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[15734] 【習作】魔法使いと騎士とお姫様【ネギま!・オリ主】
Name: あさ。◆6cef126e ID:da84fd5b
Date: 2013/10/08 02:16
 どうもはじめまして。
 あさって言います。
 SS等の文章作品は初めてで、批評などが欲しいのでチラ裏に投稿させていただきました。

 この作品ですが以下の要素が含まれると思われます。

 ・原作再構成
 ・原作知識無しオリ主
 ・ボクっ娘
 ・中二設定
 ・小ネタ?

 以下の要素は含まれないと思われます。

 ・ぼくのかんがえたさいきょうのおりーしゅ
 ・憑依
 ・転生
 ・TS
 ・アンチ
 ・鬱展開

 こんな感じでゆらゆらとやっていこうかなと。

 ※自ブログでも連載しております。

2011/8/5
 お久しぶりでございます。
 一から書きなおして、また最初からやり直してます。
 色々迷いましたが、それに伴って昔のものを消去しました。
 これからもよろしくお願いします。

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------
2011/12/20 2話目改訂
2011/12/10 2話目投稿・1話目改訂
2011/8/5 全記事削除・1話目改訂後再投稿
2010/10/14 6話目投稿・1・2・3・4・5話目改訂
2010/3/25 1・2・3・4話目改訂
2010/3/14 5話目投稿
2010/2/13 1・2話目改訂
2010/1/28 4話目投稿
2010/1/24 3話目投稿
2010/1/21 2話目投稿
2010/1/20 1話目投稿



[15734] 第1話
Name: あさ。◆6cef126e ID:da84fd5b
Date: 2011/12/10 20:20
 目の前の光景は、本当に現実なんだろうか。

 自分の家の庭のように遊びまわった森と丘は、普段の穏やかさが想像出来ないほどに燃え上がっていて――
 とても栄えているとは言えなかったけど、のどかで暮らしやすかった村は、この世のものとは思えないほど禍々しい朱い炎で染まっていて――
 みんなが家族のように仲が良かった村の人達は、人の形をしている人じゃない何かによって石にされていた。

 あまりに日常とかけ離れた光景に、何が起こっているのか、考えが追いつかない。
 
 ――まるで物語の世界。
 もし、この光景が現実なら、地獄っていうのは本当に存在していたんだろう。

 恐怖、苦しみ、絶望。
 何も考えられなかった脳が、負の感情を生み出し始める。
 しだいに頭の中全てがソレに侵されていく。

 ――それでも、大切な人だけは守らなくちゃいけないっていう誓いだけは、黒い気持ちに塗りつぶされない。
 他のものが守れなくても、たった一つだけは守らなくちゃいけないんだって想いだけは、守りぬかなければいけないんだ。
 だってボクは『騎士』なんだから……。





 ――こ
 ――お――て――
 ――おきて――ここ――

「起きて! 小恋っ!!」
「……おはよぅ、アスナ」

 毎朝聞きあきた親友Aの声に、意識を無理矢理に覚醒させられる。
 三月と言っても朝はまだ少し寒いので、まだベッドとは別れたくないけれど、朝が弱い自分はこの機会を逃すと、十中八九二度寝をしてしまうだろう。
 二度寝をしたらとても気持ちいいのは分かっているけど、ここで寝たら絶対に登校は慌ただしい物になる。
 流石に朝っぱらから走りたくはないので、ここは断腸の思いでこの温もりを手放すことに決めた。

「あんた……。また二度寝したでしょ」
「……起きた記憶はないんだけど、アスナが一度起こしたんだったらたぶんそう」

 二度寝ではなく、三度寝をするところだったらしい。これは親友Aに感謝。
 三度寝もしたら走って登校しても確実にアウト、イエローカードをもらってしまうことだろう。
 ていうか二度寝したんならもう時間ないじゃん!

「い、今何分!?
 朝ごはんは何っ!?」
「今日はご飯と味噌汁と焼き鮭やったよー」

 寝起きで混乱していても朝ごはんのことだけは忘れない。
 西日本っぽいイントネーションの親友Bの言葉によると、今日の朝ごはんはまるでお手本のような日本の朝ごはん"だった"ようだ。
 ……ん? 過去形?

「残念だけど、朝ごはん食べる時間なんてもうないわよ!
 今日は新任の先生をお迎えに行くって言ってなかったっけ?」
「……あっ! そうだったっけ!
 ごめん、急いで支度する!」

 結局、慌ただしい朝になってしまった。





「はぁ……。
 お腹すいたー!」
「わたしはちゃんと早めに起こしたわよ?」
「はいはい二度寝したボクが悪いんですよ!
 うぅ……」

 朝ごはんも食べず、結構急いで支度をして寮を出たつもりだったのだけど、どうもボクはしぶとく起きなかったらしく、全力とはいかないまでもそれなりの速度で走って登校している。
 自業自得なんだけど、起きたのがぎりぎりで朝ごはんを食べていないので、お腹がすいて力が出ない、なんて某パンみたいな台詞を吐きたくなる。

「ふふふ。そうなると思っておにぎり作ってきたんやよー」
「な、なんと!
 流石このか! このちゃんマジ天使!」

 朝ごはんの場にボクがいなかったために、この状況を予想していたのだろう。
 ラップに包まれていて、ほんのり温かいおにぎりを渡してくれた。
 ちょっと行儀が悪いけど、時間もないし走りながら食べさせていただこう。

「でもさ、学園長の孫娘のこのかがなんで新任教師のお迎えまでやんなきゃなんないの?
 学園長の友人ならその人もジジイに決まってるじゃん」
「ほうふぉふぉふぁひららいへひょ」
「そうとも限らない? なんでよ」
「今日は運命の出会いありって占いに書いてあるし」
「え、マジ!?」

 アスナの指摘を否定しようとしたのだけど、口におにぎりが詰まっていたために、何を喋っているのか全然わからない。
 それでも理解してしまうあたり、流石は義姉妹のようなものだ。
 追加でこのかが今日のアスナの運勢を根拠に否定してくれたけど、別にその出会いが新任の先生とは限らないよね。
 でもまあアスナも食いついてるし、この対処は正しかったみたいだ。

「しかも好きな人の名前を10回言って、『ワン』と鳴くと効果ありやて」
「うそっ!?
 高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生……わん!」

 全力で走りながら、同じく登校中の生徒の目がある中で、担任教師の名前を連呼し、犬の鳴き声を全力で真似している女子中学生の姿が、そこにはあった。
 ていうかボクの幼なじみだった!
 正直ちょっと引いてしまった。このかもけしかけたくせに若干引いてる。
 ていうか知らない人たちも完全に引いてる。

「あ、あははは……。
 アスナ、ほんと高畑先生のためなら何でもするわ。おもろいの通り越して怖いわ」
「確かにタカミチは結構頼りになるけどさぁ……。
 育ての親同然の人をここまで盲目的に好きになるって、ちょっと危ないと思うんだ」
「殺すわよ」
「ごめんごめん」

 殺されたくはないので謝っておいたが、たぶん気持ちはこもってなかっただろう。
 アスナ同様にタカミチに育ててもらったボクは、結構本気でアスナの恋を心配してるのだから。

「にしてもアスナとココ、足速いなー。
 うちローラースケートやのに」
「悪かったわね、体力バカで!」
「まあこのぐらいしか取り柄ないんだけどね」

 アスナの殺気に怯んだのか、このかが話題を逸らして結構今更なことを言い始めた。
 確かにローラースケートと生身の人間が並走してるのは、冷静に考えてみるとちょっとおかしい。
 周りを見てもボクたちと同じぐらいの早さで走ってる人なんて――。

「あれ?」

 そう思って周りを見渡したとき、足が異常に早いボク達に追いついてきた人影に気がついた。
 赤い髪で、十歳ぐらいの身長の少年だ。女子校エリアに相応しくない少年は、赤い髪もあってとても目立っていた。
 ボクからは最初は見えなかったのだが、男の子が急にこっちに振り向き、顔が見えた。
 欧米人のようで、幼くもとても整った顔に小さめのメガネを掛けている。

 ――なんだかとても懐かしいような、不思議な気持ちが。

「あのー。
 あなた、失恋の相が出てますよ」

 一瞬感じた謎の感覚を疑問に思ったのだけど、少年のあまりにショッキングな第一声ですぐに我に返ってしまった。
 少年を見ると、少年はアスナの方を向いていることから、たぶんアスナに対して言ったのだろう。
 その当のアスナは、聞いた瞬間こそ"きょとん"としていたが、その言葉の意味を理解したのだろう。だんだんと鬼のような形相になっていき――爆発した。

「な、何だとこんガキャー!」
「うわああ!?
 い、いえ! 何か占いの話が出てたようだったので!」
「どどどどういうことよ!
 適当言うと承知しないわよ!」
「い、いえ!
 かなりどぎつい失恋の相が……」
「ちょっとおぉぉっ!」

 男の子は"突然怒鳴られて意味がわからない、もしかして意味が伝わってないのかな?"とでも感じているようで、アスナに一生懸命細かく説明している。
 たぶん十割が親切心での発言なんだろうけど、恋する乙女にそれは全くの逆効果である。
 いや乙女にではなく、アスナに、か。いや、アスナじゃなくても、これはヒドイ。

「なあなあ。
 相手は子供やろー?」
「そうそう。子供相手にそんなに怒らなくても……」
「二人とも知ってるでしょ!
 あたしはね……、ガキは大っっ嫌いなのよ!!」

 アスナは泣きながら怒るという複雑な表情をして、男の子の頭を片手でつかんで持ち上げる。
 いくら子供が相手とはいえ、人一人を片手で持ち上げるなんて……、相変わらずの馬鹿力だなぁと思ったけど口には出さない。
 触らぬなんとやらになんとやら。

「う、うわぁぁぁぁあ」
「取り消しなさいよ!
 と、り、け、し、なさいよぉぉぉおおお!」

 見ず知らずの子供をアイアンクローで持ち上げる女子中学生の姿が、そこにはあった。
 ていうかボクの幼なじみだった……。正直他人のフリをしたいほどに、その姿は大人げなかった。

「というか、なんでこんなところに子供が?」
「坊や、こんなところに何しに来たん?
 ここは麻帆良学園都市の中でも一番奥の方の女子エリア。
 初等部は前の駅やよ」
「そう!
 つまりガキは入ってきちゃいけないの! わかった?」
「ま、まあ、入ってきちゃいけないわけじゃないんだけど……」

 アスナのあまりに極端な言い方に、申し訳程度に訂正を入れたが、ボクもこの男の子がここにいることに違和感を感じる。
 木乃香の言うとおり、ここは"中等部"や"高等部"が中心の"女子エリア"。当然"女子エリア"なので、共学であるはずの"初等部"は前の駅で降りるはずだ。
 それなのにここに居る理由は、電車で乗り越してしまったのか、それとも女子エリアに何か用事があったのか、そのどちらかの理由だとは思う。
 そしてこの子はたぶん……。

「ほな、うちら用事あるから一人で帰ってなー」
「じゃあね、ボク!!」
「いや、あの、僕は……」
「どうしたの?」

 ……どちらの理由にせよ、二人は新任の先生を迎えに行かなければならない。
 しかも、寮を出るのが遅れたせいで急がなければいけないのだから、この少年にかまっている暇は無いだろう。
 ただ、それは二人の都合だ。幸い、この場にはこの後の都合が付きそうな人間が一人いた。
 二人もいればなんとかなるだろうし、新任の先生は二人に任せて、ボクは男の子の話を聞いてみようとした、のだけど――。

「あの」
「いや――、いいんだよ! アスナ君!」

 ボクの問いかけに男の子が口を開いた瞬間だ。
 上の方――校舎の窓から、長年聞き飽きた育て親の声が聞こえた。

「久しぶり、ネギ君!」
「あ! 久しぶりタカミチー!」
「え゙っ!?
 た、高畑先生!? 知り合い!?」
「おはようございまーす」
「おはようございます、タカミチ」

 ボクとアスナの保護者、そしてアスナの想い人、高畑・T・タカミチだ。
 そしてタカミチの挨拶を聞くに、この男の子はネギ君という名前で、タカミチとは顔見知りらしい。
 急に想い人が現れたこと、そしてさっきまで怒りをぶつけていた相手が想い人の知り合いだったことに、アスナがかなり戸惑っているが、次の一言でボクも思考が一瞬止まることになった。

「麻帆良学園へようこそ。
 ここは良いところでしょう?
 "ネギ先生"」

 ……はい?
 この担任は、今、なんといったのだろう。

「え……、せ、先生?」
「……朝っぱらから愉快な冗談だね、タカミチ」
「学校では先生って呼んで欲しいんだけどな。
 冗談じゃなくてこれは本当の話なんだよ、ココ君。
 なぁ"ネギ先生"?」
「え、あ、ハイ。
 そうです」

 タカミチから冗談であることは否定されたが、このとてつもなく非常識な事態に、どうにも頭が追いつかない。
 たぶんアスナとこのかもそうなんだろう。開いた口が塞がってない。
 この麻帆良に住んでいて、滅多なことでは驚くことがなくなったボクたちではあるけど、流石に"子供が先生をやる"なんて話は、ちょっと疑ってしまう。
 そんなボク達を尻目に、男の子は少し咳払いをしてから、見た目からは考えられないほど大人びた様子で自己紹介をした。

「この度、この学校で英語の教師をやることになりました。
 ネギ・スプリングフィールドです」
「う、嘘っ!?」

 どこへ行った労基法。それとも麻帆良は治外法権でもあるのだろうか。
 それともこんな格好でも実は二十歳とか三十歳とかなんだろうか。
 うん。いくら麻帆良でも流石に法律は守らなきゃね。そうだよね。
 そうすればボクの危うくなった常識も少しは守られる――そういう期待を持って、そうであって欲しいという願いを込めて問いかけた、のだけど。

「じ、実はこう見えて二十歳とか!」
「? いえ、ボクは今年で十歳になります」

 なかった! ぐっばい常識!
 むしろこっちの頭の調子を心配されているような目で見られている気がする。
 ……でも良く考えたら、これで二十歳とかの方がおかしい気もしてきた。
 うん。そうだよ。十歳で良か……、いやいやいやっ!?

「ちょ、ちょっと待って! 先生ってどーいうことよ!?
 アンタみたいなガキンチョが!」
「どどどどうなってんのタカミチ!?
 いろいろ大丈夫なの? 法律とか能力とか、学園長の頭とか!」

 若干アスナは個人的な感情が入ってるっぽいけど、それにしなくても、やっぱり子供に先生なんて無理だと思う。
 常識的に考えて、まず子供を雇用すること事態がおかしいし、ましてや先生という職業だ。
 いくら普段から素っ頓狂なことを言うとはいえ、少し学園長の頭の正常さを疑わずにはいられなかった。

「いや、彼は頭いいんだよ。
 飛び級でオックスフォードを卒業してるしね。
 学力のことは安心してくれ」
「そういう問題じゃ……」

 頭がいいと言っても、飛び級で一流大学を卒業したと言っても、やっぱり子供はないと思うんだ、常識で考えて。
 まあでも英語の教師って言ってたし、うちのクラスはタカミチが英語を担当しているので、ボクらにはあまり関係の無い話かもしれない。
 ボクらの常識はそれなりに守られるだろうと、ある眼鏡のクラスメイトを思い浮かべながら考えていたのだが、すぐさまそんな幻想はぶち殺された。

「あと、今日から僕に代わって君たちA組の担任になってくれるそうだ」
「……本気で?」

 ……さよなら常識! とあるクラスメイトが乾いた笑いを浮かべる姿が想像できる。
 伊達メガネをかけた、平凡というには整いすぎている顔の読書仲間は、間違いなくこの非常識を歓迎できないだろう。
 しかしこの場にいない親友の未来よりも、この場で泣いている親友の方が深刻だ。

「そ、そんなぁ……、アタシこんな子嫌です。
 さっきだっていきなり失恋、いや失礼な言葉を私に……」
「いや、でも、本当なんですよ」
「うるせー! 本当言うなー!」

 まあアスナは実際のところ、新任の先生が子供だとかそういうことが嫌なんじゃなくて、タカミチが担任から外れる事自体が我慢ならないんだろう。
 子供が嫌いっていうのもあるだろうけど、順位的には三位ぐらいだと思う。ちなみに二位はさっきの出来事だ。
 もしかしたらだが、担任がタカミチのままで、なおかつさっきのことが無ければ、アスナの抵抗もここまでは激しくなかったかもしれない。もしかしたら、だが。

「大体あたしはガキがキライなのよ!
 あんたみたいに無神経でチビでマメでミジンコで……」
「うっ……。
 そ、そんなに言わなくてもいいんじゃないかなアスナ……」
「な、なに!? どうしたのよココ?」

 アスナの罵倒が、ネギ君に向けているはずなのに次々にボクにも突き刺さる。
 ボクの身長があんまりその子と変わらない……、ていうか外見年齢的に見るとあまり変わらないんじゃないか、という事実と、それと対照的に、意外と出るとこ出てるアスナのスタイル。
 知らぬは勝者のみである。世は無情。合掌。

「……結構鬼畜やね、アスナ」
「ええ!? このかまで?
 私ココには何も言ってないわよ!?」

 ボクが纏っている暗い雰囲気の理由に、思い当たる節が全く無かったのか、アスナは結構本気で戸惑っている。
 まあ、わかったらわかったで、色々切なくなってくるから、これでいい。
 そしてネギ君に向かってた意識がボクたちに逸らされ、さっきまでの怒りも少しは収まったかも知れないし、子供先生的には助かったことだろう。
 その子供先生に目を向けた直後だった。

「は……、は……、はくちっ!」

 子供先生がなんとも可愛らしいクシャミをした。
 と同時に。

「きゃぁぁぁぁあああ!?」

 目も開けられない、凄まじい突風。
 かまいたち、とまではいかないまでも、謎のつむじ風が、ボクたちの間に吹き荒れた。
 なんというタイミング。まるで"子供先生のクシャミが原因だったかのよう"な、そんな奇跡のようなタイミングだった。
 そして、風が弱まってきて、目を開けたら、なんだかちょっと良くわからない、説明をするともっとよくわからなくなりそうな、そんな状況が目の前に広がっていた。

「……キャーっ!
 な、なんなのよコレーっ!」

 何故かアスナの服、制服だけが"見えない何か"に裂かれたようにして千切れ、下着だけの姿になっていたのだ。
 意外と出るとこ出てるアスナのスタイル。それが白昼のもとにさらされていた。
 ……なんというか、可愛らしいくまのマークを主張して。

「……プリントものが許されるのは小学生までだよ……」

 十四歳にもなって、クマのプリントがされているパンツを履いている女子中学生の姿が、そこにはあった。
 ていうかボクの幼なじみだった。




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 ここからまた始めます。
 よろしくお願いします。

2011/12/10
一部改訂

2011/8/5
全改訂



[15734] 第2話
Name: あさ。◆6cef126e ID:da84fd5b
Date: 2011/12/20 03:01
「学園長先生!!
 これは一体どういうことなんですか!?」

 目的地の学園長室へと着くと同時に、"ジャージ姿"のアスナが少しヒステリックに詰問した。
 アスナの制服がまるで"凄まじい突風に吹かれたように"して飛んでいってしまい、公衆の面前にアスナのくまパンがさらされてしまって大騒ぎ――主にタカミチに下着を見られたアスナが――だったのだが、とりあえずそのままでいるわけにもいかず、男性二人にはちょっと待っててもらい、アスナは近くの木の影でたまたま持っていたジャージに着替えた。
 結局、あの場で起きた怪奇現象は怪奇のままだ。
 しかし当然ながら、今学園長先生に聞いていることはそのことではなく、学園長先生の目の前に居る少年……、いや"先生"のことだ。

「まあまあ、アスナちゃんや。
 どういうことと言われても、見ての通りじゃ」
「見ての通りって……。
 結局どういうことなんですかっ!?」
「まあまあまあまあ。
 とりあえず、ネギ君と話をさせてくれんかの?
 HR(ホームルーム)の時間も迫ってることじゃし」
「うぐっ……」

 アスナの鬼気迫る問い詰めにも、学園長先生は答える気が有るのか無いのか飄々として動じず、ただ右から左へ受け流すばかり。
 そんな調子に無駄だと思ったのか、それともホームルームのことを出されたからかはわからないが、流石にアスナも引き下がることにしたようだ。
 ボクも聞きたいことは山ほどあるが、たぶんこんな感じで答えてもらうことは出来なさそうだし、しばらく黙って邪魔をしないことに決めた。

「はじめまして、学園長先生。
 イギリスのウェールズから来ました。ネギ・スプリングフィールドです」
「うむ。日本まで一人で大変じゃったろ。
 ご苦労様。わしが麻帆良学園学園長の近衛(このえ)近右衛門(このえもん)じゃ」
「よろしくお願いします!
 あ、これが"メルディアナ"からの紹介状です」

 ネギ先生は英国人らしい。
 言われてみれば確かに、子供ながらも紳士な雰囲気を感じることができる。
 きっと誠実な子だ、となんとなくそう思う。
 そういえばボクたちはまだ自己紹介していないな、と思ったけど、それはまた後でたぶん機会があるだろう。
 一方先生同士の形式的な自己紹介はこれで終わりのようだ。
 何やらネギ先生が巻物のようなものをカバンから出して学園長先生へと渡した。

「ほほう……。
 なるほど。修行のために日本の学校で先生を……。
 そりゃまた大変な課題をもろうたのう」
「は、はい。
 よろしくお願いします」

 きっと学園長は知っていたのだろうけど、あの巻物の中にはおそらくこの非常識に対する説明が書いてあったのだろう。
 どうもただ教師になるために来たというわけではなく、何かの"修行"で教師をしにきたようだ。
 ていうか修行って。今時修行なんて言葉、滅多に使わないんだけど……。
 一体どんな事情があったら十歳ぐらいの子供が修行で教師をやるハメになるんだろうか。

「しかしまずは教育実習ということになるかのう。
 とりあえずは今日から三月までじゃな」
「はい! 頑張ります!」
「うむ。
 しっかりやるんじゃぞ」

 ひとまず、これで二人の話は一段落なのだろう。雰囲気が少し和らいだ。
 それにしても、実際に本当にこんな小さな子が先生をやるなんて……、身長はボクと余り変わらないけど!
 きちんと学園長の口から事実を確認しても、とても信じられない。
 そしてまだ真面目な話が有るのだろう。学園長が真剣な顔で口を開いた。

「……ところでネギ君」

 ――和らいだ空気がまた引き締まる。
 ボクが麻帆良へ来た時は学園長もうすでにこの容姿で、いったい今では何歳になるのかわからないが、長い年月を生きてきた仙人のような、老いではなく貫禄を感じさせるとても重みのある声とオーラだ。
 ネギ先生もそれに気圧されたのか、片足が後ろへ下がっている。
 どんな言葉がかけられるのか……、この場にいるほとんどの人間が唾を飲んでいた。
 しかし……。

「ネギ君には彼女はおるかのう?
 どうじゃ? うちのこのかなんずぉっ!?」
「ややわー、おじいちゃん。
 冗談もほどほどにしいやー」

 その仙人の言葉は、放たれてみればとてもしょーもない一言だった。
 そしてその戯言を言い切る前に、学園長の頭を鈍器が襲う。
 誰がどう見ても明らかに犯人は孫だ。あの細腕で持てる鈍器だから大した重さではないだろうが、学園長の頭からは緩やかに赤い液体が流れていた。

「はぁ……。
 また学園長の悪い癖が……」
「いつ見てもこのかの反応早いよね」

 しかしまあ、こういう光景……、というかこの流れは良くあることなのでボクやアスナはうろたえない。(ネギ先生は明らかに引いているが)
 どうせあと数分もすれば学園長も元通りだ。一体どういうカラクリなのかわからないけど、たぶんいつも見た目程の傷ではないのだろう。
 そんな慣れもあって、特に何事もなかったかのように微笑ましい光景を眺めていたのだが、急に何かを思い出したのか、二人の間へ割りこむ形でアスナが待ったをかける。

「ってちょちょ、ちょっと待ってください!
 話を戻しますけど、そもそも子供が先生なんておかしいですよ!
 しかもうちの担任だなんて……」
「ふむ。
 そうじゃのう……。ネギ君!」
「は、はいっ!」

 アスナの問いかけに、今までで一番マトモな反応を学園長が返し、そのままネギ先生へと確認するように問いかけた。。
 はたして当事者のネギ先生の口から、ここまで興奮したアスナを説得出来るような理由が聞けるのだろうか。
 ボクとしては、もう今更ボクたちがどうこう言える状況でも無いんじゃないかなと思うし、さらになんとなく"ネギ先生でも別に良いかなぁ"なんて受け入れてしまっているので、早く教室に戻りたいというのが正直なところなのだけど。

「――この修業はおそらく大変じゃぞ。
 ダメだったら故郷に帰らねばならん。
 その場合、二度とチャンスはないが、その覚悟はあるのじゃろうな?」

 学園長の雰囲気が一瞬にして変わった。
 さっきの出来事は本当に茶番だったのだと理解出来るほどに、今の学園長の"存在感"は大きい。
 責任者としてか、年長者としてか、それとももっと違う立場からか。
 ネギ先生へと問いかける学園長の言葉は、重く、強く、厳しく――、しかしそれでいてどこか優しかった。
 対面しているネギ先生は、しっかりと学園長を見据えてはいるが、明らかにに緊張している。

「……はいっ! やります!
 いや、やらせてください!」
「うむ」

 そしてネギ先生の返答は、学園長としては満足だったんだろう。
 でも、本当は返答すらも必要無かったのかも知れない。
 ボクから見えたのは横顔だったが、それでもわかるほどに、ネギ先生の瞳にはそれだけの強い意思が篭っていたから。

「さて、どうじゃ? アスナちゃんや」
「むぅ……」

 アスナにもそれは伝わったのだろう。
 一貫して"こんな子供が"という理由で反対していたアスナが口を噤んでいるのは、思ったよりもネギ先生が"ただの子供(ガキ)"ではなかったからなんじゃないだろうか。
 ただまあ……、素直に認められないのはさっきの一連の出来事がやっぱり不味かったんだろうなぁ……。
 なんて呑気に親友を観察していたボクだったが、どうも他人ごとでは無かったらしい。

「ふぉふぉふぉ。
 で、ココちゃんはどうかの?」
「ええと……、ボクは別にネギ先生が担任になることには――」
「ああ、そうじゃなくての……」
「え?」

 ずっと頭の中で考えていた結論を告げようとしたが、それは学園長の意図した答えではなかったらしい。
 アスナへの確認と同じことを聞かれているものだと思ったのだけど……。
 でもこのこと以外に心当たりは無いし……、一体何の話だろう?

「言葉足らずですまんの。
 ココちゃんから見て、ネギ君の印象はどうじゃ?
 どうもココちゃんは始めから、ネギ君が担任になることには反対じゃなかったようじゃからの」
「印象、ですか」

 学園長が何故か、ネギ先生に問いただしたときのような目でボクを見つめ、確かめるように聞いてきた。
 なんだろう……。特に嘘をつこうとは思っていなかったのに、何故か嘘はつけないような気がする。
 まあ、別に、正直にしゃべっても問題があるわけじゃないし、良いのだけど。

「まだ会ってから数十分しか経ってないんですけど、とりあえず誠実そうだな、と。
 あとアスナは"ガキ"って言ってましたけど、ボクはこの歳では大人しいと思いました」
「ふぉっふぉ。
 そうかそうか。では――」
「あっ。でも……」

 正直に隠さずネギ先生の印象を伝えたが、まだ何か言っていないことがある。
 今の場で言うべきことではない気がするけど、言葉が勝手に出てくる。
 はっきりとはわからないけれど、なぜだか初めて見た時に感じた事だ。

「どこかで会ったような――、なんだかとても懐かしい感じがしました」
「……そうかの。
 ふむ。では問題はないの?」
「え? ですからそう言ってるじゃないですか」
「そうじゃったのー。
 すまんすまん」

 まるで自分の身内が褒められたように嬉しそうな学園長が喋りかけた言葉を遮って伝えると、一瞬だけだけど学園長は一転して悲しそうな、それでいてホッとしたような、不思議な表情をしていたように見えた。
 でも他の二人は気づいてないし、ボクもはっきりと見えたわけではないし、たぶん勘違いだろう。
 なぜわざわざこんな事を聞かれたのか結局わからなかったけど、これで学園長的には満足したのか、視線はネギ先生へと戻っていった。

「よし。
 ではネギ君には今日から早速頑張ってもらおうかのう。
 教育実習じゃから指導教員がつくが、良いの?」
「は、はい」
「うむ。では指導教員の先生を紹介しよう。
 しずな君!」
「――はい」

 そう呼ばれて学園長室へと入ってきたのは英語の源しずな先生だ。
 しずな先生の特長であるバスト九十九センチの大きな胸がとてもうらや……、いや、うん。
 というか、どうでも良いけど、今までしずな先生はずっと部屋の外で待っていたんだろうか。

「こちらが指導教員の源しずな先生じゃ。
 担当はネギ君と同じ英語じゃから色々と聞くといい。
 で、しずな君。こちらが今日から教育実習のネギ・スプリングフィールド先生じゃ」
「ネギ・スプリングフィールドです。
 よろしくお願いします!」
「源しずなです。
 こちらこそよろしくお願いします。ネギ先生」

 少しまだ緊張しているネギ先生と、母性を感じさせる、落ち着いた物腰のしずな先生との、対照的な挨拶だった。
 ここでは単純な顔見せ程度の意味しかなかったのだろう。二人の挨拶が終わるとすぐに学園長が口を開き、短く次の話題を出してきた。

「そうそう、相談があるんじゃがよいかの?
 このか、アスナちゃん」
「なんやー? おじいちゃん」
「なんでしょう?」

 今夜の夕飯の献立を聞いてくるような気軽さで、学園長はこのかとアスナに向けて相談を持ちかける。
 ボクの名前が呼ばれなかったので、ボクは関係無いのだろう。というか、最初からあんまり関係無かったけど。
 なんて考えは間違ってはいなかったが、いくら関係無いとはいえ、学園長の相談はなかなかに予想外だった。

「実はネギ君の住む場所が決まっておらんでのう……。
 とりあえず、しばらくは二人の部屋に泊めてはくれんかのう?」
「うちはええよー」

 まさか担任になる少年を部屋に泊めろと言うとは、この場にいる誰も思わなかっただろう。
 更に言うと、当事者のうちの一人が即快諾するとも思わなかった。
 ただ一つ、予想通りというか、当然というか。

「うげ……」
「え゙……」

 当事者のうち二人の、明らかに拒絶の意を含んだうめき声が漏れていた。





「なんなのよアイツ!
 何で高畑先生じゃなくてあんなやつが担任にならなきゃいけないのよ!」
「どうどう」
「誰がじゃじゃ馬娘かっ!」

 教室へ着いてもアスナの怒りは当然収まっておらず、不機嫌なオーラを辺りにまき散らしていた。
 まあ元々勝気な性格のアスナだ。こんな状態になることはよくあることで、クラスのみんなもそこまで深刻に感じてはいない、というより、いつも通りの光景として処理しているらしく、特に宥めようとは思っていないみたいだ。

「だいたい、あのガキが担任になるってだけで最悪なのに、更に一緒に暮らすなんて!」

 まあ、なんというか。
 学園長の相談に、このかは即断でイエスだったのだけど、案の定、アスナとネギ先生の二人はごねた――いや、ごねたのはアスナだけか。
 やれガキは嫌いだとか、やれ教師の機密事項がとか。
 一方のネギ先生は、本来ならお願いする方だからか、アスナのように抗議こそしなかったものの、終始何かを言いたそうな、納得のいっていない顔をしていた。
 ……結局、学園長の「仲良くしなさい」という一言により、押し切られる形で話は終わってしまったのだけど。

「まあまあ、ええやんアスナ。
 あの子、かわええし」
「このかは子供好きだもんねぇ」
「私は嫌いなのよっ!」
「どうどう」
「さっきっからなんなのっ!? 私は馬なの? 牛なの?」
「サル……かな」
「サルやね」
「むきぃーっ!」
「うるさいですわよアスナさん!
 ココさんもこのかさんも! そろそろ席に着きなさいな!」

 なんて三人で騒いでいたら委員長に怒られてしまった。
 どうやらそろそろ先生が来る時間らしい。
 周りを見ると、しゃべってないわけではないにしろ、みんな席について、それなりに落ち着いて歓談している。
 というか、騒いでいるのはボクたちだけだった。

「なぁ、風音」

 このかと二人でアスナに謝り、どうにかして落ち着かせて席に着くと、教室では珍しく、隣人が話しかけてきた。
 小声で、だけど。

「……私の聞き間違いじゃなかったらさ、"ガキが担任になる"って神楽坂が言ってたか?」
「……言わないとだめ?」
「いや、いい。顔を見ればわかる……」

 哀れに思いながらも、とりあえず誤魔化しておこう、としたのだけど、顔に出ていたようだ。
 この隣人であり、親友の、長谷川千雨は、教室(というかアスナが一緒にいるとき)ではボクに余り話しかけてこない。
 基本的に"平穏無事"がモットーの千雨によると、"神楽坂タイフーン"なんかには巻き込まれたくないらしい。
 だが、それを加味しても、ボクらの会話から感じた"非日常"の予感はスルー出来るものでは無かったみたいだ。

「まあ、なんというか、ご愁傷さま」
「このまま何もなく二年が終わると思ったのにっ……」

 そんな常識人が、平穏が終わることへの呪いの言葉を吐き出した瞬間だった。

「失礼します――」

 教室のドアをガラッと戸惑いがちに開け、緊張しているのか、少し震えた声で断りを入れ、"子供"が入ってきた。
 と、同時に、イタズラ好きの誰かが仕掛けたのだろう。ドアと壁の間に挟まっていた"何か"が、何も知らない少年の頭上へと、重力の法則に身を任せ吸い込まれていく。
 "何か"が着地する瞬間、まるで自分の身に危険が振りかかる瞬間かのように、その光景がスローモーションになったような気がして、そのお陰で何が落ちてきたのかやっと理解した。

「わぷっ」

 意図的に、チョークの粉をまんべんなく付着させた、黒板消しだった。
 新任の先生が来る、という情報をどこからか(たぶん朝倉)聞きつけたイタズラ好き(双子か美空)の仕業だろう。
 ただ、"子供"が教室へ入ってくることは予想外というか、掴んでいなかったらしく、関係者各位(朝倉や双子や美空)は開いた口が塞がっていない。
 まあ、その少年も故意に引っかかったような感じではあるのだけど。

「なる、ほど、げほっ!
 ひっか、かっちゃった、けほっ、なぁ、ごほっ」

 しかし、いくら落ちてくるのがわかっていたとはいえ、チョークの粉には抵抗できなかったのだろう、しきりに咳き込んでいる。
 ていうか美空たち、粉つけすぎだと思う。あれってワザと壁とか黒板とかに叩きつけないと、あんなに白くならない。
 ボクだったら、ワザと引っかかった事を後悔する。そもそも気づいてたのなら避ければ良かったのに!

「な、なぁ、風音……」
「何かな、千雨」

 罠は黒板消しだけでは無かったようで、足払いのロープを初め、次々と罠にはまっている新任教師の悲鳴をBGMに、ボクは千雨の呼びかけに答えた。
 たぶん2-Bきってのツッコミ気質な千雨のことだ。ツッコミを入れたくて仕方ないのだろう。
 むしろ、脳内では大変なことになっているかもしれない。ツッコミが。

「さっき言ってたガキって……」
「まあ……、うん」
「ホントにガキじゃねーか!
 あれ、見た感じ十歳ぐらいだろ!? せいぜい非常識にしても十六とか十八とかにしとけよ!」

 訂正。大変なことになった。ツッコミが。
 情報源がオジコンのアスナだったのがいけなかったのか、どうやら千雨は、ここまでの非常識だとは思ってみたいで、静かに叫ぶ、という漫画でしか見られないようなツッコミをボクに見せてくれた。
 ていうか、十六歳でも十八歳でも社会的に有り得ないと思うのだけど、千雨もやっぱり麻帆良に幼稚舎からいただけのことはある。
 そして、千雨には珍しく、この反応は2-B全体と同じだったみたいだ。

「え、えぇぇぇ!? 子供!?」
「なんで!? なんで子供がっ!?」

 流石にザ・脳天気クラス2-Bでも、新しい担任が子供だというのは、疑問に思うべき非常識だったらしい。
 複数あった罠の一つであるバケツを頭に被り、ところどころにこれまた罠のうちの一つであるおもちゃの矢が刺さって……、というかくっついていて、半べそをかいている子供に、何人かが心配して駆け寄っていく。
 ていうか、子供相手にこれは、本当に酷い有様だった。

「ご、ごめん、ぼく!
 てっきり新任の先生だと思って……!」
「大丈夫!? どこか怪我してない!?」
「けほっ、い、いえ、ごほっ……。
 ぼ、僕、こほっ、は……」

 というか、まず先生だと思われてなかった。
 如何に非常識なうちのクラスであろうと、流石に大半の人は"教室へ入ってきた子供"と"新任教師"とは結びつかなかったみたいだ。
 しっかりと対象は罠に引っかかったというのに、事の真相に気づいていない人は、自分で嵌めた相手を心配し、気づいた人もまた、自分で嵌めた相手を心配している。
 そして、気づいていない人へと説明しようにも、未だに咳き込んでいて、とてもまともにしゃべることも出来ない新担任。
 珍しくうちのクラスがそれなりに常識的な反応をしたはずなのに、結局はいつも通り……いや、いつも以上に混沌としていた。

「いいえ、その子があなた達の新しい先生よ。まだ教育実習生だけどね。
 さあ自己紹介してもらおうかしら。ネギ君」
「は、はい」

 だが、そんな混沌も、この場唯一の大人であるしずな先生が声を上げることによって、落ち着くことになった。
 落ち着いたと言っても、予想外すぎる新しい先生の正体に皆はまだざわついているのだけど、しずな先生に促されてネギ先生が教壇に立つと、そこに人がいるとなんだか静かにしなくてはいけない空気になってくるからか、だんだんとそれも治まってきた。
 ただ、しずな先生がネギ先生を紹介している絵が、どうしても"先生"というより"転校生"という方がしっくり来てしまうのだけど。

「えっと、今日からこの学校でまほ……、英語を教えることになりました。
 ネギ・スプリングフィールドです。
 3学期の間だけですけどよろしくお願いします」

 やはり緊張しているのか、ところどころ噛んでしまってはいるが、十歳ということを考えるとこんなものだろうと思う。
 ――ただ、やっぱり残念ながら先生としては見れそうもない。
 初々しい、というだけならまだ教育実習生への印象として、良くあるものだけど、それよりもまず"可愛らしさ"というものを感じてしまうほどに、ネギ先生は"幼かった"。
 特に、教壇に立ったことにより、教卓や黒板と比較してしまい、より小ささが際立ってしまっている、ということもあるのだけど。
 第一そもそもが……。

「きゃー! 可愛いーー!!」
「こんな可愛い子もらっちゃっていいの!? しずな先生!」

 なんて、自己紹介をした直後に、教え子にもみくちゃにされる教育実習生がいていいものなのだろうか。
 いや、駄目だろう。ボクが担当者なら試験失格だ。
 ……ていうか、みんな騒ぎ過ぎだよ! 本当に大丈夫なのかなぁ。
 先生が心配なのもあるけど、なによりうちのクラスは本当に大丈夫なんだろうか、と思わざるを得ない騒ぎようだ。

「お、おい、風音」
「ん?」

 そんな中で、「こんなの絶対おかしい」とか「どういうことだおい……」とか存外に余裕がありそうな呟きを漏らしていた千雨が、何かに気づいたようにボクの肩を軽く叩いて話しかけてきた。
 今日は朝からこんなに話しかけてくるなんて、明日は嵐か雪かな、なんて少し失礼な考えは看破されはしなかったようだ。

「神楽坂の様子、おかしくねぇか?」
「アスナ? アスナがどうしたの?」
「いや、なんかすげぇ表情でガキに近づいてってるんだけど……」

 千雨に言われてアスナを探すと、確かに、怒っているような、混乱しているような、そんな表情でどんどんネギ先生へと接近していっていた。
 ネギ先生の周りの人はアスナの接近に気付いてはいないが、少し離れたところで見ていた何人かは、ずんずんと歩いてくるアスナに気付いて、まるでモーゼの海割りのように道が開いていく。
 結果、ネギ先生の目の前までたどり着いたアスナは――

「な、胸ぐらぁっ!?」
「おいおい……。お前の幼なじみ、大人気なさすぎるだろ……」

 ネギ先生の胸ぐらを掴み、一気に引き寄せたのだ。
 もちろんそれだけで終わるはずがない。
 更にアスナは、鼻と鼻がくっつきそうなほどに顔を近づけ、口を開いた。

「――ねえ」
「は、はい!?」

 まるでカツアゲでも始まるかのような光景に、流石に周りもしんとなった。

「あんた、さっき"黒板消しに何かしなかった?"
 "朝の事"といい、あんた、何かおかしくない?」
「うっ……」

 アスナの言っていることが理解できる人は、この場にはほとんどいないだろう。
 というか、ボクでも"黒板消し"のことは、正直何を言っているのかわからなかった。
 だが、"朝の出来事"はわかる。おそらく、『くまパン』のことであろうが、それを踏まえても、アスナの文句は、荒唐無稽な言いがかりにしか聞こえなかった。
 しかし、ネギ先生としては、もしかしたらそうではないのかもしれない。
 確かにネギ先生は今、言葉をつまらせたのだから。
 そんなネギ先生に痺れを切らしたのか、アスナは掴んでいた胸ぐらを前後に振り始めた。

「きっちり説明しなさいよー!」
「う、うわああ」

 そんなにしては答えるものも答えられないと思うのだけど、アスナのイライラはもはや頂点に達したらしく、そんな考えに至る理性は無かった。
 全クラスメイトと指導教員の目の前で、担任の教育実習生の胸ぐらを掴んで暴力を働いている女子中学生の姿が、そこにはあった。どう見ても、ボクの幼なじみだった。
 そして一度静まった場も、騒ぎ始めるとやっぱりエスカレートしていくのがうちのクラスであり、ネギ先生がこれから受け持たないといけないクラスであった。
 もはや学級崩壊も良いところだが、うちのクラスが崩壊しないのにはちゃんと理由がある。

「いいかげんになさい!」

 そう机を叩いて立ち上がり、声を上げたのは、雪広あやか。
 通称"いいんちょ"。2-Bの学級委員長にして、一番の優等生だ。
 ボクやアスナとは長い付き合いになるが、昔から彼女は"いいんちょ"だった。

「さあ、皆さん席に戻って。先生がお困りになってるでしょう!
 アスナさんもその手を離したらどう?」
「うぐっ……」

 アヤカが声を上げたことにより、静まった教室に、続いて同じくアヤカの言葉が凛と通る。
 それはアスナも同じく、アヤカに窘められて、冷静になったのだろう。ネギ先生を振り回していた手を止め、問い詰めていた口を噤んだ。
 先生が基本的に放任主義ということもあって、うちのクラスが騒いでいるときは、先生に止められるよりも、アヤカが場を鎮める場合の方が、割合にして多いように感じる。

「まあ、もっとも?」

 ただまあ、結局アヤカもうちのクラスの一員なわけであって……。

「あなたみたいな凶暴なおサルさんには、そのポーズがお似合いでしょうけど」
「何ですって!?」

 そう言い放つアヤカは、おそろしく邪悪な笑みだった。
 結局、アヤカも騒ぎの一要素なのは、他の皆と同じで、アスナが関わった場合は、鎮めることよりも、むしろ煽ることの方が多いのだ。
 二人は長い付き合いであり、幼なじみであり、親友とも言っていいぐらいの仲ではあるのだけど、それと同じぐらいに仲が悪い。好きの反対は無関心であり、好きと嫌いは両立する、ということの生きる証明ではないだろうか。

「先生はオックスフォードをお出になった天才とお聞きしておりますわ。
 教えるのに年齢は関係ございません。どうぞホームルームをお続けになってください」
「ど、どうも」

 自分から煽るだけ煽っておいて、完全にアスナをスルーし、アスナへ向けた邪悪な笑みとは真逆の、神々しい程に慈愛に満ちた笑顔をネギ先生へと向けていた。
 まるでアスナがタカミチに向ける笑顔のようだけど、アスナのそれよりも、少しばかり欲にまみれていそうではある。
 ネギ先生も、ちょっと引いていた。
 病的な――いや、それはアヤカだけじゃない。

「何いい子ぶってんのよ! このショタコン!」
「んなっ!?
 言いがかりはおやめなさい! このオジコン!」
「なななななんですってぇ!?」

 そう。二人とも残念な病気なのである。それも、相容れないタイプの。
 小学校五年生ぐらいの時――アスナがタカミチへの恋心を自覚し始め、アヤカが"あの子"の事をやっと克服してきた時期――から、この諍いはそれなりに頻繁に起きていた。
 ……そして、毎回とばっちりを受けるのは、このボクだった。

「知ってるのよ!
 あなた高畑先生のこと……」
「うぎゃぁああ!
 その先を言うんじゃねぇ! このおんなぁっ!
「あらぁ? 言われて困ることでもあるんですの?
 皆知ってますのよ? あなたの高畑先生を見る目、完全にアレですもの!」
「アレって何よアレって!
 あんたこそ、このガキ見る目、完全に危ない人だったじゃないの!」
「そそそそそんなことありませんわ!」

 いつも通りの罵り合い。
 アヤカという抑止力が機能しなくなったせいで、周りもやりたい放題になったわけで、騒ぎが大きくならないわけが無い。
 唯一救いなのは、二人の争いが騒ぎの中心になっていることか。
 いや、ボクにとっては救いでも何でもないか。
 この二人を穏便に止められるのは、おそらくクラスではボクだけなのだから。

「はぁ……、仕方ない」
「まあ、なんだ。同情してやるよ」
「その言葉、何回聞いたことだか……」

 千雨の言葉を聞きながら、今まで静かに座っていた席を立ち上がり、教卓の目の前で騒いでいる二人に近づいていく。
 アスナの時とは違い、少しばかり憂鬱なオーラを漂わせていたのか、千雨のように同情的な視線を感じるが、一方でところどころから「えーもう終わりー?」とか「せっかくいいんちょに賭けたのにー」なんて声が聞こえる。二人の喧嘩の終わりの合図みたいになってるのは少し心外だ。
 そんな様々な視線や野次を受けながらも、二人の間に体を割り込ませ、止めに入った。

「はーいストップストップ!」
「何よココ! 止めるんじゃないわよ!」
「ココさん、ほっといてくださいな!
 アスナさんとはココで決着を付けなければいけないのですわ!」
「……」

 おーけー、おーけー。
 落ち着け、落ち着こう風音小恋。ボクは止めに入ったんだ。仕方ない。
 二人が止めに入ってきたボクを非難するのは、いつも通りのことだ。

「早くどきなさ――」
「タカミチ」
「うぐっ……」
「悲しむだろうなぁータカミチ。
 知り合いの授業が自分の育てた子に潰された、なんて聞いたらなんて思うかなぁ」
「わわわわわかったわよ!
 大人しくしてればいいんでしょう!?」

 うん、いつも通りだ。安定のアスナ。
 いくら頭に血が登っていても、タカミチの名前を出しておけば、基本的に静かになってくれる。
 問題はアヤカだ。決まった切り札が無く、いつも処理に困って千鶴を引き合いにだして、逆に千鶴の怒りを買うことがあるので、正直この手は使いたくない。
 だが、せっかく鎮まったアスナをまた煽る前に、黙らせなければならない。
 千鶴の逆鱗に触れるしかないか――と考えたところで閃く。
 なんだ、ここにいるじゃないか。アスナにとってのタカミチに匹敵するような切り札が。

「あーらアスナさん。
 高畑先生からの評価がそんなに気にな――」
「ネギ先生」

 当のネギ先生には聞こえないように、アヤカの耳元で囁いた。

「なっ……、なんですの!?」
「……自分の授業で騒いでいる生徒を、どう思うかなー。
 少なくとも、優等生だとは思わないよねぇ? どうかなアヤカ?」
「そそそそうですわね!?
 ほら、みなさん! 早く席につきましょう!」

 なるほど、今度からこうすれば良いんだ。
 アスナにとってのタカミチに対して、アヤカに対してのネギ先生。
 二人とも歳の差があり、教師と生徒の関係、と考えると、ボクの幼なじみには残念なのが多いのではないか、とか考えると少し落ち込んでくるが、ボクは至ってノーマルだと思うので、関係ない。関係ないんだ。
 皆もなんだかんだ言いながら席に戻り始めているので、一件落着ということで良いのではないか。
 と、思っていたのだけど、そうは問屋がおろさなかった。いや、とんでもない爆弾をおろしていった。

「ネギ先生のポイントはココが独り占めかぁ」

 そうふと爆弾を漏らしたのは、鳴滝風香。鳴滝姉妹の姉のほうである。
 ボクとしては、そういうつもりで二人を止めたわけではないのだけど、なるほどたしかに、今のところ一番ネギ先生に貢献していると言えないこともないだろう。
 ――ただ、それをアヤカの近くで言う必要は無いのではないだろうか、とボクは思う。

「んな、ななな、なんですって!?
 ココさん、それはどういうことですの!?
 そういうことなら、わたくし、先生を渡すわけには行きませんわよ!」

 案の定、爆弾に火がついた。
 同時に爆弾魔が一瞬にやりとしたのが見えたので、どう考えても確信犯だ。

「ふ、風香ーっ!
 あ、ちょっと、何楓の後ろに隠れてんのさ!」
「ワザトジャナイヨ、ホントダヨ」
「ちょっと、ココさん! 聞いていますの!?」

 風香の厄介なところは、自分の味方と敵を瞬時に見抜き、イタズラの後はすぐさまスケープゴートしてしまうところだった。
 糾弾したかったのだけど、それは後でも出来る。何より今は、アヤカへの誤解を解かなければいけない。
 アヤカは、ボクがネギ先生の好感度を上げたいがために、さっきの喧嘩を止めたと思っているのだろう。
 ボクが先生の好感度を上げたいなんて、一言も言っていないのだけど、おそらくそういうことだと思う。
 とりあえず、その誤解を解かなければならない。

「べ、別に、ネギ先生ためじゃ、ないんだからねっ!」


 ボクの発言と同時に、何故か場が凍った。
 そして一瞬の間の後、また爆弾が爆発した。

「なっ!?
 そういうおつもりなら、わたくしも負けるわけにはいきませんわ!」
「ココ……、あんたもショタコンだったのね……」
「え、えぇ!? なんで!? なんでそういう結論に!?
 ちょ、ちょっとアスナ! アヤカ!」






 ――結局、しずな先生に止められ、席に戻った。
 席に戻ったボクを迎えた千雨の「あざとすぎる」という一言を聞くまで、冷めやらないアヤカの対抗心と、冷え切ったアスナの目の意味が、なかなかわからなかった。





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 前の文章の倍以上の文章量になってしまった。
 三か月に一回更新があったらいいほうだと思ってください。

2011/12/20
 一部改訂

2011/12/10
 投稿


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