目が覚めると最初に目に映ったのは綺麗な青空だった。俺は体を起こし辺りを見渡すが目に映るのは聳え立つ山々や青々とした森、そして荒野だった。
そして俺は此処が日本では無いと思い当たる。
澄み渡る青空を見上げ俺、北郷一刀は思い出す。
俺がこんな場所にいる訳を……
―事件の前日―
俺はその日、何時もと変わらない朝をむかえて、爺さんの朝稽古を受けて、何時ものようにボロボロになって終わる。(いつも思うがかなりの歳の癖にやたらと機敏で攻撃が鋭く重い。理由を聞いたら鍛錬のなせる業だと言った…マジ化けモンだ)
朝稽古が終わったら母さんが作った朝飯を食べて、制服に着替えて登校する。それが俺の何時もの日常だったが、その日の朝稽古が終わった時からナニカが少しずれたんだと俺は思う…
…何時ものように俺は爺さんに叩きのめされ、道場の床に這いつくばっていた。
「ハァ…ハァ、ハァ…っ」
ぐったりと倒れる俺を爺さんはいつもなら情けない者を見る表情で俺を見、活を入れるのだがその日は真剣な表情で俺を見下ろしていた。
「一刀…少し話がある。息を整えたら座りなさい。」
俺は、爺さんのその真剣な表情を見ると大きく息を吸い込み、そして吐き出す。それを数回繰り返した、それだけでさっきまで体に溜まっていた疲労が消えた。起き上がり姿勢を正した俺に、爺さんは意を決したように話始めた。
「一刀、お前が前にワシが何故この歳になってもこのように機敏に動き、重い一撃を出せるか問うたな。…あの時ワシはお前に鍛錬の成せる業と言うたがまだ続きがあっての…」
そこまで言った爺さんの顔は、真剣な表情の中にあきらかに苦々しい感情が見え隠れしていた。
「…ワシがこのように機敏に動き鋭く重い一撃を出せるのは、半分は鍛錬の成果………もう半分はワシの『錬氣を操る程度の能力』のお陰じゃ。」
…俺は一瞬、爺さんが耄碌して可笑しなことを言い始めたと思った。だが心の何処で納得している部分もあった、もう歳の癖してまだまだ現役をはるこの爺さんは『特別な』何かを持っているのでは?と常々考えては有り得ない、非現実的だと打ち消していたのだから。
「ワシがこの能力を手にしたのは約50年前かの?若い時にあちこちの山々を修行の地にしながら転々と武者修行の旅をしていた時に、可笑しなとこに出たのじゃ。」
昔話を始めた爺さんの顔は、何処か懐かしさや他にも色んな感情が浮かんでいた。
「…初めに出た所は神社じゃった…たしか『博麗神社』じゃったかのぅ?たしかその様な名前の神社に出たのじゃ。そこでその神社の巫女さんが出て行き成りこんな事を言ってきたんじゃ。」
―あら?貴方、『外来人』?歓迎するわよ。ようこそ、忘れられた幻想が住まう土地へ―
「…ワシは何の事かさっぱり分からんかったからその事を聞いたら、丁寧に教えてくれたんじゃ。そこが『幻想郷』と呼ばれる土地で『外』と『内』とを隔てる大結界とやらで隔離された秘境じゃと…しかも現代では正しく絵空物語の妖怪が住んでいるのじゃと。」
―妖怪は人を襲うわ。この神社や町に居れば襲われないけど一歩外に出ればたちまち妖怪たちの領土よ、特に夜の人気の無い場所は要注意よ、行けば襲ってくださいと言ってるみたいなものよ気を付けてね―
「…まだまだ落ち着きが無く、勇気と無謀の違いを分かっていなかったワシは、巫女さんの忠告を無視して夜の森へ出歩いたんじゃ。」
―妖(あやかし)か、相手にとって不足無し!―
「そして出おうたんじゃ、全長三メートルの大ムカデの妖怪にの。妖怪の事を全く知らなかったワシは、無謀にも木刀一本で切りかかったんじゃ。そして硬い物を叩いた様な感触に驚いての、あっさり一撃もろうたんじゃ。」
―ガッ!?……な・んだ…と―
「それほど致命的な一撃では、無かったのは幸いじゃったが、こちらの攻撃がまるで効果が無いのは、分かってしまったんじゃ。」
―くっ!?な、何とかせねば!―
「焦りつつも大ムカデの攻撃をかわしながら、打開策を考えていたワシは、大ムカデの目を見て閃いたんじゃ。」
―眼球なら柔らかいはず!―
「大ムカデの攻撃をかわし、目にめがけて突きを放ったんじゃが、大ムカデの眼球に突きが届く前に尻尾?の針で薙ぎ払われたんじ。」
―ぐっ!?な、何!?―
「木に叩きつけられ、痛む身体を無視して大ムカデを見ると、キチキチと音を鳴らして笑っておったんじゃ。そして気付いたんじゃ、遊ばれていた事にの。ワシは、愕然としたの。こちらが命をかけて挑んでも相手は遊ぶ余裕があったんじゃから。」
―つ、強い…!―
「そこで改めて妖怪のデタラメさを認識したんじゃ。しかし身体は軋み、意識も朦朧としていて立つ事も出来んかった。」
―ここまでなのか?俺は…―
「諦めかけたんじゃが、脳裏に今までの出来事が流れての、ここで終われない!と奮い立ったんじゃ。」
―まだだ!まだ終われない!まだ死ねないんだ!―
「そしたらの、急に力が湧き上がったんじゃ。この時にワシは、『錬氣を操る程度の能力』を手にしたんじゃ。」
―力が漲る!うおおおおお!!―
「猛る力を其のままに大ムカデに叩き付けるとの、面白い様に吹っ飛んだんじゃ、そしてワシの身体はまるで風にでも成ったかの様に動いたんじゃ。」
―はは!遅い!遅い!俺はここだ!―
「そして大ムカデとは立場が逆転したんじゃ、向こうの攻撃は当たらず、此方の攻撃にボロボロにされる、という形での。じゃが…」
―ようし!とどめ…!?!?―
「目覚めたばかりの能力故にワシは、限界を見誤ったんじゃ。急激な虚脱感と共にその場に崩れ落ちたんじゃ。」
―い、一体何が…?―
「ワシは、何が起こったか分からずに困惑しておったが、直後に襲った強烈な疲労感に意識を持っていかれそうに成ったんじゃ。」
―あ゙…づっ!?―
「気合で気絶だけは、免れたんじゃが、身体は動かず、意識も白濁してきたんじゃ。しかも、視界の端に大ムカデが近付いて来ているのも見えたんじゃ。」
―くそ、指一つ動かせねぇ…今度こそ終わりかよ…―
「覚悟を決めかけたワシを天は、見放さなかったんじゃ。意識が途切れる寸前、ワシに忠告をくれた巫女さんが大ムカデに札を叩きつけるのが見えたんじゃ。」
―貴方死にたいの!?私の忠告を無視して夜の森を出歩くなんて!―
「結論から言うとワシは、巫女さんに助けられたんじゃ、目を覚ました途端にキツイお説教を貰ってしまったがの。」
―とりあえず暫くは、安静にしてなさい。まぁ、妖怪相手に戦って、この程度で済んで良かったわね。下手しなくとも食べられる確率の方が高かったわよ。―
「怪我が治るまでは、神社で世話になっての。満足に動けない日々は、それは不自由だったのぉ。」
―んぐぐ!!…くっ、身体を起こすだけでこれか…―
―はいはい無茶しない。怪我人は大人しくしてなさい。―
「ようやく動けるようにまで回復した時にの、受けた恩を返そうと何か手伝える事が無いか聞いたんじゃが、特に無い、と返されたんじゃ。」
―受けた恩も返せないんじゃ、男が廃るんだよ。何か無いのか?―
―無いわよ。―
「それから少しして一人の女性が神社を尋ねてきたんじゃが…たしか『八雲』……名前が思い出せんわい……とにかくその八雲と言う女性が、巫女さんに話があると言って二人で何処かに行ってしまったんじゃ……そして二人が戻ってくると、八雲とか言った女性がこう言ったんじゃ。」
―ねぇ、帰りたくない?外の世界に―
「ワシは此処が修行にうってつけの場所だと分かっていたから、『今は此処で修行がしたい』と答えたら、こう言ってきたんじゃ。」
―もうすぐ結界の修復が終わる。即ち貴方は外に帰れなくなるのよ?それでも此処に居たい?―
「…流石にそう言われると考えざる負わなかった、がすぐに答えは出たんじゃ…外に帰ることにの。…巫女さんに受けた恩を返せなんだことを謝ったら…」
―そんなに返したいの?だったら神社に御参りして、たった一度の信仰でも、巫女には嬉しいものだから―
「…その言葉にワシは博麗神社に御参りをした後、この神社に信仰を捧げ続けることを巫女さんに誓ったんじゃ、そしたら巫女さんは苦笑しながらお礼を言ってくれたんじゃ。……そしてワシはその幻想郷を後にしたんじゃ…短くも長く、そして不思議な経験じゃった。…じゃがあの出来事が夢でないことは、身に付いた能力が教えてくれたわい。」
…爺さんの長い昔話を俺は、なぜか笑うことが出来なかった。普通は耄碌した爺さんの世迷言だと言われたり、黄色い救急車を呼ばれたりが当たり前なのに、何故か真剣に話を聞いてしまっていた。
「…爺さん、俺にそんな昔話をして何になるっていうんだ?」
つい俺はそんな事を聞き返していた。
だが爺さんが返した答えは俺の想像を遥かに超えていた。
「…一刀、お前が能力に目覚めつつあるからじゃ…」
「なっ!?」
「…でなければワシとてこのような昔話などせんよ…世迷言と笑われるゆえな…じゃが一刀、お前はこの昔話を笑わなんだ。おそらく納得しているのであろう?この歳になって今だ衰えぬワシの強さの秘密に。」
「…」
爺さんの指摘に、俺は自分が長年の疑問の答えに、あの破天荒な話を信じていることに気が付いた。
「正直、信じれないはずの話をした事や、信じれないはずの話を信じた自分に驚いている。」
俺がそう言うと爺さんは何が面白いのかカッカと笑った。
「…さて長話もすんだし、そろそろ朝飯を食って着替えんと学校に間に合わんぞ?」
爺さんが言って時計を指差すと秒針がかなりヤバイ時間をさしていた。
「っ…ヤバ!もうこんな時間かよ!」
俺は慌てて道場を後にした。
「……まぁ、この平和な世の中で、一刀の異能力が目覚めるような事件などそうそう起こらんじゃろう…命の危険や限界状態を超えるような、な……」
ヤバイヤバイヤバイ!!俺は朝飯を食った後、手早く着替え、学校への道を爆走している。俺の通っているのは聖フランチェスカ学園と言う。元はお嬢様学校だったが今では共学化が進み男子生徒もちらほら見かけている(それでも女子生徒の方が圧倒的に多いが)
それに流石、元お嬢様学校だけあってやたら規則が厳しく、遅刻なぞしようものなら、よくて厳重注意、悪ければ長いお説教だ。
俺は自身の限界に挑戦するが如く、全力で聖フランチェスカ学園の道のりを走り抜けた…
「はぁはぁ・・・っ間に合った。」
何とか時間内に学園に到着した俺は、乱れる息を整えつつ校内へ進む。
すると俺の姿を見つけた男子生徒が、俺に向かって教室の窓から手を振って話しかけてきた。
「おはようさん!今日は遅い到着やな、かずピー!」
あいつは及川。俺の気の合う友人で、よく二人で居ることが多い。
「ああ!爺さんの長話に付き合って時間がヤバイ事になって大変だった!」
「そかそか!そら災難やったな!」
及川そう言いながら顔は笑っていた。…絶対に面白がっているな及川のやつ。
俺は軽くため息を吐きながら校舎へ入っていった。
「かずピー、かずピー。明日は暇か?」
部活が終わり、帰る準備をしていた俺に及川が話しかけてきた。
「?確かに部活は明日は、お休みだから暇だが。それがどうかしたのか?」
俺の答えに及川は、がくっとこけたマネをして俺の肩を掴んだ。
「あんな、かずピー忘れたんか?理事長から出された宿題。」
「宿題…?……あーあれか。」
及川に言われ思い出したのは、理事長が学園敷地内に歴史資料館を作ったので、休みの間に見学して感想文を書いて来なさいって言っていたことだった。
「丁度明日はお休みやから行こうや。」
「ん、分かったいいぜ。」
「ほな、明日の一時に資料館前集合な!」
及川はそう言うとスキップしながら去っていった。…行った方向に人影が見えたからこれからデートか……羨ましいヤツ…はぁ。
―事件当日―
「おう、かずピー時間ぴったしやな。」
歴史資料館の前には、もう及川のやつが来ていて、手を上げて挨拶してきた。俺も手を上げて返す。
「うっしゃ、じゃ中に入ろか。」
歴史資料館の中は、はっきり言って博物館のそれだ。…流石フランチェスカ。お金のかけかたが違う。
「しっかし、ほんまに立派なモン建ておったな、流石はフランチェスカって感じや…」
隣で及川が呆れを感じさせる声色で呟いた。
「…だな。」
俺も博物館そのものとしか言えない内装に、言葉が出なかった。
「…まぁ、さっさと見学を終わらせて感想文書こうや。」
「そうだな、さっさと見て回るか。」
俺たちはその後、色々と中を見て回った。…中国の三国時代の品々ばかりが集められているらしく、俺は爺さんの部屋にある本(三国志系の本ばかり)を小さいころから愛読していたので、思ったより楽しめて展示物の説明札に書いていない補足をしながら見て回った。……そしてそいつを見つけた。
「かずピーこれはなんや?」
「ああ、これは…!?」
ふと、殺気を感じてその方向を向いたら、展示物の銅鏡を睨む男子生徒を見つけた。…強いな、纏う気配が強者のそれだ。
「ん?かずピー、なに見てるんや?」
「…っいや、何でもない。気のせいだ。」
俺は咄嗟にそう答えた。及川は怪しがったが、他の事に気を向ければ、そのうち忘れるだろうとはぐらかした。
その夜、俺はどうしてもその男子生徒の殺気を忘れられず、そして妙に自身の感が騒ぎたてるので、見に行くことにした。
家を出ようと玄関で靴を履いている時に、爺さんが…
「受け取れ一刀。何故かワシの感がこれをお前に渡さないといけない、と騒ぎ立てるのでな…何処に行こうとしてるかは聞かんが…必ず戻ってくるのじゃぞ?」
と言って木刀を渡してきた。俺自身、別の木刀を持っていたが爺さん曰く若い頃から愛用していた木刀で、霊剣らしい…俺には分からなかったが…後、柄の所に【緋想】と刻まれているので、この木刀は緋想と言う名らしい。それを受け取った俺は、礼を爺さんに言ってから大急ぎで歴史資料館へ向かった。
「…あいつの銅鏡を見る眼…普通じゃなかった。悪いことが起こらなければいいが…」
俺はつい嫌な予感を感じて、そう呟いてしまった。…世の中は悪い予感ほど良く当たるというのに…
「!!?……やはり居たか。」
歴史資料館の手前まできて、例の男子生徒を俺は見つけた。俺は素早く身を隠し、相手を見極めていたがその腋に抱えている物が目に入った時、相手の前に飛び出していた。
「まてよ。」
「!?…誰だ貴様は?何の用だ。」
相手は俺の出現に驚いたようだが、すぐに建て直し、俺に向かって殺気を向けた。
「…その腋に抱えているものは何だ?おそらくそれは資料館のものだろう?かってに物を持ち出すのは泥棒…!?」
「…チッ。お前は邪魔だ死ね!」
俺が言いきる前に相手は鋭い蹴りを出してきた、が、爺さんの稽古に比べれば何の脅威も感じなかった。俺は持っていた自分の木刀で蹴りを防ぎ、爺さんの緋想で斬りかかった。
「!…チッ、やるな貴様。どうやら本気を出さないといけないようだな。」
俺は相手の殺気が膨れ上がるのを感じチャンスと見た。…これが間違いだった。
「…!はぁぁぁ!!!」
俺は渾身の一撃を二つの木刀から繰り出した。
「!舐めるなぁ!!」
相手もさることながらその鋭い蹴りで威力の相殺にかかった。
俺の木刀と相手の蹴りが当たった時、俺の木刀がバキンと音を立てて折れた。俺は驚き、相手は笑い、そしてその蹴りの威力を損なわぬまま爺さんの木刀【緋想】に蹴りが当たるが、今度は相手の足からボキリと嫌な音が鳴る。俺は折れた自分の木刀から手を放し、両手で緋想を持ち、振り貫いた。
「!?がぁ…っ!!」
相手は苦悶の表情と苦痛の声を上げ体制を崩した。その拍子に腋に抱えていた銅鏡を落としてしまった。
「し、しまった!」
「!!」
慌てて俺と相手は手を伸ばすが、届かずに銅鏡は地面に落ち、甲高い音を立てて砕け散った。
「くそ!お前さえ邪魔をしなければ!…新たな外史が…クソッ!クソォォォォ!!」
砕け散った銅鏡から光が溢れ出し、俺と相手に絡み付いてきたのだ。
「!?体が…動かないだと…!?」
「もう、遅い。新たな外史の扉は開かれる。こうなっては誰も抗えんさ。」
銅鏡の光り始めてから相手は妙な落ち着きを見せ始めた。…まるで諦めたかのように。
「覚悟を決めろ。お前はこれから死ぬより恐ろしい目に合うのだからな!」
「何?一体どういう事だ!」
俺の問いを相手は無視し続ける。
「飲み込まれろ。それがお前に下る罰だ。この世界の真実をその目に焼き付けるが良い!!」
相手がそう言ったのと同時により光が濃くなり、俺の視界と意識を塗り潰していった…
―今回ばかりは、私もちょっかい出させてもらうわね♪―
消え行く視界と意識に、金髪ゴスロリの女性が見えた気がした。
……そこまで思い出して俺は、もう一度現状を確認する。
方位…不明 現在地…不明 所持品…私服と霊木刀【緋想】に携帯(圏外)と財布。
結論…早く移動し、町なり家なり見つけないと危険なり……と。
此処まで考えて人の気配を感じた。
「…近いな…あっちか。」
とりあえず俺は人の気配がする方へと移動した。
「…なんだアレは…」
そして人の気配がした所についたらトンデモないモノが目に飛び込んできた。
俺は咄嗟に近くにあった岩陰に隠れた。
「えいっ!」
青く腰まで届く長髪の少女が緋色の剣を地面に突き刺す。
「「「うおぁ!?」」」
黄色い布を額に巻いたひょろいのとデブとノッポが、足元の地面から出現した岩で出来た突起物をぎりぎりで避ける。
「ふっ!」
こちらも蒼い髪だが、肩の辺りで揃えられている女性が身に纏う羽衣?を時に槍のように突き刺し、時に鞭のようにしならせて、ひょろデブノッポの三人を攻撃する。
「「「ぐはぁ!」」」
…どうやら今の一撃で終わったようだ。
「で?もう一度聞くけど、誰に向かって身包み剥いで売り飛ばすなんてことを言ってるのかしら?」
少女はかなりお冠のようで、倒れ伏している三人を足蹴しにている。それを女性は、呆れの表情と困った表情がない交ぜになった不思議な顔をして少女を嗜める。
「総領娘様、そのような輩にかまっている暇はないのですよ?急いで八雲紫を見つけて天界に帰らなければ総領様が心配します。」
総領娘と呼ばれた少女は、不機嫌な顔を隠そうともせずに言い放つ。
「まさか!父様がこんな不良天人の娘を心配するもんですか!衣玖、私は幻想郷には帰りたいけど天界にはあまり帰りたくはないのよ。」
少女はプンスカと言う表現が合うように顔を真っ赤にし、頬を膨らませて起こっていた。衣玖と呼ばれた女性は、頬に手をあて深くため息を吐いた。
「そう言われましても…」
「うるさい!私には私の生き方があるの!」
聞く耳を持たない少女に女性は、困りましたと沈黙した。
「…で、さっきからそこでコソコソと隠れているアンタは何?」
…っどうやら俺の事はばれていたみたいだ。少女は真っ直ぐにこちらを見つめている。女性の方も困惑した顔を消して鋭い視線を向けてくる。
「…悪い、人の気配を探ってきたんだが来た先にはトンデモナイことが起きていて、出るに出られなかったんだ。」
俺はそう言って岩陰から出て行く…もちろん両手は上げて降参のポーズだ。
「ふぅん、そう。」
少女は俺の近くまで来て、俺のことをジト目で見始めた。…少女の後ろで衣玖さん(仮)は静かにしているが、何かあればすぐに動けますよ?と言わんばかりの圧力をかけてくる。
「……俺は悪い奴じゃない。」
「……そうね、貴方の気質は霊夢と同じ快晴みたいだし、邪気もあまり感じない。…うん、悪そうな人じゃないことは認めてあげる。衣玖、こいつは大丈夫よ。私たちに危害を加えようとするような馬鹿じゃないわ。」
少女がそう言うと、衣玖さん(仮)からの圧力が消えた。
「…さて、改めて自己紹介といきましょうか。あんたからね。」
少女がそう言い俺を指差す…人を指差しちゃいけないんだぞー、と心の中で呟く。
「…俺は一刀、北郷一刀。聖フランチェスカ学園の二年生だ。剣道をやっている。趣味は三国志関連の情報をあさる事。」
俺がそう言うと少女は、じゃぁ次は私ね、と喋る。
「私は天子、比那名居 天子(ひななゐ てんし)よ。天界に住む天人で、今回は、ちょっとしたイタズラでこんな場所に飛ばされちゃったけど、本当は幻想郷って所に住んでるの。趣味は宴会とイタズラかな?」
少女…天子はそう言ってクスリと笑う。俺は、天人がどうとかはよくは分からないが、かなりのお嬢様なのは理解した。…良く見るとかなり可愛い。
「私は衣玖、永江 衣玖(ながえ いく)と申します。本来は竜宮の使いとして地上の人間たちに地震が起こる時の警告役ですが、今は関係がありませんね。趣味…はヒミツということで。」
女性…衣玖さんは人差し指を立て、ふふふ、と笑う。こちらも竜宮の使いだの地震の警告役だのは、よくは分からなかった。…美人が笑うと絵になるなぁ。
「…で、お二人はどうしてこんな所に?」
俺がそう聞くと天子はサッと目線をそらし、衣玖さんは、フフフ、と笑う…なんだか怖い。
「…えっと、私のイタズラにとある妖怪が起こってスキマ…えっと、神隠しにあって何処とも分からない場所に飛ばされちゃったんだ…あははは……」
天子はあははと笑うが、その額には冷や汗が付いている。…うん、その気持ち分かるよ。だって圧力がこっちにきてないって分かってるのに、冷や汗が止まらないから。
「えぇ、総領娘様のイタズラは今に始まった事ではありませんが、今回の規模は少々大きすぎまして、その妖怪、八雲紫と言うのですが、その怒りに思いっきり触れてしまい神隠しにあってしまったんです。……私は総領娘様のお仕置きに巻き込まれただけ、ですが…」
衣玖さんの笑顔の圧力に天子は、冷や汗をどんどん増やしていく…俺も冷や汗が止まりません。
「聞いていますか?総領娘様?今回のことでお分かりになられたとお思いますが、イタズラは今後控えてください。おやりになるのでしたら規模を小さくして頂くとありがたいです。」
「わ、分かったわ。次からはき、気を付けるわ…」
天子は衣玖さんにそう言った。…衣玖さんの圧力が消えたな。
「…はぁ、とりあえず話を変えましょう…」
衣玖さんが話題を変えてくれたので、俺もそれに便乗する。
「そうだな……衣玖さんたちは、これからどうするんだ?」
俺の話題振りに衣玖さんは、そうですねぇ。と考えて。
「…私達は、この世界の何処かにいる八雲紫を見つけて、幻想郷に帰るのが目標ですから、流浪の旅…になりますね。」
「そうか…じゃ、俺も此処には身寄りもないし、ついて行ってもいいか?」
俺の問いに答えたのは、衣玖さんじゃなく天子のほうだった。
「いいんじゃない?楽しそうだし、旅は道連れ世は情け…ってね。」
にやりとした笑みを浮かべ、天子は俺を見る。衣玖さんも、総領娘様がそういうのなら。と承諾してくれた。
「よろしくな。」
「よろしくね。」
……こうして俺の長くも短く有頂天で楽しかった旅が始まったのだ。
―続く?―
あとがき
やっちゃったZE☆
改訂しました。…これで読み易くなったかな?