【side 孫策】
本当は母様についてくるつもりなんてなかった。
母様と一緒に行っても、どうせ堅苦しい話ばかり聞かされて、いつも通り「お前もいずれ...」とか説教されるに決まってるから。
それに、お城には冥琳もいるから遊ぶのには事欠かない。
だからわざわざ馬で何日もかけて、移動する理由なんて全然思いつかなかった。
けど。昔、父様から旅の良さを聞かされていたから、2回目に母様に誘われた時、試しにいってみようかなと思った。
きっかけはそれだけだった。
目的の街に着いてすぐ、迎えの人に会った。
きれいな女の人と、私と同い年ぐらいの男の子。曹喬。
その子の髪の色は冥琳と同じ、濡れたような黒。
少し、親しみが湧いた。
その後、2人揃って迷子になった。
原因は私だと思う。
街頭に並ぶ見たことのない品に引かれるようにフラフラと歩いていた私と、それについてきていた曹喬。
はぐれるのも当然だったかもしれない。
それでも曹喬は、文句も言わず私のわがままに付き合ってくれた。
おじいさんの荷物を運んだり、迷子の世話をしたり。
自分も迷子で大変なのは分かってたけど、曹喬の前では何故か良い格好がしたかったのだ。
賊どもを見かけたのは、曹喬ともかなり打ち解けて街を散策していた時だった。
どういうわけかイラっとしたし、おじいさんに暴力を奮ってるしで、懲らしめてやろうと思った。
今までにもそういう経験はあったし、母様に連れられて戦場に出たこともある私なら、2人くらいは余裕なはずだ。
ふと隣を見ると、どういうわけか曹喬が固まっていた。
ビビってる...?
ちょっと優越感。
ふふん。曹喬、見てなさい。
あの程度の雑魚、私がボコボコにしてやるから!
【side out】
お兄ちゃん†無双
第7話「孫策2。幼女と王の器」
「そこの下衆ども!そのおじいちゃんから離れなさい!」
凛とした孫策の声は、とある民家の屋根の上から聞こえた。
右手にはどこから手に入れたのか、一本の木製の棒。
一目で何をするつもりか分かった。
『ちょっと待「やあぁぁッ」』
俺が静止の声をかけようとした瞬間、孫策は棒を両手で振りかぶってヒゲの男の頭に叩きつけた。
幼女の力といえど、2階の高さから飛び降りた分も加わっていたため、大人1人倒すのに十分な威力になっていたのだろう。
ガツンと痛そうな音がして、ヒゲはもんどりうって倒れた。
「あ、アニキッ!」
突然の事態にうろたえたデブが、ヒゲの元に駆け寄った。
その隙を逃すことなく、孫策の回し蹴りがデブを襲う。
普通は孫策の体格程度の蹴りで、デブほどの大男を伸せるわけがないのだが、今回はその体格差が決め手となった。
孫策の足は、デブの股の間にクリティカルヒット。
「ぷぎッ」
デブは僅かに呻き、地に伏した。
むき出しの内臓であり、男にとっては永遠の弱点に回し蹴りなど喰らってしまったのだ。
無理もない。
「「「「おおっ」」」」
周囲の野次馬がざわめく。
自分たちでは倒せそうもなかった賊たちを、まだ幼い少女が1人で倒してしまったのだ。
人々の口から感謝と賛辞の声が行き交い、孫策の照れる様子が目に見えた———
.........
...............
.....................
———ら良かった。
しかし、現実はそう甘くない。
孫策のヒゲへの初撃は、孫策自身の声によって感知されて防がれた。
デブへの回し蹴りも、デブの常人の倍の太さはあろうかという太ももによって阻まれ、急所にヒットすることはなかった。
加えてもう1つ。
攻撃の失敗を知った孫策が一旦退がり、体勢を整えようとした所に賊の仲間がもう1人出現。
一般の成人男性と比べて明らかに小柄なその男(以降、チビ)は、後ろから孫策に忍び寄り、その右手に握られた棒を叩き落したのである。
「おい、嬢ちゃん。何してくれてんだ?あぁン?」
で、今。
三方向から大人に囲まれ、孫策は完全に追い詰められていた。
「ふん。あんたたち、お年寄りは大切にしなさいって、教わらなかったの?」
気丈に振舞う孫策だったが、まずい状況になってるのは分かってるらしく、その顔には焦りの色が浮かんでいる。
男たちもそれが分かっているのか、ニヤニヤとしながら孫策の方へと足を進める。
事ここに至って、ようやく俺は気づいた。
この状況、めっちゃまずくね?と。
逃げる方針は、孫策が飛び掛ったためにパー。
当初の「孫策に怪我をさせない」目標を達成しようとすれば、男たちに囲まれている孫策を救出しなければならない。
...正直、無理だろ。
相手は大人。それも3人。武器持ち。
自分は子供。1人っきり。武器なし。
勝てる要素が見当たらない。
けど、孫策を残して逃げる訳にもいかない。
八方塞がり。まさにそんな状態だった。
『せめて、元の体だったら...ッ』
誰にも聞こえないように、ごくごく小さな声で呟いた。
前世(?)だって、別に特別強い体だったわけじゃない。
ただ、それでも今より幾分かマシだろうと考えただけだった。
今の体になってから6年と少し。
できるだけ考えないようにしていたことだった。
なんでこの世界に来てしまったのか、それは分からない。
けど、今の生活もそう悪くない。
そう思ったから、前の生活のことは頭の隅に押しやっていた。
戻りたいって気持ちがないわけではない。
なんとなく、戻れないような気はしていた。
それだけ。
「で?どう落とし前つけてくれるんだ?」
ドスの利いた低い声が聞こえた。
つい先ほどの声と違って、明らかに怒りを含んだ声音だった。
自分の体がビクッとなったのを感じた。
俺に向けられた声じゃなかったのに、だ。
実際にその声が向けられた孫策は、気丈にもヒゲを睨み返していた。
『あ...』
気づいた。
孫策の姿を見て、気づいた。
外身は関係ない。中身だ。
たとえ今、俺の体が前のものだったとして、一体何ができるというのか。
孫策のように正面から睨み返せるのか。
おじいさんを助けるために動けたのだろうか。
今まさにピンチに陥っている孫策を助けるために、行動できるのだろうか。
ふと孫策と目が合った。
こんな絶望的な状況にあってなお、光を失わない強い瞳が、そこにはあった。
...何してるんだ俺。
孫策みたいな幼女が頑張ってるっていうのに。
外見はさておき、中身は30間近だろ。
ここで逃げたら情けなさ過ぎじゃないか...ッ。
いつの間にか握りしめていた拳に、力が入った。
【side 孫策】
今、私は絶体絶命の危機にいる。
おじいちゃんを助けようと———ううん、半分くらいは曹喬に対する見栄で賊に飛びかかった私は、攻撃を止められ、なけなしの武器も奪われ、周囲を取り囲まれていた。
今までの経験から、こういった輩には奇襲が有効だというのは知ってたし、2,3人なら本当に倒せる自信もあった。
それでも、私の小さな見栄が全てダメにしてしまった。
曹喬に気づかせるつもりで放った言葉で賊に見つかり、自信は賊の周到な用意の前に崩された。
私の突撃癖は母様にも冥琳にも注意されてたれど、体が動いてしまうのは仕方ない。
さて、これからどうしようか。
この状況でも、不思議なほどに私の頭は冷静だ。
母様の地獄の特訓の成果か。
それとも「一度も外れたことのない」カンのおかげ?
なんとかなりそうな気がする。
「で?どう落とし前つけてくれるんだ?」
うるさいな、今考えてるのッ。
とりあえずガンを飛ばしておこう。
ふと曹喬と目が合った気がした。
曹喬はすぐに眼を逸らしてしまったけど。
助けてくれるのかな、と少し期待してしまった。
私の眼から見ても、曹喬は特別鍛えたりはしていなかったのに。
筋肉のつき具合や歩き方で分かる。
だから、おじいちゃんの救出の際に協力しようなんて思わなかったのに。
「ちっ、そのガキは見張っとけ。先にジジイを叩き起こすぞ」
「ダメッ!!」
「いいから大人しくしてろや、嬢ちゃん」
「う、ぐ」
咄嗟に体を動かそうとした私の首に、後ろから剣が突きつけられた。
チビを私の見張りに残して、デブとヒゲはおじいさんの方へ向かって行った。
明らかに鈍らの剣を前にして、私は一歩も動けなかった。
きっと手入れも碌にしてないのだろう。
首に押し付けたとしても、そうそう斬れるはずがない。
でも。
そう思ってはいても、体が動かない。
初めて戦場に立った時と同じだ。
冥琳には偉そうに話したけど、私だって人間。
あの時は身が竦んで、いつも通り動くことなんて全然できなかった。
どれだけ実力があったとしても「死ぬかもしれない」という考えが邪魔をする。
せめて武器があれば...と思う。
立ち向かう術があるというのは、それだけ大きな支えになる。
何も握っていない右手がひどく心もとない。
このままじゃ、おじいさんが危ないのに...ッ。
『なぁ、チビのおっさん。ちょっと』
今日一日でずいぶん聞き慣れた曹喬の声が聞こえたのは、そんな時だった。
【side out】
『あちちっ』
右手には饅頭(肉まんの皮だけver.)。
しかも店主が野次馬に出たまま放置されてたために、極限まで熱されている。
指先だけで摘んでるが、それでもめちゃくちゃ熱い。
正直、これだけで何とかなるとは思っていない。
見通しなんて碌にない、行き当たりばったりの行動だ。
武者震いだと思いたいが、足だってめっちゃ震えてる。
それでも、何もしないなんてできないから。
今、チビの後ろにいる。
...デブとヒゲが僅かとはいえ、離れてくれたのは運が良かったと思う。
火傷で感覚が鈍くなっている指先で饅頭を開く。
一気に湯気が出る。
多分、相当に熱いと思う。
さて。
あとは、声をかけるだけだ。
前世の俺ならありえない行動だと、今更ながら思う。
言ってみれば、強盗に立ち向かうようなものだ。
目の前にして実際に動ける人間が、一体どれだけいるんだろうか。
真っ先に動き出した孫策は、本当に凄い奴だと思う。
こういう奴らが、これからの乱世で活躍していくんだろう、多分。
俺は、どうするんだろうか。
...いいや。また別の機会に考えよう。
『なぁ、チビのおっさん。ちょっと』
俺の一歩は、やや震えた声とともに始まった。
...声が震えてるのバレてないよな?
「ああッ?」
言った瞬間、チビは高速で振り返って睨みつけてきた。
...なんかもの凄いキレてるんですけど。
もしかして、気にしてた?
ごめんッ!
ぺたっ
「何のよ、うぎゃあッッ!!」
俺が投げ付けた開いた饅頭は、チビの顔面———それも眼にクリティカルヒットした。
身長差が良い方向に働いたようだ。
饅頭を使ったのは簡単な話で、腕力が関係ないから。
どれだけやる気になっていたとしても、所詮は子ども。直接的なダメージでは知れている。
そこで考えたのがこの方法だった。
どんな人間だって熱い物は熱い。
それ故に、子どもの俺にとっても十分な武器となり得る。
咄嗟に眼元に手をやるチビの手から剣を奪い取り、孫策の右手を引く。
『わっ、と』
剣が予想よりも遥かに重くて、一瞬ふらつくが両手で持って何とか支える。
孫策を後ろに庇うように立ち、チビに剣を突きつける。
人質だ。
...そこッ、せこいとか言わない!相手もやってたじゃないかッ。
孫策の視線も感じるが、今は無視する。
『動くな!』
「てめぇ、やってくれるじゃねぇか...ッ」
振り返ったヒゲが睨みつけてくる。
デブはあたふたしてる。
チビは、うごぉぉって言いながらうずくまっている。
...そんなに?
ま、まぁ、とりあえず孫策は助けた。
問題はここから。
人質はとったものの、残ったヒゲとデブがどう出るか。
実は、強攻策に出られるとどうしようもない。
俺に人(チビ)を殺すような覚悟はないし、賊2人を打ち倒すような力もない。
もうね、剣を持ってるだけでいっぱいいっぱいです。
火傷で指先に力が入らない...って、ん?アレって...
「ちっ、仕方ねぇ。殺しはしねえつもりだったんだがな」
「え?あ、アニキ?で、でも...」
「はッ、ガキの腕力で剣が振れるわけないだろーが。ブチ殺してや「そういう訳にはいかないのよ」ッ!」
キンと音がして、ヒゲの剣が根元から断ち斬られる。
「いッ!?」
「その子、私の子どもでねー。あなたたち、ちょっとオハナシしましょうか」
黒い微笑を浮かべたお母様がいた。
すぐ横には無言で剣を抜いた孫堅さんも。
実に良いタイミングですね。出待ちしてたんですか?
そして5分とかからずボコボコにされるヒゲとデブ。
『助かった、かな...』
なんか気が抜けた。
剣も横に投げ捨てる。
チビはまだ呻いてるから大丈夫だろ。
っていうか、本当に大丈夫かコイツ。
.........
...............
.....................
事件の後始末は思ったよりも早く済んだ。
おじいさんも孫の女の子も、思ったほどひどい状態ではなかったらしく、元気そうにしていた。
意識を失ってた時間的に、助けてくれたのは俺だと思ったのか、やたらと頭を下げられて焦った。
孫策は孫策で、孫堅さんとどっか行ってしまって、言い訳もできずじまい。
ひどく申し訳ない気分だ。
で、俺はへたりこんで火傷した指先の治療中 by.お母様
『テンプレですけど、お母様?』
「んー?」
『何故に舐められてるのでしょうか?』
当たり前ながら、火傷した指は普通冷やすものです。
舐めたって、冷えたりしません。
「ひふなは、ひまひょういはへへふはは」
”水なら今用意させてるから”ですね。
くわえたまましゃべらないで下さい。本当に。
そんな服で前屈みにしゃがみこまれたら.........な、ナニも立たないけどな!
「曹喬様」
『あ、茅』
「お水をお持ちしました。あの、御加減は...?」
『あー、多分大丈夫。母上、放してもらえます?』
「んーっ」
「曹嵩様」
あの、茅さん。その冷たい眼は何でせう?
主君とかに向ける眼じゃないよね。
「......ん。分かったわよ」
「曹喬様、こちらへ」
『...はい』
あ、今の睨み合いは無かったことになるんですね。
今の光景は見なかったことにして、器の水に指をつっこむ。
おおう、水が染み入るな。
「それにしても、ねぇ」
『何です?』
「ううん、何でも無いわよ?...ちょっと予想外だっただけ」
『ん?』
「何でもないわ。気にしないで」
「曹喬様、先に手当の方を」
『あ、よろしく』
茅の方に指を出す。
そういえば、
『孫策たちはどこに?』
「あらぁ?気になる?」
『?? そりゃまぁ、普通に』
「...はぁ。お仕置きすることがあるって言ってたわ」
『お仕置き?』
何についてだろうか?
賊とのやり取りの時は、孫堅さんはいなかったわけだし...
『迷子になったこと?それなら俺も不注意だったわけだし、あまりきつくは...』
「それもあるだろうけどね。多分別のことだと思うわよ?」
『??』
さっぱり見当がつかない。
ま、いいか。
それよりも、茅さん。
「『.........』」
「.........///」
『...茅』
「は、はいッ」
『じっと見てないで、手当を頼めるか?』
いい加減にジンジンしてきました。
指をつき出すだけじゃ通じなかったか?
「は、はいッ、いますぐ!」
軟膏が塗られる。
ツンとした刺激臭を伴う緑色の薬。
その上から包帯を巻かれてる最中に、孫策たちが戻ってきた。
...?
孫策がどこか歩きにくそうにしてる。
「その、ケガは大丈夫?」
『ケガっていうより火傷だけどな。大丈夫だよ』
片手をひらひら振って、無事を伝える。
両手を後ろに回して、もじもじとしながら話しかけてくる孫策に少し萌えるが、平静を装ってみせる。
ふと座ったままでは失礼かと思い、立ち上がろうと地面に手をつくが、
『痛ッ』
「あ、立てる?」
『助かる』
自分からつかまることはできないので、手首を引っ張ってもらう。
ぐっと力が入れられ、引き上げられる。
アニメなんかのように、勢い余ってたたらを踏んで抱きついてしまうことはなかった。
残念だなんて、思っていないんだからッ。
しかし、あれだね。
情景的には男と女が逆じゃないか、この場合。
少し情けなく思ったので、火傷が治ったら体を鍛えることを心に誓う。
「あの、さ」
『ん?』
改めて正面から見ると、本当にかわいらしい少女だと思う。
このかわいらしい少女が、賊と正面からぶつかっていく度胸を持ってるんだから信じられない。
このくらいじゃないと、跡継ぎなんてやってられないんだろうか。
当の本人は、その頬を赤く染めながらこちらを伺っているが。
「えと、そのさっきの、ことだけど...」
『あ、うん』
「あ、ありがと。...その、助けてくれて」
『お、おう。あ、でもあれは———』
非常にかわいらしいと思うが。
正直、お礼を言われるような褒められたことはしていないと思う。
運頼みの出たとこ勝負。
もう1回同じことをやれと言われても、多分やらない。というか、できない。
都合良く救出案が思い浮かばなかれば。
すぐ近くに饅頭屋がなければ。
孫策を人質にとっていた男がチビじゃなければ。
饅頭がクリティカルヒットしなければ。
激昂したヒゲとデブがすぐさま襲いかかっていれば。
今思いつくだけでもかなりある。
運も実力のうちとは言うけれど、そんなレベルとは思わない。
もともと実力なんてゼロなわけだし。
だから、お礼なんて言われるほどではない。
むしろ身を挺して「陳留の民を守ってくれた」ことについて、俺が礼を言う側だと思う。
「ううん、いいの。曹喬がどう考えていても、それが私を助けたことには変わりないから」
『けど「いいの」...分かった』
そう言われるともう何も言えないじゃないか。
「それでね、曹喬。私の”真名”をあなたに預けようと思うの」
『真名...』
真名———その人の本質を示す本当の名前とでも言おうか。家族や親しき者にしか呼ぶことを許さない、神聖なる名。無闇に口にすれば、首を刎ねられても文句は言えない。
そんな物騒なものがこの世界にはあった。
いや、もしかすると元の世界にもあったのかもしれない。
真名の意義的に文献などに記していいようなものではないから、知られていないだけで。
「あ、あれ?知らない?もしかしてこっちにはないの?」
『あ、いや、そういうわけじゃないんだけど』
返答に困ってお母様の方を見上げる。
知識としては知ってる。
親につけてもらうのが一般的ではあるが...
「ごめんね、孫策ちゃん。この子まだ真名がないのよ」
「まだ、ですか...?」
真名自体はこの中国全土にあるらしい。
ただ、詳細には若干の違いがあるようで。
意義はどこでもおおよそ変わらないが、真名をつける時期が各地で結構異なるらしい。
この辺りでは、日本で言う元服に近い扱いで、10歳の誕生日に与えられるのが通例だ。
それまでは幼名という、一種のあだ名で呼ぶこともある。
それからもう1つ。
通常、真名はお互いに”交換する”のが基本である。
真名を知らせるということは、お互いに信頼のおける関係を築いたという証明に他ならないから。
『気持ちは嬉しいけどさ、孫策。俺にはまだ真名がないわけだし、また次の機会にしよう』
この発言ははっきり言って失礼に値する。
孫策は俺のことを真名に足る人間だと思ってるにも関わらず、俺はそう思わないと告げたようなものだからだ。
しかし、だ。
こんな簡単に真名を受け取ってしまって良いのか、とも思う。
孫策は随分高く買ってくれたようだが、俺は自分自身に自信が持てていない。
今回の一件で、自分の不甲斐なさも痛感した。
だってほら、幼女に負けてるって、ねぇ。
ちょっと悔しいじゃないか。男として。
胸を張って孫策の真名を受け取る覚悟がまだできていない。
そう思うから、
『いつかまた、お互いに認め合えた時に、その時に真名を交換しよう』
今は俺のことを買ってくれている孫策も、将来はどうなるか分からない。
敵同士になることは眼に見えてるわけだし、真名を交換する機会はないかもしれない。
それでも、今中途半端なまま受け取ってしまうよりはずっと良いと思う。
スッと右手を出す。
包帯の巻かれた不格好な右手。
一瞬キョトンとした眼で俺を見た孫策は、笑顔で右手を握ってくれた。
............少し気障にきめすぎたかもしれないorz
【あとがき】
ちわわわわわわわ。甘い草です。
骨が折れました。背骨です。雪山は危険がいっぱいです。
今回は心象描写(?)が多くなりましたが、やっぱり難しいです。
アチコチ直したいです。
幼女孫策は、シャオのもう少し男らしい版のイメージです。脳内補完してください。
でわ。