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[11636] 【習作】天人☆無双(真・恋姫無双×東方Project)
Name: 彷徨う吟遊詩人◆a7a52965 ID:b2191fa6
Date: 2009/11/27 17:38
ピンポンパンポン♪

<注意事項のお知らせです。>

・一刀がかなり冷静。
・一刀が最終的に呂布相手に一対一をやって勝率二割(五回戦って一回勝てるかどうか)に到達します。
・オリキャラ出ます。
・既存キャラの才が史実と混合して強くなったり、弱くなったりします。
・オリジナルルート突入!

以上がダメな方はブラウザバックでお願いします。

ピンポンパンポン♪



[11636] 1―新たな外史―    (改訂)
Name: 彷徨う吟遊詩人◆a7a52965 ID:b2191fa6
Date: 2009/11/27 22:29










目が覚めると最初に目に映ったのは綺麗な青空だった。俺は体を起こし辺りを見渡すが目に映るのは聳え立つ山々や青々とした森、そして荒野だった。

そして俺は此処が日本では無いと思い当たる。
澄み渡る青空を見上げ俺、北郷一刀は思い出す。
俺がこんな場所にいる訳を……










               ―事件の前日―


俺はその日、何時もと変わらない朝をむかえて、爺さんの朝稽古を受けて、何時ものようにボロボロになって終わる。(いつも思うがかなりの歳の癖にやたらと機敏で攻撃が鋭く重い。理由を聞いたら鍛錬のなせる業だと言った…マジ化けモンだ)
朝稽古が終わったら母さんが作った朝飯を食べて、制服に着替えて登校する。それが俺の何時もの日常だったが、その日の朝稽古が終わった時からナニカが少しずれたんだと俺は思う…


…何時ものように俺は爺さんに叩きのめされ、道場の床に這いつくばっていた。

「ハァ…ハァ、ハァ…っ」

ぐったりと倒れる俺を爺さんはいつもなら情けない者を見る表情で俺を見、活を入れるのだがその日は真剣な表情で俺を見下ろしていた。

「一刀…少し話がある。息を整えたら座りなさい。」

俺は、爺さんのその真剣な表情を見ると大きく息を吸い込み、そして吐き出す。それを数回繰り返した、それだけでさっきまで体に溜まっていた疲労が消えた。起き上がり姿勢を正した俺に、爺さんは意を決したように話始めた。

「一刀、お前が前にワシが何故この歳になってもこのように機敏に動き、重い一撃を出せるか問うたな。…あの時ワシはお前に鍛錬の成せる業と言うたがまだ続きがあっての…」

そこまで言った爺さんの顔は、真剣な表情の中にあきらかに苦々しい感情が見え隠れしていた。

「…ワシがこのように機敏に動き鋭く重い一撃を出せるのは、半分は鍛錬の成果………もう半分はワシの『錬氣を操る程度の能力』のお陰じゃ。」

…俺は一瞬、爺さんが耄碌して可笑しなことを言い始めたと思った。だが心の何処で納得している部分もあった、もう歳の癖してまだまだ現役をはるこの爺さんは『特別な』何かを持っているのでは?と常々考えては有り得ない、非現実的だと打ち消していたのだから。

「ワシがこの能力を手にしたのは約50年前かの?若い時にあちこちの山々を修行の地にしながら転々と武者修行の旅をしていた時に、可笑しなとこに出たのじゃ。」

昔話を始めた爺さんの顔は、何処か懐かしさや他にも色んな感情が浮かんでいた。

「…初めに出た所は神社じゃった…たしか『博麗神社』じゃったかのぅ?たしかその様な名前の神社に出たのじゃ。そこでその神社の巫女さんが出て行き成りこんな事を言ってきたんじゃ。」

 ―あら?貴方、『外来人』?歓迎するわよ。ようこそ、忘れられた幻想が住まう土地へ―

「…ワシは何の事かさっぱり分からんかったからその事を聞いたら、丁寧に教えてくれたんじゃ。そこが『幻想郷』と呼ばれる土地で『外』と『内』とを隔てる大結界とやらで隔離された秘境じゃと…しかも現代では正しく絵空物語の妖怪が住んでいるのじゃと。」

―妖怪は人を襲うわ。この神社や町に居れば襲われないけど一歩外に出ればたちまち妖怪たちの領土よ、特に夜の人気の無い場所は要注意よ、行けば襲ってくださいと言ってるみたいなものよ気を付けてね―

「…まだまだ落ち着きが無く、勇気と無謀の違いを分かっていなかったワシは、巫女さんの忠告を無視して夜の森へ出歩いたんじゃ。」

―妖(あやかし)か、相手にとって不足無し!―

「そして出おうたんじゃ、全長三メートルの大ムカデの妖怪にの。妖怪の事を全く知らなかったワシは、無謀にも木刀一本で切りかかったんじゃ。そして硬い物を叩いた様な感触に驚いての、あっさり一撃もろうたんじゃ。」

―ガッ!?……な・んだ…と―

「それほど致命的な一撃では、無かったのは幸いじゃったが、こちらの攻撃がまるで効果が無いのは、分かってしまったんじゃ。」

―くっ!?な、何とかせねば!―

「焦りつつも大ムカデの攻撃をかわしながら、打開策を考えていたワシは、大ムカデの目を見て閃いたんじゃ。」

―眼球なら柔らかいはず!―

「大ムカデの攻撃をかわし、目にめがけて突きを放ったんじゃが、大ムカデの眼球に突きが届く前に尻尾?の針で薙ぎ払われたんじ。」

―ぐっ!?な、何!?―

「木に叩きつけられ、痛む身体を無視して大ムカデを見ると、キチキチと音を鳴らして笑っておったんじゃ。そして気付いたんじゃ、遊ばれていた事にの。ワシは、愕然としたの。こちらが命をかけて挑んでも相手は遊ぶ余裕があったんじゃから。」

―つ、強い…!―

「そこで改めて妖怪のデタラメさを認識したんじゃ。しかし身体は軋み、意識も朦朧としていて立つ事も出来んかった。」

―ここまでなのか?俺は…―

「諦めかけたんじゃが、脳裏に今までの出来事が流れての、ここで終われない!と奮い立ったんじゃ。」

―まだだ!まだ終われない!まだ死ねないんだ!―

「そしたらの、急に力が湧き上がったんじゃ。この時にワシは、『錬氣を操る程度の能力』を手にしたんじゃ。」

―力が漲る!うおおおおお!!―

「猛る力を其のままに大ムカデに叩き付けるとの、面白い様に吹っ飛んだんじゃ、そしてワシの身体はまるで風にでも成ったかの様に動いたんじゃ。」

―はは!遅い!遅い!俺はここだ!―

「そして大ムカデとは立場が逆転したんじゃ、向こうの攻撃は当たらず、此方の攻撃にボロボロにされる、という形での。じゃが…」

―ようし!とどめ…!?!?―

「目覚めたばかりの能力故にワシは、限界を見誤ったんじゃ。急激な虚脱感と共にその場に崩れ落ちたんじゃ。」

―い、一体何が…?―

「ワシは、何が起こったか分からずに困惑しておったが、直後に襲った強烈な疲労感に意識を持っていかれそうに成ったんじゃ。」

―あ゙…づっ!?―

「気合で気絶だけは、免れたんじゃが、身体は動かず、意識も白濁してきたんじゃ。しかも、視界の端に大ムカデが近付いて来ているのも見えたんじゃ。」

―くそ、指一つ動かせねぇ…今度こそ終わりかよ…―

「覚悟を決めかけたワシを天は、見放さなかったんじゃ。意識が途切れる寸前、ワシに忠告をくれた巫女さんが大ムカデに札を叩きつけるのが見えたんじゃ。」

―貴方死にたいの!?私の忠告を無視して夜の森を出歩くなんて!―

「結論から言うとワシは、巫女さんに助けられたんじゃ、目を覚ました途端にキツイお説教を貰ってしまったがの。」

―とりあえず暫くは、安静にしてなさい。まぁ、妖怪相手に戦って、この程度で済んで良かったわね。下手しなくとも食べられる確率の方が高かったわよ。―

「怪我が治るまでは、神社で世話になっての。満足に動けない日々は、それは不自由だったのぉ。」

―んぐぐ!!…くっ、身体を起こすだけでこれか…―
―はいはい無茶しない。怪我人は大人しくしてなさい。―

「ようやく動けるようにまで回復した時にの、受けた恩を返そうと何か手伝える事が無いか聞いたんじゃが、特に無い、と返されたんじゃ。」

―受けた恩も返せないんじゃ、男が廃るんだよ。何か無いのか?―
―無いわよ。―

「それから少しして一人の女性が神社を尋ねてきたんじゃが…たしか『八雲』……名前が思い出せんわい……とにかくその八雲と言う女性が、巫女さんに話があると言って二人で何処かに行ってしまったんじゃ……そして二人が戻ってくると、八雲とか言った女性がこう言ったんじゃ。」


―ねぇ、帰りたくない?外の世界に―

「ワシは此処が修行にうってつけの場所だと分かっていたから、『今は此処で修行がしたい』と答えたら、こう言ってきたんじゃ。」

―もうすぐ結界の修復が終わる。即ち貴方は外に帰れなくなるのよ?それでも此処に居たい?―

「…流石にそう言われると考えざる負わなかった、がすぐに答えは出たんじゃ…外に帰ることにの。…巫女さんに受けた恩を返せなんだことを謝ったら…」

―そんなに返したいの?だったら神社に御参りして、たった一度の信仰でも、巫女には嬉しいものだから―

「…その言葉にワシは博麗神社に御参りをした後、この神社に信仰を捧げ続けることを巫女さんに誓ったんじゃ、そしたら巫女さんは苦笑しながらお礼を言ってくれたんじゃ。……そしてワシはその幻想郷を後にしたんじゃ…短くも長く、そして不思議な経験じゃった。…じゃがあの出来事が夢でないことは、身に付いた能力が教えてくれたわい。」

…爺さんの長い昔話を俺は、なぜか笑うことが出来なかった。普通は耄碌した爺さんの世迷言だと言われたり、黄色い救急車を呼ばれたりが当たり前なのに、何故か真剣に話を聞いてしまっていた。

「…爺さん、俺にそんな昔話をして何になるっていうんだ?」

つい俺はそんな事を聞き返していた。
だが爺さんが返した答えは俺の想像を遥かに超えていた。

「…一刀、お前が能力に目覚めつつあるからじゃ…」

「なっ!?」

「…でなければワシとてこのような昔話などせんよ…世迷言と笑われるゆえな…じゃが一刀、お前はこの昔話を笑わなんだ。おそらく納得しているのであろう?この歳になって今だ衰えぬワシの強さの秘密に。」

「…」

爺さんの指摘に、俺は自分が長年の疑問の答えに、あの破天荒な話を信じていることに気が付いた。

「正直、信じれないはずの話をした事や、信じれないはずの話を信じた自分に驚いている。」

俺がそう言うと爺さんは何が面白いのかカッカと笑った。

「…さて長話もすんだし、そろそろ朝飯を食って着替えんと学校に間に合わんぞ?」

爺さんが言って時計を指差すと秒針がかなりヤバイ時間をさしていた。

「っ…ヤバ!もうこんな時間かよ!」

俺は慌てて道場を後にした。

「……まぁ、この平和な世の中で、一刀の異能力が目覚めるような事件などそうそう起こらんじゃろう…命の危険や限界状態を超えるような、な……」







ヤバイヤバイヤバイ!!俺は朝飯を食った後、手早く着替え、学校への道を爆走している。俺の通っているのは聖フランチェスカ学園と言う。元はお嬢様学校だったが今では共学化が進み男子生徒もちらほら見かけている(それでも女子生徒の方が圧倒的に多いが)
それに流石、元お嬢様学校だけあってやたら規則が厳しく、遅刻なぞしようものなら、よくて厳重注意、悪ければ長いお説教だ。
俺は自身の限界に挑戦するが如く、全力で聖フランチェスカ学園の道のりを走り抜けた…



「はぁはぁ・・・っ間に合った。」

何とか時間内に学園に到着した俺は、乱れる息を整えつつ校内へ進む。
すると俺の姿を見つけた男子生徒が、俺に向かって教室の窓から手を振って話しかけてきた。

「おはようさん!今日は遅い到着やな、かずピー!」

あいつは及川。俺の気の合う友人で、よく二人で居ることが多い。

「ああ!爺さんの長話に付き合って時間がヤバイ事になって大変だった!」

「そかそか!そら災難やったな!」

及川そう言いながら顔は笑っていた。…絶対に面白がっているな及川のやつ。
俺は軽くため息を吐きながら校舎へ入っていった。






「かずピー、かずピー。明日は暇か?」

部活が終わり、帰る準備をしていた俺に及川が話しかけてきた。

「?確かに部活は明日は、お休みだから暇だが。それがどうかしたのか?」

俺の答えに及川は、がくっとこけたマネをして俺の肩を掴んだ。

「あんな、かずピー忘れたんか?理事長から出された宿題。」

「宿題…?……あーあれか。」

及川に言われ思い出したのは、理事長が学園敷地内に歴史資料館を作ったので、休みの間に見学して感想文を書いて来なさいって言っていたことだった。

「丁度明日はお休みやから行こうや。」

「ん、分かったいいぜ。」

「ほな、明日の一時に資料館前集合な!」

及川はそう言うとスキップしながら去っていった。…行った方向に人影が見えたからこれからデートか……羨ましいヤツ…はぁ。






              ―事件当日―

「おう、かずピー時間ぴったしやな。」

歴史資料館の前には、もう及川のやつが来ていて、手を上げて挨拶してきた。俺も手を上げて返す。

「うっしゃ、じゃ中に入ろか。」




歴史資料館の中は、はっきり言って博物館のそれだ。…流石フランチェスカ。お金のかけかたが違う。

「しっかし、ほんまに立派なモン建ておったな、流石はフランチェスカって感じや…」

隣で及川が呆れを感じさせる声色で呟いた。

「…だな。」

俺も博物館そのものとしか言えない内装に、言葉が出なかった。

「…まぁ、さっさと見学を終わらせて感想文書こうや。」

「そうだな、さっさと見て回るか。」

俺たちはその後、色々と中を見て回った。…中国の三国時代の品々ばかりが集められているらしく、俺は爺さんの部屋にある本(三国志系の本ばかり)を小さいころから愛読していたので、思ったより楽しめて展示物の説明札に書いていない補足をしながら見て回った。……そしてそいつを見つけた。

「かずピーこれはなんや?」

「ああ、これは…!?」

ふと、殺気を感じてその方向を向いたら、展示物の銅鏡を睨む男子生徒を見つけた。…強いな、纏う気配が強者のそれだ。

「ん?かずピー、なに見てるんや?」

「…っいや、何でもない。気のせいだ。」

俺は咄嗟にそう答えた。及川は怪しがったが、他の事に気を向ければ、そのうち忘れるだろうとはぐらかした。




その夜、俺はどうしてもその男子生徒の殺気を忘れられず、そして妙に自身の感が騒ぎたてるので、見に行くことにした。
家を出ようと玄関で靴を履いている時に、爺さんが…

「受け取れ一刀。何故かワシの感がこれをお前に渡さないといけない、と騒ぎ立てるのでな…何処に行こうとしてるかは聞かんが…必ず戻ってくるのじゃぞ?」

と言って木刀を渡してきた。俺自身、別の木刀を持っていたが爺さん曰く若い頃から愛用していた木刀で、霊剣らしい…俺には分からなかったが…後、柄の所に【緋想】と刻まれているので、この木刀は緋想と言う名らしい。それを受け取った俺は、礼を爺さんに言ってから大急ぎで歴史資料館へ向かった。




「…あいつの銅鏡を見る眼…普通じゃなかった。悪いことが起こらなければいいが…」

俺はつい嫌な予感を感じて、そう呟いてしまった。…世の中は悪い予感ほど良く当たるというのに…



「!!?……やはり居たか。」

歴史資料館の手前まできて、例の男子生徒を俺は見つけた。俺は素早く身を隠し、相手を見極めていたがその腋に抱えている物が目に入った時、相手の前に飛び出していた。

「まてよ。」

「!?…誰だ貴様は?何の用だ。」

相手は俺の出現に驚いたようだが、すぐに建て直し、俺に向かって殺気を向けた。

「…その腋に抱えているものは何だ?おそらくそれは資料館のものだろう?かってに物を持ち出すのは泥棒…!?」

「…チッ。お前は邪魔だ死ね!」

俺が言いきる前に相手は鋭い蹴りを出してきた、が、爺さんの稽古に比べれば何の脅威も感じなかった。俺は持っていた自分の木刀で蹴りを防ぎ、爺さんの緋想で斬りかかった。

「!…チッ、やるな貴様。どうやら本気を出さないといけないようだな。」

俺は相手の殺気が膨れ上がるのを感じチャンスと見た。…これが間違いだった。

「…!はぁぁぁ!!!」

俺は渾身の一撃を二つの木刀から繰り出した。

「!舐めるなぁ!!」

相手もさることながらその鋭い蹴りで威力の相殺にかかった。
俺の木刀と相手の蹴りが当たった時、俺の木刀がバキンと音を立てて折れた。俺は驚き、相手は笑い、そしてその蹴りの威力を損なわぬまま爺さんの木刀【緋想】に蹴りが当たるが、今度は相手の足からボキリと嫌な音が鳴る。俺は折れた自分の木刀から手を放し、両手で緋想を持ち、振り貫いた。

「!?がぁ…っ!!」

相手は苦悶の表情と苦痛の声を上げ体制を崩した。その拍子に腋に抱えていた銅鏡を落としてしまった。

「し、しまった!」

「!!」

慌てて俺と相手は手を伸ばすが、届かずに銅鏡は地面に落ち、甲高い音を立てて砕け散った。

「くそ!お前さえ邪魔をしなければ!…新たな外史が…クソッ!クソォォォォ!!」

砕け散った銅鏡から光が溢れ出し、俺と相手に絡み付いてきたのだ。

「!?体が…動かないだと…!?」

「もう、遅い。新たな外史の扉は開かれる。こうなっては誰も抗えんさ。」

銅鏡の光り始めてから相手は妙な落ち着きを見せ始めた。…まるで諦めたかのように。

「覚悟を決めろ。お前はこれから死ぬより恐ろしい目に合うのだからな!」

「何?一体どういう事だ!」

俺の問いを相手は無視し続ける。

「飲み込まれろ。それがお前に下る罰だ。この世界の真実をその目に焼き付けるが良い!!」

相手がそう言ったのと同時により光が濃くなり、俺の視界と意識を塗り潰していった…










   ―今回ばかりは、私もちょっかい出させてもらうわね♪―









消え行く視界と意識に、金髪ゴスロリの女性が見えた気がした。











……そこまで思い出して俺は、もう一度現状を確認する。
方位…不明  現在地…不明  所持品…私服と霊木刀【緋想】に携帯(圏外)と財布。

結論…早く移動し、町なり家なり見つけないと危険なり……と。

此処まで考えて人の気配を感じた。

「…近いな…あっちか。」

とりあえず俺は人の気配がする方へと移動した。











「…なんだアレは…」

そして人の気配がした所についたらトンデモないモノが目に飛び込んできた。
俺は咄嗟に近くにあった岩陰に隠れた。





「えいっ!」

青く腰まで届く長髪の少女が緋色の剣を地面に突き刺す。

「「「うおぁ!?」」」

黄色い布を額に巻いたひょろいのとデブとノッポが、足元の地面から出現した岩で出来た突起物をぎりぎりで避ける。

「ふっ!」

こちらも蒼い髪だが、肩の辺りで揃えられている女性が身に纏う羽衣?を時に槍のように突き刺し、時に鞭のようにしならせて、ひょろデブノッポの三人を攻撃する。

「「「ぐはぁ!」」」

…どうやら今の一撃で終わったようだ。

「で?もう一度聞くけど、誰に向かって身包み剥いで売り飛ばすなんてことを言ってるのかしら?」

少女はかなりお冠のようで、倒れ伏している三人を足蹴しにている。それを女性は、呆れの表情と困った表情がない交ぜになった不思議な顔をして少女を嗜める。

「総領娘様、そのような輩にかまっている暇はないのですよ?急いで八雲紫を見つけて天界に帰らなければ総領様が心配します。」

総領娘と呼ばれた少女は、不機嫌な顔を隠そうともせずに言い放つ。

「まさか!父様がこんな不良天人の娘を心配するもんですか!衣玖、私は幻想郷には帰りたいけど天界にはあまり帰りたくはないのよ。」

少女はプンスカと言う表現が合うように顔を真っ赤にし、頬を膨らませて起こっていた。衣玖と呼ばれた女性は、頬に手をあて深くため息を吐いた。

「そう言われましても…」

「うるさい!私には私の生き方があるの!」

聞く耳を持たない少女に女性は、困りましたと沈黙した。

「…で、さっきからそこでコソコソと隠れているアンタは何?」

…っどうやら俺の事はばれていたみたいだ。少女は真っ直ぐにこちらを見つめている。女性の方も困惑した顔を消して鋭い視線を向けてくる。

「…悪い、人の気配を探ってきたんだが来た先にはトンデモナイことが起きていて、出るに出られなかったんだ。」

俺はそう言って岩陰から出て行く…もちろん両手は上げて降参のポーズだ。

「ふぅん、そう。」

少女は俺の近くまで来て、俺のことをジト目で見始めた。…少女の後ろで衣玖さん(仮)は静かにしているが、何かあればすぐに動けますよ?と言わんばかりの圧力をかけてくる。

「……俺は悪い奴じゃない。」

「……そうね、貴方の気質は霊夢と同じ快晴みたいだし、邪気もあまり感じない。…うん、悪そうな人じゃないことは認めてあげる。衣玖、こいつは大丈夫よ。私たちに危害を加えようとするような馬鹿じゃないわ。」

少女がそう言うと、衣玖さん(仮)からの圧力が消えた。

「…さて、改めて自己紹介といきましょうか。あんたからね。」

少女がそう言い俺を指差す…人を指差しちゃいけないんだぞー、と心の中で呟く。

「…俺は一刀、北郷一刀。聖フランチェスカ学園の二年生だ。剣道をやっている。趣味は三国志関連の情報をあさる事。」

俺がそう言うと少女は、じゃぁ次は私ね、と喋る。

「私は天子、比那名居 天子(ひななゐ てんし)よ。天界に住む天人で、今回は、ちょっとしたイタズラでこんな場所に飛ばされちゃったけど、本当は幻想郷って所に住んでるの。趣味は宴会とイタズラかな?」

少女…天子はそう言ってクスリと笑う。俺は、天人がどうとかはよくは分からないが、かなりのお嬢様なのは理解した。…良く見るとかなり可愛い。

「私は衣玖、永江 衣玖(ながえ いく)と申します。本来は竜宮の使いとして地上の人間たちに地震が起こる時の警告役ですが、今は関係がありませんね。趣味…はヒミツということで。」

女性…衣玖さんは人差し指を立て、ふふふ、と笑う。こちらも竜宮の使いだの地震の警告役だのは、よくは分からなかった。…美人が笑うと絵になるなぁ。

「…で、お二人はどうしてこんな所に?」

俺がそう聞くと天子はサッと目線をそらし、衣玖さんは、フフフ、と笑う…なんだか怖い。

「…えっと、私のイタズラにとある妖怪が起こってスキマ…えっと、神隠しにあって何処とも分からない場所に飛ばされちゃったんだ…あははは……」

天子はあははと笑うが、その額には冷や汗が付いている。…うん、その気持ち分かるよ。だって圧力がこっちにきてないって分かってるのに、冷や汗が止まらないから。

「えぇ、総領娘様のイタズラは今に始まった事ではありませんが、今回の規模は少々大きすぎまして、その妖怪、八雲紫と言うのですが、その怒りに思いっきり触れてしまい神隠しにあってしまったんです。……私は総領娘様のお仕置きに巻き込まれただけ、ですが…」

衣玖さんの笑顔の圧力に天子は、冷や汗をどんどん増やしていく…俺も冷や汗が止まりません。

「聞いていますか?総領娘様?今回のことでお分かりになられたとお思いますが、イタズラは今後控えてください。おやりになるのでしたら規模を小さくして頂くとありがたいです。」

「わ、分かったわ。次からはき、気を付けるわ…」

天子は衣玖さんにそう言った。…衣玖さんの圧力が消えたな。

「…はぁ、とりあえず話を変えましょう…」

衣玖さんが話題を変えてくれたので、俺もそれに便乗する。

「そうだな……衣玖さんたちは、これからどうするんだ?」

俺の話題振りに衣玖さんは、そうですねぇ。と考えて。

「…私達は、この世界の何処かにいる八雲紫を見つけて、幻想郷に帰るのが目標ですから、流浪の旅…になりますね。」

「そうか…じゃ、俺も此処には身寄りもないし、ついて行ってもいいか?」

俺の問いに答えたのは、衣玖さんじゃなく天子のほうだった。

「いいんじゃない?楽しそうだし、旅は道連れ世は情け…ってね。」

にやりとした笑みを浮かべ、天子は俺を見る。衣玖さんも、総領娘様がそういうのなら。と承諾してくれた。

「よろしくな。」

「よろしくね。」

……こうして俺の長くも短く有頂天で楽しかった旅が始まったのだ。



              ―続く?―


あとがき

やっちゃったZE☆

改訂しました。…これで読み易くなったかな?



[11636] 2 ―徳の人は天人と出会う―  (改訂)
Name: 彷徨う吟遊詩人◆a7a52965 ID:b2191fa6
Date: 2009/11/27 22:53

…あの後、俺たちは近くの村に到着した。衣玖さんが空を『飛んで』村を見つけてくれたから。…衣玖さんが飛んだとき、俺はきっとアホみたいにポカンとしていたと思う。いや、人間誰だって空を飛ぶ人を見たらそうなるに決まってる。…っと話が外れたが、俺達は村に到着したが、その村の有様が酷いもんだった。





「…ねぇ、衣玖。ここって村よね?」

思わず天子は、衣玖さんに聞き返すが、衣玖さんはコクリと頷くだけだった。
それを横目に見ながら俺は、目の前の惨状を分析していた……

家々は崩れていたり、そこに家が在った。という残骸が残るだけだった。
さらに見渡すと人の亡骸が所かしこに点在している。鼻につく強烈な血の匂いに顔をしかめるが、俺は何故か人の死体を生で初めて見ているというのに吐き気はなく、亡骸に対しての哀れみの感情の方が強かった。

「…こうしてても仕方ない。生きている人を探そう。」

俺の言葉に二人は頷いた。




「まて!」

生きている人を探し、三人で手分けして村を探索していると、後ろから急に声がかけられた。生き残りかと、俺は振り向むいた。

「お前は何者だ?まさか黄巾の手の者ではあるまいな?」

綺麗な黒く長い髪をサイドテールで結び、手に持つは身の丈より大きい偃月刀……龍のアギトから刃が出て、美しい装飾が施されていることから、おそらく青龍偃月刀かそのレプリカ……をこちらに向け、鋭い視線を投げかける『美少女』がいた。

「えっと、俺は北郷一刀……怪しいもんじゃない、流浪の旅人でこの村?には今さっき着いたばかりだ。…その黄巾とかいうのとは無関係だ。」

俺は手を上げ、敵意が無いことを示す。すると少女は怪しい者を見つめる目線は変わらずだが、少しだけ警戒色が薄まった。

「本当だな?虚言を言って騙そうものなら斬って捨てるぞ。」

俺の言葉の真偽を問い、俺は物騒だなと思いながら肯定した。そして、ようやく少女から俺に対する警戒が解かれた…が、よく見ると何かあればすぐに動けるように無形の型をとっていた。…信用無いな…まぁ、よそ者だし当たり前といえば当たり前か。

「…お前の言葉『一応』信用してやる。だが嘘偽りだと分かったらその命、無くなると思え。」

俺をギロリと擬音がつきそうな目つきで睨んだ後、ようやく完全に構えを解いた。

「私の性を関、名を羽、字は雲長と言う。この村は黄巾賊に襲われたらしく、殆どの家財や女を連れ去られた後のようだ。…奥の酒屋に生き残りの殆どの人が集まっている。私は彼等を義妹と義姉の三人で率いて、次の奴等の襲撃に備えるつもりだが、お前は如何するのだ?さっさとこの村から去るか?それとも私たちと共に黄巾賊の蛮徒どもに戦いを挑むか?」

俺は彼女の言葉の中の『関羽』という名前に頭が真っ白になりかけた。

関羽は、中国後漢末期に劉備に仕えた武将。字は雲長。元の字は長生。司隷・河東郡解(現在の山西省運城市常平郷常平村)の人。封号は漢寿亭侯。諡は歴代王朝から多数贈られたため爵諡を参照のこと。見事な鬚髯(鬚=あごひげ、髯=ほほひげ)をたくわえていたため「美髯公」などとも呼ばれる。子は関平・関興。

その武勇、曹操が義理堅いと評した事から、後世の人間が神格化し関帝(関聖帝君・関帝聖君)とし、47人目の神とした。信義に厚い事などから、現在では商売の神として世界中の中華街で祭られている。そろばんを発明したという伝説まである。

『三国志演義』では、「雲長又は関雲長或いは関公、関某と呼ばれ、一貫して諱を名指しされていない」、「大活躍する場面が壮麗に描かれている」など、前述の関帝信仰に起因すると思われる特別扱いを受けている。

…そこまで思い出してから俺は、今だ混乱する思考を破棄、再始動して答える。

「いや、俺一人じゃ決められない。…言い忘れていたんだが俺は、ある人を探している二人の女性の旅に同伴してるんだが、その二人に聞かないと勝手に決められない。」

俺の答えに関羽と言った少女は軽く目を見開き、再びこちらに鋭い視線を向ける。

「仲間がいたのか。…それで他に言っていない事は無いな?隠し事はお前には不利に働くぞ。」

俺は、再び警戒の色を見せ始めた少女に軽くため息を吐いた。…俺が説明をしようと口を開く前に、俺の目は、少女の後ろからこちらに歩いてくる四人の人影を捉えた。そのうち二人が天子と衣玖さんだったので喋る内容を変えた。

「まぁ、説明は、後でいいか?…後ろの二人にもちゃんと話をつけないといけないし、後の二人の説明も聞かなきゃならない。」

俺の言葉に少女は振り向き、俺の見知らぬ二人を鈴々、桃香様。と呼んで駆け寄っていった。…一方で天子と衣玖さんがこちらに来た。

「…で一刀は何か分かったかしら?こちらはかなりの収穫よ。」

天子は真剣な表情で言ってきたので、俺も真剣な表情で返した。

「…あぁ、まだ漠然としか分からないが。此処が何処か何となく察しがついた。」

その言葉に天子は頷いた。

「まず、私が得た情報は此処は中国の幽州よ。…まぁどの辺りかは分からないけどね。…次に現在は、額に黄色い布を巻いた賊が各地でやりたい放題暴れているわ。関王朝はそれを鎮圧することが出来ず、各地の県令に鎮圧の命を下してるけど今の所目立った効果は出てないようね。……最後に私たちと一緒に居た二人の、ちっこいほうが張飛翼徳って名前で、大きい方が劉備元徳って名前よ。」

そう言う天子の頬は僅かに引き攣っていた。

「…俺の方は特に無いが、一緒にいた少女の名前が関羽雲長だったくらいか…」

そこまで言ってから俺と天子は顔を見合わせて答えた。

「「パラレルワールド(平行世界)」」

そこまで言って天子は、はぁ。吐息を吐き出して空を見上げた。

「全く…あの妖怪、なんて所に飛ばしてくれやがったのよ。これは帰るのはかなり難しくなったじゃない。……それ以前にあのスキマ…居るのかしらこの世界に…」

天子はそう言って困った顔で思考し始めたので、俺は衣玖さんの方に顔を向けた。

「衣玖さんの方は何か情報がありました?」

「いえ、私が得た情報も総領娘様の情報と大差はありません。」

衣玖さんは顔を横に振り、そう言ったので俺もそうですかと答え、先の関羽の言っていた事を思い出し、二人に聞こうと口を開いた。

「そういえばさっき関羽から聞いたんだが、此処は黄巾に襲われた後らしくかなりの被害が出てるって聞いた。…後、再び奴等が来た時の為に備えてるっていってた。……俺たちはどうする?関羽からは見て見ぬフリして村を去るか、共に黄巾賊と戦うかって言われたけど。」

俺の問いに衣玖さんは、少し考えたのちに答えた。

「…あまり言いたくはありませんが私たちとは無関係ですし、此処は離れましょう。何も人同士の戦いに私たちが首を「助けましょう。」…総領娘様?」

衣玖さんの答えを遮り、先まで考えていた天子は答えた。

「確かに私たちとは何の関係もないかもしれないけど、私は悪が平然と他を侵略し、我が物顔で暴れるのを見るのは好きじゃないの。……それに恩を此処で売っておけば後で何かの役に立つでしょう。…一番の理由は私が気に入らないからだけど。」

天子はそう言ってニヤリと笑った。衣玖さんは、総領娘様がそう仰るのなら。と助けることを承諾した。俺もどちらかと言うと助ける方が賛成だったから、天子の言葉はありがたかった。

「決まり…だな。」

「えぇ。」

「はい。」

俺たちは劉備、関羽、張飛の三人に向き直った。

「あの、話はまとまりました?」

おっとりとした空気を纏う美少女(おそらく劉備)が聞いてきたので、俺たちは頷いた。…何故か天子が前にでて不敵に笑う。

「私達はその黄巾賊とかの戦いに参加するわ。」

天子の答えに劉備(仮)は、ぱぁ。と花が咲いたような笑顔を向けてきた。…眩しい。

「ありがとう!こ「ただし!」…?」

劉備(仮)の声を遮り、天子は続ける。

「私たちの戦い方には指図しないで。私達は私たちで独自に動くから…それでもいいなら参加するわ。」

「なんだと!それでは軍紀が乱れるでは「愛紗ちゃん!」す、すみません桃香さま…」

天子の答えに関羽がくってかかるが、劉備(仮)に窘められてしゅんとなる……やべぇ、なんか関羽に飼い主に怒られた子犬の幻影が見える。

「それでも構いません!共に戦ってくれるだけでも心強いです!」

劉備(仮)は深々と頭を下げて感謝を示している。その姿に関羽は慌てて劉備(仮)に進言する。

「と、桃香さま!そう簡単に頭を下げては威厳が保てません!」

「愛紗ちゃん。感謝の気持ちを表すのに頭を下げちゃダメっていうのはおかしいと思うの、やっぱり感謝するなら頭くらいは下げないと。」

関羽はですが…と言うが劉備(仮)は取り合わない。そしてこちらに再び顔を向けた。

「改めて自己紹介すると私は性を劉、名を備、字は元徳です。…あ、真名は桃香って言います。」

劉備はぺこりとお辞儀して、また笑顔を向けてきた。…真名?劉備…桃香と言った少女の言葉に関羽は先よりかなり慌てて言葉を紡ぐ。

「と、桃香さま!だから何度もいいますがそう簡単に真名を預けては駄目だと、何度言ったら…」

「もう、愛紗ちゃんそう固いこと言わないで。相手を信用しないと本当の信頼は得られないって言うじゃない。だからまずは私から信じて真名を預けるの。」

アセアセといった擬音が似合いそうなのど慌てる関羽に、桃香おっとりとしかし力強く答える。その答えに関羽は軽くため息を吐く。

「…分かりました桃香さま。……桃香さまを信じてお前たちを信用する。……が、もし桃香さまの信用を裏切ろうものなら私が斬るからな。」

少し威圧を混ぜてこちらを睨む関羽。しかし天子も衣玖さんも涼しい顔だ。…俺は爺さんの威圧感に比べればまだまだ余裕といった感じに流す。

「愛紗はホントにお堅いのだ!…あ、鈴々は性を張、名を飛、字を翼徳っていうのだ!真名は鈴々な~のだ♪」

今まで黙っていた張飛…鈴々が元気よく答え、それに関羽が鈴々!?と困惑した声で名を呼ぶ。…しかし真名って何だ?

「ほ~ら、次は愛紗ちゃんの番よ。」

「番な~のだ。」

桃香と鈴々に急かされ、苦虫を噛んだかのように顔をしかめながら関羽はしぶしぶ名乗る。…ホントに嫌そうな顔だな。

「っ……わ、私は性を関、名を羽、字を雲長という。……桃香さまの言う通りにお前たちを信用するから真名を預ける…真名は愛紗だ。」

まさしく仕方なく俺たちを信用する。といった感じの自己紹介だった。

「…俺は北郷一刀。北郷が性で名が一刀だ。…所で疑問に思ったんだが真名って何だ?」

俺の問いに三人は可笑しなものでも見つけたかのような目線で見つめた。

「えっと、北郷一刀さん「一刀だけでいい。」…一刀さんはそれを本気で言ってるのですか?冗談じゃなく。」

桃香が恐る恐るといった感じに聞いてきたので、首を縦に振ると驚愕の表情で見られた。

「えと、他のお二人は真名の意味を…「知らないわ。」「存じ上げておりません。」…そうですか。」

桃香は少々信じられないような事が起きたような表情をしていたが、すぐに説明をしてくれた。

「真名というのはその人の本当の名です。親しい人や家族しか呼んじゃいけない神聖なものです。その人の本質を表したものですので、例え知っていても本人の許可無くその名で呼ばないのが約束事です。……あ、私は真名で呼ばれると嬉しいです。」

最後にそう締めくくって桃香はニコリと笑った。

「ふーん、なら俺の真名は無いな。……あえて言うなら『一刀』が俺の真名になるかな?」

「――え!?」
「な!?」
「ふにゃ!?」

俺がそう言った時、桃香と愛紗と鈴々は驚きの声を上げた。

「…俺、なんか変なこと言ったか?」

三人の反応に俺は首を傾げるが三人は呆れぎみだ。

「…いや、桃香さま以上に自分の真名に無頓着なヤツを私は始めて見た。」

愛紗は物珍しく俺を見て。

「お兄ちゃんのような人初めてなのだ。」

鈴々は目を真ん丸くして俺を見る。

「……」

桃香は目を点にして呆れ顔だ……何故か桃香にそんな顔をされるのは遺憾な気がする。

「その位にしまして。次に移りましょう。」

手をパンパンと叩き、衣玖さんが場の空気を変えた。

「私は、比那名居 天子。こちらの真名に当てはまるのは……『天子』ね。」

何故か天子は真名の所で一旦、考えてから答えた。……他の名でも持っているだろうか?

「私は、永江 衣玖と申します。こちらで言う真名は『衣玖』でしょうね。」

衣玖さんはそう言ってからお辞儀した。



互いの自己紹介が終わった俺たちは、来る黄巾賊の戦いに備えて酒場の部屋の一つを借りて様々なことを話し合った。連携、陣形、指揮。しかし俺を含む三人は基本は遊撃になるので基本的な事しか話せなかったが、それでも俺には有意義な話し合いとなっている。天子と衣玖さんは何故か参加せず、何事かをずっと相談している。

…たまに聞こえてくる囁きに「私が地震「先憂後楽の剣」を使って…」だの「雷符フィーバーですね…」だのが聞こえてくるが俺には何のことかさっぱり分からないが、何となくすごく嫌な予感を覚える。

その後、愛紗が黄巾賊がこちらに向かって来ている。と斥候をしていた村人から連絡受け、そこで俺たちは話し合いを終わらせて、村が戦場にならないようにと急いで黄巾賊の来る方へと出陣した。
黄巾賊の戦力は2千、対するコチラは千と少し…戦力差は二倍近く違うが、何故か負ける気がまったく持てなかった。どちらかというと天子と衣玖さんから物凄く物騒な気を感覚的に感じていた…ありたいに言えば体中の皮膚がピリピリと痺れに似た何かを感じ取っていた。…この時から俺のちょっとした不幸が始まっていたのかもしれない。


             ―続く―

 あとがき

黄巾賊終了のお知らせ。

改訂。読め易くなったかな?



[11636] 3 ―有頂天変―   (改訂)
Name: 彷徨う吟遊詩人◆a7a52965 ID:b2191fa6
Date: 2009/11/28 12:36
「いいのか?俺が加わっても?」

「いいのいいの。一刀さん、義勇軍は、元々即席の軍です。今更一人新たに隊列に加わっても、それほど影響はありませんから安心してください。」

「…いや、そう言われても…」

…今、俺は桃香の軍にいる。なぜなら俺と共に別行動の筈の天子と衣玖さんから、此処に行けと言われたからだ。その経緯を思い出すと…








  ―少し前、進軍中―

「一刀。貴方、桃香の軍に行きなさい。」

「はぁ?何だよ藪から棒に。」

俺たちは、黄巾賊の進路方向にある森に向かって進軍している。その最中に隣で歩いていた天子から、急にそんなことを言われた。

「…私と衣玖はやることがあるけど、それにはあんたが足手まといでね。私と衣玖は別行動するからその間、桃香の軍に居なさい。別行動してる間に、知り合って間もないとはいえ、あんたに死なれたら流石に目覚めが悪いから、私たちが居ない間で今現在で最も安全な場所、即ち桃香の軍に行きなさいって訳よ。…気休め程度とはいえ、一人でいるよりは余程生存率が高いわ。」

天子が何故かそっぽを向きながらそんな事を言ってきた。が、俺もそれなりとはいえ腕に自信がある。そのことを言ったら天子にじゃ、飛べる?空。と言われて撃沈した…流石に空は飛べない。

「一刀さん、総領娘様は貴方のことを心配なさっているのです。…もちろん私もです。ここは大人しく言う通りにしていただけませんか?」

「…分かった。ここは大人しく桃香の軍に加わるよ。」

衣玖さんの言葉に頷き、俺は桃香の軍に移動しようと足を向けた時、ジト目で俺を見る天子を見つけた。

「……えっと、何でそんな目で俺を見る?」

「………べっつにぃ。…………ただ、私の言うことには反論したのに、衣玖の言ったことにはやけに素直に聞くなぁ…って、思って。」

そう言ってからフンッと顔を背けた。……全身で私、不機嫌です。って表してるな。

「いや、流石に心配してもらってるのに、駄々をこねるほど子供じゃないだけさ。」

俺がそういうと、天子はカッと顔を赤くしたあとに、凄い剣幕で喋りだした。

「べ、別にあんたのことはそれほど心配しないこともあったりなかったり!?だけどあんたが無理やり私たちについて来て万が一私や衣玖の攻撃範囲に入って相手もろとも吹っ飛んでしまわないかと思ったり思わなかったり!?そして何よりあんたの事を友達と思ってたり思わなかったり!?」

顔を赤くし、両手をバタバタ振り回してアワアワと表現できそうなくらいテンパッている天子を、俺は暖かい視線で見た。…衣玖さんも微笑ましそうに天子を見ていた。
それに天子は気付き、ハッとした表情をした後、軽く咳払いして続ける。

「と、とにかくあんたは大人しく桃香の所に行きなさい………って頭を撫でるな!生暖かい目で私を見るなぁ!衣玖!貴女もそんな微笑ましそう目で見るな!アラアラウフフって違うから!?それ、貴女のキャラじゃないからぁ!?」

なんとか威厳を保とうとするが、まだ顔を赤く染めたままなので、かえって微笑ましさに拍車がかかっている。俺はつい頭を撫でてしまい、それにより天子は、うがーっといった感じに咆えるがカワイイだけだった。




「じゃ、桃香の所に行ってきます。」

俺は衣玖さんたちに手を振ってから、移動する。

「はい、お気を付けて。」

衣玖さんは軽く手を振ってくれた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

天子は恨めしそうな目で俺を睨みつけた。…返事をする気力が無いか。







そして俺は二人と離れて桃香の所へ行き、今に当たる…と。

「まもなく、ですね一刀さん。」

「…どうやらその様だな。」

…軽く現状把握してる間に黄巾賊が近づいている、と連絡がきた…もうまもなく作戦開始…だな。

「…ふぅ、もうすぐ実戦か……それも殺し合いの。」

俺は、爺さんの霊木刀【緋想】をグッと握りしめた。……もう一度、作戦内容を確認した方がいいな。

「桃香。今一度作戦内容の確認がしたい。…説明してくれない?」

「あ、はい分かりました。いいですよ。」

俺の問いに桃香はすぐに答えてくれた。

「まず、わが軍の戦力と敵軍の戦力を見てもらいます。」

そう桃香が言うと、すっと手書きの地図が桃香に手渡され、桃香はそれを広げる。


       ―義勇軍―      ―黄巾賊―
      劉備軍―500     黄巾頭―1000
      関羽軍―300     黄巾副長―500
      張飛軍―200     黄巾副長―500
      工作兵―20

「…見ての通り、敵の戦力はわが軍の二倍は有ります。このまま激突すれば敗北は必須、故に我々は…」

桃香は其処まで言って、地図にある山道とそれを越えた先にある森をさす。

「黄巾賊がこの村に行くために最も近い道のりにある、この山道のある森と、それを越えた先にある山岳地帯を主戦場にします。…此処ならば数の不利を地形で賄えますから。……そのため何としても機制を制しなければ、相手の数の暴力に飲まれます。…私達は陽動部隊として、敵を愛紗ちゃんが伏せている場所まで釣らないといけません。…上手く釣って敵軍を誘き出せたなら鈴々ちゃんが罠を使って敵を分断してくれます。後方の分断した方の敵軍の足止めは鈴々ちゃんがしてくれるので、出来るだけ素早く形をつけないと罠が無くなったり別の道に行った敵軍に回り込まれるか増援を呼ばれる恐れがあります。…万が一、森で倒せなかったら山岳地帯へと退却します。そこで追ってきた敵兵を討ちつつ、天子ちゃんが指定した場所に誘導。そこで決着をつけます。一刀さん頑張りましょう!」

「あぁ、分かった。頑張ろう…」

桃香の説明の要点を再び頭の中で整理する。

1、山道を進軍中の黄巾賊を夜襲する。山道の中で木々が多く、数の力を生かせない場所を選ぶ。

2、劉備軍は囮で釣りの釣り餌。適当な所で退き、関羽軍が隠れている場所へ敵軍を誘導する。

3、誘導に成功したら敵軍は、火計の罠と挟み撃ちで混乱する筈だからそこを叩く。…万が一罠が失敗したら即、山岳地帯へ退却。

4、分断に成功した場合は、劉備軍と関羽軍で挟撃。…撃破に失敗しても深追いせずに山岳地帯へ行くように誘導。

5、万が一森で決着が着かなければ山岳地帯に入って天子が指定した場所に移動、そこで決着を付ける。

……これで合っているな。

「一刀さん!来ました!」

「!」

桃香の声に俺は素早く反応し森の中を見つめる……………見つけた!
森の中で動く黄色いものを発見した。






「……皆さん。」






桃香の声が静かな森に響く。そして………










「作戦開始です!!」









号令は下された……!




「な、何だて、ガ!?」

「悪いがお喋りしている時間は無いんだ。」

俺は緋想を敵の首に叩き込む。ゴキリと嫌な音が鳴って敵は驚愕の表情を張り付けたまま地に倒れた。…俺は敵が死んだかどうか確認せずに緋想を振るう!

ギインッ!

「なっ!?ガフッ!!?」

右から切りかかってきた敵の剣を弾き、無防備な喉元を突く。くじゃりと嫌な感触が手にきたが、構わずにその場から飛び退くと今までいた場所に数本の矢がトストスッと軽い音を立てて刺さる。…何故か俺は辺りを見渡す事をせず、周りで何が起こっているのかが手に取るように分かった。…弓を撃ってきたのはアイツか!

「ヒ!う、うわぁ!グゲッ!?」

俺にが近づくと相手は後ろを向けて逃げ出した。…バカが、戦いの場で背後をさらすのは愚の骨頂だ…と相手を罵りつつ、容赦なくその無防備な首に緋想を叩き込み、骨をへし折る。

「っ!」

その瞬間、俺はその場に屈んだ。次の瞬間さっきまで俺の首の有った辺りを剣が煌く。

「何!?」

完全にスキを突いたと思ったのだろう、俺の首を斬ろうとした敵は間抜けにも、一瞬動きが止まった。

「バレバレだよ、間抜け。」

「ごふぅ!!?」

―だがその一瞬を見逃すほど俺はバカじゃない。素早く体勢を立て直し、緋想の一撃を叩きつけた。敵は吹っ飛び、木に叩き付けられた。口から大量の血を吐き出し、絶命した。

「……」

俺はその様を冷静に見つめた。…いや、何処かおかしくなっていたのだろう、強烈な死に対する恐怖と人殺しの罪の意識、そして本物の死の戦場の空気で。




………どの位経っただろう?五分?三十分?一時間?俺は時間経過を全く感じていなかった。知らず知らずの内に陣からはぐれしまった俺は、孤立無援の森の中。緊張が一時も解けず、心臓が痛いくらいバクバクと脈打つ。…敵を倒した数は25を越えた辺りから数えていない。………っ!?………

シャ! ギイン! ダッ! ボキリ! どさっ。

…まただ、見えていない筈の後方の弓兵が見えた…いや、観えた。俺を中心とした半径15メートル内の事が手に取るように分かる。……しかも、まだまだ範囲が拡がっている。

カーン、カーン、カーン…

…っ銅鑼の合図!陣はあっちか!


―この時、俺の能力の一端が発揮されていたのを、俺は後に知ることとなった―




「一刀さん!良かった、無事だったんですね。」

「桃香。もちろんさ、そうそうはやられはしないさ。」

俺は戦いの最中に、集中のし過ぎで陣からはぐれて、途中から孤軍奮闘ぎみだったが、何とか桃香の軍まで辿り着いた。

その後、桃香と共に逃げるフリをして、愛紗が潜むポイントまで黄巾軍を引き寄せることに成功した。

「今だ!火を放てぇ!」

愛紗の合図で配下の人たちが森に火を放つ。特定の木々や草むらに油を塗り火の通り道を作ったので、火が油に沿って一気に森と黄巾軍を焼く。

「う、うわぁ!」
「ぎゃぁぁぁ!」
「火、火が!誰か早く消化しろぉ!」

燃え上がる火に黄巾軍は飲まれ、著しくその士気と数を減らしていく。

「今こそ好機!突撃ぃ!!」

「愛紗ちゃんに続いて!わが軍も突撃します!」

愛紗が猛々しく咆え黄巾軍に突っ込み、桃香がそれに続く。混乱中の黄巾軍はそれに対応できず、次々と倒れていく。…俺も、敵を倒しながらあの不可思議な感覚で周りを『観』る。…お、愛紗が黄巾の頭らしき奴と戦うみたいだ。

「よくもやりやがったな、小娘が!この何儀様が直々に相手してやる!」

「黄巾の大将と見た!貴様を討ち取り、黄巾軍に止めを刺させてもらう!」

何儀と愛紗…まぁ、愛紗が勝つだろう。…何たって相手は何儀みたいだし。


「死ねやぁぁぁぁ!!」


何儀は愛紗に向かって槍を繰り出すが、やはり遅い…案の定、愛紗は余裕を持って回避している。そして焦れた何儀は渾身の一撃を出そうと構えた…終わったな…そして何儀が攻撃を繰り出す前に、愛紗の青龍偃月刀がその武器ごと何儀を真っ二つにしていた。


「敵将!討ち取ったりぃぃぃ!!」


愛紗の勝利の雄たけびが辺りに響く、そして、その内容が伝わる時、黄巾軍は総崩れになった。………やっぱ頭失うと崩壊早いな。




「やったね!愛紗ちゃん!」

「桃香さま、喜ぶのはまだ早計です。早く鈴々が抑えている黄巾軍を倒さなくては!」

愛紗が敵将に勝てたことに喜ぶ桃香を愛紗が嗜めて鈴々が抑える黄巾軍へと俺たちは進軍した。



「遅いのだ!もう何人か逃げちゃったのだ。このままじゃとってもまずいのだ!」

俺たちが鈴々と合流した時は一足遅く、敵の何人かが逃げた後のようだ…まぁ、残っていた黄巾軍は皆でぼこ殴りにしたが…これはかなりまずい状況だろう。

「桃香さま、これはかなり危険です。このままでは……」

愛紗が苦悩と苦心と悔しさが混ざった表情をしている。

「…ごめんなのだ。鈴々が敵を抑え切れなかったのが悪いのだ。」

鈴々はしょぼんと肩を落としている。

「……………」

桃香は難しい顔をして何かを考えている。

「…とりあえず今は疲れをとるために少し休もう。」

俺の提案に愛紗と鈴々は肯定してくれたが桃香はさっきから何かを考えているのか何も答えてくれない。

「………ねぇ、皆。私ね、確かめたいことがあるの。」

難しい顔をして考えていた桃香は意を決したように放し始めた。

「天子ちゃんの事なんだけど…愛紗ちゃんは私が何が言いたいか分かるよね?」

桃香の問いに愛紗はコクリと頷く。

「天子…この名は元来漢の皇帝の別称です。その名は神聖が高く、決して他の人が名乗っていい名では無い。……それなのにあの子は自身の名を平然と天子と言っていた。……この事から伺うにもしかして桃香さま…」

其処まで言って愛紗は何かに気付いたように桃香を見る。そして桃香もコクリと頷く。

「天子の名を名乗っていいのは漢の皇帝か…もしくは皇帝と同じくらい貴きお人……『天の御使い』様だけ…」

桃香はそう言うと大きく息を吐き出した。

「世が乱れ、世界に悪雲たちこめる時、天は使者を使わすだろう。そのもの乱れし世を正し世界に蔓延る闇を払うだろう。………これがこの国に伝わる『伝説』…『天の御使い』です。もし天子ちゃんがこの伝説の御使い様なら名が天子でもおかしくはないの……それを確かめたいの。」

…俺は桃香の台詞に記憶の中で何かが閃いた。

―私は天子、比那名居 天子(ひななゐ てんし)よ。天界に住む天人で…―

……!?

「まさか…?」

つい、呟いたがその呟きが誰の耳にも届かなかったのは幸いだったが、俺は盛大に混乱中だった。…そして混乱している間に話が纏まり、増援の黄巾軍は天子の指定した場所に誘導する事となった。










そして朝明けの時間帯、地平線から太陽が昇る一歩手前の時間に奴等はきた。

「黄巾軍増援、数4000まもなく来ます!」

物見からの連絡で黄巾軍の大群が来たのを俺は驚愕した。

「4000…思った以上に多いですね。でも…全軍、手筈通りにね。……上手く誘導してね。」

桃香の問いに全員が答え突撃する。

「はぁぁぁぁ!」

「うりゃうりゃうりゃ!」

「いやぁぁぁ!!」

「おおおおおお!」

関羽軍、張飛軍、劉備軍+αの順番に突撃してある程度黄巾軍を引っかき回したらUターンして山岳地帯へと駆け上がる。…案の定、黄巾軍は猛然と追ってきた。
    


「走れ走れ!もう少しで天子が示した位置だ!」

「うにゃ!頑張るのだ!後ちょっとなのだ!」

「皆さん!あと少しです!頑張ってください!」

愛紗、鈴々、桃香の三人の激励を受けて殆どの体力を使い果たした義勇兵たちは気力を振り絞り険しい山を登る。



……そして―――

「つ、着いたぁ。」

「此処が指定した場所…?何も無いじゃないか。」

「此処って高台の丘…だよな?見晴らしが良いだけの。」

―――時は来た。


俺は下を見ながら考える。…此処は見晴らしが良いだけで特に罠がはれる所が無い…ならば何故?此処で無ければならない理由はなんだ?…其処まで考えて下に黄巾軍が見えたので思考を中断した。

「チッ此処じゃ隠れる所なんか…!」

と其処まで言ってから何かが聞こえた。



               ―雷符「エレキテルの龍宮」―



バリバリバリと音を鳴らし、夜明けの雲から雷撃が黄巾軍に落ちる―――!


「な!?」
「え!?」
「にゃ!?」
「!?」

俺たちは黄巾軍に雷が落ちた時の音に驚き、殆どのやつがしりもちをついた時にその声は響く。


      ―天が呼ぶ!地が呼ぶ!人が呼ぶ!悪を倒せと私を呼ぶ!―

俺たちの高台の後ろから、五メートルは在ろう石に注連縄?を結んだだけの岩の上に彼女は立っていた。…ポーズをとって。

「て、天子?」
「天子ちゃん?」
「「…」」

俺たちは呆気にとられたが天子は構わず続ける。

「私がきたからにはもうあんた達の好きにはさせないよ!黄巾軍!」

ビシッと先の落雷で混乱真っ只中の黄巾軍を指差す。…いや、来たとかじゃなくて出待ちだろ?とは言わない、俺だって空気くらいは読める。……さっきまでの殺伐としたドシリアスが天子の登場で吹っ飛んだ。

「皆は此処で私と衣玖の勇姿を目に焼き付けてて!行くわよ!衣玖!」

「はい、お供します。総領娘様。」

そう言って何処からとも無く現れた衣玖さんを連れて、とうっ!と掛け声と共に高台から『飛び立った』。

「えぇ!?」
「空を飛んでるのだ!」
「……」

桃香は驚き、鈴々はしゃぎ、愛紗は呆けている。



……其処からはもう天子と衣玖さん無双だった。おーおーまぶしーなー、いなずまがピカーって…おお、どこからともなくおおいわが!…現実感皆無だなぁ(黄昏)


…え?他に言うこと無いかって?
……あの光景見たらきっと俺と同じ感想しか言えないぞ。











           ―地符「不譲土壌の剣」―

天子が緋色の剣を地面に突き刺す。その瞬間、周囲の地面が天然の槍となり、天子の近くにいる黄巾賊はばったばったと倒れていく。

「まだまだ!次いくよ!」

           ―地震「先憂後楽の剣」―

再び天子は剣を地面に突き刺す。…しかし今度は何も起こらない。

「…3…2…1…どっかーん!!」

突如として黄巾軍のいる辺りに局地的な大地震が発生。地は砕け大口を開ける、何割かの黄巾賊はその大口に落ちていった。

「あっはは!まだまだ!これからだよ!」


ざしゅっ!

「や、やった!」

一人の黄巾賊が天子を後ろから切りつけたが…

「今、何かした?」

服の背の部分は少し破れたが、肌には全く傷がついていない。黄巾賊はそのことに気付き、在り得ない者を見る眼で天子を見た。

ドスッ!

気付いた時には黄巾賊の腹に緋色の剣が刺さっていた。…黄巾賊自身は何がなんだか分からない内に逝けたことがある意味、幸せだったかも知れない。

「…さぁてと、次は誰?」

天子は獲物を求めて他の黄巾賊に躍りかかった。










            ―電符「雷鼓弾」―

衣玖さんの目の前に雷球が出現し、周囲に散っていく。その速度はお世辞にも速いとは言えない。黄巾賊は最初は驚いたようだが、余裕で避けて衣玖さんに襲い掛かる。

パンッ!  バリバリバリ!

黄巾賊が避けた雷球が弾け周囲に雷撃を撒き散らし衣玖さんに群がる黄巾賊を一撃のもと感電死させる。が、うち何人かが『運悪く』生き残ってしまった。衣玖さんはその生き残りに目もくれず、右手を上げ人差し指で天に指し、左手は腰に掴むポーズをとる。生き残った黄巾賊は好機とばかりに衣玖さんに掴みかかるがその前に…


           ―雷符「エレキテルの龍宮」―

先の雷撃を越える『雷』そのものに身を焼き貫かれ、一瞬にして識別不能なまでの真っ黒こげなナニカになってしまった。衣玖さんは何事もなかったが如く雷球を作り出す。


            ―雷魚「雷雲魚遊泳弾」―

作り出された雷球は先の違いゆっくりとではあるが黄巾賊を追尾するように動いている。さらにその雷球を五個に増やし、周りに放った。衣玖さんはその雷球の動きは見ず、最も黄巾賊が密集している場所を探し、見つけ次第。
衣玖さんが纏う羽衣が腕に螺旋状に巻きつき帯電する…!



            ―魚符「龍魚ドリル」―

まさしく削岩機のようになった羽衣が、黄巾軍をガリガリと削ってゆく。それを止めようとした者は、例外なくドリルでミンチにされるか、纏う雷にこんがりと焼かれるのである。衣玖さんがその場でふわりと浮き上がる。そして周りの空気が急速に帯電し始める…

「……少々本気で行きますよ?」


           ―龍魚「龍宮の使い遊泳弾」―

衣玖さんの羽衣に超高電圧の雷球が発生し、雷球が衣玖さんの周囲を覆う。そしてその羽衣を振り回すと、羽衣の先から螺旋状に雷球が飛び出し、周りの黄巾賊に喰らいつく。

「私の雷から逃れることはそうそう出来ませんよ?」











…まさしく一方的な戦いだな。たった二人だけなのに、4000もの軍をもう半分近く屠っている。……現実離れしてんなー……

「お強いのですね天子さま…」
「衣玖姉ちゃん格好良いのだ!」
「凄い…これが天の御使いの力ですか…」

…現代人の俺からすれば、まさしくゲームみたいな一方的な戦いは、見ていて呆れなどが先に来るが、この時代の人には受けがいいみたいだった……俺は軽くため息をはいた……お?今度は何をするつもりなんだ?天子の奴。











「うん、この位置なら最小限の威力に絞れば『アレ』が撃てるわ!」

天子はそう言うと緋想の剣を天に掲げる。

「皆の気質を私に分けて!」

などとのたまった。…マテマテ、あれか?元○玉か?
俺が困惑する中、敵味方関係なしに体から緋色の煙が発生し、天子の剣に集まって凝縮されてゆく…

「きたきたきた!いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」


                ―「全人類の緋想天」―

天子が剣を振り下ろした先から緋色の極太レーザーが発生し、大地を抉りながら黄巾軍に突き刺さる。…さらに持っていた剣の右に左に揺らし、微調整しながら残った黄巾軍を纏めて消し去っていった。………もはや何も言うまい。

「素敵です天の御使い様…」
「すごいすごいすごいのだ!」
「天の御使い様…」

俺一人、引いてる中で他の人たちは天子に向かって(一部衣玖さん)大歓声を上げる。…丁度朝日が昇り、天子の背に重なり、後光っぽくなってるのも後押しか?

俺はこの後に起こるであろう事を考えて一人ため息を吐いた。

            ―続く―

 あとがき

天子(目立ちたがり+天人)+恋姫の設定(天の御使いうんぬん)=フラグ成立!

b「だったんだよ!」  ΩΩΩ「な、なんだってー!?」

  改訂。読み易くなればいいな。



[11636] 4 ―天人の幼心を理解しなければ共に歩めぬ―
Name: 彷徨う吟遊詩人◆a7a52965 ID:b2191fa6
Date: 2009/12/19 20:51
…無事、黄巾賊を撃破した俺たちは、村へと戻り、そのことを村に残っていた村人たちに報告した。そしたら村を上げてのささやかな勝利の祝杯を挙げることとなった。これで俺たちはもう怯えずに明日を過ごせる。と村人たちに感謝されるが、俺は人の命を奪った罪悪感から素直に喜べず、こっそりとお祭り騒ぎの途中から抜け出していた。


「……………ふぅ、やっぱり気持ちが上がらない。……昨日の今日だからかな…?」


俺は人気の少ない場所へ移動し、崩れかけた民家の壁にもたれながら自身の手を見る。………返り血は一切受けてないにも関わらず、俺の両手は真っ赤に血塗られているように見えた。

「……………。」

俺は空を見上げ気弱になっていた自身を嘲笑う。この平行過去の世界に落とされ、殆ど間を置かずに戦乱に巻き込まれたがゆえに気弱になってこんな事を考えるのだ…と。

「…確りしろ北郷一刀。逆境の時こそ冷静に自分を見つめるんだ。……答えは自ずと見えてくる。」

自分で自分に活を入れ、改めて心を落ち着ける。……ふと、視界に何かが過ぎった。

「………?」

俺は空を見上げ、何かが過ぎた方向に目を向ける。……澄み渡った青空にぽつんと黒い影があった。……あれは…

「衣玖さん?」

そう、衣玖さんだ。何時も天子の側に控えていた。……でも今は一人だ、いったい何が…?…あ、俺を見つけたみたいだ、こっちに来る。

「一刀さん。探しましたよ、こんな所で如何なさったんですか?」

俺の前に降り立った衣玖さんは、俺にそう問いかけてきた。

「えと、何だか気分が乗らなくて一人になれる所を探してたらここに………って俺を探してたんですか!?」

「はい、何だか一刀の様子がおかしいと総領娘様が仰り、このお祭り騒ぎの中で居なくなりましたので…何か遭っては大変だと探していたのです。」

驚く俺をしり目に、衣玖さんは淡々と答える。………気のせいか俺を見つめる目線に責める色と俺を心配そうに見る色があるように思える。

「…すみません。ですが昨日の今日なので気持ちの整理がつかなくて……」

「…それで落ち着ける場所を探して抜け出した…と?」

俺はコクリと頷き、衣玖さんを見る。…衣玖さんは頬に手を当て軽く、はぁと息を吐き出した。

「分かりました。出来るだけ早く戻って来てください。…総領娘様には私からそれとなく伝えておきます。」

「…助かります。」

俺は頭を下げ礼を述べる。衣玖さんはふわりと空に浮き上がってから俺を見る。

「……何に悩んでいるかは何となく分かります。ですがあまり自分を責めないでください。………自責の念は時として思いもよらない災いを招きよせる事がありますので。」

では。と、語り終えてから衣玖さんは空へと舞い上がり、お祭り騒ぎの方へと飛んでいった。

「はは。……敵わないなぁ、衣玖さんには。お見通し……か。」

衣玖さんが飛んでいった方を見ながら俺は笑う。……不思議と気持ちが軽くなった様な気がした。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

…詰まらない。それが私が抱いた感想だった。

「…で?その天の御使いとやらが私だと…そう思う訳ね、貴方たちは。」

「…はい、天子ちゃ…いえ、天子様こそ、この乱れ始めた世を鎮めるべく天の国より使わされた使者様だと、私達は思っております。」

私の前で膝をつき、頭を下げているのは、名を劉備元徳、真名を桃香という私がこの世界に落とされてから知り合い、友達になれるかも、と思った少女だった…が、今ではそれも夢のまた夢。私を何と思ったか天界より使わされた乱れた世を治す使者だと言って、今、私に向かって臣下の礼をとっているのだ。

「……確かに私は天界に住む天人よ。でも、この世界に来たのは全くの偶然。…貴女達が言った天の御使いでは無いわ。」

「いえ、私達は貴女様がきっと世を正してくれると信じております。」

…私の言ったことを真っ向から否定し、私に『天の御使い』の役としての言葉を待っているようだが………詰まらない。彼女の隣では関羽…愛紗も私に向かって頭を下げている、その身からは何の不満も感じられず、彼女も私が天の御使いだと思っているのだろう。……唯一の例外は張飛…鈴々だ、彼女も頭を下げているが体から不満がありありと見え、不服ながら臣下の礼をとっていると分かる。

「…とりあえずこの話は後、今はこの村が無事に黄巾賊の魔の手から救われた事を祝いましょう。」

私がそう言うと劉備と関羽はですがと食い下がる……めんどくさいわねこういうの。衣玖の方に任せた方が楽なのに何処行ったんだか。一刀の姿も見えないし、詰まんないわね…二人と違って鈴々は意気揚々と私にじゃれ付いてきた。

「えとえと、天子ちゃん凄かったのだ!黄巾賊の奴等がバカーンてドカーンてなってて凄かったのだ!」

鈴々は無邪気な笑みを浮かべ、身振り手振りでいかに私が凄かったのか表したいようだが言葉足らずで、少し伝わり図らいみたい……可愛いからいいけど。

「鈴々!」

「にゃ!?」

私にじゃれ付いていた鈴々に関羽が怒鳴り、鈴々は身を竦ませる。……今のは、ちょっとイラッときたかな。

「な、何をしているんだお前は!」

「で、でも愛紗…」

でもも無い!と鈴々を叱る関羽……これはちょっと語り合う必要がありそうね。主に格闘弾幕ごっこで……でも関羽は出来ないか…仕方ない。

「ちょっと待って。」

私が声をかけると関羽はすぐに何ですか?と返してきたので私はお酒を用意するように言うと。

「は?お酒…ですか?分かりました。しかし、お酒を何に…」

困惑の表情で私を見る関羽に私はつい、クスリと笑ってしまった。

「ふふ、決まってるじゃない。飲むのよ、貴女とりゅ・・桃香の三人でね?……鈴りーん!私は二人とお話しなきゃならないから貴女はあっちで衣玖に何かお話してもらっておきなさい!」

私は遠め目で何処からか帰ってきた衣玖を見つけたので鈴々に衣玖がいる方を指す。すると鈴々はすぐに衣玖を見つけ、分かったのだー!と言ってから嬉しそうに駆け寄っていった。……さて、と私は関羽が持ってきたお酒を杯にいれ関羽と劉備に押し付ける。どこぞの子鬼と飲み比べをしている私に二人が何処まで着いてこれるか、飲み比べと行きましょうか。

「さ、遠慮せずに飲みなさい。たっぷりと時間はあるのだから。」

杯をぐいっと呷り、お酒を飲み干してからニヤリと笑う。二人とも困惑気味だが構うものか…私を不愉快にした礼はたっぷりと返してあげるから。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


……それから数刻、空を見ながら気持ちを落ち着け、感情の整理をつけた。…もう空は赤く染まり夕焼けが美しく映える。

「……さて、そろそろ戻るとするかな?…お祭り騒ぎの後からがおそらく本番になるかもしれないし…」

そう、今回の戦いで俺も含めて多くの人が天子と衣玖さんの戦いを見た。……まさしく人智を超えた戦いを……それからの予想はそれほど多くない、人は自身が到底敵わないと思った存在には分かりやすい反応しか返さないからな……因みに俺は例外、伊達にバケモノ爺さんを長年、相手にしてきたわけじゃない。……そして返す反応というのが…

憧れ、羨望、信仰、恐れ、嫌悪、拒絶。……の六種類、前半の三つはいいが後半の三つだった場合は最悪、人の輪から弾きだされる。前半でも悪い場合、祀り上げられ、身動きがとり辛くなり、気が付いたら雁字搦め…何てこともある。……まぁ、昨日の反応を思い出すようじゃ、後半三つは無いと考えて良さそうだな…でも祀り上げられる可能性はかなり高い…天の御使いか、どんな者かは昨日の説明で大体は分かっているが……と、今は其処まで考える時じゃないか。早く戻らないと…







俺がお祭り騒ぎの会場に戻った時には日は沈み、夜空が月と星々に輝き始めた時だった。

「かぁずとぉ~さぁん!のんでますかぁ~?」

…戻った俺を最初に見つけたのは桃香だった。……顔を真っ赤にしすでに出来上がっているようだ。……あと息が酒臭い。

「あぁ、少し風に当たっていただけだ。……あと明日に響く、酒は適度に飲みましょう。……てな。」

俺はヒョイと桃香が持っていた酒を取り上げた。

「あぁん、いじわるしないでぇ。わたしのおさけかえしてぇ~」

「うおぉ!?ちょ、桃香!?ヤバイ!何がヤバイって色々と当たってヤバイ!」

俺に取られた酒を取り返そうと身を乗り出し、俺にもたれる様に酒に手を伸ばす桃香の、ふくよかな胸やむっちりした太ももが当たって色々とヤバイ。あと顔を赤くし、目も潤みトロンとしているから普段の清楚感が無くなり淫靡さが前面にでて俺の理性をガリガリと削って行く……ってちょ!?ま!?当たってる!当たってるから!?り、理性が!理性がガリガリ削れるぅ!!?

「とったぁ~。えへへ、かずとさぁん、おいたはだめですよぉ~。」

俺が動揺してる間に酒を奪い返し、大事そうにぎゅっと抱きしめながらトロンとした笑みを浮かべ、俺を叱る桃香。……並みの男ならその仕草だけで襲われること請け合いな感じだ………俺も結構危なかった。

「そ、それじゃ、俺は他の所に行ってくる!」

動揺を抑えきることが出来ず、声が上擦ってしまったが何とか桃香から離れようとするも、肝心の桃香が不満そうに絡んでくる。

「かずとさぁ~ん、そういわずにわたしとおさけのみましょ~よぉ。」

ウフフと妖しい笑みを浮かべながら俺ににじり寄る桃香……てかお目付け役(っぽい)愛紗はどうしたんだ!?

「そ、そういえば愛紗はどうしたんだ?」

「え~と、あいしゃちゃんはぁ~さっきまでいっしょにのんでたんだけどぉ~いまはぁ……ほらぁ、あそこでおねんねしてるよぉ。」

そう言った桃香の指差す方を見ると壁にもたれながら顔を真っ赤にし、ぐっすりとお休み中の愛紗が目に入った。…ガッテム!既にダウンしていたのか!?

「のもうよぉ、そ・れ・ともぉ~わたしのおさけはぁ、のめないのぉ?」

「いや、えっと………」

段々と目が据わってきた桃香に押されて困った俺は、周りに助けを求めて視界を彷徨わせるが周りは飲めや歌えやで助けてくれそうなのはいな………居た!

「衣玖さん!ちょっと助けて!」

少し離れた所で衣玖さんと鈴々が談笑しているのを見つけ、俺はヘルプを求める。衣玖さんは俺の声に気付いてこちらに来てくれた。(鈴々も一緒に付いて来たが…)

「一刀さん如何しました?≪お帰りなさい。総領娘様には私から言っておきましたので何処に行っていたかは聞かれないと思いますが寂しがっていましたよ?≫」

「お兄ちゃん如何したのだ?…うわ!お姉ちゃんベロベロに酔ってるのだ!」

衣玖さんは俺に尋ねながら小さく耳打ちして、鈴々も俺に尋ねるが隣で酒を両手で大事そうに抱きしめる桃香を見て驚いていた。

「いや、桃香に捕まっちゃってさ、なかなか放してくれないんだ。」

俺がそう言うと衣玖さんは納得気味に頷き、鈴々は不思議そうに首を掲げた。

「分かりました。桃香さんの相手は私がしておきます。」

「でもおかしいのだ。お姉ちゃんがこんなに酔うまでお酒を飲むのは愛紗が許すはずがないのだ。」

「そうしてもらえると助かります。…後、愛紗はあそこでお休み中だ。」

俺は衣玖さんに頭を下げ、鈴々には愛紗がダウンしている方を指差す。鈴々は愛紗の有様を見て、驚きながらも納得して、愛紗をカイホウしてくるのだ!といって愛紗に向かって行った。衣玖さんも俺に絡んでいた桃香の興味を言葉巧みに自分に向けて桃香の相手を始めた。

「……あ、そうそう総領娘様は向こうの方に居ますので出来れば行ってあげて下さい。」

衣玖さんはそう言ってむこうの方を指差してから桃香の酒飲み+αの対処をし始めた。……そうだな行ってみるか。










…天子を探して衣玖さんが指した方に行くと天子は人の輪の外から、詰まらなさそうに淋しそうに騒ぎを見つめながら酒をちびちびと飲んでいた。

「よう。」

「…ん。」

挨拶しても天子は軽く返事をするだけで、碌な反応を返してこなかった。…酔っているのか?いや、顔色を見るにその線は低そうだ。…ならなぜ?

「…一刀。」

「……ん?何だ?」

俺が思考の海に沈む前に天子がこちらに向き、話しかけてくる。…やけに真剣な顔だな。

「貴方は私の事をどう思う?」

「は?…え、えっと。」

な、何だいきなり!?やけに真剣だと思ったら突然そんなことを言われると如何返していいか分からないじゃないか!?…と混乱する俺に構わず天子は続ける。

「だから、貴方も私の事を天の御使いだと…思ってるの?」

…その答えを聞いた瞬間、頭に上った熱がすうっと引いていくのが分かった。…何を考えていた北郷一刀、こんなの何時ものお前ならすぐに考え付いただろう。と頭の中で自分を罵倒し、俺も真剣な表情で天子を見る。…すると天子の表情の中に様々な感情が読み取れた。

寂しさ、呆れ、困惑、そして求め。天子は俺に何かを『求め』ている…俺にはそれが何なのかはっきりとは分からないが、何となく何を求めているのかが解った。おそらく……

「天の御使い?それが如何したんだ?天子は天子、だろう。……まだ出会って間もないとはいえ俺の友達の。」

この答えが合っていたのか天子は顔を輝かせ、笑顔で頷いた。

「うん、一刀は一刀で本当に良かった。私をちゃんと見てくれてる!えへへ…」

天子は嬉しそうに微笑む。……やべぇ、今の顔は反則的に可愛い。俺は自分の顔に血が集まっていくような気がしたが気合で顔を赤くするのを防いだ。俺が自身の中のナニカと戦っている横で天子は持っていた杯の中の酒を一気に飲み干してから立ち上がる。

「私は私!そう、私の道は私で決める!誰の指図も受けず、わが道ひたすら突き進む!私は天子!比那名居 天子よ!」

ババーンとでも効果音が付きそうな名乗りを力強く叫んだ後、俺を見て笑いかける。

「ありがと一刀。おかげで吹っ切れたわ!そう!私は私なんだから自分のやりたい事をやる。それだけなのに何を悩んでいたんだろう。ああもう!さっきまでのは、完全な気の迷いよ!あんなにうじうじ悩んでいた私は私らしくない!カット!さっきの私の姿はカットカットカットォォォ!!一刀!さっきの私の姿は忘れる!いいわね!」

…が途中から先の自身の姿を思い出したのか、突然に、うがーと叫びそうなくらい取り乱し、俺の肩を掴み真っ赤な顔に据わった目で睨む。……オイオイ変わりすぎだろう。

「ああ、分かった。忘れる、忘れるから落ち着け。」

俺は何時もの平常心を取り戻し、取り乱す天子の肩を掴み引き離す。天子は顔を真っ赤にし、ふぅーふぅーと荒い息を吐き出している。

「はいはい。どうどう、どうどう。」

「私は馬じゃない!……ったく、ホント、一刀は変わらないわね。」

俺のギャグに反応し、突っ込んだ天子はそれで落ち着いたのか軽くため息を吐きながら呆れの表情を俺に向ける。

「何だ?まさか変わって欲しかったのか?」

「それこそまさかよ。あんたはあんたのままでいて。」

そこまで言ってから互いに吹き出し、暫くの間笑いあった。






「ああ、笑った笑った。この世界に来てから久々に大笑いしたわ。」

天子は楽しそうに笑顔で話していたが、次の瞬間には不敵な笑みを浮かべていた。

「一刀。」

「何だ?」

俺は天子の方に顔を向け次の言葉を待つ。

「明日、この村を出るわ。」

……………何となくその答えは分かっていたが俺は頷きながら聞き返す。

「で、どうやってだ?昨日(正確には今日の朝明け)の反応ではそう簡単には出してくれそうに無いぞ?」

「ええ、それは分かってるわ。」

天子は言葉を続けた。

「さっき、関羽と劉備から聞いた話では、この近くの街にも黄巾党が襲いかかり、その街を中心にここら一帯を治めていた県令がその時に逃げ出して、たまたまその街に滞在してた彼女たち三人が街の住人達から義勇兵募りそれを撃退、その結果で街の中心人物たちが集まって相談した結果、劉備にこの街の県令になって貰おうって話になり、劉備はそれを承諾。結果彼女は今はここら一帯を統べる県令様ってわけ。」

なるほど、と頷き話の続きを聞く。

「…今だ義勇兵と将の数が足りず従来のお人よしの性格の所為でてんてこ舞いの毎日らしいわね……本当はそれなりの数の義勇兵が居るらしいけど戦力になるだけの兵ではないから実質、戦える兵が少ないって関羽が嘆いていたわ。(補足すると今回の場合、劉備の450の兵と関羽の250の兵と張飛の100の兵がそれに当たる。…つまり今回の劉備の兵50と関羽の兵50と張飛の兵100と工作兵20はこの村から募った義勇兵。)……このままだと私は彼女の所で天の御使いとして将と義勇兵を集める御旗にされかねないわね……劉備本人にはその気は無くとも…ね。」

「そこまで分かっているなら……」

「まだ続きがあるわ。……そこで考えたのよ、彼女の求める天の御使いとしての言葉と私たちが無事にこの村から去る方法を…ね。」

俺の言葉を遮り、話を続けた天子の顔には子悪魔的な笑みが浮かんでいた。

「その方法って?」

「明日になれば分かるわ。明日になれば…ね?」

俺の問いをはぐらかし、天子はふふふと笑う。そしてお祭り騒ぎの騒乱の中へ向かう。…途中でくるりと俺に向き直った。

「さ、今夜は楽しく騒ぎましょう!夜はまだまだこれからなんだから!」





あの後、俺は天子と衣玖さんと鈴々で楽しく騒ぎ、祝いあった……途中へべれけに酔ったオッサンが脱ごうとし、それを衣玖さんが羽衣を使い拘束してそれを止めた…ただその時のセリフの「フィッシュ!」を聞いて天子が「だからそれ貴女のキャラじゃないでしょ!?」と突っ込んだのが印象的だった。……なぜか俺も頭に全身青タイツの槍男とキンピカな慢心王を腹黒い笑みで赤い布使って拘束する銀髪の女性が思い浮かび身震いしてしまった。…あれは何だったんだろう?…その後も罪と書かれた袋を被り股間を薔薇で隠した変体が現れたり、キンパツゴスロリの加れ…ゴホンゴホン!少女臭のする人が現れたり、それを見て天子が「あースキマ!」と言って駆け寄った瞬間にその人にやにや笑いながらが消えたりした。……後半がカオスだ。……………まぁ、その後に寝ようと思い部屋を借りて、その部屋に移動中にプリプリと怒った天子を宥めて今日を終えた。



俺は借りた部屋の布団に入り、明日の事を考えた…が天子は教えてくれそうも無いし、如何したものか…

「ま、天子の事だ、何か考えが有るんだろう…たぶん。」

俺は少し不安に思いながらもその日を終えた。





               ―続く―

  あとがき

試験的に天子サイドの視点を書いてみた。一刀、神隠しの主犯(天子と衣玖をこの世界に飛ばした張本人)と会うも本人気付かず。

   ―修正しますた―



[11636] 5 ―旅立つ天人は何を思うか―
Name: 彷徨う吟遊詩人◆a7a52965 ID:b2191fa6
Date: 2009/09/12 02:40

翌朝、朝食を済ませた俺は借りた部屋で荷物の整理(と言っても衣玖さんが用意してくれた物の簡単な点検)をしていた。

「…よし、水筒よし、保存食よし、緋想も有る。……足りない物は無いな。」

一つ一つ確かめながら荷物をまとめ、それを皮袋を基に改造した簡易鞄に入れつつ昨日の天子の言葉を思い出していた。

「……考え、ね。…今にして思えば確かに『ある事』を言えば何事も無く無事にこの村から出れるな……ったく、何時もの俺なら直に気付いた筈なのにホント、昨日の俺はどうかして…っ!?」

っば!と俺はその場で振り返る。…今、誰かに見つめられていたような…?…そう思いながらも部屋を見渡す限り誰もいず、気のせいだったと分かるはずなのだが俺の勘が確かに『視』られていた、と告げる。…でもどうやって?そう思いながらも俺は『視線』を感じた場所を調べる。……あった。

「…壁の………穴?」

そう、壁の穴。ホンの僅か数cmの小さな穴、そこから『視』られた、と勘が告げる。俺は壁に近づき穴を覗き込んだ……しかし真っ暗で何も…?

「ん?……これは…髪の毛?」

覗き込んだ壁の穴に数本の髪の毛が挟まっていた。……金色の髪の毛。それを手にとり俺は首をかしげる。何故こんな所に髪の毛が?それも金髪の?そう思いながらも何故かその髪の毛を捨てる気がお気ず、俺はポケットにその髪の毛を入れた。その瞬間、何故か今までに怪しいとおかしいと思っていた壁の穴への興味がすぅと消えた。

「…?……まぁ、どうでもいいか。っと、荷物の確認と整理はこれ位にして、と。うし!行くか!」

俺は荷物を持ち、部屋を後にした。





「ふふ、これでいい。後はじっくり観察するだけね。」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「それで、答えを聞きに参りました、天子様。」

桃香が膝をつき、私を見つめる。…心成しか期待と不安の色が見える。…やはり変わらずか…昨日あんなに語り合ったのに私を見る眼は私を見ない……その事実を再認識して思わず悲しくなるが仕方が無い事だと自分に言い聞かせる。……黄巾党を全滅させた私と衣玖の力を見てただの人が『おそれ』を抱かない訳がなく、その力を持つ者に『恐れ』から拒絶するか『畏れ』から信仰し祀るかの二通りなのに…今まで沢山見てきたのに忘れていた。…霊夢や魔理沙と接している内にその事をすっかり忘れていた。霊夢たちと桃香たちは違うのに、何時も通りの行動をしてしまった。結果、桃香達(正確には桃香と愛紗)との間に壁が出来てしまった。…完全に自業自得、私の落ち度ね。

「……ええ、いいわ。私の答え聞かせてあげる。」

私はそう言って桃香と向き直る。……真剣な眼差し、だけど私を映さない。この子は霊夢や魔理沙たちとは違ってちゃんと私を見てくれない。…当たり前ね。でも、つい思ってしまう…何時か、ちゃんと私を見てくれないかなって。そんな事を思考の片隅に考えながら私は『演じる』。

「…私達はこの村を出るわ。…でも、貴方達を見捨てる訳じゃない。今、こうしている間にも危機に遭い、助けを求める人たちを救う為にこの村から出るの。……貴女は県令だからどうしても後手に回ってしまいがち、しかも自身の州は大丈夫だけど別の州だと立場によって動きが執れなくなる。だけど私たちなら直にそこに行ける。…しかもどんなに遠くであってもその気になれば私達は文字道理『飛んで』救いにいける。だから、私は貴女の所に身を置けない…ううん、一箇所に留まることすら出来ない。…だから、ごめんなさいね?」

…最後に本当にすまなさそうな表情を作る。……これで詰めよ。
案の定、桃香は顔を輝かせて私を見ている。

「いえ、天子様がお謝りになる必要はありません。そのお答えだけで十分です。」

そう言って桃香は深々と頭を下げた。ちょろいものね。…でも少し悲しい。私はチクリと痛む心を誤魔化しながら桃香を見つめる。

「じゃ、私達は準備が出来次第この村を発つわ。……言っとくけど大勢での見送りは不要よ?堅苦しいのは嫌いなのよ。」

「分かりました。では、私と関羽と張飛とこの村の代表として村長。の四名で御見送り致します。」

桃香の提案に私はそうしなさい、と告げる。桃香は、では。と言葉を残してから部屋を出て行った。私は桃香の態度の変化を見て内心、悲しさと強い怒りを感じていた。…………ほんっっと~~~~に!

「くぅだらない!たら、くだらない!何が天の御使い様~天子様~。よ!私は私よ!最初は普通に接してくれた癖にちょ~っと力を使ったらコロッと態度変えちゃって!それに何さ!私が乱れた世を正す天の使者?んなわけないでしょ!私は他の天人には不良天人って呼ばれる程の天人としての素行が悪いのよ!そんな私を父様が使者として地上に送るわけないわ!第一私が此処に来たのもイタズラが原因であってこの世を正すために来たんじゃない!」

うがーと叫びつつ、私は溜まりに溜まった不満を爆発させて怒鳴った。……大丈夫。桃香が行ったのを確認してからだから誰にも聞かれてないはず……《コンコン》…っ!?び、びっくりしたぁ。

「だ、誰!?」

私は声が裏返っているのを自覚しながらも問い質す。直に答えは返ってきた。

「私です、衣玖です。総領娘様。」

…衣玖だった。よかった、ほっと胸を撫で下ろす。……これで知らない人や桃香たちだと話がこじれるかもしれなかったし、一刀なら私の恥ずかしい位の子供っぽい怒鳴り声を聞かれる破目になったかもしれない…その点、衣玖なら口止めだけですむからまだましね。

「…いい衣玖?今聞いた事は誰にも、だ・れ・に・も!言っちゃダメだからね。」

私は衣玖に口止めしながら扉に近づく。しかし衣玖からすまなさそうな返事が返ってきた。

「…えっと、総領娘様、すみません。手遅れです。」

「……………へ?」

私が扉の前につく前に扉が開き、そこから衣玖と………一刀の姿が。

「……っ!?」

瞬間、自分が恥ずかしさで赤面したのが分かる。な、何かいわなきゃ…!?しかし自分の口からでるのは「あー」とか「うー」とかの意味の無い単語だった。

「えっと………き、聞いちゃった?」

何とか出せた言葉はそんな感じで、それを聞いた一刀はコクリと頷いた。

「っ!!!?」

「待て!悪気は無かったんだ!ただ、そこでたまたま会った衣玖さんと…」

一刀が何か言っているが、私の耳に入らず、私は余りの恥ずかしさに咄嗟に小型の要石を出現させそれを両手で掴み振りかぶり…

「ちょ!?何処から出したその石!?だから話ぶふぁ!!!?」

「記憶を失ええええ!!!」

一刀に思いっきり投げつけた。要石は狙い違わず一刀に命中してその役目を終えてから消滅した。一刀は衝撃で後ろに倒れた……って。

「ああ!?ちょ!?やっちゃった!一刀、大丈夫!?」

私は思わず投げてしまった要石の硬さを思い出し、頭から血を流して倒れている一刀を想像し、血の気が引きながらも一刀の安否を見る。……気の所為か、私の目の錯覚か、一刀に要石が当たる直前に一刀の体を一瞬霊気が覆った気がした。



「っててて……い、いきなり石投げつけるとか酷いじゃないか。」



…無事だった。一刀は要石が当たって赤くなった額を撫でながら起き上がる。私は胸を撫で下ろした。

しかし、これでさっきの霊気が見間違いじゃない事が分かった。……要石はかなりの硬度だから頭部に投げつけられたら普通は頭が割れる…と言っても、パーンて感じに割れるんじゃなくて頭蓋骨にヒビが入り、当たった所から出血する程度。って、これでも重症ね。…だから生身のままで当たったら凄く危険なのに赤くなる程度で済むって…霊夢や魔理沙みたいに霊力(魔力)で体を保護するか、私が要石を霊力でコーティングして殺傷力を消すかしないと普通の人は重症確定なのに…

《因みにこのSSでの格闘弾幕ごっこは基本、殺傷はご法度。その為、互いに殺傷力の高い攻撃はせず、するとしても何らかの方法で手加減する。……じゃなかったらどこぞの酒飲み幼女な子鬼とかサタデーナイトフィーバーな使いとか辻斬り上等!な半人前とか。他にもあきらかにこれ食らったら死ぬんじゃね?って思える攻撃が沢山ある。(更に付け加えるなら手加減をしない(出来ない)のはバツ。その為、ドSなフラワーマスターや純粋無垢な悪魔の妹とかは参加するのは難しい。)》

「…だって、あんたが聞いちゃいけない事を聞いちゃったからでしょう…」

私は内心、疑問に思いながらも出来るだけ冷静に何時も通りを装いながら答えると一刀はすぐに反論してきた。

「だからそれは悪気があって聞いたんじゃないって!たまたま部屋を出たら天子の部屋に向かう衣玖さんと会って、出発準備が終わった事を言ったら衣玖さんが天子を迎えに行くから一緒に行こうって誘ってくれたから一緒に此処に来たんだ!決して悪気があったわけじゃない!………ったく、石投げつけるとかするか?普通。…俺じゃなかったら怪我するぞ。」

……今、おかしな言葉を聞いた気がするわ。思わず聞き返してしまった。

「…怪我だけですむの?後、俺じゃなかったらってどうゆうこと?」

自分でも頬が引き攣っているのが分かる。しかし一刀はさも当たり前な事を聞かれたみたいにきょとんとした表情をしている。

「え?何言ってんだ、あの大きさの石だと当たったら痛いじゃ済まないぞ。たぶん、たんこぶとか出来ると思うけど…まぁ、俺は爺さん…あぁ、俺の剣の師な…に毎日毎日立てなくなるまでボッコボコにされてたんだ。そしたら、いつの間にかちょっとやそっとでは傷付かなくなってしかも少し息を整えるだけで失った体力も回復するようになったんだ。………おかげで稽古が更に激しく、容赦の無いものになったけどな………爺さんの稽古…本当に辛かったなぁ……」

最初は普通に話してた一刀が途中から思い出すように喋り始め、最後は何処か遠くを見つめる。……何となく分かったわ。私は今だ遠くを見つめる一刀に確認をとる。

「一刀。あんたのお爺さん何か変わった事出来なかった?」

「え?変わった事?……特に無いな。いたって普通の爺さんだ。…やたらパワフルで歳に係わらず若者…この場合俺な?…を圧倒するほど動ける以外は。」

一刀の答えに私は考える。特に変わった事が無い。けど老人で在りながら若い人を上回る身体能力。しかも、今の話を聞く限り、一刀には確実に霊力を操る地力が有るにも係わらず何時も敗北している。………読めてきたわ。

「…なら、何かしら身体能力を操作するタイプの能力を持っていたのかしら?」

私の呟きを聞いた一刀は、何かを考える素振りを見せてから私に向き直った。

「…俺が聞いた限りでは『錬氣を操る程度の能力』ってのを持っているらしい。……後、その能力は『幻想郷』と呼ばれる場所で手に入れたって聞いた。」

っ!キタ!これで繋がった!…一刀が何を考えていたのかは何となく分かる。事情を知る相手以外にこんな事を言っても、変な者を見る目か冗談と受け取って聞き流す可能性の方が高い。けど一刀は私を何かしらの『繋がり』が有るとみて話してくれたのだろう。…大当たりだ、私は『幻想郷』の住人。そういった話はよく耳に入るわ。

「そう、なら言っとくわ一刀。あの大きさの要石を当てられると普通は重症よ?たんこぶではすまないわ。……それを大怪我するではなくたんこぶ程度に思うのは普通では無いわ。」

一刀はきょとんと私を見ていたが次の瞬間から見る見るうちに顔を蒼くしてすぐに赤くして詰め寄る。

「な!?そんなに危なかったのか。…って、そのんなに危ない物を俺に投げつけたのか天子!!?」

「その点いては謝るわ。けど、その『危ない物』に当たったのに額を赤くする程度で済んだ自分の事を疑問に思いなさいよ。…何となく予想はついているけどね。」

私の言葉に一刀は呻いてから離れる。そして私を視線で催促する。……私に続きを話せ、って言うのね。

「…私の見立てでは多分、あんたは無意識下で霊力を扱いダメージを防いでいるのよ。しかもおそらくは何らかの能力も持ってるわね。……それが何なのか分からないけど。」

「…霊力…ね。今一ピンと来ないが、そう言われれば納得できる事が幾つか心当たりがあるんだよなぁ。」

一刀が何かを思い出しているのか視線を彷徨わせている。そして何かに気付いたのか私を見て喋る。

「そう言えば天子も何か能力とか霊力とか持ってるのか?」

やっぱり気付くか。まぁ、これで気付かなかったらそれこそ阿呆くらいね。

「ええ、私は『大地を操る程度の能力』を持っているわ。」

一刀はすげぇな、と言って笑いながら私を見る。……ほんと、普通の感性じゃそんな反応を返さないのに…まるで幻想郷の人みたいね。だから私も一刀には素に近い反応がでるのかな?

「天子がよければだが、俺に霊力の使い方を教えてくれないか?」

「ええ、良いわよ。…ただし、私の教えは厳しいよ?」

私はニヤリと一刀に笑いかけると、望む所だ。と一刀が笑う。



「……そろそろ宜しいですか?総領娘様。」


「ひゃぁあ!?」
「うぉあ!?」

一刀の後ろに居た衣玖の声に驚き、私と一刀はその場から飛び退いていた。……か、完璧に忘れてた…(汗)

「ど、如何したの?衣玖。」

私はどもりながらも何とかそれだけ返す。

「先の話で大分時間が過ぎてしまい間もなく出立の時間です。……準備は宜しいのですか?」

「へ?」

私は思わずそんな声が上がった。……不味い、衣玖から渡された簡易式旅グッズ(仮)の整理してない。(大汗)

「わ、忘れてた!急いで確認しなきゃ!一刀!衣玖!手伝って!」

「了解。で、何処から確認して無いんだ?」

一刀の問いに私は大慌てで答えながら、簡易式旅グッズ(仮)を取り出す。

「全部よ!全部!」

この答えに一刀はやれやれといった感じに広げられた簡易式旅グッズ(仮)の確認を始める。衣玖は私が手伝いを頼みながら広げた時から答えを予想していたのか既に確認と整理を始めていた。……ああもう!何でこうなるのよ!


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




…天子の荷物整理を大急ぎ終わらせた俺たちは、それぞれの荷物を持ち、村の入り口に向かった。

「……そういえば衣玖さんも何か能力持っていたりする?」

村の入り口に向かう途中で俺はその事を思い出し、衣玖さんに尋ねた。衣玖さんは俺に顔を向けて頷いた。

「ええ、私は『空気を読む程度の能力』です。」

「空気?…えっと、気配り上手になる能力?」

俺は首を傾げたが衣玖さんは、違います。と首を横に振った。

「空気…所謂、気候を読む能力ですね。もっと分かり易く言うならよく当たる天気予想とでも思ってくれて結構です。」

俺は、へぇ~と相槌をうつ。天気予想か……これからの旅にピッタリな能力だ。これからは衣玖さんの天気予報を毎日聞いた方がいいな。…今日の天気も聞いておこう。

「それじゃ、今日一日の天気はどう?変わったりする?」

俺がそう言うと衣玖さんは目を閉じ何かに集中し始めた。が、すぐに目を開けた。

「…そうですね。今日一日は晴れ渡っていますね。これと言って変化はありません。…………<総領娘様が緋想の剣を使われない限り。>」

「?…そうなんだ、じゃぁ、今日は良い旅日和ってことだな。」

衣玖さんは、そうですねと返した。…さっき小声で何かを喋ったが聞き取れず少し気になった。が入り口付近に近付き桃香たちと…たしかこの村の村長さん(のハズ)が見えたので聞けずに終わった。



「いい天気ですね、天子様。」

桃香がにっこりと笑みを浮かべて天子を見る。天子は一瞬、不愉快そうに顔を歪めたがすぐに笑顔で対応する。

「ええ、出発するのにぴったりの天候よ。」

天子は笑顔で返す。そして桃香が天子に再び話しかける。

「はい、出来れば私たちも天子様の御手伝いをしたいのですが今は県令の身。長い間は街を離れられないのです。……不躾がましいかもしれませんが、私たちの力が必要な時は何時でもいらしてくださいね。出来うる限り力になりますから。」

「…そう、ならその時は遠慮無く頼らせて貰うわね。」

桃香は、はい。と頷き、衣玖さんに向き直った。

「衣玖様、御用があれば何時でもいらしてくださいね。天子様や一刀さんと共に最大限の御持て成しをさせて頂きます。」

「分かりました。用事が出来れば頼らせて貰いますね。」

桃香は頭を下げてから俺の所に来た。

「一刀さん、くれぐれも御二人を頼みます。私たちが出来ない分、御二人を支えて下さい。」

「はい。勿論、そのつもりです。……要らぬお節介かもしれませんがね。」

俺の返事の後に桃香は、お願いしますね。と言って後ろに下がった。そして愛紗が前に出た。

「天子様、共に戦えぬ事を残念に思います。桃香さまも言いましたが我が義の刃が御必要なら何時でも頼ってください。」

「ええ、もしその時がきたら有り難く貴女の力を貸してもらうわ。」

では、と愛紗は深々と頭を下げてから、衣玖さんと向き合う。

「衣玖様、いずれまた、共に歩める時が来るのをお待ち申しております。先も言いましたが私の力が御必要なら何時でも頼って頂けると有り難いです。」

「はい、貴女の力が必要になったら頼らせて貰いますね。」

はい、と愛紗が衣玖さんに深々と頭を下げる。…次は俺か。

「一刀。共に戦ったから分かるがお前の武力は相当なものだ、だが御二人の力にはなれん。私の力ですら足手まといと成りかねないのだから当たり前と言えば当たり前だ。だが、お前は男であろう。御二人におんぶだっこでは男が腐るぞ?…それでも尚、御二人と行くのなら別の何かで御二人の役に立つ様にしないと単なるお荷物になってしまうだろう。」

「…ああ、分かってる。今は、二人の荷物でも何時かは…何時かは二人を守れる位に強くなってやるさ。」

俺がそう言うと愛紗は苦笑し、ならば私もうかうかしてられんな。と言って後ろに下がった。…次は鈴々か。

「天子お姉ちゃん。一緒に行けないのは残念なのだ。短い間だったけど楽しかったのだ。」

「私もよ鈴々。短い間だったけど貴女と楽しい時間を過せて嬉しかった。」

天子が笑う、今までとほんの少しだけ違う笑みを浮かべて鈴々の頭を撫でる。天子に撫でられつつ衣玖さんを見上げる。

「衣玖お姉ちゃん。色んなお話聞かせてくれてありがとうなのだ。またいつか、お話聞かせて欲しいのだ。」

「ふふ…そうですね。また、いつか……」

衣玖さんは微笑みながら鈴々を見る。……鈴々が俺を見る。

「一刀お兄ちゃんとはあまりお話出来なかったからよく知らないけど、これだけは言わせて貰うのだ。……………またね。な~のだ。」

鈴々は微笑み、後ろに下がっていった。そして最後に村長さんが前に出た。

「天子様、貴女様のおかげでこの村に平穏が戻りました。心より感謝いたします。」

「いえ、私は当然の事をしたまでよ。……寧ろ、見ず知らずの私たちを黄巾党に襲われた後だというのに一晩の宿を貸してくれた事に感謝します。」

村長さんが深々と頭を下げ、天子は聞きなれない言葉を自然体で喋る。……い、違和感無いのが違和感に感じるだと!!?。
俺がそんな事を考えている横で今度は衣玖さんに頭を下げる村長さん。

「衣玖様、村の代表として感謝いたします。もし、この村に寄ることが有れば気軽に来てください。村一同で歓迎致します。」

「私は、総領娘様にお供しただけです。感謝は総領娘様だけにして下さい。……それでも感謝してくれるのならお気持ちだけで十分です。」

衣玖さんの言葉に村長さんは再び頭を下げた。……あ、こっち来た。

「一刀殿、くれぐれも御二人の足を引っ張らないようにして頂きたい。………分かりましたか?」

「………あ、ああ。分かった。」

ぐいっと俺に近付き、村長さんはそんな事を言ってきた。…顔近ぇし怖ぇよ。…俺の返事を聞いた後はパッと離れて後ろに下がった。

「それじゃ、行きますか。」

「ええ、行きましょう。」

「それでは参りましょう。」

それぞれに言って村を出る。

「お気を付けて!」
「頑張ってください!」
「またね~なのだ!」
「本当に有難うございました!」

桃香たちの声を背に受けて。







「…それで、次の目的地は何処なんだ?」

「そうねぇ、街に行ってみたいし近いとこで陽平の街が良いんじゃない?」

…何?陽平は確か地名じゃ…?俺が不思議がっていると衣玖さんが補足してくれた。

「一刀さん、この世界では何故か村や街の名前が地名なのです。…ちなみに先の村の名は広平村といいます。しかも州と州の移動にかかる時間もこの時代だと普通は一ヶ月は掛かりますがこの世界では最長半月です。」

俺は開いた口が塞がらなかった。…違和感はあるがそうゆう世界だ。と、自分を無理やり納得させた。

「…分かった。その陽平の街に向かおう。」

「ええ。それと、一刀。街に着くまで霊力の使い方の基礎、教えてあげる。」

天子はそう言って俺を見る。……勿論、答えは決まっている。

「ああ、頼む。」

そして俺たちは陽平の街に向かって歩き始めた。





    ―この時、感じた小さな違和感が、後にある事を俺に気付かせてくれた―





          ―そう、歪みに満ちたこの世界の裏側に―






               ―続く―



     あとがき

伏線いろいろ。……回収しきれるか?

後、某妖怪賢者の行動理由のヒント。

外史+博麗の大結界= 八 雲 家 出 動 !

後は、言わなくても分かるな?



[11636] 6 ―天人、無双と出会う。―
Name: 彷徨う吟遊詩人◆a7a52965 ID:b2191fa6
Date: 2009/09/17 04:24


     ―移動中、荒野―

俺は街に向かう途中に天子から霊力の基礎を聞いていた。

「……つまり、霊力は、誰しも持っている力だがそれを扱う才能は違う。…こんな感じか?」

「…まぁ、大方その通りね。…他に質問は?」

俺は首を振り、否を示す。

「そう、じゃ次はこの霊力の扱い方ね。…自分の中の力を感じとるのが第一段階(緋想天でよく確認する霊力ケージ)。その力を纏い、身の守りを強化するのが第二段階(緋想天で活躍する回避結界やグレイズ)。…此処までが基本。そして取り出した力を形にして使うのが第三段階(弾幕やスキル&スペルカード)。…これが霊力の応用ね。私達はもう無意識でも出来るけど霊力の基本的な扱い方はかね、この二段階ね。一刀は攻撃を受けると無意識に霊力で体の保護。つまり、この第二段階を行っているから第一段階さえ出来るように成れば後は比較的楽になると思うわ。」

天子はそう言って俺の胸に手を当てる。

「これから一刀の中に私の霊力を流して一刀の霊力を引っ張り出すから、よく自分の中を視ときなさい、目を閉じとけば分かりやすいから。」

俺は言う通りに目を閉じて、爺さんにやらされていた精神統一の鍛錬を意識しながら自身の中に意識を向ける。

「……………っ。」

意識を中に向けた瞬間、天子が当てていた胸から『ナニカ』が俺の中に流れ込むのが『視』えた、そしてそれがが俺の中に有る『ナニカ』を引っ張って来る。…これか?これが、霊力…?
俺は、その『ナニカ』に意識を集中した。…暖かい、しかし力強い。これが俺の霊力なのか…

「どう?何か感じた?」

天子の声が聞こえた。俺は自身の中に向けた意識を外に向ける。

「あぁ、俺の中に暖かく力強い力を感じた。これが霊力なのか?」

俺がそう言うと天子は目を丸くしてきょとんとした表情をした後に、呆れた表情で俺に言う。

「…えぇ、おそらくね…しかし、随分と簡単に感じ取れたのね。今のやり方は霊力を感じ易いけど、それでも多くて二割程度。しかも自分の霊力を感じ取れても漠然としか感じ取れずほとんど『自分の中に何かがあった。』くらいしか分からないのに……其処まで自分の霊力を感じ取れるのは二割中の一割程度よ。…いくら無意識に霊力使っていたとはいえ……相性が良いのかしら?」

天子は腕を組み、う~ん。と悩んでいたがすぐに頭を振った。

「やめやめ、今は説明が先。……っと、とりあえず第一段階は出来たみたいね。なら第二段階。その感じ取った力を引き出して自身に被せる様にするの。今まで無意識にしてたそれを今度は意識してやるの。…出来るようになれば『回避結界』、霊力の膜を纏って相手の霊撃攻撃を受け流す防御の要。…『グレイズ』、これは霊力を纏って相手の遠距離攻撃を強行突破する受け流しと接近が両立する防御。…回避結界とグレイズが出来れば第二段階が出来ると言っても過言じゃないわ。」

「分かった。やり方を教えてくれ。」

俺がそう言うと天子はニヤリとした笑い顔をした。

「ええ、まずは、霊力を感じてみて。」

「分かった。」

俺は自分の中の霊力に集中してその存在を感じ取る。

「次に霊力に意識の糸を絡ませる。……霊力を掴むイメージでいいわ。上手く出来たら手応えあるから。」

言われた通り霊力を掴むイメージをする……っ…?…えっと、こうか?…難しいな。

「出来たら掴んだ霊力を引っ張り出す。……出来たら体の表面に霊力を纏えるわ。」

……何とか掴めた…えっと、引っ張る?こうか?……お、今回は上手く言った。

「………。そしてその纏った霊力を渦状に流すと回避結界。纏ったまま移動するのがグレイズよ。」

…?渦?………こうか?……上手く流れん。

「……とりあえずはこんなとこよ。後は実戦有るのみよ。」


…………え?





俺は天子の言った言葉に驚き目を開けた。すると……





緋色の剣を構え、カードを掲げる天子がいた。…って、え?

「ま、まさか天子と闘るのか!?」

「その、ま・さ・か♪……いいから構えて、これは体に叩き込んだ方が身に付くから。…あぁ、ちゃんと手加減してあげるから安心して。」

ニッコリと笑う天子。いくら何でもこれはめちゃくちゃじゃないか!?

「さ、流石に剣で斬られたら死ぬと思うんだが…」

「だから大丈…あぁ、そういえば一刀は格闘弾幕ごっこ知らなかったけ。」

俺は頷く。

「…簡単に説明すると戦闘を模した遊びよ。ルールは単純、相手を倒せば勝ち。……この倒すは、『戦闘不能』って意味だから。」

「…模擬戦みたいなものか?」

「…そうね、大体は合ってるけど、これは模擬戦と違って刃物なんかも使っていいの…ってか基本何でもありね、相手を殺さなければ何をしても良いの。……(どこぞのスキマは電車で轢いてきたけど。)」

…?最後がよく聞こえなかったな。

「それじゃ、その剣はどう説明するんだ?何処に当たっても確かに重症ないし致命傷だぞ。」

「そこで霊力で武器を覆うのよ、そうすれば威力そのままで殺傷力『だけ』が無くなるの。」

…そうゆう事か。

「…つまりこの格闘弾幕ごっこ?は戦闘の遊びにみせた訓練って事か。」

「そ。…ま、今じゃ単なるお遊びに成っちゃってるけど元はそうだったのよ。…さ、説明はこの位にしてやってみましょ。」

「ああ、分かった。」

俺は緋想を構える。

「いくぞ、天子!」

「ええ、来なさい。」

俺は天子に向かって走り出す。








「ぐふぅ。」

「…ダメね。てんでダメ。回避結界もグレイズもなってない。」

俺はボロボロになって仰向けに倒れている。天子はそんな俺を、やれやれといった表情で見つめる。…ってかな!

「そもそも!空を悠々と飛びながらレーザーみたいな赤い光線で狙撃したり!地面に降りてもやっぱり赤いレーザーをバカスカ撃ってきて!挙句の果ては、ようやく近づけたと思ったら持ってる剣ぶんぶん振り回してきりつけて!そんな相手にどうやって攻撃しろと言うんだ!」

がばりと起き上がり天子に文句をつけるが天子は半目になって俺を見る。

「そのための回避結界及びグレイズよ。説明したでしょ?」

「確かに聞いた。だがな!やってみたが食らったぞ!」

俺は言われた通り霊力を纏いながら移動したが、レーザーを食らった。もう一つの霊力を纏い渦状に流す方も試したが数発受け流して残りを食らった。

「一刀がどんくさいのよ。グレイズだって効果時間短いのに弾幕周囲をウロウロするから当たるのよ突っ切らなきゃ。回避結界だって使うのが早すぎる、もっとギリギリまで粘らなきゃ。」

「できるかぁ!?レーザーがビュンビュン飛び交う中を走りきるなんてど素人にできるかぁ!!?第一、ピンポイントレーザー照射の対象になったのに焦らない人がいるかぁ!?」

俺がそう叫ぶと天子はきょとんとした表情をした。

「え?霊夢や魔理沙は平然と突っ込んで来たわ?」

「そんな人と一緒にしないでくれぇ!?」

「総領娘様、そもそも御二人は弾幕ごっこで慣れておられましたので、この場合比較対照に成りません。一刀さんは初めて格闘弾幕ごっこを経験したのです、この反応が正しいかと。」

俺が涙目でツッコミを入れると衣玖さんがフォローしてくれた。

「そっか…それじゃ、お手本見せてあげる。」


天子は其処まで言ってから衣玖さんを見る。

「…一刀。今から私と衣玖で見せるから、よく見てて。……衣玖、久しぶりに格闘弾幕ごっこしよっか。天候変化は無しでね。」

「分かりました。…総領娘様とするのは久しぶりですね。」

天子の呼びかけに衣玖さん答えながら雷球を作り構える。天子も緋色の剣を構えた。…って。

「ちょ…マテマテ!それは流石にあぶな…」


俺が制止する前に天子は俺から離れ、衣玖さんは離れた天子に向かって雷球を放つ。




天子は雷球に向かい走り出す。そして天子に雷球が当たった瞬間。その雷球は『天子をすり抜けた』。……当たった筈の雷球を『すり抜ける』…これが『グレイズ』か……雷球を避けた天子は其のまま衣玖さんに斬りかかる。

「甘いですよ。総領娘様。」

衣玖さんそれを読んでいたのか羽衣を構えていた。緋色の剣が衣玖さんを捉えるが羽衣が阻む。

「っ!しまっ!?」

「遅いです。」

攻撃を受け流した瞬間、天子の無防備な体を衣玖さんは羽衣でなぎ払う。

 ―羽衣は水の如く―

天子は羽衣に打ちつけられ大きく仰け反る。衣玖さんはスキだらけになった天子を追撃する。
指先がパチリと電気を纏いそれを天子に押し付け、更に羽衣を振り上げ下段から上段へ天子の体を跳ね上げた所に羽衣を絡み付かせる。

「っく!」

「これでシメです。」

羽衣に電流が走り天子の体を痛めつけ、更に羽衣に拘束された天子を地面に叩きつけた。

 ―天女の一撃―

「痛つっ…今度はこっちの番よ!」

地面に叩きつけられた天子は素早く体勢を整える。

天子の目の前に小さな要石が現れ赤いレーザーを放つ。
衣玖さんは慌てず騒がずレーザーと接触した瞬間に『すり抜け(グレイズ)』天子に迫る。

「来たわね!」

天子は緋色の剣を振りかぶり衣玖さんに斬りかかるが…

「読んでいますよ。総領娘様。」

衣玖さんはくるりと回りながら移動し天子を『すり抜け』て後ろに回りこみポーズを取る。

 ―水得の龍魚―

天子を背後を取り衣玖さんが攻撃を仕掛けようと行動に出たときに天子は剣を地面に突き立てていた。

「私もね。」

天子の周りから岩が隆起し背後にいた衣玖さんを襲う。

 ―坤儀の剣―

「っく。」

素早くバックステップで距離を取るも既に天子の射程だ。

天子は素早く距離を詰めて衣玖さんに両手を突き出して突き飛ばす。

「それっ!」
「あ!?」

突き飛ばされ体勢が崩れた衣玖さんを天子は蹴り上げて更にたけのこみたいな要石を出現させ撃ち放し更に天子自身も素早く近付き剣で斬りかかる。

 ―非想の剣―

「ぁぐ!?」

衣玖さんは吹っ飛び、地に体を叩き付けてバウンドしながら離れた場所に倒れこむ。

「追撃!」

天子はまた剣を地面に突き立てる。それを見て、倒れていた衣玖さんは素早く体勢を整え姿勢を低くして身を守るかのように構える。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!


「く!?うわ!じ、地震か!?」

急に起こった地震に俺は体勢を崩してこけてしまった。

 ―六震・相―

俺は体勢を崩したままだったが天子と衣玖さんの『戦い(格闘弾幕ごっこ)』から目を離せなかった。


姿勢を低くし揺れに耐える衣玖さんにいつの間にか忍び寄った天子が片手を上げる。

「落ちろ!」

ズドン!と音がして衣玖さんのいた場所に人一人軽く隠せる位の大きさの要石で出来た石柱が落ちてきて衣玖さんを押しつぶさんと迫るが衣玖さんはその石柱を捌ききる。

 ―天罰の石柱―

…が。

「っ!」

石柱を捌ききるもその反動で体勢が崩れた。

「一気に行くわよ!」

天子は剣を振りかぶり衣玖さんに斬りかかる。左切り上げ、唐竹割り、右切り上げと続けざまに斬りつける。

 ―緋想の剣―

更に目で追い切れない程の速さで滅茶苦茶に剣を振り回して追撃した。

 ―剣技「気炎万丈の剣」―

「あああぁぁ!?」

衣玖さんは再び吹っ飛ばされるが今度は空中で体勢を立て直し空に飛ぶ。

「……今のは、効きましたよ総領娘様。……反撃させて貰います。」

空に飛翔した衣玖さんは地上の天子目掛けて雷撃や雷球を放つ。天子はグレイズで間合いを詰めるが既に衣玖さんは、迎撃体勢に入っていた。腕に羽衣が巻きつき螺旋状になる。

「い!?」

「貰いましたよ総領娘様。」

ドリル状となった羽衣で天子を穿つ。

―龍魚の一撃―

「ぅああ!?」

まともに入った一撃に天子の体は大きく後方に飛んだ。衣玖さんは吹っ飛んだ天子を見ずに左手で腰を掴み、右手を掲げ人差し指で天をさす。
キュピンと音が鳴るが何も起きない。衣玖さんは何も起こらない事が当たり前といった感じに再び雷球や雷撃を放つ。

「そう何度も…」

起き上がった天子が雷球や雷撃を飛翔する事で回避した。その瞬間に衣玖さんが指をパチンと鳴らした。

バリバリと音を鳴らして飛翔した天子に雷が落ちる。

 ―龍神の怒り―

雷に撃たれた天子はポテリといった感じに地に落ちるがすぐに起き上がった。

フルフルと天子は震えていたが、俯いていた顔を上げると怒りで真っ赤に染まっていた。

「…っもぉ、あったまきた!」

そう言って天子は剣を振りかざした。

 ―気符「無念無想の境地」―

天子の体に一瞬赤い電流が走り、その後一直線に衣玖さんに走りよる。

「…っこれは不味いですね。」

衣玖さんは一瞬苦々しい表情をした後、すぐに天子から距離を取る。

「逃がすもんかぁぁぁぁぁ!!!」

しかし天子の方が早く衣玖さんに接近した。

「っ!」
「このぉぉぉ!!」

衣玖さんは羽衣や電撃で迎撃するも天子は全く意も介さずに懐に飛び込み蹴りかかった。

「やぁぁぁ!!」

ドロップキックで衣玖さんを蹴り続けざまに小型の要石を周りに出現させ、回転させながら前進し、たけのこみたいな形の要石を打ち出しす。衣玖さんとの間合いが少し離れるが衣玖さんが要石に掴まっている間に再び間合いを詰めてドロップキックを当てるとくるりと回転しサマーソルトを衣玖さんに決める。

「っぁ…」

サマーソルトが決まった瞬間、衣玖さんの体がグラリと傾きゆっくりと倒れた。

「はぁ……はぁはぁ…すぅ~はぁ。」

荒い息を吐いていた天子は軽く深呼吸をして息を落ち着かせる。

「私の勝ちね。」

「…っぁ、ど…どうやらその様ですね…痛たた…」

倒れていた衣玖さんは頭を抑えつつ起き上がる。天子は俺に向き直る。

「どう?これが『格闘弾幕ごっこ』よ。理解できた?」

俺はこけた体勢のまま天子を見上げる。…俺自身、自分の心にある感情が浮かぶのが自覚できた。それは…



              ―歓喜と畏怖―



今見た力を畏怖する心とその力と対等に戦えるかもしれないと感じる武士の心。

――あぁ、俺もあそこまで強くなって更なる強者と戦いたい。

あの美しくも猛々しく雄雄しい戦いの舞台に俺も参加したい。…そう、強く思った。


「あぁ、十分だ。……後は、俺がそこまで強くなればいいんだな。」

「強く…ってゆうか上手くかな?一刀はまず、霊力を使っての身の守りを習得しなきゃ。」

天子の答えに頷き、立ち上がる。

「それじゃ、早速もう一回俺と戦ってくれ。」

「ええ、良いわ「少しええか?」よ……?」

俺と天子の会話に誰かが割って入ってきた。知らない声だ。

「誰です?」

衣玖さんは警戒しながら声のした方を見る。俺も声の主が知りたくて見る。



「いや、済まんな。けどさっき、ここら辺に雷落ちひんかった?」



そこに居たのは紫の髪を後ろで束ねた女性が黒馬に乗って佇んでいた。…纏う空気も強者の風格があるな。……っ!?

「!」
「!?」

俺が息を呑む、後ろで天子と衣玖さんの息を呑む音が聞こえた。……それもその筈、紫の髪の女性の斜め後ろにいる赤い馬に乗った赤い髪の女性のオーラが強すぎる。強者のレベルじゃない!確かに人智を超えた力を感じる!

「(衣玖!あの子…!)」
「(はい、半ば人をやめていますね。……行き着く先は堕落(魔物、妖)かそれとも昇華(仙人、天人)か分かりませんが。)」


「呂布ちんが気になるんは、分かるで…でもな?ウチの質問に答えてくれんか?」

…り、呂布だと!?天下無双、人中の呂布、馬中の赤兎と称されるあの!?…俺は内心の驚きを隠しつつ紫色の髪の女性に答える。

「失礼、俺は北郷って言う。旅のものだ、その雷に関しては…」

俺は一瞬、天子と衣玖さんを見る。二人は軽く首を振り、否を示す。

「済まない。力になれそうも無い。」

俺がそう言うと紫の髪の人は軽く息を吐き出し、呂布(暫定)を見る。

「呂布ちん、残念やけど手がかりないみたいやし戻るで?黄巾賊の残党がいないとも限らんし。」

呂布(暫定)は呼びかけられてもボーっと何かを見つめている。……見つめる先は天子と衣玖さん?

「……………。」

「……………。」

「……………。」

視線に気付いた二人と暫し見詰め合う三人…

「え?呂布ちん?どないしたん?何か眼がキラキラしてるで?」

呂布(暫定)の視線にそんなのが混ざっていたか?………改めて見ても分からん。

「………何か?」

「……………名前。」

沈黙に終止符を打った衣玖さんの声に呂布(暫定)はポツリと漏らす。

「名前………教えて?」

二人をジッと見つめながら囁くように呂布(暫定)に天子と衣玖さんは見つめ返し答える。

「天子。比那名居 天子よ。」

「衣玖。…永江 衣玖と申します。……貴女は?」

「呂布、字は奉先。……真名は『恋(レン)』。」

互いの名乗りを上げる、天子と衣玖さんと呂布。…特に呂布は真名まで名乗っている。その事に驚いたのか紫の髪の女性が声を上げた。

「り、呂布ちん!?あって間もない、しかも殆ど言葉を交わしてへん相手に真名預けるんか!?しかも片方の人、天子って名乗ったで!?」

「うん。……大丈夫だよ霞(シア)。」

慌てる紫の髪の女性の声は表情に変化無く、ただジッと天子と衣玖さんを見る呂布には何処吹く風…というか聞き流し?

「何が大丈夫なん!?思いっきり不敬やで!?」

慌てる紫の髪の女性の全く意に介さず続ける。

「たぶん……この二人。人…じゃ無いと思う。」

…何?何でその事が………

「…は?り、呂布ちん何言ってるん?」

俺と紫の髪の女性が混乱してる最中、呂布は二人に問う。

「……ねぇ、貴女達って何?」

呂布の問いに天子は軽く息を吐き、衣玖さんはただジッと呂布を見つめる。

「貴女には分かるのね。……私は天界に住む、天人よ。」

「私は、竜宮の使いです。」

「……そう。」

再び三人は目線を合わせ沈黙する。……ってもう眼と眼で会話出来てるの!?

「って、いやいやいや、呂布ちん待ってや、って事はこの二人は人の姿してるんやけど人や無いんやな?……そんなの有る訳ないやん。どう見たって人やで?」

紫の髪の女性は顔の前で手を振り、ないない。と喋る。

「それより、比那名居ゆうたな?アンタはホンマに名が天子なん?」

「ええ、そうよ。…それがどうかしたの?」

天子が聞き返すと紫の髪の女性が頭を抑えつつ説明する。

「あんな、その『天子』っちゅうんわ帝の別称なんや。……だから天子って名乗ると「私は帝です。」って言ってるみたいなもんなんや。当然、帝以外は名乗るのは不敬も不敬。首を切られてもおかしくないんや、それでもホンマに名は天子なんやな?」

視線に殺気を馴染ませつつ偽りを言うな、本当の事を話せ。と眼で語ってくる女性。殺気に反応したのか衣玖さんが臨戦態勢(と言っても羽衣がフワフワ浮くだけ)に入った。

「帝なんて関係ないわ。私は私よ、天子もれっきとした私の名前よ。」

殺気をモノともせずに天子は宣言する。女性は天子に駆け寄ろうとするが裾を呂布に掴まれる。…殺気が四散した。

「り、呂布ちん?」

「…霞、ダメ。……二人が言ってるは本当だと思う。」

「しかしな、呂布ちん。天子の名と帝の関係は子供でも知る常識やで?その事を知らんてどないな奴やねん。それこそ別世界からでもやってこな有りえんて。」

そう言ってから女性はハッとした表情をして天子と衣玖さんを見る。…?天子が一瞬嫌そうな顔をしてたような?

「ま、まさか…」

「そうよ、私は天「ホンマに異世界って有ったんやー!!」の……?」

天子が何かを言いそうになった時、女性が叫び遮られた。女性は目をキラキラさせて馬から降り、天子と衣玖さんに詰め寄った。

「なぁなぁなぁ、此処に来る前何処におったん?」

「えっと、幻想郷…」
「それで、其処で何してたん?」

「基本は宴会か弾幕ごっこ…偶に格闘弾幕ごっこする位かな。」
「総領娘様、異変の事もお忘れなく。一応あれもお祭り騒ぎになってますし。」
「その弾幕ごっこって何なん?あと異変て何がお祭り騒ぎなん?」
「えと、弾幕ごっこは………」



……な、何なんだ一体!?天子と衣玖さんが別世界の住人と分かった瞬間にまるで子供みたいに詰め寄ってあれ教えてこれ教えてって……変わり過ぎだ。

「霞、楽しそう……」

「!?」

い、何時の間に隣に来たんだこの人はぁ!?
俺は深呼吸をして乱れた心拍数を落ち着ける。………よし、大丈夫。

「……………。」

「……………。」

か、会話ができねぇぇ!?

「え、えっと俺、北郷一刀って名前なんだ。」

何言ってんの俺!?もう少しマシな話題無かったのかぁ!!?

「……呂布、字は奉先。」

……はい、しゅーりょー。……………じゃねぇよ!!?

「……………。」

「……………。」

また沈黙が!痛い沈黙がぁ!!そ、そうだ!天子たちの話題を……って俺そこまで天子の事しらねぇよ!しかも話題に出来そうなのは危険度がパネェのばっかだよ!





「じゃ、そのうちウチにも見せて~な!」
「いいわよ。そのうちにね。」
「総領娘様、もしかしてその相手は私ですか?」
「そうよ?貴女以外に誰がしてくれるの?」
「………分かりました。」





…あぁ、あっちは楽しそうに会話してるのにこっちは…

「……………。」

「……………。」

お、重い。沈黙が重いぃぃぃ!!!は、早く話を終えてこっちに戻ってきてくれぇぇぇぇ!!!………俺はそう、切実に願っていた。







「いやぁ、楽しゅうて楽しゅうて時間を忘れてしもうたがな。早よ駐屯地に戻らんと軍師に大目玉やで。」

張遼(さっき教えてもらった)はカラカラと笑い馬に跨る。

「今度から気い付けえや、天子の名はヘタすれば要らぬ争いの種になりかねんで。」

馬の上から天子を見ながら張遼は警告した。

「……私は私よ。もし、この名で争いが起きたなら私自身が片付ける。それでも私はこの名を名乗ることは止めないわ。」

しかし天子は張遼をビシッと指差しそう宣言した。

「ははっ、それでこそ天子やな。ウチの心配は杞憂で済みそうや。」

張遼は苦笑しつつも納得した。

「後、ウチの真名は『霞(シア)』や。…お前さんらなら預けてもええような気がするし何より気に入ったんや、だからウチの真名預けるで。」

「ええ、分かったわ。貴女の真名、確かに預かったわ。」

天子が頷き、張遼…霞は一度だけ満面の笑みを浮かべてから馬を下がらせる。


「…また会える?」

「縁が有ればね。」

呂布は少し寂しそうに眼を伏せる(これでもようやく分かってきた表情の変化。見た目は殆ど変化なし。)がすぐに続けた。

「……また、ね。」

「また、会いましょう。…恋。」

天子が真名を呼んだ瞬間に呂布は嬉しそうに微笑む(けどやっぱり見た目は変化なし)。…?俺を見た。

「………一刀。」

「…何だ?」

呂布が俺を見つめる。

「……次に会った時、強くなってたら一戦しよ?」

「…は?」

俺は行き成りの宣戦布告みたいな事を言われ一瞬思考が停止した。

「……………。」

俺からの答えを待っているのかこっちをジッと見つめる呂布。

「…はぁ、分かった。俺が呂布に勝てるわけないと思うけどその時はよろしく。」

俺がそう言うと呂布は軽く頷き、霞の元へとよった。

「ほな戻ろか呂布ちん。」

呂布はコクリと頷き、二人は馬を走らせて行った。







「さ、当初の予定道理、陽平の街に向かいましょ。」

天子がそう言い。俺たちは再び街に向かい歩を進めていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



駐屯地に向かう中、張遼はふと気になる事を思い出し、隣を走る呂布に尋ねた。

「…なぁ、呂布ちん。質問ええか?」

「………何?」

「何で急に雷が落ちた場所に行こうと思ったん?…そりゃ確かに快晴時に雷が落ちたら気になるんは分かるやけど…」

張遼の質問に呂布は何でもない事を喋るかのように答える。

「……何となく、あの場所に行けば会える気がしたから…」

「誰にや?」

「……私の……ん、やっぱりヒミツ。」

最後に言いよどんだ呂布に張遼は不満を漏らすが次の質問を投げかける。

「なら、何であの二人が人やあらへんって分かったん?」

「…分かんない、何となく人と違う気がしたから…」

「…なんやそれ?」

「……私にも分かんない。」

続けて質問しようとしたが駐屯地が見えて来たので取りやめた。

「…っと、付いたな呂布ちん。」

「……………。」

二人は駐屯地の入り口の兵に挨拶し、中に入る。

途中、馬小屋に自身の馬を預け、張遼は軍師のいる場所へと向かった。



「入るで~、軍師はん。」

「む?張遼か?遅かったな。」

張遼は軍師の前に座る。

「いや、呂布ちんが急に雷が落ちた場所に行くゆうて聞かんかったんよ。」

「そうか、それは災難だったな。」

張遼はカラカラと笑い、軍師は苦笑する。

「……そういや、雷の落ちた先に行けんかったけど、代わりに面白い三人にあってな?おかげで時間を忘れて語り合ってしまったんや。」

いや~参った参った。といった感じにおどける張遼に軍師はやれやれ、とため息を吐いた。



「……それで?月(ユエ)の両親の監禁場所は分かったんかいな?」

急にマジメな態度で軍師を見る張遼。軍師も真剣な表情で返す。

「…大方予想は付いたが確実じゃない。何より下手を打って月の目の前で両親を死なせる訳にはいかないからな。慎重に事を進める。」

「……了解や。……ホンマ何で月みたいな良い子がこないな目に合わなあかんのや。」

片手を顔に乗せ、張遼は天を仰ぐ。軍師は無視して話を続ける。

「私達が月の両親の居場所を突き止める。それを待っていてくれ。」

「分かってる。あんた等のおかげでウチらが完全にくぐつに成らんですんでるんや、ウチらは感謝しとるんやで。」

張遼がそう言うと軍師はすっと後ろを向く。

「必ずお前たちをあやつ等の手から解放する。それが私に与えられた使命だ。」

「ふふ。……ホンマ素直や無いな。声が震えてるで…」

張遼の指摘に軍師はうるさい、と反論した。

「とにかく、ウチや呂布ちん、華雄らでは月の両親を助けられへんのや。ホンマに頼むで…」












「藍はん……」



「あぁ、勿論だとも。」



軍師…八雲藍は不敵に笑った。






              ―続く―


 あとがき

あ、有りのままに今起こった事を話すぜ…!
流石、謙虚な天人は格が違う!の元ネタを探していたら
何時の間にか四日たってた……
催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねぇ!
もっと恐ろしいブロントさんネタの片鱗を味わったぜ…!



[11636] 7 ―緋想の剣と緋想の霊刀、そして新たな旅仲間。― (改訂)
Name: 彷徨う吟遊詩人◆a7a52965 ID:b2191fa6
Date: 2009/12/21 13:21
「ここが、陽平の街か…ようやく着いたな。」

俺は、目の前に広がる活気溢れる街並みを見て安堵の吐息を吐き出した。

「…そうね。流石に今回は疲れた。」

ふぅ、と天子が疲れたようにため息を吐き出した。

「俺もだ。……まぁ、今回はかなりの収穫があったが。」

「そうね、でも私はもうあんな地形での戦いはこりごりよ…つくづく私はだだっ広い場所での戦いの方が向いているって実感できたわ…」

あはは…と乾いた笑みで虚空に視線を漂わせる天子。俺はその原因に視線を向ける。











「はい、着きましたよ桜さん、華鈴さん。」

「うん!着いた!衣玖!桜、案内するからね!」

名前通り桜色の髪を腰まで伸ばした幼女がぴょんぴょんと跳ねながら衣玖さんにじゃれ付いていた。

「有難う御座います。家に着いたらお礼をしますので…」

華鈴と呼ばれた女性は長い黒髪を靡かせてお辞儀している。











「……まさか、街の近くに山賊の根城が在ってそこの山賊に攫われた人がいてそれを追ってきた幼女が…」

「徐晃公明だとは誰も思うまい……」

俺と天子は目の前で衣玖さんにじゃれ付く幼女が後の魏の五大将軍だとはとても思えなかった。……確かにめちゃくちゃ強かったけど。

徐晃…桜と会ったのは今から三日前、道に迷い衣玖さんに空から街のある方向を確認して貰っている時だった…








  ―三日前、山岳を移動中―

「どう~!衣玖~!街は見えた~?」

空を見上げて天子は声を張り上げる。
今、俺たちは陽平の街に向かっているが不慣れな土地故に時々に道に迷うためこうして定期的に空から街の方角を探すのである。



「総領娘様、確認を終えました。こちらの方角です。」

降りてきた衣玖さんの指示に従って俺たちは歩き始めた。





「……ぁ……って……も……」
「だ………こ……む」
「ま………な………ぞ…」


ある程度、先に行くとなにやら話し声が聞こえてきた。…これは人の気配?

「…?衣玖、何か言った?」

天子は衣玖さんに聞くが、衣玖さんは首を振った。

「いえ、私ではありま………!総領娘様!!」

厳しい表情である方角を睨んでいた衣玖さんが返事の途中で天子に向かって叫ぶ。

「!……参ったわね、囲まれたわ。」

天子も何かに気付いたのか緋色の剣を構えて警戒し始めた。

「…?……!!」

俺は気配を探り、周りを『視』ようと目蓋を閉じて集中したら目蓋の裏に何故か『自分を頭上から見下ろしている視点』が『視』えた。

(こ、これは!?)

驚くが何故かこれが『当たり前』の視点だと思えた。
俺はそのまま高い視点を使い、周りを『視』る。

「…最低10以上ね…」

天子が視線をあちこちに移しながら言う。

「…いえ、最低15かと…」

羽衣を構え周囲の警戒をする衣玖さんが訂正した。

…だが俺には相手が『視』えている。

「…いや、相手は17…いや、18か?それ位いる。」

「何で分かるのよ。」

目を閉じている俺に天子が反論するが俺は静か目を開けてに答えた。

「…何故か集中したら高い視点で周りが『視』えた。…それで確認したらそれ位の人数がいた。」

「!まさかそれって…」

「ああ、おそらくこれが、俺の能力なんだろうな…」

「…お二人ともお話しはそれ位にして下さい。…来ます!」

俺と天子の会話に割って入った衣玖さんの声が終わった後に俺たちの周りの岩影から正に『俺たち山賊です悪だぜ~』みたいな姿の人たちが現れた。……18か『視』えた通りだな。



「へへ、今日はツイてるねぇ~。美人が二人に野郎が一人か。」

山賊Aがニヤニヤした笑いで衣玖さんを舐めるような視線で視る。衣玖さんは嫌悪感をあらわにした表情で睨み付ける。(さり気なく天子を自身の体で相手の視線から庇っている。)

「美人は連れ帰って回す、野郎は殺して金品奪う。…こんなご時世にたった三人で旅かい?そんなの襲って下さいって言ってるみたいなもんよ。」

山賊Bがギラギラした目で言い、俺たちに持っている武器を向ける。…てゆうかな…


「テンプレ乙。」
「言葉のレパートリーが少ないですね。25点です。」
「見た目通りな奴らだ…てアレ?」

俺は思わず天子と衣玖さんを見る。

「はぁ、これだから欲に溺れた人は…」

額に手をあて深くため息を吐き出し呆れかえっている天子。

「山賊でももう少し捻りの有るセリフが所ですね。」

羽衣で口元を隠し、妖艶に微笑む衣玖さん。ただし視線はとても冷たい。

「ちょ、え?ふ、二人とも如何したの?」

俺が聞き返すと天子と衣玖さんはコチラを見ずに答える。

「私は、こういった汚い欲に塗れた人が嫌いなのよ。」

「誰が誰を回すのです?ふふふ、面白い冗談ですね、そう思いません?一刀さん。…今回は久々に本気で狩りますよ?」

…怖ぇ、恐ぇよ衣玖さん、目がマジです。

俺は震え慄いているが山賊たちにはただの悪口にしか聞こえなかったようだった。



「き、きさまらぁぁぁぁ!!!」

案の定、二人の台詞にキレた山賊たちが一斉に襲い掛かってきた。

「はぁ、じゃ殺りますか。」

「はい、サクとですね。」

「ちょ!?二人とも台詞が物騒ですって!」

俺が思わずツッコムが二人とも無視してそれぞれに襲い掛かってきた山賊を相手にする。






「少しは可愛がってやろうかと思っていたが止めだ!徹底的に犯してやるよ女ぁ!!」

山賊のうちが一人がそんな事を言いながら衣玖さんに斬りかかるがその剣の間合いに入る前に衣玖さんの羽衣がその胸を貫いた。

「…ぁ?」

山賊から羽衣を抜き、その反動で前めりに倒れる山賊。一撃で心臓を貫かれて何が起こったのか分からずに死んだようにその顔は呆けていた。

「……今回は一切手心を加えません。あなた達はただ、狼に追われる羊のように、蹂躙されるだけです。」

衣玖さんが冷たい声でそう宣言した後に左手を腰に右手を掲げ指で天を指すポーズを取る。

「……今まで弱者を蹂躙してきたのです、今度はあなた達が蹂躙される番です。」

    ―龍神の髭―

瞬間、衣玖さんが掲げた右手の指から雷が煌き、真っ直ぐに伸びて山賊たちを貫く。

「ぎゃぁぁぁぁあぁあああ!!!」
「な!?ぐぉあああ!?!!」

更に衣玖さんが軽く指を振るい雷で『薙いだ』。

「あああああ!!!」
「ひぎゃぁぁぁ……!」
「!!!」

それにより更に山賊たちの被害が増していく。それを衣玖さんは冷めた視線で見つめる。

「冥界にてその罪、閻魔さまに裁いて貰って下さい。」

そう言い終わる頃には、衣玖さんに襲い掛かった山賊たちは例外無く炭になっていた。






「可愛いからって調子に乗りやがって…たっぷりと調教してやるぜ!」

そう言って山賊が天子に斬りかかる、しかしあっさりと斬撃を捌かれて逆に切り伏せられる。

「ぐっぁぁあ!?」

どっ、と音を立てて崩れ落ちた山賊をつまらない者を見る目で天子は見下し、それから周りを見渡す。

「…さ、次は誰?殺してあげるからさっさと掛かって来なさい下郎。」

その物言いに天子を囲んでいた山賊は一斉に雄たけびを上げて天子に襲いかかる。

そして今まさに天子に掴み掛からんと接近した所で上に飛翔した、更に要石を出現させ瞬間的に巨大化させた。

    ―要石「天地開闢プレス」―

「潰れちゃえ!」

巨大化させた要石の上に降り立ち山賊たちが集まっている下の方へと急降下した。

「う、うわぁぁぁぁ!!」
「に、逃げ…!」
「よけろぉぉぉぉ!!」

おのおの混乱しつつもその場から退避しようとするがそれより速く超巨大要石が山賊たちの頭上に落ちた。

ドズゥゥン!と轟音を響かせ要石は地面にめり込む、周りは土煙で見えないが声で生き残りがいるのを天子は察し、素早く要石から降り、剣を地面に突き刺した。

   ―地符「不譲土壌の剣」―

すると天子の周りから巨大で鋭利な石の槍が無数に現れ土煙の向こう側へと続いてゆき…

「ぁぁああ!?」
「ごふぅ!」
「な、なんだこれぎぃぉ!!?」

悲鳴が上がった……土煙が晴れると無残に体が穴だらけ、もしくは四肢の一部が千切れた山賊の亡骸が転がっていた。

「……欲に支配され堕ちるからよ。どれだけ貧しくても健やかに生きれば天に召されたかもしれないのに…あなた達が堕ちるのはきっと地獄ね。」

山賊たちの亡骸を軽く見渡し周りに襲い掛かってくる敵が居ないのを確認してから天子は深いため息を吐いた。






「坊主、運が無かったな。ここは俺たちの縄張りよ、諦めて死んでくれや。」

山賊の一人がそんな事を言うが俺は無視して集中して周りを『視』わたす。

(…前に三人、後ろに二人。…ヘタに動いたら後ろからバッサリだな。)

俺はそう結論付け、後ろを『視』つつも前に集中し、緋想を構える。

(…?…これは…)

俺は威力の底上げをする為に緋想に霊力を流し込んだが、緋想に流し込んだ霊力は緋想の表面を覆わずに内部に吸収され、尚且つ緋想が薄く緋色に発光した、しかも柄に刻まれた名が『緋想―快晴』と変わっていた。

(…考えるのは後、まずは此処を切り抜けないとな。)

俺は薄く発光する緋想を握り締め目の前にいる山賊に切りかかった。

「おぉ!」


緋想を右から振り、山賊の左わき腹を狙う。

「は!甘ぇよ!」

当然、山賊はそれを持っている剣で防ぎ、逆に此方の持っている木刀を切断しようとしてくるが生憎とこの木刀は普通じゃないんでな…

ギィンッ!
「な!?」

俺は緋想で山賊の剣を弾き、無防備になった胸元を突き穿つ。

「ごふぅ!?」

確かな手応えを感じるが、俺はすぐに横っ飛びで後ろから切りかかってきた別の山賊の攻撃をかわして後ろから首をへし折る。

「あがっ!?」

首を折られた山賊は崩れ落ちた。
俺は周りを『視』ると残った三人の山賊が俺を中心に三角形の形で囲っていた。

(囲まれたか……『視』えていても対処出来なければ意味がない…)

俺は心の中で舌打ちをし、緋想を構える。
…!後ろからか!

俺の後ろから山賊が切りかかってきた。…!な、他の二人もか!

(ちぃ!三方向時間差攻撃?山賊の癖に頭使いやがる!)

俺は後ろから来た一撃目を緋想で流す、すぐに右上から来たニ撃目も緋想で捌くが…

(…!ダメだ、三撃目を捌けない!)

二つを捌いたが三撃目を無理に捌いたら最初に捌いた後ろの山賊の四撃目を捌けない。

(かといって防げば其のまま鍔迫り合いでスキだらけになり背後から切られる!くそっ!)

迫る三撃目を『視』ながら高速で頭を回転させる。

(!…ならこれしかない!!)

俺は三撃目を無視し、足に力をいれて思いっきり横に『跳んだ』。

(!な、何だと!?)

だが俺の予想では完全な回避は不可能で確実に傷を負うと思っていたがその予想を大きく上回りまるで『低空飛行』をしているかの如く地面ギリギリを『飛んで』いた。

「ぐっ!?」

何とか包囲を抜けたが少し飛んだ後、急に止まって地面に足が付きバランスを崩し掛けたが何とか体勢を立て直し、山賊たちを睨む。

(…迂闊に攻めれば先の二の前!ここは様子を見つつ一対一に持ち込める場面を作らねば!)

俺は緋想―何故かもう光って無く、名も緋想のみ―を構え山賊たちの出方を伺う。

俺と山賊は睨み合い、少しの間膠着状態に陥ったが変化はすぐに訪れた。






「見つけたぞ山賊ども!さぁ!華鈴おねぇちゃんを返せ!」

桜色の髪を腰まで伸ばし身の丈より確かに大きい戦斧を振り回す、推定9から10歳の幼女が現れた。

「は?」

俺は余りの場違いな人が登場して、一瞬思考が停止した。

「なんだぁ?」
「幼女だな。」
「幼女にしては物騒なモン振り回してるぞ?」

山賊もその幼女を見て薄ら笑いを浮かべていた、幼女は頬を膨らませう~、と唸っていた…ヤバイ、何あの可愛い生き物。

俺は戦闘中にも関わらず思わずに和んでしまった。だが幼女はお冠だ。

「幼女というなぁ~!いいからさっさと華鈴おねぇちゃん返せ!」

顔を真っ赤にして叫び戦斧を山賊に向ける幼女、しかし山賊は余裕の表情だ。

「かりん?誰だ?」
「アレじゃね?今日お頭に謙譲した娘じゃね?」
「あぁ、今日の成果の中で一番の美人だった女か。」

ニヤニヤ笑いでそんな事を言い始めた三人の山賊を睨む幼女。

「なら、そのお頭ってヤツのところに案内しろ!」

叫ぶ幼女を見つつ山賊は首を振る。

「いや、お頭は幼女を弄ぶほど外道じゃないし…」

「だ、だれが弄ばれに行くといった!華鈴おねぇちゃんを取り返しに行くんだ!」

「嬢ちゃん、悪いことは言わねぇ帰ってお袋のおっぱいでもしゃぶってろ。」

山賊がそう言って幼女に背を向け俺に向き直った。

「さて、仕切りなおしと行こうか坊主。」

「!」

そう言った山賊の声に反応し俺は気を引き締めなお…

「もぉあったまきた!お前たちをやっつけてから華鈴おねぇちゃんを探す!」

…そうとして山賊の背後から幼女が戦斧で斬りかかった。

「やれやれ、幼子を殺すのは忍びないねぇ。」

そう言いながらも顔はニヤニヤと笑っていた。
幼女が戦斧を振り上げるその瞬間を狙って山賊は剣を幼女に向かって突く。

しかし、その剣が届く事無く、幼女は戦斧を目にも止まらぬ速さで振るい自身に向けられた剣ごと山賊を叩き斬った。

「わが白虎牙断にかかればぞうさもない!」

その声と目の前に広がる山賊の成れの果てに他の二人の山賊同様、俺も身動きが取れ無かった。

「性は徐、名は晃、字は公明!!さぁ、ここで死すかお頭のところに案内するか二つに一つ!」

叫び、ドスンと(恐らく)白虎牙断を地面に打ち下ろし山賊を見据える幼女(信じたく無いが武器と名前から推測するに多分徐晃)。

山賊は恐慌状態になったのか武器を捨てて逃げ出した。

「あ、待て!お頭のところに案内しろ!」

逃げ出した山賊に向かって叫ぶがすでに山賊の影すら見えなくなっていた。

「う~。逃げられたぁ。」

くやしいのか唸りながら服の裾を掴み頬を膨らませる幼女。…だから何でそう萌える仕草をするかなぁ。
俺が自分の中から湧き上がる感情を押し殺していたら幼女が俺に向かって近付いてきた。

「危ないところだったな、キミ!ここは最近山賊が術没するから誰も通らなくなった道だぞ?もしかして道を間違えたの?」

コテン、と首を傾げる幼女。……湧き上がる何ともいえない感覚(萌え)と戦いながらも答える。

「いや、陽平の街への最短を選んでいたらこの道を通る事になってな、だから俺たちは別に道を間違えてはいない。」

「ん?『俺たち』?仲間がいるのか?」

再び首をコテンといった感じに傾け聞き返す幼女。…だから(ry

「ああ、俺よりもずっと強いんだ。だから「一刀~!」…来たみたいだ。」

別々に山賊を相手にしていた天子と衣玖さんが俺の所に駆け寄ってきた。

「一刀、そっち終わ……何、その幼女?一刀まさかあんた…!」

「って、違ぇ!?どうしてそうなる!」

駆け寄ってきた天子は幼女をみて俺を見ながら戦慄する、つい突っ込んでしまった。

「一刀さん、懺悔があるなら聞きますよ?」

「衣玖さんやめて、そんな真剣な表情で自首をすすめるみたいに言わないで!」

真剣な表情で言ってくる衣玖さんの言葉は俺の精神を深く抉る。

「まぁ、冗談はさておき。一刀、その幼女は如何したの?」

「…その冗談は俺の心を深く傷つけたんだが?……この幼女は俺が戦っている場面に現れて結果的に助太刀してくれたんだ…二人ほど取り逃がしたが。」

俺は額に手をあて軽く息を吐き出す。

「取り逃がした?」

天子が俺に聞き返す。俺は頷いた。

「しかし、それほど警戒しないでもいいかもしれませんね。応援を呼ばれるならまだしもここは陽平の街に比較的近いですし、山賊の根城が在るには街が近すぎます。」

衣玖さんがそう言うが先の山賊の話を思い出す限り街の近くに根城が在ってもおかしくないような…

「いい加減桜を無視するなぁー!」

俺たちが話し込んでいると幼女は叫んで割り込んできた。

「はいはい、少し落ち着こうね。」

天子があやすが火に油を注ぐ結果となり、ますます幼女は叫ぶ。

「子供扱いするなぁ!桜は武人だぞぉ~!」

両手を振り上げて地団太を踏む幼女。…なんと言うか必死になって叫ぶ姿は微笑ましい限りだ。

「武人はどの様な時も冷静たれ、ですよ?落ち着いてください。」

衣玖さんが幼女と目線を合わせるように屈み、確りと視線を合わせて話す。

「う、うん。わかった、武人はどんな時も冷静に…だね。」

衣玖さんの言葉に感化したのか落ち着いて衣玖さんと見詰め合う。

「それで?貴女はどのような事を知っているのですか?」

衣玖さんが問いかけると幼女はたくさん!と答えた。

「街は定期的に襲って来る山賊に悩まされてたよ!軍もまともに機能しないし、戦わずして逃げる者もいたみたい!それで桜が街に着いた時も山賊に襲われてて、桜も戦ったけど結局逃げられたの。」

そこでつまり、思いだそうとしてか頭を抱えて、ん~、と唸る幼女。
そして思い出しながら言った。

「…大体三日くらい後にまた来て、その時は桜も全力で戦ったからなんとか撃退出来たけど、その時に華鈴おねぇちゃんが攫われたの…華鈴おねぇちゃんは桜が街に滞在してる時に世話になった人の娘さんで、桜は恩返しを兼ねて山賊退治に来たんだよ!山賊の根城は街から結構近かったって街の人たちが言ってた。」

…なるほどね。

これは見逃せないな、これから向かう街が常に山賊の脅威に晒されているなんて。

俺が衣玖さんと天子を見ると二人とも頷いた。

「その山賊退治に私たちも加えてくれませんか?」

衣玖さんの言葉が意外だったのか幼女をあたふたと驚いている。

「え?……それは危ないの!危険なの!それにこれは桜がやらなきゃいけない事なの!武人が受けた恩も返せないのは名折れだから!」

幼女は、あたふたしつつも衣玖さんに叫ぶ。

「私たちは其れなりに強いですよ。山賊程度に遅れをとるなど有り得ません。それに、困っている人を見過ごす事は出来ません。」

衣玖さんがそう言うと幼女はむぅ、と唸った。

「…その心意気はりっぱだけど、ホントに危ないよ?」

「危険は承知の上です。」

衣玖さんが即答すると幼女ははぁ、と息を吐き出した。

「分かった、そこまで言うのなら。」

「ありが「ただし」…?」

礼を言おうとした衣玖さんの声を遮り、幼女はビシッと指差した。

「足手まといはいらない、だから桜に勝てるか引き分けたら手伝って。」

「……分かりました。」

「手加減しないよ?」

衣玖さんは望むところです。と微笑んだ。












「すみません、総領娘様。勝手に話を進めてしまって。」

衣玖さんがすまなさそうに謝るが天子は笑顔で答える。

「いいのよ別に、私だって放っておけなかったし、その山賊たちも許せないもの。寄り道結構、攫われた人を助けて山賊やっつけて街に向かいましょう。」

天子は不敵に笑うが俺はかなり冷や汗ものだ。

――つか、俺勝てるかと聞かれれば全力でNOと答えるぞ。

代表者一名で戦うならまだしも一人ずつ力量を見るなんてな…はは、置いてきぼり食らいそう。
思わず涙が出てきそうになった。






……予想道理に天子はサクッと勝った…てか空に飛んで絨毯爆撃(弾幕の嵐)とかテラひでぇ、幼女涙目だったぞ。






…次は俺か…


「…ッ、つ、つぎぃ……ッ。」

涙目で俺を睨む幼女。…なんか罪悪感がすげぇ、俺は悪くないのにごめんなさいって謝りたくなってきた。

「…安心しろ、俺は天子みたいにバカげた力は持ってないから。」

「……。」

俺が声を掛けるも深呼吸した幼女は、先の半泣き状態から立ち直って構えていた。

俺も『緋想』を構えた。



――さて、どういこうか?

俺は幼女から目を離さず、じっと見たすると幾つかの幻影が見えた。

真っ直ぐ来て神速の一撃を繰り出す幼女。

真っ直ぐ来るも一定距離で急停止し、再度加速して一撃を繰り出す、といったフェイントを混ぜた攻撃をしてくる幼女。

…等といった感じだ。

――これは?…まさか未来視(ヴィジョン・アイ)とか?……俺は何時から黒猫の相棒になったんだ……ってマンガの読みすぎか。

思わずゲンナリしてしまったがとりあえず置いておく。

幼女が突っ込んで来たからだ。


――次は……右か!

右から来る斬撃をかわす、次の攻撃が来る前に即座に反撃しようと思ったが…

斬りかかる……却下、軽くいなされてザン!で終わりだ。

突く……却下、かわされてザン!で終了!

耐え凌ぐ……却下、いずれ捌ききれずにザン!だ。

バックステッポゥ!……却下、すぐに追撃が来てザン!されて試合終了!

相打ち狙い……採用、ってかこれしかねぇ!

様々な事を瞬時に考えたがどれも悲惨な結果しか出ず、一番マシなのが相打ち狙いだったのが泣けてくる。


――次は上!更に左からぐるっと回って更に左!ってこれを受けたら負ける!…っと、次は左下!右!下!左右左右AB!ってABとかねぇよ!

次々来る怒涛の攻撃を何とか凌ぐがそろそろヤバくなってきた。

――っ!そこだぁ!

幾つかの『誘い』をヴィジョン・アイ(仮)で看破しつつ、本物のスキを『見』つける。
…もちろん俺の実力では完全にスキを突けるハズも無い。
俺自身もその事をよく分かっていたので正に賭けだ。…相打ちに持ち込めるかどうかの。


――分の悪い賭けは嫌いじゃない。


気分は某パイロットだ。…あっちは正に運だけで最良を引き寄せたのに対しこっちは能力使ってだ。…何となく心中比べてゴメンナサイと謝っておく。





「…弱いけど良い読みだね。」

俺のわき腹に大斧を寸止めした幼女が言う。

「…そりゃどうも。」

対し俺の『緋想』は幼女の額に突きつけている。




何とか合格を貰い、同行の許可を貰った。…次は衣玖さんの番だ。


…これまたサクッと決着が付いた。
幼女の攻撃を羽衣でいなし、スキ(俺には何処にスキがあったのか分からなかった)を突いて羽衣で雁字搦めにして勝利……やっぱケタが違う。






「それで、ついて行ってもいいわよね?」

天子がニヤリと笑いながら聞く、幼女はビクリと怯えながら答えた。

「う、うん。」

天子に対してビクビクと怯える幼女。まぁ、あんなのをやられれば怯えるよなぁ。
気の毒に思い、俺がフォローしようと口を開く前に衣玖さんが口を開いた。

「大丈夫ですよ。そんなに怯えなくても総領娘様は貴女を苛めませんから、もし苛められそうになったら私が護ります。」

幼女が衣玖さんの服を掴み、上目遣いに本当?と聞き、衣玖さんがはい、と頷いた。

「ちょっと、その言い方じゃまるで私が悪いみたいじゃない。」

さも不服そうに天子が言った。

「今回は総領娘様が悪いです。飛行できない相手に対し空の上から弾幕を張るのはやりすぎです。」

ここは幻想郷ではないのですから、と衣玖さんが言うとあはは…と天子が笑って誤魔化した。

「……」

「はい、やりすぎました。ごめんなさい。」

衣玖さんが無言の圧力をかけるとあっさりと天子は折れた。こ、この圧力を再び感じる事になるとは…




圧力を消した衣玖さんはふと何かに気付いたように幼女に振り返った。

「そういえば名を交わしていませんでしたね。私は永江 衣玖と申します。」

衣玖さんが名乗った…そういえば言ってなかったし聞いてなかったな。

「俺は北郷 一刀だ。」

「私は比那名居 天子よ。よろしく。」

俺たちが名乗ると幼女も名乗り忘れたのを思い出したのか慌てて衣玖さんからはなれて名乗った。

「徐晃だよ。…よろしく!」

元気良く名乗った幼女改め徐晃。…ってやっぱり徐晃かよ!何となく分かっていたけど、あと何で幼女!?

「…それと真名は桜。」

「真名…出会って間もない私たちに真名を預けるのですか?」

衣玖さんが聞くと徐晃はうん、と頷いた。

「悪い人には見えないから……あとはカン?」

コテンと首を傾げ頬に人差し指を当てて答える徐晃。…カンで真名預けるって…

「分かりました、よろしくお願いしますね桜さん。」

衣玖さんはにこりと笑って手を伸ばした。
徐晃もうん!と答えて伸ばした手を腕ごと抱きついた。


「衣玖は渡さない。」

何か隣りのお人が妙な対抗意識を燃やしております、誰か助けてください。








その後、俺たちは山賊の根城を捜す事となったが結局見つからず、安全そうな場所を見つけて天子が「秘儀!要石の岩戸ぉ!」とか言って要石で周りを囲み、人が通れず尚且つ光がちゃんと中に満たされる様に要石を設置し即席の安置を作り夜を過した。…何故か衣玖さんと徐晃の息が合い、あっと言う間に仲良くなった。そのおかげで天子の機嫌が急降下した。…誰か助けて。







  ―二日前、山岳周囲を捜索中―


朝になり、要石を撤去して再び山賊の根城を捜索するがふとある事に気付き俺は三人に聞くことにした。

「……そういえば山賊の根城を捜すのもいいんだが…今、どこら辺に居るか分かってる?」

自分の頬が引き攣ってるのを自覚しながら三人を見るが案の定、天子は視線を逸らす、衣玖さんは周りを見てハッとした表情をした後、上空に飛ぼうとするが徐晃に服を掴まれているため飛び上がれない。徐晃もすっかり衣玖さんに懐き側から離れようとしない。

「…迷ったか。」

「そう、見たいね…」

「す、すみません。」

「?」

俺たちは途方にくれるも徐晃はきょとんとした表情をしている。

「仕方ないわね、ここは私が……!」

天子が飛ぼうとした時、周りから人の気配が微弱ながら感じた。

「一刀!」

「分かった!」

天子の声を聞き、俺は集中して周りを『視』る。

―昨日の夜の内に自身の能力を調べ、ある程度まで把握する事が出来たので名前も思い浮かんだ。その名も『見極める程度の能力』。『みる』という事に特化した能力のようだ。―

「……前に10、後ろに7、右に6、左に6だ。後、前方の奥のほうに司令塔らしき人物が一人だ。」

『視』えたのは全部で30。その内一人が装備や風格が他の山賊と違ったので指令塔とあたりをつける。

「…ここは、地形が悪いわ。下手に地震でも起こしたらあっと言う間に生き埋めでしょうね。」

天子が緋色の剣を構えつつ呟く。

「同じく、雷も危険ですね。ある程度まで操作出来るとは言え、もともと雷は高いところに落ちやすいですし。」

衣玖さんも周りを見渡し、まるで避雷針の如く立つ鋭利な大岩たちを厄介そうに見つめた。

「…しかもここは狭い十字路みたいな地形で天然の迷路だ、はぐれると合流するのは難しいぞ。」

俺は来た道と今いる場所を思い出し忠告する。

「…ねぇ衣玖、念の為に聞くけど一刀と徐晃を担いで飛べる?」

天子が衣玖さんを見ながら問うと衣玖さんは少し考えてから答える。

「…荷物が無ければ可能です。いくら私でもこうごちゃごちゃとした荷物を持っては飛べません。」

「…やっぱり無理か。荷物も捨てるわけにはいかないし…しかない、地道に倒しますか。」

衣玖さんの答えを聞いて天子はため息を吐き、剣を構えなおす。

「…なら誰がどの方向を相手にする?」

俺が言うと天子は少し悩んでから答えを決めた。

「…一番多い前方は防衛力の高い衣玖に任せるわ、私は次に多い後方を担当するから一刀と徐晃は左右を相手にして。」

天子はそう言うと後方に下がった。

「分かりました。誰一人とて通しません。」

衣玖さんも前方に陣取り、羽衣を構える。

「桜は右に行くね、一刀。」
「分かった、それじゃ、俺は左だな。」

俺と徐晃はそれぞれ左右に分かれる。(因みに中央には邪魔にならない様、荷物を置いている。)



「…来るぞ!」

其々配置に付き、警戒していた俺は山賊が動くのが『視』えたので警告を発する。

「分かったわ。」
「一刀さんも気を付けて下さいね。」
「誰一人ここは通さない!」

そして視界にこちらに向かってくる山賊たちの姿を捉え、緋想を握り締めた。

――ここは抜かせない!天子たちに背を任されたんだから!







「遅いです。」

衣玖さんは羽衣をしならせ襲ってきた山賊の首をへし折る。
しかし、その間に別の山賊が接近し斬りかかる。

カキン!
「なに!?」

しかし衣玖さんは羽衣を構え、斬りかかってきた山賊の剣を受け流し…

 ―羽衣は水の如く―

シャ! ゴトリ!

羽衣を目にも映らぬ速さで振るい、山賊の首を飛ばした。
当然、首から上を無くした体から血飛沫が飛ぶが既に衣玖さんが体を吹き飛ばしていたので衣玖さんには一滴たりとも返り血を浴びていなかった。

「あなた達の血で穢れるのは正直不愉快ですので、これ以上は近付かせません。」

衣玖さんが手を掲げるとその手に羽衣が巻きつき螺旋状になる、それを振り下ろした。

  ―龍神の一撃―

瞬間、羽衣から雷撃波が伸びて範囲内にいた山賊を纏めて感電死させた。

「……………。」

衣玖さんは何も言わず、残った山賊に雷撃を飛ばし始めた。







「背後を突こうなんて甘いのよ。」

天子はそう言って目の前に要石を出現させ、それを浮かせる。

  ―非想の威光―

要石から赤い針状のレーザーが連続で発射され近付く間もなく山賊たちを屠ってゆく。

「まだまだ!」

更に天子は掌に気質を集め山賊に向かって撃ち放つ。

  ―天気「緋想天促」―

撃ち出された気質は山賊にあたり弾け、球体となって周囲を漂う。

「…狭い道は弾幕を張れば大丈夫…ってね……!?」

通常弾幕で残りの山賊を倒していた天子の目におかしな現象が見えた。

「天気球が…何かに吸い寄せられてる?」

天子は弾幕を張りつつも球体となった気質が何かに導かれるように移動する先に目を向けた。

「あっちはたしか一刀のいる方向…」







「いゃぁあ!」

ドスン!と音を立てて白虎牙断を振り下ろし襲い掛かってきた山賊を真っ二つにした。

「桜は負けない!」

徐晃は叫び、白虎牙断を横へと薙ぎ斬りかかって来た山賊を返り討ちにした。

「来い!お前たちにやられるほど桜は弱くないぞ!」

徐晃の挑発に数人の山賊が別方向からほぼ同時に襲い掛かってくる。
右から来る斬撃を弾き、神速の返し技で逆に切り伏せ、左からくる斬撃と前からくる斬撃は白虎牙断の柄で防ぎ横薙ぎで纏めて切り伏せた。
その瞬間を狙って最後の一人が襲い掛かってくるも小柄な体と軽い体重を利用し白虎牙断を軸に回転し、切りかかってくる剣の横腹を蹴り穿つ。

ギィン!と音を立てて剣を相手の手から蹴り飛ばした徐晃はそのまま白虎牙断を振り上げ山賊に振り下ろした。








一方、俺は結構苦戦していた。

「ハァハァ、ちくしょう!情けない!」

他の三人を『視』ると衣玖さんは既に八人を下し、天子も六人を倒している、徐晃に至っては既に最後の一人を倒すところだ。

ところが俺はどうだ?まだ二人しか倒せていない。『視』えているのに体が付いて来ない、結果どうしても反応が遅れ、不覚をとり攻めあぐねている。

――もっと早く動ければ!

俺はそう強く願い緋想を握り締めた。

――!…何だあれは?

視界にふよふよと浮く謎の球体が複数現れ、此方に向かって飛んで来ていた。
よくは分からないが危険が無いのか?


俺は山賊たちの方を見つつ謎の球体の動向を『視』る。…すると球体は確実に俺に向かって飛んで来ていた。

…ヘタに動けばやられる、かといってアレもよく分からないし…

俺が考えていると球体は一定距離を越えた瞬間、一気に加速し俺が反応する間もなく緋想に吸い込まれていった。

――!?な、何が……!!?

混乱する俺を置き去りにして、緋想は緋色に強く発光し始めた。

…こ、これは!?

しかも体が軽くなり力も湧き出し始めてくる。…何が起こって…?

俺は緋想を見ると柄の名がまた変わっていた。

――『緋想―風雨』?どういう…いや、考えるな!今は目の前の敵を撃つ事に集中しろ!

俺は『緋想―風雨』を握り、山賊へと走る。
するとまるで風にでもなったかのような速さで接近した。

「そこ!」

俺は『緋想―風雨』を叩き付け一人目の首をへし折り、返す刃で後ろの二人目の首を横から砕く。

「な!?てめ…」

三人目が俺に気付くがもう遅い、俺の一撃が入り、まるでダンプにでも撥ねられたかのようにポーンと後ろに吹っ飛んだ。

「はや…」

最後の一人も一撃を叩き込み、吹き飛ばした。

この間、僅か数秒の時間だった。俺は思わず緋想を見てしまう。

――これは…一体?

緋想が緋色に光り、風雨と名が新たに現れてからまるで風のような速さと暴風のような力が湧き上がった。

…とその時、緋色の光りが消え、名も緋想に戻ってしまった。
しかもがくりと力が抜けたのである。

っ!ち、力が抜ける!?これってたしか霊力切れと同じ感覚…

俺は膝をつき荒い息を吐き出した。

「一刀さん、こちらは終わりました。」
「敵全滅。ざっとこんなものね。」
「終わったよー。」

他の三人から声がかかり、俺も息を大きく吸い、答える。

「ああ、こっちも終わった……!?」

俺は、念の為に周りを『視』ると更に追加が来ていた。

「敵の援軍だ!数は前が20!後ろが14!左右が12だ!」

「!こちらも確認しました。」
「うわぁ、また来た。」
「おかわりじょうとう!さくらがやっつけてやる!」

それぞれに感想を言い、再び戦闘を開始した。






「くっ!流石にキツイ…!」

俺は迫る剣を弾き、後ろへと跳ぶ。…これ以上は下がれないか。

「なんか次々来るよー。きりがない!」
「これは流石に不味いですね。」
「ち、地形さえ悪くなければ纏めて倒せるのに!」

他の三人も湯水の如く迫る山賊に苦戦気味のようだ、流石に地形が不利で尚且つ包囲戦ではその力を存分に発揮できないようだ。…それでも他の三人はバッタバッタ敵を倒しているが…

「…仕方ないわね。衣玖!前方の敵を薙いで!一刀と徐晃は中央に置いてある荷物を全部持って!私が殿をするから強行突破よ!」

天子はそう言いスペルカードを宣言した。

「―要石「天地開闢プレス」―!!」

ズン!と音を立て、天子の目の前の道を巨大要石が塞ぐ。

「これでこっちからは来れないはず!」


衣玖さんも天子の「薙いで」の台詞ですぐに行動していた。

  ―龍神の髭―

バリバリ!と音を鳴らし真っ直ぐに伸びる雷を巧みに使い、前方の山賊を纏めて薙ぎ払いつつも周りの岩には当たらないように操作して道を作る。

「…行きます!」



俺と徐晃も迫る山賊を捌きつつ、一気に後ろに下がり荷物を二つに分けて其々に持つ。

「一刀早く!」
「ああ!」

天子は俺と徐晃に迫る山賊に弾幕を張りつつ周りの岩が崩れないように注意を払っている。

「終わったよ。」
「よし、全部持った!」
「それじゃ走って!」

天子に急かされ走り出す。…後ろから山賊も多数接近中ってね。

「っの!置きみあげよ!」

天子は剣を地面に向かい差し込む。

  ―地震「先憂後楽の剣」―

「急いで!早くしないと崩れるよ!」

俺は更に脚に力を入れ全力で駆け抜ける…暫くするとゴゴゴゴ…と揺れと轟音が響き始め、更に周りの大岩も崩れ始めた。

「ほらほら!もたもたしてると生き埋めよ!」

「無茶言うなぁ!」

俺は思わず叫んでしまった。







あれから如何にか山賊を撒き、俺たちは小高い丘に登った。

「ハァ、ハァ…ハァ。」

俺は荒い息を吐き、地に座り込んだ。

「…どうやら、あの地一帯の大岩が崩れたからこっちを追いかけるのも出来ないみたいね。」

天子は後ろの方を見てモクモクと煙の上がった一帯を見ながら言う。

「総領娘様…アレをご覧下さい。」

衣玖さんが何かを見つけたのか何かを指差す。

「ん?何、衣玖…!アレって…」

俺も衣玖さんが指し示す場所に目線を向けると其処には木でできた城のようなものがあった。

「あれが山賊の根城……華鈴おねぇちゃんが捕まっている場所…!」

徐晃はギュっと拳を握り締め、根城を睨み付けた。

「…気付かれない内に行きましょう。」

天子が静かに言い、俺たちは頷いた。








「ここが、山賊の根城か…予想より遥かに大規模だな。」

「おそらく、軍がまともに機能しないために、あれよあれよとゆうまに膨れ上がったのかと。」

俺が思わず呟いた台詞に衣玖さんが解説してくれた。

「…ここからは時間との勝負よ。…本当は二手に分かれた方が捜しやすいかもしれないけど徐晃以外はその『かりん』って人を知らないから全員で動くわ。」

俺たちは頷き、中へと潜入した。






……よし、居ないな。
俺は能力を使って、誰も居ないのを確認しつつ先を行く。

――まさか、こんな形で、目覚めたばかりの能力が役に立つとは思わなかったな…

思考の片隅でそんな事を考えつつ、前を確認する。

――!誰か居る?………何か話してるな?ち、『みる』だけじゃ話の内容までは分からんか。…仕方ない…ん?

俺は仕方なく別の道を探そうと戻ろうとしたが山賊の向こうに扉が視えた。

――あそこは…?行けるか?……よし視てみるか。

俺は更に集中し扉の中を『覗く』と中に髪の長い女性が震えているのが視えた。

――!!…あの人か?

俺は確認のため後ろで待機している徐晃を手招きで呼んだ。

《どうしたの一刀?》

《聞きたいことがある。『かりん』と言う女性は黒髪で長髪だったか?》

《!!そうだよ!華鈴おねぇちゃんは髪が長くて綺麗な黒髪だよ!見つけたの?》

期待の眼差しで俺を見つめる徐晃に俺は頷いた。

《ああ、この奥にある扉の先に黒い髪の長い女性が居るのが視えた。だがこの先には山賊が数人ほど居て見つからずに進むのが難しいんだ。》

俺がそう言ったらいつの間にか近付いていた衣玖さんが手を上げた。

《なら、此処は私に任せて下さい。》

《分かった。頼みます。》

《衣玖。おねがい。》

衣玖さんは笑顔でコクリと頷いた。



衣玖さんがすっ、と曲がり角に近付き奥を覗く、人数を確認した衣玖さんは左手をそっと指し出した次の瞬間にパチ!と音が鳴り、次にどさりと何かが倒れる音がした。

《命を絶つ程の電気は気付かれやすいですが意識を断つ程度の電気は意外と気付かれ難いのですよ?》

衣玖さんはニコリと此方に笑いかけた。



《かりんおねぇちゃん!》

徐晃は扉を開けて中に入ると途端に小声で叫んだ。…なんて器用な。

「…え?さくらちゃん?」

部屋の奥の方に小さく縮こまり震えていた女性が徐晃の声に反応して顔を上げた。
徐晃は女性の顔を見て涙を浮かべながら抱きついた。

「華鈴おねぇちゃん…よかった、よかったよぉ…」

小声で泣く徐晃を女性は優しく抱きしめて涙を流した。

「…よかったな。…感動の再開もそこそこに早く脱出しないと異変に気付かれかねないぞ、徐晃。」

感動の再開に水を差すのは嫌だったが早く移動しないと厄介な事に成りかねないが故に俺は空気を読まずに喋る。

「う、うん。分かった、華鈴おねぇちゃん、いこ。」

徐晃が手を引っ張り女性を奥から連れ出した。

「…あの、どなたか存じませんが助けに来ていただいてありがとう。私は華鈴と申します。」

俺たちを見て、女性―華鈴さんはペコリとお辞儀した。

「いいのです、私達は桜さんの御手伝いをしただけですから。」

衣玖さんが笑顔で対処する。……!

「ち、予想よりも遥かに早い!急げ!異変に気付かれた!」

「は、はい!」

俺が叫ぶと華鈴さんが慌てて部屋から出る。



衣玖さんと天子は何かを確認し有っているようだ。

「霊力はどの位残ってる?私は、大体霊珠12個分かな?」

「そうですね……かなり消費しましたので大体霊珠11個分ですね。」

天子は衣玖さんの答えを聞いて何かを考え始めた。

「天子!移動するぞ!」

天子は頷き、走り出す。




「…衣玖。」

「総領娘様?」

天子は衣玖さんを呼ぶ、衣玖さんは天子のいる後方に下がった。

「ある程度離れたら、私が「全人類の緋想天」を放つから一刀たちを守ってね。」

「…分かりました。お気を付けて。」

衣玖さんは再び先頭近くに上がる。


根城内を出口に向かって逃走し、出口に差し掛かった時に敵に気付かれた。

「ち、とうとう感付かれた!急げ!」

俺は後ろを『視』ながら走る、根城から出て真っ直ぐに走りながら門を開けようとするが…

「!…ちぃ!塞がれてる!」

俺が門に蹴りを入れると衣玖さんが門に近付いた。

「退いて下さい!巻き込まれます!」

手を掲げ羽衣を巻きつける衣玖さんを見て、俺は慌てて門から離れた。

「穿ち抜きます!」

  ―魚符「龍魚ドリル」―

バリバリと雷光を纏う螺旋状に腕に巻きついた羽衣を門に突き刺した。
ズドンと音を鳴らして門を円形状に吹き飛ばした衣玖さんを見て華鈴さんはあ然としていた。

「急いで下さい!」

円形状に開いた穴から外に出て衣玖さんが手招きした。
俺たちは開いた穴から大急ぎで外に出る。

「…衣玖。」
「……分かりました。」

ある程度、根城から離れると天子は立ち止まり根城の方を向いた。

「天子?如何したんだ?急いで離れないと追い付かれるぞ!」

「…追い付かれないようにするのよ。」

そう言って天子は空へと飛翔した。

「…まさか!?」

俺は先の台詞と前の黄巾軍との戦いを思い出していた。

――アレを撃つ気か!?俺たちが近くにいるんだぞ!





「すぅ……。」

天子は緋想の剣を構え、霊気と気質を集め始めた。

「集え、集え、集え、集え、集え……!」

緋色の発光がより強く輝き天子の体を飲み込むほどになった。

「これが……!」

天子は緋想の剣を下に向け、集まった力を解放した。



「「全人類の緋想天」よ!!」



緋色の流星が大地に堕ちた…そう表現できる程にそれは苛烈で無慈悲な一撃だった。
黄巾軍との戦いで見せた極太レーザーを遥かに上回る威力は相対する者に絶望を与えるほどだろう。…しかも余波こっちきてるぅぅぅ!!?

俺は、慌てて身を屈め、何故か緋想を盾の様に構えていた。俺の後ろでは徐晃が華鈴さんを守っているためこの場を動けない。


「は!」


  ―羽衣は風の如く―

衣玖さんが前に出て、羽衣を振ると目の前に目視出来るほどの風の壁が現れた。

ゴゴゥゥ!!!

「くっ…ぅぅああ!!」

天子の攻撃の余波を衣玖さんが必死の表情で防ぐ、しかし完全に防ぎきれる筈も無く、僅かながらの余波が襲ってきた。

「!!?」

例えるなら、台風の強風、竜巻の暴風などが当てはまる程の衝撃だった。

――こ、これで余波の余波か!?有りえないくらいに強い…!

俺は必死に飛ばされない様に耐え、その場に留まる。



…暫くして余波をしのぎきった衣玖さんはガクリと膝をついた。

「衣玖!」

俺の後ろで華鈴さんを守っていた徐晃が衣玖さんに近付き倒れそうになっている衣玖さんを支える。


俺は軋む体を緋想で支えながら山賊の根城が在ったところを『視』ると…

「なん…だと…!?」

巨大なクレーターが出来ていた。…これなら確かに追って来れないだろう、根こそぎ吹き飛んだのだから。

――こ、これが天子の実力か!?

俺が慄いていると天子が下りてきた。

「てん…し?」

俺が話しかけるより早く下り立った天子はパタリといった表現が似合いそうな倒れ方をした。

「天子!?」
「総領娘様!」

痛む体を抑え、俺と衣玖さんが天子の元へ駆け寄り抱き上げると…

「天子?」

「きゅう……」

目を回し気絶していた。……これって…

「霊力の使いすぎによる気絶ですね。」

「…そうか。」

まったく、心配掛けやがって…
俺は安堵のため息を吐き、痛む体を誤魔化しながら天子を横抱きにして持ち上げる。

「…とりあえず、休める場所を探そう。」

「はい。」





その後、俺たちは近くに在った洞窟で休み、疲労した体を癒すために街への出発を明日へと決定した。
少し休んだ後に天子が目を覚ますが疲弊しつくした精神の疲労感によりろくに動けなかった。
夜になり、徐晃や華鈴さんと色々と語り合って、徐晃は真名を俺と天子に預けてくれた。そして、眠りについた。





  ―前日、山岳の道を移動中―

翌日、起きたが体の節々が痛み、動くのも億劫になりかねなかったが何とか起きだし、陽平の街へと歩き出し、途中で衣玖さんに方向を確認して貰いながら進んでいった。



「ねぇ、後、どのくらい?」

「そうですね、このままのの速度ですとまる一日、つまり明日までかかりますね。」

天子はそう、と返し歩き続ける。

「…天子、聞きたいことがあるんだが?」

「ん?何?」

天子が俺に顔を合わせる。俺は緋想を取り出し、天子に見せた。

「…これを見てくれ。」

俺は天子に緋想を渡す、天子はしげしげと緋想を見ていたが柄に刻まれた『緋想』
の文字を見た瞬間、驚愕で両目を開いた。

「これって…まさか。」

天子は緋想を持ち直すと霊力を注ぎ込もうとし…

「はぅ”!?」

ガクリと体から力が抜け倒れかけ、俺が支えた。

「だ、大丈夫か?」

「大丈夫じゃない………忘れてた、今霊力枯渇状態なのに…」

天子は何とか体勢を立て直し、『緋想』を俺に渡す。

「…多分それは、『緋想の霊刀』ね。私が持ってるこの…」

天子は緋色の剣を取り出す。

「『緋想の剣』の兄弟。かつて天界に有った二大宝剣の片割れ…でもある時にある天人が「宝剣は二つも要らない。どちらか優れている方を残し、もう片方は破壊したほうが良い。」と言って二つの宝剣を打ち合わせたの。」

そう言って天子は『緋想の剣』を見る。

「…勝ったのはこの『緋想の剣』…でも今考えれば当たり前なのよ、元々『緋想の剣』と『緋想の霊刀』は二つで一つ、『緋想の剣』は気質を集め、天候を操作したり力に変えたりするの、一方で『緋想の霊刀』は気質を集め、其れにより所持者に能力を付与するの。…だから元々の強度は『緋想の剣』が上、単純な打ち合わせじゃ、『緋想の霊刀』が勝てる筈が無かった。」

そこまで言って俺が握っている『緋想の霊刀』を見る。

「試合ならどちらが勝つかは不明だけどね。元々の攻撃力と気質を集め力に変える『緋想の剣』と込めた気質で様々な恩恵を所持者に与える『緋想の霊刀』じゃ、扱う人次第で何処までも変わるから。」

「そうなのか?」

「ええ、剣の力を100%引き出せる人なら二つの宝剣は正しく天上天下に二つとない最高の剣になる筈だったのよ。…あんなバカが現れなければね。」

天子は遠くを見ながら続ける。

「負けた『緋想の霊刀』は砕かれたわ、でもある天界の刀匠がね、霊刀の力を霊樹から作った木刀に込めたの。その刀匠は木刀に『緋想』の名を刻み、その霊樹が祭ってあった神社に渡したのよ。「この木刀は霊刀にして宝刀。然るべき時に然るべき担い手に渡してくだされ。」なんて言葉を残してね。」

「…そうだったのか。あの時、お前が力を貸してくれたのか…」

俺は納得し緋想を掲げた。陽光に照らされた緋想が心成しか誇らしそうに見えた。

「…だから一刀、あんたがそれを振るうならその霊刀の主に相応しいくらいに強くなりなさい。嘗ては天界の宝剣だったそれに誇れるくらいにね。」

天子は挑戦的な目で俺を見てくる。

「当たり前だ。何時までも弱いままでいられるか。必ず緋想の主に相応しいくらいに強くなってやる!」

俺は蒼天の空に誓いを立てた。必ず強くなる…と。





その後、聞きたい事を聞き尽し、もくもくと前へと進み、夜になり安全そうな場所で一夜を過し、翌日、再び歩いて昼前にようやく街に着いたのである。








「……………。」

陽平の街に着くまでの三日間を思い出し、何故かどっと疲れた。

「一刀、早く!置いていくわよ!」

俺が周りを見ると既に他の皆が先に進んでいた。

「って、置いてくなぁ!」




「うわぁ!凄い!」

天子は歓喜の声を上げて周りを見る。所々に修復の後やボロボロの所があるが人々には活気が溢れていた。

「ようこそ!陽平の街へ!」

俺たちの前に出て桜がにぱー、と笑い街を紹介した。

「この街の人はね、とっても元気なんだよ!どんなに襲われてもへこたれずに街を修復しつつ発展させてきたんだ!でも暴力、とゆうか戦うのが嫌みたいでどんなに戦いに誘っても絶対に首を縦に振らないんだ。だからここら一帯は山賊や黄巾賊にとって格好の獲物なんだよ。いままで軍が護ってたけど今じゃろくに護ってもらえないからやられ放題なんだ。」

「へー、そうなんだ。」

天子が相槌をうち、華鈴に聞く。

「で?本当に戦うのが嫌なの?」

「…はい、この街では戦うのは軍の仕事で、私たち民は街をより良くするのが仕事ですから。だから絶対に戦いません戦うくらいなら街を修復してた方が有意義ですから。」

華鈴はそう断言した。…完璧なほど非武装主義だな。

「か、華鈴ちゃん!?」
「嘘!…無事だったのね!」

街の人が華鈴に気付き次々と集まりだした。俺と天子と桜と衣玖さんは人の波に飲まれないように早々に離脱し、近くで街の人達に無事を報せている華鈴さんが捌き終わるのを待つことにした。



「す、すみません。お待たせしました。家に案内しますね。」

あれから数刻、息を荒げ、少し髪と衣服が乱れている華鈴さんがきた。
それから華鈴さんの家に着き、華鈴さんは両親に無事を報せに行った。

「華鈴!華鈴!良かった、無事で…!」

「お母さん…!」

華鈴さんとその母親が厚く抱きしめあい共に喜びを分かち合っている。

「ありがとう!娘を助けてくれて!」

「これも、恩返しです。」

桜が華鈴さんの父親と話し、父親は桜に頭を下げている。…見た目9から10の幼女に頭を下げる中年男性。…シュールだ。

「貴方達もありがとう!徐晃殿と一緒に娘を助けてくれて!何かお礼ができるなら何でも言ってくれ!」

俺たちにも頭を下げる父親。

「…なら、数日宿を貸してくれますか?」

天子がにっこり笑顔で話す。父親は勿論!と答えて娘と母親の所に行き、宿を貸す事を話すと華鈴さんとその両親がこちらに近付いてきた。

「私は華鈴の母で華玲と申します。私たちの所で宜しければ喜んでお泊め致します。」

母親―華玲さんが深く頭を下げた。

「改めて礼を言おう、ありがとう。私は華鈴の父で華栄と申す。」

父親―華栄さんも頭を下げた。

「皆さん、此度は真にありがとうございました。皆さんに助けて頂いて深く感謝致します。」

華鈴さんも深く頭を下げた。

「いいのです。私たちこそ宿を貸して頂きありがとう御座います。」

天子も軽くお辞儀した。…やっぱり違和感無いのが違和感になるぅぅ!?



その後、俺たちは各々自由行動となったが誰もが疲労困憊で借りた部屋から出ることは無かった。…マジ疲れた。

そして、その夜。
俺たちは晩飯もご馳走になり、食事を終えた後、これからの方針を決めるため天子の借りた部屋に集まった。


「…それで、次の目的は如何するんだ?」

「先ずは疲労を取ることが先決ね、ニ、三日はこの街で休暇をとるわ。」

天子の提案に俺は頷いた。

「それなら休暇中に一刀さんを鍛えるのは如何でしょう?霊力は体を動かせば其れだけ回復が早まりますし…勿論、下手に疲労を溜めない為に鍛えては、休みを挿みますが。」

「分かった、俺も強くなれて霊力の回復も早まるし、それでいこう。」

衣玖さんの提案に俺は賛成した。

「………所で衣玖さん。」

「何ですか?」

俺は衣玖さんを見つめはっきり言った。

「何故、衣玖さんの膝の上に然も当然の如く座っているのですか桜は?」

俺がそう聞くと衣玖さんは自身の膝の上に座りもたれ掛かっている桜の頭を優しく撫でてから答える。

「…何か問題でも?」

「……いえ、ありません。」

…何故か何かに負けた気がした。

「一刀。天子。」

衣玖さんの膝の上に座り衣玖さんに抱きしめられている桜が声を発した。

「何?」

「何だ?」

俺と天子が桜に聞き返すと桜はにっこりと笑い。

「これからは桜も一緒に行く!」

そう言った。俺としては別に構わんかな。

「…まぁ、いいよ。よろしく、桜。」

「分かったわ。これからもよろしくね、桜。」

桜は満面の笑みを浮かべて頷いた。

「よろしく!」




こうして俺たちの旅に新たな仲間が増え、更に楽しくなっていく。

ま、今現在で戦闘力を計算すると新参たる桜にすら負ける俺って…よそう、なんか悲しくなってきた。

俺は一人心の中で涙を流した。





        ―続く―



 あとがきDA☆ZE☆

一刀覚醒、緋想の木刀の謎を少しを除き解明。新たな仲間、徐公明(オリキャラ幼女)。の三本でお送りいたしました。

           ―修正しました―

能力図鑑。

『見極める程度の能力』

読んで字の如し。ありあらゆる『みる』能力を極めたのがこの能力だ。だが一刀はこれの能力のさわりしか使えてないぞ!本来の能力は…

千里眼、透視、未来視、過去視、幻視、魔眼、心眼なんでも御座れの『見』のデパートだ!元来は百目妖怪などが持つ能力なのだ。しかし、あくまで『みる』だけなので対処できるかは本人の実力次第なのだ。

武器図鑑。

『緋想の霊刀』

気質を集めその気質によって所持者に力を与える『元』天界の宝剣。しかし過去に砕かれて力だけを木刀に付加して『ある』神社に本納されていたがある時にその神社の巫女がその木刀を『ある人物』に渡し、巡って一刀の手元に来た。今判明している能力は…

快晴―飛行能力付与、回避結界性能上昇(霊力消費軽減、物理攻撃も受け流せる)

風雨―移動速度及び行動速度上昇、攻撃にふっとばし効果追加

の二つのようだ。



[11636] 8 ―休暇一日目・北郷 一刀― (改訂)
Name: 彷徨う吟遊詩人◆a7a52965 ID:b2191fa6
Date: 2009/12/20 18:13
……翌日、俺たちは霊力回復と俺の修行の為に近くの荒野に来ている。…今回は能力なしの純粋な接近戦技能での勝負だ。


「…ここならいいわね。一刀、桜。」

先に進んでいた天子が俺たちに振り返る。

「分かった、桜、よろしくな。」

「うん、よろしく。…でも手加減しないよ?」

俺と桜は其々に模擬刀(斧)を持ち、構える。

「望むところだ。」

俺は模擬刀を握り締め、ニヤリと笑った。



…俺と桜の距離は、大体2~3メートル互いにすぐ埋めることが出来る距離だ。

――俺が突っ込んでも簡単に捌かれ返り討ちにされるだけ…なら桜が突っ込んでくる所を迎撃すれば勝機はある!……といいなぁ。

俺はそう結論付け、桜と睨みあう。

「…一刀が来ないなら桜から行くよ!」

ドン!と俺との距離を一気に詰め模擬斧を振り下ろす桜。
俺は出来るだけ力に逆らわないようにしながら模擬刀で軌道を逸らす。

ガン!と模擬斧と模擬刀がぶつかる、しかし予想を上回る桜の力にヤバイ!と思った俺は反撃を諦め、受け流す事に神経を集中させた。

狙い通り、軌道を逸らす事に成功し、模擬斧は俺を捉える事無く地面に叩きつけられる。

「甘いよ一刀!」

…しかしその反動を利用し、ほぼ密着状態だった俺に向かいその小さな体の何処にそんなパワーが有るんだ!?と叫びたくなる様な体当たりをモロに鳩尾(身長差)にくらい、俺は思いっきり後ろに吹っ飛んだ。

「ごっっ!?」

――っっっっ!!い、今のは効いたぁ!だが、タフネスには自信があるんだ!

周囲の景色が流れるのを確認しつつ体が地面に着く前に受身を取った。

桜が追撃の為にこちらに接近してくるが、其れよりも早く地面を転がる力を利用して立ち上がった。

その際、嫌な予感を覚えた俺はまだ残っていた慣性を利用し、後方に向かって思いっきり飛んだ。

瞬間、目の前を斧が過ぎ去り、ハラリと前髪が数本風に舞った。
思わず冷や汗が出たが気を取り直し、着地と同時に桜に向かって全力の突きを放った。

「だから、甘い!」

しかしそれすらも桜は読みきり…いや、自身の武器の特性をよく理解し、スキが生まれ易い欠点すら敵の次の行動を予測し易くする長所に変えてしまっている!

俺が突きを放つ事すら読みきっていた桜は大振りに振った大斧の慣性を自身に移し、神速の後ろ跳び蹴りを刀の横腹に叩き込んだ。

俺の手に凄まじい衝撃が伝わり、模擬刀が蹴り飛ばされた。

――っ!しまった!

俺は自身の迂闊さを罵る。刀は遠くに離れ、俺の手も先の衝撃で痺れ暫くはまともに物を持てないであろう。

桜は斧を振り上げ俺に止めをさそうとするが俺は素早く後ろに下がり止めを交わす。

「…一刀、負けを認めたら?」

寸止めした先に俺が居ないのを確認して、諦め悪く足掻こうとする俺に降伏を勧めてくる桜……だがな。

「まだだ!まだ終わらんよ!」

最後の最後まで足掻ききって見せるさ!と宣言する俺に桜は呆れと感心の目線を送ってきた。

「一刀諦め悪いね。でも、戦場ではそれが大切なんだよ。…たまには潔く諦める必要があるけど。」

グッと模擬斧握り、桜が構える。

「…いくよ?桜少し本気だす。」

「…来い!だが、俺はしぶといぞ!」

桜は苦笑してから真剣な表情になり、一気に駆け寄ってきた。

「秘儀!双虎襲撃!」

桜は高速の二連撃で俺を攻撃するが俺も最後まで足掻くと言ったんだかわしきってみせる!

右から来る斬撃を身を屈める事でかわし、左から来る横薙ぎは後ろに跳ぶ事でかわす。

チッと僅かにかすりを二回行いながらも二撃をかわしきった俺の視界に飛び込んだのは二撃目の横薙ぎの回転を利用し前へ跳躍し俺に向かって模擬斧を振り下ろさんとする桜の姿だった。

――…まさか追撃の三撃目があるとは…読みきれなかった。

無論、俺には三撃目をかわす余裕などある筈も無くそこで俺は負けた。



「…一刀の負けね。」

今まで試合を無言で見ていた天子が告げる。

「あぁ、やられた…くそ、もう少しいけると思ったんだが。」

「甘いよ一刀。桜は簡単には負けないんだから。」

くやしがる俺をふふん、といった感じに胸を張る桜。………あれ、何でだろう涙が……いや、俺も分かってるんだ。俺が徐晃に勝てるほど強い筈が無いって……でも見た目幼女……っく!(涙)

「あ、あれ?一刀泣いてるの?」

「いや、目に埃が入っただけだ…」

桜は泣いている俺を心配そうに見つめるが俺は精一杯のやせ我慢をした。……って天子!ニヤニヤ笑うな!

「ま、頑張りなさい。一刀。」

「い、言われなくとも!」



…あれから太陽が天高く昇るまで桜と試合をしたが結局一勝も出来なかった…それどころか桜に一撃すら入れられなかった……幼女に完敗……(泣)
天子も弾幕を使わずに接近戦のみで桜と打ち合っていたが勝率は7:3で桜に負けていた…実戦だったら勝ってる!と半泣きな天子に同情的な視線を送ったら強制的に相手にさせられボコボコにされた……ひでぇ。


昼飯を済ませ、昼からは衣玖さんが借りた部屋で霊力の学習をする事となった。

「分からない事が有れば遠慮無く言って下さい。」

「分かった、よろしくお願いします。」

俺は頭を下げ、椅子に座る。

「先ずは復習からですね。一刀さんは、霊力の基礎は総領娘様より聞いていますね?」

「あぁ、霊力の扱い方も第二段階までならやれる。」

俺が答えると衣玖さんは頷く。

「はい、それなら第三段階の説明をさせて頂きます。…総領娘様は簡単にしか説明しませんでしたから。」

衣玖さんは軽く苦笑した。

「霊力を身に纏うまでが基本です、そして霊力を何らかの形にするのが第三段階なのです。慣れれば様々な事ができます。……弾幕…いえ、霊弾を作るのが最初の足がかりですね。」

そう言って衣玖さんは掌に白き球体を作った。

「ようはイメージです、霊力を形にするのは本人の想像力が元ですから。…一刀さん、やってみて下さい。」

衣玖さんに言われ、俺は手を目の前に持ってきて霊力を手に集めて想像する。

――イメージ…イメージか、霊弾と言われてもすぐに形には……いや、難しく考えるな…単純に球体状に霊力を集めるイメージでいいんだ。

俺はそう結論し、イメージを固めようとするが上手くイメージが定まらない。
むむむ…と唸る俺に衣玖さんは助言してくれた。

「…一刀さんが想像し易いモノでやってみて下さい、案外そういったものから霊弾が作れたりしますから。」

「分かった。」

想像し易いモノ…想像し易いもの…ふと、あるモノが思い浮かんだ。

――…いや、これは無いだろ…

そんな思いを抱きつつもイメージが固まり、俺の手に集まった霊力は形を得る。それは…






「……ナイフですか。」

どっから如何見ても投げナイフです。本当に(ry

「いや、まさかこんな形になるとは…」

俺は頭を掻きつつも形になった霊力ナイフを弄ぶ。つか刃物を想像し易いって俺はどんな危険人物だ。

「…初めて霊弾を作ったとは思えない精度ですね。……そうですね、一体幾つまで作れますか?」

「…やってみる。」


………結果、最低(高密度の霊力(威力重視))20本、最高(低密度の霊力(数重視))40本の霊力ナイフを作れた。……まぁ、霊力が回復しきってないのに霊力使ったからやってみた後、ぐったりと机に体を乗せることになったが。


「うぐ……疲れた。」

ぐったりしてる俺を無視して衣玖さんは手に取った二本のナイフ(高密度と低密度)を見比べた後、何かを考え始めた。

<………すえ恐ろしい程の才能ですね。ここまでの精度の霊弾を初心者でありながら精製できるなんて……これはもしかしたら『スペルカード』の作り方を教えれば化けるかもしれませんね、あまり気は進みませんが……ですがまずは基礎霊力を鍛えなければ話になりません。>

何かを考え終えたのか衣玖さんは霊力ナイフを置いた。

「…はっきりと申しますと、霊弾の精度は初心者の域では有りませんね。ですが基礎霊力の力の密度が薄く、霊撃防御が出来る相手には全くダメージを与えられません。一般人くらいならこちらの『高密度の霊力ナイフ』なら『普通のナイフ』と同じ威力を期待(あくまで期待)できますがこちらの『低密度の霊力ナイフ』ははっきり言って木で出来たナイフと同程度ですね。……結論から申しますと、形は本物の投げナイフそのものですが威力が有りません。」

「…そうですか。」

俺はため息を吐いた。

「ですからまずは基礎霊力を鍛えることからですね。一刀さんは元々一般人クラスの中でトップクラスの霊力を持っていますからしっかりと鍛えれば大丈夫です。」

衣玖さんはそう言って俺の肩をポンッと手を乗せた。

「…そうだな、頑張って鍛えるよ。」

「ええ、その意気です。…さて、少し先の話ですが霊弾による弾幕を張れるようになった後の事を説明しますね。」

衣玖さんは俺から離れ、懐からカードを取り出した。

「これは『スペルカード』と呼ばれるものです。本来は私たちが元居た場所で採用されている擬似決闘システム『スペルカードルール』を用いた遊びである『弾幕ごっこ』及びその亜種である『格闘弾幕ごっこ』の為のものです。……スペルカードルール等の説明は要りますか?」

衣玖さんの問いに俺は頷く。

「あぁ、そのスペルカードルールってのは知らない、格闘弾幕ごっこなら少しだけ知ったけどよくは分かっていないからそれの説明も頼む。」

「分かりました。……まずは全ての基本として『スペルカードルール』の説明からしますね。これは基本的にあらかじめ技の名前と命名しておいた名前の意味を体現した技をいくつか考えて、それぞれの技名を契約書形式で記した契約書を任意の枚数所持しておくことです。この契約書が『スペルカード』ですね、基本はカードですが必ずしもカードである必要はありません。」

そこまで言って持っていたカードを懐にしまう衣玖さん。…なるほど、と俺は頷く。

「…次にその『スペルカードルール』に則った擬似戦闘システムが『弾幕ごっこ』と呼ばれるものです。…霊弾を使い弾幕を張り、相手を倒すのが基本ですが張る弾幕の美しさも勝負の大きなウェイトを占めています、また『決して避けられない弾幕』や『出来るだけ隙間無く撃つ弾幕』や『出来るだけ早く大きい弾を放つ弾幕』のような『最も使い易く、最も効果的な弾幕』は卑怯とされ、使えば相手の怒りを買います。…対決の際にそれぞれ弾幕を張る『攻め手』と相手が張った弾幕を攻略する『受け手』に分かれます。戦う前に使うスペルカードの枚数を弾幕を張る側が宣言し、そのスペルカードを使う際には『カード宣言』が必要です。…ですが技名を叫ぶ必要はありません、あくまで『これからスペルカードを使います』と意思表示すればいいのです。…基本的に勝負の決着のつけ方は弾幕を張る側が攻略する側に弾を当てるか、攻略する側が弾幕を張る側の体力を奪いつくすか、宣言された枚数のスペルカード全てを攻略する、などですね。…後、攻略する側は気合(ガッツ(別名残機))が尽きるまで何度でも挑戦可能なため精神的な勝負の側面も持っています。更に付け加えると基本空中戦のため飛べないと話しになりません。」

……なんかまるでシューティングゲームみたいなルールだな。しかも空中戦って……俺飛べないから参加できねー。

「そして最後に説明するのが『格闘弾幕ごっこ』。スペルカードルールに則った擬似格闘戦システムで私と総領娘様にとってこちらの方が得意ですね。こちらは基本地上での戦いです、道具の絵柄が描かれた誰でも使用できるカードで様々な効果を持つ『システムカード』、その人の固有技能をカードとして表現した『スキルカード』、そして『スペルカード』の三種類で合計20枚のデッキを作ります、デッキは最大4つまで作れますが一度の戦闘で使えるのは一つです。また、『スペルカード』にはカードコストと呼ばれる発動に必要な消費コストがあり、表示された枚数分のカードを消費して発動します。数は1~5まであり、一枚の場合は発動したスペルカードのみですがそれ以上ならば発動するカード+コスト分のカードを消費します、これはスペルカードの効果が高ければ高いほど上がります。……肝心の戦闘は先に相手を戦闘不能にすれば勝ちですね。接近戦で削るも良し、遠距離で削るも良しですし、戦い方は其々ですね。また、この格闘弾幕ごっこしかしない人もいます、一刀さんの戦い方はこの格闘弾幕ごっこ向きですしデッキを作れるようになったら一度試してはいかがです?……ってそう言えば総領娘様がやらせてましたね。」

衣玖さんは苦笑するが、すぐに表情を直し懐から二枚のカードを取り出して俺の前に置く。

「…これが『システムカード』です。…私の羽衣の力を現した『龍魚の羽衣』と総領娘様の剣の力を現した『緋想の剣』です。……『龍魚の羽衣』は使用すれば一定時間ですが、相手の攻撃を防いだ時にその攻撃を流しますので反撃が狙い易くなります。『緋想の剣』は現在予報中の『気質天気』を発現するか、現在発現中の『気質天気』を強制的に終わらせます。」

「『気質天気』?どういったものなんだ?」

俺が疑問を投げかけると衣玖さんはハッ、とした表情をした後に苦笑し、説明を続けた。

「…言い忘れてました。格闘弾幕ごっこは今現在、『気質天気』で戦況を大きく変えうる事があるのです。『気質天気』はその人の『気質』を『天気として現した』もので、普通の天気と違い霊力が宿っており一定時間の間、一定空間の霊力の質を変化させるのです。例えば一刀さんの『気質』は『快晴』ですので現れる『気質天気』は『空を飛ぶ程度の天気』で、これは空間内の霊力が飛行や回避といった行動に使う霊力に+補正を与え、使い易くなったり性能が上がったりします…といった感じになります。…他にも様々な効果の『気質天気』が有りますがここは割合させてもらいます。」

「気質天気は何となく分かった。」

俺は頷く。…おそらく、気質天気は緋想とも関係が高い。と考えながら。

「…さて、少し脱線しましたが大体の説明を終えましたので本題に戻りますね。」

衣玖さんは再び懐からカードを取り出した。

「先も説明しましたが『スペルカード』は技の名前を書き込んだ契約書です。つまりはただの『宣言用』のカードです。……私達は省略して『スペカ』呼んでいますね。」

そう言ってカードを見せる衣玖さん……『雷符「エレキテルの龍宮」』と書かれている。

「『スペルカード』は人其々で様々な種類が有ります。…そうですね、私の知り合いの普通の魔法使いの言葉を借りるなら、他者に見せる事を重視した演劇タイプ、幽霊や人形、使い魔などを使役して攻撃させる奴隷タイプ、適当に弾幕をバラ撒くバグタイプ、避ける側の動きなどを制限するストレスタイプ、自らの身体能力を飛躍的に上げて攻撃を仕掛けるドーピングタイプ、一定の形をして次から次へと模様が生まれるフラクタルタイプ…などがあります。」

見せたカードを仕舞う衣玖さん。

「一刀さんがこの中で相性が最も良いのがドーピングタイプだと思われます。」

「ドーピング…身体能力の強化型が?」

聞き返すと衣玖さんは、はい。と頷いた。

「一刀さんは気付かれていませんでしたけど、一刀さんは戦闘時に霊力で体の動きを補正していました。これを突き詰めていけば十分にドーピングタイプの『スペルカード』を使えます。」

そうだったのかー、と思わず唖然としてしまった。もしかして頑張れば天子や衣玖さんに並べるかも…

「しかし今現在の霊力値では碌な効果を得られません、大体雀の涙程度でしょうか。」

「そ、そうですか…」

上げて落とされたー、と内心思いっきり泣いた。俺が二人に並べるのは無理なのかなぁ。

「今、一刀さんに必要なのは修行です。身体能力も霊力も簡単に手に入る物ではありませんから。」

「そうですね…はい、お任せします。」

俺が頭を下げるとはい、任されました。と衣玖さんが笑顔で答えた。

「私が教えるのは基礎霊力の鍛え方です。…一刀さんの霊弾の精度は良いので後は基礎霊力です、また『スペルカード』は一刀さんがある程度まで基礎霊力が上がれば教えます。」



この後は基礎霊力の鍛え方を教えてもらい、実施する運びとなった。…修行した後に基礎霊力が規定値に到達すれば『スペルカード』を作る事になった。

実際にやってみたがつらい、めっちゃつらい!基礎霊力を上げるには精神を鍛えるのが効率がいいらしく、在り来たりに滝にうたれたり座禅などが有効だが今回は、プラスひたすら霊力を体の周りに張る、が追加された。…ただそれだけなんだけどこれが厄介で…分かり易く例えると頭○字Dで出てきた紙コップに水入れて峠を走る行為…ちょっとでも霊力の集中をそらすと簡単にはがれるし、動く時も注意を払わないと無駄に霊力を消費してしまう。…しかも後ろには常に衣玖さんが待機していて休もうとしたり、集中が乱れたりすると笑顔で電気でビリビリしてくる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

以下の修行風景は私、普通の魔法使いがダイジェストでお送りするぜ!


修行一・座禅。

一刀が座禅を組み、瞑想しているな…暫くすると後ろにいた衣玖が電気を一刀に向けて放ったぜ。

ビリビリー
「ぎにゃぁーーー!!!」

「集中力が落ちてきていますよ。所々霊膜が剥がれていますね。」


修行二・滝にうたれる。

一刀が滝にうたれているのをじっと見ていた衣玖が雷撃を飛ばしたぜ。


バリバリー
「あばばばばばばばb…」

「意識を確り持ってください、霊力操作が乱れていますよ。」


修行三・耐久ランニング(ただしずっと霊膜はったまま)

一刀が軽快な足取りで走っていると後ろにいた衣玖から電撃が飛んできたぜ。

ピシャーン
「じぇろにもぉ~!?」

「さっきから霊膜が剥がれすぎです。」


…とまぁこんな感じだぜ。……しかし私の出番はこれだけか?

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

…修行の結果、確かに霊力のコントロールは上手くなったけど基礎霊力は分からない、衣玖さん曰く「早々は上がりません、日々の鍛錬が堅実な霊力の上げ方です。」らしい。…うぅ、しびれた……


夜は今日の修行に霊力鍛錬を合わせて、効率の良い修行法を天子が教えてくれた。明日から毎日、このメニューを繰り返す事となる。皆は眠りについたが俺は目が冴えて、しかも眠気が無いので仕方なく夜風に当たろうと外に出た。



…星空を見上げる。空を彩る星々が美しく瞬き、月が夜を優しく照らす。

――…いい夜だ…都会じゃこんなに美しい夜空は見れないしな。……都会か…

疲れた心に染み渡るように風が吹く。

――俺は元の世界に戻れるのだろうか?……いや、こんな考えじゃダメだ、いつか帰れるって信じるんだ。

静かで優しい月明かりは俺の心を映し、俺の心の中にある不安を浮き上がらせる。
俺は自身の心の不安を誤魔化す。…いつかっていつだ?と囁く内なる声を聞こえないフリをした。



「一刀?」


そんな時に彼女は俺の所にきた。

「どうしたの?窓からあんたが出て行くところが見えたから気になって追いかけたらこんな街外れにきて。…一体如何したの?」

さも好奇心で追いかけてきました、といった感じに言う彼女だが目の奥に俺を心配そうに見つめる視線を『視』た。

「…いや、眠れなくて夜風に当たりに来たんだ。」

俺は何でもない様に装う、しかし彼女にはお見通しのようだった。

「…嘘、じゃないけど話してないところもあるみたいね。」

彼女―天子の指摘に俺はドキリと心臓が高鳴るが表面上は変化しないように気を配る。

「夜風に当たりに来ただけ、他意はないよ。」

天子は真剣な目で俺を見る。

「…それも嘘じゃないみたいね…なら、本当に夜風に当たりに来ただけだったみたいね。」

天子は片目を閉じ、軽くため息を吐く。俺は内心ホッとした。
…だからこそ不意打ち気味に放たれた台詞に表情を隠しきれなかった。

「…大方、夜風に当たってるうちに何か後ろ向きな事でも考えてしまった…って所かしら。」

「…っ!そ、そんなことは…」

思わず反応してしまい、俺は内心しまった、と後悔した。天子は真剣な目で俺を射抜く。

「人は一人では何も出来ない。……その…私と一刀はと……友達でしょう?あんたが何を考えているか教えて?一人で考え込むよりはマシよ。」

『友達』と言う所で顔を赤くしながら言う天子は、俺の思考を読んだ時の鋭い気配とのギャップが激しく、可愛いらしかったので、俺はつい笑ってしまった。

「っ!何笑ってるのよ!人が折角一緒に考えてあげようって言ってるに失礼よ!」

「っはは。いや、ごめん。あんまりもさっきとの気配の差が激しくてつい、な…」

「ついって何よ!ついって!」

怒りで顔を赤くした天子には先の『長く時を生きた隠者の様な気配』は影も形も無かった。

「……本当ごめん。…けどありがとな、少し楽になった。」

「まったく。……で?何を悩んでいたの?」

俺が先の悩んでいた事を言うと今度は天子が笑い始めた。

「あはははははは!」

「な、何で笑うんだよ!?俺だって家が恋しくなる時だってあるんだぞ!」

「ははは…!だ、だってその悩みって私と衣玖が捜してるスキマ妖怪の八雲紫を見つければ済むもの。…まさか一刀も私たちと目的が同じになるって分かったら急におかしく…!」

あはは、と笑う天子を見つつ俺は衝撃を受けていた。さっきまで悩んでいた事の解決策があっさり見つかった事とそれが天子たちと同じ目的だった事に…

「あははは…!……っぁ!?」

笑っていた天子ががくりと崩れ落ちた。俺は慌てて支える。

「ど、どうしたんだ!?」

天子は先までの元気が嘘のように力なく笑う。

「…霊力の回復が芳しく無いの。この世界、感じが『幻想郷』に近いのに何故か世界そのものの霊力が酷く弱弱しい…だから回復が普段の半分以下の速さしかなくて…」

「…そうなのか?俺には分からなかったが…」

天子がクスリと笑う。

「そりゃ、霊力の最大値が違うもの…一刀位の霊力値ならそれほど影響は無いわ、けど私と衣玖は大問題ね。…これからは考えて戦わないとニ、三日戦っただけでばたんきゅうってなりかねないわ。…特に私の『全人類の緋想天』は消費が激しいから使用を控えないと…」

「…使用禁止にしないのか?」

俺がつい、つっこんでしまったが天子は思いっきり首を横に振った。

「まさか!『全人類の緋想天』はロマンよ!これなくしては私を語れないわ!」

俺から離れ、天子は力説する。俺は天子の迫力にのまれてしまった。

「そ、そうか……」

「そゆこと♪」

天子は楽しそうに笑ってから俺に手を差し出す。

「さ、そろそろ戻りましょう?」

「…そうだな。」

俺は差し出された天子の手を取った。
俺の手を取った天子はそのまま街に走り出す、俺は引っ張られながらも自然と笑っていた。

――天子には敵わないな……

そう思いながら………





               ―続く―

  あとがき

今回は少し悩みました。東方キャラを恋姫世界に放り込むとバランスブレーカー(笑)になってしまうので調整しようかと思いましたがそうなったら『恋姫世界で無双しない東方キャラはただのオリキャラ(笑)だ!』と神託(という名の脳内東方信者。)が下り、こうゆう形に…つかスペルって(笑)…自分でも厨ニ乙って書いてて思ってしまった。(自己嫌悪)つーわけで消しました。
因みに回復速度を非想天則風に言うと使用霊力1、2倍で霊珠一つ分使うと即破壊、霊力回復も約半分って言えば分かります?(どれだけ燃費悪いんだよ)
更に付け加えるとこの外史での霊力回復が悪いのは理由がちゃんとあります。言えませんが…

あくまで一刀の霊力は『幻想が薄れ始めた外の世界の一般人の中での最高クラス』です。そこんとこ間違えると悲しい事になります。

緋想の霊刀のシステムカードを考えてみたらこんなんできましたー。

  ―緋想の霊刀―

予報中:次の天候を使用者の持つ天候で『固定』する。
天候発現時:現在発現中の天候を使用者の持つ天候に『変更』する。
(隠し効果としてこの効果を発動した時に『相手』が緋想の剣のシステムカードか天子が天気「緋想天促」を使うと逆に『相手の持つ天候』になる。)


…実際にあったら『台風殺し』として重宝しそうなカードになりました。では!



[11636] 9 ―休暇二日目・永江衣玖+α―
Name: 彷徨う吟遊詩人◆a7a52965 ID:b2191fa6
Date: 2009/12/20 18:22
華一家に泊らせて貰った日にち二日目です。

今日の総領娘様は一刀さんに修行と称して朝からあちらこちらに連れまわしています。

私は早ければ明日、遅くても明後日には出立するので、そのための準備を桜さんと一緒にしています。



簡易鞄に寝袋を入れつつ次に必要な物を脳内にピックアップしているとトトトと軽い足音を立てながら桜さん近付いてきます。

「衣玖、終わったよ。足りない物は保存食だけ。」

桜さんには一刀さんと総領娘様の荷物で足りない物を点検してもらっていました。
報告を聞き、もう一つ聞こうと思い私の隣に座っている桜さんに話しかけます。

「桜さんは足りないものはありますか?」

桜さんは目を瞑りあごに人差し指を乗せて上を向き「んー」と考えます。仕草が可愛いです。

「えーと、水筒はあるし、保存食もまだ残ってる。地図は買ったし……うん、少し保存食を足すだけで大丈夫!」

元気よく返事をしてくれましたがその中に気になる単語がありました。

「ちず?もしかして地図を持っているのですか?」

桜さんは頷きました。

「簡易、だけど。持ってくる?」

本物かは分かりませんが一応見ておいたほうがいいでしょうね。私はそう結論づけ、頷きます。

「お願いしますね。」

桜さんは立ち上がり、「すぐもってくる!」と言って部屋から出て行きましたがすぐに戻ってきました。

「はい。」

手に持つ簡易地図を受け取り、私は机の上に開きました。…たしかに簡易的ですが地図のようです。地名や国名などはありませんが山や谷などの地形が書かれていますし、この精度なら改良すれば軍事用地図にも出来るでしょう。

「この地図はどこで手に入れたのですか?」

私は内心の驚愕を隠しつつ聞きます。

「ん?この街のお店の一つだよ?」

小首を傾げつつ桜さんは言いましたが私は更に驚きました。この精度の地図が店で買えるなんてこの時代ではほぼ有り得ないといっていいでしょう、しかももし買えたとしても途方もない金額のはずですし旅人が買えるほど安いのはありえません。

…ですがこうして起こっている現実を否定するのは間違いでしょう、その店が特殊なのかそうでないのかと考えるのも後です。地図を持っておけばこれからの旅が大分楽になるのはあきらかですし、私たち三人分の地図を買っておきましょう。

あと、足りない物も買い揃えておきましょう、大きな街ですし大抵は揃うでしょう。
私は地図を桜さんに返し、荷物の整理もそこそこに立ち上がります。

「桜さん、買い足しに行きますので買い物が出来る場所に案内してもらえませんか?…あと、この地図が売っている店も教えてください。」

「うん、いいよ。」

桜さんは受け取った地図を懐にしまって立ち上がります。

「地図が売ってたのは『霖雨』ってお店だったよ。あと、お買い物に行くなら『1番街道・繁華街』がおすすめだよ!」

にこやかに笑いながらそう言って扉を開けて部屋から出て行く桜さん、私も後を追いかけます。






「…すみません、わざわざお手数をお掛けして…」

「いえ、丁度良かったですし、お互い様ですよ。」

桜さんに案内してもらおうと外に出ようとした時に、これから買い物に出かけようとしている華鈴さんと会ったので一緒に買い物をする事になりました。



しばらく歩いていると活気溢れる商店街に着きました。

「…これは中々賑やかな場所ですね。」

私は内心少し驚きながら尋ねると華鈴さんは嬉しそうに笑いながら答えました。

「でしょ!此処はこの街の店が一斉に並ぶ『一番街道・繁華街』だから毎日人がいる活気溢れる場所なんだよ!」

そう言って華鈴さんは並ぶ店々を指差しては教えてくれました。

「あれが花屋であっちが雑貨屋、向こうの赤い店が肉屋で隣が…」

意気揚々と説明する華鈴さんには悪いと思いましたが私は口を挿みます。

「すみません、説明しているとこに恐縮なのですが私が探しているのは保存のきく食材と『霖雨(りんう)』という店でして…」

私が探しているものを言うと華鈴さんは一瞬きょとんとした表情をした後、考え始めました。

私の隣にいた桜さんは私の服の裾を掴み、私を見上げ小さな声で告げます。

《衣玖が探してるのここじゃなくて『4番街道・駐屯地』にあるから迷ってるんだと思う。》

なるほど、軍事施設の近くにあるが故に此処の一般人はまず、来ない…来たとしても訳ありかこの街に在住する兵、旅人か商人に分けられる…といったところですか。

「すみません、今の霖雨付近は私たち街の住人は近付くのが危険なので案内するのは……そういえば、桜ちゃんが私のお父さんの案内で一度寄っているので知っていると思います。桜ちゃんお願いできる?」

すまなさそうに華鈴さんが謝まりました。一緒に買い物をする事になっただけなので別に案内できないからって謝らなくても良かったのですが…

「うん!いいよ!」

華鈴さんは元気よく笑顔で返事をした桜さんに「お願いね。」と更に言葉を重ねてから私に向き直った。

「霖雨には案内できませんが、保存のきく食材や保存食を専門に扱っている店に案内します。こちらです。」

そう言って先を歩き始めた華鈴さんに私と桜さんも後に続きます。
内心、元から霖雨には桜さんに案内して貰おうとしていたのでこの案内だけで十分です。と思っていましたがそれを言ってはいけないと思いとどまりました。


ふと、周りに目を向けてみます。井戸端会議をする女性たちや商人に値下げ交渉を行なうも相手にされていない青年、他にも子供たちが集まって騒いでいたりととても穏やかで平和な光景が映り、知らず知らずのうちに微笑んでいました。

「衣玖?」

隣にいる桜さんから声がかかり、顔を向けます。

「どうしました?」

じっと私を見つめた桜さんは私の手をギュッと握り締めました。

「ん、なんでもない。えへへ…」

顔を前に向け、照れくさそうに、でも満足そうに微笑む桜さん。

「そうですか。」

何となく、桜さんが考えているものが読め、私は苦笑しました。


流れる風景を視界に入れながら握られた手をギュッと握り返します、桜さんは少し驚いたようにビクッと震えて私を見上げます。

「甘えたいのなら甘えて下さい。相当な無茶じゃない限り受け入れますよ。」

微笑みながら言うと桜さんの表情は、ぱぁ、と咲き、満面の笑みを零しながら手を再びギュッと強く握り締めます。
私は微笑んだまま前を向くといつの間にか華鈴さんとの距離が離れていました。

「少々、離れてしまいましたね、急ぎましょう。」

「うん!」

私たちは手を握りながら華鈴さんの後ろに小走りで近付きます。流れる光景を横目にふと、今の私と桜さんは他の人からどのように見えているのか…などという思考が頭を過ぎりましたが、手を繋いで走る桜さんを見て如何でもよくなりました。私の視線に気が付いたのか微笑む桜さんに私も微笑み返します。

振り返り、私たちと距離が離れた事に気が付いた華鈴さんが行き交う人の波の中で手を振っています。

私と桜さんも手を振り返し、華鈴さんのもとへと手を繋ぎながら走りよりました。









「…中々の品揃えでしたね。」

私は必要な数の食材を買い、それなりの荷物を持ちながら隣の華鈴さんに言います。

「ええ、元は冬越えと旅人の為の店ですし品揃えや品質もかなりの物ですよ。旅人だけじゃなく街の人もよく来るので中々繁盛してるみたいです。特に冬の手前あたりは人がごった返して大繁盛だって店主さんが言ってました。」

クスリと笑いながら返した華鈴さんですが店を出るとすまなさそうに謝ってきました。

「霖雨は軍の駐屯地が近いので私たち街の住民は今は近付くと危ないので行けません。…力に成れず、本当に申し訳ありません。」

「いえ、この商店街の案内だけでも十分に助かりました。霖雨には桜さんに案内してもらいますので大丈夫ですよ。」

私は苦笑し、そう返します。桜さんも任せて!と息巻いています。

華鈴さんは一礼してから、人ごみの中へ消えていきました。







「ここが、『4番街道・駐屯地』だよ。『霖雨』はもう少し先だけど。」

桜さんに先導されて歩いてきた先には兵舎や鍛冶屋等が立ち並ぶ道で、周囲に目を向けると人は少なく、兵と思われる人も殆ど見かけずがらんとして不思議と淋しい感じがします。

「…こっち。」

桜さんに手を引かれながら道をそれて裏道へと進みます。

「こちらに『霖雨』が有るのですか?」

桜さんはコクリと頷き、どんどん先に進みます。
狭い道や薄暗い道、まるで迷路のような裏道を進み、ようやく桜さんが止まりました。

「あれが『霖雨』だよ。」

桜さんが指差した先を見ると一見ゴミ屋敷のような家?が有りましたが、屋根のところに『霖雨』と看板(のようなもの)がありました。

近付いて見ると、何処かで見たようなデジャヴを感じました。
扉には『開店中』と立て札が掛けられています。店の周りにはたぬきの置物(信○焼)やよく分からない物がゴチャゴチャと置かれています。…やはり何処かで見た気がします。(汗)

「あ、桜さん…!」

私が店(?)の前で困惑し立ち止まっていると業を煮やしたのか桜さんが扉を開けて中に入って行きました、私も慌てて追いかけます。


中もゴチャゴチャと物が溢れ、店と言うより倉庫などの表現が合いそうな感じです。私は先に入った桜さんを探してキョロキョロと見渡し、奥で誰かと話しているのを見つけ、近付きます。

「やぁ、いらっしゃい。この通りゴチャゴチャした店だが欲しい品を選んでくれ。もし、欲しい物が有るなら言ってくれてもいいよ、有るなら持ってくるから……ただし、盗るなよ?」

「え……?」

桜さんと話していた人は想像通りで予想外な人でした。
青と黒の色彩の着物、赤いポシェット(のようなもの)を前に掛けメガネを掛けた男性。そう、幻想郷の魔法の森の近くに店を構える人『森近霖之助』…によく似た人ですね、妖気を感じませんし霖之助さんは白髪なのに対しこの人は黒髪です。

「…僕の顔に何か付いてるのか?」

「え、あ。い、いえ、知り合いと似ていましたので少し驚いてしまっただけです。」

差し当たりのない返答に店主は「そうか。」と返し、店のカウンター(らしきもの)に肘をつき私を見ます。

「それで?お求めは何かな?」

「地図を売っていると聞きましたのでそれを…」

店主は「少し、待ってくれ。」と言って店の奥に入って行きました。視線を周りに向けて置いてある物を一瞥していきます。
八卦炉・火鼠の皮・陰陽玉、のような貴重な物(一部危険物有り)から、意味の分からない土で出来た置物(埴輪)・単なる木彫りの熊・唐傘などといった物まで有り、それらが乱雑に置かれている店内はかなりゴチャゴチャとした空間とかしている。

「…。しかし、商品が多いですね。よく、これで荷崩れを起こしたりしないものです。」

「それ、桜も思った。」

ポツリと漏らした言葉に桜さんが相槌をして、カウンターの横にあった棚に手に持っていた商品を直して別の棚に行き、置いてある商品を物色していきます。

「不思議だよね~、今にも崩れそうなのに崩れないって。」

棚に置いてあった精巧な人形を見つめ、桜さんがそう言いました。
しばらくしてガタンと音がして、カウンターの奥から店主が戻ってきました。

「ふう、ようやく見つけたよ。お探しの品はこれだね?」

店主がカウンターに置いた地図を私は手に取り、広げます。

「たしかに、これですね。これを三つ下さい。」

「ああ、分かった。後二つ取ってくるから少々お待ちを…」

再び、奥に店主が消えていきました。待つこと数分、戻ってきました。

「はい、お待ちどうさま。三つで――――になるよ。」

私は料金を支払い、地図三つを受け取ります。ふと、ある事が気になり訪ねる事にしました。

「この店は情報を売っていますか?」

――瞬間、店主の目線が鋭くなり探るように私を見つめます。ビンゴですか。

「……。」

私はその視線を受け流し、更に続けます。

「売っているのですか?いないのですか?」

「どうしてそう思ったんだい?」

探るような視線もそのままに問いを返してきました。おそらく、ここで下手な回答をしたら情報を売ってくれませんでしょうね。

「こういった裏街道に在る店は情報にも精通している可能性が高いですし、なにより……」

私はカウンターの横に有る『非売品』と書かれた棚の品(間違いなく、妖狐の毛皮。しかも最低5尾は有る妖狐の物です)を指差します。

「ああいった、貴重品の価値が分かる人なら裏の道も知っている。そう確信して訪ねたのです。」

私の答えに店主は首を振り、ため息を吐きました。

「参った、降参だよ。まさかアレの価値が分かる人が来るなんて予想外だ。ああ、確かにここは情報も扱っているよ。」

片目を閉じ、苦笑しながら店主は両手を上げました。

「それで、どのような情報をお望みで?」

真剣な表情に戻し、カウンターに肘をつき店主は聞いてきました。

「今の情勢と八雲と言う金の髪の女性に関するもの、有りますか?」

「情勢なら説明できるが八雲と言う女性に関しては…ん?待てよ?」

八雲に関して何か思い当たったのかしきりに八雲、八雲と呟き、しばらくして思い当たったのか聞いてきました。

「その八雲と言った女性は名は『藍』で合ってるか?」

八雲藍…式の方ですか!幸先がいいですね。

「両方の情報を詳しくお願いします。」

私は頭を下げます。店主は頷きました。

「分かった、二つの情報合わせて―――くらいだな。」

予想よりも安い―――!それほど重要度が高くないから…?
料金を渡すと店主は話し始めました。

「まず、現在の情勢だが黄巾賊は知っているな?それの鎮圧がほぼ終了したようだ。残った黄巾賊は残党を集めて最後の抵抗をする様だな、その情報を得た官軍はあっちこっちの地域の英傑達に召集状を送って連合軍を作る…ってとこまでは確認済み、ここから先は未確認情報で総大将は何進将軍がするってものや、黄巾賊の御旗たる張角、張宝、張梁ら三人は単なるアイドルだ…とかかな。」

黄巾の乱も終盤ですか…私たち殆ど関わってないような?…別に困りませんが。

「次に八雲藍って軍師が官軍の一つである董卓軍に採用されたって情報。今現在は目立った功績は無いがかなりの切れ者だな、何故あまり知られていない董卓軍に入ったのかは分からないが組織内での関係は良好ってとこまでが確認済みの情報。未確認情報は八雲藍は道士だ、とか猫の式神を持っているってとこだな。…流石にこっちの未確認情報の信憑性は高くないかな。」

猫の式神――橙(チェン)さんですかね?しかし、侮れませんね霖雨、このレベルの情報を格安で教えるとか、未確認とはいえ正確な情報を集める手腕。また、情報が必要な時がきたらここに寄った方が良さそうですね。

私は礼を言って霖雨―今思えば香霖堂に似ていますね―を出ようと扉に手を掛け…

「ありがとうございました。またのご来店を~。」

…と店主の声を背に扉を開け、振り返ります。

「桜さん、行きますよ。」

「は~い。」

また別の棚の商品を弄っていた桜さんは持っていた八卦炉を元の棚に戻し、私の元へと駆け寄ってきました。それを確認して私は霖雨から出てました。

―――…一旦、戻りましょう荷物の整理も完全に終わってませんしね。

裏街道を戻りつつ私はその様な事を考えていました。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



カツカツと音を鳴らし、長い廊下を彼女は渡っていた。

金色の髪に金色の瞳。青と白を基本とし、袖周りと首周りは薄紫の色彩の服。まるで耳の様に尖った所が二つあるナイトキャップに似た帽子を被っている。

しばらくして、彼女―八雲藍―は目的の部屋へと着き、扉を叩く。

――コンコン。

「はい、誰ですか?」

部屋から透明で儚げな声が返ってくる。

「私です月(ユエ)。…入っても宜しいか?」

「あ、はい!どうぞ!」

藍の声を聞いた部屋の主は嬉しそうに答えた。

「失礼します。」

藍は扉を開き、部屋へと入る。中は煌びやかな装飾に彩られた部屋で、一目で上流階級の人が使っている部屋だと分かる。その部屋の真ん中に置かれているテーブルには飲みかけの紅茶が置いてあり、先まで座って紅茶を飲んでいたであろう部屋の主は入ってきた藍に駆け寄る。

「藍さん、あの、父様と母様は…」

藍がこの部屋に来る度に繰り返される問答。部屋の主―董卓―はすぐに進展がないと解っていながらも聞かずにはいられない。藍もそんな彼女の心を理解しちゃんと答える。
しかし、今回の答えは少し違った。

「月、朗報だ。ようやく監禁場所の特定が九割九分終わった。」

藍が優しい表情で告げる。董卓―月―も最初は何を言われたのか分かっていなかったのかきょとんとしていたが内容を理解し始めると花が咲くようにぱぁ、と笑った。

「それじゃ!」

嬉しそうに言う月にしかし、藍は首を振る。

「しかし、場所が場所なので。…黄巾の乱が終わった後の動乱に乗じて救出するのが得策、もう少しの辛抱だ。」

藍の答えに嬉しそうにしていた月もしゅん、と落ち込んだ。

「そうですか、分かりました。…それと、これ位の辛抱は今までの明日も知れない毎日より大分マシですよ。」

儚げに笑う月。一瞬、藍は悲しそうに顔を歪めるがすぐに平静に直した。

「そうか。…では、まだまだやらねばならないものが有るのでこれで。」

一礼して部屋を後にする藍。

部屋を出るとメガネを掛けたツリ目の不機嫌そうな表情の女性と会った。


「詠か。丁度良かった、相談したい事が有るんだが――」

女性―賈駆―は手に持っていた報告書を藍に突き出した。

「…これは?」

「読めば分かるわ。」

藍は報告書を受け取り、読み始める。読み続けるとだんだんと表情が険しくなってきた。

「…これは本当か?」

「ええ、本当よ。…まったく、やられたわ。」

詠は苦々しい表情で告げる。藍は読み終わった報告書を詠へと返す。

「いや、これは逆手に取れるぞ。」

「…どうしてよ。」

聞き返す詠に藍は周りを見回し――

「…いや、ここでは誰が聞いているか分からない。後で説明するから移動しよう。」

――そう言って歩き始める。詠も後へと続いた。








ある部屋の中で二人の人物が話し合っていた。

「全くもって忌々しい!」

ガンと一人が近くにある椅子を蹴り飛ばし、鬱憤を表す。
もう一人が抑えろと言うが聞く耳を持っていないように当たり散らす。

「貴様も分かっているのか!?このままでは我等はお仕舞いだ!あの女狐が来てから今までやってきた事が全て水泡を化しているのだぞ!?このままではあ奴等が逆らってくるのも時間の問題かもしれんのだぞ!!?」

怒りを露に怒鳴り散らす男、しかしもう一人は落ち着いた表情で告げる。

「何の為の人質だと思うとるんだお前。奴等は早々は逆らえんよ、逆らったらあ奴等の大事な大事なお姫様のご両親が殺されてしまうのを分かっていて刃向かうのは有り得んよ。それに万が一、刃向かってきても我等には仙人さまがついているじゃないか。」

落ち着いた表情の老人の説明に納得がいったのか暴れていた男は平静を取り戻していた。

「そ、そうか。…そうだな、俺たちの方が有利なんだよな。」

確かめるように呟く男に老人が頷き肯定する。

「なら、これからどうするんだ?」

問う男に老人が笑いながら返す。

「ファファファ…、もう既に手は打っておる。大丈夫じゃて。」

「そうか、お前がそう言うんなら大丈夫なんだろうな。」

安心したのかドカッと椅子に座る男をしり目に老人は何かを考えているのかあごに手を乗せ上を見上げた。

やがて何かを思いついたのか老人は男に何かを話し始めた。
そんな二人の様子を開いた窓の外からみえる大きな木の枝に居る一匹の二股の黒猫が赤い目でじっと観察していた。


              ―続く―


  あとがき


リザレクション(妹紅的な意味で)!

オリジナルルート突っ走ってるから恋姫キャラと絡ませ(遭遇させ)ずれぇぇ!!

こーりんのそっくりさんを出した理由は作者がこーりん気に入ってるから!
…後、天子たちと恋姫キャラが遭遇しそうな場所って早くて、反董卓包囲網くらいか?(起きるかは兎も角。)

  ―修正しますた。―



[11636] 10―急いで出立!…と思ったら―
Name: 彷徨う吟遊詩人◆a7a52965 ID:b2191fa6
Date: 2009/11/05 22:30
「大丈夫ですか?一刀さん。」

「大丈夫じゃない……」

衣玖が有益な情報を持って帰宅したら天子がボロボロの一刀を介抱していた。衣玖が話を聞くとなんでも修行(格闘弾幕ごっこ)のし過ぎで一刀がダウンし天子も折角回復させた霊力の二割を消費していたらしい。

「総領娘様、もう少し加減しないと一刀さんがかわいそうですよ。」

衣玖が責める様な目で見ると天子はバツが悪そうに視線を逸らした。

「いや、えっと楽しかったからつい…」

アハハ、と笑って誤魔化す天子。
衣玖は軽くため息を吐き、持っていた荷物を置く。

「八雲の情報を得ました。と言っても式神の方ですが。」

「え、ホント!」

衣玖は頷き、ですが…と言葉を詰まらせる。

「一刀さんがこの状態ですし後で、ですね。…まずはこの荷物を整理してからです。」

衣玖は足元に置いてある荷物を指差した。







買ってきた保存の効く食料と地図を其々の皮袋に入れて、一刀を部屋に連れて行っき、その部屋に4人集まった。

「衣玖、八雲の式神の情報ってなに?」

「八雲藍という女性が官軍の一つである董卓軍に軍師として採用された、という情報です。」

「信憑性は?」

「かなり高いかと、未確認ながらその女性は猫の式神を使うと聞いたので。」

「そう、なら次の目的地は董卓軍ってところかしら。」

衣玖は相槌をうち、天子は一刀の方に向いた。

「一刀は明日までに動けるようになってね、早々に出発するから。」

ぐったりと倒れている一刀は恨みまがしい目で天子を睨む。

「自分でボロボロにしたくせに一晩で動けるようになれって…鬼かよ。」

「一刀なら一晩で十分回復できると思うわよ。あと、鬼と一緒にするな。」

うっかりもらした一言で天子から強烈なツッコミを貰い、一刀は完全に意識を手放した。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


荒野にずらりと旗が並び、様々な兵が忙しく動き回っている。

「何進将軍。連合軍、攻撃準備整いました。」

「うむ。では各々攻撃を開始せよ!此処を黄巾賊の終焉の地にするのだ!」

何進が号令を発し、黄巾賊に対して攻撃を開始した。



「ふふ、この戦いで曹孟徳の名を世界に轟かせるわよ!春蘭!秋蘭!」

小柄な身体の少女…曹操―華琳―は愛用の鎌『絶』を振り上げ宣言する。

「はい!華琳様!」

それに頭に立派なアホ毛をもつ女性…夏侯惇―春蘭―が付き従い。

「行きましょう華琳様、姉上。」

落ち着いた雰囲気を纏う女性…夏侯淵―秋蘭―が後を詰める。


「さぁ!曹孟徳の戦いを魅せてあげる!」

右翼の曹操軍は猛然と黄巾軍に襲い掛かった。





「雪蓮、蓮華。あんた達は初陣なんだから自分の身を守る事に専念しな!」

褐色の肌にピンクの髪をもつ妙齢の女性が側にいる彼女とよく似た二人の女性に忠告した。

「しかし母様、私も戦えます!」

女性の一人…孫策―雪蓮―が孫堅―美蓮―に進言する。

「粋がるじゃないよ!まずは戦場になれる事が重要なのさね!祭!雅!あたしの娘たちが無茶しないか見張っといとくれ。」

自分の娘の進言をバッサリ切り、側に控えていた二人の女性に命じた。

「分かったわ、まかせて。あと、油断しないでね?」

「美蓮の娘はちゃんと見張っとくよ、だから存分に暴れといで。」

対称的な言葉で了承する二人の女性…程普―雅―と黄蓋―祭―。
二人の返事を聞いた水蓮は獰猛な笑みを浮かべる。

「後は任せたよ二人とも。…さぁ!我が孫呉の精兵よ!――」

兵たちに士気向上の為の演説を始めた美蓮を孫権―蓮華―が見つめる。

「…私もいつか母様の背に届くかな……」

ぽつりともらした一言は本人でさえ気付かない程の囁きだった、じっと水蓮の背を見つめる蓮華を雅は優しく見守っていた。(ちなみに早速突撃かまそうとした雪蓮は祭にとっ捕まっていた。)


「孫呉の団結力を舐めんじゃないよ!」

左翼の孫堅軍も勇猛果敢に黄巾賊に攻め立てた。




「おーっほっほっほっ!このわたくしがお相手なんて運が無かったですわね。」

金ぴかな鎧を着て高笑いを上げる女性…袁紹―麗羽―は腰に差している宝刀を抜き取り黄巾賊の方を指す。

「さぁ!蹴散らしますわよ皆さん!」

「おー!なのだ!」

「頑張ります!」

「おー!」

鈴々が蛇矛を掲げて叫び、桃香も意気込む。隣の女性も持っている刀を掲げて叫ぶ。

「ノリが良いのは分かったからちゃんと指揮通りに動いてよ?」

猫耳のようなフードを被った少女…荀彧―桂花―が軽くため息を吐く。

「大丈夫、大丈夫。アタイらが誇る名軍師の荀彧の指揮を無視する訳ないっしょ!」

「そうだといいけど…アンタは偶にこっちが出した指示を忘れて突撃するからきがきじゃないのよ。」

親指を立ててニカリと笑う女性…文醜―猪々子―の答えに桂花は深々とため息を吐いた。




さて、何故桃香らが袁紹軍にいるのか説明すると…

劉備軍は基本義勇兵で構成されている為、数は多いが錬度が低いなんてことになっている、しかも装備も貧弱な物ばかり(財政難)でその為この戦いでは中央の守り(てか肉の盾)に宛がわれていたがそこに麗羽が待ったを掛けた。その時の台詞は…

「我が軍ならばこの程度の数の兵でも十分に役だたてて見せますわ。おーっほっほっほっ!」

…である。劉備軍の数は千強だがそれだけの数を自軍に加えて、尚且つ装備や兵糧も分けたのにも関わらず何の支障も無いのは流石としか言いようが無い。
実際は何となく気まぐれで加えた訳だが。


だが結果的には武将として関羽、張飛、顔良、文醜の四人。軍師として荀彧、田豊、沮授、諸葛亮の四人。更に千強の義勇兵を加えて八千を越えた軍を用意することになったのはある意味凄い才能なのかもしれない…(劉備は袁紹と共に後方指揮。)


「さぁ!わたくしの軍の強さを思い知るのよ!おーっほっほっほっ!」

中央の袁紹軍+劉備軍は圧倒的な武力と知略と兵力で黄巾賊を蹂躙する。





各々が順調に黄巾賊を殲滅していく情報が本陣に張られた天幕の中にいる何進に届く。

「順調だな…各軍にこのまま黄巾賊を殲滅せよ、と通達せよ!」

何進の言を聞き、伝令兵は一礼して天幕を後にした。


「…あっちは上手くやっているだろうか?」

何進はふとある事が頭を過ぎり、ぽつりともらしてしまい、慌てて周りを見渡し誰もいない事を確認して安堵の息を吐く。

――危ない危ない、下手に考えるとひとり言になってしまうクセは早く直さなければな……

「失礼します。」

何進が考えを破棄していた矢先に一人の女性が天幕に入ってきた。

「公孫賛殿か、何かな?」

公孫賛と呼ばれた女性は何進の前で膝をつく。

「我が軍も黄巾賊と戦わせてもらいたいので許可を貰いに来ました。」

「分かった、許可する行って来い。」

何進の許可が下りた公孫賛は礼を言い、一礼してから天幕を後にした。

――此処の守りは皇甫嵩や朱儁がいれば十分なのは分かっている。

気だるげにため息を吐く何進。何となしに洛陽の方角を見る。

――十常侍の連中は上手くやっているだろうか……



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


藍と詠は藍の部屋で互いの状況を確認しあっていた。

「……状況は?」

「可も無く不可も無くだ、秘密裏に月の両親を助け出せなくなったがその分大手を振って堂々と救出する口実が出来つつある。」

詠はそう、と短く返した。

「今回は引き分けだな…まさかここまで用心深いとは。」

藍は軽くため息を吐いた。

「ボクの方は上手く進行してるよ。ボク自身ここまで上手くいくなんて驚きだよ。」

そう言って詠はクスクスと笑った。その様子を見ていた藍は少し引いた。

「ま、まぁ持っていたというか引き寄せていた不幸【厄】を押し付けたんだから上手く行っているのは予想の範囲だと思うのだが…」

「それでも、だよ。ボク自身の不幸が約に立つ日が来たのには今だ信じられないけどね…」

暗くワラウ詠。瘴気でも発生しそうな雰囲気を纏う詠に慌てて話題を変える藍。

「そ、それよりもこれから起こるであろう戦に対する対策を考えようじゃないか!」

「…そうだね、このまま行けば確実にこの洛陽は戦場になるだろうしね。」

気を取り直した詠に安堵の息を吐く藍。

その後、あれやこれやと意見を交わし、ある程度に数を整えた策の中で最も適したものを選んだ。


「…それじゃ、後は準備だね。忙しくなるよ。」

「これが成功すれば月は自由の身に成れる。失敗は許されないな。」

二人は互いに視線を交わして頷き部屋を後にした、そして準備を進めるためにそれぞれ行動を開始した。



藍は人気の無いところまで来て周りを見渡し、誰もいない事を確認して声を上げた。

「橙!」

「はい藍しゃま!」

藍の呼びかけに猫又の式神『橙』は即座に反応した。

「いいかい、よく聞くんだよ?」

藍は耳打ちをし、橙に指示を出す。

「分かったね?」

「はい!」

元気よく返事をする橙に藍は顔を綻ばせて橙の頭を優しく撫でる。

「頑張るんだぞ、橙。」

「ぁ―――はい!藍しゃまの期待にそえるよう頑張ります!」

撫でられた嬉しさに惚けた顔をしていたが即座に答えを返し、藍が期待してくれるのが嬉しいのかすぐに任務を果たそうと移動した。

「…もうすぐ…か。」

ぼそりと何かを言うが風にかき消された。




「霞!」

詠は藍と分かれた後、真っ先に鍛錬場に足を運びお目当ての女性を見つけた。

詠に呼ばれ、霞も鍛錬の手を休め、向き直った。

「詠やないか、どないしたん?」

「実はね、貴女に頼みたい事があるの。」

「ウチに頼みごとなんて珍しいなぁ。」

「耳貸して…」

耳を貸し、詠の頼みごとを聞いていた霞は最初は興味津々といった表情をしていたが段々と真剣な表情になっていった。

「…以上だよ。」

「了解や、ウチに任しときぃ、しっかりと頼まれたわ。」

霞はそう言って鍛錬を再開した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



よく朝、一刀は傷一つ無くなった自身の身体を見て少し怖くなった(人外の仲間入り的な意味で)。

華一家と別れと感謝を言ってから陽平の街を後にした。



「さ、目指すは洛陽よ!」

天子は日が昇り始めた空を見上げながら宣言する。

「時間はかかりますが行きましょう。」

天子の後に衣玖が歩き出し、桜が隣に並ぶ。

「次なる目的地は洛陽なり…っと。」

一刀が最後に続く。
悪雲たちこめる洛陽に四人が向かうのは偶然か?必然か?



                ―続く―


あとがき

遅くなり申し訳ないOTZ(土下座)
最近スパロボOGSにハマッてて最新忘れてた。

呉軍にオリキャラ追加…袁紹を少し改造(史実の才を少し追加)とやっちゃった感が拭えない。洛陽でも水面下で動きありなご様子……どうなるんだろう?(ちゃんとプロットは有ります…脳内ですが。)

  ―修正しますた―



[11636]  11 ―乱の終わり、波乱の予感。―
Name: 彷徨う吟遊詩人◆a7a52965 ID:b2191fa6
Date: 2009/11/27 16:03


桃香と朱里は麗羽から貰った武装を駆使し、黄巾軍を打ち倒しながら敵本陣への道を進んでいた。

「関羽隊の援護をします!弓兵隊構え!」

諸葛亮―朱里―の指示を受け、弓兵隊が矢を番えた。

「撃て!」

号令の下、次々と黄巾賊に矢の雨を浴びせる。
黄巾賊は次々と射ぬかれてバタバタと倒れていく。

「騎馬隊は兎に角動き回って、敵をかく乱して下さい!」

桃香も指示を出し、戦況を見つめていた。


「勝ててるけど何か釈然としないね、朱里ちゃん。」

「はい、後が無いというのに、黄巾賊の士気が低すぎます。」

決戦だというのに開始初めから士気低く、簡単に蹴散らされている黄巾賊に二人は引っ掛かりを覚えていた。


「…まさか敵総大将の張角らが居ないのでは?」

「まっさか~……」

流石に自分の信徒が戦っているというのに、本人が居ないのは、有りえない。
そう思っても何かが引っかかる二人、そしてある事を思い出す、即ち『誰も張角本人を確認出来ていない』のを。

「……。」

「……。」

敵本陣に近付くにつれ、嫌な予感が増す二人だった。













「二番騎馬隊を突撃させなさい!」

「はっ!」

一方、桂花の方も次々来る伝令に指示を飛ばしていた。

「っ!まったく、麗羽様がバカな事をするのは、何時も通りだけど今回のは度が過ぎるわ!」

「三番騎馬隊が顔良隊に合流しました!」

「三番隊の指揮を顔良隊に移行!!」

桂花の指示を受けた伝令兵はすぐにその場から立ち去った。

桂花がバカな事と言ったのは当然、桃香たちの事だ。
豊富な武装や兵糧を持っている袁紹軍だが、やはり無償で分け与えるのはかなりの損出なのだ。それこそ千人規模の劉備軍に分け与える金額は目をむく程になる。

麗羽の高笑いと共にお金に羽が生えて飛んでいく幻影を想像し、少しゲンナリする桂花だったが、ハッとある事を思い出した。


――…まさか劉備を『惜しんで』いるんじゃないでしょうね?

桂花は自身の主である麗羽の『癖』を思い出した。

――それなら麗羽様は、劉備に何らかの『才』を見出したっていうの?それも武装や兵糧千人分を惜しみなく与えるほどに…

むむむ…と、唸り考え込むが、伝令が来たために長く思考を続けられなかった。

「文醜様が敵将を討ち取りました!これで敵本陣への道が開けました!」

「文醜隊と顔良隊には残敵掃討を、のちその場で待機、本隊も合流すると伝えて。」

指示を受け、伝令兵は、即座にその場から去った。

――さて、隊を動かす事を伝えるついでに麗羽様に直接聞きに行かなきゃね。







「麗羽様、現在の我が軍の消耗率(負傷兵や死した兵など戦闘不能になった数)が一割に到達しそうです。」

「そう、桃香さんの所かしら?」

袁紹軍本隊にて麗羽は、田豊から軍の状況を聞いていた。

自軍の中で消耗が激しいのは桃香の所か聞くと田豊は首を横に振った。

「いえ、『全体的』にです。特に張飛隊や関羽隊などはよくやっています。」

それを聞き、麗羽は愉快そうに笑った。

「あら、凄いですわね。優秀な将や軍師に恵まれていますわね、桃香さんは。」

「そうでしょうね。並の将や軍師では我が軍の援助を受けたとはいえ、ここまで損傷を抑えるのは難しいでしょうから。」

麗羽は、予想以上の結果を出し始めている桃香たちに麗羽は、嬉しそうに笑った。

「そのような優秀な軍師に慕われている桃香さんを紅花さんはどう思います?」

ふふ、と口元に笑みを浮かべながら田豊―紅花―を見る麗羽。

「…愚かな偽善者、もしくは無知故の仁君…ですかね。」

紅花はかなりの辛評を言ったが、麗羽はくすくすと笑った。

「かなりの辛評ですわね。わたくしも同意見ですけど。」

そこまで言ってから麗羽は呟くように付け足した。

<…もっとも磨けば光るのでしょうけどね。周りにいる人たちは桃香さんに妄信していますから無理でしょうね。…仁君の才、このまま埋もれたり歪んだりするのは勿体無い気もしますわ…>

桃香の君主としての才能がこのままでは、全て発揮されずに終わってしまう可能性を麗羽は惜しみ、何とかして育てられないかと思考し始めた。

「麗羽様…?」

麗羽の囁き声に反応したのか、紅花はいぶかしみながらおずおずと麗羽に話しかけた。

「! いえ、何でもありませんわ。」

「そうですか…(また何時もの癖ですか?人材コレクター(育成的な意味で)の性が疼いているのですか?)」

おっほっほ、と視線を反らし、誤魔化す麗羽をジト目で見る紅花。

二人の間にビミョーな空気が流れる、が一人の女性が本陣の二人のもとに来て、紅花に話しかけた時に四散した。

「紅花、いい加減、指揮変わって。」

「…分かりました。では、麗羽様のお相手は任せますよ、椿。」

紅花の問いに沮授―椿―はコクン、と頷いた。

紅花はちらりと麗羽を一べつし、指揮をする為に前線へと向かった。
椿は紅花が麗羽を一べつしたのを見て、また麗羽様の癖が出たか…と思った。
何となくジト目で見てしまう。

「そ、それで椿さんは何のようで?」

内心を読まれまいと焦った麗羽は聞かなくても分かっている事を聞いてしまった。

「前線指揮を紅花に交替してもらう為に。」

淡々と答える椿、ひるむ麗羽。

「あう…」

「……。」

「……。」

先程とは違った意味で何とも言えない空気が流れる。
椿は何も言わずに麗羽を見つめ、麗羽は落ち着かずに視線をさ迷わせる。

――すごく居た堪れませんわ!こうなった椿さんは苦手ですし…ど、どうしましょう?

冷や汗が出てきた麗羽は、自分が自爆しないうちに椿の気をそらそうと話しをふった。

「そ、そういえば冀州に置いてきた玖詩さん(高覧)や智花さん(張郃)は、今頃何をしているんでしょうね?」

「…おそらく山の様な膨大な竹簡に忙殺されてると思う。」

うんざりとした感じに言う椿に少し調子が戻ってきた麗羽は口元に笑みを浮かべた。

「あら?椿さんは、内政が苦手では無いでしょう?」

「苦手じゃないけど…あの山の様にうず高く積まれた竹簡は、うんざり。」

多くの土地を統治する麗羽は内政に力を入れている、現在の河北辺りの政策の四割弱が麗羽自らが考えて試し、効果が有ったから正式に採用したものである。
しかも外から見たら自分(袁紹)は何もしておらず、周りの軍師や文官が政策を回している様に見せる偽装までするという徹底ぶり。
伊達に名門の出ではない、笑顔の裏に打算と謀略渦巻く上流階級の世界で生きてきたのだ、この程度の腹芸(利用し易く無害な無能(バカ)を演じる)が出来なくては、あっと言う間に権力と言う名の悪魔に憑かれた者達に食い尽くされる。

そしてこの戦が終わればまた、二十四時間戦えますか?ばりの忙しさで内政をする事を、思い出して気落ちする椿。

「けれど内政は、大切ですわ。…と言うか、わたくしは戦より内政の方が好きですわ。」

「うん、それは知ってる。けどあの忙しさは、ほんとキツイ。」

城で生き生きと内政を捌く麗羽を見ている椿は、何を今更、と思いながらも自分もだんだんと内政の楽しさ(自分の政策が目に見えて現れる)にハマりつつあるのを自覚していた。


と、そこへ桂花が到着した。

「あら?桂花さん?何かしら?」

桂花に気付いた麗羽が尋ねた。

「敵本陣への道が開けたので本隊も移動し、顔良隊、文醜隊に合流します。」

桂花ハキハキと答え、分かりましたわ、と麗羽は、返した。
そして桂花は、ついでで質問した。

「麗羽様、つかの事お聞きしますが武装や兵糧を劉備らに分け与えたのは何故です?」

桂花が質問した瞬間、空気が凍り、瞬時に溶けたが麗羽は、内心冷や汗がダラダラ流れていた。椿は桂花よくやった!と思い、麗羽の返答に耳を傾けた。

「え、え~と…な、何となくでs「はい、嘘。」あう…」

麗羽は、誤魔化そうとするが椿に一刀両断された。

「無駄遣いを嫌う麗羽が見栄以外に浪費する訳が無い、麗羽が劉備に何らかの『才』を感じているのは、確定的に明らか。」

更に追撃された。麗羽は、ううぅ~、と唸っていたがやがて観念したのかがっくりと肩を落とした。

「参りましたわ……えぇ、確かにわたくしは、桃香さんに『仁君の才』を見出しました。しかも私見ですけど導き、鍛えれば後の世に名を残す程の…ですわ。」

「「!?」」

麗羽の答えに驚きのあまり声が出ない二人、というのも麗羽の人を見る目は、打算と謀略渦巻く世界にて鍛えられた為、かなりの的中率で当たり、特に人の才を評価すれば九分九厘当てるのだ。
その麗羽が後の世に名を残すほどと評価した桃香の才を驚かずにはいられなかった。

「そ、それ程の器だった何て…!」

「華琳さんに並ぶ程の器の持ち主ですわ……ちゃんと成長すれば、と付け加えますけど。…けれど、わたくしと違って王としての才が有って羨ましいですわ。」

最後にそう付け加えて、わたくしでは、領主止まりですわ…と自嘲した。

「麗羽…」

「麗羽様…」

二人は自らを嘲る麗羽に言葉を掛けられなかった。





「…そろそろわたくしも前線で指揮を取ったほうが良さそうですわ。」

軽くため息を吐き、指揮を取る為に前線へと赴く麗羽。
心底嫌そうな表情だ、自分に戦の才が無い事は分かっているから出来れば戦に出たくないのが彼女の本音でもある。
確かに自分は戦に出ず、配下の者を代理に戦わせる事も出来るが、無能を演じているためその様な事をすれば臆病者呼ばわりされかねない。
名門の意地があるので、自身はあまり役に立たないのに前線に出てバカな指示を出さなくてはいけないのはかなり辛い。(味方の被害的な意味で)

「名門の出っていうのも大変ね、周りを欺く為とはいえバカを演じなきゃいけないなんて…」

心を許した親友で自身の理解者の一人である桂花の憐れみの言葉が痛かった。

「頑張って…」

親友で理解者の一人たる椿の素っ気無い応援に思わず目元が熱くなる麗羽だった。




「まだ、本陣は落とせませんの!?」

そして麗羽は、再び無能(バカ)の仮面を被る。







最前線にて敵味方入り混じった戦場を愛紗たちは駆け抜ける。

「はあああ!!」

気合一閃。自身に切りかかってきた黄巾賊を真っ二つにし、更に周囲から槍で突いてきた黄巾賊の攻撃も身体を捻り、最小限の動きでかわし、青龍偃月刀を横薙ぎに振るい纏めて切り裂いた。

愛紗は軽く息を整え、周りを見渡した。ふと、視界の端に鈴々を狙う弓兵の姿が映った。

「!鈴々危ない!!」
「にゃ!?」

咄嗟に叫ぶ愛紗。矢に気付いた鈴々は、素早く蛇矛を振るい、飛んできた矢を弾いた。…だが飛んできた矢は一本では、無かった。

「!!」

時間差で二本目、三本目の矢が向かってきた。
一本目の矢を弾いたため回避が間に合わない、二本目を弾けば三本目が当たる。
対処が間に合わない。愛紗も走りよるが位置からして間に合わない。
鈴々も二本目を弾き、かわせない三本目の矢から致命傷を避けようとするがその必要は無くなった。

鈴々に向かって飛んできた矢は、黄金の鎚に阻まれ、その役目を果たす事無くギィン!と甲高い音を鳴らし弾かれた。
弓兵たちも次の矢を構える前に額を矢に打ち抜かれ絶命した。


「大丈夫ですか?張飛さん。…魚鱗陣を形成!私たちの援護を!」

「張飛は、集中しすぎると周りが見えてないぜ?気を付けろよ、敵の弓兵の存在を忘れるのは命取りだぜ。」

「にゃ…ありがと、顔良ちゃん、文醜ちゃん。」

顔良(斗詩)は、即座に魚鱗陣を敷き守り、文醜(猪々子)は鈴々を気遣った。…と其処に愛紗が到着し、無事な鈴々を見てホッと胸を撫で下ろした。


「鈴々、無事で良かった。顔良殿、文醜殿、感謝します。」

「仲間ですから当然ですよ。」

返事をしつつも周囲の警戒をする斗詩。

「アタイの方こそ関羽殿がいて助かってるよ。アタイは部隊の指揮が苦手でね、いっつも斗詩任せだったから心苦しかったんだ。」

猪々子の言葉に愛紗は、そうですか。と答え、斗詩は、私は負担に思って無いのに…と思った。

気を取り直し、四人は武器を構え直す。

「鈴々、疲れてきたのなら無理せずに一度下がって休んだらどうだ?」

愛紗の気遣うが鈴々は首を振った。

「大丈夫なのだ!鈴々はまだまだ頑張れるのだ!」

元気の良さをアピールしているのか蛇矛を掲げる鈴々。

「…分かった、でも無理は禁物だぞ?」

愛紗の確認に鈴々は、分かったのだ。と頷いた。


「それじゃ、行こうぜ!」

「文ちゃん、突っ込み過ぎて『また』孤立しないでよ?」

また、の部分を強調して言う斗詩に少し気圧される猪々子。

「わ、分かった。気を付ける…それじゃ、行こうぜ!」

気を取り直し突撃する猪々子に、多分また、分の悪い賭けは、大好きだぜ!とか言って大将首取りに行って孤立するだろうと思い、援護の準備をしながら後を追う斗詩。





魏軍も敵右翼を壊滅させ順調に敵本陣に進んでいた。

「せやあああ!!」

春蘭の七星餓狼が黄巾賊を纏めて薙ぎ払い前へと進む。
数人の黄巾賊が束で襲いかかったり、波状攻撃の様に次々と襲いかかりしているが。

「おおおおお!!」

気合の咆哮を上げ、疲れ知らずの様に戦い、最前線にて道を切り開いていた。



「姉者の邪魔は、させない…」

春蘭を射抜こうとする敵の弓兵を、秋蘭の的確な狙撃で射抜く。
更に配下の弓兵に号令を飛ばした。

「弓兵隊、夏侯惇隊を援護せよ。奴らに矢の雨を浴びせてやれ。…撃て!」

射出された矢は、夏侯惇隊が討ちもらした黄巾賊を次々と射抜いた。

秋蘭は、夏侯惇隊に追従し、最前線で戦い道を切り開く夏侯惇隊を援護し、春蘭の背中を護る。


「やああああああ!」

許緒―季衣―の振るう鉄球―岩打武反魔―が曹操軍に攻撃しようとする黄巾兵を強打し振っとばした。
更に自身を軸に一回転、ぐるんと回った岩打武反魔は、黄巾賊を4、5人纏めて吹っ飛ばした。


「ガンガンいくでぇ~!」

李典(真桜)は、ギュインギュインと唸りを上げる螺旋槍を真正面に構えた。

「止めれるモンなら…!止めてみぃ!」

叫ぶと同時に真っ直ぐに突っ込み、黄巾賊をモザイク必須なスプラッタに変える。
突っ込んできた真桜の、螺旋槍の餌食になった仲間の成れの果てを見て、他の黄巾賊は二の足を踏み、動きを止めた。

「戦場で怯むのは、命取りなの~」
「その隙は、逃さん…!」

刹那、動きを止めた他の黄巾賊たちは双剣と拳によってその命を散らした。

「歩兵隊と槍兵隊は、このまま前進や!騎馬隊は、足の速さで翻弄したれ!せやけど敵の弓に気ぃ付けや!…凪、沙和、次ぎ行くで!」

動きを止めた黄巾賊たちを瞬く間に駆逐した楽進(凪)と于禁(沙和)にそう言い真桜は再び螺旋槍を構えて突っ込んだ。

「あ、ちょっと!真桜、置いていかないで欲しいの~!」

「……。」

黄巾賊に突っ込んでいく真桜を慌てて追いかける沙和、凪は無言で追いかけた。



「弓兵隊、二人一組となり交互に弓を撃て!敵を近付けるな!騎馬隊は速さを生かし、側面から敵陣に突っ込み翻弄せよ!ただし止まるな!駆け抜けよ!」

華琳も的確な指揮にて軍をまるで生き物の様に動かし、被害を最小限に抑えながら進軍する。

――可笑しい、何故ここまで黄巾賊の士気が低い?ここを抜けられたら本陣は、目の前なのに…

華琳もまた、違和感を拭えないでいた。決戦でありながら黄巾賊の士気が余りにも低すぎる事に。

――嫌な予感がするわね。

黄巾賊を蹴散らし、敵本陣に駒を進めるなか、華琳は、嫌な予感が強くなっていくの感じていた。





順調に進軍していると前方やや左方面に煌びやかな大軍が目に入ってきた。袁紹軍だ、しかも前線で麗羽が、華麗に前進~だの、さっさと敵をケチョンケチョンに~だのと指揮?を取っている。

「ほぅ、流石に数だけは随一だな。」

春蘭がバカにするような声色で言った。

「数の暴力というのは侮れんが、総大将があの袁紹では宝の持ち腐れでしょう…(噂通りなら…な。)」

数の恐ろしさを知る秋蘭はそう評価したが、内心では自身で確かめなければ分からないと警戒する。

「……。」

しかし、華琳は何も言わず、意味の無い指揮をする麗羽を見つめた。

「華琳様?」

不審に思った秋蘭が話しかけると華琳は不敵に笑った。

「どうしたの秋蘭?」

「いえ、何でも有りません。」

既に秋蘭の知る華琳に戻っていて口を紡いだ。

――先の袁紹を見る華琳様の目は一体…

秋蘭が声を掛ける前は、まるで袁紹を憐れむ様な、そして何かを改めて決意した様な目をしていたがかけた瞬間に直っていた。

秋蘭は、華琳の目から感情を読み取ったが、これは付き合いの長い秋蘭だからこそ出来る芸当である。春蘭だった場合は、感情を読む事は出来ないが、華琳専用に効く直感で何となく華琳が袁紹に気を持っている(憐れんでいる)のを察し、嫉妬を抱くだろう。


「…急ぎなさい、袁紹軍に遅れをとったなんて、曹孟徳の名に傷が付くわ。」

「はっ。」

春蘭は直に駆け出し、秋蘭も後に続く、華琳も黄巾賊本陣へと軍を動かした。
ある程度進んだ所で、後ろでもたついている袁紹軍を軽く見返った。

「……麗羽………。」

袁紹の真名を口にし、何かを呟いた。




――約束は…果たすわ。

華琳の呟きは、風に流れた。









「せぇい!」

美蓮の振るう南海覇王が黄巾賊の首を飛ばした。
血飛沫を上げて倒れる黄巾賊には、目もくれず次なる黄巾賊に襲いかかりその命を奪う。敵味方入り混じる戦場を縦横無尽に駆け抜け、敵を血で染め上げていく美蓮。

たまに飛んでくる矢さえもあっさり捌き、即刻射ってきた敵弓兵を斬り捨てた。

「アハハハハッ!楽しいねぇ!この高揚感!最高さね!」

高らかに笑い、童女の様な笑みを浮かべ、敵を斬る美蓮。
彼女が駆け抜ける後には、血で紅く染まった道が出来ていた。



「はぁ!」

一閃。鮮血を吹き上げ倒れる黄巾賊には、目もくれず次なる獲物を探し駆け抜ける雪蓮。

「まったく、母娘だねぇ。」

雪蓮の行動の殆どが、母である美蓮の戦場での行動にそっくりで祭は、苦笑した。
楽しそうに次々と黄巾賊を斬っては捨て、斬っては捨て、と続ける雪蓮の取りこぼしを素早く射抜く。

「ま、まだまだ未熟だけどね。」

そう言って多幻双弓を構え、雪蓮の後ろに続き、背を護った。



後方戦線にて蓮華は、戦場を見つめていた。
指揮を取っていた雅は、蓮華に話しかけた。

「…前線に飛び出していった雪蓮たちが心配ですか?」

「…うん、母様が強いのは、知ってるけど…」

自分の母親は、『江東の虎』と恐れられる人だが、姉や自分は初陣だ。

「信じてあげなさい、雪蓮は私から一本取った程よ。黄巾賊に不覚を取るとは、思えません。」

「でも、訓練と実戦は違う。」

心配する蓮華を雅は、大丈夫。と励ました。

「祭が援護してるのよ、余程の事がない限り無事よ、きっと。」

そう言って再び指揮を再開した雅。蓮華は、じっと戦場を見つめた。

――姉様、無茶な事はしないで下さいね。






黄巾賊本陣に一番初めに攻め入ったのは、曹操軍だ。次いで劉備軍、袁紹軍が攻め入った、孫堅軍が最後に攻め入ったが、一番多く黄巾賊を倒したのも孫堅軍だった。
黄巾賊本陣の中心に堂々と佇む三人の『男性』が、自らを張角、張宝、張梁と名乗り、連合軍はこれを捕縛。それにて連合軍は解散となった。

…何人かの胸の内にしこりを残して。








森の中を三人の女性が走り抜けていた。

「はぁ、はぁ、はぁ………」

「…ん、…はぁ…ハぁ…」

「ハァ……はぁ……はァ……」

荒く息を吐き、まるで何かから逃げるように走っている。


「あうっ!」

桃色の髪の女性が木の根に躓き、倒れこんだ。

「天和姉さん!」
「姉さん!」

倒れた女性―天和―を残りの女性が慌てて助け起こした。

「大丈夫?」

「だ、大丈…痛っ!」

助け起こされた天和は思わず、足首を抱えた。

「い、いたた…」

「捻ったのね?」

メガネを掛けた女性の言葉に頷く天和。

「捻挫…無理に歩けば酷くなるけど…」

「姉さん、無理しないで…」

「だ、大丈夫だよ、地和ちゃん、人和ちゃん。」

二人を心配させまいと笑う天和だったが、二人は軽くため息を吐いた。

「無理に作り笑いをしても誤魔化しきれてないよ、天和姉さん。」

「はぅ…」

意気消沈する天和、メガネを掛けた女性―人和―は、周りを見渡した。


「兎に角、隠れながら休める場所…を……」

ある一点を見た瞬間、言葉を失う人和。

「どうしたの?人和ちゃ……え?」

急に固まった人和が見ているモノを見た天和、自分の目を疑った。

「え?え?…なに、あれ?」

水色の髪の女性―地和―も唖然とソレを見た。










「人が……飛んでる!?」

三人の目には、一人の女性が空を飛んでいる光景が映っていた。






               ―続く―

 あとがき

嵐の前の静けさ…みたいな?
麗羽は、このぐらいの腹芸が出来て当たり前だと思う。(偏見)



[11636] 12 ―張三姉妹、弾幕ごっこを知る。―
Name: 彷徨う吟遊詩人◆a7a52965 ID:b2191fa6
Date: 2009/12/23 21:59
……何でこんな事になったんだろう…
小川のほとりで空を見上げながら俺は、現状を考えてしまう。


「それでは、一刀さんと天和さんの模擬戦を開始します。」

衣玖さんが片手を上げ、俺と張角―天和―を見る。

「はい、よろしくね、一刀。」

天和がニコリと笑いかけてきた。

「ああ……よろしく。」

俺も一礼する。てかこのルールじゃ俺の方が不利なんだよなぁ。

挨拶を終えた俺たちに、再び衣玖さんの声が響く。

「今一度確認の為言いますが、今回の制約は1『直接攻撃の禁止』、2『一撃でも被弾すれば即失格』、3『札(カード)宣言は、二枚まで』です。……では、はじめ!」

衣玖さんの開始を告げる声が響いた瞬間、天和が札を掲げた…って行き成りかよ!?

「最初から全力でいくよ!『歌符「発音練習」』!」

天和が宣言したのち、ラ~♪と声が響きながら周りに♪形の弾幕が形成され、周囲にばら撒かれていった。

「は!ぃよっ!っと!」

かわして反撃するが、尽く迎撃される俺のナイフ(だんまく)…差が有りすぎるだろ。

てんでバラバラ、天和から滅茶苦茶に飛んでいく弾幕。おそらくこれが『バグタイプ』と呼ばれる弾幕なんだろう。…それゆえに機動が読めん!

正面から飛んできた三つの弾を右にかわし、その瞬間に飛び込むように向かっていた二つの弾を弾く。

…気が付くと避ける隙間が無くなり、正面には数多の弾幕が…

…ってかな!霊力の事を知って四日、弾幕習って三日でこの実力は……

「理不尽だぁ~~!!」

ピチューン。











「ばたんきゅ~」

…あれから更に四回天和とやったが全敗した。…信じられるか?習って三日…内容と練習時間を考えると実質二日でこの実力だぜ?…やるせない。

「一刀って弾幕弱いの?」

グサリとくる一撃!…なんかも~なんかも~!やってられねぇ!…ぐふっ!
全身から力が抜け、砂場のジャリジャリした感触を感じながらぐてっと伸びる。

「…弱いよ、悪いか!どーせ俺は…おれは…」

いかん、なんか泣けてきた。俺の今までの努力って一体…

「一刀さんは大器晩成型ですから、最初はそれほど強くありません。むしろ平均より下ですね。…根気良く鍛えれば化けるのですが…」

衣玖さん、フォローになってないフォローだよ。それじゃ、今は弱いって認める様なもんだよ。

「ふーん、そうなんだ。じゃ、わたしたちは?」

天和の問いに衣玖さんは腕を組み、軽く悩んでから答えた。

「天和さんが、最初から最後まで伸びる天才型、地和さんが早期熟成形。そして人和さんが大器晩成型ですね。」

へーそーなんだ。と天和は歓心した。
俺は、道理で人和が他の二人に比べて伸びが薄い訳だ。と頑張ってもそれほど結果が出なくて落ち込んでいた人和を思いだした。








「発!……くっ、また失敗。」

夜に目が覚め、睡魔もなく、何と無しに森を散策していたら、符術の練習をする人和を見つけた。

俺は気になっってそっと見守ってみた。

――こんな時間まで……熱心な事だな。

幾度と無く失敗しては、再び符を構える、を繰り返した。

やがて霊力が尽きたのか、荒い息を吐きながら膝に手をついた。

「はぁ、はぁ……何がいけないの?手順は完璧な筈なのに…はぁ…手応えが薄すぎる…」

息を整え終わり、再び符を構えた。…おいおい、もう霊力も尽きかけてるのに…

「…今度こそ。」

意気込み、符を発動させようとするが、やはり何も起きない。再び符を構え、霊力を込め始める。

「発!」

込めた霊力を言霊に乗せ、形にするがシュゥゥと音を立てるのみで何も起きない…失敗だ。

「くっ。……なにがいけないというの?」

人和はあごに手をあて分析を始めた。

俺は、物音を立てないように注意しつつその場を離れた。








「一刀。」

「ん?……なんだ天和?」

天和に声をかけられ、身体を起こして付いた砂を叩き落とす。

「もう一回、しよ?」

にっこり笑顔の甘い声で誘惑するように言う。瞳は俺を真っ直ぐに見つめ、赤く染まった頬、荒く甘い息遣いが脳髄を溶かすように響き、そして俺は…











「却下。」

「えー、なんで?やろーよ弾幕ごっこ(仮)。」

ぶーぶー文句をたれる天和を宥める。と同時に思う、これが普通の誘惑なら…と。
俺だって思春期の青少年だ、天和みたいな美人に迫られればコロッと落ちる自信がある。
先の誘惑は、瞳は真っ直ぐに(獲物である)俺を見つめ、赤く染まった頬(高揚感による火照り)、荒く甘い息遣い(興奮)である。誘惑に負ければ即ピチューンな罠だ。
宥めていたら、突然天和が俯き、動きを止めた。

――ん?天和の様子がおかしいな?
不審に思い覗き込んだら急に顔を上げた。

「わ!?」

「もう!こうなれば実力行使よ!札宣言は二枚!行くよ一刀!」

「何!?待て!ちょ!?ーーー!?」


ピチューン!  ピチューン!!  ピチューン!!!


天和の放つ弾幕を何回かピチュリつつも避けながら俺は天和たち、張三姉妹との出会いを思い出すのだった。










「一刀も遠慮せずに反撃してよ!」

「無茶を言う……しまっ!?」


ピチューン!













俺たちと張三姉妹が出会ったのは五日前。衣玖さんが空を飛び、道を確認していた時の事。
空で道を確認していた衣玖さんを見ていた時、微かな声を聞き、それに反応した桜が声のする方へ行ってみようと言った。
天子は面倒事の気配がするけど面白そうな気配もあるから行ってみる?と聞き、俺はどんな気配だそれは。と突っ込みつつも行ってみるか。と答えた。
衣玖さんが下りてきてから声のする方へ行くと、そこに彼女たちが居た。
長女が捻挫して無理に動かせなくて困っていた時に、空を飛んでいた衣玖さんを見つけて仙女様と思い、厚かましいと自覚しながらも助けて貰おうと声を出したと供述。天子は本人曰く気まぐれ、で長女の捻挫を治癒術で治した。俺は天子がそんな術を使えた事に驚き、そんな術を使えたのか!?と聞くとグーパンチ付きで『天人なめんな』というありがたいお言葉を頂いた。
そして怪我を治した天子に恩を感じてか、三姉妹が仲間になった。(詳しく話すとと長くなるので端折った)
暫くすると黄巾賊が現れて三姉妹を指し、『ようやく見つけやしたぜ張角様、張宝様、張梁様。』と言った。三姉妹が逃げようとしたが、俺たちが宥めた。
黄巾党は、千人位いたが衣玖さんと天子と桜が無双して蹴散らした。…俺?突っ込んでも邪魔になるだけって分かってたから大人しく三姉妹の護衛。
戦闘も済み、三姉妹に事情を聞くと『最初はただの旅芸人→段々と自分達の歌に惚れ込んだ人達が現れる→このまま大陸一の旅芸人になるぞー!→段々と自分達の追っかけの規模が増大!→官憲出現!→この集会を開いたのは誰だ!?→わたし達はただ歌っているだけです~→関係有るか!しょっ引くぞ!→天和ちゃんたちを守れ!うぉぉぉ!!→いつの間にか乱に!→蒼天已死 黄天當立 歳在甲子 天下大吉!→あれあれ?!』らしい。……オイオイ(汗)
驚愕の事実に頭痛を覚えたが、何とか踏みとどまる。
後の事は端折るが、分かり易く言うと張三姉妹が正式に仲間になりました。
更に翌日に、天子が張三姉妹に霊力の扱い方と弾幕を教えると言い出した。理由を聞いたが教えてくれなかった。霊力や弾幕の事を伝えると張三姉妹は喜んで教えを受けたいと答えた。
そして天和が治癒術、地和が幻術、人和が符術を中心に習う事となった。






「…と。……一…。…か…と!一刀!」

「ぉぅえあ!?は、はい!?」

突然の怒鳴り声に俺は回想を中断して飛び起きた。…そか、天和にピチュられ(やられ)まくって気絶したんだっけ?

「…地和?どうしたんだ?」

俺が聞き返すといつの間にか近付いていた地和がため息を吐く。

「はぁ、どうしたんだ?じゃないよ!そろそろ出発するよ、いつまでぽけ~っとしてないで起きてよ。」

ガバッ!と意気よい良く起き上がり天子達を見ると出発準備が出来ていた。
俺は急いで荷物に駆け寄り、整理して持ち上げ、天子達に駆け寄る。

「来たわね。じゃ、洛陽に向けて行くわよ。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


…一方、一刀たちが向かう洛陽でも動乱の兆しが見え始めていた。




「何?何進を捕らえろ、ですって?」

呼び出された詠は目の前の郭勝(十常侍の一人)の発言に耳を疑った。

「そうだ。そろそろ目障りになってきたのでな、消えて貰おうとな。」

ククク、と笑う目の前のバカを内心でせせら笑いつつ、詠は、月が罪を被らないようにする策を高速で思考する。

――何進が帰ってくるって事は、袁紹も来るでしょうね。彼女はバカだけど人情家だから余り好いていないとはいえ、何進が宦官に殺される、又は殺されたと知れば確実に殴り込んで来るでしょうね。彼女、今の政権に大きな不満を持ってるし。…例の策を使うのはその時ね。

「了解しました。」

考えている事をおくびにも出さず、形式的に礼をする詠。

「ククク、期待しているぞ?」

郭勝は、何進を殺した後の事を考えているのか、にやけた顔をしている。詠は獲らぬ狸の皮算用ってやつね。と蔑んだ。




郭勝と別れ、詠は、一目散に霞の所へ向かった。

「霞!」

バン!と扉を意気よい良く開けると部屋の中で武器の手入れをしていた霞は突然の来客を見て、詠だと認識すると武器の手入れを再開しつつ聞く。

「どないしたんや詠?今、ウチは忙しんや。」

ゴシゴシと布で飛龍偃月刀を磨く霞。なかなかとれんなぁ。と呟きつつ磨く。

「十常侍のバカが何進を捕らえろとか言ってきたのよ。」

「ふーん、そか。……………な、なんやってー!?」

一瞬、聞き流した霞だったが脳が情報を正確に捉えた瞬間、驚愕の叫び声を上げた。

「アホか!?そいつアホなんか!?今の現状でそないな事したらどうなるか分かってるんか!?」

捲くし立てる様に喋る霞を宥めつつ、詠は語る。

「落ち着きなさい、これは好機よ。例の策を実行に移すいい機会だわ。」

「…ふぅ、了解や。準備しとくわ。…しくじんなや?」

霞の問いに詠は鼻で笑う。

「私を誰だと思っているの?この賈文和の策を信じなさい。」

自信満々に言い切る詠に、霞は苦笑しつつも頷いた。








「…紫様、間もなく歴史の分岐点に到達します。……外史の滅亡を求める者たちが現れる可能性が高いです。」

藍がそう言うと紫は、パチンッ、と扇子を閉じて藍を見る。

「ええ、全て予想道理。後はその時に彼等が現れるかがポイントよ。」

はい。と藍が答える。紫は、スキマを開き中に入る。

「藍、決して彼等の目論見通り外史を崩壊させない様にしてね。」

その言葉を最後に紫はスキマの中に消えていった。藍もその場から立ち去り、辺りには静けさが戻っていった。










         ―幻想郷は全てを受け入れる、それはそれは残酷なこと。―




                 ―続く―

どうしてこうなった!?
あ、ありのままに今起こった事を話すぜ!
張三姉妹って歌って踊れるアイドルだし、妖術も使える(演義)から習えば弾幕張れるじゃね?
と思って書いていたらいつの間にか一刀より強くなっていた。
才能だとか努力家だとかそんなちゃちなもんじゃねぇ。
もっと恐ろしい演義の片鱗を味わったぜ…!(二度ネタ)

自分でも知らない間に張三姉妹を強化してしまった…これは間違いなく歌って踊れて緊急時には戦えるアイドルのフラグ…!(弾幕の元ネタは某騒霊三姉妹からのご提供。)


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