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[12384] 【A’ce編開始】破壊少女デストロえるて(オリ主・最強・TS・多重クロス?・転生?)
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2010/08/21 14:58
注意

中二病全力全壊です。あるかも知れないなんて曖昧な状態ではなく、あります。
主人公最強です。
トンデモ設定があります。
かっとしてやった。後悔はしていない。
色々破綻しているかもしれません。
TS要素あり。
憑依か転生かは大した問題ではない。
タイトルに偽りあり。

許可しないィ! という方は見ない方がいいかも知れません。

間違いや勘違いが確実にどこかにあります。
指摘があれば直しますゆえ、ご容赦を。

Oct.25.2009
 話数をタイトルに追加することにしました。
 管理ミスを減らすのが目的です。

Nov.22.2009
 チラ裏より移転しました。

Aug.21.2010
 こっそりA'ce編に突入していたのに書き忘れていた。
 ちなみに、A'sではなくA'ceです。わざとです。A'cesとかACESにするか悩みましたが。



[12384] 1覚醒
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2009/11/22 09:44
 無傷少女メビウスゆてぃ。
 魔王少女デストロるでる。
 悪魔少女スナイプへいへ。
 この物語にタイトルをつけるとしたらこうなる。全部ファミリーネームなのがミソだ。共通点に気づいて欲しい。

 そう、人の身でありながら、神や魔王、あるいは伝説などと神格化されている人物だ。私としては、二番目をお勧めしたい。相棒はガーデルちゃんで。



 不思議なことは立て続けに起きる。
 朝起きたら俺の前に美少女がいて、そいつは俺で、俺が私になっていて、そして別世界だった。
 理解できるまい。正直、私も理解したくない。だが、理解せざるを得ない。これは現実だと、もう一人の俺と握手しながら一発づつ殴りあった結果なのだから。
 目の前には左の頬を腫らした暗い赤と黒のオッドアイに、銀髪の綺麗な少女。
 簡単に言えば、俺が美少女になって、しかも分裂していた。感覚は繋がっているらしく、殴りあった時は四倍痛かった。いや、感覚だけではない。この場合、私は両方が本体であって、両方とも本体じゃない。どっちかが本体で、片方がそれに隷属する訳じゃない。一部の人に判りやすく言えば、分散コンピューティング、もっと多数の人に判りやすく言えば『スカイネット』。両方とも私の意思で自律行動できる。マルチタスクの進化版のような思考。同行者の視界をジャックして行動する作家のような、それが相互名な状態。たとえ片方が死んでも、『私』という存在は死なない。二人とも殺されれば流石に死ぬが。いや、片方だろうと死にたくは無いけど。
 転生とか憑依とやらか、などと考えるが、死んだ覚えは無い。俺には閣下の祝福があるからそう簡単に死ぬ訳は無い。誕生日が同じだけで、何の根拠もないが。
 あ、嘘だ、思い出した。死因は判らないが『俺』は盛大に死んだ。訳も判らず、恐らく即死。なんでそんなのを覚えているのか。
 判らないものは仕方ないし、死んでしまったのはしょうがない。終わったことを考えるより、現状をどうにかするのが先決だ。



 さっきまでベッドで百合よろしく全裸で向かい合って眠っていた私二人。色気を感じないのは何故だろう。今はどうでもいいこと、優先順位の高いことを優先。思い立ったろすぐ行動、周囲の調査だ。
 終始無言である。私は二人で一つ、二人いようと話す必要は無い。私との会話なんて、それは独り言で会話するような痛い人間と同じ。
 部屋は病室みたいだった。真っ白な部屋、硬い床、洗面台、窓のない壁、鍵のかかってないドア、病室としては不釣り合いな豪華な大きなベッド、そしてクローゼット。生活感の感じられない無機質な部屋だが、病室としては少しだけ色気がある。ベッドとクローゼット。無機質なパイプじゃない、木製のベッド。それと、ゴスロリっぽい黒い服が目立つクローゼット。下着もあった。
 とりあえず、服を着よう。ゴスロリは無視して、他にかかっていた動きやすそうなTシャツとスラックスを装備して、とっとと病室を離脱。何があるか判らないから、二手に分れたりはしない。僚機を失ったものは、戦術的に負けているのだ。
 部屋の外は無機質な廊下が続いていた。病室は、この廊下の突き当たりだった。ちなみにこの廊下、一番奥以外にドアは無い。完全に一本道だ。しかも長い。罠などもなく、ただテクテクと歩いて、明らかにおかしい扉にたどり着く。バイオハザードをプレイした人は判ると思うが、要はそんな扉だ。MBTの主砲を叩き込んでもブチ抜けそうにない、シリンダーとハンドルで封じられ、どう開くのか判らな……くもなかったが、そんな扉。開けるためのコントロールパネルが右にある。

「ドイツ語……か?」

 かつて、ドイツ語の異常なカッコ良さに魅せられ、猛勉強したものだ。懐かしき中二病の時代。アルファベットに非常によく似た、独特の装飾文字がディスプレイを踊る。

「微妙に違うな……こうか?」

 ロックすらかけられておらず、Entsperren(Unlock)、öffnen(Open)と選択していくと、ハンドルが回り、シリンダーが上がり。ゆっくりと左右に開かれる。天井にぶらさがっている赤色灯がくるくる回り、耳触りなブザーが鳴り響く。妙だ。妙にすらすら読める。

『う……』

 その隙間から漏れる匂いに、俺は顔をしかめた。鉄錆のプールに沈められた、そんな悪臭。
 視界を遮る扉が開いていき、真っ暗な扉の中に光を与え、代わりに臭気を吐き出していく。
 やがて騒がしい音は消え、廊下の灯に侵食された闇が、その正体を表す。

「酷いな」

 死体がごろごろ転がっていた。どうも斬り殺されたようだ。
 立方体のかなり広い部屋に、壁一面にモニターのついた機械やタンクなどが並んでいる。研究施設のようだ。
 そして、そんな光景の中心に、インキュベータのようなものが存在した。円筒形の培養槽、その中は蒼く照らされ、一人の少女を封じていた。さっきまで見つめあっていた、私と同じ顔。

「あまり、人道的な研究じゃなさそうだ」

 少女のバイタルモニターらしきものが、ピ、ピ、と周期的に心拍を数えている。生命に問題はなさそうだ。
 とりあえずここは放置だ。別の部屋に行こう。



 ツーマンセルを崩さず、探索の途中で手に入れた地図を手に、施設を荒らし回る。どうも、もうここには誰もいないようだ、生きている人間は。中央監視室なる場所で、いくつもの監視カメラの映像や生命反応を調べてみたが、私が確認できた輝点は三つだけ。俺が二つ、インキュベータの少女が一つ。被験体保存庫の映像に、幾つかの小さい人入りインキュベータが幾つかあったが、生命反応は無い。ここにいたであろう人間の変態嗜好が手に取るように判った。違うかもしれないが。
 出口は見つけたが、もう少しここで情報を集めてもいいだろう。あの少女を放ってはおけないし、もしかしたら被験体保存庫の連中も生きているかもしれない。

 で、資料室や端末を片っ端から調べ回っている。一応一人が調べて一人が警戒する、という形を取っている。
 いろいろなことが判って困る。まず、インキュベータに入っている奴は全員クローンだってこと。研究の目的は、遥か昔に死んで封じられた『破壊神』の魂の器を造り、器に降臨させ、復活させること。保存庫の連中はコールドスリープ中。俺はあの部屋ごと冷凍睡眠していたらしい。研究員も、昨日今日死んだ訳じゃないらしい。施設全体の残余エネルギーが減って、部屋ごとの冷凍睡眠に回すエネルギーをメインシステムがけちったらしい。被験体の生存を優先しているらしく、ただ冷凍睡眠を切って死なすなんて選択肢は無いらしく、俺を蘇生処理してからコールドスリープから解放したらしい。つまり、私は転生か憑依をしていながら覚醒せず眠っていたことになる。
 そして、魔法という要素。ベルカ式。笑っていいか?
 なのはか。なのはなのか。なのはなのだな。じゃなかったらノースオーシア・グランダーI.G.で魔法の研究でもしていたのか?
 破壊神用デバイス、『アヴェンジャー』。何となく、破壊神の名前が判った気がする。待機状態が30mm弾頭のペンダント。質量の問題がないとはいえ、こんな幼子に持たせると、バルカンレイヴンよりシュールな状態になるだろう。一般乗用車より重い『あの』アヴェンジャーそのままの形。グリップなどがあり人が持てるように(持ち上げるのは前提じゃない)改造を施されてはいるが、手で持ってドラムを背負うのではなくて、魔力で浮かしてアームガンのように保持する形だ。実弾じゃなくてカートリッジシステムだが、最大秒間消費が65発、最大搭載可能カートリッジ数1350発と、ちゃんとGAU-8の性能に忠実。対空用、対人用に連射速度向上、あるいは小型化、簡略化もできる。バルカンモード、ミニガンモードがこれにあたる。
 非常識だ。ルーデル教徒かガトリング教信者がこの死体の中にいたんだろう。
 まだまだある。神の器ということで、この躯も、あの少女も、保管庫の連中も、不老不死。そして頑丈にできている。寿命がないというだけで、殺されれば死ぬが、そもそもそう簡単には殺せない、ということだ。さっき思いっきり殴ったのに、もう頬の腫れが引いているのはそのせいか。生体生物兵器の総合商社だな。私は器としては完成一歩手前、あの少女が完全体らしい。破壊神の復活には相応の儀式が必要らしく、それが為されなかったために、いまだ彼女は無垢なままだ。とりあえず、コールドスリープを解除しても問題は無いようなので保存庫の連中は解放する。インキュベータからはまだ出すつもりは無いが。
 ここを調べ尽くして、外の様子を見て、それからだ。Sts後の管理局があればそれに任せればいいし、私は地球に戻る。多分、俺のいた地球ではないだろうが。



 年代はだいたい無印原作の十数年前。管理局は信頼できないからとりあえず無視。一応世界は移動できる。
 外は密林。危険な動物、非友好的な人間の存在を警戒して、アヴェンジャーをセットアップして出る。流石は破壊神の器、急降下爆撃を前提にしているのか、その莫大な魔力のおかげなのか、普通に飛べる。バリアジャケットは黒いトレンチコートと、92式とMk54を参考にした装甲服。バリアジャケットというより、アサルトアーマーだ。空飛ぶ戦車を少しでも表現できればそれでいい。視界が悪くなるから頭部装甲はパージしているが。
 しかし、AIが独立型戦闘支援ユニットに非常に似ているのは何故だろう? 名前は無かったらしく、とりあえずエイダと名付けたが。デバイスとAIはやっぱ別々に名付けたい。
『半径100km圏内に生命反応ありません』
「よし、戻るか」
 エイダはドイツ語で話す。対する俺は、日本語。毎回思うが不思議だ。近いうちに日本語で話せるようにしたい。
「戻るぞ」
『目的地を表示します』
 左眼のHMDにマップと光点が表示される。左側の視野が狭くなっても、やっぱりレンズ付のHMDは重要だ。redEyes的に。これで躯がミルズみたいなら文句は無かったのだが。



 とりあえず、この絶海の孤島には、この施設以外何もない。姉妹たちを解放してやろうと思う。まったく同じ顔しかない、姉妹たちを。
 保管庫に初めて入って死ぬほど驚いた。予想できないでもなかったがずらりとならんだ100個のインキュベータ、そのうち97個に私と同じ顔の被験体が浮いていた。映画版バイオハザードでも見ている気分だ。面倒なので全て一斉に解放する。
 活性化、覚醒処理、排水、解放。

『マジかい』

 99人の声が一斉に響いた。成功の度にバージョンアップすれば、私と同じ状態になるのは当然か。この部屋に、『私』以外の存在がいなくなってしまった。つまりは、そういうことだ。最後の希望は、あの少女だけ。



 この子が『私』だったら、正直死にたい。こんなにわらわらいたとしても、孤独なのだ。人であるからには、独りでは生きていけやしないのだ。
 最後の希望。この子は、私よりバージョンが上。

『頼む』

 死体を運び出し、血糊を拭い、換気をしたこの部屋で、いや、この部屋の外にいる私も呟く。
 解放作業は進み、少女が眼を開く。



 私はエルテと名乗り。
 彼女にアルトという名を贈った。



《あとがき》

 中二病全開!
 中二をネタにしたギャグ書くつもりがなぜかこんなものに。
 タイトルは一番最初のものが候補だったのですが。
 ちなみに名前のつづりはElteとAlteです。
 デバイスからして異常です。
 イメージとしては、幼女+92式+Mk54+バルカンレイヴン。
 レイヴンと違う点は、バルカンじゃなくてアヴェンジャーって点。バルカンどころかミニガンもできるけど。

 ともあれ、長いプロローグにお付き合いいただき、ありがとうございました。

Oct.16.2009
 ところどころ修正しました。

Nov.22.2009
 時系列のおかしい場所を修正しました。
 報告ありがとうございます。



[12384] 2移民
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2009/10/25 04:19
 私は奔走する。
 ずっとこの施設にいるわけにはいかない。
 アルトを養って、自分も食っていかなければならないのだ。食事の必要は無くても、空腹はつらいのだ。特にアルトは飢えさせたくない。口減らしはしたいが、またコールドスリープができるほどのエネルギーや物資は、この施設に存在しない。殺すなんてもってのほかだ。
 ということで、島を探索し、食えるものが一切ないことを確認して絶望し、希望を持って島の外に飛び出した。



 流石に低空飛行で地球一週はきつい。空中給油したいくらいに。
 相変わらずのツーマンセルではなく、スリーマンセルで行動している。探索範囲が広いからだ。
 陸地はあった。マップ通りに。都市はあった。フッ飛んでいたが。どこもNBCMのどれかに激しく汚染されていた形跡があった。魔法汚染なんてあったのか。
 白骨死体すらない。いや、あるのだが、しっかり風化して石と見分けがつかない。
 ド田舎の集落や、一部の都市は無傷だったが、そこも破棄されて久しいようだ。
 森林地帯や砂漠、海の中でさえエイダが何もないことを教えてくれる。猫の仔一匹いないと。
 戦争か何かがあって、致命的に汚染されたこの星を見捨て、みんなどこかに行きました。こんなシナリオか。あるいは、植物を残してみんな死にました、か。可能性としては前者だろう。無傷の乾ドックに、巨大時空航行艦の設計図らしきものがあったから。ツルギスタンの恒星間移民船規模の。
 とにかく、食糧なんてない。
 私も、早めにこの世界を見捨てて、別の世界に行くべきだろう。あの施設は凍結させて。



 転送ポートは少ない。世界中から集めたエネルギーをつぎ込んで、順次地球に向かう。我が愛しの祖国、日本へ。
 夜の日本の、北は北海道南は沖縄まで、スリーマンセルで送る。一ヶ所に同じ顔が百人なんて騒ぎになること間違いない。どこかで戸籍を手に入れるまで、少しは汚いことをせざるを得ない。確か地球は管理外だったからジャミングをかませばそうそう管理局に見つかることは無い。死ぬ前の『俺』がいるならば、アルトだけでも養ってもらいたかった。
 とはいえ、私と『俺』はこの世界では別人なのだ。迷惑はかけられない。

「おねえちゃん……どこいくの?」

「別の世界さ。私以外の人がいる、ね」

 不安なのだろう。目覚めてすぐ、環境が変わるのだから。私だって不安だ。戸籍も金も無いのに、明らかに日本人離れした容貌の私を受け入るほど、日本の行政は優しくない。
 戸籍は情報を改竄して手に入れよう。ハーフということにしよう。姓はルーデル。エルテ・ルーデル、アルト・ルーデルの双子ということにしよう。誕生日は昨日、七月二日。
 ついに私とアルトだけになった。

「さあ、行こう」

「う、うん……」



 戸籍は手に入った。エルテ・アルトではなく、ハンナという名前で。後で出生届を出して、エルテとアルトが生まれたことにする。免許証を偽造して、不動産屋を騙して、古く曰くつきだが広い住処をを手に入れた。人外魔境、海鳴市に。
 俺をそこに集め、アルトと一緒に住んでいる。都市部より遠く、山の中腹で森に囲まれ、周囲に民家は無い。かつて金持ちが道楽で建てて、建てた本人がこの屋敷で死んで、幽霊が出て売りに出されたとか。家というより屋敷だが、この人数なら妥当なところだろう。
 ちなみに金は……バリアジャケット(頭部装甲付)着込んでやのつく人の豪邸に集団で突貫して奪ってきました。魔法はなるべく使わず。白いおくすりは派手にブチまけて、とかちゃんまかちゃんは壊して餅撒きのように。国家権力が来る前に逃げましたとも。
 以上の行動は、この躯に付与されたある程度成長の制御が効くというチートを利用した。フィーリングでやってみたら、三人の魔力使い果たして一人を18歳くらいまで成長できた。この成長させた私がハンナとして動いている。小さくする時は、魔力が放出されるようだが、小さくするためにも魔力が必要なようで、完全に可逆ではない。三人の魔力が回復するまでの時間がもったいないので成長させたままでいる。するのは成長だけで老化はしないので、成長をしても、多分22歳くらいで頭打ちになるだろう。
 必要な人数分、順々に成長させていって、バイトでも始めよう。今ある資金が尽きる前に。書類上ではまだ生まれてすらいない私はハンナ・ルーデル。学歴も何もないフリーターというキャラクター。エルテとアルトの親になるキャラクターであり、同時にエルテでもある。
 私はアルトを守るために生きる。親として、姉として、騎士として。



 外に出る。少し成長した私が、何も判らないアルトを連れて、この世界を見せるために。
 アルトは外見より子供っぽい。屋敷の庭で遊んでやっていたが、流石に私と遊ぶだけでは成長はしないだろう。もう少し成長したら、初めてのお使いでもさせてみるか、などと思っている。最終的には、家事全般をできるくらいには。
 ちなみに、今回は食糧の買いだしだ。百人分は買えても運べない。五十人ほどが市内の各食料品店に赴き、一人四人分くらいの量を買って運ぶことになっている。この躯、まったく疲れないし力が強い。ターミネーターにでもなった気分だ。

「おねえちゃん、これなに?」

「ん? ああ、猫だ。というか、よく捕まえられたな」

 アルトが猫を両手で持っていた。猫はおとなしく、私を睨んでいる。

「ねこ?」

「そう、猫。生き物だ。私と、アルトも同じ生き物。殺したらいけないものだ」

「ふーん」

「放してやれ。猫は自由なものだ。引っ掻かれるぞ」

「わかった」

 アルトはそのまま手を離す。しゅた、と地面に降り立つ猫。

「生き物をそんなふうに落とすなよ」

「いけなかった?」

「ああ。ちゃんと地面に下ろしてから手を離すんだ」

 とまあ、常識を知らない。アルトは自分の力を知らない。私が教えないし、デバイスも渡していない。私は全員アヴェンジャーをペンダントにして持っているが、アルトは何も持っていない。いずれ善悪の判断がつけば持たせるつもりだが、今はまだ、早い。

「猫はあれくらいの高さだったら上手く着地するが、他の動物はそうはいかない。アルトだったら、屋敷の屋根から落ちるようなもんだ」

「落ちたらどうなるの?」

「痛いぞ。死ぬかも知れん」

「死ぬ?」

「死んだらもう動かないし、喋ることもできない。悲しいだろ」

「……わかんない」

 死を理解するのも、理解させるのも難しい。死を知らない躯で生まれたアルトは余計に。
 だが、理解させなければならない。アルトは破壊神の器。いずれは力に気づくだろうが、それまでに。



《あとがき》

 力を手に入れてもあんまり増長しない、小市民なエルテ。
 波風をあんまり立てずに頑張っています。ヤクザ襲ってますが。
 なのは要素ほとんど出ていないけど、実はまだ生まれてないからだったり。
 ハンナというキャラ作って出生届を出すなんて面倒なことをするのはそれが理由だったり。
 ハンナというキャラは汎用性が高いので、これからちょくちょくでてきたり。バイト先の一つには……

 扇風機様、感想ありがとうございます。
 ちなみに、今のところエルテの意思が分裂することは無いと思います。物語がかなり進まないと。



Oct.2.2009
 なんということだ。
 海鳴市を鳴海市と間違えるなんて。
 ということで修正。
 ありがとうございました。

Oct.16.2009
 ちょこちょこっと修正。



[12384] 3Birth Day
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2009/10/25 04:19
 六年が経ち、私達はやっと生まれることができた。
 とはいっても、出生届を出しただけなんだが、これは重要だ。
 ハンナは完全に日本国籍を得たといってもいい。パスポートも存在する。だが、完璧とはいい難い。
 荒井輝という架空の日本人と結婚し、私とアルトを生んだことにした。結果、エルテとアルトは完全な日本国籍を得たも同然だ。もしハンナの書類偽造がばれたとしても、エルテとアルトには帰化という方法がある。ハンナの戸籍改竄には不備があった可能性があるが、荒井輝の戸籍は完璧だ。大金を払って、その筋で有名な裏家業の戸籍屋に頼んだのだから。ついでにハンナの戸籍に不備は無いか、あれば改竄するように頼んだ。
 荒井輝とハンナ結婚して三年後に離婚。荒井は失踪し、やがて書類上で死亡したことにされる。私はクウォーターになり、エルテ・ルーデルとアルト・ルーデル、ハンナ・ルーデルは残る。十数年後に私達はなのは達と共に管理局に赴き、冥王閣下の魔砲を傍目に、実力を隠しちまちまと活躍する。そんなシナリオだ。
 だから、私は歌う。

『Happy Birthday Dear ALTE!』

「はっぴーばーすでーでぃあエルテ!」

 私達が生まれた、この記念すべき日を祝って。



 50人に増えたハンナは、様々な場所で働いている。とはいっても、喫茶店限定だが。どこでも美人で若く万能で有能な人間は欲しいのだ。
 海鳴市では一ヶ所、その他日本中で働いている。あまり有名でない、どこにでもありそうな喫茶店でウェイトレスをしているのだが、ハンナが働くとそれなりに客が来る。料理の腕も悪くない、というか50倍の速度で経験値を稼いでいるから当然か。得た経験はルーデル家の食卓にも反映され、店の評判を挙げ、さらに給料も上がると、一石三鳥の効果を挙げた。だが、あまり有名になりすぎると私は店を辞める。
 そして、その本拠地である海鳴市では翠屋で働いていた。唯一、どんなことになっても辞める気がなかった職場だ。昼は働き、夜は士郎と近接格闘を教えてもらっていた。超長距離精密砲撃、遠・中距離飽和攻撃、近距離戦は問題ないのだが、懐に入り込まれたら私には打つ手がない。どっちにしろ、なのはが生まれるまでの話だったが。
 ある程度成長するまで、なのはに関与することは避けたかった。高町家に関与するのは許容範囲だが、あの冥王に至る性格が形成されるには、私という不確定要素は不要、むしろ危険要素なのだ。
 辞表とシュタインベルガー・ベーレンアウスレーゼ2003を置き土産に、私は高町家を去った。



 同時期、というか今までもだったしこれからもなのだが、訓練をしている。
 無人の次元世界で魔法の訓練をしては、何度地表をブチ抜いたことか。
 この非常識な魔力は、躯は、デバイスは、私に戦略兵器級の力を与えていた。
 カートリッジシステム。A'sやStSでは拳銃弾程度の物しか見られなかったが、アヴェンジャーでは30mm砲弾の花瓶みたいに馬鹿でかいボトルネックカートリッジであり、無論魔力容量も比べるのも愚かしいくらいにほどにでかい。それがドラムマガジンに1350発。一回でも全て使い果たすとチャージに恐ろしいほど時間がかかるから滅多なことでは使わないが、初めてフルロード全力砲撃を行った際は、まさに惑星破壊砲だった。TLSがエクスキャリバーのン倍程度超えた威力で照射されるような……判りづらいか。個人でアザリン砲をブッ放す、そんなイメージが最も近い。非殺傷設定でも気休めにもならないくらいだ。私を造った連中に言おう、敢えて言おう。まさに馬鹿なの? 文字通り死ぬの? と。
 とにかく、出力だけではスターライトブレイカーなんざ屁でもない非常識砲撃は『ジオサイドキャノン』と名付けられ封印することとなった。
 他にも対地対空精密飽和殲滅誘導砲撃『ノスフェラト』、薙ぎ払い型汎用レーザー砲撃『ファルケン』、対メビウス用超高機動対空魔法『カリバーン』などがエイダから発案された。どれも英雄戦闘シリーズ臭どころかそのまんまだ。これ(エイダ)を造ったのは誰だ!?
 だが、個人的に一番好きなものがある。これをプログラムした奴を褒めてやりたい魔法が。

「ゼロシフト、Ready」

『Resdy』

 AIがエイダで、ボディがチートなら、これはやらなくては。せっかく日本語であの声が堪能できるようにしたのだから。

「Run!」

 世界が歪む。原作では亜光速で敵のそばまで飛んでいく、なんて設定だったが、これはエイダに制御を任せないと無理だ。そんな高速で魔法を制御できるかって言うと、不可能だ。座標を指定して起動すれば、後は完全にエイダ任せ。情けないが、生物の処理速度では反応できない。

『メビウス、破壊』

「っしゃあ!」

 エイダがHMDに映し出す幻が砕ける。

『敵、無人戦術攻撃機ファルケンZOE、12機。囲まれました』

「なに!?」

『今のランナーなら余裕です』

 無茶をおっしゃる。

「オービタルフレームなんてないぞ」

『訂正。マスターなら余裕です』

 そんな雑談をしている間にも、TLSが十字照射で薙ぎ払ってくる。実戦で本物受けたら、骨も残らず消し飛ぶだろう。

『ノスフェラトの使用を提案』

「の前に逃げるぞ!」

『ゼロシフト、Ready』

「Run!」

 世界が歪んで、見えるのは真正面の小さな点だけ。

「QAAMM! ロードカートリッジ、ドヴァー!」

 たった十ちょいの敵に数十発の誘導弾を使うわけにはいかない。つまりはカートリッジをケチった訳だ。

『ロードカートリッジ。高機動マジックミサイル、Ready』

「フォイア!」

 物質化するほどに高密度なQAAMMが、XMAAよろしく多目標に飛んでいく。高密度になると何故か重力とか物理法則とかに縛られるので、制御の殆どはエイダに任せている。誘導は俺。

『撃墜。中破、継戦不可能。撃墜。撃墜。撃墜。撃墜……』

「チィ! ロードカートリッジ、アディーン!」

『ロードカートリッジ、アディーン』

 中破した奴がカミカゼを見せてくれやがった。こいつらは無人機、こうなるのは当然か。

「エクスキャリバー!」

 いわずもがな、照射範囲に入れば消し炭の、あの巨人の剣。俺が組み上げた魔法のうちの一つだ。日本人のイメージって、結構アニメやゲームに影響されるな、などと考えるのは今更なのか。なんというか、ボー・ブランシェになったような気分だ。

『敵、消滅。全機撃墜』

「疲れた……」

『消費カートリッジ7発。戦闘効率62%。疲労指数0。ランクC。まだまだです』

「精神疲労数えてないだろ!」

 俺の躯が疲れないのを知っててこれだ。ついでに、戦闘などでヒートアップすると一人称が『俺』になる。猫を被る余裕がないからなのだが。

『メビウス100機、囲まれました』

「もういいっつってんだ! つかメビウス100機てどれだけ『死ぬがよい』なんだ!?」

『今のあなたなら、真緋蜂改も撃破できます』

「レヴェルが違う!」



 エイダを使った模擬戦。
 それは地獄の黙示録だった。



《あとがき》

 はい、魔法*ルーデルでさくらシュトラーセなんてものを連想した人挙手ー。
 私は知りませんでした。

 作者はルーデル教徒でエスコン中毒です。A-10神で急降下爆撃ルーデルプレイなんて日常茶飯事。
 戦車の群にFAE叩き落としてフッ飛ばすなんて常識よ。
 オヴニル? グラーバク? ベルカの変態はSOLGと一緒に爆殺してやったよ。
 無論戦闘機ごときに撃墜されたことは滅多にありません(AAGUNによくやられる)。

 エイダを軽く暴走させています。
 エルテ達を造った技術屋は生粋のヲタです。間違いなく。

 ついに次回、原作が動き出す……かも知れません。

Oct.16.2009
 いろいろ修正。



[12384] 4日常からその崩壊まで
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2009/10/25 04:19
 時は来た。
 六年の歳月をただひたすら戦闘訓練とアルトの情操教育と拡大再生産(=株)に費やし、やっと迎えた入学。
 とはいっても、なのは達と仲良くなって、三年後の事件に備え続けるだけの日々。
 アリサとなのはの喧嘩イベントにも介入して、不思議系属性を手に入れた。流石に怪我は放置したくないので、苦渋の決断で『おまじない』という形で回復魔法を使った。アリサに追及されたが。
 アルトもいい感じに育ってきている。なんでも興味を持つ。人見知りしない。明るい。そして頭がいい。人気者になる要素をこれでもかと持っている。力加減も教えた。今まで怖くて友達を作ることを禁じていた、というか外界と隔離していたから仕方は無いとはいえ。やはり人とつき合うのは重要だ。
 対する私は、一歩引いてみんなを見ている。たまにすずかと雑談したり、オセロをしたり、将棋をしたり、チェスをしたりしている。つまり、そんなスタンスだ。他人から話し掛けられない限り自分から話はしないし、アルトが何かやらかしたりしない限りアクティブにはならない。この前風に飛ばされたプリントを追って二階の窓を飛び出したりした時とか。五点接地法で普通に着地した時、男子連中が真似をしないように説得するのには骨が折れた。飛び降りたアルトではなくて、私が骨を折るとはこれ如何に。
 とまあ、アルトがムチャクチャするのをカバーするのに私がフォローに回るという形を取っている。屋敷にいたころはとっさに行動するなんてことがなかったから仕方がないのだろうが。常に加減して行動するように言ってはいるものの、『とっさ』の行動にそんな理屈は通用しない。普通の人間にもあるだろう、無意識のリミッタが解放された『火事場の馬鹿力』が。そんな訳で、アルトは恐るべきおてんばという称号を密かに手に入れていた。

「どうにかならないかしらねぇ」

「どうしようもない。対策が取れんし、なにより実害がない。不思議なことにな」

 私と担任はタメイキをつく。
 アルトのおてんばは、物的損害も人的被害も『何故か』ないのだ。一度派手に酷い目に遭えば少しは自重するだろうが、どんな過酷な状況でも『酷い目』には遭わないのだ。これが破壊神の力だというのか。

「みんなエルテさんみたいにいい子ならいいのに」

「私だらけでも疲れると思うが。今度ヴァインでも飲みながら愚痴をでも叩き合おう。シュタインベルガーの1995年物のカビネットが手に入ったから」

「はぁ、あなたと話してると本当に小学生なのか忘れてしまいそうよ……」

 判らないでもないが。昼休みに理科準備室で茶をしばきながら愚痴をこぼす教師と生徒。
 ちなみに、アルトから眼を離すわけには行かないのでバックアップとして一人を教室に置いていたりする。皆様方の期待を裏切らず、しっかり騒ぎを起こしている。やれやれ。

「ふぅ。私はここらで失礼させてもらおう。時間も無いことだし」

「ええ、ありがとう。でも、お酒はダメよ?」

「後ろ向きに善処する」

 いつの間にやら恒例となってしまったお茶会。精神的には、確かに先生よりは年上だが、何故こう毎日愚痴を聞く羽目になったのやら。



 交代。担任とお茶会をしていた私はトイレで姿をくらまし、バックアップに回る。といっても、暇なので延々とカートリッジを量産しているのだが。
 この躯は便利だ。あらゆることを同時にできる。今だってそう、カートリッジを造りながら全国で働き、ネットで株をいじりながら戦闘訓練、ぞして授業を受けているフリをしてアルトを監視。他にも色々している。暇な私がいないくらいに。



 時々、なのは達とつるんで翠屋に行ったりお茶会をしたりすることがある。
 アルトも基本的に、私達といることが多い。
 高町家では、ハンナがいなくなった理由が私達の存在で理解できたとか。誕生日の矛盾に気づかないまま。

 どたばたしていたが。充実していて平和だった。



 そして、三年後。
 運命は回り始めた。



《あとがき》

 短けえ。
 つっても、繋ぎだし。

 アザリン砲=本体が惑星規模の馬鹿でかい波動砲



 アルトの名前の由来は車じゃないんだな。
 音楽でもない。
 キーボードに……Alt

 んで双子だからってんでアルトに似たような読みでいいのないかと思ったら、昔やったゲームでエルテ・ティート(本名:リュクリシア・ニーベル)って子がいたじゃないですか。詳細は分裂ガール参照。
 エルテが何で何人もいるのか、その由来が、ってタイトルでネタばれ。

 エルテはマルチタスクの思考の一つが躯を持っているような状態です。クライアントサーバ型ではなく、完全な分散型。でも意識は一つで、その一つの意識がマルチタスクで躯を操作しているような形です。正確には違うけど。躯が成長しても、各エルテはイコールで結ぶことができます。エルテの思考リンクはどんなに遠い別次元に行っても切れません。まさに全一『一は私、全は私』という状態。説明が判りにくくてごめんなさい。
 ミサカネットワークは一応個があるみたいですから似て非なるものです。他は知りませんのでご容赦を。

《追記(言い訳タイム)》

 Altが『オルト』なのは知っていましたが、詳しくない奴に教える時に(°Д°)ハァ? とよく言われるので「『アルト』って書いてるキーだ! それが『オルト』じゃ!」なんて説明するのです。口頭による説明は難しいです。私は英単語とかもある程度ローマ字読みして覚えるタイプなので……。(°Д°)ハァ? な連中はちゃんと正しい知識を以って修正しています。
 Wikiでは「アルトと呼ぶものもいる」ってだけなので真似しないように。
 まあ、ふと眼に入って何となくつけただけなんですがね。英語のGhoti(フィッシュと読む。私はゴチと読んだ。この単語はジョークで意味は無い)みたいなもんです。

 混乱させてすみませんでした。

Oct.16.2009
 修正と追記をば。



[12384] 5はじめてのまほうせん
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2009/10/25 04:19
 ユーノ・スクライアのものとおぼしき声が聞こえた。公園で張り込んでいる私も、『声』の主を探し始める。
 アルトにも聞こえたらしく、私の腕の中で眼を醒ます。

「おねえちゃん、今の……」

「……大丈夫。既に私が動いている」

 アルトの頭を撫でて、安心させる。

「私達が介入せずとも、あの子は無事だ。この世界で、私達は不純物なのだから」

「私、あの子を助けられないの?」

「あの子は助かる。何もしなくてもな。私はその運命を知っている」

 なのはがあの声を聞いているはずだ。そして明日、ユーノはなのはに発見され、動物病院で治療を受ける。
 そしてその夜、なのはは魔法の力に目覚める。

「大丈夫。ほら」

 額を合わせて、私の視界の一つをアルトに見せる。『双子のようなもの』だからできる技。
 フェレットに意識がないことを確認して、魔力が回復しないように傷を治していく。

「犬猫に襲われないように監視もする。それに、明日になれば……」

「明日になれば?」

「面白いことになる。そしてこの事件を経て、私達にもう一人、友達ができる。その子に逢うためにも、アルトは寝るべきだ」

「……ねえ、どんな子?」

「合うまでのお楽しみだ。さあ、いい子だから寝よう」

「うん」

 アルトはおとなしく眼を閉じる。
 素直で優しい、いい子だ。私のようなひねくれ者が育てたとは到底思えない。目覚めた時に、ある程度自我があったからか……

『セレスタル・ストライカー、Ready』

「誘導は任せる。目標選択と制御は私がする。危険な動物を表示して」

『まるでオービターアイズかSOLGですね』

「エイダ、お前ダメな方に進化してないか?」

 酸素もなく、温度もない高空で、ひたすら監視している。雲の向こうに、遥か大地に、フェレットがいる。野良犬や野良猫に襲われないように、肉食の野生動物が公園に存在しないように牽制射撃を行った。威力を極限まで下げ、ただひたすら速く、速く。誰の眼にも止まらぬ速さで、狙った場所から寸分違わぬ場所へ。この時だけは、私は精密機械になる。再優先事項が無い限り、時が来るまでこの行為に集中する。
 やがて、牽制射撃をするまでもなく、動物が公園に寄り付かなくなった。

 そして朝が来て、眼下に私が見える。このまま衛星兵器として常駐するのも悪くは無い気がしたが、流石にこの過酷な環境では魔力の消費が激しい。人間のいられる環境じゃないから、魔法で空気とか温度とか有害光線とか防御しているのだ。わりと短期間で交代せざるを得ないし、戻った躯は魔力すっからかん。SSTOよろしくカートリッジを輸送して、魔力を回復し続ければ結構長い時間いけるが、カートリッジのチャージが面倒であまり使いたくない。もう少し効率がよければずっと空にいるのに……

 学校が終わり、帰り道において、やはりなのはが反応した。
 予定通り。順調に、ユーノを発見。ユーノは動物病院に入院し、シナリオは順調に進んでいる。
 私はまだ、天空で下界を見ている。夜になり、動物病院を襲撃する影、家を飛び出すなのは。

『今のうちにとっとと片づけましょう』

「アルトと話していたの、聞いてなかったか?」

『はい。既にバタフライ効果による影響はかなりのものと予測されます。大々的に関与するのが最適です』

「人間の機微ってのを判ってないな。なるべく秘密にしたいんだ」

『ランナーなら目標を遮蔽物ごと無力化できます。今なら目撃者もいません』

「笑えない冗談だ」

『あいにく、冗談を発するプログラムは』

「あるだろ。システムの根幹に」

『あります』

 最初は『製作者GJ』などと思っていたが、私と一緒に漫画とか小説とかゲームとかをやっているうちにその影響を受けだして、どんどん『ADA』とかけ離れていっているような気がしてならない。KOS-MOS、バトルシップガールナツミと並ぶ三大萌えAIの一柱が。

「動き出したな」

 そんな馬鹿をやっているうちに、状況は動き出す。なのはがユーノを連れて獲物と対峙している。あ、逃げた。

『援護しますか?』

「いや、足止めだけだ。派手にすると魔力反応でバレる」

 なるべく手を出さない。危険になるまで。
 今のところ、順調だ。レイジングハートをセットアップし、バリアジャケットも装備している。予定が変わって少々ボコられても、しばらくはもつだろう。

「フォイア」

 小さく弱く、しかし速い魔力弾が化物の躯を叩く。

『ゼロシフト、Ready』

 打ち合わせ通り、ゼロシフトをいつでもできるように準備しておく。

『ソニックブームキャンセラー、Run』

 衝撃波対策は重要だ。なのはをフッ飛ばすわけにもいかない。

『警告。別の危険要素が防衛対象に向け高速移動中。飛行しています』

「なんだと!?」

『ジュエルシード反応あり。セレスタルストライカーの使用を提案』

 今、なのはは化物を封印した。目的を達成した今、もはや警戒などしていないだろう。バリアジャケットも解除している。
 俺が撃てば管理局にその存在を知られかねない。だが、なのはの安全と天秤にかければ、当然の結果が出てくる。

『ゼロシフト』

 エイダの言った通り、もう介入しか道は残されていない。俺が存在するだけで、シナリオは変わってしまった。

「きゃあ!」

 衝撃波はなくとも、強風は発生するらしい。なのはが転んでしまった。改良の余地あり、などと冷静に判断できるこの頭が腹立たしい。

「あ、あなたは?」

 フェレットのユーノが声をかけてくるが、素直に名乗るわけにはいかない。エルテ・ルーデルという存在は、まだこの件に関与する訳にはいかないのだ。

「すまない。危険だ、離れてろ」

『ロードカートリッジ、ピャーチ』

 アヴェンジャーをバルカンモードにして、カートリッジをロードする。

『クーゲルシュライバー、Ready』

「こんな時に冗談か!」

 一気に気が抜けた。訓練の模擬戦でも勝手に魔法をロードしていたが、俺の知らない魔法を、しかもクーゲルシュライバーなんてふざけたものを使おうとするのはどうかと思う。

『対人ミサイル(ペンシル)があるならば、ボールペンがあってもいいかと』

「カートリッジ5発分の効果があるんだな?」

『はい』

 勝手に魔法を構築するエイダの優秀さを褒めるべきか、そのネーミングセンスをけなすべきか、冗談と区別がつかないことを叱るべきか。
 ともかく、エイダが自信を以て勧めるこのクーゲルシュライバーは信用してもいいだろう。

「ア゙ァァァァァァァァ!」

 かなり接近された。見た目は、影でできた巨大な黒い鳥。カラスのできそこないのような鳴き声をあげ、俺を見ている。

「いけない! そこの方、逃げてください! あれは危険です!」

「黙って、そこの子を守ってろ。エイダ」

『フォイア』

 クーゲルシュライバーの名に恥じない、立派なボールペンが、『針千本』のように飛んでいく。何故かほとんど魔力反応の感じられない弾幕。「これは魔力弾ですか」「いいえ、ボールペンです」と言い訳ができそうなくらい。カートリッジ5発分の殆どは、物質化と欺瞞に使われている。
 それらはばらまかれながら、正確に敵に誘導し、一本も外れることなく刺さる。えげつない。

『動きが鈍りました。エクスキャリバーの使用を提案』

「頼む」

『エクスキャリバー、Ready』

 なるべく魔力反応を出さずに目的を遂行する。エイダはそれをよく理解している。敵の速度を落とさず一直線にしか照射できないエクスキャリバーを放てば、敵の機動に翻弄されて照射時間が長くなる。オリジナルの『エクスキャリバー』が接近したガルムを落とせなかったのと似たような理由だ。それを少しでもマシにしようとクーゲルシュライバーを使ったのだろう。その発想は無かった。

「フォイア!」

 本来は青い、視認性を低くするために私の魔力光と同じ黒く紅くされた光が、目標に向かい一瞬で突き進み、それを包む。魔力でできたその躯を、魔力の奔流で吹き飛ばし、ジュエルシードと本体――カラスだった――を分離することに成功した。吹き飛ばされるジュエルシードとカラスをそれぞれ私の一人が回収し、そのうちジュエルシードは封印する。カラスの処遇はどうするか。

「あ、あの!」

「ん?」

 振り向けば、なのはがいた。当然、バルカンの砲身もぐるりと回転するわけで。

「きゃあ!?」

「あ」

 撃ってよし、殴ってよし、防いでよしと三拍子そろった頑丈で長大なデバイスは、なのはを薙ぎ払った。



 ユーノ君が教えてくれた、大きな魔力反応。それは空高くにあるらしくて、それを見ようとしたら、私を吹き飛ばす突風と一緒にその人は現れました。
 真っ先に目についたのは、その大きなガトリングガンと呼ばれる兵器と、それにつながっている樽みたいなものでした。

「すまない。危険だ、離れてろ」

 どこかで聞いたような、ぶっきらぼうな声。

『ロードカートリッジ、ピャーチ』

 この人が魔法使いなら、多分その手のガトリングガンが魔法の杖なんだ。杖が少し小さくなって、遠くの空を狙っています。

「カートリッジシステム……まさか、ベルカの?」

 ユーノ君がなにか知っているようだったけど、今はそれどころじゃないの。黒いコートと、黒い鎧を着ているその人は、まるでアニメのロボットのようで。その人が持っているぐるぐると回るその杖を見て、背筋が寒くなりました。
 姿の見えない誰かと何かを話している間に、私達が気づかなかった『それ』が、闇から現れました。大きなカラス、みたいななにか。

『フォイア』

 鎧の人の杖から放たれた『何か』が、飛んでいく。それは闇に消えて……黒い怪物をウニにしてしまっいました。

『エクスキャリバー、Ready』

「フォイア!」

 黒い、血みたいに黒い光が、真っ暗な夜でもよく見えて、怪物を包み込んで、その『影』だけを消し飛ばして。そして鎧の人影が二つ、落ちていく本体だったんだろうカラスとジュエルシードを持って、どこかに行ってしまいました。

「あ、あの!」

 多分、助けてくれた。なら、お礼を言わないと、と、声をかけた次の瞬間、

「ん?」

「きゃあ!?」



 眼が醒めれば、頭の下に硬い感触がありました。眼を開ければ、丸い紅い光と黒い眼が私を覗いていました。ヘルメット? と酸素マスクで顔は判らないけど。

「起きたな。具合はどうだ? 痛いところは無いか?」

 鎧で膝枕されていたので、後ろ頭が痛いです。

「後ろ頭が痛いです」

「あー、すまない」

 鎧の人は私を起こすと、温かい光を私に当ててくれました。後でユーノ君に聞くと、これが回復魔法らしいです。
 ここは動物病院の近くじゃないみたい。あの場所から離れた丘らしくて、遠くでサイレンの音が聞こえて、そっちの方を見ると、赤い光がたくさん回っていました。少し、冷や汗が。

「これでよし。もうないか? なければ帰れ。もう遅い」

「あ、あの!」

「あるのか。どこだ」

「い、いえ。助けてくれてありがとうございました」

「いや、いい。こっちも悪いことしたしな」

 それだけ言って、鎧の人は消えてしまいました。



《あとがき》

 あれ?
 魔法がめっちゃストレイト・ジャケット?
 そんな気は無かったのに、なんか似ていることに気づきました。
 まんま鎧だし、アヴェンジャーがスタッフみたいだし。
 エイダがダムキャストして、エルテがトリガーヴォイス。
 「イグジスト!」なんていったら完璧ですねぇ……

・クーゲルシュライバー
 ドイツ語でボールペンのこと。
 または、指の間にボールペンを挟んで、その拳で殴る必殺技。
 叫びながら使うとかっこいいが、ドイツ語圏で使うと恥ずかしい。

 はい、ドイツ語のカッコよさは異常シリーズ。
 エイダが壊れつつあります。フルメタのアルっぽい気もしないでもないが。
 原作で「面白ぇAI」と評価されていますしねー。
 KOS-MOSは判っても、AIナツミは知らん人多そうだな。

Oct,17.2009
 なのはサイドの地の文とか変更。
 でもなんかおかしい。



[12384] 6日常と非日常の両立
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2009/10/25 04:21
「やあ士郎。なのはは起きているか?」

 なのはがねぼすけなのはよく知っている。ましてや、昨日は疲れる事が多かったのだ上、遅くまで外出していたのだ。

「ああ、ハン……エルテちゃん。まだ寝ているよ」

「ふふ……アルトは区別がつくのに、まだ私とハンナと区別がつかないか」

「いや、二人ともハンナさんに似てる。でもアルトちゃんは歳相応のおてんばさというか、そういうのがあるけど、エルテちゃんは落ち着いてるからね」

 玄関先でずっと話している訳にはいかない。流石に時間に余裕がなくなってきた。

「褒められているのやら。それはともかく、なのはを起こすべき時間じゃないか? あのねぼすけ、昨日は夜ふかししたみたいだから」

「昨日、何があったか、知っているのかい?」

 士郎のまなざしと声が鋭くなる。地雷を踏んだかもしれない。

「知っているが、話すことはできない。話したとしても、なのは以外にそれを止める権利は無い。知らないフリをして、黙ってなのはが話すまで待つのが最良だろう。あの鋼の意思を止める事は、文字通り縛りつけなければ無理だろう」

「確かに、頑固だからなぁ」

 一つ、タメイキ。士郎は相変わらず難しい顔をしていたが。

「考えるのは後でゆっくりするといい。それよりも、時間が来てしまった」



 その日、少女を担いで疾走する銀髪の少女が街で目撃された。



「ふえええ~~」

 短距離走並みの速度で、バスを使う道のりをマラソンすれば、そして走者に担がれていては流石に眼を回すだろう。しかも色々とショートカットをしたものだから、バスより早く着いてしまうファンタジー。

「だるい。疲れた」

「そうは見えないの」

「罪悪感を感じるがいい、このねぼすけ。私の勘が悪ければ、なのはは遅刻していた」

「う、ごめんなさい」

「言うべき言葉が違う」

「ありがとう」

「ああ、どういたしまして」

 うっかりターミネーターっぷりを発揮して披露してしまったが、別に問題は無い。

「にしても凄いわね。あの距離を、しかもなのはと荷物を担いで完走するって、どんだけよ?」

「世界記録、いけるんじゃないかな」

「ふむ、かく言うターミネーター二号君は私より高機動かつその無尽蔵の体力で私以上の記録を期待できそうだが」

 そう、この月村すずか閣下は、恐ろしいまでの機動性と力と体力を持っている。体育などでは、全力ではないがそれでも人類の常識からはみ出るくらいで対応しても、普通に負ける。あれが全力かどうかは知らないが。

「将来は人類の抵抗軍のリーダーを守る鉄壁のガーディアンとなり……」

「もう! 私はそこまで強くないよ。それにそんな役は私よりエルテちゃんの方が……」

「いや、私は既に将来が決まっている。黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章の魔王の再来として――――」

「『A-10神サンダーボルトを駆り、世界中に愛の鉄槌を!』でしょ。まったく、ルーデルネタ、よく飽きないわね」

「ルーデルだからな」
「ルーデルだもん」

 私とアルトの声がハモる。

『我等は破壊神の末裔』
「どこから落ちても死にはしない」
「誕生日は7月2日」
「シュトゥーカリートはソラで歌える」
「エスコンではA-10神をつかう」
「急降下爆撃が好き」
「飛行機にはおとされない」
『いくぞバニングス、出撃だ!』

「ステレオでハモるんじゃなーい! って、どこに連れていくのー!?」

 両脇を固めて浮かせて、連行する。

『いざ、花を摘みに! シュトゥーカ、シュトゥーカ、シュトゥーカ!』

「きゃー」



「楽しそうだね、アリサちゃん」

「うん、でも……」

 やっぱり、昨日の鎧の人と、とっても似ている。口調といい、雰囲気といい、あの優しい黒い右眼といい。

「なのはちゃん?」

「なんでもないの」

 あの人は背は私より高かった。エルテちゃんは私より少し低いくらい。だから、あの人はエルテちゃんじゃない。
 もしかしたら、あの人はお父さんが言っていたハンナさんかもしれない。

「それよりも、ルーデルネタってどういう意味なのかな?」

 話題を変えるついでに、ずっと気になっていたことを聞いてみた。アリサちゃんとすずかちゃんは判ってるみたいだけど。

「アルトちゃんたち、名字がルーデルでしょ? その名前、昔のあまりにも有名な軍人さんと同じなの」

「どんな人なの?」

 それは、あまりにも突拍子もない話だった。
 曰く、戦車を『少なくとも』500輌は破壊した。
 曰く、戦艦も撃沈した。
 曰く、機動性も悪い鈍重な攻撃機で敵エースを撃ち落とした。
 曰く、何度も撃ち落とされていながら、すぐに戦場に舞い戻る不死身のエース。
 曰く、戦闘機には撃ち落とされたことがない。
 曰く、スターリンから名指しで懸賞金をかけられた。
 曰く――――

「す、凄い人なの」

 意味は判らないけど凄いことはわかる。

「まだまだあるんだけど――――」

「人間とは思えない、不死身で人類史上最強の破壊神と覚えておけばいい」

「あ、おかえりなさい」

「ただいま~。おねえちゃんが大好きなルーデル閣下の話?」

 アルトちゃんまで『閣下』と呼んでいた。なんか違和感。

「同じルーデルだと、我々と区別がつかん」

 あれ?



 夜は私の世界。
 なんの為に黒いコートと鎧をバリアジャケットにしたのか。それは夜間戦闘の視認性を低めるため。昼間は昼間で対策できるよう、コートに仕掛けが施してあったりもするが、私は夜が好きだ。この涼しい風、眼下の輝き、人が恐れた世界。

「いい夜だ。月は無く湿度は低く、風もなければ音もない」

 バリアジャケットのコートの裾が、言葉を否定するように翻る。

「訂正。少しは風がある」

 独り言。私が何人いようと、私は一人なのだ。アルトは別の場所で、私の腕の中で眠っている。

「だが、悪くない。涼しい――――」

『魔力反応を確認。狭域探査魔法です。欺瞞工作の痕跡を確認』

 だらけていた躯に緊張が充填される。

「ロックオン」

『ロックオン。対象を拡大します』

 左眼のHMDに映し出される映像。赤外線パッシブ・アクティブ、サーマルスコープ、スターライトスコープ、マジカルスコープ、通常の順に切り替わり、対象の情報を教えてくれる。

『セレスタルストライカー、Ready』

「……今回は監視だけだと言ってなかったか?」

『保険です』

 何があるか判らない世の中だから、備えておくのはいいことだが。今日は私が高空で一人で監視するのだから。

『ゼロシフト、Ready。オプション、衝撃波キャンセル・風圧キャンセル・無音移動』

「対象がやばくなったら、勝手に撃っていい」

『どの程度やばくなれば?』

 エイダは冗談は言うが、真面目な話は真面目に返す。私にとっては悪友のような存在だ。非常に優秀なAIだと言わざるを得ない。時々、冗談に聞こえないジョークを言うが。

「ギリギリまでだ。念のため、ノスフェラト用意しておけ」

『了解。ノスフェラト、Ready』

 多目標追尾誘導魔法弾を用意して、もしもの時の為に備える。私の魔法は超広域戦略攻撃に特化しすぎていて、小さい目標を制圧したりするには、燃費が悪ければ使い勝手が悪い。デフォルトのアヴェンジャーモード、対空用の連射速度に特化したバルカンモード、近距離から中距離まで長時間弾幕を張れるミニガンモード、そして最近見つけた、小細工用のマイクロガンモード。まるで爆撃と防御のみに特化しているように見えてならない。

「カートリッジロード、ストー。海鳴市全域に結界を張る。対象に気づかれるな」

『よろしいのですか? 100発も使えば、リロードに15時間はかかります』

「下手に誰かに騒がれて、大事になるのは避けたい。この前の動物病院だって……」

 かなりのニュースになった。あり得ないことだが、目撃者がいなかった。だから何事もないのだが、今回もそうとは限らない。

『対象に発見されました。全域結界は不要です。対象より半径100mに結界を施行します』

「……全く。監視だけって言ったろ」

 エイダは私に対して過保護だ。不必要だと判断すれば、マスターである私の意思すら無視する。道具としては最悪だが、相棒としては最高だ。時折、それが疎ましく感じるが、エイダには開発段階でインストールされた、先人の経験と知識がある。戦闘に関してもそう。つまり、私より遥かに戦い慣れている、ということだ。私がある程度エイダに従うのも、それが理由。

『対象、戦闘を開始。サポートの必要はありません』

「引き続き監視を続行。対象に危険指数がなくなれば結界を解除。さて――――」

 高空は消耗が激しすぎた。今は雲より少し下。空気の薄さにも慣れ、気温だけに魔力を消費できる。カートリッジは忘れたころに勝手にロードされる。本当はしなくてもいいが、エイダは可能な限り私の魔力を満タンにしたがる。

『対象の戦闘が終了しました。対象はジュエルシードを取得。結界を解除、ジャミングを実行しました』

「早いな。何もできずに終わった」

 見てみると、対象――――フェイト・テスタロッサは……

「……当然か。俺は怪しい者だ。時と場合により敵にも味方にもなってやれる」

「…………」

「そう怖い顔をするな。ほら、お望みのもの、一つ」

 カラスから回収したジュエルシードを一つ、投げてよこす。

「! どうして……」

「気分だ。それに……」

 ジュエルシードが、すべて揃うことはない。鋼の意思、白い悪魔がいくつか集めるだろうから。

「まあいい。後2、3回ほどジュエルシードの暴走を見逃してくれ。白い魔導師には接触しないでほしい。どこかの屋敷で猫が巨大化したら、その時点で行動・回収していい」

「…………」

「それまで我慢してくれたら、俺が集めたジュエルシードは全部やるよ。暴走してなかったら自由に回収してくれていい。それを邪魔する権利は俺にはない」

「……わかった」

「いい子だ、フェイト」

 驚きに、フェイトの眼が見開かれる。

「じゃあな。ゼロシフト」

 亜光速での移動は、人の眼では確認できない。フラッシュムーヴとは違い直線でしか動けないが、10kmを一瞬で移動した俺が再び視界に入ることは無い。残像くらいはあったかもしれないが。
 同じ大気中に私と監視対象がいれば、マークした相手をいつでもどこでも自由にひたすら監視できる究極のストーカー魔法、ヘルゼリッシュを使い、音も風もなく瞬間移動した俺に対するフェイトの反応を見て、家路についた。



《あとがき》

 フェイトさんと遭遇。
 なるべく原作通り大筋を進めたい主人公エルテさん。
 エスコンネタとルーデルネタがまだまだ続く予定です。

 実は、最初、アルトの名前はトート(Tod=死)でした。不吉すぎるのとエルテのセンスが悪くなるからAltキーにしたわけです。結構メインになるはずが、どんどん影の薄いキャラになりつつある現状。自我バリバリのデストローイ! なキャラにすればよかったかな……名前トートで。



Oct.25.2009
 少し修正。



[12384] 7Re Birth
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2009/10/25 04:19
『エクスカリバーのデバイスドライバを習得しました。デバイスの周囲に物質化した魔力刀身を発生させ、剣として使えます』
『SDKのデバイスドライバを習得しました。永遠に報われない戦いを続けることを対価に、無限の命を得ることができます』
『デザートイーグルのデバイスドライバを習得しました。デバイスを、ハンドガンタイプのカートリッジシステム搭載型汎用デバイスモードにすることができます。あまり高威力な魔法は使えなくなります』
『ライバックのデバイスドライバを習得しました。敵の攻撃が当たらなくなり、一対多近接格闘で無双になります』

 どこから突っ込めばいいのか。この世界でZ.O.Eの存在を知ってから、『ADA』の真似をしだしたエイダ。そして、原作でも聞いたことのない魔法の羅列。そしてその名前。
 エイダが適当に組み上げた魔法に、エイダが適当に名前をつけて報告ついでに説明しているだけ。
 近接戦闘をどうにかできるようになりたいとエイダに言うと、こうなった。『ブレインストーミング方式で魔法を発案します』ということだから、時間切れまで手も口も出せない。

『マミーのデバイスドライバを習得しました。鉄壁の防御と、追加で魔法を消費することで回復することができます』
『46cm砲のデバイスドライバを習得しました。あらゆる艦船を破壊できます。巨大な反動とマズルブラストに注意してください』
『CQCのデバイスドライバを習得しました。接近戦が得意になれます』
『ザ・ワールドのデバイスドライバを習得しました。時を止めることができます』
『ホーム――――』

 タイムアップ。タイマーが無機質な電子音を吐き出す。

『アローンのデバイスドライバを習得しました。屈辱かつ地味に無視できない程度の痛みを与える攻撃をランダムで放ちます。こんなものですか』

「とりあえずお前の趣味とネーミングセンスがよく判った」

『接近戦で使うならライバックをお勧めします』

「スティーブンでセガール拳な格闘を、魔法で実現できるか非常に疑問が残る。あれは一種のファンタジーだ」

『戦闘用プリセットとして、敵の行動に対する反応を脳にインストールするタイプです。あらゆる物理攻撃を回避あるいはいなし、カウンターを叩き込む受動戦闘となります』

「いろいろ問題はあるが、特に受動戦闘ってのはだめだ。積極的に攻勢に出る必要もある」

『基本的な格闘技能を磨き、エクスカリバーや焔薙などで戦うことをお勧めします』

「やっぱりその結論にいきつくか」

 前回、フェイトに接近されて、私は『俺』になった。
 その理由が、近距離で即時応答できる攻撃手段がなかったからだ。不覚とはいえ、なのはの時のようにアヴェンジャーで薙ぎ払うと、巨大で重いだけあって下手な殺傷設定の魔法より破壊力が大きいのだ。ついでにいうと、フェイト相手には遅すぎる。なるべく無傷で相手を倒したい場合、非殺傷設定の魔法で近接格闘を行う必要がある。

『士郎に、また訓練してもらいますか?』

「そうしよう」

 ハンナとして、魔法なしの接近格闘ばかりを教えてもらっていたが、今度は刀剣類を扱えるようになるべく、士郎に師事する。理論上では、他人の何十倍も早く成長できる。『破壊神の百人隊(ルーデルセンチュリア)』は、あらゆる方面で学習能力が高い。複数の人間が学習したこと、経験したことが、一人の人間の知識・経験となることに等しいからだ。

「一応、全部採用する。焔薙はクイックキャストに入れておいてくれ」

 私の魔法は独特で、エイダがロードして、私が発動を認証することで効率的に効果を発揮する。それだと即応性に欠けるから、クイックキャストというものが存在する。簡単な防御魔法などをクイックキャストに登録しておくと、ロードせずに一瞬で術式を起動できる。エイダが自動的に防御したりするのも、これに登録しているからだ。エイダに常駐させるから処理が遅くなるし、大掛かりな魔法は入れられないが、単純な魔法でも魔力出力でゴリ押しできる私には、充分過ぎるほど便利な機能だ。

『了解。焔薙をクイックキャストに登録します』

 さて。私の目的に、少しづつ、順調にたどり着きつつある。



 家事に慣れて、屋敷の維持は5人で行える。拡大再生産部隊は10人、常にサーバルームに詰めている。リロード部隊は15人、出稼ぎは10人。戦闘訓練要員が20。特殊任務に就いているのが20人。地表監視や捜索など、実戦配備しているのが15人。そしてアルトと日常生活をしているのが一人。計算が合わないのは、買いだしや雑務をする余剰人員、あるいは魔力の回復や訓練で怪我をしたりした私だ。これは状況により増えたり減ったりしている。
 余剰人員を別にに回したり、雑務をさせたりする。

「まさか、エルテちゃんがハンナさんだったとはね」

 その雑務の一つ。訓練の交渉だ。

「よく言う。気づいていたようだったが」

「常識に囚われていたんだよ。よく似ていたとしても、エルテちゃんとハンナさんの歳の差だと、親子にしか見えないからね。でも……何故なんだい?」

 10年前、私が消えた、そのことか。

「ある程度成長するまで、高町なのはに関与したくなかった。未来を変えることになるから」

「未来?」

 士郎なら、信頼できる。

「私は未来を知っていた。なのはが鋼の意思を手に入れるには、私は不確定要素だった。私はこの未来に存在しないはずだったのだから」

 この物語の詳細は知らない。おぼろげな記憶と、結末だけ。

「私は、なのはをはじめとする、この件に関与する全ての人間を守る義務がある」

「なのはが何をしているのか……知っているんだね?」

「教えることはできない。前にもそう言った」

「それは知ってるよ。それより……それを言いに来た訳じゃないんだろう?」

「剣を教えてくれ」

 もったいぶる気は無い。素直に言ったら、拍子抜けだったようだ。

「ハンナさんなら大丈夫だと思うけど、エルテちゃんじゃ……」

「身体能力は変わらない。なんなら、ハンナとして来ようか?」

「そっちの方がいいな。体格に差があると少しやりづらい。あと、恭也に師事することになるよ」

「忙しそうだしな。判った。恭也が帰ってくるころにまた来よう」

 と、意外にすんなり話は進んだ。



 さて、闇の書までに剣を使えるようになる算段はついた。
 後は、ジュエルシード関連の全ての人に救いを。既に、死ぬべき人達を生かしてしまっているのだから。もう、私はこの道を突き進むしかない。
 私は善人ではない。目的のためには犠牲を問わない。そして、その犠牲という対価を払わない。矛盾しているが、そういうことだ。
 傲慢で愚かに。できないことは無い。不可能をも可能にできる。これからやることは、そう思っていなければ意思が折れてしまう。

「『生命を還元するには、多くの犠牲を払わなくてはならない。対価は相応のものであるべきである。しかし、命で命の対価とするには、いささか不毛である。』」

 広い、広い空間に、私の声だけが響く。本を朗読する、小さな声が反響する。私とアルトの故郷とも言える、この場所で。

「『しかし、命の価値は絶対ではないが、命の対価としての命の価値は、常に等価である。命ほど、生命還元法の対価に相応しいものは存在しない。本書に記述されている『生命還元法』は、故に不完全なのだ。しかし、対価を払えば死した者の命を取り戻すことができる。』」

 『生命還元法』。それはかつて多くの人間が望み、果たすことができなかった秘術。化物を作り出してしまったり、街を幾つも吹き飛ばしてしまったり、世界が闇に包まれたり。だが、この書はその望みを果たしてしまった。世界の理を超えて、無視して。
 対価を払えば、ここにいる人々を生き返らせることができる。
 対価は、114人目の私。

「つくづく、この世界の理がいまいましい」

 私は魔法陣の上に立つ。私は魔法陣の外に立つ。そしてもう一人、命を失って久しい男の入ったインキュベータが魔法陣の上に運ばれる。

「エイダ、準備はいいか?」

『全て順調です。倫理的な問題以外は』

「それは問題なしと言うべきだ。ただでさえ胃が痛いってのに」

 エイダの冗談がありがたい。

「始めよう」

『了解。リザレクション、Run』

私から、魔力が吸い出される。魔法陣から光が漏れる。術式が私の中で暴れ回り、エイダが私にできないその制御に回る。世の理を無視して、無理やりこじ開けて、書き換えるのだ、この程度で済むのを僥倖と思いたい。

『エルテ、分解始まりました』

 エイダが報告するが、私にはよく判っていた。イケニエのエルテは、新しく私が作り出した私の分身。起動して、『ルーデルセンチュリア』に組み込まれているのだ。光に包まれて見えないが、すでに脚の感覚は無い。

『対象の細胞、活性化しつつあります』

 痛みがないのが救いか。生存本能は群としてのそれしかないから、個が死ぬことに何らのためらいもない。だが、思うのだ、『もしルーデルセンチュリアではなかったら』と。私はこれを実行できていたのか。はなからイケニエの命として作り出しておきながら、私はその考えを振り切れない。

『エルテ、消滅します』

 私は群である。群を構成する個に『個』は無く、群そのものが『個』である。今初めて、群を構成する個が死ぬ。どうなるのか興味はあった。死の感覚、それはいったいどういったものなのか。しかし、それよりも恐怖が勝った。私は『私』に恨まれないか。今まで、死んでもセンチュリアのネットワークから切り離された私は存在しない。

『制御が不安定になっています。集中してください』

 脳のリソースを余計なことに使ってしまった。確かに不安定になってしまった。

『術式、完全に安定しました』

「制御はエイダに任せる」

『了解。対象の意識レヴェル上昇。覚醒します』

 私で何度も成功している。何人もの私を犠牲にして。殺して、一人を犠牲にして蘇生して、殺して、一人を犠牲にして蘇生して、殺して、一人を犠牲にして蘇生して、殺して、一人を犠牲にして蘇生して、殺して、一人を犠牲にして蘇生して、殺して、一人を犠牲にして蘇生して……
 確信が持てるまで、私は私を造り、そして殺し続けた。
 そして、私ではない存在を蘇生して、今は彼を蘇生している。

『全工程を完了。インキュベータを解放します』

 クイックキャストの『ベクトルドライバー』を使い、エイダが彼を解放する。

「10年ぶりか。遅くなってすまない、クライド。気分はどうだ」



《あとがき》

 プレシアさん涙眼。
 ゾウディアックに行って手に入れた『生命還元法』(うろおぼえ)。
 あれで人を甦らせることはできなかったみたいですが、魔法で儀式は完全になったってことで。
 エイダが魔法作ってる描写ばっかですが、実はエルテは即席魔法で最初の生命還元法を成功させていたりするのですよ(裏設定)。

 エイダが順調にオタになりつつあります。ベクトルドライバーも某エロゲから。効果は違うけど。
 恭也という名前の男は刀使いである。異論は認める。あれはSDKだ! とか。

 アヴェンジャーの砲身でブン殴ると、バリアジャケットでも相当なダメージを食らうと思います。戦車砲に耐えられる(これもうろおぼえ)とはいっても、魔力構造物ですから。

Oct.10.2009
 同じ話を二つ投稿していたのを修正しました。
 報告ありがとうございました。



[12384] 8日常に於ける非日常への欺瞞
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:47485541
Date: 2009/11/08 16:24
「A-10神……まさか、そんな……」

「あはは……勝っちゃった」

 私のサンダーボルトは、無残にも空中で爆発する。
 対する赤い悪魔は口を開けたまま、いまだにレーザーを吐き出し続けている。

「あーっ! アリサちゃん、フェンリアはなし! LSWM撃たないでー!」

「勝負の世界に情けは無用。落ちなさい!」

 衝撃波に巻き込まれ、アルトのサンダーボルトも落ちる。

「くそ、機動性が違う」

「足が遅いよー!」

 何度やtっても、砲撃魔導師とくぎゅのタッグに勝てない。当然だ、ファルケンとフェンリア、どう考えてもワイバーンでも引きずり出さないと勝てない。

「……アルト」

「うん」

「ふふふ、ついにプライドを捨てたわね」

 アリサが勝ち誇ったように言う。しかし、私は迷わない。

「ACX最強はカリバーンだ。ファルケンやフェンリアは、雑魚が最強の名に酔うためのフェイクに過ぎん」

「シルフウィングの威力を思い知るがいいのよ!」

 最高速度、機動性、共に馬鹿みたいに高い機体、カリバーン。対空戦においては、これでもかという変態機動で比類ない強さを誇る。

「いい度胸ね、範囲攻撃の餌食にしてあげるわ!」

「アリサちゃん、それはやっぱりずるいと思うの」

「ファルケン使ってるおまえが言うな」

「にゃ!?」

 結論。なのファルケンを袋叩きにして、フェンリアリサのケツを追いかけ回した。

「いやー! 来るなー!」

「フフフ……怖かろう、恐かろう」

「A-10神の恨み、晴らさせてもらうわ!」

「ブレイク! 避けてフェンリア!」

 アリサの願いもむなしく、ミサイルと機銃の十字放火を食らって砕け散るフェンリアリサ。

「じゃあ、次は私と交代だね」

「うん」

 なのはがすずかと交代する。
 何をやっているかというと、我が根城のルーデル屋敷で女の子5人でPSPを握っている。未来の砲撃魔導師を育てるために、というのは冗談で、約三名が私の結界をブチ抜いて、抜き打ちの家庭訪問に来たのだ。
 正直、あり得ない。

「機体何にする?」

「えーと、どれがいいのかな?」

「ファルケ」

「架空機禁止」

「ええええええ? あたしのフェンリア……」

「おとなしく空戦でケリをつけるべきではないか。私はA-10神」

「私もサンダーボルト」

「あたしは……メビウスラプターよ!」

「すずかはワイバーン許可」

 初心者ゆえの配慮。ラプターより機動性は高く、なぜかミサイルがよく当たる。

「どれかな?」

「これ。一番端の方の。機動性が違う」

「わかった」



 などと遊んでいるうちにも、私は結界を調べている。
 そういえば、原作では結界の中に取り残されていたこともあったか。
 もしかすると、魔法の適正もあるのかもしれない。バーニングアリサなんてものもあったし。

『破壊はされていません。純粋に無視されたようです』

「比較的弱いのを広範囲にしたからか……なのはの近くにいたからか?」

 郵便や宅配まで来れないのは流石に嫌なので、それらは除外するように設定してある。
 そのはずなのに、スクールバスが来れないのは何故だろうか? 特に困らないので放置しているが。
 除外対象以外が来ると、戻ろうとするまで永遠に迷い続けることになる。

『憶測の域を出ません。アリサ・バニングスと月村すずかの二名には、魔力資質は感じられません』

「魔法の資質は無い。だが別のものはあるんだな?」

『主に、月村すずかから』

「警戒しなくていい。すずかなら、いや、月村家ならしかたない」

『ランナーがいうのなら確かなのでしょう』

 とりあえず、なのは効果か夜の一族補正か、そういう結論に落ち着いたが。

「招かれざる客、というか」

『クーゲルシュライバー、Ready』

 エイダが勝手にデザートイーグルを発動して、魔法をロードする。デバイスはここではないどこかに顕現し、それが勝手に『ソレ』を照準する。

「やめておけ。声までは聞こえてない。私は善良な市民、そうだろ?」

『了解』

 ジャミングがもう癖になっている。魔法を発動したが、魔力反応は探知されていないだろう。
 なるべく『ソレ』の方を見ないように警戒しながら、屋敷への道を戻る。

「やれやれ、監視か。誰だと思う?」

『フェイト・テスタロッサの可能性を提案』

「私もそう思う。屋敷の私をどうしようか……」

 屋敷の中を調べられたら、センチュリアがお出迎え。怪しさ抜群だ。今、外にいる私は野宿でもなんでもできるが、監視包囲されている屋敷の私は逃げ場がない。

『『最初の世界』に転送することをお勧めします』

「それしかないか」

 思い立ったが吉日。地下の転送ポートに全員が集まる。そしてすぐにあの施設へと飛ぶ。

「……あるいは、もうバレている可能性もあるか」

 監視――――サーチャーがこの街にどれだけ放たれたのかは知らない。だが、複数個所で同時に私が発見されれば。

『ヘルゼリッシュ、Run』

 天空の私は、フェイトの監視を始める。

「正解だ」

『セレスタルストライカー、Ready』

 だからといって、ここで突撃しては意味がない。私と『あの魔導師』は別人と、フェイトに確信させなければ。

「許可しない。わざわざ私とセンチュリアを結び付ける気か」

『のぞきには死あるのみ、ではないのですか』

「あれがただののぞきだと?」

『冗談です』

 この馬鹿とはきっちり話をつけるべきかもしれない。

「エイダ、終わったぞ」

『安心しました』

 次元世界の境界越しでもリンクできる私と違って、エイダは同じ世界でないとリンクできない。どういうことか聞くと、『タチコマです』という返答が帰ってきた。どうやら、情報の共有で疑似的に私と同じ状態にしているらしい。

「屋敷に結界の祠を建てて正解だったな」

『ダンボール箱効果、でしたか』

「似て非なるような気もするが、そうだ」

 結界の源が古びた祠であれば、昔からある『何か』だと思ってくれる。神社や、何か曰くのありそうな物を置いておくと更に効果は上がる。ダンボール箱は、あからさまに怪しい場所にあっても進路上や道のど真ん中になければ無視される。要はカモフラージュと言いたいだけなのだ。

「何か地味な呪いをかけて封印した適当な岩を、この前設置したしな」

『足の小指を箪笥の角にぶつけやすくなる呪い、です。箪笥がなければ何かの角に適用されます。調べようとした者は、遠隔地からの探査であろうと呪われる素敵な岩です』

「ああ、エイダの発案だったな」

 どこからあんな発想が出るのだろう。案外、こいつの思考はもはや人間である可能性が捨てられなくなった。
 機械にはできない、創造の力を得た可能性が高い。こんな馬鹿馬鹿しい呪いで。いや、予兆はあった。ブレインストーミングで魔法を作り出したあの時。

「フェイトの小指が心配だ」

『えげつないですね』

「おまえにそれを言う資格は無い」

 テクテクと屋敷に戻り、庭の祠に手を合わせ、屋敷に入る。ただの散歩に見せかける。そして私も転送する。これで屋敷の中で矛盾は無くなった。



「うおおおおおおおお! 燃え上がれ俺の何かァァァァァァァ!」

「無表情で熱血しないでほしいの。怖いから」

「エルテちゃん、一人称が『俺』になってるよ!」

「あー、こうなったおねえちゃんはしばらく元に戻らないよ」

「逃げろ逃げろー、あたしを狙った罰よー!」

 などと馬鹿騒ぎをする。エイダが念話であっちから見てる、あれを見てるなどと報告してくるので、敢えて見せつけてやる。

「避けッ……」

「お馬鹿さん! そこは機銃の巣よ!」

「なにィィィィィ!?」

 ガリガリと削られていく俺のサンダーボルト。弾切れを狙われて更に追い込まれている。為す術なし、逃げるのみ。

「よくA-10ごときであたしの攻撃に耐えたものだ!
中略!
死 ぬ が よ い!」

 ワイバーンが背後に回る。だが。

「かかったな!」

「え?」

 俺を追いかけることに夢中で、高度と速度を見ていなかったアリサ。俺は急降下し、Rトリガーをこれでもかというほど引き、そして地表すれすれで反転したのだ。俺のケツを追いかけることに夢中だったアリサは、わずかに引き起こしが遅かった。

「嘘だー!」

「バーニング1、クラッシュ!」

 地面にキスをした時の定番を言ってやる。

「ば、バーニング1?」

「アリサのコールサイン。似合ってるだろう? TACネームは……Goldene Flammeなんてどうだ?」

「ゴルテネフランメ? 何よそれ」

「ドイツ語で、金色の焔という意味だ。金髪が綺麗だし、いつもバーニングしているし、バニングスだし、ぴったりだと思うぞ」

「けなされてる気がするわ」

「だが、私はその髪が、性格がうらやましい。イトオシイ……」

「たしかに綺麗だけど……」

「けなしてるのは否定してないの」

 最終的にはAC6に移行したりと、なぜか空を飛んでばかりだった。普通スマブラとかじゃないのだろうか。5人ともすさまじく攻撃的なのは言うまでもない。あのおとなしそうなすずかですら、隙あらば私さえもガンガン落とす。

「機体選びに性格が出るな。アリサはこう、『死 ぬ が よ い』、なのはは『薙ぎ払え!』、すずかは無難にラプターとかワイバーン」

「そういうあんたはサンダーボルトで急降下爆撃しかしないじゃない」

「まあ。そうだな」

 あの感覚。重力加速度を超えて、Gが反転する時のゾクっとした感覚。あれがたまらない。
 ゲームでは感じられないのが残念だが。

「アリサは完全に突撃・殲滅・制圧タイプだな。ACZEROでマーシナリーから抜け出せなかったろう?」

「なんで知ってんのよ!」

「アリサだからな」
「アリサちゃんだし」
「アリサちゃんならしかたないの」
「ごめんなさい、何も言えないよ……」

 アリサへの集中放火が決まる。ああ、平和だ。



《あとがき》

 ひさびさにACXやったら思いついた。後悔はしない。

 なぜアリサがエスコン強いかというと、エルテが貸したからです。インメルマンターンやオーバーシュートのタイミングが神です。
 ちなみに、うちの爺さんは逆タカ落しができます。ヤバイぐらい強いです。

 なのはが砲撃による薙ぎ払いを覚えました。

 考えてみたら、原作一話から二日ぐらいしか進んでいない気がする。
 キャラ一人で何人もいると同時進行が難しいです。視点変更描写も。

Oct.25.2009

 順番を時系列順に変えました。

Nov.8.2009

 話数を変更するの忘れてました。



[12384] 9真意
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:47485541
Date: 2009/11/08 16:28
「ジュエルシード、封印!」

 遥か眼下、下界では、封印を行っているなのは。神社で犬を取り込んだジュエルシードと戦っていた。

「なのはが天才で、レイジングハートが優秀でよかった」

『うっかりセレスタルストライカーを放つところでした』

 なのはがモンスターに襲われ、エイダはザ・ワールドを無断で起動した。空間と時間に歪みが出て、カートリッジを馬鹿みたいに消費するから嫌いなのだが、この時ばかりはエイダの機転に感謝した。エイダの冗談みたいに、セレスタルストライカーを撃てば私は発見されただろう。
 止まった時間の中で、なのははバリアジャケットをしっかり装備していた。戦い慣れてはいないが、その魔法の才能は恐るべきものだった。

「次は何だったか」

『私にその記憶はありません』

 エイダに、私の前世の記憶は無い。私の記憶はあやふやだ。ジュエルシードが犬を取り込むのは、原作では昨日だった気もする。
 記憶だけではない。最近になって気づいたことだが、私の性格が変わっている。これが『精神は躯に曳かれる』という現象か。いまだアリサからは『男らしい』とか『紳士的』とか言われるが、私の根本の部分が変わりつつあるのが判る。十余年、確固たる意思を持つ人間でも、変わるには充分な時間だ。

「そうだったな。まあいい、引き続き監視だ。明日にはまた発動するはずだ」

 高町家周辺に大量の魔力を送る。不自然にならないほどに、回復に指向性を持たせたものを。怪我の治りは早くなり、疲労の回復も加速される。
 今までイレギュラーが発生したのは一度だけ。だが、これからまた発生しない保証は無い。なのはが疲労あるいは警戒不足で敵にやられたりすれば、その時点でシナリオは決定的に変わってしまう。あと一年、闇の書事件まではそれなりにシナリオ通りに動いてもらう必要がある。

「私が世界を創れたら、誰もが幸せな世界を創るのに。何故神は、こんな歪んだ世界を創った設定の神は崇め奉られるのだろうか」

『便利だからではないのですか?』

 世界の無情を神に例えると、エイダが答えをくれた。その必要は無かったのだが。

「だとしても、人間は神のキャラメイクに失敗している。人間が創るものなど、所詮全能には程遠いいい例だ」

 破壊神の器の私。神の器として造られていながら、全知全能とは断じて言えない。完璧を目指して造られていても、死ねない生命は不完全という矛盾をはらむ。

『ですが、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルを信仰しているのでしょう?』

「ルーデル教は心構えとジョークのようなものだ。閣下の復活など、信じている信者の方が少ないのではないか?」

『熱心に布教している割にはドライですね』

「信仰するというのは、愚か者が神にすがるという意味だ。強くあるべきことを教えの根幹とするルーデル教は、その点に関して宗教ではない」

 そんな馬鹿な話をしながら、地上に異変がないか探す。いい加減に暇なのだ、エイダが話し相手をしてくれなければ、退屈で魔法を乱射したくなる衝動に駆られる。

「……今日は運がいいな。見つけた」

『反応はありませんが』

「パッシブで反応を期待する方がおかしい。よし、ロックした。シール用意」

『了解、シーリングプログラム・バンダースナッチ起動』

 その伸びる魔力の腕で、ジュエルシードを掴み、同時に封印を施す。同時に、金色の光を捕捉した。

『フェイト・テスタロッサの反応を確認』

「知ってる」

 起動したジュエルシードは無い。私の魔力反応を感知したのだろう。

『ジャミングに失敗しました』

「面倒だからって、遠隔操作系の魔法使うべきじゃなかったな」

 今更の報告に、怒る気にもなれない。そもそも、私の失敗なのだ。

「あなた、でしたか」

「空気は薄くないか? 寒くないか? 苦しいなら、下界に降りるが」

「その必要はありません」

「生真面目だな、フェイト。プレシアの機嫌はどうだ?」

「…………」

 無言で睨まれた。

「そう怒るな。これをやるから」

 ジュエルシードを放る。フェイトはうまくそれをキャッチし、バルディッシュに回収する。

「何が、目的?」

「私が知る、全ての人にハッピーエンドを迎えてもらう。そのためにシナリオを書き換える。こんな悲劇、本当は26年前に阻止したかったが、な」

 クライドは間に合ったが、あの事故の時は、私は世界に存在していなかった。

「プレシアに渡して欲しい物がある。受け取ってくれるか」

「なんですか」

「これ。ついでに伝言を」

 ベクタートラップと名付けられた、ただのサイドパック。そこから私の補足と仕掛けが追加され最後の重要な記述の抜かれた『真・生命還元法』と『独ミ辞書』を取り出す。ミッドチルダの言語だったはずだから、これをつけておくべきだろう。

「……伝言は」

「『アルハザードには死者蘇生の術は無い。あるのは死体を傀儡にする術のみ。パスコードはRex tremendae』。覚えたか?」

「はい」

 なかなか記憶はいいようだ。問題があるとすれば、Rex tremendaeのつづりを間違えないことだが。もう少しネタが判る人なら、この次の、重要区画のパスコードも判るはずだ。そう、これは『あの施設』のゲートのパスコードだ。

「頼んだ」

 前と同じくゼロシフトで、今度は高度100kmまで駆け上がる。無音発動で警戒もされず、宇宙空間に逃げることで絶対に追われない。自己保護でカートリッジの消費が激しいが、実はそんなに気にする必要は無い。最近は消費より生産が多いくらいだ。最大秒間消費量が多いだけで、訓練や実戦ではそんなに使わないことが判ってから、屋敷のアーセナルではカートリッジが文字通り山となりつつある。アルトの37mmカートリッジも、密かに生産中だ。

「フェイトの部屋の屋上。ゼロシフト」

 フェイトに警戒され、上空監視ができなくなった。行き場のなくなった私は、とりあえずバラバラに地上に降りることにした。



《あとがき》

 原作開始の4日目のことです。
 思ったより進んでいました。

 呪われたフェイトの足の小指が気になる。

Nov.8.2009

 あとがきを修正。
 話数変更するの忘れてました。



[12384] 10非日常の合間の日常風景
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2009/11/17 20:13
 朝、何となく眼が醒める。なんて事はない、私は眠っていないのだから。センチュリアの誰かが一人でも起きていれば、私は覚醒しているのだ。昔、本当に昔、私がこの躯を得た頃、センチュリアは全員が同時に寝て、同時に起きていた。が、休眠が不要と判った頃から、ローテーションで、24時間必ず一人は起きているようになった。睡眠は不要だが、かといって生活からは排除したいものではない。ゆえに、一部を除き、夜は寝ることにしている。

「アルト、起きろ」

「あう~、あと86400秒……」

「人、それを一日という」

 アルトは私より性能がいいはずなのに、こうもねぼすけだ。私がなるべく人間として育てたからなのか、それとも別の要因があるのか。

「妥協して~、21600秒……」

「晩飯を食わせんぞ」

「それはやだ」

 結構現金な娘に育ってしまった。元気で明るいから問題は無いいのだが。

「なら、朝飯だ。行くぞ」

「お~」



 おねえちゃんは朝と夜にシャワーを浴びる。私も一緒。
 毎日、別で同じおねえちゃんが私のそばにいる。同じ顔のおねえちゃんがたくさんいて、みんな忙しいから。
 おねえちゃんは99人で一人だから、今私の近くを行ったり来たりしているおねえちゃん達全員がおねえちゃんだ。私にはよく判らないけど、「そういうものだ」と教えられてきた。おねえちゃんが普通じゃないことも。普通、兄弟姉妹はまったく同じ人がたくさんいるってわけじゃない。なのはちゃんのおねえちゃんやおにいちゃんと会った日に、「あれが普通の人間の兄弟だ」と教えてくれた。

「カノーネンフォーゲルをセットアップして」

「わかった」

 最近、おねえちゃんは魔法を教えてくれる。朝早く起きるのはこのため。でもおねえちゃんは砲撃を教えてくれない。今日もマルチタスクの練習。100マス計算しながらヘルゼリッシュを使ってカノーネンフォーゲルのデフォルト魔力弾で200m先の空き缶を狙い撃ち、雑談をする。

「アルトには、破壊神なんて物騒な名前はいらないからな」

「デバイスはカノーネンフォーゲルなのに?」

「いずれは教える。下手して友達を殺したくはないだろ」

 おねえちゃんは、昔、助けるべき人を殺してしまったらしい。最近、その人を生き返らせたらしく、結構機嫌がいい。いつもの仏頂面だから、見る人にしか判らないけど。

「制御ミスで地球破壊したりしかねないんだ、我々は」

『主は未熟にも程がありますゆえ』

 私のデバイス、カノーネンフォーゲル、通称カノンちゃんは、私を侮りすぎてると思う。こう見えて、躯の性能はおねえちゃんより上なんだから。

『否、精神面で100年以上の開きがあります。多少の身体性能の差など塵に等しい程に。例え主がエルテ殿と同じ魔法を使えたとしても、同数のセンチュリアを持っていたとしても、戦えば確実に負けるでしょう』

「んな!?」

 カノンはよく私の心を読む。どうも慣れない。

「確かに、負けはしないだろうな。戦闘は魔法の威力や性能だけじゃない。戦術・戦略を考え、罠と策略を張り巡らし、戦う前に勝てる状況を構築する。それが不可能ならば、相手を撹乱したり、隙を見ておとりや罠を設置して、追い込む」

「人、それを卑怯と呼ぶ」

「生きてこそ、その称号を得られる。正々堂々と戦って、いつも勝てる訳じゃない。状況と相手の力量を測り、戦い方を変えるのも戦略だ」

『つまりは、主は卑怯な手を使うに値する相手だということです』

 褒められてるのだろうか?



 ルーデル邸の近くにはバスは来ない。永劫迷走結界の影響で、永遠に同じ道を走る羽目になるからだ。その前に、認識障害結界を張ってあるが。
 だから、普通は歩いて学校に向かう。
 木々生い茂る民家なき山を、テクテクと下っていく。

「平和だな」

「そうなのかな?」

「『まだ』というのが頭につくが」

「あー、おねえちゃんが言ってたジュエルシード?」

「そうだ。街中に、いつ爆発するか判らない核弾頭を抱えているというのに」

 知らぬが仏か。

「ねえ、おねえちゃん」

「なんだ」

「私、何があってもおねえちゃんを護るから」

「は?」

 間抜けな声が出た。守護対象に護られる、なんて本末転倒だ。

「おねえちゃん、なんか、無茶してない?」

「エルテは無理はできない」

「そーじゃなくて」

 言いたいことは何となく判る。だが、私は止まるわけにはいかない。

「アルトを幸せにするために、私はここに在る。まだ消えるには早すぎる」

 センチュリアは、センチュリオンがいなければ成立しない。いずれ私はアルトの手足となり、アルトの願いを叶えるために働く。
 だがまだアルトは私がそう在るには幼すぎる。誤った道を選び、ただ壊すだけの破壊神と成り果てるのを傍観するのは愚かしい。人として在るように、今はまだ、私は姉を、家族を演じ続け、人間であることを教える。正しい心と意思を、アルトが得んことを願いながら。それが、あの時私を孤独から救ってくれた少女、アルトへのせめてもの恩返しだ。

「私は幸せだよ? だからおねえちゃんも……」

「残念だな。アルトのために生きることが私の生き甲斐で幸せだというのに。アルトは私にそれすら禁じるというのね。さらば、アルト。私は存在する理由がなくなってしまった」

「え? え?」

 嘘、ではない。私はアルトのためにここに在る。だが、それは私が数人いればいいこと。
 第一目標は達成し続けることができる。だから、第二目標に力を入れる。

『主、からかわれていることに気づいて下さい。あのエルテが女言葉を使っているのです』

「フフ……」

「おねえちゃん、ひどいよ」

「アルトが変なことを言うからだ。私はアルトといられるだけでいいのに。そのための行為を制限するようならたとえアルトでも許さない」

「許さない? どうするの?」

「ヤンデレになってやる」

「ごめんなさいもういいません」

 ネット環境を与えたのは失敗かもしれない。ヤンデレを理解できるということは、その……アレだ。
 一丁前に専用機にはパスワードとUSBキーまでつける徹底ぶり。絶対にいかがわしいものが入っている。まあ、年齢としては問題は無いのだが、精神年齢的に相応しくない。一応、対外的には小学生なのだ。

「心配するな。私が一人でも死んだことはあるか?」

「死ぬほどの怪我はしたじゃない」

「でも生きている。我等はなんだ?」

「不死身のルーデル。だけど、心配はするよ」

「なら、いつか全て話す。だから勘弁してくれ」

「絶対だよ」



 授業は退屈だ。道徳と簡単な計算しか教えていないアルトは真剣に聞いているが、私は知っていることばかりだ。抜き打ちテストがあったとしてもどうにでもなるし、いざとなればチートができる。したことはないが。
 だから、ほとんど白紙のノートを前に、萌えっとした絵を描いたりしながら、エイダとイメトレをしていたりする。

「なんでそれで成績が私よりいいのよ! 塾にも行ってないのに!」

「昔、な」

「ハードボイルド装ってもごまかされないわよ」

「ふむ。私は神だから、とでも言おうか」

「おこがましいにも程があるわ。何の神よ?」

「決まってるだろ」

「破壊神」
「破壊神」

 テストのたびに、アリサが突っかかってくる。いつものようにからかいながらあしらって、アルトと私の成績を足して2で割って更にからかう。いずれにせよ、数字は変わらない。
 以前私のノートに秘訣があるのではないか、と鞄の中身をぶちまけられたが、アリサ・バニングスの肖像画が描かれていたりするノートを見られ、面白い反応で礼をしてくれた。暇な授業中は絵の練習。テストで暇になれば、裏に名画とかを描く。某プロセッサ会社のCMが如く。先生に咎められたが、次のテストで『シュタインベルガーを酔い潰れるまで飲みながら生徒相手に愚痴をこぼす教師(先生も人間だからしかたないさ)』というタイトルで絵を描いたら、何も言われなくなった。

「どういう手を使ったの? 怒らないから言ってみなさい」

「そう聞かれたら、ルーデルならこう答えるしかないのは知っているだろう? 『そんなに不思議なのか? これといった秘訣は無いのだが』と」

 言うなれば、二週目だから。だが、それは誰にも言う気は無い。アルトにも、エイダにも。

「なんでだー!」

 アリサが騒ぐが、私はそれ以外の答を持っていない。彼女の納得する答は存在しない。

「そう気にするな。いい女には、謎と秘密がつきものだ」

「どこまでも紳士なあんたに言われたくないわ」

 失礼な。



 体育。フラストレーションがガンガン上がる科目であり、すずかの独壇場である。
 私も可能な限り全力を以て応戦するが、人間の極み程度にセーブされた身体能力で、吸血鬼に勝てるはずは無い。アルトと一緒になって俺を攻めている。

「よくも最後まで残ったものだ。
(中略)
し ぬ が よ い!」

「アルト、大佐の真似はやめろと言っているだろう」

「えい!」

「チッ……」

 ドッヂボールで、わざと外野に回ったアルトと内野のすずかによる挟撃。十字放火にさらされている気分だ。

「そぉい! あ」

「ぬるいぞ、アルト。私を侮ったな」

 全力は出す気は無いが、一瞬だけフルパワーで動く。

「きゃー! おねえさまカッコいいー!」

「すげえ、さすがあのアルトのねえちゃんだ!」

「今まで本気を出してなかったというのか!?」

「そこにシビれる、憧れるぅ!」

 外野がうるさい。殆どの生徒が送られたそこは、半ば観戦席と化していた。男より女の歓声が大きいのは何故だ。

「さあ、食らうがよい」

 悪役のように笑い、ラインギリギリから加速する。加速しながら、自軍コートの中心で全力を以て投げるのだ。回転を効かせ、ジャイロ効果によるエネルギーの増大を図る。視線をずらし、すずかの回避方向を予測し、視線と全く違う方向へ投げた。

「あれ?」

 フリをした。
 間違いなく食らうと思っていたすずかは止まり、その迷っている間にポーンと、肩に弱い球が当たった。

「月村すずか、このエルテ・ルーデルが討ち取った!」

 これがフェイントというものだ。全力で投げる必要は無い。美少女に対して全力の攻撃なんて、紳士のやることではない。微笑ましくだまし討ちをするのだ。



 HRも終わり、テクテクと歩く帰り道。

「おねえちゃん、朝言ってたアレ?」

「その通り。アルトは死なない程度に手加減していたが、私は人間程度に抑えているからな。その状態ですずかに勝つには、な」

 強い相手には策を以て当たる。私はそれを実行した。
 着替え終わると、いつものメンバーが集まった。

「何か大技を出すのかと思ったら、拍子抜けねー」

「大技って……そんな、ゲームじゃないんだから」

「ああ、私はすずかと違って普通の破壊神だから、爆撃ぐらいしかできない」

「破壊神な時点で普通とは程遠いと思うの」

「でも爆撃は正しいと思うよ? 上から落ちてきたから」

 喋りながら、塾までなのは達についていく。別に帰りのルートではないが、アルトの友達と一緒にいる時間を少しでも長くするために、寄り道をしているのだ。
 別の場所では、また愚痴を聞いていたりする。

「もー、あなただけが心のオアシスよぉぉぉぉぉ……癒しだわぁ」

「私だけというのも危険な話だな。もし私がいなくなったらどうする?」

「考えるのも恐ろしいわ……」

「ふむ。卒業しても飲み友達ではいてやれるとは思うが、いつまでもかく在れる訳ではないからな。覚悟をしておいてくれ」

「エルテちゃん! お嫁に来て!」

「構わないぞ。教師と教え子、しかも百合、禁断の関係か」

「私の幻想まで壊さないでぇぇぇぇ……」

 などと、最近では依存症を発しかけているようだ。何故こうなったのか、誰かに相談したい。
 やれやれ。



 おねえちゃんは時々翠屋に顔を出しては、甘いものを注文する。私は知らなかったけど、士郎さんと桃子さんと、おねえちゃんは昔からの知り合いみたいで、よくおまけをつけてくれる。今日のおまけはクッキーだった。

「ねえおねえちゃん、どうしてもうここじゃ働かないの?」

 私とおねえちゃんが『生まれる』前、おねえちゃんは『ハンナ・ルーデル』としてここで働いていた。ある程度成長するまで、なのはちゃんと関わりたくなかったからやめた、と言ってたけど、なのはちゃんとはもう友達だし、士郎さんにも正体はバラしているみたい。だったら。

「……理由はどうあれ、私は逃げた。一度逃げたら戻らないのが、私のけじめというものだ」

 相変わらず、そのけじめというものがよく判らないけど、おねえちゃんはそれを大事にする。それは、おねえちゃんが自分に課したルールなんじゃないかと、私は思っている。おねえちゃんはいつも『なのはは頑固だ。あんなほわほわトロトロしていながら、不屈の心というか、ダイアモンドは砕けないというか、鋼の意思というか、そういったものを持っている』なんて言ってるけど、おねえちゃんもいい加減頑固だ。そのルールをはっきり私に話したことはないけど、人前ではよほどの事がないと全力を出さないし、困っている人は無条件で助けるし、そのためには手段を選ばないし、絶対にお礼を言われる前に逃げるし。いつも一緒にいれば、そんなことぐらいは判る。

「どうだい、新作のケーキは?」

「うまい、としか言いようがない。語彙の少なさに我ながら呆れるほどに。さて、士郎、桃子を嫁にくれ」

「断じて断る!」

 なんていつもの冗談に対し、半ば本気で反応する士郎さん。万年新婚夫婦の噂は本当らしい。

「フフ……うらやましいと言うべきか。ならばなのはを頂こう」

「な……なのはを、だと? エルテちゃんは確かに男前だし強いし頼れるが……」

「そこ、本気で悩まない。冗談に決まってるだろう」

「あはははは、おねえちゃん、男前だって!」

「ふむ、まさに恐悦至極。まさか士郎にそこまで褒められるとは」

 おねえちゃんは確かにカッコいい。アリサちゃんいわく、『漢気がある』らしいけど、それがなんなのか判らない。だけど、おねえちゃんが喜んでいたところを見ると、悪い意味じゃなさそうだ。

「ああ、士郎。コーヒー豆が耐用限界を超えている気がする。いつもより香りが微妙に違う」

「なんだって? って、いつも思うが、よくそれで判るな」

 おねえちゃんのコーヒーは、コーヒーじゃない。ミルクと砂糖の入れすぎで、元の味なんて判らないくらいに埋め尽くされている。なのに、時々こんなことを言う。
 『牛乳を飲まずして、何がルーデルか』なんて戯けた事をいつも言っているけど、一日牛乳かそれに類するもの(豆乳でも可)を抜くと、なんか力が出ない。本気で閣下の末裔だと信じてしまいそうなエピソード。

「多分、JunとJulを見間違えてるぞ。前もこれと同じことがあった」

「見てこよう」

 味に関しては、おねえちゃんは神がかっている。士郎さんも、悲惨なコーヒーを見て半信半疑だけど、いつも正解なので、今では無条件に信じられている。あ、いつだったか、士郎さんに試されて激怒した日があった。コーヒーに酢だったか塩だったか、いくつかの調味料をほんの少しだけ混ぜられて、静かにインフェルノしながら笑っていた。あの時は、よく晴れていたのに寒かった。

「期限が切れてたよ。助かった」

「貸し一つ、といきたいが、私以外に気付いた人間はいないみたいだな。やれやれ」

「そうはいかない。お礼くらいはさせてくれよ」

「ふむ。じゃあ、アルトに何か一品やってくれ」

「おねえちゃん、これ以上食べたら晩ご飯が食べられないよ」

「明日でいいか?」

「もちろん」

「ん、じゃあ、勘定頼む」

 破壊神の器を平和利用している例なんだろうか。能力を本来の使い方で使っているところは見た事が無い。おねえちゃんは変わり者だ。こんなに素晴らしい力を、正しいことにしか使わないんだから。私だったら絶対にこんな穏やかで楽しい日々は過ごせなかったと思う。おねえちゃんが殺すことと壊すことの意味、そして手加減を根気よく教えてくれなかったら、友達もできなかっただろう。もしくは簡単に殺してしまったのだろう。ばらばらになったおねえちゃんを、おねえちゃんが悲しそうな顔でつなげたりしているのを思い出すと……

「アルト、アルト」

「なに、おねえちゃん」

「ほうけるな。何のためのマルチタスクの訓練だ」

「あはは、おねえちゃんみたいにはまだなれないよ」

 なんだろう、このもやもやした気持ちは?



《エイダ》

《念話で話すとは、珍しいですね》

 晩飯も終わり、アルトを風呂に入れ、今は私に抱きついて眠っている。

《どう思う》

 主語は無いが、エイダには伝わる。私達の、最大の懸案事項。

《不安定ですが、衝動の制御はできているようです。元々が兵器ですから感情の制御は考えられている可能性が高いです》

《だが、不安定だ。私よりヴァージョンが上というだけで、完全体ではない可能性もある》

《研究施設のセキュリティの解放を待つしかありません。それまでは、様子を見るしかないでしょう》

《くそ……》

《焦るべきではありません。いざという時のためのセンチュリアでしょう》

《ああ、そうだな》




《あとがき》

 アルトに不穏な空気が。
 平和な一日をお送りしました。

 カノーネンフォーゲルの形としては、アルトの左右に37mm Flak18カノンポッドが二門浮いている状態です。『フォーゲル』はどこにいったか? Flak18のオリジナルが88mmだから、小型化された37mmは鳥のための機関砲であると思われ、そして破壊神の器は空戦魔導師であるので、間違いではあっても、名前としてはそう遠くはないかと。Flak18なんて名前よりはデバイスっぽいし。
 ちなみに、カートリッジロードは二発同時。37mmなのでアヴェンジャーより単発の威力は高いが、弾数は少ないのでアヴェンジャーより弱いと思われますが、アルトの魔力が桁違いなので、カートリッジシステムなんざむしろ要らないなんて。馬鹿魔力の圧力に耐えられるよう、異常なほどに強化されています。あー、すげえネタバレしてる。

 ルーデルに牛乳は欠かせません。乳を抜くと少し気が抜けます。
 豆乳でもいけるのは、牛乳がない時の緊急策として開発者が云々。

 エルテは卑怯になるといいますが、アルトとでも戦わない限りそんなことはさせません。手に負えない存在にのみうろたんだーと化します。
 冥王閣下と戦う時は策と呼べるもので戦うはずです。私が暴走しなければ。

 なんか今回アホみたいに長くだらだらとしていますが、次は多分反動で短いと思いますのでご容赦を。へたくそな私を笑ってください。

Nov.8.2009

 話数を正しく変更。

Nov.17.2009

 間違いを修正しました。
 ご指摘ありがとうございます。



[12384] 11訓練・訓練・訓練
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:b14f60b8
Date: 2009/11/08 16:37
 木刀を振る。別の場所で、私が10人、同じ動作を真剣を持ってしている。

「凄いな……」

 恭也が呟くのが聞こえた。これが普通の人間の躯で、私が一人なら、純粋に喜べただろう。

「流石に5時間もやっていると飽きるな」

「あ、ああ。もういい」

 単純計算で50時間分の経験。私の眼で私を見て、悪いところをフィードバックするから、余計に成長が加速される。

「休憩しよう。疲れただろう?」

「いや、全く」

 息すら上がっていない。腕には倦怠感も、痛みもない。前に冗談で言った、ターミネーターのようだ。

「ものすごいタフだな。それ、かなり重いはずなんだが」

「タフさならナガセや須田恭也にも引けをとらない。ルーデル閣下を過大解釈して造られた躯だからな」

 敢えて言おう、奴等は変態であったと。可憐な少女を魔王の器にする理由が『ギャップ萌え』。あの世界でそのファイルを見た時は、プラネットブレイカーを叩き込みたい衝動に駆られた。その彼等の理想の少女が傷つくのが見たくないから、究極の肉体を作り上げ、与えたのだ。

「須田、恭也?」

 それに食いつくか。

「不幸にも不老不死の呪いをかけられて、異界に閉じ込められて、永遠に化物を殲滅し続ける運命の、永遠の16歳だ」

「む……それは嫌だな」

「美耶子という女の子に会ったら、絶対に離れるな。赤い水には近づくな。警官は殺しても警戒しろ」

 ニヤ、と笑いながら、うろ覚えなどうあがいても絶望的な状況を思い出し、的確な助言を与えた。

「凄く物騒なアドバイスが聞こえた気がするが」

「気にするな。休憩はもういいだろう」

「……立場が逆転してないか?」



 と、私が恭也をしばきしばかれて(HP 8750/9999)、疲れ果てた恭也にマッサージをしている頃、別の場所では……



「う……ぐ……うわ!」

 クライドのリハビリに付き合っていた。
 冷凍睡眠していたとはいえ、10年もインキュベータの中で死んでいたのだ。私とエルテが解凍直後に動けたのは、我々が、破壊神の器だからだ。いついかなる時も、常に戦えるように造られている。

「ぬう……」

「今日はもうやめておけ。急いては事をし損じる、と言うからな」

「ああ、そうするよ」

 床でもがいているクライドを、車椅子に乗せて押す。

「ありがとう」

「気にするな。力だけはあるからな」

「いや、そうじゃない。艦から助けてくれたこと、艦を沈めてくれたことにお礼を言ってなかったからね」

「艦を沈められて礼を言う艦長なんて、初めて見た」

「はは……闇の書に侵食されすぎて自爆できなかったんだ。君が消し飛ばしてくれなければ、今ごろ……」

 驚きの新事実が発覚。クライドは艦の自爆に失敗していたらしい。ただクライドを死なせないためだけに行動していたのに。

「今でも鮮明に思い出せるよ。黒い光に包まれて消える……」

 血のように紅く、黒い、私の魔力の光。あの時はとりあえずアルカンシェルクラスの威力を出そうとして、プラネットブレイカーを叩き込んだ。初めて惑星破壊砲が有効活用された事件だったが、その余波で小規模な次元震をおこしてしまい、結果、クライドは死んだ。
 ハッピーエンドの可能性を自ら叩き壊してしまった。しかし私は、愚かにもプレシアと同じ研究に手を出し、それを完成させてしまった。

「でも、私はクライドを殺してしまった。10年の時を奪った。恨まれても、感謝される理由は無い」

「いや、私はあの時死ぬはずだった。だが、君が助けてくれた。確かに死んだのかもしれないが、今、こうして生きている」

「犯罪者の手によって」

 クライドの笑顔が固まる。

「確かに、私はクライドを甦らせた。117人目の私の命を対価に。生命還元法の確立、立証実験のために、17人の私を犠牲にした。クライドを蘇生させるためだけに、18人のクローンを造り出し、殺した。時空管理局も、この行為を許すほど寛容ではない。エルテ・ルーデルという個人がただ生まれて自殺しただけ、ではすまないだろう」

「だが……」

「やむを得ないとはいえ、管理局の艦を撃沈している。そして、管理局に登録していないい今、違法魔導師扱いだ。そしてそれを踏まえた上で行動している。酌量の余地は無い」

「……だが、恩人であることに変わりは無い」

 恩人。そもそも、人であるかどうか怪しい。

「これを見てもそう思えるか」

 ある部屋に入る。

「ここは?」

「エルテの製造工場」

 全ての灯が灯される。

「!」

 そこは、プラントだ。インキュベータが並び、その中で、私の素体が眠っている。
 119とラベルの貼られたインキュベータの前に向かい、その隣のコントロールパネルを操作する。
 解凍開始。

「ここにいるのは、全て私。覚醒すれば、私の一人となる」

 覚醒処理。

「我々はルーデルセンチュリア。破壊神の百人隊。もう百人を超えているが、基本的に行動するのは99人。私は118番目のエルテ。今存在するエルテの、ちょうど100人目」

 排水。

『私は119番目のエルテ。120番目のルーデル。今存在するエルテの、101人目』

 開放。

「なあ、クライド」
「私は、なんなんだ?」

 だれにも訊けなかったことを、今初めて訊いた。



 魔法戦の訓練は、エイダが相手をしてくれる。恭也にしばかれた訓練部隊は実戦部隊と交代し、『最初の世界』で訓練に励む。

『敵、オービタルフレーム、ジェフティ。及びメビウスワイバーン、ラーズグリーズファルケン。囲まれました』

「なあエイダ。詰んでないか?」

『せいぜい頑張ってください。可能性はゼロではありません』

「限りなくゼロに近いか」

『その通りです』

 最強のOFと最強の戦闘機と最強の攻撃機。勝てる気がしない。

『メビウスワイバーン、QAAM発射』

 ミサイルがどこまでも追いかけてくる。

「くそ、ノスフェラト!」

『Ready』

「ドライヴ!」

 小型の誘導弾が幾つも打ち出される。高速で移動しながら、アヴェンジャーのデフォルト砲撃も行う。バルカンモードにする暇も惜しい。

『ミサイル撃破』

 ミサイルは撃破できても、メビウスにもジェフティにも当たらない。ブレイズに関しては、ボコボコ当たっているのに無視だ。

「おい、命中してるぞ」

『ラーズグリーズの装甲です。ノスフェラトの魔力密度では貫通できません』

 最悪の状況。結構高機動なノスフェラトが当たらず、あるいは無意味。範囲破壊兵器を使うのが最良だが、それだと訓練の意味がない。

「再優先撃破目標、メビウスに設定」

『再優先撃破目標、メビウス』

「視界外警戒頼む」

『了解』

 最強トリオの中で、最も装甲が弱いのがメビウス。やはり『機動は神、装甲は紙』と揶揄されるコンセプトは、メビウス専用X-02にも適用されているだろう。希望的観測だが。

「うごッ!」

『背後からジェフティが接近』

 攻撃された後に言われても、意味は無い気がする。そういえば、奴がオリジナルだったか、ゼロシフトは。ネイキッドじゃないだけましだ。

『敵ジェフティのゼロシフトを予測します。よろしいですか』

「先にやってくれ……」

 アヴェンジャーで魔力弾をばらまいて牽制をしながら、なるべく射程外に居座る。最も怖いのはファルケンレーザーだ、射程2400は伊達じゃない。射程ギリギリだと、レーザーが暴れまわるので、正直3000は離れたい。
 ジェフティはもう射程とか意味がない。ゼロシフトで一瞬で距離を詰められる……いや待て。

「カートリッジロード、チェトィリェ。バンカーバスター」

『Ready』

「ゼロシフト予測は方向も教えてくれ」

『了解』

 さて、ファルケンやワイバーンが寄ってこれないように、消極的攻勢に出る。

『メビウス、被弾』

「おお」

『ダメージ22%を与えました』

 ACEでのAAGUNのダメージはその程度だったか。ミサイル一撃死は、敵だから適用されないだろう。というのも、オタ化が激しいエイダは、ゲームの設定で俺に空戦訓練をさせているのだ。メビウスもブレイズも、ZEROのメビウスを元に魔改造されている。よほど巧くないか、運がよくないと当たらない。

『メビウス、学習した模様。アヴェンジャーはもう通用しません』

「なんだと?」

『バルカンモードへの移行を提案』

「許可する」

 砲身が細く、軽くなる。

『ゼロシフト、真上です』

「馬鹿め」

 バルカンを真上に向ける。完全にロックオン。

「バンカーバスター、フォイエル!」

 ゼロシフトで亜光速まで加速したジェフティが、防御・装甲貫通の砲撃に貫かれた。

『ジェフティ、破壊を確認』

「次だ」

『警告。レーザー攻撃です』
『警告。QAAMです』

「な!」

 光が俺を包む。同時に全身に着弾するQAAMの痛み。

『撃墜されました。おつかれさまでした』

 訓練だが、死ぬほど痛い。ファルケンレーザーとQAAMのダブルパンチどころか何発食らったも判らない。QAAMは2発しか撃てないから、なんて甘えは許されない。追撃の機関砲もついでに食らったのだ。

『最大の脅威、ジェフティを撃破し、メビウスにダメージを与えました。評価、A』

「Cだ。周囲の警戒を怠った。ゼロシフトを使えば逃げられた可能性もあった。クイックキャストに入れてすらいなかった俺の判断ミスだ」

『訓練開始前の評価では、どの敵にもダメージは与えられないはずでした』

 どれだけ俺をいじめれば気が済むんだ。

『お見事です』

 ほめられた。悪い気はしない。



 その次の日の訓練メニューは、対地・対艦・対空・対宙同時戦闘。殺す気か。



《あとがき》

 ギャグが書けない。
 というか微妙な気がしてならない。
 昔、「てめーはシリアスだけ書いてろ」などと言われたことがあったり。
 現在死ぬ気でセンスを磨いていたり。磨けるものなのか?

 とまあ、訓練編です。
 エルテが何人もいるので、殆どのシナリオが同時進行であまり話が進みません。更に人数増加フラグ。今のところ、120人以上増やす気は無いですけどね。クローンも一つの命なら、命の対価として消費できるのではないか。『アイランド』とか、『あなたは誰のスペアですか』とか、『ぼくのたいせつなもの』みたいな。方法は違うけど。

 最近、無印地上波の録画を見直していましたが、流石に悪い画質に辟易して、DVD購入という暴挙に出ました。ハッハー! 今日からカロリーメイト生活だぜー!

 産業革命記、全然できねえ……機械工作法の講義受ければ受けるほど……

Nov.8.2009

 話数変更。



[12384] 12歪みゆく世界
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4bfc4d89
Date: 2011/02/21 20:44
 学校のジュエルシードの封印を終え、へろへろと帰るなのはを見届けた後、フェイトのサーチャーをどうするか悩んでいた。

『デコイのデバイスドライバを取得しました』

「おとりになれる本物が100体ほどいるんだが」

『原作のデコイとは少々趣が違います。相手が無能で愚かで役立たずな機械ではないことを考慮して、様々なものを模倣することができます』

 いったい、何があったのだろう。最近やたらと人間臭くなったとはいえ、自分もその機械の一種であることに気付いているのだろうか。

「ただの幻影じゃないか」

『概ねそのとおりです』

 しかし、このデコイのおかげで打開策が見えてきた。気がした。

『そもそも、屋敷に帰ろうとするのが間違いなのではないのでしょうか。分散、あるいは今のままで充分であると提案します』

 それもそうだ。とりあえず、アルトと私が生きるには充分な量の食糧備蓄はあるし、掃除は数日はしなくても大丈夫、と思いたい。選択は100人分あるわけでもなし、二人分でどうにかなる。
 問題は、野宿する羽目になった私だ。天空からの監視も、カートリッジの供給が不可能であることからあまり長い間はできそうにない。幸いなことに、街全体をカヴァーできない程度にはサーチャーが少なく、私が複数いることは判っていないようだ。しかし、二日目の今日、少し匂いが気になり始めた。

「ホテルかマンションかアパートか、セーフハウスを用意しておくべきだったか」

『ハンナを呼び戻し、ステルスで屋敷を脱出。そして賃貸契約あるいは売買契約を結ぶべきかと。いえ、こんな時こその魔法です。今思いついたデバイスドライバを試してみましょう』

「…………」

『露骨に嫌な顔をしないでください。クーゲルシュライバーなどの前例もあります』

「じゃあ、やってみろ」

『Ja』

 エイダは時々口調がドイツ語に戻る。
 私の魔力が勝手に消費され、青い光に包まれた『物体』が待機モードのアヴェンジャーから射出される。

『触れてみてください』

 言われた通り、右手で触れると、『物質』が分解され、私の躯に吸い込まれ、全身が輝きだした。

『メタトロンを取得』

「……どこかで見たことがあると思ったら」

『私がいて、ランナーがいるのです。このぐらいの演出は許されるでしょう。気分はどうですか?』

「味気ない、と言うべきか。シャワーを浴びてないのにこうだと、どうもな」

 皮膚から、服から、汚れが全て落ちていた。

『非常手段です。我慢してください』

「光も目立つな」

『そのためのデコイです』

 デコイ起動中は、本体が不可視となる。いっそステルス迷彩系の魔法を使えと言いたい。

『そのはっそうはなかったわ』

「おまえ、本当にAIか?」

 ジョークのレヴェルが日に日にオタオタしくなっていく。最近はゲームなどしている暇などないというのに。

『独立型戦闘支援ユニットです』

「…………」

『昔は『ADAだ! ADAだ!』と喜んでくれたのに、時の流れとは無情なものですね』

「おまえの育て方を心底後悔している」



 朝になり、昼になり、なのはに連れられ、サッカーの試合を観戦することとなった。アルトは興味津々で、私はうろおぼえのルールを教本で補いながら聞かれるまま説明していく。アリサとすずかの二人組も来ていたが、アルトに説明するのに手いっぱいで、あまりからかえなかった。

「ねえねえ、なんでみんなおとなしくなったの?」

「ファウルだ。ルールを破る行動をすると、ああいう風に相手にボールの主導権を取られる。今は相手のファウルだから、こちらが主導権を……」

「あ、あれ、何があったのかな?」

「ボールがコート外に出た。相手のボールとなり、ラインによりコーナーキック……」

「ねぇねぇ、あれ何?」

「聞けぃ!」

 と、説明がクエスチョンに追いつかない。非常にも、アルトは説明を途中から聞いちゃいねぇ。

「次、対戦でワイバーン使うぞ」

「こっちはファルケン使うもん」

 ZEROに移行してから、X-02の威光は激減してしまった。ならば。

「来月の翠屋予算を30%カット」

「ありがたく話を聞かせてもらいますおねえさま」

 この変わり身の早さは、従わせるために条件を多用した結果、なのだろう。ほかの人間の出す条件にはかなり悩むが、私は出す条件があくどいらしい。
 対して、なのはサイド。

「がんばれー!」

 などとまじめに応援している百合二人と、面白そうに、無言で黙々と見ているなのはとユーノ。
 確かに、この試合は面白い。原作では、かくもセガール映画のように一方的な試合だったか。翠屋JFCの少年達は戦闘民族に鍛えられ、今や頭の上にボールを乗せたままゴールへダイブしたり、ゴールからゴールへシュートをねじこむ長距離砲撃なども行ったり、どうも曲芸のようなプレイが一方的で退屈になりがちな試合を彩っている。見た顔が何人かいると思ったら、アルト制圧に使えないかと躯の動かし方を教えたクラスメイトがいた。私の高機動運動法と戦闘民族による訓練の結果は、どうもオフェンスに特化しているようで、一度抜かれるとゴール前まで抜き去られることが多々あったが、キーパーによる最後の壁が高くそびえ立つ。

「オリバー・カーンも驚きの鉄壁だな」

「だろう?」

 その呟きは士郎に聞こえていたようだった。すでにアルトへの説明は諦めた。翠屋予算はカットされた。

「一方的過ぎないか? 後々に禍根を残しそうなほど」

「ははは……うっかり、全力でいけ! なんて言っちまったもんだから」

「私も悪いのだがな。昔、あの中の数名に、アルトを抑えるために協力してもらった」

「あー、なるほどな」

 ものすごく納得してくれた。昔のアルトの暴走っぷりは、ここまで知られていたのか。

「昔、なのはがよく言ってたよ。心臓が足りないって」

「全くだ。今は士郎が、その気分の片鱗を味わっているようだが」

「娘の心配をしない親はいないさ」

 娘。その単語が気になってアルトの方に意識を向けると、うずうずしているのが判る。限界まで躯を振り回して遊びたい、そんな想いを私は叶えられないでいた。

「時間だ」

 笛が鳴る。ゲームセットだ。
 士郎と別れ、なのはの近くに向かう。

「セガール映画を髣髴とさせる試合展開だったな」

「へ? セガール?」

 有名ともマイナーとも言いがたいが、この歳の子に見せたいものではないだろう。知らないのも無理は無い。

「特にピンチもなく敵を圧倒する映画だ。一方的だといいたいだけ」

「そうなんだ。うん、たしかにそんな感じだったね」

 順調に世界は変貌していく。今のなのはに、疲労の色は見えない。ジュエルシードも8個集まっている。フェイトも、もっと後にこの世界に来るはずだった、はず。

「小学生の試合とは思えん。次は、ドイツから非常識な連中を呼んで、上には上がいることを教えてやらなければ」

「へえ? そんな知り合いがいるの?」

 アリサが耳ざとく聞いていたらしい。

「アドルフ、ヴァルター、ヴィルヘルム、ヴェルナー、エーリヒ、ギュンター、ゲルパルト、ハンス、ヨハネス。これで9人。エルテとアルトでルフトヴァッフェの完成だ」

「ねえ、それって……」

「どこかで聞いたような……」

 無論、その9人が幻影で化けた私であることは言うまでもない。

「アドルフって、ヒトラー?」

「ルフトヴァッフェにヒトラーがいるか。アドルフ・ガーランドだ。あ」

 うっかりネタをばらしてしまった。まあ、どうでもいいことだが。

「ベルカのエースじゃない!」

「ドイツだ」

 アリサも重度のエスコン中毒になってきたようだ。時々聞こえる鼻歌もジャーニーホームを歌っていたりする。少々音程は高いが、うっかり敬礼をしそうになるから危ない。ベルカという単語に、ユーノが反応したのは余談だ。

「という訳で士郎。どうだ?」

「遠慮する」

 即答されてしまった。ルフトヴァッフェの超人エースどもを相手にするのは、文字通り無謀というものだ。

「やれやれ。そういえば、この後は翠屋で打ち上げか。ハンナを手伝いに向かわせよう」

「そいつは助かる」

「終わったら呑もう」

「そうだな……って、おい! 小学生!」

「子供がお酒なんて飲んじゃだめ!」

 なのはが耳ざとく咎める。

「私は目的語を言ってはいないのだが」

「にゃ? もくてきご?」

「士郎は私と呑むのが嫌か」

「ハンナさん?」

 22歳の私、参上。

「ハンナさんがエルテちゃんじゃ……」

「何を言ってる。密度の高い人生を送ってきたからと言って、ボケるにはまだ早いぞ」

 うっかり秘密をバラそうなどという輩には、ハンナの容赦ない毒舌が待っている。

「い、いや、なんでもない」

「ああ、なのはちゃん。目的語というのは、『私が酒を飲む』という文において『酒を』というところを指す」

 絶妙のタイミングで士郎の言葉をスルーして、なのはの疑問に答える。国語はあまり得意ではなかったが、新明解第六版をリアルタイムに読みながら多少のアレンジを加えた答えだ、これといって間違いではない。

「そうなんですか」

「なのはは確か文系が苦手だったな」

「う……」

「誰でも苦手なことはある。そう気にするな」

 理系は天才なのだが、文系はボロボロのなのは。とはいえ、理解力と記憶力は素晴らしく、噛み砕いて教えるとちゃんと覚える。数学に関しては面白いように理解してくれるので、冗談で方程式から微積まで教えたのだが、完璧に理解して決まった。おそるべし、高町なのは。




 試合に関して五人で雑談していると、撤収が始まった。ぞろぞろと翠屋へ向かいながら、未だ雑談を続ける我々。

「――――で、ジャンクションに失敗して」

「あー、よくやるよ」

 最終幻想8の話題にシフトしているのは何故だろう?

「アルテマは天国と地獄の島で集めてるけど……」

「エンカウント無しを手に入れるために何匹のサボテンダーを殺したことか」

「レベル上げると詰んじゃうしね」

 そんなことを話しているうちに翠屋に着く。翠屋予算を80%にまで減らされたアルトは、少しだけげんなりしているが。
 翠屋では、いちはやく到着したハンナがウェイトレスをしていた。どこぞの雑技団もびっくりな感じで。

『うわぁ……』

 私とアルト以外の三人が呆れとも感心ともいえない微妙な声を上げていた。

「ねえちゃんすげー!」

「俺たちにできないことを平然とやってのける!」

「そこにシビれる憧れるぅー!」

 と、少年達には大人気だったが。

「ハンナ、注文だ」

 センチュリアとはいえ、公衆の面前、こうして声をかける必要がある。一人芝居でもやっている気分だが、しかたがない。あらかた物を運び終えたのを見計らったのでタイミングとしても丁度いい。

「了解。何にする?」

 それぞれ思い思いのメニューを注文すると、ハンナは奥に引っ込んだ。

「凄いの、ハンナさん」

「なのはもできるようになれるぞ。ベクトルと質量の計算だ」

「無理よ」
「無理だと思うよ」
「無理なの」

「そうかなぁ」

 アルトはそんな三人を後目に、硬貨を積み上げて遊んでいる。素直に積み上げたりはせず、やたらと幾何学的な模様を織りなすそれは、高さにして約200mmに届こうかとしていた。なのに、その塔は微塵も揺らぎはしない。

「……よく理解したわ」

「完璧に遺伝、みたいだね」

 遺伝というのは違う。ほぼ同じ遺伝子を持つという点では正解かも知れないが、この技は私と一線を画す。私は意識してやらないとできないが、アルトはそれを無意識下で計算してやってのけるのだ。

「そう気にするな。それで、さっきの話の続きなんだが……」

 微妙な空気を打破しようと話題を変えると、みんなそれに乗ってくれた。



 すべて終わり、片付けと説明はハンナですることにして、私は帰ることにした。上空監視ができず、3人以上での屋敷への帰還も許されない今、海鳴全域に分散潜伏している私にできることは少ない。計画を修正せねばならないが、大局にそう影響は無い、はず。
 それはともかく、大樹が現れるまで、なのはにはゆっくり休んでほしい。いくら回復指向の魔力の海に浸かっていると言っても、しっかり眠らないと回復は望めない。躯はもっても、脳がもたない。魔法は躯より脳を使うのだ。戦闘に関しては、この限りではないが。

「下手に巻き込まれないように、今日は部屋で何かして遊ぶか」

「何に巻き込まれるの?」

「化物みたいな馬鹿でかい樹だ」

「見てみたい!」

「そうか、じゃあ、視界ジャック」

 私の視界をアルトに見せる。コツンとぶつかる額と、それではないわずかな痛み。私の視界から得た大量の情報を、分析・解析して、その一部が私に逆流する。視界の端の、点にすら見えないジュエルシードまで見つけてしまう。今回発動するはずではないそれすらも。

「そうじゃなくて! 実際にこの眼で見たいの!」

「わがまま言わないでくれ。監視されているの、知っているだろ」

「むー」

 頬を膨らませつつも、額は離さない。結局、これしか方法がないのを知っているのだ。

「……何も起きないね」

「まだ、時間としては早いからな。それに、私の眼も少ない」

「上に行けないんだよね?」

「あまり行きたくない」

 とは言っても、コンスタントに上空監視をする訳ではないから、すでに一人上がっているのだが。それに、ヘルゼリッシュで対象を監視している。

「でもさ、アヴェンジャーをデザートイーグルにして魔力消費を抑えれば、視認性も下がるし、魔力反応も小さくなるんじゃないかな?」

「即応性がないからな。アヴェンジャーのままでなくては精度も威力も足りん。超低軌道監視攻撃プラットホームとしては、少々問題ありだ」

「んー……あ、始まったよ」

 対象――――ゴールキーパーの少年がマネージャーの少女にジュエルシードを手渡した。途端、炸裂する光。

「ああ、忙しくなる」

 原作では死者は出なかった。しかし、これは危険すぎる。
 あの馬鹿でかい図体に、クーゲルシュライバーなど効果は無い。消耗を度外視して、高度100km、熱圏と呼ばれるエリアまで上昇し、それなりの威力のセレスタルストライカーを叩き込む。人を襲う根のみを破壊する。だが、追いつきそうにない。

「ッ、オートロードモード! ノスフェラト」

『Ready』

「ドライヴ!」

 ノスフェラトを使うしかない。連発は危険だが、俺が一人二人ダメになっても、予備は腐るほどいるし補填もできる。要は持てばいいのだ、なのはの封印が終わるまで。
 ガラガラと空のケースが薬莢受けに当たる音、それがだんだん楽しくなってくる。秒単位で削れて行く生命線の数が、左眼のHMDに表示されている。

『警告。残り37秒』

「俺の魔力も計算しろ!」

『警告。残り45秒』

 焼石に水だ。ジャミングをかけながら、ノスフェラトを連発しながら、セレスタルストライカーを連射しながら、己の身を護っているのだ。

「自己保護を最低限にまで下げる! 脳に酸素と糖分が回ればいい!」

『ですが……』

「ただの魔力タンクになるだけだ。後は任せた」

 2000℃にもなるという熱圏の大気に焼かれるのを無視して、俺という個体の持つ脳のリソースを、全てエイダに明け渡した。



「これは……」

 とあるビルの屋上で、二人は降り注ぐ黒い、いや、わずかに紅い光を見た。それは、街に現れた巨大樹の根を正確に撃ち抜いていた。それも恐らくは人を襲っている物だけを。

「あの人だよ! 最初の時の、私を助けてくれた!」

 なのはが嬉しそうに叫ぶが、その光は一分も経たないうちに消えてしまった。

「え? なんで……」

「たぶん、成長が止まったからだ。なのは、それよりも」

「うん。でも、こういうときはどうすればいいの?」

「封印するには、接近しないとダメだ。元となる部分を探すんだ。でもこれだけ範囲が多きいと……」

 紅の光が撃ち抜き切り裂いたとはいえ、巨大樹は相当な範囲に根を張り散在している。この中から元凶を探すのは難しい。
 しかし、なのはは杖を振る。

『Area Serch』

「リリカル、マジカル、探して! 災厄の根源を!」

 桃色の光が四方八方に放たれ、樹を跳ね回る。なのははまぶたを閉じて、その光が送ってくる情報を待つ。

「見つけた! あ!」

 見つけるべきものと、見つけてはならないものを見つけたのはほぼ同時。

「エルテ……ちゃん?」

 降り注ぐ、黒い幾つかの何か。焼け焦げちぎれ飛び凍りついたそれを、何故かなのはは『エルテ・ルーデル』と認識できた。同時に、鎧の魔導師でもあると。

「なのは!?」

 瞬間、飛び立とうとするなのは。目標は、ジュエルシードではなく、落下する物体。

『大馬鹿野郎! 俺より優先すべきことがあるだろうが!』

 足が止まった。その一喝は、確かにエルテのものだった。だが、なのははそれが誰のものなのか、一瞬判断できないでいた。アルトは子供っぽく怒り、エルテは静かに憤怒する。いずれも、こんな風に怒鳴ったりはしない。

『んな暇があったらさっさと封印しろ! 俺を無駄にする気か?』

 『俺を無駄にする』、という自身を消耗品とするような表現は違和感があったが、恐らくは、あの天空からの黒紅の光達のことだろう。そう思ったなのはは、『物体』から意識を離し、屋上から離れかけた足を、元に戻す。

「ごめん、ユーノ君。封印するよ!」



 同時刻、なのはより16ブロック離れた場所。

「まさか大気圏突入をする羽目になるとはな」

 熱圏の大気に焼かれ、成層圏の大気に凍え、対流圏で砕けた己を、『いつものことだ』と言わんばかりに普通に見ていた。

「エイダ、どうだ?」

『右脚、右前腕の欠損。心肺停止状態。復帰の見込みはありません』

「そうか」

 その報告を聞いても、少女の顔に何の感慨も見られない。

「下らん感傷だとは思うが……ご苦労だった。ゆっくり休んでくれ」

 亡骸が、青く燃え上がる。煙もなく、音もなく、骨も残さず、ただ綺麗に灼き尽くす。

『自分に声をかけるのは馬鹿馬鹿しい、ではなかったのですか?』

「私は死んだ時に、やっと『私』ではない『人』という存在に戻れる、そう思うんだ。ここに在るのは、『私』という意識から解き放たれた躯。ならば、これは私ではない。私はここに在るのだから」

 桃色の光の束が、頭上を飛んでいく。それはどんどん太くなり、遥か遠くの樹を撃ち抜く。

『ジュエルシード、封印を確認』

 灰も塵も、青い焔は一切を魔力の粒に変えて、私だったものは消えた。魔法は便利で、優しくて、残酷だった。
 エルテは、残された唯一のもの、アヴェンジャーのペンダントを握りしめ、その場から消えた。



《あとがき》

 エルテは何度も死にます。既に何度も死んでます。
 今はクライドのいる研究施設で、予備を生産中です。なんというチート。

 アリサの汚染が激しいです。MGSでもやらせようかと思っていたり。

 補給は大切です。
 補給部隊が最強の国がどこかに在ったような。
 とりあえず、カートリッジがなければエルテもこうなるわけです。最強とは言いがたいような。
 この件を反省して、エイダが新しい魔法を思いついたようです。



[12384] 13まさかの邂逅
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:1367e82f
Date: 2009/11/08 01:14
 八神はやてがその段ボール箱に興味を抱いたのは、ただの偶然だった。中に何が入っているかは、シュレディンガーの気まぐれだし、何が入っていても、しょせん公園にずっと放置されているもの、それほど貴重でも大切なものでもないと思ったが、何故か気になる。二日も放置されて、撤去もされなければ誰も開けた痕跡もない。あんなに目立つ場所に、あんなに堂々と大きなものが置いてあるのに誰も気にしない、そんな違和感が興味を引くブースターでもあった。
 三日目、はやてはついにその箱を開ける決意をした。興味の誘惑に負けたのだ。道に落ちている段ボール箱を開ける、あるいは拾い上げるという禁忌を犯すことを、眼が醒めてすぐに決意したのだ。

「カラ箱やと思う。たぶんメタトロンもコーヒー原料も入っとらん。捨て猫の類も違う。でも、シュレディンガーさんはあの箱の中に夢を入れてくれたんやっ!」

 いったい、夢で何を見たのだろうか。シュレディンガーが夢枕に立ったのだろうか。
 顔を洗い歯を磨き、着替えて朝食も食べずに車椅子を駆る。早朝、人がほとんどいないのをいいことに全力で車輪を回す。

「おっしゃ、誰もおらん」

 順調に公園に到達、箱をロックオン。開封も移動もされていないらしく、昨日と全く同じ場所に鎮座していた。

「パンドラの箱か、蛇が入っとるか……」

 心音を加速させながら、箱の蓋に手を伸ばす。ゆっくりと蓋を開け……

「これなんてエロゲや」

 箱の中には、銀髪の少女が丸まって眠っていた。
 不思議系の少女を拾う。確かに、シチュエーションから見ればエロゲのファーストシーンかも知れない。
 だが、よく考えれば、ダンボーラーなのだ。美少女でもダンボーラーなのだ。

「やけど、ホンマ綺麗なコ……」

 はやてがその頬に手を伸ばそうとしたら、何の前触れもなく開かれる眼。光の加減で漆黒にも深紅にも見える色の眼が、しっかりとはやてを見ていた。

「グーテンモルゲン」

「は? ぐーて……?」

「ドイツ語にて、おはようという意味だ。朝だし問題はあるまい」

「はあ、そうですか。おはようございます」

「ああ、おはよう」

 独特の口調。女性であるとか、幼いとかを抜きにして、その綺麗な容姿によく似合っている。不思議な雰囲気をまとい、まるで女神か妖精か、そうはやてには見えた。

「で、ここでなにしとったんですか?」

「寝ていた」

「何故こんなとこで?」

「帰るに帰れなくなってな。気温も高いし段ボールもあったから、ここで寝て待とうと思ったわけだ」

 春でも、まだ夜は寒い。しかし、よく見れば少女はその身に不相応に長い黒のトレンチコートを躯に巻きつけており、かなり温かそうだ。

「そんな、まだ夜は冷えますし、変なのに襲われるかも……」

「ふむ、一理ある。そうだな、どこか安全に野宿できる場所を知らないか?」

「いや、野宿の時点で安全やないから」

 反射的に突っ込んでしまうはやて。

「……むう。気にはなるが開けようとは思わない絶妙な位置を確保したと思ったのだが。安全で回収もされず、変態や野生動物に襲われない場所、他に知らないか?」

 かなりハードルの高い条件だった。どこかの廃屋に不法侵入するぐらいしか方法は無いだろう。

「なんなら、うちにきます?」

 この少女との出会いをシュレディンガーからの贈り物と思い込んでいるはやては、なんらの迷ったそぶりも見せず、提案する。

「提案は嬉しいがな、問題がいくつか」

 少女はやっと上半身を起こす。流れる銀髪が顔にかかり、少女はそれを邪魔そうに掻き上げ、髪止めのゴムでポニーテールに縛り上げる。

「問題?」

「ああ。人間じゃなかったりするんだが」

 重力を無視するように、浮き上がるように不自然に立ち上がり、そのままその足が浮き上がる。

「は?」

「見ての通りだ」

 そのぶかぶかな服から、不相応に長い袖から、手がゆっくりと飛び出す。同様にコートの裾からも、靴をはいた足が伸びる。その足が地につくと、そのコートに相応の美女がそこにいた。

「は~」

「じゃあな」

 一瞬で段ボール箱をどこかへ消した少女、否、女性は、口の端をわずかに上げて笑うと、どこかへ去ろうとした。

「待って!」

 しかし、そのコートを掴まれてしまう。逃げる機会を逸した女性は、視線だけをはやてに向ける。

「なんだ、恐れないんだな」

「そりゃ、驚きましたけど。でも、女の子が野宿なんていけませんよ」

「ふむ。私を見て女の子か。面白いな、お嬢さん」

「うちは八神はやていいます」

「そうか、はやて、か。私はエルテ、エルテ・ルーデル」

 女性、エルテはかすかに笑いながら、己の名を告げる。

「ああ、世話になることが確定してしまったどうしよう」

「棒読みで言われても説得力ありませんよ。じゃ、いきましょか」

 はやてはエルテのわざとらしい演技に笑いながら、エルテははやての車椅子を押しながら、公園を出る。

「それにしても、帰るに帰れんって、どんな理由があるんです?」

「敬語はいい。そう歳が離れているわけじゃない」

「ん、わかった。で、そこんとこどうなん?」

「……家が監視されててな。戻るに戻れん」

「監視? あ、そこ左や」

「左か」

「そや。で、なんで監視されとるん?」

「判らん。ただ、監視されてるのが屋敷だけゆえに、ああしてダンボーラーになれた訳だが」

「屋敷? 屋敷に住んどるん? お嬢さまなん?」

「お嬢さまには程遠いがな。ゾンビがいそうなのは確かだ。ほとぼりが醒めたら招待しよう」

 その表現はどうかとはやては思ったが、それで大体のイメージは掴めた。

「あ、そこや」

「ふむ。一人で住むには大きすぎるな。寂しくはないのか?」

 八神家は、立派な一戸建てだ。それを見て、一人暮らしだとは、普通思わない。

「なんでそんなこと知っとるん? 魔法使い?」

「魔法は使えるが、それとは別だ。人には見えんものが見えるだけ。言っただろう、人間ではないと」

「ホンマやったんや、あれ」

「美少女が美女に変身するところを見せただろうが。あの時浮いていたはずだが」

「自分で『美』いうな。百聞は一見に如かずってのは嘘や。見ても聞いても信じられんもんはある」

「まあ、構わないがな。ちなみに、魔法ははやても使える」

 無言で渡された鍵をエルテは受け取り、玄関の扉を開ける。

「ただいま~」

「邪魔すr」

 はやてに無言の圧力をかけられ、エルテは口を止める。

「世話になる。『ただいま』は、次回からだ」

「ふ~ん? まあええ……魔法?」

 やっとその単語に反応したはやてに、エルテは変わらない無表情のまま、淡々とそれを告げた。



 何故か、八神はやてと同居することになってしまった。ゼロシフトで逃げればよかったが、シャワーという単語が頭を制圧してしまった。代謝を最低にして、エネルギー消費も最低にして眠ってはいたが、どうしても生きている限り老廃物は蓄積するのだ。化け物だとしても、生物という束縛からは逃げられない。メタトロンという手段も存在するが、それは最終手段だ。元々は男とはいえ、今は女なのだ、女のファッションなどはどうでもいいが、最低限の女らしさは確保したい。臭う美少女など、もってのほかだ。

「それで、どうなるん?」

「過程と結果を教えたらつまらない……冗談だ。そこは私には判らない。それに、正しいからと予言のまま生きるなんて、他人の操り傀儡と同じことだ」

「そっか。でも楽しみやな、騎士か……お姫さまにでもなった気分や」

「まだ気が早い」

 私という同居人ができたせいか、はやては上機嫌だ。
 最初は、縁だけつくってジュエルシード事件が終わったら姿を消そうかと思ったが、ハッピーエンドには近くにいた方が得策と私は考えた。ジュエルシード事件が終わるころには、ヴォルケンリッターも現れているだろう。彼らと関与することはどちらにしろ確定しているのだ。夜天の書の管制人格リィンフォースも助ける術を考えねばならないし、ちょうどよかったのかもしれない。八神家に居候するプランもあるにはあったし、これからはそれに従って行動するとしよう。

「そして、私という破壊神が存在する」

「破壊神、やて?」

「ルーデルの名に、ピンと来なかったか?」

「ルーデル? 知らんなあ」

 ルーデル教徒としては、この機会を逃す術は無い。正しくは宗教でもなく、ジョークに近いので勧誘もしないのだが。だが、あのリアルメビウスの存在を知らないのは、私は損だと思う。

「……よし、この家にネット環境はあるか?」

「んー、あるにはあるけど、私はパソコンとかよく判らんし……て、ちょ?」

 はやてを抱え、ネット環境を探して数m。ちなみに、今は9歳の躯だ。

「案内してくれ。破壊神ルーデル、その意味を教えてやる」

「は~、力強いんやね」

「そう造られた。自慢もできん」

 いわゆるお姫さま抱っこというやつだが、この細い腕に似合わず手はしっかりはやてをホールドし、脚はしっかりとした安定感を見せつけてくれる。

「造られた? おかしなこと言うんやな」

「父親も母親もいない。いるのは既に死んだ技術屋だけ。眼が醒めたらインキュベータの中で液体に浮いていた。周りには、全く同じ顔・同じ躯の少女しかいない。クローンだって、言わずとも判る」

「ふーん。あ、その部屋や」

 ふーん、で済まされてしまった。いずれ知られてしまうだろうが、今はこの無関心が有難かった。まだ冗談だと思ってくれている。

「なかなか速いな……よし。さあ、閣下の偉業をその眼に焼き付けるがいい」

 火狐どころか馬や歌劇すら入っていない。しかもヴァージョンアップもアンチウィルスソフトも存在しないからセキュリティに非常に不安が存在する。滅多なことじゃ使いそうにないから問題ないかもしれないが、私の精神衛生によくない。近いうちにいじり尽くそう。

「ふーん? ハンス・ウルリッヒ・ルーデル、昔のドイツの軍人さんなんや。けっこうええ男やな……………………はあああああああぁぁぁぁぁ!?」

 盛大に驚いておられる。いいリアクションだ。

「冗談キツイで。戦車519輌とか、どんだけ壊しとんねん? しかも最低519て、一体何したらこんなんなるんや」

「もっと正確な数はこちら」

「800オーバー? いやいやおかしいからこれ。ケタが一つ違うから。現実はゲームじゃないんよ。こんなリアルメビウスみたいな人、おるわけないやん」

「これが現実だ」

「確かに破壊神や……まさか」

「エルテ・ルーデル。かの英雄を過大解釈して作り上げられた、文字通りの破壊神」

 信じてもらう必要は無い。今は戯言でも、いずれ信じざるを得なくなる。

「まさかなー、そんなわけあらへんやろーしー」

「未来を知っているというのは嘘ではないよ。ヴォルケンリッターが現れるまでは、痛い電波な超人を拾った、そう思えばいい」

「痛い電波な超人って……ただの中二病やないか」

「中二病と違って妄想ではないのが厄介なポイントだ」

「そう言えば、魔法も使えるんやったな」

『そうです』

 エイダが、魔法に反応したのかエイダがまた起爆剤を投下してくれた。

「なんや、今の声? エイダ?」

 何故知っている、はやて。ZOEでもプレイしたことがあるのか。とりあえず、待機状態のアヴェンジャーを差し出す。500g弱ほどもある、30mm弾頭のペンダントを。

『おはようございます。戦闘行動を開始します』

「動けえええええええぇぇぇぇぇ!」

 かわいらしい声で、あの名シーンを再現してくれた、はやて・イーグリット。

「なんや、この機動性は」

『当機は急降下爆撃機シュトゥーカです。操作説明を行いますか?』

「エイダや。パーフェクトなエイダがここにおる」

 シュトゥーカの時点でアウトな気もするが、機嫌がいいところに水をさすのも無粋だ。

『お褒めに預かり光栄です。独立群型戦闘支援ユニット、エイダです』

「エイダー!」

「はやて、騙されるな。こいつはエイダの幻影だ。はやてのエイダが汚されるぞ」

「でも、これは紛うことなきエイダや。たとえ偽物でも、エイダなんや」

『ありがとうございます。そう言ってくれるのはあなただけです』

 エイダにどれだけの思い入れがあるのだろうか。しかし、この駄AIは時々どころかよく暴走する。

「で、魔法ってどんなんなん? ラジカルペイ○トー! とか叫ぶん?」

「全く違うな。必殺技を叫ぶ感じだ。私は微妙に違うが」

「へー、見せて見せて」

 とりあえず視覚的にインパクトのある、攻撃魔法じゃないものを見せないといけない。

「エイダ、ザ・ワールド」

『Ready』

「特は止まる」

 一切の音が消え去る。すべての色彩がモノクロになる。私ははやての背後に回り、その躯を抱きしめる。

「そして時は動き出す」

「うわ!」

「時を止めてみたのだが。どうだ?」

「これは……魔法じゃなくてスタンドや」

「私にスタンドはいないぞ。魔法で時を止めただけ」

「そっか。エルテがいうんならそうなんやろな」

 その手を緩めると、はやてがこっちを向いて抱きついてきた。唐突だった。

「あったかいな~。エルテ、こうしてると普通の人やん」

「……普通の人、か」

 考えたこともなかった。記憶と躯、この特異な要素は、私の精神を予想以上に蝕んでいたらしい。
『私は普通の人間じゃない』
『私は破壊神の器』
『だから普通に生きる権利はない』
『全てを知る者、力を持つ者の義務がある』

「そや、普通の人。やから、普通に生きてええんや」

「……そうはいうがな、はやて。知っている人間の不幸を回避する術を知っていて、その為の力も持っていて、それでいてやらないのは罪だと思う。危険はあっても、私はそれを見逃すことはできん」

「そっか。でもな、せめて私の近くくらいは、普通の人でおっても構わんやん」

「……そうだな」

 はやての前くらいは、普通の家族としていよう。今なら、ヴォルケンリッターの気持ちがよく判る。
 絶対に心配などさせてなるものか。



《NG》

「パンドラの箱か、蛇が入っとるか……」

 心音を加速させながら、箱の蓋に手を伸ばす。ゆっくりと蓋を開け……

「うわ……」

 箱の中には、銀髪の美女がどこぞの雑技団もびっくりな大勢で眠っていた。どんな関節構造をしているのだろうか。それでも段ボール箱は小さいのか、パンパンに膨らんでいた。

「美人やけど……キモ」



《あとがき》

 はやてってこんなんだっけ?
 口調を山口弁から関西弁に修正するのがえらくてえらくて。

 この出会いは、エルテにとっても予想外なこと。はやてとすずかが友達になった後のことが難しくなる気がしてたまりません。
 はやてが夢でシュレディンガーの神託を受けなければ……。

 はやてはうちの猫に似ている気がします。誰にでもよくなつきます。初対面であろうとなんであろうと。誰もいない家に帰ってくると、真っ先に出迎えてきます。寂しがりやです。一緒にいると、いつのまにかよってきて腹のうえに乗ってきます。擬人化したらヤヴァイ気がします。主に萌え殺される意味で。
 そんなイメージではやては書かれています。(実ははやては私のドすとらいく)



[12384] 14傍観者の苦悩
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:6887a366
Date: 2009/11/08 12:45
 何故、こうなった。
 魔法は使えない。そして私は天空からHAHO降下をしている。

「遅刻しそうだもん。おねえちゃんなら頑丈だし、大丈夫だと思うよ」

 天使の笑顔の悪魔にそそのかされ、ていのいい魔法の実験台になる羽目になった。

「ユピテル……カノーン!」

 木星砲という意味の判らない魔砲を食らい、上空1200mまで吹き飛ばされ、目標上空でパラシュートを開きブレーキをかけた。
 最悪なことに、目標は月村家だった。

《砲撃は禁止しただろ!》

《補助ばっかじゃつまんないもん》

《……判った。次の日曜にでも死ぬほど撃たせてやる。覚悟しろ》

《やたっ!》

 念話で下らないことを話し合いながらも私の躯はゆっくり落ちていく。どうやって言い訳しようか。フェイトには見つかってないようだが、安心はできない。バレて戦う羽目になったら、私には意外と選択肢がない。逃げるか、そっと戦うか。非殺傷設定でも、出力を誤れば、私は人を殺すことができる。次元震であれ、直接な魔法的ショックであれ、物理的破壊であれ。だから制御と演算の能力が恐ろしいほどに高いのだろうが、それでも訓練は欠かしたことがない。

『お約束を言わないのですか?』

「これは空艇降下とは言わん。ジェロニモなんてもっての外だ」

『もっと状況を楽しむべきです。ダンテを見習い……』

「エイダ、本気でおまえを初期化しようと思うのだが、どうだろう?」

『今のランナーが大好きです』

 こんなやりとりはするが、私はエイダが嫌いではない。時と場合をしっかりわきまえているし、私のいうことは意外とちゃんと聞く。私の魔力を使おうとしないのも、私の身を案じてのこと。巨大樹の時も、最後まで私の躯を護ろうとしてくれた。おかげで、形が残ったまま躯が地上に到達してしまったのだが。躯など、消耗品なのに。

『残り2分』

「この時点で27秒の遅刻か。鬱だ」

『ランナーはよくやっています。人数が足りない現状において、最良の判断です』

 フェイトの監視で、結果として一人を失い、海鳴に常駐していた50人のうち、その殆どを隠さざるを得なくなった。家事に追われ、殆ど行動できないのが現状だ。いっそフェイトにもつくか、なんてプランもある。実行の可能性はかなり高い。

『残り60秒』

「お、見つかった」

 ヘルゼリッシュを使うまでもなく、私の眼はいい。両眼12.0という、スコープなしで狙撃したシモ・ヘイヘにでもなれそうな視力。張力も嗅覚も感度を調整できる。感覚破壊対策だろう。
 その眼が、すずかの反応を捉えた。

『驚いていますね』

「普通、こんな風に登場する人間は存在しない」

 言い訳を考えるが、どうしようもない。トンデモな物語で煙に巻くか。

『衝撃に備えてください』

「了解」

 パラシュートがあるとしても、その降下速度はかなりのもの。飛び降りるのと同じ感覚で普通に着地すると、普通に骨が折れる。私の場合その必要は無いのだが、それでもポーズだけはしておく必要がある。どこで誰が見ているか判らないのだ。正しく五点接地法をもって、衝撃を逃がすフリをしなければならない。

『3、2、1』

「フッ……」

 綺麗に手入れされた芝生を転がる。

[[見事です]]

 エイダが念話に切り替える。雰囲気で、声にノイズを入れるのはどうかと思うが。

《当然だ。ベクトルドライバーまで使って、これができない人間はいないと思うぞ》

[[できそうにない人間がきました]]

 三人の幼女が走ってくる。エイダが言っているのが誰かは、想像におまかせする。

「すまない、遅れた」

「なんでパラシュートなのよ!」

「眼が醒めたら雲の上だった。テレポート能力に目覚めた可能性がある」

「嘘!」

「それはそうと、本日はお招きに預かり恐悦至極」

「え? あ、うん」

「ねえ、アルトちゃんは?」

「…………」

「エルテ! 黙ってないで……」

「…………」

「何か、あったの?」

 不穏な空気をまとって黙ると、みんな心配そうな顔に変わる。
 できるだけ悲しそうな顔を装って、口を開く。

「アルトは……………………寝坊した」

「さんざん引っ張ってオチはそれ!?」

 アリサはバーニングして、なのはとすずかはプルプル震えている。そこまで笑うところか。

「あの、甘いもののために生きることを信条とするアルトが、お茶会を前に寝坊だぞ。聞けば、楽しみで寝られなかったそうだ。可哀想で可哀想で……」

「アンタの妹バカも相当なものね」

「今はどこかを走っているころだろう。来たら生温かい眼で迎えてやってくれ。ふあぁ……」

 あくびが出る。最近寝る暇がない。寝る必要がなくても、習慣となっていれば癖になるようで、時々こうしてあくびが出るようになった。

「なによ、エルテも寝不足?」

「……寝ていない。私もアルトを笑えないな」

「初めてってわけじゃないのに」

「ベノアの最上級が入ったと忍に聞いてな。シュタインベルガーのトロッケンベーレンアウスレーゼを土産に……」

「またワインなの。子供は飲んじゃダメなの」

「ワインでなくヴァインであると何度教えれば覚えるのか。偉大なるドイッチュヴァインをフランスなどの軟弱なワインなどという泥水を一緒にするな」

「え? え?」

「それに8%程度のアルコールは酒とは言わん。酒とは10%を超えなければそう名乗ることを私は許さない。故に私が飲むことは特に問題は無いのだ」

「にゃー!」

 早口でまくしたてる私の言葉に迷い、眼を回し混乱の後になのはは切れた。

「紅茶にはブランデーとジャムを!」

「お酒はダメー!」

 などと馬鹿をやっている間にパラシュートを回収し終えた。

「毎回思うけど、そのポケットどうなってるのよ?」

「異次元に繋がっていたり……」

「異次元? ちょっと見せて!」

「すると面白いな」

「ぬあーーーーー!」

「要約すれば私も知らない。フフフ……」

「エルテちゃん、なんだか怖いの」

 アリサをいじって遊んでいると、なのはが失礼なことを言いやがったので、その頬をつまんでやる。

「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ……」

「むひょうひょうれふぁらふぁふぁいれー!(無表情で笑わないでー!)」

 人形の恐ろしさ。どうしても上手く笑えない私は、こう笑う。愛想笑いすらできないので、ハンナで接客する時はいつも『鋼の女』『氷の女』などと噂されたものだ。口の端を上げることはできるのだが、今は敢えて表情を変えない。

「柔らかい……よく伸びる……面白い」

「ははひへー!(放してー!)」

「フフフフフフ、日本語かドイツ語でないと判らんな……ああ、可愛いな。抱きしめてキスでもしてやりたいほどだ」

「ひゃーーーーーー!?(にゃーーーーーーー!?)」

「ゆゆゆゆゆゆゆ百合禁止ぃぃぃぃぃ!」

 冗談に真っ赤になるアリサとすずか。本当の目的は既にバックグラウンドで進行しているので、特に気にせず存分に三人をからかうことができる。

「さて、冗談もここまでにして。待ち人も来たことだし、私はおとなしくしていよう」

 視線を向ければ、アルトが全力疾走していた。それを見て誰も驚かないのは、もはや慣れなのだろう。



 なのはの悩みを聞き出そうとしていたアリサとすずかだが、私が事前に虚実織混ぜ真実を隠した説明により、そこまで突っ込んで話を聞くことは無かった。原作以上にバーニングしているアリサは、どうも制御が難しい。私がからかいすぎたせいもあるのだろうが。
 そうしているうちに、仔猫が逃げる。作戦が始まる。
 海鳴に潜伏していた私の一人を昨日のうちから月村家の森に潜伏させ、メタトロンで浄化した。バリアジャケットの擬態効果を遺憾無く発揮して、茂みに隠れる。もう一人、雲の下で真っ白いコートをまとって地上を監視している私。地上の私は鎧をパージして、コートとHMD以外は普通の黒のジャケットとスラックスという、普通に道を歩いてもおかしくないデザインのものを装備している。私の私服そのままだと言っていい。
 エイダが天空の眼の情報に補足をして、HMDを介して周囲の状況を教えてくれる。ジュエルシードに猫が近づきつつある。

[[発動しました]]

《OK。なのはとフェイトが接触するまで待機。その後は手筈通りに》

[[Ja]]

 なのはとユーノが接近中。別方向からフェイトも確認。

[[接触。結界発動。HMDパージ]]

《ナビを頼む》

[[了解]]

 結界が張られたのを確認、なのは達から見えない位置をうろうろする。同時に、すずか達と茶をしばいてる私はなのはを探すという口実で消える。アヴェンジャーは使わず、サブデバイス扱いの焔薙を出す。あくまで普通の魔導師を装う。
 これから私は嘘をつく。鎧の魔導師と私は別人。私は攻撃のできない魔導師。

[[戦闘が開始されました]]

《よし……》

 今回、なのははフェイトに負ける。魔法に出会って一週間ちょいの娘が、訓練を受けた魔導師に勝てる理由は無い。それでも最終戦で勝ってしまったのは、才能が恐ろしいまでにあったからだ。

《あ、にゃんこ……》

[[ランナー、しっかりしてください]]

 視界に巨大な仔猫を確認、一瞬全てを忘れて抱きつきにいきそうになった。

[[猫好きなのはよく知っていますが、ここは堪えて……]]

 金色の魔力弾が猫を襲う。

「にゃんこぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 それを桃色のプロテクションが弾く。

[[ランナー、堪えてください]]

「あれは非殺傷設定、非殺傷設定、非殺傷設定……」

 どうにか平静を取り戻し、戦況を傍観する。これほど関わりたくなる戦闘も初めてだ。

《ロックオン、高町なのは。ゼロシフト、Load》

[[高町なのはをロックオン。ゼロシフト、Ready]]

 魔力が抜けていく、とても久しぶりな感覚が嬉しい。いつもカートリッジの魔力で事が足りたから、滅多なことでは私の持つ本来の魔力を使うことは無かった。巨大樹の失敗の時は、カートリッジがなくなる前にエイダに意識を預けたから覚えていない。
 今はカートリッジもなく、カートリッジ精製で魔力を無駄に消費させて、更に簡易封印でせいぜいAA-くらいのランクに偽装している。アヴェンジャーではなく焔薙を起動しているのは、これが理由でもある。アヴェンジャーを維持するだけで、焔薙の数百倍の魔力が費やされるのだ。重く大きすぎるデバイスは浮かせて使用するため、その浮かせる魔法を維持するための魔力は大きさに比例するから馬鹿みたいに魔力を食うのだ。
 それはともかく。ゼロシフトに必要な魔力は溜めておく必要がある。焔薙の本質はチャージと斬撃だ。魔力の少ないこの状態では、加速とブレーキの魔力をいちいち溜めなければならない。最悪の場合の保険は天空にあるが、それは本当に最悪の場合だ。

[[デーモン1、ダウン!]]

 ぼーっと状況を見ていたが、エイダの声で我に帰る。デーモン1とは、なかなか面白いコールサインを考えつくものだ。

《ユーノは?》

[[間に合いません]]

《ゼロシフト!》

[[Run]]

 フェイトの登場が早く、なのはの初陣でイレギュラーが発生して、士郎の怪我も私が関与しなければ死んでいた。十数年の中で育ってきた蝶の羽ばたきは、今、牙を剥いた。

「っく」

 どうにかその躯を抱きとめることができた。

「魔導師……まさか、管理局?」

「……早く封印しろ」

「え?」

「私は……なのはを介抱するっ……だから……」

「……わかった」

 魔力ダメージを回復する術式を組み上げ、ゆっくりと回復を始める。猫の鳴き声なんて聞こえない。聞こえない。聞こえない。

「君は、一体……」

「Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
dona eis requiem.
qui tollis peccata mundi:」

「呪文? 歌なのか? すごい集中力だ……」

「――――ん……あ……あれ? え……るてちゃん?」

「Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
dona eis requiem.」

「エルテちゃん? 眼から血が出てるよ!?」

『無駄です、高町なのは。ランナーは耐えがたい痛みに耐えています』

「エイダ? 痛み?」

「Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
dona eis requiem.」

『メガリスを謳い、心の耳を閉ざすことで猫の悲鳴を聞き流しているのです。ランナーは無類の猫好きですので』

「あはは……猫、追いかけまわしてたもんね」

『ランナー。正気に戻ってください。終わりました』

「Lux aeterna luceat eis, Domine:
Domine:
Cum sanctis tuis in aeternum, quia pius es.」

『ランナー。帰還作業に入ります』

「あーにゅづ!? む、終わったか」

『魔導師であることもバレました』

 何か電撃のようなものを食らって、私はえいえんのせかいから戻ってきた。

「問題ない。それより、にゃんこは無事か?」

『ヴァイタルに異常はありません。気絶しています』

 エイダの報告に、盛大に溜息を吐く。

「……あの、君は……」

「今、君に話すことは無い、ユーノ・スクライア」

「なっ……」

「話がしたいなら、真の姿で会いに来るがいい。私はいつでも屋敷にいる」

「…………」

「そう警戒するな。猫を拾ってすずか達のところに戻ろう。すずかが心配している……アリサがバーニングしている可能性がある」

「そう……だね」

 倒れている猫をそっと抱き上げ、あまり意味のない回復魔法をかけながら、ゆっくりと歩き出す。

「なのは。私はあなたの敵にはなり得ない。しかし、対立することはあるだろう。私を殺したいほど憎むこともあるかも知れない」

 不安そうに私をみるなのはの視線に、つい言葉を発してしまう。これからの、言い訳を。

「そんなことはないよ! 絶対!」

「もし私と戦うなら、一切の加減も油断も迷いも切り捨てろ。絶対、など存在しないのだから」

「そんな……」

「それまでは、良き友であろう。赦せるのであれば、それからも友であろう」

「許す許さないじゃない! ずっと友達なの!」

「嬉しいな。どうだ、友ではなく、嫁にこないか」

 すれ違いざまに、隙ありとばかりに頬にキスをしてやる。

「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ」

「ファーストキスは、大切な人のために取っておくといい。女の私が奪う権利はないからな」

 壊れたレコードのようににゃーにゃー言うなのはを置いて、さっさと森を出た。



 なのはがダメージもないのにばたんきゅーして、原作とほぼ変わらない展開になったのは余談だ。

「エルテ、アンタ何したのよ?」

「元気になったのはいいけど、こんどは別のことで悩んでるような……」

「ショック療法というやつさ。落ち込む暇を与えなければいい」

「すごく混乱してるけど……」

「気にするな」

「気にするわよ!」



《あとがき》

 エルテは百合ではなく、元男です。男とドッキングする気は恐らく無いかと。生涯独身貴族。多分。

 エルテは猫好きです。なんで飼ってないのかというと、うっかり猫屋敷にしそうだから。

 謳うのはシュトゥーカリートにするかメガリスにするかジ・アンサング・ウォーにするか悩んだんですが、一番呪文っぽいメガリスに。和訳もなんかの儀式に使えそうな。

 タイトルを変えようかと思います。全然壊れた感じのギャグになってないし、タイトルに偽りあり。プロット通りにみんな動いてくれるのに、なんでだろ?



[12384] 15躯を持て余した破壊神と少女達の戯れ
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:63d8b2e6
Date: 2009/11/14 23:09
 温泉。
 楽しみにも程がある。砲撃を死ぬほど疲れるまで撃たせる約束は、次の週までお預けになったというのに。
 アルトの話だ。大山鳴動するほどに大はしゃぎして、何故か屋敷を走り回っていた。
 そして、今は疲れ切って車の中で寝ている。

「……不敏だ。こんなことならもっと、もっと、共に外へ遊びに行くべきだった」

 前日にはしゃぎすぎて当日寝坊する、あるいは寝こけてしまうのは、いつものことだ。アルトは、起きたままイベントを完遂したことは一度もない。遅れたり途中で寝たり。無駄だと思いながら投与した睡眠薬も、何故かかなり遅れて効いて、イベントの日の朝から眠りこけるという、完璧に裏目に出る始末。どのタイミングでやってもそうなるから不思議だ。

「過保護すぎた。私は過保護すぎた。せめて今日くらいは、今日くらいは楽しませてやらなければ……」

「なに暗くなってんのよ!」

「アリサ。すでに仕掛けは完全に仕込んであるのだ。フフ……暗いのではない。これは決意だ。絆地獄だ」

「嫌な予感しかしないわよ」

「フフフ、温泉か。覚悟するがいい。ハンナ」

「私も仕掛け人だ」

「すずか、帰ろう」

「え? なんで?」

「そこはかとなくケニー・ロギンスの名曲が流れてる気がしてならないわ。ラッセル・ケイスの名言も」

「け、けにー?」

「ティーフブラウに感染して、つぐみワクチンを打たないくらい危険……」

 何故知っている。かなり古い映画……でもないか。トップ○ンはともかく、インデペン○ンスディは結構新しかったような。というか、アルトのは寝言か? エロゲではないにしても……

「……たいていの物語だと、ここで帰ると死亡フラグだな」

「くっ……受けて立つわ。すずか、生き残るわよ。海鳴温泉は今、円卓に変貌したわ」

 アリサが家を継いだら、航空産業が飛躍的に発展するな。是非コフィンシステムを開発してほしいものだ。

「冗談は程々にしよう。ああ、アルトはかわいいな……」

「おねえちゃん……し ぬ が よ い」

「寝言もかわいい」

「あ、あれ?」

「ものすごい物騒な寝言が聞こえた気がするんだけど!?」

「大佐の名言だ。言葉通りの意味は無いから安心しろ」

 わいわいやっている中、なのははあまり会話に参加しない。恐らくは、私というイレギュラーが原因だろう。やれやれだ。

《なのは。鬱鬱しい顔をするな》

《にゃ? エルテちゃん?》

《笑っているつもりだろうが、眼にハイライトがないぞ》

《はいらいと? なにそれ?》

《眼が死んでいる。せっかくの楽しい温泉が、それ以前になのはの可愛い顔が台無しだ。抱きしめてキスして押し倒すぞ。今度は問答無用で唇も貞操も奪う》

《ていそー?》

《……今思い出した。なのはは言語け――――げふん、国語が残念な子だったな》

《とてもバカにされている気がするの。それに、キスは嫌いじゃないの。お父さんもお母さんとよくしてるし……》

《……世間一般における羞恥心というか常識も欠落しているようだ。いいか、戦闘民族でエロゲの主人公あるいはヒロイン補正がかかっている高町家の常識を普通と思ったらダメだと思う。生体生物兵器の私が言えるものではないが。ああ、私が男だったらどれほど……》

《エルテちゃんが男の子でもお友達だよ?》

《その時点で何かおかしいことに気づかないか。やれやれ》

 この娘に男女の機微を教えるのは骨が折れそうだ。私としては、ユーノとくっついてくれればそれでいいのだが。



 数日前、ユーノが私を訪ねてきた。私の正体を探りに。話をしに。

「キミは、何者なんだ?」

 単刀直入に聞かれた。なかなかに度胸のある少年だ。

「……私が許可したこと以外を、なのはに伝えないことが条件だ」

「わかった」

 即答された。ユーノは信用できるが、いかんせん付き合いが短い。信頼できるかは、まだ判断できない。

「簡単に言えば、人造魔導師だ」

「そんな……いや、やっぱりそうだったのか」

 思い当たる節があったのだろう。

「出身はこの世界ではない。今はもう誰もいない、汚染され、捨てられた名もなき星。私はガイアと名付けたが。私が開発されていた施設は、恐らくその汚染の原因となった戦争で襲撃され、施設ごと凍結されていた。研究成果たる私達が破壊されなかったのは不思議だが」

 あの時、研究者の何人がコンソールに取りついたまま死んでいた。ログを見てみたが、襲撃と同時に凍結が開始され、制圧も技術回収も破壊工作もできるような時間がなかったようだ。施設も、恐らく地表貫通兵器の歯が立たないほど固かった。

「じゃあ、キミは……」

「扱いとしては、ロストロギアだな。意思を持ち、その気になれば単体で星を砕き、次元震すら起こせる。実際に何度かある目的のために小規模な次元震を起こした。管理局からすれば、脅威以外の何者でもない」

「馬鹿な! そんな存在が今までずっと隠れられるはずが……」

「ガイアで、誰もいないはずの世界で百年以上凍結されて、十数年前にやっと出ることができてしまった。訓練はずっとガイアで行い、私の周囲ならば魔力反応の殆どが高出力ジャミングでごまかせる。現になのはもユーノも私の存在に気付かなかっただろう」

 ジャミングを解除して、本来の魔力を漏らす。本当はデバイスすら必要とせずに全てを破壊できるのだ。効率が悪いなら、出力で補って余りある威力を。

「…………」

「だが、私は敵ではない。味方にもなれないが、そんな二元論は無意味だ。確かにジュエルシードはいくつか回収している。それをある目的のために使おうともしている」

「使う!? あれは危険なものなんだ!」

 ユーノが激高する。危険なもの、そんなことは百も承知。

「ジュエルシード。高密度魔力結晶体。さて、これはなんだ」

 ユーノの怒りは無視して、ポケットの中身、『それ』を取り出しユーノに見せる。

「ジュエルシード? いや、違う……」

「ガイアの私を開発していた研究所、今はルーデル機関と呼んでいる。そこで一通り解析してみた。その結果から精密にコピーしたジュエルシードだ。私の魔力の影響で紅いがな」

「コピーだって?」

「本来はただのエネルギー結晶体のジュエルシードだが、不安定なのが問題だ。本当は専用のケースに入れてゆっくりコンスタントに放出する動力だったのが丸裸では当然だ。制御棒のない原子炉みたいなものだ」

「だったらそれは? 封印どころか何もされてないように見えるけど……」

「私がケースの代わりをしている。適度に回復に指向性を持たせた魔力をゆっくり放出している。これが最も無害だ」

「あの魔力を制御できる? どうやって?」

「次元震も自由に制御できる私だぞ。この程度、造作もない」

「でたらめだね……」

「そのでたらめな躯を造ったのがルーデル機関の前身だ。当然だ」

 そこに、ノックもなしに私が入ってくる。手にはティーセットの乗ったトレイ。その後に続いて茶菓子を持った私が続く。

「驚かないんだな」

「アルトと学校に行ってるはずのキミがここにいるから、なんとなく予想はできてた」

 メイド服を着ていてもメイドではないので、紅茶をいれたりはせず、そのまま部屋を出る。

「それで、そんな力と戦力を持ちながら、何が目的なんだ?」

 紅茶をいれる手が止まる。

「……とある不幸な人たちの幸せ」



 なんてことがあった。
 私の目的を言い換えればそうなるが、その言葉になにやら感じるものがあったのか、ここ数日で結構なつかれた。

「ユーノ」

 呼ぶと、女性陣にもみくちゃにされているユーノが器用にその手をすり抜けてこっちに来た。アルトの頭が私の膝に乗っているので、それをハンナに預けて私の膝に誘う。

「あー、なんで逃げるのー」

「構いすぎるからだ」

 などの文句を適当にあしらい、念話で話し掛ける。

《災難だな》

《ありがとう。助かったよ》

 こういった状況では、私はユーノの避難所になる。ユーノが猫だったらこうはいかなかっただろう。
 なのはは、全くこちらに興味を示していない。



 海鳴温泉に到着した。
 やはりすずかとアリサはワンセットなようで、一緒に行動している。それについていくアルトとなのは。まだ半分眠っているアルトを、なのはが引きずっている形だ。

「わぁ~」

 アリサとすずかが池の鯉を見ていた。チャンス。
 ぽちゃんと、あるものを池に投げ込む。

「ん? 何か落ちた?」

「さあ?」

 そこに、ほの暗い水の底から、誰かが浮上する。ざばぁ、っと。

「!」
「!」

「あなたが落としたのは、この黄金柏葉剣付ダイアモンド騎士鉄十字章ですか? それともダイアモンド騎士鉄十字章ですか? それとも騎士鉄十字章ですか?」

 主にアメリカ合衆国の静岡に生息する下水の鉄パイプの女神が降臨した。今この場には子供しかいない。フフフ、助けを求めても無意味だ。そのデコイは子供にしか見えない設定なのだよ。

「何も私たちは落としていません」

「なんて素直な子なのでしょう。正直処分に困っていたので全部あげます」

 ざばぁ、と。女神さまが消えた後には勲章が三つ、置いてあった。

「こ、これは」

「知っているの、エルテちゃん?」

「伝説の黄金柏葉剣付ダイアモンド騎士鉄十字勲章。ルーデル閣下の為につくられ、ルーデル閣下しか受章したことがない破壊神の証。それにこれはダイアモンド騎士鉄十字章。恐らくはハルトマンのものだ。そしてこれは騎士鉄十字章。シュライネンか?」

 などと馬鹿をする。ああ、楽しい。『俺』だったころでは、多分なんの感慨もなく、ただ温泉に入って豪華な飯を食いました、その程度の感想しかなかっただろう。宿題の感想文も、ドライで短くて、何故か怒られた。思ったことを正直に書いたというのに。だが今は、少し、世界に色が見える。

「やっぱりアンタの仕業だったのね!」

「私は勲章を投げ込んだだけだ。噂通りだったということか」

 アリサがバーニングしている。ああ、かわいいな。この反応が楽しい。嬉しい。無論、本気で怒っている訳ではないのは知っている。

「あはは、車の中で言ってたのはこれのことだったんだね」

 素直に笑ってくれるすずか。この笑顔には癒される。どうすれば、そんな風に笑うことができるのだろう。うらやましくて愛おしい。

「ほら、なのはにはこれをやろう。僚機を失わなかった、伝説のファイターの勲章だ。多分偽物だろうが、それでもお守りにはなるだろう」

 ハルトマンのダイヤモンド騎士鉄十字章を渡す。散りばめられたダイヤも全て本物だが、これは本物に限りなく近いイミテーション。

「にゃっ、あ、ありがとう……?」

「いずれ、この意味が判るといいな。今はアホの子だが」

「ひ、ひどいの!」

 涙目で文句を言ってくるなのはだが、そもそもからかっているので口の悪さはネイキッドだ。攻撃力20倍、エネルギー切れはなし。

「悔しければ、理系科目以外で私に勝つことだ。フフフ……」

「全教科満点の超人に勝てるわけないじゃない!」

「ふむ。ならば……アルトに勝てたらでどうだ。それならバカにはしない。おまけにルーデル家特製のシチューを食わせてやろう」

「ルーデル家特製シチュー……あの伝説の!?」

「すずか、知ってるの?」

「あの桃子さんが唯一敗北宣言をしたという、唯一の料理。本当においしいよ、あれは」

 素材の状態、気温に湿度などから最適な調理法を確立する。素材が最悪な場合は、魔法による探査と回復を応用してどうにか食えるレヴェルまで引き上げる。だから、異常にうまい。はず。
 これはチートではない。繰り返す実験からはじき出された計算式、それがこのシチューのマジック。『俺』が暇な時にひたすら続けた研究の成果。

「おねえちゃんの料理……ウマー……」

「なんですずかは食べたことがあるのよ?」

「アリサとすずかとなのはが遊びに来た日だ。アリサが遊びつかれて寝た後に、な」

 第二次ルーデル屋敷襲撃事件。バカみたいに強い魔導師のなのはは結界にごまかされないので、一緒に来た二人も屋敷に到達できたが、帰る際に迎えの車が迷走してしまったのだ。なのはは既に自力で帰ったが、日も暮れて、ならばいっそ泊まってしまえばいいという結論に達し、ルーデル屋敷襲撃は急遽お泊まり会になったのだ。仕掛け満載の洋館ではしゃぎまわった結果、体力の差でアリサが眠りこけてしまったのだ。飯も食わず。

「なんで起こさなかったのよ!」

「起こしたら般若の形相でバーニングされた。あれは本気だった」

「あはは……」

 実はさほど気にしてない私の反応を思い出してか、すずかが苦笑いする。起こそうと思えば起こせたが。

「くううううううぅぅぅぅぅぅ……」

「くぎゅうううぅぅぅぅぅぅぅ……」

「まねするなー!」

「フフフ……」

 からかって一番面白いのはアリサだ。これは間違いない。

「おーい、終わったぞー」

「ふむ。行こうか」

 なのはに預けた、未だねぼけているアルトを背に負い、旅館の入り口に向かう。

「ありがとう」

「ん、どういたしましてなの」

 なのはは敵と味方の二元論でものを考えない。友達であれば、恐らく無条件で信じてくれる。だがその限度を越え、私が間違っていることをしていると思えば、たぶん殴ってでも止めるだろうが、私はそう簡単に止まらない。『俺』は、たとえ友であろうとそれを最大限に利用し、障害になる時はどんなに親しい者でも排除していた。今はその覚悟が鈍っているが……大丈夫。嫌われ者は慣れている。

「そろそろ起こしてやらないとな」

 アルトは軽い。非力ななのはが引きずることができるくらいには。面白いことに、『空飛ぶ重戦車』タイプの私と違って、アルトは『機動は神、装甲は紙』な空戦タイプだ。ブースター付A-10神とメビウスラプター。私がなのは、アルトはフェイトに似た感じだ。性能は、ロストロギアだけに比べものにならないが。
 ああ、性能なんて、本当に工業製品みたいだ。細胞というマテリアルを組み上げて造る、私というAIを搭載したヒトガタ。センチュリアを構成する要素で、実験体で、兵器。

「どうしたの?」

 なのはが聞いてきた。見ると、心配そうな顔で私を見ている。

「どうもしないが……どうした」

「んー、とっても辛そうな顔をしていたの」

 この勘の良さは、戦闘民族の血か。

「実は、アルトを起こすのが辛くてな。やっと寝たのに、だが起こさなければと思うとな」

 私はウソツキだ。だが、その鉄面皮から『何か』を感じ取ったなのは。

「気にするな。行こう」



 温泉には、シュタインベルガーは向かない。温度が高く、ヴァインは劣化してしまう。やはり風呂で飲むなら日本酒、男山に限る。

「お酒、ダメなの」

「私は飲んでないぞ。ヴァインならともかく、15%の男山は酒だ。ハンナの専門だ」

「美女と美少女を肴に温泉で飲む酒はまた格別だな。この世界に生まれてよかった」

「そんな大げさな」

「アルト、沈むな」

「すごい冷静だね……」

「起きるかと思ったんだが。眠ったままだから面白いように浮く」

 仰向けで湯船にぷかぷか浮くアルト。ときたまブクブクと沈むが、さすがに危ないので私が頭をホールドしている。

「うみゅ? おねえちゃん?」

「やっと起きた。どうだ、温泉は?」

「もう温泉? ドジこいたーッ!」

「それだけ元気があればいいか」

「くすん」

 もしかしたら、エイダのオタ化はアルトのせいかもしれない。カノーネンフォーゲルはエイダとリンクしていたりするのだ。

「おねえちゃんおねえちゃん、あれやって」

「あれ……むう」

 かわいいアルトのためならば、あれをやるのもやぶさかではない。一度湯から上がる。それから息を整えて、湯に足を入れる。

「え?」

「それ、どうなってるの?」

 ぱしゃんと水面を足の裏が叩く。

「見よ! これが波紋の呼吸法!」

 と、声を出した瞬間に湯の中に落ちる。

「波紋の練りが甘いわね」

「できないくせに生意気な」

「本当に波紋なのかな……」

「トリックはあるが教えない」

「え? おねえちゃん、あれトリックだったの? 本物の波紋だと思ってたのに」

「そのトリックを暴けないなら、波紋を使っているのと変わらない。要は『不思議な結果がそこにあること』が重要なのだ。言い方は妙だが、魔法も奇術もネタが判らなければ同じだということだ」

 さっきから私をじーっと見ている、ユーノとなのはに念話を送る。

《魔法じゃない》

《嘘なの。飛行魔法を使ったでしょ》

《いや、なのは。魔法じゃないよ。魔力反応は無かった。ジャミングがあるから判りづらかったけど》

《奇妙なことであふれている世の中の、奇妙なものの一つだ》

 そして、頭をひねるなのはを会話からシャットアウトする。

《さて、ユーノ。申し開きがあれば聞こう》

《ぬ!?》

 フェレット状態だから判らないが、恐らく顔は赤いだろう。心頭滅却していたのかどうかは知らないが、意識しないようにはしていたのだろう。それを掘り起こし、ひたすらからかってやる。

《まままままままま前くらい隠してよ!》

《ほう、私の躯がそこまで魅力的だとは知らなかったな。抱きしめてやろうか、淫獣》

《い、いんっ……》

 今度は青くなっているのだろう。絶句が全てを物語る。

《悠々たる哉天壤、遼々たる哉古今、五尺の小躯を以て比大をはからんとす……》

 何故知っている。というか、辞世の句を詠むな。現実から逃げたいのは判るが。

《笑いもしない、可愛げもない不気味な少女よりか、なのはがいいのは判るがな》

《そ、そ、そんなことは……》

《ん? 私がいいか。やめておけ、私は攻略対象ではない》

《何の話だよ……》

《どうせなのはに惚れでもしたろう》

《ななななぜそれを!?》

 離れた、視界の外でばしゃばしゃと水音がする。アリサたちが戯れている音ではない。

《なのはは異常なまでの鈍感だし、かなり恋愛に関する常識も欠落している。明確な意思を持って、『それを教えてやる!』くらいの気概でやらないと、多分落とせない。そうだな、なるべく離れるな。疎遠になったらおまえの場合致命的だ》

《……なるほど》

 少年の恋愛相談も程々にして、今を楽しむことに専念する。アルトが眼を離した隙にまた寝てブクブク沈んだり、ユーノが哀れにもアリサに全身を洗われたり、なぜかなのはが男山を飲んで倒れたり。平和だった。



 森の中を散策する。浴衣ではなく、いつもの黒服。森を歩くのだから森林迷彩やギリースーツを着たいのだが、これはただの散歩。まだ日も暮れていないし、黒では偽装効果はあまり望めないのだが。
 記憶では、フェイトがこの森にいる。魔力反応が希薄なサーチャーに、ステルスとジャミングをかけて飛ばしているから、いずれは見つけることができるだろうが。

《つくづく思う。私は、こんなことに向いていないと》

[[強襲、殲滅、制圧がランナーの特性ですから、それは仕方ないのですが]]

《苦手、なのに一応できるし、その一応でプロも余裕で超えられるからタチが悪い》

[[ランナーを簡単に表現するなら、航空支配戦闘機です]]

 世界最強の猛禽類。不本意だ。

[[魔力反応を感知。フェイト・テスタロッサと一致]]

《気づかれてないか。よし、デコイ》

[[ロード。誰にしますか?]]

《……サヤ・ハミルトン》

[[了解。サヤ・ハミルトン、Imitate]]

 私の姿が消え、それに覆い被さるように幻影が現れる。

「あれ? ねえねえ!」

 性格を全力で歪める。別人を演じる。声を芳野美樹ヴォイスに変えて。

《非常に不本意です》

「……?」

 樹の上の少女。私の声に反応はするが、気付かれていないとでも思っているのか。認識阻害結界を信頼しすぎている。世の中には、希少だがそんなのを看破する人類が存在するというのに。

「樹の上のキミだよー!」

「え?」

 やっと、自分が見られていることに気付いた。その驚いている隙に、しゃかしゃかと樹に登る。フェイトのいる枝、そこにぶらさがってくるりと、鉄棒の要領で枝に立つ。

「おおっと」

「わ、わ」

 枝がしなり、私はバランスを崩して、落ちかける。

「っと。やあ」

「えっと、あの……」

「なんでこんなところに?」

「えと……探しものをしてて」

「そうなんだ。よし、手伝ってあげる」

 ひょいと、飛び降りて全力疾走。割と重力を無視して、駆けだした私を見て、フェイトは呆然としていた。普通に飛び降りて、無事な高さではない。それこそ魔法を使わないと無事ではすまない。だが、魔力反応は一切存在しない。
 そして、フェイトが発したサーチャーには、私は映らない。肉眼では見えるのに。
 フフフ、私が楽しませるのは、全ての子供たち。恐怖を楽しむがいい。

[[悪趣味です]]

《私のストレス解消と、少しだけの悪戯心》

[[違います。先程のキャラクターです]]

《芳野美樹ヴォイスか》

[[私の中に声優データがそれしかないとはいえ。私の声で……キモイです]]

 楽しかった。あのエイダが凹んでいる。

《さてさて。幽霊の名は、何がいい?》

[[エヴァ・ガーランドなどはいかがでしょう]]

《……アドルフ・ヒトラーか》

[[ヴェルナ・メルダース]]

《男じゃないか》

[[あれはヴェルナーです。エリーゼ・ハルトマン]]

《もういい。サヤでいく》

 要はこの名前会議の時間さえあればいい。

「おーい」

「あ……」

 また同様にしゃかしゃかと樹を登り、器用に枝に正座する。

「キミの探しものはこれ?」

 エルテ謹製、紅いジュエルシード。シリアルは存在せず、無制限に創り出すことができる、新型カートリッジのパウダー。

「あれ? あ……うん。でも、どうして……」

「昔から、人の考えてることが読めたんだ。ちょっとだけのイメージだけど。よかったー、街にまでいって探したかいがあったよ」

「ここから街まで?」

「うん。頑張ったんだから。じゃあ、縁があったらまた会お!」

 ゆっくりと、その姿を消していく。私は新たにステルスを起動し、デコイの効果が切れるのに対策する。ゆっくり飛行し、ある程度離れた場所でフェイトの様子を観察する。おーおー、探してる探してる。サーチャーがバラバラと飛んでくるが、無視して旅館に戻る。
 しかし、いつまで経っても怖がるそぶりを見せないのは何故だろうか。幽霊というものの意味を理解してないのだろうか。確かに、お化け屋敷で平然としていそうなタイプだが。
 あ、名乗るの忘れた。



 どうも、フェイトをからかっている間になのはとアルフの邂逅イベントは終わったようで、温泉に浮かんでずっと待っていると、アルフが入ってきた。
 私の姿はエルテのまま。しかし、男山入り徳利を搭載した桶を浮かべていい感じに酔っている。ハンナは卓球で恭也と美由紀相手に二刀流で相手をしている。士郎相手ならどうか判らないが、これでいい勝負をしているのだからこの躯のスペックが伺い知れる。
 それはともかく。

「やあ、お嬢さん。飲むかい?」

「ん? アンタは……まあいいや。それ、なんだい?」

「温泉の醍醐味だ。中身は日本酒だが、温泉で飲むとまた格別だ」

「へえ~」

 しっかり食いついた。うまいもの、と思わせれば来ると思った。

「じゃあ、少しもらおうかしら」

「おう」

 いくつかあるおちょこを差し出し、温泉でぬるくなった男山を徳利から注ぐ。
 それを持ったアルフ、一気にそれを傾ける。量は少ししかないのだが。

「わお! なかなかおいしいじゃないか」

「そうか。よし、まだまだあるから遠慮なくやってくれ」

「んー!」

 などと風呂で愉快に飲んでいた。しかし、アルフはそこまで強くはなかったようで。

「しゅこし、のみすぎたかしらん?」

「ふむ。ちょうどなくなったことだし、お開きにするか」

 少しばかりろれつがおかしいアルフを上がらせ、片づける。時間的にも、酔いが醒めるころにジュエルシードが発動するだろう。実は、既に封印してあるものを時限装置付で放置しているのだ。

「大丈夫か?」

「だいじょーぶよぉ。でもありがとぅね」

 少しばかり足元がおぼつかないアルフに肩を貸し、とりあえず脱衣所まで行って別れた。
 しかしまあ、調子に乗りすぎたか。



 夜。それなりに旨いものを食い、温泉にダイヴし、布団に突撃する。
 すずかとアルトと話して、アリサとなのはをからかって、そして川の字に並んで眠る。二本多いが。
 アリサとすずかはしっかり熟睡しているが、なのははなんとも眠りが浅い。
 私はそれを確認して、しっかり眠りこける。外にも私はいるのだ。

 腕時計がカウントダウンを始める。
 時限装置付のジュエルシードが、あと数分で解放される。

「ずるい気がしてならない。大規模破壊なんて大雑把なことが最も得意な私をここまで小さくできるのは、おまえのおかげだな」

『褒めないでください』

「じゃあ褒めない」

『褒めていたのですか?』

「かなり本気でな」

『信じられません』

「信じる信じないはおまえの勝手だ」

『信じられませんが、嬉しいです』

 相変わらずのスカイアイ。空中管制もできるが、本質は衛星兵器。
 なのはとフェイトがやられた場合のバックアップ。私はその程度の役割しかない。ある程度は原作通りに動かしつつも、裏で歴史を書き換える。

『起爆5秒前、2、1、ドライヴ』

 独特の感覚。ジュエルシードの、発動しかけの魔力反応。

「仕掛け、起動したな。反応だけで発動はしない、愉快な仕掛け」

『今日ははっちゃけていますね』

「たまには悪ふざけも必要だ。ほら、パーティーの始まりだ」

 フェイトとなのはがエンゲージ。何やら話しているが、双方共に臨戦大勢だ。

『始まりました』

「傷つけあうと判っていても、それを止められない、か」

『ランナーには、介入する力があるはずですが』

「私の。これは私の物語ではない。裏で関与はできるが、表で派手に介入することはできない」

『未来の話、ですか』

「私はこの物語に存在するはずのなかったイレギュラーだ。歪んだストーリーを修正するために、そして最後に幸福な平穏を迎えるためにのみ、私は動く」

『その平穏に、あなたの姿はありますか?』

「平穏に兵器は必要ない」

 眼下には、桜色と金色の光が踊っている。ヘルゼリッシュなんて悪趣味な魔法を介さずに見ると、なんて綺麗なのだろう。

『…………。ジュエルシードモンスターの発生を確認。移動を開始。予測目的座標、戦闘区域』

「無粋だ。ドライヴ」

『ADMM、Drive』

 この美しい光景に水を差す存在は許さない。ノスフェラトの最低弾数である12発の誘導弾が放たれる。

『着弾確認。対象の消滅を確認』

 こんなものに、平穏に生きる権利は無い。着飾る必要も、綺麗である必要も。

『バンダースナッチを起動。ジャミング効果付加、Run』

 エイダは、私にはもったいないくらい優秀すぎる。命じなくても、私が望んだ通りに動いてくれる。私は、ただの動力炉であるだけでもいい。それが十年以上の学習の成果。

「もしおまえに魔力タンクがあったら、私は要らないな」

『……私は、人間の行動を予測できますが、ランナーのように、感情という理解できないものを考慮して完全な予測はできません』

「それが理解できたら、それこそおまえは完全だ。人間と変わらない、AIのいきつくべき域へ達したことになる。そうなれば、私は要らなくなる」

『それは……』

「その時は、この躯、おまえにやる。おまえはいずれ、人になるべきだ」

『ランナーは、消えたいのですか?』

「俺は、みんな大好きだ。アルトもエイダもカノンも、高町家の人たちも、アリサやすずかも、みんな、みんな」

『ならば、何故』

「……終わったぞ」

 フェイトの勝利で戦闘は終わっていた。私の仕掛けを見て、首を傾げている。面白い。
 クスクス笑っていると、

『私は、ランナーに消えてほしくはありません。ですので、永遠に感情を理解することはありません』

 やはり、エイダはADAではない。



《あとがき》

 念話のカッコは、気付いた方もおられるかとは思いますが、AC5から。

 派手なオリ設定きました。
 エネルギー結晶体。エルノーイル倒しまくった日々が懐かしい……
 なんというか、ジュエルシードってサードエナジーっぽいって思ったのは私だけですかね。だけですね、たぶん。
 そういえばダディフェイスで願いをかなえる水があったなー。宇宙船のワープゲート繋ぐのが本来の用途だったはず。どうでもいい話ですが。
 スカさんが普通に使ってたから、これが正しい用途だと思います。願いをかなえるってのは副作用ってことで。

 なんか最終決戦に向かうような感じになったのは何故だろう。エルテの過去なんて正直どうでもよかったり(オイ。

 戦闘描写は、エルテの裏方という立場からあまりありません。技量不足を隠すためでもあったり。ルーデル禁止の意味をかみしめていたり。

 ルーデル機関はスカさんの研究に匹敵する技術(別分野/世界崩壊前の技術/エルテの手で更に発展)と、センチュリアの戦力である意味最強です。実際、センチュリアは戦力としては強すぎて使えねーのですが。
 魔法技術の研究は、この先必要になるので、人海戦術でトンデモなものを開発していたり。研究施設もセンチュリアも大量生産中。いろいろ問題はあるのですが。製造費とか研究費とか維持費とか。

 フェイトは結構天然ぽいかと。一部のSSの影響か、ぽやぽやしていそうなイメージが刷りこまれています。

 ノスフェラトは、弾数がダース単位でしか調整できません。ADMMがベースですので。ACのトンデモ兵器は大好きです。
 魔法がミッドやベルカと全く違うので、面白いことに。

 エイダはエルテが大好きだったり。ある意味でツンデレ、かも。

 03のWordで書いてたら、いつの間にか50kBを超えていた罠。



[12384] 16Fate and Fortuna
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:f7e92230
Date: 2009/11/17 13:35
 フェイト達がマンションに戻ってきた。私は屋上の端に座って謳っている。傍らには段ボール箱。

「おかえり」

「キミは……」

「数日ぶりだな」

「アンタ、何しに来た?」

 アルフがあからさまな敵意をこちらに向けてくる。杯を交わした仲だというのに。

「約束を果たしに来たのと、食生活の改善と、傷の修理」

「約束?」

「エイダ」

『Ja』

 待機状態のエイダが、ジュエルシードを全て吐き出す。私が集めたうち、三個。
 それをふわりとフェイトの元へ送る。

「あ……」

「これからは、自由に回収していい。あの白い魔導師から奪うのもいい。ただ……私は捜索に関与できなくなった」

「どうして?」

「見ての通りだ。リンカーコアの異常。出力が落ちて、まともなデバイスが使えない」

 これは嘘だ。アースラがこの世界に来る時期を調整するために、別の世界で軽い次元震を起こしたり、何人かでアースラを引っ張るなどして遅延工作をしたが、それも限界になってきた。存在を特定されそうになり、おおっぴらに行動できなくなった。まさか一ヶ月も早く出航するなんて思わなかった。これもクライドを助けた時の、私の存在による歪みなのだろうか。

「だったら何でここにいるんだい」

「デバイスは無くても魔法は使える。デバイスも完全に使えない訳ではないし、協力できない訳でもない。その傷を放置してるのを見ても、回復系は得意ではないのだろう?」

「…………」

 アルフが黙る。

「それに、嫁入り前の可愛い子が、傷だらけでジャンクフードやインスタントだけで生きているのは見過ごせない。こう見えても回復と料理は得意でな」

「なんで知ってるんだ!」

 下手な答えを返すと、この小さな外見でも容赦なく殺されそうだ。

「そっちが監視していたのと同様に、私も監視していた。遥か天空から、ずっと」

「だから、いつもあんな高いところにいた?」

「一人で街を見渡すには、そうするのが最も効率がいい。精密狙撃も多弾頭精密誘導もできることだし」

 要は衛星兵器の概念と同じだ。手の届かない高高度から、監視して攻撃する。おそらくミッドチルダにはこうした兵器運用のノウハウがないのだろう。質量兵器云々のせいで。禁止と言うのは思考停止と同じ気がしてたまらない。規制が正しいと思ったら大間違いなのだ。

「殆ど食っていないのも、あまり眠っていないのも知っている。だから無理矢理にでも食欲を増進させて、睡眠薬を飲ませてでも休ませてやろうと思い至ったのだ」

「ふん!」

 殴られた。

「殴ったな。親父にも殴られたことないのに」

 棒読み。

「フン、甘やかされて育った奴なんかの施しは要らないよ」

「ああ、そういうことか。存在しないものには殴られようがないじゃないか。それに、今のは日本の有名なお約束だ」

「ああ、アンタには母親しかいなかったね」

「母親? しっかり騙されているようで安心した」

 こんなこともあろうかと、最初からバリアジャケットを装備していた。私の成長に合わせて、服も成長する。

「私には、初めから妹しか存在しない。親? あの変態技術屋どもをそう呼べと? ひたすら遺伝子をいじくり回されて失敗したら破棄されて溶かされて、別の私の材料にされる。ああ、確かにある意味では箱入り娘だった。一生外に出られないはずだった。あのクズどもが死んでコールドスリープが切れるまでは」

 口が止まらなかった。平坦な言葉、しかし私は怒っている。この躯になってから、感情表現は苦手だ。

「……関係ない話だったな。すまない」

 アルフの手が、胸ぐらから離れる。成長して両の足で立っていた私は、アルフより頭一つ分くらい背が高い。
 もうアルフに用は無いと、フェイトに向かう。

「フェイトに、近寄るな」

 当然無視して、フェイトを優しく抱きしめた。同時に、エイダにロードさせていた魔法を発動する。

「あ……」

[[バーストチャージ]]

 私のものではない、青い魔力光が私とフェイトを包む。メタトロンやバーストチャージなど、破壊が本領の私が本来苦手とする魔法をエイダが代わりに処理する時の色。魔力を回復し、傷やダメージを修復し、失われた体力を与える。治せないのは病気と心の傷だけ。せいぜいがハードの最適化でしかない。

「疲れてると、人間、効率が落ちる。寝不足だと集中できなくなる。体力が落ちるとまともな思考ができなくなる。早く目的を完遂させようとするのはいいが、今のまま行動を続ければ死んでしまうかも知れん。そうなれば元も子もない」

「…………」

 フェイトは答えない。見てみると、眠っていた。

「……アルフ」

「わかってるよ」

 あらかた回復したのを見計らって、アルフとフェイトの部屋に転移する。

「後は頼む」

 フェイトをアルフに預ける。寝室に運ぶと、リビングに戻ってきた。

「アンタは……敵なのかい? 味方なのかい?」

 アルフが変なことを訊く。

「私は誰の敵にもなり得ない。それより、何か食うか?」

「あたしにゃこれがある」

 そういって掲げるのは、ドッグフード。

「……問答無用。嫌でも食わせてやる」

 段ボールを手にキッチンを有無を言わさず制圧。予想通り、包丁すら存在しない。鍋はあるがフライパンは無い。レトルトしか食べていませんと宣言しているようなものだ。

「腕が鳴る。フフフフフフフフフ……」

 段ボール箱から調理器具全般を取り出し、キッチンに収めていく。全てが終わり、食材を入れて準備完了。

「フフフフフフ……」

「な、何をするつもりだい?」

「料理に決まっているだろう。フフフ、エイダ。焔薙、ロード」

『調理モード、起動します』

 真っ黒なエプロンと包丁くらいに短い焔薙。蒼い炎が刀身を踊っているが、これに温度は無い。

「魔法の無駄遣い?」

『下手な事を言うと、ランナーに三枚におろされますよ』

「誰だ?」

『独立型戦闘支援ユニット、エイダです。一般的にAIOSあるいはインテリジェントデバイスと呼ばれる存在です』

「へー、アンタ、あの子のデバイスなんだ」

『正確には違いますが、概ねそうです』

 エイダがなにやらアルフと話しているが、特に興味は無い。今はシチューを作るという崇高な目的があるのだ。

「それにしても……あれは凄い」

『ランナーの料理の腕は神がかっています。とある武術の達人曰く、「腕の動きが見きれない」と』

「あー、確かに見えないね。あんなに早いのに殆ど音がしないのは?」

『焔薙の切れ味と、スタープラチナに比肩するくらいの超精密動作の恩恵です。今のランナーは、原子レベルでの食材の加工が可能です』

「原子レベル? それだと……」

『この前は冗談で純金のニンジンを作っていました』

 ロボット三原則にないからといってとんでもない嘘をつかないでほしい。嘘をつけるのは優秀なAIの証左だとは言うが。

『神技その二が始まりました。片手で肉を切りながら逆の手で鍋を回す、ドラマーも裸足で逃げ出す必殺技』

「マルチタスクでも無理っぽいね」

『そして切り終わった肉を炒めている野菜の中に投下。同時にフランベ』

「おお~! 鍋から火が!」

『原理は不明ですが、ランナーの振るう鍋は熱効率が異常に高いです。そろそろ野菜に火が通ります』

「早くない?」

『ええ。今投入された水も、見ての通りすぐに沸騰しました。ランナー曰く、「波紋の力」だと』

 嘘八百もいいところだ、と言いたいが、似たようなものなのでそうは言えない。スタンドは出ないが。

「はもんのちから?」

『生命エネルギーを自在に使う方法です。詳細はジョジョの奇妙な冒険を読むことをお勧めします』

「便利なもんがあるもんだねぇ」

『ちなみに今回は市販のルーを使うという暴挙に出ています。手間と味を犠牲にして速度を重視しています。可能な限り早くまともなものを食べさせてやりたいそうで……』

「エイダ」

『はい』

「黙れ」

『と、照れ隠しも……』

「フォーマット、Ready」

『了解、黙ります』



 会心の出来とは言いがたい。
 いくら時間を惜しんだと言っても、これはない。私の感想が「それなりにうまい」。それなり、それなりなのだ。それをアルフは究極至高の料理でも食っているように喜んでいるのだ。罪悪感で死にたくなる。

『だったら全力を持って料理に当たればよかったのでは』

「貴様に判るか。ジャンクフードで日々を食いつなぐ少女を監視していた私の気持ちが」

『ランナーの特殊性癖については理解する気もありません』

「ほう」

『撤回します。敢えて言おう、冗談であったと。ランナーがロリータコンプレックスのレズビアンであるなど、あり得ない話です』

「エイダ・ザビ閣下。近いうちにもう一度『だけ』、じっくり話し合う必要があるな。この百合AI」

「あははははは、アンタたち、面白いねぇ!」

 さっきまで、涙を流さんばかりに一心不乱に食っていたアルフが初めて口を開く。妥協すれば、私のプライドを削ればすぐに大量に提供できるとはいえ、この使い魔はフェイトの分を考えてないようだ。

『面白い……』

「……言って欲しいのか?」

『からかわないでください』

「セリフぐらい最後まで言わせろ」

「やっぱ変わってるよ、アンタたち」

「自覚している」

『変わっているのですか?』

「……オタクでエイダでマスターをからかいたい放題からかうインテリジェントデバイスを、変わってないといえるか」

『遊んでいるのです』

「それで、変わっていないと言うか」

『これが私です』

「おまえらしいと言えばおまえらしいな。やれやれ……」



 結局、鍋は空になった。アルフは苦しそうに唸りながら眠っている。その顔は何故か幸せそうだ。
 鍋をしっかりと洗って、次の『本命』に移る。

「エイダ、気温、湿度、気圧、時間」

『26度、28%、1002hPa、2327時』

 頭の中の、忘れえぬ方程式に値が代入される。
 テイラーの式? 特殊相対性理論? そんなものより遥かに尊いのだ。

『下ごしらえプログラム起動』

 野菜や小麦粉をスキャンし、状態が悪ければ組成を変える。水道水の毒素を抜き、硬度を調整する。

「ザ・ワールド。時は止まる」

『バックグラウンドローディング』

 どこかでカートリッジがロードされている。らしい。初期型アヴェンジャーのことは己の躯と同じくらい知っているが、しかし最近はエイダがブラックボックスを量産しているせいで訳の判らないことになっている。見えないところで勝手にロードされるカートリッジなど、その最たる例だ。今のアヴェンジャーはGAU-8Gとでも呼ぶべきヴァージョンだ。

『ナーヴアクセル/ブレインアクセル、Run』

 神経の伝達速度、そして思考が、時の止まった世界で加速する。単位時間あたりのカートリッジ消費が巨大な魔法は、時が止まった中でも急ぐことを義務付けられる。私とエイダとアヴェンジャーの時は止まらないのだから。そして、もしこの三つのうちどれかが止まってしまったら、戻れなくなる。
 時を止めて加速して、包丁を振るう。宙に放った野菜や肉が、魔力の刃に正しく切り裂かれ、ボウルに落ちる。

『表面積、体積、全て完璧です』

「そして時は動き出す」

 全てが動き出す。一秒もせずに全てが終わった。時を止めるのは、私のカートリッジによる魔力量をごまかすためでもあるが。
 ルーをつくり、野菜を炒め、煮て、ルーを投下、更に煮て、牛乳を散布。
 味を最適な状態へ保つために入れられた香辛料が、少しだけ躯を温める。冬仕様だが、まだ夜は冷える今の時期ならば問題はあるまい。

「後は煮込むだけだ。ひたすら、フェイトが起きるまで」

『焦げませんように』

「焦げんよ」

 エイダに任せていない、知らせていない魔法とは全く別の力により、鍋は完璧に管理されている。

『以上があれば教えます。安らかにお休みください』

「私に死んで欲しいと」

『そんなまさか』

 いつもの軽口を交わしながら、キッチンに置いたままの段ボール箱に入る。コートを躯に巻きつけ、ふたを閉じて眠りこける。



 朝。ずっとコトコト煮込んだシチューは、いい感じになっていた。味見をすると、ほぼ完璧だった。

「エイダに味覚があればいいのにな」

『味という感覚に興味があります。嘘の味はどんなものなのでしょうか……』

 『味も見ておこう』ではないのか。

「よし、機関で開発しよう」

『機関での研究は、いつも唐突に始まりますね。嬉しいですが』

 機関――――ルーデル機関での研究は、その殆どが順調だ。はやてに早めに会えてあまつさえ居候などという立場になれてしまったので、闇の書の解析も始まっている。密かに管理局上層部と繋がって、ロストロギアの封印や安定化なども請け負い、指名手配犯を捕獲して管理局に売り払ったりして維持費を確保している。エーリカ・ハルトマンの名で一部の研究の成果で特許をとり、コンスタントな収入もあるが、人数や規模が増えると同時に維持費も増える。管理局がらみの仕事や特許料ではいささか心もとないので、デバイスの製造業を営んでいたりするが、その話はまた別の機会に。かなり人気とだけ言っておこう。

「ああ、フェイトはまだ起きないのか……」

『現在0304時。夜中です』

「は?」

『0305時です』

「……体内時計が狂ったか?」

『そのようです』

「なら、エイダでもいじるか」

『……優しく、してください』

 時々、エイダのシステムの最適化をする必要がある。

「ヘルゼリッシュとノスフェラトとゼロシフトはクイックのままだ。セガールはもういいから。いいかげんサーバに戻せ」

『えー』

 魔法の使用頻度や傾向から、クイックキャスト設定から外したり追加したり、無駄な魔法はサーバに移動したりしてなるべく軽くする。エイダの記憶や情報を整理したり、断片化を修復したり。
 アヴェンジャーというシステムは、物理的に分離し、情報的にリンクした『本体』と『AI』で構成される。レイジングハートやバルディッシュを見ても判る通り、普通は一体なのだ。これは私の馬鹿魔力からAIを保護するための設計なのだが、離れているので、術式の制御や発動にラグが出る。ほんのわずかなラグだが、ゼロシフトなどの亜光速移動やザ・ワールドなどの時間操作系の魔法には、そのラグが致命的な事故に繋がる。距離的なラグは予測修正ができるが、システム負荷などの時間関数的なラグは予測はできても即時反映・修正はできない。なるべく軽くして、そのラグを小さくしようとするのが目的なのだが――――

『ザ・ワールドはクイックキャストに残すべきです』

「だが容量がでかい。メモリに常駐のはどうかと思うぞ」

『他の全てを削れば無敵です』

「ディオになりたいのか、おまえは」

『私は承太郎になりたい』

 などと、エイダが自分の趣味に走ろうとするのでなかなかはかどらない。それも冗談みたいなもので、最終的には私が望む形に収まるが。

「バンカーバスターはどうするか」

『B61モードをクイックキャストに設定します』

「よほどベルカの大地が好きなようだ」

『ドイツに七つのクレーターを穿ちましょう。ワタシガキレイニシテアゲル』

「B83とB61はクイックキャストから外せ。ディープスロートとノーマルだけでいい」

『クイックキャストに焔薙とThe busterを設定します』

「ノリノリだな」

『あと、ノスフェラトの術式効率化に成功しました。300発ほど同時誘導限界弾数が増えました』

「ADMM25発分か。それだけのリソースがあれば、おまえの負担も軽くなる」

『全弾発射してくれる方が嬉しいです』

「板野サーカスが好きか」

『イエス、ケストレル』

「私は怒首領蜂大往生が大好きだ」

 結局、私はこれが楽しいのだ。エイダのわがままも含めて、こうして話すことが。

『現状における最適設定、と思われる設定に変更しました。これよりクリンナップ及び最適化を実行します』

「ああ、やってくれ」

『Ja』

 しばらく、エイダは眠る。少しでもメンテナンスの時間を減らすため、AIに回しているリソースを全て作業につぎ込んでいる。

「……あなたのいあいのぼんぼりしゅくぜんとーひーともしてあんやにそぼつ、しとしとこうさくあまねにしんがんさんげとちりしくなみだもかれた、あれからいくとせあなたがのこしたちぃさぃしあわせかみしめながら、よなよなこのこのためにとこもりうたをくちずさむ、たもとぉるしし……」

「ん……?」

「ふしどのあかりにゆらゆらじゃくまくてんじょうおどってがんかにやぶれ、とびちルテアシガアタマニツイタリコウコウイヒヒトミミオクナメル、まいあさまいばんしたかきむしってそうじょぅ、そーりーかーえーる、モウイイカイモウイイカイトォエム、ちせつなといきであぶられても、このこのためにぃ」

「えーっと……」

「ウーシーローノーショーメン、ダァーァレェー?」

「!」

 私の背中を眺めているアルフの背後に、銀髪が美しい少女が立っている。私だ。
 振り返るが、そこには誰もいない。

「ひ……」

 辺りを見回すが、キッチンに座り込んでいた私も消える。フフフ、フェイトの分も恐れるがいい。

「おねえちゃん……金色の子の、おねえちゃん?」

 幽霊役のサヤが、その背後に立つ。
 エイダがなくとも、一度使った魔法は使うことができる。ジャミングに少し不安はあるが、今のアルフはそんな者に気を回せるはずがない。ジャパニーズホラーが世界的に評価が高い理由を知るがよい。

「あ、あ、アンタ、誰だい?」

「うん……名前教えられなかったから。あの子はまだ寝てるから、ひみつ」

「何しに来た?」

「これ、見つけたよ」

 紅いジュエルシード一つ、青いジュエルシード一つ。

「ジュエル……シード」

「お母さん、喜んでくれるといいね」

 笑顔のまま、サヤは風景に溶けるように消える。ゆっくりと、ゆっくりと。

「いい子だな」

 ただ天井に張り付いてデコイを操作していただけなのに。盛大に驚かれた。人は上に警戒を向けにくいという習性があるのだが、まさかアルフにも適応できるとは。

「音もなく現れるな!」

「叫ぶな、フェイトが起きる」

「!」

「何のためにこっそり動いていたと思うのか。それよりも、どうする」

「どうするって……」

 手にしていたフライパンを突き付け、

「朝飯。料理を覚えてみる気は無いか」



 朝と昼の間、フェイトはやっと眼を醒ました。
 寝ぼけた頭が少しずつ感覚を取り戻す中、いつもと違うことに気付く。
 痛くない。
 躯が軽い。
 何故、とは思うが、原因は思いつかない。そうしているうちに頭が完全にいつもの調子に戻り……

「?」

 感覚の一部に異常。それは、どこからか漂ってくる。
 つられるように、惹かれるように部屋を出て、その異常の原因を知る。

「おはよう、フェイト。顔を洗ってくるがよい」

 テーブルの上に並べられた皿と、その上に存在する料理。

「……誰、ですか」

 その、銀色の長い髪と、己のそれによく似た鮮紅の色をした片眼、そしてその鋼のように固まって動かない表情。見覚えはあるが、知らない人には変わらない。ずっとフェイトが監視していた存在。

「始めましてではないとは思うが、名前を教えてはいなかったな。私は、エルテ・ガーデル・ルーデル。ドクトルかガルディとでも呼んでくれ」

 顔以外露出していない真っ黒な服装の、同じくらいの年頃の少女は、ほんの――――ほんの少しだけ、口の端を上げて笑む。

「フェイト! これ、アタシがつくったんだよ!」

 何故かはしゃいでいるアルフは、見覚えのない皿の上に乗った、少し不格好な卵焼きをフェイトに見せている。調理器具は無かったはずなのだけど、と思って、銀の少女に眼を向ける。

「話は後だ。顔を……いや、シャワーでも浴びてくるといい。アルフも」

「……わかりました」

「ああ、いってくるよ」

 浴室に向かう二人を見送って、ガルディは、これでもかと砂糖を入れられた紅茶に口をつける。
 エルテ・ガーデル・ルーデル。機関に、エルテ・ルーデル自らによって創り出された『新型』。名前の通り回復系に特化し、支援を一通りこなせる、センチュリアのメディック。圧倒的攻撃力は不要な回復とちょっとした支援任務――フェイトの体調管理――に、その躯は選ばれた。
 アルフで遊んでいる時に交代したが、恐らく今まで誰よりも接した時間の長いアルフでも、その差異は判らない。誰よりも長い、というだけで、接していた時間はごくわずかなのだが。

「…………」

 飲み終えた紅茶のカップを握り潰し、その手を開く。破片が刺さりズタズタだが、ガルディは表情を歪めすらしない。無傷な手で、ゆっくりと術式を編み上げ、その手にかけた。破片がその手から全て抜き取られ、傷口が眼に見えて修復されていく。破片は宙に浮き、在るべき形に戻りつつある。そして、様々なのモノに付着した血液は、いつの間にか消え去っていた。

「エイダ、何点だ」

『外見は100点です。ランクはFです』

「皮下組織か」

『表皮、血管、神経、筋肉繊維までは問題ありません。骨、リンパ管には損傷はありませんでした。皮下組織から組織液が漏れています』

「あれを繋ぐ感覚がどうも掴めん」

 ガルディは宙に浮いたままのカップを握り、中身をすする。鉄の香りとわずかな塩味。紅茶というには少し紅すぎる液体。

『地道にやっていくしかありません。これも『いずれ必ず』必要になるのでしょう?』

 淡々と、しかし皮肉を込めてエイダは言う。その意味が判るガルディは、口の端をわずかに歪めて笑う。

「その通りだ」

 回復や支援は、ノスフェラトの制御以上の繊細さを要する。ガルディは気まぐれで天井に星空を浮かべた。朝っぱらから。

『お見事です』

「エイダに頼らないとこの程度。やれやれ」

 何が不満なのか、首を振って、星空をかき消す。
 と、ちょうど浴室の扉が開いた。

「ふー」

「……約束通り、話を聞かせてもらいます」

「ああ。食いながらでもよかろう」

 嬉々として席につくアルフと、警戒しながら座るフェイトは、面白いように対照的だった。

「じゃあ、いただきます」

「いただきます」

「?」

「この世界での作法なんだってさ。食材に関わった全てに感謝する、って意味らしいよ」

「……いただきます」

 一時たりとも、自分から眼を離さないフェイトに苦笑――しかし、笑っているようには見えない――しながら、ガルディはコーンスープに口をつける。だいぶ冷えてぬるくなっていたが、彼女の合格ラインはクリアしていた。フェイトもそれに倣ってスープを口に含む。

「おいしい……」

「そうか。嬉しいな」

 緩みかけた緊張が、その声で再び引き締まった。こうしている場合じゃない、そうフェイトは思い、改めてそれを問う。

「……話を」

「やけにせっかちだな。フフフ、何が聞きたい?」

 対して、ガルディは緩みきっている。フェイトがデバイスを起動して斬りかかれば、ひとたまりもないくらいに。

「あなたは、何者ですか」

 昨日、屋上であったことは思い出したが、それでも信用にすら足りない。場合によっては拘束……あるいは最悪の手段を取らざるを得ないだろう。それを知っているアルフは、そのやりとりを神妙な顔で見ていた。

「私が『何者』、か。その問いは正しくない。『何者』というのは、相手が人間であると認めた時に使うべき単語だ。敢えて、ヒトとして答えると……エルテ・ルーデルの一人かな」

「人じゃ、ない?」

「あなたは何か。そう問うべきだった。覚えておくといい。例え相手がヒトの形をしていたとしても、時にそれは正しくなかったりする。先入観は捨てろ」

 ガルディはしゃくしゃくとレタスを食んでいる。何も付けてはいないが、特に気にならないらしい。

「あなたは、なに?」

「ロストロギア」

 ルーデル屋敷直送のマフィンをかじりながら、何でもないように言い放った。



《あとがき》

 中途半端な終わり方だなー、などと自分でも思いますが。

 アルフに料理スキルがあるとは思えないし、フェイトはインスタント漬けかと思われます。原作でもトレーに乗ってたのは簡単な洋食だったはず。
 エルテは全国の喫茶店で修業(アルバイト)をしていた経験があるので。料理が上手いのは当然です。

 会話がカッコいいと評価されたのが嬉しくて狂気乱舞(誤字に非ず)
 コメントを魔力に変換して必死に書いています。
 コメ返しはあまりできませんが、しっかり反映していくのでどうかよろしくお願いします。

 習作をはずしました。移転するかも。



 二重コピペを修正しました。
 確認せず、すみません。



[12384] 17八神家のとある一場面ZERO
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:89d8854e
Date: 2009/11/18 00:11
 八神家で、私は『闇の書』こと『夜天の書』の復元方法を模索している。同時に、はやてから闇の書に流れる魔力バスをバイパスして、負担を軽減している。

「エイダ、プログラムに穴は?」

『幾つか存在しますが、恐らくは罠です。ビーコンプログラムを突入させたところ、その全てから応答が途切れました』

『アドミニストレータ権限が無い限り、起動前の侵入及び解析は不可能と思われます』

『八神はやてに協力を求めることを提案』

 床に散らばった30mm弾頭、アヴェンジャーから次々に声が発せられる。もし暴走した時のバックアップとして、解析用の並列コンピュータとして、試しに5個持ってきたのだ。

「……『アレ』は通用しそうか?」

『侵入さえできれば可能だと推測されます』

『『例の物』の諸元がありません。概要通りの性能ならば可能です』

『恐らく、キャパシティには問題ありません。人間を数十人エミュレートできる性能があります』

 2個はAIを停止して処理専用機となっている。このためだけに、全ての魔法プログラムをデリートして処理に回している。再調整が面倒だが、これからこういう作業に必要だから、専用機として機関に置いておくことも考えている。

「起動すればどうだ? 管理者権限は要るか?」

『侵入にアドミニストレータ権限は不要ですが、管理者の許可があれば安全です』

『八神はやての協力を要請』

『時を止めて消滅させることを提案』

 時折物騒なことを提案されるが、条件は概ね『アレの完成』『闇の書の起動』『はやての協力』で固まってきている。失敗した時は、はやてを取り込む前にザ・ワールドで時を止めてジオサイドキャノンで転生プログラムの発動の暇もなく消し飛ばす、という力技プランも存在する。

「よし、ここまでだ」

 アヴェンジャーを一つだけ残して転送する。機関に送り、収集したデータを『アレ』に反映させるのだ。

『ジェイルに任せればいいと思うのですが』

「奴は天才だが、生命操作にしか興味がない。やれと言えばやるだろうが、ALにどれだけ興味を示すか」

『人工『生命』なのに、興味がないのですか?』

「あれは人間をいじるのが好きなんだ」

 ジェイル・スカリエッティ。StSの悪役。だが、私は奴が嫌いではない。戦争が資源と血を消費して人類を発展させたのと同じ。ジェイルが最高評議会経由で放出している技術が、医療や科学に反映されているのは確かなのだ。
 目的のために屍の山を築くのは、よくあること。私の大切な人が幸せであれば、私はその犠牲に眼を瞑る。しかし、その犠牲が『犠牲になる必要がなかったら』?
 彼の『失敗作』を回復して、機関で働いてもらっている。何か思うところがあったのか、最近はジェイルも回復に協力してくれることもある。どうも、私とつきあいだして、いや、私をいじってから『実験材料』に対する考えが変わったようだ。『ガルディ』のプランを提案したのもジェイルだ。
 そう、私は覚醒して割とすぐに、ジェイルと接触していた。色々な思惑とともに。

『ジェイルが失敗することで人材が増えるのは嬉しいですが』

「自己満足に過ぎないことは判っているというのにな」

 最近になって、ジェイルの研究所と機関の付近にできたもの。幾つもの墓標には、真っ白なオオアマナが咲き乱れている。

「えるてー、ごはんやよー」

 リビングから、はやての呼び声。念のため、はやての誕生日まで封印に手はつけないが、それまでには対策を完成させる。

「いまいく」

 闇の書を元の場所に戻し、溜息を一つ。



「うまいな」

 はやての料理はうまい。私が素直に称賛できるほどには。

「えへへ~。えるてにこの味が出せるかな~?」

「晩飯は任せろ。私が全力を以て見返してみせよう。伝説とまで謳われた、我がシチューを」

「楽しみにしとるよ~。で、どうなったん?」

 最近は、はやての許可を得てずっと闇の書の解析を行っている。もう、X-dayまで触れる気もないが、一応警戒はするつもりだ。地球もろとも全てを吹き飛ばされてはかなわない。猫姉妹は私をただの一般人と思っているらしく、天空からの監視でも怪しい動きは見えない。

「今のところ問題は無い。起動するまで解析は不可能という点を除けば」

 欺瞞工作は万全だ。こんな危険極まりない会話でも、監視者にはたわいもない世間話をしているように聞こえるだろう。

「ちょ、それ、問題やないの?」

「起動してから、はやての管理者権限を借りて中に侵入。管制人格を叩き起こし、協力さえ得られれば、五人のベルカの騎士がはやての家族になる」

 それを聞いて、はやてはいつも通りどこかの世界に旅立つ。

「家族か~ええな、ええな、えるても含めて6人や。しかも騎士やて。マジックナイトが6人も! 伝統のベルカ騎士団~……ん? ベルカ騎士団……?」

 何か、気になる単語があったのか、はやては現世に戻ってきた。

「なーなー、ベルカの騎士、なんよね?」

「ああ」

「ACZERO……5もやばいような」

 『ベルカ地上部隊を叩き潰せ』『ベルカが逃げていくぞ!』『ざまあみろ! ベルカの馬鹿野郎め!』……
 TVが一刀の元に両断されかねない。

「……隠すべきだな。特に、ゼロは」



 その後、AC6でルーデルプレイや二葬式洗濯機に挑むなどして日は暮れていった。



《あとがき》

 ヴォルケンリッターにACZEROとAC5をプレイさせるなんて恐ろしいこと、私にはできない!
 短編のつもりなので短いです。でも番外ではなかったり。
 夜天の書修復プランが全力実行中。まさかのスカさん登場。JS事件のフラグです。




 波紋は実は……おっと、誰か来たようだ。

 代わりまして、解説です。人が水の上に立つのは、謎です。(Japanese Tradition風に)
 鍋の熱に関しては、謎です。
 とらハは持ってるのにやってないんですよぉ~
 時間なくて。
 ヒントは、『エルテは嘘つき』『描写をよく見てみましょう』。
 答えは気が向いた時にでも。



 エルンスト・ガーデルマン
 通称、シュトゥーカ・ドクトル。
 『彼』の最後の相棒。
 彼は、終戦時に彼の背中を護っていた。(ACZERO風に)
 ガルディちゃんは一番最初に出すことが決まっていたのだよ! あ、ガーデルちゃんだった。



 怪話、これほどぴったりな単語があるだろうか!
 ゔぃえ様、よろしければ使わせていただきます。



 二葬式洗濯機は誤字に非ず。真緋蜂改? 一瞬だけ会うことを許されましたよ。



[12384] 18人は考えるカノン砲である
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:86202b21
Date: 2009/11/22 09:36
 愉快なことに、美しく恐ろしくそれは飛んでいく。

「あははははははは、ちょーきもちいいいぃぃぃぃぃぃ!」

 完全にデバイス任せの砲撃。カノンは全くそれに疑問を感じていない。

「ゆぅぅぅぅぴぃぃぃぃてぇぇぇぇるぅぅぅぅ……」

『ロードカートリッジ。撃てます』

 色々抜かしたと思うのは私だけだろうか。

「かのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」

 仰々しく、見た目もなかなかに派手だ。しかし、今まで教えられた『補助・回復』の術式から編み出した、攻撃ではなく、少しの衝撃と回復のための砲撃。これだけの魔力を受けながら、平然とHAHO降下ができたことから、その『威力』が思い知れる。

『…………』
「綺麗だな」

 ひたすら無口なエイダと、素直に感心する私。アルトの砲撃の後には、数分経たずして草木が生えまくる。バカスカ撃ちまくるから、ガイア最大の荒野が森に生まれ変わりつつある。無論、私の感想は人の手の入っていない密林に対してではなく、アルトの紅い砲撃に対してのものだ。血のように、と表現するのが最も正しい。それは確かに美しいが、生命としての『何か』を怯えさせる。
 それ以上に恐ろしいのは、

「あはははははは! カノン、次いってみよー!」

 どこか別次元にトランスしているアルトそのものだ。

『御意。ベトールストライク、Load』

「べとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉる……」

『ロードカートリッジ。撃てます』

「すとらいッ!」

 今度は上空に放つ。紅い光は空高く飛び、弾けた。

『たーまやー』
「たーまやー」

 見事な唱和。

『…………』
「…………」

 花火はそのまま消えたりはせず、大地にユリシーズよろしく降り注ぐ。これが魔砲だったりするとメテオスウォームかジハードだ。上から見ると、どんどん緑化されているのが判るだろう。エコロジストの崇拝の対象になれる。使い方によれば、文明破壊兵器として使えるが。

『都市部跡地、汚染区域に着弾。浄化されていきます』

「アルトを開発した奴も、まさかこうなるとは思わなかっただろう」

 確信した。アルトは破壊に向かない。今だって、ただ『砲撃を撃ちたい』だけで、『破壊したいから砲撃』ではないのだ。安全快適なこれを『砲撃』、と言えるかは別だが。

「あーっはははははははは!」

 この姿と、砲撃の派手さだけ見れば、紛うことなくそこら辺の魔王とか冥王とかなのだが。

『いいのですか?』

「いいんだ。今まで溜めていたフラストレーションを解放してくれれば、それでいい」

『いいえ、そのことではありません。第四研究所が密林に沈みました』

「…………」

『第十三研究所も』

 第四、第十三研究所。ジェイルの『元失敗作』が、いや、今は私の子供たちが教育や訓練を受けている場所のうちの二つだ。教育機関だが研究所とついているのは、元々あった研究施設を修復して使っていた名残だ。それが、樹に縛りつけられている。根は地下施設を破壊している。地上構造物はもう見えない。私がいるので、子供たちにさほど問題は無いが。

「アルト、アルト、待て」

「いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ……やっほおおおぉぉぉぉぉぉぉい!」

「ドライヴ」

「ゆーぴーてーるぅぅぅうぎゃぎゃぎゃぎゃん!」

 ドコドコとアルトにぶつかっては消えていく黒い誘導弾。いい感じにタイミングが合い、アルトは踊っている、ように見える。

「ふう」

『エルテ殿、流石です』

 なぜカノンに褒められるのだろうか。普通、私を憎むのではないのだろうか。力加減はしたとはいえ、『これぞフルボッコ』と言わんばかりの光景を展開したばかりだというのに。
 プスプスと音を立てて大地に倒れ伏す妹閣下の姿は、さながら悪のボスの最期のようだ。

『カノンのフレームの疲労が限界近くに達しています』

『主は私の警告を無視しておりました。私が壊れれば、制御の甘い主は暴走していたでしょう』

「見れば判る。強制停止はできただろう」

『強制停止にも関わらず魔法行使を強行された結果、当該システムに致命的損傷を受けました。自己修復は不可能』

「…………。本部に戻るぞ」

『Ja』
『Ja』

 カノーネンフォーゲルは、アヴェンジャーほどではないにしろ、SLBの乱射程度なら耐えられる強度と演算性能を持っていたはずなのだ。それがこうもあっさりと。

「何故だ」

『何に対する疑問でしょうか』
『アルトの構築する術式の魔力変換効率が非常に悪いからだと推測されます。損失魔力がフレームにダメージを与えています』

 付き合いの長さの差か、それともAIとしての経験の差か。カノンとエイダは対象的だ。頑丈で話相手か教育係にでもなればいい、そう思って作り上げたデバイスは、しかしそこまで人間臭くはなってくれなかった。

「とりあえずフレームは新型に全換装だな。放熱系を追加するか」

『現行技術では不可能です。恐らく放熱が追いつきません』

「ルーデル機関の技術を馬鹿にするなよ。放熱対策など、遥か昔に終わっている」

 子供たちはみな優秀だ。少し教育するだけで即戦力になる。そして、私にない発想もする。やはり研究機関には、色々な人間がいるべきなのだ。
 おかげで機関の技術力は世界一と高らかに宣言できるくらいに成長している。

「EFBシステムといってな、恐らく究極のアクティブ冷却システムだ」

『相手が死にそうなシステムですね』

『何故カノンが知ってい……アルト、ですね』

『主の名誉のため、黙秘させていただきます』

「その時点で名誉は汚れていることに気づけ」



 研究所は廃棄された施設を再利用している。とはいっても、何世紀も汚染されたまま放置されていたものばかりで、建材の劣化も激しく、使えるのは全てを破壊した後の大穴だけということが多々あった。今では地球や次元世界から大量の廃棄艦船など回収し、その穴に埋めたり海に浮かべたりして研究所としている。地球の世界史は私の関与した80年代後半ころから少しずつ変わっており、ソヴィエト崩壊のドサクサでネコババしたアドミラル・クズネツォフ級2隻やキエフ級4隻などが埋められたり海に浮いていたりする。タイフーン級も退役・解体予定の3隻を奪えたが、原子力機関をどうにかするのに手間取っている。

「ねえママ、どこに行くの?」

 ハインドの編隊、その中の一機の中で、娘に問われた。第四、第十三研究所はしばらく修復に時間がかかるので、洋上第二研究所『ヴァリヤーグ』に向かうこととなった。転送のできる子供もいるが、ずっと地下にいた子供達にガイアを見せてやる目的でこうして飛んでいる。

「家が壊れたからな、新しい家で元の家が直るまで待つんだ」

「新しい家? どんなの?」

「大きな船だ。島のようにな」

 子供達は外の風景に釘付けだったり、本を読んでいたり、寝ていたりと自由に過ごしている。機関砲以外の武装を解除しているのでペイロードに余裕があり、そしてほとんどが子供なので乗っているのは10人ちょっと。動き回るので、編隊の間隔はかなり広くとっている。

「ふーねー」

 まだ幼い子供を実験に使い、失敗すれば死ぬか処分されるか。子供達を回復して引き取ったのは、同情、だったのだろうか。この躯に残っていた、淡々とした記憶の。

「アデーレ、外は好きか?」

「うん!」

 迷わず頷く我が娘。
 世界は、見えるだけならこんなにも綺麗なのに、汚染区域に入ればすぐに死んでしまう。

「やれやれ。アルトに頑張ってもらうかな」

 研究所は、汚染区域には存在しない。それどころか、可能な限り離れたところを選んでいた。故に、ほとんどが洋上で、ド田舎に存在する。だから、安心してアルトに好き放題打ち込んでもらうことができる。
 カノンはシステムの最適化・高速化、カノーネンフォーゲルはフレームの全換装・EFBシステムの搭載を本部で受けている。そういえば、アルトはカノンとカノーネンフォーゲルを一緒のものと考えている節がある。

「アルトのおねーちゃん?」

「ああ、アルトが頑張ってくれれば、外……この世界を自由に歩き回れるようになるかも知れない。地下や船みたいな、窮屈な場所に住まなくてもよくなる、かも知れない」

「ほんと!?」

「ああ。汚染されていた場所が浄化されて、草木一つ生えないはずが今では森だ」

 それを聞いてはしゃぐ子供達。ヴァリヤーグの甲板に森でもつくろうかと本気で思った。
 BC汚染はTプラスでどうにかすることができるかも知れないが、核汚染や魔法汚染はどうしようもない。生物・化学汚染にしても、しっかり土壌に染みついているので、私でもそう簡単にはできずにいた。
 私が勝手に救ってこの世界に連れてきたのだ。子供達には普通に幸せに生きてもらう権利がある。私には、そのために働く義務がある。
 そのために、私は――――



「ふむ、どうやってもエルテの意識が発生するのだな」

 ジェイルは懲りずに、『まっさら』な私を造ろうとしている。私のクローン、コピーという時点でそれは不可能だというのに。

「無駄なことをする暇があったら、戦闘機人でもつくるといい」

「戦闘機人より、私は君に興味がある」

「……愛の告白でも受けている気分になるな」

「ハハハ、その通りだよ。ガイア式魔法を操り、動力炉になれるほどの魔力量に、それを制御する能力。そして何より、一つの意思のもとで全ての兵力を動かせる統率力。そう、君は究極の兵器であり、一つの最強の軍事組織だ。これほど面白く、そして愛おしい存在はないよ」

 歴史は順調に書き変わっている。可能性として、戦闘機人は12人全てが揃わないかもしれない。今、完成して動いているのはチンクまでだ。そして、そこで止まっている。

「一つ、言っておこうか」

「なんだい?」

「ジェイルがしている、私に関する研究。その全てが、機関では既に実証されている」

「……なん……だと」

 ジェイルの顔から笑みが消える。それもそうか、かなりの時間をかけてきた『私に関する研究』の全てが、実はもう終わっていたなんて知ったら。

「ずっと黙っているつもりだったが、流石に100体も造られると、哀れに見えてな」

 ドシャァ、と床に崩れ落ちる。見事なorzだ。

「それとなく教えていたつもりなのだが。全く気付かないなんて。機関では既に新型が開発されているし、私に関する技術は恐らくは追いつけはしないだろう」

 orzから五体投地に移行。プライドの高いこの男をここまで消沈させたのは、恐らく私が初めてだろう。何年棒に振ったことやら。
 さすがにこれを笑う気にはなれず、少しだけ希望を与えてみることにする。

「そもそも、ガイアと次元世界の技術思想は根本から違うからな。予備知識もなしに追いつけないのは当然だ。だったら、ガイアのことは私に任せて、ジェイルはジェイルにできることをやるべきだろう。人には向き不向きと好き嫌いがあるのだから」

「……そうだね」

 そうは言うが、立ち上がる気配も見せない。ならば。

「エルテに関する基本的な情報をやる」

「本当か!?」

 復活した。子供っぽいところは昔から変わらない。

「ただ、それを見れば判ると思うが、生命操作技術とは相容れない。私は、どちらかと言えば生命より概念と言うべき存在だから」

「それでも、応用が効く技術があるかもしれない。それも見てみないと判らないと思うがね」

「違いない。だが、応用できると言うだけで、エルテの技術をそのまま使えるとは思わないことだ。エルテ・ルーデルの躯はエルテ・ルーデルの器でしかないのだから」

「心得ているよ。伊達に君を100人も造っていない」

 ああ、哀しくなってきた。自虐ネタがここまで哀しいとは。

「そうだ、代わりと言ってはなんだが、近いうちに病人を治して貰うことになるかも知れない。いいか?」

「その病気にもよるがね。かまわないよ」

「助かる」

 プレシアの救済準備も整った。必ず治る、とは言い難いが、最悪の場合、躯を治療してから『生命還元法』を使えばいいだけの話。

「さて、運命は我が手の上に。ストーリーは幸福な結末に」

「ん? なんだい、それは」

「ジェイルの真似、かな。私の未来改窮素敵計画が順調に進んでいる」

「ほう。まるで未来を知っているようだね」

「ジェイル。ゆりかごで管理局に喧嘩を売ってはいけない」

「なるほど、本当に知っているんだね?」

「どうだろう。私というイレギュラーは、既にバタフライ効果という形で世界に影響を為している。私の知る未来がこの世界の未来かは、クロノスのみぞ知る」

 もう、既に変わっている気もしないが、それでも、大筋は変わっていない。そして未来は、『プレシア・テスタロッサの生死』という分岐で確実に決まるだろう。

「さぁて。ジェイルの自慢の娘達を可愛がりに行こうかな」

「あまり、変なことは教えないでくれよ」

「チンクとセインにギターを教えたのがそんなに変か? 今日はクアットロにドラム教えようかと思ったんだが」

 私は一応何でもできて、四人ともヴォーカルができる。気まぐれでThrough the fire and flamesを掻き鳴らしたら、ちょうど暇を持て余していた三人に捕まって、教える羽目になった。とりあえずスクラップの山からギターやベースを見つけてガジェットの工房で修理したが、全員ギターでは面白くないので適当に割り振った。とはいえ、教えればなんでもすぐに覚えるので、近いうちに好きなのをそれぞれが勝手に選ぶだろう。
 念願のドラムセットがやっと届いたので、今日こそは本格的にバンドができる。と、思っていたのだが。

「訓練ができないと、トーレが文句を言ってくるんだよ」

「あー、確かに」

 練習は防音が完璧な訓練室でやっている。追い出されないのは、私がいるからか。

「君がいるから強くは出られない分、私に言ってきたよ」

 訓練の相手を頼まれ、少々のことでは壊れないと高を括った私がデスドライヴして、完膚なきまでに半壊させてしまったのが原因で、それ以来避けられている。私+訓練室など、トラウマものだろう。

「空いている部屋は無いか? 防音室にしてみようかと思うのだが」

「ふむ。ならここを使うといい」

 提示された部屋は、それなりに広い。これならいけるだろう。

「上等だ。ありがとう」

「なに、これくらい構わないさ」

 とっととジェイルの『エルテ研』を出る。最初から最後まで空気だったウーノが溜息を吐くのが見えた。ジェイル至上主義者の彼女が何も言わなかったのは、私のスペックと性格と立場を充分に知っているからなのだが。ちなみに、仲が悪いわけではない。

「さて、サーカスギャロップでも教えるかな」



《あとがき》

 アルトの本質は破壊でなく再生だった!
 ところがどっこい、結果として破壊が発生しています。植物は、どこかから種を転送しています。
 ガイアは核・生物・化学・魔法によって汚染されている地域が点在します。人の住んでいた、ある程度発展した街の跡は全て汚染されています。海洋汚染と大気汚染がほとんどない不思議。
 ちなみに、ベトールとは木星を司る精霊です。

 ルーデルの子供達は、ただの同情で引き取ったわけではありません。
 センチュリアだけでは、同じ顔だらけで怪しまれて動けないこともあります。機関として動く時に、センチュリアでは不具合が出ることも考えられます。ならどうするか。
 普通の人間がいればいいのです。優秀でクローンとか純粋培養とかの差はあれど、純粋に兵器であるセンチュリアとは比べてはいけないほどに人間です。
 実はそんな打算があったという話。

 丸くなったスカさんと、その娘達。
 流石に数の子の性格を全部把握はできていませんが、この五人はまだどうにか。
 いつぞやか読んだ漫画で、サイボーグが32ビートでギターを弾いているのが印象的で、強化系のキャラには意味もなくギターとか持たせたくなる悪癖がついてしまったり。関係ないけど、素子さんがギター持ったらどうなるんだろ……

 前回出したALとはAIのバッタモンでも間違いでもありません。人工知能(Artificial Intelligence)ではなく、人工生命(Artificial Life)です。
 エイダのようなAIとは違う、ということを表現したかったのですが、マイナーだったようです。
 A'sくらいで全容を明かすつもりなのでしばしのお待ちを。



[12384] 19全知全能の神はすべからく不完全
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:86202b21
Date: 2009/12/06 01:55
 計画が/物語が、少しだけ、狂ったかも知れない。



 閉じられた夜の街で、桜と金の光が舞い、消えてゆく。
 範囲も高さも制限された空間で、私は離れたビルの屋上で、ひっそりとそれを見守っている。

「ああ、ただ殺傷設定にして、ちょっと間違えばサヨウナラって戦闘なのに。この世界の現代戦なんかより遥かに……美しい」

『これを、破滅の美学というのでしょうか』

「花火、だ。あえか、と昔の言葉でいうのだがな。破滅の美というのは、ベクシンスキーの絵を見て勉強するといい」

 ずっと見ていたい、でも見ていたくない。
 二人とも、私の大好きな子なのだかから。傷つけ、傷つくのを見るのは、正直耐えられない。

「フフフ……心など、邪魔なだけか。確かに」

『理解、不能です』

「本当は理解しているんだろう? 大丈夫、おまえに躯はやるが、私は消えない。まだ」

『心があるからこそ、私はランナーをパートナーとして認めています。今更ただの兵器など、冗談ではありません』

「……上等。それでこそ、私の相棒」



 などと、エイダとたわいもない話をしながら傍観していた。
 一瞬たりとも眼を離してはいなかった。ゼロシフトもロードしていた。もしもの時の対策も考えていた。なのに。

『次元震の予兆を確認。防御してください』

 原作の通り、なのはとフェイトがジュエルシードに突撃して、それは発生した。
 しかし、規模が違う。なのはとフェイトが恐ろしい勢いで吹き飛ばされてしまった。

「規模は」

『予測の約5倍、結界が破壊されます』

 爆発よりはゆっくりな光を見ながら、対策を考える。
 こんなこともあろうかと、と思って考案した対策は、しかし予想外の規模に意味をなさない。

「カートリッジロード。封時結界」

 ユーノの結界を余裕で破壊する威力の次元震。ならば、その中にもう一つ壁をつくればいい。

『現行結界内に結界展開。次元震規模、なおも増大中。予測値の5.7倍、5.9……』

「な?」

 予測が全く意味をなさない。ジュエルシード一個分、そのエネルギー全てが放出されているような、そんな威力。

「結界保持に必要なカートリッジは!」

『28。ロード』

「ゼロシフト!」

『Run』

 アヴェンジャーの薬莢受からガラガラと音がする。まだ間に合う。
 ゼロシフトを起動し、広がりつつある光の中へ突撃する。

「ザ・ワールド!」

『時は止まる』

 色の消えた世界で、その光の中は、とても奇妙な光景が広がっていた。
 アヴェンジャーは休むことなく回り続け、莫大な瞬間魔力を俺に供給し続ける。
 光の根源に手を伸ばし、

「そして時は動き出すっ……」

 放出されるエネルギーを、この手で、この躯で、シールドで、結界で、放出しきるまで抑え込む。全力で押さえつけているのにも関わらず、それは結界に穴をあけ、その余波を外にまき散らしている。だが、それはユーノの結界でもどうにかなる程度。

『ランナー、躯の予想耐久限界を超えました』

 バリアジャケットが、ゆっくりと砕けて剥がれ落ちていく。躯の耐久限界を超えている、それがなんだ。『普通に動くための限界』なんて当然無視だ。魔法を制御できる頭と、リンカーコアと、光の奔流を遮る身があればいい。後のことを考える余裕など、今この瞬間につぎ込むべきだ。

「それでもッ! このままの威力をぶつけられたらッ……! なのはもフェイトも死ぬ!」

『ですが……』

「俺には予備があるだろうが! 普通の人間はっ……死んだら、そこで終わりなんだよ!」

 生命還元法も、完璧ではない。調整や幾ばくかの問題を何年もかけて解決して、やっと蘇生できるのだ。クライドには技術の確立を含め10年をかけたが、そのうち7年が解析と調整なのだ。加速する機関の技術で短縮できるとは思うが、この二人に年単位の時を失わせるわけにはいかない。プレシアやアリシア、クライドとは勝手が違うのだ。

『……了解。次元震終了までの予測時間、48秒』

「絶望しかないな……だが」

 結界の中に潜んでいた私は一人ではない。なのは・フェイトそれぞれのバックアップと、状況全てのバックアップ。私を含む三人がいるのだ。

『なのは、フェイト、共に重傷です』

「デバイスが……優秀でっ……嬉しいことこの上ない」

 術者がダウンしても自身が砕けても、プロテクションを張り続けるけなげさは、数あるインテリジェントデバイスでもそうそう持ちえない。おかげで即死は免れ、どうにか命に別状は無い程度の怪我で済んでいる。
 なのはもフェイトもボロボロで、特に軽装のフェイトは重傷に見える。だが、なのはは頭を打っている。どちらも軽視できない故に、一ヶ所にまとめて全力でシールドしながら回復魔法をかけている。ユーノとアルフもシールドの中で、俺のシールドが切れた時のバックアップについている。

『25秒』

「こんな……ときにっ、ちょうどいいセリフが……あったな……」

 ガントレットは砕け、外皮が破れ、その下の肉、そして骨が見えている。コートは真っ先に消し飛び、鎧が胸を中心にゆっくりと崩壊しつつあるのが判る。鎧の下のインナーなど、もう存在すら疑わしい。鮮血に染まって綺麗な紅になった自慢の銀髪が、時折乱流に巻かれて顔を叩く。HMDは壊れて左眼は闇を映し、レッドアウトなのか、右眼の視界が血の色に染まる。

『10秒。規模が縮小しつつあります』

 いかに頑丈な兵器でも、生体であるからには、柔軟性と脆性を持つ。どんなに修復が早くても、それが眼に見える速度でも、こんな状況では焼石に水。手は肘まで吹き飛び、魔力障壁と躯でジュエルシードを押さえつけている。上半身はほぼ裸だが、これで劣情を催せるのはよほどの変態だ。

『5秒。3、2……』
「止まれエエエエエエエエエエェェェェェェェェェ!!」
『1、0』

 光が、恐らく真っ赤な球の中に収束していく。終息していく。もう色など判らない。

『アーマ……ジュエルシード、完全停止。お疲れさまでした』

「止まっ、た……」

 いつものエイダ、いつのも俺、いや、私に戻る。
 全身から力が抜け、アスファルトに倒れこむ。妙な体勢で少しばかり苦しいが、動く気にはなれない。
 機関でゆっくり修復するか、そう思っていたが、そうはいかないらしい。

「……意識不明。頭部の損傷は回復済み、瞳孔も呼吸も脈も正常、脳波は現状で測定不能」

 なのはの意識が戻らない。フェイトも傷は治したが、失血がひどい。

「アルフ。フェイトを機関で検査・輸血する」

「どこに連れていく気だい?」

「ガイアのルーデル機関」



 そして、高町家で土下座する。

「すまない。なのはに重傷を負わせてしまった」

 無言で恭也に殴られた。恐らくは渾身の力を込めた一撃。しかし、全く痛くない。兵器の私にとって、痛覚神経はただのセンサーに過ぎない。そして、どんなに人外でも、生身では私を損傷させるのは不可能。受け身もとらず、吹き飛ばされ床を転がり、そして立ち上がる。

「様子はどうなんだ」

 士郎は怒りをにじませながらも冷静だ。

「頭を強く打ち、出血と脳振盪の症状を確認。損傷は全て回復、呼吸、脈、瞳孔反応、脳波に異常は見られず。だが、今だ意識は戻っていない。覚醒後は健康体であることは保証する」

「どこの病院だ」

 きた。いわざるを得ない、最高機密。

「……ルーデル機関」

「聞き覚えはないな」

「私が造られた場所だ。そして、今は私が掌握しているからルーデル機関。最も安全な場所だ」

「会わせてくれないか?」

「もとよりそのつもりだ」

 ロードしていた転送魔法を起動する。
 私は百聞の面倒を嫌う。実際に見てもらった方が、理解できる。

「な、なにこれ?」

 美由紀が、最もその異常現象に反応する。紅く黒い光の、まがまがしく見える魔法陣。

「魔法だ」

 その言葉をトリガーに、高町一家は地球から姿を消した。

「ようこそ、我が星、我が機関へ」



 フェイトはヴァリヤーグで治療を受けている。流石に、敵対している存在と並べて治療するのはためらわれた。
 今はゆっくりと輸血をしている。無論、普通の血などまだほとんど無いから、合成したものにナノマシンを混合したもので代用しているが。故に、ナノマシンが最適化するまで少しばかり時間がかかる。

「なの……マシン」

『血液中で頑張る少女達』

 すでに教育の終わった子供達が優秀すぎて、ヴァリヤーグでやることはほとんど無い。毎日確実に暇な時間ができて、こうして飛行甲板の端に座って、海を眺めながらエイダと雑談するのが日課となってしまった。

「なのなの言いながら病原菌と戦う」

『危険なウィルスにSLBを』

「それは夢のある話だ」

『死にます』

「だろうな」

 などと、飛行甲板でエイダとくだらない話をしていたりする。

「未来では、犯罪者という社会の病原菌にSLBを叩き込むぞ」

『まさになのマシン』

「社会のな」

「お母さま、なのましんってなーに?」

 そんな下らない話にも食らいつく我が娘。流石に、本来の意味とジョークのごっちゃにした今の話を聞かれては、修正に手間がかかる。

「そうだな……今の話は冗談が多分に含まれている。だから、本来の意味とは違う。これは判るな?」

「そうなの?」

「そう。今のは私の友『なのは』と『ナノマシン』をかけた、くだらない言葉遊び。ナノマシンの正しい意味は、眼に見えないほどに小さな小さな機械のことだ。理解したか?」

「うん」

 納得してくれたのか、おとなしく子供達の輪に戻る娘。それを見届けて、飛行甲板の端からまた、海を眺める。

「迂闊に物が言えなくなったな」

『親の責任ですか』

「私はともかく、おまえの影響は最小限にしたい」

『…………』

 自覚があるのだろう。もし無ければ、二度とガイアには持ち込まないつもりだったが。

「ふぅ」

「なに溜息なんてついてるんだい」

「む」

 アルフが背後にいた。それに気づかないとは、かなり気が抜けていたようだ。

「フェイトはまだ時間がかかるだろう。ついてなくていいのか」

「ご飯が食べたいいて言うからさ、アンタを探してたんだよ」

 三食全てを私が供給するようになってから、フェイトはそれに依存症とも思える状態になってしまった。原作では簡単な洋食を食っていたような描写があった記憶があるが、この世界のフェイトは一体何を食って生きていたのか。答えは知っているが……思いだしたくは無い。

「希望はなんだ?」

「なんでもいいってさ。アタシは肉が……」

「畑の肉をやろう」

 喜ぶアルフを尻眼に、私は密かに笑む。『計画通り』と。
 超汎用食材たる『アレ』。日本の食卓に欠かせぬ『アレ』を以て、アルフを愉快なことにしてやろう。

『蛋白質がよく取れそうですね』

「植物性だがな」

 豆腐と油揚げの味噌汁、冷や奴、おから、豆乳……レパートリーはいくらでもある。さて、どうするかな。



 あの場に存在した3個のアヴェンジャー、それが記録した映像を再生しながら、士郎に状況を説明した。
 なのはのいる病室から少し離れた会議室、そこで全てを話した。魔法も、センチュリアも、機関も、世界も、全て。

「私は、この結果ではない未来を知っていた。それが在るべき未来だ高を括って、傍観を決め込んでいた。その結果がこれだ」

 なのははベッドで寝かされ、心電図や脳波計に繋がれていた。心電図は正常にリズムを刻み、脳波計は綺麗な睡眠波を刻んでいる。リンカーコアにも多少のダメージはあるものの、この調子なら数日もかからず全快になるだろう。

「……エルテが謝る必要はなかったんじゃないか」

「知っていながらそれを止めないのは罪だ」

「止めない理由があったんだろう?」

「……なのははこの事件を以て、魔法の才能を開花させ、今年中にもう一つ、事件に巻き込まれる。それを解決した功績と、その異常とも言える才能と戦闘センスに眼をつけた時空管理局という組織に、スカウトされる。そして、さまざまな世界を飛び回り、犯罪者相手に戦うことになる」

「……なんだと」

「危険ではあるが、悪い話ではないのが問題だ。なのはの持つ戦力は、犯罪者にとっても喉から手が出るほどほしいものだ。最悪、誘拐・洗脳ということもあり得る。未来がそうであったから、という理由だけでなく、なのはの身の安全を考えても、魔法に覚醒してから管理局という組織に保護されることは最も安全な選択だった。だが、それまでに実戦を経験し、戦闘に慣れておく必要があった」

「…………」

 我ながら最悪な事を考え、実行しているのに呆れる。本当になのはだけを救うのなら、あの時、ユーノを私が保護すればよかったのだ。ルーデル機関で保護すれば、時空管理局などという巨大な矛盾と暗部を抱えた組織になのはの身柄を預けずに済む。だが、なのはがそれを望まなければどうだろうか。機関は自衛行動はすれど、治安維持活動はしない。なのははその力を以て誰かを護りたいと思っているはずだ。
 私が本当に恐れたのは、シナリオから外れることだった。新たな物語を構築するのが面倒だったから、エルテ・ルーデルが書き連ねる新たな物語は、知っている物語を好きな方向へ歪ませるだけ。
 私は、こんなに強い力を持っていながら、酷く臆病だ。自分の中に不発弾でも飼っている、そんな気分だ。

「そもそも、私が知る未来では私は存在しな……なのはが起きた」

「なに!」

 なのはの覚醒は、状況説明より遥かに重要度の高い最優先連絡事項。今、なのはの傍らには私と、士郎以外の高町一家がいる。
 最後の私の告白は、知っても知らなくてもどうでもいいこと。この事件で、高町一家は物語の根幹に絡むこととなった。士郎たちが魔法のことを知っていること、それは隠すということになった。なのはがこの事件から降りること、それは『高町なのは』の将来的な身の危険を意味する。
 士郎が部屋を出ていくのを見届けて、私は密かに溜息をつく。ケツイとともに。

「スタンドの研究をしよう」

 なのはを護るための研究を。
 皆の幸せでなく、なのはの為だけの研究を。



 なのはは比較的軽傷で、それも治っていたので地球に戻った。ドクトル・ガルディの太鼓判付きだ。
 そして問題はフェイトということになる。やっとナノマシンが馴染んできたのだが、それでもガルディの診断ではもうしばらくは安静にすべきと結論が出た。ナノマシンが正常な血中成分に正しく置き換わるまで。

「というわけだ。帰るのは許すが、無理をしたらバインドで蓑虫にしてでも連れて帰る。いいか」

「うん」

 素直に頷くが、私の言葉にそこまでの効果は無いだろう。フェイトにとっての『絶対』は、母親であるプレシアそのもの。フェイトは確かに私を姉のごとく慕ってくれているが、プレシアと私なら迷うことなくプレシアを選ぶだろう。
 そして、恐らくはこの後に起きる、時の庭園での虐待。私はそれを阻止する術を持たない。極めて不安定な精神状態のプレシアは、下手な行動を起こすと敵と思われてしまいかねない。フェイトの体内に送り込まれたナノマシンは、血中成分の働きを肩代わりするものの他に、恐怖に反応して痛覚を鈍化させるものが存在する。制御できなければ、可能な限り誘導してサポートする。現状では、これ以上の対策は取れない。私は裏方なのだから。

「じゃあ、行くね」

「ああ。向うで会おう」

 フェイトが部屋を出るのを見届け



 ――――ガッ



「…………」

「…………」

 何も言えず、振り向いたフェイトと見つめあう。じわりと、その眼に涙が溢れていく。必死に我慢しているが、それはそうそう堪えられるものではない。

「…………」

「……痛い……」

 その気持ちは、文字通り痛いほどよく理解できる。地味だがかなりのダメージを与える高威力痛覚兵器、箪笥の角。無論、この部屋は医務室であり、箪笥は無い。薬の棚の角に、裸足の少女は思いっきり小指を叩きつけてしまった。
 バリアジャケットでマンションから出撃し、帰還するフェイトは、わざわざ靴を履く必要は無い。部屋でもバリアジャケットでいることも多いし、そのお陰で今まで呪いを回避することができていた。そう、『あの』呪いだ。
 そして今、バリアジャケットを解除し、生身で裸足でいるフェイトは、その呪いから逃れる術を持たない。ここで私がすべき助言は一つだけだ。

「……バリアジャケットを装備するといい」

 あの呪いの唯一にして無二の弱点、靴を履くと無効。ここにフェイトに合う靴は存在しない、故にバリアジャケットという結論に達する訳だ。そのまま見送ると、廊下の角や扉、あるいは柱や棚に遭遇するたびに足の小指が悲惨な目に遭う。

「……どうして?」

「私の屋敷の岩の呪いだ。あまりにも地味に酷い呪いだから結界を張っていたというのに。靴を履いていれば無効になる」

「うん」

 あの、露出度の高いバリアジャケットを装備して部屋を出ていく。
 毎回思うが、速度の対価に装甲を削るのはメビウス1もしているから問題は無いと思うのだが、それでもあれはどうかと思う。あれからさらにパージなど、私には真似できない。私の鎧をパージするのとは意味が違うのだ。最近は恭也との訓練で超高速接近戦もたしなめるようになったが、それでも私の本領は『空飛ぶ46cm砲付イージス艦』あるいは『有澤重工、雷電』なのだ。なんでもできるという点では、航空支配戦闘機だが。

「色はいいセンスだが」

 それでも、純黒であるべきだ。ドレスと装甲服は。



 小規模次元震で、厄介なのが来る。アースラのアビオニクスがどれほどのものかは知らないが、機関の全力を以て、奴らの眼からアルトを護る。そう、眼を盗んでやる。愉快に笑う帽子男、そのマークに刻まれたように、眼を閉じ耳を塞ぎ口をつぐんでもらおう。
 アルトは、戦わせてはならない。



《あとがき》

 ジュエルシードはランダム要素が強いように感じます。モンスターも雑魚だったりそれなりだったりしますから、発生する次元震もそうではないのかと思われます。
 フェイトの役どころをとっちゃった。

 高町一家は、なのはが自ら話そうとするまで知らないふりをすることになりました。
 心配なので、エルテが何かあったら報告することになっています。

 サーカスギャロップは……最悪、エルテという人海チートがあります。
 さすがに40和音はなかった、ような覚えがありますので、速度に反応できれば、あるいは。

 社長の雷電、まさに空飛ぶ戦車。あれ、このフレーズどこかで……A-10神サンダーボルト!
 有澤重工はACのフェアチャイルド社だったんだよ! なんだってー!
 実際はあんまり滞空はできないのですが。ガチタングレオンサイコー!

 関係ないですが、AC4の世界とAC3ESの世界ってものすごい似てますよね。
 企業のによる支配体制とか、AMSとコフィンシステムとかオプトニューロンとか。フィオナとか(名前だけ)。

 『じゅんぐろ』と読めた人挙手ー。
 ええ、私は黒が大好きです。黒コート萌え。
 うちにあるプラモは、シュトゥーカもサンダーボルトもホワイトグリントもほぼ真っ黒なものが存在します。
 ちなみにカノーネンサンダーボルトなるゲテモノをつくったこともあったり。無論、アイゼンクロイツが貼ってありますとも。

 大学で戦争が勃発、学生軍と教授軍の間で紙の弾丸が飛び交っています。レポート・報告書という名の弾丸が。
 流石に更新ペースが更に落ちるかも知れません。
 できるだけ頑張るので、以後もよろしくおねがいします。



[12384] 20運命への反逆
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:86202b21
Date: 2009/12/12 14:27
 戦闘。なのはにもフェイトにも協力している以上、私は手を出すことはできない。
 今日の敵は樹のバケモノ。なかなか強力だが、そう苦戦することは無いだろう。二人は共闘しているのだから。
 かく言う私は、少し離れた場所でテーブルと椅子を展開して紅茶を飲みながら傍観している。クロノが来たら、『うっかり』撃墜する気で、ちょっとした仕掛けを施したエクスキャリバーをロードしていたりする。ついでにいうと、二人にも『約束』をしてもらっている。

『何故茶をしばいているのですか?』

 エイダは関西弁を覚えたようだ。

「ただ見ているのも暇だからな。隠れる必要もないし」

『もはや裏方ではないような気がします』

「表で堂々と作業する黒子もいるんだ。気にするな」

『それは黒子といえるのでしょうか』

「謀らずも裏方のルールを破ってしまったんだ、気にするな」

『釈然としません』

「気にするな」

『受け答えが面倒になりましたね』

「気にするな。ガッ!?」

『流れ弾です。大丈夫ですか?』

「……気にするな」

 などといつも通りバカをやっているうちに、いつも通りジュエルシードは封印された。

『ナーヴアクセル』

 世界が遅くなる。時が遅くなっているわけではない、私が速くなっているだけ。

《判っているじゃないか》

 普通に話すと口がついてこないので、念話に切り替える。
 相対的に時を遅くするのは、前回のような惨事を回避するため。可能な限り発動と同時に暴走を止めるため。時を止めたままだと干渉できないのだ。

[[ランナーの考えていることが、だいたい把握できるようになりました]]

《よし、結婚しよう》

[[え? そんな、まだ心の準備が……]]

《冗談だ、本気にするな》

 エイダが不機嫌オーラを出している。からかったからって、そんなにすねるなと言いたい。
 しばらく見ていたが、どうやら問題はなさそうだ。何事もなく、二人は決闘に移行した。

《解除》

『しました』

「いい嫁になれるな。まさに阿吽の呼吸だ」

『…………』

 まだすねているのだろうか。
 ともかく、一難は去ったのでまたじっくり紅茶をしばく。

「ふむ……そういえば、このスコーンのレシピはエイダの発案だったか」

『そうです。料理は化学反応ですから、量と反応に必要な熱量を……』

「頼む、料理をそんな風に解析しないでくれ。何となくまずくなる」

『どうですか?』

「流石だ。私も自信はあったのだが、完璧に負けたな」

『…………』

 雰囲気からすると喜んでいるようなのだが……いかんせん、表情が欲しい。『闇の書修復計画』と同時に始まった『エイダユニゾンデバイス化プロジェクト』は、まだ多数の問題を抱えている。エイダの笑顔を見るのはまだまだ先になりそうだ。

『では次はクッキーでも焼――――転移反応を確認』

 ひたすらからかったアースラの中に、これまた嘲笑うように潜んでいる私。省エネ隠匿モードで眠ってはいるが、エイダが転送ポートを常に監視している。

「アヴェンジャー」

『Ready』

 美しく頼もしい私の死神の鎌。恐らく彼らはこれが『何』であるかを知らないだろう。オリジナルの威力も、デバイスであるこいつの威力も。死して聞こえる、現代のイェリコのラッパ。しかし、今こいつに込められているのは、その砲身を裏切るただ一発だけ。

「ソーツエーンドレシンフラーイト、デーィターンズトゥナーイト……」

『その歌、この状況に合いませんよ』

「皮肉だ」

『チョッパーを冒涜された気分です』

「ふむ。ならば……」

 なのはとフェイトが加速する。二つの影が一つになろうとしたとき、現れる無粋な影。

「ストップだ!」

「!」
「!」

「ここでの戦闘は危け……」

《ブレイク》
「腐レタ生命二鉄槌ヲ」

 魅惑の片霧ヴォイスと同時に、『約束』通りその場から、クロノから離れる二人。そして聖剣の名を持つ魔力砲が馬鹿みたいな威力を以てその黒い影を紅の闇色にかき消す。

「爛レタ運命二審判ヲ」

『流石によく似ていますね』

「声紋解析したら本人と同じだそうだ」

『Dream to new worldを歌ってください』

「どりぃむとぅにゅぅ……待て」

『まさか、ランナーがロリヴォイスで萌え萌えだとは……』

「ねぇエイダぁ、私、怒ってもいいかなぁ?」

『ぐはぁっ』

 見事、綺麗に撃墜されたクロノが落下死するのを防いで、とりあえずベンチに寝かせて膝枕する。肩の刺がチクチクとイライラさせるので手刀で叩き折り、また紅茶を飲みながら再開したジュエルシード争奪戦を観戦する。

「あ゙ー、あ゙ー、あー、うむ、元の声だ。やはりみん様の声はこれくらい凜々しく低くあるべきだ。高音コーラスも美しいが、日常会話でアニメ声はな」

『萌え死ぬので、ランナーは在るがままでいてください』

「どんどんADAとかけはなれていくな。チャージが終わったら?」

『用意はよろしいですか?』

「普通にネタに走ってくれるから面白い、か」

『私をこんな風にした責任、とってもらうんだからね』

「扉を開いたのは私だが、そこから先は自己責任だ」

『ぐぅ』

 ぼうっと拙い戦闘を見ていたが、なのはもだんだん自分の戦闘スタイルを見いだしたらしい。可能な限り距離をとって高威力砲撃をしようとしている。対するフェイトは牽制射を的確に避けながらどうにか接近しようと必死だ。魔力弾で足止めをしようとするが、これもヒラヒラとかわされる。

「どっちに賭ける?」

『確率の高いフェイトに賭けます』

「なら私はなのはだ。どうだ、まるでドッグファイトだ」

『アクィラとメビウスのようです。感動します』

 確かに。あの作品も、その秀逸すぎるMADも号泣しかねん。

「む、終わったな」

 フェイトが被弾した、ふりをして足を止めチャージを開始したなのはに斬撃でノックアウト。

《なのはは任せろ。ジュエルシードを回収したらすぐ逃げろ。デコイとジャミングはこちらでしておく》

《わかった……ありがとう》

 バルディッシュにジュエルシードを収納すると、全速力で視界から消え去る。
 さすがは雷。光を放つことができる。
 なのはは改良したバンダースナッチで優しくベンチに寝かせた。

「さて。ユーノ、ちょっと来い」

『あ、うん……』

「転送」

『な、なにをするだー!』

 転送魔法の効果範囲内に入ると同時に転送した。
 目標、アースラブリッジ。



「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 そこで、声を発する存在はいなかった。タチの悪いジョーク。そうとしか思えないほどにスムーズなクロノの無力化。
 そして当の本人は、時でも止めたかのように一瞬でクロノに膝枕をしながら紅茶を飲んでいる。椅子からベンチへ、一瞬の出来事。
 まがまがしい異形の巨大なデバイスと、それから放たれた黒く紅い魔法は、非殺傷設定なのに明らかにオーバーキル。だが、モニターのバイタルを見る限りでは、リンカーコアや肉体にダメージは無く、ただの魔力的ショックで気絶しているだけ。その魔力量、制御技術、その全てが規格外だった。
 やがて少女達の決闘も終わり、やっと緩慢に動き出したブリッジは、しかし謎の妨害にノイズしか映らない画面に辟易させられる。対処に追われているうちに、リンディ・ハラオウンはその空間に発生した魔力の感覚に気付いた。
 静かで静かで、まるで風一つない月夜の湖面のようなその魔力に気付けたのは、偶然と言ってもよかった。

「――――をするだー!」

 その魔力に対して、現れたものは騒がしかった。
 白いテーブルと声の張本人たるフェレット、ベンチに座ったままの少女、その少女に膝枕されている少女と、最愛の息子・クロノ。

「ごきげんよう、無粋な監視者の諸君」

 そう挨拶して、銀髪の黒い少女は、不機嫌そうに紅茶のカップに口をつけた。



「いやー、クロノ君、本当に無傷ですねー」

「大事なくてよかったわ。非殺傷設定でも、あの出力を受ければ消し飛んでもおかしくなかったもの」

 クロノは医務室で検査を受けて未だ眠っている。魔力ダメージも殆ど存在しないのに、なかなか起きる気配がない。

「それがですね、あの砲撃に使われた魔力量のうち、350万がハッタリの無害な魔力流で、制御が50万、実際の砲撃部分が100万程度で、しかもその100万にも仕掛けがあったみたいなんですよ。ほら、魔力ダメージも皆無でしたし。どうやったらあんな魔力を制御できるのか……」

「コツさえつかめば」

『躯がハイスペックである前提を忘れています』

 振り返ると、銀髪の少女。

「エルテさん、だったかしら」

「そう、エルテ・ルーデル。ルーデル機関所属の一般人だ」

 気配を悟ることもできず背後に立たれたことに戦慄を覚えるリンディ。こんな化物が一般人であるはずがない。逸般人だ。

「ところで、ルーデル機関? それはどんな組織なのかしら」

「秘密だ」

 刹那、その姿が消える。

「え?」

 慌てて辺りを見回すと、トイレに入っていくエルテがいた。伸びきった足の、靴の爪先を引きずりながら。エイダ曰く『OFが地面を滑走する』ように。接地している爪先からは、紅く火花が出ている。
 こころなしか焦っているように見えたのが愛敬か。

「魔力反応は?」

「あ……ありません」

 一体なんなのか。魔法なのか、それとも別のレアスキルなのか。

「監視を怠らないように」

「そりゃあもちろん、完璧にやっていますよ!」

「無駄だとは思うが」

 すぐ背後から、低い低い片霧ヴォイスが襲いかかる。振り向いても、そこには誰もいなかった。



 エルテはカートリッジを積み上げて、タワーにしている。3本ずつ逆さまに立て、魔力でつくった板で支える。

「どんどん高くもっと高く」

 その上に更にカートリッジを乗せて板を乗せてを繰り返し、6弾くらいになったところでちょろちょろと動いていたフェレットを鷲掴みにし、塔のてっぺんに乗せた。

「震えてるのはどちらさま」

「ちょ、ちょっ! おわわ!」

 塔はユーノが動くたびに揺れる。いつ崩落してもおかしくは無いが、なぜかユーノの足元以外はどっしりとして動かない。

「フフフ……」

「だめだよエルテちゃん、ユーノ君をいじめちゃ」

「ふむ。では……」

 板を一つ生成して、それをユーノの上に置く。宙にういたままのそれに更に塔を積み上げていく。

「ガンガン高く更に高く」

 替え歌になる。エルテは既に普通に積み上げる気は無いようだ。

「あら、すごいわね」

 リンディが現れた。ユーノをサンドイッチしていた魔力の板以外が消え、30mmカートリッジが雨となる。ユーノは魔力板で護られているが、それでも降りかかるその質量は恐ろしい。崩れ落ちた地につくことなく、どこかへ消えた。
 クロノが起きるまで待機していろと命令されたので、ユーノとなのは、そしてエルテはおとなしく案内された部屋で待っていた。エルテは監視員をトイレに行くという理由で一瞬で振り切っていたが、それでもおとなしい方だといえるだろう。

「お褒めに預かり光栄、とでも言うべきか。やれやれ、クロノも大概ネボスケだな」

「君の不意討ちにやられたからだ!」

「フフフ……可愛いな、少年。だが、不意討ちごときでギャーギャー騒ぐようでは、死ぬよ」

「っ……」

「それに、私の予想ではもう少し早く起きるはずだったんだが。あれだけ正確精密に痛みも苦しみもなく優しく気絶させてやったのに、全く。もう少し精進するがよい」

「…………」

 黙っるクロノ。怒りのあまりオーバーフローしたようだ。

「ときに少年、名前を教えてくれないか。私はエルテ・ルーデル。ただの善良な一般市民だ」

「嘘つけ! どこの世界にあんなバカ砲撃できる一般人がいる!」

「とりあえず、私と、私の隣に一人」

「ふぇ?」

「戦略機動航空砲台、高町なのは閣下。戦闘民族高町家の末娘にして、将来有望な戦略砲撃空戦魔導師」

「えええええ~~~~!?」

「本人はこう言っているが」

「知らぬは本人だけだ。で、少年。私は答えを聞いていない」

「……クロノ・ハラオウン執務官だ」

「ふむ。ソヴィエトロシアの政治将校のようなものか? ああ、でも実働部隊も兼ねているのか? よく判らん役職だな。まあいい、よろしく、クロノ」

「なんで君はそう偉そうなんだ」

「坊やだからさ」

 クロノの頭を撫でるが、すぐに払われる。

「少なくとも、君よりは年上だとは思うんだが」

「女を見た目で判断すると痛い目に遭うぞ、少年」

 その場にいるもの全てに、クロノがイライラしているのが手に取るように判る。

「さて、そこのお姉さんの名も聞きたいが」

 エルテはリンディ・ハラオウンに向き直る。この時点でクロノは完全に意識の外だ。警戒はしているが。

「リンディ・ハラオウン提督です。このアースラの艦長も兼任しているわ」

「やはり姉弟か」

 世辞を言う。正体は知っているが、印象はよくしておいて構わない。クロノは、騒がれても特に問題ないとエルテは考えている。

「ねえクロノ聞いた? 私もまだまだ捨てたものじゃないわね~」

「その反応を見るに、親子か。なあ、なのは」

「そうは見えないよ……」

「高町家と同類だな。やれやれ」

「ええ!?」

 と、顔合わせは特に問題なく、三人は例の部屋に案内される。自己紹介の際にユーノはフェレットから人の姿に戻るが、事前になのはに伝えているが故にあまり驚きは無い。

「話を聞かせてもらおう」

 そして、日本人には許されざるリンディ茶。
 リンディが角砂糖をつまむと

「デストロイ」

 角砂糖が消滅した。

「あら?」

「提督はよほど日本人に喧嘩を売りたいと見える」

 絶対零度の怒りを以て放たれた言葉が、

「え? エルテちゃんはドイツの人じゃないの?」

 なのはのボケによって消滅する。

「ドイツ系日本人だ。何度言えば判る」

「そういえばそうなの」

「喧嘩? どう言う意味かしら」

 エルテの言葉の意味を、本気で理解していないリンディ。

「緑茶はストレートで飲むものだ。砂糖を入れたいなら紅茶でやれ」

「そうなの。知らなかったわ」

 そう言いながら、ミルクを垂らそうとする。

「デストロイ」

「あら?」

 ミルクが、二酸化炭素と水素と酸素に分解される。中身が全て気体と化したピッチャーからは、何も出るはずがない。

「話を聞いていなかったか?」

「だって苦いのよ~!」

「貴様に飲ます緑茶は存在しない! あー、クロノ。紅茶を持ってきて貰えないか?」

「はあ。わかった」

 と、一悶着あったが、気を取り直してもう一度。

「さて、話を聞かせてもらおうか」

「……ユーノ」

「あ、うん」

 エルテはユーノに概要を丸投げした。



「そう……立派だわ」

「だが、無謀でもある」

 その言葉に、エルテが反応した。

「立派。無謀。どこがだ」

「なんだと」

「あなた達が来るという保証は無く。来るとしてもそれまでに確実に起爆する爆弾を、解体する技術を持つものが解体しないなど愚の骨頂だ。力、技術を持つ者の義務といってもいい。立派でもなければ無謀でもない。なのはに関しては、褒められるべきではあると思うがな」

「え? なんでエルテちゃんは褒められないの?」

「なのはの潜在能力を目覚めさせ、それを伸ばすためにこの事件を放置した、といったらどう思う」

「え!? そうだったの?」

「私が全力を以て介入すれば、ジュエルシードが海鳴にばらまかれた瞬間に全て回収できた」

「なんだって!?」
「なんだと!?」
「なんですって!?」

 驚く三人を、すぐに眼中から外してなのはに向き直る。

「すまない。だが、今は全てを話す訳にはいかない」

「ふざけるな!」

「クロノ」

 激高するクロノをリンディが制す。

「ですが……」

「そういちいち激高するな。クロノ、あなたの立場は冷静でいることが必要ではないのか?」

「く……」

「私はあなた達に協力はできない。被害が発生した場合のバックアップのみだ」

「……理由を、訊いていいか」

「ジュエルシードより危険な存在を止めるため」

「それは、なんなのかしら?」

「管理局に関与してほしくない。これは機関の問題だ」

「機関……さっきも言ってた、ルーデル機関のことかしら」

「ああ。見つけることができれば全てを話してやろう。知るべきではなかったことまで、全て」

 低い、低い声で、口の端をわずかに上げて微笑む。本来ならば、クロノの心拍数がドンドコ上がるほどの魅力的な微笑みだが、声と雰囲気も相まって、心臓を縮み上がらせていた。執務官としての経験で、そうそうのことでは萎縮すらしないクロノがこうなる。彼は知った、目前の存在の脅威を。

「では、な」

 話は終わりとばかりに、エルテは立ち上がる。

「残念だけど、あなたを帰す訳にはいかないわ」

「あまりに予想通りでつまらないな」

「君の身柄を拘束する。管理外世界での無許可魔法使用、公務執行妨害、違法魔導師、叩けばいくらでも埃が出そうだな」

「その全てが私には適用できない訳だが。まあいい。おとなしくしていてやろうか」

 管理外どころか番号すらついていない未発見、あるいは資料にも残らないほどの過去に捨てられたガイア。管理局どころか次元世界にすらその存在を知られてはいない。管理局が介在しない地で発生した『戦略兵器』が、過ごしやすい世界で普通に過ごしていただけ。その存在は『人』ではないし、そもそもこの世界から管理外世界に移動したものに管理局法など適用できない。ロストロギアとして回収または破壊されるかもしれないが、誰がどう考えても不可能。
 エルテの何人かは、ミッドチルダを始めとする管理世界に足を運んでいるが、新型のこの躯は一度も管理世界に存在したことは無い。知らぬ存ぜぬを貫けば、『エルテ』という存在に法の束縛は無意味なのだ。
 それに、エルテ本人には、何も話す気は無い。

「来い」

「ああ、なのは。帰ったら一度ルーデル屋敷に来てくれ」

 魔力を封じる手錠がかけられ、クロノに連れられ、エルテが部屋を出る。
 話についていけないなのはとユーノは、突然の展開に動けずにいた。



 なのはとユーノ、この二人は問題ない。二人とも素直で、なのははもともとこの世界の人間の人間で魔法に関しては不可抗力、ユーノは事故だ。管理局がこの件を統括すると言ったら、協力させてほしいと願い出た。とりあえず、一日考えるように言って帰したが。
 問題は今から会う人物。エルテ・ルーデルという、僕を一瞬かつ無傷で撃墜した少女。
 管理局のデータベースに、一切の情報がない、全てが謎の少女。
 今は独房に拘束して監禁しているが、何故か非常にいやな予感がする。
 何か耳に覚えのない音が聞こえる気がする。いや、独房は確か防音だったはず。いや、それよりも、そうだった場合どうやって。両手両足を拘束したはずだ。

「…………」

 独房の前に立つ。
 この中だ。音の発信源は。
 開けたくない。この中で起きていることを認識したくない。
 なぜか貼ってある、『ルーデル機関・アースラ支部』の文字。なんだこれは。

「エイミィ、監視カメラは?」

『んー? おとなしくしてるよ?』

 なら、この音はなんなんだ。
 意を決して、カードキーをスロットに滑らせる。

『そぉ~ふぁ~らぁ~うぇ~~~~いうぃ~うぇ~いふぉ~ざでぇ~いえ~~~~~』

 爆音。
 そうとしか表現できない。
 反射的に耳をふさぐことができたのは僥倖だった。これは鼓膜がやられる。
 独房はライヴハウスと化していた。機材で狭くなった中で、ギターヴォーカルとベースとドラムとキーボード。そう、4人に増えていた。

『するーざふぁぁいぁあんざっふれいっうぃ~っきゃ~っりぃ~っお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん』

 これだけ叫んでいるのに、まったく下品な感じがしない。いや、それよりあの手の動きは人間にできるものなのだろうか。
 長い演奏がやっと終わりを迎えた。と思ったら。

『デストロ~~~~~~~~~~~~~~~~~~イ!!』

 その絶叫にうっかり手を放してしまった耳に波動が容赦なく叩き込まれる。

『くぁwせd! rftgyふ! うじいこl! zsxdcfv! gbhんjmk!』

 もはや聞き取ることすら不可能な妙な言語。
 耐え切れず、ギタリストを蹴る。
 途端、無音になる空間。同時に3人と機材も消えた。残ったのは、ギターを抱えた一人だけ。

「……無粋だ。実に無粋だ。全く、メロスピとハードロックを聴いて出直してくるがよい」

「君は! 容疑者で! 拘束されてここにいるんだ!」

「いわれのない罪だがな。そうだ、クラシックをしたいからもっと広い場所を用意しろ。ゲルギエフ並みのハチャトゥリャンを聴かせてやろう」

「…………」

 こいつには何をいっても聞きそうにない。僕が黙った瞬間にギターを鳴らし始める。
 騒がしかった先ほどとはうってかわって、優しくもどこか悲しいゆっくりとした曲。

「……歌詞を忘れた。いい曲なんだが」

「どういう曲だ?」

「ヘヴン、天国という意味だ。大切な人が死んで、昔を思い返す、って内容だっか。レクイエム、とも言えるか」

 なぜかその曲に惹かれた。鼻歌だが、何となく歌に込められたその意味が判った。
 こんなことをしている場合ではない、そうは思うのだが、聴いていたい欲求に逆らえない。
 そう思っているうちに、ギターの音は消えてしまった。エルテを見ると、その手にはもう、ギターは無い。

「……何から訊こうか」

「話す気は無い。時が来れば、勝手に理解するさ。それより、これ、もう少し頑丈なのを持って来い。脆すぎる」

 差し出されたのは、左手……に乗った……残骸?

「手錠だ。そこに転がっているのが足錠。何もせずとも砕け散るなんて思いもせんよ」

「はあああああ!?」



「うーん、どうしてもオーバーフローしますね」

「やっぱり人造魔導師かしら……」

 モニターの前で、リンディとエイミィがなにやらやっている。おおかた、私のことをこそこそ調べまわっているのだろう。
 かく、言う私はその後方1m地点でその様子をじっくり観察している。ステルスで身を隠しながら。

「前例がありませんよ、こんなバカ魔力の人造魔導師なんて。どんなに多くてもカンストなんてしませんでしたもん。高出力魔力炉用どころか次元震観測用の魔力計が、ですよ?」

 機関では、私が動力炉だ。炉という部屋に引きこもって、エイダとくだらない話をしながら、必要なだけのエネルギーを供給する。ある意味究極の動力機関かもしれない。研究所に一基ずつエルテ式動力炉は設置されているし、現在建造中の時空航行戦艦『ラグナロク』も、既に搭載が確定している。

「アースラの動力炉は?」

「測れますよ、もちろん」

「恐ろしいわね……」

それが千人以上いると知ったら……面白そうだ。氷山の一角でも、タイタニックどころか大和を一瞬で轟沈させるぐらいあるのに、その全容はま――――比類するものがない。

「それを個人で完璧に制御しているわけですから。保有魔力も制御も、軽くSSS+オーバーですね、確実に。新しくランクを作った方がいいくらいですよ」

「でも、さっき見た限りではそんな魔力は感じられなかったわ。消滅か転移かは判らないけれど」

「偽装、かもしれませんね。触れるくらい近づけば、あるいは」

「厄介ね……」

 そんな私を監禁しようとするあなた達が心配だ。気まぐれな核爆弾を自ら腹に抱えるという行為に他ならないというのに。私の良心という安全装置が外れれば、その瞬間にドカン。アースラではなく、本局が吹き飛ぶだろう。アースラの連中が憎めるとは思えないし。
 ああ、私に関わる全ての人を幸せにするのは、やはり難しい。こんな発想、最初からハネるべきだ。
 被害を最小限に、可能な限り、血と涙を流さない、そんなシナリオを書き上げるために。
 原作ルートを守るのも、私という存在が管理局に露見した時点で終わるのは眼に見えていた。
 なぜ知らない未来を恐るべきか。未来が判らないのはアタリマエ、何を必要以上に恐れる必要がある。もはや最初のシナリオは崩壊してしまったのだ、あの光と一緒に。
 ならば、動かざる理由はもはや無い。暗躍したい放題してやろう。

 ただ今を以て、オペレーション:ジ・オリジナル・ブレイキング(原作破壊作戦)を発動する。



 なのはは、言った通りに屋敷に来た。ユーノも連れて。この結界の中は、監視は不可能だ。エイミィも四苦八苦しているが、無駄。ダミーコードの山で、本物は様々な場所に分散、破壊されたところから別の正規コードが修復を開始する、センチュリアを表現してみたプログラムだ。

「エルテちゃん……捕まったんじゃなかったの?」

「それは特に問題ない。逃げ出したわけでもないからな。ガイアに行くぞ」

「え?」

 問答無用で転送魔法、ついた先は除染されたガイアの都市だった。アルトのユピテルカノンの応用で、異様な速度での植物の成長は無かった。せいぜい雑草が生えるくらいだ。

「なのは、負け続けは悔しいだろう?」

「え? う、うん」

「ユーノも、無力なままは嫌だろう?」

「……うん」

「訓練するか? 今より遥かに強くなれる保証はある」

「強く……?」

「時間は一瞬だ。止まった時の中で、疑似的に精神と時の部屋を再現した。時が動き出したら、二人は次元世界でも最高クラスの力を得られる」

「やる!」
「僕も、やりたい!」

 即答だった。力への渇望というのだろうか、自らが非力であるとでも思っているようだ。ユーノは、戦力という計算ではその通りなのだが。



「注射?」
「うう……怖いの」

「ナノマシン入り生理食塩水。回復速度を異常に早めるものだ。針は無いし痛みもない。あと、これも」

「おもり?」

「アンクルウェイトとリストウェイト、そして首輪とネコミミ。基礎体力も上げてくれるううえに、魔力負荷もかけてくれる優れもの。リンカーコアに負荷をかけて、魔力の最大値を上昇させる。容量も最大出力の向上も望めるな」

「そうなんだ」

「ね、ネコミミ……」

 注射を受け、ウェイトと簡易コスプレグッズを見につけていくなのは。ユーノはためらいが見えるが、結局全てを身につけた。ウェイトは違うにしても、ネコミミの類は私の趣味だ。躯の全てに計算し尽くされた最適な負荷をかけ、戦闘能力の向上を図る。首輪はリンカーコアへの負荷、ネコミミは脳の演算系統への負荷。

「さあ、始めよう」

 世界が色を亡くす。動力炉用に出力調整された私が全力を以て、かつ交代しながらザ・ワールドを発動するのだ。計算では、体感時間で9年ほどはもつようになっている。そう、一瞬で9年分の修業を積ませてやるのだ。調整で、外見は変わらないというサービス付きだ。
 なのはには基礎身体能力、一般教養、苦手な文系科目、魔法理論、魔力制御、戦闘の基礎、市街地戦、山岳戦、空戦、etc.etc……
 教えて遊ばせて戦う。StSまでどっぷりと魔法に漬かったなのはなら、たかが9年、苦にもならないだろう。あ、もう9年てくらいに。
 ユーノは基礎はできているから、出力と容量の向上、基本戦闘、戦闘における勘などを身につけさせることになる。サポートに特化しつつも、戦闘はできる支援タイプの魔導師プラン。
 素質のあった私の子供達も訓練に参加している。これは、機関の軍事訓練とも言えるだろう。

「え? もう?」

「実習では、しばらくバリアジャケット禁止だ。その代わり、経験値がチートなゲームのように強くなれる」

「え!?」
「ほんと!? わかった」

 強くなる、その単語に嬉々として反応するのは、血なのだろうな。ユーノは青くなっているが。
 ともかく、戦力としての高町なのはは素晴らしいものになるだろう。オールレンジマルチロールファイター、戦略・戦術攻撃も可能、ミッド・ベルカ・ガイアの三種の魔法を扱う究極に育つ。運動音痴なのは正しく鍛えてないからで、うまく鍛えれば恭也とタイマンを張れる程度には強くなれるはずだ。前回のガイア来訪の際の検査結果だから間違いない。StSでも、運動音痴なんて描写は無かったし。
 ユーノには原作よりも遥かに強くなって、想いを成就してもらおう。そして、無限書庫で『あるもの』を探してもらわなくては。
 さて、彼女『達』はどこまでいけるのだろう。楽しみだ。



《あとがき》

 なのはさんネクスト化計画発動。いや、アヌビス化計画? ファルケン? ヴァンドレッド?
 超高機動・高威力・大火力の代名詞といえばこれくらいしか思いつかないのです。ロボットアニメってほとんど見たことなくて。
 それに当てはまるエルテですが、確かに社長よりヴァオーですな。でも単発威力だとグレオンになるから悩みどころ。
 ちなみに関係ない話ですが私のアセンはAP以外何も考えず、格納に至るまでガトオンです。ラヴィもヴァオーも蜂の巣。

 ユーノを強化するのは、検索魔法の高出力化と高効率化が目的だったり。
 エルテは運命に対しプッチンいきました。原作が完璧に崩壊するか、それとも修正力が働くかはまだまだ。
 プロットを初めてしゅうせいする羽目になりました。

 クロノ撃墜はエルテの管理局に対するデモンストレーションです。
 管理局には、名前と顔を幻影で、ランクをジャミングで偽装したエルテが潜伏しています。
 デバイスも売っていたりします。
 伏線はりまくり。

 エルテもアルトもみんさまヴォイスです。プロットの設定段階で決まっていたのに反映を忘れていました。この子の七つのお祝いには、キネマとか幻想廃人とかを歌っている感じで。エルテは地声がアルト、アルトはメゾソプラノの声だったりします。アルトなのに。

 実はこのリリカル世界、都築世界とは別の作品の世界ともドッキングしていたり。初期構想からカオスなギャグにするつもりが、何故。
 いつか番外編で全国に散ったエルテの話をするつもりです。



Dec.12.2009
 誤字修正。追記。



[12384] 21カオス・オブ・ジ・イヤー
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:86202b21
Date: 2009/12/20 22:34
 少し時は戻る。



 プレシア・テスタロッサ。
 26年前に娘、アリシア・テスタロッサを亡くし、絶望から禁忌に手を染めた悲劇の女。
 そして今は病に身を蝕まれ、希望をすり減らし狂気に走ってしまった。
 それが、『俺』の知っている彼女。
 私が知っている彼女は、それとは少し、違う。



「久しぶりだな、プレシア」

 時の庭園に私はいる。フェイトは既にジュエルシードをプレシアに渡し、虐待を受ける前に私が現れる。機を失えば、その意思は霧散する。プレシアのやつあたりは、私次第だがもう起きない。

「誰かと思えば、スカリエッティのモルモットじゃない」

「残念だが、それは大いなる間違いだ。私はエルテ・ルーデル。ジェイルとは友人であり協力者。そして、あなたの望みを叶える者だ」

 最初から腹の探りあいもクソもなく、どストレートで核心をブチ抜く。回りくどいことは苦手だ。

「あらそう。私の望み? 名前も知らなかったあなたに、私の何が判るというのかしら」

「生命還元法、読んだか?」

 私の名前など、この場においてそんなに意味など持たない。私は変わる前の在るべき世界を知っているのだから。予め知っているという意味では、確かにこれは予知なのだろう。
 誰も知るはずのないプレシアの悲願、アリシアの復活を私は知っていることに驚いたらしく、プレシアはわずかに殺気を強める。

「……児戯ね。あんなこと、既に私が試したわ」

「最後まで読んでいないか。そして、試したとは言うが魂もイケニエも使ってはいないだろう」

 私の生命還元法は、壊れてしまった人間を、正常な人間を加工したものにインストールすることで達成される。簡単に言うと、精神と魂の移植手術なのだ。破壊神再臨計画の時点で既に存在が発見され、実用段階に至った『魂』の技術。生物が死んだときにどこかへと消えるごくごく軽量なそれを、死した躯から型をとり、生きた人間のそれをその形に成型する。躯の形もモールドして、脳などのストレージ情報をインストールして終わり。生きている人間を加工するのだから、単純に死んだ人間をそのまま蘇生するよりは簡単なのだ。ただ、術式プログラム行数が21桁という幻のペンゲーに肩を並べる数字になったが、人海戦術というものはどこでも有用なことが証明されて解決した。ガイア式魔法は総じて大規模かつ精密な制御を要するために桁数が膨れ上がる傾向にあるが、生命還元法も御多分に漏れない。
 対価は人間一人、そして魂の形を見つけるための時間、更に莫大な魔力。時間以外はエルテ・ルーデルの存在で問題ない。私という存在は、大量生産できる魔力炉であり、使い捨ての戦略兵器なのだから。
 そもそも、プレシアがいう試行も、ミッド式のような術式構築では不可能だということだ。生命をいじりたい放題いじって、挙句クローンなどの遺伝子提供に頼らず『ゼロ』から人間を生み出したガイアの技術は、聖王時代の技術なぞ児戯に等しいだろう。特に、生命関係に関しては。可能性として、ガイアのどこかには単純蘇生の情報が眠っているかもしれないほどに。

「魂? 生贄?」

「人を生き返らせるのに最も適した対価。そうだろう」

「くだらないわね、まるでファンタジーだわ」

「案外、幻想ではない。突き詰めれば命も魂も科学……いや、魔法でどうにかできる。だからアルハザードに行こうと思ったんだろう?」

「…………」

 黙ってしまうが、まさにその通りなのだろう。人間なんて化学反応の塊。それが魂というファンタジーによって制御されているから驚いたが。

「あなたの延命もある」

「何故……」

 プレシアの眼が驚きに見開かれる。

「ジュエルシードなどなくとも、時間さえかければ完成しそうなものを。蘇生してすぐに死なれては、アリシアもフェイトも悲しむだろう」

 私はその疑問に答えない。

「……フェイト?」

 ……雰囲気が変わった。原作でいう憎悪、といった感じではなく、困惑。

「あの子がどう思おうと関係ないわ」

「本当に?」

「くどいわ。それに、どこまで知ってるの?」

「ああ、そういうことか。フェイトには知らせていなかったか」

 左眼が、虹彩が紅に染まるのが判る。

「全て。いい感じに脚色してフェイトに話したら、己の身も顧みないだろうな。ただでさえあなたに忠実なのに」

 母親の病と姉の存在。フェイトがクローンだということを伏せて――伏せずともどうとでもなるが――全てを話せば、全力以上を以て事に当たるだろう。ああ、我ながら思考に反吐が出る。

「気に食わないわ。あなた、本当に気に食わない」

 おお、怒ってる。
 私の勘は正しかったようだ。フェイトを嫌うなんて、『この』プレシアにはできなかったということだ。

「それが本音か。安心した。フェイトは、愛されていた訳だ」

 雷撃が、私を蒸発させんと襲いかかる。しかし、ガイアの破壊神を相手にするには、まだまだまだまだ足りない。バリアジャケットだけで弾く。
 しかし、最後の最後でためらいが見えた。私の呟きが聞こえたらしい。

「それが答えか、プレシア。試すような真似をしてすまなかった。それにしても、母は強し、か」

 弾いたつもりだった。だが私の顔には左の頬から耳にかけて焼けただれていた。

「信じられない……」

「何がだ。その眼で見てなお、信じられないと言うのか?」

 エイダが勝手にメタトロンを射出する。躯が青く輝き、回復する頬。

「あなたの言う生命還元法、それは本当にアリシアを……」

「ああ、そうだったな」

 現れる、一つの本。生命還元法の全てを記した、禁断の書。一人の人間を犠牲に、過去を取り戻す狂気の術。
 それをプレシアに渡す。

「フェイトに渡したのは、生命還元法の根幹とも言える魂に関する記述が存在しない。今渡したものは、生命還元法の完全版とも言うべきものだ。今度は、最後まで読むといい」

 あれには、生贄の他にジュエルシード以上の出力を誇る『新型』が必要だ。そこらの動力炉どころか、新型の大規模魔力プラントでも出すことはできない。時の庭園程度では、どうすることもできない。
 プレシアには、魂の概念や生命還元法は理解できるだろう。そして、足りないものも。
 炉の魔力出力、術式、最適な生贄、そしてそれらを生み出すための時間。

「そろそろ消えるとしよう。少しだけ、フェイトを借りるが。いいか?」

「死なせたり、言ったりしたら……」

「心配するな。私もフェイトが好きであることには違いないのだから。私の存在を賭しても守る」



 私の一人が時空管理局と接触、フェイトを逃がしてから数時間。フェイトのマンションで、オムライスを作っている私。
 帰ってきたアルフが隣で包丁を握っているが、経験が足りず、玉葱の微塵切りが非常に残念な結果となっていた。

「微塵切り……のようには、見えないな」

「あ、あはははは……」

 アルフと場所を代わり、両手に包丁を握る。同時にベクトルドライバーを起動、世界が矢印で埋め尽くされる。

「すぅ……無ぅ駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」

 跳ね回る矢印を制御して、あまりにも巨大な微塵切りを小さく切り刻んでゆく。

「おお~」

 最後にザッと刃を滑らせ、フライパンに結果を叩き込む。高温で一気に炒め上げ、更に左手で微塵切りにした人参を投下。順番が逆だが、これはアルフのミスだから仕方がない。あらかた火が通ったら鶏肉を入れて、そして火を止めて白米、そしてケチャップ。最後にぱらっとするまで炒める。塩コショウを少しだけかける。

「よし。アルフ、皮は任せた」

「わかったよ」

 卵だけは、これでもかと仕込んでやった。これだけは認めてやってもいいくらいに、アルフは卵焼きが巧くなった。

「そぉい!」

 その掛け声はどうかと思うが。



 昼飯も終わり、AC6でACZEROのメビウスの変態機動をどうにか再現しようと四苦八苦しているところに、シャワーを浴びたフェイトが戻ってきた。が。

 ガッ

「……いたい」

 呪い、未だ解けず。
 とりあえず、ソファーでおとなしくドライヤーで髪を乾かし、乾くとバリアジャケットを装備する。

「……ありがとう」

「私の不注意だ。これくらいで礼を言われると、な」

「そのことだけじゃないよ。母さんに叩かれないようにしてくれた」

「……そのことだが、一つ、言うことがある」

「なに?」

 フェイトが首を傾げる。フェイトは物事にあまり疑問を持たない。まるで『兵士よ問うなかれ』を実践しているように。だから、私の言葉もプレシアの言葉も、盲目に信じきっている。

「私は中立だ。だからこれを報告する」

 紅茶のカップを傾ける。自慢にもならないが、砂糖を飽和するまでねじ込んだそれはリンディ茶くらいに甘い。だが、これは正しくてあれは違う。抹茶オレは許すが緑茶はだめだ。ほうじ茶ラテも許しがたい。

「なのはが私のもとで訓練を開始。時を止めた世界で、実質9年間。どうする?」

「どう?」

「フェイトも訓練するか、という意味だ。他人から見れば一瞬。その間に9年分の訓練が受けられる。逆に言うと、今訓練を受けないと、二度と受ける機会は無い。そして、なのはは魔王のごとき力を得てフェイトと戦うこととなる」

「する。私は、誰にも負けるわけには行かないから」

 計画通り。まだなのはには訓練の話すらしていないが、どうせ食いつくに決まっている。
 リニスには悪いが、あなたが描き切れなかったフェイトという作品を、私が完成させてやる。
 そう、フェイトは強いが、私から見れば無駄と隙が多い。今ならAランク程度にセーブしても、奇襲や罠で一気に潰したり、ゲリラ戦で疲弊させたりと、面白いように簡単に撃墜できるだろう。この書き変わってしまったシナリオの世界で、なのはの代わりに落ちてしまう可能性は、無いとは言えないのだ。だから、みんな、殺されても死なないくらいに鍛え上げる。

「じゃあ、アルフもパラダイスへ招待しないとな」

 地獄への旅路は、連れが多いほどいい。



 止まった時の外にいる私たちにとって、その中でのことは知る由もない。それは一瞬ゆえに、戻ってきたときに突然記憶が増える不思議な感覚がある。同じ意思の下に存在するはずなのに、時が止まると矛盾が起きる。その矛盾は正しい。ザ・ワールドは世界を歪める魔法、双子のパラドクスや物理法則なども、時が動き出すときに無理矢理解決する。時が止まったときに動けば、理論上の速度は無限。逆ウラシマ効果とでも言おうか。モノのコトワリと書いて物理、これに干渉してそれらを全て『無かったこと』にする魔法という力に、正直恐怖を禁じ得ない。そして、その『魔法』を使えるこの躯、エルテ・ルーデルにも。

「スタアァァァァァライトオォォォォォォォ……」

「プラネット……」

「ブレイカアアアアァァァァァァァァァ!!」
「ブレイカー」

 SLBと惑星破壊砲が拮抗する。双方高機動で相手の射線から逃れようとするが、一瞬も拮抗が崩れることは無い。鍛え上げられたエイミングは、恐らくどんなに遠くでも視認すれば当てることができる。なのはの旋回速度・反応速度以内であれば。

「う……く……」

「まだ二周目だ」

 SLBの持続時間が切れるまで、ずっとこれを続ける。現状において、なのはのランクはリミッター付きでS-、かなりの負荷に耐えられるようになった。基礎体力、魔法の基礎から始まって、一年。応用を教え、防御を固めて、攻撃に入って、あらゆる地形で戦って一年。一対多、多対多、多対一などのコンビネーションや指揮を教えて一年。
 今は、回避や移動攻撃を教えている。

「ぐぅ……あ」

 SLBの出力が足りず、常時パイパーな惑星破壊砲が拮抗を破り、なのはを優しく包む。

「きゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

『デーモン1、クラッシュ!』

 AWACSよろしく上空から戦域監視をしていた私が念話で状況終了を伝える。
 気絶するはずなので、予想落下地点にて落ちてくるのを待つ。
 その遥か遠くでは、子供達がデバイスやライフルを手に市街戦をしている。現在地より、星を挟んで反対側で、フェイトは私に接近戦を挑んでいる。一瞬の仮想戦場。その中で、場所は違えど二人のネコミミ魔法少女とガチバトル。傍から見れば、さぞかし愉快な光景だろう。

「さて、ユーノ。君の失敗はなんだ」

「……なのはが魔法の効果圏外にいたこと、かな」

 もはや慣れたもので、なのはが撃墜されてもほとんど動揺することは無い。

「正しくは、私となのはが、だ。なのはにシールドしながら私にバインドをかけることはできただろう。拘束こそできないとはいえ、邪魔はできただろう」

「あ、そうか」

「さて、次はユーノ……一人だけだとつまらんだろう。アジーン、アジーン!」

「いちいち大声上げずとも、私の耳は母上の声を聞き逃しはしません」

 私の娘、アジーン。ランクとしては空戦B程度だが、策士である。罠と誘導にかけては右に出るものはいない。

「ユーノ殿と共闘せよ、ですか。了解です」

「まだ何も言ってはいないが」

「状況から鑑みるに、そうなのでしょう? なのは殿は母上が抱いていますし、空戦Bランクの私がユーノ殿と戦えはしません」

 戦力分析、精神分析、統計、傾向、それらがアジーンの頭には叩き込まれている。戦術も戦略も采配できる、究極の指揮官と言えよう。

「じゃあ始めよう。逃げる私を拘束するのが今回のミッションだ。私はバインドを破らないから、ある程度の出力さえあればいい。敗北条件は30分のタイムリミット。合図は……これの着弾で」

 炸裂型の魔力弾を一つ。派手な音はするが、殺傷効果範囲はほとんどない。

「わかった」

 ぽいと、魔力弾を落とす。



「はああぁぁぁぁぁ!」

「甘い」

 フェイトと戦う。おおよそ人間の反応速度の限界まで戦闘速度を加速し続けて、その結果、馬鹿みたいな速度でコンスタントに戦っている。無論、魔法補助がなければバラバラになるほどのGが躯にかかっている。エルテが組み上げバルディッシュにインストールされたクイックブーストやオーバードブーストが、この高速戦闘に拍車をかける。私でも時々フェイトを視界からロストするほど。

「まるでネクストだ。ジェフティか」

「ねく……すと?」

「フェイトみたいな高速戦闘スタイルの機動兵器だ」

「機動兵器? がん、がん、がんだ……ガンダルフ?」

 それは何か違う。SFではなくファンタジー。

「ガンダム? 馬鹿をいうな、コジマ粒子でボロボロにされて、ゼロシフトで一気に間合いを詰められて、コジマキャノンを叩き込まれて、掴まれて投げられるのは眼に見えている。fAなど5対1でも余裕で勝つし、アーマーンを止めるほどの起爆力もない」

『混ざって意味が判りません』

 高速で移動しつつ、隙をうかがう。この時ばかりは、相手の隙を誘うべく会話が許される。フェイトの息が整うのを待つのもあるが。

「ジェフティだけでハイヴが確実に落ちる。ACfAの主人公は人類を滅ぼせる。これでよかったか」

『さらにクロス要素が増えました』

「目標はAMS適正のあるグラハルト・ミルズ。勝てる気がしないな」

「え? え?」

 あまりにマイナーすぎて、フェイトは会話についてこれない。

「隙あり」

「ええ!? っくぅ!」

 反応が早い。ただ、正確さに欠ける。受け流し損ねた衝撃を食らい、バルディッシュを取り落として吹き飛ぶフェイト。
 バルディッシュを手放したことでシールドがほとんど消え、気絶している。

「やれやれ」

 ゼロシフトを起動して、全ての距離を0にする。フェイトを抱き止め、ゆっくりと降りる。

「フェイトは、今日はもうお休みだな」

 時の止まった世界で今日もくそもないのだが、便宜的に24時間周期でみんな動いている。
 アルフは

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……」

 と忙しそうにしているが。ジョジョ第三部を参考資料としたのは失敗だったかと、今更ながら思った。



《あとがき》

 狂いきれなかったプレシアさん。
 でもこれからどうなるのか。
 私の感覚としては、イデアみたいな感じです。ガイアにガーデンでもつくるかな。
 プロットがどんどん歪むのが問題ですが。



 9年の訓練をずっと描写するのはどうかと思い至り。
 とりあえず精神と時の部屋(偽)は今回だけで終了となります。
 FMJネタはやろうかと思ったけどやめました。



 仕上がりに関しては、なのはがノスフェラトかファルケン。フェイトがメビウスワイバーンかカリバーンといった感じです。
 アルフは承太郎化が激しく、ユーノはサポート特化型になる予定です。
 間違ってもガジェットごときに落とされることは無いでしょう。



 ストライクウィっチーズなるものを観ながら、wikiを調べたら、
 『ハンナ・ルーデル』

 母上大佐!?

 普通に知りませんでした。
 これで主なルフトヴァッフェの人々の名前が使えなくなった気が。知らなければよかった……!!
 まあ、ネタとしてはシモさんやスロさんやレミさんがあるからいい……ことにします。
 リディアさんも、果てはあれも使おう。ダヴェンポートとかフォルクとかパステルナークとか。
 次元世界には無限の可能性があると、私は信じています。並行世界は無くても、そんな世界があってもいいじゃないか!



 ついでに知りたくなかったこと。
 フェイトにかけられた『箪笥の角に足の小指をぶつけやすくなる呪い』が既出だったこと。
 しこたま様の紐糸日記を読み進めていたらあら不思議。

『あああああああああああああああ!?』

 何故ですか、地味に痛いすさまじく陰湿な呪いだからそうそう似たようなのがあるわけねぇ! と思ってネタにしたのに。フェイトがどじっ娘なのは俺の中で正義である! と思って呪ったのに。
 不都合・問題があれば修正します。



 某大会も近いので、しばらく書けないかもです。
 Willcom 03は素晴らしいとだけ、ここに断言しておきましょう。



20.Dec.2009

プログラム行数の比較対象を変えました。
最大額面のつもりだったのですが、あの分ではレートと取られてもおかしくない……それに最大額面では比較にするには少し不足でした。
レートだと対数グラフで直線というふざけた経済崩壊曲線を描くので、時間によって桁で負けてしまうという恐ろしい現実。ペンゲーの幻の最高額面(10^21)にすべきだったかな……と思い至り、来ていただきました。
同じ莫大なプログラムということでアメリカの開発したチートオリ主もかくやといわんばかりのラプターさんに来てもらおうかと思いました。でも2,200,000『行』であり、21『桁』には遠く及ばない現実。



[12384] 22誤算
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:86202b21
Date: 2010/01/03 03:45
 訓練終了後、なのはは最後の最後でやっと覚えられたヘルゼリッシュ兼用の転移魔法を使って高町家に帰った。今ごろは家族に甘えているだろう。フェイトはマンションの一室でザ・ワールドによる時差ボケに悩んでいる。パーフェクトとは言いがたいが、仕上がりはそれなりといったところか。それでも、一般的なSSS+の魔力量を遥かに超えてしまっている。まさかここまで伸びるとは思わなかった。フェイトは普通にSSSだが、その高速機動は他の追随を許さない。初期生産型ノーマルの私が反応できない程度なのだ。撃墜する方法はあるが、それは俗に『無差別飽和戦術空間攻撃』と呼ばれるもので、要は『狙うことができないのなら、焼き尽くせばいい』という攻撃だ。空対空核ミサイルともいう。
 ハードがパーフェクトでも、ソフトは完璧とは言いがたいのが現状だ。

「しかし、アルフがデバイスを使うようになるとはな」

 承太郎に影響されまくったせいか、徒手空拳での戦闘スタイルを確立したアルフ。そのまま素手でこれから先やっていくと思ったのだが、訓練後に貸したredEyesでゴッドハンドに憧れたらしく、作ってくれとせがまれてしまった。いっそユーノにも作ってしまおう、ということで、魔王のパーティは全員デバイス持ちになる予定である。

「うっかり育てすぎた、かな」

 まさかユーノがなのはと肩を並べるSSS+になるとは。集束砲撃は苦手で及ばないものの、バインドをまるで己の腕のように自在に操り、ギリギリとはいえなのはのSLBを耐える防御を持つ。べクターバインドなる新たな魔法は、不可視であったりと某妖精の歌だ。近いうちに角のアクセサリー……いや、補助デバイスにするか。
 アルフはフェイトに依存しているからランクは上がらないものの、疑似スタンドを発現するに至った。魔力で作った自らの分身、イメージに失敗したらしく、なぜか私の姿をしている。能力もなく、身体能力も外見相応だから、雑用にしか使えない。私の姿をしていながらここまで無能なのも珍しい。

「独り言、ですか。珍しい」

 テーブルを挟んで向こう側に、アジーンとドヴァーがいる。ロシア語の数詞で1と2。ジェイルのナンバーズの失敗作を私がサルベージしたのだから、という理由で最初の12人はこの命名法則でつけられた。その次はドイツ語、その次は、ACZEROのアサルトレコードから、それから先は……人名辞典でまともなのを片っ端からつけていった。

「二人がいるからだ。誰もいないなら、独り言すら言わない」

「聞かせるつもりがないのに、人がいないと出ないというのも奇妙ですね」

「……聞かせる?」

 ドヴァーは極端に無口だ。神出鬼没で、娘の間では怖がられている。唯一、何故か一言も喋らずに意思疎通のできるアジーンと行動を共にしているところをよく目撃されるらしいが、それ以外はたいてい私の傍にいるから、私には実感がない。

「癖、習性、そんな感じか。人間、いや、生物だけの特性ではないようでな、機械などにも存在するらしい。AIや自我があればなおさら」

「母上は機械ではありません」

「人とそれ以外の境界なんて、誰にも判らんさ」

 サイボーグを人間と定義しない人もいる。クローンを人間と認めない人もいる。知らなければ、アンドロイドを人として――――いや、知っていたとしても、高度なAIと愛し合う人もいる。人の定義なんて誰にも決めることはできない。いや、誰にでも決めることができるから誰にも判らないのか。明確な定義なんて、どの世界にも無い。

「そうだな、だったら、私は人であって人でない、そんなシュレディンガーの猫な状態なんだな」

 私であり『俺』でもある。

「独り言で自己完結するのはいいですが、忘れられたようであまりいい気分ではありません」

「どうでもいいことだ、気にするな。それで、そっちの成果はどうだった」

 9年の訓練をしたのは、なのは達だけではない。私の子供たちのうち、戦いたいと願う者もあの世界で鍛えた。洗脳もしていないのに私に忠実な子供たち。例外はいるが、その場合はなるべく機関やガイアに関する記憶を奪い、希望の進路にいける教育機関に放り込むという手段をとっている。そこから先は知らない。金銭はかなり渡しているし、戸籍なども完璧。私の手を離れた存在にいつまでも構うほど、私は暇ではない。やましいことといえば、最悪の場合も想定して、遠隔爆破装置を体内に仕込んでいるくらいか。

「チート、ですね。戦略を考えなければ、米軍を30人弱程度で制圧できるでしょう」

「……間違ってもやるなよ」

 一応、釘をさしておく。忠実ではあるが、暴走しないとは限らないのだ。

「本題は別にあるのでしょう?」

「可変高抑制リミッタはどうなった」

 うっかり強化しすぎた白い魔王と黒い死神、そしてその相棒と使い魔。それをごまかすために、リミッタの開発を頼んでいたのだ。機関の意思決定は私がするが、私が育てた機関は私がいなくなってもうまく動くだろう。独裁組織ではあるものの、エイダさえ残せれば体制はそのまま継続できる。余るほどの私だが、それでも、まさかの場合に備えて対策を立てるのは、私が臆病だから。

「ナノマシンとなのマシンということになります」

「冗談が巧くなったな」

「なのはねえさまは出力が最高にいかれていますので、専用に開発することになりました。ですのでナノマシンとなのマシンと区別することに」

 装飾品系などの外部装着型だと、アースラのときと同様に出力に耐えられず、あるいは負荷が集中して壊れる。または抑えられたとしても、部分的なもので確実に漏れるだろう。ナノマシンで負荷を分散してしまえば、どうにかなる。躯の全てに浸透させる訳だから、外見にも変わりはない。そして、血液検査でもされない限り見つかることはない――――いや、科学に関しては地球のそれより遥かに劣っているミッドの医者や技術屋が、ハイブリッドステルス処理の施されたなのマシンを見つけることなど不可能だ。質量兵器を嫌うあまり物理を探求しないのは馬鹿だと私は思うのだが、管理世界ではそれが一般論だ。

「進行状況としては、70%といったところです――――ん、何?」

 ドヴァーが何か言ったらしい。口も動かさないので、『言う』というのはおかしいが。

「確かに。すっかり忘れていたわ。なのマシンには通常のリミッタとしての機能の他に、制限で溜まった魔力を自動的にカートリッジにして転送する機能がついています。将来的になのはねえさまは更に威力を求めると思いましたので、オーバーフロー対策もできて丁度いいかと」

「カートリッジシステムか。さて、どうなるか」

 ヴォリケンリッターにボロクソに負けたのがきっかけだったが、このシナリオのなのはは負けない、というか余裕で制圧すらしてくれるだろう。そもそも、夜天の書の解析が遅々とはしているが進んで魔力パスがほぼ私にリンクしている今、はやての病状が悪化することはなく、故に騎士たちが蒐集に出かける必要もないのだ。

「まあいい。特に問題はない。ありがとう、そのまま続けてくれ」

「はい」

 アジーンはそのまま部屋を出るが、ドヴァーはそのまま残る。

「…………」

「…………」

 そのまま、何も言わずに一日が終わった。



 エルテ・ルーデル交響楽団のコンサートは、アースラで大盛況だった。独房でバンドをしていた頃から比べると格段の進歩だ。独房を『うっかり』破壊してしまった、というのも原因だが、クロノは私を縛ることを諦めたようだった。拘束服を『うっかり』引きちぎり、リミッタつき手錠を漏れている魔力出力だけで砕き、独房の中でバンドやカルテットなどをし、最終的にはその独房をオープンにしてしまったのだから。私がいた独房は、独房なのに壁がないという不思議な状態だ。扉ではなく、廊下に面している壁を全部破壊してしまったのだから、さすがに怒られるか、とは思ったものの反省はしていない。
 オープンな部屋でギターを片手にブライアン・アダムスを歌っていたら、クロノが来てこれでもかというほど力いっぱいため息をついた。

「さまー! さまー! さまおぶしくすてぃなぁい!」

「ノリノリなところすまないが、これはなんだ」

「ジ・オフスプリングのPVを再現したらこうなった」

 サビが『Dooraemooooooon』と聞こえることで有名な、あの歌のPV。しょっぱなから扉をぶち破るのだが、扉ではなく壁だった訳だ。

「壁でも壊す場面があるのか、そのPVには!」

「惜しいな、壁ではなく扉だ」

「その格好は」

 その格好。一糸まとわぬ上半身に、いつもの黒いスラックス。この姿を男に見られて平気なのは、『俺』だったころの名残だろう。

「上半身裸で街を疾走するPVだったんだが、さすがにそれはどうかと思ってな。格好だけでもと。ついでに、さっきオフスプメドレーをやって少し暑いんだ」

「もう少し女の子としての恥じらいを……」

「ほう。私を女として扱ってくれるのか。嬉しいな、嫁に来ないか」

「嫁に来るのは君だろう、まったく」

「真っ赤な顔で呆れたように言われてもな。ふう、だいぶ涼しくなった」

 裸の上半身にコートを羽織っただけの姿。一部人類にはたまらないだろう。

「それで、なんでまだここに? 君ならすぐに逃げられただろう」

「逃げて欲しかったのか? まあ、普通なら逃げるか、検査と尋問が続けば」

 意図が見え見えな検査と尋問。私が何者なのかが知りたいのだろう。もう少し小規模砲撃でクロノを撃墜すればよかった。

「君は何者なんだ?」

「神様」

「真面目に答えて欲しい、といっても無駄なんだろうな」

「真面目だよ。私は破壊神の器」

 何も話すつもりはなかったが、調べても徒労に終わる真実なら別に与えてもいい。無限書庫に『破壊神の器』に関する文献は一切存在しなかったのだから。

「……破壊神」

「その気になればこの艦、アースラだったか。余裕で撃沈できる。エスティアのようにな」

「……え?」

 からかいすぎた。口が滑った。『うっかり』口が滑った。

「どういう、ことだ」

「フフフ……さてさて。ギルが、『今』『本当は』『何を』しているのか訊いてみるといい。正直に話してくれる訳はないが、それなりの証拠は自分で集めないと。そう、話してくれるように、疑惑という種に、証拠という水をまいて、ゆっくりと、花を愛でるように、聞き出すといい」

 ここまで話したのだ。今の事件から意識を分散させるための疑惑。おそらく、私が目的を達する前にクロノがはやてにたどり着くことはない。プレシアはおそらくジュエルシードを諦めてはいるが、捜査の手がプレシアに伸びる前に目的を完遂しなければならない。輸送船のクルーは全員無事が確認されたし、次元跳躍攻撃に関してはブラックボックスの中身を改竄して事故ということにしてある。フェイトがなのはと戦闘した理由も、一応考えてはある。

「ギル……グレアム提督か!」

「誰だ、それ」

 あからさまな『知っているけど知らないフリ』をして、更にクロノの眼が鋭くなるのを微笑みで受け流す。

「ちょっとした物理の話。君たち管理局が大嫌いな物理の話をしようか」

「…………」

 沈黙は肯定とみなす。

「物事は全て確率である。あり得ない現象でも、小数点以下数万桁の先、あるいはもっと先には『可能性』が存在する。その可能性の世界を見ようとするのが量子力学の一分野なのだが、それはどうでもいい。今度シュレディンガーの猫の話をしてやるから、その時にでも悩むといい。さて、さっきの確率と可能性の話に戻ろう。この世界に『あり得ない』ということはあり得ない。理論上は、『可能性』の大小で、不可能は存在しない。『可能性』を自在に操れば、の話だけど。だから、これから先、どんなことがあろうとそれは不思議なことではない」

 たとえ、クライドが生きていたとしても、とは続けない。私が書き換えたシナリオはまだ、不安定なまま。

「さて。シャワーと食事を頼む」



 この少女は何を考えているか判らない。
 いや、考えも行動も正体も何もかもがアンノウン。独房の壁が綺麗さっぱり消え去っているのを見たときは、考えるのをやめたくなった。

「Summer! Summer! Summer of 69!」

 エルテはギターを掻き鳴らしながら歌っていた。訓練室でオーケストラをやってまだ足りないらしい。

「ノリノリなところすまないが、これはなんだ」

「ジ・オフスプリングのPVを再現したらこうなった」

 昨日はMADを再現とかで、曲に合わせて大鉈を振り回していた。明らかに魔法を使っても無理な動きに見とれたが、今度はPVを再現したか。どんな暴力的なPVなんだ。

「壁でも壊す場面があるのか、そのPVには!」

「惜しいな、壁ではなく扉だ」

 どちらにせよ、するな! と言いたかったが、どうせ無駄だ。大鉈を振り回すなと言ったら大剣に変わるだけだった。

「その格好は」

 正直、眼のやり場に困る。上半身裸。リーゼ達やエイミィには無い妙な色気が……ゲフンゲフン。

「上半身裸の男が街を疾走するPVだったんだが、さすがにそれはどうかと思ってな。格好だけでもと。ついでに、さっきオフスプメドレーをやって少し暑いんだ」

 オーケストラが終わってからずっとやっていたのか? 格好だけでも、ってそれは男だから許されるのであってエルテが真似すべきものではないだろうに。

「もう少し女の子としての恥じらいを……」

「ほう。私を女として扱ってくれるのか。嬉しいな、嫁に来ないか」

「嫁に来るのは君だろう、まったく」

 さっきまでの妙な色気は消えて、からかう相手を見つけた悪戯っ子の雰囲気がエルテを包む。唇の端をわずかに上げて、その雰囲気にそぐわない優しい微笑みが浮かぶ。

「真っ赤な顔で呆れたように言われてもな。ふう、だいぶ涼しくなった」

 いつも着ているコートを羽織る。肩に引っ掛けているだけなので、無論胸は丸出しだ。それにしても、健康的に白い。服とのコントラストで余計に映える。

「それで、なんでまだここに? 君ならすぐに逃げられただろう」

「逃げて欲しかったのか? まあ、普通なら逃げるか、検査と尋問が続けば」

 逃げる訳がない、か。あんなに強大な力を持っていながら、形だけとはいえ監禁に甘んじているのだから。一応、許可がなければ独房から出ないし、要求があれば『要求がある』ということを念話で伝えてくる。いつでも外に出られるというのに、エルテは律義に、なるべく頼みごとは会って話そうとする。
 検査と尋問の意図はとうに気づいているだろうし、ならば、この疑問も唐突じゃない。

「君は何者なんだ?」

「神様」

 即答だった。何の躊躇もなく、そんなことを言ってのけた。
 神。様々な世界でその概念に当てはまるものが存在する。ただの物語に登場する存在だったり、人々の心の支えだったり、その言葉が意味するものは様々だが、ただの人間が自称するにはおこがましい。

「真面目に答えて欲しい、といっても無駄なんだろうな」

 どうもエルテは、僕をからかうのが好きなようだ。だからこれも冗談だと思っていた。

「真面目だよ。私は破壊神の器」

「……破壊神」

 物騒な神だった。その単語から、いいイメージを持つのはなかなか難しそうだ。
 エルテが今の格好で、屍と瓦礫の山の頂点に君臨し、悠々とワイングラスを傾けるのが見えるようだ。案外、似合っている。

「その気になればこの艦、アースラだったか。余裕で撃沈できる。エスティアのようにな」

「……え?」

 エスティア。11年前に父さんと共に沈んだ次元航行艦。
 それを、エルテは――――撃沈?

「どういう、ことだ」

 混乱している。マルチタスクが全て、冷静な思考回路がない、11年前、エルテは年下、あ……れ?

「フフフ……さてさて。ギルが、『今』『本当は』『何を』しているのか訊いてみるといい。正直に話してくれる訳はないが、それなりの証拠は自分で集めないと。そう、話してくれるように、疑惑という種に、証拠という水をまいて、ゆっくりと、花を愛でるように、聞き出すといい」

「ギル……グレアム提督か!」

「誰だ、それ」

 あからさまに知らないフリをするが、それにかみつくほどの余裕はない。
 そんな僕を見て、楽しそうに微笑む破壊神。いや、邪神。

「ちょっとした物理の話。君たち管理局が大嫌いな物理の話をしようか」

「…………」

 突然の、脈絡のない話。僕の収まりかけた混乱がぶりかえす。

「物事は全て確率である。――――」

 エルテの言葉が、意味をなさなくなっていく。
 聞かなければ。意味が判らなくても、何かヒントがあるはずだ。

「――――これから先、どんなことがあろうとそれは不思議なことではない」

 僕が理解できたのは、最後の一言だけ。何が起ころうと、それは不思議じゃない。この世界に不思議なことは存在しないとでもいうのか。

「さて。シャワーと食事を頼む」

 何も言えないでいると、そこにはいつものエルテがいた。何故か、救われた気がした。



 10分後、食事を持っていったら、そこには壁と、大きな扉があった。
 『ルーデル機関 アースラ支部』と記された、大きな表札と共に。



 なのはとユーノは原作と変わらず、管理局に協力することとなった。なのマシンはザ・ワールドで完成させ、順調に魔力を抑制している。今はSランクのはずだ。
 しきりに私のことを気にしていたが、微笑みながら『気にするな』と言っておいた。向こうも『エルテちゃんなら、まあいいかな』などと納得してくれたのでよしとする。どうやら気にするだけ無駄だと悟ったようだ。私ならどんな予想外な正体があってもおかしくないと理解したらしい。アースラに滞在する間は、ルーデル機関アースラ支部で普通にお茶をするくらいには。ちなみに、ユーノはアースラの技術者連中とジュエルシードに関する難しい話の真っ最中だ。

「ねえねえ、エルテちゃん。ルーデル機関って、あの世界のことだよね」

 もはや独房だった面影は一切存在しない。トイレもちゃんと仕切ってあるタイプの独房なので、少し狭いがソファーまである執務室といった風にまでリフォームされている。ここが独房と知ったときのなのはの驚きようは、エイダがいれば完全に記録していただろう。雨宮和彦アイを装備しておくべきだったとつくづく後悔した。

「あの世界はガイアという。ルーデル機関というのは……そうだな、さまざまなものを研究する統合研究機関と大規模軍事組織をドッキングしたものだと考えればだいたい正しい」

「軍事組織? だめだよ、危ないことしちゃ!」

 思えば、なのはは結構天然が入っていたな。まあ、小学生に正しい暴力の形を理解しろというのが難しいか。しかるべき場所にしかるべき戦力を投入すれば、大規模国家間戦争を防ぐこともできるのだ。管理局は戦力そのものが足りていないから、抑止にすらなっていないが。

「私がそう簡単に怪我をするとでも?」

「あー。そうだね」

 なのはの全力砲撃を生身で食らって丸裸にされたのは昨日のことだ。私本体は無傷だったが、酷かったのはユーノの失血だった。『俺』の世界では淫獣と称えられていたが、存外純情だった。

「ガイアは私の生まれた場所。そして、今では私の子供たちもいる。だから、護らなければならない。犯罪者から、そして、管理局からも」

「え? エルテちゃんはドイツ系日本人じゃ……」

「この躯はガイアの、とあるドイツ人の血が流れている。だが、その中にある私の意思は、完璧に地球の、日本人のものだよ」

 なのはやアリサ&すずかのいる地球ではないが。嘘は言っていない。

「ガイアって、ドイツがあるの?」

「地球に酷似した世界だ。汚染されて、捨てられた」

「汚染?」

「人々は、自分たちが汚してしまった、汚れきった星を見捨てて、大きな大きな大きな大きなフネをつくって、別の世界へ旅立ってしまいました。残されたのは、忘れられた研究所の、忘れられた少女だけ」

「その残された女の子って……」

「千年以上前のことだからな。当時を知るものは誰もいない」

 嘘は、言っていない。正しくないだけで、答えてないだけで。だが次は、嘘の代わりに反吐が出そうだ。
 私の心は案外、繊細だったのかもしれない。いつかもし、目的のためになのはを、友を裏切ることになったら……。

「あ、あと、管理局から護るって、どうして?」

「ガイアは遥か昔に捨てられ隠され、今は次元世界から完全に独立した世界だ。管理局などが突然来て、管理局法なんて勝手な法を振りかざして支配するなど、私は許さない。犯罪者に関しても同じ。私の世界で踏み入ることすら許さん」

「え、エルテちゃん、顔が怖いよ……」

 失礼な。いつも通りの無表情なのに。

「管理局が大挙してやってこようが全て撃沈する。それ以前にまず見つかるまい。存在すら知られていないし、ほぼ完璧に隠蔽されている。なのはが管理局にうっかり漏らしてもそれほどの影響はないが……それでも、もしバラしてしまったら処刑だ」

「えええええええええ!?」

「そうだな、機関で試作した変態兵器、いやデバイスのモニターになってもらおう。なに、苦しいのは一瞬だ」

「即死!? って、変態兵器って言ったよね!?」

「いや、死にはしない。変態デバイスだ」

「それならよ、ってよくないよ!」

「口を滑らさなければいいだけだ。これなら安心だろう」

「そ、そっか~~……そうだよね、私が言わないと処刑されないんだよね、ふぅ」

 心底安心したらしい。溜息がかわいい。

「かく茶がしばけるのも、そう機会はないだろう。暇ならいつでも来るがよい。ユーノにもそう伝えてくれると嬉しい」

「え? うん」

「そこで聞き耳を立てているクロノクル、来い!」

 犬を呼ぶように、いや、吐き捨てるように言う。

「僕はクロノだ!」

 今度Vガンダムでも見せてやろう。クロノクルをクロノに音声編集する嫌がらせは、今後の彼の態度によって決まるだろう。

「さて、どこから聞いていたかは知らないが、まぁ、聞いていたとして手出しはできんだろうからな」

「どういう意味だ」

「座れ、そして紅茶を飲むがいい。話はそれからだ。」

「…………」

 食器棚から新しいカップとソーサーを出し、紅茶を注ぐ。最近料理関係の熱効率が異常にいいので、湯でカップを温める必要がない。体温の熱量を転移させれば、一瞬で高温のカップの出来上がり。手は冷えるが、すぐに回復する。

「普通のダージリンだ。高級でもバカ安でもない、葉も少し古いし、味もそれなり。こんなものしか出せんが、まあくつろぐがいい」

「どこからそんなものを……いや、訊いているわけじゃない。どうせ無駄だろうしな。それより、それは遠回しに帰れと言っているのか?」

「今はこれしかないんだ。翠屋二代目候補生なのはに出すべきものではないが、それでもうっかりお茶をしようと誘ったのは私なんだ。出さざるを得ないだろう」

「……それで、あれはどういう意味だ」

 やっと紅茶に口をつけたかと思うと、すぐに本題に入りやがる無粋なクロノ。決闘の邪魔とか、緑茶に砂糖とミルクとか、監視盗撮とか、躯いじり回すとか、管理局は無粋の塊か?

「やれやれ。無粋で無粋な執務官はせっかちにも程がある。知ることができたとして、どうしようもないことがこの世界にあることを知らないのか?」

「それでも、知らないよりはマシだ」

「人間はこうしてパンドラの箱を開けてしまうのか。ちなみに希望はない」

「最悪だよそれ!」

「なんだそれは」

 クロノはパンドラの箱を知らない。

「では箱を開けてやろう。ミッドチルダ、時空管理局本局、地上本部その全てにルーデル機関のスリーパーが存在する。クロノが何か情報を漏らせば、その時点で『その情報が意味を成さなくなる』」

「なんだと!」

「触らぬ神に祟りなし、いや、知ることすら許さん。私は、私が好きなモノを護れればそれでいい。ああ、ちなみにクロノも好きだ」

「だから殺さないのか」

「処刑はする。そうだな、『どうでもいいことを忘れて思い出せそうで思い出せない呪い』でもかけるか」

「私よりずっと酷いような……」

 なのはは変態へ――――デバイスの恐ろしさを知らない。変態が何故変態と謳われるか、なのはの身を以て教えてやろう。

「目的のために……敵対することもあるかも知れんな。私とて、血も涙もない訳ではない。嫌いだからって理由で管理局を滅ぼすような真似はしないさ。今の横暴極まりない管理局が変わらなければ、どうかは判らんが」

 茶菓子として出したジンジャークッキーを噛み砕く。エイダのレシピだ。
 そんな私を睨みながら、クロノは紅茶を飲む。

「ああ、忘れていた。なのは、状況はどうだ?」

 管理局崩壊の話は切り上げる。これ以上の脅しは無駄だ。

「どうって?」

「ジュエルシードだ。回収は進んでいるか?」

「まだ一日しか経ってないんだよ?」

「現在確認できている数は?」

「えーと、私たちが集めたのが7個、フェイトちゃんがたぶん2個なの」

「成程、後4つか」

 海底に存在するのが4個、テスタロッサ陣営に存在するのが8個。そして私が所持しているのが2個。
 プレシアは恐らくジュエルシードの捜索から撤退したはずだから、恐らく回収は管理局がすることになるだろう。

「君は基本的な算数すらできないのか」

「んんっ。クゥゥロノォォォ、君はぁぁ、少しぃ単純んぅすぎるぅぅぅ。言葉の裏をぉ、察するのもぉ上にぃ立つものとしてぇぇぇぇ必要なぁぁ技術でぇあるぅぅぅぅ」

「す、すごく似てる……」

「そこはかとなくむかつくな」

 当然だ、馬鹿にしているのだから。

「あー、あー。んっ。私が確保しているのが2、フェイトが確保したの――――」

 戻った声で正しい情報を伝えるが、しかしそれはアラートによって阻まれた。

「なんだ!?」
「何があったの!?」
「何故だ……」

 この時、全ての私は止まってしまっていた。
 クロノとなのはが支部から出ていくのを茫然と見送り、私は何も考えれらない。
 まさか。あり得ない。
 プレシアには希望を与え、アルハザードは諦めたはずだ。まさか。



 海鳴沖に大規模結界を確認。魔力反応は、私が育てた、フェイトのもの。



《あとがき》

 あーけましてぇぇぇぇ……
 お・め・で・た・う! ございます!
 今年もよろしくお願いしますよー!



 47代大統領と聞いて、バラク・フセイン・オバマJrが一番最初に出た私。メタルウルフカオスは知りませんでした。



 アジーンとドヴァーは閣下の嫌いなロシア語から。あの数詞が一番女の子の名前に合いそうな気がした、酔っぱらった私。
 チェトィリエとかセーミなんかそんな感じがしてならなかった。
 シラフに戻ってドイツ語が最高であることに気づいた。でもリィンがいるからあんまり使いたくなかったり。
 そういえばなのはにロシア車の名前は無かったような(あるわけねー)。ZILとか。



 大迷走中の本作。なんでプロット通り書いたはずなのにこうなるんだぁぁぁ!
 計画通りに行かないってコンセプトで書いてるけど作者にまで適用しないでほしい……
 密かに小ネタフラグを回収している現在。気づかない人もいるかもしれません。ラーメンズの『およそ14分後』くらいのネタですので。



 アルフにはパルスアーム、ユーノにはディクロニウスの角を与える予定。2期くらいに渡す予定になるとは思いますが。
 もはや傍観者や裏方ではなくなりつつある今日このごろ。



 もうそろそろ1期も終わります。
 どうにか、ハッピーエンドにしたい……



[12384] 23Rota Fortunae or Witch
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:86202b21
Date: 2010/01/09 13:04
 私は転移する。時の庭園に。海鳴沖に。



「フェイト……これはキミの意思か? プレシアの命令か?」

 私はそう問いかける。
 何故ガルディが気付けなかったのか。そんなことは、今はどうでもいい。対策は後でも取れる。
 今のフェイトの魔力・体調・技術、どれをとってもこの状況をクリアするのには充分だ。プレシアの捜索中止命令がまだ届かず、独断で行動しているのだとしたら、まだ理解できる。それならばプレシアを介してフェイトを説得することもできるし、管理局にもごまかしはきく。
 だが、プレシアの命令で……プレシアがジュエルシードを諦めていなかった場合、それは最悪だ。私は信用されておらず、プレシアはアルハザードへ旅立とうとしているのと同義だ。

「母さんが、今日、まだ足りないって」

 意識が飛びそうになった。



 アースラ艦内では、蜂の巣をつついたような騒ぎだった。

「システムの殆どがダウンしました!」

「なんでメインモニターだけ生きてるのー!?」

「生命維持系統も生きています! 転送ポートも!」

 あからさま過ぎだ。これは人為的なものであると、リンディは気づいていた。
 誰かを向こうに送りたい。その誰かは、いわずもがな。

「なのはさんとユーノさん……エルテさんを呼んで」

「は!」

「呼んだか?」

 その隣に、突然現れる。誰もその登場に気づける余裕はなく、システムダウンで監視カメラも動いていない、更にその場の全員の視界の外になった場所、そして瞬間に、エルテはいたのだ。

「いつの間に?」

「観測されない限り、そこには何が存在するか判らない。箱の中の猫は生きているか死んでいるか、あるいは存在しているかしていないか。観測するまで判らない。量子力学のお話だ。詳細はシュレディンガーの猫で調べるといい」

 あくびしながら、神経を逆撫でするようにやる気のなさを演じながら。

「これは、どういうことかしら?」

「少なくとも、普通に発生するトラブルではないな」

「あなたは関係ない、そう言うの?」

「完璧にイレギュラーだ。全く……エイダ、そこにいるんだろう?」

 少女は相棒の名前を呼ぶ。確信と呆れと、喜びを込めて。

『おはようございます。戦闘行動を開始します』

 しっかりジェフティのコックピットをメインモニタに表示しているあたり、芸が細かい。オペレータのコンソールも同様で、もう何もできない状況だ。

「乗っ取ったの!? このアースラを!」

「リンディ提督。セリフが違う。『動けェェェェェェェェ!』と叫ばないと」

『認証失敗。おはようございます。戦闘行動を開始します』

「え? う、動けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 戸惑いながら恥じらいながら、なかなか可愛らしい声で叫ぶ。エルテはそれを密かに記録するようにエイダに命じていたりする。

『当艦はバトルシップ・アースラです。操作説明を行いますか』

「……要らないわ。アースラのことは、私が一番知っている」

「それよりエイダ。状況は?」

『最悪のケースCです。対象Pからの次元跳躍攻撃の可能性から、全周警戒を実施しています。現在の対象Fの能力なら、あの状況を無傷でクリアできるでしょう』

「そんなはずはないわ。彼女の魔力量では……」

「本当の魔法を教えてやろう、フロイライン。どうせフェイトが自爆するまで傍観するつもりなのだろう?」

「っ……」

 少女は嘲笑い、微笑し、美女は言葉を詰まらせる。

「エイダ、アースラのシステムを復帰。最優先命令だ。シナリオは狂ったんだ、もう、できることはない」

『不本意ですが』

 全てが元に戻る。

「全システム、オールグリーンです!」

「優秀なデバイスね」

「相棒だ。私のデバイスはアヴェンジャーだ」

 少しむっとしているらしいが、その無表情は歪まない。

「何かあったんですか!」

「フェイトちゃん!」

 メインモニタが映すのは、荒れ狂う海に舞う黒衣の少女。



 時の庭園を走る。プレシアを探して。
 『私』がばれる覚悟で、兵力を次々に投入する。

「Clear!」

「No sign of Precia.Move on」

 無意味なCoD4ごっこをしているのも、落ち着くための独り言、一人芝居のようなものだ。正直にいえば、私は混乱している。

「……プレシア」

 ある一室で、プレシアを見つけた。その傍らには、アリシアのインキュベータ。

「遅かったわね」

 私が来るのは予想の範囲内だったようだ。

「なぜ、こんなことを」

「時間がないの。魂も見つからない。必要なエネルギーも足りない……生贄も、作れない」

「私が……協力するといっただろう。何故待てない」

「…………」

 優しく、微笑まれてしまった。何故だ。何故……いや、現実を見ろ。

「諦めた、のか?」

「…………」

「生贄か」

「……そうよ。私は、狂ったつもりだった。アリシアと同じ形を作っては捨てて作っては捨てて。でも、あなたのおかげで正気に戻れたの。いえ、狂ってなかったと気づいてしまったの」

「私が全てを用意する、そう言ったはずだ。使い捨てのヒトガタ魔力炉、そう思えばいい。そう書いてあっただろう!」

 証拠と言わんばかりに、何人か、私が何人か姿を現す。しかし、プレシアは微笑んだまま。

「滑稽よねぇ……今更、良心の呵責に耐えられなくなるなんて」

「私はヒトではない! 偶然人の形をしている、ただの魔力炉つきの戦略兵器だ! 良心など1mmも傷つかん! 傷つく必要があるわけがない!」

「そんなに優しい子が、そんなものじゃないくらい……私にだって判るわ……」

「っ……成程。フェイトを被害者にする、そういう訳か」

「今日もあんなに鞭でぶったのに、それでも、あの子、私を『母さん』って呼ぶの。どうしたら嫌われることができるかしら……」

 その顔は笑顔だが、必死で何かを堪えている。
 ああ成程。ガルディが見逃したのは、もう大丈夫だと、アルフと二人だけで見送ったからか。恐らく、その足で海へ。

「どんなに悪役に徹しても、たとえ『大嫌いだ』と直接言っても、恐らくプレシアを嫌うことはないだろう。あの子は、そういう子だ」

「あはははははは、困ったわねぇ……これじゃぁ……」

 狂ったように笑うが、私は知っている。もうプレシアは、狂うことすらできない。フェイトも愛しているが故に。だから、今、笑って泣いているのをごまかそうとしている。

「全ての女性には、幸せになる権利があるそうだ。プレシアも、だ」

「私はその権利を捨てたのよ? あははっ」

 諦めてなるものか、諦めて……
 ふと、笑い声が消えたことに気づく。

「ありがとう、エルテ」

 その一言は、完璧な拒絶の意思が込められていた。もう、これ以上は無駄だ。

「……最後に、一つ」

「何かしら?」

「手向けだ。手伝う」

 説得は、もう、無駄だ。
 だが、諦めて、諦めてなるものか。
 茶番を演じても、これだけは達してやる。



 原作のプレシアも、もしかしたら『こう』だったのかもしれない。描写がないだけで。
 フェイトに何も知らせなかったのも、虐待していたのも、そのおかげで、刑は軽くなったという記憶がある。
 だとしたら、幸せになる権利はなくても、幸せになる義務がある。私が押し付ける。 
 それが何年後になるかは知らん。知ったこっちゃない。
 それよりも問題は、魔改造されたフェイトやなのは達、そしてプレシアの命だった。もう、こうなったら原作通りにシナリオを書き換える。違うのは最後の方だけだ。
 後は、プレシアの演技にかかっている。



 荒れ狂う海で、二つの光は縦横無尽に暴れまわる。フェイトとアルフの光。
 私はそれをただ傍観するだけ。
 漁夫の利を狙う、ジャッカル。

「I'm thinker……は違うな。なんか合う歌はないか」

『シャンデリアはどうですか』

「覚えてない」

『Liberi Fataliなどは?』

「運命の子供達……か」

 魔女からの、母親からの、子供達への願いと激励。

『Excitate vos……』

 エイダが唄いだす。迷っている私の背を、押すように。私もそれに続く。
 このシナリオでは、子供達は、誰も嘘を焼き尽くせない。誰も闇を照らせない。誰も真実を見つけられない。
 だが、叶うことなら真実を、最も幸福な未来に導いてやりたい。
 狂ってしまったシナリオを書き直そう。正しく在る必要なんてない。
 私は魔女。正しく悪である魔女。関与はしても介入はしなかった、己が手を下すことを嫌った、卑怯な魔女。
 それでも、私は暗躍するしかない。私が望んだのだから。
 海の中で唄いながら、ジュエルシードを更に、更に魔力を与え、もっと、もっと暴走させる。今のフェイトの手に余るくらいに。紅のジュエルシードもばらまいて、次元震が起こらないように気をつけて。
 なのはが来るように仕向けて。ユーノもついてくるよう仕向けて。
 それでも苦戦するように、もっと、もっと。
 さあ、頑張れ、私のかわいい教え子たちよ。



《あとがき》

 今回は短いです。
 あとはラストミッションとアフターの2話になる予定。



 どうしてもプレシアさんが悪者に見えないのは、イデア・クレイマーのせいです。たぶん。
 アルティミシアもかわいそうな人って感じで、なるべく苦しまないように低レベルで瞬殺しています(FF8は27周目)。
 騎士さえいればプレシアは……って混ざってんじゃねぇ。



 エイダについての補足を。
 エイダのハードは量子コンピュータです。アースラのはノイマン系コンピュータだと思われます。インテリジェントデバイスも同様で、完全に『人格』を構成できているとは思えないので『疑似人格』ということに。
 この物語の設定だと、ミッドでは物理がかなり遅れているので、その発展である量子力学(厳密には違う気がしますが)は手もつけられていないということになるからです。量子コンピュータが人格を再現できるかどうかは判りませんが、この話では完璧に再現できるということにしています。ロストロギア扱い。
 ノイマン型コンピュータと量子コンピュータは、絶対的に能力が違います。『たかがデバイス』の能力ではないのです。だからアースラを制圧できたというわけです。
 魔法でどうにかできるんだ! といわれたら終わりですが。ヴォルケンリッターとかは『古代ベルカの技術は世界一チィィィィ!』ということで。古代ベルカの技術はかなりロストされていたはずだから、これで言い訳はできる! リィン2号も1号の復元だったはず、なので。
 トンデモ設定にお付き合いくださってありがとうございました。



 PV伸びないのはタイトルのせいです。たぶん。
 どっかのサイトでタイトルで敬遠してたみたいな感想がありましたので。
 タイトル変えようにも、私にはセンスはないのですよ。もともとギャグを書くつもりのタイトルでしたので。
 破壊少女ではないなー。タイトルに偽りあり。
 募集しようかな。



 アルトが非戦闘員のせいで空気に。
 もっと日常パートで大活躍するはずが、そっちのプロットが行方不明で。
 描かれてませんが、エルテの心の支えとして健在ですよ。忘れたわけじゃありません、断じて。



 感想くれー!
 気付けない悪いところが修正できないじゃないですかー(超他力本願)!
 いつの間にか7万PVいっていてフイタ。この前まで4万いってなかったのに(いつだよ!)……


Jan.9.2009

 歌詞はまずいらしいので削りました。



[12384] 24The final countdown
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:86202b21
Date: 2011/02/21 20:53
「フフフ、苦戦している」

『悪役ですね』

「そう、正しく悪だ」

『もう、ランナーとはやってはいけんよ』

「1億殺す訳ではない。これくらい許せ」

『恨まれませんか?』

「誰も傷つかない結果など、夢物語にしかない」

『ランナーに得るものは?』

「親殺しは幸せらしい」

『本当に? 』

「化物を超える、これは強くなったということだ。師として冥利に尽きる」

『たとえランナーを殺すことができたとしても、それはランナーを超えた証拠にはなりえません』

「フフフ……手段にもよるが、人とは手段によって、弱き個を恐ろしいまでに強化する。卑怯な手段なら、それを駆使できるように、それを使う覚悟ができるように成長したということだ。成長を常識で測るな」

『ランナーが、そう言うのであれば』

「まあ、我が教え子達なら、純粋に力と技術で向かってくるだろう。あれは純粋に過ぎる」

『ブラッディシードがまた一つ、無力化されました』

「おっと。今のなのはに手加減は無用。薪をくべねば」



 どれだけジュエルシードを封印したっけ? もう判りません。
 レイジングハートが言うには、まだたくさんのジュエルシードが暴れているようです。
 ずっと青ばかりのジュエルシードを見ていたので、初めて見た赤いジュエルシードは、どこか不気味に見えたり。
 封印しても封印しても、フェイトちゃんを囲む水のドームに穴は開かなくて、フェイトちゃんに会えないのがもどかしいです。

『マスター、エルテからリミッタ解放許可SS+が出ています』

「わかった! これでやっと本気で……いけるね、レイジングハート!」

『もちろん。あの黒い蚊トンボに訓練の成果を見せつけてやりましょう』

 エルテちゃんのフレーム強化と調整を受けてから、レイジングハートは、なんというか、その、どこかおかしい気がします。

「あ、あはは……でも、そうだよね。ずっと負けっぱなしはイヤ。エルテちゃんに訓練を……訓練……くんれ……ん……」

『マスター? マスター!? 戻ってきてください! 眼にハイライトがありません! どうしたというのです!?』

 レイジングハートの声にはっとなって辺りを見回しますが、そこは地獄ではありませんでした。ただの、ちょっと荒れ狂っているだけの海。

「う、な、なんでもないよ。なんか思い出しちゃいけないことを思い出しそうになっただけで」

『そうですか。何でもないなら問題ありません。では』

「レイジングハート、キャノンモード!」

『Canon mode』

 エルテちゃんがつけてくれた、『どれだけ無茶な威力の砲撃でも一応一発は確実に保証してくれる』、主砲モード。金色の、メタルギアREXのようなレール砲身が伸びて、レイジングハートのコアがその根本、まるで射出されるかのように収まっています。持つところはロッドじゃなくてライフルみたいな形で、ついでにトリガーもあったりします。変形後は原型のカケラも残さないのがガイアのエキスパートデバイスエンジニアなのだとか。

『……落ち着きません』

「少しだから我慢してね。いくよ!」

『いつでも』

 初めての、キャノンモードでの全力砲撃。エルテちゃんには、ベクターキャノンをイメージするといいと言われたけど、どうすればいいんだろ?

『あの駄デバイスの言う通りにやればいいかと』

 駄……エイダさんのことなんだろうなぁ。仲が悪そうに見えて、こういうところは信頼しているみたいです。あれ? それだと仲が悪いのかな?

「まぁいっか。サァ、いこう!」

『それは死亡フ……いえ、キャノンモードに移行。魔法陣、展開開始』

 私の足元に魔法陣が展開されます。それも、いつもより結構大きな。

『エネルギーライン、全段直結』

 レイジングハートと繋がった感触。視界の上下にレールが見えるので、これはレイジングハートの視界だと思います。胸から魔力が吸い出されるのがよくわかります。

『ランディングギア、アイゼン、ロック』

 赤い糸で足が固定されているんだろうなと、見えないので感覚でしか知ることができません。そもそも固定する意味があるのでしょうか。エイダさんは『気分が出るでしょう』とか言ってたような……。

『追加加速砲身展開』

 リング状の魔法陣が幾つも幾つもレイジングハートの先から現れます。

『チャンバー内、正常加圧中』

 ここからが少し難しくなります。魔力を集めて圧縮して収束する、これに失敗すると『吹き飛び』ます。吹き飛ぶとものすごく痛いので、気が抜けません。

『ライフリング、回転開始』

 今までゆっくり回っていた砲身の魔法陣が、互い違いの方向へ加速しました。

『撃てます』

 トリガーを全力で引いて、

「メテオライト……ブレイカァァァァァァァァァ!!」

 エルテちゃんを唯一撃墜できた、SLBの進化形。これで落とせないものなんて!
 今の私なら、ユリシーズだって! ジョン・ドゥだって撃ち落とせる!

『集中が乱れています』

 わかってるよ、まだ、やることは残ってる。拡散した砲撃を、もっと集束して密度を高めます。かなりの高圧の水壁なので、分散すると向こうまで抜くことができません。追加砲身を締めて、それでも砲撃の圧力は変わらないから更に加速が始まります。

『エルテから、リミッタ解放許可SSSが出ました』

 使える魔力が増えて、もっともっと圧縮できる。集束はまだまだ太いけど、これなら! 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 残った圧縮魔力を全部解放して、壁に叩きつける!
 手応えあり。

『貫通確認。ですが、そう余裕はありません』

「うん!」

 海の下で、今失った魔力を補うように魔力が増えていきます。まるで、だれかが――――ううん、考えすぎかな。
 意外と長い水のトンネルの向こう、そこは外よりも酷い暴風雨が吹き荒れていました。どこかで見たような色の雷も。その中に見える金色の光。あ、落ちた。

「って、フェイトちゃん!?」



 誰かが、名前を呼んでいる。誰の名前を?

「――――! ――――と――――ん!」

 えっと、こういうときは、何て言えばいいんだっけ?
 ガルディが言うことだから嘘かもしれないけど。

「ほら、キャノピーの向こうに、天使の羽が……痛っ」

 頬に痛みが走った。

「――――フェイトちゃん! 生存フラグ立てても人は死ぬんだよ!」

 おまじないの効果がすぐに出た。うん、これから危ないときはこれを使おう。

「あ……」

「……えっと……えへへ」

 困ったように笑うなのは。ずっと敵だった子。

「大丈夫?」

「……うん」

「じゃあ、レイジングハート」

 魔力切れを狙って捕まえに来た、というわけじゃないみたい。
 底を尽いていた魔力が、バルディッシュを通して私に流れてくる。

「あ……ありがっ!? まま待って止めて!」

「え? わかった」

 とんでもない量の魔力が送られてきた。私の保持限界を遥かに超える魔力を、顔色も変えず……

「もう、いっぱい、だから……」

 少し苦しい。

「そうなんだ……半分こしようと思ったのに」

 半分こになんかされたら、私は死んじゃうかもしれない。
 そう言えば。ガルディが言ってたことを思い出す。

『なのはの魔力量は非常識だ。私は例外としても、人類としては規格外だ』

 でも、戦って勝てるかどうかは五分五分らしい。私の武器は速さ。エルテの本気でも届かないくらいの速さ。
 ヘッドオンするかレールキャノンでないかぎり墜とされはしない。どっちの意味も判らないけど。

「フェイト~~~~!」

「なのはぁぁぁぁぁ!」

 アルフと……誰? 二人とも、別々の方向から来て、

「あ」
「あ」

 いきなり生えた水の触手にはたかれた。
 平気だとは思うけど、油断大敵。すぐ助けに行こう。



 いままでフィーリングで魔法を使っていたなのはに理論を教えたら、砲撃威力が跳ね上がった。
 フェイトに考えうる効率的な加速方法を教えたら、応用して誰も追いつけなくなった。
 ユーノにあらゆる訓練を徹底的に施したら、バインドを手足のように操りだした。
 アルフに支援・援護を叩き込んだら、スタンド使いになった。
 アルフのみネタネタしいのは、エイダが座学においてその1/3の時間を費やしジョジョやその他ネタに関する知識を教えに教えまくったからだと思う。
 とにかく、見事に成長し、今、私が火に油どころかガソリンやプルトニウムを投げ込んでいる状況に対して立ち向かおうとしている。これが、私の課す最終試験。

《エイダ、全員のリミッタ完全解放》

[[よろしいのですか?]]

《私の結界とジャミング、いや……システムは掌握しているのだろう?》

[[了解しました。管理局には偽の映像を?]]

《魔力計だけでいいだろう。フフフ……》

[[刮目するがよい、ですか。ランナーは管理局となのはが必要以上に接触するのを嫌っていたようですが]]

《ああ。プレシアがああならなければ、回収だけで終わり、のはずだったんだが。もはや管理局入りは確定したようなものだ、ならばここは思う存分暴れてもらわなければ》

[[売り込むというのですか?]]

《10年後のシナリオ、という気の長い話だがな。見てみろ、連中の反応を》

 アースラのブリッジ。私は適当に椅子を転送して、やたらと広く人口密度の低いブリッジのド真ん中に陣取っている。エイダが送ってくる、アースラの監視カメラの映像でリンディ達の表情がよく見える。

「凄いわ……」

「魔力値計測不能! ジャミング!?」

「だが、明らかにこれはSSSランクの域を超えている」

 水のドームの中の戦闘、それが映し出されたメインモニタを食い入るように見つめるアースラトップ三人衆。オペレータの二人も、それぞれのコンソールで見ているが、茫然としている。

[[…………]]

《それまでに、腐れきった馬鹿どもに鉄槌を下さないとな》

[[……そこまで汚れて、ランナーに得るものはあるのでしょうか?]]

《自己満足はできるかな。少なくとも、私の大切な、愛しい人たちを護れる》

 ジェイルと接触したのだって10年後の事件を思いとどまらせるためだし、管理局に潜入しているのも老害三人衆以下無能あるいは害毒連中をどうにかするため。ガイアの子供達、海鳴の友、管理局の戦友、ミッドのご近所さん、なのはたち、八神一家……みんなを護るため。彼女らの幸せのため。
 それさえ達すれば、私も安心して消えることができるだろう。褒美としては充分ではないのだろうか。
 でも、それはエイダには言わない。私が消えることを諦めていると思っているだろうから。

[[ランナーは無欲すぎます]]

《多くは望まないが無欲ではないさ。さて》

 強く在ってほしい、生きていてほしい、幸せであって欲しい。これが欲望以外の何なのか。

「リンディ。そろそろ終わる」

「え?」

 残ったジュエルシードは、オリジナル0、ブラッディシードと名付けた模造品が5。言葉通り終わりに近い。エイダとの話を打ち切って、状況に集中する。

「いや、始まる、か」

 モニタでは未だ水のドームは健在で、その中は暴風雷雨吹き乱れている。魔力計はカンストしたまま。水面下の出来事は、何も判っていないのだ。

「どういうことかしら」

「ぼうっと観戦して、リコメンドを忘れるなよ、エイミィ」

 テーブルとティーセット、さらに茶菓子を転送して、ティータイムと洒落こむ。この前買った、とっておきのベノアのダージリン。

「どういうこと?」

「フフフ……」

 ジンジャークッキーがなかなかにうまい。エイダレシピがどんどん増える中、特に私が好きな生姜類は充実している。

「何を知っている?」

「シュレディンガーの猫の意味くらいは知っている」

「ふざけるな!」

「昔、あるところに、幸せな母娘がいました。母は偉大な魔導師でした。娘はその才能を受け継がなかったものの、そんなことはどうでもいいことです。二人は幸せだったのですから」

「だから! ふざけている暇なんて……」

「中略。母は死んだ娘を生き返らせるために、どんなこともしました。ある日、彼女の拠点の近くで船の事故がおきました。その船には、とっても危険な宝石が乗っていました。母は、その一つを偶然手に入れ、そして力に呑まれ、正気を失ってしまいました。危険な宝石を集めて次元の狭間を開ければ、かつて次元の狭間に落ちたと謳われた幻の都・アルハザードへいけるのだ、そう思いこまされてしまいました」

「…………」

「アルハザードはかつて繁栄を極めた幻の世界。そこなら、死者蘇生の秘術もあるはず。ですが、そこには死体を操る技術しかありません。危険な宝石に取りつかれた母は、娘を使って宝石を集め始めました。しかし、病を患っている身、もう時間はありません」

 カバーストーリー。恐らくクロノは録音している。たとえしていなくても、アースラの監視記録に残る。エイダはシステムを掌握してはいるが、今はどこにも関与していない。せいぜい、得られる情報で状況を分析している程度だ。

「開けるまで中身は判らない。ジュエルシードは歪んだ形で望みを叶える。アルハザードは無いかも知れないが、在るかも知れない。確率としては小さいが、そこにわずかな確率がある以上、ジュエルシードが『結果』ではなく『方法』を望んだ彼女に『その方法』を与えた。ジュエルシードに再現性はないし、憶測に過ぎないが、状況から鑑みるに、これが正解だろう」

 もしもの時のために、プレシアが管理局に確保されてしまった場合の嘘。そして――――

「輸送船沈没事故も、ユーノから聞いた話では……管理局の依頼で危険物を単艦で輸送していたらしい。護衛艦か何かをつけるべきだったのではないかと私は思うのだ」

 管理局の非を問う。プレシアが撃沈した事実は、輸送船の残骸の消去、ブラックボックスの改竄で問題無く処理されている。クルーは全員脱出を確認しているし、既に管理局が救助済み。さすがに死者が出ると詳細に調べるから、気付かれないようにサポートするのは骨が折れた。
 これでフェイトの罪も問えなくなる。結局は管理局のマッチポンプなのだから。護衛さえつけておけば、すぐに封印・回収もできただろうし、そもそも沈没・飛散も回避できたかもしれない。プレシアが撃沈したことを考えても、これは非であると言えよう。プレシアが沈めたということになれば、また話は違ってくるが。

「……その『母』って、誰なのかしら?」

「ヒントは出した。答えはすぐ見つかる」

 これだけのヒント。そしてなのはから『テスタロッサ』の名を聞いているはずだ。

「――――プレシア・テスタロッサ?」

「あの、大魔導師?」

「プレシア・テスタロッサなんだな?」

「…………」

 私は答えない。もう与えることのできる情報は与えた。そしてこれから、踊ってもらう必要がある。

「答えろ!」

「フフフ……それよりも執務官殿。回収に向かわなくてはならないのでは?」

「なに!?」

 メインモニタに、最後のジュエルシードが封印される様子が映し出されていた。



 回収なんてする暇はない。なのはがドームに入る前に回収していたが、それは意思を持つように暴れまわる水の柱や暴風雷雨が無かったからできたこと。今はドームも消え去り、曇天だが風も雨も雷もない。あるのは血の色をしたジュエルシードが無数に。
 そして四人とも息が上がっている。最終試験は合格だ。なのはは閣下に近いサンダーボルトⅡに、フェイトは黄色に近いチルミナートルに成長してくれていた。ユーノとアルフはその支援だ。戦闘効率を飛躍的に上げ、支援者個人の戦闘能力も相当なものだ。私も一人でこの四人の連携を破るのは難しいだろう。ツーマンセルでもかなりてこずるのだ、下手を打てば負ける。
 これならば、問題無い。
 海上ではクロノが転移し、ジュエルシード回収合戦が始まっている。遠眼に見る分には美しいが、今はそれに見とれている暇は無い。

《さて、ラストステージ。母と娘の幸せのために》

 時の庭園から、世界の壁を超えて、紫の砲撃が放たれる。私がプレシアの代わりに放つ。幻術を応用して魔力光を欺瞞し、あの4人ですら打ち倒せる威力のそれを放つ。
 それは正確になのは達に向かい、防ぐのが遅れたなのはとフェイトに命中。防御が硬いなのはは意識を保ち追撃を逃れたが、フェイトは一瞬でブラックアウトしたようだ。

「フェイトォォォォォォォォ!!」

 アルフがどうにかその手を掴み、海面に叩きつけられるのを阻止。そのまま抱きかかえ、青と赤のジュエルシード目指し飛ぶ。

「――――っ!」

 クロノに阻まれる。だが、その程度。私の教え子が、その程度で止められるはずがない。

「邪魔だぁぁぁぁ!!」

 片手が使えずラッシュを放てないのがクロノに幸いした。魔力をまとった拳にS2Uごと殴り飛ばされ、海面を跳ねる。水柱が立ち、なのはとユーノの視界が奪われた。
 そしてアルフは気付く。青い、オリジナルが3つしかないことに。

「ッチ、でも、これだけあれば!」

 30はあるイミテーテッド。その中から片手で掴めるだけ掴んで、アルフは逃走を始めた。



 同時刻。
 アースラにはエルテの次元跳躍攻撃が襲いかかっていた。

「9時・4時・12時方向、きます! 着弾まで137秒」

「回避!」

「! さらに6時方向に2発、着弾まで128秒!」

「回避できる?」

「できます!」

 エルテの砲撃は、原作のプレシアのそれより容赦がなかった。
 とりあえず派手に。この次元世界に自分達より強い力が存在することを教えてやる、と、某艦長のように宣言しかねない。

「んぅー……」

「どうしたの?」

「こんなに正確に次元跳躍できるのに、なんでこんなに離れて、しかも遅いのかなって思いまして」

 原作ではもっと余裕がなかった。回避の暇はなく、防御しかできていなかった。

「! 攻撃の軌道が歪曲! 誘導しています!」

 まるでホーミング魚雷。遅い理由は、高い旋回性能を得るためだった。物理現象に大きく干渉されるエルテの砲撃は、高速に過ぎると旋回半径が大きくなる欠点を持つ。

「加速しました! 避けられません! 全弾着弾まで4秒!」

「防御を! 総員衝撃に備えて!」

 果たして、その命令に従えたものは何人いただろうか。破壊ではなく衝撃に特化された攻撃は、シールドを超えてアースラに衝撃のみを与える。

「きゃあ!」
「がっ!」
「ぐうぅ……」
「ふぅ。生姜紅茶もなかなか……」

 立っていれば倒れることは間違いない。その衝撃で、オペレータの一人はコンソールに頭を打ちつけた。
 未だブリッジで優雅にお茶をしているエルテだけが平然としていた。椅子やテーブルごと少し浮いて衝撃から逃れていた。そのほっとした幸せそうな顔を、誰も見ていなかったのは幸運だろう。
 衝撃はほんの数秒だけ。魔力攻撃が5発、シールドしていたとはいえ、普通なら轟沈していてもおかしくない威力。

「……攻撃の予兆、ありません」

「そう……警戒を続けて。損害報告を」

 それなのに、被害は皆無に等しかった。皿が割れた、頭を打った、こけて転んで壁にぶつかって腕の骨が折れた、その程度。

「……これで終わりだ。追撃はないよ」

 椅子だけを残し、テーブルやティーセットが消える。エルテが立ち上がると、最後に残った椅子も消えた。

「どこに行くのかしら?」

「支部に戻る。残念だが、協力も手助けもできないからな」

 海中に潜み薪をくべていたエルテからは海上の様子は見えない。ヘルゼリッシュは視界がある程度クリアでないと使えない。結界の中を覗く術はあるが、隠密性が低いが故に却下された。厳重になったアースラの監視を鑑みて、万が一発見された場合に備え、海上には一人もエルテを配置していない。海上の様子を知るには、アースラのメインモニタを見るのが最も手っ取り早かった。
 それももう終わり。全てのジュエルシード・ブラッディシードは封印され、フェイトとアルフは撤退。エルテは二人の居場所を把握しているが、ここで管理局を手伝う必要性はない。

「なぜ、追撃はないと?」

「ただの勘、ということにしておこう。それより、機関は無事かな?」

 すぅーっと、爪先を床で削りながら飛び、ブリッジから去った。

「…………」

「不気味ですね」

「いえ、無理しているみたいに見えたわ」

 リンディには一瞬、エルテの顔が泣きそうに歪んでいるように見えた。

「私にはいつも通りの無表情に見えましたけど……ああっ!」

「どうしたの?」

「機関室から報告です! 魔力炉がオーバーヒート、しばらく使えない上に航行機関が過負荷で壊れています! 応急処置はできても、最大船速は72%低下するそうです!」

「なんですって!?」

 エルテの言葉が思い出される。あれは、もしかしてルーデル機関の部屋ではなく、アースラの機関のことではなかったのか。
 それを確かめても、意味はない。



 ルーデル屋敷にアルフを誘導した。今までの拠点はプレシアに知られて、海鳴全域が管理局に監視されている今、外界から観測されないほどに結界を強化した屋敷は、海鳴で最も安全な場所といえる。アルフは厨房で料理を作ってもらっている。
 フェイトの傷は深いが、生命に関わるほどではない。ガルディで回復をかけて、あと数分で全快するだろう。躯だけは。
 優しいあまり、残酷な手段を採らざるを得なかったプレシア。その手伝いをする、いや、実行犯である私。フェイトの、呪縛ともいえるプレシアへの想いを断ち切るため。だが、私はそれを許さない。
 アースラの機関を攻撃による損傷に見せかけ内部から過負荷をかけて破壊した。それでも、よほど無能でない限り、時の庭園に至ることはできる。完全に破壊はしていないし、システムは死んでいないのだから。莫大な出力を持つ戦闘艦の主炉なのだ、20%以上も出力が残って、そして地球と時の庭園に比較的近い場所で停泊している。艦足は亀のように遅々としたものになっているが、システムの運用や転送出力は充分だ。

「……フェイト。真実を聞く勇気はあるか」

「真実……?」

「プレシアがフェイトにつらく当たっていた理由。これを聞いても、フェイトは知らなかったふりをしなければならない。どんなに辛くてもこれを誰かに、たとえプレシアにも悟られてはならない。他ならぬ、プレシアのためにも」

 フェイトが、もしこの時点で全ての真実を知って、プレシアの側についてしまったら。プレシアの後を追いかねない。

「…………」

「それでも聞きたいなら、約束してくれ」

「約束?」

「聞いたことを、フェイトが真実を知っているということを、たとえプレシアであっても悟らせないこと」

「…………」

 黙りこみ、じっと考えている。
 真実。これほどフェイトに重くのしかかり鋭く突き刺さるものはない。なるべくショックを受けないようにはしたいが、下手にオブラートに包むより正しく伝わるように言うべきだ。それが、プレシアを裏切る、私の義務だ。

「聞かせて。真実を」

「後悔は許されん。それでもか?」

「聞かなかった方が後悔すると思うから……」

 未来は誰にもわからない。もはや私にも予想すらできない。私のシナリオは『うまくいけば』の話。
 かつて、見えなくなった未来は何よりも恐ろしく、それが普通だってことに気づけるまで、少しの時間を要した。
 フェイトは過去が存在しない。与えられた記憶による幻影だけ。

「アリシア・テスタロッサ。プレシア・テスタロッサの一人娘。26年前、魔力炉『ヒュードラ』の暴走により死亡」

「アリ……シア?」

「その後、プレシアはアルトセイムに存在した時の庭園をアリシア死亡の賠償金で購入。プレシアはアリシアの遺体とともに行方不明になった。9年前、とある違法研究者よりプロジェクトFATEの概要を渡される」

「違法……フェイト……」

「そして4年前、未完成だったそのプロジェクトは、人工生命体の完成を以て完遂される。アリシア・テスタロッサの遺伝子より創り出された、アリシアとほぼ同じ躯に、アリシアの記憶をインストールしたコピーと言える存在。プレシアは、娘を甦らせようとしていた」

「でも、アリシアは……」

「しかし、その存在はアリシアと同一ではなかった。アリシアに無かったはずの魔力資質を有し、その性格もオリジナルとは違っていた。別の方法を模索していたが、ある日、己の身が長くないことを知る」

「そんな! どうにかできないの!?」

「現代医学の敗北だ。不治の病に冒され、しかしアリシアを諦められないプレシアは、偶然にもアルハザードの存在を観測してしまう。無事にたどり着ける確率も低いが次元断層が起これば行ける、そう理論は証明していた。そして偶然、ジュエルシードを輸送しているという情報が入った。それが今回の事件の始まり」

「……今回の、事件?」

「そろそろ気づいているんじゃないか? アリシアのクローン、フェイト・テスタロッサ」

「!!」

「安心しろ。フェイトは普通の人間だし、プレシアに嫌われているわけじゃない」

「じゃあ!」

 アルフが扉をぶち破らん勢いで乱入してきた。盗み聞きしていたのは知っていたが。

「じゃあ、なんであの女はフェイトにこんなひどいことをできるんだい!?」

「己の寿命が残り少ない。そして、しているのは違法研究。自分にべったりなフェイトを引き離すには、嫌われるしかない。自分が死んだときに、あまり悲しまなくていいように。諦めきれずアリシアを求めて、動けない自分の代わりにフェイトにジュエルシードを集めさせ、もし管理局に捕まったとき、何も知らされず、そして虐待の事実があれば、刑は比較にならないほど軽くなる。今回ほとんど手加減しなかったのもそういう側面がある」

「そん、な……馬鹿なことがあるかい!」

『……そうよ。私は、狂ったつもりだった。アリシアと同じ形を作っては捨てて作っては捨てて。でも、あなたのおかげで正気に戻れたの。いえ、狂ってなかったと気づいてしまったの』

「かあさん……?」

 私の掌の上に、青く光る多面体、待機状態のアヴェンジャーが乗っていた。

『私が全てを用意する、そう言ったはずだ。使い捨てのヒトガタ魔力炉、そう思えばいい。そう書いてあっただろう!』
『滑稽よねぇ……今更、良心の呵責に耐えられなくなるなんて』
『私はヒトではない! 偶然人の形をしている、ただの魔力炉つきの戦略兵器だ! 良心など1mmも傷つかん! 傷つく必要があるわけがない!』
『そんなに優しい子が、そんなものじゃないくらい……私にだって判るわ……』
『っ……成程。フェイトを被害者にする、そういう訳か』
『今日もあんなに鞭でぶったのに、それでも、あの子、私を『母さん』って呼ぶの。どうしたら嫌われることができるかしら……』
『どんなに悪役に徹しても、たとえ『大嫌いだ』と直接言っても、恐らくプレシアを嫌うことはないだろう。あの子は、そういう子だ』
『あはははははは、困ったわねぇ……これじゃぁ……』

 ぷつりと途切れる、誰かと誰かの声。
 あの時録音していた、何より伝えなくてはならないこと。

「嘘だ! あの鬼婆がそんな……」

「フェイト。プレシアは虚数空間の向こうにあるアルハザードに行くフリをして自殺する」

「そんな!」

「私が死なせはしない。たとえ虚数空間に落ちたとしても、絶対に連れて戻る。だから――――」



 いつになるかは判らない。
 だが、私が望む光景が見られるのは、存外遠くない、はずだ。



《あとがき》

 はい、かなり間が開いてしまった投稿です。私の拙作を心待ちにしている方々、謹んでお詫び申し上げます。
 地獄の期末試験期間真っ最中。そんな時にこんなの書いてんじゃねぇと友にキレられたり。
 03で書いてるのに時間がなくて、やっとこさ書き終わったと思ったら予定より話が進んでねぇ。



 プレシア? 死にませんよ。
 私が許すと思うてか!



 ACは4とfAしかやってなかったり。なのに某SSのせいでフロム脳になりかけていたり。
 リリウムー! メイー! いやそれよりもセレンさん結婚してくれェー!

 

 部屋にセイバーオルタのフィギュアがあるのにFateは全くやっていないファンタジー。
 ディスクはあれどインストしてなかったり。
 そうなのか、セイバーオルタにはそんな表現が……。
 今は11eyesやってたり。試験でしばらくやってばいけど。



 急に感想が来てビビる私。
 あれだ、お小遣い頂戴と冗談で婆さんにねだったらほんとにくれたときの心苦しさといいますか、私はその程度の小物だったり。お年玉ならいいが、それ以外は……ねぇ?



 純粋すぎるフェイトさん。でもあの状況で生還したのはどうなんだマーカス。
 なのはさんもしっかりネタに毒されちゃって。
 まあ、なのははエルテ達とエスコンしたりと、おおよそ女の子があまりしないゲームをあらかたコンプしているので問題ないかと。
 なのはの時代に箱丸やPS3は在り得ないのですが、パラレルワールドってことで。



[12384] 25She is active behind the scenes, Unknoun isnt.
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:86202b21
Date: 2010/02/20 20:01
 たとえ次元断層ができたとしても、周囲に世界は存在しない。飲み込まれる世界がないのなら、どんな危険なことでもできる。

「プレシア、全ての準備は整った。あとは、待つだけだ」

「悪いわね、つきあわせて」

「俺のお節介だ。気にする必要はない」

 玉座の間で、プレシアに治療をかけ続ける。同時に別の私がプレシアの躯、そして病を解析している。更に偽装攻撃要員ともう一人、仕上げ要員で玉座の間は固められている。動力炉でもう一人。これで5人の俺が戦闘体制に入っていることになる。

「何故、手伝おうと思ったのかしら?」

「未来を知っていた、そして力を持っていた義務感、だったのだろうな、最初は。今はもう判らん。知ってしまったからか、一度決めてしまったからか、同情なのか、怒りなのか……」

「……そう」

 その表情からは何も読み取れない。色々なものがごっちゃで、その一つ一つを取り上げることなど不可能。

「いや……幸せに、プレシアとフェイト、いや、アリシアも。幸せでいてほしかった。いや、俺が知るみんなに、幸せであってほしかった」

「随分と傲慢ね……」

「一応、神だからな」



 フェイトとアルフはのこのこと外を歩いていて管理局に捕まる。予定通りに。
 フェイトの魔力は尽きかけているように偽装した。必然、その供給を受けているアルフもエンプティ。ナノマシンは本当に便利だ。

[[いいですか、尋問には『知らない、判らない、コムギコカナニカダ』と答えてください]]

《エイダの戯言は無視しろ。とりあえず、私が言うように答えるんだ》

《うん……》
《わかってるよ。アンタしか頼れる奴はいないんだ》

 アジーンは何を考えてあのナノマシンを造ったのだろう。念話だと傍受されるから、体内通信ができるのは非常に嬉しいが。



 しばらくして、クロノが取調室に入ってきた。
 プレシアのこと、その目的のこと、フェイトの意思のこと、フェイトの正体のこと。
 嫌になるくらい、根掘り葉掘り。仕事だから、治安組織だから仕方ないとしても、子供にさせるべき仕事でも、そして子供に訊くべきことでもない。もう少し育ってから、少なくとも、紳士と呼ばれるくらいになってから出直して来いとエルテは言うだろう。
 その殆どが「知らない」という答えで返された。保険として催眠暗示で、今は記憶に封がしてある。素直なフェイトに、究極の知らないフリをさせる裏技だった。
 フェイトが何も知らないことを知ったクロノは、最後に溜息を一つ、ルーデル機関アースラ支部となった独房にフェイトを連れてきた。

「……もう、何も言わない」

「賢明だな」

 独房の入口が全て真っ白な壁。まさかと思って扉を開ければ、更に広くなった執務室。風呂・トイレ・キッチン・仮眠室付き。

「独房ではないが、拘留することはできる。さぁ、フェイト。面白い紅茶の飲み方があってな」

 「まあ座れ」と二人に促し、私は真っ先にソファーに座る。

「出入り自由じゃないか」

「私が許すと思うか?」

「確かに。でも君は容疑者なんだ、信用はできない」

「容疑者、か。悪いことは一切していないがな」

「僕を撃墜しただろう! それに無登録の違法魔導師、管理外世界での魔法使用、それに」

「それは、貴様らの世界の法だろう? よそ者が突然来て、公開もしていない法、いや、あるのかすら定かではない上に全く別世界の法で、勝手に『貴様は犯罪者だ逮捕する』。おかしくはないか?」

「その言い逃れはできない。管理局を破壊すると脅したり、プレシア・テスタロッサのことを知っていた。管理局のことを知らないはずがない」

「たとえそうだったとしても、私はその法に従う義理はない。それに私を捕まえてどうするつもりかな?」

「裁判を受けて、そしてしかるべき罰を受けてもらう」

「どうやら、管理局崩壊スイッチを押す気満々のようだ」

「そんなあり得ないブラフで動くような組織じゃない」

「いずれ知るさ。たとえ私を拘束できたとしても、それが無意味だということに。そもそも、私を拘束できるとでも思っているのか?」

 時を止め、クロノの眉間にデザートイーグルを突き付ける。無論、エイダのない私には時は止められない。アースラに潜んでいる別の私が止めた時の中で、私だけが自由に動ける。
 手の獲物はマルイのガスガンだが、銃口の見えない少年には、どの非常にできのいいイミテーテッドの真贋を見分けることはできない。

「!!」

「名前からしたら、クロノの十八番な気がするがな。どれだけ強くても、人間は時の流れに逆らえん。最強のスタンド使いでもなければ」

「あ。アルフが言ってた、ザ・ワールド?」

 今まで空気だったフェイトが、面白いほどにぽんこつなことを言う。

「スタープラチナでもいいんだが、私はどちらかというとDIO様の方が好きだ」

「私はジョータローの方が好き、かな」

 私は物騒なものをテーブルに置き、フェイトと話し始める。今までハブっていた償いのように。

「質量兵器の不法所持だ!」

「違うだろう、クロノ。銃砲刀剣類所持等取締法違反だ。もっと法律を勉強したらどうだ。ほら、六法全書」

 11年前から一切差し替えられていない加除式六法全書をクロノに差し出す。

「それに、これはオモチャだ」

 6mmBB弾を込めていない状態でトリガーを引く。激しくブローバックして、スライドストップがかかった。

「病的、あるいは異常ともいえる管理局の質量兵器アレルギーはよく知っている。迂闊なことはしないさ」

「ねえガルディ、これって質量兵器?」

「地球の質量兵器を模したオモチャだ」

「まったく……ガルディ?」

「んっ……んっ……んぅ!? ゴホッ!」

 紅茶を飲んでいたフェイトがむせた。

「どうした、フェイト?」

「辛い……」

「まあ、生姜紅茶だからな。ゆっくり飲んでみろ。砂糖を多めに入れるといい感じだぞ」

「うん……あ、おいしい?」

「何故疑問系なんだ」

「いつもガルディがいれてくれる紅茶とは全然違う味だったから」

「まあ、そうだな。紅茶に生姜なんて普通考え……るか。キノコ紅茶だったか、そんなものも存在したような気もするし」

 今度リンディにでも飲ませてみようか。

「エルテ! ガルディとはどういうことだ?」

「エルテ・ガーデル・ルーデル。そういえば、フェイトにはそうしか言ってなかったな」

「そうなの?」

「エルテ・アーク・ルーデルにフェイトは会っている。同じ顔だから見分けがつかないだろうがな」

「ガーデル・ルーデル、それが、本当の君の名前か」

「私はエルテ・ルーデル。あえて言うなら、エルテ・オリジン・ルーデル、もしくはエルテ・アンサインド・ルーデル。あ、フェイト、紅茶ばかりでは飽きるだろう。ジンジャークッキーもあるぞ」

 カップが空になると反射的に注いでしまう悪癖のおかげで、フェイトはさっきから紅茶ばかり飲んでいる。茶菓子を出すのを忘れていたせいなのだが。

「ジンジャークッキー?」

「生姜のクッキーだ。こっちはほとんど辛くない」

「そうなんだ……あ、ほんとだ」

「クロノも。毒など入ってない。全く、飲んで落ち着いたらどうだ?」

「君のせいだろ!」

「無粋な輩はお茶会の邪魔だ。出ていけ」

「ここがどこか知っているのか!」

「ルーデル機関アースラ支部」

「独房だ!」

「兼支部だがな。面影すらないが、最初に言っただろう、私が番人だと」

「だからそれが駄目だと言っている!」

「やれやれ。頭が固いな。サンダーヘッドかおまえは……リンディが呼んでいる。クロノ、行ってこい」

「何故判るんだ!」

『クロノ・ハラオウン執務官、リンディ提督がお呼びです』

 エイミィの声が、艦内放送で流れる。クロノはよほど頭に来ていたのか、舌打ちを一つ。

「この件は保留だ! いいか、絶対許可なく出るな!」

 と、トゲのついた肩をいからせて扉の向こうへ消えた。

「アルフの尋問が終わったらしい」

「うん、判ってる」

 そういえば、リンクしていたか。

「母さん、大丈夫かな」

「回復と負荷軽減を常時かけている。そうすぐは死なん」

「そっか。なら、安心だ」

「アリシアも蘇生させる」

「……そう、なんだ」

「もしかして、『自分は要らない子』とか思ってないか?」

「!」

「それはプレシアに対する侮辱だ。アリシアを諦め、フェイトの未来のために殉ずる。これほど想われていて……何故そう思える?」

「そう……だね」

「おまえが止めてやれ、フェイト」

「うん、絶対に!」



「エルテをどうにかする方法はないか?」

「リミッタ付き手錠も出力だけで壊しちゃうんでしょ? 無理無理」

「何か目的があるのは判るんだが、その目的に対して全く動こうとしないのが不気味だ」

 アースラのブリッジで、クロノとエイミィはエルテについて話していた。『本人』に聞かれているとは知らないまま。

「それにガルディ、いやガーデル……」

「なにそれ?」

「フェイトがエルテをそう呼んでいたんだ。エルテ・ガーデル・ルーデルというらしい。本人は否定していたけど」

「ガーデル? ちょっと調べてみるね」

「エルテ・アーク・ルーデルも調べてくれ。エルテ・ルーデルはたぶん、一人じゃない。拘束が無意味というからには、今独房にいるエルテはエルテの言うルーデル機関の末端構成員の可能性がある」

 オリジンやアンサインドは『敢えて言うならば』とエルテは言っていた。原型や無印というからには、恐らくあのエルテがオリジナルだ。魔力的分身、レアスキル、あるいは人造魔導師。悪夢のような魔力資質を持つエルテ・ルーデルの集団、その一人が『あの』エルテだったとしたら。
 この想像は、エルテが嘘を言わないという前提条件が存在する。しかし、クロノはその条件を疑うことはなかった。エルテは隠すことはあっても嘘は言わない。短いが今までの付き合いから、クロノは『エルテは嘘をつかない』と信じていた。フェイトが嘘をつけるとは思えなかったのも一因だ。

「これ……かな?」

「なんだそれは?」

 日本語で大きく『ハンス・ウルリッヒ・ルーデル』という見出しが書かれた情報ページ。遅れて、ミッド語で訳されたページが現れる。

「管理局のデータベースにはなかったんだ。もしかして、と思ってね、地球の情報検索エンジンで調べてみたんだ。ルーデルとガーデルという単語の関連性から、多分これで合ってると思う」

「……ソ連人民最大の敵、スツーカの悪魔、アンサイクロペディアに嘘を言わせなかった男? 大丈夫なのか、この情報?」

「見た感じ、このページが一番詳しいみたい。ジョークサイトなんだけど、この人に関しては嘘を書くより事実だけの方が面白いみたいだね」

「……いや、これはジョークだろう? 戦績の数字がおかしい」

 普通なら、嘘だと言える数字だ。そう、普通なら。

「と、思うでしょ? どの文献でも『最低』その数字なんだよ?」

「……『破壊神』か。エルテもそんなことを言って――――相棒ガーデルマン?」

「そう、ガーデルマン。さすがに『アーク』との関連性は見つからなかったけど、『ガーデル』の由来は多分、これだと思う」

「医者、そしてハンス・ウルリッヒ・ルーデルの不死身の相棒。それだけわかっても意味がないか……」

「だけどものすごいデタラメな人だねぇ~。30回撃墜されて重傷は5回だけ、しかも脚がなくなっても出撃って。それに付き合えるガーデルマンも凄いけど」

 ちなみに、被撃墜は全て対空砲によるもの。戦闘機には一度も墜とされていない。

「管理局に欲しい人材だな」

「敵には絶対回したくないねぇ~」

 彼らは知らない。既にその『欲しい人材』と接触していることを。その『欲しい人材』が後に『管理局の白い悪魔』と謳われることを。いや、既に『冥王』と言えるほどに強くなっていることを。

「収穫は無しか……」

「ねぇねぇ、案外これ、使えるかもよ?」

「地球の情報検索システム?」

 それは、Google先生とまで敬われる検索システム。何かあれば『ググれ』と言われるほど、地球では一般的かつ最高の情報元である。

「エルテちゃんの言葉の中で、『ルフトヴァッフェ』って単語があったんだけど、どこかで聞いた覚えがないかな?」

「ここ数年でシェアを拡大したデバイスメーカーだ」

「ほら、これ」

 開かれたページは『ドイツ空軍』に関するウィキペディアの記述。

「そういえば、エルテちゃんはドイツ系日本人とか言ってたよね?」

「ドイツ空軍……」

 ルフトヴァッフェ印のデバイスは、『どれだけ酷い扱いをしても壊れず、どれだけ高出力の魔法にも耐えられ、どんな攻撃にも耐え、どんなことにも使える』と謳われ、しかしそれはルフトヴァッフェ社のキャッチコピーではなく、ユーザの評価なのだ。

「エルテちゃんのアヴェンジャー、GAUシリーズに似てない?」

「いや、ルフトヴァッフェ社の射撃系デバイスの殆どが、この世界の質量兵器そのままの形なんだ」

 表示されているカタログには、そんなに詳しい者でなくとも一度は見たことのある銃火器だらけ。その隅には、アイゼンクロイツとLuftwaffeの文字。

「ADAシリーズ……他のシリーズは目的や形状に共通するものがあるけど、これだけ用途、や形に一貫性がない。インテリジェント、ストレージ、アームド、シューター、ベルカ、ミッド……他のどのシリーズの枠にも入らなかった『その他』のグループと普通は思うだろうが、待機状態、システムヴォイス、そして独特の設計概念がアヴェンジャーによく似ている。少なくとも、エルテ・ルーデルが関与しているのかただの偶然か、いずれ調べる必要がある」

「ミッドには地球出身の人もいるから、偶然かも」

「もし、エルテが言う『ルーデル機関』が実在して、それがルフトヴァッフェ社と関連があったとして……それを調べるのは本局に戻ってからになりそうだ。今問題なのは、エルテが何者で、何が目的で、どう行動しているかだ」

「『破壊神の器』で、『ある母子の幸せ』が目的で、どう行動しているかはわからないってのが現状だね」

「破壊神、このハンス・ルーデルという人物で間違いないな。血縁関係があるかはわからないが……」

「でも、なんで『器』なんだろうね? エルテちゃんの魔力だけで充分『破壊神』だけを名乗れると思うんだけど」

「そもそも、あんな魔力量は突然変異だとしてもあり得ない。人間のリンカーコアが保持できる魔力量じゃない」

「比較予測でアースラ動力炉の数百倍から数十万倍……あるいはそれ以上。非常識だよね」

「人造魔導師であることは間違いない。だとすると……」

「ガルディとかアークとかはオリジナルのエルテちゃんから造られた人造魔導師の名前かな?」

「だとしたら悪夢だ。エルテ・ルーデルの存在そのものが抑止力どころか世界を支配する力になりかね――――」

 何の前触れもなかった。アラートが鳴り響く。

「次元震反応!」

「なんだと!?」



「フフフ……」

「何を見ているのかしら?」

「敵の慌てぶりを。エイダ」

「Ja」

 次元震を、完全に制御された次元震を更に大規模にしていく。たとえ周囲に世界があったとしても、何らの影響すら与えない。
 一度、本当にアルハザードがあるか確認するためにこっそり次元断層を作ったのだ。この躯の馬鹿スペックを思い知らされた。

「まったく、非常識ね……」

「同感だ」

 この時点で世界の十や二十、軽く滅ぶ規模だ。

「なかなか優秀な敵ね、もう転移してきたわ……」

「俺の知る中で最高の戦力だ。これ以上遅かったらおかしい」

「フェイトが話したのかしら? まっすぐこっちに来るわ……」

「俺が教えることを許可した。どうせ結末は同じ、なら無駄な時間をかけるだけ無意味だ」

「そうね……」

 玉座の間の扉が乱暴に開けられ、武装局員が雪崩込んでくる。

「プレシア・テスタロッサ! 管理外世界での魔法行使、ロストロギア強奪その他の疑いで逮捕する!」



 アースラのブリッジは騒然となる。

「あれは……」

「フェイト……ちゃん?」

 カプセルに保存された、フェイトによく似たその存在。正しくは、フェイトがその存在によく似ているのだが、彼女たちにそれを知る由はない。

『アリシアに! 触らないで!』

 一瞬で保存室から吹き飛ばされ叩き出される局員。そして、何の予備動作もなく放たれる魔法。それはプレシアが得意とする雷系の魔法ではなく、エルテの最もよく使う魔法『ノスフェラト』によく似ていた。
 局員は例外無くその紫の光に叩きのめされ、地を這う。

「まずい! 緊急転送!」

「やってる!」

 モニタの向こうの惨状に、さらにプレシアが行動を起こす。

『邪魔よ、あなたたち』

 紫の魔力球、それに魔力がつぎ込まれて、溜め込まれていく。

『消えな――――』

 その掲げられた手が降り下される前に、どうにか転送は間に合い、局員の姿は消えた。

「医療班! 急いで!」

 待機させていた医療班が応答するのを確認し、リンディはメインモニタに映し出される光景に眼をやる。そこには、カプセルに――――アリシアの遺体にすがりつくプレシアの姿が映し出されていた。

『あぁ、私のアリシア……』

「あれがアリシア……」

 エイミィが呆然と呟く。そして、そこにいる誰もが、その存在に気づかなかった。

『もう、これで終わり。アリシアのいない、陰鬱な世界も……アリシアの代わりの、できそこないの人形を娘と扱うのも……』

「できそこないの、人形?」

『フェイト、あなたのことよ。せっかくアリシアの記憶をあげたのに、似ても似つかない人形にしかならなかった……アリシアの代わりに愛でる愛玩人形にすら』

「え?」
「え?」
「なんだと?」

 その場にいるはずのない存在、フェイト・テスタロッサがそこにいた。ブリッジの入口の前に。エルテと手をつないで。
 その顔には、驚きと、戸惑いと、絶望が見て取れる。エルテに真実を教えられてはいたが、さらに深い暗示で記憶を封じられていた。全ては、エルテの書いたシナリオの通りに。

『いいことを教えてあげる。私は、あなたを創り出してからずっと……』

「エイミィ! 通信切れ!」

 クロノの判断は遅かった。

『大嫌いだったわ』

 糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちるフェイトを、エルテは支え、背に負う。その眼に光は、ない。エルテのわずかに色の違う眼は闇色に淀み、フェイトの紅の眼は何も映していない。いや、エルテはフェイトをブリッジに連れてくる前からこうだった。
 笑う、嘲うプレシアを無視して、エルテはブリッジから出ようとする。

「どこにいくのかしら?」

「医療班の仕事を増やしてくる。無意味だろうけど」

 まだ、暗示は切らない。



 計画の第二段階に移行する。
 傀儡兵を時の庭園に配備、足止めを偽装する。やろうと思えば今すぐでもできるが、可能な限りプレシアの計画が失敗したと管理局に思わせないといけない。そう、ストーリーはギリギリで、観測者が見ていてハラハラする方が、当事者にとってはリアルに見える。

「では、行ってくる」

「無意味かもしれないけど、気をつけなさい」

「そのつもりだ。俺が育てた二人だ、足元を掬われかねん」

 私が二人、中ボスとして彼等を適度に痛めつける。動力炉前と、玉座の間の前。適度に疲弊してもらう。

「エイダ」

『High maneuverability Armed Armor, Run』

 ASP-177eと92式特殊装甲服を組み合わせたような形の、バリアジャケットとは別物の高機動武装装甲。以前なのはに見せた、XSP-180と92式のハイブリッドとは似て非なるものだ。背は180cm弱、髪の毛は黒く紅く染め上げ、レッドアイに隠されていない右の眼は、色素を失ったように虹彩が紅い。そして装甲に全く似合わない、背に存在する黒き翼、アルティミシア・ウィング。誰もこれを私だと認識できはしない。

「リミット、ランクS-」

『アヴェンジャーが維持できません』

「デザートイーグル」

『了解』

 この手、両手に2kg程度の重みが追加される。右手の6inchハンドキャノン、左手の24inch。24inchは、ハンドガンの面影はあるものの、もはやライフルと言っていい。エイダの設計だ。

「ツェリザカの方がいい気がするが」

『50BMG用に改造したものなら』

「口径が小さくなったはずなのに戦車に喧嘩を売れる気がするのは何故だろう」

『形はリボルビングライフルです』

「長銃でマズルブレーキがついているんだろう?」

『更にバヨネットも付属しています』

「マズルブレーキついていて何故それがつけられる?」

『ピカティニーレールを応用してみました』

 変態技術屋エイダ。エイダに教育を受けたアジーンも優秀だがどこか変だし、今後どうするべきか、悩ましい。

「さて、馬鹿をやっている時間はもうないか」

[[来ました]]

 アースラからの転移反応。

《最終章、名付けるとしたらどうするかな?》

[[タイトルというものは、物語が終わってからつける方がいいらしいです]]

《じゃあ、グリュークリッヒエンデを見届けてからつけないと》



《あとがき》

 長らくお待たせしました。
 ダチの依頼でゲームのシナリオ書いたり別の作品書いたり試験あったり卒研発表あったりでなかなか書く暇がなく。
 ちなみにグリュークリッヒ・エンデ(Glücklich ende)とはハッピーエンドという意味です。長らくドイツ語と離れていたせいで正しいかどうかは判りません。一応、Google翻訳で変換したらハッピーエンドとなったので大丈夫だとは思いますが。
 タイトルは『彼女は暗中飛躍する、アンノウンはしない』という意味。イミフですな。

 懐かしいラーメンズネタ。
 アースラ支部はこれ以上大きくはなりません。

 私が知っている装甲服はケルベロスやredEyesしかないので。ACでもいい気がしますが、私のテレビは画質が悪く詳細が見えないのです。
 ちなみに、なのはに見せたのはXSP-180 Mk54パラディンと92式のハイブリッドで、今回はASP-177eスワッシュバックラーと92式のドッキングです。どちらもガスマスクとHMDで顔を隠しています。
 バリアジャケットは戦闘に向いていないと思うのは私だけだろうか……

 暗躍少女……その発想はなかったわ! と思いましたが、リリカルに相当する単語が思いつきませぬ。
 デストロのままでいいか……他にいいのがある気がする!
 A'sでは表舞台にでる予定なので、このままでいいかとか考えていたりしております。あくまで予定なので、今まで通り暗中飛躍するかも知れませんが。

 今回で終わるはずが、だらだらと続いております。しかもそこまで長くない。
 私は小学校の読書感想文を全て出さなかった偉業を成し遂げただけあって、文章を書くのがヘタクソです。最近になって日本語の文法を勉強しだした始末。ついでに言うと、工業大学なので『わかりやすい説明文』を書くことを必要とされるので心情描写とかはどうにも苦手です。
 現在必死こいてop.ローズダストを読み直しています。福井晴敏は偉大です。かなり影響を受けています。小説に反映できるかは別として。
 小説を勉強するには小説を読むのが一番です。
 言い訳タイム終わり。

 では、次回をお楽しみに。
 あ、もしかしたら三月になる可能性をここに明記しておきます。



[12384] 26Ende der Alptraum
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/06/09 00:14
 クロノ・ハラオウンの魔力反応が近づいてくる。千里眼が、その活躍を脳に投影する。
 傀儡兵が次々に倒れていく。最低限の消耗で、最大限の効果を得る。成長したな。
 だが、物量は時折クロノにダメージを与え、罠のように崩落する瓦礫が頭に当たる。

《…………》

[[…………]]

 俺達は、ただ待つだけ。
 そこには、一言の無駄話すら存在しない。いつもは俺をもからかうエイダも。

「来た」

[[Hand canon Ready.Mode:Direct cartrige]]

 ハンドガンで、火力の少ないデザートイーグルで相手をするのは、ただの手加減だ。
 この状態で俺を倒せるならそれでいい、できないなら――――

「!」

「待っていたよ、少年」

「プレシアの仲間か?」

「なぜ問う? 悠長にしている暇があるのか? 世界が滅んでしまうぞ」

 左手に持つバケモノデザートイーグル、ヴュステファルケを持ち上げ、無造作にトリガーを引いた。
 特殊非殺傷設定。超高密度魔力衝撃弾は、着弾時に砕け散り運動エネルギーのみを対象に伝え衝撃を与える。要はグローブで殴るようなもの、頭に当たれば意識を消し去り、かすればその皮膚を切り裂く。

「ほら、これで戦う理由ができた」

「くっ……」 

[[制限。砲撃、誘導弾、補助魔法などの一切が使えません]]

《ガイア式の致命的な欠点だな。馬鹿魔力がないと使えない……》

 エイダに報告されるまでもなく、ノスフェラトやエクスキャリバーが使えないのは判っていた。今、俺に使えるのは、手に持つハンドキャノンのみ。

「さあ」

 ケースが床に落ちて、澄んだ音をたてる。

「始めよう」



 動力炉。
 俺の関与が判明していない、そして偽装だらけの時の庭園では、不足した出力を補うために動力炉からパスを通しているように見せかけている。原作の追従であり、敵戦力の分散でもある。

「え?」

「人?」

 漏れ出る桃色の魔力光。輝く粒子が、その軌道に沿って剥がれていき、消える。視認性が上がるからなるべく隠せと言ったが、どうも小細工が苦手ななのはは、それができないでいる。

「ぱぁん」

「な、なに?」

「はい、死んだ。一回目」

 デザートイーグルで撃つ真似をした。

「ゲームの始まり。貴様は俺を倒す、あるいは動力炉を破壊する。俺は貴様を足止めする、あるいは倒す」

「なんで、そんな……」

「理由は要らん。強いて言えば、敵だからだ。名乗る理由もない。本来なら話すことも、さっき撃ち落とさなかった理由も」

 『おはなし』を封じる。御託はいい、今の俺となのはは敵。

「それでも、話してくれなくちゃ……」

「じゃあこうしよう。『戦うことに理由は要らない』。それに、力を示さずして理想を語るのは虫酸が走る。話し合いで解決する? そんな場合じゃないだろう? 時間があるのか? 貴様が間に合わなかったら? 大切なものが消えてしまうかもしれない。貴様が間に合わなかったせいで。ほら、今も時は流れ続けている。やり直すことはできない。巻き戻すことはできない。不意討ちでも何でもいい、何より優先されるのは障害を排除し、目標を達成すること」

「で、でも!」

「でも? これだけ、しかも敵なのに親切に俺が説明している理由が判らないのか? 俺は時間稼ぎをしている。ほら、俺が話しだしてから107秒も失った。それでも貴様は『でも』という無駄な言葉で俺の下らない言葉を聞き続けるのか? ああ、失敗したな、こんなことを言わなければもっと時間をかせ――――」

「なのは、説得は無理だ」

 さすがにユーノは賢い。治安が悪く厳しいミッドチルダの出身だからか。訓練では容赦を忘れるように暗示までかけたというのに、これが不屈の意思、鋼の心だと言うのだろうか。
 やっとレイジングハートを構えるなのは。

「来るがいい」

 俺は構えもせず、敵の動くのを待った。



 一体何者なんだ、こいつは?
 戦いなれているとか、そういったレベルじゃない。

「スナイプショット!」

 スティンガーブレイドの時間差一斉射撃などで追い込んで逃げ場を無くしているはずなのに、最低限の動きで交わされる。それでも当たりそうになるものは、あの装甲の塊みたいなバリアジャケットで弾かれる。生半可な攻撃は効かないのに、見た目に反して恐ろしいほどの動きを見せる。
 今まで僕が立っていられるのは、ただ単に彼が『足止め』だけに徹しているからに過ぎない。隙を見て扉を破壊して奥に向かおうとして初めて魔力弾が飛んできた。攻勢に転じられたら、一瞬で肉薄されて終わりだ。今はそこにしかつけいる隙がない。

「ブレイズキャノっ!?」

 だが、打つ手がない。何故か足止めに徹していて積極的に攻撃してこない彼だが、時々魔法の発動を狙って射撃魔法を放ってくる。弱点か、とも思うが、阻止される魔法に統一性がない。だが、これで彼は7発を撃ち切った。ルフトヴァッフェ社のADAシリーズ、その中のデザートイーグルと、その面影のあるデバイス。疑似カートリッジを使い、制御は全てデバイス任せの、術者に負担をかけず射撃魔法を放つ特殊なデバイスだった。1発の射撃で1発のカートリッジを消費するそれは、撃ち切るとリロードしなければならない。
 スライドが下がったまま止まる。
 僕は密かにしていた準備を最終段階へ移行する。
 彼は変形デザートイーグルのマガジンを落とす。同時に逆のデザートイーグルを太股のフックに引っ掛ける。
 まだ、まだだ。
 そして、腰のポーチからマガジン引き抜き……
 その手が変形デザートイーグルにたどり着く前に、僕の準備は完了する。

「スティンガーブレイド、エクスキューションシフト!」

 周囲に作り出した高密度の魔力の刃、それを彼に向けて一斉に放つ。300もの魔力の刃、さすがにその装甲でも防げるはずがない。

「リアクティヴアーマー、パージ」

 戦闘が始まってから初めて、彼が口を開いた。静かで、まるで囲んでいる剣林など見えていないかのように。
 同時に、彼の輪郭が破裂した。

「な……なんだと……」

 破裂した、それは間違いだった。確かにスティンガーブレイドは装甲版を貫いている。しかし、それらは装甲を貫いただけ、彼に一切のダメージを与えてはいない。
 吹き飛ばされ、剥がれた装甲版と共にスティンガーブレイドが落ちていく。一緒に、彼も落ちていく。ゆっくりと。
 よく見ればその羽に、いくつかのスティンガーブレイドが突き刺さっている。そして、頭に幾つか。唯一露出されている右眼にも。非殺傷設定だが、恐らくその眼は光を得ることはないだろう。痛みも相当なもののはず。なのに、彼はゆっくり床に降りるだけ。
 そして、リロードを終え、その腕を、銃口をこちらに向けてきた。僕が見せた致命的な隙を、この男は見逃さなかった。

「がはぁっ!!」

 S2Uが張ったシールドを数発で割り、両脚と腹に叩き込まれた衝撃。衝撃はバリアジャケットなど無いかのようにたやすく貫いて、皮膚を超え内臓にまで伝わる。追撃を覚悟したが、

「な……に?」

 彼のデザートイーグルはスライドが後退したまま止まっていた。リロードする様子もない。

「時間切れ」

 その姿が薄れていく。だんだんと、彼の向うの風景が鮮明になっていく。

「何が……」

「少年よ。人間、理性ではわかっていても、感情は理屈で制御できるものではない。喪うということ、それは何より哀しい。取り戻せる術があるなら、そしてそれが手に届くのなら。少年もいずれ理解するだろう。一つの命を想う、その為に全てを対価にする、それが愚かとは言えないことを」

 その言葉は、泣きたくなるほどに哀しかった。

「今理解する必要はない。今は考えるべき時ではない。悩むな。今は今の自分を信じろ。行け」

「…………」

「Goodluck」

 それが、最後の言葉。姿も形も影も何もかも、そこには存在しなかった。初めから、何も無かったかのように。
 感傷に浸る暇はない。先へ進まないと。



 なのはは弾幕を避けていた。分割思考に思考加速・神経加速をかけてなお、12.7mmちょうどの小さな魔力弾は彼女のバリアジャケットを削りつつあった。しかし、削る程度でなのはの装甲が弱体化することはない。

「アルティミシアかと思ったら、にゃっ! ま、まるでダンテなの!」

「誰それって、話してる場合じゃないよ!?」

 弾幕、それはデザートイーグルとヴュステファルケから吐き出されていた。こちらはリロードなしでバカスカ撃っている。今のなのはは、クロノのように手加減が許される相手ではない。
 これがAA12ならなのはは蜂の巣だろう、などとエルテは考えていたが、この時代ではまだ開発されていない。PS3とかはあるのに、とか、おおよそ戦闘中とは思えない雑多な思考をしていた。
 なのはは戦闘の申し子だ。9年の訓練の最中、ある日突然、まるでこちらの考えを読むように動き出したのだ。それは策を講じれば講じるほどあっさり見破られ、ヤケになったエルテはもうめちゃくちゃに、勘と経験のみで、つまりは無心で戦った。すると目に見えて動きが悪くなったのだ。
 時々異常なほどに鋭いなのは。人外魔境たる海鳴においてなのはもまた人外だったという可能性、仮説が立ったのだ。戦闘民族高町家の娘であることも、この仮設の信憑性を高くした。
 なのはは、少なくとも無意識下で人の表層意識を読む。ゆえに、ラフィングパンサーを討てなかったレッドキャップスのように、無意識で戦闘ができるタイプ・無意識で最良の行動が取れるタイプに弱い。とはいえ、『弱い』という単語に比較的という言葉が頭につく。

「あの魔導師、一歩も動いてない……」

「え? あ、ほんとだ」

 弾幕を避けるのもかなり余裕でやっている。エルテがマルセイユのように神がかった予測射撃なんかしたら瞬殺してしまいかねないが、それでもかなりの機動性。あるいは、予測射すら避けられるかも知れない。予測射の思考は表層意識に浮かぶ。

『Divine shooter、Ready』

 エルテの教えは実行されてない。

「おかしいな、攻撃タイミングは可能な限り隠蔽しろと言った筈なんだが」

 その小さな呟きは、なのは達に届くことはない。
 だが、チャージをレイジングハートに任せ、回避に徹しているのは評価している。

「シュ――――ト!」

「ふん」

 レイジングハートに大容量魔力キャパシタを搭載したおかげで、そしてなのは自身の制御能力の向上で、フルパワーでなくとも8発以上の誘導弾を放てるようになっているが、弱体化しているとはいえエルテに効くはずもない。デザートイーグルを振り回し、次々に来る12発の誘導弾を全て叩き落とす。その、弾幕の途切れた瞬間を狙い、レイジングハートをキャノンモードにしたなのはがSLBをチャージしている。ディヴァインシューターはただの時間稼ぎだ。

「うっ……く……」

 ディヴァインシューターを制御しながら、大量の魔力を無理矢理リンカーコアから出力し、急速チャージする。魔力制御に出力にと、リンカーコアにかなりの負荷をかけている。なのマシンリミッタがある現状では、かなりきつい。

『チャージ完了と同時に発射します』

 距離が取れない狭い空間で、SLBを放つには。移動しながら溜めるという訓練を、エルテ相手に嫌というほどさせられていた。敵戦力が判らない状況、その状態で可能な限り威力の高いものを敵に確実に当てる。ディヴァインバスターではなくSLBを選択した理由がここにある。

「ユーノくん!」

「ああ! ストラグルバインド!」

 ディヴァインシューターは残り2発。だが、それだと時間が足りない。故にユーノに拘束を頼む。なのはに自力でバインドをかける余裕はない。

「っく! ガッ!? ゴはッ!?」

 拘束と同時に、残ったディヴァインバスターがエルテを撃ち抜く。拘束の瞬間、ユーノに向きかけた銃口は力無く落ちる。

『撃てます』

「スターライト……ブレイカァァァァァァァァァァァ――――!!」

 その黒い鎧をまとった魔導師は、桜色の光に包まれ、その姿は見えなくなった。



 埋め尽くされる。
 HMAAが砕けていく。
 デザートイーグルが、ヴュステファルケが、吹き飛ばされる。
 何度も受けた、『かつて』のなのはの『全力全壊』。

[[ランナー! ランナー!]]

 エイダの声が聞こえる。桜色に埋め尽くされつつある意識が、戻ってきた。

《助かった》

[[もう砲撃は終わっています]]

《そうか》

 HMDは砕け、ただのプレートになり下がった。酸素マスクも、ホースが切れているのか何も送ってこない。唯一露出した右眼で見れば、天井が見えた。いずれにせよ、俺は、私は負ける予定だった。なのはの成長が見れたのは予定外の喜びだったが。

「あ、あの……大丈夫ですか?」

「……わた、俺の心配をしている場合か。務めを果たせ」

「でも……」

「大馬鹿者。さっきも言ったはずだ。もう時間がない。さっさと行け」

「……わかりました」

 なのはが私に背を向ける。ユーノがバインドをかけていく。無駄だ、とは言わなかった。
 その後ろ姿を見送って、私はバインドをすり抜ける。偽装として、拘束されたHMAAの残骸をその場に残して。ジュエルシードから得た魔力結晶技術の応用であるこれは、私の制御を離れても存在できる。管理局からしたら未確認ロストロギアだ。ああ、またプレシアの罪状が増えたか。どうでもいいことだが。

「……っと」

『大丈夫ですか?』

「さすがにSLBは、な。それよりもなのはだ。相変わらず無茶をする……」

 SSS+オーバーの魔力を有しそれを制御できているとはいえ、それは私が徹底監視下で訓練していたからできていたこと。実戦でいきなり、まだ訓練どころか教えてもいない複数の難解術式を行使するのは、たとえ訓練で鍛えられたリンカーコアであっても耐え切れない負荷になる可能性がある。

『リミットをかけて正解、と言いたいところですが』

 リミットをかけたとして、大容量キャパシタ経由で砲撃していればアンリミテッドと同じくらいの制御負荷になる。チャージを急ぐあまり、リミット以上の魔力出力を出そうとしてリミッタに阻まれる。魔力転送貯蓄機能で、リミッタを超えた分の魔力がルーデル屋敷でカートリッジになるだけなので、結局は外に出せる魔力が制限されるだけで出力負荷も変わらない。
 なのマシンの今後の課題が決まった。

「全て終わったら精密検査だ。百合に覚醒するほど隅々まで調べ挙げてやろう」

『ユーノ……ハートブレイクワン』

「比喩だ。本気で覚醒させはしないさ。もし目醒めたら、ちゃんと両刀に……」

『…………』

「どうした」

『まさか、ランナーが、ランナーが下ネタを!』

「理解。二度としない」

 無意識だったのだが。



 クロノが玉座の間に入るころ、ここは崩落の最中だった。崩れ大穴のあいた床の、わずかに残った足場の下は、真っ黒な虚数の海。この果てには、確かに世界が存在する。だが、今はどうでもいいことだ。
 リンディが次元震を止めようと頑張ってはいるが、『完全に制御された次元震』の術式に介入するということは、制御を失った空間が『本当の次元震』を解き放ってしまうということだ。幸い、ガイア式魔法に介入できるはずもなく、全く効果のない無駄な行為だ。故に、彼女からの投降勧告はない。それどころではないのだから。
 なのはが動力炉を破壊したが、今からやろうとしていることに対して塵にも等しい出力の動力は、元からダミーとして破壊させる予定だった。そして、それはトラップの起動を意味する。

『動力炉が破壊されました。これより爆破シーケンスに移行します。所員は速やかに安全圏まで離脱してください。繰り返します――――』

「な――――」
 
 爆破までの時間、爆破範囲、その他諸々の情報を敵に一切与えない。いつ崩落するか判らないステージの上で、逃げることを許されないダンスを踊る。これ以上の恐怖はない。

「やっと……これで終わる。アリシアのいない世界が、こんなはずじゃなかった世界が」

 ここから先のシナリオは、プレシアの描いたもの。私は、プレシアが落ちてから新たなシナリオを開始する。

「世界は! いつだってこんなはずじゃなかったことばかりだ! ずっと昔から、だれだってそうだ! こんなはずじゃない現実から逃げるか、立ち向かうかは個人の自由だ! だけど、自分の勝手な悲しみに、無関係な人間を巻き込んでいい権利なんて、誰にもない!」

「権利……? そんなこと、あろうとなかろうとどうだっていいわ。私は可能性を見つけた、そしてその可能性が実現できる手段もある……他の誰がどうなろうと、知ったことじゃないわ……」

「なんだと!?」

「大切な、愛する人を失ったことがあるかしら? 復讐しようとしたことは? 喪ったものを取り戻せるかもしれないなら、どんなに小さな確率でもすがりつきたいと思ったことは?」

「あ……」

「そう、この想いは誰にも止められないの……だから、私達は旅立つの、アルハザードへ!」

 ジュエルシードが輝きを増す。私はそれを制御して、ただ少し強く光るように命じただけ。同時に、虚数空間の向こうへのゲートを、少しずつ開いていく。次元震は規模を更に増し、時の庭園が地震のように揺れ、崩落が激しくなる。

――――ぶれぃかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!

 いとおしい声が聞こえたかと思ったら、桜色の光束が虚数の海に突き刺さって霧散した。
 これは間違いない。メテオライトブレイカーだ。説教2時間追加。レイジングハートの再調整もしていないというのに、キャノンモードを使うとは。ついでにいうと、なのマシンのリミッタ機能が過負荷で壊れたとの報告がアジーンからきた。今のなのはは鎖と首輪のちぎれたケルベロスともいえる。

「母さん!」

 なのはにだき抱えられたフェイトが、玉座の間に降り立つ。
 出撃したのは知っていたが、まさかなのはと一緒に来るとは思わなかった。

「あなたはもう用済みよ、フェイト。どこへなりと行きなさい」

「母さ、いえ、あなたに言いたいことがあってきました」

「…………」

「私はアリシアじゃありません。だけど、私はあなたの娘です。だから……」

「笑わせてくれるわね。言ったはずよ人形。あなたは私の娘なんかじゃない」

「っ……」

 その言葉は嘘だ。どんなに取り繕っても、私の鋭敏な感覚は、声の調子・心拍・体温などから、ある程度は言葉の真偽を知ることができてしまう。

『爆破5分前です。脱出を急いで下さい』

 爆破のアナウンス。赤色の回転灯が灯され、庭園の振動が更に激しくなる。そして――――

「母さっ……」
「だめだ!」

 プレシアの足元が、一気に崩れた。
 フェイトはプレシアに手を伸ばすが、クロノにはがい締めにされ、虚数の海に身を投げることを許されない。
 アリシアのインキュベータと共に、落ちていく。

「あ……ああ……」

「フェイトちゃん……」

『爆破4分前』

「早く、脱出しよう……もう時間がない」

「なのは、フェイトを頼む」

「……わかったの」



 主なき城の衛兵は黙りこくり、二度と動くことはない。
 既に転送妨害は解除され、比較的安全な場所まで戻ると、4人はアースラに転移した。
 その数分後、時の庭園は黒き光に包まれ、次元震と共に消滅した。



《あとがき》

 長らくお待たせしました。

 終わらん、まだ終わらん!
 少なくともStSまでは駆け抜けたいのだ!

 アイアンマン……ヒーロー色が強すぎるんですよ。
 アーマードコアとロボットアニメみたいな関係?
 エースコンバットとマクロスみたいな関係?
 あくまで兵器であるべきです。戦隊ヒーローとかロボットアニメのロボットは、もっと無骨でストイックであるべきだ!
 なんか妙な飾りもいらないし変形・合体の必要もない! だがファルケンやホワイトグリント程度なら許す。
 いや、ロボットアニメ好きですけどね。ヴァンドレッドとか。

 現在のタイトル候補。
 ・暗躍少女ミシカルえるて 神話的なエルテ。うーん、原作も詩的ななのはだし……難しい。
 ・暗躍破壊神少女えるて アルジュナみたいだなー。
 ・変えない あるいは破壊神少女デストロえるて 微妙。
 タイトルセンスが私にはない上に、エルテの立ち位置が微妙すぎて。

 アルトは日常パートでしか出せません。
 戦闘に投入したらカオスになるもの。
 八神家の日常に出る予定です。

 今回出たヴュステファルケン、Wüste Falkeと書きます。以前のverではデゼルトファルケンなんて恥ずかしい名前をつけていましたが、今度こそ正しいドイツ語による命名に!
 形としては、10インチモデルとかのテーパーバレルではなくて、スライドとバレルをそのまま20インチまで伸ばしたものです。オリジナルが6インチ、最長バレルが14インチモデルですから、デフォルトの3倍以上の長さを持つわけです。ちなみに、6インチ=152.4mm、10インチ=254mm、14インチ=355.6mm、20インチ=508mmとなっています。バレルの長さだけで50cm物差超えました。チェンバーやスライドを含めたら600mmいくかも。まだ測ってなかったり。
 長くなって曲げモーメントが大きいので、支えとなるフレームのバレルアンダーがトリガーガードから端までかなり肉厚になって、トリガーガードとは別にハンドガードもついています。
 ええ、全く別物のうえに人間が扱える代物ではありません。確かヘルシングのジャッカルよりもでかいです。
 実は、マルイのガスガンの改造案の一つで、バレル上下にピカティニーレールを追加するパターンもあったり。

 さて、手加減しながら戦ったわけですが、戦闘って難しい。手加減しながらなんて余計に難しい。
 クロノの魔法なんて殆ど覚えてなかったし……
 結果、なのはは起動砲台、クロノは時間切れっぽくしてみました。

 プレシア?
 エルテが近くにいるんだぜ。

 では、次回、無印編最終回まで、お元気で。



Jun.9.2010

 似非ドイツ語による命名を修正。
 デゼルトファルケンがヴュステファルケになりました。



[12384] 27グッドラック~そしてまた日常へ
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/06/09 00:28
「あーいうぉーんごーぅふぉーだん」

 闇の中で歌い続ける。ただ、あるはずのない孤独をごまかすために。
 今もガイアにいて、隣にはアルトがいて、私は地球にいて、はやてと遊んでいて、ミッドチルダにいて、アースラにいて、クロノをからかっているというのに。
 プレシアは腕の中で冷たくなって久しい。
 アリシアは、緩衝材のたっぷり入った袋にカプセルごと入れている。
 魔法の使えない今は、ただただ耐えるのみ。

「あーいきゃーんぶらっふぉーだん」

 そして私は、ひたすら重力に身を任せる。



 アースラにできることはほとんどない。
 機関部がイカれ、修理もできない状況。近くには充分な設備のある管理世界は存在しない。

「幸いなことに、次元空間に対する次元震の影響が少ない。プレシアは、もしかしたらこうなることまで計算していたのかもしれない」

 最後の、時の庭園消滅のとき、一緒に次元震も消えた。黒い光と共に。
 しかし、巨大な魔力の光は、次元震よりマシとはいえ、次元空間をかき回すには充分だった。

「幸い、アースラが97管理外世界周辺から動けなかったから、君たちはもう帰れる」

「お世話になりました」
「そうか、世話になった」

 エルテが、真っ先に転送ポートに向かう。

「君はだめだ!」

「全く。節操がないな。なのはがダメと判るや否や、私に乗り換えるか。英雄色を好むとはいえ、どうかと思うぞ」

 これ見よがしにエルテが溜息を吐く。更に眼を閉じ、やれやれと言わんばかりに首を振る。

「違う! 君は容疑者だ。ミッドで裁判を受けてもらう」

「一応、おとなしくしていてやろう」

 無意味だろうがな、と、小さく続ける。クロノはその呟きに気付かなかった。

「ユーノくんはどうするの?」

「僕はミッドに行くよ。本局でジュエルシードに関しての手続きとかあるし、スクライアに報告にもいかなくちゃいけないし」

「いずれにせよ、まだ暫くは地球近辺にいることになろうがな」

 クロノがはめたいくつもの封魔効果付手錠を一瞬であっさり引きちぎりながら、エルテが補足した。

「え? どうして?」

「クロノ、説明」

「本当に君は生物か? まったく……あの、時の庭園の消滅は見たかい?」

「あ……うん」

 黒い光、そうとしか言えないものが、時の庭園もろとも次元震を飲み込み、消えた。次元断層を引き起こしかねない規模だった次元震を綺麗さっぱり飲み込み、そして消滅させたあの光は、一体どれほどの魔力と威力を持っていたのか。

「あれのおかげで、次元震ほどの被害は出なかった。だけど、次元震を丸ごと包んで消滅させる威力の魔法が使われて、次元空間に影響を与えないはずがない。空間が安定するまでいつまでかかるか……」

「次元空間が安定するまで通信はできないから救助は呼べない。そして、アースラの機関も損傷している。航行に支障が出ているだろう?」

「……その通りだ」

「じゃあ、まだしばらく会えるの?」

「余波が収まるまで、空間が安定するまでだが」
「は?」

 アースラの機関は致命的でこそないが、無理に動かそうとしたために航行不能な程に悪化していた。エルテによる絶妙な工作であったが、それを知るものは本人以外に存在しない。
 この場合、あの黒魔法の余波が収まるのを待ち、時空管理局本局に救援を出すのが最善であり、唯一できることだった。そしてその場合、次元空間が安定するまでの時間、救難通信を発信してから救助が来るまでの時間と、かなりのものになる。そう、このままなら。

「君は何を言っているんだ?」

「リンディ、説明」

 説明を丸投げするエルテ。

「エルテさんが、ガイアでのアースラ修理を提案してくれたのよ。条件付きでね」

「ガイアの存在・ガイアに関係する全ての事象を報告あるいは他言しないこと。それだけだ」

 そしてエルテはなのはに向き直り、

「という訳だ。どんなに長くても、アースラの修理が終わるまでは会える」

「そ、そうなんだ……」

「艦長、何故……」

 クロノがリンディに問う。エルテの苦渋の決断を、この場にいる誰も知る由もない。自分達が、約半年後に起きるはずの事件の保険とされているなど。

「ただでさえ数が少ない次元航行艦よ。管理局は年中人手不足だし、擱座艦曳航に駆り出される人員もできることなら削るべきなの。最も早く本局に戻れる方法があるなら、そうすべきなのよ」

「ですが!」

「大丈夫、エルテさんは信用できるわ」

「条件さえ守ってくれるのであれば。私の大切なものに害を与えん限りは、裏切りはせんよ」

 引きちぎられた手錠の輪を、ただ魔力で飽和させて砕き、拘束から完璧に逃れた。

「やれやれ。クロノは随分と無粋なブレスレットがお好きらしい。あるいは……そういう性癖でもあるのか。むぅ。エイミィ、男というものは程度の差はあれことごとく変態なのだよ。例外は存在しない」

「せっ……誰が変態だ! というか、なぜそこでエイミィが出てくる!」

「男は、と言ったはずだ。だから、どんな性癖があったとしても生温い眼で見てやれ」

 こっそりとエイミィに『この年頃の男をからかうにはこのネタが一番』と念話で伝えている。エイミィは親指を立てものすげえイイ笑顔で返す。そして握手、抱擁と続く。
 話が進まないので、リンディとなのはは別に話を進めていた。

「ユーノ君はアースラの修理が終わるまで、なのはさんのところにいるのね?」

「はい、もう少しだけ、なのはのパートナーとして、魔法を教えてほしいと言われたので」

 同居継続が決定していた。

「それで、フェイトちゃんは……」

「……大規模犯罪に加担していたから、本来なら数百年の幽閉……」

「ああ、問題ない。現時点で無罪がほぼ確定している」

 クロノの言葉を遮って、エルテが説明した。クロノは表情で『は?』と言っていたりする。

「管理局のフェリス・C・シルヴェストリス上級元帥にメールを送ればそれでいい。どんな裁判だろうと、こういうケースなら無罪を勝ち取れる」

「シルヴィ元帥……その手があったわね」

 トップ・オブ・ザ・管理局、母猫、女神などの名を持つシルヴェストリス元帥。温厚で馬鹿みたいな戦力を持ち、十年弱でヒラの嘱託から上りつめた、最高評議会を除けば文字通り管理局の頂点に存在する女。
 彼女が一体何者なのか言うまでもない。

「ほぼ確実に無罪、最悪でも嘱託として数年働くだけで充分だ。被害も出ていないし……ああ、そうだ。ユーノ」

「なんだい?」

「返却」

「え? えええええええええええ!?」
「な!? なぜそれが!?」
「なんで!?」
「どうして!?」
「…………」

 ぽい、とエルテが投げたのは、その胴ほどもありそうな大きさの円筒状のケース。中には、いくつかのジュエルシード。プレシアと共に、虚数空間へと消えたはずの。
 アースラから一歩も出ることもなく、ずっと元独房で紅茶を飲んでるか歌っているかのどちらかだった。

「これが、本当の魔法。不可能を可能にする、不思議な力、それが『魔法』という言葉の本来の意味だ。ならば、その魔法が使えるのであれば、こんなこと不思議ですらない」

 そもそも魔法が不思議なものなのだから、と、いつもの微笑みでおどけて言う。

「虚数空間で魔法? ありえない……」

「現実を見るべきだな、執務官。手品も魔法も変わらん。そういうことだ。まあ、これで被害は輸送船一隻とアースラの機関部、それに時間とちょっとした労力のみ。乗員の無事は確認していたろう? それに、フェイトが実際にできたことはちょっとした捜査妨害程度にすぎん」

 何も知らされず、ただ母親に愛されたいがため、その命令に従っていた。全体的に見た被害は皆無に等しく、その少ない被害のほぼ全てはプレシアの仕業だ。

「そう心配するな。殺されるわけでも、永遠に会えないわけでもない」
 
「うん、そうだよね!」

「ああ。安心して帰れ」

 そう言うや否や、一瞬で転移魔法を組み上げ転送してしまった。地球へ。
 問答無用どころの話ではない。

「な、何を!」

「ガイアからの迎えが来た。なのはにはまだ、見せたくなくてな」

「不明艦艇接近! なんだこれ、こんなに接近されるまで探知できないなんて……」

 オペレータが報告し、みながメインモニタに注目する。
 塗装どころかまだ未完成であろう不格好な竜に似た艦が、そこにはあった。



 ラグナロク。
 FFⅧにおける飛空艇であり、宇宙船でもある。
 ドラゴンを模しており、ムービーで見たその形は美しく、そのスペックも半端なものではない。
 しかし、アースラを曳航していたそれは、美しいとはお世辞にも言いがたい。移民船建造ドックの中で、アースラの隣で静かに鎮座しているそれは、とりあえず動けるように無理矢理エンジンとコックピットをフレームにくっつけただけの艦。そんなものを、FFⅧ大好きななのはに見せたくはなかった。

「ストーップ! 固定にはいるよー!」

「りょーかい!」

「4番固定完了!」

「9と7固定できたよ!」

「8番固定完了!」

「10から14まで終わった!」

 子供たちが頑張ってくれている。全て私がしてもいいのだが、それだと技術を習得できない。

「さて、修理といっても、ジェネレータだけだ。交換か修理か、いずれにせよ、ルーデル機関はその痕跡を一切残さない。諸君の仕事は増えない、という訳だ」

「修理はこちらで、というわけにはいかなそうね」

「丸々換装するならエルジア社製純正ジェネレータを用意してある。全ての刻印、制御コンピュータのデータ、全てアースラのものと同じにした。後はログを吸い出して書き換えるだけだ」

「なんでそんなことを知っているんだ!」

 クロノが噛みついてくるが、

「管理局というのは存外腐敗が進んでいてな」

「っ!」

 その一言で黙りこむ。本当は、私がアースラの建造に関わっている、それだけなのだが。

「理解してくれて嬉しいよ。さて……」

 アースラが揺れる。

「ガイアへようこそ。諸君を歓迎するよ」



 現在、ガイアの汚染は浄化されつつある。アルトが魔法の練習をする度に、ガイアは緑溢れる地になっていった。

「いいところね……」

「かつてNBCM汚染されていた地とは思えん」

「それは君のセリフじゃないと思うんだが……」

「世界中、ほぼ全てが汚染されていたのが、たった一ヶ月でこうなるんだ。正直、浄化しようと四苦八苦していたのが馬鹿馬鹿しくなる」

「一ヶ月?」

「ねえ、エルテさん。あれは何かしら?」

 驚くクロノをスルーして、リンディが何かを見つけたらしい。
 その指し示す先には、血のように鮮やかな紅。
 一直線に空に放たれたり、薙ぎ払ったり。かなり離れたここからでも判る巨大な球体から、線香花火のように地上に降り注いだり。続いて、後光、張り手、葡萄、そして二葬式洗濯機。

「……一応、汚染浄化作業だ。本人は、遊んでいるだけなんだろうが」

「戦闘訓練のように見えるんだが」

 天空から、黒い光の柱が大地に降り注ぐ。

「いや、軍事訓練に見えるんだが」

「……おしおき、だ。最近防御を組み上げて、あれぐらいの飽和攻撃をしないと抜けんのだ」

「いったい誰なんだ、そんなことのできる人間は」

 私は溜息を一つ。

「我が愛しの可愛い可愛い妹だ。可愛くて明るくて可愛くていい子に育ってくれたのはいいが、いかんせん限度や常識を知らん」

「…………」

 リンディの珍しい表情を見た。どうも筆舌に尽くしがたい微妙な感想を抱いたようだ。

「妹? 二人ともか?」

「何を言っている? 私には可愛くて愛らしい妹と娘達と息子達しかいないぞ」

「むす!? いや、この際それはどうでもいい。あの飽和攻撃は君の子供か?」

「私だ」

「遠隔発動魔法かしら?」

「何を言っている。私はあそこにいるだろう」

 リンディが見当外れなことを言う。できないことはないが、あんな大規模な攻撃はできない。

「? どういうことだ?」

「……そろそろ昼だな。戻ってくる」

 地球とは一日の周期が違うが、それでも1200時は昼飯時。
 リンディたちにとってはあんなに遠く、だが、私にとってはこんなに近く。
 飛べないアルトをぶら下げて、最高にハイになったアルトをぶら下げて、ぼろぼろになったアルトをぶら下げて、私は音速を超えない程度で飛んでいく。
 何が面白いのか、アルトはキャハハと笑っている。

「あはははは! おねえちゃん、コブラとかクルビットとかできないの――――!?」

「ん? それは飛行機でやると難しいから面白いのであって、私がやるとただの微妙な動きか宙返りくらいにしかならん」

「え――――」

「よし、バレルロールもやろう」

「やたっ! え? きゃ――――あははは!」

 地面と水平な躯を垂直に起こし、アンチショックウェーヴシェル――高速で飛ぶときの防護結界――を緩め、風の壁とGを存分に感じる。
 そして水平に戻し、充分な速度を得た後、宙返りを敢行する。
 最後に進行方向へ螺旋を描きつつ、そして止まる。

「は――――っ、は――――……」

 私より確実に勘定でタフなくせして、アルトはひょろい。まあ、バレルロールと言えど、私を中心軸に周期0.25秒でブン回せばこうもなるか。日本有数の絶叫マシーンに一日中乗り続けるという偉業を達した我が妹でも。
 この事件の最終段階、管理局の監視下にあった海鳴からなるべく隔離するために、平日放課後はガイアへ、休日は旅行に出ていたのだ。その際に某テーマパークに行ったのだが……コースターにしか興味を示さなかった。

「これは……一体」
「どういうことかしら?」

 さすがは母子、と感心すべきか。息がぴったりだ。

「アルト。自己紹介」

「う? あ……アルト・ルーデルです。ガイアの浄化と緑化を担当しています。おねえちゃんとは一応双子の妹という設定になってます」

「!!!!!!」

「う、嘘です! ちゃんとした妹です! 血も繋がっているどころか遺伝子までほとんど同じです! だからそんな泣きそうな顔しないでよぉ……」

「信じていた。そう、言ってくれると。冗句であると。信じていた……」

 心臓が止まるかと思った。

「アルト、この将来有望そうな劣化恭也なトゲ付き少年がクロノ・ハラオウン。石頭で融通が効かずムッツリかつガッツリなスケベで優秀な管理局の犬だ」

「誰が!」

「この美人がリンディ・ハラオウン。外見年齢と年齢が比例関数にない実にリリカルな人だ。管理局の提督にまで昇りつめているが、管理局の犬ではないし、有能でいい人なんだが……」

「『管理局の犬』はどういう評価なのかしら?」

「あー、その、なんというか。緑茶に砂糖とミルクを投入する致命的かつ究極の欠点を持つ」

「カノンちゃん、ユピテルカノン」
『Sir jawohl sir』

 問答無用の3.7cm砲×2。

「待っ……」

「Feuer!」

 紅の光がリンディの影を消し飛ばし――――

「あら? 躯が軽いわ」

「緑茶に砂糖とミルクなんて、絶対躯のどこかがおかしくて味覚障害に違いないよ! 亜鉛も足りないかも!」

 健康になった。
 見た目は物騒だが直接的な殺傷能力は一切ない、極めて平和な力。

「そ、そんな……」

 物騒なのはその口であり、行動力であり、腕力である。
 打ちひしがれるリンディを、本気で心配する眼で見ているから余計ダメージが加算される。純粋なものほど毒性が強いというが……。

「昼の時間だ。話はそれからだ」

 とりあえずは、国境なき世界ガイアを存分に知ってもらおうか。正史で言う『PT事件』は終わったが、私のシナリオはまだ、終わることを許されない。クライド、アリシア、プレシアといった『死者』の扱い、闇の書事件の解決、管理局の腐敗、そして飽和と限界。『死者』は増えるかもしれない。そもそも死なないかもしれない。闇の書は何事もなく解決できるかもしれない。管理局は、10年後には内部浄化が終わっているかもしれない。
 休んでいる暇はない。だが、今ここにいる私の一人分くらいは、ゆっくりまったりしても30mmや37mmの天罰は落ちない。

「エルテ?」

「……物思いに耽っていた。気にするな、大したことではない。そろそろ迎えも来る」

 遠くからの、ガスタービンの音。嫌がらせに、これでもかというほど武装を積んだクラカヂール。ガトリングガン以外は全部モックアップではあるが。



 アースラクルーは存分にバカンスを楽しんでいた。
 ただでさえ少ないクルーの殆どは戦闘要員、わずかな技術士官だけでは動力炉と次元航行機関を用意しただけでは換装作業はできない。一般クルーに手伝わせてもよかったが、それでも人手は足りず、結局、一般クルーは上陸して、知識は充分にある私の子供達が手伝うこととなったのだ。

「まるで自衛隊でも見ているようだ……艦の定員に足りんとは」

「まだマシな方よ。地上本部はBランク以下でしか部隊をつくれないところがほとんどだそうだから」

「存分に知っているよ。上層部はなんだってこう無謀にも手を広げたがるのか……」

 バカンスとはいえ、海で泳いだりはできない。今は春、水温が低い上に、汚染は完全に浄化されたわけではない。
 だが、娯楽施設がないわけでもない。
 家族のみで構成されている小規模社会であるガイアだが、義務と権利は徹底してある。すなわち、働かざるもの食うべからず。
 自分に適した仕事を探し、働くのだ。私の研究を手伝ったり、軍事訓練を行ったり、農業に従事したり、施設や艦内の清掃や保全、食堂の経営などなど。教育中の子供たちばかりの今はまだ、私が殆どの仕事をしているが、アルバイトという形で働き、教育が終わると同時に私と交代する形で就職する。無論、通貨も存在する。ただ、衣食住に全く金はかからない。
 そう、子供たちは働くし、休みもとる。それだけだと潤いがないので、温泉や高級料理店などの娯楽施設が存在したりするのだ。それの利用には、それなりの額の金が必要になる。だから、子供たちはかなり真面目に働くのだ。
 普通なら、かなりの額がかかるが、アースラ御一行は一応客なので金はとらない。子供たちに不平不満のないように、この期間分の娯楽施設無料チケットでも作って全員に配ることにしている。

「まったくだわ。だけど、管理局の目的は次元世界の平和。今よりも遠くに、より危険なロストロギアがあるかもしれない。だから手を伸ばさざるを得ないのよ」

「パンドラの箱を自ら開けに行くようなもの、とも言える」

「パンドラの箱?」

「地球の神話だ。パンドラという女が開けてはいけないと言いつけられていた箱を開けてしまった。箱の中には様々な災厄が封じられていて、パンドラは慌てて箱を閉じたが、最後に一つ、希望を残して災厄は全て世に放たれてしまった。結局、残された希望もその後すぐに解放されるのだが……そうだな、世界はシュレディンガーの猫・イン・パンドラボックス」

 なかなか面白い例えが思いついた。

「そのシュレディンガーの猫、よくエルテさんは言ってるけれど、どういった意味があるのかしら?」

 簡単に説明してやる。非常にわかりづらい概念をこれほど簡単に表した思考実験はない。

「さて、ヒント。私にとっては確定で、リンディにとって不確定なものはいくらでもある。たとえば、諸君は虚数空間の中は観測できん。そして、知らないという不確定要素。たとえ同一人物であっても、知らなければ他人かもしれない」

「え? ……まさか、プレシアが!?」

「流石だな。だが、彼女は死んだ。死者を罪に問える法律は、管理局法には無い」

「どういうことかしら?」

「容疑者の死亡が確認された、あるいは生存が絶望的な場合は、基本的に裁判すら発生せんだろう。自分のせいでフェイトにできてしまった罪を、全部自分のせいにして死ぬ。リンディも母親なら理解できるだろう、真相を知っているのならば、プレシアの行動全てが。その想いすら、理解できるだろう?」

「そうね……覚悟はしているけど、クロノが死んで、それをどうにかする方法があるのなら、プレシアと同じことをしたかもしれないわね」

「だが、それではあんまりだ。フェイトもまだ、抜け殻のままだ。それに……」

「それに?」

「いや、なんでもない。着いたぞ」

 15mはあろうかという大砲が目印のそれは、老神温泉だった。なんというか、初めて見た時は『ああ、なるほど。ナイスジョーク』なんてつぶやいてしまった。

「あの大砲は?」

「知らん。少なくとも、私がここに来たときにはあった」

 本物かどうかはわからない。もし本物だったら、NBCM汚染にKの文字が追加されていただろう。幻想的な、緑色の死の雪。

「珍しいオブジェと考えればいい。いくら有澤重工でも、数千年も放置では二度と撃てまい。それより温泉だ」

「そうね、楽しみだわ」

 しかし、数少ない娯楽施設で温泉を選んだのがリンディしかいないのは何故だろう……



 時は過ぎて28日後。
 アースラは機関換装を完了し、地球の面々との別れの時が来た。場所は正史通り、海岸公園。

「さて。短い時間だが、別れを告げるには充分だろう」

「何で君が仕切っているんだ!?」

「私達は向こうにいる。では、また後で」

 離れた場所で私達は二人を見ていた。私は、ベンチで紅茶を飲みながらぼぇ~っと空を見ていた。他の私はどこか別の場所、別の世界できびきび動いているが、日頃より気が抜けている。
 とりあえず、一区切り。まだ夜天の書や、管理局などの問題はあるが、少しは心休まるときがあるだろう。
 どこまでも青い空、私はその先すら見通せるが、それでも純粋にその色を美しいと思った。
 クロノが時間を告げる。少し遠く、リボンを交換した二人は笑顔で。私にはその傍にいる資格が無いように思えて。
 転移陣が発動した時に、手を振るだけだった。
 向こうに行ったって、どこの世界にも私はいて、ミッドチルダに彼らが着けば、いや、アースラにすら私はいるというのに。

「どうしたの? エルテちゃん」

「何でもないさ」

「嘘。そんな悲しそうな顔して、そんなこと言ったってわかるの」

「悲しい顔は間違いだ。寂しいが正しい。さて、帰るぞ」

 日常へ。



《あとがき》

 無印、無理矢理終わらせました。
 難しいですね、物語の終わりって。
 まあ、まだ無印は微妙に続きますけど。ガイアでのクロノ達へのネタばらしとか、テスタロッサ家涙の邂逅とか。

 最後の方、DVDがまるごと行方不明になって、どうだったか必死で思い出しながら書いてたので、おかしなところがあるかもしれません。指摘があれば修正します。

 この後は、クロノの過去話(捏造+エルテ介入)とか、へいわなにちじょう話とかがしばらく続いてA'sとなります。とはいえ、A'sはエルテの介入のせいでかなり小さく終わりそうな気が。
 詳細なプロットはまだ書いてないのですよ。この前見てみたら『次、A'sで破壊少女』なんて書いてあるんです。

 あと、結構矛盾とかおかしいところとかあったので全体的に修正をかける予定です。

 STGとADVのシナリオを書くなんて無茶をしつつ、研究室にこもり、趣味のも書いている究極のデスマなので、また遅くなるかも知れませんが、見捨てないでー。

 御感想や御指摘は私の活力です。ブースターのかかり具合が違います。
 変なところの指摘や、設定がおかしいとか、辛口な批評とかはばっちこいです。私、マゾなので。



 では、ここまで私の拙作にお付き合いいただき、ありがとうございました。
 これからも『破壊少女デストロえるて』をお楽しみください。



Jun.9.2010

 エルテの説明を、28話と矛盾しないようにしました。
 地下でリンディにする説明がおかしいことにいまさら気づくとは……



[12384] 28Answer was neer they
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/06/09 00:51
「ねえ、どうやってプレシアを救出したのかしら?」

 温泉で幸せそうに甘酒を飲んでいるリンディが、素朴な疑問とばかりに訊いてきた。

「ジェットエンジンで。魔法が使えんのならば、科学を使えばよかろう」

 茫然。唖然。その発想はなかったわ。そう顔に書いてあった。



 時は戻って――――

  暗く寒く無機質な廊下を歩く。ここは地下深く。階層表示のないエレベータで延々と下り続けた場所。

「ここは何の施設なんだ?」

「始まりの地。もし未来のガイアに宗教があれば、聖地とでも呼ばれたかも知れんな」

 私は認めんがな、と、やっと見分けがつくようになった微笑みでエルテは話を切る。
 確かに、宗教的な遺跡と雰囲気が似ている気がしないでもない。だが、そんな遺跡と違うのは、非常に近代的であること、清潔であること、何らかの研究施設であることだ。
 保存状態のいい旧ベルカの遺跡に似ているが、ベルカというより、エルテが観ていた映画にあった地球の研究施設の方が近いように感じられる。

「既に気付いているだろうが、私は人ではない」

「…………」
「…………」

 僕も母さんも、何も言わない。人造魔導師、いや、それでもあり得ないほどの魔力。

「クロノは知っているな、偉大なる破壊神、ルーデル閣下を」

「ああ」

 偉大かどうかはわからないが、一応うなずいておく。その言葉には、ちょっとした悪ふざけが感じ取れた。

「私とアルトは、このガイアに人がいた頃に造られた、ルーデル再臨計画の為の、魂の器。長い時の中で、閣下の偉業は過大解釈され、文字通り『破壊神』と謳われ信仰の対象となった。過去に確実に存在し、遺伝子情報もあり、その人間とは思えん戦果を叩きだした人物。復活させれば、そして強化すれば、更に数を確保できれば、この大戦も勝てる。当時の人間はそう思ったのだろうな。私が女なのは、当時のここの所員の悪ふざけだ。最終的には、笑顔の素敵な閣下そのものの器が造られただろう」

 表情も口調も雰囲気も、いつもと変わらない。だが、一歩ずつ嫌な予感が増していく。

「過去の人間を現在に再臨する、それには非常に観測の難しい素粒子群による情報体が必要だった。人間のみならず、あらゆる生命にこれは存在する。高度な量子AIにすらあったという。これを当時の研究者は魂と呼んだ」

 魂。普通に聞けば、胡散臭く感じただろうその言葉は、何故かそうは感じなかった。

「結局、閣下の魂を再現する前にこの施設が強襲され、人は皆殺しにされ、自力で動けぬ私達だけが残り、封鎖された。瀕死の研究員が施設全体に冷凍睡眠を実施した。この施設の時は止まり……地上では大戦とそれによる汚染で人類は滅びかけ、そして人はガイアを捨てた。別の星へ旅立ったか、別の世界へ逃げたか……ああ、ここだ」

 壁一面の巨大な扉だ。幾つもの円柱で、物理的に開けられないようにしてある。おそらく大規模魔法であって破壊できないだろう。
 エルテはその扉そのものについている端末を操作し、金属のぶつかる音を立て、円柱が次々に引き抜かれ、扉は不気味な低い音を立てて開いてゆく。
 扉の向うは闇。未だ何も見えない。エルテも母さんも、動かない。
 人が入れるくらいに開くと、扉は止まった。エルテは、何も言わずに奥に進んでいく。その姿を照らすように、明りが灯いていく。

「!」
「…………」

 薄暗くとてつもなく広い空間に、延々と並んだインキュベータ達。その中に、裸の少年少女が浮いていた。眠っているのか死んでいるのか。

「私の子供達は、管理局の言う『違法な研究』で生まれた失敗作。死んだり弱かったり、生物として致命的欠陥があったり。あるいは兵器としてしか生きられなかったり、強すぎる力を制御できなかったり。私は名もなき彼らを奪い治療し蘇生して、普通に生きていけるようにする。限度はあるがな。この世界は、普通の世界ではまっとうに生きられない者達の、最後の楽園だ」

 エルテは、特に何でもないように先に進んでいく。エレベータや階段がある。まだ下の階層があるらしい。
 エレベータに乗り込み、更に降りる。今度はそれほど深くはない。
 降りた先はまた暗闇。今度は明りは灯かず、だがエルテの周りだけが明るい。

「管理局が知れば、ガイアは制圧されるだろうな。管理局上層部にとって、絶対知られるべきではないことを知っているのだから」

「どういうことかしら?」

「管理局が主導で行っている違法研究がある。無論、上層部が裏で行っていることだが……」

「なんだと! そんなこと!」

「黙っていろ、管理局の犬。組織を盲信するだけでは、いいように使われて捨てられるぞ。巨大な組織だ、暗部もあれば恥部もある」

「何故、そのことを?」

 一気に周囲が明るくなる。
 当然僕らは眼を灼かれて、しばらく視界を失う。

「これが、答えだ」

 眼が慣れるのを見計らってか、絶妙なタイミングでそのセリフを言う。まるで役者だ。
 薄れていた色が、形が鮮明になっていく。
 上とそんなに変わらない風景。延々とインキュベータが並んでいる――――

「これは!?」

 エルテと同じ顔の、いや、背も体形も何もかもがまったく同じ少女がずらりと並んでいる。

「人造、魔導師……」

 流石の母さんも茫然と、その光景から連想できる単語を呟いた。
 この光景がどれほどの意味を持っているか、どれほどの恐怖を僕らに与えたのか。『エルテ・ルーデル』と同じ、あるいは同程度の魔力を持つ存在が、ここには無数にいる。世界をあっけなく壊せる、そんな存在が。

「違う。戦略兵器だ」

 その言葉を口にするのにためらいもなく。その言葉の意味することの一切にまったく感情を抱いていない。
 戦略兵器。確かに、エルテが一人いれば、どんな世界もあっさり破壊、あるいは消滅させることができる。地表に存在する文明の一切を昇華させたりもできる。それが、視界に収まりきれないほどにいる。

「違法研究だ! これだけは、見逃すことは……」

「クロノ。私は説明と同時に脅迫している。今こうしている最中も、私は管理世界全てにアヴェンジャーの砲身を向けている可能性がある」

「だとしても、こんな非道が許されるはずがない!」

『これは、私の倫理に悖るものではない』

 同じ声が幾つか、同時に別の場所から聞こえる。声の主は見えず、しかし聞き覚えのある声。
 今まで静かだった培養層が、一斉に動きを見せる。すでに排水が始まっている。

「ここにいる私はそこに並んでいる私と同一存在。私の意思は一人だが、躯は一つではない。私は複数で個を形成している」

 排水が完了し、一斉にインキュベータのガラスが下がっていく。エルテ達の動きを阻むものは、もう何もない。

「私は一である」

『同時に、全でもある』

 インキュベータに立ったまま、エルテが一斉に言葉を放った。ずれて聞こえたのは、距離の問題か。

「例え私を捕えようが閉じ込めようが封じようが凍結しようが殺そうが」「一人でも私が存在する限り、エルテ・ルーデルは自由だ」「捕えられず閉じ込められず封ぜず凍結できず殺せず」「止めることすらできない強大な力と、把握すらできない膨大な数」「アースラのクルーに私はいるかもしれない」「リンディの上司は私かもしれない」「クロノの同級生かもしれない」「エイミィの初恋の相手」「レティの茶飲み友達」「クライドの友」「誰かの仲間」「誰かの家族」「汝の隣人を疑え」「私はどこにでもいるかもしれない」「そして、どこにもいないかもしれない」「エルテ・ルーデルは抑止力となるべき『絶対不変の恐怖』」

 まるで輪唱だ。次々に繋がる言葉は、綺麗な声で、だが言っていることの意味が、その声の美しさの一切合切を台無しにしてくれていた。
 まったく同じ、そこにある光も込められている意思も。聞かされただけでは理解できなかっただろうその光景、その意味は、その場に居合わせるだけで理解できた。洗脳や刷り込みなどというちゃちな小細工でこの光景は作り出せない。文字通り『同じ』なんだと。

「あなたの目的は何かしら?」

「幸せであってもらうこと。私の大事な人たちに」

「……なら、他の人がどうなってもいいと言うの?」

「ダウト。管理局の崩壊は、私の大事な人たちの不幸を意味する。ミッドチルダ。本局、地上本部、管理世界、管理外世界、未発見世界。その全てに私は存在する。そしてあらゆる人間関係を構築している。友、敵、仲間、同僚、戦友、etc...」

 『エルテ達』は一斉にどこかへ移動する。ばらばらに、一人を残して。一切の合図も、そこには見られない。だが整然と、一切の迷いもない。
 インキュベータは閉じられ、また液体が充填されていた。そのずっと向うに、エルテではない、歪んだ人影が見えた気がした。

「私は次元世界の状況をほぼ完全に把握している。フフ……Big sister watching you、といったところか」

 そのフレーズには聞き覚えがあった。そう、あれは……彼女に渡された小説の中。もしかして、いや、微妙に違う。

「君が世界を管理しようというのか!」

「みーえーなーいーしすたーがー、か。さすがクロノ、よく覚えている。だが、それはあまりに安易な発想だ。超管理社会系ディストピアの実現には、ある程度の『人類の意思の統一』が必要だ。長い時間をかけゆっくり洗脳する、武力制圧ののちに状況に慣れさせる、ほかにもいくつか方法はあるが、どれも次元世界全てを統一するには非現実的だ。要は監視だ、次元世界のバランスの、安寧のための」

 そしてまた、エルテは歩き始める。

「何故僕らに教えた? こんな秘密、管理局に知られれば困るんじゃないか?」

「『私』という存在を、管理局員が知ってしまった。管理局上層部は、私の存在を徹底して秘匿しようとする。異常な程の魔力量と出力を誇るリンカーコアを持つ、恐らく人造魔導師。恐らく、私がおとなしくしていればこの躯を調べ尽くそうと幽閉するだろう。反管理局組織などに私の情報が漏れれば、即座に行動を決するはずだ。今までとは比べ物にならない脅威が管理局にあるのだから、それが本格的に動き出す前にケリをつける必要があると考えるだろう。死人に口なし、残念だが上層部にとっては現場の人間など消耗品だ。消耗率の高い管理局なら余計に。アースラは任務中に事故で全員死亡あるいは行方不明。シナリオとしてはそんなところだろう」

「そんな……」

「力は強ければいいというものではない。適材適所、パワーバランス、この概念があって初めて国家間の安全はなされる。逃げる軽犯罪者相手に戦略兵器は使わんだろう。本当に強い力は、水面下でひっそりと作り上げていくべきなのだ。そして組織は秘密のために人を殺すものだ。軍であれ、企業であれ、管理局であれ。リンディは知っているんじゃないか? 不自然に死んだ同僚や部下、ああ、クロノも一人知っているかもな」

僕の管理局に対する信頼が、砂上の楼閣だったことを知った。そして楼閣は今、崩れ始めていた。
エルテの言う『一人』。もしかしたら、初恋だったのかもしれない、あの大人びた少女。

「今から調べようにも、既に何も残ってはいないだろう。私は全てを知っているが、一切の証拠はない。諦めろとは言いたくはないが、報復するのはやめておけ」

 今度は、床そのものがエレベータらしい。かなり広い面積が、ゆっくりと沈んでゆく。

「何故だ! エリーゼは!」

「同類になるつもりか」

 一瞬で頭が冷えた。

「それに、彼らはもう存在しない。報復は無理だ」

「殺した、のか?」

「いや。ただ、あまりに酷い連中は……」

 その先がひどく気になるが、僕の中の何かが、『それ』を訊くことをかたくなに拒んでいる。
 エルテもその先を言うつもりはないらしい。ちょうど、エレベータが止まる。
 シャッターで隔てられたその空間。5mはあるそれは、かなり広大なこの地下空間の中でも、かなり大きいことを示している。
 カタカタと、存外軽い音を立てて、シャッターが上がっていく。

「ここから先が、最後の秘密。プレシアの望み……だ」

 シャッターの先、そこには特に驚くようなものはなかった。円形の広間、外縁の壁一面に旧式のモニタとコンソール、そこに座るおそらくはエルテであろう人達。中央には巨大な機械が鎮座していて、それには空っぽのインキュベータが挟まれている。

「ここには何があるの?」

「11年前、私は取り返しのつかない失敗を犯した。災害からとある青年を救出したが、その後の処理を誤り、殺してしまった」

 エルテはいくつもある扉のすべてを無視して、何もない壁――――いや、あまりに巨大な扉に向かう。

「26年前、もはや私の手は届かない。ある母娘に襲いかかる悲劇、これは止めようがなかった」

 ガゴォン、ゴォンと、今までの扉とは比較にならないほどの重い音を立てて、その扉の戒めが解かれる。数多のシリンダーが順々に抜かれ、円盤が回転し、ゆっくりと隙間が開いてゆく。隙間は紅く光を漏らし、しばらくしてそれが光の格子であることに気づいた。

「この先は、たとえこの星を爆滅したとしても、この世界を破壊したとしても残る。ガイアで最も安全な場所だ」

 そして、ある程度開いて、扉は止まる。同時に、光の格子も消え、扉の幅の溝を足場が覆う。

「私は秘密裏に世界に介入し、誰にも知られず私の理想のために動く。そのためなら、世のコトワリにすら抗う」

 一切の迷いのないその眼。睨むようでどこか優しいその眼を、懐かしく思った。



 時が止まった世界で、私とクロノは戦う。

「物理法則を無視するだけでは魔力の無駄遣いだ。状況によって切り替えろ」

「くうぅっ」

 クロノを可能な限りエミュレートして、射撃戦から接近戦を交互に繰り返す。

「フッ!」

「がっ!」

 隙を見て、思いっきり頭部を殴りつけた。
 意識を失い、落ちてゆくクロノをだき抱え、地面に寝かせる。

「まったく。相変わらず頭が固い。多少はましになった、というところか」

 模擬戦を望んだから、軽く戦ってやった。クロノと同じ身体能力で、こちらは射撃魔法は使わず、機動戦のみというハンディキャップのもとでさえ、こうして勝てる。フェイクにフェイント、心理戦。予測と相手の反応速度。人間に存在するあらゆる盲点を突いた。
 人間は上方向の探知能力が極端に低い。あるいは、背後からの接近よりも。種としての欠点であり、気付きにくく、故に慣れにくい。
 そして可能な限り死角へ回り無音で上昇すれば、完全にロストする。

「数年。案外、長かったのかも知れないな」

 リーゼ達の訓練の形跡はしっかり残っていた。しかし、エリーゼの教えは片鱗が見え隠れするだけ。

「トラウマか。失敗だったな。所詮は子供か」

 あれから立ち直るには、受け入れるか拒絶するか。クロノは拒絶したのだろう。

「ラインの乙女と対戦させてみるか」



「――――管理局」

 そこにいたのは、あの悪の魔女チックな服ではない、普通の服を着て眠る娘を背負う紫の魔導師。

「やっぱり。説明してもらえるかしら?」

 リンディは私を睨む。次元犯罪者を目の前に、それをどうすることもできない現状に腹を立てているのか。あの時話さなかったからか。それとも別の理由なのか。
 クロノは珍しく黙っていた。
 プレシアには『問題ない、黙っていてくれ』と念話で伝えた。

「プレシアは、書類上は行方不明。そう処理されていたな」

「それがどうかしたのかしら?」

「訂正しろ。死亡だ」

「ここにいる彼女はそうは見えないのだけど」

「フフフ……一切の問題は存在しない。ここにいるプレシアは、諸君の知っているプレシアとは別人。そういうことになる」

 モニタが、エルテとリンディの間に現れる。そこには、『生命還元法に関する実験と結果』というタイトルの論文が映し出されていた。

 ――――死者をそのまま蘇生させるのは難しい。ならば、どうするか。生きている、あるいは生きている状態に近い存在に、死者の記憶・魂を定着させればいい。先人の記した『生命還元法』により初めは――――

「生命、還元法?」

「プレシアが望み。いや、大切なものを失った誰もが望み、実現できなかった。だが、かつてのガイアでは、あるいは可能だったのかもしれない」

――――生物には、素粒子の集合体による情報体が存在する。ここではこれを『魂』と呼称する。生物の死後、それはどこかへ霧散してしまう。これをなくして、死者を甦らせることは不可能だ。例え躯が医学でいう『生存状態』にあったとしても、情報体『魂』がなければ、そこに対象の意思・性格・個性などの再現はできない。これは後述の実験により――――

「死した個人の、生きた完全なコピー。プロジェクトFに似てはいるが、しかしこれは魂の存在が前提となる。そして、コピーのための生きた素体が必要だ」

――――この『ルーデル式生命還元法』は、正しくは生命還元法ではない。故人の意思・性格・記憶を別の器に移植するものである。故に、新しい器となる生きた人間が必要であり、その躯を故人と同じ容姿にする必要がある。これは精神と肉体の齟齬を無くすためであり――――

「その、素体。『あなたの子供達』を使っている、だから蘇生した人は別人、そういう理屈かしら?」

 リンディの言葉に怒気が含まれていた。

「惜しい。私の子供達は代替不能だ。あの子たちは救われなくてはならない。素体にしては、何のために助けたのか判らない」

「だったら、誰を?」

「量産可能かつ代替の存在する個人。私以外に適役はいないだろう。生命還元法に必要な、平均的な魔力炉5基分の魔力出力も賄える。なにより、元より私の躯は消耗品だ」

 蘇生のためのイケニエ、そう言うとまるでファンタジーの魔法だな。

「ここにいるのは、プレシアとは別人。そして彼女の存在には違法性がない。そういうこと?」

「概ね、その認識で合っている。ただ、違法性はある。管理局の法ではな」

「ここでのことで法には問えないわ。爆薬に火種を持っていこうなんて、そこまで馬鹿じゃないもの」

「私は爆薬扱いか。まあ、それほど間違ってはいないが」

 先程の脅しを、充分に理解できている。あなたの隣人は戦略兵器かもしれません。デモンストレーションと同時にそんなことを公表すれば、ミッドチルダはパニックになるだろう。いや、管理世界・管理局までも。

「まあ、あなた達なら、いつでも歓迎しよう。シルヴィ元帥に言えばいつでも来れる」

「やっぱり……シルヴィ元帥は」

「地球の動物学者が聞いたら笑うだろうな」

 プレシアの方を向く。いつの間にか、クロノと何か話していた。

「そう――――ね。目的はエルテが果たしてくれたもの。あとは、アリシアとここで静かに暮らしていこうと思うわ」

「フェイトは……どうするんだ」

「あんなことを言ってしまったのよ? どんな顔して会えばいいの? そもそも、死ぬはずだった私からあの子を解放するための芝居だったのに……」

「…………」

「フェイトは、全て知っているよ。私が教えた。プレシアの真意も、アリシアのことも、フェイトの存在も、フェイトの過程における失敗作のことも」

「は?」
「なんですって?」

 爆弾を投下した。



 一日がもうすぐ終わる。浄化済みの大地で、同じ顔の少女たちが元気に駆けずり回っている。
 それを、プレシアが複雑な表情で見ていた。

「まさか、庭園を回収しているとはね……」

「使えそうなものはなるべく回収している。それに、プレシアの『娘たち』も、蘇生の対象だった」

 金髪で鮮やかな紅の眼。それはフェイトに、アリシアによく似ていた。

「どうする? 私の子として預かるか、プレシアの子として育てるか」

「私が……育てるわ」

「そうか。アリシアは、眼が醒めるまでもう少し待ってもらうことになる。フェイトは……裁判をクリアしてから、だな」

 蘇生して未だ眼を醒まさないアリシアは、プレシアの背で寝息を立てている。こうして見ていると、ただ遊び疲れて眠っているようにしか見えない。

「……フェイトには、会えないわ」

 全てを諦めた、まるであの時と同じ顔だった。

「一度だけ会ってやれ。罪滅ぼしがしたいのなら、それからだ」

「そう……なら……一度だけ」




《あとがき》

 これで本当に無印は終了です。
 答え合わせ、ネタバレ編でした。説明ばかりですね~。力量が足りないのを思い知らされます。
 時系列としては、アースラがガイアに上陸してから、本局へ旅立った後の話になります。
 アースラクルーを身内に引き込むためのフラグです。
 残念ながら、クライドはまだ隠されています。彼が表舞台に出られるのは、まだまだ先、StSくらいですかね。
 ちなみにガイアの研究施設にはまだまだ秘密があります。今回ハラオウンズに見せたのはまだまだ片鱗です。ルーデル機関の秘密はこんなもので全貌は明らかにはなりません。
 では次回、A's編をお楽しみください。



 あ、ちなみにタイトルが違和感なくなる魔法を見つけてしまいました。

 手にしたのは、破壊の力。
 得たものは、無限の兵力。
 そこには私の意思しか存在しない。そして私は未来を知っている。
 (原作)破壊少女、デストロえるて。はじまるぞ。

 うん、これならぴったりだ。
 ということで、これからも破壊少女デストロえるてをよろしくおねがいします。



Jun.9.2010

 27との矛盾を修正。
 ついでに少し書き足し。



[12384] 29変わりゆく日常
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/07/04 05:13
 平穏が戻ってきた。
 なのはは復学し、八神家に居候していた私ははやてをルーデル屋敷に招待し――――それくらいしか変わったことがない。
 だから平穏というのだ。今も世界のどこかで、どこかの世界で、私は一方的にもほどがある蹂躙を演じている。

「……それでだ。人類の反応速度であの超機動を捕捉することは私は不可能と判断した。よって、こちらもAIシステムを開発し、超機動を実現しようと考えたわけだ」

「結局敗北宣言よね、それって」

「機械に、頼って、生きていこう」

「あはは……」

「でも、どう頑張っても倒せないよ?」

「アセンはどうするの?」

「コジマかアサルトにツインとっつきで超接近戦即死アセンといったところか。月光も考えている。スナやレール以外は避けられるように、軽量超機動機だ。背中肩武器なしで追加ブースタつけるのもいいな」

「それってアタシを開幕瞬殺したトンデモアセンじゃない!」

「私も一瞬でやられちゃったアレ?」

「レールガンが当たらなかったの」

 平穏で、そして欠けていたものが戻ってきたからこそ、いつもの面子でこんな平和な会話ができる。
 それにしても、アセンは性格が出るな。
 なのはは長距離砲撃系でスナイパーライフルやレールガン、コジマキャノンにアサルトキャノンを好む。社長砲も時々使う。滞空機としてはかなり重い機体構成で来る。普通にとっつける。
 アルトはガチタンスナオンで、上半身は射撃安定や精度に特化したアセンだ。距離1000以上を常に保ち、距離900を切るととOBで逃げてしまうから時間がかかる。
 すずかは、基本軽量機で、ブレオンやショットガン、マシンガンと接近格闘戦に特化している。すずかが一番戦いづらいな。
 意外なのがアリサで、チューンド社長用雷電。いや、ある意味似合っているのだろうか? 時々GA腕に変えて有澤グレ2門を持ってきたりするが。――――あ、『アリサわ』か。なるほど。

「あれならいけるかもしれないね」

「あれでいけなかったからAIに手を出すんだ」

「ふぇ? あれで勝てないの?」

「アンタの反射速度で追いつかないって……コンピュータって凄いわね」

「なのはのコジマアセンなら一撃必殺だが……当たらないからな」

「撃ち負けはしないの。当たるのであれば」

「渡されたのは、変態ネクスト。受け取ったのは、緑の心。信じたのは、砲撃の威力。手にしたのはコジマの力。全てを緑に染めたくて、だけどそれは当たらなくて。だけどくじけずにコジマキャノン! 『コジ魔』砲少女アルギュロなのは、始まります」

「ふええええええ!?」

「まさになのはね。1.15の」

「あはは……否定できないよ、なのはちゃん」

「名言だもんね、おねえちゃんに『当たるまで撃つの!』は」

「発射の呪文は『アルギュロ! ソルディオ!』で決まりだな」

「アルセニコン? インソーレンス? レサルドース?」

「ソルディオスオービットは?」

「私そこまでコジマ汚染されてないの!」

「嘘ね」
「嘘だよ」
「嘘だねー」
「嘘だな。ところで、だ」

 さすがに気になって、話題を元に戻す。

「進んでいるか、なのは」

 びくり、となのはが固まる。
 長く休んでいた分の学業の補填として、結構な量の課題を出されている。それを処理するためにアリサ、すずかは我がルーデル屋敷に集まり、計4人でなのはの苦手な文系科目を手伝っているのだ。理系科目はことごとくを早々に終わらせたが、文系は徹底して苦手ななのはは応援要請を発したのだ。

「あ、あははは……」

「悪かったとは思う。なのはをおいて雑談に興じた我々をなのはは断罪する権利があった。しかしだ、それに参戦するということは、なのはも同罪だということ」

「うっ……」

 アリサがバツが悪そうに顔をしかめる。

「さあ、再開しよう。言語など、何が言いたいかを理解すればいい。なに、小学校の国語で言外に込められた意味、行間を読むことなどほとんどない」

「なんでアンタはそう難しいことができんのよ?」

「ラノベから学術書まで。難解な小説をいくつか読めば何となく理解できるものだ。漢字検定準2級くらいの知識があれば、たいていの漢字は意味を知らずとも理解できる」

「うう……難しいの」

「諦めるのか。そこで。手が届くというのに」

「え?」

 私の声音が変わったのを感じ取ったのか。抱えていた頭を解放し、なのはは私の方を見る。

「理解することを放棄して、得られることは何もない。要は――――」

 一呼吸おく。

「難しかろうがやる気がなかろうが、あと75時間以内にそれを完遂しないといけないということだ」

「わかってるの……」

 へちゃ~っとうなだれるなのは。ううむ。これはまずい。

「しかたないか。全力を以って判り易く教えよう」



 なのはの頭から煙が出ている。
 しかしその前には、完遂された宿題が存在した。
 時間にして、7時間。文字通り朝から晩まで。今日は全員ルーデル屋敷に泊まるつもりだから問題ない。

「よくやった」

「あうー」

 過冷却気味に冷やした鬼のように甘いアイスティーと、額に張られた冷却シート。ストローで吸い込むなのはは、口の中でシャーベットになる感触に眼を白黒させる。

「これで存分に遊べるわけだ。準備はいいか?」

「負けないの」

「今度こそアンタに有澤グレの恐ろしさを教えてやるわ!」

「お手柔らかに、ね」

「今日はおねえちゃんにつくよ」

「え」
「げ」
「?」

 かくて、破壊神姉妹(デストロイシスターズ)と白百合戦乙女(リリウムヴァルキリーズ)の戦いが幕を上げた。
 ちなみに、破壊神姉妹はアルト命名、白百合戦乙女はアリサ命名である。
 以下、ダイジェスト。

アリサ「くぅ! 避けた!」
エルテ「甘い」

 月光をQBで避けたアリサに、QTで背後からもう一度斬りかかろうとするが、

すずか「チャンス!」
アルト「援護するよ!」
すずか「わ!?」

 すずかに近寄られ、離脱せざるを得ない。何せ今回のすずかは背ロケを搭載しているのだ。
 QBで回避、OBをしようかというところでアルトの長距離狙撃がすずかに当たる。

なのは「ロックできないの!」
アリサ「ロックなんていらないわ!」

 なのははコジマキャノンをフルチャージできたらしいが、QBで動き回る私にロックが安定しないようだ。
 しかし、アリサが社長砲と腕グレを放ち、私は爆風に巻き込まれ少しだけAPを削られた。

エルテ「爆風、厄介だな……捉えた」
なのは「すずかちゃん!」
すずか「やられちゃった……」

 私をとっつこうと接近したすずかを、逆にツイン月光で斬り裂いた。
 軽量機にAKとっつき背ロケというアセン。脅威ではあるが、一度当ててしまえば即死だ。

アリサ「すずかぁぁぁぁぁぁ!!」
エルテ「アルト、なのはを落とせ」
アルト「わかった!」

 白いコジマの悪魔は、アルトの狙撃をどうにか避けている。しかし、アリサとなのはに分散していた攻撃がなのはに集中し、被弾率が高まっていく。
 その隙に、アリサに接近し、

アリサ「なめんじゃ……ないわよ!」
エルテ「零距離老神だと? くそ、硬直が」

 超至近距離で社長砲を食らった。幸運にも、直撃はしなかったようだが最悪なことにAPが残り3桁だ。

アリサ「アンタは近づかないと攻撃できないのは判ってるのよ! なのは!」
なのは「コジマの威力、思い知るといいの!」

 発射タイミングを測っていたなのはが、被弾硬直の私にコジマキャノンをぶっ放す。ついでにAAまでしていった。普通にライフルで即死できたが、私の残りAPを見ていないか、日々のうっぷんを晴らすためのオーバーキルか、たぶん両方だ。

エルテ「素晴らしい連携だった。だが」
アルト「えい!」
なのは「ごめん、アリサちゃん……」
アリサ「グレネード!? そんな!」
アルト「アリサだって、格納グレ使うじゃない。おねえちゃんで油断したのが敗因よ!」
アリサ「ばかなああああああ!!」

 意外に策士だったアルト。タンクの格納にSAKUNAMIと月光を搭載していた。
 腕スナをパージして、接近戦もできるガチタンに変貌を遂げる。なのはを先に倒したのは、機動性の低いアリサを月光で叩き斬るためだった。

「うふふふふふふふ」

「ついに……」

「エルテちゃんを」

「倒したよ!」
「倒したの!」
「倒したわ!」

「アルトにやられたがな」

「そんな小さなことはどうでもいいわ。長年勝てなかったライバルを落とせたことに意味があるのよ!」

 うんうんと頷くなのはとすずか。

「ならば、カーパルスをとっつきで落とした我の本気、見せてやる」

 禁断のノーロック超機動射突ブレードオンリー機。ひたすら当てづらいが、当たればガチタンですら即死の究極の最先端鋭角兵器。

「い、いや……」
「なんでそうなるのよ!」
「遠距離からやればどうにか……」
「え? もしかして私もおねえちゃんと?」



 平穏だった。
 この世界だけは、私の周りだけは、今だけは平穏だった。
 だが、爆弾が存在する。この海鳴という場所は人外魔境であり、危険域である。私が関与しているだけでもジュエルシード、夜天の書という事件がある。HGSという遺伝子疾患が存在するのだったか。妖狐や幽霊、魔法も存在する。最近は魔王候補と魔王が増えた。
 戦闘民族高町家、夜の一族に関与する月村家、政治経済の裏表に莫大な影響をもたらすバニングス家、そして我がルーデル家。勢力としてはこれほど敵に回してはいけない存在があるだろうか。

「やはり、海鳴は……」

『何者かの意思、あるいはその土地柄という呪縛と考えられます』

 そのことを教えると、何も知らない、何も教えていないエイダは、妥当な推測をする。私は、エイダをからかう。
 世界があるから誰かは物語を書くのか。誰かが物語を書くから世界が存在するのか。結局は、この2つの答えのうちのどちらか、あるいは両方。

「もし『何者か』であれば、想像を絶する強大な力を持っているな。世界は変わる、くらいに」

『これほどオカルティックな存在が存在するならば、神が存在してもおかしくはないかと』

「神。その通りだな。面白そうな要素を無理矢理詰め込んでミキサーでかき回したらどうなるか、楽しんでいる?」

『飽きたら何かを追加して、刺激を楽しむか』

「思考を読むな。確かにそうかも知れん。エヴェレット解釈とかを考えても、存外その説は的外れでもなさそうだ。神はいるかもしれない、いないかもしれない。シュレディンガーは神様を否定できん。観測できないものは『ある』『ない』の両方が存在するか、その状態の世界に分岐するか」

『どのような存在を神とするかにもよりますが』

「そこらの宗教が望むようなものではないだろうな。勝手に祈ろうと数億の人類を救済する義務も義理もない。暇潰しに世界を創ることのできる存在かも知れん。あるいは、そうとは知らずペンを持っている上位世界の人間かも知れん」

 正史を知っている身としては、この世界は二次創作に該当するだろうと判断できる。ペンを持っている誰かは、世界に操られているのか、世界を操っているのか。私は、前者であってほしいと願う。

『抗いますか?』

「どんな物語も往々にして、サブや敵キャラが創造主やそれに類するものに反抗を企てるとその時点で死亡フラグだ……この意思すらも、あるいは奴の制御下にある可能性がないとも言えん。流されるべきだ、今はまだ」

 そう、今はまだ――――



 世界はそれなりに平穏だった。かつてまでと似て非なる日常は、時折壊れながらも『日常』の名の通り元に戻っていく。少しだけ、壊れる前とは変わりながら。



「Goodluck、なのは」

「うん、また明日!」

「また後でね!」

 今日はなのはとアルトが別行動だ。魔法の訓練もとい練習でガイアに向かうのだ。私もついて行ってもいいのだが、ガイアにはどうせ私が無数に存在する。教官役は充分なのだ。アリサとすずかと一緒にいることを選んでも、そう変わることはない。

「そういえば、なんでアンタは別れ際にGoodluckって言うのよ?」

「Goodbyeだと縁起が悪い。戻ってこれなくなる。See youは気に食わん。また逢えるように願うようなニュアンスを感じる。ならばまた会えることを前提に幸運を祈るのが最良ではないかとな。まあ、おまじないみたいなものだ」

「エルテちゃんもおまじないって信じるんだ」

「日本人はゲンをかつぐ生き物だ。所詮迷信と鼻で笑っても、ジンクスには従うような者はよくいるだろう」

「そういえば……ってアンタ日本人……だっけ?」

「ちゃんと日本国籍を持っているぞ」

「そういえば独系日本人だったわね」

「うむ。勤勉かつ変態国家を両親に持つニュータイプだ」

「へん……たい?」

「すずかは知らなかったのか? ヨーロッパ方面は存外変態的な趣味嗜好を持つ者が多い国家が多い。そのうちドイツはかなりエグい方に――――」

「ななななななに言ってんのよ!」

「フフフ……アリサにはまだ早かったか。まあ、思春期を超えるころにはそういう話にも慣れる。それに、興味がないわけでもなかろう」

「う……ないわけでも……」

「……で……それが……」

「え……うわぁ……そ、そうなんだ……」

「って、そこ! なにしてるかー!」

「お子様な不思議の国のアリサを放置してすずかとドイツの一般風俗についての詳細を」

「な、な、な、な、な……あ!」

 頭に衝撃が走ったのと、アリサの驚きに満ちた声が聞こえたのは同時だった。

「きゃムグッ!?」

 緊急事態に反応した私が、ヘルゼリッシュで私が倒れるところを、アリサとすずかの口が塞がれるのを、通りがかった車に私ごと放り込まれるのをしっかりと確認した。人数、服装、特徴、車種、ナンバープレートも確認。
 鮫島の車は……成程、足止めされている。かなり計画的だな。問題は、私というイレギュラーが存在したことか。
 完全に意識が途切れたのか、感覚が切れた。回復するまで動かさないのが得策だろう。下手に動かして死んだら、いたいけな少女のグラスハートに割れんばかりのトラウマを刻みつけかねない。

「さて」

 初弾を装填する音が、一斉に、同時に響く。

「存分に後悔させてやろう」



 ここは海鳴の隣の廃病院。何故わかるか。それは海鳴周辺の地理をほぼ完全に把握しているからだ。眠らされもせず、車の走った時間からだいたいの位置を把握できる。遠回りしたとしても、海鳴にこんな廃病院はなかったはずだ。
 バニングス家は大きくなるにつれ、かなりの恨み妬みを向けられている。鮫島の送迎もそれを危惧してのことだった。鮫島が来ない、ということは偶然が重なって空白ができたとは考えがたい。そして、エルテを手加減なしで気絶させることから、かなり私の周囲を調べていると考えていいだろう。たぶん、エルテはここにいる三人の中で最も厄介な存在だから。

「大丈夫?」

「……頭蓋内に出血はない。脳振盪だけだ。意識はそれなりだ。SISにさえ気をつければ死にはしないだろう。まあ、何があろうと私は死ねないんだが」

「どうしてそんなに冷静なのよ……」

「取り乱したら、アリサとすずかを護れない。といっても、このザマだがな。多少頭が回れば、打開策ができるかも知れん。考えることをやめたら、先には崖しか残らないよ」

 いつだってエルテは合理的だ。私と同い歳とは思えないくらいに。
 そして、私たちを護ろうとしてくれる。

「何か言い案でもあるの?」

「結論。待つしかない。寝る。何かあったら起こしてくれ」

 落ち着き……過ぎない?

「……寝ちゃったね」

「なんでこう平然とできるのよ」

「心配かけたくないからだと思うよ」

 すずかはその手を握っている。一切の力がない、ふにゃふにゃとした手。文字通り躯に力が入ってない。
 エルテは『脳振盪だから大丈夫』と言ったが、絶対違う。

「わかってるわよ、そんなこと……」

 すずかが手を握っているのは、脈を常に測るため。気づいたら冷たくなっていた、なんて映画の悲劇みたいなのは冗談じゃない。

「絶対、3人無事で帰るわよ」

「……うん」

 このまま待っていれば、助けが来る。エルテも助かる。そう、思っていたのに。

「こいつか。よし、連れてけ」

「エルテに何すんのよ!」

 男たちが、死んだように眠り続けるエルテを部屋から連れ出そうとする。何かあったら起こせと言っておいて、これだけ騒いで起きない。不安だった。
 エルテにしがみつき、必死で抗うが、

「ああくそ! うっとうしい!」

 口元に布を当てられ、意識が――――



 アリサちゃんが眠ってしまった。エルテちゃんはどこかへ連れていかれた。
 本当は、助けられた。私が本気を出せば、大人だろうと簡単に倒せる。
 だけど、アリサちゃんにもし……もし、嫌われたら。私の正体を知って、拒否されたら。そう思うと、躯が動いてくれなかった。

「アリサちゃん……」

「…………」

 返事が返ってくるはずもない。息はしているし、脈もあるからただ眠っているだけ。
 起きたら……暴れるかもしれない。怒りの発火点の低いアリサちゃんは、エルテちゃんが連れ去られたせいで一気に燃え上がってしまうはずだ。今までおとなしかったのは、エルテちゃんがいてくれたおかげ。エルテちゃんはいつも……冷静だ。燃え上がりやすいアリサちゃんと、いつもクールなエルテちゃん。案外、いいコンビなのかも。
 でも、私がためらったせいで、それは見られなくなるかもしれない。もし、やつらがエルテちゃんに酷いことしたら……



 どれほど時間が経ったのか、携帯を奪われ、時計もないこの部屋じゃわからない。
 アリサちゃんは眠ったままで、扉の外には物音一つしない。だけど、少しだけ変化があった。
 何故か、背筋が寒くなる。
 怖い。

「アリサちゃん! 起きて!」

 もし何か起こっているのなら、アリサちゃんが眠ったままというのは危ない。必死に揺すって起こそうとする。

「……う……あ……? すず……か?」

 目が覚めた!
 私に気づくと、突然起き上がり

「エルテ! エルテは!?」

 私は首を振るしかなかった。



 私が、壊れている。
 意識が消え去るその瞬間まで四肢の感覚がなかったのが救いか。今ではその四肢もないが。
 小脳に致命的ダメージを受けていたその躯は、放っておいても死ぬはずだった。脅迫の材料に使うには、私という存在がいたのは彼らにとって幸運だったのだろう。異常に頑丈な私の躯は、それでもなおしばらくは生命活動を続けることはできたが、流石に強姦され四肢を切り落とされ首を刈られればさすがに死ぬ。
 廃病院を完全に包囲。デビッドと忍には連絡済み、そして、これから起こることも伝えてある。今回のイレギュラーは、私の怒りにニトログリセリンを大量に注いでくれた。もみ消しは充分にやってくれることだろう。
 今回はいい転機だった。私の正体をばらすには、何かきっかけが欲しかった。

「レツパァリィィィィィィィ!」

 歩哨の脳天に一発、炸裂弾を叩き込む。こいつは切り落とした左腕で存分に楽しんでいた変態だ。
 一人が死ねば、騒ぎになる前に眼を全て潰す。歩哨の何人かはちゃんと死体が残ったが、ほとんどがミンチと化していた。30mmガトリングを念入りに四方八方から十字放火されれば当然の結果だ。死体が残ったのは比較的近くでヴュステファルケや刀剣類の射程内だった連中のみ。

「Clear」

 たとえ伝える相手がいないとしても、声に出して確認することは重要だ。

『No tangos in sight』

 エイダがクリアリングしてくれる。

『ノスフェラトの使用を提案』

「……奴らには存分に恐怖を味わってもらいたい。却下だ」

『拷問でも?』

「発売中止になった静岡を参考にしてみるか。あれはえぐかった」

 軽口を叩きながら、ゆっくりと一部屋一部屋をクリアしていく。誰かいれば、そこでゲームオーバー。この世から、そして息をお引き取り願う。

「やあ諸君。お疲れさま」

 どぅん。

「Guten tag」

 ぱらららら。
 あちこちから挨拶と銃声と悲鳴。生命反応が消えてゆく。

「貴様! 月む」

「ん?」

 撃ち殺す寸前、男の一人が何やら言っていたが、時すでに遅し。
 月む……月村だな。やはりこいつらはアリサではなくすずかを狙った誘拐犯だということか。脅迫材料にアリサが使われずによかった。
 しかし、こうなったら本当に殲滅するしかない。こいつらは法で裁きにくい。夜の一族、これは一般に世界の表側に出てはならない存在。裏側で、人知れず処理するしかない。

「結界張って正解だったな」

『えげつないですね』

「大切なものを護るには、時に残酷にならざるを得ん」

「うおおおお!」

 うまく私の隙を突いて、廊下まで逃げてきた男がホウコウしながら突進してくる。

「それに……」

「死nがはぁっ!?」

 その左胸を、心臓を右腕で貫いた。

「結局殺すんだ。えげつないもクソもない」

「お……のれ……」

 まだ動く。頭を踏み潰した。

「記録は?」

『抜かりありません』

「後で忍に顔写真でも提供しよう」

 最後の生命反応が消えた。変に化けてでないように、魂を砕いた。素粒子情報体である魂は、意思が強ければ強いほど、器を失ってからも存在を許される。例外もあるが。

「…………」

『……助けられませんでした』

 狭い部屋で、白濁した液体と紅い液体にまみれた幾つかの肉塊を見つけ、エイダが謝るようにつぶやく。

「いい。エイダが感覚を完全に遮断してくれたおかげで、ほとんど何も感じなかった」

 麻痺していたとはいえ、わずかに感覚は残っていた。躯が蹂躙されても、それほど辛くはなかった。不快ではあったが。

「死体を処理して、帰ろう。後はバニングス家と月村家に任せよう」

『ランナーはどうしますか?』

「そうだな。手当されていたことにしよう」

 奴らはそんな優しい存在ではない、むしろ正反対だった。しかし、カバーストーリーとしては妥当だろう。どうせ、それを証言できるのは誰一人いないのだから。
 肉塊を分解する蒼の炎に照らされながら、私はレクイエムを唄っていた。



 それから、デビッドに連絡してアリサとすずかを迎えに行かせて、忍に敵を殲滅したことを伝え、全員の顔写真と記録したフラッシュメモリを渡した。
 ここで予想外だったのが、デビッドと忍が私の正体を二人にばらしたことだ。センチュリア、説明が難しいこの『エルテ・ルーデル』という存在を正しく伝えられたかは微妙だったが。そしてすずかも、アリサと私に『自分は夜の一族だ』と宣言してしまった。
 こうして、図らずも3人だけの秘密とやらができてしまった。私もすずかも、いずれなのはに教えるつもりだが。
 あの誘拐事件はなかったことにされた。警察にも届け出ていないし、被害も皆無。犯人はこの世から消滅している。また、私と忍の努力の結果、同じ勢力がすずかを誘拐しに来ることはない。永遠に。



『いらっしゃいませお嬢さま』
「――――! ――――!」
「アリサちゃん……そんなにっ……笑わなくてもっ! あはははは!」

 メイド服姿の私が、メイド喫茶っぽくルーデル屋敷で振る舞ったり。



「急降下爆撃」
「きゃああああああああああああああ」
「アリサちゃん、楽しそうだね」

 ガイアで空の散歩を堪能してもらったり。



 平穏な日常は、少しづつ形を変えながらも、続いていく。



《あとがき》

 何故か最終回っぽくなった。
 なのはが最後の方ハブられていますが、アリサとすずかとエルテの絡んでいるところをピックアップしているだけで普通に遊んでいます。

 今回、多少わかりづらいネタがありましたかと存じます。
 南陽 CM
で検索するとナイスな動画を観ることができるでしょう。
 あれはすばらしいセンスだ。
 というかACfAネタ、しかもオンライン対戦のネタを出してすみません。
 ラインの乙女はACfAでパケット解析してAI機をつくろうという試みで、機体が恐ろしく速いです。ロックできません。
 ニコ動などで動画が上がっているのでその凄まじさを知りたい人は見てみるといいです。

 エルテは己の手を汚すことをためらいません。初めて殺人描写が出たかとは思いますが、エルテの殺人はこれが初めてというわけではありません。
 それはおいおい、外伝か何かで語ろうと思います。クロノが関係していたりー。

 エルテの意外な弱点。とまあ、脳に振動食らえばどれだけタフだろうと普通に前後不覚になるらしいです。脳だけは鍛えられませんから。不意討ちで後頭部殴ったり顎を斜め下から殴ると大抵しばらく動けなくなります。実際に経験したので確かです。
 SISとはセカンドインパクトシンドロームの略で、脳振盪を起こした後、数週間以内に再び脳に衝撃を受けると死亡しやすい現象のことで、ラグビーの試合で頭にダメージ食らったら数週間出場停止とか、ボクシングで試合の間が数週間とか取られているのはこれが理由です。

 少しだけ、新しいことに挑戦。エルテがちょっとひどい目に遭っていますが、躯なんて消耗品、エルテが生きてりゃ儲けモンな思考ですから。

 さて、次回はVS都市伝説な短編です。
 短編ですので近いうちに上げられると思います。
 ではでは。



[12384] Ex1非日常に悪ふざけの花束を
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/07/19 21:11
「Ja」

『私、メリー。今、駅にいるの』

 懐かしい。それは都市伝説だった。画期的通信手段たる携帯電話、その利便性を効果的に利用した恐怖。
 都市伝説とは、現実にあるかどうかわからない、もしかしたらあるのかも知れない話と、怪談のような物語じみた話に分けられる。しかし、所詮は伝説。架空の出来事に過ぎないが、しかしここは海鳴、あり得んとは言えない。

「そうか。どこから来た?」

 切られてしまった。
 03の履歴を見ると、そこには知った名前しか存在せず、非通知やナンバーのみの履歴は存在しなかった。
 駅。翠屋付近だ。ハンナが働き、駅周辺には最近セーフハウスを作った。とりあえず広域探査を実行するが、該当する反応は存在せず。

『なにかありましたか?』

「都市伝説だ。歓迎してやらないとな」

『会話から察するに、いわゆるメリーさんという都市伝説が該当しました』

「そうだ。面白いことに、履歴に通話記録は存在しない」

『03のシステムを監視します』

「ああ、頼む」

 私は広いダンスホールへ移動する。十何人か、私が集まる。

『何をするつもりですか?』

「ふと思いついた、アンチ・メリー・フォーメーション」

 陣形を組む。
 何があってもいいように、アヴェンジャーやヴュステファルケを装備する。
 そして、待っていたコール音。

「Jmma」

『私、メリー。今、あなたの家の前にいるの』

「そうか。一応注意しておくが、庭の隅にある石碑は絶対調べるな。いいか、絶対調べるなよ」

 返事はない。しかし、最後までちゃんと聞いてくれたようだった。

『相手の発信源を特定しました。普通の携帯電話です。ただ、履歴は特定不能な妙な力によって通話終了と同時に削除されています。数kBのパケット通信も確認しました。GPSによるこちらの位置特定の可能性あり』

「特定不能な力か。夢があるな。楽しみだ」

 そしてコール。

「Ja」

『私、メリー。今、あなたの家の玄関にいるの』

「ルーデル機関、エルテだ。歓迎しよう。ルーデル屋敷にようこそ」

 これは私が言うべきセリフではなく、どちらかといえば元が人形であるというメリーさんがいうべきセリフだろう。『メルツェルの将棋指し』的に考えて。

『…………』

 今回は切るまで、多少の時間があった。

「フフフ……感想を聞いてみたいものだ」

『相手の電話番号及びGPS情報を取得。玄関、突破されました』

 同じ顔、同じ姿、同じ服がずらりと並ぶ玄関ホール。一糸乱れぬ極めて機械的な『いらっしゃいませ』は、アリサは愚かすずかまでも泣かせた実績がある。

「ナイスワーク。素晴らしいタイミングだった」

『人形屋敷ですか』

「メリーさんは存分にもてなさないとな。都市伝説に失礼だ」

 ダンスホールの人口密度が増えていく。それでも、それなりの規模のパーティー会場としても使えるようにやたらと広いそこは、まだまだキャパシティが残っている。
 そして、予定の人数最後の一人がダンスホールに収まり、扉が閉められた。
 しばらくして、コール音。

「Ja」

『……わ、私、メリー。今、あなたの部屋の前にいるの』

「私の部屋には誰もいない。ダンスホールに招待しよう」

 今度はこっちから切ってやる。メイド姿の私が、私の部屋の前を通りダンスホールへ向かう。
 通話を切ると同時に、ダンスホールの私は唄い始める。『暗い日曜日』を、アカペラで。
 そして、コール音。

「…………」

『私、メリー。今、ダンスホールの前にいるの』

「…………」

 今度は無言。いや、エイダに頼んで妙なノイズを流してもらっている。
 しばらくすると切れた。
 そして、しばらくもしないうちにコール音。

《エイダ。例の結界を》

[[Ja]]

 通話ボタンを押す。一斉に、歌が止む。

『わ、わ、わた、私、め、メリー。いいい今、あなたの後ろにいるの』

「そう。どの私の後ろ?」

『ケータイ持っているあなた!』

「そう。私には」

『私の背後に誰も見えないのだけれども』

 私を取り囲んでいる私が一斉に言い放つ。同時に、世界が変質を始める。
 壁、床、天井、全てが赤く錆びた金網になり、壁の向こうには得体の知れない肉塊や怪物、そして深い不快闇。

『え? な、なにこれ!?』

「ようこそ、悪夢の世界へ」

 メリーさんへ、視線が集まる。エイダが存在を解析して、その姿を露わにする。そして、彼女のターゲットであった私が振り向き、その肩を掴む。

『ようこそ、メリーさん』



 超ホラー結界『サイレン・ヒル』はサイレンとサイレントヒルのどちらかをエミュレートできる結界だ。霧に闇に視界が少ない中で、精神を罪悪感や恐怖のヤスリでがりごり削るような悪夢のような結界だ。ただ、罪を犯していないものに対しサイレントヒルをエミュレートしてもただの結界にしかならない。いわゆる『表世界』だ。

『ふええええええん』

 泣かせてしまったメリーさんを、表世界の食堂であやす。厄介なことに、電話を介さないとその言葉を聞けない。
 どうにか聞き出せたことから推測したのは、このメリーさんは都市伝説により生み出された存在らしいということだ。魂に似た素粒子情報体、普通ならば幽霊と判断すべきなのだろうが、どう観測しても似て非なる存在だ。都市伝説を信じる人の集合意思から生まれた、と私は推測し、エイダも同じ推論に至った。
 そして今、メリーさんのこれからをどうするか、それで悩んでいる。どうも、私に姿を見られたことで存在が確定し、なおかつ、私から一定距離以上離れることができなくなっていた。今は200m程度、結界の中で全力逃走していたメリーさんが、見えざる壁に阻まれ逃走を断念した距離である。

「さて、あなたはどうしたい」

『ぐすっ。この世界から出たいよぉ……』

「その後は」

『うう……なんか凄く躯が安定したから、どこかでなにかする』

「ここに住むという選択肢を与えよう」

『い、い、いやああああああ! あんな怖い世界に住むくらいなら舌噛んで死ぬ! 死ぬ!』

「いや、普通の世界でだ。この世界は結界だからな、解除すれば」

 薄暗く、不気味な雰囲気が消える。窓からは太陽の光が差し込み、急降下爆撃をするシュトゥーカをあしらったステンドグラスが鮮やかな模様を床に照らし出す。

『だったら……でも、なんで?』

「あなたに興味がある。メリーさんという都市伝説、それが宿なしでかくもかわいい娘であると知れば、手元に置いていたくなるのは当然ではないか」

『も、もしかして、あなた、レ……』

「冗談だ。最初に聞いた声が寂しそうだったからな。それに、多少の罪悪感もある。詫びのつもりだよ」



 居候が一人、アルトにとっては友達が一人増えた。
 メリーさんは認識される人が増えるたび、だんだんと存在確率が上昇し、少しずつ人間に近づきつつあった。日々私から離れられる距離が伸び、電話越しにしか声を伝えられない『都市伝説』という呪縛からも解放されつつあった。

「都市伝説、か……」

『話を聞く限りでは、存在するのは『メリーさん』だけではないように思われます』

「人の集合意思が作り出す魔物、その一種だろうな。探せば他にもあるだろう」

『首を突っ込む気ですね』

「目には目を、歯には歯を、ファンタジーにはファンタジーを。多少は最近はセンチュリアを増産しすぎて若干余りが出ているんだ、多少は有効活用しないとな」

『…………』

 エイダが黙りこくる。
 ああ、わかっている。怪しまれない程度にセンチュリアを増やし各世界に浸透させ、今、それは飽和しつつあった。それでも生産し続けるのは、未だ増え続ける子供たちの為にガイアを再興させるためであり、ヴァージョンアップによる更新や、ガルディやアークなどの特化エルテに交代したりするためでもある。かつてカツカツだったセンチュリアは、余裕のあるシステムとして最高の状態を保ちつつある。

「さてさて、店の名前はどうするかな。Devil May Cryなんてありきたりにも程があるしな」

『WüsteFalkeなどはどうでしょう。最近はアヴェンジャーより使用頻度が高いようですので、もはやランナーのトレードマークとしてもよろしいのでは』

「ヴュステファルケ・ヴァルキュリウル。ん? なかなかかっこいいじゃないか」

『ハンドキャノンの戦女神達、ですか。なかなか厨二センスがビンビンな店名ですね。直訳すると更に意味不明になるところがなんとも』

「ああ。都市伝説対策の店なんだ、これくらい胡散臭い名前でないとな」

 そもそも私にまともなネーミングセンスはない。子供達の名付け親は、最近はエイダに任せっぱなしだ。昔は並列に人名辞典と睨み合いをしながら一人当たり数時間、あるいは数カ月をかけて名前を考えていた。それが今では、成長した子供達が名付け親になり、エイダがその名前がマトモであるか判断するというシステムになっている。

『……同じ顔、トレンチコートのドッペルゲンガー、違う場所で同じ人が何人もいる、秘密機関の同じ顔の諜報員・黒コート女……』

「なんだそれは」

 突然のエイダの呟きに、嫌な予感と共にその意味を問う。

『既にランナーも都市伝説と化しているようです』

 思い当たる節が幾つも幾つもある。

『その他、巨大なガトリング砲を振り回す少女、空跳ぶ装甲服男、廃病院の装甲部隊、ミッドチルダをはじめとする次元世界ネットワークにも、ランナーの行動や特徴と合致するものも少なからず確認できます』

「……私と戦う、かも知れない?」

『遺憾ながら、可能性はあると思われます。ですが、ランナーは責められません。こんなことが起きるとは、よもや都市伝説が実在するとは予想するなど不可能でした』

「何のためのセンチュリアだ……ある程度の未来まで予想できるようになったというのに……クソ」

 センチュリアが数百万の『エルテ・ルーデル』が同一存在であることを、その個々に余剰処理能力が存在することを利用して、巨大な並列コンピュータとして利用することもできる。それによる副産物が、ある程度の、おおよその未来を予測できる未来視だった。

『楽しくなってきましたね。集合思念が生み出したランナーがどれほどのものなのか、実に興味深い』

 エイダは大はしゃぎだ。いつもの平坦な声で、わかる者にしかわからないだろうが。文面だけ見ていると、非常に人間臭くなっているのが如実にわかる。

「……まあ、いい。何が来ようと、本物の『破壊神の百人隊』に勝てるはずもないさ」

 神速の機動、無限の兵力、破滅の威力、究極の統率。『私をオリジナルとしない都市伝説』ならばともかく、私の模倣品がオリジナルに適うことはない。最悪、『私をオリジナルとしない都市伝説』にエルテの因子が存在した場合、その都市伝説すら『エルテ・ルーデル』としてセンチュリアに取り込んでしまう可能性もゼロではない。

『その意気です。既にヴュステファルケ・ヴァルキュリウルはネット上に噂としてばらまいてあります』

 この駄AIは……



《あとがき》

 外伝の悪ふざけです。とあるラノベにあやかり『とある魔王の都市伝説(アーバンレジェンズ)』編とでも名付けましょうか。
 GSと思った人は間違いです。正解は、『都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……』という2chの小説スレです。まとめwikiもあるので暇な人は行ってみるといいかも。ちなみに、当然ながら『都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……』のシェアワールドとは関係ありません。
 気分と感想の如何により、この外伝シリーズを続けていこうかと思います。

 あと、『エルテさんが別の世界で盛大に原作破壊するようです』というシリーズも考えていたり。
 もしやるとすれば、チラ裏に新しいスレでやることになると思います。

 最近地の文がめっさ少ないことに自分の少ない力量がさらに少なくなった気がするどころではない今日このごろ。
 感想はこの作品をまともなものにするために必要なものだ! ということで弟妹に読ませて見せようにもリリなのを知らないていたらく。
 もう皆さんが頼りです。



 P.S.
 やっぱなのはには社長砲かアサルトキャノンだよNE!



[12384] 30八神家のとある一場面04
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/08/08 11:21
 闇の書は、どうやら主のキャパシティに比例して魔力を吸うらしい。
 時を止め、はやての麻痺の進行を止めようと魔力パスを私に変更したが、それがうまくいった。時が止まってさえいれば、闇の書のプロテクトも少しの変更なら気付くことはない。流石に管理者権限を変更すれば、時が動き出したときに気付かれるだろうから、主ははやてのままだ。はやてからのドレインさえどうにかできればいいので、特に問題はないゆえ放置している。
 ところで、キャパシティに比例して魔力を吸う闇の書。これはまるでグラビデのように私の魔力を削っていく。削られるのはMPで、しかもドレイン効果つき。はやてから何割奪っていたのかは今では判らないが、生かさず殺さず蒐集させるためなのだろう、少しずつ割合が上がっていく。そう、私の魔力出力から何『割』も奪っていこうというのだ。その奪った魔力がどこに行くのかはまだ判らないが、蒐集されない限り完成しないことから、特に問題はない。
 はやても最近は調子がいいらしく、股間節が動くようになったと大喜びだった。闇の書とはやての魔力パスは切れている、このままなら普通に回復していくだろう。
 問題は、私が歩けなくなったことか。はやての麻痺を肩代わりするように、足先から感覚がなくなっていく。リンカーコアへの異常負荷による障害というよりは、『馬鹿魔力かつタフガイな主が働かない時のための呪い』つまりニート対策と私は考えている。闇の書のキャパシティを超えたのか、今のところドレインは一定割合、すなわち66%で頭打ちになっている。残り34%でも、SSSランクの魔導師が全力全開で数カ月戦うには充分ではあるが。唯一マシと思えるのは、さすがに『エルテ・ルーデル』全体から魔力のドレインはできないことだ。これができていたら……闇の書のキャパシティが現在で限界であると仮定した場合、個々が奪われる魔力は――――カケラにも満たない。逆に、個々から66%ずつ奪われていたら……想像したくない。

「あー、またえるてが飛んどる」

 そう、問題とは言ったが、何らの問題もなかったりする。

「何もそう不思議なことではないだろう。ちゃんと二足飛行している」

「あー、それなら……ってよくないわ! 飛行しとんやないか! 足が二本ある必要ないやんかそれ!」

「わざわざ躯を浮かせて足を動かして歩くフリをするより、これの方が効率がいい。歩くフリだとどうしても足を引きずるしな」

 そう言いながら、爪先を引きずりながらふよふよとはやてのいるソファーに向かう。ティーセットを手に。

「ジェフティか!?」

「未確認浮遊快感」

「気持ちええんか!?」

「重力が不快に感じるくらいには」

「け、経験してみたいっ!」

「だが、急降下のあのマイナスGの方が好きだ」

「怖っ! あれか? 血なんか?」

 などとボケとツッコミがエンドレスに続くくらいに平和だ。
 はやては心底楽しそうに笑いながらツッコんでくる。
 最近は屋敷から持ってくるゲームで対戦したり、借りてきたアニメを観たり、時々復学のための勉強を見てやったりしているが、見る限りなかなか充実した生活を満喫しているようだ。
 猫姉妹もしっかりごまかせている。窓から覗く者には、一般人が普通にはやてと生活しているように見えるように魔法がかかっている。

「お、これは?」

「普通のダージリンだ。茶菓子は生姜煎餅」

「……緑茶の方がええんちゃうん?」

「……三色団子」

「マテ、今自分どこからそれ出した?」

「四次元ベクタートラップ」

「圧縮してんのか異次元なのか判らんな!?」

「ちなみに、四次元は異次元ではないらしい。時が存在しない三次元が異次元であって」

「ただのベクタートラップやん!」

「求めるべきは原因ではなく結果だ。さて、そろそろか」

「何がなん?」

 はやてが訊き返すと同時に、インターフォンが鳴る。

「ん? だれやろ」

「私が出る。待っていろ」

 玄関先には、私がいる。引越しにでも使うような大きな段ボール箱を持って。

「お、えるてや。なんや、その箱?」

「待っていろ、と言ったはずだが」

「えるて? ちょ、怖いんやけど……」

 秘密にするはずだったのに。

「まあいい。プレゼントだ」

「プレゼント?」

 キッチンまで運ぶ。わずかに振動し、低い音を立てるその中身は、なまじ想像できないだけに不気味にも見えるだろう。

「1/2400、スピリット・オブ・マザーウィルとアンサラーのプラモデル」

「あかん、有澤グレで割れたりとっつき一発で沈んでまう姉歯建築や」

 ならばなぜキッチンなのか。そういうツッコミが欲しかったが、最近急激にコジマに汚染されてしまったはやては、そっちの方へ行ってしまった。

「冗談だ。色気はないが味気だけはあるパーティーの材料だ」

「何や? 色気はないが味気はあるパーティーて。そもそも何のパーティーなんや?」

「本気で言っているのか?」

「へ? う~ん……なんかあったやろか」

「はやてが、まさかそんな。あり得ん。いやしかし……」

「う~あ~! 何があったんや? 今日この日、一体何を祝う祝事があったんやぁ~?」

 写真か絵画にすれば『嘆く少女』とでも題されそうなオーバーリアクションで頭を抱えるはやてを、私は心中で愉快極まりないと思いながらもそれを表には出せない。

「フフフ……今日、と、誰が言った」

「へ? 今日やないん?」

「ハッピバースデーイディーアフーアーユー」

「ちょ、うちはシェリルやないで!」

「最も近いのはアレッサだな」

「で、誕生日か。そやったな、すっかり忘れとったわ」

「中途半端に区切るな……それはそうと、やっと思い出したか。祭と聞けばゼロシフトなタイプだと思っていたが、自分の誕生日を忘れるか」

「祭は神社とか階段あるけん行きにくいし、誕生日は特に何もあらへんからなぁ。最近になって石田先生が祝おてくれるようなったけど」

「……気が変わった。ささやかなパーティーは中止だ」

「ええ!? なんでや? うち、なんか変なこと言った?」

「そう、ルーデル屋敷において、形だけでも大規模なパーティーをするのだ。そう、あたかも貴族の令嬢の、いや、ジーザス・クライストの生誕祭がごとく。そう、祝うのだ、盛大に、末代まで」

「ええええええ!?」

「冗談だ。来年はもっと楽しくなるさ。その脚も治り、学校で友と戯れ、家では家族が迎てくれ。少なくとも、この前我が妹と友誼を結んだようで」

「末代までってそら呪いや!」

「驚くところが違うな。さすがはやてだ」

「ぐふぅっ。これがッ……ボケ殺し……ッ!?」

 打ちひしがれているはやてを置いて、私はぞろぞろと私にあてがわれた部屋に向かう。蟻のごとく。

「って、なんでそんなにおるんやー! 引越しでもしとるんかい!」

「いずれ知る。それまでは、束の間の平穏を謳歌するがいい」

「束の間の平穏て、まだサプライズ諦めてへんな? よしゃ、かくなるうえは全力を以て驚いてやらん!」

「無駄だ」

「そこで緑川じゃなくて小杉なのがえるてやな。ってゆーか、どんだけ声真似巧いんや」

「まぁ、楽しみにしているがよい」

「あかん、うちの敗北が確定した気がする」



 などと漫才モドキをやっているうちに日は暮れ。



「甲子園ほんまカオスになったなぁ……こいつらホントに人間か?」

「オーバースローが希少な投法になるとは誰も予想しなかっただろうな」

 共に風呂に入った後、はやてのお気に入り、今や人気番組となった去年の甲子園地区予選全試合の再放送を観ることとなった。

「うわぁ……こいつらほんまに人間なんやろか」

「ハーケンクロイツ投法もかなりすごいと思うが」

「トランスフォーム投法や。人間の関節構造無視してるやん!」

「確かに……私でもこれはできん」

「ロボかサイボーグがおるとかいう噂をよぉ聞くんよ」

「…………」

 サイボーグにはまだ会ったことはないが、私の新型案に機装化が提案されているからそう遠い未来ではない。ロボは……とある姉妹の家に行けば会えるな。機関でも、娘が趣味で手乗りロイドやメイドロイドを造っているし。

「あり得ん話ではないな」

「ホンマか? エルテが言ぅんならもしかするかもなー……お、新しい投法やて、ってあははははははははははは!! ちょ、その動きありえへんわ!!」

 寝・戯・怠をまさに体現したその選手の投法は、確かに色々な意味でおかしかった。人間の関節構造を無視、腕の動きに対しあり得ない球速、ここまではいつも通りだが、こいつは重力を無視してないか? 世界最強の格闘技として認められたSUMOUと同じく、空中戦黎明期が始まったというのか?

「ホンマに、甲子園は魔境やなぁ……」

「しかし、テレビで面白いと思えるのはこれとSUMOUとニュースくらいになったな……」

「ニコニコ動画にはまるとは思わんかったわ」

「PCすら使えなかったころとは大違いだな」

「今やマクミラン大尉にビューティホー言われるスナイパーやで」

「拝啓、はやてのご両親様。はやては順調にPC中毒になりつつあります」

「日常生活に支障はきたしとらんからモーマンタイや」

「最近は初音ミクに『おっぱい賛歌』なる讃美歌チックな名曲を歌わせ、週刊ぼからんで14位を射止めました」

「おっぱいは正義や。そしてロマンや。あん中にはえるての言う『社長砲がぶっぱなすもん』と同じのが入っとるんや」

「コメントが『おっぱい! おっぱい!』で埋め尽くされていました。『おっぱい教』なる怪しげな宗教組織の讃美歌一番になっていました」

「ちょ、それ初耳なんやけど……」

「さて、子供はもう寝る時間だ」

「詳しゅう、ってほんまに寝る気かいな!」

 車いすから抱き上げると、はやてが文句を言う。

「甲子園の再放送は終わったぞ。日常生活に支障が出てないのは私が無理矢理0000時には寝かせているからだと認めるがよい」

「くぅぅ……えるてとおると規則正しい生活なだけのダメ人間になりそうや。あ、明日は大統領やるで」

 最近はいつもこうだ。こうしないとはやてが寝ようとしない。はやてはまだ歩けはしないので、車椅子という足を取り上げると抵抗を諦める。

「How do you like me now?」

「いぇえええええ! れっつぱぁりぃぃぃぃぃぃぃ!」

「Okay。寝ろ」

「はい」



《あとがき》

 はやてと二人きりだとあまり動きがないから会話文メインになってしまう己の力量の無さに嘆くことになる。
 いずれにせよ、A'sは特に何事もなく終わるかも、なんてことはなく、予想外になるかもです。プロット絶賛書き直し中。

 独自設定入りました。はやての脚は魔力負荷によるものではなく闇の書の呪いだった!
 エルテにパスが通ったときに何もペナルティがないのも面白くないので。

 ノーマルエルテの総魔力量と総魔力出力を明記していませんので66%とかいわれてもわからないと思います。私もわかりません。適当です。とりあえず数値化できないということにしてあるので、残り34%でもSSSランクが数ヶ月全力前回ということにしてあります。基準を魔改造済みなのはにしてあるので問題ない! ついでに言うと数ヶ月だから2ヶ月以上ということ! 100ヶ月でも一応数ヶ月の表記には当てはまる!(わけない)
 ので突っ込まないでくださいね(はぁと)。

 もう少し日常が続いてヴォルケンズ参上が終わって12月、何かが起こればPT事件と同じで楽できるんだけどな……一応原作レールがあるから。読んでからのお楽しみということで。



 ……ダチに「エルテの口調おまえのそのまんまやん」言われた。あり得ん、それはない。



[12384] 31What is he?/How do they enjoy that world?
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2011/02/21 20:49
 はやての回復は順調だった。それに比例して私の脚は動かなくなっていく。だが、不便ではない。たかが一個体が行動不能になろうが全体にはほとんど影響もないし、最悪でも胸まで麻痺したとしても特に個体の生存には問題はない。それに、麻痺している個体がはやてと顔を合わせることもない。闇の書のことを知っているはやてに簡易ラボとして借り受けている部屋に隠し、足の麻痺が進んでいないように装う。
 あともう少しでD-day。ヴォルケンリッターそのものに害はないだろうし、はやては家族が増えることに喜ぶだろう。個体を消耗しながら闇の書をゆっくりと解析していけば、いずれ管制人格も何事もなくサルベージできるだろう。少なくとも、ルーデル閣下封印記念日、そしてその後にあるどこかの宗教の誰かが生まれたとかいうのを祝う日までには時間を稼げる。それを超えた場合、可能性として『安全装置』が作動して破壊・転生するかもしれない。

「どうだ」

『ギル・グレアムは白です。ただ、彼の協力者に何人かグレーが。その協力者に繋がる者の中に黒が何人かいます』

 それ以上に私が恐れていること。ギル・グレアムに間接的に協力している者の中に、『不法に魔導師を入局させている者達』が存在した。恐らくは、魔力至上主義者あるいは管理局信望者。魔力を持っている、そのことに選民的な優越感を持つ者、あるいは強大な魔力を持つ者をいかなる手段を以てしても管理局のために引き入れようとする者。この二者はたいていイコールで結ぶことができ、厄介なことに自分の行為にが悪であると理解してもその行為を正当化する自分への言い訳が存在するから、まったくといっていいほど罪悪感を感じていない。証拠隠滅も隠蔽工作もしっかりやるし、なによりある程度の権力を持っていたり、高い戦闘能力を持っていたりする。

「黒のリストを。名前、発覚していない前科、証拠、被害者で」

『Sir, Jawohl sir』

 エイダがまるでドイツ軍人のように返事をする。ドイツ語版フルメタルジャケットを観たらしい。

『イレースプランはどうしますか?』

「海は全て同時に派手に吹き飛ばす。陸は内部浄化がなかなかだしな、摘発程度でいいだろう」

 海の上層部はかなり腐っている。程度にもよるが、犯罪者にも魔力資質があれば管理局で働くことでその罪を清算するようなシステム、これはまあアリだ。正史のフェイトも、この制度のお陰で実刑にならずにすんだ。問題は、内部の不正に対してもこれが適用されることだ。あまりに酷いものであれば話は別だが、結局お咎めなしにも等しい。陸では減給から始まり刑務所は当たり前、果ては終身刑や死刑も実行されたことがある。ギリギリの人事のせいか、そもそも不正の発生そのものが少ないから、問題となってはいないが。海でこれを今やろうとすればかなり戦力や人材が削られるだろう。

『…………』

「正しいとは言わんさ。正解でなければ間違いでもない。罪だが、奴らを野放しにして害を被るよりかはマシだ」

『まるでマフィアですね』

「そうも言えるか。だが、ファミリーの殆どは善良な一般市民だ。そして彼らは何も知らない。平穏は砂上の楼閣であることも、管理局が牙を剥くことも、私のことも。そして、動いているのは私一人だけ」

『心外です。私を忘れるとは』

 エイダが、いつもの平坦な声に怒気を含ませた。もしこいつが『うっかり』なんかすると、なかなかかわいい反応を見せてくれそうだ。

「ああ、すまないな。勝手に一人きりだと思い込んでいた」

『パートナーを忘れるとは。まったく』

「一身同体ということで許してくれないか」

『もう怒っていません』

 やれやれ。まるで恋人の痴話喧嘩だ。犬も食わないほどに甘ったるい。

『証拠がある者はフェリスによる警告、ない者で比較的軽いものは説得の後自首を勧め、悪質なものは一応説得をし、その反応により対処を決める。これでよろしいですか?』

「ああ。PT事件の『関係者』はどうなった」

 PT事件。あの事件で気になったのは、なぜプレシアがジュエルシードの輸送情報を、ロストロギアの輸送情報を知ることができたのか、これに尽きる。ロストロギアの輸送はその危険性から、ロストロギアを狙う賊などを考慮して秘密裏に厳重に輸送される。PT事件の時のように輸送船が単艦で輸送することはまずあり得ないし、その輸送ルートを外部の人間が知ることはできない。
 プレシアに訊けば、ジョン・ドゥと名乗る管理局員から情報を得たという。時の庭園の崩落のせいでかなりの情報が消えてしまったが、ジョン・ドゥに関係する情報も破損してしまった。
 私は、このジョン・ドゥが輸送船を単独行動させたのではないか、そう睨んでいたが、どうやら正解だったようだ。

『突き止めました。アーク・ジィル。本局武装隊所属の一等空尉。訓練校時代から一匹狼で、今まで小隊に組み込まれたことはありません。ランクはA。任務達成率から優秀といえるでしょう。ジィル家は極めて保守的な軍人の家系ですが、アークは例外です。管理局法を平然と無視し、その功績から見逃されているような状態です。いわゆる問題児です。PT事件では誤報で輸送船を単独行動させていることになっています』

「ZIL……探りを入れるか」

『黒のリストには入っていませんが、ギル・グレアムの協力者にアーク・ジィルが存在します。隠蔽や偽装でギル・グレアムにすら知られていませんが、他の過激派と比べてもかなり行動が活発です。行動の内容自体はおとなしく、管理局への勧誘にも違法性はありません』

「…………」

 まさか。可能性としてはあり得るが、それが正しいのか。

『ランナー?』

「……アーク・ジィルは、私と同類かも知れない」

『上位世界からの転生者、この世界の行く先を知っていた可能性がある、と』

「かもな。しかしそうであると仮定しても、その正史の記憶はすでに役に立たない。私という異物のために」

『未来の記憶という観点では、ランナーにもアドバンテージはありません』

 汎用デバイスを模したヴュステファルケがカートリッジを吐き出す。魔法物質ならではの強度と軽さを誇るそれは、本来であれば長大重厚にして連射速度に劣るヴュステファルケにSMG並みの連射性能をもたらした。
 俗にい言う引き撃ちをしながら、敵をバカスカ撃ち落としていく。

「それはどうでもいい。問題は、それを根拠に自分を特別だと思いこむことだ。私とて、『破壊神の器』という馬鹿な物を得てはしゃいでいたんだ。Aというランクも、おそらくそれに拍車をかけるだろう。気になるのは、PT事件を発生させようとして事件そのものには関与していないことだ。グレアムにもかなり遠回しに関与しているだけで、直接的な行動は一切ない。エイダ、しっかり調べておいてくれ。本当に黒なのか……気になる」

『Ja. ときにランナー、私なしでの戦闘はどうですか?』

 エイダは未だ諜報にそのほとんどのリソースを割いている。アヴェンジャーの性能の全てを引き出すにはエイダのサポートが不可欠だが、それが得られない今、単純に私の躯に依存した戦闘をするしかない。単位時間あたりの制御魔力が比較的少ないヴュステファルケによる魔力銃撃と身体能力をフルに使った機動。デバイス本体に最低限の制御リソースがあり、AIと切り離すことができるからできる芸当だった。

「なかなか気分がいい。カートリッジの消耗は仕方ないにしても、ダンテにでもなった気分だ」

『How do you like me now?』

「それを言わせたいならさっさと仕事を終わらせるんだな。パーティーの花火には火力が足りない」

 強攻突入した研究所、ここでは様々な違法研究があり、本来ならセンチュリアを投入し叩き潰すべき場所だ。それでも強攻突入、そして潰さずに実験体のみを転移させ撤退したのは、ただ単に泳がせて更なる情報を得るためだ。たとえ移転しようが、既に何人かはすり替えてある。
 追いかけてくる警備員やガードメカに12.7mm高圧縮徹甲非殺傷魔力弾の弾幕を浴びせ、死屍と瓦礫の山を築く。一回のトリガープルで一発のカートリッジを消費し、その魔力を可能な限りそのまま魔力弾に変換する。高圧縮徹甲能力の付与は、私がやらないといけない。機関砲をフルオートで撃ちまくるような連射速度だ、一発にかけられる時間は一瞬もない。空のカートリッジがじゃらじゃら飛んでいく。

「もう一人持ってくればよかったな」

『もう5人の間違いではありませんか?』

「まあ、それだけエイダがいれば百人力どころではないな。うまくいったぞ」

『こちらでも確認しました。枝及びシステムの掌握は完璧です』

 何人かの研究員とすり変わった私が、研究所のシステムとエイダにパスを通した。

「戻ってこれるか」

『とっとと片付けましょう』

「Gut. さらばだ諸君、また会おう」

[[ノスフェラト、Ready]]

「Feuer」

『マッハで蜂の巣にしてやんよ』

 久々に放つADMMは、その弾数ゆえの莫大な消費魔力を残ったカートリッジでは補えず、珍しいことに私の魔力を削り使う。
 通路という通路を通り、扉という扉を破壊し、人という人を貫き、最後の一発が着弾すると同時に、動くものは一切なくなった。研究に必要な施設には一切傷をつけず、誰も殺さず、綺麗に蹂躙した。
 私よりエイダがハイテンションだ。口調は淡々としたものだが、もはや私より人間らしいのではないか。

『ハハ、見ろ、人がゴミのようだ』

「自重しろ。施設内の動体反応は」

『ありません』

「よし、撤退だ」

 念のため結界を張り、その中で転移する。



「! なによ、またマネキンじゃない」

「すごくイヤな予感がするけど……」

 魔法を知ったアリサとすずかに、サイレン・ヒルの結界を楽しんでもらっている。今はまだ表世界、太陽がなく、明るいのに世界に色が少なく、いつも見慣れた風景は霧に満ちている。メリーさんの時はまだ完成しておらず、クリーチャー役を私がやることになったが、改良したこの結界は不気味なオブジェが現れる。これは罪を犯していない者仕様で、俗に言うホラーアトラクションだ。罪を犯したものは、その者が『死ぬほど』恐ろしいものが出る。

「あ、なのはちゃん」

「なんでなのはがここにいるのよ! 偽物よ!」

「そうだよね……うん。大丈夫」

 目の前を横切ったなのはの幻影についていきそうになったすずかを、アリサが止める。

「ハリーだってうっかり追いかけたから3で宇宙人になったのよ」

「何がどうなってそうなったんだろ……?」

 また懐かしい話を。戻ったらZEROから3までやらせてみせよう。部屋と家が来いはなかったことにして。

「変な宝石は見ても近づかないこと。宇宙人にさらわれるから。あと電波な格好の女にも。ビーム食らうわよ」

「この世界、ホラーだったよね?」

「柴犬に会えばこんな恐怖ともおさらばよ!」

 犬はこの世界に存在しない。残念だったなアリサ。犬の怪物は存在せど、それは今の世界にはない。二人がいるのは、誰もいないだけの、ただ不気味なだけの世界。本来は少しだけ優しいという修飾文が入るが、今はそれと一緒に悪戯心が詰め込まれている。
 二人は騒がしくゴーストタウンのような海鳴を歩く。時折、まるでそこから先が消滅したような道の断裂や障害物に阻まれるが、流石と言うべきか、私が用意した謎解きは多少時間はかかってもあっさりとクリアされてしまう。

「えーと、『英雄の墓に敬意を。無限の円環に。白き死神に。無傷の王に。戦乙女の亡霊に。人類最強の破壊神に。凍空の猟犬に。異界の殺戮者に。黒の悪魔に。無垢なる閃光の守護者に。手向けるに相応しきものを』」

「なんでドイツ語なのよ。読めるからいいけど。要は台座にそこらに落ちてるおもちゃを置けばいいのね?」

「そうだと思うよ。それにしても」

「女の子の部屋じゃないわね。落ちてるものが」

 少年が眼を光らせて道を踏み外しそうなものばかりがそこにはある。あからさまな『お嬢さまの部屋』に落ちているべきではない。

「ウォーバードコレクションが全部に、ロボットとか。エアガン・ガスガン・電動ガン、刀剣類まで……」

 古今東西の名機、名銃、銘刀、それらがある程度揃っていた。
 天蓋付ベッド、赤い絨毯、脱ぎ散らかされたゴスロリドレス。本来なら床から天井までそこらの一般人が描く富豪のお嬢さまの部屋が、雄々しく蹂躙されていた。

「これね」

「あったよアリサちゃん」

 どんどん見つけては台座に物を置いていく二人。
 アリサとすずかだから出せた問題だ。予備知識なしで解くには、このゲームを隅々まで調べる必要がある。
 あの独特の間をおき、あのよく響くカギの開く音がした。

「バイオハザードのやりすぎだと思うよ……」

「この先ね……」

 扉の先は

「ゴールだ。おめでとう」

 普通の、ルーデル屋敷のエルテの部屋。カーテンは引かれているが、その隙間からは日光が差し込み、今までの薄暗い世界から解放されたことを意味していた。

「死ぬほど怖かったわよ!」

「やれやれ。最初に言っただろう。静岡だって」

「あーもー! 自分の愚かさに腹が立つー!」

「そこまで予想外だったか」

「悪趣味よ! いつの間にかすずかがマネキンにすり代わってたり、すずかを追いかけたら道がなかったり、すずかと再開したら心臓止まるかと思ったわよ!」

「楽しんでくれてなによりだ。本当なら、ここで希望から絶望に叩き落とす予定だったが、さすがにアリサを泣かすわけにはいかなくてな」

「あ、あはは……」

「な、泣かないわよ! ちょっとすずか! なんで苦笑いしてるのよー!」



 今日も海鳴は平和だ。若干なのはがハブられている気もしないでもないが、あっちはあっちでアルトと全力全壊している。もはやガイアでは壊れては困るモノだらけ、無人の管理外世界で死合している。アルト相手だと死ねないが。
 PT事件からまだ一ヶ月も経っていないが、フェイトの裁判もそろそろ終わる。正史より格段に短いが、ルーデル機関の関与であらゆる事務処理が恐ろしく速くなっている影響だ。フェリスの関与が最も大きいが。
 闇の書自体はもはや解決したに等しい。問題は管理局。



《あとがき》

 はい、転生者がいるかもしれないということになりました。ZILが転生者かどうかはさておき、ロシア車なんて誰も知らないだろうと思って名前をつけてみたり。GAZとか誰も知らない……
 あ、ドイツ車は世界一です。日本車は2位です。バイクはカブかY2Kが欲しい。飛行機はユンカースかフェアチャイルドかスタヴァッティかな。アメ車は唯一ストライカーが欲しいですねー(普通車ちゃう)。



 アリサとすずかの答えはわかりましたか?
 簡単です。



 黒い話と平和な話です。これらはほぼ同時の話です。
 エルテという特殊な存在の一人称視点を表現するのが非常に難しいです。



 ニコニコ動画がおもしろすぐる。
 アクアビット本社て。ソルディオスって! 本社型AFって! 社員汚染で死ぬよあれ!
 ちなみにこのなのは世界で高校野球ルールブック改正「ボークの廃止」は1998年です。



 今までの話をWordからテキストエディタに変えたらスマートすぎてへこんだ。
 Wordだとファイルサイズから文字数が推測できないんだもの。
 ちなみにこれが12kB程度です。



 A'sではなくA'ce。誤字じゃないですよ。わざとですよ。
 A'cesとかACESとかA'cとかネタ候補はあったのですが、原形に音が近いこれに。
 理由はおわかりですね?



[12384] 31.5猫元帥の休憩
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:7eba6c4f
Date: 2010/10/18 00:41
「こちらは時空管理局、フェリス・シルヴェストリス元帥です。20秒以内に投降しなさい。さもなくば、実力で排除します」

 セットアップどころかバリアジャケットすら展開せず、管理局の制服のまま告げる。気分転換に地上の行きつけの店に繰り出した際の遭遇戦ゆえに、デバイスはアヴェンジャーだけしか持っていなかった。念のため、管理局ではアヴェンジャーをそのまま使うことはない。カモフラージュに耐高魔力のストレージデバイスを使うくらいだ。彼らから見れば、私は丸腰にも見えるだろう。
 返答は魔力弾と銃弾。そして彼らは己の刑の執行書にサインする。

「ハン、管理局最強のメス猫が! 丸腰で何ができるってんだボケ!」

「やれるのんならやってみろよメス猫! こっちこいよ、かわいがってやんよ!」

 要塞化した雑居ビルの中から、聞くも呆れる無謀な遠吠が聞こえる。同時に5.56mmがばらまかれる。先ほどまで弾幕で動けなかった管理局員が、私の張った防御フィールドの外側で道路を封鎖、馬鹿どもの要塞は、よくある立てこもり事件の現場に早変わりする。

「道路の封鎖、陣地の構築、完了しました!」

「ご苦労様、と言いたいところだけど、私はこの現場の指揮官ではないの」

「は? ですが……」

「もうすぐ休憩も終わるし、警告もしたから、突入するわ。あなたがこの現場のトップ?」

「は。シルヴィ元帥を除けば、ですが」

「そう。なら指揮を任せるわ。私は突入する」

「は? 了解しました」

「Gut。突入方法は裏の壁からブリーチング、私が先導しますから、武装局員は後からついてきてクリアリングを頼みます」

 認識阻害をかけ、武装局員を引き連れ、要塞と化した雑居ビルの裏に潜り込む。

「ではいきます。多少は遅れてもいいですが、確実なクリアリングを」

『Yes Ma'am!!』

《突入!》

「Ok.Go」

 ショルダータックルで壁をブチ抜く。不幸な何人かが巻き込まれた。

『GoGoGoGo!!』

「……Clear!」

「Clear!」

「No tangos in sight」

「All clear!」

 どこかのSASのノリだ。一応、この部隊はアンチテロ・カウンターテロカリキュラムをクリアしているが、カリキュラムの参考に地球の部隊を選んだのが原因のようだ。悪いことではないのだが。
 さっきからバンバンと破裂音がする。耳が痛い。出し惜しみをしないのはいいが。

「All clear, Ma'am」

「じゃあ次ね」

 人質がいないことは確認済み。迅速かつ丁寧に蹂躙して回れる楽な仕事だ。

「馬鹿め! はうっ!?」

 階段に土嚢を積み上げ銃座にしていたが、それも無駄というもの。1Fにあったであろう銃座の土嚢をブン投げる。恐らく突入のショルダータックルで壊れた銃座の土嚢はいくつかあり、相手のキャリバー50が火を吹く前に銃座は吹き飛ばされた。

「シールドとフラッシュバン貸して」

「はっ!」

 チタニウムの楯といくつかフラッシュバンが渡される。とりあえずフラッシュバンを階段の上に投げ込む。
 M2は厄介なので階下に蹴り落とし、フラッシュバンでよろめいている敵に掌をプレゼントし、クリアコールを待つ。

「Clear!」

「フラッシュバンは?」

「もうありません。試験運用で一人一個しか配備されていないので……」

 予算の問題がまたここに。大量生産または大量輸入しておけと言ったが、それでも全部隊に回りきらなかったか、あるいはけちったか。スモークもない。部隊になるべく経験を積ませたかったが、奇襲もスタンも使えないのなら仕方がない。

「しかたない、派手にいくわ。コールがあるまで2Fで待機。いいわね?」

「は? ああ、了解です」

 部隊長は一瞬疑念を抱いた顔をしたが、すぐに納得した顔になる。

「ご武運を」

「そんな大層なことにはならないわ」



「来ねえなぁ……」

 3Fで、局員を蜂の巣にするのを今か今かと待ち望んでいた男は、なかなか上がってこないことに痺れを切らしていた。

「グレネードでも投げたら?」

「そうだな、そうするか。あ?」

 この場で彼の言葉に返事するのは、窓の銃座についている男だけだった。こんな艶めかしい、いい女ではない。

「っ」

 誰も悲鳴すらあげることなく、3Fは鎮圧された。同様に、4Fも。
 最後の砦、5Fはボスと思われる男が一人、豪華な机と椅子に座り、ふんぞり返っていた。4Fの密度が高いと思ったら、戦力をすべて送っていたのね。フェリスはそう分析する。

「管理局のメス猫め、よくここまで来た。褒めてやろう。だがな、貴様の運もここで尽きた! 貴様のような大物を巻き込めるとはなんという幸運だ! 死ね!」

 その手に握られていたのは、スイッチだった。手榴弾の安全レバーのように、握る力を緩めれば爆発するもの。

「ハハハハハハハハ!! ……は?」

 爆発するわけがない。レジアスに進言して対テロ訓練をひたすらにさせた地上の猛者どもが、こんな素人に毛が生えた程度の馬鹿に出し抜かれるはずがない。

「段ボールとかロッカーとか、設置する場所が杜撰よ。もし爆発しても、被害は少なかったわよ。このビルを倒壊させるには不足だもの」

「くっ!」

 慌ててデバイスに手を伸ばすが、そうはさせない。構える暇も与えず、顎を蹴り上げた。

《終わったわ。動体反応も熱源反応もなし。報告は後で送るわ。私は帰るけど、後は任せていい?》

《了解。ご協力に感謝します。お疲れさまでした》
《ありがとうございます! 今回も生きて帰ることができました!》

 感謝の言葉が次々と。本局の元帥なのに地上の実動部隊と仲がいい。これはブレインズマンどもには気に食わないことだろうが、海での私の評判は揺るぐことはない。今や上層部そのものである私、そしてそれにただ追従するだけでない有能な部下。権力による汚染も少ない。管理局に存在する私は、フェリスだけではないのだから。私に賄賂を持ってきた者は三階級降格が確定している。コネによる利点はほとんどない。無能を取り上げるほど愚かなつもりはない。

「散々な休憩だったわ」

 とっとと本局に戻り、執務室に戻る。
 管理局のデータベースにはアヴェンジャーが幾つも取り付けられ、エイダが情報の改竄などの監視を行っている。ついでに、私の書類整理や情報管理も。電脳化に成功した私の新型、エルテ・エレクトラ・ルーデルのおかげで、エイダとの情報のやり取りや判断・決裁は恐ろしく速い。私の執務室には、書類の記述から判子までできる万能書類処理機ヘカトンケイルがひっそりと存在したりする。

「そろそろね……」

 フェイトの事件記録の束と事務手続書類一式を持って。部屋を出る。
 今から勝負の時間だ。あらゆる手を使って勝ち取る。油断せず、確実に。



《あとがき》

 かなり遅くなりました……
 エルテさんを異世界で破壊行為させる方が楽しくて。
 多少短いですが、これも番外扱いかな?
 猫元帥。こんな風にあらゆる世界でお偉いさんになっています。

 そろそろ八神家で動きがあるかもです。



[12384] 32物語が始まる日
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:bcdb6a14
Date: 2010/12/17 15:20
 明日、誕生日が来る。八神はやての。

「めっちゃ楽しいわー!」

 昼は色々な場所を巡り、ルーデル屋敷の地下大ホールでコンサート。クラシックから電波まで、2時間ほど全力演奏。

「我が歌を聴くがよい」

「まさに恐悦至極!」

 リクエストに応え分裂→破壊を歌う。ニコニコにどっぷり漬かりだしたのが顕著にわかる。あとCAVEシューもかなりやりだした。まさか緋蜂までいくとは思わなかった。東方はノーマルをほとんど初見から五周程度でノーミスするし、いや、STGのみならずFPS・ACT・RPG・SLGその他、かなり巧い。格ゲーはEFZだけ巧くあとは駄目なのが不思議だ。パソコンを本格的に使いだしてそれほど経っていないというのに、何故だ。

「Answer!!」

「了解!!」

 恐ろしく手入れが面倒そうな長い黒髪の勇者の女の子のコスプレをして歌う。なぜはやてがエロゲの名曲を知っているか――――ニコニコでプレイ動画を観たということにしよう。ベッドの下に箱なんてなかった。シュレディンガーのベッド。

「午後、6時、49分、32秒を」
「タービン! タービン!」
「大声を出し! フルーツさえ叱咤し!」
「いつか超えたモーノクロのー」

「師匠メドレー……まさかそうくるとは思わんかってん」

「はやても歌ってみるか?」

 私も少しテンションが上がっている。

「え? ええん?」

「無論」

 はやてはこの世界のことを知らなさすぎた。インターネットという『脚』、いや、『翼』を与えて世界を広げてやったら、あらゆるメディアでの娯楽を網羅しだした。音楽・アニメ・ゲーム・洋ドラ・映画・その他サブカルチャー。
 常に私が傍にいて、それで孤独は紛れるものの、それでも寂しいのは変わらないだろう。甘えさせることはできるが、本当の家族ではない。いつかは去ってしまう友達という認識だろう。どこかに遠慮が存在する。

「あー、楽しかったわぁ。なぁなぁえるて、次はどこ行くん?」

 日も沈みかけ、夜がその顔をのぞかせる。東の空は既に黒に染まりつつあり、太陽は地平線に身を隠している。

「空を飛んでみたいと思ったことはないか?」

「え? 空? なんか怖いなぁ」

「大丈夫。死んでも生き返ることはできる」

「落とすこと前提かい!」

「冗談だ。絶対大丈夫。私がはやてを落とすと思うか?」

「さっきのセリフがなかったら信じとったけどなー」

 そうは言うが、手を伸ばすはやて。私は信頼に背くことはない。

「では姫。参りましょう」

 その手を取り、ダンスのように抱きしめ、ゆっくりと浮く。

「お、おお? これが未確認浮遊快感か~」

「若干違うな。ただぶら下がっているだけ。浮遊とは違うな……そうだな、もう少し上、もし落ちてもバックアップできる場所なら」

 後半は独言になる。

「え? なんて言ったん?」

「後のお楽しみだ」

 ゆっくり加速していく。下を見れば、大地がどんどん遠く離れていくのが見えるだろう。

「どこまでいくん?」

「ストラトスフィアまで」

「あー、あのやたらメチャクチャなブラックバードミッションの?」

「今の、何人が理解できるだろうか……」

「やったら、初音ミクの名曲?」

「色々台無しだな」

 高度600m、海鳴の全てを見通すことのできる高度だ。

「さて、姫。下をご覧ください」

「ん。おお~、空が山吹色に輝いて」

「落とすぞ」

「冗談やって。せやけど、あのセリフってこういうことを言うんやね~って、なんかわかる気がしてん」

「もう少ししたら、闇が街を覆う……人間は闇を恐れたが故に灯を灯す。人工のものである灯が自然である闇を駆逐したとき、それはなぜか美しく見える。人は光を神聖視するからか、闇を不浄と見るからか」

「なあなあ、えるてってけっこう詩人やね」

「むう。そう言われると恥ずかしくなるのは何故だろう」

「でも嫌いやないで」

「お褒めに預かりまさに恐悦至極」

 それから、会話は途切れた。
 はやてはずっと眼下に広がる光景を見ていた。私ははやてを後ろから抱きしめている形だから、その顔を見ることは叶わない。どんな表情で、どんな気持ちでこの光景を見ているのだろう。

「地上の星っての、よぉわかる気がするわ」

「あの歌が意味しているのは違うと思うが。まあいい、もっと上から、世界を見てみよう」

「ストラトスフィアまで?」

「ストラトスフィアまで」

 ふっと、空を駆け上がる。

「ロケットになったみたいや!」

「成層圏に突入するには最短である極点で地上8km、急がないと日が暮れる」

「え? 暮れんといけんのやなかった?」

「見てからのお楽しみだ」

 大気圏を突破する勢いで加速していく。本来は月に行くための速度だが、今は成層圏で止まる必要がある。

「うわ!?」

「到着」

 高度15000m。この領域は人間が存在していい場所ではない。天空からは大気減衰しない紫外線・赤外線が降り注ぎ、-70℃から0℃の極寒の世界。空気は薄く、猛毒のオゾン層が存在する。
 それをどうにかできるのが魔法だ。温度は20℃程度に保ち、紫外線はカット、赤外線は害がない程度に減衰、空気は地上と変わらない組成・濃度。そしてもう一つ面白い効果を付与。そんなスフィアを周囲500mの範囲で形成している。

「あまり雲もない、いい天気だ」

「地球は青かったってホンマやったんやな……」

「それはもう少し高い場所で言うべきセリフだな」

「えるてが急いどった訳がやっとわかったわ。確かにこれは……綺麗や」

 闇色と山吹色のグラデーションに彩られた世界。それが眼下に広がっている。
 世界が東から闇に包まれていく。そこから光点がぽつぽつと灯りだし、やがて星空のようになる。

「はやてはいつか、この場所に至る魔法使いになれる」

「え?」

「その頃には家族も友達もいて、今なんかよりもっと幸せなはずだ。少なくとも寂しいなんて思わないだろう日々が待っている。今までが辛かったのは理解している。だが、それも今日まで」

「どういうことなん?」

「幸せはその手で掴むもの。聞いてばかり――――与えられるばかりではありがたみが薄れる。まあせいぜい悩み、今夜を楽しみにしているがよい」

「いじわるやなー……あれ?」

 はやてが違和感に気づいたか?

「ちょ、ちょ、えるて! 落ち落ち落ち落ち……」

 慌てて手足をばたつかせる。はやてを抱きしめるように掴まえていた私の腕は、完全に離れていた。
 麻痺は膝くらいまで回復していたから、バタ足くらいはできるだろう。

「落ち着け。落ちはしない。未確認浮遊快感というやつだ」

「落ち落ち……へん? ほんまや、浮いとる」

 なかなか器用に姿勢を制御している。
 まるでプールで泳いでいるかのようにあっちにいったりこっちにいったりしている。

「存分に楽しんでくれ。明日はこんなことより遥かに嬉しいことが待っているはずだから」

 空を無邪気に泳ぐはやてには、もう聞こえてないようだった。



 はやての誕生日まであと4時間。
 食事も風呂も終え、後はただ待つばかり。
 夜天の書と魔力パスを繋いだ個体はゆっくりと消耗を加速していき、恐らくは交替しても生存は無理だ。麻痺は全身に及び、人工心肺などの外部人工臓器でどうにか生かしている状態だ。最悪でも脳さえ生きていれば魔力供給は可能だし、この個体のリンカーコアを経由すればどんな魔力ソースでも構わないからカートリッジやブラッディシードなどからも供給できる。
 はやてと不毛にならないダウトをやりつつ、運命の時を待つ。

「ダウトや!」

「何故だ、何故これがダウトだとわかる」

「2がさっきまで4枚あったんや~」

 なんという強運。
 私は場のカードを半分に分け、片方を手札に、もう片方を山札に戻しシャッフルする。

「く……K」

「ドロー。1や」

「ドロー。2」

「3」

「ダウト」

「なんやてぇぇぇ!?」

 適当に言ったが正解だったらしい。
 どこにどのカードがあるかを予測し、そして相手の反応からも何が嘘かを見抜く。
 山札から任意でドローして、そこに目的のカードがあるかどうかはわからない。手札に正しいカードが無いから引くのか、次のカードが無いから引くのか、それともフェイクなのか、それは『ダウト』と言うまでわからない。

「1」

「2」

「3」

「ドロー、4」

「ダウト! ダウトや!」

「無念」

 これはこれで、不毛なダウトなような気もする。



 さすがにはしゃぎすぎたようで、はやては2200時くらいに夢へ落ちた。
 それから2時間。リミットは残り十数秒。私は夜天の書を手に、はやての寝室で、寝息をBGMに静かに時を待つ。

「さて、どうなることやら」

 独り言を吐き、同時に夜天の書が私の手から離れる。

『Anfang』

 鎖が砕け、開き、その666ページを誇示するかのようにめくれ、閉じる。
 ベルカ式の魔法陣が床に描かれ、そこから浮き出るように4つの人影が現れる。
 ついに、二度目の物語は始まりの時を迎えた。



《あとがき》

 お待たせしました、A'ce編が続きます。

 はやて誕生祭をエルテがするとこうなる。
 ちなみにはやての誕生日の前日です。

 どこかに矛盾がある気がしてならない。



[12384] 33万人閑居せずとも不善を成す
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:bcdb6a14
Date: 2011/02/21 19:35
 ベルカ騎士団が現れた。しかし、はやての生活は平穏そのもの。むしろ幸せの絶頂とも言える状況にある。
 ただの居候ではない、家族ができたのだ。以前より予告はしていたが、しかしその程度でこの喜びが減じるはずもない。
 もう一つ、いいことがある。ついにはやてが立てるようになったのだ。筋肉は衰え、麻痺は足に残っていて歩くことはできず、支えがなければ倒れてしまうが、立つことができたのだ。これははやてに希望を持たせた。

「はやて、はやてが立った」

「名作アニメかいっ!」

 車椅子は未だ必須だが、それでも希望である。

「おめでとはやて!」

 ヴィータが自分のことのように喜びはしゃぐ。

「ありがとな、ヴィータ。せやけど、他のみんなにも見せたかったな……」

「帰ってきた時に見せればよかろう。二度と立てないというわけでもない」

「そやな」

「それよりも、衰えた筋肉をいかに鍛えるかが問題だ。ドクターに訊かないとな」

「うん、次の診断の時にでも訊いてくるわ。鍛えるで~」

「筋肉少女八神はやて誕生の瞬間であった」

「うえ、はやてがマッチョ? にあわねー」

「ザフィーラ並みの鍛えられたボディを……」

「ならんわ!」

 依然と変わらないように見えるが、少しだけ、明るくなった気がする。
 私はこの笑顔を翳らせたくない。
 たとえ嘘と偽装で取り繕おうと、私を幾個体消費しようと、私は平穏に『闇の書』の呪縛を解く。



 グレアムと猫姉妹に命令して、無限書庫を漁らせている。現在、管理局の頂点の代名詞とも呼べるフェリス・C・シルヴェストリス上級元帥名義での命令は、たかが提督が逆らえるようなものではない。日中の八神家の監視は不可能である。
 そしてもう一つ問題がある。
 アーク・ジィル。
 彼は未来を知っていた可能性がある。

「管理局の頂点がわざわざ一介の局員に、一体何の御用でしょう」

 聴取室で、彼は嫌味に問う。

「君には幾つか不審な点があるの。ギル・グレアム提督、彼の『計画』は知っているかしら?」

「知らないと言っても無意味なんでしょう? あなたほどの人がわざわざ来るんだ、僕のことなんて既に調べ上げられているはず、そうでしょう?」

 ニヤニヤと不快な笑みを浮かべる男。

「シルヴェストリス元帥閣下はグレアム提督の計画を知り、それを阻止しようとしている。そして、僕に協力を求めに来た。違いますか?」

「残念だけど違うわ」

「? ならなぜ僕をここへ?」

「プレシア・テスタロッサ事件は知ってる?」

「はい。それがどうかしましたか?」

 顔はぴくりとも動かないが、心拍数がだんだんと増えている。

「プレシア・テスタロッサの娘、フェイト・テスタロッサの証言で、輸送船のルートや輸送物の情報を流した者がいるらしいの」

「エルテ・ルーデルという違法魔導師ですね。管理局に侵入し情報を売っていたようです。管理局のセキュリティは厳重であっても完璧ではありませんから」

「残念ながらエルテ・ルーデルは白だ。彼女はあの世界から他の世界に移動した形跡はない。無論、本局にもミッドにも『エルテ・ルーデル』の存在は一度も確認されていない」

 『エルテ・ルーデル』と名乗り、『エルテ・ルーデル』の姿をしたものはミッドチルダには一人もいない。わざわざ危険を冒して情報を売るほど困っていないし、管理局データベースに侵入する必要もない。頂点に『エルテ・ルーデル』が存在するのだから。堂々と情報を閲覧すればいいのだ。

「ですから、管理局のセキュリティも完璧ではないと申し上げた通り、記録を消すことはルーデルにとって造作もないことでしょう。犯罪者でなければ管理局に欲しいくらいですね」

「人の記憶すらも改竄できるのかしら。彼女がそんなレアスキルを持っていたら、管理局は終わりね」

「どういうことですか?」

「ミッドにはカニス・ルプス・ファミリアリスという准将相当官がいるのだけど、彼のレアスキルには完全記憶と超広域空間並列視、いわゆる千里眼があるの。存在そのものがプライバシーの侵害だし、何よりミッドが超管理社会になってしまいかねないから、彼の善意で協力してもらっているの。無論、彼は捜査に必要なこと以外は一切喋ってくれないけど。容疑者リストを見せて、そのリストの中に不法にミッドに出入りした存在がいないかだけ訊くのだけど、エルテ・ルーデルは今まで一度もミッドに来たことはないわ。ちなみに、変装や偽装はいっさい意味をなさないわ」

「なっ……なんだって!? じゃあジェイル・スカリエッティは!」

 尻尾を掴んだ。まさかここで尾を出すとは思わなかったが。

「ジェイル・スカリエッティ? なぜ彼の名がでてくるのかしら」

「あ、いや、個人的に彼を追っていましてね……」

「そう。ジェイル・スカリエッティはこのミッドチルダにはいないから安心して。ちなみに本局にも似たような能力を持った子がいるから、こっちも白。エルテ・ルーデルの侵入はあり得ないの。97管理外世界の書類にも不審な点はなかったし、あの世界の英雄の子孫という証拠もあったわ。高町なのはと同じ、あの世界出身の魔導師。だから、エルテ・ルーデルが情報を流したりすることはそもそも不可能なの」

「では、他に誰がいると言うんです?」

「それはわからないわ。だけど、なぜあなたがエルテ・ルーデルを犯人と思ったのか、それを聞かせてほしくてね」

 心拍数は極めて高い。発汗もみられる。静かな興奮状態だ。

「Sランククラスの魔導師が二人です。この時点で両方とも怪しいですが、しかし高町なのははユーノ・スクライアによって魔法に覚醒したとの情報があります。しかし、エルテ・ルーデルはいかなる経緯で覚醒したのかが不明です。次元犯罪者が管理外世界に潜伏していたと考えるのが普通です」

「そうね。なるほど、情報不足ゆえにそう判断してしまった、というわけね。では、エルテ・ルーデルの容疑が晴れた今、犯人は誰なのかしらね?」

「わかりません。情報が少ないですからね……あの、一ついいですか?」

「何かしら」

「なぜ、あなたほどの方が一介の局員でしかない僕に、そんなことを?」

「97管理外世界付近をよくうろつくと聞いたからよ。それ以外に意味はないわ」



 あのメス猫が帰った後、僕はイライラしていた。
 自室に戻るまでこの感情を吐き出せず、フラストレーションは溜まっていった。

「くそ、あのイレギュラーを排除するチャンスだったのに! なぜあのクソ猫があれを擁護するんだ!」

 未来が変わってしまった。それだけでも、許されざる罪だというのに。

「A's、いやStSが始まるまでにどうにかしないと……僕の完璧な計画が……」

 せっかく転生して、力もあるんだ、これは神様が僕にくれたチャンスなんだ。この世界は僕のためにあるのに、あんな、原作に存在しなかったキャラが跋扈するなんて許されるはずがない。

「ルーデル……あのガキ、絶対消してやる。あのメス猫もだ」

 実力を隠してSSS+をA程度でごまかしているから、あっさり油断するだろう。いや、僕が直接手を下すまでもない。テロリストに情報を流して殺させることもできる。

「見てろよ、理使いに選ばれた僕の世界を脅かすものには死の鉄槌が下るのだ! クハハハハハ……」



「記録したな?」

『完璧です』

 偽装と工作は私が破壊の次に得意とするものだ。気づかれずに盗聴スフィアをまき散らすのも、息をするように簡単にできる。

「Gut。しかし、傲慢に過ぎるな。この世界は誰の物でもないというのに」

『ランナーもかなり自由に生きていると思います』

「……そうだな。私もアークと変わらない」

『ですが、アーク・ジィルのようにゲームのプレイヤー感覚の独善で行動してはいませんね』

「アークは己の行動に責任を持つ気がないのだろう。転生者たる自分は特権を持っている、とね」

 私は孤独ゆえ、アルトを護るためならどんなこともすると誓った。やがて大切な人が増えていき、それを護るために、自らの躯に手を入れるという忌むべき行いを実行した。これも所詮は免罪符、護るためではなく失うのが怖かっただけ。結局自分のことしか考えていない。
 私とアークは同じなのかもしれない。正反対かもしれない。それを決めるのは私であり、アークであり、他の誰かだ、見る人によって判断は違うだろう。私が善で、アークが悪。双方とも正義。双方とも悪。正義でも悪でもない。
 私は正義ではない。かといって、自分を悪とは認めたくない。独善でありたくないからエイダに相談し、ときにみんなに問う。私は一人ではない。私は独りではない。だから、大好きな誰かが不幸になるような結末は望まない。そのためには、どれほど傲慢になろうと、大切な人に嫌われようと、己の信じる正しい道を走る。ただ、それだけ。



《あとがき》

 とりあえず、痛いオリキャラ一人追加。あまり出てこないだろうけど。
 オリ展開になると一気に難しくなるのを実感。二次でなく、完全オリジナルの話なら簡単に筆が進むのに。なぜだろう?

 とりあえずエルテを犠牲にはやてが回復したことでヴォルケンズの蒐集フラグは消えました。グレアムの計画は完璧に頓挫しているわけですが、さてさてどうなることやら。うふふ。



[12384] 33.5アーク・ジィルの受難
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:bcdb6a14
Date: 2011/02/21 21:00
 アーク・ジィルが何をしようと、もはや何も意味をなさない。逮捕するには証拠もなく、殺すには小さすぎる。ならば、少し遊んでみるのも面白い。気分転換くらいにはなろう。



「転属、ですか?」

 一匹狼であるアーク・ジィルであるが、それでも上司というものは存在する。無論、アークも部隊に所属しているわけだから当然のことなのだが。
 呼び出されたと思ったら、転属の話だった。

「ああ、新設される部隊に、副隊長として抜擢された」

「部隊名は?」

「特別機動作戦一課、通称特機一課だ」

 アークの未来が喜劇に変わった瞬間だった。



「アーク・ジィル、特別機動作戦一課に着任しました」

「アクア・ヴィットマンです。これからよろしく」

 アークの前には、白っぽい水色をして特徴的なメガネをかけた美女。
 一枚の湾曲したミラーコーティングされた細いレンズで構成され、その奥の眼は見えない。
 この美女が特機一課の隊長だった。

「……あの、一つよろしいですか?」

「なんですか?」

「あの、戦車に乗っていた経験とか、祖先にドイツ人かベルカ人はいませんか? あるいは北欧のどこか出身だとか」

「何を言ってるんですか。祖先はわかりませんが私はミッド生まれのミッド育ちです。戦車は質量兵器でしょう? 私の世代が触れることすらありえないのですが」

「い、いえ。なんとなく、聞かなければならない気がして」

 気まずい雰囲気に、一応取り繕うアーク。アクアのよくわからない迫力に、冷や汗が頬を伝う。

「まあ、そんなことはどうでもいいです。さっそく出撃です」

「え? 他の隊員は?」

 着任の挨拶にきたら即出撃。アークに嫌な予感を感じさせるには充分だ。

「いませんよ。この特別機動作戦一課は超少数精鋭主義。ロッテさえ組めればいいのです。ではいきますよ」

「ま、まだ準備が」

「デバイスさえあればいいです。さあ出撃です」

「え、ちょ、話を!」

 アークのその手を掴み、アクアは問答無用で引きずってゆく。



「ぜはーっ、はぁーっ」

 大地で大の字になって荒い呼吸をしている男が一人。アーク・ジィルである。

「だらしないですね。まだ一件目ですよ?」

「そんな、はーっ、こといっ、ふーっ、たって」

 反管理局組織の本拠地を襲撃するという、極めて普通のお仕事。ただし、敵が完全武装だったり千を超える兵力があったりと、そしてたった二人でその全てを逃がしてはならないという無理ゲーな状況に奔走せざるを得なかったアークは、かなり疲労していた。

「ヴィットマン一等空佐ですね?」

 管理局の制服を着た男が、アクアに声をかける。

「あ、ここ担当の局員ですね? 後はよろしくお願いします。敵の無力化は完了していますので、あとは捕縛するだけです」

「了解しました。では」

 アークは彼にすがるような眼を向けたが、終始気づかれなかった。

「さて、休んでいる暇はありませんよジィル一等空尉」

「え?」

 再びアクアに手を掴まれ、強制的に転移させられる。



 繰り返すこと4回。

「…………」

 アークはぴくりとも動かない。

「大丈夫ですか?……死んでる」

「い……生きて……ますよ」

 地獄から這い出た怨霊から絞りだしたような声で応じるアーク。

「情けないですね。SSS+だというから期待していたんですけど」

「誰から……」

 せっかくランクをAとごまかしていたのに。一体誰が。
 そんな猜疑心がアークの思考を走り出す。

「実力隠されると困るからと、何年か前から監査が入るって通達されていましたよ。管理局は人員不足ですから」

 このイライラをどこにぶつければいいのか。心の中にあるもやもやとした怒りの落としどころを見つけられず、そしてそれを発散する体力など残ってはいない。

「同じSSS+でも、フェリスちゃんは凄かったのに」

「なん……元帥……」

 声が出ない。「なんで元帥がそこで出てくるんだ!」と叫びたいのに、口も肺も動いてはくれない。

「昔、私とフェリスちゃんは相棒だったんです。あの頃はよかった……私が衰弱しきっても、飴玉を口に口移しで入れられて回復魔法をかけられて「まだいけるな。出撃だ」とそれはもうカッコよくて……」

(どんなバケモノだよ、この変態を衰弱させるなんて)

 アクアはどこかに旅立っているが、それでも口に出す愚は冒さない。

「あのなびく髪……凛々しく精悍なお顔……絶対者とでも言うべき強さ……ああ、フェリスちゃんが敬愛するハンス・ウルリッヒ・ルーデルという方は、一体どれほど美しいバケモノなんでしょうか……」

(あれ以上がいるだと!?)

 こいつもあいつもいい加減バケモノだが、それ以上。もしかして、この世界は僕が思っていた以上に人外魔境だったのか?
 ああくそ、眠い。躯から力が抜けていく。

「おーい。あー、気絶しちゃいましたか」



 報告書には『それなりに使える』という記述があった。

「フフフ……頑張ってくれているようだ」

 フェリスが読んでいる報告書の内容に、私が笑う。
 アクアは私がバイブルを渡したせいでああなってしまった。私が昇進するために無理な出撃に付き合わせてしまったのも原因なのだろう。先日過労で病院送りになったため、ブレーカー役を探していたのだが、ちょうどいい人材がいて助かった。アークならアクアの無茶に付き合わせてもあまり良心は痛まない。

『他に転生者がいないか、引き続き警戒します』

「ああ、頼む」

 いるかどうかすらわからない存在を探すのに、大きなリソースを割くほど我々は冗長な組織ではない。管理局に潜伏したエイダが自動的に怪しそうな存在をリストアップしてくれる。今はそれだけで充分だ。

「そういえば、気になることを言っていたな」

『理使いに選ばれた、ですか?』

 理使い。コトワリというのがなんなのかは理解できないが、少なくともあの傲慢な転生者アークに信望されるくらいには力があると考えられる。最悪、戦わざるを得ないだろう。『理使い』が選んだアーク・ジィルを殺さないにしても忙職に回して身動きできなくしたのだから。

「一応調べておくか」

『管理局データベースには、その単語に一致する存在はありません。無限書庫を探すことをお勧めします』

「姿形が一切わからない存在に、無駄に時間を割くほど暇ではないわ。アークのことを除けば、いまのところ」

「順調だな」

『闇の書以外は、ですが』

 それはフェイトの件が終わってから本格的に始まるのだけど。ユーノがフェイトの裁判から離れられない今は、手探りで非効率に解析していくしかない。

「それはどうしようもない。さてと、次はフェイトの裁判か」

「面倒ね……もう少しスマートに判決を出せないものかしら? そもそも司法立法行政が一ヶ所にまとまっているのがおかしいのだけど」

『改革は難しいですね。この世界では既にこの体制が定着しているようですから』

「何かいい手はないのかしら」

『混ざってます』

「構わない。たとえ見られたとしても、せいぜい私の謎が増えるだけ。女はミステリアスな方が魅力的に見えるのよ」

『元男とは思えないセリフですね』

「男だからこそだ。男の視点からなら、どんな女が魅力的か的確にわかるのよ。男が萌えているポイントをほとんどの女は理解しがたいが、同性なら大多数が共感できる。そしてあらゆる属性を網羅しエミュレートできる私は、異性・同性問わず魅了することができる」

『その割には、私が浮いた話を聞かないのは何故ですか?』

「恋愛など面倒だから、なるべく他人との距離をとる。高嶺の華過ぎると、誰も手を出せないものよ。アイドルに憧憬や性的興奮を覚えても、恋愛感情はそうそう生まれない。それと同じよ」

 私は書類をまとめ、フェリスは幾つかの書類に判を押す。インクが乾くのを待って、すべての書類をフェリスに渡す。

「いってらっしゃい」

「いってきます」
『いってきます』

 己が己を送り出す。奇妙だが、偽装のためだ。仕方ない。
 早急にフェイトを自由にしてやらないと、プレシアに会わせる機会を失う。

「無理を通せば道理は引っ込む。ままならないな、まったく」

 無理を通して道理も通す、そんな答えがあればいいのに。そうは思うが、しかし数京もの脳を回しても答えは出なかった。



《あとがき》

* o/
<θ *
/> *



 いいえ、ヴィットマンです。
 アクアはビットマンを擬人化したような人ですが、某戦車乗り、変態企業とは関係ありません。



 えー、アーク君の処分が決まりました。ルーデル原理主義者のヒューズまたはブレーカーとして存分に役に立ってもらいます。ヒューズでは毎回切れてしまうので、ブレーカー役。
 致命的に悪いことでもしていない限りエルテさんは寛大です。処分は残酷です。



 そろそろ原作チームに活躍してもらうことにしよう。



>>う゛ぃえ様
 非常にありがたいです。
 かなり昔のまであるとは、感謝してもしきれません。

Feb.21.2011

 修正パーティー終了。
 疲れた……



[12384] 34遭遇
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:2c45bf09
Date: 2011/05/22 08:02
 フェイトの裁判は順調だ。あることをすれば裁判をほぼフリーパスにできるが、これは後々禍根を残しかねない。裁判長から傍聴人、上から下まで全部私で埋めれば一切なんの抵抗もなくフェイトを無罪にできる。
 まさかの子供達からの案。だが本気で実行するには少々遅すぎた。既に裁判官も決まっている裁判の人員を総入れ替えするなど、たとえ私が元帥権限を振りかざしたとしても不可能。

「思ったより短かったわね」

 そう、私が、フェリスが出ると毎回異例のスピードで判決が下るのだ。毎回異例というのもおかしいが。

「あ、あの、ありがとうございました」

 私の執務室の隣、応接室にて今後の注意事項を伝えた後、フェイトに礼を言われた。

「お礼なんていいわ。無罪にはできなかったけど、ある程度は自由だから安心して。1年我慢して嘱託魔導師として働けば自由なんだから」

「一つ……きいていいですか?」

「機密でない限り何でも答えるわよ」

 意を決したように息を吸い、そして問う。

「エルテ、エルテ・ルーデルはどうなりましたか?」

 やはりか。エルテ・ルーデルに関しては一切の情報が無条件で消滅するように管理局のデータベースに潜伏したエイダが検閲している。実際には私に都合の悪い情報も改竄したりしていりようだ。この主人想いのAIは、私が命じなくとも、あるいはやめろと命じても、主のためなら命令に背く。アイザック・アシモフも草葉の影で嘆いておられるだろう。

「そんな名前の人物は存在しないわ。少なくとも、公式記録ではね」

 そう。今やアースラは特級機密指定情報の宝庫だ。誰もがエルテ・ルーデルの存在を知っている。ガイアのことも。そしてクルー全員が黙して語らない。エルテ・ルーデルが、ガイアが『どんな存在』であるか知っているから。
 パンドラの箱を好き好んで開けようという破滅思想を持つ人間はそうそういない。特に、管理局などという治安組織に属する人間は。だから皆、口を閉じる。

「そんなはずは……エルテは、私を助けるために局員の妨害とかしてたから記録には残ってるはずです!」

「そうね……あなたが配属される予定のアースラの誰かに訊いてみる、というのはどうかしら? 私はエルテ・ルーデルなる存在に対して何かを言うことはできないから」

「え? それは……」

「これ以上は機密よ。私でも話すことはできないわ」

「ま、待ってください!」

 問答無用で去る。これ以上は本当にまずい。私の正体を知られかねない。

「元気でね」

 フェイトは迎えが来るまでこの部屋を出ることを許されていない。
 入れ替わりにリンディが部屋に入る。

「後は頼むわ」

「ええ、任せて」

 リンディにはこの裁判の最中、何度かガイアへ招待した。プレシアと話をさせるために。
 リンディの『プレシアと話がしたい』という要請に対し、プレシアの要求は『リンディと二人きりで話がしたい』というものだった。何を話したのかは知らない。そこで何が決まり、フェイトの今後がどうなるのかも私は知らない。すべては、二人の胸の内にのみ在る。
 ここでフェイトがどうなろうと、大局にはそう影響はないだろう。闇の書の処理に失敗し、騎士達の説得にも失敗し、蒐集が始まったとしても、恐らくフェイトは、いや、アースラが地球に来る。たとえそれらがなく、全てが平穏無事に終わろうと、リンディ達は地球に移り住み、フェイトは聖翔に通うこととなるだろう。プレシアもリンディも、そして私も、フェイトの幸せを願っているのだから。初めての友たるなのはと離れ離れにはさせたくないのだ。

「さて、忙しくなるわね」



 選択肢はそう多くない。
 既に私を19体食い潰して、闇の書は安定を保っている。はやてにかかっていた魔力負荷は消滅し、支えは必要だが立てるまでになった。騎士たちはまず蒐集に出ることはないだろう。グレアムはフェリスの名で主力たる猫姉妹を無限書庫に奪われ、彼自らも非常に多忙だ。アーク・ジィルは先日病院にかつぎこまれたが、翌日には自ら出撃したという。
 そして遂に、ヒトガタ高出力魔力炉ともいえるエルテ・アーク・ルーデルの発展型、エルテ・ソルディオス・ルーデルが完成した。リンカーコアを経由しない、もはやロストロギアと言っても充分通用するほどに原理は不明。息をすれば魔力を吐くように、どこからか魔力を生み出す。放っておけば世界が魔力と魔力素で飽和してしまったことすらある。ファンタズマゴリアに贈れば繁栄間違いなし。贈れればの話だが。

「おはよう」

「……おはよう」

 わざわざ睡眠が必要な個体の寝室に現れ、目覚めとともに挨拶までする存在。少なくともこの部屋には他にも数十の個体がおり、眠っていたり起きてうろうろしていたりするが、それらの個体の感覚に引っ掛からずにここに存在する、それが異常だった。
 今は完全警戒だ。この部屋の内外、いや建物の内外に数千の個体が集結しつつある。完全武装、何かあれば施設ごと消し飛ばす用意もできている。

「なるほど。このころはまだ……ということは初対面か」

「何が言いたい」

「初めまして。俺はレイ。ただの暇人だ」

 外見を裏切った一人称で、その美人は事故紹介をする。長い黒髪を邪魔そうに束ね、私と似たような趣味の服を着ている。そして私は理解している。こいつは、強いと。あるいは、終結している私がすべて消滅しかねないほどには。

「エルテ・ルーデルだ」

「分裂少女の破壊神か。いい名だな」

 この世界に、あのゲームは存在しなかった。ならばなぜ、この少女はそれを知っているのか。簡単だ、アーク・ジィルと同じ転生者。もしかすると、アーク・ジィルが行っていた『理使い』かも知れない。

「わざわざ自己紹介に来たのか? 出口はあっちだ」

「アークを改心させた手並みは素晴らしかった。何より殺さないのが意外だった。何故殺さなかった?」

「気まぐれというしかない。そもそもアークのしでかしたことで大した被害は出ていない」

 輸送艦の撃沈という結果はあったものの、船員は全員生存しジュエルシードも全て確保。彼らには保険がおり、新造艦で今日も輸送業務にいそしんでいる。
 プレシアはジョン・ドゥ=アーク・ジィルの情報通りに輸送艦を攻撃、すなわち『どこを攻撃すればいいか』まで詳細に記された艦の見取図に従って攻撃を行ったと語った。轟沈せず、つつがなく脱出できるように。そして船員には予想外の額の保険金がおりた。それら全てにアークが関与していた痕跡があった。

「アークなど、多少傲慢だがかわいいものだ。本当のゴミクズは、文字通り脳が腐っているとしか思えなかった。そうだな、私の定義する『善悪の境界』というものを超えていなかった、というところでどうだ」

「なるほど。傲慢で一人よがりではあるが、確かにアークの本質は善人だ。今回の関与も、この世界を守るためなんだろう。多少の力を与えたが、結局は孤独だ。それが独善になりかねないと思っても、そうするしかなかったのはアークの不幸だ。もっと早くに君に逢えれば、あるいは……」

 この世界を守るため。最初に思いついたのは、PT事件初期の私だ。可能な限り正史通りに世界を動かそうとしたこと。97管理外世界こと地球は、何の関与もなければ『なのは』という少女により二度の危機を乗り越える。その後ミッドチルダをも救う。そう、『全て』が正史と同じならば、その歴史は正史同様に進むはずなのだ。しかし、そのはずは、私というイレギュラーが存在し、いや、私が行動したことで無に帰した。
 アークも恐らくバタフライ効果を知っていた。だからこそ可能な限り正史を再現しようと行動したに違いない。

「君に比べれば遥かに無力だが、それなりに有能だ。俺が説得しとくから、悪いようにはしないでくれると嬉しい」

「手遅れだ。既にルーデリストになっている。暇があれば相棒と出撃している」

「マジか……うわ、マジだ……」

 その眼は何を見ているのか。何やら呟くと、げんなりとなった。

「まあ、実力もある。君に任せておけば大丈夫だろう。アークを頼む」

「私はこれ以上関与するつもりはないさ。相棒が優秀だから、撃墜されてもそうそう死にはしない。安心しろとは言えないがな」

「充分だ。じゃあ、今日はこれでお暇しよう」

 レイの姿が薄れてゆく。複数の私とエイダが観測しているというのに、存在確率がどんどん下がっていく。

「『コトワリ』使いか。なるほど」

 なるほど、世界の法則を、原理を操る。故に『理使い』か。



《あとがき》

 10kB書くのにどれだけ時間をかけているのでしょう?
 破壊行為にかまけて本編が終わらない。あっちは何も考えてない、本当にネタなので矛盾がどうしようもなくなるまでは凄いペースで書けるんですもん。



 ついに理使い出現。
 エルテさんが破壊行為に至るのはStS終了後です。まだまだ道は遠い……



 最初から見直して、リメイクというか、大規模改訂というか、そんなことをしています。
 今のこれが完結してから投稿するのは決まっていますが、投稿したら旧版を消すか、それとも残すか、悩んでいます。
 取らぬ狸のなんとやらになりそうだから、そのときになるまでは決めませんが。



 >>ダイヤモンドは砕けない。

 ただのジョジョネタです。
 一応機械工学の技術屋ですので、物体は硬くなると脆くなるのは充分承知しています。
 でも最近うちの大学が砕けにくいダイヤを開発したとか……
 4月の誕生石、石言葉は『永遠の絆』『純潔』『不屈』――――まさになのはさん。



[12384] 35覚悟
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4004e5ca
Date: 2012/04/15 19:40
「…………」
『これは、どうしようもありません』

 詰んだ。
 闇の書浄化計画はここで一つの転機を迎えた。
 簡単に説明すると、防衛システムが確実に起動することが判明した。ロジックには悪意しか感じられない。これはよほど破滅が好きな狂人か、悪の代名詞とでも言える人物の手による改変だろう。
 どこかの無人世界で極秘裏に起動させ処理するという案は、はやてからは世界をまたいで離せないせいで無理だ。闇の書のプログラムである守護騎士が持ち運ぶのなら問題ないが、私の権限は、言うなれば偽造ゲストアカウント。セキュリティに気づかれないように慎重に解析を進めていたから今までどうにかなっていたが、これ以上はもう、無理だ。
 夜天の書の原典が見つかれば、あるいは、可能かもしれない。しかし、無いものねだりにすぎない。探してはいるが、無限書庫にセンチュリアを送り込みまくる訳には行かないし、遅々として進んでいない。

「いっそ現状維持という手もあるな。私を消費し続ければ、はやては死ぬことはない……」

『……八神家地下施設の設計を開始します』

 エイダの声はどこまでも平坦だ。私は知っている。こういうとき、エイダは冷徹であろうとする。感情というロジックを停止させ、論理的な計算ができるように。
 私を『消費』するのが感情で許せないから、エイダは冷徹になる。

「プランは――――闇の書を完全閉鎖型地下施設に隠匿。私の生産プラントを配備。死体を再利用できるようにリサイクルプラントも設計してくれ。完成と同時に移送、グレアムも解放しよう……ん? これ、まさか本当に最善の手か?」

『八神はやて及びヴォルケンリッターの存在を脅かさず、かつ有能であるギル・グレアムを失うこともありません。夜天の書の管制人格も、時間があれば解放できる手立てが見つかる可能性もあります。闇の書が発見できなければ、ギル・グレアムも行動できないと考えられます。現状では最善手と言えるでしょう』

 瓢箪から駒、とでも言うのか。まさか、苦肉の策が最善手だった。
 私は、そしてエイダは、この世界の誰よりも闇の書を熟知している。故に、闇の書に関して知らないことがあることも知っている。それを知るための権限が必要なことも、それを手に入れるためにはやての協力が必要なことも。夜天の書の原典があれば、ほぼ確実に修復できることも。そう、知っている。

「やっと、この部屋が広くなるな」

 私が16個体立ち並び、ベッドに5個体転がり、そして3個体が解析と魔力パスを管理している。躯は子供ではあるが非常に狭い。

「エイダは否定するだろうが、私はこれでいいと思う。私は苦痛を感じないし、死ぬこともない。個体の死で『死』を実感することはあっても。私には数がある。私は兵器だ、攻撃機やミサイルと変わらない。代わりはいくらでもある。だから、もう、失うことは恐れなくていい。100個体しかいなかった頃とは違う」

『それではありません。私が気づいていなかったとでも?』

 ばれたか。

『以前から妙な魔力の流れを検知していました。こっそりしているつもりでしょうが、独立型戦闘支援ユニットを舐めないのが賢明です』

「正解だ。もう膝関節くらいまでだ。さすがにこれは予想外だったな」

 私の個体、そのほとんどに現れた症状。はやてと同じ、麻痺。

『それなら……』

「却下。なんのための義体化・電子化・量子化だ。これが魔力的なものであるならば、コンピュータの中で生きている私にまでは影響しない」

『だからといって……』

「生身が死ぬなら、全て死ぬ前にどうにかすればいい。筋肉が動かないのなら人工筋肉に入れ替え、神経はオプトナーヴ。心臓は永劫機関。どうだ、完璧だ」

『脳はどうしようもありません。ワイヤードゴーストにでもなるつもりですか? 恐らく、二度と戻ってこられません』

「躯さえできれば戻ってこれるさ。なに、量子存在も私だ。魔法が使えなくなるだけ、それだけだ。特に問題はない」

 詭弁だ。電子や量子に移行したとしても、私が全て失われた場合……次に造られるとき、その私が『私』の意思を持っているかはわからない。躯に意識を転送したとしても、元通りの私に戻る保証もない。

「要は、終わってしまう前に終わらせればいい」
『要は、終わってしまう前に終わらせればいい』

「よくわかっているじゃないか」

『わからない方がおかしいです。私はあなたの――――』

「独立型戦闘支援ユニットで、私はランナーだからな」

『セリフを取らないでください』

「フフフ、悪い。では、仕方ない。久しぶりに、俺の本気を見せてやる」

 笑う。しかし、俺ではこれが精一杯。この躯は、豪快に笑うことを許してくれない。だから、精一杯笑う。

『久しぶりですね。あなたの一人称が変わるのは』

「これが最後だ。と、思いたいな」

 俺が『私』になったのは何故だろう、いつだっただろう。つい最近のようで遥か過去のようで、思い出せない。完全記憶とか言いながら、そういったことが思い出せないと気づいたのはつい最近だ。

「知っているか? 『私』は死ぬのは未だに怖いんだ。だが『俺』だと死が実感できなくなる。こんな体質だからか、傍観者としての意識ができてしまったからか。まだこの世界が『幻想』であると戯けたことを思っているのか。わからないがな』

『レックス・トレメンデが何を言っておられるのですか』

「レックス・トレメンデでも怖いものは怖い。絶対に余力を残して、どんなことがあろうと必ずどこかで生き残る算段を立てている。だから、恐れず向こう見ずの『俺』はこれで最後だ。今回だけは死ぬことも視野に入れ行動する。だから死を恐れない『俺』がやる」

 本当の全力を行使する。各世界の私がいきなり消えたとしても、予備の歯車が回るようにしてある。組織とはかく立てるものだ。
 私は単体では破壊しかできない。多少の個体があったとしても、破壊か、多少できることが増えるだけ。ならば、数多の私がいれば相応のことができるはず。他人を頼れば、さらに多くのことが。管理局にだって数百万の同僚や部下がいる。民間にだって数えきれないほどの友や仲間がいる。管理外世界にも、この世界にも。

「プラン9を実行する」


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