注:hollowのネタばれがあります。プレイ中の方はお気をつけください
──────そう、アレは言った。
遠まわしに、奇跡は終わりだと笑ったのだ。
気持ちのいい天気だった。
ときより吹く風は冷たくなく、いよいよ春の到来を感じさせる。
空を仰げば雲ひとつない青空。水をたっぷりつけた水彩絵の具を画用紙にぶちまけたかのような清清しさだ。
言うなれば絶好の散歩日和。
若いカップルがジョギングで心を近づけるもよし、熟年夫婦が過去を振り返るもよし。そして目的もなくふらふら歩くもよし。
時刻はお昼ごろなのか、OLさん3,4人が芝生にシートを広げてお弁当を食べている。
「・・・・・・うまそうだなぁ」
きゃいきゃい騒いでるOLさんを見ながら呟く。ちなみにうまそうの対象はあえて明言しないでおく。あとが怖い。
ここは未遠川を沿うように造られた深山町の公園。週末にもなると身体を持て余した子供やさっき言ったような人たちでいっぱいになる、みんなの憩いの場だ。
そしてワタクシことアンリマユはいちサーヴァントとして、マスターの様子を見に行くところなのだった。
あの聖杯戦争からひとつ、季節が過ぎ去った。
オレとマスター、ふたりだけの聖杯戦争。四日間しか続かない不実の楽園。
結局、オレと契約を切ったマスターは無事五日目へ到達。大事ななにかを掴んでくれたらしい。
で、オレはというとマスターを失ったんで在るべき場所へと直行。そのまま無に還ったわけだ。
そんなオレが再び現界したのは戦争が終わってから数ヵ月後。気がついたらあの見慣れた屋敷にぼーぜんと突っ立ってた。
わけも分からずフラついていたところ、未だ冬木に滞在してたマスターと新都でばったり。
出会い頭のアッパーカットには少々面食らったのだが、こうしてマスターと再開できたわけだ。
・・・・・・後に聞いた話なのだが、オレの現界にはなんかすごいマジックアイテムが絡んでるんだとか。なんでもシマシマで、魔法瓶の形をしているらしい。
体育会系でいろいろ潔癖なご主人サマだが、関係はいたって良好。
そうじゃなければ、新しく決まったバイトの現場に一度来てほしいなんて言うはずないのである。
「冬木大橋のちかく・・・・・・ここか?──────げ。また喫茶店なのか」
言われたとおりに来た店の前でため息をつく。どうやら彼女は自分のドジっ子スキルを分かっていないらしい。ついこの前厨房を水浸しにしたばかりじゃないか。
居候先にお金をいれようとするその心意気は認めるが、しょーじき普通のバイトはむつかしいわけで。特技を生かせと言ってやりたい。
それに今は男装喫茶なるものがあると聞いたしそっち方面を開拓してみてはいかがだろうか?男装なんてなれたもんだろうし。
「・・・いやだから、飲食店が駄目だってのか」
皿をしゃりしゃり割って店の人に怒られる姿が目に浮かぶ。すごい浮かぶ。
ああ、この店も人間兵器の餌食になるのか。今後のバイトを選ぶ方針を決めるための尊い犠牲になってくれなどと黙祷を捧げつつ、せめてもの罪滅ぼしにこの被害店の
名前を覚えておくことにした。
木の看板にはドイツ語で店の名前が書かれていた。
「・・・・・・アーネンエルベ、ねぇ」
珍しい店名に思わず声をあげて読んでしまう。なるほどこの名前はシックな店の雰囲気と十分にあっていた。このインパクトのでかさなら、当分忘れることはないだろう。
「んじゃ、マスターも待ってるだろうし。行くかね」
看板から視線をはずし入り口のドアノブを持つ。もしかしたら、マスターの悪意なき暴力を未然に防ぐことが出来るやも知れない。
そのとき被害を負うのはオレなんだろーなーなんてちょっぴり覚悟して店の中に入った。
『いらっしゃいませぇー。喫茶、マジカル真剣狩るへようこそー♡毎週第5水曜日は京都フェアですのでメニュー一色ぶぶ漬けとなってまーす』
──────ふよふよと漂う、ステッキがいた。
「────────────ダウト。あんた、ここにいちゃだめだろ。あとこんな荒野を人は喫茶店と呼ばない」
地平線が見えるほどのオープンテラスなどあるわけないだろ。オレ確かに扉くぐったよね?
『おやおや?だれかと思えばステキな半裸刺青お兄さんじゃないですか。その説はどーもお世話になりましたー。ところでぶぶ漬け、食べていかれます?』
ふよふよと近くにやってきて肩をつつかれる。相変わらず話を聞かない奴だった。
「近寄るなつつくな。それとなんだぶぶ漬けって。それは京都流の追い返し方だろうが」
来店してわずか数秒でぶぶ漬けをすすめる店は、やっぱり喫茶店とは呼ばない。古き良き京都民家でももう少し粘る。
つれないですねーと赤いステッキはオレの横から正面に移動する。そして営業スマイルを浮かべるようにチカチカと点滅した。
『改めましてこんにちは、アンリマユさん。お待ちしてました』
「いやオレの意思じゃないんだけど。・・・・・・てかさ。マスターが勤めてる喫茶店はどこに消えたの?」
『いやですねー、入り口の看板みたでしょう?まさにあなたが立ってるその場所ですよー』
白い羽(オプション)を器用に使い、着物の袖で口元を隠すようクスクス笑う。
「・・・・・・・・・・・・?」
ソイツの言葉に首を傾げて足の裏をどけてみたりする。
どこをどうみたって、入り口なし出口なしの絶対永久袋荒野なのだが。
・・・・・・ところで、そういえばこの風景。どこか覚えがあるような・・・・?
「あ―――、なんか分かったきた。ここ、アレだろ。あんたの心象世界」
道理で見覚えがあるわけだ。さんざんな目にあったしね。
『せ、正解ですっ・・・!さすがシロウさんを雛形にしただけはありますね。結界なんのそのですか。
そうですっ。ここは私の固有結界。──────あの事件からはや数ヶ月。契約主には必要にもされず、私はただ来もしない救いの手を待つだけの存在でした・・・。
やることといったらお裁縫とインターネット。お昼には森田さんを見ながらレトルトをチンし、昼下がりには煎餅とドラマの再放送をチェック。
そんな生活を続ける内に、私は思ったのです。・・・・・・このままじゃいけない、と』
「・・・・・・・・・・・・」
その、まんま専業主婦な日常生活は第二魔法の産物としてどうか。いやむしろ、だからこそなのか。
『その日から、私は修行に明け暮れました。日々自己研磨を繰り返し、血反吐を吐き、そしてやっと・・・!私の世界が造れるようになったのです!
まぁ、実際のところ。五分もかからず出来ましたけどねー』
「・・・・・・なるほど。そのチンする間に出来るようになった固有結界にオレを連れ込んでどうしたいわけ?」
正直コイツと会話を続けるのがすごく疲れるのでさっさと本題を切り出す。するとステッキ、もとい人工天然精霊マジカルルビーは、待ってましたと言わんばかりに
ステッキがしらを点滅させた。・・・・・・どうやら、面倒ごとは確定らしい。なんかすっげぇ楽しそうだし。
『ふふふふふ・・・・・・よくぞ聞いてくださいました! 箱に仕舞われ六年間、存在が薄れはや数月!使われない道具は日々悶々と時期を待ち、迸る熱いパトスは
例のチルドレンにも止められません!水泳選手が濡れ鼠!ファイアーマンが夏の虫です!たった一回の変身だけではこの欲求を満たすことはできません!ふるえるハートは
燃えつきるほどヒートなんですよぅ!!』
よぅ、よぅ、よぅ・・・・・・と響くエコーをざらついた風が運ぶ。そこまで熱くなっているところ申しわけないのだが言いたいことがこれっぽっちも分からない。
というか意味不明すぎる。
「えっと、一行にまとめてくれ」
『大佐・・・・・・魔力をもてあます』
「オーケーさよなら。二度と現れてくれるなこの快楽主義妖精」
バイバイと手を振り踵を返す。――――――さて。さっさとこんなところを出て、マスターのところに行かなければ。出口、でぐちっと・・・・・・。
『まぁそんな都合よくいかないのがダークヒーローの辛いところですよねー』
「いや、分かってはいたよ?」
でもほら、一縷の望みってのもなかったわけじゃなかったし?もちろん望みブレイク。荒野に扉なんて逆に異物ダヨ?と言わんばかりの消失ぶりでした。
『さてさて。それでは覚悟はよろしいですかー?ダイジョーブです。イタクナイデスヨー?ちょっとマガーレ、みたいな衝撃がくるだけですから』
「はっ。――――――上等。待ってろ、今すぐ衛宮士郎つれてくるから」
『だめですよー。あなたでなければ意味がないんです。夢でもみると思って諦めてください。ほら、夢はいつか覚めるものですよ?』
「いーやーだー!あんたの場合、夢なんて優しいものじゃないだろ絶対!」
ぎゅんぎゅんと目の前のステッキに膨大な魔力が集中する。ああ、なんて毒々しく痛々しい輝き。これが俗に言う死兆星の瞬きか。
「・・・・・・いやマテ。この魔力はおかしいだろぜったいーっ!?」
ぎゅんぎゅんだった音はぐわんぐわんに。下手するとこれ聖杯戦争よりヤバイぞ!?
『はあぁぁああーーーー!!みんなー!ルビーちゃんにみんなの正義をわけてー!』
「本気で洒落になんねーって!なにするつもりだよこのバカステッキ!」
濁流と化す魔力は際限を知らず世界さえも侵し始める。一面の荒野はガラスのように砕け始めていた。しかしステッキには尚も濁流が流れ込む。
そして完全にその容量を埋めたのか。毒々しさ3割り増しの紅い後光を背負ったステッキがばちりばちりと紫電をあげた。
『あぁ・・・・・・体中に力が満ちていきます・・・・・・!いまの私は!まさに!超!完全人工天然精霊!ルヴィーちゃんです!!』
ドゴーンと辺りに赤光色の落雷が落ちる。ああ、本当にうっかりさんだなぁあのお嬢ちゃん。こいつで戦争してたら絶対勝ってたのに・・・・・・!
『それでは準備はいいですかー?ルビーちゃん、もう我慢の限界デェース』
・・・・・・それはこっちのセリフデェース。
「だから!なにするつもりかって聞いてんのー!」
こうなった以上拒否権などないのだが、これからのことを知っているのと知らないのでは覚悟のしようが違う。ようするに精神的な部分の
問題だ。質問は駄目もとだったのだが、ルビーは以外にも楽しそうに柄をくねくねさせて答えた。
『アンリさんにはですねー、――――――時と世界を駆けてもらおうかと』
「いやだーーー!!そんな魔法の叩き売りに巻き込まれてたまるかーーー!!!!!」
ルビーとは正反対の方向に駆け出す。あそこにっ!あの世界が壊れた隙間に逃げ込めばっ・・・!
『逃がしませんよ!・・・・・・・・・・・・カレイドビィィィーム!!』
「うひぃ!なんなんだよ、あんためちゃくちゃだろーー!?」
うにょんうにょんと迫るなぞビーム。こちらの走る速度より速いそれは――――――
「あぎぃっ!」
物量攻撃を伴って着弾。2tトラック玉突き事故のような衝撃と痛みを背中にモロ受けたオレは、悶絶し昏迷。こちらの意識はあっさりバッサリ持っていかれましたとさ。
・・・・・・最後に。
『ほら、夢はいつか覚めるものですよ?』
この一言を思い出し、本気で背筋が凍りついた。
『さてさて、まぁこんなもんですかねー。他ならぬマスターの知り合いの頼み。これでマスターに貸し1、ですねー♪』
<後書>
いやはやごめんなさい。結局ぶち込まれたところまでしか出来ませんでした。
これからの展開ですが、ルートは王道の魏ルート。しかしなにぶん好奇心旺盛なキャラですのでフラフラする可能性もありっちゃありです。
遅筆ですが頑張りますので、これからよろしくお願いします。