<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[12389] 原作崩壊  ゴジラ(憑依) VS BETA(笑) エピローグ1 投稿 
Name: エキシボ◆e1d483d5 ID:31a08043
Date: 2012/07/03 23:13
初投稿です。エキシボと言います。

ノリで書いてしまいました。気分を害された方がいたら申し訳ございません。






H21.11.07 チラシの裏から移動しました。

H21.11.08 削除依頼板にあがっていたので第五話のラスト、そして月詠さん達の間違いを修正しました。ご迷惑をお掛けし、本当に申し訳ありません。 

※月詠姉妹→従姉妹 に修正

感想及びご指摘をいただき、ありがとうございます。

H21.11.17 各話の誤字脱字を修正

H22.1.6  第十一話投稿

H22.2.25  最終話 前編投稿

H22.5.19  最終話 後編投稿
       改行を訂正しました。

H22.7.23 最終話 後編
       改行、本文を一部加筆修正

H24.7.03 エピローグ1を投稿



[12389] 第一話
Name: エキシボ◆e1d483d5 ID:31a08043
Date: 2009/10/08 00:30

【ネタ】 ゴジラ(憑依) VS BETA  (笑)



とある確立分岐世界の一世界。そんな世界のハワイ諸島沖である青年が憂鬱に染まっていた。






「………なんでゴジラやねん」





フーっと溜息をつく。極濃の放射能が高速ジェット噴射で放たれる溜息である。遺憾ながら迷惑極まりない。

そう、今この青年はなんの因果かあのモンスターキング「Godziila」に憑依してしまったのである!

「Godziilaちゃう(怒)!ゴジラや!!あんなマグロばっか喰ってるやつと一緒にすんなや!!!!!あと怪獣王と言え!!五段階評価、英語2なめんなや!!!」

『ちょっオマ!?口こっち向けんな、放射能が!!  あと安心しろ俺は1だった』

「………さよか、つーかオマァ誰や?姿見せんはズルイでしかし」 とこのゴジラ青年?は疑問をぶつける。透明人間か?とか考えている顔だ。

『そんなんこっちも聞きたいよ。あえて名前をあげれば「空気の妖精」だよ』

「それ自分は『空気並の存在感』って自虐ネタか?それとも『空気の眷属?』って言いたいんか?後半やったらイタいでホンマ」

『うるさいよ。なんでそんなメタな思考しなきゃならないのさ。それになりたいのは空気じゃなくて「森」の妖精だよ。ビリーのアニキにガチLOVEなんだよ俺』

「それこそどうなんや?まあええわい。ここどこや?」

『流しやがったな。とりあえずマブラヴ・オルタの世界だよ』

「ゴフッ!!???なんやそれ!?現在地知りたかったのに世界観公開かい!!」

『一々噴くなよ。放射能がかかる。あっ知ってるんだマブラヴ』

「当たり前や!あんな名作いや大傑作を知らずに死ねるかい!!じゃあ今どのあたりなんや? やっぱ2001年10月22日なんか?」

『お前武ちゃんじゃないだろ。まあ答えてやるか、横浜ハイヴが出来たばっかだよ。明星作戦はまだまだ先だね』

「ちょ!?マジか?こうしちゃおれん!!」

『どこ行くの?』

「決まっとるやろ!横浜や!!」

『いきなりだなオイ。自分がゴジラになった理由とか知りたくないの?』

「興味ない!」

『言い切ったな。うわっ何こいつ?ゴジラがバタフライで泳いでるよ。ゴジラがモスラの如くバタフライ!!なーんてな』

「つまらん事言ってないで状況教えんか!武ちゃんと純夏ちゃんはまだ無事なんやろな!!??」

『無事だよ。捕まってハイヴのかなり下層に閉じ込められてる。つーかさっきまでの憂鬱ぶりはどうしたよ?』

「あの二人を幸せにするためやったら他はどうでもいいわい!!いや二人だけやない、まりも先生に伊隅大尉、柏木のお嬢さん、涼宮の姉さんに水月の姉御、みんな助けたる。『おとぎばなし』はやっぱ笑って終わらなあかん!!」

『お前に何か出来ると思ってんの?何?ゴジラならなんとかなるとか考えてんの?』

「関係あるかい!ゴジラやろうとモヤシやろうとココにおるんや!助けたいんや!!」



………さすがだよ。お前を呼び出して正解だったようだ。



「やったるでーーーーーーーーー!!!!」









つづく?


あとがき

短か、初投稿がこんなんです。なにかご指摘、アドバイスがあれば頂きたいです。



[12389] 第二話 
Name: エキシボ◆72060a8d ID:8c20cdfc
Date: 2009/11/08 09:06
………Side Human




1998年 某日  日本帝国領 硫黄島司令部 第一発令所内


ある佐官が苦虫を噛み潰したような顔をしていた。理由は簡単だ。部下の報告があまりに滑稽だったからだ。
「川口少尉もう一度確認する。先ほどの哨戒任務中、その最後に君が見たソナーには何が映っていたのだね?」
少尉と呼ばれた青年を見詰めるこの佐官の男、西村泰道は今や閑職に近いとはいえ、古参兵が多く現場からの叩き上げがほとんどな帝国海軍硫黄島駐屯地において比較的穏やかで理知的な人物で知られていた。故に動揺していたり、緊張のあまり呂律が怪しくなっている若い部下の言葉であっても冷静に対処し慌てる部下を逆に落ち着かせる事が出来る優秀な男であった。

しかし、今目の前で狼狽している川口少尉は一向に落ち着かない。その報告内容も思わず疑ってしまいたくなる。
「ほ、本当なんです!全長200メートル級の巨大な鯨のようなエコー(影)がバタフライで泳いでいたんです!?ちゃんとこう、腕を振り上げて海面まで一気に浮上しってたんです!!そしたらまたこう、頭からクラッシュダイブみたく急潜航して、それの繰り返しで泳いでいたんです!水中の反射音とエコー(影)でわかるんです!!」

あれはバタフライ泳法です!と力説する少尉を尻目にハァと溜息をつく西村。薄暗い発令所の中で踊るように手足をバタつかせ、必死に伝えようとする部下を「まるでサーカスのピエロだな」と生暖かい目で見ていた。
ピエロという言葉で以前留学していた米国の大学を思い出す。あの屈辱的な米国の一方的な日米安保条約破棄さえなければ皆であのサーカスの美女の尻を追いかけられたかもしれないな……と柄にもなく記憶に埋もれてしまった。いかんいかん今は軍務の最中だ、と気を取り直し再び少尉に視線を向ける。
「では鯨ではないのかね?バタフライといかなくとも鯨も海面に飛び上がるだろ?たしかブリーチングだったか?それを集団で行っていたのを一つの固体と勘違いしたのでは?」
「うっ、し、しかし新種のBETAという可能性も………」
川口少尉は自分で言ってその可能性の低さに閉口した。だとしたらその謎の巨大な影は太平洋を迂回し渡って来たことになる。今現在BETAの拠点「ハイヴ」は全てユーラシア大陸に集中している。BETAだとしたら何ゆえこのような盛大な遠回しに来訪する必要があるのか?まったくもって無駄である。

項垂れる部下を見詰め西村は少尉の肩を叩く。「そう落ち込むな。何かの間違いだとしても監視網のレベルは上げる。何かがいたことはたしかなのだからな?」
「ううっ、お見苦しいところをお見せしました。申し訳ありません」
敬礼し宿舎に戻っていく少尉は己の失態を恥いた。帝国軍人にあるまじき姿だ、引き締めねば!と情けない顔が兵士のそれに変わっていく。





だが一時間と経たず、彼はその生涯において最も情けない顔をすることになるのだった。



一方別の場所では………


その男は非番であった。長い長い船上生活を後にし、愛しい愛しい陸の上のそのまた飛び切り愛しい岬に腰を降ろした。
これから始まるは同じ艦の仲間にも秘密の釣りである。鯛に鯵、ヒラメにちょっとしてお茶目で拳銃(弾無し)を釣り上げた穴場である。これを肴に一杯やるのがささやかな楽しみであった。

「さあ!いざ!!」
まるで歌舞伎の役者のような掛け声であった。この男、名を石井和弘という。硫黄島駐屯地を本部とする哨戒船の砲手を担当している。その砲術技術の賜物か、針は見事な軌跡を描き、海面に美しい円を生み出した。

「フンフンフーン♪釣り人釣り人ライフ♪♪楽しいなったら楽しいな♪♪」
いい歳こいたオヤジのハイテンションは見ていてキツイものがあるが、ご了承ください。






「おっ!来た来たキターーーーーーー!!!」
さっそく当たりを引いたようだ。本当に『当たり』だとも知らずに。
「ぐっこれは大物だな!」
思わずニヤリと笑みを浮かべ針にかかった獲物を想像する。鯛かヒラメか?まさかマグロ!? 期待に胸は膨らむばかりであった。そんな石井の背後に人影が忍び寄る。
「ワッッッ!!!!」
「ブーーーーーーーーーー!??!?!?!」
「汚ねーな、吹くなよ」
そう石井に声を掛けたのは彼の観測手を務める小暮直行であった。
「てめぇ!?なんでここにいやがる!」
「お前をストーキングしたからに決まってんだろ」
もっと他に言い様があったはずであるが、敢えて誤解される言葉を選ぶのが小暮クオリティである。そう言わんばかりに胸を張った。
「ふざけんな!俺の聖域に勝手に入ってきやがって(怒)!!!」
べつにここの権利を石井が買い取ったわけではないが怒りをあらわにする。それにかまわず小暮は状況を把握する。
「なーるほど。最近良いもん食ってんなーって思ってたらここで調達してたのか。なーにが女からの差し入れだよ。見栄張りやがって」
「ぐぅぅぅぅ、仕方ねー共犯だ。分けてやるから他のやつには黙っておけよ」
悔しげに石井が唸る。それを見越したように小暮はカラカラ笑う。
「それよりすごい引きじゃん?ひょっとしてマグロか?」
「かもしれん」
期待と興奮が混ざった鼻息をもらし、石井が竿に力を込めて引く。しかし、リールは先ほどから全速力で回転を続けている。
これは伝説級を拝めるかも♪っと小暮は湧き立った。




…………本当に伝説になるとは思いもしていなかった。








「お、おい、ほんとに大丈夫か?」
「だ、だめかも?だけど逃がさねぇぜ。別嬪さんよ(ニヤリ)」」
10分もしない内に二人の様子は180度変わっていた。期待に胸膨れていた小暮は恐々と糸の先を見ていた。石井は石井で口では弱音を吐いていたが糸の先にいる存在は絶対に俺好みであると確信を持ち、逃してなるかと卑しい食欲もしくは支配欲にかられ釣りを楽しむという目的を忘れ、ある意味真剣勝負を展開していた。
そんな彼の執念が通じたのか遠い沖合いで海面が持ち上がっていく。最初は小さなものだったが、段々と近づいていく。
「オッホーーーーーーーー!!!!かわいこちゃんイラッシャーーイ!!!!」
目を血走らせ、鼻血を出しながら石井は絶叫する。隣にいた小暮は登場時とは逆に石井の咆哮に驚いてしまった。
「ま、まさかこんな大事になるとはなー。まぁいい。来いマグロ!俺は今、伝説の中にいるーーーーーーー!!!!」


















そして彼らは『伝説』の目撃者となった。
















………Side Godzilla (『ゴジラ』だっつってんだろ(激怒)!!!!!)



ハワイ沖からゴジラは全力で泳いでいた。バタフライで。
はっきり言って異常な光景であった。深海から山の如く黒い塊が海面に飛び上がり、大波を生み出しつつ潜航する。普通の生物なら急激な周辺圧力の変化に耐え切れず、潜水病になってしまう。ついでに鼓膜、肺も圧力の変化についていけず破裂してしまうだろう。
そんな生物界の常識、いや物理法則に真っ向から喧嘩を売る存在がゴジラなのであった。

「今どの辺や?」

ゴジラは謎の声(自称:空気の妖精)に質問をぶつける。だが答えは返って来なかった。

「?」

ゴジラが泳ぎをやめ、周囲を見渡す。いつまで待っても返事はなかった。
「なんやぁ?いつの間にか一人やないか。まいったなぁ」
ゴジラは今になってナビゲーターの必要性を悟った。しかも、重要な事であるのに軽い調子で考えていた。

「日本が故郷?みたいな存在やから帰巣本能でなんとかなるおもーたが難しかったかぁ。まぁしゃあない。道に迷ったら近所の人に聞く!これ基本や」
そうしてゴジラは潜水を始めた。生身での潜水ギネス世界記録を速度、深度ともにあっさりとオーバーし、太陽の光届かぬ深海に着底する。
余談だがこの時発生した巨大な水中波によって硫黄島近海にいた哨戒船のソナーはバカになってしまった。そのため、幸か不幸かゴジラのエコー画像を目にしたのは川口少尉一人だった。

「誰かいてはりませんかぁ?」
ゴジラが『ヤッホー』と同じ構えを取り、口を開く。しかし唯でさえ水中だというのにゴジラの声である。まるで海底火山の爆発のようである。

周囲の魚たちは一目散に逃げ出していた。無理もない。
だがそんなゴジラに近づくヒト……いや鯨影があった。
「オオオッ、鯨や!自分初めて見るわーー!!!っといけないいけない。早よう横浜行かな。武ちゃん達助けたらなあかんのや!!」
決意を新たにし横浜を想う。そして、通じるかどうかも疑問に思う事もなく鯨に話しかける。
「おおこんばんわぁ。儲かりまっか?」
関西弁である。予想されたことだが関西弁である。鯨相手に!!

(いやいやぁ、ボチボチでんなぁ)

はい!お約束でしたね!!!!通じましたとさ!!!!!!!

「それはなによりでぇ。ああ突然すんまへん。自分ゴジラいいます。実は日本の横浜行こう思いましてここまで来たんですけど、肝心の所で迷ってしまいまして」

(それはそれは。それでしたらこのまま北に行きなされ。日本人の船がよーさん集まっとります。その船について行けばわかるでしょう。たしかイオウジマいう名前でしたわ)

鯨は日本の地理に明るいようだ。頼りになる鯨である。

「ホンマでっか!?ありがとございますぅ」

ゴジラは丁寧にお辞儀をする。はっきり言って似合ってない行動だった。

(お気になさらずに。しかし横浜ですか?あそこは『べぇーた』とか言ういけ好かん連中の溜り場になってしもうた街でしたなぁ。そんな所に何しはりますん?)

鯨はゴジラをその無垢な瞳で見詰める。それに対してゴジラは腰に手をやり、いかにも『私、怒ってます』といった顔で答える。

「決まっとります。悪さするオバケをイテコマシたるんです(怒)!!!!」

(ホッホッホ、これは頼もしい男前さんやなぁ。応援しまっせ)

鯨は笑い、エールを送る。しかし、続く言葉にはゴジラと同様に怒りが込められていた。
(今思い出しても横浜は美しい街でしたわ。悲しい戦もありましたが、あそこは日本人の歴史と共にあった街やと思とります。そんな街に居座る小生意気な『べぇーた』なんぞ許しておけまへん!!!!どうか目にモノ見せてやってくだせい!!!!)

鯨の義憤に震える瞳にゴジラは真摯に応える。

「当然ですがな!あない(案内)痛み入ります!。ほな行ってまいりますぅ!!」


ゴジラは硫黄島へ向かう。託された義憤の炎を胸に。助けたい者達がいるから…………















………おまけ


   硫黄島にて



硫黄島。そこは日本帝国が誇る太平洋の要鎧であった。『あった』。過去形である。なぜならそこにいた防人達は侵入者を目にした瞬間に戦意を喪失してしまっていたからだ。今は全力で帝国本土に向かっている。一刻も早く本土に知らせねば!!そんな脅迫観念に突き動かされ、撤収作業もそこそこに総員撤収を敢行していた。

最初に「それ」を発見したのは誰であったか?ありえないサイズのエコーを見た某少尉だろうか?目視、確認したのであれば二人組みの砲手と観測手であったただろう。

だが今は駐屯地にいた全ての人間が船に乗り込み、必死の形相で本土を目指していた。

ある仕官が吼える。

「畜生!BETAめ!!人間様をコケにしやがって、てめぇなんぞに帝国はヤらせねえぞ!!!!!」
「そうだ!今は硫黄島はくれてやる。だが、絶対に全部取り返してやる!!!!!」

ある者は恐れのあまり、膝を抱え奥歯を鳴らしていた。またある者は硫黄島に敬礼し、血が出るほどに歯を食いしばっていた。

だが次の瞬間、事態はより一層の混迷に向かう。


「!?」
「くっそーーーーーーー!!!!!!!!あの化け物が追ってきやがったぞ!!速度上げろ!!!?!?!?!」

「やっている!機関室!!エンジンが焼け落ちてもかまわん!!全開で回せ!!!!」


混迷の海は拡がる………

























「よっし!見つけた!!あの向こうに帝国が、横浜があるんだな!!!待っとれよーーーーーBETA共、ケツから手突っ込んで、奥歯ガタガタいわしたるぜよ(怒)!!!!!」



『やっと追いつたー。お前泳ぐの速過ぎ。つかマジはえーよ。』

「ん?この声は??おお、空気の妖精か。遅かったのぉ。帝国はもうすぐじゃ。」

『ほんと予想外だよ。お前。いやある意味予想通りか?』

「なぁにくっちゃべっとる。もう行くぞ。ついて来るならとっとと来い。」

『はいはい。………………………………………………………………見せてもらうよ。君の物語を』




















「そうじゃ、お前名前はなんじゃ?」

『え、だから空気のようs「そんなおどけた名前があるか!このゴジラの相棒じゃあ。もっとビッとした名前がええわい」

























『じゃあX星人で』













………………………………………………………………続く?


あとがき

感想をくださった皆様。本当にありがとうございます。
まさか、こんなにも感想、アドバイスを頂けるとは思ってもみませんでした。
非才なれどがんばってみます。



[12389] 第三話 ※地雷注意!!
Name: エキシボ◆72060a8d ID:8c20cdfc
Date: 2009/11/08 09:06
注意書き:今回から原作キャラが登場します。可能な限り原作に近づけるようにがんばりましたが、それでも違和感を感じる方は申し分けございません。あと一部原作とは異なる設定に変更したキャラも存在します。不快感を覚えた方は本当にごめんなさい。



特大注意事項:今回ある意味『ゴジラ』を期待していらっしゃる皆様に対し「禁忌」を行います。本当に本当に本当に申し訳ありません!!!



















………Side Human(UN Base)



   ドクター・セリザワの願い


主よ、罪深き我らを許したまえ。
主よ、欲深き彼らを許したまえ。
主よ、哀れな子羊たちに安らぎを与えたまえ。





…………………………………………………………………主よ、私はあなたが大嫌いです。クソッタレめ!




私は今、日本帝国領内 国連太平洋方面第11軍 仮設横浜前線基地にいる。この基地の救護室が私に与えられた城だ。人手が足りないので帝国から出向している。そんな私が白衣に袖を通して20年になる。

この前線基地の存在意義は一つ。「BETA」を殺す事だ。
1998年、日本帝国が本州に初めて建設を許してしまったBETAの拠点『H22横浜ハイヴ』、帝国呼称「甲22号目標」を睨む様にしてこの仮設基地は築かれた。つまりはBETAを「間引き」続けるため、「戦い続ける」ために存在しているのだ。
当然だ。ここを抜かれたら後には何も無い。帝都・東京は容易く蹂躙され帝国はオシマイだろう。もっともそんな事を口に出した瞬間に首と胴体が別々になってしまうが。

帝都を守る「帝都防衛第一師団」、御所にて征夷大将軍殿下をお守りする「斯衛軍」どちらも世界トップクラスの衛士を抱える勇猛な軍隊だ。故にプライドが高い。
ここで「帝国は滅びる」に類する言葉を吐いてみろ。忽ち彼らの刀の錆びにされてしまう。まあ当然といえば当然か。祖国の命運を軽々しく口にして良い状況ではないのだから。しかし、私には帝国の明るい未来など想像出来ない。いや、人類の勝利と言った方がいいかな。

私は軍医として長年帝国に尽くしてきた。敗戦国だが前大戦の英雄である祖父から「男にとって最大の名誉とは軍人となり祖国を守ることだ」と教えられていたが、私には軍人として致命的に足りないモノがあった。
「暴力的遺伝子」だそうだ。幼少より祖父と同じく軍人となった父に鍛えられたが、それだけだった。銃を撃てば的に当たるし、組み合えば腕の一本くらい捻り上げる事は出来る。しかし、父や教官からは「殺意が無い」といわれた。
生来の気性によるものなのかもしれない。

だから医者になった。「敵」を殺せないのだから「味方」を生かすしかないだろ?
そんなこんなで20年だ。今まで沢山の「死に損ない」達を見てきた。そいつらを「死なない」ようにして再び戦場に押し戻す。実に素晴らしいじゃないか?「死」ななければ、また戦えるのだから。戦い続ければ「負けない」のだから。



……………………………ふざけるな。
今、目の前で死んだ男の体を「観察」する。純粋に「見る」事が出来なくなってしまった。職業病だな。
男の手足の付け根には傷跡がある。生体義肢の痕だ。全ての手足にある。それも一つや二つではない。腹部にもいくつかの開放痕がある。
これこそが人類の現状だ。本来なら土の下で眠らせてやらなきゃならない人間まで戦線に投入すべく、医者から言わせれば過剰なほどの延命処置を施す。
治療が完了してないにもかかわらず、前線に戻っていく彼らを見るたび己の無力を呪う。私にこの「理不尽」を消し去る力があれば、何もかも吹き飛ばしてしまえる「暴力」があれば!!

「ドクター!次お願いします!!」

徴兵されたのであろう若い衛生兵が声を掛ける。眼鏡をかけ、長い緑色の髪を二振りのおさげにしている女性だ。マナミ?と読むのだろうか。この漢字は?

「トリアージ(症度判定)レベルは?」

「イエロー(早期に処置が必要)です」

「……鎮痛剤。止血して抗生物質。次だ」

「ハイッ!」

この衛生兵は優秀だな。まだ若い。このような最前線にではなく後方でしっかりと教育すれば、立派な軍医になるだろう。それも出来ないのが歯がゆい。
今、この時も横浜ハイヴからのBETAを殲滅すべく「死に損ない」達が戦っている。



ああ、歯がゆいな。誰でもいい、全部吹き飛ばしてくれ。






















彼の願いは叶えられるだろう。他ならざる『彼』によって……………………





















………Side Human(帝国斯衛軍・本営)





蒼、紅、黄、白。色とりどりの衣装を身に纏った武人達はモニターの前で絶句してしまっていた。
古くは戦国の世より帝国と征夷大将軍を守護してきた彼らは、帝国の武の最先端にして源流であるという自負がある。ゆえに何者も恐れることは無い。そのはずであった。




「………おのれぇぇぇ、BETAめ。」

眉間に尋常ならざる深さのシワをよせ、呻くように男が呟く。顔の傷と眉間のシワが憤怒の形相を創り出している。男の名を巌谷 榮二という。

帝国斯衛軍の戦術機、瑞鶴を完成させた伝説的衛士である。だが普段の彼ならば、激情に駆られる事なく、またそれを口にするような事はなかっただろう。

だが、そうさせた存在が現れた。帝国にとって重要な砦の一つである硫黄島をなんなく落とした異形である。硫黄島の戦友達は即座に撤退した。
正しい判断だ。今までどのBETAよりも巨大な種なのだ。碌に戦術機も配備されていない硫黄島の戦力では、いたずらに犠牲を出すところだったろう。それに帝国の所有する如何なる兵器をもってしても打ち倒すが出来るかどうか疑問が沸いてくる。
しかもその異形は、断腸の思いで撤退を決めた戦友の決意を嘲笑うが如く、悠々と追随してきている。このままでは帝国本土に上陸してしまう。いや元よりここにはBETAの巣「ハイヴ」がある。このBETAは帰巣本能に従ってここを目指しているのかもしれない。

「………………まずいな」

同じくモニターを見詰めていた紅の巨漢、紅蓮大将が口を開く。
その言葉にこの会議室の全員が振り返る。

「こやつが上陸し、横浜ハイヴの勢力と合流してしまえば帝都の防衛は非常に困難になる。どのような能力を秘めているかはわからんがあの巨体だ。ただ向かって来るだけだけで防衛線が崩壊してしまう」

その光景を想像し、皆が青ざめる。

「それだけではありません。急所と思われる眼球、口内、内耳、どれもかなりの高度に存在しています。これらを狙う場合には噴射跳躍で高度を稼ぐしかないでしょう。ですが不用意に跳んでしまえば光線(レーザー)属種のいい的です。仮に大量のALM(アンチレーザーミサイル)を用いたとしても重金属雲の効果時間内に仕留めきれるかどうか………」
紅蓮大将の隣に佇む同じく紅の麗武人、月詠 真耶が補足する。結い上げた髪と眼鏡が特徴の冷静沈着な人物であるが、その顔には焦りが見え隠れしている。


バタンッ!

「なれば、合流などさせてはなりません」

突如会議室の扉が開き、鈴の音のような声が響き渡る。

「!?で、殿下!何故このような場所へ!!」

会議室内の全員が即座に向き直り、膝を突く。
だれあろう。日本帝国 征夷大将軍 煌武院 悠陽がそこにいた。

「佳しなに。報告は聞いております。月詠、彼のモノの姿を見せなさい」

「!?」

「構いません。帝国の敵を見定めるも将軍たる私(ワタクシ)の務めです」

「………畏まりました」


月詠は情報端末を操作しモニターに巨大な異形を映し出す。

「…………………なんと凶々しい姿か」

煌武院 悠陽は見詰める。画面に映る巨大な異形を。

……黒岩の如き皮膚、全長200メートルにも及ぶ体躯、鬼の連想させる巨大な四肢、地獄の山々のような背びれ。そして目に写る全てを灰燼に帰えさんとする凄惨で鋭き瞳。

悠陽は紅蓮たちに視線を向ける。恐ろしい程に凛とした真剣のような瞳であった。

「征夷大将軍 煌武院 悠陽の名において命じます。斯衛軍全軍を用いて彼のモノ退けなさい」

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

勅命である。斯衛を戦場に送る。それ即ち征夷大将軍である煌武院 悠陽が出陣することを意味する。




「………………勅命、たしかに拝命いたしました。これより斯衛軍全軍をもって彼のモノを撃退いたします!」



紅蓮大将が応じる。将軍の勅命、抗えば即打ち首である。そしてそれ以上に今の煌武院 悠陽を誰が止められようか?





彼女らがこれから相対するは真に破壊の権化である。果たして彼女らは無事でいられるのか?『彼のモノ』は『全て』を破壊してしまうのだから………………………………












1998年 某月 某日  04:56:28



  房総半島  某所




斯衛軍は目標が浦賀水道から東京湾に侵入し、横浜に上陸すると予想される事から房総半島の先端・野島崎に布陣していた。
房総半島沖には対佐渡島ハイヴ第一防衛線に派遣予定であった駆逐艦3隻を配置し、強力な砲撃でもって迎え撃つ。

精強で知られる帝国陸軍には、横浜ハイヴからのBETAに対応してもらうためここにはいない。
百里基地の部隊と教導に来ていた富士教導団だけが供に布陣していた。








「目標出現!!」

「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」」

ついに一報が来た。悠陽は唇を噛み締め命を下す。

「彼のモノの姿を」

「ハッ!…………暗号通信を受信、映像を確認ちゅ……………………………………………………………………………………………………………………は?え?何これ?」


「どうした!?早く映像を出さんか!!」

月詠が叱咤する。


「え?あっ!し、しかし?」

ないやら様子がおかしい?『彼のモノ』に何か変化が?と疑問を抱く悠陽。

「目標!高速で接近中!!速度が急激に上昇しました!!!!」

「「!?」」

やはり変化があったのか!?悠陽は堪え切れず、司令部兼将軍専用の天幕から飛び出す。

「おっ、お待ちください!殿下!!」

月詠の制止を振り切り、天幕から飛び出し沖を睨む。一体何があったというのか!!??

































「は?」


































ありえないことだが日本帝国 征夷大将軍 煌武院 悠陽は今生まれて初めて唖然とした。
品のない表現をすれば「ぽかーん」と口を開け放っていた。

その視線の先には………………………………………………………………………………

























































『ゴジラ』が『空』飛んでいた。


『口』から放射熱線をロケットのように放ち『背中向き』で飛んでいた………………………………………



















………おまけ






見つけたでーー!!!あれが横浜ハイヴやなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!






くらえ!!必殺のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ『エ・ガ・シ・ラ・ATTACK!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』








横浜に背中向きで飛来し、ハイヴ・モニュメントに『江頭アタック』を敢行するゴジラの姿が目撃されたそうな…………………









続く?



あとがき

本当に本当に本当にごめんなさい!!!!!!!
ゴジラを愛してくださる皆様には大変な裏切りを働いてしまいました!!

このオチを書きたかったがために長大な前振りを書いてしまいました!!

つまらなかったら見捨てていただいてかまいません!!

本当にごめんなさい!!!!!



[12389] 第四話
Name: エキシボ◆72060a8d ID:8c20cdfc
Date: 2009/10/05 19:13
注意事項:今回からゴジラが無双開始です。
     このSSは八割方ノリで出来ています。
     作者は身の程知らずにも笑いあり、涙ありなSSを目指しています。
     そのため一部、某デモ○ベイン並にご都合主義でストーリーが進行します。
     このSSに不快感、嫌悪を覚えた方がいらしたら本当に申し訳ありません。
     今回はシリアスばっかです。
     ※一部、R-15くらいの表現が入ります。

  ではでは、ご覧ください。






         第四話   




  ………Side Human’s from Front Line









「………………今年っていつだったけ?」

「………1998年だ」

「ノストラダムスって知ってるか?」

「来年には『アンゴルモアの大王』が来て人類が滅亡するとかほざいたペテン師だろ?」





長い沈黙が続く。






「………ペテン師じゃなかったな」

「ペテン師だよ。………………………………だって『アンゴルモアの大王』は、1998年の『今』ここにいるんだから」


国連太平洋方面第11軍に所属する二人の衛士は中破した愛機F-15Cイーグルの中で、偉大なる予言者に毒づいた。
彼らは現在重要な作戦の真っ最中であり、本来なら暢気に会話を楽しむ?余裕などあるはずがなかった。
何より、彼らの愛機―『戦術歩行戦闘機』―は共に脚部を破損させていたからだ。

『戦術歩行戦闘機』、通称:戦術機。BETAと呼ばれる人類に牙を向いた異種知性体に対抗するために造られた人型兵器である。そんな兵器が中破するような場所といえば『戦場』に他ならない。
そして戦場ともなれば、当然ながら『敵』がいる。語らずともわかるだろう。前述のBETAである。
戦場の名前は『横浜』、目的は『ハイヴ内BETAの間引き』である。

BETAの巣であるハイヴには、BETAの収納許容限界がある。BETAは生まれたハイヴに篭り、周囲の土地を食い荒らし、ハイヴに持ち帰る。その資源で新たなBETAが生まれ、ハイヴ内のBETAの数は増え続ける。そして一定数を超えたBETAは新たなハイヴを建設すべく進撃を再開する。土地を踏み荒らし、命を喰い漁りながら。まさに蛮行である。


だからといって、むざむざ喰い殺されてやる理由はない。
この横浜ハイヴを抱える国家、日本帝国は国連太平洋方面第11軍と協力し、来る『横浜ハイヴ攻略作戦 仮称:明星作戦』のために横浜ハイヴの調査及びハイヴ内BETAの間引きを行っていた。
定期的に行われる小規模作戦であったが文字通り死地に赴く任務であった。

現に今二人は、突撃(デストロイヤー)級と呼ばれる種の前面装甲殻を武器とした衝角突撃戦術により愛機の脚部に重大なダメージを負ってしまった。
このままでは歩行移動が出来ない。跳躍噴射装置を用いたブーストジャンプ移動にも限界がある。故に本来なら即座に後退しなければ、戦車(タンク)級以下の小型種に群がられてガリゴリと噛み砕かれ、死んでいくだけであった。

だが、それが訪れない。

当然だ。今ほんの数分前まで目の前にあった津波の如きBETAの軍勢は生黒い紫色の大輪に変わっている。


突然の轟音と共に何かが落ちてきた。
石とも金属ともつかない光沢を発しながら巨大な構造物がBETA群を押し潰したのだ。

なんの事はない。毎日毎日、瞳に刻み付けた忌まわしきハイヴ上部構造体(モニュメント)の欠片であった。

プッ 自分のウチに潰されてやんの。ざまあみろ。


心の中でささやかな呪詛を吐く。






次いで疑問が湧く。モニュメントが落ちてきた原因である。
あれか?手抜き工事か?と、くだらない回答を用意するが、すぐに不要となった。
なぜなら視線を上に向ければそこに原因が『いる』のだ。
二人は瞬間的に戦意が凍っていくのを感じた。








『『『GAAAAAAあああああおおあおおおおおおおおあ■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!』』』






…………………大咆哮だ。






そこに居たモノを『何』と表現すればいいのだろう?
でかい。とてつもなくでかい。巨大なんて言葉では足りない。いや大きさが問題ではないのだ!
今この瞬間!この大地が!音が!空間が!認識する全ての情報が!!『あれ』は現実だと突きつけてくる!!!





『『『GAAAあおおおおおおおおおおおあWAAAAAAAOOOOOO■■■■■!!!!!!!!!!!』』』




歓喜、哀愁、憐憫、憤怒、狂喜、憎悪、恐怖、友愛…………………………………全ての感情が意味を無さなくなるほどの轟音。後退した感情の代わりに、莫大な無力感が襲ってくる。

「……………………フハハハハハァ、『こんにちわ』大王様♪」

おどけたようにイーグルの片割れが、力無く笑いシートに体を預ける。ふと、視界に白い一閃が見える。光線属種のレーザーだ。一つや二つではない、50体はくだらないレーザーの照射を『大王』は浴びていた。
だが、防御も回避もしない。別段堪えた様子もない。むしろ煩わしく感じているに違いない。

ん?レーザー照射を受けている?…………………………………………BETAではないのか?
もう一方のイーグルが疑問に首をかしげる。



フワッ!?



大王が取り付いていたモニュメントから手を離し、下界に足を着ける。
いや『着ける』なんて生易しいものではない。着地の瞬間、大地が”裏返った”。



「「!?」」


巨大な岩盤がめくれ、木の葉ように舞い上がる。衝撃で崩壊する建築物の残骸が瓦礫の津波となって下々の存在を飲み込んでいく。

「!?ッツウ、グウゥ!!」
「クッ!?クソ!!」

暴風のアギトが機体を襲う。先ほどから装甲に瓦礫を撃ち付ける音と警報が鳴りっぱなしだ。
だがこちらはまだマシだったのだろう。大王が足を着いたのはBETAの真っ只中。
周辺にいる戦車級以下の小型種は、良くて衝撃でズタボロの血肉袋になっていることだろう。直下にいた連中は中型級もまとめて押し花になってるだろう。汚ねーな……………
人類側の被害は軽微のようだ。………………………戦線はグチャグチャであるが。





『『『ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンンンン』』』』




山が崩れたような音が聞こえる。信じられない事に足音のようだ。
一歩踏み出すたびにクソのようなBETAのクソのような血の大輪が咲く。喜ばしい事だ。



『『『GUUUあおおおおおおおおおおおあWAAAAAAA△△あああああOOO■■■■■!!!!!!!!!!!』』』


大王が天に向かって吼える。星の大気層がちょっと吹き飛びそうになる。空の色が変わってしまうかもしれない。

大気中に強烈なイオン臭が漂い始める。それと同時に大王の山の如き背びれが力強く発光する。大王の首筋から顎にかけて強大な筋肉が盛り上がっていくのが見える。人間であれば頬にあたる部分が盛大に歪んでいる。歯茎をむき出しにし視線だけで国が滅びそうな瞳を見開いている。






次の瞬間、大王の『憤怒』は解き放たれた………………………………………………………………








  ………Side Godzilla(ツッコミは後や!!)




「タマとったらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!!」

ゴジラは吼える。万感の怒りを込めて喉を開く。するとどうだろうか、胸の奥から怒りの具現ともいえるチカラが溢れ出で来る。


禍々しい背びれが発光し閃光!と同時に激熱の吐息が地表を焼き払う。
本来ならこの横浜を我が物顔で闊歩していたであろう突撃級、要撃級、以下小型種はなんの抵抗も出来ず灰燼と化した。ゴジラはそのまま閃光を薙ぎ払う。まるで箒で塵芥を吹き払うように地上を嘗め尽くす。直撃を受けたBETAは肉片一つ、原子一つ残さず蒸発していく。

続いて轟音を立てて足を踏み下ろす。足元には醜い花が咲いた。虫ケラを踏みにじる。そうゴジラにとってBEATは虫ケラに等しき存在であった。
だが、その虫ケラに並々ならぬ激情を抱いていた。

ゴジラは知っている。この虫ケラには悪意は無い。唯のシステムの歯車であり、プログラムを実行するだけの有機作業ユニットであると。

しかし許す気はない。個人的感情で構わない。独りよがりな癇癪で構わない!絶対に殺させはしない!!!


ゴジラはまず地表に展開している全BETAを殲滅する気でいた。人類に流れ弾が向かないように細心の注意を払いながら狙いをつけ、可能な限り放射熱線の回数を抑え、焼け野原を造り出す。。
要撃級、突撃級、以下小型種が群がってくる。それを長大な尾で薙ぎ払う。圧倒的な質量が潰し、砕き、すり潰す。光線属種のレーザーなどその身に秘める原子のチカラに比べれば静電気のようなものである。すでに脅威には成りえない。

全BETAの中でもっとも己に近い、全高66メートルの体躯を持つ要塞級が来る。だが恐れなど微塵もなかった。
要塞級から三胴構造の先端に位置する全長約50mの触手のカギ爪状の衝角が強酸性溶解液を撒き散らしながらゴジラに叩き込まれる。
背後の要塞級を含むBETA群を尾の一撃で薙ぎ払い、ゴジラは正面からそれを受け止める。
受け止められた要塞級の動きが止まる。ゴジラはそれにかまわず要塞級を振り上げる!

通常は「く」の字状のシルエットを持つ要塞級の体が一気に振り伸ばされた。本来ならありえない間接の可動に耐え切れず、尾節が根元から千切れる。だが、千切れきれる前に地表に叩きつけられた。おそらく地球上で初めてではないだろうか?全長52メートルを誇る最大のBETA、要塞級が投げ殺されたのは?
ダメ押しとばかりにゴジラが要塞級から毟り取った尾節を頭部に叩き込む。要塞級は完全に、いや過剰なほどに死んだ。己の武器で。


「今のは柏木のお嬢さんの分やぁぁぁぁああ!!!!!!!」


ゴジラの計画はこの横浜ハイヴ内より全てのBETAを引き摺り出すことである。ハイヴに突入してしまえば下手に放射熱線を使えない。すでにX星人からの情報で武、純夏の位置は把握している。だが一歩間違えれば、武、純夏の二人を蒸発させてしまうからだ。そのため横浜ハイヴをもぬけのからにするつもりだ。


ゴジラは振り返り、怒りに燃える瞳で叫ぶ。


「怯えろぉぉぉぉぉおおおおおおお! 竦めぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!! 蹂躙される恐怖を味わい、死んでいけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!!!!」







相手の都合を理解しつつも、己の意志でゴジラは暴虐のチカラを振るい続ける。まさしく『暴力』そのものであった。




























『…………………………………………………………ヒュー、やるねー。さて今のうちお仕事お仕事っと』












  ………Side Human’s from  HQ〔香月 夕呼〕



……………『魔女』はワラっていた


ふは、ふははははは、はは、はっはははっはははははははは!ハーハハハハハハハッハッハhアっはははっははっはっははははっははっはっはははっーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!











なんだ『あれ』は?なんだ『あれ』は!?なんだ『あれ』は!?!!??!




こんなにも脳細胞が湧き立つのは一体いつ以来だろう?親友の神宮寺まりもをからかい、どうやって男と既成事実を造らせてやろうと画策した大学以来だろうか?
いや、そんなものとは比べようもない。
今私の脳内は大量のエンドルフィン、アドレナリンを含む脳内麻薬で満たされている。むしろ頭が破裂してしまうくらいに分泌を続けている。
それに脳だけではない。体中の器官が、骨格が、神経が、全細胞が嗤っている。これは歓喜?それとも狂笑?どちらなのだろう?ゾクゾクと背筋が凍える。顔が熱い。子宮が疼く。ひょっとしたら濡れているのかもしれない。

フフッ、いい。イイわっ!

上等よ。コレで全ては限りなく白紙に近づいた。。
『あれ』は間違いなくBETAと敵対している。BETAと同属であれば、あの忌々しい光線属種の照射を受けることはまずありえない。
例え、BETAと同じ『起源』なのだとしても両者は完全に敵対している。こちらに敵意はないのか?それともBETAにしか興味がないのか?人類は蚊帳の外だ。ならば『あれ』とコンタクトを成功させる事ができれば、人類滅亡のスケジュールを書き換える事ができるかもしれない。『計画』は再び「オルタネイティヴ1」の段階に戻ったといえる。


『あれ』が再び口を開く。そこから吐き出される青白い『暴力』の奔流。先ほどの第一射が放たれたとき、戦場の全ての人間が沈黙した。

わずか二秒にも満たない時間で『あれ』は横浜ハイヴ地表に展開していた一万近くいたBETAを蒸発させた。この戦域にいるBETAの1/5をである。

観測機器からの報告で大量の放射線反応が確認された。つまり『あれ』は核エネルギーを内包している事になる。攻撃手段として使用出来るほどの莫大な量を!!!

おまけに放たれた放射線反応が急速に消失していく。何かの冗談かとも考えたが答えはすぐに出た。
放射線反応は『あれ』に近いエリアから消失していった。つまり、自らが放った「攻性的」放射線を自らで「吸収」しているのだ!フフッ『単独』で「完結」している生物がいるなんてねぇ。それに核を内包しているのなら納得できる。あれだけの莫大なエネルギー量に耐えているのだ。いまさらレーザーによる攻撃なんて静電気くらいにしか感じていないのだろう。


興味深い、興味深いわ!!!

たかだか要塞(フォート)級の2倍程度しかない大きさの存在が莫大な核を内包する。それだけでも驚愕なのに、薙ぎ払うように放たれる放射線の奔流は有象無象の区別無く全てを吹く飛ばしていく。一方的に劣勢であった国連と帝国に同じく一方的に救いの手を差し伸べる…………本人にその自覚があるかは謎だが。

勝手に来て、こちらの事情を一切無視し、一方的に救う。


このような存在をなんていったかしら?確か「宮沢賢治」の「猫の事務所」にあったわね?


…………………………………………………そう、『デウス・エクス・マキーナ』ね。ありがと。


「司令、『あれ』の呼称を「デウス」級と仮定します。全軍にデウス級の進路より退避するように伝えてください」

「しかし香月博士………よろしいので?」

「問題ありません。デウス級は完全にBETAと敵対行動をとっています。それにこちらからデウス級に手を出すのは意味がありません。レーザー照射にすら耐える生物です。現在の国連及び帝国の装備では手も足も出ないでしょう」


「…………………………わかりました。全軍に通達!未確認目標を以後「デウス」級と呼称、デウス級の進路より即時撤退せよ!攻撃は不要、信号『我ニ続ケ』を継続発信せよ!」

命令が飛ぶ。もともと今回の作戦は「間引き」が目的である。先ほどのデウス級の攻性的放射線5・6発で地表に蠢いていたBETA群は尽く蒸発するだろう。すぐにハイヴ内の残存BETAが出て来るだろうが問題はない。半日と経たず、横浜ハイヴは空になる。もしやそれが目的なのかもしれない。

私は発令所を後にする。向かう先は私の個室だ。そこにいるであろう小さな助手に用がある。

そうそう、さっきの疑問に答えてくれたお礼を考えなくてはならない。天然ものの紅茶とケーキがいいかしら?今の私は興奮している。小さな助手が男だったら添い寝くらいはしてやってもいいだろう。





カッカッカっと硬い床をハイヒールが叩く音が廊下に響く。目の前には私の個室のドアがある。手には副官に用意させた天然ものの紅茶とケーキを載せたトレーがある。気分がよかったので自分で運んできた。

「社、いるかしら?入るわよ」

ピッとセキュリティが反応しドアがスライドする。

「社、早速だけどやってもらいたい仕事ガ……………………」












………………………………………………………………………………ガチャン!



紅茶とケーキを載せていたトレーが滑り落ちる。ケーキの生クリームがハイヒールに纏わりつく。そんなことに構っていられない。





「ハア、ハア、ハア」




私の助手、「オルタネイティヴ3」の成果「社 霞」が息も絶え絶えにペンを握っていた。
普段から動じない静かな少女であったはずだが、今は違う。
ウサギの耳の如くまとめられた長い銀髪とバックワイト素子の髪留めを振り乱し、一心不乱に壁に向かっていた。

右手にはマジックペンが握られており、足元には使い切ったと思われるペンの残骸が転がっていた。

天井を除く全ての壁にビッシリと記させた謎の公式。ざっと流し見ても意味があるとわかる。そして何より、そこには私が渇望する形があった。


右腕はすでに痙攣し、服の袖はインクが滲み真っ黒に染まっていた。それでも彼女は手を止めない。



「社、何をしているの?」



答えは期待していない。彼女の反応こそが一番ほしかった。





「……………………………………………………………………………………………。」





長い沈黙が続き、社の手が止まる。終わったようだ。その証拠にペンを取り落とし、こちらに向き直る。その瞳には奇妙な光が宿っていた。


「…………………………………………………………………『壁』の彼方より愛を込めて」
「!?」


社は崩れ落ちる。急いで駆け寄り脈と呼吸を計る。熱があるようだ。即座に端末で救護班に連絡する。



「これは!?」


社が最後に書き綴った壁を見詰め全てを悟る。フフフッ。最高よ社。添い寝なんてケチな事は言わないは!アンタの子供生んであげるわ!!!そう。そういう事!おもしろい!!おもしろいじゃないの!?


私は今最高に愉悦に歪んだ顔をしているのだろう。いや、『コレ』を送ってきた『ワタシ』達も同じ顔をしているのだろう。






「人類を無礼るな!!!BETA!!!!!!」



勝ち誇ったかのようなに妖艶に嗤う香月 夕呼がそこにいた。















………………続く?






あとがき:たくさんの感想、アドバイス本当にありがとうございます。特に放射能の件につきましては助かりました。実際頭を悩ませていました。
武・純夏の救出は昭和ゴジラ並みの怪獣プロレスで行おうかとも考えましたが、ゴジラの『暴力』の象徴である放射熱線はどうしても使いたかったのでこうなりました。
またはエヴァン○リオン初号機の暴走モードなみにエグイ肉弾戦にしようかな?とも妄想しておりました。でもそれだと「ゴジラ」ではなく「Godzilla」になってしまうので見事にボツです。すでに「ゴジラ」でない気もしますが…………

さて今回かなり風呂敷を広げてしまった感があります。一応理由付けは出来ています。でもそうしたら冗談じゃなくほんとにデモン○イン並みのご都合主義になってしまい、自己嫌悪に陥りました。

プロット作成→ネタをはさむ→細かなあらすじを入れる→矛盾発見→適正?化で妄想が肥大する一方なのです。あとゴジラの咆哮の表現がうまくできない(泣)。

あと最終話から造り始めたのが悪かったのか登場させる人物に制限ができてしまったり、有り得ないだろうというキャラの変化が出てきてしまいました。不快に思われた皆様には本当に申し訳がありません。




追伸:霞嬢ごめんね。



[12389] 第五話※劇薬注意!!  【一部修正】
Name: エキシボ◆e1d483d5 ID:8c20cdfc
Date: 2009/11/08 12:34
注意事項:このSSは八割方ノリで出来ています。
      作者は身の程知らずにも笑いあり、涙ありなSSを目指しています。
      そのため一部、某デモ○ベイン並にご都合主義でストーリーが進行します。      このSSに不快感、嫌悪を覚えた方がいらしたら本当に申し訳ありません。









  ………Side Human’s 第19独立警護小隊  〔月詠 真那〕


  1998年 某月 某日  02:50:11  ゴジラ、日本上陸の約二時間前。




日本帝国帝都 東京。豪華絢爛にして堅牢たる帝国の文字通り最後の光の都である。親愛なる征夷大将軍 煌武院 悠陽殿下のお膝元であり、帝国の天王山でもある。

今帝国は危機的状況にあった。1998年、ユーラシア大陸を席捲した人類に敵対的な地球外起源種―――BETAにより本州は関東より西を残し、寒々しい荒野が続く大地になってしまった。
この状況を親愛なる征夷大将軍は非常に涙しておられる。北九州から始まったBETAの蹂躙戦により、わずか一週間で九州・中国・四国地方は壊滅。犠牲者は3600万人、日本人口の30%が犠牲なってしまった。さらに帝都の目と鼻の先、横浜には忌まわしきBETAの拠点「ハイヴ」の建設を許してしまった。。
それは正に悪鬼の城であり、さながら鬼ヶ淵である。
そびえたつハイヴの象徴、モニュメントの姿が人々から生きる希望を失わせていた。

ここ帝都の一画、征夷大将軍の御所を見守るように立つ武家屋敷 御剣邸に集う第19独立警護小隊の面々も、そんな帝国の未来を憂う者達の一つであった。



「………忌々しい蟲共め」


モニュメントを睨み珍しく悪態をつくこの女性、月詠『真那』中尉は第19独立警護小隊を率いる隊長である。御所にて征夷大将軍 煌武院 悠陽殿下の傍に仕える月詠『真耶』大尉とは従姉妹に当たる。

月詠真那はここ御剣邸にて「ある人物」の警護にあたっていた。人物の名は〔御剣 冥夜〕、何を隠そう〔煌武院 悠陽〕の双子の妹である。
本来であれば将軍の縁者、それも血を分けた姉妹である彼女も御所にて守護される立場にあるべきであったが、さる理由にてその存在を秘匿されている。

武家において古くから双子は「家を別つ」、「跡目争いの目」といわれ好まれるモノではない。彼女らもそれが原因で姉妹がそろうことはなかった。
だが二人は離れ離れとなりながらもお互いがお互いを敬い、その身を案じていた。
煌武院 悠陽は妹である冥夜幸せを願っている。陰として生きる事を強要され、決して表舞台に上がる事を許されぬ身である妹の幸せを。
御剣 冥夜は姉である悠陽の安寧を願っている。陽に照らされ続ける人生で、その心が少しでも安らかであるようにと。

真那、真耶はそんな二人の傍に付き従い、二人に降りかかるであろう数多の火の粉から二人を守る所存であった。故に先の情報部からもたらされた『ある報告』に怒りを抑えきれないでいた。



ほんの15時間前に知らされたある情報。

『硫黄島が墜ちた』

帝国を守る太平洋の要鎧であるかの島、硫黄島。あの島が墜された。一体誰に?なんの理由で!?
湧き上がる怒気と疑問を押さえ込み、報告の先を促す。報告を聞き終えた瞬間、一気に怒りが燃え上がった。

……………たった一体のBETAによって硫黄島は墜された。それも新種の今までのどの種よりも巨大な固体が現れたというのだ。しかもそいつは、撤退中の味方船団の後を悠々と追跡してきている。

このままでは本土上陸は時間の問題だというのだ。

「………………………………………わかった。それで大本営はなんと言ってきた?」

怒りをなんとか押し隠し、伝令に向き直る。

「ハッ!殿下の勅命により斯衛軍全軍をもってこれを退けよ!!との事です。月詠中尉以下第19独立警護小隊は貴下の任務を続行せよっ!なお、デフコン2にて対応せよ。との事です」
デフコン(ディフェンスコンディション)2…………ファーストフェイス、『敵』と正面から向かい合う。西部劇でいうと撃ち合いの前に、相手と正対して立っている状態を示す。つまりは戦術機をも持ち出して臨戦態勢での警護になるという事だ。



………………………………………………冥夜様に隠してはおけん、か。


「了解した。第19独立警護小隊は任務を続行する。…………………………殿下を頼む」

「ハッ!必ずやお守りしてみせます!!」


走り去る伝令を見送り、月詠中尉は黙考する。この報告を聞けば自らの主君は心を痛めるだろう。ひょっとしたら愛刀「皆琉神威」を片手に前線に出て行ってしまうかもしれない。それほどまでに殿下を想う主君にどう説明したものか…………

頭を捻りながら主君の待つ大広間に向かう。その足取りは重かった。












  ………Side Human 〔煌武院 悠陽〕


 1998年 某月 某日  08:21:09  ゴジラ、日本上陸より約三時間後、横浜ハイヴの全BETA殲滅より12分後。






一体なんなのでしょう?『あれ』は?

今私(ワタクシ)の目の前に広がる人外魔境の成れの果て「横浜」。その中心で勝ち鬨を挙げる「デウス」級―――つい先ほど国連よりもたらされた『あれ』の暫定呼称―――。




『『『GAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaおおおおオオオオオオぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ■■■■■■』』』



デウス級が天に向かって咆哮しております。最初目にした時はそのあまりの理不尽さに不覚にも絶句いたしてしまいました。
硫黄島より帰還した者たちの報告では全長約200メートル、前高約100メートル。二足歩行を行う巨大なBETAであると聞き及んでおりました。




今この帝国は危機に瀕しております。日本海に存在する「佐渡島ハイヴ」、帝都の目と鼻の先にそびえ立つ「横浜ハイヴ」。実質、帝国は眼(まなこ)と喉元に刃を突きつけられた状態にあり、真に遺憾ながら国土奪還の目処は未だに立っておりません。

日々不安に怯える民草を護るため一刻も早いハイヴ攻略が必要であるものの、先のBETA本州上陸の際、散っていった多くの英霊の不在は徴兵という更なる重荷となって民草を苦しめております。そして何より、BETAの侵略は今も続いているのです。
このままでは帝国は滅びる。征夷大将軍である私が一番考えてはいけないこと考えてしまうほどの現実。



なれば、これ以上はやらせてなりません!!



民草を護るため、斯衛を引きつれ出陣した私は万感の決意を胸に『彼のモノ』を待っておりました。本当に紅蓮達には迷惑をかけます。
真耶さん…………こんな私の我侭にお付き合いしてくださって本当に感謝いたします。

未だ紫の瑞鶴を駆ることの出来ぬこの身。一体どれほど皆の力になれるかわかりませぬがこの命、帝国を、民を、皆を護るため、全てを懸ける所存であります!!!



















そう覚悟を決め、明けの景色を見詰めておりました。
しかし………………………あ、あれはなんだったのでしょうか?

巨大な恐竜型のBETA………いえ、今となってはBETAかどうかも怪しいモノですが、あの姿は「今」目の前に広がる圧倒的な絶景を創りだした存在――デウス級――とは、あまりにもかけ離れております。
なぜならば、「現実」という言葉を正面から全否定したような格好で『飛来』した『あれ』はそのまま横浜ハイヴ・モニュメントに突撃を敢行したのです。


















お尻から。


















プリッ!っと切れのある動きでお尻から。

なぜか『シャキーン!!』という効果音?が聞こえた気もいたします。














な……何を言っているのかわからないと思いますが、私も何が起きたのかわからないのです。


頭がどうにかなりそうです………。

とても恐ろしいものの片鱗を味わった気がいたします……。



何故でしょう?頭の中に何やら覚えの無い知識があるような気がいたしますが、これは一体?

もうなんなのですかこれは?

そして瞬く間に足元に群れる雲海のようなBETAを駆逐していったのです。
先ほどまでのどこか愛嬌のある姿とはうって変わって苛烈、この世の煉獄を生み出さんばかりの暴虐ぶりでした。



しかし目的は不明ですが、デウス級がBETAと敵対しているということはわかりました。少なくとも数多のレーザー照射を受けていることから「仲間」ではないのでしょう。
国連からも「攻撃ノ要ナシ」と情報がおくられており帝国軍は帝都防衛線を再構築、戦線を押し下げています。

あのデウス級がこちらに矛先を向けない限り帝都は大丈夫でしょうが、その肝心のデウス級は何を考えているのかさっぱりわかりません。
当初はBETAの帰巣本能に従って横浜ハイヴを目指しているとばかり思っていましたが、まさかその横浜ハイヴの殲滅が目的だったとは…………



あら?モニュメントを吹き飛ばしました?ハイヴ内部に進入していきますね?








あっ!? 出てきましたわ。なんでしょう? 手を握っている? 何かを運んでいますね?


!? 帝都に向かっている! やはり敵なのでしょうか!?


「真耶さん!デウス級を追跡します。紅蓮は部隊をまとめくださいまし!!」

即座に指示を飛ばし追跡に移る。帝都の民をやらせるわけにはまいりません!


「殿下、僭越ながらあの『デウス級』に帝都を攻撃する意思はないと愚考いたします」

「………………………そのようですね。先ほどの攻撃にあった『功性的放射線』。あれであればあの位置からでも、たやすく帝都を跡形も無く吹き飛ばせるはずでしょうから」

急速に頭が冷えてくるの自覚し答える。

「ハイ。加えて何やら運んでいます。仮にBETAの運搬だとしても彼奴の手の平に納まる程度の大きさであれば、せいぜい戦車級が数体でしょう。帝都守備隊であればたやすく駆逐いたします。ハッキリ申しまして、意味がありません」

「…………その通りです。冷静に考えてみるとあの『功性的放射線』もあきらかにこちらの布陣を避けていました。デウス級がなにか目的を持って横浜に上陸したとしたら、おそらくは今手にしているモノこそがそれなのではないでしょうか…………」

目的がある。つまりは「意志」を持つ可能性がある。だとしたら何故BETAと敵対しているのだろうか?何故人類に、帝国に味方するのか?


今私は得体のしれない衝動に動かされている。それを自覚できる程に。


確かめたいという好奇心? 
違う。


征夷大将軍としての責任?
違う。


もっと違う『ナニカ』が『ワタクシ』を突き動かすのを感じる。


あそこに行かなければならない!

あそこに居なければならない!!

あそこにワタクシの『天命』が存在する!!!


そんな根拠のない使命感が自らの内に滾るのを感じる。だが不思議と疑問は湧いてこなかった。







デウス級が帝都の一画で停止した。帝都城よりほどなく離れた武家屋敷である。帝都城下には進入する気配はない。やはり人類に敵意はないのか?

武家屋敷の周囲には紅、白、黒の瑞鶴が突撃砲の砲口をデウス級に向けていた。デウス級が身を屈めその手に持つ『ナニカ』を地に降ろす。武家屋敷の邸内にいるにもかかわらず守備隊が攻撃しない。そもそもここまで接近されていたというのに攻撃を加えなかったようだ。
こちらからの積極的な攻撃は命令していないが自衛のためであれば許可している。だというのに何故?

守備隊の瑞鶴が動く。砲口を下方に向けてかと思えば近接戦用短刀を展開し何かを切り刻んでいる。
不意に指示が飛び合う。先ほどまでの緊迫状態が一気に崩れ、武家屋敷は慌ただしくなる
デウス級が立ち上がる。この瞬間、私は護衛を振り切り武家屋敷邸内に駆け出した。



得体の知れない『ナニカ』が体を動かす。あそこに行けと!そこに向かえと!!「天命」に立ち向かえと!!!






















デウス級が見下ろす邸内の庭。そこでワタクシは『運命』に出会った。










  ………Side Human  〔御剣 冥夜〕




 
 1998年 某月 某日  08:21:09  ゴジラ、日本上陸より約三時間後、横浜ハイヴの全BETA殲滅より12分後。




………………わからない。わからない。全てがわかならい。

だというのに疑問が湧かない。何故だ?


この『奇妙な感覚』を覚えたのはほぼ24時間前である。
本来であれば道場で朝稽古を終え、汗を流している。それが私の日常であった。
しかし、この日は違った。
朝日を迎えても瞼が開くこともなく、何かを『読んでいる』感覚に襲われた。夢を観ていたのだろうか?だとしても夢の内容を覚えていない…………。
結局、目覚めたのはいつもの三時間も後だった。護衛の月詠からは「お疲れのご様子だったので」っと不要な気遣いをさせてしまった。許すがよい………。

しかし一向にこの『感覚』は消えることはなかった。本当に妙だ。胸騒ぎなのだろうか?何か良くない事が起こるとでもいうのだろうか?


そして日も暮れた月夜の刻限。私は大広間に正座していた。ここにいなければならない。何故かそんな気がするのだ。

明かりもつけず黙々と瞑想にふける私に声が掛けられる。月詠だ。

「冥夜様、起きていらっしゃるのですか?」

「……………よい、寝付けぬのだ。それに惰眠を貪るくらいなら己を磨くのに丁度よい。僥倖というものだ」

「……畏まりました。ですがご自愛ください。御身に何かありましたら彼の御方が悲しみます」

「………………………そうか、そういうものか。月詠、そなたに感謝を」

「もったいなきお言葉、光栄でございます」

またも月詠に要らぬ心配をさせてしまったな…………不覚だ。

「…それで月詠、何用だ?このような時間にそなたが来るということは、何かあったのであろう?」

「…………………ハイ。率直に申し上げます。硫黄島が『墜ち』ました」

「……………続けよ」

「ハッ、本日未明、硫黄島駐屯地よりコード991〔BETA来襲〕の一報が入り、駐屯部隊は総員撤退を開始。現在、全速で帝国本土に向かっておりますが………撤退中の部隊を硫黄島を襲撃したBETAが追跡しております」

「どれほどの数が?」

「……………………………………………………………一体でございます」

「!?何?」

「送られたきた情報と映像では巨大な恐竜のようなBETAであるという事です。全長200メートルはあるかと」










………………………………………………不思議だ。今『覚悟』が決まったようだ。



「わかった。殿下はどうなされると?」

「ハッ、斯衛軍全軍をもってこれを退けると…………」

「…………そうか、ならば私に出来るこ事は、信じて待つ事だけだな」

「……………………冥夜さ「そなたに感謝を」っ!!」

月詠が下がる。あの者には心配を掛けてばかりであるな……この身の未熟を許すがよい。






















そして『あれ』が来た。今私の目の前に。


「冥夜様、危険です!御逃げくださいっ!!!」

紅の瑞鶴が突撃砲を構え、『あれ』の眼前に出る。月詠だ。


「かまわぬ!!誰も手を出すな!!」

「しかし!『手を出すな!!!』ッツゥ!」


すまぬ月詠。しかし、こうしなければならない。そんな気がするのだ。理由はわからぬ。わからぬが『ナニカ』がそう囁くのだ。私の魂に………









『あれ』が私を凝視している。不思議だ。恐怖も嫌悪感も無い。それよりも『待って』いた。っといった感じだ。「何」に?「誰」を?

…………わからない。わからない。

だが、今ここに、こうして存在することが私の『絶対運命』である。そんな気がする。いや、『絶対運命』が訪れるのだ!

『あれ』が身を屈め、その手に握るものを地に降ろす。即座に月詠達の持つ36mmと120mmの砲口が睨みをきかす。だが直ぐに杞憂に終わる。




それは土くれであった。見た事もない色の土と岩が幾何学的な形をした何かの土くれだった。




…………ガサッ


物音がする。土くれの中から発せられている。


………………ガサッ「    ……っかりして!   …ケルちゃ………      ………だよ!」



      声?



「   ………スミk…お前だけで…  ……はやっ   …痛っっううゥゥゥゥゥゥ」

「ダメッ!!タケルちゃ……嫌!!!独りにしな……  ……………」


     人の声!?


何も考えず土くれに突っ込む。肩から体当たりをするようにぶちかます。

「誰か!誰かそこにいるのか!!??」

「…っ!!?…こに、ここにいます!!助けて!タケルちゃんが、タケルちゃ……が!!!」


クッ!?人の力ではビクともしない!

「月詠!!!」

「ハッ!お下がりくださいっ!冥夜様!!」

月詠の瑞鶴が近接戦用短刀を展開し、爆弾を解体するような繊細な手付きで土くれを剥ぎとっていく。私は白の瑞鶴に庇われ一歩下がる。


「「!?」」

「至急衛生兵を呼べ!重症だ!!負傷者が二人いるぞ!!!」


遥か頭上で怒号が響く。月詠の駆る紅の瑞鶴。その手の平には二人の少年と少女がいた。

少年は歪であった。右腕がなかった。体の右半分が削られていた。両足の骨は折れているのが一目でわかる。

少女は泣いていた。少女は泣き叫んでいた。少女は下着姿であった。着ているものを全て少年の傷口にあて、手で押さえ、必死に血を止めようとしていたのだ。


「クッ!?」

私は走り出す。制止を振り切り、瑞鶴の手の平の上、二人の傍らへ。

「しっかりするのだ!死ぬな!!」

私も身に着けていた小袖を脱ぎ去り、少年の傷口にあてる。格好など気にしていられない。それでも血は止まらない。白い小袖はみるみる赤に染まっていく。血が噴出し、顔にかかる。かまっていられない。


「あきらめるな!生きているのだ!!ここに存在しているのだ!!消えるな!!!」

必死に声を投げかける。死なせたくない。だがこのままでは!!??!?








「そうです!あきらめてはなりません!!!」




突然、背後から声がかかる。………………………………知っている声だった。














「何を呆けているのです!”冥夜”!!」

「!? ハイッ!”姉上”!!」


迷っている暇はない。姉上も服を脱ぎ下着姿にかまうこともなく傷口に押し当てる。袖を縛り止血をし、傷口を上に向け出血を妨げる。持ってくれ!!


「殿下!冥夜様!お下がりください。救護班が到着いたしました!!!」

続々と人が集まってくる。その様子を『あれ』は見詰めている。身動き一つ。瞬き一つすることなく、私達を見詰めていた。








少年と少女が救急車に運ばれていく。人一人救えない己の無力を噛み締め、それを見送る。



振り返れば、姉上がいた。






「………………………………冥夜」



「………………………………姉上」



今私達はひどい格好だ。下着姿で上から在り合わせのシーツを身に巻いている。さらには血で褐色に染まっていた。まるで南国人のような格好だ


スゥとお互いが手の平を出し合う。手の平が合わさりしっかりと握り合う。まるで合わせ鏡のようだ。


声もなく、笑いあう。何故だろう。こんな事をしている場合ではないはずだ。現に目の前には『あれ』がいる。見詰めている。



だがそんな事よりも言わなければならない事がある気がする。まただ。「気がする」だ。
姉上も同様なのだろう微笑んで見詰めている。


私達は手を取り合い、身を寄せ合い、『あれ』を正面から見詰める。

『あれ』と視線が重なる。恐れはない。嫌悪もない。むしろ畏怖さえ感じる。


そして私達は言葉を紡ぎだす。











































「「ゴ ジ ラーーヤ  ゴ ジ ラーー  」」


「「 (小さき命の祈りに応えて 今こそ 蘇れ) 」」


「「 (ゴジラよ 星の生命を得て 我らを守れ 平和を守れ) 」」


「「 (平和こそは 永遠に続く 繁栄の道である )」」






………………………………………………………………それは、「命」を護る歌だった。













  ………Side Godzilla  (………どないしよ【汗】)
























………………………………………………………………『モスラ』の歌やん………………













      
続く?



あとがき:               ごめんなさい(いろんな意味で)


追記:全てに意味があります(たぶん)
   全ての答えはエピローグで

追記2:モスラの歌を修正しました。和訳(?)+αだから大丈夫なはず。



[12389] 第六話 ※非常に狭いネタです。ご注意してください。
Name: エキシボ◆e1d483d5 ID:8c20cdfc
Date: 2009/11/08 12:35
注意事項:このSSは八割方ノリで出来ています。
     作者は身の程知らずにも笑いあり、涙ありなSSを目指しています。
     そのため一部、某デモ○ベイン並にご都合主義でストーリーが進行します。
     このSSに不快感、嫌悪を覚えた方がいらしたら本当に申し訳ありません。
今回はつなぎの回です。
     次回から真面目成分大目となります。




  ………Side 横浜ハイヴ下層エリア 人類サンプル監房 〔白銀 武〕


ゴジラ、横浜ハイヴ突入の5分前。



くそ! くそっ!!、クソッッッッ!!! ちくしょう!!!!  気持ちワリィーんだよ!!!!!近づくんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!!!!








今俺の腕の中には純夏がいる。震えている。当然だ。

ここは横浜。俺達の街。俺達の故郷――――――――――――そのはずだった。
だけど今は違う。このクソッタレなBETAの巣になっちまった!!!


あの日、俺と純夏は両親と一緒に軍のトラックで疎開先に向かっていた。だがそこにヤツラが来やがった!!帝国の軍人達が応戦したけどダメだった。戦術機はレーザーに融かされ、戦車は踏み潰され、兵隊は喰い殺されていった。

トラックも兵士級とか言うヤツに取り付かれて横転させられた。親父とお袋とははぐれちまったけど…………たぶん殺されてる。

俺は純夏の手を引いて必死に走った。途中純夏が足を挫いちまったけど背負って逃げた。純夏は自分をおいて一人で逃げろとか言いやがった。

出来るわけねぇだろ!!!!

14年の短い人生だったけど、その人生で一番早く、長く走ったと思う。直ぐに靴の底に穴が開いた。瓦礫やガラスの破片が足の裏にいくつも刺さったけど気にしていられない。
14年過ごした街は跡形もなくなっていた。純夏と一緒に買い食いした駄菓子屋には『ナニカ』の血が溢れていた。純夏と一緒にいたずらした近所の雷オヤジの家は潰れていた。純夏と一緒に遊んだ公園にはヒト『だった』ものの頭だけが転がっていた。

みんな死んだ。みんな殺された。

シンダ。コロサレタ。シンダ。シン、しシ死死しシしししし死死死。

俺達の街は、いつのまにか死で溢れかえっていた。そんな中に純夏を一人残してなんか行けるはずもない。

商店街のアーケードを潜り、ひたすら走る。ここを抜ければ帝国軍がいる。助かるかもしれない。いや、助けるんだ!


あと20メートル。もう少しだ。


あと15メートル。戦術機が見えた!?助かる!


あと10メートル。この十字路を抜ければ!!


あと5メートル。助かる!助かるぞ!!! もう大丈夫だ、すみk……………



振り返った時、目に飛び込んできたのは、アーケードの上から飛び掛ってくる兵士級だった。















気がつけば、得体のしれない場所にいた。俺だけじゃない。純夏もいる。すぐに怪我がないか確認する。よかった、かすり傷程度か………


意識を周りに向けた。見た事もない鉱物だか金属だかで出来た部屋だった。そこに自分達を含め、50人以上の人達がいた。
皆、擦り傷や切り傷。ところどころ怪我をしている人達だかりだった。
一目でわかった。ここにいる全員はBETAから逃げていた人達だ。

次第に意識を取り戻す人達。はっきりいって混乱している。ココはどこだ?




そんなとき「ヤツラ」が現れた。

「「「「「「「う、うわぁぁぁああぁああぁぁぁぁあああああ!!!!!」」」」」」」
たちまち絶叫が木霊した。慌しい声に純夏が目を覚ます。

視線の向こうで男の人が兵士級に捕まっていた。他にも逃げ出そうする人もいたがダメだった。
直ぐに兵士級に捕まり、その場で喰い殺された。
俺は直ぐに純夏を正面から抱きしめた。「あれ」を見せないためだ。純夏も状況を理解しつつあるようだった。震えながら、必死に口を押さえている。
声を出せば「ヤツラ」の注意を引いてしまう。そうなればどうなるかわからない。逃げ出そうすればバラバラに喰い殺されてしまう。普段の俺では、有り得ないくらい冷静だった。頭に浮かぶのはたった一つ。「純夏を護る」これだけだ。































一体どれほどの時間がたっただろう?日の光がこんなにも恋しくなったは初めてかもしれない。
この「監獄」には、今や俺と純夏しかいない。
他の人達はみんな「ヤツラ」に連れて行かれるか、逆らって食い殺されるかだった。

あきらめてはいない。あきらめるつもりもない。だが方法が見つからない。歯痒い。「ヤツラ」が近づいてくる。
俺は両手を広げ、純夏を庇う。


「くそ! くそっ!!、クソッッッッ!!! ちくしょう!!!!  気持ちワリィーんだよ!!!!!近づくんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!!!!」

「武ちゃん!!だめだよ!!  私の事はいいからっっ!!」

「……大丈夫だ純夏。無敵のヒーロータケル様がこんな不細工なナマモンなんかにやられるわけないだろっ!!!!」

「武ちゃんっっ!!ダメッ 死んじゃうよっ!!!」


「ヤツラ」が純夏を手に掛けようとした。


「純夏に触んじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

右手を振るかぶり、兵士級の醜いツラめがけて拳を打つ。クタバレ!!!!!!!










だけど次の瞬間、右手と右半身の感覚が『消えた』。
間髪入れず鉄槌かなにかで殴られたかのような衝撃が襲ってきた。


「―――っはがぁ!!  あぐぁぁぁわぁぁぁあ !!!がああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

純夏の悲鳴が木霊す。
……ちくしょう、こんなふざけたヤツラにやられるのか?

右腕は胴体の半分ごと無くなっていた。今目の前で兵士級がゴリゴリと喰ってやがる。俺の腕を。
足は逆に曲がっている。殴り飛ばされたのか?完全に折れてやがる…………っちくしょう。

兵士級が俺に向かってくる。   いいぞ、俺が『先』なら純夏はまだ殺されない。可能性が生まれた。

さあ来い。化け物。てめえの腹ん中から殺してやる。すんなり消化されるとかぬるいこと考えてんなら、大間違いだ。



















だけど取り越し苦労に終わったようだ。可能性は『繋がった』




突然それがやってきた。轟音と共に天井から巨大な濁流が現れた。濁流は兵士級を一瞬に押し潰した。
何かの唸り声?が聞こえる。断言できないのは、それがあまりにも巨大だったからだ。

続いて一瞬の浮遊感の後、Gを感じた。エレベーターなんかとは比べ物にならないほどのものだ。
純夏か近づいてくる。泣きながら服を脱ぎ、傷口に押し当ててくる。同時に俺の口に自分の口を重ねた。


人口呼吸のつもりか?へたくそだなぁ。


天井を見上げる。得体の知れない鉱物に出来た隙間から空が見えた。青い、青い空だった。


なんだ。  外、出られたじゃねーか。

純夏、たぶんもう大丈夫だ。お前一人で走れ。きっと助かる。

泣くなよ。また鼻水出るぞ。お前かわいいんだから少しは気を使えよ。


天井が無くなった。おっ戦術機じゃん。助かるぞ。ほら走れよ。

ん? なんだまだ他に人がいたのか。よかったな、君達も助かるぞ。




あれ?なんか君と君、会った事があるような……………………………まぁ、いっか…………











横浜ハイヴ陥落から4分後。ハイヴ内生存者 白銀武、鑑純夏の両名が無事救助される。

白銀武 14歳。 両足粉砕骨折、右腕及び右半身の大部分を損失するも奇跡的に一命を取り留める。


鑑純夏 14歳。 衰弱と軽症を負うも五体満足で救助される。













ココに新たな『世界』が生まれた。











  ………Side Godzilla  (考えるは後にしよ………………後の祭り言うな)






――――――どうしてこうなった、どうしてこうなった、どうしてこうなった、どうしてこうなった!!!



今彼は狼狽していた。見た目にはわからぬが、内心かーなーり動揺していた(笑)。

ほんの数十分前、横浜ハイヴのBETAを殲滅したと思い、いざハイヴ突入を敢行しようとした矢先、X星人から「ハイヴ内の監房には看守がいる模様。今タケルとスミカの元へ向かってる」という報告を受け、慎重にモニュメントを撤去しハイヴに突入する案を即座に却下。ためらう事なく放射熱線でモニュメントを吹き飛ばし、突入孔をあけ地下に下りていった。
ギリギリのところで看守役の兵士級を叩き潰し、武と純夏の無事を確認した。だが武は体の半分を兵士級に齧り取られ、既に危険な状態であった。幸い、純夏に怪我はなく五体満足である。だが目的の一つは成ったが武を死なせては意味がない。
すぐに治療が必要であったが、生憎ゴジラにできるわけもなく浮き足立っていた。






まあ早い話、「  ゴジラ は  こんらん  している  」である。




「どないしよ、どないしよ、どないしよ!だれかーーーーこの中にお医者様はいまへんかーーーー!?!?!?!」

『いるわけ無いじゃん。皆シリンダーの中だよ』

「鬱んなる事言うなぁーーーーーーーー!!!」


X星人のあまりにドライな態度に突っ込むゴジラ。だが相手も見えないのに右手で突っ込んでも空しいだけであった。


「とっとにかく、医者や!医者のおるところいかな!!っで、でもどこやそれ?」

『近くに国連軍の仮設基地があるよ。但し「そこやぁぁぁぁ!」………』


ハイヴの壁をよじ登ろうとするゴジラ。その背中にX星人の言葉が刺さる。


『――――但し、『この世界』の芹沢博士がいるよ』

「――っヴぇ?」

『この世界では医者だけど、人が次々死んでいく現状にかーなーり頭を悩ませているね。どうにか出来ないかと色々研究してるみたいだ。そこに君という『繋がり』の深い存在が近づけば、因果情報の流入が起こるかもしれない』

「………それってつまり?」

『気づいているんだろ?『オキシジェン・デストロイヤー』が創られるかもしれないという事さ』




『オキシジェン・デストロイヤー』―――ゴジラを完全に殺すことができた唯一の手段である「水中酸素破壊剤」のことである。製作者は芹沢大助博士。

この物質の破壊効果により初代ゴジラは骨を残し、海中で液化して死んでいった。
芹沢大助博士もこの物質のもたらす脅威に怯え、ギリギリまで使用を拒み続けた。そして最後には一切の資料を残すこともなく、ゴジラと共に死んでいった。


つまりはゴジラという存在にとって、もの凄い死亡フラグである。



だがこの「ゴジラ」、


「それがどないした!二人を助けるためならかまわんわ!!!」


見事言い切った。だが内心、涙目であった(笑)。


『…まあ待て。それ以前に国連軍に近づけば、間違いなく攻撃を受けるぞ。君に敵意が有ろうと無かろうとそれほどの巨体が近づいてくれば、誰だって防衛行動をとる。中には錯乱して発砲する輩もいるだろ。運悪く二人に当たってしまうかもしれない』

「っうぅぅ。なら帝国ぐ『同じだと思うがね?』ぐぅ………」

『そこで提案だ!ここは思い切って帝都に向かってはどうだろ?』

「…なんでや?」

『帝都に行けば武家がいる。武家の者達なら簡単には錯乱しまい。それに今なら『彼女』かいる』

「彼女?」

『鈍いな。帝都の武家で彼らに縁が深い人物など限られているだろ?』

「…………っあ、さよか!御剣のお嬢さんがおるか!!あの人のところなら怪我人を無碍にはせんやろうし、信頼もできる!!決まりや!!!案内せい!!!」

『ハイハイ、こっちだよ。急いでね』






















ゴジラはハイヴを後にし、全力で帝都・御剣邸へ向かった。だがその背後で、













『――――――計画通り(ニヤリ)』




っと、どこかの新世界の神BOYのような胡散臭いこと極まりない笑いをこぼすX星人がいた。














時は進み現在。御剣邸の庭では二人の乙女と「デウス級」と呼称されるゴジラがいた。

二人の乙女は祈るかのように歌っている。ゴジラは歌の内容を理解していた。


だがそれゆえに動揺していた。それでは彼の頭の中を覗いてみよう(笑)。








「――まさか、まさか、怪我人を預けようとしていた人物がこのような異常事態になっていようとは。今更ながらに信じられん!!」


動揺のあまり、標準語になっている。


「モスラの歌、何か因果情報の流入か? しかし俺なら断然大人で巨乳の女、マブラヴでいうなら香月 ゆう~こ先生♪がいいのに………しかし、しかし今この二人を預けれるのは彼女らしかいないのは確かだ!俺は二人を救うため、あえて社会道徳(ツッコミ)をかなぐり捨てこの異常空間(ボケ)を無視しなければっ!」」


ゴジラの脳内で青空がフェードアウトしていく。



「(ゴクン)そうだ……これはいうなれば、『超法規的措置』」


脳内にフラッシュバックする幼い頃の記憶。古い電話BOXに閉じ込められたある日。


「俺はこの非常事態解決のため、この姉妹の異常をあえてあえて無視するのだ。ああ、最低だ最低だ」


脳内で頭を抱えていた。



「俺はなんと最低な怪獣王なんだ! 故郷の両親よ! 別れた彼女よ! 突然生まれた花子(雄2ヵ月・柴犬)よ!  この怪獣王・ゴジラ(笑)の魂の選択を、笑わば嗤えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」























「…………見なかった事にしよう☆」




WAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA~















ゴジラは未来に向かって逃亡した。現実逃避とも言う。とりあえずの目的地は佐渡島であった。


















  ………Side Human’s 〔煌武院 悠陽 御剣 冥夜〕





再び動きだしたデウス級を前に二人は見詰めていた。



「「 ゴジラよ 永遠の生命 ゴジラよ 」

「「 悲しき下僕の祈りに応えて 今こそ 蘇れ 」」

「「ゴジラよ 力強き生命を得て 我らを守れ 平和を守れ 」」

「「 平和こそは 永遠に続く 繁栄の道である」」




鏡のような姿の二人が紡ぐは命の歌。異なる枝の先。異なる可能性の向こう側。確立分岐の果てに存在する一つの世界。

そこで繰り広げられる『命』と『暴力』の戦いがもたらした祝福と守護の歌。




その歌が示すのは繁栄か滅亡か―――――

















  ………Side Human’s from  HQ〔香月 夕呼〕




「司令、デウス級が移動を開始いたしました。進路を佐渡島を佐渡島に向けています」

「そうか、帝都に被害は?」

「ありません。帝国、斯衛 両軍からも『損害ナシ』との事です。アルファ、チャーリー、デルタの部隊が指示を求めています」

「うむ………どうされますか、香月博士?」

「かまいません。デウス級の進路より至急撤退するように全部隊に通達してください」

「……わかりました。至急全部隊に通達、『敵ニ非ズ、撤退セヨ』」


「了解、『こちらHQ………………………』」















次々に指令が飛ぶ。数十分と立たず国連軍はデウス級の包囲を解くだろう。だが問題はこの後である。


「香月博士、あなたのおっしゃる通りになりましたな。帝都どころかこちらには指一本触れず、佐渡島に向かうと」

「その通りです。最終的にあれは『H1・オリジナルハイヴ』へと向かうでしょう」

「……なんと、あの喀什 (カシュガル)ハイヴへ、ですか?」

「そうです。なぜならあれは『そういう』存在ですから」

「――――詳しく伺っても、よろしいでしょうか」

「司令、申し訳ありませんが今は話せません。次の国連総会で発表することになるでしょうから」

「…そうですか。香月博士を信じましょう」



香月 夕呼は内心、笑みを零していた。それを目にした者がいたならば、間違いなくこう表現するだろう。





















「女狐」っと――――――












続く?



あとがき:ゴジラ無双は次回。世界の対応なんかも次回。なかなか進まないので次回からテンポUPしようかと思います。




追伸:”BPS”って知ってます?



[12389] 第七話
Name: エキシボ◆e1d483d5 ID:8c20cdfc
Date: 2009/11/17 00:50
注意事項:このSSは八割方ノリで出来ています。
     作者は身の程知らずにも笑いあり、涙ありなSSを目指しています。
     そのため一部、某デモ○ベイン並にご都合主義でストーリーが進行します。
     このSSに不快感、嫌悪を覚えた方がいらしたら本当に申し訳ありません。
今回からちょっと急になります。




 ………Side Godzilla (過去も未来も希望いらん! 欲しいのは『今』おんどれらの死だけじゃぁぁ !【悩むの止めました】)











日本帝国、1998年初頭に上陸したBETAにより帝国領土に初めて建設を許してしまった「ハイヴ」が存在する地。

帝国呼称「甲21号目標」。

未だフェイズ1ながら帝国軍には、それを駆逐し奪還するだけの余力はなかった。

だが、それは今や過去の話である。

そして、「煉獄」っというものがあったなら、それは正に今ここに誕生したのだろう。




――――「煉獄」の名は「佐渡島」




『『『GAAAAおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉAAAAぁぁぁぁぁあ■■■■■■■■■!!!!!!!』』』



山の如き巨大な黒い龍が吼える。

神の鉄槌の如き脚が打ち降ろされ、幾千幾万の兵士級、闘志級、光線級、戦車級の小型種と称されるBETAが生理的嫌悪を抱かせる色の血の花を咲かせる。

秦の始皇帝が築いたとされる万里の長城もかくやといった長大な尾が凪ぎ掃われ、突撃級、要撃級、重光線級の中型種が大地を汚しながらすり潰されていく。

蹴り飛ばされ、踏み潰され、打ち掃われて、叩きつけられ、大型種の要塞級がバラバラに千切れ、吹き飛ばされていく。


龍の背びれが光輝く。
バリバリと空気を喰い破る音が大気を満たし、強烈なイオン臭が佐渡島を覆う。





閃光、龍の口から『暴力』の津波が解き放たれ、有象無象の区別なくその光に晒されたモノは蒸発し消えていく。


「消滅」…………まさにその体現であった。




煉獄の『脚本家』にして『演出家』にして『主演俳優』




―――――その名は「ゴジラ」





「ゴジラ」は進撃を再開する。その視線は佐渡島の中央。そこにそびえる「ハイヴ」である。

ハイヴから続々とBETAが出てきている。
小型種、中型種、大型種の区別なく全てが一丸となってゴジラに吶喊を敢行していた。光線属種はひたすらにレーザーを浴びせ、要塞級はその光線属種を守るように前方に布陣し、その他の種がゴジラに取り付こうとしていた。
突撃級が隊列を組み、時速170キロでその名の通り突撃を開始する。
突撃級に追随し、要撃級がゴジラに一撃を加えんと勇敢にも距離を詰めていく。
中型種の間を潜り、ゴジラの装甲の如き表皮を齧りとってやろうと小型種が這い上がっていく。



グシャ。



潰された。虫ケラのように、あっけなく。

だがそれで終わりではなかった。




ドゴォン! とゴジラの背後の地面が爆ぜた。
まるで湧き出る湯水如く地面からBETAの集団、いや群体いうべき塊がゴジラの背に殺到する。

故意か偶然か?地上のBETA群が囮となり地下のBETA群をゴジラから守ったのだ。

ゴジラの背に取り付いた要撃級達はすぐさま攻撃を開始。ゴジラの息の根を止めんとモース硬度15以上を誇る爪を要撃級が突き立てる。

爪は表皮を割り、深々と突き刺さる。要撃級の尾節に存在する顔の如き器官がほくそ笑んだかのようだ。

しかしゴジラに苦しむ様子はない。

ゴジラが背に取り付いたBETA達を振り返りながら睨む。

眼を細め、人間であれば蚊を見るかのような視線を向ける。





バリッ バリッ バリッ !!!!



再び背びれが紫電を弾けさせ、大気を振るわせる。
ゴジラの胸が若干膨らみ、首の筋肉が盛り上がる。そして牙を剥き出しにした口から『暴力』が………………………………………放たれなかった。




だが、変わりにゴジラの体躯が青白い輝きを放ち口を閉じた。


瞬間!、『         ッ!!』と表現することすら困難な爆音が響く。ゴジラを中心に莫大な衝撃とエネルギー流が発生。膨大な衝撃波が周囲を襲う。
地上のBETAの死骸は更に細かく千切れ飛び、塵芥となって吹き飛ぶ。足元の岩盤には幾重にも地割れが発生。取り付いていたBETA達はバラバラに引き裂かれながら弾き飛ばされた。





――――――ゴジラ最大の武器である「放射熱線」の「体内放射」である。


背中に取り付いていたBETAの中には純粋にその熱量だけで蒸発した個体もいた。
地面も一部灼熱に色づいている。
いうなれば放射熱線のエネルギーを熱量、衝撃波に変換し、全方位に放つ攻撃である。防げるはずもない。



更にゴジラは放射熱線を放つ。ハイヴを守るように展開しているBETA群を舐めるように放たれた放射熱線は、次々とBETAを消滅させる。
己にとって、最も脅威となりえる要塞級を尽く吹き飛ばし、戦場の最後方、ハイヴの直援とも言うべき場所に布陣していた光線属種に歩み寄る。

ゴジラの轟音というべき足音が響く。不思議なことに光線属種からの反撃はなかった。
いやなかったのではない。反撃できなかったのだ。


理由は簡単、「弾切れ」である。


ゴジラが佐渡島に上陸、攻撃を開始して2時間が経過。その間に佐渡島ハイヴの全光線属種が地上に展開。ゴジラに渾身のレーザー照射攻撃を行うも傷を負わすことが出来ず、それでもレーザー照射を続けていた。しかし、体内の「G元素」により発生したエネルギーは底つき、おそらくBETA戦争開始以来初めて弾切れを起こしていた。

G元素を補充すべくハイヴ内に戻ろうとする光線属種。しかし、それを黙して待つほどゴジラは暇ではなかった。



『『『GUUUU亜AAAAAAAぁぁぁああぁァああァ□□□□□□□□■■■■■■■■■!!!!!』』』


ゴジラが咆哮と共に脚を撃ち墜とす。地面を穿ち、岩盤をひっくり返し、衝撃波が津波となって押し寄せる。
光線級、重光線級は吹き飛ばされる。衝撃にさらされ、内臓がグシャグシャに潰れ、赤紫の血を撒き散らしながら飛ばされる。
ある個体は衝撃を受けた瞬間、眼球が破裂した。またある個体はハイヴのモニュメントの遥か上空まで打ち上がり、その頂上に「百舌のハヤニエ」の如く突き刺さった。




圧倒的『劣勢』である。地球上においてBETAが劣勢となったことは何度でもあっただろう。しかし、それは所詮局地的なものに過ぎなかった。少なくともBETAの拠点 ハイヴにおいて劣勢になった事などなかっただろう。

だが、それは今ココに存在している。内包するBETAが10万に達しようかという佐渡島ハイヴはゴジラに一矢報いる事も出来ず陥落しつつあった。

それでもBETA達は諦めない。同胞が皆殺しにされようとも、最後の一体になろうともゴジラへと突撃していった。





だが次の瞬間、何事もなかったようにゴジラの足元の小さな染みと成り果てた。



ゴジラがモニュメントに向かい対峙する。次いでゴジラの全身から雷光と紫電が発生する。背びれが太陽の如く輝き、大気中の分子が電化しイオンとなる。

今までのものよりも、遥かに極太の放射熱線が放たれる。
放射熱線はモニュメントを吹き飛ばし、大地を貫通、佐渡島ハイヴ最下層の反応炉へと到達する。


爆焔を巻き上げながら反応炉が爆発する。全ての縦坑(シャフト)、横坑(ドリフト)に太陽の紅炎(プロミネンス)のような火焔が満ちる。ハイヴ内の残存BETAは一体も残すことなく、焼け死んでいった。












――――1998年 某月某日 18:43:53   横浜ハイヴ陥落より約10時間後、ついに佐渡島ハイヴは陥落。

帝国の悲願、横浜・佐渡島のハイヴ攻略はわずか13時間で決着した。いずれも帝国及び国連太平洋方面第11軍に大きな損害は出ていない。おそらく、地球史上に残る偉業であったことだろう。


















それが人類の手で成されていたのなら…………














『『『GAaaaaaaァァァァァァァァァァァァオォォォォォォォォォ■■■■■■■■■!!!!!!!!』』』






ゴジラが月を睨み咆哮する。その眼には明確な殺意が込められていた。






















 ………Side Human’s  from  国連総会議 大会議場 〔香月 夕呼〕







――ザワザワと照明の落とされた会議場が騒がしくなる。
ほどなく照明が灯り、会議場の中央に設置されていた巨大スクリーンが沈み、視界が開けていく。皆、苦虫を噛んだかのような表情を見せていた。



「―――――以上が三ヶ月前、日本帝国領 佐渡島ハイヴで行われた『デウス級』の戦闘の映像です」

「ッフン!  今のが『戦闘』? 『一方的虐殺』の間違いではないのかね?」

頭の禿げあがった米国高官が皮肉げに発言する。事実皮肉なのだろう。

「クローザー米大使、発言は許可を得てからお願いします」

「……失礼、議長。では改めて発言の許可を求めます」

「発言を許可いたします。クローザー米大使」

米国の国連大使 ゼルメイ・M・クローザーが居住まいを正し、議場中央に座る香月 夕呼博士に向かって口を開く。

「香月博士、率直な意見を聞かせていただきたい。”あれ”はなんなのです?」

禿げ上がった頭とブルドックのような険しい顔からは想像できないような理知的な声でゼルメイは話しかける。
1998年当時、国連の主導計画はオルタネイティヴ4がまだまだ主計画であり、オルタネイティヴ5の主導国である米国であっても、公職につく人間には香月 夕呼を敵視しない者たちが多かった(表向きはであるが。裏では熾烈な覇権争いが続いている)。
このゼルメイも米国の計画と人類の勝利を天秤に掛けた上で、香月 夕呼に人類と地球を救える可能性があると判断した人物である。内心では香月 夕呼の計画が人類を救えないのであれば、即座にオルタネイティヴ5を全力で支援する考えでもあるが。
端的に言って、リスク計算のシビアな人物であった。

「それにつきましてはクローザー大使、順を追って説明いたします」

夕呼は優雅に立ち上がり、手元の情報端末を操作する。ピッピッピと電子音を響かせて各国国連大使のデスクに据え付けられたモニターに資料を送信する。

「まずは第一の資料をご覧ください」

各モニターには古生物学・ジュラ記の生物についての資料が映し出されていた。

「今皆様が御覧になっているのは今からおよそ約1億9500万年前にはじまり、約1億3500万年前まで続いた地質時代、通称『ジュラ記』から『白亜紀』に生息した生物の資料です。俗にいう恐竜の時代であり、現在の生態系とはまったくの別物であります。それとこの議題に関して専門家を呼んでおりますので議長、召喚の許可をいただきたく思います」

「召喚を許可します。香月君」

「ありがとうございます。ではご紹介いたします。古生物研究の世界的権威、山根恭平博士です」

夕呼が手を振り、扉を開けるように指示する。議場の扉が開き白髪の老紳士が中央へと向かう。

「各国大使の皆様、始めまして。ご紹介に預かりました山根恭平であります。早速ですが、こちらの写真を御覧ください」

山根博士がモニターにあるものを映し出す。
人間の足の裏位の大きさの小型のカブトガニのようなものだった。

「これは去る某月某日、『霊地・佐渡島』よりデウス級の足跡から発見されたものです。これは”トリロバイト”、三葉虫ともいわれる古代生物の一種であり、この生物はカンブリア爆発と呼ばれる生物が非常に多様化、独自進化を歩みだした古代の地層にて化石で発見されるものでした。しかし、霊地・佐渡島で発見されたものは新しく、明らかに若いものであり、更には発見当時、微かに生きていたのです」

議場全体にざわめきが走る。古代の、それも人類の祖先がいたかも怪しい時代の生物が生きていた。考古学としても、生物学としても大発見である。

「発見されたトリロバイトはコレだけではありません。現在11個のサンプルが採取されており、そのどれもが若く、ごく最近まで生きていたと思われるのです。この事実からトリロバイトはデウス級にへばり付いていたのではないかと推測されます。小型の生物が大型の生物に取り付き、その移動能力を借りることは古代から行われてきた手段であり、なんら不思議ではありません。更にはこの事実より、デウス級が古代の恐竜、ひいては海棲爬虫類から陸上獣類に進化しようとする中間型の生物の末裔ではないかと思われます」

各国大使達の反応は様々であった。あまりの内容に眼を丸くする者。バカバカしいと哂うもそれを否定できる証拠がなく、逆に肯定するには十分な物的証拠を睨む者。

山根博士は資料をめくり、ハワイ諸島の海図を表示する。

「続きまして御覧いただきたいのがこちらです。これはハワイ諸島を中心とした大陸棚・太平洋プレートの海図であります。追跡調査の結果、デウス級はハワイ沖からその存在が出現したといわれています。では今までどこに生息していたのか?おそらくはハワイ諸島近海の海溝に身を潜めていたのではないかと思われます」

スっと手が挙がり発言するものが現れた。

「ソヴィエト連邦大使 ヴィタリー・チェルキンです。議長、山根博士に質問の許可をいただきたく思います」

「質問を許可します。チェルキン大使」

「ありがとうございます。 山根博士、ハワイ近海の海溝とおっしゃりましたが、ハワイ諸島は太平洋プレートのほぼ中央に位置しています。”海溝”というべきものは存在しないのではないですか?」

「確かにプレートの”沈み込み”による海溝はハワイ近海には存在しません。しかし、ハワイ諸島は元々、海底火山の集中した『ホットスポット』であります。現在も盛んに噴火が繰り返されており、地下のマントルが幾重にも流動を続けております。その影響でハワイ沖の海底はさながらノルウェーのフィヨルドのように複雑な海底形状をしているのです。その中にひっそりと隠れ棲んでいたのでしょう」

うーむ、と大使達が唸る。有り得ない話ではないがあまりにもフィクション染みている。

「では山根博士。なぜ今になってデウス級は我々の前に現れたのですか?BETAと敵対する理由は?あの莫大な放射線反応は?」

「私が申し上げるべき事はここまでです。後は香月博士にお任せいたします」

「山根博士、ありがとうございます」

夕呼に促され山根博士は退室していく。

「では説明を引き継がせていただきます。まず皆様は『ガイア理論』なるモノをご存知でしょうか?」



――――『ガイア理論』、ジェイムス・ラブロックが提唱した地球を、岩石と土壌でできた不活性な球体でなく、惑星とそこに住む生物が相互に依存し、自ら適応し調節する一つの”超有機的生物”として捉えるというトンデモ説である。

その科学的根拠の一つとして、生物の持つ特徴の一つとされる恒常性(質量保存の法則の生物版)という特質を地球が持ち、生物相と、物理的・化学的環境が相互に作用する複雑な組織を通じて、自らを調節し維持していることなどを挙げている。

更には地球が生物である証拠として『シューマン共振』が挙げられる。
シューマン共振とは、地球の地表と電離層との間で極極超長波が反射され、その波長がちょうど地球一周の距離の整数分の一に一致したものを言う。
この極極超長波の周波数が、偶然にも生物 特に人類の脳波に近いことから、シューマン共振が地球の「脳波」ではないかといわれている(逆にシャーマン共振が生物の脳波に影響したとも言われている)。





「はっきり申しましてガイア理論は机上の空論の域を出ていませんでした。しかし、今回の『第一次デウス級調査』の結果、ある事実が判明いたしました」

夕呼がモニターに新たな資料を映し出す。

「これは現在、佐渡島ハイヴ跡で一時的休眠状態にあるデウス級をリーディングした結果です。このリーディングによりデウス級には一定の精神活動がある事が確認されました。続いてこちらを御覧ください」

資料にはデウス級のリーディング結果と酷似した数値が記録されていた。


「これは『地球』をリーディングした結果です。驚くべきことにデウス級と酷似したデータが計測されました」


ザワっと一機にざわめきが拡がった。つまりはデウス級が地球と同系の生命である可能性を示唆していた。あまりの内容に数人の大使が立ち上がり声を上げる。

「バカバカしい!貴重な時間と資金を浪費して得られた結果が、『デウス級は地球の仲間』だと!?ココはエコロジストの集会ではないのだぞ!!!」

「そうだそうだ!!まして、デウス級は恐竜の末裔ではなかったのか?説明が矛盾しているぞ!!!」

「大体、そのリーディングを行ったESP能力者は信用できるのか?妄言を鵜呑みにして世界を混乱させるつもりか!?」


「みなさん、静粛に!静粛に!」


カンッカンッと議長が木槌を叩き自粛を呼びかける。国連総会儀は混乱の体を現していた。
それを生み出したのが香月 夕呼であれば、それを鎮めるのもまた香月 夕呼であった。













「”00ユニット・プロト”によるリーディングです。信用に値するかと」














………………一瞬にして会議場が静まる。正に水を打ったかのようだ。



「”00ユニット”が完成したのですか!?」

「まだプロトタイプですが、演算・リーディング・プロジェクションといった要求された条件は全て満たしています。今後の改良にも目処がついています」


オオォーと感嘆と歓喜、驚愕の声がもれる。

「ついでと言っては何ですが、H22・横浜ハイヴ跡に残された反応炉のリーディングにも成功しています。それについては後日、正式な場で報告させていただきます」


各国大使は会議である事も忘れ湧き立つ。これはオルタネイティヴ4が実質、軌道に乗った事を示していたのだから。
この間、夕呼は眉ひとつ動かさず、全ては当然で然り。と誇るでもなく泰然と構えていた。
日頃から魔女、女狐と呼ばれている彼女だが、今は女神の如く視線を浴びていた。


――――天才・香月 夕呼、ココに在りである。


「説明を続けます。先ほどの事実から『ガイア理論』を前提にいたしますとデウス級は地球の一部として”役割”がある事になります。おそらくは生物における『白血球』に相当する役割ではないかと推測されます」

「………つまり、地球はBETAを”ウィルス”と認識していると?それがBETAに敵対する理由なのですか?」

発言の許可を出す議長でさえ、職務を忘れ夕呼の言葉に耳を向けていた。

「まだ断言は出来ませんが、おそらくは」」

「では、そのために”あのような”生物が生まれたと言うことですか?以前博士の提唱された『因果律量子論』でしたか?それによれば世界を情報として捉えた時、全ての事柄は『因果情報』によって決定される。であればデウス級もそのような『因果』の元に誕生したと?」

「それについては現段階では明言は出来ません。今後の研究次第でしょうが、デウス級の誕生については一つ仮説が成り立ちます」

世界の目が注目しているにもかかわらず、夕呼は微塵も臆すことはなかった。

「そもそも、デウス級は『物理的』に在りえない生物なのです。現在発見されている最大の恐竜の化石でも、全高100メートル、全長200メートルなどというバカげたサイズはありません。恐竜がいかに強靭な生命であり、頑丈な骨格を有していたとしても、デウス級と同サイズであれば、体重に対して”物理的強度”が圧倒的に足りません。形を形成することなく崩れ死んでしまうでしょう」

「しかし、先ほど山根博士は恐竜の末裔であると説明されましたが?」

「それは事実でしょう。問題はそれが”素(もと)”になっている事です」



「「「「「?」」」」」



「あれほどのサイズでありながら生物として存在している。地球上の生物であれば、その構成物質は他とあまり変わらないでしょう。つまりは物理的強度は同じ。ならば話は簡単です。………”軽い”のでしょう。サイズに反して。そしてそれを可能にしているのはおそらく『G元素』」


「「「「「!?」」」」」


「佐渡島で調査したデウス級の足跡からは”トリロバイト”、”放射線反応”、そして”抗重力反応”の三つが検出されました。山根博士の仮説では『恐竜に絶滅をもたらした隕石にG元素が付着していた』のではないか?そのG元素を取り込み、異常進化したものがデウス級ではないか?となっています。事実、G元素は重力制御機関である『ムアコック・レヒテ機関』を実現させています。あの莫大な放射線も『五次元効果』による『重力子の崩壊』により発生したγ線である可能性があります」







………ッピクリ   クローザー米大使の後方に控える補佐官が一瞬身を震わせた。






「そして今日まで生き永らえてきたデウス級にとって、BETAの創り出した新鮮なG元素はさぞかし旨そうに見えたでしょう。これがデウス級がハイヴを襲う理由であり、デウス級が”役割”に選ばれた理由だと思われます」























世界が息を呑んでいる。それはあまりにも荒唐無稽で壮大で、人類の領域を遥かに超越した『おとぎばなし』であった。




















 ………Side Human あるオルタネイティヴ5工作員










マズイ

マズイマズイマズイマズイ!!

本気でマズイ!!!!!



まさかあの女、気がついているのか?

あれは間違いなく”試作”G弾が原因だ!そうに違いない。

恐竜うんぬんはわからないが、三ヶ月前の”あの実験”!!

あれが全ての始まりに違いない!!!!

G弾の効果を知っている!?でなければ「五次元効果」なんて言葉が出てくるはずがない!!!「重力子の崩壊」もそうだ!”試作”品の唯一の問題点。それを正確に”指摘”しやがった!?


クソッ!!このままでは取り返しがつかなくなる。『明星作戦』の内容が公表されたら、「合衆国」は終わりだ!!!


どうする?どうする?どうする!?










………………………………………………………………こうなったら、手段を選んではいなれない。



男は携帯を取り出し、暗号化された番号に送信する。




頼む。早く、早く、早く!!!



































『――――――――――――――――――――こちらスネーク。待たせたな』










続く?




あとがき:説明ばっかになってしまいました。



[12389] 第八話
Name: エキシボ◆e1d483d5 ID:8c20cdfc
Date: 2009/11/03 19:18


注意事項:このSSは八割方ノリで出来ています。
     作者は身の程知らずにも笑いあり、涙ありなSSを目指しています。
     そのため、一部某デモン○ベイン並にご都合主義でストーリーが進みます。
     このSSに不快感、嫌悪感を抱いた方がいましたら申し訳ありません。
     今回はゴジラというか周りの動き中心です。







  ………Side Human's 帝国海軍 霊地・佐渡島防衛艦隊所属 旗艦最上 艦隊司令室








――――ザァザァと船首に波が打ち付ける。それ以外の音はない。

ここは帝国海軍が誇る弩級戦艦・最上の艦橋。その中枢である発令所である。今この空間にいる全ての人間が息を潜め、『それ』を見詰めていた。


「………”カグツチ”移動を開始。進路は旧中国領上海方面、目的地はH16:重慶(チョンチン)ハイヴと思われます。『ひめかみ』『あかふじ』『あかぎ』『しなの』『やまと』以下の艦が指示を求めています」

「陣形を単縦陣に変更。陣形完成次第、両舷全速。距離2000を保ちつつ”カグツチ”に並走する」

「了解、各艦に下達。陣形変更・単縦陣。両舷全速。ワレニツヅケ」

艦隊司令からの命令に仕官達が応える。無駄一つない見事な操艦と錬度である。艦隊が一つの生命体となって海原を疾走していく。




その進路の先には”カグツチ”と仇名された「ゴジラ」がいた。


デウス級、G、アースフューリー(大地の憤怒)、アンゴルモアの大王、古い龍蛇、カグツチ、そしてゴジラ。


三ヶ月前、フラっと人類の前に現れた太古の末裔にして今や人類の希望にも絶望にもなりえる一匹の龍に付けられた様々な名前である。
一応国連総会ではデウス級で呼称が統一されたが、BETAでないのなら「~級」という呼称はおかしいだろ?という理由で現場の人間であれの力をまざまざと見せ付けられた者達は畏怖を込め、各々の頭の内に記録されている最も強大な言葉であれの事を呼んでいた。

カグツチとは古事記に登場する「比類なき焔の羽蛇」ともいわれる火の神の事であり、アンゴルモアの大王は彼の予言者の言葉に出てくる人類を滅ぼす存在だ。

ゴジラという名称は斯衛軍から広まった呼称で、硫黄島から撤退した者達の中に大戸島の伝説になぞらえて”あれ”をそう呼んだ者がいたそうな。




「安倍君、カグツチは今度はどう動くと思うかね?」

旗艦最上の艦長・小沢が後ろに控える艦隊司令補・安倍に尋ねる。

「私の私見でよろしければ申しあげますが?」

「かまわんよ。むしろそれを聞きたいな」

目を細め、どこか楽しげに小沢が答えを促した。

「では申し上げます。目的はH16:重慶ハイヴで間違いないでしょう。あれは佐渡島ハイヴ以降、H20:鉄原(チョルウォン)、H19:ブラゴエスチェンスク、H18:ウランバートルと続け様にハイヴを強襲し、その尽くを殲滅。おまけにハイヴ内の『アトリエ』でたんまりと食事を済ませ、悠々と寝床の佐渡ヶ島に帰宅。今回も我々には目もくれず『霊地』でぐっすりと眠ることでしょう。うらやましい事ですな」

安倍が肩を竦め、ふうーと溜息をつく。ほんの三ヶ月前まで、国家の存亡をかけ鬼気迫る顔で戦っていたのが嘘のようだ。

「ハッハッハ、まったくだ。一両日と掛かることなく終わったと思えば、好物をたらふく食べ、定時前に帰宅。お気に入りの寝室で好きなだけ眠る。今時殿下でさえそんな生活してはおらんな」

「本当です。最初は己の無力にどれだけ泣いたことか。あの日、佐渡島で散っていった同胞達にどう顔向けすればいいのかわからなかったというのに、今となっては感謝すればいいのか、嘆けばいいのかわかりません」

小沢と阿倍は苦笑を漏らしながらカグツチを見詰めた。

「まあ、感謝はしよう。おかげで帝国はBETAからは開放された。再度の上陸があるとしてもまだまだ先になるだろうしな。なによりハイヴが砕ける瞬間を三度も見る事ができた」
「油断は出来ませんがね」

「おっと、”同胞”達にも伝えねばならなかったな。急ぎ本国に連絡を」

「了解!地球の”同胞”同士で無用な諍いをしている場合ではないですからな」


ハッハッハと笑い声を上げる二人を横目に発令所のクルー達も苦笑した。


『同胞』……この言葉は急速に世界に広まりつつあった。先日の国連総会儀で行われた「第一次デウス級調査会」で発表された『ガイア理論』。今まで、エコロジストのトンデモ説扱いであったこの理論は香月 夕呼のもたらした『00ユニット・プロト』のリーディング結果によって、一気に全人類の知ることとなった。
そのため、自分達が地球の一部であり、同じ「同胞(はらから)」であるという認識が生まれつつあった。

もっとも、それは先の大戦の敗戦国人達やユーラシアの亡命国家の人間が中心であり、某二大超大国の人間達は言葉にしないまでもかなり不満そうではあったが。





ここ佐渡島に艦隊が派遣され、防衛線が敷かれているのには理由がある。
一つはユーラシア大陸から上陸してくるBETAに対抗するため。
もう一つは『霊地・佐渡島』を守るためである。


佐渡島が『霊地』と呼ばれるようになったのは一ヶ月ほど前からである。



三ヶ月と少し前、佐渡島ハイヴ陥落後、帝国と国連太平洋方面第11軍は即座に部隊を派遣。BETAが残存していないかを調査しつつ、ハイヴ跡地の制圧に入った。

当然ながら横浜ハイヴ跡地の制圧も同時に行われていたが、調査チームの随伴していない佐渡島班は「確保」にとどまっていた。

もとより佐渡島にはデウス級が存在している。BETAを殲滅しハイヴを吹き飛ばした後、デウス級はハイヴ地下に潜行。以後地上からの観測は不可能となり、その後の動向が注目されていた。

そして意を決してハイヴ跡に突入した帝国と国連の衛士達が見たのは、胸焼けしそうなBETAの黒焼きと反応炉の残骸と思わしきモノに玉座の如く居座り、眠りこけるデウス級であった。

帝国・国連の合同突入部隊は対応に困った。下手に刺激してこちらに矛先を向けられたら勝てる訳もなく、かといって言葉が通じるわけでもない。
とりあえず、司令部に指示を求めたが「現状を確保セヨ」の一点張りであった(実は司令部も対応に困っていた)。

結局、遠巻きに監視するしか出来なかった。


ほどなくして横浜の制圧も終了し、佐渡島も調査チームの到着を待つばかりとなっていある日、突然デウス級が目覚めた。






オイ!誰かなんかしたか!?

知らねーよ!!ってか誰がするもんか!!こんなおっかないモン!!!

あーーーー!!てめぇ!!!ココでタバコ吸うなっていっただろ!?寝てるヤツはタバコのニオイに敏感なんだぞ!!!

なにか!?俺か?俺のタバコがいけなかったのか!?

きっとそうだ! ほら、早く謝れ!! 禁煙します。二度と吸いませんって誓え!!!

できるか!!!喫煙暦15年で今更禁煙できるわきゃねーだろ!!!!死んでしまうわ!!!??

今死ぬのと禁煙して死ぬの。どっちがいいんだよ!?

どっちもイヤじゃボケ!!!!



ぎゃあぎゃあと現場の監視に当たっていた衛士達が騒ぐの横目にデウス級は佐渡島を後にした。




そして一週間後、またフラりと佐渡島に戻ってきた。
佐渡ヶ島の調査・制圧に掛かっていた兵士達は大いに慌てた。ついにデウス級がその矛先を人類に向けたのか!?と帝国も国連も大混乱であった。

しかしデウス級は人類の反応など知った事ではないといわんばかりに無視、ハイヴ跡に潜っていった。震えながら対峙していた衛士達はまたしても遠巻きに監視するしかなかった。


その後とりあえずの方針としてデウス級を刺激せず、その周囲にキャンプが設営され調査が開始された。

余裕がなかったため後から知る事となったが、この時デウス級はH20:鉄原(チョルウォン)ハイヴのBETAを殲滅しハイヴを陥落させていた。(当然反応炉は粉微塵に吹き飛ばした)

デウス級が再び眠り始めてから二週間がたったある日、ハイヴ跡内でこっそりと調査していた帝国国連の合同調査チームからある報告があげられた。


「デウス級が佐渡島を”巣(ネスト)”に選んだ可能性がある」と。

早い話が佐渡島はデウス級の寝床になったのだ。鳥類が恐竜の子孫である言われているように恐竜にも”渡り”を行う種がいるかもしれない。ならばデウス級がエサを探すための代巣として佐渡ヶ島に住み着いたという事だ(実際は武と純夏達が心配で仕方なかった事と今更ながらにホームシックになり日本を離れたくなかったりする)。



報告を聞いた帝国大本営では議論が紛糾した。このまま黙認するか?力ずくで排除するか?


しかしそこに待ったを掛けたのが征夷大将軍 煌武院 悠陽、そして悠陽の名代として改めてその存在が発表された御剣 冥夜の二人であった。

先日の横浜ハイヴ陥落の際、御剣 冥夜の存在は多くの者達に目撃された。ならば下手に隠すよりも明るみにした方が監視もしやすいだろうという元老院の思惑であった。
悠陽・冥夜はデウス級に対し、一切の不干渉を宣言。当然大本営の官僚達は撤回を迫った。

だが間もなく、国連仮設横浜前線基地より届けられた副指令:香月 夕呼の名で記された要請書を受け取り、渋々と引き下がった。

要請書の内容は「デウス級に手を出すな」というもので書式こそ”要請”であったが、妙に強制力の強い内容であり、命令に近いものであった。



「「彼のモノは敵ではありません。次なる目的はブラゴエスチェンスクにあります。敵に回ったのだとしても、それはワタクシ達の不徳のいたす所です」」



双子の征夷大将軍が放つ不思議な言葉に、帝国国民は戸惑いながらも従った。




三日後、佐渡島からデウス級が旅立ち、H19:ブラゴエスチェンスクハイヴを陥落させて帰ってきた。

帝国は湧いた。忌々しいハイヴがまた一つ消え、帝国の脅威が去りつつあるのだ。何より双子の征夷大将軍はそれを予見してみせた。

デウス級は三週間の休眠の後、今度はH18:ウランバートルを強襲、これを陥落する。
再び双子の征夷大将軍が見事に予見してみせた。

この結果、帝国国民には「デウス級は手を出さなければ日本を守ってくれる益獣」という印象が生まれた。
結果的とはいえ祖国を救い今も守護してくれているデウス級はありがたい存在であったのだ。
大本営もこれを好機とし、軍の再建に力を注いだ。

更には双子という神秘的要素も手伝い、デウス級と悠陽・冥夜はある種の守護神と巫女的な存在として帝国国民に印象を与えた。そんなデウス級の寝床である佐渡島が『霊地』と呼ばれるようになるのは無理からぬ事だった。










だが、そんなデウス級の存在を疎ましく思う者達もいたのだ。








……… Side Human 日本帝国 東京湾沖 上空   ゴジラが佐渡島を後にして5日後    02:45:12  〔蛇の男〕




東京湾沖上空を飛行する一機のステルス高高度偵察機。
その背にマウントされた突入柩(エントリーポッド)の中である男が思考の海に沈んでいた。





――――二日前


『いいかスネーク? 今回の任務は地球の今後を左右するかもしれない重要な極秘任務だ』

「質問の権限は?」

『ない。君の任務は日本帝国領横浜に存在する旧ハイヴ跡 国連太平洋方面第11軍横浜基地建設予定地に侵入し、”香月 夕呼”の暗殺及びその最深部にあると思われる〔00ユニット〕を奪取もしくは破壊する事だ』

「随分賑やかじゃないか?カーニバルでも始めるのか大佐」

『今回は非常に高度な政治的理由から機密度が高い。作戦行動中は暗号バースト通信を除いて、一切の通信を禁止する』

「っなるほど。だから武器も装備も現地調達という事か」

『そうだ。スネーク、君の専門であり得意分野だ。双眼鏡くらいは許可しよう』

「タバコは?」

『ダメだ』


「はまk『ダメだ!』」





(苦い顔で沈黙する男)





「……………しかし随分と熱烈なお出迎えだったな。こんな男一人にAH-64D(戦闘ヘリ)が四機。M1A2(戦車)が二両、完全武装の歩兵が一個中隊。万引き少年を捕まえるのには苦労はしないだろう」

せめてもの復讐とニヤニヤと悪戯好きの子供のような表情をする男。

『君の力がそれほど評価されている証拠だ。同時にそれほどの力が必要とされている証拠でもある』



「…………………何があった?」

『先日の国連会議の事は聞いているか?』

「ああ、どうやら母なる地球がお冠のようだな。BETA共も大変だ。”彼女”は石油ストーブみたくカチンカチンだぞ」


『その”彼女”が人為的なモノであるとしたら?』



「…………なんだって?」

『CIA(中央情報局)からの情報でデウス級は人為的に造られた生物兵器であり、〔00ユニット〕によって一個人の支配下にあるとの事だ』

「おいおい、いつからCIAはSF小説を書くようになったんだ?パルプフィクションブームは70年代に終わっているんだぞ。それともサバイバル演習中にエゾテングダケでも食べたのか?これだから素人は困るんだ。まずは鳩やネズミで胃を慣らして耐性をつけてからだろうが。そもそもエージェントたる者、好き嫌いをしてはいけないんだ。人間はその気になればどんなものだって食す事ができる。その点俺はあらゆるモノを食べてきた。コブラ、パイソン、サンゴヘビ。他にもイチゴヤドクガエル、アマガエル。変り物でモモンガ、ムササビにアナウサギ、リスだって食べた。虫はタランチュラからダンゴムシまで食べた。知ってるか?クモはチョコレートの味がするんだぞ。植物ならマンネンシダにウツボカヅラ。極めつけがツチノk『これはCIA長官直々の作戦だ』」




己の華麗なる美食暦を邪魔され、やや不機嫌になりつつも耳を傾ける。

『長官は一連の騒ぎは”生物兵器”を利用した”香月 夕呼”の自作自演であり、その狙いは”聖母”を気取った権力掌握であると踏んでいる。デウス級はBETAを元に製造された〔人工BETA〕であると推測される。このまま事が進めば、BETA戦争後の世界いや地球は〔00ユニット〕とデウス級を従えた”魔女”に支配される事になってしまう。そんな事は許すわけにはいかないんだ。わかるなスネーク?地球を救えるのは君しかいないんだ』





「…………………………………了解した。”らりるれろ”に誓って」








そして現在――――


「まったく、これだからCIAは嫌いなんだ。俺が退役した理由に気がついていないのか?よくもまあ、あんな穴開きチーズみたいな説明ができるな?ようするに自分達がほしいだけだろ?大体FBIにしたってそうだ。前フーバー長官の時から何も変わっていない。このご時勢に人種差別などしている場合ではないだろうに、ックソ!」

スネークは荒れていた。彼は過去に衛士としての適正に跳ねられてからは諜報部のエージェントとなり、愛国心の赴くまま戦火に身を投じていた。しかし戦場に飛び込む毎に火事場泥棒のような真似をさせられてきた。おまけに失敗すればそのままポイ捨てされる運命であったと気づいてからは更に危険な任務を言い渡されてきた。早い話が『死んで役に立て』であった。

「最初はそれが任務だと考えていたんだが、もうだめだ。人類の命運を掛けた戦いだというのに”らりるれろ”の連中は合衆国の利権しか見ていない。この後に及んで戦後の事を考えているようでは害悪にしかならない。クソっ!日本人が羨ましい。俺にも『忠』を尽くせる主君がいれば迷う事などなかったかもしれないのに!」


その風貌からは歴戦の戦士の貫禄が滲み出ていたが、スネークは怒気を抑え切れないでいた。


「ウォーケンが言っていたな、『一方的に条約を破棄したにもかかわらず撤退の殿を買って出てくれた日本人がいた』と。いつもそうだ。戦場に政治が持ち込まれて碌な事があった試しがない」


ウォーケンとはスネークの古い戦友であり、お互いに人類の勝利と祖国の繁栄を願い競い合った仲だ。


「大体、『長官直々』だと?なぜ大統領の名前が出てこない。ヤツラの言った事が事実なら一組織の範疇に納まるはずはない。むしろ帝国政府の協力が必要だ。それほど隠し通さねばならない『ナニカ』があるという事か?」


答えの出ない思考の迷路に入り込んだスネークをアラーム音が現実に引き戻す。


【投下10分前、最終チェックを開始せよ】

「了解、バッテリー…チェック、高度計…チェック、水平儀…チェック、速度計…チェック、コンパス…チェック、ナブコム(ナビゲーションコンピューター)…チェック、燃料…チェック、その他まとめてチェック。オールグリーン」

【了解、あと5分で目標地点上空に到達する………………今の内に一本吸っとけ】

偵察機のパイロットから意外な一言が入る。


「♪それはなかなか魅了的な提案じゃないか。気が利くな若いの」

【わざわざ”棺桶”持参で『ロケットマン』やるんだ。あんたが厄介そうな仕事に就いている事ぐらいわかるさ】

「ハッハッハ、その通りだな、では遠慮なく吸わせてもらう。帰りは頼んだ」

【ああ、フルトン回収システム、今回のための特別性だ。俺達の税金がたんまり使われている。安心して”帰って来い”】


CIAは嫌いだが、戦友達といるのはやはり居心地がいい。このパイロットもなかなかに出来た人間のようだ。

懐から隠し持ってきたタバコとジッポライターを取し火を付ける。












「フ~~、そろそろか?」

スネークはタバコを揉み消し懐にしまう。後でこっそり吸うつもりだ。

【投下1分前、衝撃に備えよ】

突入柩の内部シートに取り付けられたハンドルに力を込める。

【投下シークエンス開始。高度・速度固定。目標地点までカウント20………………15………………10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0、投下、タリホー!】




ガクン





偵察機の背から中途半端な大きさのロケットが打ち出された。流星の如き尾を引きながら突入柩が海面スレスレを飛行する。中のスネークは歯を食いしばり加速Gに耐える。


投下から数分後、突入柩は東京湾内に近づきつつあった。

東京湾の手前でパラシュートが開き突入柩が一気に減速する。間髪入れず爆発ボルトに点火。中央の繭型のユニットを残し海に沈んでいく。
停止したユニットから潜水装備のスネークが出てくる。




数十分後、横須賀港に到着し潜水装備を破棄。帝国と国連軍の警備網をすり抜け保管されている拳銃を確保しつつ、ハイヴ跡に建設されている横浜基地へ潜入する。


未だ未完成ではあったが、横浜基地の警備網はすさまじいものがあった。潜入のスペシャリストであるスネークでも何度かヒヤリとする瞬間があった。


しかし建物内部に潜入したのはいいがすぐに行き詰まってしまう。ID認証の必要なシャッターが何重にも存在したのだ。
仕方なくセンサー網の薄い通風孔や搬入用エレベーターを探し、家庭内害虫の真似事を繰り返し進んでいく。
そして資材搬入用のゲートとトラックを発見した。これをチャンスと思いお得意のダンボールストーキングを発動しトラックの荷台に紛れ込む。これで後は内部へ侵入するだけだ。そのはずであった。











『おかしい………さっきから一行にトラックが動く気配がない。ゲート前に陣取っているのに誰も近づいてこない。守衛はいるようだが肝心の運転手がいない。どういうことだ?』



カンッカンッ



『ッ!?誰か荷台に登ってきた、しまった荷の点検か!?』



カンッカンッカン


足音が近づいてくる。

『ッく、仕方ない。最悪排除するしかないか。』



カンッカンッカン    ゴソ


ダンボールに手が掛かり持ち上げられる。



『っ許せ!!』


バッ!!   ダンボールが取り払われた瞬間に合わせ拳銃を構える。引き金にはギリギリまで力が込められている。


だが弾丸は放たれる事はなかった。





「『!?』」


『子供だと!??!?』

スネークは咄嗟に銃口を外す。ダンボールを取り払ったのは銀髪をウサギの耳のような髪留めでくくった小さな少女であった。



【動くな!!貴様を逮捕する!!!!】


間髪入れずサーチライトがスネークを照らす。ゲートが開きゾクゾクと武装した警備兵が現れ自動小銃の銃口を向けてくる。


『くそ!やられた!!罠だったか!?』

ID認証のシャッターも侵入者用のセンサーの薄い通風孔も全ては自分をココに誘導するための誘いだったと気づき、悪態をつく。

『どうする?強行突破するか?無理だ、兵力が違いすぎる。機密保持のため自決?それは義務であるが出来ればしたくない。ならどうする?   ん?子供? ッ!そうだ彼女を人質に…………………できるわけないか』


拳銃を捨て両手を挙げる。投降の意志表示である。




「そのまま動くな。社、こっちに来るんだ。ゆっくりでいい。落ち着いてだ。」

拳銃をスネークに突きつけながら茶色の髪を肩まで伸ばした妙齢の女性が少女を手招きする。

「妙な真似はするな。抵抗すれば0.2秒で貴様の額に風穴が開くぞ」

「わかった。指示に従う」

「貴様の身柄は国連太平洋方面第11軍横浜基地が預かる。今後はスパイ容疑で拘束される。貴様がいずこかの国家の仕官であったとしても不法行為を行った者を捕虜とは扱えない。よって国際条約に則った待遇は期待するな」

「同意する」

「よろしい。ではボディチェックの後、スウィートルームに案内してやる。キリキリ歩け!!」











”愛国者”スネークの最後の任務はこうして終了した。












  ………Side Human's 国連太平洋方面第11軍横浜基地 地下 香月 夕呼の事務室  〔香月 夕呼  伊隅 みちる〕




「―――――以上が尋問の結果です。薬物、後催眠等の検査結果は出来上がり次第お持ちします」

「そう、ご苦労だったわね伊隅。なんか悪いわね。MPの真似事なんかさせちゃって」

「いえ、お役に立てれば幸いです。それに教官に仕込んでいただいた対人スキルをようやく使う事が出来ました。これで無駄にせずにすんだというものです」

「あらそう?まあ しばらくは戦術機振り回す事はなくなりそうだから私の護衛紛いの事をしてもらうは。いい機会だからしっかり羽根伸ばしてレベルアップしてもらうわよ」

「ハッ!オルタネイティヴ4直属部隊の名誉にかけてやらせていただきます」

「まあこの一回で終わるはずはないでしょうから、こちらもそれなりの対応をさせてもらうけど」

「しかし意外でした。珠瀬事務次官経由とはいえ、米国のそれも現役の国連大使が情報を流してくれるとは思いませんでした」

「ゼルメイ・M・クローザーね。あの男は数少ない”真人間”なのよ。祖国に誇りを持っていると同時に祖国を穢す輩がガマンできない。今まで”奪う”しか出来なかった祖国が、人類の命運を掛けたこの戦いで人類を守る盾になっている事がうれしい。『守る』事を誇りにしているのよ。その証拠にNSA(国家安全保障局)まで動かしてバカ共を止めてくれたわ」

「ではやはりオルタネイティヴ5過激派でしょうか?」

「そこしかないわね。次の国連総会で一番損をするのはヤツラなんだから。よほど『オモチャ』に自信があったんでしょうね」

「先日お話していただいた五次元効果爆弾のことですか?その威力と引き換えに空間すら汚染する可能性を持つ爆弾。兵器というよりは『毒』ですね」

「っそ。地球生命の一番の発明は正に『毒』なのよ。人類が『武器』という『毒』を手にしたように、人類以外の地球生命も『毒』という『武器』を持つ事でその生存を確保してきた。だけどその毒が文字通り自分自身にはね返ってくるような生命は人類だけなのよ。毒蛇は自分の毒では死なない。毒蜂は自分の針で自分を刺さない。蜘蛛は自分の巣にはかからない。『毒』と『武器』を手にした瞬間、人類以外の地球生物はその対抗策も同時に生み出しいるんだけど、科学という『武器』を手に入れた人類にはそれがない。生物として逆に退化しているのかもしれないわね」

「だとしても、我々は負けるわけにはいきません」

「その通りよ。これからもお願いね」

「ハッ!お任せください」



伊隅大尉が事務室を後にする。残された夕呼は笑いを抑えるのに必死であった。


「クッククククク♪実はもう対策なんて出来ているなんて言ったらどんな顔するかしらあの娘?」


「……………………意地悪です。博士」

ふいに扉が開き、幼い少女が入ってくる。誰あろう社 霞であった。


「あら社、もういいの?」

「……………ハイ。涼宮少尉に一杯撫でてもらいましたから」

「そう、悪かったわね。囮なんかにしちゃって」

「……………いえ、あの人は子供を絶対に撃たない人でしたから」

「へえ、わかるのね。クローザー大使との取引じゃあ、あの男も好きにしていいそうだから鎧衣と組ませてみようかしら?案外面白い組み合わせかもしれないわね」


後に社 霞は語る。この時の香月 夕呼はまさに「おとぎばなしの魔女」のようであったと。



「そうそう、あの話考えてくれた?」


「…………………………………………………………あ、あの本当にいいんですか?」

「善いも悪いもないわ。あなたが決める事よ」

「………………で、でも私は………」


霞は俯いてしまう。それは恐れ。拒絶されるかもしれない可能性から視線をふさいでしまう彼女の悪い癖であった。
だが夕呼は『そんな物知ったこっちゃないわ』といわんばかりに霞の頬に手を当て視線を持ち上げる。




「あんたの悩みなんて、最初から考慮の内に入ってんのよ。悩もうと悩まむまいと結果は変わらないのよ。それでどうしたいの?」







夕呼はまっすぐに霞の瞳を見詰める。








「……………………………………………………………………………………ってください」

「聞こえないわよ」


「………………………………………………………たしの………になってください」


「まだまだ」


「……………っ!  私の”お母さん”になってください!!!」


真っ赤な顔で普段の彼女からは信じられない大きな声だった。



そして”お母さん”。

ことの始まりは佐渡島ハイヴが陥落した時、夕呼が霞に養子縁組の話を持ちかけたのだ。この時すでに夕呼は人類の勝利を確信していた。その原因は霞が書き起こした”あの”公式達である。ならば”社 霞”として求められた役割はほぼ終了した事になる。
であれば彼女の進退は早い内に決めたほうがいいと夕呼が切り出した。
この時、霞は夕呼から発せられた『色』に驚いた。彼女のリーディング能力で見た普段の夕呼の色は無色である。恐れもなにもない。
だが養子縁組の話を切り出された時、彼女が見たのは『とても暖かな白』であった。
それが戸惑いを生み、同時に初めての希望を感じた。
ESP能力者としての社 霞ではなく、人間としての社 霞に向けられた初めての感情だったからだ。





「それがあなたの選択ね。おめでとう、あなたは今生まれたのよ。今から香月 霞よ。誕生日おめでとう」

「………はい。ありがとうございます」

「まずは話し方からね。気長にやりましょ”霞”」

「………………ハイ、お、”お母さん”」







二人は手をつなぎ歩き始める。数多の確立分岐において『人間を捨てた女』と『人間になりたかった少女』が手を取り合い『家族』となった。








二人の『物語』が始まった。




















































































だがここで、事態は思わぬ展開を見せる。




























































それは重慶ハイヴを陥落せしめたゴジラの頭上から始まった。















































――――――――1998年 10月 22日 午前8時15分 





地球低軌道からの軌道降下によって三発の『試作G弾』が投下された。 その目標は『ゴジラ』     






































                  ゴジラ、消滅

































あとがき:そろそろ板移動しようかなと思います。

     先日、伊藤悠作「シュトヘル」を拝読しました。よって次回作は四番でいきます。たぶん短編になるかと思います。



[12389] 第九話
Name: エキシボ◆e1d483d5 ID:8c20cdfc
Date: 2009/11/17 00:46
注意事項:このSSは八割方ノリで出来ています。
     作者は身の程知らずにも笑いあり、涙ありなSSを目指しています。
     そのため、一部某デモン○ベイン並にご都合主義でストーリーが進みます。
     このSSに不快感、嫌悪感を抱いた方がいましたら申し訳ありません。
     ラストスパート入ります。











  ………Side Godzila  From バージニア州・ラングレー (見ろ!人がゴミのようだ!!)







「痛かった、痛かったぞぉぉぉぉ!!   アァァメェェェリィィィカァァァ!!!!!」




『その日合衆国の平和は一瞬にして破られた』



『来た!   あいつが来た!!!』



『鉄壁の肉体!   マシーンよりも冷酷な心!!   底無しのパァウワァァァ!』




『アトミック・フィィィーーーーヴァァァァーーーーー!!!!    WOW!!!』



米国 バージニア州 ラングレーはその日劫火に包まれた。







「HAHAHAHAHAHA!! アメリカなど○イプしてくれるわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


『おお~ノリノリだね? いい顔してるよ今!! いいよいいよ!!!』


妙にテンションの高いゴジラとノリノリにツイストするX星人は今CIA本部の存在する米国 バージニア州に来ていた。


重慶(チョンチン)ハイヴで試作G弾三発の直撃を受け、消滅したはずのゴジラが何故米国に?原因はやはりG弾であった。

そもそも試作G弾の直撃を受けたゴジラは死んではいなかったのだ。


『いや~しかし、出られてよかったね~?あのG弾試作品みたいだったからさ、超々高重力場の指向性がバラバラだったんだよね?おかげで空間が捻じ曲がって閉じ込められちゃってさ?もう暗いの狭いのでひどいのなんの』


「………FUHAHAHAHAHA、我輩は偉大である。軽くアメリカぶっ殺す♪」


『まあまあ、あれはアメリカの総意ではないよ? オルタ5過激派の暴走だよ? 犯るならオルタ5の中心CIAと”エリア51”にしときなよ?』

”エリア51”とはネバタ州に存在するオルタネイティヴ5の重要基地であり、G弾の唯一の工場でもある。


「……任務了解。目標を鬼畜する」


『あれ? なんかマジギレしてる?』




「………………………………………クライのセマイのやなの」


『面○終太郎(うる星や●ら)かよ』


「それに痛かった。 ものそぉい痛かった。KONISHIKIにボディプレスとヒールでスタンプされたくらい痛かった」


『あらそんなに? まあとりあえず出られてよかったね』


「G弾の”公開実験”で生還ってのは笑えへん冗談やけどな。むしろ皮肉やな」



重慶(チョンチン)ハイヴ爆撃の後、米国は北大西洋 バミューダ海域でG弾の威力を世界に見せ付けるために公開実験を強行した。これは先の『ゴジラ爆撃事件』の印象を少しでも薄める事が狙いでもあった。
そしてなんの奇跡か異常空間に閉じ込められていたゴジラは、この公開実験で爆発したG弾の中から生還したのだった。
生還して脚を着けたのは、もちろん北大西洋 バミューダ海域であった。その後ニューヨーク、ラングレーと進みアメリカ大陸横断を開始したのだった。



『あれがたぶん閉じた空間に孔を空けたんだね。どうやら完成に近づきつつあるようだよ。G弾は』


「……………………どっちにしろ、もう”時間がない”。エリア51ぶっ壊してBETAの本丸にガチンコかましたる!!」


CIA本部に”紅い”放射熱線を放ち、ゴジラは歩みを進める。









『……………………一つ聞いてみたかったんだけどいいかな?』


「なんや?」


『君はどうして迷わない? 突然”こんな”世界に連れてこられて、体だって人間じゃなくなっているのに。何故そこまで出来る?君の視点からしたら”彼ら”はフィクションの登場人物に過ぎない。言ってしまえば”生きて”はいないんだよ?』


「……今更やな。そんなの簡単や、”生きている”、”命がある”と思うからや」


『どうしてそう思える?』


「ワシはのう、受験に失敗してのう。なんと三浪や! 今まで平穏無事な人生送とった分、反動で鬱なってしもうてな? 挙句の果て、居づらくなって家を飛び出しフリーターになり、なんの目的も夢もなく生きとった。両親にも呆れられて連絡が来なくなって随分経つ。 変わらん毎日が過ぎていく中で、ある日ふと思った。『何で生きてるんだろ?』とな。……そんな時『マブラヴ』と出会ったや」


『………それで?』


「始めはヒマ潰しのつもりやったんが、ドンドン引き込まれていってなあ? 正直に言えば羨ましかったや。武ちゃんや夕呼先生は文字通り、自分の命燃やして生きてたんや。そこに憧れた。同時に悲しくもあったんや。フィクションの皆が”生きてる”のに自分は何やってんやろ?  せやからな、胸張ってマブラヴの皆に”生きてる”って言えるようになりたかったんや。だから自分に出来る事を全力でやろうと思ってな…………きしょいとか言うなよ?」


『いやいや♪そんな事は言わないさ。人それぞれだしね。でもいいのかい?今の君には”時間がない”』


「だからこそや! 世界で一等でかい花火ぶちまけたる!!! それにな………」


『それに?』






「俺の夢は、野垂れ死にじゃああああああああああああああ!!!!!!!!!」









ロッキー山脈を吹き飛ばし、西海岸へと進行するゴジラの体は紅く輝いていた。


母なる地球の血潮と同じマグマ色の体、大気が発火しそうな程の体温。全てを灰燼に帰さんとする紅く鋭き瞳。




それは命の最も力強き輝き、夢という暴力の究極なる姿。
















『バーニング・ゴジラ』の花道であった。















ゴジラ、炉心融解(メルトダウン)まであと 7 日。













  ………Side Human 〔香月 夕呼〕



ゴジラ消滅より二日後、世界は混乱した。

鉄原(チョルウォン)、ブラゴエスチェンスク、ウランバートルそして重慶(チョンチン)とユーラシアのハイヴを次々陥落させたゴジラが謎の黒い大爆発に飲み込まれ姿を消したのだ。帝国はもとより統一中華戦線、欧州連合にソヴィエト連邦とユーラシア開放の可能性をゴジラに見ていた国家群の動揺は推して図るモノがある。

だが一番に声をあげたのは、意外にも米国であった。


『先日未明、米国宇宙基地”ダイダロス・ステーション”にて火災が発生。二度に渡る爆発を確認しました。幸い被害は最小限で食い止められましたが、残念な事にテロの可能性が浮上してきました。

人類の命運をかけたこの時期にこのような身勝手で傲慢極まりない行為を見過ごす事は出来ません。この行為に対し、我が合衆国は断固とした態度をとるつもりです』


やられた!この声明に対し、香月 夕呼は思わず舌打ちを漏らした。


ゴジラに放たれた試作G弾の発射ポイントがダイダロス・ステーションであった事はすでに突き止めていた。しかし”米国へのテロ”という看板でフタをされ「主権国家の問題」にされてしまった以上、おいそれと介入が出来なくなってしまったのだ。

これは時間稼ぎに過ぎなかったが策謀好きな組織が五万と揃っている国家だ。カバーストーリーの一つや二つ、簡単にでっち上げるだろう。


そして予想通り、米国は緊急の国連総会を要請した。それが二日後に開催される。


おそらくテロはオルタネエイティヴ5過激派の自作自演であり、試作G弾発射を「米国の意志」もしくは「誤射」のどちらにも改竄できるように工作しているに違いない。

むしろ開き直って「香月 夕呼 黒幕説」を繰り出してくる可能性もあった。

「香月 夕呼 黒幕説」とは先日横浜基地に侵入しようとしていた者達を伊隅みちるが締め上げた結果入手した物である。

つまりは「魔女の手下に邪魔されながらも世界征服を未然に防ごうとした」というストーリーを描くつもりなのだ。荒唐無稽ながら逆に否定する事は難しい。
そして何より、”G弾”の威力を見せ付ける事で批判をねじ伏せるつもりなのだろう。

なにせゴジラすら葬った兵器だ。ちょいとチラつかせれば十分である。



だが完璧ではない。「香月 夕呼 黒幕説」は物証などあるはずもない。そして手元には米国大使ゼルメイ・M・クローザーから渡されたCIAの「泣き所」がある。極めつけが爆撃跡地の汚染だ。

本来G弾は放射線の汚染を出さない”クリーン”な新型爆弾というのが売りだった。しかしそれは未だ試作段階であり、現在重慶ハイヴ跡は猛烈な量のγ線放射能で汚染されている。これをネタにかなりの揺さぶりをかける事が出来る。


後は考えられる可能性としてG弾の「公開実験」がある。冷戦時代に多様された方法で珍しくもないが、少しでもG弾の脅威を浸透させるためには行う意義があるだろう。

どのように戦略を展開するべきか考えにふける内に朝を迎え、国連会議を明日に控えたある時、またも事態は思わぬ展開を見せた。






北大西洋 バミューダ海域で事前に行われたプレゼン用G弾の爆発と共に再びデウス級が出現したのだ。




それも体を真紅の焔に染め、臨界の光を放ちながら。



この時夕呼は破顔した。子供ならトラウマに成りかねない魔女の笑みを浮かべたのだった。



振り返った夕呼は受話器を手に取り、秘匿回線を繋げる。


通信先は二大超大国大使へと繋がる回線であった。










  ………Side Human's  United States of America(アメリカ合衆国)  〔ゼルメイ・”マッカーサー”・クローザー〕



事の始まりは香月 夕呼のデウス級の調査結果発表からであった。ゼルメイは己の部下に外部勢力が侵入している事に気がついていた。

合衆国は巨大な国家である。幾多もの組織が存在し、その繁栄を保つため活動していた。
だがそれ故に一枚岩ではいられなかった。
あろう事かお互いがお互いを監視し、牽制しあっているのだ。よい例がCIA(中央情報局)とNSA(国家安全保障局)である。

CIAは合衆国を繁栄に導くという目的で他国に干渉・煽動し、合衆国に利益をもたらす。NSAは合衆国の繁栄を守るという目的で他国を監視、統制している。
どちらも己こそが正義と信じて動くが、実態はただの共食い状態である。


合衆国は「ヒドラ(多頭蛇)」なのだ。全ての頭に意志があり、互いを睨み、時に噛み合って成長してきた存在だ。その巨大さゆえに滅びずにすんでいるに過ぎない。
その事に気がついている人間がどれだけいよう?


そんな国家の中にあって、ゼルメイは貴重な人間だ。





彼の叔父は前大戦の英雄であった。名をダグラス・マッカーサーという。

ゼルメイは叔父を誇りに思っていた。叔父の残した言葉の多くが今のゼルメイを創ったといっても過言ではない。




『一つ片付いたが、まだ戦争の道筋を一歩進んだだけだ。諸君らが勝つか負けるか、生きるか死ぬか。その違いはまつげ1本だ』


『戦争の究極の目的は勝つことであり、決断を先延ばしにすることではない。戦いにおいては、代わりに勝利を収めてくれる代理人はいない』




叔父は戦争に政治を極力持ち込まなかった。それは戦場にある敵味方全ての将兵に一日でも早く終戦を迎えさせるためであっとゼルメイは考えている。


そんなゼルメイには、英雄のネームバリューから多くの組織から引き抜きがあった。ゼルメイ自身、優れた人物であったことからその利用価値も高いとどの組織も躍起になってゼルメイに声を掛けた。

しかしゼルメイが選んだのは陸軍であった。これには叔父の補佐官をしていたドワイト・アイゼンハワーという男が原因である。




『たとえ行動の理由が正義であろうと悪徳であろうと、最終的に国家が掲げる手段は”軍事力”であり、それは”暴力”だ。”暴力”の前では全てが”弱者”であり、”弱者”にとって”暴力”は”悪”にしか成りえない』




アイゼンハワーの言葉に思う所があり”暴力”を理解しようと陸軍の門を叩いた。

数年後、軍を退役し国連職員として国家に尽力する。この時、ゼルメイを狙っていた各組織はお互いを牽制し合い、バランスを崩す事を恐れ手を出してこなかった。


それが幸いしたのだろう。ゼルメイは合衆国では珍しい『無色』な人間であったのだ。そして『無色』であったが故に、様々な利権が絡むオルタネイティヴ計画において、米国大使を任されたのだ。

そんな彼だからこそ、自分の配下のニオイには敏感であった。



様子のおかしい部下を子飼いの者に監視させその動向をチェックしていたが、案の定あっさりと尻尾を出した。補佐官であったその部下はオルタネイティヴ5過激派の工作員であったのだ。

工作員の様子があまりにも慌てていたため、これは何かあると思い陸軍時代のコネを使い、オルタネイティヴ5の内部資料を集めさせた。断片的な情報と当時の状況を照らし合わせて出てきたのは「ハワイ沖での新型爆弾の実験」と「ハイヴ爆撃計画」、そして「オペレーション・アケボシ」であった。

ゼルメイは頭を抱えた。つまりは新型爆弾でハイヴを落とし、計画をオルタネイティヴ5へと一気に移行させようというものだったのだ。あまりにも強引な計画に溜息も出ない。おそらくは新型爆弾の威力に絶大な自信があるのだろうが、そんな事帝国が許すはずがない。いやもしかしたら、強引に投下する事で、新型爆弾の威力を見せ付け帝国を従属させる考えなのかもしれない。おあつらえ向きに横浜は帝都・東京の鼻先だ、屈服させるのは時間の問題と判断したに違いない。



だが予定が狂った。他でもない『デウス級』が現れたからだ。横浜、佐渡島は陥落。ユーラシアのハイヴも次々陥落していっている。おまけに新型爆弾が妙に『臭う』。

ゼルメイは監視を続行し、香月 夕呼にコンタクトを取るべく珠瀬事務次官に連絡を繋いだ。



三日後、すぐに動きがあった。CIAは僻地で隠居していた元特務部隊の男を召喚し、さらには複数の工作員を横浜に送り込んだのだ。そのリストに目を通した瞬間、目眩がした。

明らかに荒事(ダーティーワーク)専門の連中、それもP.O.O(準軍事工作担当官:暗殺・監禁・誘拐・拷問etcのプロ)ばかりだったのだ。恐らく狙いは”香月 夕呼”の暗殺。理由はわからないが暗殺に至るほどの『ナニカ』を彼女に握られたという事だ。この情勢で香月 夕呼を暗殺したら、どれだけの混乱が起きるかわからない。それでもなお暗殺に踏み切ったという事はかなり重大な失態を冒したという事だ。


この瞬間、ゼルメイの腹は決まった。


オルタネイティヴ5を合衆国を穢すモノして切り捨て、オルタネイティヴ4を支援する事にしたのだ。



まず動きの中心はCIAであったことから、対応策としてツバを付けておいたNSA幹部にある事ない事を吹き込みCIAの動きを妨害させた。おまけに軍内のコネをフルに使いCIAが過去に隠蔽した失態を掻き集めた。

それらの一部を珠瀬事務次官宛の書簡に混ぜ、珠瀬事務次官経由で香月 夕呼に情報を渡した。全部渡さないのは香月 夕呼が失脚した時、NSAにそれを渡しその見返りに自らの安全を図るためである。


日和見主義者を自称するゼルメイは事態の監視に徹した。状況の変化にいち早く対応しなければならなかったからだ。









そして事態は思いもよらぬ方向に転んだ。


米国宇宙軍の装甲駆逐艦隊に搭載された新型爆弾”試作G弾”よる軌道爆撃によってデウス級が爆撃されたのだ。結果、デウス級をロストする事になった。

続いてダイダロス・ステーションのテロ騒ぎである。まるでデウス級から逃げるように合衆国は動いた。緊急の国連総会が要請されたが大使である自分を通じてではなく、本国から直に要請が行われた事にも疑問が湧く。おまけにその担当官は自分ではなく、いつもは本部に引っ込んでいる事務次官が当たるとの事だ。


遺憾ながら祖国に疑いを持たざるえなかったゼルメイは、マンハッタンで一人でホットドックを齧っていた。

ケチャップとマスタードとオニオンピクルスを山盛りにしてガブリと齧りつく。典型的なやけ食いであった。叔父もやっていたという。







そして数時間後、『あれ』と運命的な出会いをする事になる。



マンハッタンの街並に灼熱が映える。ニューヨーク・ローワー湾の中に海底火山でも出来たかのような大量の蒸気が空を覆った。




『デウス級』である。太陽をその身に宿したかのような炎熱を放ち、堂々と摩天楼に凱旋する。

ゼルメイはデウス級を見上げ、陸軍の門を叩いた日の事を思い出す。





―――ああ、これが”暴力”か―――



そんな彼の胸元にしまわれた携帯端末が鳴り出すのは、間もなくであった。















  ………Side Human's  Союз Советских Социалистических Республик(ソヴィエト社会主義共和国連邦 )〔ヴィタリー・チェルキン〕


バーニング・ゴジラ来襲より12時間後。


「………そうですか。ワザワザありがとうクローザー大使。それに御無事でなによりでした。同志・エリツィンも心配していました。…………そうですか、香月博士の準備は完了。ではこちらも博士の予定通り進めます。…………いえ、今は人類の勝利こそ優先されるべき事項です。私も今回が最初で最後の、そして最大のチャンスだと考えております。……では総会議で」






ガチャッと秘匿回線専用の受話器を下ろしフゥーと溜息をつく。背もたれに身を預け天井を見詰める。








「――――人類の勝利、か………」


「………あなた、どうしたのですか?こんな夜遅くに」


執務室の扉が開き、銀髪の女性が姿を現した。


「ターシャ?、起きていたのかい?今夜は冷える。体に障ってしまう。部屋に戻りなさい」

「ごめんなさい。でも何やら深刻なようだったから心配になってしまって」

「ああそうか、すまないね。不安にさせてしまったようだ」


アッシュブロンドのオールバック頭に深い皺と灰色の瞳を持ったソヴィエト連邦国連大使、ヴィタリー・チェルキンは執務机から立ち上がりその妻、ナスターシャ・チェルキンに寄り添う。


「………少し話そう。今お茶を入れるから座っててくれ」

「それくらいでしたら私が入れますわ」

「ダメだ。”身重”なんだ。無理じゃないとしても私にやらせてくれ」


チェルキン大使の妻・ナスターシャは妊娠三ヶ月。これが三人目であったが夫の不安は取れることはなかった。


「ごめんなさい。疲れているのに余計な事をさせてしまって。………今の通信はひょっとして”本国”から?」


ナスターシャが目を細め、不安げに聞いてくる。


「……いや、米国のゼルメイからだった。明日に開催される緊急総会議について、どうしても知らせておきたい情報があったらしい」

「クローザー大使が?御無事だったのですね。本当によかったですわ」




「……………また”妹達”の話かと思ったかい?」

「……ハイ」


悲しみを堪えるように頷く。


チェルキン大使の妻、ナスターシャは普通ではなかった。
その生まれは自然のモノではなく、冷たい試験管の中だったのだ。

より明確にいえば彼女は「オルタネイティヴ3」の残滓であった。

ESP能力者によるBETAとの意思疎通、情報入手計画であったオルタネイティヴ3の被検体として人工的に生み出された生命。それが彼女の正体だった。妹達とはそんな彼女と同じ境遇の者達のことである。


結果としてオルタネイティヴ3は十分な成果を出せず計画は中止され、その成果の一部はオルタネイティヴ4に接収された。しかし、計画の素体として多くの人工ESP体が”生産”され、その後の目的を失った。残された素体達の行き先は戦術機の操縦に秀でるものは前線へと。ESP能力に秀でるものは諜報機関へと様々であった。


ナスターシャもその中の一人であったが、当時のオルタネイティヴ3担当国連事務次官として研究施設に出入りしていたヴィタリーに引き取られ、その後結婚した。


当時のヴィタリーは施設を訪れる際、必ずといっていいほど良心の呵責に苛まれていた。いやヴィタリーに限らず、オルタネイティヴ3の研究者の中には、命を弄ぶという非人道的な所業に耐え切れず自殺する者も珍しくはなかった。ヴィタリーも人類の勝利のためならどんな罪も犯していいのか?と自分を責め続ける毎日であった。


そんなある日、まだ幼いナスターシャがヴィタリーに話しかけた。



『だいじょうぶ、わたしたちがシんでおじさんたちをたすけるから。だからナカナイデ』』



ヴィタリーは泣いた。親の愛も知らず、生まれて十年も経っていないような少女に罪を許され、己の無力に泣いた。


それが二人の出会いであった。その後、オルタネイティヴ3の終了と共にナスターシャを引き取り、後に結婚。この時、ヴィタリー40歳、ナスターシャ16歳であった。

当時から女性として芸術に匹敵するほどの美貌を持っていた少女と親子ほどもある年齢差に、周囲は下種な勘繰りを走らせたが、ヴィタリーはそれでナスターシャを幸せに出来るのであればどんな汚名も被るつもりであった。
ナスターシャも施設にいた頃からヴィタリーの事をある意味彼以上に知っていたため、心良くプロポーズを受け取った。


そしてオルタネイティヴ3の最も近くにいたため、新たなオルタネイティヴ計画の監視者として国連大使に任命されたのだった。


「――すまない。私の権限では全員の所在を把握する事は出来なかった」

「―――そんな。顔を上げてください。あなたのおかげで姉妹達は何人も救われています」

「……”イーニァ”と”クリスカ”は『向こう側』の部隊に配属されたようだ」

「!? ああ、そんな。あの子達が戦わなくてはならないなんて」


泣き崩れるナスターシャをそっと支えるヴィタリー。


「泣かないでくれターシャ。彼女達は強い。きっと生き残ってくれる。そう信じるんだ」


「…………ハイ、ごめんなさい。私の方が心配をかけてしまって」

「気にすることはない。…………それに、もうすぐ始まるのだから」

「始まる?  一体何が?」


ヴィタリーは妻を抱きしめ、夜闇に浮かぶ月を見詰める。




















「”地球奪還作戦”さ」























  続く?





あとがき:あとニ、三話で終わります。





[12389] 第十話
Name: エキシボ◆e1d483d5 ID:8c20cdfc
Date: 2009/11/17 00:24

注意事項:このSSは八割方ノリで出来ています。
     作者は身の程知らずにも笑いあり、涙ありなSSを目指しています。
     そのため、一部某デモン○ベイン並にご都合主義でストーリーが進みます。
     このSSに不快感、嫌悪感を抱いた方がいましたら申し訳ありません。
     ちょっと少なめです。









  ………Side Human's of the Earth 〔国連総会儀〕













「死闘において、『二等賞』の席は存在しない。そこには『敗北』あるのみである……。




        …………オマール=ブラットレイ米陸軍大将…………



















―――世界は加速する。



ゴジラの再出現、CIA強襲。そして米国の要請で開かれた緊急総会議。全ては『求められた』結末への呼び水。





―――世界は加速していく。



それは数多の可能性の果てに、悔し涙を流したある女の執念がもたらした『プレゼント』である。











まず国連総会儀は米国の発言から始まった。

曰く、全ては香月 夕呼の自作自演である。

曰く、香月 夕呼は世界征服を行おうとしている。

曰く、デウス級は香月 夕呼の生み出した人工BETAである。

曰く、ダイダロス・ステーションのテロも香月 夕呼の手引きである。

曰く、報復としてデウス級に米国・CIA本部を襲わせた。

曰く、新型爆弾・G弾によるハイヴ攻略の可能性。

以上の理由から、香月 夕呼を弾劾するべきであると米国の国連事務次官が議長に詰め寄った。



議長は冷ややかに構えながらも、香月 夕呼に発言を促した。そして語られる事の顛末。



オルタネイティヴ5過激派による横浜基地での暗殺未遂事件。

オルタネイティヴ5過激派工作員による違法活動。

オルタネイティヴ5過激派による「オペレーション・アケボシ」の草案書類とCIA幹部のサイン。

デウス級が、ただ単にCIA本部が歩くのに邪魔だから破壊した事。

オルタネイティヴ5過激派によるデウス級に投下されたG弾の詳細。未完成であり、非常に危険で土壌どころか空間さえ汚染する可能性がある事。

そしてそれが原因でデウス級が異常空間に幽閉されていた可能性がある事。同時に異常な刺激を受けたデウス級が「炉心融解(メルトダウン)」に向かっている事。

「炉心融解(メルトダウン)」した場合、最悪地殻に孔が開いてしまい、ユーラシア大陸が崩壊するかもしれない事。



香月 夕呼はことさら”オルタネイティヴ5過激派”の仕業である事を訴えた。当然米国事務次官は反論したが、意外な所から援護がまい込む。

米国大使ゼルメイ・M・クローザーが一連の事件の裏で行われていたCIAの裏工作について証言したのだ。物的証拠の存在を匂わせつつ事務次官に疑惑の目を向ける。

これには事務次官の後ろにいるオルタネイティヴ5過激派の幹部達も焦った。裏切りにも等しき行為であったが、迂闊に踏み込めば墓穴に入る事になりかねない。だがそれは無駄な足掻きとなる。

すぐさま米国大統領からオルタネイティヴ5過激派の”暴走”である事が発表され、CIA長官を含めた一部高官達がその場で逮捕された。

大統領府(ホワイトハウス)と国防省(ペンタゴン)はもはや言い逃れは出来ないと悟り、ならばこれ以上悪化しない内にとオルタネイティヴ5派の高官達を生贄にする事で、米国の保身を図ったのだ。

元々、デウス級の再出現によって事前の予定が崩れてしまっていたのだから無理もない。ゼルメイに限らず、米国高官達の間にも不信は広がっていた。大統領もG弾による世界戦略を考えていたため、飛び火を恐れたのだ。その証拠にダイダロス・ステーションに残されたG弾の所在すら明らかにした。




事の顛末が語られた総会議は次の段階へと移った。
H22:横浜ハイヴ跡(現国連太平洋方面第11軍 横浜基地【仮】)に残された反応炉のリーディング結果の発表である。既にデウス級の行動について、その行動を演算してみせた00ユニット・プロトは信用に値するとの評価を得ていた。よって、このリーディング結果も疑われる事はなかった。








そして人類は己の敵の真実を知る。



BETAは人類を『生命体』と認識していない事。

BETAは宇宙の彼方に存在する『創造主』と呼ばれる生命体から 送り込まれた有機作業ユニットである事。

『創造主』である知的生命体は珪素系生物であり、『創造主』から見た場合、炭素系生物であるBETAは『機械』、人類は『現象』に過ぎないと言う事。

BETAの指揮系統がハイヴの反応炉を介して行われ、その伝播モデルがピラミッド構造で はなく『箒型』である事。

その頂点がH1:喀什 オリジナルハイヴに存在する『あ号標的』である事。

あ号標的は 人類を『災害』と認識しており、横浜ハイヴで人類の研究をしていた事。

そして、G弾にすら解析し、無効化する可能性がある事。

一刻も早く『あ号標的』を撃滅しなければ、取り返しがつかなくなると世界に訴える。



各国大使は言葉を失った。
戦争をしていたつもりがBETAにとっては喧嘩ですらなかったのだ。


大使達の瞳から光が失われかけたその時、香月 夕呼は一つの可能性を示した。


「デウス級」がより多くのG元素を求め、最大の『アトリエ』オリジナルハイヴへ向かっている事実。


今現在、デウス級は試作G弾による異常な刺激により、その体内では莫大な核エネルギーが燃え盛り、自分自身を崩壊させ炉心融解(メルトダウン)に近づきつつある。人間で言えば体内の血潮が沸騰し、蒸発を繰り返しているようなものだ。そうなれば血を求めるようにG元素へ向かうのは道理である。



香月 夕呼はこれに便乗し、デウス級がオリジナルハイヴを強襲した際混乱に乗じて、その中心部 『あ号標的』を殲滅する作戦を提案した。

G弾がすでに無効化された可能性も否定できない以上、通常戦力をぶつけなくてはならない。ましてや炉心融解(メルトダウン)による地殻崩壊を防ぐため、残されたG弾は全てデウス級に使用し、その存在を再び異常空間に閉じ込める必要もある。

全世界規模の総力戦である。突然の事に多くの大使は動揺を隠せない。

だがそれでも、手を掲げる者達がいた。


日本帝国、ソヴィエト連邦、米国の大使達は立ち上がり即座に参加を表明。帝国とソヴィエトはユーラシアの開放を望んでいる。ならば問う間でもない。米国はオルタネイティヴ5過激派による社会的地位低下をこれ以上防ぐため、大統領から即座に参加の意志がゼルメイに伝えられた。

やがて意を決したように欧州連合、統一中華戦線、アフリカ連合、国連統合軍と文字通り全世界の軍が参加を表明した。






1998年 10月26日 午前11:42:13  



地球史上最大の反抗、もとい”地球奪還”作戦 『桜花作戦』 が発令された。



















ゴジラ、炉心融解(メルトダウン)まであと 5 日。

















  ………Side Human's From 日本帝国 帝都・東京 〔 白銀 武 鑑 純夏 煌武院 悠陽 御剣 冥夜〕




帝都・東京は慌しく動いていた。三日前、国連から発令されたオリジナルハイヴ攻略作戦、作戦名『桜花作戦』に参加するため急ピッチで派遣部隊の再編成と綿密な調整が行われている。特にハイヴ突入部隊として選抜された斯衛軍の衛士達は、機体を瑞鶴から不知火に変更されたため完熟訓練に没頭している。

彼らが突入部隊に選ばれたのには理由がある。補給も支援もないハイヴ内で最大級に戦えるのは近接戦闘に優れた衛士だけであるからだ。米国のような射撃一辺倒では、すぐに弾薬が干上がってしまう。そうなれば『あ号標的』に到達する前に部隊が全滅してしまう。したがって弾薬を温存しつつ、近接戦闘で戦闘を持続できる能力が必要であり、それにもっとも秀でた衛士は帝国のロイヤル・ガードたる彼らだったからだ。

だが彼らが使用する機体は瑞鶴。いくら優秀な機体といっても所詮は第1.5世代機。ましてやハイヴ突入では何よりスピードが求められている。性能では第3世代機である不知火には及ばない。
この問題を解決するため不知火へと機種変換されたのだった。



「……でも、慣れない機体でやる方が返って危ないんじゃあ?」

「もちろんだ。だがあの者達は一ヶ月前から鍛錬を始めている。斯衛の者達に弱卒はない。安心するがよい」


危機迫る勢いで完熟訓練を行う衛士達を眺めながら御剣 冥夜と鑑 純夏が会話をしていた。


「その通りです。純夏さん。この者達も武家の端くれ、戦場で無様な振る舞いはいたしません。信じましょう」

「……ハイ、そうですね」


純夏の横に並び立つように煌武院 悠陽が近づいてくる。

あの横浜ハイヴ陥落から3ヶ月半が過ぎ、鑑 純夏は無事回復していた。彼女と白銀 武がもたらした横浜ハイヴ内の情報は、00ユニット・プロトのリーディング結果を証明する強力な証言となり、何より二人の存在が香月 夕呼との協定に一役を買っていた。

これによって帝国は反応炉のリーディング結果を一足先に取得する事に成功していた。加えて極秘で桜花作戦の概要を知らされていたので突入部隊の編成と不知火への機種変換を進めたのである。


「彼らも本来なら斯衛専用機で出陣したいであろうが、今回ばかりはそうも言っておれん。位階色のみで我慢してもらおう」

「斯衛専用の第3世代機が完成していればよかったのですが、残念ながら先となりそうですね」


申し訳なさそうに視線を向ける二人の先には、蒼、紅、黄、白、黒の不知火が並んでいた。


「……えっと、帝国だけじゃなくて国連の人達も一緒に突入するって本当ですか?」

「うむ、その通りだ。香月博士直属の部隊が随伴する事になっている。今は米国より送られたXG-70bを改良し、00ユニットを搭載しているらしい」

「なんでも戦闘用に調整した試作量産型の演算装置のようで、 強力な火力を有すXG-70bを戦術機からの直接・間接の両方で制御できるそうです。ゴジラがハイヴを強襲している隙に『あ号標的』まで到達し、一気に殲滅する考えのようです」

「………ゴジラを囮にするのですか?」


純夏は悲しみを覗かせた顔で二人に問いかける。


「…………はい、残念ながら」

「真に悔やまれるがな………」


悠陽と冥夜も喪に服すかのように瞳を閉じた。そこには深い悲しみが表れている。


「………だけど、そこで終わるヤツじゃないと思うんです。ゴジラは」


カンッカンッカンと金属製の松葉杖をついて男が現れる。


「タケルちゃん」

「武」

「武様」


杖をつき、右腕のない白銀 武が三人の元へ向かう。


「すいませんこんな格好で」

「いえ、リハビリも兼ねているのですから無理をなさらないでください。それよりも御体はもう良いのですか?」

「ハイ。悠陽様と冥夜様、それに斯衛の皆さんに良くして貰っていますので問題ありません。本当にありがとうございます」


横浜ハイヴより救出された後、武と純夏は斯衛の監視下に置かれた。非常事態とはいえ、当時はまだ公表されていない御剣 冥夜の姿を目撃したゆえの処置であったが、公表された後も悠陽と冥夜の厚意によって保護されたのだ。
そして今では二人の貴重な友人として帝都城に腰を据えていた。


「それで武、『そこで終わるヤツじゃない』とはどう言う意味だ?」

「……そうですね。なんて言うか、人間の想像の範疇に納まる存在じゃないと思うんです。ただ暴れて、壊して、殺して。そこだけ見ればBETAと何も変わらないのに、俺と純夏を助けて、帝国を解放して、G弾なんかも屁のかっぱで。まるで『おとぎばなし』の魔法使いみたいじゃないですか?だから死ぬんだとしてもただで死ぬとは思えないんです。人類の予定なんか知った事じゃないといわんばかりに全部のハイヴをぶっ壊していきそうな気もするんですよ。………命は燃やし尽くすためのモノだ、そんな感じがするんです」


タケル達は空を仰ぎ、その向こうにいるであろうゴジラを想う。


「……そうだな。輝け、もっと輝けゴジラ」

「あなたの輝きがワタクシ達を照らすのでれば、我々はより輝いてみせましょう」

「………生きてるんだもんね」

「生きてみせるぞ。必ず」








遠くユーラシアの果てで、四人に応えるかのようにゴジラは吼えた。



無限の世界の祈りをのせて。



那由他の願いを背負って。



そして、たった一人の執念を宿して。
























ゴジラ、炉心融解(メルトダウン)まであと 3 日。


























あとがき:「○○君、出張ね」
     「っえ? いつからですか?」
     「今月末から来月末まで」
     「……今月末って、もう第二週目なんですけど?」
     「うん、急に決まったから」




     「拒否権は?」
     「クビになりたい?」

     「サーセンwwwwwww」




こんな事があったとです。出張までに完結させねーと(汗



[12389] 第十一話
Name: エキシボ◆e1d483d5 ID:8c20cdfc
Date: 2010/01/06 01:42
注意事項:このSSは八割方ノリで出来ています。
     作者は身の程知らずにも笑いあり、涙ありなSSを目指しています。
     そのため、一部某デモン○ベイン並にご都合主義でストーリーが進みます。
     このSSに不快感、嫌悪感を抱いた方がいましたら申し訳ありません。


Let's Last Party!!






  ………Side Godzila  〔さぁて、いきますか?〕




『むきだしの力、暴力こそが歴史上、ほかの何にもましてより多くの問題を解決してきた……。


それを否定する事は弱者の希望的観測であり現実逃避でしかない……。


この自明の理を忘れた種族は、人命と自由という高価な代償を支払わされてきた……』



     ―――ロバート・A・ハインライン 「宇宙の戦士」―――







「”空(くう)に善有りて  悪無し……


  智は有也(うなり)   理は有也   道は有也……


  心(しん)は  空  なり”」

寒々しい荒野に佇む巨体。真紅に燃え上がる山の如き血潮。それが思い浮かべるは”さぶらふ”者達の教え。


『――”志道”とは、また旧いモノ知っているね?』

「昔、ちょっと剣道をかじってな。師範のおっさんにサムライの語源を聞いた事があったんや。まあ、三日坊主で終わってしもうたがな」


くっくっくっと頬を歪めてゴジラは笑う。
”さぶらふ”とは「貴人に仕える」と言う意味を持つ「侍」の語源である。古来の侍達はたった一人のために命を掛けた。いや、人だけではない。多くの夢、野望と言う”たった一つ”の事に仕えてきたのだ。
侍を意味する「士」と言う漢字には彼らの生き様が乗り移っている。
「十」の経験をもって「一」に帰結させる。それが侍であり、「士」に「心」の全てを傾ける生き方。それが「”志”道」である。


『君が志道を謳うのであれば、”彼ら”は何を謳うかな? 個人的予想としては「わが名はレギオン。我々は、大勢であるがゆえに」にかな?』

「新約聖書やな。”悪霊共”にピッタリや(笑)」


そう、ここは悪霊の領域。人外魔境の聖都にして糞虫共の本丸。


忌まわしき喀什(カシュガル)オリジナルハイヴより約100kmの地点である。
ここより一歩でも進めば、そこは魔窟の戦場が広がる。


「X星人、あと何時間もつ?」

『………40時間ってところかな?」

「上等じゃ。粗チン野郎ぶっ殺して全速で海に向かえば、なんとかなるやろ」

『…………敵は今までの20倍以上だ、今回は僕も手を貸そう。直接は無理だが、管制官の真似事ぐらい出来るし」

「おおっ頼もしいのぉ!バッチこいや!!」


再び視線をオリジナルハイヴのモニュメント(上層部構造体)へと向ける。

フゥゥーと浅い息吹で呼吸を整え、瞼を閉じる。





「状況」

『現在地、北緯39° 32' 34''  西経76° 1' 12'' 、喀什自治区 旧フェルガナ空港付近。オリジナルハイヴより113kmの地点にて待機中』

「戦力」

『ゴジラ級怪獣バーニング・ゴジラ一体。炉心融解(メルトダウン)まで残り40時間23分。武装:赤色放射熱線及び体内放射』

「作戦概要」

『第一段階、ハイヴ内BETAを可能な限り地上に誘引し、敵総戦力の半数、小型種を除き中型種・大型種を最低100万体を撃滅。
第二段階、ハイヴ上層部に突入孔を開けメインシャフト(主縦穴)を降下。誘導に従い放射熱線で『あ号標的』までの最短ルートを造れ。
第三段階、『あ号標的』を殲滅。立ちふさがる全てを薙ぎ払え!!』

「了解!」


GWAAAAAAああああああああああおおおおおおおおお■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!


宣戦布告の咆哮が鳴り響く。



星の血潮を身に纏い、憤怒と暴力の化身がゆく。

それは輝ける真紅の命。命とは血液。真紅の血は生命の象徴。


その名はバーニング・ゴジラ。



ここから始まるは一世一代の大立ち回り。馬鹿で単純でおめでたい、だけれども誰もが羨む華々しき散り様。




それは桜の花の如く。








1998年 10月30日  グリニッジ標準時07:00:00

『桜花作戦』 開始。







「死して屍拾う者なし!!」

『咲かせてみせよう!死に華を!!!』


「『俺達の夢は、野垂れ死にじゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』」






ゴジラ、炉心融解(メルトダウン)まであと 40 時間。







  ………Side Human's of the Earth 



<とあるCP士官>


私は今、震えている。
地球低軌道上に布陣する装甲駆逐艦艦隊から送られてくるその映像に。



灼熱色のゴジラが放つ紅の放射熱線。体内の融解が進行しているせいか初めて観測された時とは比べ物にならないほどの熱量と放射線を含んでいる。
破壊の濁流は例え外れたとしても、その太陽風を遥かに超える悪魔的な濃度の放射線でBETAを死に至らしめるだろう。

ゴジラは北方領土を経由しユーラシアに再上陸、敦煌 (ドゥンファン)ハイヴを陥落後、致死量の放射線で大地を汚染しながらオリジナルハイヴへと進撃した。
今、私達人類は敦煌ハイヴを除くゴジラが陥落させたハイヴ跡に前線基地を築きつつ、オリジナルハイヴ攻略のためにユーラシア大陸に上陸した。まさか、失われた祖国にこのような形で帰国できるとは思ってもいなかった。

ゴジラがオリジナルハイヴに攻撃を開始して既に3時間が経過している。地上には10万を軽く超えるBETAが出現しているが、次々と蒸発している。

この『桜花作戦』はゴジラがBETAの注意を引いている隙に『あ号標的』を撃滅するのが狙いだが、司令部からはまだ出撃命令が出ない。ゴジラによってハイヴ内のBETAが十分におびき出されてくるのを待っているのだろう。

それが自然。人類の勝利を考えれば当然の判断だ。








………それでいいのか?

闘争に代理者などいない。このBETA戦争でさえ、我々人類にとっては戦争なのだ。





戦いたい。あの戦場に立ちたい。


…違うな。共に戦いたいのだ。地球の「同胞」と。






   ………Side  地球最大の戦場







炎、焔、ほのお、ホノオ………
大地が炎に踊る。風が爆発に悲鳴を上げる。名状し難い光景に光が歪む。
ココはカシュガル。人類の怨嗟の頂点にして怨念の始まり。忌まわしく憎き敵の天守閣。

その名はオリジナルハイヴ。

数という概念がわからなくなるほどのBETAがひしめくこの大地は衝撃に揺れていた。




『『『GAAWAAAOOOおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』』』




王の咆哮が鳴り響き、断罪の光が放たれる。何者にも抗うことの出来ぬ圧倒的な暴力が世界を嘗め尽くし、全てを無へと還していく。
ゴジラは一切の容赦をしなかった。次々に放たれる赤色放射熱線は無慈悲に冷酷にしかし確実にBETAを消滅させていく。
地獄の山脈の如き背びれが輝き、地上に紅の雷撃を放ちながら再び赤色放射熱線が放たれる。もはや太陽紅炎にも等しき熱を持つそれを薙ぎ払うように振り回す様はエジプトの太陽神・ラーの如くである。
カシュガルというキャンパスいっぱいに乗せられたBETAという黒はゴジラという絶対的な白によって今この瞬間、塗り潰されているのだ。

BETAも当然反撃を行っている。ユーラシアに散らばった後に頭脳(ブレイン)級と呼ばれる反応炉が検討し重頭脳級(あ号標的)によってシェイプアップされ、対人類用戦術として誕生した光線属種によるレーザー攻撃は、この地球上で最も制圧力に長けるはずであった。
しかし、小型の恒星のエネルギー量に比肩しえるほどの存在であるバーニング・ゴジラの前では、空気中の静電気とさして変わらぬ位でしかない。
事実、2000体以上からのレーザー照射を受けているにもかかわらず、そのレーザーはゴジラを融かすどころか黒岩の如き皮膚の表面温度をほんの僅かに上昇させたに過ぎないのだ。
さらにゴジラに到達できたレーザーはわずかしかなかった。理由はゴジラの放つ赤色放射熱線である。繰り返すようだが今のゴジラは小型の恒星に比肩しえる程のエネルギーを内包している。それが燃え盛り、このままでは大地を穿ち惑星の崩壊さえ引き起こす程の超高エネルギー体へとなろうとしているのだ。
そんな存在が放つ指向性攻的放射熱線がたかがレーザーに劣るはずもなく、光線属種のレーザーは刹那の時間さえ赤色放射熱線に拮抗することなくその紅い暴力に飲み込まれていったのだ。


『次、2.30.on Clock 敵中型集団、数3万。小型種無数。同時に6.45.on Clock  要塞級集団。数多数』

「了解(((GAOOおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお■■■■■■■■■■■△△△△△△△△△)))!!」


いつものおチャラけた様子と打って変わって、X星人はひどく落ち着いていた。いや落ち着いているなんてレベルではない。まるでメッキが剥がれたように”本来の姿”に戻ったかのような様子だ。
周囲を小型種を除く数万クラスの集団に囲まれているにもかかわらず、その言葉には一切のブレがなかった。ただ冷静に冷徹に淡々と自らの務めを果たしている。


『ゴジラ、20秒後に敵前衛集団が途切れる。間隙を突いて後方の要塞級集団へ攻撃。稜線に出ている奴らを叩き落せ。麓の小型種集団への足止めになる』

「了解(((GAaaaaaaああああああああWAOOおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ■■■■■■■■■■■■■■■)))!!!」


狙い済ました一撃が突撃級と要撃級の集団を素通りし、後方に控える数百体の要塞級集団に直撃する。大半が蒸発し消滅するが残ったもう半分の燃え上がった残骸が土と血肉の特大散弾となって、更に後方に控えていた小型中型の混成集団に襲い掛かった。
ゴジラほどでないにしてもその圧倒的な質量と物量が地形を変えながら地表のBETAを圧殺していく。十や百ではない。千から万の単位で死骸が誕生し、それが新たな武器となって雪だるま式に転がり、更に多くのBETAを殺していく。
本来であれば、その攻撃本能に従いただ愚直に攻撃するだけであっただろうゴジラ。今まではその身に宿る暴虐の力があったからこそ勝利を手にしてきた。
だが今、確立分岐世界有数の暴力を誇る存在に変化が訪れた。他でもないX星人と名乗る頭脳面での戦力だ。ただ嵐の如く振り回されるだけであった暴力は明確な方向性と的確な戦術性を手に入れ、空も大地も自由自在のキャンパスへと変えていったのだ。


『地下からBETAの掘削と思われる振動を確認。二個軍団規模だ。15秒後、地上へ出現すると思われる。体内放射準備』

「了解ィィィィ(((GYAおおおおおおおおおおおおおおooooooooooooooooooooAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaa●●●●●●●●●●△△△△△)))!!」


紅く輝く灼熱の尾で背後の要塞級集団を薙ぎ払いながら腰を据え、体内を巡る原子の力を肺へと収束する。一時的に攻撃の手を緩めたゴジラに対し、10万規模の中型種の群体が襲い掛かる。小型種はもはや数の測定は不可能であった。
洪水の如く大地を覆うように突撃級の群体が赤紫色に染まったカシュガルの大地を己が甲殻の色に幾重にも染め直しながらゴジラへと迫る。時速170Kmオーバーの冗談にも出来ないような馬鹿げた質量と物量をもってゴジラを圧し潰さんと肉薄する。
同時に兵士、闘士、戦車、要撃級の群体が巨大な間欠泉の湯水のように持ち上がり、胸糞の悪い絶極太の黒い触手となってゴジラへと襲い掛かる。その数7つ。もはやフェイズ2クラスのハイヴのBETA収容限界を超えている。
]
そして待ちに待った時が来た。地下から岩盤が穿つ音が鳴り響き、都市が崩壊する程の震動がゴジラの背後に発生。直径50mにも渡る大空洞が口を開け、火山の噴火もかくやといった勢いでBETAが現れた。
核爆弾の爆発によって発生するキノコ雲のように地上に打ち上がった十個軍団規模のBETA群は一度膨れ上がり、巨大な入道雲の如き様相となってゴジラに雪崩込んだ。
前と後ろ。二方向から20万をはるかに超えるBETA群がほぼ同時にゴジラに殺到する。蟻にホースで水を掛けるかのようにゴジラはBETAに覆われた。湯水の如くとは言ったものである。
時間にして数秒。瞬く間にゴジラの姿を目にすることは不可能となった。圧倒的質量と20万を超える物量を武器としてBETAはゴジラを喰らい尽くそうとする。
要撃級が砕き、突撃級が押しつぶし、戦車級以下が噛み砕いて飲み込まんとするがゴジラの体温は摂氏1000度を超えているのだ。筋肉が赤熱化し、体表面からでも紅く輝く炉心が見て取れる。
こんなデタラメな存在を喰い切ろうするならばそれ相応の被害を覚悟しなければならないだろう。だがBETAの物量がそれを可能とした。ゴジラを包む20万体以上のBETAは一切の躊躇ばくゴジラに喰らい着いたのだ。
都市すら、国家すら飲み込むBETAを前にゴジラは対抗できるのか?このまま骨すら残さずヤツラの腹に収まってしまうのだろうか?

否、否である。
ゴジラを包む巨大なBETAのドームの内側から光が漏れる。卵が孵るようにドームの表層に皹が入り、何本もの光のラインが奔る。
一瞬の静寂の後、ガシュガルに小さな太陽が出現した。秒速10Kmにも及ぶ衝撃波とコンクリートが瞬時に蒸発するほどの熱量を放ちながらそれが放たれた。

『炉心臨界状態』におけるゴジラの熱線体内放射である。彼の最終決戦で己の最大の脅威に放たれたそれは、文字通り万物を破壊し、その形を失わせたのだ。ビルは固体から気体に昇華し、空気中の塵さえ白熱化するほどに燃え上がった。
おそらく、この世で「対消滅」に最も近い現象だったのではなかっただろうか?
とかく、ゴジラを覆っていた20万のBETAは一瞬にして吹き飛ばされた。最も外側にいたBETAを除いて、そのほとんどが蒸発し、頭上で雲となっていく。やがて気体と化したBETAであったものは空気によって冷却され、凝結し雨となって大地に降りそそぐ。
そして、地表近くにいた者たちは瞬間的な超高温、超高圧力にさらされ、大地に押しつけられる。やがては土が触媒となり上澄みの部分が急速に固体となる。

…………そうガラス化するのだ。

今ゴジラの周囲300mには隕石が落下したようなクレーターが広がり、その内側はBETA原材料のガラスで覆われ、同じく雨となったBETAの残骸で満たされている。
巨大な屍の杯と腐肉の湖の中心に泰然と存在するのは、正に屍山血河の主、怪獣王の名にふさわしき様相である。

圧倒的な破壊者。万物を塵へと帰す最後の審判。BETAにとってそれは死者の頭を噛み砕いたとされる冥界の犬神アヌビスに等しきモノだった。

全身に紅蓮の血潮を纏い、憤怒の蒸気を噴出しながらゴジラは吼える。それは世界の壁を飛び越え、数多の確立分岐世界へと響く無敵のWarCryであった。














『――――――――――因果改変確率 49.99999999999999954%。”運命相転移”まであと少し……。まもなく、まもなくあなたの悲願が叶います。夕呼先生』










  ………Side BETA 〔あ号標的〕




・・・・・・・・脅威。被害  甚大。莫大。極大。




ゆにっと ノ 損失  重大   ナリ   。







要・対処。 けんさく・・・・・・・・・情報なし。現行手段で  た  イ応・・・・・。・・・・・・。。





098723.094568.015476.59865.34565465.63456.1451420.547475465..185279554821830056.uy8tt9589495984509.7455674556485415.121.1111.2548/*/-**9+54.461.000.qer36ff.75r1f344554t4.760c048u0h..sd347yt0fwe.t578h.0g5h0df51gg.1u445g1.48515.//////////////5y7yg45dlgkblmiyhj,h.ptoyplry45667/*7466+
.t9fd:xofglkmriu45jtl59.lfpodfofkofklf,lfdkof,fokef.hkhokhojh94r033-9555*/6751..................................................................................







検討終了。


かいせnn 接  続。


]7y9054 作業中断。
70-@:;@: 作業中断。
1/85-856 作業中断。

移動開始。




























         破壊せヨ。






























  ………Side  地球最大の戦場  グリニッジ標準時12:32:12


ゴジラがオリジナルハイヴに侵攻し、既に五時間半が経過していた。
地上のBETAは当初出現した20万の勢力を失い、現在は第三陣が増援として現れていた。その数、累計50万を超えている。
だが、それを以ってしてもBETAはゴジラを打倒する事は不可能であった。

あちらこちらに死骸の山脈ができ、濛々とBETAの血煙が舞うこの空間は、もはやこの世のものとは思えない領域であり、このままではBETAはただただ屍を晒すだけである。それをどれ程者達が望んでいるか………。それをどれ程の世界が求めたか………。

だが、忘れてはいけない。
ヤツラは時に予想だにしない手段で戦況をかえてしまうのだ。
光線属種の登場に始まり、ハイヴ内での掘削同時侵攻。他なる世界で行われた人類戦術の模倣と常に磐石を覆してくるのだ。

だからこそ、その予兆は誰の眼からも捉える事はできなかった。あまりにも速い変化にゴジラはほんの一瞬攻撃の手を緩めてしまう。
それが決定的な隙を造りだす結果になってしまった。



時間にして二、三秒しかなかったが、濁流のようなBETAの攻勢が止んだ。それどころかゴジラに向かって、まるでモーセの十戒の如く”道”が開けたのだ。
この光景は何度も見たことがある。後方に布陣する光線属種の射線を得るために、数万のBETAが一斉に動き、一直線に陣形が割れる様を何度もその眼にしてきた。

しかし、放たれたのはレーザーではなく、直径170メートル。全長1800メートル。総重量測定不能を誇る真の最大級BETA。






二体の”母艦(キャリアー)級”の突撃であった。





  ………Side  X星人(仮称)





やはり、一筋縄ではいかない。
”何度も”繰り返してきたが、この世界には本来無い因果情報を無理やり割り込ませたのだから、必ず何処かで別の因果情報が漏れ、ズレが生まれる。

このズレから全てが壊れてしまう。

このタイミングで母艦級が現れるのは初めてだ。しかも複数。想定の範囲ではあるが、怖いのはこれが今後にどんな風に影響するかだ。


クソッ!喰い付かれた。
耐えてくれ。ただの因果情報体である私には、観測する事しか出来ない。それがどれだけ無力な事だとしても。

ああ、歯痒い。”何度”やっても、この体が煩わしい。どれだけ因果を集めても。どれだけ世界を繋げても。私には見ている事しか出来ない。



今になって解る。こんな気持ちを”彼女”は抱き続けてきたのか………………………………………





神よ。生まれて初めて、あなたに祈ります。

「彼」の願いを、「彼女」の想いを、「あの人」の執念を叶えてください。

三千世界の烏を、己の尾を噛む蛇を捧げても叶わなかった「彼ら」の夢を御救いください。









チクショウ!  因果が傾きだした!!!

また、またダメなのか?

私は”そのため”に生まれたのに。

今度も人類は、生命は負けるのか?

あと一歩なんだ。


起きて、起きてくれ!ゴジラ!!












ヒト為らざるモノの願いは、決して神の座にいる存在には届かない。

何故なら神とは、ヒトがヒトのために創り出した存在であるからだ。

ならばヒト為らざるモノの願いは誰が叶えるのだろう?





  ………Side  地球最大の戦場  グリニッジ標準時13:42:54



突如として出現した母艦級。その数二体。

その圧倒的な質量の前にゴジラは膝をついた。
地中からの突撃を辛うじてかわす事には成功したものの、伏兵として襲い掛かってきた二体目の母艦級の巨大な顎に掴まり、己の腕ほどもある牙を突き立てられたのだ。
そしてそのまま大地に何度も叩きつけられ、膝を屈してしまった。

母艦級は己の顎が焼けるのに構う事なく、ゴジラ捕獲し噛み砕こうとする。

それに対し、ゴジラは零距離放射熱線を何発も浴びせ、最後には最大出力の体内放射で顎ごと吹き飛ばしてやった。
当然、母艦級は体の四分の一を失い、絶命する。

しかし、その時点でゴジラには多大なダメージが蓄積していた。
そして、あろう事か絶命した母艦級の死体がゴジラの下半身を埋没させてしまったのだ。


『『『GGGEAああああああああEEEえええええええええええええええええええェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■△△△AAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaa●●●●●●●●●●△△△△△)))!!』』』




あまりの痛みに絶叫を上げるゴジラ。体勢を立て直そうと必死にもがくが、自分の何倍もあるかも解らない重量によって完全に拘束されてしまった。
もがけばもがくほど体力が失われ、意識が遠のいていく。

ココに来て形勢は逆転。
一気に勝負を決めんばかりに母艦級が鎌首をもたげ、要塞級が触手を振るい、要撃級が前腕を持ち上げ、突撃級が押し寄せ、光線属種が睨み、小型種が群がる。

泡を吹きつつ、薄れいく意識の中でゴジラは悪霊の津波を睨む。


このまま終わってしまうのか?
やはり『おとぎばなし』はハッピーエンドにはならないのか?




ヒト為らざるモノの願いは誰が叶えるのだろうか?









































『願いは自分で叶えるのよぉぉ!!!!!!』























一閃、爆音。

幾つもの爆発が数珠玉のように繋がり、悪霊の津波を圧し留める。





















『『『こちら地球軍!全力でゴジラを援護せよ!!!!!!!』』』


















………続く






あとがき:全然ギャグ入れられなかった。次で終わります。



[12389] 最終話 前編
Name: エキシボ◆e1d483d5 ID:8c20cdfc
Date: 2010/02/25 22:32
注意事項:このSSは八割方ノリで出来ています。
     作者は身の程知らずにも笑いあり、涙ありなSSを目指しています。
     そのため、一部某デモン○ベイン並にご都合主義でストーリーが進みます。
     このSSに不快感、嫌悪感を抱いた方がいましたら申し訳ありません。





最後のつもりで書いたのですが、収まり切らずに前後編となりました。拙いモノですが楽しんでいただけたら幸いです。












   ……Side  ユウコ・ネットワーク<00Unit:コウヅキ ユウコ>







いつかその時。始まり始まりの日















「…………また駄目だったわね」

「ええ、これで通算125488141657658566595回目ね。ちなみにほぼ同じ結果に陥ったモノが73565659626656655425回。内、白銀武が地球で死んだの回数が52%。月で死んだのが29%。火星で死んだのが8%。その他が11%ね」

「その他って何よぉ?」

「あら”夕呼”お早いお帰りね。少しは有意義な考察は出来たかしら?」

「あら、ヤキが回ったのかしら”夕呼”。質問に質問で返すのは建設的ではないわね」

「どうでもいいわよ。それより”夕呼”、その他って何よ。予想はつくけど一応聞いといてあげるわ」

「………火星への航行中の事故死。他世界からの因果情報流入による因果逆転などetcetc……。戦わず死んだどうしようもない結果よ」

「予想通り過ぎて死にそうよ。死なないけど」

「死ぬと言うのは微妙ね。私達は全員が香月夕呼であって、香月夕呼でない。生きてないといえば生きてないし。死んでいると言えば死んでないんだから」

「今更ながら良くやったもんよね、私。さすがは天才」

「やめてよ。照れるわ」

「私もよ」

「私も」

「もっと正確に表現すれば”私の中の私達”もね」

「次はどうしようかしら?同階層世界の情報はかなり試したわ。そろそろ”外”に出てみる?」

「”外”ね。だとしたらこちらの条件に合致する個体を見つけるのに苦労しそうねぇ」

「探すから苦労するのよ。探さなければいいんだわ」

「……それ在りかもね。ようは鑑の真似事をさせればいいんだから」

「つまり私達で”シロガネタケル”に相当する存在を創り出すのね」

「正確には因果導体の贋作をね。無限の一部は無限なんだし、永遠の並列回路がある限り”私達”には不可能はないわ」

「じゃあとっとと創めましょう。やる事はいっぱいあるんだから」







―――――魔女のキセキは紡がれる―――――








   ……Side 地球〈The Earth〉




ユーラシア大陸のとある海岸。そこに集いし戦士たち。

『『『我々はリオンハイヴへと侵攻する。だがそれすらも陽動に過ぎない。本作戦の目標はオリジナルハイヴ。人類はこの戦いに全てを賭ける!

   立ち上がれ戦士たちよ。我ら地球生命の矜持を、意志ある者の想いを、散華していった先達たちの願いを今、討ち建てる時である!!

   この終末に、我らに救いの御手を掲げた同胞に応えるのだ!!!


   全軍、攻撃開始!!!勇軍哀歌(ガンパレード)を撃ち鳴らせ!!!!!                                         』』』


「「「Yeaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!」」」





アフリカ大陸。その外縁部。サバンナの兄弟たち。

『『『この大地に集いし兄弟達よ!我らは望んだのだ。ヤツラの死を、ヤツラの骸を、ヤツラの滅びを。それが今、この星に成らんとしている!

   我々は今まで奪われるだけであった。憎き欧州の文化人気取り共によって、果ての大陸の蛇の如き肌の者達によって、そして30年前、新たな略奪者がこの地にやってきた。ヤツラは大地の声を聞く事も偉大なる精霊の御霊に伏すこともなく、傍若無人に我らから奪い去っていった。それは今もなお続いている。
   
   偉大なる鷹の神のおられる空を貶め、我らを慈しむ慈悲深き母を穢し、この大地全てを飲み干さんとしている。

   だが、我らの声を母は聞き届けてくださった!

   諸君!今は忘れよう。あの屈辱の日々を。諸君!今は戦おう。明日のために。諸君!共に戦おう。この星の全ての同胞達のために!!!!


   諸君!生きて共に歩こうぞ!!未来を!!!!!           』』』



「「「Oooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!!!」」」







ユーラシア大陸。永久凍土の同志たち。

『『『やあ同志戦友諸君。我々の目の前に何が見える?そうハイヴだ。我々の目標はH10:ノギンスクハイヴへの侵攻である。しかし、慌てる事はない。これは最初から想定されていた状況である。我々の作戦に何の変化もない。

   そう、これは特別なことではない。我々がBETAを駆逐し、ハイヴを陥落させるのは極めて自然な事なのだ。故に同志戦友諸君、何も恐れる事はない。

   ああ、そういえば諸君はボルシチは好きかね?私は大好きだ。特に妻のボルシチは最高だ。タマネギの甘さがまったくなく、貴重な牛肉が炭化し砂利のようだ。ジャガイモも大胆に芽ごとぶち込まれ、異常に酢酸臭がする。一口食せば新天地がひろがるぞ。レーションがキャビアに思えてくる程の味だ。諸君も食せば今後の食事が全て天国となるだろう。

   えっ、なぜ妻と結婚したかって?妻のボルシチを食べた事がなかったからさ。婚約前に食べていれば結婚しなかったね。

   ……………しかしだね、日に日に味が変わっていくのさ。なぜ頻繁に味付けを変えるのかと聞いてみたら”あなたに故郷の味を食べて欲しかった”というのだ。泣かせるじゃないか、今はBETAの住まいになってしまった我が故郷を思い出して欲しかったらしい。

   
   同士戦友諸君。故郷の景色を覚えているか?懐かしき日々を覚えているか?私は思い出せない。思い出したくもない。目の前で家族が喰われる様など。
  

   だが、忘れるわけにはいかない。あの誓いを。皆の願いを。我々の夢を。

   諸君、作戦開始だ。死者が切り開いた道を、我らが進まずして誰が進む。彼らがいる限り、我らの勝利は揺るがない。
   我らの勝利は規定事項なのだ。ただその事実を進むだけだ。

   諸君、今日の勝利を持って、未来を得ようではないか。


   ヤツラに思い知らせてやろう。勝者が誰なのかを。 出撃!!!    』』』


「「「пониматььььььььььььььььььььььььььььььььььььььььь!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」






<地球低軌道上 国連宇宙軍 第二艦隊所属 装甲駆逐艦艦隊 旗艦〔ネウストラシムイ〕>



「各員聞け。これより我々は再突入回廊へと進入し、オリジナルハイヴ上空高度20000mより突撃潜行(ストライク・ダイヴ)を敢行する。既に支援砲撃と先遣隊として無人軌道艦隊が再加速を開始している。彼らを囮とし、我々は地上BETA本隊の直上へと到達する。その際、光線属種のレーザー照射を回避するため全システムを切り、完全なマニュアル操作のみで成層圏へと突入しなければならない。
これは極めて非常識な再突入プランである。姿勢制御も速度維持も生命維持も全てマニュアルで行わなければならない。あまりに無謀だ。完全な自殺とさえ言える。だが、それを必要としている者達がいる。そう彼らだ。彼らを同胞の元と届けるためには命の綱渡りをしなければならない。失敗は許されない。全てが必要とされているからだ。
諸君、我々航兵(ウェブ)の真価が問われる時だ。いつもはHSSTのケツにしがみ付いている再突入殻を降ろしたらスタコラ逃げ出すしか出来なかった我々が、光栄にも一番槍の栄誉を賜ろうしている。ココに軍人として培ってきた全てを、全身全霊を込めようではないか。”潜り”ども、任せておけ。全機連れて行ってやる。誰一人として除け者にはせん。存分に戦わせてやる!」

老兵が吼える。
彼は駆逐艦乗りの最古参。今までに何人もの軌道降下兵団(オービット・ダイバーズ)を死地に送り込んできた。
”三回目のダイバーは臆病者”と呼ばれる所以にあるように、猟兵達の生還率は非常に低い。生きて三度目の再突入を経験出来るダイバーは戦わなかった臆病者ぐらいだという笑えない皮肉なのだ。
彼はそんな衛士達を送り出し続けてきた。

ある時は東南アジア。
ある時はソ連。
ある時は欧州。

世界中の戦場に彼は駆けつけ、死の顎へと向かう若者達を見続けてきた。その胸中に渦巻く歯痒さは、筆舌に尽くしがたい。

だが今回は違う。
死ぬためではない。勝利の為、生きるため、生命の矜持のために彼らは往くのだ。

ならば彼らを送り届けよう。あの戦場へ。
巨大な同胞が切り開いた、未来への可能性を続けるために。



再突入回廊へ進路を固定。各艦の位置情報を確認。突入ルートへの障害・クリア。
無人艦隊の第二次加速を確認。有人艦隊は予備加速へ。
無人艦隊、大気圏と接触。表面温度上昇、耐圧温度限界内。進入角、許容内で誤差修正。

電離層を突破。警告・レーザー照射警報。

無人艦隊2、3、8、11、13、14、15、20~28の艦が爆散。残存艦隊は再突入殻を分離。再突入殻の拡散、光線属種の照準を欺瞞する。

無人艦隊の八割が消滅。二割の艦が爆薬を満載したまま地表に激突。回避運動により十分な運動エネルギーを得る事が出来ず、当初想定された威力を発揮する事なく轟沈。
爆発の衝撃で、地上の光線属種の25%を駆逐に成功する。

同時に搭載されていたALMが蒸発。その真価である重金属雲を発生。レーザー照射の減衰に成功。

有人艦隊、再突入殻を分離。全艦再突入スタンバイ。

航行システムをカット。姿勢制御、慣性制御、生命維持をマニュアルへ移行。

降下シーケンスStrat。

降下部隊に先んじて突入し、彼らの盾となる。




老兵は前を見据える。


眼に映るのは大気摩擦によって真っ赤に燃える僚艦だ。計器板は赤熱の光に照らされ全てが紅く見える。
本来なら正面のHUDには、再突入のためのグライド・パスとローカライザーが適正コースを映し出し、姿勢制御の為にオートパイロットが自動でカウンターをあて艦の均衡を保っているはずだ。

しかし今は何も映っていない。聞こえるのは艦が大気によって磨り減る音と僅かながらの古典的なジャイロ計器の軋みだけだ。まったく恐ろしいものだな。機械の補助がないのは。
二足歩行の機動兵器が戦場の主役であるこの時代に空ごう計器と三軸ジャイロ、そして窓から見える星だけで空を飛ぶはめになるなど誰が想像したか。


怖い。初めてだ。

伝説の冒険家、チャールズ・リンドバーグもこんな気持ちだったのか?
スピリット オブ セントルイス号は木と布で出来た飛行機だったと聞く。ならば私の方がまだマシなのかもしれない。
体を覆う耐G・耐高温・耐放射線スーツによって、最低限の生命維持が約束されている。例え外が摂氏1500度以上の灼熱地獄だとしても、まだ生きてられる。

震るえ過ぎて感覚を失った右手で操縦桿を握る。マニュアルによる空力制御だけでマッハ20以上の世界を渡るのは至難の業だ。神代の所業と呼べる。

だが退かない。退くわけにはいかない。

私の背中には若者達がいる。彼らは生きるため戦おうとしている。戦う前に死なせてなるものか。
窓の外に広がる地球と僅かな星だけが道標だ。人が空を飛んで百年余り。伝えられてきた全ての技術をこの瞬間に賭ける。



見えた、重金属雲。あの向こうにヤツラがいる。
友を喰い、部下を殺し、世界の未来を奪った忌まわしきBETAどもだ。相棒、あと少し付き合ってもらうぞ。

電離層を突破。光線属種の射程へと近づく。第二次加速を開始。同時に爆発ボルトに点火、欺瞞電子回路を搭載した小型デコイが連続して散布され、出力制御も何もないただの水素ロケットに点火。艦が融解するギリギリで加速する。

一閃。

視界の隅にあった僚艦の一つが爆散する。光線属種の射程に入ったか。
レーザー照射数は100。対してこちらの数は70。支援砲撃は効いているようだ。再突入殻とデコイを含めば照射される数は1400を超えている。彼我のキルレシオが14を超えるには重光線級で504秒。光線級で168秒。

遅い。こちらはあと43秒で到達する。私の最後の43秒。存分に使わせてもらう。

僚艦の一つが再びレーザー照射を受ける。だが重金属雲が効いているのか僚艦は爆散せず、片翼を失う程度に済んだ。

『先に逝くぞ、ミフネ!』

艦の上部に設置されている発光信号灯が点滅。モールス信号で伝えてくる。

逝け、友よ。

軌道制御も慣性制御も振り切り、最大加速。純粋な推力だけでオリジナルハイヴへと向かう戦友。
光線属種の照射を欺瞞するために、最低限のコンピューターしか起動されていない駆逐艦は片翼を失いながらもBETAの中枢へと向かう。

素晴らしい。きりもみし、コースを外れるはずだった艦は絶妙な空力制御でコースを取り戻し、乱雑ながらも鉄槌の軌跡を描く。

フン、BETAども、貴様らにこれができるか?

航行システムを全て切り、完全なマニュアル、人の技術のみで大気を渡り、重力井戸の底へ堕ちる。
あまつさえ5tの爆薬とALMを担ぎ、命の盾となり自らの意志で死ぬ。

醜悪なただプログラムを実行するだけのロボットである貴様らと、人類500万年の、いや地球誕生より46億年の研磨を重ねてきた我々生命は違うのだ。

さあ受け取れ、我々の恨みを、我々の憎しみを、我々の怒りを。これが生命の叡智が創り上げた一撃。

息子と妻の無念を晴らしてくれる。

巨大なる戦友よ。あとを頼む!



「さあ恐れ慄けぇぇぇ!!!!!BETAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」








爆発と閃光と共に老兵は消える。

若き命達に時代を託し、可能性を繋ぐための礎となる。



・グリニッジ標準時 13:32:23  


国連宇宙軍 第二艦隊 全艦消滅。軌道降下兵団は全機健在のまま再突入に成功。

桜花作戦は第二段階へと移行した。 









<オービット・ダイバーズ>


『高度10000m。再突入殻の分離に注意せよ!ここまで来て、むざむざ死ぬな!!』

わかっている。”船長”達の挺身を無駄に出来るわけがない。そして元より、ヤツラから逃げるのは絶対にありえない。ここまで来て、退いてなるものか。

『ムーランルージュ1から全ムーランルージュへ。第二艦隊が血路を開いたぞ!次の光線属種出現までに着陸地点を確保する。予定通り、合流が完了しだいデウス級を援護する。死ぬなよ!』

『ムーランルージュ2、了解』

『ムーランルージュ3、了解』

『ムーランルージュ4、了解!』

『ムーランルージュ5、了解』

『こちらムーランルージュ7、6が手間取ってる。援護しつつ合流する』

「ムーランルージュ8、6と7をカバーする。前衛を務められたし」

『ムーランルージュ9からムーランルージュ1へ。ケツは私と10が受け持ちます。先に行ってください!』

『勝手に志願するな!こちらムーランルージュ10。小便チビりそうだけどやってみせます』

『ムーランルージュ11、12。9と10の援護に回れ。二機連携を崩すな。戦いは始まったばかりだ。』

『了解!ムーランルージュ11、援護に回ります』

『ムーランルージュ12、援護する。とっと行け』

再突入殻が崩壊を始め、光線属種へのチャフとなって飛散する。この金属の豪雨に紛れて俺達は地上へと降り立つ。
船長、あなたが創ってくれた30秒は無駄にしません。俺は相棒の戦術機、F-15Eストライク・イーグルの跳躍ユニットを全開に吹かす。噴射剤の消費が激しいので必要最低限、最小の時間で最大の効果を発揮するタイミングで作動させる。
重金属雲を通過し、目の前に広がるの魑魅魍魎たるBETAの大軍。ヤツラの本丸であるガシュガル・オリジナルハイヴの手前5キロの地点。本来ならここまで来るのにどれほどの犠牲が必要であった事だろう。
針鼠のようなレーザーの絶対防空圏。決して覆す事の出来ない絶対的な物量の差。この二つがある限り、人類はハイヴを陥落させるどころか最も小さなハイヴにさえ接近する事は出来なかった。
例え軌道上からの空挺降下だとしても、生還出来るのは一度に二割しかいないという昨日までの現実。覆せないと思った。

だけど今は違う。船長が、デウス級が、地上の仲間が穴を開けてくれた。
デウス級がユーラシア内陸まで侵攻してくれたおかげで、地上部隊が展開する事が出来た。
デウス級が光線属種を薙ぎ払ってくれたから、支援砲撃を届かす事が出来た。
支援砲撃があったから、降下する俺達にレーザーが向かなかった。
船長達がその身をもって、レーザーから護ってくれた。
そして船長達が造ってくれた巨大なクレーターがあったからヤツラの攻撃にさらされる事なく、地上に降りられた。
わずか30秒。だが俺達の、人類の運命を握る30秒だ。1秒たりとも無駄に出来ない。

『全機武器使用自由、最大戦速で駆け抜けろ!!』

クレーターの内側。即席の塹壕に機体を滑り込ませ、素早く照準を取る。

レーダーLock. 武装選択:36mm  Fox2

クレーターの丘を越え、俺達を包囲しようと這い上がってくる要撃級の感覚器官に三点バーストを叩き込む。17分の一秒のタイムラグで要撃級の顔面のような器官に生グロい花が三つ咲いた。

『オラオラ!出来損ないの生ゴミがぁぁぁ!挽き肉にしてやるぜぇぇ!!』

ムーランルージュ10が威勢良く発砲する。撃ち出されたのは120mmのキャニスター散弾。100を超える小型砲弾を内包した砲弾は中距離での小型種掃討に有効だ。近距離なら貫通は無理でも、突撃級の外殻を破壊出来るだけの威力を持つ。
網膜投影によって瞳に映し出されているレーダーマップには一つだけ、離れた位置に存在する赤い光点がある。他でもないムーランルージュ6だ。
ムーランルージュ1から5が前衛となりデウス級へ向けてBETAの群れを引き裂いている。時間が経てばすぐに元通りになってしまうだろうがかまわない。今重要なのはデウス級に”カクテル”を届ける事だ。俺達はそのための露払い。

『こちらムーランルージュ6。すまない手間取った』

「謝るのは後だ。デウス級に取り付いてるデカブツを引き離さなきゃならん。第二陣の到着まで50秒を切った。急ぐぞ」

合流に成功したムーランルージュ6を合わせ7機のF-15Eは跳躍ユニットの出力を巡航出力にまで上昇させ、地面に足をつけたまま滑るように移動を開始する。
噴射滑走と呼ばれる機動制御技術で足元に群がる小型種をすり潰しながら移動する攻防一体の機動だ。
正面には約8000のBETA。今現在も増大中で、その後方には鎌首をもたげた見たこともない地蟲のような、トンネル掘削用のドリルのような巨大なBETAがいる。このままヤツラの好き放題にやらせていたらデウス級は五分と経たず殺されてしまう。

そんな事させるか。
俺達人類は、まだ借りを返していないんだ。
何も出来ず、何も残せず終わるなんて、絶対にいやだ。

だから

「近づくんじゃねぇぇぇぇぇええええーーーーーーーーーーー!!!!!」

背部の可動兵装担架を展開し、一機あたり四門。中隊合わせて48門の突撃砲〔AMWS-21戦闘システム〕が一斉に火を吹く。
俺達ムーランルージュは風車だ。踊り狂う紅の風車。ひたすら派手に、ひたすら豪華に景気よく、赤鉄の鉄花をばら撒く。
俺達の放った劣化ウランと120mmのAP弾が巨大地蟲の一点に集中する。
そして爆発。

俺達以外の場所からも同じように120mm砲弾が放たれた。その火線の数は六個大隊規模。船長達の創り出した30秒で降下に成功した部隊の全てが砲口を向けていた。200を超えるAP弾の雨に曝され、地蟲が身を震わせる。見た目に反し、地蟲の表面は硬いようだ。ひょっとしたら要塞級のように全身が硬い表皮に覆われているのかもしれない。だが200発余りのAP弾の集中砲撃には耐え切れなかったようだ。

「「「 &)&$%&%$%$%%&===============================)%&'()%%%%%#########$#%#$%&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」

地蟲が名状しがたい悲鳴をあげて後退する。ひょっとして痛みに弱いのか?ならもっと味合わせてやる。射撃続行だ。

『サンダークリップ1より全ムーランルージュへ。待たせたな、騎兵隊の到着だ!』

第二陣が来た。彼らが展開し切るまでの時間を稼ぐため、フォーメーションを変更。各部隊が二列横隊となり、ラインダンスの如く砲口を揃える。
中型種・小型種の混成集団がこちらに向かってくる。前衛は突撃級だ。時速170kmの突貫戦術は恐ろしいものがある。このまま行けば全機轢き殺されてしまう。

そうはさせるかよ。

『ムーランルージュ1から全ムーランルージュへ。最前列の突撃級を狙撃し後方のBETAを足止めしろ。”大目玉”をくれてやれ!』

待ってました。俺達は二機連携で120mmの照準を取る。装填された砲弾はAPとAPFSDS。前列のF-15Eが120mmAP弾を放つと突撃級の外殻に孔が開く。しかし甲殻を貫通する事は出来なかったようで、被弾した突撃級は未だ前進を止めない。

それでいい。続けて後列のF-15Eが120mmAPFSDS弾を発砲。これが一射目であれば不可能であっただろう。APFSDAは貫通力には優れるがそれだけだ。榴弾やキャニスター弾と違って破壊力がない。逆にAP弾は貫通弾ではあるがAPFSDS程の貫通力も榴弾ほどの破壊力もない。突撃級に対しては外殻装甲に貫通ではない孔を空けるのが精一杯だ。

だが、そのAP弾の弾孔にAPFSDS弾を撃ち込む事だ出来たら?

相棒であるムーランルージュ7の放った劣化ウランの矢は寸分違わず、俺が空けた突撃級の弾孔に吸い込まれていく。7だけではない。仲間達の放つ全てのAPFSDSがAP弾によって空けられた孔に吸い込まれた。
結果、突撃級の外殻装甲は貫通。炸薬を内包しない劣化ウランの矢が内臓と筋肉を力まかせに引き裂き、一瞬にして絶命させる。

そしてBETAの前衛が一斉に停止した。
後続の突撃級は衝突を繰り返し、その余波によって小型種はミンチとなり、戦列の乱れた状態では要撃級の侵攻が遅くなる。
わずか二射によって、即席のバリケードが完成し、味方の展開時間の獲得に成功する。

「―――――二つゾロメの大目玉。スネークアイズの完成ってね」

『援護感謝する。あとは我々サンダークリップの仕事だ。まかせてもらおう』

言ってる傍から「雷屋」どもが来た。
軌道降下部隊としては異色の機体。A-10サンダーボルトⅡでまとめられたのは「サンダークリップ(稲妻の嘴)」。

『可動兵装担架展開!全機武器使用自由。照準取れ!!』

マッシブと言う言葉を絵に描いたようなシルエットを持つA-10の両肩に装備された36mm7砲身ガトリングモーターキャノン〔アヴェンジャー〕が、頭部と胸部に装備されたセンサー・ポッドの視線に従い、その射線にBETAを捉える。
同時に背部の可動兵装担架が脇の下を潜り、そこに装備されたAMWS-21戦闘システムの砲口が正面のBETAをつかまえ、両腕に抱えられた57mm中隊支援砲が要塞級を睨む。

『サンダークリップ!貴様らはなんだぁぁぁっ!?』

『ライトニング・ライダー(雷乗り)であります!!』

『雷とはなんだぁ!?』

『戦術歩行攻撃機A-10であります!!』

『A-10とはなんだぁ!?』

『アパッチより強く! F-16より強く! F-15より強く! どれよりも安い!!!』

『何の為に生まれたぁ!?』

『A-10に乗るためだ!!』

『何のためにA-10に乗るんだぁ!?』

『ゴミを吹っ飛ばすためだ!!』

『ゴミとはなんだぁ!?』

『BETAだあああ!!』

『BETAに対して我々がすることはなんだぁ!?』

『”kill them all”!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

『全門斉射!!!』

総勢60機という過去に例をみない数のA-10が放つのは弾雨を超越した金属の台風。
弾丸という点ではなく、文字通り弾幕という壁が三次元的に展開され、絶対防御圏を形勢する。
36mmの劣化ウランが発射速度毎分3900発というイカれた連射を繰り返し、同じく36mmと120mmの組み合わせが適確に敵を削り、57mmの長射程が要塞級を一方的に沈めていく。
「歩く戦車」と呼ばれるその姿は、かつての大戦で最前線に立つ敵国の兵士の士気をたやすく打ち砕いたと呼ばれる姿に酷似している。

『一匹たりとも通すな!ここが砦だ!!ここが死守戦だ!!ここが希望だ!!!』

サンダークリップ1の叫びが無線越しに聞こえてくる。
その通りだ。この桜花作戦は人類の全てを振り絞った乾坤一擲の戦いだ。今俺達が護るデウス級がいなければ、人類は永劫の消耗戦と屈辱の撤退戦を繰り広げていただろう。
ユーラシアの次はアラスカ。その次はアフリカ、欧州。そして南北アメリカ大陸とオーストラリア大陸。人類は資源も人的猶予も失って非業の最期を迎える可能性だってあったのだ。
そうなれば絶望しかない。戦って死ぬ事に恐怖がないわけじゃないが、死ぬ事は怖い。何より死んで「何も残らない」事が一番怖い。

故郷は塵に、友は灰へと変わる世界。

もしデウス級が存在しなかったら?

在り得たかもしれない現実は夢にもしたくない。

だから


「―――――二度と、


 ――――――――――貴様らから―――――


 ――――――眼は逸らさねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええッ!!!!!!!」


俺は引き金を引き続ける。

戦うと決めたから。隣に立つ仲間と、命を賭して未来を切り開いてくれた人達に報いるために。

託された業は、生きるため、生かすために奮うのだ。

俺達はムーランルージュ。踊り狂う紅の風車。

燃え滾る赤は情熱の焔。

この生命の焔。消せるものなら消してみろ。
















<世界の縮小図達>



『ハンター各機、フォーメーションを維持しつつ最大戦速!アローヘッド・ワンで敵集団を切り裂いた後、確固撃破せよ!』

星条旗を纏ったF-15Eストライク・イーグル達は楔形の陣形で3000のBETAの群体に突撃を敢行する。
F-15Eの突撃は、まるでナイフでバターを切るかのように見事なまでに切り裂いていく。

『こちらHQ、ハンター各機聞こえるか?繰り返す、ハンター各機聞こえるか?』

『こちらハンターリーダー、アルフレッド・ウォーケン少佐だ。指示は手短に頼む』

ウォーケンと名乗った男は小隊を組み、正面の要撃級集団に36mm劣化ウラン弾を叩き込みながら応える。

『降下部隊がデウス級の安全確保に成功した。まもなく”カクテル”が到着する。シェイクが完了するまで”バーテンダーズ”を援護せよ』

『了解した。ハンター各機、我々第66戦術機甲大隊はこれより”バーテンダーズ”の進路を確保する。すでにデウス級の救出に向かった降下兵団は防衛線を展開、我々は内と外より敵BETA群を挟撃し、デウス級までの最短ルートを創る。皆、ここが天王山だ。全力を振り絞れ!祖国の名誉と人類の未来を取り戻すのだ!!』

『『『『『『『『Rager that!!!!!!!』』』』』』』』

オリジナルハイヴ最外縁部。そこに彼らはいた。
彼らは誇り高きアンクル・サムの軍人達、世界最強にして最も気高き兵士達であった。

しかし、先のオルタネイティヴ5の暴走により発生した一連の事件により、その栄光は地に落ちた。

「誇りなどない、恥知らずの国家」「神に愛されているという妄想に憑りつかれた者達」「歴史なき、ならず者の人種」と蔑まれた。

ウォーケンは無理からぬ事だと思った。
人類の存亡をかけたこの戦いの最中、自国の利益と来るかもわからない戦後の権力闘争に終始し、現実を理解出来ていない愚物どもが国家の舵を握っているのだ。
それを止めず、知る事も気付く事も出来なかった祖国に名誉などあるはずがない。

だからこそウォーケンは戦う。
失われた誇りを取り戻すため。
祖国の罪を償うため。
戦友との誓いを果たすため。

そしてなにより、人類の勝利のために。

『全機最大戦速!合衆国の名に誓って一人たりとも遅れるな!』

『『『『『『『『Sir! Yes Sir!!』』』』』』』』

その願いは皆が同じ。
根底にあるモノは違えど、胸を張り、堂々と戦う事でそれを証明していた。

彼らは駆ける。異形が跋扈する戦場を。

目標はオリジナルハイヴの眼前。デウス級と同胞が待つ彼の地。





だがその足元には、深く、静かにヤツラがいた。







『進め!進め!決して止まるな!!』

怒声が響き、36mmの砲声が鳴る。
アルフレッド・ウォーケンの率いる第66戦術機甲大隊は楔型陣形を維持し、噴射跳躍システムの加速によって時速300kmで戦場を切り裂いていた。
そして米国のお家芸であるその射撃技術は、高速移動中であろうと少しも衰えることもなく、射程距離3000mに入ると同時にBETAを血祭りに挙げていた。

現在、オリジナルハイヴの戦況は限定的な二正面作戦を展開している。

一つはその外縁部。デウス級がユーラシア内陸部に至るルートを切り開いたことにより、国連、日本帝国、アメリカ合衆国、ソビエト連邦、統一中華戦線と五つの国家群が進軍し、総勢15師団という類を見ないほどの大戦線を構築していた。
内陸部に進軍した事により、異なる世界では十分に果たせなかった支援砲撃が届き、彼の英雄シロガネタケルが発案した次世代型戦術機OS:XM3を搭載していなくとも、BETAに対し優勢に作戦を進めることが出来た。

もう一つはオリジナルハイヴの眼前。母艦級の死骸に埋没してしまったデウス級の周囲5km、作戦コード”テーブル”と呼ばれるポイントである。
人類は地球低軌道からの直接軌道降下爆撃と砲撃部隊による大量のAL弾頭を用いた飽和爆撃によって光線属種のレーザー攻撃を低減させ、三個大隊という大部隊をデウス級の救出に向けた。現在は第二次降下部隊である戦術歩行攻撃機部隊が合流し、非常に強力な防衛線を展開している。

人類は地上の光線属種が、デウス級によって十分に殲滅されるのも待っていたのだ。
なんというタイミングだろう。デウス級が危機に陥るタイミングと人類が攻勢に出る事が出来たタイミングは、ほとんど同時だったのだ。
それは如何なる神の悪戯か?

かくして人類は、デウス級と”共同戦線”を展開する運びとなった。
デウス級が開けたレーザーの絶対防御圏の穴を掻い潜り、400機を超える戦術機がデウス級を護る。
外縁部からは絶え間なく支援砲撃が届き、榴弾の雨がBETAを挽き肉に変えている。

その中でも、ウォーケンの率いる第66戦術機甲大隊を始めとした世界の精鋭部隊は、外縁部を食い破り、”テーブル”の内と外より、物理的回廊を構築しようとしていた。

放たれる砲弾はBETAを穿ち、砕き、ものの見事に散華させる。
その様は巨大な楔。いや、絶望を切り裂く希望の剣である。

彼らの守ろうと後方に控える砲撃部隊は、次々に砲弾を曲射させ、憎きBETAの頭上に送り込んでいた。
だがその全てが到達したわけではない。
忌々しい光線級の群が、新たに出現している。オリジナルハイヴの周囲に形成された門(ゲート)の数は200を超えている。その中には周囲の環境に偽装した潜伏門(スリーパー・ゲート)と呼ばれるものも存在する。外縁より戦線を形成している部隊は多数の震動感知器を敷設する事で地下からのBETAの奇襲に備える事が出来るが、突撃中の彼らには意味がない。自らの勘と僅かながらの状況の変化が頼りであった。

『前方一時の方角。突撃級、要撃級、他小型種多数接近!後方にゲートがあります。尚も増大中!?』

最前衛を務めるF-15Eより警告が発せられる。

『ハンター1から6、前方1200mに防衛線を張る。7から12は10時方向を警戒。光線級を優先して叩け!』

ウォーケンは自らが率いる中隊を二つに分け、デウス級へと向かう部隊の殿を買って出る。事実彼らの持つ高度砲撃スキルはBETAを釘付けにし、デウス級への回廊を形造る。

『国連軍に告ぐ。ここは我らが受け持つ。早く行くんだ!』

『もちろんだ。後は任せておけ!』

星条旗を持つ機体を残し、各国の部隊は進む。
はっきりと言おう。”見捨てた”のだ。

デウス級の攻撃と軌道降下爆撃により、一時的に地表のBETA群の半数を殲滅する事には成功したが、忘れてはならない。
ここは喀什(カシュガル)オリジナルハイヴ。地球上で最もBETAの溢れる地である。地表に展開しているBETAの数は増え続けているのだ。
既に計測が不可能なほどの数を持つ小型種を除き、デウス級が殲滅したBETAは中型・大型を合わせ20万強。人類の攻撃によって殲滅されたBETAは3万弱。両者を合わせて30万に至る状況であるが、尚もオリジナルハイヴからはBETAが出現している。
現にデウス級は包囲され、人類は戦線を押し上げる事が出来ないでいる。
この状況で戦局のイニシアティヴを取るためにはデウス級を開放するしかない。降下兵団が全滅する前に外縁部と”テーブル”との連絡路を形勢し、”カクテル”をデウス級に届けなければ、全て飲み込まれてしまう。
そのためには限りない速度が求められる。障害があれば盾となる味方を犠牲にし、少しでも先に進まなければならない。
誰かがやらなければならない役割なのだ。

『…第66戦術機甲大隊の諸君に告げる。私はアルフレッド・ウォーケン、階級は少佐。栄えあるアメリカ合衆国の軍人である。
 この部隊にいる全ての兵士がアメリカ人でない事も、我が祖国合衆国を腹に据えかねている事も承知で頼む。

 ……最後まで無能な指揮官ですまなかった。全身全霊をもって詫びよう。

 しかし、今だけは、今この瞬間だけは、祖国の誇りに殉じてもらいたい。
 
 人類の未来を、生命の勝利を実現するため、我らは礎となるのだ。
 
 そのために、諸君らの命をくれ……………』

そこにあったは「一人の人間」が願う姿。
今この瞬間、アルフレッド・ウォーケンはアメリカ合衆国の軍人ではなく、純粋な人類の一人として願ったのだ。

『こちらハンター3、イルマ・テスレフ。失われた祖国のため、残される家族のため、ここで戦います』

それに応えるはある女性。遠く失われた父の祖国・フィンランドを取り戻すため志願した強きヒト。

『こちらハンター6、マイケル・ビッド・クラウザー。祖国のケツぐらい、俺が拭いてやります!』

ウォーケンの網膜に映るのは金髪の青年。まだ歳若く、未来に縋りたい年齢であるにも関わらず、その瞳には輝く黄金の意志が存在した。

『ハンター11、レヴェッカ・ハプスプルトン。くだらない美談はいりません。BETAを撃つ、BETAを殺す。それだけで死ぬには十分です』

突撃砲に新しい弾倉を装填し、狼のような眼を持つ女性が言い放つ。

『ハンター4、ニコラ・ストロバ・ウィッチ。イルマ、愛している。俺が死なせない』

ドイツ系の青年が愛しい女性への決意を表明する。

『ハンター2、ケリー・シュワイザー。アルフレッド、まだあなたの子供生んでないのよ?死ぬなら来世まで連れて行きなさい』

どこまでも愛を貫く、情熱的なイタリア系の女性が溜息をつく。

『ハンター7、ドワイト・ミシュラー。人類の勝利のために』

ロシア系のアッシュブロンドを持つ、厳つい男がウォッカを呷りつつ誓いをたてる。

『ハンター5、イーツァ・ティヨーレ・オセオラバ。ここで戦わずして先祖の誇りは護れません』

赤い肌を持つネイティヴアメリカン・ラコタスー族の男が覚悟を決める。

『ハンター8、メイリン・キャリー。我が祖先の故郷で死ねるのなら、悔いはありません』

アメリカン・チャイニーズの少女が感無量といった具合で応じる。

『ハンター9、ボビー・ヴィバップ。誇り高き合衆国衛士として、このままやられっぱなしでは終われません!』

スキンヘッドの黒人が獰猛な貌で叫ぶ。

『ハンター10、ナンシー・ハンクス。隊長、100年しかないアメリカの歴史を、意地をみせてやりましょう!』

堀の深い、イギリス系の女性が拳銃を抜き、眼前に掲げる。

『ハンター12、ジェイムズ・キングダム。主と精霊の御名において、我らが引き金に祝福と断罪の力を与えたまえ』

胸元から十字架を垂らした牧師風の男が、神に祈りと決意を捧げる。

彼らだけではない。所属を同じくする第66戦術機甲大隊全ての兵士達が共に戦うと決意したのだ。

彼、アルフレッド・ウォーケンの前には勇者達がいた。
己の命を省みず、純粋に願いに応えてくれた者達が。
ならば戦える。一遍の恐怖も不安もなく、彼らは死地へと進む事が出来る。

『……諸君らの挺身に、感謝する。   往くぞ!第66戦術機甲大隊!!』

『『『『『『『『Go A Head!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』』』』』』』』


軍靴を打ち鳴らし、彼らは往く。

突撃のラッパは勝利への呼び水。

騎兵隊は駆ける。未来に向かって。





























『……フン、米国の傀儡にしておくには惜しいな。助太刀も吝かではない』

『貴官は助ける相手を選ぶのか?ならば、自称愛国者共と同じに聞こえるな』

彼らの後方より、二つの部隊が近づく。

一方は刀の鞘のような黒塗りの機体に「烈士」とマーキングされた戦術機。
機体名は94式戦術歩行戦闘機。 型式番号TSF-TYPE94。日本帝国の誇る第三世代戦術機「不知火」。

もう一方は針鼠の如く全身にスーパーカーボンブレードを装備した露軍迷彩の機体。
頭部のセンサー・ポッドに輝くワイヤーカッターを特徴とする永久凍土の戦士。Su-37M2 チェルミナートル。ソヴィエト連邦が誇る第三世代戦術機。

『彼奴らと同じにされてはかなわぬ。我らは早々に援護に入る』

『了解した。付き合おう』

噴射跳躍システムを作動させ、高速で展開する二つの部隊。
彼らの名は帝国本土防衛軍帝都守備連隊所属 特別派遣大隊。そしてもう一つはソヴィエト連邦所属 特別派遣第3軍 第18師団 第211戦術機甲部隊 ジャール大隊。

『帝国本土防衛軍帝都守備第1戦術機甲連隊、特別派遣大隊が大尉、沙霧 尚哉!推して参る!!!』

『ソヴィエト連邦所属第211戦術機甲部隊 ジャール大隊隊長、フィカーツィア・ラトロワ。戦闘を開始する!』







人類の結束。

やがては消え去るであろう一時の夢。

人類の夢は、BETAという悪夢を駆逐できるのだろうか?


















その遥か下に悪魔がいることも知らず。



















この悪夢を焼き払えるのは一つだけ。


デウス級、いやゴジラ。


人類が君を待っている。






















あとがき:大変長らくお待たせしました。今回で完結のはずが、詰め込みすぎて前後編の二部構成になってしまいました。
後編はなるべく早めに投稿いたします。

拙い作品ですが、今後も読んでいただけるとうれしいです。



[12389] 最終話 後編  一部《加筆》修正
Name: エキシボ◆7bcab01b ID:00726c51
Date: 2010/07/23 23:45
注意事項:このSSは八割方ノリで出来ています。
     作者は身の程知らずにも笑いあり、涙ありなSSを目指しています。
     そのため、一部某デモン○イン並にご都合主義でストーリーが進みます。
     このSSに不快感、嫌悪感を抱いた方がいましたら申し訳ありません。







最後の演目。いざ閉幕へ





……Side Valkyrjurs〔伊隅ヴァリキリーズ〕




――”その時”のほんの少し前。


『ヴァルキリーマムからヴァルキリーズ及びエインヘリャルズへ、現在桜花作戦は順調に進行中、バーテンダーズの成功をもって第三段階へと移行する。
各員状況に備えよ。なおミズガルズに供給されているエアは大気圏突入の300秒前には遮断される。新鮮な空気が吸える最後の機会です。
心おきなく吸ってください』

亜麻色の髪をした美しいというよりはかわいらしいといった顔立ちのCP仕官が穏やかに状況を告げる。

『ちょっと遥、最後とか言わないでよ。緊張しちゃうじゃない』

『おやおや、速瀬少尉はこの程度の事で緊張するのですか?いや違いましたね、涼宮少尉の愛らしい声に興奮してしまうのでしたね。性的な意味で』

『む~な~か~た、先任に対してずいぶんな口聞くじゃない。帰ったらたっぷり可愛がってあげるわよ』

『…って鳴海少尉が言っていました』

『っおい!適当なこと言うな?!』

『あんたか孝之!!』

『本気にするなよ!?』

地球低軌道上、太平洋上空に布陣する一陣の再突入艦隊。
そして急造ながらも戦術機動攻撃機 A-10サンダーボルトⅡから移植された12機のGAU-8 36mmガトリングモーターキャノン〔アヴェンジャー〕と戦術機用の肩部ハードポイントごと移植された60機にも及ぶ92式多目的誘導弾システム、
そして米軍よりもたらされたAIM-54大型長距離誘導弾システム〔Phoenix〕 32機を装備された本来のものより巨大な空中機動要塞XG-70b改、作戦コード:ミズガルズが存在する真空空間で、姦しい会話が響く。

『孝之君落ち着いて、水月もこんな事で怒らないの。帝国軍の人たちもいるんだから』

『そのとおりだ。ましてや教官の前で醜態を演じてみろ。……喰いつかれるぞ、鳴海』

『俺だけですか?!』

大気圏突入前のほんのわずかな時間。人間が兵士に、兵器へと変わっていく最後の過程。彼らは思い思いの言葉を紡ぎ、自らの人間性の証左として世界に感情の羅列を記録する。

まもなくバーテンダーズが設置した”カクテル”が爆発し、桜花作戦は第三段階へとシフトアップする。
当初は”カクテル”を軌道降下兵団を用いてデウス級に届けるはずであったが、”カクテル”の通常制御には高度な電子回路、ひいては高性能コンピューターが必要とされた事から光線属主のレーザー照射を受ける確率が非常に高かった。
そのため内側から軌道降下兵団と外延部からの戦力一極集中によって、オリジナルハイヴ地表面のBETA群を一気に切り裂き、物理的回廊を形成、特殊部隊バーテンダーズが”カクテル”の運搬、設置を行う手筈になっていた。
彼らの出番はその後。最高のタイミングで横っ面を引っ叩く。唖然とする時間すら与えずボコボコにする。
不意打ち、奇襲は戦いの華だ。

『しかし、まさかこのような形でオリジナルハイヴに突入する事になるとはな。まったく、人生何があるかわからんものだ』

『本当ですね大尉。しかもオールスターキャスト総出演の大舞台ですよ』

『これで失敗でもしたら、私達世界中から恨まれますね』

『速瀬、少しは言い方を考えろ。お前はストレート過ぎる』

『大丈夫ですって伊隅大尉。なんたってこっちには力強い味方がいるじゃないですか。香月副指令特製のXG-70b改、単機でハイヴ制圧ができる兵器が着いてるんです。もう楽勝ですよ』

『もう水月、もう少し緊張してよ』

ふう、と伊隅は溜息をつく。この突撃前衛は腕はいいのだが、少々口が軽く明け透けな言動が目立つ。面倒見の良い彼女の事だ。彼女なりに周囲の緊張をほぐそうとしているのだろうが、今回はいつもとは違う。人類と地球の命運をかけた文字通り決戦なのだから。いやひょっとしたら彼女も緊張しているのだろう。それを仲間に悟られないようにするため普段以上の振る舞いをしているのかもしれない。
仕方がないか、と伊隅は部下達全員に気合を入れ直そうと衛士強化装備に付属するヘッドセットに取り付けられたマイクへと声を向けた。

『貴様ら、この作戦が完了した後の事は考えているか?』

『『『『『えっ?』』』』』

作戦の完了。自分達が信頼する隊長より聞かされた予想外の質問に戦乙女の称号を持つ戦士達は、一瞬呆然となった。
無理もない。正真正銘その作戦は、人類の総力を振り絞った戦いだ。たとえ勝利という「未来」が目的である人類であっても、眼を向けるべきは「現在」の戦場であり、具体的な将来像などまだ思い浮かべるはずもない。

だからこそ、オルタネイティヴ4専任特殊部隊 A-01の隊長にして、ヴァルキリー達の指導者、伊隅みちるは問う。

『私はこの作戦が完了したら、会いたかったヒトに会いに行こうと思っている。なに、腐れ縁の幼馴染というヤツだ。いいかげん、そろそろ決着をつけようと思ってな』

『…あの~伊隅大尉。それって恋人の話ですか?』

『愛する男の話だ。こればっかりは譲れなくてな』

普段から軍人として、一人の人間として尊敬している上官の女性としての部分を初めて見た気がする戦乙女達。普通このような人物はその手の話題に関してはからかいの対象となる事が多いゆえ、その話題は避けるのが常套であるが、彼女はあえて自分から口にした。

『ヴァルキリーズの諸君。恋は偉大だ。この地獄のような世界であっても、そのヒトがいるだけで生まれて来たことに感謝できるのだから。どれだけ凄惨な時代であろうと、そのヒトと一緒にいるだけで世界が存在する事を許せるのだから。

 愛しいヒトのためなら、我々は無敵になれる。愛のためなら、我々は死をも超えられる。
 私は生きるために愛し、愛するために生きるつもりだ。この戦いはそのための通過点に過ぎない。

 お前たちは何のために闘う?
 誰のために戦う?
 何のために生きる?                             』

問われるのは「夢」。

生きる意味。生きる目的。死に征く者が残すモノ。



彼女達は答える。その胸に秘めた想いを。

『もう一度、同じ光景を一緒にみたいヒトがいます。そのヒトと生きるために戦います』
ヴァルキリー8、迎撃後衛(ガン・インターセプター)たる宗像 美冴が残す決意。

『失われていく音楽を、先人たちが伝えてくれた夢を伝えるために、生きるために戦います』

ヴァルキリー10、制圧支援(ブラスト・ガード)たる風間 祷子が刻む夢。

『色々決着をつけるために生きてないといけませんから。そのために戦って生きます』

ヴァルキリー3、突撃前衛(ストーム・バンガード)たる速瀬 水月が決める未来。

『これ以上、俺達の星で、誰一人として死んでほしくないから。皆に生きていてほしいから。だから戦います』

ヴァルキリー6、強襲前衛(ストライク・バンガード)たる鳴海 孝之が示す願い。

『ずっと一緒にいたい人達がいるから、ずっと一緒に笑っていたいヒトがいるから、皆の力になりたいから、戦います』

ヴァルキリーマム、コマンドポストオフィサーたる涼宮 遙の祈り。

彼女達の中には初陣を向かえて間もない者もいた。先任の戦士たちは彼女らを支え導いた。
共に在るために。共に戦うために。

遥か太平洋の上空に広がる黄金郷。レーザーの届かぬここは、太陽と地球が照らす、魂の安息の地。そこはアヴァロンにして神々の世界へと至る”ミズガルズ(死を免れない人間の地)”。

彼女らが挑むのはヴァナヘイム、神々の領域。
それは運命の荒野にして確率因果時空に変革をもたらすフロンティア。
人類の敗北という決定的優勢因果情報「運命」を書き換えるために、魔女にして聖母である女が無限の果てに切り拓いた最後の可能性。

真の反撃の原点。


『この戦いが始まりだ。我々の勝利は、ココから始まるのだ。



 ――ー生き抜け、いのちある限り               』



戦乙女たちが自らの指導者に敬礼で返す。

「生きる」

ただそれだけの事象に、彼女達は全身全霊を傾ける。











「フフッ、ま~たいい感じに盛り上がってるじゃない。教官冥利に尽きるってもんね。感激して涙が出ちゃうんじゃないの、まりも?」

「ちょっと夕呼、こんな時にふざけないでよ」

ミズガルズの管制ユニット内で、正確には涼宮 遥の後に座る二人の女性がふざけ合っている。その左前方、正面から見て涼宮 遥の反対側のシートに座る金髪の副官は気付いているのかいないのか、黙々と手元のコンソールを操作してミズガルズの調整を続けている。

「大体、どうしてあなたがここにいるのよ!戦闘の訓練なんて受けてないのに、いくらML機関があるからって素人がいたら足手まといなのよ!」

「あ~らまりも? あんた私ナシで00ユニットの制御なんか出来るの? それも三つも。いっちゃあなんだけど、あれ特別に調整したものだがら私以外の人間じゃあ、まともに扱えないわよ」

「グッ…」

誰あろう。ありえない事だが、そこにいたのは神宮寺まりもとその親友 香月夕呼である。
本来であれば技術将校の一人でしかなく、戦闘員ではない夕呼がここにいるのには特別な理由がある。
空中機動要塞XG-70b改めミズガルズには三つの00ユニットが搭載されていた。
一つは機関制御用に調整されたモノ。二つ目は情報管制用に調整されたモノ。三つ目は火気管制用に調整されたモノ。
なぜこのような能力を限定させた、しかも00ユニットがミズガルズに複数搭載されているかには理由がある。それはこのミズガルズが急造決戦兵器であるからだ。
異なる確立分岐世界ではXG-70d 凄乃皇・四型と白銀武、00ユニット鑑純夏、社 霞が搭乗し207B分隊を直援とした特別編成による一個小隊での突入であったが、この時凄乃皇・四型は完成し、00ユニット鑑純夏の力によって電磁投射砲など一部の武装を除外し、稼働率100%を発現していたが、この世界においてはモスポール処理から凄乃皇・四型は艤装が間に合わず、その主機関と主砲:荷電粒子砲が搭載されている胴体部しか復元をする事は出来なかった。
だが逆に武装の少ないXG-70b 凄乃皇・弐型はほぼ完全な形で復元が間に合い、桜花作戦の要であるA-0Xとして投入される事となった。
しかし、いかに無敵のラザ・フォード場の盾を持つ空中要塞であろうと、荷電粒子砲一門ではハイヴ内での戦闘能力に疑問が湧く。
そこで夕呼はほぼ完全な形で復元が可能なXG-70bとXG-70dの胴体を無理やり連結させ、そのML機関を強引に専用の00ユニットでコントロールしてしまったのだ。これによりML機関には倍の容量が生まれラザフォード場の維持と荷電粒子砲への電力供給にかなりの余裕を生み出す事に成功する。
つまり荷電粒子砲二門による速射を可能にした。更には、大量の戦術機用の誘導弾コンテナや戦術攻撃機用の大口径ガトリングモーターキャノン、果ては複数の補給コンテナを無理やり溶接で取り付け、こちらも専用に調整・ダウングレードさせた00ユニットで乱雑に組み込まれてしまった火気管制システムをこれまた強引に制御したのだ。
そして最後に、各部隊との情報連結とバックアップようとして三つ目の00ユニットが搭載され、継ぎ接ぎだらけの決戦兵器は白銀武の女性問題以上の複雑なシステムとなってしまった。
こうなれば00ユニットの開発者である香月夕呼以外には扱えない。
ちなみに僅か一ヶ月にも満たない期間でこれほどの兵器が完成したのには、恥も外聞も掻き捨てた米国の協力と、いつの間にか出来上がっていた”謎の設計図”があった事をここに記載しておく。

「まったく、こんな時くらい真面目にやってほしいわよ」

「あ~ら、私はいつも真面目よ。ただ、その過程と重要視するところがちょーーーーーーっと人とは違うだけだもの。いえ、天才である私の思考に周りのヤツラが追いつけてないだけでしょ?ああ、これが天才にしか許されない悩みなのね。私は罪だわ」

芝居かかった口調で、自覚しているのだろうどこか胡散臭い演技で答える夕呼。その様子を肩をすくめて溜息をつき、気持ちを切り替える神宮寺まりも。

「だけど、よくここまで量産が出来たわね。てっきりもっと製造が難しいものだと思ってたわ」

「量産というよりは、三つに分けたってところね。人間の脳に左脳右脳小脳があるように、00ユニットを各能力毎に分割することでセーフティーを兼ねてるのよ。
一つのダメージが他の領域にまで拡大しないようにね。それに”アトリエ”がまだ生きてるのよ。大量生産が出来るってほどの量じゃないけど、G元素の備蓄は十分。時間と資金さえあればあと二機か三機はミズガルズを配備できるわ」

00ユニットの構成物質であるG元素〔グレイ・ナイン〕は309K、すなわち室温以上で超伝導が可能という特徴を持つ。これが量子伝導脳を構成するのには欠かせないモノである。本来なら横浜ハイヴのアトリエに存在した大量のG元素は、鑑純夏の慟哭と「タケルチャン ニ アイタイ」という狂気を超越した想いにより、世界を越える因果情報嵐となるはずであった。しかしゴジラによる横浜ハイヴ陥落と白銀武、鑑純夏が救出された事によりG元素は消費されることなくアトリエに残された。これが量産された00ユニットに用いらえたのだ。

「…でも、ついにここまで来たのね。私達人類は」

「遅いか早いかの違いよ。1年前なら人類の寿命は残り10年となかったけど、今は一億年なのか一時間なのかもわからないわ。どっちみちここまで持ってくる気だったし」





「…ねえ夕呼、あなたはこうなる事がわかっていたの?」

「どの事よ」

親友の捩れたコミュニケーションを溜息でかわしつつ、彼女の真芯を撃ち抜くような視線で問う。

「デウス級の事よ。あれが人類に味方する事。BETAに敵対する事。世界が動く事。ひっくるめて全部よ」

「……それを聞いてどうするのよ。全部私が仕組んで起こした喜劇だとでも?」

どこか突き放すような感じで返す夕呼。

「違うわ。もしあなたが全てを仕組んだのなら、なぜ私は気が付かなかったんだろうって思ったのよ」

「何?凡人のあんたが、天才である私の思考を理解できるっていうつもり? いくらまりもでも、それは無理ってものよ。天才は凡人には到達できない不可侵の領域に入る事を許された者よ。凡人のあんたは余計な事を考えず、ただ引き金引いてればいいのよ」

暗に「大きなお世話」だと偽悪的な笑みで話す姿は、魔女のようにも見えた。

しかし、

「――そうやって天才を笠にきて内心を隠そうとするのは変わってないわね」

肩を竦め、窘めるかのような言葉。

「……………そうかもね」

ワインレッドに白とゴールドのラインを引いた特注の強化装備で身を包んだ夕呼はドサリと機関士用のシートへと身を預ける。顔には面白くなさそうな表情が載っていた。
そんな親友の行動を見て、主操縦士席に座るまりもはクスリと笑う。彼女は普段の実直な軍人言葉ではなく、友人としての口調で香月夕呼と対していた。それはこの作戦が発令された直後から彼女が見せていた、親友であるまりもにしかわからないほどの”懸念(動揺というと夕呼がヘソを曲げるため)”をみせていたからだ。
彼女自身の発案とはいえ、この作戦は正に人類の最初にして、最後になるかもしれない反撃なのだ。失敗に終われば人類は対BETA戦略に大きく変更を余儀なくされる。最悪の場合、その戦力の半分以上を失うかもしれない。つまり、香月夕呼が人類滅亡へのきっかけになってしまうかもしれないのだ。周りの部下や将校には、余裕たっぷりの絵に描いたような天才と写るが、親友であるまりもにはわかる。香月夕呼がその精神の奥底に秘めた不安と動揺を。
まりもはそんな親友の不安を少しでも和らげようと砕けた言葉で接している。いつもは自信たっぷりに唯我独尊を貫いている彼女の不安を、自分だけが気が付いている状況は不思議な心地良さがあった。
彼女はあえて夕呼の不安に触れてやることで、自分もいるということを教えているのだ。

「…どちらにしてもこれで決めましょう。死ぬか負けるか、勝つか生き残るか。私たちのやってきた事が、人類の伝えてきた全ての記録と叡智が無駄ではなかったことを証明しましょう。勝つために戦うのだから」

「当然よ。私がわざわざガシュガルくんだりまで来たのよ。勝って当然、負けて不自然なのよ。第一、負けていい戦いなんてさせられてたまるもんですか。とっとと終わらせて飲むわよ。この強化装備、保温効き過ぎてて暑いのよねぇ。汗かいちゃったわ」

親友に内面を見透かされていた事に飽きたのか、いつものように踏ん反りかえってシートにその肢体を預けた様は、えらく扇情的でありながらどこか知的で悩ましい色香があった。大きく張り出しながらも、形のまったく崩れていない胸は、香月夕呼の魅力の一つである。その貫禄、とてもこれから初めて戦場に出る人間のモノではない。
いや、彼女は常在戦場なのだ。対BETA研究の一環として、”死の八分”を越えられず、管制ユニットの中で、戦車級に貪り喰われる映像を何度も何度も見てきた。市街地に侵攻した兵士級に、バラバラにされる民間人の画像を見つめ続けてきた。ましてやオルタネイティヴ計画という権謀呪策の極地ともいうべき世界に、たった一人で戦い続けていた彼女こそ、数多の確立分岐世界で最も戦い続けた戦士ではないだろうか。

「勝たせてあげるわ、まりも」

ニヤリと犯罪王のような笑みを浮かべる香月夕呼。

「勝たせてもらうわよ、夕呼」

ペロリと軽く舌なめずりし、操縦桿を握り直す神宮寺まりも。

不敵な笑いを零す二人の女。女狐と狂犬は運命の咽笛へと喰らいつく。









だが、

「………………どうやら、すんなりとはやらせてくれないようね」

「地上の状況に変化が?」

網膜に投影された地上ガシュガルからの映像。多くの同胞たちとゴジラが横たわるその地に、赤グロイ色が広がっていく。

「地上作戦本部より入電。敵BETA群に新たな勢力を感知、新型小型種と思われます。数、無数。現在も増大中、個体数計測不能」

左方の管制官用シートに座る中尉、ピアティフが新たな局面を伝える。

それは因果の交錯するその瞬間、世界激突の予兆、”その時”である。

















……Side  Table <The Soldier''s> 



――”その時”


特注のF-15E SPに搭乗した”カクテル”を扱う専任の部隊『バーテンダーズ』。彼らは普通の衛士ではない。ある特殊技能を持ったスペシャリスト達だ。
彼らが得意とするのは戦場工作。戦場において部隊が休息するための数々のトラップを設置し、トラップの作動音によって敵の侵攻ルート 及ぶ 部隊規模すら把握できる職人達。その他にも施設の爆破、戦場にうち捨てられた資材から効果的な装置を造り戦う技術者。それが彼ら特殊工兵部隊『バーテンダーズ』である。
決して戦場の主役にはなれないが、彼らの働きがあって初めて、部隊は完全に機能する。いわば屋台骨である。
そして今この瞬間、ガシュガル・オリジナルハイヴにおいて、バーテンダーズは空前絶後の大勝負に挑んでいた。

『カクテル1、設置完了。防護壁の設置完了まで1分! 起爆準備に入ります!!』』

『カクテル2、設置を開始。BETAが猛烈な勢いで突っ込んでくる! 至急応援を送られたし!!』

『カクテル3、防護壁にトラブル発生。損傷により展開し切りません!!』

『ウィスキー中隊に応援要請を送れ。バーテンダー3、蛸壺を掘れ!バーテンダー4から8、突撃級の外殻を持って来い、臭いモノに蓋するぞぉ!!!』

劣化ウランの霧雨と重金属の雲が覆う戦場で、彼らは動く。

彼らが手にするのは”カクテル”。超収束一極集中型高信頼性代替核弾頭(Super Deep Reliable Replacement Warhead:SDRRW)である。

この世界において、小型核爆弾に類するものであるにもかかわらず、ゲテモノ兵器として認知されるモノである。
この核爆弾は対BETA戦争において無用の長物となっていた。理由は一つ、あまりに高濃度の放射線を放つからである。
地球でのBETA戦争の開戦当時、余裕を失った幾つもの国家が、最強の破壊兵器として崇められた核兵器を用いた焦土作戦を展開、一時的な戦局の奪還には成功するものの、BETAの圧倒的な物量差に抗えず、滅亡してきた。
これに対し、ある科学者が核兵器を小型し、運用を容易にする事で戦術的レベルを引き上げて対抗しようとした。その結果誕生したのがSDRRWである。
この核爆弾の最大の特徴は、「少量の核物質」で「威力・効果範囲の収束」が行える事である。開発当時、BETAは脅威とされていたが、まだ人類の存亡そのものに影響を与えるとは考えられていなかった。そのため戦後の処理を考慮し、汚染の激しい核兵器は忌避されていたのだ。
それでも、核兵器のもたらす超級の破壊力は魅力的であった。ある科学者は放射能汚染の被害低減方法として、効果範囲を「限定」し、使用する核物質を減らす事で核兵器の使用許可を取り付けようと奔走した。そして完成したのが緻密な爆発配列とモンロー効果を応用した一極集中型の威力を持つSDRRWである。
多数の爆縮レンズと特殊な起爆形態(核多砲身圧縮型)により爆発の方向と威力を一点に集中する事で、従来の10分の1の核物質で現代の小型戦術核並みの威力を実現し、集中による効果範囲の限定によって、使い勝手のよい核兵器として期待された。

しかし、いざ実働試験を迎えてみると思いもよらない結果が待ち受けていた。

威力はTNT爆薬に換算してベルリン型原爆の80分の1。効果範囲は直径1500mで、実際に放射線を持つのは中心部のわずか400m。
仮にハイヴ内で爆発させれば、地下構造体がさらに爆発を集中させ、階層に吹き抜けを開けてしてしまう威力である。

だが問題があった。
他でもない、放射線である。
爆発が集中した事により、本来拡散して放たれるはずの放射濃は偶然にも指向性を得て、一極に集中。エネルギーとは周波数を持つ実在なき物体。それは忌々しき光線属主のレーザーでも同じ。つまり、

「レーザーの如き放射線」が発生したのだ。

この結果に科学者達は驚愕した。破壊どころではない。一点に集中された放射線は汚染を通り越して侵食・変質のレベルに到達している。最凶最悪の核汚染物質”象の足”なんて比較にもならない。破壊力こそ限定されているが、過剰な放射濃はもはや人類の手には負えないレベルにまで高まってしまったのだ。もし一度でも使用すれば、その地は二度と人が近づけない魔境へと変貌するだろう。
当然量産計画は却下され、数個のサンプルがモスポール処理され厳重に保管された。
そしてこのゲテモノ核爆弾に代わる物として、使い勝手のよい高性能爆弾と汚染を出さないクリーンな大量破壊兵器が求められた。

それが小型戦術核並の威力を持つS-11とG弾へと繋がる。

彼らバーテンダーズは、この史上最悪の核爆弾を手に世界の精鋭が切り開いた血路を渡り、”テーブル”に到達した。
そこで沈黙したデウス級を復活させるべく、デウス級の周囲1km内の三点にSDRRWを設置。SDRRWの放射線方向をデウス級に向け、同時起爆させる事で、デウス級に莫大な放射線を浴びせ眼を覚まさせようとしているのだ。
この策はオルタネイティヴ4の責任者である香月夕呼よりもたらされた策であり、夕呼曰く

「ガソリン飲ませてやれば跳び起きるでしょ?」

というかなり過激なものである。だが00ユニット・プロトの演算は、必要とされる放射線の量を導き出し、それがSDRRWでしか成しえないと答えた。
これは非常に危険な策である。なぜならデウス級は炉心融解(メルトダウン)間近であり、現在は沈黙しているといってもその心臓である核反応炉は燃え滾っている。一つ間違えれば炉心融解(メルトダウン)を早めることになってしまう。設置の形態、起爆のタイミング、放射線レーザーの角度などと数え上げれば切が無いほどの不確定要素も存在する。
彼らバーテンダーズがいかに歴戦の工兵集団といっても、これほどデリケートな爆弾で白刃の上を渡るかの如き精密な工作は初めてである。しかも戦場は地球最大のBETA占領地・オリジナルハイヴ。総勢9個大隊が護衛についてくれたが、何時までも持つはずがない。
現に眼の前では、補給コンテナから吐き出された74式戦術機用長刀を何本も地面に刺し、要撃級の集団に近接戦闘を敢行している日本帝国の戦術機達が戦っている。
スーパーカーボンで出来た刀も無限に敵を切り続けられるわけではない。彼らは長刀が折れるそばから後退し、地面に刺さった刀を抜き、再び殺し合いを再開していく。
一刻も早くSDRRWを設置し、この場から後退したいが、00ユニット・プロトが指定した放射線レーザー投射位置は非常にシビアだ。しかも母艦級の死骸によって、デウス級の下半身は完全に埋没してしまっている。必然的にもっとも危険で困難な核炉心のある上半身に狙いを定めなければならなくなった。

『クソッ、爆撃の震動で架台が固定出来ねえ、もっと増援をよこしてくれ!!』

『わかってる!カクテル1とカクテル3は設置を終えた。まもなく援護に来てくれる。それまで諦めるなぁ!!』

『頼むぜぇ!帝国軍のサムライさんよぉ?』

バーテンダーズは手にした特注のシャベルのようなブレードで大地に孔を開け、速乾性のセメント状ベークライトを流し込み、架台ごとSDRRWを埋めていく。マニュピレーターの後付回路を通してわかるSDRRWの状況を網膜投影で睨みながら、理想の角度にSDRRWを落としていく。
位置が決まれば螺旋状のニードルをねじ込み、これまた特注のライフルグレネードを模したアダプターで空砲の120mmを放ち、その衝撃を利用して完全にニードルを撃ち込む。

『よしカクテル2設置終了。防護壁持って来い!!』

A-10サンダーボルトⅡとTYPE-94不知火、そしてMig-27の形勢する絶対防衛線の後ろを戦術機サイズのトランクを抱えたF-15E SPが走り寄る。
ロックが外されたトランクは蛇腹のように展開し、一つの大きな装甲板となる。

『ロック固定急げ。最終チェック忘れるなぁ!!!』

穿たれた孔を覆うように装甲板が大地に打ち込まれる。その上から突撃級の死体から剥ぎ取った外殻を何枚もかぶせ、残った速乾性ベークライトをぶち込み固める。

『こちらバーテンダー2、最後の”カクテル”の設置に成功!起爆装置のセットもまもなく完了します!!』

『よし、展開中の全部隊へ、”カクテル”の設置に成功した。全機爆発の効果範囲より後退せよ!西と東に塹壕を建設した、そこに逃げ込め!!』

バーテンダーズが送信したマップには三つのクレーターが映し出せれた。先の軌道降下の際、第二艦隊が命を捨てて造った巨大なクレーターだ。すでに一部の大隊が、このクレーターに防衛線を引き、即席の退避壕としていた。

『行け行け!焼かれたくないヤツはとっとと逃げ込むんだよ!防衛線は維持出来ているんだ。心配するなぁ!?』

指揮官が部下のケツを蹴り上げ、続々とクレーターへと防衛線が移行していく。
SDRRWの爆発は放射濃とは逆に地下と母艦級の死骸に向くように設定されているが、発生する衝撃波はBETAに対しても十分な兵器となる。稼ぐべきは起爆までの数分だ。

『すでに連絡路に展開する部隊も安全圏へと退避した。我々は起爆まで間、ギリギリまでここで防衛線を張りヤツラの注意を引く!』

部隊はデウス級を囲むように馬蹄型の防衛線を形成、母艦級の死骸により背後からの奇襲は無い。警戒すべきは地下からの襲撃と残された母艦級である。

外縁部の友軍は支援砲撃をもう一体の母艦級に集中し、牽制する事で母艦級を釘付けにしている。
残されたBETA群は誘導システムを作動させたミサイルを囮にし、その先端を誘導する。

『全部隊の退避完了、起爆準備開始!』

各部隊がクレーターから上半身だけを出し、即席の要塞となった三つのクレーターから弾幕を張る。突撃級集団を優先して叩き、その強固な外殻を利用し、バリケードとする。
中距離の突撃級と要撃級には突撃砲の36mmと120mmで対応し、補給コンテナで大量に持ち込んだALM誘導コンテナのミサイルで光線属種を撃破し、A-10の〔アヴェンジャー〕で接近してきた小型種を刈り、同じくA-10の57mm中隊支援砲で要塞級を黙らせる。

掃射。

直援の部隊が全火力を吐き出し、絵の具で塗りつぶされるようにカシュガルの大地は色を変えていく。アメリカンフットボールの戦術に「掃射(スイープ)」と呼ばれるものがある。タッチダウンを決めようと駆け抜けるランナーに近づく敵のラインマンを同じラインマンが正面から受け止め、力ずくで道を切り開くパワー戦術だ。
今人類は、その持てる全火力を用いて敵であるBETAの攻撃を同じように攻撃によって受け止めている。駆け抜けるは時間、起爆時間という勝利へのLast RUNを護るのがラインマンたる戦術機甲部隊の役目。誰一人として後退はなく、一瞬の恐怖も不安もなく彼らは受け止める。

『起爆準備完了。無線、有線、時限信管どれでもいけます!!』

『っよし!全部隊に告ぐ、カウントダウン20で起爆する。カウントダウン開始、対ショック姿勢!!さあ甦れ、ゴジラ!!』

防衛線を展開する全ての部隊が一斉に120mm砲弾を放つ。撃ち出されるのは榴弾。更には補給コンテナから取り出された人間でいうクーラーボックスを思わせる小型コンテナを投擲する。その中身はS-11。
爆発の円環がBETAという死の雪崩を押し留める。


『10』


クレーターの影に隠れ、衝撃に備える。


『9』


塹壕より突撃砲だけを出し、少しでもBETAを退けようと試みる部隊。


『8』


再びS-11を投擲し、BETAを吹き飛ばす中隊。


『7』


事前に設置した補給コンテナを狙撃し、BETAの群れの中心で爆発させる戦術機。


『6』


放たれるその一撃。


『5』


その全てが、


『4』


未来に可能性を


『3』


明日を迎えるための


『2』


生きるための


『1』


「願い」の一撃


『0』


そして………






















『―――お、おい、っどうした!なぜ起爆しない?!』

『回線が切れた!?無線も有線も駄目だ、タイマーの反応も途絶した!?』

『なんだって!?』





―――絶望へと繋がる。最高の演出………





































guaaadgdguaaaaaaaaaasduuuuuuuuhagusaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAuuuuuuuuuUUUUUUUUUUaaaaaaaaaaaaaaaaaaad

dddDDDDDDDDDDDDDDDddydnnnhudsnpoOOOOOOOOOOOOOssssssssssskdgjkdjgkdjgdddddddddddgyyyYYYYYYYYY

YYYYYYYYYYooooooooooooiiiiiiiiiiiidddddddddddwwwjdllllllleeeeeeeessssssssssskkkkkkkkkkkkkkjdiwwhkkkkkkkkkkkkkkkkkkeeeE

EEEEEEEEEEEEEeeeelkkkkmmmmmMMMMMMMMMMMMMffffffffffffffdsmmmm!!!!!?!!!!


未確認現象のフルコーラスが木霊す。

『『『『『!?』』』』』

驚愕は一瞬、刹那の交差をもって絶望感へと変わる。

地下から現れたそれは、瞬く間に”カクテル”のあった場所を飲み込み、尚もあふれ出してくる。

ふいに脳裏にある感触が掠める。

何度も何度も経験し、自身の奥底へと封印したはずの戦場の原初の感覚。


恐怖。


恐怖は平等である。
いかな優劣の差が人にあろうと、いかな貧富の差があろうと、其は一切の区別なく、平等公平に訪れる。
どれだけ鎧を纏おうと、どれだけ強力な兵器で身を護ろうと、恐怖の矛先は全てへと向かう。

衛士にとっての最大の恐怖とはなにか?
戦列を成す突撃級の群れか、戦術機のライバルと呼べる要撃級とのドッグファイトか、はたまた圧倒的な破壊力を持つ光線属種と要塞級との戦闘か。
それらは脅威ではありえるが、恐怖には成りえない。なぜならより明確な「死の恐怖」へと繋がるモノが存在するからだ。
ならばそれは小型種と呼ばれる戦車級、闘士級、兵士級の存在か?
確かにそれが大半であろう。戦車級に群がられて、戦術機の装甲と共に噛み砕かれるのは最悪の最後であり、BETAの暴虐を象徴する事象だ。それが多くの衛士の最後であり必然的に戦車級の存在は「死」を連想させるだろう。
だが、それよりも単純明快に恐怖へと至るモノがある。

彼らが見た「それ」をなんと表現すればよいだろうか?
一体あたりの大きさは人類の知る兵士級とさして変わらないくらい。体表面は既存のBETAと異なり全身が硬い皮膚層で覆われている。
六本三対の脚部を持ち、二本の触手は歪にして禍々しく、同じように百足のような尾を持っていた。頭部は左右に突き出した半円形の骨格が羽根を広げた蝙蝠にように不気味でグロテスクなハート型のシルエットを造り出し、表面を覆う硬角質層は腐った血肉のような赤グロイ色をしていた。

そして何よりその顔面。
今までのBETAと違い、生理的な不快感を催す醜悪なモノではなく、まさに「恐怖」を詰め込んだような面構え。
小さな口は上下左右二対の顎が開閉し牙がギチギチと鳴り、喉の奥からは隠された小顎がパイルバンカーのように勢いよく突き出される。
爛々と輝く紅い瞳にはハニカム状の格子模様が覗き、口から吐き出される霧には本能的に危機感が芽生える。

『悪魔』

そう表現するしかない存在が現れた。
なぜ人は悪魔に「恐怖」を抱くのか? BETAと違い、決して醜悪な造詣ではないにも関わらず、人類はその存在に恐怖する。なぜならば………

『未知』

それが最大の理由。未知ゆえの恐れ、不確かな未来、想像をも超える現実。それが明確な死のイメージを超え、生物の本能に直接警告を鳴らす。
未知とは暗闇。予測不可能なハイウェイ。恐怖という夜闇が道を閉ざすのだ。
『未知への恐怖』こそが最大の恐怖。どれだけの衛士が、人類が克服しようと、決して無くなる事がない事象。

そしてこの『未知』はゴジラにとって因縁深きモノ。
「因果逆転」により導かれ、彼の博士が存在するが故に、あの三発の試作G弾があったがために、そして”10月22日”であったが故に、過程を飛び越え『原因』へと『結末』が訪れた。
その証こそゴジラの姿。その姿はゴジラの結末。故にもう一つの『結末』が訪れる。
地下深くに眠っていたそれは、BETAの資源採掘用サンプルとして研究され、兵士級と同様に地球で生み出さ、いや”復活”の時を迎えた。

最初の終わりにして、最後の始まりを誘う特異点。
始まりと終わりは交錯する。



その名は「デストロイア」



因果の果てに再び舞台は出来上がる。
一方は人類と地球の尊厳のために、もう一方は自らの生存本能が示す通りに、両者は出会う。

そして人類は………












『それがどうしたぁぁぁぁぁあああアアアアアアアあ!!!!!!!!!!!!』

防衛線を形成するA-10サンダーボルトⅡが一斉に反転。36mm7砲身ガトリングモーターキャノン〔アヴェンジャー〕を振り回し、地下から出現した大量のBETAとデストロイア群を薙ぎ払う。

『ミステルプ1からムーランルージュへ、援護してくれ!”カクテル”を奪還する!!』
『了解した!全機NOE(匍匐飛行)新たな敵集団に接敵、全火力をもってミステルプズを援護する!!』

『『『『『了解!』』』』』

『新種がどうした?!それがなんだ! ココで退くようなら、はなっから未来なんか見てねぇんだよ!! 人類の覚悟、見くびるんじゃねぇぇぇぇえええええッ!!!』

吐き出される劣化ウランの暴風雨。その全ては地面より出現した新たな敵に向けらていた。

彼らの動かしたのは「覚悟」。「未知」という暗闇の荒野に道を切り開く事。それは生命が誕生し、500万年かけて創り上げてきた宇宙最強のソフトウェア。『意志』が生み出した形なき剣。

『第231戦術機甲大隊、正面をカヴァーせよ!608は背後の敵を掃討し、防衛線を再構築しろ!!』

『正面は任せた!帝国陸軍第21機甲連隊は背後の敵BETA集団に吶喊する。全機着剣、新種どもに注意しろ!”カクテル”を奪い返せ!!』

『こちら統一中華戦線 第三師団 第4軍 李勲大隊、我々は穴をふさぐ。S-11を使用する際は衝撃に注意せよ!』

誰が言うのでもなく、彼らは動く。命とはその危機に陥った瞬間、生存本能にしたがって最善の動きをやってのける。
だがこの瞬間。彼らは他でもない、”隣りに立つ同胞”の為に動いたのだ。

彼らは戦う。

いのち、ある限り。





だが、

『――ッう、ナニィ?!』
                           ・・・・・
真っ向唐竹割で振り落とされたスーパーカーボン製の長刀が融け落ちる。

『このおおおおぉぉぉぉッ!!吹きとッ――――?!』

デストロイア群に放たれた120mm榴弾が直撃した瞬間、オレンジ色の爆炎が上がり周囲のBETAごと戦術機を飲み込む。

『な、なんだコイツら、カーボンブレードが融ける?!どうなってる!』

『誘爆するだと、爆発物でも詰まってんのか?!』

『まんまエイリアンかよ!胸糞悪いなァァ!?』

デストロイア、それはある古代生物の成れの果て。彼の生物爆発進化世代、通称 カンブリア爆発と呼ばれる奇跡と混沌の時代に誕生したある微生物。それが始まりである。
空気中の酸素が猛毒であった時代、彼らは酸素とは隔絶された水中に生存圏を構築する事で生き永らえてきた。

だがこの現代において、ほんの数日の進化で酸素に適応してみせた。

進化とは少なく見積もっても百年単位で行われるモノである。しかしカンブリアの混沌に生を受けた彼らにとって、今の地球の環境は温過ぎた。煮えたぎるマグマと強アルカリ性の海が広がる世界に生まれた彼らのとっては御しやすく、物の数にも入らないモノだったに違いない。そうでなければ、わずか数日で進化など出来ようはずもない。
やがて彼らは、猛毒であった酸素すら支配下に置いたのだ。

「親和性」というモノがある。ある物質が他の物質と容易に結合する性質や傾向の事を言い、物理的には酸化や侵食の根幹を形造るものである。デストロイアは体内で高圧縮・超収束された酸素を持ち、水圧レーザーのように放出する。酸素原子は爆発的な速度エネルギーを与えられ、対象に分子構造単位で侵食・融解・破壊をもたらす。それが彼らの脅威の秘密。

例え鉄をも切り裂くスーパーカーボンの長刀であろうと、その親和性の前には抗えず、分子構造そのものが融け堕ちてしまう。
そして小型種相当の規模を持つデストロイアを駆逐するのに有効だと思われた榴弾は、その爆発が酸素に引火し、純粋な熱破壊爆弾となって人類に跳ね返るのだった。
押すも切るも出来ず、人類の覚悟は出鼻を挫かれた。

『各部隊、36mmで掃射するんだ!劣化ウラン弾なら爆発しない。距離を取るんだ!!』

『こちらサンダークリップ、小型新種は我々ライトニングライダーズが受け持つ!前衛を頼む』

『あきらめるなよ! 我々はまだ戦える。ここに存在している。生きているのだ! 消えるその瞬間まで、戦うんだ!!』

敗北の風を薙ぎ払うように戦士達は勇み戦う。だが悲しきかな。運命は無慈悲に突きつける。




死ね と。




『ッグワアア?! く、来るな、来るんじゃない?! クソッ死ね、死ね、死ねよぉぉ!!』

防戦を強いられたサンダーボルトⅡの内、デウス級に取り付いたデストロイアを剥ぎ取ろうとした機体に新たなデストロイア達が無数に群がる。サンダーボルトⅡ独自の自衛用装備、CIDS-Mk1 ジャベリン・スパイクシステムが各関節の装甲より爆発ボルトによって高速射出されるが、既に膝下まで群がられ、同時に取り付いてきた戦車級と兵士級が、装甲を剥ぎ取りにかかっていた。スパイクが引き戻され爆発ボルトが再充填される。だが遅い。群がるデストロイアと小型種の群は息つく暇もなく管制ユニットに到達し、装甲を融かしにかかっている。サンダーボルトⅡの衛士はすぐさま管制部周辺のジャベリンを起動、胸部装甲の左右と正面に設置された大小合わせ12本のスパイクが群がる有象無象を引き裂くが、その一撃を持ってスパイクはその威力を失う事となる。

『!? そ、そんな、スパイクまで融けた。フラーレン構造の特別製なんだぞ!?』

ダイヤモンド以上の硬度と強度を誇る二十面体構造のカーボンナノチューブも、その分子構造そのものを破壊するデストロイアの前には無力を晒すしかなかった。
哀れな雷の化身は己が身を守る鎧を失い、貪り喰われていく。

『ギ、ギャアアアアああああああああああaaaaaaaaaaaaaaaaaaa !!!!   痛い、痛いよおおおおおおおおおお!! 俺の腕がぁぁぁ体がァァァァああ、 だ、誰かあああaaaaaaaaaaaaaaaa  ッ!        』

『 タンゴ5!? マイキー!? おいマイキー!? 返事しろ!  ッチクショウーーーーーーーー!!  よくも俺の親友をぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!』

『よせぇタンゴ6! 戦列を乱すな、死にたいのか!?』

『このぉぉぉ、出て行けぇ、出て行けぇぇえ! 俺達の星から、出て行けぇぇぇぇえええええ!!!』

それは戦場でお決まりの光景。不意な奇襲による作戦の瓦解。一方的に殺される様子はたやすく味方の士気を砕き、統制を失わせ、軍隊は烏合の衆へと変貌していく。
その様子を指揮官たちは必死に食い止めていた。

『ツィヴォルキール全機へ、方位2.54.3より敵中型種集団が接近している。我々のSu-27では新種どもの相手は不利だ。後方の新種は落雷に任せて、我々で前面の穴を埋める。恐れるな、勝利は目前だぞ!』

『メルカヴァー5、メルカヴァー6の穴をふさげ! 光線属種が来る。ミステルプズがカクテルを確保するまで持ち堪えるんだ!』

怒声と悲鳴が吹きすさぶ人外魔境の中心で彼らは待った。仲間の血を浴び、彼らの悲しみで鍛えられた鎧を纏い、果てしない数の同胞の屍で出来た道を駆け、自分という存在全てを軍刀へと変えて、狂ったように切り結ぶ。

『ッグア! クソ!』

『レイブン8!? 待ってろ、今助けるやる』

『来るな! 俺に構わず後退しろ。防衛線を立て直せ!』

『だが』

『早く行けバカヤロウ! 人類を救え! デウス級を守れ! そして勝て!!』

『…っ許せ!』

再結集するため背中を向け後退していく仲間の姿を確認し、レイブン8は機体を起こす。
すでに膝から下は戦車級によって食い尽くされ、その形を失っていた。だがその手に握る突撃砲は未だ戦意を失ってはいなかった。

『行かせねぇ。絶対、行かせねぇぇぇえええ!!』

両手に握られた二挺の突撃砲と背部兵装担架を展開し、四挺もの突撃砲で弾幕を張る。機体はF-16ファイディングファルコン。外縁からの連絡路を突破し、テーブルへとたどり着いた隼は最後の戦いを始める。既に機体は戦闘機動どころか歩行も不可能。だが砲台となり仲間の殿となるには絶好のポジション。絶体絶命の窮地において、それは彼に与えられた最後の幸運である。

『ウゴ!? このおおおおおおおお!!!!』

頭部に取り付いた戦車級に驚きながらも網膜投影された光景を睨む。まるで地面から泥水が這い上がってくるように戦術機を小型種が覆っていく。戦車級が装甲を削り取り、デストロイアが内部フレームごと機体を融かす。レイブン8は短刀に換装する時間すら惜しいとばかりに突撃砲を握った主腕を振り回し、掃射すると同時にBETAを振り払う。
ガリガリと剣にして鎧たる愛機が削られている様を耳で感じながら、ひたすらに弾幕を展開する。

やがて左主腕が根元から脱落した。背部から這い上がってきたデストロイアが肩関節フレームを分解し、損傷時強制排除用の爆発ボルトすら原子へと還したのだ。正常な強制排除が行われなかったため、肩部回路が保護されず主機からの動力ラインにロスが発生。レイブン8の管制ユニット内は赤色灯が点滅、警告が鳴り響く。

『ギぐッ!?まだだ、まだ終わってない!!』

警告を無視し機体を無理やり起こし機体の左半身を地面に激突させる。取り付いていたデストロイアは機体と地面によりサンドイッチされ、F-16の頭部を半融解させながら潰れた。もはやまともに照準を取ることすら困難となった隼は残された手足をバタつかせ、アフターバーナーを振り回し原始的にBETAを殺していく。まさに足掻きの様相である。すでに背部の突撃砲は残弾ゼロ。膝部内の短刀は戦車級の腹の中。最後の突撃砲は36mmが残り270、120mmが2。奇跡的に繋がった戦術情報システムはミステルプズがカクテルの奪還に成功した事を知らせてきた。


《 緊急対応プラン Z-2-2 ヲ 決行ス。残存部隊 ハ 起爆マデ ノ 時間ヲ稼ギ確保セヨ 》


カウテルを確保したバーテンダーズから送られてきた命令は最後の最後の手段。「口移し」である。
レイブン8は機体に残された最後の燃料を振り絞り跳躍システムを全開に噴かす。NOEで機体そのものを弾丸とし、デウス級の頭部があるエリアへと吶喊する。目の前に集結する要撃級と突撃級の集団に120mmを叩き込み、36mmで血路を切り開き、地面に機体を擦りつけながら噴射滑走の要領で小型種をすり潰し、強制排除した噴射跳躍システムそのものをミサイルとして要塞級に叩き込み、デウス級の頭部を目指す。

『グゥゥヲヲヲヲォォォォォォォォオオオオオオオオオおおおおおおおOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!』

スクラップなどという言葉すら生ぬるい鉄くずに変貌した機体そのものを「隼」のように質量兵器として光線級の群に叩き込む瞬間、強化外骨格装備を起動させて正面装甲を内側から破壊しロケットモーターによって加速されながら機外へと脱出する。
脱出の勢いを損なう事なく、レイブン8は強化外骨格に搭載されたパイルバンカーを着地点にいた戦車級に叩き込み、同じく強化外骨格に搭載された12.7mm機関銃を乱射し兵士級、闘士級、光線級、戦車級の小型種集団を薙ぎ払う。脚部に装備された高速移動用のバリアブル・ローラーを思考制御で操作しながらバーテンダーズが挑むデウス級の口を睨む。

バーテンダーズの最後の手段、カクテルをデウス級の口内で直接起爆させ、その体内に強制的に放射線レーザーを撃ち込む「口移し」。
本来なら体の複数のポイントから照射するはずであったが、三つあったカクテルの内、二つはデストロイア群の奇襲によって完全に破壊されてしまった。残された最後のカクテルだけでデウス級を復活させるには、体内の核炉心に直接放射線レーザーを叩き込むしかなく、外皮の無い口内を通してやっと通じるのだ。
しかも先ほどのデストロイアの奇襲により、遠隔起爆装置は作動不能。タイマーも起動しない。残された手段はバーテンダーズのF-15E SPに増設されている主腕外部入力端子で、直に起爆信号を叩き込むしかない。文字通り自爆だけが残された手段なのだ。

『スティックは軽く、羽を握るように』

衛士強化装備に装備されたモーションキャプチャーに連動し、外骨格が駆動する。

『重心は前、視線の先に目標を』

踏み込まれた爪先に惹かれるように自在動輪が疾走する。

『トリガーは深く、静かに、処女の抱くように』

生娘の柔肌に触れるように、丁寧に引き絞られた引き金は12.7mmの矢を振りまく。

『全残存部隊に告ぐ、第一、第三トレンチを放棄、第二トレンチに結集し、最終防衛線を敷く。円周防御(デッドサークル)だ!』

円周防御、全方位防御戦。追い詰められ、立て篭もった袋のネズミ状態。
すでにデウス級を守る三つの防御陣地は二つが陥落。残されたのはデウス級の頭部正面にある第二トレンチが最後の盾だ。

『いけるぞ!カクテルの起動を確認、臨界まで57秒。カウント10で起爆させる。ここに集った全ての同胞達へ。すまないが最後まで付き合ってもらうぜ!』

『任せろ!派手に決めてくれよ!!』

『貴官達と共に戦えたことを、誇りに思う!』

『用意周到、予定調和、クソ喰らえだ!』

『O.K!花火を撃ち上げてやれ!!』

生き残った全ての衛士達が布陣するのは、ゴジラの正面。ある者は戦術機で、機体を失った者は強化外骨格で、またそれすら失った者はPDWの自動小銃と拳銃でBETAを撃つ。そして再び悪魔と出会う。

『チビの新種がきやがったぞ、全ユニット、弾幕を張れ!近づけるな!!』

地下から次々と現れるデストロイアは一直線にゴジラへと向かう。まるでゴジラこそが狙いであるかのように。しかし、それだけでは終わらない。

『…ッおい!新種どもの様子が妙だ。固まって動かないぞ?』

『構うな!撃ち続けろ!少しでもヤツラを減らすんだ!!』

120mm、57mm、36mm、12.7mm、5.7mm、5.56mm、9mmと多種多様な飛礫が吐き出され悪魔へと向かい数多の砲口が睨む。悪魔たるデストロイアは集団で固まり、蠢く。
何かを、想像もつかない何かを為さんとしている。

『なんだ?なぜ固まる。自ら圧死する気か?』

ゴジラとそれを守る人類決死護衛部隊の眼前で、堆くデストロイアの山が積み上がる。その数八つ。それは周囲の小型種はおろか、要撃級と突撃級といった中型種の多くをを巻き込みながら確実に変異を始める。
BETAたるデスロイアは折り重なりいくつもの同胞を潰し、潰されながら「一のフラグメント」へと近づく。重力と自らの質量に負け、形を失ったデスロイアの体内から超圧縮された酸素「オキシジェン・デストロイアー」が開放され、周囲の同胞を融解させながらドロドロのシチューへとその形を変える。外殻も筋組織も神経節も、あまつさえ骨格さえも形相を失い、一つになっていく。そう、ヤツラは個体であり、群体なのだ。
その往きつく形は『進化』。ヤツラは止まらない。その生存本能は善も悪もなく、ただ喰らい、破壊し、己の存在の維持にのみ価値を見出す。

……そう、BETAと同じように。

閃光と大音響がガシュガルの大地に響き渡る。
爆発。八つの骸の山は一瞬にして同時に爆煙に包まれ、その姿を覆い隠す。

『…何が、一体何が起きているんだ?』

その疑問に答える存在がいたとしたら、それは未だ目覚めぬ人類の希望、ゴジラだけが答える事が出来ただろう。
人類が初めて目する『未知』。ヤツラは常に我々の予測を超える。



GGADAAAAAAAAAAIIIIIIIIIIAAAAssssSSSSSSSSSSSSSSSSSSwyyyysssssjaooooPPPPPPPPPPPPP

PPPPPPPPpkkkkkyyyyyyyyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaiuuuuuUUUUhaaaaAAAAAAAAA

AAAAAAAAAAAAaaaiIIIIIIIIIIIIIiiiiiiiiiiiiideeeeEEEEEEEEEEEEEEEEEEerrrrrrrrrriiiiiiiiiii

iiiiiiiidjjjjjjjjjjl;;mmmmmmmmmmmmmmmmmnsssSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSieqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqq

qqEEEEEEeeeeeeeedddddddddSDDDDDdddddddddjyAaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!???!!!!!!!


再び、『未知』のフルコーラスが木霊す。その数八つ。


『  ……ッ!? ば、馬鹿な 巨大化だと!!!?』


人類の前には『進化』が姿を現した。それは衛士にとって、戦場で最も警戒すべき敵。直接戦闘の中でも最も恐ろしいBETA、要塞級と同等の体躯を持つ新たな恐怖。

その名をデストロイア集合体。


『 そんな……  そんな……  どうして、お前たちがそこにいる!? まだ、まだ俺達から、 奪い取るつもりなのか!?』


視線は上へ。そこは人類が拒絶された領域。今や限られた者達のみが、多大な犠牲によって到達できる楽園。大空の彼方に悪魔の姿が翔ける。
そう、ヤツラは翼を手に入れた。

その名をデストロイア飛行体。

僅か数時間。人類と直面したデスロイアは僅か数時間で新たな生存手段を手にした。人類の主武装たる劣化ウラン砲弾の効かぬ強度を持つ外殻を手にするため、数千体の同胞を犠牲にし、それらを集め、融かし、再び一つに纏め上げ、砲弾の通らぬ外殻を手にしたのだ。
「大は小を兼ねる」。まさにその言葉を体現し、肥大化した体躯は遥に厚みを増し、小型種であった頃とは比較にもならぬ威力を振りまく。砲弾は弾かれ、その息吹の前はどんな装甲も融かした。防御は意味を成さず、攻撃は一方的な消耗を強いられる。その質量が、その威力が、その存在があらゆるモノへと死を運ぶ。

そしてもうひとつは、人類が失ったモノ。どこまでも自由に、自在に、誰よりも高く、雄雄しく。人類の悲願、大空への帰還。
空という新たな領域を手に入れたデストロイアは容赦なく飛ぶ。その姿を人類に見せ付けるように飛ぶ。人類が30年前に失った航空戦術が人類そのものに牙を向く。反撃の届かぬ上位者の世界。敵よりも強く、敵よりも遠く、敵よりも速く。そしてなにより、敵よりも高く。人類が戦いを始め数千年の果てにようやく手にした戦術をヤツラは数時間で我が物とした。まざまざと見せ付けるようにヤツラは滅びを振り撒く。

『チクショーー!チクショーーーー!! やらせるか! 絶対にやらせるものかァアアアアアアああああああああああああああああ!!!!!!!』

ゴジラ護衛部隊は最後の戦いを開始する。怪獣王を目覚めさせる神酒が爆発するまで50秒。彼我の戦力差は200対1を越え、塵と隕石の衝突のようである。
もはや回避は不要と砲弾の切れた突撃砲で要撃級を殴り殺し、連射限界を超えオーバーヒートの警告を無視して〔アヴェンジャー〕を撃ち、マニュピレーターを失い武装を持つ事も適わなくなった主腕を引きちぎり、棍棒のように振り回し、自らが喰われる様を無視してデストロイアの脚部へとしがみ付く。
そしてそんな彼らを、無慈悲に、冷酷に、無感動にBETAが蹂躙していく。
デストロイア集合体が放つオキシジェン・デストロイアー・レイが世界の精鋭達を飲み込むと同時に、幾つもの爆発が起こり命が散っていく。彼らは超高速の酸素原子によって生きながら気体へと昇華する。全身の細胞が、骨格が乖離し生物という枠から零れ落ちる。
支援砲撃の弾雨を嘲笑うかのように潜り抜け、悠々と前線の上空から爆撃を行うデストロイア飛行体。その数は四つ。かつて帝国で採用されていた旧海軍式の二機編隊形態に酷似した姿で地表へと肉薄する。その頭部には橙色に輝く結晶のような角が生え、凄惨であったデスロイアの顔面をより鋭利に飾っている。しかし、それは飾りでは終わらない。光線級のレーザーのように研ぎ澄まされた酸素の閃光が戦士たちを薙ぎ払う。まるで子供が無邪気に刃物を振り回すように、彼らはいとも簡単に切断されていく。
そんな彼らの亡骸を醜いBETAが貪りつくしていく。その後には、何も残らない。

『クソ!ックソォオ!! ここまで来て、ここまで来てぇえ!!』

永い。

彼らは今、人類史上最も長大な50秒を経験していた。
足を一歩踏み込む時間が惜しく、指の一本を動かす時間すら煩わしく、瞬きのほんの一瞬、視界が遮られる時間すら無くしてしまいたかった。

『終わらない、終わらせない、絶対に護ってみせる!』

このまま行けば、ゴジラが目覚める前にデストロイアがゴジラを殺してしまう。彼らはそれを必死に阻止しようとする。しかしデストロイア集合体が踏み砕き、飛行体が薙ぎ払い、戦術機は一つ、また一つと形を失っていく。それはまるでゴジラとBETAとの戦いの焼き増しであった。全てが無駄であると証明するかのように八体のデストロイアと25万を越えるBETAは彼らに迫る。もはや壁は壁の意味を成さない。人類は敗北へと向かいつつあった。

しかし、”カクテル”起爆まであと50秒。全人類が信じる王が目覚めるまで、後たったの50秒。ほんの一秒、ほんのコンマ1秒でも持てばいい。彼らは億分の一秒を望んだ。次第にデストロイア群がゴジラへと近づく。しかしゴジラを護る盾は次々に掻き消され、もはや最後の一枚、最終死守戦を残すのみである。

『このぉおおおおおおおおおお!!!!』

ガキンッ 
事前に地中に埋設した即席の地雷原に着火、埋められた補給コンテナに搭載されていたS-11が爆発、舞い上がった土砂とBETAの死骸が新たなバリケードとなって一瞬だけその侵攻を押し戻す。

『あと15秒!』

要塞級の死骸で出来たバリケードを融かしながら集合体が来る。その長い触手を鞭とも槌とも言えない形で振りぬき、戦術機部隊を薙ぎ払っていく。その一撃はたやすくゴジラの首を刎ねてしまうであろう。だが、それすら掻い潜りその足の一つ一つに戦術機がしがみ付く。国籍も所属もバラバラ。だが求めるモノは同じなのだ。

『あと8秒!』

飛行体の編隊が絨毯爆撃を行いながら地表を掠めるように飛来する。そのソニックブームは軽々と戦術機を宙に浮かせ、光線属主への生贄に変える。

『あと6秒!』

突撃級の死骸から剥ぎ取った外殻装甲を即席の盾として、集合体に飛び掛る戦術機。彼を援護するため、残された全ての誘導弾を放つ。

『 4 !』

重金属雲がレーザーを防ぎ、飛行体への煙幕となる。護衛部隊は機体に残された全ての噴射剤を用いて、低空を掠めるように飛来する飛行体に取り付く。その内の半数以上が半ばで脱落し、光線属種のレーザーによって熔解する。しかし、その残骸は地表の小型種へと降り注ぎ、死して尚BETAを討つ。

『 3 !』

雄叫びと共に、集合体の眼球目掛けてスーパーカーボン製の長刀を突き立て、喰らい付くように張り付く。脚部にしがみ付く同胞が踏み潰され、喰い殺される光景に耐えながら自決装置の端末を起動する。

『 2 !』

奇跡的にデストロイア群に取り付いた全て機体に搭載されたS-11が起爆手順を消化。起爆準備が完了する。だが、儚くも新たなデストロイア集合体が地下から出現、人類の防衛線を嘲笑い、ゴジラの眼前へと到達する。そしてゴジラへとその咆口を向け、ゴジラを分解せんとオキシジェン・デストロイアの矛先を向ける。

『ヤラセねぇえええええーーーーーーー!!!!!!!』

最後の最後、ゴジラの口内で”カクテル”の起爆をサポートしていたF-15E SP:バーテンダー3がデストロイア集合体の口を塞ぐように飛び掛る。その手足を戦術機用の短刀で縫いつけ、自らの躯体そのものを拘束具とし、デストロイアの咆口を塞ぐ。

『 1 !』

爆発、地表の三体のデストロイア集合体と二体のデストロイア飛行体にしがみ付いた戦術機がS-11を起動し自爆する。その顔面を吹き飛ばし、ゴジラを目前にしてその侵攻は一瞬、ほんの一瞬だが止まる。



『   信じてるぞ     ゴジラ………      』



最後の一瞬。兵士達の機体が核の炎に焼かれ、デストロイアによって生きながら分解されながらも、その背後にいる王を護る。彼らが捧げたのはその存在全て。忠誠でも、尊厳でもなく、「イキル」という意志そのもの。ヒトとしての形を失い、極限の炎に焼かれ、二度と土に還ることの出来ない体になろうとも、遂げなければならない至命ある。彼らの意志は王に託された。

核の炎が潰えるその瞬間まで、彼らは引き金を離さなかった……。


英雄達が捧げたキセキの一滴が、王へと滴る。


――”その時”が始まる。










……Side  Human


彼は見た。

彼女は目撃した。

彼らは「その時」の中にいた。



『『『              ッ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□おOOooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooGGGGYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaa
aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaajjjyyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
aaaaaaaabbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbahggggggggggggggggggggsssssssssssssssssssssssssssssssssssssssshhhhhhyyyy
yyyyyyyyyyyyyyyyuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuusssyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy
yyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee
eeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee
eeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!   』』』



その声は大地を振わせた。
その声は大空を震わせた。
その声は世界を奮わせた

その声は確立因果時空に敢然と存在した。

まるで太古のパンゲア大陸が割れ、数多の大陸に生まれ変わった瞬間のような轟音が世界を揺らす。
                               ・・・・・・・
巨大な母艦(キャリアー)級の死骸が浮き上がる。何のことはない。持ち上げられたのだ。
そして無造作に投げ捨てられる。巨大な母艦級の死骸は今地球上で最も強力な質量爆弾となり、その下敷きとなった25万のBETA群を平面の世界へと圧し込める。

「彼」が歩く。

それだけで世界が沸き立つ。
その一歩が人類を沸き立たせ、その一撃が悪魔を昇華させる。
世界の熱量は増え続ける。世界が未来に向かって沸騰する。世界が命の焔に身を焦がす。

『……いけ、  いけぇ、  いけぇえ!、  いけぇええ!!、  いけぇええ!!いけぇええ!! いけぇええ!!いけぇええ!! いけぇええ!!いけぇええ!! いけぇええ!!いけぇええ!! いけぇええ!!いけぇええ!! いけぇええええぇええええええええええええええええええええ!!!!!』

人類が絶叫する。それは恐怖でも絶望でもなく、魂の熱の開放。命の熱波がガシュガルに満ちる。その先には「彼」がいる。

『 進め、  進めぇ、  進めぇええ!!  進めぇええ!!  進めぇえええ!!!進めぇえええ!!!  進めぇえええ!!!進めぇえええ!!!  進めぇえええ!!!進めぇえええ!!!  進めぇえええ!!!進めぇえええ!!!  進めぇえええ!!!進めぇえええええええええええ!!!!!』

願いが空気に溢れ出し、空間が鳴動する。その先には忌まわしきハイヴ・モニュメントを焼き払う「彼」がいる。

不意に視界が翳る。もう一体の母艦級が鎌首を擡げ、日の光を遮りながら「彼」へと牙を向ける。その一撃は万物を噛み砕き、決して停止する事なく眼の前の障害を粉砕しようとする。だが「彼」は障害ではない。王である。
その人類には測定不能な質量をもって母艦級が「彼」を抹消するべく、その桁外れな顎を開放し深遠なる胃袋へと「彼」を飲み込まんと濁流のように襲いかかる。だがその一撃はあっさりと王に止められてしまう。
王に後退が無いように、王の戦いに小細工はいらない。正面から受け止め、正面から踏み潰す。絶対的強者だけに許された戦いがそこにはある。
質量は速度を得ることによって破壊へと至る。ならば総重量測定不能を誇る母艦級が時速100km近い速度で吶喊した場合の総エネルギー量は、いかほどのものか?
ここにそれを演算し、それをはじき出すための数式は存在しない。だが間違いなく大気圏に突入するHSSTのエネルギーに比肩するであろう。その証拠に母艦級の一撃は巨大なクレーターを生み出している。

それがどうしたというのだろうか?

「彼」は両の腕でその牙を受け止めた。その足元では大地が陥没し、周囲にはソニックブームが発生し、無数の小型種を宙空へと舞い上がらせている。だが、「彼」は一歩も引かない。
最強に、王に、絶対因果点に後退の二文字は存在しない。

『『『           ッGHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo
oooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo○○○○○○○○○○○○○○○■■■■■■■■■■■△△△△△△△△△△△△△△△△
OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
!!!!!!!!!!!!!』』』

「彼」の咆哮と同時にガシュガルが紅に染まる。その身からは紅い蒸気が大量に噴出し、その手に掴む母艦級の牙は融解を始めている。母艦級の組織はそのあまりの熱量に耐える事が出来ず、ついに崩壊を始める。しかしその隙を逃さんとばかりに生き残ったデストロイア・BETA群が三度「彼」に群がる。もはや潜伏門はその意味を完全に放棄し、すべての門からは止め処なくBETAが溢れ返している。それほどに「彼」が脅威であるとBETAは、いや「運命」は判断したのだろう。「彼」を包囲するように、中型種以上だけでも30万を超えるデストロイア・BETA群が出現、その全てが「彼」を貪らんと一斉に口火を切った。
今「彼」は両の手で巨大な母艦級の一撃を防ぐのに文字通り手一杯、ならば今こそが勝機とばかりにBETAは襲い掛かる。

それがどうした?

「彼」の全身が一層の紅に輝く。その光はもはや紅を超え、極限の白へと近づきつつあった。そして「彼」の憤怒が破壊の濁流となって放たれる。

その〔全身〕から。

衝撃波ではない。その輝きは間違いなく「彼」の放つ赤色放射熱線と同等の輝きである。熱波ではない。その奔流は間違いなく最強の破壊「放射線」を含んでいた。
その輝きは「彼」の全身の【罅割れ】から放射されたのだ。全方位の敵へと。
その輝きを身に受けたBETA達は一瞬にして崩壊、昇華し、まるで水蒸気爆発のような純粋物質による同時大量化学反応によって酸化し、僅かな酸化の塵芥となって消え去る。
だがその射程は体内放射の比ではない。

そう、《全方位放射熱線投射能力》である。

もはや「彼」はその咆口を敵に向ける時間を必要としない。「彼」のその体そのものがあれば、あらゆる方向、あらゆる角度、あらゆる距離にいる怨敵へと憤怒を放てるのだ。ただ周囲を薙ぎ払うだけではない。自由自在の方位に放たれる放射熱線はその着弾地点で大爆発を起こし、その場で大量のBETAを薙ぎ払う。それはフラクタル(無限増殖)のように死をBETAへと感染させていく。

「彼」の眼前に膠着した母艦級がいる。その身は最大級のBETA。その外殻は突撃級の外殻と同強度を備え、その圧倒的質量で目標を消滅させる人類にとって最悪に近い存在。
しかし、その程度の存在が王を前にいかほどの存在であろうか。
「彼」の胸が膨らみ、まるで風神の息吹が嵐を起こすように光を解き放った。その光は母艦級の口に吸い込まれ、巨大な食道を通り洞穴のような胃袋へと到達。その胃の内壁に触れるやいなや、瞬時に母艦級の内部を蒸発させ爆発的に気体へとその姿を変える。
次の瞬間、世にも珍しい母艦級の風船が誕生し、瞬く間に破裂したのだ。
ガシュガルの空に母艦級だったものが血霧となって降り注ぐ。

『『『『『『『……ウオォォォォォォォォおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!』』』』』』』

ガシュガルの外延部、その戦場で戦う者達から歓喜の声が挙がる。ある者は溢れんばかりの叫びを上げ、ある者は涙に瞳を濡らし、またある者は無言でその光景を見つめた。

『…ハイヴが、ガシュガルが砕けた』

『何泣いてんだよ!』

『泣いてなんかねーよ!? ただ、ただうれしくて……』

『ココまで、ついにココまで来たんだ。俺達は』

誰もが望んだ、待ち望んでやまなかった光景がそこにはあった。
地に伏す人類の怨敵・BETA、崩れ落ちるBETAの本丸・オリジナルハイヴ、幾多の絶望と諦めと、それでも潰えなかった未来への渇望が「彼」をこの大地に呼び寄せた。

その名は「ゴジラ」。
数多に存在する確立因果時空において、どれほどの世界が違えども、どれほどの差異があろうとも、「ゴジラ」は勝ち続けた。
己の出生、時代、環境、因縁、その全てが書き換えられたとしても、「ゴジラ」は無敗であり続けた。

      ・
故に【不退点】


『桜花作戦司令部からこの戦場に、いや、この地球に存在する全ての同胞たちに告ぐ。
 
 今こそ、”回天”の時である! 

 我々は始めるのだ! ココから始まるのだ! 今この瞬間より開始するのだ!

 我々の反撃を!! 我々の誇りを!! 我々の意地を!!

 ヤツラに思い知らせてやれ、この地球を狙った事そのものが、自らの敗北への切符であった事を、

 さあいくぞ!  勝利の時間だ!!!                           』


WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!!!


全人類が咆哮する。その叫びは30年という長きにわたり受け継がれた願い。その願いを受けて「ゴジラ」は往く。

紅色の暴力閃光が空を照らし、デストロイア飛行体が墜落する。そこに戦術機が殺到し、その身を削る。すでにゴジラの攻撃によって前線は一新され、ガシュガルのBETA群はその密度を急激に落としていた。人類はゴジラが切り開いた道を進む。

集合体の撃ち払われた触手を掴み取り、正面からゴジラがその触手を焼き潰しながら引きちぎる。その背後から砲火を集中し、人類がその脚部を破壊する。支えを失い、撹座するデストロイアの顔面にゴジラの灼熱色の踵がめり込み、融解しながら炎に包まれる。

混戦、大乱戦、混沌とする戦場にたった一つの律法が見てとれる。
ゴジラと人類という生命が「共に」戦うという事実である。
ゴジラの赤色放射熱線がBETA群の戦列を吹き飛ばし、混乱するBETAを人類が殲滅する。それはまるで掃討戦のような有様だ。ゴジラの赤色放射熱線が造り出した巨大な轍を即席の塹壕とし、戦術機は縦横無尽にガシュガルを飛び回る。ゴジラが切り拓き、人類が押し広げる。

この光景をBETAはどのように観ていたのだろうか?それを誰も知る事は出来ないが、もしヤツラに嫉妬の心があったとしたら、その胸中は矍鑠で満ちていたに違いない。

そしてゴジラは放つ。

無限を現す螺旋を、

生命を象徴する二重螺旋を、

其れは因果時空を穿つ、魔女と聖母の執念を乗せて………






一瞬の閃光がガシュガルを照らす。
刹那の間、全ての音が、全ての法則が、全ての事象が停止したような感覚を覚える。
「それ」は正に破壊である。「破壊」は旧きを壊し、新しきへと導く神の御業。
閃光が全ての壁を、跡形もなく消滅させ、あ号標的を守る全ての装甲を無に還した。
モニュメントはその形相を完全に失い、深い鉄とも岩石ともつかない色の液体へと融解し大地に流れ込み、大地は成層圏にまで達する噴煙となって舞い上がる。
鉄が軋み、鋼が千切れ、ガラスの雨が大地を覆うココこそが戦場。人類の最終決戦の地にして運命改竄の最初の世界。
天空より舞い降りし、戦乙女達の回廊は出来上がる。






グリニッジ標準時 15:47:22

桜花作戦は第三段階へと移行した。











……Side コウヅキ ユウコ



そう、ココから始まる。

幾千幾万の世界を犠牲にし、その上に誕生を許されたこの世界が。

「運命とは地獄の機械だ」と言ったのはどこの誰だったか……

あの日、デウス級が始めて人類の前に姿を現したあの日。霞が書き記したあの”メッセージ”は世界の根幹を揺るがしかねないモノだった。
だが同時に人類の、ひいては「私達」の勝利を確定付ける魔法のようなモノでもあった。

魔法か……
                            ・・・・・・・
まさか生まれて30年にも満たないのに、魔法使いの真似事をするようになるなんてね。
まあいいわ、それも上等よ。世界の一つや二つ、ついでに救ってやってもいいわ。

私の勝利が、「私達」の勝利に繋がる。ならば未来は変えられる。改竄できる。

ようは簡単だ、運命という巨大な歯車に小さな歯車を噛ませてやればいいだけだ。歯車一つでその回転は反転するのだから。

フフフッ、でも本当にまさかよね? 

こんな所に私が来ちゃうだなんて。

ラザ・フォード場の盾がレーザーを捻じ曲げる。

実に気分がいい。今まで我が物顔で地球を好き勝手やっていたBETAが手も足も出ず敗北していく光景は。

なによまりも? 早くハッチを閉じろ?

冗談、こんな光景は一生に一度どころか100回生まれ変わっても見れないかもしれないのよ?
                               ・・・・・・
あと安心しなさい。ラザ・フォード場の強度も00ユニットの負荷もとっくの昔に計算済みだから。

まったく、わからないものかしら? 白衣を風に靡かせながら巨大兵器に腕を組んで仁王立ちするのは様式美なのよ。






………デウス級か、

ココまで、よくこの笑えない喜劇に付き合ってくれたわね。光栄に思いなさい、私がお礼を言うのはとても貴重なのよ。


とりあえずアリガト。

もう仮想制御人格はほとんど停止しているでしょうけど、ココまで来れたのは間違いなくあなたのおかげよ。本当に感謝しているわ。

あなたを構成していた因果情報は分解され、再び世界の一部となるでしょうけど、あなたが作り上げてくれた「運命相転移」が多くの世界を救うでしょう。
その因果は「私達」いう確立時空ネットワークを通じて、あらゆる世界に定着し、「人類の敗北」という運命を「BETAの敗北」という運命に書き換えてくれるでしょう。

これであの馬鹿に少しは借りを返せたわ。





……来たわね。「人類の敗北」という運命の最後の一片。

たしか「完全体」だったかしら?無限進化とは恐れいったわ。

あなたの最後の舞台よ。派手にいきなさい。後始末はつけておいてあげるから。









1998年 10月30日 グリニッジ標準時 16:00:08

特別突入中隊 A-01 及び A-0X、帝国斯衛軍特別中隊 エインヘリャルズ

オリジナル・ハイヴ最下層 あ号標的に向かい、突入を開始。

同時刻、敵新型BETAに変化あり。

後に「デストロイア完全体」と呼称される巨大なBETAが出現。

デウス級との最終局面へと突入した。








ゴジラ、炉心融解(メルトダウン)まであと 31時間。

















……Side Human




震えた。

今この瞬間、ガシュガルに集う全ての人類が感じた鳴動。

それが姿を現した………!

混沌の戦場に起立する暗い輝きの中に、泰然と出現した冥府の巨神と見紛ふあまりにも邪悪な姿!!

それは善も悪も飲み込み、ただ「生存」するというただ一概念に固執した窮境の魔神、今この瞬間、人類は目撃した。

己以外を淘汰し、ただ単一の生命を証明する圧倒的生命。

人類にその姿は、聖も魔も凌駕する超絶的な暴力の化身に見えた!!

……そう、ゴジラと同じ存在に。




それは翼を翻し、オリジナル・ハイヴのモニュメントであったものに降り立つ。
四肢がまるで全てを飲み込むかのように広がり、その頂上に『おとぎばなし』のドラゴンのように這い立つ。


『『『             ッJyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAA△△△△△△△△△▲▲▽▽▽▽▽▽▽▽

aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAA

AAAAAAAAAAアアアアアアアアアアアアアアアアアアOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO□□k□□□□□□□□□

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』』』


寂滅の最終楽章が鳴り響く。それが対峙するはもう一つの暴力。
                                  ・・・・・
数多の確立因果時空の果てに、魔女とその使い魔によって集められ、勝利を運命付けるために誕生した運命転覆因果情報集積体。
この地球において、唯一不滅にして無敗。永遠勝者の怪獣王。その最終最強形態 バーニング・ゴジラ。

それに抗うは最凶の簒奪者。「デストロイア完全体」

その体は甲殻類とも爬虫類ともいえない皮膚に覆われ、ゴジラすら上回る体躯と天空すら貫かんとする一角を持っていた。


今、世界はゆれた。

凄然と対峙する二匹の巨獣の間に破滅を滲ませた恐るべき空間が展開された。

この領域に渦巻く、互いが互いを喰らいあう凄まじい殲滅の意志の応襲に、この確立分岐世界の大地が、空間が、世界そのものが激しく震撼した!

今まさに放たれんとする最大最強最悪の暴力に、引きつり戦慄するかの如く!!

”その時”である!!







               イク ゾ     『運命』!!





ゴジラが最大の嘶きと共に、大地にその巨躯を撃ち込む。
すでにその体は灼熱を超越し、ただただ純粋な超エネルギー体へと変貌し、赤く輝いていた炉心は白亜を超え黄金の輝きへと至る。
その足は大地を溶かし、地球誕生直後のようなマグマだまりへと変貌し、世界を取り巻くかのように長大な尾は世界樹のように大地に根を張る。
やがて黄金の輝きに全身が満たされ、その真紅に輝く瞳のみがゴジラがそこに存在することを物語っていた。

対しデストロイア完全体はモニュメントの残骸に四肢を固定し、今まさに飛び掛からんとする虎のように体を臥した。
しかしその全身はゴジラという目標に、寸分違わず殺意を向けている。やがて変化が起きる。デストロイアの脚部、人間で言えば脹脛と腰に当たる部分が開放され、魚のエラのような器官が露出する。
そこより放たれるのは超圧縮された酸素が生み出す摂氏2000度の超高圧ジェット噴流。

ゴジラの輝きが増す。もはやその姿は人類に直視は不可能なほどに輝き、体内の核エネルギーがゴジラの巨躯を一層隆起させる。
デストロイアの一角が橙色の閃光に包まれる。それは究極の刃。王を殺し、自らが抜き立つための簒奪者の剣。あらゆるものを切断する原子の神剣「ヴァリアブル・スライサー」である。

二匹の巨獣に感傷はない。
再び対峙することになんの意味も見出さない。
だが、それが自らの眼前に立ちはだかるのであれば、一切の躊躇なく破壊する!

世界が再び轟音に包まれる。その余波に周囲のBETAは吹き飛ぶしかできない。
お互いがお互いの最終攻撃を初手に選んだ。人類は固唾を飲んでその光景を眼に焼き付ける。

ギシギシとモニュメントの残骸が軋みを上げる。グツグツと大地が煮え立つ。
ガシュガルに極大の破壊が蓄積される。

太陽フレアのような暴風が一瞬凪ぐ。
デストロイアの拘束が開放され、溜め込まれた万年の加速が吹きすさび、その加速は電磁投射砲を遥かに超える速度を生み出し、空気を押し退けガシュガルの大気を薄くする。決して人類には知覚出来ない現象ともにデストロイアが流星にようにゴジラに吶喊する。
その一撃は音を遥か彼方に置き去りにし、光すら到達できない領域で放たれる。
ゴジラはただそこにある。例えどのような現象であろうと我が身に届かぬ事を証明するかのようにそこに佇む。

極限の邂逅が世界を悲鳴に染め上げる。
そこで人類が眼にしたものは?










極大の衝撃はガシュガルにいた全てのBETAを宙に回せた。小型種はその衝撃はのみで粉に還り、中型種はわずかに甲殻の残骸を残して塵芥に成り、要塞級は圧縮され形を失う。
割れた大地に地球の血潮があらわになる。クレーターはガシュガルの大地をさらに抉り、その血液マグマを露出させた。岩石の暴風が地上のBETAを押しつぶす。もはやこれは人類とBETAの戦いではない。
生命と「運命」の戦いだ。「運命」はデストロイアの形をとり地球に突きつけた。生命の滅亡を。
しかし人類は、生命は、香月 夕呼はそれを拒絶した。


警告の鳴り響く管制ユニット越しに人類は結末を眼にした。

マグマのなかで、左腕を消失したゴジラを。
ゴジラの左胸に突き刺さったデストロイアの一角を。


…そして、デストロイアの胸に沈む、光り輝くゴジラの右腕を。


デストロイアが啼く。まだ終わってないとばかりに自らの敗北を拒絶する。

だがしかし、ゴジラは吼える。簒奪者を処刑する。輝く右腕から白亜の放射熱戦がデストロイアの体内で炸裂する。その一撃はデストロイアを内部より焼きはらう。
再び細分化し、群体となり己を修復しようとするデストロイアは容赦なく燃え上がる。元よりデストロイアは酸素の魔神。炎の化身にして地球の代理者であるゴジラとは相容れない。
ましてや今やガシュガルは溶岩の王国へと変わった。なれば王は処断するのみである。

なおも抵抗するデストロイアをゴジラはマグマへと沈める。体内からはゴジラの魔手が、周囲からはマグマがデストロイアを無へと飲み込む。
今ここに、世界は「運命」を拒絶、いや書き換えたのだ!
地球へと沈み行くデストロイアに王の暴力が放たれる。その一撃は「運命」を消し去る。

放たれた放射熱線はマグマを跳ね上がらせ大地に溶岩の大輪を咲かせる。
その中心で怪獣王が勝鬨を上げる。

だがそれだけでは終わらない。
ゴジラの全身が太陽のように輝く。その光は全身を黄金に染め上げる。それに呼応するかのように何本ものマグマの柱が沸き立つ。地の底から天に降る紅蓮の流星の如き緋の御柱が、ゴジラに寄り添う。

今、地球とゴジラは同じ血潮で結ばれた。
まるで地球という存在そのものが、ゴジラの一部となっていくように・・・。

ゴジラは睨む。遥か天空の先にあるもう一つの魔境、月を。

全人類は目撃した。
ユーラシアで、アフリカで、欧州で、永久凍土でその光を目撃した。
月へと昇る灼熱色の黄金の二重螺旋を。

ゴジラ最大最強の一撃、『バーンスパイラル熱線』

星の力を従えたその光が、月を穿つ様を。



1998年 10月30日 17:32:01 

逢魔ヶ時の中、アメリカ合衆国に存在する国際宇宙天文台、バルジⅢが月面オリジナル・ハイヴの消滅を確認。


同年同月同日  BETA地球侵攻最大の拠点、オリジナル・ハイヴ陥落。


生命の勝利が始まる。















あとがき:……………次回エピローグです。

追記:改行を修正しました

追記2:改行を再修正。一部加筆しました。



[12389] エピローグ 1  修正上げ
Name: エキシボ◆bb32019a ID:a8992ae7
Date: 2012/07/03 23:15
注意事項:このSSは八割方ノリで出来ています。
     作者は身の程知らずにも笑いあり、涙ありなSSを目指しています。
     そのため、一部某デモン○イン並にご都合主義でストーリーが進みます。
     このSSに不快感、嫌悪感を抱いた方がいましたら申し訳ありません

















     epilogue












これは始まりであり、終わりの一つの形でございます。
ここから語るは一人の女が足掻いた、足掻き続けた果てに手に入れた『おとぎばなし』の一ページにございます。


なぜなら世界は無限に存在し、その一片もまた無限なのですから………























   ◇◆◇◆◇◆





 ……Side X星人(仮)








認識不確定型 因果観測改竄 及び 多重成長式因果情報再編成プロトコル含有攻勢プログラム


通称 「XX unit 」


それが私の役割であり、正式名称である。
私は観測者であり、傍観者であり、仕掛人であり、観客であり、黒幕である。

始まりは私の製作者。数多の世界に存在し、広大な確立時空の中に「他世界間同一存在同期型ネットワーク」を形成した稀代の狂人。

『コウヅキ ユウコ』達の執念である。


ここで一つ『おとぎばなし』をしよう。

ある日、平凡な少年が世界を渡った。
少年を愛し、求め、世界すら捻じ曲げたある少女の起こした鬼のように理不尽な奇跡である。
最初、奇跡は実らず人類は敗北し、地球を捨てた。
その少年も戦った。しかし少女には至らなかった。

気がついたら少年は「あの日」に戻っていた。
だがそれは、少年が気がつかぬだけで何百、何万回、何億回と繰り返されてきた出来事であった。

少年はまた戦った。今までにないくらい戦った。
だからだろうか、少年は少女に至ることが出来た。
そしてかけがえのない仲間と想い人達の犠牲の上に人類に希望をモタラシタ。


………そう、モタラシタ”だけ”だった。

魔女は悔し涙を流した。
数え切れない数の犠牲を出し、己の部下を、親友を、そして教え子を差し出したというのに、人類は敗れた。

魔女は聖母になった。
しかし聖母とは唯涙を流すのみで神の子を、「運命」を超えられなかった。

魔女は模索した。運命を超越する可能性を。
やがて、その可能性が「この世界」には存在しない事に気がついた魔女は体を捨てた。

ヒトの枠を飛び越え、量子伝導脳の生み出す量子の一つとなり、因果の果て、運命の大海原に可能性を求めた。

そして聞いたのだ。「自分」の声を。
世界は無限に存在する。結末に至る道筋が異なるだけで結末に差異はない。
それはあたかも、同一の音叉同士が共鳴するように。

ならば自分と同じく、可能性を探す「もう一人」の自分が存在しても不思議ではない。
魔女は己同士を繋げた。より多くの世界を観測し、考察し、証明し、理論付けるために。

気がついた時、そのつながりは万を超え、億を凌駕し、兆を踏み越え、京の遥彼方に到達していた。
無量大数のネットワークは脳に酷似した回路を形成し、魔女は全人類史上最高の演算装置となったのだ。

彼女は無限の一つ。無貌の『コウヅキ ユウコ』達を介して世界を観測し続けた。



そして”私”を創り出した。



”私”は因果時空という大河の中を漂う、小さな病原菌だ。
あらゆる世界を観測、因果を収集し、世界に感染させる。
”私”というベクター【運び手】がもたらした「運命転覆因果情報集積体」によって、世界〔地球〕という生命に進化をもたらす。

彼女達は世界に《ウィルス進化》を促そうとした。

…そして、ついに、ついに彼女達の望んだ結末へと繋がる世界が生まれた。

これより【運命】は逆転を始める。
私が集めた<都合のいい因果>で出来た「彼」が造ってくれた、小さな小さな歯車。
それが【運命】を新たな方向へと廻す。



さあ語ろう。”彼”の最後を。勝利の始まりを。







―――そして、因果の大航海時代の始まりを……






















   ◇◆




 ……Side 【最初の勝利世界】








●●●ハイヴ最深部。そこに存在する反応炉兼重頭脳級BETA。
先のオリジナルハイヴ攻略の際、塵芥となった〔あ号標的〕に代わる予備存在の一つ。仮に〔あ’号標的:ダッシュ〕とでも呼称しようか?

それを守る最終防壁である門(ゲート)級の隔壁が呆気なく融解していく。ぶ厚いはずの門級越しでさえ、透けて見える現実。

そしてその向こうから《死》がやってきた。

巨大な隻腕のそれは灼熱に彩られた破滅そのもの。もはや存在する事そのものが死という概念自体を如実に証明している。

広間の床が爆ぜる。
数百にも及ぶ大小様々な触手が現れ、それへと向かう。その先端は突撃級と同じモース高度15を超える鋭利な槍である。

だが、届かない。”届かない”のである。

《死》を貫くと思われた槍の穂先は、接触する直前のほんの刹那に形相を失い昇華した。
想像してほしい。太陽に向けて銃弾を撃ち込んだ場合、弾丸はどうなるだろう?

答えは一つ。『蒸発』するのだ。


声にもならない悲鳴を上げ、触手の槍が再び撃ち込まれる。



無駄、無駄、無駄、無駄無駄無駄、無駄無駄無駄無駄、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無



もはや『運命』は決まった。その支配権は《死》を生み出した魔女の手の中にある。

だが諦めの悪い事に、〔あ’号標的〕は反撃を続ける。
広間の天井が崩れ、数万体の、ハイヴ内に残存する全てのBETA群が自殺覚悟の落下爆撃を断行した。それはいわゆる「カミカゼ」だ。

《死》はゆっくりと歩みを進める。一歩一歩進むたびに、超大な熱量と物理法則を無視した質量によって、地球創世原初の空間が甦る。その証拠に、足元には純粋元素結晶――宝石――の轍が生まれていく。
極大の放射線を内包した宝石は、まさに死の涙のようであった。

愚かにも、いやあえて言おう。勇敢にも《死》へと挑んだBETA達。
一体の要塞級が数多の同胞を犠牲にし、《死》の背中へとしがみ付いた。紅い槍のような脚部がみるみると蒸発し、一瞬の猶予もない状況で、要塞級は己が最大の一撃を《死》に放つ。
数千の同胞の特攻によって、僅かに温度の下がった延髄と思わしき部分に放たれた乾坤一擲の一撃。
その一撃は、ほんの、ほんの僅かではあるが届いたのだろう。まさにBETAの誇りを懸けた一撃であったに違いない。

しかし届いたと思われた瞬間、紅色の閃光が要塞級を掻き消した。


想像してほしい。ギリギリまで張り詰めた風船に、針で刺激を加えた場合を。


その赤色放射熱線は何枚もの岩盤を吹き飛ばし、ハイヴ内部に灼熱地獄を造りだす。
広間の天井から岩の雫が滴り落ちる。●●●ハイヴ内は融解し、溶岩の坩堝へと変貌していく。

だが諦めの悪さはココに極まる。
ついぞ先日の敗北を忘れたかのように彼の簒奪者、デストロイア完全体が天井を融かしながら現れる。その数四体。

しかし、完全な成長融合が出来なかったのか、その半身はデストロイア集合体を無造作に掻き集め、練り合わせたかのように歪であった。羽の大きさも腕の数も皆不揃いなのだ。完全体ではなく、不完全体とでも呼ぶべきか?

その内の一体が異常に長く伸びた鉤爪付きの触手を《死》に振るう。
まるでレーザー砲で薙ぎ払うかのように、極小酸素原子を纏った触手は触れるモノを原子へと昇華させながら切断していく。

だが触れられない。

思い出してほしい。光線属種のレーザーが《死》に通じたであろうか?
その現実は覆ることなく、さも当然の如く触手は消滅した。

ならばとデストロイア不完全体は全触手による一斉砲撃を開始する。
先のBETA落下爆撃のように、物量によって《死》の炎熱を掻き消そうとしたのだ。今度は振るわれるのではなく、撃ち込まれる触手。1000mオーバーの長大な砲弾は特大の『槍』となって、蒸発するたびに《死》の熱を奪い、やがてはトンネル掘削のシールドマシンのようにその外殻を穿つだろう。



               ―――――だがそれでも、『運命』は覆らない―――――



有機物の蒸気が充満する大広間で、神が、悪魔が、「ナニか」が触手を掴む音がした。

隻腕の《死》が、自らを貫こうとする槍を数本纏めて手繰り寄せる。『運命』の糸車を廻すように。

そのあまりに強大な膂力は、重さ数十万トンの巨体を持つデストロイア数体を紙切れのように宙を回せた。向かう先には尾を翻し、全てを薙ぎ払おうとする《死》。




     ―――――      jyaaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああgyaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAKIやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああ□□□□□□□□□□□□□□□●●●●●●●●●●あああああああああああああああああああああああああああああああああ●●●●●●●●●●!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!       ―――――




悲鳴にも咆哮にも聞こえる声が重なる。
その声を無視し、無慈悲に《死》の絶対消滅鞭はデストロイア三体の巨躯を纏めて薙ぎ払った。

北欧神話に由来する、宇宙を支える巨大な『とねりこ』の樹が『世界』を取り巻くように。

赤熱する金棒で、バターを殴るかのようなその一撃の後に残ったのは、ほんの僅かな消し炭。それもガスバーナーで微生物を焼いて出るような、本当に極僅かな、正に塵芥。


絶叫が響き渡る。最後のデストロイアが口を引き裂きながら吼える。口角から憎しみの唾液と血液を垂れ流しながら、全力を超えて吶喊する。
己の体に流れるオキシジェン・デストロイアの全てを額の一角に集め、絶対昇華の破城槌と化して突撃する。
触れえる全てを掻き消して、自らの存在を、自分達の『運命』を証明するために。

尾を翻したばかりの《死》は、正面から受け止めた。


その額で。


列車砲同士で殴りあったかのように、轟音が衝撃波という物理の津波となって周囲を吹き飛ばす。
あらゆるBETAの残骸が無くなり、そこはまるで決闘場のように寒々しくなった。
頭頂部に僅かに喰い込んだ原子の破城槌によって溶岩のような《死》の血液が額へと垂れ下がる。

それを気にする事なく、《死》とデストロイアは睨み合う。

彼我の差ゼロの間合い。充満するデストロイア不完全体の残り香が、眼球が接触しそうなほどの近距離戦を可能とした。

お互いが裸の距離。自らの体が燃え上がる事など構わずに簒奪者は王へと挑む。


――我こそが『運命』である、と。


ゼロ距離でメンチを切り合い、簒奪者を見下す王は一嗤に臥せる。


――ただ、『来い』と。


先に動いたのは簒奪者。指も爪も不揃いな腕で、王の首をもぎ取るべくナタの如く打ち上げられる。

王は首をハンマーのように振り回し、肩ごと簒奪者を押しのける。四足動物の頭突きに似た一撃である。
思わず一歩引き、腰を据える簒奪者。今、簒奪者は憎悪した。一歩引いた自分に、一歩引いてしまった自分に。

二度と引かんッという豪意の元、歪な右の掌が開かれる。もはや生物としての形を失ったそれは、八肢を持つ蜘蛛のような形状をした魔爪だった。
同じ巨大生物の常識からも外れた異形の握力は、たやすく王の体を抉るであろう。

心臓に向かって放たれる魔爪に対し、王は無手。先の決戦で失った左手が悔やまれる。

簒奪者の魔爪は、王の左胸を新たに抉り取った。突き立てられた爪が融け墜ち、一撃で意味を失ってしまうが、そこに後悔はない。その証拠に、王は片肺を失い、胸からは滝のように血が流れ出ているのだから。


そして王は放つ。絶対剛羅の一撃を。

その一撃は殻を砕き、肉を吹き飛ばし、簒奪者の脊柱を鷲掴みにした。

絶命に足る苦痛を浴び、簒奪者が絶叫する。王はそれに構うことなくズルリと脊柱ごと神経束を引き抜く。

簒奪者の胴体を足蹴にし、炎熱により青竹に似た神経束は融け墜ちる。これにて決着は付いたかに見えた。



しかし



仰向けに倒れこんだ簒奪者の体が波打つ。ビクビクと通電実験の蛙の脚のような痙攣を繰り返し、紫電を纏い立ち上がった。


細分化再生能力


元々が微生物であり、群体生物であるからこそ可能な反則的再生能力である。
失った組織を、細分化した小型群を用いて新たに創りなおし再機能させるのだ。先の決戦では、王は星の力を借り、その全てを血潮の中に沈めることで簒奪者を討ち果たした。

ならばなぜ此度も同じ事をしないのか?

理由は一つ。王は諦めの悪い因果に、再度『運命』の撃鉄を喰らわせる為である。二度と逆らえぬように全ての可能性を灰燼へと還すためだ。

簒奪者は再び吶喊する。小細工無しの正面攻撃。そこには「我こそが強者」という一つの誇りが形造られている。

自ら背面を爆裂され、その加速を利用し王の心の臓腑を抉らんと。



……その程度がどうした?



王は受け止める。その肩で、その腕で、その巨躯で。

巨大な地響きが大広間の中で共鳴し合う。簒奪者の一撃を受け止めた王は、一ミリとて崩れる事はなかった。しかし、その足元は別である。ひ弱なBETAの造り上げたハイヴ構造体など、極限の戦場としてはあまりに脆弱。何枚もの岩盤を巻き上げながら、王と簒奪者はその航跡を大広間の地盤に刻み込んでいく。その距離ゆうに2000メートル。

もはやこの大広間でさえ、運命と生命の戦場には矮小といえるほど狭かった。

王が討って出る。残された右腕と筋骨隆々とした首を使い、簒奪者の首を固定する。そのまま身を捻るように上半身を振るい、簒奪者の首をもぎ取る!!

ブチリと呆気ない音を立てて千切れるデストロイアの首。その断面からは、血液の代わりにオキシジェン・デストロイアが蒸気機関のように噴出し、崩れ落ちる。





ふと、投げ捨てたデストロイアの首が嗤った。






――まだだ。まだ終わっていない!!






三度言おう。諦めの悪さ、ココに極まる。


首の断面が蠢き、蟻塚のように瘡蓋が盛られていく。ひどく気持ちが悪い光景である。

その光景を、王は、《死》は一切を見つめる。
再び立ち上がる簒奪者・デストロイア。羽を翻し距離を取る。狙いは加速射程。

もはやデストロイアに憂いは無い。宿敵の片肺は潰れ、腕は隻腕。勝機は我が前に。
炉心融解(メルトダウン)前にその息の根を止めれば、『運命』が再びこちらに転がる。そのためには自らの存在全てをもって、眼前敵を屠ればいいのだ。

左右非対称の体は大地に根を張るように、体を固定する。

あの一撃を、あれを超える絶撃を、正真正銘の最大豪撃をもって破壊する。


そして、王は嗤った。


見つけたのだ。
幾千幾万の世界を越えて、本気で「遊んで」もかまわない相手を。
その体に宿るのは、幾千幾万の死者たち。数多の時間軸で、三千世界の果てで散っていった英霊たちの無念。彼らの意志は死して直、一切怯むことなく「敵」へと軍靴を鳴らす。
湧き立つ。

空間が、世界が、次元の壁が、因果の根源が沸騰する。そこに顕れたのは【爆薬】。
潰せぬのならば、木っ端となり砕かんと己の体内に存在するG元素と極小酸素原子を混合し、真の意味で世界を破壊する因子。消滅因果である。
デストロイアそのものを核弾頭に見立てた天秤への最後の分銅。
いざ、勝負の刻。

放て、放て、放てと人類滅亡の運命が攻め立てる。比喩ではない。文字通り可能性世界の半分が敵である。
対するは生命。矮小で、猥雑で、掃いて捨てる程に見苦しく、それでも折れない者達。
さあ見せ付けよう。我らを弄んだ運命を、弄び返し、超越する瞬間を。











































――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――
――呆気ないモノだった。

そこに音はなかった。

光もなかった。

放たれた消滅因果爆弾【デストロイア】はただ”捻りつぶされた”。

それだけだった。
























同胞が尽く消滅し、もはや自らを守るものが自分しかない存在しない広間。
〔あ’号標的〕の理解など、とうの昔に置き去りにし、新たに動き出した『運命』。

《死》の隻腕が〔あ’号標的〕の中枢ユニットを鷲掴みにする。とっさに周囲に展開した触手の壁が僅かばかりの時間を稼ぐ。それはライデンフロスト効果が可能にした奇跡に等しき時間。

〔あ’号標的〕は急速に沸騰する自らの体温を感じながら、己の中に得体の知れない情報爆発を感じていた。
全神経回路に鑢掛けをされたような、血管に硫酸を注入されたような。
何かが背後に絡みつき、汗を舐め取られるような言い様のないノイズ。
錯綜する悪寒に内側から鋸引きされているかのような物理的ではない損傷《痛み》。

《死》を見る。

萎縮した筋組織は錆び付いた機械のように動かない。もはや耐久温度限界を超え間も無く致命的な損失が訪れるはずだというのに、全ユニットが凍りついたように動かないという矛盾した状態。


この状態ななんだ、何だ、ナンだ、なnnだ、NあnN駄、nannDa、/*22nnnaaaaadddadaaaa………・^-9/*//*」;kj。

自らを灼くこの現象はなんだ。
頭脳級の作り出す惑星規模の巨大な情報ライヴラリ。その中に該当するものが一つだけ存在する。


高温の体液によって白濁する眼球には、牙を広げた《死》の顎が広がっていた。






この日、BETAは『恐怖』に感染したのだった。


























1998年 10月31日 グリニッジ標準時 15:43:31



●●●ハイヴ消滅。

地球圏に残されたBETA情報ネットワークは完全に機能を喪失。
残されたハイヴは、その形態を自己保存形態に移行。以降は完全なstand aloneでハイヴを維持する事となる。

もはや進化も変化も望めない。停滞した存在は《死》へと向かうのみだった。


ゴジラ、炉心融解(メルトダウン)まであと 5時間13分。











あとがき:更新が大変遅くなったことをお詫びいたします。まことに申し訳ございませんでした。
いいわけではございますが、昨年の地震の折、国内の原発において多大な問題が発生した事により題材が「ゴジラ」だったこともあり自粛しておりました。
さらに福島原発においてはメルトダウンが冗談では済まされない事態にまで進行しており、この状態で拙作を投稿するのは非常に不謹慎であると考え、現在エピローグの改変をすすめております。そしてこれ以上この拙作を読んでいただいてる皆様をお待たせするのはこちらとしても非常に心苦しいモノがあり、せめてものと思い、今回の投稿となりました。
今しばらくお待ちいただけると幸いです。



[12389] +αなおまけ? ※本編とまったく関係がありません。
Name: エキシボ◆e1d483d5 ID:8c20cdfc
Date: 2009/10/18 19:35

※本編には関係がありません。

感想をいただければ何かの参考になるかと思い投稿しました。




気晴らしに書いた現在構想中の次回作の候補紹介です。
いくつか無謀なものがあります(ってか全部そうか………)

ゴジラ VS BETA は完結の目処が立ってますのでご安心ください。たた更新が遅くなるかもしれませんが………

ごめんなさい。文にするのがうまくいかない時にやると逆に違う方向からイイネタが浮かぶもので………


浮気 ダメ、ゼッタイ!








次回作候補  その1



ゼロの使い魔 ~四番目の理由~


ティファニアの使い魔もの

記すことも憚れる第四の使い魔………とある未来の『ルイズ』



第四の使い魔の名を始祖ブリミルが記録に残さなかった理由………『未来』の人間を使い魔とするから

始祖の時代、便宜的に「1」の世界とする。「1」のブリミルの元にある未来から「2」の世界のブリミルがやってくる。

「2」の世界においてハルケギニアにとって、とても良くない事が起きた。それは「2」の世界においては手遅れで、対処しきれなかった。ゆえに過去の世界「1」において、「2」の世界の出来事の『原因究明』と、可能であれば解決し「2」の世界においての解決の可能性を探すことが目的でブリミルが『時空門(ディメンション・ゲート)』の魔法でやってきた。

つまり、第四の使い魔召喚=『時空門』の魔法となる。

本来ブリミルは使い魔を三体だけの予定であった。しかし「2」のブリミルが来たことによって歴史が変わる可能性が出てきた。今後、何が起こるかわからなかったため少しでも有利になるよう「2」のブリミルを第四の使い魔とした。

未来の人間を召喚できるため歴史の改変が可能であり、「大いなる意思」を無視し世界の流れを混乱させてしまうことからエルフ達から「悪魔」と嫌われてしまう。

「1」の世界をある程度平和にし「2」の結末には至らなかったが、結局「2」に至る原因はわからなかった。その後「2」のブリミルは「1」のブリミルの死によって「2」に戻ることになる。

「1」のブリミルの遺言によって、歴史の改変の可能性を持つ第四の使い魔は記録されることはなかった。



6000年後、アルビオン王国のある森。ハーフエルフの少女 ティファニアが杖を構え、「使い魔召喚」の呪文を唱えていた。義姉のマチルダの監督のもと新しい家族を呼ぶためである。

孤児院を切り盛りしているティファニアには同世代の友人がいない。その事を不憫に思ったマチルダがティファニアに友人、せめて常に一緒にいてくれる存在を与えてやろうと思いティファニアに薦めた。



ドラゴンやグリフォンなら自分がいない間の護衛にもなるかもとティファニア以上に期待しているマチルダ。
しかし、召喚の鏡を潜り現れたのは不思議な光沢を放つ槍を持った女メイジであった。


桃色のかかったブロンド。鳶色の瞳。すらりとした手足。歳は19ほど。身長は160サント前後の戦装束のメイジ。戦乙女そのままである。

「また会えてうれしいわ。ティファニア、マチルダ」

女メイジが言葉を交わしてもいない主達の名前を呼ぶ。

ティファニアにもマチルダにも面識はなかった。

「改めてまして『始めまして』 私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。今は無き、ハルケギニア王国連合最後の戦士よ」





始まるは始祖すら予想だにしなかった物語。


現在企画進行中?(絶対にきついですよね……この設定)





次回作候補  その2


ゼロの使い魔 オリ主もの(転生・原作知識ナシ)  原作準拠?



ある日トリスティンの伯爵家に少女が生まれる。気がつけば赤ん坊になっていた少女。
理由はよくわからないが、自分が大好きな「剣と魔法の世界」に生まれたことを知った。記憶にあるゲームや映画・アニメでしかなかった「ファンタジー」に自分がいることがうれしく、第2の人生は物語の主人公達のように「冒険者」になろうと決め、旅立ちの日に備え魔法と勉学に励む毎日。

ある時、夏の暑さに耐え切れず「流しそうめん」の装置を「錬金」と「からくり」で作ってしまい、それが父親の目に止まってしまう。実は父親は領地の衛生状態の悪化と水資源の乏しさに頭をかかえ、大規模な治水工事を計画していた。だが水を街中に引き込むためのうまい案がなかなか出ない。そんな時娘の作った装置にピンときてしまった。

すぐさま「流しそうめん」を元にした水道橋が建設され、計画は大成功。街は潤い、病人は減り、ついでに水道を利用した運搬路も出来、経済は右上がり、税収も上がった。さらには娘の発明した「からくり」に大変興味をもった父親により領地のあちこちで風車、水車を動力源とした装置が作られ平民達は大変助かった。
伯爵領の跡継ぎは娘に決まりだな、という空気が生まれ父親も上機嫌だった。

だが娘は慌てた。このままでは領主にされてしまう。おまけに長男の兄からはものすごい目で睨まれしまった。冒険者になるどころか殺されるかもしれない!!

娘はすぐに家出。冒険者兼傭兵となってハルケギニア中を放浪。様々な土地で様々な人に出会った。ガリアでは吸血鬼の少女に翼人のカップル、アルビオンではハーフエルフにも出会った。

夢の冒険者生活を満喫し、発掘した宝石で新しい武器でも買おうとトリスタニアにある武器屋を訪れた時、とうとう父親に捕まってしまう。

このまま結婚か!?と思いきや長男が「貴族としての礼儀を習うべきでは?」といって娘を実家から追い出そうと画策する。長男の企みとも知らず、父親は娘を魔法学院に押し込めた。

放浪している間にすっかり野生に染まり、いい歳になった娘は「学院」という場所に辟易していた。周りの同級生より明らかに年上の彼女には窮屈で仕方がなかった。

ああー冒険してー。そんな日々が続き、進級試験の「使い魔」召喚の日が来る………





現在企画進行中?(結局、テンプレになってしまいました………orz)





次回作候補  その3


リリカルなのは(STS)の世界で映画「ジャッジ・ドレッド」的『執行官』の物語。



危険な辺境世界において人材不足に悩む管理局が限定的に創りだした役職 執行官、通称『ジャッジ』。
彼らは警察であり、検察であり、裁判官でもある。

辺境における過激なテロリスト、大量の犯罪者、違法行為に早急に対抗すべく管理局は絶対的権限と殺傷許可、そして法律をもって挑む彼らを生み出した。

その中の一人、『ジャッジ』の頂点に君臨する男、「ドレッド」。

「俺が 法律だ!!」の言葉を体言するこの男の元に一組の執務官が訪れる。

フェイト・T・ハラオウン、ティアナ・ランスター。先の「J・S事件」で「奇跡の部隊」といわれた機動六課に所属した二人である。

初めて目にする「ジャッジ」達の姿、平然と殺傷魔法が使用されている現場に唖然となる二人。やり過ぎだ!と抗議する執務官に対し「素人が出てくるな」と冷淡に構えるドレッド。


硝煙と銃弾の舞う世界で「法」と「正義」がぶつかる!




現在企画進行中?(スタ○ーンとシュ○ちゃんの映画は私のバイブルです)





次回作候補  その4


マブラヴ・アンリミテッド?

『BETAの存在する世界』に『元々』いた白銀武が『BETA』になってしまった物語。





1999年、日本帝国 横浜にそびえる「横浜ハイヴ」。

その最下層である異形が生まれた。
全身を鎧で覆われたような外見。大蛇の如き尾。前傾姿勢の巨大な人型。戦術機の持つ長刀のような長大な四つのカギ爪。びっしりの並んだ牙と歯。

「戦術機」級。後にそう呼称されるBETAの雛形である。

この戦術機級にはある人間が素材として使われていた。名を「白銀武」という。
幼馴染の少女を護るため拳一つでBETAに挑み、喰い殺された少年である。少年の肉体はバラバラに噛み砕かれ、資源として再利用されたのだ。そこに生命としての尊厳は欠片もなかった。

暗い閃光が滾る。「G弾」が横浜の上空に炸裂した。そして二発目の閃光がハイヴ内に満ちる。

だが次の瞬間、戦術機級が胎動する。ビクビクと全身に痙攣が走り、体が反り返る。

戦術機級が雄叫びを上げる。耳が裂けるような絶叫であった。戦場にいる全ての兵士に悪寒が走る。



横浜ハイヴ跡に突入した国連軍将兵は釈然としないものを感じていた。G弾によりハイヴ内のBETAはほぼ全滅していたが、先ほどから妙なBETAの死体がハイヴに転がっている。

小型種、中型種の区別無く全てが八つ裂きにされた死体だ。G弾の効果とは思えない。


「広間」に到着したアルファチームは驚愕の光景を目撃していた。
広間の中心に山が出来ていた。BETAの死体で出来た山だった。例外なく全てが八つ裂きにされていた。
そしてその頂点にそれがいた。


戦術機級である。戦術機級は山の上に腰を降ろし、あるモノを護るように見詰めていた。
「人間の脳」である。他でもない。「彼」が護ろうとした少女である。

「彼」は少女を蹂躙したBETAと同じ存在になってしまった。
「少女」はBETAに巨大な憎悪を募らせていた。

「少女」は「彼」を「白銀武」と認識できない。

「彼」は「少女」を元には戻せない。




救いの見えぬ世界で、二人は再び出会えるのだろうか?






現在企画進行中?(ハッピーエンドが浮かびません………orz 二回目)





あとがき:まずは完結させます。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.1156280040741