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[12437] 【習作】お兄ちゃん†無双(オリ主→真・恋姫無双) 修正作業中
Name: 甘い草◆b1f32675 ID:fcf8b97b
Date: 2011/03/15 14:39
ども、甘い草です。


はじめての方は、はじめまして。
以前見た方は、お久しぶりです。

最近テレビを騒がせている?事情の影響で急に暇ができたので、ちょっと大幅修正中です。


【注意点】
・真・恋姫†無双の二次創作です。
・オリ主です。
・ハーレムです。
・ご都合主義です。
・中国史とか知りません。
・文才ありません。
・何ルートか分かりません。ゴチャマゼかも?
・この作品は甘い草にとって、処女作になります。


それでも良いという方は是非一読を。
ないない尽くしの甘い草ですが、頑張りますのでどうぞ宜しく。




[12437] 第1話「曹喬。世界を超えたオリ主」
Name: 甘い草◆b1f32675 ID:fcf8b97b
Date: 2011/03/15 14:32




目が覚めて最初に出会ったのは、金髪の綺麗なお姉さんでした。








お兄ちゃん†無双
第1話 「曹喬。世界を超えたオリ主」








「あら、目が覚めたのね」


突然現れた美女に思わず放心していた俺に、そんな言葉がかけられた。


「どうしたの?まだ眠い?」


反応を示さない俺をいぶかしんだのか、心配そうに覗き込んでくる女性。
鼻先が届きそうな程に顔を寄せられ、反射的に声をだそうと―――


『あー、う。あうーー』


―――出ませんでした。


「ふふふ。あなたがぐずるなんて珍しいわね」


そういって、俺を持ち上げる女性。

ちょっ、え?軽い方とはいえ、60キロぐらいはありますよ?
それをヒョイって、どんな怪力!?


「もう、そんな顔しないの。今日はどうしたの?いつもはちっとも手がかからないのに」


あの、一体どちら様なんでしょうか?
というか、ここどこ?
自宅のベッドの上にいたはずなんだけど...


「むぅ、そのしかめっ面やめなさい」


ちょっと頬を膨らませる女性。
うん。ちょっと琴線に触れるね。
美女といって差し支えない程の女性が頬を膨らませるという子供っぽさ。



「...ようやく笑ってくれたわね。いい?あなたはとても整った顔立ちをしているから、そうして笑っていた方が良いわよ?」


なんて嬉しいこと言ってくれますか、この女性。
生まれて初めて言われましたよ、そんなこと。


「赤ちゃんの今でこれだけの容姿だなんて。今から将来が楽しみね―――ジュル。おっと、いけないいけない」


...なんか色々ツッコミ所はあった気はするが、それより。
『赤ちゃん』とおっしゃられましたか?

誰が? → 状況的に俺。
誰の? → 話の流れ的にこの美女かな。






マジ?


「あ、と。そろそろ仕事に戻らなくちゃね。良い子にしてるのよー?」

『あう』

「ふふふ。また後でね」


そう言って、母親(?)が出て行った。


うん。これは夢だ。そうに違いない。寝よう。うん。
目が覚めたら、きっといつものベッドに―――
















―――結論から言うと、現実はそんなに甘くなかった。
いや、夢はそんなに甘くなかった?

あの金髪美女にもう1度会いたいという願いと、元通りの平凡な日々を望む思いとの葛藤の中、見開いた目に映ったのは、先程と変わらない光景。
赤子の身では頬を抓ることもできないが、なんとなく夢ではない気がする。
......訂正。自信ない。


目が覚めたら、赤ん坊になってるとか...
むしろ夢以外の何だというのか。

マジでシャレにならないよ、これは。
生まれ変わり。俗に言う”転生”て奴か?
別に死んだりしてないんだけども。

どーしたものかね、これは...




「失礼します。曹喬様」

『う?』


っと、誰か近づいてきた。
が、顔が見れない。
首が動かないのだ。


「お目覚めですか?」


上から俺の顔を覗き込むように現れた少女。

...えっと。誰?

チャイナドレスっぽい服装。
長い黒髪。
ぱっちり開いた目が愛らしい。

別にロリコンではないけれども。本当に。本当だよ?


「本日より曹喬様のお世話役を仰せつかりました、茅と申します」

『あぅ、うー(あ、はい。どうもはじめまして)』


やっぱり言葉は話せない。
くっ、やはり赤ん坊か。

ふと、溜め息が耳をついた。


「ま、言ったところで分かってないんでしょうけど」


...ごめんなさい。分かってます。


「まさか、曹喬様のお世話役を任される事になるなんて...ハァ」

『うー?』

「あ、いえ。何でもないですよ?............って、何で赤ん坊に言い訳してるのよ、私は」


はぁ、と溜め息が続く。

こっちが赤ん坊だからって、好き放題言ってくれている。
あんまり自覚ないけども。


「私、武官志望だったのに...」

『あぅ(うわぁ)』


それはひどい。
武官志望でお世話役とか、全く納得いかない配属だ。
余程の事でもない限り、お世話役で武力が必要になることはないだろうし。






さて。現実逃避はここまでにして、と。

”お世話役”・”武官”・”曹喬”。色んな単語が出てきたね。


”お世話役”は良いとしよう。
要するにメイドだろ?
金持ちの家になら、結構いそうだ。

しかしお前、”武官”て。
いつの時代だよ?
戦うの?戦うんですか?戦っちゃいますか?

で、”曹喬”。
俺の方を向いて言った言葉。
真っ当に考えれば、俺の名前だな。
何人だよ、俺...




こうして、俺の新たな人生は様々な疑問と共に始まった。

いやね、もうアホかと。バカかと。





[12437] 第2話「曹嵩。天下無双のお母様」
Name: 甘い草◆b1f32675 ID:fcf8b97b
Date: 2010/02/14 18:36



早速ですが。


赤子の身で情報収集は不可能に近いです。

新たな人生が始まって一週間。
早くも挫折しそうですorz








お兄ちゃん†無双
第2話「曹嵩。天下無双のお母様」








ひとまず、現状を把握しようと情報収集を始めたわけですが。

ほぼ無理です。不可能です。


だって、赤ちゃんですよ?
寝返りさせてもらえない限り、上しか見えません。
首が自由に動かないのがこんなに大変だとは知らなかったです。
先日無理に動かそうとして、大変なことになりました。
ベッドの上で窒息死とか恥過ぎる...

そして、なによりしんどいのが脳のスペック。
赤子の仕事は寝ることと泣くことだ、なんて聞きますが、この身で痛感しました。
30分も考えたら、脳がフリーズします。強制終了です。意識を失います。
30分だって感覚だから、もっと短いかもしれない。
そして目が覚めたら、下半身が大洪水。
20代にもなって、他人に下の世話をされるとかorz

しかも、あの茅とかいう娘(呼び捨てに決めた)。
健康管理のためか知らないけど、人の排泄物の批評をブツブツ呟きながらメモしてるわけですよ。
もうね、あまりの恥辱に死ぬかと思いました。死ねないけど。
だって、歯すらないんだもの。舌もかめないよ。


ま、そんなこんなで、情報を得るのはかなりしんどいです。
けどまあ、1ヶ月も生きてれば多少の情報は集まるわけで。
ちょっと整理してみる。




1.この世界はかなり昔。少なくとも1800年代以前である。


これは一番最初に得た情報。情報といえるかは、若干微妙だが。
上しか見えないため、ひたすら天井を睨み付けていて気づいた。
天井に一切の照明器具が存在していないのだ。
普通は余程の辺境でもない限り、まず電球はあることを考えると、少なくともエジソンの発明以前ではないかと推測。
世界史の知識が役に立つ時が来るとは思わなかった。



2.多分アジア圏。


かなり感覚的なところになるのだが、お母様の顔はモンゴロイド系だと思う。
肌は白人かと思うくらい白いし、髪も綺麗な金髪なのだが、顔の造形は前世で見慣れたものだ。ハーフの線も強いが。
しかし。茅も含めてだが、シミ1つない肌とか凄すぎる。



3.お母様は国政に関わっている...ぽい。


こちらも割とすぐに気づいたのだが、お母様は「政務」と言って立ち去ることが多い。
政務=国政ではないと思うが、なんとなく。



4.自分の名前。


これがおそらく現状で最も重要な情報。
正直、嫌な予感がバリバリすのだが、お母様(なんとなく相応しい呼称かなと)は”曹嵩”というらしい。
茅が言ってた。

俺は”曹喬”と呼ばれていることも考えると、多分、俺の名字は”曹”なんだろう。
うん。中国っぽいね。

けど、”曹”ってよくある名字なんだろうか?
現代中国のことなんか知らないが、俺は”曹操”くらいしか思いつかない。

...違うよね?”曹操”とは関係ないよね?血縁とかあったりしないよね?



5.両親。


これは不確定の要素が強いため、情報と言えるのかかなり微妙なのだが。
この世界に来て1ヶ月近く経つが、未だに父親の顔を見ていないのだ。
今までに会ったのは、お母様と茅くらいだが。

忙しいとかもあるかもしれないが、1ヶ月に1度も来ないというのはないだろう。
既に故人である可能性もある。




以上が今分かってる情報。
どれもこれも不確定な要素が強すぎるのが欠点だが、今のところはこれで一杯一杯だ。
せめて首が据わって、ハイハイができるようになれば、もう少し情報を得られると思うけどな。


「はーい。良い子にしてた?」

『あう』


お母様が訪ねてきた。
といっても、いつも通りすぐに”政務”とやらに戻るのだろうが。

スッと、抱き上げられる。
地面から離れるこの感覚には一向に慣れない。


「ふふふ。本当に良い子ね。夜泣きもないらしいし、ぐずることも少ないし。お母さん思いなのね」


外身は知らないが、中身は20歳オーバーだ。
恥ずかしくて夜泣きなど決してできない。
たとえおねしょをしたとしても、朝まで我慢。...してしまう事自体が十分な恥辱だが。


「さて、ご飯の時間よー」


この時間が一番恥ずかしい。いや、飲まないと死ぬわけだが。
20代にもなって......などと思っていたのは2週間くらい。

人間慣れれば慣れるもので、ごく普通に―――訂正。むしろ積極的に―――乳に吸い付く。


「おっと。そんなに慌てないの。もう」


すみません。自重しようとは思うんですが、動物としての本能が早く吸い付けと訴えかけてくるんです。


「ん...」


お母様の声が色っぽい気がする。
欲情しちゃいますよ? ←無理。






うん。そろそろ十分かな。


「...ふぅ。もういいの?」

『あう』

「そう。なら、げっぷしましょうね」

背中がさすられる。
うぅ......この感覚はイマイチ好きになれない。
なんか嘔吐の感覚に近い気がするのだ。


『けぷっ』

「はい、よくできたわね」

『うー』


いつものことながら、食事のあとはすぐ眠くなる。
飲んで寝る。なんて健康的な。
前世でも同じような生活をしてた時期があったな。


「ふふふ。もう眠いの?」

『あーぅ』

「ごめんね?もう仕事に戻らなくちゃ」

『うぅ』


思うに、働き過ぎじゃないだろうか、この人。
隙を見て会いにきてくれるのは嬉しいのだが、いつも全然時間がなそうだ。


「おやすみ」


チュ、とおでこにキスをもらって、睡魔に降伏してしまう。
やばい。今、幸せだ。


「じゃあ、茅。あとお願いね?」

「はい」


あ、茅いたんだ。と考えたところで、俺の意識はフェードアウトした。





[12437] 第3話「貂蝉。人類史上究極のオトメ」
Name: 甘い草◆b1f32675 ID:fcf8b97b
Date: 2010/02/14 18:36


人間は未知にこそ恐怖する。
知らないからこそ、想像し、その空想の産物に怯える。

幽霊やお化けなんかが代表である。
誰も知らない。見たことがないから、怖い。








お兄ちゃん†無双
第3話「貂蝉。人類史上究極のオトメ」








生後何ヶ月なのか分からないが、ようやく首が据わった。
それからというもの、来る日も来る日もアチコチ見渡して情報を集めている。

最近はお母様に同伴してアチコチに出歩く事も多くなった。
抱いたまま街を歩いたり、政務に出たり。
おかげで情報収入源が倍増し、大いに助かっている。


街を歩いて改めて”時代”を痛感した。
街の人たちの服装がすごい昔風だ。
現代ならそんな格好はコスプレぐらいなもんだろう。
よく考えたら、お母様の服もチャイナドレスなことが多い。

あと、街並みが古典的(?)。道路もコンクリート舗装されてない。
生の「大地」て感じの道なのだ。



近頃は脳のレベルが上がったのか、思考可能時間が延びてきたようだ。
少しずつ意識を失う頻度も減ってきた。
これって脳を鍛えているんだろうか?

















今日も今日とて、お母様の胸に抱かれてお出かけだ。

お母様の旧知の友人に会いに行くらしい。
お母様の友人なら、やっぱり美人なのだろうか?

この考えが半端なく甘かったと、後に思い知った。
もう、砂糖より甘かったと今では思う。








『...............(゚Д゚)』


多分、本当にこんな顔していると思う。
それほどまでの驚愕だった。

目の前にいるのは、1人...もとい、一体の化け―――


「あらぁ?」


こ、こっち見たッ!?


「ひさしぶりね、貂蝉」

「本当。おひさしぶりねん♪」


えっと、お母様。お知り合いなんでしょうか、この化け―――


グリンッ


またこっち見たッ!?


「元気そうで良かったわ」

「あなたもねん、慧華」


ん?慧華?誰?


「ふふ。真名で呼ばれるのもひさしぶりだわ」


真名?何ぞ?


「あらん?その子って、もしかしてぇ」


はぅッ!!こっち見んな!


「ええ。私の息子。曹喬よ」

「あらぁ♪そう、この子がそうなのねぇ」


ちょっ、顔!顔が近いッ!!息がかかるッ!!


「あら、そんなに首を振って...どうしたの?」


お母様!こいつはヤバいです。真性の変態に違いないです!
ちょっと、いやッ!近くに寄せないで!寄らないで!


「私の肉体美に当てられたのかしらぁ?もう、私って罪なお・ん・な♪」


いやいやいやいやいやいやいや。そうじゃないだろう!そんなわけないだろう!
つうか、何故に裸!?服着ろよッ!
女ものの下着1枚の男とか、有り得ないだろ!
逮捕だろ、普通!!


「ねぇん、ちょっと抱いてみても良いかしらぁ?」


嫌!絶対嫌!死ぬッ!食べられるーッ!


「ええ、もちろん」


お母様ぁッ!?


「ふふふ。それじゃあ、頂いちゃうわね」


え?もう、ね?冗談......いぃぃぃぃやぁぁぁぁああああーーーーーーーーーッッッ!!






結論からいって、ばっちり抱かれました。
マジヤバい。ガチガチのムチムチのホモホモでした。
筋肉質な感じがヤバい。

抱かれた瞬間、火がついたように泣いてやった。
もう、恥も外聞も掻き捨てて、ひたすら泣いた。
「泣き顔も可愛いわねん」とか言ってた気もするが。


「はいはい。もう泣かないの。どうしたの?急に泣き出して」

『ひっく...うぅ』


なんとかお母様の胸に戻ることに成功した。
情けなくなんかないんだからッ!


「私の美貌にびっくりしたのかしらねぇん?」


断じて、違うッ!!


「いつもは大人しいのに。ごめんね、貂蝉」

「構わないわ。それにしても綺麗な顔してるわねん、この子」

「でしょ?将来が楽しみなのよー」

「そうねん。私のだぁりんにふさわしくなるかもね」


お断りしますッ!


「......いくら貂蝉でも、この子はあげないわよ」


え?あのお母様?何故にマジ顔?


「もう、冗談よん」


いや、目がマジだったろ、お前は。


「さて、それじゃあ、本題に入りましょう」

「ええ、そうねん。でもちょっと待ってね?」


そう言って立ち上がる貂蝉。
音を立てずに襖へと近寄り、一気に開く。


「漢女(オトメ)の密会を覗き見るなんて、良い趣味じゃないわねん」




そこには男が1人、こちらに耳を向けてしゃがみ込んでいた。


「おしおきが必要ねん」


男の驚愕が手に取るように分かる。
盗み聞きをしていたところにいきなり謎の化け物が出現。
しかもほぼ全裸。筋肉の塊の巨漢。しかもガチムチでガチホモ。


「うふふふふふふふふふふふふふ.........」

「い...ひっ!ば、化けも―――」


うん。気持ちは分かるんだけどね。

一瞬にして貂蝉の目の色が変わる。


「だぁぁれが、怪しいと書いて怪物。妖しいと書いて妖物。化けると書いて化物の3つまとめて愉快なバケモノ三昧ですってぇぇッ!!」

「い、言ってない!」


うわあ。
目が、目が光ってる。赤く、キュピーンて。


「かわいがってあげるわぁ♪」

「ひぃっ」


凄い怯えてるな、あの人。
なんか可愛そうになってきた。


「いくわよー」


その後は、フルボッコタイムだった。


「ふんっ!」

「あぼっ」

「はぁっ!」

「へぶんっ」

「あたたたたたたたぁっ!!」

「ぐぽぽぽぽぽぽぽぽぽっ」


うん。顔の形が変わってるね。
凄い威力だ。あのムキムキの筋肉から強そうなのは分かってたが...


「あらん?もうおしまい?」


いや、あれだけやられたら流石に、ねぇ。


「もう、やりすぎよ。貂蝉。意識は残しとかないと、雇い主が聞き出せないでしょう」

「あらん、そうねぇん。じゃあ、私の蘇生術で......」


おいおいおいおいおいおい。
死人にムチ打つようなマネを...


「むっふぅぅぅぅん」

ズンッ!!


心臓マッサージかと思いきや、まさかのハートブレイクショット。


「うっぎゃああぁぁああああッッッ!!」


だ、断末魔だ...


「私の唇は安くないのよん♪覚えておきなさい」
















その後のことは知らない。知りたくない。
尋問紛いの光景を俺に見せることを憚ったのか、俺1人家へと帰されたのだ。

いや、そっちは建前か。
主な原因は、貂蝉が「ちゅーしましょう」とか言い出したのが原因だ。

あの獲物を狙う猛禽類の目付きはヤバい。
もうなんかね。トラウマです。
今後一切、ホモさんには近寄れません。
近寄りたくもないけど、近寄れません。
2度と会いたくないです。

しかも、それにお母様がマジギレ。何故?

結局、茅が迎えに来るまで室内は荒れに荒れた。
正しく美女と野獣。壮観だった。


「だぁぁれが筋肉ガチガチムチムチピチピチぱっつんぱっつんオバケですってぇぇ!」

『ひぃっ!』

「曹喬様?どうかされました?」


茅の胸にしがみついて怯える俺だった。


あー、うん。小さい胸も悪くない。うん。





[12437] 第4話「曹操。目に入れても痛くない妹」
Name: 甘い草◆b1f32675 ID:6853cf36
Date: 2010/02/14 18:36



「うー。あうー」


読書中の俺の耳に、赤子の声が響いた。

念のために言っておくが、俺ではない。
今年でもう、6歳になるんだ。
赤ん坊は卒業しました。

え?飛ばし過ぎ?
だって特に話す事ないし。
強いて言うなら、1年半くらい前に貂蝉と再会してしまったくらい。
”三つ子の魂百まで”とはよく言ったもので、強烈なトラウマになっている。


「うーうー」


で、この声は我が妹のもの。
そう、半年程前に生まれた可愛い妹である。

名は操。
お母様の姓と合わせて「曹操」
三国史においては魏の王様。
「治世の能臣、乱世の奸雄」と評された覇王。

けど、俺の知っている史実との大きな相違点が1つ。

だってこの曹操。「女の子」なんです。








お兄ちゃん†無双
第4話「曹操。目に入れても痛くない妹」








「ここは三国志の世界。けど、この世界が俺の元いた世界の過去そのものではない」


俺のいた世界では曹操は男だった。多分。
世の歴史学者たちが致命的な間違いをしていない限り、これは正しい。

けど。俺の妹、操は女の子である。
それはもう愛らしい少女である。
目に入れたら俺の目が溶けるんじゃないかと思うくらい。


エヴェレットの多世界解釈というものがある。
難しい話はよく分からないが、簡単に言えばどんな存在にも無限の可能性があるよって話。
曹操が男の世界もあれば、女の世界もあるかもだし、もしかするとOKAMAの世界もあるかもしれない。
で、そういう世界のことを”平行世界”って言うんだと思う。

ま、俺にとってはむさ苦しい男の曹操よりも、見目麗しい女の曹操の方が好ましい。
だから良いか別に。という結論に辿り着いた。
もしかすると、他の武将(?)も女の子になってるかもしれない。
若干楽しみではある。


しかし、1つ心配事が。
有名な話で、曹操が女好きだという史実はどうなるのだろうか。
レズにでもなるのか?

そんな非生産的な行為、お兄ちゃんが許しませんッ!!




閑話休題。




この世界に来て5年くらい経った。
ここが三国時代の頃だってのは分かったけども。


『本当、どうしようか』


思考が1人でに口をついて出てしまった。
それぐらい思い詰まってるわけなんだが。

妹が曹操だという事は、だ。
いずれ魏を立てて侵略とかしまくるわけだ。


『こいつが、ねぇ...』


むにーと頬を引っ張ってやる。
あ、なんか優越感。

当の本人は何が嬉しいのか笑顔だが。


『俺って、何なんだろうなー』


別に詳しいわけでもないが、三国志に”曹喬”なる人物は出てなかったと思う。
少なくとも俺は聞いた事がない。
はっきり言えば、世界史の知識ぐらいしかないわけだが。

実在したが何らかの事情で出てこなかったのか。
俺がこの世界に紛れ込んだ事で新しく生まれたのか。
いや、そこは多分大きな問題ではない。
むしろ―――


『これからどうするべきか』


直接ではないかもしれないが、この世界の後に続く現代は、諸問題はあるものの概ね平和で。
俺がここで余計なことをしてしまって大丈夫なのか、という問題。

曹喬がどう生きたのか?
曹操との関係は?
文官?武官?
いつ死ぬのか?

「曹喬」に関わる自称を全然知らない。


『全く分からん』

「うー」


何やら不満そうな声が下から聞こえた。


『あー、ごめんごめん』


一気に和んだ。
構ってやらないとすぐ拗ねるのだ。
世話役の人も大変だろうと思うのだが、普段は大変大人しく、ぐずることもほとんどないそうだ。
俺にだけ甘えてくれているのなら、当然嬉しい。

むにむにと頬をもんでやると、途端に笑顔になった。
全くもって、愛い奴である。


「こちらでしたか、曹喬様」


ふと、声がかけられた。


『茅か』


振り返るまでもない。
かつての世話役。今の側役。
赤ん坊の頃からずっと側にいる、家族に限りなく近い存在。
当時10歳の少女も5年の歳月を経て、立派な女性へと変化していた。
長い黒髪をポニーテールにくくっている。
......俺の趣味だが、何か?


「曹嵩様がお探しでした」

『そっか。分かった』


この世界では、世話役に10代前半の少女を当てる事が多い。
意味合い的には、日本で言う乳母に近い。
一度ついた世話役は生涯離れる事なく、その主に忠誠を尽くすんだそうな。

高貴な家に子が生まれる度に広く募集がかけられ、ふるいにかけられる。
身内から世話役を出すのは大変な名誉で、その主に応じた額が与えられる。
それ故、貧しい家庭などは自分の子供を売りに出す感覚で送り出すという。
ただ、貧しい家庭の子は多くの場合、ふるいにかけられた時点で大体切られる。
理由は語るまでもないだろう。
政治に絡もうとする商人などによる賄賂だとか、現代でもあるような薄汚い背景があるわけだ。
もうかなり廃れてしまった風習らしいが。

茅は元々貧しい家の出だ。
そんな彼女が俺の世話役となったのには、この土地―――というか、ここの統治者たるお母様の影響がある。
お母様はこの時代では珍しく、家柄などよりも実力を重視する治世を行っているので有名だ。
世話役の任命も例に漏れず、優れた身体能力と感性を買われ、茅が選ばれたというわけ。


「あうー」

『ごめんな。もういかなきゃならないんだ』

「うーーーー」

『うっ』


大変不満そうにこちらを見上げてくる双眸に、僅かならず揺らいでしまう。


「曹喬様?」

「わ、分かってる」


責めるような声に急かされるように寝台から離れる。
茅だって、この愛らしい姿を見たら離れられないに決まってるッ。


「私は曹喬様で慣れましたから」

「いっ!?」


心を読まれたかというタイミングだった。


「いえ、何やら恨めしそうな顔でこちらを見ておられたので」

「そ、そんなに顔に出てたか?」

「はい」


大いに焦った。
そんなに顔に出るタイプじゃないと思ってた。

というか。茅に対してそんな視線送ってたのか俺orz


『......ふぅ。じゃ、行くか』

「はい」

『律、あとは任せたぞ』

「かしこまりました」


律は、曹操の世話役である。
西方の人間とのハーフらしく、赤みがかった金髪を短く切りそろえている。
特徴はなんといっても、12歳にして既に十分膨らんだ乳房だろうか。
あれならDは固―――


グッ

『痛ッ』

「曹喬様、参りましょう」


冷静な言葉とは裏腹に、彼女の手は俺の腕を抓っていた。
思わず茅の方を向くが、身長の都合から俺の視線は茅の胸辺り。
うむ、大きく見積もってBに届くかどうか。


ギリッ

『ッッ!?』


さっきより明らかに強く抓られた。
が、なんとか声を堪えることができた。


「曹喬様?」


律が訝しむような声が聞こえた。


『い、いや、なんでもない』

「そう、ですか?」


納得してなさそうだが、仕方ない。


「ん。行くか。律、お姫様の機嫌をとっといてくれると助かる」


俺の言葉に一瞬きょとんとした律だったが、すぐに微笑を浮かべ、


「かしこまりました」


そう言ってくれた。
さすが癒し系のぽわぽわした少女。癒されるね。




ちなみに。
お母様の元へ向かう途中の道のりは、極寒の地に単身投げ出された気分だった。
...主に、斜め後ろから浴びせられる冷やかな視線のせいで。





[12437] 第5話「孫堅。江東のタイガーマスク」
Name: 甘い草◆b1f32675 ID:cc9536eb
Date: 2010/02/14 18:37




知ってる?
英雄って、”英でた雄”って書くんだ。


この世界では英雄の代わりに”英雌”とでも言うんだろうか?

英でた雌。あ、なんかやらしいかも...








第5話「孫堅。江東のタイガーマスク」








『ほら。兄さまだぞ、こっち来ーい』

「あぅ。いーいー」


声をかけると、覚えたばかりのハイハイでこちらに寄ってくる我が妹。
まだ足を上手く動かせないらしく、一生懸命に手を動かしている。
冗談抜きで愛らしい。目に入れたら眼球が弾けとぶくらい。


「違うわ、こっちよ。こっち。母様のところに来なさい」


その愛らしい行動を阻害するのは、お母様。
先ほど突然部屋に侵入してきたかと思えば、こういう状況になっていた。

赤ん坊相手に、よくやるゲーム(?)である。
どちらにより懐いているか、両側から呼んでみるアレ。
当然、寄って来た方の勝ち。
勝者には、愛らしい娘を抱き上げれる権利が。
敗者には、娘に見捨てられたという惨めさが。
それぞれ与えられる。

というか、俺。曹操相手に何やってんだ...


「ほら、操。お母様のところに来なさい」

「えぅ」


後ろから呼びかけられて、後ろを振り返る曹操。
しかし。


「いーいー」

『よーし、そうそう。こっちだ』


僅かな逡巡の後、再び俺の方へと歩みを進めてくる。
なんかお母様が驚いているのが見えるが、これも当然。
こういうのは普段構ってる方に寄ってくるものである。
悪いが、お母様。今回は俺の―――


「うーうー」


―――曹操の動きが止まった。というか、止められた。
一本の腕が、曹操の小さな足を掴んでいた。


『........................母上』


いくら何でも大人げない。なさ過ぎる。
多分、今の俺の頬は引き攣ってる事だろう。

座っていた状態から右手を伸ばしたため、四つん這い状態のお母様に向けて冷やかな視線を送る。
傍で見ていた茅と律の苦笑も目に入る。
まぁ、一城の主がする格好ではない。


「覚えておきなさい、喬」


こちらの視線に気づいたお母様は、やや取り繕うようにこちらの指を突きつけて、こう言った。


「”勝てば官軍”」


いや、あなたリアルに官軍でしょーが。


「私は勝つためなら手段は選ばないわ」

『その考えは立派だと思うけど、とりあえず体裁は選んで下さい』

「あうー」


曹操の同意も得た。
万の兵を得たも同然。


「何言ってるの、喬。息子に負けるようじゃ、母として―――あら?」

「いー」

『俺の勝ちだね』


お母様の右手をいつの間にやら抜け出したようで、気がつけば俺の足下までやって来ていた。


『ん。よくやったぞ。それでこそ我が妹』

「きゃっきゃっ」


頬ずりしてやると、嬉しそうに手をばたつかせてくる。
勝者の特権である。

あと、お母様。そんなに恨めしそうな目で見ても渡しません。


「ず、ずるいじゃないっ!」

『母上ほどじゃないです』


文字通り、日頃の行いの結果だ。
2日に一度来れるか来れないかというお母様よりも、毎日どころか入り浸り状態の俺に懐くのは当然。
...あれ?俺ニート?

とりあえず、お母様にずるいとか言われる筋合いはない。


「くっ、こうなったら...ッ」

『は?』


キラン☆と、瞳を光らせてこちらを睨みつけてくるお母様。
嫌な予感がする。


「茅」

「はいっ」


突然、茅に声をかけるお母様。
そして、そのまま彼女を引き連れて部屋を出て行った。

ちなみに茅は、売られて行く子牛のような目をしていた。南無。








10分ほどしてお母様は部屋に戻って来た。
1人で。


『えっと、茅は?』

「フフフ。明日を楽しみにしてなさい」

『............』


質問の返答は?という言葉は何とか飲み込む。
つい先ほど、壁越しに聞こえてきた茅の驚愕混じりの叫び声が、俺を踏みとどまらせたのだ。


「いやぁ、明日が楽しみだわ。ね、律」

「は、はぁ」


困惑状態の律の声は、むしろ不安に彩られていた。


後に思う。
この時が俺の2度目の人生において、ある意味一番大きなきっかけになったのだ、と。















翌日。

俺は陳留の街中を歩いていた。否、歩かされていた。
なんだか知らないが、いきなり拉致され着替えさせられたかと思うと、街中に連れてこられたのだ。
まぁ、同じような事がかれこれ10回近く起こっているので、もう慣れたが。

で、街中。
世間では皇帝の権力が落ち始め、各地で賊が出没しているなどと噂されているが、この辺りは至って平穏。
陳留の刺史を任されたお母様の治世能力が光っている。
と言っても、ここからそう遠くない村(管轄外)でも賊の目撃情報が出ているので油断はできないが。


「ふんふふーん♪」


♪まで飛ばして、やたら機嫌の良いお母様が隣にいる。
何がそんなに楽しいのか、さっぱりだ。

しかし。


『何度歩いても慣れないな...』

「どーしたのよ?」


ふと溢した愚痴が聞こえたのか、お母様が反応を示す。

簡単に言えば、違和感というか、背中が痒くなるのである。
ただ歩いているだけで、頭を下げられ道を譲られる。
半ばモーゼみたいになっている。
今更と言えば、今更だけども。
この世界に来て6年以上経つが、元々一般人の俺には慣れないものである。

歩けるようになってから情報収集でアチコチ出歩いていたわけだが、その頃からずっとである。
しかも、今日は特に顕著だ。
道行く人が皆頭を下げてくる。俺と同い年くらいの小さい子たちまで。


『いや、なんか今日はいつもと違うというか』


俺の言葉に、隣のお母様は微笑を浮かべた。
きれいな微笑なわけだが、今日は素直に受け取れない。
悪戯が成功した子供のような顔だったのだ。


『...何したんですか?』


半眼になって睨んでやるが、特に意に介した風もなく視線を逸らされる。

経験上、こういう時はもう何を言っても聞きやしない。
溜め息を1つ吐いて、街に視線を向ける。

いつになく店先が整っている。
いつもは路上で遊んでいる子供たちも、今日はほとんど見られない。
街行く人たちも、どこかソワソワしてるように見える。


『今日って、誰か来る予定とか?』

「あら、よく分かったわね」

『まぁ、ね』

「今日はね、なんと―――」

『ナンダッテーーーッ!?』

「...まだ言ってないんだけど」

『お約束かな、と』

「??...まぁいいわ。でね。今日はなんと”江東の虎”が来るのよ」

『ふーん』

「何よ、反応が薄いわね」


”江東の虎” 孫堅
なんか呉の方の人らしい。
曰く”広い額、大きな顔、虎のごとき体、熊のごとき腰”
もはや、人じゃないと思ったのは俺だけではあるまい。
南の方では海賊を追い払ったとかで、かなり崇められてるらしいが。

とりあえず、そんなムキムキマッチョと出会うのは別に嬉しくも何ともない。
むしろトラウマ。
逃げちゃダメ..............................じゃないよね?


がしっ

「逃がさないわよ?」

『うぐっ』


くっ、流石に母親。
こちらの考えなどお見通しというわけか。
というか、何故に俺を連れて来たーーーッ


「もう、そう嫌がらなくてもいいじゃない。聞けば、娘さんがいて、今回の視察にも連れてくるらしいわよ?」


娘とな?
娘がいると申したか!?


『マジ!?』

「マジ?何よ、それ?」

『あ、いや。それ、本当?』

「え、ええ」




キタ―――――――――――――( ° ∀ ° )――――――――――――――ッッッ!!

これはキタね。もうマジに。
ふっふっふ。
聞いていますとも。ええ。
気候や風土が関係しているのかもしれないが、呉の女性はナイスバデーだと!
各地の女性が、その豊満なバストとヒップを夢見て呉の地に足を運ぶのだそうだ。
これはその娘さんにも期待ができる!!

しかも、だ。
相手は孫堅の娘。権力者である。
仲良くなっておけば、魏がやられちゃっても助けてもらえるかも!?
これで勝つるッ(←主に人生的な意味で)


「ま、まぁ、仲良くなれたらいいわね?」

『もちろんです!』

「そ、そう」


お母様が若干退いてるけど、気にしない。
これは我が人生の分水嶺である。


そんなわけで、俺はまだ見ぬ孫堅一行との出会いに向けて士気を高めていったのだった。

後に気づくが、普通敗けた軍の大将なんかは見せしめも兼ねて処刑されるものらしいorz





[12437] 第6話「孫策。桃色の髪の幼女」
Name: 甘い草◆b1f32675 ID:07cc6fa6
Date: 2010/03/05 19:47


孫堅さんは美女だった。
噂に出ていた表現と比べると―――

①広い額
まぁ広い方だが、別に悪い印象はない。
むしろ愛嬌がある感じ。

②大きな顔
普通の大きさだと思う。
一体何がどうなってるのか分からないが、後ろ髪が大きく広がってライオンみたいになっているが。
そのせい?

③虎のような体
鍛え抜かれた細身の体は、正しく肉食獣のそれだ。多分。
リアルな肉食獣とか動物園でしか見たことないし。

④熊のような腰
腰は...判断しかねるが細い方だと思う。
けど、その下のヒップを指して言ったのなら納得だ。
もうね。「ぼーーん、きゅー、ぼぼーーん」て感じ。
安産型だ。


誰だ、化け物みたいとか言った奴。
本物の化け物と比べるのもおこがましい。

...............というか、思い出したくもない。








お兄ちゃん†無双
第6話「孫策。桃色の髪の幼女」








孫堅さんには無事会うことができた。
普通に美人で若干気後れしたが、気さくな良い人だった。




「ほら、曹喬!次に行くわよ、次ッ」


で、色々あってこの状態。

前方数メートルの所で手を振る幼女。
姓は孫、名は策。
孫堅の跡継ぎ。
つまりは俺の目的としていた人物。
「幼女キター」とか言ってない。本当に。自重したし。

歳は同じか、少し下くらい。
母親ゆずりの桃色の髪を、ポニテにまとめている。

うん、ポニテの幼女とか萌ゆる。
最近は茅に頼んでもやってくれない事が多いから、ポニテ成分が不足気味なんだ。


「早く来なさい、曹喬!」

『分かってる』


これでもう少し性格が大人しければ...
いやでも、「ポニテ=活発」のイメージがあるしな。
むしろ、これはこれで全然オッケーか。


「曹喬!」


...とりあえず、道の真ん中で人の名前を連呼するのは止めようか。
周りの人がビックリしてるからな。
仮にも一応、この辺では有名人だから。






現状を一言で言い表すなら、「迷子」である。
お母様たちとはぐれたのだ。
俺自身がどちらかというと孫堅よりも孫策を気にかけてたのもあるが、気がつけば見当たらない母親’sの姿。

孫堅の訪問の詳しい目的は知らないが、まず街中を見て歩くと言っていた。
なら、そのうち会うだろうと思い『適当に街を見て回ろうか?』と口走ったのが運の尽き。
「ホントに!?」と目を輝かせた喜んだと思えば、彼方此方へフラフラ寄って歩く(走る)始末。
迷子とは言ったが、半分以上「子守」だ。

加えて、孫策は人助けを苦とも思わない大変良くできた子どもであった。
老人の荷物を持つこと2回。
人が落とした財布を捜すこと1回。
自分も迷子なのに、迷子の親探しをすること1回。

まぁ、図らずも「孫策と仲良くなる」という目的には最適の状態になったとも言える。








「ね、あれは何?」

『ん?あれはだな―――』


人助けの旅のお供をした効果もあったのだろう。
すっかり打ち解けた辺りから、孫策は次から次へと質問をしてくるようになった。
もともと街のアチコチが気になっていたようだが、遠慮して聞けなかったらしい。

しかし。こうして話しているとつくづく感じるが、中国って本当に広いと思う。
この辺りで当たり前の知識が全然通用しなかったりする。

前世では日本から出たことがなく、国内でちょこちょこ旅行するだけでは全く実感しなかった。
日本で文化の違いを感じる機会なんて、それこそ沖縄でもない限り、そうそうないんじゃないだろうか。

面積だけで言っても日本の300倍くらい?
加えて、移動するだけでもかなりの時間がかかるこの時代。
情報や文化が伝わりにくいのも当然か。

しかも気候や風土も各地で大きく異なる。
考え方や思う所なんかも全然違うわけで。


「じゃあ、あれは?」

『あれも知らないのか』

「む。何よそれ。仕方ないじゃない、江東にはなかったんだから」


今いる陳留は内陸。
江東は海も近いし、潮風なんかも吹くのだろう。
街中の様相なんかも全然違うに違いない。

これで中国の統一とか、本当に凄い。
その戦いに自分が関わるとは思いたくないけども。


『あー、そうだな。わる「おら、さっさと金出せよッ」...』


俺の言葉に被さるように、活気溢れる街中に不穏な言葉が響いた。

すぐ隣の孫策と顔を見合わせ、俺たちは声の聞こえた方に足を向けた。








声の主は、先ほどいた通りの一本隣の通りにいた。

ちょっとした騒ぎになっているようで、若干の野次馬が集まっていた。


「おら、さっさと金出せよッ」


小柄な男が、初老の男性に脅しをかけていた。
側には、丸々と太った大柄な男(以降デブ)と中背ひげ面の男(以降ヒゲ)。

賊だった。
本当に珍しい、と思う。少なくとも始めて見た。

そもそものところ。お母様の治世もあって、この辺りではめったに賊は出ない。
加えて、まだ俺自身が街の外に出たことがないのもある。6歳だしね。




「は、早く出さないと、この娘がどうなってもしらないんだな」


デブはヒゲの脇に抱えられている幼女に剣を突きつけながら言った。


「お、おじいちゃん...」

「わ、分かった。金なら払う。だから孫だけは...ッ」


ドカッ


「おじいちゃんッ」

「のろのろしてんじゃねーよ。さっさと用意しな、ジジィ」

「..............」

「おいっ、聞いてんのかッ?」


ヒゲに蹴り飛ばされた男性は、打ち所が悪かったのか起き上がる素振りを見せない。


「ちっ、気失いやがった。.........叩き起こせ」


ヒゲがデブに命じた。


「わ、分かったんだな」

「ッ!やめてッ、やめてよッ!おじいちゃんに酷いことしないでッ」

「うるせぇ。大人しくしてろ」


パンッと大きな音が響いた。

見れば、幼女の頬は赤く腫れ上がりぐったりとしている。
大人の力で加減もせず、子どもを打てばこうもなる。
脳震盪を起こしたのかもしれない。


「邪魔くせぇ親子だ。.........おい、何してる。さっさと起こせ」

「わ、分かってるんだな。けど、こいつなかなか起きなくて」

「意識のない人間が揺すったくらいで起きるか。腕の一本でも切れば、痛みで目が覚めんだろ」

「わ、分かったんだな」



ヒゲの発言にざわつく野次馬。
が、自分から動こうとする人はいない。
良くも悪くも、この街の人間はこういった事態に耐性がなかった。
平和ボケとも言える。
ある意味では、お母様の善政の副作用だろう。


警邏の人に任せよう。何の躊躇いもなく、俺は思っていた。

自分で何とかするなんてありえない。
こっちは6歳の子ども。
相手は剣を持った大人。
勝ち目なんてない。
そう、自分に言い聞かせていた。

俺にできることがあるとすれば............そう。孫策を守らないといけない。
客人が陳留の街で負傷したとなれば、お母様の名折れ。
それは避けるべきである。

うん。それくらいなら俺にもできる。
ひとまずはここを離れなければならない。
孫策は色んな意味で目立つからな。
下手に目をつけられては大変だ。


俺は孫策の手をとった。
―――――――――否、とろうとした。


孫策の手をとろうとした俺の右手は空を掴んでいた。

すぐ横にいたはずの孫策はいなくなっていた。

慌てて周囲を見渡すが、見当たらない。あれだけ特徴的な桃髪が、だ。


『ッ!どこにッ』


徐々に野次馬は集まり始めているが、人一人を見失うほどではない。
それでもいなくなったという事は...


『おいおいマジかよ...』


俺の考えた中でも二番目ぐらいに悪い予想が的中していた。
同時に、この予想が孫策の性格的にもっとも可能性が高いものでもあった。

本当に短い時間だったが、彼女の行動を見ていれば分かることもある。


孫策は―――

明るくて、
好奇心旺盛で、
直情的で、
口より先に手が出るタイプで、


そしてなにより。


「そこの下衆ども!そのおじいちゃんから離れなさい!」






―――正義感の強い幼女だった。










【あとがき】

おひさしぶりです。甘い草です。
なんか色々忙しかったのがひと段落したので、続きが書けました。あと微修正も。
紙媒体に書けてるには書けているんですが、打ち込む時間がなくて...
なにせ「一本指打法」ですから。




[12437] 第7話「孫策2。幼女と王の器」
Name: 甘い草◆b1f32675 ID:366b57a0
Date: 2010/03/17 18:34


【side 孫策】


本当は母様についてくるつもりなんてなかった。
母様と一緒に行っても、どうせ堅苦しい話ばかり聞かされて、いつも通り「お前もいずれ...」とか説教されるに決まってるから。
それに、お城には冥琳もいるから遊ぶのには事欠かない。
だからわざわざ馬で何日もかけて、移動する理由なんて全然思いつかなかった。

けど。昔、父様から旅の良さを聞かされていたから、2回目に母様に誘われた時、試しにいってみようかなと思った。
きっかけはそれだけだった。



目的の街に着いてすぐ、迎えの人に会った。
きれいな女の人と、私と同い年ぐらいの男の子。曹喬。
その子の髪の色は冥琳と同じ、濡れたような黒。
少し、親しみが湧いた。



その後、2人揃って迷子になった。
原因は私だと思う。
街頭に並ぶ見たことのない品に引かれるようにフラフラと歩いていた私と、それについてきていた曹喬。
はぐれるのも当然だったかもしれない。

それでも曹喬は、文句も言わず私のわがままに付き合ってくれた。
おじいさんの荷物を運んだり、迷子の世話をしたり。
自分も迷子で大変なのは分かってたけど、曹喬の前では何故か良い格好がしたかったのだ。



賊どもを見かけたのは、曹喬ともかなり打ち解けて街を散策していた時だった。
どういうわけかイラっとしたし、おじいさんに暴力を奮ってるしで、懲らしめてやろうと思った。
今までにもそういう経験はあったし、母様に連れられて戦場に出たこともある私なら、2人くらいは余裕なはずだ。

ふと隣を見ると、どういうわけか曹喬が固まっていた。
ビビってる...?
ちょっと優越感。

ふふん。曹喬、見てなさい。
あの程度の雑魚、私がボコボコにしてやるから!


【side out】








お兄ちゃん†無双
第7話「孫策2。幼女と王の器」








「そこの下衆ども!そのおじいちゃんから離れなさい!」


凛とした孫策の声は、とある民家の屋根の上から聞こえた。
右手にはどこから手に入れたのか、一本の木製の棒。

一目で何をするつもりか分かった。


『ちょっと待「やあぁぁッ」』


俺が静止の声をかけようとした瞬間、孫策は棒を両手で振りかぶってヒゲの男の頭に叩きつけた。

幼女の力といえど、2階の高さから飛び降りた分も加わっていたため、大人1人倒すのに十分な威力になっていたのだろう。
ガツンと痛そうな音がして、ヒゲはもんどりうって倒れた。


「あ、アニキッ!」


突然の事態にうろたえたデブが、ヒゲの元に駆け寄った。

その隙を逃すことなく、孫策の回し蹴りがデブを襲う。

普通は孫策の体格程度の蹴りで、デブほどの大男を伸せるわけがないのだが、今回はその体格差が決め手となった。
孫策の足は、デブの股の間にクリティカルヒット。


「ぷぎッ」


デブは僅かに呻き、地に伏した。
むき出しの内臓であり、男にとっては永遠の弱点に回し蹴りなど喰らってしまったのだ。
無理もない。


「「「「おおっ」」」」


周囲の野次馬がざわめく。
自分たちでは倒せそうもなかった賊たちを、まだ幼い少女が1人で倒してしまったのだ。

人々の口から感謝と賛辞の声が行き交い、孫策の照れる様子が目に見えた———




.........

...............

.....................




———ら良かった。

しかし、現実はそう甘くない。





孫策のヒゲへの初撃は、孫策自身の声によって感知されて防がれた。

デブへの回し蹴りも、デブの常人の倍の太さはあろうかという太ももによって阻まれ、急所にヒットすることはなかった。

加えてもう1つ。
攻撃の失敗を知った孫策が一旦退がり、体勢を整えようとした所に賊の仲間がもう1人出現。
一般の成人男性と比べて明らかに小柄なその男(以降、チビ)は、後ろから孫策に忍び寄り、その右手に握られた棒を叩き落したのである。


「おい、嬢ちゃん。何してくれてんだ?あぁン?」


で、今。
三方向から大人に囲まれ、孫策は完全に追い詰められていた。


「ふん。あんたたち、お年寄りは大切にしなさいって、教わらなかったの?」


気丈に振舞う孫策だったが、まずい状況になってるのは分かってるらしく、その顔には焦りの色が浮かんでいる。
男たちもそれが分かっているのか、ニヤニヤとしながら孫策の方へと足を進める。





事ここに至って、ようやく俺は気づいた。

この状況、めっちゃまずくね?と。

逃げる方針は、孫策が飛び掛ったためにパー。
当初の「孫策に怪我をさせない」目標を達成しようとすれば、男たちに囲まれている孫策を救出しなければならない。

...正直、無理だろ。
相手は大人。それも3人。武器持ち。
自分は子供。1人っきり。武器なし。

勝てる要素が見当たらない。
けど、孫策を残して逃げる訳にもいかない。
八方塞がり。まさにそんな状態だった。


『せめて、元の体だったら...ッ』


誰にも聞こえないように、ごくごく小さな声で呟いた。
前世(?)だって、別に特別強い体だったわけじゃない。
ただ、それでも今より幾分かマシだろうと考えただけだった。

今の体になってから6年と少し。
できるだけ考えないようにしていたことだった。

なんでこの世界に来てしまったのか、それは分からない。
けど、今の生活もそう悪くない。
そう思ったから、前の生活のことは頭の隅に押しやっていた。

戻りたいって気持ちがないわけではない。
なんとなく、戻れないような気はしていた。
それだけ。



「で?どう落とし前つけてくれるんだ?」


ドスの利いた低い声が聞こえた。
つい先ほどの声と違って、明らかに怒りを含んだ声音だった。

自分の体がビクッとなったのを感じた。
俺に向けられた声じゃなかったのに、だ。
実際にその声が向けられた孫策は、気丈にもヒゲを睨み返していた。


『あ...』


気づいた。
孫策の姿を見て、気づいた。

外身は関係ない。中身だ。
たとえ今、俺の体が前のものだったとして、一体何ができるというのか。
孫策のように正面から睨み返せるのか。
おじいさんを助けるために動けたのだろうか。
今まさにピンチに陥っている孫策を助けるために、行動できるのだろうか。



ふと孫策と目が合った。
こんな絶望的な状況にあってなお、光を失わない強い瞳が、そこにはあった。


...何してるんだ俺。

孫策みたいな幼女が頑張ってるっていうのに。
外見はさておき、中身は30間近だろ。
ここで逃げたら情けなさ過ぎじゃないか...ッ。


いつの間にか握りしめていた拳に、力が入った。









【side 孫策】


今、私は絶体絶命の危機にいる。

おじいちゃんを助けようと———ううん、半分くらいは曹喬に対する見栄で賊に飛びかかった私は、攻撃を止められ、なけなしの武器も奪われ、周囲を取り囲まれていた。


今までの経験から、こういった輩には奇襲が有効だというのは知ってたし、2,3人なら本当に倒せる自信もあった。

それでも、私の小さな見栄が全てダメにしてしまった。
曹喬に気づかせるつもりで放った言葉で賊に見つかり、自信は賊の周到な用意の前に崩された。
私の突撃癖は母様にも冥琳にも注意されてたれど、体が動いてしまうのは仕方ない。


さて、これからどうしようか。

この状況でも、不思議なほどに私の頭は冷静だ。
母様の地獄の特訓の成果か。
それとも「一度も外れたことのない」カンのおかげ?
なんとかなりそうな気がする。


「で?どう落とし前つけてくれるんだ?」


うるさいな、今考えてるのッ。
とりあえずガンを飛ばしておこう。


ふと曹喬と目が合った気がした。
曹喬はすぐに眼を逸らしてしまったけど。

助けてくれるのかな、と少し期待してしまった。
私の眼から見ても、曹喬は特別鍛えたりはしていなかったのに。
筋肉のつき具合や歩き方で分かる。
だから、おじいちゃんの救出の際に協力しようなんて思わなかったのに。


「ちっ、そのガキは見張っとけ。先にジジイを叩き起こすぞ」

「ダメッ!!」

「いいから大人しくしてろや、嬢ちゃん」

「う、ぐ」


咄嗟に体を動かそうとした私の首に、後ろから剣が突きつけられた。
チビを私の見張りに残して、デブとヒゲはおじいさんの方へ向かって行った。

明らかに鈍らの剣を前にして、私は一歩も動けなかった。
きっと手入れも碌にしてないのだろう。
首に押し付けたとしても、そうそう斬れるはずがない。

でも。
そう思ってはいても、体が動かない。

初めて戦場に立った時と同じだ。
冥琳には偉そうに話したけど、私だって人間。
あの時は身が竦んで、いつも通り動くことなんて全然できなかった。
どれだけ実力があったとしても「死ぬかもしれない」という考えが邪魔をする。


せめて武器があれば...と思う。
立ち向かう術があるというのは、それだけ大きな支えになる。
何も握っていない右手がひどく心もとない。

このままじゃ、おじいさんが危ないのに...ッ。


『なぁ、チビのおっさん。ちょっと』


今日一日でずいぶん聞き慣れた曹喬の声が聞こえたのは、そんな時だった。


【side out】









『あちちっ』


右手には饅頭(肉まんの皮だけver.)。
しかも店主が野次馬に出たまま放置されてたために、極限まで熱されている。
指先だけで摘んでるが、それでもめちゃくちゃ熱い。

正直、これだけで何とかなるとは思っていない。
見通しなんて碌にない、行き当たりばったりの行動だ。
武者震いだと思いたいが、足だってめっちゃ震えてる。

それでも、何もしないなんてできないから。
今、チビの後ろにいる。
...デブとヒゲが僅かとはいえ、離れてくれたのは運が良かったと思う。


火傷で感覚が鈍くなっている指先で饅頭を開く。
一気に湯気が出る。
多分、相当に熱いと思う。

さて。
あとは、声をかけるだけだ。

前世の俺ならありえない行動だと、今更ながら思う。
言ってみれば、強盗に立ち向かうようなものだ。
目の前にして実際に動ける人間が、一体どれだけいるんだろうか。

真っ先に動き出した孫策は、本当に凄い奴だと思う。
こういう奴らが、これからの乱世で活躍していくんだろう、多分。
俺は、どうするんだろうか。
...いいや。また別の機会に考えよう。


『なぁ、チビのおっさん。ちょっと』


俺の一歩は、やや震えた声とともに始まった。
...声が震えてるのバレてないよな?


「ああッ?」


言った瞬間、チビは高速で振り返って睨みつけてきた。

...なんかもの凄いキレてるんですけど。
もしかして、気にしてた?
ごめんッ!

ぺたっ


「何のよ、うぎゃあッッ!!」


俺が投げ付けた開いた饅頭は、チビの顔面———それも眼にクリティカルヒットした。
身長差が良い方向に働いたようだ。

饅頭を使ったのは簡単な話で、腕力が関係ないから。
どれだけやる気になっていたとしても、所詮は子ども。直接的なダメージでは知れている。
そこで考えたのがこの方法だった。
どんな人間だって熱い物は熱い。
それ故に、子どもの俺にとっても十分な武器となり得る。


咄嗟に眼元に手をやるチビの手から剣を奪い取り、孫策の右手を引く。


『わっ、と』


剣が予想よりも遥かに重くて、一瞬ふらつくが両手で持って何とか支える。
孫策を後ろに庇うように立ち、チビに剣を突きつける。
人質だ。
...そこッ、せこいとか言わない!相手もやってたじゃないかッ。
孫策の視線も感じるが、今は無視する。


『動くな!』

「てめぇ、やってくれるじゃねぇか...ッ」


振り返ったヒゲが睨みつけてくる。
デブはあたふたしてる。
チビは、うごぉぉって言いながらうずくまっている。
...そんなに?

ま、まぁ、とりあえず孫策は助けた。
問題はここから。
人質はとったものの、残ったヒゲとデブがどう出るか。
実は、強攻策に出られるとどうしようもない。
俺に人(チビ)を殺すような覚悟はないし、賊2人を打ち倒すような力もない。
もうね、剣を持ってるだけでいっぱいいっぱいです。
火傷で指先に力が入らない...って、ん?アレって...


「ちっ、仕方ねぇ。殺しはしねえつもりだったんだがな」

「え?あ、アニキ?で、でも...」

「はッ、ガキの腕力で剣が振れるわけないだろーが。ブチ殺してや「そういう訳にはいかないのよ」ッ!」


キンと音がして、ヒゲの剣が根元から断ち斬られる。


「いッ!?」

「その子、私の子どもでねー。あなたたち、ちょっとオハナシしましょうか」


黒い微笑を浮かべたお母様がいた。
すぐ横には無言で剣を抜いた孫堅さんも。
実に良いタイミングですね。出待ちしてたんですか?

そして5分とかからずボコボコにされるヒゲとデブ。


『助かった、かな...』


なんか気が抜けた。
剣も横に投げ捨てる。
チビはまだ呻いてるから大丈夫だろ。
っていうか、本当に大丈夫かコイツ。




.........

...............

.....................




事件の後始末は思ったよりも早く済んだ。

おじいさんも孫の女の子も、思ったほどひどい状態ではなかったらしく、元気そうにしていた。
意識を失ってた時間的に、助けてくれたのは俺だと思ったのか、やたらと頭を下げられて焦った。
孫策は孫策で、孫堅さんとどっか行ってしまって、言い訳もできずじまい。
ひどく申し訳ない気分だ。



で、俺はへたりこんで火傷した指先の治療中 by.お母様


『テンプレですけど、お母様?』

「んー?」

『何故に舐められてるのでしょうか?』


当たり前ながら、火傷した指は普通冷やすものです。
舐めたって、冷えたりしません。


「ひふなは、ひまひょういはへへふはは」

”水なら今用意させてるから”ですね。
くわえたまましゃべらないで下さい。本当に。
そんな服で前屈みにしゃがみこまれたら.........な、ナニも立たないけどな!


「曹喬様」

『あ、茅』

「お水をお持ちしました。あの、御加減は...?」

『あー、多分大丈夫。母上、放してもらえます?』

「んーっ」

「曹嵩様」


あの、茅さん。その冷たい眼は何でせう?
主君とかに向ける眼じゃないよね。


「......ん。分かったわよ」

「曹喬様、こちらへ」

『...はい』


あ、今の睨み合いは無かったことになるんですね。

今の光景は見なかったことにして、器の水に指をつっこむ。
おおう、水が染み入るな。


「それにしても、ねぇ」

『何です?』

「ううん、何でも無いわよ?...ちょっと予想外だっただけ」

『ん?』

「何でもないわ。気にしないで」

「曹喬様、先に手当の方を」

『あ、よろしく』


茅の方に指を出す。
そういえば、


『孫策たちはどこに?』

「あらぁ?気になる?」

『?? そりゃまぁ、普通に』

「...はぁ。お仕置きすることがあるって言ってたわ」

『お仕置き?』


何についてだろうか?
賊とのやり取りの時は、孫堅さんはいなかったわけだし...


『迷子になったこと?それなら俺も不注意だったわけだし、あまりきつくは...』

「それもあるだろうけどね。多分別のことだと思うわよ?」

『??』


さっぱり見当がつかない。
ま、いいか。
それよりも、茅さん。


「『.........』」

「.........///」

『...茅』

「は、はいッ」

『じっと見てないで、手当を頼めるか?』


いい加減にジンジンしてきました。
指をつき出すだけじゃ通じなかったか?


「は、はいッ、いますぐ!」


軟膏が塗られる。
ツンとした刺激臭を伴う緑色の薬。
その上から包帯を巻かれてる最中に、孫策たちが戻ってきた。

...?
孫策がどこか歩きにくそうにしてる。


「その、ケガは大丈夫?」

『ケガっていうより火傷だけどな。大丈夫だよ』

片手をひらひら振って、無事を伝える。
両手を後ろに回して、もじもじとしながら話しかけてくる孫策に少し萌えるが、平静を装ってみせる。

ふと座ったままでは失礼かと思い、立ち上がろうと地面に手をつくが、


『痛ッ』

「あ、立てる?」

『助かる』


自分からつかまることはできないので、手首を引っ張ってもらう。
ぐっと力が入れられ、引き上げられる。
アニメなんかのように、勢い余ってたたらを踏んで抱きついてしまうことはなかった。
残念だなんて、思っていないんだからッ。


しかし、あれだね。
情景的には男と女が逆じゃないか、この場合。
少し情けなく思ったので、火傷が治ったら体を鍛えることを心に誓う。


「あの、さ」

『ん?』


改めて正面から見ると、本当にかわいらしい少女だと思う。
このかわいらしい少女が、賊と正面からぶつかっていく度胸を持ってるんだから信じられない。
このくらいじゃないと、跡継ぎなんてやってられないんだろうか。

当の本人は、その頬を赤く染めながらこちらを伺っているが。


「えと、そのさっきの、ことだけど...」

『あ、うん』

「あ、ありがと。...その、助けてくれて」

『お、おう。あ、でもあれは———』


非常にかわいらしいと思うが。
正直、お礼を言われるような褒められたことはしていないと思う。
運頼みの出たとこ勝負。
もう1回同じことをやれと言われても、多分やらない。というか、できない。

都合良く救出案が思い浮かばなかれば。
すぐ近くに饅頭屋がなければ。
孫策を人質にとっていた男がチビじゃなければ。
饅頭がクリティカルヒットしなければ。
激昂したヒゲとデブがすぐさま襲いかかっていれば。

今思いつくだけでもかなりある。
運も実力のうちとは言うけれど、そんなレベルとは思わない。
もともと実力なんてゼロなわけだし。

だから、お礼なんて言われるほどではない。
むしろ身を挺して「陳留の民を守ってくれた」ことについて、俺が礼を言う側だと思う。


「ううん、いいの。曹喬がどう考えていても、それが私を助けたことには変わりないから」

『けど「いいの」...分かった』


そう言われるともう何も言えないじゃないか。


「それでね、曹喬。私の”真名”をあなたに預けようと思うの」

『真名...』


真名———その人の本質を示す本当の名前とでも言おうか。家族や親しき者にしか呼ぶことを許さない、神聖なる名。無闇に口にすれば、首を刎ねられても文句は言えない。

そんな物騒なものがこの世界にはあった。
いや、もしかすると元の世界にもあったのかもしれない。
真名の意義的に文献などに記していいようなものではないから、知られていないだけで。


「あ、あれ?知らない?もしかしてこっちにはないの?」

『あ、いや、そういうわけじゃないんだけど』


返答に困ってお母様の方を見上げる。
知識としては知ってる。
親につけてもらうのが一般的ではあるが...


「ごめんね、孫策ちゃん。この子まだ真名がないのよ」

「まだ、ですか...?」


真名自体はこの中国全土にあるらしい。
ただ、詳細には若干の違いがあるようで。
意義はどこでもおおよそ変わらないが、真名をつける時期が各地で結構異なるらしい。

この辺りでは、日本で言う元服に近い扱いで、10歳の誕生日に与えられるのが通例だ。
それまでは幼名という、一種のあだ名で呼ぶこともある。

それからもう1つ。
通常、真名はお互いに”交換する”のが基本である。
真名を知らせるということは、お互いに信頼のおける関係を築いたという証明に他ならないから。


『気持ちは嬉しいけどさ、孫策。俺にはまだ真名がないわけだし、また次の機会にしよう』


この発言ははっきり言って失礼に値する。
孫策は俺のことを真名に足る人間だと思ってるにも関わらず、俺はそう思わないと告げたようなものだからだ。

しかし、だ。
こんな簡単に真名を受け取ってしまって良いのか、とも思う。
孫策は随分高く買ってくれたようだが、俺は自分自身に自信が持てていない。
今回の一件で、自分の不甲斐なさも痛感した。
だってほら、幼女に負けてるって、ねぇ。
ちょっと悔しいじゃないか。男として。

胸を張って孫策の真名を受け取る覚悟がまだできていない。
そう思うから、


『いつかまた、お互いに認め合えた時に、その時に真名を交換しよう』


今は俺のことを買ってくれている孫策も、将来はどうなるか分からない。
敵同士になることは眼に見えてるわけだし、真名を交換する機会はないかもしれない。
それでも、今中途半端なまま受け取ってしまうよりはずっと良いと思う。

スッと右手を出す。
包帯の巻かれた不格好な右手。


一瞬キョトンとした眼で俺を見た孫策は、笑顔で右手を握ってくれた。



............少し気障にきめすぎたかもしれないorz














【あとがき】

ちわわわわわわわ。甘い草です。
骨が折れました。背骨です。雪山は危険がいっぱいです。


今回は心象描写(?)が多くなりましたが、やっぱり難しいです。
アチコチ直したいです。

幼女孫策は、シャオのもう少し男らしい版のイメージです。脳内補完してください。

でわ。




[12437] 第8話「??。未だ見ぬ父の正体」
Name: 甘い草◆b1f32675 ID:f6111e47
Date: 2010/03/18 00:32


孫策たち一行は、あの事件の後2日で陳留を出発した。
洛陽にも寄って行くそうで、あまり長い期間滞在することはできないらしい。

まぁ、2日もあれば十分に話もできるわけで。
特にやり残したことはないと思う。
将来への布石も少しくらいは...

そういえば、俺と孫策の父親が似てる気がするっていう話は何だったんだろうか。









お兄ちゃん†無双
第8話「??。未だ見ぬ父の正体」











孫策との一件以来、武術の鍛錬が俺の日課に加えられた。
本来の俺なら嫌がったかもしれないが、(中身の年齢的に)年下の幼女に負けているということもあり、俺のモチベーションは高かった。
そのまま、なんだかんだで5年近く続いてるわけで、我ながらよくやると思う。




「ちょっと、兄さん」


まもなく6歳になる妹が、鍛錬後でボロボロの俺の前に立ち塞がる。
武術の鍛錬という名の私刑(produced by お母様)からの帰りの事である。

朝の鍛錬の後は妹の面倒を見ることになっている。
幼い曹操の相手をしていた名残で、今は先生もどきの事をしている。
正直、賢すぎて教えることなんてほとんどないんだが。
俺みたいに前世の記憶があるんじゃないかと疑うくらいにチートスペック。
家庭教師が呼ばれては、肩を落として帰って行くのを何度見たことか。


その辺の説明はさておき。
今日も鍛錬の時間は軽く30分ぐらいは延びた。
普段と比べると、これでも短い方だ。

それでも、うちの姫様はご立腹のようで。


「もう約束の時間を過ぎているのだけど?」

『悪い。けどまあ、いつもの事だから多めに見て欲しいんだけどな』

「ダメね。兄さんは甘やかすとすぐに怠けるもの」


こうして早くも妹に尻に敷かれている状態で。
「にーさま、にーさま」と追いかけて来た頃が本当に懐かしい。
...1年あったかなかったかぐらいだが。

というか、俺の怠け癖はもうバレてますか。そうですか。


容姿端麗。母親譲りの金髪を、ツインテールにしている。
んで、その先をクルクルっと。俺命名「ツインドリル」ヘアーである。

加えて、5歳にして兵法書や経済書を読み始める天才児でもある。


「それに遅れたのなら遅れたなりに、誠意を見せなさい。のんびり歩いてくるなんて間違ってるわ」


訂正させて欲しい。
のんびり歩いていたのではなく、なんとか歩けていたのだ。
アレが最高速度なのだよ、妹よ。

加えて言いたい。
約束の時間とは言うが、そんな時間を設けた記憶は全くない。
政務に忙しいお母様の代わりに面倒を見ていたのが、自然とこの時間帯に落ち着いただけだ。


「次からは気をつけるよ、吉利(キツリ)」


曹操には幼名がつけられた。
何故、俺にはつかなかったのかをツッコんではいけない。

曹操の幼名は一般的に「阿瞞(アマン)」で知られている。現代風に訳せば「嘘吐きちゃん」だろうか。
しかし「阿瞞」の方は幼名というよりも、むしろあだ名に近い。
正式な幼名は「吉利」という。

本人は阿瞞の方が気に入っているようだが、俺は何故かこっち。
妹に強制されています。少し仲間はずれな気分。慣れたけど。

こっちで呼んでいるのは俺くらいじゃないだろうか。
お母様でさえ、阿瞞の方で呼んでいる。


「......////」

「どうした?行くぞ?」

「......え?あ、ちょっと待って」

「うん?」

「背中が土だらけよ、兄さん。ちょっとしゃがみなさい」

「ん?おう、悪いな」


身長差的に仕方ないとはいえ、実は今しゃがむのは結構大変だったりする。
正直、お母様による鍛錬は異常なまでにハードだと思う。
5年も経つというのに、体感の厳しさが変わらないというのはどういう事なのか。


ランニング及び筋トレによる基礎体力作り

素振り

武器を持たず、ひたすら攻撃を避ける訓練

休憩

お母様との打ち合い

復習を兼ねてシャドー

もう1度打ち合い(一本とるまでエンドレス)


これが今現在の鍛錬メニュー。
曹家の血筋なのか、この体も尋常ではないスペックなのだが、流石にこれだけやると一杯一杯。
最後のエンドレスが夕方まで続くこともある。朝始めたのに、だ。


とまあそんなわけで、膝が笑っている。

だがまあ、そこは兄の意地。
何でもない風にしゃがんでみせる。
......もっとも、既にバレてるかもしれないが。

ポンポン、と背中を叩かれるこの仕草はもはや恒例。
何だかんだで嬉しそうに叩く妹のためなら、多少の無理も仕方ない。
自然と笑みが浮かんでしまうのも仕方がない。


「これぐらいでいいわね。それで、兄さん。何笑ってるのかしら?」

「いや。良い妹を持ったなと思ってな」

「...そう」


スッと立ち上がり、俺の前を歩き出す。
少し照れているらしい。照れた顔を俺に見られたくないとか、愛い奴め。


現在地は中庭と吉利の部屋の中間地点に当たる廊下。
部屋までは、まだ結構距離があったりする。
けれど、こんな中途半端な場所で毎日俺を出迎えてくれる。
俺の出来次第ではどれだけ待つことになるのかも分からないのに、だ。

この中間地点という中途半端さが、そのままツンデレ具合じゃないか、と判断している。
少しずつ中庭寄りになっていく光景は、大変微笑ましい。




.........

...............

.....................




「おかえりなさいませ、曹操様、曹喬様」


部屋で俺たちを出迎えてくれたのは律。
この5年でさらに大きくなった胸が...

ぐりっ


「どこをみてるのかしら、兄さん?」

『...分かった。正直、俺が悪かったと思う。だから放して』


5歳の幼女の力でも、太ももを抓られると十分に痛い。
茅にやられる方が痛いとは言わない。間違っても。


「ふん」

「えっと、曹操様、曹喬様。お茶はいかがです?」


胸の件はさておき、律はかなりの美人だと思う。
おっとりとした雰囲気と相成って、大人のお姉さんって感じ。
まだ20歳にいってなかったと思うんだけどな。


『あ、うん。頼む』

「ちょっと、兄さん。話が違うじゃない」


話を逸らしてくれようとした律に便乗しようとすると、吉利からクレームが来た。


「今日はお父様に関する資料を探しに行く予定だったでしょう。忘れたの?」

『あー』


そんな話もしてた気がする。
前に「お父様はいないのか?」みたいな話になったんだっけ?
俺も知らなかったし、昔から気になってたから、2人でお母様に聞きに行ったんだ。
けど、なんか誤魔化されて有耶無耶になった。
他の人に聞こうにも、その話題を出すとお母様の邪魔が入るのだ。
「これは何かある」というわけで、お母様が出かける今日に調査を約束したのだ。


「そういうわけだから、お茶はいらないわ。そうね、人手がいるかもしれないからあなたも一緒に来なさい」

「私も、ですか?」

「そう。ついでに茅も連れて行きましょうか」

『茅なら今日はいないぞ』


もともと武官志望だった茅は、俺の世話役を任された後も時々訓練に参加したりしていた。
女性でありながらも、十二分な実力があったため、今回は親衛隊の1人としてお母様に同伴している。

ふむ。よく考えたら茅は俺たちの父親のことを知っているんじゃないだろうか。
俺と吉利の父親が一緒だと考えると、茅は俺が生まれた頃からいるし、最低でも一度は姿を見ているはず。
流石に直属の俺にまで隠し事はしないだろう、多分。


「あら、いないの?珍しい」

『いつも一緒ってわけでもないしな』


だが実際のところ、茅はたいてい俺の傍に控えている。
武術の訓練の時に相手をしてもらうこともある。

......負けてばっかりじゃないよ?
そりゃ、最初の頃は連敗だったけども、5年も続けていれば、ね。
チートかかったこの体もあるし、最近は滅多に負けない。


「それなら仕方ないわね。じゃあ、早速行きましょう」

『......』


疲労困憊の俺に対して、お茶を飲むくらいの休憩時間すら与えてくれない鬼畜な妹である。
そこに痺れたり、憧れたりはしない。


「お言葉ですが、曹操様。曹喬様もお疲れのようですし、一休みしてからとりかかっても良いのではありませんか?幸い、曹嵩様のお帰りは明日になると伺っていますし」

『律......』


なんて良い娘なんだろう。気遣いが身にしみる。


「はぁ、仕方ないわね。なら少しだけ休んでいくわ。律、お茶の用意をお願い」

「はい。かしこまりました」


こうして、短いながらも休憩の時間となった。




.........

...............

.....................




おい、何だコレ。
俺の視線の先には本棚。
右手にはその中から試しに抜き取った一冊がある。

【水鏡先生の801白書〜今日から貴方も穴堀りシ◯ン〜】

お母様がいなくとも、その部下がそう簡単に口を割るとも思えなかった俺たちは、書庫を捜索していた。
書庫なら家系図的なものくらいあるだろうと踏んで、である。
しかし、書庫だけでも3つあるため、それぞれに捜索することにした。

で。今俺がいる書庫は、書庫とはいっても上記のような”真っ当ではない”本の立ち並ぶ、お母様の個人書庫。
言ってみれば、お母様の私的コレクションである。
なんか、思春期の息子の部屋に忍び込んでエロ本探すような気分がしていたが———


『まさか本当にエロ本が出てくるとは、お母様侮りがたし』


男向け、女向けの差はあるものの、これは立派にエロ本だろう。絵まで描いてあるし。
お母様は腐女子だったのかと認識。
という事は、前に「私は男も女もいけるクチ」とか言ってたアレも冗談じゃないのだろうか。

これ以上見ちゃいけない気もするが、少し興味も湧いてきたので、他の本にも手をだしてみる。
怖いものほど見たくなるアレである。

【にわとり倶楽部】

にわとりて。
たまごでも、ひよこでもなく、にわとりて。
っていうか、こんな時代からあったのか。

【How to 海賊王】

それ、どこのワン◯ース?
この内陸地で、どうするつもりだろうか。

【親子丼の作り方】

これって、別に普通の本じゃ............そっちか。そっちの”親子丼”か。
なんか付箋まで貼ってあるんだけど。

【近親相姦のすゝめ】

.............................................。
最近、お母様の俺を見る眼が変なんだが、関係ないよな?よな?
まったく。さっきの親子丼といい、書いてる奴誰だよ———【水鏡先生 著】【監修 水鏡先生】

水鏡先生、どこのどなたか知りませんが、自重してください。本当に。
自分で”先生”とか名乗るとは思えないが、ペンネームの一種だろうか。
本人に会ったら、一言文句を言ってやる。




「兄さん、それらしいものはあった?」

『へわッ!?』

「.........まさか怠けてたのかしら?」

『い、いや!そんなことはないぞッ!』


曹操があらわれた。
バックアタック。
曹操はこちらを訝しんでいるようだ。


「私の方はザッと見た限りでは、それらしいものはなかったから応援にきてあげたんだけど...」

『いや、大丈夫だから。この書庫は俺に任せて、律の方を手伝ってやってくれ』


焦りは表情には出さない。
気持ちはありがたいが、この書庫の品々を吉利に見せるのは、何というか教育上よろしくない気がするので、なんとかご退場願いたいのである。


「律なら大丈夫でしょう。むしろ兄さんの方が心配よ」


腰に手を当てて言い放ち、吉利は書庫内を見て回る。


「この書庫、そんなに蔵書も多くないじゃない。時間をかけ過ぎでしょう」

『いやぁ、な。興味深い本とかあって...』

「へぇ、兄さんが本を気に入るなんて珍しいじゃない。ほとんど読破したとか言ってなかったかしら?どんな本?」


そう言って、吉利は俺が持っていた本を取った。
予期せぬ流れに、咄嗟の身動きがとれなかったのである。


『ちょ、まッ!?』


さて。
ここで整理してみよう。
お母様のエロ本コーナーで立ち読みしていた俺が、最後に手に持っていた本とは...


「あら、結構新しい本なのね。兄さんが知らないのも無理もないのかしら?えっと、【近親相か..................」


そう、【近親相姦のすゝめ】。
確かに、これはお母様の蔵書である。

が、だ。


「.....................兄さん」


俺はついさっき咄嗟の言い訳として『いやぁ、な。興味深い本とかあって...』と言ってしまった。

持ってる本 + 俺のセリフ = PRICELESS


『あ、いや、吉利。これはだな...』


まるで俺が”近親相姦”に興味があるみたいではないかッ


「.....................兄さん」

『ちが、違うんだ!たまたま!たまたま手に取った本がこれだっただけでッ』

「.....................兄さん////」

『...............................................................あるぇ?』


予想していたリアクションと違うんですが。
もっとこう、烈火の如く怒るとか、蔑むような視線とかが来るはずじゃ...?

なんか、頬を赤く染めて熱っぽい眼でこっちを見て...る...?


「.....................兄さん////」


おかしくね?
だって、これってどう見ても怒ってるようには...


「兄さ「曹喬様、曹操様」..................律」

『り、律か......ふぅ、どうした?』

「???は、はい。こちらが参考になるのではないかと」

『お!見つかったのか』


吉利が律をなんか凄い目つきで睨んでいるが、気にしない。
歯ぎしりの音も聞こえるような気がするけど、気にしない。
あのまま律が来なかったらどうなってたかも、気にしない。
気にしないったら、気にしない!

律に手渡された一冊の古びた、割と薄っぺらい書物。
表紙には特に何も書かれていない。中も白紙。


『何も書いてないけど...?』

「はい。表紙と中には何もないのですが、裏面に」


ぺらっと裏返す。
裏面には...


『"曹嵩"...お母様の名前だな』

「はい、それにこれより上は歴代の方々に当たりますね」

『なるほど、それで』


裏面のお母様の名前の下に、墨で塗りつぶされてはいるが文字の跡がある。


『...読めないな』

「はい。それでですね、気になって調べてみたのですが———」


そう言って、律は冊子を数ページめくる。


「この部分です」

『ん?』

「ここの部分に中身を抜き取ったような痕跡が」

『あ、ほんとだ』


となると、中身を抜き取って綴じ直したことになるのか。
抜かれたところには何が書いてあったのやら。


『ま、無いものは仕方ない。こっちの塗りつぶした方、何とか読めないかな?太陽に透かしてみるとか』

「できるでしょうか?」

『書いた時期がズレてれば、もしかすると.........試してみよう』

「はい」

『......あー、吉利はどうする?』

「いくわ」

『お、おう』


反応が返ってくるとは思ってなかったので、ちょっと焦った。

うん。
なんかブツブツ言ってるけど、ひとまずは元通り。大丈夫だろ。




.........

...............

.....................




『んー』

「兄さん、どう?」

『んー、一文字は完全に無理。紙のボロいところと被ってる。もう一文字の方はー』

「.........////」

『.....................吉利。少し、くっつき過ぎじゃないか?』


俺の右腕をかき抱くようにして並び立つ吉利。

別に嫌なわけじゃないよ?ただ少し焦るだけで。
間違っても興奮しそうとかそういうわけじゃない。
妹に欲情するようになったら、もうおしまいだろ。うん。


「別にいいじゃない。それとも兄さん、私とくっつくのが嫌なのかしら?」


パッと見はいつもどおりの口調だが、語尾の方が僅かに震えたのを俺の耳は聞き逃さなかった。

素直じゃないやつめ。
そんな風に言われたら、これ以上言えないじゃないか。


『......別に構わないが』

「なら良いじゃない」

『そうだな』


ん?お?おおッ?


『見えた!』

「どんな字?」

『”蝉”だ』


地面に書く。


「”蝉”ね」

「”蝉”ですか」


ちょっと心当たりはないな。


『吉利と律はどうだ?それっぽい奴に心当たりはあるか?』

「私は...ないです。すみません」

「私もないわ。私よりは兄さんでしょう、心当たりがあるとすれば」

『まぁ、お前よりは長く生きてるしな』

「そうじゃなくて。その塗りつぶしてあった冊子、他に名前が書いてあったり、塗りつぶしがあるわけじゃないんでしょ?なら、少なくとも私と兄さんの父親は同一人物の可能性が高いわ」


なるほど。
父親が違うのなら、もう1つ別の名前が書いてあるはずだな。

......ん?


『けどさ、その冊子に名前を載せるとも限らなくないか?』


そもそもこの冊子に載っている名前が、代々の名前を記したものかどうかを意味してるかが分からない。
また、資料自体の作られた時期によっては新しい父親の名前が載らない可能性もある。


「それはそうだけど。そんなこと考えても分かるわけないじゃない。なら、考える意味がないと思うけど?」

『うぐ』

「ひとまずは、同じ父親だと仮定して考えるべきじゃないかしら?」

『はい...』


妹に言い含められたorz


「私と兄さんの父親が同じだと考えると、兄さんは5歳くらいの頃に父親を見かけてるはずよ。私が産まれてるからには、お母様と性交してるわけだし」

『............』

「...何?兄さん」

『............いや』

「そう?それでね———」


妹よ。君の読みは大変的確なんじゃないかとは思うが、思うが!
5歳の幼女が”性交”とか...
しかも、顔を赤らめたりとか一切なく。
兄としてはとても複雑な気分だよ、吉利...


「———ちょっと、兄さん。兄さん!聞いてるのッ?」

『ん?あ、ああ』

「もう!その話はいいわ。兄さんは鈍いから、見てても見逃してるかもしれないし」

『ちょっと待て。それはひどくないか、吉利』

「十分に鈍いわよ。ねぇ、律」

「え、えっと、私からは何とも...」


律は返答に詰まりながらも、否定してはくれなかった。
何この扱い。俺は一応兄なのにorz


「あ、あの」

「律、どうかした?何か思い出したの?」

「あ、いえ、すみません。私がこちらに来た時期を考えると、お会いしている可能性はおそらくないと思います。ただ、その、曹嵩様の旦那様ともなると立派な方でしょうし、案外名の知れてる方なのではないかと」

「それは...ないと思うわ」

『そうか?ありそうな話だと思うけど』

「お母様は何でもできる人だから、男にそういうのは求めないと思うわ」

『そう、か?』

「そうよ。分かるもの。少しダメなところがある男の方がいいの」

『ふーん...』

「だって私、お母様の娘よ?」


何故かひどく説得力のある言葉だった。


「他にはどう?」

『うーん。多分、黒髪ってことくらいだな』


お母様は金髪で、その血をひく吉利も金髪である。
一方で俺だけ黒髪。
なら、父親は...という判断。


「......はっきり言って、それだけじゃ探しようはないわね」

『そもそもお母様と親しい男っていうのが、想像できん』


一番の問題がそこだ。
実力主義なのもあるかもしれないが、お母様の部下には女性がやたらと多い。
直属の親衛隊なんか全員女性だ。

信じられるか?
2児の母親なのに、百合疑惑まで出回ってるんだぜ。


「でも、男と女じゃないと子どもはできないじゃない」

『...まぁ、そうなんだがな』


露骨すぎるだろ、吉利。
律も苦笑してるぞ。

けど。
実際そうだ。
どれだけお母様が女が好きだとしても、男相手じゃないと子どもはできない。
それこそ、女みたいな男でも探してこない限り...........ん?
女みたいな男?
いや、そんなカマさんみたいな知り合いは..............................いるくね?
全然、全ッ然女らしくないけど!
アレを女と呼んだら世の女性に失礼なくらいだけどッ!


『MA・SA・KA☆』

「兄さん?」


黒髪は.........一致する。
基本ツルツルだけど、後ろ髪が黒かった記憶がある。

少しダメなところがある.........一応。
”少し”どころではないような気がするけどッ

”蝉”.........おい。
”蝉”の字は、センと読む。奴の名前にも含まれてる。

さらに言えば。
もしそうなんだとすれば、名前が消されてる理由にも納得がいく。
当主の旦那が”あんなの”だなんて、資料としても残すわけにはいかないだろう。


「兄さん?ちょっと、どうかしたの?」

『吉利』

「え?」

『この件は、ここまでにしよう。ほら、もういい時間だし』

「まだ日暮れまで結構あると思うけど...」

『いいから。戻るぞ』

「え?え?ちょっと、兄さん?」

『HAHAHA。よし、帰ったら”野菜人”の話の続きをしてやろう。うん。だから帰るぞ』

「ち、ちょっと待———」


ぐいぐいと吉利の背を押して、書庫を出る。

扉のところで、振り返って、


『律、あとかたづけは頼んだ』

「は、はい」


怯えるように返事をした律に後を任せ、第1回父親探しは終了した。
吉利のためにも、第2回をするつもりはない。
世の中には知らない方が良いこともあるのだ。




ちなみに。
律が帰ってきたのは日暮れ間近だった事をここに記しておく。
戻ってきた律の頬が赤く染まっていたような気もしたが、優しい俺はツッコまないであげた。









【あとがき】
ちわわわわわわわわ。甘い草です。


今回の話は小話なんで、実質なくてもよかったです。
けど、なんか書きたかったんでちょっと。

前話→今話で5年くらい飛びました。
今話→次話でまた5年くらい飛びます。
多分山場への導入?
そろそろ本編合流したいしね。

ちなみに。
死姦はないよ。死姦は、ね。



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