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[15108] 【一発ネタ】207B分隊の師匠【Gガンダム×マブラヴオルタネイティヴ】
Name: mitsuki◆66f66a11 ID:1f7a972b
Date: 2010/08/21 15:26
【お詫び】
 すいません、修正時にブラウザ不調で間違えてageてしまいました(8/21)。内容は四話で最新です。


 前書き 

 息抜きに書いたネタ話です。いわゆる憑依ものですので、苦手な方はご注意を。
 ・小説投稿サイト「小説家になろう」様にも同内容の物を投稿させていただいております
―――――――――――――




 心地よい敗北。

 ワシの人生の最後を包んだものは、それだったはずであった。
 我が名は東方不敗マスターアジア。
 かつて人類抹殺をたくらんだ大罪人。

 そして今は――

 グラウンドに立つワシの目の前で。肩、いや全身を弾ませながら、必死で呼吸を整える六人の若人達。

「は、はぁ、はぁ……ら、ランニング終わりました……」

 ずり落ちそうな眼鏡を支えながら、榊千鶴分隊長が報告してくる。
 ワシはうなずきながら口を開く。

「よし、水分補給の後、次は流派東方不敗が基本型に入る。それとワシのことは――師匠、と呼べ!」

「も、申し訳ありませんき……いえ、師匠」

 榊はじめ、全員がげんなりした顔をしている。やはり、かつての弟子を教育するのとは勝手が違うせいか。

 ――今は、国連太平洋方面軍横浜基地・207B訓練分隊の師匠である。



 デビルガンダムを用いて人類抹殺をもくろんだワシは、かつて教え導いた弟子に敗れた。
 力で、技で。
 何より、魂で。
 自然を汚す人類を滅ぼそうとしたワシが気付かされた、『人類もまた自然の一部』という真実。
 そして見事ワシを越えた一撃により、我が妄執は打ち砕かれた。

 武道家にとって敗北は死と同義であるが。絶望とは決して同じではないと悟ったワシは。
 愛する弟子の腕に抱かれ、天に還った。

 そのはずだったのだが。
 五感も消えうせ、意識も最後の一片まで無になる直前、奇妙な呼び声に引かれた。
 それは助けを求める赤子の声のようでもあり、あるいは残酷な運命の女神のそれであったようにも思える。

 次にワシの意識がはっきりした時には、慌てた白衣姿の者達が忙しげに動き回る一室へと転移していた。

「あんた、――じゃないわね?」

 まったく事態がつかめず、沈黙を続けるしかないワシにはじめてまともな言葉をかけてきたのは、皆に畏怖されているらしい妙齢の女性だった。
 香月夕呼と名乗ったその女は、ワシによくわからぬ用語をまくしたててきおった。
 しばらく時間を掛けて理解したことは。

 ワシが、誰かの体に憑依してしまったということだった。
 そう、憑依。
 修行のために世界をめぐる中、ワシは摩訶不思議な話をいくつも見聞きした。
 その中にあった噂の一つ。まったくの別人に、意識が乗り移ってしまう神秘現象。
 なんでもワシの今の体の主が突然倒れ、医務室で精密検査をしたところ脳波と、体の組成が本人自身のものとまったく違っていたというのだ。

「すまん」

 それが、この世界でワシが呟いた最初の言葉だった。
 どこの誰かはわからぬが、突然己の人生を見知らぬ他人に乗っ取られて心地よい、などということはありえぬ。
 気絶した時に憑依した、と見たワシはならばもう一度気を失えばこの体から離れられるのでは、と思案し。

「ガンダムでワシを殴ってくれ」

 と頼んだのだが、何故かその女性は首を傾げるばかりだった。
 どうやら言葉は通じるようだが、用語の類は全然違うらしい。
 ワシはガンダムが核融合と気合で動く、全長二十メートル程度の人型機動マシンだと説明してやると、

「そんな機械があるわけないでしょ! だいたい殴ったら死ぬでしょ!」

 と、返された。どうやらこの世界にガンダムはなく、この体の持ち主は虚弱体質らしい。
 ならば体力を使い切ることで気絶を試みようと、頼んで外に出してもらい。もう崩れても構わないという演習場とやらのビルを石破天驚拳でちょっと微塵に破砕して回ったが、上手く気絶できなかった。
 万一のためにつけられた、監視役という兵士二人が唖然としていたのに気付く。やはり、この程度の破壊力では弱すぎるのだろうか。
 一端のガンダムファイターなら、朝飯前の行為でもあるし。

 憑依してしまった人物と外見だけは変わらぬゆえ、ワシのためにその人の人生が狂うのは心苦しい。
 そこで、ワシに出来ることを香月女史に聞いたところ……。

 この世界が危機に瀕している、とはじめて知らされた。
 聞けば、数十年前からBETAなる異星生命体(コロニーに上がった人類では間違ってもないらしい)に地球が侵略されているとか。
 そして、自然も彼奴らに蹂躙されているという。
 憤激したワシは、すぐさま『ハイヴ』なる連中の巣に乗り込んでいこうとしたが。
 必死で止められたので、断念した。ワシのようなこの世界の基準としては弱い、まして得体の知れぬ人間に大事な者の体で無茶させるわけにはいかぬ、というのは理屈であったので断腸の思いで堪えた。
 そしてワシは武芸なら多少覚えがある、ということで今訓練兵として鍛錬を積んでいる者達に稽古をつける、という話になった。
 なお、ワシが憑依状態であることを知るのは、香月女史と一部の医療関係者のみである。
 おもしろいからしゃべり方とかはそのまんまでいいわ、といってくださった香月女史には感謝あるのみだった。



「よいか! 戦いは弱いほうが勝つ! 己が強いと思ったとき、その慢心に既に足元を掬われておるのだっ!」

 自戒を篭め、かつての弟子が悟ったという言葉を交えて格闘技訓練を行う。
 目の前で汗だくになりながら、はいと声をそろえる五人の少女と一人の少年。
 うむ、皆まだまだひよっこだが筋はいいし、何より熱意があった。
 この分ならば今は泣きそうな顔でこなしている肘打・裏拳・正拳の連続技十万回も、楽々こなせるようになるだろう。
 特に白銀武なるものは、筋が良い。ビルを持ち上げられる日も近いぞ、と褒めてやったら泣いてしまった。男が涙を見せるものではない、と思ったが嬉し泣きを邪魔するのも無粋であろう。
 久方ぶりにギアナ高地での修行の日々を思い出し、目を細める。



 さて、この世界に来て一番困ったのが、食事のまずさである。
 聞けば、合成食糧なるものに頼っている状態で、三食いただけるだけでもありがたいほどだとか。
 ワシは想像以上の人類の劣勢に愕然としつつも、やはり食事の味には妥協したくはなかった。
 この基地でもっとも料理の上手いという京塚曹長――皆に慕われている、恰幅の良い女性である――に話をつけ、厨房に入らせてもらうことができた。

「要するに、これら合成食材は元をただせば海の恵み。それを牛肉の形をしているからといって、肉として調理するからまずくなる」

 合成食糧が、多くは海洋で取れた海産資源から成ることを教えていただいたワシはそう結論づけると、前の世界で密かな趣味としていた中華料理の魚料理の技法を試してみた。
 すると、少しはマシな味になる。
 京塚女史に褒められたほどだから、実戦では役に立てずともこちらでは何とかなりそうであった。

 ただ、少し気になったのがエプロン姿のワシに向けられる奇妙な視線である。
 特に男性兵士から向けられる視線は気味が悪かった。頬を赤らめる妙なのがいたので、思わず超級覇王電影弾をかましてしまったが、逆に喜ばれてしまったのには参った。
 軍隊には『そういう』悪癖があると聞いたことはあるが……恐ろしい。

「あんた、いいお嫁さんになれるよ」

 という京塚曹長の冗談口には、只管苦笑するのみであった。

 PXから上がり、宛がわれた自室に入るとようやく一息つける。
 習慣から何から違う世界と付き合うのは、気苦労が耐えぬ。まして、憑依してしまった相手の評判を崩さぬようにするのは骨であった。

「やはり、早くこの体を持ち主に返す方法を見つけるべきか。いや、見つけねばならぬな」

 ワシはベッドに身を横たえながらも、そう誓った。



 ――ワシが憑依した体の本来の持ち主は、神宮司まりもといった。



[15108] 【やっぱり一発ネタ】12・5のガンダムファイター
Name: mitsuki◆66f66a11 ID:1f7a972b
Date: 2009/12/31 09:45
 【閲覧前のご注意】
 やっぱり憑依ものです。
 これも思いつきだけのネタです。ギャグセンスの無い作者のたわごとと広い心で受け止めてください。

―――――――――――――

 冬の寒さは、夜気の中でその猛威をさらに膨らませる。
 十分な暖房が無ければ凍死する者も珍しくないほどの夜気。が、それを踏みにじる者達がいた。
 完全武装の兵士達だ。
 彼らはいずれも目から尋常でない光を放ちつつ、帝都の要所へと整然と向かっていく。
 おかしい、と思い誰何する憲兵や警官には容赦なく銃口が向けられ、ついに各所で戦闘が起こった。
 12・5事件。
 後に、BETA大戦期の帝国に起こった一大事件として、一方でその暴力的事件の裏に見え隠れした不可解な事態について、多くの考察が行われる時間のはじまりだった。

「な、なんだここは……?」

 クーデター軍兵士達の中で、突如場違いな男の声が上がった。
 周辺のクーデター兵士らは、怪訝な表情を一瞬だけ向けるも。何かの符丁だろうと思い込み首相官邸を守る衛兵の排除を続けた。
 現内閣総理大臣・榊是親の起居するそこは、かつての京都の首相官邸と比べれば質素で有事の防御施設としての機能も小さい。
 職務に忠実な衛兵らも圧倒的なクーデター兵士らに負傷させられ抵抗力を喪失、政府や外国の要人が闊歩したエントランスを血で染めた。

「……いたぞっ! 奸賊・榊だ!」

 銃撃戦の興奮冷めやらぬ兵士らが、荒々しく初老の男性を引っ立ててくる。
 兵士らに囲まれても冷静さを保っているその人こそ、内閣総理大臣だった。
 客観的に見て、榊ほど優れた内政外交能力を持った人材は日本には存在しない。だが、クーデター兵士からすれば彼はわかりやすい現政権への不満の象徴だった。
 その不満の多くが実は政府を圧迫する軍上層部に原因があり。そもそもクーデター軍に入る情報が歪められたそれだと知っている者は、この場にはいない。

「……沙霧大尉、彩峰閣下の仇を!」

 血走った目で決起主導者を見る兵士達。
 だが、視線を集中された男が放ったのは。
 榊首相を論難する言葉でも、勇ましい演説でも、ましてや非武装の首相を攻撃する動きでもなかった。

「分かるように説明しろっ! お前達は何をしている!?」

「……は?」

 あれ? 大尉ってこんな野生的なしゃべり方したか?
 だが、怨敵を前にして首謀者がこんなことを言い出されては、決起した兵士達の立場がない。
 慌ててクーデター士官の一人がかけよった。

「何をおっしゃっているのですか! 我らは日本の未来を憂い、殿下と国民を蔑ろにする奸賊らに天誅を下し日本をあるべき姿に――」

 決起の大義を改めて口にする士官だが、なぜこれら一連の理論武装も主導した大尉が? という疑念は表情から消えることがない。
 榊はそれに抗弁しない。天命と悟っているのか黙然とするのみ。
 しかし改めて自分の大義を再確認させられたはずの首謀者、「沙霧直哉」大尉は首をひねり眉根を寄せるばかりだった。
 それでもしつこく説明すると、沙霧が口を開いた。

「まだなんだかよくわからんが……あんたらは間違っている!」

『はぁ?』

 榊以外の全員の反応は、間抜けな聞き返しで統一された。
 あんた『ら』という複数形である以上、この場では自分たちを指しているのは明白だったからだ。

「なぜならばっ! あんたらが抹殺しようとしている奸賊と呼んだ人々もまた、日本の中から生まれた、日本の一部!
それを忘れて、何が義挙だ! 何が決起だ!
そう! ともに生き続ける日本人を抹殺しての理想国家など……」

 唖然とする兵士(榊首相もその中についに加わった)。

「愚の骨頂!」

 びしっと指差してクーデター軍を睨みつける沙霧直哉大尉。
 何らかの異常で異世界からある人物の意識が憑依した、という超絶現象がその身に起こったということを知ることができない者達にとっては。
 敵味方問わず、それこそ理解しがたい事態だろう。

「くっ……沙霧大尉は乱心なされた! 何をしている、奸賊・榊ともども撃ち殺せ!」

 決起軍のこの部隊のナンバー2である中尉が、怒鳴った。
 右往左往の気配があった兵士らは、混乱しつつも上位者の命令に従う。
 流石にすぐ決起首謀者と仰いだ人物に銃口を向けるのは気が引けたのか、多くの兵士は榊に狙いをつけ引き金を引いた。
 乾いた発砲音が連続する。
 誰もが、多数の風穴を体にあけた首相を想像したが。

「な……!?」

 声を上げたのは、当の榊だった。
 自分の目の前に沙霧が立ちふさがっているのだ。
 それだけでも信じがたいのに、あれだけの銃火の前に立ったのに沙霧の体には傷一つついた形跡がない。

 からんからん。体の前に掲げられた沙霧の掌から、何かが零れ落ちた。
 銃弾だ。
 本来なら人間の命を奪うはずの存在が、その一部であっさりと受け止められたとすぐ理解できた者はこの場にはいない。

「あ……あれは!?」

 兵士の一人が、沙霧大尉の手の甲に浮かび上がる紋章に気付いた。

「し、知っているのか!?」

「ああ、あれは西洋のカルタ遊び『トランプ』の絵柄の一つ……『キング・オブ・ハート』!!」

「……で、それがあると銃弾も利かないのか?」

「いやそれはないわ」

 ――現在、沙霧直哉の中にいる人物はドモン・カッシュといった

「お、おのれ! 戦術機部隊を回せ!」

 異常事態の連続に逆上した中尉ら決起軍幹部は、ついに帝都守備連隊の戦術機甲部隊を通信で呼び寄せた。
 榊を抱えるようにして、並み居る兵士達を蹴散らしつつ中庭に飛び出した沙霧ドモンの目に、不気味なセンサーアイを光らせる不知火十数機が映った。
 が、沙霧は圧倒されることなく不知火を睨んだ。

「いいだろう! 貴様らが正しいか、オレが正しいか! ガンダムファイトで決着だ!
でろぉぉぉぉ! ゴッドガンダァァァァム!!」

 沙霧が指パッチンするが。
 数秒経っても何も起こらない。
 それを見てやはり大尉は乱心したのだ、という確信を深める不知火の衛士達。

「ぬ……またレインの奴拗ねているのか……だが、オレにはまだ愛機と呼べるモノがある!」

 指が再び鳴り、沙霧は叫んだ。

「でろぉぉぉ! シャァァァアィニング……!

アッガァァァァイ!!」

 突如、首相官邸庭の池の水が吹き上がった。
 その中から、どうみてもそんなところに収納しておけねぇだろ、というマシンが飛び出す。
 丸っこい頭部、指の無い手足。全体的にころころした、なんともいえないフォルム。
 それこそがドモンの意識とともに時空を越えてきたモビルファイターであった。

 一瞬絶句したクーデター衛士らだが、シャイニングアッガイを見ての反応は様々だ。

『なんだあのダサいのは!?』

『弱そうだな』

『……何、あの微妙な愛らしさ』

『へへ、あんな奴一発で倒せそうだぜ。大尉もヤキが回ったな』

『……この胸の高まりは何? なんであの戦術機を見ているとどきどきしちゃうの?』

 その隙に乗り込んだ沙霧だが、少なくとも衛士達の受けた印象の中に強い、とかは無かったので囲む不知火達は余裕ぶっこいてそれを見逃した。

『へっ、そんな情けない機体で何ができるってんだ? 死ねっ!』

 日頃から連隊の女性人気をかっさらう天然ジゴロの沙霧に含むものがあった衛士・○○(本人の名誉のため伏せ)が真っ先に突撃砲をアッガイに向けた。
 しかしその機体から流れ出る沙霧の声に怯えはない。

「……確かに貴様らの、見たことも無いガンダムに比べれば、このシャイニングアッガイは脆弱だろう……だが!」

 くわっと目を見開いた沙霧。そのビジョンがなぜか通信機も通さず対峙する衛士達の脳裏にありありと浮かんだ。

「今のオレは! ホーロー虫だぁぁあ!」

『なんじゃそりゃ!?』

 全員のツッコミを跳ね返し、沙霧はコクピットの中で指を絡めて印を組んだ。

「いくぞぉぉ! シャイニングアッガイ・スーパーモォォドだぁぁあああ!!」

 その瞬間、帝都の一隅が黄金の輝きに照らされた。
 シャイニングアッガイの全身が金色に輝き、頭部が割れてぷしゅーっと水蒸気じみたものを吹き出す。

『へっ!?』

 唖然とする不知火の頭部に、アッガイの手が伸びた。

「俺のこの手が光って唸るゥ! お前を倒せと輝き叫ぶぅ! 必殺! シャアアアイニング……フィンガァァァァアアアア!!」

 一撃。
 それだけで不知火の頭部は文字通りアッガイ……いや、圧壊した。

「いやそのアッガイとやらの手、指そもそもないだろう爪らしいものはともかく……」

 冷静に指摘する榊の眼前で、次の不知火が無残にも吹っ飛ばされて帝都の空に舞った。



「……ウォーケン少佐、これどうましょう?」

 クーデター鎮圧支援のため、何よりアメリカの国益のために日本に接近していたラプター編隊は困惑していた。
 クーデター軍が内輪もめを起こし、一機の未確認戦術機がかつての仲間をぼこぼこにして回っているというのだ。
 (それだけ圧倒的なのになぜか頭部破壊にこだわり、死人は一人も出ていないという。これも理解不能だった)
 帝都の通信を傍受したところ、わけのわからない単語が飛び交い、自動翻訳装置がぶっこわれたのか、としか思えない不可解な台詞が連続している。

『不明瞭な言い回しが多く、難解な話だ。それが日本人特有の情緒なのか……それとも意図的にカモフラージュされたものなのか……』

 先頭を切るラプターの管制ユニット内で、指揮官のアルフレッド・ウォーケン少佐が考え込む映像が投影されている。
 自分が理解できない価値観だろうと、冷静に判断しようとするのがこの指揮官の長所だが。
 今回はズレてるだろ、とイルマ・テスレフ少尉は思った。
 実は彼女は、本国から様々なケースでの秘密指令を持たされているのだが、その中にさえ今帝都で起こっている事態の予想ケースは無い。
 ……あったらあったで、予想できた奴の頭の中に何が詰まっているのか確認したい誘惑に駆られただろうが。

『だが、私にとっては有意義だった』

「はぁ」

『日本人のメンタル面を理解する上で、非常にわかり易いからだ……ふむ、ホーロー虫か』

 まともな日本人が聞いていたら泣いて違うと訴えるであろう台詞を吐きながら、ウォーケンは一人うなずいた。





 【あとがき】

 声優ネタを予想した方々ごめんなさい。は、ハズしたかなぁ……?



[15108] 【これも一発ネタ】帝国の忍者
Name: mitsuki◆66f66a11 ID:1f7a972b
Date: 2010/02/20 14:23
 【ご注意】

 ここまで読んでくださる方は一応覚悟完了だと思いますが、例によって一発ネタの憑依モノです。
 ギャグに自信がないです。適当に読み流してください。
 ……ってもう一発じゃなくなってるなぁ(駄

 ―――――――――――――




 白銀武は、心身ともに疲れ切っていた。
 突然人が変わったまりもちゃん……いや、神宮司まりも教官あらため師匠の元、訓練が格闘技メインになって約一ヶ月。
 異様なほどハードなメニュー。
 冗談としか思えない目標設定。ビルを持ち上げろとか、銃弾を素手で止めろとか、敬礼代わりに建物の屋上まで飛び上がって拳をぶつけあっての演舞とか……。
 何よりも恐ろしいのは、その滅茶苦茶な鍛錬が一定の効果を上げていることだ。
 総戦技演習、あっさりクリア。六人そろって川はジャンプで渡り、砲撃を体捌きだけで回避した。
 心身が鍛えられたことにより、操縦技能が底上げされて戦術機課程の消化具合も良好。
 ついでに武が元いた世界のゲームをヒントに考案した新型OSまでできちゃって、感情的なものを無視すれば最高の流れの一言だった。

「あの少尉、泣いてたっけなぁ」

 武の前の世界の記憶どおり、PXにおいて武御雷の件で絡んできた某少尉。
 自分がやられることで収めよう、としたのだが一発殴られてもなんともなかった。
 それどころか相手が拳を抑えて転げまわるのを見たときは、呆然としたものだ。
 『殴ったほうも痛い』という台詞は元の世界でよく聞いたが、『殴ったほうだけが痛い』は流石にない。

 出るタイミングを逸したらしく、PXの隅で淋しそうな顔をしている月詠さんと三馬鹿が妙に哀れだった。
 前半パートでのポイントアップシーンが……、という月詠さんの発言は空耳だろう。多分。

 夕呼先生に聞いても、爆笑して腹を抱えるだけで何も教えてくれない。絶対あの人絡みだと思うのだが……。
 ……てきぱき料理をするエプロン姿のまりもちゃんに、ちょっとだけぐっときたのは秘密だ。

「まぁ、特に師匠は……いや、支障はないんだけどな」

 総戦技演習がギアナ高地になりかけたりしたが、夕呼先生が一言いうと師匠は素直に自己主張を引っ込めたのでなんともなかったし。
 今日は、夕呼先生に頼んだ新型OSのお陰で戦術機での模擬戦大勝利。
 懸念していた委員長と彩峰の不仲も、OSに対処するために余裕なしでなしくずし解消というおまけ付だ。
 そして一日の出来事を霞に話そうとやってきたのだが、彼女は突然歩き出すと先生の執務室へ行ってしまう。
 追いかけてみると、明かりさえついていない。

「急にどうしたんだろ霞……先生はいないのか?」

 暗い執務室の中で目を細めた武に、突然聞いた事もない男の声がかかった。

「博士なら、司令所にいったぞ」

「――誰だっ!?」

 まったく気付かなかった! 武は歯噛みした。ここしばらくの訓練で、気配には敏感になったはずなのに。
 部屋の明かりがついた。

「驚かせてすまなかったな。まさか本当に君がいるとは……」

 部屋の隅から歩み寄ってくる人影を見た瞬間、武は固まった。

「私は微妙に怪しいものだ!」

「うそつけぇぇぇぇ!!」

 その男の自己紹介じみたものに、武は全身全霊を持って反発した。

「微妙どころじゃねぇよ! あんたすっごく怪しいよ!!」

「ふはははは……面白い男だなシロガネタケル」

「面白いのはあんただぁ!」

 息をつく武の前の人影は、しかし平然としていた。
 その長身の体を包む軍服。まぁこれはいい。
 だが、その顔を覆うのは左から黒、赤、黄色の三色マスク。額にはアンテナ状のV字突起。背中には日本刀らしきものが見える。
 基地内を歩いていたら間違いなく憲兵隊がダース単位でやってくる風体だ。
 それがもっともセキュリティが厳しいはずの夕呼先生の執務室に。警戒するなというほうがどうかしている。

「そんなことはどうでもいい!」

「よくねぇよ! なんだよそのヘンな格好は!」

 合わない会話に焦りつつも、飛び掛ろうかそれとも誰か呼ぼうかと逡巡した隙に、目の前にぬっと男の手が伸びてきた。

「いでででで!?」

「ふむ、シロガネタケル。本物か」

 頬をつままれ引っ張られて武は慌てて拳を振るうが、まりもちゃんに鍛えられた一撃さえその男は柳に風と受け流して後退してしまった。

「作り物ではないようだな」

「当たり前だ! あんたみたいな覆面なんてしてねぇって見ればわかるだろっ!」

 喚きながらも、武の背筋に冷たいものが流れる。見た目こそかなりアレだが、前の世界の経験含めて相当な能力があるはずの自分の動きがまったく通じない。
 武の額に流れる冷や汗見て、覆面から覗く目がすっと細まった。心理さえ読まれているのかもしれない。

「未熟未熟ぅ! シロガネタケル……今のお前は、人より多少抜きん出た己の腕に溺れているにすぎない!」

「ぐ!? そ、そうかもしれないけどすげーむかつく……!」

 偉そうに腕組みする覆面男の指摘に、歯噛みする武。
 そこへ夕呼が開いたドアから入ってきた。

「あら、最近妙な格好が大好きになった鎧衣課長じゃない」

 夕呼はその男を見ても動揺する素振りもない。
 霞は、というといつの間にか無言で武の斜め後ろに立っている。

「む。そうか、今の私は帝国情報省外事二課課長・鎧衣左近だったな」

「……よろい? まさか美琴の……」

 奇妙な自己紹介に眉をひそめる武の脳内で、207B分隊の仲間の少女とこの男の面影が結びつ――

「――くわけねぇだろ! 美琴は中身は変わり者だけど外見は普通だぞ!」

「あんたも何気に酷いわね……」

「白銀さん……」

 夕呼と霞に非難の視線を向けられ、しゃがんでいじける武。

「オレが何をした……」

 その後、武そっちのけでやっぱり美琴の父だだの、若手将校の勉強会だの、『かの国』の動向だの言葉が飛び交ったのだが。

「では、さらばだっ!」

 その一言を最後に覆面の鎧衣課長は、疾風の如く姿を消した。

「な、なんだったんだ……ん?」

 頭痛を堪えて立ち上がった武の目に、妙なモノが映った。

「……お土産です」

 霞がそれに近づいていく――課長が置いていったらしい、錆びた刀に。

「捨ててきてちょうだい」

 夕呼はつまらなそうに言い捨てた。

「ですよね。こんなのもらってどうしろと……ん?」

 武が髪をかいて呟く間も、霞はそのぼろぼろの刀身をじーっと見つめていた。

「……いるか?」

「はい」

「……よ、よかったな」

 ウサ耳カチューシャを無表情でぴこぴこさせる霞。
 何に使うんだ? とは恐くて聞けない武だった。



 時は少しだけ流れて、12月5日。
 帝都とは横浜を挟んで反対側の、塔ヶ島離城。
 勃発したクーデターの煽りで、武らも警戒任務とはいえその地へ出撃を余儀なくされていた。
 外の空気を吸うために戦術機・吹雪から降りた武は不機嫌だった。
 人類同士の争いなんて、馬鹿馬鹿しい。出撃前に月詠中尉と、行軍中に冥夜と口論したことも気分が悪い。
 特に一番わけがわからないと武が思ったのは、

「なんだよ、クーデターの首謀者が仲間をぶっ潰して回っているって……だったら最初からやるなっての」

 という事だった。
 雪が戦火にある大地も、この静かな離城のある地も平等に白く染めていく中で、武は頭を振っていたが。
 ぱきり。
 突然、背後から枯れ枝が踏み折れる音がした。

「!?」

 しまった、と思って身を伏せる。
 気を抜きすぎていたために、銃の準備さえ出来ていない。吹雪の遠隔制御を応用してセンサーで情報を掴む方法があることに気付くのにも、時間が掛かった。

「二人、か……?」

 今までのどこか抜けた気分を振り払い、武はゆっくりと身を起こした。
 接近してくる人影に向けて、鋭い視線と銃口を向けながら声をかける。

「止まれ! 両手を頭の後ろにつけて――」

 規定どおり、不穏な動きを封じるための指示を飛ばした武の目に映ったのは、初老の女性の姿だった。
 銃を見ても怯えるどころか、きつい視線を返してくる。

「なッ! ――銃を向けるとは何事です!」

 とか、無礼者、とか。

「お前は帝国軍ではありませんね 答えなさい。答えなさいといっているでしょう!」

 などとまくしたててくる。どうしていいかわからず辟易した武に、周囲で警戒に当たっていた戦術機内のたまから警告が飛んだ。

『武さん!』

「!?」

 お陰で背後の新たな気配に気付いた武の視線の先には。
 帽子とスーツ、それにロングコートという中年男性がいた。
 一見何の変哲もない格好だが、生地が雪やそれが変じた水を弾いていることから、ただの服ではないとわかる。
 何よりその物腰は熟練兵士のように隙がなく、暢気そうな薄笑いとのアンバランスさが却って不気味だ。

「誰かと思えばシロガネタケル」

「誰だっ!? なんでオレの名前を知っている!」

 自分の名前を口にした男に、武は飛びのきたい衝動に駆られる。

「おや、つれないな。何度も出会った仲ではないか。鎧衣左近だ」

「……へ? あ、あのいつもの忍者コスプレは……」

「人の話を聞かないのは感心しないなシロガネタケル。確かに最近、微妙に別人になったように意識が遠くなっていたが」

 わけわからん言い回しだったが、とにかく鎧衣課長は正常に……いや、正常といっていいのかはともかく、格好は普通に戻ったようだ。
 たまに通信を入れて、一応顔見知りだと伝える。
 よく見れば、覆面から覗いていた目元は記憶と一致するし。

 そこでようやく、初老の女性の後ろに隠れていた人物が武の目の届くところにやってきてた。女性だ。
 武の顔が、警戒心一色に染まった。

「何だお前は!?」

「この者は白銀武と申しまして……無礼な変わり者ですが平にご容赦を」

 殺気立つ武の前でも、鎧衣課長は平然とその人物に武を紹介する。
 初老の女性はやはり無礼者、と激怒していたが。

「鎧衣課長、こいつは誰なんです!?」

 苛立ちを震える全身で表現しながら質問する武に、鎧衣課長は眉をひそめた。

「ほう……君はこの御方を知らないというのかね……?」

「え……?」

「煌武院悠陽殿下に在らせられるぞ! 無礼者!!」

 初老の女性の一喝に。う、嘘だ! と武は声にならない叫びを上げた。
 目に映る相手の容姿が、日本で一番偉い、冥夜の親戚のはずの殿下とはとても思えなかったからだ。
 それでも辛うじて正気をつなぎとめ、口を動かす。

「な、なんで『そんな』格好を……!?」

「カモフラージュのためですっ! そんなこともわからないのですかッ!」

 女性(侍従長らしい)は、怒鳴りすぎて肩で息をつきながらも武を睨みつけてくる。
 しかし、当の武の視線はその後ろの女性に釘付けになっていた。

「やはり、おかしいか……いや、おかしいでしょうか?」

 明らかに途中でわざとらしく語調を変えた煌武院悠陽は、自分の姿を確かめるように視線を落とした。
 その顔は武からは良く見えなかった。なぜならば……。

 三色ドイツマスクで覆われていたからだ。
 服は軍服、背中には……やっぱり日本刀。

「いえ、よくお似合いです殿下」

「ははは……この者、なにぶん国連軍所属です故。お許しを」

 侍従長が、鎧衣課長が口々に言う中、武はオレがおかしいのか? と悩み続けた。
 ……そのうち武は考えるのをやめた。

 ――日本帝国政威大将軍・煌武院悠陽。現在その体にある意識は、シュバルツ・ブルーダーといった。



 【あとがき】

 ふふふ……憑依が一人につき意識一体固定だと誰が決めた!?

 いや、ほんとごめんなさい。
 本気でネタ切れなので、続編は困難です。ご了承ください。



[15108] 【まさかの再一発】新型OSのちから
Name: mitsuki◆66f66a11 ID:1f7a972b
Date: 2010/01/12 11:59
 【ご注意】

 書いた本人にもまさかの続き。某名シーンが今度の餌食です。
 短いです、やっぱり一発レベルです。ギャグもあまり期待しないでくださいませ。

 ―――――――――――――



 ライトの光に浮かび上がる衛士強化装備姿の男。その表情は、どこかぼんやりとした物だった。
 二十代の気鋭の衛士に相応しい精悍な顔つきも、そうしていると十歳ほども老け込んだように見える。
 机を挟んで彼と向かい合う初老の憲兵大尉は、ペンを走らせて調書を取りつつ機械的な声で質問を投げかける。

「……それで、クーデターの首謀者である沙霧大尉に攻撃された後、なぜ投降する気になったのだね?」

「最初は、なぜ我々の大義を裏切ったのか、と怒り心頭だった……だが、機体が殴られた時に」

 そこで12・5事件の決起に加わった男は言葉を切った。
 その時の事を思い出そう、というように目を閉じる。

「時に?」

 憲兵が静かに続きを促した。

「あの妙な戦術機の一撃から、深い悲しみが伝わってきた……沙霧大尉の拳が…拳が泣いていた!」

 衛士はくわっと目を見開くと、取調室の低い天井を見上げた。
 ライトの光を受けた瞳が揺れている。涙が滲んでいるようだった。

「……わかった。取調べは以上だ、中尉」

 影の如く控えていた補助憲兵がその言葉を合図に動き出し、衛士の両側を挟んで立たせる。
 衛士は特に抵抗する素振りもなく、素直に連れ出された。
 この後、衛士強化装備から着替えさせられ、通常なら軍法会議送りになるはずだが――

「重度の妄想、心神喪失の気配あり。責任能力を取ることは困難っと」

 憲兵は簡単に結論を調書末尾に書き込むと、ふうっと溜息をついた。
 正確な診断は軍医次第だが、まず間違いないだろうという確信があった。

「これで『殴られたら相手の悲しみが伝わってきた』とかいう病人が307名か。
クーデターに賛同した連中は、何か悪いものでも揃って食べたんだろうか……」

 決起衛士らが真実を語っているとは毛頭思わない憲兵は、自分の肩を拳で叩いて嘆息した。



 真夜中の静寂を、噴射装置が上げる轟音が切り裂く。
 BETAの侵攻を受けた地としては奇跡的に森林・山岳地帯が残っている東静岡の大地を、機械仕掛けの巨人が疾駆していた。
 冬の冷たい空気の中に見え隠れするのは、露軍迷彩。機体は日本帝国軍の戦術機・不知火。
 このような組合せをもつ部隊は、世界中に一つしかない。

「探せ! 殿下が帝都から脱出あそばされ、塔ヶ島離城におわす! 恐らくそこへ配備されていた国連軍が殿下の身を握っているはずだっ!」

 富士教導団の部隊長が喚いた。
 東京での帝都守備部隊の決起に呼応し、東に攻め上っていたクーデター側の切り札部隊だ。
 実験開発部隊を擁する日本最精鋭と謳われる者達だが、その顔には一様に焦りがべったりと張り付いている。

「沙霧め、何を狂ったのだ……!」

 部隊長は一流といえる機敏さで不知火を操りながらも、口から漏れる罵倒を留められない。
 彼らは、少なくとも主観的には正義と大義のために身も省みず決起したのだ。
 それが主導者と認めた男の裏切りによって、一気に計画が崩れた。
 首都圏では早々に決起軍は鎮圧されている模様が、同志の混乱した通信より伝わってきている。
 しかも一番多く味方の戦術機を撃破して回っているのは、その沙霧直哉本人だというではないか。
 当然、富士教導団は沙霧の身に降りかかった不可解かつ理不尽な憑依現象を知る由も無く。
 最後の逆転の一手を狙い、帝都を脱出した殿下を奪取し――彼らの見方では外国の傀儡たる国連軍の魔手からお救い申し上げ――決起側の正当を認めていただくしかない、と定めていた。

『――隊長、センサーに感有り! 二時半の方角の山間に、国連軍塗装の吹雪が!』

 先行した部下からの待ちに待った報告に、部隊長の口元が緩んだ。まだ、勝機はある。
 相手は後方警備に回された軟弱な国連軍の訓練兵部隊。こちらは、日本全土から腕利きを集めた正規衛士の精鋭。
 まともに戦えば、鷹と雛では勝負になるはずもない。

「なんとしてでも捕捉せよ! 多少の犠牲はやむをえん!」

 囲んで、降伏させる。流石に殿下がどこにおわすかわからない以上は迂闊な攻撃はできぬ、というのが部隊長の判断だった。
 富士教導団全員の意識は、吹雪を追うことに向けられた。
 彼らの立場からすれば、そうするしか無かった。

 ――戦いとは、ただ悪戯に己の力量をぶつけるものにあらず。兵を用いるには、九通りの地勢と天地風水の流れ有り

 UNブルーの吹雪は、不知火の接近を受けると右往左往した挙句に突撃砲を差し上げ。しかし、発砲する度胸も無いのか結局背を向けて逃走しはじめた。
 山間部に入り、狙撃を避けようとでもいうように小刻みな短距離跳躍で逃げようとしている。

「なんとだらしない……」

 戦意の無い態度に、覚悟を最上の徳目とする日本衛士らしい感想を漏らした部隊長。
 その吹雪の挙動がやけに鋭く、小気味良いことが引っかかった彼は一瞬だけ擬態を疑ったが。
 仮に罠だとしても、圧倒的戦力差があると全軍に追跡を指示。同時に停止の呼びかけを開始した。

『国連軍の指揮官に告ぐ。我に攻撃の意図非ず。繰り返す、攻撃の意図非ず』

 友軍がオープンチャンネルで呼びかけた。主権侵害を止めて、殿下をこちらへ。要約すればそういう内容だ。
 が、それでやすやすと止まるとは思っていない。
 性能と数の優越を生かし追い込むべきだと判断した部隊長は、更なる追撃速度向上を従う不知火に指示した。
 応じて衛士達は速度を上げる。跳躍装置が吐くジェット噴射で木々をへし折りながら進む不知火には、地形の多少の起伏など問題にならない。

 ――戦いとは詭道なり。策無く、己(おの)が勢いのまま戦うは、敗れる兆しなり

『っ! さらに十時方向に吹雪が……三機! やはり混乱しつつ逃走に入っています』

「何!? ……どちらだ」

 部隊長は新たな報告に戸惑った。
 仮にも一国の要人を預かった部隊が、単独で殿下を守っているとは考えづらい。
 いや、そう見せかけて実は一機のほうが本命か?

『!? よ、四機ともロスト!』

 馬鹿なっ! 吹雪を追っていた富士教導団一個中隊の衛士らは目を疑った。
 それまでの迷いだらけの挙動から一転、鋭い噴射跳躍からの反転降下を吹雪らが見せ、あっという間に山向こうへ逃げてしまった。
 辛うじて見えたのは、噴射装置が残した炎の尾だけだ。

「くそっ! 全機、噴射跳躍! 逃すなっ!」

 名うての富士教導団衛士達は、教本からそのまま抜け出したような機敏な機動制御で吹雪の軌跡を追った。
 ほどなく不知火のセンサーが、今度は別種の反応――斯衛軍の武御雷二機に守られた吹雪一機を捕捉した。

「斯衛軍の機体っ! 今度こそ間違いない!」

 将軍の近侍たる斯衛が警護する、となれば疑いようも無い本命。
 不知火は、森林をかき分けて横浜方面を目指すその三機を包囲すべく隊形を広げる。

 ――およそ地形には六つの害あり。今彼奴らはその一つ、天羅に向かいつつある。そこは草木が密生し、思うがままの行動不可能なり。だが彼奴らはただ追いかけるのみ
 ――そして蟻地獄に嵌ったが如く、彼奴らはワシの思うがままにやってきた。そう、罠の張られた場所へ

「これぞ、東方不敗が八卦の陣! 一度嵌れば抜けられぬ、覚悟しろぉぉ!!」

 次の瞬間、不知火の前に大木の陰から国連軍衛士強化装備に身を包んだ女性が飛び出した。

『はぁ!?』

 意外すぎる光景に素っ頓狂な声を上げる衛士を無視して、重力を断ち切ったかのように宙に舞う神宮司まりもの右手が一閃した。
 先頭を行く不知火の衛士の網膜投影画像が、いきなり漂白された。いや、白い何かがメインモニターに絡みついたのだ、と衛士が判断するより早く。

「ふんっ! はぁぁ!」

 若い女性の声とは思えない、年季の入った気合とともに不知火の頭部に絡みついた長い布が引っ張られると、強靭なはずの戦術機の首がもげた。

『へっ!?』

 再び声を揃えるクーデター衛士達。
 頭部を無くした不知火が地面に衝突して、けたたましい転倒音を響かせる。
 富士教導団を襲った災厄は、それだけに留まらなかった。

『彩峰、タイミング合わせなさいよ!?』

『榊はいつも一呼吸遅い……』

『あなたが早いのよ! いくわよぉ!!』

 逃げていたうちの吹雪二機がいつの間にか、部隊長からみて右手側に出現した。同時に先程からオープンにした回線から若い女性らしき喧嘩じみた声が。
 やたら吹雪の両腕を振り回すポーズを取ったかと思うと、口を揃えて叫んだ。

『超級! 覇王! 電影弾!』

 一機の吹雪が、その場で高速回転しはじめた。
 もう一機がその背後で、腰を落として掌を脇に引いて構えている。

『撃ちなさい彩峰!』

『はいぃぃ!!』

 あまりの回転速度にエネルギー流を纏ったようにも見える吹雪を、後ろの同型機が思い切り突き飛ばした。
 呆然とする不知火の群れに突っ込んだ吹雪は、まさに猛吹雪といったほうが良い様な勢いに露軍迷彩を巻き込み、ボーリングのピンのように吹っ飛ばして回る。
 その一瞬なぜか被害者の衛士の目には、搭乗している女性衛士の顔が吹雪の頭部と入れ替わったような錯覚が見えた。

『ちょっとまてぇぇぇ!!』

 絶叫とともにクーデター衛士の内心を代弁したのは、彼らの仲間ではなく敵である国連軍吹雪の一機だった。
 白銀武は、管制ユニットの中で髪を振り乱しながら喚きたてる。

『ありえねぇよ! あんだけ『これは何かの罠です』で引っ張っておいて結局力づくかよ! だいたいなんで吹雪にあんな真似ができるんだよ!』

 激しい怒りのため過呼吸に陥りかける武の耳に、東方不敗・神宮司まりもの声が入ってくる。

『よしっ! 貴様らはそのまま新型OSの特性を生かして叩き潰すがよい!』

 確かに、207B分隊各機には武が考案した新型のOSが試験的に搭載されていた。その性能を持ってすればこれらの現象も――

『ちがうだろっ! オレが考えたOSはキャンセルとかコンボとかがついただけだって! 常識をキャンセルする機能なんてないって!!』

 喉が張り裂けんばかりに絶叫する武。
 彼の吹雪の横を、今度は珠瀬美姫機が鎧衣美琴搭乗機に押し出される形で第二の電影弾となってかっ飛んでいくのだった……。



[15108] 【リハビリ注意】さらば師匠! 運命のXM3トライアル!
Name: mitsuki◆66f66a11 ID:f63ac0e3
Date: 2010/09/02 18:48
 【ご注意】

 ご無沙汰しております。新ゲッターAlternativeの前書きで書いたような状況は変わっておりませんが、「原作で使えそうな台詞」を書き留めたメモだけは出てきたので、リハビリのつもりで書きました。
 すっかり文章の書き方を忘れており四苦八苦して書いたもので、ネタにも自信がありません。
 それでもよろしければ、ご笑覧ください。

 ―――――――――――――



 クーデターは鎮圧された。
 あの戦闘および後始末のことは……正直思い出したくもない。
 いろいろな意味で疲れながら横浜基地へ帰還した白銀武は、壁に手をつきながら香月夕呼の執務室を訪ねた。
 軽い炭酸が抜けるような音とともに、扉が開く。

「……ずいぶんやつれたわね、白銀」

 椅子に座り、端末をリズミカルに叩いていた夕呼が顔を上げ、武を労った。

「ええ、ちょっと世界の法則が乱れるところを見てきたので……って、先生やたらと機嫌が良さそうですけど何かあったんですか?」

 しおれた武とは対照的に、夕呼の目は力感にあふれて輝き、鼻歌でも歌いだしそうな明るい表情を見せていた。

「ええ、あったわよ。
――00ユニット完成の目処が立ったわ」

「……!? 先生、それって!」

 その言葉は、武の半分眠りかかった脳に活を入れるに十分だった。人類の希望、オルタネイティヴ4の核である00ユニットが出来上がる!

「あれ、でも完成には数式の回収が必要だったんじゃ?」

 今までの話では、『元の世界』の夕呼が持つ理論を入手しなければならなかったはず。
 武の疑問に、夕呼は艶やかな唇を三日月の形に曲げて答える。

「ええ、あんたを元の世界に飛ばして数式を取ってこさせて、その後に精神崩壊寸前の目に合わせて性根を叩きなおさないといけないと思っていたけど、そんなことはなかったわ」

「今、聞き捨てならないこと言いましたよねっ!?」

 さらりと恐ろしい言葉を吐く夕呼。武は顔を青ざめさせる。
 先生なら、本当にやるつもりだったに違いない。

「……なによ? 今からでもそうして欲しいの?」

「イエ、トンデモゴザイマセン」

 片言になる武を半眼で見つめていた夕呼だが、機嫌が良い為かすぐに笑顔に戻る。

「ちょっと昨日うたた寝しているときに、閃いたのよ……わたしの守備範囲直撃のいい男の科学者と討論している夢の中でだったわ」

 夕呼が自分の見た夢の話をするなど珍しい。

「00ユニットに必要な理論の答えを、ですね?」

 因果量子論の、と武が続けるより早く、

「ええ、自己増殖・自己進化・自己再生の三大理論をね」

 と、夕呼が大きな胸を張って言った。

「…………はい?」

 初耳の言葉に武は首を捻る。なんとなく三大理論とやらの言葉の響きに悪寒を感じて、白い制服に包まれた体を震わせていたが。
 夕呼相手にこれ以上質問する気力もなかった武は、まぁ光明が見えたのならいいか、と執務室を後にした。
 気晴らしに散歩をしてから眠るか、と満天の星空が光を投げかけるグラウンドにでた武は、先客がいるのに気付いた。
 軍服姿の神宮司まりも師匠だ。何かを考え込むように、じっと宙を睨みつけている。

「師匠、どうしました?」

「ん……? おお、白銀か」

 温厚な女性の顔立ちに似合わない、男臭い笑みを浮かべて振り向くまりも。
 何度見てもそのギャップに慣れない武は、そっとため息をついたが。

「――どうやら、お別れが近いようだ」

「……え!?」

 ぽつりとマスターまりもがこぼした突然すぎる言葉に、武の表情がこわばった。

「なんとなくわかった。この体の本来の持ち主が、貴様達を心底から心配しておる。ワシもそろそろ帰るべき所へ戻る時期が来たらしい」

「師匠……?」

 静謐な気配を漂わせるまりもに、武は思わず息を飲んだ。いまいち要領を得ないが、さりとて冗談を言っているようにも思えない。
 まりもの性格が豹変して以来、ずっと振り回されっぱなしだったのに、武の胸は不思議なほど締め付けられた。

「白銀よ、ワシは207B分隊に教えられるだけのことは教えたつもりだ。
後は貴様らの精進次第。この世界は過酷ではあるが――」

 まりもの視線が、限りない弟子への愛情を秘めてまっすぐに武の顔に向けられた。

「BETAにも、己にも負けるでないぞ」

「……師匠」

 言い終えると背を向け、長い髪を揺らしながら去っていくまりもの背中を、武はじっと見つめることしかできなかった。

 ――翌日、神宮司まりもは以前の彼女に戻っていた。

 訓練兵に自分を師匠と呼ばせることもなく、超絶的な格闘術を披露することもない。話し方、仕草もまりもそのものに。
 あの奇妙な現象が起こっている間の記憶はおぼろげながらあるらしいが……。
 皆がまりもの回復を喜ぶ中、どこか一抹の寂しさの影が落ちたのは確かだった。

 (でも、まだ師匠が傍にいるような気がするんだよな……)

 武は時折、そうしんみりすることがあった。
 だが、時間は待ってはくれない。
 207B訓練分隊の解隊と白銀らの正式任官があわただしく行われ、そして運命の日を迎えた。

 武が開発した新型OSの制式量産版・XM3のトライアルである。



 肩に06のマーキングがされた吹雪が、瓦礫の街を疾走する。
 207B訓練分隊から横滑りする形で207小隊に臨時編成された武らは、旧型OSのままの撃震で構成する仮想敵部隊との模擬戦の真っ最中だった。

「うおおおおお!!」

 出撃回数二十回を超えるエースが搭乗する撃震の機動は、旧型OSと第一世代機の組み合わせとは思えないほど鋭く。相手の死角を奪い合う短距離跳躍の仕掛けあいで、吹雪を一瞬だが上回った。
 撃震の突撃砲から放たれるペイント弾が、武の吹雪の右手側に殺到する。
 完全にはかわせない! と判断した武は、被弾判定が出た瞬間に、直撃を受けた突撃砲を迷わず排除。
 ペダルを蹴りこみ、レバーを一見滅茶苦茶に――その実、細心の計算を払って動かす。

『なっ……!? 馬鹿なっ!』

 相手の撃震のパイロットの声が回線に入り込む。その驚愕の語尾が消え去らぬうちに武機は空中に踊り上がり、体を捻りながらナイフに武器換装。
 着地と同時に噴射装置を吹かして突撃する吹雪。その振動で大地に散乱した瓦礫が震える。

「よしっ! ……!?」

 撃震の胸部装甲に模擬戦用ナイフが閃き、十字に切りつけた。崩れ落ちる第一世代機に撃破を確認して息を吐いた武だが、再び接敵アラートが網膜画面に浮かび上がる。
 仮想敵部隊の最後の一機が、攻撃直後の武を狙っているのだ。
 しまった、と考えながら後退しようとする武に正面から撃震が迫り――
 その刹那、やや離れた場所にいた鎧衣美琴が、普段のマイペースぶりからは想像もつかない気合の入った声を上げた。

『酔舞! 再現江湖! デッドリーウェイブ!!』

「はぁ!?」

 しゅぱしゅぱ、と奇妙な効果音とともにポーズをとった吹雪が、そのまま高速でかっとんで来て武機と撃震をまとめてど突き倒す。
 どう考えても撃震の攻撃のほうが早く発動したにもかかわらず。
 武の視界が天地逆になり、そのまま吹雪は地面に激しく叩きつけられた。

『……あれぇ? ――03、フレンドリークラッシュ06TK……ごめん、タケルぅ。助けようと思ったんだけど……』

 片目をつぶって謝る美琴。お前の機体のIFFはどうなっているんだ、という突っ込みを入れる気力さえ武には残っていない。

 ――師匠、あなたが消えてもしっかりと技は弟子に受け継がれてますよ

 もう自分が提案した機能はそんなんじゃない、という点については思考停止するしかない武は。
 画面越しに目にしみるほどの青空を見上げて、いろんな意味で涙ぐんだ。



「――おいルーキー」

 模擬戦の後。
 ハンガーの通路で口から魂を放しかけていた武の傍に、大柄な白人男性が歩み寄ってきた。階級は中尉で、仮想敵を務めた衛士だった。
 心配する彩峰をなだめ、武は彼に連れられるまま仮想敵部隊の衛士四人に囲まれた。
 彼らの目的は、生意気な新米に負けた憂さ晴らしだと武は思っている。
(あんな理不尽な負け方をしたんじゃ、八つ当たりのひとつもしたくなるだろうな)
 諦念を漂わせながら、「お前がシロガネか?」「あのOSを考えたのはお前が考えたのか?」という質問に答えていく武。

「はい、あのOSにあんな機能がつくなんて夢にも思いませんでしたが」

「ふぅん……? とにかく、あれを考えて、博士に作らせたのはお前ってことなんだな?」

「ええ、できれば無かったことにしたいんですけども」

 バンダナで髪を縛った女性衛士の質問に武が答えると、四人はいっせいに近づき――
 私刑による衝撃に備えた武の肩を、喜びに満ちた手のひらで叩いた。

「おいおい、やってくれたな、お前!」

「ええ、確かにやっちゃったとは思いますが……え?」

 満面の笑みを向けられ、想像との違いに首をかしげる武。
 それにかまわず、衛士らがはしゃいだ声を上げる。

「あんたの脳みそは最高だっていってんだよ――この野郎!」

「それは最高にイっちゃってるって意味ですか?」

「全く、この坊やのどこからあんなOSの発想がでてくるんだろうねぇ?」

「自分でもわかりませんよ! ってかあんな風になるとは思わなかったんですって本当に!」

「あれが採用されてみろ、とんでもない騒ぎになるぜ? 特に最前線ではな!」

「むしろ物理学者とかが大騒ぎしそうな気もするんですが……」

 ずれている。
 武ははっきりとそれを悟った。

 ――もしかして、常識がキャンセルされるのを問題視しているのは俺だけなのか?

 衛士らの興奮っぷりに、武は深刻に自問した。
 それにかまわず白人衛士がまくしたてる。

「全くよぉ、試験小隊の撃震の機動ですら、最初は悪い夢かと思ったぜ」

「……まさか師匠の……もとい例の機能の影響ってほかの隊にもあったんですか!?」

 普通の物理法則の範囲内で『悪夢のような』機動だったと思いたい。いや、信じたい武。

「で、最後に出てきたお前達でストレスを解消しようと思ったら……
おまえらの試験小隊の機動が一番異常だったんだ! しかも、よりによって俺たちを全滅させるなんてなあ!」

「異常ってことについては異論はありませんが!」

 最後に武が見せたあの噴射跳躍からの(略)ナイフアタックに話は移る。

「あの倒立反転の失速域機動を可能にするOSの性能もすげえが、お前のテクも半端じゃねえな!」

「うわ、普通の所を褒められてる。
すっごくうれしい、どうしよう目玉が溶けるほど泣きそうだよ純夏」

 思わず幼馴染の面影をまぶたに浮かべる武。彼女はひまわりのように笑ってくれている――

「しかも03のあの流れるような体当たり……どうやってやるんだ? 教えろ!」

「そっちについては、どうしてできるのか俺が教えて欲しいぐらいなんですけどねぇ!?」

 『ゴリラ』とか同僚に呼ばれている女性衛士の質問に、武のしんみり気分はすぐ吹っ飛んだのだった……。



 仮想敵の衛士らとの会話を終えてから始まった、第二回目の模擬戦。
 相変わらず気疲れと二人連れである武だが、吹雪のレバーを握る手にこもる力はいささかも抜かない。
 仮想敵の撃震小隊四機のうち半数を早々に撃破した武は、今回の同僚である御剣冥夜らとさらに残りを追い込もうとした。
 その時、突如爆発が起こった。

「……なんだ、事故か?」

 エリア2、と呼称され別の小隊が模擬戦を行っている区域で、激しい爆発が連続した。
 不吉な出来事の狼煙のように、黒々とした煙が上がっている。
 その時、コード991の警告ウィンドウが武の視覚に飛び込んできた。

「え……?」

 コード991。それは人類の天敵・BETAの出現を示すものだった。
 安全なはずの横浜基地に、なぜ!? 武が、いや武だけではなく207小隊の面々が絶句する中、HQ(司令部)が矢継ぎ早に指示を飛ばし、各部隊と殺気立ったやりとりをはじめる。

 ――ホーネット隊は、エリア2の敵侵攻を阻止せよ
 ――馬鹿を言うな! こっちは丸腰なんだ!
 ――繰り返す、敵侵攻を阻止せよ
 ――くそっ、しょうがねぇな!
 ――シュトゥーカ隊、ホーネット隊と合流し、エリア2の敵侵攻を阻止せよ
 ――よし、出撃だガーデルマン!

 即応部隊出撃の時間を稼ぐため、演習用装備しか持たない部隊に非情な命令が下った。
 無論、武器は運ばせるとは言っているが、いつ届くかはわかったものではない。何より敵の至近にいる戦術機への輸送は、どう考えても間に合わない!
 放棄された市街地をそのまま転用した演習場のビルを突き崩して、紫色の装甲を振り立てる突撃級が続々と現れる。青みがかった前腕で潰れかかった家屋を粉砕しつつ、要撃級が這い出してくる。
 戦域地図に、BETAを示す赤いマーカーが次々と染みを作っていった。
 誰かがHQに食って掛かったとおり、攻撃力を持たない戦術機部隊は次々とやられ――

「……あれ?」

 武は、固唾を呑んで戦術画面・望遠画像を見守っていた表情を弛緩させた。

『ネーデルタイフーン!』

 要撃級に殴られかかっていた撃震の腹部から、強烈な竜巻が放たれた。
 見えざる風神の拳で一撃され、格闘戦を得意とするはずのBETAはきりもみしながら上空に吹っ飛ばされる。

『レッドフラッグ、カモーン!』

 その隣で、どこから取り出したとも知れぬ赤い布を振るう撃震。
 まるで闘牛のように布に突っ込んだ突撃級は、するりと方向を変えられてひっくり返り腹を晒してあがく。
 XM3を搭載した非武装撃震軍団は、得体の知れない技を繰り出してBETAを一方的にぼこりまくっていた。

「…………」

 いやもうどこからどうツッコんでいいのかわかんねぇ。
 クーデター事件前後からツッコミ力を消耗してきた武は、そのまま管制ユニットで突っ伏しかけたが。

『――だが、やつらをぶっ殺すにもまず武器が必要だ。
ここはあたしたちが維持する。貴様の小隊は37番ハンガーまで後退、突撃砲をありったけもってこい』

 207小隊を指揮下にいれたシャーク隊(仮想敵だった)衛士が、榊千鶴に向かって指示を出している。
 え? 突撃砲なんかもういらねぇだろ、とげんなりした武だが。そこで仮想敵の撃震はいまだ旧型OS搭載だったことを思い出し、緩んでいた神経がさっと凍りつくのを感じた。

「ま、待ってください! もう少し待てば武器が運ばれてくるってHQが。
それにそちらは旧型のままでしょう!? 食い止めるのならこちらが……」

 思わず口出しする武を、先任衛士が叱り飛ばした。

『馬鹿野郎! こんな状況でHQの言うことを鵜呑みにするほど馬鹿じゃねえんだ!
それに兵站を軽視するとは。貴様は訓練校で何を学んできたんだ!?」

 このカオスな状況で何をいってるんだ、とか。
 今はほとんどの衛士が兵站よりさらに大事なことをあっさり忘れてますよね!? とか。
 訓練校ではほぼ格闘技漬けでしたが? のような抗弁が武の脳裏をよぎるも、相手は至ってまっとうな事を言っている衛士。
 それに207の衛士達は突然の初陣にこわばり、戸惑った顔をそろって浮かべている。いくら新型OSと師匠譲りの技があるとはいえ、これでは……。

「――わかりましたっ! 委員長!」

 自分を納得させ、千鶴を促してハンガーへ向かう武。
 だが、その途上。
 武らは地中侵攻してきた新たなBETAと遭遇し。

「地球を返せ! 人間を返せ! 平和な世界を返しやがれぇっ!!」

 初めて間近でBETAを見た武は、錯乱状態に陥った。初陣衛士がそんな状況でまともに戦えるはずもなく。
 狂ったような機動で吹雪を酷使し、BETAにペイント弾を撃ち込み続けるも、ついに敵の一撃を受けて――



 横浜事件、と後に呼称される戦闘は終わり、既に夕刻。血のように赤い陽光が大地を染めている。
 KEEP OUT。そう記した黄色い警告テープでがんじがらめにされた吹雪の残骸。その前に胡坐で座り込み、武は肩を落としていた。
 混乱した挙句、乗機を行動不能にさせられ。泣き叫んでいたところを、いずこからともなく現れた不知火に助けられたのだ。
 体は奇跡的にかすり傷ひとつ負わなかったが、武の心は後悔と羞恥に深く切り刻まれていた。
 ちなみに、今回の横浜事件でBETAに撃破された衛士は武一人のみ。この一件でXM3は「奇跡のOS」としてまたたくまにその名を世界に轟かせることになる。

「白銀少尉。お気持ちはわかりますが、そろそろ……」

 207の少女達でさえ声をかけるのをためらうほど落ち込んだ武に歩み寄ってきたのは、神宮司まりも軍曹だった。
 武は、彼女に顔を向けることさえできない。
 口をついて出るのは、自分を責め貶める低く張りのない言葉ばかりだ。情けなさに、武はさらに惨めな気持ちになる。

「……それにしても、派手にやられたわねえ?」

 そんな武の耳を、いつもの軍人然とした態度を崩したまりもの柔らかな声がくすぐった。
 まりもは武の自虐的な言葉もやわらかく受け止めながら、自分の考えを、そして過去の体験を語りだす。
 本当は普通の学校の先生になりたかったこと、初陣でパニックを起こし大事な同期を失ったこと、臆病でもかまわないということ。
 そして、教え子が生き残ってくれたことを感謝していること――

(そうえいば師匠も『この体の本来の持ち主が、貴様達を心底から心配しておる』って……)

 つんと鼻の奥に感じる痛み。
 武は、思わずその言葉を口にした。

「ありがとう……まりもちゃん。
……あ」

 つい、彼女が一番嫌がっていた呼び方が出てしまった。
 武は、師匠だったころのまりもちゃんの機嫌を損ねる恐ろしさを反射的に思い出し、満面に汗を浮かべて振り返る。
 と。
 困ったような笑顔を浮かべるまりもの背後で。
 何かがうごめいているのが視界の端を掠めた。
 付着した砂埃を振り落としながらゆっくりと起こされた体は、不気味な白の光沢を帯び。
 その頭はキノコのように左右に膨らんでおり、金属さえ咀嚼するほどの強靭な口がついている。
 まりもの柔らかそうな髪に、そいつ……兵士級の硬い歯がぬらりと光って近づいている!

 武は、声をあげようとしたが喉が麻痺したように動かない。
 突然の光景に、意識と体がずれているのだ。
 もとより武が迅速に動いたり警告を発したりしても、間に合うタイミングではない。
 まりもとの間に横たわるわずか数十歩の距離が、今は月よりも遠かった。
 まりもの頭部に兵士級の影が落ちた。

(まりもちゃんまりもちゃんまりもちゃん――うわぁぁぁぁ!?)

 次の瞬間の惨劇を幻視した武の意識は、あまりの恐怖に抱きすくめられふっと遠のきかけ――
 突如、腕がかっと熱くなる。武の意志によらず右掌が開かれ、兵士級の頭部に向けて突き出された。

「流派! 東方不敗が最終奥義ぃぃぃ!
石破! 天驚けぇぇぇん!!」

 『何か』が武の体を借りて吼えた。
 轟っ!
 武の全身から掌へ、音より早く集約された生命エネルギー『気』が。光に匹敵する速度で破壊力と化して打ち出される。
 巨大な掌の形となったそれは、まりもの頭部が噛み砕かれるよりほんの一瞬早くBETAを跳ね飛ばす。
 異星生物の体内に浸透した衝撃はさらに容赦なく迸って、空中で兵士級の体を粉微塵にした。

「……え?」

「え?」

 死神の鎌に命をさらわれかけたまりもと、自分が為した事が信じられない武の口からそろって声が漏れた。
 そこでようやく、BETAの体液が地面を叩く濡れた音が響く。

(――まったく。最後まで手を焼かせおって。この馬鹿弟子がぁ!)

 武の脳裏に男……いや漢らしい高笑いが響く。同時に、体内から何かが抜け出ていくような感覚を覚えた。
 はじめて聞く声だが、この話し方を間違えるはずもない――

「ま、まさか……し、師匠?」

「ど、どうしたの白銀少尉? え? 今のは……?」

 軍人モードと素の間の態度で目を瞬かせるまりもの前で、武は沈む夕日に向かって絶叫した。

「師匠……! しぃしょぉぉぉぉぉお!!」


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