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[15612] (習作)混血竜の孫(巣作りドラゴン2次創作・ほぼオリキャラのみ)
Name: 八川箏◆7ab96786 ID:9658ab81
Date: 2010/01/16 19:14
この前同名で作品を投下しました八川箏です。
まず前回突然に削除ししたことをお詫びいたします。
今回ある程度の分量を描き終えたこともあり再投稿させてもらいます。
初心者の作品で、いろいろと見苦しいところ、至らないとこがあると思いますが、ご容赦ください。



[15612] プロローグ
Name: 八川箏◆7ab96786 ID:9658ab81
Date: 2010/01/16 16:51
ドラゴンは町を襲う
人々から財宝を奪い取るために。

ドラゴンは巣に魔物を放つ
宝とドラゴンに命を狙う冒険者達を狩るために。

ドラゴンは生け贄を求める。
女を犯し、夜の生活の練習台にするために。

ドラゴンは財宝を蓄える
財産が少ないと許嫁に失礼だからである。

ドラゴンは巣を最上の城にする
下手な巣を作ると許嫁が怒るからである。

ドラゴンは以上のことに全力で取り組む。
下手すると怒り狂った許嫁に殺されるからである。



これらの情報は全て雄のドラゴンについてである。
雄のドラゴンは巣作りのため人間に接触する機会が多いのでかなり信憑性の高い情報が得られている。

しかし雌のドラゴンの情報は巣作りを行わないため研究が進められていない。
だがいくつかの断片的な情報からするに戦闘能力は雄のドラゴンの数倍、性格は凶暴と予想される。

                   ドラゴン研究家の手記より






かつてドラゴンは隆盛を極めた。

種族の性質として数こそ魔族、天使族に劣っていたものの、個体としての力は比較にならず、最強の種族として三界の頂点に君臨していた。
ドラゴンの繁栄は永遠に続くと思われたが転換期が訪れる。
戦争である。

天界と魔界との戦争がドラゴンの勢力下であった人間界で始まり、激化。
ドラゴンはこの戦争に介入し、その圧倒的な力で両軍を殲滅していった。だが魔族、天使族が手を組み、さらにはドラゴンとの戦闘に特化した竜殺しの一族を開発、形勢は逆転した。

生き残ったのは20にも満たない個体のみ。
その後戦争が終結したことと、絶滅を恐れた魔界と神界がドラゴンを保護したこともあり個体数は回復したものの、二つの深刻な問題が発生した。

それらの深刻な問題を解決するために、我々は未来ある若者達を墓穴に放り込み、墓石で蓋をするかのような行為をすることを決断した。

結婚の管理、許嫁である。ああ、なんと罪深きことか。けんか、嫉妬、八つ当たり。雄ドラゴンの死因は、雌ドラゴン関係が7割を占めるというのに。

                                                        長老ドラゴンの回顧録より






竜族と天使族、魔族の戦争については知っているな。
竜族の圧倒的力に前線は一時神界、
魔界にまで押し込まれた。

そこで神界と魔界の間で休戦協定が結ばれ、両軍そろって戦ったがなお力及ばず、かなりの損害が出た。

そもそも生物としての格が違いすぎるからまともに戦っても勝ち目はない。だが竜族と同格の生物なんて存在しないし、創るのも不可能だ。

しかし要するに戦いに勝てばいいのだから、竜との戦いの相性がやたらといい生物をならどうか。そのくらいなら創れるじゃないか、
そのときは本当に追いつめられていたからそんな馬鹿げた計画を実行してな。
両界共同で対竜戦闘用の種族を開発した。

竜殺しの一族のことだ。
繁殖力の強い人間を基盤(ベース)に強力な身体能力と竜に対する強い殺戮衝動、竜の存在を感知する特殊な感覚、高い戦闘センスに加え相対するだけで竜の力を抑え込む呪いにも似た力を持たせた。

完成した竜殺しの一族は期待以上の活躍を示し竜族が12頭にするまで追いつめ戦争に勝利した。

そして天界に降伏した5頭と魔界に降伏した4頭に力を押さえつける呪いをかけルコトをペナルティーとし、また竜族の子供ができるよう特殊な措置をした交配相手を当てが云うことにより三界のバランスを取り戻そうとした。

だが予想外のことが起きた。竜殺しの一族が強すぎ、また制御ができなかったのだ。

天界魔界が竜族を殺すことを禁じてからも竜を殺し続け、竜族は再び絶滅寸前まで追い込まれた。

神界も魔界も戦争への介入を防ぐ以上の意図は持っていなかったのに。

不倶戴天の敵同士である天使族、魔族がこれまで総力戦になることがなかったのは強力な力を持つ第三勢力が存在していたことが大きい。

竜族が滅びれば、三界の均衡が崩れ、天使族と魔族は互いを絶滅させるまで戦争をやめられなくなるだろう。

そこで魔界と密約を結び竜族の力が回復するまで決定的な戦争が始まらないようにし、また人間界の優先権は竜族にあると明確に定め、竜殺しの一族と、そのブースターである竜殺しの剣を回収、破棄をした。

竜族が立ち直るまでこの呉越同舟の残りかすが持てばいいのだが。

                                                        とある将軍の部下への訓示





ようこそ竜の村へ。
この村は未婚の竜族の住む村だ。
歓迎しよう。
さて、この村に入る前にいくつか注意があるから聞いてほしい。

知っての通り、竜族の女は男の数倍強く、また凶暴だ。
たまたま通りがかった男をパシリにする、貢ぎ物を要求するなんて当たり前。
機嫌が悪かったというだけで殴られる。
男の立場なんてトカゲ一匹分もない。

そんな凶暴かつ理不尽な女達の中でも特に注意しておかなくてはいけない二人がいる。
この二人は正に別格で、女すらこの二人の前では借りてきた猫みたいになる。

まず、リーゼラベルンについてだ。
愛称はリズというが、呼ばないように気をつけろ、
そう呼ぶことを許されてない奴が呼ぶと殺される。
容姿は金髪、紅い瞳で豪奢な感じがする。
性格はプライドが高く短気で怒りっぽい。
誰よりも竜族らしい女だ。
あの魔界に喧嘩を売り天界に乱入した無敵伝説を持つリュミスベルンの孫娘。
本人もそのあまりにも高い実力と凶暴な性格で、伝説の再来と呼ばれ恐れられている。
沸点が低いから注意が必要だ。

もし機嫌が悪かったら、隅っこで体を小さくして機嫌が直るのを待つしかない。


もう一人注意しなければいけない人がいる。
カオル、竜殺しの一族の血を引く雷光竜だ。
腰まである黒髪、紫の瞳の儚く見える少女だ。
竜族らしくなく、優しくて落ち着きのある家庭的な少女で、
嫁にしたいと思っている奴もいる。
あまり怒らないが、強すぎるし力を持て余している節もあるからついうっかりなんてことがある。
しかもその実力はリーゼラベルンと同等。
注意した方がいい。

この二人は仲が悪い。
頻繁にけんかしている。
巻き込まれたら死ぬ。
近くにいるだけでも危険だ。
前近くにいてぶっ飛ばされた奴がいて、その場で竜に戻って暴走しかけたらしいが
邪魔とか云われて殴り飛ばされたらしい。
…二人ともまだ人間の姿で戦っていたのに。

前は二人をなだめたり、喧嘩に割り込んだりしてやめさせられる奴も居るにはいたが、
何度もひどい目にあって、もういやだって言って村から出て行ってしまった。
それからは基本放置して、シェルターに引っ込んでいることになった。

シェルターに行きたいときは、この転移キーのひもを引っ張る。
そうすると魔法陣が起動して自動的に地下3000メートルにあるシェルターに転移される。

使い捨てだから、常に三つは用意しとけよ。
なくなったら死ぬからな。

命に関わることだから、注意しておけよ。
健闘を祈る。

 
                           新入りを迎える先輩の言葉





[15612] 第一話
Name: 八川箏◆7ab96786 ID:9658ab81
Date: 2010/01/16 16:52
ああ朝か。

不安で眠れなくなるかもと思っていたが普通に眠って普通に起きられた。
覚悟していたのか、
それとも十分準備してきたという自信か。

………多分不満がないからだろう。

そんなことを考えながら
起き上がり朝のあれこれをしてから食事の支度に向かう。

通常ドラゴンは食事どころか食事に行くまでの着替え、洗顔などすらメイドに手伝ってもらい
一人でやったことがない奴ばかりなのだが
俺はもう何百年も、自分で全部やっている。
我ながら手慣れたものだ。

オーブンを魔術で一気に温め
昨日のうちに仕込んでいたパンの種を放り込む。
かまどに火もやはり魔術で温め油をしいたフライパンと、昨日の残りのスープを温める。
保冷庫からたまごとベーコンを取り出し、卵を割って手早くかき混ぜる。

お、シアが近づいてくる。
竜殺しの血のおかげでドラゴンについてかなり感知できる。
同じ町内のドラゴンの様子なんてまさに朝飯前。
うちに来る様だ。

とたとたと元気な足音が家の前に止まる。
そのまま勝手知った、と云わんばかりの気楽さで扉が開く。

「おはよう、シュウスイ。ご飯何?食べさせて!」

燃えるような紅い髪
そしてその情熱を示すような紅い瞳
それら全てが調和した顔
それがシンシア。火炎竜で俺のパートナー。
愛称はシア

昨日の夜長老達から連絡があったろうが表面上はいつも通りのあいさつをしてくれる。
昔から何時もそうだ。

この元気さがありがたい。

「おはようシア。今朝は野菜のスープにスクランブルエッグ、白パンだ」

だからこちらもいつも通りの挨拶ができる。

「うーん、いい香り。美味しそう。
……話があるけどさ、聞いてくれない?」

しかしさすがに緊張が隠しきれていない。まあ昨日の連絡とこの態度からするに
シアにも同じ連絡が言っていて、ということは、彼女は俺の…

生まれたときからそう決まっていても、いざ正式に決まり、実際にそうなるというのはいろいろと感慨深い。
いつもは気軽に云いづらいことまで気軽にいう彼女が
何かを云えたそうにもじもじしている。

珍しい、もじもじした仕草。
いつもはもっとハキハキしているのだが珍しく、しおらしい。
もっと眺めていたい気もするがそれでは少しかわいそうだ。

「…あれだろ。こっちにも連絡がきている。長くなるだろうから食事の後にしよう」

とりあえず食事を勧める。
もう少し落ち着いてから話した方がいいだろう。

「そうね…大事な話だしね」







「いつ食べてもシュウスイの料理って本当に美味しいわね」

満足そうに笑いつつ、料理のことをほめてくる。
趣味の腕前をほめられて悪い気はしない。

「学校で勉強したし、何軒か修行で回ったからな」

人間の通う学校でいろいろと時間に任せてやった。
子供の頃退屈で、僕も冒険につれっていけと両親にわがままを言ったら放り込まれたのが始まり。

まあなかなか楽しくて、100年以上そこで過ごしたが。
…今更云うのもなんだが、いろいろとおかしなところだった。

「そのおかげでおいしい料理を食べられるのにこんなこと云うのもなんだけど、シュウスイって変わっているわ」

「否定できないな」

まあ相当な変わり者で有名な母と祖父にまで云われているからな。
まあ別段必要もないのでこの性格を変えるつもりもないが。

食事の後のゆったりとした時間が流れる。
俺が料理にこだわるのは、この時間が好きだからか。
最近手に入れたうまい紅茶を楽しみながら、ぼんやりとそう感じる。

シアがこちらをしっかりとした目で見つめてきた。
そろそろ本題に入ろう。

「なあ、いいか?」

「…うん」

「……村から来た連絡は、“許嫁の発表をするから一度村に戻って来い”だった。
そっちへはなんて連絡が来た」

どんな反応をしてくるだろうか。
長い付き合いだが全く解らない。



すごくいい笑顔をしていた。

「私のところにもそう来ていたの。よって私がシュウスイの許嫁。巣作りがんばってね、お婿さん」

ぽんぽんと肩を叩いてくる。

「少し気が早すぎないか。まだ相手が誰だか知らされてないだろ」

「けど竜族の若者って数少ないじゃん。
一度に2組発表ってありえないよ。
だから君は私の婿で、婿の君は花嫁である私にすてきな巣を作る義務があるの」

びしっと指を突き出してそう宣言する。

「はいはい、解りました花嫁さん。せいぜい頑張らせてもらいます。」

「よろしい。竜族最強の実力、とくと示せー」

「いや、それは男の中限定。女には敵わないのがゴロゴロしている。」

嫌になるぐらいの実力差がある奴がたくさん居る。
しかもそいつらがそろって暴力を振るうのをためらわないのだからたちが悪い。
もう少しためらってほしい。

まあそいつらは別格としても、エリートクラスの女にも敵わない。
たくさん修行したのだけど…。
竜族の男は女よりも遥かに弱いのだ。
まあそれは置いといて、

「村にかえるか」

とりあえず村に帰らないといけない。
巣作りにいく前にいろいろとしなくちゃいけないことがあるし、
巣作りにいけば気軽に村に顔を出すことができなくなる。
挨拶もしなくてはいけない。

出発の準備や土産とかもあるので、来週ぐらいに出発するか。

「うん、すぐに出発しよう」

それでは何も準備ができない。

「準備があるから時間が欲しいのだけど」

竜族は長寿なので、時間には結構ルーズだったりする。
一年くらい遅れても、五分遅れ扱いだ。
なので、急ぐ必要など全くない、歩いていってもいいくらいだ。

「今すぐ」

急ぐ理由もないし、時間をかけたいこともあるからゆっくりといきたいのだけど。
それに会うのに覚悟の必要な相手も。

「今すぐ」

あ、少し怒った。

「…了解」

怪我しないうちに折れておこう。
シアも結構怖いのだ。



[15612] 第二話
Name: 八川箏◆7ab96786 ID:9658ab81
Date: 2010/01/16 16:53
そろそろ竜の村が見えてくる頃か。
あれからすぐにでも村にかえろうとするシンシアになんとか時間をもらい、飛び立ったのが一週間前。
人間としての移動手段で旅をしてきていたのに竜の姿で飛んでここまでかかるとは
思っていたよりも世界を放浪していたようだ。

しかしそんな思ったよりも長かった旅路でも覚悟が決まらなかった。

「…嫌だな」

遭うのが怖い竜が居る。

向こうがこちらを嫌っているとか、こちらが向こうを嫌っているとかそういう理由ではない。

たびたびトラブルを引き起こし、それを解決するのに凄まじく苦労した。
まあそれならまだ一般的な話。
許せる。

だがそれだけではない。
何度か殺されかかったことがある。

むこうに殺意が有ったわけではない。
ただ抱きついてきただけ。
ただ頭を叩いてきただけ。

それだけの行為が、実力差から必殺技となった。
それが何回もあったらそりゃあ避ける。

危険から逃げる、それは本能だ。

まあ、竜殺しの剣で切り掛かってきた竜殺しや、
何度も死の淵に追い込んできた最恐竜と結婚した猛者も竜の中に居るには居る。
…我が祖父ながら神経を疑う。
まあそこまで極端な話は珍しいものの、吐血させられた相手と結婚した竜なんてざらに居る。

(*注意 暴力の被害者は、全て男。)

だが俺は危険のそばには居たくない。
だから村を出たのだ。

幸い村のみんなは同情的で、二人も自分たちがしてきたことを実感しており引き止められることはなかった。
それからは、仲が良かったシアと世界を回った。
楽しかった。

その楽しかった生活にも転換期が訪れた。
新たなる門出に際しあの二人が居る村に帰らなければならない

…村に帰るの、やめようか。
真剣に命の危機を感じる。

「大丈夫よ。ちゃんと準備しているのでしょ?」

シアが気楽にいってくる。
確かに用意はしている。
一通りどころか、即死級の怪我の治療をしても余るくらいに。
あの二人に会うのだから当然の備えだ。
しかしそれでも

「痛いものは痛いし、それに即死したら意味がない」

ああ

「どうしてあの二人が従姉妹なのだろう」

決して覆らないことだから嘆くしか無い。
シアが不機嫌そうにこちらを見てくる。

「巣作りに入ったらもう会うことなんかほぼ無いのだからくよくよしない。
そんなことより、私との生活にふさわしい巣について考えて」

竜の巣は婚約者のために作るものだから他の女が勝手に巣に入ることは殺されても文句が云えないほどの無礼とされる。
だからいったん巣作りに出かければもう会うことは無い。

他に会う機会と云えば、時々一族でやる宴会だが別に強制参加という訳ではない。
うちの両親などしょっちゅう出ていない。
だから会わないようにすればもう会うことは無い。

「ああ、そうだな。もう二人と会うことも無いだろう」

あの二人のことは嫌いじゃないのだが、もうこれ以上の迷惑はごめん被る。





村の外れに降り立ち、人間の姿になる。
人間の姿の方が便利なので、竜はたいていこの姿で居る。

「さて、このままの格好でいくのもなんだし、着替えてから結界の前に集合しよう」

今の俺たちの姿は、こぎれいながらも人間にとって一般的な値段の旅服。
このくらいの値段の服が一番旅先でトラブルが起きないからというのが選択の理由だが、
この服の値段では、竜が普段着る靴下すら買えない。

正装とは云えない。

「うん、とっておきを出すね。
ちゃんとほめてね」

「シアに合わない服なんて無いよ」

本心からそう思う。
燃えるような見事な紅い髪、流れるようで、けれど豊かな体のライン。
情熱を示すかのように燃え上がる瞳。
そして全身からにじみ出る躍動感。

それらが服装と調和しないということはあり得ない。
服などでは彼女の美しさを変えられない。

シアの美しさはただ自身に由来する。
だから似合わないということは無い。

何を着ても美しい、それは何を着ても似合うということと等しい。

「もう、嬉しいこと言ってくれるじゃない、けど着替えてからもいってよね。
嫁の服は半分夫のためなのだから。夫がほめるのは義務なのよ」

からかうように言ってくる。
冗談じゃなかったのだけど。
まあいい。話を変えるか。

この村で一番重要な情報を伝える。
ズバリ、あの二人がどこにいて何をやっているかだ。

「あの二人は今結界の中で喧嘩している。着替えるくらいの間は大丈夫だろう」

なんで結界のなかにいるのかは知らないが、あそこには強固な結界が張られている。
まあ、あのなかでやっている分にはこちらに被害は出ないだろう。

村についてから気になっていたのだが、カオルとリズの喧嘩の痕がすさまじい。

大地はひび割れ岩盤が露出し、雑草一つ生えていない。
村には活気どころか命の気配すらない。
あたりには家の残骸が転がっている。
遥か過去にあった天界と魔界の戦争もこのような惨状を生み出してきたのだろう。

突如轟音が鳴り響き、中心部を覆っている結界を貫いて空へと強大なブレスが撃ち出された。
あの結界は確か長老達が総出で張ったもののはず。
それをあれほど容易く貫くなんて、どれだけの出力なのか。

顔から血の気が引いていくのが解る。
隣のシアも顔が引きつっている。
俺たちが村を出ている間にあの二人はだいぶ強くなったようだ。

「あーそのなんだ。家なら壊れてないしくつろげるはずだ」

竜族の男は村に来たとき巣作りの練習として家を造らされる。
この家は村を出たときから婚約者の物となる慣習があるのでなるべく豪華に造るのだが、
親戚としてあの二人の脅威を、身を以て知っていたからなるべく頑丈に造った。
その結果として地下深くに造り、ずいぶん簡素で、魔法を使わずにいくことができないものになった。

理解ある許嫁でなければ殺されていただろう。

造るのにも非常に苦労した。

だからこそあの中は確実に大丈夫だ。
茶でものみながら喧嘩が止むのを待とう。






「ねえ、まだあの二人喧嘩しているの?」

「残念ながら」

家の中でメイド達が入れてくれた茶を飲みながらのんびりと会話をする。

結界のなかでは二人が喧嘩をしている。
巻き込まれたら危ない。
よって結界のなかにいる俺たちの婚約を宣言する長老達に会えない。

なので、ここでまったりと時間をつぶしている。

「長老達も運悪いよね。会議の最中にあの二人が結界のなかに入ってきて喧嘩を始めるなんて」

「…多分逆。長老達の会議に二人が殴り込んだはず。じゃ無きゃ逃げることぐらいできるし、そもそも結界の中に入る理由は会議しかない」

竜族の会議は特殊な結界のなかで行われ、その防諜能力は正に完璧。
突破するのは不可能である。

原理は単純。
竜族の頑強な肉体は他の種族の追従を許さない。
よって身体能力に劣るものが入れない、且つ中で生きられない結界を造った。
例えるなら、サウナだ。サウナの中には虫はいない。
だがさすがに竜にとっても中にいるだけでつらいので用事もないのに入ろうとはしない。

…あの中で戦っている二人はいったいどんな体力しているのだろう。

「長老達生きている?」

「よくわからないけど、多分」

厳重な結界に遮られ、且つあの二人がその近くで戦っているので解りづらいが、反応がある。
死にかけているせいで反応が弱い訳でないと信じたい。

「まだ死なれちゃ困るのだけど」

「確かに」

基本、長老達はさほど重要ではない。なぜならもっと発言力の強い組織があるからだ。
その圧倒的戦力と、凄まじい押しによって権力を奪い取ってしまった組織が。

その組織の名は会議場の名を借りて“葵屋”と呼ばれているのだが
実態を知る身としては親族の宴会に竜族の、ひいては世界の未来を決めさせるなと云いたい。

まあ、火炎竜であるシアを含めれば一応全ての一族が出席しているし、
まじめに考えている祖父が議長をしているし、まじめじゃない奴らは普通に宴会していることや、
基本宴会なのであんまり政治に口出ししないことが救いだが…。

まあけど、結婚に関しては長老達が決めている。
死なれちゃ困る。

「助けてきてよ。最悪一人看取れれば最後の言葉はこうだったって言い張れるから」

「結局あの二人の喧嘩を止めなくちゃいけないのか」

実際そろそろ反応が消えかかっている。
あの二人を止められて、長老達が死ぬまでに間に合うところにいる。
俺しかいない。

「ああ、結局こうなるのか」

そうなる予感はしていた。
だから帰りたくなかった。

己が不幸を嘆きながら地上へと転移する。



[15612] 第三話
Name: 八川箏◆7ab96786 ID:9658ab81
Date: 2010/01/16 16:54
戦闘に介入する。
それは一歩間違えれば双方から攻撃される危険を持つ。
故に慎重に行動せねば無ければならず、理想としては共倒れかそれに近いほどの消耗を待ってからがよい。

しかし今回は長老達が死ぬまでという曖昧な制限時間がある。
あの二人が俺の手に負えるほど消耗するまで待てないが、
奇襲のタイミングは計れるほどの時間が。

そして目的は長老達の救助。

この場合の最良は二人を説得し喧嘩をやめさせる。
しかしあまりにもあり得ない。

となれば最善はどうなるか。
命がかかっている、慎重に。
だが素早く思考をまとめなければ。





−−−−−sideカオル−−−−−
地を這うような姿勢で駆け抜けながら放った右の掌打は相手の防御にあっけなくはじかれる。
そんなのは想定内、そのまま相手の肩をつかみ取る。
そのまま右手を一気に懐へと廻し右かかとで足を蹴り抜く。

感覚が警鐘を鳴らす。

技を捨て残った左で地面を蹴りつけ距離を取る。

一瞬前まで頭が位置をブレスが通り抜けた。

あの体制からの打撃では効かないと判断したのだろう。
さっきまでより溜が短いが威力、範囲が劣る。
接近戦用に調整が施されている。

追撃に今度は通常のブレスが来た。
こんなのが効くか!

左手に魔力を集めブレスを受け止めつつ自分の中のもう一つの力に語りかけ、
リズの居場所を探る。

正面。

防御を捨て飛び退く。

拳がブレスを突き破ってくる。

今だ。
撃つ。

今度はこちらが放った。
弾かれ、ブレスを放つだろうがそれも計算の内。
こちらも二撃目を用意する。
殺せる一撃をどちらが先に放てるか、勝負。

瞬間、闇が私たちを包んだ。




−−−−−sideリズ−−−−−
必殺の一撃を繰り出そうとしたそのとき、範囲魔術が襲ってきた。
威力はたいしたことない。
しかしそれを誰がやったことが問題だ。
この魔力はあいつでしかあり得ない。
居た、あいつだ。

「シュウスイ兄、帰ってきていたのですね」

カオルのはしゃいだ声が聞こえる。

私はとりあえず睨みつける。
我ながら可愛くないと解っているが、これしかできない。
今回は理由がある分だけましだが。

「何でいきなり攻撃してきたの」

私は必死に表情を押し隠す。
今ここで顔を緩めたら私は攻撃されて喜ぶ変態になってしまう。

「喧嘩を止めないと長老達が死んでしまいそうだったから」

こちらに背を向けて生ものを回収しながら云う。
背中を向けて話すなんて失礼な。

「どうしてこちらを向いて話してくれないのですか?」

同意するのはしゃくだがその通りだ。

「服をちゃんとしろ」

云われて気がついた。
激しい戦闘のせいで服がぼろぼろになっていた。
顔に火がつくと思った。

「こっちむくな」

思わずブレスを放つ。

「向いてない。今すぐ帰るからそれで勘弁してくれ」

く、こちらを見ずにブレスをかわすなんて。
カオルは真っ赤になって座り込んでいる。

「とっとと出て行け」

恥ずかしい。

「ああ、そうだ。土産があるから後で家まで来てくれ。」

土産、何だろう。
様々な、本当に様々なものを贈られたので何なのかさっぱり解らない。

あ、しまった。
逃げられた。




−−−−−sideシュウスイ−−−−−
あの二人の喧嘩を止めるのは初めてではないが、やはり緊張する。
何せ命がかかっているのだ。
些細なミスすら死につながる。

今回もたまたまうまく言ったが次もうまくいくとは限らない。
まあこれで終わりだと思うが。

今回の作戦は、
相手以外に注意を向けさせるため攻撃を軽くし、
戦闘への関心をそらさせるために羞恥心を利用。
あらかじめ誘導したタイミングで攻撃をさせることと物で釣ることにより怒りを抜く。
後は意識を引かないように離脱。

綱渡りもいいところ。
4×2回は死ねた。

これだからあの二人には関わりたくない。

長老達は息をしているからもう放っておいてもいいだろう。
今はそれよりもあの二人が来る前に土産の準備をしないと。
二人とも竜なのにせっかちだからな。





「長老達は?」

シアが尋ねてくる。

「死んではいない」

簡潔に答える。
というか、それ以外の情報にあまり意味は無い。

「荷物をここに」

メイド達に命じて持ってこさせる。
土産が間に合わないとどうなるやら。

メイドが一礼して部屋を去る前にノックが響く。

「レイク様がお見えになられました」

友人が訪問してきたらしい。

何の用だろうか。
後で挨拶に行こと思っていたのだが。

「通せ」

まあいい。家にあの二人が出入りすることはよく知っているはず。
長居はしないだろう。

視線でさっきのメイドに早く持ってくるよう促し、用事について考える。
さて、この魔窟に来るほどの用事は何だろう。




「この家をくれ」

「断る」

即答する。
だがその返答を解っていたようですぐさま言葉をつないできた。

「今俺たちが使っているシェルターじゃ、不都合が多すぎる」

まあそれは解る。
そもそもあれは…

「あれはただの運動場として造ったものだ。生活するのには向いているはずが無いのははじめから解っていただろう」

そう、あの二人が来る前にこの家を造ったときに、余った時間で造ったただのおまけその一。
大深度地下に建てた家の中に造るのにはスペース、コスト的に不適切でかつ居住性を侵害するからもっと浅いところに造った。

別に壊れてもまた造ればいいので、大してこだわらなかった付属品。
それでもまあ地下に造ってそれなりに頑丈に造ったし、一応水と光と空気を確保しておいた。
最低限に居住性は確保していたのだ。

その性質から焼けだされた男達にシェルターとして貸したが、そのときに居心地が悪いことについての了承はもらった。
今更気に入らないと云われても困る。

「あの二人の喧嘩で地上は壊滅状態で、あそこにずっとこもっていることは解っている。
そのことについての報告も来ている。しかしこの家はシアに譲る。それは譲れない」

当たり前のことだがはっきりと言う。
さてこの流れは向こうも予測していたはずだ。

「なら、シンシアさんが結婚で村を出て行くとき、その後この家を使わせてほしい」

全く茶番だ。
向こうもこちらも相手の望みも落としどころもあらかじめ解っているのに交渉のまねごとをするなんて。
だからあらかじめ用意していた答えを云う。

「それなら問題ない。しかし横槍に気をつけろよ」

女達もこの家が欲しいはずだが、シアが怖くて近寄れない(シアはかなり嫉妬深く、強い)。
それを見越して家の中にいるときに交渉をしてきたのだろう。
だが竜族の男女間には覆すことができない力の差がある。

容易に力技で奪われるだろう。

「解っている」

その力の無い笑顔がかわいそうだった。

「リーゼラベルン様、カオル様がおいでになられました」

リズとカオルが来た。

突然だった。

後もう少し余裕を見込んでいたのだが。

レイクが固まっている。
それはそうだろう。
あの二人は災害の様な物だからな。

俺達のように付き合いがあって、対処の仕方が解っている訳でもない。
まあ悪いがここにいたのが運の尽き。

悪いが同席してもらおう。

「ひさしぶりだな。元気そうで何よりだ」

まずはさっきの出来事を無かったことにする。
さもなければ強制的に無かったことにしようとしてくる。

「ええ、そちらこそお元気そうで何よりです」

カオルがほっとしながら返事をしてくる。
リズの方は解りにくいが、体から少し力が抜けているし、この対応は間違いじゃなかったようだ。

「土産は何」

口数少なく要求してくる。
あからさまに不機嫌だがいつものこと。
気にせずに土産(ご機嫌取り)を渡す。

レイクのことは極力空気として扱う。
あいつもそれを望んでいるらしく小さくなっている。
・ ・・うらやましい、代わってくれ。

「うわーすごくきれい」

カオルが感嘆の声を上げる。

俺が二人に選んだのはガラス細工の花。
指ほどの大きさで、小さな瓶の中で輝いている。
それぞれの髪の色と同じ花びらが柔らかくほころんでいる。

リズの方は・・・手のひらの中に収めてじっと眺めている。
よし、いい反応だ。

「ねえ、私にもあるのでしょ」

シアがねだってくる。
用意はもちろんしてある。
だがどちらを渡すのかが問題だ。

なので、ストレートに聞いてみる。

「カオルとリズにあげた物と似た品と、記念日のために手に入れておいた品どちらがいい」

「どんな記念日のために用意した品なの」

嬉しそうに尋ね返してくる。
解っているが、俺に云わせたいのだろう。

「婚約記念のためだ」

これを隠れて用意するのは大変だった。
まあ、ばれていただろうが。

「じゃあそれは後「ください」「わたしのよ」…今なんて言った?」

カオルとリズの唐突な発言にシアが怒りだした。
今の二人の発言は婚約記念の品の所有権を主張したことで、その意味は
・・・・・・・
もう一度考えろ、別の意味がきっとあるはずだ。
災厄を巻き起こすような物ではない意味が。

「略奪宣言?」

レイクが言ってしまった。
瞬間、消えた。

シアの裏拳。
攻撃を放ったシアの両手はしかし、ソファーの肘掛けに自然に乗っている。
恐ろしい。

レイクは首とその他3カ所が曲がれないはずの方向を向いており、胸とその他多数が取っちゃいけない形になっている。
かなり重傷っぽい。
まあ、竜の姿になっていないのだから大丈夫だろう。

「レイクを客間に運んで寝かせておけ。何かあったら知らせろ」

部屋の隅で震えているメイド達と避難させる。
これからこの部屋は酷いことになるだろうから。

「リズ、カオル。どういうことか説明してちょうだい」

シアが怒気を隠さず、しかし笑顔で尋ねる。
その優しい微笑みが、シアが本気で怒っていることを伝えている。
昔から、本気で怒るとかえって静かになり顔が微笑みで固まるという癖があった。
ちょうど今のように。

これは危険の予兆だ。
下手すると俺まで殺される。

「わたし、お嫁さんになるならシュウスイ兄がいいって昔から思っていたのです。
けど兄にはシア姉がいるから諦めようと思っていたのですけど、無理でした。」

カオルが言葉を発するたびにシアの怒気が凄まじいことになってきた。
溢れ出す火炎竜の力が部屋に満ちていく。
もう俺は会話どころじゃない。
慌てて自分の中の八有る竜の血統の一つ水氷竜の力を呼び覚まし高速詠唱。
全力で氷結魔法を使用する。
このままではこの家が無くなってしまう。

「わたしはシュウスイ兄のお嫁さんになります」

もう水氷竜の力だけでは押さえきれない。
カオルが何か言っているがそれどころじゃない。
天井あたりの空間をゆがめ、地上につなげて熱と炎を逃す。
く、出力が。

「竜の女は優秀な方から結婚していくじゃない。
竜族最強としては結婚しないと示しがつかないのよ。
けど、どの男も根性なしで弱くて。
私が怖いのは解るけど、まともに会話にならないなんて情けない。
私はそんなゴミとは結婚したくないの」

今度はリズが言う。

「まあ、シュウスイならぎりぎり妥協してあげてもいいけど、それ以外なら死んでもお断りよ。
だからシュウスイは私がもらうわ」

シアの怒気が際限なく上がっていく。

このままでは家がシェルターごと吹き飛ばされる。
部屋ごと全員を地上へ強制転移するのが一番だろう。
かなり体に負担がかかるが皆恐ろしく頑丈だと云うことは知っている。
大丈夫だろう。

強制転移





とりあえず気絶したシアを俺の上着の上に寝かせ、リズとカオルと話をする。
女同士の意見が食い違った場合まず間違いなく決闘になる。
現実逃避をしていたらシアが殺されてしまう。

「…長老達の意見は?」

長老達が婚約者の略奪を許す筈が無い。

「こちらの気持ちを丁寧に伝えたところ二三発で快く了解してくれました」

嬉しそうにカオルがいう。
しかし発では言葉や時間を表せない。せいぜい拳や蹴りの単位だ…。恐ろしいから詳しく聞
くのは止めよう。

「私が聞いたら頭を地面に塗り着けながら頷いてくれたわ」

リズが当然という顔で言ってくる。
…塗ることができるのは液体かペースト状態のものだけだ。頭はどちらでもない。
嫌な予感がするので深く考えるのは止めよう。

「…つまり」

「つまり私がシュウスイの許嫁ということ」
自信満々に言い切るリズと

「わたしがです」
深く思いを込めて宣言したカオルが

睨み合った。
・・・・・・・どうしよう。


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