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[14000] 【習作】真・残骸†無双(Fate/hollow ataraxia×真・恋姫†無双)
Name: ぽむぽむ地蔵◆1da765a3 ID:5464336c
Date: 2010/02/07 23:52
はじめまして、ぽむぽむ地蔵です。


今回初投稿となりますが、自信のスキル向上のため、厳しい意見も吸収していこうと張り切る次第であります。


さて。この小説の紹介をさせてもらうと、Fate/hollow ataraxiaのキャラ、アヴェンジャーが真・恋姫の世界にぶち込まれるお話です。入りかたが少々強引ですが、お許しください。


物語の構成と作者のスキル不足により、hollowとタイころをプレイしていないと意味不明なところが出てくると思います。


ですがそこらへんを飛ばして読んでもらっても面白くなるように頑張りますので、駄文とは思いますが、是非とも読んでやってくださいまし。


あと、参考にさせてもらった文がhollowなので少しサウンドノベルっぽくなってしまいましたが、ご了承くださいませ。


長々と失礼しました。それでは、ぽむぽむ地蔵からの前書きでした。







タイトルにクロス元をつけました。ご指摘、有難う御座いました。
タイトルに習作をつけました。ご指摘、有難う御座います。



[14000] 残骸その1   
Name: ぽむぽむ地蔵◆1da765a3 ID:5464336c
Date: 2009/11/15 21:31
注:hollowのネタばれがあります。プレイ中の方はお気をつけください        




 
    



 ──────そう、アレは言った。
 遠まわしに、奇跡は終わりだと笑ったのだ。


 






 気持ちのいい天気だった。
 

 ときより吹く風は冷たくなく、いよいよ春の到来を感じさせる。
 

 空を仰げば雲ひとつない青空。水をたっぷりつけた水彩絵の具を画用紙にぶちまけたかのような清清しさだ。
 

言うなれば絶好の散歩日和。


 若いカップルがジョギングで心を近づけるもよし、熟年夫婦が過去を振り返るもよし。そして目的もなくふらふら歩くもよし。


 時刻はお昼ごろなのか、OLさん3,4人が芝生にシートを広げてお弁当を食べている。


 「・・・・・・うまそうだなぁ」


 きゃいきゃい騒いでるOLさんを見ながら呟く。ちなみにうまそうの対象はあえて明言しないでおく。あとが怖い。 


 ここは未遠川を沿うように造られた深山町の公園。週末にもなると身体を持て余した子供やさっき言ったような人たちでいっぱいになる、みんなの憩いの場だ。


 そしてワタクシことアンリマユはいちサーヴァントとして、マスターの様子を見に行くところなのだった。











 あの聖杯戦争からひとつ、季節が過ぎ去った。
 

 オレとマスター、ふたりだけの聖杯戦争。四日間しか続かない不実の楽園。
 

 結局、オレと契約を切ったマスターは無事五日目へ到達。大事ななにかを掴んでくれたらしい。

 


 で、オレはというとマスターを失ったんで在るべき場所へと直行。そのまま無に還ったわけだ。


 そんなオレが再び現界したのは戦争が終わってから数ヵ月後。気がついたらあの見慣れた屋敷にぼーぜんと突っ立ってた。


 わけも分からずフラついていたところ、未だ冬木に滞在してたマスターと新都でばったり。


 出会い頭のアッパーカットには少々面食らったのだが、こうしてマスターと再開できたわけだ。
 

 ・・・・・・後に聞いた話なのだが、オレの現界にはなんかすごいマジックアイテムが絡んでるんだとか。なんでもシマシマで、魔法瓶の形をしているらしい。


 体育会系でいろいろ潔癖なご主人サマだが、関係はいたって良好。


 そうじゃなければ、新しく決まったバイトの現場に一度来てほしいなんて言うはずないのである。

 











  
 「冬木大橋のちかく・・・・・・ここか?──────げ。また喫茶店なのか」


 言われたとおりに来た店の前でため息をつく。どうやら彼女は自分のドジっ子スキルを分かっていないらしい。ついこの前厨房を水浸しにしたばかりじゃないか。


 居候先にお金をいれようとするその心意気は認めるが、しょーじき普通のバイトはむつかしいわけで。特技を生かせと言ってやりたい。


 それに今は男装喫茶なるものがあると聞いたしそっち方面を開拓してみてはいかがだろうか?男装なんてなれたもんだろうし。


 「・・・いやだから、飲食店が駄目だってのか」
 

 皿をしゃりしゃり割って店の人に怒られる姿が目に浮かぶ。すごい浮かぶ。


 ああ、この店も人間兵器の餌食になるのか。今後のバイトを選ぶ方針を決めるための尊い犠牲になってくれなどと黙祷を捧げつつ、せめてもの罪滅ぼしにこの被害店の


名前を覚えておくことにした。


 木の看板にはドイツ語で店の名前が書かれていた。


 「・・・・・・アーネンエルベ、ねぇ」


 珍しい店名に思わず声をあげて読んでしまう。なるほどこの名前はシックな店の雰囲気と十分にあっていた。このインパクトのでかさなら、当分忘れることはないだろう。


 「んじゃ、マスターも待ってるだろうし。行くかね」


 看板から視線をはずし入り口のドアノブを持つ。もしかしたら、マスターの悪意なき暴力を未然に防ぐことが出来るやも知れない。


 そのとき被害を負うのはオレなんだろーなーなんてちょっぴり覚悟して店の中に入った。

















 『いらっしゃいませぇー。喫茶、マジカル真剣マジ狩るへようこそー♡毎週第5水曜日は京都フェアですのでメニュー一色ぶぶ漬けとなってまーす』


 ──────ふよふよと漂う、ステッキがいた。
 

 「────────────ダウト。あんた、ここにいちゃだめだろ。あとこんな荒野を人は喫茶店と呼ばない」

 
 地平線が見えるほどのオープンテラスなどあるわけないだろ。オレ確かに扉くぐったよね?


 『おやおや?だれかと思えばステキな半裸刺青お兄さんじゃないですか。その説はどーもお世話になりましたー。ところでぶぶ漬け、食べていかれます?』


 ふよふよと近くにやってきて肩をつつかれる。相変わらず話を聞かない奴だった。


 「近寄るなつつくな。それとなんだぶぶ漬けって。それは京都流の追い返し方だろうが」


 来店してわずか数秒でぶぶ漬けをすすめる店は、やっぱり喫茶店とは呼ばない。古き良き京都民家でももう少し粘る。


 つれないですねーと赤いステッキはオレの横から正面に移動する。そして営業スマイルを浮かべるようにチカチカと点滅した。


 『改めましてこんにちは、アンリマユさん。お待ちしてました』


 「いやオレの意思じゃないんだけど。・・・・・・てかさ。マスターが勤めてる喫茶店はどこに消えたの?」


 『いやですねー、入り口の看板みたでしょう?まさにあなたが立ってるその場所ですよー』


 白い羽(オプション)を器用に使い、着物の袖で口元を隠すようクスクス笑う。


 「・・・・・・・・・・・・?」 


 ソイツの言葉に首を傾げて足の裏をどけてみたりする。


 どこをどうみたって、入り口なし出口なしの絶対永久袋荒野なのだが。


 ・・・・・・ところで、そういえばこの風景。どこか覚えがあるような・・・・?


 「あ―――、なんか分かったきた。ここ、アレだろ。あんたの心象世界」


 道理で見覚えがあるわけだ。さんざんな目にあったしね。


 『せ、正解ですっ・・・!さすがシロウさんを雛形にしただけはありますね。結界なんのそのですか。

 
 そうですっ。ここは私の固有結界。──────あの事件からはや数ヶ月。契約主には必要にもされず、私はただ来もしない救いの手を待つだけの存在でした・・・。


 やることといったらお裁縫とインターネット。お昼には森田さんを見ながらレトルトをチンし、昼下がりには煎餅とドラマの再放送をチェック。


 そんな生活を続ける内に、私は思ったのです。・・・・・・このままじゃいけない、と』

 
 「・・・・・・・・・・・・」

 
 その、まんま専業主婦な日常生活は第二魔法の産物としてどうか。いやむしろ、だからこそなのか。


 『その日から、私は修行に明け暮れました。日々自己研磨を繰り返し、血反吐を吐き、そしてやっと・・・!私の世界が造れるようになったのです!


 まぁ、実際のところ。五分もかからず出来ましたけどねー』


 「・・・・・・なるほど。そのチンする間に出来るようになった固有結界にオレを連れ込んでどうしたいわけ?」


 正直コイツと会話を続けるのがすごく疲れるのでさっさと本題を切り出す。するとステッキ、もとい人工天然精霊マジカルルビーは、待ってましたと言わんばかりに


ステッキがしらを点滅させた。・・・・・・どうやら、面倒ごとは確定らしい。なんかすっげぇ楽しそうだし。


 『ふふふふふ・・・・・・よくぞ聞いてくださいました! 箱に仕舞われ六年間、存在が薄れはや数月!使われない道具は日々悶々と時期を待ち、迸る熱いパトスは


例のチルドレンにも止められません!水泳選手が濡れ鼠!ファイアーマンが夏の虫です!たった一回の変身だけではこの欲求を満たすことはできません!ふるえるハートは


燃えつきるほどヒートなんですよぅ!!』


 よぅ、よぅ、よぅ・・・・・・と響くエコーをざらついた風が運ぶ。そこまで熱くなっているところ申しわけないのだが言いたいことがこれっぽっちも分からない。


 というか意味不明すぎる。


 「えっと、一行にまとめてくれ」


 『大佐・・・・・・魔力をもてあます』


 「オーケーさよなら。二度と現れてくれるなこの快楽主義妖精」


 バイバイと手を振り踵を返す。――――――さて。さっさとこんなところを出て、マスターのところに行かなければ。出口、でぐちっと・・・・・・。

 
 『まぁそんな都合よくいかないのがダークヒーローの辛いところですよねー』


 「いや、分かってはいたよ?」


 でもほら、一縷の望みってのもなかったわけじゃなかったし?もちろん望みブレイク。荒野に扉なんて逆に異物ダヨ?と言わんばかりの消失ぶりでした。


 『さてさて。それでは覚悟はよろしいですかー?ダイジョーブです。イタクナイデスヨー?ちょっとマガーレ、みたいな衝撃がくるだけですから』


 「はっ。――――――上等。待ってろ、今すぐ衛宮士郎つれてくるから」


 『だめですよー。あなたでなければ意味がないんです。夢でもみると思って諦めてください。ほら、夢はいつか覚めるものですよ?』


 「いーやーだー!あんたの場合、夢なんて優しいものじゃないだろ絶対!」


 ぎゅんぎゅんと目の前のステッキに膨大な魔力が集中する。ああ、なんて毒々しく痛々しい輝き。これが俗に言う死兆星の瞬きか。







 「・・・・・・いやマテ。この魔力はおかしいだろぜったいーっ!?」


 ぎゅんぎゅんだった音はぐわんぐわんに。下手するとこれ聖杯戦争よりヤバイぞ!?


 『はあぁぁああーーーー!!みんなー!ルビーちゃんにみんなの正義パワーをわけてー!』


 「本気で洒落になんねーって!なにするつもりだよこのバカステッキ!」


 濁流と化す魔力は際限を知らず世界さえも侵し始める。一面の荒野はガラスのように砕け始めていた。しかしステッキには尚も濁流が流れ込む。


 そして完全にその容量を埋めたのか。毒々しさ3割り増しの紅い後光を背負ったステッキがばちりばちりと紫電をあげた。


 『あぁ・・・・・・体中に力が満ちていきます・・・・・・!いまの私は!まさに!超!完全人工天然精霊!ルヴィーちゃんです!!』

  
 ドゴーンと辺りに赤光色の落雷が落ちる。ああ、本当にうっかりさんだなぁあのお嬢ちゃん。こいつで戦争してたら絶対勝ってたのに・・・・・・!


 『それでは準備はいいですかー?ルビーちゃん、もう我慢の限界デェース』


 ・・・・・・それはこっちのセリフデェース。


 「だから!なにするつもりかって聞いてんのー!」


 こうなった以上拒否権などないのだが、これからのことを知っているのと知らないのでは覚悟のしようが違う。ようするに精神的な部分メンタル


問題だ。質問は駄目もとだったのだが、ルビーは以外にも楽しそうにからだをくねくねさせて答えた。


 『アンリさんにはですねー、――――――時と世界を駆けてもらおうかと』


 「いやだーーー!!そんな魔法の叩き売りに巻き込まれてたまるかーーー!!!!!」


 ルビーとは正反対の方向に駆け出す。あそこにっ!あの世界が壊れた隙間に逃げ込めばっ・・・!


 『逃がしませんよ!・・・・・・・・・・・・カレイドビィィィーム!!』


 「うひぃ!なんなんだよ、あんためちゃくちゃだろーー!?」


 うにょんうにょんと迫るなぞビーム。こちらの走る速度より速いそれは――――――


 「あぎぃっ!」


 物量攻撃を伴って着弾。2tトラック玉突き事故のような衝撃と痛みを背中にモロ受けたオレは、悶絶し昏迷。こちらの意識はあっさりバッサリ持っていかれましたとさ。











 



 ・・・・・・最後に。



 『ほら、夢はいつか覚めるものですよ?』

 
 
 この一言を思い出し、本気で背筋が凍りついた。
 














  
 『さてさて、まぁこんなもんですかねー。他ならぬマスターの知り合いの頼み。これでマスターに貸し1、ですねー♪』






 











    <後書>


いやはやごめんなさい。結局ぶち込まれたところまでしか出来ませんでした。


これからの展開ですが、ルートは王道の魏ルート。しかしなにぶん好奇心旺盛なキャラですのでフラフラする可能性もありっちゃありです。


遅筆ですが頑張りますので、これからよろしくお願いします。



[14000] 残骸その2
Name: ぽむぽむ地蔵◆1da765a3 ID:14d6d1f2
Date: 2009/11/18 21:27






 気がつくと見知らぬ大地がお出迎え。


 「・・・・・・・・・・・・」


 ああ、まさかこの微妙な気持ちを一時間の間に二度も感じることになろうとは。こんな体験はこの先絶対訪れないだろう。幸か不幸か、ネオメロドラマなんちゃら。


 「くっそー、あの自己中精霊。日本大陸の片鱗すら見せないところに飛ばしやがって」

 
 座り方を尻もちからあぐらへと移行し、うぅんと背を伸ばす。乾いた風が黄色っぽい土を運び身体をくすぐった。


 何気なく通り過ぎる風を見つめると、遠くに仙人が住んでそうな先が尖った山が乱立している。



・・・・・・ははっ、と、口から笑いが漏れた。





 ――――――ほんとここ、どこさ?










 見知らぬ黄砂を踏みしめ歩く。迷子の基本は情報収集が常の常。捜査は足でやるもんだぜ、ヤス。


 ん?ヤスってだれだ。
 

 テクテクざりざりと歩き始めて15分。お散歩いい旅夢気分でわかった情報は犯人と現場状況のみでした。


 犯人は言わずもがな、あのとんでもステッキルビーちゃん。なにせ被害者の目の前で行われた犯行だからね!ウォンテッドウォンテッド。早くアイツを捕まえてー。


 そしてこの場所。広がる風景と乾燥した気候、それと滞留する大源マナの潤沢さから、いくらか昔の中国地方だと仮定した。


 一番の重要項である帰り道についてまったくの不明。あの精霊、ご丁寧にも並行世界のどこかに飛ばしたようで。


 さすが彼の宝石翁の作品。まさか自身の秘奥を道具へコピーさせるとは・・・・・・!どいつもこいつも魔法を軽く扱いすぎなのである。







 「でもほんと、どうしょっかなー。黙ってきちゃったしなー」


 一番の心配事に頭を掻く。
 

融通が利かないマスターは理由も聞かずオレをミンチにするだろう。あの拳は比喩じゃなくミキサーの刃だ。もはや骨ではない。


 秒間にして八撃。人体構造を無視した、正しい人間兵器の活動でした。・・・・・・やべ、ちょっと帰りたくなくなった。


 ・・・・・・まぁ多少悲しんでくれたのなら、ちょっとうれしいかもしれないが。


 だっていつもの扱いほんと酷いし?いくら死んでも復活するからってすぐ殺ろうとする癖はいただけない。悪魔にも正しい権利を。プリーズオレの生命権。


 






 そんなくだらないことを考えているからだろうか。


 「おい。そこの腰巻野郎」


 「・・・・・・あ?」


 結局、さらに面倒なことに巻き込まれてしまうのだった。


 








 一方そのころ、腰巻野郎着地地点より少し離れた場所。乾いた土を、多くの馬の蹄が掘り返しながらその大地を駆けていた。


 多く、と言うのは果たして間違いか。認識できないほどの数を、人は数値にあてはめない。千か二千か三千か。もしかすると万を容易に超えているのかもしれない。


 その数え切れない馬の上には人が乗っている。一頭に一人。つまり、この数え切れない馬の上には同じ数の人間が乗っているのだ。

 
 多くの牙門旗を掲げ、武器を携え、まなこはただ真摯に進む先を見つめている。

 
 現代では見ることの無い騎馬。猛々しい武の象徴。目的のある駿馬の疾駆。人はこれを、進軍と呼んだ。








 
 「――――――秋蘭。前方に敵影は?」


 その雄雄しくも峻厳とした空気の中、馬に乗った一人の可憐な少女が誰かに声をかける。しかし誰もそれを咎めない。否、咎められるはずもなかった。


 「はっ。未だ敵影、発見できておりません。・・・・・・申しわけありません、我が主。しかし、所詮相手は盗むことしか出来ぬ愚賊。追いつくのも時間の問題かと」


 少女の転がした鈴の音に反応したのはもう一人の女性。秋蘭と呼ばれた妙齢の美女は淡々と現状を少女に話した。それに長い黒髪の女性が続く。


 「そうです華琳さま!華琳さまの大切な物を奪った賊の奴らなんか、この夏侯元譲が剣の錆にしてくれます!」

 
 さきほどの冷静な秋蘭とは違い、ふんふんと鼻息荒く話す女性。その興奮した様子の女性を、先ほどの少女は軽く一瞥した。


 「・・・・・・ふぅん。その“盗むしか脳の無い賊の奴らなんか”に、いま私たちは手を焼いているのだけれど?」

 
 「うっ、ううぅ・・・・・・も、申しわけありません。華琳さまぁ」

 
 「・・・・・・申しわけありません。急ぎ、進軍速度を上げさせます」


 少女のイラついた一言に、二人の女性はしおしおとしぼむ。そんな二人を見て少女は小さく微笑んだ。どうやら二人の落ち込んだ姿に癒されたらしい。









 進軍速度を上げた騎馬は巻き上げる土の量をあげ、さらに加速する。


 その中心にいる三人も話を止め、ただ馬の進行方向を見据える。


 これは軍。可憐にて勇猛なる三人の女性が指揮する大部隊。


 燃え盛る瞳に長い黒髪の夏侯惇。


 知的な瞳に薄水色の髪の夏侯淵。そして最後。


 夏侯惇の武の炎に、夏侯淵の知の氷。そのどちらをも兼ね備え、なおかつ凌駕する瞳を持った黄金色の二つ結びの少女。


 名を――――――――――――曹操と言った。

 









 「・・・・・・・・・・・・」
 

 第一村人発見。まさにそんな心境。だが、


 「おらこの腰巻野郎。珍しいカッコしてるじゃねぇか。どこの族だ、あぁ?」
 

 ――――――もっと親切なのはいなかったのかっ。

 
 「・・・・・・族とは言うね。そっちこそ、男三人お揃いの鎧なんか着ちゃって。なに?今から男色仲間と茂みでパーティー?・・・・・・やめときなよ。ここらへん見通しいいぞ?」


 お返しとばかりに事実を述べる。因果応報はこの世の真理。・・・・・・八割がた好奇心だが。


 なんであれ重要な情報源。男色だろうが男装だろうがこのさいどーでもいいのである。


 「ぱーてぃ?なんだそりゃ。異民族に伝わるまじないかなんかか?――――――ああついてねぇ。せっかくデカイ盗みが上手くいったってのに、帰りに蛮族とあっちまうなんて。


くそっ、お前らのせいだぞこの馬鹿っ!」


 「ひ、ひぃ。す、すいません兄貴・・・・・・」


 「お金、持ってると、おもったんだな」

 
 怒りだすちょびヒゲ中年にへこへこと頭を下げるチビとデブ。・・・・・・ふむふむなるほど。横文字は通じないか。じゃあ自己紹介とか無理っぽいな。オレの名前、噛みやすいほどカタカナだし。


 ヴェだよ、ヴェ。







 「ああもういいっ!・・・・・・おいそこの。お前なんか持ってねぇか?あるならこっちに渡せ。無いなら腹いせに殺されろ」


 しゅらり、とヒゲが腰の剣を抜く。そこそこの厚さがある中華刀。ヒゲが抜いたのを号令と感じたのか、チビとデブもまったく同じ、いや、ヒゲより少し刃毀れした物を腰から抜いた。


 「抵抗しよう、なんて思うんじゃねぇぞ?見たところお前、丸腰だろ?それになんだか弱そうだし」


 「――――――――――――ははは」


 男の言葉についつい声をあげてしまう。・・・・・・言っておくが俺は、相当我慢強い。昔教わったのは忍耐強さのみ。刀でばっさりやられても立っていられる自信がある。





 そんなオレが笑いを我慢できないほど、目の前の人間は面白いことを言った。マスターのスカート姿以来の傑作だ。


 男達は突然吹き出したオレに怪訝な瞳を向ける。だから、自分たちの発言の間違いを教えてあげることにした。


 「・・・・・・オレが弱い、か。間違いない」


 ――――――しかし人間。


 「確かに英霊として末席で最弱だろうさ。だけどオレもサーヴァント。数ある英霊の一人なんだ。――――――人間おまえらごとき、殺せないとでも?」


 侮るなかれ最古悪。この身はすでに人にあらず。確かに同じ英霊えいゆう相手じゃ勝ち目はないだろう。


 ――――――だが人間が相手に限り、オレは最強なのだ。


 「・・・・・・つまり、渡せるモンは持ってないと?・・・・・・じゃあな蛮族。一人で居るから悪いんだぜ?」


 黄色い三つの鎧が駆け始める。ああ、なんて重鈍な行進か。アレでは陸のミミズにも劣る。見るに耐えない全力の動き。可哀想なほど残念だ。だから――――――


 「――――――――――――ヒ」


 精一杯の慈悲で以って、その肉体を刻みましょう。肉体の致命的損傷は魂の乖離。是、即ち死と呼ぶ也。









 三人が剣を振りかざす。標的をがら空きの胴に定め、手を後ろに獲物を具現化とりだした。


 邪魔が入る余地すらない。与えない。このままこれらが剣を振り下ろすより先に、こちらの獲物で肉片に変える。現時点での決定事項。回避不可能な死の予見。


 ――――――だっていうのに邪魔が入るのは、日ごろの行いが悪いのか。


 「待てぃ!」


 突然響く女の声。三人は振り下ろしていた剣をピタリと止め、自分の背後を振り返る。


 オレは構わず、その無防備な身体に獲物を奔らせた。

 








 「あちゃー。貴重な情報源が」


 十七分割された死体を足元にみてぼんやりと呟く。首から上は傷つけなくって正解だった。三人とも面白いようにまだ生きてる顔をしてる。死んでるけど。


 ま、いっかー。入れ替わりに人来てくれたし。しかもこんどは女の子。えらいベッピンさんだ。


 「よ、お嬢さん。ご機嫌いかが?」


 不安定な足元に気をつけて歩く。バラバラの四肢を足でどかしながら気軽にコンニチハ。第一印象大事です。一応こっちを助けてくれたのだし、それなりの義理は果したい。


 ぽけっ、としていた女の子は近づくこちらをみるなり我を取り戻し、手に持った紅い槍を構えた。ついでに殺気も添えて。


 「―――――――――」


 「あーちょい待ち。とりあえずその槍下ろせよ。紅い槍は鬼門なんだ」


 オレのマスター、紅槍で心臓一撃だったからね。縁起のいいものじゃないのは確かだ。


 停戦の意を示すため獲物を地面に落としお手上げポーズ。さっきの奴らである程度満たせたので「待て」くらいデキマスヨ?忠犬だしねオレ。


 「・・・・・・・・・」


 白くて、えらく扇情的なエロい服を着た彼女は、こちらの落ちた武器を見詰め渋々その槍の穂先を下げた。


 「よし。やっと話が出来るな。改めてお嬢さん、ご機嫌いかが?」

 
 紳士に一礼。何度も言うが第一印象大事よコレ。


 しかし少女、というより女性か。まぁどっちでもいいが、彼女の望む言葉と違ったらしい。素晴らしいまでの柳眉を鋭角に逆立てた。


 「――――――最悪だ。か弱きものを蛮族と知って馳せ参じたが、まさかこんなものを見せられるとは。それに貴様、その三人が私の声に気を取られている内に殺したな。


 ・・・・・・よくも利用してくれた」


 「・・・・・・・・・・・・はあ」

 
 なるほど。殺したことは正当防衛だが余所見をしている不意をつくのはどうか、ってとこか。うん、面白いね。少し似てる。


 というか声をあげたのはそちらの勝手だろうに。それを利用された、なんて自分勝手甚だしい。むしろ横取りしようとしたのはどっちか。・・・・・・まあいいけど。


 「ま、実際あんたの機嫌なんてどうでもいいんだ。ちょっと質問したいことがあってさ。ほらあそこのお仲間二人も連れてきてもらえる?人数は多いほうがいいんだ」


 彼女の後方で待機する非戦闘員っぽい二人を指差す。さっきからずっとこちらを窺ってるので、彼女の連れと判断した。


 しかし彼女はその殺気でオレを牽制する。


 「問いたいことがあるなら私にすればいい。答えられることならば答えよう。しかし、問答が終わったなら早急に自らの地へ帰るがいい。・・・・・・格好からして北狄の国の人間か?


ここいらを一人でうろつくなど、いくら腕に自信があろうとも自殺行為だろうよ」


 だって。


 要するに「お前信用出来ないからダメ。答えてやるからサッサと帰れ」だそうだ。我ながら優秀な翻訳能力である。そして今更だが、


 「蛮族じゃないんだけど・・・・・・まあいいや。了解。終わったらすぐ帰る」


 ウソだけど。帰る方法あるならこっちが知りたいし。しかしそいつは満足したのか、視線で質問を催促する。


 意外と優しいお嬢さんに沸き立つ欲望を抑えつつ、捜査の基本、聞き込みを開始した。

 


 

 
 
 「ふんふん・・・・・・じゃあここは兗州の陳留で?王朝は漢王朝・・・・・・なるほど。面白い話をどーも。それじゃオレ帰るから」


 聞ける情報はあらかた聞いたので背を向けてバイバイする。彼女の視線は少しの間背中に刺さったが、すぐなくなり気配が遠ざかって行く。

 
 これでサヨナラ。たまたま通りすがっただけの関係は終局を向かえ二度と会うことはないだろう。――――――だからだろうか。


 「――――――ねぇ」


 名前を、聞いておきたくなった。

 
 「・・・・・・・・・」


 背中越しだか彼女が立ち止まったのが分かる。どうやら話を聞いてくれるらしかった。


 「あんた、名前なんてーの?」


 「――――――――――――趙雲。北方常山の趙子龍だ。・・・・・・せいぜい道中、気をつけるといい」


 














<後書>


たくさん書いたのに内容がぜんぜん進んでない。初っ端からしてこれはどうなんでしょう?ぽむぽむ地蔵です。


今回、アンリっぽさを出したくて書きたいこと書いたら趙雲さん登場までしかやれませんでした。ごめんなさい。


あと史実の三国志はボンヤリとしか覚えてないので、訂正あったら指摘お願いします。


一応次も出来上がっているので、また近々追加したいと思います。


次回、いよいよ曹操さんの登場です。


・・・・・・今更なのですが、異民族を武将に引き入れた場合、やっぱりよくない風評が流れるのでしょうか。


一人の異民族の呪術によって魏の重鎮が洗脳された、みたいな。





余談ですが黄巾のアニキが少しかっこよくなってしまった。


それでは、また近々。ぽむぽむ地蔵でした。




[14000] 残骸その3
Name: ぽむぽむ地蔵◆1da765a3 ID:4f37ed70
Date: 2009/11/23 02:59



 情報を纏めよう。嬉しいことに、材料はそろったのだし。


 




 女が去った後、オレは死体置き場に戻り、新しい情報を含めておさらいをする。


 どうやらここは漢時代末期の中国大陸らしい。だいたい西暦180年前後。まさか千年も時を飛び越えてしまうとは。ルビーへの怒りが恐れへと進化した。


 だがオレにとっちゃ好都合。乱世なんて命の扱いが一番安い時だ。殺し殺されの応酬が、日常のように行われている。


 だが、分からないこともまだまだある。たとえばさっき会ったアイツ。確かにあの女は自分のことを趙雲と名乗った。


 「・・・・・・ワケわかんねえ。趙雲は男だろ」


 そういうこと。考えても埒があかないので、憧れの人の名前を名乗っちゃったちょっと痛い子ってことにしといた。













 「お?なんだコレ?」


 バラバラになった男の遺体の影に、細い竹がたくさん連なった物あり。


 そう言えばデカイ盗みをやったとか言ってたのでこれがその盗品かもしれない。


 「・・・・・・竹簡?」


 その昔、紙が大変貴重だったころ。東洋ではこういう竹を糸で編んだものを、本代わりに使っていたらしい。


 タイトルらしき文字を読む。そこには古さに霞んだ文字で【太平要術】と書かれていた。


 「えぇ!?た、太平要術!?」


 さすが古代中国。現存するか怪しい書物を過去げんちで拾っちゃいました。すげぇぜ。


 「わーい。路銀が確保できたー」


 やっほー、と空に掲げて小躍りする。帰り道を探す間、さすがに無一文はきつかったのでそれなりに喜んだ。あ?マスターへのお土産?んなもんねーよ。


 お礼にと、一纏めにしたバラバラ死体を近くの草むらへ供養する。土葬ならぬ草葬。まず在り得ない方法なので、きっと喜んでくれるだろう。










 「・・・・・・アレ。でもこれどうやって持ち歩こう」

 
 喜びもつかの間、早くも問題に直撃。カバンなんてもの持ち歩いてないし、ポケットなんて在る分けない。上半身裸だし。

 
 ・・・・・・どうしようか。盗品だから大手を振って持ち歩けるわけじゃない。


 これだけのお宝を所持してるのなんて大きい国なのだろう。なら、そのお宝を取り戻しに来るのも大部隊じゃなかろうか?なんかスペクタクル。浪漫があるね。


 そしてさんざん悩んだ挙句、とりあえずこの場を離れることにした。そういえばここからだいぶ歩いたところに街があるらしいし。


 名を陳留。大陸からみて北部の、兗州に名を連ねる陳留郡陳留県。なかなかに大きいところっぽいし、ウキウキしちゃうよネ。


 ああ、ありがとう趙雲(仮)嬢。これも全てあなたのおかげですぅ。生きてたら明日の晩まで名前覚えといてやる。


 






 



 しかし懸念事項も相当のもんだ。いま持っている情報だけでは少し心もとない。数ある懸念事項の中で、まずひとつめに中華思想というものがあげられる。


 ――――――その昔。いやオレにとっては今なんだが、中国には「中華こそが世界の中心。漢民族こそ世界一」という思想が出来上がっており、それ以外の民族の文化や思想に


価値など無いと、見下していた。


・・・・・・まぁ典型的な昔の考え方だわな。現在でも似たような思想があるっちゃあるのだが、それはオレにとって、いまや一千年後の話。関係ないので割愛する。


 何が言いたいのかと言うと、つまりオレの身体・格好・武器。紛うことなくもろ異民族ルックなのだった!ひゅーひゅーやったね、肩身が狭くてしょうがない!


 思想が唱えられてから時間が経ち、民族につけられた蔑称がただの名称と成り果ててからも、意識はしていないが自分たちとは異なる存在として見ているのは確か。

 
 なにしろいつ侵略してくるか分からない敵だ。得体の知れないモノを怖がる連中にとって、気味悪いほか無い。


 なら幽州琢郡の公孫賛のように、民族ごと降伏させて自軍に引き込むか、根競べして正々堂々攻め落とすかのどちらかを選んだほうが安心できる。


 だから恐らく、いやかなりの確立で街になんか入れないと思う。なにしろこの格好だ。門前で弾かれそのまま首ちょんぱ、なんてのも大いにありえる。


 ここまで考察し、さっきの趙雲(仮)嬢のありがたさを知った。おお天よ、天上人よ。人はまだ腐っておりませぬ、なんてね。もしくはそんなに厳しくないのか?


 どっちにしろ立ち止まるわけにはいかない。こちとら一般人と会うだけで死亡の旗が見え隠れするんだ。慎重に行動しないとね。


 気分はかくれんぼ。幼少時代は思い出せなかった。














 そして、そのたった五分後。距離的には1キロメートルも行ってない。


 「・・・・・・・・・いちぬけぴっ」


 前方の地平線を埋め尽くす砂埃を呆然と眺めながら唖然と呟く。しかし鬼さんは子を探すのを止めてくれない。ま、そうですよね。鬼は子を狩ってなんぼですよね。


 もうもうと立つ砂煙から数え切れないほどの騎馬が確認できた。明らかにこちら目指し、目的地と定めている。

 
 掲げられた多くの旗には『曹』と『夏侯』の旗が赤と青の二色。・・・・・・もうなんか嫌な予感しかしない。

 
 ――――――そもそも。荒野でかくれんぼなんて、小学校低学年の逆上がり並みに無理だったのだ。


 ドドドドド・・・・・と近くなる蹄の音。もう隠れるのは無理なのでここで待っておくことにする。そして会った瞬間敵さんじゃないよアピール。

 
 なんとか成功しますようにと神様じぶんに祈りながら、そっと、太平要術を腰布の中に隠した。・・・・・・したたかさなら、ランクBなのである。















 ――――――結果から言おう。


 無理でした。


 すごい数の騎馬に囲まれたあと、情状酌量の余地無く縄で簀巻きにされて蹴倒された。しかし不幸中の幸いか、書物はバレなかったのでよしとする。


 「へるぷみー。へるぷみー」


 しかし思っていたより扱いがヒドかった。よもや尋問もなしで捕縛とは。これで太平要術まで見つかってた時には肉屋に売られてたかも知らん。それこそ何進あたりに。


 「・・・・・・・・・・・・」


 イモ虫の様に動くオレを、まるで敵でも見るかのように馬上から見やる三人の女性。どうやら彼女らがこの軍隊のお偉いさんのようだった。てかすげぇ美人。


 「・・・・・・二万ぐらいでどう?」


 「・・・・・・春蘭。賊の情報に、異民族が居たというものは?」


 無視か。まあいいけど。びた一文持ってねえし。


 「い、いえ。たしか情報によると、中肉中背で髭を生やした男と背の小さい男。それに、巨躯の男と聞いておりますが・・・・・・」


 「・・・・・・そう。では秋蘭。連中に仲間がいたという可能性は?」


 「はっ。・・・・・・無いとも言い切れませんが、逃げなかったところを見るとコレはただの流れ者かと」


 「なるほどね・・・・・・。たしかに、こんな目立つ格好で間諜は無いでしょう。言語も違うようだし、あっさり捕まえられたしね」


 無駄な時間を使ったわ、と馬の手綱を引くツインドリル金髪の少女。近くの部下になにか指示をしている。


 そして憤慨するオレ。さっきの言葉が、まさか異国語と受け取られるとは。







 ・・・・・・・・・アレ?もしかして、このまま放置ですか?そうですか。――――――いや冗談じゃねぇんだけど。


 簀巻きのまんま放置されちゃたまんねぇんでなんとか引きとめようとする。


 幸いにも彼女らの興味のありそうな話題は持っていることだ、あとは声を掛けるだけ。


 「おーい。そこのお嬢ちゃーん」


 「・・・・・・・・・?」 


 彼女たちはこちらを一瞥し、少女はまたすぐ部下への指示出しにもどった。どうやら今の言葉をイントネーションの良く似た異国語だと認識してしまったらしい。


 いわゆる空耳。そういう先入観はどうかと思う。


 



 


 どうしたもんか。名前を呼ぼうにも名前を知らない。


 ならばと少女の身体を観察する。身体的な特徴を指して呼べば、恐らく気づくのではないか。


 幸い金色の髪はあの少女だけだ。あのツインテールのようなドリル頭も個性的だし。


 そうしようと決めて少女に伝わるようもう一度声を上げる。


 「おーい。ちょっとそこの、慎ましやかな胸のお嬢ちゃーん」


 客観的にみて絶対的な事実を言ってみる。オレらしくない、オブラートに包んだ発言が良かったのか。






 
 「―――――――――――――――」





 クリームを塗り忘れたリコーダーの繋ぎ目のような動きで、少女はこちらを見てくれた。















<後書>


遅くなってすいません。そして短くてごめんなさい。


話自体は出来上がっていたのですが、どうしてもデッドエンドにしか向かわなかったため、一から書き直してました。

 
今回使った知識は付け焼刃のものが多いので、間違っているところがあると思います。


これおかしいよ、ってのがあったらご指摘いただけるとありがたいです。


そしてもう少し、物語の進行速度を上げて行きたいと思っております。


ぽむぽむ地蔵でした。



[14000] 残骸その4
Name: ぽむぽむ地蔵◆1da765a3 ID:4f37ed70
Date: 2009/11/29 21:01

 
 ぴたり、と。部下を指示していた指が止まった。


 少女が馬を下りてこちらに向かってくるのを見て、傍らの二人は驚いたようにその後ろをついて来る。どうやらちゃんと通じた様だった。


 







 目の前の三人に向かってやぁと声をかけ身体をゆする。手を挙げられないのでせめてと送った挨拶行為に、訝しげな視線を送り返された。


 そのまま少しの間オレを観察し、眉を顰めると、


 「・・・・・・私達の言葉が分かるなら、返事をなさい」


 確かめるように、金色の髪の女は問い掛けた。


 「分かるも何も、無視したのはそっちだろうが。さっきから何回呼びかけたと思ってやがる」


 やっと話が通じたのでつい不満をぶちまける。縛るのは趣向のひとつとして有りかも知れないが、縛られるのは好きじゃない。


 「貴様ぁっ!華琳さまに向かって・・・・・・!」


 「春蘭。少し静かになさい」


 「ぐぅ・・・で、ですが・・・・・・」

 
 「姉者。私達の目的がなにであるか、忘れたわけではあるまい」


 「しゅ、秋蘭まで・・・・・・・・・」


 二人に怒られしょんぼりする女を、ニヤニヤしながら見る。なんだほら、ちょっとこう、和まない?こういうの。


 ふぅ、と息をはいて、金髪の少女はまたオレを見やる。後ろに控えさせてる女二人より背はだいぶ小さいのだが、背の高低を感じさせないほどの迫力があった。


 「話が通じるのなら早いわ。私は陳留の刺史をしている者よ」


 刺史とは、前漢期に光武帝が十三州とともに設置した、いわゆる監察官の職だ。街の行政、税の徴収、治安維持などを務めとする役職で、彼女はそれなんだとか。


 ちなみに女性が政治をやってるなんて!っていう類のツッコミはしない。昔から本当に強いのは、子種を作る男性ではなく子を宿す女性なのだ。そんなことより。


 「ホントに!?ラッキー、助かった!今からその陳留ってとこに行く予定だったんだ」

 
 連れてってくれない?とお願いしてみる。もちろんいいよって返ってきた。


 「ええ。――――――嫌と言っても連れてくわ。領地に流れた族の処理も、刺史の仕事のひとつだものね」

 
 クスリ、と少女は口端を吊り上げて冷笑を湛える。・・・・・・こえー。何が怖いって、表情は笑ってるのに、目が笑ってないのが恐ろしい。


 「げげ。なに、怒ってんのあんた」


 「・・・・・・あら。あなたのような、親からもらった身体を大切にしない人に言われて怒ることなんて、わたしにはひとつもないのだけれど?」


 嘘付け。いくらにっこり笑ってたって、口の端が痙攣してるならそりゃ説得力ゼロだ。あんな笑顔なら逆に不安になるんで、いっそムッとしてた方が可愛げがある。


 「あー、なんていうか、そりゃしょうがない。不本意だ。ま、いいや。街に連れてってくれるんだろ?なら早くしよう。いい加減同じような景色ばかりで見飽きたんで、


さっさと移動したい」
 

 「その前にあなたに聞くことがあるの。あなた、この辺りで同じような服を着た三人組に出会わなかった?」


 「三人組?」


 「ええ。わたしたち、そいつらを探してるの。秋蘭?」


 「はっ。・・・・・・三人組の特徴は、一人は中肉中背で髭を生やした男。もう一人は身長が低く、甲高い声の男。そして最後に、巨躯で無口な男。どうだ、見覚えはない


か?」


 問われて、言葉に詰まった。なんせ見覚え大アリ。間違いなくさっき殺したやつらなんだがさて、どうしたもんかと考える。
 

 「うーん・・・・・・」


 「おい!質問にさっさと答えんか!」


 「あーーーーーー、見た。あんたたちに捕まる少し前に。オレに金目のモノ出せって脅してきたから、無いって言ったら馬乗って逃げた」


 そして、オレらしい選択をした。オレの在り方は基本悪。利益のためにウソを付くのは悪魔の常套手段なので、例に漏れずその通りにする。

 
 「・・・・・・いかがいたしましょうか、華琳さま」


 「・・・・・・いいわ。こいつ自信にも用があることですしね」
 

 「か、華琳さま!このような蛮族の言うことを信じるのですか!?」


 「ええ。わたしたちには情報が少なすぎるもの。――――――ただし嘘をついているのなら、あなたが踏む土は陳留で最後となることを覚悟なさい。それでいいわね、春蘭?」
 

 はぁ、と渋々肯く黒髪の女。・・・・・・このウソは墓場まで持っていこうと決めた。いま決めた。


 どうやら話は、オレにとっていい方向で落ち着いたらしい。とりあえず一安心。オレに利用価値を見出してくれたので、すぐ殺されることは無さそうだ。


 











 こうしてオレは、念願の街に連れて行かれることになった。扱いは異民族という形でだが、まぁ誤解はゆっくり解いていけばいい。


 制限時間タイムリミットは無表示。見えないものを気にしたってしょうがないので、焦らず、現状を楽しもうと思う。
 

 タイムスリップなんて貴重なイベントは遊ばないと損だ。時間が来たら、アイツが迎えに来てくれると思うし。・・・・・・いや来ると信じたい。


 


 澄み渡る蒼穹を見て、ひとり雲を画く。


 どうせ、夢のような遠い世界。帰れば夢のような現実が待っている。性分として、同じ夢ならどちらも遊び尽くしたい。


 ―――――――――それは叶わなかったモノへの感傷か、奪われたモノへの渇望か。どちらにしても、手遅れに違いないけど。


 願わくば。感じる瞬間の積み重ねが、失った幾星霜の年月に届く眩い明かりでありますように―――――――――。














 「ぎゃぁぁああーーーーーー!!??馬の腹に荷物縛りは酔うってぜったい!あんたやっぱり根に持ってんだろ!?」


 「なんのことかしら。どうすれば酔わないか、せいぜいその慎ましやかな頭で考えるのね」


 「せめて背中に乗っけてくれーーーーーー!!!」
























 「うえー気持ちわるー」


 叫びながら机に両手を投げ出しうつ伏せに倒れる。ここまで二時間ちょっと、馬の横っ腹で地面と平行の体勢はさすがにキツかった。


 その様子を見た少女は、対面する席で呆れたように溜め息をはいた。


 「はぁ・・・・・・だらしないわね。あなたの一族では、馬の乗り方を教わらなかったの?」


 言葉とは裏腹に機嫌の良さそうな少女。幾分かスッキリしたその表情に、いじめっ子体質が浮き出ている。


 「教わってないし、そもそもアレは乗馬じゃない」


 正しくは運搬と言う。本人の技術と人権を必要としない、まっこと楽な移動手段であった。


 「教わらなかったの?珍しいわね。なら、まずそこから聞いていこうかしら。あなたの名前と、生国は?」


 「・・・・・・あーーー」


 自然に始まった少女からの尋問に、少し困って頬をかく。なぜならオレは、そのどちらの答えも用意できない。


 「どうしたの?名前と生まれた国ぐらいは言えるでしょう」


 再び問う目に不審が灯る。隠すこともないので、さっさと言うことにした。


 「悪いな。オレ、名前なんてないし、生まれた国も思い出せない」


 「・・・・・・うそでしょ?名前を付けない風習がある国なんて、聞いたことが無いわ」


 「ああいや、他のみんなはあったと思うよ?聞いたこと無いのもあたりまえだ。オレも、呼ばれ続けた名称ならある。それでもいいなら言うけど」


 は?と向かいに座った三人が。並んで目を丸くする。


 まあ当然の反応だよな。個人の名前が無くて、一括りにされた名称が有る人間なんてその時点で特別だ。悪く言うと異常。


 しかし、少女はその瞳を怪しく揺るがす。


 「・・・・・・構わないわ。呼び名が無いと不便だものね」


 「あいよ。――――――アンリマユ。それが、オレの名だ。呼びにくかったら、アンリでいい」


 「あ、あんり・・・・・・まゆ・・・・・・?あ、アんリ、まユ。――――――わかったわ、アンリ。なら次は、こちらの番ね」


 少女は自らを名乗るために、整った顔をさらにキリリと引き締める。


 名乗るだけでそんな顔する必要ないと思うのだが、それほど自分の名を大切に思っているのだろう。


 なんだかこちらまで畏まって、イスに尻を落ち着けなおした。そして、彼女は言う。


 「わたしの名前は曹孟徳。そして、彼女たちは夏侯惇と夏侯淵よ」

 
 一点の曇りも無い瞳で、一欠けらも想像できなかった名前を。


 「・・・・・・・・・・・・」


 容量を超えた脳髄に痛みが響く。ようするに、意味わかんなくてこめかみがキリキリした。


 さっき趙雲を名乗った少女は、一度目なので偶然だとしよう。だが二度も三度も続けば、最初を含めて偶然ではなく必然だ。


 「・・・・・・確認する。あんた、いま、曹孟徳って言った?」


 念のために確認をとる。


 「・・・・・・?言ったわよ。曹孟徳。わたしの名前ね」


 「夏侯惇?」


 「なんだっ!」


 「夏侯淵?」


 「うむ」


 そう答える目はやっぱり自信に満ち溢れて、嘘なんかついてる様子は微塵もない。となりの二人も然り、だ。・・・・・・これは、いよいよ認めなくちゃならない。

 
 自分で考えた仮説を頭のなかで反芻し、オレは、深い溜め息をはいた。面倒ごとは好きなのだが、一気に来られるとそりゃあ渋滞するのである。


 ―――――――――ようするに。この並行世界において、少なくとも曹孟徳とその臣下の夏侯兄弟。そして趙雲は、女性なのであった。






 














 少女の尋問は、ショックを受けるオレを無視して続けられる。

 
 「あなた、異民族でしょう?なぜ兗州なんかにいるのかしら。どうやってここまで?」


 少女は尋問の一環でその質問を投げかける。・・・・・・しかし、こっちはいい加減気になってきたり。


 「なぁ。異民族異民族って、確認もせずにそう決め付けるのはどうよ?」


 毎度毎度、そんな見下された言い方をされるのも気に障る。むこうは日常会話レヴェルのつもりなのだろうけど、それでもだ。


 牛肉に、おい牛肉って言ってるようなもん。固有名詞を言ってるだけなのだが、牛からしたら堪らない。なんせ自分の肉である。


 偏見を失くせ、とまでは言わないがせめてその呼び方は直して欲しい。名前も教えたのだし、そもそも異民族じゃないし。


 ・・・・・・あれ?でも、えっと、異民族、なのか?


 「なにを今更。自分で認めたではないか!」


 「言ってない。よく思い出せよ。話に合わせてただけで、自分から異民族だとは言ってないぞ?」


 「嘘をつけ!たしかに・・・・・・えっと・・・・・・・・・あれ?い、言いましたよね!?華琳さま!」


 ・・・・・・なにこいつ、可愛いんだけど。


 「では、自分は違うと?ならその身体の模様は、どう説明する気かしら?」


 嘘を非難するような目で少女は問う。やっぱりそこに繋がるかぁ、と小さく嘆息した。


 この時代に刺青をしているのは、どうやら異民族が多いらしい。だから彼女たちの頭の中では刺青イコール蛮族の方程式が成り立っているわけだ。


 いくら違うよって叫んでも、この身体が証明するというわけである。


 だがオレのは少し違う。正確にいえば、オレのは刺青ではなく紋様だ。別に色を入れたわけでも何でもなく、ただオレで在れという呪いのカタチに過ぎない。


 それを説明するには、まずオレがどこから来たのか、どういう存在なのかを彼女達に教えなければいけない。もちろん詳しいところは抜きで、だけど。


 それはいささか面倒だ。けれどもしなければこのまま異民族扱い。・・・・・・さてさて。ほんとにどうしたもんか。












 オレの長考を気まずさと取ったのか。少女はひとつ溜め息をついて、諭すように喋りだす。

 
 「わたしは別に、異民族がどうとか思っているわけじゃないわ。攻めてくるのなら好きにすればいい。反旗を翻すのなら勝手にすればいい。暴れるのなら、鎮圧すればいい


だけの話だもの」


 ――――――でもね、と少女は、何故か楽しそうに続ける。


 「わたしは貴方たちの文化や習慣に興味があるの。人の思考は千差万別。違う土地で暮している人間なら尚更よ。その異なった考えを、わたしは評価するわ。


それは、国の発展の足がかりになるかも知れない。より良い国をつくための礎になるかも知れない。たとえならなくても、得た知識は無駄にはならないはずよ。


・・・・・・だから一人でいる貴方を見つけたとき。わたしの考えが、間違いでは無かったと思ったわ」


 その格好はどうかと思うけどね、と少女はホントに愉快そうに微笑む。


 「――――――――――――――――――」


 思わず、口を開けて呆然とした。なんて突拍子も無いことを言い出すんだこの女。


 目の前の曹孟徳を名乗る少女の言葉は、この大陸に根付く思想をひっくり返したと言ってもいい。 


 敵である辺境の文化に興味を持ち、さらに発展に引用したいと彼女は言った。ただ国と民を思う心で、誰もが目も向けない考えに手を伸ばした。


 ではオレの紋様自体を非難しなかったのも、そこになにか意味があると知ってのことか。


 尋問の途中に怪しく瞳を輝かせたのは、聞いたことの無い文化・習慣への興味か。
 

 それがどれだけの異常なのか。この時代の人間ではないオレに、正確には分かるはずもない。


 だが、少女の両隣に座る夏侯姉妹の驚き様をみても、それが普通ではないことが理解できた。

 
 ・・・・・・やられた。ここまでのものを見せ付けられちゃ、面倒くさいとか言ってたら英霊の沽券に関わる。


 「――――――へぇ。やばいぜ、あんたの考え方。大衆に、真っ向から立ち向かう意見だ」

 
 「為政者として、民衆と同じ目線になるのも確かに必要よ。でも、国を良くする為には人とは違う目線も必要なのよ。故に、王とは孤独なの」


 その意見にはちょっと反対だが、これだけ語られたのだからこちらも手を抜いてるわけにも行かない。

 
 「ふーん。随分立派な思想だけど、残念。それに関しちゃなんも言えない」


 「・・・・・・なぜか、聞いてもいいかしら?」


 鋭く光り、貫かんばかりの少女の視線。その質問に、オレはゆっくりと笑って、


 「――――――当然。オレ、この時代の人間じゃないし」


 外面穏やかに。はち切れそうな親しみを以って、曹孟徳にそう告げた。

















<後書>


遅れました。ホントごめんなさい。

少し立て込んで、時間が取れなかったという言い訳です。

あと魏陣営参入の流れを見直したところ、結局全て書き直し。

次は一週間以内に上げられると思いますので、よろしくお願いします。

本当にすいませんでした。





[14000] 残骸その5
Name: ぽむぽむ地蔵◆1da765a3 ID:4f37ed70
Date: 2009/12/06 00:09

 英霊という存在があった。文字通り、英雄の霊である。


 伝説を後世に残し、人によって語り継がれてきた英雄の成れの果て。


 憧れ、信仰の対象になった彼らは、その貴い幻想によって輝きを増していく。・・・・・・それが本人の望むところかどうかは知らないが、まあ強くなるんだから文句は言わないだろ。


 そしてそれを現世に呼び出し、人の型に押し込むことで使い魔とする大魔術も存在する。


 もちろん、そんなものは人の手に余る魔術で期間限定の逸品モノ。ある戦争中の間だけ、莫大な恩恵を受けて可能になる、そんな反則技。


 名をサーヴァント。弱点となる真名を隠し、割り振られた呼称で呼ばれる、人間による戦争のための自動殺戮兵器なわけだ。














 「・・・・・・それがあなたということ?」


 「さすが。察しがいい奴は嫌いじゃない」


 パチパチと響く乾いた音に、少女は眉をまた吊り上げる。どうやら信じてないみたい。


 「な、なんと・・・・・・こんなやつが・・・・・・」


 そしてこの子は信じてました。ああもうっ、ほんっと可愛いなぁ!


 「・・・・・・この状況で、面白い虚言を吐くものだな」


 「なぁにぃ!?嘘なのか!?」


 「・・・・・・春蘭。少し静かにしてなさい」

 
 「ま、また・・・・・・うぅ・・・・・・」


 しょぼん、と頭を下げる夏候惇。しかし今回ばかりは君が正しい。


 残念なのは、少数派の意見は常に重要視されないという現実だ。あと余計な先入観。・・・・・・あとは日頃の行いかな、夏候惇の。


 だが大事にされてないわけではないようだ。むしろ見た感じ溺愛されてる。恐らく、彼女は戦闘要員なんだろう。


 血の気おおいし。大人しく小魚食べようかって感じ。


 

















 
 「まあそうとられるわな。でも、ほら。聡明なアンタなら気づいてるだろ?こんなウソ意味ないって」


 先ほどから黙っている少女に問うとそうね、と熟考するようにつぶやいた。


 ――――――そう。こんな嘘をついたところで全く意味がない。むしろその逆なのだ。


 彼女はたしかに異民族を肯定した。肯定した上で、オレに質問していたわけだ。


 ならば今更異民族を否定して、もっと怪しい、存在するかも分からない“英雄の霊”などと訂正するのは墓穴掘るどころか棺桶作ってるようなもの。


 そこに、彼女は矛盾を感じている。そして恐らくオレが兗州に居たというのも材料のひとつなんだろう。


 兗州は辺境に面してはいない。辺境の民への警戒心がある今、蛮族が州をひとつふたつ越えるなんて、たとえ一人でも難しいんだとか。


 さすが未来の英雄と言ったところか。完璧すぎるのも考え物だが、そこはまぁオレの口出しするところではない。好きにしたらいい。


 自己の欲望のままに生きるのは、オレの肯定する生き方でもあるわけだし。いつの世も、理想論だけでは生きていけないのです。


 おっと。話がズレた。とどのつまり、頭が良すぎる彼女は、現実と夢物語の間に彷徨してるってワケだ。


 「・・・・・・証拠は」


 だから、こんな質問が来るのは簡単に予想できたり。


 「証拠は、あるの?」


 「華琳さま・・・・・・?」


 「まさか、こやつのことを・・・・・・?」


 少女は答えない。ただ、こちらの答えを待っている。ここで一押し。決定的な何かを示せば、彼女は夢物語に落ちるだろう。――――――しっかし。


 「証拠ねぇ・・・・・・」


 そんなもの、あっただろうか?


 腕を組んでうーん、と唸ってみる。


 まあ幽霊っぽいといったらアレぐらいしかないんだが・・・・・・。


 「・・・・・・、?」


 ・・・・・・あれ?なんだこれ。


 立体映像ホログラムの様にブレる身体に首を傾げる。

  
 出来たことが出来なくなる異常を不思議に思いながら、しょうがないので諦めて別の手段を考えることにした。


 机の上に両手を投げ出す。


 三人の視線が集まる中で、愛用の短剣を両手の平に産み出した。


 「なっ・・・・・・!」


 「これは・・・・・・!」


 「か、華琳さま!」


 いきなり現れた武器に警戒の色を強くする。


 こっちも不思議とそんな気は起こらなかったので、さっさと凶器を消すことにした。誤解は大変よろしくない。


 「証明するってんならこんなとこ。あとは、これで英雄らしいことしか出来ない」


 「――――――――――――それは」


 「察しの通り。簡単なことだよ」


 すなわち殺人。無趣味なワタクシの、ただ一つの趣味ごらくです。


 「なんにしても、使うんだろ?連中見たのはオレしか居ないわけだし。ならその時に判断してくれればいい。異文化なんかに興味をもつアンタだ。そこまで能力主義を徹底


してんなら、自分の見たものしか信じないだろ」


 史実でも、曹操とはそういう人間だったと聞く。だからここで自分の実力をほのめかすのは、一種の賭でもあるわけだ。


 机上で回るコインを見るような面もちで少女を見る。


 目を瞑り、考え込んだ彼女はやがて、


 「―――――――――はぁ」


 自分に観念するかのように、細い溜め息を吐いた。


 「・・・・・・そうね。いいわ、そうしましょう。なんであれ、使えるのはあなたしか居ないのですしね」

 
 「そうそう。難しく悩むのは後にして、今は現実的なことに集中しようぜ。やっこさんは待ってくれないぞ?」


 「お、お待ちください!ほんとにこんな輩の言葉を信じるのですか?」


 「信じるとは言ってないわ。ただ、利用すると言っているだけよ。なにものであれ、協力が無ければ進まぬ捜査。なら、蛮族でも英雄でも変わりはないわ」


 毅然とした態度で曹操はそう告げる。
 
 
 それでいい。もとから信じて貰うつもりなど無かったので全然オッケー。証拠だって言われたから出しただけだしね。


 ・・・・・・でもほら。昔って幽霊の逸話とか聞くから、あわよくばとかも思ってなかったワケじゃないさ。いやほんの少しだよ?


 それこそ・・・・・・・やめとこ。過ちは繰り返さない。犬は犬でもダルメシアン並の学習能力なのです。


 「ですがっ・・・・・・秋らぁん!」


 「諦めろ姉者。それとも、華琳さまの決定を覆すのか?」


 「それは・・・・・・むぅぅ。・・・・・・分かりました。この身は華琳さまただ一人の剣であり盾。命尽きるまで、華琳さまの命に従いましょうぞ!」


 「よろしい」


 「ですが華琳さま。本当にこやつを戦場に出すおつもりですか?」

 
 「ええ。本人が言ってるんだもの。それに――――――」


 ちらり、とオレを見る。


 「――――――本当だったら、面白いじゃない?」


 「――――――――――――」


 揃って再び呆然。・・・・・・ホントに、とんでもない英雄にんげんに出会っちまったようだ。戦場においてそんな酔狂は普通考えない。


 しかし、嫌いじゃない。やっぱりこれぐらい我が強くないと。人間、生きてるなら理想を追わなきゃ。理想を追ってる人というのは強い。それは肉体的にもそうだし精神的にも然りだ。





 夢は、すなわちゴールだ。


 理想は、すなわちつり下げた人参である。




 誰が言った言葉かは知らないけれど、いい言葉だよね。いやオレの言葉だけど、ヒヒヒ。


 もちろん比べれば理想のほうが上等だ。だが理想とは常に最高の自分。いくら自分を磨いてもその上の自分が見えてくるのが理想のミソだ。


 だが目の前の少女は、つり下げた人参どころか騎手ごと食い潰さんばかりの野心がその眼から溢れ出ている。


 ・・・・・・ああ。本当に嫌いじゃない。自分の為に生きてる奴は見てて楽しいからね。


 「――――――了解。ああ、期待に添うよう働こうかね」


 「ええ。せいぜい満足させなさい。その命、すでにわたしの手の中にあることを忘れないようにね。えいゆうさん」


 にやりと笑う。


 こわいこわい。あれは一種のコロス笑みだ。事前承諾型の。


 「最終確認に聞いておきましょうか。――――――あなた、なにをしたの?」


 なにを、とは英雄となった出来事のことだろうか。半信半疑のくせに、これまた難しいことを聞いてくる。


 「別に大したことはしてない。ただ、自分の命と引き換えに、国中の安寧秩序を買っただけさ」  


 自動的に出た返答にふ~ん、と笑う少女。なんだか興味があるような無いような、判断しかねる笑顔だ。


 ともあれなんとか、一時的だが拠り所は確保出来たようだ。まずはここから。記念すべき第一歩である。

 
 ・・・・・・そういえば。オレ、なにしにこの街に来たのだっけ? 
































 「・・・・・・・・・」


 「―――――――――」

 
 人行き交う道の往来。そろそろ夕食の準備を始める時間帯なのか、いろんな種類の食材を入れた籠を持ち歩く女性の姿が目に付く。


 「・・・・・・・・・」


 「―――――――――」


 その様子を見ながら今日はどんなおかずなんだろ?とか、うまそうだな、なんて平和げに街を跋扈してたのはついさっきまでの話。


 夕餉の匂い広がり始める街の通路の一角では。大変形容しがたい空気が流れているのであった・・・・・・!










 「・・・・・・・・・肉まん食べる?」


 「遠慮しておこう」


 懐柔失敗。しぶしぶ手に掴んでいた肉まんを紙袋に戻しながら、なんでこんなことになったんだっけなーと回想してみた。


 話は少し前に戻る。


 無事協力要請をされたオレは珍しくやる気マンマンだったわけだが、出立は数日後と聞いてゲンナリ。


 与えられた部屋の寝台で、ガマンできるかなーとゴロゴロしていたときふと、あの時拾った太平要術のことを思い出したワケだ。


 話を聞くに、曹操たちが探しているのはコレに間違いないらしい。つまり今のとこ持ってると危険なアイテムナンバーワン。


 あの笑顔を見てなおこれを持ち続けるという勇気が、決定的に足りませんでした。いいのです。それは勇気ではなく無謀ですから。


 なら大きい金にならくてもさっさと手放した方がいいと判断して、城下に降りて街を出るギリギリの行商人と端金で交換したのだ。もちろん布で包んで。


 商人のおやじにだいぶ怪しげな視線を向けられたが、ただの古書だと言い張り押しつける。


 手に入れたお金で買えるだけの肉まんを買って街を散策しているとき、偶然、通りで夏候淵と鉢合わせ。


 してきたことがしてきたことなのでそのまま硬直。向こうも何故かこちらを見るなり硬直。


 なんかお互い微妙な空気のまま、今に至るというワケだ。








 


 

 「・・・・・・・・・」

 
 「―――――――――」


 じっと見つめられる。


 ドギマギして、肉まんをひとつ頬張るオレ。


 ・・・・・・ところで。サーヴァントに食事と言う概念は必要ないのだが、申し訳程度の魔力補給にはなるので、全く無駄では無かったりする。


 そういえばオレの魔力とか触媒ってどうなってんだろ?まあいいや。消えてるわけじゃないし。


 しかしさすが本場。派生品とはワケが違う。


 現代のも不味いわけではないのだが、やっぱり味の重みが違う。再現された完全模造ふくせいは蓄積された不足原点ほんもの


に、やっぱり気持ちで劣るのだ。


 コンベアーとはわけが違う。


 「・・・・・・・・・・おいしいよ?」


 「要らぬ」


 にべもない。ホントにおいしいのに。しょうがないのでひとりでモグモグ。


 「・・・・・・お前は、華琳さまのお言葉を聞いてなかったのか?」


 「むぐっ」


 い、いきなり話しかけるか。危うく肉まんに絞め殺されるところだった。


 「部屋から出るなと、言われなかったか?」


 ・・・・・・あ。





 『―――――――――いい?自分で言うのもなんだけど、わたしのような考えは稀よ。ほとんどの人間は、蛮族は野蛮な者として見るわ。だから表だった功績を上げて、


あなたの見方が変わるまで、部屋で大人しくしてなさい。――――――ああ、安心して。簡単な書類、持っていかせるから』


 なんて、素晴らしい笑顔で言われてたっけ。


 と。言うことは。


 「・・・・・・・・・そういうこと?」


 うむ、とうなずく夏候淵。


 同時に、


 「しゅうら~~~~~~ん!居たか~~~~~~!?」


 遠くから、頭の弱い獣の声。


 「―――――――――さて」


 「―――――――――うん」


 申し合わせたように目を合わせ、互いの行動を悟る。


 相手はオレの行動より早く。


 オレは兎に角速く、遠く。


 夏候淵が息を大きく吸い込むのと同時にクラウチングスタートの姿勢を取る。


 そして―――――――――弾けた。


 「――――――姉者、居たぞ!!」
 

 「―――――――――っ!!」


 筋肉が弾ける。


 スタートはほぼ同タイミング。しかし、距離というアドバンテージはこちらにある・・・・・・!


 肉まんを抱きしめて駆ける。自身の持てる力、最高の速度で以て走り抜けた。


 この身は既に犬と化す。あの猟犬とは比ぶべくもないが、人に追いつかれるほど落ちぶれてはいない。


 たかが末席、されど英霊。いかに未来の英雄であろうと、人間が英霊に勝るはずがな、いっ・・・・・・!?


 「あんりーーーーーー!!」


 「ごべぁ!」


 空から謎のとてつもない力を加えられ地面を滑る。


 転がる、ではなく滑る、という表現をしたのは間違いじゃない。


 なんと夏侯惇あのおんな、あんな遠くからオレに追いつき、そのスピードと衝撃を伴ったまんまオレを引きずり倒しやがったのだ。


 結果、オレはさながら粉雪の上を滑走するスノーボードのように、ガリガリと地面を滑走したのだった。


 











 「申し開きはあるかしら?」


 「・・・・・・・・・いや」


 「あらごめんなさい。わたしとしたことが思慮に欠けたわ。―――――――――それで。辞世の言葉はあるかしら?」


 にっこり笑う紫と金の少女。


 怒りレベルアップ。今後の展開がさらに酷い方向へと、鋭く静かにシフトした。


 なんつーか、殺処分される犬の気分。ストップ捨て犬と叫びたい。拾ったのなら責任を持ちましょう。


 「侍女に書類を届けに行かせたら部屋に居ないと言うし・・・・・・。ほんとに、どういうつもりかしら?」


 「そうだぞ!庶務を投げだした上こんなアタリを引いてくるとは・・・・・・・・・ひひょうはひょ!」


 「モノを食べながら話すな姉者。妹として恥ずかしいぞ」


 ああー。オレの肉まんがー。あと君は少し黙ってたほうがいいと思う。ほら、主の眉毛が大変なことになってますよ?


 「・・・・・・春蘭」


 「ひぅ。す、すいません、華琳さま」


 「まぁ、姉者は放っておくとして。なぜ部屋から出た。まさか、今更怖くなったか?」


 「や。ただ単にお腹空いたから」


 空かないけどね。あとほら。オレ文字読めないし、書けない。


 「あなたはっ・・・・・・わたしの言葉を理解していたのかしら・・・・・・?」


 「街の中を歩くなってんだろ?でもさ。少しの刺激も生活の糧だぜ?」


 たとえばそれは悪夢だったり身近で起こった事件だったり。不審者の登場なんて軽の方だから許して欲しいのだが。


 「そうじゃなくてわたしの沽券に関わるの。蛮族の侵入を許す街の刺史に、民が着いてくると思ってるのかしら」


 「いや、だから蛮族じゃ、」


 「一見の人はそう見るでしょう。だいたいそんな格好で出歩くなんて、あなたホントに英雄を自称出来るのかしら。できるのでしょうね。ええ、たしかにその面の皮の厚さ


は英雄と称されるに値するものだわ。見上げたものね」 


 サイレンサーを付けたマシンガンのように怒る曹操。つまり無表情で早口。
 

 うわーやべー。なにこの本気じゃないけどたちの悪い怒り方。どこかで見覚えあるだけにもっと恐ろしい。きっと反論も速攻のカウンターで倍に返ってきそうなので、


黙っておくことにした。―――――――――それはべつとして。


 「・・・・・・ねえ。続きは城でしない?」


 「だめよ」


 さすがに人通り激しい通りのど真ん中での正座はキツかったわけだ。が、にべもなかった。そろそろ膝が痛い。


 そして集まりつつある人の視線も痛い。そして、

 
 「その腰布。いまここで剥いでやろうかしら」


 なんて言い出す始末。それだけはほんとに勘弁して欲しい。一気に二人の男性の尊厳が死んでしまうことになる。いや、赤いのいれて三人か?
 
 
 曹孟徳どのの追求と嫌味は続く。傍からすればなんかありがたい感じだが、実質子供の悪戯レベルのお叱りだ。


 とりあえず、満足するまで耐え抜こう。彼女たちだって国の重鎮。ヒマなわけがない。


 足の感覚がサヨウナラを告げて死んでいくなか、祈るように正座を続けた午後だった。


 





 ―――――――――後日談として。説教は日が落ちるまで続いて、足が二時間ほど使い物にならなくなったという悲劇をここに残しておく。


 ありがとう、肩を貸してくれた村の若人衆。若いって素晴らしいね。 










 <後書>


 残骸その5でした。

 
 すいません、今回はちょっと強引だったと自覚しております。


 ここでアンリの過去をがっつり話すのは難しかったです。ですので、英雄の霊とだけ。


 そして刺青についてですが、調べてみたところ、漢民族にその習慣が出来たのは、三国時代だったそうです。


 なので、人々の刺青をしている人への扱いは、刺青→蛮族→野蛮ですわ で統一したいと思います。


 そして悩みの種、アンリの模様についてですが、さすがに四六時中もにょもにょするのはキツイので、一日一回と考えていただけると有難いです。
 

 最後のは拠点フェイズもどきとお考えください。


 それでは、ぽむぽむ地蔵でした。







[14000] 残骸その6
Name: ぽむぽむ地蔵◆1da765a3 ID:4f37ed70
Date: 2009/12/16 00:24


「よっこらせ」


 手荷物を下ろしふぅと一息。


 足下には同じように束にされた弓矢と槍。あと剣やらなんやら。


 見事なまでの個性のなさ。いや凄い。微妙な違いはあれども、機械の無い時代によくもここまで作ったものだ。


 凡庸と言う個性が出せるのは手作りだけだと感じる。武器然り、そして人然り。そういう意味では個性満載なのか?まあどうでもいいけど。


 いま重要なのは、なんでオレが出撃の準備を手伝っているのかということ。これは少し前に遡るのだが、


 『――――――へぇ。部屋を空けてあげてるのに、仕事の一つもしないとはね。さすが英雄さま。図々しさも一品ね。まるで宵の火に集る羽虫のようだわ。


・・・・・・焼き殺してあげようかしら?』


 なんて、とってもステキな笑顔で曹操さまは仰られたのだ。そんな言葉と視線にちっぽけな自尊心が耐え切れるわけもなく、脱走事件以来目に見えて扱いが酷くなった


ことを感じながらも、こうして泣く泣く出撃の準備をしているのだった。


 それにしてもあの女、こわすぎである。だからだろうか、オレにしては珍しく喰い殺す気も起きなかった。


 いやホントに珍しい。これは、何かの力が働いてると見た。好奇心以外の、なにか。


 そして主犯のルビーからの連絡は未だになし。


 おーい。早くしないと正解に辿り着いちゃうぞー。


 しかしそんなことはいつかイヤでも考えさせられるんで放置。嫌なことは後回し後回しっと。

 
 大抵そういうことは、良くないことのほうが多いと相場は決まっているのだ。


 さて。そんなこんなしている内に、指示された装備品の用意はひと段落ついた。やれやれ、サーヴァントに家事手伝いをやらせるなんて三流の証だぞ、まったく。


 もちろん本人の前では言わないけど。付き合いは長くないが三流ではないと分かるし、アレは例外か。


 俗に言う、郷に入っては郷に従え。いや、ギブアンドテイクかな?どっちもか。世知辛いったらありゃしない。


 まあいいや。言われたことはやったんだし、あとは自分の部屋で待機するかね。ブラついてると、またあの皮肉・オブ・皮肉を注がれかねない。


くそ。妙なトラウマ残しやがってあの性悪シスター。いつか復讐してやる。こちとら復讐のクラスなんだ。いつか絶対完遂する道理なワケですよ?















 「おいアンリ。終わったのか?」


 「――――――げげ」


 撤退しようとした身体が固まる。さながらスライムから水銀の如く。


 「・・・・・・なんでいんのさ」


 「ふん!なぜそんなことを貴様に教えねばならんのだ」


 むすっと顔を背ける惇将軍。


 あいもかわらずワケが分からない子だな。話かけてきたのそっちなのに。


 「オーケー。んじゃそういうことで」


 さっさと退散。ただでさえ肉体的に疲れてるのに面倒くさいヤツの相手はゴメンだ。精神の徒労は、時に体力の浪費すら上回るのだ。


 「バカか貴様。誰が用もなく、お前なんかに話しかけるか」


 「うぇ?なに。まだなんかあんの?」 


 人使い荒すぎ。


 「むしろ、このくらいで終わると思う方が驚きだな」


 「分かったからその顔やめろ。無駄に腹立つ」


 「なにをぅ!?なにが普通の時でも腹が立つ顔してるだ!なら見なければいいだろう。私だってお前の顔なんぞ見たくもないからな!」


 「いや、言ってないから。・・・・・・素晴らしい再翻訳機能持ってるな、あんた」


 







 

 夏侯惇の後ろを子ガモのように着いていく。虎を見て親だと勘違いした子ガモは、きっとこんな心境に違いない。


 着いたのは城壁の上。そこには曹操と夏侯淵も一緒に居た。


 「遅い。なにをしていたのかしら」


 「一言目がそれかあ。一応、あんたに言われたことを真面目にやってたつもりだったんだけど」


 「あら意外。あれだけ文句言ってたから、どこかで時間を潰しているかと思ったわ」


 にやりと笑ってしたたかに攻撃。あんたは蜂か何かか。あながち間違いじゃないよな。髪の毛金色だし。


 「・・・・・・前科があるだけに何も言えないなぁ。そしてあんたの皮肉もなかなか効くなぁ。だからこうして頑張ってんじゃん。ほら、学習する頭のいい


オレ。ほめてほめてー」


 「貴様ぁっ!調子のいいことを次から次へと!」


 「はいはい、えらいえらい。――――――じゃ、次の仕事も頼むわね。頭のいい犬なんでしょう?」


 げ。なんか地雷踏んだか?余計なこと言わなきゃよかった。


 「糧食の再確認の帳簿を受け取ってきて欲しいのだ。担当の監督官は、馬具の確認で厩舎にいるはずなのだが、頼めるか?」


 「ん?なんでオレなのさ?あんたとか、ヒマそうじゃんか」


 「わたしは、丁度報告に来たところでな。これから、また別の仕事だ」


 キャリアウーマンの様に夏侯淵は言う。なにやら大変そうだった。しかし見たところ苦では無さそうなので、できればこっちの仕事もついでにやって欲しいのだが。


 「ほら、早くしなさい。あなたの行動の遅れが、出撃の遅れよ」


 そうは問屋がおろさなかった。へいへいと呟き城壁を後にする。


 「早くしろよー!お前の遅れが、全軍の遅れだからなー!」


 得意げな声も無視無視。二番煎じじゃ、そりゃ味も薄まるのです。


 ――――――さて。監督官は厩舎、だったっけか。
 




 


 厩舎に着いた。馬の嘶きが実にソレっぽい。


 しかし馬かぁ。乗れなきゃダメなんだろうかとボンヤリ考える。この頃の移動はハンパなく遠いからなー。いやいや、でもオレ英霊どうぐだし。


自身の性能で限界まで出来ることを。死んだ人は衰退こそすれ成長することはないのですよ?


 「えーっと、帳簿帳簿っと・・・・・・」


 走り回る兵隊さんを避け避けしながら目的の物を探す。


 どんなものかは夏侯淵から聞いているので案外簡単に見つかった。


 「草色ってことは青っぽい緑だよな。うーむ、これかな?」


 ひょいと紙束を持ち上げ中身を確認。


 パラリと適当にめくって文字に目を通してみた。 


 「・・・・・・むむむ?」


 思った通り、中身は糧食の量やら費用やら調達先やらが記述されている。もちろん理解は出来ないが、幸い漢字圏なので雰囲気読み。


どうやらこれが、目的の帳簿に間違いないようだ。














 厩舎に背を向ける。目的は達成したので、もうこの場所に用はなかった。


 結局監督官には会わなかったが、まあいいか。そもそも出てこないほうが悪いし、オレの遅れが出撃の遅れなわけだしね、キキキ。


少しでも早く帰らないと、またなに言われるか分かったもんじゃない。


 ほんとあの女、容赦ねぇのである。


 「あ、ああああああぁぁぁああ!!!!!」


 「へっ!?な、なにさなにさ!?」


 蛆が体を這ったような悲鳴に面食って周りを見渡す。なんだなんだ、不審者でも入り込んだのか?


 悲鳴の主は背後に。ネコミミフードを被ったちんまい少女は、なにやら恐ろしい顔をしていた。


 「ちょ、ちょっとあなた!!」


 「げ、オレかよ。・・・・・・もしかして聞くけど、あんたが監督官?」


 「うるさいわね、あんたなんかに関係ないでしょ!!そんなことより早くその書類を返しなさいよ!あんたみたいな蛮人には分からないだろうけど、


それは曹操さまにお見せする大事な書類なの。そんな土だらけの手で触って読めなくなったらどうするつもり!?」


 「・・・・・・・・・・・・」


 「あなた、最近曹操さまに拾われた捨て犬ね?曹操さまの寛大なお気持ちの上に胡座をかいて、その上帳簿まで勝手に持っていこうとするなんて、さすが雄ね。


卑しくて汚らわしい。野犬は野犬らしく、土にエサでも埋めてるといいわ!も・ち・ろ・ん、街の外でね!」


 はぁはぁと、ちんまい少女は、睨みつけたまま肩で息をする。


 えっと・・・・・・なんて言ったらいいんだろうか。お疲れさま?とにかくそんな気分。


 ここまで露骨に言われると、逆に清々しいもんである。
 

 「・・・・・・その曹操さまに、持って来いって言われたんだけど。それと、オレなんかした?」


 「別に、なにも。ただあなたのような存在が気に入らないだけよ。体中に変な模様なんて描いちゃって。それに、今まさに帳簿を持っていこうとしてるじゃない!」


 「話を聞かない子だな。あんた、夢中になったら他に目がいかないタイプだろ?」

 
 「あなたには、何かに夢中になるという機能すら無さそうだけどね」

 
 ツン、と少女は言い放つ。なるほどこの子、つまり男性が嫌いなわけだ。さっき雄とか言ってたし。


 それにしてもそれは心外だ。理性があるものはすべからくみな楽しむ心を持っている。夢中になることが出来ない生物など、ほとんどいないわけだ。

 
 「はいはい・・・・・・。で、コレは持ってっていいの?ダメなの?」


 「・・・・・・曹操さまのご命令ならしかたがないわね。いいわ。持って行きなさい」


 なんだ。ちゃんと聞いてたんじゃないか。ではこいつは本当に、ただ単にオレが気に入らなかっただけなのか。


 「・・・・・・。じゃ、持ってくぜ。遅れたの、あんたのせいだって言うからな」


 「あんたの言葉なんかに、曹操さまがお耳をお貸しになるはずないでしょう。そんなこと考えてないで、せいぜい遣い走りのお使い犬の役目を全うすることね」


 「・・・・・・・・・・・・」


 別れの際まで可愛くないやつだった。


 

 

 














 お使い終了。いそいそと城壁の上まで戻ってきた。


 「遅い」


 そしてこの一言である。


 「なんだろ、あんたの基準が分かんない。そんことよりほら。コレでいいんだろ?」


 曹操に紙束を投げ渡す。動揺した様子もなくソレを器用に受け取ると、早速中を見始めた。


 「ありがとう」


 文字に目を通しながらついでのように呟く。


 おーおーホメられた。わーいわーい。


 小さくはしゃぐオレを無視して、曹操は頁をめくる。そこはなにか反応が欲しかったのだが、それは高望みだろう。とりあえず、進歩のひとつとして受け止めておくことにした。















 そんな少女の様子が目に見えておかしくなってきたのは、つい先ほどからの話。


 ページをめくる指は荒く、文字を追う視線はキリのように鋭くなっていく。

 
 曹操はその目つきのまま顔を上げると、


 「・・・・・・アンリ。これは、本当にその監督官から?」


 刺すような目で、オレを睨んだ。


 「ああ。ちゃんと確認してから持ってきましたよ?」


 「・・・・・・・・・・・・秋蘭」


 「はっ」


 「この監督官というのは、いったい何者なのかしら?」


 「はい。先日、志願してきた新人です。仕事の手際が良かったので、今回の食料調達を任せてみたのですが・・・・・・何か問題でも?」


 「ここに呼びなさい。大至急よ」


 曹操の口調は峻厳で刺々しい。こういうところを見ると、つくづく指導者なんだなと感じる。つまるところ、曹操どのは怒っていらっしゃった。


 針のような命令に夏侯淵は、はっ!と残して足早に城壁を去る。その後ろ姿を見送って、夏侯惇と二人、顔を見合わせ首を傾げるのだった。
 












 
 「・・・・・・遅いわね」


 「遅いですなぁ・・・・・・」


 「いや、まだそんなに経ってないから。堪え性無さ過ぎだから」


 どうやらかなり怒ってるっぽい。なんせそんなに時間が経ってないのにこの始末。


 しょうがないので気まずそうにしている右腕と話すことにした。


 「ねーねー。あんたの主サマさ。なに怒ってんのかね?」


 「わ、私が知るわけないだろう。華琳さまは思慮の深いお方だ。私は武官として、華琳さまの考えに従うだけのこと。それだけでいいのだ!」


 「へー。なんつーか、忠誠心が高いんだな、あんたって」


 「あたりまえだっ!なんたって私は、偉大なる王、華琳さまの右腕だからなっ!」


 自信満々に言う言葉にへーと無関心に返す。オレには出来ない芸当だが、まあ理解は出来る。彼女にとって曹操とは、それだけ蘊蓄を傾けるに値する相手だってことだ。


 やがて、城壁の上に夏侯淵の影が現れる。その後ろには、さきほどの監督官が着いてきていた。


 「華琳さま。連れて参りました」


 あいかわらず曹操の目はきつい。あれは、敵か不忠ものを見る瞳だ。


 「・・・・・・おまえが食料の調達を?」


 「はい。必要十分な量は、用意したつもりですが・・・・・・何か問題でもありましたでしょうか?」


 その一言に、曹操の柳眉がつり上がる。


 「必要十分って・・・・・・どういうつもりかしら?指定した量の半分しか準備できていないじゃない!」


 「―――――――――」


 糾弾の声に、監督官の少女は動じない。むしろ、それが予想の範疇であるかのような平常さだった。


 「このまま出撃したら、糧食不足で行き倒れになる所だったわ。そうなったら、あなたはどう責任をとるつもりかしら?」


 続く曹操の詰問。それに、少女は言葉を返した。


 「いえ。そうはならないはずです」


 「何?・・・・・・どういう事?」


 訝しげに曹操は問いかける。かたわらのふたりも、なにやら?という顔をしている。


 オレはと言うと、ひとりでケタケタ笑う。全く、ホント退屈しない人材が多いなぁ。


 「理由は三つあります。お聞きいただけますか?」


 「・・・・・・説明なさい。納得のいく理由なら、許してあげてもいいでしょう」


 曹操はあくまで主導権を握ろうとする。しかし残念かな、アナタはもうそこの少女に釣られているのでした。


 「・・・・・・ご納得いただけなければ、それは私の不能がいたす所。この場で我が首、刎ねていただいても結構にございます」


 「・・・・・・二言はないぞ?」


 「あ。じゃあオレその役やるー」


 「・・・・・・はっ。では、説明させていただきますが・・・・・・」


 シカトですか。まあいいけど。どうせ、そんなことにならないだろうし。


 「まず一つ目。曹操さまは慎重なお方ゆえ、必ずご自分の目で糧食の最終確認をなさいます。そこで問題があれば、こうして責任者を呼ぶはず。行き倒れにはなりません」


 「ば・・・・・・っ!馬鹿にしているの!?春蘭!」


 「はっ!」


 ゲラゲラ笑う。ホント、おもしろすぎである。


 「何がおかしいか!今すぐその耳障りな声を止めなさい。先にあなたの首を切り落としてもいいのよ?」


 「八つ当たりかよ。そういうの、わりとみっともないぜ?食いついたのはあんたなんだ。最後まで聞くのは、責任なんじゃない?」


 「アンリ!・・・・・・・言葉は違えど、わたしもアンリと同じ結論です。華琳さま。先ほどのお約束は・・・・・・」


 「・・・・・・いいわ。次は何?」


 「次に二つ目。糧食が少なければ身軽になり、輸送部隊の行軍速度も上がります。よって、討伐行全体にかかる時間は、大幅に短縮できるでしょう」


 「ん・・・・・・?なあ、秋蘭」


 「どうした姉者。そんなに難しい顔をして」


 「行軍速度が早くなっても、移動する時間が短くなるだけではないのか?討伐にかかる時間までは半分にはならない・・・・・・よな?」


 「ならないぞ」


 「良かった。私の頭が悪くなったのかと思ったぞ」


 「・・・・・・むむむ。もう手遅れでない?」


 「な、なんだとぅ!!」


 どうどう。いま大事なところだから落ち着こうね。


 「・・・・・・まあいいわ。最後の理由、言ってみなさい」


 さあ、ここだ。まあとりあえず、ニヤニヤしながら見守るとするかね。どっちに転ぶかなんて、釣られた時点で決まっているのだし。


 「はっ。三つ目ですが・・・・・・私の提案する作戦を採れば、戦闘時間はさらに短くなるでしょう。よって、この糧食の量で十分だと判断いたしました」


 ひゅう、と口笛を吹く。


 「曹操さま!どうかこの荀彧めを、曹操さまを勝利に導く軍師として、麾下にお加え下さいませ!」


 「――――――へぇ」


 「な・・・・・・っ!?」


 「何と・・・・・・」


 驚きは三者三様。つまりこのガキ、一粒で三度おいしいと言う頭の良さを持った、厄介な少女だったワケだ。


 「・・・・・・・・・」


 「どうか!どうか!曹操さま!」


 少女――――――荀彧は必死だ。それこそ、ここで曹操が首を横に振れば、彼女はこの場で斬首を受ける覚悟。いや、事実そのつもりだろう。


 ああ、だからおもしろい。ほんとうに、なぜこんなことが出来るのか。


 「・・・・・・荀彧。あなたの真名は?」


 「桂花にございます」


 二人の会話にん?と首を傾げる。


 「ねーねー、惇。真名ってなに?」


 「何だ貴様。真名も知らんか?いいか、真名というのはだな――――――」


 「姉者。後にしろ」


 「ぐむぅ・・・・・・。お、お前のせいで怒られたではないかっ」


 「夏侯惇。あとにしようぜ」


 「なっ、ず、ずるいぞー!」


 知らないよ。だからオレ、小声で話しかけたのに。

 
 「桂花。あなた・・・・・・この曹操を試したわね?」


 「はい」


 この問いに、荀彧はなんの戸惑いもなく、肯定した。


 「な・・・・・・!貴様、何をいけしゃあしゃあと・・・・・・華琳さま!このような無礼な輩、即刻首を刎ねてしまいましょう!」


 「あなたは黙っていなさい!私の運命を決めていいのは、曹操さまだけよ!」


 「ぐ・・・・・・っ!貴様ぁ!」


 運命とか、まことにけったるい言葉を使うなぁ。行き先を誰かに委ねるのはいいけど、それでいいのかは本人次第なわけだし。なまじ頭が良いだけに、そこに気づかないってやつか。


 ああ、恋は盲目。切なく咲き乱れるは悲恋なり。


 「落ち着けよ、夏侯惇。今は誰が誰と話をしてる?あんたの主じゃないのか?頭を冷やせよ右腕。あんたは、それが出来る子だろう?」


 「ぐ、ぐぅぅ・・・・・・!」


 「桂花。軍師としての経験は?」


 「はっ。ここに来るまでは、南皮で軍師をしておりました」


 「・・・・・・そう」


 なにか感じ入るところがあるのか。曹操は、その地名に苦い顔をした。


 「ん?ナニ、南皮にいやな思い出でもあるの?」


 「南皮は、袁紹の本拠地だ。袁紹というのは、華琳さまとは昔からの腐れ縁でな」


 なるほど。つまり仲良くない幼なじみってとこか。あるある。


 「どうせあれのことだから、軍師の言葉など聞きはしなかったのでしょう。それに嫌気が差して、この辺りまで流れてきたのかしら?」


 「・・・・・・まさか。聞かぬ相手に説くことは、軍師の腕の見せ所。軍師の腕の見せ所。まして仕える主が天を取る器であるならば、その為に己が力を振るうこと、


何を惜しみ、ためらいましょうや」


 「・・・・・・ならばその力、私のために振るうことは惜しまないと?」


 「ひと目見た瞬間、私の全てを捧げるお方と確信しました。もしご不要とあらば、この荀彧、生きてこの場を去る気はありませぬ。遠慮なく、この場でお切り捨てくださいませ!」


 やっぱりね。予感的中。命を賭けた自己アピール。まったく、この世界には色が濃いのが多すぎる。見てて楽しいからいいんだけどね、見てるぶんには。


 「華琳さま・・・・・・」


 「・・・・・・・・・春蘭」


 「はっ」


 「華琳さま・・・・・・っ!」


 「えー、結局あんたがやんのかよ。ま、いいけどさ」


 どうせそんな気なんてないくせに、曹操は恐らく自分の武器であろう金色の装飾がついた鎌を荀彧の顔前に持ってくる。


 「桂花。私がこの世で尤も腹立たしく思うこと。それは他人に試されるということ。・・・・・・分かっているかしら?」


 「はっ。そこをあえて試させていただきました」


 「そう・・・・・・。ならば、こうする事もあなたの手のひらの上という事よね・・・・・・」


 振りあがる鎌。陽光を受けて鋭く光るそれは、幻想の爪のようにも見えた。しかし、しょせん幻想。幻の刃に、人が斬れるわきゃないわけで。


 振り下ろされた鎌は皮膚一枚の隙間を残して止まる。曹操は少女を切らなかった。事を終えた鎌は主の下へ滑るように帰る。


 「・・・・・・・・・なるほど。本当に、手のひらの上だったわけか。桂花。本当に、振り下ろしていたら、どうするつもりだった?」


 「それが天命と、受け入れておりました。天を取る器に看取られるなら、それを誇りこそすれ、恨むことなどございませぬ」


 「・・・・・・嘘は嫌いよ。本当の事を言いなさい」


 「曹操さまのご気性からして、試されたのなら、必ず試し返すに違いないと思いましたので、避ける気など毛頭ありませんでした。それに、私は軍師であって武官ではありませぬ。


あの状態から曹操さまの一撃を防ぐ術は、そもそもありませんでした」


 結局、全てこの女の策通りだったというわけだ。いやーなんか珍しいもんみれた気分。なんせ、あの曹操どのが見事術中に嵌ったのだ。まあ、彼女も人間だし?


でも少し優越感。


 「・・・・・・ふふっ。あはははははははっ!」


 「え?なに、もう我慢しなくて良いの?ぎゃははははははっ!面白すぎ!見事に釣られてやん、うぎ」


 「――――――春蘭」


 「は、はっ!」


 「ちょ、ちょっとまって。いた、いたたたたたた。と、惇さん惇さん。ミソが、ミソが出ちゃう・・・・・・!」


 まずい。その握力でアイアンクローはまずいって。タップ、タップ・・・・・・!


 「最高よ、桂花。私も二度も試す度胸とその知謀、気に入ったわ。・・・・・・ええ、どこかの英雄紛いよりずっと役に立つでしょう。


あなたの才、私が天下を取るために存分に使わせてもらう事にする。いいわね?」


 「はっ!」


 「ならまずは、この討伐行を成功させてみせなさい。糧食は半分で良いといったのだから・・・・・・もし不足したならその失態、身をもって償ってもらうわよ?」


 「御意に!」


 本当にうれしそうな顔で、荀彧は肯く。・・・・・・あれ?これ、もしかして、噂に聞く百合?咲き乱れてる感じ?そんなことより今は、


 「いたたたたたたたたたたたたた」


 「あ、姉者。戦より前に使い物にならなくする気か・・・・・・」

















 <後書>


 残骸その6でした。


 そしてお詫びを二つ。まず更新が遅れてしまったことについて、本当に申しわけありませんでした。またもや私情です。


 そして、後半の展開は、ほぼ原作どおりの会話になってしまいました。これは自分の技術不足のなしたところ。ご容赦下さいませ。


 更新は、なるべく毎週土日に行いたいと思っています。これからも、読んでいただけると幸いです。


 ぽむぽむ地蔵でした。



[14000] 残骸その7
Name: ぽむぽむ地蔵◆1da765a3 ID:4f37ed70
Date: 2009/12/21 00:29


 照りつける陽射しを追って空を仰ぐ。


 今日も今日とて良い天気。穏やかに吹く風は黄砂を巻き上げ鼻腔をくすぐる。


 こんな日は、暖かい場所で日向ぼっこなんてよろしいんじゃないでしょうか?


 そんな絶好のデエト日和。なぜかオレはバランスゲームに没頭していた。


 「む、むむむ」


 しかし難しいな、乗馬って。振り落とす気満々の馬とのシーソーゲーム。


 だからやだったんだけど、やっぱり曹操は厳しいお嬢さんだった。


 なんと、また馬の横っ腹に括りつけようとしたのだ。


 二人乗りもダメだと言うことで、こうして初めての乗馬に挑戦することになったわけ。


 教えて貰ったことはひとつ。恐がるな、以上。なんとも応急処置チックな教導だ。








 それにしても絶妙だ。力加減が難しい。なんとか乗りこなしているこの感動を誰かに伝えたい。そんな気持ち。


 「夏侯淵、夏侯淵!ねぇねぇ、どう?オレ、ちゃんと乗れてない?」


 「うむ?・・・・・・・・・アンリ」


 なにその反応。ありゃバカにする通り越して哀れみの表情ですよ。


 「・・・・・・お前は、馬に乗っているのか?それとも、玉乗りでもしているのか?まずは腰を落ち着けろ。お前がフワフワしていたら、それは馬も不安がるだろう」


 おおなるほど、と夏侯淵に言われたとおりちゃんと座ってみる。


 「・・・・・・おおー」


 「だろう?あとは慣れだ。覚えておいて損はないから、頑張ると良いさ」


 フ、と優しく夏侯淵は笑う。・・・・・・むむむ。なんだか出来の悪い弟を見るような表情だ。


 あれはあれで面白くないのだが、聞いたのはこっちだし至らないのも事実なので、黙って睨むだけにする。


 少しばかり眩しいのが難点だが、何もしないのは悔しいのです。


 「・・・・・・ふふふ。そんな顔をするな。お前の進退が決まる出撃だ。気分が悪くなるのも、ましてや置いて行かれるのも嫌だろう?なら、我慢して聞いておくことだ」


 「・・・・・・まあいいけど。そんなことよりさ、なんで出立が早まったんだ?曹操さまのご提案?」


 聞かされてた出立日は一週間後。それがなんと、夕方には三日後にまで短くなった。


 短縮された四日はでかい。そんだけありゃ大抵のことは出来る。例えば、死にかけの死にたがりを助けたり、ノンストップで世界一周も夢じゃない。


 オレにとっては別にどってことない、むしろ喜ばしいことなのだが、急だなーと思ったり。特に意味はない。


 「ああ。なんでも、群の辺境で商人が盗賊の被害にあったと報告があってな。ただでさえ物騒な世の中だ。これ以上の民の不安を避けるために、華琳さまは出立をお早めになったというわけ


さ」


 「ふーん。殺されたの?」


 「ああ。荷物ごとごっそり、だそうだ」


 それはなんとも。つまり体裁を保つための早立ちというわけか。それだけじゃないんだろうけど。短く言うと、王様気質。


 覚悟やら才能があるというか、なんというか。ああいうのは努力を人に見せないタイプだな。

 
 気を遣われるのも嫌いそうだ。こまめで用意周到。なんでもキッチリカッチリこなします、みたいな。


 「そこら辺どう思う?軍師どの」


 「いきなり話しかけないで仮兵。というか、いきなりじゃなくても話しかけないで。あんたなんかと話していると、耳が爛れるわ」


 ツン、というよりヅン!と言葉を返す軍師どの。身元が割れてからも相変わらずの対応。生意気なガキにしか見えないので、オレとしては我慢の必要もない。


 例えば、無駄にプライドの高い猫を相手にしている気分だった。


 「わぁお、戦の要である兵卒を蔑ろにしましたよこの人!只でさえキツい行軍なのに軍師が偏見持ちって、正直不安でたまりません」


 「私は曹操さまに仕官しているの。全ての結果は華琳さまに帰結すればこそよ。 それに、私だって兵に敬意は持ってるわ。――――――ほんっとうに、役に立つ兵ならね」


 嫌みったらしく笑う荀彧の顔にはあんたは違うけどね、とありあり語っている。


 「役立たずのケツを叩いて立たせるのが、軍師どのの仕事だと思うんだがねぇ。最初から出来上がった兵だけを見るなら、そりゃ職務怠慢ってやつですよ?」


 「じゃあ私が見てるのはあなた以外の全ての兵でしょう。大人数ならまだしも、役立たずが1人だけなら鼓舞する必要もないわ。切り捨てた方がいくらかマシね」


 「それは違う。いくらなんでもそれは無意味だろう。闘おうが闘わまいが、そこに居ることに意味があるんだ。戦場ってそういうもんじゃないの?」


 つまりは数と数の脅かし合い。十万の軍勢に十人の精鋭が敵うことがないように、人海戦術こそ要。そのための兵士。そのための大群だ。


 ――――――まあその精鋭の中に、化け物でも混ざってたら別だが、そんな特殊な状況は今ここでしか起きてないので除外する。


 「なら、立つか立てるかじゃない。居るか居ないかだ。あとは申し訳程度にヤッて、勝手に死んで行けば文句無しだな」


 「・・・・・・それは、自分の未来予想かしら?そうなってくれれば、私もあんたを尊敬してあげるのだけど」


 「ハイ、オレの勝ちー」

 
 「なっ・・・・・・!何がよっ!」


 「こういう時に未来とか予想とか伝説とか英雄とか、不確定ボヤけたことを口にした方が負けなんですー。あとちょっとどもったし」


 「どもってないし負けてない!そもそも、勝ち負けなんて今は関係ないでしょう!・・・・・・ふ、ふん。そうやって何でも優劣を決めたがるところは、まさしく小物ね」


 「じゃあいいよー。勝ちはオレの中だけの事実にしておくから」


 見せつけるように喜ぶ。なんと馬上で小躍りできるほど乗馬スキルが上がっていたことに、若干の驚きを隠せない。


 「・・・・・・やれやれ」


 黙って見守っていた夏侯淵は静かに溜め息をつく。


 そして、当の本人は、


 「ほ、ほんとに口が減らないわね、この野蛮人・・・・・・!!」


 焼けた鉄のような顔色と、仲間を呼ぶコウモリみたいな鋭い声で、悔しさを口から吐き出した。

 





 「おお。貴様ら、こんなところにいたのか。・・・・・・ん?なにかあったのか?」


 「いいや。アンリが猫に噛みつかれただけさ。・・・・・・全く。無駄に弁が立つから、ああいうことになる。それより姉者、急ぎの用か?」


 「・・・・・・?うむ。前方に、なにやら大人数の集団がいるとのことでな。華琳さまがお呼びだ。すぐに来い」


 「おう?惇じゃん。どうしたのさ?こんなとこで」


 聞き覚えのある声に顔を向けると、夏侯惇がいた。猫じゃらしを振るのも飽きたんで、話しかけてみる。


 「ふっ・・・・・・逃げたわね」


 あーはいはい。


 「ふたりともいい加減にしないか。ほら、華琳さまの命だ。疾く、向かうぞ」


 

 
 
 











 みんなの馬に必死に追いつくこと数分。この軍の中心人物のところまでやってきた。


 曹孟徳どの、その人である。
  
 
 「すみません。遅れました」


 「構わないわ。今ちょうど偵察が帰ってきたところよ。――――――報告を」


 はっ、と紫の兵が一歩前へ出る。話に出た偵察の兵だろう。


 「行軍中の前方集団は数十人ほど。軍旗が無いため所属は分かりませんが、格好がまちまちなためどこかの山賊か野盗かと」


 報告を受けた曹操は、ん・・・・・・と眉根を寄せて考える。端から見れば恋か友達関係に悩む少女そのものなワケだが、残念で残酷なことに少女の頭の中はそんな牧歌的では無かったり。


 「どうすんのさ?オレのときみたいにバチッ!と捕まえてみる?」


 「人数が多すぎるわ。それにあなたの時は初見で怪しいからの判断だったのよ」


 なるほどなるほど。確かに荒野に入れ墨ひとりなんて、怪しいことこの上ない。事実今も十分怪しい感じだし。


 「ふーん。もしかしたら隊商一行や雇われ集団かも知れないと」


 「否定は出来ないわ。だから、桂花?」


 「はい。もういちど偵察隊を出しましょう。指揮は夏侯惇。・・・・・・それと、アンリは夏侯惇の下について」


 「えっ、オレ?」


 急な抜擢にギョッとすると、しょうがないでしょうと返ってきた。


 「人手が足りないの。それと、もしもの時に夏侯惇を抑える堤となりなさい」


 つまり猛進しようとする猪を素手で制しろと。・・・・・・なんだその軽い死刑宣告。


 「――――――あのな。確かに突進バカを扱うのは慣れてる。でもさすがに武器は持ってなかったぞ?」


 や、バゼットのアレも十分凶器なのだけど、比喩と実物じゃ話が違う。なんせ拳と鉄だ。純粋な比べ合いなら勝負は明らかだろう。


 「そうなる前に止めて見せなさい。なんのための軽口かしら」


 簡単に言ってくれる。だが、オレは断れる立場じゃないし、そもそも疑問を持っただけなので結局いいよと頷いた。


 「よろしい。それでは、すぐに出撃なさい」















 「・・・・・・なぁ秋蘭。わたし、わりと酷いことを言われてないか?」


 「違うよ姉者。姉者は勇猛果敢だということさ」

  
 「・・・・・・本当か?」


 









 







 本隊を離れ先行する。偵察を目的とした先行部隊。システムは簡単。なにか異常があったとき、オレたちはそのまま処理にあたり本隊に伝令を飛ばす。


 簡単な役目だ。隊商だったら最近盗賊が多いから注意しろと警告し、野盗だったらオレの二の舞にするだけ。


 「だから先に言っとくぞ。突撃するのは野盗とか山賊とか追い剥ぎとかそれだけ」


 「それぐらい分かっている!さっきからお前は人のことを猪だの突進バカだの・・・・・・役に立たない貴様よりマシではないか!」


 「うん、それ開き直りだから」


 しかし分かっているとは理解が良い。なんせオレなんか理解するつもりもないのだ。怪しい人間が居る。大義名分は十分だろうに。


 しかしそれを行ってしまうと、いつかアイツが暴君呼ばわりされてしまうことが目に見えてるので、命がけで自制する。


 賛美するのは個人の行く先であって、そこに不利になることはしない。とりあえず今のとこは、せいぜい役に立つとするさ。


 もちろんそれはオレと利が一致するからのこと。もしもアイツが、戦争なんてだめーなんて甘ったるいこと言った日には容易く鎖を咬みちぎり、その喉笛を喰い漁るだろう。


 そんな日が来るまでの、結構綱渡りな協力関係なわけだった。




 







 
 「もちろんお前にも、戦闘に参加してもらうからな」


 「当たり前だろ。それがオレの売り込み点だったわけだし。まあ安心しな。人間に負けることはないからな」


 「ふん!口だけならなんとでも言えるわ!」


 ホントのことなんだけどね。ま、いいや。


 「夏侯惇さま!見えました」


 兵の一人が声を上げる。前方には確かに数十人の団体がいた。


 「おう。ごくろう」


 凛と、当然のように返す夏侯惇。さっきのおバカは鳴りをひそめ、一武将としての彼女がそこにいた。


 「へー。アンタもそんなこと出来るんだ」


 「ん?なんのことだ?」


 自覚は無しと。つまり自然体でこうなわけだ。


 困ったな。少しこいつを過小評価してたかな。少し見方を変えようと、心の中で頷いた。


 「それはいいけどさ。――――――なんか、戦闘中っぽいんだけど」


 「なにっ?」


 驚いたように前方に目を凝らす。発見した集団はさきほどから移動する気配も無く、その場でもうもうと土煙を上げていた。


 そしてその輪から外されるようにぽんぽんと吹っ飛んでいく人。えー、台風には珍しく、目が一番の強風だそうです。


 「何者かが戦闘中のもよう!人数は・・・・・・一人!それも、子供のようです!」


 「な、なんだと!?」


 馬の手綱を引く。言うが早いか、夏侯惇はひとりでたったか行ってしまった。


 「・・・・・・うわー。なんも話聞いてねぇ、アイツ」


 様子を見る慎重ささえない。猪突猛進とはまさしく彼女のためにある。


 しかしこれで困るのは彼女では無くオレなのだ。なんせブレーキ役としてつけられたのだし、このままでは役目放棄甚だしい。しょうがないので追っかける。


――――――それにしても、


 「いやー。ホント、理不尽だわ」


 気分はトイレットペーパー。汚す方が悪いのに、なぜ汚されなけれないけないのか。












 夏侯惇に遅れること三十秒余り。堪え性のない女は勝手に始めていやがった。大剣による暴風のような斬撃で巻き起こる惨劇。――――――驚いた。まさか、これほどまでに戦えるとは。


 報告にあった幼い子供と言うのも発見。どでかい鉄製剣玉を振り回して、バラエティな状況を生み出している。


 自分の存在意義アイデンティティーに疑問を持つ前に馬から飛び降りる。すこし無理な下馬をしたからか、乗っていた馬はヒンと鳴いて、横合いに離れていった。










 着地と同時に獲物を構える。何事かとこちらを振り返る見覚えのない顔に、軽く握った爪を這わせた。


 ゾ、と鼻から上をスライスする。同時にギチリ、と音がした。


 歯を、噛みしめた音。なにかに堪えきれないように出た音は、自分の口から鳴っていた。
 

 「――――――あはっ」


 少女の様な笑い声が漏れる。ああ、たまらない。なんて、魅力的な遊びだろうと、頭が憎悪エクスタシーで満たされる。


 どうやら重なる禁欲で、オカシクなっているらしい。会社員のバッティングセンターだ。ストレス発散と娯楽の二重奏。際限無く広がって、際限無く加速する。


 それはなによりも美しく、淫靡で、残酷な行為。


 そんな行為に、今は没頭したくて堪らない。


 ――――――なのに。


 「う、うわぁぁぁぁ・・・・・・!!た、退却!退却ーーー!!」
 

 「――――――は?」


 なのに、なのになのに。結局野盗らしき集団は、自分の尻尾を噛んで逃げ出した。

 
 「逃がすか!全員、叩き斬ってくれるわ!」


 夏侯惇を止める意識すらない。オレの、この欲求をどうしてくれる。溜めに溜めたこの欲求を、どう片づけろと言うのだ。


 そんな気持ちも、逃げる後ろ姿を見て萎えた。激萎え。


 そして、今やるべきことを見つける。さっきは出来なかったから、今度はちゃんとやらないと。信用には信頼で返さないと義理に欠く。


 「・・・・・・夏侯惇。とりあえずオレがあいつら追うから、兵を十ぐらい貸してくんない?」


 「な、何を言うか!あんなやつら、この場で殲滅すれば良いだろうに」


 「あのな。少しは頭使おうな?これであいつら追っかけたら、根城が掴めるだろ。ここで一部隊を潰すよりも、ずっとお得だと思わない?」


 「・・・・・・・・・おお!なるほど、良い考えだな!でも、お前が行く必要があるのか?」


 もちろん。オレが行かなきゃ意味がない。だってほら、オレの進退を決めるって誰かが言ってたしね、ヒヒヒ。


 「ああ。だから曹操に上手く言っといてくれ。見つけ次第兵を戻らせる」


 「わかった。気をつけろよ」


 ちっとも心配そうじゃなく夏侯惇はそう言った。しかし、気をつけろ、ね。なんだろ、悪い気はしないからいいんだが、いかんせん今の気分がいけなかった。


 「ああ。あんたもな」


 ――――――噛み砕きたくてしょうがない。













 本隊が来る前に馬を走らせる。アイツに会うと面倒なことになりかねない。追っ手も、夏侯惇だからこそ出来たことだ。


 収まらない欲求にバリリと頬を掻く。自傷癖はないが、こうでもしないと弾けてしまいそうだった。


 さあ、あと少し。あと少しで、己の欲求は満たされる。なにぶん我慢が多い職場だ。なら、当分我慢できるように大量にヤッておかないと。


 血走った目で、豆粒ほどの人影を追う。


 にやつく頬を、止められそうになかった。























 


 ――――――間もなく本隊に兵が帰ってきた。


 帰還した兵の数は、十。現場待機の兵はなし。


 夏侯惇から事情を聞き、イヤな予感がすると言った曹孟徳は自分の予感が当たったことに思わず舌打ちをし、行軍を再開させる。


 自身と、新しく傘下に加わった少女とを、先行部隊としたその後に。 






 







 
 


 <後書>


 どうも、ぽむぽむです。この後の展開ですが、少し、悩んでいたり。


 まあやってみるだけなんですが・・・・・・うむぅ。


 とりあえず、これを今年最後の投稿ということにしていただけるとありがたいです。なにかと忙しくなってきたので。


 つい先週に、毎週土日宣言を出したばかりなのですが、正月が近いことを忘れてたのです。


 では、読んでいただきありがとうございました。ぽむぽむ地蔵でした。それでは、良いお年を!さよなら!
 



[14000] 残骸その8
Name: ぽむぽむ地蔵◆1da765a3 ID:4f37ed70
Date: 2010/01/12 22:33
 たどり着いた場所は、一種異様な光景だった。

 山の間にひっそり佇むその砦は、細かく探さなければみつからないだろう位置にあり、まさしく誰も気にしないような、無意識に意識から外してしまうな粗末なものだった。

 だからこそ、ここまで拠点として使えたのだろう。誰にも見つからず、誰にも気にされない。近寄りたがらない。

 まさしく、悪党の。小物の隠れ家だ。

 だから――――――

 「そ、曹操さま・・・・・・」

 だから、間違っても。

 「・・・・・・・・・ええ」

 ――――――門が、開いたままではいけない。
 
 少女の部隊を待機させ、馬を駆る。

 漠然と。ただの勘で、残しておかないといけない気がした。

 あの砦に敵はすでに無く、幼い少女が見てはいけないモノが待っている。
 
 何故かあの、古ぼけた砦を見たときにそう思ったのだ。

 なにが待っているかは、自分自身でさえわからない。そんな混沌の中。しかし、分かっていることもひとつだけあった。





 用心もなしに馬を砦まで近づける。指揮するものとして最低の行為。先行部隊を編成した時もそうだ。部下の警告なんて耳に入らないほど、イヤな予感で汗が流れた。

 確認の通り、砦の門は開いていた。そして案の定、

 「遅かったな。全部終わっちまったぜ」

 「―――――――――」

 独断専行したバカも、何気ない顔で、傷だらけの身体で、ここにいた。
















 「遅かったな。全部終わっちまったぜ」

 幾分かスッキリした顔で、遅れてきた少女を迎え入れる。

 総指揮がたった一部隊を連れてやってきたことには驚いたが、こっちは仕事終わりの充足感に見舞われているので無視する。

 「―――――――――」

 「おわっ」

 曹操は馬を下りて早足でこちらへ向かうと、オレを押し退け砦の門をくぐった。


 



 ズカズカ進む少女の背中を追う。

 迷いの無かった歩みは、縫いつけられたようにビタリ、と止まった。

 「――――――――――――なに、これ」

 小さく、誰にともなく呟く。

 少女の視線にあるのは先ほどまで人間だったもの。それも大量の。

 細切れにされた人体は紅池を作り出す源流とかし、ずたぼろ雑巾のようになった臓腑は蜃気楼を幻視するほどの異臭を辺りにまき散らしている。

 それが一面。見渡す限りの赤い絨毯レッドカーペットだ。あの中心から出てきたものとしては、歩き心地は大変悪いのでおすすめはしない。

 「これは、なんだと聞いている・・・・・・!!!」

 熱気に響く怒声。よくこんなところで大声が出せるものだ。女の子だろうに。

 どうやらさっきの呟きは、オレ宛てのものだったらしい。

 「なにって、見ての通りだろ?アンタには宴会場にでも見えるのか?」

 比喩としちゃおおむね当たりだけど。

 「あなた・・・・・・!!」

 「にらむなよ、おっかないな。もともと殺すつもりだったんだろ?ならいいじゃないか。誰が殺しても、討伐は討伐だ。それともなに、勝手にやったことを怒ってるのか、アンタ」

 キッ、とオレを睨む。

 恐らくはそのどちらでもあり、どちらでもない。それは彼女自身理解出来ない第三感情だ。

 生理的嫌悪感とか、道徳感情とかそんなもん。それは理解するもんじゃなくて感じるもんだから、自覚できなくて当然なんだが。

 ひとまず胸をなで下ろす。状況によっては、ここで終わりを意識していた。





 曹操という少女は喋らない。ただ不快だと、その瞳が語っていた。

 踵を返し、砦の奥へ入ろうとする。

 「やめとけよ。汚いぜ?」

 こちらの願望を無視して、曹操はどんどん肉の絨毯に向かっていこうとする。だからソレを踏んでしまう前に、彼女の手をとった。

 「やめろってば。あんたの探してた本は、無かった。時間はあったからな。絶対見つからないぜ」

 「・・・・・・・・・そう」

 ばちりと手を弾かれ、そのままオレの横を通り抜ける。どうやら分かってくれたらしい。彼女みたいな人間が屍の上を歩くのは、比喩の中だけであって欲しかった。







 「――――――ひとつだけ、聞くわ」

 「あ?」

 追いかけた背中が止まる。曹操は、こちらを振り返らないまま――――――

 「あなた、人を殺すのが楽しいの?」

 ――――――いつか誰かと同じ、人間目線の疑問を口にした。






 「別に。欲求はあるが、望まれたからだしな」

 解はあるので即答する。別に考えさせられる疑問でもなんでもない。アンタらに、生きてて楽しいかと聞いてるようなもんだ。

 そう、と少女は振り返ると、

 「あなたは、ただの人殺しなのね」

 「・・・・・・あのさ。言っただろう?それが英雄って存在だ。気に入らないなら捨てればいい」

 曹操は答えない。ただ、オレを見ている。背後に血の池と肉の絨毯を背負ったオレを、じっと見ていた。

 そうして、一言だけ口にする。それはオレにしてみれば、宣戦布告の言葉と違いなかった。



 「――――――いえ。魏は・・・・・・曹孟徳は、あなたを飲み込む」

















 「華琳さま!」

 「ご無事でなによりです」

 後続部隊を拾い、本隊と合流する。後続部隊には、なんとあの剣玉少女がいた。名前を聞いて納得。名を、許緒と言うらしい。

 「春蘭、秋蘭、桂花。今すぐ通達なさい。――――――我が軍は、ただ今を以て帰城する。この討伐行に意味は無くなった」

 「・・・・・・は?」

 「ど、どういうことですかっ!?」

 「意味が無くなった、と言うのは間違いね。終わったのよ、もう。このバカが、一人で終わらせたわ」

 そこで、初めて視線がオレに向く。唖然とした空気が漂ってきたのでやる気なさげによう、と手を挙げておいた。

 「わるいな。アンタらの仕事取っちまった」

 ひひひ、と笑いながら告げる。その言葉に何か感じたのか、ピンと空気が張りつめた。色で例えるなら橙から青。

 真偽を直接問おうとした夏侯惇も。曹操に確認をとろうとした夏侯淵も。勝手な行動を怒鳴るつもりだった荀 も。

 例外無く。言葉を飲み込み、まるで異常者を見るような目つきでこちらを見ていた。

 武器を握らないのは今までの印象あってこそか。その印象って言うのも、雑魚っぽいとか悲しいもんだが。

 空気は悪くなる一方。なんかギシギシ擬音が付きそうだ。オレの考え方としては、やられたらやりかえすなのでこちらからは仕掛けない。

 さっきのは、ほら。役に立つとこ見せようと柄にもなく頑張っただけだ。他意は無いとは言えないが。






 真空になるような圧迫感の中。空気を入れ換えたのは、知り合ったばかりの女の子だった。

 「うわっ。兄ちゃんスゴい怪我だよ?痛くないの?」

 桃色の、サボテンが二本突きだしたような髪型をした少女は、オレの身体をじっと見てそう言った。

 「――――――痛いけどね。でも、大抵の痛みには慣れちまったから」

 「うわー!兄ちゃん、強いんだねっ」  

 そう言って、なんか尊敬の眼差し。そのマヌケなほどの空気の読めなさに、ぷしゅるぷしゅると緊張が抜けた。
 
 いや、今はその脳天気さに救われたのだが、こちとら慣れない視線に気まずかったり。

 罵られたり殺されたりするのは慣れっ子だが、そういう眼で見られるのは本意じゃない。

 だから、ケタケタと笑ってみる。

 「当たり前だろ。だってほら、オレってば英雄だぜ?」


 










 
 終わりだ、と包帯越しに軽く背中をはたかれる。衝撃が十倍の痛覚になって体を駆け回った。
 
 ・・・・・・改めて、夏侯淵を軽いイジメっこ体質ではないかと疑う。

 コイツ、傷口狙ってやりやがった。

 「・・・・・・功労者によくそんなことが出来マスネ。なんだ、もしかして、そういう習慣だったり?」

 「おお、悪いな。固定具だけでいいと言ったので、大した傷ではないと思っていた。許せよ。近距離の力加減は、弓使いには難しい」

 「冗談。知ってるぜー。弓使いにこそ、微調整能力が必要なんだ。アンタの姉ならまだしも、アンタに限ってそれはない」

 その姉も、今は許緒と一緒に曹操の護衛だ。何の護衛かと聞かれれば答えは容易い。

 なにを隠そう、曹操一行は、ここら一体の中心である町に立ち寄っているのだ。

 どうやらここら一体を納めていた人間が、盗賊にビビって逃げ出してしまったらしい。もちろん私財を持って。

 で。太守が逃げ出した郡には更に混沌が訪れる。ようするに盗賊に荒らされ放題になったわけだ。

 それを見かねた町一番の実力を持つ幼女・・・・・・つまり許緒が、ひとりで盗賊を追い払っていたそうな。

 んー、なんとも情けない話ではある。村の大人はなにをしているのか。安っぽい正義感を振り回す気は無いが、プライドとか、メンツとかどうよ?つまりそれだけ切羽詰まってるってことなの

か。

 そしてそんな事実を聞いた曹操は、逃げ出した人間の任を受け継ぐことを決めた。山向こうである陳留の良政を聞いていた許緒は大喜び。

 そして曹操の勧誘もあって、許緒は曹操の親衛隊になったのだ。

 この町に来たのは手続きのため。軍隊を町に入れるわけにもいかないので、こうして夏侯淵とオレは軍管理。それ以外は曹操について行ってしまった。

 曹操は、ちょっと偉くなったなのだ。


 










 「功労者、とは言えんな。なんせ命令無視だ。武功は驚嘆ものだが、指示に従わないものを手放しで誉めるわけにもいかん。それに――――――」

 じっと見つめられる。

 「――――――華琳さまの様子がおかしいし、な」

 「・・・・・・なるほどね。いや、さすが。まあ露骨か」

 「ああ。伊達に長くお仕えしていないからな。して、なにがあった」

 なにもない。オレにだってわからないし、たぶん本人にだってわからないだろう。

 「さあね。怒ってんじゃないの」

 「お前への罰は帰ってからだと聞いている。それが決まった以上、気にする華琳さまではないと思うのだが?」

 確かに。でも、思い当たるのはそれぐらいしかないわけで。だから、ホントに知らないよと首を振った。

 「ふむ・・・・・・信じるとしよう。ではやはり、直接聞くしかないか」

 「そうしろそうしろ。問い詰めた挙句の答えがソレなのは納得いかないが、それが一番確実だろうしな。・・・・・・と言うか、よくオレみたいな奴を簡単に信じるね。オレにはそれが一番の疑問な

んだが」

 それ自体に不満は無く、むしろやりやすいので全然オッケーなのだが、怪しいと自覚している身としては裏を感じてしまう。

 マジメな内容の質問だったつもりなのだが、夏侯淵はキョトンとした後、軽く微笑った。

 「はは。華琳さま自身、最初は賭の要素が強かったのだろうよ。だがお前があまりにも子供っぽいのでな。次第に警戒するのもバカらしくなったのではないか?もっとも、そんな無意識の信頼

も、今回の作戦で地に落ちたわけだが」

 「おかしいのはそっからだろ。例えばほら。この状況とか」

 命令無視で大量殺人を犯したバカと、自らの愛する部下が一人。こんな状況を、アイツが作り出すとは思えない。

 「最初は姉者もここに残らせる心算だったらしいのだがな・・・・・・」

 むぐむぐと口ごもる。そして彼女は、まるで0点の解答用紙を見せるような面もちで告げた。

 「・・・・・・ぐずってな」

 「・・・・・・・・・・・・あー。そういえば、アイツも機嫌悪かったな」

 「姉者の場合は単純さ。気に入らないのだ。お前が。姉者も昔から華琳さまに仕えてきた武人だ。自身の武に対する自負心だってあるし、強いからこそ華琳さまに求められてると思っている。

だからお前にお株を奪われたと、焦っているのではないかな」

 「なんだそれ。曹操は夏侯惇の武が必要なんだろ?いくらなんでも、強さだけで隣に置くわけないだろうに」

 そこがわかっていないから姉者は可愛いのさ、と夏侯淵は優しく笑う。その自慢げな笑みを見て思う。コイツ、どんだけ姉のことが好きなんだ。

 「だから、お前も誇れ。自身を最強と思い、事実それほどの力を持つ姉者を焦らせるに至ったのだ。十分わたし達にとって利用価値があるものだと証明できたではないか」

 仕舞いにはオレのこと誉め出すし。なんだ、コイツが一番の謎キャラじゃないか。いまや彼女の主すら警戒する相手に、頼んでもない励ましのサービス。

 「・・・・・・わっかんないなー。 あのお嬢ちゃんは別として、アンタもなにか思うとこないの?」

 「もう少し我慢できなかったのか?」

 「いやそうじゃなくてですね。・・・・・・アンタがいいならいいけど」

 当の本人はたおやかに笑ってらっしゃる。絶対分かってるだろあの顔。

 「それより、季衣には声を掛けておくといい。お前といっしょで今回の戦が華琳さまに武を披露する機会だったのだ。謝る必要は無いが、まあ、一声掛けておけ」

 そういえば許緒のことをそう呼んでたなーと思いながら適当に返事する。

 会話もこれ以上の進展は無さそうなので、視線を切って門の中をのぞき込んだ。

 「――――――あ。おーい!」








 四人と合流して帰路につく。本来一日二日かかる筈の手続きも、太守が居ない不安からか。案外早く済んだらしい。

 そんなもんかと納得する。曹操の申し出も、向こうの人からしたら渡りに船だったはずだ。私利私欲の為に逃げ出した町の統率者。その代わりは、噂されるほどの良政者。

 悩まされていた盗賊の被害からは、ひとまず解放される。



 いっぽうの曹操どのは仕事が急増。なんせ今までの倍。その労働力は端倪すべからずだ。

 しかし本人はケロッとしてるので、やっぱり予想の範疇なんだろう。

 いずれ大陸を目指す身としては、通過点として割り切ってるっぽかった。

 彼女の凄いところは、そこを意識せずやってるってとこ。末恐ろしいとはこのことだ。
 

 






 ぎっちらぎっちら揺れながら進む。

 あいかわらず馬には慣れない。心が、というより体が。

 「どうしたの?やっぱり、怪我が痛いの?」

 向こうの町を出てから興味深そうに隣を着いてきてた許緒が、心配そうに顔を見る。

 ちなみに出発してから初めての会話です。

 「んー?もう痛くないぜー。ほら」

 腹や腕に巻かれた淵お手製の包帯を指さす。綺麗で丁寧に巻いてある包帯に、血は付いていなかった。

 傷は前と変わらず自然治癒するみたいだ。固定するものがあれば尚更で、それこそガムテープでも結構。と、言っても致命傷は無理だが。

 「ん、ホントだ。じゃあどうしたの?気分悪そうだよ?」

 「オレってばさ、馬に慣れてないんだわ。オレから見りゃアンタのほうが異常だね」

 見ればなんの違和感無く乗りこなしてる。まるで自転車を乗るような自然さだ。

 「そうかな?んー・・・・・・兄ちゃんって、馬に乗らない国の人?なんか、変な身体してるよねー」

 む。失礼な。外見はアンタら人間とおんなじはずなんだがなあ。

 「それさ。なんか、かっこいいよね」

 少女がスーと指を動かす先には全身に広がる身体の模様。そこでようやく、少女が言っているのがコレだということに気づいた。

 ・・・・・・どうやらこの少女、なかなか子供っぽい感性を持っているようで。そこらへん外見を裏切らないよね。

 そんな少女があのどデカい鉄球を振り回すんだ。斬新すぎる。

 「いいなー。・・・・・・あ。ご、ごめんなさい。自己紹介、まだだったよね。ボクはね、許緒っていうんだ。真名は、季衣っていうの。よろしくね、兄ちゃん」

 「アンリマユ。アンリでいい。――――――ところで、真名ってのはなんなのさ?なんか、オレの知ってるのとは意味が違うっぽいんだけど」
 
 「兄ちゃんのとこには無かったの?真名。んとね・・・・・・真名は、そのひとの持つもうひとつの名前で、とっても大事なものだって教えて貰ったよ。だから、そのひとから教えられるまで、勝手に

呼んじゃだめなんだって。だから、兄ちゃんはもうボクの真名を呼んでいいんだよー」

 「ふーん。・・・・・・ん?いいの?一応、会ったばっかのつもりなんだけど?」

 「うん!だって、ボクの代わりに悪い奴らをやっつけてくれたからね。兄ちゃんのこと、スゴいと思ってるんだー!」

 ボクも頑張らなくっちゃ、と。そう言って許緒――――――季衣は、年相応の天真爛漫な笑顔を見せる。

 ああ―――――――――コレが、子供というものか。コレが純粋というものか。

 まさかここまで目に痛いとは思わなかった。疑心のない眼差し。悲観を見せない笑顔。

 なにも知らないのが一番幸せなんじゃないかと錯覚させる、その空気。

 軋み始める一歩手前。回転する前の歯車。曹操の下に行くことで、確実にそれは動き始めるだろう。

 「ああ、じゃあ――――――――― 一緒に行こうか、季衣?」

 だから、ワタシは笑顔で手を差し伸べる。重なる手のひら。楽しみを潰してしまわぬよう、気をつけて握った。






 曹操からの召集があったのは、季衣との会話から少し経ったときのことだった。呼びに来た夏侯惇に着いていき、知ってる顔ぶれが集まってる場所に向かう。

 内容は戦果報告。本格的なことは城に帰ってからやるのだが、今回は特殊な出撃だっため、ある程度まとめちゃおうかとのことらしい。

 とりあえず捨てられる心配は無いと分かっているので、意気揚々としてみるオレだった。
 



 「・・・・・・さて。今回は、少し特殊なカタチで終わった戦だったけどみんなよく働いてくれたわ。ごめんなさいね季衣。あなたの武勇を見る機会は、少し期限を延ばして貰っていいかしら?だけ

ど一人でみんなを守ろうとした勇気は、私にきっと必要になるわ。これから、着いてきてくれるかしら?」

 「は、はいっ!ありがとうございます、華琳さま!」

 「そして桂花。あなたの作戦を見ることは出来なかったけど、確かに予定の日程よりは短縮されたわ。あなたの采配も、またの機会にしてもらえないかしら?ただ糧食の不足についての罰

は、私への奉仕を以て返してもらう。それでいい?」

 「・・・・・・・・・はい」

 「そして―――――――――アンリ」

 呼ぶ声はどこか刺々しい。その極小の反応に気づけたのは、彼女の様子がおかしいと知っているからだ。

 それほどまでに、彼女はいつも通りだった。

 「あなたの独断専行わがままには、許しがたいものがある。しかし、それを差し引いても、あなたの力は驚異よ。・・・・・・あなたへの罰は一週間の自室謹慎。その後、私の正式な部下として採用しま

す」

 「なっ・・・・・・!」

 「か、華琳さまっ・・・・・・!?」

 「異論はナシよ。今の私たちには力が無いの。そして力を選んでいる余裕もない。そして―――――――――約束は、破らせないし、破らない。この意味を、一週間よく反芻することね。アン

リマユ」

 つまり下につく以上命令には従えということらしい。すげぇなオレ。一週間も要らなかったぞ。

 とういうか。釘を刺されるまでもなく、そういうスタンスだと説明したと思ったんだが。しょうがないか。用心深くなるのは仕方が無い。

 今後の目標は、素直に褒められるで決まりだな。それがクリアできたなら、レヴェル2として文頭にみんなに、を付けよう。・・・・・・むむ。一気に難易度が上がるが、まあいいか。

 志は高くないとね。折れない程度に。

 「・・・・・・返事は無いのかしら?」

 「はーい。お勤め頑張りマース」

 

 

 

 





 帰路は遠く、家路は尚遠い。今はまだ、この喜劇に残ることを思う。それは演者に優れ、舞台に優れた夢遊劇場。最後に残るものなどありはしない。

 虚ろなのは世界アナタではなくワタシ。そこには、救いようのない事実だけが腰を据えて待っている。

 



[14000] 残骸その9
Name: ぽむぽむ地蔵◆1da765a3 ID:4f37ed70
Date: 2010/01/18 01:53
 「お前の知は人より劣り、お前の武は誰よりも勝る」

 幼い頃、誰かにそう言われたのを思い出した。

 それはなんの皮肉でもなくただの真実として伝えられ。

 だからこそわたしは、ああそうなのかと目を丸くして受け止めた。

 その日の晩に。わたしは訓練で使っていた自分の剣を池に放り投げた。

 正確には、水面に映る月に向かって投げ入れた。

 儀式とはまた違う、一種の願掛け。

 本当に月に向かって投げてみたかったのだけれど、妹に泣かれたのでやめた。

 だからこの方法を思いついたときは、思わず感動したのを覚えている。



 ――――――その晩、わたしは月に誓った。

 いつか、知さえも覆す武を身につける。

 この世で一番で無くてもいい。それを心の底からは望まない。だからせめて、守りたい人の周りでは一番でありたい。幼なじみや妹を全てのことから守れるようになりたかった。



 

 川は以外と浅かったようで、剣は月の真ん中から柄をのぞかせる。

 わたしはそれを見て満足げに頷いて、背を向けた。

 自分だけの小さな行事は終わり、明日のための眠りへつく。

 胸の中は、なにか旗が立ったような誇らしい気分だった。
















 「・・・・・・・・・はぁ」

 月天を仰ぎ溜め息をこぼす。気分は複雑。調子は最低。今の溜め息だって、心の換気にと行ったものだ。

 川縁の石の上で膝に顔をうずめる。そろそろ妹が迎えに来る頃かな、なんて縮んだ心で考えた。

 


 ――――――少し前に、戦があった。

 戦と言ってもただの盗賊や野盗の討伐だ。仕えている主人がそれなりの地位に立ったころから何度もあったことだし、とりわけ特別なところがあるわけでもない。

 ただ今回の討伐行は、今までとは少し違った。

 軍の中枢に新参者が現れたのだ。それも三人も。

 それ自体に文句はない。季衣はいい子だし、桂花だって、気に入らないが頭は切れる。

 我が主が力を付けることは、むしろ喜ばしいことでもある。・・・・・・気には入らないが。

 悩みの種は最後のひとり。主が気紛れに拾った「自称英雄」の青年だ。

 ――――――正直、認めることなんて出来ない。

 いつもへらへらして、飄々としているアイツを英雄なんて認めたら、歴代の英傑に失礼だと思う。

 しかしアイツは、今回の戦でその名にふさわしい力を見せつけた。三千。青年が一人で挑んだ敵の数。青年が一人で倒した敵の数。それも城内という包囲された空間でだ。

 切り傷だけで倒れることもなく、いつものようにへらへらと笑っていた。

 にやけた顔を痛みに歪めるでもなく、仕事を取って悪いなと嗤ったのだ。
 





 その時の感情と言ったら説明できないにも程がある。その顔を見たとき、思わずアイツの首を締めあげたくなったほどだ。

 そうしなかったのは、それ以上に心を別の感情が占めていたからだろう。

 自分でもおかしいとは思う。あの人を小馬鹿にしたような笑い方だって何回も見たはずだ。

 たしかに癇に障ったこともある。でも、あんな気持ちになったのは初めてだ。それも生涯初めてかもしれない。

 あれは、まるで――――――









 「姉者」

 呼ばれて、ふと顔を上げる。わたしが座る石とは反対の川岸。

 そこにはやっぱり、よく知った顔がいた。

 「――――――秋蘭」
 
 「ああ。姉者の妹の、秋蘭だ」

 そう言いながら、秋蘭は川の石を飛んでこちら側にやってくる。そして膝を抱えて座るわたしの背後に立った。

 「迎えにきたぞ。姉者」

 「ああ」

 「・・・・・・・・・」

 「―――――――――」

 しばし、沈黙。いつもなら早く帰ろうと促す妹が、なぜか今日はわたしの行動を待っていた。

 だから、岩から腰をあげようとする。ここでじっと空を見上げても何も変わらないと知っていたし、むしろ妹に迷惑しかかけていない。

 それが私の役目だよと妹は優しく笑うが、姉として情けないことだとわたしは思う。

 ・・・・・・だから、ここで秋蘭が声を掛けてくるのは予想外だった。







 「なぁ姉者。覚えているかな?私たちがまだ小さかった頃、今日みたいなキレイな月の日に、姉者は私を泣かしたんだ」

 思わず、唖然とする。秋蘭が言っている出来事は、先ほどわたしが浸っていた感傷だった。

 「な、泣かしたなんて。人聞きがわるいぞ秋蘭」
 
 「でも実際そうだったじゃないか。・・・・・・なんせ、いきなり『剣を真上に向かって投げたら、あの月にささるだろうか』、だ。あんな無茶な言葉、私を泣かしたかったとしか思えないな」

 「昔の話だろう!今だったら、秋蘭を悲しませることは絶対にしないさ。むしろ秋蘭を泣かせる奴を沈めてやる。・・・・・・いま思えば、確かに無茶だったな。あんな子供の力で、あの月に届こう

などと。・・・・・・ん?もしかしたら、いまなら出来るのでは・・・・・・?」

 「やめてくれよ姉者。また泣いてしまうぞ」

 むぅそうか。じゃあやめておこう。あの時も華琳さまにすごく怒られてしまったし・・・・・・・・・

 「・・・・・・・・・」

 「ん?」

 忘れかけていた心に心配ごとが蘇る。結局のところ、わたしは不安だったのだ。

 「アンリのことか?」

 秋蘭が横の岩に腰掛けながら核心の青年の名前を言う。わたしは、たぶん凄く苦い顔をしていた。

 浮かそうとしていた腰をまた岩に下ろし、三角にした膝に顔をうずめる。

 「知っていたか?アイツの名前・・・・・・アンリマユ、だったか。あれ、真名だそうだ」

 少しだけ目を見開く。・・・・・・あいつ、初対面から真名を言っていたのか。順序が逆だろう、と怒ってみる。

 「謹慎中は、文字の勉強をさせると華琳さまが言っていた。解かれる頃には、少しはマシになって出てくるだろうよ」

 ・・・・・・・ああ。わたしはそれが怖い。

 知では今はわたしの方が上だ。それも当然。あいつは異国の地の人間で、真名のことさえ知らなかった。

 でも武では、わたしのほうが下だ。そう、思い知らされた。

 「・・・・・・・・・っ」 

 涙目になりそうな瞳を膝頭に押しつける。

 ・・・・・・知なんか負けてもいい。きっと良くはないのだろうが、何倍もマシだ。

 ――――――武だけは、負けたくなかった。唯一得意なことだけは、負けてはいけなかったのに・・・・・・!!





 






 「強ければいいのか?」

 「―――――――――え」

 「華琳さまは、強いから私たちををそばに置いているのかな。果たして、それだけだろうか」

 「秋蘭・・・・・・?」

 「そういうことなら、私は桂花が入った時点でお払い箱だな」

 「・・・・・・・・・あ」

 そういえば、そうだ。・・・・・・なんだ、簡単なことじゃないか。

 視点を変えたらあまりにも単純な苦心で、あまりにも余計な心労だった。

 「・・・・・・そうだ。わたしたちは、ずっと一緒だった」

 「そうだ姉者。私たちはただ華琳さまのためを思っていればいい。言われもしないうちから余計なことを考えるな。その時のことはその時に考えろ。だから」

 「ああ!ただ主のためだけに!」

 失意が生気を取り戻す。途端先ほどまでの自分が恥ずかしくなった。

 おもむろに目の前の川に手を突っ込んで水を顔に掛ける。
 
 羞恥で熱くなった頬に、ひやりと水の冷たさが染み込んだ。

 「なんたる不忠!この夏侯元譲ともあろうものが主を疑うなどと言語道断である!」

 自分で自分が恥ずかしい。今の状況に怯えるなんてわたしらしくないし、それが妹の侮辱に繋がることも教えられた。
 
 情けない。わたしはどうあろうと、妹に支えてもらう道にあるらしい。

 なら、同様に。支えられている分支えないと、それこそ姉失格だ。

 「助かったぞ秋蘭!うまくは言えぬが・・・・・・潰れてしまうところだった!」

 「ああ、それは良かった。それでこそ、私の姉者だよ。姉者には、ずいぶん助けられてるからな。これくらいしか出来ないよ」

 「なにを言ってる。助けられてばかりなのはわたしだろう?」

 「ふふふ。では、お互い様だな」

 どちらともなく手をとって歩き出す。・・・・・・と。やり残したことに気づいた。

 「姉者?」

 「・・・・・・ううん。なんでもないよ、秋蘭」

 ああ、お月さま。わたしの誓いは、まだまだ果たせそうにありません。

 背後に輝く金月に向かって思いを飛ばす。

 届こうか届くまいが、別にどっちでもいい。だってこれはただの願掛け。

 なら、大事なのはこころだろう?

 数日後はアイツの謹慎が解かれる日。一番に、文句でも言ってやろうかな。

 「――――――――――――くちゅん」

 「ああ姉者。顔なんぞ洗うから・・・・・・」

 


















  
 数日後はオレの謹慎が解ける日。正直、寝台で暇を持て余してるだけの日々だった。

 「ああつまらねぇ」

 この一言に尽きる。曹操からやれと言われたものに関しては触っただけだ。

 いい加減にしてほしい。一週間もじっとしてたら腐るに決まっているのに。

 自己申告制度にしてもらえないだろうか。『はい。ワタシは、反省しました』みたいな。

 何度めかわからないため息を吐く。息がつまるとはこのことだ。


 いやホントに――――――




 ――――――思い出したくないことまで出てきちまう。



 





 唐突に部屋のドアが開く。なんの遠慮もなく入ってきたのは曹操だった。

 「あなた・・・・・・」

 そして寝台に転がるオレを見て早速ため息。なんだか不満があるっぽい。

 「む。なにさその態度。いきなり人の部屋入ってきてそれはないだろ」

 仰向けのままぶんぶんと腕を振り回して怒りを表現する。曹操はまた、今度はさっきより深いため息をついた。
 
 「・・・・・・あなたこそ、それが人を迎える態度かしら」

 「あー、失礼。今度はお茶でもいれとくよ」

 「・・・・・・・・・わたしの舌は厳しいわよ?」
 
 「んじゃやめた。第一お茶のいれ方なんて知らねぇし」

 「―――――――――」

 あ、怒った。しょうがないので寝台から体を起こす。

 「で?謹慎中の輩になんのよう?」

 「なんでそう偉そうなのよっ!」











 「言ったことはやってるのかしら?」

 言ったこととは文字の勉強のことか。もちろんやってないし、やる気もないので潔く誤魔化してみる。

 「まあ聞けよ。言うだろ?『書は以て姓名を記すに足るのみ』ってな。それに倣って名前だけでもと思ったんだが、残念なことにオレには名前がない。つまり、諦めた」

 「なんで史記の内容は頭に入ってて、文字を覚えるのは諦めるのよ・・・・・・ほんと、口が達者すぎるのも考え物ね」

 そりゃどうも。でもま、達者すぎて困ることはないから別にいいんじゃなかろうか。

 「・・・・・・そういえば、前にも聞いたわね。名前が無いって、どうゆうことなの?」

 「どうゆうって、そのまんまの意味だ。名前を呪術ではぎ取られて、かわりにアンリマユって名前を付けられた」

 「呪術で名前を?そんなことを、誰が何のために」

 「そりゃ村の専門屋だろ。オレの村はなんにも無かったけど呪術だけは一人前でさ。英雄として扱われるとき、もう必要ないものとしてもっていかれた」

 「―――――――――」

 「・・・・・・なんですかその眼差し。こればっかりは証明しようがねぇからな」

 「・・・・・・はぁ。ま、いいでしょう。あなたがなんであれ、役に立つことは分かったのですし。あとは・・・・・・わたしの、心の折り合いだけよね」

 「―――――――――」

 つまり、それがこの部屋に一人で来た目的か。まとう空気に納得する。道理で、さっきからぴりぴりしてると思った。

 「・・・・・・ふーん。心の折り合い、ね。それはなんに対する?」

 「あなたへの不信感に対するよ」

 どうやら早く終わらしたいらしい。それはこっちも同感。険悪なのは構わないがギスギスしてちゃやりにくい。

 互いに思うところは一緒なので、とりあえずオレから言い出すことにした。

 「アンタの言いたいことは、まあだいたい分かる。でもどうしようもできないぜ?アレがオレの殺り方ふつうだ」

 意識はしていない。オレは殺すことができれば十分なので、残飯がどんなカタチしてようが興味はない。

 「分かっているわ。それはアナタとの問答ではっきりしたもの。言ったでしょう?折り合い、と。あなたを変えるつもりは無い。ただ、尊厳を無視した殺人を犯すアナタも許容できない。だから、折

り合い」

 尊厳を無視した、と彼女は言う。・・・・・・笑わせる。死体に尊厳などありはしない。あるのは質量をもった残骸だけだ。

 「ふーん。じゃあ、どういうのが尊厳がある殺人なのかな。そこらへん改善に繋げていきたいんだけど?」

 「一概には言えないわ。でもせめて、人の形は残しておくべきよ。あれでは死体と言う言葉さえ浮かばない」

 「・・・・・・なるほど。つまり、死という事実を綺麗に残して置きたいんだ?」

 殺人と言う行為が汚いから、せめて死という事実を綺麗にしたい。まあそれもいいだろう。一種の防衛本能みたいなものだ。

 「違う。人だったものの死は、せめて人で終えるべきだと言っているの」

 でもそれは、犯した側のエゴだ。それを盾にするようなことはあってはいけない。

 殺した側の人間が、殺された側の目線で喋ってはいけない。そもそも、生きていないものには目線もクソもないのだから。

 「だから、それが余計なお世話だって言ってんの。いいかいお偉いお嬢さん。殺した人の心を代弁してはいけない。それはとんでもなく自分勝手で、とんでもなく利己的だ」

 殺したことに罪悪を抱くべきではない。ならば最初から殺すなという話だ。罪悪を抱いた瞬間、それは意味のない殺人に成り果てる。

 「殺したのなら、それは結果だ。受け止めて、次に生かす。笑えるだろ。殺したことで生かせることもあるんだぜ?」

 「・・・・・・ならば、殺したあとはどうでもいいと?」

 「少なくともオレは興味が無いな。だって殺したんだ。ならそこで終わり。明日を見ないと」

 そうしないと、殺したものが報われない。そう、心にもないことをなぜか思った。







 いつの間にか、少女は前のめりで話を聞いていた。どうやらかなり真剣に聞いていたようす。こっちもなにげに真剣だったんで、その態度にはわりと満足だ。

 曹操はすっと口に拳を当てて考える。そうして自分の中で消化しているのだろう。その顔に、この前のような侮蔑の色は無かった。

 「・・・・・・なるほど。あなたなりに、考えているのね。まさかここまで真面目な話をするとは思ってなかったわ」

 「そりゃどうも。こっちもわりと面白かったぜ。数日前に淵が来たっきりだしな」

 「あら?桂花を様子見に行かせたはずだけど?」

 「げ。アイツよこしたのアンタかよ。ホント気まずいからやめてくれ」

 いきなり部屋に入ってくるなりイスを強奪して部屋の隅を占領だ。そして寝台に転がるオレに突き刺さる非難の視線。そして念仏のようなオレへの呪詛。そりゃいやいやでもやらざるを得ない

だろう。

 「あなたにあの子は効果的なわけね。覚えておくわ」

 席を立つ曹操。どうやら有意義な会話はここでおわりらしい。

 「やめてくれ。どっちにとっても良くない。・・・・・・で。折り合いはついたのか?」

 目的は達成したのかと問うてみる。なんせそれが目的でオレと話にきたわけだし、これでまだギスギスしてたら面倒くさいにもほどがある。

 曹操は振り返り、寝台に腰掛けるオレを見ると、

 「つくわけないでしょう。ばーか」

 ―――――――――そう言って、くるりと部屋を出ていった。

 「・・・・・・・・・え」

 閉まる扉をみて呆然とする。えっと・・・・・・じゃあ、あの会話の意味はなんだったのだろう?

 本心なのか問う前に部屋を出て行ったので確かめる術は無い。だからと言って追いかけるのもメンドくさい。

 「ま、いいや」

 彼女はオレの話に満足したらしいし、オレも満足した。ならそれだけでいいと投げ出す。

 最後の捨て台詞から推測するに、ギスギスすることはないだろう。あとは夏侯惇のほうなのだが、あちらは淵に任せてある。

 荀彧は・・・・・・どうもしなくてもあんな感じだろ。と言うか付け入る隙が元からないのだ。

 あとこの退屈が数日間。それまで心がもつか心配だった。

 

 

  
  


<後書>
  
 月曜日になってしまいました。ごめんなさい。

 今回は短めで、遅くて、過去を作ってしまいました。

 これは拠点フェイズ的なものなので、次からはまた本編が進みます。これまた亀のような進行具合で。

 ほんとすいません。展開が遅くて飽きられるかも知れませんが、どうかお付き合いください。

 では、ぽむぽむ地蔵でした。さよなら、さよなら、さよなら。

  




[14000] 残骸その10
Name: ぽむぽむ地蔵◆1da765a3 ID:4f37ed70
Date: 2010/01/25 03:35
「では、朝の会議を始めましょう」

 曹操が玉座に座りながら通る声で告げる。
 
 あんな仰々しいイスに座って仰々しいセリフを吐いたにも関わらずシックリきてるのは、やっぱりアイツが相応だからだろう。

 そんなことはともかく。

 「はーいしつもん」

 「・・・・・・なにかしら」

 出鼻を挫かれた曹操から、不機嫌さ四割り増しで返事が返ってくる。

 同じく集められたみんなも、なんだ?と首を傾げている。

 ・・・・・・いや、首を傾げたいのはこっちなんだけど。

 キョトンとした目玉のまま、ひとつ。

 「これ、なんの会議?」

 なにも聞かされていない現状を確認した。 

  
 



 
 秋蘭から簡素丁寧な説明を受ける。要するに、オレの今後についてだった。

 そういえばなんか言ってたなと思い出す。確か、謹慎が解けたら正式な部下にするとかなんとか。

 そして今日は、久しぶりに部屋から出れた記念すべき日だったりする。

 と、言うことは期待してもいいのだろうか?

 「では、まず改めて自己紹介をして頂戴。あなたの名前に関しては、双方で食い違いがあるようですし」

 いいみたいだった。りょーかい、と返事して少し考える。えーと、なら名前をこの国っぽく言えばいいんだな。

 「――――――復讐の従者、アヴェンジャー。真名をアンリマユ。特技は、夢を叶えることデス?」

 「・・・・・・いろいろ聞きたいことがあるけど、まあいいわ。確認すると、アンリマユが真名でいいのよね?」

 「まあそうなる。でもアンタたちとは意味合いからして違うんで気にしなくていいぜ」

 「そうね。でも、あなたは私の部下になるのですし、ちゃんと教えておきましょう」
 
 まぁ律儀。そして猫耳軍師から聞こえる歯ぎしりがうるさいです。

 「私の真名は、華琳。今後はこの名で呼ぶことを許します。他のみんなも、真名については教えておくように」

 強制はしないけどね、と最後に付け足される。主が強制しないほど、真名というのは重いらしい。それとも単にオレだからか。

 「私も、少し不本意ですしね」

 「・・・・・・・・・・・・」

 オレだかららしかった。扱いヒドすぎ。別にいいけど。

 












 「ではアンリマユ。これからは本格的に使わせてもらうわよ」

 「はいはい。遠慮なくどーぞ、ご主人?」

 会議はホントにそれだけだったらしく、曹操はさっさとお開きにした。

 気持ち忙しく部屋を出ていく華奢な背中を見送る。・・・・・・さて。主催者が出てったならもういいだろう。

 オレもさっさと出ていこうとした時、不意に肩が掴まれる。

 振り返ると、夏侯姉妹が立っていた。

 「悪いな。少し、話があるそうだ」

 夏侯惇の後ろから妹がそう笑いかける。と、いうことは話があるのは今まさに肩から手を離す姉のほうか。

 「オレはいいけどさ。アンタら主サマ追っかけなくていいわけ?」

 「華琳さまは今お仕事が忙しいのでな。先日の戦いの書類仕事がまだ残っているのだ。私と桂花が合流するはもう少しあとになるな」

 なにそれ。一週間かけてもまだ慌ただしいとかどんだけ忙しいんだ。アイツの性格上後回しとかは考えられないし、これは相当の量だとみた。

 「ふーん。じゃあ今はアイツ判断の仕事の時間なんだ?いやー忙しいね大変だね。思わず畏敬の念を抱きそうです」

 「部下たるもの抱いて当然なのだがな」

 そりゃ残念。なら忠臣には絶対なれないな。オレの属性上人間に畏敬の念なんて抱けない。
 
 抱けるのは狂おしいほどの感情だけ。どっちにしろダメなわけだった。

 「で、話ってなに」

 まさか、謹慎が解けた祝いでもくれるのだろうか?

 「む、そ、そうだな・・・・・・しゅ、秋蘭。本当にあれでいいのか?」

 「うむ。妹を信用するといい」

 「む、むうぅ。わかった。――――――アンリマユ」

 「へ?」

 いきなり名前を呼ばれ、そして体が強ばる。なんか、やけに真剣な表情なんですが・・・・・・?

 警戒するこちらを余所に、夏侯惇は息を思いっきり吸い込むと、

 「・・・・・・これで勝ったと、思うなよぉおおおお!!!!!!!」

 がおーとケモノの様に叫び、ずじゃーとダッシュで退室。・・・・・・えっと、いまいち理解できないのだが、まぁ犯人ぐらいは検討がついたり。

 「―――――――――っぷ、くく」

 「やっぱアンタか!見る限りあれ走り去るところまでアンタの指導ですよねぇ!?」
 
 「・・・・・・よ、要約しよう。つ、つまり、姉者は、お前に劣るのは認めるが、・・・・・・・ぐ、いつかお前を越えてやると、言いたかったらしいぞ・・・・・・?」

 「じゃあそのまま言えよ!なんであんな歪めちゃったのさ!?」

 笑いながら、いや、必死に笑いを堪えながらフォローする夏侯淵はやっぱりいじめっ子だった。

 それも質が悪い策略系。可愛さあまりすぎにも程がある。

 それと惇の場合、越える=倒すだから、さっきのは軽い殺害予告だったり。

 ・・・・・・なんだがえらく、この先不安になってきた。

 オレの方が強いってこと事態誤解なのに。

 「ふ。いい気味ね。今回ばかりは、あの猪を応援しようかしら」

 「・・・・・・なんでこう味方に敵が多いかね?実際」

 むしろオレにだけ。しかもいつの間にか居たコイツに関しては、夜中闇討ちをかけるぐらいしそうだから怖い。

 ため息をつきながらその場を後にする。久しぶりの外出だ。と言っても城の中なんだが。

 さてどこへ行こうかと悩むだけでも、少し新鮮になるほどの麻痺っぷりでしたとさ。
 

 











 
 
 ――――――――――――そんな賑やかな会議からまた一週間が過ぎた。

 相変わらず曹操、えっと、華琳だっけ?からの仕事の言いつけは耐えない。力仕事はなんとか、ほんとになんとか譲歩したとして範囲内だとしても、文字を覚えさせようとするのはいただけな

い。

 文字で人は殺せません。そういった間接的なものは猫耳に任せておけばいいのだ。

 そして真名にも慣れないでいる。あの会議のあと、一応全員から真名を貰っているのだが、どうしても呼ぶことに違和感があるのだ。

 桂花なんて呼んだだけで舌打ちである。露骨に怒ってくれればいいものの、ああいう感情表現は地味に気まずかったり。

 これも慣れなんだろうが、面倒なことに時間がかかるカテゴリーのものだったわけだ。季衣は例外として。

 その季衣なんだが、今日は城を出てる。なんでも別の盗賊の根城を掴んだとかで、朝早くに張り切って行ってしまった。いや、凄いね。個人の感情抜きにしても自分から働けるなんて出来た

子だ。
 
 だがオレだってサボっているわけじゃない。こうして城の庭でぼーっとしてるのも、ちゃんと言いつけられたことなのだ。

 「おう。早いなアンリ」

 と、やっと待ち人が来た。春蘭は戦場とは違うラフな格好でこちらに向かってくる。

 「・・・・・・意外ね。あなたが一番なんて。なに?やっぱり犬は日向ぼっこが好きなのかしら?」

 一緒にきた猫耳軍師、桂花の言葉はいつもより刺々しい。理由も分かっているのでさりげなく反撃しておく。

 「あーあーやだやだ。嫉妬って怖いねぇ。そんなに自分だけのお留守番がいやか?ま、当然っちゃあ当然か。なぁ?お嬢ちゃん?」

 「くっ、どこに目をやりながら言ってるのよこの変態!!」

 「どこって・・・・・・・・・ホラ、胸部?」

 「せめて胸といいなさいよっ!全く無いみたいに言わないでちょうだい!!」

 違うのだろうか?確認したいようなしたくないような。でも引っかき傷を作ってまでも調べることではないので止めておくことにする。

 「やめろ二人とも。みっともないぞ」

 珍しいところから消火が入る。いつも消される側の春蘭が、得意げに慣れないことをしていた。

 「今回はアンリが悪いな。やっぱり女性に向かって身体のことは言ってはいけない」

 って、秋蘭が言ってたらしい。たぶんそうだ。

 しかし春蘭の言うことも最も。ここで二人とも収まるはずだったのだ。少なくともオレはそうした。

 ――――――しかしいけなかったのは二つ。今回の火種と、その火消しに問題があったわけで。

 「なによこのデカ乳女!あんたに身体問題云々言われても、共通するのは体重のことだけでしょう!!」

 ピキン、と空気がひび割れる。なんて言うか、やっぱりふたりの関係性はどこまでも最悪だったらしい。関係性の悪さが、今回の事件を引き起こしたといっても過言ではないと思う。

 と言うーか、やっぱりいつの時代も体重は永遠の命題のようだ。まさかまさかの真実。体重という地雷は遥か昔より埋められていた・・・・・・!

   


 「な、なんだとーーーーーーー!!??」

 想像通り爆発する春蘭。それを一歩下がったところで見守る。残念ながらここまで大きくなった火柱は、消防士ほんしょくの人にしか止められないのだ。

 ぎゃいぎゃい言い争うふたり。それを三流サーカス調教師のような面持ちで以って見守る。

 時間にして5分ぐらい。収まるどころか勢いを増す火災現場に、ようやく本職の方が現れてくれた。

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・はぁ」

 ふたり揃って頭に手をやる華琳と秋蘭。まるでいつものこと、とばかりにため息をついた。

 

 
 







 火災は華琳の一括によって無事鎮火される。しかしくすぶった火種は今度はオレに飛び火してきた。

 「そもそもあなたが胸のことをいうからでしょう!?気にしてるのにっ!!」

 まだテンションが下がりきってないのか、桂花は自らの弱点を盛大に叫ぶ。

 「・・・・・・・・・」

 「え、ちょ、ちょっと待って?ホントに全部オレのせいにされてる!?」

 「されてるもなにも、あなたがいけないんでしょう?」

 そこは否定できません。しかしこんな大きくなったのは桂花が春蘭に突っかかったからであって・・・・・・

 「――――――――――――」

 桂花の目が怪しく光る。口はニヤリという擬音がそのままになったかのように、見下して笑っていた。

 ・・・・・・なんとなく悟る。つまりこの軍師。わざと捨て身の攻撃を仕掛け、周りの同情を買ったのだった・・・・・・!

 みんなの華琳と秋蘭の冷たい視線が突き刺さる。結局、どこまでも強かな女に嵌められ、オレの評価はマイナス値をどんどん振り切っていくのであった。 

 

 



 

 
 
 
 「はい、これ」

 華琳から大き目の布が手渡される。身体が覆えるぐらいのサイズ。オレの腰巻とよく似た色のそれはわりと良い生地を使っているらしく、結構サラサラだ。

 しかし、こんなものを貰っても意味が分からない。思いつくのは風呂敷。そんなの渡された日には荷物持ち決定である。

 「着るのよ。州牧になった人間の部下が、まさかそんな格好でうろつくつもり?」

 なるほど。忘れてた。確か今回集まった目的は街の視察だっけ。

 あの戦いのあと、オレは部屋に篭もりっぱなしだったから知らなかったが、どうやら華琳は刺史から州牧に昇進したらしい。

 単に治める地域が増えただけなのだが、確実な一歩といえばそうだろう。

 そんでもって手続き引継ぎお役所仕事。一息つけたのが最近の話で、じゃあみんなで街を見て回ろうかというのが今回の集まりだ。

 そして言ったとおり桂花は留守番。みんば出払ってしまうと、緊急の要件のとき対処が出来ないからだと華琳は言っていた。

 オレが行けて自分が行けないのがどうにも悔しいのか、朝の事件が起こってしまった原因でもある。






 「しかし、オレなんかが付いてってもいいのかね?」

 布とわしゃしゃ格闘しながら尋ねる。この布で身体は隠せても、顔にまである模様は消せないのだ。それが理由で今まで城の外には出れなかったわけだし。

 「一応あの戦いの風評は流しておいたわ。城をひとりで落とした人間がいるってね。だから問題ないんじゃないかしら?」

 その言葉に、ふたりはよくない顔をする。しかし気づいたのはオレだけなので、無視することにした。 

 「うわ、なにそれ。てかどうしたのさ。オレの風評流すなんて」

 「あなたのためじゃないわ。華琳さまのためよ。強い力の噂は、それだけで抑止力になる。それだけよ、勘違いしないでちょうだい気持ち悪い」

 「あー・・・・・・そうですか」

 きゅ、と布の端と端を首の前で結ぶ。結局マントみたいな着かたしか思いつかなかった。

 「さて。では行きましょうか。それでは桂花。留守番お願いね」

 「ぐぅ・・・・・・承知しました」

 「そしてアンリ。――――――くれぐれも、派手な行動は慎みなさい」

 「分かってるって。・・・・・・ところでさ、土産屋って、どこよ?」

 「・・・・・・・・・・・・」
 











 4人で街を歩く。先頭が、というかオレ以外の三人が横一列に並んで、オレがそのケツをついて行く様な感じだ。

 幸い道は広いので通行の邪魔になることは無さそうだが、さすがに疎外感を禁じえない。

 そんなこんなでしばらく歩いていると、なんだか陽気な音楽が聞こえてきた。

 「・・・・・・・・・?」

 首をかしげて音に集中する。前の三人はなんだか視察についての話に夢中で気づいてない様子。

 正体はすぐ分かった。少し歩くと、通りで音楽をならしている三人組の旅芸人が見えてきたのだ。


 


 「それでは、次の一曲、聞いていただきましょう!」

 「姉さん、伴奏お願いね!」

 「はーい」

 「ほぅ。旅芸人も来ているのか・・・・・・」

 今気づいたように秋蘭が声を漏らす。なるほど。あれが旅芸人か。ちょっと、いやだいぶ興味を擽られるものだ。

 「へーへー!なぁなぁ、ちょっと聞いていこうぜ。な?いいだろ?」

 「な、なによいきなり。だめ、だめよ。今日は旅芸人を見に来たわけではないでしょう?」

 「えー、いいじゃんかよぅ」

 楽しいじゃんかよぅ、音楽。

 「諦めろアンリ。しかし、なぜそんなに見たいのだ?音楽に興味でも?」

 「いや、興味って点では別に。でもいいじゃないか、音楽って。それは相手にぶつけようとする感性の塊だろ?」

 そういう点では美術品も全部そうなのだが、音は直接振動によって伝わる。絵は描いた人と見た人によって感じ方にタイムラグが発生する。

 しかし音楽は違う。その場、その時を共有することによって相手に今の自分を思いっきり叩きつける事ができる。

 「そういう点で、オレは好きだって事。簡単に言うと、そこには愛が溢れているじゃないか。お手を拝借、さぁ踊りましょ、みたいな。そういう空気が好きなんだ」

 まあ今は音楽を録音するという大変なものが開発されているらしいし、今の例はライヴでに限るけどね。

 「・・・・・・意外だな。お前の口から“愛”とは」

 「得体の知れぬ悪寒がはしるよなっ!」

 「・・・・・・・・・・・・」 

 ・・・・・・日ごろコイツ等がどういう目で見てるのか分かって気がする。まあ行動を顧みたら当然っちゃあ当然なんだが。
 
 「はいはいお話はそこまで。狭い街じゃなし、手分けして見て回るわよ」

 「え、マジ?やっほーい!じゃあ、あのデッカイ門で待ち合わせなー」

 「は?え、ちょ」

 反論される前に手をふって駆け出す。学習したのだが、逃走のときに大切なのは速さではなく意外性なんだとか。

 こうしてオレは、呆然とした三人を置いて二回目の街に繰り出した。

 

 
 
 

 

 「・・・・・・・・・はぁ」

 「・・・・・・どうしましょう、華琳さま」

 「縛り上げてきましょうか?」

 「・・・・・・いらないわ。私は中央。春蘭は左。秋蘭は右をお願いね。あのバカに関しては、見つけ次第捕獲でよろしい。では、解散」













 
 で、集合場所。

 「――――――いや、面白いねアンタたち。なに、そのカゴ集めると願いが叶うとか?」

 お金が少なくなったのでいち早く集合場所についたオレが見たのは、三方向からほぼ同時にやってくるカゴ三人集だった。

 「・・・・・・うるさいわね」

 「わたしのは土産の入れ物ようだぞ?」

 「・・・・・・部屋のカゴのそこが抜けていてな」

 各々なにかあったらしい。――――――それにしても意外だ。まさか華琳がこんなもの買ってくるなんて。

 けど本人に聞いたら確実に薮蛇なので心の中に留めておく。・・・・・・なにか壊したのかな?興味本位とかで。

 「それで・・・・・・私が言えることじゃないけど、視察はちゃんと済ませたの?」

 ふたり揃ってはいと頷く。・・・・・・と、なぜか視線はオレに向けられていた。

 「・・・・・・さぞかし有意義な視察だったでしょうね。報告書、ちゃんと書きなさいよ」

 「なにそれ八つ当たりっ!?」

 「なにを言ってるの。報告書は当たり前でしょう。文字がダメなら口頭でも良いからしなさい。わかったわね」

 うー、なんていう事後報告。報告ってなに報告すればいいんだ?恐らく、あれが美味しかったとかだったら完璧に怒られる気がするぞ。

 軽く頭を捻って諦めようとしたとき。その声は、オレの背後から掛けられた。

 



 「もし。そこのお若いの」

 「・・・・・・誰?」

 声のするほうを見る。そこには、布で顔を覆った性別不明の人間がいた。

 「占い師か・・・・・・」

 秋蘭が呟いた言葉に納得する。それは、この人物を良くあらわした単語だ。

 「華琳さまは占いなどお信じにならん。慎め!」

 「・・・・・・春蘭、秋蘭。控えなさい」

 「は?・・・・・・はっ」

 何かを感じたのか、華琳は占い師の前に立つ。オレも、こいつは占いなんて鼻で笑うと思ったからちょっと意外だった。

 「強い相が見えるの・・・・・・。希にすら見たことの無い、強い強い相じゃ」

 「いったい何が見えると?言ってごらんなさい」

 「力の有る相じゃ。兵を従え、知を尊び・・・・・・。お主が持つは、この国の器を満たし、繁らせ栄えさせる事の出来る強い相・・・・・・。この国にとって、稀代の名臣となる相じゃ」

 「ほほぅ。良く分かっているではないか」

 春蘭が満足げな声を漏らす。まぁ分からないでもない。敬愛する主が、稀代の名臣となると褒められたのだ。占いであっても嬉しいに決まってる。

 しかし、占い師の言葉には続きがある。

 「国にそれだけの器があれば・・・・・・じゃがの」

 「・・・・・・どういうことだ?」

 「お主の力、今の弱った国の器には収まりきらぬ。その野心、留まるを知らず・・・・・・あふれた野心は、国を犯し、野を侵し・・・・・・いずれ、この国の歴史に名を残すほどの、類い希なる奸雄

になるであろう」

 その言葉に、思わずキョトンとする。予測か測定かしらないが、どうやらコイツは本物らしい。なんせ全くその通り。オレが知っている曹操という英雄は、その通りの人間なのだ。

 そして、この問答すらオレは知っている。最も、気が付いたのは、いまさっきのことなのだが。

 「貴様!華琳さまを愚弄する気か・・・・・・っ!」

 「秋蘭!」

 「・・・・・・し、しかし華琳さま!」

 「そう。乱世においては、奸雄となると・・・・・・?」
  
 「左様・・・・・・それも、今までの歴史にないほどのな」

 「・・・・・・ふふっ。面白い。気に入ったわ。・・・・・・秋蘭。この占い師に謝礼を」

 「は・・・・・・?」

 「聞こえなかった?礼を」

 「し、しかし華琳さま・・・・・・」

 「・・・・・・アンリ。この占い師に、幾ばくかの礼を」

 「あいよ」

 残ったお金をじゃらじゃらと占い師の茶碗に入れる。さよならオレの全財産。あとで華琳に請求してやろう。

 「乱世の奸雄大いに結構。その程度の覚悟もないようでは、この乱れた世に覇を唱えるなど出来はしない。そういうことでしょう?」

 そういうと思った。ちなみに勘ではなくちゃんと裏づけがある。なんか史実に沿ったり沿わなかったり。よくわかんなくなってきたな。

 










 とりあえず用は済んだ。この視察で一番の収穫といったら華琳の機嫌だろう。カゴの失態と上手く帳尻があったみたいだ。

 みんなして占い師に背を向ける。

 「それから、そこのお主」

 「・・・・・・・・・」

 呼び止められたのは自分だとすぐ分かった。しぶしぶと向き直る。

 「なにさ。ありがたい予言なら結構だぜ?あいにく、もう道標はいらないんだ」

 まいったな。コイツ本物っぽいから、余計なこと言わないとも限らない。

 「・・・・・・ずいぶんと退屈そうじゃの」

 「――――――あのさ。聞いてた?そういうの、いらないんだって」

 それにその言葉は外れだ。この現状は満足かは別として、前よりは充実していると思っている。

 「――――――――――――やはり、お主には何も無い山頂が一番かの?」

 「――――――――――――」

 ああ、なるほどね。上手いこと言うな、コイツ。でも残念。それも二番煎じだ。破壊力としては聖女に劣る。

 「・・・・・・どうなんだろうな。ま、前より身近にあるからな。楽しいっちゃ、楽しいぜ?」

 その言葉を最後に身体を返す。もう話すことはない。あるかも知れないし、あったかも知れないが、それはまた次の機会に。
 
 待っていた三人と合流する。さっきの会話を聞いていたのか、その表情は訝しげだった。

 「・・・・・・今の言葉は、追及すべきかしら?」

 「好きにしなよ。アンタの命令は従うって、言っちまったしな」

 そう、と言ってまた先頭を歩き出す。結局今は聞かないらしい。恐らく、それは彼女なりの優しさだ。

 その小さな背中を追う。その後姿はどこまでも可憐で、一種の吐き気さえする。





 これからその背中の上にのる荷物と、突き立つ爪を想像する。しかしそれさえも彼女の覚悟の内だろう。なら邪推は失礼にあたる。

 オレは尻尾を振ってコイツに付いていけばいい。どうせ覇道。ま、悪いようにはならないだろうさ。













 <後書>

 二週連続月曜日。ほんとに申しわけありません。いつもすんでのとこで間に合わないです。もう月曜深夜投稿でいいんじゃないかしら?

 今回も元から抜粋した箇所があるため文がおかしくなってると思われます。

 今回は特に内容が無いです。進んでないです。

 さて、先週書いたとおり、来週はお休みしたいと思います。少しパソコンが使えなくなってしまうのです。私情で申し訳ないです。

 でも文章は書けるので、これを機にストックを作りたいと思っています。

 それではまた再来週。さよなら、さよなら、さよなら。
 


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