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[11737] バハムートラグーンTAKE2
Name: OUT◆7cc87e23 ID:0e220d18
Date: 2009/09/24 02:40
「どうしよう!アレキサンダーがまた復活しちゃう!」

 遂に俺達はアレキサンダーを倒すことに成功した……だが、まだ終わってはいない。長かった旅に終止符を打つため復活しようとするアレキサンダーに対してヨヨが一歩前に踏み出す。

「大丈夫、私に任せて!」

「ヨヨ!」

 そんな彼女を支えようと横に立つパルパレオス。マテライトとセンダックも当然のように周りに立つ。だが、俺は……俺は。

「パルパレオス!……マテライト、センダック。オレルスの仲間達、皆さんも……力を、私に力を!強さをください!」

 ヨヨの声が聞こえる。オレルスを救うまでは……この戦いが終わるまでは……と、聞こえないようにしていた声。

「ビュウ……あなたも、お願い……私、ビュウには嫌われてる……私がいることで、ビュウをいやな気分にさせてしまう……それは分かってるの、でも……ビュウ、貴方はやっぱり私の大切な人なの。貴方がいなければ今の私はいなかった。私に大切なこと……教えてくれた。空を越えて伝わる気持ち……本当にあること、今だけでもいいの……私に……強さを!あの頃のように!」

「「「ビュウ」」」

 俺は無言で4人の立っているところに歩いていく。まだ……まだ終わっていないんだ。せめて最後までは……そう自分に言い聞かせる。

「ありがとう……ビュウ。ねえ……もっと強く、捕まってもいい?」

「……」

 無言を肯定と受け取ったのか、ヨヨが強く捕まってくる。くだらない感情だとわかっていても皆に見えぬように唇を噛んでしまう。怒り?悲しみ?悔しさ?……それとも自分自身の不甲斐なさか、この感情は結局この時まで消えることがなかった。

「ビュウ……ありがとう。さあ、神竜の王アレキサンダーよ!私の中に入ってきなさい!あなたなんか恐くない。私には皆がついているから、みんなが強さをくれるから!アレキサンダー!!来なさい!」

 ヨヨがそう叫んだ瞬間、周りにいた俺達はヨヨを基点に弾きとばされる。

「な、何が起こったんじゃ!?」

「アレキサンダーが姫の中に!?」

「それでは……ヨヨの中で神竜たちが戦い始めたのか!?誰か!誰かなんとかしてくれ!」

 あのパルパレオスがどうすればいいかもわからず慌ている姿は少し滑稽で……ただそれ以上に自分が滑稽な存在ということを認識させられた。こんな時にこんなことを考えるなんて、意外と人間なんてのは余裕があるもんだ。
 そんなことを考えていると、どうすればいいかわからない俺達の元に竜人が近づいてきた。

「ヨヨ様!ヨヨ様!おう竜人!早くなんとかするんじゃ!」

『強い娘だ……よく頑張ったな。もう大丈夫だ……さぁ、ヴァリトラ』

 竜人の言葉と共にヴァリトラがヨヨの体から姿を表す。出てきたヴァリトラはそのまま竜人に導かれるように体に吸い込まれていく。残る5人の竜人達もそれに続くように神竜へと呼び掛ける。

『リヴァイアサン』

『……ガルーダ』

『ユルムンガルドはわたしに!』

『おいで、ヒューベリオン!』

『さぁ、復活の時だ!バハムート!!』

 その言葉でアレキサンダー以外の神竜が竜人達と融合。さっきに比べるとヨヨの顔色も大分よくなっている。だがアレキサンダーが残っているにも関わらず続くはずの竜人の声が聞こえない……ついにセンダックが声をあげる。

「アレキサンダーは!?」

『生き残った竜人はこれだけのようだな……アレキサンダーは娘の中だ。しかし、戦いはなくなった……あるのはアレキサンダーの怒りと憎しみ、そしておそらく悲しみ……』

「それではヨヨは?!」

 竜人という器に入ったバハムートの表情はあまりいいものではなかった。それがヨヨの心にかかっているということを表しているかのように。

『後はこの娘の心の強さ次第だ……』

「なに?!なんとかせんか!その為のお主らじゃろ!」

 バハムートにマテライトが詰め寄っているが何の解決法も出ない。あんなことがあってから俺は自棄になっていたのだろう。もう俺の存在も必要ないと思いながらヨヨの元へと歩いていく。

「ビュウ……?」

「アレキサンダー!!」

 ドラグナーでもなんでもない、ドラゴンに好かれやすいだけの俺にできるかもわからない……だが何故かそう叫ばずいられなかった。

「アレキサンダー!怒り、憎しみ、悲しみ……俺が全てを受けとる!」

その言葉と共にヨヨから出てきたアレキサンダーが俺の体を貫く。

「ビュウ?!」

 貫かれた瞬間、頭に様々な感情が溢れだす。頭の処理が追い付かないのか視界が真っ暗になり耳からも何も聞こえない、腕などの感覚も消えてなくなる。あるのは溢れだす怒り、憎しみ、悲しみの感情のみ。気が狂いそうになる……が、それとともにこのまま壊れられるという喜びもあった。意識がもう保てなくなってくる……

『……知りたい……』

意識が途切れる寸前に、そう聞こえた気がした。





「……なさい。……ュウ!……ら、起きなさい!」

「うっ……」

 まぶしい光と妙に懐かしい声でむりやり頭を覚醒させられる。

「ほら、早く起きなさい!今日は訓練の日でしょ!」

「……訓練?」

 まぶしさに慣れてきた目を開けると、何故かそこには決戦の地にいるはずのない育ての親がいた。





あとがき

ふと書きたくなってしまった



[11737] 第1章『借り返せ』
Name: OUT◆7cc87e23 ID:942a80e2
Date: 2009/09/24 03:00
〔1〕


「はぁ」

「キュル?」

 心配するように顔を覗きこんでくるサラマンダーを苦笑しながら撫でる。決戦の後、カーナで目が覚めてから3日が経った。突然カーナに戻っていたことは驚いたが、それ以上に信じられないことが起きていた。

「……なんで小さくなっているんだ」

 そう、俺は何故か体が10歳の頃に戻っていた。しかもそれだけじゃない、周りもその頃に戻っているのだから手に終えない。過去に戻った……そう考えるとしっくりくるのだが果たして過去に戻るなんてことがそもそもできるものか。3日前に起こされた時はわけもわからず訓練に行かされ、体が小さい事に気付いた時にはマテライトに一瞬で倒されてしまっていた。

「ビュウ!今日は変な動きをしすぎだっ!ホレホレ、当たるぞ!」

 と、怒られながら何回も倒される。身長も筋力も足りず、距離感や自身の速さが掴めない。とりあえずマテライトに復讐を誓うのは小さい頃のお約束だ。

 そんな感じで訓練をしながらこの3日、過去に戻った理由を考えていたが……夢みたいなものなのか、アレキサンダーのせいなのか、それとも他になにかあるのか……予想はしてみるものの答えは見つからなかった。それに理由がわかったところで戻ろうとは思わない。だからといって今からまた同じ事を繰り返す気にもならないわけだが。それどころか正直この街からは逃げ出したいぐらいだ。ここにいるには……俺の心は弱すぎる。

「ビュウ……どうしたの?」

「ヨヨ様、何でもありませんよ」

「……なんで、なんでそんなしゃべり方するの!最近ビュウ、おかしいよ……」

 過去に戻って来てから俺は、基本的にヨヨに近付かないようにしている。あっちから話しかけてきても、丁寧に最低限の受け答えをするぐらいだ。一度は愛した人だ……復讐しようとは思わないが、かといって再び好きになれるかと問われれば答えはNoだ。こんな自分のクソガキ染みた発想に思わず失笑してしまう。

「ビュウ……なんだか苦しそう」

「……そんなことないですよ」

「もう!ビュウなんて知らない!」

 顔に出ていたのかヨヨにまで心配される始末だ。昔から人の感情には敏感な人だったからな。そんなときに見せてくれる君の笑顔に何度救われたことか……よそう。

「……よし、ここを出よう」

「キュル?」

「お前も、ついてきてくれるか?」

「キューイ!」

「……そうか、ありがとう相棒」

「キュイ!」

 過去に戻ってきたことがわかってから考えていたことだ。俺はここでまた前のように戦う気にはなれなかった。だからここを出て、生きたいように生きてみようと。元々王家につかえることが決まっているようなものだった俺がここを出る……それは国を捨てるということを意味する。

 未練がないと言えば嘘だ。マテライトやセンダック、ここまで育ててくれた義母さんともお別れになる。次会えたとしても……恩を仇で返す俺を許しはしないだろう。……それでも、俺はここを出る。

「書き置き……していこう」

 そして俺は夜、皆が寝静まった後家を出た。





「な、なに!ビュウがサラマンダーと共にいなくなったじゃと!?」

「そうなの、こんな書き置きをしてね」

 その手紙には『マテライト、センダック、義母さんごめんなさい』とだけ書いておった。う、うーむ。シゴキ過ぎたか……イヤイヤ、これでも何人もの戦士を育ててきたこのマテライト、見る目はあるほうじゃ。あやつは訓練で逃げだすようなやつじゃない。

「4日前ぐらいから様子がおかしかったんだけどね。マテライト、あんた何か知らないかい?」

 4日前……4日前といえば変にこなれた動きをしだした時じゃな。体格も決まらぬ内からあまり形を決めてしまうといかんと思い、一応止めておいたが……も、もしやそれが原因か?イヤイヤ、それこそないだろう。そうやって考え込んでいると、突然ものすごい勢いでドアが開いた。

「ビュウがいなくなったって本当!?」

「こりゃヨヨ様!王女たるものいかなる時もですな……」

「いいからっ!ビュウがいなくなったって本当!?」

「ウッ……ほ、本当ですじゃ」

 ビュウ!貴様のせいでワシが怒鳴られたじゃないか。帰ってきたら訓練を倍にしてやる。

「あ、ヨヨ様。それがねぇ、こんな書き置きしてどっか行っちまったんだよ」

「見せて!…………これ、マテライトとセンダックとおば様の名前はあるのに、私のだけない」

「そ、そうじゃ!ビュウめ!よりにもよってヨヨ様の名前を忘れおって!」

「あんたはちょっと黙ってなさい」


 ……貴様の義母さんにまで怒られたじゃないか。帰ってきたら訓練を倍の倍にしてやる!3倍じゃ!

「あんたもう頭ボケてきてんのかい。倍の倍は4倍だよ」

「……わかっとるわい」

「そ、それでビュウはどこへ……?」

「4日前から様子がおかしかったってこと以外、なにも手がかりがなくてお手上げ状態ですよ」

「4日前……」

「ヨヨ様?」

「ビュウが……なんかヨソヨソしくなった時だ」

 どうやらその日に何かあったことは間違いないようじゃ。全く、ヨヨ様をこんなに心配させるとは。訓練だけでは済まさんぞビュウ。





 それから数日後。ビュウはドラゴンを盗んだ罪で指名手配となった。



〔2〕


 ビュウが何処かに行ってしまって、もうすぐ1週間。未だ有力な情報が見つからない私のもとに、信じられない話が舞い込んだ。

「お、お父様。ビュウが指名手配というのは、本当……ですか?」

 嘘であって欲しいと願いながら問いかける私に、お父様は重々しく口を開く。

「……本当だ。あやつが逃げる分には別に構わん。が、貴重なドラゴンであるサラマンダーを連れていったのであれば話は別だ。例え子供であってもな」

「そ、そんな。なんとかならないの?……マテライト」

「ヨヨ様、すまんですじゃ」

 その言葉を聞いて目の前が真っ暗になった気がした。マテライトは厳しいイメージでみんなに見られてるけど、なんだかんだワガママ聞いてくれたり、一緒に遊んでくれる。そのマテライトがこんな厳しい表情をしながら謝ってくるなんて、本意じゃなくてもそれが正しい判断……ってこと、だよね。でも。

「でも、それでも……何もわからないまま犯罪者にしちゃうなんてビュウが可哀想だよ!」

「あ、ヨヨ様!」

 ドラゴンがどれだけ価値があるかなんて、私にだってわかる。この世界、オレルスでは欠かせない交通手段だし……でも、私は現実と向き合うのがイヤで、マテライトの制止を振り切ってそこから逃げ出した。

「嫌われてしまったな。唯一の友人をこんな形にされたら当たり前というものか」

「カーナ王、ヨヨ様も理解しておられます。あの年で理解できるからこそ、認めたくないということもありますのじゃ」

「……そんなものか。マテライト、お主にも苦労をかけるな」

「もったいないお言葉ですじゃ」





「コラァ!待てぇっ!!」

「絶対捕まえてやるっ!」

 はぁ、はぁ。クソッ、捕まってたまるか。俺は子供の体を駆使して森の中に隠れる。しばらくすると夜ということもあり見失ったのか、近くで木々を蹴る音が響いた。

「ちっ、どこ行きやがった」

「仕方ねぇ、帰るぞ。どうせ大根の1本ぐらいだ」

「クソッ、次見つけたらただじゃおかねぇからな」

 俺がカーナ城を抜け出して1ヶ月以上がたった。なんとかなるだろうと軽い気持ちで抜け出した後、その考えが甘かったことを思いしらされた。10歳の子供に仕事なんてあるわけもなく、結局土地勘のあるカーナのラグーンにある町や村などでこうやって盗みをして飢えを凌いでいた。

 今サラマンダーは側にはいない。カーナに指名手配されてしまった以上、目立つわけにもいかない。だから隠れて待機させてある。土地勘が無くとも他のラグーンのほうがマシかとも一度考えたが、ドラゴンでラグーン間も移動できるので当然のように指名手配が他の国にも行き渡っていた。当然ドラゴンは目立つ。もはや何処にいても変わらぬのであれば、まだある程度他に比べて構造を理解しているカーナの町や森に隠れた方が逃げやすい。そう考えた。元々カーナは土地が広いわりに、人口が少ないから隠れるにはもってこいだったという理由もある。

 最近隠れ家にしている森の奥に辿り着くと、サラマンダーの心配そうな声が聞こえてきた。

「キュゥ~……」

「悪い悪い、待たせたな。……今日も肉はないんだ、ごめんな」

 それでも充分と言わんばかりに美味しそうに盗ってきたものを食べてくれるサラマンダー。俺には本当にもったいないドラゴンだ。俺に連れてこられなきゃもっといいもの食べられただろうに……そんな自虐的な思考に陥っていると、サラマンダーがいきなり顔を舐めてきた。

「キュウ!」

「……慰めてくれるのか」

「キュイ!」

「ハハッ、くすぐったいよ……ありがとう」

 本当に俺はいい相棒に出会えた。絶対、生き残ってやる。そう心に誓った。



 だが、そんな生活が簡単にうまくいくわけがなかった。

「おらっ!」

「二度とこんなことができねぇようにしてやる!」

「グッ……ア゛……」

 いつもスレスレだったんだ。捕まるのは当然だった。少しでも肉を食わせてやりたいと思ってついに金まで盗もうとした俺への天罰か。たまに町までくるとろくなことがない。男たちはある程度暴行を加えたら飽きたのか、次はこんなもんじゃ済まねぇからな、という言葉を残して去っていった。こんなにボロボロでなんだが、イライラして顔にまで気がいってないのか、それとも知らないのか、カーナ城の人間を呼びに行かなかったのは助かった。

「体……動かねぇな」

 生きてはいるし死ぬような傷はない……が、体には力が全く入らなかった。これじゃサラマンダーを心配させてしまう。あいつには絶対来ないように言っといたから来ないとは思うが、心配だ。さすがにドラゴンが町の中に表れたら王やマテライトたちの耳まで入ってしまうだろうしな。とりあえず早く、帰れるぐらいには体が動くようになればいいんだが……

「悪い、サラマンダー。ちょっと、寝てから、帰る……」

 届くハズのない言葉をはきながら、俺は意識を手放した。





 最初見た時は一瞬死体かと思ってビックリしちゃった。街の路地裏にピクリとも動かない人が倒れてたら誰でもそう思うよね。で、でもよく見たらうっすらと息をしてて……なんか自分達の姿と被ってつい声をかけちゃったんだ。ラッシュとかだったら自分たちだけでも生きるのに必死なのにそんなもん気にしてられるかって言いそうだけどね。

「ね、ねぇ。だ、大丈夫……?」

「おい、ビッケバッケ、何か見つけたのか?」

「そ、それがね。行き……倒れ?」

「なんだ……そんなもんに構ってる余裕なんか俺達にはないだろ。そんな暇あったら、金目のもんの1つでも見つけろ」

 ほらね?でもラッシュは優しいから、なんだかんだ気になって助けちゃうんだ。いつでも最初に助けようって言うのは確かに僕たちだけど、嫌な顔しながらも手伝ってくれる。さすがに人を拾ったのは初めてだけど。

「……はぁ、仕方ねぇな。起きるまでだからな……っておい!なんかこっちくるぞ!」

「キャーーーウッ!!」

「ちょっ!まっ!ウギャーーーッ!?」

 あ、食べられた。



〔3〕


「納得いかねぇ」

「まぁまぁ」

 あの後、ラッシュとドラゴンが騒ぎ過ぎたせいで、私達の周りには人が集まりはじめてました。人々の中からは「あれ……お城の方から通達があったドラゴンじゃない?」などと、とっても不吉な言葉まで耳に入ってきた私達は、目の前で寝ていた彼を皆で担いで逃げようとします。さすがにこの状況で放置もできないですしね。すると騒ぎの原因となったドラゴンが一鳴きして私達に背中を向けてきたのです。それを「乗れ」と解釈した私達は、急いでドラゴンに乗り、一緒に町から逃げ出しました。どうやら倒れていた彼は、このドラゴンの大切な方だったみたいですね。

 森の方まで逃げた私達は、誰も追ってこない様子に安堵のため息を吐き、今こうして森の中で休んでいるわけです。私達を降ろし、改めて倒れている彼を見たせいか再びドラゴンが興奮していたのですが、今はビッケバッケに必死に頼まれて彼の横で大人しくしています。まぁそれを見ていたラッシュは、ビッケバッケの言うことは聞くくせになんで自分の言うことは聞かないんだよ。と、冒頭の言葉を吐いていたわけですが。初めの出会い方が最悪でしたからね。仕方ないですよ。

「で、こいつは結局誰なんだよ?ドラゴン連れてるとか普通の浮浪者じゃないだろ」

「うーん……そうですね」

 さっき集まってきた人達が言っていた『通達のあったドラゴン』と言っていたのが面倒事だというのだけは教えてくれましたけど、それ以外は全く謎のままですしね。私が少ない情報を必死に繋ぎ合わせようと、必死に考えこんでいると再びラッシュが口を開きました。

「まぁトゥルースに聞いてもしかたないか」

「じゃあ聞かないで下さい。……ふぅ、結局彼が起きるまで待つしかないようですね」

「だな」

 そう返したラッシュの顔には不安とかそういった感情が見えなくて、改めて彼の強さというか、すごいなと思ったわけです。何も考えてないとも言えそうですが。



「……ウッ」

「キューウ!」

「サラ……マンダー……?」

「あ、ラッシュ!彼が起きましたよ!」

「……ラッ……シュ?」

 あ……?ここは……何処、だ?

 時間と共に段々と頭は覚醒してくるが未だ現状が掴めない。ラッシュなんて幻聴まで聴いてしまうとはな。大分弱ってたみたいだ。

「……それより!」

早く逃げないと!と思って体を無理矢理起こそうとするが、やはりまだダメージが大きく残っているみたいで体が動かない。

「あ、まだ無理しない方がいいですよ」

「キュイ」

「……トゥルー、ス?」

 何故かそこには小さい頃のトゥルースがいた。そうか……あの町、すっかり忘れていた。よく見ると場所も森の中のようで、どうやら介抱してくれたみたいだった。ラッシュとビッケバッケを呼んでいるのか、俺の呟きが聞こえてなかったのは助かった。そうこうしてる内に、トゥルースがラッシュとビッケバッケを連れてくる。

「あ、あの僕、ビッケバッケ。体大丈夫?」

「大丈夫だったらあんなところで寝てないだろ。俺はラッシュ」

「命という意味で言うと大丈夫だったみたいですけどね。私はトゥルースです」

 まだ別れてから2ヶ月ほどしか経っていなかったが、ひどく懐かしく感じてしまう。言葉が出ないまま涙を堪えていると、ラッシュにお前の名前は?と視線で促される。俺は震えないように声を出すので精一杯だった。

「お、俺……は、ビュウ。こいつは、サラマンダー」

「で、なんでドラゴンを連れてるくせにあそこで野垂れ死んでたんだ?」

 その問いに少し考え込んでしまう。どこから話した方がいいのかよくわからない。だが黙っているわけにもいかない俺は2ヶ月前、城から出たことから話し始めた。だがそれ以降は必死に生きていたことだけだったので話はすぐ終わってしまった。

「……ち、気にくわねぇな」

 その言葉も仕方ないと思った。この時こいつらは本当に必死に生きていたハズだ。俺みたいに気分で生活できる場所をわざわざ放棄するようなやつを見て、いい気分になんてならないだろう。懐かしかったが、すぐ去らないとな。お尋ね者といたところで百害あって一理なし。こいつらにまで迷惑はかけられない。

「今日は助かった……ありがとう。城から人が来るかもしれないし、もう行くよ」

「……待てよ」

 サラマンダーに乗って去ろうとしていたらラッシュに止められた。





 あーもぅ、なんなんだよこいつ!城の人間やめて、ドラゴン持ってきて指名手配されて、そのくせまだカーナにいやがるんだ!絶対バカだろ!?

 一番ムカつくのはそんだけしたいことしておいて全然俺達より楽しくなさそうなことだ。俺達は正直、恵まれていない。こいつなんかよりよっぽどな!親の顔だって覚えていない。毎日つらいことばっかりだ、だけど笑うことを忘れた覚えはねぇ。説明している間こいつは辛そうな顔しかしていやがらなかった。自分で恵まれている環境を捨てておいて、なんでそんな辛そうなんだよ。このお坊ちゃんが。すっげぇムカつくから嫌がらせしてやる。

「俺達が助けた借りを返してもらってねぇぞ」

「……ごめん、今は渡せるものを持ってないんだ」

「あるじゃねーか。そのドラゴンがよ」

「!?……こいつは、ダメだ」

クククッ、焦ってやがる。何か渡せるものはと体中を探しているがあるわけねぇだろ。その身なりで金が出てきたらビックリだっつーの。

「ラッシュ……いくらなんでもそれは」

「お前は黙ってろ、返せないならドラゴンは貰うぞ?」

「……ダメだ!」

 ビュウの言葉を無視してサラマンダーに乗ろうとする。が、こいつが素直に乗せてくれるわけもなくまたケンカになる。ほんと可愛くねぇ。振り落とされた俺を心配してかトゥルースとビッケバッケが駆け寄ってくる。と、思ったら俺の考えがバレたのかこっち見てニヤニヤしてやがる。二人ともやめろその顔。

「くそっ、このドラゴン乗せやがらねぇ」

「当たり前ですよ……ご主人様がいないと動くわけないですよ」

「うん、これは運転手がいるね」

「あぁもう!仕方ねぇな……」

「……?」

「不本意だが、お前が借りを返せるまで俺達のサラマンダー号の運転手だ!」

「……へ?」

 その時のビュウのやつの顔は、今日一番のおもしろい顔をしてた。





あとがき

長さにご指摘があったので、投稿した3つを一つにまとめました。



[11737] 第2章『ぼくらの城』
Name: OUT◆7cc87e23 ID:8e5960e6
Date: 2009/09/24 02:57
〔1〕


「……へ?」

 そんな声が出るのも仕方ないだろう。何故?そう思った俺は間違ってないはずだ。いくらドラゴンが仲間になるメリットがあったとしても、正直指名手配付きの俺達と一緒に行動する理由なんてない。行動に限界のある浮浪児だとしても、国から追われる立場なんかではない以上、わざわざ面倒事と係わり合いになる意味がわからない。こいつらから見れば俺達はただのお荷物にしかならないというのに……な。

「いやー、ドラゴンが丁度欲しかったんだよなー。よかったよかった」

「ラッシュ……いきなりわざとらしくなったんだけど、なんでいっつも最後が締まらないかなぁ」

「ま、そこがラッシュのいいところなんですよ。……で、どうします?ビュウ」

 どうする?何故俺に聞く?決めるのはお前達だろ?……いや、やめよう。わかってるんだ、こいつらがそういうやつらってことぐらい。どんな時だって俺達をうまくサポートしてくれたトゥルース、お前が信じてついてきてくれたから俺も自信を持てた。いつもアニキアニキと慕ってくれたビッケバッケ、お前がいたからどんなときも頑張れた。バカなことばっかり言って俺を振り回すラッシュ、確かに皆への不満もあったかもしれないが、お前がいつも騒ぐときは俺を元気付けようとしてくれていたことも。仲間と認めたやつらにはとことん甘いやつらだってことも。

 でも、ここにいる3人は違うと思っていた。何しろ会ったばかりだし、初めて会った時のように俺が何か与えられるわけでもない。それだけ状況に違いがあるんだ、だから俺は拒絶される前にここから去ろうとした。なのに、なのに、なんでお前らはいつもそうなんだよ。

「……俺も、行っていいのか?」

「はぁ?……仕方ないだろ、お前がいないとドラゴン乗れないんだから」

「要約すると、お前はもう仲間なのに何を言ってるんだってとこですね。ラッシュは素直じゃないですから」

「トゥルース!てめぇ!」

「またやってる……それじゃ、改めてよろしくね!ビュウ」

「……ぅ」

 3人の言葉に不覚にも、泣いてしまった。反乱軍を起こして以来、どんな時だって涙なんて流さなかったのに。1度放流を覚えてしまった目の中のダムは、そのまま決壊して止まってくれなかった。

「あー、ラッシュ。ビッケバッケが早速ビュウを泣かしてしまいましたよ。これがいわゆる新人いじめというやつですね」

「え、ぼ、僕!?そ、そんなことするわけないよ!大体、こんな小芝居を始めたせいで泣いちゃったんじゃないの?」

「それもそうですね、では総括してラッシュが悪いということで」

「なんでだよっ!?」

 それを見ていた俺は泣きながら笑っていたんだと思う。その笑いが皆に伝染し、最後は森の中で俺達の笑い声が木霊していた。

 あの後、皆が笑い疲れそのまま寝てしまってから俺は、寝ているサラマンダーに体を預けながら今日のことを思い返していた。少し寝たとはいえ、体が疲れている以上寝れるはずなのだが……それ以上に興奮が勝っていてとてもすぐには寝られそうになかった。

「夢……じゃ、ないんだな」

 夢と思ってしまうぐらい、自分に都合のいい出来事だった。結局俺は助けてもらわないと1人で生きてすらいけないってことが……今回、よくわかった。艦長代理だなんだと言われ、皆に頼られ、1人でなんでもしている気になっていた。今思い返しても、皆のことをわかったつもりで少し違う場所から皆を見ていた。自身の我を出さないために自然とそうなっていったのかもしれない。でもそんなものは言い訳で、俺という存在が嫌われないために優等生を演じていただけの弱虫なんだ。

 森の隙間から覗く夜空を眺めながらそんなことを考えて自嘲気味に笑っていると、ガサガサという音と共に近づいてきた誰かが横に座った。

「よっと、寝れないのか?」

 そんなラッシュの言葉に、あぁ……とだけ返すと2人の間になんとも言えない無音の空間が広がる。まださっき泣いたことが恥ずかしくて顔をラッシュの方に向けることもできない俺は、夜空に視線を固定したまま次の言葉を待った。

「まぁなんだ……俺達もガキだし別に仲間になったところで生きるのが楽になるわけじゃないけどな」

「……?」

「なんていうか、1人よりは4人のほうが楽しいぜ」

「……そうだな」

 それだけだ!と言いながら勢いよく立ったラッシュに思わず視線を向けると、顔を見られたくないのか恥ずかしさを誤魔化すように俺に背中を向けたまま立ち去っていった。

 ……ラッシュ、お前はすごいよ。もちろんトゥルースもビッケバッケもな。俺は今ぐらいの頃、ヨヨのことや訓練のことぐらいしか考えたことなかった。

「ラッシュ、トゥルース、ビッケバッケ……ありがとう」

 俺の小さな呟きは森の中に消えていった。



〔2〕


「おーい、朝だぞ起きろビュウ」

「……っ!」

 突然聞こえてきた言葉に体が自然と警戒レベルを引き上げ、頭を無理矢理叩き起こされる。警戒しながら一瞬で腰を低く中腰の姿勢で構えたところで、ぼやけた視界が定まってきて昨日のことを思い出して安堵から出るため息を吐きながら地面に腰を落とす。1ヶ月やそこらのサバイバル生活で相当変なクセがついてしまったみたいだ。昨日安心したせいで久々に熟睡してしまったのか、無理矢理覚醒させられた頭が悲鳴をあげている。

 さっきまで寝ていた俺が突然起きて身構えたことに驚いていた3人は、あー、と言いながら恥ずかしそうに頭を掻く俺を見て無言で顔を合わせると、一斉に吹き出して昨日以上の笑い声を上げた。

「……さて、というわけで、これからの行動を話し合おうと思う」

「はい!ラッシュ隊長!」

「なんだね?ビッケバッケ君」

「せっかくサラマンダーがいるので、どっか人のいないラグーンを見つけて拠点にしたらいいと思います!」

「んな都合のいいもんあるわけないだろ……」

「とは言い切れませんよラッシュ」

 ビッケバッケの提案に否定的な反応をするラッシュに、トゥルースが説明する。トゥルースの言うとおりで、このオレルスには無数のラグーンが存在し、資源や立地の関係で人が住んでいないラグーンやラグーンとも呼べぬサイズのものまで山ほど空に点在している。

 反乱軍が使っていた孤島のテードもその中の一つにすぎない。その説明に目を輝かせたラッシュとビッケバッケが、やれ行こう、それ行こうと騒いでいるがそこに再びトゥルースが待ったをかける。
 
「問題は……人が住んでいないところで最低限自活できるだけの資源があるラグーンがあるかどうかなんですよね」

「そっかぁ……」

 その言葉に残念そうな表情を浮かべるビッケバッケ、一応孤島のテードはまだ誰もいないし反乱軍が自活できる程ではあるからそういったラグーンがないわけではないのだが……さすがにマテライト達が来るということがわかっていてあそこに進んで住もうとは思えない。

 だがそこを知っているのに知らないフリなんてこともこいつらにはできない。できれば他に似たラグーンがあればいいんだけどな……今まで飛んできた空を思い出すように考え込んでいるとトゥルースに声をかけられる。

「空のことは多分ビュウが一番詳しいでしょう。何か心当たりはありませんか?」

「……多分あると思う。資源も少なく戦略上ほとんど重要にないところにあるラグーンは確かに手付かずでいくつかあるはずだから。だけど自活できるレベルまでと言うと、相当少な……」

「あーもう!ごちゃごちゃ言う前に探せばいいんだよ探せば!大体トゥルースはいつも考え過ぎなんだよ!」

 俺とトゥルースのあるようなないようなといった風の意見にラッシュは痺れを切らしたのか、勢いをつけて立ち上がると大声で会話を遮る。その言葉にいち早く反応したビッケバッケを見た俺とトゥルースは、お互い目を合わせると1拍おいて笑ってしまった。どうやら考え過ぎてたみたいだな。確かにラッシュの言うとおりだ。テードは他にいいラグーンが見つからなかったときに皆に伝えよう。

 トゥルースも自分が考え込んでしまっていて、マイナスの意識があったことに気付いたのかラッシュの意見におおむね賛成のようだ。

「それもそうですね。まずは探してみますか」

「そうだな」

「よし、それでこそスーパーラッシュ団の一員だ」

「何その名前……」

「昨日考えたんだ。かっこいいだろ?」

「いや、まんまじゃん」

 サラマンダーに乗り込んだ俺達は早速オレルスの空に旅立った。やはり初めて地面のない空を飛ぶのは恐いのか、3人の体は少し震えていた。慣れるために10分もゆっくり飛んでいるとビッケバッケ以外はその震えも止まっていたが。今回は別に急いでるわけでもないし、ゆっくりラッシュ達の指示に従ってラグーンを探す。

「お、あれなんてどうだ」

「もう少しサイズが欲しいですね、あまり小さいと水を貯水する土地が小さいってことになるので水の確保が難しいかもしれません」

「んー、じゃああれはどうだ」

「少し荒れてますね、食料のことも考えるともうすこし豊潤なところがいいですね」

「あそこは」

「もっと……」

「あっちは」

「この……」

「それは」

「これは……」

「……」

「どうしました?ラッシュ」

「……ウガーーーッ!!」

 あまりに全部意見を言われるのでついにラッシュの限界が来たようだった。次だ!次見つけたところでとりあえず降りるぞ!と言いながら再び空を凝視する。

 やはりトゥルースが考え過ぎな分こいつらのコンビはバランスがいいんだと思う。そしてこの2人を信用しているのかビッケバッケも特に文句は言わず大人しくしている。空が恐くてそんな余裕がないだけかもしれないが。

「よし!あそこだ!見た感じサイズも結構あるし緑も豊富だぞ!」

「確かに、今まで見た中で一番いいですね。どうですか?ビュウ」

「……あ、あぁ」

 どうやら神様ってやつはとことん俺のことが嫌いらしい。2人が見つけたのは……やはりというかなんというか、テードだった。





 皆でテードに降りた後、森や水辺を少し探索する。しばらくして全体はまだ探索が終了していないが、皆の結論としてはやはりここであれば問題なく住めるとのものだった。確かに今まで見たものの中でも格段に食料や水の確保も容易で、むしろここ以外に行く気は皆なくなっていた。

 よーし、ここをラッシュ島と名づけて……といつもの暴走を始めるラッシュを2人が止めながらとりあえずの仮の寝床を探す。ある程度風雨を凌げてとなると横穴とかあれば一番いいんだがそんなものが都合よくあるはずもなく、最低限雨を凌げそうな木々が生い茂った場所をひとまずの拠点にする。

 これからのことを考えると近いうちに屋根のようなものなどは作った方がいいかもしれない。そんなことを考えていると、探索に少し疲れた様子のビッケバッケが俺の近くにあった手ごろな木の根に腰を下ろす。

「ふぅ、やったね」

「あぁ」

「全部ビュウのおかげだよ。ありがとう」

 そんなわけがない。ビッケバッケ達が決めて、ビッケバッケ達が見つけたんだ。昨日会ったばかりの俺は何もしていない。そんな内心を察してか、再びビッケバッケの口からは感謝の言葉が出て来る。

「それでも、ありがとう」

「キュイ!」

「ははっ、ごめんごめん。もちろんサラマンダーもだよ。ありがとう」




〔3〕


 俺達4人が孤島テードに住み始めて1週間、突然降りだした雨と共についに重大な問題が表面化してしまった。未だ屋根を作っていなかった俺達は、雨を避けるために入った木の下で途方に暮れていた。当たり前だ、木の下に行けば雨は避けれるだろう。だが木から離して燃やしていた火は雨に晒され消えてしまい、多めに採っていた食料も全部持ちきれず、置きっぱなしのものは完全に泥まみれだ。そして何もできない俺達は木の下で立ち尽くすのみという状況である。

 カーナにいたときは1人だったし、食料がこんなにあったわけではないので木に登ればすんでいた。それに何箇所ぐらいかは雨を避けれる寝床もチェックしていた。

 だが俺達は浮かれていてこの1週間、食料を探して、食べて、寝るということばかりで、確かに少しは地形の把握などで空を飛んだりして探索等はしていたが、問題の雨対策を全くしてこなかった。よく考えたらラッシュ達も橋の下とかで寝ていたから本格的に雨対策などはしてこなかったはずで……俺がしっかりしていないといけないところだった。

「……わるい」

「何言ってるんです。当然予想できたことでした。これは皆で浮かれすぎてましたね」

「そうだね。ビュウのせいじゃないよ」

「……よし、この雨がやんだら俺達の家を作るぞ!」

「さすがに家はムリだと思いますが・・・雨避けぐらいは作らないとマズいですね」

 浮浪歴がさすがに長いこともあってわざわざヘコんでもいられないということがわかっているのか、少し反省するとすぐさま雨避けを作る相談へと移る。ここには結べそうなツタや木材や葉っぱは山ほどあるので雨避けぐらいはすぐなんとかなりそうだった。

「問題はどうやってそれらを切るかですが」

「あ、それなら1本だがナイフは持っている」

「それならツタなどは大丈夫そうですね、後は木材を切ることができれば」

「かっぱらってくるしかないか」

 さすがにこの、家から持ってきた小さなナイフじゃ木までは切れない。なのでノコギリの類のものは明日、俺とラッシュが木材を伐り出している木挽き職人のもとから盗んでくることにした。

 どうやって作るかなども相談し、役割分担なども終えると早速皆が明日のために今日は寝ようといわんばかりに木へと登る。今日の疲れに雨という子守唄も手伝って、皆が寝るまで時間はかからなかった。

 次の日、俺とラッシュは午前中にカーナにいる木挽き職人の位置を確認し、彼らが昼飯のためにその場から立ち去るのを待っていた。

「あー、早くあいつら飯行かねーかなー」

「慌てると失敗するぞ」

「わかってるよ!」

 俺達にはサラマンダーもいる。離れた隙にさっとノコギリを1、2本盗ってくるのはどう考えても簡単だった。職人達が森から出るところを確認すると、サラマンダーに乗って素早く目的の物を回収する。

 3人と一緒になってから大分余裕が出てきたのか、昼食を済ませて戻ってきた彼らが怒る姿を思い浮かべると、少し悪い気がした。が、そんなことも言っていられない。偽善だな……と、つい失笑してしまう。わざわざヨヨを傷つけて、マテライト達を裏切り城を出て、サラマンダーまで連れてきた時点でそんな罪悪感を浮かべる資格すらないというのに。

「よっしゃー!これで木を切れるぜ」

 いや、ネガティブになるのはやめよう。過去に戻って来てから少しナーバスになり過ぎてたみたいだ……戻る前からかもしれないが。今は、こいつらと……今を生きよう。

「よし、帰ろう!」

「お、テンション上がってきたな。待ってろよ愛しのマイホーム!」

 ノコギリを2本盗んだ俺達は急いでテードに戻った。

「おかえりなさい……またいいもの盗ってきましたね。ラッシュのことだからてっきりサビサビの使えないものを盗ってくるかと」

「てめぇどういう意味だそりゃ」

「これなら木を切るのも大丈夫だね。お疲れ様ラッシュ、ビュウ」

「あぁ」

 屋根にする葉っぱやヒモに使うツタはトゥルースとビッケバッケが既に相当量を集めていてくれた。俺とラッシュはある程度簡単に柱のような形で使えそうな細めの木を選んで切る。

 こういうのは初めての体験だが柄にもなくワクワクする。何かを自分達で作ろうとするのはいいものだな。

「クソッ、なんで切れねぇんだよ」

 初めて使うノコギリに悪戦苦闘しているラッシュにアドバイスをしながら切り進めていく。最初は全然切れていなかったがさすがにコツを覚えてからはいいスピードで切っていた。そうして切り出した木を大体の長さをそろえて並べていく。切っている間にトゥルースには屋根の組み立てを、ビッケバッケには柱を埋めるための穴を掘ってもらっている。

 だが1日で全ての作業が終わるわけもなく、作業に没頭していると気付けば日がもうほとんど落ちていた。木自体も柱の分と下に敷くことを考えると全然足りていなかったが、これ以上作業をしてもすぐできるわけじゃない。今日の作業はここまでにして休むことにする。皆はやる気持ちが抑えきれない様子だったがそれは俺も同じだ。今すぐ作業を再開したい気持ちを抑えて明日のためにゆっくり体を休める。

 結局、そんなに大きいものでもなんでもないのに完成するのに1週間ほどかかってしまった。穴が浅くうまく柱を埋められなかったり、屋根が壊れたりとアクシデントも多かったので仕方ないが、やはりこんな原始的なものでも素人が手を出せるものじゃないな、と改めて自分の小ささを認識してしまう。戻ってきてから教えられることばかりだ。しかしそれも完成した時の喜びに比べたらあまりにも小さな悩みだった。

「よっ…………しゃあああああっ!!」

「でき……たな」

「でき……ましたね」

「やった、やった!」

「キューイッ!」

 完成を皆でひとしきり喜びあったあと、念願の俺達の城を堪能する。正直小屋とも言えない程の原始人が住んでそうな作りではあったが、自分達で作るとその辺の富豪の家より立派なものに見えてくるから不思議である。1週間の疲労はとてつもないはずなのに、小屋に横になっても寝れそうにないほど興奮していた。

「くぅぅぅー。たまんねーな、この感じ」

 そんなラッシュに無言で同意を示すトゥルースとビッケバッケ。皆、言葉にできない感動ってこういうことを言うのかな?なんて検討違いなことを考えてしまう程度には感動している。3人の倍以上生きている俺も、ここまで感動したことは多分今までない。

 その日、孤島テードの一画では夜遅くまで火が消えることはなかった。





あとがき的なアレ

いやーテードに行ってしまいました。
嫌なフラグがビンビンです。

テードについてですが、反乱軍の根城になるぐらいなんで自活はできると思います。
問題はあの家とかもそれまでに別荘的な感じに建っていたのでは?とも考えられますが、帝国の支配を逃れるぐらいなので、本当に辺境で今まで使われてこなかったんだと思います。
なので色んなところから人が集まってから建てたという方向で。
え?家が建つまで反乱軍に始めからいたビュウの嫁とかの風呂はって?行水に決まってるでしょ!行水に!
いやー男が行水だとキモいのに女の子ってなるだけである種の興奮を覚えるから不思議だよね。



レス


>本編短すぎじゃないですか?
>たしかに文量が少なすぎますね。ワンシーン更新では物足りないです。

まだまだ短いですが、少し長くしました。それに伴い前回までの投稿を1話にまとめました。PCに切り替えて本腰を入れて書いていくのでこれからもよろしくお願いします。


>ラッシュ達との生活で何かを得られるといいですね。

多分ビュウは反乱軍で苦労したとはいえ、結構裕福+クロスナイトの出世コース、ということで泥臭くない一面が強いと思うんです。だからラッシュ達との生活で彼は成長してくれると思います。


>ヨヨもビュウがいなくなったことでバタフライ効果が起これば……。

はいここ重要。テスト出ます。


>なんとかビュウを幸せに……ッ

任せてください。


>ビュウの相手の心情を察する洞察力はヤンデレ(回避してそうですが)から仲互いランサーまで
様々な仲間たちのメンタルやらコンディションを考えなきゃなかった故の苦労人技能な気がしないでもないですね。

あの艦に乗ってた人たちは皆自由過ぎて困りますよね。よく世界救えたな。
そしてこの作品ではそういう技量を持つがゆえの弱さというものを克服してくれると思います。


>筆者の書きたいものが皆の読みたいものだと思いますので、大変でしょうが、頑張ってください。

正直こんなに反響があると思いませんでした。文章下手ですが頑張ります。


>ヨヨの苦しそうな声を毎晩聞かされてた事を思えば、これはもう逃げ出すしかないんでしょうなw

過去の彼女は何も知らずにビュウに接してるわけですから、もうなんとも言えないくらいつらいはずです。
まぁつらいってことはビュウが未だに未練たらたらってことですが。


>子供のころからの生粋のナジミスキーな自分にとってこのゲームは……。

同じ心をもった僕は、1度クリアするのを諦めました。あと、夢にも出てきました。


>ここは是非あの病弱で将来薬屋をやるのを夢見する子(名前忘れた、ごめん)をヒロインに昇格させましょう!!

あれ、フレデリカたんは元々ヒロインじゃなかったっけ?


>それだけ今注目のSSの一つって事ですね。…と更にプレッシャーをかけてみる(笑)

ぬぉぉぉぉ、その期待がつらい。そして文章力のない自分が憎い。この作品が終わる頃には最低限読めるもの書けるぐらいにはなります。


>新しい展開待ってます。

今回の話とかも多分予想できた方が多いと思いますが、全体的にあまりぶっとんだ展開にはならないです。ただいい意味で期待を裏切れる話にできればと思います。頑張ります。


>ラグーンをやってた小学生の時……そして現在、“姫”というヒロインジャンルに嫌悪感を抱く理由がようやく理解できた…(泣)

というかあれですね、姫というヒロインって基本ちょっとなんて言うんですか、ダメな方多いですよね。まぁヒロインになる以上身分差を埋めるためにある程度仕方がないのかもしれませんが。


>子供の頃はあの展開は辛かった思ひで。大人になってからはヨヨを…というよりはストーリーを肯定的に見られるようになったけど。

未だにあのシーンとかあのシーンは僕目を逸らしてしまいます。マトモに画面が見れません。





のんびりとした更新ですが、これからもよろしくお願いします。



[11737] 第3章『いってらっしゃい』
Name: OUT◆7cc87e23 ID:8e5960e6
Date: 2009/09/29 00:20
〔1〕


「だーっ!くそ、勝てねぇ!」

「まだまだだな、ラッシュ」

「ぐぅう、つ、次は絶対勝つからな!」

「楽しみにしてる」

「その余裕がムカつくんだよーーーっ!!」

 俺たちの城を作ったその日から5年経った。あれから少しずつ増築、改築を繰り返して最初に作ったものよりは大分住み心地のいいものになった。それでも町にあるような普通の家と比べられると小屋レベルではある、だが俺たちはそんな自分たちの家に満足していた。町に行けばオレルスの情勢ぐらいなら得ることもできるしな。

 今していたのは剣の練習みたいなもので、作業の休憩をしている時に軽く作っていた木刀もどきを見て興味を持ったラッシュ達に暇つぶしに教えたんだが、半年と経たない内に剣の練習が日課となった。この島では生きること自体が仕事なわけで、娯楽というものがない以上こんなことしかすることがない。俺も他に遊び方なんて知らなかったし、あいつらもそれで満足していたから特に問題はないと思う。

 俺は身長や体格が少しずつ元に戻ってきているおかげで、最近ではかなり以前に近い動きができるようになってきた。そのおかげでラッシュ達はなかなか俺には追いつくこともできず、いつもこんなやり取りをしている。

「ふぅ……5年か」

 ここの生活には満足している。あいつらがいて、誰にも邪魔されず、自由に生きれる場所。だがここ最近になって悪夢を見るようになった。いや、夢でもなんでもない。俺達が戦争に巻き込まれる可能性……それは、テードにいる限り高いと思っている。だが俺が知っている未来になるとは限らないということもまた事実。ラッシュ達と出会ったことでそんなことはわかりきっている。かといってそんな希望的観測にすがったところでいい結果なんて得られるはずもない。

 何度か他の無人のラグーンを探りに行ったり、ラッシュ達にも提案したこともある。帝国が戦争を始めたから、危険だからもう少し遠くへ行こうと。だがここ以上に帝国から離れて、このレベルのラグーンなんてないというのが結論だ。俺だって自分で言ってておかしいのはわかっている。だから俺たちがテードから離れることにはならないだろう。

 じゃあどうすれば巻き込まれずにすむ?それにマテライト達が来て、目の前で協力を求められて俺は断れるのか?あいつらが助けを求められて見捨てるなんてことができるのか?そんな答えの出ない迷宮に入り込んでしまう……そんな毎日だ。

 確かにここにサラマンダーがいる以上、マテライト達が前の時同様無事逃げてこれるとも限らない。だがその時マテライト達はどうなる?反乱軍ができなかったら世界はどうなる?今更助けに行くなんて出来ないくせに……よく言う。考えれば考えるほど俺は自分が嫌いになっていく。昔は他人のことばかり気にしていたからな。自分のこと一つでこんなに悩むなんて思いもしなかった。

「寝れないのですか?ビュウ」

「あぁ」

「最近心配している戦争のことですか?」

「……あぁ」

「心配なのはわかりますが、ここまで来るとは考えづらいのでは?」

「そう……だな」

 未来を知っている、そんなこと言えるはずもない。それに考えたところで俺にできることなんて何もないんだ。わかっていても考えることはやめられない。

「ラッシュ達も心配していましたよ」

「悪いな、ほどほどにしておく」

 こんな俺でも心配してくれるこいつらがいる。今はこの幸せが少しでも長く……そう願うことしか俺にはできなかった。

 だが、俺の願いをあざ笑うかのようにそれから1ヶ月後、カーナは落ちることとなる。



「ん?ありゃなんだ?」

「あれは……?」

「ドラゴンだ!も、もしかして帝国がここまで」

「にしては一騎ってのもおかしいな」

「あれは、カーナのアイスドラゴンだ」

「お、ビュウ。獲物は仕留めたのか?」

「この通り」

 後ろに置いた仕留めた猪を視線で指す。それよりもついに恐れていた事態になってしまったようだ。あのアイスドラゴンには間違いなくマテライト達が乗っているだろう。カーナのドラゴンということで皆気付いたのだろう。俺にどうする?という視線を送ってくる。だがここから逃げ出したところで俺達に行き先はない。

「戦争中のカーナがわざわざこっちにドラゴンを送るとは考えられない……多分、カーナが落ちた」

「と、言うことはあれはビュウを捕まえにきたわけではないのですね」

 そんな話をしている内にアイスドラゴンは目の前まで来ていた。完全に降りるのを皆で警戒しながら待つ。

「ど、どうする?」

「とりあえず話を聞かないことにはなんともできないでしょう」

 アイスドラゴンから真っ先に降りたのは……案の定というか、当然というかマテライトだった。サラマンダーを見て俺がいることに気付いたんだろう。ものすごい勢いで飛び降りたと思うと俺達の方に走ってくる。

「ビュ、ビュウーーー!!」

「……」

 かといって俺は話をするどころか目を合わせることもできない。あんな逃げ方したんだ。当然だろ?予想はしていたが現実になるとつらい再会だ。

「キ、キ、キサマーーー!こ、こ、こ、こんなところで何しとるんじゃーーー!!」



〔2〕


 グランベロス帝国にカーナ王が殺されヨヨ様も連れ去れた後、息も絶え絶えに生き残った者で傷ついたアイスドラゴンに乗って半日、なんとか孤島テードにたどり着くことができた。もう一匹のドラゴンであるモルテンは逃げてしまうし、逃げることができた者もごく一部。じじいこれからどうしよう……なんて考えているとテードに到着するといった時にいきなりマテライトが騒ぎ出した。

「あ、あれは……サ、サラマンダー!?」

「サラマンダー……というと5年程前に盗まれたというドラゴンですか?」

「あらほんと、ビュウもいるのかしら?将来有望な男の子だったけど」

「何を呑気なこと言っとるんじゃセンダック!あ、あやつめ……カーナが、ヨヨ様がこんな時に何やっとるんじゃ!?」

「指名手配だったのに来るわけないじゃないの」

「ジジイはだまっとれ!早く着かんかアイスドラゴン!」

「無理言わないの……アイスドラゴンもボロボロなんだから」

「ぐぬぬ~」

 焦ってもカーナが取り返せるわけじゃない。まずはヨヨ様を助け出せるぐらいの戦力を集めないと。ビュウ……どんな男の子になってるかしら?大事な戦力であるドラゴンを盗まれたということで結構城の中じゃ悪者扱いだったけど。現に今乗っている他の者たちは負けたのに今更盗まれたサラマンダーを見つけたということであまりいい顔してないけど。わしやマテライトやヨヨ様はきっと何かあったんだって。月日が経つ内に見つかるなんて希望を諦めながらも心配してたのよ?

 あ、アイスドラゴンがテードに降りると同時にマテライトが叫びながら走って行っちゃった。ビュウ……仲間になってくれないかな?ビュウがなんで城から出たかの理由も知らないし……協力してくれないかもしれないけど、あの頃から才能を発揮してたあの子なら戦力にはなるはず。問題は戦力を削った張本人を皆が許すかどうか。いくら貴重なドラゴンとはいえ一匹で戦況が変わらないことなんて皆わかってるはず。でも人の心なんて簡単に納得できるものじゃない。帝国に向く怒りがビュウに向かないといいけど。

「なんでじゃ、なんでカーナから離れたんじゃ。ヨヨ様だって、心配しておったぞ」

「……それは」

「おい、じーさん」

「カーナが、落ちたんじゃ……カーナ王は殺され、ヨヨ様も連れさられてしもうた」

「……」

「おい、じーさん!無視すんな!」

「うるさい!今ビュウと話しとるんじゃ!」

 あーもう、そんなんじゃ話が進まないじゃない。ビュウといる3人は仲間みたいね。バルクレイ達は警戒してるし、わしが話を聞くしかないようね。

「お久しぶり、ビュウ」

「……センダック」

「そちらにいる3人はビュウの仲間?」

「あぁ」

「その通り!ビュウはこのラッシュ様率いるスーパーラッシュ団の一員だ」

「その名前、まだあったんだ……」

「うるさい!キサマらは黙っとれ!今はビュウと話しとるんじゃ!」

「な、なんだとこのクソじじい!」

 あっちはほっといて話を進めましょう。ビュウ達から今まで何をしてたか聞き出しながらこっちの状況を伝える。とは言っても大体予想していたみたいでビュウのことを聞くのがほとんどになっちゃったけど。

 それを聞いたマテライトが何故助けにこんかった!なんて叫んでるけど無視して話を続ける。微妙に後悔の混じった顔を見る限り助けにこなかったことは後悔してるみたいだし、押し方によってはこっちに転んでくれるかも。でも将来有望だったとはいえ5年でほんといい男になったわねビュウ。小さい時から線が細い感じでかっこよかったけどここでのサバイバル生活でワイルドな雰囲気も少し身についたのかな?ジジイ、惚れちゃいそう。

「ビュウ……わしらこれから反乱軍を起こしてヨヨ様を助けようと思うの。今すぐ答えてとは言わないけど、もしよかったら協力してほしい」

「……」

「センダック老師!ドラゴンを盗んだ者を許すのですか!?」

「もうカーナはないの。今更ビュウの罪なんて問えない。それに今は少しでも戦力が欲しい」

「かといって……」

「うるさいバルクレイ!」

「マテライトさんも問い詰めてたじゃないですか……」

「わしはいいんじゃ、わしは」

 やっぱり簡単に仲間にというわけにはいかないか。でもラッシュ……だったかな?彼らが協力するって言えば多分ビュウも一緒に来てくれると思う。バルクレイ達だって負けたばっかりで感情的になってるけど時間が経てばわだかまりも解けるはず。とりあえず今熱くなって話しても状況は悪化するだけね。夜またわし1人で改めましょう。

「それじゃみんな、野営の準備をしましょう。これからのことも話し合わないと行けないし日が出ている内に終わらせて」

「「「わかりました」」」

 幸い攻め入られる前に、もしもの時のために野営の用意をしていて助かった。カーナ王も一緒に脱出したときさすがに何もなしで、というわけにもいかないしね。帝国の攻めが速くてカーナ王もヨヨ様も守ることができなかったけど……まだ終わってない。ヨヨ様は生きてるんだから。

 さすがに皆軍人ということで、テキパキ準備を終わらせて手の空いた者は食料を確保しに出て行った。とはいえビュウ達からいくらか食料を分けてもらったから余裕はあるんだけどね、一応助けてくれるってことは脈ありかな?



〔3〕


「で、どうするんだ?」

「……何をだ?」

「協力するのか?ってことですよ、ビュウ」

「俺は、国を捨てた」

「僕達はビュウがなんで城から出てきたのかは知らない。でもたまにカーナの方を見て心配していたのは知ってるよ」

 そんなにわかりやすい表情をしてたのか。戦竜隊の隊長をやっていたとは思えないな。いや、こいつらと過ごして変わったのかもな、俺も。

 ラッシュ達は任せるぜといった感じに返事を待っている。だがだからといって協力するなんて選択肢をすぐ選べるものではない。特に前の時と違ってこいつらは正規の訓練なんてうけてない。あんな遊び半分の訓練でそこまで力なんてついてないはずだし、ヘタすれば死ぬかもしれない。そんな風に悩んでいるとラッシュが何か思いついたのか口を開く。

「あ、でもうまくいったら俺達そのままカーナ軍の騎士になれるんじゃないか?」

「うまくいったら、でしょう。失敗したら死ぬんですよ?」

「騎士になったら新しい家建てれるかな……でも死ぬのはやだなぁ……」

「バカ!こんなチャンス他にないぞ」

「グランベロス帝国は一代で世界を制覇するほどの国ですよ?戦力が違いすぎます」

 トゥルースの意見がもっともだ。だがこいつらの境遇がラッシュのような憧れをもっていることもわかる。それに、自意識過剰かもしれないが、あの戦いから俺達とサラマンダーを除いて勝てるのか?という疑問もある。今回ラッシュ達と行動したことでわかったが、たかが1人、されど1人。こんなちっぽけな俺が違う行動をしただけで変わってしまう未来だってある。もしかしたら……あの、皆で世界を救った未来にはならないかもしれない。

「でも、このまま待っていても再び平穏なんて訪れないかもしれない」

「センダック……」

「それは、どういうことですか?」

 反乱軍での話し合いが一区切りついたのか、いつのまにかセンダックが俺達のところにきていた。そしてトゥルースの疑問に答えるように続きを話し始める。

 センダックが話し始めたのは、神竜とよばれる竜たちの話。その力を手にすることは世界を支配すること同然と言われるほどの巨大な力を持った「神」の名を持つ竜たちの存在。各地のラグーンに存在する神殿に彼らは眠っているが、神竜と心を通わせることができるのはカーナ王家の血筋であるドラグナーのみとされている。伝説の内容はカーナ王しか知らなかったので今となってはわからないが、少なくともグランベロス帝国の皇帝サウザーがその力を狙ってヨヨを連れ去ったということだけは間違いないとのことだった。

「はっきり言ってどうなるか全くわからない。わかってることは、サウザーがその力を手に入れてしまったらこの世界に逆らえる者はいなくなるということ」

「サウザーがその力を使いこなせれば、な」

「……確かにそうね。だけど使いこなせないとも限らない」

 失言だった。俺のまるで知っているような言い方にセンダックは小さな違和感を覚えたかもしれない。それだけのことで言及するほどのことではないだろうが。

「あー、もうごちゃごちゃと!」

「……ラッシュ?」

「要は世界が危ないんだろ?やってやろうじゃねぇか!謝礼ははずめよ」

「ちょっと待て、トゥルース達もいるだろうが!」

「はぁ、ラッシュはこうなったら止まりませんよ。しかたないですね、私も参加しますよ」

「ほんといつものことだね。ビュウのアニキはどうする?」

 こいつら……こうなった時点で俺の答えなんてわかってるだろ!ちょっとサバイバルな生活しただけで前より生き方までたくましくなりやがって。普通もっと悩むだろ。

「くそっ、わかったよ!俺も行く」

「よーし、それでこそビュウだ」

「そうやっていつもビュウに助けられるもんね、ラッシュ」

「うるせー!」

 ハハハハハハッと、深夜の森に笑い声が響き渡る。結局……こうなる運命か。いつもラッシュ達は悩んでいる俺に答えを出してくれる。こいつらはそんな気はないかもしれない。ただお前らがいたから、俺は前に進める。

 正直言うと、反乱軍に入ることには今更と思うところもある。もしかしたら色んな人を助けられていたのかもしれない、という後悔もある。だが、俺は今できることを……しよう。どっちにしてもこいつらが参加する以上、俺が参加しないなんて選択肢はないんだからな。

「ビュウ……ありがとう」



〔4〕


「と、いうわけで今日から参加することになったラッシュだ!よろしく」

「トゥルースです」

「ビッケバッケだよ」

「……ビュウだ」

 当然のように、反乱軍のやつらはザワザワしとるわい。それもしかたない。カーナは特にドラゴンの力で守られとったところがあるからの、サラマンダーを盗んだ者というだけで否定的に見てしまうじゃろうな。わしもビュウには聞きたいことが山ほどある。だがビュウが参加してくれる今となっては後回しじゃ。

「よーし、色々言いたいこともあるじゃろうがそれは後じゃ!まずはこれからの行動を伝えるぞ。センダック!後は頼んだ」

「はいはい。ではわしから説明するね、私達のまず最初の目標はヨヨ様を助けること」

「その通りじゃ!ヨヨ様をあの憎きグランベロス帝国から救い出すんじゃ!」

「ただそのためには戦うための人員がいる。そしてその人数を移動させるための手段もね。神竜の力を求めてる以上、多分ヨヨ様はヒドイ扱いは受けてないと思う。だからまずは反乱軍の力をつける。そうじゃないとヨヨ様を助け出すどころか辿り着けもしない」

「ぐぬぬ、今すぐにでもヨヨ様を助け出したいが……センダックの言うことにも一理ある」

「まずは反乱軍に入ってくれるような人員の確保、そして逃げたドラゴン、新しいドラゴンを探すのが必要だと思うの。そして力をつけたら帝国に奪われたカーナ戦艦を奪還。反撃に出る」

「そうじゃ!帝国にカウンターパンチじゃ!」

「今ここにはサラマンダーとアイスドラゴンがいる。そのことも考えてチームは3つね。1つはここの拠点を整備する人たち。これから人員も増えていつまでも野営ってわけにはいけないから簡易でもいいから居住する場所を作って欲しいの。もう1つはアイスドラゴンと共に人員の確保。移動手段を持たずに潜んでいる人たちもいるはずだからそういう人たちを連れてきて。そして最後はサラマンダーとドラゴンを探すの。これはサラマンダーとずっと暮らしてきたビュウ達に頼もうと思う」

「以上じゃ!何か質問はあるか?」

「はい、マテライトさん」

「なんじゃバルクレイ?」

「……ビュウさんたちが逃げないとも限らないんじゃないでしょうか?」

 うーむ、ここで直接そのことを口に出すとわの。こやつもまだまだ若いから突っ走るところがある。じゃが言うことももっともじゃ。特にビュウは1度サラマンダーを盗んどるからの。だがこればっかりはわしが何を言ったところで説得なんぞできんじゃろうし、血の気の多そうなやつもおるから若い者同士で解決するじゃろ。

「てめぇ、俺達が逃げるだと?」

「……その可能性もあるでしょう」

「俺達を舐めてんじゃねぇぞ!」

 さて、木刀のようなもので殴りかかったかどうなることか、そんなに自信があるというなら見せてもらおうかの。

「ぐっ、都合がわるくなると殴りかかるなんてまるで獣ですね」

「うっせぇ!ボコボコにしてやる」

「ちっ、早い」

 バルクレイは元カーナ重装兵団所属のヘビーアーマー。ラッシュとか言ったか?あやつらが教わっておったのがビュウだとしたら相性は悪いな。だがビュウもあの頃から誰にも師事しておらんとしたら相性が悪くともバルクレイが負けることはないじゃろ。

 じゃが時間が経つにつれ目の前には予想と逆の結果が出てきていた。ヘビーアーマー独特の大振りな攻撃を避け、いなし、隙ができたところを打ち込む。そういえばここでサバイバル生活をしとったとか言っておったか。体力もバルクレイに全く負けておらん。

「オラオラ、ビュウに比べたら止まって見えるぜ」

「い、一撃さえあてることができれば」

「当たんねーよ、そんな攻撃。止めだ!」

 わし達の耳に木刀の折れる音が響く。油断したな。

「ラッシュ!離れろ!」

「……あ?テ、テメー、離しやがれ!!」

「せ……っかく、捕まえたのに離すわけないでしょう。私も……武器を落としましたが、捕まえたらこちらのものです」

 ビュウの声が届いた時には止めの一撃に耐えたバルクレイがラッシュの体を挟み込むように両腕で掴んでいた。そのままラッシュを持ち上げたかと思うと全体重をかけて自分の体ごと目の前にあった木へと叩きつける。さっき響いた木刀の折れる音よりはるかに大きい、重低音中心の響きが耳に伝わったと思うと、両者とも気絶しておった。バルクレイ……自分まで気絶しちゃいかんじゃろ。



「くそ……油断した」

「どっちにしろ負けは負けです。いつもビュウに言われてるでしょう?油断するなと」

「……あんなに耐えるなんて思わねぇだろ」

「いっつも僕とかトゥルースはすぐ倒れるもんね」

「ま、今回は実践じゃなくてよかったな」

「あぁもう!わかってるよ……」

 いつものように調子に乗ったラッシュに俺達が説教していると、さっきラッシュと同じく気絶したはずのバルクレイが姿を現した。

「けっ、なんだよ?笑いにきたのか?」

「いえ、こちらも失礼な物言いでした……それだけ言いに」

「……いきなりなんだよ、気持ち悪いな」

「ドラゴン探索の任務……お願いします」

 それだけ言うとバルクレイはここまで来た道を戻っていく。ラッシュはその意味も気付かず、なんだあいつと言いながらハテナマークを浮かべていた。



〔5〕


「なぁ、ビュウ!そろそろ行こうぜ」

「新生カーナ戦竜隊を結成するんでしょう?ビュウ」

「……あぁ」

 あれから半年が経った。ラッシュとバルクレイの衝突がよかったのか、あれからは意外と早く皆に俺達は受け入れられた。ある程度……ではあるが。けれど少しづつ距離は近づけていると思う。

 皆もここの生活に慣れ、少しづつ人も集まってきていた。そして今日、ついにドラゴン探しの旅に俺達は出ることになった。ドラゴンがいなければ戦いにならない以上この戦いの始まりは俺達にかかってると言ってもいいだろう。

「寂しくなるね、ラッシュあんたビュウに迷惑かけるんじゃないよ!」

「う、うるせぇ!」

「って言っても女の子に近づかれるだけでカチカチになるあんたが情報とか収集できるの~?」

「バッ、ち、ち、近づくなルキア!」

「ビッケバッケ、巻き込まれる前にサラマンダーに乗り込みましょう」

「そうだね」

 マテライト達が来て気付いたんだが、ラッシュ達は俺達4人でしか過ごしてこなかったせいか、3人とも女性に免疫がない。特にラッシュはヒドイ。そのせいか、ことあるごとにライトアーマーのルキアにはからかわれている。ただでさえ免疫のないラッシュが美人で姉御肌なルキアとまともに話せるわけがない。ここではそれがいつも笑いの種になっていた。

「体には気をつけなよ。ほら、メロディアも。いいのかい!ビュウ、行っちゃうよ!」

 ゾラがメロディアに声をかけるが、こっちを向こうとはしない。元々孤島テードで出会った人たちとは前とあまり変わらぬ関係を築けている。前とは違う元カーナ軍の人達との距離のせいか俺は、微妙にゾラやメロディアとも距離を置いてはいたんだが、ゾラはムリヤリ世話を焼いてくれるし、メロディアは何も気にせず踏み込んでくるからあまり意味はなかった。

「ゾラ、ありがとう。メロディアもな、行ってくるよ」

「わし、わし」

「センダックも……こんな俺を受け入れてくれて、ありがとう」

「ううん、ビュウ……頑張ってね」

「あぁ、マテライトも、行ってくるよ」

「……」

 結局俺達が受け入れられた一番の原因はセンダックとマテライトのおかげだ。あの頃の俺をよく知っている2人が、何も聞かずに許してくれた。いや、本当は聞きたいことはあると思う。だが俺から話すまで待ってくれている。俺はそう考えてる。マテライトの場合はヨヨを助けてから問い詰めるつもりかもしれないけどな。

 さて、そろそろ出発だ。サラマンダーに乗り込み、離れていく皆の顔を目に焼き付ける。

「……ビュウ!早く戻るんじゃぞー!ヨヨ様がご無事な内に戻るんじゃぞー!そしてヨヨ様とワシとセンダックで問い詰めるんじゃからの、言い訳を考えておくんじゃぞー!」

 マテライトの言葉に苦笑しながら俺達は空へと飛び立つ。

 ここから、本当の『2回目』が始まる。




あとがき


結局こうなります。
5年も経てばヨヨから離たい<皆の心配になると思います。
問題はヨヨと再び会ってぶり返す想いです。
でもこれからの戦いはやりたい放題やる反乱軍の皆をまとめるビュウがいないと話になりません。
特にマテライトとかは誰の言うことも聞かず突撃してアボーンになりそうです。
あと、まるでラッシュが主人公みたいになってしまいました。


今現状の皆さんの評価


元カーナ軍の皆さん

まぁマテライトとセンダックが言うんだったらいいんじゃない?程度の間柄。嫁なんかは元々の愛情値の高さを考えるとむしろマイナス。バルクレイとルキアは他の皆よりは近い。

マテライト

このバカ!何があったか知らんがとりあえずヨヨ様助けるぞい!協力しろ!

センダック

何でカーナから出たのかな……ううん、じじい、ビュウが言ってくれるの待ってる

ゾラ

ほんと世話のかかる子達だねぇ

メロディア

ビュウー、好き好き!



これはもうヒロインメロディアでファイナルアンサーじゃないか



なんか返すのが楽になってきたレス


>ヨヨは割と空気でも問題無いと思いますよ

僕もそう思います。ですが後々宇宙意思がそんなことさせてくれません。


>現実で言えば、同じ職場で振られた男がいる前で、新しい男とくっついたり

あ、これ僕です。


>感想のレスはこっちにしたほうがいいような気が

すみません、当然の突っ込みです。感想板に書いてしまうと会話のようになってしまってよろしくないと思っている僕のワガママです、申し訳ありません。なんとか本文とかを少しずつ増やしていって気にならないようにしたいと思います。


>Wiiのバーチャルコンソールで、バハムートラグーンが配信されるそうだ。

果たして何人の勇者がトラウマに立ち向かうことか……。


>期待大なのに、ヨヨしねしか思い浮かばない…

なんとか頑張ってそれ以外を想像させてみせます。


>でも、ある程度歳をとってくると、その内容が理解できた…できてしまった。

歳をとってわかることって……ありますよね。



[11737] 第4章『始動』
Name: OUT◆7cc87e23 ID:8e5960e6
Date: 2009/10/03 02:11
〔1〕


『親愛なるビュウへ……お元気ですか?今頃はどこの旅の空ですか?あの戦争から……何度目の冬を迎えたのでしょう。祖国カーナは滅び、グランベロス帝国が世界を統一。そんな戦争も今は過去の話。亡くなられたカーナ王のご遺志を継ぐべく結成された反乱軍も名ばかりで、人も少なく、まとまってすらいません。敗戦のショックが未だ尾を引いてるのか、ビュウ達のようなムードメーカーがいないとみんなも元気が出ないみたいです。そうそう、こちらではもう雪が降り始めました。今年も寒い冬になりそうです。では体に気をつけて。センダックより』

 悪夢の戦争から数年後……忘れ去れた辺境のラグーン、孤島テードには、カーナ騎士団の生き残りを中心に、グランベロス帝国への反乱軍が本格的に結成されつつあった。

 だが、帝国軍に反感を持っている者のスカウト。逃げたドラゴンや、新しいドラゴンの探索。これらの任務を、どこに行こうと光るグランベロス帝国の目を掻い潜りながら進めるのは、予想以上に困難を極めた。

 グランベロス帝国の支配が日常へと変わってしまえば、民衆がもはや反乱軍に解放を望むこともなくなってしまう。それを危惧した反乱軍の者達は、まだ十分とはいえない人数ではあったがヨヨ王女の救出作戦を決行へと移すこととなる。

 そして幾度目かわからぬ冬を越え、春…… 

「いよいよだね」

「あの子達が帰ってくる」

 ゾラとルキアが感慨深そうに口を開く。あの子……ドラゴン探しの旅に出ていたビュウ達が帰ってくる。それはつまり、グランベロス帝国への反撃の始まりを意味していた。

 人員を集めていたアイスドラゴンチームとは違い、ドラゴンを探しに場合によっては奥地まで旅立つ必要性があったビュウ達との連絡手段は手紙による定期連絡のみだった。彼らとは半年ほどの付き合いしかない反乱軍の皆も、離れてから始めてムードメーカーとして活躍していた彼らの重要性を認識していた。

 元々戦争に関係していなかったためか、国を持たぬためか……底抜けの明るさを持った彼らがいなければ、あの半年で心が折れていたかもしれない。大げさではなくそう思うのだった。

 そしてついに今日、彼らが帰ってくる。

「サラマンダー!……ビュウ!!」

 いち早く近づいてきたドラゴン達の鳴き声に気付いたメロディアが声をあげる。彼女達は頭上を通り抜けるドラゴン達を追い、ついに降り立とうとするドラゴン達の周りに皆が集まる。

 あの戦乱でどこかへ行ってしまったモルテン、新しく見つけたであろう見たことのないドラゴン、そしてサラマンダー。今ここにいるアイスドラゴンを合わせると4体のドラゴンが集まった。

 ドラゴンが降り立つと共に、元気よくビュウ達が飛び出す。

「スーパーラッシュ団!今帰ったぜ!」

「あぁもう……カーナ戦竜隊って何回言えばわかるんですか」

「カーナ戦竜隊だとビュウが隊長だからね。悔しいんだよ」

「うるせぇ!」

「だから俺は隊長じゃなくていいって言っただろ」

「そんなお情け隊長いらねぇんだよ!」

「はぁ。ま、とりあえず……みんな、ただいま」

 あまりにも久しぶりな再会のわりに変わらぬビュウ達を見て、皆から笑い声が溢れる。元々付き合いも短く、随分と会ってなかったのに暖かく迎えてくれることにビュウは戸惑いながら皆に近づく。

「お帰りなさい!」

「お帰り!よーし、ちょちょいとカーナ旗艦取り戻しちゃおう!」

「ビュウ達が帰ったよ!」

 ウィザードのエステリーナとアナスタシアが短くない旅への労いを込めた言葉を、ルキアがここにいない皆をが呼びに行く。だいぶ増改築を繰り返したのか、昔よりしっかりしたであろう反乱軍の拠点である家からゾロゾロと仲間達が出てきた。

「ビュウどのー!!自分はマハール騎士団隊長のタイチョーでアリマス!」

「ぜぇぜぇ……ビュウ……帰ったの?相談事が、山積みだよ」

「ふぁぁあ……よく寝たのじゃ!!」

 これから反撃を開始するからか、既にテンションが高いタイチョー。それ以外に考えることが多く、完全に過労気味のセンダック。全てを2人に任せて爆睡していたマテライト。三者三様の登場の仕方をしながらビュウ達の方へと歩いてくる。

 そして、皆揃ったことを確認したトゥルースが声高らかに宣言する。

「さあ、みんな!ドラゴンに乗って!ヨヨ王女救出作戦の始まりです!」

「まずはカーナ旗艦を取り戻すぜ!」

 元々手紙にて作戦は決まっていた。取り戻すべきカーナ旗艦にはここにいない仲間達も侵入している。2人の言葉を聞いて、待ってましたと言わんばかりに皆が次々とドラゴンに乗り込む。そんな中バルクレイがマテライトがいないことに気がついた。

「あれ、マテライトさん?……どこ行ったんですか。もう出発だと言うのに」

「あぁ、俺が呼んでくるよ」

 前回同様思い出に浸っているであろうマテライトを家の中に呼びに行くビュウ。中に入るとこちらに背を向けて考え込むマテライトの姿があった。

(ヨヨ様、思い出はたくさんあってもつらいだけじゃ……)

「マテライト」

「ビュウ……思い出すんじゃ、ヨヨ様のことを。お主がいなくなった時も大騒ぎでな……探しに行くと言ったヨヨ様を落ち着かせるのは大変じゃった。なぁビュウ……早くヨヨ様を助け出したいのう。ビュウが助けに来てくれるなんて思ってないじゃろうからの、きっと喜ぶぞい」

「……あぁ、そうだといいな」

 浸っていた姿を見られたのが恥ずかしいのか、顔をこちらに向けもせず部屋を出るマテライト。すれ違い様に見えた横顔は、決意の表情だった。

 マテライトがドラゴンに乗ったことを確認し、ビュウもサラマンダーへと乗り込む。

「ビュウ、ギュッと掴まってもよいか……?」

「……もう掴まってるだろ」

「ビュウの背中、暖かい」

「はぁ……聞けよ」

 付き合いが以前より短いはずのセンダックだったが、変わらぬアプローチにため息を吐くビュウであった。

「よし……いくぞ!」

「もにょー!!(プチデビ達も戦うぜ!!)」

「まにょー!!(死ぬ時は一緒だ!!)」

 出発ギリギリに飛び乗ってきたプチデビ達と共に、4匹のドラゴンが空へと飛び立つ。

「勝とうね……ビュウ」



〔2〕


 さほど重要とされていなかったカーナ旗艦に強襲をかけるのは簡単であった。もはや逆らうものがいないとされているグランベロス帝国にとって、重要でない場所には必要最低限の兵士しか配属されていないのである。

 事前に進入した仲間からも人数を把握していた反乱軍は真正面から特攻をかける。

「帝国軍をさっさと蹴散らし、カーナ旗艦を取り戻すんじゃ!」

「よっしゃあ!いくぜ!!」

「敵接近!反乱軍の襲撃っ!?」

 突然の襲撃に対応できない兵士達。進入してきたビュウ達に一瞬で切り倒されていく。

「あまりザコにかまうな!頭を倒せばこいつらは逃げるはずだ!」

「ですがビュウ……この混戦状態でボスを見極めるのは……」

 いくら待ち構えているのが必要最低限の人数とはいえ、反乱軍も元々少ないためどちらにしても厳しいことには変わりがなかった。ボスを見極めようとする皆、目の前の敵を打ち倒そうとする帝国軍。そんな中1人の兵士が高らかに笑い声を上げる。

「ハハハハハッ!俺様がボスだー!槍投げでボスになりました!!」

「……バカがいるぜ」

「バカがいますね」

「バカだね」

「……ぐぬぬー。だ、誰がバカだと!?」

「お前だ」

「グハッ?!」

 自分で名乗りを上げるバカなボスに、ビュウが非情にも切りかかる。だが隙をついたとはいえ相手はここにいる兵士達のトップ。急所に決まると思った一撃はなんとか体を捻ったボスの右腕を奪うにとどまった。

「くそ、ビュウにおいしいところ持っていかれちまった」

「グッ……こんな船はくれてやる」

 だがそれでも戦闘不能にはできたようで、ボスのあっけない捨て台詞と共に帝国軍の兵士達が逃げ出していく。あまりの決着に、逃げていく者達の後姿をボーゼンと見守ってしまう反乱軍の者達。

「こ、こんなんが兵士で大丈夫なのか?帝国軍」

「こんなんばっかりだったら世界を支配できてないですよ」

「そうですね。これからは支配されている地域への攻撃です。今回のようにはいかないでしょう」

 腑に落ちない決着ではあったが、ここからが本番だと皆気を引き締めるのだった。



「よし、ワシが一番乗りじゃ!誰かおらんかー!ワシじゃ、マテライトじゃ!!」

「自分はタイチョーでアリマス!ただいま、到着でアリマス!」

「誰も出迎えんとは無礼な。タイチョー、ワシに続け!」

 帝国軍が逃げ出してしまい、邪魔する者がいなくなったカーナ旗艦へとマテライトが一番乗りを果たす。それに続いてタイチョーが到着。

 マテライトは先に侵入した者の出迎えがないことに不満を覚えたのか、それともカーナ旗艦を奪取できたためにテンションが上がってるのか、タイチョーを引き連れてものすごい勢いで艦の奥へと消えていってしまった。

「いくら先に侵入したとはいえ敵艦なんだから当たり前でしょう……」

 バルクレイの当然の突っ込みは、2人には聞こえなかった。

「ああ、懐かしきわしのカーナ旗艦……こいつも、まだまだ元気」

「これが、俺達の空の城だな!早くブリッジに行こうぜ!」

 感慨深く言葉を吐くセンダックを無視して、ビュウ達はブリッジに向かう。だが突然、開けようとしていた扉が開いたかと思うと、中から仲間らしき者たちが出てきた。どうやら待ちかねてここまで迎えに来たようだ。

「待ちかねたぞ!お前らが反乱軍だな。俺はこの船の新航海士、ホーネット。仲間達はブリッジで待ってるぞ。ついてきな」

 その言葉に一同が頷き、ホーネットの後ろについてゆく。そんな中、皆とブリッジを目指していたビュウにセンダックが声をかける。

「おーい……ビュウ、ちょっと待って。わし、相談があるの」

「船の名前か?」

「よくわかったね。そうなの……わし、そういうの苦手で。ビュウならきっと、かっこいい名前付けてくれるよね。ヤングゴーゴーなやつをお願い!」

 少し考えたものの、やはりビュウの口から出た言葉は思い出にある名前だった。

「……ファーレン、ハイト」

「ファーレンハイト……うーん、ビュウ……とっても、す・て・き」

 その名前を悶えながら反復するセンダック。そんなセンダックに引いていたが、他の者達も異論はないようで、艦の名前はファーレンハイトと決定した。



〔3〕


 カーナ戦艦へと先に侵入した私達は、皆の到着を待っていました。元々ほとんど帝国軍がいなかったため、攻撃が開始時に相当手薄になった艦内を難なく占拠した私達は暇を持て余している状態です。

「ねぇ、みんなはまだかしら?」

「……噂をすればってね、来たみたいよ?」

「お待ちかねのようだな!みんなちゃんとついたぜ、センダック老艦長もな」

 どうやら来たみたいです。先頭にいるのは……ビュウさんですね。数年前に過ごした半年の付き合いしかありませんが、不思議な方です。初めは皆も貴重なドラゴンを盗んだってことで警戒してましたけど、気付いたら中心に立ってるというか……なんていうか、カリスマっぽさを感じる方です。

「遅かったから心配しちゃった」

「ビュウさん、お疲れ様です。お怪我はないですか?」

「あぁ、ありがとうフレデリカ。大丈夫だ」

 一緒に待機していたディアナと他の方が怪我をしていないか確認しにいきます。どうやら今回の作戦は相当簡単だったみたいで、怪我している人も軽傷ぐらいでした。

「いてっ!や、優しくしろよ!」

「優しくしてるわよ。大体怪我してるのなんてあんたぐらいよ?」

「うるせぇ!これはな……」

「土産話は後にしてもらおうか……戦いの旅はこれから始まるんだ!」

 ディアナが少し怪我をしていたラッシュさんの手当をしながら、言い合いになりそうだったところをホーネットさんに止められます。久しぶりに会ってこれでは先が思いやられます。ビュウさん達とは付き合いも短いですから皆距離感に戸惑うのも仕方ないかもしれませんが。

「さぁセンダック艦長、出発の合図をしてくれ!……そうだ、新しい船の名前は決めてきただろうな?」

「船の名は……」

「待つのじゃ!ワシを忘れるとは何事じゃ!」

「マテライト殿ー!待ってでアリマス!」

「おい、船の中では静かにしてもらおうか!」

「ワシを誰じゃと思っとるか!ワシはマテライトじゃー!!」

 マテライトさんはやっと反乱軍が動き出したことに気持ちが抑えられないみたいです。フフッ……これではマテライトさんとホーネットさんのどっちがリーダーかわかりませんね。マテライトさんをクルーの方達に抑え付けてもらって、ホーネットさんがセンダックさんに続きを促します。

「さぁ、センダック艦長。船の名前の発表を」

「オホン!ゲホゲホ!!では、気を取り直して……カーナ旗艦ファーレンハイト!」

 ファーレンハイト……かっこいいですね。新しい船の名前に皆さんが沸きます。斯く言う私も少し興奮してるみたいです。体が少し熱くなってきました。

「カーナ旗艦!?なにかが足りんでアリマス!」

「タ……タイチョー……こ……これを頼む」

「こ……これは。マテライト殿ー!……マテライト殿の思い、受け取るでアリマス。いくでアリマス!」

 そうタイチョーさんが叫ぶと、ブリッジの壁によじ登って何かを貼りつけようとしています。

「マテライト殿ー!見るでアリマース!」

「おお!カーナの国旗!」

 タイチョーさんが掲げたのは、カーナの国旗。それを見た皆はさっき以上に沸きます。カーナ……私達の祖国。でもこの国旗に掲げられた願いは祖国の解放だけじゃありません。支配された全ての国の願いが詰まってます。絶対に……この戦い、勝ちましょう!

(我が祖国カーナ……ヨヨ様。センダック老師!ビュウ!いつの日か……もっともっと……たくさんの旗を掲げるのじゃ!)

 あぁ……私は熱くなりすぎて貧血気味です……






あとがき

すみません、短めです。一応1話につき原作の一章を目安で(段々話進んでくるとキャラそれぞれの話も増えるので前後半等分かれるかもです)やっていきたいと思います。
内容もちょっと違和感あったかもしれません。原作を見ながら書いて見直してみたら会話だらけだし……ちょっと次は地の文をもっと意識して書いてみます。
原作のセリフとかも削れるところはもうちょっと削った方がいいですかねorz


書きたいあとがきは山ほどあるけどとりあえずレスを

>はやく薬屋とラブラブして欲しいわ。
>さて、我等がヒロインことフレデリカさんの登場が待ち遠しい今日この頃。
>とりあえず皆大好きフレデリカたんの登場を楽しみに待ってますw
>それはそうと、そろそろヒロイン(フレデリカ)を登場させませんか?実は彼女はいつも自分の中では真のヒロインです。

今回ちょこっと出ましたがメインは後半です。
 

>さて、結局反乱軍に入ってしまった訳で将来ギシアン聞かされるの確定?
>まあ、ずっと傍にいた原作ですらああだったわけだし、基本原作と展開が変わらなくなりそうですな。
>ヨヨはまあ、うん。パルパルとよろしくやれば。
>また同じ展開で心に大きなダメージを受けるビュウは見たくない。
>いやな展開しか想像できないwwwwwww
>ですがどうか、どうか予定調和に収まることだけはやめていただきたい。

そこらへんはまぁ楽しみにしててください。そんな皆の予想を裏切れるようなとんでもストーリーではないのであれですけど。


>やっぱりセンダックは萌え萌えですね!
>じじいは私の人生で初めて出会ったうざかわいい.
>しかしセンダックが可愛く見えたぞ。これは重症だ。治療が必要かもしれない。

じじい萌え5割増しでいけたらいいんですけどねー。頑張ります。


>原作を知らないのに読んで、面白いと思いました。

マジっすか!嬉しいです。ただ原作知らない方には結構読みづらいかと思われます。僕の力量不足のせいで。


>その後のビュウに対するシナリオ的なフォローが全然ないのも、彼女に悪感情を抱かせる一因なんでしょうね。

ビュウは脇役なんですって話もあるくらいですからねー。ちょっと報われなさすぎです。


>さて、ここからが本番だけどビュウのテンションは異様に低くて、しばらく低空飛行を続けそうだ。

ビュウメインはもうちょい先ですかねー。


>今後も「~してくれ」は増えると思いますが、作者さんがまず書こうと思ったものを書き上げることができるように頑張ってください。応援しております。
>感想掲示板に流されすぎないようにしてくださいね。

大筋は決まってるんで大丈夫です。細かいところはアドバイス取り入れるかもしれませんが。


>なんかどのゲームでも、報われなさそうなキャラを応援してしまうんですねえ。

僕はこのゲームの最初、エカテリーナに興奮していました。


>バハムートラグーンは進め方しだいでヨヨ×ビュウが叶うと信じ、強くてニューゲームを繰り返した記憶が・・・w

なんて俺ww


>う~ん、捨てたとはいえ故郷は気になるのか。反乱軍に入るのはちょっと意外でした。さっさと帝国に士官してあっちに協力するものかと思いました。

一応世界を救うため反乱軍です。帝国軍だとどうしても世界救える絵が浮かばないんですよね。


>地の文や会話文のバランスやどのキャラを立たせるのかとかむつかしそうです

めっさ難しいですorz


>なんか優柔不断すぎてヨヨ寝取られても自業自得にしか思えない展開w

ビュウは仲間のことをすごい気にかけるし、大人の振る舞いをするんですけど、自分のことになるとてんでダメっていうのが僕のイメージなんですね。だから悩んでる時はほんと悩みます。あっちいったりこっちいったり。そこの成長とかをうまく書けたらと思います。



[11737] 第5章『夢の眠る大陸』
Name: OUT◆7cc87e23 ID:0b8a4b33
Date: 2010/09/22 12:20
-青い大陸キャンベル・グランベルス砦-


 牢屋のような、ホテルのような、そんな部屋で金色の髪をした1人の少女が寝ていた。客人を迎えるような内装と鉄格子の組み合わせというある種違和感しか生み出さないような部屋だったが、籠の中の鳥という彼女がいるだけで妙な連帯感を生んでいた。

 と、寝ている彼女の元に1人の男が訪れる。格好は深い緑に輝く鎧と真紅のマント、騎士の格好をした優しい目をした男だ。持っていた鍵で鉄格子を開けて中に入る。仕草から見てここには何回も訪れているようだった。

「眠ったのか……」

 そう呟き、彼が少女に近寄ろうとしたその時、鉄格子を開ける音と共にまた1人男が現れた。格好は騎士のような男とは違い豪華なマントを羽織り、目つきは鷹のように鋭かった。

「……パルパレオス。やはり、ここにいたのか……お前も眠れないのだろう?」

「……ああ」

「無理もないな……感じるか?夢見た伝説が、今ここにある」

「……この青い大陸キャンベルに」

「そうだ。この少女が、最高の夢を……伝説を果たすのだ。いや……少女と呼んでは失礼だな。ヨヨ王女はすっかり美しくなられた。パルパレオス……出発の日は近い。ゆっくり休んでおけよ」

 そう、少女を起こさないように小さく、しかし力強く言い放ち彼は部屋から去っていった。

(俺達の夢見た伝説……)

 残されたパルパレスと呼ばれた男に、先ほどの男と交わした言葉が思い出される。

『パルパレオス……見ろ、この空を。私達は空を手にした。だが、まだ完全ではない』

『サウザー』

『伝説がある、カーナに伝わる伝説だ。覚えているか?』

『……神竜の伝説』

『私にできるとは思わんか?伝説の男となることが。私は空の全てを手にした男だ。私の前に残された戦いがあるならばそれに挑みたい。そして、勝利を!!』

『……新しき時代への勝利』

『共に新たな勝利を。いつも私の傍にいてくれ……パルパレオス』










 所変わって、ファーレンハイトの操舵室。ここにはマテライトの命令によって反乱軍の皆が集められていた。並び方は以前と変わらず、いつも通りビュウ達を先頭に3列で並んでいた。彼等4人は、よそ者扱いとはいえ前回と同じくかなり重要な位置を占めていた。やはりビュウのおかげで鍛えられた技術と元々根無し草であった彼らの底抜けの明るさがよかったのだろう。今や彼らによそ者だからといって文句をつける人間もいなくなった。

「マテライトが俺達に戦いの基本とか教えるんだってさ。並んで待ってるのじゃ!!なんて偉そうに言ってさ……」

 あまりに暇で話すことも他にないであろうラッシュがぼやく。 集められたのはいいがすることない皆もそれぞれ雑談に花を咲かせている。そんな皆に苦笑しながら、まるで親が子を見るような目で眺めていたビュウにいきなり背中から重圧がかかる。

「ねぇビュウーっ!暇だよーっ、抱っこしてぇ!」

「もう抱きついてんじゃねぇか……」

「こういうのはビュウから抱いてくれないと意味ないの!」

「さいですか」

 ストレートな愛情表現をしてくるメロディアと、それに照れながら頭をナデて返すビュウを見ながらラッシュも何か暖かい感情が芽生えるのを覚えた。

「あぁ……ビュウがいっつも見てる感じて、こんな感じなのか」

 彼はいつもからかわれたり、皆の遊び道具になってるイメージが強いが、ビュウと出会う前は他の2人の面倒を見ながら生きたり、今もビュウがいない時は彼がリーダーとして動く。この平均年齢が若い反乱軍の中では精神的にかなり大人な部類に入るだろう。また、ビュウの精神がかなり大人びていたこともあり、以前ビュウが自分達を見ていた暖かい視線というものの意味を気付き始めていた。

 だが、理解し始めたからこそ生じる疑問というのもあった。

(なんで、こいつは出会った時からこんな目で俺たちを見れたんだよ……)
 
「静かにするでアリマス!!マテライト殿のありがたいお話を黙って聞くでアリマス!!」

 一瞬そんな疑いをもってしまった自分の頭を振って、皆を一喝したタイチョーの方を向く。そして同じく前に出てきたマテライトの話が始まる。

「ワシらの戦いは始まったばかりじゃ!よいか皆の者、ワシらはグランベロス帝国に反旗を翻すのじゃぞ!このオレルスの世界のラグーンを帝国の支配から解放していくオレルス解放軍なのじゃ!!……じゃが、所詮は反乱軍と呼ばてしまう卑しい身分じゃ。そのことを忘れんようにワシはワシらのことを解放軍ではなく反乱軍と呼ぶのじゃ!!」

 さすがの皆も締めるところは締める。マテライトの演説のような言葉に真剣に耳を傾ける。おそらくこの切り替えができていなかったら正直反乱軍としての勝利はなかっただろう。そして、だからこそ彼の次の言葉も理解できる。

「よいか、皆の者!今、ワシらに必要なのは軍隊内の規律と秩序なのじゃ!……ところが、全然わかっとらん者がおるようじゃ!」

 マテライトの姿を追った皆の視線がビュウ達に向く。確かにこの集団の中で言うと彼等は異端。規律などという言葉とは無関係のような存在である。皆と出会うまで人のいない果てのラグーンでひっそり暮らしていたわけだから当たり前である。しかし、だからこそ今ここで言っておかねば集団生活にも亀裂を生むだろうし、それは戦いにも影響してくる。そして皆はそれを理解した上でのマテライトの軍人としての愛情であることも理解している。

「へぇへぇ、すみませんね」

「答えはハイ!じゃ!」

 かといって納得が簡単にできる話でもない。彼らは規律と秩序とは無縁の人生であったのだから。ただ、マテライトの言っている意味を理解できないほど子供でもない。そのためかどうしても返事は少々拗ねたものになってしまう。

 皆だって規律にとらわれない彼等に良さを見ている。だからこそここで言ったわけであるが。ブレーキの存在を知らない者にブレーキがあることを知ってもらうためだけの話である。後はブレーキをかけるもかけないも彼等次第。それが自分の命を救うことなんてこれから山ほどある。

「すみません、ラッシュは拗ねてるんですよ」

「てめぇ」

「フム……まぁ心配はいらんじゃろ」

 そして上下をはっきりさせるのも組織の円滑な運営には必要である。そのことを遠回しに伝えるかのようにマテライトの口から改めて反乱軍のリーダーとしての宣言、次いでファーレンハイトの艦長のセンダック老師、操舵手のホーネット、マテライトを補佐するタイチョーの紹介をする。

「よいか、皆の者!これからは規律と秩序に従って行動するように」

「「「ハイッ!!」」」

「それでは解散じゃっ!30分後には次の目的地、キャンベルに向け出発じゃから各自しっかり準備しておくように!」

 その言葉で皆が散り散りに散っていく。訓練に行く者もいれば武器の整備のために部屋に戻る者、伸びをして部屋に戻ってゆっくりしようとする者。それぞれ短い時間の中で思い思いの行動をとる。

 そんな中、センダックがビュウに真剣な面持ちで話しかけてきた。

「ビュウ、私……信じてるからね。ビュウなら絶対ヨヨ様を助けられるって」

「……あぁ」

 それだけ返事をするビュウ。そんな彼の顔が曇ったのをセンダックは見逃さなかった。

(やっぱり……ビュウ、ヨヨ様と何があったの?)

 センダックはその疑問に一抹の不安を覚えつつも、今考えても仕方ないと気持ちを切り替え出発への準備に取り掛かるために自分の部屋に戻っていった。





 30分後、再び皆が操舵室に集まっていた。これからヨヨが捕まっているという青い大陸、キャンベルを攻め、王女奪還作戦が始まる。いくら初戦をすんなりこなしてファーレンハイトを奪還した反乱軍だったが、さすがに奪還作戦と聞き、皆にも緊張の色が見える。

 人質を助ける作戦というのは、様々な条件など関係なしにそれだけで難易度が急激に上がる。果たして、空という空を支配した彼等にとってヨヨ王女がどれほどの価値があるかもわからない。場合によっては殺される可能性もあるだろう。

 だが、ここで降りるような人間は反乱軍にはいない。

「よーし、準備はできたなっ!!」

「おうっ!いっちょ気合いれてお姫様を助けに行くぜ!」

「ラッシュがビュウのアニキに助けられそうだけどね」

「ビッケバッケ、いつものことです」

「う、うっせーっ!」

「「「ハハハハハッ!!」」」

 これも恒例のやり取りだ。ケッ、なんだよ……とボソボソ言いながら、しかし顔に浮かぶのが笑顔なあたり彼は狙ってやっているのかもしれない。そんなラッシュにビュウも声をかける。

「ラッシュ、よろしく頼む」

「……あぁ、任せとけ!」

 事実、付き合いと錬度を考えるとラッシュ以上に背を預けられる仲間はビュウにはいない。前回以上の絆を手にいれた彼等は一層強くなっていた。それを知っているのはビュウだけではあるが。

 皆の準備も整い、笑い声が収まり。次の瞬間、一気に艦内の空気が戦場のソレに変化する。そしてそれを背に感じたホーネットが発進への口を開く。

「いい空気だぜお前ら……いくぜ、ファーレンハイト発進!」

 索敵されぬレベルで近づいていたファーレンハイトがついに真っ直ぐキャンベルへと舵を向ける。
そして30分もしない内に目的の大陸が見える。

「よし、皆ドラゴンに乗って攻め入るぞっ!」

「おぉーーーっ!……ってビュウ!?」

 皆が普通に入り口からドラゴンのいる甲板を目指す中、ビュウがホーネットの横を走りぬけ、操舵室の窓に足をかけ、指笛で呼んだサラマンダーに直接飛び乗る。

「1人でかっこつけてんじゃねぇよビュウっ!」

「え、ラッシュ?」

「ほらほら、ビッケバッケも行きますよ」

 それにラッシュ達も続く。皆が呆気にとられている中、彼らは速攻と言わんばかりにキャンドルへと飛び立っていた。

「……あらあら、元気ねぇ」

「何があらあらじゃ、ルキアッ!ウヌヌ……さ、さっき規律と秩序と言ったばかりじゃのに、ヨヨ様を救出して帰ってきたら説教してやるからな、ビュウ!」

「でもそういうの、嫌いじゃないくせに」

「マテライト殿も素直じゃないでアリマス」

「う、うるさいっ!いくぞ、皆の者!あやつらに遅れるな!」

「おぉぉぉぉぉーっ!!」

 一気に指揮が上がり、皆は次々にドラゴンへと飛び乗る。気持ちという点では最高の状態であった。

「青い大陸キャンベル……か、ここには一体何があるの?」 

 ただ1人、何かの不安を感じているセンダックの呟きは、皆の雄叫びの中に消えた。





「この先の砦にヨヨ様がおられる!そうじゃな?」

「あぁ、一気に攻めるぞ!」

「ま、また指揮をとりおってーーーっ!」

 砦の近くの森には最低限の兵は確保されていたものの、本当に最低限である。今や帝国に逆らう者などいないからだ。しかし、それを差し引いてもこの人員の少なさは異常とも思えた。ビュウはもちろんここにヨヨがいないからという理由を知っていたが、そんなことを言うわけにもいかない。

 敵を切り伏せながら、その異常に気付いたトゥルースから声がかかる。

「ビュウ……おかしいですね」

「あぁ、いくらなんでも手薄過ぎる」

「これは、既にヨヨ様は他のところに連れて行かれたのかもしれませんね」

 先陣を切って突撃していたラッシュが、目の前の敵を始末して近づいてくる。

「あーもうっ!悩んでてもしょうがねぇだろ?!ゴチャゴチャ言う前にまずは敵をぶっ飛ばすぞ!」

「……その通りだ」

「ですね」

 彼らは再び戦闘に集中する。そして森を抜けた先についに本拠地である砦が見えてきた。森の他のところに配備された者たちがいつここにたどり着くかわからなかったが、待つぐらいなら体制を整えさせる前に崩した方がいい。怖いのは挟み撃ちだが、それより怖いのは相手が余裕を持って反撃できる状況である。

 だから彼らは見つからないところから森に降り立つと、敵の配置も関係なしに真っ直ぐ突撃したのである。今の状況を見る限りこの奇襲は成功である。最低限の敵を切り伏せ、砦が目と鼻の先に見えるところまでこれたのだから。

「あの砦……ヨヨ様はあそこに?」

「あぁ、情報ではそうなっている。だがこの戦力の少なさは……」

「ヨヨ様ーっ!しばしのご辛抱ですぞーっ!さぁ、手下ども続くのじゃ!」

 ビュウの話も聞かずマテライトは走り出す。

「手下だぁ!?さっきのことまだ根にもってんのかよ?!」

「気にしない気にしない。さぁ、行きましょう」

「けっ、大人じゃなくてすみませんねぇ。大人のルキアさん」

「ん~?……それじゃ無事帰れたらお姉さんが大人にしてあげようか?」

「ハァッ?!バ、バカじゃねぇのルキア!?」

「ンフフ、かーわいー。全然変わってないのねーラッシュ」

「う、うるせぇ」

 ルキアにからかわれるラッシュを見ながらさすがのビュウもため息をつく。さすがに女経験だけはドラゴン探しの旅では克服できなかった。まぁ相手が女だったからといって手を抜くような柔な人間じゃないとは思ってるからあまり心配はしなかったが。

「フフッ、ビュウさん達がいるとやっぱり明るくなりますね」

「ラッシュが、だろ?俺たちはラッシュを抑えるので精一杯さ」

 話しかけてきたフレデリカにビュウは肩をすくめてヤレヤレといったポーズで返す。

「それも含めて、ムードメーカーなんですよ。ビュウさんを信頼してるからこそラッシュさんだってあれだけ自由に振る舞えるんですよ」

「……そんなものか?」

「はい、そんなものです」

 あまり人を真っ直ぐ見れなくなってしまったビュウには、フレデリカの一辺の曇りのない笑顔が眩しかった。

「ビュウさんだって、皆さんと仲良くなろうとしてあんなに早く皆さんの名前覚えたじゃないですか。次の日に名前で呼ばれた時はびっくりしちゃいましたよ。それでセンダック老師に名前を頑張って覚えてたよって聞いて、あぁ……いい人なんだな、って」

 少し心がズキッと痛む。前のフレデリカと今のフレデリカは別人と考えるビュウにはどうにも割り切ることができていなかった。前回ほんの少しばかりの好意を向けてくれていたフレデリカ。ヨヨに振られたなんて女々しい内容で落ち込んでいたことも気遣ってか、更に優しくしてくれていた。

 だが、今のフレデリカは彼女じゃない。ヨヨに振られることがわかっているから、カーナから逃げ出し。逃げ出したくせに反乱軍に入り、彼女に好意を向けるのか?そんな頭の中がグチャグチャになってしまいそうな自問自答を繰り返す。

 今の彼女の言葉もまた、ビュウには重かった。名前なんて知っていて、それを疑問に思われたり間違って名前を出してしまわないために、センダックに前もって一人一人名前を聞いただけである。

「俺は、そんなんじゃない」

「それでも私は、ビュウさんが優しい方って知ってます」

 言葉を失ってしまう。またここで頑張ろうと決めて、でも自分にもった疑問は消えなくて、悩んで。それでもいいんです、そう言われた気がした。しかしその無音も長くは続かない。近くで話を聞いていたディアナが興味を引かれたのか話に割り込んでくる。

「あれれ、フレデリカー?ビュウみたいなのが好みだっけ?」

「ディ、ディアナ?!」

「ま、ラッシュよりはいい男だけどねー」

「そ、そんな!ラッシュさんだってステキな方じゃないですか!」

「あれれ、あれれー?それじゃビュウとラッシュどっちが好みなの?」

「どっちがとかそういう問題ではなくて……ゴニョゴニョ」

「アハハッ!冗談だよっ!」

 顔を真っ赤にして言葉に詰まるフレデリカ。それを見てディアナは満足したのか次の戦闘のために他の負傷した者の回復に向かう。

「す、すみませんディアナが……」

「いや、気にしてないよ。フレデリカ……次の戦闘も、よろしく」

「……はい!」

 そうして次の戦闘への準備を済ませた俺たちは、目の前の砦に真正面から攻撃をしかけるべく突撃を開始する。地形的にも山や川に囲まれ攻めづらい上に、こちらも人数が多いわけではない。そうなってくると最善が正面突破しかなくなるのだから仕方がない。仮に援軍が来るとすれば、そいつらが集まるまでに城は落としたい。

 皆で砦を正面に構え、エカテリーナ、アナスタシア、メロディア、3人のウィザードによる魔法を切欠にして反乱軍が一気に攻め込む。すると奇襲に気付いたのか城に警笛が鳴り響く。

「斬りたい!斬りたい!大根が斬りたい!!……ム?反乱軍!」

「前回もそうだったが、帝国の兵士あれでいいのか?」

「ラッシュ、それは言わないお約束です」

 しかしバカに見えるとはいえ仮にも帝国兵。砦の攻防戦は最初から熾烈を極めた。特に砦本体までに城壁が3つもあるという徹底ぶりである。

「ちっ、これは骨が折れそうだぜ」

「あぁ、だが俺達だったら大丈夫だ!まずは速攻で橋を渡って1つ目の城壁をクリアするぞ!」

「おうっ!」

 反乱軍が文字通り、一丸となって本丸を目指す。いつものように先陣を切るラッシュを先頭に城壁に突撃する。帝国軍が橋を破壊しようとしていたようだったが、それもこの速攻には間に合わない。

「オラァ!」

「ガァァッ!?」

「チッ、引けーっ!前衛の部隊は押さえながら後退!後衛の部隊は体制を建て直し中の城壁を守れ!」

 だが一番手こずるであろうと思われた1本目の城壁を帝国軍はアッサリ明け渡した。中がより固いのか、それとも単純に戦力が少ないのか……どちらにしても不気味さはぬぐえない。

「いやに、アッサリしているな……」

「私達の力に恐れをなしてってことかなー?」

「ディアナ、油断する……っ!?」

 ラッシュが言い終える前に遠くで何かを発射するような大きな音が鳴った。

「……え?」

「ディアナッ!!」

 身を投げ出しディアナをラッシュが城壁にムリヤリ引き戻す。音が鳴った先にはカタパルトがあったのだ。だがやはり気付くのが遅く、庇ったために城壁から体が少し出ていたラッシュの腕に石の弾が掠め、血が溢れ出す。掠っただけとはいえとんでもない威力だ。肉が少し抉れていた。

 それを見たディアナの血の気が引く。それは傷とかではなく、油断した自分に責任を感じてであった。
 
「チッ!」

 ダンダンダンと着弾する音と振動が響く。城壁から出ようとすると打ってくるカタパルトに、皆が思うように動けなくなる。道理でアッサリ引いたわけだ、と納得してしまう。一体ならばまだしも、二体のカタパルトが両側から打ってくるのでなお性質が悪い。だがこのまま手をこまねいて見ているわけにはいかない。これ以上敵に増えられてしまったらこの人数ではどうしようもないのだ。

 皆がどう攻めるべきかと考えている時に、ディアナ達に回復魔法であるホワイドラッグをかけてもらい、多少マシに動けるようになったラッシュが口を開いた。

「よし、俺が左のを無力化する」

「じゃ、俺は右だな」

 ラッシュが言うことがわかっていたかのようにビュウが声を合わせる。確かに、こういう遊撃的な動きが一番できるのは彼等だ。2人でカタパルトを沈静化し、他の者が沈静と同時に正面の城壁に攻め入る作戦だった。だが、そこに待ったをかける人物がいた。

「ハイハーイ、ビュウは正面突破のために待機しててね」

「ルキア?」

「こういうのは速さが売りのライトアーマーの出番でしょ?」

「だが……」

「ったく……反乱軍に男も女もないんだから、ここは私に任せてもらうわよ」

 確かにこれ以上はルキアへの侮辱になる。そう思ったビュウは彼女に任せることを無言の返事で返した。

「よし、んじゃパパっと破壊しちまうか。ルキア……行けるか?」

「だーれに聞いてるの?無事帰ってラッシュちゃんを大人にしないといけないからね~、お姉さんに任せなさい!」 

「ブッ!?ま、まだ引きずってたのかよそのネタ……」

 ルキアの2回目の冗談に、驚き呆れながらも緊張は崩さないところはさすがといったところか。そして投擲が止んだ瞬間に2人がそれぞれの敵に向かって飛び出す。カタパルトを運用していた敵も突然の突撃に、焦って弾を補充する。確かに2人は早かった。だがさすがに距離が距離であり、補充の方が先に終わり、ラッシュとルキアに狙いを定める。

「そりゃそうなるよなー……だが」

「この距離だったら打つ方向も丸見え。私達が避けれないとでも思った?」

 そう、確かにカタパルトは遠距離に強いが懐まで入ることができたらこちらのものである。当たらない弾を打ち続ける彼等の攻撃を避けて、ラッシュ、ルキアの両名はカタパルト2台を制圧する。

「よし!このまま正面突破じゃ!」

「サンダーゲイルッ!」

 マテライトの合図で雷の黒魔法が放たれ、一気に城門を破壊する。そしてそのまま突撃。カタパルトが殲滅され全軍突撃を許した彼らは、第二の城壁とそこに集まったこの砦のほとんどの戦力を一気に破壊され、後は第三の城壁だけとなった。

 その壁も同じ手で破壊し、休む間を与えず一気に攻め入る。カタパルトを使えなくしてからは一方的だった。そうして、帝国の砦は反乱軍の手に落ちるのであった。





「ヨヨ様ーっ!カーナ王国騎士団長、マテライトがお迎えに参りました!」

「マハール騎士団、タイチョーも一緒でアリマース!」

 ヨヨがどこにいるのかと、自分を抑えきれないマテライトが皆を置いて砦の奥へと突き進んでいく。それに少し遅れ、追いついてきたビュウ達。だがその顔に浮かんでいたのは、目的の砦に着いたとは思えない表情であった。

「静か過ぎますね……」

「チッ、ムダ足かよ!」

「まだそうと決まったわけじゃないよ、ねぇ?ビュウのアニキ」

「だが、確かにここにヨヨが残っている可能性は……低い」

 そう言いながらも進まないわけにはいかない、そして一番奥のホテルのような内装に鉄格子がくっついたような奇抜な部屋にたどり着く。しかし、先に到着していたマテライト達の様子から、そこにはヨヨがいなかったことがわかった。

「ヌヌヌー……て、帝国めっ!」

「マテライト殿っ!それではまるっきり悪役でアリマス!」

 だが収穫が全くゼロというわけでもない。誰もいないと思っていたそこには帝国軍の一平卒、レギオンが残っていた。居眠りをしているようで、マテライト達が入ってきたことにも気付いておらず、皆で近づいてそいつを乱暴にたたき起こす。

「ひっ!す、すみません、ゾンベルト将軍!居眠りしてしまいました!……って、は、反乱軍!?」

「こいつ、相当バカだろ。ビュウ」

「あぁ、とりあえずこいつから何か話が聞けそうだな」

 怯えるレギオンを軽く脅して話を聞きだす。すると、どうやらヨヨはサウザーによってずっと北の森に連れて行かれたらしい。だがマテライトがビュウと交代し、もっと詳細を聞こうとしたところで、隙をつかれ逃してしまう。

「やばいぜ!あいつ仲間を呼びに行くぞ!」

「チッ、仕方ない、どちらにしても北の森を目指すならば戦わなければならぬ。ここで一戦交えるんじゃ!」

 ラッシュがレギオンを追っかけたものの、捕まえることはできなかった。反乱軍は逃げたレギオンの報告を聞き、じきに集まるであろう帝国軍に対し、ここで少し休憩と準備をして3連戦へと挑もうとしていた。このまま一気に攻撃に出たところで城外にいる帝国軍が集まってない内は闇雲に攻めても危険なだけである。それに、さすがに皆の疲労は隠せない。

 帝国軍の準備が整うのがどれくらいになるかはわからないが、少なくとも1時間以上は猶予があると見ていいだろう。逃げているレギオンが報告するまでも時間があるだろうし、軍が編成を整えるにはやはり時間がかかるものだ。ここからどれくらい戦いが続くかもわからない。休める時に休むのが鉄則である。

 その方針を皆に伝えると、各々武器を整備したり、仮眠を取ったりと休憩を始めた。そんな中、ラッシュは自分の腕の調子を確認するように少し素振りをしていた。そこにやってきたディアナ。

「ねぇラ、ラッシュ……腕、大丈夫だった?」

「あ?あぁ、お前が治療してくれたからな。ホレ」

 先ほどのカタパルトから受けた傷を心配して尋ねる。だが彼は何事もなかったかのように腕を振り回して無事をアピールした。それに少しホッとしながら再び口を開く。

「ごめんね、あんなところでボーッとして。私のせいで余計な怪我させちゃって」

「……どうした?熱でもあんのかお前?」

「~~~っ!わ、私だって反省するし心配するよっ!?」

「ははっ、わりぃわりぃ。ありがとな?でもホラ、大丈夫だぜ」

 そう言いながら、先ほどしていた素振りを彼女の前で数回繰り返す。確かに傷はどうやら完全に治ったようで、全く影響を与えた様子はなかった。ディアナはその様子を見て安心したのか、下を向きながらボソッっと、ありがと……とだけ呟くと奥の方に行ってしまった。

「なんだありゃ?」

「まぁそう言ってやるな」

「おわっ!?ビュウ!いたのかよ」

 さすがに自分のせいで怪我されたらつらいだろうし、助けてもらった感謝だってしたかったのだろう。ビュウも空気の読めない男ではないので、話が終わるまで邪魔しないように隠れていたわけだ。かといって大したことをしたつもりのないラッシュから見ればいつもの言動からトゲというトゲが抜けているのだから不気味に感じたのも仕方のない話である。

 だがいつまで考えたところで答えはでない。それよりもラッシュは、反乱軍としての本格的戦いも始まり、騎士になることが現実味を帯びてきた今、前からビュウと2人になったら聞こうと思っていた質問をする。

「なぁビュウ……」

「なんだ?」

「お前は俺達とずっと一緒に居てくれるのか?」

「どうした、いきなり」

「いきなりじゃない。前から聞きたかったことだ。もし、この戦いが終わって俺達がカーナの騎士になったら。お前はどうするんだ?」

「……」

その質問に返す答えを、ビュウはまだ持ち合わせていなかった。










なんというか、すみません。お久しぶりです。



[11737] 第6章『決戦に至る道』
Name: OUT◆7cc87e23 ID:0b8a4b33
Date: 2010/09/23 22:01
「俺はお前が何を隠してるか知らねぇし、わざわざ言いたくないことを言わせるつもりはねぇ」

「……」

「けど、まぁ……気にはなるわな」

「……すまない」

 いや、いいさ……と言いながらラッシュは装備の点検に入る。信頼はしている、隠してることだって理由があるんだろうと思う。だがそれでも、仲間なんだから言ってくれよという感情までは隠せない。底抜けのお人よしで、わけわかんねぇぐらい強くて、でも臆病。というのが彼のビュウに対する評価である。その上、大人びた雰囲気の中にあらわれる子供のような臆病さは、より彼の何か隠しているという事実を表していた。他の人間からはわからないかもしれないが、長く一緒に暮らしていた3人は、彼の時折顔を出すその怯えを心配していた。さすがに戦闘時にその感情が出ることはないが、この反乱が始まってからは時が経つにつれ、その表情を出すことが増えてきたように思える。いつからそんな顔が出だしたか、と思うとやはり反乱軍と合流してからである。多分自分達に言っていない何かがあるんだろうとラッシュは考える。よくよく考えてみると、カーナを捨てて出てきた理由も聞いていない。間違いなく関係あるんだろうな、と彼は思う。

 そんなことを考えている内に、装備の点検は終わっていた。まだ帝国軍も攻めて来る気配がない以上、後は体力の回復に努めるだけだ。ラッシュは、まぁ気が向いたら教えてくれ、と手をヒラヒラ振りながら仮眠を取るためか、去っていった。

「俺は……どうしたいんだ?」

 答えのない呟きが、1人しかいない部屋の中に消えていった。










 それから三時間後のことである。見張りをしていたバルクレイが、ついに動きだした帝国軍に気付いた。砦の頂上付近から望遠鏡で見る程度の見張りだったが、正直軍隊として存在している敵の動きを把握するのに問題はなかった。彼はあまり見慣れない鎧を脱いだ姿で、皆が休んでいる砦の中心部へ走る。

「マテライトさん!動きがありました!」

 そこからの動きは早かった。さすがに少数であることもあり、帝国軍とは比べ物にならない速さで体制を整える。鎧を、ローブを、それぞれの武器を装備した皆は今一度顔を引き締める。疲労の色は隠せないもののそこはさすがに戦闘のプロ達である。そして反乱軍が集まったことを確認したマテライトが、今後の方針を端的に伝える。

「よし、帝国軍を撃破後、ヨヨ様が連れて行かれたという北の森とやらを目指すのじゃ!」

「マテライト、その北の森ってのがどこにあるかってわかってるのか?」

「う、うるさいぞビュウ!そんなものは帝国軍をこう!締め!上げてじゃな!」

「まぁそれしかないだろうな……」

 バルクレイの報告によって大まかとはいえ相手方の数も把握する。作戦は単純に各個撃破。出来る限り包囲をしている帝国軍を合流させずに少しずつ削っていく作戦だ。そのためにはこっちから打って出なければいけない。砦で囲まれてしまったら総力的に勝てない上に、もし帝国軍がヨヨを使って何かを企んでいるのであれば、時間稼ぎの可能性もある。こっちの体力も無限じゃない。疲労が極限に達する前に戦闘を終わらせてしまいたいのも正直なとこである。そして最終点検も含め、10分後に作戦開始となった。とは言ったものの準備が終わっていない者などいない。これは戦闘へのそれぞれの精神統一の時間である。少しでも心を落ち着かせる時間があるだけで全く結果は変わってくるものだ。落ち着くための方法も人それぞれで、話を始める者もいれば瞑想を始める者もいる。そしてそんな中、他の者より一際顔色の悪い彼女に話しかける者の姿があった。

「……体調の方は大丈夫か?」

「ビュウさん……ええ、こんなところで私だけ弱音は吐けませんから」

「ゾラにディアナもだ、こういう連戦の時はいつだってプリーストが一番つらい」

「なーに言ってんだい!あんたは黙って大将討ち取ってくりゃいいんだよ!怪我したらしっかり治してやるから安心して無茶してきな!」

「にゃははー、ありがとう!フレデリカのついででも嬉しいよん?」

「なっ」

「あれれー?あれれー?図星だった?やったじゃんフレデリカ!」

「えっ、えーと」

「バカ言ってるんじゃない……作戦始まるぞ」

 最後にそれだけ言ってビュウはラッシュ達のいる方へ戻っていく。別に図星でもなんでもないのだが、正直ああいう話題になると居辛い。彼女の明るさにはいつも助けられているが、こういったなんでも恋愛に繋げたがる女子特有の性質は未だに慣れぬものである。噂好きということもあってか彼女は特にそれが強い。あまり近くにいると知らぬ間にフレデリカと付き合っていることにされそうである。実際ビュウもフレデリカもお互いのことを好きか嫌いかで言うと嫌いではない、むしろ好きの部類には入るだろう。だが、フレデリカが抱いてるものは別に恋心でもないし、ビュウのそれも未だ燃え上がるような恋心ではない。どっちかというと一緒にいて安心できる間柄というものだ。それは多分お互いの性格のおかげもあるだろう。ビュウが彼女に好意を向けることに抵抗を感じたりもあるが、さすがに毎回毎回話すたびに感じるわけではない。たまにドキッとした時に本人にしかわからない自己嫌悪に陥るのは確かだが。

 戻ってきたビュウに気付いたラッシュが声をかける。時間的に作戦前の最後の会話になりそうだ。

「ビュウ!そろそろ作戦開始だぜ」

「あぁ」

「さっさとお姫様を助けて、騎士にしてもらわねぇとな」

「……あぁ」

 先程のこともあったせいか、答えた声は少し固かった。しかしそれに帰ってきたのはビュウの予想とは違った言葉だった。


「ビュウ、俺は……いや、俺達は何があってもお前の仲間だ」

「……」

「最後の判断は、お前に任せるぜ」

「……いいのか?ラッシュ」

「まぁ俺達だったら何処でもやっていけるだろ。それにサラマンダーは俺んだからな、お前と別れさせるのも可哀相だろ」

「それまだ残ってたのか」

「当たり前だろ!助けた変わりにもらったんだからな!」

 顔を赤くしてそっぽを向くラッシュ。横で黙って見ていたトゥルースとビッケバッケも同じ気持ちのようだ。改めてこいつらと出会ってよかったとビュウは思う。1人だったらどこかでのたれ死んでいただろう。人は弱い。どんなに経験があろうと、どんなに力があろうと、孤独という巨大な敵の前では誰もが赤子だ。今ならば、ヨヨがパルパレオスに求めたものが何かも少しわかる気がする。一番悪かったのは、彼女を孤独にした自分なのかもしれない。いや、もう誰が悪いという問題ではない気もする。なるべくしてなった……それだけのことなんだろう。そう思うと今まで重かった心が嘘のように軽くなった気がした。

「ラッシュ、トゥルース、ビッケバッケ……ありがとう」

 それはこの件に限ったことじゃない、今までの感謝の言葉だった。そして再び誓う。今回も絶対こいつらを死なせはしないと。










「ビュウ!そっちいたよ!」

「チッ、抜かれた!」

 基本的に反乱軍の戦闘スタイルというのは、遊撃戦が得意なビュウ達や早さが売りのライトアーマーであるルキアが先陣を切り、パワー重視のマテライト達、中距離が得意なランサーのフルンゼとレーヴェが相手が崩れたところを更に切り崩す。後方にウィザードやプチデビルが控え援護攻撃、更に後ろでプリーストが回復をする、という形である。なので、どうしても抜かれないように戦う必要があり、前衛の消耗も相当なものになる。しかし、そんなビュウの心配もよそに、抜かれた先で激しい魔法の光と音が破裂する。

「後ろに逃しても心配しないで!のろまのヘビーアーマーじゃないんだから少しぐらいこっち来ても平気よ!」

「アナスタシア……そ、それ、わざわざ今言わなくても」

「エカテリーナも!もっと主張しないとお荷物に見られるよ!」

 その言葉にビュウ達も苦笑する。今、敵を魔法で倒した2人は真逆の性格をしたウィザード、アナスタシアとエカテリーナである。うまく抜けるタイミングに合わせて魔法を放ったのであろう。ウィザード達、後衛の部隊にはまだ距離がある所に魔法を放った跡と倒れた兵士の姿があった。言いたい放題の言葉に融通の利かないバルクレイなどはムッとしていたが、さすがに戦闘中に喧嘩になるようなことはない。この戦いが終わった後はわからないが。

「よし、一気に攻めるぞ!」

「……ビュウ!?避けろ!」

 突然ビュウを襲い掛かった影との間で剣と剣がぶつかり合った火花が散る。何事もなかったかのようにこちらに振り返る相手の顔を見てマテライトが驚きの声を上げる。

「今のを避けるか」 

「パ、パルパレオスっ!?」

 現れたのは皇帝サウザーの右腕、パルパレオスである。ここでここまで重要な人物が出てくるとは、どうやらこの先にヨヨを連れて行ったのは間違いないようだ。カーナを襲った時にもサウザーの傍にずっといた騎士だ、マテライトの中では当然サウザーの次に憎い相手である。そしてそれは勿論行動にも表れる。仇のように憎悪の篭った瞳を向けたまま武器を大きく構え、彼に体ごと真っ直ぐ突っ込んでいこうとする。が、

「何故邪魔をする!ビュウ!」

「……ここは俺に任せてくれ」

「フンッ!国から逃げたお主になんぞ」

「マテライトッ!」

 普段から考えられないマテライトの言葉にセンダックの静止の声が響く。経験十分であるはずの彼も、憎しみのためか周りが見えていなかった。正直二刀流であるクロスナイトのパルパレオスと、破壊に特化したパレスアーマーのマテライトでは相性が悪すぎる。ここは同じ二刀流であるビュウに任せることが一番であった。いや、もしかしたらわかっていたのかもしれない。だが、ビュウへの不満、ヨヨへの心配、そして敵の登場。様々な要素が重なり、自分が戦いたいがために酷い物言いをしてしまったのかもしれない。

「フフッ、仲間割れか。そんなことでヨヨ王女を救えるのかな?」

「貴様っ!」

 思わず飛び出そうとするマテライト、だがそれより早くビュウが動いた。彼が先に動かなければ、マテライトが突撃し、負ける可能性まであっただろう。だからこそパルパレオスを少しでも早く退かせるために自分が先に動いた。

「ヌッ」

 そしてそれはパルパレオスの予想を遥かに上回るスピードであった。予想外の出来事に彼の顔が少しばかり歪む。ビュウが剣を振り、パルパレオスが剣で防ぐ。同じ二刀流同士なので1度攻防が決まると中々攻撃に転じれない。だがパルパレオスも皇帝の右腕、簡単にはやられない。相手の攻撃をうまく受け流して、体勢を崩そうとする。しかし、1本受け流すとそれがわかっていたかのようにもう1本が襲い掛かってくる。二刀流の錬度としてはどうやらビュウの方が上のようであった。しかしそこまで圧倒的な差ではない。もし体力がビュウよりパルパレオスが上回っていたら、それこそ一瞬の隙をついて反撃を許すことになるだろう。

「クッ、その若さでこの強さとは、恐れ入る」

 2人の戦いはまるで演舞、帝国軍の兵士も、反乱軍の皆も、思わず見とれてしまう程のものであった。

「ビュウ……こんなに強かったの?」

「ヌヌ……あやつ、どうやってあそこまで強くなったんじゃ」

 しかし、その均衡が崩れる時がきた、敵の後方から本隊がやってきたのである。それに気付いた皆が再び戦闘態勢に入る。そして今戦っていたパルパレオスも。

「チッ、ここはゾンベルトに任せるとするか」

 敵の本隊のリーダーであろう名前を残して退く。やはりその判断の早さから、時間稼ぎが目的のようだ。マテライトが追い討ちをかけようとするが、さすがに追いつけず、悔しそうに唸り声を上げる。だが敵は待ってくれない。雪崩れ込むように敵の本隊が加わり、混戦となる。

「皆!踏ん張るんじゃっ!」

 マテライトのおそらく最後になるであろう激が飛ぶ。もう敵もここにいるので全てだろう。だが、その数が本隊が加わっただけあってやはり多い。錬度が違うとはいえやはり骨が折れる戦いである。後衛同士の魔法の撃ち合いの中をビュウ達が駆ける。そんな中、味方に当てないように魔法を放つのはとても神経を使う作業であった。案の定、ウィザードの1人が集中を切らした。隊の中で一番若いメロディアだ。狙いを外したフレイムゲイズが、戦闘の中心で戦っているルキアの方に向かう。

「あ」

 彼女はルキアが倒れるであろう未来を想像してしまった。だが今更何か出来るわけでもなく、ただ見守ることしかできないメロディアは小さく声を発することが限界だった。だが、彼女に炎が突き刺さろうとした瞬間、炎と彼女の間に別の人物が割って入った。

「ビュウ!?」

 彼は自分の剣で、炎を防いだ。いや、防いだというのは適切ではないかもしれない、剣の上に纏わせるように受け流した。そして勢いを殺さず、その上で力を溜め、そのまま敵に向けて炎を纏わせた剣を振るう。

「フレイム……ヒットォォォォォ!!!」

 敵のいる一帯を渦巻く炎が襲った。










「サウザーめ、こんな不気味な森にヨヨ様を連れ込んだというのか!」

「敵が沢山でアリマス!あ、あれは……人間じゃないでアリマス!魔物でアリマス!」

「どうしてこんな危険なところへ……」

「うーん……あ、思い出した!この森には神竜がいる。ここの空気の感じ、カーナのバハムート神殿と同じ!」

「なんでもいいんじゃ!こうしてる間にもヨヨ様は……。帝国の奴らが何を考えようと関係ない!ワシらはヨヨ様を取り戻すんじゃ!」

 あのゾンベルト率いる帝国軍との激しい戦闘の後、反乱軍は帝国軍の兵士から聞きだした北の森へと来ていた。彼等から聞き出した情報によると、どうやら北の森で何かをするみたいである。多分、ここが決戦であろうことを皆感じ取っていた。少しでも早くサウザーの元へ向かった方がいいのは確かだが、最後の戦いに向けての準備が必要なのも事実であった。さすがにこれだけの連戦も予想しておらず、体力の消耗がとてつもないことになっていた。仕方なくここで準備のため、一旦30分程の休憩を入れる。その間に傷を受けた者の回復等を行う。

「……ビュウ」

「ん?どうした、メロディア」

「ごめんね、魔法……ちゃんと制御できなくて」

「あぁ、そのことか」

 今、メロディアが言っているのは先程、フレイムゲイズを間違ってルキアに放ってしまったことだろう。彼女は無邪気だが責任感は強い。それゆえに間違った時にどう発散すればいいかわからなくなるときも多々あるのだ。ビュウが彼女の頭をクシャクシャに撫でながら言葉を続ける。

「次、気を付ければいいさ」

「……でも!」

「どうしても気になるんだったらルキアに謝ってきな?アイツも俺と同じことを言うと思うがな」

「もう謝ってきた……ビュウと同じこと言ってた」

 事実、予想されていなかったこの連戦でここまで皆が持っていることのほうが奇跡なのである。プリーストもここで皆を回復したら次の戦闘ではほとんど参加できないような状態だろう。そんな中、最年少の方であるメロディアがここまで戦えていることを逆に彼等は評価している。この件についても彼女自身が気にしているだけであって、こんなことは戦場でよくあることだ。だが、それを伝えても納得いかないのか、不満気な様子である。ただビュウとルキアが同じことを言ったおかげか、罪の意識といったところはかなり軽くなっているようだ。後は自身で折り合いをつけるしかないということを伝えて、話を締める。

「悪いな、俺から言えるのはこれぐらいだ」

「ううん、ありがとうビュウ」

「……そうだな、ありがとうの方がいい」

「え?」

「今回みたいにちょっと運がなかっただけ、なんていうのは戦場ではよくあることだ。だからフォローされたら」

「ありがとう、だね!ビュウ!」

 それだけで大分気が楽になったのか、落ち込んでいた時とは真逆の笑顔で答える。そしてそのまま、ビュウの正面から撓垂れかかるように抱きつく。座っている彼に抱きつくメロディアの姿は、まるでお日様の下で干したばっかりの布団に抱きついたような体勢と表情だった。

「ねぇビュウ……」

「ん」

「助けてくれて、ありがとう」

「あぁ」

 表情にもう憂いはなかった。

 しばらくそのままの体勢でいた2人だったが、さすがに戦闘開始が近づいているのにそうしているわけにもいかず。というかこの場で2人きりでずっといれるわけもなく、負傷者を見て回っていたディアナにからかわれながら戦闘の準備に戻ったのである。

「やややー。まさかビュウとメロディアがそんな関係だったとは」

「だから違うって言ってるだろう?」
 
「わ、私は……お似合いだと、思いますけど」

「フ、フレデリカまで……勘弁してくれ」

 それは次の戦闘が始まるまで続くのだった。










「これがヨヨ様救出作戦の最後の戦いじゃ!皆の者、最後まで気合を入れてヨヨ様を助けるぞ!」

「「「ウォォォォォッ!!」」」

 森をうろつく魔物達との戦闘が始まった。サウザーとの決戦のときに後ろから攻撃されないように、最低限魔物を撃破して進む。慣れぬ魔物との戦闘ではあったが、彼等も戦士。大きな問題もなく森の中を進んでいく。そしてついに……森の奥深くにいた、サウザー達の元へとたどり着くこととなる。

「ついにここまで……ヨヨ様。今助けますぞ!」

「待ってくれ、マテライト!このまま突っ込んでも勝機は薄い」

「ビュウ!何故止める!?」

 先走ろうとするマテライトをビュウが止める。目の前には帝国軍が今まで以上にいる。その上ヨヨも人質である。ただ突っ込んだところで勝機がないことは目に見えていた。そして、ヨヨを救出することだけに限って言えば、不可能ではないことも確かだった。だからこそ止めたのだ。

「このままじゃ勝ち目が薄いって言っているんだ。俺達の目的はなんだ?」

「ヨヨ様の救出じゃ……」

「ってことは、誰かが別行動でお姫様を助けるってことだな?ビュウ」

「あぁ、救出する人間はドラゴンでタイミング良く奇襲をしかければいい。ラッシュかルキアが適任だろう」

 その言葉に皆の目が一斉にビュウに向く。その反応にはさすがの彼もビックリしたのか、目を丸くする。

「バーカ、ドラゴン一番乗り慣れてるのはお前だろ」

「それに白馬の王子が私やラッシュっていうのも締まらないしね」

「ルキア、お前はほんといつも一言余計だよな」

「ビュウさん、ヨヨ様を頼みましたよ」

「頼んだよ、ビュウ。信じてるから」

 本人の意思を無視してビュウがドラゴンに乗ることが決定してしまう。他の皆も異論はないようだ。マテライトもさっきの戦いを見て、自分が行くより任せた方がいいと認めたのだろう。悔しい気持ちをグッとこらえ、ビュウに託す。これだけグジグジ悩んでいるだけの自分を信じてくれている仲間達。ビュウは心に安心にも似た何か暖かいものを感じた。ヨヨとの確執もラッシュとの会話で吹っ切れたつもりだ。俺は皆のためにもヨヨを救い出すだけ。そう心に誓い、作戦行動へと移ろうとする。

 だが、そこにセンダックが待ったをかけた。どうやら、ヨヨに関係のある話で今回の作戦にも関係があることのようだ。そうでなければこのタイミングで待ったをかけることはないだろう。

「ごめん、こんなタイミングで……だけど言っておかないと、もし前言っていた予想が合ってたら大変なことになるの」

「大変なこと?」

「わし、考えた……あの日、カーナ最後の日。サウザーはどうして姫を連れて行ったのか?そして今、神竜の前に姫を連れてきている、それは何のため?」

「……カーナ王は神竜と話せる力を持っていた。そしてヨヨはカーナ王の娘。当然同じ力を持っている」

「そう、ラッシュ達と会った時にも話したけど……きっとサウザーは神竜の力を求めている」

「それがこれからの作戦に関係あるのか?」

 センダックの考察にラッシュが口を挟む。当然、サウザーの目的がわかることによって勝利条件が変わる場合もある。救出の難易度が変わる場合もある。彼が言いたかったのは、その情報で何が変わるか、それが聞きたいということだ。それによって変更しなければいけない点も出てくるだろう。だが、ヨヨと同じく神竜の力が理解できるセンダックの口から出てきた言葉は信じられないものだった。そしてその絶望に染まった表情は、今言ったことが嘘でも本当ないことを表していた。

「もし、サウザーがヨヨ様を使って神竜の力を手に入れたら……作戦が成功しなかったとしても、絶対に逃げて」

「バカモン!ヨヨ様を置いて逃げてしまったら、ここまで来た意味はなんなんじゃ!」

「そういう問題じゃないの!……神竜の力を使えたら、少なくともヨヨ様の命は保障されると思う。だけど、それは同時に神竜の力が私達に向くということよ」

 センダックの顔面は蒼白になっていた。それほどまでに神竜と人間の間にはとてつもない力の差があるということである。当然反乱軍にも動揺が走る。わかりやすく言えば、ミサイルがいつでも発射できる状態で自分達にロックオンされているぐらいの状況は想像してほしい。それぐらいの重圧を彼等は受けているのだ。だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。時間が経てば経つほど、ミサイルが発射される可能性は上がる。そしてそうなればヨヨ救出も難しくなってくる。それを真っ先に理解したマテライトが、愛用の斧を構える。勿論これから戦うために。

「ビュウ、ヨヨ様に傷を付けたら許さんからな」

「あぁ」

 それだけ言い残すと、神竜というミサイルの重圧をものともせず、マテライトが先陣を切りサウザー達のもとへと疾走する。そして『続くのじゃ!』と一言も言わず、1人突っ込むマテライトに憤りを感じながら、彼の右腕であるタイチョーが続く。マテライトの後ろに続いたのはタイチョーだけではない、他の皆もそうだ。ここまで来て彼一人に任せて逃げ出すなんてできるわけがない。マテライトも皆の気持ちを背で感じ、感謝で涙が溢れそうになる。だが、まだ流さない。涙を流すのは、ヨヨ様を救出した時だと決めていた。こうして、反乱軍のヨヨ救出作戦最後の戦いが始まった。

 そして、その戦いはあまりにも一方的だった。数の違いと、錬度。さすがにサウザーの脇を固める者達が今までのような一兵卒の力であるはずもなく、その上皇帝であるサウザー自体の力も尋常ではなかった。先程少し戦った彼の右腕であるパルパレオスでさえ、まともに戦えるのは反乱軍ではビュウぐらいという事実。それはもう神竜以前の問題だった。戦場に反乱軍の怒号が響き渡る。

「センダック!ドラッグを!若造どもが大変じゃ!」

「マテライト殿っ!しっかりするでアリマス!!」

「クッ、こんなとこで私の人生終わっちゃうなんてね……」

「へっ、ルキアお姉様がそんな弱音を吐くとはね、まだ大人にもしてもらってないのに勝手に死なれちゃ困るぜ」

「……あら、ずいぶん言うようになったじゃない」

「はぁ、冗談を言ってる場合ですかラッシュ」

「でも、私達の魔力も……もうほとんど残ってないわ」

 目的はヨヨの救出である。だが、そのためには、ヨヨの周りに隙ができなければさすがのビュウも奇襲をかけれない。そしてパルパレオスには反乱軍のメンバーもバレている。混戦状態の内にヨヨの周りを固めている帝国軍の兵士をいかに切り崩せるか、それが重要であった。しかしヨヨはただの人質ではない。警護も尋常ではない固さである。正直、反乱軍の手が彼女に届く可能性は絶望的に見えた。が、マテライトの一言で状況が変わる。

「ウヌヌ……ヨヨ様が人質では手が出せん」

「……なんと言った?」

 反応したのはサウザーだ。まるで許せないことを言われたような反応をした彼はそのまま言葉を続ける。

「この私が王女を人質に?ヨヨ王女は我々にとって大切なお方だ、それを人質などと……。ふむ、まぁその無礼な言葉は許そう。私には諸君の相手をしている時間はない。さぁ、ヨヨ王女をこちらへ」

 サウザーの右腕であるパルパレオスが、ヨヨ王女を彼のもとに連れてくる。これから何か始まるのか、戦場が静かな空気に包まれる。満身創痍の反乱軍にもはや興味がないのか帝国軍の者も皆、黙って見守っている。奇襲のために隠れているビュウも知らず、握った手に汗が滲む。タイミングを誤れば、作戦は失敗。しかし、ただじっくり考えていてはタイムオーバーにもなる。一瞬も気が抜けない状態であった。

「皆っ!?」

 ヨヨが反乱軍の惨状を見て、悲痛な反応をする。しかし近寄ろうとする彼女をサウザーが右手で制す。助けたくとも、捕われの身であるヨヨには何もできなかった。

「さぁヨヨ王女。カーナ王家に伝わるという、伝説の力を見せていただきましょうか……神竜を操るという奇跡の力を!」

「私は伝説なんて知りません……それは何度も」

 緑色の翼を持った今は眠っているであろう巨大な神竜を目の前にし、興奮気味にサウザーが言葉を紡ぐ。しかし、彼の言葉に首を横に振るヨヨ。彼女のその反応を予想していたのか、近くにいたパルパレオスが彼女の肩を優しく抱き、再び諭す。

「ヨヨ王女、恐れてはなりません。約束したではありませんか。我々に神竜の心を教えてください」

「パルパレオス将軍……」

「ヨヨ様!いけませんぞ!!カーナ王家の気高い心を忘れてはなりませんぞ!」

「マテライト……。サウザー皇帝……だめです。私は」

 そして改めて拒否の言葉を口にした瞬間、この場の空気が変わる。その空気を変えた本人、サウザーの瞳にはもはやヨヨは映っていなかった。いや、映ってはいたが、まるで飽きたオモチャを見るような瞳だった。その瞳で見つめられたヨヨは、無意識に喉を鳴らしてしまう。

「なるほど、できないとおっしゃる……仕方ないですな。私はあなたを我が国にお迎えしてからというもの、随分我慢を重ねてきた。しかし、それも今日まで。私は王女の力を借りることなく伝説の男になることができる!……もう結構です。どうぞお仲間のところへ」

 もはや一欠けらの興味もなくなったヨヨを解放し、反乱軍のもとへと返す。だが、彼が次にした行動は、自分の武器を彼女に向けて構えることであった。それには反乱軍だけでなく、パルパレオスにも驚愕の表情が生まれる。だが、サウザーはそれを気にした風もなく、再び口を開く。

「新たな時代の扉をともに見ることができないとは……なんとも残念ですな!」

「待ってくれ!サウザー!」

 ガチンッ!!と、サウザーの振り下ろした剣から人を斬ったとは思えない音が広がった。彼もパルパレオスも、驚きの表情で剣の先を見る。そこにはサウザーの剣を受け止める若い戦士の姿があった。

「ヨヨをそう簡単にはやらせない」

「……ビュ……ウ?」

 ヨヨにとってはとても信じられぬ、ビュウとの再会であった。










あとがき

話の流れですが、大分無茶してしまいました。これから本来の流れと少し変わってきます。話の大きな流れは変わらないので、上手いこと本来の話と私の考えた話をすり寄せていかなければならないのですが、中々上手く合わせられない状況です。

できれば原作の雰囲気を崩さず、エンディングにもっていけたらいいのですが……戦闘描写なども見ていただけるとわかると思いますが、どうも私の実力ではムリくさいので、せめてこういう話にしたかったという私の考えが伝わったらと思います。



>まさかの更新。うれしいでござる
>祝!復活!×2
>おぉ、おかえりなさいです
>もう、諦めていたんだが………
ありがとうございます!頑張ります!

>あのアマ・・・と今でも思いだすと思ってしまう。
僕も大人になっても彼女にはイラっとしてます。

>フレデリカ可愛いよフレデリカ。
改めてゲームをしているとビュウと呼び捨てにしている罠。
反乱軍になってからの付き合いだからビュウさんってなっても仕方ないですよね!

>四角い会社は竜騎士に何か怨みを持ってるとしか思えんw
何故ここまで竜騎士がボロボロにされるのか。

>サラマンダーよりはやーい
この作品のサラマンダーはシャア専用だから大丈夫です

>遠距離恋愛は難しいと言うことをしっかり教えてくれた作品でした
次の話で超展開にはなりますが、それと関係ある話?になります。

>×ホワイト ドラッグ ○ホワイ ドラッグ 
ありがとうございます。修正させていただきました。



[11737] 第7章『移ろいゆく心』
Name: OUT◆7cc87e23 ID:0b8a4b33
Date: 2010/10/01 17:56

「サラマンダー、行け!」

「キューーーイッ!!」

「ビュウッ!」

 叫ぶヨヨを無視して、サラマンダーにムリヤリ乗せて逃がす。突如現れた乱入者に驚きながらも帝国軍の兵達はヨヨを乗せて逃げようとするサラマンダーを打ち落とすために矢や魔法を放つ。が、いかに訓練されていたとしても突発的なことには大多数の人間が弱いものだ。サラマンダーは彼女を乗せたまま狙いの定まらない敵の攻撃を、軽く右へ左へとうまくかわして遥か上空へと飛び立つ。そんな中、突然の襲撃にも皇帝サウザーは服に虫がついていたことに気付いた程度の表情で全く慌てた様子を出さなかった。ヨヨを助けようとしたところだったためか彼の右腕のパルパレオスですら、この奇襲には体が固まってしまっていたというのに。

「フンッ」

 サウザーが鍔迫り合い状態であった剣を横に払う。パワーのある彼の剣にかかる力を正面から跳ね返すことが不利であることを悟っていたビュウはそれに逆らわず同じく剣を弾く。その動きに、ホウ……とだけ声を漏らすと、一拍置いた後にピエロのように口角を吊り上げ力の限り剣を振り下ろす。周りの人間が皆響くであろう音に息を呑んだ。しかし、最初剣を受け止めた時に鳴り響いたようなガチンッ、といった音はしなかった。聞こえてきたのはカシンカシンと、剣を擦り合わせた時のような音。ビュウは自身に降り注ぐ剛の斬撃を2本の刀を巧みに操り受け流していた。だが受け流されたサウザーも百戦錬磨の猛者、体勢を崩すことなく何回も斬撃を繰り返す。2人の戦いは先程のパルパレオスとの剣劇を超える激しさであった。

 そのまま均衡状態が続くと思われたが、終演はあっさりと訪れる。連戦で体力のピークに達していたビュウが剣を受け損ね、ついに片方の剣が弾かれる。武器を片手でしか持てない二刀流は受け流しの技術も繊細な上に小さなミスで簡単に弾かれることが弱点であった。

「クッ……」

「ビュウ……ッ!」

 勝ちを確信したためか、それとも楽しかったと言いたいのか、ますます笑みを深くしたサウザーの最後になるであろう一太刀が振り上げられる。マテライトも、センダックも、ルキア達もビュウの最期を予期してか皆、思わず目を閉じてしまう。反乱軍で目を閉じなかった者はラッシュ達3人だけ……いや、もう1人いた。

「やめてっ!」

「ヨヨッ!?」

 先程助けた、空に逃がしたはずのヨヨだった。サラマンダーと共に急降下をしてきた彼女から少なくない量の魔力光が溢れ出す。さっきまでと違う、何かを掴んだかのような表情をしており、その顔からは彼女の決意が感じ取れた。だが、その程度のことで構えた斬撃をためらう男ではない。ビュウに対し振り上げた剣をそのまま思い切り振り落とす。

「だめぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 その瞬間、纏わりついていた魔力光が一層輝き、その中から全ての光の中心である彼女の胸を貫くように何者か巨大な存在が現れた。それは緑の体を持ったとても巨大なドラゴン。そして寝起きに体をほぐす人かのように背を伸ばし、巨大な咆哮をする。それにはさすがに驚いたのか、サウザーが神竜とヨヨの方に振り向く。しかし次の瞬間彼が見た光景は真っ白に染まる視界であった。すぐ襲ってくるであろう衝撃に備え、構えはしたがほとんど意味はなかった。とてつもない衝撃に思い切り吹き飛ばされる。そしてその光はサウザーだけではなく、立ち位置のよかったパルパレオスなどの一部を除きその後ろに控えていた帝国軍のほとんども喰らい尽くした。吹き飛ばされた衝撃に体が縛られたサウザーがそれでも口にした言葉は野望に満ちた一言であった。

「……グフッ……こ、れが神竜の力」

「サウザーッ!!」

「見たか……パルパレオス……まさしく、神竜の力。そして神竜と語る者……伝説の、力……この力が……私の、ものに……この娘に頼らずとも」

 それだけを言うと力尽きたのか、気力で繋ぎ止めていた意識を失ってしまった。慌てて難を逃れたパルパレオスがサウザーのもとに駆ける。

「サウザー!大丈夫かっ?!」

 パルパレオスが指笛を吹くと彼の相棒であろうドラゴンが飛んできた。彼は傷ついたサウザーをドラゴンに乗せると反乱軍に攻撃されないように一時空に逃がす。そして先程剣を交わしたビュウと再び相対する。ビュウは1本しか残っていない手持ちの剣を構える。だがそれに対してパルパレオスは剣を構えることもなく、小さく口を開くだけだった。

「……王女はお返しする」

 それだけビュウに言うと、再びドラゴンを呼び慣れた動きで乗りこむ。そして反乱軍が止める間もなく彼は逃げるように去っていった。ヨヨ救出作戦という名の下行われた帝国軍と反乱軍の戦いは救出される立場であったヨヨの力によって幕を下ろしたのであった。だが、

「ヨヨ……」

 そこには意識があるかないかもわからない状態で未だ魔力を放出し続けるヨヨの姿があった。それを止めようとビュウがヨヨに触れる。しかし、その瞬間パンパンに膨らんだ風船が破裂するかのように光が弾ける。突然の出来事に2人を見守っていた皆の体が硬直する。

「っ!」

「今のは、何?皆の傷が……治った?!」

 そして光が破裂した瞬間、何故か傷だらけであった反乱軍の皆の傷が一瞬で治る。しかしそれと同時に彼女の纏っていた魔力光は消え去り、全ての力を使い切ったのか人形の糸が切れたかのようにその場で崩れ落ちようとして地面に至る前にビュウが抱きとめる。

「ヨヨ様ーっ!!」

「姫……」

 何はともあれ、ヨヨ救出作戦は成功という形で終わったのだった。










「お呼びでしょうか?」

 彼女は夢を見ている。ヨヨの記憶にも新しい、サウザーと共に神竜に語りかけに行く少し前の夢だ。牢屋の入り口から入ってきたのは先程彼女が呼んだ、パルパレオスである。

「ヨヨ王女、眠れないのですか?」

「……神竜のところに行くのね?」

「……今は、その話はやめましょう」

 不安そうに問いかける彼女に固い表情で答える。これ以上聞いてもムダだとわかったのか、ヨヨは子供が親に甘えるように、けれど子供のような無邪気さとは違った雰囲気を纏いながらパルパレオスの胸に顔を埋めるように抱きつく。

「じゃあ……いつものように、ヨヨと呼んで?」

「……ヨヨ」

「……パルパレオス」

 2人の影がより重なるためにお互いの方へと動く。しかし、その影が重なることはなかった。

「パルパレオス?」

『娘よ……夢は終わりだ』

「誰、なの?」

 先程目の前にいたはずのパルパレオスが消えると、彼がいた場所に全く異質の存在が現れる。思わずヨヨは逃げるように後ろに下がってしまう。彼女の目の前に現れた異質な存在はそれを気にした風もなく、言葉を続けるべく再び口を開く。

『私は……神竜ヴァリトラ』

「ヴァリトラ……神竜」

『娘よ、お前が?……お前が伝説の、神竜の心を知る者』

「私、何も知らない。伝説なんて知りません」

 その言葉にヴァリトラは首を傾げる。そして違う質問を紡ぐ。

『伝説を知らぬ娘……ならばお前は何者』

「私はカーナの……いいえ、何者でもありません」

『何者でもない娘……心弱き娘……神竜と語る娘。我ら神竜の心を集めるがよい。相応しき者なら我らは力を与えよう。そしてお前は、ドラグナーとなる』

「ドラグナー?私がドラグナーになる?」

『それはお前次第。ドラグナーとなり世界を手にいれる』

「世界なんていらない……私、は……お願い、夢の、続きを……」

 拒絶するヨヨを無視し、ただヴァリトラは彼女の心を犯す。ヨヨと重なったヴァリトラの心は怒りで満ち溢れていた。その暴風雨の中、彼女はただ夢を願って祈ることしかできない。だがその願いもむなしく、この荒れ狂った世界で心犯された彼女の中には時間が経つ事に小さな、諦めという感情が根をはりだす。世界を支配できる力が手に入ると言われてもヨヨの心にはなにも響かなかった。彼女はそんなものは欲しくなかった。欲しいのは……世界でも王女としての地位でも平和でもない、ただ女としての幸せのみだった。諦めの感情を表すかのように彼女の頬を1本の涙が伝った。だがその瞬間、先程の夢で映っていた男とは違う男の存在が頭をかすめる。

「……ビュウ」

 そして、なすがままヴァリトラの心と1つになったヨヨの心は、自分の夢を終わらせた夢じゃない夢が現実であることを知る。










「……ん」

「姫様っ!」

 ベッドの上であの戦争の後ずっと眠りについていたヨヨが目を覚ました。彼女を看病していた反乱軍一の肝っ玉母さん、ゾラが思わず大きな声で呼びかける。

「……ビュ……ウ」

 その声を聞くと、ゾラはいてもたってもいられず皆を呼びに艦内を走り回る。当然そのヨヨが起きたという知らせに、ラッシュ達などの一部の人を除いて皆が急いで彼女の部屋を目指す。部屋に集まった皆はヨヨのベッドを囲み、彼女が完全に覚醒するのを待っているが、元々カーナと関わりの薄いラッシュ達は他の者たちの邪魔になってもしょうがないということもあり、ゾラ達の声が聞こえてはいたが操舵室でゆっくりしていた。

「しかしまぁ、お姫様だけあってキレイだったな」

「そうですね、あれこそ王女。と、言ったところでしょうか?」

「そういえばビュウのアニキ、ヨヨ様に名前呼ばれてたよね?」

 3人の視線がビュウに刺さる。カーナ王国と関係があったことはマテライトやセンダックの態度もありわかっていたが、さすがに王女と仲が良かったという情報までは伝わってなかったようである。かといってビュウもまさか8年以上も前、しかも小さい頃だったのに覚えていたことにビックリしており、戸惑っていた。

「……一応幼馴染、みたいなものか」

「……そうか」

 ビュウの微妙な返事に何か感じ取ったのかラッシュが話を切り上げる。空気も微妙になってしまい、何となく話すこともなくなってしまったので気晴らしに訓練でもしようかということになり、4人で甲板の方に向かおうとする。が、丁度出る手前でセンダックに捉まってしった。彼の話によると、どうやらヨヨがビュウの名前を何度か口にしてるから来て欲しい、とのことであった。だが今更自分がいたところで、と考えるビュウは行くかどうか悩んでいた。だがそんな彼の背中を押したのはラッシュ達だった。

「……」

「ビュウ、悩むぐらいだったら行ってこいよ」

「……あぁ、そうだな」

「本当?ビュウ、ありがとう」

 ヨヨのためにビュウを呼びに来たセンダックも彼の表情から2人の間に何かあったんじゃないかと勘ぐっている1人である。正直頼みに行くのは気が引けたが、そもそも2人が一緒にいたのは小さい頃だし、助けに行った時のビュウに対する反応や、彼が失踪した時の反応を見る限りヨヨが拒絶している可能性がないことは確実であった。だとしたら一体何があったのか、そして何かあったとしても行く宛てのない10歳ぐらいの少年が失踪するほどのことなのか、と思う。そうやって考え込んでしまってるうちにヨヨの部屋の前に着いてしまっていた。センダックは慌ててビュウが入れるようにドアを開ける。するとそこからビュウに見えたのは上半身を起こし、今開いたドアの方を向き信じられないものを見るように目を見開いたヨヨの姿だった。

「……ビュ……ウ?」

 部屋に入る踏ん切りがつかなかったビュウだったが、名前を呼ばれてここで突っ立っているのもおかしいと思い、部屋に入りヨヨのベットの傍までいく。未だ頭が回らず信じられないものを見てはいるが、どう反応すればいいか分からないヨヨの視線が彼の動きを追う。そうやって見ていると、彼女の頭の中で助けてくれた時のビュウの姿が徐々に蘇ってくる。

「ビュウ……なの?」

「……あぁ、久しぶりだなヨヨ」

 本物かどうか確かめるように手を伸ばすヨヨに捉まると、そのままベッドの方まで引っ張られる。そして匂いを確認するかのようにビュウの胸に顔をうずめる。そんなヨヨを突き放すわけにもいかず、ビュウはなすがままであった。久しぶりに感じる昔愛した人の温もりに落ち着いてしまったのも理由であろう。だが、彼女自身不安ということもあるだろうが、それにしても今の状況はビュウには謎であった。自分はアレキサンダーに勝つまでの記憶があるから、彼女がヨヨであることもわかるし長い時間彼女と過ごした記憶もある。だからヨヨのことはよく知っているが、彼女は10歳頃までしかビュウと過ごしていないヨヨである。まだパルパレオスと結ばれていなかったとしても、こんなに自分に靡く理由がない。

「何で、いなくなったの?何で……助けに来てくれたの?」

「……」

 ビュウは気付いていなかったが、今の質問が全てであった。同年代の友達、しかもあれだけ近くにいた人は彼女にはビュウ以外にいなかった。それに新しい友達を作るにも王女という肩書きは邪魔すぎた。つまり彼が突然失踪しても、新しい友達のできない彼女がビュウのことを忘れるわけもなく、当然のように度々彼のことを思い出していたのである。時が経つにつれ思い出すことは減っていったが、それと反比例して思い出は美化されていった。それが本人も自覚できないほどの初恋だった。それは当然叶うような話でもなく、自覚もあるわけではない。だから彼女はカーナが敗北した後、帝国軍に連れていかれた先で優しくしてくれたパルパレオスに現実的な恋をしたのである。女としての幸せを考えた場合それも当然の流れと言えよう。だが、だからといってカーナやマテライト達のことを忘れたわけではない。それだけが彼女のパルパレオスに溺れないための最期のストッパーだったのだ。だがそこに劇的変化が訪れる。それがビュウだ。気付かぬ内に恋をし、気付かぬ内に諦めた相手が突然、自分が殺されそうな瞬間に駆け付け助けくれたのだ。完全に白馬の王子状態である。もう会えないと思っていた相手との再会、しかもそれはヒーローのような衝撃的登場。その上、ついに帝国軍から助けられファーレンハイトに帰ってきたという安堵感もあったのだろう。その結果が失踪したことを問い詰めるより先に抱きつくという答えになったのだろう。

 答えないビュウと答えるまで離さないと言わんばかりのヨヨに周りも声を出すことができず、部屋中を無音が襲う。だがついにしびれを切らしたのかこの中で一番我慢ができず、一番ヨヨを心配していたマテライトがビュウに追い討ちをかける。元々ビュウにはヨヨを助けた後、彼女とセンダックと自分で問い詰める予定だった。が、ビュウにベッタリのヨヨを見て彼に嫉妬したマテライトは公開処刑としたわけである。

「よーし、ヨヨ様も戻ってきたし、ここはカーナである!つまり、サラマンダー泥棒の件で指名手配されておったビュウに事情を聞かねばいかんな!」

「ちょっと、マテライト……そんなこと言ったらビュウがかわいそうよ」

「うるさい!年寄りは黙っとれ!」

 センダックの制止も無視して暴走しだすマテライト。だがそこにセンダック以外の待ったが入る。

「マテライト……」

「ヨヨ様!心配せずともこのマテライトがバッチシ事情聴取という名の拷問を!」

「ビュウと、2人にして……?」

「そうじゃ!ビュウ!貴様なんぞヨヨ様と2人きりっ……じゃ?」

 マテライトの表情は信じられぬものを見たような顔をしていた。だがヨヨの瞳はビュウ以外映すことはなく有無を言わせない状態であった。私は聞く権利がある。そう思ってしまったことがヨヨの行動をより大胆にしてしまった理由の1つである。得てして女性というのは自分の納得できる理由を創り出せる生物である。いくら短時間で男に惚れてしまったとしても理由を創らなければただの痴女である。好きだから聞くのではない、友達だから、心配だったから、何もわからなかったら力になれないからと理由を並べるわけである。結局根底には1つの事実があるわけだが、自分をより良く見られたい安く見られたくないという感情から自分の行動に言い訳するわけである。つまり友達だったのに何も言わずに置いていかれた、心配してたのに今まで1つも連絡を寄こさなかった、なのに突然現れたと思ったら私を助けた。だから私には聞く権利がある、となったのである。

 そして吊り橋効果によって生まれた感情に自分が間違ってない理由をつけ、時間を経て感情を固定していくのである。それはいかに過去好きな人が居ようとほとんど関係がない。正しかろうが間違っていようが現在進行形の自分の心に理由をつけて正しいと思い込むのだから。つまり今のままでは完全にヨヨの心がパルパレオスからビュウに移るのは時間の問題ということであった。

「お願い……」

「ウヌヌ……」

「ヨヨ……マテライトとセンダックだってお前を心配して」

「お願い……」

 ヨヨの弱弱しくなっていく言葉に皆、何も言えなくなる。ビュウだって割り切れていなかっただけで、今より未来のヨヨを彼女と同一視してしまうのはお門違いだとわかっている。とびっきりの美女にこんなお願いのされかたをして無碍にできるわけがない。ただ別だとわかってるだけに助けたぐらいでここまでベッタリするヨヨに再び嫌悪感が生み出そうになっていることも事実であった。そうやってビュウが色々と葛藤したり自己嫌悪したりしてる内に空気を呼んだ反乱軍の皆が1人、また1人と去っていき後はマテライトとセンダックが残るのみとなった。

「ビュウ……ヨヨ様に変なことしたら許さんからな!」

「はいはいマテライト、後は若いものに任せて」

「うるさい!ワシはまだまだ現役じゃ!」

「はぁ、ヨヨ様に嫌われるてもいいのね」

「ウヌヌ……」

 最後まで残ろうとしていたマテライトもセンダックに連れられて出て行った。そして皆がいなくなってもヨヨはしばらくビュウの胸に顔を埋めっぱなしでいた。勿論ビュウはどうすることもできずヨヨの頭を受け入れるだけだった。ビュウもうまく頭が回らない状態に陥っており、とりあえずどうしようかと思っていたがヨヨがついに口を開く。

「ビュウ、久しぶり……」

「あぁ、久しぶり……ヨヨ」




 また2人を無音の空間が襲う。だがそれは決して気まずい空気ではなかった。しかしいつまでもこうしているわけにもいかない。ビュウの久しぶりの言葉をかみ締めたヨヨはもう一度、さっきの質問を繰り返す。

「ねぇ……ビュウ、何があったの?」

「……」

「心配、したんだよ?」

「……ごめん」

「……」

「……」

「答えて……くれないんだね」

「……」

 再び部屋から音がなくなる。ビュウは自分でどうすることもできず、しばらくそのままの状態であった。が、少しすると抱きついているヨヨの腕に少し力が入り、彼の胸に収まっている彼女がもっと深く感じたいといわんばかりに自分を押し付けてきた。ビュウはただ黙ってそれを受け入れる。

「ビュウ聞いて……夢を見たの」

「……」

「神竜……ヴァリトラの夢」

「……神竜」

「夢の中でヴァリトラは言ったわ……神竜の力を集めれば私は、私はドラグナーになれると」

「ドラグナー……カーナ王と同じ力……か」

「ごめんね、こんなこと言って。忘れて……夢の中の話だもの」

 それだけ言うとまた不安になったのか抱きつく腕に力が入る。その腕は、いや、体が震えていた。だが、ビュウにはその夢という言葉を肯定することはできなかった。ヨヨがドラグナーにならなければ……オレルスの空が危ないことだけは間違いないのだから。

「いや、それは夢じゃない……」

「ビュウっ……!」

 ヨヨも薄々気付いていたのだろう。ただ認めたくなかったから否定してほしかった。だから自分で夢を強調し、ビュウにも夢と言われ、現実から逃げようとしたのだ。救いは逃げることへの後ろめたさからか、夢だと自己完結しないことか。ここで言ったからこそビュウが肯定できた。いつの時代も上に立つ者にまず必要になるのは自覚だ。彼女にはその事実は少しばかり重いかもしれない、だが未来を知っているビュウは彼女が大丈夫だと知っている。実際は彼女1人の力ではない。支える者、パルパレオスがいたからこそあそこまで頑張れたわけだが、ビュウがそれを知る由もない。

 今、もし1人でいたならヨヨは間違いなく逃げていたであろう。だからこそ今ここで打ち明けた相手、ビュウに肯定されてしまったら彼への依存がますます強くなる。逃げれば、世界は救われず。逃げなければ、ビュウへと依存してしまう。彼の立場からすれば最悪の状況だろう。そうして、打ち明けたことで少し気持ちが軽くなったヨヨが顔に笑みを浮かべて、言葉を紡ぐ。

「ビュウ、助けてくれて……ありがとう」

「あぁ……」










「……って内容だったんだが、センダックはどう思う?」

「なるほど」

「ヌヌヌ、ヨヨ様がドラグナー」

 あの後、やはりヨヨは疲労がまだ残っていたらしく、しばらくすると自然と眠りについていた。そして艦長室であるセンダックの部屋に行き、マテライトとセンダックに神竜に関する内容を伝える。彼等の理解を得られないことには次の行動、つまり神竜を探すという指針も決まらないからだ。それを聞いたセンダックは思考の海に入り込んでいるのか、反応がなくなる。一方、マテライトはドラグナーという言葉を一頻り噛み締めた後、歓喜に体を震わせる。亡きカーナ王と同じ神竜と心を1つにし強大な力を操る力がヨヨに宿っていることがわかり、神竜にも選ばれたような状況であるということを考えたら当然であろうが。

「神竜ヴァリトラの心が姫に語りかけた……神竜と語るときは夢と現実の区別がつかない……亡きカーナ王がおっしゃっていたこととも符合するわ」

「……と、なれば神竜はワシらの味方。これで神竜ヴァリトラがサウザーを倒してくれた理由がわかったわい。もはやグランベロス帝国なんぞ敵ではないわ!カーナの再興の日も近い!」

 マテライトはそれだけ言うと、皆に伝えにいったのか興奮で火照った体を冷ましにいったのか急ぎ足で部屋を出て行った。だがセンダックはまだ気になることがあるのか、何か考えている。すると、意を決したかのように口を開く。

「ビュウ、あなたはどう思う?」

「……何がだ?」

「空は帝国に支配されました。ですがカーナは神竜の力を使い悪のサウザーを倒しました。そして姫と家臣の者たちは幸せに暮らしました……と、なるかしら」

「……ならないだろうな。この戦いは人間の問題だ。ヨヨが神竜と話ができるから、というだけであいつらがわざわざ出張る理由がない」

「そうね……その通りだと思うわ。でもそれは今考えてもしょうがないこと。まずは情報を集めないとどうにもならないわ……それよりも」

「……?」

「ビュウ……何を隠してるの?」

「……何も」

「嘘ね」

 ビュウの言葉を遮るするようにセンダックが言い放つ。まるでその答えは予想していたと言わんばかりに、そしてその目には確信の光が宿っていた。

「どう考えても、おかしいよ。あの頃のビュウは決して1人で生活なんてできる状況じゃなかった。あの後、ドラゴンを連れた泥棒の話も流れてた……でも、そんなことまでして1人になる理由なんてあったの?今ぐらいの年だったらそんな感情もあるかもしれない。だけどあんな小さな時に、突然失踪する理由なんて一体何があるの?」

「……」

「……」

「……俺はもう、何が正しくて何が間違ってるかも……わからないんだ」

「国の下に居たくなかったってこと?だったら何故?何故今更私達に力を貸してくれたの?グランベロス帝国だって支配という手段はとったけど、そのおかげで平和が訪れたとも言えるわ。わざわざ私たちに力を貸す理由は?私が神竜の話をしたから?久しぶりに会った私の本当か嘘かもわからない伝説の話を信じたの?」

「……やめてくれ……」

「ビュウ……一体何から、一体誰から逃げてるの?」

「やめてくれっ!!」

 センダックの詰問に悲鳴のような声を上げるビュウ。しかし、それでも決して視線がセンダックに向くことはない。そのまま体勢を崩すように部屋の隅に逃げてうずくまる。それはまるで胎児のようで、このファーレンハイト1の剣の腕を持った男には見えなかった。だが、センダックはその様子を見て動揺することなく、ゆっくり近づいて優しく彼を抱きしめる。部屋にはセンダックに身を預けて涙を流すビュウの嗚咽だけが響き渡っていた。当然だろう、1人だけ経験している前回の旅から、彼は今まで何かを打ち明けることなんてほとんどしてこなかった。全てを溜め込んだまま生きてきてしまった。あの旅の最後も、アレキサンダーに叫んだのは自分がもう死んでしまいたいと思ったからだ。それがセンダックが問い詰めてくれたおかげで、心の壁で塞き止めた感情が溢れ出した。

 あの時から幾度となく頭をよぎった疑問が再び彼を襲う。ヨヨは悪くない……当たり前だ。すぐ助けれなかった、守れなかった自分が悪い。今日の彼女を見ただろう?彼女は、王女の前に1人の女の子なんだ。パルパレオスも悪くない……彼のおかげで連れ去られようともヨヨは楽しく生活ができた。前回彼女が死ぬこともなかったのもパルパレオスのおかげだ。それじゃ悪いのはサウザーか?……そんなはずがない。彼も、争いのない世界を作りたかっただけだ。それじゃ誰がいけなかった?何が間違っていた?そうだ、誰も、何も、間違ってない……




















 ソレジャタダノオレノシットジャナイカ





「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 何かを理解してしまった彼の悲鳴が部屋中を響き渡る。センダックは彼を抱きしめる腕に力を込める。大丈夫、大丈夫だから……と言わんばかりに。ヨヨとパルパレオスが思い出の教会で抱き合う姿が、2人で戦う姿が、そして自分に興味のなくなったヨヨの表情が。全て自分が悪いのなら、俺はどうすればよかった?1つの答えを得ると同時に、また新しい疑問が頭を支配する。過去を過去と清算しようとした彼は、けしてそれができるほど器用ではなかった。新たな疑問に答えは出ることはなく、部屋には先程の悲鳴とは逆の静寂が訪れるのだった。





「ビュウ、もう大丈夫?」

「あぁ……すまない」

「あらかわいい」

 しばらくして心が落ち着き、センダックから離れた後あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にしてさっきとは逆の意味で視線を外すビュウは完全に年相応の青年だった。心の奥底に溜まっていたものが、泣いたことでかなりスッキリしたようだ。あの張り詰めたような、諦めたような表情は少し消えていた。

「んー、クールなビュウもいいけど素直なビュウもス・テ・キ」

 身の毛がよだつようなことを言うと、最初の剣幕が嘘のように普段の様子に戻ったセンダックは1人で部屋を出て行く。今日はここのベットを使っていいからね、とだけ残して。正直、色々あった上に泣き疲れた彼には助かる配慮だった。さすがに少しどうしようか迷っていたものの、疲れには勝てなかったのか部屋に置いてあったベッドの上で横になる。精神的疲労が限界に達していたビュウが眠りに落ちるのにはさして時間はかからなかった。





 




 一方、その頃船内では、

「アナスタシア、あの物言いは納得できません!」

「なによバルクレイ!文句あるの?事実でしょ!」

「た、確かに我々は皆さんより動きはドッシリしているとは思いますが。それも装備や戦闘スタイルの問題であって、のろまと言われることではないでしょう!」

「のろまだからビュウ達と会った時もラッシュにアッサリ負けるのよ!」

「引き分けです!」

「勝たなきゃ意味ないわよ!」

「ア……アナスタシア、ちょっと落ち着いて。バルクレイも」

「エカテリーナは黙ってて!」

「これはアナスタシアと私の問題です!」

「……傍から見ると息ピッタリなのにねぇ」

「ちょ、ちょっとルキア……」

「誰がこんなのろまのバルクレイと!」

「誰がこんな女性らしさのかけらもないアナスタシアと!」

「ムッ」

「ヌッ」

 両者の間で視線がぶつかる火花が飛び散る。今日も反乱軍は平和だった。









 あとがき

なんてこった、ここだけで一話が終わってしまった。

文章どうこう以前に話の展開も賛否両論な気もしますが。
ヨヨは原作よりビッチ化というより、リアル魔性の女を表現してみました。
この作品では『大人になるって悲しいことなの』を軽く越えて大人の女になってます。
後、ビュウ君の成長というのも1つテーマなのでこういうガキ臭いとこも勘弁していただければと。

ちなみにどうでもいい情報ですが、ビュウの気持ちを考えるために絶世の美女と付き合ってて浮気された後、「やっぱりあなたが好き」と自分のとこに戻ってきた時を妄想したら私は全く拒否できませんでした。
むしろ泣きながら喜びます多分。



>でもぶっちゃけ本命フレデリカで対抗がメロディアなのは変わらないですね!(ぇ

 そこにヨヨ混ぜちゃうのが僕クオリティ。

>今作では「たのむ!パルパレオス!」と思っている自分がいます。

 パル公がヨヨを甘やかしたがゆえにこんなことに……。

>ビュウが本人の意思と関係なくちゃくちゃくと反乱軍の中核になっていますね。

 あれです、主人公補正ってやつです。

>まさにお前の席ねーから!状態
 
 彼女レベルになるとどっかから自分で席を持ってきてしまいます。いや困った困った。

>しかしどうかビュウの「子供」の想いは別に否定されなきゃいけないものではないし、

 それを抑えきった結果なんですよね、今の状況が。少しでも大人になろうとした歪みといいますか。彼は原作で大人過ぎて泣けます。

>あのサラマンダーはシャア専用だったのか。

 サバイバルしてましたからね。パル公の乗り物よりよっぽど頼れる相棒です。

>急にいなくなったのをずっと気にかけていた+劇的な再会=再燃の可能性?

 はい、その通りです。しかしそれが本当に好きなのかどうかは……

>過去に戻らず心が壊れたビュウを見たマテライト達(特にクソ姫)の反応も見てみたかった気がするw

 ちなみに僕がそれを書くと、ビュウをバハムートに渡してヨヨはパル公とイチャイチャします。パル公が最後殺されるなんて救済措置がない現実的な結果になってしまいます。

>この感じはすでにパルさんにフラグ立てられてるからどうしようもない。ガンガン好感度稼いでパルさんを上回るしかない。

 もうフラグどころか夫婦状態ですた。そして悪女ヨヨは好感度関係なしにビュウを誘惑します。

>作者の作品が傷を塞ぎ、同胞のヨヨへの怨念とフレデリカへの賛美が私のトラウマを癒やす…。

 ちょっとここらへんからイラっとする内容増えるかと思われます。僕も書きながらつらかったりします。


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