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[14587] 《習作》とある八番目の超能力者
Name: gennsosousa◆2319efa4 ID:c21fb807
Date: 2009/12/30 19:52
 これはとある魔術の禁書目録の男オリ主本編再構成モノです。
 注意事項としては

・オリ主は嫌い。
・上条の方だけにしてほしい。一方通行の方はしなくていい。

 と言う方は見ない方がいいかもしれません。


7月19日


 学園都市――――東京都の西部3分の1を占め、外部と隔離された巨大都市。最先端の科学を研究する拠点であり、風力発電用風車や清掃用・警備用ロボットの実用化など、科学技術が20年から30年の差があるとさえ言われる都市。

 そんな都市でも路地裏というモノは存在し、無論不良というモノが其処に居ないという事は無い。

 コンクリートとコンクリートに阻まれた、細長い直線のような場所。

 両サイドを囲んでいるのは学生寮と言ったところか。

 そこで五人ぐらいの少年が息巻いている。

 更に視線を下に向ければ、地面には三人ほどの人間が四肢を金属に刺し貫かれ血を流して倒れていた。

 五人の少年達の手にはナイフに鉄パイプ、催涙スプレーなどが握られている。

 殺傷力は高いが使い慣れているという感は無く、ナイフや鉄パイプは光沢を放っているし催涙スプレーに至っては袋から取り出した新品ですという印象は拭えないが、それが殺人にも使える得物だという事に違いは無い。

 いや、むしろ素人が威力も分からずに使うというのは、それはそれで別種の危険性を孕んでいるとも言える。

 五人の少年は一人の人間を取り囲んでいた。

 彼らの目は全員血走っている。

 それでも、取り囲まれている人間はどんな状況でも対応できるように構えをとってはいるが、その貌には恐怖の表情は少しも浮かんでいない。

 彼を表現するとすれば黒だ。

 何故なら、服装は何のデザインの無い黒い半袖のTシャツに黒いジーパン。

 日本人らしい黒い髪に黒い目。

 例外な部分といえば黄色人種の肌ぐらいだ。

 おォあ!という背後からの絶叫。

 彼を取り囲む凶人達の一人が、ナイフを手に彼の背中へ突っ込む。

 だが、彼は見向きもしない。

 無論、視線は向く事は無い。

 その無防備以外の何物でもない背中に、凶人は体ごと突っ込むような形で全体重を乗せたナイフの先端を突き入れようとする。

 グニャリ、という音が彼の背中に突き刺さると同時に響く。

 もちろん、それは彼が背中にゼリー状のモノを付けていたのではない。

 その音の音源の元は凶人が持っていたナイフだ・・・・いや、元ナイフと言った方が正しいだろう。

 何故なら、ナイフは彼の背中に突き刺したのと同時に液体となって下に滴り落ちたのだから。

 そして、そんな現象に茫然とした狂人の顎に横から拳が入って脳が揺さぶられ凶人はダウンする。

 仲間の絶叫に優爆するように、残りの四人の少年達が一斉に襲い掛かる。

 しかし、本当の意味で『勝てる』と思って戦っている者は、何人いるだろうか。

 彼らの目は確かに血走っている。

 だが、それは度を越した緊張や不安、恐怖や焦燥によるものにも見える。

 次々と雄叫びを上げて振るわれるナイフや警棒に、しかし彼は恐怖の色など見せない。

 そして、先程までナイフだった液体が彼の掌に収まると同時に目潰しとして襲い来ている凶人達に投げる。

 彼の掌から投げられた液体は金属に戻り、不細工な針と化して襲い掛かる。

 皮膚を貫き、血が流れた事によって痛みを感じて一人が足を止める。

 その一人に彼は接近して腹部に拳を叩き込む。

 余程に彼のその一撃は強打だったのか、或いは全く鍛えていないのか彼の拳を受けた一人はくの字に体を曲げて地面と挨拶する。

 残りの三人はヤケクソになったのか、三人とも彼の前方から襲い掛かる。

 数の優位性である多方向からの同時攻撃を捨てて。

 そんな三人を見て、溜息をついて呆れた表情を彼は抱くと共に三人は爆発に包まれる。

 何の爆薬もないというのにそんな異常な現象を起こしている事と何の魔術式も持っていない事から彼は能力者なのだろう。

 そして、爆発が収まった時そこには意識は無くなってはいるが、爆死はしていない事から手加減をしているのか、或いは異能力(レベル2)か強能力(レベル3)なのだろうか?

 戦闘と称していいのかは分からないが、とりあえず終わりを告げた事により彼はのんびりとこの場を去ろうとする。

 病院に電話をかける気配はない。

 まぁ、自分を襲った人間の事まで面倒をみると言うのはいい人すぎるが、四肢を金属に刺し貫かれた三人は下手をすれば出血多量で死ぬ可能性があるというのに電話をかけない事から、彼は表の世界に生きる人間ではないのだろう。

 そうやって去ろうとする彼に


「た、頼む。病院に電話をかけてくれ『元素操作(エレメンタルオペレート)』」

「はァ!?お前ラが俺に好きデ襲ッテ来たんだロうが。そこまでシて貰えルなんてイう期待スるなヨ。
 そンな期待すルぐラいなら第八位ノ超能力(レベル5)に挑ンでるんジャねぇヨ」


 そう言いながら、彼はその場から去る。

 だが、去る際に突き刺していた金属が傷口を覆うように変化する。

 それは彼の善意なのか、或いは気紛れなのか。それは彼自身にしか分からない。



[14587] 禁書目録編-0
Name: gennsosousa◆2319efa4 ID:c21fb807
Date: 2010/01/06 20:00
7月20日 00:00


「あーア、ッたく食事前だカらだッたのと気ガ向かナかッたっテいうのがあッたとしテも牙剥イた奴ラを助ケる何てらシくねェなー」


 襲撃者達を殺さずに戦闘不能にして路地裏から出てきた元素操作は首を傾げながら歩く。

 そう、基本的に超能力者(レベル5)の連中で殺しをしないのは元素操作本人が知る限りは第三位の『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴と第七位の削板軍覇の二人だけだ。

 まぁ、第六位はどんな奴かは知らないが、その三人を除いた超能力者は此処が学園都市でなければ自身を含みどうしようもない悪や異常者なのだ。

 うーん、と元素操作は更に腕を組んで歩きだす。

 その行先は彼が外で食う時は好んで行く料理店であり、学園都市の人間の殆どが訪れない料理店でもある。

 何故なら、その料理店は一言でいえば味付けが極端すぎ、カレーなどの辛いモノには甘口などは存在せず、常人なら常に水を大量に口に含んでいなければ食えない辛さだし、デザートなどは甘すぎて食えたものではないのだ。

(ッてイうカ、アレイスターのクソ野郎は何デ大気中に異物混ぜテんだヨ。鬱陶シい)

 彼が言っている異物――――それは『漂空回路(アンダーライン)』という形状は球体状のボディの側面から、針金状の繊毛が左右に三対、六本飛び出しているモノであり移動方法は地上を歩くのではなく空気中を漂ようといった感覚だ――――に気づけたのは彼の能力――――とは言っても、学園都市の科学者も未だ解明できていない本質の力の副産物か、或いはその本質に辿り着くまでの過程らしい―――――が文字通り元素操作である事が起因だと言える。

 全ての元素を操れるという事は即ち窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素で構成されている大気も操れるということであり、それ故に大気中の僅かな異変にも気付いたのだろう。

 そして、アレイスターだと決めつけたのは・・・・恐らくはこの学園都市でも全ての権力を握っていると思っているからだと思われる。






「いらっしゃいませー。お一人様でよろしいですか?」


 店に入るとウェイトレスが業務用笑顔で向かい入れた。

 ただし、その顔は若干驚いている。

 どうやら新しく入ったアルバイトらしいので、ここで働き始めたからこそこんな料理店に来る人がいる等という事が信じられないのだろう。

 元素操作は窓際の席に座る。

 本来ならば一人なのでカウンター席に座るべきなのだろうが、この店には店長と料理人の両方をこなすオヤジさんとウェイトレスの二人ぐらいしかいないし、来店する客もいないから誰も注意などしない。

 水を運んできたウェイトレスに向かって元素操作は適当に注文してぼんやりと窓の外へ目を向けると一体何処から集まって来たのかというほどの不良集団・・・・恐らく、超能力者の中で一番最下位の第八位であり、打倒できる可能性が高い元素操作を狙って襲いに来たのか、店に近づき元素操作の直ぐ傍の窓ガラスを割ろうと金属バットで叩くがガラスが割れる事はなく反動なのか金属バットで叩いた奴は尻餅をつく。

 それを見て、違う奴が銃を取り出して窓ガラスに打ち込むが、これもまた銃弾が貫通する事は叶わずに地面に落ちる。

 普通ならば、窓ガラス程度を金属バットで叩き割る事や銃弾で貫通する事は簡単だ。

 ならば、何故できなかったのか?

 それは偏に元素操作がこの店の外の大気中にある窒素を操作して、この店の周りの数センチを圧縮した窒素の塊で覆ったからであり、これを突破するのは磁力狙撃砲でも不可能であり、並みの不良では突破する事は不可能。

 そして、その事を知っているのか或いはマイペースなのかオヤジさんは気にせずに料理の作業を続けている。

 新しく入ったウェイトレスも初めは怯えていたが店長が料理の作業を続けている所を見て大丈夫だとわかったのか安心しだす。

 だが、ウェイトレスの安心は長くは続かなかった。

 ゴッ!!という爆音と共に店の周りを囲っていた不良集団が吹き飛ばされたからだ。

 幸い、この料理店の周りは元素操作が大気を操作して被害はないが、余りの爆発力にこの料理店以外のガラスはまとめて叩き割られる。

 もうもうと立ち込める粉塵。

 それを突き破って、第二位の超能力者『未元物質(ダークマタ)』垣根帝督がゆっくりと歩いて店のドアを開ける。

 ウェイトレスは爆発に驚いたままでとてもではないが接待ができる状態ではなく。

 オヤジさんはやはり気にする事無く黙々と料理作業をしている。

 そして、垣根帝督は元素操作を見つけると――――というよりもここで客と言えば元素操作以外いやしないが――――その逆側に座り


「よぉ、久しぶりだな。最下位」

「・・・・最悪だァー、何たッて折角の食事時ニ俺ト同じ第二位のクソ野郎と会わナきゃいケねェんダ」


 元素操作は不快気に呟くが、警戒したりここから脱出する事に思考を回したりなど一切していない。

 それは諦めなのか、或いは戦ったとしても死ぬ事はないという自信なのだろう。

 そんな元素操作に


「お前、何で最下位何ていう所に居るんだ?」

「はァ?
 おイおい、それじャ何カ俺は今の超能力者ノ最下位以上ノ強サがあるとデも!?
 もし、そうだトして『身体検査(システムスキャン)』ヲどうヤって誤魔化してンだよ?」

「ハッ、それじゃ一つ聞くがよぉ。
 お前はどうやってお前専用に作られたAIMジャマーを付けられて能力が使えない状態で『実験』でお前を殺す為に襲い掛かった特力研の置き去り(チャイルドエラー)達を爆薬など何もねぇのに爆殺出来たんだ?」

「さぁ?
 偶々あの実験の時にAIMジャマ―が狂ってたんジャねェの?
 ッていウか、お前モ俺ノ所に来る暇ガあルなァ?
 早くしねェと『一方通行(アクセラレータ)』がレベル6になッて一生お前はアレイスターにとって交渉価値もない『第二候補(スペアプラン)』のままで終わッちマうゾ」

「お前がその『実験』の参加者から省かれない限りあの野郎がレベル6になるのは有り得ねえだろう。
 確か、お前と一方通行が一万体殺した後にお互い殺しあって勝った方がそれになる筈なのに、お前がまだ一体も殺してないから一方通行が第三位のクローンを殺す予定を狂わせてんだからよ。
 だが、何で殺さねぇんだ?
 まさか、クローンの命は大切ですや自分の命が惜しいんですとかいうんじゃねぇだろうな?
 だったら、ここで今俺がお前を消す」


 殺すというのではなく消すという言葉を第二位の『未元物質』である垣根帝督の能力をもってすれば、骨も残らずに元素操作は消える可能性はある。

 そして、垣根帝督の手の部分からは小さな白光が本当に微量ではあるが出ている。

 それは、この世界の物理法則を狂わす異物。

 それを見て尚、元素操作の貌には緊迫感というモノが浮かび上がる事はなく先程と変わらぬ口調で


「殺すゥー、一体何ノ戯言だァ?
 テメエはどうイう考え方かは知らねェがよ。俺にとッて、殺すッていうのハ自分の意思を持ってイる奴を生体活動停止さセるっていうモノでよ。
 アレは、俺ノ認識デは物でしかねェんダよ。物を壊スだなンてやルのは、小学生低学年カ不良程度の三下ぐらいしかしねぇだろうガ。俺ハそんなのニなるつもりはねぇヨ。
 まぁ、五月蝿くなる程に殺れッて言われたら或いは『大掃除』として一気に俺ノ担当の検体番号00001から05000と15001から20000まで消すかもしれねぇがナ。
 命ガ惜しイっていう思考何かハ、俺にハねぇよ。
 それにィ、人間何レ死ぬンだ。なら、老いボれでヨボヨボにナルよりか若い時ニ死ンだ方がいいンじゃねぇカ」

「ハッ、そうかよ。
 やっぱり、お前は俺や一方通行と同等の悪党だな。
 動きを止めたきゃ殺し、気に食わないものがあれば壊すっていうどうしようもない社会のクズ野郎だ」


 それで言う事は全部言ったのか席から立って店から出ていく。

 垣根帝督が出ていき、数分が立ったと同時にゴン!!という音と共にテーブルに拳大の穴ができる。

 その音源の方を垣根帝督が去った事により、漸く立ち直った驚いてウェイトレスが音源の方を見るとその穴の部分に元素操作の拳があった。

 穴が出来たのは恐らく不良集団から店を守る為に窒素の塊を覆って殴ったのだろう・・・・・というよりも純粋にそう思いたい。

 もし、能力を使わずにやったというのならば彼はとてつもない怪力を持つ人間だという事になる。

 そして、ウェイトレスの視線に気づいたのか


「あァ、悪ィ。
 さッき注文シたのお持ち帰りニシてくレ。このテーブルの穴の修理費ハ一緒ニ払うかラよ」

「は、はい!!」


 慌ててウェイトレスが奥のオヤジさんの方へ言いに行くのを確認して水を飲む
。 既に氷は溶け、冷たくなくなり温くなった水が不快なのか貌を歪める元素操作。

 そして、窓からも見える月を見ながら


(クソが、一番胸糞悪ぃあの事を思い出させルよウな事を言いやがって・・・・しカも、ウざってぇ能力者を外ニ配置してヤがッたな)







 元素操作が居た店から出てきた垣根帝督はしばらく歩いてある人物と合流した。

 合流した人物は小柄で派手なドレスを着た少女だったが、わざわざ垣根帝督が合流するという時点で唯の少女ではない。

 彼女は学園都市の暗部組織「スクール」のメンバーの一人で本名は分からないが能力は『心理定規(メジャーハート)』――――標的の他人に対して置いている心理的な距離を読み取った上で、それを元に標的と自分の間に存在する心理的な距離を自由に操ることができる――――という力の持ち主である。

 例を上げるとすれば、近しい人物相当にまで距離を縮められてしまえば攻撃できないし、それ以上の関係にも距離を近づけ、相手の本心を能力で塗りつぶすこともできるが、逆にいえば「距離が近しい程殺意が沸く」、「裏切られたことに逆上し、より一層激しい攻撃を仕掛ける」というような人間が対象となる可能性もあるので完全に穴がないという事ではない。


「で、あいつにお前の『心理定規』はあいつに通用しそうか?」

「いいえ、駄目。少なくとも元素操作と戦う時は、私は係わらないわ」

「あ?」

「私の『心理定規』は人の心の距離を調節する能力よ。
 だから、元素操作の最も近しい人と同じ距離を保てば、元素操作に攻撃を躊躇させる事が出来るかもしれない」

「だから?」

「でもね、『最も近しい人』と敵対した時の反応は必ず刃を止めてくれるっていうものでもないの。
 少なくとも元素操作はその可能性はなさそう。
 だって、彼って今の所最も近しいっていう感情を抱く人間は、名前とその人物の情報から推測したら殺す間柄の人しかないもの」


 ふうん、と垣根はつまらなそうに答えた。

 声に失望感がない事からドレスの少女の戦力はそれほど期待していないのだろう。

 ドレスの少女はそんな垣根を見て


「でも、元素操作と貴方がぶつかり合うなんて事があるの?
 元素操作もこっち側で生きてる人間だけど私達の仕事に係わってくるとは思えないんだけど」

「いいや、あいつが俺や一方通行と同等の悪党である以上何れぶつかる」


 そう、とドレスの女は言いその場から去っていく。

 垣根帝督は先程元素操作が『実験』で『妹達』を殺さない理由を頭の中で復唱し、虚空に呟く。


「――――『元素操作』か」






7月20日  P.M04:30



 大通りから脇道に逸れ、さらに細い路地を通り抜け、五階建ての学生寮。

 周りにあるビルが全て十階以上の高さを誇っているので、そこだけが湿った闇に包まれているような錯覚がある。

 コンクリートの芯まで湿気が染み込んでいるような、そんな感じの建物である。

 其処の三階の三十号室、その部屋を見た人間は絶対に何かがおかしいと思うだろう。

 まずドアがない。

 ぽっかりと開いた入口の向こうには、道具や持ち物と呼べる物が全くない。

 床には複数の土足が残されており、その他全てはメチャクチャに破壊されている。

 壁紙も床板も引き剥がされ、靴箱も壊され、台所には火を付けたらしき痕跡も残っており、テレビは凸凹にへこまされ、中の電子機器が顔を覗かせており、ベッドはひっくり返され、ソファは中の綿が全て出ている。

 おそらく元素操作が部屋にいない時に襲撃されたのか、或いは以前に襲撃されたまま修復していないのかのどちらかだろう。

 そんな惨状の状態で元素操作は綿が全部出ているソファに寝転がっていたが、空腹でなのか睡眠をこれ以上取る気はないのか目を覚ました。

 かろうじて壊されていない置時計を見れば午後四時過ぎ。

 すでに昼食の時間を過ぎている。

 とりあえず何かを食べようと思った元素操作は、己が部屋の惨状を見た事により寝ぼけていた思考が目覚め出す。


「アー、そういや台所壊れてたんだったな。
 さて、どうすっか・・・・ん?何でこんなにマトモに話せるんだ?」


 元素操作はある理由で言語機能に障害が生じている。

 それ故に何故こんな風に普通に話せるのかを疑問に抱いて周りに異変が起こって無いかを確認し、何時もと変わらない事から体に何か異変がないかを探し・・・・・・首筋の部分にある物に気付く。


「何だぁ、これは?」


 その首筋に巻かれていたのは白いチョーカー。

 少なくとも元素操作にとっては昨日まで見覚えがなかった物だ・・・・と言うよりもテーブルや冷蔵庫などの家庭器具ならばともかく、ファッションに関しては黒一色ですましている彼が白と言う自分の好みとは反対の色であるチョーカーを買う筈がない。

 しかも、良く見てみると白いチョーカーは唯のチョーカーではなく電極の様だ。

 そこまで確認した所で携帯電話が鳴りだす。

 その携帯電話を億劫な動作で取り出す。


「誰だ、このウザいチョーカーを取り付けた奴か?」

『おやおや、お気に召しませんでした?
 あなたの言語障害を取り除く為に態々特注で作り上げた物なんですがね』

「そんな事はどうでもいいんだよ。
 オレは少なくともテメェの声に聞き覚えはねぇ・・・・って事は善意があってオレを助けたって事はねぇだろう?」

『話が早くて助かります。
 率直に言わせて貰いますが、あなたには我々の駒になって頂きたい』

「何だと」

『あなたの未だ本質が解明できていない超能力はどんな戦場でも使えますし、何よりAIM拡散力場が検出されていないのに、レベル5として認定されていますので、連中と激突してもそうそう死にはしないでしょうし、仮に連中から何か言われたところで言い逃れができます』

「連中だぁ?」

『あぁ、今現在のあなたには関係のない話ですよ。それで、どうでしょうか?』

「あ?何だ?もしかして、テメェはオレの言語障害を治した事を恩に着せるつもりかぁ?
 唯でさえ、朝目覚めたらこんなチョーカーを勝手に付けられて苛々してるってのに、テメェはオレに叩き殺されてぇ自殺志願者か!!」

『いいえ、そんな事は全く思っていません。
 ただ、今現在の定められた境界が崩れて行く切欠が、この学園都市に来てしまいました』

「・・・・人の話を聞いてやがるのか?」

『下手をすると、崩れると言っているんですよ。
 我々はこれを即座に阻止できるような態勢を作っておきたいし、あなたにも協力して欲しい。
 まぁ、強制はしませんが、一度よく考えて下さい。
 仮に学園都市が崩れた場合、我々能力者に居場所はあるのか。また、その他の技術に関しても同様です』

「――――、」


 今現在進められている『実験』で彼と一方通行がぶつかるまでの過程でターゲット役になっている第三位『超電磁砲』御坂美琴の軍用量産型能力者の今現在残っている一万五千体以上。

 彼女達には『外』に居場所がない。

 下手をすると、今現在より酷い軍事研究所へ送られる羽目にもなりかねない。

 何しろ、国際法を破るというリスクを押してでも造り上げたクローン達・・・・そう、あのアレイスターが彼か一方通行をレベル6にする為だけにするとは考え辛い・・・・恐らくはアレイスターにとっても利用価値がある存在なのだから。



 そして、『妹達(シスターズ)』が己の自我を発現させるまではこの学園都市は必要だろうし、この電話の発声者と発声者が言う連中とやらが何であるかは分からないが、彼が過去に自身に科した事の為にもここを破壊させるわけにはいかない。

 どれだけ醜かろうが、この学園都市は子供達の世界なのだから。

 統括理事会という『教師』は汚いが、奴がいなければ学園都市という『学校』は機能しなくなる。こればかりは『生徒』の方がいくら暴れても解決する事はない。

 結局の所、進む道は一つ以外存在しない。

 彼は舌打ちし、覚悟を決める。

 電話の発声者に言う。


「テメェの駒になってやる」

『良い返事です・・・・・さて、何時も通りに喋らせて貰うよー』

「・・・・おい、口調が変わりすぎだろう」

『細かい事を一々気にすんなー、っていうかあの口調は疲れるんだよ!!
 それにしても、よく『グループ』の奴はあんな口調を何時もしてて肩こらないのかしら?
 まぁ、そんな事はどうでもいいか。ようこそ『アカデミー』へ、新入り君・・・・って言っても君意外にメンバーはいないけどね。
 下っ端君達はいるけど』

「おいおい、そんなんで大丈夫なのかぁー?
 オレが裏切りゃ、テメェは『グループ』とかの上司に消されんじゃねぇの?」

『う~ん、確かに君が裏切ればそうなるね。
 でも、少なくとも君が過去に自身に科した事から推測すると・・・・裏切れないでしょぉぉぉぉう?』


 みしり、と手の中の携帯電話が軋んだ音を上げた。

 自分以外はあのアレイスター以外は知る筈がない過去の出来事を土足で踏み躙られた、頭の血管が切れるかと思った。

 元素操作の動向が大きく動く。

 それと連動するかのように無風状態だった筈の部屋に風が巻き起こり部屋にある家庭器具が宙を舞う。

 それは重量家具であるベッドや冷蔵庫も例外ではない。


「テメェ・・・・何処までオレの事を調べやがった?」

『まー、私の命に係わる事だから生まれた時から今日に至るまでの全部を調べたよー。
 君が何で言語障害の『偽装』をしているかもねぇぇぇぇ。
 さて、無駄話は此処までにして『アカデミー』の内容確認をするよー』

「オーケー、覚悟しとけクソ野郎。
 屑見てぇな人生とは言え、人の過去を詮索したんだ。
 少しでも駒(オレ)の配置を間違えたら即座にテメェを負かす(殺す)駒になるぞ」

『ふふふ、いいね。それ位じゃなくきゃ、私の駒に相応しくないからね。
 貴方の役割は学園都市の一般人に害を為す魔術師・能力者の排除』

「おいおい、それじゃまるっきり正義の味方じゃねぇか。
 それともあれか、排除ってのは生かさずに殺してもかまわねぇのかよ?」

『当たり前でしょ、警備員(アンチスキル)や風紀委員(ジャッジメント)みたいな表側の組織じゃないんだから。
 余程、その魔術師・能力者が重要な立場で交渉に使えそうな場合以外は全部抹殺よー・・・・・っていうか、魔術師に対して何か質問は?』

「あー?何寝ぼけた事言ってんだぁ?
 別に能力者だっているんだ。そんな奴らがいたって別にいいだろうが一々気にしてられるか。
 まぁ、質問があるとすればそいつらの能力を事前に知らせる事は出来んのか?」

『事前に知らせる事は無理。君の状況判断に期待するー。
 では、早速だけど任務開始ー。行くべき場所の地図は君の携帯に送るからー、頑張ってねーっと、後もう一つ言う事があった。
 今はその電極型のチョーカーの使用で、通常生活だけなら36時間の間は言語障害は無く普通に話せるけど、
 君が『偽装』を解かないと出来ない全ての元素操作を、同時並行で使える時間は10分間だけだからねー♪」



 ブツッ、と唐突に通話が切れる。

 それと共に風が止んだ事により宙を舞っていた家庭器具はゴトン、という音と共に床に落ちる。

 しかし、家庭器具が床に落ちた時は彼の姿はその部屋から消えていた。






「―――――――世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ」


 ステイルの全身から嫌な汗が噴き出した。

 目の前の夏服を着た生き物が、人間のカタチをしているからこそ。

 その皮の中には、血や肉ではなくもっと得体の知れないドロドロした何かが詰っているような気がして、ステイルは背骨が震えるかと思った。


「それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。
 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なリ。
 その名は炎、その役は剣。
 顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ――――――――――――ッ!」


 ステイルの修道服の胸元が大きく膨らんだ瞬間、内側からの力でボタンが弾け飛んだ。

 轟!という炎が酸素を吸い込む音と同時――――服の内側から巨大な炎の塊が飛び出した。

 それはただの炎の塊ではなかった。

 真紅に燃え盛る炎の中で、重油のような黒くドロドロしたものが『芯』になっている。

 それは人間のカタチをしていた。

 タンカーが海で事故を起こした時、海鳥が真っ黒な重油でドロドロに汚れたような――――――そんなイメージを植え付けるモノが、永遠に燃え続けている。

 その名は『魔女狩りの王(イノケンティウス)』。

 その意味は『必ず殺す』。

 必殺の意味を背負う炎の巨神は両手を広げ、それこそ砲弾のように上条当麻へ突き進み、


「邪魔・・・!?」


 上条当麻がその炎の巨神を己が右手に秘められている『幻想殺し(イマジンブレイカー)』――――それが常識の外にある『異能の力』であるならば、たとえ神話に出てくる神様の奇跡(システム)でさえも一撃で打ち消す事の出来る力――――で打ち砕こうと当てる前に炎の巨神は何の音もなく消えた。

 その事に上条は疑問を抱いた。

 自分の右手が触れていないのに何故、と。

 一方、ステイルの方は炎の巨神が邪魔になって幻想殺しが触れていない事に気づいていないが故に笑っている。

 ビュルン!!と粘性の液体が飛び跳ねる音が四方八方から響き渡る。


「な、―――――――ッ!?」


 その現象によって、先程浮かんだ疑問は消え去り驚きながら上条は一歩後ろへ下がった瞬間、四方八方から戻ってきた黒い飛沫が空中で寄り集まって、再び人のカタチを作り上げる・・・・と同時に再び何の音もなく消える。


「何ッ!?」

「まただ、一体何なんだ!?」


 今度はステイルも確認できたのか驚愕の声を上げる。

 それは当然、上条の右手が触れていないというのに己の必殺が消えてしまったのだから。

 そして、上条もまたこの以上が把握しきれずに混乱する。

 そんな中、コツコツコツという足音が非常階段の方から響いてくる。

 それが止んだ時、上条やステイル、血を流し倒れているインデックスの後方に肌以外は全てが黒一色で統一された超能力者がいた。







 aoi様、感想ありがとうございます。
 原作キャラとくっつくのは・・・・・今の所考えていませんが、そういう意見が続出したらもしかしたらするかもしれません。今の所親しくなるというか、助けるかもしれないのはミサカ00001と一つだけとはいえ同じ元素操作ができる絹旗最愛ぐらいです。

 TNK様、感想ありがとうございます。
 応援ありがとうございます。これからも原作キャラをくわずに尚且つ印象を強くできるように頑張って書いていきます。

 ぺケス様、感想ありがとうございます。
 期待に応えられるように頑張って書いていきます!!

 リョウ様、感想ありがとうございます。
 楽しめる作品にしていくように頑張ります。

 緑茶様、感想ありがとうございます。
 良いですか・・・・・ありがとうございます!!

 karu様、感想ありがとうございます。
 今回『未元物質』と会わせてみましたがどうだったでしょうか?

 魔操砲兵様、感想ありがとうございます。
 核融合ですか・・・・・・時間をかければ重水素と三重水素を生成してできますが、使用はさせません。まぁ、禁書の原作がそれぐらい持ってこなきゃ叶わない敵が出てきたら分かりませんが・・・・・(-_-;)



[14587] 禁書目録編-1
Name: gennsosousa◆2319efa4 ID:c21fb807
Date: 2010/01/06 20:13
 上条とステイルは困惑する。

 上条はインデックスを狙いに来た新しい魔術師なのか、と。

 ステイルは自分と神裂以外の魔術師が学園都市に侵入したという情報は無い事から、目の前の相手を能力者と判断すると同時に、下手をすれば科学と魔術の全面戦争になる火種になるのではないか、と。

 今のこの時間帯は夏休みが始まったばかりで人がいない筈の学生寮なのに人がいる・・・・いや、それはまだいい。

 彼がやってきた事でステイルのイノケンティウスは音もなく消滅した。とても彼が無関係だとは思えない。

 そして、夕方になり日が落ちかけている事によって暗闇が出現し、黒一色という服装がその風景と一体化して不気味さが映える。


「おいおい、人が『疑似的』とは言え偽装を解いてマトモな状態だっていうのにブチ殺す相手が火遊び野郎っていうのはテンション下がるぜー」


 そんな困惑している上条とステイルに対して何時もと変わらない口調で話しかける元素操作。

 時間を気にせずに何時も通りという事から考えて、未だ全ての元素の同時並列操作を開始する為の能力使用モードを起動していないのだろう。

 起動させていない状態では、現在の元素操作では――――未だ解明できていない能力だが――――操作できる元素は一つだけ。

 その事から考えれば、イノケンティウスを消滅させる事が出来たのは出現する座標上の酸素を操作して無酸素状態にしたのだろう。

 だが、その事で少し疑問が起こる。

 酸素を操作できるのならばステイルの周りの酸素をなくして窒息死させる事が出来る筈だ。

 なのに、何故それを実行しなかったのだろうか?


「おい、そこのツンツン頭」

「な、なんだよ!?」

「そこの血まみれ状態になってやがる修道女を連れてさっさとここから離れろ。早くしねぇとその修道女、出血死するぞ」


 元素操作は修道女の安否を気にするように言っているが暗に言う。

 お前は邪魔だ、と。

 この場にいた事で何もできない、と。

 それは正しいと上条は思う。

 現に、こいつが現れなければ俺はあの炎の巨神に燃やされていたかもしれない。

 そんな俺がこの場にいた所でこいつと魔術師の邪魔にしかならない。

 それに、俺がわざわざ死の特攻をかけなくてもこいつはここから離れろと言っているのだから魔術師を倒す算段はあるのだろう。

 だが、例えそうだとしても俺がこの場からインデックスを連れて去り、目の前のこいつに魔術師の相手を頼む。

 ここから逃げるためじゃない。

 ここから逃げるためじゃない。

『・・・・・・、じゃあ。私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?』

 なのに、その言葉は自分の胸にザクンと突き刺さる。

 何も悪い事はしていないのに。
 
 何も悪い事はしていないはずなのに。

 これと殆ど同じ状況で、インデックスは教会に着いてから教会の人間にフードを取りに行くのを頼んでもよかったというのに、それでは俺が魔術師の戦いに巻き込まれるからと思い戻ってきたとしても。

 やっぱり俺は、出会って三〇分も満たない赤の他人と一緒に地獄へ落ちようなんて考えられない。

(ちくしょう、そうだよな・・・・・・・。地獄の底まで、ついて行きたくなけりゃあ・・・・・・地獄の底から、引きずり上げてやるしかねーよなぁ!!)

 そして、何より


「・・・・・ねぇだろうが」

「あー?」

「そんな事が出来るわけねぇだろうが!!
 コイツは、インデックスは、俺を魔術師達との戦いに巻き込ませない為にこんな血まみれになったんだ!
 それなのに、このクソ野郎をブン殴らねぇでここから逃げられるわけねぇだろうが!!」

「・・・・・おいおい、お前正気か?
 テメェ自身の私情のために、その修道女の命に係わる問題を」

「僕の事を無視しないでくれるかな?
 ――――――灰は灰に、塵は塵に。吸血殺しの紅十字!」


 元素操作が最後まで喋り終わる前に、今まで沈黙を保っていた炎を操る魔術師であるステイル・マグヌスは右手にオレンジ色の炎剣を生みだし、左手に青白く燃える炎剣を生みだして上条に突撃する。

 今まで、元素操作との会話に集中していた上条には右手をその二つの炎剣に向ける余裕は無く、確実に直撃する。

 それは摂氏三〇〇〇度の炎の地獄。人肉は二〇〇〇度以上の高熱では『焼ける』前に『溶ける』事になる。

 故に上条はこの場で溶けた死体になる筈だった。

 だが、


 真横。


「ッ!?」


 上条が息を呑む前に、ステイルの真横に元素操作は飛び込んでいた。

 消えた。

 そう判断するしかないほどの速度で懐深くに元素操作が潜り込むと同時にステイルの両手にあった炎剣はイノケンティウスのように消える。

 そして、全ての攻撃手段を失い無防備としか表現のしようがないステイルの脇腹に元素操作は肘を叩き込む。

 くの字に曲がるが、その場に佇んでいられるという事から元素操作はこの一撃で殺す気は無いのだろう。

 彼が本当に殺す気があるのなら、最初にステイルの周りを無酸素状態にしたらいいのだから。

 それを証明するかのように


「おいおい、人が会話している所を邪魔するっていうのは・・・・その、何だ。神父としても人間としてもどうかと思うぜ。
 まぁ、あれだな。その目元のバーコードからして、自分は売れ残りの商品か不良品ですっていう事はわかるがよぉー。
 ・・・・それとも、あれか?本当に空気の読めない天然野郎ですかぁー!?」


 嘲るように、苦悶の表情を浮かべているステイルに話しかける元素操作。

 強力な魔術であるイノケンティウスや吸血殺しの紅十字を使う反面、膨大な魔力生成のための作業でスタミナの消費が早く、体術が得意ではないステイルには殺す気が無いとは言え、脇腹に喰らったダメージが尾を引いているために喋る余裕があるはずがない。

 そんなステイルを見て飽きたのか


「おい、ツンツン頭。
 今なら何発でもこの不良神父を殴れるぞ。さっさと殴って、その修道女を背負ってさっさとこの場所から消えろ」


 上条に話しかける。

 元素操作の自分に向けての言葉を聞きながら上条は思う。

 こいつは何で俺に何度もここから消えろと言っているのだろう、と。

 ここまで圧倒的ならば、例え俺やインデックスがいても魔術師が傷つける前に沈静化する事が出来る筈だ。

 それなのに、この場から離れさせたい理由・・・・・頭の中である一つの理由が思い浮かぶ。

 その事をこいつの口から否定して欲しいから尋ねる。


「お前、まさかその魔術師を殺す気じゃねぇよな?」

「勿論――――殺すぜ。
 こいつは、魔術師とかいう『オカルト』方面の人間だ。
 そんな人間が『科学』の代表と言ってもいい学園都市に侵入したんだ、殺されてもおかしくはねぇんだぜ。
 それに、侵入して脱出するという過程に死んでしまうという事はこいつも想定してた筈だ。
 それなら、ここで俺に殺されたところでこいつも未練はねぇだろう?
 まぁ、テメェに修道女を連れてここから消えろって言ったのは、こいつを殺す過程で見せちまうかもしれねぇスプラッタな光景を見せて、テメェの精神が壊れねぇ様にって思ったクソ野郎の僅かしか残っていない善意ってヤツだ。
 それとも、まさかテメェは自分を殺しかけた人間を殺す事はいけない事です、なんて言う博愛主義者って奴なのかぁ?」


 しかし、その問いに一瞬の躊躇いもなく殺すと言い切る元素操作。

 それに反論しようとして上条は異常に気付く。

 誰もいない。

 確かに夏休みが始まった事で寮に残っている人は少ないだろう。だが、寮の近くの車道から何の音も反響してこない。

 まるで、誰もいない惑星に放り込まれたように。


「私が人払いの結界を張らせて貰いました」


 ゾン、と。いきなり顔の真ん中に日本刀でも突き刺されたような、女の声。

 気づけなかった。

 その女は物陰に隠れていた訳でも背後から忍び寄ってきた訳でもない。

 上条や元素操作の前方に、三メートルぐらい先の、日本のマンションならば何処でもある普通の通路の真ん中に立っていた。

 腰まで届く長い黒髪をポニーテールにまとめ、腰には『令刀』と呼ばれる日本神道の雨乞いの儀式で使われる、長さニメートル以上もある日本刀が鞘に収まっている。

 格好は着古したジーズンに白い半袖のTシャツ。

 ジーンズは左脚の方だけ何故か太股の根元からばっさり斬られ、Tシャツは脇腹の方で余分な布を縛ってヘソが見えるようにしてあり、脚にはヒザまであるブーツ、日本刀も拳銃みたいな革のベルトに挟むようにぶら下げている。

 暗がりで見えなかったとか気がつかなかったとか、そんな次元ではない。

 確かに一瞬前まで誰もいなかった。

 だが、たった一瞬瞬きした瞬間、そこに女は立っていたのだ。

 しかし、


「ハッ、さっきから其処に居ながら今まで出てこなかったのに仲間を助けるために現れたってかー!?
 修道女っていう聖職者に死ぬかもしれない大出血の傷をつけたクズ野郎がお優しい事だなぁー、感動過ぎて泣けてくるぜ」


 元素操作は気づいていたのか何時もと変わらない口調で現れた女に話しかける。

 彼が女の存在に気づいていたのは、偏に彼が先程まで酸素を操作していた事によるモノだ。

 大気の二〇パーセントを占める酸素。

 ならば、それを操作するという事は大気に触れている人間の位置も分かるという事だ。

 そして、日本刀というこの学園都市の中では古臭い武装から考えて目の前の魔術師と判断し、修道女の傷から考えてもくの字に曲がり苦悶している魔術師の炎剣では、あれ程鋭利に斬るという事はあの熱量を持つ炎剣では不可能・・・・その結果、この女しかいないと判断して元素操作は告げたのだろう。


「誤解を解くために言わせてもらいますが、私達はこの学園都市に入いる許可は貰っています。
 そして、私達は彼女を保護する為に来たのです。ですので、邪魔をしないでいただきたいのですが」

「ハッ、あんな致命傷染みた傷を付けた人間が『保護』っていう事をほざいても説得力ねぇぞー!!
 それに、俺は今絶賛好評的に一般人を傷つけてやがる能力者・魔術師のごみ野郎の掃除係でなぁー、見逃す気はねぇし、当然邪魔をさせて貰うぜぇぇぇ!!」


 ステイル・マグヌスと対峙し、自分とは正反対の生き方をしている上条と会話を交えても普段通りだった元素操作が、貌に怒りの表情を浮かべ激高し、女・・・・神裂に叫ぶ。

 それと同時に通路中の空気が変わる。

 ゾン!!と。

 不意に、人払いの結界内に、得体の知れない殺気が充満する。

 それは元素操作から放たれたもの、学生であり日本という戦争や紛争などとは無縁の平和な国で育ち、更にその年齢で放つには異常過ぎるほどのもの。

 だが、その殺気を受けても神裂は緊張した様子を見せない。


「仕方がありませんね。
 魔法名を名乗ってから、彼女を保護させて貰います」


 いや、寧ろ世間話をするような気楽さで話しかけながら両目を閉じる。

 そんな神裂を見て、元素操作は顔を歪める。


 瞬間、神裂火織の斬撃が襲いかかってくる。


 元素操作と神裂の間には三メートルの距離があった。

 加えて、神裂の持つ刀は二メートル以上の長さがあり、女の細腕では振り回す事はおろか鞘から引き抜く事でさえ不可能に見えた。

 ―――――、そのはずだった。

 だが、次の瞬間、巨大なレーザーでも振り回したかのようにこの階の清掃にもう一度やってきたのか元素操作と上条、インデックスの後方に三台の清掃ロボットをまるでバターでも切り裂くように音もなく斜めに切断され爆発する。


「やめてください。一瞬でも油断すれば」

「ケッ、ワイヤーかよ。
 つまんねぇ小細工しやがるんじゃねぇよ、三下ァ!!」


 神裂が最後まで言い終わる前に、元素操作が神裂の放った斬撃の正体を明かす。

 そして、爆炎が晴れた時、其処には無傷の一台の清掃ロボットがあり、その周辺に守るかのように神裂が操る『七閃』と同様のワイヤーが円錐状に囲っている。

 そのワイヤーを操っている元を目で追えばその先には元素操作の左手があった。


「私の『七閃』を初見で見破った事に対しては感嘆の一言を送りましょう。ですが、勘違いをしないで下さい。
 私が持っている七天七刀は飾りではありませんよ、七閃をくぐり抜けた先には真説の『唯閃』が待っています。
 それに何より――――――、私はまだ殺し名である魔法名を名乗っていません。名乗らせないでほしいのです。
 私は、もう二度とアレを名乗りたくない」


 神裂は、痛々しそうに目を元素操作や上条の後方にいるインデックスに向けて唇を噛みながら告げる。

 魔法名を名乗りたくない。

 それは、炎を操るステイルと違い完全な必殺だからだろうか?

 人ではなく『聖人』――――世界で20人しかおらず、『神の子』と良く似た身体的特徴を持って生まれ、偶像崇拝の理論により『神の力』の一端を借り受ける者――――である彼女が放つ攻撃を人が受けては必ず死ぬ・・・・故に必殺。

 しかし、それは傲慢・・・・或いは慢心というものだ。

 仮にも学園都市で八人しかいない中の最下位とはいえ超能力者を相手にして本気を出さない。

 そんな言葉を聞いておいて、元素操作が何も動かない・・・・などという事は有り得ない。

 先程、ステイルの横に上条が消えたとしか認識できなかった事の再現を神裂の真横に元素操作は現れる事で実現する。

 そして、神裂の頬を横から殴るように肘を放つが


「成程、靴底と地面の間に薄い水の膜を張って、氷の上で馬車が滑るのと同じ理論で体を『滑らせる』ように動く移動方法ですか。
 ステイルのように近接戦闘を主としていない魔術師ならば、この一撃で意識を奪うか・・・・・或いは吹き飛ばせたのかもしれませんが、私には通用しませんよ」


 その肘を右手で受け止めながら、神裂は先程と変わらない気安く話しかける。


「マヌケ、テメェの仲間はこれでお陀仏だぜぇー!!」

「ッ!?」


 だが、それすら予測していたのか左手にあるワイヤーを動かす元素操作。

 元素操作が操るワイヤーの先には、未だダメージが抜けずに迎撃の術である魔術を構築する余裕がないステイルがいた。

 それを見て神裂も己が七閃を持ってステイルを庇おうとして動き出す。

 それと同時に元素操作、上条、インデックスの姿も消える。

 恐らく、神裂やステイルの真横に消えたとしか表現のしようがない速度で上条とインデックスを抱えて離脱したのだろう。


「逃がしましたか・・・・ですが、能力者という者は恐ろしい者ですね」


 神裂は元素操作の肘を受け止めた右手から僅かに滲み出ている血を見て呟く。






 夜。表通りから消防署のサイレンが響き渡り―――――通り過ぎた。

 学生寮はほぼ無人状態ではあったが、二台の清掃ロボットを神裂が七閃で破壊した事によって爆発が起きて、人払いの結界は解除されたのか消火の為に来たのだろう。

 消防車と野次馬で無人の学生寮はあっという間に人だかりの山となる。

 そんな学生寮から少し離れた路地裏。

 そこにいきなり三人の人間が現れる。

 といっても三人の内の二人――――上条当麻とインデックス――――は自分の足を地面につけてはいない。

 黒一色としか表現しようがない服装をした元素操作に上条は首根っこを掴んだ状態で、インデックスは肩に背負われて運ばれている。

 そこそこに鍛えてはいるが、人二人運ぶほどの筋力はなさそうなのに運べたのは恐らく先日の料理店での時と同様に自身の周りに薄い窒素の塊を覆う事によって怪力を発揮しているのだろう。

 そして、いきなり現れたという事から先程の魔術師の戦いでも使った移動法を使用している筈だ。

 その二つの点から、十分という短い時間しか機能できないチョーカーの能力使用モードを使っているのだろう。

 そして、路地裏までついたからなのか上条の首根っこを掴んでいた手を離す。

 重力の法則に従って地面に落ちる上条。

 突然何の断りも無く離されて地面に落とされた事に苦情を言う上条を無視して自分の手を首元のチョーカーにやって通常モードに戻す元素操作。

 その後に、苦情をいっている上条にインデックスを渡す。

 渡されたインデックスを見て上条当麻の顔は驚きの顔に変わる。

 何故なら、インデックスは先程と違い出血していなかった・・・・・いや、正確に言うと出血はしているが、破れている血管から血管へと血液が循環している。

 こんな事は無能力者の自分にはできないし、インデックスも魔術は使えないと言っていたからできる筈がない。

 インデックスを『保護』しに来たと言っていた二人の魔術師は、見た限りでは炎とワイヤーを使っていた。少なくともその二つではこんな事は出来ない筈だ。

 となると、後は目の前にいる炎の魔術師を殺そうとし、その後現れた女と少しではあるが戦った目の前のこいつ以外考えられない。

 目の前のこいつは、炎の魔術師にワイヤー攻撃を仕掛ける、自分とインデックスを抱えてあの場所から路地裏まで連れて来る、その途中でインデックスの出血の対応もする、という三つの行動をほぼ同時にした事になる。

(・・・・第三位でレベル5のビリビリでも、こんな事は出来ねぇ筈だ。服装とか、雰囲気からして魔術師じゃないから、たぶん能力者の筈・・・って言うか、こいつの能力は一体何なんだ?)

 ツンツン頭に修道女を預けると同時に見計らったかのように携帯電話が鳴りだす。

 こんな状況で電話がかかってくるとすれば、自分を己が手駒にした忌々しい『アカデミー』の電話の相手しかいない。

 本当ならば話したくもない相手だが、今の自身の立場は駒だ。

 そして、その立場を逆転するには今は従順な駒を演じるしかない、と自分に言い聞かせてツンツン頭達には聞こえないように少し離れてから通話ボタンを押す。


『ハロー、元素操作』

「何の用だぁ、クソ野郎?」

『うーん、私が君の上司だって事を自覚してるのかなぁー?
 ま、私と同じゴミ野郎でしかない君にそんなことを期待するだけ無理だよねぇぇぇ。
 君に連絡したのは、君と魔術師が交戦した時に出た被害の賠償金には君のお金を使わせてもらったからー』

「はぁ?
 何で、俺の金を賠償金に充てる必要がある?
 俺は、あの学生寮の物は何も壊しても傷つけてもねぇぞ。被害の殆どは魔術師の連中がやっただろうが?」

『うん、そうだねぇぇぇ。
 じゃあ、何で君はその魔術師共を殺さなかったの?
 私は『アカデミー』に誘う時にちゃんと言った筈よ。貴方の役割は一般人に害を為す能力者・魔術師の排除だってぇぇぇ。
 奴らの死体さえあれば奴らがやったって事にもできたんだけど、死体が無いんじゃ擦り付ける事も出来ないしねぇぇぇ』

「おいおい、そうは言うが魔術師に傷つけられた修道女や一般人のツンツン頭がいるっていうのに俺がまともに戦えばよぉ――――――あいつらを殺さねぇですませる事なんか不可能だって事ぐらい分かるだろうが。
 そうなりゃ、俺も一般人に害を為した能力者になるだろうが。それじゃ、本末転倒なんじゃねぇのかぁ?」

『馬鹿ねぇ、それは本末転倒じゃないわよ。
 あくまで、一般人を傷つけた魔術師を排除する過程で出てしまった尊い犠牲なのよ。
 その事で相手にしている魔術師に動揺が出来ればさっさと殺しやすいでしょうし、全く気にしないのならばそれはそれで殺す理由が増えるっていう一石ニ鳥の旨味があるじゃないの』



 この電話の相手は一体何処まで狂っているのか、という疑問が最初に浮かんだ。

 自分は、こちら側に生きている者の中でも、誰よりも光の下に這い出る事などと考えるのも馬鹿馬鹿しいほどにこちら側に浸かってはいるが、穏やかな光の世界に生きる人間が闇の世界に住む人間の犠牲になることを許さないし、一般人の犠牲が出る事態の場合は阻止する。

 自分同様に暗部にいる人間には一切の容赦はしないが、光の世界に生きられそうなまともな奴なら見逃す程度のモラルは残ってはいる。

 だが、こいつは違う。

 こいつには敵がいて周りに一般人がいる場合でも敵から引くという思考は無いのだろう。

 自身を絶対の正義と信じて、戦闘の過程で一般人が傷つき、或いは死んだとしてもそれは戦う相手が戦闘を長引かせたからだと言いかねない。



「ハッ、悪いが俺は悪党でどうしようもねぇクズ野郎だが、それでも人間なんでな。
 テメェが言った事を自分なりに解釈して行動したまでだ。それが嫌ならいちいち電話をかけて指示するんだな。
 ま、最もそれに俺が出るとは限らねぇがなぁ」



 その言葉を最後に、電話を切る。

 そして、ツンツン頭達の方へ振り向くと修道女をこちらに預けようとしているのかツンツン頭は俺の方へ近づいて来る。

 それを見て


「ちょっと待て、ツンツン頭。
 テメェは、傷ついてる修道女を素性もしらねぇ俺に預けてまで何かする用事があるのか?」

「ああ、インデックスがフードをどうしても持って行くっていうから取りに戻らなくちゃいけねぇんだ。
 人が沢山いる今なら魔術師達も襲ったりしないだろうし、フードを拾ってここまで戻ってくるぐらいならあいつらが、人払いの結界とかを張り上げる前に戻って来るわ」


 そう言って、俺に修道女を預けて人だかりの山と化した学生寮に向かおうとするツンツン頭に


「マヌケ、テメェの速さじゃバーコード野郎からは逃げられたとしても、あの女から逃げるのは無理だ。
 そこで修道女と一緒に待ってろ」


 修道女を受け止められる程度に投げ渡してから先程の場所へと向かう。

 後ろでツンツン頭が何かを言ってはいるが無視する。

 取りに向かう途中に、元素操作は先程の賠償金の事に対して疑問に思う。

(って言うか、『超電磁砲』や軍覇の野郎に、一方通行や垣根とかは自分でぶっ壊した道路とかの賠償金は自分で払ってんのかぁ?)





 学生寮から五〇〇メートルほど離れた、雑居ビルの屋上に炎の魔術師ステイル・マグヌスと聖人である神裂火織がいた。


「禁書目録に同伴していた少年と私達と交戦した少年の身元を土御門に探ってもらいました」

「あいつにかい?
 ・・・・・まぁ、こういう事に関しては手抜きをしたりはしないか。
 それで、神裂。アイツらは一体何なんだ?」

「まずは、禁書目録に同伴している少年の方に関してですが、正直な所彼の情報は特に集まっていません。
 少なくとも魔術師や異能者といった類ではない、という事になるのでしょうか」

「何だ、もしかしてアレがただの高校生だとでもいうつもりかい?」


 ステイルは口に咥えて引き抜いた煙草の先を睨むだけで火をつける。

 本来ならば、十四歳であるステイルは煙草を吸ってはいけないのだが、神裂はその事に対して何も言わない。

 そんな神裂に、口から紫煙を出しながら


「・・・・・・やめてくれよ。
 僕はこれでも現存するルーン二四字を完全に解析し、新たに力ある六文字を開発した魔術師だ。
 なんの力も持たない素人が、僕の魔術を打ち消せる力を与えるほど世界は優しく作られちゃいない。
 仮に、アレがただの一般人なら正しく日本は神秘の国だね」

「そうですね・・・・・・・むしろ問題なのは、貴方の魔術を打ち消せる能力を持ちながら『ただのケンカっ早いダメ学生』という分類になっている事ですね。
 次に、私達と交戦した少年ですが、彼はこの学園都市で八人しかいない超能力者の第八位であり、第七位と同様に世界中に五十人しかいない『原石』と認定され、彼の能力は第七位と同様に解明できてはいないとの事です。
 彼の名称と同時に渾名である『元素操作』は彼の能力を唯一研究した者が名づけたものであり、それが彼の本質の能力の副産物なのか、或いは本質に其処に辿り着くまでの『過程』なのかはやはり分かっていないようです。
 確認されている限りでは、全ての元素を同時に並行して大規模的に操作できるようですが、今現在は『ある出来事』により一つの元素を大規模的に操作するしかできなくなっているようです」

「成程ね、僕の魔女狩りの王(イノケンティウス)や吸血殺しの紅十字がルーンを破壊されてもいないのに機能しなくなったのは無酸素状態にされたからか。
 その『ある出来事』っていうのは一体何なんだい?それと、何故元素を操れるのに神裂のワイヤーの無力化をしなかったんだい?」

「『ある出来事』については機密事項に入るようで土御門でも調べられなかったようです。
 後者については私見ですが、私の七閃と七天七刀には術式をかけていますから出来なかったのではないかと考えています。
 術式をかけるための魔力は生命力を変換したものですから、それに対しては科学の常識は通用しないのでしょう」

「となると、僕は基本的にレベル5の能力者と戦ったとしても酸素を操作されたら時間稼ぎ以外できそうにないし、屋外という限定されてない空間なら尚更だね。
 その点でいえば、インデックスと一緒にいるあっちの方が僕はやりやすいね」


 現実の魔術はゲームや漫画のキャラクターのように呪文を唱えてハイおしまい、という訳にはいかない。

 一見そうには見えるかもしれないが、裏では相当な準備が必要だ。

 ステイルの炎の場合では本来『一〇年間月明りを溜めた銀狼の牙で・・・・・・』とかいう代物であり、これでも達人レベルの速度である。

 詰まる所、魔術師との戦いは先の読み合い。

 戦闘が始まった時点ですでに敵の結界(ワナ)にはまっていると考え、受け手は相手の術式(ワナ)を読んで、逆手に取って、さらに攻め手は反撃を予測して術式を組み直す――――――単純な格闘技と違って、常に変動する戦況を一〇〇手二〇〇手先まで読む所を考えるという、それは『戦闘』という野蛮な言葉とは裏腹に、とてつもない頭脳戦と呼べる。

 そういう意味では、『敵の戦力は未知数』というのは魔術師にとって大きな痛手でもある。


「ここから見る限りでは、彼女の出血は治まっているようだよ。
 僕の魔術を打ち消したあいつがその情報通りの『ただのケンカっ早いダメ学生』なんならそんな事が出来るわけはない。
 とすると、もう一人の能力者が何かしたんだろうね」


 と、ルーンの魔術師は双眼鏡を使って映る視界のインデックスを見て呟く。

 そのインデックスの状態を神裂もステイルの後ろから、五〇〇メートル先を見る。

 双眼鏡や魔術を使わなくても、視力が八・〇の彼女ならば鮮明に見えるのだろう。

 その視界の先には先程よりも出血が減ったように見えるインデックスとそれを抱えて警戒している上条当麻の姿があった。



[14587] 禁書目録編-2
Name: gennsosousa◆2319efa4 ID:c21fb807
Date: 2010/01/06 20:16
 元素操作は人混みの多くなった学生寮の上条の部屋にあったフード(発信機)を回収したそれを上条に投げ渡す。

 インデックスのフードを発信機だと知っている上条は己が右手でその機能を破壊する。

 本当ならば、機能を壊さないまま適当な所に捨てれば魔術師達の追走を少しとはいえ混乱させる事も出来たのだが、彼女が頑なに持っていくと言った以上それはできないし、目の前のこいつが態々人混みの中取りに行ってくれたのにそんな事は出来ない。

 今の所、インデックスは目の前のこいつの能力のおかげでこれ以上の出血はないようだが、傷口をこのままにしておくわけにもいかない。

 しかし、インデックスを救急車に乗せる事は出来ない。

 学園都市は基本的に『外の人間』を嫌う傾向がある。

 それを表現しているかのように街の周りを壁で覆い、三基の衛星が常に監視の目を光らせるほどの徹底ぶりだ。

 コンビニに入るトラック一台でも専用のIDがなければ話にならない。

 そんな所に、IDを持たない部外者(インデックス)が入院すれば、あっという間に情報は洩れる。

 そして、敵は『組織』。

 そんな所を襲撃されれば周りの被害が拡大するだけだし―――――何より、治療を受けている最中、最悪、手術中にインデックスが狙われたら、目の前のこいつと魔術師の戦闘が開始される事を意味する。

インデックスは勿論だが、病院に居る無関係な人たちも巻き込む恐れがある。


「・・・・・けど、だからってこのままほっとく訳にもいかねえんだよな」

「だい、じょうぶ。だよ?血は・・・・・止まってるし」


 インデックスの口調は弱々しく、昼間話していた時の様な元気さはまるでなかった。

 だからこそ、それが一発で間違いだと上条にも分かる。

 彼女の怪我は包帯を巻いて済む素人レベルを超えている。

 今は、目の前のこいつが能力を発動させて血液は体中を循環してはいるが、それもこいつの気紛れで何時解かれるかわからない。

 ケンカ慣れをしている上条は『人には言えない傷』は大抵自分で応急処置してしまう。

 そんな上条でさえ思わず取り乱しそうになるぐらい、彼女の背中の傷は、酷い。

 何の能力かは分からないが、血液を破れた血管から血管へと循環させる事ができる目の前のこいつならば治せるのかもしれないが、それをしない事から考えればこいつでもできないのか――――――あるいはする気がないかだ。

 それに、こいつにとってインデックスは自分以上に接点がない相手だ。

 魔術師達から助けてくれたとはいえ、それは単なる義務からきたものでしかないのかもしれない。

 そうなると、頼りになるのはもはや一つしかない。

 未だに信じられないが、もはや信じる他に道がない。


「おい、オイ!聞こえるか?」

 上条はインデックスの頬を軽く叩いて

「お前の一〇万三〇〇〇冊の中に、傷を治すような魔術はねえのかよ?」


 上条にとって・・・・・いや、上条に限らず普通の一般人ならば魔術のイメージなんてRPGに出てくる攻撃魔法と回復魔法ぐらいしかないだろう。

 確か、インデックス自身には『魔力』を扱う素質がないから魔術を使う事は出来ない。

 だけど、『異能の力』を扱う上条がインデックスから知識を聞き出せば、あるいは――――――――。

 激痛よりも元素操作が血液を循環させる前に出血した血液が多かったのか、浅く呼吸を繰り返すインデックは、青ざめた唇を震わせながら


「・・・・・・・ある、けど」

 一瞬喜びかけた上条は、『けど』という言葉が気にかかり

「君には・・・・・・・無理」

 インデックスは、小さく息を吐き、

「たとえ、私が術式を教えて・・・・・・・、君が完全にそれを真似した所で・・・・・・痛っ、君の、能力がきっと邪魔をする」


 上条は愕然と自分の右手を見た。

 幻想殺し。

 そこに宿る力は、確かにステイルの炎を完全に打ち消していた。

 なら、同じようにインデックスの回復魔法を打ち消してしまう恐れがある。

 一方、元素操作は理解していた。

 修道女は目の前のツンツン頭だけ限定でいっているのではない、と。

 仮に、能力者が魔術まで使えたとすれば既存のバランスが崩れるだろうし、そいつはどちらの陣営にでも捕まれば人体実験されることは間違いないだろう。

 そういう意味では魔術も能力も使える人間がいない事は良い事なのかもしれないが、現状でこの状況のままは拙い。

 本来ならば、肉体を構成している元素を操作して治癒させる事が現状では一番いいのだが、無理矢理な治癒は人体に対して今はよくても後に悪影響を及ぼす可能性がある・・・・・まぁ、一方通行のクソ野郎ならばそこら辺も演算して人体に悪影響が出ないようにするだろうが。

 俺の場合は、そうする事は不可能だし、一方通行にしても自分ならばともかく他人の場合は厳しいだろう。


「く、そ!またかよ・・・・・・またこの右手が悪いのかよ・・・・・・・ッ!!」


 ならば、電話を使って誰かを呼べばいい。

 青髪ピアスか、ビリビリ女の御坂美琴か。

 こういう『事件(トラブル)』に巻き込んでも心配いらないタフな連中の顔がいくつか浮かぶ。


「・・・・・・?」

 インデックスは少しだけ黙り、

「あ、ううん・・・・・・・。そういう意味じゃないよ」

「?」

「君の右手じゃなくて・・・・・・『超能力者』っていうのが、もうダメなの」

 熱帯夜の中、真冬の雪山のように体を震わせ、

「魔術っていうのは・・・・・・、君達(エスパー)みたいに『才能ある人間』が使うためのモノじゃないんだよ・・・・・・・。
 『才能ない人間』が・・・・・・・、それでも『才能ある人間』と同じ事がしたいからって・・・・・・、生み出された術式と儀式の名前が、・・・・・・・魔術」

 こんな時にナニ説明してんだ、と上条が叫ぼうとした所で、

「分からない・・・・・・・?『才能ある人間』と『才能ない人間』は・・・・・・・、回路が違うの・・・・・・・。
 『才能ある人間』では・・・・・・『才能ない人間』のために作られた魔術(システム)を使う事は・・・・・・、できない・・・・・・」

「なっ・・・・・・、」


 上条は絶句した。

 確かに上条達『超能力者』は薬や電極を使い、普通の人間とは違う脳の回路を無理矢理に拡張している。

 体の作りが違うと言われれば、確かに違うだろう。

 だが、信じられなかった。いや、信じたくなかった。

 学園都市には二三〇万人もの学生が住んでいる。

 しかも、その全てが能力開発の『時間割り(カリキュラム)』を受けている。見た目に分からないとしても、脳の血管が千切れるまで気張ったとしてもスプーン一つ曲げられずとも、それは最弱の能力者というだけであって、やはり一般人とは作りが違う。

 つまり。この街に居る人間では、彼女を唯一救える『魔術』を使う事は出来ない。

 目の前に人を救う方法があるというのに、誰にも彼女を助ける事が、出来ない。


「ち、くしょう・・・・・・、」

 上条は、獣のように犬歯を剥き出しにして、

「そんなのって、あるか。そんなのってあるかよ!ちくしょう、何なんだよ!何で、こんな・・・・・・・・ッ!!」

「・・・・・・おい、要は『時間割り』を受けてねぇ人間なら大丈夫なんだろうが。
 なら、テメェの教師に頼めばいいじゃねぇか。まぁ、テメェの教師が頼れねぇ奴なら話は別だがなぁ」


 元素操作のその一言で、上条はこの街に住む二三〇万の学生では魔術は使えない、という『ルール』の例外に思い当たる。


「おい、確か魔術ってのは『才能ない』一般人なら誰でも使えるんだったな?」

「・・・・・・え?うん」

「さらに『魔術の才能がないとダメ』なんてオチはつかねーだろうな?」

「大丈夫、だけど・・・・・・。方法と準備さえできれば・・・・・・・。あの程度、中学生だってできると思う」

 インデックスは少し考えて、

「・・・・・・確かに、手順を踏み違えれば脳内回路と神経回線の全てを焼き払う事になるけど・・・・・・・。私の名は一〇万三〇〇〇冊(インデックス)だから、へいき。問題ない」

 上条は、笑った。

 思わず頭上を見上げ、夜空の月に向かって吠えるかのように。

 確かに、学園都市に住む二三〇万人もの学生は、みんな何らかの超能力を開発される。

 だが、逆に言えば。

 超能力を開発する側の―――――――教師は唯の人間のはずだ。

 そして、それを気付かせてくれた元素操作に何か言おうとして


「あ、あれ?アイツどこに行ったんだ?・・・・・・気にはなるけど、今はインデックスの事の方が先だ。アイツがいないんじゃまた出血するかもしれねぇ。
 ・・・・・・・あの先生、この時間でもう眠ってるなんて言わね―だろうな」

 上条当麻は元素操作の事を少し考えたが、直ぐに中断して一人の教師の顔を思い浮かべる。

 クラスの担任、身長一三五センチ、教師のくせに赤いランドセルが良く似合う一人の先生。

 月詠小萌の顔を。








「アイツが消えた?・・・・まさか!?」


 神裂が土御門に元素操作の更なる情報収集に行き、自身が禁書目録達の監視をしていたが、突如元素操作の姿が消えた。

 その突如消えた事に、先程の戦闘での元素操作との戦いを思い出し即座にその場から横に跳躍する。

 それと同時にドカッ、という轟音と共に今まで座っていた場所が先程と同じ形を留めていない。

 その破壊をした張本人は、先程まで禁書目録と上条当麻と共にいた元素操作が其処にいた。

 その右手に水を高水圧に圧縮した鈍器を携えて。


「チッ、逃げるのだけは上手いなぁ、不良品野郎」

「フン、不意打ちを仕掛けておいて良く言うね・・・・・ああ、それとも君は不意打ちでしか僕を仕留められないのかな?
 もし、そうだとしたらすまなかったね。
 君はこの街の八番目の超能力者だと聞いていたから、そこまで弱いなんて全く考えてなかったよ」

「おーおー、折角不意打ちで殺されたから普通に戦えれば勝てたっていう理由と痛みを感じる前に殺してやろうかと思ったんだがなぁ。
 まぁ、今回はあのツンツン頭はいねぇから一切手加減をしなくて済むから――――――今度は、塵一つ残らない程度にぶち殺してやるよォ!!」


 その言葉と同時に元素操作はステイルの真横に瞬時に移動し鈍器を振るう。

 己が魔術を発動させる為に必要なルーンを取り出す時間さえなかったのか、直撃して吹き飛ぶステイル。

 その吹き飛んだ先に右手に携えていた水が高水圧状の刃が追撃する。

 粉塵が巻き起こった事によってステイルの姿は見えなくなる。


「おい、それで隠れてるつもりなのかぁ!?
 其処にいつまでもいるなら、体中ハチの巣にされても文句ねぇんだろうなぁ!!」

 何もない空間に高圧縮した水の弾丸が襲い掛かると同時に

「――――――灰は灰に、塵は塵に。吸血殺しの紅十字!!」


 炎を操る魔術師が、己が両手に炎熱地獄を体現した炎剣で水の弾丸を蒸発させ、今まで誰もいなかった場所にその姿を現す。

 空気を熱する事により、光が冷たい空気の方へ屈折して起こる現象である蜃気楼。それによって、虚像を作り、姿を消していた。


「ふん、どうやら今の君はさっきみたいに酸素を操る事は出来ないらしいね。
 でも、水だけじゃ僕の吸血殺しの紅十字は勿論―――――――イノケンティウスを破る事は出来ないよ!!」


 ステイルのその言葉と共に炎の巨神が顕現し、砲弾の様に元素操作に襲いかかる。

 無論の事ながら、炎の巨神に捕らわれる事はなく元素操作は滑る移動法で避ける。

(チッ、あの修道女・・・・・いや、あいつに限らず『普通の人間』の血液を操作しちまうと強制的に液体しかコントロール出来ないっていうのは厄介だな。
 幸い、液体しかコントロールできねぇ時だけに限って高水圧にする事が出来るから悪い事ばかりって事じゃねぇが)

 例えチョーカーを起動させたとしても、他の元素を操作する事は出来ないだろう。

 何故なら、液体しか操れなくなっているのは彼の能力の本質から来るものであり、その本質を彼自身は勿論、外の世界より20年から30年の差があるほどの科学技術を持つ学園都市で彼の能力を研究した唯一の研究者も分からなかったのだから。

 だが、それが何だというのだろう?

 例え、液体しか操れないとしてもそれはハンデとはなりえない。

 何故なら、殺人・暗殺・虐殺という事に関しては自分以上の上位である他のレベル5の追随を許さぬ最強――――あらゆるものを貫き通す矛も、いかなる力でも弾き返す盾も、破ることも防ぐことも叶わぬ最強と呼ばれる絶対矛盾――――なのだから

 元素操作を殺すという一点で最強にしている要因は、強者にありがちの力に対する油断や、弱者に見せる隙などを一切持たない事にある。どんなに相手が弱くとも決して手加減などをせずに全力で叩き潰す。

 何故なら、自身の事を知っていて自分に戦いを挑む相手に手加減する事はその相手にとっての侮辱と考えているし、人は窮地に追いやられた時や自身の命の危機の時には普段持ちえない力を発揮するからだ。

 俗に言う火事場のクソ力を。

 それは、ある意味では元素操作が生命の偉大さを理解している事でもある。


「不良品野郎、お前の仲間のクソ女があの修道女を保護するとか言ってたがよォ、それはなんでだぁー?」

 イノケンティウスの追撃を受けているというのに、元素操作は余裕でかわしながらステイルに世間話をするような気楽さで話しかける。

「うん?
 アレの傍にいた奴から聞いてなかったのかい?まぁ、説明してあげよう。
 アレは『目を通しただけで魂まで汚れる』と指定されたモノである魔導書っていう危険な代物を一〇万三〇〇〇冊も記憶(あたま)の中に保管している『魔道図書館』でね。
 もし、それを使える連中に捉えられて拷問と薬物づけにされるのは心が痛むからアレと同じ、イギリス教会の中にある―――――――必要悪の教会(ネセサリウス)の一員である僕と神裂が保護しに来たってわけさ」

 最後の部分は顔を下にし、煙草の煙が隠れ表情は定かではない。

「ハッ、お優しい事だな。俺も屍山血河を作って生きているこっちの世界にいるが、テメェらのやり方は生温いなぁ。
 アレなんて言うモノ扱いするんなら、逃げだせない所に生涯幽閉するなり、四肢を切断すればいいだろうがぁ!!
 まぁ、普通に考えればこんな所に回収しに来る下っ端には分からねぇぐらいのえげつねぇ安全策をテメェらの上司のクソったれが施してるかもしれねぇがなぁ!!」

「そいつにこれ以上語らせるな、イノケンティウス!!」


 元素操作のその一言が逆鱗に触れたのか、ステイルは激高して己が最強を証明する炎の巨神に元素操作の抹殺の命令を下す。

 それを実行する為に炎の巨神は先程よりも早く、速く、迅く元素操作に肉薄して、


「なッ!?」

 驚愕の表情を貌に浮かべるステイル。

 何故なら、イノケンティウスが元素操作に届く一歩手前で形を失い消滅したのだから。

 水しか操れない元素操作では摂氏三〇〇〇度のイノケンティウスを打倒する事は不可能なはずだ。

 だが、現実にはイノケンティウスの体が消滅した。

 それは何故か?

 そして、ステイルはこの場所の異変に気付く。

「まさか、ルーンのカードを!?」

「おいおい、俺が何の為にテメェと無駄話をしてたと思ってんだぁ?
 まさか、本当にただ話をするのが目的だとでも思ってたんじゃねぇだろうなぁ?本当にそう思ってたんなら、テメェは相当におめでたい奴だぜ」


 元素操作とステイルが戦っていた場所に配置されていたルーンのカードのその全てが濡れている・・・・・・いや、正確にはカードにインクで書かれていたルーンが濡れてルーンの機能が働いていない。

 故にイノケンティウスは消滅した。そして、ルーンの配置をさせる時間など元素操作にできないステイルにとってもはや死は直前にまで迫った。


「さぁて、テメェは此処で死んじまえ」


 一切の躊躇なくいつの間にか先程と同じ鈍器を模した高水圧に圧縮された水を振り落とすと同時に元素操作の真上から折り鶴が落ち光を放ち元素操作の目をくらませる。

 元素操作の目が元に戻った時、其処にステイル・マグヌスの姿はなかった。






 元素操作とステイルが交戦していた場所から少し離れた路地裏。

 そこに、元素操作にあと一歩で止めを刺されようとした炎の魔術師ステイル・マグヌスと派手な金髪と夏の学生服にサングラスという風体の男――――土御門元春がいた。


「いや~、間一髪だったみたいだにゃー」

 能力者でありながら、魔術を使うという矛盾を行った事に対する対価なのか、口から血を流しているというのに、その口調は軽い。

「ふん、この段階でお前が僕を援護してお前の本来の役割に狂いが生じる事はないんだろうね?」

 命を助けられたというのに全く感謝のかの字も感じられないステイルだが

「馬鹿にしないでほしいぜにゃー、俺の魔法名はお前も知っているだろう?」

「――――『背中刺す刃(Fallere825)』だったか」

「そうだ、仮に魔術サイドと科学サイドの戦争が勃発する可能性がなかったのならば――――――俺はお前の事は完全に見捨てていた」


 先程までの軽い口調はなりを潜め、ゾッとするほどの冷徹な声で告げるがそれは当然と言えよう。

 土御門元春の役割はスパイだ。

 そして、スパイである以上、敵対勢力の情報を得るためならば、合法違法を問わずに行動する者であり、例え目の前で同僚が敵側の人間に殺されそうになった所で助ける事など愚の骨頂、平然と見捨てるのが常道なのだから。

 寧ろ、今回ステイルを助けた土御門はスパイにあるまじき行為をした。

 その対価として


「おーおー、出来が悪ぃ不良品野郎なだけに世話が焼けるから助けに来たってかぁ!?
 ハッ、こっちの世界に住んでやがる人間にそんな優しさがあるなんてよぉ―――――滑稽すぎて泣けてくるぜ!!
 次から次へとぞろぞろ出てきやがって、テメェらは家庭によく出る害虫野郎ですかぁ!?」


 ステイルと土御門の後方から声がかかる。

 その声を発した人物は先程ステイルと交戦し、土御門の魔術によって目を眩ませたはずの元素操作。

 土御門がステイルと共に逃走を果たせたのは元素操作の慢心から来るものではない・・・・というよりも彼にはそんなものは存在しない。

 先程の戦闘でステイルが言った言葉―――――『酸素を操れない』―――――に疑問を抱いたからだ。

 ここ学園都市には沢山の能力者がいるし、相手の能力が酸素を操れるというのを初見で分かるなど学園都市に住む人間でさえそんなにいないはずだ、少なくとも外の人間・・・・それも見破ったのが魔術師という科学とは無縁の世界に住む住人ならば尚更だ。

 『書庫(バンク)』から情報を引き出すという手段もあるにはあるが、『書庫』にアクセスした場合は、アッチ側の世界の警備員である風紀委員(ジャッジメント)の大型サーバーを経由し、回り道をして『書庫』へ向かうように設定されている以上、風紀委員に捕まるはずなので魔術師が『書庫』へアクセスする事は不可能。

 となると、考えられる事は魔術師と通じている能力者・・・・或いは魔術師でありながら学園都市の内情を探る為に潜ったスパイがいるとしか考えられない。

 故に、そのスパイを誘き寄せるための餌として、近接戦闘に持ち込めば直ぐに殺せる不良品野郎を瞬殺せずに、辺りに張っておいた紙切れの全てを濡らして魔術を使えなくなるという危機を演出して、スパイが現場に来るまでの時間を稼ぎ、殺す前にわざわざ殺す台詞を吐くという三下紛いの行為をしてスパイに不良品野郎を救出させる隙を作った。

 能力者である自身によって、魔術師が倒されればそれは魔術サイドと科学サイドの戦争の火種になるのはまず間違いない。

 そして、そのスパイにまともな良心があるのならば自身の役割に支障が出ようと確実に救援に走るはず・・・・・仮に、そのスパイが間に合わないとしても人の気配がある屋外では、不良品野郎の魔術は目を引く。

 それを目に止めたのならば、先程のワイヤー女は不良品野郎の援護に来るはず・・・・・いや、少しの間の会話だったが、あの女は裏側に住んでいる人間にしては綺麗すぎる戯言を吐いた。

 そんな青く、甘い戯言を吐いたあいつならば必ず不良品野郎を助けに来るだろう。

 助けに来たのならばその甘い覚悟を認めて全力で叩きつぶすし、助けに来ないのならば地の果てまででも追い詰めて一〇〇回の殺しを一回に凝縮してぶち殺す。

 元素操作の貌に浮かんでいる表情は笑み。

 ブチリと裂け、この世のものとは思えないほどに恐ろしい笑み。

 だが、一番おかしいのはこんな短時間でステイルと土御門を見つけた事だろう。

 しかし、ステイルと土御門にとって今はそんな事に思考を割く時間はない。

 ステイルの魔術は陣取り合戦と同じで、ルーンを予め配置していなければ強力な魔術である魔女狩りの王は使えないし、土御門が魔術を使えば能力者が魔術を使うという矛盾の代償として肉体に負担がかかり、かといって能力者へと転向して得た能力は薄皮一枚を治すだけの『肉体再生(オートリバース)』であり、肉体を張っての時間稼ぎも出来ない。

 そんな二人の目の前に立ち札かるのは人間という姿の形を留めた災厄、たった一人で軍隊と戦える程の能力を持つ科学が生み出した怪物。

 だが


「・・を・・な、・力・・!」

 口に咥えていた煙草を、歯を噛み砕くのかと思われる音とともに噛み千切りながらステイルは叫ぶ

「ハァ?何か言ったか不良品野郎」

「僕の邪魔をするな、能力者!!」

 炎の魔術師――――ステイル・マグヌスは科学が生み出した災厄を、怪物を前にして怯むことなく吠える。

 彼を過去、現在、未来において突き動かすのは、自身がかつて一人の女の子に誓った一つの約束。

『たとえ君は全て忘れてしまうとしても、僕は何一つ忘れずに、君のために生きて死ぬ』

 その為ならば、彼は残虐な事も、残酷な事も、大罪に値する事も平然とするだろう。

 万人を助ける術を持っていたとしてもその術の全てをたった一人の人間を助ける事に費やす。

 非常に、無心に、心を殺して、振り返る事などせずに、比類ないほど冷徹になり、助けを求める声を無いものとして。

 しかし、その事を愛する者を持っている者は勿論の事ながら、人間である以上は誰にも否定は出来ないだろう。

 仮に、助けを求める声を在るものとして聞いて、道を踏み間違えれば、守るべき人を失うという最悪な道と化すだろう。

 万人を助けるという事はそういう事でしかない。

 現実の世界は絵本の中の世界の様に求めたら手に入るように出来てはいない。

 何かを手に入れるには何かを賭けなければならない。

 ステイルが大切な人間を護るために賭けたものは、己が生涯。

 それによって、得たものは歴然としている道であり、逸れる事無き決意。

 他者の糾弾ならば喜んで浴び、切り捨てられた者の怨嗟の声も苦も無く背負い、破滅しかない茨道だとしても笑みを浮かべて歩むだろう。

 自身の道が破滅しかないのだとしても、大切な者が幸せな道を行けるのならば、これ以上の幸福など無いだろう。

 その決意を宿した目を見ても―――――元素操作は退く事など無く、寧ろ貌に浮かぶのは怒りを宿して吠える。

「邪魔ぁー?何言ってんだテメェは?
 俺が邪魔ならテメェの魔術で灰燼にしてしまえ、魔術が使えねぇんなら手を使って絞め殺せ、手が動かないなら、脚で蹴り殺せ、そのどちらも無理なら口で俺の喉を噛み千切れよ!!
 叫ぶだけで、言葉だけで、俺達みてぇなコッチの世界に生きてるクソ野郎が退く訳ねぇだろうがぁ!?」

 ステイルの決意を宿した目を見て随分と昔の事を―――――十数年しか生きていないはずなのに、現在ではありえない何世紀前の建築物や服装をした人間が含まれている、途切れ途切れになっている過去の記憶を思い出す。

 元素操作と呼ばれる彼も最初からそんな名前だった訳ではない。

 名字は二文字で名前も二文字。

 少し珍しい名前ではあったが、それでも日本人らしい名前だったはずだ。

 途切れ途切れになっていて良くは分からないが、それでも最初から学園都市の第八位という超能力者ではなかったはずだ。

 最初は周りの人間よりも少しだけ違うという認識しかなかった。

 彼にとって災いだったのは、彼が自分で思ったよりも有能だった事と感受性豊かでどちらかというと人を傷つける事を好まない人間だったという事もあるが、一番の最悪だった事は周りの人間がいい意味でおかしかった事だろう。

 彼が幼少期特有の好奇心に負けて、誰もいないと思った所で能力を弱めに使った事によって、かくれんぼをして隠れていた同年代の子を傷つけてしまった。

 傷つけたと言ってもかすり傷程度だったのだが、幼少の頃の彼はそれを酷く後悔し、自虐的に自身を責めた。

 だが、当のかすり傷を負った子供もその親も彼を責める所か、逆に彼を精神的に傷つけたと思って謝罪しにきたのだ。

 そして、子どもという人間の感受性が一番高い時期でその謝罪から感じられるものは誠意以外の感情は含まれていなかった。

 人を傷つけたというのに非難や恐怖しない所か、誠意を持った謝罪をしてきたという事を幼くても聡明すぎた頭脳はそれを疑うが、誠意しかないと感じ取った心はそれを否定する。

 彼が、頭が悪く感受性が豊かで人を傷つける事が嫌いだけの人間だったなら、彼らに対して恐怖は抱かなかっただろう。

 或いは、彼の頭が良く感受性などなく人を傷つける事を、人をなんとも思わない人間だったなら、彼らを疑って嬉々として殺しただろう。

 そのどちらでも無かった幼い頃の彼の頭脳と心は遭い入れずにアンバランスな状態が続き、そんな状態のままで子どもがマトモでいられるはずがない。

 そして訪れるのは、

 一つの暴走。

 その後に自分の意識が戻った時には半径4キロメートル以内には何もなかった。

 比喩でも何でもなく、人も建築物も植物も何も無く、ただの更地になった地面だけが其処にあった。

 そうして、彼は気づいた。

 幼いながらに、聡明すぎたが故に、その歳で気づいてはいけない事に気づいてしまった。

 自分の意識が少しでも狂えば、世界はこんなにも容易く壊れるものなのだ、と。

 しかも、子どもとしか言えないこの歳でこれ程の威力。

 更に追い打ちをかけるかのように、この力は成長を続けていると直感的に悟った。

 ならば、その『滅び』を回避する為には、今回の様に頭脳と心がアンバランスにならないように冷徹になればいい、と。

 その為に、彼は人に一切の感情を向ける事を辞めた。

 その決意した記憶の次に出てくるノイズがない風景は―――――何処かは判断できないが戦場に少し成長した彼――――とは言っても日本では子供としか思われない歳だが――――が立っていた。

 たった一発の弾丸で人の命が失われ、地雷が発動した事により脚が無くなり、ミサイルによって多数の人間が肉体の原型を留めず血が溢れ出るという戦時前の倫理観などまるっきり存在しない屍山血河を数多生み出す場所に。

 だが、最初に自身の意思で人を殺した時――――実感の無い記憶上の戦場でだが――――に自分は初めての殺人に怯え、嘔吐し、後悔していた。

 やはり、自分は人を『物体』として認識するのは無理なのかと思っていたが、それも百桁を超えた時に人を『物体』と認識できるようになった。

 そう、物に愛着を持ってはいても感情を向けないような――――――人を人と思わずに『物体』と思うようになる『仮面』をつけた、或いは機械に。

 しかし、幼い子供はこの時点ですでに間違えていた。

 人を『物体』だと認識してしまえば、他人の人生に何の興味も持たない人間となる。機械には人の感情は分からない―――――いや、計測する事が出来ない。

 しかも、被っている『仮面』が急激に壊れれば、それこそ幼少期と同様――――――或いは、成長した事によって、更に強力になった己が能力の暴走が起こるという事を。

 彼はそんな間違いにも気づかずに、自身の道を進んで行く。

 其処からしばらくはノイズが奔って定かではないが、その後に出てくるのは学園都市で生きている記憶だけ。

 そんな記憶の中には、ステイルのように人の為に戦う決意を宿した人間はいなかった。

 故に、先程の神裂の『保護』という言葉と同様に、彼が怒るという事は『仮面』に皹が入っている事を意味する。

 その『仮面』の皹を修復する為に

「―――――悪ぃな、スパイ野郎」

 元素操作は静かに土御門に告げる。

「な、何が悪いのかにゃー?」

 土御門はその言葉に含まれている不吉を感じ取ったのか、元素操作に尋ねる。

「さっきまでなら、テメェは生かしておいて、後何人の魔術師が学園都市に侵入しているのかを確かめる為の情報源にしようかと思ってたんだが、テメェも其処の不良品野郎と一緒に――――――ここで死ね」


 その死刑宣告に似た返答と共に高水圧に圧縮された、数えるのも馬鹿馬鹿しくなる程の数多の水の刃が、上空からギロチンのように、四肢を、肉体を、生命を無に帰すために襲いかかる。

 水の刃の上空からの落下速度は、常人ならば避ける事も防ぐ事も許さぬ速度。

 常人の枠から外れている魔術師のステイルは、未だ自身の魔術の触媒であるルーンのカードの配置を終えていないが故に、魔術を発動させる事は叶わない。

 同じく魔術の術を持ち、微弱ではあるが超能力者を持つ土御門も、これ程の水の刃を迎撃する為には死に至るほどの魔術を展開しなければいけないが、その魔術を発動させる為の詠唱を唱える時間すらない。

 そんな二人の脳裏に各々が大事に思う少女の顔が思い浮かぶ。

 ステイルは、自身の生涯を賭けて護ると誓ったインデックスの顔を。

 土御門は、絶対に裏切らないと決めた義理の妹である土御門舞夏の顔を。

 死の間際に見る走馬灯のように。

 大衆の誰が見ても助からないこの状況、決して救われる事はないこの状況を


「―――――――Salvare000(救われぬ者に救いの手を)!!」


 聖人であり、天草式十字凄教の元女教皇こと神裂火織は打ち砕く。

 常人ならば見る事も叶わぬ抜刀術で、七つの斬撃で、空中を引き裂いたワイヤーの軌跡により出来た三次元的な魔方陣により発動した魔術によって。


「土御門、ステイル、今から人払いと貴方達の身の安全のために出来うる限りの防御の術式を発動させて、私たちの戦いが終わるまでは絶対に解かないで下さい」


 その言葉を土御門とステイルに告げて神裂火織は元素操作の方へ振り向くと同時に、ステイルが人払いの魔術を発動させる為にルーンを漆黒の服の内側から、何万枚もの紙を飛び出す。

 あっという間に路地裏や路地裏の周辺の道路に張り付くと同時に周りから人の気配が消える。

 それと共に、土御門が自身の魔術の触媒である折り鶴を取り出すと共に詠唱を始めると土御門とステイルの周囲に八卦陣のような光が囲う。

 再び、この路地裏で魔術側の核兵器である聖人と科学側の戦略兵器である超能力者が対峙する。

 前回の戦闘と違う事があるとすれば二つ。

 一つは、神裂が殺し名である魔法名を名乗った事。

 もう一つは、上条当麻が、インデックスが、一般人がいない事によって殺す事を憚らずにできるという事。

 聖人と超能力者の眼光が、正面から激突する。

 それが合図。

 世界で二十人しかいない怪物と世界中で五十人いる原石であり超能力者でもある怪物の戦いが、ここに幕を開ける。






 通行人様、感想ありがとうございました。
 三人称を書きなおして、他の話も少しは修正してみました。ご指摘ありがとうございます<(_ _)>

 通りすがれ様、感想ありがとうございました。
 修正する前は水素でしたが、今現在は水にしました。色々迷惑を賭けて申し訳ありません<(_ _)>

 abc様、感想ありがとうございました。
 ご指摘ありがとうございます<(_ _)>水を操れる風に修正しました。

 白い人様、感想ありがとうございました。
 血液操作に関しては、主人公の能力の本質のネタバレになるのでノーコメントでお願いします<(_ _)>



[14587] 禁書目録編-3
Name: gennsosousa◆2319efa4 ID:c21fb807
Date: 2010/01/19 21:31
 神裂火織は『聖人』だ。

 世界で二十人といない才能、あるいは身体的特徴を有する人物で、生まれた時から『神の子』と似た魔術的記号を持つ故に、その力の一端を手に入れ、自由に操る事のできる者である。

 大抵の敵ならば、鞘から刃を抜くまでもない。

 ワイヤーを軸とした中遠距離用の格闘術『七閃』もあるし、七天七刀の長い鞘で振るうだけでも、大抵の魔術師ならば吹き飛ばされるだろう。

(・・・・・・相手はここ学園都市の最大戦力の一つである超能力者の一人。そう簡単に撃破できるとは思えませんが)

 神裂は元素操作の拳動を注視しながら、柄に軽く添えていた指に、強く力を込める。

(全力を出すしかなさそうですが、殺さずに済ませられれば・・・・・・。鞘で昏倒させる!!)

 しかし、


 ブワッ、と。


 突如、元素操作の体から、先程対峙した時以上の殺気が放出される。

 神裂火織の視界から元素操作が消え失せる。

 凄まじい速度で神裂の視界の外へ移動されたと気づくのに、一瞬の時間を要す。

 そしてその時には、ドゴォ!!という風を切る音が神裂の真後ろから轟く。

「ッ!?」

 とっさに後ろへ振り向くと同時に、その刀の鞘で防御に入る神裂。

 元素操作が放ったのは、高水圧に圧縮されて鈍器と化した水の塊。

 常人では防御した所でその防御を無効として叩き潰されただろうが、『聖人』である神裂は、ガードした刀の鞘ごと吹き飛ばされるだけで済む。

 だが、吹き飛ばされたことにより、バランスを崩す形となった神裂の腹へ、元素操作は容赦なく鈍器を叩きつける。


 ドゴォ!!と、凄まじい轟音が炸裂する。

 『聖人』という素質によるモノか、或いは魔術を使ったのかは定かではないが、踏鞴を踏み堪えた事により数メートル下がる程度で済む。

「がっ・・・・・、は、ァ・・・・・ッ!?」

(一筋縄ではいかないとは思っていましたが・・・・・・先程の戦闘の時よりも速度も力も比較にならない程上がっている!?)

 聖人含め、生身の人間に扱える力の量には上限があるはずだが、彼は明らかにそれを上回っている。

(考えられるとすれば、超能力者としての能力によるモノなのか、あるいは『一定以上のラインを突破すると安定するのか』ですが・・・・・ッ!?)

 呼吸困難になりながらも元素操作の戦闘能力の上昇に疑問が浮かぶが、冷静に考えている内に何故こんな考える時間があるのか不思議に思い元素操作の方を向き――――――呆気にとられた。

 何故なら、元素操作は体の状態を確認していたからだ。まるで久方ぶりに本調子を出したからその事で異常が出ていないかのように。

 戦闘の最中で、対峙している相手が一撃必殺の聖人だというのに、だ。

 そして、今の元素操作に隙はある・・・・・いや、逆に隙だらけでしかない。

 それでいて、体の状態の確認に集中しているという異常なまでの不敵さ。

 神裂は本能的に、一歩下がり間合いを広げる。

 すると今まで体の確認をしていた元素操作は確認を終えたのか、その間合いにまるで注意する事無く近づいてくる。

 神裂は、その瞬間体をびくっ、とひきつらせる。

 彼女は〝わかった〟のだろう。

(彼は・・・・・・知っている!)

 自分が隙だらけなのを自覚した上で、神裂がその隙を分かっていることを十分承知していながら・・・・・・・。

 ならば、その〝隙〟というのは、それはつまり・・・・・・

(罠?・・・・・いいえ違う。そんな次元ではありませんね)

 これは恐らく・・・・・・・警戒している野生動物に、あるいは食べ物に飢えている肉食動物に向かって〝ほら怖くないよ〟とワザと噛みつかせるあれと同じだろう。

 立っている土俵が違うから、向こうから歩み寄っているのだろう・・・・・・無論、寄ってくるのは高い位置にいる方に決まっているが。

 だが、その上位性は何に由来するのだろうか。

 武器は高水圧に圧縮されて鈍器と化している水の塊、常人ならば叩きつけた当たり所が悪ければ死ぬかもしれないが、唯閃という天使すら切り裂く程の威力とぶつかれば脅威とは言えない。

 体格はそれなりに鍛えてはいるようだが、聖人である神裂にそれなりに鍛えた程度では通用しない。

 ならば技だろうか?

(しかし、それにしたとしても構えというものがあるはずですがそれもない。考えられるとすれば彼自身の超能力)

 アレイスター・クロウリ―ならば、元素操作のことを知っている彼ならばわかっただろう。

 これが、元素操作が学園都市八番目の超能力者を飛び越してしまい、ただひたすら〝敵を殺すこと〟のみに突出してしまった嘗ての彼――――構えも技もなく、ただ相手次第――――ということが。

 しかし不気味なのはわかる。

 得体が知れない。下手にかかっていくと拙い。それはわかっている。

 わかってはいても・・・・・・

「クッ・・・・・!」

 しかしじっとしていることもできない・・・・・・!

 この圧迫感、緊張感―――――それらが既に相手の攻撃となってこっちをぎりぎりと締めつけてくる。

 動かなくては・・・・・・・!

「なあ〝魔術師〟」

 元素操作はそんな神裂の様子はどうでもいいかのように呑気な口調で話しかける。

「強いってことは、実は不便だと思わねぇか?
 対等な相手も良くて百人いるかいないか、それ以外の奴らは弱い奴らばかりで、勝って当然なんていう状況がいつまでもいつまでも続く―――――これをつまらない、退屈だと言わねぇで何て言うんだ、とか、よ―――――」

 呑気な口調はそのままで淡々と話しかける。

「しかもその相手の弱さって奴がまるで話にならねぇんだな、これがよ。
 自分が何と遭遇してるのかをわかっていながらも無謀にも襲ってきやがるバカばっかりでな、魔術師、テメェには心当たりはねぇか?
 身の程知らずにも自分の実力に自惚れてとか、そんな下らねぇ理由でからんでくる三下を叩きのめしたりしなかったか?そういうことがないか?」

 ・・・・・・そういう事はロンドンで十指に入るまでの過程で何度かはあった。

 だがそれが何だというのだろうか?

 目の前の相手は何を言おうとしているのか?

「つまり、な・・・・・・〝相手の強さや底を見極めようとしねぇヤツは馬鹿だ〟っていうことだ。
 そういう意味では魔術師―――――テメェは一応、無闇に突っ込んできたり、そこにいる不良品野郎みたいに魔術ってヤツを発動して、できちまう隙をつくるっていう愚行をしなかったことで第一段階のハードルは越えたってことだ。
 だからテメェには・・・・・・・『この状態での』本気を出す」

 元素操作は肩をすくめた。

 そして動いた。

 右手が――――正確にはその手に握った水の鈍器だが――――恐るべき速さで神裂の懐に飛び込んでくる。

 神裂はとっさに刀を納めた鞘を元素操作の迫ってくる起動めがけて振り下ろしていた。

 そして―――――次の瞬間吹っ飛んでいた。

「―――――――!?」

 神裂は後ろにあるゴミ箱に激突し、その箱をドガッ!!と吹き飛ばした。

 刀を納めていた鞘は―――――半ばからその用途を果たしていない。

 すっぱりと、まるで鏡のような平滑な切り口で斬られていた。

 だが茫然としている余裕などない。

 すぐに元素操作が間合いを詰めてきたからだ。

 神裂は残っていたゴミ箱を跳ね飛ばして横へ逃れる。

 飛び散ったゴミ箱は、空中でバラバラになる。

「――――ハッ!」

 元素操作は、神裂の方を振り向いて、凄絶な笑みを浮かべた。

「―――――久方ぶりだなぁ。この学園都市に来る前の、来てから一度やり合ったレベル5の時以来だな、この感覚はよぉ・・・・!」

 神裂は元素操作が喋っている間にも走り込んでいた。

 刀の峰の部分を元素操作の、まだ振り向いている途中の脇腹を狙った。

 血が飛び散った。

「・・・・・・・・・・・・・っ!」

 神裂は、バラバラになった鞘を気にせずに、額を左手で押さえながら後ろにごろごろ転がりながら逃げている。

 その額からは血がだらだらと流れていた。

「額か―――――頭そのものを狙ったつもりだったんだがな。身を引くのが一瞬早かったか」

 元素操作は落ち着き払い、満足そうに囁く。

「・・・・・・・・・・」

 神裂は額の血を拭い、手を離す。

 痛みにかまっているだけの余裕などない。

 眼に多少ではあるが、血が入ったことにより視界が悪くなるが、戦闘に支障が出るほどではない。

 支障はないのだが―――――

(・・・・・・いつの間に)

 水の鈍器は、既に鈍器ではなく、水の刃と化している。

 しかし、問題なのはそこではない。

 神裂にとっての最大の問題は鞘が無くなったということだろう。

 鞘がない以上は、昏倒させるという手段は不可能になると同時に、絶殺の可能性がある神速の抜刀術である唯閃は鞘がないことから使えなくなる。

 だが、鞘が使えないということは殺害の可能性がある七閃や魔術を使うしかないということだ。

 それによって、目の前の元素操作を殺してしまえば、科学サイドと魔術サイドの戦争の発端になりかねない。

 そうなれば、その戦争によって無関係な人が死ぬことになるだろう。

 それを神裂火織という人間は許容できない。

 それは神裂の行動原理『Salvare000(救われぬ者に救いの手を)』から来るものだろう。

 だが、そんな神裂の危惧している考えを知ってか知らずか

「くくく・・・・・・・!」

 元素操作はなおも迫ってくる。

 神裂は応じず、七本のワイヤーを放つ。

 七閃。

「・・・・・・小細工してんじゃねって言っただろうが。死にたくねぇなら全力を出せ。
 もし、修道女の治療が終わっちまったら、俺は全力を出せる。そうなりゃ、行動不能にするのは無理になるし、テメェらここで―――――死んじまうぞ?」

 しかし元素操作は動じない。

 彼が右手を振るうと同時に、ワイヤーがその用途を果たす事無く、水の刃に斬り裂かれて重力に従い地面に落ちる。

 そして、それと同時に、水の刃が神裂の首に迫り

「何してんだよ、テメェは!!」

 幻想殺しの少年の叫びと共に静止する。






「何してんだよ、テメェは!!」

 上条当麻は怒っていた。

 禁書目録なんて言う名前を他人につけられた揚句に、それを物のように扱う炎の魔術師ステイル・マグヌスに。

 傷つけたことを後悔しているのに、自分よりも力があるのに彼女を助けることをせず、炎の魔術師と同じように保護するなどという神裂火織に。

 学園都市という科学サイドとは逆の魔術師だという理由だけで、平然と命を奪おうとする元素操作に。

 そして、一番頭にきているのは、インデックスが傷ついているというのに何もできず、更には自分が異能の力の証明のため等という下らない理由で、魔術を使うことができずに逃走している彼女にとっての唯一の生命線である修道服を打ち消してしまった自分自身に。

 だが、そんな上条の叫びに―――――帰ってくる返事は

「何してんだ、だと?
 この状況を見て、本当にわからねぇのか?
 なんてことはねぇ、ただのクソ野郎同士の殺し合いだ。それ以外に何があるっていうんだ?
 それとも、テメェの目には俺達が仲睦まじく遊んでる風に見えてんのか?
 それなら、こんな所にいねぇで、さっさと眼科医がある病院にでも行って、診察を受けて、生涯その病院に入院してろ」

 小馬鹿にするような、殺し合いを邪魔されたことにイライラしているような、興醒めしているかのような、そんないろんな感情が入り混ざった声で告げる元素操作。

「そんな事を聞いてるんじゃねぇよ!!
 何で、魔術師だって言う理由だけで殺す必要がどこにあるんだって聞いてんだ!!」

 誰に教えられることなく、自身の内から湧く感情に従いまっすぐに進もうとする上条にとっては、元素操作の言っていることなどは理解できないし、納得する事など絶対にできないが故に叫ぶ。

 しかし、その叫びを聞こうが

「おい、ツンツン頭」

 元素操作はそんな上条を無視した上で

「テメェが一般人だったから、カスぐらいに残ってやがる親切心から、あの寮での戦闘の時は人殺しの場面は見せねぇでやったし、テメェと修道女を助けてやった。
 だが、テメェ自身の意思でコッチ側に係わり、俺の邪魔をするってことは――――――死をも辞さないってことでいいんだよなぁ!?」

 元素操作は憤怒の表情を貌に浮かべながら、話し終えると同時に刃を鈍器に戻して上条に叩きつけるが、上条は己が右手に秘められている『幻想殺し(イマジンブレイカー)』――――それが常識の外にある『異能の力』であるならば、たとえ神話に出てくる神様の奇跡(システム)でさえも一撃で打ち消す事の出来る力――――を持ってそれを打ち消す。

 だが

「一瞬打ち消せた程度で、気を緩めてんじゃねぇ!!」

 打ち消されると同時に、再び水を高水圧に圧縮した水の鈍器をアスファルトの地面に叩きつける。

 直撃ではないが、叩き割られて、吹き飛ぶアスファルトの残骸が上条の体を叩こうとして

「―――――今の貴方の相手は私のはずですが?」

 聖人こと、神裂火織が携える七天七刀によって打ち砕かれる。

「あ、アンタ、何で俺を!?」

「問答するのは後です!
 今は、私と貴方にとっての最大の相手である彼を打倒する事のみに集中してください!!」

 上条はインデックスを襲った神裂が自身を救ったことに混乱して尋ねるが、神裂はその疑問に応える余裕はない。

 何故なら

「――――――無駄話する時間があんのかぁ!?」

 先程、ステイルと土御門を襲った時の再現のように、水の刃が上空から襲い掛かってきたのだから。

 それを神裂が七天七刀で防ぐ。

 一人ならば既に反撃に回っていただろうが、自身と上条の防衛により、反撃に回る余裕はなく、既に元素操作は神裂を鈍器の射程距離に入る。

 元素操作が、鈍器を振りかざしこっちに攻撃しようとする。

 神裂は七天七刀でガードしようと身構える。

 だが―――――――そのとき彼女にはとても信じられない事が起こった。

 ガードした、その七天七刀の位置が最初からわかっていたかのように、綺麗に〝く〟の字を描いて鈍器が動いたのだ。

 ガードは紙一重でかわされて、一撃は神裂の肩甲骨に決まろうとして――――

「うぉぉぉぉぉ!!」

 再び上条の右手に鈍器は打ち消されるが、元素操作は、直ぐに鈍器を再構成すると共に姿勢を低くして、鈍器を横になぎ振るう。

 その一撃に、神裂と上条は足下をすくわれ・・・・・いや、足首を砕こうとし他一撃は――――――神裂が上条の襟首を掴む、上へ飛ぶ、という二つの動作を同時に、元素操作が振るう一撃よりも早く行い回避する。

「――――――間抜け!」

 だが、それすらも予測していたかのように飛び上がった位置には水の刃が降り注いでいる。

 神裂の片手は上条の襟首を掴んでいることと空中という足場が安定していない場所であることから斬撃を繰り出す事は叶わない。

 上条当麻は、神裂に襟首を掴まれている状態なだけに、幻想殺しで打ち消せる範囲は自身の防衛だけに絞られる。

 故に、訪れる結果は悲劇しかあり得ない。

 血の雨が地面に降り注ぎ、七天七刀を握っていた神裂の左腕は空中に舞った。






 アンヘル様、感想ありがとうございます。
 も、申し訳ありません<(_ _)>百桁ではなく百人越えでした。ご指摘ありがとうございます。

 グリィン様、感想ありがとうございます。
 ・・・・・ストーリー的にキーパーソンである彼らを殺すのはどうかと思いましたので殺せませんでした。
 イライラさせて申し訳ありません<(_ _)>

 側様、感想ありがとうございます。
 許容してくださいましてありがとうございます<(_ _)>

 la様、感想ありがとうございました。
 これからもがんばって書いていきます。


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