、と思えるほど。

「ディバインシューター。」

 関係ない、と『実力差が著しい格下を殲滅する』際に愛用している魔法を迎撃として起動する。とはいえ格下用とはあくまで用途の違いであって『殲滅』と名の付く以上そこに容赦は一切無い。砲撃で弾幕を張れるなのはが射撃をたった一人に対して行えばどうなるか―――十字砲火の蜂の巣、よくてなぶり殺し。

 なのはの周囲に生まれるディバインスフィアの数は十七。放たれた魔力弾が『一秒足らず』の間に疾走するはやてに殺到する。眼球、眉間、人中、こめかみ後頭部頸背骨腋心臓脇腹鳩尾股間etc.――えげつなくも一つたりとて外す事なく人体急所を撃ち抜く無慈悲の弾丸。移動中の相手にここまで精確に射撃魔法をぶつけられるのがなのはの『魔王の嫁』たる所以なのだが、これを躱した者は居てもまともに喰らって立っていた者は居ない。非殺傷設定とはいえ当たり所が良いかどうか以前に悪い所にしか当てていないので再起不能者も当然指の数では利かないほど出している。

 だが―――、

「嘘っ!?」

 光の雨に打たれながら、しかし速度を減じる事なく、痛みに顔をしかめるでもなく、バリアジャケットに綻びすら無い状態でなのはに斬りかかったはやての姿に予想を覆され、すずかは思わず声を上げる。そのままなのはのシールドとレヴァンテインが衝突し戟音に爆ぜた。

「ふぅん。その重っ苦しい鎧は実際多重フィールドを層状に組んだもの。攻撃を喰らう度に一番外側をジャケットパージしてダメージを実質ゼロにしている、って感じかな?面白いこと考えたね。」

「一発で見抜くか。流石やけど―――、」

 防御魔法も使った様子がなかったのに無傷でいられたタネをなのはがあっさりと見破る。

 防護服のエネルギーを外側に解放して一瞬だけ防御力を急上昇させる緊急にして最後の回避手段、ジャケットパージ。はやては幾重にも薄いバリアジャケットを『重ね着』する事で何度もその発動を可能にした。

 勿論それだけフィールドに魔力を食われているのだから消耗も著しい。バリアジャケット自体が魔力量が足りず使えない魔導師もいるのだから、それを何十枚も重ね掛けすれば数値だけならなのは以上の魔力量を持つ八神はやてと云えど馬鹿にならない消費の筈だ。

―――長期戦ならば、の話だが。

「手遅れや。カートリッジロード……『紫電一閃』!!」

 火薬が炸裂した様な音が響いたと思った瞬間、一端シールドに弾かれた刃が強烈な光を纏って切り返される。一瞬の抵抗の後裂けたシールドの残滓と、

 なのはの頬から、一筋の紅血が跳ねた。

「―――っ。」

―――息を飲んだのは誰だったか。

 なのはが一旦下がって距離を取る。はやては躊躇いなく前に出、斬り掛かる。射撃で駄目なら砲撃でと言わんばかりに放たれたディバインバスターの閃光の中を泳ぎ、磨り減っているのだろうが見た目には変わらないバリアジャケットのまま、

「カートリッジ、ロード!」

―――高町はさっさと終わらせるだろう、と思っていたレジアス達?

 レヴァンテインを降り下ろす。再びシールドを切り裂く様はまるで先のやり直し。しかし切っ先が届く前にふわりとなのはは舞う様に身を躱す。その分だけ反応が遅れたのか、今度は迎撃する間も無くはやてに追撃を受けてしまう。

「カートリッジ、ロード!」

―――心の底ではやての心配しかしていなかったリンディ達?

 フィルムを巻き戻したかの様に三度同じ光景。

「カートリッジ、ロード!」

―――あるいは、勝てるかもしれないなどと思い上がった予感を瞳に宿した、八神はやて自身だろうか?

 何度も、何度も繰り返す。なのはが距離を取り、放つ射撃や砲撃を正面から一直線に突破しカートリッジにより防御を破る斬撃をはやてが放つ。

「カートリッジ、ロード!」

―――いずれにせよ、表情を一気に消したすずかと、当のなのはでは決してないのだろう。

「カートリッジ、ロード!」

「カートリッジ、ロード!」

「カートリッジ、ロード!」

「………っ!?よせはやて、相手は君の消耗を狙っている、それにそんな急に何度もカートリッジシステムを使えば―――、」

「構わん、このまま決める!カートリッジロードっ!!」

―――彼らの中には、一つのシナリオが出来ていたのだろう。身体に負担を強いるカートリッジシステムを乱発してでも特攻を掛け、次第に追い詰められるなのはが負ける、という光景が。だからクロノは今ではその負担について心配している。だが。

 相手の消耗狙い?高町なのはがそんな生易しい存在である筈がないだろうに!

「クロノ·ハラオウン執務官。模擬戦への口出しは感心しませんよ?」

「な……っ!?」

「ふむ、月村……。成る程。さて、リンディ·ハラオウン提督、これではまるで私闘ではないですかな?聞いていない、こんな事で貴重な人材を失いでもしたら困りますな。あなたにとっては管轄外の人材なのでしょうが。」

「………。」

 動じないすずかを見て共にいたレジアスは察したのだろう、万が一なのはが負傷·戦線離脱する前に止めるべきかと悩む態度から一転リンディを責める方向に矛先を向けた。

 そんな間にもなのはは『ついにはやての猛攻の前に体勢を崩し』、距離を取る事も迎撃する事も出来なくなる。その隙を逃さずはやてが『最後の』攻撃を放つ。

「止めや、カートリッジロード………紫電一閃!!」

 降り下ろされるレヴァンテインが、なのはのかざしたシールドに、

「―――――そろそろ満足した?」

「………え?がッ――!!?」

 罅すら入れる事も出来ずに弾かれた。

 今までカートリッジを使えば確実に突破出来ていた事がまるで嘘のよう。技後の硬直のまま呆然とするはやての鼻面を、わざわざなのはは打撃強化魔法フラッシュインパクトを素手に掛けて思いっ切り殴り飛ばした。

 くすくす。くすくす。嘲り笑う。

「なーに驚いてるの?あなたと同じ、二重にシールドを張って衝突の瞬間に外側をバーストしただけ。………そうだね、いくら即興で組んだとはいえ、これ魔力消費が激し過ぎて割に合ってない。こんな魔法使ってるのあなただけなの。」

「、そんな―――!」

(あーあ、なのはちゃんってば。)

 なのはの意図が読めたすずかにも嘲笑が伝染る。驚くはやても無理はない、自分が二ランク上のなのはに有利に持ち込めた切り札の一つをそっくりそのまま返されたのだ。それも前知識無しで一発で成功させ、その上でその魔法に失格判定を出したのだから。ならば次に何をするかも分かるというもの。

「足りない。………うん、いや、使い所だね。切り札は伏せるもの、奥の手は隠すもの。108式とは言わないまでも、変身はあと二回残してるから意味があるんだよ?………そこ、ネタが古いとか言わない。カートリッジロード、レイジングハートエクセリオン·モード『シラヌイ』。」

「なっ………!?」

 もう一つの切り札、カートリッジシステムもそのまま返すだけの事。それははやてだけの専売特許ではないのだと。

(ほんと、悪趣味なんだから……。)

 ああ、絶望とはああいう表情を言うのだろう。

「その追加装甲、どこまで保つかな?――――さあ、いたぶり尽くしてあげる。」

 処刑宣告が下された。

<接続終了。>




[15953] 空白期編;はやて3
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:dffb9f54
Date: 2010/03/31 01:52
<思考盗撮、、、八神はやて。>

 『相手の一挙一動を見逃さず、次なる技を読み、臨機応変に対処すること』。

 八神はやてが戦闘の手解きを受け始めた時、基本中の基本として叩き込まれた心得である。最初はわざわざそんな当たり前をという印象も受けたが、まず相手の攻撃に目を瞑らない様にするなどというところから始めなければならなかったはやてにとって今では鉄則として戦闘原理の根本に位置付けられている。

「、く………っ。」

 その基本からも、今はまったく役に立たない。

 高町なのはがカートリッジを使った直後、簡素でシンプルな杖だったデザインから幾何学的かつ機械的な部品が重なり合って構成される装飾錫杖に変形したデバイス、その前部が分離し空を舞い始める。時として見失う程素早く飛び交う四基の拳大のそれの役割は、

「ディバインレイ――――『ステイクエンド』。」

「……ッ痛ァっ…………!!」

 宙を駆け巡る機動砲台。

 常に移動し続け死角に潜り、あるいは不意に真っ正面から現れ注意力を崩しながら桜色の閃光を放ってくる。射撃と砲撃の両方に分類される圧縮魔力の細い光条が四方から浴びせられ、焼ける様な痛みが身体を走った。

 苦痛に呻く暇も無く右後方斜め上から肩に光線を受け、逆に意識がはっきりし察知出来た左からの次射を避ける為に地を蹴る………のを意地悪く読んでいたなのはによって跳躍の瞬間足を撃たれバランスを大きく崩す。なんとか踏ん張ろうとした所で後ろに回り込んだ砲台からの一撃に吹き飛ばされた。ゴロゴロと転がっていく中四つ全ての砲口がはやての真上に移動しそれぞれ頭蓋を狙って光線を放つ。制御出来ないのを覚悟で高速移動魔法を使い脱出した。

「まだまだ行くよ――『スワローケイジ』。」

「、んなろぉ……ッ!?」

 移動魔法の終点は高町なのはの左後ろ。しかしそれを完全に把握されていたらしく今度は時間差で四肢の末端から逃げ場所を消す様に狙いを付けて桜光が迫る。無茶な機動のまま投げ出されているはやてに出来るのは、騎士甲冑越しに打ち痺れさせる光の止まない中で手のレヴァンテインを放さない様に頑張るだけ。それでも無理に足を振るとたまたまそこを狙っていた光条が空振りした。僅かの余裕を取り戻したはやては膝に襲い掛かろうとしていた魔法をデバイスで切り払い、立ち上がった。

「………はっ、はっ、……はぁっ、!?」

 息切れを押し殺せなくともなんとか構え直し追撃に備えるが、警戒に反しはやての視界から全ての砲台が消えている。見えるのはただ棒立ちになっているなのはが嫌らしく笑んでいる光景のみ。それに苛立つ暇も、砲台がどこへ向かったのかと確認する手間も必要無かった。

―――四つ全て、近過ぎて気付かない程『はやてに密着していた』のだから。

「…………なっ!?」

「―――――――『アトーンメント』!」

 ゼロ距離で、四斉射。

 爆閃。

「ぐ……ぁ…。」

「はやてっ!?」

「くす………これにて終局、かな?」

 魂にまで響いた全身を引き千切る痛みに耐え切れず、膝からはやては崩れ落ちた。

――――『ドラグーンシステム』。

 後で高町なのはの補佐官にして彼女のデバイス『レイジングハート・エクセリオン』の開発責任者、月村すずかに聞いたその機動砲台の名前だった。

 そもそも『ブラスタービット』という名でエクセリオンに実装する筈だったシステムが、高町なのはとハード面製作者の姉・月村忍がネタに走って外装を弄りまくった末当初の予定とは全く違ってしまった代物である。

 カートリッジによって一定量の魔力を持って排出されたドラグーンは大気中の滞留魔力素を吸収しながらなのはの操作で独立して飛行及びプログラムされた魔法行使を続け機動砲台となる。排出後は外からかき集めるだけでなのは自身の魔力を殆ど使っていないから、消費魔力対威力のコストパフォーマンスは最大限に跳ね上がるし、環境さえ万全なら理論上半永久的に稼働するとされているものだ。

 当たり前だが但し、と続くが。扱えるのは、幾らカートリッジの補助があるからと行って大気中の魔力を吸収し続けられる程の容量の大きな術式を最初に動かすだけの魔力量と特性として常識外れの魔力収束資質と空間認識能力、そして単純計算―――自分自身とドラグーン四基―――で最低ランク魔導師五人分のマルチタスクが可能な者である事が要求される。

 普通の技術者ならそんな扱いの困難極まるシステムは机上のみの代物として一笑に付すだろう。だが、開発責任者はレイジングハートのマスターである高町なのはを絶対神聖崇拝している月村すずかであり、事実高町なのははそれが可能な『天災』魔導師だった。

(反則や……。)

 今の時点でここまでのある意味で気違い染みた話を知る由もないはやてだが、それでも朦朧とした意識の中で手も足も出なかったドラグーンシステムに毒づくしかなかった。

 いくらジャケットパージが強力な盾だと言っても無尽蔵に使えるものではない。仮にも装甲のパージである以上数に限りはあるし、実行する度にバリアジャケット自体の防御力が少しずつ減るのも必然。だから先程の様に確実に勝てると判断していなければ迂闊に乱発していいものではない。

 故にカートリッジを防がれた後はなるべく節約しようとしているのだが、その分はやて自身の身体にダメージが蓄積するし、使おうと思っていなくとも一定以上の攻撃力に対し自動的に発動する設定で見る間に擦り減っていく。

 最後などジャケットパージを行ってすらそれで減衰したと感じさせない重い衝撃。いや、もし最初の様になのはが徹頭徹尾人体急所を狙っていればとうにはやての意識は彼方に散り消えているだろう。それがないのはなのはが自分を現在進行形で『いたぶり尽くして』いるから。

 勝ち目など、無い。ジリ貧にすらなっていない。

「……なんでっ。」

――――自分には、才能が無い。

 誘導弾の制御能力も、砲撃の収束能力も、結界系や空間系の補助能力も、マルチタスクの精度も、何もかもがまず資質として人並み以下。ベルカ式の適性はあっても九歳まで下半身不随だったという戦闘には大きすぎるハンデを背負っていた。

 相手の一挙一動を見るのは、単純にそれが現時点での八神はやての限界という事もあるのだ。唯一他人より優れているらしい魔力量での力押しだけでは通じない相手では、二人以上を同時相手にすればほぼ必ず負ける。全てのドラグーンの動きの把握など論外。高町なのはの視線の向きや呼吸からドラグーンのパターンを見切るなどという真似が出来る程の経験も無いし、また可能だとしてもなのははそんな真似を許す易い相手ではあり得ないだろう。自分などとは、違って。

「なんでや………っ。」

 自分の意思と関係ない所で震える膝。レヴァンテインを支えにしてようやく完全に寝転がらずにいる状態で、はやては怒りに歯を食いしばっていた。

 まだ真に絶望をしていない、その態度が高町なのはに愉悦の表情を与えていると気付かずに。

 怒りをぶつける。

「なんであんたは、そうなんやッ!?」

「?何の話かな。」

「ふざけんな!!それだけの力がありながら、なんで自分の為にしか力を使えんのや。あたしなんかよりよっぽど誰かを救える力を持っときながら、ヴィータ達を殺して、自分勝手に生きて。助けられる人間を最大限助けずに、自分の為だけに………………ただ力を振るう事が、そんなに楽しいんか!!?」

「はやてちゃん……。」

――――誰かを救う。自分の様に『こんな筈じゃなかった』不幸に見舞われ、泣く事も出来ない誰かを、一人でも多く。

 全てを失ったはやての、それが立ち直る指針だった。

 闇の書に蝕まれていた自分を死なせたくないから禁止していた筈の蒐集行為に手を出し、結果高町なのはという最悪の災厄を引き当てて死んでしまった家族。皮肉にもそれ故に闇の書の侵食はなくなり生き長らえた命を、自分から断つ事が出来なかった。経過はどうあれ、今自分が生きているという事実は家族<ヴォルケンリッター>の望んだ結果なのだから。

 そして見つけた、理想。もう誰も傷付けさせない。弱きを助け強きを挫く英雄譚の『騎士』の姿。その為に家族の形見<レヴァンテイン>を手に文字通り血の滲む修練を繰り返した。心配したギル・グレアムやリンディらに止められようとも振り切って。

 そう、それは。

「『道化』………、っはは。まさにその通りだね。それもとびきり汗っ臭いの。ね、拓巳ぃ…滑稽過ぎて涙が出そうだよ。あははははははっっ!!」

「……っ!!?」

「だってそうだよね!背負わされた命をご立派な大義に凭れ掛からせて自分は目を背けてる。その大義に殉じさえすれば自分は許されると信じて。だからさっきみたいにカートリッジの連続大量使用なんて真似も平然と出来る。自殺はダメでも戦死ならオッケー。……ってなんかまるで聖戦だか十字軍だか知らないけど、千年近く時代遅れな感じだね。」

「え……?」

 一瞬、呆然としてしまった。

「分かる、わたしには分かるよ八神はやて。あなたにとって尊いのは力で救った相手の命や人生ではなく、救うという行為、信念そのもの。本質的にはやてちゃんは赤の他人の為に自分の全てを懸けられる人間ではない、ってね。『わたしと同様に』。」

「………っ!」

 だが、次第になのはの言葉は心に染み渡っていく。それが間違っていないという認識と共に。否定出来ない。世界中の皆が自分と同じ目に遭えばいいなどと、想像した事が無いとはとても言えない。そんな醜い感情に理想という綺麗な蓋を被せているだけ。

「本当に他人の為に戦える人間がいないとは言わない。でも少なくともはやてちゃんは違うよね。見てる分には面白いからいいんだけど、自分を誤魔化すのってこの世で一番面倒な事じゃない?そんなんじゃ幸せになれないの~。」

「――――!!」

 それでも。

「ぉ………が、……ぅな……っ!」

 『騎士』という綺麗な理想が尊い事は変わらないし、そこから高町なのはの在り方は断じて認められない。

 『八神はやて』個人として、決闘という婉曲な形で決着を付けようとしたものの、家族を殺した高町なのはへの憎しみが未だ燻っている。

 正負両面での怒りが、胸の奥で業火となって燃え上がるだけ。そも、高町なのはが八神はやてに『幸せになる』という言葉を投げる事自体が、あらゆる意味での侮辱に他ならない。

 はやての限られた幸せすら奪ったのは、目の前の女なのだから!

「お前が、言うなああぁぁぁぁっっっっっ!!!」

 激情そのままに、身体に叩き込まれたダメージすら振り切り、はやては剣から弓形態に変形させたレヴァンテインを構え狙いを定めた。

――――ある意味、それは最も賢明な選択肢でもあった。

 現行の八神はやてが出せる最大攻撃、シュツルムファルケン。接近戦を挑んでもまるで無駄なのはこれまでで証明された以上、超高速の貫通攻撃で一発逆転を狙うというのは最も確率の高い選択肢だっただろう。

 その『最も高い確率』が小数点以下にゼロを幾つ重ねたものなのかを考慮の外に置けば、の話だが。

 シュツルムファルケンの発動する直前に―――間違いなくなのはは意地悪の為だけにそのタイミングを選んだ―――なのはの魔法が先に発動する。

「ディバイン――レイ、」

「……ぐっ!?」

 ドラグーン全基となのはから放たれた光線がはやてを灼いて動きを中断、停止させ、

「―――――――シューター、」

「……ぃあ゛!!」

 複数なのは分かるが速くて数える事も出来ない様な光弾の群れが畳み掛ける。

「―――――――ソニック、」

「っきゅあああぁぁっ!??」

 休む間もなく鏃の形をした巨大な魔力刃が真っ直ぐにはやてのバリアジャケットを、もうすっかり薄くなってしまった追加装甲ごと真一文字に斬り咲いた。奇声ともつく様な悲鳴を上げるはやてを取り囲む様に、四基のドラグーンが桜色の光膜で繋がり合いそれ自身を頂点とした正四面体を形作る。

「―――――――ブラスト。」

「―――っ。」

 正四面体に閉じ込めたはやてに向けて噴出される圧縮魔力。逃げ場の無いエネルギーはドラグーンの正四面体の中を跳ねて暴れ狂い、はやての苦悶すら蹂躙し尽くす。

「ディバインコンボ、A.C.S.フィニッシュ。」

 はやてが解放されたのは、内部圧力の高まり過ぎで正四面体が爆散するという限りなく乱暴な形。そのはやてに容赦なく接近したなのはが足払いを掛けて地に薙ぎ倒し、ドラグーンを全て回収したレイジングハート・エクセリオンの先端を真っ直ぐはやてに突き付ける。

「……は、ぁっ、…………げほっ、が……くぅ。こ…の……ぉっ。」

「へえ。まだ意識があるんだ。ネタで開発した連繋技だけど、最後まで繋げさせてくれたのははやてちゃんが初めてなの。それに免じて、何か言い残す事があったら聞いてあげるよ?」

 はやての腹を足蹴にしながら、ただ酷薄に微笑むだけのなのは。

「ハッ。………地獄に堕ちろ…阿婆擦れ女。」

「………!くすっ。―――スターライトブレイカー。」

 それに吐き出した唾を添えた罵倒に返されたのは。まるで世界の終わりの様な、視界を埋め尽くす桜色の閃光だった。

 プツッ―――――。

<接続終了。>




※このイカれた世界で真っ当にリリカルをやろうとして見事に散って行ったはやてちゃんに。敬礼っ!




[15953] そしてStsへ…·1
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2010/04/09 23:03
<思考盗撮、、、ゼスト·グランガイツ。>

 ほの暗い緑が縁取る空間。コンクリートと精密機械で形作られた輪郭が、ぼやけているのは非常灯の輝度のせいばかりではあるまい。揺れる意識を奥歯を砕けんばかりに噛む事で繋いだ。

 満身創痍。武装した違法生命研究を追って隊を率いて突入した施設で、待ち受けていたのはA.M.F.という魔法を封じる最悪の罠。ミッドチルダ首都防衛隊という地上のエリート魔導師の集まりが、ただの的となって無人機械の使う質量兵器の前に命を散らす光景は未だかつてある筈の無かった悪夢だった。魔力をあまり使わない、身体能力を強化したベルカ式の近接戦闘スタイル故に影響の少なかった自分が撤退を命じ隊長として殿になり、そうやって逃がせた人数も多くは無い。

「悔しいだろうが、一人でも……逃げ延びてくれ………っ!」

 槍を小刻みに振るい、襲い掛かる鋼の人形をズタズタにする。捨てゴマとした己の命はとうに諦めた。自分に残された道は、際限なく涌いてくるロボットを相手に暴れ回り、少しでも部下達が逃げ易くなる様にする事だけだ。

 空調などとうにいかれているのか、荒れた気管が傷んで軽く噎せる。A.M.F.に妨害された薄い障壁を破り弾丸が頬を掠める。足が思う様に動かず、無人機械のアームに脇腹を軽く裂かれる。

 そうして傷と疲労を刻々と増やしながらも、一機でも多くと無人機械を破壊していく。修羅の境地すら見え始めた末の風景は―――、

「その健闘は称賛に値するが、ここまでだ。勝ち目は無い、大人しく――――散れ。」

「………っ!」

 兵器の演習場か何かだろうか、屋内で妙に開けた空間に出て。まるで決闘の観衆の様に自分を中心として無人機械が輪を描いて、その中から場違いとも言える様な少女が歩み出る。華奢な体躯は―――しかし、戦闘用と思しきスーツと戦士としての鋭い眼光が哀れな戦場への闖入者である事を否定していた。

 まだ子供、しかしそれがゼストらの追っている研究の産物―――ヒトに機械部品を埋め込み改造を施された戦闘機人ならば、見た目や実年齢すら戦闘能力と一致しないだろう。

 眼前の少女がナイフを構える。周囲の無人機械達はA.M.F.を強化する役割を持っているらしく、もはやバリアジャケットすら消えそうだ。

(ここまでか―――っ。)

 抵抗の意を依然見せながらも諦めかけたその時。

 漆黒の隼が、翔け抜けた。

「「な――――っ!!?」」

 空を躍る黒い影が、次々と無人機械達に体当たりしては真っ二つに切り割いていく。いや、時に鋭角的に、時に一直線に翔ぶそれは鳥ではなく………。

(………扇?)

 ゼストの類稀な動体視力によって漸く視認出来る、幾つもの幅広の短刃を連ねたそれ。如何なる武装を使わせる事すらなく機械を鉄塊へと変えるその武器はひたすら蹂躙する凶鳥。

 秒間に実に数十メートルを斬り抜きながら、自在に機動を変化させる様な存在に対しゼストも機人の少女も為す術なく周囲の殲滅を見守るだけだ。出来る事は、せいぜいその刃が自分に向かって来た時に防げるように構えておく事くらい。

 こうなれば、無人機械が崩れる度にA.M.F.が弱まり魔法が再び使える様になっていくゼストは多少精神的に安定する。無論、見るに不吉な黒い影に対する警戒は怠らないが、それよりも半ば恐慌を来したのは目の前の少女だった。

「馬鹿な、何者だ?あのA.M.F.の中で此程の威力、まさか私達と同じIS………っ!?」

 気持ちはよく分かる。あの速さと鋼鉄をバターの様に切断する殺傷能力、もし自分の隊で不意に接敵していれば先程以上の壊滅の危機に陥るだろう。それでがりがりと削られているのは自軍の戦力なのだ。

 結局、全ての無人機械を斬り伏せ、扇は持ち主の元に戻る。地に転がる残骸の向こう、凛と佇む女性。大人に成り立ての様な瑞々しさを持ちながら、闇にも紛れる黒髪や紅く輝く瞳は魔性のもの。硝煙薫る戦場でまるで普段着の様なブラウスとロングスカート姿のちぐはぐさ。帰ってきた扇を受け取った手はひらひらと空を扇いでいる。

「「………。」」

 果たして、敵か、味方か。緊張感を最大にする二人。

 そして、その緊張感もまた、

「えっと、こちら『メスブタ』。対象を捕捉、保護に移ります。おーばー?」

「「………、………………!?」」

 なんとなく、斬り裂かれたのだった。

『こちら「ヴァサーゴ」了解。わたしはこのまま深部まで殲滅続けるから、そっちで適当にやっといて。』

『「アシュタロン」以下同文。ふふふ、母さんが今までにない程強く求めてるんだ。あの木偶達を壊し尽くせ、って!やるよぉっ、じえぇぇぇぇぇのすぁぁぁぃぃどっっ!!』

 呆気に取られる二人に追い討ちを掛ける様にノイズ混じりの声が、いつの間にか女性が持っていた無線機から聴こえて来る。

「え、え、でも………命令はゼスト隊離脱の援護が最優先だよ?わたし買い物してるとこフェイトちゃんに拉致られて来ただけで、正規の戦闘員ですらないのに――――、」

『『そっちの方が手っ取り早い。』』

「ぅぅ………。もう、しょうがないなぁ、なのはちゃんは。」

 いいのかそれで。『しょうがないなぁ』で済ますのか。

 今のやり取り―――キーワードは『命令はゼスト隊離脱の援護』『黒き破壊<アシュタロン>』『なのは』『フェイト』辺り―――でなんとなく女性の正体に予想が付いた、というか朧気ながら面識があった事も思い出したゼストはつい内心でツッコむ。何故補佐官が前線に引っ張って来られているのかは考えない。あの高町なのはに常識を求めるのは徒労でしかないからだ。

「でも―――、」

『どうしたの「メスブタ」。』

「……それ。そのコードネーム、なんとかならない?なのはちゃん達はなんか本格的なの付けてるのに。」

『嬉しい癖に。』

「………………ぁぅ。」

 そんなゼストを置いてまたはっちゃけたやり取りを少しだけ続けた後、首都防衛長官直属特殊編成部隊高町なのは一等陸尉補佐官·月村すずか一等陸士は無線を切る。

――――唐突に場の空気が変わった。

 スカートの裾を軽く払う、その仕草だけでそれがまるで舞踏会用のドレスであるかの様な錯覚を与える。先程感じた魔性は決して気のせいではなかった。肌の凍りつく覇気が、本能に形振り構わぬ逃走を促す。曰く。

「まあ、そういう訳で。あなたを捕獲しろという命令も下っていない事ですし、排除してからそこのゼスト·グランガイツ二等陸佐を保護しますが、構いませんね?」

 魔法や戦闘能力などという次元ではなく、ヒトとして存在の根本からアレには勝ち目が無いのだと。

 扇剣を一度閉じ、また開いて少女に向ける。

「ああ、安心してください。生まれからして既に違法なあなたには人権すら保証されていません。ですから、きっちりと――――、」

 ワラう。ちらりと見えた鋭い犬歯が、赤く染まった幻視。

「元がナニだったかも判らない程に塵殺してあげますよ戦闘機人<サイボーグ>!」

 ああ、ゼストはつい先程まで自分を殺そうとしていた敵に心底同情した。解っているのかいないのか、報われる事の決して無い抵抗をしようと腰を落としてナイフを投げた少女。誘導出来るのか曲がるナイフは、しかしあの凶鳥とは速度もトリッキーさも比べモノにならない程劣る。爆弾の様にいきなり破裂したのも、ただの手品程度でしかなかった。

 煙の中から獣よりも素早く突き抜けたすずか。予備動作『しか』見えない一閃と共に、少女の首が器用かつ残酷にも皮一枚を残して抉られる。シャワーの様に噴き出す血。ふと思いついたかの様に細い手をその飛沫の中に差し入れ、付着した紅を舐め……不快げにえずく。

「、うぇ………まさかこんなっ、人工血液より酷い味…!最悪!!」

 第三者から見れば意味の判らない怒りのままに、もの言う事のなくなった少女にすずかは扇剣を叩き落とした。何度も、何度も。上位者の機嫌を損ねた者の末路。飛び散る機械部品と肉片と、それ以上の鮮血。グロテスクに躍る命の残滓。

 その中を扇で舞う女という情景は。まさに文字通りの『血祭り』だった。

 プツッ―――――。

<接続終了。>




※時系列とか気にしない。

※名前すら出ずに五番退場。

※話が飛びまくるのは何時もの事と言うことで………なんとか次話で繋げるよう頑張ってみます。




[15953] そしてStsへ…·2
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2010/04/16 13:15
<思考盗撮、、、レジアス·ゲイズ。>

「説明して貰うぞ、レジアス!!」

 叩き壊しかねない勢いでゼストが机に拳を衝く。歴戦のストライカーが殺気立てば気の弱い者ならば気絶してしまいそうな迫力があるが、それでも表情を崩さない自分に怒りのボルテージが更に上がっていくのが分かった。

(儂だけが、老いたのか……ふっ。)

 数時間前に死地より帰還を果たしたのに、簡単な手当てだけして自分の部屋に乗り込んで来ているその姿。対する自分は、机と自宅を往復する生活で贅肉と、策謀の間に恫喝に毛ほども動じず必要ならば怒りや愉悦すらパフォーマンスに出来る無駄な胆力だけ付いた。

 だから、今抱いている迷いも顔には出ない。

 ゼストが説明を求めている事柄。話してしまえば、先の見えない戦いに彼を巻き込むどころか、彼自身からすら拒絶される、そんな恐怖を。分かっている、既に賽は投げられていて、後は転がり落ちるだけなのだとは。

――――何故あの『早すぎる』タイミングでゼストに救援が来たのか。

 落ち延びた隊員が呼んだにしても早すぎる。月村すずかは『命令』という言葉を出した。即ち、少なくとも彼女の上官の高町なのはは多少の時間を必要とする正規の手続きで寄越されたという事だ。ならば、逆算するとゼスト隊が研究所に踏み込んだ時点で唯一高町なのはに命令を出せる立場にあるレジアスが動き出していなければおかしい。

 ここで問題となるのは、レジアスが本来ゼスト隊の動きを知っていた筈がないという事だ。度重なる捜査への障害に上層部と犯罪者の癒着を疑っていたゼスト隊は、今回の突入を全く部外秘に行った。にも関わらずの救援。それも、いくら緊急でかつ強力とはいえレジアスが随意に動かせる魔導師一人だけ―――実はフェイト·テスタロッサは偶然そこに居合わせただけ―――という不自然さ。

 ここまでの判断材料から考えられる仮説は幾つかある。だがゼストの勘はその一つで間違いないと囁いている事だろう。

「貴様が………違法研究の指示、もしくは支援を行っていたという事か!?」

 その通り。あの研究所の主、ジェイル·スカリエッティから面白がる様にゼスト隊の突入映像を送り付けられ、見捨てる事も出来ずにすぐに動かせる高町なのはを増援にやったのだ。

 迷いは有った。ここでゼスト隊を助けるという事はスカリエッティに攻撃し手を切るという事。ひいては彼を支配下に置く管理局の天上、最高評議会とも敵対しかねないという事。そして、その迷いを楽しむスカリエッティの悪趣味を理解しながらそれでも見捨てられぬ男がいた、それだけの話。

 遂にレジアスは語り出した。戦力増強の為の違法生命研究、それらが管理局上層部ぐるみで行われている事。人材不足に喘ぐ『陸』の為に自らもそれに加担していた事実。

「―――もう、抜けるしかなくなってしまったがな。」

「…………。」

 まるで懺悔の様だった。だが決して言い訳染みてはいなかった。手段は違えてしまっても、志は忘れていないつもりだから。

 黙り込むゼスト。今彼の中で何が渦巻いているのだろう?裏切られた怒り?茶番で部下を死なせた虚しさ?結局何が正しかったのかという迷い?感情の坩堝で次々と答えが沈み、結局残ったのは、

「見逃す。だが、二度と貴様を…友とは思わん!」

「………感謝する。」

 瞑目するレジアスに背中を向け、ゼストは部屋を退出した。

 ゼストにも解ってはいるのだろう。自惚れでなく自分以上にミッドチルダの平和を導ける政治的力量を持つ者はいないし、今自分を捕まえたとて蜥蜴の尻尾切りで全責任がレジアス·ゲイズだけに押し付けられるだけ。そうなればスキャンダルを曝した『陸』の立場は更に弱くなり、人材はより『海』に吸いとられ、治安能力が低下したミッドチルダで苦しむのは市民。なのに違法研究はどこかで続いていく。デメリットしかない事は。

 だがその為に自分の隊から何人も犠牲者を出し、荒れ狂わんばかりの感情を抑えてみせたゼスト。

(ならば……儂も…。)

 拘りも蟠りも一切を些事とし、戦い抜く覚悟。それを胸の奥で、ただ静かに固めるのだった。

――――。

「高町。」

「何かな。いちいち執務室<こんなところ>に呼び出して。最近何にも騒ぎとか起こしてない気がするけど。」

「嘘を付け、貴様関連で集まる嘆願書や苦情は毎週全て月村に渡して―――しまった、それは失敗だったか。」

「当たり前じゃない、何考えてるの?すずかちゃんはわたしに全部都合が良い様に働くペットだよ?そんなわたしが不愉快になるものなんか即処分するに決まってるし。」

「………以後気を付けよう……ではない!何故儂が悪い様な話の流れになっているのだ!?」

「知った事じゃないの。」

「開き直るな!貴様のその友を愛玩具扱いする根性についても―――、」

「あー、おじさんの説教はいいから、本題に入って欲しいな。」

「む。貴様と話していても埒が明かないからな、仕方ない。いいだろう。」

「(こうやってからかうと面白いくらい反応してくれるからいつも話が終わらないの、自覚してるのかな………?)」

「何か言ったか?……言ったんだろうが今は置いておく。それよりもだ。高町なのは『三等陸佐』、貴様にはいい加減立場に伴う責任というものを負ってもらう。」

「ふーん、いいの?今までみたいな完全スタンドプレー放任じゃなくて、わたしに部下持たせたら苦情とかもっと増えるよ?」

「分かっている、あと自分で言うな!……話が早いのはいいがな。実際賭けなのだ。儂は貴様の事が気に入らんが、そうも言っている訳にも行かぬと気付いた。」

「えと、なんか面白そうだね?」

「………教会の予言絡みで、『海』の方から対策を立てる様に言われている。個人的に突っぱねたいところだが利益を考えれば、向こうから言って来たのだから対策部隊の設立に際して人材と魔力量枠の提供程度はさせても文句は無いだろう。リンディ·ハラオウンには貸しもあるしな。」

「おー、大人になりまちたね、レジアスたんーw。」

「貴様………っ、(いや、抑えろレジアス·ゲイズ。この程度の小娘にいちいち惑わされるな!)」

「(…………、うん、本当に大人になったねー。)」

「部隊の設立に際してはゼスト隊の生き残りを下地として行う。だがそこに『海』から高ランク魔導師と魔力量枠を取れるなら通常の部隊にするにも勿体ない。だから兼ねてよりの腹案をここで出す。」

「腹案?」

「今までは少しでも部隊間の底上げを優先せざるを得なかったが、一つの部隊に戦力を集中させねばならないなら此方にする。周辺世界を含めた大規模テロや天災など緊急の際に遅れがちな初動をカバーする為の、少数精鋭の独立裁量権を持った機動外郭遊撃部隊―――、」

「ロンド·ベル?」

「何だそれは?まあ、儂は『機動六課』と考えているが呼び方などどうでもいい。今決まっているのは二人だけ、隊長がゼスト。そして副隊長が貴様だ。」

「………なるほど。了解、高町なのは三等陸佐、『機動六課』副隊長の任、いずれ謹んでお受けしますっ!びしぃっ!」

「(本当に慎んでくれよ、頼むから……。)」

 プツッ―――――。

<接続終了。>




※だから時系列とかホント気にしないでっ!

※ロンド·ベルはシャレだけど、実際原作のはやての理念を部隊として形にしようとしたらあれくらいの権力は必要なんじゃないかと個人的に思う。

※『海』の高ランク魔導師を借りられると張り切るレジアスさん。でも話の流れ的に『海』から押し付け―――もとい送られてくる高ランク魔導師って……。

※前半と後半のシリアスさの落差に絶望。




[15953] そしてStsへ…·3
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2010/04/23 15:14
<思考盗撮、、、フェイト·テスタロッサ。>

 それは、まさに黄金の時代であった。

 無限に広がる次元世界。その認識と裏腹に最果ては確かに存在し、そして有限の箱庭は秩序の下に美しく管理される。

 箱庭の神の名は『時空管理局』。絶大な権力と権威によって全ての管理世界は意思を一つにまとめ『健やかな』発展を続け、一方で文明の黎明たる管理外世界に緩やかに干渉し野蛮さを徐々に排除していく。

 調和に基づく統率された世界。そこに謂れの無い争いや悲劇は無い。生まれながらにして魔法の力を持つ者達が理想と大義を背負い、正義の力を以て悪を挫く。管理局に従わないものが即ち悪。正統な権力に反逆する者さえいなければ、人の世に憎しみも悲しみも振り撒かれはしない。だから『過たぬ者』たる管理局が全ての人の上に立ち導くのだ。そうすれば『こんな筈じゃなかった』なんて存在しない、栄建なる刻が悠久を保証されている。

 そんな世界は――――、

「ジャスト一分。悪夢<ユメ>は見れたかよ?、なんちゃって。」

――――そう、悪夢だ。

 理屈も立場も感性すらも関係ない。内なる母がそんな世界は許してはならないと否定した以上、フェイト·テスタロッサには一片の妥協の余地なく受け容れられない世界が、鏡が砕ける様に罅割れ崩れ落ちていく。己の傲慢を理想的に叶えた―――当たり前だ、あれが彼らの望んだ妄想なのだから―――幸せなマボロシが掻き消え、シリンダーの中で脳味噌だけになって存在している者達が狼狽えたのが判った。

『一体……っ。』

『な、何!?』

 それを色の無い瞳で見下す己の親友。手には不可思議な光沢を放つ剣。量子観測と虚数界を内に宿し、認識と実在を歪み狂わせる『邪神の邪心<ギガロマニアックス>』、その力で彼らに『最期』の夢を見せてあげたのは餞か―――否、己が理想を叶えたと思ったらそれが全くの嘘だった現実に絶望させる為。

「まさか本当に脳味噌のホルマリン漬けがあるなんてね。現し世の柵を断ち切ったつもりならそのまま世界の勇者になる『現実』でも見続けてればいいものを―――第三者と共有する術を失った認識に正当性も不当性も存在し得ないのだから。欲を掻いて他者に干渉するから破滅するの。さよなら…………身体で感じるモノを捨て去ったゲーム脳さん達?」

 遺言も残させずに、ディソードを薙ぎ払う。翻る刃の軌跡、シリンダーに傷一つ付けずに中身の脳だけを切り裂いた。

 そんな奇術染みた光景を作ると、そのまま呆気なくなのはは踵を返した。

「あっ、なのは!」

「……何?」

「ありがとう。なのはのおかげでこんなに楽に行ったよ。」

 何の感慨も無く歩いて行くなのはの後ろ姿に、フェイトは感謝の声を投げた。

 管理局最高評議会の成れの果てを背に小走りになって、なのはの横に並ぶ。

 ゼスト同様にレジアスの動きに不信感を持ち、独自の方面から調査を進めたフェイトはその強引さと果断さもあって深い真実まで辿り着いたのだった。背後の脳味噌三人が犯罪者と繋がって違法研究を行っていた事のみならず、彼らが目指した世界まで。フェイトの横暴捜査はいつもの事だから周囲も警戒しなかったのがその成因らしいが。

 知ったフェイトは、まず母にどうするべきか相談した。彼女に『自分で考える』という言葉は無い―――絶対に間違いを犯さない母という存在が常に傍にいてその必要が無いから。

『殺すのがいいわ。馬鹿は死なないと治らないから。』

『うん!そうだね母さん、分かったよ。』

 こうして現実時間僅か二秒で全次元世界で最も権力を持っている筈の者達の抹殺を決意したのだった。

 彼女が従うのは法でも正義でもない。従うべき信念がそもそも存在しない。たとえなのはにおままごとと言われようが、母の言う事を忠実に守るだけだ。その意味では、彼らの目指した法と正義で管理された世界と最も相容れないのがフェイト·テスタロッサだったのだろう。

 とはいえ、彼女にも容赦はなくとも思慮はあった。仮にも最高権力者の部屋には執務官と言えどおいそれと近付く事も出来ない。まして脳味噌の状態で殆ど誰にも姿を見せない彼らは管理局本局の最深部に構えている。行くにはどうすればいいか、思い当たったのは親友の顔だった。

 ギガロマニアックス。視覚投影、思考盗撮、五感制御。その力で最高評議会と繋がった高官を操り、冒頭の場面に入った。用済みの高官はもう始末してある。

「でも、結果的に全てわたしがやった事になるね。他人任せっていうのはフェイトちゃんらしくないの。」

「最善がこれだってだけだったから。ダメなら別の手段を取ったし。」

「別の手段?」

「執務官<私の>権限で入れる一番深い所から、奴らの部屋まで真っ直ぐSランク砲撃を叩き込む。」

「………ふっ。」

 歩きながら、なんでもない事の様な気安さで出した言葉になのはが失笑する。

「時空の海に浮かぶ要塞。いくら天下の管理局の本拠でも、その内部から発動した天災クラスの魔法に対処出来る手段は無い。九割方取れると見てたよ。」

「その余波で何百人もの巻き添えを出しながら、ね。運悪く魔力炉に『引火』して暴走でも始まれば、本局勤めの万単位の人員が全滅なんて事態もあり得るけど。」

「それは御愁傷様、不幸な犠牲者だ。遺憾には思うけど必要な犠牲だし、僅かでも最高評議会に協力していた彼らにも非が無い訳じゃない。」

「にゃはは、言ってる事もやってる事も完全無欠のテロリストだねー。………全次元世界を敵に回す、史上最悪の犯罪者になるの。」

 別にそれでも構わなかったが。

 管理局執務官なんてやっているのは、それが母が示す道に最も重なっているからだ。敵になったとしても、無視して邪魔になる場合は排除すればいいだけ。

 ただ、横のなのはが本気で敵に回ると勝てる気がしないな、とは思った。

「………うん、だからなのはが協力してくれてよかったよ。」

 その意味も込めて返事をしたが、なのはの反応は呆れた様な溜め息だけだった。

「でも意外だったな。」

「………何が?」

「なのはが協力してくれた事。最高評議会の事話しても、面白がりながら馬鹿にするだけで放っておくと思ったし。」

 そう、元々はなのはをあまり当てに出来ないと思っていたから、研究所突入の時の様に月村すずかを駆り出す予定だったのだ。それも無理ならやはり本局ごと潰す作戦を取るまでだったが。

「嫌いなんだよ。おためごかしな強制を正義と勘違いして干渉してくる奴らが。」

「………、?」

 吐き捨てる様に語るなのはにらしくないと感じた……その数瞬後、なのはもまた『まるで自分の発言に違和感を持ったかの様に』立ち止まった。

「―――違う。嫌ってるのはわたしじゃなくて拓巳。………でも何で?生まれてから今までの拓巳との会話は全て一言一句余さず覚えてる、そんな事拓巳は言った事が無い!なのに、なのになんでわたしは……っ!?」

 そのままぶつぶつと焦った様に呟くなのはに、フェイトはいよいよもってらしくないな、と感じた。というか、なのはの動揺など初めて見る光景だ。

 そうだ、らしくないと言えば。なのは全肯定の月村すずかは言わないだろうし他の連中はなのはと距離を取るから気付かないだろうが―――、

「なのは、最近一人言減ったよね。」

「――――ッ!!!」

 決定的だった。何かが。フェイトがぽろりと溢した言葉に、なのはは目を見開きながら膝を衝く。

「…………にゃはは。ああ、そういう事なんだ。残念だなぁ……周囲共通認識が、それが無い事がどういう事なのか、誰よりも解っていた筈なのに。」

「なのは?」

「ジュエルシードでディソードのエラーは消せても、『高町なのは』のエラーは消せない。わたしが自分より拓巳を優先させる行動が、問題ないと認識される事が問題。誰に?型月厨っぽく言えば世界に、かな……。」

 流石に心配になって呼び掛けるが、なのはは理解出来ない台詞を空に吐くだけだった。

「わたしも所詮は『高町なのは』という記号。中身がどう歪もうが何とも思われない、思われる事をわたしが拒絶してきた。………その結果が、これ。応報論なんて信じてないけど、そっか、結末はこれかぁ……。」

「………。」

―――本当に目の前の相手は高町なのはだろうか?

 あまりにも唐突で目まぐるしい移り変わりに一瞬そんな考えすら浮かんだフェイトの腕が、いきなり強く掴まれる。

「っ!?」

「――――悪くない。」

 顔を上げるなのは。視線はフェイトと合ってはいるが見てはいない。ただ微笑んでいる。

「――――なかなか、悪くない結末なの。」

 只々、艶然と、陶然と、微笑んでいた。

 プツッ―――――。

<接続終了。>




※魔王婦妻、本領発揮。

※最強モノの王道、『いきなりトップに干渉して無茶かつ不自然な理屈で問題をスパッと解決、でも何故か話は続く』。ナデシコやエヴァ逆行で何百と見たなぁ……。

※ブーイング覚悟なほど微妙過ぎた伏線の回収。指摘される前にやっときたかった……。




[15953] そしてStsへ…·4
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2010/05/14 11:26
<思考盗撮、、、管理局員A。>

「…………!」

 Aはふと自分の同一性が蔑ろにされた様な感覚を覚え、眉をひそめた。それに気付いたのか同僚の陸士が声を掛ける。

「どうした、ボサッとすんな。急げ!!」

 気遣いではなく、叱咤。無理もなかった。自分だってよく分からない感覚を気にしては駄目だと改めて駆け出した―――空戦魔導師でもないのに飛び出した、という表現でもいいかもしれない。それくらい事態は切羽詰まっている。

 ミッドチルダ交通の要所、空港施設。それが原因不明の火災に襲われ、今空港全域が炎に包まれているという。当然の様に溢れ返る程の空港に居合わせて逃げ遅れた大量の民間人を中に残したまま。管理局員として、それ以上に個人として一人でも多くの命を救わなければならないと感じている。違和感如きに患わる一分一秒が惜しい。

「………っ。」

 命令系統は働いていないのか。ろくに指示も無いまま、バリアジャケットで現場に突入した。

 赤に染まる景色。煙に霞む視界。自分がどう動けばいいのか、取り敢えず司令部の情報を繋げて―――、

『こちらM7、エリアCに到着!』

『馬鹿、そっちはもう探査終わってる!』

『じゃあ戻っ……、いや、念の為周囲をサーチしながらエリアBに向かえ。』

『治癒術士!誰かこっちに回してくれ!!』

『登録されてる数には余裕が無い、応急措置だけなら出来る奴はいるだろ、それで繋いでくれ。』

『エリアF、通路が瓦礫で塞がってる!』

『んなもん砲撃魔法でさっさとぶち壊せ―――、』

『馬鹿野郎、火事で建物は脆くなってんだ、下手すると連鎖崩落してそのまま救助局員ごと空港は全滅だぞ!それより迂回路を探せ!』

『こちら109部隊、応援に来た、指示を!』

『助かる、担当は………ああくそ、すまないがそちらに指示を出せる階級の者がいない。申し訳ないがそちらの判断で動いて下さい。報告は密に。』

『ああ、その方が此方としてもやりやすい。』

『エリアA消火完了。』

『結界魔導師急げ!これ以上延焼させるな。消火した地区にまた火が回ったなんて笑い話じゃ済まないんだぞ!』

「………くっ、予想はしてたけど、絶賛大混乱中か。」

 やはり命令系統もろくに立っていないらしく、錯綜している情報に目が回りそうになって接続を切った。あの分だと、統括的な情報すら組めていないかも知れない。効率が悪いながらも個人プレーで動くしかないか、と判断したその時、切った筈の通信が広域で強制的に開かれた。

『―――こちら、ゼスト·グランガイツ一等陸佐!!緊急特例209号によりこの通信の届く範囲に居る全ての局員は私達機動六課の指揮下に入る!!』

『はいる………。』

 よく通る低い男の声と何故か続く幼女の声で届いたのは、ある意味無茶苦茶な命令だった。

『……了解。』

『了解。』

『『『了解っ!!』』』

 だが、いきなり現れて自分に命令する存在に異論を唱える者はいない。それだけ噂が浸透しているのだ、その機動六課という名は。

 レジアス·ゲイズ首都防衛長官によって集められた高ランク魔導師部隊。『子連れ狼』ゼスト·グランガイツを筆頭に、『黒き破壊<アシュタロン>』フェイト·テスタロッサ、『魔王の嫁』高町なのはと主力三人がいずれもSランクオーバーという狂気の沙汰の様な部隊だ。自分の持っている部隊が壊滅したゼスト、『海』から厄介払いとして押し付けられたと評判のフェイト、素行の悪い―――最近では遺体の見つからない母を探すと言って利かない少女ルーテシアに押され現場まで連れ歩いている上官を『子連れ狼』などと言ってからかっている―――高町なのはといずれも扱いの難しいが戦力としてだけなら申し分ない曲者達だから可能になった部隊と言える。

 少数精鋭かつ独立裁量権を持つ円滑な運用と、緊急時における強権を両立するという一歩間違えなくとも非難の的になりかねないその部隊は、しかしゼストの人格とそも権力の有無が関係ない魔王婦妻の厄災が原因で受け入れられていた。機動六課が出撃するような任務が下手な縄張り意識だけで引っ込んでいろと言えない様な代物ばかりだという事もある。

 そして今も、指揮系統という意味で彼らの様な強権的な存在がかえって有り難い緊急事態だった。

 それどころか―――、

「………仕事が早い事で。」

 一分もしない内に何処へ行って何をすればいいか、関連する情報も含めてデバイスにデータが転送されてきた。おそらくこの千人規模の救助隊員全てに同じ事が起こっている。それぞれの現在位置と能力を勘案した上で、最大限の成果を発揮出来る様に。どんなイカサマを使っているのかは知らないが、相変わらずの驚異的な情報処理能力。機動六課が受け入れられる最大の要因だった。ただ強権的なだけでは意味が無いのだから。寧ろ派手に取り沙汰されやすい武力の方はと言えば。

『えーこちら高町なのは。ゲンヤ·ナカジマ三等陸佐、おまえの末娘は預かった。返して欲しければ……、』

『ふぇ?えっと、あれ?』

『な、何!スバル、スバルーーーっ!?』

『任務中に戯けるな高町ィ!!』

『たかまちぃ………。』

『大丈夫ですよナカジマさん、長女の方は母さんの言った通りこっちで「保護」してるから!ぷぅるおぉてええぇぇぇぇぇっくとっ!!』

『そ、そんな……ギンガにも「黒き破壊<アシュタロン>」の魔の手が!?すまないクィント、俺は……!』

『あ、諦めないで!少なくともフェイトちゃんはお母さんの命令で「保護」って言った以上 カ ラ ダ だ け は無事に返してくれる筈ですから!!』

『そんなぁ――!』

『酢飯さん、トドメさしましたよ今の?』

………お前らは邪魔がしたいのかと。

 まああれであの常識外の化け物達は片手間で自分達の数倍の成果を挙げているのだろう。スルーするのが最も利口なのだと数年前に魔王の嫁に叩き伏せられて学んだ。管理局員として大事な何かを代償として無くしたが。

 ただ。

(ストライカーズ、か。)

 相変わらず人命救助の為に一刻を争う災害現場なのに、あの滅茶苦茶な機動六課の登場で何故か『希望』の様なものが見え始めたのだった。

 プツッ―――――。

<接続終了。>




※スバルとなのはの出会いシーン?皆書いてるので敢えて反逆してみた。まあ出会い方はろくなもんじゃなかったけど、スバルにとっては何がなんだか分からない内に助け出されてた認識、ぐらいのオチかとこの場合。




[15953] そしてStsへ…·5
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2010/06/18 20:42
<思考盗撮、、、エリオ·モンディアル。>

 その瞳だった。

 上辺だけの優しさで自分に対する恐怖を覆い隠す大人達。それを見下し遠ざけていた自分を、その瞳が咎めた。

『この世界には確かに悪意がどこかに有って、そのツケを払わされる人間には生きにくいかもしれへん。』

―――けど、それで人間全ての善意を否定するのは楽で、そして辛い事。何よりそんなあり方では生きているなんて言わない。認めない。

 そう続けた彼女に、過激な言い分だな、と返した。自分が生きながらにして死んでいると言われて怒らない訳はない。皮肉で返した程度なのは、口にした綺麗事とは裏腹としか思えない程暗い瞳を見据えてしまったから。

 自らの狂気に気圧された相手に気付いているのかいないのか、彼女は言葉を止めない。

『世界はいつまでもこんな筈じゃなかった事ばっかりやない。信じれば応えてくれる人は、手を差しのべれば握り返してくれる人は、探せばいる。』

 そして、その前兆の認識すらさせずに抱きついてきた。筋肉で硬い腕が、強く掻き抱いてくる。

 暖かい。経験した覚えの無い、抱き締められる人の温もり。それを素直に受け入れた。

 服の隙間からでも見てとれる今まで見た事の無いほど極限まで鍛え抜いた全身と、そこに残った傷痕。そして自分以上の憎しみと嘆きとを宿し―――宿すだけで『光を全く映していない』瞳。それを見れば、目の前の彼女が自分以上の苦しみと絶望を味わってきたと分かった。

 そして、そうでありながら尚人間の善性を信じる在り方に魅入られた。

『だから、あたしは君を信じる。手を差しのべる。』

 たとえそれが一種の妄執だとしても。それに応え、握り返す事に躊躇いは無かった。

――――。

「機動六課?」

 エリオは自らの恩人の口から出た言葉を鸚鵡返しに呟いた。

「うん。あたしに人事から出向要請が来よった。」

 機動六課。現況『陸』の最強にして最凶戦力。ミッドチルダ圏外郭遊撃部隊という一定の管轄を持たない代わりにミッドチルダ近隣のあらゆる大規模事件への迅速な対処に動き、現地部隊の縄張り意識ごと事態を完全に叩き伏せる強権と実力を併せ持つ通常あり得ない構想の―――しかもそれを現実に可能としているのが更にあり得ない―――部隊。狂犬部隊と皮肉られる事もしばしばある。

「でも、それは……。」

「うん、あそこには高町なのはがおる。やけどそんな事で拒否権は与えられんし、逃げるのも癪やな。」

 憎しみは消えない。それはおそらく一生背負うものだし、忘れてはいけないものだ。だが、殉じる信念を曲げてまで優先してはいけない………それが職務なら、従うまで。

 そう割り切れるまで強くなったのは、皮肉にも高町なのはに撃墜されてから。

 国でも落とす気かと思わず問いたくなる様な砲撃。雷雨の如き光条。過剰殺戮<オーバーキル>の嵐に限界まで曝されて後遺症が残らない筈がなかった。

 一年間のリハビリを経た後も、障害を負ったリンカーコア―――全力稼働可能時間僅か十三秒。そして、修復不可能な程に損傷した眼球。生きているのが奇跡、とまでは行かなくとも非殺傷設定の魔法をどう使えば此処までの傷を負わせられるのか分からないと医者はひきつった顔で言っていたらしい。

 当然、撃墜当初は過去『魔王の嫁』に喧嘩を売った中で特に運が悪かった何人かの様に再起不能で魔導師の道は閉ざされたと誰もが思った。一年もの間激痛の走るリハビリを全く弱音を吐かずに続け、それでもその程度までしか回復しなかったくらいなのだから無理もない。

 だがはやては周囲の声を押し切る様にリハビリを完遂、療養していたハラオウン邸のクロノの部屋で書類を盗み見ると内紛状態で管理局が介入を予定していた世界に単騎出撃。

 慌てて後を追ったクロノが見たのは、一人も死なずして累々と横たわる兵士達。そしてその中心、地面を幾筋も砲撃や射撃の跡が抉る荒野の中でかすり傷一つなく目を閉じ静かに佇むはやての姿。

 『不屈のエースオブエース』誕生の瞬間だった。

 エリオがはやての周囲からその話を聞いた時に覚えたのは、最初に感じた事が間違っていないという確信だった。

 自分と違ってきちんと身も心も繋がっていた家族を二度も失い、それでも立ち上がった信念を圧倒的な力で踏み躙られ。失明とリンカーコアの障害というハンデを負いながらも第一線で戦い続けている最強の剣士。単に汚れを知らないだけの高潔さよりも、その泥にまみれて尚歩みを曲げない意地に惹かれた。

 守りたい。

 人に聞かせれば絶対に笑われる。相手は戦技教導隊所属にして近接戦無敗と名高い『盲目のソードマスター』。そんな人間を守る事を目標にするのだから、彼女を目指すどころか追い越さなければならない。だが諦める事はしない。どうしようもなく、茨の道を歩く彼女の障害一切を払い除ける一助で在りたいと心が求める。

 そして、心が求め続ける限り人はどこまでも強くなれると、八神はやてがその身を以て証明している。

―――生まれながらにして『夜天の王』たる資質にして証。そのカリスマ性は、まだ生きていた。

 エリオという一人の少年は、彼女に惹かれ彼女の騎士となるべく努力を重ねる日々を送っていた。

 そんな日々の中での、はやての異動。これには、幾らかの事情が絡んでいた。

 機動六課という特殊過ぎる部隊でも、新人教育という課題は付きまとう。だが適当な新人が機動六課のハードさに付いてこれる訳が無いし、かといってある程度のキャリアを持つ人間を入れると必ずと言っていい程魔王婦妻と軋轢を起こす。だからかなりの潜在的資質を持つ人間を六課の中で育成するという例によってというか何時も通りというかな難題が要求されるのだ。

 またなのはとフェイトに新人教育など任せられる筈が無いし、ゼストは隊長で教育する側の人間がいないという問題もある。そこで考えられたのが教導隊から誰かを部隊専属で出向させるという微妙に贅沢な方針だった。

 それではやてが選ばれた事に、機動六課への影響力を確保しておきたい『海』の思惑や彼女を個人的に気に入っているらしい高町なのはの愉快犯的思考がどの程度関わっているかは知りようがない。実はこの異動に拒否権など無いのかもしれなかった。

「で、それに伴って使えそうな新人をこっちでも見繕っとけ、か。」

「……っ!」

 ぼやく様に漏れたはやての言にぴくりと反応する。来た、と思った。機動六課ともなれば強くなるチャンスは何処よりもあるだろうし、はやてから直々に指導してもらえる。場合によっては彼女の側で戦う機会もあるかもしれない。

 次に自分の言い出す事など、意識するまでもなく決まっていた。

「―――、」

 プツッ―――――。

<接続終了。>




※役割がまた入れ替わってる………。

※そしてさりげなくはやてがこの作品で一番厨っぽい。



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