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[11512] 迷い込んだ男 (オリ主×とらハ&リリなの+仮面ライダーAGITΩ) 【十一話 大幅改訂】 
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/09/29 13:50
注意!!

作者は小説を書くのが今回初めての素人です。

設定・しゃべり方がおかしいところがあります。間違っている場合は指摘して下さればすぐさま訂正します。

プロットも何もないのでどこまで書けるか分かりません。

それでもよろしければどうぞ



お知らせ
とらハ板に移動しました。


アンケート

『さくらさんを攻略対象に入れる』の方が多かったので入れることにします。


申し訳ありません。次回更新はIFゆうひENDを取りやめ、本編を進めたいと思います。これだけ時間空けといて何言ってんだ!と思う人もいるでしょう。それでも一言だけ言い訳をさせてください。

えー、パソコンが壊れました。

その所為で7割方できてたIFゆうひENDも吹っ飛びました。モチベーションが最低まで下がり、最近まで全くと言って良いほど創作意欲が湧きませんでした。IFゆうひENDをもう一度書こうとも思ったのですが、何分徹夜明けのハイテンションで書いたのが大半だったので、もう一回同じの書く事が出来ません。なら、感想でもちらほら言われてた通りに本編進めようと思い立った次第です。IFゆうひENDをお待ちだった読者様には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。なるべく早く本編の方を書き上げたいと思っておりますので、見捨てないでいただければ幸いです。



[11512] 迷い込んだ男 第一話 「出会い」 【大幅修正】
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/10/31 00:16
今、新入生として『私立風芽丘学園』の校門前に立っている俺は何処からどう見ても普通の高校生。

名前は藤見 凌。

実は最近、親の仕事の都合で子供の頃から住んでいた土地を離れ、海鳴市に引っ越してきたのだ。


「お父さんの仕事の都合で海鳴市ってところに引っ越すことになりそうなの。」


中学3年の時に母さんからその言葉を聞き、進学先を此処に選んだ。

幸い学力は十分足りていたし、母さんと父さんも乗り気だったのが主な理由だ。

新たな土地での新生活に、「オラすっげぇワクワクすっぞ」と、ばかりに気持ちが高ぶっている。

そうして俺は校門を通って、校舎の中に入って行った。










                                     けれどこの時、俺は全く知らなかった。




                                    この2年後、この海鳴市で起こる事件の事を。




                               そして、それに自分が否応無しに関わって行く事になる事を。





                                             『藤見 凌』






                               これから先、過酷な運命を背負う事になる男の名前であった。










                                             第一話「出会い」










自分で言うのも何だが、俺は極々普通の一般人だ。しいて他の人と違うところを挙げるなら、前世の記憶をある程度持ったままこの世界に転生したらしいってことぐらいかな。

まあ、転生したと言っても、今では前世での思い出なんてモノは殆ど覚えていない訳なのだが。


とは言え、死んだ時の事は今でも結構ハッキリと覚えている。

義妹に心臓を一突き。

それで、前世の俺は死んだ。

今でも不思議なんだが…何で俺は刺されたんだろう。

初めて出来た彼女を紹介しただけだったと思うんだが……


ま、まぁ、それはさて置き、転生してから早15年間、俺はこの世界が普通の世界だと信じて疑っていなかった。

いや、餓鬼の頃は一応アニメとかの世界だった時のための対策はしてた。

アニメや漫画、ライトノベルとかのファンタジー満載でメルヘン万歳な世界である可能性を考慮して、常に目立たないよう地味な態度を心掛けてきたり…とかな。

厄介事に巻き込まれて二回目の人生も早死にするなんてゴメンだからな。

けど、俺は知らず知らずの内、とんでもないミスを犯していた事に気付いていなかった。

当たり前の事だが、新しい記憶が増えるに伴い、古い記憶はそれに埋もれてどんどん劣化の一途を辿る。

俺は年を重ねるにつれ、漫画やアニメのシナリオなどを思い出せなくなっていった。


しかし、それで良かったのかも知れない。

そのお蔭で、俺は過去の記憶などに囚われる事なく、『藤見 凌』としての人生を始める事が出来たのだから。






さて、校長先生の長い話も終わったみたいだし、思い出話はここまでにしておくか。

数時間後、入学式が終わり、自分のクラスであるC組に着いた俺は、さっそく友達になれそうな奴を探していた。

何せ中学からの友人が1人もいないのだ。新しく越してきたと言う事もあって、友達を作るのも一苦労なのである。

結局俺は、他のグループの中に入っていく勇気もなく、担任の先生が来るまで何もできなかった。

先生が自己紹介をしている間、俺はこのまま友達ができなかったらどうしようか……いやいや、ネガティブいくない。


「はい、次の人~。」

「高町恭也です。趣味は釣りと盆栽と昼寝です。家は喫茶店を経営しています。1年間よろしくお願いします。」


そうやって下らないことを考えていたら、いつの間にか生徒たちの自己紹介が始まっていた。


「はい、じゃあ次~。」

「月村忍。趣味などは特にありません。」

「………」

「………」

「えっと、それだけですか?」

「はい。」

「え~、じゃあ、はいっ!次の人!」


あれ?高町恭也に月村忍?どっかで聞いたような……。


「藤見君?藤見くーん?君の番ですよ~?」


げぇっ!?考え事してたせいで気付かなかった!


「は、はい! 名前は藤見凌。趣味は読書とゲーム。特技とかは特にありません。最近S県からこっちに引っ越してきたばかりなんで、分からないところだらけですがよろしくお願いします。」


「ボ~としてたらダメですよ?次からは気を付けてね。じゃあ次の人~。」


先生から軽いお叱りを受け、俺は席に着いた。

ようやく全員の自己紹介が終わり、その後は明日からの連絡などを聞いて、後は下校するだけになったのだが……。

すごく………予想外です。

今、俺の机を中心に人が集まっています。

どうやら俺が前に住んでいたところの話が聞きたいらしい。

あぁ、今日は1日を町の探索に使おうと思っていたのに、この調子だといつになることやら。








あれやこれやと質問を投げ掛けられ、やっとのことで質問攻め地獄から解放された時には、すでに1時間以上が経過していた。


「結局こんな時間になっちゃったなぁ。」


一旦家に帰って昼食をとり、後片付けが終わった時にはもう3時を過ぎていた。


「まぁ、夕食まで3時間以上あるし、ここら辺の地理を把握するだけなら十分か。」





と、探索を開始したのも束の間、2時間後、俺は自分の迂闊さを呪うこととなった。





「迂闊だった。目的もなく歩くにしてもせめて金は持ってきておくべきだった」orz


家がどっちにあるのかさえ分からないどころか、ここがどこなのかも分かりゃしない。

いや、落ち着け俺。KOOLになれ、KOOLになるんだ。

幸い住所は解ってるんだから交番に着きさえすれば頼りになるお巡りさんが教えてくれるはずd…………交番がどこにあるのか分からねえorz



「…………………えぇい!最終手段だ。もう、形振り構っていられない!あの喫茶店で店員さんにでも聞いてみよう。」


正直、「迷子になったんで道教えて下さい」とか聞くの恥ずかしいけど背に腹は代えられない。

うちの母は少しでも帰ってくるのが遅かったら警察に連絡しかねないからなぁ。(遠い眼)

おっと、そんな事考えてる場合じゃないな。

兎にも角にも、入ってみなければ始まらない。

意を決して、俺はその喫茶店の扉を開いた。

そこには一種異様な光景が広がっていた。

ウェイターの男性が女性客にケーキを運び、女性客が何処かうっとりとした表情で熱っぽい視線を向ける。

すると、それを見た眼鏡を掛けたウェイトレスの女の子が、何故か厳しい視線をウェイターに向けて送った。

そして、それを見た男性客連中が声を揃えて、(しかし微妙に小声で)「イイッ!!」と言った。(何が?)

そして極めつけは、小さな女の子がピョコピョコ跳ねながらカウンターにいる男性(何処となく店長っぽい雰囲気の人)に、「おとーさん、なのはちゃんとちゅうもんとれたよー。」と言ってはしゃいでいるところだ。

いや、それだけならばまだ良い。癒されるしな。

問題は…その男性が滅茶苦茶緩み切った顔で「おぉ、偉いぞなのは!」と言って頭をこれでもかと撫で回している事だ。



あれ、喫茶店ってこんな感じだったっけ?」


「あら、いらっしゃいませ。」


途中から思わず声に出してしまっていたらしく、その呟きが聞こえたのか、カウンターから二十歳ほどの女性が顔を出していた。


「ただ今席が埋まっておりまして、カウンターの方で宜しいですか?」

「へっ?あぁ、いえ。俺、客として来たんじゃないんです。最近この辺りに引っ越してきたんですけど……道に迷ってしまって。」


うぅ、やっぱ恥ずかしいなぁ、この年で迷子だなんて初対面の人に言うのは。


「まぁ、それは大変ね。」

「それで…えっと、地図でも貸して頂ければと思いまして。」

「わかったわ、少しここで待っててね?」

「あ、はい。ありがとうございます。」


ふぅ~良かったぁ。一時はどうなる事かと思ったけど、これで家に帰れるな。

しばらくして、女性が小走りで戻ってきた。


「おまたせー。はい、これが地図よ。」


そして、その女性はそう言って、隣に立っている全身黒一色の服を着た男性を指差した。

よく見ると、先程までウェイターをしていた男性のようだ。


「はい?」


え?何?どういう事?


「はぁ~、母さん、初対面の人に何言ってるんだ。」

「あら、あんた無愛想だし、地図と同じで喋らないじゃない。」

「……母よ、あなたから見た俺はそれほどまでに無愛想だと言うのか。」

「そう言うのは友達が最低5人くらい出来たら言いなさい。あんたの友達は私の知る限り赤星君だけよ。」

「むぅ。」


完全に置いてけぼりを喰らってしまった。


「さっきは家の母がすまなかった。軽い冗談だから流してくれると助かる。」


話について行けず、暫くの間ボーッと突っ立っていた俺に男性が気付き、声を掛けてきた。


「あ、あぁ、元々無茶言ってお願いしたのは俺の方ですし。気にしてはいませんけど。」

「そうか、そう言って貰えると助かる。じゃあ、行こうか。」

「は?行くって何処にですか?」

「事情は母さんから聞いた。道に迷ったんだろう?住所を教えてくれ、案内しよう。」


地獄に仏とはこの事だ!地図を見せて貰えなくて落胆しかけていたが、地元の人が案内してくれるんなら、こんなに頼もしい事は無い。


「是非、お願いします。」


そうして俺は無事に自宅へ帰れる事になったのだった。







「あ、そう言えば、君はどこの学校の生徒なんだ?」


家までの帰り道、親切な黒服の店員がそんな事を聞いてきた。

「風芽丘学園の新入生です。そう言うあなたは?」

「俺も君と同じで今日から風芽丘の新入生だ。だから敬語は要らん。」

「ん、じゃあそうさせて貰うわ。」


何とビックリ。俺よりも年上に見えたこの店員さんはどうやら同じ学年らしい。

と言うか、さっきから思ってたんだけど、この店員さんの事どっかで見た事があるような気が………あ、もしかして。


「なぁ、もしかしてだけど…お前の名前って『高町 恭也』だったりする?」

「む、確かに俺は高町恭也だが、何故それを知っている?」


やっぱ同じクラスの高町かー-!!

同じ教室にいたのに今の今まで気付かなかった俺たちって一体……


「俺もついさっき思い出したんだけど、俺とお前…同じクラスだ。」

「…お前の名前は?」

「藤見凌だ。まぁ、今日が入学初日だし覚えてなくても無理ないか。」

「そうだったのか。すまない。」


そう言って頭を下げる高町。


「いやいや、俺が思い出せたのも偶然みたいなもんだから気にしないでくれ。」


しかし、これは友達を作るチャンスかも知れん。

何となくだが高町とは気が合いそうな気がするし。


「お、此処だな。藤見、着いたぞ。」

「うん?おぉ、あそこに見えるは散々探した俺の家。ありがとう高町、恩に着るよ。」

「気にするな。困った時はお互い様と言うだろう。じゃあな藤見、また明日学校で会おう。」

「おーう、じゃあな高町。」


そうして俺たちは別れた。



数分後、高町に「友達になろう」と言うのを忘れて、俺は途方にくれる事になる。


……俺ってヤツぁ orz









後書き
修正しました。の割に文章量も余り増えてないし微妙ですね。
まぁ、前のよりは多少マシになったんではないかと。



[11512] 迷い込んだ男 第二話 「学園生活」 【加筆修正】
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/10/31 00:24
第二話 「学園生活」






俺が迷子になった一件以来、俺と高町は自然と友達同士になっていた。

その後、恭也の中学時代からの友達だという赤星 勇吾とも知り合い友達になった。

2人の友人になって分かったことだが、高町は少し無愛想だが根は優しい良い奴だった。

あれから毎日のように海鳴市を案内してくれたり、お勧めのタイ焼き屋に連れて行ってくれたりとすごく良い奴だ。



……まぁ、タイ焼きのチーズとカレーの組み合わせには若干引いたが。


赤星は、容姿端麗で成績も優秀、そのうえ剣道も強く、恭也ともよく手合わせをするらしい。

それなのに、気取ったところがなく初対面の俺にも気さくに話しかけてくれたため、すぐに打ち解けることができた。

ホント風芽丘学園に入ってよかった。入学してすぐ友達ができるなんて思わなかったからなぁ。


「なぁ、藤見。」


午前の授業が終わり、3人で集まって昼食を食べながら2人と出会った頃のことを思い返していると、赤星が声をかけてきた。


「何だ?」

「ふと思ったんだけどさ、お前って部活とか入らないのか?」

「ふむ、それは俺も思っていた。体も鍛えているようだし、てっきり運動部に入るものだと思っていたのだが。」

「んー。俺、免許取れる歳になったらバイク買おうと思ってるからね、バイトでもして金を貯めておきたいんだよ。」

「あーバイクか。なるほどな。」

「両親は金を出してくれないのか?」

「大学に進学したら今より金がいるからな。バイクまで買ってもらえないよ。」

「凄いな藤見。俺たちまだ一年なのに、もう大学のことまで考えてるのか。」

「どこの大学に行くのかも決めているのか?」

「流石にそれはないよ。まぁ、大学くらい出とかないと就職が難しいだろうしね。ただそれだけだよ。」

実際、転生前は高卒で就職したからあまりいい所に勤められなかったんだよなぁ。前の記憶があるから今のところ成績はいいけど、これから先は真面目に勉強しないとダメだろうなぁ。


「ふむ。しかし、そういうことなら家の店でバイトしないか?」

「なんですと?」


正直、それは願ったり叶ったりなのでかなり嬉しい。


「ああ、それいいかもな。藤見、バイトまだ見つかってないんだろ?」

「あ、ああ。だけど俺、接客業の経験ないんだけど。」

「問題ないと思うぞ。」

「そ、そうか?じゃあ、悪いけど頼めるか?」

「ああ、引き受けた。」

「けど、桃子さんなら高町の友達って聞いただけで採用にしそうだな。」

「それはないだろ。」

「いや、母さんならあり得る。」

「桃子さんだからなぁ。」


桃子さんって、あのお茶目な人だよなぁ。

う~ん、あの人なら確かにあり得る…のか?


「バイトの件、今日帰ったら母さんに話しておこう。」

「すまない、助かるよ。」

「ってやばっ!?おい2人とも、早く食わないと昼休み終わっちまうぞ。」


高町には頭が上がらないなぁ。などと考えていると突然赤星が慌てた声を出した。


「うわっホントだ。あと8分しかないじゃないか。」

「次の時間体育だから急がないと拙いぞ!」

「急いで食べろ。遅れても知らんぞ。」

「ちょっ、待て高町。」

「すぐ食べ終わるから待ってくれ!」


結果からいえば俺たちは授業に間に合った。急いで食べたため俺と赤星は腹痛になったが。







翌日、いつも通りの時間に起床した俺は、母さんの作ってくれた朝飯を食べ、食器を片づけている母さんに、今日はバイトの面接で遅くなるかもしれないと説明をしてから家を出た。







「採用だそうだ」


教室に着き、高町に挨拶をしようと口を開いた瞬間に高町から、いきなりそう言われた。

一瞬、高町が何を言っているのか分からなかった。

いや、なんとなくだが、昨日頼んだバイトのことを指しているんじゃないかなぁ、とは思った。

けど、俺は面接を受けていない上に、桃子さんとは1度会っただけだ。

碌な会話すらも交わしていないのに採用と言われても戸惑ってしまう。


「高町、悪いが意味が分からない。」

「昨日の昼に赤星の言った言葉のとおりになった、ということだ。」

「え"!マジですか。」

「大マジだ。」

「いいじゃないか、面接免除で採用されたんだ。喜ぶべきだろ。」


後ろを向けば、いつの間にやら学校に来ていた赤星が会話に加わってきた。


「おはよう赤星。それはそうだが、いいのかなぁ。」

「別に母さんは俺の友人だから無条件で合格にしたわけじゃないぞ。」

「ありゃ、そうなの?」

「ああ、前に来た迷子の男だと言ったら、「それなら大丈夫ね。明日から来れるようなら来てもらって。」とのことだ。」


おまっ!迷子の男って…もう少しマシな言い方あるだろうに。


「まぁ、元々面接受けに行くつもりだったからそれは大丈夫なんだけど……」

「頑張れよ藤見。翠屋で働くのは大変だぞ。」

「赤星、不安にさせるようなことを言うな。ただ単に忙しいだけだ。」

「そんなにお客さん多いの?」

「まぁな。桃子さんのシュークリームは絶品だからな。」

「2人とも、そろそろ先生が来る。早く席に戻ったほうがいいぞ。」


高町に言われて席に着いた俺は、その後いつも通り授業をうけた。放課後のバイトのことを考えながら。




後書き
キャラの口調がおかしい。赤星君こんなしゃべり方だったっけ?
主人公の変身はとらハ3の原作開始かその少し前ぐらいに予定してます。



[11512] 迷い込んだ男 第三話 「喫茶店 翠屋」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/09/02 00:38
     迷い込んだ男 第三話 「喫茶店 翠屋」
 





すべての授業が終わり、俺と高町はいよいよ翠屋に向かうこととなった。何故だか無性にいやな予感がするが。

「はぁ。」

「何だ、藤見。さっきから溜息ばかりついて。」

「つきたくもなるよ。喫茶店のアルバイトなんてしたことないんだから。さっきから緊張しっぱなしだよ。」

「そういうものなのか?だが、そのことも母さんには伝えてあるし、大丈夫だろう。」

「高町が教えてくれるのなら気兼ねなく話せていいんだがなぁ。」

「俺はあくまでヘルプとして時々入るくらいだから無理だ。」

「は?…………………え、お前も働いてるんじゃないの?」

「一言もそんなことを言った覚えはないぞ。」

「いやいや、初めて翠屋で会った時お前働いてたじゃないか!?」

「ヘルプで呼ばれたからな。」

「ってことは、おまえいないの?」

「働くのは忙しくて、手が足りない時だけだな。」

さっきから嫌な予感がしてたのはこれだったのか!いや落ち着け俺、だいたい初めから高町に頼ってどうする。悪い方向に考えるな!ポジティブにいこう、ポジティブに!

「着いたぞ。スマンが俺は今日は用事があるから先に帰る。じゃあ頑張れよ。」

「ちょっ!まだ心の準備が!?」

何てこった。考え事してるうちに着いてしまったらしい。ええい、弱気になるな俺!さっき誓ったばかりだろう!男は度胸、何でもやってみるものさ!





決意を新たに、翠屋の扉を開けた俺は、思わず目を奪われた。




「いらっしゃいませ~」




そう言った女性の笑顔はとても綺麗で、正に天使のような笑顔だった。




「? あの、お客様?」

っ!? 見蕩れてる場合じゃない!

「っと、客じゃなくて今日からバイトとして働かせてもらう……「あっ、来たわね。早速これに着替えてきて。あとで教育係の子紹介するから。」って、ちょっ待っ!」

………いきなり服(おそらく翠屋の制服)を渡され、更衣室に押し込まれてしまった。さっきの桃子さんだよなぁ、なんか高町や赤星の言ってたことが分かったような気がする。



翠屋の制服に着替えた俺は桃子さんに連れられ、俺の教育係の人の所に案内された。

「そういうわけで、フィアッセ、あなたをこの子の教育係に任命します。」

「えっ!?初耳だよ?そんな話。」

驚いた。何故なら、そこには俺がさっき見蕩れた女性がいたのだから。

「昨日恭也から彼の話を聞いて採用したの。」

「けど私勤め始めたばかりよ?教育係なんて務まるかな?」

「1か月以上勤めてるんだから大丈夫よ。」

やはり話を聞いてる限り、あの美人さんが俺のトレーナーらしい。

「初めまして、今日から君の教育係になったフィアッセ・クリステラです。よろしくね。」

「藤見凌です。こ、こちらこそよろしくお願いします。」

「あっ。じゃあ、リョウって呼んでいい?」

「えぇ!?」

「ダメだった?」

「い、いえ驚いただけなんで、好きに呼んでもらって構いません。」

「何で驚くの?」

そりゃ、あなたみたいな美人にいきなり名前で呼ばれれば男なら誰でもドキッとしますよ。って、あれ?フィアッセ・クリステラ?どっかで聞いたような。そういえば、高町の自己紹介の時も同じような感じがしたんだけど、気のせいか?

「それじゃあ、仕事の説明するね。付いて来て?」

「あ、はい。分かりました。」

まあいいか、よくあることだしなデジャヴなんて。

その後、注意事項やお客様への対応の仕方を説明してもらい、「今日のところはどんな事をするのか見ておいて。」と言われ、終始ほかの皆さんの働きぶりを閉店時間まで見学させてもらった。





「あっ、藤見君、フィアッセもちょっと待って。」

店が終わり、家に帰ろうとしたら、桃子さんに呼び止められた。

「何ですか?」 「何?桃子。」

「これから家で、藤見君が翠屋で働いてくれるようになった記念にパーティーをしようと思うの。恭也たちに言ってもう用意はしてあるから一緒に行きましょう。」

なぜ俺が翠屋に入ったら、パーティーをすることになるんだろうか。

「パーティーかぁ。久しぶりね、楽しそう!」

フィアッセさんは行く気満々のようだ。

「じゃあ、両親にメールして帰るの遅くなるって言っておきます。」

「楽しみだねーリョウ。」

テンションが上がってるのは分かりましたから抱きつくのはやめてくださいフィアッセさん。いろいろとヤバイです。




それにしても高町の家か……どんな所だろう。








後書き
相変わらずキャラの口調に自信が持てないorz
フィアッセさんってこんな人だったっけ?
話が全然進まない。主人公いつになったら変身できるんだ。



[11512] 迷い込んだ男 第四話 「ようこそ高町家へ。」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/09/02 00:40
第四話「ようこそ高町家へ。」



桃子さんに連れられ、高町家にやってきた俺は、高町家の面々と互いに簡単な自己紹介を済ませ、今現在、桃子さんの出してくれた料理に舌鼓を打っていた。


「いやー、恭也の友達になってくれてありがとう藤見君。こいつは無愛想だからな、友達ができないんじゃないかって心配してたんだ。」

お酒を飲んで顔が若干赤くなっている高町の父親の士郎さんが話しかけてきた。

「いえ、そんな。俺のほうこそ高町には世話になりっぱなしですよ。」

「そう言ってもらえると助かるよ。それでどうだい?桃子の料理は。」

「おいしいですよ。流石、桃子さんですね。」

「そうだろう、そうだろう♪桃子は昔から料理がうまくてなぁ。」

「そうなんですか。」

「何しろ俺と桃子が出会ったのは、忘れもしないあの日、この海鳴のホテル・ベイシティでのことだ………」

あれ?ちょっ!なんかいきなり語りだしたんですけどー!?

「あの、士郎さん?」

「藤見、早くこっちに来い。」

振り返ると恭也が俺に向かって手招きをしていた。

「なんだ?というかどうしたんだ?士郎さんは。」

「あーお父さんね、お酒が入るとたまにああなるの。」

「ああなった父さんの相手ができるのは母さんだけだ。」

「おとーさんもおかーさんもとってもなかよしなんだよ。」

「見ろ、士郎さんの惚気話に合わせて桃子さんも語りだしたぞ。」

「もう完全に二人だけの空間だよね。」

「お酒はいるといつもあんな感じなのか?」

「お酒はいってなくてもあんな感じだよ。」

「伊達に『万年新婚夫婦』なんて呼ばれてるわけじゃないってことだ。」

万年新婚夫婦……か。確かにあのいちゃつきっぷりは新婚夫婦そのものだな。

「ああなると長いんだよねー二人とも。」

「そうだな。とりあえず場所を移すか。居心地が悪い。」

「さんせー。」

「でもどこに行くの?」

「道場でいいんじゃないか?広いし。」

「そうだな、そうするか。」

この家広いとは思ってたけど道場まであるのか。



「そう言えば赤星、お前と高町はよく剣の手合わせをするって言ってたけど、やっぱりここの道場なのか?」

「ん?ああ、そうだな。」

「へー、見てみたいなぁ。」

「なら、久しぶりに一勝負するか。」



こっくり、こっくり。

ふと、なのはちゃんのほうを見ると、すごく眠たそうにしていた。

「高町、なのはちゃんが眠たそうにしてるから部屋まで連れて行ってやったらどうだ?」

「あ、ホントだ。気付かなかったよ。」

「俺がつれて上がろう。先に行っててくれ。」

そう言って高町がなのはちゃんを二階に連れて上がるのを見てから、俺たちは一足先に道場へと向かった。




「ところで、リョウは何かスポーツとかやってないの?」

「うーん、中学の時も帰宅部だったしやってないな。」

「あれ、中学の時もやってなかったのか?結構鍛えた体してるからてっきり部活してたものだと思ってたんだが。」

「そうなんですか?凌さん。」

「まぁ鍛えてるけど、中学の時に喧嘩で負けないようにするためだったし、褒められたものじゃないよ。」

「意外だな、喧嘩する様な奴には見えないのに。」

「俺だってしたくなかったけどね。まぁ、いい学校だったけど不良も結構いたしね。」

「そうだったんですか…」

「リョウは被害にあわなかったの?」

「いや、なんでか知らないけど、よく狙われてたよ。全部返り討ちにしたけどね。まぁ、不良10人に囲まれた時は危なかったけど。」

「えぇ?!それ大丈夫だったの?」

「なんとかね、だいぶ殴られたけど、一応は勝ったよ。」







「遅れてスマン。」

そんな話をしていると、後ろから高町が木刀を3本持って現れた。

あれ?

「なぁ高町。」

「なんだ?藤見。」

「何で防具がないんだ?剣道なら着けなきゃダメなんじゃないか?」

「ああ、いいんだよ。高町のは剣道じゃなくて剣術だし、“俺達ルール”で決まってるんだ。」

「何?“俺達ルール”って。」

「勇吾さんと恭ちゃんと私の間で取り決めたルールなんです。防具なしで蹴るのもOKなんですよ。」




視線を2人のほうに戻せば、いつの間にか2人とも木刀を構え、仕合の準備を終えていた。そして、

「永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術、高町恭也。」

「草間一刀流、赤星勇吾。」

「「推して参る!!」」


同時にぶつかり合ったのだった。






後書き
主人公、自分の中学時代を語る。これぐらいなら戦えると伝えたかった。
最後、無駄にカッコよく〆た。そして、なのはが空気。

相変わらず文才ないなぁorz



[11512] 迷い込んだ男 第五話 「怒り」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/09/02 00:41
二人の仕合は熾烈を極めた。高町が二本の木刀(通常の木刀より短いので恐らく小太刀というもの)を恐ろしい速さで繰り出し、赤星はその全てを避け、一瞬の隙に恐ろしく鋭い太刀筋でカウンターを叩き込んでいる。まさしく互角だ。

というか、こいつらホントに人間か?どれだけ頑張っても勝てる気がしないんだが……。

やがて、2人は間合いを取り、木刀を構えなおすと、深く腰を落とした。そして―――。

「ふっ!」

「はあぁぁっ!」

一瞬だった。両者同時に前へと踏み込み、赤星が凄まじい速さで繰り出した斬撃を高町は片方の木刀でいなし、もう片方の木刀を赤星の首に突き付けていた。




「ふぅ、やっぱお前には敵わないな。」

「いや、俺も危なかった。動作が一瞬でも遅れていたら負けていたのは俺のほうだった。」



勝敗が決し、二人の剣士は笑いながら握手を交わした。





                                        第五話「怒り」





高町と赤星の仕合が終わり、そろそろ時間も遅くなってきたので俺は家に帰ることにした。

「ホントすごかったよ。いいもの見せてもらった。」

「赤星に聞いたがお前も強いらしいじゃないか。今度手合わせでもするか?」

「よせよ。不良10人とお前とじゃ比べ物にならないよ。」

「そうか、残念だ。」

ったく、こいつはどこまで本気なんだか。

「また明日、翠屋でね。」

「また、遊びにきてね。なのはももっと遊んでもらいたいだろうし。」

「じゃ、学校でなー。」

「ああ、またあした。」

そして俺は家までの道のりを歩き始めた。




「しっかし、あの二人あんなに強かったんだなぁ。」

帰り道、俺は道場で行われた2人の仕合を思い出していた。

赤星の太刀筋は豪剣で1撃が恐ろしく重かったし、それを片手で受け流し、さらにカウンターを仕掛けた高町、勝てる気がまったくしないとはこのことだな。






(あれ?)



気がつけば俺は全く知らない道に立っていた。

(しまった、考え事してて通り過ぎたか。さっさと戻らないとまた迷うな。)

しかし、何か不気味な感じがするなぁ。早く帰ろうと思いUターンしようとした瞬間、後方から何やら数人の男たちの声が聞こえてきた。いやな予感がして俺は咄嗟に近くの草むらへと飛び込んだ。


「いやー。簡単だったな、こんな子供掻っ攫って親に身代金を要求すれば大金が転がり込んでくるんだもんな。」

「でもいいのかよ。警察にばれたら終わりだぜ?」

「ハッ、何言ってやがる。警察に言ったら子供を殺すって言ってやりゃあいいんだよ。」

「そーそ。だいたい、何もしなくても取り立てに来たヤクザに殺されるんだ。ムショのほうがよっぽどマシだろ。」

「それもそーだな。」



何だ、あいつらは何を言っている?子供?身代金?コロス?男たちのうち2人は、大きな袋を担いでいた。

「むー!ムー!」

「いい加減諦めなってお譲ちゃん。こんな時間にこんな場所で誰も助けになんて来やしねーんだからよぉ。」

「むー!ムー!むーー!」

「うるせぇ!糞餓鬼!!犯されてーのか!あぁん?」

「ヒッ!?」



何なんだよこいつら。あいつらの言ってる通りならあいつらの持ってる袋の中身はつまり―――。



俺は男たちが通り過ぎるのを待って、警察に通報しようとした。しかし……。

(ケータイ高町の家に置いたままだ!クソッこんな時に限って。)

そうしている間にも男たちの姿はどんどん小さくなっている。それにこの暗闇だ、見失ったらどこに行ったのか分からなくなる。

(危険だけど後をつけて、場所が分かったら警察に言いに行こう。)



男たちの後を追ってたどり着いたのはもう誰にも使われていない廃ビルだった。

俺は、入口近くの壁に背中を預け奴らの会話に耳を傾けた。



「ほらよ。さぁて話してもらおうか。お前の家の電話番号。」

男の一人が少女の口に噛ませていた布をほどき、威圧的な声色で話しかけた。」

「ふ、ふん。だ、誰がそんなもの教えるもんですか。」

「あぁ?まだこの状況わかってないわけ?お前を生かすも殺すも俺たちしだい何だよ?」

「お、脅したって無駄なんだから。私が死んだらお金が手に入らないもの。だからあなたたちに私は殺せない。」

「聡明だねぇ。でもさぁ、言わないと君の処女貰うって言ったらどうする?」

「な、何よそれ?!そんなのイヤよ。絶対イヤ。」

「なら早いとこ教えてくれる?もたもたしてたらホントにヤっちゃうよ?」





女の子は大分粘ったがついに電話番号を教えてしまったらしい。奴等のリーダーらしき男が携帯から掛けている。


そして……そいつはいきなり携帯を地面に叩きつけ、怒号をあげた。


(少女side)

「てめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!どういうことだ!!!何が家族の電話番号だ。孤児院の番号じゃねえか!えぇ!?」

誘拐されてこんなところに連れてこられた私は今、わたしを攫った男に首を絞められている。

「わ、私の家族は…孤児院の人たち……だもん。私の家は孤児…院なんだからしょうが………ないでしょ。」

私を誘拐した男は怒鳴り声をあげ、さらにきつく首を絞めた。

「うるせぇ!餓鬼が!!犯してやるよ。完璧に壊れるまで犯しつくしてやる!!」

「ゴホッ。は、話が……違う…じゃ…な…い……。」

「決めたぞ!!お前を完璧に壊したあとに、てめぇを殺してやる!!!!」

い…や、だ。誰、か…たす、け、て。




(凌side)

ここまで怒ったのはいつ以来だろう。前世を含めても今ほど怒りに燃えたことはないだろう。少女の首を締めあげている男を含めざっと15人。倒せるかどうかは分からない。でも、ここで彼女を見捨てたら、俺が、俺でなくなりそうな、そんな気がする。だから――――――。


(少女side)

どんどんと意識が朦朧としていく中、男たちが私の服を破っているのが分かった。


なんで…


(なんで私はこんな目に遭わなければならないんだろう。)


なんで私を……


(なんで誰も私を助けてくれないんだろう。)


なんで私を――――。


(なんで、何で、ナンデ)



なんで私を助けてくれないのよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!




そう強く思った瞬間、私の体はふわりと浮いて、次の瞬間には誰かに抱きしめられていた。










後書き
自分で書いてて思った。なんという超展開。
試験的に勇吾と恭也の戦闘描写を入れてみた。
ここまで書いたらこの少女が誰かモロばれだよね。



[11512] 迷い込んだ男 第六話 「覚醒の兆し」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/09/02 00:42
(凌side)

奴等は助けが来るはずないと思っているのか入口に全く注意を向けていなかった。さらに、ビルの中の明かりは奴らが囲っている焚き火だけだ。侵入は容易く、余程頭に血が上っているのか、奴等のリーダーは周りが全く見えていない。俺はできるだけ足音に気をつけながら少女のもとへ走った。

俺の侵入にようやく気付いたのか、数人がこちらに来るのが見えた。だが………遅い!!

次の瞬間には、俺に気づいたリーダーの横っ面に全力で拳を叩き込んでいた。そして、すぐさま追い打ちをかけ意識を刈り取った。

そして、俺は奴の手から解放された少女を抱きしめた。

「ゴホッゲホッ、あなた、誰なの?」

「君を助けに来た男だよ。」

俺がそう言った直後、女の子の体から力が抜け、意識を失ったのが分かった。









                                    第六話「覚醒の兆し」









「てめぇ、何もんだ?」

「誰でもいいだろ。こんな女の子を酷い目にあわせたお前らなんかに名乗る名前なんかない。」

「かっこつけてんじゃねぇよ!ボケが!!」

「雅さんの敵討ちだ。やっちまえ!!」


そう言うと奴等は俺を取り囲み、一斉に殴りかかってきた。





(とにかく、この子を降ろさないと勝ち目がないな。)

俺は正面の男の鼻に正拳を打ち込み、悶絶しているところに足払いを掛け、周りの連中を巻き込み転倒させ、逃走経路を確保した。そして、すぐさま転倒している奴等を飛び越え、入り口めがけて走る。

(この子を降ろしたとしても大人14人相手に勝てるか?けど、勝たないとこの子が……。)

外に出てすぐに女の子を壁にもたれさせた俺は、奴等のほうに振り向き己の拳を構えた。



(少女side)

気がつくとあのジメジメしたビルの中じゃなく、星空の広がる空の下で壁にもたれかかっていた。

(わたし、助かった、の?)

ハッキリしない意識の中、私を助けてくれた人を探す。

(お礼、言わなきゃ、ありがとうって。)



ドサッ

どこかで、音が聞こえた。

嫌な予感がして、私は未だに力の入らない体で、地面を這いながら音のほうへと近づいた。



そして、そこで私が見たのは――――――――。



(凌side)

「ガッ ゴフッ ゲホッ」

5人は気絶させたが、所詮は多勢に無勢。殴られ、蹴られ、地面に叩きつけられ、血が大量に流れ、体は限界だった。けど、負けられない。ここで俺がくたばれば、今度こそあの女の子は殺されるだろう。

(あの女の子が死ぬんだぞ、罪のないあの子が。守らないと、あの子を守らないと。)

「ゲフッ ガハッ」

さらに殴られ、意識が朦朧としてくる。


その時、連中の高笑いが聞こえるなか、俺は信じられないものを見た。


徐々に意識が遠くなって視界が闇に染まっていきながら、俺は光る子供の姿を見た。

その子が俺に近づいてきて手を差し出した。そして、俺がその子の手を掴んだその瞬間―――――――――――――。







(不良A side)

「あははははははははははは。ダッセェなぁ、こいつ。」

「助けに来て返り討ちにあってりゃ世話ねぇーつーの。」

「早いとこトドメ刺しちまおうぜ。」

「そーだな。んじゃこれでおさらばだぁ!!!」


 俺は頭蓋骨を叩き割ってやろうと、子供の頭ほどはある石を降りおろし、奴の頭を砕いた。




―――――――――――はずだった。



石は……奴の拳によって粉々に砕かれていた。








この時、俺たちは初めて目の前の存在を恐ろしいと感じたのだ。








(凌side)
俺が謎の子供の手を握った瞬間、体の中からいま迄にない不思議な力が湧きあがってくるのを感じた。

その力を感じた瞬間、今まで朦朧としていた意識が急速に回復していくのが分かった。

すぐに目を開け、自分に振り下ろされようとしていた石を砕いた。

そしてすぐさま目の前の男を払いのけて立ち上がる。


不思議だった。体は今も満身創痍、血は止まらず流れ続けている。それなのにも関わらず、体の奥底から湧いてくる力のおかげなのか、全く負ける気がしなかった。

残りの不良たちが一斉に殴りかかってくる。しかし奴等の攻撃が、俺には止まって見えた。

その全てを避け切り、全員の顔を殴り、首に手刀を叩き込んで気絶させた俺は、すぐに女の子のところへ向かおうとした。けれどその時、あの不思議な力を感じられなくなってしまい、俺は激痛と疲労でその場に倒れこんでしまうのだった。





(少女side)
私が見たのは、赤く染まった男の人(たぶん私を助けてくれた人)と私を攫った奴等が倒れているところだった。


誘拐犯たちに傷らしいものは見当たらないが、私を助けてくれた男の人はどう見ても重症だった。

(!? そうよ。冷静に分析してる場合じゃない!)

私は倒れている誘拐犯のズボンから携帯を抜き取り、海鳴大学病院に電話し、ついでに
警察にも連絡した。

警察の人と病院の人が来て、私は事情を説明した。

誘拐されたこと、その誘拐犯に犯されて殺されるところだったこと。大けがをしてまで私を守ってくれた男の人のことを。

私は、病院に搬送された彼を見送りながら、今度お礼を言いに行こうと心にきめたのだった。







(凌side)

目が覚めると白一色の世界に寝かされていた。周りを見渡すと俺の両親が呆然とした様子で俺を見ていた。

「あの、母さん?父さん?どうしたの、そんな顔して。」

俺が喋ると母さんは瞳に涙をためて、抱きついてきた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!いってーーーー!!」

「か、母さんなにしてるんだ!?意識が戻ったとはいえ、凌の体は完治してないんだぞ!」

「ごめんなさい。けど、うれしくてつい。」

「スマンな凌。母さんも悪気はないんだ。」

というか、何で俺は病院にいるんだ?昨日は翠屋のバイトが終わってから高町の家に行って、それから…それから……。


そうだ、あの女の子!!


「あの女の子は?!」

「落ち着け、凌。お前が助けた女の子なら警察が保護して孤児院まで送って行ったそうだ。」

「そっかぁ。良かった。」

「けど、ホントに心配したのよ。いつまでたっても帰ってこないし、病院と警察から電話があった時は心臓が止まるかと思ったんだから。」

「そうだな、大事にならなくて本当に良かった。」

「ごめん。父さん、母さん。心配掛けて。」

両親が俺をどれほど大事に思ってくれているかを改めて思い知り、不覚にも涙が出そうになった。




「全く、目が覚めたらすぐに私を呼んでくださいって言ってあったじゃないですか!おまけに治りかけてた傷口も開いてるし、何やってるんですか、あなたたちは!!」


数分後、うちの両親は、俺の担当医だというフィリス・矢沢先生にこっぴどく叱られていた。


どうやら予め、意識が戻ったら連絡してほしいと言われていたにも関わらず、うちの両親は完全に忘却しており、フィリス先生が俺の様子を見に来て、思い出したのだそうだ。しかも、母さんの抱擁によって閉じかけてた傷がまたパックリ開いてしまっており、それもあってフィリス先生の怒りは凄まじかった。


その後、両親はフィリス先生に謝罪し、「安静にしていろ。」と釘を刺して帰って行った。

安静に…とはいってもこれが中々退屈である。話し相手もおらず、本を読もうと手を動かせば激痛が走るので何もできない。


「失礼します。」

退屈していると、誰かが見舞いにやって来た。高町たちか?でも、授業が終わるにはまだ早いしな。


「あの、こ、こんにちはお兄さん。」

「あれ、君もしかしてあの時の女の子?」

やってきたのは俺が助けた女の子。その手には道端で摘んだと思われる花が握られていた。

「はい!そうです。助けてくれてありがとうございました。」

「俺のほうこそ、病院に連絡してくれたの君でしょ?ありがとね。」

「い、いえ、そんな。」

「ねぇ、君。ってそう言えば、名前聞いてなかったね。」

「あ、そうでしたね。 こほん。私の名前はアリサ。アリサ・ローウェルです。」

「アリサちゃんか、俺は凌。藤見 凌っていうんだ。よろしく、アリサちゃん。」

「はい!よろしくお願いします、凌お兄さん!」




元気いっぱいにそう言って微笑んだアリサちゃんは俺から見ても凄くかわいかった。






後書き
主人公がちょっとだけ覚醒しました。詳しいことは【設定】にて。
最後のセリフはあくまで純粋な気持ち。ロリコンじゃないよ。
アリサがヒロインっぽい。
フィリスの口調が心配。



[11512] 迷い込んだ男 第七話 「入院生活」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/09/02 00:43
「あの、凌お兄さん。また、お見舞いに来てもいいですか?」

俺とアリサちゃんが、学校や家の事など、お互いのことをいろいろと話し合っていたら、いつの間にか日が傾きかけていた。

時計を見るとすでに5時を回っており、アリサちゃんは孤児院に戻ることになった。

そして、その帰り際に、アリサちゃんが少し不安そうに、俺に向かってそう訪ねた。

「もちろん。体も動かせないから、暇でしょうがないしさ。」

「うん!じゃあ明日も来るね!」

「うん、待ってるよ。ありがとね。」

「さようならー!」


元気だなぁ、アリサちゃんは。






第七話「入院生活」






アリサちゃんが帰ってからすぐに、高町一家と赤星、それにフィアッセさんがお見舞いにきた。何でも、俺の母さんから電話があって、それで店を早めに閉めて来たんだとか。


「それで、大丈夫なのか?」

「というか、よく勝てたな。15人だったんだろ?」

「まったくだ、しかし無謀だとも思うよ。何で助けを呼ばなかったんだい?」

「いや、俺も最初は警察に通報しようと思ったんですけどね………」

「リョウ、携帯置きっぱなしだったもんね。はい、これ。」

「ありがとうございます、フィアッセさん。」

どうやら、俺の携帯はフィアッセさんが預かっていてくれたようだ。

「そっか、携帯がなかったから自分一人で行ったのね。」

「すいません。俺、結構抜けてるところがあるんです。」

ホント、最悪のタイミングでミスするからなぁ。

「今回は無事だったから良かったものの、一つ間違えれば死んじゃうところだったのよ。もっと自分のことも大切にしなさい!」

「うっ、はい。すいませんでした。」

「ま、まぁまぁ、お母さん。無事だったんだし、それでいいじゃない。」

美由希ちゃんがそう言った途端……



「美由希は黙ってなさい。」


「はい。」(ガクガクブルブル)



最高の微笑みがそこにはあった。こんな状況じゃなければ確実に見蕩れてただろう。


「いい?あなたのしたことは立派だと思うわ?けど、………」



そこから本格的な説教の始まりだった。周りの人たちはその間、完全に諦めモードというか、ただ静観してるだけだった。



「…………なのよ?わかった?」

「ハイ、ワカリマシタ。」


「よろしい。じゃあ、これ。」


「はぁ。って、これ何ですか?」


差し出されたのは、大きめのバスケット。食べ物だろうか。

「洋菓子詰め合わせ。うちのお店の、おみやげの定番なの。」

「わたしも少しだけ手伝ったんだよー。」


ほめてほめてー、というように、なのはちゃんが俺に向かって元気いっぱいにアピールしてきた。


「えらいえらい。すごいなー、お菓子作りの手伝いなんかできるんだ。」


そう言って頭を撫でてあげると、もの凄い嬉しそうな顔になった。

「えへへー。おかーさーん、おにいちゃんにほめられたー!」

「よかったわねー。このままお料理が上手になれば、お兄ちゃんのお嫁さんにもなれるわよ!」

「おにいちゃんのおよめさん?」



ブッ!!この人、いきなり何言い出すんだ!?微笑ましいのは確かだけど!洒落になってない!洒落になってないよ!!約二名、俺に向かって本気で殺気の篭った視線を送ってるんですけどー!!!??


「そうか、なのはと結婚か、それなら、まずはこの俺を倒して貰わないとな。」



士郎さんが壮絶な笑みを見せながら俺ににじり寄ってくる。



「俺は、お前ならば、任せてもいいと思うが、一応なのはに相応しいか試させてもらわないとな。」



高町のほうは完全に無表情だ。もう無愛想とかいうレベルじゃない。しかも、絶対思ってないよね、任せてもいとか。



つーかあんたら、どんだけ気が早いんだよ!!なのはちゃんの年考えろ!!




「はいはい。他愛もない冗談なんだから本気にしないの!」



桃子さんがその言葉を発した瞬間、二人は動きを止め、

「やだなぁ桃子、分かってるよ、それぐらい。」

「ああ、俺だってそれぐらい分かる。」



いやいや!あんたら明らかに本気だったよね!さっきまで殺気の篭った視線で睨みっぱなしだったよね!!


「2人とも絶対本気だったよね。」

美由希ちゃんが呆れたように言い、

「士郎も恭也もなのはちゃんのことになると冗談が通じなくなるのね。」

フィアッセさんも笑ってはいたが、口元が引きつっていた。

「2人は親バカにシスコンだからな。」

そして、赤星が純然たる事実を言った。



「あの、本気で自重してください。生きた心地がしませんでした。」


いや、ホントに。



数分後、面会時間が終わりということでみんなが帰ってしまい、俺もまだ疲れが残っているのか、消灯時間になってすぐに、眠ってしまった。










目が覚めると白い空間にいた。









(め…………の……きは……い。)




どこからか声が聞こえた。




(目ざ……の…とき……ち…い。)




何だ?この声。何を言ってるんだ。




(目覚めの時は近い。)




目覚め?一体何の…………




(………の力)





「ハッ。」




目が覚めた。まず目に入ったのは白い天井だった。あの、すべてが白い部屋ではなく、俺の病室だった。




あれは……夢?それとも…………現実だったのか?







後書き
下手としか言いようがない。



[11512] 迷い込んだ男 第八話 「疑惑」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/09/02 00:44
「おはようございます。藤見凌さん。お体の具合、どうですか?」

「あっ、フィリス先生。おはようございます。まだ痛みますけど…昨日よりマシって気がします。」


目覚めた後、少しの間ぼんやりしていると、フィリス先生が入ってきた。俺は体を起こし、先生に挨拶を返した。


「それは良かったです。このまま安静にしていれば、3週間ほどで退院できるでしょう。」

「そうですか……。あっ、そういえば、フィリス先生はカウンセラーもされてるんですよね?」

「?はい、そうですけど。あれ?私、凌さんに話しましたっけ?」


あれ?そういえば聞かされてないような。なら何で俺そんなこと知ってるんだろう。



「けど、それを聞いてくるってことは、何か悩みがあるんですか?」


俺は、寝ているときに聞いた声について、聞いてみることにした。




「はい、そうなんです。実は………」







                                    第八話「疑惑」







「変な声が聞こえた。ですか?」

「はい。なんか、眠ってる時に頭に声が直接聞こえてきたっていうか、入ってきたっていうか………その声が何を言っていたのか自体は覚えてないんですけど。」


「単なる夢、ということはないんですか?」

「俺も、そうじゃないかと思ったんですけど。なんか、違う気がして……」



フィリス先生は、しばらく考えた後、こう言った。



「……変異性遺伝子障害病。」

「変異性遺伝子障害病?何ですか、それ?」


今まで生きてきて、そんな病名は聞いたことがない。


「先天性の遺伝子病の一つです。私の知る限り、寝ている間に声が聞こえてくる、なんて症状は聞いたことがないものですから。もしかしたら、って思って。」

「どんな病気なんですか?変異性遺伝子障害病って。」

「生まれつき、遺伝子に特殊な情報が刻まれていて、それによって色んな障害を引き起こすものなんです。他に、何か変わったことはありませんでしたか?」


「他に……ですか。」


他に変わったこと…………変わったこと。あっ!?


「………もしかして。」

「心当たりがあるんですか?!」

「はい。俺がこの怪我を負った時に、何か、体の奥から不思議な力が湧いてくる感じがしたんです。」

「不思議な力が?」

「はい。どう、言っていいのか分からないんですけど、体が熱くなって、痛みとか感じなくなって、多分、力も上がってたと思います。」

「もしそうだとするなら、『変異性遺伝子障害 種別XXX』………かな。」

「XXX?」

また新しい言葉が出てきた。正直、もう何が何だかわからない。

「ええ、簡単にいえば、超能力が使える人のことです。」


俺の感じた『不思議な力』が超能力かも知れないってことか。


「詳しく調べないとハッキリしたことは分かりませんが、恐らく、そうなんじゃないかなって思います。」



超能力、か。




「ありがとうございました。こんな話聞いてもらっちゃって。」

「いいんですよ、そんなの。それに、あくまでも仮説です。詳しく検査してみないと分かりませんから。」


俺は、フィリス先生にお礼を言って、部屋を出るのを見送った。









数日後、俺は、フィリス先生に頼んで検査を受けた。



その結果は、「変異性遺伝子障害病の可能性がある」という曖昧なものだった。どうやら、ほかの症例のどれとも酷似していないらしく、俺の話から推測した結果、やはり、俺が言った不思議な力が『変異性遺伝子障害 種別XXX』に該当するのではないか、というのがフィリス先生の出した結論だ。




3週間後、傷は順調に回復し、俺は海鳴大学病院を退院することになった。


けれど、謎の声は、あの日以来聞こえることがなかった。








その後、何日たっても、声が聞こえることはなかった。俺は何事もなく、毎日を平和に過ごした。









あれから一年、………………………いまだに声は聞こえない。











後書き
最後、滅茶苦茶すっ飛ばしました。あまりに不評なら最後の部分はカットして、ちまちま頑張ります。
1年もすっ飛ばした理由は、このペースでやってると、いつまでたっても進まないし、本命のアギトがだせないからです。



[11512] 迷い込んだ男 第九話 「遭遇」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/06/04 13:54
春、暖かな陽気に包まれ、桜の花が咲き乱れる穏やかな季節。


人によっては、新しい環境で、新生活が始まる季節でもある。


そして、今日は風芽丘学園の始業式、春休みが終わり、今日から学校に登校する日だ。にもかかわらず、8時を回った今現在、いまだにベッドの上で呑気に爆睡している男が一人。



「もう…ダメだって母さん。そんなに食いきれないよzzz」



ダメなのはお前だ。






第九話「遭遇」






PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi




俺は、大音量でなる携帯のアラームで目が覚めた。

「ふわぁ~あ。うるさいなぁ。」

俺は携帯のアラームを切り、今が何時なのかを確認した。


4/1 (火) 8:05 ついでに 「始業式」 と表示されていた。


………………………………ヤバイ。



「やっべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?遅刻だ―!!」




すぐさま制服に着替え、鞄を持って家を出る。


朝食?食ってる余裕あるか!










学校に着いて時計を見るとチャイムが鳴る3分前だった。



「ふぅ、間に合ったー。」


バイクの免許取ってて良かった!徒歩だと完全に遅刻確定だったよ。



そう、俺は夏休みの間に普通二輪免許を取得し、それ以来バイクで通学するようになっていた。








始業式が終わった後、高町たちと合流してクラス表を見に行くと、どうやら高町たちも同じクラスのようだった。



「高町、同じクラスでよかったな。」

「ああ、今年もよろしく頼む。」

「これで、高町とは中学も合わせると4年連続か。ここまで来ると、運命的なものを感じるな。」

「単なる腐れ縁だろう。」

「俺としては、3人一緒でうれしい限りだけどな。」



俺たちは三人同じクラスなのを喜びながら、2年生の教室へと歩いて行った。





そして、例によって例の如く、新しい担任の挨拶とその後の連絡を聞き、あっという間に下校する時間となった。


(さっさと家に帰って、飯食ってから翠屋に行くか。)


俺は鞄を持ち、教室を出ようとした。


「あぁ、待て藤見。」

「ん?高町、何か用か?」

「実は、なのはに頼まれてな。お前に頼みたいことがあるらしい。」

「なのはちゃんが?何で?」

「そこまでは知らん。それでどうだ、頼めるか?」

「まぁ、いいけど。それじゃあ桃子さんに今日は行けないって伝えておいてくれ。」

「分かった。無理を言ってすまないな。」

「いつも世話になってるし、気にするな。」



なのはちゃんが俺に頼みごとって珍しいなと思いつつ、俺は教室を後にした。







「それで、なのはちゃん。頼みたいことってなに?」

「はい!きつねさんを探しに行きたいんです!」


昼食を食べて、高町の家に行って、なのはちゃんの頼みとやらを聞いたところ、そんな答えが返ってきた。


「昨日、私が八束神社に狐がいるって噂があるって話してからずっとこれなんです。」


アリサちゃんが苦笑しながら教えてくれた。

そういやこの子、大の動物好きだったな。けど、探してどうするつもりなんだ?


「狐さんを探し出してどうするの?」

「お友達になりたいんです!」


なんとも、なのはちゃんらしい答えが返ってきた。

「すいません、凌お兄さん。手伝ってくれませんか?」

「いいよ。俺も狐なんて見たことないから興味あるしね。」

「ありがとう、おにいちゃん!」

それは、疲れ切った心を完璧に癒してくれそうな笑顔だった。




などという会話が1時間ほど前にあり、俺たちは今、狐が出ると噂される八束神社に来ていた。


「きつねさーん!」

「いないなぁ。」

「私も商店街で噂を聞いただけだからねぇ。ガセネタだったかも。」

「そんなことないよ、アリサちゃん!きつねさんはここにいるよ!」

「何でそんなことわかるのよ。」

「おんなの勘なの!」


自信満々に断言するなのはちゃん、よく見てみれば彼女のツインテールがピコピコ上下に動いている。……………あれってどういう仕組みになってるんだ?


まぁ、それはそれとして、

「餌で釣ってみるか。」

「エサ…ですか?でも、狐の好物って何なんですか?」

「さぁ?とりあえずいろいろ買って来たんだけど。」

「ああ、途中スーパーに寄ったのはそのためだったんですね。」


買い物袋の中には油揚げ、ちくわ、かまぼこ、大福.etcなどが入っている。


「あの、流石に大福はないと思うんですけど。」

「いや、これは俺たちのおやつ。なのはちゃん、あの様子だと相当粘るだろうし。」



「きつねさーん!出てきてくださーい。」



「ああ、納得です。」

「だろ?夕食の時間になったら、引きずってでも帰らないとなぁ。」


狐が出てこないまま、2時間が経過し、さすがに疲れた俺たちは、おやつに買ってきた和菓子類を食していた。

「それにしても、和菓子ばかりですね。」

アリサちゃんが、饅頭を千切って口に放り込みながら言った。

「洋菓子は桃子さんが作ってる物のほうがおいしいしな。たまには和菓子もいいかと思って。」

俺とアリサちゃんが和菓子に舌鼓を打っている時、なのはちゃんは………


「……もごもご。」


狐に出会えないのが余程ショックなのか、見事なorzを決めながら、和菓子を口いっぱいに頬張っていた。

「何というか、流石にかわいそうだな。」

「そうですね。けど、これだけ探して見つからないんなら、やっぱりいないのかもしれませんね。」

その言葉に「そうかもなぁ。」と相槌を打ち、新たな大福に手を伸ばすと、一匹の狐が大福を食べていた。


もう一度言おう、狐が大福を食べていた。


「凌お兄さん、狐が大福を食べているように見えるのですが、目の錯覚でしょうか。」

「錯覚なんかじゃないよ、ホントに食べてるんだ。イヤー、狐ッテ大福ガ好物ダッタンダネ、知ラナカッタヨ。」

「きつねさんかわいー!」

なのはちゃんは、狐に会えてさっきの行動が嘘のように笑顔になっていた。


しっかし、大福とか食べて大丈夫なんだろうか、この狐。全部平らげて、満足そうに「くぅ~ん」て鳴いてるけど。

「くぅん!」

そんなことを思っていたら、いきなり俺の体に跳び込んできて、顔をペロペロなめ始めた。

「きつねさんカワイー!おにいちゃんいいなー。」

「これは…確かに、かわいいわね。」

「あははははは。く、くすぐったい。人懐っこいなぁお前。」

狐って警戒心の強い動物だと思ってたけど、こいつ見てると全然そんな気がしないな。そうして、しばらく戯れていると、女性の声が聞こえてきた



「久遠ー?どこに行ったの?くおーん。」

どうやら、何かを探してるようだけど………

「どこ行っちゃったんだろ。くおーん、どこー?」

「くぅ!」

「あっ、久遠。こんなところにいたの?探したんだよ?」


どうやらあの狐はあの女の子のペットらしい、道理で人懐っこいわけだ。しばらく久遠と呼ばれたキツネと抱きあっていた女の子は、こっちを見て、妙な事を言った。


「あの、久遠が自分からみなさんの所に寄っていったんですか?」

「?はい。さっき自分から凌お兄さんにとびこんでいきましたけど。」

「顔も舐められましたし、人懐っこい狐なんですね。」

「本当ですか?!久遠、ホントなの?」

「くぅん!」

うん。というように首を縦に振ってから、久遠と呼ばれた狐は鳴き声をあげた。

「あの、おねーさん。くーちゃん抱かせてもらえませんか?」

よっぽど久遠に触りたいんだろう。なのはちゃんは、さっきからずっとウズウズしている。

「くーちゃん、ですか?」

「ああ、久遠だからくーちゃんなわけね。」

「それが、久遠はひどい人見知りで、初対面の人には懐くはずないんです。」

「本当、ですか?でもさっき……」

「くーちゃん、おいでー。」

「…くぅ。」

なのはちゃんがそう言うと、久遠は女の子の後ろに隠れてしまった。

「あうぅぅ。くーちゃぁぁん。」

「こんな感じで、すぐ隠れちゃうんです。だから、久遠がすぐに懐いた人って見たことなくて、驚いちゃいました。」

「くぅん♪」

久遠は一度鳴いて、俺に跳び込んできた。

「あの、私、神咲 那美っていいます。それで、久遠のこと、これからも遊んであげてくれませんか?さっきも言いましたけど、久遠が私以外に懐いたのって初めてで……。」

神咲さんの名前を聞いた途端、前に高町やフィアッセさん、フィリス先生に会った時と同じ感覚が俺を襲った。どこかで聞いたような気がする。俺は何を忘れてるって言うんだ。

「あの~?」

「あぁ、すいません。えーと、俺でよければ喜んで。」

「あ、ありがとうございます!えっと……あの、お名前は?」

「俺は藤見 凌、どうぞよろしく。それで、こっちが高町なのはちゃん。」

「たかまちなのはです。よろしくお願いします、那美おねーさん。」

「それで、こっちが……」

「アリサ・L・バニングスです。よろしくお願いします、那美さん。」

「は、はい。こっちこそ、よろしくお願いします!それと藤見さん、私のことは名前で呼んでください。」

「えっと、じゃあ那美ちゃんでいい?」

「はい!これからよろしくお願いします!」



その後、那美ちゃんと別れ、アリサちゃんとなのはちゃんを家に送り届け、家に帰った俺は久遠と那美ちゃんのことを考えていた。

(どっかで聞いたような気がするんだよなぁ。何か、大事なことを忘れてるような気がする。)

結局寝る前になっても思い出せず、俺はゆっくりと眠ってしまった。



[11512] 迷い込んだ男 第十話 「雨と雷」 【大幅改訂】
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/09/29 13:52
あの日、那美ちゃんと久遠に出会ってから、どうにも俺が感じていた違和感が強くなってきていた。

以前、違和感を感じた高町たちだけでなく、翠屋や風芽丘学園にも違和感を感じるようになってきた。

最近では、高町たちと話している時、唐突に何かを思い出しそうな感覚に襲われることもある。


…………もしかして、前世であったことがあるとか?



いや、まさかな。







第十話「雨と雷」







まぁ、あんまり悩んでても答えはでないんで、俺は那美ちゃんとの約束通り、毎日のように久遠と遊んでいる。


まぁ、遊んでると言っても、なのはちゃんがいない時は大抵神社の境内に腰かけて久遠を抱っこしてるだけだけど。それでも久遠はうれしいらしく、「くぅん♪」と鳴いて俺の膝で寝転がっていたり、擦り寄ってきたりする。


そういう俺もこの仔と一緒にいるとすごく癒される。久遠かわいいよ、久遠。



ちなみに、那美ちゃんはこの神社で巫女のバイトをしているらしく、休憩時間は大抵俺と一緒に久遠と戯れている。



さらに余談だが、なのはちゃんは久遠の好物を那美さんから聞き出し、それを持って神社に毎日のように通い詰め、久遠と友達になる事に成功した。………人それを餌付けと言う。










久遠と遊んでいたら、いつの間にか夕方になっていた。

時間も時間だし…そろそろ帰ろうか、と社の前で那美ちゃんを待っていた俺と久遠が何気なく空を見上げると、先程まで晴れていたにもかかわらず、一面に雨雲…というか雷雲(?)が立ち込めているのが見えた。


「あー、こりゃ一雨来るな。さっさと帰っちゃいたいけど、那美ちゃんがまだ出てきてないしなぁ。」

「くぅん。」


ピカッ


そう言った矢先、突如として空が光った。


「くぅ!?」

「あー、こりゃ本格的に拙いかも。」


ゴロゴロゴロ


それに続いて、雷の鳴る音が響き渡る。


その直後、後ろの方…つまりは社の中で、ガタッという物音がした。


「那美ちゃん?」


社の中に居るのは那美ちゃん一人。と、なれば…さっきの物音は那美ちゃんが立てた音に違いない。

そう思って声を掛けてみたのだが……返事がない。

そして、もう一度声を掛けようかと口を開きかけた時―――――


ゴロゴロゴロゴロゴロ


―――――また、空が鳴った。


ガタンッと、さっきよりも大きい音がして…加えて「ひっ!」という小さな悲鳴が聞こえた。

只事じゃないと思った俺は、急いで戸を開き、社の中に入った。


「………ッ!」


そこでは、己の身体を力いっぱいに抱き締め…震えている那美ちゃんの姿があった。


「那美ちゃん!那美ちゃん!!しっかり!!」


様子のおかしい那美ちゃんの身体を激しめに揺さぶる。

俺が目の前に居ることにも気づいていないのか、彼女の瞳はこちらに向けられていなかった。ただ、何処か遠くを見つめるようにして、虚空を見ている。

10秒くらい揺さぶり続けた頃、漸く那美ちゃんは俺の方へ視線を向けた。


「ッ!!」


次の瞬間、俺は那美ちゃんにしがみつかれていた。


ゴロゴロゴロゴロゴロッ!!


空が、また鳴る。


「ひッ!」


小さな悲鳴と共に、しがみついている彼女の身体が強ばり、力が入るのが分かった。


「雷、恐いの?」


その問いへの返答は無かったが、彼女の態度が…答えを言葉よりも雄弁に、それが正しい事を語っていた。

しかし参った。このままだと当分この場から動けそうにない。雷の音は遠ざかるどころかこっちに近づいているみたいだし、あまり帰りが遅いと那美ちゃんの家族の人も心配するだろう。

暫くの間、どうすべきか考えた俺は、少しばかり思い切った行動を取ることにした。







「すいません、先輩。」

「気にしなくていいよ、そもそも俺が言い出したことだしね。」


現在…俺は久遠を頭に乗せ、那美ちゃんを背中におんぶして彼女の家へと向かっていた。

バイクが使えれば良かったのだが、生憎と俺が免許を取得してから約半年しか経っていない為、二人乗りが出来ないのだ。

那美ちゃんは軽いし、彼女をおぶって歩く分には全く問題はなかったのだが………


ゴロゴロゴロ


「ひぅ!」


ふにっ(ほのかな胸の膨らみが背中に押し当てられる音)


「…ッ!」


雷が鳴るたびにこうしてしがみついてくる那美ちゃん。そうなると自然と彼女の胸が俺の背中に密着する形になる訳で……

不謹慎だと思いながらも、俺の心臓は早鐘を打っていた。

中学時代は勿論、高校に入ってからも、ここまで異性と接触したの初めてだし。一つ例外を挙げるとするならば、フィアッセさんだろうが…あの人のアレは単なるスキンシップだし。

そんな風にして道を歩いていると、バス停が見えてきた。


「あっ、先輩……」

「ん?」


那美ちゃんが俺に何かを言おうとした時、歩道を歩いていた俺たちの横を、一台のバスが抜き去って行った。


「……アレです。」

「?」

「アレが、私の乗るバスです。」


バス停までは結構距離があり、こうしてのんびり歩いている間にも、バスはドンドンそこへ近付いていた。


「……ちなみに、次のバスは…?」

「後30分は……」


それを聞いた瞬間、俺は走り出していた。


「那美ちゃんも久遠もしっかり掴まっててくれよぉっ!!」

「は、はいっ!」

「くぅ!!」


嘗て無いほど全力で、バス停までの距離を走る俺。

結果的に言うと、俺の努力は見事に実を結び、バスに乗り込むことに成功した訳だが……

バスに女の子をおぶったままで乗り込み、席に座ってからも…雷が鳴るたびに那美ちゃんが俺の腕にしがみついたりした事で………他の乗客からの好奇の視線(主に女性)や、嫉妬・殺意・人が殺せそうな程の眼光(主に男性)を浴びせられた俺は、バスを降りる頃…精神的に疲弊し尽くしていたのは言うまでもない。








まぁ、そんな訳で…俺は那美ちゃんを家(と言うか寮だったらしい)の近くまで送り届けることが出来た。

ちなみに、寮の名は『さざなみ寮』と言うらしい。それを聞いた時、またも何かを思いだしそうになったのだが……この事についてはまたあとで考えることにしよう。

幸い、那美ちゃんの住んでいる寮はバス停からすぐらしいので、俺はそのままバスに乗って帰ることになった。







バスに乗って八束神社近くのバス停まで帰っていく途中、遂に雨が降りだした。

最初はパラパラと小雨だったのだが………


「何じゃ、こりゃあー!!」


バスを降りた時には既に豪雨と変わっていた。

流石にこの雨の中バイクで帰るのは無理だと判断した俺は、取り敢えず本日二度目の全力疾走で八束神社まで辿り着き、大きな木の下に、雨がマシになるまでいることにした。雷が鳴っているにも関わらず……










それは突然だった。












視界が白く染まり、凄まじい轟音と共に背後で木がメキメキと音を立てながら真っ二つに割れるのを目撃すると同時に、俺は衝撃で吹き飛ばされ、そのまま雨に打たれながら意識を失ってしまった。









後書き
本編更新じゃなくてごめんなさい<(_ _)>

全部夏が悪いんだよ!今年の異常な猛暑がっ!!(オイ)
盆が終わって実家から帰ってきたらエアコン壊れてるし!給料日前だからバイト代入ってくるまでずっと扇風機で我慢ですよ!!死ぬわ!
はい。言い訳ですよね、スイマセン。

あと、何でこの話改訂したかというと、

この時点だとバイクに2人乗り出来るわけがないからです。

改訂前だと、自転車ぶっ壊れた那美を凌がバイクに乗せて、さざなみ寮まで直接送る訳ですが……改訂した本編で言ってるように凌は免許とってから約半年しか経ってないんですよ。2人乗りする為には、免許取ってから1年経ってないといけない訳です。

えぇ、だからこの話で2人乗りすると普通にタイーホされます。

これ書いた当初は私も免許取ってなかったんでその辺全く考えずに2人乗りとかさせちゃってました。無知でスイマセン。

出来れば次こそ本編の方を更新したいと思ってます。ただ………

あと24時間で死ぬよ☆って言われた人の気持ちとか分からNEEEEEEEE!!!



[11512] 迷い込んだ男 第十一話 「記憶の欠片」 【大幅改訂】
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/09/29 13:50





夢を見ていた




遠い日の夢を




俺がまだ『藤見 凌』になっていなかった日のことを






ようやく思い出した……ここは…この、世界は―――






「記憶の欠片」






目が覚めると、雨はあがり、星空が広がっていた。


「あー死んだかと思った、まさか雷が落ちてくるなんてなぁ。」


俺は痛む頭を押さえながら立ち上がり、階段に腰掛けた。


「まぁ、おかげで昔のこと思い出せたんだから、結果オーライ………か?」


まぁ、前の家族とか友人の顔なんて今の今まですっかりさっぱり忘れてたからなぁ。

あぁ、懐かしいなぁ。「仮面ライダーシリーズ」やら「リリカルなのは」、他にも様々なゲームやラノベ。殆ど友人に勧められてハマったんだよなぁ。


まぁ、それはそれとしてだ。

前世の記憶なんて殆ど覚えてなかったんだからしょうがないと言えばしょうがないが……ここまで主要人物に囲まれてるんだから少しくらい思い出せよ…俺。


「はぁ、まさか『とらハ』の世界だったなんてなぁ……」


高町一家にフィアッセさん、アリサちゃんに久遠に那美ちゃん。

大学で友人に勧められてやったゲーム『とらいあんぐるハート』 その3のキャラクターそのまんまじゃねぇか。


こんな危機的状況に陥るまで欠片も思い出さないとか…鈍すぎるだろ俺。


「つーか、もう主要キャラの殆どに関わっちまってるなぁ。ここまで来ると死亡フラグ回避とかどう考えてもできそうにないよね、これ。」


大体、何の力もない俺が原作に介入しても意味ないしなぁ。アリサちゃんの時は偶々うまくいったけど、久遠の祟りとか、イレインの月村家襲撃になんて関わった日には確実に死ねる。


「はぁ………どうしたもんかな、これから。」





……………はぁ。

まぁ、悩んでても仕方ないか。そう言うのは主人公の高町が解決してくれるだろ。

うー、寒ッ…風邪ひくと困るし、そろそろ帰るか。






その翌日、学校の帰りに神社に寄ると―――――。 


「せっ、先輩!昨日は大丈夫でしたか?!」

「くぅ!くぅ!」


階段を上ってきた俺の姿を見た那美ちゃんと久遠が、何か酷く取り乱した様子で駆け寄ってきた。


「あー、えと…何の話?」

「学校で、昨日この辺りに雷が落ちたって聞いて!神社に来てみたらこの木がこんな事になってるし。先輩、神社にバイク停めたままだったし、もし雨宿りでもしてたらと思うと……心配で。」

「くぅん。」

「でも良かったぁ、大丈夫だったんですね。」


…………言えねぇ!「危うく直撃して死ぬところでした☆」なんて言えねぇぇぇぇ!


「あー、うんまぁ…その時は丁度バイクで家に帰ってる途中だったと思うよ。」


嘘をつくのは嫌だが…流石に本当のことを言うのは無理。


「あっ、そうだ。寮の皆さんが先輩にお礼を言いたいって言ってました。」

「お礼?」

「はい、私を寮まで送ってくれたお礼だそうです。」

「いやいや、いいってそんなの。当たり前の事しただけなんだし。」


あそこまで恐がっている様子を見たら、たとえ俺でなくても似たような行動を取った筈だ。

後…行ったら行ったで、那美ちゃんとの関係を邪推されて壮絶にからかわれそうな気がするし。


「まぁ、その内機会があればってことで。」


那美ちゃんには悪いが、ここは遠慮しておこう。俺との関係を誤解されてからかわれて困るのは那美ちゃんも同じだろうし。


「あぅ、そうですか。あっ、そろそろ仕事しないと!あの、それじゃあ久遠のことよろしくお願いします。」


そんなに寮の人たちに紹介したかったのか、もしくは本当にお礼がしたかったのか、那美ちゃんはどこか気落ちした様子で答えた。そして時計を見て、久遠のことを俺に任せると、慌てて社に向かって走って行ってしまった。


「くぅん!」


久遠は元気よく鳴くと、俺の靴を前足でポムポムと叩き、境内に向かって駆けて行った。

その様子に癒された俺は、ほんわかした気持ちで久遠の後を追った。






いつも久遠と遊んでいる場所に腰掛け、久遠を膝の上に乗せて頭や背中を撫でてやる。

すると、久遠はうれしそうに「くぅん♪」と鳴いて擦り寄ってきた。

俺は久遠を撫でながら、これからの事を考える。


(こいつ、まだ祟り狐のままなんだよなぁ。確か、那美ちゃんのお義姉さんの…神咲薫さん?が封印解ける前に殺すつもりなんだっけ。)


「くぅーん♪」


(……見殺しになんてできないよなぁ。かといって、俺が出て行っても薫さんに速攻で気絶させられて終わりだろうし。いざとなったら高町に頼みこむしかないか?はぁ、力があればなぁ。)













「せ……い。……ぱい。………先輩。」

んぁ、何か呼ばれてるような……

「くぅん!くぅん!」

あれ、この鳴き声………

ガバッ


「先輩、起きましたか?」

「くぅん。」

「あれ?俺もしかして、寝てた?」

「はい!もうグッスリ。」

「くぅ!」


そういや、昨日は寝たの深夜通り越して朝方だったからな、学校でも寝たんだけど、いつの間にか寝ちゃったのか。


「ところで、今何時?那美ちゃん。」

「えーっと、6時ですね。」

「うぇっ、もうそんな時間!?ごめん、待っててくれたの?」

「はい!可愛かったですよ、先輩の寝顔。」


見られてたの!?恥ずかしすぎるんですけど、それ。


「あー、じゃあそろそろ解散しようか。」

「はい、先輩。」


俺たちは別れの挨拶を交わし、帰路についた。













はぁ、どうしたもんかなホント。

バイクを走らせながら、俺はどうやって久遠を救おうか考えていた。

やっぱ高町に丸投げするのが、ハッピーエンドへの一番近道だろうか。何せ主人公だし。

そんな事を考えていると、道路に猫が横たわっているのを見つけた。

おいおい、まさか轢かれたんじゃないだろうなぁ。

バイクを道端に止め、急いで倒れている猫に近寄る。

ふぅ、良かった。見たところ外傷はないっぽい。鈴とかもリボンも付けてないみたいだし野良猫かな。

俺は猫を抱きかかえ、バイクのところまで移動させた。

でも、この猫どうしよう。このまま放って置くのも気が引けるし、動物には縁がなかったから、動物病院の場所とかも知らないし。幸い家はアレルギー持ちもいないし、飼おうと思えば飼えるんだけど……餌代の事とかあるしなぁ。


「にゃぁぁ」

どうしたものかと思っていたら、腕の中の猫が弱弱しく鳴いた。

………とりあえず、両親に相談してみるか。ダメならダメであとから考えよう。

俺は猫を制服の中にいれ、家へと急いだ。















結論から言えば、飼ってもいいことになりました。

というか、拍子抜けするくらいあっさり決まった。


「猫拾って来たんだけど、飼っていい?」 「いいわよ。後でお母さんにも抱かせてね~。」


細かいこと端折ったらこんな感じ。



一方、猫のほうは空腹だったのか、母さんからのメールを受けた父さんが買ってきた猫缶をあっという間にペロリと平らげてしまった。

驚く位に軽いノリで我が家のペットになった猫は、食べ終わった後…母さんと、意外にも猫好きだった父さんに代わる代わる抱きかかえられていた。

その間、俺はこの猫の名前を何にしようか考えていたが、まだ昨日の疲労が残っているのか強烈な眠気が襲ってきたので寝ることにした。







後書き
はい、取り敢えずこれで前話との話の流れは繋がった筈。
これでおかしいところがなければ、三十九話の執筆を再開します。
流石に来月中には更新したいなぁ。



[11512] 迷い込んだ男 第十二話 「猫まっしぐら」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/09/02 00:47
翌朝、目が覚めると俺の枕元で昨日拾って来た猫が眠っていた。


俺は猫が目を覚まさないようにそっとベッドから抜け出し、学校へ向かった。……猫の名前を考えながら。



そういや、あの猫メスだったな。

猫でメスの名前……キャサリンとか?


いやいや、これは無いわ。何故か、猫耳で濃い顔をして緑色の着物を着たおばさんを幻視したし。



………帰りに図書館にでも寄ってみるか。



えっ?高町たちに聞かないのかって?いや、何となくセンスないような気がして。








                                       第十二話「猫まっしぐら」








「猫の名前?」

「どうしたんだ?いきなりそんなこと。」

「いや昨日、猫拾って家で飼うことになったんだよ。だから名前どうしようかと思って。」


学校に着いた俺は、一応2人に相談を持ちかけた。


「その猫の性別は?」

「メス。」

「毛の色は何色だ?」

「薄茶色だったと思うけど…」


んー、と2人は少し悩んだあと――――


「チャチャ。」 「スマン。俺には無理だ。」


と、答えた。というか、赤星はもう少し捻れ。高町、諦めるの早すぎだろう。


「とりあえず、チャチャは却下で。」

「あれ、やっぱダメか?」

「安直過ぎ。ちょっとくらいは捻ってくれ。」

「そっかぁ。」


いや、それでも俺が咄嗟に考えたあれ(キャサリン)よりはマシだろうが。



少々メンドイが仕方ない。猫飼うときに気を付ける事とかも知りたいし、図書館にでも行くか。

「まぁ、いいや。翠屋に行く前に図書館にでも寄ってみるよ。」

「それなら、お前がバイトに遅れるかも知れんと母さんに言っておこう。」

「ああ、悪いな。」

「別にいいさ。」












放課後、俺は海鳴市立図書館に向かい、猫の本を探した。

なるべく翠屋に遅れないようにしたいし、居られるのはせいぜい1時間だな。



「猫の本…猫の本……っとあそこか。」

動物の本が置いてある場所を見つけ、そこに向かう。


いろいろ種類あるなぁ。とりあえず参考になりそうなやつ読んでみるか。








本を読み終えると、結構時間がたっていた。


「しょうがない、1冊だけ借りて残りは返すか。」


候補に挙げていた他の本を元の棚に返しに行くと、紫色の髪をした少女が背伸びをして本を取ろうとしていた。

俺は本を元に戻し終えると、その子のもとに向かい、取ろうとしていた本を取ってやった。


「はい、これ。」

「えっ?あの、なんで…」

「あれ?この本じゃない?っと、じゃあこれか?」

「いい、いえ!この本で合ってます…けど。なんで…」


はて、何か妙な事でもしただろうか。困ってる人がいたら助けるのは当たり前だと思うのだが。


「なんで、って……取れなくて困ってるようだから助けただけなんだけど……余計なお世話だったか?」

「いえ、そんな!あ、ありがとう、ございます。」


引っ込み思案な子なのだろうか、どんどん語尾が小さくなっていった。


「そっか、じゃあ俺はこれで。」

「ホ、ホントにありがとうございました。」


少女はそう言うと、ペコリとお辞儀をして机のほうに走って行った。


「あ、今何時だ?」

時計を見ると、もう遅刻確定の時間だった。


「うぁ、結局遅刻か。」


俺は急いでバイクを走らせ、翠屋に向かった。






翠屋に入ると、いきなりフィアッセさんに抱きつかれた。

何これ、どういうこと?


「ねぇねぇリョウ。猫飼い始めたんでしょ?翠屋が終わったら家に寄っていいかな。」


猫のことは、おそらく高町に聞いたんだろうが………フィアッセさん、あなた自分の容姿考えて下さい。しかも、そんなこと言ったら他の人に誤解されます。ついでに言えば、店の男性客から嫉みと恨みの視線が集まってくるんです。

フィアッセさんには悪いけど、後日改めてということで今日は勘弁してもらおう。流石にこの視線に晒され続けるのは辛い。



「すいません。今日はちょっと……」

「うーん。そっかぁ、残念だなぁ。」


俺がそう言うと、フィアッセさんはよほど残念だったのかガックリと肩を落とした。

そしてその瞬間、男性客からの視線がさらにきつくなった。


どっちにしてもこの視線を浴びるんかい!









あー、疲れた。肉体的よりも精神的に疲れた。

あの後1時間ほど睨まれ続け、俺は精神的に疲れ切っていた。


翠屋が終わり、携帯のメールをチェックすると、母さんからメールが入っていた。




『ちょっとお父さんとデートに行ってきます。帰るのは夜遅くになると思うから夕食は出前でも取って食べておいてねー。p.s.猫の餌は買っておきました。ちゃんと食べさせてあげてね?』




……ふむ、出前取るのめんどくさいし、久々に自分で作って食べるか。つーか、あの人俺が簡単な物なら作れること忘れてないか?





自宅に帰り、着替えを済ませる。


「にゃぁん。」

ふと足元を見ると猫が俺の事を見上げていた。

「ちょっと待ってろよ。今、餌出してやるからな。」


俺がそう言った直後、突如頭に直接声が聞こえた。



(聞こえますか?私の声が。)



ハ?え、何?この声。なんか頭の中に直接聞こえるんですけど。気持ち悪っ!

「え~と、どちら様でしょうか。というか、何処にいるんですか?つか、何で頭に直接聞こえるの!?」


(やっぱり聞こえるんですね!私はあなたの足元にいます。)

「あなたの足元って家の猫しか……ハッ!ま、まさか、お前が、喋ってるのか?」

(はい、その通りです。)






……………………………何ィ!!!!????





ど、どどどどういうことだ!?何で猫が喋れんの?いや、久遠だったら妖狐だからおかしくないけど、普通の猫が喋るようなファンタジックな世界じゃないはずだよね!?ココ!!


(あの、落ち着いて下さい。今からちゃんと説明しますから。)


その言葉が聞こえるのと同時に、猫が光りだした。


あまりの眩しさに俺は目を塞ぎ、光が収まり再び目を開けた俺の目に飛び込んできたのは、綺麗な女の人だった。








あるぇー?










後書き
タイトルに深い意味はありません。
名前出てないけどすずか出しました。



[11512] 迷い込んだ男 第十三話 「契約」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/09/02 00:48







                                      第十三話「契約」









「それで?一体どういうことなんだ?」

猫が人になったことで、またもパニックに陥った俺が落ち着いてから、事情を説明されることになった。

猫が人になったり、頭に声が聞こえたり、不思議体験ってレベルじゃねぇよ、これ!

「はい、信じて貰えるかは分かりませんが、私は此処とは違う世界から来ました。」


猛烈に嫌な予感がした。


「それに、私は人間じゃないんです。つい最近まである人物の使い魔をしていました。名前はリニスっていいます。」


ええぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!

なんで『リリなの』のキャラがいるんですかーー?!

とらハの世界じゃなかったの!?ココ!



…あれ?でも、リニスって最終的に死んじゃったんじゃなかったっけ?

それに………使い魔を『していました』?


「あの……信じてもらえませんか?」

「え?あ、ああ。し、信じます、信じますとも!」

「そうですか、良かったぁ。」


あははー。やっぱ魔導師とかもいるんだろうなー。ある人ってプレシアのことだろうし。


「えっと、とりあえずもっと詳しいこと聞きたいんですけどいいですか?」

「あっ、はい。」


とりあえず気になっていることから聞いていこう。


「さっき使い魔をやっていた。って言いましたよね。それってどういうことなんですか?」

「言葉の通りです。あの人との契約はもう切れました。今は、体内に残っている魔力で人型になっているんです。魔力が無くなれば、私はただの山猫に戻ります。」


契約が切れたってことは、フェイトの育成やバルディッシュは完成してるってことか。

「じゃあ2つ目、何で俺に正体を明かしたんだ?そう言うのって普通バラすものじゃないんじゃない?」


俺がそう言うと、リニスは険しい表情になり、こう言った。


「実は、あなたに頼みがあるんです。」

「頼み?」

「はい。」


寝床貸してほしいとかか?



「私と、契約して欲しいんです。」

「は?契約?」

「そうです。」






………何ィィィィイ!!??







「何で俺!?いたって普通の一般人ですよ?」

「気付いていないでしょうが、あなたには魔力があります。お願いします!私と契約してください。いま猫に戻るわけにはいかないんです!」


あまりに必死な様子なので、何かあると思い、まずはそれを聞き出してから決めることにした。

「………理由を教えて下さい。そこまで契約を急ぐ理由を。」


暫くして、ポツポツとリニスは沈痛な面持ちで語り始めた。


「私とあの人、プレシアの契約内容は、プレシアの娘、フェイトの育成だったんです。それが終われば、私は役目を終えて消えるつもりでした。……けれど、私は偶然見つけてしまった。」


「見つけた?何を……」

「とある計画が書かれたデータです。何をしようとしているのかは分からないけど、『第97管理外世界』つまり此処に、古代文明の遺産『ロストロギア』と呼ばれるものをばら撒くつもりなんです。そして、プレシアはそれをあの子に回収させるつもりなんです。」


「ちょっと待ってください。聞き慣れない言葉が出てきたけど、まぁそれは後で良いです。何故ばら撒いたロストロギアとやらをまた回収させるんですか?」

そのロストロギアは十中八九ジュエルシードの事だろうが、それにしてもおかしい。あれは確かユーノが見つけた物のはずだ。原作が始まるのはなのはちゃんが3年生の時、つまり2年後だ。何故こんなに早くそんな計画が立ち上がっている。


「分かりません。けど、データの中にはそのロストロギアに関する文献が載っていました。それには、願望を叶える恐ろしく強大な魔力を秘めた宝石だと書いてありました。もし、それが暴走すればこの世界が滅んでしまうかもしれません。」

「それが実行されるのはいつか分かりますか?」

「準備を整えてから。と書いてありましたから、今すぐという訳ではなさそうですけど……」

「つまり、正確な日時は分からないってことか。」

恐らく実行は2年後だろう。準備というのは多分フェイトの戦闘訓練、それに管理局への対策といったところか?


「無茶を言ってるのは分かってます。でも、私はこれを止めたいんです。私と「分かった。契約しよう。」えっ?」


「えっ?じゃなくて、オーケーだって言ったんですよ。」

「ほ、本当ですか?」

「ええ、そこまで教えて貰っといて拒否する訳にもいかないですし。」

「あ、ありがとうございます。」



契約するのはいいんだけど……使い魔って魔力消費するんだよな、確か。俺どれくらいあるんだろ。疑問に思ったので俯いて何か作業しているリニスに聞いてみることにする。


「なぁ、リニスさん。俺ってどれくらい魔力あるんだ?」

「え?そうですねぇ、ランクで言うならAってところでしょうか。」


また微妙な数値だな。いや、AAAとかあっても、デバイスとかないし宝の持ち腐れだからそれはそれで困るんだけどさ。


「それじゃあ準備できましたので、こっちに来て下さい。」


「へ?」


先ほどから俯いて作業していたのは魔法陣を書いていたようだった。っていうか……


「何で手書き!?魔法で作るんじゃないの?そういうのって。」

「本来はそうするんですが、生憎と魔力がもう限界でして。」


ああ、だから床に書いたんですね。手書きでもいいのか、魔法陣って。でも、よりにもよって油性ペンで書かないで欲しかったよ。


そんなことを思いながらも俺は魔法陣の中に入り、リニスと真正面から向き合う。



「じゃあ、目を瞑って下さい。」

「分かりました。」


……あれ?何で目を瞑る必要が?

「なぁ、リニ」

うむっ!?



!!!!!!!!?????????



眼を開けた瞬間、魔法陣から光が溢れ、リニスが俺の口を唇で塞いだ。



キスされた。前世を除いたら初めてのキスである。


顔がどんどん赤くなっていくのが分かる。


徐々に光が収まっていく。

完全に光が消えたところでリニスが唇を離した。


「あの、ゴメンなさい。契約自体は儀式魔法でしようと思ったんだけど…どうしても魔力が足りなくて、それで……」

「い、いや、別にいいです。驚いただけだから。」


そう強がってみたが俺の心臓は壊れるんじゃないかと思うほど激しく鼓動していた。


「そう…ですか。なら、よ、良かった…です。」


よく見るとリニスのほうも顔が真っ赤に染まっている。

俺たちは気恥ずかしくて数十分の間、目をあわせることができなかった。



ようやく落ち着いてきたので、気になっていたことを聞いてみることに。


「なぁ、リニスさん、使い魔って契約者の魔力を消費して生きてるんだよな。」

「ええ、そうですよ?」

「俺の魔力で足りてるのか?」

「はい、それは大丈夫です。あなたの魔力を全部貰っちゃってますけど。」


そりゃそうか。よく考えれば、足りなかったら契約して欲しいなんて言わないだろうし。


「ああ、それなら良いんです。どうせ魔力なんて有っても使えないんなら宝の持ち腐れだし。」

デバイスもないし、使い道がないからホントに豚に真珠・猫に小判って感じだよなぁ。

まぁ、それはそれとして。


「それで、これからの事なんだけど………」


話を切り出した直後、ぐぅ~。と俺の腹の虫が鳴った。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

どっちも無言で見詰め合う形になった。

き、気まずっ!


「ふふ、じゃあ話は後にして晩御飯食べましょうか。私作りますから。」

「いや、そんなことしなくても自分で作りますよ。」

「いえ、私が作りたいんです。それとも、私の作る料理は食べたくありませんか?凌。」


そう言ってリニスはにこりと笑い、台所に歩いて行った。



リニスの作ってくれた夕食は、とても美味しかった。

食べている途中に、これからの事を大まかに決めた。

最初にリニスが「とりあえず、私はあなたの使い魔になったんですから呼び捨てで良いですよ。」と言ったので、これからは呼び捨てで呼ぶことに。

リニスは家にいるときは猫形態で過ごすらしい。ただし、俺の親がいないときは人型になって使い魔らしく世話を焼きたいんだとか。




それにしても……今日はいつにも増して波瀾万丈の1日だったなぁ。






後書き
PT事件を私なりに解釈してみた。詳しいことは設定にて。矛盾がありましたらご指摘お願いします。
主人公は地味に魔力持ち。ただし、リニスの維持で全部持っていかれます。
プレシアが「あなたほどの高性能な使い魔、維持するのも楽じゃないのよ。」と言っていたことから推測して、これくらいは必要かなと思い、ランクはAにしました。



[11512] 迷い込んだ男 第十四話 「覚醒」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/09/02 00:49
リニスとの契約から3ヶ月の時が流れた。


リニスがやってきて、俺の生活がいろいろ変化したが、そのことで対応に困ったのが久遠だった。


1度、那美ちゃんと久遠には紹介しておこうと思い、猫形態のリニスと一緒に神社に行ったのだが、リニスが俺の肩に乗っているのを見た久遠が、自分の遊び相手を取られるとでも思ったのか、リニスに「くぅ!くぅ!」と威嚇(?)をして、「くぅ~!」と唸った(?)のである。


正直、久遠がそういう反応をするとは思ってなかったので、那美ちゃんも俺も少なからず驚いた。



とはいえ、本人としては威嚇してるつもりなんだろうが、全く怖くないどころか逆にかわいかったのだが。






しかし……やはりと言うべきか、フィアッセさんとなのはちゃんはリニスに興味深々で、翠屋でバイトしていたら2人が詰め寄ってきて、見たい見たいとせがんできた。その時は男性客の視線がいつも以上に突き刺さり、なのはちゃんが抱きついているのを見て、ヘルプに入ってた高町から殺気が飛んできたりと、全然全くこれっぽっちも生きた心地がしなかった。

仕方ないので、休日に2人を我が家に招待し、リニスに会わせたのだが……



2人がにこにこ笑顔で帰った後、人型になったリニスにジト目で睨まれ、俺は土下座して謝り倒した。

そりゃ5時間近くも触りまくられたら不快になりますよねー。




まぁ、それはそれとして、今回はこんな話である。








                                      第十四話「覚醒」








7月のとある日曜日、俺は朝からリニスの魔法講義を受けていた。


ちなみに両親は2泊3日の温泉旅行に行っていて家にいない。


俺の魔力は、今でこそリニスの維持に全部使われているが、リンカーコアが成長すれば俺も魔法を使える様になるから知っておいて損はないらしい。



けど、流石はリニスと言うべきか教え方がうまい。魔法に関しては原作の知識しかないので大助かりだ。


それに、結界を張ってリニスがどれ位の力を持っているのか見せて貰ったところ、いとも簡単そうに凄い量のフォトンランサーを上空に展開させていた。


あまりの光景に開いた口が塞がらなかった。

今更だけどリニスって無茶苦茶優秀だなぁ。俺なんかには勿体ないよ。


その後、俺は昼食の時間まで、効率的な魔力運用の仕方とか色々なことを教わった。






リニスの作ってくれた昼食を食べ、翠屋のバイトに行こうとした矢先、それは起こった。





そろそろ出かけようかと思い、支度をしていると、突然激しい頭痛に襲われた。


「ぐぁ!」

「?凌。どうかしましたか?」


あまりの痛さに耐えきれず、俺は床に倒れ込んでしまった。

「!? 凌!しっかりして下さい。凌!」


「ア、ぐぅ!」

痛みは酷くなる一方で、リニスの声に返事を返している余裕はなかった。


「返事をしてください!凌!凌!」


意識が薄れる。リニスの声も遠く感じる。もう…ダメ、だ………








眼を覚ますと、窓から見える空は茜色に染まり、リニスが心配そうな顔で俺を見ていた。


「凌。目が覚めたんですね。」

「悪いな、心配かけたみたいで。もう、何ともないみたいだ。」


さっきまでの頭痛が嘘のように治まっていた。


一体なんだったんだ、あれは。


「ホントに心配したんですよ?魔法を使って体に異常がないか調べても見つかりませんでしたし。」


すっごい不謹慎だろうがリニスが涙目になっている姿は凄いかわいかった。


「あっ!?そうだ翠屋!」


翠屋に行く前に頭痛で気絶したから連絡入れてない!

「大丈夫です。私が入れておきました。」


あぁ、そうか。それなら良か……何?!


「えっ?あの、どうやって?」

「猫になって『今日は休みます』と書いた手紙を翠屋まで持って行きました。」

「そ、そうか。なら良かった。」


電話で伝えてたらリニスのことどうやって言い訳するか考えなきゃならないとこだったよ。


「今日は晩御飯食べたら早めに寝て下さい。何が原因かは分かりませんが、念のためです。」

「ああ、分かった。あんな痛み、二度と味わいたくないしな。」





7時になり、夕食のリニス特製おかゆを食べた俺は、リニスの言うとおりにさっさと寝てしまうことにした。








(――――――――――――)
 

声がする


(―――――――た)


俺を呼ぶ声が


(目――の――きた)


聞こえる


(目覚めの時はきた)


!?


意識が覚醒する


見渡す限り白く光る空間が広がっていた


以前にも同じことがあった気がした


あれは…確か、1年前か


「あなたに……」

!? 誰だ!

「あなたに授けます」

声のする方向を見ると、全身白い衣服を着た中学生くらいの少年が立っていた。

「授けます、私の力を」

こいつは…一体……何を

「A…I…Ωの力」


そう言うと、少年は手を俺にかざし、そして…光が、俺を貫いた。








ガバッ

俺は目を覚ますと勢いよく体を起こした。

妙な夢だった。いや、本当に夢だったのか?夢にしては光に貫かれた感覚も、あの少年の存在感も、俺の記憶もハッキリしている。

「!? はぁ、はぁ グッ」

突如、体が熱くなった。それに加え、昼間の頭痛もまた襲ってきた。

はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ

熱さと痛みでどうにかなりそうだった。

その状態がしばらく続き、それが収まったのはいつだっただろうか。

10分だったような気もするし、1時間だったような気もする。


ようやく、体の異常な発熱と頭が割れるような頭痛が治まった時、俺は1年前アリサちゃんを助けたときの不思議な力を感じた。



体がおかしい。何処からか力が湧いてくるのを感じる。


俺は部屋の明かりをつけ、自分の姿を鏡で見た。







そこには―――――――――







「ア、ギ、ト?」




前世で見た特撮のヒーロー、仮面ライダーアギトの姿があった。








後書き
ついに主人公をアギトに覚醒させました。
いろいろ悩んだのですがこのような形での覚醒となりました。
ここまで来るの長かった。



[11512] 迷い込んだ男 第十五話 「模擬戦」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/09/04 21:30
鏡を見ると、そこにはアギトになった俺の姿が――――


って、えぇぇぇぇぇぇぇ!?!?


え、ちょ!?どういうことだ、これ!


何でアギトになってんだよ!


ここ、『とらハ』とか『リリなの』の世界だよね!?


その2つが混ざってるのは納得できるよ?世界観に共通するところなんて多々あるし。


俺が魔力持ってたのも驚いたけど、まだ納得できる範囲内だよ?


けど、何でアギトになってるんだ?


もう、全く訳が分からない。


誰か説明してくれー!








                                     第十五話「模擬戦」








数十分後、ようやく落ち着きを取り戻した俺は、とりあえずこれからどうするのかを考える事にした。


「やっぱ、リニスには話しておいた方が良いよなー。けど、コレどう説明したらいいんだ?」


つか、これどうやったら元に戻れるんだろうか。未だにアギトの姿のままなんですけど……


トン トン トン トン

「凌?一体何を騒いで……」


げぇっ、リニスが目を覚ましてこっちに来る!?


ちょっ、どうする?どうすんのコレ。


コン コン

「凌?入りますよ?」

「ちょっ、待っ!?」


俺の言葉も空しくリニスはドアを開け、俺の姿を見てしまった。

「凌!?その姿は…一体……」


俺の姿を見て驚愕するリニス。うん、その反応は正しいと思うよ?


「あー、何て言ったら良いか分からないんだけど・・・不思議な力に目覚めた…的な?」

「何で疑問形なんですか。何でそんなことになったんですか?」

「いや、目が覚めて、ひどい頭痛がして、体がすごい熱くなったと思ったらこの姿に。」

「じゃあ昨日の頭痛はその姿になる予兆だった、という事ですか。」

「多分、そうだと思う。」


いや、実際はあの少年の光を受けたのが原因だろうと思うが。

あの少年ってやっぱり闇の力と敵対していた光の力なんだろうか。


「それで、元の姿には戻れないんですか?」

リニスの言うことも尤もなのだが、戻り方が分からない。

ダメ元で念じてみようかな。『元の姿に戻れ』って。




俺がそう念じると、ベルトから光が溢れ、元の姿に戻ることができた。


(ホントに戻れたよ。何事もやってみるもんだな。)


「大丈夫なんでしょうか、その力は。」

「大丈夫だと思う。根拠とかないけど、そんな気がする。」


実際、アギトの力は使用者の心掛け次第で善にも悪にもなる純粋な力だったと思うし。


「・・・・・・少し、付き合ってもらえませんか?」

「はい?」


突然リニスにそう言われ、連れて来られたのは家の外だった。


「リニス?一体何を…」

俺がそう言った途端、町が静かになった。

以前、リニスの実力を見せて貰った時と同じだ。

静かすぎる町、俺とリニス以外の人間が存在しておらず、今この空間には俺達しか存在していない。


「封時結界を張りました。凌、もう一度さっきの姿になって下さい。」

「リニス、お前もしかして…」

「はい。あなたの力が何なのかは分かりませんが、どの様な物なのかは知っておいた方が良いと思います。ですから…」

「模擬戦して確かめようってことか。」

「はい。お願いできますか?」


丁度いいかもしれない。アギトの力が制御できなければ、万が一アンノウンもこの世界に存在していた場合、困ったことになる。

今のうちに戦闘経験を積んでいたほうが良いだろう。


「ああ、分かった。」





俺はTVで見た『津上 翔一』のポーズを真似し、腰に変身ベルト『オルタリング』を出現させ、そして――――――







「変身!!」







己を変質させる言葉を紡いだ。







(リニスside.)

「変身!!」


凌がそう叫ぶと、ベルトから光が溢れ、凌の姿が部屋で見た異形の姿に変わった。


そして、凌は体を動かし、建物を殴りつけたりして力の把握を行い始めたようでした。

それにしても、ただのパンチ一つで建物を易々と貫通する威力ですか、これは当たらないようにしないと駄目ですね。


あの時は戦うという意思が無かったからだろう。部屋で対峙した時には感じなかった威圧感が、今の凌からは感じられる。


けれど、見極めなければならない。凌の姿を変えた力が、凌に悪影響を及ぼすものなのか、そうでないのか。


そして、今まさに凌を介して私に流れ込んでくる未知の力がアレと同じものなのかを……




性能の把握が終わったのか、凌はこちらを向き、言った。




「行くぞ、リニス!」

「来なさい、凌!」






正直、侮っていたと言わざるを得ませんね。

凌を通して力が湧きあがってきて、いつもより速く動くことができるからそう簡単にやられることことはないし、

凌から放たれる拳や蹴りを回避することは容易ですが…

やはり、威力が強い。

少しでも当たればタダでは済まないでしょう。

こちらも魔力を両手に集中させ、隙があればカウンターをお見舞いしていますが、致命傷にはなっていない。

一体、この力は…

「ハァ!」

「!?ラウンドシールド!」

やはり、すごい威力ですね。腕が圧し折れそうです。

ピシッ、ピキ

っく、シールドが持ちそうにありません。

考え事をしている余裕はなさそうですね。

すみませんが凌。勝たせて貰います。




「これで決めます! 撃ち抜け、轟雷!サンダースマッシャー!!」






(凌side.)

拳も蹴りも一向に当たらない。

その癖こっちはリニスの繰り出すカウンターが良い具合に決まってかなりヤバい。

「セイ! テリャ!」


またも躱される。


しかし次の瞬間、初めてリニスに隙ができた。

チャンス!


「ハァ!」

俺はその隙を逃さずリニスに殴りかかった。

が、しかし。

「ラウンドシールド!」


っく、防がれた!


再び拳を構え、リニスに向かっていくと、いきなり前方に魔法陣が現れた。


やばっ!?


俺は咄嗟に後ろへ跳んで、防御の姿勢を取ろうとした。しかし……


バリッ バリリ

(なっ!)

いきなり四肢が拘束され、体の自由が奪われた。


「これで決めます! 撃ち抜け、轟雷!サンダースマッシャー!!」


その言葉を聞くと同時に、魔法陣から稲妻が放たれ、俺は意識を刈り取られた。







後書き
リニスさんと模擬戦。
リニスが受けたアギトの力の恩恵は、能力の底上げ。魔法の効果・威力や身体能力が上がります。
t単位のパンチをラウンドシールドで受けてひびが入っただけなのはそのお蔭。



[11512] 迷い込んだ男 第十六話 「夏休み」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/12/12 22:18
眼が覚めて最初に見えたのは自室の天井だった。


「目が覚めましたか?凌。」

「ああ、模擬戦で負けたんだっけ。なぁ、最後のアレ何だったんだ?」

俺は体を起してリニスに向き合った。

「アレ…とは、凌の体を拘束した魔法ですか?それとも、止めを刺した魔法ですか?」

「拘束した魔法の事。あれってバインドだろ?けど、あの時は攻撃魔法以外使ってなかったじゃないか。」

「あれはライトニングバインドと言って空間に不可視の魔法陣を置いてそれに触れると発動するタイプなんです。」


はぁ~、バインドって腕から飛ばしたりするだけじゃないのか。あ、そういやフェイトが使ってたような気がするなぁ。なのはちゃんとの一騎打ちの時だっけ?


「一重にバインドと言っても様々な種類があります。まぁ、私が教えていたのはバインドとはどういう物なのか、という事だけですからね。分からなくて当然です。」

「なるほどなぁ。しっかし、リニス強いなぁ。攻撃全然当たらなかったよ。」

「当たり前です。元々わたしは山猫が素体なので回避の方が得意なんです。防御魔法も使えますけど、強度は中の下といったところですね。」


あれ、防御得意じゃないのか?アギト状態の俺のパンチ防げてたから相当得意分野なんだと思ってたんだけど。


「じゃあリニス、あの力の事何か分かったか?」

「その事なんですけど…恐らくですが凌を通じて魔力と一緒にその力も私に流れ込んでいるみたいなんです。」


はい?・・・・・・ええぇぇぇぇぇぇ!?!?


「先程も言ったように、私の防御魔法はそれほど強度がある訳では無いので、あんな力で攻撃されて防げるわけがないんです。」


って事は……アギトの力でリニスも強くなった。ってことか?


「それに、まだこの力の事は良く分かっていません。ですから、これからは魔法講義と共に戦闘訓練も並行して行っていきたいと思うのですが…どうですか?凌。」


それは俺も賛成なんだけど……


「けど、時間はどうするんだ?魔法の事は今まで通り俺の部屋で教えて貰えばいいけど、訓練はそういう訳にはいかないだろ?」

「平日に授業、休日に訓練でどうでしょう。それなら大丈夫じゃないですか?」


むぅ、翠屋のバイトの時間減らせば何とかなるか?


「それで行くか。力を使いこなせる様になればプレシアの計画も防ぎやすくなるだろうし。」

「分かりました。それじゃあ、覚悟して下さいね凌。」








第16話「夏休み」








あの日以来、リニスには基礎しか教えて貰っていなかった魔法のことも本格的に教わるようになった。


アギトの方は取りあえずは能力を使いこなすことを最優先とした。

アギトのグランドフォームは肉弾戦が主なので、リニスと模擬戦(変身なしで体術のみ)をしたり、体力を付けることを主目的とした訓練を行った。


訓練を行っていて気付いた事なのだが、俺は意識して身体のポテンシャルを限界まで引き出せるようになっていた。

これもアギトの力の影響なのだろうか。

ちなみにリニスは自身の魔法の強化を図るらしい。





そうやっている内に、季節は本格的な夏へと移り変わり、今現在俺たちは夏休みの真っ只中。




それに今日はリニスとの訓練もお休みで本格的に何の予定もない休日である。





なのに・・・・・・何でこんな事になってるんだろうなぁ俺は!





「ポカーン。」

眼の前には見たこともない大豪邸。

そして、メイド喫茶くらいでしか見ることのできないメイドさんが2人。

左には俺の手を握る女の子。

右には美人のクラスメイト。


・・・・・・・・・・・これなんてエロゲ?


何故こんな事態に陥ったのかと言うと、事は数時間前に遡る。





久しぶりに何の予定もないので、偶には服でも買いに行こうかと思い、よく行く服屋に足を運んだのがそもそもの始まりだった。





「はー、買った買った。リニスの私服も良いのがあったし、今日はいい日だ。」


俺は自分の服とリニスの服が入った袋をぶら下げ、折角だし当てもなくブラブラするのも悪くないかな。などと思い散歩を始め、俺は海鳴臨海公園まで足を伸ばしていた。


すると、公園の中から出て来る紫色の髪をした姉妹と擦れ違った。


(あれ、月村か?手を繋いでいるのは妹のすずかちゃんかな。)



何気に2年間連続で同じクラスなのにも関わらず殆ど会話したことがないクラスメイト。


まぁ、偶然見かけて話しかけるような仲でもないので公園でのんびりするか。

と、公園の入口の方を向くと、猛スピードでこっちに走ってくる車が目に入った。



もしやと思い、月村姉妹の方を見ると、1人の男が2人に手を伸ばし、車道に突き落とそうとしているのが見えた。


やばっ!


俺はすぐさま身体能力を引き上げ、2人に向かって走り、2人を突き飛ばしたニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている男を渾身の力で殴り飛ばし、何とかギリギリのところで2人を歩道に引っ張り上げる事に成功した。





(忍side.)

すずかと一緒にゲームセンターに行って思いっきり遊び倒し、その帰りに公園によってジュースを飲みながら私たちはベンチに腰掛け、話し合っていた。


「ねぇねぇ、すずか。何で家に友達呼ばないの?確か……なのはちゃんとアリサちゃんだっけ。」

「えぅ、だって家大きいから、2人ともびっくりしちゃうかも知れないし。猫もいっぱいいるから余計に・・・・」


すずかはそう言っているけど、多分本当は私に気を使っているんじゃないかと思う。


友達ができた。と、嬉しそうに私に報告して、どんな子なのかを楽しそうに語るすずかを見て、私は羨ましそうな顔をしていたのだろう。


自分が「夜の一族」という吸血鬼であることを友達になった子に知られて拒絶されるのが怖かった。

だから私は…自分の殻に閉じこもり、今まで人と深くかかわるのを避けていた。

さくらやノエルやすずか、それにファリンがいればそれでいいと思っていた。……そのはずなのに、私は友達ができたすずかの事が羨ましいと感じていた。


「私の事はいいよ。なのはちゃんって子は動物が大好きなんだよね。だったら家の猫たちを見たら大喜びするんじゃない?」

「それじゃあ、呼んでいいの?お姉ちゃん。」

「いいよ、いいよー!大歓迎っ!ノエルとファリンの作ったお茶とお菓子も出して盛大にもてなしちゃおう!」

「あ、ありがとう!お姉ちゃん!」

「よーっし!そうと決まれば、早く帰ってノエルとファリンにその事を伝えよっか!」

「うん!」


私たちは空になったジュースの缶をゴミ箱に投げ入れると、公園を出た。そして・・・・・・



公園から出てすぐに、私とすずかは怪しい風貌の男にいきなり車道に突き落とされた。



一瞬の浮遊感の後、地面にぶつかり、痛みが走る。


そして、私は猛スピードでこちらに向かって走ってくる車を視界に捕らえた。


!? ダメ!すずかだけでも逃がさなくちゃ!


そう思ってすずかの方を見ると、すでに歩道に引っ張り上げられていて、そして・・・・



「月村さん!早く掴まって!」



クラスメイトの藤見君が私に手を差し出していた。

私は彼の手を取り、無事に歩道まで戻ることができた。


お礼を言おうと思い彼の方を見ると、彼は優しそうな笑みを浮かべて、


「大丈夫?月村さん、怪我とかしてない?」


そう、言ったのでした。





(凌side.)

か、間一髪だった。もう少し遅かったら手遅れになるところだったよ。


「大丈夫?月村さん、怪我とかしてない?」

「え?あ、うん。」

「あ、あの、助けて頂いてありがとうございました。」


月村は曖昧に返事を返し、すずかちゃんはペコリとお辞儀をしてお礼を言った。

あれ?この光景見たことあるような・・・いつだったっけ?


・・・・・・・・ああ!


「思い出した!君、いつだったか図書館で会ったことが有ったよね。」

「え?あ、猫の本取ってくれたお兄さん……ですか?」


そうそう、見覚えあると思ったら、リニスが家に来た次の日に行った図書館で会った女の子だ。

あれ、すずかちゃんだったんだなぁ。



「あの、助けてくれてアリガト。」

「ん?ああ、良いって良いって。」

「何で、助けてくれたの?」

「何でって……死にそうな目に遭ってるクラスメイトを見殺しにしたくなかったから?んー、後は2年間同じクラスだったよしみ・・・とか、かなぁ。」


ぶっちゃけ、理由なんかないしなぁ。死にかけてる人を見殺しにするほど薄情な人間じゃないつもりだし。


でも、やっぱさっきの男とか車って、月村の遺産目当ての親族の仕業なのかねぇ。


「そろそろ帰るわ。じゃあ月村さん、2学期にまた学校で。」

「え?ちょ、ちょっと待って!」

「はい?」

「あ、あの、助けて貰ったお礼したいから家に来て欲しいの。」


はぁ、月村の家に・・・・?



えぇ!?


「い、いや、別にいいよ。お礼目当てで助けた訳じゃ無いし。」

「それじゃあこっちの気が収まらないの!いいから来て!」


月村はそう言うと、俺の手首をつかんで歩きだした。













と、そういう訳で、俺は月村の家の前に立っている訳なのだが、想像以上の豪邸だった。


「ただいまー!ノエル。お客さん連れて来たわよー」

「ただいま、ファリン。」


2人がそれぞれの従者の名前を呼ぶと、扉が開き、中からメイドが出てきた。


そういや、この世界でもノエルやファリンは自動人形なのだろうか。



「お帰りなさいませ。忍お嬢様。」

「おかえりです。すずかちゃん。そちらの方がお客様ですね?」



あれよこれよと話が進み、いよいよ月村邸に入ることとなった。



「さあさあ、入って入って。おいしいお茶とお菓子用意させるから。」

「ホントにいいのか?御馳走になっちゃって。」

「良いの良いの♪藤見君には命を助けて貰ったからね。これぐらいのもてなしじゃ足りないくらいだよ。」


そうして俺たちは屋敷の中に入って行った。



………そう言えば、途中から月村の態度が堅苦しく無くなってたな。少しは心を許してくれたってことだろうか。






後書き
予想外に時間が掛かってしまいました。
しかし、そのわりにはgdgd感が拭えない。
忍こんな感じの口調でおkですか?



[11512] 迷い込んだ男 第十七話 「月村邸」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/10/27 00:06
月村の家は外見だけでなく中身もハンパじゃなかった。


明らかに高級品だと分かる調度品の数々。


何処も彼処も清掃が行き届き、埃一つなさそうだ


それに加えて、どの位の価値があるのかは知らないが、どれも相当な額だと容易に想像が付く美術品が飾られている。


そして、ノエルとファリンに先導されて俺たちは1つの扉の前に辿り着いた。


俺は、開かれた扉の奥に見える光景に唖然とするしかなかった。




家のダイニングの何倍の広さだココーーーー!?




中の部屋には白いテーブルクロスが掛けられたバカみたいに長いテーブルがあり、いかにもお金持ちのダイニングキッチンといった様相である。


「藤見様。この度はお嬢様方を助けて頂きありがとうございました。」

「いや、そんな。当然のことをしただけですよ。あれそう言えば…俺、名前言いましたっけ」

「さっき藤見君が呆けてた間に説明しといたの。私とすずかの命の恩人だって。」


どうやら俺がボーっと突っ立ってる間に月村が説明を済ませてくれたらしい。


「ふえ~ん。すずかちゃん。死んじゃわなくて良かったです。」

「ファ、ファリン泣かないで。大丈夫だよ。お兄さんのおかげで怪我もして無いから。」

「ぐすっ、藤見さん。すずかちゃんと忍お嬢様を助けてくれてありがとうございました。」


月村の後ろでファリンがすずかを泣きながら抱きしめていた。


すずかちゃんはそれを苦笑しながら慰めていた。


「なぁ月村、あれは………」


「ファリンは相変わらずねー。」

「はい。相変わらずです。」


……この二人があの光景を微笑ましく眺めているという事は、これは結構日常茶飯事の出来事だったりするのだろうか。








                                    第十七話「月村邸」








やがてノエルがファリンを軽く窘め、少しして部屋を出て行ってしまった。


月村曰く、お菓子を作りに行ったとの事。


すずかちゃんは猫たちと遊んでくると言って庭へ行ってしまった。


つまり、必然的にこの場には俺と月村の二人しかいなくなってしまった訳だ。


「そう言えばさぁ、藤見君は何であの公園に立ち寄ったの」

「ん?ああ、買い物が終わってぶらぶら散歩してたとこだったんだよ。ほら、コレ。」


そう言って俺は服の入った袋を月村に見せる。


けど実際、俺が公園に寄ってなかったら今頃月村たちは死んでたかもしれないのか。そう考えると、何かゾッとする話だよなぁ。


「へ~!じゃあ、それを買いに行ってなかったら私たち死んでたかも知れないんだね。」


そうかも知れないが、そうあっけらかんと言うような事じゃないだろうに。


「ねぇねぇ、何買ったの?ゲームとか?」

「いや、服だよ。ゲームは…あんまりやらないかな。」


そう言って俺は袋から服を一着取り出して月村に見せる。




俺が取り出したのは――――――――リニスのために買った夏服だった。




空気が凍った。




「ふ、藤見君。藤見君ってまさか……そういう趣味が。」


うわーい。見事に誤解されてるよー。

そりゃ、服を買ったって言って女性物の服取り出したらそういう解釈されますよねー。

違うんです!

そう言う趣味じゃないんです!

単に俺の服が入ってる袋とリニスの服が入ってる袋を間違えただけなんです!

お願いだから引かないでください!



「ゴメン間違えた。こっちは…アレだ、知り合いに頼まれて買った服。」

「あ、あぁなんだ、そうだったんだ。ビックリした。命の恩人が変態さんだったらどうしようかと思ったよ。」


あ、やっぱり変態だと思われてたんですね。


「でも、良く女性物の服なんて買えたね。」


は?


「え?何でだ?普通に買えたけど。」

「?そりゃ、普通は男性が女性物の服なんて買おうとしたら店員さんとかに訝しがられるでしょ?」


……そういや、レジに会計に行った時に店員さんが変な顔してたな。


「あれ?今思い出すと何処となく蔑んだ感じの目だったような。」

「き、気付いて無かったんだ。」


俺も好きで買いに行った訳じゃないからなぁ。まぁ、いざ選び始めたら周りの目なんか気にせずノリノリで選んでたけどさ。

いや、親が居ない時はリニスが買い物に行くって言うんですよ?あの使い魔服で。

私服とか欲しくないかって聞いても「テレビで見たんですけど、女性の服ってすごく高いのでそこまでしてもらうのは……」と言って断られた経験がある。


だから、『プレゼント』という形で受け取って貰おうと考えた訳なのだが・・・・・・


「今考えたら相当恥ずかしい事してたんだな、俺。」






かなーり気まずい雰囲気になってしまった時に月村が言った。


「じゃあ…さ。私の部屋で気分転換にゲームでもやらない?ほらっお菓子はノエルに言って部屋まで持って来て貰えば良いし。」


そういや、月村って格ゲーとかそういうの得意だったっけ。

ふむ、最近やってなかったから腕は相当錆びついてるだろうが、前世では結構やってたし、試しにやってみるか。


「分かった。とりあえず、長い間ゲームなんてやってないから操作方法とか教えてくれると助かる。」

「りょうかーい!よーっし、じゃあ行こっか。」




そうして月村の部屋まで来た訳なのだが……




うん。まさか、高町家の庭くらいの広さがあるなんて誰が想像できるよ。


しかもテレビもデカい、アレ何インチだ

「じゃあ、早速やろっか。」



そう言って月村が取り出したのは何とメ○ブラであった。



ああ、この世界にもあるんだ、このゲーム。


「じゃあ、キャラの特性とか説明しようか」

「いや、このゲームなら知ってるから大丈夫だ。」

「あれ?そうなんだ。でも、これって最近出たばかりのヤツだよ?」


そもそも、このゲームが今出てること自体がおかしいんだけどね。


俺は着物に革ジャンを羽織っている少女を選び、月村は吸血鬼に堕ちた紫髪の少女を選んだ。





そして―――――――戦闘開始。





結果から言うと負けました。

第一ラウンドは操作確認してる間にアッという間に負けた。

第二ラウンドは物凄い僅差で俺の勝ち。

そして、第三ラウンド……体力ゲージの半分以上が残った状態で月村の勝利。


ちなみに手加減して貰ってコレである。



「はー、月村強いなぁ。」

「そ、そうかなぁ。それより、藤見君も凄いじゃない手加減してたとは言え負けるなんて思って無かったよ。最後思わず本気出しちゃったもん。」

「・・・やっぱ最後本気だったのか。」

「あ、えへへ。バレちゃった。えっと怒っちゃった?」

「そんな事くらいで怒らないよ。それよりもう一戦やろうぜ。」

「あ、よーし。今度は最初っから本気で行くぞー。」

「それは勘弁して下さい!」



そして俺たちは2戦目に突入した。




コン コン

「あ、ノエルー?いいよ、入って。」

「失礼します。お嬢様、藤見様。紅茶とクッキーをお持ちしました。」


俺と月村の勝負が4戦目に突入してから、ノエルが紅茶とクッキーを運んできた。


「あ、ありがと、ノエル。今手が離せないから机に置いておいてくれる?」

「はい、畏まりました。それでは失礼いたしました。」

「あ、ちょっと待ってノエルさん。折角だし一緒にこのゲームしない?」


紅茶とお菓子を置いてそのまま退室しようとするノエルに声をかける。


「しかし……。」


と言葉を濁し、月村に視線を送るノエル。

主はにっこりと笑って黙ってコントローラを手渡した。


「分かりました。では、一戦だけ。」


コントローラを握り、即座にキャラを選択。

ちなみにキャラは無口メイドのメカVer.だった。




「うおっ!何その鬼コンボ」

「あははっ。ノエルはいつも私と対戦してるもん。そりゃ強いよー。」

「それを先に言ってくれー!」

「これでトドメです。」

「ニギャー!」




結果:惨敗




「それでは藤見様、ごゆっくり。」


約束通り一戦だけやってノエルは部屋から退室していった。

しっかし、


「強いなぁ、ノエル。」

「む、私は本気出せばノエルより強いんだよ!」

「二回くらい反撃できただけであと全部空中コンボだぜ?」

「私はずっと空中でコンボし続けられるよ?試してみる?」


ニッコリと微笑む月村。


「やっぱいいです。お前なら普通にやってのけそうな気がするし。なけなしのプライドが塵になりそうなんで。」

「ふっふっふ。分かればよろしい。」








楽しい時が過ぎるのはあっという間と言うか、時刻はもう夜の6時。

そろそろお暇しないといけない時間だ。


月村邸の正門前で4人に別れを告げる。


「月村、今日はありがとう。久々に思いっきり遊んだよ。」

「こっちこそ。助けてくれてアリガト。私も楽しかった。」

「藤見様、またいらして下さい。忍お嬢様も喜ばれます。」

「さよならです、藤見さん。今度はいっぱいお話しましょうねっ」

「今日はありがとうございました、お兄さん。」

「ああ、じゃあまたな。」



そう言って俺は自分の家に向かって歩き始める。

っと、忘れるとこだった。




「なぁ月村。」


家に戻ろうとしていたのか、門の方向を向いていた月村に呼びかける。



「俺とお前ってもう友達でいいんだよな?」



俺としては当たり前のようにそう思っていたのだが、言葉にはしていなかったので一応聞いておく。


しばらく沈黙が続いた後、返事が返ってきた。


「うん…うん!友達で…いいんだよね。ありがとうっ!藤見君!」



俺はそれを聞いて安心し、手を振って今度こそ月村の家から遠ざかっていった。






忍side,

はー、今日は楽しかったな。

藤見君とゲームで対戦したり、一緒にお菓子食べながら談笑したり、まるで友達ができたみたいだった。


けれど、そんな素敵な時間はあっという間に過ぎ去ってしまい、私たちは家の門まで見送りに行った。


「月村、今日はありがとう。久々に思いっきり遊んだよ。」

「こっちこそ。助けてくれてアリガト。私も楽しかった。」

「藤見様、またいらして下さい。忍お嬢様も喜ばれます。」

「さよならです、藤見さん。今度はいっぱいお話しましょうねっ。」

「今日はありがとうございました、お兄さん。」

「ああ、じゃあまたな。」


そう言って彼は歩き始めた。


結局、友達になって欲しいって言えなかったな。

私はそんな簡単な事も言い出せない自分に腹が立った。


これ以上此処に居ても悲しいだけだと思い、門をくぐり家に入ろうと体の向きを変え、屋敷に向かって歩き出そうとした矢先。


彼はこっちを振り返って私を呼びとめた。


「なぁ月村。」


私は彼に振り返り、そして彼が口を開いた。



「俺とお前ってもう友達でいいんだよな?」



言葉が出なかった。

自分が情けなくて、

彼の言葉が嬉しくて、

けれど一番は、

私の事を友達だと思ってくれていたという事実が、

どうしようもなく心に響いた。



私は、少しでも気を抜くと涙が出そうになるのを我慢して、彼に返事を返した。



「うん…うん!友達で…いいんだよね。ありがとうっ!藤見君!」


私は彼に向って大きく手を振り、それを見た彼はフッと笑い、私に背を向け、歩きながら手を振った。



私は彼の姿が見えなくなるまで手を振っていた。



藤見君の姿が見えなくなると、私はノエルに抱きつき、声を押し殺して泣いた。


こうやって泣いたのはいつ以来だろう。

もう覚えていない位に昔のことなのか、

それとも、泣いたこと自体を忘れてしまっているのか、


それは分からないけれど、こんなに清々しい気持ちで泣いたのは初めてだと確信を持って言える。

だって、これは、とびっきりの嬉し涙なのだから。








後書き
今回はちょっと長めに書けた。
格ゲーで主人公が使ったキャラ=作者の好きなキャラ
忍・ノエルについてはイメージ。
ファリンさんの口調合ってますかー?
すずかがあまり出せなかった。OTZ



[11512] 迷い込んだ男 第十八話 「翠屋大パニック!」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/10/27 00:08
暑い陽射しの照り続ける夏が終わり、涼やかな風が吹き、山の色が緑から紅に移り変わる季節。


海鳴市にある人気洋菓子店『翠屋』のパティシエである桃子は、現在非常に困った状況に陥っていた。






「はい、はい。いいのよ、風邪なんでしょ?ゆっくり休んで体調を整えなさいね。店の事は何とかなるから。」

「ホント申し訳ないです。じゃあ、すみませんが今日は休ませて貰います。」

「お大事にね?」


8時現在、本日5回目の電話だった。


「はぁ、困ったわねー。バイトの子がみんな風邪でお休みだなんて。」


そう、電話は全て「今日バイト休ませて下さい。」という内容ばかりだった。


「フィアッセと凌君は何とか確保できたけど、士郎さんと恭也は朝早くから修行に行ってくるって言って山に行って居ないし、美由希となのはは学校。ヘルプに入れる人はいないし、どうすればいいのかしら?」








第18話「翠屋大パニック!」








風芽丘学園は他の学校と違い土曜日も学校だ。そのため、秋休みというものが存在し、今がその秋休み中なのだが、俺は、朝早くに携帯に電話が掛かってきて、桃子さんに翠屋に呼び出された。



のだが……………



「も、桃子ー!私たちだけなんて無理だよ!?どうするの?」

「聞いてませんよ、こんなの!何なんですかこの危機的状況!」


呼ばれた理由を尋ねてみれば、他のバイトの人たちが揃って風邪をひいたため来れないとのこと。

その上、夫の士郎さんと息子の恭也は山籠りなんだとか。

美由希ちゃんとなのはちゃんに関しては言うまでもなく学校だ。


「だから困ってるの。二人とも手伝えそうな子知らない?」

「うーん、私の友達は今日は仕事で手伝えそうにないなー。」

フィアッセさんがそう言って肩を落とす。

「それって、経験者じゃないとダメですか?」

「まさか!今は猫の手でも借りたい状況だもの、そんな事気にしないわよ。もしかして、心当たり、あるの?」


あると言えばあるのだが、受けてくれるだろうか。


「まぁ、二名ほど。といっても、受けてくれるかは分かりませんが。」

「2人も!ありがとう、凌君!」


確定してないのに凄い喜びようだな、桃子さん。

まぁ、気持ちは分からないでもない。

何せこの時期は『食欲の秋』ということもあるのか、お客さんの数が何故か増えるんだ。

去年嫌というほど経験したから分かる。

俺たちだけで対応できる訳がない。


「じゃあ、とりあえず連絡取ってきますんで準備の方はお願いします。」

「はーい!それにしても、リョウの友達かー、どんな女の子だろー。」


フィアッセさんの元気な声を聞きながら俺は更衣室に入った。



………それにしてもフィアッセさん?女性だと確定するのはあんまりじゃありませんか?いや、確かにその通りですけど!



更衣室に入った俺は、早速1人目の候補者に『念話』を送った。


(リニス、リニス。聞こえるか?)

(凌ですか?珍しいですね、バイト先から念話を送るなんて。何かあったんですか?)

(実はだな…………………………………という訳で、手伝って貰いたいんだけど良いか?)

(私はいいですけど、関係を聞かれたらどう答えるつもりですか?)

(そこら辺は「親戚だ」とでも言っておけば大丈夫だろう。)

(分かりました。すぐ、そちらに向かいますね。)

(ああ、頼んだ。)


1人目はクリアー。けど、問題はこっちなんだよなぁ。


俺は携帯をポケットから取り出し、2人目の候補者に電話を掛けた。


Prrrr Prrrr Prrrr Prrrr


「は、はい。もしもし。」



「もしもし、那美ちゃん?凌だけど。」

「せ、先輩!?あの、私に何かご用でしょうか。」



俺は那美ちゃんに事情を説明し、返事を待った。


「えっと、先輩がバイトしてるのって翠屋ですよね。私でよければお手伝いします!」

「ホントか!助かるよ。人数足りなくて途方に暮れてたんだ。よろしく頼む。」


Pi


俺は電話を切り、早速桃子さんに増援の事を知らせに行った。



「2人とも大丈夫だそうです。」

「ホントに?よかったわ、これで何とかなりそうね。」

「そうだね、午前中だけなら何とかなるかも。学校が終われば美由希もなのはも手伝ってくれるだろうし。」


確かに学校が終われば美由希ちゃんにヘルプ頼めるし、場合によってはなのはちゃんに手伝ってもらえるから、大変なのは午前中だけだと思うけど………何となく嫌な予感がするなぁ。





「すいません。凌に呼ばれて来たんですが。」


しばらくして、頭にカチューシャを付けて、以前俺が買った服装でリニスはやってきた。


「あ、あなたが凌君の言ってた助っ人ね?」

「はい。凌の従姉の藤見 凛です。」 (親戚で『リニス』という名前は変でしょうからこの名前で呼んでくださいね?)


いきなり違う名前名乗ったからビックリしたけど、念話で言われたことを聞いて納得した。

確かに俺の親戚でリニスの名前はおかしいよな

名前の事なんてすっかり忘れてたよ。けど流石リニス、来る途中に考えてくれてたのか。




「とりあえず、翠屋の制服に着替えてきて貰おうかしら。フィアッセ、案内してあげて?」

「わかったわ、桃子。それじゃあリンさん、ついて来てね?」

「はい、よろしくお願いしますね。フィアッセさん。」

「今日一日よろしくね?リンさん。」


2人はそう言って更衣室に入って行った。





「す、すいません!遅くなってしまって。寮の皆さんにお土産を頼まれてしまって、希望を聞いてたらこんな時間にっ。」


リニスが仕事に加わってから約30分後、那美ちゃんが息を切らせながらやって来た。

ちなみに、飲食店でのバイトのため久遠はついて来ていない。




兎に角、これで4人揃った。

とりあえず、これで午前中は凌げるだろう。








……………俺の考えが甘かったorz

見事に嫌な予感が的中しましたよ。

午後12時となった今現在、俺たち4人はあまりの忙しさに目を回していた。


簡単に説明すると……


リニス(凛)+ 那美ちゃんがウェイトレスに加わる。

           ↓

どちらも相当の美少女のため男連中が噂を聞きつけ殺到。

           ↓

客(主に男性客)の人数がどんどん増える。

           ↓

俺たち涙目。



だいたいこんな感じだ。


しかし、これは拙い。


高町家の長女と次女が帰ってくるまで残り約3時間。

それまで4人だけでこの危機的状況を乗り切れと言うのか!



みんな疲労気味で、フィアッセさんは漫画のように目を回しながら注文取ってるし、リニスは忙しすぎて、隠してる尻尾が見えそうになっているのに気付いてない。那美ちゃんは時々こけて額を床にぶつけて赤くしているし、桃子さんの顔からはいつのも笑顔が消え、必死にお客さんからの注文に応えている。



これであと3時間も持たせろと?


無理じゃね?



と、その時、

「こんにちはー。」


唯でさえ忙しいのにこの上まだ増えるのかっ!


俺は新たに店に入ってきたお客さんの方を振り向く。すると…………



「やっほー、藤見君。約束通り来たよー。」


夏休みに友達になった月村忍と、そのメイドのノエルの姿が有った。



というか、約束?そんなのしたっけか?




・・・・・・あ、そういえば。


~回想~

あれは、秋休みに入る直前のある日の休み時間の時だっただろうか。

夏休み以降、俺と友達になった月村は、最初は俺とだけ会話していたのだが、いつしか高町や赤星と自然に会話を交わす仲になっていた。

なお蛇足だが、高町は原作通り月村の名前を覚えていなかった。




「ねぇねぇ、藤見君って何かバイトでもしてるの?」

「ん?何でそんなこと聞くんだ?月村。」

「だって、前に女物の服買ってたじゃない。結構高そうな服だったからバイトでもしてるのかなーって思って。」


よくそんな事を覚えてるやつだな。いや、それよりそんな言い方したら……


「………藤見、お前。」

「………そんな趣味が有ったのか。」


あ、やっぱりねー。お約束な反応ありがとう。ふっ、でもやっぱりクルなぁ、友人にそういう目で見られると。


「従姉に頼まれて買いに行っただけだ。断じて俺にそんな趣味はない。はぁ、月村も誤解を招くような言い方をしないでくれ。」

「えへへ、ゴメンゴメン。」

「驚いた。友人としてどうやってお前の歪んだ趣味を矯正しようか考えるところだったぞ。」

「ああ、まったくだ。心臓に悪いったらないよ。」


おい、そこは「お前はそんな奴じゃないと信じていた!」とか、そういう台詞を言うべきじゃないのか。

しかも高町、何だ矯正するっていうのは、女物の服買っただけでそんな仕打ち受けなきゃならん位に俺の事を変態だと認識したのかお前は!


「とりあえず、後でじっくり語り合おうか2人とも。」

「うっ。」「すまなかった。」

「まぁまぁ、それで?話を戻すけど、どうなの?バイト。」

「原因を作ったのはお前だ!」とツッコミたい。けど、それやると話が進まないしな。自重するか。

「翠屋って喫茶店でバイトしてる。ちなみに高町の両親が経営してる店な。」

「へぇ~そうなんだ。あ、じゃあ今度ノエルと一緒に行ってもいい?」

「何がじゃあなのか分からないけど客として来るんなら別にいいぞ。」

「ホント!?じゃあ近い内に行こうかな。」

「月村さん、店の場所は分かるのか?」

「あははー、大丈夫大丈夫。ノエルに送ってもらうから。」


赤星の問い掛けに笑いながら答える月村。

そういや、ノエルって車の免許持ってたっけか。

「それじゃあ今度藤見君のバイト姿を見に行くとしますかー!」


~回想終了~




ガシッ!


俺はその事を思い出してすぐに月村とその一歩後ろに控えているノエルの手を掴んだ。


「へ?あ、あの、藤見君?」

「藤見様どうかなされましたか?」



そして俺は彼女たちの顔を真っ直ぐに見つめ、


「頼む!今日だけで良いからこの店手伝ってくれ!」


そう、言ったのだった。






「いらっしゃいませ~!」



2人は初めこそ驚いていたものの、事情が分かると2つ返事でOKをくれた。



というか、ノエルの働きっぷりが凄い。

流石は月村のメイドというべきか、行動に1つのミスもない。


月村も、バイトした事ないという割には俺が少し指導しただけですぐに仕事を覚えたしな。


何て言うか、やっぱ廃スペックだな、この2人。


ちなみに、フィアッセさんは人数が増えて余裕ができたためかいつも通りの見てるとこっちまで幸せになるような笑顔を振りまいている。

那美ちゃんは………転ぶのは相変わらずなんだけど、あの笑顔見てると元気になってくる感じだ。

そういや、那美ちゃんってちょっとドジっ子だったよね。今までそんなとこ見たこと無かったから忘れてたよ。

リニスは、桃子さんに頼まれて厨房の方を手伝いに行った。



指導の方は、最初は俺が那美ちゃん、フィアッセさんがリニスに仕事を教えていたのだが、リニスが厨房に行ったので、今は俺が月村、フィアッセさんが那美ちゃんの補助をしている。

まぁ兎に角、これで何とか閉店まで持つだろ。






その後、桃子さんからのメールを見た美由希ちゃんがヘルプに入り、なんとか閉店時間まで持たせられた。






「皆ご苦労様。ゴメンね?まさかこんなにお客さんが来るとは思わなかったから。」

「疲れた~、みんなお疲れ様。」


何かと忙しかった1日が終わり、桃子さんとフィアッセさんが皆に感謝の言葉を告げる。


俺は無理言って手伝って貰った那美ちゃんと月村とノエルに謝罪しなきゃなぁ。


「お疲れ様です先輩。」

「那美ちゃんもね。今日は無理言ってゴメンな。」

「いえ、結構楽しかったですよ?」

「そう?それより大丈夫か?転んだ時に派手におでことか床にぶつけてたけど。」

「大丈夫ですよ。慣れてますから。」


まさか、あそこまで忙しくなるとは思わなかったので、軽い気持ちで誘ってしまったことを後悔していただけに那美ちゃんの言葉は嬉しかった。


「それじゃあ先輩、さようなら。偶にはさざなみ寮にも遊びに来て下さいね?」

「機会が有れば遊びに行かせて貰うよ。」

「クスッ。もう、先輩ったらそればっかりなんですから。いつになったらその機会が来るんですか?」


那美ちゃんはそう言って苦笑した後、さざなみ寮へと帰って行った。



「今日はホント助かったよ月村、ノエルさん。」

「んー、バイトしたの初めてだったし、結構楽しかったからお礼なんて言わなくていいよ?。まぁ…いきなり手を握られたのにはビックリしたけどね。」

「お気になさらず。」

「まぁ、そうそうこんな事はないと思うからまた来てくれると嬉しい。」

「じゃあ今度こそお客さんとして来ようかな。ケーキも美味しそうだったし。」

「その時は私もご一緒して宜しいでしょうか、お嬢様。」


ノエルがその言葉を発した途端、月村が驚いた顔をした。


「何で驚いてるんだ?」

「あ、ノエルってあんまり自分のやりたい事とか言い出さないのよ。だからチョットね。」

「先ほど高町様に頂いたシュークリームを再現してみたいと思いまして。」


そういやヘルプに来てくれた人達に1個ずつ渡してたな桃子さん。

「あぁ!あのシュークリームかー。確かに美味しかったよね。あんなに美味しいの初めて食べたもん。」

「ここの目玉商品だしな。それに、旦那の士郎さんと出会ったのもあのシュークリームが切っ掛けらしい。」

「へー!何かいいなぁ、そういうの。」

「お嬢様、そろそろ帰らないとすずか様とファリンが心配します。」

「あっと、それもそうだね。またね、藤見君。」

「おう、じゃあな月村。」


月村はそう言うと、ノエルと共に車に乗って帰って行った。





月村に別れを告げた俺は、桃子さんたちと話をしているリニスのところに行った。


「おーい!リニ……じゃなかった、凛!そろそろ帰るぞー!」


あぶねー。偽名使ってたの忘れてた。


「はい。それでは桃子さん、フィアッセさんに美由希さんも、さようなら。」

「今度はお客さんとしてきてね?リン。」

「ええ、次に会えるのを楽しみにしてますね、フィアッセ。」



どうもリニスとフィアッセさんは友達になったっぽい。

仲良く笑い合ってるし。



「では帰りましょうか。」

「だな。じゃあ皆さん、さようなら。」




そうして俺たちも自宅への道を歩いて行った。












後書き
体調崩したり、リアルが忙しかったりして中々執筆する時間がとれませんでした。
何とか時間を見つけて書いたのですが、いつにも増してのgdgdっぷり。



[11512] 迷い込んだ男 第十九話 「予期せぬ出会い」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/09/25 21:56
紅く染まっていた木々の葉が散り、空気も肌寒いものとなった冬休み突入初日の事である。

我が家には、かつて無いほど大勢の人が訪れており、ある一つの要因が俺を大いに混乱させていた。



「くぅ~ん。」

「にゃ~。」

「リ、リョウ!こ、この子狐さんすごく可愛いよ!?あぁ!でもでも、リニスも相変わらずかわいいよぉ。」


俺の膝の上に座っている久遠に、俺の肩に乗っかっているリニス、そして俺の左側に座り、その2匹を見て大変興奮なさっておられるフィアッセさん。


それに加え、


「はぅ~くぅちゃ~ん。」

「凌お兄さん。久遠ちゃんに触ってもいいですか?」

「ふわ~。この猫さん可愛いですね、お兄さん。」


いつもの如く久遠の可愛さにやられ、俺の左で指を咥えて、こちらに羨ましそうな視線を送ってくるなのはちゃん。

久しぶりに久遠に会って嬉しかったらしく、なのはちゃんと同じく、俺の方に寄ってきて撫でようとしているアリサちゃん。

やはり猫が好きなのか、フィアッセさんと一緒になってリニスを見つめて、感嘆の声を洩らしているすずかちゃん。


「ホント、可愛いものね。」


そして、俺を混乱に陥れた元凶の声が聞こえた。


徐々に視線をすずかちゃんから逸らし、その声がした右へと移していく。


「あら、どうかしたの?」



「どうかしたの?」じゃないよ。


何で…  何で……


何であなたが家に来てるんですか!


そうして目を向けた先には、月村の叔母であり、とらハ1のヒロインでもある『綺堂 さくら』の姿があった。








                                     第19話「予期せぬ出会い」








先ずは、何故こんなに人が集まったのかを説明しよう。

話は昨日の夕方まで遡る。


「お願いします先輩!久遠の事、2・3日ばかり預かってもらえないでしょうか!?」


久遠と戯れようと思い、神社に向かうと、巫女服姿の那美ちゃんにいきなり頭を下げられた。


「えーっと、どういう事?」

「実は…………」




………☆少女説明中☆………




那美ちゃんの話によると、何でも実家から呼び出しがかかり、家に帰省しなければならないらしい。

本来ならば一緒に連れて行きたいのだが、久遠は理由があって連れて行けないんだとか。

まぁ、久遠は神咲家と因縁深いもんなぁ。

理由と言うのも恐らくはその関係じゃないかと推測してみる。


「あの、お願いできますか?寮の皆さんも色々忙しいみたいで、久遠が懐いてて頼れそうなのはもう先輩しかッ。」


そう言って上目遣いで見つめてくる那美ちゃん。

正直可愛いです。

ま、そんなに必死に頼み込まなくても引き受けるんだけどね。


「ん、オッケ。じゃあ帰ってきたらメールしてくれ。寮まで送り届けるから。」

「え、いいんですか?」

「何を今更。翠屋の一件で世話になったこともあるし、それがなくてもそれくらいの頼み事なら喜んで聞くぞ?」

「あ、ありがとうございますっ。」


那美ちゃんはそう言うと、ペコペコ頭を下げてお礼を言った。


その後はいつもと同じく、俺は久遠と遊んで、那美ちゃんはバイトに勤しんでいた。





そして、那美ちゃんのバイトが終わり、手を振って那美ちゃんと別れた俺は、いつか那美ちゃんを寮に送り届けた時と同じく、久遠にリュックに入って貰い、我が家へとバイクを走らせた。



帰る途中、俺は見慣れた後ろ姿を見つけ、バイクを一旦止めて声をかけた。

「おーい!なのはちゃんにアリサちゃんにすずかちゃーん!」


「ほえ?あっ!おにいちゃん!」

「凌お兄さん!お久しぶりです。」

「え?お兄さん?」


3人とも俺に気が付くとすぐにこちらに向かって走ってきた。


「学校の帰り?それにしては遅い気がするけど。」

「図書館に本を借りに行ってたんです。」

「なのはや私は、すずかについて行っただけですけどね。」

「でも、可愛いネコさんの本もあってすごく楽しかったよっ。」

「あんた、写真だけ見て文章の方は全く読んで無かったじゃない。」


苦笑しつつ、なのはちゃんにツッコミを入れるアリサちゃん。

でもまあ、うん、如何にもなのはちゃんらしいな。やっぱり文系苦手なんだね。

しっかし、そう言えば、すずかちゃんは本が好きなんだっけ。

月村も学校の休み時間は大抵図書室で過ごしてるって言ってたな。

あいつの場合は機械工学とかそういう専門書がメインみたいだけど、すずかちゃんはどうなんだろうか。

俺は何となく気になったので、その事をすずかちゃんに聞いてみた。


「え?どんな本が好きか、ですか?」

「うん。月村は機械系が好きみたいだから、すずかちゃんはどうなのかなーって気になって。」


しばし逡巡した後、恥ずかしそうに小さな声で、

「えっと、れ、恋愛小説です。」

と、真っ赤な顔になりながら答えてくれました。


可愛いなぁ。姉の方とはジャンルが全然違うし。


「そ、そう言うお兄さんはどうなんですか?」

「え、俺?」

「はい!」


まだ若干赤みの残った顔で俺に質問するすずかちゃん。

左右を見ると何故かアリサちゃん、なのはちゃんも興味深々な顔でこっちを見ていた。


けど、ぶっちゃけ本読まないんだよなぁ。

前世じゃ漫画やラノベ読みまくってたけど、この世界だと読む気が起きなかったのだ。

何せ、週刊少年サ○デーが週刊少年サタデーとなっていたり、電○文庫のはずが雷撃文庫だったりと、妙にパチモン臭いネーミングばかりだったから読むのをやめたのである。


ヒョコッ


俺が返答に迷っていると、背中のリュックからいきなり久遠が頭を出した。


その瞬間!なのはちゃんの目が光った(ような気がした)。


「くーちゃん!うぅ、最近会いに行けなくてゴメンね。」

「くぅ~ん」

「あ、あの時の狐ね。えっと…名前は確か、久遠ちゃん!」


リュックから頭だけを出した久遠の可愛さに全員ノックアウトされた模様。

言葉こそ発していないが、すずかちゃんも目をキラキラさせながら久遠を見つめている。


あぁ、和むなぁ、この状況。


「おにいちゃん。いくらくーちゃんが可愛いからってゆーかいはいけないことなの。」


「!?!?」

この光景に和んでいるところに、物凄い事をなのはちゃんに言われた。

「って、凌お兄さんがそんなことする訳無いでしょうがッ!」

アリサちゃんのスナップの利いた良いツッコミがなのはちゃんの頭に決まった。

「あうぅ。何するの、アリサちゃん。」

「でも、何で久遠ちゃんが此処に?」

「那美ちゃんの都合で2・3日ほど家で預かる事になったんだよ。」

「え?でも、大丈夫なんですか?確か、猫も飼ってるんですよね。」


ピクリ

「猫?」

「そ、そうだよ、おにいちゃん。リニスちゃんの事はどうするの?」


ピクピクッ

「リニスちゃん?」


「んー、結構仲良いから大丈夫かなぁ、と。心配なら明日にでも遊びに来る?」


キュピーン! ガシッ


「是非、行きたいです。お兄さん。」


眩いばかりの笑みを可愛らしい顔に浮かべ、すずかちゃんが俺の腕を掴んだ。

よっぽど猫が好きなのだろう。

如何にも「興味深々です」というように目を輝かせている。


そうなると当然、なのはちゃんとアリサちゃんも一緒に来る事になるわけで、一気に来訪者の数が増える事となった。




家に帰り、リニスに久遠の事と明日の事を伝えようと思い、自分の部屋に入ると…………



リニスは猫形態でコタツに入り、丸くなって寝転んでいた。


外は結構寒かったので、俺もコタツに入って冷えた体を温めることにする。


実は最初、初めてコタツを目にしたリニスは、「こんなもので寒さが凌げるんですか?」と、訝しげにしていたのだが、いざコタツに入ってしまうと、あっという間にコタツの魔力に取り憑かれてしまった。

今では、「コタツはいいですねぇ。次元世界広しと言えどこんなに素晴らしいものは他にありません。」などと言う始末である。


(お帰りなさい、凌。今日は少し遅かったんですね。それと、何故久遠ちゃんがいるんですか?)

すでにリュックから出て俺の肩に乗っている久遠を見て疑問に思ったのだろう。念話で不思議そうに尋ねてきた。

(ああ、途中でなのはちゃん達に会ってな。那美ちゃんが、2・3日くらい実家に戻るんだよ。その間だけ久遠を預かることになったんだが、構わないか?)

(はぁぁぁぁ。まぁ、いいですけど。でも、いつも言ってるようにそう言う時は念話で言って下さい。)

(すまん。つい忘れちゃうんだよ。)


「くぅ!」


突然久遠が強く鳴き、俺の頭に跳び乗ってきた。

そして、「くぅ!くぅ!」と鳴きつつ、ポムポムと頭を叩いてくる。

いや、全く痛くないんだけどね?


次に、久遠は叩くのをやめて、今度はリニスの方を見つめている。(久遠としては睨んでるつもり)


うん。リニスと目を合わせて念話をしていたから仲間外れにされたと思ったんだろうな。きっとそれでご機嫌ナナメなんだろう。


とりあえず久遠を頭から降ろし、抱き抱える。


「くぅん♪」


あぁ、癒されるなぁ。

リニスにやるとセクハラのような気がして、なかなか出来ないんだよなぁ。


「りょう~。お父さん遅くなるみたいだから先に食べてましょ。」


そうやってくつろいでいると、下の階から母さんの呼ぶ声が聞こえてきた。


あ、久遠の事どう説明しよう!?

餌とかの問題もあるし、どうしたもんかなぁ。





結論:食卓でさりげなーくその事を伝えると、あっさりOKされました。





問題があっさり解決し、意気揚揚と自分の部屋に戻ると、携帯にメールが来ていた。

見てみるとフィアッセさんからのメールだった。


内容は………『なのはちゃんに可愛い子狐を預かったって聞いたんだけど、明日見に行ってもいいかな?リニスやリンにも会いたいし。』


……………フィアッセさん、あなたもか。


『いつ来ても良いですけど、凛は用事で出かけるらしいんで会えないと思います。』

とりあえず、そう書いて返信する。

暫くすると返事が返ってきた。

『う~ん。リンに会えないのは残念だけど用事なら仕方ないね。』


フィアッセさんだけなら凛として会わせられるんだけどなぁ。

久遠もいるし、猫大好きなすずかちゃんが来るから今回は無理だ。

凛との再会はもう少し待って貰おう。




―翌日―


朝食を食べ終え、なのはちゃん達が来るまでやることが無くなった俺は久遠と共にコタツに入って蜜柑を食べながらテレビを見ていた。


昼になると、リニスは人型になって昼食を作りにいった。


それを食べて、一息入れている内にチャイムが鳴り、俺は玄関まで出迎えに行った。


「こんにちはー!」

「凌お兄さん、お邪魔しますね。」

「ここに来るのも久しぶりだねー。」

「あ、あの、お邪魔します。」


てっきり別々に来ると思っていたので、なのはちゃん達とフィアッセさんが同時に来たのにはちょっと驚いた。

しかし次の瞬間、そんなものは驚きの内に入らないのだと教わることとなった。


「こんにちは。初めまして、綺堂さくらです。」


そう言ったのは、一番後に家に入ってきた桃色の髪をした女性だった。

そして、その名前を聞いた途端、俺の思考はパニックに陥った。


『綺堂 さくら』?

え?

何で?

Why?

何でこの人が家に来るんですかーーー?!




そして、冒頭のシーンに戻る訳である。




俺はさくらさんに目を向け、最も疑問に思っていることを聞いた。

「あの、何で家に?」

「あの子の命を助けてくれて、友達になってくれた君にお礼が言いたかったからよ。」


あの子、って言うのは月村の事だろう。

けど、それにしたって……


「それにしては遅いんじゃないですか?月村を助けたのは夏ですよ?」

「ゴメンなさい。色々と忙しくてね。あの子に友達ができたことも、つい最近知ったのよ。」


そう言えば、さくらさんは原作だと大学院生になるんだっけ。

ならそれが理由か?


「それにしても………随分あなたに懐いてるのね、この仔たち。」


そう言ってさくらさんはリニスを撫でる。

久遠も撫でようとしたが、こちらは体をビクッと強張らせ、「くぅ!?」と鳴いてなのはちゃんの方に逃げて行ってしまった。


「残念、逃げられちゃったわね。」

「何せ人見知りが激しいですからね。」

少し寂しそうに言うさくらさん。

何気にこの人も動物大好きな人だったっけ。



その後、流石にずっと久遠たちと戯れていると、久遠やリニスの方がへばってしまうため、人生ゲームやオセロなどのボードゲームをしつつ、日が沈み始め、景色が夕焼け色に染まるまで楽しい時を過ごした。



「今日は楽しかったよー!ありがとね、リョウ。」

「送って行きましょうか?万が一、と言う事もありますし。」

「いえ、今日はみんな車で来ましたから大丈夫です。」

「そっか、ならいいけど。」

「はい。あっ、丁度来たみたいですね。それじゃあ凌お兄さん、さようなら。」

「おにいちゃんバイバーイ!くぅちゃんもまた遊ぼうねー!」

「今日はありがとうございました、お兄さん。リニスちゃん、可愛かったです。」


そう言って皆それぞれの車に向かって走っていった。ってあれ?


「あの、さくらさんはノエルさんの車に乗らないんですか?」

「えぇ、私は電車で来たから。それに、駅までは此処から歩いて行ける距離だもの。わざわざ車で送って貰うまでも無いわ。」


そして、さくらさんは俺に顔を近づけ、耳元で「話したい事があるの、一緒に来て。」と、感情の感じられない声で囁いた。





それから数分後、俺たちは小さな公園にやって来ていた。

今はベンチに腰掛け、さくらさんが話しだすのを待っている状態だ。


公園に着いてから何分の間沈黙の時間が続いただろう。

お互い何も話さず、ただ風で草のなびく音と時々通り過ぎる車の走る音だけが聞こえてくる。


もう太陽がほとんど沈み、本格的に暗くなってきた頃、遂にさくらさんは話を始めた。


「率直に言います。忍たちを助け、その後も友好関係を持ち続けるなら、あなたは月村の遺産を狙う私たちの親族に命を狙われることになるわ。」


彼女の口から飛び出してきたのはそんな言葉だった。


「私は忍にもすずかにも人として幸せになって欲しいと思ってる。忍に友達が出来たと知ったは素直に嬉しかったわ。けれど、それが不安でもあるのよ。」


月村の両親が残した遺産を巡る争いに巻き込まれる……か。


「調べたところ、あなたは武術も何も習っていない、ただの喧嘩慣れしているだけの普通の高校生だもの。放たれた刺客を退ける事なんて到底出来ないでしょう。」


だけど、さくらさん。そんな事は………


「だから忍やすずかとは…「お断りします。」え・・・・?」



そんな事はとっくの昔に……あの夏、月村忍と月村すずかを助け、友達になったその時から覚悟なんてできている。

さくらさんの言葉を遮り、否定の言葉を口にする。



「俺はあいつの友達をやめるつもりなんて一切ありません。」

「話を聞いていなかったの!命を狙われるのよ!」

以前の俺なら、そんな死亡フラグごめんだ。とばかりにサッサと手を引いただろう。

けどリニスと出会い、アギトに覚醒したことで力を得た。

「死ぬ気なんて毛頭ありません!それに、例え何が有ったとしても友達やめるなんてことはあり得ません!」


俺の言葉を聞いた後、さくらさんは顔を伏せ、

「ふふ、」

朗らかに笑った。


…………………


あれー?何か予想外の反応なんですけどー。

「えっと…」

「ゴメンなさい。忍とすずかからあなたの話を聞いてね。どんな人なのか試してみたの。」


その時の俺は口をあんぐり開けてさぞかし可笑しな顔になっていたことだろう。

まさかさっきのが全部芝居だったなんて、綺堂さくら……恐ろしい人だ。


「ふふっ、けど2人の言うとおりの人ね、藤見君って。」

「はい?」

「ううん。何でもないわ。それじゃあ、私もそろそろ帰るわね。」

「あ、駅まで送りましょうか?」

「すぐそこだもの、大丈夫よ。それより家に帰った方がいいんじゃない?久遠ちゃん達が待ってるでしょ。」

「あ、やべっ。母さん達今日は帰るの遅くなるんだった。」

「それじゃあ藤見君。忍とすずかの事、これからもよろしくね?」

「もちろんです。それじゃ、さようなら。」


そう言ってリニスに念話で遅くなったことを謝りながら、家までの道のりを走った。




(おまけ)
「完せーい!」

周りに機械の部品が散乱している一室に月村家の主、月村忍は立っていた。

「苦節2年。ついに、ついに、完成したよ~!」

彼女の視線の先にあるのは機械でできた服が3着並んでおり、その服の前にはそれぞれ頭部を覆う仮面が置いてあった。


「色々と問題はあるけど、とりあえず形にはなってよかった。」



そう言ってから、彼女は近くに有った椅子に腰かけ、数秒後には夢の世界へと旅立っていった。









後書き
ちびっこ三人組と獣っ娘無双の予定だったのにさくらさん無双になってしまいました。何処で間違えたんだろうか。
とりあえずこれで風芽丘学園2年生編は終了です。
次からはようやくAGITΩ+とらハ編。展開遅くてすみません。



[11512] 迷い込んだ男 閑話 
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/09/25 21:50
地上の光が一切届かない地面の下

地下に位置するその場所には

人工の光に照らされている広大な空間が広がっていた

そこには機械的な装甲に身を包んだ3人の姿が有った


「これより、Gシリーズの最終テストを行います。各自構えて下さい。」


そして、それを観察する1人の人間の姿もそこには有った。


声が空間に響き渡ると同時に3人は動いた。


燃え盛るような赤い装甲に金色の角を持つ一人がファイティングポーズを取る。


深い闇のような漆黒の装甲、片手に鈍い銀色の光を放つブレードを握るもう一人は体勢を低く落とし、ブレードを握る手に力を籠める。


最後の一人は青色の装甲に身を包み、右手に銃を握り、左手をそれに添えたまま唯々前を見続ける。



「最終テスト開始!!」








閑話その1「Gの鼓動」








ビーーーーーーーーーー


ブザーが鳴ると同時に何も無かった筈の壁に穴があき、鋼鉄の砲弾が次々と飛び出してくる。



ドカン ドカン ドカン


キン キン キン


バァン バァン バァン


次々と壁から放たれる砲弾を次々と破壊していく3人。


時には避け、受け流し、受け止め、様々な動作を正確にこなしていく。



「ハァッ!」

己の拳で次々と砲弾を粉々に破砕する赤い装甲の装着者。


「フッ!」

手に持つ刃でその全てを真っ二つに切り裂く黒い装甲の装着者。


「…………………」

高速で撃ち出される砲弾を正確無比の射撃で破壊し尽くす青い装甲の装着者。



ビーーーーーーーーーー



「テスト終了!3人とも戻ってきて!」


ブザーが鳴り響き、3人の装着者たちは顔に手を当て、顔を覆っていた頭部ユニットを外した。



そこには、何れも劣らぬ美しい女たちの顔があった。




演習場から出た彼女らを出迎えたのは3つのGの開発者である月村忍だった。


「ゴメンねー、何度も何度も付き合わせて。でもこれで一応完成だから。」


彼女たちが着ている『対未確認生命体用強化服(通称Gシリーズ)』を脱がしながら謝る忍。


「気にしないで、忍。元々これを作って欲しいって依頼したのは私なんだから。」

そう言って纏めていた後ろ髪を解きながら、G1の装着者である綺堂さくらは、机に置いてあったワインを手に取った。



「お気遣いは無用です、忍お嬢様。しかし……私は大丈夫なのですが、ファリンは……」

「ふぇぇぇぇぇん、ここここここ怖かったです~~~?!」

「う~ん、何でG3を装着してる時は平気なのに脱いだらこうなるのかしらね~。」


ファリンはペタリと地面にへたり込んで涙を流しており、ノエルはそんなファリンを慰めつつ忍に対して言葉を述べる。


実際、何度も同じような事をやって来たのだ。その中には今回よりもはるかに難しい内容のテストだって少なからずあった。

にも拘らず、G3を装着している時は淡々と恐怖心の欠片も無く作業するというのに一度脱いでしまえばこのようになってしまうのがファリンであった。

この辺りはファリンを創った忍でさえサッパリ分からない。



「とにかく、これでGシリーズは完成したのね。」

「まだ、最終調整が残ってるけどね。でも、それもすぐに済むし、もうほとんど完成したも同然。」

「そう、なら良かったわ。」

さくらはそう言ってワインを優雅に飲みながら自分の装着していたG-1に視線を向ける。



「それにしても驚いたなぁ。2年前にいきなり資料渡されて、『あなたの技術で何とか再現できないかしら。』なんて言ってくるんだもん。」

「あら、資料に目を通してすぐに『うん!やるやる!うーん、漲ってキター!』って叫んだのは誰だったかしらねー?」

「うっ!あ、あははー。い、いいじゃない!こうゆうの作るのは私の夢だったんだから。」

「ふぅ、いいけどね。それより、ファリン?そろそろ泣き止みなさい。ノエルが困ってるでしょ。」

「ふぇぇぇ。さくら様ぁ、すみませ~ん。」


事の始まりを思い出し自然と笑顔になる忍。

忍をからかいつつ、ファリンを泣き止ませるさくら。

涙声でさくらに謝るファリン。

その様子を微笑ましげに見つめるノエル。





こうしてGシリーズは完成したのだった。











閑話その2「久遠の1日」








あさ くおん おきる りょう となり ねてる


くおん ほっぺた なめる りょう おきない


はな なめる りょう うごいた


みみ なめる りょう こっちむいた うれしい


すりよって りょうのかた たたく


りょう ねぼける くおん だきしめた しあわせ


だっこ きもちいい あったかい ぽかぽか 


においかぐ いいにおい すき


くおん ねむくなった りょう いっしょ ねる



ジリリリリリ ジリリリリリ ジリリリリリリリ



おおきいおと くおん おきた となり りょう おきた


りょう くおん だきあげる うれしい


くおん りょう いっしょ りにす いっしょ ごはん たべた おいしい


りにす りょう かた のった ずるい くおん もやもや


くおん あたま のる たかい ふさふさ きもちいい


りょう おべんきょう くおん ひざ りにす あたま のる


りょう べんきょう おわった 


りょう くおん あそぶ りにす いっしょ ごろごろ もやもや


おひる くおん おあげ りょう ごはん おいしい 


りにす いなくなった した おさら かちゃかちゃ くおん りょう いっしょ ふしぎ


りにす もどってきた ひざ のる りょう りにす なでる もやもや


くおん りょう あたま たたく ぽふぽふ 


くおん にらむ りにす じーー


りょう あたま なでた うれしい


こたつ ぬくぬく りょう ぽかぽか しあわせ


りょう りにす みかん たべさせる  ちくちく


くおん りょう て たたく りょう わらう


りょう みかん さしだす くおん たべる ゆび くわえた おいしい なめる


りょう おどろく ゆび ひっこめる くおん かなしい


りょう あやまる みかん さしだす くおん びくびく ゆび くわえた りょう えがお あんしん


りょう りにす みつめあう  ちくちく


くおん りょう かお なめる 


りにす こっち みる くおん まけない


おそと まっくら おへや あかるい



「りょう~、御飯よ~。」



りょうのおかあさん きのう あった やさしい


よる くおん ごはん たべた りょうのおかあさん ひざのうえ


りょう びっくり りょうのおかあさん えがお おちつく


りょう べんきょう くおん みはり たのまれた りょう ねたら おこす


りょう ねむった りょう いたいほうがいい いった つめ たてる 


くび あてる ち でた りょう おきた いたそう ごめんなさい


くおん あやまる りょう わらう あたま なでる ゆるしてくれた?


りょう べんきょう おわる くおん あそぶ りにす いっしょ あそぶ


くおん ねむくなった りょう いっしょ ねる りにす いっしょ ねる


くおん りょうのむね のる あったかい ぽかぽか


あした なみ かえってくる たのしみ 


あした りょう わかれる かなしい


くおん なみ すき


くおん りょう すき





くおん なみ りょう りょうほう すき








後書き

短いのは勘弁して下さい。
何だか無性に久遠が書きたくてやった。
こんな感じで良いんでしょうか、久遠の思考って。
その1のGシリーズ装着者は装甲脱いでから着替えてないのでインナースーツで会話してます。想像したらすごくエロかった。
時系列は、その1が春休み終了間際。その2が19話の次の日。
次から突入するとか言っといてこんなの書いてごめんなさい。



[11512] 迷い込んだ男 第二十話 「始まり」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/10/06 16:22
「傀儡兵の数は何とか基準値に達しそうね。後は庭園の結界強化とフェイトの訓練ね」


時の庭園、自らの研究室でプレシア・テスタロッサは情報端末を弄り回していた。

空中に浮かぶモニターには様々な情報が乱舞している。


「あぁ、アリシア。もうすぐよ、もうすぐあなたを生き返らせてあげる。」


生体ポットに入った金髪の幼女を眺めながらプレシアは巨大モニターにとある文献を映し出す。


「幻の古代都市アルハザード、必ず辿り着いてみせるわ。最後まで諦めたりするものですか。」


ビーーッ ビーーッ ビーーッ


突然、時の庭園に備え付けられている警戒警報が鳴り響き、プレシアの目の前に1つのモニターが表示される。

『何らかの物体の衝突』

モニターにはそう表示されていた。







  
                                       第二十話「始まり」








「うぁ~、今日は疲れたなー。」


日が沈み、辺りが闇夜に包まれ、月明かりのみが照らす並木道を一人の男が歩いている。


そして暗闇の中、木の陰から男を見つめる金色の瞳。


男はそれに気付かず、己の家への道を歩き続ける。


グルルルルル


そいつは、荒々しく獣のような声を上げ、頭に天使の輪のような円盤状の発行体を出現させて、胸元で謎のサインを切った。


グァウ!!


木陰から飛び出し、月の光に照らされたその姿は人のものでは無かった。


「ん? ひ、ひぃぃぃぃぃいぃ!」


グルルルルルル


「た、助けて!や、ヤメロ!やめてくれぇ!」


異形のモノは男の顔を凄まじい力で掴み、木の洞に詰め込んで絶命させようとする。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


それが、男の最後の言葉となった。


異形は男の死を見届けると、暗闇へ溶ける様に消えていった。








季節は巡り、春。

俺たちはそれぞれ進級し、1学年上の3年生になっていた。

高町たちとクラスが別れてしまうんじゃないかと危惧していたのだが、そんな事も無く今年もめでたく同じクラスになる事となった。

入学当初はまだまだ先の話だと思っていた将来の事も現実感を増し、今年は例年以上に忙しくなりそうだ。





「ところでさぁ、お前ら今日のニュース見たか?」


昼休み、4人で集まり雑談をしていると、赤星が朝のニュースの事を聞いてきた。

それにしても珍しいな、俺の記憶じゃ今まで一度もこいつの方からニュースの話題を振って来たことなんて無かったぞ。


「いや、見てないな。今日はいつも以上に訓練に身が入ってな、そんな暇なかった。」


高町は例によって例の如く士郎さん、美由希ちゃんと一緒に修行してたらしい。

本当は2、30分の予定だったらしいが、なのはちゃんの制止も聞かず更に10分ほど延長したそうだ。


「ふわぁぁ。私も見てないなー。昨日徹夜だったから眠くて眠くて。」


月村に関しては知らないが、機械とか作るのに熱中し過ぎて徹夜になったんだろう。

俺としては始業式前日くらい自重しろと言いたい。まぁ、かく言う俺も……


「同じく。本鈴ギリギリに登校してきた俺にそんな余裕があるとでも?」


完全に寝過して危うく始業式に遅刻しそうになったのだが。

え?人の事言えないだろって?だって考えても見ろ、リニスとの訓練で電撃喰らいまくって心身ともに疲れ切ってるんだぞ?起きれると思うか?


「お前ら……ニュースくらい見とけよ。」


予想外の返答に呆れる赤星。

いや、いつもは見てるんですよ?とばかりに顔を見合わせる俺と高町に月村。

赤星は、「はぁぁぁ。」と溜息をついた後、今朝のニュースの事を話し始めた。


「何か、この辺で殺人事件が起こったらしい。」

「え、マジかよ。物騒だな。」

「知らなかったな。本当なのか?それ。」

「犯人は?捕まったの?」

「いや、それが妙なんだよ。犯人とかそう言う以前に、その男……木に埋め込まれて殺されたんだって。」

「なっ!?」


お、おいおい。その奇妙な殺され方、もしかして………


「木に埋め込む?そんな事が出来るのか?」

「普通は無理だろうな。体の半分以上が木に飲み込まれてたらしい。」

「何それ!?そんなの有り得ないじゃない!」

「だから妙なんだよ、人間にできる事じゃない。やろうとしてもそんな死に方出来ない筈なんだ。」


3人の会話はほとんど耳に入ってこなかった。ただ、前々から危惧していた事がついに現実になったかも知れないという考えが俺の頭の大半を占めていた。


「!?」


突如、妙な感覚が俺を襲った。

そして、俺は1人の男性がアンノウンに襲われる様子を見た。

「どうした?藤見。突然頭なんか押さえて。」

「藤見君、頭でも痛いの?」

「藤見、具合が悪いのなら保健室に行ったらどうだ?」

「いや、大丈夫。ちょっと眩暈がしただけだから。」


やっぱり…間違いない!これはアンノウンの仕業だ。







そして、それと時を同じくして、とある会社の近くにある公園では、新たな犠牲者が増えていた。









その公園に数台のパトカーと共に現場に急行したリスティ・槇原は、昨日起こった殺人と全く同じ手口の犯行に遭遇することになった。


「また木に埋められて殺されてる。しかも、被害者はこの間殺された佐々木洋介の父親…か」


木の洞から手がはみ出している死体を見上げ、火のついた煙草を片手に呟くリスティ。


「ふぅ~。この事件、今のところHGS能力者の仕業としか思えないなぁ。」


煙草を咥え、白い煙を吐き出しながら犯人について思いを馳せる。

普通の人ならば決して起こす事のできない現象。超能力などの力によって引き起こされたと言うのが最も適した考えだろう。

犯人が何を思ってこんな殺害の仕方をしたのかは全くの謎だが、単独犯なら相当の手垂れだろうと推測できる。

現在、海鳴に住むHGS能力者の中で唯一1人でテレポートが使用できるのは、ここに居るリスティ・槇原を置いて他に居ないのだ。

そして、ことHGSの能力に関して、リスティを超えるものは皆無と言っていい。

こんな事が実行できるのは転送系に特化した能力者か、リスティと同等の力をもった者以外に存在しない。

リスティは、再び煙を吐き出すと、携帯灰皿に煙草を突っ込み、被害者である佐々木信彦の家へと入って行った。




「佐々木さん、何でもいいんです。ご主人と息子さんについて生前、何か変わったことはありませんでしたか。」

「……………」

「佐々木さん!」

「うぅ、す、すいません。」


何か手掛かりは無いかと、リスティが少し強い口調で問い詰めると、典子は涙を流し、嗚咽を漏らし始めた。


「ごめんなさい。何か思い出したらここに連絡を下さい。」


自分の夫と息子を一遍に亡くしたのだ、悲しくないはずがない。

リスティは己の浅慮を悔いて謝り、仕事用の携帯の番号をメモ用紙に書いて机に置いて、静かにその家を出た。


「(はぁ、結局手掛かりは無し…かぁ。)」


それほど期待していた訳ではないが、予想通りの現実に落胆しつつ、リスティはパトカーに乗り込んだのだった。








(凌side.)


その日の放課後、俺は翠屋に向けてバイクを走らせながらただ1つの事を考えていた。

もちろん、アンノウンの事だ。

昼間はいきなりで混乱していた事もあって、アンノウンの殺人行為を止める事が出来なかった。

それに正直、まだアンノウンと戦う覚悟が決まらない。

AGITΩの力が無ければ、俺はさくらさんに言われたように、喧嘩慣れしているだけの学生に過ぎない。

あいつ等の狙いはAGITΩの力を持っている人間だ。不意を突かれ、変身する間も無く首を圧し折られたり、それでなくてもあんなデタラメな力で殴られれば死に至る。

考えれば考える程、悪い方へと思考は流れて行った。


そんな事を考えている内に、俺は翠屋の前にバイクを停めていた。

鬱々とした気分のまま店内に入り、バイトをすることで少しでも気を紛らわそうとした。


「こんにちは。」

「やぁ、いらっしゃい。」


出迎えてくれたのは桃子さんでも、フィアッセさんでも、大量のお客さんでもなく、士郎さんだった。


「士郎さん…だけですか?」

「ああ、桃子の大学時代の友人の夫と息子が殺されたらしくてね。昼過ぎにその人のところへ出掛けて行ったよ。」

「他の皆さんは、どうしたんですか?」

「桃子も居ないし、今日は休みにする事にしたんだよ。目玉商品のシュークリームは桃子じゃないと作れないしね。凌君にも連絡入れたんだけど出なくてね。仕方ないから恭也に伝えて貰おうと思ったんだけどね。あいつ携帯を家に置きっぱなしでな、それで俺が残って君がここに来たら伝えようと思って待っていたんだ。」

「はぁ、そうなんですか。それじゃあ仕方ないんで帰ります。」


働いて気を紛らわせられないのは残念だが、そんな事情があるんなら仕方ない。

俺は家に帰ろうと踵を返し、ドアのノブを握った。


「まぁまぁ。そう急がなくても良いじゃないか。偶には話でもしないかい?こんな機会滅多にないだろう。」

「………男2人で…ですか?」

「そうそう、男2人で…だよ。」


まぁ…気晴らしにはなるかな。

そう思い、俺は再び士郎さんに向き直り、カウンターに座ってコーヒーを淹れている士郎さんの隣に腰かけた。


「それで…何の話をするんですか?」

「んー、何の話をしようか。」

ズルッ

「あなたが話でもしようって言ったんじゃないですか!」

「はっはっは、一々そんな事を気にしていてはダメだぞ凌君。」

「あなたねぇ…」

「ふぅむ。しかし、これでは話が進まないなぁ。どれ、じゃあ俺と桃子の馴れ初めでも話そうか。そう、あれは俺がまだボディーガードの仕事をしていた時だった……」

「それだけは勘弁して下さい!!」


そんなもん語らせ始めた日には馴れ初めどころか新婚生活、果ては今日に至る全ての惚気話を聞かされることになる!


「そうか?残念だなぁ。」


はぁ、何処まで本気なんだこの人は。


「じゃあ、君が今何を悩んでいるのか…で、どうだい?」

「!?な、何でそんな事。」


まさか勘付かれるとは思って無かった。多少態度はおかしかったかも知れないが、できるだけいつも通りを心掛けてたのに。

引退したとは言え、流石は御神の剣士って事なのだろうか。


「顔と態度を見れば分かるよ。その程度の事はね。」

「そう…ですか。」

「何を悩んでるのかは知らない。聞いても教えてくれないだろうしね。」

「それは…まぁ。」

「だろう?だから、君が思ったように行動すればいい。その悩みに立ち向かうも逃げるのも君の自由だ。」

「その結果がどんなものになっても、ですか?」

「そうだなぁ、君自身に悔いが残らない選択をすればいいと思うよ。」


俺は家族みんなに散々心配掛けて後悔したからね。と、そう言って士郎さんはコーヒーを飲んだ。






(リスティside.)
夜、ようやく仕事が終わったボクは煙草を片手に耕介に電話を掛けていた。


「ふー、もう少ししたら帰れると思う。晩御飯の時間には間に合うと思うから。うん、みんなにもそう伝えて――――」


煙草を吹かせながら携帯で耕介に電話をかけ、いつ頃帰れるのかを伝えていると…

Prrrrrr prrrrrrr prrrrrrrr

仕事用の携帯が鳴り始めた。


「ゴメン耕介、ちょっと待ってて。」


リスティはそう言うと耕介との通話を一旦打ち切り、その電話に出た。


「はい、リスティですけど。」

「あっ、佐々木です。実は…お渡ししたい物があるんです。主人と息子が殺された事に関係があるのかは分からないんですけど。」

「分かりました。すぐそちらに伺います。」

「はい、場所は―――」




息子が殺された並木道、佐々木典子はリスティを待っていた。

まだ春になったばかりで肌寒く、吐き出す息も微かに白い。

そこに、それを見つめる影がいた。

頭に光の輪を出現させ、以前と同じように謎のサインを切ったそいつは、典子の背後に忍び寄り両手で顔を掴むと凄まじい怪力で締め付け始めた。





「!?」


士郎との話を終え、家への道をバイクで疾走していると、昼間と同じ感覚が凌を襲った。

キキィィィ

バイクを一旦止め、どうするべきか迷った凌はしばらくの間動きを止めたが、再びそのままの道を走り始めた。




「おかしいな、確かここで待ち合わせの筈なんだけど。」


あの後、すぐに待ち合わせ場所へ向かったリスティは一向に姿の見えない典子を探して辺りを見渡していた。


「(ここへの距離は佐々木さんの方が近い筈なんだけどなぁ。)」


キョロキョロと視線を動かし、人影を見つけようとする。すると…


「ん?なッ!?これは!」


リスティの視線の先には、木の洞から手をはみ出させた佐々木典子の死体があった。


「ッ佐々木さん!」


リスティは急いでその木に駆けつけるが、妙な気配を感じて立ち止まる。

懐から拳銃を取り出し後ろを振り返る。

そこには人の姿など形も無く、代わりに豹のような外見の怪物が佇んでいた。


「お、お前がやったのか!」


その外見に恐れを抱きながらも問い詰めるリスティ。だが、当然答えなど返って来る訳がなく、怪物は凄い速さで此方に向かってきた。


持っていた拳銃を即座に構え、怪物に向かって発砲する。


「チィッ!」


本当なら寸分のズレなく叩き込まれていたであろう銃弾は怪物に当たる前に砕け散った。

リスティは舌打ちをして、背中にリアーフィン『トライウィングス・オリジナル』を展開させ力を溜める。

「(拳銃が使えないのならっ!ギリギリまで近づいて来たところに全力の『サンダーブレイク』をブチ込んで一撃で仕留めてやる!)」


グルルルルルル


そして、そいつが走ってきた勢いをそのままにしてリスティに手を伸ばした瞬間、彼女は溜めていた力を一気に開放した。

眩いばかりの雷光が辺りを包み、リアーフィンが高速で振動する。背中からは陽炎が立ち上り、余剰熱を吐き出している。


「サンダー………ブレイクッ!!」


その言葉を告げた瞬間、世界は漆黒の闇から金色の光へと塗り替えられた。

轟音が響き、リスティの放った雷は先程の銃弾とは違って確実に謎の怪物に直撃した。

ブスブスと黒い煙が上がり、怪物の姿を覆っている。

しかし、あれだけの攻撃を受けたのだ、立ち上がれはしないだろうとリスティは考える。

しかし――――


「ガッ!!」


黒煙が立ち上るその場所から、怪物は今まで以上の速度でリスティに肉薄してきた。

そして、その手は彼女の首を掴んで、そのまま体を宙に持ち上げた。

「バカ……な。あれを、喰らって…まだ動け………ぐあぁぁぁぁ!」


体中から黒煙を上げながらも尚、怪物は余力を残していた。

苦し紛れに光弾を放つが全く効いていない。

依然として締め付けられる自身の首、そして遠のく意識。


「(ここまで…なのか。ゴメン耕介、愛、みんな。)」


リスティが生を諦めようとしたその時、彼女を締め付けていた怪物の手が唐突に緩んだ。


「(何で……けど、チャンスは今しかない!)」


最後の力を振り絞って光弾を怪物の顔面にぶつけ、その手から逃れるリスティ。


「ゴホッゴホッ!」

締め付けられていた首を擦りながら怪物を見上げる。

怪物はある一点を見つめていた。

その視線の先にいたのは…真紅の瞳と黄金の角を持つ異形のモノだった。


―…A…G…I…T…Ω…―


目の前の怪物はそう言って、『AGITΩ』と呼ばれた存在に襲い掛かって行った。



怪物はAGITΩに跳び掛かり、その桁外れな怪力によって相手を薙ぎ倒さんと腕を振るう。

しかし、素早い動作でそれを回避するAGITΩ。

リスティのサンダーブレイクによるダメージもあるのだろう。

持ち前の俊敏さはもはや見る影もなく、ただ力任せに腕を振るっているようにしか見えない。

AGITΩは、左から振るわれた腕を払い除け、右から来る拳を回転することで避け、肘鉄を怪物の腹部に叩き込む。

背後に回り込んで右手を振り上げた怪物の顎に、掌底を喰らわせ怯ませる。

一方的だった。怪物の攻撃は一度たりともAGITΩに当たらず、逆にカウンターによってダメージを負っていく。

直後、攻撃の機会を見計らうつもりなのか、怪物は距離を取ってAGITΩと睨み合う。



先に動いたのは、やはり怪物の方だった。

再びAGITΩに跳び掛かり、その腕を振り下ろす。

しかし、AGITΩはその腕を引っ掴み、遠心力を利用して投げ飛ばしてしまう。

そして、AGITΩの頭部に有った2本の角が展開し、6本角へと変化した。

足元に何かの紋章を象った巨大なエネルギーを出現させ、両手を大きく左右に広げ、左足を引き摺るようにして後ろに下げる。

足と同時に左腕を腰に持って行き、右腕は体の正面で折り曲げる。紋章は徐々に足に吸い込まれていき、やがて消えてしまった。

怪物は、アレを受ければ死ぬ事を本能によって理解したのか、今迄で最高の速度でAGITΩに迫る。

だが、AGITΩはそれよりも早く空中へと跳び上がり、迫ってくる怪物の胸に飛び蹴りを放った。


グアアアアアァァァァァ!!!


怪物は大きく吹き飛ばされ、よろよろとしながらも立ち上がる素振りを見せる。

AGITΩはしかし、すでに怪物の方など見てはいなかった。

怪物が立ち上がり掛けたその時、頭に光の輪が現れ唐突に苦しみ出したのだった。


ウウウゥゥゥアアアアァァァァ!!


叫び声と共に怪物は爆散し、その場には、しゃがみ込んで呆然とAGITΩを見上げるリスティと、彼女に背を向けたAGITΩだけが残された。

数瞬後、AGITΩは此処に用は無いとばかりに悠然と去って行った。

リスティはそれをボーっと見ていただけだった。







(凌side.)


ジャガーロードを倒した凌は、AGITΩから人間の姿に戻り、家に向かってバイクを走らせていた。


アンノウンの存在を感知した俺は、そのままバイクを走らせ自分の家では無くアンノウンのいるところへ向かった。

士郎さんの言葉を聞いて気が付いた。

俺がAGITΩの力を手に入れてリニスに訓練を頼んだ切っ掛けは、大切な人を守りたいからだ。

その事に、魔導師連中や守護騎士たち、イカれたマッドに腐った脳味噌共そして、アンノウンなんて、相手の事など関係なかった。

俺の守りたい奴に手を出す奴は何であろうと叩きのめす。

もう俺は迷わない。この力でアンノウンから皆を守ってやる!


そう固く決心した凌はこれから待ち受けるであろうリニスの説教についての覚悟を決め始めた。








【おまけ】


(さくらside.) 


一方その頃、さくらは机に置いた湯気が出ているコーヒーに砂糖とミルクを加えながら、古代に存在したとされる伝説の戦士「クウガ」の文献を読み漁っていた。

それらの資料は全て、大学院の仲間たちから送られて来た物である。


「はぁ。やっぱり、時代が時代なだけに曖昧な事ばかりね。『赤』以外の形態は存在こそ示唆されているものの、詳しい事は何処にも書かれていないし。」


そもそも、古代文字を解読するだけでも相当の時間が掛かるのだ。

さくらの仲間たちの話では、遺跡に記されていた内容の5分の1も解読し終えていないそうだが、全て解読できるのにどれだけの時間を有するのかは想像がつかない。


そうして一通り資料を読み終えると…


「はぁぁ。この後は政府のお偉方との交渉もあるし、問題が山積みでホント頭が痛いわ。」


そう言って、さくらは机の上に長い間放置され、すっかり冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干したのだった。








後書き

最初に一言謝ります。

G3出せなくてすいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

最初は出す予定だったんですけど途中で挫折。急遽リスティさんに出張って貰いました。けど、口調が分からNEEEEEEEE!!
失礼、取り乱しました。何度も言ってるように記憶が曖昧なんで細かいところはもちろん重要な事ですらうっかりしていると抜け落ちてる始末。なので口調などがおかしければご指摘下さい。最優先で修正します。



[11512] 迷い込んだ男 第二十一話 「青の嵐、2つのG」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/10/11 22:44
「槙原君、謎の生物と遭遇したというのは本当かね?」


海鳴警察署の会議室、そこではリスティと警察署の幹部である3人の男が対面していた。


「私たちは君の功績を高く評価している。だが……」

「何の証拠も無い現状ではそれを信じる訳にもいかない。」

「ボクが嘘を吐いていると仰るんですか!?」


バァン!と机を叩き立ち上がるリスティ。


「ふぅ、落ち着きたまえ。誰もそんな事は言っていない。」


幹部の内の1人が、興奮して冷静さを若干欠いているリスティを宥め、椅子に座るように促す。


「しかし、君の言っていることが本当なら早急に対策を取らねばならないな。」

「まさか君の全力の攻撃でも仕留められない存在が現れるなんて…信じられんな。」

「それから……コレ。最終的に未確認生命体を倒したという『AGITΩ』と言う生物だが、何なのかね。」


1人の幹部がリスティの提出した報告書の、ある一点を指差してそう言った。


「それは……分かりません。ボクが遭遇した未確認生命体がソイツの事をそう呼んでいたんです。」

「むぅ、こちらも正体不明か。分かっているのは名前だけで、未確認生命体との関連も、人類の敵かどうかも分からん。」

「未確認生命体の方に関しては全く情報が無い。目的は何なのか、何故あのような殺し方をするのか、仲間はいるのか、何処から現れるのか。その全てがまるで分かっていない。」

「まさに未確認……いや、アンノウンと言ったところか。」


幹部たちはそう言って締め括り、リスティは静かに会議室から退室して行った。








                                 第二十一話「青の嵐、2つのG」








翌日、俺は現在3時限目英語の授業を受けている、のだが…


「藤見君、藤見君、当てられてるよ?」

「あ~?」


俺は完全に眠ってしまっていた。それこそ、月村に揺さ振られていても完全に覚醒しない程に。


「もうっ、藤見君!」

「うぐっ!」


直後、後頭部に鋭い痛みが奔る。

後ろを見ると、いつまでも起きない俺に業を煮やしたのか、月村がチョップの構えをして此方をジト目で睨んでいた。


「目が覚めた?」

「おかげさまで。」

「じゃあサッサと前向いた方が良いと思うよ?」

「え?」


そう言って前を向くと……


「俺の授業で寝るとは良い度胸だ。」


鬼がいた。




「痛って~。」


拳骨喰らいました。凄い痛い。


「珍しいね、藤見君が授業中寝ちゃうなんて。」

「昨日寝たの遅かったから眠いんだよ。」

「何時に寝たんだよ。」

「確か4時頃だったと思う。」

「…遅すぎないか?」

「俺だって好きで夜更かしした訳じゃない。」


昨夜、家に帰った俺を待っていたのは案の定、怒り心頭のリニスだった。

まぁ、その後説教されて、アンノウンの事やこれからの事を話し合って、気が付いたら4時だった。

それからすぐに寝た訳なんだが、よく考えてみれば徹夜した方がまだマシだったかも知れないな。


「大丈夫?目がショボショボしてるけど。」

「眠い。」

「次は現国か。寝てるのバレたら五月蠅いぞ?」

「…保健室に行ったらどうだ?」

「あ~、動きたくない。悪い月村、また当てられたら起こしてくれ。」

「それはいいけど…怒られても知らないよ?」

「現国の時間いつも寝てるお前に言われたくないよ。」


コイツ文系の授業の時は総じて肘をつき、ノートを取るふりをしながら熟睡してるからな。(通称:高等技術)

ん?そうだ!俺もそれ使おう。


「月村、お前の『高等技術』俺も使わせて貰うわ。」

「ええっ!」

「じゃ、おやすみ~。」


月村の驚いた声と共にチャイムが鳴り、俺は即座に行動に出た。

ノートを広げ、右手にはシャーペン(芯は出してない)を装備。左肘を机に立てて、掌を顎にそえる。

準備完了。

そして、礼を終えた後、俺は夢の世界へと旅立って行った。









その頃、綺堂さくらは月村家へと訪れていた。


「いらっしゃいませ、さくら様。」

「今、お茶とお菓子をお持ちしますね。」

「ありがと、ノエル、ファリン。」


政府との交渉が漸く終わり、一つ肩の荷が下りた為か、上機嫌である。

前々から交渉は続けていたのだが、未知の敵に対してどの様な対応を取ればいいのか…と言うところで話が滞り、進展らしい進展が長らく無かった。

しかし、この間完成したG2とG3のスペックデータを見て貰ったことで話が進み、取り敢えずは警察で運用し、凶悪犯の鎮圧などの成果を重ねた上で、もし未知の敵が現れた場合はこれを使用することが決定した。


「では、これで正式に国からの認可が出たという事ですね?」


さくらの話を聞いたノエルは、そう言ってカップに紅茶を注いだ。


「そう言うことね。まぁ、G1は問題外にしても、G2とG3のどちらを運用して貰うかは決めておかないとね。」

「ふぇ?G2じゃないんですか?能力はそちらの方が高いんじゃ……?」

「確かにスペックは上だけど、武装が少ないし相当鍛えていなければ使いこなせないでしょう。」

「まぁ、細かい事は開発者の忍が帰って来てからにしましょう。」


そう言って、さくらはファリンが持ってきたクッキーに手を伸ばしたのだった。








「いらっしゃいませー!」


学校が終わって今はバイトの真っ最中。

あの後、昼休みも寝て過ごした俺は、5時限目が始まる頃には眠気を吹き飛ばし、いつも通りに授業を受けた。

それにしても……侮れないぜ『高等技術』!まさかホントにバレないとは思わなかった。これからは眠くなったらああやって寝よう。


「はい、ベーコンサラダサンド1つとハムサンドが1つ、レモンティーが2つですね。少々お待ち下さい。」


そんなくだらない事を考えていてもちゃんと仕事はしなきゃいけない訳で、お客さんから注文を取って桃子さんの元に持って行く。


「桃子さん、オーダー入ります。」

「りょうか~い。凌君、3番のお客様のBLTサンド、あがったから持って行ってくれる?」

「はい、分かりました。」


こんな感じでいつもと同じく忙しくバタバタと働いている。

ちなみに、野郎たちの嫉妬の視線が俺に集まるのもいつもと同じ。

………桃子さん、やっぱり男のバイト増やしませんか?


「フィアッセさん、レジお願いします!」

「ちょっと待ってね、すぐ行くから。あ、リョウ、1番テーブルの食器、片付けお願い!」

「了解しました!」


働き始めて1時間くらいが経った頃、店内に厳ついスキンヘッドの不良と、モヒカンとロン毛の3人組が店内に入って来た。


「いらっしゃいませー。」


まぁ、一応客だし店員として挨拶はしないとな。


「あ?俺たちはカワイイ子が此処に居るって聞いたから来たんだよ、ヤローはすっ込んでろ、タコ!」


モヒカンが俺に向かってそう言い、ゲラゲラ笑い始める。

ムカッ

何だコイツ。すげぇウザいんだけど。


「んだよ、ビビって返事もできないのかよ!腰抜け!」

「おい、そんなヤツほっとけ!」

「そーそー。俺らの狙いはこの子だけだろ。」


俺が、恐怖で返事を返せないと取ったのか、モヒカンは尚も笑い、直後スキンヘッドに頭を小突かれていた。

そして、ロン毛が指差した先には―――


「わ、私!?」


フィアッセさんがいた。


「バイトなんかやめて俺らと遊びに行こうぜ?楽しいからよぉ。」

「そーそー、つまんねーダロ?バイトなんて。」


こいつ等、よりにもよってフィアッセさんをナンパするのか。

チラッと士郎さんの方を見ると、いつでも此方へ駆けつけられる様にしていた。


「こ、困ります!や、離して下さい!」


そして、モヒカンがフィアッセさんの手を掴んだ瞬間、俺の堪忍袋の緒が切れた。

能力を使って身体能力を底上げし、モヒカンに向かって歩いて行く。

「……すみません、お客様。」

「あ?何だお前か、今良いとこなんだからじゃますんじゃn」


ゴシャ!


モヒカンの襟首を掴んで此方を向かせ、顔面に右ストレートを叩き込む。


「ギャ!」

「店員に手を出すのはご遠慮下さい。でないと、力尽くで叩き出す事になりますよ?っと!」


モヒカンがよろよろと後退して、テーブルにぶつかりそうだったので、頸動脈に手刀を入れて意識を落とし、床に倒れさす。


「て、テメェ!何しやがんだコラァ!」


仲間をやられた事に逆上し、スキンヘッドとロン毛が殴り掛かって来るが、俺はそれよりも早くスキンヘッドの右手を掴んで捻り上げ、腹部に掌底を叩き込んで、喉笛に正拳突きを喰らわせる。


「ガァ!ゲッホッ!ゲホ!」


隣を見ると、ロン毛の方も士郎さんによって鎮圧されていた。

つーか、流石は士郎さん、カウンターから一瞬で此処まで跳んできたよ。


「士郎さん、この馬鹿共どうします?」

「ふむ、おい君。起きてるんだろう?そこで伸びてる2人を連れて出て行ってくれないかい?」

「て、テメェら俺たちに手ェ出して、タダで済むと思ってんのか!」


顔を鼻水まみれにしながら良く言うよ。

もっかい殴ってやろうか。


「ほぅ。どうなるって言うんだい?」


その直後、士郎さんから凄まじい殺気が放たれ、スキンヘッドは「ヒィッ!?」と悲鳴を上げ、ガクガク体を震わせて、無言でコクコクと頷くと、もう2人の馬鹿を引き摺って店から出て行った。


「ふぅ~、やっぱりああゆう輩って何処でもいるんですね。」

「そうだね。まぁ、この店で悪さしようものならタダでは済まさないけどな。」


俺は息を吐いて能力を解除する。


「しかし、凌君も中々やるね。あの身のこなしは大したもんだ。」


そう言って褒めてくれる士郎さん。

けど、そうだろうか?仮に能力を使ったとしても、高町はもちろんのこと赤星にだって勝てる気がしないんだけど。


「あ、あの、リョウ。」

「はい?あ、フィアッセさん、大丈夫でしたか?」

「うん、ありがとね、リョウ。その、か、格好良かったよっ!」


そう言って、フィアッセさんは顔を赤くして店の奥に走って行ってしまった。

はて、どうしたんだろうか。


「士郎さん、何でフィアッセさんはあんな態度を?」

「はぁ、凌君も相変わらずだね。」


士郎さんはそう言って苦笑し、結局答えを教えてはくれなかった。









そろそろ陽が傾き始めた頃…


「え!?試験運用?本当なの?」

「ホントよ。それで、G2とG3のどっちを送るかなんだけど……」


学校から帰った忍は、さくらから告げられた事に驚いていた。


「んー、やっぱりG3かな。武装も多いし、汎用性が一番高いから。それに、ファリンは戦いとかに向いてないしね。」

「そうね。あの性格じゃあね。」


そう言って2人は、ドジをやらかして涙目になっているファリンを想像する。

「(能力的にはノエルと同等なんだけどねー、あの子。)」

「(優しい娘だから根本的に戦いとかに向いて無いのよね。)」


「「うん、無理ね。」」


2人は脳内で考えた結果、同時に同じ結論に到った。


「あ、そう言えば、ノエルー!ファリンとすずかは何処に居るの?」


先ほどから、てんで姿が見えない妹と、その従者の事を不思議に思い、忍は夕食の準備をしているノエルに尋ねた。


「そう言えば姿が見えませんね。何処に居るのでしょうか。」

「あら、すずかとファリンなら、あなたたちが帰って来る少し前に買い物に出かけたわよ?」

「え?そうなの?」

「ええ、買い忘れた物が有ったとか騒いでたわね。」

「さくら様、ファリンは分かりますが、何故すずかお嬢様も?」

「図書館で借りた本を返却しに行くって言ってたわ。」

「そっか、ならいいんだけど。」

「?何か心配な事でも御有りなのですか?お嬢様。」

「うん、何か嫌な予感がすると言うか。」


そう言って、忍は窓から外を見て、未だに見えない2人に思いを馳せるのだった。





「くしゅん!」

「はわっ!風邪ですか?すずかちゃん。」


片手に買い物袋をぶら下げ、もう片方の手でお互いの手を繋いでいるすずかとファリンは、家への道を歩いていた。


「ゴメンなさい、すずかちゃん。私すっかり猫たちのエサの事忘れちゃってました。」

「ううん、私も図書館に行かなきゃいけなかったから丁度良かったよ。」


しかし、その近くには、リスティを襲った怪物と瓜二つの白い怪物が潜んでいた。






「ありがとうございましたー。」


もう少しで今日のバイトが終わるという時にソレは起こった。


「!?」


AGITΩの力がアンノウンの存在を知らせる。


「ッすいません!急用ができたんで帰ります!!」

「え?リョウ?」

「凌君?」


凌は翠屋の制服のまま店を出て、バイクに跨り、本能の命じるままにアンノウンの元へと急いだ。







家までもう少しだと言う時にソイツは姿を現した。

白い体に青いマフラーを巻いていて、ギラリとすずかとファリンの2人を捉えている鋭い目つきを持った化け物。


「あ、ああ、ぁ」


突如現れたその化け物をまえにして、すずかは恐ろしくて声が出せなかった。

ファリンは両手を拡げて、すずかを庇ってるがその顔には恐怖心がありありと浮かんでいる。

すずかは地面に尻もちをついて、ただただ目の前の存在に恐怖し、後ろに後ずさる。


グルルルルル


「すずかちゃん!きゃあ!」


化け物がファリンを払い除け、唸り声を上げながらゆっくりと近づいて来る。

すずかは遂に木の根元まで追い詰められてしまった。


「いや、イヤァァァ!」


化け物の腕がすずかの細い首に伸びようとした時――


ガァァァァァ


黒い影が横切り、白い化け物を殴り飛ばした。


「お嬢様、ご無事ですか?」


すずかを助けた黒い鎧からは、彼女の姉である忍の従者、ノエルの声が聞こえた。


「ノエル?ノエル!怖かったよぉ。」

「もう大丈夫です、すずかお嬢様。ご安心を。」

「す、すずかちゃん、あれ!あれ見て下さい!」

そう言ってファリンが指差した先には、大型トラックが停まっており、その傍らで忍が手を振っていた。


「すずかー!こっちこっち!」

「お姉ちゃーん!」


すずかは姉の忍に抱きつき、3人はコンテナの中に入って行った。

その中には………


「すごい……これ、何?お姉ちゃん。」


モニターや通信機、そして、1台のバイクが置かれている。

更に、すずかの視線の先には青い鎧のような物があった。


「説明は後。ファリン、大丈夫?」

「こ、怖いですけど、すずかちゃんを襲おうとしたあの人は許せません!それに、お姉様も戦ってますから!」

「分かったわ。私たちの家族に手を出したらどうなるか思い知らせてあげましょう!」


そう言って、ファリンは青い鎧を装着し、頭を完全に覆う仮面を被った。


そして、完全に青い装甲に身を包んだファリンは、バイクに跨りコンテナから下りた梯子を通って、ノエルの救援に向かったのだった。







果敢に攻め、何とかトラックから遠ざけたものの……

G2を纏ったノエルは、白い化け物に未だダメージを与えられずにいた。


「(くっ、速い!)」


黒い鎧と白い獣が交錯する。

しかし、両手に持つG2の武器『デストロイヤー弐型』はギリギリで避けられ、化け物の攻撃はノエルの右腕を的確に捉えてダメージを与える。


「クッ!」

≪ノエル、お願い!頑張って!≫


その衝撃で右の剣を落としてしまうノエル。

高速で振動し続ける刃は、当たれば間違いなく化け物の腕を切断できるだけの切れ味を誇る。

しかし、それも当たらなければ意味を為さない。


「ハァ!」


左に持った剣を横薙ぎに振るい、化け物との距離を取る。


「(ファリンが来るまで何とか耐え忍ばないと!)」









一方その頃、G3を装着したファリンの元にも黒い化け物が姿を現していた。

G3はバイクから『GM-01 スコーピオン』を取り出して構える。

「忍お嬢様、もう一体の化け物がっ」

≪何とか通り抜けられない?ノエルがピンチなのよ。≫


「(急がなきゃ、お姉様が危ない。)」

そうは思うものの、目の前の黒い化け物は此方をジッと睨んでタイミングを見計らっている。

少しでも動けばその隙を突いて跳び掛かって来るだろう。


「(けど、お姉様を助けに行かなくちゃ!)」


ファリンが覚悟を決め、戦おうとしたその時。

化け物は唐突に視線をG3から逸らした。

そして……


A、G、I、T、Ω


掠れた声で、己が怨敵の名を呼んだ。




『AGITΩ』そう呼ばれたその生き物は、ゆっくりと歩いて来る。

すると、黒い化け物はファリンを無視して、驚くべき俊敏さでAGITΩに接近し殴りかかる。

だが、それが当たるよりも速く、AGITΩの放った蹴りが化け物の腹を捉えていた。

化け物は後ろに蹴り飛ばされ、直ぐさま体勢を立て直すと同時に、頭上に円形状の輪を生み出す。

それは次第に広がり、そこから槍を取り出した。

化け物は、得物である槍を構えてAGITΩに肉薄する。

突き、振り上げからの斬撃、横薙ぎ、多彩な組み合わせで攻める化け物だったが、AGITΩはその全てを避け切り、逆に槍の柄を掴んで身動きを封じてしまう。

そして―――



ベルトの左腰のドラゴンズアイを押し、ベルト中央部から青き薙刀『ストームハルバード』を取り出した。



AGITΩは左手で持ったソレで相手の右腕を叩き、そのまま腹を突き上げて地面に叩き伏せる。

そのまま踏み付け、動けないようにすると、AGITΩは薙刀を体の前に突き出した。

左上腕部には青色のプロテクターが装着され、同時に体の色も金から青へと変化する。

ストームハルバードの先端が展開し、鋭い刃が現れる。


「変わった!?あなたは一体……」


ファリンがそう言うと、AGITΩはまるで、早く行けとばかりにノエルのいる方向を指差した。


「AGITΩ…あなたは――」

≪ファリン、ノエルが危ないわ、早く向かって!≫

「は、はい!お嬢様!」


ファリンはそう言って、ノエルの元にバイクを走らせた。







AGITΩは、G3が行った事を確認すると――


グァウ!


自らの足を払い除け、漸く立ち上がったアンノウンと対峙する。

AGITΩはストームハルバードを横に薙ぎ、化け物との一定の距離を保つ。

次々と仕掛けられるアンノウンの攻撃の全てを薙ぎ払い、次の瞬間、アンノウンの槍が届かない位置まで大きく跳躍する。

そして、AGITΩはストームハルバードを振り回し、風を操り始めた。

それとほぼ同時に、アンノウンは己の“貪欲の槍”を構え、穂先をAGITΩに向ける。


その一帯に風が吹き荒れ、辺りを砂埃が包む。

アンノウンが構えた槍は、激しい風によって穂先がぶれ始める。

AGITΩはその隙を逃さず、アンノウンに向かって突進する。

アンノウンも槍を突きだすが、AGITΩはそれを受け流し、ストームハルバードを振るう。


まさしく“疾風怒濤”


AGITΩは擦れ違い様にアンノウンへと三太刀浴びせ、致命傷を与える。


アンノウンはよろけながら後退し、輪が頭上に現れると、爆発して絶命した。


そして、AGITΩは己のバイク『マシントルネイダー』に跨って、その場を後にするのだった。





黒い化け物をAGITΩに任せ、ノエルの救出に向かったファリンが見たのは、今まさに化け物が、手に持った弓に番えた矢を放とうとしているところだった。


「!?お姉様!」

瞬時にバイクからスコーピオンを取り出し、手元を狙う。


!グルルルルルルルル


その衝撃で化け物は弓を取り落とし、ノエルとファリンをギラリと睨む。


「お姉様、大丈夫ですか?」

「ええ、危ないところでしたが、行動に支障はありません。」


グルルルルル!


化け物を見ると、再び矢を番え、放とうとしているところだった。


「お姉様、矢は私が打ち落としますから、その間に接近して、その剣でトドメをお願いします。」

「大丈夫ですか?」

「はい、すずかちゃんやお姉様を危ない目にあわせた報いはタップリ受けて貰います!」


ファリンはスコーピオンを構え、照準を矢に合わせる。

直後、ノエル目掛けて矢が放たれた。

しかし、ノエルは臆する事無く化け物に向かって疾走する。

何故なら、自分の妹の事を固く信じているからである。

そして、その信頼は報われる。

放たれた矢は、一発の銃弾によって軌道をずらされ、何の役目も果たさないまま地面へと突き刺さった。


アンノウンは回避行動を取ろうとするが、もう遅い。

デストロイヤー弐型を両手で振り上げたノエルは、化け物に向けて、それを渾身の力で振り下ろした。

化け物は咄嗟に手に持っていた弓でそれを受け止めたが、しばしの均衡の後、真っ二つに切り裂かれ、化け物の体も又、振り下ろされた刃によって鮮やかに切り裂かれた。


ノエルは後ろに後退し、その直後、アンノウンは爆散した。



そして、2つのGを纏った姉妹は、バイクに乗って自分たちの家族が待つところへと向かったのであった。











後書き

あれ?これ…ファリンのキャラと違くね?
なんとか完成しました。全く構想が浮かばず、前半gdgdです。すいません。
戦闘シーンはサクサク書けたんですけどね。
毎度のことで申し訳ないですが、変なところがあったら言って下さい。訂正しますので。



[11512] 迷い込んだ男 第二十二話 「苦悩」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/07/05 23:36
カタ カタ カタ カタ


大魔導師プレシア・テスタロッサは、自室にある魔導機器の全ての演算機能を最大稼働させ、目の前に鎮座する巨大パズルの謎解きを行っていた。


時の庭園に激突した謎の物体。

それが、目の前にあるコレである。

詳しく解析してみれば、3万年ほど前に作られたという事が分かった。


「アハ、アハハハハハハハハ!」


プレシアは狂喜した。こんな偶然が有り得るだろうか。



約束の地アルハザード、次元断層によって消滅したとされる禁断の魔法が眠る世界。

遥か昔、アルハザードは確かに次元世界の一つとして存在していた。

卓越した技術と魔法文化が発展し、他の世界よりも数世代先を行くその世界。

しかし、アルハザードは次元断層に飲み込まれ、今は次元世界の狭間に存在するとされている。

それが、丁度3万年前。



ロストロギアと言えど、そこまで昔の物はそう多くない。

そして、時の庭園が漂うこの宙域は、かつて、アルハザードが存在したとされる場所なのだ。

目の前のこのパズルは、きっとアルハザードの手掛かりを内包しているに違いない。

そう推測して、プレシアはパズルを解析し続けるのだった。








                                     第二十二話「苦悩」








「じゃあ、ファリンたちが着てたのはあの化け物を倒すために作ったものじゃないの?」


あの後、家に帰ったすずかは、忍からGシリーズについて説明を受けていた。


「そう、さくらが見つけた大昔の遺跡に人間の脅威になる存在が示唆されててね、だからソイツらみたいな奴等がまた現れた時の為に作ったんだよ。」

「そっかぁ、お姉ちゃんが地下室に入り浸ってたのってその所為だったんだね。」

「まぁねー。あと、ノエルとファリンは装着員になってあのスーツの開発に協力して貰ってたんだよ。」

「あれ?Gシリーズって3つあるんだよね。ノエルがG2でファリンがG3なら、G1は誰が着るの?」

「G1の装着員はさくらだよ。負担が強すぎて普通の人だと装着できないの。」

「さくらさんが?あれ、そう言えばさくらさんは?」


自分やファリンが出かける前には居たはずの叔母の姿が見えないのを不思議に思い、忍に尋ねる。


「え?ああ、さくらならあの化け物を見た途端に東京に向かったわよ?」

「えっ?何で東京に?」

「あいつ等みたいなのが現れるのを前々から危惧してたからね。政府の人たちに伝えに行ったんだよ。」

「でも、信じて貰えるの?普通、信じられないと思うんだけど。」

「大丈夫よ。G2とG3に搭載されているカメラでちゃんと撮ったから。」


そう言って、忍はパソコンを立ち上げ、記録した映像をすずかに見せる。


「ねぇ、お姉ちゃん。」

「どうしたの?すずか。」

「うねうねってなってるけど…大丈夫なの?」

「んー、大丈夫なんじゃない?文句言われてもさくらなら何とかするでしょ。」


映像がぐにゃぐにゃに歪んで、殆ど判別できない化け物の姿がそこには映っていた。


「って、えっ!?もしかして、お姉ちゃんこの映像をさくらさんに送ったの?」

「そうよ?編集したら余計に怪しまれるかもしれないしね。」

「うぅ、さくらさん、大丈夫かなぁ。」

「大丈夫、大丈夫。さくらなら何とかするよ。」


すずかは思った。

信頼しているからこんな態度なんだろうか、それとも、さくらさんに丸投げしているだけなのだろうか、と。

「(信じてるからだと思いたい……けど、何か後者っぽいなぁ、お姉ちゃん的に。)」


忍の方を見ると、映像を見ながら、「う~ん、AGITΩって何者なのかなぁ。」と言って、腕を組んでうんうん唸っていた。


「(さくらさん、ファイトです!負けないでください!)」


十中八九、映像の事について詳しい説明を求められて苦労するであろう叔母の事を思い、すずかは心の中で涙した。









ガチャ

さくらは、東京に来た時よく泊まる、ホテルグランシールの8002号室に入った。


「はぁ、遂に恐れていた事が起こっちゃったわね。唯一の救いはGシリーズが完成してる事か。」


さくらは、溜息を吐きながら鞄から取り出したノートパソコンの電源を入れる。

予定よりも早くなったが、G3の試験運用や、謎の生物の出現の件について説明するための準備を行う。

ノートパソコンが立ち上がり、早速メールを確認する。

送信者が忍であることを確認し、そのメールを開いて添付ファイルを見る。

すると………

映像がぐにゃぐにゃに歪んで、音も微妙に乱れている物が再生された。

さくらは無言で忍からのメッセージに目を向ける。



『謎の力が働いているのか映像が乱れてるけど……まぁ、化け物っぽいのはふいんき(←なぜか変換できない)で分かると思うから説明頑張ってヨロシク(は~と)』



その夜、ホテルグランシールの一室で、女の怒鳴り声が聞こえたとか、聞こえなかったとか。



ちなみに、さくらは何だかんだ言いつつも、政府の人間に化け物の存在を認めさせ、海鳴警察署にG3の装着員の決定などを性急に決めさせるように要請したりするのだが、それはまだ少し先の話。







―???―


俺、藤見凌は思う。

世の中、何処にフラグが転がっているかわからない、と。

何で突然そんなこと考えてるかって?

今まさに、俺の目の前に高町兄妹が特注の木刀を両手に構えて立っているからだよ!!

どう見ても殺る気満々Death本当にあり(ry


あっるぇ~?



とりあえず、今日一日を振り返ってみようと思う。

朝から学校へ行って授業を受け、夕方に帰る。

これはいつも通り。

放課後は翠屋に行ってバイトする。

いや、正確にはしようと思った、だな。

制服に着替えようと更衣室に行くと、そこには士郎さんがいた。

そして、士郎さんにこう言われたんだ。


「頼みたい事があるから家まで来てくれないかい?」


と。


そうして、深く考えもせずに士郎さんの運転する車に、バイクでホイホイとついて行ってしまったが最後、士郎さんの巧みな誘導で、あれよあれよと道場まで誘き寄せられてしまったのだった。


そして、現在に至る。


「あの、士郎さん?何で俺は高町家の道場で高町兄妹と対峙しているんでしょうか。何で目の前に木刀が置いてあるんでしょうか、って言うかっ!」


俺は士郎さんに今の理不尽な状況を問い掛けつつ、壁際へと目を向けた。


「桃子さんにフィアッセさん!あんたら何で此処にいるの!翠屋はどうした、翠屋はっ!!」


テンパって敬語とか抜けてるけど気にしない。


「あら、店は他の子に任せてきたわ。」

「昨日、お店で士郎に提案されて私たちも賛成したの。」

「いつ、何を、提案されたんですか!俺聞いてませんよ!」


興奮して語気が荒くなって来る。と言うか、いい加減教えてほしい。

すると、桃子さんと士郎さんとフィアッセさんは声を揃えてこう言った。


「「「昨日凌君(リョウ)が急用とか言って突然帰っちゃった後に決めたから。」」」

「すいませんでしたぁぁぁぁ!!」OTZ


これは罰か?!罰なのか!?これからバイト中にアンノウンが出て、倒しに行く度にこの仕打ちが待ち受けているとでも言うのか!


「まぁ、それは謝らなくても良いんだけどね。」


ガクッ


「なら態々ハモって言わないで下さいよ!」

「ごめん、ごめん。まぁ、ホントは昨日の君の動きが良かったからね。良かったら恭也と美由希と勝負してくれないかと思って。」


良かったら?兄妹2人とも木刀持ってやる気満々なのに?強制の間違いじゃないんですか?


「お願いします凌さん!戦って下さい。」

「…俺も以前からお前とは戦ってみたいと思っていた。」


そう言って俺の目を見る2人。


うぐぅ、逃げ道がない。あぁ、もういいや、発想の転換だ。人間のままでどこまでやれるか試す絶好の機会だと思おう。そう思わないとやってられん。


「はぁ、分かったよ。」


俺がそう言って承諾すると、美由希ちゃんは心底嬉しそうに笑い、「ありがとうございます!」と言った。

高町もフッと笑って、美由希ちゃんと順番を決め始めた。





「「よろしくお願いします!」」



シンッと静まり返った道場に二人の声が響く。


ジャンケンの結果、最初の相手は美由希ちゃんになった。

立会人は士郎さん。

俺の能力は持続時間が短いから、リミットまでに決めれるかどうかが肝なのだが……御神の剣士に五分で決着とかできるのか?


「始めッ!」



士郎さんの声が道場に響き、俺たちはお互い、同時に踏み込んだ。











―海鳴警察署―


「アンノウン対策班……ですか?」


以前のように会議室に呼び出されたリスティは、そこで驚くべき事を聞かされた。


「そう。前々から、我々が知らない新たな生命体が存在する可能性を考慮して極秘裏に作成されていたという『対未確認生命体用強化服 G3』を回して貰うように先ほど政府から連絡があった。」

「今後はそれを用い、最初のアンノウンと遭遇した君に指揮を執って貰いたい。」

「ボクが…ですか?」

「そうだ、前にも言ったが我々は君を高く評価している。初めてアンノウンと交戦した時も、恐れず立ち向かったそうじゃないか。」


リスティが目撃した未知の生物。通称アンノウン。その存在の全てが謎と言っても過言では無い未知の怪物。

彼女が最も得意とする「サンダーブレイク」をまともに喰らって、なおも立ち上がる、人間を遥かに超える存在。

人を、常識では考えられない方法で殺害する人類の敵。


彼女にソレを拒む理由はなかった。


「分かりました。リスティ・槇原、本日を以てアンノウン対策班に転任します。」

「うむ。君ならばそう言ってくれると信じていたよ。」

「G3装着者の選抜は君が行ってくれ、頼むよ。」

「それでは、解散とする。全力でその任に当たってくれ。」

「了解!」


そう言って、その場を後にしたのだが………



「ああ言ったものの、どうするかなぁ、コレ。」


対策班の主な活動は、Gトレーラーに待機し、アンノウンの出現時に即座に対応することだ。

機材も最新の物がコンテナに搭載してあるし、全く以て不満は無い。

だが……G3のマニュアル、装着者の基準の項目を見て、リスティは頭を抱える事になった。


「少し要求が高くないか?」


最低基準は一般成人男性の値を上回り、余程鍛えていなければ着こなせない様に書いてあった。


「こりゃ、下手したら一般人からも募集しなくちゃならないかも知れないなぁ。」


そう言って、吸っていた煙草をGトレーラー備え付けの灰皿に擦りつけると、リスティは携帯を取り出してメールを打つ。


「まっ、ここはもう一人の仲間の方を先に決めておきますか。」


そのメールの宛先には、『セルフィ・アルバレット』と表示されていた。






―とある林の前―

その頃、一人の青年がキックスケーターで遊んでいるのを林の地面から顔を出してジッと見つめる銀色のアンノウンがいた。

徐々に地面から地上へと姿を現したアンノウンは亀のような容姿をしていた。

対象から視線を外さず、アンノウンは胸の前でサインを切った。


青年は何も知らずに依然遊び続けており、彼が林に近づいたところを狙って、アンノウンは彼に襲い掛かった。


「ヒッ!」


彼は、いきなり目の前に現れた異形の姿にパニックに陥り、尻餅をつきながらも後ずさり、アンノウンに背を向けて全速力で逃げ始めた。


「ハァ ハアッ ハアッ ハァッ」


どれ位走っただろう。

荒い息を吐き、辺りを見回すと化け物の姿は何処にもいない。

彼は、フゥと深呼吸して気を緩めた。



その瞬間――



ガバッという音と共に、アンノウンは地中に潜めていたその身を、再び地上へと現した。

彼は急いで後ろを振り返るが、アンノウンはすでに自分に向けてその手を振り被っていた。


避ける事など出来る筈も無く、人を遥かに凌ぐ怪力で頭を殴られた彼は、あっという間に地面に倒れ伏し、アンノウンによって地中に埋められてしまうのだった。






―道場―

「いや~、やっぱり凄いよ凌君。負けたとはいえ美由希や恭也の動きに付いて行けるんだから。」


そう言って俺の肩を叩く士郎さん。

当たり前だが俺は試合に負けて、今は床にへたり込んでいる。

負けたのは、もちろん美由希ちゃんと恭也の両方にである。

最初の五分は能力のおかげで動きも見切れて、美由希ちゃんとの戦いはあと一歩のところまで行けた。

しかし、現実は甘くないと言うか、あと一歩のところでタイムリミット。

身体能力がガクッと落ちて逆転負け。

恭也に至っては能力発動してても終始押されっぱなしだった。

んでもって能力が切れる前にやられました。

防御しても内面にダメージが来るとか如何しろと?


「おにいちゃん、元気出して!すごくカッコよかったよ!」


士郎さんの反対側からは、試合途中に帰宅したなのはちゃんが慰めの言葉を掛けてくれる。

なのはちゃん、気持ちは凄く嬉しいんだけどね、勝ったお兄ちゃんの方にも言葉を掛けてあげて欲しいなぁ。

何か、若干羨ましがってるような恭也の視線が突き刺さって来るから。


「凄いよリョウ!負けちゃったけど、恭也が最初っから御神の技使ってたんだもん!美由希との試合を見て本気になっちゃたんだよ、きっと!」


そう言って、若干顔を赤らめているフィアッセさん。

ふむ、なのはちゃんもそうだけど、やっぱり試合とかって見てる人は自然と興奮しているものなんだろうか。



そうやって皆で笑い合い、楽しい時を過ごしていた時――――




「ッ!?」




「すいません!俺、ちょっと!!」


アンノウンの気配を感じた俺は、すぐさま立ち上がり、そう言って道場から飛び出した。

そして、高町家の前に停めておいたバイクに乗って、本能に導かれるままアンノウンの処へ向かった。








暫くして、アンノウンの気配を感じた場所に到着したものの、一向に姿が見えない。

警戒し、辺りを見渡してみても見えるのは木々ばかり。


ガチャ


靴に、土の感触とは違う固いものが当たり、視線を下ろすとキックスケーターが落ちていた。


それを拾い上げ、辺りを見渡す。


すると、いきなり足元の地面が盛り上がり、俺は空中に放り投げられた。


「がっはッ!」


地面に落下し、呼吸が一瞬できなくなる。


アンノウンは俺の右腕を掴み上げ、再び投げ飛ばした。


「ぐっ!?」


地面を転がり、思うように体勢を立て直せない俺に、容赦なく追撃を浴びせてくるアンノウン。


「げふっ!」


腹を踏み付けられ、空気を吐き出させられる。

アンノウンは、そのまま俺に伸しかかり、首を掴み上げようとする。

だが――



「調子に、乗るなぁぁ!!」


俺は、能力を使って瞬間的に底上げし、アンノウンの腹を思いっきり蹴っ飛ばした。


グゥゥゥゥ


アンノウンから距離を離し、俺は両手を左腰に当て、右手を素早く前へと突き出し、そのまま脇の下まで引き戻す。


腰に『オルタリング』が出現し、引き戻した手を再び、そのままゆっくり前に突き出していく。



「変身ッ!!」



そして、ベルト両腰にある二つのドラゴンズアイを同時に押したその瞬間、『賢者の石』から青白い光が溢れ、俺の姿はAGITΩへと変わる。


俺は、殴り掛かって来たアンノウンをいなし、逆にカウンターを喰らわせる。

そして、俺は立ち上がって此方に突進してくるアンノウンに殴り掛かって行った。





「リョウ………なの?」


丁度その時、木に隠れてAGITΩとアンノウンの戦いを見つめる人影があった。


話は数十分前に遡る。







(フィアッセside.)


「すいません!俺、ちょっと!!」



突然リョウはそう言って、いきなり道場を飛び出して行ってしまった。

まるで昨日と同じ様に。


「いきなり出て行ってしまって、一体どうしたのかしら。」

「ふむ、昨日も似たような事を言って翠屋から飛び出して行ったな。」

「あのあのっ、なのはがおにいちゃんが嫌がるような事言ったのかな。」

「大丈夫だよ、なのは。凌さんはそんな事で怒るような人じゃないよ。」

「…ああ、それに、なのはの言葉に藤見が嫌がるような言葉は無かった筈だ。」


皆、それぞれリョウの心配をしている。

私も、リョウのおかしな態度が心配で堪らない。

今追えば、リョウに追い付けるかも知れない。

私は、鞄を持って立ち上がり、皆に向かって言う。


「私、心配だからリョウの事探してくる!」


答えも聞かないままに走りだし、外に出る。

見ると、リョウのバイクは突当たりを曲がるところだった。

私は急いで車のエンジンを入れ、リョウを追い駆けた。





途中、危うく見失うところだったけど、何とか後を追いかけた。

そして、リョウはバイクに乗ったまま、林の中に入って行ってしまった。


私は車を止め、バイクが通ったタイヤの後を辿って、奥へ奥へと進んで行った。



そして、リョウのバイクが停まっているところまで来て、私はリョウの姿を探した。



「ぐっ!」



突然、苦しげな声が聞こえて、私はその声の方向へ急いで向かった。


そして、そこで見たものは―――


「げふっ!」


見たことも無いカメのような怪物に、お腹を踏まれて苦しんでいるリョウの姿だった。


「な、何……あれ。」


リョウが怪物に襲われているのに、私はただ呆然とその光景を見ているだけだった。

そして怪物はリョウに伸し掛かって、リョウの首に手を―――


「イヤ、いやぁぁぁぁ!」


リョウが死んでしまう。

私はそう思った。

あんな怪物に勝てる訳が無い。

私は目を瞑り、遂にはしゃがみ込んでしまった。

そして―――


「調子に、乗るなぁぁ!!」


リョウの声が聞こえた。


目を開けると、リョウは怪物を蹴飛ばして、立ち上がっていた。



すると、リョウはいきなり何かのポーズを取り始めた。

リョウが右手を脇の下あたりに持ってきたかと思うと、リョウの腰に行き成りベルトのような物が現れた。



「変身ッ!!」



リョウがそう言ってベルトの腰に付いているスイッチを押したと思った瞬間、眩い光が放たれ、私は思わず目を瞑ってしまった。


そして、私が目を開けると、リョウの姿は何処にも無く、代わりに赤い眼をして金色の角を持った生き物が怪物と戦っていた。



信じられない。

さっきまで戦っていたリョウはいなくなって、今はあの金色の生き物が戦っている。

じゃあ………アレは。

あの、金色の生き物の正体は―――



「リョウ………なの?」


(フィアッセside. END)













AGITΩが銀のトータスロードに殴り掛かろうとしたその時、木の上から金色のトータスロードが飛び降り、AGITΩの体を締め付け、身動きを封じた。


「(もう一体!?)」


AGITΩは何とか抜け出そうと踠くが、それよりも先に銀のトータスロードが突進してくる。


「ぐぅっ!」


二度・三度と続けてソレを受けるが、自力で金のトータスロードの締め付けを振り解き、AGITΩは空中へと跳び上がった。


またしても突進しようとした銀のトータスロードは、金のトータスロードとぶつかり合い、転倒した。


二匹のトータスロードとの距離を離したAGITΩは、クロスホーンを開放する。

そして、起き上がって突撃して来た金のトータスロードを打ち倒して踏み台にし、銀のトータスロードへ、必殺のライダーキックを放った。


しかし、それが命中するより早く、銀のトータスロードは此方に背中を向け、甲羅でソレを受けた。


だが、大きく吹っ飛ばされたものの、銀のトータスロードは未だ健在だった。


AGITΩはすぐに体勢を立て直そうとするが、それより速く金のトータスロードは背後に忍び寄っていた。


「!? ぐあっ!」


背中に体当たりを喰らい、そのまま持ち上げられたAGITΩは、思いっきり木に向かって放り投げられた。


「ぐッ!」


そのまま地面に激突し、AGITΩはすぐに立ち上がったが、その時には既に前に銀・後ろに金のトータスロードに挟み込まれていた。


二匹のトータスロードは同時に突っ込み、AGITΩを倒そうとする。

AGITΩは、自分も銀のトータスロードに向って疾走し、首に拳を喰らわせ怯ませると、その両腕を掴んで後ろから迫って来る金のトータスロードへと投げ飛ばした。


ウウウウゥゥゥゥゥ

グウゥゥゥゥゥゥゥ


二匹は木を巻き込みながら吹っ飛ばされると、苦悶の声を上げて、逃げる様に地面へと潜ってその場から完全に姿を消してしまうのだった。


「チィッ!」


AGITΩは二匹が消えた場所に近づき、周囲を警戒するも、そいつ等が姿を現す事は無かった。







「くそっ、逃げられたか!」


俺は、アンノウンが既にこの場に居ないことを悟り、変身を解く。

気持ちを切り替え、どうやって皆に謝ろうか考えながら自分のバイクを止めた場所まで歩いて行く。


そして、見てしまった。

木から顔を覗かせて、呆然としているフィアッセさんを。



「何で、フィアッセさんが此処に……」


「ッ……………」



フィアッセさんは一度ビクッと震えた後、何も言わずに走りだした。

車のエンジン音が聞こえ、それがどんどん遠ざかって行った。


…………俺は、その場から動く事が出来なかった。



茜色に染まった太陽が、やけに眩しく見えた。












後書き

忙しくなる前に何とか書き上げました。
アルハザードの設定はほぼオリジナルです。
美由希、恭也との対決。一回描写入れて書いたのですが酷い出来になったのでこんな感じに落ち着きました。
G3の装着員選抜方法はディケイド形式で行きます。
セルフィについては完全に思いつき。口調とか知らないんで考えて書こうかと。あ、でも知ってる方がおられたら教えて下さると助かります。

諸事情により、暫く小説を書く時間がとれません。何卒ご容赦を。

p.s.ふいんき(←なぜか変換できない)はネタです。間違いではありません。



[11512] 迷い込んだ男 第二十三話 「彼と彼女の事情」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/10/25 21:00
(フィアッセside.)


あの後、リョウに見つかった私はロクな言葉も言わず、ただただ感情のままにあの場から逃げ出してしまっていた。

私は桃子たちにも会わずに自分の住んでいるマンションに帰った。

幸いにもアイリーンはまだ帰って来ていないみたい。

安堵の息を吐いてベッドに倒れ込んで目を瞑る。

そして、思い出されるのはあの光景。



「変身!!」


そう言って金色の生き物に変わったリョウ。


「ぐっ!」


木に向かって放り投げられ、地面に落下し苦しむリョウ。


そして………


「何で、フィアッセさんが此処に……」


そう言った時のリョウの呆然とした顔。



そこまで思い出して、私は激しい自己嫌悪に襲われた。


「(私だって、黒い翼を持った呪われた存在のくせにッ!)」


目から溢れだそうとする涙を必死に堪える。

けれど、脳裏に彼との楽しい思い出が蘇り、自然と涙が零れ落ちる。

一度そうなってしまえば、後は脆かった。

流れ始めた涙は止まる事を知らず、頬を伝って流れて行く。


「うぁ……っ…ぐすっ……ゴメン、ね……リョウ………」


自分が、酷く醜い人間に思えた。

暗闇と静寂が包む部屋の中、私は枕に顔を押し付けて泣き続けた。











第二十三話「彼と彼女の事情」










―自宅―


あれから一日、俺は学校を休んだ。

いろいろ考えたい事もあるし、リニスにアンノウンについて聞くつもりだったので丁度いい。


「それで、あの化け物…アンノウンの事だけど、リニスはどう思う?」

「そうですね……私の魔力探知に引っ掛かりませんし、魔力は無いようです。」


そう、最初のアンノウンが現れたあの日、俺たちはまず相手の情報を探る事にした。

俺の前世の情報はTVと友人の話しかないので当てにならないし、リニスは最近存在を知ったばかり。

戦うと決めた以上、どの様な相手なのかを徹底的に調べる事が重要だとリニスに言われ、2回目のアンノウンとの戦いをリニス(猫形態)に観察して貰っていたのだ。

ちなみに、その戦闘の時、俺が黒いG3の居場所が分かったのも、リニスが念話で知らせてくれたからだったりする。


「後は目的ですね。ニュースで見ましたが、1人目の被害者の一家全員が殺されたことから、アンノウンは血縁関係のあるものを襲うのではないかと考えられます。」


やっぱりこの世界でもAGITΩの力を持っている可能性がある人間の血縁関係者を襲うのか。


「後は……すいません。情報が少なくてこれ以上は………」


……まぁ、そんなところだろう。あいつ等がAGITΩに迫る力を持ってるのは分かり切ったことだしな。


そうやって思案していると、リニスが話しかけてきた。


「それで、何で学校を休んだんですか?」


「……俺はただアンノウンの「嘘はやめて下さい!」ッ!?」


リニスの怒声が室内に響く。

そう言ったリニスの表情は悲しみに染まっていた。


「何でそんな嘘を吐くんですか?!昨日の夕方、凌から悲しみの感情が流れてきました。帰って来た時だってそれは変わりませんでした。今だって……!!」

「そ、れは……」

「頼って下さい!私は貴方の使い魔でッ!パートナーなんです!一人で…抱え込もうと、しないで下さい。」





知らなかった。

俺はリニスに、一体どれだけの心配を掛けていたのだろう。

多分、俺がアンノウンと戦うのを恐れていた時も。

そして昨日、フィアッセさんにAGITΩの姿を見られて拒絶されて夕日を眺めた時も。

リニスは俺から流れる感情を受け止めた上で、笑顔で接してくれていた。

最初のアンノウンを倒して、帰ってから説教された夜も。

恐らく、酷い顔をして部屋に入った昨日の夜も。

リニスは笑って出迎えてくれた。


「おかえりなさい、凌。」


その言葉と共に。




「ごめん、リニス。」

「キャッ」

気が付けば、俺はリニスを抱き締めていた。

今まで抑えていた涙が零れる。

その日、俺は初めてリニスに甘えた。






「もう落ち着きましたか?」

「悪い、迷惑掛けた。」


数分後、俺はリニスから離れていた。


「い、いえ、私は別に……嬉しかったですし。」


リニスは顔を俯かせてそう言った。

最後の言葉は聞き取れなかったが、リニスの事だし「気にしてませんから。」とかだろう。


「そ、それでッ、聞かせて貰えませんか?何で、悲しんでいたのか。」

「あ、あぁ、昨日アンノウンと戦ってるのをフィアッセさんに見られてさ。それで、逃げられちゃって。」


正直、あの時は心臓が止まるかと思った。

いろんな疑問が頭の中を埋め尽くしてどうしたらいいのか分からなくなった。


「そう、ですか。フィアッセが……」

「まぁ、しょうがないと言えばしょうがないんだけどな。」

「それは、行き成りあの姿を見れば、そうかも知れないですけど、凌は良いんですか?それで。」

「覚悟は…してたさ。バレて拒絶される事は。」


そう、覚悟はしていた。ただ、それが足りなかっただけだ。


「……凌。」


リニスが心配そうな顔をする。


「けどさ、やっぱ辛いよ。親しくしてた人に拒絶されるのは…さ。」


そう言って俺は床に仰向けになって寝っ転がる。

そうして、俺は天井を見詰め続けた。













―警察署―


「で?」

「ん?何だい?シェリー。」


Gトレーナーのコンテナの中、銀色の髪を持った2人の女性がいた。


「何だい?じゃ、ないわよ!何で私が此処に来させられたか聞いてるの!」

「?その話なら何度もしただろう。人手不足だから来て欲しい、って。」


ダン!


「リ~ス~ティ~?」

「わ、分かった分かった。冗談にそうムキになるな。」


流石に限界だと悟ったリスティは、両手を上にあげて降参の意を示す。


「もうっ、いきなり呼びつけて「ボクに協力してくれないか?」って言われて分かる訳ないでしょ!」

「いや~、丁度シェリーが休暇で此処に来てるの知ってたからね。この際協力して貰おうと思ってさ。」


そう言ってイタズラっ子のような笑みを浮かべるリスティ。

「……あの、リスティ?私は休暇で海鳴に遊びに来ただけで災害対策のお仕事辞めた訳じゃないんだけど…」


そう言った途端、リスティは笑みを深くし、「ふっふっふ」と笑い始める。


「リスティ?」

「そう言うだろうと思って許可は取っておいてあげたよ。」

「許可?ってまさか!?」


リスティの言葉に訝しげに眉を顰めた後、セルフィはおもむろに携帯を懐から取り出し、ある人物のところに掛ける。




「もしもし、シェリーかい?」

「お、お義父さん!あの、仕事の事なんだけど…「ああ、リスティくんから話は聞いているよ。日本の未来を救う重要な仕事の手伝いをするそうじゃないか。」え?ちょっ、それはちがっ「大丈夫、こっちの事は任せなさい。シェリーの抜けた穴は大きいが何とか埋めようじゃないか。」だ、だからそうじゃn「それじゃあリスティくんにヨロシクな、シェリー。」お、お義父さん?お義父さん!」


ブツッと言う音と共に途切れる会話。

ガックリと肩を落とし、正義感が溢れるあまりに人の話を聞かない義父のことを恨むセルフィだった。


ちなみに、リスティは会話中ずっとニヤニヤしっぱなしでだった。




「うぅぅぅ、お義父さんのばかぁ。」

「ククッ、まぁそう気を落とさなくても良いじゃないか、シェリー。」

「誰のせいだと思ってるのよぉ。」


机に突っ伏し、もはや怒る気力も無いとばかりに恨み言を吐くセルフィ。


「じゃ、そろそろ本題に入ろうか。」

「本題?」

「そ、今海鳴で何が起こってるのか説明するよ。」







…………★刑事説明中★…………







「じゃあ、正体不明の化け物が人を殺しているって言うの?」

「そうだよ、事実ボクはソイツに遭遇して殺されかけたしね。」

「リスティが!?」


セルフィはリスティの力を持ってしても倒せなかったという事実に驚愕する。


「正直、AGITΩがいなければボクは生きてはいなかっただろうね。」

「そんな……。」


彼女の力を良く知るセルフィには到底信じられないことだった。

かつて、フィリスと2人で襲撃しても倒すこと敵わなかったリスティ。

そのリスティが倒せない敵。

そして、その敵をいとも簡単に倒したAGITΩと言う存在。


「それが、私をここに呼んだ理由?」

「そう、ボクたちはこの敵『アンノウン』を倒さなきゃならない。そのための対策班、そのための設備と装備だ。」


そう言ってリスティは運び込まれたアンノウン打倒の要、G3を指差した。


「分かった、協力するわ。それで、私はどうしたらいいの?」

「ボクたちの役割はG3装着者のサポート。指示を出したり、武装の許可とかが主になるね。」

「そう、分かったわ。全力で………ん?」


ふと、おかしなことに気が付くセルフィ。


「ねぇ、それって…別に私じゃなくても務まるんじゃない?」

「そうだね、基本ボクたちが戦闘する訳じゃないし。」


ドシャ


「どうした?シェリー。急に椅子から滑り落ちて。」

「あなたって人は…ホントに……。」

「だって、どうせなら楽しく仕事したいじゃないか。顔見知りなら遠慮はいらないしね。」

「(ダメだ、この人…早く何とかしないと…)」

「それに装着者の方も決まってないしねー。」


追い打ちを掛けるようなリスティの言葉に深い深い溜息を吐きながら、セルフィは椅子に座り直し、近くにあったG3の資料を手に取った。














―月村家―


美人の長女に可愛らしい次女、美人メイド姉妹に何かと完璧な叔母。

そんな月村家の一室には、美しくも恐ろしい鬼が降臨していた。


「さて、忍?覚悟は出来てるわよね?答えは聞かないけどっ!」


氷の笑みを浮かべる綺堂さくら。

そして、その言葉を皮切りに、さくらは予め捕獲しておいた忍のこめかみを両拳で挟み、グリグリし始める。


「痛い痛い痛い~~~~!!!」

「ちょっとは反省しなさい!あんな不鮮明な映像を証拠にアンノウンの存在を認めさせることがどれだけ大変だったと思ってるの!」

「反省してるしてるしてるから~~~~!それに映像やメールが適当だったのには訳があったのよ~~~!!」

「訳?」

「うぅ、やっと開放されたぁ。酷いよ、さくらぁ。」


ようやく解放された忍はこめかみを押さえながら涙目でさくらに抗議する。


「で、その訳って言うのは?」

「むぅ、スルーされた。あ、ゴメンなさい何でもないです。よ、要するにG3の武装の強化よ。ファリンが言うにはGM-01で弓を落とす事は出来たんだけどアンノウンには全く効いて無かったんだって。」

「はい。一応、放たれた矢の軌道を逸らしたりは出来たんですけど……」

「だから、弾丸を強化して、その反動に耐えられるようにG3の姿勢制御ユニットも調節したの。それに…」

「それに?」

「G2も結構ダメージが酷かったからね、だから今日は学校も休んで修理しなきゃ。」

「成程ね、それじゃあ映像まで編集してる余裕が無いのは当然ね。」


忍の言い分に納得したさくらは、素直に「ゴメンなさいね」と頭を下げた。


「それで、そのG3は?」

「もう警察署に送ってあるよ。スペック表はもっと早くに送ったからもう装着者の選定も終わってるんじゃないかな。」

実際は、まだ装着者すら決まってないのが現状だったりするのだが、彼女らがそれを知る訳も無い。



「それよりもさくら、これ見て。」

「え?」

「ほら、コレ。」


そう言ってさくらが見たのはアンノウンとはまた違う金色を基調とした別種の生き物だった。


「忍、これは……」

「ファリンを助けてくれたのよ。見る限り悪意も感じないし、ひょっとしたら味方なんじゃないかと思って。」

「何処となくだけど、G1…いえ、文献に記されてた『クウガ』に似てるわね。」

「あと、映像の方は雑音が酷くて聞き取れないけど、ファリンの話じゃアンノウンはAGITΩって呼んだらしいわ。」

「AGITΩ、ね…一体何者なのかしら。」



こうして、謎は深まってゆく。

















―喫茶翠屋―


「そんな…リョウが辞めた?」


同時刻、フィアッセは桃子から渡された一通の手紙を読み終え、呆然としていた。


「私もさっき来てビックリしたのよ。」

「どうやら昨日の内に他のバイトの子に渡してたみたいでな。ついさっきその子に渡されて、開けてみたらコレだ。」


手紙にはこう書いてあった。


『バイト辞めさせて下さい。我が儘言ってすいません。他の皆にもよろしく伝えておいてください。  藤見 凌』


「し、士郎、桃子!わ、私ッ!!」

「ええ、今日はいいわ、凌君探して説得してきなさい。」

「そうだな、事情説明も無しでこんな物渡されても納得できないしな。」


フィアッセは目に涙を滲ませ、「ありがとう!!」と言って店を出て行った。




フィアッセの車が走り去るのを見届けた士郎と桃子は苦い笑みを浮かべる。


「ホント、凌くんも罪作りな男の子よねー。」

「ああ、全くだ。恭也並に鈍感だからなぁ凌君は、フィアッセも苦労するだろう。」


そうして2人はテキパキと開店の用意をし始めた。














―八束神社―


あの後、俺は久遠に会いに此処に来ていた。

久遠といれば余計なこと考えずに済むし、何より癒されるからな。


「くぅん♪」


俺が来たのが匂いで分かるのか、久遠は草むらから飛び出して俺の胸に跳び込んで来た。

最近はバイトばかりでろくに会ってやれないからか、いつも以上に擦り寄って来る。

俺は、いつもと同じように久遠を抱きあげ階段に腰掛ける。

本来ならば通行人の邪魔になるであろう場所だが、流石に一年も通っていれば人が殆ど来ないのも分かっている。

そのため久遠と遊ぶには丁度いい場所なのである。

とは言え、やる事と言えば抱っこしたり、じゃれ合ったり、一緒に昼寝したりするのが殆どなのだが。








(凌、まだ帰って来ないんですか?)


リニスからの念話が頭に響き、意識が覚醒していく。

久遠と遊んでいて、いつの間にか眠ってしまっていたのか、俺は石段の上に寝転がっていた。


時計で時間を確認したところ、もう正午を大きく過ぎてしまっていた。


「やっべ、まだ飯食って無いぞ、俺。」


(悪い、リニス。眠っちまってたみたいだ。今すぐ……)


リニスに念話を送っていると、石段を登って来る小さな人影を見つけた。

目の錯覚でなければあの姿は――――――


(凌?)

(すまんリニス。帰るのはもうちょっと遅くなりそうだ。)


俺の秘密を知って逃げ出した、フィアッセ・クリステラその人だったから。










(フィアッセside.)


私は今、八束神社の石段の前に立っている。

リョウの事を探して、此処に来てリョウのバイクを見つけた。

学校にも、家にもいなくて、町中探し回ったけど、見つからなかった。

此処に寄ったのは単なる偶然。

けれど、この出会いは必然だったんだと思いたかった。

そうして私は、この長い石段を登り始めた。

一歩一歩、確実に。








(凌side.)


石段を登り、今俺の前に立っている女性、フィアッセさん。

久遠はまだフィアッセさんに慣れてないのか、走って逃げて行ってしまった。

彼女は、俺の目をジッと見つめ――――


「ゴメンなさい。」


と、そう言って頭を下げた。


「ちょっ!やめて下さいフィアッセさん。」

「私、リョウを傷つけた!驚いて、リョウに何も言わないで逃げ出しちゃった。」


頭を下げたまま、フィアッセさんはそう言った。


「…あの姿を見たら当然ですよ。」

「それでも、ゴメンなさい」


フィアッセさんは更に深く頭を下げた。


「もういいですから、頭上げて下さいよ。」

「じゃあ、翠屋も…辞めないでくれる?」

「えっ、それは……俺だって、続けたいですよ。」


好きで辞めたい訳じゃない。フィアッセさんが気味悪がるだろうと思って、あんな事を書いたんだ。


「昨日は驚いただけだから。だから、お願いリョウ。」

「……フィアッセさんがそう言うんでしたら。けど…ホントに――」

「怖くなんてないよ。だって、リョウはリョウだもん。いつも優しい、リョウのままだから。」


フィアッセさんはそう言って、いつもの誰もが見惚れる笑顔を浮かべた。


「それにね、私もリョウに言って無い事があるの。」

「言って無い事……ですか?」

「うん。見せるのは、ちょっぴり怖いけど…リョウの秘密も知っちゃったし、私も知って貰おうと思って。」

「別に、無理しなくてもいいですよ?知られたくない事なら――――」

「ううん、知って貰いたいの。リョウには、私の秘密。」



フィアッセさんが静かに目を閉じる。

風の音も、鳥の囀り、他の音がすべて消えたように感じた。

視界が狭まり、フィアッセさんしか見えなくなる。



そして―――



フィアッセさんの背中には2枚の黒い羽根が展開していた。







(フィアッセside.)


遂に見せてしまった。

私が呪われた存在である事を証明するような黒い翼。

私のリアーフィンを見て、リョウは言葉が出ないようだった。

拒絶されるかも知れない不安で心が押し潰されそうになる。

そして、私は改めて思い知った。

私はこんな苦しみをリョウに与えてしまったのだと。



「すごい、すごい綺麗だ。」

「え?」



ポツリとリョウが感嘆の言葉を呟いた。

綺麗って、真っ黒に染まったこの翼が?

そして、リョウは続けてこう言った。


「あの、フィアッセさん、その翼を触らせて貰えませんか?」

「えぇ!?」


綺麗だ、何て言われただけでも吃驚なのに触りたいだなんて……


「あれ?触れるのかな?無理ならいいですけど。」

「あの、気持ち悪く…ないの?これ。」


余りにも自分の予想と違ったから自分から聞いてしまう私。

するとリョウはキョトンとした顔をした。

「はぁ、気持ち悪いって、その翼がですか?」

「う、うん。」

「だって、フィアッセさんの翼はこんなに輝いてるじゃないですか。綺麗以外の感想なんかありませんよ。」


そして、もう一回私のリアーフィンをじっくり見た後、「うん、やっぱ綺麗だ。」と言って頷いた。








(凌side.)


フィアッセさんの翼を見て、言葉が出なかった。

ゲームで見た時もそうだったけど、実際目の当たりにすると段違いに美しかった。

けど、俺はそれを正直に言っただけなのに、フィアッセさんは何故かポカーンとしていた。

やっぱり、触らせて欲しいはダメだっただろうか。


「あの、気持ち悪く…ないの?これ。」


そんな事を考えていると、フィアッセさんがそんな事を聞いてきた。

? あぁ!そういや、フィアッセさんってこの翼の事がコンプレックスだったっけ。

綺麗でカッコイイと思うんだけどなぁ、個人的に。

だからもう一度、俺の正直な気持ちを伝える。


それを聞いたフィアッセさんは、瞳を潤ませてこう言った。


「ありがとう、リョウに言って良かった。今、凄く嬉しいよ。」

「ははっ、お互い様です。俺の方こそ嫌われないでホッとしましたよ。」

そう言って俺たちは笑い合った。













後書き

1週間ほど書かなかった結果がコレだよ!

ちまちま書いてやっとこさ完成いたしました。

うん、これが作者の限界なんだ。



[11512] 迷い込んだ男 第二十四話 「覚悟」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/10/27 16:41
―海鳴臨海公園―


(勇吾side.)


その日、俺はある出来事に巻き込まれた。


俺が学校から帰る最中にソイツは現れた。

たまたま覗いた公園で幼稚園くらいの女の子を、ニュースで言っていた“アンノウン”だと思われる亀のような怪物が襲っていた。

1人の警官が勇敢にも少女を庇っているが、明らかに腰が引けていて守りきれないのは明らかだった。


「(くそっ!)」


目の前で人が殺されるのを見たくなかった俺は、心の中で悪態を吐き、警官と少女の元へ走る。


「この子は俺が連れて逃げますから、あなたは応援を呼んで下さい!」


警官に向かってそう言った俺は、返事も待たずに少女を抱きかかえて逃げる。


「(まずい まずい まずい まずい!!)」


少女の体は羽のように軽く、走る速度を阻害するようなモノでは無い。

にもかかわらず、アンノウンは鈍重そうな見た目とは裏腹に素早く、どんどん此方に迫って来る。


「(くそっ!このままじゃ追い付かれる!警察はまだ来ないのか!)」

「ぐすっ……おにーちゃん、こわいよぉ。」


女の子の顔は恐怖で歪み、涙をボロボロと零していた。


「ッ大丈夫だ。大丈夫だから、ちゃんと俺が守ってやるから。」

「ふえっ、おにーちゃんがまもってくれるの?わたし、しんじゃわないの?」

「ああ、そうだよ。(逃がしてみせる!成り行きで関わっちまったけど、今この子を守れるのは俺だけなんだ!)」


グゥゥゥゥゥゥ


突如、左側から唸り声が聞こえた。


「!?ぐあっ!」

咄嗟に腕を振り上げてガードしたが、威力を殺し切れずに俺たちは吹っ飛ばされた。


「(ウソ…だろ、おい。もう一体……だと。)」


今まで俺とこの子を追っていたのは金色のヤツだった。

そして、俺を殴ったのは同じような姿をした銀色のアンノウンだった。


「(ヤバい!ヤバい!ヤバい!このままじゃ本当にこの子共々殺される!)」


グゥゥゥゥゥゥ

グァァァァァァァ


2匹の怪物は唸り声を上げながら近づいて来る。


「おにー、ちゃん。」

「(せめて、この子だけでもっ!)」


腕を振り上げ、止めを刺そうとして来るそいつ等から守るように、俺は女の子を強く抱き締めた。


そして、その腕は俺の頭目掛けて振り下ろされ―――――










                                           第二十四話「覚悟」










―八束神社―


「ねぇ、リョウ。教えて貰っていいかな。」

「はい?」


一頻り笑って、俺たちは石段に座って話をしている。


「あの、化け物の事なんだけど。」

「あれ?ニュース見てませんか?昨日、政府が正式にあいつ等の存在を認めて『アンノウン』って呼称することになったようですよ?」

「えっと、昨日は帰ってすぐベッドに入っちゃったから。」

「あぁ、成程。なら知らなくても仕方ないですね。」


まぁ、不思議に思うのは当たり前か。

俺だって前世で知っていなかったらパニックになってるだろうし。


「じゃあ、リョウが変身したのは?」

「あの姿の事ですか?俺はAGITΩって呼んでます。まぁ、単にアンノウンがあの姿の事をそう呼んだからなんですけどね。」


嘘は吐いて無い。

ホントはAGITΩの事は特撮のヒーローとして知ってたけどな。


「ねぇ、リョウは……何で戦ってるの?」

「何で、ですか。」

「うん、あんな怪物と戦うなんて怖くないのかなって。」

「……そりゃ、怖いですよ。」

「なら――――」

「けど…その所為で大切な人たちが殺されるのは、もっと怖いんです。」


偶然か必然か、俺は力を得た。

全ての人を救えるとは思わない。

けど、自分ができる事を精一杯やって行きたい。


「そっか、リョウは強いね。」

「そう、ですかね。」

「うん。」



その後しばらく、俺たちは無言で海鳴の街を見下ろしていた。


親友の元に、危機が迫っているとも知らずに。






―Gトレーラー―


リスティとセルフィがG3の装着者の選定試験の内容を考えている時だった。


ピーーーーー!


≪緊急連絡!海鳴臨海公園付近にてアンノウンが出現!現場に急行して下さい!≫


無線機からアンノウンの出現の知らせが届く。


「!?リスティ!これって…」

「ちぃ!しょうがない。G3の装着者の検討は後、すぐに現場に行くよ!!」


フィリスとセルフィはすぐさまGトレーラーを発車させる。


「いいかい?シェリー。ボクたちじゃあいつ等には敵わない、奴等の注意を引き付けるだけに止める事、分かった?」

「注意を引いて逃げればいいのね?」

「あぁ、打倒することは考えなくていい、一般人を助けて生き残る事が最優先だ。」

「分かったわ。」


そう言って2人は現場に向かった。

アンノウンが人を襲っている臨海公園に。







―月村家―


同時刻、綺堂さくらの携帯にも、警察からの連絡が入っていた。


「もうっ、G3の装着者がまだ決まって無かったなんて!」


G1を搭載しているトレーラーに向かって走りながら愚痴を垂れる忍。


「文句言っても仕様が無いでしょ?G2の修理は?」

「ゴメン、まだ終わってない。」


いくら忍と言えど、半日足らずでは完璧な修理は不可能だった。


「分かったわ、G1は問題ないのね?」

「うん、そっちは大丈夫!」

「お嬢様、私たちは」

「どうすれば…?」

「ノエルは運転、現場に着いたらファリンと一緒にG1の管制をお願い!私はどうにか映像を鮮明にできないか調整してみるわ!」

「承知しました。」

「はい、頑張ります!」


そうして4人は赤いGトレーラーに乗り込んだ。


「ノエル!サイレン鳴らしながら他の車にぶつからない様に最大速度でぶっ飛ばしてね!」

「はい、畏まりました、忍お嬢様。」



こうして、彼女たちは再び相見える。

金色の戦士―AGITΩ―に









―八束神社―


「!?」


もう何度も経験したこの感覚。

AGITΩとしての本能が俺に知らせるアンノウンの存在。

俺は立ち上がってフィアッセさんの方を向く。


「フィアッセさん、俺……」

「また、アンノウンが出たの?」

「はい。あ、終わったら携帯に連絡入れますから。じゃあ、行ってきます。」


石段を降りる為に足を前に踏み出す。


「リョウ!」

「え?」


フィアッセさんが大きな声で俺の名を呼んだ。


「絶対、無事に帰って来てね!」

「ッはい!」


その言葉を聞いた俺は、今度こそ石段を駆け下り始めた。

それと同時にリニスに念話を送り、応援を頼む。


俺はバイクを停めてある所まで走り、バイクに跨ってエンジンを入れる。



「変身!!」



バイクを走らせながらその言葉を紡ぎ、AGITΩへと変身する。

俺のバイクがマシントルネイダーへと変わり、スピードがさらに加速する。

俺はアンノウンの気配がする場所に急いだ。










―海鳴臨海公園入り口付近―


(勇吾side.)


腕を振り上げ、止めを刺そうとして来るアンノウンから守るように、俺は女の子を強く抱き締めた。


そして、その腕は俺の頭目掛けて振り下ろされ―――――




ようとした瞬間、俺の背後から放たれた光の弾がアンノウンの手に当たり、動きを止めさせた。

後ろを振り向いた俺の目に飛び込んできたのは、どこか昆虫の羽根を連想させる光の翼を広げた2人の女性だった。


「君!早くコレに乗って!」

「女の子も此方で保護しますから!」


大型トレーラーの傍にいる、光の翼を広げた2人の女性が俺と女の子に向かって叫んでいた。


立ち上がって全力でトレーラーまでの距離を全力で駆ける。

俺は、2人の女性に誘導されるままトレーラーに乗り込んだ。


「はぁ、はぁ、た、助かりました。あの、貴方達は…っ、一体……」


トレーラーの内部に入った俺は、女の子を髪の長さがセミロングの女性に預け、今まで逃げ続けていた疲れと、必死に抑え込んでいた恐怖から解放されて荒い息を吐いた。


「つい先日立ち上げられたアンノウン対策班だよ。」

「間に合って良かった。怪我はありませんか?」

「お陰様で、何とか。」

「ふぇええええん、怖かったよぉぉ。」

「もう大丈夫だからね、安心して。」


女の子の方も怪我は無いようだが、安心したのか女性に抱きつき、大きな声をあげて泣いている。


「じゃあ、ボクたちはあいつ等と戦って来るからその子の事任せたよ、君。」

「くれぐれも此処から出ないで下さいね?」

「えぇっ!ちょっと待って下さい!戦うって大丈夫なんですか?」


あ、けどアンノウン対策班って事は、あいつ等に対抗できる手段が有るって事かな。


「大丈夫だよ、ボクたちはHGSだからね。」

「はい、それに増援が来るまで囮をしていればいいだけですから。」


そう言って、2人はトレーラーから降りて行ってしまった。

……大丈夫かなぁ、あの二人。


(勇吾side.END)











暫くして、赤いGトレーラーもその場に到着しようとしていた。


「じゃ、さくら、お願い。」

「分かったわ。」


連絡があった現場の近くに着いた忍たちは、すぐさまG1の出動準備に入った。

ノエルは運転を自動操縦に切り替え、コンテナの方に移動する。

さくらは、忍とファリンに手伝って貰って、G1を装着し、忍から「ビートアクサラー」を譲り受ける。


「行ってくるわ。サポートはお願いね?ノエル、ファリン。」

「お任せ下さい。」「は、はい、頑張ります!」

「…気を付けてね、さくら。」

「あなたも映像の方お願いね。情報が一つでも多く欲しいんだから。」

「む、分かってるもんっ。ちゃんと鮮明に映せる様に修正するわよ。」


軽口を叩き合いながら、さくらはビートチェイサーに跨り、「ビートアクセラー」を右側のハンドルにセットした。

コンテナのドアが開き、地面まで梯子が降りる。


ノエルがキーを操作し、ビートチェイサーを固定しているストッパーが梯子の手前まで下がっていく。


「G1システム、現時刻を持って戦闘オペレーションを開始します。さくら様、ご武運を。」


ノエルがそう言って、


「ビートチェイサー離脱します。頑張って下さい、さくら様。」


ファリンがタイヤを固定しているストッパーを解除する。

車輪が自由になったビートチェイサーは、そのまま梯子を下って道路まで降りる。


G1を装着したさくらは、アンノウンの元へとバイクを走らせた。







「これでも喰らえ!」

「あなたたちの相手は私たちですっ!」


羽を広げ、上空に止まりながらアンノウンに光弾を浴びせる2人。

未だにあの少女を諦めきれないのか、2体のアンノウンはリスティとセルフィに攻撃を受けながらも尚、Gトレーラに向かって近づいていた。

そんな時である。

突然、バイクのエンジン音がその場に響き渡ったのは。


ブォォォォォォン


赤き鎧を纏った戦士は、凄まじいスピードで銀色のアンノウンにバイクで突撃し、吹っ飛ばす。


キキィッ!!


グゥゥゥゥゥゥゥ!


金のアンノウンが唸り声を上げる。


「貴方達、今の内に逃げなさい!」


G1はリスティ達にそう言って、バイクから降りる。


その赤い戦士は、金色のアンノウンに対峙して、己の両拳を構えた。


此処に、古代の伝説の戦士を模した現代の戦士が誕生した。





「はぁ!」


G1は金のアンノウンの顔に拳を叩き込み、腹部を蹴り上げる。

そしてG1は勢い良く、浮かせた体に回し蹴りを喰らわせた。


グゥゥゥゥ


唸り声のような、呻き声のような声を上げて、アンノウンは蹴り飛ばされる。


グァウ!!


「!?くっ!」


バイクで跳ね飛ばした銀色のアンノウンがG1に跳び掛かり、G1の顔を殴打する。


≪「頭部ユニットにダメージ!」≫


「こ、のぉ!」


G1はアンノウンの顎を殴りつける。


「はぁぁぁ!」


そして、すぐさまボディに拳のラッシュを浴びせる。


「はぁっ!!」


最後に渾身の力でアンノウンを殴り飛ばす。


グルルルルゥ!


「(はぁ、はぁ、やっぱり、2体1じゃ不利ね。せめて、G3の装着者が決まってさえいてくれれば!)」


グルルルルル

グァァァァァ


「(ッ!?そんな事考えてる暇も与えてくれないわけね!)」


金と銀のアンノウンは左右に別れてG1を挟み込んでいた。









―Gトレーラー(青)―


「ちょっと!大丈夫なんですか?!2体のアンノウンに挟まれちゃってるじゃないですか!」


Gトレーラーの内部、勇吾はモニターに映し出された歪んだ映像で、G1が戦っている様子を見て声を荒げていた。

女の子の方は泣き疲れてセルフィの膝枕で眠ってしまっている。


「……確かに拙いな。」

「如何にかして助けられないかしら。」


リスティとセルフィの2人も映像を見て顔を顰める。


「御二人はアンノウン対策班の人なんですよね、何か無いんですか?!」

「……残念だけど、ボクたちの攻撃はあいつ等に通用しないんだ。」

「そんな………!」


勇吾がモニターに視線を戻すと、G1が銀のアンノウンに拘束され、金のアンノウンの体当たりを喰らっているところだった。


「ッこのままじゃ、あの人が!」


G1は依然として激しい攻撃を受けており、その装甲からは火花が散っている。


「……助けたいかい?」

「助けたい……って、俺がですか?!」

「そうだよ。君に…アレと戦う勇気があるのなら。」

「リスティ!あなた、まさか!!」


その言葉を聞いて、赤星の頭にフラッシュバックする光景。

腕を振り上げ、女の子諸共自分を葬ろうとした化け物の姿。


「俺が……あいつ等と……ッ」


自然と震える体を抑え付ける。


「俺は………俺はッ―――――!」














G1は苦戦を強いられていた。

1体のアンノウンに両腕を握られ、身動きが取れないところに、もう一体が体当たりを仕掛けて来る。


≪「胸部ユニットに更にダメージ!さくら様!」≫


「きゃあぁぁぁぁぁ!!」


≪「メインバッテリー、出力30%低下!」≫


「(はぁ、はぁ、負けない!こんな奴らなんかに負けられない!)」


迫り来る金のアンノウンを睨みつけるG1.


そして、金のアンノウンが又、突撃の体勢に入った時―――――



「うおぉぉぉぉぉ!!!」



そこには、来れる筈が無いG3の姿が有った。


「(戦ってやるさ!あの女の子みたいに、あんな人殺しの化け物の所為で泣いてる人の顔は見たくないんだ!)」


G3は金色のアンノウンを殴りつけ、次いで銀色のアンノウンの腕をG1から離させる。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ。あなたは?G3は装着者が決まっていなかったはずだけれど。」

「成り行きで装着者になる事になりました。それより!」

「!?そうね、あいつ等を倒す方が先ね。私が金色を、あなたは銀色の方をお願い。」

「はい!」



そうして、赤と青のGはそれぞれの敵に向かって疾走した。









「今までよくもやってくれたわねぇ!今度はこっちの番よ!!」


G1は金色のアンノウンに突撃し、助走の勢いをそのままにボディを殴りつけた。



グゥゥゥゥゥ



「はぁ!」


続けて頭を殴って動きを鈍らせる。


「せい!!」


左足で足払いを掛けてバランスを崩させる。


「やぁぁぁぁ!!!」


そして、一瞬だけ空中に浮かんだアンノウンの体に、裂帛の気合いを籠めた回し蹴りを喰らわせた。


グォォォォォォ


苦しみの声をあげて吹っ飛ぶアンノウン。



そして、G1はベルトの赤いボタンに指を伸ばした。


≪Charge Up≫


電子音声がベルトから流れる。


≪バッテリー残量30%まで低下します!≫


ファリンがG1のバッテリー残量の低下を知らせる。



アアアァァァァァァ!!!



アンノウンは嘗て無い咆哮を上げ、G1目掛けて突っ込んでくる。


≪Full Charge≫


エネルギーが右足へと送り込まれる。


「はあぁぁぁぁぁ!!!」


G1は空中に跳び上がり、一回転した後アンノウンの頭に飛び蹴りを決めた。


エネルギー総量の半分が送り込まれた右足は、瞬間的に爆発的な破壊力を生みだす。


闇雲に突っ込んできた金色のアンノウンは、まともにそれを喰らって地面に叩きつけられた。



アァァァァァァァ!



アンノウンは苦しみ悶え、やがて粉々に爆散してしまった。



「はぁ、はぁ。やった!」


≪アンノウン撃破を確認。お見事でした、さくら様。≫


「あ、ありがと、ノエル。」


そして、さくらは成り行きでG3の装着者になった男の元へ向かって行った。







一方、G3こと赤星勇吾は銀のアンノウン相手に手古摺っていた。


「せやぁ!!」


渾身の力で殴り付けても、アンノウンは怯まない。


「うおっ!危なっ!」


逆にアンノウンのパンチを喰らいそうになり、紙一重のところで回避するG3。


「ちょっ!リスティさん?何か武器とか無いんですか?」

≪まぁ、待ちなよ、勇吾。今から『ガードチェイサー』をそっちに転送する。武器は全部その中だ。≫


リスティからその通信が届いた数秒後、G3の後ろにガードチェイサーが出現する。


「くそっ、邪魔だ!!」

アンノウンを思いっ切り蹴飛ばし、ガードチェイサーに向かう。


「これ、どれを押せば武器が出るんですか?」


ボタンは幾つもあり、勇吾にはどれを押せばいいのか皆目見当が付かなかった。


≪一番左側のボタンを押してください。≫

「一番左……これか!!」


一番左のボタンを押しすと、キュイーンという音と共に武器が取り出せる様になった。

のだが……


「セルフィさん?!俺、銃なんか使ったことありませんよ!」

≪えぇ!?あぁ!そういえば勇吾君は学生だった!!≫

「ちょっとー!?うわぁっ!」


銀色のアンノウンのパンチを躱し、地面を転がるG3。


≪シェリー、とりあえずGM-01のロックの解除を。≫

≪え、えぇ、そうね。GM-01アクティブ。≫


「えぇい!こうなりゃ自棄だ!!」


G3はGM-01を構えて発砲するも、狙いが上手く定まらずに外してしまう。


そうしている間にもアンノウンは徐々に近づいて来る。


「だったらっ!これでっ!どうだ!!!」


G3は勢い良く起き上がり、アンノウン目掛けて突進して行く。

そして―――――――




「いくら下手でも、この距離なら外さないんだよ!」


銃口をほぼゼロ距離まで近づかせ、アンノウンの腹目掛けて連射した。



ウゥゥゥゥゥゥゥ!



アンノウンは苦しげな声を出して後ろに下がって行く。


「ど、どうだ!」


しかし、安心するのはまだ早かった。

アンノウンは体勢を低くしたかと思うと、凄まじい勢いで突っ込んで来た。


「!?うわぁぁぁぁあ!!」


G3は大きく跳ね飛ばされ、ガードチェイサーを巻き込んで転倒した。


「いっててててて。リスティさん、もっと威力の大きいの無いんですか?」

≪「ガードチェイサーの右側にGM-01に装着させるグレネードユニットが搭載されてる。それなら威力は段違いに上がるはずだよ!」≫

「右側、右側…!これの事か!!」


右側にあるスイッチを押してグレネードユニットを取り出し、GM-01に装着する。


≪「GG-02アクティブ!」≫


カシャッ


G3はそれに弾丸を装填し、敵に向かって構える。


「今度こそー!!」


G3は、確実に狙いを定めてアンノウンに発砲する。


グァウ!!


けれど、アンノウンは此方に突進して来るのをやめ、クルリと後ろを向いてそれを受けた。


「!?効いて無いのか?!」


弾丸は、アンノウンの甲羅に阻まれて致命傷を与える事が出来なかった。


アンノウンは、再びG3に突撃を敢行しようとし―――――





唐突に動きを止めて苦しみ始めた。



ガ、ギギギギ、ガァァァァァ!!!



それは偶然にも、昨日AGITΩがライダーキックを決めた場所だった。


そして、爆発。



「うおっ!あっぶねぇ、危うく巻き込まれるとこだった。」


≪「アンノウンを撃破!ありがとう勇吾君。あなたがいなかったらどうなってた事か。」≫

「いえ、何とか倒せて良かったです。」


武装をガードチェイサーに仕舞いながらセルフィの言葉に答える勇吾。

すると―――


「君、さっきはありがとう。お陰で助かったわ。」

「あ、いえ、そんな。ただ必死だっただけなんで。」

「そう謙遜することないのに。」


そうして、赤と青のGは握手を交わした。


しかし、それも束の間。



≪「さくら様!早くそこから離れて下さい!!」≫≪「勇吾君!そこから早く離れて!!」≫



脅威は、静かに忍び寄っていた。











―Gトレーラー(赤)―


それは少し前の事。

Gトレーラーの中、忍たちはアンノウンの撃破に喜んでいた。


「さくら様がご無事で何よりでした。」

「付近にも異常は見当たりません。後の事は警察の方に任せましょうか。」

「おぉ~、見て見て!ノエル、ファリン。この映像!」


忍は喜々とした様子でそう言って、G1の戦闘記録映像を2人に見せた。


「ちゃんと映ってますね。これは、お嬢様が?」

「うん!いや~、大変だったよー。妙な力場の所為で不規則に映像が乱れちゃって。」

「けど、今は凄く鮮明に映ってますよ?」

「私が遊びで作ってたAIをちょこっと改造してね?パターンを解析して、乱れた映像を片っ端から修正して行くようにプログラムしたの。」

「ふわ~、凄いですね。」

「これで、アンノウンの情報が少しでも分かれば良いのですが。」

「そうだね。」


ビー!ビー!ビー!


忍がそう言った時、トレーラー内にけたたましい警戒音が鳴り響いた。


「ノエル!これは?」

「今、確認致します。ファリン!」

「はい、お姉様。」


キーボード操作し、警報の原因を探る。


「!?これは……新しい熱源反応?!」

「さくら様!早くそこから離れて下さい!!」


謎の熱源を感知し、すぐさまさくらに知らせるファリン。

そして、同時にセルフィたちも、同じモノを感知していた。








「ここから離れてって…」

「一体……」


その時だった。

地中から2本の腕が生え、G1とG3の足を捉えたのは。


「キャッ!?」

「何!?」


地面から生えた腕に足を持ち上げられ、転倒するG1とG3。


「そんな……まだ、仲間がいたなんて。」

「離せ!くそっ、離せっての!」


ゴゴゴゴゴ


盛り上がる大地、次いで現れるG1たちを捉えている腕の持ち主。


銅色のトータスロードが、地面からその姿を現したのだった。


銅色のアンノウンはそのままG1とG3を宙吊りにする。


そして、力の限り遠くに放り投げた。


「キャァァァァ!」


投げつけられ地面と激突するG1。


≪「姿勢制御ユニット破損!バッテリーの残量も限界です!」≫

≪「さくら!これ以上は無理よ、離脱して!」≫



「うあぁぁぁぁ!!」


木にぶつかり、地面に墜落するG3.


≪「勇吾!」≫

≪「胸部ユニット損傷、バッテリー出力80%まで低下!」≫


先程までの戦いで、バッテリー残量や装甲が既に限界のG1。

そして、テストも無しのぶっつけ本番で戦う事になった勇吾。



アンノウンは、倒れ伏す2つのGに向かって歩みを進めていた。


―――その存在が、現れるまでは。









彼らは疾風のように現れた。


装甲から火花を散らし、立ち上がるのも困難な状況にありながら、綺堂さくらは…確かにその姿を目撃した。


己の体の色と同じ、金色のバイクに跨った強き戦士―AGITΩ―を。

勇吾は見た。金色のバイクの後ろに乗った、長く艶やかな黒髪を持ち、顔の鼻から上を仮面で覆った女の姿を。






戦いは刹那の間に終わりを告げた。

電光石火

その言葉のように。



バイクから降りた彼等は、まるでG1とG3を庇うようにアンノウンに立ち塞がる。



グルルルルルルルル



己が天敵と出会ったアンノウンは、雄叫びを上げてAGITΩを仕留めんと疾走する。


そして、さくらと勇吾は…いや、Gトレーラーの中にいる人も又……信じられないものを目撃する。


「アルカス・クルタス・エイギアス」


女が呪文のような物を唱え始めたのだ。

すると、アンノウンは走りだそうとした体勢のまま、動きを止めていた。


「金色の閃光よ 、降り来たりて眼下の敵を討て。」


紫色に光る4つの輪が、アンノウンの四肢を拘束する。


「バルエル・ザルエル・プラウゼル」


AGITΩの隣に立つ黒髪の女性は、アンノウンに向かって手を翳し、そこに魔法陣を出現させていた。

魔法陣の中央に紫色の光が収束し、徐々に大きくなっていく。



「突き立て 雷光の剣!『サンダーレイジ 』!!」



そして、それが臨界に達した時、光は雷へと変わり、一筋の紫電となってアンノウンの体を打ち抜いた。



グァァァァァァァ!!



苦悶の叫びを上げ、膝から崩れ落ちる銅色のアンノウン。


その場の全員が唖然と見守る中、AGITΩは前に一歩を踏み出し、頭の角『クロスホーン』を展開する。


「はぁぁぁぁぁぁっ。」


紋章が地面に描かれ、両手を大きく左右に広げ、左足を引き摺るようにして後ろに下げる。


足と同時に左腕を腰に持って行き、右腕は体の正面で折り曲げる。


エネルギーが両足に吸収され、地面の紋章が消え失せる。


AGITΩはその場で空中へと跳び上がり、そして……


「はぁぁぁぁぁーー!!!」


アンノウンに向けて必殺のライダーキックを放った。


ギィィィィィィ!!!


アンノウンは大きく吹っ飛び、空中で爆発した。




「……凄い。」


誰かが、そう呟いた。

それは、この場にいる全ての人間の気持ちを表していた。


AGITΩと謎の女は、アンノウンを倒すとすぐにバイクに跨って、エンジンを入れた。


「!?待って!」


さくらが叫ぶ。

AGITΩはバイクを回し、G1とG3に背を向けた。


「あなたは一体……!」


ブォン、ブォォォォォォン!


AGITΩはそれに答えず、謎の女と共に遠ざかって行った。




そこには、満身創痍のG1と、新しい未知の生物に遭遇し、呆然としているG3が残された。











(凌side.)


アンノウンを撃破した俺たちは、元の姿に戻り、家までの道をバイクで走っていた。


「それにしても、驚いたよ。まさかそんな姿になってるとは思わなかったよ。」


バイクを運転しながら後ろに向かって話しかける。


「正体がバレたら困りますから。簡単なものだとはいえ、変身魔法くらいは使っておかないと。」


ヘルメットからはみ出した長い黒髪を風に棚引かせながら、リニスはそう言った。


「合流した時は本気で驚いたんだぞ?こう、「誰だお前ーー!!」みたいな感じに。」

「パートナーならそれくらい分かって下さいよ。」


冗談っぽく笑いながらそう言うリニス。

そうは言うが、分かれと言う方が難しいだろう。薄茶色の髪は真っ黒に染まってるし、髪も長くなっている。

それに仮面まで被るという徹底振り。

あそこにいたG3たちも、変身魔法を使う前と後じゃ絶対に気付かないだろう。

あ、そう言えば……


「そう言えば凌、あの青いのは前に見ましたが…あの赤いのは新型でしょうか。」


そう、G3の近くに仰向けに倒れていた赤いヤツ。あれは……酷く『クウガ』に酷似していた。

一体どういう事だ?この世界にグロンギは存在していないみたいなのに。

それに、よくよく考えてみれば、黒いG3の事も気に掛かる。

原作には居なかったと思うし。


「凌、凌!」

「おぉう!な、何だ?リニス。」


考え事に没頭していてリニスの声が聞こえなかった。


「家を通り過ぎましたよ。」

「うそぉ!」

「考え事をするのは結構ですけど、ボーっとしないで下さいね。」

「…すまん。」


車が来ていないことを確認してUターンする。


「全くもうっ、質問してるのに行き成り黙られたら不安になるじゃないですか。」ボソッ

「?何か言ったか?リニス。」

「いいえ、何も言ってませんが?」

「そ、そうか。空耳かなぁ。」


確かに何か聞こえたような気がしたんだけど、気のせいか。

「(まぁ、とりあえずは家に帰ってフィアッセさんに連絡するか。)」


そうして俺たちは己の帰る場所に帰って行ったのだった。







(おまけ)


「先生、分かりそうですか?」


海鳴大学にある研究室の一室。

一人の女生徒が、パソコンに向かって古代文字を解読している教師に話しかける。


「ああ、朧気にだけれど、何とかなりそうだね。」


その言葉に、その場にいた生徒はワッと歓声を上げた。


「良かったー。もう、頼れるのは先生だけだったんです。」

「ふむ、非常に興味深い言語だな。ん?この資料は?」


机に置いてあったクウガに関する翻訳資料の一部を見て、疑問の声を上げる男教師。


「あ、それは……この間、例の化け物に殺された佐々木さんが翻訳したものです。」

「これの翻訳データは、佐々木先輩が持ってたんですけど、襲われた時に壊れちゃったみたいで、途方に暮れてたんです。」

「そうか……分かった。これからは私も協力しよう。何か、あのアンノウンとか言う化け物に対抗できる術が見つかるかもしれないしね。」

「はい!ありがとうございます、先生!」

「うん、じゃあ、私はこれから講義があるから失礼するよ。帰りまでに、CDか何かに解読の終わって無い文章を入れておいてくれ。」

「はい!分かりました。」


そうして、男教師はその部屋を後にした。


その男の名は、『藤見 記康』

それは偶然にも、AGITΩとしてアンノウンと戦っている『藤見 凌』、彼の父親の名前だった。








後書き

今回、自分の限界を突破しました。(文章量的な意味で。)
今まで書いた中でも断トツで長いです。
けれど文章量と等価交換で質が下がっていないかが物凄く心配。

書き切れなかったその他の事も設定の方に書いておきます。

そして、今回は赤星君が主人公。←(これ重要)

呪文の「金色の~」って部分は聞き取れなかったので仕方なくこんな風にしました。分かる人がいたら教えて下さい。m(_ _)m



[11512] 迷い込んだ男 第二十五話 「変化」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/11/13 17:18
―海鳴警察署…特別演習場…―


バァン バァン バァン バァン バァン バァン バァン バァン バァン バァン


灰色の壁に囲まれた広い空間の中、G3はGM-01をターゲットに向けて連射する。


≪「命中率70%。大分命中する様になって来ましたけど、まだまだ訓練の余地有りですね、勇吾君。」≫

≪「この訓練を始めてからもう2週間だぞ?1つくらいターゲットの真ん中に当てるくらいの事はできる様にならないと。」≫

「はぁ、無茶を、言わ、無いで、はぁ、下さい。」


あの出来事の後、勇吾は正式なG3の装着者に選ばれた。

署内から反論もチラホラと上がったが、アンノウンを撃破した事実、及び現役の警察官よりも屈強な肉体の持ち主だという事が評価され、装着者になる事が決まったのだ。

此処2週間、勇吾は学校が終わるとすぐにリスティたちと合流し、今のような銃の訓練、及びバイク免許の取得、肉弾戦の訓練など、ハードな特訓に励む事になったのである。

しかし……


「銃なんか握ったことも無かったんですよ?2週間でそんなに上手くなれる訳無いじゃないですか。」


現実は厳しく、素人の勇吾では的に当てられる確率は約半分、良くて先程のような7割だ。そして、当たった弾は、いずれもが中央から遠い位置に命中していた。


≪「それでもやるしかないんだよ。G3の武装は射撃がメインなんだ。アンノウンが現れた時に「使えませんでした。」じゃ遅いんだからね。」≫

≪「もうっ、リスティ!そんな言い方は無いでしょう?勇吾君がいなかったら私たちは1から適応者を探さないといけなかったのよ?」≫

≪「分かってるよ。だから、生き残って貰うために訓練してるんじゃないか。」≫


リスティが勇吾に厳しい言葉を投げ掛けるのは、彼を死なせないようにするためだ。

アンノウンは強い。

それこそ、この『G3』のような、本来ならば有り得ないほど規格外な強化服を作らなければならない程に。


「セルフィさん、ターゲットの交換お願いします。今度は、全弾命中させて見せますから!」

≪「分かったわ。すぐに準備するわね。」≫


打ち抜かれたターゲットが撤去され、新しい物がセッティングされる。

勇吾は再びGM-01を構えた。

そして―――――




銃声と共に次々と風穴を空けられて行くターゲット。

やがて、銃声が止んだ。

ターゲットには、打ち抜かれた箇所はバラバラではあるものの、G3の放った弾丸が全て吸い込まれていた。
















二十五話「変化」













―翠屋―


「お花見に行きましょう!」


翠屋の営業が終わり、家に帰ろうと思った時だ。

唐突に、桃子さんは俺とフィアッセさんに向かってそう言った。


「はぁ、花見……ですか。」

「そうそう!今が丁度桜が満開の時期なのよ。凌君も家の店でバイトし始めて長いし、お友達も誘って皆でどうかなって思って。」

「お花見かー、そう言えばそろそろだっけ。」


春真っ盛りの4月、海鳴市では毎年綺麗な桜が咲いている。

通学途中にある桜並木も見事なものだ。

ただ、家の両親は何かと忙しかったりするから、花見なんてものはここ数年やった記憶が無い。


「ねぇねぇ、桃子!いつやるの?」

「日曜日は雨らしいから、それまでにね。」

「リョウも行くよね?ねっ!」

「え、えぇ、まぁ。花見なんてこっちに越して来てからは一回もやってないですし。」


俺がそう言うと、フィアッセさんは目を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ、今年はリョウも一緒だね!」

「はい。あ、凛も連れて行って良いですか?」

「ええ、良いわよ。他のお友達も呼んで桃子さんに紹介してね?」

「了解です。」


う~ん、楽しみだなぁ。


「あ、それでね、2人に1つ頼みたい事が有るんだけど」

「「?」」

「実はね――――――」


桃子さんが言ったのは、俺たちにとって驚くべき事実だった。










「けど、まさか……ねぇ。」

「うん。まだ場所が決まって無かったなんてね。」


翌日、学校が終わった後、俺とフィアッセさんは桃子さんから頼まれたある事を為すために2人で歩いていた。

ある事…とは、花見をする際に作る弁当の材料&花見ができる場所(できるだけ良い場所)の発見、及び確保だ。

何でも、肝心の花見ができる場所が見当たらないらしい。

それと言うのも、士郎さんが昨日の朝から場所取りをしに行こうと毎年行っている所に行ったところ、物の見事に良い場所が無くなっていたらしい。

やはり、皆考える事は同じなのか、すでに場所取りをしているグループが多く、近場の桜はほぼ全滅のようだった。

高町と美由希ちゃんも学校帰りに探しては見たものの、良い成果は挙げられなかったらしい。


「しっかし、これ見ると諦めたくなりますね。」

「ホントすごいね。何処も彼処も人でいっぱいだよ。」


良さそうな場所は士郎さんの言う通り根こそぎ確保されてしまっており、てんで良い場所が見つからない。


「うー、お花見したいなぁ。」


フィアッセさんがシートで埋め尽くされた公園を眺めながら呟く。


「こんなに人がいっぱいじゃ風情も何も有ったもんじゃ無いしなぁ。取り敢えずこの辺りは一通り回りましたし、もう少し遠くまで行って、無さそうなら買い物だけでもして帰りましょうか。」

「うん、そうだね。」


取り敢えず、暗くなる前にもう一ヶ所だけ回る事にした。




「無いですね。」

「うん、無いね。」


結果は惨敗。

桜は有ったものの、既に場所を取られた後だった。



「うー、一昨年はこんなに混んで無かったのに。」

「去年もそこまで混んでた訳じゃ無いみたいです。今年が異常なんだとか。」

「やっぱり、アンノウンが関係してるのかな。」

「あぁ、あれから出てませんからね。今の内にって事なんでしょうか。」

「多分、そうだと思う。」


宴会中にあいつ等が出てきたら、ぶち壊しだもんな。

そりゃ、早い内に済ませようとするか。


「めぼしい所は全部回ったし、後残ってるのは……」

「桜台くらいしか残ってませんけど…あそこ殆ど私有地ですからね。」

「誰か知り合いが持ってるなら話は別なんだけどなぁ。」

「はは、そう都合良くは…」


――――――ん?


あれ、桜台?

那美ちゃんに頼めばさざなみ寮の面々と一緒に花見ができる…か?

……いやいやいや、直接会った訳じゃ無いけど、真雪さんやリスティさんに、士郎さんと桃子さんが加わったら絶対カオスな事になる。

案外いい案だと思ったけど却下。


「リョウ?突然立ち止まってどうしたの?」


目を瞑って本格的に思考する。

私有地って言葉が妙に頭に引っ掛かる。

俺の知り合いで私有地を持ってる人がいたような気がするんだけど…


「リョウ~、どうしたの?」


――――!

待てよ、俺の記憶が正しいなら、さくらさんの私有地が海鳴に有るんじゃないか?

ゲームで忍がそんな事言ってたような……

よし!そうと決まれば早速…


むにむに。


「リョウの頬っぺた柔らかーい!むにむにー。」

「……あの、フィアッセさん?一体全体何をやっておいでなのでしょうか?」


いつの間にかフィアッセさんは俺の前に回って、俺の頬をむにむにと弄くり回していた。

と言うか、顔が近いです。心なしかフィアッセさんも顔がほんのり赤いように見える。

恥ずかしがる位ならやらないで下さい。


「だって、何回話しかけてもリョウが全然反応しないから…」

「うぐっ、すいませんでした。どうも考え事始めると周りが見えなくなっちゃって。」


うん、本気で気を付けよう。バイクに乗ってる時に考え事してて事故とか起こしそうで怖い。


「うん、いいよ。それでそれで?いい考えは浮かんだ?」

「ええ、まぁ一応。けど、先に買い物の方済ませましょうか。」

「そうだね。日も沈んできちゃったし。」





と、言う訳で場所は変わって近くのスーパー。


「えっと、何々?」

翠屋で桃子さんから貰ったメモを見る。

卵、かまぼこ、餅米、鶏肉、人参、筍etc.


「餅米なんてどうするつもりだったんだ?」

「甘酒を作るのに使うんだと思うよ?去年もそうだったし。それにほら、なのはちゃんはお酒飲めないから。」

「あぁ、なるほど。けど、じゃあ何で消してあるんだ?」

「んー、もう士郎が買って来たとか、そんな所じゃないかな。」


ふむ、何にせよ酒が飲めない俺としては甘酒は有り難い。


「じゃあ、さっさと買っちゃおっか。」

「そうですね。じゃ、2手に別れて買い集めちゃいましょうか。」


数分後、メモに書いてある物を全て買い揃え、俺たちは会計を済ませる為にレジに並んだ。


「あれ、……あ……の…彼…?」

「えぇ!?ち、違います違います!」

「も……!照れ…も……のに。」

「ホントにそんなんじゃ無いですから!」


俺が買った物を袋に詰めていると……フィアッセさんの並んだレジからそんな会話が聞こえてきた。

どうやら、女性の店員がフィアッセさんに何かを言っているようだ。

店員の方は余り聞き取れないが、フィアッセさんは顔を真っ赤にしながら、その店員の言葉を否定している。

やがて、フィアッセさんは顔が真っ赤なまま、会計を終えて俺の方に向かって来た。


「フィアッセさん、何の話をしてたんですか?凄い否定してましたけど。」

「な、何でも無いよ?唯の世間話だから、気にしないで?」


まぁ、本人がそう言うんなら追求しなくてもいいか。


「(うぅ、リョウと恋人同士に見られて恥ずかしかったなんて言えないよぉ。////)」


今だ赤い顔で俯くフィアッセさんを心配しつつ、俺は袋にせっせと食品を詰め込んで行った。






帰り道、翠屋まで荷物を届けた俺たちは、士郎さんと桃子さんに花見の場所が見つからなかった旨を伝えて、お互いの帰路に着いた。








―月村家―


「う~~あ~~。」


中破したG1の修理を2週間に渡って続けていた忍は、その修理が終わった途端に自身のベッドに倒れ込んだ。


「お姉ちゃん大丈夫?」

「ん~~、眠い~。」


フラフラと地下室から出てきた忍を心配して、すずかは姉の体調を気遣う。

ここ2日間は徹夜で作業していた為に体は疲れ果て、強い眠気が忍を襲ってくる。

目元はトロ~ンと緩み、口元からは涎が垂れ始めている。


「じゃあ、少し早いけどお休み、お姉ちゃん。」

「ん~、ありがとね~、すずか。」


すずかは近くにあったティッシュで涎を拭いてやり、電気を消して部屋から出て行った。

忍は、そんな健気な妹に礼を言い、深い眠りに入って行った。




それから少し時間が経った頃、すやすやと規則正しい寝息を立てていた忍の部屋に、忍の携帯から優しい歌が流れ始めた。

忍が大ファンの歌手、『天使のソプラノ』ことSEENAが歌う『ETERNAL・GREEN』だ。


「ん、んん~~~。」


忍は寝ぼけたまま携帯を手に取る。

そのまま液晶画面を見ずに携帯を耳に当てる。


「ふわ~~、もしもし?あなた誰?今何時だと思ってるの?」


安眠を妨げられて自然と不機嫌になる忍。


「藤見だけど、まだ6時なのにやけに眠そうだな。もしかして寝てたのか?」

「う~、藤見君かぁ。何か用?」

「確かに用はあるけど……別に後からでもいいぞ?また起きてから掛け直してくれたらその時にでも…」

「ううん、いい。寝ちゃったらどうせ朝まで起きないと思うし。ふわぁ~。」


眠い眼を擦りながら凌の声に耳を傾ける忍。


「月村に頼みたい事があるんだ。」

「頼みたい事?」

「ああ、実は……」


凌は、事のあらましを最初から説明した。

花見に行く事。その際、友達も誘うよう言われた事。

肝心の場所が未だにきまっていない事。

忍も話を聞いている内に段々眠気も薄れてきたのか、凌の話を楽しそうに聞いている。


「ねぇねぇ!それってノエルたちも一緒に行って良いの?」

「むしろ大歓迎だ。」

「うん、分かった。九台桜隅にさくらが別荘持ってるから頼んでおくね。」

「あぁ、悪いな月村、無茶言って。お前くらいしかこんな事を頼める奴いなかったから。」

「あははっ、アリガト。じゃあ、お花見楽しみにしておくねー。」


そう言って忍は電話を切った。


「はぁ、「お前くらいしかこんな事を頼める奴いない」か。ちょっと、嬉しかったかな。」


頬を薄い桃色に染めて、忍は枕に顔を埋める。

暫くそうしていると、眠気がまた襲ってきた。

けれど、早鐘を打つ自身の心臓の鼓動が煩くて、忍は中々眠る事ができなかった。









「えーっと、場所の確保は完了。んでもって月村を通じてノエルさんとファリン、さくらさんも参加決定。赤星は用事があるらしいから行けるかどうかは未定。アリサちゃん、すずかちゃんはなのはちゃんが誘うだろうから問題なし。うん、あと誘って無いのは那美ちゃんと久遠だけだな。」


そんな独り言を言いながら八束神社の石段を登る俺。

今日の朝、月村から花見の場所についてOKを貰った俺は、早速それを高町に報告し、桃子さんたちに伝えて貰った。

よほど絶望的だったらしく、電話越しに桃子さんと士郎さんから豪(えら)く感謝された。いつも寡黙な高町も、その事を伝えた瞬間「何っ!」と目を剥いていた。

そして今、俺は学校が終わってすぐに那美ちゃんと久遠を花見に誘うため、八束神社へと足を向けたと言う訳だ。

学校で言おうかとも思ったけど、どうせなら久遠にも直接伝えようと思い、敢えて神社に来る事にした。


石段を全て登り切り、久遠の姿を探す。

しかし、今日に限って久遠はいつも居る場所には居なかった。

暫くその近辺を探し回ったが、やっぱりいない。

そして、反対側を探してみようと体を後ろに向けたところに、久遠は何かを探しているかのようにキョロキョロと視線を彷徨わせながら、そこにいた。

そして、久遠は俺の姿を見つけると、瞳を閉じた。

瞬間、久遠が光に包まれる。

そして、その光が収まった時、そこには1人の少女が立っていた。


そう、―1人の少女が立っていた―。

久遠は、俺が知っている子狐の姿をしていなかった。

金色の綺麗な髪、その体には巫女装束を纏い、狐の耳と尻尾を生やしている。

少女と呼ぶに相応しい背格好の久遠は、その可愛らしい顔に満面の笑みを浮かべて、こっちに駆け寄って来た。


「くぅ! くぅ!」


久遠は、俺の近くまで来ると、タンッと軽くジャンプして、俺の胸に飛び込んで来た。


「ぅおっと。」


いきなりだったので少々反応が遅れたが、久遠の体重が軽かった事もあり、受け止める事には成功した。


「くぅ!くぅくぅ!」


受け止めた久遠を地面に降ろしてやる。


「くぅ!くくぅ!!」


すると久遠は、相変わらず鳴き声みたいな声を出しながら、何かのポーズを取り始めた。

えらくたどたどしかったが、それを見ている途中でハタと気付く。



久遠がしているそれは、AGITΩの変身ポーズだった。


な、何で久遠が知ってるんだ?

久遠がこれを知っている訳が無い。雑木林に久遠が居なかったのは確かだし、此処からバイクに乗ってアンノウンの元に駆けつけた時はあのポーズを取っていない。

なら、どうやって………

そこまで考えて思い出す。久遠が持っている特殊能力の存在を。



『夢写し』

確かその効果は、久遠の側で眠っている人の夢や、久遠自身の夢を他の人に見せる事。



近くで眠った時と言えば……もしかしてあの時か!

思い出すのは、フィアッセさんが此処に来た日の事。

確かに俺は、久遠と一緒に石段で眠りこけていた。

じゃあ、あの時…久遠が目を覚ますなり走って逃げたのはフィアッセさんに慣れていないからじゃ無くて、AGITΩの事を知ってしまって気まずくなったからか!


「くぅ くぅ くーん」


自分が伝えようとした事が、俺に伝わったのが分かったのか、久遠は幾分緊張している面持ちで俺を見上げた。

自惚れでなく、久遠は俺に懐いてくれている。

久遠にとって、心を開いた人間に拒絶されるのは、恐らく何よりも恐ろしい事だろう。

にも関わらず、久遠は少女となった姿を俺に見せてくれた。

己が普通の狐では無い妖狐だと、異端な存在である事を証明する姿を。


「くぅ~ん」


どこか怯えるような表情で俺を見上げる久遠。

俺は、久遠と同じ高さまでしゃがんで、目線を同じ高さにする。

手を上に振り上げる。

久遠は、ビクッと大きく震え、目を閉じた。



そして、俺は振り上げた手を久遠の頭に落とし、優しく撫でた。







(久遠side.)


くおん みた ゆめうつし りょう かわった


りょう こわいの たたかう やっつける


りょう かわる みられる こまる


くおん みた くおん きらわれる いや


くおん はしる にげた


くおん かんがえる りょう きらわれない ほーほー


かんがえる


まだ かんがえる


もっと かんがえる


まだまだ かんがえる


くおん いいこと おもいついた!


くおん ひみつ ばらす


なみ それ だめ いった


くおん やくそく やぶる


りょう みても へいき おもう


りょう やさしい


くおん ひみつ ばらす おあいこ


くおん りょう くるの まつ








りょう におい かんじる


くおん りょう さがす きょろきょろ


くおん りょう みつけた りょう こっちみた


くおん ひみつ ばらす りょう おあいこ


くおん へんげ する りょう おどろく


くおん はしる りょう だきつく


りょう だっこ うれしい おろされた ちょっと かなしい


りょう むつかしい かお なった



「くぅ!くぅくぅ!」



くおん しゃべれない


くおん おもいだす りょう かわる ぽーず



「くぅ!くくぅ!!」



くおん それ りょう みせる


りょう また おどろく



「くぅ くぅ くーん」



くおん りょう みせた つたわった?


くおん りょう みあげる


りょう くおん ゆるす? ゆるさない?



「くぅ~ん」



りょう しゃがんだ め たかさ くおん いっしょ


りょう て あげた くおん たたかれる?


くおん りょう きらわれた?


くおん こわい め とじる


いたいの こない


りょう て くおん あたま のる なでられた


りょう て やさしい あったかい きもちいい


りょう わかってくれた これで おあいこ


くおん うれしい


くおん りょう て とって なめる


くおん りょう からだ とびこむ あったか ぬくぬく


くおん りょう かお なめる



「久遠?!それに、先輩!?」


なみ きた りょう なみ いっしょ いちばん たのしい









(凌side.)


「久遠?!それに、先輩!?」


八束神社に、那美ちゃんの声が響き渡る。

俺は少女モードの久遠に抱きつかれ、絶賛顔をペロペロと舐められている最中である。

さっきの事で以前よりも更に懐かれたのか、久遠は俺にギューっとしがみ付いて離れない。


「久遠、あなた…その姿……」

「くぅ♪くぅ♪」

「那美ちゃん、とりあえず久遠を離すのを手伝ってくれないか?このままじゃ起き上がれなくて。」

「あ、はい。久遠!ほら、先輩が迷惑してるから離れなさい?」

「くぅ~ん」


那美ちゃんの言葉でようやく俺から離れる久遠。

甘えるのは俺的に問題ないんだけど、流石に見た目少女の久遠が俺の顔を舐めている絵面は知らない人に見られたら致命傷だからな。

………こう、世間体的な意味で。

事情を知ってる那美ちゃんで良かったかも知れないな。


「あの、先輩。久遠の事……」

「ん?あぁ、俺が此処に来た時に狐から今の姿に変わったんだ。」

「そう、ですか。見ちゃったんですね。」


諦めにも似たような声を洩らす那美ちゃん。

俯き、顔を上げようとしない。

そんな那美ちゃんを、久遠は心配そうに見上げている。


「なぁ、那美ちゃん。俺、さっき久遠とじゃれ合ってただろ?」

「っはい。」

「まぁ、それが俺の答えだよ。多少ビックリしたけどさ、狐から女の子に変わった位で久遠を避けるような事はしないよ。約束する。」


その言葉を聞いた瞬間、那美ちゃんは俯いていた顔を上げる。

そして、その瞳に驚愕の色を浮かべ、信じられないといった表情で俺を見る。


「でも、久遠はっ!」

「関係ないよ。変わらない。久遠がどんな存在でも、俺は態度を変えない。だって、その方が楽しいじゃないか。余計な事なんて考えないでさ、今までと同じように久遠と遊んでいたいんだ。」

「先輩は、久遠を・・・この仔の事を知って………それでも友達で、今までと変わらずにいてくれるんですか?」

「ああ。」


俺がそう言うと、那美ちゃんは久遠に抱きつき、嗚咽を漏らし始めた。

俺は、そんな那美ちゃんから目を離し、泣き声が止むまで、石段に座って目を閉じていた。







数分後、那美ちゃんは「久遠の事、ありがとうございます、先輩。」と、そう言って何度も頭を下げた。



「じゃあ先輩っ、境内の掃除をしてきますから、久遠の事お願いしますね。」


そう言って、巫女のバイトを始めようとする那美ちゃん。……って肝心の事をまだ言ってねぇ!!


「ちょっと待った!」


ガシッと那美ちゃんの細い腕を掴む。


「きゃっ、先輩?」

「実はだな……今日ここに来た本当の理由は久遠と遊ぶ事じゃ無いんだ。」

「そう、なんですか?」

「あぁ、今日は那美ちゃんを花見に誘いに来たんだ。」

「私を……お花見に?……え、えぇぇぇぇぇぇ!!?」


突然大声を上げる那美ちゃん。

あれ?俺、何かおかしい事言ったか?


「うおっ、ビックリした~。どうしたの?那美ちゃん。」

「だ、だって先輩!そ、それ…デ、デー……じゃ。」


声が小さくてうまく聞き取れない。

もう一度言って貰おうとしたその時、俺に抱きついていた久遠が、「くぅくぅ!」と言った。

どうやら仲間外れにされると思ったらしい。


「ははっ、心配しなくても久遠も一緒だよ。けど、なのはちゃんやフィアッセさんも一緒だから、来る時は狐の姿でな。」

「くぅッ♪くぅ~ん♪」


嬉しそうに鳴き、より一層強くしがみ付いて来る久遠。

満足した様子の久遠から視線を外し、何か言い掛けていた那美ちゃんへと戻す。


「なぁ、那美ちゃん。さっき―――――」

「な、何でも無いです。何でも無いですから、さっきの事は忘れて下さい!」


豪い勢いで記憶の消去を希望されました。


「うー、恥ずかしい。ひどい勘違いしちゃいました。」


耳を澄まして、やっと何か喋っている事が分かるくらいの小さな声で独り言を言っている那美ちゃん。

俯いてしまっているのでよく見えないが、顔も若干赤い。

多分、何か勘違い的な物をしてしまったのだろうと自己完結し、用件を伝え終えた俺は、抱きついている久遠の頭を撫でる事にした。


結局、那美ちゃんが境内の掃除を始めたのは、それから30分くらい後の事だった。








(おまけ)


―時の庭園―


「これは…一体……。」


プレシアが巨大パズルを解き終えた後に現れたのは、遺伝子モデルのような形をした物体だった。


「これが、アルハザードへの手掛かりになると言うの?」


俄には信じがたい話。

しかし、プレシアはこれを復元させる事に決める。

どの道、これがダメならばジュエルシードを使ってアルハザードへの道を無理やり抉じ開けるつもりなのだ。

幸い、時間はまだ残っている。

少しでも可能性があるのならば賭けてみよう。

そうしてプレシアは、プロジェクトFの理論を利用して、その遺伝子の元になった存在を復元する準備をし始めた。











後書き

海鳴の桜は4月の下旬位が丁度満開です(オリ設定)。
アンノウン出したりしてたら花見イベントが出せなかったんだ。
取り敢えず次話で花見イベントを終わらせて5月に移行します。
久遠を書き始めたら止まらなかった。ホントはもう少し短くする予定だったのに(汗



[11512] 迷い込んだ男 第二十六話 「花見」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/06/03 10:37
今日は土曜日、時間は11時を回ったところ、そして天気は見事な日本晴れ。

花見を行う現地には12時集合予定だ。


「お、おじゃましまーす。」

「そんな、おっかなびっくり入ってこなくても……普通の家だよ?」

「い、いえ、先輩のお家に来るの初めてなので…何となく緊張しちゃって。」


今、俺の家には那美ちゃんと久遠がやって来ている。

那美ちゃんは自転車くらいしか移動手段が無い、との事だったので、少し前に俺がバイクで迎えに行った。久遠は毎度の如く那美ちゃんが背負っているリュックの中だ。


「いらっしゃい。那美ちゃん、お久しぶり。」

「はい、凛さん。翠屋で一緒に働いて以来ですよね。」

「もう少ししたらフィアッセさん達も来るだろうし、その辺に適当に座っててくれ。」

「あ、はーい。」

「くーん!」


本当はバイクで行こうとしていたのだが、フィアッセさんの友人『若き天才』こと、アイリーン・ノアさんに送って貰う事になったのだ。

何でも、彼氏とデートに行くついでらしい。


「リョウー。」


玄関からフィアッセさんの声が聞こえる。

どうやら、お迎えが到着したようだ。


「よしっ、那美ちゃん、それに凛と久遠も行こうか。」

「はい。」

「くーん」

「分かりました。」


デートに向かうアイリーンさんを待たせては悪いので、俺たちは取り敢えず車に乗り込んで、目的地まで運んでもらう事となった。


向かうは……九台桜隅。





…………ちなみにその頃、勇吾は――――


「はぁ、みんなは楽しく花見か。それに比べて俺は……」

「シェリー、次のターゲット出して。勇吾、10発中5発真ん中に当てるまで終わらせないから。」

「(ちくしょー!!)」


心の中で絶叫しながら、GM-01を、ターゲットに構えて撃ち続ける勇吾。

美少女2人と一緒に訓練、そうは言っても、やっぱり納得がいかない勇吾だった。


「一発しか当たって無いじゃないか。シェリー、もう一回!」

「ねぇ…少し厳しすぎない?リスティ。」

「これくらいが丁度良い。まだまだ実力不足だからな。それに、こっちは殆ど此処から動けないのに花見に行きたいなんて言った罰だ。」

「リスティ……逆恨みって言う言葉を辞書で調べて、赤線を引いておきなさい。(はぁ、流石に可哀想だし、後で慰めてあげようかな。)」


いろいろ理屈を重ねるリスティであったが、結局のところ、自分がさざなみ寮の花見に行けないからこその逆恨みなのである。











二十六話「花見」











そして、俺たちは目的地に着き、アイリーンさんにお礼を言って車を見送った後、高町家や月村家の面々と落ち合う。


「お待たせ。」

「よ」


集合場所には、すでに高町たちが揃っていて、その後に俺たち、そして最後に月村たちが合流する形になった。


取り敢えず、手持ちの荷物の大半は俺と高町、そして士郎さんが担ぐ事に。


「あ、ゴメンね高町君、私たちの荷物持って貰って。」

「いや、鍛えてるからどうって事ない。」

「少し持ちましょうか?」


高町家の荷物は士郎さんが担いでいるので、手が空いていた高町は月村たちの荷物を担いでいる。


「ふむ、軽そうだなぁ、恭也。お前には不足だろう?だからそこで拾った手頃な岩でも乗っけたいんだが…いいか?」


何か悪戯心が刺激されたのか、士郎さんが高町にちょっかいを掛け始めた。

つか、桃子さんも美由希ちゃんも楽しそうに笑ってるんですけど、助ける気0か、あんた等。


「止めろ、父さん。リュック傷んだら如何するつもりだ、家のじゃ無いんだぞ。」



『(そう言う問題!?)』



瞬間、俺たちの心の声が恐らく1つになった。

高町的に、重量が増えるのは問題ないらしい。


「楽しみだなぁ、どんな所なんだろう。」

「絶対に気に入るよ、すっごく綺麗なところだもん。」

「すずかがそう言うなら期待できそうね。実は私、お花見って初めてなのよ。孤児院育ちだったし、パパは色々忙しいから。」


アリサちゃん達も楽しみなのか、今からはしゃいでいる。


「皆さん、こちらです。あ、ここを登れば見えてきますから。」


さくらさんの案内の元、山の中の歩道を登って行く。

そして――――――――




「ふわー……」


「凄い凄い!」


「うわーーー。」


「はーーーーー。」


「……ほー。」


「…ぅわ……すっげぇ…」



……溜め息が出た。

湖と、きれいに整備された歩道の当たり一面に、桜がこれでもかと咲き乱れている。

やわらかな風に吹かれて舞う桜の花、その光景は俺の目にはとても幻想的に映った。



「すっごーーーい」


「これは……見事なもんだ。」


「はやー…」


「…凄いわねー、圧倒されそう。」


「すっごいやー…」


「凄く…綺麗です。」


「くぅん♪くぅん♪」



全員が感嘆の声を洩らす。

ここまで綺麗な桜を見たのは初めてだ。

それは、皆も同じだったのだろう。

この光景に目を奪われ、声が出てこない。


「…気に入って、」

「頂けましたでしょうか。」


先導していた月村とさくらさんがそう言って俺たちの方を振り向く。


「いや、もう、気にいるなんてものでは!ねぇ、あなた?」

「ああ、こんな素晴らしい場所に連れて来て頂いて、感謝の極みですよ。」

「本当にアリガト!えーっと………」

「私がさくら、こっちが姪の忍です。」


それを聞いた途端、感極まったのか、桃子さんはさくらさんと月村にガバッと抱き着いた。


「ありがとう!さくらちゃんに忍ちゃん!!」

「ふふっ」

「あははっ」


2人は目を合わせ、笑い合った後、互いにグッと親指を立てた。


「取り敢えず、どこかその辺に荷物、置いちゃいます?」

「はい!」


月村のその言葉に、美由希ちゃんは元気に返事を返し、持っていたシートを広げ始めた。

そして、俺たちは、早速その上に荷物を広げたのだった。









「みんな、飲み物は行き渡りましたかー?」

「よし、じゃあ……。高町家関係者一同の健康と平和……そして、素晴らしい友人との出会いと温情に感謝して、僭越ながら私…高町士郎が、乾杯の音頭を取らせて頂きます。」

「では皆さん、グラスを取って頂いて……」

「………かんぱーーーいっ!」


『かんぱーーいっ!』


桃子さんと士郎さんの合図で、俺たちはグラスをぶつけ合い、それぞれの飲み物を飲む。


「それじゃあ、乾杯も済ませたところで、初対面の人も多い事だし、簡単に自己紹介でもしていきましょうか。」

「そうだな、じゃあ美由希、まずはお前からだ。後はそこから時計回りで順番にしていってくれ。」


桃子さんも士郎さんも、生き生きした顔をしている。

それにしても、流石は年長組、見事に仕切っている。


「えーと、高町家の長女です。高町美由希、って言います。風芽丘の1年A組です…えと、よろしくお願いします。」


「綺堂さくらです…海鳴大学で大学院生やってます。専攻は、かつて存在していたとされる日本の古代文明が中心です。」


「ノエル・K・エーアリヒカイト…忍お嬢様の屋敷でメイドをさせて頂いてます。趣味は……特にありません。それで、こっちが妹のファリンです。」


「ふぇ…え、えっと、ファ、ファリン・K・エーアリヒカイトと言います!趣味は、えとえと、猫さんたちのお世話…です。」


「月村すずかです。私立聖祥大附属の2年生です。趣味は読書で、好きなものは猫さん。あと、体育がちょっぴり得意です。」


「あ、高町なのは…です。すずかちゃんと同じで、聖祥の2年生です。趣味はゲームとかで、機械いじりも結構好きです。」


「アリサ・L・バニングスです。少し前まで孤児院にいました。特技…じゃ無いですけど、勉強は得意です。」


「…高町恭也です。高町家の長男で、風芽丘3年G組です。趣味は寝る事、特技は何処でも眠れる事です。」


「月村忍です。藤見君や高町君のクラスメイトで…藤見君の後ろの席です。…趣味……読書とゲーム…後は、映画とか…かな。」



美由希ちゃんから順々に回って来て、ついに俺に順番が回って来た。



「藤見凌です。2人と同じ3年G組……翠屋でアルバイトやってます。趣味は月村と同様で読書とゲームです。」


「ちなみに、凌君は喧嘩とか強いぞ?何せ、うちの恭也や美由希と良い勝負したからな。」


せっかく無難な事言って、手っ取り早く締め括ったのに士郎さんが余計な一言を言いやがりました。


「高町君って確か……」

「うちは俺たち兄妹と父さんが剣術家なんだ。少し前に藤見と試合してな、中々強かった。」

「あはは、私は危うく負けちゃうところでした。」

「……はー、凄かったんですね、先輩って。」

「へぇー、凄いんだ、藤見君って。」


いやー!やーめーてー。

能力使ってなかったら俺なんて瞬殺なんだから、そう言う事言わないでくれー。

罪悪感が、罪悪感がー!



「あー、もうっ!俺の事はいいんだよ!ほら次、那美ちゃんの番だよ。」



俺は強引に話を変え、那美ちゃんに自己紹介するように促す。

そこっ!逃げたとか言うな!


「あ、はい。えーっと……神咲那美です。風芽丘の2年E組で、西町の八束神社で、そこの管理代理と、巫女のアルバイトをやってます。」


「……くーん…」


「あ、この仔は…わたしの友人で久遠って言います。」


「くぅん!」


久遠は、自己紹介が終わると、那美ちゃんの膝の上に登り、丸くなった。


「…フィアッセ・クリステラです。職業は、海鳴商店街喫茶店『翠屋』のチーフウェイトレスと…あと、ちょっとだけ、歌手の卵もやってます。」


「凌の従姉で藤見凛と言います。趣味は家事全般、特に料理が楽しいですね。」


「高町桃子です。喫茶『翠屋』のパティシエと、経理も担当しています。」


「俺は高町士郎。桃子と一緒に、『翠屋』を経営していて、店長兼マスターをやってます。桃子の作るお菓子は絶品ですよ。今度、是非食べに来て下さい。」



と、一頻り自己紹介が終わる。

しっかし、士郎さん……流石…なのか?自己紹介ついでにちゃっかり店の宣伝もしてるけど。


「じゃ、とりあえず…皆で仲良く、やりましょうか。」


桃子さんの言葉に皆が返事をし、それぞれ食事と話、花見へと入って行く…。


「あ、お料理はこちらにありますから…皆どうぞ好きなだけ食べて下さいね。」

「おつまみ系はこっち、食事系はこっちの重箱になります。」


リニスとノエルが重箱の蓋を開けて、ジャンル別に分けていく。

ちなみに、弁当を作ったのは、桃子さんとノエル、それとリニスだったりする。


「あ、じゃあ…いただきます。」

「いただきます。」

「じゃ、俺も。」


月村と那美ちゃんと一緒に重箱へと箸を伸ばし、思い思いのおかずを皿へ載せる。


「んんっ!」

「…はー…」

「うまっ!」


月村はリニスの、那美ちゃんは桃子さんの、そして俺はノエルの作ったのを食べる。

桃子さんやリニスの作った物がおいしいのは分かり切ってたけど、ノエルさんの作った物もそれに負けないくらいおいしい。

月村たちも、驚いたように2人で顔を見合せる。


「凄い、おいしい!」

「本当ですね。」


2人はそう言って、更に小皿へといくつかの料理を載せていく。

かく言う俺も、3人が作ってくれた料理を1種類ずつ小皿に取っていく。


「凄いなぁ、お料理上手なんですね、お二人とも。」

「ふふっ、ありがとう忍ちゃん。」

「たくさんありますから、どんどん食べて下さい。那美さんも如何ですか?」

「あ、はい。ありがとうございます。」


自分の料理を褒めて貰って嬉しいのだろう、桃子さんもリニスもニコニコ笑いながら、2人の小皿に料理を取ってあげている。


「藤見様、こちらも如何ですか?」

「あ、すいません、ノエルさん。」


空になった俺の小皿を見て、ノエルが新たに装ってくれる。


「いえ、やはり自分の作った物を美味しそうに食べて貰えることが何より嬉しい事ですから、遠慮なさらないで下さい。」


柔和な笑みを浮かべて、俺に小皿を渡すノエル。

心の底から、本気でそう思っているのだろう。そう確信できるだけの自然な笑顔がノエルの顔には浮かんでいた。


「あなた、はいっお酒。」

「おぉ、悪いな桃子、おっとと。」


桃子さんが士郎さんのグラスに酒を注ぐ。

まぁ、車で来てるからそこまで大量には飲まないだろうけど。


「忍ちゃん、さくらちゃん、お酒はどう?」

「あ、えーっと…実は、ちょっと好きです。」

「私も、お酒は大好きですね。藤見君や高町君はどうなの?」


さくらさんから、俺と高町に質問が飛んできた。


「俺は飲めませんね。」

「え、全く駄目なの?」

「以前、父さんに飲まされた時は1口でダウンしました。」

「ありゃりゃ、そんなに弱いのか。」


月村は、俺の言葉に苦笑しながら、グラスの酒を傾ける。


「……俺も藤見と同じで下戸だ。」

「あら、高町君も?お父さんの方は良い飲みっぷりなのに。」


さくらさんも、そう言ってグラスの酒を一気に飲み干す。


「そうなのよー。お酒飲めない、甘いもの苦手と…お酒好きで甘いもの大好きの士郎さんの息子とは思えないわ。」

「そうだぞ、俺が桃子にプロポーズしたのだって、桃子が作ったシュークリームに感激したのが切っ掛けなんだ。そんな事じゃ、いい恋人は出来ないぞ?」

「あのな、とーさん。大体、甘い物が好きな事と、恋人が出来る出来ないは関係ないだろう。」


こめかみを押さえながら士郎さんに反論する高町。


良く見ると…だが、確かに士郎さんの顔が赤くなっている。あれ?って事はそろそろ――――


「思い出すなぁ、若かりし青春の日々。」

「そうねぇ、士郎さんと出会った、あの運命の日。」

「桃子。」

「士郎さん。」


見詰め合って完全に2人の世界に突入する万年新婚夫婦。

これを見るのが初めてな忍とさくらさんは、余りのラブラブっぷりに顔を若干赤らめている。


「ねぇ藤見君、みんなスルーしてるけど、これっていつもの事なの?」

「まぁ、大体。酒が入ってなくてもいつかはこうなってたでしょうけど。」

「そ、そうなのね。けど、桃子さんは良い旦那さんを見つけたわね。中々いないと思うわよ?周りを気にしないでここまでいちゃつける夫婦なんて。」

「まぁ、確かに羨ましくはありますね。流石に、ここまでは無理でしょうけど。」


まぁ確かに、そんな人と結婚できるんなら幸せだろうな。


「あ、シノブちゃん、注ごうか?」

「え?あ、お願いしますフィアッセさん。」

「オッケー、それじゃあ、とぽとぽとぽ……っと。」

「…あ、ありがとうございます。」

「サクラさんもどうです?」

「頂くわ。ありがとうね。」

「リョウと、恭也は?」

「すいませんがパスで。」「…同じく。」

「ふふっ♪りょーかい。」


月村は若い子向けの果実酒を、さくらさんは日本酒をグラスに受け、それをくーっと呷る。

どちらも酒に強いのだろう、あっという間に飲み干してしまった。


「はぁ……」

「ふぅ、美味し。」


「あ、いける口だね2人共……じゃあ…はい、もう一杯。」

「ありがとうございます。」

「ありがとう。フィアッセさんも飲みましょう?」

「おとと、はい、じゃあ有り難く。」


『乾杯っ』

チンッとグラスを合わせ、3人はそれをぐいぐい飲み干していく。


「はぁー、おいしー!」

「ホントね。桜を見ながらだと格別だわ。」

「そうですねー。」


俺と高町が飲んでいるのは単なる炭酸飲料だが、確かにさくらさんの言う通り、いつもよりも美味しく感じられるから不思議だ。


「♪……」


月村は慣れた手つきで果実酒を飲む。

ふと、月村の方を見ると、何だか幸せそうな顔をしていた。

この表情が見れただけでも、誘った甲斐があるように思えた。




「すずかちゃん達ー、甘酒はいかがですか?」

「わーい、甘酒ー。」


ファリンさんがなのはちゃん達の湯飲みに甘酒を注ぐ。

なのはちゃんの様子から察するに、甘酒が大好きなんだろう。ソワソワしながら、ファリンさんが注ぎ終わるのを待っている。


「はー、あったか…。あ、久遠ちゃんも、ちょっと舐めてみる?」

「くぅ?」


なのはちゃんが用意してきた油揚げを、はむはむと食べながら、アリサちゃんに向かって首を傾げる久遠。

アリサちゃんは小皿をすずかちゃんから受け取り、久遠に少し甘酒を振る舞う。


「………」


久遠は、ふんふんと匂いを嗅いで、少し離れたかと思うと……。

じっと、アリサちゃんの顔を見る。


「ん?どうしたの、美味しいわよ?ねぇ、すずか。」

「うん、ちょっとだけでも舐めて見て?ほら。」


ぺろ、と皿の甘酒をすずかちゃんが舐める。


「……………」


久遠は、差し出された甘酒をぺろ、と一舐めして……。


「…………………………」


気に入ったのか、すぐに又ぺろぺろと甘酒を飲み始めた。


「おお。」

「気に入ったみたいだね。」

「くーちゃん、かわいー♪」


一心不乱?に甘酒を飲む久遠の姿を見て、なのはちゃん達もまた甘酒に口を付け始める。



「神咲先輩は、お酒は…?」

「あ、私も全然ダメなんですよー。」

「うーん、じゃあ、甘酒は?そっちも、ダメですか?」

「えーと、どうだったでしょう。あんまり、飲んだ記憶が無くって。」


お酒がダメなら、せめて…といった感じに、那美ちゃんに甘酒を進める美由希ちゃん。


「とりあえず、美味しいですよ?えっと、ポットは……」

「あ、はーい。こちらにございますー。わきゃ!!」


ポットを持って行こうとしたファリンから上がる悲鳴。

ぐらりとファリンの体が前へと傾き、それに伴ってポットも傾きかけている。


「(まずっ!)」


逸早くそれに気付いた俺は、即座に能力を使い、身体能力を跳ね上がらせる。


「はうっ!」

「あ、あぶねぇぇぇ。」


『おぉー!』


今のを見ていたらしい周りの連中から声が上がる。

しっかし、間一髪とは正にこの事だ。完全にこけてしまう前に、何とかファリンを抱きとめる事に成功した俺は、安堵の息を吐いた。

もし間に合わなかったらと思うとゾッとする。あのままなら、間違いなく那美ちゃんが被害を被っていただろう。


「はわっ!ふ、藤見さん。ありがとうございました。」

「いや、大惨事にならなくて良かったよ。」

「本当にすいません。わたし、いつもドジばっかりやっちゃって。」

「いえいえ、それよりも、那美ちゃん達にその甘酒、注いであげて下さい。」

「は、はい!分かりました。」


ふぅ、と一息ついて、再びシートに座り直す。

そして、未だに残っているグラスの中身を一気に飲み干す。


「…じゃあ、神咲様…どうぞ。」

「あ、はい、ありがとうございます。」


ファリンが、甘酒のポットから那美ちゃんの湯飲みに甘酒を注ぐ。


「はー……」

「…どうですか…?」


少し不安そうに聞く美由希ちゃん。桃子さんが作った物だし、気にしているのは味では無く、口に合うかどうかの方だろう。


「あ、美味しいです!」

「よかったー。」

「では、もう一杯いかがですか?」

「はいー!あ、ファリンさんも飲みましょう?」


にこにこと、那美ちゃんとファリンの2人は、互いに杯を注ぎあう。


「でも、なんだか不思議ですよねぇ…。」


湯飲みに入った甘酒をぷはっ、と飲み干し、那美ちゃんは俺に向かって話しかけてきた。


「先輩と出会ってなかったら私、ホントなら此処にいる皆さんとは、多分話をする事も無かったんですよねー。」

「そうなんだよねー、私も藤見君に会わなかったら、高町君や赤星君とも話す機会がなかったと思うし。」

「んー、そう言うもんか?」


隣で、フィアッセさん&さくらさんと飲んでいたはずの月村が、会話に入り込んで来た。


「私と神咲さんだって、普通ならそのまま話もしないで…3年間過ごしちゃうだろうし。」

「学年が違いますから。あ、先輩…甘酒、どうぞです。」

「お、ありがと。」


それぞれのペースで飲み物を空けながら、俺たち三人はまったりと会話を続ける。


「私が、先輩に出会えたのは、久遠のお蔭なんですよねぇ。」

「……くーん」

「あ、甘酒、おかわり?」


自然と目が久遠の方を向く。久遠は、よっぽど甘酒が気に入ったのか、何杯目かの甘酒を飲み干し、なのはちゃんから更におかわりを貰っているところだった。


「そうだった、そうだった!神社に狐が住んでるって噂を聞いたなのはちゃんに連れられて八束神社に行って、そこで会ったんだよなぁ。」

「先輩と、月村先輩は……どうやって?」

「私たち?うーん。」

「俺と月村が会ったのは、とある墜落事故が切っ掛けなんだ。」

「つ、墜落事故って……」

「実は、俺が崖から墜落したのを助けてくれたのが、月村なんだ。」


俺の意図を読み取ってくれた月村が、俺に話を合わせてくれる。


「あの時は、大変だったね。」


「確か…カナダだったよな。」

「…そう……。カナディアンピークの、西側ルート。『絶対不可侵の神の領域』って呼ばれてる地帯に、藤見君が一人でチャレンジした時の事。」

「はー………」


那美ちゃんは、俺たちの話に聞き入り、感心している。


「月村は、俺の命の恩人なんだ。」

「何を水臭い。私と藤見君の仲じゃない。」


月村が、俺に擦り寄って来て、ぽんっと俺の肩に手をやる。


「はー…そうだったんですか…いい、話ですね。だからお二人とも、そんなに仲がよさそうなんですね。羨ましいなぁ……すごく。」


折角だから、と原作での高町と月村の掛け合いを再現してみたんだけど…ホントに信じちゃったよ、那美ちゃん。

俺と月村の嘘話に感動してしまっている。

さて、じゃあそろそろ、本当の事を言いますか。

俺は月村と目を合わせて……。


「いや、実は…。」

「…ゴメンね?信じちゃった?」

「…………は?」


俺たちの告白に、那美ちゃんの目が点になっている。


「ホントは、この近くの臨海公園で…すずか共々、車に轢かれそうになったのを、助けて貰ったのが切っ掛けなの。」

「え?え?じゃ、カナダで絶対不可侵の登山、って言うのは…。」

「うん、まぁ嘘だね。」

「そ、そうだったんですか!?………って、車に轢かれそうになってたのを助けたのだって十分に凄いですよ!?」


おぉ、那美ちゃんがツッこんだ。多分、これは滅多に見れない貴重な光景じゃないかと思う。


「あはははははは。」

「あぅ、そんなに笑わなくても……。」

「あ、ゴメンゴメン。そんなつもりじゃなくて、何か楽しくなっちゃって。」

「楽しく…ですか?」

「うん。今まで、友達なんかいなかったから、こうやって大勢で集まってワイワイやったのなんか初めてでね…それが何となく、いいなぁって。」

「そうですね…何となくですけど、分かるような気がします…その気持ち。」


油揚げを食べながら、甘酒も飲んでいる久遠。

その久遠と戯れながら、甘酒を飲んでいる最年少組。

年が近い事もあり、話がはずんでいる様子の美由希ちゃんとファリンちゃん。

桜を見上げながら酒を飲み、笑い合っているフィアッセさんとさくらさん。

リニスとノエルは、メイドについてお互いに語り合っている。

桃子さんと士郎さんは、高町を捕まえてお酒を飲んでいる。


誰を見ても、幸せそうな表情をしていた。


「そうだな。俺も、分かる気がするよ。」











「はーい!ちゅうもーく!そんじゃ、ぼちぼち桃子さん、イッパツ、歌いまーーすっ!!」


桃子さんは、持ってきたステレオの電源を入れ、マイクを握り締める。


「いいぞー!桃子ー!」

「曲は『涙の海峡』……ばい、華村佳代。」


高町家持参のステレオから、演歌が流れ出す。

そして、桃子さん・士郎さん・さくらさん・アリサちゃんと、歌は順々に回って行き…マイクが俺たちの方まで回って来た。


「はい、次は藤見様たちですよ、どうぞー♪」


軽く酔っ払っているのか、いつにないハイテンションになっているファリンちゃん。

……こういうのって、歌える曲とかが無い場合はどうしたら良いんだろうか。

無言で高町の方を見る。

静かに目を閉じて顔を左右に振られた。

……仕方ない。


「月村、歌ってくれないか?」

「え、私?……ま、いっか。」

「曲は、なんにするー?ディスクに入ってない曲でも、私が弾ける曲ならオッケーだよ♪」


そう言った、フィアッセさんの膝元にはミニキーボード。

どうやら、リュックに入れて持って来ていたらしい。


「んー、じゃ、えーっと…これにしようかな。うん、これにします…17番。」

「はーいっ…17は……あ。」


フィアッセさんが、くすりと微笑んでステレオを操作すると、すぐに静かで穏やかな曲が流れ出す。

「月村忍さんが歌います。……SONG・BY・SEENA……曲は、ETERNAL・GREEN…………。」


…………………。


「………♪……」

「………わぁ」

「流石です、お嬢様。」

「綺麗な歌声。」

「凄いわねぇ、すずかのお姉さん。」


静かな旋律が辺りに響き渡る中、誰しもその歌声に聞き惚れていた。


「♪…♪………」


英語の発音も、綺麗だし、ステレオから流れる曲の旋律に乗って、自然と耳に入って来る。


「♪………………」


ぱちぱちぱちぱちぱちぱち


月村が歌い終わると、みんなが大きな拍手をする。


「お粗末でした。」

「凄い!上手い!」

「凄いですー!」

「あ、ホントですかー?」

「ちゃんとレッスンすれば、プロになれるよー。」

「あはは、ありがとうございますー。」


現役の歌手に褒められて、照れくさそうにする月村。


「やるね。」

「凄いな、ホントに上手かったよ。」

「あは、2人共ありがと。じゃあ、高町君、はいっ。」

「おねがいしまーす!」


那美ちゃんから声援を受け、月村からマイク手渡された高町は―――。


「すいません、歌は勘弁して貰えると助かります。藤見、行け。」


逃げやがりましたよ、この野郎。

高町は、マイクを俺にヒョイッと放り投げ、GOサイン。


「お前なぁ、俺だって歌はダメだよ。えー、リニ……ごほんっ!凛、行ってくれ!」


ぽん、とマイクをリニスに渡す。


「ええっ…わ、私ですか!?」

「スマン、頼む!」


両手を合わせて頭を下げる。

プライド?そんなものは無いです。


「うう…しょうがないですねぇ。じ、じゃあ、歌います。」


リニスは、フィアッセさんに歌の番号を教わり、その中で自分の知っている歌のナンバーを指名する。


リニスの、澄みきった歌声が流れて行く。

リニスは魔法世界の住人ではあるが、地球に来てから約1年。テレビを見て、大体の歌ならば知っているのだ。


「上手ですねー、凛さん。」

「ホント、綺麗な声ね。」

「うわー、リンも凄いなぁ。音程全然外さないよー。」


多分、その辺は元からのセンスなんだろうな。

もしかしたら、母さんがよくテレビ見ながら歌っているのを間近で聞いているのも影響してるのかも知れない。

あの人、カラオケとか行ったら大半の曲で90点近く出すらしいし。


「えっと、ありがとうございました。じゃあ、次はノエルが歌って?」

「わ、私がですか?!」

「お、それ良いわねー。ナイスです、凛さん!」


主である忍からそう言われては断れないノエル。

おろおろと視線を彷徨わせ、さくらさんに目を向ける。

けど、まぁ当然と言えば当然で、ノエルの無言の訴えを首を横に振る事で断るさくらさん。

さくらさんも興味あるんだろうなぁ、ノエルの歌。


「わ、かりました。では――――――」



………そうして賑やかな宴は続き――――――。





いつのまにか日も落ちて、そろそろ夕方になり始めていた。


「はー、お弁当も殆どカラになっちゃったし、綺麗な桜もいっぱい見られたし…そろそろ、お開きにしましょうか。」


桃子さんの言葉に、みんなが頷き、それぞれに帰り支度を始める。


「よし、じゃあ…燃えるゴミはこっちの袋、燃えないゴミはこっちに入れてくれー。」


士郎さんの合図で、それぞれにゴミを捨てて行く俺たち。

しかし、それも出来ない程に酔っ払っている面々もいた。


「ほにゃー、ちょっとふらふらするよー…」

「あぅ、わたしもー。甘酒で酔っ払っちゃうなんて、不覚だわ。あー、でも気持ちいー。」

「あわわ、危ないよ、2人とも。うん、しょ!」


あっちへふらふら、こっちへふらふらと、足がおぼつかない2人を、真ん中に入って支えるすずかちゃん。


「うーん……はー、いーきもち…………」

「…くぅぅぅん…」


那美ちゃんと久遠も、へろへろになってしまっている。

信じられるか?那美ちゃんが飲んでたのって、甘酒なんだぜ?

甘酒…だよなぁ。たかだか甘酒で、よくもここまで酔えるなぁ……。


「那美さん、立てます?」

「あ、はい…ちょっと待って下さい。…ええと…おろろ。」


那美ちゃんはそう言ったものの、台詞とは裏腹に体の方はふらふらとよろけ…。


「あわわ、わわ」


美由希ちゃんに向かって倒れこむ。


「はわっ!美由希さん!」


ファリンちゃんが、2人を支えようと美由希ちゃんの背後に回る………が。


「へぅ!」

「むぎゅ…」


支えきれずにそのまま、ずでんと3人は転んでしまった。那美ちゃんは美由希ちゃんの胸に顔をうずめる形で倒れ込み、ファリンちゃんも2人分の重さに潰されて、うんうん唸っている。


「はあぁ、す、すみません……っっ」

「あ、その、いえ……ごめんなさいっ」


顔を上げて、美由希ちゃんに謝る那美ちゃん。


「むきゅう……」


「え?あ、あぁ!ファリンさん!大丈夫ですか?」

「ご、ゴメンなさい…すぐに退きますから。」

「きゅ~……」


2人は頬を染めつつ、立ち上がる。そして、ファリンちゃんは、目をぐるぐる回しながら気絶していた。


何と言うか……こんな事を思うのは不謹慎なんだろうけど、あの3人って、実は物凄く似た者同士なんじゃないか?………ドジっ子的な意味で。


「くぅぅん、くぅん。」


足元から久遠の鳴き声がして、下を見てみると、俺の足に久遠がもたれ掛かっていた。


「よいしょ。」


一旦しゃがんで、久遠を抱きあげる。

……やはり酔っ払ってるのか、顔が少しだけ赤い。


「くぅ!」


久遠は、ヒョイッと俺の腕から抜け出して、俺の顔目掛けて跳び上がって来た。

そして――――――



チュッ



俺の唇に、久遠の小さな口が当てられる。

久遠はそのまま、唇を舐め始める。

…これもキスの内に入るんだろうか。

まぁ、酔っ払っての行動だし、気にする事も………


「ぅぉ!」


何か、背中に鋭い視線を感じる……


「ふっ」


勢い良く後ろを振り向く。

そこにいたのは――――――



笑顔でこっちを見ているリニスだった。

……ふぅ、何だ…唯の気の所為か。

先程の視線が何でも無かった事に安堵しつつ、酔っ払っている久遠を、再び抱っこする事にした。






「さて、じゃあそろそろ解散だな。」

「そうですね、日も沈みかけてきた事ですし。」


ゴミの回収も済み、いよいよ花見が終わる時が来た。


「それじゃあ、解散!」


士郎さんの掛け声が掛かり、遂に花見が終わる。


「それじゃあ、私たちはお先に失礼しますね。」

「またねー、ファリンさん、那美さん。」

「じゃあな、藤見に月村。」

「ばいばーい!アリサちゃん、すずかちゃん。それに、くーちゃんもー!」

「そう言えば…とーさん、酒飲んで運転は不味いんじゃないか?」

「息子よ、良い事を教えてやろう。事故を起こさなければ何の問題も無い。」


賑やかに帰って行く高町たち。


「それじゃあ、車は下に停めてあるから、先に荷物積んじゃおうか。」


アイリーンさんの車で来た俺たちは、帰りは月村の車に乗せて貰える事になっている。


「それは良いけど、流石に全員は無理だろ?誰が先に乗るんだ?」

「そうねぇ、アリサちゃんがちょっと眠そうだし、すずかとファリンと一緒に私が送って行く事にしましょうか。」

「あふ、すいません。めーわく掛けて…ふわぁ。」

「アリサちゃん、大丈夫?」

「俺が下まで負ぶって行こうか?」

「そうね、そうして貰えると助かるわ。」


そうして、とりあえずアリサちゃん・すずかちゃん・ファリンちゃん、さくらさんが荷物と共に車に乗り込み…ノエルの運転する車で、一足先に家へと帰って行った。

残った俺たちは、しばしの間、茜色に染まった桜の余韻を楽しむ事にした。


「……久遠、どう?少しは酔いが醒めた?」

「くーーん………」

「はぁ……」

「大丈夫?神咲さん。」

「は、はい……なんとか……」


今もまだ少し顔の赤い那美ちゃんを心配する月村。


「久遠ちゃんも、まだ酔っ払ったままなのね。」

「くーーん…」


苦笑しつつ、俺の腕の中に入る久遠の頭を撫でるフィアッセさん。


「すみません、月村先輩。」

「『先輩』…じゃなくていいよ?普通で。」

「あ、じゃあ……忍さん…」

「ん。」


今日の宴会で、何やら友情が芽生えた模様。

ここは暫くの間、2人にさせておこうか。その方が仲も深まるだろうし。

俺たちは、少しその場から離れた場所に移動する。


「はーー……今日は楽しかったー!」

「ええ、ホントですね。テレビで見た事はありましたが、桜という物が…あんなにも綺麗な物だったなんて、知りませんでした。」

「確かに綺麗だったよなー。ここに越して来る前…って言っても、ガキの頃の話だけど…その時に親子揃って見た時よりも、何倍も綺麗だったように思うよ。」


夕暮れの空と桜を眺めながら、今日の事を語り合う。


「ありがとね、リョウ。こんな素敵な場所に連れて来てくれて。」

「私も、ありがとうございます。」

「いや、俺は月村に頼んだだけだから、お礼なら…月村の方に……。」


フィアッセさんとリニスの2人にお礼を言われ、少し照れくさい。


「ふふっ♪月村さんにはもう言ったよ?けど……」

「凌にも、言っておこうと思いましたから。」

「あー、えーと、どういたしまして?」


俺たちは、その後もしばらく、迎えが来るまでそうしていた。









「ありがとう、ここまで送ってくれて。」

「どういたしまして。こっちこそ……ありがとね、藤見君。今日は、すっごく楽しかった。」

「それはこっちの台詞だ。場所の提供、本当にありがとな。」

「いいよいいよ、お蔭で私たちも楽しめたんだから。」


俺と月村は、しばしの間、無言で見詰め合い…そして―――――


「ぷっ。」

「あははははははは。」


同時に笑いだした。


「はー、じゃあ明後日、また学校で会いましょ。」

「忍さん、今日はどうも、ありがとうございました。」

「いえいえ。」

「藤見様、今日は私やファリンまで誘って下さってありがとうございました。……それでは、失礼いたします。」


ぺこり、とノエルさんが頭を下げて…月村を乗せた車は、走り去って行った。

ふぅ……


「さて、荷物片付けて、しばらくのんびりして、晩飯にしようか。」

「はい、お父様とお母様は……?」

「今日は帰って来ないってさ。携帯にメールが入ってた。」

「そうですか。では、早速作りますので、凌は片付けをお願いします。」

「ん、任された。」


リニスは夕食の準備を、俺は荷物の片づけを始める。


そうして、楽しかった花見の一日は…終わって行ったのだった。










後書き
キャラが多すぎでヤバい事に…。
修羅場…書いてみたかったけど無理だったよ。
正直、もうこんなに大勢のキャラ出した話を書きたくないです。
どれだけ頑張っても、これが俺の限界……ガフッ。



[11512] 迷い込んだ男 第二十七話 「剣士」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/07/05 23:28
4月が終わり、月が変わって5月。

ついでに言えば黄金週間の真っ最中。


「で、この本の山がどっさり入った鞄を大学まで届けてくれって?」


九時を回った頃、海鳴大学にいる父さんから電話が掛かって来た。


「そうなのよー。お父さん、間違えて違う鞄を持って行っちゃったんだって。」

「はぁ、まぁ今日は大した用事もないし届けるのはいいんだけど……こんな沢山の本、ホントに必要なのか?」

「んー、必要なんじゃない?お母さんは良く知らないけど。」


俺の問いにのほほんと答える母さん。


「…さいですか。まぁ、兎に角行ってくるよ。」

「はーい、行ってらっしゃい。あ、ついでにお買い物も済ませて来てくれない?献立は勝手に決めてくれていいから。」


そう言って、買い物袋を手渡す母さん。つーか、献立はあんたが考えるのめんどくさいだけだろ。


「じゃ、行こうか…リニス。」

「にゃ~ん」


そうして俺は、リニスも連れて、父さんの居る海鳴大学へとバイクを走らせた。










二十七話「剣士」










「これで良いんだよな。」

「あぁ、助かったよ。これが無いと作業が進まなくてな。」


広い大学の中から、案内板を頼りに父さんの研究室を探し出し、パソコンに向かって何やら作業中の父さんに、持ってきた鞄を渡す。


「まぁ、それは良いけど、余り根を詰めすぎないでくれよ?父さん、一つの事に熱中し出したら二徹とか普通にするし。」

「はっはっは、大丈夫だよ。その辺りはうまく調節するさ。兎に角、持って来てくれてアリガトな、凌。」


はっはっは。とか笑ってるけど、一回…余りに研究に夢中になって四徹し、ぶっ倒れた事があるのを俺は覚えている。

あの時は母さんが泣いて大変だったなぁ。

とは言え、父さんも流石に懲りてるだろうし、忠告は余計だったかな。


「あ、そうだ。ちょっと、大学の中見て回って良いかな。今のところ、大学に進学するなら此処にしようかと思ってるし。」


アンノウンの事もあるから、大学に進学するかどうかは分からないんだけどな。まぁ、見ておいて損は無いだろ。


「ほぉ、まだ五月なのに感心感心。そうだなぁ、他の先生方には俺の方から言っておこう。」

「サンキュー。じゃあ、行ってくるわ。ほい、リニス挨拶。」

「ぅにゃ~。」

「何だ、リニスも連れて来てたのか。」

「まぁな。」

「俺は良いが、他の先生には見つからないようにしろよ?そう言うのに五月蠅い人もいるからな。」

「了解ー。」

「にゃ~」


そうして父さんの研究室を出た俺たちは早速、海鳴大学の見学を始めたのだった。








「失礼します。藤見先生、居られますか?」


凌が研究室を出て行った数分後、一人の女性が記康の元を訪れていた。


「ん?あぁ、さくら君か。解読の進み具合を見に来たのかい?」

「はい、そんなところです。それで……」

「うん、ソレなんだけど…これを見てくれ。」


記康に言われるが儘、パソコンの画面を見るさくら。


「?!これは………」



『邪悪なるものあらばその技を無に帰し流水のごとく邪悪をなぎ払う戦士あり』


『水の心の戦士、長き物で敵をなぎ払わん』


古代文字の上にはその2つの言葉が表記されていた。


「亡くなった佐々木君が解読した、『邪悪なるものあらば希望の霊石を身につけ炎のごとく邪悪を打ち倒す戦士あり』という言葉は、古代の戦士の『赤』の形態を示していた。そして、この文から推測するに、この形態の色は恐らく『青』。」

「『青」…ですか。じゃあ、この『水の心の戦士、長き物で敵をなぎ払わん』って言うのは…?」

「これも推測にすぎないけれど、多分…棒か槍、もしかしたら薙刀みたいな形状の物じゃないかな。」

「先生、無理を聞いてもらってありがとうございます。」

「いやいや、アンノウンに対抗する手助けができてうれしい限りだよ、さくら君も頑張ってね。」

「はい、それでは、失礼します。」


そうして、さくらは記康に貰った資料を持って、研究所から退室する。

研究室には、再びパソコンに向かい、数冊の本を机の上に広げ、古代文字の解読を進める記康だけが残った。








「うあー、流石に疲れた。」


昼まで掛かって大学内を歩き回った俺は芝生に体を投げ出し、リニスを腹に乗せ、大の字になって寝転がっていた。


(急いで回る必要も無いのに意味も無く走ったりするからですよ)


リニスが猫形態なので念話で会話する俺たち。

これ…声に出して会話してたら、さぞ危ない奴に見られるんだろうな。


(昼までに見て回って、終わったら買い物ついでに外食しようと思ったんだよ。)

(そう言えばお母様に頼まれてましたね。)

(晩飯何がいいか父さんに聞いとくべきだったな。全く思い付かん。)


かと言って昼飯食べると余計に考えられなくなるから、先に考えとかないとなぁ。


(なぁ、リニスは何がいいと思う?)

(そうですねぇ、無難にハンバーグでいいんじゃないですか?みんな好きな料理ですし。)

(ん、じゃあそれにするか。)


俺は芝生から起き上がり、リニスを肩に乗せて立ち上がる。

俺たちは大学から出て、人目のつかない所に移動する。

そして、リニスが姿を人型へと変える。


「よしっ、じゃあ行くか。」

「はい。」



この時、俺は考えもしていなかった。

まさか、あんな事が起きるなんて。










―国守山―


「はぁぁあ!」

「はっ!」


国守山3合目付近の一般開放地区にて、両の手で持った木刀で、激しい攻防を繰り広げる男女の姿があった。


「はぁ!」

「せっ!」


恭也と美由希の2人である。

カンカンと木刀がぶつかり合う音が辺りに響く。


「やぁ!」


美由希は、半転しつつ左逆薙ぎから右の順突きを放つ。


「てぁ!」


そして、回転の勢いを乗せた蹴りを繰り出す。

美由希自身が好んで使用する連撃の1つだ。


「ふっ!」


一発一発に、ずしんと突き抜ける衝撃力を伴うソレ。

全身の筋肉と体重……そして回転力を、きちんと剣に乗せられている証拠である。

しかし、恭也はそれらを、危なげなく落とし、流し、防いでいく。


「………ふっ!」


美由希の連撃を見事に防ぎきった恭也は、即座に反撃へと移る。

恭也は左の剣を打ち降ろし、それを美由希が右の斬り上げで防ぐ。

木刀同士が激しく擦れ合い、焦げた匂いを発する。

……そして微かに、恭也の木刀から煙が上がる。


「…………」


美由希は、構えを取り直し……とんとん、と小さなフットワークを刻み始める。


「……ふぅぅ……!!」


大きな踏み込みから、美由希は弧を描く斬撃を恭也へと打ち込む。

そして、それを基点として、美由希の連撃が始まる。

恭也は…その連撃を捌きつつ、美由希の作った隙を見極め、攻撃を滑り込ませていく。

休日、士郎が翠屋に行って居ない、2人での鍛錬において、兄弟子である恭也は、勝つ事よりも寧ろ、美由希への指導の方を優先する。

どう打つと、どこに隙を作るのか。

どう打てば、相手が反撃をし辛いのか。

それを、体に教え込んでいく。


「……つっ…」


時折掠る打撃に、美由希は僅かに顔をしかめる。しかし、それでも怯まず、恭也へと斬撃を打ち込んでいく。

無鉄砲…とも取られる行動だが、それ以上に弱気になる事の方が、剣士としては良くない。

恭也は、美由希の行動に内心満足しつつ、それを防いでいく。


「……はぁぁ!」


僅かに大振りになって隙が出来た美由希の腹に、恭也は思い切り、蹴りを打ち込む。


「……!!」


当たってしまえば、それこそ即倒の、鳩尾への爪先蹴り。

美由希は、かろうじて膝でガードするも、大きく体勢を崩してしまう。

恭也は、その隙を見逃さず、構えから全身の力と回転を、全て木刀に乗せる。

そして――――――



「割と、いい線行ってたと思うんだけどなぁ。恭ちゃんの動きも、見える様になって来たし。もっと速く……もっと速く、動けたら……」


美由希が脇腹への一撃を貰って、恭也と美由希の模擬戦闘は終了した。

美由希は、木に凭れながら、ぶつぶつと独り言を言っている。

一方の恭也は、同じように木に凭れ、水筒に入ったお茶を飲んでいる。


「裏薙ぎから順突き…そこへ、下から……」


ぶつぶつと声を出しながら、頭の中で戦いの組み立てを考える。


「ねぇ、恭ちゃん、一休みしたら、もう一回付き合ってくれない?もう少し…打ちたい。」


美由希は、じっと考え込みつつ、恭也にお願いする。


「いや、俺の方はいいが…お前、今日は何か約束してたんじゃないか?ほら、なのはと。」


恭也の言葉に、美由希の顔がみるみる青くなっていく。


「わ、忘れてた……今日、なのはと買い物に行く約束してたんだ……!」


そう、美由希は、昨日の夜に交わした『おねーちゃん、おにーちゃんとの訓練が終わったら買い物行こっ?10時だったら終わってるよね。』と言う、なのはとの約束をすっかり忘れてしまっていたのである。


「こ、このアホーー!!もう11時だぞ!」

「ごめんなさーい!」

「くそっ、思いっきり説教してやりたいが…今はなのはの所に向かうのが先決だ。美由希、待ち合わせ場所は?」

「八束神社。うぅ、那美さんが居てくれたら助かるんだけど……」

「一応、俺にも非はある、すぐに向かうぞ!」

「うん。あぁ、ゴメンね、なのは。」


急いで、山を駆け下り、全力疾走で待ち合わせ場所の八束神社へと向かった。








―八束神社―


「うー、遅い!遅い!!遅ーーい!!!」


高町なのはは、プクーっと頬を膨らませていた。


「10時にって約束したのに…おねーちゃんの馬鹿!」


ちょっとやそっとの遅刻ならば、なのはとて怒りはしない。

姉のうっかり具合はちゃんと知っていたから、出掛ける前にもう一回言っておいたし。10分経っても来なかったため、メールまで送ったのだ。

なのに返信もしてこないし、もう1時間近くも、こうして石段に座って待っているのだ。


「むー。」


それを木の陰から見つめる異形の姿があった。

スネークロード―アングィス・マスクルス―…人間達にアンノウンと呼ばれ、恐れられているその異形は、己の武器―審判の杖―を掲げ、なのはの背後へ、空間転移の空間を生み出したのだった。








(恭也side.)


八束神社に着いた俺たちは、我が目を疑った。

そこで、俺たち2人が見たのは……


寂しそうにしているなのはでも、


怒っているなのはでもなく、


まるでコブラを模したような怪物と、謎の異空間に引き摺り込まれそうになっている、なのはの姿だった。


「なのは!」

「おにーちゃん、おねーちゃん!た、助け……」


俺は力の限り叫び、俺たちの存在に気が付いたなのはが助けを求め、手を伸ばしたところで…なのはは、奇妙な空間に飲み込まれた。



「な、のは?なのはー!!」


美由希が信じられないと言ったように叫び、もはやこの場にいないなのはに呼びかける。


「………美由希、お前は逃げろ。そして、なのはを探してくれ。」

「恭、ちゃん?」

「いいから!行け。なのはは、きっと生きてる。諦めて、たまるか。」

「じゃ、じゃあ、恭ちゃんは?まさか……」


今、俺の目の前に立っているアンノウン。

なのはを、あんな目にあわせたコイツを、斬る。


「ああ、戦う。御神の剣は、大切なものを守るための剣だ。」

「む、無理だよ!警察に……!」


アンノウンから目を逸らさず、俺は、念のために持って来ていた愛用の小太刀を鞘から抜く。


「ふっ!」


そして俺は、美由希の制止の声を無視し、目の前のアンノウンへと踏み込んで行った。


(恭也side.END)










「…………!!」


リニスを後ろに乗せ、バイクを走らせていると、唐突にアンノウンの気配を感じた。

場所は……八束神社か!

俺は、バイクをUターンさせ、急いでそこに向かおうとした。

が、しかし、その行動は、リニスの放った言葉によって中止せざるを得なかった。


「凌!あれ、もしかして…なのはちゃんじゃ………!!」

「!?なっ!」


リニスが指差した方向を見上げると、そこには空中に開いた奇怪な亀裂から、なのはちゃんが現れ、地面目掛けて落下していた。


「ちぃ!」


まさか見捨てる訳にもいかず、俺はバイクの速度を上げ、前の車を追い抜き、対向車を避けながら、なのはちゃんが落ちようとしている場所を目指す。

くそっ!間に合うか……!


「凌!」

「分かってる!」


このままの速度じゃ間に合わない事を悟り、更にスピードを上げる。


「間に合え!間に合え!!間に合えーーーー!!!」

「私が受け止めます。」

「できるのか!」

「はい、任せて下さい!そのままの速度を維持して下さい、ちゃんと受け止めて見せますから!!」


どんどん落下してくるなのはちゃん。

焦る気持ちを抑え、今の速度を維持する俺。

俺が被っているヘルメットに当たるか当たらないかの、ギリギリの位置で、俺の身体がなのはちゃんが落下してくる地点を追い抜く。

そして、次の瞬間、衝撃によってバイクが揺れる。


「くっ!」


俺は、その衝撃に耐え、バイクのバランスを維持しつつ、徐々にスピードを落としていき、道路脇にバイクを停める。


「リニス!なのはちゃんは?」

「はぁ、はぁ、気絶してますけど、大丈夫、です。」

「はぁぁぁぁ、良かった。じゃあ、なのはちゃんを家まで……って、家の場所は知らないか。じゃあ、翠屋まで連れて行ってくれ。」

「はい、分かりました。それで、凌は?」

「さっき言いそびれたけど、アンノウンが出た。俺はそっちに向かう。」

「!そうですか。どうか、無事に帰って来て下さいね。」

「ああ。」



幸い、ここには人がいない。

俺は腰にベルトを出現させ、AGITΩとなって、なのはちゃんを襲ったであろうアンノウンの元へ急いだ。











「ぐぅっ!」


恭也は苦戦を強いられていた。

人間相手には、ほぼ無敵と言って良いほどの強さを誇る御神流剣術も、アンノウンが相手では、何とか相手の動きについて行くのがやっとである。

蛇を思わせるような、しなやかで不規則な動きに翻弄される恭也。

しかも、唯の斬撃はアンノウン相手に全く効果を発揮しなかった。

御神流の『徹』を使っていなければ、あっという間にやられてしまっていたかもしれない。



シャーーーー!!



審判の杖が恭也の頬を掠める。

プシャッという音と共に、恭也の頬から血が流れた。


「恭ちゃん!逃げよう?そんな化け物に勝てっこないよ!!」


必死で呼びかける美由希の声も今の恭也には届かない。


「はぁ、はぁ、はぁ……御神流…奥義之歩法、神速!」


瞬間、恭也の姿がアンノウンの視界から消え失せる。

脳と体のリミッターを外し、己の限界の力を引き出す。

その驚異的な速度は、人間を遥かに超える力を持ったアンノウンでさえも、捉えきる事が出来ない程である。

神速で動いている恭也は『徹』を利用し、アンノウンの内側にダメージを与え続ける。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!御神流・奥義之肆……雷徹!!」


しかし、神速は体に大きな負担を掛ける為、長い時間使用できないという欠点もある。

そのため、恭也は神速のリミットが近づいた時に、御神流の奥義の中でも随一の威力を誇る『雷徹』を選択した。

モノクロの世界の中、恭也はアンノウンへ肉薄し、その土手っ腹に己の力の全てを注ぎ、奥義を叩き込んだ。



シャアァァァアアァアァ



苦悶の声を上げ、後ろへと数歩下がるアンノウン。


「はっ、はっ、はっ、はっ。」


神速が切れ、恭也は荒い息を吐く。

しかし、アンノウンは生きていた。

確かに、内側へとダメージを受けたが、それだけだ。

とてもじゃ無いが、殺すまでには至らなかった。


「はぁ、はぁ、くそっ!」


立ち上がり、再び構えを取る恭也。

しかし、アンノウンとの力の差、神速の使用、そして…謎の空間に吸い込まれた、なのはの事が気に掛かり、その構えは美由希が見ても分かる程に隙だらけだった。


アンノウンは、素早い動きで恭也に近付き、恭也の首を掴んで持ち上げる。


「ぐあぁ、あぁぁぁぁ」



シャアァーーーーーーーー!



アンノウンは、審判の杖で恭也の腹部を突き上げ、美由希の所まで恭也の身体を飛ばす。

吹っ飛ばされた恭也は、腹に受けた痛みのあまり、強制的に意識を落とされた。


「きゃぁ!」


美由希は、自分のすぐ近くに吹っ飛んできた恭也に驚くが、すぐに助け起こす。


恭也の手を離れ、小太刀が地面に転がる。


「恭ちゃんは、殺させない!私が、相手だ!」


美由希は、勝てないと分かりつつも、自分の小太刀を鞘から抜き放ち、構える。

しかし彼女は、そのアンノウンと対峙することすらも叶わなかった。

何故なら、次の瞬間……彼女の首には赤い鞭が巻き付いたからである。


「う、あぁぁぁぁぁ、ぁぁあぁぁぁ」


ギリギリと音を立てて絞まる彼女の首。

背後を見遣ると、また別のアンノウンが、鞭を自分の首に巻き付けている。



ブォォォォォォォン



何処からかエンジン音が聞こえ、その音がごく間近に聞こえたと思った瞬間、美由希は意識を失った。

薄れゆく意識の中、美由希の目は、金色の戦士の姿を確かに捉えていた。










八束神社の石段を、トルネイダーで上りきった先に見えたのは、地面に倒れ伏す恭也…そして、今まさにアンノウンに首を絞められ殺されようとしている美由希ちゃんの姿だった。


俺は、左のドラゴンズアイを押し、ストームへと姿を変える。

おっして、そのままバイクで女性体のアンノウンへと吶喊する。

身の危険を感じたアンノウンは、美由希ちゃんに巻き付けていた鞭を引き戻し、それを回避する。

美由希ちゃんがバタリと倒れる。

それを確認した俺は、できるだけ恭也や美由希ちゃんとの距離を離し、賢者の石から『ストームハルバード』を取り出した。

先端を展開させ、バイクから降りる。



AGITΩ



AGITΩ




二体のアンノウンはほぼ同時に、その言葉を発し、俺に襲い掛かって来た。


鞭で襲い掛かって来る女性体の攻撃を躱しつつ、動きが鈍い男性体の方を優先的に攻撃する。


「ふっ!はぁ!」


相手の杖を流し、蹴りを放つ。

アンノウンはたじろぎ、動きに隙が出来る。


「!?くっ!」


止めを刺そうと、ストームハルバードを構えたが、女性体の方から邪魔が入る。

降り降ろされた鞭を寸でのところで躱し、女性体の方へと向き直る。



シャーーーーーー!!



フシュ―――――!!




「ぐあっ!」


ここにきて、二体のアンノウンによる攻撃が、統率の取れたものへ変わった。

ただ、各々の攻撃をバラバラに仕掛けてくるだけだった二体のアンノウンは、鞭による攻撃と、杖による強力な一撃を同時に仕掛けてくる。


「ぐぅっ!」


俺は、何とか体勢を立て直すため、空いた右手で男性体の杖を握る。

そして、女性体が鞭を振り被った途端に体を翻して、それを避けた。


「せりゃぁ!」


鞭は男性体の首筋に命中し、その隙を突いて、俺はストームハルバードの先端を、男性体の腹部へと突き刺して吹っ飛ばす。



シャァァァァァ



吹っ飛んで、林の中へと消えた男性体の生死の確認をする暇も無く、俺は女性体と対峙する。


「ふっ!」


ストームハルバードの先端を水平に構え、切っ先を女性体の方へと向ける。



フ、フフフフフフフフッ



心底不気味な笑い声が、アンノウンの口から洩れる。

アンノウンは、鞭を持った右手を腹の前で構え、左手の人差し指と中指をそこに添える。

すると、突然突風が起こった。


「なっ!うわっ!」


舞い上げられた砂埃によって視界が遮られる。


それが数秒の間続き、視界が晴れた時にはもう、アンノウンの姿は影の形も無く、消え去ってしまっていた。


俺は変身を解き、元の姿に戻る。

気絶している2人を起こそうかとも思ったが、アンノウンの事を追及されても困ると思い、少々躊躇ったが、そのままその場を立ち去る事にした。






AGITΩは知らない。


闇の力が復活を遂げてしまった事を。


凌は知らない。


自分の知る原作の流れが、知らないうちに変わってしまった事を。









(おまけ)


プレシア・テスタロッサには、目の前の光景が信じられなかった。



数日前に行った、プロジェクトFを応用した謎の遺伝子モデルの復元。

そこから生まれたのは、左手の甲に妙な紋章が刻まれているだけの唯の赤子。

魔力も、特殊なレアスキルも所持していない、正真正銘…唯の赤子。


プレシアは絶望した。

長い年月を費やしてパズルの謎を解いた結果がコレだ。

衝動的に、フェイトに八つ当たりしようかとも考えた。



しかもだ。

少し目を離した隙に赤ん坊はいなくなってしまった。

けれど、それだけならばまだ良かった。

余計な世話を焼かなくて済むし、一々殺す手間が省けるからだ。


問題なのは、赤ん坊が消えた後だった。

数日後、計画の前段階も、ほぼ完了してしまったプレシアは、部屋で体を休めていた。


その時だ。

メインAIから、アリシアの入った生体ポットに異常があったと報告が入ったのは。

急いでアリシアの元へ走るプレシア。

そこで見たのは、黒い服を着た一人の少年。




そして――――――




割れた生体ポットの前には、26年前に死に別れ、自分の全てとも言える最愛の娘―アリシア―の姿があった。


「ア、リ、シア、なの?」

「うん、そうだよ、ママ。」

「ホントの本当に?」

「うん、うん!」

「アリシアッ!」

「ママー!」


プレシアとアリシアはどちらともなく近付き合い、抱擁を交わした。


それは、26年ぶりの親子の再会であった。










後書き
スランプです。この上なく難産でした。
ネタが全く浮かばずにズルズルと一週間近く何もできずに過ごしてました。
なのは無印突入前にアリシア復活!やっちゃったZE☆
書いといて何だけど、皆様の反応が怖すぎる(;゚Д゚))))ガクガクブルブル
余りにも批判が多かったら止めますけどね。基本ヘタレな性格ですから。



[11512] 迷い込んだ男 第二十八話 「装着」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/01/05 09:50
「ここの電力配分を調節して………」


月村家の地下室に、カタカタとパソコンのキーを叩く音が響く。

そこには、ぶつぶつと独り言を呟きながら、無心に作業を続ける忍の姿があった。


「ここへの伝達を優先。力は落ちるけど…これしかないよね。」


新たに解読された古代の戦士『クウガ』の新たな形態の資料をさくらが持って来た為、忍はそれを元にG1の強化をすることにしたのだ。

…とは言え、これが中々に困難だった。

忍が作ったG1の基本形態である『赤』は、バッテリーの電力をほぼ均等に配分し、その力を発揮していた。

しかし、資料に書かれた『青』の形態は、文面から察するに素早さや跳躍力に優れた姿らしい。

そのため、それを再現しようとすれば、どうしても配分のバランスを崩さないといけなくなる。

唯でさえ、アンノウン相手では心許ない防御面。

そこに回す電力を削ってしまえば、今よりも更に危険に晒されることになるだろう。

そのため、忍は苦渋の選択の末に威力増幅の機能に回す電力を削った。

これにより、G1は『赤』に続いて『青』の形態を手に入れることになった。


「よし。後はベルトのボタンを押したら1発で電力配分のパターン組み換えが出来る様にして、それに応じて装甲の色も変わるように調整すれば完成っと。」


椅子に座ったまま、ぐーっと背伸びをして、一息入れる為に愛用のマグカップに手を伸ばした。


「あ、ない。」

「お嬢様、失礼します。」


入っていたコーヒーを飲んでしまっていた事に気が付き、ガッカリしかけたところに、ノエルがやって来た。


「そろそろ休憩なされる頃かと思い暖かいココアをお持ちしました。」

「あ、ありがとー、ノエル。タイミングピッタリだったよ。」


ことりとテーブルの上にココアを置いたノエルは、忍に背を向け部屋から退室しようとして、ふと何かを思い出したかのように振り向いてこう言った。


「実は……――――――」












二十八話「装着」












忍は頭を抱えて自室の机に寝そべっていた。


「はぁ~、参ったなぁ。まさかノエルでもG2の負荷に耐え切れていなかったなんて。」


『実は・・・どうも、動きが鈍いような気がするのです。一度見てもらえませんか?』


ノエルの言葉は、忍にとってかなり衝撃的な事だった。

そして、調べてみた結果…ノエルに使用されている部品が摩耗し、動作にズレが生じていることが分かった。

今までにも何度か検査したのだが、余りにも小さな負荷だったので、忍もノエル本人も気付くことができなかったのである。

今回の事は、小さな負荷が重なった結果起きた事故である。

人間のように、疲労を回復する機能があれば別だっただろうが…それが無い為に、このような事態を引き起こしたのだ。


その為…ノエルは今、摩耗した部品を取り換え、眠りについている。


「はぁ、大事にならなくて良かったとはいえ、G2の装着者…どうしよう。」


こうなった以上、もうノエルは装着させられないし、ファリンにしたって同じ事。

さくらはG1の装着者だし、すずかに至っては問題外。

忍にしたって、G2の装着自体は問題無いが、戦闘経験なんてまるで無い。G2の性能におんぶに抱っこになってしまい、碌に戦えないだろう。

つまり、完全に手詰まりである。


「うぅぅ~~~。」


忍は唸りながら、どうにかできないか思考するものの、良い案が出ない。

と、そこで…


「お姉ちゃん、今からなのはちゃんの家に遊びに行くんだけど…一緒に行かない?」

「えー、何で?」


朝から今まで、ずっと部屋に篭りっぱなしの忍のことを心配し、一緒に高町家へ行かないかと誘うすずか。


「だって、お姉ちゃん朝からずっとその調子だから…気分転換になればいいと思って。」

「うぐっ。」


確かに、昼食もとらずに部屋に篭っていれば、心配されるのは当然だろう。


「ね?高町先輩もいるんだし、外に出るだけで気分も晴れるよ?」

「そう、ね。」


ここで考えていても、延々と同じ様な事を考えてしまいそうだったので、忍は高町家にお邪魔することにした。


「(良かった。なのはちゃんゲーム得意だし、これで元気出るかな。)」


そう心のなかで思いながら、部屋から立ち去るすずか。

つくづく気配りのできる良い妹であった。













翌日、俺はアンノウンに襲われたなのはちゃんのことが気掛かりだった為、高町家に様子を見に行く事にした。

ちなみに、リニスはフィアッセさんと出掛けている。

何でも、服を買いに行くんだとか。

…まぁ、リニスの服って俺が買ったものばかりだしな。

…等と言うことを考えながら、玄関扉のすぐ傍に備え付けられているインターホンを押す。


ピンポーン


と、軽快な音が鳴り、暫くした後に玄関が開く。


「おぉ…よく来たね、凌君。」


出迎えてくれたのは士郎さんだった。


「昨日はなのはを助けてくれてありがとう。」

「いや、それは当然の事………と言うか、なのはちゃん大丈夫ですか?その…トラウマになってたりとか。」

「んー……いや、それなんだけどね。」

「?」

「いや、実はね……」


士郎さんが苦笑して、話を切り出そうとした時…にぎやかな声が俺の耳に届いてきた。


「にゃー!!アリサちゃん、ハメは無しだよー!」

「うるさい うるさい うるさーい!!接近できたら一気に決めないと、あんたに勝てないのよ!つか、射撃ばっかりじゃなくて格闘も使いなさいよ!」

「あぅ、だって接近戦苦手なんだもん!」

「あー、もう…この子はー!」

「あ、アリサちゃんもなのはちゃんも落ち着いて?多分下まで声が聞こえちゃってるよ?!」


どう聞いても仲良し3人組の声です。本当にありがとうございました。


「………元気そうですね。」

「あー、うん。」

「まぁ、トラウマとかになってないようで安心しました。」

「と言うより、なのはは覚えてないんだよ。」

「……はい?」


覚えて無いって…どういうこと?

記憶喪失って訳でもないよな、さっきの会話聞く限り。


「神社で美由希を待っていたのは覚えてるらしいんだが……その後の事は全く覚えてないらしい。多分、怖すぎて記憶が飛んだんだろう。」

「あー、その…良かったんじゃないですか?あれ覚えてたら確実に高所恐怖症になってたでしょうし。」

「ふむ、そう言えば……恭也たちには、なのはが変な穴に吸い込まれた…としか聞いて無いな。どんな感じだったんだい?」

「今思い出してもゾッとしますよ。空中に開いた穴からなのはちゃんが落ちて来るんですから。」

「……ほぅ。」


突如、士郎さんから妙な圧力を感じる。

あれ、もしかして何かスイッチ入った?


「じゃあ凌君、俺はちょっと用事が出来たから、出掛けてくるよ。あ、居間でテレビでも見ながら寛いでくれてて構わないから。」


じゃ!と片手を上げて爽やかな笑みを浮かべる士郎さん。

そのまま俺に背を向け、玄関まで歩いて行く……


「って、何しに行く気ですか、あんたー!!」


…のを見過ごす筈が無く、肩をガシッと掴んで引き止める。


「ん?なのはを殺そうとした罪を償わせに行くんだよ?人じゃ無いんだし、殺しても…いいよね?」

「いいよね?じゃないです!てか、本気ですか?怪我でもしたら桃子さんが悲しみますよ?」


俺がそう言うと、士郎さんは動きをピタリと止めて……


「ヤダナー、ジョウダンニキマッテルジャナイカ」


明後日の方を向いて、片言で答えてくれました。

……分かりやすい。


「まぁ、さっきのは冗談だ。」

「……ホントですか?」

「とーさん、試合の相手を頼みたいんだが…」


士郎さんの言葉に疑問を抱いた時、後ろから高町の声が聞こえた。


「あ、高町。」

「何だ藤見、来てたのか。」

「丁度いい、凌君に相手になって貰え。偶には他の相手とやった方が良いだろう。」



……………………………………………………



あれ、士郎さん…今サラリととんでもない事言わなかったか?


「ふむ、それもそうだな。じゃあ行こうか、藤見。」

「ちょっ!何で!!」


襟首を掴まれ、ズルズルと高町に引き摺られていく俺。


「じゃあ凌君、頑張ってなー。」


その言葉を背後に聞きながら、俺は道場に強制連行されて行くのだった。














「はぁぁぁ。」


高町に道場へと強制連行され、俺は深い溜息を吐いた。


「すいません、家の兄がご迷惑をお掛けして。」

「いや、もう慣れ……ては無いけど、別にいいよ。」


さっきまで高町の相手をしていたらしい美由希ちゃんが頭を下げる。

まぁ、ここまで来たらどうせ逃げられないしね。

潔く腹括りますよ。


「それで高町、木刀は?」

「あぁ、これを使え。」


ヒョイっと投げられたそれを受け止める。

放り投げられたそれは、前の試合で使った標準サイズの木刀だった。


「じゃ、始めるか。」

「何試合する?」

「5試合でどうだ?」

「そんなにか…まぁいいや。」


木刀を正面に構え、高町と対峙する。

高町の方も、腰を若干落として臨戦態勢を取っている。


「始めッ!!」


美由希ちゃんの声が道場に響くのと同時に、俺たちは互いに足を前に踏み出していた。













(忍side.)

すずかに誘われて高町君の家まで来た私は、2階にあるなのはちゃんの部屋で、すずか達三人とテレビゲームで対戦している。

正直、最初は小学生3人に高校生1人の図に絶望しかけたけど…今となっては些細な事。

と言うか…なのはちゃんがすっごく強い!!

まさか小学生相手に本気を出す日が来るとは思わなかった。


「はぁ、ちょっと休憩……ちょっと外に出てくるねー。」


さっきまで握っていたコントローラーをすずかに手渡し、3人に一言断ってから部屋を出る。

少し外の空気が吸いたくなった私は、そのまま玄関を通って庭に出る。


「ん~~~~~~!」


私はグーっと背伸びをし、息を吐き出す。


「はぁ、どうしようかなーG2の装着者。」


思わず口をついて出た言葉に嫌気が差した。

折角すずかが気遣って、気分転換に連れ出してくれたのにコレだ。

1人になるとついつい考え込んでしまう。

ブンブンと頭を振って考えを打ち消す。


「はぁぁ…また余計なこと考える前に部屋に戻ろうかな。」

踵を返し、向きを変える。

そして、ドアに指をかけ――――――


「はぁっ!!」

「せあっ!!」


そんな声が何処からか聞こえてきた。と言うか今の声……


「藤見君と高町君?」


何となく気になったからその声がする方に歩いて行く。

そして行き着いた先には、道場が有った。


「そう言えば、高町君って剣術やってるんだっけ。」


花見の時に聞いた事を思い出し、納得する。

二人の試合に興味がわいた私は、中に入って見てみることに。

扉を開け、中を見る。

そこでは…藤見君と高町君が、激しい戦いを繰り広げていた。


「あっ、忍さん…いらっしゃったんですか?」


二人の戦いに暫し目を奪われていた私に話しかけてきたのは、高町君の妹…美由希ちゃん。


「ゴメンね、勝手に入って来ちゃって。」

「いえいえ、構いませんよ。」

「けど凄いわね、二人とも。」

「私としては、凌さんが恭ちゃんの動きに着いて行けてることが驚きですけどね。うぅ、私だって最近見えるようになったばっかりなのにぃ。」


もう一回2人に目を向けてみると、確かに攻勢には出ていないけれど、藤見君は高町君の剣をほぼ完璧に防いでいた。


「藤見君って高町君みたいに剣術やってるの?」

「いえ、やってないはずです。」

「それで……アレ?」

「はい。」


試合から目を逸らさずに会話する私達。

私が言うのも何だけど…2人とも結構人間離れしてるよね。

ってあれ?

これだけ強かったらG2装着できるんじゃ……

基本的に、G2はノエルに迫る力を持ってたら装着できる。

計測してないけど…この2人なら多分問題無い、と思う。

けど、その一方で友達を危険な事に巻き込んでいいのかとも思う。

でもそれを言ったら赤星君もだし……


ぐるぐると思考が回る。

そして、私がそんな思考の海に埋没している間に、2人の対決はいよいよ佳境に差し掛かっていた。


「ふっ!!」

「なぁっ!」


藤見君の木刀が弾き飛ばされ、高町君の木刀が藤見君の喉元に突き付けられる。

弾かれた木刀がカラーンと床に落ち、藤見君と高町君の対決は…高町君の勝利で、幕を閉じた。

そうして、大の字になって床に寝転がる藤見君。

私は、G2の事を少しだけ頭から追いやり、寝転がって荒い息を吐いている藤見君へと駆け寄って行った。


(忍side.END)













恭也との試合が終わる。

5試合目は高町…御神の技無し、俺…能力使用だったんだが…やっぱ無理でした☆

高町に勝つとか無理です。

だって御神の技無しで戦っても防御に徹するしか無いんだよ?

1~4試合目までは思い出したくもない…余りにも一方的だったから。


「あ~、疲れた。」

「お疲れ様、藤見君♪」

「んあ?」


瞑っていた目を開き、声の主を確認する。

そこには、しゃがみ込んで俺を見下ろす月村の姿が……

と言うか…何でいるの?


「月村、何でここにいるんだ?」

「何でって…遊びに来たからだよ?」

「……高町とか?」

「ううん、なのはちゃん達と。」


あぁ…なのはちゃんゲーム上手いからな、それ関連か。

昔なのはちゃんと対戦して何もできずに敗北したのは良い思い出。


「よっと。」


取り敢えず、寝転がったまま会話するのも何なんで起き上がって胡座をかく。


「あ、そういやいつから見てたんだ?」

「え?あぁ、試合の事?う~ん、7分くらい前?」


月村は、首だけ美由希ちゃんの方に向けて確認を取る。


「そうですね。大体そんな感じです。」


美由希ちゃんがそれに答え、俺と高町にタオルを放る。

それを掴み、汗を拭きながら…俺は地味に安堵していた。

7分前ならば5試合目の真っ最中。

いくら高町との実力差が掛け離れているとは言え、ボロ負けしてるのを知り合いに見られたくないからな。

5試合目だったら能力も使ってたし、少なくともボロ負けじゃなかったから良いや。

そんな事を心の中で考えながら、他愛も無い会話を続ける。

その最中、美由希ちゃんがお茶を入れて来ると言って、道場を離れた。


「そうだ…ねぇ、2人とも……」


美由希ちゃんが席を離れてから暫くして、月村が真剣な顔で俺と高町を見詰め、何か言い出そうとする。

………と、その時。


「ッ!」


アギトの力が、アンノウンの出現を感知する。


「あのね……」

「悪い、今日用事があるの忘れてた。すぐ帰らないと!」

「あ、おい!」


それだけ言って、道場から立ち去る。

俺は停めておいたバイクに跨り、アンノウンの元へと向かった。












(恭也side.)

「悪い、今日用事があるの忘れてた。すぐ帰らないと!」

「あ、おい!」


藤見はそれだけ言うと、俺が止めるのも聞かずに、走って道場から出て行ってしまった。


「はぁ、全くアイツは。それで…話って言うのは?」


いきなりの藤見の行動に驚いている月村に、彼女が話そうとしていた内容を尋ねる。


「へ?あぁ、う~ん藤見君いないけど…まぁいっか。実はね………」







――――☆お嬢様説明中☆――――







………月村の説明を聞いて、俺は嘸かし驚いた表情をしていると思う。

正直な話、彼女の提案は俺にとって願ったり叶ったりなものだった。

G2と言う強化服を装着して、アンノウンを倒す。

御神の剣士としては少々複雑だが、なのはを殺そうとしたあの化け物を倒せるのなら些細な事だ。


「本当にそれを装着すれば、アンノウンに勝てるのか?」

「今までにも3体のアンノウンを倒してるから…少なくとも対等に戦うことはできると思う。」


その話を聞いて、俺の心は決まる。


「月村、その話受けるよ。」

「ホント!あ、けど…危険だよ?」

「構わない。アイツらには個人的に恨みがあるんだ。」



~~~♪~~♪~~~~~♪



と、俺がそう言った時、月村のポケットから『ETERNAL・GREEN』が流れ出す。

どうやら、月村の携帯から流れているらしい。

月村は携帯をポケットから取り出し、通話ボタンを押す。


「ノエル?目が覚めたの?え?うん、うん。えぇ?!それホント!!」


電話をしている月村から驚きの声が上がる。


「うん、じゃあすぐに来て。大丈夫、見つけたから。」


月村はそう言うと、携帯を折り畳み、再びポケットに仕舞う。そして………


「高町君、今ノエルから連絡があったんだけど…アンノウンがこの近くで目撃されてどうやらこの家に向かって進んでるみたいなの。それで……」

「アイツ…!又なのはを襲うつもりか!」


確証はなかったが、恐らくその通りだろう。

ここに向かっているアンノウンとは、昨日の奴だろう。

殺し損ねたなのはを再び襲う為に、ここを目指しているに違いない。


「さっき、G2を運んでもらうようにノエルに頼んでおいた。でも距離があるから…アンノウンの方が先に着いちゃうかも……」

「足止めは俺たちがする。聞いたな、美由希!」

「あぅ!ば、バレてた?」

「バレバレだ。それは兎も角、急いで準備するぞ。」


立ち上がり、鋼糸と飛針を取り出して装備する。


「行くぞ、美由希。時間を稼ぐだけでいいから無理はしないようにな。」

「うん、恭ちゃんも昨日みたいな無茶はやめてね?」

「ああ。」


そうして、俺たちは再びアンノウンと戦うため、家を出たのだった。


(恭也side.END)













―海鳴警察署―

凌がアンノウンの存在を感知する1時間前、その日もG3の装着者―赤星 勇吾―は、いつもと同じく射撃の訓練に明け暮れていた。

いつもと同じ様に、灰色の壁に囲まれた演習場でGM-01を撃ち続ける。

唯いつもと違うのは、殆どのターゲットに開けられた風穴の位置が、中央に近い事であろうか。



ビーーーーーーーーッ!



すべてのターゲットを打ち抜き、演習場に訓練の終わりを告げるブザーが鳴り響く。

先程まで動いていたターゲットは活動を止め、G3は構えたままのGM-01を下ろし、演習場から出て行った。


「良くやった!ここまでできれば一応は及第点だろう。」

「移動するターゲットの破壊…50個の内の29発が真ん中に命中。他の21発もターゲットに命中してるし、上出来ね。」


勇吾が演習場から出て、Gトレーラーでリスティとセルフィに合流すると、2人からそんな言葉を投げ掛けられた。


「いえ、そんな。」


G3の装着者になってから今まで、特にリスティから厳しい言葉ばかり言われていたので、この2人の言葉は、勇吾にとって心底嬉しいものだった。

その後、G3の装甲を脱ぎ、インナースーツになった勇吾は、リスティとセルフィと一緒にアンノウンについての話し合いを行う事に。


「えぇぇぇぇ!?アンノウンの狙う人の共通点が分かった?!」

「勇吾君、驚き過ぎ。気持ちは分かるけどね。成程、時々聞き込みに行ってたのはそれを調べる為だったのね。」

「あくまで候補の1つだけどね。ボクには、どうしてもアンノウンが無差別に人を襲ってるようには思えなくてね。対象になった人間の親族まで殺そうとしているってことは、何か理由があるんじゃ無いかと思って独自に調べてたんだ。」

「それで、何が分かったの?」

「あぁ、連中が狙ってるのは超能力者…もしくは、それに類似するような何か特殊な力を持った人間じゃないかと思うんだ。」

「超能力者って…私達のようなHGSが狙われているって言うの?でも、被害者達はごく普通の一般人のはずじゃ……」

「詳しくはコレを見てくれ。」


リスティはそう言うと、鞄から何かの資料を取り出した。


「リスティさん、これは?」

「ボクが調べたアンノウンに襲われた被害者の情報を纏めたものだ。」

「……こうして見ると、やっぱり多いわね、アンノウンに殺された人。」


資料には、被害者の経歴が事細かに記されており、殺され方まで記入してある。


「まず、最初に殺された佐々木洋介君だが…彼の周りの人間に聞いて回ってみた結果、どうも彼…妙な力を持っていたらしいんだ。」

「妙な力…ですか?」

「彼は海鳴大学に通う大学生だったんだけど…古代の遺跡から出てきた文字の翻訳に従事していたみたいなんだ。けど、洋介君はその解読に全くと言って良いほど何も使用していなかったらしい。」

「何も…って。」

「それ、全部独力で解読したってことですか?」

「生前、彼が友人たちに話していた事らしいんだけど、洋介君…日本語でも英語でも、その他の言語でも、文字に手を翳せばその意味が何となく分かるって言ってたらしい。そんなの、普通じゃ有り得ない。」

「じゃあ、ここに載っている人たちも、彼みたいな特殊な力を持っていたんですか?」


リスティは、その言葉に頷く事で答えると、被害者リストの2番目を指さし、順々に能力だと思われるものを挙げていった。


「この子は多分、念動力。こっちの人は物質転移…で、その人が読心能力。」

「ここまで分かってたら、もう確定なんじゃないんですか?アンノウンは特別な力を持った人間を襲ってるって。」

「ボクはそうじゃないかと思ってるけどね、でも………」

「被害者の人数に対しての超能力者らしき人の人数…ね。」


リスティが挙げた、特殊な力を持っていたかも知れない人の人数は、被害者全体の中でもほんの一握りであった。

無論…その人たちが他人に話していなかったり、調査不足なだけかも知れないが、憶測で物事を決めつけてしまう訳にもいかない。

リスティは、机に広げた資料を片付けると、自分のリアーフィンを広げる。


「ボクが狙われた訳も、コレが理由なら納得がいくしね。」


そう言って、自嘲気味に笑うリスティ。


「リスティ……」

「…リスティさん。」


ピーッ!


「「「!?」」」


その時、無線から電子音が鳴り、警察署からの緊急連絡を知らせる。


「はい、こちらG3 OP。」


近くにいたセルフィが、インカムを手に取り対応する。


《海鳴市・藤見町、茅場町の2ヶ所にてアンノウンが2体出現!至急現場に急行して下さい!》

「了解!直ちに向かいます。2人とも、アンノウンが出たわ!」


インカムを外し、リスティと勇吾にアンノウンの出現を伝える。


「ッ場所は?」

「藤見町と茅場町の2ヶ所よ。」

「藤見町の方は月村の家に対処して貰おう。ボクたちは茅場町のアンノウンの元に向かう!勇吾、すぐに準備して。」

「分かりました。」


そうして、Gトレーラーは茅場町へ向けて出発した。













凌がアンノウンの気配を追って行き着いた先では、1人の男性が女のアンノウンに鞭で首を絞められているところだった。

バイクを停め、凌はそのアンノウンと対峙する。

アンノウンは薄い笑みを浮かべると、鞭で絞め上げていた男を開放する。

男は開放されるや否や、すぐさまその場から逃げ出した。

バイクから降りた凌は、左腰へ両手を持って行き、ポーズを取る。


「変身ッ!!」


光が凌の体を包み、次の瞬間にはAGITΩへと姿を変えていた。


シャァッ!


アンノウンは、手に持った“邪眼の鞭”を振るい、AGITΩに襲い掛かってくる。

その不規則な軌道に惑わされ、AGITΩは中々攻撃へと移ることが出来ない。

おまけに……………


「(コイツ、速い!)」


グランドフォームのままでは、鞭の動きを捉えることができても躱すことが難しい。

スピード型のストームフォームならば別だろうが…ストームに変わろうにも、鞭が縦横無尽に襲い掛かっている為にそれも儘ならない。

そうしている間に、アンノウンは蛇のような俊敏さでAGITΩに近づき、その胸に蹴りを喰らわせた。


「ぐあっ!」


蹴り飛ばされ、地面に転がされるAGITΩ。


ニヤッ

黒い衣服を身に纏った少年…闇の力は、いつの間にかその場に現れ、その光景を見て口元に笑みを浮かべていた。


そしてアンノウンは鞭を構え、不気味に笑いながらAGITΩに躙り寄って行った。












一方その頃、高町兄妹もまた、男のアンノウンと接触していた。

“審判の杖”を構え、それを回避し撹乱する2人。

G2が到着するまでの間、持ち堪えるのが2人の目的だ。

昨日のように、打倒が目当てでない為、恭也と美由希は主に回避に集中し、飛針と鋼糸をメインに使用し、小太刀で仕掛けるのはアンノウンが杖を大振りに振るった後に限定している。

とは言っても、飛針はアンノウンに届く前に砕けてしまうし、鋼糸にしてもアンノウンに傷を負わせることは疎か、拘束した矢先に引きちぎられてしまう。

しかし、それでも効果はある。

それを煩わしく感じるアンノウンの攻撃は、おのずと大きな動きになり、そこには隙が生まれる。

恭也に向かって杖が振るわれれば美由希が、美由希に向かって杖が突き出されれば恭也が…その隙を突いて徹を込めた斬撃を打ち込む。

しかし、アンノウンとてその攻撃を甘んじて受け続けるほど甘い相手ではなかった。

アンノウンは“審判の杖”を横薙ぎに振るう。

2人は、小太刀でソレを受け止めたが、威力を殺し切れずに後ろへと吹っ飛ばされた。


シャーーーーーッ!!


体勢を立て直したアンノウンは、怒りの声を上げ、驚異的な速さで距離を詰める。

振るわれる杖、放たれる拳撃や蹴撃。

いつしか、両者の立場は入れ替わっていた。

優勢だった筈の2人は危機に瀕し、逆に劣勢だったアンノウンは、今や完全に体勢を立て直し、苛烈に攻め続けている。

そんな時、待ち望んだ助けがやって来た。


「高町君!Gトレーラーが来た!乗り込んで!!」


今まで、2人の戦う様子をハラハラ見守っていた忍は逸早くGトレーラーに駆け寄り、恭也に向かって叫び、乗り込んで行った。


「乗り込めって言ってもッ!俺が抜けたら美由希が!」


2人でも抑えることがやっとの攻撃を、美由希1人で耐えられる訳がない。


「大丈夫!すぐにノエルがそっちに行くから、それと同時に離脱して!」


チラッと後ろを振り返ると、メイド服に身を包んだ女性が駆け寄って来るのが見えた。


「ここはお任せ下さい、恭也様。」


ノエルはそう言って、アンノウンの懐へ潜り込んで蹴りを放ち、恭也が離脱できるように隙を作る。


「ありがとうございます!」


礼を言い、Gトレーラに向かって走る。

ノエルは、恭也が手放した小太刀を素早く拾い上げ、美由希と共にアンノウンに剣を構えるのだった。













その頃、AGITΩは………


「うあっ!ぐぅぅぅぅぅ!」


首に鞭を巻き付けられ、苦しげにもがくAGITΩ。

“邪眼の鞭”を掴み、アンノウンを自らの近くに引き寄せようとするが、首を締められ続けている所為で思うように力が入らない。

正しく、絶体絶命のピンチかと思われたその時………

突然、銃声が響きアンノウンの鞭が緩んだ。


ギィィィィィ!!


アンノウンから醜い悲鳴が上がる。

アンノウンの手からは煙が上がっており、そこに銃弾が命中したことを物語っていた。

AGITΩが、銃声がした方に視線をずらすと、そこにはバイクに跨ったままGG-02をアンノウンに向けたG3がいた。

G3は、バイクから降りると、もう一度GG-02を構え、弾丸をリロードしてアンノウン目掛けて発砲する。

一方AGITΩは、G3がアンノウンと戦い始めたのを確認すると、ベルト左側のドラゴンズアイを押し、ストームへと形態を変化させた。

ストームハルバードの先端を展開させたAGITΩは、その場から跳躍し、アンノウンと戦うG3の加勢に入っていくのだった。













「これで、本当にアンノウンと対等に戦えるんだな。」

「うん、その筈だよ。」


G2を装着し、軽く体を動かす。


「高町君、武器はコレね。」


忍はロードチェイサーの兵装開閉ボタンを押し、GS-03Ⅱ デストロイヤー弐型を取り出せるようにする。

続いてコンソールを操作し、コンテナのハッチを開ける。


「じゃあ行ってくる。」

「頑張ってね!」


恭也はデストロイヤー弐型をロードチェイサーから引抜き、コンテナから飛び降りた。




「くっ!」

「きゃっ!」


アンノウンの攻撃を受け、弾き飛ばされる小太刀。


シャーーーーーーッ!!


アンノウンが声を上げ、無防備になった美由希へと襲い掛かる。


「ッ?!」


迫り来る杖の先端。

恐怖に身を竦ませ、目を閉じる。


「美由希さん!」


ノエルが美由希の名前を呼び、そして―――


ガキィンッ!


痛みはやって来なかった。

目の前に立つのは黒い鎧を纏った一人の男。

鳴り響くのは金属音。

G2―高町 恭也―は、義妹の危機に颯爽と駆けつけ、その生命を守ったのだった。


シャアァァァアァ!


より一層大きな声が辺りに響く。

G2は、そこから更に踏み込み、アンノウンを蹴り飛ばして距離を離す。


「ノエルさん、美由希を連れて下がって下さい。」

「はい、恭也様もお気を付けて。」

「ゴメンね、恭ちゃん。後……お願い。」


2人の声を後ろに聞き、G2は手に持った2刀を構える。


「アンノウン…なのはを、美由希を殺そうとした罪、その身で償え!」


黒き鎧を纏った剣士は、己の大切なものを護り抜く為に、アンノウンへと疾走した。













「はぁっ!」


速さで互角になったAGITΩは、アンノウンと熾烈な攻防を繰り広げる。

グランドの時には躱せなかった鞭による攻撃も、ストームになり速度が増したAGITΩは、避け続けていく。


「喰らえッ!」


そこに追い打ちを掛けるように、弾切れになったグレネードユニットを取り外し、GM-01を連射して援護する。

訓練の成果により、G3が撃った弾は寸分違わずアンノウンの体に命中していく。


シャァァァァァァ!!


銃弾で打ち抜かれ、苦痛の声を上げるアンノウン。


「ふっ!はぁ!!」


AGITΩは、その隙を見逃さず、ストームハルバードを構え、必殺技を放とうとする。


ウアァウアァァァ


アンノウンはよろよろと立ち上がり、昨日と同じ様に右手を胸の前で構え、左手の人差し指と中指をそこに添えた。


「くっ!」


その意図に気が付き止めさせようと走るが、それよりも早くアンノウンを中心にして、突風が巻き起こった。


「うあっ!」

「何ッ!」


それに巻き込まれ、思うように体が動かせなくなるAGITΩとG3。

アンノウンの姿は、舞い上がった木の葉に隠れ、ついに見えなくなってしまった。










キィン!

キィィン!!

カン!


2本の剣と1本の杖が交錯する。


「はあぁぁぁ!」


剣と杖がぶつかり合う。


シャーーーーー!


杖の先がG2の喉元を狙う。


キィィィィィィ


振動する刃でそれを受け止める。

激突した刃と杖先からは金属音が発生し、火花が散る。

幾度となくぶつかり合うG2とアンノウン。

力は拮抗し、決着が付かない。

同じ様な攻防が何度も続く。

次第に痺れを切らし始めたのか、アンノウンの動きが大きく単調なものへと変化していく。

G2は、それを待っていたとばかりにアンノウンの攻撃を切払い、剣を構え直す。


シャーーーーーーーーーーー!!!


より一層大きな鳴き声を上げるアンノウン。

防ぐG2。

弾かれる1本の刀

喉に突き出される杖。

喰らえば一撃で絶命に至るであろう刺突。

それは真っ直ぐに突き出され、そのままG2の首を捉え―――――





―――――ること無く空を切った。


杖が届くよりも尚早く、G2は体勢を深く落としていた。

そのまま瞬時にアンノウンへ肉薄する。


そして、



―――御神流・奥義之伍、花菱―――



キキキキキキキキィン!


弾かれなかった方の剣で、高速の斬撃をアンノウンに浴びせる。

計8回、アンノウンの体はズタズタに切り裂かれる。

致命傷を受けたアンノウンは、頭の上に光の輪を出現させる。


ギ、ガガ、シャアァァァアア


忍から指令が飛び、G2はアンノウンから距離を取る。

数瞬後、アンノウンは爆散し、絶命した。


己の大切なもの、―家族―を命懸けで護り抜いた恭也は、これからも戦い続ける。

今度は、家族の為だけで無く、アンノウンに襲われる全ての人たちの為に。













突風に巻き込まれ、思うように体が動かせなくなるAGITΩとG3。

アンノウンの姿は、舞い上がった木の葉に隠れ、ついに見えなくなってしまう。

しかしその時、突風によって視界を奪われているのにも関わらず、眩い光が目に飛び込んで来た。

更に、上空から聞こえる女の声。


「撃ち抜け、轟雷。」


その言葉が聞こえるのと同時に、突如として視界が紫色に染まる。


ギャァァァァァアァアア


そして聞こえる断末魔の悲鳴。


風が止み、光が収まったそこには、空から降りてくる黒く長い髪と仮面が特徴的な女性の姿。

AGITΩのパートナー、リニスの姿があった。



そう、凌からの念話を受けたリニスは、フィアッセに事情を説明し、飛行魔法を使用して、ここまで駆け付けたのだ。

そして、アンノウンが逃亡しようとした瞬間に、アンノウンの頭上…つまり、“突風が吹いていない位置”から、魔法『サンダーレイジ』を放つ。

G3の銃弾や、AGITΩの攻撃を受け、殆ど死に体だったアンノウンは、その閃光に身を焼かれ、苦しみながらその命を終えた。



AGITΩは気に止めないだろう。

本来ならば辛くも逃げ切り、創造主を復活させた者を殺すアンノウンを倒した事を。


リニスは知らないだろう。

己がアンノウンを屠った事で、知らず知らずの内に前の主人を守った事を。













―翌日―


黄金週間が終わり、今日からまた学校が始まる。

にも関わらず、机にプリントを広げ、必死の形相でシャーペンを走らせる男と女がそこにはいた。


「藤見君、お願い!現国の宿題手伝ってー。」

「赤星、数学の宿題頼む!」


月村が俺に、高町が赤星に宿題の手伝いをせがむ。


「宿題とか真っ先に終わらせとくのが普通だろうに。」

「はぁ、ギリギリまでやろうとしないからこういう事になるんだ。反省しろよー、高町。」


と言いつつも、それを手伝ってやる俺と赤星。

………断じて、ノエル特製弁当に釣られた訳じゃ無いよ?


ちなみに、赤星は高町から翠屋のタダ券を貰ってました。













(おまけ)


その日、G2が海鳴警察署に送られる事になった。

距離の遠い月村家では、いろいろと苦労するだろうという忍の配慮だ。

そして学校が終わり放課後、いざアンノウン対策班メンバーとの面会の時。


Gトレーラーに乗り込む恭也。

しかし、そこに待ち受けていたのは、彼の親友…赤星勇吾だった!


「なっ!赤星!?」

「ブホッ!た、高町ぃ!?」


何も知らされていなかった2人の男。

2人を驚かせようと、わざと何も知らせなかったリスティと忍の2人。

ニヤニヤ笑うリスティと、お腹を抱えて笑いを必死に堪える忍。

そしてその後ろでは、セルフィとノエルが盛大に溜息を吐いていた。















後書き
スランプ脱却ならずorz
リアルが忙しくて2週間ほどパソコンに触れなかった結果がコレだよ!
今回は恭也をG2の装着者にして戦わせると言う目的があった為、どうしてもこんな感じにせざるを得ませんでした。
テスタロッサ一家は次の話で出します。
G1の説明に明らかにおかしい所があればご指摘下さい。



[11512] 迷い込んだ男 第二十九話 「青龍」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/07/05 23:30
平日の朝、大勢の人々が行き交う大通り。

そこで、1人の男が妙な音を聞いた。

小さな、本当に微かにしか聞こえない音だった。

男は辺りを見渡し、その音を出している物を探そうとする。

しかし、見えるのは自分と同じ様に道を歩いている人々の姿だけだった。

気の所為だと己を納得させ、男は歩みを再開する。

そこで、はたと気付く。

その音が段々近づいている事を。

再び辺りを見渡す。

分からない、それらしきものは見当たらない。

依然として近付いて来る妙な音。


キィィィィィン


まるで空気が震えているかのような音。

それが上空から聞こえていたものだったのだと知った時には、もう遅かった。

空気を切り裂き飛来するアンノウン。

男が空を見上げ、ソイツの存在を知る。

次の瞬間、男は空を飛んでいた。

超高速での体当たりを腹部に受け、男はもの凄い勢いで跳ね飛ばさる。

そのまま跳ばされ、やがて電柱にぶつかった男は、頭を強打して血をダクダクと流す。

男は暫しの間苦しげな声を上げていたが、すぐにピクリとも動かなくなった。

アンノウンは、その様子をビルの上から窺っていた。

死んだ男の元にワラワラと集まってくる人々の姿をギョロリとした瞳で見ながら、クロウロード―コルウス・クロッキオ―は、愉快そうにカッカッカと嘲笑するのだった。










二十九話「青龍」










―風芽丘高校―

1限目の授業が終わり、俺たちは教室を移動して体操服に着替える。

次の授業は体育なのである。


「先生に準備頼まれたから先に行ってるぞー。」

「……何で俺まで。」

「一緒に頼まれたからだろうが…面倒臭がってないでさっさと行くぞ。」

「…はぁ。」


高町と赤星はそんな事を言いながら、すぐに着替えてグラウンドへ行ってしまった。

俺も着替えて、教室を出る。

準備って言うと…今日の体育はサッカーだからゴールの移動とかかな。

しっかし、張り切っている赤星とは対照的に、高町は見るからにやる気が無さそうだったなぁ。


「ははっ…こりゃ、また半分眠りながらゴールキーパーだな。」

「こら、ダメだよ、ちゃんとやらないと。」


廊下を歩いていると、ちょうど教室から出てきた月村と鉢合わせた。


「よ、月村。あと、さっきのは俺の事ではなく高町の事だ。」

「あはは、分かってるよー。言ってみただけ。」

「お前ら女子はバレーボールだったっけ?」

「うん、そういう男子はサッカーだよね、やっぱり。」

「まぁな。月村はバレー得意なのか?」

「苦手だよー。」


と、そう言って月村はくすっと笑う。


俺たちは、何とはなく2人で…階段を下りていく。


「……ああぁ……いたた……。」


階段を下りきり、校庭に出ると、そんな声が聞こえてきた。


「あー、那美…だいじょーぶーー?」


声のした方に目を向けると、体操着姿の那美ちゃんが蹲っていた。状況から察するに、どうも転んでしまったみたいだった。

肘から、ぽたぽたと血が垂れている。


「…那美が転ぶのは珍しくない…と言うか日常茶飯事だけど、怪我するのは珍しいね。」

「うぅ、事実だけに何も反論出来ない。」


さっきから那美ちゃんの隣にいる眼鏡の彼女は…那美ちゃんの友達かな。


「……どしたのー?」


月村がそう言いながら那美ちゃんの元へ駆け寄って行く。

俺も、それに続いて那美ちゃんのところへ走って行く。


「あ、月村先輩…それに藤見先輩も……。」


那美ちゃんが顔を上げ、俺たちの存在に気が付く。

最低限の礼儀は必要…との事で、那美ちゃんは学校にいる間は…月村の事を『月村先輩』と呼ぶ事にしているらしい。


「いや、那美ってばちょっと転んじゃって、肘をそこのボールの籠にぶつけちゃったんですよ。」


そう言って、眼鏡の女の子は…近くにあるボールの籠を指差す。


「で、本当なら保健委員が先生を呼びに行くことになってるんですけど…この子が保健委員なので、指揮系統にやや混乱を招きまして。それで、現在処置が遅れています。」


……やや回りくどい様な気がしないでも無いが、的確な説明だ。


「あー、そっかそっか。…じゃあ……緊急消毒。」


すっ、と月村は那美ちゃんの腕を取り…そして、那美ちゃんの肘にそっと口をつけた。


「…ん……あ………」

「………………」


ひとくち血を吸って、ぷっ、と地面に吐き捨てる。

その後…傷口を舐めて上げているようだった。


「…はやや……あう、あ……くく、くすぐったいですー。」

「…………」


こそばゆいのか、身を捩り…月村の舌から逃れようとする那美ちゃん。

しかし月村は…ぐっ、と那美ちゃんの体を抑える。


「ん…はー……う、んっ…」


那美ちゃんは笑いを堪えているようで、時々…ぴくぴくと体を震わせる。


「……………んぅ……」


そして月村が…ちゅぱっ、と口を離すと…。


「……ん、はぁ……あ、れ?あんまり痛くない。」

「………何故?」


傷口があまり痛まない事に那美ちゃんが首を傾げ、隣の子は疑問の声を上げる。


「…傷口に、砂とかが入ってたんだよ。…血も、結構止まってるんじゃない?」

「あ…ほんとだ……あ、ありがとうございます。」

「…舐めちゃって、ばっちいから…後でちゃんと洗って、消毒しておいてね。」

「へぇ、やるもんだなぁ。俺なんか保健室まで那美ちゃんをおぶって行く事ぐらいしか思い付かなかったよ。」


月村の手際に素直に感心し、褒め称える。


「…怪我したら言って?藤見君のなら……舐めてあげる。」


そう言って、月村はぺろっ、と舌を出した。

…………やべ。

…ちょっとドキッとした………。

……落ち着け、俺。


「………???」


自分の言った台詞と行動の破壊力を自覚していないのか、突然黙ってしまった俺に…月村は不思議そうな目を向けていた。










―港町―

「ぃや、来ないで…来ないでー!!」


女は逃げていた。

何から…などと聞くまでも無い。

女を追っているのは異形の者…アンノウンである。

コツ、コツ、と背後から足音が聞こえてくる。

後ろを振り返るのが怖い。

どうして私がこんな目に…と泣きそうになりながらも、必死に逃げる。

泣いている暇はない。

足を動かせ。

止まるな。

振り向くな。

様々な考えが頭に浮かぶ。

しかし、いくら恐怖に突き動かされて逃げ回っても、人間である以上…疲労と言うものは襲い掛かって来る。

止まるな。

止まるな。

止まるな。

止まれば殺される。

彼女の頭は引っ切り無しにその事を警告する。

しかし、体力が限界に近づいているのも、また事実。

それでも女は走り続ける。

そんな中、女は狭い路地へと逃げ込んだ。

ゴミ箱やドラム缶の影に身を潜め、息を殺す。

荒い息を吐く口を手で強く塞ぎ、決して音を立てないようにする。


カツ、カツ、カツ、カツ。


足音が響く。


カツ…カツ…カツ。


尚も近付いて来る足音。


…カツ………………


音が途絶えた。

女は辺りに耳を澄ます。

………………………

何も聞こえない。

恐る恐る路地を抜け出す。

ビクビクと恐怖に震えながら、辺りを確認する。

左を見る。

右を見る。


「(いない。)」


アンノウンの姿が見えないことを確認し、女は安堵の息を吐く。

その直後………。


「んん!!」


女は背後から口を塞がれ、身動きを封じられる。

アンノウンは女を見失った訳ではない。

ましてや、見逃すことなど有り得ない。

女が身を潜めて息を殺している時は、単に殺しのサインを切っていただけに過ぎない。

アンノウンは驚異的な跳躍力で一気にビルに飛び上がり、そこから飛び降りて、女の背後へと回り込んだのだ。


「んー!んんー!!」


女の顔が恐怖に染まる。

アンノウンは、女の首を鷲掴みし、そのまま跳び上がる。

そして、跳躍の臨界点に到達した時、アンノウンは女の体を手放した。

重力に従って地上へと落ちて行く女。

女は、声にならない悲鳴をあげながら落下していく。


ドシャッ


鈍い音がその場に響くのと同時に、彼女は頭から血を流し、やがて生き絶えた。

女を殺したアンノウン―ホッパーロード―は、次なる獲物を求めてその場から跳躍した。










―風芽丘学園―


キーンコーンカーンコーン


午前の授業の終了を告げるチャイムが鳴る。

待ちに待った昼だ。

俺は後ろを振り向き、眠っている月村を起こす。


「おーい、月村。授業終わったぞ。」

「うにゅ?」

「うにゅ?じゃない。はい、起きろ起きろ起きろ~。」

「あぅ、あうあう。」


未だに寝ぼけている月村を起こす為、酔わない程度に体を揺さぶり、目を覚まさせる。


「う~、藤見君…?おはよー、ふわぁ。」

「おはよ、昼にしようぜ。高町も赤星も行っちゃったし。」

「あれ、今日はみんなで食べないの?」

「赤星は生徒会の連中と約束があるらしい。んで、高町は美由希ちゃんと一緒に食堂。」

「………そうなんだ。じゃあ、何処で食べる?」

「んー、何処でも良いかな。」

「…あ……じゃあ、図書室に行かない?」

「図書室?飲食物の持ち込みとかOKなのか?」

「床とか本に零さなければ…だけどね。」

「う~ん。」

「ね、行こ?あそこ静かだし…落ち着くんだ。」


とまぁ、そんな風に説得されて……俺たちは飲み物を買って、図書室へと足を運んだ。

図書室内には、パンを齧りながら本を読んでいる生徒たちがチラホラと見かけられた。

しかし、それなりに人数が集まっているのにも関わらず、図書室は結構な静けさに包まれていた。


「はい、藤見君。」

「サンキュ、悪いな。」


俺と月村は空いている席に座り、俺は月村から弁当を受け取る。

何を隠そう月村家のメイド長、ノエルの特製弁当である。

GW明けに宿題を手伝った報酬に貰ったノエル特製弁当…それを絶賛したら、何故か毎週木曜日に俺の分も作ってくれるようになったのだ。


「じゃ、食べよっか。」


月村は微笑んで、弁当の包みを開く。

俺も、同じ中身が入っているであろう弁当箱を開く。


「「いただきます。」」


そう言って手を合わせてから、弁当に箸をつけ始める。


「…………はむ…」

「………もぐ…」


……やっぱ美味い。

この玉子焼きとか焼き加減が絶妙で、リニスのより上手いかも。


「……………」


図書室の中と言うこともあって、俺たちは無言で弁当を食べ進めて行く。


「はぁ、美味かった。」

「ご馳走様でした。」


食べ終わり、空になった弁当箱を前に、再び手を合わせる。

弁当箱の蓋を閉じてから布で包んで、月村に渡す。

弁当も食べ終わったし、教室に戻っても良かったのだが…俺と月村は、何となくその場に残り、2人で話をする。

俺は、その後も図書室で月村と一緒に…食後のひとときを過ごしたのだった。










―海鳴大学 考古学研究室―

昼を過ぎ、凌たちが午後の授業を受けている頃、さくらは記康の研究室を訪れていた。


「先生、この本ですか?」

「そうそう、そこに置いておいてくれるかい?」

「はい。」


ドサッという音と共に記康の机へと積み上げられる本の山。


「あまり根を詰めすぎないで下さいね?倒れでもしたらご家族の方が心配されますよ?」


部屋を訪れる度に古代文字の解読を行っている姿しか見かけない記康の体調を心配するさくら。

そんなさくらに対し、記康は……


「ははっ、息子にも同じような事言われたなぁ…大丈夫だよ、ちゃんと休憩もしてるし、適度に寝るようにしてるからね。」


本から目を背けずに答える。

正直言って説得力の欠片も無い。


「はぁ…まぁ、それなら良いんですけど。」

「これの解読を頼めるのが私しかいないんなら、やるしかない。」

「すいません、ありがとうございます。」

「気にしないでいいよ、結局のところは…やりたいからやる、それだけなんだから。」


パタンと本を閉じ、さくらの方を向いてそう言った記康は、また新たに…先程さくらが置いた本の内の1冊を手に取った。


「さてと、それじゃあ本格的に解読を開始するけど…さくら君はどうする?手伝ってくれるのなら私としてはありがたいんだが。」

「あ、それじゃあ手伝いま………」


Prrrrr Prrrrrr Prrrrrr


さくらがそう言おうとしたその時、彼女のポケットから携帯の着信音が鳴り始めた。


「すいません、ちょっと。」


さくらは、記康に一言言ってから通話ボタンを押す。


「もしもし、ノエル?何かあったの?」

「つい先程、警察のリスティ様から連絡が入りました。中丘町にアンノウンが出現したとの事です!」

「!分かったわ。ノエルとファリンはGトレーラーで現場に急行、私もすぐにビートチェイサーで駆けつける。」

「了解しました。」


通話を切り、携帯電話をポケットに仕舞う。


「すいません、先生…手伝いはまた今度にッ!」

「あぁ、頑張ってきなさい。」


その言葉を背に、さくらは研究室を飛び出して行った。

一方その頃、凌もまた……………










―風芽丘学園3-G―

「………と、言うわけで…ここの文はこういう意味になるわけです。」

「ッ!?」

老教師による古典の授業…その最中、俺はアンノウンの存在を感知した。


「(よりにもよって授業中に…!)」


授業終了まで後2分弱…逸る気持ちを抑え、残りの120秒あまりの時間をひたすらに待つ。


あと、100秒


時が進むのが遅く感じる。


あと、60秒


ジッと時計を見詰め、すぐにでも教室を飛び出して行きたくなる衝動を堪える。


あと、30秒。


机に広げた筆記用具や教科書を片付ける。


あと、15秒。


机の中に入っている教科書類も全て鞄に詰め込む。


5、

4、

3、

2、

1、

0。


キーンコーンカーンコーン


授業終了のチャイムが校舎中に鳴り響き、老教師が挨拶をして教室から出て行く。


「月村、俺…今から早退するから先生に言っておいてくれ!」

「え、えぇ!?」


早退の手続きをする時間も惜しかった俺は、そんな事を月村に言って鞄を手に持ち、立ち上がる。

席を立ち、教室の扉を勢い良く開けて飛び出して行く。

廊下に出た俺は、そのままバイクを停めている場所まで疾走する。

その途中で、リニスにアンノウンの出現を知らせるため、念話を使う。

そのまま学校を出て、自分のバイクまでの距離を一気に駆け抜ける。

バイクに跨り、エンジンを入れる。

そして、俺はそのまま校門を通り、アンノウンのいる場所…鷹笛プレイランドへ向かったのだった。





凌が教室を出たすぐ後、勇吾と恭也…そして、忍の携帯がほぼ同時に震え始める。

3人はそれぞれ携帯を取り出し、画面を見る。

忍に届いたのは1通のメール。


『中丘町にアンノウン出現』


そして、勇吾と恭也に届いたのは……


『鷹笛プレイランドにアンノウン』


と言う文面のメールであった。

それは、これ以上無いほど簡潔に、そして明確に…忍たちが取るべき行動を書き表していた。









―中丘町―


「た、助けてくれぇ!」


一人の男がアンノウンに襲われていた。

首を後ろから掴まれ、呼吸を封じられる。

必死に振り解こうと足掻くが、元より人間と怪物…力の差は歴然だ。

そんな抵抗も虚しく、アンノウンは男の首を掴んだまま、遥か上空へと跳躍した。


「ひっ、わ、わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


アンノウンは、近くにあったマンションの屋上まで一気に飛び上がり、そして………


「やめろ、やめてく…あ、あぁぁぁぁぁぁ!!!!」


アンノウンは、男の言葉になど一切耳を傾けず、慈悲の欠片も無く、男の体をそこから突き落としたのだった。


しかし、そこで…アンノウンにとって予想外のことが起きた。


ブォォォォォォン キキィ!


エンジン音を響かせ、ビートチェイサーに乗ったG1が到着する。

G1は、落下してきた男を受け止め、ゆっくりと地面に降ろす。


「アンノウンは私が倒します。だから、あなたは早く逃げて!」


アンノウンから男を庇うように立ち、男にその場から逃げるように言い放つ。


「ひ、ひぃぃぃぃいぃ。」


男は、恐怖に顔を引き攣らせ、鼻水塗れになった顔で何度も頷き、慌てて走って逃げて行った。

面白くないのはアンノウン―ホッパーロード―の方だ。

AGITΩになる可能性がある人間を抹殺できる一歩手前で、邪魔が入り取り逃してしまったのだから。


シーーーーーッ!!


怒りの声を上げ、アンノウンはG1を睨みつける。

そして、驚異的な速度でG1に躍り掛り、その体を殴りつけた。


「くっ!」


細く、一見頼りない外見とは裏腹に、その瞬発力を生かしたパンチは、想像以上のダメージをG1に与えた。


「このっ!」


G1も、負けじと殴り掛かるが、それよりも早くアンノウンは上空に飛び上がり、その攻撃を躱した。


ギッ!


その声と共にアンノウンは、蹴りを放ちながら飛び降りてきた。


「きゃっ!」


胸に蹴りを喰らって、堪らず転倒するG1。

そこに追い打ちを掛けるように、腹部に2回蹴りを浴びせるアンノウン。


「こ、のっ!」


どうにか形勢を逆転しようと、足払いを放ち、体勢を崩させようと画策するも、またしても上に跳躍され、空振りに終わってしまう。


シャッ!


飛び降りてきたアンノウンは、構えた手刀をG1目掛けて振り下ろす。


「くっ!」


それを腕で受け止め、回し蹴りを喰らわせる。

アンノウンは、それを受けて少し怯みながらも、G1の右肩へとチョップを叩き込む。


「あぐっ!」


それをまともに受け、苦しげな声を漏らすG1。

その直後、放たれるアンノウンの回し蹴り。

直感でそれを察知したG1は、紙一重でそれを躱し、体勢を立て直す。

しばらくの間、両者の戦いは膠着し、次の瞬間……


ギッ!


「やぁぁっ!」


両者は同時に上へ飛び上がった。

しかし………


「あ、くっ!」


アンノウンがあっさりと屋上まで飛び上がったのに対し、G1はその半ばくらいしか飛べなかった。

何とかベランダの手摺に掴まり、事なきを得たG1は何とか這い上がろうと腕に力を込める。

だが、そんな隙をアンノウンが見逃すだろうか。

答えは否だ。


ギーーーーッ!


カンッと言う音と共にG1が掴まている手摺に飛び乗ったアンノウンは、G1の顔に掌底を喰らわせ、地上へと落下させた。


「ッきゃぁぁぁぁぁ!!」


金属音が辺りに響き、体の装甲から小さく火花が散る。

アンノウンはそれを確認すると、またしても大きくジャンプし、屋上に上がる。


《バッテリー出力70%まで低下!》


Gトレーラーからさくらに連絡が入る。


「このままじゃ勝てない。だったらっ!」


今のままでは勝てないと踏んださくらは、一つの決断をする。

さくらは、ベルトに指を持っていき、そこに付いている青いボタンを押した。



《Change Dragon Form》



電子音声がベルトから流れ、直後…G1の体の色が変わる。

燃えるような赤色は水を思わせる青色へと変わり、それに伴い肩の色も赤から黒へと変化する。


「これでぇっ!!」


さくらは、G1の装甲の色が変わっているのを確認すると、足に力を篭め、アンノウンのいる屋上目掛けて、ジャンプしたのだった。










G1がマンションの屋上にて別のアンノウンと対峙している時…凌もまた、彼女と同じ様にアンノウンと向き合っていた。

休園日の鷹笛プレイランド…人が全くと言って良い程おらず、静寂が支配するその遊園地。

アンノウンが狙ったのは、そこの設備の点検をしていた修理工だった。

アンノウンからその人を逃がした凌は、変身ポーズを取り、ベルト左右のドラゴンズアイを押す。

眩い光が、ベルト中央に埋め込まれた賢者の石から放たれ、その姿をAGITΩへと変える。


アンノウンがジェットコースターのレールから飛び立ち、AGITΩ目掛けて突進する。

身を翻し、それを避ける。


「はっ!」


擦れ違いざまに、裏拳をアンノウンへと叩き込み、ダメージを与える。


カァッ!


向きを変え、再び突進を敢行してくるアンノウン。

しかし、それは先程のモノよりも確実に速度を上げていた。

AGITΩは、それを迎え撃つために構える。


「はぁっ!!」


AGITΩとアンノウンの距離が零になり、AGITΩは突撃をかわしながら裏拳を、そしてアンノウンは、接触する直前に翼を広げ、その漆黒の翼によってAGITΩの頭部へとダメージを与える。


「ちぃ!」


堪らず体勢を崩すAGITΩ。

蹌踉めき、膝を折り、地面に手をついてしまう。

そして、上空へと飛んだアンノウンへ、目を向ける。

アンノウンは方向を変え、再びこちらへ向かって来ていた。

しかも、更にスピードが増している。

それに対抗する為、AGITΩはベルト左のドラゴンズアイを力強く押す。

ベルトからストームハルバードを取り出し、体の色が金から青へと変わる。

ストームフォームになったAGITΩは、アンノウンの突撃を回避し、ストームハルバードの先端を展開させ、次なる攻撃に備えたのだった。











「はぁっ!」


ギッ!


ドラゴンフォームとなったG1と、ホッパーロードは幾度も交錯し、次々と戦場を移しながら戦い続けていた。


現在は両者とも、高い場所から地上へと戻ってきて、激しい戦いを繰り広げている。


「やぁっ!」


G1の飛び蹴りが、アンノウンの胸部に命中する。

しかし、スピードが増した反面パワーが低下したドラゴンフォームでは、致命的なダメージを負わせることが出来無い。

それを補うことができる武器『ドラゴンロッド』はビートチェイサーに搭載してあるが為に手元に無い。

ノエルたちに、持って来るよう頼んではいるのだが……………


「くぁっ!ノエル、まだ来れないの?!」


《申し訳ありません、さくら様。今いる場所から動かなければもう少しで到着出来ます。忍お嬢様とも無事合流しましたので、すぐそちらに!》

《すぐに武器持っていくから待ってて!》


アンノウンと交戦しながら、Gトレーラーと通信し、ノエルたちの到着を待ち望むさくら。


「くっ!」


その間にも、アンノウンの攻撃は絶え間なく続き、G1は次第に追い詰められて行った。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。

アンノウンへ凄まじい速度で拳撃を叩き込んでいくG1。

しかし、それでも………


「きゃあ!」


…通用しない。

どれだけ殴ろうが蹴ろうが、アンノウンにそれらしいダメージを与えることが出来無い。

逆に顔を蹴り上げられ、G1の方がダメージを負う。


「はぁ、はぁ、このぉ!」


闘志を奮い立たせ、立ち上がるG1。

しかし、アンノウンはそんなG1の腹部を容赦なく踏みつける。


「あ、ぐっ。」


腹を圧迫され、苦しげな声を出すG1。

そのまま首を握られ、手摺に叩きつけられる。

首を絞められ、呼吸ができなくなる。


「あ、う。」


間に合わなかったか…と、さくらが思ったその時。


《さくら様!今、現場に到着しました。》

《忍お嬢様が武器を持ってそちらに向かいましたので受け取って下さい。》


Gトレーラーから通信が入り、直後……


「さくらーーー!!!」


忍の声がさくらの耳に届く。


それを聞いたG1は、残りの力を振り絞り、アンノウンの顎目掛けて、渾身のアッパーを放つ。


ガ、ギッ!


首を絞め上げていた手が緩み、G1はその隙をついて、アンノウンの腹に、飛び膝蹴りを見舞う。

そして…………


「受け取って!ドラゴンフォームの武装ドラゴンロッドよ!!」


忍はそう言って、G1に向けてソレを放り投げた。

G1は、後ろを振り向き、ソレを掴み取る。


「よしっ!」


ドラゴンロッドを受け取り、構える。

シャカン、シャカン。

ロッドの先端が伸び、1m近い長さになる。


ギッ!


飛び掛ってきたアンノウン目掛けて、ロッドを振るう。

突くと見せかけて薙ぎ、薙ぐと思わせて振り下ろす。

初めて持ったはずのソレは、何故か体にしっくり馴染み、G1はさっきまで苦戦していたのが嘘のように優勢に立っていた。


ギ、ギギ


次々と繰り出される攻撃の数々。

数多のフェイントを織り混ぜ、G1は着実にアンノウンを追い詰めていく。

アンノウンは苦しげな声を漏らし、上に向かって大きくジャンプした。


「さくら、アイツまた逃げる気よ!」


すぐさまG1もアンノウンを追い掛けようと膝を曲げ、自らも高く跳躍する。


ギギ!


丸腰のG1であれば、もしかしたら逃走出来たかも知れない。

しかし、今のG1は………


「やあぁぁぁぁぁ!!」


ドラゴンロッドを持つことによって、攻撃のリーチが長くなっている。

G1は、ロッドをアンノウンの首に叩き付け、力を込める。

それにより、アンノウンは地上へと落下させられる。


ドゴンッ!


派手な音を立て、地面に激突したアンノウンは、ヨロヨロと鈍い動きで立ち上がり、性懲りも無くジャンプの体勢に入った。

けれど、それはもう遅いのだ。


「残念ね。終わりよ、諦めなさい!」


アンノウンに死刑宣告を告げ、G1は空中でベルトの青いボタンを押す。


《Charge Up》


電子音声が流れ、エネルギーが腕を伝ってドラゴンロッドへと送られる。


《Full Charge》


エネルギーの蓄積が臨界に達し、バッテリーの残量が低下する。


G1は、そのまま地面に落下しながら、落下速度までも味方につけて、アンノウンの右胸にロッドの先端を思い切り叩きつけた。


ギャ、ギ


体内に埋没したロッドの先端から、蓄積されたエネルギーがアンノウンの体へと流れ込む。


ギ、ギィィィイィ!!


G1のエネルギー総量の約半分を一気に体内に流し込まれ、遂に耐えられなくなったアンノウンは、頭に光の輪を出現させて爆死した。


「やったね、さくら!」

「えぇ!」


アンノウンを無事撃破したさくらは、忍とタイタッチを交わし、仮面を外して笑い合った。








「ぐあっ!」


アンノウンの突撃をまともに喰らい、AGITΩは壁に叩きつけられた。

今…AGITΩは、嘗て無い劣勢に立たされていた。

空中から攻めて来る相手との戦闘経験が皆無であることも影響しているだろう。

ストームになり、最初の内は相手の動きに対処できていたのだが………

突然、アンノウンの動きが変わったのだ。

ストームの俊敏さを生かし、バカの一つ覚えのように突進してくるアンノウンに、擦れ違いざまにストームハルバードによる攻撃を喰らわせていたのだが、アンノウンは、唐突に別の方法で攻め始めた。

ただ低空から突撃してくるだけだったアンノウンは、いきなり上空へと舞い上がり、肉眼で捉えられない程の高度まで飛ぶ。

そして、そこから…恐ろしいほどの速さで突撃して来るのだ。

知覚外から攻撃してくる為、肉眼で相手を捉えた時には回避が間に合わなくなっている。

だから避けられない。

だから反撃も出来無い。


「がッ!(せめて、フレイムに変われたら……!)」


何度も何度も攻撃を喰らい、次第に薄れていく意識の中、凌はそう思った。

そして―――――


「が、はっ。」


飛び切り強烈な体当たりを喰らい、AGITΩは観覧車のゴンドラに叩きつけられた。

だが、AGITΩ…いや、凌にも意地があった。


「こ、のやろぉぉぉぉ!!!」


右手でアンノウンの翼を掴む。

そして……

左手に持ったストームハルバードを、残りの力全てを総動員して、アンノウンに突き刺す。


ギャァーーー!!!


クロウロードは醜い叫び声を上げ、もがき苦しむ。

アンノウンがAGITΩから離れ、何処かへ飛び立つ。

そしてAGITΩは完全に意識を失い、地面に落下していく。

その光景を、黒い衣服の少年はメリーゴーランドの馬に腰掛け、満足そうにニコニコと微笑んでいた。











アンノウンがその場から飛び去ってすぐ、リスティたちは鷹笛プレイランドを訪れていた。

しかし、そこには破壊された設備や、凹んだ壁、へしゃげた屋根などしか見当たら無かった。

4人は、手分けして遊園地内を探索したが、終ぞ何も発見することが出来なかった。













(おまけ)

「フェイト、アリシア、アルフ。ご飯が出来たわよー。」

「はーい!」

「えと、今行きます。」

「肉、肉ー!!」


アリシアが生き返ってから、およそ3週間。

その間に、プレシアを取り巻く環境は大きく変化していた。

時の庭園…嘗ては暗く、陰湿だったその空間は、今や完全に昔と同じ、いや…それ以上の光を放っていた。


「ママ、ママ、聞いて?フェイト凄いんだよ?もう、AAランクの魔法も使えるんだから!」

「あぅ、姉さん。別に、そんな事…母さんに言わなくても。」


今までは使われていなかった巨大なダイニングテーブル。

しかし、今ではそれを囲む四人の家族の姿があった。


「あら、凄いじゃないフェイト。この調子なら大人になる頃には、お母さん超えられちゃうかも知れないわね。」

「そ、そんな事ない!大人になっても、母さんの方が強いに決まってる!」


フェイトは自分にアリシアという姉が出来たことを素直に喜び、ずっと夢だったプレシアの笑顔を見ることができ、今がずっと続けば良いと思っていた。


「あら、ふふっ…嬉しいこと言ってくれちゃって。そうねぇ、フェイトは早寝早起きで生活態度も満点だし、今度…ミッドチルダに新しい服や靴でも買いに行きましょうか。」

「えぇー、フェイトだけずるいよー!わたしもー!」

「あらあら、困った子ね。それじゃ、アリシアはお買い物の日まで夜更かしをしない事。約束を守れたらフェイトとおそろいの物を買ってあげるわね。」


過去の呪縛に囚われていたプレシア・テスタロッサは、もうこの世にはいない。

昔のように柔和な笑顔を浮かべ、2人の娘に愛情を注ぐ姿からは、あの冷徹な性格など微塵も感じられない。


「わーい、やったー!」

「あの、ありがとうございます、母さん。」


アリシアが蘇ったことにより、プレシアはフェイトをアリシアの出来損ないとしてでは無く、1人の人間。いや………

もう1人の娘として見ることが出来るようになった。

その結果、プレシアがフェイトに、アリシアと同等の愛情を抱くのはそう遠い話では無かった。

アリシアとフェイトを重ね、自分のエゴを、その小さな体に押し付けていた事をプレシアは後悔した。

アリシアにはアリシアだけが持つ素晴らしい個性が。

フェイトにはフェイトだけが持つ素晴らしい個性があるという事を気付こうともしないで、蔑ろにしてきたことを。

しかし…だからこそ、プレシアは心に決める。

フェイトとアリシア、そしてアルフにありったけの愛情を込めて育てる事を。

そして、プレシアは誓うのだ。

次元世界の中で1番幸福な家族を目指す事を。

これから先、どんな事に巻き込まれようと、この家族の絆が壊れることが無いように。













後書き
何とかスランプ脱出……かな?
序盤は驚くほどスラスラ書けたんですけどね。
今回はG1主役の回。逆にAGITΩは敗北。……看病イベントって重要じゃね?
休日にディケイド&Wの映画見に行って、帰ってきたら…書けなくなってました………おのれ、ディケイド!!



[11512] 迷い込んだ男 第三十話 「赤い炎の剣」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/07/18 11:08
AM09:23 ―藤見家―

「う、うぅ…ここは……?」


目覚めると、俺はベッドに寝かされていた。

俺の目には見慣れた天井が映り、それが自分の家であることを認識させる。


「そうか、俺…あの後気を失って……」


ぼんやりしている頭を振り、目を覚まさせる。

漸く頭がハッキリしてきて、何があったのかを思い出す。

アンノウンとの戦いに敗れた俺は、死に物狂いでアンノウンに一矢報いて、その後意識を失った。

鷹笛プレイランドが休園日だったことを考えると…家まで運んでくれたのはリニスだろうか。

俺は、まだ痛みが残る体を無理やり起こしてリニスの姿を探す。

だが、部屋を見渡してもリニスの姿は無かった。

探しに行こうかとも一瞬考えたが、少し動かしただけでも体が痛むために敢え無く断念する。

仕方なく再びベッドに倒れ込み、寝転がることに。


「(まぁ、念話で目が覚めたことを伝えればいいか。)」


目を瞑り、そう思った時だった。


ガチャ


と、ドアが開く音が聞こえ、そっちに目を向けると…そこには救急箱を抱えた母さんが突っ立っていた。

そして、その足元には猫形態のリニスの姿も。


「あ、母さ…」


手を上げ、声を掛けると…母さんは目に涙を溜め、救急箱を放り捨てて俺目掛けて走ってきた。


「(…あー、前にも有ったなこんな事。)」


思い出すのは二年前の海鳴大学病院の病室での出来事。

あの時も、確か母さんが怪我した俺に抱きついてきて…………


「(あ、やば。)」


そんな事を考えている内に、母さんはすぐそこまで迫っており、そして―――


「いだだだだだだっ!ちょっ、母さん、離して!マジ痛いから!冗談抜きでヤバイから!!」


―――予想通り俺の体を力いっぱい抱きしめた。

…だから、俺の事心配してくれるのは嬉しいんだけど、少しは…進歩してくれ、母さん。

全身に走る痛みに耐え、意識が遠くなりそうなのを我慢し、涙目になりつつ母さんを引き離そうとする俺。

急いで母さんの頭に飛び乗り、前足で頭を叩き…止めさせようとするリニス。

依然として俺を離さない母さん。


一瞬にして、静かだった俺の部屋は混沌に包まれたのだった。










三十話「赤い炎の剣」










「あー、酷い目に遭った。」


あの後、我に返った母さんが俺の体から離れ、漸く地獄から開放された。

とは言え、負傷している上にあの抱擁でジワジワと体力を削られたため、暫く動けない状態に陥った訳だが。


「で、母さん…仕事は?」

「もう少ししたらね。あ、学校とバイト先には電話入れておいたから。」

「助かる。あと、心配掛けてゴメン。」

「いいのよ。昔に比べたら怪我して帰ってくる回数も大分減ったし。けど、無茶だけはしない事。分かった?」

「うっ、あー了解。」


中学時代はしょっちゅう体に傷とか作って帰ってきたもんなぁ。

まぁ、見た目派手なだけだったから今ほど痛くは無かった訳だけど。


「なら良しっ。っと、もうそろそろ行かないと。あ、今日は仕事の都合で遅くなりそうなの、だからご飯は………」

「あいよー、時間が経てばマシになるだろうし適当に作って食べてるよ。」


そうして、母さんは仕事に向かった。


「はぁ、また随分と手酷くやられましたね。」


母さんが家を出て、二人きりになると、リニスは猫から人間へと姿を変え、そう言った。


「うぐっ!…悪かった。」


痛いところを突かれ、口篭るしか無い俺。

確かに、空を飛べるリニスと一緒にアンノウンとの戦いに当たっていれば、勝っていたのは俺たちの方だったかも知れない。

けれど、リニスが着くのを待ってアンノウンが人を襲っているところに割って入っていなかったら、きっと俺は後悔していただろうし。

だから、その点に関して言えば、俺は間違っていないと断言出来る。……のだが、リニスに心配を掛けたことには間違いないだろうしなぁ。

ここは素直に謝っておいた方が良いだろう。

けど、俺的に本当に問題なのはAGITΩの力の方だ。

あの時、フレイムフォームに変わる事が出来ていたなら、グランドやストームでは知覚出来なかった攻撃にも対処出来た筈だった。

戦いの最中、俺は確かにベルトの右のドラゴンズアイを押し、フレイムに変わろうとしたのだ。

けれど、ベルトは何の反応も示さず、結果…アンノウンとの戦いに敗れてしまった。


「はぁ、どうすりゃいいんだろうな。」


思わず、そんな言葉が口を衝いて出た。


「アンノウンの事でも考えてるんですか?」

「んー、どっちかって言うと…AGITΩの方をな。」

「そう、ですか。確かに、謎の多い力ですからね。けど…まずはその怪我を治すことに専念して下さいね。」


リニスはそう言うと、俺に手を翳しその掌に紫色の球体を出現させる。


「これは?」


俺が疑問の声を上げるのとほぼ同時に、その球体から優しい光が溢れ出す。

その光を浴びていると、体の痛みが徐々に和らいでいくのが分かった。


「フィジカルヒール…簡単な回復魔法です。これで少しは痛みも和らぐでしょう。」

「あぁ、どんどん痛みが引いていってる。ありがとな、リニス。」

「い、いえ。使い魔として当然のことをしただけですので。」


俺がそう言うと、リニスは少し照れ臭そうに笑った。


ピンポーン


その時だ。

インターホンが鳴り、家に人が来たことを告げる。


「私が出ますから、凌はそこに居て下さい。」

「分かった。新聞の勧誘とかなら適当にあしらって追っ払ってくれ。」

「ええ、分かりました。」


そうして、リニスは俺の部屋を出て玄関の方へ向かって行った。










AM09:00 ―翠屋―

凌が目覚める少し前、翠屋にやって来たフィアッセは、着いて早々に驚きの声を上げた。


「えぇ!?リョウが怪我したんですか!?」


ついさっき翠屋にやって来たフィアッセは、桃子と士郎から凌が怪我したことを聞かされた。

「少し前に凌君のお母さんから電話があってな。そこまで酷くはないと言ってるんだが…まだ意識が戻ってないらしくてな。」

「そうなのよ。大きな切り傷が体に刻まれているらしいし、だから学校も今日は休むらしいわ。」

「ッ!(もしかして…アンノウンにやられて?!……リョウ。)」


士郎と桃子の話を聞いて、凌が大怪我を負ったと思い込んでしまうフィアッセ。

彼女の頭の中では、苦しげな声を常に上げ続け、体を包帯でぐるぐる巻きにした凌の姿が思い浮かんでいた。

その他にも、凌がどんな状態であるのかを、二人はフィアッセに話し続ける。


「あ、あの!」


2人の話を聞いている内にフィアッセは、とうとう居ても立っても居られなくなり、士郎と桃子に見舞いに行って良いかを聞こうと話しかけた。

しかし、それよりも早くに士郎が口を開く。


「あぁ、分かってる。行ってきて良いよ。」

「あ、これも持って行って。はいっ、桃子さん特製の洋菓子詰め合わせ。」

「う、うんっ!ありがとう…士郎、桃子!」


自分の気持ちを汲み取り、文句の一つも言わずに凌のお見舞いへ行かせてくれた二人に感謝の言葉を述べ、フィアッセは凌の家へと車を走らせた。







「行ったな。」

「ええ、行ったわね。」

「「イエーイ!!」」


フィアッセが凌のところへ行ったことを確認するや否や、二人は互いに手を高く掲げ、ハイタッチを交わす。

確かに、凌が怪我をした…と言うのは本当だ。

覆し様の無い純然たる事実である。

しかし、士郎と桃子がフィアッセに言ったのは、半分以上が真っ赤な嘘。

つまりはでっち上げ。

そもそも、凌は体中に大きな切り傷など負っていない。

まぁ、ダメージを負ったのは本当であるため、全てがデタラメと言う訳では無いのだが。


「今のままじゃ、凌君がフィアッセの気持ちに気付く確率は殆どゼロ。」

「この機会に自分の気持ちを伝える…もしくは、凌君を自分に惚れさせる。フィアッセ、私たちはあなたの味方よ!」


そう言って、二人してガッシリと握手を交わす。


「御二人ともー、仕事してくださーい!!」


そのままラブラブモードに突入した二人は、翠屋のアシスタントコック…松尾さんが、見るに見兼ねて叫ぶまで、そのままだったと言う。










AM09:52 ―藤見家―


「凌、お客さんですよ。」


玄関から戻ってきたリニスは、ドアを開けてから、開口一番にそう言った。

俺は、そのリニスの後ろに立っている人物を見て、かなり意表を突かれた。


「リョウ、大丈夫!?」


リニスの後ろに立っている人物…それは、俺のバイト仲間であり、俺とリニスの正体を知る唯一の人。

今の時間ならば、翠屋で働いている筈のフィアッセ・クリステラその人だった。


「って、フィアッセさん!?」


何でフィアッセさんが此処に!?


「リョウが大怪我したって聞いたら、居ても立っても居られなくなって……それで、士郎と桃子に言ってバイト休ませて貰ってお見舞いに来たの。」

「それはいいのだけど、フィアッセ?凌が怪我したのは本当だけどそんなに酷くないですよ?」

「えぇ!?そうなの?」


はい、そうです。

元々、目に見えて酷い傷は無いし、まだ残っている戦闘のダメージも、リニスの回復魔法のお蔭で大分マシになったのだ。

だから、フィアッセさんの言うような大怪我では無い…筈なのだが……


「だ、だって、士郎と桃子が…リョウが意識不明の重体で、顔とか腕とかに傷いっぱい作ってその上(ry」


その後も連々と士郎さん&桃子さんに伝えられた俺の状態(嘘)を並べ立てていくフィアッセさん。

どう考えても2人の悪戯です。本当にありがとうございました。


「と言うか、話聞いてる途中でおかしいと思わなかったんですか?」

「うぅ、気が動転しちゃってそれどころじゃなかったのよぉ。」


フィアッセさん、涙目である。

しかも、床に手をつき、見事なOTZを決めている。


「でもまぁ、見舞いに来てくれた事はホントに嬉しいですよ。ありがとうございます、フィアッセさん。」

「ほ、ホント!?」


先程までしょんぼりしていたフィアッセさんだが、俺がそう言うとパァァっと笑顔になった。

うん、やっぱりフィアッセさんは笑顔の方が綺麗だな。

恥ずかしいから本人には死んでも言えないが。


「そう言えば凌、お昼は何が良いですか?」


そんな事を考えていると、フィアッセさんからの見舞いの品を机に置きながら、リニスがそう言ってきた。


「あれ、もうそんな時間か。」

「いえ、まだもう少し先ですけどね。けど買い物も済ませておかなければなりませんし。」


目覚まし時計を見ると、時計の針は丁度10時を指していた。


「んー、特に食べたいものってのは無いなぁ。リニスに任せるよ。」

「分かりました。じゃあ、ちょっと買い物に出かけてきますね。」

「ちょ、ちょっと待って。」


リニスが俺の部屋を出て行こうとしたその時、フィアッセさんから待ったの声が上がった。


「ねぇ、リン…私もリョウにお昼作ってあげたいんだけど…いい?」

「フィアッセが…ですか?」

「う、うん。」

「う~ん、それはいいんですけど……」

「本当!?」

「けど、料理出来るんですか?」

「大丈夫、結構料理するの上手いんだよ?恭也たちも美味しいって言ってくれるし。」

「んー、それじゃあ一緒に作りましょうか。買い物も一緒に行きます?」

「え?けど、それだとリョウが1人になっちゃうし。」


そういや、フィアッセさんの料理は食べた事ないな。

やばい、結構楽しみかも。


「あぁ、俺のことなら気にしないでいいですから。行ってきて下さい。」


俺なんかといるより友達同士で買い物に行ってた方が楽しいだろうしな。


「そう?それじゃあ、リンに付いて行こうかな。」

「それじゃあ、フィアッセ。着替えてきますから少しの間待っていて下さい。」

「うん、分かったー。」


リニスも変わったな~。

以前のリニスだったら、あのメイド服みたいな使い魔服で買い物に出かけてたし。


「ねぇねぇリョウ。」

「はい?何ですか?」


ちょんちょんと俺の頬を突きながら、話しかけてくる。


「リニスって…もしかしてお洒落とかに無頓着だったりする?」

「あー、多分。けど、何でそんな事を?」

「ほら、私たち…この間一緒に服買いに行ったでしょ。その時にどんなのが良いか聞いたんだけど……」

「あぁ、大体予想付きます。多分ですけど「何でもいい」って答えたんじゃないですか?」

「そうそう。…でも、良く分かったね。」


あぁ、やっぱそこら辺は相変わらずなのね。

まぁ、リニスらしいと言うか何と言うか……


「そりゃ分かりますよ。リニスの服って全部俺が買ってきた物ですし。」

「えぇ!?」


ふっ、アレは辛かったなぁ。

去年の夏休みから始まり、その後も季節が変わる毎にリニスのために女性物の服を買わなければならない苦痛。

ブラやショーツ?

…………聞かないでくれ(涙)


「あはははははは。今でも店員さんの蔑みの視線が忘れられないよ、コンチクショー!」

「リョ、リョウ…苦労したんだね。大丈夫、これからは私がリニスの服を選ぶから!」


うぅ、フィアッセさんの優しさが身に染みる。

この苦労を分かって貰える事がこんなにも嬉しいことだったなんて。


「フィアッセさん。」

「リョウ。」


妙な雰囲気が形成され、見つめ合う俺たち。

それに流されたのか、自然と顔が近づき始める。

だが、そんな時……


「フィアッセー。準備が出来たので下りてきて下さーい。」


階下からリニスの呼ぶ声がした。


「ひゃう!」

「おぉう!」


部屋に流れていた妙な雰囲気が一瞬で消し飛び、正気に戻る俺たち。

気まずい空気が俺たちの間に流れ、顔を合わせるのが妙に気恥ずかしい。


「あ、あはは。じゃ、じゃあ行ってくるね、リョウ。」

「は、はい。行ってらっしゃい。」


そそくさとその場から立ち上がり、部屋を出て行くフィアッセさん。

バタンッ

と、ドアが閉じられ、部屋に静寂が訪れる。

リニスとフィアッセさんがいなくなった自分の部屋…コチコチと時計の針が進む音だけが聞こえる。

そして、今まで意図的に考えないようにしてきた事が頭に浮かんでくる。

あの空を飛ぶアンノウンをどうやって倒すかだ。

こうしている間にも、アンノウンは人々を襲っているのだろう。

けれど、何の対策も無しに戦いを挑んでも今のままじゃ負けるのは分かり切っている。

まず、グランドのままで打倒するのはほぼ不可能だろう。

リーチが短い上に敵の速さに対処し切れ無い。

次にストームだが、これも難しい。

昨日戦って分かったことだが、あのアンノウンのスピードは、下手すればこのストーム以上だ。

その上、力不足な為に決定的なダメージが与えられない。

故に、アレを倒せるのは…ずば抜けた感覚力とパワーを持つフレイムフォームしか無いと思うのだが…………


「はぁぁ、何で変われなかったのかなぁ。」


大きな溜め息を吐き、天井を見上げる俺。

そうやってジッとしていると、次第に心地良い眠気が襲ってきた。

微睡みの中、俺は一つのことを思い出した。

俺が初めてストームに変われるようになった時の事だ。

確か…アレは、まだアンノウンが現れていなかった時。

プレシア・テスタロッサの計画を防ぐ為だけにリニスと訓練を行っていた時に、その兆しが現れたんだ。










昨年、12月某日


「え”ぇ”、今日の模擬戦って魔法ありなのか!?」

「えぇ、最近は凌もあの力抜きで私の動きに付いて来られるようになったので、そろそろ本格的に魔法ありの訓練もしておこうと思いまして。」

「なぁ、それって能力使うのは無しなのか?」

「変身以外なら問題無しです。ただし、凌の能力は発動時間が短いのでそれに気をつけて下さいね。」

「ん、分かった。」


その日、凌はいつものように翠屋のバイトを終え、リニスとの訓練を始めようとしていた。

だが、その内容はいつものように体術だけのものではなく、魔法も織り交ぜて行う本格的な模擬戦闘だった。


「それじゃあ、始めましょうか。」


そう言って、即座に封時結界を発動させるリニス。

そして………


「はぁっ!」


凄まじい速度で、凌の懐へと潜り込んでいく。

そしてそのまま、右ストレートをボディ目掛けて放つ。

「ッちぃ!」


凌は咄嗟に腕を交差させ、その打撃をガードする。


「ふっ!」


続いて来た左の拳を右の腕で受け流し、身体を回転させて裏拳を喰らわせる。


「ぐっ。」


だが、リニスは手にシールドを作り、凌のそれを防ぐ。


「せっ、やぁっ!」

「ふっ!」


凌は、そこから更に一歩リニスへと踏み込み、左足を軸足にして回し蹴りを放つ。

けどそれも、リニスは素早い動きで身を引き、それを回避する。


「はっ!」


そして、凌が空振った隙を見逃さず、ガラ空きになったボディへと渾身の蹴りを放つ。


「うぐっ!」


その攻撃をモロに喰らった凌は、その場から大きく飛ばされる。


「くそっ!」


再び距離を詰めようとリニスの元へ駆け出す凌。

しかし、そこで気付く。

紫色の光弾が真っ直ぐに自分へと向かって来ていることに。


「しまっ!?」


その光弾とは、リニスが放った魔法弾“フォトンバレット”。

誘導性は皆無だが、それ故に速い。

それに気付いた凌は能力を発動させ、一時的に身体能力を上げる。

光弾はもう目の前まで迫っていた。

凌は急いで右に跳び、それを躱そうとする。

しかし…………


「なっ!?」


光弾は無常にも凌の左腕に直撃し、その身体を吹き飛ばす。


戦闘終了。

リニスとの初めての魔法ありでの訓練は、凌の敗北で以って幕を閉じた。


「あ、つ~。」

「大丈夫ですか?凌。」

「ま、まぁな。(くそっ、避けれると思ったんだけどなぁ。速さが足りなかったか。)」

「今日のところはこれで終わっておきますか?もう日も変わっちゃいましたし。」

「む、う~ん。」


その言葉を聞いた凌は、腕を組んで何かを考え込む。


「リニスさえ良ければもう少し付き合ってくれないか?」

「え?私は良いですけど…凌の方こそ良いんですか?明日もバイトでしょう?」

「明日は昼からだし、学校で寝るから問題無し。」

「………それもどうなんでしょうね。私としては、凌がやる気なのであればとことん付き合いますが。」

「うしっ、サンキューな…リニス。んじゃ、もう一回頼むわ。」


その後、凌は何度も模擬戦を繰り返す。


「がふっ」


ある時はまともに魔力弾を喰らいダウンしたり。


「がっ」


右足の腿をフォトンランサーで貫かれたり。


「づっ!」


時には“ブリッツアクション”で一瞬の間に接近され、アッパーを貰ったり。


「はぁはぁ、はぁっ、はぁ。」


十数回もリニスとの戦闘を繰り返した凌は、荒い息を吐き膝に手を当てて何とか立っているという様相だった。

「凌、まだ続けるんですか?」

「はぁ、はぁ。まだだ、もう少し付き合ってくれ。」

「けど、いくら非殺傷とは言え………」

「…じゃあ、これで最後だ。今日のところはこれで終わる。」

「………分かりました。これで本当に終わりですよ。」


何度も何度も魔法の直撃を喰らった凌は、既にヘトヘトであった。

魔力ダメージだけなのでそれだけで済んでいるが、これが殺傷力のある攻撃なら大怪我をしている事だろう。

しかし、それでも凌は諦めなかった。

いくら倒れても必ず立ち上がり、再び模擬戦を再開する。

そして、これが今回最後の模擬戦。

凌は足に力を篭め、勢い良くリニスへと突っ込んでいった。


「おりゃぁ!」


力強く一歩を踏み出し、リニスへと右の拳を放つ。


「はっ」


しかし、リニスは凌の放った拳を同じく右の掌で受け止め、左足で凌の頭を狙う。


「なんの!」


その攻撃を予め予想していた凌は、左腕でそれを防ぐ。


「……フォトンランサー。」


リニスがそういった瞬間、凌の頭上へと雷の槍が出現する。


「ッまずっ!」


凌は急いで後ろへ飛び退き、何とか難を逃れる。

後ろへと跳び、着地した瞬間…槍は地面に突き刺さり、バチバチと放電しながら消えていく。


「甘い!これで、チェックです。」


見ると、リニスの放った魔法弾が凌に向けて迫っていた。


「くそっ!」


今度こそ回避しようと、能力を使う。


ビュオッ


その時……凌は、確かに風を感じた。


「(なっ、身体が物凄く軽い。これならっ!)」


そして、凌は魔法弾をギリギリのところで回避し、そのままの速度でリニスへと駆け寄る。

そして…………


「はぁ、はぁ。俺の、勝ちだな。」


リニスの想像以上の素早さで接近し、その腕を掴み上げる。

更に、その喉元へ手刀を突き付け、そう言い放った。










PM12:18 ―藤見家―


「凌、起きて下さい。」

「リョウ、お昼作ったから食べよ?ほら、起きてよー。」


確か…その後だっけ?

俺がストームに変わる事が出来るようになったのは。

じゃあ、フレイムも同じ様にすれば………


「凌、いい加減に目を覚まして下さい。」

「リョウ~?」


体を揺さぶられ、俺は閉じていた目を開ける。

目を開けると、そこには困り顔のリニスとフィアッセさんの顔があった。


「あれ、二人とも…いつの間に帰ってきたんだ?」

「はぁ~、結構前に帰ってきてましたよ。」

「で、その時に部屋を覗いたんだけど…リョウ寝てたみたいだったから。」

「先に料理のほうを作って、次に凌を起こそうとした訳です。」

「リョウ、声掛けても中々起きないんだもん。強く揺すって漸くだよ。」


………どうやら何時の間にやら寝てたらしい。

じゃあ、さっき見たあの光景は夢だった訳か。

道理であの場面以外が朧気な訳だ。


「ほらほら、体起こして下さい。まだ怪我が痛むでしょうし、食べさせて上げます。」


寝起きという事もあって少々ぼんやりしていたんだが、直ぐに目が覚めた。

起き上がってすぐ…俺の目の前にリニスが、チャーハンを掬った蓮華を差し出していたからである。


「むぅ。リョウ、私の方から食べて?ほら、あーん。」


差し出された蓮華をどうしようか迷っていると、フィアッセさんも俺に向かって同じくチャーハンを差し出していた。


………どうしろと?


「リ、リンはいっつもリョウと一緒にいるじゃない。今日くらい譲ってよ!」

「フィアッセだってバイトの時は一緒じゃないですか!」

「むぅぅ。」

「ふ~!」


俺に料理を差し出したまま睨み合う2人。

ってか、普通に食えばいんじゃね?


「いや、別にもう殆ど痛みも無いから普通に食えるんだけど……」

「「それはダメ!」」


見事なコンビネーションだった。

何だ、息ぴったりじゃないか。


「でも、このままじゃ埒が明かないし、ここは…」

「しょうがない、か。ねぇ、リョウ。」

「何です?」

「私とフィアッセ……」

「どっちに食べさせて欲しい?」


期待を込めた目で俺を見る2人。

………どうしてそんな結論になったんだろう。


「そう言われてもな~。」


食べさせて貰うって…俗に言う“あ~ん”ってやつだろ?

そんなの、普通に恥ずかしいんだが。


「なぁ、やっぱり……」

「「ダメ。」」


……にべも無しか。

いやしかし、ここで諦める訳にはいかない。


「すまん、ほんっと勘弁してください。」


2人に向かって頭を下げる。


「……はぁ、しょうがないですねぇ。」


おぉ、分かってくれたか!


「しょうがないから2人で交互にやりましょうか。」

「え”!!」


………あぁ、“あ~ん”は絶対ですか、そうですか。

覚悟を決めるしか無いと言うのか。


「はいっ、凌…あ~ん。」

「あ、あ~ん。」

「ど、どうですか?」

「うん、いつも通り美味いよ、リニス。」


嘘です。恥ずかしさの所為で味が殆ど分かりません。

恐らく俺の顔は真っ赤になっている事だろう。

てか、リニスですら赤らんでるし。

照れるくらいならやらなきゃいいのに…


「じゃ、次は私ね。はい、あ~ん。」

「あ~ん。」

「えへっ、美味しい?」

「えぇ、美味しいですよ。ありがとうございます、フィアッセさん。」

「ホント?嬉しいなぁ。」


美味しいんだろう、美味しいんだろうけど…恥ずかしさの所為で味が(ry

ちなみに、フィアッセさんの顔もリニスと同じくらいに赤かった。

と言うか、あなたもですかフィアッセさん。恥ずかしいのに無理しなくても良いですって。

そうして、嬉しいといえば嬉しいけど、滅茶苦茶恥ずかしかった天国のようで地獄だった昼食は終わっていった。









PM13:38 ―矢後市―


カッカッカ


AGITΩから受けた傷が完全に癒えたアンノウンは、今まで狩れなかった分を取り戻そうとするかのように町から町を移動し、力ある人間を殺していく。

市民からの報告を受け、リスティたち警察組もアンノウンの捜索を続けているが、次から次へと場所を変えるアンノウン相手では有効な手段が取れず、後手に回ってばかりであった。


「ぎゃ!」


上空から勢い良く体当りし、次々と人を殺害していくアンノウン。

そして、また新たな犠牲者がこの矢後市でも生まれる。

アンノウンは高らかに笑い、その場から飛び立っていった。










PM14:00 ―藤見家前―


「凌、本当にするんですか?」

「あぁ、確証は無いけど…俺にはこの方法しか思い付かなかった。」

「リョウ、ホントに大丈夫?無理だけは……」


あの後、俺はリニスに言って、フレイムになるための訓練をすることにした。

あくまで推測の域を出ないが、ストームは…俺が早く動きたいと思い、速さを必要とする場面に身を置き続けていたら変身出来るようになった…んだと思う。

だったら、フレイムは知覚外からの攻撃に対応せざるを得ない状況に身を置き続けていたら変身出来るようになるんじゃないかと思った訳だ。

間違っているかも知れないが、やってみる価値はある。

あのアンノウンにはリニスとのコンビで勝てるかも知れないが、どの道フレイムへの変身を可能にしていないと、行き詰まることだってあるはずだ。

だから、是非ともこの機会にフレイムフォームをモノにしておきたい。


「大丈夫ですよ。じゃあリニス、頼む。」

「はぁ、分かりました。その代わり、私がこれ以上無理だと判断したら大人しく止めて貰いますからね。」

「あぁ。」


俺のその言葉を聞くと、リニスは結界を発動させた。

辺りにいるのは俺とリニスとフィアッセさんだけになり、外界から隔離される。


「凄い。これが…魔法なんだ。」


いきなり辺りの人が消えたのを目にしたフィアッセさんから感嘆の声が上がる。


「それじゃ、フィアッセは私と一緒に来て。」

「う、うん、分かった。」


リニスはそのまま飛んで、宙に浮く。

それを見て、フィアッセさんも若干躊躇するが、背中に黒い翼を出現させ飛び上がる。


「それじゃあ、付いて来て下さい。」

「え、あ、うん。」


リニスが翼を見て驚かなかった事に驚いている様子のフィアッセさん。


「はは、リニスのいた世界じゃ…空を飛べる事はあまり珍しくないですから。」

「そ、そうなんだ。それで……」

「フィアッセー、置いて行きますよー!」

「あぁ!すぐ行くから待ってー!」


そうしてフィアッセさんは、俺に笑い掛けてからリニスの方に飛んで行った。

さあ、こっからが正念場だ。

絶対に変身出来るようになってやる。


(凌、こっちは準備出きました。…ホントに良いんですね?)


リニスから念話が届く。

後は、俺が了承すれば訓練開始だ。


「ふー、はー。」


深呼吸して、息を落ち着ける。


(よし、やってくれ。)


そして、そう返事を返した瞬間…前方の見えない位置から、凄まじい速さで槍のような魔法弾が飛来する。


「ッ!」


直感的に左に避け、それを躱す。

俺は両手の拳を構えると、次々と飛来する魔法弾を睨みつけた。










PM14:45 ―海鳴市 国務町―

一方その頃、勇吾と恭也はアンノウン―コルウス・クロッキオ―と戦いを繰り広げていた。


「くそっ、当たらない!?」

「ちっ、厄介な。」


G2・G3となった2人は、それぞれの専用バイクに乗りアンノウンを追跡していた。

唯一遠距離用の武器を持つG3が、GM01でアンノウンを狙うが、バイクでの走行中…しかも飛んでいる相手に向かって撃つので中々当たらない。

それでも何発かは当たっているのだが、威力不足なのか怯ませることさえ出来無い。


「あー、くそっ!!」

「落ち着け、赤星。」

「そうは言うがなッ、高町。」

「!?来るぞ!」

「ッ!?」


アンノウンは突然空中で旋回し、G3目掛けて突進する。

車体を左に傾かせ、それを回避するG3。

リスティたちの尽力により、ここら一帯が通行止めになっていたから良かったものの、もしそうでなかったら確実に他の車に激突していたであろう。


カッカッカッカ


擦れ違い様に、アンノウンは2人に聞こえるように笑い声を上げ、そのまま飛んで行った。

アンノウンがどの様なつもりでその笑い声を上げたのかは分からないが、勇吾と恭也にとってその耳障りな笑い声は、自分たちを嘲笑っているように感じたと言う。


「あのヤロォ!!」


拳をわなわなと震わせ、怒り心頭の勇吾。


「気持ちは分かるが落ち着け。俺が違う道から先回りする。そこで一気に決着をつけるぞ。」


恭也自身も冷静そうに振舞っているが、内心はかなりイラついていた。



「分かった、じゃあ誘導は任せろ。」


そしてG2はG3と別れ、別のルートからアンノウンを追い詰める。

先回りしたG2は、ロードチェイサーから降り、デストロイヤー弐型を引き抜く。

そこに、曲がり角からアンノウンが姿を現す。

G2の姿を確認したアンノウンは、先程までのスピードよりも更に速くなり、G2目掛けて突っ込んでいった。

「来い、アンノウン!」


剣を交差させ、待ち構えるG2。


ギィィィィン!!


耳障りな音が響き、剣とアンノウンの頭部が激突する。


「ぐ、くっ…うぅぅうぅぅ!!」


2体のアンノウンを難なく切断したソレに耐え、尚もアンノウンは不気味な笑いを零しながら、ジリジリとG2を後ろへと追いやっていく。

そして遂に……


「ぐあぁぁぁぁ!!」


G2は鍔迫り合いに破れ、吹っ飛ばされた。

遅れてやって来たG3が銃を撃つが、掠るだけでちゃんとした命中には至らず、アンノウンは遥か上空へと飛び去って行った。










PM15:20 ―藤見家前 封時結界内―


「はぁ、はぁはぁ。」

「全く、ホントに無茶をするんですから。」

「ま、まぁいいじゃないか。ちゃんとフレイムになれるようになったんだし。」

「リョウ、体の方は大丈夫?」

「ちょっとダルイですけど…それ以外は何とも。」

「そっかぁ。」


あれから約1時間、俺は努力の末にフレイムにへと変われるようになっていた。

以前、ストームに変われるようになった時のように、今回は体が燃えているように熱くなり、身体から力が沸き上がってきたのだ。

それからは感覚が鋭くなり、魔法弾が何処から飛んでくるのかも正確に掴めるようになっていた。

そして今、俺は壁に背を預けて休憩をとっていた。


「俺のことより、リニスの方は大丈夫なのか?ほら、1時間近く魔法使いっぱなしだったし。」

「えぇ、魔力消費の少ないモノばかりだったので。」

「それで、リョウはこれからどうするの?」

「どうするって?」

「すぐにアンノウンと戦いに行くのかなって。」


不安そうな顔をして俺を見るフィアッセさん。

俺だったらこんな状態でも戦いに行きそうだと思ったらしい。


「流石にこんな疲労困憊な状態で戦いに行ったりしませんよ。」

「そうだよね、良かった。」


身体が少しダルイだけだから戦うのは問題ないと思うけどね。

けど、それ言うと絶対2人から何か言われるしなぁ。


「そう言えばフィアッセ、何時までここに居るんですか?」

「え?居ちゃダメなの?」

「いえ、そうではなくて。お母様、今日は遅くなるみたいだから晩御飯も一緒にどうかと思って。」

「ホント?じゃあお言葉に甘えて。」


仲睦まじく喋っている2人。

俺としてもフィアッセさんが晩御飯食べて行くのは全く問題ないのだが…これだけは伝えておかねばなるまい。


「それは良いけど、昼間のアレは無しな。」

「「え~。」」

「そんな声上げてもダメです。怪我も治ったんだから、わざわざ食わせて貰う必要も無いし。」


正直、嬉しくもあったが…それ以上に恥ずかし過ぎた。

二度目は勘弁して欲しい。


「う~ん、残念。照れたリョウをもっと見たかったのに。」

「そうですねー。」


と、2人が言ったその時。


「「ッ!?」」


俺は近くにアンノウンの反応を感知し、思わず空に目を向けた。

そして、再び2人に向き直ると、リニスが驚いた顔をしていた。


「どうしたんだ、リニス。」

「ッ!凌、何者かに結界が破られました。」


直後、その言葉が事実であることを証明するように、灰色だった周りの色が元に戻っていく。

そして、灰色から青へと戻った空には、アンノウンがその黒い翼を広げ佇んでいた。


「アイツの仕業か!」

「……アンノウン。」

「何だか、こっちを睨んでない?」


俺たちを上空から見下ろしたアンノウンは、ギョロリと目を動かした。

その視線の先にいるのは………


「っ!フィアッセさん!?」

「きゃあぁぁ!?」


俺が狙いに気付くのとほぼ同時に、アンノウンはフィアッセさんに突進してきた。


「フィアッセ!!」


リニスもアンノウンの狙いに気が付き、“ブリッツアクション”でフィアッセさんをその場から離れさせる。

当て損ねたアンノウンは、再び上空へと飛び上がりこっちを睨む。

間違いない。アイツの狙いはフィアッセさんだ。


「変身ッ!!」


アンノウンが再び攻めてくる前に、俺はフィアッセさんを庇うように前に立ち、AGITΩに変身する。


AGITΩ!!


アンノウンはAGITΩになった俺の姿を見ると、嗄れた声で憎々しげにそう言った。


「リニス、フィアッセさんを守ってくれ。」


アンノウンの狙いが自分に変わったのが分かった俺は、リニスにそう言ってフィアッセさんをここから離れさせた。


カァーーー!!


声を上げて突撃してくるアンノウン。

その攻撃を俺は身体を右にズラす事で回避する。


それが通じないと分かったのか、アンノウンはその黒い翼を広げて俺の上を飛び、様々な方向に移動する。

バサバサと羽ばたく音やスピードに惑わされそうになった時、背後からアンノウンが飛び掛ってくるのが分かった。


「はっ!!」


瞬時にそっちを振り向き、身体を倒しながら空中に向けて蹴りを放つ。

それは見事にアンノウンの腹を捉えてダメージを与え、地上へ落下させた。

しかし、同時にアンノウンも俺の胸を踏み付ける。

距離が離れ、互いに立ち上がった俺とアンノウンは距離を保ったまま横に歩き、出方を伺う。

そして数瞬後、アンノウンの方が動いた。

俺に向かって殴り掛かるアンノウン。


「ふん!はっ!!」


それを右手で去なし、逆に足払いを掛ける。

けれどアンノウンは空中に逃れることでそれを回避する。


「ふっ!」


俺はアンノウンに飛びつき、アンノウンと共に上昇して行く。

振り落とされないようにしっかりとしがみつきながら、アンノウンへ攻撃するチャンスを伺う。

やがて、俺の家から然程遠くない位置にあるビルの屋上の真上にやって来た時、俺はアンノウンの胸にパンチを喰らわせる。

アンノウンと俺は空中から落下し、その屋上に着地する。


カァァァーーー!!!


「はぁっ!!」


再び飛び掛ってきたアンノウンの顔面を思いっ切り殴りつける。


ギャッ!


手痛い反撃を喰らったアンノウンはそこから再び空へ飛び、見えなくなる程距離を離す。


その隙に、俺は右のドラゴンズアイを叩き、漸くなれるようになったフレイムフォームへと形態を変える。

ベルト中央部に収められた賢者の石が赤く染まり、光を放つ。

そこに右手を持っていくと、そこから刀の柄が現れる。

それを握り、ベルトから刀を引き抜く。

胸の前にソレを持っていくと、装甲の色が金から赤へ変わり、右肩にプロテクターが付く。


「よしっ、行ける!」


俺は神経を研ぎ澄まし、強化された感覚を頼りにアンノウンの位置を割り出す。

アンノウンの移動する音がハッキリと捉えられる。

その方向に身体を向け、刀―フレイムセイバー―を構える。


シャキンッ!


AGITΩの角を模した鍔の装飾が開き、6本角に変化する。

すると、フレイムセイバーが凄まじい熱を放ち始める。

それは空気を揺るがせ、周辺の温度を急激に上昇させる。

そんな中、俺の耳にはアンノウンが空気を切り裂き突っ込んでくる音が確かに聞こえていた。


「はぁぁぁぁぁっ!!!」


気合を溜め、精神を集中させる。

そして、フレイムセイバーを正眼に構える。


カァァァァ!!!


今までで一番じゃないかと思うような速さで突進してきたアンノウン。


ザシュッ!!


そんなアンノウンを、俺はフレイムセイバーを真っ直ぐに振り下ろして真っ二つに切り裂いた。

アンノウンはその体を炎上させ、その勢いのまま通り過ぎて行った。

そして――


ギャァァァァァァ


――爆発。


光の輪さえ頭に浮かべること無く、アンノウンはその体を燃え上がらせながら空中に散っていった。


「ふぅ。」


アンノウンが死んだことを確認すると、俺は張り詰めさせていた気を抜き、息を吐く。

それに伴って、フレイムセイバーも6本角から元の2本角へと戻る。

そして、無事にアンノウンを倒した俺は…意気揚々と自分の家に帰って行った。














(おまけ)


「バルディッシュ、フォトンランサー・ファランクスシフト…行けるね?」

『yes, sir.  Photon Lancer Phalanx Shift』


時の庭園に備えられた魔法訓練用の一室の中、フェイトはその魔法を発動させていた。

少女の願いに杖は応え、空中に金色の魔法陣が展開される。

そして、徐々に彼女の周りに無数の球体が浮かび上がる。

それはバチバチと放電し、眩いばかりの光を放っていた。

けれど、その次の瞬間。


「ふぅ、ありがとバルディッシュ。もういいよ。」

『yes, sir.』


フェイトはそれらを消し、空から地上へ舞い降りて行った。


「母さん!えと、どうだったかな。今のが、私が使える一番強い魔法なんだけど。」

「正直驚いたわ。AAAランクの魔法も使えるようになってたのね。」

「うん、リニスに教えてもらったの。まだまだ発動に時間がかかるから実戦だと使い辛いんだけど……」


母の優しい言葉に嬉しそうに笑うフェイト。


「何言ってるの、フェイト。あなたの歳でここまで出来たら十分すぎる程よ?本当に頑張ったわね、偉いわ。」

「えへへ。」


フェイトの頭を優しく撫で、ギュッと抱き締めるプレシア。


「あー!ママずるーい!私もフェイトに抱きつきたい!」

「あたしもー!」


さっきまでそこら中を走り回っていた幼女姿のアルフとアリシアもフェイトに抱きつき、笑顔を浮かべる。

プレシアは優しい笑みを。

アリシアは純粋であどけない笑顔を。

アルフは満面の笑みを。

そして、その中心にいるフェイトもまた、本当に幸せそうな顔をしていた。

これが今の庭園の日常。

嘗ての陰鬱さは欠片も無く、笑顔と笑いに満ちた空間である。

愛情に飢えていた少女は、母と姉と使い魔に囲まれ、最高の幸せに包まれていた。















後書き

皆様、あけましておめでとうございます。
言い訳にしか聞こえないでしょうが、年末年始は色々と忙しくて書いてる余裕がありませんでした。ホントは大晦日には書き上げる予定だったのにorz
ストームやフレイムになるには努力が必要…と言うのは完全にオリ設定です。原作じゃ普通になれてましたけどね。
あと、試験的に修羅場(?)書いてみました。修羅場ってこんな感じで良いんでしょうか。
最後に、今年も『迷い込んだ男』と作者をよろしくお願いします。



[11512] 迷い込んだ男 第三十一話 「準備」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/06/23 20:13
6月8日 PM14:40―風芽丘学園 教室―

色々大変だった5月から、月が変わって6月。

ここ、風芽丘学園3年G組の教室では1つの議論が決着しようとしていた。


「それじゃ、今年の学園祭の出し物はこれに決定、文句はないわね!!」

「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」

「「「「「「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」」」」


委員長の言葉に…男子からは雄叫びが、女子からは黄色い声が上がり、パチパチパチパチと盛大な拍手が起こる。


「うぅ…何だ?」


机に突っ伏して眠っていた凌は、その声と音に反応して目を覚ます。

ずっと寝ていた為、何が起こったのか…まるで状況が掴めていない凌は、事態が飲み込めずに首を捻る。


「あ、やっと起きた。さっきまで今度の学園祭の出し物を決めてたのよ。」

「ん、くあぁぁ。そういや、そうだっけ。」


そんな凌に、後ろの席に座っている忍が今の状況を説明する。

大きな欠伸をしながら首をゆっくり回し、眠気を飛ばす凌。そして漸く、寝る前に何を話し合っていたのか思い出す。


「で、結局…今年は何をすることになったんだ?」

「うん、今回は喫茶店だって。」

「へぇ、定番だな。」


ぐ~っと伸びをしながら答える凌。


「まぁ、ただの喫茶店じゃないんだけどね。」

「ただの喫茶店じゃない?………なぁ!?」


凌がその言葉を聞いて忍の方を見ると、忍は指で黒板を指差した。

そして、その黒板には―――


『学園祭!出し物決定!!【執事&メイド喫茶】目指せ売り上げ一位』


―――と、デカデカと書かれていた。










三十一話「準備」










「で、どうなんだ?」

「んぅ?何が?」


放課後、鞄に教科書を仕舞いながら、後ろの席にいる月村に話しかける。


「そりゃ、出し物の事だよ。やっぱり、月村はメイドやるのか?」

「う~ん、多分…だって料理できないし。藤見君は執事だよね。」

「まぁ、翠屋でウェイターしてるし。」

「そっか、でも…執事だよ?」

「え?………何か違うのか?」


俺、普通に執事服を着て接客するだけだと思ってたんだけど。

普通の接客と何か違いが有るんだろうか?


「私もよくは知らないけど…やっぱり執事なんだし、『お帰りなさいませお嬢様。』とか言うんじゃないの?」

「え”、そうなのか?拙いな…つい癖で普通に接客しそうなんだが。」

「あー、1年生の頃から翠屋で働いてるんだもんね。」


いや、でも…所詮は学園祭の出し物なんだし、それ位は許容範囲内…か?

そう…だよな?別に本格的な店じゃないし、それ位は………


「あら、それはダメよ。」

「うおっ、吃驚した~。藤代さん、いきなり声を掛けないでくれ。」


いきなり俺の横に藤代さんが現れ、声を掛けてきた。

それにしても、普通の接客はダメなのか。学生がやる店なんだし、それ位は多目に見てもらえるような気がするが。

その事を藤代さんに伝えると……


「それはそうかも知れないけど…やるからには徹底的にしたいじゃない?」

……などと言われてしまった。

その後も藤代さんの言葉は続く。


「それに、特に藤見君はねぇ……我がクラスの美男子3天王の一人だし。」

「ちょっと待て、何だその突っ込みどころ満載の肩書きは。」


聞くところによると…俺、高町、赤星で3天王らしい。

しっかし、3天王って…中途半端な。せめて後一人くらい何とかならなかったのか。

そもそも俺、高町や赤星と違って美男子じゃないし。


「ま、そんな訳だから…練習しっかりねー。」


言うだけ言って、藤代さんは機嫌良さげに教室から出て行った。

残されたのは、他数名の生徒と俺、月村だけ。


「練習とか…どうしろと。」


翠屋で事情を説明して練習するか?いや、出来るわけがない。第一、桃子さんがこの事を知ったら悪ノリするに決まってる。

家でやろうにも、執事に対する知識不足で無理。


「そんなお困りの藤見君に忍ちゃんから提案があります。」


どうするか悩んでいると、今まで会話に参加して来なかった月村が話し掛けてきた。


「おぉ、月村…お前居たのか!!」

「酷っ!?」


取り敢えず話を聞かずにからかってみる。


「てか、ずっと目の前に居たのにその反応は有り得ないでしょ。」

「冗談だ冗談。それで、提案ってのは?」

「うん、明日って…土曜日じゃない?」

「…そうだな。」

「だから授業は昼までな訳だ。」

「……だな。」

「それで、明日…学校が終わったら家で練習しない?一緒に。」

「………何??」


つまり、それはアレか?

俺が月村の家に行って、執事の練習をするって事か?

月村と一緒に?


「マジか?」

「うん、マジマジ。」

「具体的には何をするんだ?」

「んー、内緒♪」

「おい。」

「まぁまぁ、私に任せなさい!」


何なんだろう、月村のこの自信は。

もしかして、ノエルやファリンちゃんに主人に仕える際の心構えとか聞くんだろうか。

………いや、そんなものが喫茶店やる上で必要なのかは知らないけど。

真面目に練習するのか、という意味では激しく不安だが………

ま、面白そうだから行ってみるか。


「オッケ、じゃあ明日はお前の家に行くことにするわ。」

「ん、分かった。じゃ、帰ろっか。(よしっ、フィッシュ!)」


話が片付いた俺たちは、それぞれの鞄を持ち、教室を出て行った。










6月9日 PM14:48―隆宮市 月村家 玄関前―


で、翌日の放課後。

俺は一旦家に帰り、昼食をとってから月村家へと足を運んでいた。

でもって現在、俺の前にはメイド服を着た月村が立っていたりする。


「…………………………」

「…………………………」

「……………」

「…………いや、何か喋ろうよ。」

「…スマン、どんな反応して良いのか分からなかった。」


いきなり月村に「お帰りなさいませご主人様♪」と言って出迎えられたらそりゃ驚くよ。

あまりの出来事に一瞬思考がフリーズした。


「う~ん、似合ってないかなぁ。」

「いや、似合ってる。凄い似合ってるけど…その…何だ、いきなりは驚く。」

「ほんと?良かった~。あ、入って入って。」


月村が着ているのはノエルたちが着ているのと同じメイド服だったが、似合っている。

まぁ、月村くらい美人だと何を着ても似合いそうだが。翠屋の制服も普通に似合ってたしね。

俺は内心のドキドキを悟られないようにしながらその事を伝える。

嬉しそうに顔を綻ばせながら安堵の息を吐く月村。

そして、俺はそのまま月村に連れられて、屋敷の中へ入っていった。


「お邪魔しまーす。」

「お帰りなさいませご主人様ー♪」

「いや、それはもういいっての。」


ノリノリでメイドに成り切っている月村。

多分純粋に楽しいんだろうなぁ、月村って当主としてのプライドとか薄そうだし。


「とまぁ…冗談は置いといて、着いて来て?部屋に案内するから。」

「部屋?」

「そ、藤見君の執事服が置いてある部屋に。」

「何ぃ!?」


おかしいだろ、メイド服は分かるけど…何で執事服まで有るんだよ。

てっきりこのままの服装で練習するんだと思ってたのに。


「何事もまずは形から入らないと。」

「俺には似合わないと思うんだが。」

「そんな事ないと思うけど…大体そんな事言ったって、当日には絶対着ることになるんだし…今のうちに慣れといた方が良いと思うよ?」

「……ですよねー。」


世の中諦めが肝心って事ですね、分かります。

俺はそのまま月村に着いて行き、やがて部屋の前に辿り着いた。


「じゃ、ここで着替えて?余りのんびりしてると、覗いちゃうかもよ?」

「普通は、男が女の着替えを覗くもんじゃないか?」

「ほほう、それじゃあ藤見君は私の着替えを覗きたかった…と。」

「っっ!ば、バカ言え、覗かねーよ。じゃ、着替えてくるわ。」


俺は月村と軽口を言い合った後、その部屋に入る。

そして、部屋全体を見回した。相変わらず広いよなぁ、高町家の庭くらいはあるんじゃないか?

そのまま部屋を見回していると、ベッドの上に畳んであった執事服一式を見つけた。


「しょうがない。さっさと着替えるか。」


執事服に着替え、さっきまで着ていた服を折り畳んでベッドに置く。

扉を開け、廊下に出る。


「あ、終わった?」

「おう、どうだ?」

「…………………………」

「…………………………」

「……………」

「…………いや、何か言ってくれ。」

「ゴメン、どんな反応して良いのか分からなくて。」


そうか、そんなに似合ってないのか。

どうやら俺に執事服は予想以上に似合わなかったようだ。

流石に少し落ち込みそうになっていると、月村が笑いだした。


「くすくす、冗談だよ。すごく似合ってるよ、藤見君。」

「はぁ、そりゃどうも。どうせなら聞いたときすぐにその言葉がほしかったけどな。」

「ごめんごめん。でも、お相子じゃ無い?門のとこでの私のメイド服姿を見た時の反応もこんな感じだった気がするけど?」


月村は、その顔に悪戯っぽい笑みを浮かべ、俺に言う。

う、それは正直スマンかったと思うが…別に狙ってやったわけじゃ無いので勘弁して欲しい。


「すいませんでした。」


取り敢えず頭は下げておこう。

月村的にさっきの発言は冗談のつもりだったんだろうが、今考えると…俺のあの反応は確かに失礼だった。


「もう、お相子だって言ってるのに。」

「いや、あの時は頭が回らなかったけど…今になって思うとな。ああ言う反応されたら多分傷つくと思うし、女性なら尚更じゃ無いか?」

「いや、まぁそうだけど。はぁ、こう言うところは鋭いんだけどなぁ。

「ん、何か言ったか?」


月村が何か言ったような気がしたんだが、声が小さくて聞き取れなかった。

聞き返してみたが、月村は顔に曖昧な笑みを浮かべただけだった。


「何でもない。じゃあ早速行こっか。」

「行くって…何処に?」

「ん?さくらのとこ。」











6月9日 PM15:10―海鳴市 国守山―


その日の朝、男は妻と子を連れ…ピクニックに来ていた。

昼になると妻の作った弁当を仲良く会話をしながら3人で食べた。

今、男は子供とボール遊びをし、妻はレジャーシートに座ってその様子を微笑ましげに眺めている。

しかし、そんな幸せな時間も…ある存在によって壊されることになる。


「おとーさん、何?これ。」

「お、何を見つけたんだ?」

「これー。」


男の息子が指差したのは、地面に空いた穴から湧き出している水のことだ。

おかしい、と男は思った。

当たり前だ、池や川なども近くに見当たらないし…そもそもにして、こんな地面から水が出ている事自体が異常である。

そう思って、男が息子をそこから離そうとした時だ。


ブシャーーー


その穴から勢い良く水が飛び出し、あたり一面を水浸しにし始めた。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

「わぁぁぁぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁぁぁ!!!」


それは、アッという間に水嵩を増し、その家族の逃げ道を奪った。

そして、最初にあった小さい穴から奇妙な物体が這い出て来る。

ボコボコと水面が泡立ち、そこからソイツは姿を現す。

オクトパスロード―モリペス・オクティペス―だ。

アンノウンは、パニックに陥りロクに逃げることが出来無い3人の元へ向かい、その奇っ怪な腕を使って顔を水面下に沈める。

死への恐怖から、長らく抵抗を続けていた3人も、やがては水に飲み込まれ…溺死していった。

3人が完全に生き絶え、プカプカと水面に漂う死体に成り下がった頃、アンノウンはそこから姿を消し始め、同時に…溢れ出た水も幻であったかのように綺麗さっぱり消えてしまった。


ゲケケケケケケ


不気味な笑い声を残し、アンノウンはその場から完全に姿を消した。










6月9日 PM15:15

月村に連れられ、俺たちはさくらさんに会いに来ていた。

さくらさんは、徒広いダイニングで優雅に紅茶を飲んでいる。

ちなみに、さくらさんの後ろにはノエルが控えている。


「と、言う訳で協力お願い…さくら。」

「取り敢えず、何に協力するのか教えて貰わないと事情が飲み込めないのだけれど?」

「うん、実はね………」

紅茶をテーブルに置き、引き攣った笑みを浮かべながら俺と月村を見つめるさくらさん。

さくらさんにそう言われ、月村は事の始まりを話し始める。

つか、説明してなかったのかよ。流石に呆れるわ。

さくらさんにも都合が有るだろうし了承してくれる訳………


「はぁ、しょうがないわね。協力してあげる。」

「って、良いんですか!?」


何と吃驚。

月村の話を聞いたさくらさんは、意外にもすぐに協力を承諾してくれた。


「特に用事も無いことだし…それくらいは構わないわよ。」

「そう来なくっちゃ。じゃ、早速始めましょ?」


月村のその一言で、それぞれ練習が始まる。

とは言え、そもそも執事って具体的に何をするのかを知らない為、まずはそこから教えて貰うことになるのだが。

月村の場合は何をするのかは知っているけど、自分でやった事が無いからノエルにその辺の指導をお願いするそうだ。

取り敢えず、さくらさんの正面の椅子に座り…教えを乞う事に。


「じゃ、向こうも始めたみたいだし、私たちも始めましょうか。」

「あ、お願いします。」


椅子10個分くらい俺たちと距離を離した2人は、既に話を始めているようだった。

それに続いて、俺もさくらさんに分からないことを聞いていく。

まぁ、あくまでメインは喫茶店…執事はおまけみたいな物なんでそこまで詳しく知る必要性はない。

要するに喋り方とか物腰とかさえ分かればいいのだ。それで、恐らくは問題ない…はず……多分。

そんな訳で、さくらさんに質問していったのだが………


「そうねぇ、こんなものかしら。」

「成程……大体分かりました。」


…約30分で質問することが無くなってしまった。

一方、月村とノエルの方はまだ終わっていない様だった。

けどまぁ、そうなると、後は必然的に世間話に移行するしか無いわけで…自然と俺たちの話は学校での事など、お互いの話へと変わっていた。

特に学園生活の事とかは、風芽丘学園がさくらさんの母校だったこともあって、会話が弾んだ。

さくらさんも、話している内に昔を思い出したのか、色々なことを教えてくれた。

占いが得意で、良く当たると評判だった事や、1人の時は月村のようにずっと本を読んで過ごしていた事とか。

ちなみに、さくらさんはその頃は帰国子女だった所為もあって、国語が物凄く苦手だったらしい。さくらさん本人が言うには……


「テストで毎回赤点ぎりぎりの点数で、大変だったわね。あの頃の私の漢字知識…多分小学生レベルだったもの。」


……らしい。今のさくらさんからは到底想像出来ないな。

かと言って勉強が出来ないと言うわけでは決して無く、日本語、英語、ドイツ語の3カ国語を話せるトライリンガルだと言うのだから驚きだ。


「何々?何の話してるの?」


暫くそうして談笑していると、月村が俺の隣の椅子に座ってきた。

ティーカップを乗せた盆を持ったノエルもこっちに向かって歩いてきたし、あっちも話が終わったのだろう。


「んー、学園での事とか、さくらさんの高校時代の事とか、そんな事をな。」

「へー、そうなんだぁ。」

「御二人とも、どうぞ。」

「あ、すいません。」

「ありがと、ノエル。」


月村にさっきまでさくらさんと話していた内容をかなり大雑把に伝え…コトッと目の前に置かれた紅茶を飲む。


「あら?」


ノエルが淹れてくれた紅茶を飲んでいると、さくらさんからそんな声が上がった。


「どうかしましたか?」

「え?あぁ、大学の方から呼び出しのメールが入ったの。だから、今から行って来ないと。」


そう言って、さくらさんは席から立ち上がった。

そして、そのまま静かに部屋を出て行った。


「さて、どうする?藤見君。」

「何がだ?」

「何して遊ぶのかって事。」

「って言われてもなぁ。……ッ!!」


月村との会話の途中…俺は、アンノウンの存在を感じた。


「悪い、月村…今日はもう帰るわ。」

「え、えぇー!?どうして?!」

「ほんっとーにスマン!今日…用事があるの忘れててさ。」

「むぅ…はぁぁ~、しょうがない、か。その代わり、ちゃんと埋め合わせしてね。」


月村は少し不満げな顔をしたが、最終的には引き下がってくれた。

まぁ、埋め合わせに何を要求されるのかは分からないが、月村の事だ…余り無茶な要求はしてこないだろう。


「分かった。じゃあな、月村、ノエルさん。」

「バイバイ、藤見君。」

「はい、お気を付けて。」


そして、俺は扉を開けてその部屋から出て行った。

自分の服が置いてある部屋まで走り、急いで着替える。

執事服を脱ぎ捨てて行くのも抵抗があるし、俺は急ぎながらもちゃんと服を折り畳み、ベッドの上に置く。

玄関扉まで全力疾走し、扉を開ける。

屋敷から出て、停めて置いたバイクに跨る。

俺はすぐにエンジンを入れ、アンノウンが出現した場所へ向かった。










6月9日PM16:13―海鳴市 海鳴警察署―


ピーッ


という音が鳴り、無線機からアンノウンが出現したという知らせが届く。


≪アンノウン出現!G2及びG3システムの出動要請!現場は、原前町 緑公園。≫

「Gトレーラー発進します。」

「恭也、勇吾、出番だよ!」

「はい。」

「了解です!」


2人の返事を聞いたリスティは、手元の赤いボタンを押す。

G2,G3の装甲服を仕舞ってある扉が開き、恭也たちは素早くそれを装着していく。

仕上げにそれぞれの仮面を着けた2人は、専用のバイクに跨りエンジンを入れた。


「ロードチェイサー、続いてガードチェーサー離脱して下さい。」


セルフィは、最初にロードチェイサーのタイヤを固定しているストッパーを解除し、ロードチェイサーが道路を走行し始めたのを確認してから、ガードチェイサーのストッパーを外した。

G2とG3は、緑公園へバイクを走らせた。










6月9日PM16:10―海鳴市 原前町 緑公園―


「行くよ、お父さん行くよー。」

「お、良い球。ストラーイク。もう一球!」


1人の子供と、その父親がキャッチボールをしていた。

子供の投げた球をグローブで受け止め、投げ返す。


「えい!」

「よーっし!良い球、もういっちょ来い!」


子供は一生懸命、父親の構えたグローブ目掛けてボールを投げ、父親はにこやかにそのボールをキャッチする。

しかし、力みすぎたのか…次に子どもが投げたボールは、グローブに収まらずに明後日の方向へ飛んで行く。


「あぁ!ははははっ。」


父親は大らかに笑いながら、そのボールを拾いに行った。

しかし、それが悲劇を呼んだ。

ボールを拾おうとした瞬間、地面から勢い良く水が溢れ出て来たのだ。

水はどんどん範囲を広げ、水嵩を増やしていく。


「うわぁぁぁ、あぁああぁぁぁ。」


恐怖の余り尻餅をつき、近くの木にしがみつく。

それを見た子供は父親の元へ走っていく。


「お父さん!」

「わぁぁあぁぁぁぁ!!」


子供の声は、父親に届かなかった。

水中からいきなりアンノウンが現れ、パニックに陥ったからだ。


「お父さん、お父さん!!」

「祐一!祐一、逃げろー!!」

「お父さーん!誰か助けてー!!」


子供が悲痛な叫びを上げ、父親は水の中に顔を埋めさせられる。

子供は、父親が死ぬ一部始終を、ただ見ているしかなかった。







その数分後G2、G3は現場に到着した。

それぞれの武装をバイクから取り出し、辺りを見渡す。

暫くして、2人は地面に転がる白い物体を見つける。

それは、野球ボールだった。

そして、そのすぐ近く…そこには、ずぶ濡れの男が1人死んでいた。


「ッ!間に合わなかったか。」

「まだこの辺りにいるかも知れない。手分けしてアンノウンを探そう。」

「ああ、分かった。」


しかし、探すまでもなくアンノウンは見つかった。


「うわぁぁぁ!?」


すぐ近くで子供が悲鳴を上げるのが聞こえ、2人は同時に走り出した。

そこには、子供を水の中に引きずり込もうとしているアンノウンの姿があった。


「うわっ!助けて、助けてー!!」

「その子を離せ!」


子供とアンノウンが背中を向け、子供に弾が当たらないのを確信したG3は、アンノウンの頭部にGM-01の弾丸を撃ち込む。


ギィィィィ


不気味な声を上げ、2人の方を向いたアンノウンの腕には子供が抱えられていた。


「くそっ!これじゃ攻撃出来ない!!」

「……神速を使う。俺が仕留められればいいが、もし仕留め切れなかったら遠慮なく弾を打ち込んでやれ。」

「…分かった。けど、無茶はするなよ。」


G2は無言で頷くと、2本のデストロイヤー弐型の刀身を高速振動させ、構えを取る。

そして―――


「(神速!!)」


―――脳と体のリミッターを外し、恭也はモノクロの世界へ飛び込んだ。

アンノウンですらも捉えられない高速で動き、アッという間に目の前まで接近する。

子供を拘束していた腕を斬り飛ばし、子供を自由にする。

そして、アンノウンを蹴り飛ばし、奥義を叩き込んで止めを刺そうと思ったのだが……


「なっ!?」


神速の持続時間を過ぎた時に訪れる倦怠感が身体を襲い、モノクロになっていた視界が普通に戻り、速さも元に戻ってしまう。


「ちぃ!(考えるのは後だ、今は兎に角この子を!)」


G2はアンノウンを蹴り飛ばし、子供を逃がす。


「俺たちがアイツを倒すから、君は逃げろ!」


殺害対象に逃げられた事を悟ったアンノウンは、目の前の障害を排除するのを優先したのか、G3へ襲い掛かって来た。


「諦めが悪いんだよ!大人しく死んでろ!」


頭に生えた触手を伸ばし、攻撃してくるアンノウン。

G3はソレを回避しながら、GM-01を連射し…銃弾を浴びせる。


「高町!」

「ふっ!」


G3とアンノウンの間にG2が割り込み、その鬱陶しい触手を斬り落とす。

その間に、G3はバイクからグレネードユニットを取り出し、GM-01にドッキングさせる。


≪GG-02アクティブ!≫


弾丸をリロードし、発砲。


バァン!!


それは、派手な音を立ててアンノウンの頭に命中した。


ギャァァァァァァ!!


頭に光の輪を出現させたアンノウンは、苦しんだ挙句に溶けてしまった。

それを見た2人は、ふぅ…と安堵の息を吐いた。

そして、勇吾は疑問に思っていた事を恭也に聞いた。


「なぁ、高町。お前…何であの時驚いたような声上げたんだ?」

「…神速のリミットが短くなってたんだよ。普通なら4秒は持つはずだったんだが。」

「え、2秒有るか無いかだったぞ?さっきの。」

「やっぱりそれぐらいだったか。」


腕を組み、暫く思考する恭也。

少しして、勇吾の方が1つの可能性に辿り着く。


「もしかして、コレ着てるからじゃないか?」

「コレって…G2をか?」

「あぁ。特に、G2の方はG3より身体への負担が大きいらしいからな。」

「成程…言われてみれば確かに、そう考えるのが一番妥当かもな。」


問題が解決し、ホッと一息吐いた2人に、リスティから連絡が入った。

そこでアンノウンが溶けた場所から目を逸らさなければ、危険は回避できたかも知れないのに。


≪おーい、アンノウン倒したんだったら早く帰ってこい。上に報告とかしないとならないんだからな。≫

「すいません、すぐ戻ります。」

「それで、Gトレーラーは何処に?」

≪その公園の近くに停めてます。さっき勇吾くんたちが入った入り口からすぐのところですね。≫


オクトパスロードの溶けた地点に落ちた破片が集合を始める。

集合した破片は、オクトパスロードの頭の形になり、宙に浮いた。

そして、瞬く間に体全体を復元させてしまった。

アンノウンを倒したと思い、油断していた2人は…それに気付くことが出来なかった。


ゲケケケケケ



「分かりました、すぐに……あ、ぐっ!!」

「赤星!?ぐっ…な、にぃ!?」


アンノウンは頭の触手を伸ばし、G2,G3の首に巻きつけた。

完全に無防備になっていた2人は、いきなり背後から首を絞められた。


「こ、のぉ!!」

「ッ!せっ!!」


2人は、苦しみながらも首を締めている触手を引っ掴み、体の向きを変える。

そして、G2はデストロイヤー弐型で断ち切り、G3はGG-02サラマンダーを撃って破壊する。


「げほっ、げほっ!」

「ごほっ!はぁ、はぁ。」


2人は首に巻き付いた触手を捨て、体勢を整える。

G2は腰を落としていつでも斬り掛かれる様に。

G3は残弾1発になったグレネードユニットを取り外して、武器をサラマンダーからスコーピオンへ変える。


「嘘だろ…オイ。」

「まだ生きてたらしいな。」


完全に倒したと思い込んでいた2人は、目の前のアンノウンが今だ健在であることに驚いた。

しかし、いつまでも動揺している訳にはいかないと思ったG3は、目の前のアンノウンに向けて、GM-01を連射した。


パァン!パァン!パァン!パァン!


弾は確実にアンノウンの体に当たっている。だが、アンノウンは…まるで効いていないとばかりに前進してくる。

精々、弾が当たった時に怯むだけだ。


「何!?効いてないのか!?」

「突っ込む。赤星、援護頼んだ。」

「お、おい、高町!」


2刀を構えたG2は、アンノウンへ向かって一直線に突っ込んで行った。

G3は、弾がG2に当たらない様に細心の注意を払い、アンノウンに命中させていく。


「はぁっ!!」


そして、アンノウンの懐に飛び込んだG2は、両肩を高速振動する刃で斬りつける。

だがしかし………


「なっ!?」


斬れなかった。

少し前に対峙した際にはあっさりと斬れた筈の刃は、浅い切り傷をつけるだけで致命傷とは程遠いダメージしか与えられなかった。

そして、アンノウンだってそのままやられてばかりでは無い。

アンノウンは、腕から伸びた触手を振り回し、G2の唯一の武装であるデストロイヤー弐型を弾き飛ばした。


「くっ!」


アンノウンはそれを好機と見たか、苛烈にG2を攻め始める。

適度なリーチと妙な柔軟性を持っている為、G2はそれを回避しきる事が出来なかった。

上から下から襲い来る触手。それに気を取られたG2は、足で腹を蹴飛ばされ、転倒してしまう。

そこにすぐさま追撃が来る。ガラ空きになったボディをアンノウンは足で踏みつけようとしてくる。


「ちっ!」


それを横に転がることで躱し、起き上がろうとするG2。

そんな隙だらけな状態をアンノウンは見逃さず、思い切り振りかぶった触手を叩きつけてくる。

1撃毎に装甲から火花が散り、ダメージの程を分からせる。


「ぐあっ!」

「高町!コノヤロォ!」


G3も先程から援護しているが、依然としてダメージらしきものは与えられていない。


「(とは言え、サラマンダーを使おうにも残弾1発。これでダメなら本気で拙い。)」


勇吾が迷っている間にも、G2はダメージを喰らっていく。そして、アンノウンはG2の腕を掴み、G3目掛けてぶん投げた。


「なぁっ!?がっ!!」

「うぐっ!?」


激突し、両者の胸部ユニットが火花を散らす。


≪G2,G3、胸部ユニット損傷!≫

≪バッテリー出力は?≫

≪G2が70%まで低下、G3は問題無し。まだ戦えます。≫


セルフィとリスティが、損傷の度合いを知らせる。

G2、G3の損傷自体は大した事無い…まだ許容範囲内だ。

けれど、本人へのダメージは間違いなく蓄積していっている。

何故ならば、今現在2人は首を絞められ、宙に持ち上げられているのだから。


「う”、ぁ。」

「が、はっ。」


暫くそのままの状態が続き、そして…アンノウンは2人を思いっ切り放り投げた。


「うあっ、うぁぁ。」

「ぐ、うぁ!」


地面に叩き付けられた衝撃が2人を襲う。


≪立ち上がれ、2人とも!≫

≪まだやれるはずです!頑張って!!≫

「はぁ、はぁ、はぁ。分かって、ますよ!」

「はぁ、はぁ。これしきの事で、諦めたりしない!」


リスティとセルフィの声援を受け、2人は立ち上がる。

アンノウンは、そんな2人を睨み…そして―――


ギッ!


―――いきなり背後を振り向いた。

そこには、悠然とアンノウンへ歩いて行く金色の戦士の姿があった。


AGITΩ!


憎しみが篭められているかのような声色でその名を呼び、アンノウンはG2たちの事など眼中に無いかのようにAGITΩに向かって走り出した。


ギシャー!


叫びながら触手を振るい、攻撃してくるアンノウン。

AGITΩは、そんな攻撃を軽くいなしてカウンターを喰らわせる。

AGITΩは、足目掛けて振るわれた触手を跳んで回避すると同時に、その横っ面に渾身の右フックをお見舞いした。

面白い様にすっ飛んで行くアンノウン。

一方、AGITΩがアンノウンと戦っている間に、G2とG3もある程度立て直し、アンノウンに向けてそれぞれの武器を構えていた。

G3は再びGM-01をGG-02に変え、アンノウンへと狙いを定めている。

G2は飛ばされた武器を回収して、しっかりと握り、いつでも奥義が放てるようにしている。


ギィィィィイィィ!!!


アンノウンが立ち上がり、AGITΩ目掛けて突っ込んで行くのが合図になった。


「(喰らえ!)」


声も出さず、極限まで集中し狙いを定める勇吾。

G3がGG-02サラマンダーを発砲し、アンノウンの動きを止める。

そこに、すかさずG2が踏み込んで行く。



―――御神流・奥義之参、射抜―――



超高速の突きが放たれ、アンノウンの腹を穿つ。

続けて、剣を引き抜きアンノウンを蹴り上げる。

そして、AGITΩはクロスホーンを展開し、足元に紋章を出現させる。


「はぁぁぁっ!」


両手を広げ、左足を後ろに下げる。

左腕を腰に持っていき、右腕を正面で折り曲げる。

足元の紋章が消え、同時に両足にエネルギーが充填される。

AGITΩは、その場で空中へと跳び上がり………


「はぁぁぁーーーっ!!」


G2に蹴り上げられたアンノウンに向けて、ライダーキックを放った。


ギャァァァァァァ!!!


まともにそれを喰らったアンノウンは、断末魔の叫びを上げて爆散した。

アンノウンを倒したAGITΩは、G2とG3に背を向け、その場から去っていく。


「待ってくれ!教えてくれAGITΩ…お前は何者なんだ。アンノウンとはどういう関係なんだ。」


G3…勇吾がその背中に呼び掛ける。

しかし、AGITΩは一瞬足を止めただけで、またすぐに歩みを再開し、見えなくなっていった。

後に残された2人は、唯それを見送ることしか出来なかった。










(おまけ)


「てやー!よしっ、またまた私の勝ちー!」

「あぅ、姉さん強い。」


2人は現在ゲームで対戦していた。

アリシアだって流石に庭園内を駆け回っているだけでは飽きてくるし、フェイトは暇になったら魔法の練習をしてしまうから、息抜きに…とプレシアが通販で取り寄せた物だ。

でもって今やっているのは対戦ゲーム。

好きなタイプの魔導師を選んで、戦うというものである。

例えば砲撃ONLYだったり、速さ命だったり、他にも色々……

まぁ、そんなこんなで戦っているのだが、フェイト…今のところ全戦全敗だったりする。


「フェイト弱いよー。」

「うぅ、違うもん。姉さんが強いだけだもん。」


相性の問題もあるのだろうが、フェイトの使っているキャラは攻撃力がイマイチで速さに特化したタイプなので、強さはプレイヤーの腕に掛かってくるのだが……


「ボタン押し間違えて思った技が出せないんだよね。」

「うん、ピンチになると焦っちゃって。」


コンコン


ゲームをしながらそんな会話をしていると、ドアがノックされた。


「どーぞー。お母様?」

「ボクだよ。」

「あー、クロくんかぁ。久しぶりー」

「……姉さん、誰?」

「んー?クロくん。」

「クロくん?」

「うん、いっつも黒い服着てるからクロくん。」

「そっかぁ。」


ゲームの方に集中力を割いて、ロクに闇の力の方を見ない姉妹。

熱中しているから会話の内容も薄っぺらいものである。


「へぅ、また負けた。手加減して欲しいよ、姉さん。」

「ふっふっふ、勝負の世界は厳しいんだよフェイト。あ、ところでクロくん…何のようぅぅぅぅう!?!?!?!?」


背後を振り向き、アリシアは物凄くびっくりした。

それもその筈、闇の力は以前よりも成長し、肉体年齢で言えば15,6歳になっていたのだから。


「………………るい。」

「?」

「ずるーい!!」

「み、耳が痛いよ…姉さん。」


至近距離でアリシアの大声を喰らったフェイトは、若干涙目だ。

しかし、そんなフェイトの姿も目に入らないとばかりに、アリシアは闇の力にガンガン文句を言いまくる。


「ずるいよクロくん!一人だけそんなおっきくなって!私…フェイトのお姉ちゃんなのに年下だから結構気にしてるのに!!」

「アリシア、まず落ち着こう。」

「これが落ち着いていられますかーーー!!!」

アリシア大爆発。

結構、姉なのに妹より年下という事実を気にしていたようだ。


「い、いい子いい子。」

「ほにゃー。」


まぁ、フェイトが頭を撫でれば速攻で落ち着くのだが。


「落ち着いた?姉さん。」

「うん、落ち着いたー。」


フェイトが後ろから抱きしめ、頭を撫でるとアリシアはすぐに落ち着いた。

何と言うか、ふにゃっとした顔をしている。


「と、言う訳でそこまで成長出来る方法を教えなさい、クロくん。」

「手の甲の紋章に祈れば良い。」

「……………えと。」

「…………………」

「…………それだけ?」

「それだけ。」

案外簡単でした。


「むむむむーー」

「姉さん、頑張って。」

「むー!」


ぽんっ!


そんな擬音と共にアリシアの身体が煙に包まれた。

そして、煙が晴れたそこには……

フェイトと同じくらいの背になったアリシアの姿が。


「やったー!フェイト、同い年だよ♪同い年!」

「良かったね、姉さん。私も嬉しいよ♪」


こうして、アリシアはフェイトと同じく8歳になった。

ちなみに闇の力はと言えば…アリシアに助言した後、また地球にへと転移した。


「よーし、それじゃあ、早速。」

「うん、姉さん。」

「ゲームだー!」

「今度は負けない。」


………8歳になっても、行動は全く変わりませんでした。

おしまい。















後書き

学園祭の時期は分からなかったので自分の高校を参考にしてます。
ノリと勢いでこんな出し物にしたけど…実際に行った事ないので、喫茶店の描写は短めになるかも。
アリシアの年齢を無理やり8歳にするという暴挙を起こした理由は、無印突入時に6歳は幾ら何でも無理じゃね?と思ったからです。
何回も書き直したけど、結局前半がgdgdになってしまった感がある。



[11512] 迷い込んだ男 第三十二話 「学園祭」 前編
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/07/06 01:11
6月22日 PM22:35―隆宮市 月村家 地下室―


「はぁ、さくらも人使いが荒いんだから…悔しいっ、でも作っちゃう!」


そんな愚痴(?)を零しながらも、パソコンのキーを叩く忍の手は止まらない。

6月9日…あの日、さくらが大学に呼び出されたのは、やはりと言うべきか『クウガ』の新しい形態の発見が理由だった。

記康から詳細を聞き、資料を渡されたさくら。

その為、忍はその日から今現在に至るまで…こうして屋敷の地下室にて作業に励んでいるのである。


「うぅ、明日は文化祭だからいつもより早めに寝ておかないとダメなのに…」


普段は授業中に寝ている為、徹夜しても問題ないのだが…生憎と明日は学園祭。

つまり、寝れる時間なんて何処にも無いのだ。

だからこそ、9日から今日までの間…出来るだけ早く仕上げてしまおうと翌日に疲れを残さない程度にG1の強化に精を出していた訳なのだが………


「まさか、ここまで手間取るとは思わなかったもんなぁ。」


資料に書いてあった『赤』『青』に続く3つ目の形態…『緑』


『邪悪なるものあらばその姿を彼方より知りて疾風のごとく邪悪を射ぬく戦士あり』


新しい形態の特徴を示すその文を見て、さくらと忍は『緑』の戦闘スタイルを推測した。

『その姿を彼方より知りて』と、『射ぬく』…その言葉から、2人が思いついたのは【狙撃】。

遥か遠方からでも敵の姿を捉え、一撃必殺の攻撃で倒すのが、この形態の戦闘スタイルなのではないか…と。

だからこそ、再現には時間が掛かった。専用武装の開発に次いで、頭部ユニットへ更に性能の良いセンサー類などの追加などなど。

そんな事もあって思いの外時間がかかってしまい、結局今日まで掛かってしまったのだった。

とは言え、努力の甲斐あって作業は終盤に差し掛かっていた。

後は、『緑』の形態用の電力配分パターンの組み替えを登録すればそれで強化は完了。

めでたく『緑』の形態の出来上がりだ。


「こ、これで完成。」


カチッとEnterキーを押し、ソレをG1へ登録する。


「お、終わった~。」


間延びした声を出し、ふらふらと立ち上がる忍。

集中して作業しっ放しだった為、眠気がピークに達している忍は、おぼつかない足取りで自室に向かい、ベッドに飛び込んだ。

布団を被り、仰向けになる忍。

そうして、忍は眠りについた。

明日…凌と学園祭を回ることを楽しみに思いながら。










三十二話「学園祭」 前編










6月23日 AM07:30―風芽丘学園 3年G組―


「この勝負で、俺の運命が決まる!」

「絶対に、勝つ!!」

「この勝負だけは…負けられん!」


本格的に喫茶店のような内装に変貌した教室の一角。

そこで、静かに闘志を燃やし続ける執事服の男たちがいた。

俺、高町、赤星の三人である。

それぞれ、右手を握り拳にして対峙する。

数秒間三つ巴の睨み合いが続き、直後…俺たちは一斉に拳を前に突き出した。

そして――――


「「「最初はグー!ジャンケン!!」」」


―――今までに無い程に気合いの籠もったジャンケンが始まった。


「「「ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!!」」」


グー、チョキ、パー、と…次々と形を変えて手を出し続ける俺たち。

しかも、相当速いペースで出し続けている為、少しでも遅れれば後出しと見做され即失格になってしまうシビアな戦いだ。

この勝負の結果しだいで、今日の休憩時間が決まるのだ。

この勝負に敗北すれば地獄を見る。

それが分かり切っているからこそ、俺たちは此処まで必死になれる。

そう、高町・俺の調査によって齎(もたら)された『あの夫婦』がこの店にやって来るであろうと予測される時間。その時間に休憩を取ることが出来るのは…残り一名のみ。

つまり!此処で敗れた者は『あの夫婦』による被害を受けること必至!!

だから何としても勝たなくてはならないのだ。


「「「ポン!!!」」」


そして、その勝負にも、遂に終止符が打たれる時が来た。


俺・パー。

高町・グー。

赤星・グー。


長きに渡って続けられた俺たちの聖戦は此処に終わりを告げた。

俺の勝利…という結果を以って。


「勝ったぞー!!」


万感の思いを込めて叫ぶ。

クラスメイトたちが何事かとこっちを見たが、そんなものは毛程も気にならなかった。


「なん…だと…?」

「くっ、負けた…のか。」


勝負に負けた二人はガックリと崩れ落ち、見事なOTZを極めた。


「ふふ、フハハハハッ!二人は良い友人だったが、お前たちの運の悪さがいけないのだよっ!!」


「最高にハイってヤツだァァァ」と、ばかりに未だ嘗て無い程テンションが最高潮に達した俺は、ヒャッホーっと滅茶苦茶浮かれていた。

更に言えば「我が世の春が来たぁぁ!!」って感じに。


「くっ、仕方ない。せめて被害を最小限に留めるように努力しよう。」

「俺たちに…あの人たちの悪ノリを止められるのか?」

「止められなければ、弄り尽くされるだけだ。」

「絶望した!勝ち目が無い事に絶望した!!」


一方、高町たちは物凄い悲壮感が漂っていた。

ぶっちゃけ、申し訳なく思うが…勝負の世界は非情であり、俺だって被害に遭いたくないのだ。許して欲しい。


「あ、あはは。凄い戦いだったね。」

「おう、月村。さっきの見てたのか。」

「…あれだけ白熱したジャンケンしてたら大抵の人は見ちゃうと思うよ?」

「…負けられない戦いがあったんだよ。」


どうやらさっきの勝負を見ていたらしい月村に、俺は勝負の理由を教える。

あの戦いに如何なる意味があったのかを。


「へぇ~、桃子さんと士郎さんがねぇ。でも、そこまで気にする事?ノリが良いだけのラブラブ夫婦じゃない。」

「違うな、間違っているぞ…月村。」

「??」

「あの人達の事だ、絶対悪ノリする!そして、主に知り合い…高町・赤星…そして月村、お前たちが被害の対象になる。」

「な、何でそんな事が分かるの?」

「一昨年や去年の学園祭や、日頃あの人たちと一緒に働いている経験からだ。」


あの人たちが悪ノリして、俺たちが一切被害を被らなかった事など…殆ど無い。いや、全く無い…と言い換えた方が良いかも知れない。


「あ、話は変わるが月村…今日の9時頃は休憩か?」

「ううん、私…休みは午後の2時から4時までの2時間だよ?約束したよね、文化祭一緒に回ろうって。」


そう、例の件の埋め合わせとして、月村が要求してきたのは…たったそれだけの事だった。

何か高い物でも要求されるだろうかと思っていたのだが、実際に月村が言ってきたのは一緒に学園祭を回らないか…という、有り難いお誘いだけ。

まぁ、よくよく考えてみれば、俺よりも遥かに金を持ってる月村が…高価な物を俺に要求したりする訳が無かったのだが。

なお、当然だが…俺もその時間には休憩を入れている。

まぁ、藤代さんと取引して、翠屋のシュークリーム3個と引換えに無理やり取ったものだが。

しかし、俺が本当に言いたいのはその事ではない。


「じゃあ、9時頃には休憩に入れないんだな。」

「う、うん。2時からじゃ都合が悪くなったとか?」


違う、そうじゃない。そうじゃないが……


「……月村。」

「え、何?」

「諦めが肝心。」


肩にポンッと手を乗せて、2回頷く。

恐らく被害に遭うであろう月村に、俺が出来るのはこれ位だ。


「何、それ?」

「俺からのアドバイスだ。」

「何か、凄い哀れみの目で見られてるような気がするんだけど……」

「気にするな、すぐに分かる。」


そんな馬鹿話を2人でしていると、教室に備え付けられたスピーカーから、音楽が鳴り始める。


『只今より、第36回風芽丘学園学園祭を開催します。』


時計の針が8時を指し、放送部のアナウンスが流れ、いよいよ学園祭が始まった。










6月23日 AM08:30―藤見市 高町家―


「はぁ~。」


その日、いつもであれば天使のような笑顔を浮かべている筈のフィアッセ・クリステラは、激しく憂鬱だった。


「桃子、士郎…楽しんできてね。」

「タイミングが悪かったわねー。」

「まさか、CDのレコーディングの日と重なるなんてな。」


フィアッセが落ち込んでいるのは、風芽丘の学園祭に行けないことが原因である。

歌手としての仕事の都合上、今回は学園祭に行くのを諦めざるを得ないのだ。


「くすん、見たかったなぁ…リョウの執事服姿。」


恭也経由で出し物の内容を知った桃子は、当然ながらそれをフィアッセにも教えていた。

接客することが殆どで、されることは殆ど無いフィアッセとしては、リョウに…しかも執事として接客されることなど、この機会を逃せばもう訪れる事叶わないだろう。

だからこそ、尚更行きたかったのだが、今回ばかりはしょうがない。運が無かったと諦めるより無いだろう。

…と、その時。


「じゃあ、うちの店でやってもらえば良いじゃない!」


「良いこと思いついた!」…と、輝かんばかりの笑顔で桃子が言う。

その言葉に士郎も、「おぉ、そうだな。」と言い、頷く。

哀れ、凌。

学園祭での被害は回避したものの、翠屋での被害は免れそうに無いらしい。

そうして、その後…フィアッセはスタジオへ、高町夫妻は風芽丘学園へとそれぞれの車を走らせた。










6月23日 AM08:05―風芽丘学園 正門―


「うわ~、すごい人。」

「去年もそうだったけど…凄く盛り上がってるわね。」

「逸れないように気をつけないとね。」


学園祭が始まってから程無くして、なのは・すずか・アリサの3人は、風芽丘学園へ足を踏み入れていた。

無論、小学生3人だけでは危険なので、そこから少し離れた位置には…彼女たちには内緒でこっそりとバニングス家の執事、鮫島が待機していたりする。

入り口でクラス毎の出し物が書かれたパンフレットを貰い、3人は校舎の中へ入っていく。

最初は、それぞれ共通の知り合いがいる3年G組だ。


「うわっ、すごい人ね。」

「まだ始まって少ししか経って無い筈なのに……」

「にゃはは、これ見ると翠屋を思い出すかも。」


前に見えるは人、人、人。

始まって10分と経っていないにも関わらず、そこには長蛇の列が出来ていた。

暫くして、かなり前の方まで来た3人が店から出て来る人の顔を見てみると、男性は満ち足りた顔を…女性は、頬を赤く染めて嬉しそうな表情で出て来る。

きゃいきゃいと3人で雑談しながら、自分たちの番が来るのを待っていると、自分たちの前にいる最前列の女性二人が中に入っていった。

それから暫くして、1組の女性客が静かに席を立ち、レジに向かって歩き出す。

その顔は、傍目に見ても満足そうだった。

客が抜けると、執事の一人が列の最前列…つまりはアリサ達3人を席に誘導させるために近付いて来る。


「お帰りなさいませ、お嬢様方。」


優雅に一礼し、3人の少女を空いている席へと案内する。

彼女らが座る際に、さり気なく椅子を引いたりするのも忘れない。

椅子に座り終えると、少女の内の一人が口を開き、その執事に向けて話しかける。


「何て言うか…凄く似合ってますね、凌お兄さん。」

「お褒めに預かり、恐悦至極…ってね。」


再び手を腹の手前まで持っていき、深々と頭を下げる。

そして、ゆっくりと持ち上げ…3人の少女と視線を交わす。

そして、その執事…いや、藤見凌は初めて顔を崩した。


「やぁ、アリサちゃんにすずかちゃんに、なのはちゃん。いらっしゃい。」


執事に徹していた時とは違う自然な笑顔で、改めて3人に挨拶する凌。


「はい、来ちゃいました。」

「すごい人気だねー、翠屋みたい。」

「ははっ、俺も驚いたよ。正直、まさか此処まで繁盛するとは思ってなくてさ。」


周りを見渡せば、用意していた席は全て埋まり、店の外…廊下にまで人が並んでいるという盛況ぶり。


「ちなみに、高町と月村はあそこだな。」


そう言って凌が指差したのは、この席から少し離れた位置にある2つの席。

そこでは、忍が男性客に注文を取り、恭也が営業スマイルで女性客を持て成しているところだった。


「わたし、お姉ちゃんのメイド服姿なんて初めて見ました。」

「うわー、おにーちゃん似合いすぎ。」

「それを言うなら赤星さんもよ、見てアレ。女の人…顔が真っ赤になってるもの。」


そうやって、他の人の動向を見ながらほのぼのとやっていた彼らだったが、まだ外で待っている人もいる為、凌は自然体から執事モードへと切り替えて3人に注文を取る事に。


「っと、それじゃあ…ご注文は何になされますか?お嬢様方。」

「あ、はい。えっと……」


3人はテーブルの上にあったメニューを開き、品書きに目を通す。

そこに書かれているものを見て、内心…すずかとアリサは軽い感嘆の声を上げた。

紅茶やコーヒーは勿論だが、サンドイッチやパスタ等の軽食、ケーキ等のデザートまで書いてあるのだ。

しかも、紅茶の方は種類も結構豊富な為、2人は揃ってそんな反応を示したのだ。

なのはの場合は、翠屋でお手伝いをしているからなのか…あまり反応しなかった。


「じゃあ、私はこれと…これで。」

「わたしも…アリサちゃんと同じものを。」

「お兄ちゃん、なのははコレとコレにします。」


アリサとすずかは、アンブレという紅茶とケーキを、なのはは同じくケーキと、紅茶のことは良く分からないらしく、『紅茶:店員のおすすめ』というメニューを頼んだ。


「以上で宜しいですか?」

「「「はい!」」」

「畏まりました、暫しお待ちください。」


凌は恭しく一礼すると、注文を伝える為に調理組の方へ行った。

普通の店であれば、声を上げて注文を調理組の方へ伝えても良いのだろうが、生憎ここは執事とメイドが売りの喫茶店。

この場でそんな行動はご法度なのである。

暫くすると、凌がお盆を片手に3人の元に戻ってきた。


「では、ごゆっくりどうぞ。」


そして、テーブルの上に注文の品を並べ、また他のお客さんの元へ向かって行った。

注文の品が来た3人は、それを口に運びながら雑談に花を咲かせる。

暫く後、あらかたケーキも食べ終えて、紅茶も飲み終えた頃にそれは聞こえてきた。


「ふむ、あなたは背筋をもう少し伸ばした方が宜しいでしょう。そして、あなたは…そうですな、礼の角度をもう少し深めに。それだけで印象は変わるはずです。」

「な、成程。勉強になります。」

「感服しました!師匠と呼ばせて下さい!!」


「ねぇ、アリサちゃん。今の声って……」

「聞き覚えあるわね、もしかして…とは思うけど。」

「アリサちゃんの家の執事さんだよね。」


彼女たちの視線の先には凌たち3年G組の男子が着ているのとは微妙に異なったデザインの執事服を着込んだ初老の男性。

先代の頃からバニングス家に仕えている筋金入りの執事であった。


「って、鮫島!?何で此処にいるの?」

「む、アリサお嬢様。ふっ、見つかってしまいましたか。実はデビット様に影ながらお嬢様方をお守りしろとの命令が下されまして、気配を消してコーヒーを飲んでいたのですが……彼らに執事として未熟な点を指摘していたらついつい熱が入ってしまいました。申し訳ありません。」

「そ、そう。まぁ…ほ、程々にね。」


若干引き攣った笑みを浮かべながら、そう言って、残った紅茶を飲み干してしまう。


「さ、さて…そろそろ出ましょうか。」

「そ、そうだね…アリサちゃん。」

「う、うん。」


そうして、3人が立ち上がると、それを見た凌がやってきて、レジまで案内する。

会計の間は、基本的に客の斜め後ろで待機しておく。

なのはが、手を出して、そこに他2人が自分の分のお金を出す。

そして、なのはが会計を済ませている間に、アリサは凌に謝った。


「すいません、鮫島が……」

「あー、いや……執事のこと教えてくれて感謝してるよ。実際、鮫島さんに教えを受けてから明らかに動きが変わった奴とかいてね。だから、怒るのは無しの方向で頼むよ。」

「そう言って貰えると助かります。」


料金を払った3人を、凌は出口まで案内する。


「では、お嬢様方…行ってらっしゃいませ。」


そのセリフを背後に聞き、アリサ・すずか・なのはの3人は、3-G の教室を後にした。










6月23日 AM09:00―風芽丘学園 空き教室―


「ふぅ。」


若干のアクシデントを経て、晴れて休憩時間になった俺は、空き教室にて制服に着替えることにした。

しっかし、まさか鮫島さんが来るとは………想定外にも程があった。

しかしまぁ、指導を受けた男子連中は滅茶苦茶感謝してたから問題ないか。

ちなみに、俺は鮫島さんに「ほぅ、筋が宜しいですな…藤見様。パーフェクトです。」

と言われ、グッとサムズアップされた。

反応に困ったが、同じ様にサムズアップを返してみたところ、満足そうに頷いてくれたのを見る限り、それで合っていたらしい。

などという事を考えながらも着替えを終えると、必要最低限のものだけを持って教室を出た。

教室を出て、ふと自分のクラスの方を見てみると、丁度…士郎さんと桃子さんが入っていくのが見えた。

相変わらずのイチャラブっぷりで、桃子さんは士郎さんの腕に抱きついていた。

相変わらずだなぁ、あの人たちも。そして、頑張れよ…3人とも。

月村たちに影ながらエールを送りつつ、現在俺は当てもなくブラブラ校内を徘徊している訳なんだが……


「えっと、ここがA組だから忍のクラスは…っと。」


……今まさに自ら死地に赴こうとしているこの女性を、俺はどうすればいいんでしょうかゴッド。

目の前には、校舎前で配られるパンフを読みながら俺のクラスに行こうとしている…さくらさんの姿が。


「あら、藤見君じゃない。今は休憩時間?」

「あー、大体そんなところです。」


どうしたもんかと悩んでいる間に、さくらさんに見つかってしまった。

さくらさんなら大丈夫な気がしないでも無いが…念のため、俺のクラスに行くのは時間をおいてからにして貰った方が良いかも知れない。


「さくらさん、うちのクラスの方は後にして…良かったら俺と一緒に学園祭見て回りませんか?」

「え?」


取り敢えず一緒に回らないかと誘ってみる。

まぁ、これで断られてもこの間のお礼だと言って、奢ればいいし。


「そうねぇ、時間はまだまだ有るし…折角だからそうしましょうか。」

「それじゃあ、どこか行きたい場所ありますか?」

「う~ん、此処に来たのも久しぶりだし…適当にお店回りながら敷地内を案内してもらっていい?」

「えぇ、お安い御用ですよ。じゃ、行きましょうか。」


そうして俺は、1時間の間…さくらさんと一緒に学園祭を見て回ることになったのだった。










6月23日 AM08:50―羽平市 守田崎町―

とあるホテルの駐車場に、それはあった。

体中の水分が完全に失われ、頭の毛も完全に白く染まりきっている。

『ミイラ』と呼称するのが正しいソレは、しかし…つい先程まで生きていたことを証明するかのように車のハンドルを握り、車内に備えられていた灰皿には…まだ消されてそれ程経っていない煙草もあった。

たまたま外に出ていたリスティは、その情報を聞くとすぐに現場に向かい、それを目にしたのだった。


「リスティさん、聞きましたか?」

「………………」

「被害者の身体は完全にミイラ化していたようです。死亡推定時刻…数十年前、という事になりますね。不可能犯罪…アンノウンの仕業と考えて、間違いないでしょうね。」


かつて同じ部署で働いていた後輩が、被害者の殺害状況を教えてくれる。

それを聞き、リスティは即座に質問を投げ掛けた。


「被害者の親族は?」


リスティが以前発見したアンノウンが狙う人の共通点…それより前に分かっていた、それとは違うもう1つの共通点が、【血の繋がり】だ。

殺された人の親族が必ずと言って良いほど狙われることから、警察は比較的早くこの事実に気付き、密かに被害者の親族に護衛を付けていた。


「3ヶ月ほど前に結婚したようですけど…血の繋がった親族はいないらしいですね。」

「そう、か。」

「取り敢えず、今回は護衛の必要はなさそうですね。けど、アンノウンかぁ。奴ら、一体何なんでしょうね。」

「さぁね、今のところ…奴らの正体は闇の中だ。何故、超能力者を狙うのか…そして、その親族まで狙う理由は?とか、挙げれば切りが無いよ。」

「アイツらが出始めてから約3ヶ月…未だに分かっている事よりも謎な部分が多いですからね。気味が悪いですよ。」

「全くだ。」


そう言って、リスティは苦虫を噛み潰した表情をして、懐から煙草を取り出した。










6月23日 AM09:05 ―風芽丘学園―


「賑やかね~。」

「そうですね、大体…毎年ウチの学園祭はこんな感じですよ。」

「言われてみれば、私たちの時もこんな風に賑やかだったっけ。」


俺たちは、2人で校庭を歩き、各クラスの出し物を眺めながら…敷地内を散歩している。


「あ、あれ面白そうねー。」

「射的ですか……やってみます?」

「いいの?」

「時間ならまだまだありますし、さくらさんに楽しんで貰う事が目標ですから。」


俺は、店番の男子に金を渡し、射的銃を2人分受け取る。

奥にズラリと並んだ景品を銃で狙い撃ち、倒せれば貰えるらしいが、その中には、どう考えても…絶対に倒せそうにないものもある。

……PS3なんて、どうやって倒せと?


「…よっ、と。」

「ほっ。」


弾は五発らしいので、俺は無難に小さいヌイグルミから狙ってみることにした。

プラモやゲームなど、男向けの景品も有ったが…プラモはあまり興味ないし、ゲームの場合はそもそも家にゲーム機が無いときた。

真っ直ぐ銃を構え、狙いを定める。

引き金を引くと、弾が飛び出して俺が狙った兎のヌイグルミに飛んでいった。

しかし、弾はヌイグルミに当たらなかった。

2回目も3回目も同じ様に撃ってみたが、結果は同じ。

さくらさんの方はどうだろうと思い、隣を見てみると、1発は外したみたいだったが…残りの四発で俺が狙っているものを2つ、それより一回り程大きいヌイグルミ2つを難なく倒していた。


「うわ、凄いですね…さくらさん。」

「そう?コツさえ掴んだら簡単よ?」


何でも無いように言っているが、普通に凄い事だと思う。

これ、当てる場所によっては例え当たったとしても倒れない場合も有るし。


「狙いが悪いのか?」

「……藤見君、ちょっと構えてみて?」

「え?こうですか?」


さくらさんに言われた通り、もう一度銃を構え直して狙いを定める。


「そうそう……う~ん、やっぱり少し狙いが違うみたい。」


そう言ったさくらさんは、目線を俺と同じ高さに合わせると、片目を瞑って俺にぴたっとくっついて「銃口もう少し右ね。」と言った。


「さ、さくらさん!?」

「いいから、そのまま撃ってみて。」

「は、はぁ……」


背中に当たっている2つの柔らかい感触に、内心ドギマギしながら…言われる通りに狙いを定める。

カチッとトリガーを引き、ヌイグルミ目掛けて弾を撃つ。

飛び出した弾は、見事に兎のヌイグルミの頭を捉え、倒すことに成功した。


「あ、当たった……」

「やったわね、藤見君。」

「いえ、さくらさんのアドバイスのお陰ですよ。」

「ほらほら、そんな事いいから。この調子で次行ってみよう!」

「ええ!?でもあと残り一発ですよ!?」

「大丈夫、大丈夫!」


久々に母校に来たことで少しテンションが上がっているのか、さくらさんは、いつもの静かな微笑みとはまた違った笑顔で、この文化祭を楽しんでいた。




「最後の二発でヌイグルミ2つか。」

「それ、部屋に飾るの?」

「まさか。誰か他の人にあげますよ。」


流石にコレを俺の部屋に飾る気はない。

1つは今回来れないらしいフィアッセさんにあげようと思ってるし。


「ふふっ。」

「どうかしましたか?」

「ううん、何でも。ただ、楽しいなって思って。」


その後、ぐるりと校庭を周り、さくらさんと一緒に店を見て回る。

何だかちょっとしたデート気分だ。

まぁ、残念なことに俺とさくらさんじゃ全然釣り合いが取れてないが。


「さて、これからどうしようか。」

「そうですねぇ……」


時間を見ると、既に45分を廻っていた。

中の方を見て回っても良いが、休憩時間も残り少ないし、のんびり過ごしていた方が良いかも知れない。


「何か買って、それ食べてから…うちのクラスの方に行きましょうか。」

「…そうね、そうしましょうか。」


何が良いか探していると、さくらさんが声を上げた。


「あ、藤見君。あれ、食べない?」


さくらさんが指差した方向を見てみると、そこには『チョコバナナ』の文字が書かれた店が。


「あぁ、いいですね。」

「じゃ、行こ?」


さくらさん、チョコバナナ食べた事ないんだろうか。何か、心なし目が輝いてるような気がしないでも無いんだけど……

さくらさんは俺の手を引いて、そのチョコバナナ屋まで移動した。


「すみません、チョコバナナ2つ下さい。」

「はいよ、そっちの彼の分もかい?」

「はい。」

「あいよ、毎度あり!600円です。」


互いに300円ずつ財布から出し、代金を払う。


「それじゃ、向こうで食べましょうか。」

「っと、分かりました。」


校庭脇に備えられたベンチまで移動し、買ったばかりのチョコバナナを食べる。

さくらさんは、本当に美味しそうにチョコバナナを食べている。

それにしても、今日はさくらさんの新しい一面ばかり見てる気がするな。

はもはもとチョコバナナを食べる姿は、何と言うか…可愛らしい。まぁ、言えば怒られそうだから言わないが。


「ご馳走様でした。」

「右に同じ。」


チョコバナナを食べ終えた俺たちは、近くにあったゴミ箱に串を捨て、校舎内に入っていく。


「美味しかったですか?」


教室までの道すがら、チョコバナナの感想を聞いてみる。


「えぇ、美味しかったわ。実はチョコバナナって食べた事無くって、今回が初めてだったのよ。」

「はー、そうなんですか。」


もしや…と思ってたらホントに食べた事無かったらしい。

道理で目を輝かせるはずだよ。


「おっと、じゃあ…俺は着替えてきますから、さくらさんは此処に並んでて下さい。」


他愛も無い雑談を交わしながら歩いていると何時の間にか教室に着いていた。

さくらさんには列に並んで貰い、俺は空き教室へ入って制服から執事服に着替える。

そして、出口側の扉から中に入り、ウェイターとして復帰した。


………のだが、この光景は何なんだろう。


「………屈辱だ。」

「し、死にたい。俺は、今モーレツに死にたい。」

「ふ、2人よりはマシで良かった。」


ガックリと肩を落として落ち込んでいる高町と、頭を抱えて絶望している赤星。そして、盛大に引き攣った笑みを浮かべている月村。極めつけは、他のクラスメイトが3人に生暖かい視線を投げ掛けていることだろう。


「どうしたんだ?お前ら。」


故に、俺が事情を聞いたのは間違ってなかった筈。

しかし、3人は声を揃えて、「聞くな。」「聞かないでくれ。」「聞かないで。」と言い、頑に話そうとしなかった。

それを見て確信する。

あぁ、あの2人が何かやったんだな…と。

してやったり、と笑顔を浮かべる高町夫婦の姿が目に浮かぶ。

とは言え、いつまでもそのままじゃ拙いので、何とか発破を掛けて元に戻す。

…うん、それでもかなり時間掛かったけど。




「お帰りなさいませ、お嬢様。」


にこやかに笑みを浮かべ、新たな女性客を招き入れて行く俺。

しっかし、客足が一向に減らないのはどういう事だろう。しかも、藤代さんに聞いたところによれば、リピーターもいるらしい。

どんだけ人気なんだよと小一時間(ry


数十分の間、そんなこんなをしていると、最前列にさくらさんの姿が見えた。

他の執事は今いるお客さんの相手で手一杯とのことで、俺が出迎えに行く。

レジで代金を払ったお客さんが、執事の一人に出口まで案内されるのを見てから、俺はさくらさんの所へ向かった。


「お帰りなさいませ、さくら様。」


恭しく礼をしてから、俺はそう言って席まで案内した。

テンプレ通りに「お嬢様」でも良かったが、何となくアレンジを加えてみたくなったのだ。

何より、こっちの方が呼ばれ慣れてるだろうしな。


「席までの案内をお願い。」

「畏まりました。こちらへどうぞ。」


唯一空いている席までさくらさんを案内し、さりげなく椅子を引く。

さくらさんが座ったのを確認したあと、椅子を程良い場所まで押す。


「中々様になってるわね、藤見君。」

「ありがとうございます。」


一礼し、再び顔を上げると、素に戻ってさくらさんと会話する。


「う~ん、ここまで執事らしく出来るなら、バイトで雇うのも有りかしらねぇ。」

「?何のバイトですか??」

「私の専属執事…とか。」


妖艶な笑みを浮かべて、そんな事をいうさくらさん。

流石に冗談だろうが、一瞬ドキッとしたのは勘弁して欲しい。


「じゃ、俺がバイト首になった時に雇って下さい。」

「…そう来たか。」


先程までの表情を一瞬で消し、苦笑いするさくらさん。

執事やってると息抜き出来る場面が物凄く限られてくるから、もう少しこのまま喋っていたかったんだけど、月村から「喋ってばっかりいるな。」的な厳しい視線が飛んできたので、已むを得ず会話を打ち切って注文に入った。


「それじゃあ…………で、お願い。」

「…………以上で宜しいですか?」

「えぇ、お願い。」

「了解しました。今暫くお待ちください。」


注文を伝えに行き、他のお客さんの出口への案内や、レジなどをこなしていった。

30分後、優雅に紅茶とケーキを楽しんでいたさくらさんが席を立ち、レジへと向かって行った。

レジでお金を払うさくらさんのすぐ傍に待機し、出口まで案内する。

そして、「少しの間頼む」というジェスチャーをしてから、そのままさくらさんと一緒に教室を出た。


「どうしたの?藤見君。」

「少し、そこで待ってて下さい。」


疑問顔のさくらさんを教室を出てすぐの所に待たせ、俺は自分の荷物が置いてある空き教室の中に入り、鞄の中から『ある物』を取り出した。

それを持って、さくらさんの元に向かう。


「はい、これ。」


さくらさんの腕を取り、その手に猫のヌイグルミを乗せる。

そう、射的屋で取った…あのヌイグルミだ。


「え?」

「これ取れたの、元々さくらさんのアドバイスあっての事ですから、これはそのアドバイス料、兼…一緒に回ってもらったお礼って事で、受け取って下さい。」

「でも……」

「それに、さくらさんが取ったヌイグルミって、月村たちにあげる気なんでしょう?」

「!?……どうして、それを?」


心底驚いたような顔をして、さくらさんは俺に理由を聞いてきた。


「ん~、半分は勘だったんですけどね。さくらさんの性格ならそうするかと思って。」

「だけど…」

「良いんですって。それに、一個だけでも取れれば良いと思ってやったんですから。」

「あ、それなら……ホントに貰っちゃうわよ?」


ちらっ、と上目遣いで見上げてくるさくらさん。


「どうぞどうぞ。」


ヌイグルミも渡し終わったことだし、そろそろ仕事に戻らないとなぁ…何てことを考えながら、教室の中に戻っていく。

その途中、後ろの方で―――


「ありがとう、藤見君。」


―――そんな声を、聞いた気がした。




こうして、学園祭…午前の部は、終わっていった。












(おまけ)

凌が休憩時間に入ってすぐ…高町桃子・高町士郎の両名は、息子のクラスがやっている【メイド&執事】に足を運んだ。

そして、セオリー通りに執事とメイドに席へと案内して貰い、至って普通に注文する。

そんな姿を見て、安堵の息を漏らした恭也と勇吾。

「良かった、今回は大丈夫そうだ。」と、思った。

それが、嵐が来る前の静けさだと気付こうとせずに。


チリンチリン


机に備え付けられたベルを鳴らし、桃子は1人の執事を自分たちの元へ呼ぶ。

そして、呼ばれた執事はある人物に伝言を頼まれる。


「高町、あの人がお前に用があるそうだ。」


そう言って、彼が指差したのは桃子と士郎の座る席。

恭也には、それが死刑宣告の声に聞こえたという。


「何でしょうか、奥様。」


嫌々ながらも出向く恭也。

そして、悪夢はここから始まった。


「ねぇ、恭也。メイド服…着てみる気無い?」

「……………」


恭也は無言だ。

しかし、表情が何よりも雄弁に彼の心情を語っていた。

(何を言ってるんだ、この人)…と。


「ねぇ、そう思わない?藤代さん。」

「えぇ、面白そうですね。」


そうして、傍でメイドとして待機していた藤代に同意を求める。

計画を桃子から聞いた藤代は、面白そう…という実に単純明快な理由によってそれを承諾。

恭也に付け加えて、藤代の提案で勇吾も、そして…「俺としては忍ちゃんの男装も見てみいなぁ」という士郎の一言によって、忍も…被害を受けることになった。

一番早くに行動を起こしたのは、やはりと言うべきか恭也だった。

教室の扉目掛けて全速力で逃げようとする。


「ガッ!」

「甘いな恭也。」


しかし、冷静さを欠いたその動きで、士郎を抜けるわけが無く、難なく捕獲されて無理やり着替えさせられる事となった。


一方、勇吾は―――


「しょ、正気か…藤代。」

「そこは、本気か?って聞いて欲しいところだけど。」


そう言って、何処からかロングヘアーの鬘を取り出す。


「な、何でそんなもん持ってんだお前ーー!!」

「備えあれば憂いなしって言うじゃない。って事で、観念しなさーい!!」

「ア"ーーーーーーーーー!!!」


こうして、勇吾もメイド服に着替えさせられた。


一方、忍は―――


「あら、忍ちゃんは素直ね。」

「まぁ、こういうノリ嫌いじゃないですし。藤見君のアドバイスの意味も分かったし。」

「?何か言った?」

「いえ、何も。っと、どうですか?」

「おぉー、忍ちゃん…似合ってるわよ。凛々しいってイメージになったわね。」


そうして、桃子と士郎がいる間だけ、3人はこの姿で接客することになった。


男2人は深刻な精神的ダメージ(主に羞恥で)を受けながらも、全てを諦めて接客した。

ちなみに、事情を知らない男性客には、絶大な人気を誇ったという。

忍の方は、特に問題なく接客したが、女の子たちから熱い視線を送られ、メイド服に戻る頃には、精神的に疲労していたという。


THE ☆混沌


後に被害者(2名)は語る。

あの時ほど神を呪い、希望を捨てた瞬間は無かった…と。















後書き
今回の話を書いて分かったこと…俺はギャグも恋愛話も苦手だったらしいって事だけだ。
さくらさんとのイベントが少なすぎるような気がしてやった。後悔はしていない。
まさか、午前中だけで此処まで行くとは思わなかった。
最近忙しくなってきたから後編は遅れるかも知れない。



[11512] 迷い込んだ男 第三十三話 「学園祭」 後編
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/02/25 20:50
6月23日 PM14:05―風芽丘学園―


「疲れたー、喉が渇いたー、お腹減ったー。」

「その意見には同感だが、周りの人に見られてるんだからもう少しシャンとしてくれ。」

「そんな事言ったってー。」

「取り敢えず何か食べに行くか。午前の休憩時間に見て回った限りじゃ結構色々な出し物があったぞ。」


あれから、約3時間。執事としての勤めを果たし、漸く休憩時間になった俺は…制服姿に着替え、この前の約束通りに月村と一緒に学園祭を回り始める事となった。

けど、俺と月村のどちらも昼を食べていないため極度の腹ペコ状態であり、まずは何か食べに行こうという事で意見が合致した。


「じゃあ、どこ行く?」

「ウチみたいな喫茶店系の店の方が良いんじゃないか?その方が空腹を満たすにはいいと思うし。」

「あ、それなら美由希ちゃんのクラスは?ほら、コレ。」

「んー、そうだな。」


月村に差し出された文化祭の案内を見てみたところ、出し物の名前を見る限り美由希ちゃんのクラスは俺たちのところと違って、至って普通の喫茶店をやっているらしかった。


「混んでないといいなぁ。」

「もう2時だから流石に大丈夫だと思うぞ?」

「でも、ウチのクラスは今もてんてこ舞いだと思うけど?」

「普通はそっちのが異常なんだよ…多分だけど。大体リピーター多すぎだろ。」


確かに月村や藤代さんを筆頭として、ウチのクラスの女子はみんな美人揃いだから男連中の気持ちは分からんでもないが、それにしたって多すぎである。

まぁ、それを言ったら女性客の方もだが…そんなに執事に接客されるのが良かったのだろうか。


「ふーん、そういうものなんだ。ま、どうでもいいや。それより早く行かない?」

「確かに、それもそうだな。さっさと飯食って…その後でまったりと学祭巡りするか。」


そして、俺たちは少々足早に美由希ちゃんのクラスへ向かった。










三十三話「学園祭」後編









6月23日 PM14:35―風芽丘学園―


「あー、美味しかったねー。」

「味も良かったし、メニューも豊富だったな。」


遅めの昼食を済ませ、1-Fの教室から出た俺たちは再び校内を歩き回っていた。

ちなみに、美由希ちゃんは教室にいなかった。クラスの子に聞いてみたところ、今は休憩時間で…少し前に高町が迎えに来たらしい。今頃は一緒に学園祭を回っているだろう、との事だ。

そういや、高町もこの時間に休憩を入れてたことを思い出した。「成程、美由希ちゃんと回る約束してたのか。」なんて事を思いながら、俺と月村は思い思いの料理を注文して、ソレに舌鼓を打った。


「確かにねー。私たちのクラスは簡単な軽いモノだけだけど、さっきのところはオムライスとかも作ってたもんね。」

「まぁ、あのクラスは料理上手な子が多いからな。それぞれの得意料理をメニューにしたんじゃないか?」

「へー、そうなんだ。……ん?何で、藤見君がそんな事知ってるの?」


俺がそう言うと、月村の顔がさっきまでのニコニコ顔から打って変わって疑問顔になり、続いて少しむくれた顔になって謎のプレッシャーが発せられた。

いや、俺がそういう事知ってるのがそんなにおかしいか!?確かに友好関係の狭い俺が何でそんな情報を知っているのか疑問に思うのは最もだけど!

だからってそんな反応すること無いだろうに。


「……何でいきなり不機嫌になったのか知らないけどな、俺は赤星に聞いたからその事を知ってるだけだよ。」

「へ?」

「赤星の交友関係の広さはお前も知ってるだろ?美由希ちゃんのクラスの女子に料理の上手い子が集まってるってのは赤星からたまたま聞いたことなんだよ。」

「ほ、ホントに?」

「いや、当たり前だろ。大体、美由希ちゃん以外の1年生の子と会話したのなんて数える程だぞ?そんな俺が他者からの情報提供も無しにそんな事を把握しているとでも?」


幾らホントの事とは言え、自分で言ってて悲しくなってくるけどね!

けど、言わないと妙な誤解を受けたままだっただろうし。


「そ、そうだったんだ。」

「ああ、分かったか?。」

「うん。」


妙な誤解をしていたらしい月村はバツの悪そうな顔をしている。


「で、何処から回る?」

「え?」

「いや、「え?」じゃなくて。時間にだって限りが有るんだからさっさと行動しないと時間の無駄になるだろ?」


取り敢えず、こうして突っ立てても意味ないので、月村が行きたい所の意見を聞いてみる事に。

さっきの事で落ち込んでるのかも知れんが、納得してくれたんなら俺から言うことは何も無いしなー。


「あ…う、うん。じゃあ、コレ行ってみたい。」

「えー、何々?『絶叫、恐怖のお化け屋敷』?」

「あは、実はお化け屋敷って行った事無くて。」


行った事ないって……遊園地とか行った事ないんだろうか。すずかちゃんもいることだし、一回くらいは行った事ありそうなものだけど。

ってか、それ以前に………


「去年や一昨年の文化祭で行かなかったのか?確かどっかのクラスが出してたと思うんだが。」

「んー、行ってはみたんだけど………」

「……みたんだけど?」

「恋人同士で入っていく人が多いから気後れしちゃって。1人で入るのも何だかなーって感じだし。」

「あぁ、成程。そりゃ確かに納得の理由だな。」


並んでる人が皆男女ペアだったらそりゃ入り辛いわ。

少なくとも俺だったらそこに入らずに他のクラスに行く。


「いいかな?」

「いいぞ。俺もお化け屋敷なんて行ったのはガキの頃だけだしな。」

「ぃよっし、それじゃレッツゴー!」


月村はそう言って、俺と並んで歩き出した。










で、現在。


「あははははは♪何これ!?面白ーい♪」


2-Aの出し物である『絶叫、恐怖のお化け屋敷』に入った俺たちだったが、概ねの予想通りあまり怖くはなかった。

入り口こそ、おどろおどろしいデザインで恐怖心を煽るようにしてあったが、実際中に入ってみると案外チープだった。

まぁ、俺たちみたいな学生が作ったものだし、2週間程度の期間で作ったにしては良く出来てはいる。……が、やはりイマイチ怖くない。

いや、悲鳴を上げてる人もいる事を考えると、俺たちが平気なだけなのかも知れないが。

月村に至っては怖がるどころか作り物のお化けの顔を、けたけた笑いながら突っ突いたりして遊んでいるし。それでも、それなりには楽しめてるようだし、まぁいいか。


「月村はこういうの平気なんだな。」

「ん?あ~、別に怖いとは思わないかな。……ひゃうっ!?」

「うおっ!どうした月村。」


妙な声を出した月村の方を見ようと、右隣に目を向ける。


「こ、これ何!これ何!?」


どうやら、月村の顔に天井から吊るされたこんにゃくが落ちてきたらしかった。さっきまで余裕だった月村も、いきなりの事で少々パニックに陥っている。

しっかし、また古典的な仕掛けだな。確かに引っ掛かったら驚くだろうけど。


「まず落ち着け、月村。当たってるのは単なるこんにゃくだ。」

「ひゃ!はー、吃驚した~。」


月村の腕を引き、自分の方に引き寄せる。

こんにゃくの感触から開放された月村は、一瞬こそばそうな声を上げてから、安堵の息を吐いた。


「う~、心臓が止まるかと思った。」

「ご愁傷さま、運が悪かったな。」

「うぅ、こういうのは勘弁して欲しいよぉ。」


本気で驚いたのか、月村は左手を胸に当てて動悸を治めようとしていた。

俺は月村が落ち着くまで、周囲を見ながら時間を潰していた。……だがしかし。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


突如俺たちの後ろから悲鳴が上がった。

位置的に考えれば入り口辺りのところだろうか。

それにしても、入口辺りであんな悲鳴上げるなんて…余程怖がりな人がいるんだな。俺の記憶してる限り、そこまで驚くような仕掛けなんて殆ど無かったと思うんだが。


「も、もう大丈夫。行こっ、藤見君。」

「ん、あぁ。……?」


そう言って、月村は手を伸ばしてきた。


「……月村?」

「あ、あははー。さっきのこんにゃくとか、あの悲鳴とか聞いてたら…ちょっぴり怖くなっちゃって。……駄目?」


可愛らしく小首を傾げてそう言う月村。……その仕草は卑怯だと思う。

断る理由も無いから良いんだけどね。けど…これを無自覚にやってるんだから侮れないよなぁ。

……自覚してやってたらそれはそれで恐ろしいけど。


「あぁ、良いぞ。」

「やたっ!」


俺の手をギュッと握り、身体を寄せた。


「ひゃああ!!」


そして、直後…また後ろから悲鳴が聞こえた。

ビクッと震えて、月村は俺の左腕に巻き付くようにしがみついて来た。


「ご、ごめん。」

「いや、別に良いけど…怖いのか?」


純粋に驚いていた時とは少し違った反応だ。

月村はこういうの平気な質だと思ってたが、案外そうでも無かったらしい。


「うぅ、あの悲鳴が無かったら大丈夫そうなのになぁ。」

「ま、しょうがないだろ。」


怖いから悲鳴を上げるのを止めて下さい…なんて言えないのだ。我慢してさっさと進に限る。


「きゃーーー!!!」


そうして進んでいると、今度は別の女の人の悲鳴が聞こえた。

どうやら、最初のあの悲鳴が他の女性客の恐怖心を煽り、出し物側の生徒たちのやる気を奮い立たせているようだった。

女幽霊や狼男、何か分からない化け物などの役をした生徒たちも心なし生き生きしているように見える。

更には出口が近いのか、何気にハイクオリティな特殊メイクを施した生徒たちもチラホラと見受けられる。

そんなのがいきなりヌバッと出てきたりするもんだから、存外驚かされたりする。う~ん、こりゃ最初の評価を改めないといけないかなぁ。

そんな暢気な事を考えながら歩いている俺と違い、月村の方は結構いっぱいいっぱいのようだった。

普段の月村なら絶対に怖がったりしないであろう仕掛けだが、この場の雰囲気に流されてか俺の腕に抱きついて離れない。


「………………」

「お、ちょっと明るくなってきたな。もうすぐ出口か。」

「ほ、ホント?」

「こんな事で嘘ついてどうするよ。」


恐る恐るといった風に上目遣いにこっちを見上げてくる月村。

しっかし、月村にこんな一面があったなんて驚きだ。雰囲気の所為とは言え、ここまで変わるとは。

………くだらねー事ばっか考えてると思われるかも知れんが、俺も煩悩を抑えるのでいっぱいいっぱいなのである。主に俺の腕に押し付けられてる女の子特有の柔らかさとか、匂いとか。


「あ、出口だ。」

「ふぅ、漸くだな。」


暗幕を左右に分け、教室のドアを開けて外に出る。


「はぁぁ。出られた~。」

「結構良かったな。最後の方は驚かされるモノも多かったし。」


お化け屋敷から出た俺たちは、次に出て来るであろう人たちの邪魔にならぬよう…場所を移動する。


「あー月村、そろそろ……」

「え?………っっ!?ご、ゴメン!!」


俺がそう言うと、月村は慌てて腕から離れた。

……少し名残惜しいが、いつまでもそうしている訳にもいかないしな。


「うぅ~~。」


俺の腕から離れた月村は、先程までのことを思い出したのか顔が真っ赤になっている。そりゃあ、友達とは言え恋人でも無い男の腕にしがみついてたんだから恥ずかしくなるわな。


「さーて、次どこ行く?」


少し気不味いこの雰囲気を吹き飛ばすような明るい声で月村にそう言って、自分の案内を広げる。

正直、俺も内心はドキドキしっぱなしだが、いつまでもこうしている訳にもいくまい。


「え、っと。私はいいから、次は藤見君の行きたい所にしなよ。」

「俺の行きたいところか?んー、そうだな……おっ。」

「何かあった?」

「もう少ししたら軽音部のバンド演奏があるらしい。これでいいか?」

「ん、おっけ。じゃあ、体育館に行こっか。」

そうして、俺たちは体育館に向かって歩いて行った。










6月23日 PM14:50―風芽丘学園―

体育館に着くと、中はもう結構な人で溢れかえっていた。


「わ、もう人いっぱいだねー。」

「座れる場所あるか?」

「えっとね、あ…あそこ空いてるみたい。」

「お、ラッキー。取られる前にさっさと行くか。」


月村が見つけた空席まで急いで移動し、そこに座る。

舞台では、まだ合唱部が歌っているところだった。綺麗な歌声が体育館内に響き、人々の心を奪っている。

やがて歌が終わると舞台の緞帳が降り始め、合唱部のメンバーは観客席にお辞儀して舞台から去った。


「ちょこっと聞いただけだけど…結構上手だったね、合唱部の子たち。」

「だな。もう少し早く此処に来てても良かったかもな。」


合唱部のコーラスが終わって騒ついている会場内で、俺と月村は顔を見合わせそんな事を言い合いながら、ライブが始まるまでの時間を潰す。

今までの学園祭ではクラスの出し物との関係で合唱部のコーラスや軽音楽部のライブはタイミングが合わず、見ることが出来なかったから楽しみだったりする。


〈これより、軽音楽部によるライブを開始します。〉


次の瞬間、アナウンスが会場内に響き渡り…緞帳が少しずつ上がっていく。

俺と月村も顔を舞台の方に向け、拍手をしながら演奏が始まるのを待つ。

他の観客たちも拍手し始め、軽音部の人たちの登場を祝福する。

緞帳が全て上がりきり、まず目に飛び込んできたのはカラフルな浴衣に身を包んだ5人の女の子たちだった。

………あれ?気の所為か?何か、全員どこかで見たことあるような……


「何あれ~。」

「カワイ~。」


俺がそんな事を考えている間に、周りからはそんな声が飛び交い、瞬く間に会場は沸いた。

かく言う俺もその一人で、舞台にいる五人の姿から目が離せなかった。……いや、多分ここに居る皆とは全然違う理由でだろうが。


「ワン、ツー、スリー!!」


カチューシャをしたドラムの子が両手に持ったスティック同士を叩き合わせ、リズムを取る。

そして、演奏が始まった。

舞台に立って一生懸命に演奏している彼女らを一体何処で見たのかと必死に思い出そうとしていたが、こんな良い演奏を聞き逃したら勿体無いと思い直し、悩んだ末に……俺は考えるのを止めた。


「凄い、みんな上手だね。」

「ああ、そうだな。」


自然とそんな声が漏れる。

他の人も同じ気持ちらしく、その歌声や演奏に聞き惚れている。

その曲が終わった後も、演奏は2曲・3曲と続いていく。

そして、その全てが終わったとき…


パチパチパチパチパチパチパチ!!


……体育館中に盛大な拍手が響き渡った。

観客席から「アンコール!」と言う声が聞こえ始め、それは次第に大きくなっていった。

それに応え、まずはキーボードの子がもう一度鍵盤を弾き始め、それに続いてドラム・サブギター・ベース・最後にメインギターの子が順々に加わり、制限時間ギリギリまで最後の曲を歌い続けた。









「あー、最高に盛り上がったなー。」

「ホントホント!私、あんなにテンション上がったの久しぶりだよー!」


軽音部のライブが終わり、体育館を出た俺たちは残りの休憩時間を何処で過ごすか考えながら渡り廊下を歩いていた。

結局、終ぞあの軽音部のメンバーを何処で見たのかについては思い出せなかった。まぁ、思い出せないと言うことはそれ程重要なものでもないだろう。……多分、恐らく、きっと。

そう勝手に自己完結して、校舎へ向かってのんびりと歩く。


「それにしても、学園祭も残りあと30分かー。長いようで短かったなー。」

「まったくだなー。気がついたらもうこんな時間なんだもんな。」


うちの学園祭は4時で終わり。その後は簡単に片付けをして売り上げの集計&売り上げ順位発表、その後で解散となる。

今年は休憩時間の終わりと学祭終了時間が一緒だから何も考えずに遊べたなぁ。藤代さんに多少無理言ってシフト代わって貰って良かった。


「次に行くところで最後になりそう?」

「んー、どうだろ。場所にもよるけど……どっちにしろそんなに多くの場所は回れないだろうな。」

「そっか。んー、何処に行くか悩むなー。」

「俺としては那美ちゃんのクラスにも行ってみたいんだけどな。」

「那美のクラスって何出してるの?」

「『コスプレ喫茶』…らしい。」

「う~ん…丁度喉も渇いてるし、私は良いよ?」

「ん、なら行くか。」


この時、まだ俺たちは知らなかった。

まさか、あんなことになろうとは…思いもしていなかったんだ。










6月23日 PM15:35―風芽丘学園 2年E組教室前―


「えーっと、此処…か?」

「みたい、だね。」


那美ちゃんのクラス・2-Eに来た俺たちだったが、少し中に入るのを戸惑っている。

原因は―――


「きゃーー!」

「わーー!!」


―――店に入った客が男女問わず悲鳴を上げるからである。

何で只のコスプレ喫茶から悲鳴が聞こえるんだろうか……一体この先に、何が待ち受けていると言うんだろうか。


「は、入ってみる?」

「ここまで来て帰るのも何だしな、腹括るか!」


ま、まぁ…大丈夫だろう。何と言っても那美ちゃんのクラス。危険はない筈……と、信じたい。


「行くぞ!」

「うん!」


何が悲しくて喫茶店に入るのにこんなに決意固めないといけないんだろうか。……等と心の片隅で思いながら、俺と月村は同時に『コスプレ喫茶』へ突入した。


「いらっしゃいま……せ、先輩!!来ちゃったんですか?!」

「へ?」

「??」


教室の扉を開けると、那美ちゃんがウェイトレス姿で出迎えてくれた。

しかし、俺たちの姿を見ると…ついさっきまで笑顔だった那美ちゃんの顔が驚愕に染まっていく。

そして、那美ちゃんが言ったその言葉と表情の意味を把握するよりも早く、俺は後ろに何者かの気配を感じ振り向いた。


「なっ!?」

「きゃ!」


すると、突如として身体が浮いた。

見れば、俺は屈強そうな男子三人に担ぎ上げられていた。

月村のいた方を見ると、あっちも数人の女子に持ち上げられていた。


「「「「「「はい、2名様ご案内―。」」」」」」

「ちょっ!おまっっ!!?」

「何!何なの!?」


そうして俺たちは、互いに別々の所へ連れて行かれた。

―――そして数分後……


「どうしてこうなった。」

「まぁまぁ。」


俺たちは席に案内されていた。

……先程までと全く違う恰好で。


「まさか『コスプレ喫茶』ってのが、客に【コスプレ】をさせる【喫茶店】の意だったとは……略しすぎて誰も分からんわ!」

「あ、あはは。ウチはそれが狙いだったりするので…ゴメンナサイ。」

「良いじゃない、藤見君。これはこれで結構楽しいよ?」


俺の言葉に、申し訳なさそうな顔をしてペコリと頭を下げる那美ちゃん。

そして、そう言ってくるりとその場で回って見せる月村…ちなみにゴスロリ服。


「あぁ、お前はそうだろうな、文句のつけようもない程似合ってるし。けどな…俺の方を向いてからもう一度その台詞を言って見ろ。」

「お、お似合いですよ、藤見先輩。」

「に、似合ってる…よ?」

「こっちを見て言え。ってか……この恰好で似合ってるも何もあるかーーー!!!」


俺が着ているのはピンク色のクマの着ぐるみだ。男3人に強制連行されて無理矢理コレに入れられた。

もう似合う似合わない以前の問題である。

更に言えば、学生服のまま着ぐるみに入れられた為に半端じゃなく暑い。何で喫茶店に来てこんな思いをせにゃならんのだ。

無駄に凝った作りになっているから口から物を入れられたりできるのが唯一の救いだろうか。


「うぅ、藤見先輩には学園祭が始まる前に一言言っておけば良かったかなぁ。そうすれば先輩が此処に来る事もないから、こんな格好になることも無かったのに……」

「那美、それは……」


しょんぼりした顔をして、肩を落とす那美ちゃん。


「んー、那美ちゃん…たとえ事前に言われてたとしても、俺はきっと此処に来たと思うよ?」

「え?でも……」

「まぁ、いきなりこんな格好させられたのは驚いたけどさ…折角の祭りだし、偶にはこんな事があっても良いと思うんだ。」

「あ、先輩…その、ありがとうございますっ!」


那美ちゃんが笑い、それに釣られて俺も自然と顔が綻ぶのを感じた。


「……でも、折角かっこいい事言っても…その姿だとイマイチ締まらないね。」

「うぐっ…よ、余計なお世話だ!」


笑いを堪えながらそんな事を言う月村。くそぅ…いい話で纏まりかけた所を……

しょうがないじゃないか、こんな格好なんだから。


「ぷっ、ふふ、あはははははっ。」


俺たちのやり取りが面白かったのか、那美ちゃんは声を上げて笑った。

それを見た俺と月村も、声には出なかったが何時の間にか笑っていた。


「神咲さーん!楽しそうにしてるとこ悪いけど…そろそろ注文取ってこっち手伝ってー?」

「はぅ!?す、すいません!すぐに行きます。」


そうしていると、ウェイトレスの1人が忙しそうに料理や飲み物をテーブルに運びながらこっちに声を掛けて来た。

那美ちゃんは慌ててポケットからメモ帳を取り出し、注文を聞く態勢に入る。

俺と月村も急いでテーブルに置いてあるメニューに手を伸ばし、頼む物を決める。


「私はあんまりお腹空いてないからジュースだけでいいや。このトマトジュース頂戴?」

「あー、俺はちょい小腹が空いたからこのミニパンケーキってヤツで。」

「畏まりました。少々お待ち下さいね?」


メモに俺たちの注文を書いて、厨房まで持っていく那美ちゃん。

メモを渡した那美ちゃんは、その場でトマトジュースとパンケーキを受け取ってこっちに向かって小走りで駆けてくる。

去年翠屋で働いて貰った時のように転ばないか心配だったから何時でも走り出せるようにスタンバっていたのだが、今回は大丈夫だったようで…那美ちゃんは無事にテーブルまで辿り着いた。


「お待たせしましたー。」

「ありがと、那美ちゃん。」

「ありがとねー、那美。」

「いえ、そんなー。」


月村はトマトジュースをごくごく飲み始め、俺も…パンケーキを食べるためにナイフとフォークに手を伸ばす。

しかし……


「あれ?」

「どしたの?藤見君。」

「どうかしましたか?藤見先輩。」

「つ、掴めねーー!!」


わ、忘れてた。これ着たままだとナイフとフォークは疎か、素手でパンケーキを掴むことすらも出来無いじゃないか!

こ、これでどうやって食べれば良いんだ。いっそ両手で挟むか?


「あ、それじゃあ…私が食べさせてあげますね。」

「はい?」

「なっ!?」


何か…那美ちゃんがとんでも無い提案をしてきた。そのまま、椅子を持ってきて俺の隣に座り、ナイフでパンケーキを切ってフォークで突き刺す。

そして、それを俺に向けて差し出してきた。

その提案に俺は困惑し、月村は驚きの声を上げた。


「はい、藤見先輩。あ~んってして下さい。」

「い、いや…那美ちゃん。そこまでして貰わなくても……」

「そ、そうよ。仕事の真っ最中なんだし、他の人にも接客しなきゃいけないんじゃない?藤見くんに食べさせるのは私がやってあげるから、那美は他のお客さんのところに行ってきたら?」


いや、そう言う問題じゃないだろ。2人の気持ちは正直嬉しいが、こんな大勢の人がいる中で“あーん”は拙い。何が拙いって、主に今現在俺の身に集まっている男性客の殺気が籠った視線とか視線とか視線とか。

実は俺、フィアッセさんと翠屋で働いている内に何時の間にか殺気を察知出来るようになっていたりするのだ(男限定)。

着ぐるみ着てても、ここに居る男性客の殆どが俺に向けて恐ろしい殺気を放っているのが分かる。憎しみで人が殺せるとしたら恐らく50回は確実に殺されていることだろう。未遂ですらこんな状態なのに実際にやられた日には……ヤバイ、死ぬかも。

ってか、ホント何なの?この状況。しかも…もう俺がどっちかに食べさせて貰う事が前提になってね?


「いえいえ、月村先輩。これもウェイトレスの仕事の内ですからご心配なく。」

「いやいや、他の子が忙しそうじゃない。藤見君には私が食べさせてあげるから那美はあの娘たちを手伝ってきなよ。」

「むむ。」

「むぅ。」


何だろう…那美ちゃんと月村との間に火花が散っているような気がする。

さっきまで仲良かったのに何でこんな事になってんだ?

尚も睨み合っている2人。気のせいかドンドン空気が重たくなっているような……誰かー!助けてくださーい!!

しかし、そうは言っても現実は非情だ。

周囲からは依然として男共からの殺気が消える気配は無い。

しかも目の前には「食べろ」…とばかりに差し出された2本のフォーク。

そして隣には睨み合う後輩と同級生。

くっ、どうにかして今この状況を逃れられる手はないのか!

そう思い、必死に打開策を模索していたその時……救いの神が現れた。


≪もうそろそろ学園祭の終了時間になります。生徒一同は片付けがあるので教室で待機。まだ残っている一般参加の方は正門からお帰り下さい。≫


放送部のアナウンスが流れ、学園祭の終わりを伝えたのである。


「えぇ、もうそんな時間なの?」

「あ、あぁ、確かにもう5分前だな。取り敢えず、早く着替えてこい。遅れたら何言われるか分かったもんじゃない。(た、助かった。)」

「わ、分かった。すぐ行ってくるね。(くっ、藤見君にあ~んできなかったか。)」


た、助かった。あの極限状態から漸く解放されたよ。

席を立ち、那美ちゃんに背中のジッパーを下げてもらって着ぐるみを脱ぐ。

そして、制服に着替えに行った月村を待つ間に会計を済ませてしまう事にした。


「あー、何か悪いな。結局何も食べないで出ることになっちゃって。」

「あ、いえ。私としては来てくれただけでも嬉しいので……(藤見先輩にあ~ん出来なかったのは残念ですけど。)」

「そう?」

「はいっ!」

「藤見くーん、着替え終わったよ。早く片付け行こ?」

「りょーかい。じゃあね、那美ちゃん。」

「はい、藤見先輩。(忍さん、やっぱり藤見先輩のこと好きなのかな。けど…私だって……)」


俺は、那美ちゃんに挨拶してから2-Eの教室を出て月村と教室まで走った。

こうして、高校生活最後の学園祭は終わりを迎えた。












(おまけ)―その時…赤星勇吾は―


凌と忍が2-Aのお化け屋敷で古典的なトラップに引っ掛かったのと同時刻…彼、赤星勇吾も一人の女性と共にそのお化け屋敷に入っていく処だった。

勇吾の隣にいる女性の名はセルフィ・アルバレット。親しい者からはシェリーと言う愛称で呼ばれる彼女は、まるで長年連れ添った恋人のように勇吾の右腕へと抱き着いていた。

周りから見れば仲睦まじいカップルに見えるであろうその行動は、しかし周囲の人間が考えているようなモノとは絶対的、或いは壊滅的に意味合いが違っていた。


「こ、此処がお化け屋敷……」


ガタガタと震えながら勇吾の腕に抱き着いて離れようとしないセルフィ。

その綺麗な目には薄らと涙が浮かんでいる。

彼女は勇吾の恋人だから抱き着いている訳でも、恋愛感情を抱いているから抱き着いている訳でもなかった。


ギャァァァァ


「ひぅ!?」


ハリボテの草むらで隠されたカセットデッキから流れる棒読みの悲鳴に驚きの声を上げ……


「オーマァー!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


変な言葉を叫びながらヌッと曲がり角から出てきたハリボテ人形に悲鳴を上げて、更に強く抱き着くセルフィ。

実のところ、彼女が勇吾に抱き着いたのはその恐怖心が理由である。最も、普段の彼女であればこんな低レベルな仕掛けで悲鳴を上げたりしない。そう、風芽丘の学園祭に行く事を知ったリスティが昨晩Gトレーラーの明かりを蝋燭だけにして日本伝統の怪談話を延々と聞かせ続けていなければ………

怖いのならお化け屋敷のクラスを避ければ良いだけの話なのだが、不運にも勇吾がそのクラスの娘と約束を交わしていた。その上、最後の最後まで入るのを躊躇っていたセルフィに投げ掛けられたこの言葉。


「え、と…もしかして怖いんですか?セルフィさん。」


そんなこんなで意地になって入ってしまった訳である。

何らかの仕掛けが出るごとに悲鳴を上げるセルフィ。その悲鳴は、彼ら二人がお化け屋敷を抜け出ることが出来るまで絶え間なく聞こえていたと言う。

その悲鳴が、一組の男女に決して小さくない影響を与えた事を二人は知らない。


……ちなみに、お化け屋敷を抜け出た勇吾は小声でこう語る。


「取り敢えず、セルフィさんとお化け屋敷に行くのは今後何が有っても避けよう。今度は理性が持たないかも知れない。」


と。















後書き

まさか此処まで更新が遅れるとは思いませんでした。
もっと早くに書き終えられると思ってたのに……orz
リアルの忙しさの所為もありますが、それ以上に手直しやら何やらしててここまで遅れました。
アンノウンとの戦闘は次の話に持ち越しです。学園祭終了からの繋ぎが思ったよりも難しかったので断念。
出来るだけ早く次の話も書きたいけど、今回みたいに遅れるかもしれません。m(_ _)m

p.s.執筆作業よりもリリカルの映画を優先した私を許してください。m(_ _)m



[11512] 迷い込んだ男 第三十四話 「射手」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/04/01 20:56
6月24日 AM07:50―藤見家―


「ふわぁぁぁ~~、ねむ。」

「もうっ、だらしないですよ凌。」

「そんな事言ったって眠いものはしょうがな……ふわぁぁ。」


今…俺は欠伸を噛み締め、リニスにお小言を貰いながらも、ズボンに携帯と財布を突っ込んで外出の準備をしていたりする。

休日で、いつもならまだ寝ている時間にこんな事をしているのには事情があった。


「はぁ、今日は桃子さんに頼まれて翠屋に行くんでしょう?そんな調子で大丈夫なんですか?」

「そういう事言うんなら、昨日の鍛錬は勘弁してくれても良かったんじゃないか?」

「それはそれ。これはこれです。」


学園祭で疲れてたから昨日ばかりは休みたかったんだけどなぁ、鍛錬。見逃してくれませんでした。

いつもより緩めの内容だったから気遣ってくれてはいたが。


「さよけ。……まぁ、大丈夫だろ。何の用かは知らんけど午前中に終わるって言ってたから。」


昨晩、いざ寝ようとベッドに入ったところに桃子さんから電話が掛かってきたのである。

で、肝心の要件の方だが……


『明日の朝8時くらいに翠屋まで来て貰っていいかしら。』


と、詳しいことは何も知らせてくれませんでした。

ぶっちゃけしんどいし、断ろうとも思ったのだが…『そう言えば、凌くん。昨日執事喫茶に居なかったわね。』等と含みのある言い方をされれば出向かない訳にも行くまい。もし断ったらどうなることか。


「っと、じゃあ行って来るわ。」

「はい、行ってらっしゃい。」


そうして準備を終えた俺は、バイクに跨り翠屋に向かった。










第34話「射手」










6月24日 AM08:05―翠屋―


「で、結局何で俺を呼んだんですか?」


目の前にいる万年新婚夫婦にちょっとキツメの口調で問い掛ける俺。

若干イラついているのはしょうがないと思う。だってこの2人…粧し込んで腕まで組んで、どう見ても『今からデート行きます』な恰好をしているんだもの。

こんな朝早く呼び出されて律儀に来てみればコレだよ。

絶対この人らこれからデートに行くから店番よろしくって感じの理由で俺呼んだんだぜ?殴っていいかな。


「いやー、実はこれから桃子とデーt「やっぱりかぁぁぁぁ!!!」おっと、人の話は最後まで聞きなさい凌君。」


俺の予想と寸分違わない台詞を言ってのけておいて何を言いますか。

ちなみに、衝動的につい放ってしまった顔面に向けての右ストレートは、かるーく受け止められてしまった。

くそぅ、結構本気で殴りに行ったのに。


「実はだな、今日は凌君1人でウェイターをやって欲しいんだよ。」

「??どういう意味ですか?」

「ほら、フィアッセっていつも接客してばかりじゃない?」

「そりゃ、チーフウェイトレスですからねー。」

「だ・か・ら、偶には接客して貰う立場になって貰おうと思って。」

「うん、そこで凌君の出番という訳だ。幸い今日は店を休むつもりだったし、丁度いいと思ってね。」


おぉ、思いの外まともな理由。

ってか、そんな事考えてたんだったら最初っからこの事を話して欲しかった。そしたら学園祭で取ったあの兎のぬいぐるみも持ってきたのに。

……ん?あれ?


「いいアイデアだとは思うんですけど、何で俺なんです?あと桃子さんいなくなったら料理の方はどうなるんですか?」

「あ、大丈夫よ。デザートは作って冷蔵庫に入れてあるし、モーニングセットなら凌くんでも作れるでしょ?」

「まぁ、そうですけど。……っていや、それだけじゃなくて何で俺n「じゃあ行こうか桃子!久しぶりのデートだ。」……うぉーい。」

「そうね。伝えるべきことは伝えたし、久々のデートを楽しみましょうか、あなた。」

「いや、だから……」

「あ、もう少ししたら来ると思うから、フィアッセの事お願いねー。」


そして、あははー、うふふー、と笑いながら、恋人繋ぎで手を握り合い2人は去っていった。


「………着替えるか。」


かなり強引に話を打ち切られ、遣る瀬無い気持ちになりつつも、俺は翠屋の制服に着替えるため更衣室へ入っていった。


「と言うか、フィアッセさんは高町のことが好きなんだろうから俺じゃなくて高町に頼んだ方が良いんじゃないのか?その方がフィアッセさんも喜ぶだろうに。」


ま、フィアッセさんと一緒にいるのは楽しいし、俺個人としては大歓迎なんだけどな。

ガチャ

いつも使用しているロッカーを開け、服を取り出そうと手を伸ばす。

そして―――


「………………」


バタンッ!


―――閉めた。

そりゃもう電光石火の速さで。

おかしいな、翠屋の制服じゃなかったぞ。


ガチャ


もう一度ロッカーを開ける。

そこにいつも着ている白い制服は無く、此処数日で嫌でも目に馴染んだモノが掛かっていた。

もうお分かりであろう。

掛かっていたのは昨日学園祭で着たばかりの執事服。もう二度と着る事はないと思っていた服であった。


「……マジか。」


思いも掛けない事態に呆然としてしまった俺を誰が責められよう。

これが此処に掛かっていると言うことは…要するにこれ着てフィアッセさんに接客しろって事か?……十中八九そう言いたいんだろうな、あの2人は。


「はぁ…やれやれ。」


不意打ちだったから吃驚したが……よくよく考えてみれば学祭準備期間は連日これ着て接客の練習してたんだから余り恥ずかしくない……筈だ。

いや、それはそれで駄目なんじゃないか…って気もするが。

私服を脱いで執事服に着替える。

そうして更衣室から出た俺は厨房に立ち、フィアッセさんが来る前に翠屋モーニングセットの調理に取り掛かり始めた。

だが、そこで改めて気付く。

『やっぱりこの格好は恥ずかしい』と。

学園祭の時は周りの人も同じものを着ていた上に、テンションも平常時より高かったのだから、今着ると恥ずかしく感じるのはある意味当然なのだが、俺がその事に気付いたのは相当後になってからだった。

そうして俺は軽く溜息を吐きながらも、フライパンの上に卵を投下したのだった。










6月24日 AM08:25

(フィアッセside.)


「『明日は翠屋をお休みします。凌くんを翠屋に呼んでおいたから、明日は凌くんと思う存分ラブラブしなさい!p,s,朝ご飯は食べないでねっ☆』って言われてもなー。」

愛用の白い自家用車を翠屋に向けて走らせながら、私は昨夜…桃子から送られてきたメールの事を思い出してそんな事を呟いてしまった。

朝ご飯を食べるなって言うのは……リョウと一緒に食べる為…なのかな?

んー、けど翠屋でどうやってラブラブすればいいんだろう。う~ん、一緒に働いて親睦を深める…とかかなぁ。でも、お休みだって話だし。

一応、ゆうひから貰ったSEENAのコンサートのチケットが有るけど……

うー、どうやって誘ったらいいのか分からない。それに、もし断られたりしたら……


数分後…そんな葛藤を抱えたまま、私は翠屋に到着した。

車を近所の駐車場に停め、翠屋の前まで歩いて行く。そのままドアの取っ手に手を伸ばし、引く。

そして、その扉の向こう側には―――――


「おはようございます、お嬢様。朝食をご用意しておりますのでどうぞこちらの席へ。」


―――――黒い執事服に身を包み、爽やかな笑顔を浮かべた私の想い人『藤見 凌』が、恭しくお辞儀をしながら立っていた。


「え?え?」


突然の事に混乱して、うまく言葉が出てこなかった。

何で? 似合ってる お嬢様?私の事? 格好良い。

様々な言葉・感想が頭に浮かんでは次々に消えていく。

いつもはお客さんに向けられているその笑顔が、今この瞬間だけは私一人に向けられている。そう思うだけで、胸が高鳴っていくのが分かった。

だから、こんな状態に陥って尚…私は目の前の人から目を離せなかった。そのまま言葉を発する事もせず、只々リョウを見詰め続けていた。


「お嬢様??」

「ひゃ、ひゃい!?」

「どうかなされましたか?」

「い、いえ、何でもないれす!!」


あぅ、咬んじゃった。

しかも二回も。


「そうですか。では、こちらへ。」


私の返事を聞いたリョウは今まで浮かべていた笑顔を苦笑へと変え、けれど態度はそのままに、私をテーブルへと導いてくれた。


「暫くそのままでお待ちください。直ぐに朝食をお運びします。」

「は、はい。」


椅子に座り、厨房の方へ消えていくリョウの姿をボーッと眺める。

不意打ちだった。普段見せる笑みとはまた違った接客用のクールな笑み。

お客さんに向けているソレはそれこそ何度も見たことあるが、よもや私自身に向けられる事が有るなんて全く思いもしていなかった。

しかも執事服で…だ。

好きな人にこういう事をされて、ときめかない女が一体どれだけいる事だろう。

少なくとも、この瞬間…私は確かにこう思ったのです。



――あぁ、やっぱり私はこの人が好きなんだ――



と。

料理を運んでくるリョウの姿を見て、私は改めて自分の気持ちを意識させられたのでした。


(フィアッセside.END)










6月24日 AM09:00―翠屋―

(凌side.)


「ご馳走様でした。」

「それでは食器を片付けて参ります。」


フィアッセさんが食事中の間、彼女の左斜め後ろで待機していた俺は、その言葉を聞いてすぐにそう言って食器を片付けた。

厨房の流しへ持っていって水に浸けておく。

そして、フィアッセさんの所に戻った俺は、フィアッセさんの対面の椅子に座り、上着を脱いで背凭れに引っ掛けてネクタイを緩めた。


「ふー、疲れた。」

「ふふっ、ご苦労様。」


グーっと伸びをして、首を回す。

やっぱり約30分間立ちっぱなしってのは疲れるわ。


「それで、どうでした?執事っぽかったですか?」

「んー、執事っぽいかどうかは分かんないけど…格好良かったよ、リョウ。」

「あー、あはは。何か照れますね。」


フィアッセさんみたいな美人にそう言われるとお世辞でも嬉しいもんだよなー。一瞬だけど俺って恰好良いのかも…とか思っちゃったよ。


「店に入ったら行き成りあんな出迎えが待ってるんだもん。もうビックリ。」

「あれ、桃子さん達から予め聞いてたんじゃないんですか?」

「聞いてないよー。大体、送られてきたメールには翠屋に来いって事ぐらいし…か……」


最後の方は何か段々声が小さくなっていった。なにか思い当たることでも有ったんだろうか。

フィアッセさんは、少し俯いて「ま…か、昨日…ってた…と?」とか、「ラ…ラ……てそうい……とか。」と小声で呟いている。断片的にしか聞き取れないけどやっぱり心当たりが有ったらしい。


「えーっと、昨日の内に聞いてたって言えば聞いてたんだけど……本当にしてくれるとは思ってなかったから頭の中から追い出してたみたい。」

「昨日って…夜ですか?」

「ううん、朝。」

「朝?そんな早くから計画されてたんですか?コレ。」

「私がその…ね、レコーディングの仕事で学園祭行けなかったでしょ?それを残念がってたら士郎と桃子が…その……」

「あぁ、納得しました。」


他人の為にこういう事が計画出来るあの人らは、やっぱ凄いよなー。俺が思いついた事って言ったら、射的屋で取ったぬいぐるみをプレゼントするくらいだし。何と言うか…器の違いを思い知らされるよ。

…いや、面白そうだからと言う理由も有るのかも知れないけどね……


「ゴメンね、リョウ。迷惑だったでしょ?」

「え?あ、いえいえ。別にそんな事は……」

「ホントに?」

「確かに恥ずかしくはありましたけど、迷惑って程では……それに、俺も学園祭にフィアッセさんの姿が見えなかったのは少し寂しい感じがしましたし、何だかんだ言っても…今回の事は俺にとっても都合が良かったと言うか。」

「……そっか。」


あれ、もしかして俺…今相当恥ずかしいこと口走ったか?フィアッセさんも顔赤くなって俯いちゃってるし!


「あ、あのね…リョウ!」


そんな微妙に気不味い雰囲気を吹っ飛ばしたのは、どこか必死な様子のフィアッセさんの言葉だった。


「何ですか?」

「えっと、その…あの……」

「?」

「こ、これ!今から一緒に行かない?」

「これ?」


目の前に勢い良く差し出された物を受け取り、そこに書いてある文字の意味を読み取っていく。

それは『天使のソプラノ』の異名を持つSEENAが歌うコンサートのチケットだった。

「ゆうひから2枚貰って、誰にあげようか迷ってたの。だから……」

「えと、俺なんかでいいんですか?」

「う、うん。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

「え?……い、いいの?」

「予定もないし、俺でいいのなら。」

「う、うん!全然オッケー!じゃあ行こ?」

「は、はい!ってうわっ!?」


手を握られ、そのまま外まで引っ張っていくフィアッセさん。

行き成りのことに驚いて、転けそうになってしまったが、それについて店から出て行く。

店の戸締りをし、俺とフィアッセさんはコンサート会場へと向かったのだった。










6月24日 AM10:55―ホテル・ベイシティ―


あの後、フィアッセさんと俺は、海鳴市にある最高級ホテルにやって来ていた。

翠屋から徒歩で結構な距離を歩き、今はそこの地下にあるコンサートホールで二人並んで座り、始まるのを待っている状態だ。

別にフィアッセさんの車や、俺のバイクで来ても良かったのだが…フィアッセさんの「開演時間はまだまだ先だし、帰りは道路も混むだろうから……それに、ゆっくり行きたいし。」との意見により、めでたくそのように決まった。

「はー、凄いホールですねー。」

「ふふっ、今度…ママも此処でコンサートを開くんだよ。スクールの卒業生全員で歌うの。」

「って事は、フィアッセさんもですか?」

「…うんっ。」

「へぇー、行きたいなぁ。」

「チケット貰ったら、リョウにも渡すよ。」

「ホントですか?ありがとうございます。」


そんな話を2人でしていると、ステージの中央に1人の女性が歩いて来た。


「あ、始まるね。」

「そうみたいですね。」


「…SEENAです……今日は…来ていただいて、本当にありがとうございます………どうかごゆっくり…お楽しみ下さい。」


丁寧な口調で、静かにホールに響き渡る声。

お辞儀をして、一歩前に進み出る。


「……それでは、最初の曲……尊敬する、私の先生…ティオレ・クリステラの歌です。」


そして、歌が始まる。

俺たちは、静かに……コンサートの雰囲気に浸った。


「…………………」


フィアッセさんは、静かに。

でも、いつもはあまり見せない、情熱を秘めた目で…。

ずっと静かに、ゆうひさんの歌を聞いていた………。


…………………………

………………

………


コンサートが終わり、フィアッセさんは楽屋へ挨拶しに行って……少し遅くなっているようだった。

同じくホールにいた人たちが次々に帰っていくのを見ながら…俺はひとり、フィアッセさんを待っていた。


「……………あ……あれ、リョウ…もしかして待っててくれたの?」

「ええ、まぁ。」

「……ありがと。じゃ、帰ろうか?」

「はい。」


帰り道…。

俺たちは少し寄り道をして、海鳴臨海公園にやって来た。

そこで…フィアッセさんは手摺に手を置いて、海を眺めながら自分の思いを語り始めた。

俺はその少し斜め後ろに立って、同じ様に海に目を向け話に耳を傾ける。


「……やっぱり…ゆうひの歌は凄いな…ゆうひの歌を聞いた後って……なんだか、心にじんと…、歌が残ってて……それが、ずっと暖かいの。」


……確かに…。言われてみればそんな感じかも知れない。


「私も…早く、歌いたいな……」

「………………」


青空を背に、そう言ったフィアッセさんの表情は…凄く綺麗だった。


「うたを歌うって事はね……自分の魂を、人に届けることなんだって…これは、ママの口癖…」

風に靡く自分の髪を押さえ、話し続ける。


「ゆうひは、暖かい人なのね……明るくて、おせっかいで…傍にいるみんなのことが、凄く大好きで…」

「フィアッセさんに、何だか似てますね。」

「あはは、たまに言われる。星座も血液型も、全然違うんだけどね。……ゆうひのは、暖かな【好き】って気持ちでいっぱいの…綺麗な魂。」

「じゃあ、フィアッセさんのは?」

「……わたし?…私は……まだ、分からないかな……」


フィアッセさんが俺の方へ振り向いた。

その瞳には、何かを固く決心したような力強さがあった。


「……だけど…」

「え?」

「だけど、今うたったら…きっと……」


♪~~♪~♪~~~♪~♪~~♪~♪~~♪~


フィアッセさんから紡がれた言葉は、突然流れ出した音楽によって遮られた。


「わ、わたしの携帯………」


話を遮られたのがショックだったのか、ズーンと落ち込みながら鞄から携帯を取り出し、通話ボタンを押すフィアッセさん。

こちらに背を向けて、電話の相手と話をし始める。


「えぇ!?」


通話中のフィアッセさんから驚きの声が上がった。

暫くして電話を終えたフィアッセさんは、申し訳なさそうな顔をしてこっちに振り向き……


「誰からだったんですか?」

「えと、イリアっていうスクールの教頭先生なんだけど……何か、ママが多分3時間後くらいにこっちに着くからって…」

「は?え、マジですか?」

「うん。お迎えよろしくって、伝言を預かってるって。」


えーっと、って事はアレか?

ティオレさんはもう既に飛行機で日本に向けて出発していて、フィアッセさんに電話するのをイリアさんにお願いしてたって事か?


「そ、それはまた唐突な。」

「あ、あはは。ママって桃子達に負けず劣らずお茶目な人だから。でも…まさかイリアまでこんなサプライズに便乗するとは思わなかったよ。」

「連絡とかも一切無しですか?」

「うぅ、近々コンサートをこっちで開くから、もしかしたら…とは思ってたけど…連絡もなしだなんて聞いてないよー!」

「と、取り敢えず落ち着いて下さい。今から空港まで行って間に合いそうですか?」

「た、多分…何とか。と、取り敢えず行かないと!」

「そ、そうですね!」


余りに突然のことで慌てに慌てた俺たちは、結局さっきの話に触れることもせずに、この広い青空の下で一緒になって…翠屋までの道を走ったのだった。










6月24日 PM15:20―Gトレーラー―

Gトレーラーの内部にて、リスティとセルフィは今回出現したアンノウンへ対抗するための作戦会議を行っていた。


「え?今からですか?」

「あぁ、昨日の朝に見つかったあのミイラにされた被害者には、親族はいないって話だったんだが……どうも被害者の妻は子を身篭ってるらしいんだよ。」

「……まだ生まれてもいない子を狙ってくるって言うんですか?幾ら何でもそれは……」

「無い…と言い切れるか?まぁ、刑事一課の連中もそれは無いと見て、数時間前に見つかった被害者の親族周辺に護衛を配備するらしい。ま、あくまで万が一に備えてだ。出てくれば儲け物、出てこなくてもいずれ一課が張っている護衛対象の方に何らかのアクションを起こしてくるだろうさ。」

「もし本当に出てきたらどうするんですか。こっちはこの前の戦闘でダメージを負ったG2とG3の修理が今日中に終わるかどうか分からないって言うのに!」


オクトパスロードによる苛烈な攻撃によって、損傷したG2・G3は未だ完全な修理が終了しておらず、今日中に修理が完了するか怪しいのが現状だった。


「技術部に文句言っておけ!まったく、修理に必要な書類はちゃんと届けられてるだろうに。」

「それを今言ってもしょうが無いでしょう?」

「はぁ、修理完了前に現れたらG1に頼るしか無いな。いつでも連絡出来るように準備しておいてくれ。あ、一応恭也と勇吾にも連絡する用意はしておいてくれ。」

「はいはい。くれぐれも気をつけてね、リスティ。」

「分かってるよ。」


手をヒラヒラさせながら、リスティはGトレーラーを降り、被害者の妻の護衛へと向かった。










6月24日 AM15:40―ゲームセンター―

フィアッセさんと別れた後、俺は駅前のゲーセンに足を運んだ。

理由はいたって単純。要するに暇だったのだ。家に帰ってもやることないしな。

でもって、暇潰しの為の場所に選ばれたのが此処。

駅の駐車場にバイクを止め、中に入り店内を見渡す。

うーむ、しっかしゲーセンに来るのも久しぶりだ。見たことないゲームが山ほどある。


「えーっと、じゃあこの『POPOWERD HEARTS』からやってみるか。」


格ゲーのコーナーまで足を運んで椅子に座る。

ちなみにこのゲームは原作の方に出てたゲームだった筈。

確か…正しいコマンドを入れたら隠しキャラの【DK(ダークナイト)】か【ナハト】が出るんだよな。

けど…コマンドなんて憶えてないしなぁ。……適当にボタン押しまくってみるか。

これで出たら凄いんだけどな。ま、あるわけもないが。

適当にボタンを連打しまくる。


MF(マスクドファイター)


「ぶほっ!?」


現れたキャラを目にして俺は吹かざるを得なかった。

まんま仮面ライダー1号である。

適当に押したコマンドなのにまさか原作でも見たことない隠しキャラを出してしまうとは……


「よし、取り敢えずやってみるか。」


説明を読んで最低限のコマンドを把握しつつ、俺は画面へ目を向けた。


初戦の相手は忍者。如何にもと言う出で立ちで忍者刀を逆手に持っている。

初戦だから流石に弱い。

練習には最適だった。…と言っておこう。

で、技とか使ってみた感想なんだが…このキャラますます仮面ライダーっぽい。

ライダーキック・パンチ・チョップは基本。反転キックや月面キック、更にはきりもみシュートまである。初戦で確認出来たのはそれだけだが…この分だとコマンド次第ではまだまだ技の種類があるのかも知れない。

2回戦の相手は機械人形だった。
ロケットパンチやドリル、スカート捲くってミサイル発射など男のロマンを再現したキャラだった。こちらも問題なく勝利。

そしてやっぱりあった他の技。今回はスクリューキックと、投げ技としてライダー返し。そして、一時的にパワーを高めるライダーパワーを発見した。

う~ん、この世界に昭和ライダーって無かった筈なんだが……今度もう一回調べてみようかな。

気を取り直して3回戦。

今度は薙刀を得物にした巫女だった。

投げつけてくる霊符に梃子摺ったがそれでも余り苦戦せず勝利。

そのまま4回戦…と思ったのだが、画面に『New Challenger』の文字が現れ、キャラ選択画面になってしまった。

げっ、乱入者か。しかも相手が選んだのは隠しキャラの【ナハト】。だとすれば相当やり込んでるに違いない。


『ラウンド1……ファイトッ!!』


でも、せめて1回くらいは勝たせてもらうッ!


…………………………

………………

………


『あなたとは、本当は戦いたくなかったって言ったら……信じた?』


敵のキャラが勝ち台詞を言う。


『YOU LOSE』


結果は敗北。当然と言えば当然か。

1戦目は…攻撃しても完璧に防いでくるわ、一度攻撃に転じたら反撃する間もなく撃破されるわ…酷いものだった。

でもって2戦目。これはまさに運の勝ちだった。1戦目と同じ試合運びで負けそうになった為、自棄になって適当にコマンドを押しまくってやったのだ。そうしたら……


『友よ、助けに来たぞ!』


……まさかの2号登場。でもって2人で空中に跳び上がり、


『『ファイター!ダブルキーック!!』』


超必殺技を放った。で、最も驚いたのは…ほぼMAXだった相手のHPゲージが一撃で0になったことである。……流石にチート過ぎやしませんか?制作スタッフの人。

そして最終戦…先程の技を警戒してか、相手の方がリミッターを解除したらしい。こっちの防御をガード弾きで崩し、すかさず空中へ斬り上げられる。そこから空中コンボ発動。HPゲージが0になるまで空中に浮いたままでした。

あ、ちなみに最後は超必殺技で殺された。HPが限りなく0に近くなってから放つとか…相当2戦目のアレがムカついたと見える。うん、まぁ気持ちは分かる。流石にあれはチートだと思ったし、謝っておくか。


立ち上がって相手の台の方へ歩いていく。

つか、何時の間にか俺たちが対戦してた台の周辺にギャラリーが集まってるんだけど……


「おい、見ろよ…あのにーちゃん。」

「あぁ、さっきクイーンを一回倒した奴だろ?」

「そもそもあんなキャラ初めて見たぜ。相当やり込んでるにちげーねー。」


その人達からそんな言葉が聞こえた様な気がしたけど、気の所為だと思うことにした。

ギャラリーの間を縫ってさっきの対戦者の元へ歩いていく。

台には紫がかった髪をした、どこかで見たことがあるような外見の女性が…って、


「お前かよ。」


思わずげんなりした声を出してしまう。


「え?……あ。」


俺の声に聞き覚えがあったのか、向こうもこちらを振り向き、間抜けな声を出す。


その女…月村忍は口をポカーンと開けて、俺を見上げていた。


…………………………

………………

………


「いやー、それにしても此処に藤見君がいるなんて想像もしてなかったよ。よく来るの?」

「いや、今回はたまたま暇だったから来てみただけ。普段は滅多に来ないな。」


あの後、ゲーセンを出た俺たちは、近くの自販機で珈琲と紅茶を買って時間を潰していた。

聞けば月村も、家にいても暇だったからゲーセンまでノエルに送って貰ったようだ。来たのは2時だと言ってたから相当遊んでいる事になる。


「えー?その割にはゲーム強かったじゃない。製作者がお巫山戯で作ったって噂の幻の隠しキャラまで出してたし。」

「あれは適当にコマンド入れたら偶然出ただけ。二度目は無理だ。」

「そうなの?なーんだ、出し方教えてもらおうと思ったのに。」

「そりゃ残念だったな。それよりどうする?もう帰るのか?」

「んー、どうしよっかなー……藤見君は?」

「俺?んー、まぁ暇だしな。5時までは遊ぼうかと。」


と言うか、折角久しぶりにゲーセンに来たのにあれ一回だけして帰るとか勿体無い気がする。次いつ来る気になるか分からんしね。


「そっか、じゃあ私も5時までいようかな。」

「じゃあって何だ。」

「気にしない気にしない。じゃ、遊び倒しましょうかー!」


俺の手を引っ掴んでもう一度中に入っていく月村。でもって連行される俺。

まず最初に行ったのはUFOキャッチャー。

様々な模様の猫のぬいぐるみが入ったヤツに目を付け、まず最初に月村がトライ。

1分後、難なく虎柄のをゲットしていた。

一方の俺は、狙っていた白猫をゲット出来ず、代わりにネコ○ルクっぽいぬいぐるみを取ってしまった。誰かにプレゼントしても笑顔で拒否られそうな代物な為、部屋に飾るしか無くなりそうな気がする。

試しに月村に押し付けようとしたところ、「うん、それ無理。」と素晴らしい笑顔で拒否してくれた。

お次はレースゲーム。

月村はこれもやり込んでるらしく自信満々。

バイクは無いのかと聞いたところ、隠しコマンドを入力して出してくれた。


「でも、バイクだと不利なとこ結構あるよ?大丈夫?」

「やってみれば分かるさ。」


結果は俺の勝ち。

「ふふん、免許保持者嘗めんな。」と言ってやったところ、俺の方を恨めしそうな目で見てきた。

そして今度は『ダンシング・リズム・エモーションX』と言うところに連れて行かれた。俺が音ゲー苦手なの分かってて連れてきたに違いない。

結果は言うまでもなく惨敗。コイツに勝つにはきっとフィアッセさん並みのリズム感と高町並みの運動神経がいると思う。

その後も何だかんだで楽しみながら、ガンシューティングゲームや、クイズゲーム、その他いろいろなゲームを遊び尽くし、気付いたときには既に5時を回っていた。


「あ”ー、遊んだ遊んだ。」

「勝負は忍ちゃんの勝ちだったけどねー。」

「む、そんな事言ってると乗せて帰ってやらないぞ?」

「え、送ってくれるつもりだったの?」

「何だよ、意外か?」

「うん、すっごく。」

「やっぱやめた。ノエルさんに来て貰え。」

「わー、嘘々。冗談だよー!途中まででもいいから乗っけてって下さい!」


背を向けて独りで帰ろうとする俺の腕をガシッと掴んで引き止めてくる。

その態度に少し笑ってしまいそうになりつつ、予備のヘルメットを月村に投げ渡す。


「んじゃ、しっかり掴まってろよー。」

「りょうかーい。」


ギュッと月村の手が俺の腹部に回されたのを確認して、月村邸へバイクを走らせた。










6月24日 PM17:38―海鳴市品野町―

リスティは現在…とある人物を影から護衛していた。

護衛対象の名は朝霧結。今日の朝ミイラとなって発見された朝霧勇次の結婚相手だ。


アンノウンがまだ生まれてもいない命まで狙うのか分からなかったが、もしかしたら狙われる可能性があるかもしれないと思い、リスティはこうして彼女の家の前に張り込んでいた。

3か月前に結婚したばかりで旦那を亡くしたのが余程ショックだったのであろう。彼女は、縁側に腰かけ生気の無い目で虚空を見つめお腹をさすっていた。

そんな時だ。彼女のすぐ近くに、ゼブラロード―エクウス・ノクティス―がヌッと姿を現したのは。

リスティはすぐ上着のポケットに手を突っ込み、予め呼び出しておいたセルフィの番号に電話を掛け、アンノウンの出現を伝える。


「シェリー!アンノウンが出た。G2とG3は出撃できるか?」

≪アンノウンが?!……ダメ、まだどっちも修理が終わってない!≫

「ちっ、だったら月村家に連絡して、G1に出動要請をしてくれ。」

≪分かったわ。リスティはどうするの?≫

「G1が到着するまでの時間稼ぎをする。」

≪大丈夫なの?≫

「あぁ、任せろ!」


通話を打ち切り、携帯を仕舞いながら女性の元へ駆ける。

ゼブラロードの姿は、女性からでは死角になっていて見えないのか、彼女は未だにその場を動かずにいた。


「っっ!?危ない!!」


リスティは朝霧結に向かって有らん限りの声でそう叫んで警告し、彼女とアンノウンの間に割って入った。


ブルルルルルルルルッ!


「警察です、逃げて下さい!早く!!」


彼女はゼブラロードの姿を目撃すると、ヒッ…と小さく悲鳴を上げ、裸足であることも構わずに一目散にその場から逃げだした。


ブルルルルルルル!!


「行かせないよ。お前なんかに…あの人も、これから生まれてくる新しい命も消させるもんか!」


追いかけようとするゼブラロードの前に立ち塞がり、行く手を阻むリスティ。


ブルルルルッ!!


荒い鼻息を吐き、怒りの声を上げるゼブラロード。


「舐めるなよ、アンノウン。打倒するのは無理でも…足止めくらいはして見せるッ!」


パァァァァァ!


背中に6枚の光の翅が展開する。HGSとしての力の象徴…リスティのリアーフィン『トライウィングス・オリジナル』だ。

そして、リスティは宙に浮かび上がり、ゼブラロードと対峙した。










6月24日 PM17:37―隆宮市 月村邸―


「ゴメンね、結局家まで送って貰っちゃって。」

「気にすんな、元々最後まで送ってくつもりだったんだからな。」


道中何のアクシデントも無く、月村を家へと送り届けた俺は、月村と別れの挨拶を交わして自宅へ帰ろうとしていた。

此処に来る途中に気付いたのだが、実は俺…昼飯食べてなかったりする。昼間はティオレさん来日の知らせでバタバタしてたし、ゲーセンに入ってからは空腹なんか忘れる程に遊びまくってたからなぁ。

ついでに言えば、4000円近く入れていた筈の財布の中には25円しか入っていなかったりする。幾ら何でも使いすぎなので、もし今度ゲーセンに行ったとしても自重しようと思う。……月村はいつもこれくらいか、それ以上がデフォらしいが。改めて金銭感覚の違いを思い知った瞬間だった。


「折角だし、お茶だけでも飲んで行かない?」

「流石に邪魔になるんじゃないか?時間的に言えば夕食だろ?」

「それもそうか、残念。」

「まぁ、また暇な時に呼んでくれりゃいいさ。じゃな、月村。」

「そうする。じゃあねー、藤見くーん。」


こっちに手を振ってくる月村に片手を上げることで返した俺は、その場から徐々に遠ざかって行った。

此処で何もなければ、至って平穏な休日になっていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。

月村の家のある隆宮市から海鳴市へ帰ってきて直ぐに、俺はアンノウンの存在を感じたのである。


「これは…原前町か!」

(リニス、聞こえるか?)

(えぇ、聞こえてます。…どうかしたんですか?)

(アンノウンが原前町に出現した。襲われている人の避難誘導を頼みたいんだが……)


即座に念話をリニスへ繋ぎ、事情を説明する。


(原前町…ですね?)

(あぁ、いつもみたいに俺の魔力辿って合流してくれ。)

(分かりました。)


リニスからの返事を聞き、俺はアンノウンのところへ急ぐためにギリギリまで速度を上げた。










6月24日 PM18:07―品野町 廃校―


「クッ!(やっぱり生半可な攻撃は通らないか。けど、大技を使おうにも…一瞬でも隙を作れば殺られる!)」


足止めは成功したものの、アンノウンは朝霧結を追うことを諦め、代わりにリスティを抹殺の対象と認識していた。

只の一度でも身に受ければ致命傷となるアンノウンの攻撃を、今まで培ってきた経験と己の能力を最大限に生かし、躱し続けていく。

しかし、何事にも限界がある。およそ30分もの間アンノウンの攻撃を紙一重のところで躱し続けて来たのだ。精神的な疲労も然ることながら、肉体的な疲労は最早限界に達しようとしていた。


ブルルルッ!


「しまっ!?」

一瞬衰えた動きを見逃さなかったアンノウンは、リスティの右腕を鷲掴みし、校舎へとぶん投げた。


「ガフッ!」


人外の力で壁に叩きつけられたリスティは、苦しげな声を上げて痛む肉体を奮い立たせようと必死に歯を食いしばった。

気力を振り絞り、眼前の敵を親の敵のように睨みつける。


ブルルルルル


意識を失う寸前…彼女が見たのは、自分の首を掴もうと腕を伸ばしてくるアンノウン――――


「はぁぁぁぁっ!!」


――――に向かってバイクによる突撃を敢行するG1の姿だった。


ブルァァァッ!!


ゴシャッという鈍い音と共に数メートルもの距離を吹っ飛ばされるアンノウン。

しかし、ダメージはそれ程ではないのか、すぐさま立ち上がってG1に向かって突撃してくる。

G1もビートチェイサーから降り、拳を構えてアンノウンを迎え撃つ。


ブルルルルッ!!


アンノウンの拳がG1の顔目掛けて放たれる。

それを右手で弾いて、左の拳でアンノウンの顔面にカウンターを喰らわせるG1。

更に、怯んだところへ右足から放った中段蹴りを炸裂させる。


ブルルルルゥゥッ!!

「なっ!?」


しかし、アンノウンはそれを持ち堪えた。しかも、驚くべきことにG1の右足を掴んで宙に放り投げたのだ。


「きゃぁぁぁぁ!!」


地面に落下したG1は胸部ユニットを強打し、損傷箇所から火花が散る。


「あ、くぅっ……」


G1は起き上がって再び戦おうとするが、アンノウンは情け容赦の欠片も無くその隙を狙って、さっきG1がダメージを受けた箇所へと蹴りを入れる。


「ぐ、ふっ!」

≪胸部ユニット損傷!バッテリー出力90%まで低下!さくら様!!≫


苦しそうな声を漏らしながらも、G1はアンノウンの腰へと蹴りを入れる。

起死回生のその一撃は、アンノウンを数歩後退させることに成功し、G1は体勢を立て直した。

すかさず反撃へと転じ、飛び膝蹴りを腹に喰らわせて一瞬体を宙に浮かせ、足が地面についたのとほぼ同時に右足を引く。

そして―――


ブルルルルゥゥ!!


―――渾身の回し蹴りがアンノウンの頭部を捉えた。

吹っ飛び、フェンスに激突するアンノウン。

これを好機と見たG1は、ベルトの赤いボタンへ人差し指を伸ばし、『マイティキック』を放とうとする。

しかし、その指は止められた。いや…止めざるを得なかった。


ブルァァァァァァァァァ!!!!


アンノウンが嘗てない程の叫び声を出し、辺りが段々と暗くなっていく。

何かが、起ころうとしていた。










6月24日 PM18:12―原前町―

G1が黒のゼブラロードと死闘を繰り広げているのと時を同じくして、凌も白のゼブラロードと対峙していた。


「変身ッ!!」


襲われていた人をリニスが逃がし、その場に残った凌は…変身ポーズを取ってAGITΩへと変身。


AGITΩ!


ゼブラロードへ戦いを仕掛けた。


ブルルルル!

「ハァァァ!!」


横薙ぎに振るわれた左腕を回避し、AGITΩはゼブラロードのボディへと拳を振るう。

一瞬よろめいたゼブラロードだったが、瞬時に体勢を立て直して反撃に移る。今度は右腕を振り下ろし、AGITΩの肩を狙う。

ゼブラロードの狙いに気付いたAGITΩは、それを左手で払い除け右の手でアッパーを喰らわせ、次いでキックを見舞う。


ブルルルル!!


堪らず吹っ飛ぶゼブラロード。

そのチャンスを逃すまいと、AGITΩは自身のクロスホーンを展開。

足元に紋章を出現させ、一気にトドメを刺そうとした。

しかし、その時…異変が起きた。


ブルァァァァァァァァァ!!!!


突然ゼブラロードが咆哮したのだ。

するとどうしたことか、まだ太陽が完全に沈んでいないのにも関わらず、辺りを暗闇が包み始め…霧まで発生してくるではないか。


「なっ!?」


思わず驚きの声を漏らすAGITΩ。

アッという間に辺りは暗闇と霧によって覆われ、AGITΩはその視界を奪われる事となった。

偶然か必然か…それは、品野町でG1達と戦っている黒のゼブラロードが咆哮した時と全く同じ時間に発生した。










6月24日 PM18:15―品野町 廃校―


「そんな……」


G1は困惑していた。

いや、この場にいる全員が…と言い直すべきだろうか。

日が沈んでいないのにも関わらず、辺りを包んだ暗闇…まるで今が深夜なのではと勘違いしてしまうような真っ暗闇だ。

だが、真に彼女らを混乱させていたのは、恐らくこの異常事態の現況であるアンノウンの姿を、全く捉えられないことだった。

単なる暗闇であれば、G1は何の問題も無く敵を発見…攻撃を仕掛けることができる筈だった。


「駄目、アンノウンを発見できない。ノエル、そっちは?」

≪センサーにも反応なし。……逃げたのでしょうか。≫

「これだけの能力を逃亡に使う?確かにありえないとは言い切れないけど……ッ!あぐっ!?」

≪ッ!?さくら様!どうしたんですか?!≫

「いきなり、攻撃が……」


驚くべき反射速度でアンノウンの攻撃に対応したG1であったが、完全には防ぎきれず、右腕にダメージを負った。


≪なッ!しかし、センサーには何も!?≫

「ガッ!?ゴホッ!こ、今度は…前?冗談でしょ、全く見えなかった。」


腹部に攻撃を受け、地面を転がるG1。しかし、依然アンノウンの姿は見えなかった。


≪さくら様…これは……≫

「姿を、消してる。でも、まさかG1の性能でも捉えられないなんてッ!ぐっ!?」


姿が見えないのを良い事に、アンノウンはG1へと攻撃を続ける。

G1は、己の直感を頼りに何とか致命傷を負わずに済んでいるが、着実にダメージを負い…バッテリー出力が落ちてきていた。


「くうっ!」

≪バッテリ出力、60%まで低下!さくら様、これ以上は!≫


アンノウンの猛攻撃により、G1は右肩の装甲が外れ、その他の部位にもダメージが蓄積されて行く。

このままではジリ貧になると考えたさくらは、ノエルにある提案をした。


「はぁ、はぁ…ノエル……『ペガサス』を使うわ。」

≪!?……危険すぎます!忍お嬢様の説明によれば、『ペガサス』の活動時間はバッテリー出力最大時でも90秒が限界…今の60%なら動けても約40秒しかッ!≫

「現状打てる手はそれしか無いわ。この状況を打破するには、忍が太鼓判を押すくらいの索敵機能を持った『ペガサス』に賭けるしかないのよ。」

≪しかし……≫

「忍の作ったG1と私を信じなさい。大丈夫、必ず勝つわ。」

≪……分かりました。≫


ノエルを説き伏せ、さくらはベルトに指を持っていき、そこに付いている緑のボタンを押した。


≪Change Pegasus Form≫


電子音声がベルトから流れ、直後…G1の体の色が赤から緑へと変わる。

『ペガサスフォーム』へフォームチェンジが完了すると共に、G1の頭部に搭載された…高性能なセンサーの数々が一斉に起動。

見えない敵の姿をさらけ出そうとフル稼働する。


「見つけた!」


数秒後、センサーの一つがアンノウンの姿を捉えた。

アンノウンはG1の左側面で腕を振り上げ、攻撃の姿勢を取っていた。

G1はそんなアンノウンへ足払いを仕掛け、転倒させる。

自分の位置がバレているとは毛ほども考えていなかったアンノウンは、簡単にバランスを崩した。

その隙に、G1はビートチェイサーのところまで疾走し、新たに搭載された『ペガサスフォーム』専用武装、『ペガサスランチャー』を取り出した。


≪バッテリー出力30%!急いで下さい!≫


ノエルの警告を聞きながら、さっきアンノウンがいた場所へ振り返り、その姿を探す。

アンノウンは、さっきのがマグレだと思っているのか…呆れるほど無防備にG1に向かって突進してきていた。

G1は左手でペガサスランチャーを構え、右手でベルトの緑のボタンを押す。


≪Charge Up≫


電子音声が流れ、エネルギーが腕を伝ってペガサスランチャーへと送られる。


ブルルルルルル!!


≪Full Charge≫


エネルギーの蓄積が臨界に達し、バッテリー出力が低下する。

G1はランチャーを構え、十分に狙いを定めてから…そのトリガーを引いた。


発射された弾丸は真っ直ぐに飛び、命中。


ブル、ルルルゥウウ!!!


G1のエネルギー総量の約半分を込めた弾丸をその身に受けたアンノウンは、頭に光の輪を出現させて爆発した。


同時にG1も、バッテリーの残量が0となり、装甲の色を白へと変えてその場にへたり込んだ。

まさに、さくらの忍への信頼と、彼女の決断力の勝利であった。










6月24日 PM18:17―品野町 廃校―


「チィッ!離れろ!」


感覚が驚異的に強化されるフレイムフォームに覚醒した凌にとって、視界を奪われたのはそれ程痛くないはずだった。

しかし、流石にアンノウンも学習しているようで、AGITΩがフォームチェンジをしようとベルトに手を持っていくと、悉く腕にしがみついて来て妨害してくる。

AGITΩは一旦距離を離して、何とかフレイムに変わろうとするが、思うように距離を開けられない。


ブルルルルルッ!!!


「このっ!又か!!」


またもしがみついて来たゼブラロードを振り解く。

しがみついて来たところを攻撃すれば……とも思ったが、いまいち決め手に欠けた為に却下せざるを得なかった。


「ぐっ!しまっ!?」


姿が見えないため、背後に回られたことに気付かず、AGITΩは首を絞められてしまう。


「こ、のッ!」


苦し紛れに肘鉄を喰らわせるが、いまいちダメージを与えられない。

逆に突き飛ばされ、地面に投げ出されてしまう。

すぐに起き上がろうとしたところへ、姿を消したゼブラロードはAGITΩを踏みつけ地面に這い蹲らせる。


「ぐ、う……」


思い切り踏みつけられ、起き上がろうとしても起き上がれないAGITΩは、どんどん体力を消耗して行く。


「ア、 ギッ!」

「凌!!」


そんなAGITΩの危機を救ったのは、彼のパートナーであるリニスだった。

AGITΩがアンノウンに踏みつけられているのを悟ったリニスは、姿が見えないにも関わらず、フォトンバレットを倒れているAGITΩの上目掛けて3発放ち、そのうちの一つが見事アンノウンを捉えた。

吹っ飛び、壁に激突するゼブラロード。

それを好機と見たAGITΩは、即座に立ち上がって後方へ大きく跳躍し、ベルトの右のドラゴンズアイを叩いて、フレイムフォームへと形態を変える。

賢者の石が赤く染まり、光を放つ。

そこに右手を持っていき、フレイムセイバーを引き抜く。

装甲の色が赤に変わり、右肩にプロテクターが装着される。


「………………」


AGITΩは、神経を極限まで研ぎ澄まし、敵の位置を探る。


シャカンッ!


握ったフレイムセイバーの鍔の装飾を開かせ、6本角に変化させる。

フレイムセイバーの刀身から凄まじい熱が放出される。


「……………ッ!!」


敵の位置を攫んだAGITΩの行動は迅速だった。

振り向きざまにフレイムセイバーを一閃。

背後から首を狙おうとしていたゼブラロードは、上半身と下半身を真っ二つに切断され、爆散した。

そして、アンノウンを倒したAGITΩは、リニスと共にその場から去っていった。





そこから遥か離れたビルの上…倒され、消滅したゼブラロードのいた場所を、オーヴァーロードは詰まらなそうに見つめていた。










おまけ―解説―

補足説明①:今回出てきたアンノウンの特殊能力について

完全なオリ設定。
低格のロードは単独使用不可能。
今回ゼブラロードが使えたのはオーヴァーロードが気まぐれに力を貸した為。


補足説明②:気絶したリスティ

ノエルたちが警察まで運びました。
ついでに言うと、意識が回復したらセルフィによるお説教が待ってます。


以上。他にも気になったことがあれば感想で言って下さい。出来る限り答えます。















後書き
どうも、久々の更新で皆様に忘れられていないか心配ですが、何とか34話投稿です。
書いても書いても気に入らず、何回も書き直した結果がこの話です。それでも納得のいかないところは多々あるんですけどね。これでも大分マシになった方なんですよ、はい。アンノウンの特殊能力については…ノリと勢いの結果としか言えないです。(ペガサス出すにはコレしか思いつかなかっただけ。)まだ忙しい日々は続きそうなんで更新遅くなるかもですが、気長に待っていただければ幸いです。

P,s,次の話は【IFゆうひEND】にしようと思うんだけど……どう思う?



[11512] 迷い込んだ男 第三十五話 「ティオレ・クリステラ」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:d2657d4d
Date: 2010/05/04 02:15
7月4日 AM9:00―月村邸―

7月になり、ジリジリと照りつける太陽の光が増々強まってきた今日この頃…俺・高町・赤星・月村の4人は、月村の好意によって彼女の家の一室を借り、そこに少しばかり大きめの机を置いて部屋のほぼ中心に陣取っていた。

冷房の聞いた部屋で、その机を囲んで筆記用具と教科書・ノートを広げていなければ非常に快適な日曜日を過ごすことができるだろう。しかし、そうは問屋が卸してくれない。何故なら今日は1学期期末考査の前日…つまり、俺たちはこうして集まって明日から始まるテストに備えての勉強会を始めようとしているところなのである。


「あ~あ、メンドくさいなぁテストなんて。」

「…全くだ。」


しかし、同じ目的のために集まった4人の中にあって、ぐで~っとしてやる気の欠片も見当たらないやつが2人。4人組の紅一点である月村忍と、生身での戦闘能力No.1の高町恭也その人らである。ちなみに、2人とも赤点候補。

ったく、誰の為に勉強会を開いてると思ってるんだろうかこの2人は。実を言えばこの勉強会、もう毎年毎回テストの前になれば必ずと言って良い程開いているのだ。原因は勿論先に上げた2人の成績に起因している。

高町は居眠りの常習犯で、どの授業も精々1/3聞いていれば良い方な為に総じて成績が良くない。例外と言えば現国と古典くらいのもので、それ以外は常に赤点擦れ擦れの点数を取り続けている。

月村はと言えば、物理、化学、数学などの理系教科は問題ないどころか何も勉強せずとも満点を叩き出せる程の学力の持ち主なのだが、如何せん文系科目が壊滅的だったりする。(コイツは文系の授業は一つの例外もなく熟睡している為、当たり前といえば当たり前だが。)

ってな訳で、この面子の中で1番好成績、且つ若干理系のほうが得意な赤星が高町を担当。そして、文系の方が得意な俺が月村を担当。これが2年の頃から確立されている2人の赤点回避の為の必勝の布陣なのである。

さて、何時までもこのままという訳にもいかないので、現在進行形で「勉強だりー」な雰囲気を漂わせている2人に対し、勿体ぶらずにさっさと切り札を発動させるとしますかね。

赤星の方に顔を向け、目と目を合わせてアイコンタクト。そして、次の瞬間…俺と赤星は2人に向かって必殺の一言を言い放った。


「「やる気が無いのなら教えないぞ?まぁ、その場合は赤点確実で夏休みが補習に消えるだろうけどな。」」

「「すいませんでした!もう文句とか言わないから勉強教えてください!!」」


よし、これで漸く本格的に勉強会を始められるというものだ。いや、まぁ本当に大変なのは寧ろこれからなんだけどな……。


「じゃ、早速だけどまずはコレを解いてみてくれるか?」


そう言って赤星が鞄から取り出したのは、1枚に20問の問題が書かれた俺と赤星が作った小テスト。(全教科)

現国、古典、歴史、英語W……と、1枚ずつ順々に2人に回していく。


「はー、じゃあやるか。」

「そだね、今回は絶対に補習避けなきゃならない理由もある事だしね。」


2人がそう言ってシャーペンを持ち、問題を解き始めたのを確認して、俺と赤星も自分たちの勉強を始める。実質、俺たち2人が今日テスト勉強出来る時間は月村たちが今みたいに問題を解いている間しか無い為、例え1分1秒でも無駄は出来ないのだ。

俺と赤星はこの2人と違って1週間前から計画立てて勉強していたから、教科書の見直しや1度やったワークの解き直しをするだけでいい為、それほど時間もかからない。大体4時間もあれば全範囲を復習することができるだろう。

現時点でも、最低60点は堅いと思っている。そんな訳で、俺は赤星と互いに問題を出し合いながら、2人が小テストを終えるまでの時間を過ごした。



―約1時間後―



2人が解いた問題の解答を見て、唖然としてしまった俺たちは悪くないと思いたい。(勿論、答えが完璧すぎて唖然とした訳ではないことを先に述べておく。)



2人の解答例


現国:問題 四字熟語『羊頭狗肉』の意味を答えろ。

高町恭也の答え
『見掛けは立派だが、本質がそれに伴わないことの意』

赤星勇吾のコメント
正解。流石にコレくらいは分かるか。

月村忍の答え
『頭が羊で肉(身体)が犬であるという意味』

藤見凌のコメント
……そんな生き物は存在しない。


古典:問題
『若紫』に出てくる一節、「ここに【はべる】ながら、御とぶらひにもまうでざりけるに……」この文の中にある【】を正しい活用形に直せ。

高町恭也の答え
『はべり』

赤星勇吾のコメント
正解だ。一応サービス問題だし簡単だったか?

月村忍の答え
『はんなり』

藤見凌のコメント
活用形を聞いているのに、返ってきた答えが京都弁とは…清々しいほど明後日の解答だな。


日本史:問題
340万部を超える大ベストセラー『学問のすゝめ』を執筆し、慶応義塾を創設した偉人の名を答えろ。

高町恭也の答え
『1万円の人』

赤星勇吾のコメント
その認識はあんまりだと思うぞ。

月村忍の答え
『副沢諭吉』

藤見凌のコメント
おしい。正しくは『福沢諭吉』だ。漢字間違いで減点は勿体無いから気を付けた方が良い。


数学:問題
次の等式を数学的帰納法を用いて証明せよ。1+2+3+……n=1/2n(n+1)……① (但し、nは自然数とする)

高町恭也の答え
①式は正しいことをここに証明します。

赤星勇吾の答え
メンドくさいからって適当な答えを書くな。

月村忍の答え
[証明]
(1)n=1のとき、左辺=1  右辺=1/2(1+1)=1 よって、n=1のとき①が成り立つ。
(2)n=kのとき①が成立すると仮定すれば、1+2+3+•••+k=1/2 k(k+1) ……② ②の両辺にk+1を加えると1+2+3+•••+k(k+1)=1/2k(k+1)+(k+1)=k(k+1)+2(k+1)/2=(k+1)(k+2)/2
(1),(2)より、すべての正の整数nについて①が成り立つ。

藤見凌のコメント
正解。てっきり途中で投げ出すだろうと思ってしまった俺を許して欲しい。


英語W:問題
次の英文を訳しなさい。「Ann’s birthday cake is being made by her mother now.」

高町恭也の答え
『アンの誕生日ケーキは今彼女の母親になっているところだ』

赤星勇吾のコメント
ケーキが母親になるという意味をもう一度良く考えてみてくれ。

月村忍の答え
『アンの母親は誕生日ケーキによって今制作されているところだ』

藤見凌のコメント
正解・不正解の前に、せめて文章がおかしい事に気がついてくれ。


他にも様々な珍解答がまだまだあるが、それらをすべて紹介しているとそれだけで大幅な時間のロスになるので割愛する。


「おい赤星、どうする?いつも以上に酷いぞ今回。」

「あぁ、俺もまさかここまでとは思ってなかった。」

2人の珍解答を見ながら、互いに冷や汗が流れるのを感じる俺たち。

月村は理系の成績が異常に良いのが唯一の救いだな。今日一日文系の勉強に専念すれば、最低でも50点は取れるようになる…筈。恐らく、きっと、多分。問題は高町の方だが…まぁあっちも大丈夫だろ。何せ赤星は中学の頃から高町に勉強教えており、今まで高町に平均点擦れ擦れの点数をキープさせてきた実績があるのだ。恐らく今回も何とかしてくれる…筈。

とある問題があって今回ばかりはこの2人に赤点を取らせるわけにはいかないのだ。(今は余裕が無いため、その理由はこの勉強会を終え、試験が終了したときに話すことにする。)

だからこそ、俺と赤星はこのままだと赤点取って補習ルート直行が確実な2人を救うため、最悪徹夜する(させる)覚悟でそれぞれの担当に別れて勉強を教えていった。










第35話「ティオレ・クリステラ」









6月27日 PM16:30―翠屋―

その日、翠屋には大勢の人が訪れていた。高町家の人達は言わずもがな全員がその場にいて、他には赤星・月村・那美ちゃんの姿が店内にあった。

最後に来た俺の姿を確認すると、桃子さんがこほん、と咳払いをして…この場に皆を集めた理由を話し始めた。

やはりと言うべきか、話の内容は近々行われる予定のチャリティーコンサートについてだった。まぁ、俺はフィアッセさんから聞いてたからそこまでの驚きはなかったが、他の面々
…特に月村の驚きっぷりが半端じゃなかった。

実は月村、熱狂的なSEENAのファンではあるのだが、毎回チケットがとれない為…今まで一度しかSEENAのコンサートに行ったことがないのだと言う。

コイツほどの金持ちなら、あの手この手でチケットを手にいれる事も出来ると思うのだが、それはしないらしい。そもそもそんな発想がコイツの頭の中にあるのかどうかさえ疑わしいものだ。

閑話休題、今回集められたのは…そのコンサートへの参加・不参加を決めるものらしい。チケットの方は、どうやらティオレさんが人数分手配してくれるらしく、折角だから…と言うことで特等席を用意してくれるそうだ。ちなみに月村は当然参加。いの一番に手を上げて、参加の意を示した。用事があってここに来ていない人たち(さくらさん・ファリンちゃん・ノエルさん・すずかちゃん・アリサちゃん・リニス)にも連絡をとり、参加したいかどうかを、確認していく。…結果は、全員参加。

久遠もどうにかして一緒に連れて行きたかったのだが…害のない子狐であるとは言え、動物をコンサートホールに入れるのはマズイだろうし、久遠の人間フォームはいろいろと問題があって今回は使えない(耳と尻尾を隠せないため)。その為、泣く泣く諦めてもらうことにする。久遠には悪いが、中継もあるし、ビデオも出るらしいからそれで我慢してもらうしかないな。

とまぁ、こんな感じでコンサートの参加・不参加の確認は終わり、後は帰るだけだろうと思い…鞄を持って立とうとする。

しかし、そんな俺の行動は桃子さんの放ったある一言によって、止めざるを得なくなった。


「ゆうひさーん、みんな見に来てくれるみたいよー?」


厨房に向かって桃子さんがそんなことを言う。

すると、数秒後…翠屋の厨房から今をときめく『天使のソプラノ』、SEENAこと椎名ゆうひさんが現れた。



…………さ、サプライズにも程があるぞ。



桃子さんの計らいによるものなのか、この事は高町たちも知らされてなかったようで、士郎さんを除いた全員があまりに予想外な出来事に固まっている。

赤星も、これは予想外だったらしく完全にフリーズしている。

那美ちゃんは同じ寮に住んでるだけあって驚いてはいないが、それでも彼女がここにいることに対して疑問を持っているらしく、小首を傾げていた。

一番酷いのは月村だ。いきなり目の前に本物のSEENAが現れたりしたものだから、「え?え?えぇぇぇ?!」と、軽いパニックに陥ってしまっている。

俺?驚いてはいるよ?混乱はしてないけど。これが初対面ならそれこそ月村以上に混乱するところなんだろうが、生憎それは1年ほど前に通過している。バイトしてる時にお客さんとしてSEENAが来たもんだから、ものの見事なまでに混乱したのだ。俺の人生における黒歴史の中でもTOP10に入っている出来事なので思い出したくない。


「そかそかー、みんな、聞きに来てくれるんかー。」


そんな皆の様子に気付いているのかいないのか、ニコニコと笑顔を浮かべたゆうひさんはカウンターの席に座り、俺たちの方を見てきた。

そこで漸く皆も元に戻る。……例外が一人だけいるが。


「し、SEENAさん!さ、ササ、サインください!!」


おぉう、いつもの月村からは想像もつかん上がりっぷり。

ガチガチに固まりながらゆうひさんにサインをお願いしている月村。緊張のせいか、それとも憧れの人物に出会えた興奮か、頬を上気させている。


「サインかー、ふむ…ええよええよー。何に書いたらええかな。」

「あ、えっと…じゃあコレで!」


そう言って月村が鞄から取り出したのはSEENAのアルバムだった。何で持ってるんだというツッコミはしないでおこう。


「ん、そんじゃちゃちゃっと書いてまうからちょー待っといてな?」

「は、はい!」



この後も暫くの間、月村のハイテンション且つ暴走気味な行動は続いたが、それをすべて語るとなると膨大な時間がかかることになる為、ここでは割愛することにする。



「しかし、海鳴公演の初日は、めっちゃ凄いでー。」


月村のテンションも漸く平常時よりやや高めくらいに治まった頃、ゆうひさんがそんなことを言った。


「校長先生……あ、フィアッセのお母さんな?……『世紀の歌姫』ティオレ・クリステラの復活…そして、英国じゃ話題の、クリステラ二世の……初の親子共演……あと、アメリカで大人気のアイリーン……ハリウッド映画で主演までしたエレン…それから、フィエッタ・アルフィニア賞受賞のティーニャ……他にも、たくさん!…おぉう、大スターたちの大共演やん♪」

「ゆうひさんも、大スターですよね。」

「ああ、う、うちは全然……」


月村の何気ない一言に照れるゆうひさん。


「ゆうひさん、その人達みんな…ソングスクールの卒業生さん達なんですか?」

「そや♪」


那美ちゃんの言葉を、笑顔で肯定するゆうひさん。そして、ゆうひさんは士郎さんに出されたコーヒーを静かに口に運び……


「…でも……スクールの卒業生は、みんなたいした歌手やけど…ほんまに凄いんは…やっぱ、フィアッセ。……魂を競い合う…ううん、競い合う…はちゃうかな…並べ合う…そんな、うた歌いたちの中で…校長先生とフィアッセは…ちゃうねん。」

「…………………」


思わず、ゆうひさんの言葉に聞き入ってしまう。


「タイプは、全然違う。…校長先生の魂は、聞く人の心を撃ちぬくような…突き刺さるような……そやけど、めっちゃ優しい感じなんやけど…フィアッセの、舞台での本気の歌……聞いたこと、ある?」


聞かれてみて気付いた。そういえば、フィアッセさんの歌を舞台で聞いたことは一度もなかった。

それは付き合いが長いはずの高町たちも同じようで、首をフルフルと左右に振っていた。


「あれは…ほんまに凄いよ……泣けるんやけど…不思議なくらい優しくて…めっちゃ暖かいねん……感動して泣くんは、よくあるけど…嬉しくて、優しくて泣いたんは…うちは、あれが初めてやった。」


……………歌い手の……魂。

フィアッセさんも、ゆうひさんの魂を暖かい気持ちでいっぱいの綺麗な魂だと言っていた。人それぞれに違う魂がある。そして、ソレがずば抜けて綺麗だから…どこまでも優しい魂を持った人たちだからこそ、彼女たちの歌は聞いている人の胸に響くんじゃないかと…ただ漠然と、そう思った。


「でも、ゆうひさんの歌も…思いっきり優しくて、甘くって嬉しくって……私、大好きですよ。」

「おお、おーきにーー♪あはは、うちは性格がダダ甘やからなー。」


そう言って、ゆうひさんは笑っていた。










7月11日 AM:10:00

とまぁ…そんな事があって、チケットがフィアッセさんによって手渡されたのが更にその2日後。問題だったのは、そのコンサートが開かれる日程が夏休み突入後の4日後だったって事だ。お蔭でいつもよりも更に力を入れて、2人に勉強を教えることになってしまった。

ま、以上が俺たち4人が冒頭で必死になって勉強していた理由になる。

ちなみに、気になるテストの結果だが…俺と赤星が自己採点した結果、何とか2人は赤点を回避しているのが分かった。これで晴れて夏休みを存分に謳歌できる権利を勝ち取った事になる。

それにしても、原作から乖離し過ぎてるからどうなるか分からないけど…コンサートを中止させようと妨害が入るかもしれないんだよなぁ。そんな時に高町が補習で護衛に行けなくなったりして最悪の事態になったら目も当てられない。そう考えると赤点回避できてマジで良かったと思う。いやまぁ、高町のことだから補習サボってでも行くだろうから杞憂っちゃ杞憂なんだろうけども。


で、そんな俺たちが今何をしているのかと言えば――――――


「……さ…みんな、行くわよ。」

「…えへへ、ママと買い物なんて久しぶり♪」

「アイリーン、あなたもいつも男の子みたいな格好をしてないで…少しは娘らしい格好をしたら?」

「うぅ…スカートとか、苦手なんですよ…」

「んー、ほなら…うちはどれにしよっかなー♪」


――――――世界規模の有名人たちと近くのデパートに買い物に来ていた。

勿論、俺だけが誘われたわけじゃなく…ティオレさんと旧交のある高町家の人達も一緒に、である。世界的な有名人4人と買い物……高町達がいなかったらこっそり逃げ出してるところだ。あと、本来はここに友人である赤星と月村も加わる筈だったのだが…何でも2人ともどうしても外せない用事とかで来れなかったらしい。

ティオレさんとは、今日が正真正銘初対面だったのだが……


「あなたが凌くん?フィアッセからあなたのことはよく聞いてるわ?何でもフィアッセのすk……モガモガ。」

「ま、ママ!?いきなり何を言おうとしてるの?!」


ティオレさんの方は、フィアッセさんから俺のことは聞いていたそうで、そんな風に冗談を交えながらも気さくに接してくれた。だから多少緊張はしたものの…その物腰や態度のお蔭でガチガチになることもなく比較的自然に接することができた。


「…美由希となのはにも、プレゼントするから…選ぶといいわ。」

「あ、でも……」

「いいから、いいから。」


ティオレさんの申し出に対して、遠慮して断ろうとした美由希ちゃん。そんな美由希ちゃんに、フィアッセさんが少し強めの口調でそう言った。


「さ、美由希もなのはもこっちにいらっしゃい。……選んであげる。」

「ママ、少女時代にあんまり服とか貰えなかったから…だから、可愛い娘には綺麗な服を着せてあげるのが、楽しみなんだって。」

「そうよ。だから、遠慮なんてしないで頂戴?」

「えと…じゃ、そういうことなら」

「はいー。」


美由希ちゃんが、少し遠慮がちに了承し…なのはちゃんはティオレさんに抱きついて元気に返事を返した。


「それに、恭也や凌くんもね…特に、恭也はそんな黒ずくめな服ばかりじゃなくて…少しはお洒落するといいわ。」

「……黒が好きなんです。」


ティオレさんがそう言いたくなるのは痛いほど分かる。高町の私服は…二年前から見ているが、夏服だろうが冬服だろうがほぼ全てが黒で統一されているのだ。黒が好きなのは分かるのだが、もう少し明るい色の服も持っているべきだと思うぞ。


「リョウー、こんなのどうかな?」


ティオレさんが色々と服を持ってきて半ば着せ替え人形になっている高町を眺めつつ、服を物色していた俺にフィアッセさんの声が聞こえた。

声の聞こえた方を振り向くと、そこには淡い緑色の服を着たフィアッセさんが立っていた。正直、見惚れた。その服が、フィアッセさんの清楚なイメージにピッタリ合っていて…とっさに言葉が出てこないほどに目を奪われた。


「どう、かな。」


もじもじしつつ、俺に意見を求めてくるフィアッセさん。その仕草がまた可愛くて、俺は…どぎまぎしながらも正直な感想をフィアッセさんに伝えた。


「えっと…ですね……あー、すっげぇ似合ってます。お世辞じゃなく本当に。」


そんな俺の言葉に、フィアッセさんが「あ、うん!ありがとう!」と言って喜んでくれたのが、少し嬉しかった。










7月11日 AM:13:00

デパートで買い物を済ませ、ついでに昼食も外で済ませた俺たちは桃子さんの勧めもあって、高町家にお邪魔することになった。


「じゃ、水撒き…開始―!」

「うおっ、冷た!フィアッセさん、掛けないでくださいよ!」

「あはははーー♪」


フィアッセさんは、買ってもらったばかりの服が水に濡れるのも構わず、はしゃいで庭に水をまく。


「ふふ…子供の頃から、あの子はいつもこうね…」

「先生に似て、悪戯っ子です。」

「あら、私がいつ悪戯なんて?」

「…うそや……先生、嘘つきや。」


縁側に腰掛け、子供のようにはしゃぐフィアッセさんを眺めるティオレさんとゆうひさん、アイリーンさん。巫山戯あっている3人を見ていると、スクールの教師と生徒…と言う関係よりも、気さくに会話が交わせる仲の良い友人のような関係だと思った。


「あははははは♪」

「フィアッセさーん!写真、とりますよーーっ!」

「はーーいっ!」


なのはちゃんが士郎さんからカメラを渡してもらい、楽しそうに水撒きをしているフィアッセさんの姿を写真に収める。

……そうして…。

ゆっくりと、日々が過ぎていく…。

…楽しくて、穏やかな時間。

気がつけば、日が沈みかけていた。

最初に、ゆうひさんが…「あ!もうこんな時間。はよ帰らな耕介くんのご飯みんなに食べられてまうー!」と言って帰ったのを皮切りに、アイリーンさんもマンションへと帰っていった。フィアッセさんは、ティオレさんが日本に来てからは…ティオレさんが泊まっているホテルで一緒に生活しているらしく、車でそのホテルまで帰っていった。

ティオレさんは、この後テレビ局の人たちと打ち合わせがあるらしく、近くの待ち合わせ場所まで歩いていくらしい。俺も、そろそろ帰ろうと思い…庭に置かせてもらっていたバイクを押して、高町の家から出る。


「あれ?」


門を出ると、そこにはティオレさんが立っていた。


「凌くん……少し、話をしたいのだけれど……」

「へ?俺に、ですか?」

「えぇ、待ち合わせ場所に着くまでの少しの時間だけ…退屈な話に付き合ってくれないかしら。」

「…………?えぇ、まぁ俺は構いませんけど。」

「ありがとう。それじゃあ、歩きながら話しましょうか。」


ティオレさんは杖を曳きながら…それでも、しっかりとした足取りで歩いていく。それについて行きながら、俺はティオレさんの話に耳を傾けた。


「私の生まれたところはね…丁度、戦争の最中で……医者も薬も、まるっきり足りなかったから……家族はみんな、病気で亡くなってしまって…私の身体にも傷跡を残したのね。」


ティオレさんは混血で……中東で、その幼少期を過ごしたのだと言う。実際経験したことの無い俺には分からないことだが、戦争中だったのだと言うことだから…相当酷かったのだろう。


「………子供が、ずっとできなかった。」


悲痛そうに告げられたその言葉……前世でも、そして今でも…知識として恐ろしいと知っている戦争の悲惨さを初めて身近に感じた。


「うたを歌い始めたのは…そうでもしないと、食べていけなかったから。うたを歌って…少しばかりの食料を、憐れみで分けて貰って…12の時に、エヴァンに救ってもらって…イギリスに渡って……」


エヴァン……。本名は、エヴァーグレイス・M(マギウス)・ノアさん。

確か、アイリーンさんの祖母で……現在の国際救助隊の偉い人だとフィアッセさんから聞いたことがある。


「歌うことしかできなかったから…。歌って、歌って……それで40を過ぎて…。やっと、不妊治療の手立てが見つかって……それで、漸く…あの子が生まれたの。…その辺りのことは……」

「あ、フィアッセさんから…少しだけ。」


ホントに少しだけだけど、その辺りのことはフィアッセさんが教えてくれていた。


「そう……私の命は、もう…いつ終わるか分からないけど……」

「……いつ終わるか分からないって…?」

「少しずつだけど…身体が弱ってきてるの。だから、このツアーを終えたら、もう……少なくとも、歌を思いっきり歌えるだけの体力は無くなると思うわ。今、こうして元気に見えるのは…その為の治療を受けているからだもの。」


とてもそうは見えない…けれど、それが嘘でも冗談でも無いことを証明するように…ティオレさんの表情はどこまでも真剣だった。


「……残り少ない命なら……ゆっくりと費やしてくより、最後に、自分が生きた証を残して……思い残すことなく…笑って死にたいの……」

「………………………」


優しく、静かな目。


「…正直、生きるだけ生きたし…もうあまり、未練はないの。…だけど、今度のツアーは、私の…夢の一つ……世界中を回って、思い切り荒稼ぎして…それをみんな、医療基金にしてしまうこと……それから、私のスクールの教え子たち………私の技術を…培った全てを、受け継いでいってくれる娘たちとの…恐らく最後のパーティ。そして…私の命と、魂を継いでくれる娘と…一緒に歌う事。」


そう言ったティオレさんの微笑みは……どこまでも優しくて。そして、少しだけ儚かった。


「ごめんなさい……あなたには、知っておいて欲しかったから。」

「あの、聞いて…いいですか?」

「えぇ、何かしら。」

「何で、俺にそんな事を話してくれたんですか?」

「ふふっ、さぁ…何でかしらね?」

「……?」


そのまま明確な理由がわからないままに、テレビ局の人との待ち合わせ場所についてしまった。


そして、別れ際……ティオレさんは俺にこう言って、ハイヤーに乗って去っていった。


「…フィアッセには、内緒にしてね?あの子の歌は……優しい歌だから…母親と歌う、最初の舞台への……希望に溢れた心で、いさせてあげたいの。」


何で、ティオレさんがさっきの話を聴かせてくれたのか分からない。けれど、今回のコンサートは…例え何があっても、何が起こっても…成功させなければならないと思った。ティオレさんの夢、フィアッセさんの…母親と同じ舞台にたって歌えると言う希望。ソレが叶えられないのは嘘だと思った。

もしも、コンサートを中止させようなんて悪意を持った輩がいるのなら…それが何者であろうとも、俺の全てを懸けて防いでやろうと、そう思える程に俺の心にティオレさんの話は響いた。











7月11日PM11:52―???―

もう日が変わろうとしている深夜、一人の女と金髪の男がその場にいた。


「今度の仕事は…これか。」

「ああ……頼むよ。」

「………気の進まなそうな仕事だ…」


おんなは、依頼の紙を受け取ると…顔を顰めた。言葉通り、乗り気ではない様だった。


「あんたは、コンサートの直前に…現場に行って、クリステラ親子が歌えないようにしてくれれば、それでいい…」

「…たかがコンサートの中断に……わざわざ、私を使う必要があるのか…?」

「このコンサートの収益を知っているかい?……チャリティで、莫大な金が動く…また、あのティオレって婆さんは、買収の類が通じないしな。…そんなわけで……いろいろと、このコンサートが行われちまうと…損をする人達がいるのさね。」


男は忌々しげに言葉を吐き捨てる。


「………私には…関係の無いことだ。…それよりも……」

「ふん、わかってるさ…『龍』のことだろ?」

「……」

「心配せずとも、コレが終わりゃあ…あんたの念願の情報を教えてやるよ。しっかし、たかがその程度のことにまぁ、よくも何年も……」


男は、前髪を掻き揚げ…小馬鹿にするように女を笑う。


「……ッ」

「おっと……そう怖い顔をしなさんな。ギブアンドテイクさ…今まで通り、な。」

「………………………」


女は唇を噛み、男がその場から立ち去るのを待つ。

コレを果たせば終わる。望む情報が手に入り、全てが片付く。女は、そんな思いを胸に秘め…依頼の紙をもう一度見る。

チャリティコンサートの中止…手段は問わない。

紙には、そう記載されていた。













後書き
はい、何とか書き上げました35話。前に比べると大分短いです。
それにしても…原作の内容をうまく活かしつつ、主人公が違うという変化をもたせるのは中々にしんどいものがあります。と言うか、活かせてるのかどうかも分かりません。ティオレさんの話はどうしても入れたかったのでこのような形にしたのですが……うまく纏められているか心配です。
p,s,ネタが少ないと思ったんでバカテストを作ってみました。答えとか間違ってるかもしれないけど、間違えてたら指摘してくだされば直しますので……



[11512] 迷い込んだ男 第三十六話 「再会」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:d2657d4d
Date: 2010/05/06 23:51
7月20日 PM15:30

終業式が終わってから、俺は家でリニスと一緒に昼食を食べ…適当に時間を潰した後にバイトへと赴いた。


「あ、凌くん…少しお願いしてもいい?」

「はい?何ですか?」


翠屋に着いた俺を待っていたのは、カウンターの隅でパーティ用の持ち帰りバスケットに、懇切丁寧に洋菓子をせっせと詰めていた桃子さんだった。


「翠屋デリバリーサービス♪」

「……そんなサービスが有ったんですか?」

「そ、期間限定の無料サービスなのよ。」

「無料…ですか?」

「えぇ、だってコレ…スクールの皆さんに対しての差し入れだもの。」

「あぁ、成程…そういう訳ですか。」


漸く合点がいった。損得の計算なく、こんな風に気を配れるのは実に桃子さんらしい。


「それにしても、高町じゃダメなんですか?アイツの方が俺より遥かに付き合い長いでしょう?」

「あ、恭也も美由希も先に行かせてるのよ。んー、出て行ったのは…大体20分くらい前かしら。まぁ、それもあるし……」


そう言って桃子さんは洋菓子を詰め終えたバスケットをこっちに差し出してきた。


「…これ、3つ目なの。」

「うぇ!?多すぎじゃないですか?」

「う~ん、これでも足りないかなーって思ってるくらいよ?何せソングスクールの人たち約20人分に加えて、その人達のボディーガードさん達の分も入ってるんですもの。」

「うぁ、凄い大人数になりそうですね。」

「でしょ?」

「分かりました。じゃあ、早速行ってきますね?」

「えぇ、お願いねー!」


受け取ったバスケットをバイクに積み、俺はフィアッセさん達スクールの関係者が泊まっているホテル・ベイシティへと向かった。










第36話「再会」










7月20日 PM15:50―ホテル・ベイシティ―

あっさりと引き受けてしまったが、能々考えてみれば凄いところに足を踏み入れてしまったのではないかと思う。

フィアッセさんやアイリーンさんの「仲間」……例えば、ティーニャ・カスパロフという女性は…ロシアを代表する歌手だ。

ウォン・リーファ、クレスビー・シェプリスもテレビでオペラ系の番組があれば当然のように名前や顔が見られる。その他にも、アムリタ・カムランという人もイタリアオペラで急速に頭角を表し、「新星」と呼ばれて世界を騒がせている一人だ。

そんな人達がこのホテルで一堂に介しているのだ。俺だけではなく…月村や赤星でさえ、こんなところに来たら今の俺と同じようにカチコチになってしまうに違いない。

ティオレさんが泊まっている部屋の番号をフロントで聞き、そんな事を考えながら廊下を歩く。

しばらく歩いてフィアッセさんの部屋を見つけた俺は、扉をノックし…返事を待つ。


「あ、はーい。」

「あ、フィアッセさん…凌です。桃子さんに言われて、差し入れ持ってきました。」

「あ…うん、待ってて?すぐ開けるから。」


ガチャッと、ロックが解除される。中からはフィアッセさんが現れ、部屋の中へ招き入れてくれた。


「いらっしゃい!ゴメンね?わざわざ届けてもらって……」

「いえ、明日から夏休みなんで…元気なんて有り余ってますから。」

「ふふっ、そっか。」


取り敢えずバスケットを机の上に置かせてもらい、フィアッセさんに勧められて調度品のソファーに座る。


「あら、いらっしゃい。」

「こんにちは、ティオレさん。」


部屋の奥から現れたティオレさんに軽く会釈する。ティオレさんも、こっちへやってきてソファーに腰掛けた。


「でも…もうすぐだね……」


フィアッセさんは、唐突に口を開き…そんな事を言った。もうすぐ…というのは、十中八九チャリティコンサートのことだろう。


「………………」


ティオレさんは、その言葉に敢えて答えを返さず…静かにフッと微笑んだ。


「……2人で、歌えるね…」

「……そうね…」


ティオレさんは、フィアッセさんのその言葉に笑顔を深くし…頷いた。2人から、隠しきれないコンサートへの情熱が伝わってくるようだった。初の親子共演…フィアッセさんにとってはずっと憧れていた事が現実になる日なのだ。その嬉しさは、想像や憶測などでは…けして計り知ることなどできないだろう。


コン、コン


と、その時…軽くドアがノックされた。


「…誰だろう?」

「多分、高町と美由希ちゃんじゃないですか?時間的に…そろそろ着いてる頃でしょうし……」

「あ、そっか。じゃあ開けてあげなくっちゃ。」


フィアッセさんは、そう言ってパタパタと扉まで小走りに近づいて……


「……クリステラさんのお部屋で…よろしいですね?」

「……?はい。」


……扉を開ける。

そこにいたのは高町兄妹ではなく、抜き身の小太刀を両手に携えた黒髪の女性だった。

その姿を見た瞬間…俺は立ち上がっていつでも動ける体勢になった。


「あっ………!」


小さく悲鳴を上げ、ジリジリと後ずさるフィアッセさん。その顔には、恐怖の色が浮かんでいた。


「随分と、物騒なお嬢さんね…ご用件は?」


命の危機にあるのにも関わらず…あくまで冷静にその女性に応対するティオレさん。しかし、その額には冷や汗をかいていた。


「……夜分の来訪…すいません…お願いが、あります。」


女性はゆっくりとこちらに近づきながら、静かに用件を言い始めた。


「…………」

「貴方のコンサートを…中止していただけますか。」

「…理由は……?」

「……私の、願いの為…………願いを叶えるために出された条件が、これでした。」

「私のコンサートも…私の夢なの。」

「では、申し訳ありませんが……腕ずくでも、ということになります…」


その言葉を聞いた瞬間、俺はクリステラ親子と女性の間に割り込んでいた。


「リョウ!?」

「凌くん!?」


2人の驚いた声が耳に入るのが聞こえたが、そんなものは敢えて無視する。


「……止めておいた方がいい。」


………ぴ、と彼女の手から光が走る。光は、棚の上の花瓶に触れて……。くん、と彼女が指を引くと…。


「……!!」


ごとん、と花瓶は切断された。

フィアッセさんがその光景に息を呑む。


「………ッ!!」


そして、一瞬そっちに気を取られた隙に…彼女の左手に持たれた小太刀が迫っていた。


「……ッ!」


峰での攻撃ではあったが、まともに食らえば最低でも気絶は必至…そんな一撃を躱せたのは、高町たちとやった試合のお蔭だった。高町たちの使う御神流に酷似した動き…さっき花瓶を切断したのに使った鋼糸といい、もはや疑いようも無い。最悪だ……高町たちのいないこのタイミングで、この人が来るなんて…


ティオレさんは、厳しい表情を崩さず…目の前の相手を睨みつける。


「……お嬢さん。暴力で何かを変えても、仕方ないのよ。」

「そういった問答は相手を選んでしていただこう。私はできれば穏便に済ませたいが、どうしてもというのなら、こちらにも引けない理由があるのです。娘さんが、大切なら……どうか、コンサートの開催を…考え直していただければと思います。」


「…………っっ!!」


静かな脅迫……目の前にいる俺など眼中に無いと証明するように、ティオレさんへ直接向けられた言葉の刃。ティオレさんが少なからず動揺したのが分かる。


静かに、息を吸い込む。

心を落ち着け、覚悟を決める。

俺は、有りっ丈の敵意を込めて目の前の『敵』を睨みつけた。

ここで動かなければ、俺はきっと後悔する。ティオレさんのことだ…このままここで追い詰められれば、自分の夢を諦めて娘の…フィアッセさんの命をとるに決まっている。そうなれば、あとに残るのは後悔と絶望だ。そんな思いはさせたくない。幸いにして、高町たちは今ここに向かっている…それまで凌ぎきれれば…何とかなる!

『敵』が俺を見下すように視線を向けた。

女性よりも俺の方が背は高い。だが、その威圧感は…まさに見下ろされる時のそれだ。


「……!」


ザッ。

フィアッセさん達に危害が及ばないように、徐々に前に進みながら、闘う体勢をとる。


「勝てると思ってるのか?」

「……さぁ、どうでしょうね。」


一瞬の静寂。

そして……


ジャッ!!


先に仕掛けたのは相手の方だった。

恐ろしいまでの速度で振るわれた小太刀…峰打ちとはいえ、当たり所が悪ければ死に至るそれを、俺は紙一重のところで躱し、大きく踏み込んで彼女の腹目掛けて拳を放つ。


「………!?」


命中。しかし、入りが浅かったせいで碌なダメージは与えられなかった。

相手が驚いた表情になる。

当たり前だ。さっきの攻撃は最初に俺が躱した斬撃とは速さの桁が違った。躱せる訳が無いのだ、武術も習っていない只の一般人には。まして、反撃など出来よう筈もない。


「驚いた……今のは、躱せないと踏んでいたんだが……」


あの瞬間…俺は自分の能力を発動させて、身体能力を跳ね上げていた。より鋭敏化した感覚と、強化された反射神経によって…何とか躱すのに成功したのだ。


「ハァッ、ハァ……」


とは言え、心臓に悪いのは変わらない。まるで長距離マラソンを終えた時のように心臓の鼓動は速くなっていた。


「…なるべく、殺しは……したくない。だから、防げ……」


ずしり、と空気が重くなる程の殺気。素人の俺でも分かる濃厚な『死』の気配。


ヒュンッ!!

ヒュッ!

シャッ!


振るわれる小太刀を、全て既のところで回避する。


「…はぁああああああ!!」

「………くっ!!!」


長い間合いからの、高速の突きが来る。……躱しきれない?!

全神経を次の一撃に集中させる。


「小太刀二刀御神流・裏……奥義之参」


ッ!来る!!


ザシュッ!


そう思った次の瞬間、俺は斬られていた。


「……ぐうっ!!」

「………射抜…」


肩を…掠めた……!

ぷしゃっ、と赤い飛沫が飛び散る。

危ない…咄嗟に屈んでいなければ、今のを心臓に食らっていた……


「リョウ!?」


背後から、フィアッセさんの悲痛な声が聞こえる。


「…ふむ……中々やる…だけど、それなら……今の攻防の意味は…分かるね?」


能力で底上げしていても届かない絶対的な力の差……今度は反撃のチャンスすらも、与えてもらえなかった……AGITΩになれば話は変わるのだろうが…それだけは駄目だ。その一線を越えれば、俺は俺でなくなってしまう気がする。そんな気がする。


それに、俺の役目はもう終わった。


ブチンッとドアに掛かっているチェーンが断ち切れる音がする。


ドンッ!!


「なにっ……!?」

「大丈夫かっ!?」


入ってきたのは俺の予想通り高町だった。遅れて、美由希ちゃんも入ってくる。

新たな乱入者に驚く『敵』。

しかし、すぐに元の無表情に戻り…ティオレさんに向かってこう言った。


「もう一度言いましょう。コンサートを中止してください……どうしてもやる場合は、当日にまた参上します。…ただうたを歌うことと……ご自身と、大切な娘さんの命…どちらが大切か、良く考えて決めてください。」


静かな声で『敵』は言う。

チンッと小太刀を鞘に納め…す、と……高町と美由希ちゃんの脇を通り抜けていく。

そして―――――――――――










(恭也side.)

差し入れのためのバスケットを持って、美由希と2人でホテルの廊下を歩く。

表に藤見のバイクが停めてあったから、多分あいつもかーさんに頼まれたのだろう。…もう一個作るって言ってたからな。


「…どこだっけ、ティオレさんの部屋……」

「えっと……」


瞬間、気配を感じた。

殺気。……しかも明確。意識して自分の出す気配を操るもの独特の、スマートで強烈な殺気だ。


「恭ちゃん?」

「静かに……」


バスケットを傍らの廊下に置き、目を走らせる。

そして、本能の指し示す場所に向かい、走り出す。


「え、恭ちゃん……!?」

「……!!」


扉。……番号に見覚えがある。……間違いない、ティオレさんの部屋だ。

この中に、まるで獲物を威圧するように強く殺気を放つナニカがいる。

俺は、扉を開けて中に入ろうとする。しかし……


ガッ!


「開かない…チェーンだ!」


後から追いついてきた美由希が、そう言ってチェーンに触れる。


「…どいてろ!!」


美由希が下がったのを確認してから、俺はドアに近づく。

懐に入れていた小刀を抜き、チェーンに当てる。


「………………」


御神流、徹


ビギンッ!!!


音を立てて、チェーンは断ち切られた。

俺は、扉を蹴破らんばかりの勢いで飛び込んだ。


ドンッ!!


「なにっ……!?」


ザッ!!


飛び込んだ一瞬で、その場にいる全てのとの間合いを測る。

奥にいるのは…ティオレさんにフィアッセ、そして肩から血を流した藤見…!

そして、その前で殺気を放って立っている黒髪の女性。


「大丈夫かっ!?」


俺と美由希の乱入に、彼女は少し動揺したが…それは隙とも言えないような小さなものだった。すぐさま表情を固くし、無表情になる。


「もう一度言いましょう。コンサートを中止してください……どうしてもやる場合は、当日にまた参上します。…ただうたを歌うことと……ご自身と、大切な娘さんの命…どちらが大切か、良く考えて決めてください。」

俺と美由希の脇を、彼女は通り過ぎていく。


「……っ…」

「……美由希、動くな。」


小声で美由希に指示を出す。

本能と経験が、危険を告げた。………美由希が、素手で勝てる相手じゃ…無い。美由希が少しでも動けば、彼女は一瞬で、美由希を斬り刻むだろう。


「……賢明だ。」


……だが、俺は…彼女の前に立ちふさがる。


「…………」

「……」


…………俺は、するりと手の中から鋼糸を解く。

とーさんに言われ、念のために持ってきていた一刀を鞘から引き抜く。


「やる気か?」

「…生憎、友人を傷つけられて黙っていられるような性分じゃないんで。」

「……そうか。」


……静かに、目の前の相手に呼吸を合わせる。


キィンッ!


「………っ!!」


美由希が息を呑んだのが分かった。かく言う俺も驚愕していた。彼女の放った斬撃は…俺たちが、酷く慣れ親しんだものだったから。


「ふっ!」


近くにあった灰皿を引っ掴み、投げる。


「……」


容易く、俺の放った攻撃は防がれた。


ドッ、クン!!


「!!」


……『神速』を発動させる。鼓動音が遅くなり……ずしり、と空気が重くなる。周囲から色の消えたモノクロの世界で、俺は…彼女へと駆けて行く。


ジャッ!!


ホテルの高価そうな絨毯が抉れる。

その勢いで一気に肉薄。

敵の攻撃を一撃外してから、技を叩き込むつもりで走った。が、


「………」

「!?」


特に表情も変えず、俺のそれを上回る速度で彼女は俺の間合いを殺していた。

翳した剣の間合いの内側、肩を打ち付けるように……そして、その下から走る、剣。


(……マズイ!)


咄嗟に、踏み込んだ足へ限界以上の力を込めて跳躍した。


ダン!!


『神速』の影響で、凄まじい加速で宙へと舞い上がる。

一旦身を翻して仕切り直そうとした。だが、その考えは完全に読まれていた。

その俺の動きに合わせるように身を回転させ……刀を突き刺した。


シャッ!


「…!」


時間が戻ってくる。


「っつ!!」


ドザァッ!!


俺は、傍から見れば跳ね飛ばされたような格好で、彼女との位置を入れ替えていた。

そして、その動きが止まる頃になって、肩から血が吹き出す。


……ブシュッ!!


「高町!!」

「だ、大丈夫だ……」


こんなものは掠り傷だ。だが、傷の程度よりも…位置の方が問題だった。

その傷の位置は右肩、跳ねた俺の動きを先回りする場所だった。

俺の動きを上回り、尚且つ肩をそのまま真正面から捉えた方が早いのに、ワザと掠らせた。

それは、俺に完全な格の違いを分からせる攻撃だった。


「それでは、コンサートの当日に……」


そうして、今度こそ彼女は悠然と部屋から去っていった。

(恭也side.END)







「リョウ!」

「恭ちゃん!」


美沙斗が出ていったことで、一気に緊張が緩み…凌はその場にしゃがみ込んだ。

フィアッセと美由希は、それぞれ凌と恭也を心配して近くに寄っていく。


「助かった……痛ッ!」

「大丈夫?リョウ。」


肩の痛みに顔を顰める凌。

そんな凌とは対照的に…恭也は肩の傷に構わず、先程の戦闘のことを考えていた。


「なぁ、藤見…さっきの女性の流派……分かるか?」

「『御神流・裏』…だそうだ。『射抜』を喰らったよ。正直、お前のやつを前に見てなかったら死んでたところだ。」

「そう…か。」


恭也は、その事を聞き終えると突然に立ち上がって何かを考え始めた。

静寂が部屋の中を包む。

誰も言葉を話さない。

フィアッセは命を狙われたショックと、凌が傷を負ったことで精神的に追い詰められていた。

凌は生身での初めての実戦で心身ともに疲弊していたし、斬られた傷の痛みもそれを助長していた。

美由希は、長年一緒に鍛錬を積んできた兄弟子が一太刀も浴びせられずに敗れたのが未だに信じられなかった。

ティオレもまた、厳しい表情のままだった。

そんな状態がどの位続いただろうか……唐突に何を思ったか、恭也は部屋を飛び出した。


「恭ちゃん!どこに行くの!?」


美由希の言葉も振り切り、恭也は走る。


(御神流…あの瞳……間違いない、あの人は………)


肩の痛みを気にも留めず、恭也は先程の女性を追った。

ホテルの裏手にある自然豊かな海鳴ならではの雑木林…ホテルを出た恭也はその中を暫く走り、ある場所で立ち止まる。


「………」


息も切れていたが、それで立ち止まったわけではなく…恭也の五感がここを指し示したのだ。


「………」



大きな岩の上に…月を背にして、女性が腰掛けていた。


「……美沙斗、さん」


恭也は女性の名を呼ぶ。懐かしい…その人の名を。












高町恭也と、御神美沙斗……2人は、単に同じ流派を使うというだけの浅い関係では決してなかった。

御神美沙斗は、高町士郎の妹であり、高町美由希の母でもあった。恭也にとっては叔母に当たる存在なのである。

恭也が本当にまだ小さかった頃…とても、優しくしてもらっていたのを覚えていた。

と、ここまでは士郎も美由希も知っている。しかし…恭也と美沙斗はそれより後、1週間という短い期間ではあるが共に過ごしたことがあった。士郎にも、美由希にも…誰にも語らなかったその出会い……

それは、テロによって重症を負った士郎が完全に回復を果たし…以前とほぼ変りない動きができるようになってすぐの事だった。

その頃、恭也の通っていた学校は冬休みを迎えており…恭也は士郎の許可を得て、短期間の武者修行へと出ていたところだった。筋力や強靭さを上げるだけの訓練に限界を感じていた矢先のことだっただけに、修練の方向性を変えざるを得なかったのだ。士郎自身も、師として同意するところだった為、その事に関しては比較的簡単に了承してもらえた。勿論、父親として「無茶だけはしないように…」と厳命していたが。

兎も角、その頃の恭也は…より強い相手と戦いたい。そして技の、動きの本当の意味や使い方を学びたい。そんな思いを抱いていた。

海鳴から出発して、東京からは東海道沿いに剣術道場を転々と訪ね歩き、ただただ腕を磨いた。

御神流のえげつない戦法と、当時はまだ…ほんの1秒にも満たない短い時間しか使用できなかったが、切り札である『神速』の前には実際、敵と言えるほどの強力な遣い手が中々見つからなかった。

やがて、恭也は京都で厄介になった道場でこんな噂を聞くことになる。


「近くの山の何処かに今、『鴉』という渾名の二刀流の凄まじい遣い手がいるらしい。」


暫く前から、その遣い手に試合を挑み…あっという間にズタボロに敗れる武芸者が後を絶たないらしい。


「君も二刀流の遣い手なら、何か得るモノも有るかも知れないし、行ってみてはどうか。」


「まぁ、あくまでも噂だがね」…そう後に付け足された言葉は、恭也の耳には入っていなかった。

言われてすぐ、恭也はその山を目指して歩き出していた。

そして、半刻ほどの時間を要して、その山の中へ入って行ったのだった。

2日か3日ほど、山の中をさまよい…その先で、やっと恭也は人の気配を感じた。


「…………」


果たして、その気配の正体は一人の女性だった。

泉の近くの木陰で女性は瞑想している。パッと見、服はボロボロだが…とても剣の使い手には見えなかった。

……だが、恭也にはすぐに分かった。

相手も既に恭也に気付き、殺気を放っている。

それは、紛れも無く剣士の気配だった。


「…子供か。」


まだ恭也の方を見てもおらず、声すら聞いていないというのに、女性は低い声でそう呟く。


「…………」

「帰れ。……私を倒す気で来たのだろうが、その程度の動きではどうにもならない。」

「!?」


女性は目を閉じたままだった。目を閉じたまま、恭也の動きを把握している。


「……殺気が丸分かりだ。この場所で足音も殺せないようでは、私の動きについてくることはできないよ。」

す、と音も無く立つ。

深い緑と暗い闇に包まれた、一箇所だけポッカリと日の当たる小さな泉。それだけ見ればどこまでも神秘的で、平和な光景である筈なのに……女性が立ち、目を開いたと言うそれだけで、ざわめく様に不吉な気配に変わる。

…先程までよりも強い殺気が、恭也に浴びせられる。


「……ほう。」


女性は、少し驚いたようだった。


「子供にしては良さそうな目だ。」

「………」


恭也の目は、ギラギラと輝いていた。空腹だ、というのもあったし…山の勝手が分からず、あまり眠っていないというのもある。

が、何よりも強い相手が目の前にいる。その昂揚感が恭也の目にそんな輝きを与えていた。

だが、そんな恭也を女性は冷徹な目で見続ける。


「……帰れ。もう少し強くなってから、相手を選んで戦えば…きっと君も強くなれる。街の道場か何かで今は我慢しておけ。」

「…………」

まだ恭也は口を開かない。

漆黒の服、そして漆黒の口布で顔の下半分を覆った、漆黒の髪の女性。それこそ『鴉』と呼ばれるのに相応しい姿のこの女性は、一体どれほど強いのか。自分が持つ、父から貰った二刀でそれを知りたい。そう思って、恭也は腰に差した刀のうち、左の一刀を逆手に抜く。


チャキン。


鍔元が小さく鳴る。刃は落としてあるが、それでもその気になれば人も殺せる凶器だ。

『鴉』はそれを見て、目つきを険しくした。


「一つだけ、教えておこう。鯉口を切るということは、死の覚悟のあるものが許される行為だ。殺人をする者が、やる行為だ。」

「………」

「今までどうだったのか知らないが…私は君に手加減をする謂れはない。向かってくれば、死ぬ。その歳で、死体にも罪人にもなることはないだろう。」

「………」


恭也は、少しだけハッとした気分になった。

実戦剣を身上にする剣士は、真剣で戦うことが当然だと思っていたからだ。勝つ、負けるで済むものと…心のどこかで思っていた節がある。いくら武芸者といえども、誰も罪人になる気はないのだから。

だが、恭也の目の前にいるこの女性は違う。襲い掛かってくるのなら、殺すことも厭わない、そんな人間だ。


「………」


だが、まだ勢いで人生を生きている恭也にとっては、その意味の重さよりも…自分の勢いの方が勝っていた。

ザッ、と足を引く。

半身で、足場を確保する。深く構えて足に力を溜める。


『神速』


まだ子供の身で筋力は足りないながらも、それに見合う体重の軽さがある。これさえ使えば、例えこの女性がどんな遣い手だろうと…勝てる筈。そう、確信していた。


ドックン……!


鼓動の音を聞きながら、目を開く。

狙いは一筋、女性の腹。峰打ちで一撃を加えて、勝つ。

そう決めて、女性目掛けてダッシュした。


ザッ……!!


女性は恭也に反応していない。

いや、反応のしようがない。この速度は、見えていない筈だ。そう思いながらも、恭也はモノクロの世界の中で、身体を揺らしながら的を絞らせないジグザグの走行を行う。

だが、それでも…それだけの事をしていても、恭也の考えは甘かった。【反応していない】と判断した、それ自体が罠だったのだ。

突然、恭也の眼前に出現する黒い鞘。


「なっ……!?」


見えていなかったのは恭也の方だ。だから、防ぐことも、避けることも出来なかった。


ドゴォッッ!!


「がはぁっ!?」


……ドサッ。


時間の流れが正常になり、世界に色が戻ってくる。恭也は完全に吹っ飛ばされている自分が信じられなかった。

『鴉』は元いた位置から一歩も動いていない。

だが、おもむろに突き出した鞘付きの刀は、間違いなくこの女性の手に握られていた。


(『神速』が……破られた!?)


常人には捉えるどころか、まず見ることさえも出来ない圧倒的な超加速。恭也の常識では、目の前に立つ華奢にすら見える女性がいとも簡単に破れるようなモノではないはずだった。


「……ほう。目だけ、という訳でもないのか。」


ゆっくりと剣を下ろし、女性は倒れ伏した恭也を見下ろす。


「だが、技も何もなしに速く動くだけか?それだけで剣士を気取っていたのか?」

「くっ……」


技はある。ちゃんと、恭也は父から教えられている。ただ、油断していただけだ。そう思い、立とうとしたが…膝が立ってくれない。先程の鳩尾への一撃が思いの外効いていた。


「私が億劫がらずに剣を抜いていたら、君の腹には穴が開いている。」

「………」

「油断した…などと馬鹿な言い訳はするなよ?君はその判断で、今死んだのだから。」

「………」


考えを見透かされている。……若く見えるが、女性の強さは間違いなく本物だった。


「………」

「………」


『鴉』は恭也の目を見下ろした。

恭也は負けずに女性を見返す。


「気」でまで、負けるものか。……それは、意地だった。恭也の若く青い「負けたくない」という単純な意地が、そうして瞳に力を与えていた。


「………」

「………」


数秒…いや、もしかしたら数分…あるいは数時間。

瞳と瞳がぶつかり合う。

互いの言葉よりも強く、はっきりと…お互いの「気」を潰し合う。


―――死にたいのか。

(強くなりたいだけだ)

―――何かを殺したいのか。

(誰にも負けたくない)

―――そこまでして、何を求める。

(強くなくちゃ、何も守れない)

―――殺してでも手に入れたいものがあるのか。

(何があっても、守らなきゃいけないものがある)

―――君は。……君はそんなに真っ直ぐなのに。そんなにまで、ひたむきに、こんな殺しの力が羨ましいのか。

(それでも、守り通したいものがある)


口から出る言葉よりも遥かに雄弁に。似たもの同士だけが出来る心のぶつかり合いを、二人は瞳で行う。

ややあって、『鴉』は小さく目を伏せた。数瞬後、女性はポツリと小さな声で恭也に尋ねる。


「……名は?」

「…高町、恭也。」


漸く膝が立つようになる。恭也はゆっくり立ち上がりながら、ハッキリと名乗る。


「小太刀二刀御神流、高町恭也です。」


ちら、と恭也を一瞥してから、女性は背を向けた。


「『鴉』と、呼ばれている。……どうとでも好きに呼べ。」


そうして、『鴉』と呼ばれる女性と恭也の奇妙な共同生活が始まった。

山の中では碌な食べ物が無い。だが、『鴉』はさしたる苦労もせずに川で魚をとっては食い、山菜をどこからか見つけてきては、恭也に無言で残していった。

恭也は恭也で、『鴉』の後を追っては不意に突きかかり、何度も何度も叩き伏せられる。只それを繰り返した。

言葉なんてものは滅多に交わさない。語らうようなことはお互いに殆ど無いのだから。

だが、恭也は時々…あることを不思議に思った。恭也の剣とタイプは違うものの、『鴉』の遣う技はどれも自身が教わった御神の剣と似通っていた。

一瞬、一撃しか相手をしてもらえないほどに剣士としての技量に差があるので、ハッキリとは分からないのだが、恭也が士郎にみっちりと叩き込まれた基本が、『鴉』の剣と酷似しているように感じたのだ。


「せいっ……!!」


ドンッ!!


「……ふっ!」


ドガッ!!


…また、叩きつけられた。聞いた噂では『鴉』は二刀流と聞いていたが、今、恭也と行動を共にしている『鴉』は、恭也の前では何故か一刀しか携行していなかった。

だが、彼女の刀の扱いは明らかに二刀を前提とした動きだった。一撃目を外せば、すぐさま次の二撃目に繋げられるようになっている。いくら『鴉』との実力に雲泥の差がある恭也でも、その位は分かる。


「……『鴉』さん…」


むっくりと起き上がりつつ、恭也は初めて会ったとき以来久しぶりに『鴉』に声を掛ける。


「…………」


ぴた、と止まる『鴉』。振り向きはしないが、話の続きを待っているのだ。


「…その剣は、何という剣ですか?」

「この剣か。」


『鴉』はそう言って、手に持っている刀を恭也に見せる。


「いえ……流派です。」


フルフルと首を振り、そう返す恭也。もしかしたら御神流と近しい流派なのかもしれない。純粋にそう思っての質問だった。

他の御神流の遣い手は全員死んだと…恭也は士郎に聞かされていた。だが、似たような流派が無いと聞いた覚えはなかった。

……『鴉』は少しだけ迷ったような間を持ち、そして、いつもと同じくぶっきらぼうに……「我流だ。この剣に名前は無い。」と、呟いて…いつものように森の中へと消えていった。




夜の泉に月の光が差し込んでいる。

その泉で、『鴉』はその裸身を冷水に晒していた。


「…………」


水の湧く音。

風にざわめく木々の音。

金色に輝く月の光に照らされ、引き締まった靭やかな肉体が淡く光る。

『鴉』は満月を見上げながら悩んでいた。

一週間。恭也が『鴉』と出会ってから、既に一週間が経過していた。

『鴉』は思う。恭也は強い、と。正確には、強くなれる素養を持っているという意味だが。

強靭で年の割には充分以上に鍛え抜かれた肉体、確固たる信念、そして生まれ持っての天賦の才。このまま成長を続ければ、もしかすれば自分をも凌ぐ剣士になれるかも知れない。だが、同時に強くなってはいけないとも思う。

こんな剣で、こんな…人を殺すだけしかできない剣で。御神流で強くなってはいけないと…そう思う。

『鴉』が考える御神の剣とは、殺すことと殺されることしか出来ない呪われた剣であった。そんな剣をいくら極めても、決して幸せにはなれない。碌な死に方もしないだろう。殺して、壊すことしか出来ない剣に、何かを守る事なんて出来る筈が無い。寧ろ…それとは逆に、大切なものまで壊してしまうだけだ。


(……止めよう。)


『鴉』は依然として満月を見上げながら決意する。

たとえ恨まれても構わない。せめて、あの少年はそんな死に方をさせてはいけない…と。


「…………」


ジャバ……ッ。


月を見上げていた目を伏せ、泉から上がる。

裸身に薄汚れた衣服を身につけて、口を覆う布を巻きつけて……しかし、思い直してそれは外す。


「……これでいい。」


静かにそう呟き、二刀を掴んで獣道へと入っていく。

月の光に照らされて淡く光っていた鴉は、木々の影に隠れて漆黒へと染まっていく。




一方その頃、恭也は焚き火を焚いていた。

さっき自力で捕った魚を焼くためだ。ちょっとは川魚を捕まえるのにも慣れてきて、いつもより少し多めの夕食が嬉しく感じる。


カサッ。


……ふと目を上げると、奥の森から微かな足音を立てて、『鴉』がやってくるのが分かった。


「…恭也くん。」

「え……」


初めて、恭也は名前を呼ばれた。

しかも、『鴉』はいつも顔を半分隠している口布をつけていなかった。

漠然と、いつもと違う…という違和感が恭也の中に広がっていく。同時に、言い知れぬ不安も。


「なんですか……?」

「……君は、何故御神の剣を遣う。」

「………」

「こんな剣では誰も幸せにはできない。こんな平和な世の中で、こんな殺しの技を磨くなんてバカげている。」

「……!」


恭也は立ち上がる。

その言葉に怒った訳ではなかった。尋常じゃない、『鴉』の壮絶な眼光が、恭也の神経を半ば強制的に戦闘状態にまで引っ張り上げたのだ。間違っても座って火を眺めていられる状態ではない事を否応なしに悟る。


「こんな剣は捨てろ。悲惨な死に方をしたくなければ…」

「……いいえ。」


恭也は、傍らに置いておいた二刀を握り締めた。


「俺の父から、受け継いだ技です。戦い以外の何の役にも立たない剣だとは、分かっている…でも、俺の父は、これで大切なものを立派に守り抜いたんです!」

「そして、死に掛けた。」

「……!」

「私はそんな目にあって欲しくないんだよ、君に……」

「え……」


女性は、『鴉』は、泣きそうな顔をしていた。


「……君に出来る最後の教えだ。君の仮初の師でなく、美由希の母、君の叔母として…」


腰の後ろに差した二刀のうち、一刀を引き抜く。

その刀を見た瞬間、全身を射抜くような衝撃が恭也を襲った。

その刀には、銘が打ってあった。


『龍鱗』と。


「それは……」

「覚えているだろう?」


忘れるわけがない。御神流を遣う者にとって、その銘の意味を知らないわけがない。

御神流正統の証である宝刀、『龍鱗』。

それは、御神家断絶の時に爆発とともに紛失したはずの剣。

そしてそれを見た瞬間、恭也の脳裏に古い昔の記憶がフラッシュバックする。



その昔、白い洗濯物を干しながら、陽光の下で笑っていた綺麗で優しい女性の姿。


「美沙斗…おば、さん……?」

「……………」


恭也の目の前に立っている女性の目は、嘗てのそれとは似ても似つかぬ程に暗く壮絶で、薄い記憶の中で結び付かなかったけれど…その女性は間違いなく、恭也が幼い頃に少しだけ会った自分の叔母…御神美沙斗だった。


「あの事件のせいで、私は全てを失った。……そして知った。この剣が、こんな殺しの技が、みんなを死に追いやったんだって。」

「そんな……」


御神と不破の一族を爆弾テロで壊滅に追いやった“非合法テロ組織『龍』”その事件が起こったとき、美沙斗は美由希と共に病院にいた。

そして、何もできない内に親族も、最愛の夫も失ってしまった。それが、今も彼女の人生に影を落とし続けている。


「誰も殺さなければ誰も死なないで済んだんだ。こんな、剣さえなければ……」

「違う!!」

恭也は叫んだ。

心からの叫びだった。

父から貰った無銘の刀を握り締め、思いを絞りだす。


「……父さんはフィアッセを、大事なものを守りきったんだ……守り切る力があったから、守りきれたんだ!殺しだけの技なんかじゃない、絶対に!!」

「…………」


美沙斗は、龍鱗を握る手をだらりと下げた。


「もう一度言う。こんな剣は、もうやめろ。こんな呪われた黒い剣は……」

「いやです!!」

「どうしてもと言うのなら…私もどうしても止めなければならない。」

「………!!」


一族を殺された悲しみの記憶。

愛する人を失った虚無感。

その事実が、美沙斗の中で…御神流を忌まわしい呪いの剣としてしまったのかも知れない。


「悪く、思うな。」


美沙斗は剣を深く引く。


「殺しなどに関わるのは…もう、私だけでたくさんだ!!」

「!!」


ドンッ!!


恭也と美沙斗が同時に『神速』を発動させ、白黒の…色のない世界に突入する。

だが、完成された御神の剣士である美沙斗のスピードは、『神速』の領域では尚更恭也には及ぶべくも無いものだ。

一瞬で、己との反応力の差を見せつけられる。

恭也がいくらも動かぬうちに、空気を吸って閃光のように鋭い突きが伸びてくる。


ドギャッ!


「かふっ……!」


ド、サッ……。


美沙斗は、左で逆手に持った刀の柄の先端…頭を恭也の鳩尾に強く叩きつけた。しかも、『徹』を使用して…である。衝撃がダイレクトに肉体へ伝わる。その破壊力は凄まじいものであった。

そして、右の刀を恭也に突きつける。


「……っ!!」


恭也はそれでも立ち上がろうと藻掻く。碌に呼吸もままならず、目の前に刀が突きつけられているのにも関わらず…だ。

本来ならば、喰らった瞬間に意識を落としているのが普通である。そんな一撃を喰らって、まだ恭也がこうして意識を保っていられるのは、自身が信じた「守り抜く」父の御神流を、否定させたくないという…その一念に限られていた。

だがしかし、恭也はその後まもなく完全に意識を失い、次に目が覚めた時…そこに美沙斗の姿はなかった。恭也は麓の病院に運ばれていて、傍には刀身を折られた自分の刀が残されていた。

鞘の中に…簡素な手紙が挟まっていた。



二度と鯉口を切るな。人に刃を向けるな。殺人剣は君には似合わない。せめて、美由希と兄さんと君だけでも幸せに。こんな血生臭い世界に関わらないで生きてくれ。  鴉





~回想~END






「……美沙斗、さん。」

「………覚えてたか…」

「……えぇ。」


岩の上から恭也を見下ろすその瞳に、先程までの殺気はなかった。

ただ悲しく、やるせない表情をしているだけだ。


「……恭也くん」

「………」

「きみは、諦めなかったのか。」

「はい。」


美沙斗は刀を抜き、チキ、と月の光に照らして見せる。

……『龍鱗』。

御神流正統の証は、柄が固まった血で汚れていた。


「君は、それでも殺人剣を遣う悪鬼羅刹となることを選んだのか。」


夜の薄闇の中で、美沙斗はそう言って哀しげに目を細める。


「違う!」


恭也は叫ぶ。

あの時と同じように。

あの時叫べなかった言葉。

あの時言おうとして、自分の未熟さゆえに伝えられなかった言葉。

あの時以上の気持ちを込めて叫ぶ。


「俺の、俺たちの……父さんが教えてくれた御神流は、違う!あなたが思っているような哀しい剣なんかじゃない!」

「所詮は殺人術だ。…これが、正しい使い方だ。」


自嘲気味に、美沙斗は剣を傾け…薄く笑う。


「……違う。誰かを守るため…誰かを悲しみや痛みから守る、父さんから教えられた御神流は…俺の御神流は、その為の力です!」

「戯言だな。」


恭也の言葉を即断し、美沙斗は鋭い目で恭也を見下ろした。


「守るためにあっても、守れなければ何の意味もない。現に……君は私から、あの親子を今守れるか?部屋にいたあの少年が時間稼ぎをしていなければ、あの親子はもうこの世にいなかったかも知れないんだぞ?」

「っ……」


冷たい目。以前、恭也といた時よりも更に冷たく、哀しい目。


「あなたは、何のために御神の剣を遣うんですか?」

「さぁな……いや、そうだな…こう言おうか。」


自嘲するような調子で、美沙斗は恭也に告げる。


「私の全てを奪った連中を根絶やしにしたいだけさ。欲しいものなんて他には何も無い。」

「!……復讐のために、フィアッセやティオレさんを!?」

「そうだ。……これが終われば、あの連中の手掛かりが掴める。そうすれば、やっと…生き残ってしまった私の、役目が果たせる。」


そう言った美沙斗の目は壮絶だった。





そのたった一文字。……生きることを、欠片も見ていない。


「そんな事……」

「そんな事じゃないさ。ティオレ・クリステラが夢とか言っていたが、それなら私の夢はそれだと言ってもいい。私の愛する人、大好きだったもの…全てを奪っていった連中を潰すのが私の夢だ。何かおかしいか?」


そう言った美沙斗の目は、自分を修羅だと言い聞かせ、修羅になっている者の目だった。元が優しかった彼女は、そうでも思わないと生きていられなかったのだろう。


「相反するなら強い者の夢が残る。そういうことだ。」

「でも、それじゃあ同じじゃないですか!あなたの大事なものを奪った連中と、同じことをしているだけじゃないですか。」

「そうさ。」


美沙斗は恭也から目を逸らす。……口から出た言葉とは裏腹に。


「君も、無くしてみれば分かる。……手段なんかどうでもいい。そんなものは些細なものだと、憎くて憎くて…何をしてでも殺してやりたいと思う気持ちが。」

「………」


美沙斗の言葉は間違っている。だが、それは確かに…理屈で分かるものではないのかも知れない。彼女の絶望を、悲しみを、憎しみを、後悔を…それらを知らない者がいくら言葉を紡いでも、覆せないのかも知れない。恭也はそう思った。

す、と美沙斗が岩から立ち上がった。


「次は、あの時のような軽い仕打ちでは済まない。……君も、みんなで生き残りたいのなら、ティオレ・クリステラを説得することだ。」


そして、美沙斗は身を翻し、その場から去っていった。










7月20日 PM16:30―ティオレの部屋―


「……やっぱり、中止した方がいいのかしら。」


高町が部屋を出て行ってから暫くして、安楽椅子に座り、うつむいていたティオレさんが、ポツリとそんな一言を零した。

素人目に見ても分かったのだろう。あの人の強さが。高町ですらも勝てなかった彼の叔母、御神美沙斗さん。俺だと、勝てる気がしないどころか、次に対峙して生き残る自信すらもない。


「私だけなら、別にいいけれど……スクールの娘たちや、フィアッセを危険な目に遭わせては、元も子もないものね。」

「いえ。」


それが分かっていて尚、それでも俺は否定の言葉を口にしていた。

この前、俺に自分の身体のことを話してくれたティオレさんの姿が脳裏に映る。

その時に決めた。俺の全てを懸けてコンサートを守ろうと。それに、それすら達成出来なくて、アンノウンから人々を救うことなんて出来やしないのだから。


「まだ、諦めないでください。」

「でも……」

「きっと、高町も同じことを言うと思います。だから、諦めないでください。」


そして、数分後…戻ってきた高町は、やはり俺の言ったことに賛成した。


((絶対に、守り通す!))


俺たちは互いに同じ思いを抱きながら、固く決意した。










7月20日 PM17:15

(恭也side.)


「……本気、なんだな?」

「あぁ、美沙斗さんとは…俺が戦う。」


あの後、ホテルから家に戻った俺は、とーさんにホテルであったことを話した。

そして、ある技を習得するためのサポートを願い出た。


「小太刀二刀御神流、奥義之極み『閃』……俺でもこの領域には到達出来ていない。しかもコンサートまでは後5日だ。それでもやるのか?」

「『閃』じゃないと、美沙斗さんは倒せない。5日間を只の鍛錬に費やしても、あの人には勝てない。」

「……分かった。だが、護衛には俺も加わる。」

「なっ!?でも、とーさんは現役引退しただろう!」

「現役引退しても、俺はお前と美由希の師で、御神の剣士だ。まだまだ遅れはとらん。」

「けど……かーさんが……」

「分かってる。心配掛けることになるが…今回だけは分かって貰うさ。」


そう言って、とーさんは自分の手元に置いていた自分の愛刀『八景』を、俺に差し出してきた。


「とーさん……?」

「免許皆伝の時になったら渡そうと思っていた。受け取れ。」

「免許皆伝って…俺は、まだ……」


言葉の意味が分かりかね、俺はそれを受け取ることが出来ない。


「『閃』を習得すればもう免許皆伝だ。」

「だから、俺は……」


そう反論しようとした俺の言葉を遮り、とーさんは言った。


「だから、必ず『閃』をモノにしろ。それで守り通せ。」

「……!あぁ、分かった。」


俺は、『八景』を受け取り、立ち上がる。


――タイムリミットまであと5日――


それまでに、なんとしても『閃』を体得するために。

(恭也side.END)











後書き
これだけ早く更新できたのはいつ以来だろうか。今回もAGITΩ要素皆無でそっち方面を期待してくださっている方には心苦しい限りです。
さて、今回は恭也が主人公。アンノウンが出てこないで尚且つ対人戦ともなれば凌はあまり出張れないですしね。
あと、感想で言われていた、凌はAGITΩに変身して人間と戦うのか…という問題に関しては、生身のまま戦う方向性で行きたいと思います。AGITΩV.S.人間とかあまり見たくない構図ですしね。



[11512] 迷い込んだ男 第三十七話 「守りたいもの」 前編
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:d2657d4d
Date: 2010/05/09 23:58
5日間。

それが、御神美沙斗がコンサートの中止を申し入れてから、コンサートが開催されるまでの残りの時間であった。

たった5日、その短い期間を…恭也は御神流の奥義之極み『閃』の修得に費やした。

寝食以外の全てを、ただそれだけに費やしたと言っても過言ではない。それ程までに過酷な鍛錬だった。極限まで集中力を高め、美沙斗に勝つために…ソングスクールのみんなを、ティオレやフィアッセの夢を守るため、恭也はひたすらに剣を振った。

一方、凌もまた…コンサートに備えて対策を練っていた。

士郎や恭也と違い、実戦経験なんて積んでいない。春先にAGITΩとして覚醒し、今に至るまでアンノウンと戦い続けてきた凌ではあったが、人間相手に戦うのはこれが初めてと言っていい。

経験のない凌がフィアッセたちを守り切るにはどうすればいいか。それは、すごく単純で、簡単なことだった。

経験の差を引っ繰り返すようなナニカを用いればいい。

凌はリニスに事情を話し、それをモノにする為に5日を費やした。


そして迎える、コンサートの開催日。

それぞれの決意を胸に、それぞれの目的のための戦いが、始まろうとしていた。









第37話「守りたいもの」前編










その晩、海鳴市は嘗てないほど活気に溢れてかえっていた。

世界的歌姫たちが一堂に介して歌うコンサートツアー、その記念すべき第一回。

地方都市である海鳴市では、10年に一度有るか無いかの大イベントであった。

大勢の客が他県からも集まってくる。ホテルの地下にあるコンサートホールにて、大勢の人々が…今か今かとその歴史的瞬間を待ち望んでいた。

そのホテル・ベイシティ近辺の賑わいから、少し離れたとある場所。…全20階の廃ビルの、地上17階。……そこで、恭也は二刀を携えて立っていた。

恭也の眼前には、同じように二刀を携えた美沙斗がいる。


「……来たか…」

「………………」


……沈黙を破ったのは美沙斗だった。


「ちょうど、今出ようかと思っていたところだ。」

「……やはり、止まりませんか。」


答えが分かっていても、尋ねずにはいられなかった。

一縷の望みを懸けて、恭也は美沙斗にそう言った。


「あの時、私は言った筈だ……」

「………」

「鯉口を切るということが何を意味するのか…。それを覚えているのなら、私の前で…いや、もう二度と鯉口を切るな。死ぬことになるぞ。」

「…………」

「君が死ねば、悲しむ人がいるだろう。できれば、要らぬ人間まで斬りたくはない。」


目だけを伏せて、美沙斗は言う。


「…俺を斬らず……」

「………?」

「これから斬りに行くのは、フィアッセとティオレさんですか?」

「………」


答えは返ってこなかった。

だが、その沈黙が…何より肯定を意味していた。

美沙斗の顔は、ホテル周辺からの逆光で見えなかった。


「せめて私に残った最後のプライドさ。……殺すのは、最低限がいい。」

「フィアッセも、ティオレさんも、俺の大切な人です。あなたも剣士なら…剣士として鍛えられたのなら……分かるでしょう。俺は引けない、引く訳にはいかない。」

そんな恭也の言葉に、美沙斗は嘲笑した。

恭也を…ではない。恭也を嘲笑するように見ながら、美沙斗は自分を嘲笑した。

「……剣なんて、所詮は時代遅れの武器だ。例えば、爆弾なんかとは勝負にもならない。」


爆弾……それ一つで、美沙斗は…愛する夫も、家族も亡くしている。

時代が既に剣士のものでない事は、その事実が充分すぎるほどに証明している。


「だけど、それでも殺すことは出来る。抜くだけでこちらの殺意を伝えることが出来る。剣士に出来るのはそれだけさ。殺しと脅し、それしか出来ないのが現実だ。」

「……この剣は、誰かを守る事も出来ると…誰かを守れたらと、少しも思わなかったんですか……!?」

「………」


海風が割れたガラス窓の隙間から入ってくる。

2人の漆黒の髪が風に踊る。


「……一人前の剣士になったな。」

「………」

「だけど…それは不幸なことだよ。」


美沙斗の声は、既に自嘲の色を無くしていた。


「御神の剣は、君がいくら堂々としていたって、理不尽で、報われない死しかくれない。本当の剣には…本当の暗殺剣には、そういう星が巡ってくるのさ。」

「だとしても……」


恭也は逃げない。決して退かなかった最強の剣士を知っているから。その背中を、ずっと見てきたから……


「俺は逃げません。御神の剣は、誰かを守るためのものだから……」


優しさと希望を歌に乗せて、命を賭して世界に伝える一人の女。

それを受け継ぐ小さな頃から共に過ごしてきた幼馴染み。

彼女たちが精一杯歌えるように……心から微笑んでいられるように。

その為ならば、きっと自分は戦える。そう、恭也は思った。


「あまり、時間はかけられない。…手短に、終わらせよう。」

「……行かせません。」


恭也は鯉口を切る。

闇によく溶ける、鞘、鍔、柄糸、その全てが黒一色の小太刀、『八景』。士郎から譲り受けたその二刀。

恭也は腰に差した左の一刀の柄を握る。


「小太刀二刀御神流、高町恭也。……この命に代えても、あなたを止めてみせます。」


それに対し、美沙斗は無言で『龍鱗』を引き抜いた。

すぅ、と……美沙斗は『射抜』の構えを取る。

恭也も抜刀の構えを取る。彼の手持ちの技の中で、恐らくは唯一と言っていい『射抜』に対抗出来る技。

……空気が張り詰め、静寂がその空間を包んでいく。










衣装箱から出された青色の綺麗な長いドレス。それを、アイリーンは顔を顰めて眺める。


「あー…あのさぁ、これ……」

「あんたが着るんだよ。」


長身の女性、アムリタ・カムランがアイリーンの言葉を遮る。

彼女は、アイリーンが手に持っているそれと同じデザインの白いドレスを既に身に纏っている。

その言葉に、アイリーンは苦虫を噛み潰したような顔をして、恨めしげにアムリタを見上げる。


「うぅ……こんなヒラヒラして肩出しで鎖骨出しなドレス…あたしが着るの?」

「あんたが女性らしい服苦手なの知ってるけど…みんな着てるんだから往生際の悪いことは言わない。」

「や、あたしはやっぱりいつものレザーファッションの方が……」

「一人で舞台の雰囲気ぶち壊す気?それにどっちにしろ、あんたの着てた服は…もうクレスが持って行っちゃったよ。」

「はぁ!?」


アイリーンが慌てて背後の椅子を確認すると、確かにそこに置いておいた筈の服が綺麗さっぱり無くなっている。

現在下着姿のアイリーンはいよいよ、目の前の青いドレスを着るしか選択肢が無くなってしまう。


「な、なんて事すんのよ……」

「こうでもしないと最後まで抵抗し続けるでしょ。ちなみにこれ、校長先生とイリア先生の命令だから。その事をクレスに当たっちゃ駄目だからね。」

「~~~~~~~~!!」


幼少の頃より男の子のように育てられたせいか、アイリーンの女性服嫌いは最早脊髄反射の世界である。

ドレスに腕を通して鏡に映しては、ぞぞぞっと体を震わせる。


「うー、似合わない…自分で言うのもなんだけど前衛的ミスマッチ……」

「んな事ないって。ほれほれ、諦めて着ちゃいなってば。」

「あ、ちょ、ちょっと…やめてよアム…っ!!」

「それともあんた、そんなトップレスで舞台に立ってみる?世間様は揺れるわよー、「『若き天才』アイリーン・ノア、遂にヌード解禁?!」とかキャプションついて。」

「や、そ、そんな事出来るか!?」

「大丈夫大丈夫、ちゃんとニップレスはあげるから。」


その様を想像してしまったのか、羞恥で顔を真っ赤に染めつつ…殆ど格闘するようにしてアムリタにドレスを着せられていくアイリーン。

その姿を眺めつつ、フィアッセは苦笑した。


「あーあ、あんなに暴れたら着る前から皺になっちゃうよ……」

「…………」


その隣には、上の空の美由希がいた。

フィアッセは、美由希のその様子に気が付いていたが、敢えてちょっかいを掛けようとは思わなかった。

理由は何となく分かるからだ。

まず、恭也がこのホテルにいない。

5日前、フィアッセたちを襲撃した女剣士を止めに行った、とフィアッセと美由希は士郎から聞かされている。

美由希としてはそれが心配なのだろう。

それに、フィアッセ自身も他人にちょっかいを掛けるような余裕がない。

凌の存在だ。

自分も護衛に加わると、加えさせて欲しいと士郎に頼み、何度反対されても意志を曲げなかったフィアッセの想い人。

意志の固さ、恭也の動きについていける実力というのも手伝って、結局士郎はその提案を受け入れた。葛藤も有っただろうが、士郎は凌の決意を秘めた瞳を見て、理解した。

凌は諦めない。たとえ最後まで士郎が反対していたとしても、それを無視して凌はフィアッセたちを守ろうと動くだろう。だからこそ士郎は説得を諦め、提案を受け入れた。どうせ首を突っ込むのなら、その事を前提にしておいた方が良いと判断したからでもある。

フィアッセは、凌が普通の人間とは違うことを知ってはいるが、それでも心配だった。銃弾を心臓に受ければ死ぬ。普通とは違うと言っても、そこは変わらないのだ。安心していろ…という方が無理だろう。


「フィアッセ。」

「うん?」


不意に、美由希が言葉を発した。

いつものような可愛らしい顔はそこにはなく、戦う者としての…御神の剣士としての顔が、そこにはあった。


「気を付けて…この前の、あの人じゃないけど……殺気がある。」

「え……」

「こっちを伺ってるのか、まだ…そこまで近くに来てないか……どっちにしろ、すぐ仕掛けてくる事はないと思うけど。」

「そう……」


美由希は、周囲のすべてを感知しようと己の感覚を研ぎ澄ます。

フィアッセも周囲を見回してみたが、荒事に関しては全くの素人である彼女にそんなものが分かるはずも無い。


「ね、美由……」


流石にどういう事になっているのか気になって、美由希に尋ねようと声を掛ける。が、返事がない。

横を振り向いて見てみると、そこに美由希はいなかった。

フィアッセが声を掛けた時には、既に美由希は音もなくその場から消え去っていたのだ。次にフィアッセが前を向くと、丁度ドアが閉まるところだった。

見事に音を殺した素早い動作であった。

美由希のその行動が気になって、フィアッセもドアに向かって近づいていく……が。


ガチャ


「美………」


どんっ!


「下がって!」


有無を言わせぬ強い口調。

ドアを開けた瞬間、フィアッセは美由希に室内へと押し戻された。

出ようとした廊下には、銃を構えた黒いスーツの男が一人。

そして……


パスッ!!


銃弾がフィアッセのすぐ傍の壁に撃ち込まれる。

部屋にいる他のソングスクールのメンバーは気付きもしない。その位の消音銃だった。


「っ……たぁああ!!」


ヒュッ!!


右手が閃き、銃を持った男の眉間に飛針が突き立てられる。

鋼鉄製の短い針で殺傷力はそれ程無いが、それ故に見えにくく、そして躱されにくい必殺のための布石。


「ぐあっ!!」

「……りゃっ!!」


男は頭を押さえて呻いた。

男が仰け反り、よろめいたのを好機と見た美由希は、一気に距離を詰めて…銃を持った手を剣で叩き砕いた。


ザシャッ!!


「ぐあぁぁぁぁああああっ!!!」


絶叫し、ドサリと男が倒れる。その後頭部に、美由希は更に刀を持っていない右の拳を叩き込んだ。

こういう輩の場合、意識を完全に刈り取るまでは油断出来ない。士郎から教わったことであった。


ゴガッ!!


「……っ」


男は完全に意識を失い、昏倒した。

素手でも戦えるように訓練された美由希の拳は、そこいらにいる生半可な学生ボクサーのパンチよりも強烈である。


「ふぅ……」


安堵の息を吐く。

……恐る恐る、フィアッセが美由希に近づいていく。


「美由希…大丈夫?」

「あ、フィアッセ……その恰好、綺麗だねー。」

「……ぷ、美由希…今更すぎだよー。」


美由希は今日初めて、フィアッセを直視したような気がした。

ふわ、と微笑む表情は、さっきまでのものとは違っていた。


「……初めて、まともにやりあった。」


初めての実戦。士郎、恭也との鍛錬・凌との試合とは違う……本物の命のやり取り。

息が荒い…肩も震えている。

そんな美由希を、フィアッセは優しく抱き締め、立ち上がらせた。


「…こわかったぁ。」

「うん……ピストルだったもんね。」

「うん……」


美由希は未だ多少震えている右手を見て、それでもその手を頼もしく思い…握り締める。


「…一瞬、頭の中が真っ白になって…気がついたら、とーさんに教えてもらって、恭ちゃんと一緒に身に付けた動きが出来てた。……あれだけ練習してなかったら、きっと…」


動きに迷いが無かったのは、それだけ繰り返してきたからだ。身体に染み込んだ連携攻撃…練習の価値を痛感した美由希であった。


「うん…さ、この人を警備の方に連絡して……」

「っ!?」


殺気を感じ、咄嗟にフィアッセをくるっと回転させるようにして地面に投げ倒す。


「……?」


しかし、何もない。

先程感じた殺気も無くなっている。

そして、美由希は悟る。

自分が気付けたのに…あの父が気付かない筈が無い、と。

そう、既に士郎もまた…美由希と同じく行動を開始していたのである。











士郎はティオレの護衛に就いていた。

ホテルの一室、そこにはティオレとイリア…そして士郎が集っていた。

二人とも既にステージ衣装に身を包んでおり、後は数分後のクリステラソングスクール・少女楽団の出番まで時間を潰しているところだ。


「それにしても、よく桃子が許可したわね。前のこともあるから、心配したでしょうに。」

「はは、まぁ……」

「それで、どんな条件を出されたの?」

「え?」

「桃子のことだもの…無条件で許可したわけじゃないんでしょ?」


心底楽しそうに笑いながら、士郎に追求するティオレ。


「そうですね…次の定休日に丸一日デートすることです。」

「あら…それだけ?他にもあるんでしょう?」

「あれ、分かりますか?いやー、実は……デートが終わったら体力が続く限り夫婦の営みです。いやー、最近忙しかったから…俺もまだまだですね。」


普通なら他人に言わないような事を平然と言ってのける士郎。

ティオレも平然とそれを聞いている。もしかしたらある程度は予想していたのかも知れない。


「ふふっ、相変わらずラブラブね…あなたたちは。」

「えぇ、そりゃあもう。」

「…………」


そんな爆弾発言をしたのにも関わらず、至って普通に会話を続けるティオレと士郎。そんな中、先程の士郎の発言に赤面する女性が一人。


「あらあら、イリア。どうしたの?顔が赤いけど。」

「あ、う……」


イリア・ライソン……ティオレ・クリステラのマネージメント、スクールの運営から生徒達の管理までを一手に引き受けている才女であったが、この手の話題には滅法弱かった。これでもかと顔を赤面させ、あうあうと目をぐるぐるさせている。

ティオレを通して彼女とも付き合いの長い士郎は、当然そんな弱点を知っていた。だからこそ、そんな事を平然と言ったのである。からかう為に。

まぁ、尤も…彼の話が口から出任せの嘘であるのか、本当の事なのかは…実際に条件を出した桃子と、出された士郎しか分からないことであるのだが。

そして、ティオレは持ち前のノリの良さを発揮し、イリアをからかい尽くしていく。士郎も悪ノリしてのそれは…結局、少女楽団の出番が回ってくる10分前、イリアの限界値が臨海突破し…ガァーッ!と吼えるまで続いたのであった。


「さて、そろそろ出ましょうか。」

「……そうですね、校長。」


心行くまでイリアをからかい尽くし、ご満悦のティオレと若干疲れているイリア。2人は椅子から立ち上がるとそう言った。


「………!」


士郎は2人を手で制して、ドアへと近づく。殺気を感じる。

先程までティオレと一緒になって楽しんでいた士郎の顔は、既に剣士としてのソレに変わっていた。

音も無くドアに近づき、開ける。


「ふっ!!」


廊下に出た士郎は、一瞬たりとも迷わずに左へ駆けた。

その先には、銃を持った一人の男。

飛針を取り出し、投げつける。


「ぐっ!」


飛針は士郎の狙い通りに男の手…銃を持った手に命中した。

堪らず銃を取り落とす男。慌てて拾おうとするが、その時にはもう、士郎の射程範囲内だった。


シャッ!!


一閃。

峰で放たれたそれを、男は脇腹に喰らって壁に叩きつけられる。

振り向きざまに『徹』を込めた回し蹴りを頭に入れて完全に昏倒させる。それと同時に、今度は鋼糸を放ち、今まさに部屋に入ろうとしている男の首へと巻きつける。


「ぐえっ!」


そして、思い切り引く。

士郎の使用している鋼糸は太さ0.4ミリの捕縛用。だが…首に巻きつけて強く引けば、瞬間的に頚動脈を圧迫させ、一瞬で意識を失わせることも出来るのである。

ぐるん、と白目を向く男。がくりと崩れ落ち、動かなくなる。


「……ふぅ。」


近くに敵がいないことを把握すると、士郎は小さく息を吐いた。

けれど、息を整える必要はない。引退していたとは言え、この程度の相手ならば現役時代に幾度も相手をしたことがある。

恭也や美由希には無い、数えるのも馬鹿らしくなるくらい積み重ねてきた実戦経験。それは、高々数年で失われるようなものではなかった。

ティオレとイリアに、部屋から出てもいい事を告げ…士郎は気を張らせて2人を護衛しながら、コンサートホールに向かった。










舞台袖にて、一本の刀を持って凌は立っていた。

士郎に許可してもらった際に渡された真剣。それを腰に携え、舞台袖で音合わせをしている少女たちを見る。

クリステラソングスクール・少女楽団。数分後、開催されるコンサートの前座をつとめる女の子たちだ。

彼女らを守るのが、士郎さんから任された凌の役目である。


「凌くん。」

「この子たちの護衛、ありがとうございました。」


ティオレと、イリアがやってきた。勿論、士郎も一緒だ。


《……お早いお越し、ありがとうございます。コンサートの開催まで……まずは、小さなステージ…。クリステラソングスクール・少女楽団の歌を、お聞き下さい。》


ティオレのアナウンスと共に、幕が開く。


「やっぱり襲撃があった。そっちは……?」

「いえ、俺の方は何も……」


士郎と会話を交わす凌。

そうしている間に、少女たちは舞台に向かって歩いていく。


「……!士郎さん、左右の通路に……」

「あぁ、いるな。すまない、右側…頼めるかい?」

「はい!大丈夫です。」


敵の存在を察知し、士郎は左へ、凌は右へと疾走した。

だが、凌は士郎のように殺気を感じる等という芸当は出来ない。

では何故、敵の存在を士郎と同時に察知することができたか……。それは、偏に5日間を費やして考え出した、凌だからこそ取れる方法だった。


『サーチャー』。


魔力によって生成された小型の端末。

リニスの協力で、彼女が魔力で生成したそれを、至る所に配置する。

敵の姿がそれに映れば、リニスから凌へと念話を通して位置を知らせてもらう。

つまり、士郎に話しかけた際…凌の頭では……


(凌、見つけました。舞台に通じる右側の通路に黒服の男が2人、左に3人います。)

(分かった。)


と、リニスとの念話が行われていたのだ。

そのリニスは現在、観客席で忍や那美や桃子たちと、特等席で一緒に座っている。

敵の位置を迅速に割り出し、できるだけ周りに及ぶ危険を減らす。それが凌の考えた対抗策だった。

タタタッと音を立て、廊下を全力で走る。

足音を聞きつけ、廊下の壁につけて置かれている調度品…その影に身を隠していた男二人が、銃を構えて出てくる。

男たちに共通して浮かぶ表情は、嘲笑。

足音も消さず、動きを惑わせるためにジグザグな軌道をして走っている訳でもない。その上、スピードも特別速くない。

男たちにとっては格好の的だった。

だからこその嘲り、だからこその余裕。

銃弾の一発でも身体に当たれば動きは止まり、心臓に当たれば命が終わる。

男たちもプロだ。常人離れした動きをする御神の剣士のような相手なら兎も角、大抵の相手ならば狙い通りに銃弾を撃ち込み、絶命させることができる。

その為の能力もあったし、自信もあった。


カチャ


2つの銃口が一斉に凌に向く。

だが、凌は止まらない。速度を落とすこともせず、そのまま走り続ける。

す、とトリガーに指が掛けられ………


パスッ!!


音はない。

だがしかし、弾丸は間違いなく発射された。

発射された2発の弾丸。

それらは、まるで吸い込まれるようにして凌の肉体へと向かい、―――


「うおぉぉぉぉ!!!」


―――その手前で1つ残らず弾かれた。


「なっ!!」


驚きは男のものだった。

銃弾は確かに命中した。だが、それは服を貫通しなかったのだ。

普通ならばあり得ない現象。しかし、それは間違いなく現実だった。

そして……凌は吼えながら、手前の男に肉薄する。


ガッ!!


抜かれた刀。右手で振るわれた峰打ちが男の腹に決まった。


「ギッ!」


壁に叩きつけられ、男は頭を強打して気を失う。

銃弾を気にすること無く、凌は敵に向かって走り続けていた。

男が放心状態から抜け出すよりも速く、刀が届く範囲まで近付いていたのだ。

銃弾を弾く服……これこそが、凌の切り札だった。


通称『バリアジャケット』。


魔力によって作成された、魔導師の身を守る防護服。凌は、リニスから製作方法を教わり、四苦八苦しながらもそれを作成することに成功していた。バリアジャケットは、身体全体を覆うように不可視の防御フィールドを常時展開している。故に拳銃くらいの弾なら簡単に弾けてしまうのだ。

残った男は、凌に向かって撃ち続けるが、その全てが凌の身に届く前に弾かれる。


「何なんだこいつは!化け物か!?」


戦慄。

銃が通用しない相手など…それこそ男は知らない。

着ている服も特別細工がしてあるようには見えない。なのに、銃弾が身体に当たる前に弾かれる。……それではまるで――魔法ではないか――

男は、自分でも馬鹿げでいると分かっていても、そう思わずにはいられなかった。

そして、ハッと気付いた時には……


「はぁぁあああ!!」


今、自分を恐怖させている存在が、迫っていた。


ゴッ!!


刀を逆手に持ち替え、柄の頭で顎を思い切り突き上げる。


「ぎゃっ!!」


さらに、意識を完全に失わせる為に、後頭部を左手に持った鞘で強打する。

男は低く呻いて崩れ落ち、意識を失った。


「はぁ、はぁ……リニスから心配ないとは聞いてたけど…やっぱ、心臓に悪いな。」


荒い息を吐きながら、刀を鞘に納める凌。

戦闘中は相手に動揺を悟られないように無表情を貫いていたが、内心は銃弾が飛んでくる度に冷や汗をかいていた。

携帯電話を取り出して、警備員に連絡した凌は…元居た舞台裏へと戻っていった。








しかし、凌はまだ気付いていなかった。

人間としてではなく、AGITΩとして相対しなければならない敵が、すぐそこまで迫っていたことに。










丁度、舞台の幕が上がった頃……恭也と美沙斗は、苛烈に斬り結んでいた。


「……はぁあああ!!」

「……おぉおおお!!!」


刃と刃が激しくぶつかり、火花を散らす。

鍔迫り合いでは、単純に腕力の強い恭也の方が有利に思われるが、御神流の技は変幻自在な多角的な攻撃を持ち味としている。それは剣だけに限らない……


ドカッ!


蹴りで突き放される。恭也に対して、ダメージと言う程のものは与えられなかったが、美沙斗の攻撃はそれだけに留まらなかった。


「………っ!」


前蹴りで上げられた足を下ろさず、すぐさま中段蹴りに切り替えて追撃。

恭也がそれをガードしたところに、更に足を下ろしながらの体当たりのような踏み込み……


「………くっ!」


突きが来る。

美沙斗が最も得意とする常套手段。御神流奥義之参『射抜』。

初撃で放たれたそれは、自分が放った『薙旋』にて何とか去なす事ができたが、今の体勢でそれを成すのは至難の業だ。

殺気が増大する。


ドックン!!


殆ど反射的に、恭也は『神速』を発動していた。


ザシュッ!


肩を斬りつけるようにしながら、後方に跳躍。

人間を超える動き、それによってまともな速度では詰めきれない程の距離を開ける。

だが、一瞬にしてそんな間合いを開けられる恭也が【まとも】でないのなら、美沙斗も【まとも】ではなかった。

その恭也の動きを完全に追い切り、肩を斬られながらも、必殺の突きが届く射程まで強引に詰めてくる。そして、刀が伸びてくる。


「………!」

「……っ!!」


『神速』の領域は肉体の動きよりも感覚が先行する。その美沙斗の動きを、恭也は捉えていたが……それでも、その一撃を躱しきる事は出来なかった。


ザシュウッ!!


「くっ!!」


『神速』同士の勝負が終わる。

世界が色を取り戻して行く。

……美沙斗も恭也も、それぞれに血を流していたが…美沙斗は、自分の方が傷は少し深いのに平然としていた。


「…はぁ……はぁ……」


息の上がり方すら、恭也の方が大きい。

『神速』で戦うことに慣れている熟練の、完成された御神の剣士と、『神速』を切り札とする完成されていない、成長途中の御神の剣士。

その差が、ここに現れていた。


「…薬を……使っていてね、痛みは…感じないんだ。」

「……そこまでして…」

「分かったろう。君は、私には勝てない。次は本気で当てるぞ。」

「…………」


手加減されていた。……その事実に、恭也は心が折れかけた。

本物の御神の剣士の力…やはり圧倒的だった。今の恭也では、どれだけ努力しようと差が埋まらない程に。

5日間。

その全てを費やして尚、奥義之極み、『閃』の修得は為らなかった。

御神流きっての天才剣士と呼ばれた士郎ですらも朧気にしか正体の掴めていない幻の技。御神の歴史の中でも、一握りの人間しか辿り着け無かった、御神流の境地。

高々5日間、どれだけ自分を研ぎ澄ませ、鍛錬に明け暮れたとして……手に入るような生易しいものでないのは重々理解していた。

だが……『神速』の速度で上回り、射程で上回り、『貫』を代表する技の巧さで上回る美沙斗に対抗するには、賭けるしか無かった。

幻の奥義、到達し得ない境地、それに挑んだ。

見えはしたが、掴めなかった。……それが、結果だった。

それでも、確かに恭也は見たのだ。

他人から口伝えで聞く事でも、教えられる事でもない、ただ辿り着くべき最後の一閃。

勝利の為の切り札は手に入らなかった。……だが…引けない。

戦わなくてはならない。例え1%しか勝てる見込みのない戦いだろうと…五体満足、心もまだ折れていない。恭也は、そう思うことで自分を奮い立たせる。

まだ負けていない。まだ、守れるのだと。そう、震える我が身に言い聞かせる。


「……………」

「……………」


それは、過去に恭也が『鴉』に見せた子供の青臭い意地ではなく、確固たる信念を持った一流の剣士の、気高い意地であった。






コンサートは続く。

様々な妨害を諸共せず、歌姫たちは…その歌声を人々に届け続ける。











(おまけ)


タタタタタッ


男は走っていた。

今日は海鳴市で行われるまるで夢か幻のように大規模な、チャリティコンサート。

『近年最高・最大の音楽イベント』の触込みに偽りなしのそれに行くため、全力で走っていた。

折角いい席をとって、世界的な歌姫たちの歌声を生で聞くことが出来るのだ。電車が遅れていなければ、走らずとも間に合っていたのに。と、思いながらホテルを目指す。

だが、残念なことに…男がそのコンサートを見ることは無かった。


グアァァァウ!!


男の脇を恐ろしいスピードで駆け抜ける黒い影。


ジャッカルロード―スケロス・ファルクス―


アンノウンと呼ばれ、恐れられている存在は、男の前に現れた。

だが、それを男が恐れることはない。

何故なら…………


ブシャーーーーッ!!!!


鮮血が、まるで噴水のように男の首から噴き出す。

そう、恐れる暇すらも無い。

ジャッカルロードが彼の脇を通過したとき、既に絶命していたのだから。

血溜まりに沈む男の肉体。


グルルルルァァウ!!


そして、ジャッカルロードは…その手に持った『断罪の鎌』から滴る血が乾かぬ間に、次なる獲物を求めて疾走したのであった。













後書き
一気にコンサート終了まで書こうと思ったけど物凄い長くなりそうだったので分けることにします。さて、AGITΩにはならなかったけど魔法は使った凌。『閃』を修得できず、依然苦戦中の恭也。この辺が今回の見所でしょうか。凌の出番増やしたかったけど無理です!この辺りが限界です、対人戦では。
バリアジャケットってデバイス無しでも作れたっけ?と思ったけど他に良い案も浮かばなかったんで、魔力と作り方さえ分かってれば作れるという設定で行きたいと思います。
あと、士郎の発言が真実なのか嘘なのかは読者の皆様の想像に任せます(笑)



[11512] 迷い込んだ男 第三十七話 「守りたいもの」 中編
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:d2657d4d
Date: 2010/05/29 02:03
「ご、ごめん、とーさん。ちょっと遅れちゃった。」

「ん?いや、あの子たちの出番まではまだ時間あるし、遅れたって程でもないだろ。」

「ホント?よ、よかったぁ。」

「それより美由希…襲撃はあったか?」

「あ、うん…4人ほど。取り敢えず気絶させて、武器も壊してから警備の人に引き渡しておいたけど…」

「そうか。よく守り抜いたな…偉いぞ、美由希。」

「あ……えへへ。」


丁度、凌が2人目の敵を昏倒させたのと時を同じくして、士郎と美由希は舞台裏にてそんな会話を交わしていた。

3人の敵を凌よりも速く倒しておきながら息一つ乱さずに美由希の頭を撫でるその姿は、最早流石と言わざるをえない。

一方の美由希も、士郎や恭也に比べれば未熟ではあるが立派な御神の剣士。いくら相手がプロでも、真正面からやりあって勝てるようなものではない。少しばかり疲労してはいるものの、子供の頃から積んできた修練の賜物か、戦闘を行って乱れていた筈の息は既に整っていた。


「ふわー、もうすぐ開演やなー。」

「うん、ちびっこ達の歌が終わるのがあと数分…の筈だよ。」


そう呟いて入ってくるゆうひとティーニャを先頭に、ソングスクールの卒業生たちが一斉に舞台裏へとやって来る。

その中には当然ながらフィアッセの姿も。彼女は不安そうな表情で、誰かを探してキョロキョロと視線をさまよわせている。

そして、丁度その時……ガチャっと扉が開き、凌が戻ってきた。

凌の身体に傷は見当たらず、少し疲労している程度…それを見て、漸くフィアッセは安堵の息を吐いた。フィアッセとしては、控え室にいた時から凌の事が気に掛かり、どうにも落ち着かなかったのだ。

そうしてフィアッセは、笑顔で凌へと駆け寄って行ったのだった。









第37話「守りたいもの」中編










「クレスビー♪リーファ♪音合わせしよー♪」


舞台裏の一角……そこには、かつてスクール時代の同期だったクレスビー、ウォン、エレンの3人の姿があった。

クリステラソングスクールの卒業者は、総じて世界的な活躍をみせている。特にエレンはソングスクール卒業者の中でも特に忙しい出世組であり、今回は映画出演やその他諸々の多方面からの依頼を断っての参加であった。それだけ彼女…いや、彼女たちにとってティオレ・クリステラの存在は大きい。彼女の元でうたを歌い、経験を積んでいなければ、今の自分は無かった。そう断言できるほどにスクールの卒業生たちはティオレに感謝していたし、慕っていた。


「で、最後の方の『天空の回廊』なんだけど…んー、んーんー……♪っと、ここがどんなハーモニーになるのかやってみたくてね。」


エレンは楽譜を取り出し、ハミングで音を取り始める。


「えーと……んーんーんんー♪」

「らーらーららー♪……で、ここでアイリーンのソロが入って…」

「え、ゴメン、もう一回いい?私も入れて。」

「ん、おっけ。らーらーららー……♪」

「んーんーんんー……♪」


3人はそうやって納得のいくまで音合わせを続けた。

そして、そんな3人の後ろの方では、漸く万端整った(観念した)アイリーンが、やはりと言うべきか居心地悪そうにしていた。


「うぅ…ねぇティーニャ、変じゃない?」

「んー、変じゃないよー。自信持ちなって。」

「そうそう、似合ってる似合ってる。」


ティーニャがアイリーンを爪先から頭までじっくりと観察してそう言い、アムリタは腕を組んでアイリーンに向けて賛辞を送る。

しかし、それでも信じられないのか、疑り深い目でアイリーンはティーニャとアムリタに視線を向けた。


「……ほんとーに?」

「何言ってんの。アイリーンだって女の子なんだから。……ってか、自分にドレスが似合うのがそんなに信じられない?」

「うぅ……だって、だってだよ?こう、下のスースーする感じとかがすっごいアレで…」

「もうっ、心配性だなぁ。第一、それで似合ってないって言うのは嫌味だよ?ハッキリ言って。」

「そうだよ、今日の準ヒロインなんだから自信持ちな。」

「うぅ…それだけ聞くと気分いいんだけどなぁ……」


そう言って苦笑いを返しつつ、アイリーンは髪を整える。


「アイリーン、ちびっこ達終わったら…次うちらやろ?ちょう音合わせしとかへん?」

「あ、うん。ちょっと待ってー。」


急いで髪を整え、楽譜を片手に2人は音を取り始めた。

そして、つい先程…凌の元へと走っていったフィアッセはと言うと……


「えと、どう…かな……。」


高鳴る胸の鼓動を何とか抑えようと葛藤しつつ、精一杯の勇気を振り絞り…自らの服装についての感想を凌に聞いていた。

ちなみに、士郎と美由希は空気を読んで違う場所に行っている。

純白の、白くて綺麗なドレスに身を包み、頬を赤く染めて上目遣いに凌を見つめるフィアッセ。

その破壊力は推して知るべし。


「綺麗、です。その…凄く。」


二週間前、デパートに買い物に行った時よりも更にしどろもどろになりながら、言葉少なく自分の正直な気持ちを言う。

凌自身は、そんなお決まりな事しか言えない自分を情けなく思っていたが……フィアッセにしてみれば下手に言葉を飾らず、ストレートに自分の正直な感想を言ってくれた事が嬉しくてたまらなかった。

だから、その言葉に嬉しくなり、自然と顔には笑顔が浮かぶ。先程まで浮かべていた安堵の笑みとはまた違う、喜悦の笑みであった。


《……本日は、お運び…ありがとうございます。……このコンサートは、世界中の…医療と薬の不足に悩む人々を、少しでも救う為のものですが…同時に、私が育てた全ての生徒達の……卒業式でもあります。クリステラ’sソングの歌い手から……それぞれの歌い手へと…夢と希望を載せて……それぞれ一人で、羽撃く為の。…私の魂を、継いでいってくれる愛しい娘たちへ…ここに来てくれた……そして、聞いてくれている、すべての歌を愛する、優しい皆さんへ…どうか、このコンサートを楽しんで行って下さい。》


2人がそうしている内に、少女楽団の歌が終わり…ティオレがステージに立ち、舞台挨拶が始まった。

客席から歓声が上がる。

それが本格的にコンサートの幕が開く合図だった。


「いよいよかー、やっぱし…ちょう緊張するな。」


二の腕を擦るようにして緊張を紛らわそうとするゆうひ。

そのおどけた仕草を見て、ゆうひと同じく緊張していたアイリーンも、くすりと笑う。


《では、一曲目……『若き天才』アイリーン・ノア…そして『天使のソプラノ』SEENA…英国と日本を中心に活動する2人の歌…どうぞお聞き下さい。》


「ほら、行くよっ…ゆうひ!」

「ぅ、よっしゃ!行くで、アイリーン!」


互いを鼓舞し、2人はステージに立つ。

2人の歌声が、コンサートホール中に響き始めた。










美沙斗は焦っていた。

時計を見る暇など無いから正確な時間は分からないが、恐らくはもうコンサートは始まっているだろうという確信はあった。

恭也を打ち負かし、コンサートホールに着いたとしても…そこに待つのは彼女の兄、高町士郎だ。だからこそ、時間は掛けられない。

早々に恭也を負かし、本来なら既にコンサートホールに着いている筈だった。

だが、実際はどうだ。

恭也は尚も戦う姿勢を貫き、自らの前に立ち塞がっている。

恭也が生半可な腕でないことは美沙斗とて百も承知だった。しかし、今の恭也は…これまで剣を交え戦ってきた中で初めて、美沙斗をも圧倒する威圧感を放っていた。

美沙斗の放つ威圧感が怒りや殺意で出来ているのだとすれば、恭也のソレは純粋なる覚悟。一点の曇りも無く、ただひたすらに大切なものを守ろうとする意志が、決意が…美沙斗の感じる威圧感の正体だった。


「……っ!」


思わず怯む。

そこで初めて、美沙斗は認識を改めた。

そう、ここに来て初めて…美沙斗は恭也のことを『敵』だと認めたのである。


「……く…てぇりゃぁぁああああっ!!!」


ザッ、と踏み込む。

そして次の瞬間……美沙斗の視界が色を失う。

『神速』が発動する。


ジャッッ!!


刀の射程範囲までの距離を一気に詰めるつもりで、モノクロの世界を駆ける。

今までとは違う。今度は本気で撃つ。

そうしなければ倒せない…と、美沙斗は判断した。運が悪ければ殺してしまう事になるが、時間がない。

彼女の目的…仇の組織『龍』の情報を手にいれるためには、どうしてもこの依頼を成功させなければならないのだから。

……止まれない。この数年の間に、費やした時間も、力も、殺めてしまった命にかけて、ここで止まる訳にはいかないのだ。

本音を言えば斬りたくなどない。殺したくなどない。血縁を…ましてや自らの兄の息子の命を…奪いたくない。

そう思いながらも、止まれない。

止まることは許されない。最愛の人たちを殺した連中に復讐する。それこそが自分の生きる意味なのだから……


スっと美沙斗は構えに入る。

御神流の奥義…その参番目。

『射抜』

最速にして最長の射程で、敵を屠る技。

美沙斗が、一番信頼している技。


ダンッ!


身体が音をたてる。

全身の肉が、腱が、緊張する。

そして、次の瞬間…重い鉄板をも刺し貫く必殺の一撃が放たれた。

正中線を狙って放たれたソレは、狙いのまま貫けばほぼ確実に死に至らしめる。まさに必殺の一撃であった。


「……!?」


だが、美沙斗の想いとは裏腹に、『射抜』は…放たれたその瞬間から、既に的から半分ズレていた。

『射抜』は、掠るように胸の皮膚だけを斬るに留まった。

美沙斗が放った必殺の一撃は、恭也にギリギリのところで躱されたのだ。


「なっ!?」

「はぁ…はぁ……」


驚きの声を上げる美沙斗。

それに応えるように、恭也は荒い息を吐いている。

美沙斗の攻撃は、見切られた。

避けられたのではなく、見切られたのだ。構えに入る前から『射抜』だと見抜かれ、狙いを読まれて外されたのである。

しかし、それでも本来この結果は有り得ないのだ。

いくら技を見切ったとは言っても、必ずしも避けられるわけではない。ましてや美沙斗は『神速』を発動させていたのだ。たとえ恭也が同じように『神速』を発動したとしても、皮膚のみを斬るという結果にはならない筈であった。


「…そんな……」

「はぁ……はぁ…っ……」

「更に、速いだと……!?」


だが、恭也はその不可能を可能にした。別に、突発的に美沙斗以上の力を手に入れた訳ではない。

只の『神速』で駄目ならば、『神速』の最中に更に極度の集中を重ね、感覚時間を引き伸ばせばいい。そんな安直な考えで実行に移された荒業。

それは、見事に功を奏した。

僅かな初動の時点で動くことができれば、いくら美沙斗が速いとは言え…躱し、捌くための負担は断然違ってくる。

そして、恭也は見事…美沙斗の『射抜』を躱しきったのだ。

ただ、恭也としてもそう何度もその極度の集中を続けられる訳が無い。


(神速の二段掛け…美沙斗さん相手に、どこまで通用するか……)


恭也も、内心ではそう考えていた。

熟練の御神の剣士であっても、『神速』最中のフェイントは困難を極める。先程のはそれを逆手に取ったからこそ成功したのだ。

動揺し、若干ではあるが隙が生まれている今のうちに…カウンターを狙うしかない。そう、恭也は考えていた。

目を凝らし、美沙斗の次の動作を見る。


「……っ!?」


ミシッ!


『神速の二段掛け』


それは、確かに強力だったが、身体への負担も並々ならぬモノだった。

全身の、特に足腰の関節が軋み、限界が近いと訴えてくる。

1回。それが、恭也が自覚する『神速』の稼動限界だ。チャンスは一度、それで…美沙斗を倒さなくてはならない。


「はぁ…はぁ……」


恭也の瞳には、未だ消えない決意の炎。肉体は既に限界を迎え、精神力だけで戦っていると言ってもいい恭也にとって、これ以上の限界突破はあり得ない。

次の一撃…それで倒せなければ、もはや勝機は無くなるだろう。

父から譲り受けた『八景』を握り直し、最後の一撃に賭ける。

『薙旋』

恭也が最も愛用し、得意とする奥義。


「………ふっ!」

「…………!!」


恭也と美沙斗は、刀を構え…同時に『神速』を発動させた。










《では、続きまして…一昨年度のジュニア・クリステア……マリー・シェラのソロでお届けします……『月光』…》


恭也と美沙斗が死闘を繰り広げている間も、ステージは進行していく。

舞台の上で歌を歌うのは、いずれも劣らぬ世界に名を響かせる歌姫たち。会場の熱気は、否応無しに高まっていく。

ティオレのアナウンスが終わり、舞台にマリーが現れると会場がワッと湧く。歓声と拍手が全ての客からマリーへと贈られる。

曲が流れ始め、歌が始まる。

その瞬間に観客たちもピタリと静まり、その歌声に酔い痴れる。

そんな平和で、幸せな時間が流れている中で、コンサートを中止に追い込むために暗躍する影があった。そして、その妨害は…コンサートが本格的に始まった事により、更に激化していた。


「……らぁっ!!」


舞台に通じる左右の通路、そこを突破し…歌姫たちを殺害しようとする敵。その数は最初よりも増していた。

そして今、凌が対峙している敵は前の三倍の数だった。士郎と美由希も逆方向の通路で敵の迎撃に当たっている。向こうの数は凌が担当している数の更に二倍である。


「っ!!」


バリアジャケットを纏うことで敵の銃弾を無効化し、敵を昏倒させていく。

刀の峰で敵の腹部に一撃を喰らわせ、左手に持った鞘で顎を下から突き上げ、次々と自分よりも強い筈の敵たちを打倒していく。

銃弾が効かず、動揺した男たちは次々と倒されていった。そして………


「はぁ…はぁ……お前で、最後だ。」


荒い息を吐きながら、凌は最後の一人に向かって疾走する。他の五人は、全員床に倒れ伏していた。


「あぁぁぁあぁぁ!!来るなぁァァ!」


錯乱し、銃を乱射する男。しかし、その全てが凌の身には届かない。


「……蹴り穿つ!!」


男が構えた銃を鞘に収めたままの刀で弾き、空中へ打ち上げる。そして、下半身全体のバネを使って上段蹴りを放つ。男の喉元を狙って放たれたソレは、命中し…男の意識を一瞬の内に奪った。


「はぁ…はぁ……疲れる。」


警備員に連絡を入れ、壁に凭れて座り込む。訓練以外でこれほど長く気を張り詰め、戦闘行為を行ったのは、凌にとっては初めてだった。バリアジャケットのお蔭で肉体へのダメージは皆無とは言え、疲労の方はじわじわと溜まり続けていた。

だがそれでも、いつまでもこうしている訳にはいかない為、凌は立ち上がって舞台裏に戻ろうとした。

その矢先の事である。凌は舞台裏へと向けていた足を反対方向に向け、弾かれたように走り出した。

そのまま通路を抜け、その先にある階段を駆け上がる。

やがて階段を登りきり、目の前の扉を開く。

そこに、いた。

ホテルのエントランスホールには、あまりに不釣合いなその存在……人類の敵、アンノウン。

赤き瞳に鋭い牙、そして褐色の肉体を持つその異形の名。


ジャッカルロード―スケロス・ファルクス―


突如として凌の前に現れたソイツは、凌に宿るAGITΩの力を感じ取り、唸り声を上げた。

そして、凌も………

リニスに向かって念話を飛ばしながら、ポーズを取る。


「変身ッ!!」


アンノウンと戦う為……腰にベルトを出現させ、AGITΩへと変身した。


グルルルルァァァ!!


ジャッカルロードは、凌がAGITΩに変身するや否や、咆哮しながら襲い掛かって来た。

壁を蹴り、右へ左へと縦横無尽に移動し…AGITΩを撹乱するアンノウン。その動きは酷く機敏だった。

AGITΩは、その素早い動きに翻弄されるも…拳を固く握り、アンノウンの攻撃に備える。

そして、そんな状況が数秒間続き………


グルァァァァア!!


……遂にアンノウンが攻撃を仕掛けた。壁をける際の瞬発力を利用してAGITΩに飛び掛かり、その鋭い爪によって首を切り裂こうとする。

だが、それをAGITΩは身体を少しばかり左に傾けることで回避する。そして、逆に右の拳でアンノウンの腹部を殴りつけた。

まともに喰らい、腹を押さえて着地するアンノウン。しかし、次の瞬間…アンノウンは反撃に移った。


シャラララララララ


手首から鎖を飛ばし、AGITΩの右腕と首に巻き付けたのだ。


「……!?」


首がギリギリと締め付けられ、苦しむAGITΩ。


グルルルァァァア


やがて、アンノウンは鎖を勢い良く下に向けて引っ張り、AGITΩの体勢を崩させた。そして、そのままAGITΩに飛び掛っていく。

鋭い爪が光る。

危険を感じ、AGITΩは半ば無理矢理仰向けに倒れた。そして、巴投げの要領でアンノウンを投げ飛ばす。

元々攻撃の補助としての役割しか持っていなかった鎖は、その時の勢いで千切れ飛んだ。

お互い、ダメージはない。

AGITΩもアンノウンも、すぐさま起き上がって構え直す。AGITΩは再び拳を握り、アンノウンは頭上に輪を出現させ、己の武器『断罪の大鎌』を取り出した。

AGITΩは大振りに振るわれた鎌を避け、逆にその大鎌を左手で掴んで右手で裏拳を叩き込む。

だが、アンノウンは鎌を掴んだAGITΩの手に爪を突き立て、強制的に鎌から手を離させる。次いで、痛みで怯んだAGITΩを蹴り飛ばす。


「……ぐぅっ!」


壁に叩きつけられ、低く呻く。

急いで立ち上がると…目の前にアンノウンが鎌を振りかぶって立っていた。

すぐに屈んでこれを回避するAGITΩ。

ガリガリと音を立てて、ホテルの壁が切り裂かれる。

リーチの差、戦闘スタイルの違いから…このままでは勝てないと踏んだAGITΩは、左のドラゴンズアイを叩き、フォームをグランドからストームへと変化させる。

金色の装甲が青く染まり、左肩にプロテクターが装着される。

ベルトに手を翳し、ストームハルバードを取り出し、刃を展開させる。

ブンブンと軽く振り回し、刃先をアンノウンに向けて構えた。


グルルァァァ!!

「はぁ!!」


両者、同時に踏み込む。

激しくぶつかり合う大鎌と薙刀。

速さを生かした戦法、目紛るしく入れ替わる攻撃と防御。AGITΩが突こうとすれば、アンノウンは躱し、アンノウンが断罪の大鎌を振るえば、AGITΩはストームハルバードで受け止める。どちらもほぼ互角…しかし、どちらかと言えばAGITΩの方が若干押していた。

斬り、薙ぎ、突き…攻め方を色々と変化させ、アンノウンを追い詰めるAGITΩ。横薙ぎを防がれればその隙に拳を叩き込み、斬り下ろしが防がれれば、脇腹に蹴りを喰らわせる。そうして、AGITΩは徐々にアンノウンを追い詰めていく。

しかし、そこで異変が起きた。


「ガハッ!!」


瞬間…AGITΩが壁に叩きつけられた。

たった一撃。それだけだった。

その一撃を喰らっただけで、立場が…状況が、一変した。

優勢から劣勢へ。

AGITΩは、その一撃を喰らってしまったが故に、一気に窮地に立たされることになった。


グルルルルルアァアァアァアアアアア!!!!


今までよりも一際大きく、より凶暴性を増した声で…アンノウンは咆哮する。

その姿は、ついさっきまでのものでは無かった。

牙が、爪が伸び…より鋭利になって殺傷力が増している。

体躯は先程までよりも一回り大きくなり、皮膚の強度までも堅牢になっていた。

瞳に宿る殺意も、その身に纏う殺気も、遥かに増大している。

そして、極めつけは…4足歩行。

先程までの姿を、仮に獣人とするならば…今のアンノウンは、完全に獣と化していた。


グルルァァアァアアアアアアア!!!!!


更に大きく咆哮したアンノウンは、戸惑いながらも体勢を立て直し…ストームハルバードを構えたAGITΩへと襲い掛かっていった。










凌がアンノウンと邂逅したのと同時刻、士郎と美由希は凌とは反対方向の敵を蹴散らしていた。


「やあぁぁっ!!」


美由希は、一瞬だけ身体を沈み込ませると…廊下の壁につけて置かれている調度品を半回転しながら飛び越えた。

そして、その物陰には拳銃を引き抜こうとしている男の姿。


「やらせないっ!」


ヒュンッ!!


剣を振るようにして左手を動かす。

直後…懐から拳銃を抜こうとしていた男の右腕が、ピシリと緊張し捻れ上がった。

鋼糸を放ち、男の腕を絡め取ったのだ。


「ちぃっ!!」


男は心底憎々しげに舌打ちし、左手を腰の後ろへ素早く動かした。

美由希は鋼糸を引き込みながら、右の手で刀を抜く。

直後、男が取り出したものが明らかになる。

警棒だった。それもただの警棒ではなく、特殊警棒。美由希は、それが特殊警棒だと分からなかったが、直感的に危険を感じた。

鋼糸を思い切り引き、相手と引き合いになりかけたところで、美由希は自ら右に持った刀にて鋼糸を切断した。


「ぬあっ!!」


ブツッと音を立てて鋼糸が拘束力を失う。

男が、鋼糸を巻かれた右腕を引っ張り…美由希を間合いに引きずり込んで警棒で殴打しようとしたその瞬間のことであった。

その為、男は大きく体勢を崩してしまう。

その隙を逃すまいと、腰を落としていた美由希が一気に相手の懐へと飛び込んだ。


「はぁぁぁああああああ!!!」


ドグッ!!


身体全体の遠心力が乗った肘鉄が、男の鳩尾に極まる。

男が止まる。

如何に鍛えられた腹筋であっても、美由希の練りきられた足腰の捌きから繰り出された体重の乗った一撃を受ければただでは済まない。


「はっ!!」


続いて、左の刀も抜き…男の両手を壊す。ザクリという音と共に、刃が突き刺さりブシャ、っと血が吹き出す。


「っぐぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


掠れた声で悲鳴を上げる男。

本来優しい性格の美由希だが、死への恐怖心がこうした破壊技への躊躇を失わせていた。

だが、男にも意地があるのか…せめて一矢報いようと、蹴りによる攻撃を放った。


ズガッ!


その攻撃は美由希に届かなかった。

逆手に持った刀が膝に突き刺さっている。


「…ごめん……!」


小さくそう呟きながら、美由希の放った峰打ちが男の顔を正面から捉えた。


「……ぐっ!」


壁と剣に挟まれた男は、遂に意識を手放した。

斜め打ちだった為に無事だったが、もしも真横に立てて打てば人中をまともに打ち砕き、悶死していたかも知れない一撃だった。

そうして、今度こそ美由希は力を抜いた。

通路に立っているのは、美由希と士郎の二人だけだった。


「はぁ…はぁ……はぁ……」

「美由希ー、終わったかー?」


荒い息を吐き、膝をついている美由希の前に、息一つ乱さず歩いてくる士郎。


「はぁ…はぁ……あの、とーさん?私の記憶だとさっきの人と戦い始めた時、とーさんは3人に囲まれてたと思ったんだけど……」

「3人で来ようが5人で来ようが、連携がなっていなければ同じだ。俺の敵じゃない。」

「いや、同じじゃないと思う。」


当たり前のような口調でそう言う父に、敵わないなぁと思いつつ苦笑い。


「ま、終わったのなら凌くんの援軍に向かうか。正確な人数は分からなかったが…少なくとも3人はいたみたいだしな。」

「でも、一人で大丈夫だったの?凌さん。」

「試合ではお前とほぼ互角だったからな、大丈夫だろう。」


それは士郎の本音でもあったが、それでも心配なことに変わりはない。急ごうと、歩みを早めた。

と、その時だった。士郎の目に、先程美由希が倒した男の手が見えたのは。

何となく気になって、その手を見ている内に…士郎の顔が段々と険しくなっていく。士郎の顔から余裕が消える。

左手の甲から貫通する剣の傷。その血の下に青い刺青が彫られていた。

一見ただの刺青に思えるソレ。しかし、士郎はそれに嫌という程見覚えがあった。


「…これは……」


……その青い刺青は、龍の形をしていた。

蜷局を巻きながら飛翔する青い龍の姿だった。











一瞬の緊張。

先に動いたのは美沙斗だった。

1歩、2歩、3歩と『神速』の領域で走ってくる。

美沙斗が、僅かばかり剣を引いた。

その瞬間…恭也の集中力が跳ね上がり、『神速』が深度が増す。

『神速』最大の利点…それは、己の限界を超えた力を引き出せること……という風に誤解されがちだが、実は違う。

その速度さえ凌駕する、感覚速度の上昇が『神速』の強みだ。

たとえそれが恰も雨のように放たれた連打であろうと、その全ての初動を見ることができ、狙いを正確に見切ることができれば、恐れるものは何も無い。

そうした意味での感覚的な速度の向上…それにより、時間遅延は肉体の限界突破とは別に、使用者の集中力次第ではどこまでも深度を大きく出来るのだ。

恭也が美沙斗に勝っている点を挙げるのならば、これしかない。

技の錬度、修練を積んだ時間、実戦経験…あらゆる面で美沙斗が上回るのなら、それを超えるには最早精神力で勝つしかない。

負けられない理由が、勝たなければならない理由が、倒さなければならない理由がある。


「っ……!!」


恭也が動いた。

美沙斗の攻撃は右に握られた『龍鱗』から放たれる刺突。御神流奥義之参『射抜』。

この速度に対抗し、尚且つ潰し切れる技といえば、恭也の持つ技の中では『薙旋』だけだ。『射抜』の正確無比な狙いを、『神速の二段掛け』で定めた『薙旋』で殺す。それだけに全神経を集中させる。

『龍鱗』が伸びる。狙いは恭也の左胸。

右手に握った『八景』を居合いの要領で抜き放ち、対抗する。

それで突きを払い打ち、左を美沙斗の肩へと叩きつけ、回して切り返した右で突き、トドメに左の『八景』で腋打ち。

………だが、その三段目…刀を切り返したところで美沙斗に反応される。

恭也が放った突きを、最初に弾いた右の一刀で強引に弾く。

そして、トドメとして放った一撃は、そのまま恐ろしい速度で回転しながら放たれた美沙斗の左裏突きで潰される。


「……っっ!!!」


裏突きが恭也の腋を掠める。

そして、遅れて回ってくる美沙斗の後ろ蹴り。

身体を固定する美沙斗の剣が邪魔になり、反応が遅れ…動くことができなかった。

恐ろしく速いまるで鎌のように鋭い蹴りが迫る。


「がっ!!」


ドゴォォ!!


その蹴りが、恭也の頭をモロに撃ち抜いた。










「はっ、はっ…はっはっ……」


美由希は走っていた。

父に知らされた驚愕の事実。

それは、襲撃してきた男たちの正体だった。

テロ組織『龍』。

士郎は、その組織と浅からぬ因縁があったし、その組織の構成員の特徴(手の甲に青い龍の刺青がある)も知っていた。

では、何故すぐに気付かなかったのか……原因は、先入観によるものだった。美沙斗が『龍』に復讐を誓い、裏世界の闇へと消えていったことを士郎は知っていた。そんな美沙斗が、『龍』の連中の依頼を受けているなど…誰が予想できるだろうか。故に、士郎はその可能性に思い至る事ができなかったのだ。あの時、偶然にも男の手の甲を見ることがなければ、きっと今になっても気付けずにいたであろう。

そして、事実に気付いた士郎の指示は迅速だった。

美由希を、恭也と美沙斗のいる廃ビルへと向かわせた。『龍』の構成員自体は、ハッキリ言って士郎たち御神の剣士の敵ではない。にも拘らず、士郎が『龍』を危険視しているのは、一重に彼らの手口によるものが大きい。彼らが最も得意とするのは爆弾テロ。

美沙斗を雇っているという油断故にホテルにこそ爆弾は仕掛けられていないが、廃ビルの方にはおそらく仕掛けられているだろう。勿論、美沙斗が万が一裏切った場合のことを考えての保険だ。

本来なら士郎が行った方が確実なのだが、如何せん『龍』はまだまだ刺客を送り込んできていた。

多人数相手の戦闘は、士郎の方が圧倒的に慣れている。次々と襲い来る刺客を相手にするには、美由希はまだ未熟だった。

これと時を同じくして、AGITΩとアンノウンが右側通路へと通じる階段付近で戦闘を繰り広げていたために、彼らは左側に集中した方が良いと考えたのである。


「恭ちゃん…無事でいてっ!」


美由希は駆ける。

2人が、手遅れになる前に。

己の兄と、母を死なせない為に……










ガァアァアアアアアアア!!!


「が、あ……」


鋭い爪が、AGITΩの肩に突き刺さる。

その身は満身創痍だった。

体には無数の切り傷。左肩のプロテクターは牙によって砕かれ半壊し、今は体を前足によって押さえつけられている。

それは、一方的な蹂躙だった。

豹変したアンノウンの戦闘力は、凄まじいものであった。

パワーは今までより強く、スピードは尚速い。

すべてのポテンシャルが跳ね上がっているとしか思えない位、アンノウンは強くなっていた。

だが、それでも弱点……というより、前よりも弱体化したものも確かにあるのだ。

それは完全に獣になったが故の知能の低下。本能のみで行動するアンノウンは、フェイントを使えないし、行動自体も無駄が多い。

それが分かっているのに…ストームではパワー不足で、強度を増した皮膚を抜いて致命打を与えることが出来ない。

かと言ってフォームを変えようとベルトに手を伸ばそうとすれば、そこに容赦なく爪が振り下ろされることになる。


グルルァアアァアアアアアア!!!!


アンノウンが吼え、左腕を咥える。


牙がくい込み、激痛が走る。


「ぎ…あ、が……」


そしてそのまま腕を咥え、勢い良く放り投げた。

叩きつけられた扉ごと、AGITΩをエントランスホールから地下へと降りる階段の手前まで投げ飛ばす。


「うぐっ!………っ!!」


ガァァァアアアア!!!


痛みに悶える暇もなく、アンノウンは追い打ちを掛けてくる。

AGITΩは、痛みで使い物にならなくなった左手からストームハルバードを持ち替え、右手に持つ。


「ぐっ!」


その身を咬み千切ろうと、口を大きく開けて飛び掛ってくるアンノウン。それにストームハルバードの柄を口に入れ、これを何とか凌ぐ。

ここに来て漸く、拮抗状態が生まれた。

だが、今の状態がそう長く続く筈もない。だからこそ、AGITΩは早々に事態を好転させるべくストームハルバードを大きく振るい、アンノウンを吹っ飛ばした。

そして、その隙に立ち上がって態勢を整えようとする。

しかし、それよりも速くアンノウンは再びAGITΩへ突っ込んできた。

確かにアンノウンは、吹っ飛ばされたが…壁に激突する寸前に足を壁につけ、壁を蹴った。それにより、アンノウンは更に勢いを増してAGITΩへと迫ってきたのである。


「っっ!!……あ、ぐ…」


そんな体当たりを片腕で受止められるわけもなく、AGITΩは階段をゴロゴロと転がり落ちていった。










負けられない。

(……何故?)

勝たなくてはならない。

(……何故?)

あの人を、倒さなければならない。

(……何故?)


美沙斗の蹴りが頭部を直撃し、恭也の意識は飛んでいた。

混濁した意識の中、様々な問い掛けが頭の中で交錯する。

戦う理由は?


(守りたいものがあるから。)


守りたいものとは?


(フィアッセを、ティオレさんを、美由希を、友人を、スクールのみんなを……)


本当に?


(守りたいもの……俺の、守りたいものは……っ!)


薄靄の中、自問自答が想いを導き出す。自分自身でさえ気付いていなかった、恭也の心の奥底を。戦う、本当の理由を。


「………」


恭也は、倒れることなく立っていた。

固く閉じられた口からはポタリポタリと血が滴り落ちている。


「……そのままで、いい。君は良くやったさ。」


美沙斗は、恭也にそう言い…ビルを降りるため部屋を出ようとした。


ザッ……


「!?」


しかし、恭也は美沙斗に向き直る。顔を上げ、真っ直ぐに美沙斗を見据える。

意識を失っていたのはほんの僅かな間だけ。

だが、恭也はその僅かな…本当に数瞬の間に、答えを掴んだ。

大切なものを守る。……それは、恭也が士郎から聞かされ、理想とした剣を振るう理由。だが、それはあくまで士郎が剣を振るう理由であり、恭也のものではない。謂わば、今までの恭也は士郎のそれを真似ていたに過ぎなかったのだ。

大切な人達の…かけがえの無い今と、これから先ずっと続いていく未来。

それが、守りたいもの。恭也が、命を賭けてでも守りたいと思ったものだった。

それを守るために、恭也は戦っていたのだ。

これが、士郎の戦う理由を真似たものではなく、恭也自らが導き出した答えだった。


「美沙斗、さん」

「恭也くん…まだ……」

「ええ。」


傷つき、いつ倒れてもおかしくないような状態にありながら…それでも、目の光は前より澄み、纒う闘気は別人のように研ぎ直されていた。


「美沙斗さん…俺は……」

「…………」

「それでも、みんなの『今』を…これからの『未来』を、奪っちゃいけないと思うんです。」

「恭也くん……」

「確かにあなたは、戻れないほどたくさんの命を奪ったかも知れない。……だけど、みんな一生懸命生きてるんです。優しくて、正しい生き方で……みんな、本当に一生懸命に誰かを愛して、愛されて、それに応えようとして……。そんな人達の大切な『今』を、たとえどんな目的があっても、奪っちゃいけないですよ。」

「…………」


チャキッ


美沙斗の蹴りを受けたときに取り落としていた『八景』を拾い上げ、握り直す。


「御神流は…確かに、あなたの言うように哀しくて黒い剣なのかも知れない。だけど技は所詮道具に過ぎない。道具に振り回されて、生き方を見失ってしまわないで下さい。」


恭也は二刀を大きく構える。


「……俺はあの人たちの未来のためなら、何度だって立ち上がる。行かせはしません。」

「………」


そんな恭也の姿を見て、美沙斗は……。

あくまで立ち続けるその姿を見て、不意に顔を崩した。


「……やめてくれ…」


つ、と…美沙斗の目から涙が流れる。


「私に、殺させないでくれ。私は、きみを殺したくない……!家族を…殺したくない………」

「…………」


最後の言葉は、今までの美沙斗からは考えられない程弱々しいものだった。

恭也は、澄んだ瞳で美沙斗を見据えた。


「……何で最初にそう言って、止まれなかったんですか。」

「っ……」

「あなたは、殺しなんて似合う人じゃない!優しい人の筈です。」


恭也は知っている。

背中に、まだ幼かった美由希を背負い、白い洗濯物を抱えていた姿を。

恭也は信じている。

日溜まりの中で微笑んでいた、あの幸せな笑顔を。


「もう、そうじゃない……もう、あの頃には戻れない…私は、殺しすぎた。犯した罪も、殺めた人たちも…私に止まる権利なんか、くれないんだ……!」

「優しくなるのに、権利も資格もいるんですか?!」


……静寂が訪れる。

美沙斗だって分かっていた。

自分が弱いから…弱すぎて、止まる勇気も持てなかったから、止まれなかっただけなのだと。

けれどそれを認めたら、認めてしまったら…あまりにも今まで殺した命が報われない。だからこそ、決してそんな弱弱しい理由で人殺しをしたんじゃないと思いたかったのである。


「……………」

「……………」


お互いに、語る言葉はもう存在しない。

恭也に向かい、美沙斗は駆け出す。

止まる訳にはいかない。と、ただそれだけの想いで。


「…………」


恭也に迫る美沙斗。

しかし、恭也はその姿を見ていなかった。

恭也が見たのは光。

……求めてやまなかった一筋の閃きの道。

そこに、沿うようにして『八景』を奔らせる。


ド、ゴォッ!!


「……!!」


その時、確かに美沙斗は見た。

『神速』すら発動していない恭也の剣が、まるで魔法のように己の眼前へと出現する様を。

次の瞬間、美沙斗は大きく仰け反り…弾き飛ばされた。










後書き

前編・後編で収まるだろうと思っていた頃が私にもありました。
一応、恭也Sideのバトルはこれにて終了。終始主人公だったな、恭也。
やっぱり、様々な思いを抱えて葛藤しながら戦っている美沙斗さんと恭也のバトルより、アンノウンとAGITΩの戦いは見劣りする……かなぁ。主義主張がアンノウンはハッキリしすぎてるので、ホントに心理描写が入れにくい。ガチバトルくらいしか書くことないんだもん。
そして、今回も出ました。アンノウンのチート強化。そんな頻繁には出さないつもりですが、今回は仕方ないことだと見逃して下さい。

だって、ジャッカルさん原作だと凄いかませ犬なんだもの!計3話に登場しているのに戦っては逃げるを繰り返し、最後はフレイムにあっさりと敗北。
これでどうやって盛り上げろと言うのか…!

一応後編も6割方出来てるので、近いうちに上げる予定です。



[11512] 迷い込んだ男 第三十七話 「守りたいもの」 後編
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:d2657d4d
Date: 2010/05/31 07:34
フィアッセは今、必死に不安と戦っていた。

自分の歌う番が刻々と近づいているから……ではない。

どこか、言い知れない胸騒ぎを感じるのだ。思い出すのは、自分を庇って士郎が重傷を負った忌まわしい記憶。

テロが起きる前に来た、胸騒ぎと酷似している嫌な感覚。

それを今、フィアッセは唐突に感じていた。

目をギュッと瞑り、拳を握って胸に押しつける。そうして、この得体の知れない不安と戦っていた。


「フィアッセ?」

「え……」

「どうしたの?」

「……あ…ううん。何でもないよ、ママ。」


ティオレが、そんなフィアッセを心配して傍に寄ってくる。

そんなティオレに、フィアッセは首を振って応える。

大舞台で緊張しているから、こんな事を考えてしまうのだ。必死にそう思い込もうとした。

次は、自分と母の合唱。

親子二人、共通の夢が叶う瞬間。

だが、そうしている間にも…良くない予感はますます強くなっていく。なまじ過去に同じような経験があるため、気の所為にできなかった。フィアッセは、遂に不安を押し殺しきれなくなって、思わずポツリと呟いてしまいそうになる。

しかし、フィアッセは耐えた。

凌によくないことが起こってるような気はしている。けれど、それが戦いのことならば…たとえ自分が凌のところに行っても役に立てないであろう事を知っている。それこそ、もしも自分がノコノコと出て行けば、凌を危険に陥れるだけだ。

だから、耐えた。

必死に、思い留まった。

凌のことを信じよう。そう、不安がる心に言い聞かせる。

自分にできることを精一杯やろう。

多分それが、今の私にできる最善だから。と、フィアッセは決意を固める。


《続きまして、『光の歌姫』フィアッセ・クリステラと、『世紀の歌姫』ティオレ・クリステラによる、幻の共演。どうぞ、お聞きください。》


ティーニャの歌が終わり、いよいよ出番がやってくる。

先程までの不安そうな顔は、完全になくなり…前をキチンと見据え、堂々と舞台へ歩いて行った。










第37話「守りたいもの」後編










美沙斗は、呆然とした様子で仰向けに倒れていた。

恭也は、美沙斗に近づいていく。


『閃』


力も速さも超えた御神流の境地に辿り着いた者が会得できる太刀筋。

美沙斗を破るため、必死に習得しようとした技が出た。

何故、今になって『閃』を放つことができたのか…それは、当の本人である恭也ですらわからなかった。

だが、美沙斗との死闘、そして…自らが剣を振るう理由を見つけたことで、恭也はその境地に踏み込んだのかもしれなかった。


「何故……」

「………?」

「何故、私を殺さない?」


峰打ちで放った『閃』は、美沙斗の肋骨を数本叩き折ったものの、殺すには至らなかった。


「……俺も、家族は殺したくないです。」

「…………」

「美由希に、会ってやってくれませんか?」

「………私に、そんな資格は……」

「大丈夫です。あいつは優しい奴だから、きっと…全部知っても、許してくれます。」


恭也は、そう言って微笑んだ。

それは…美沙斗に見せる、初めての心からの笑みだった。




「やれやれ……」


そんな2人の姿を、遠くで眺める男がいた。

男は、手に持っていた小さな双眼鏡を仕舞い、入れ替わりにズボンのポケットから小さなカードのようなリモコンを取り出した。


「……『人喰い鴉』も使えねーな。……所詮はジャパニーズか。」










(凌side.)


「づっ!はっ、はっ……はっ…はっ。」


尋常でない痛みが身体を貫く。

今まで喰らった攻撃の傷と、落下の衝撃で痛みが増す。

けど、その痛みに懸命に堪え…無理矢理にでも立ち上がろうとした。

だけど………


ガクッ


ガクリと膝が折れ、地に膝がつく。

力が抜ける。


ガアァァァァアアア!!!


吼えながら、アンノウンが階段を駆け降りてくるのが見えた。

アンノウンは、俺の姿をその目に捉えると、思い切り階段を蹴って跳躍し…飛び掛かって来た。

絶体絶命。

そんな言葉が頭を過ぎる。

次の攻撃をまともに喰らえば、おそらく俺は立ち上がれないだろう。そんな予感が、確かにあった。

迫り来るアンノウン。

もうダメだ…そう思った。


「………♪‥♪……♪…♪……♪…………♪」


だけど、その刹那……歌が聞こえた。

AGITΩになって聴覚がある程度鋭敏になっている耳に、ハッキリと。


「……♪‥…♪………♪…♪…………♪………」


それは、フィアッセさんとティオレさん…2人の歌声だった。

俺が守りたいと思った2人の夢。

それが、今まさに実現している。

心に響いてくる、間違いなく最高の歌。

心が奮える。

折れかけた心が救われる。

さっき、俺は何を思った?

もうダメだ?…違う。まだやれる。

まだ、戦える。そう、戦える筈だ。

俺は、この2人の夢を守るために…この人たちの命を守るために戦ってるんだから。

負けられないのだ。

2人の夢は、今叶っている最中。だったら、それを最後まで守り通さなきゃならない。

ここで俺が挫ければ、あの2人も…スクールの人たちも、危険に晒す。そんなことが許されるのか?

答えは否。断じて否だ!

絶対に守り通すと心に決めた。

だったら、俺はそれを貫き通すだけだ!


「ハァァァァッ!!」


静かにストームハルバードを構える。

腰を落とし、切先をアンノウンへと向ける。

そして、精神を集中させる。

体はボロボロ。

恐らく放てるのは一撃だけ。

だからこそ、狙うは一撃必殺。

その一撃に、己が全てを籠めて迎え撃つ。

フィアッセさんとティオレさんの歌が、力をくれる。

自然と、ストームハルバードを持つ手に力が籠る。


ガァァアアアアアアアアア!!!!


牙で俺を噛み殺そうと雄叫びを上げて突っ込んでくるアンノウン。

俺は、最大まで力を溜めた右腕を、一気に前へと突き出した。

(凌side.END)











『龍』

かつて御神とその分家、不破の一族を爆弾テロで壊滅させた非合法テロ組織。

美沙斗の人生に暗い影を落とさせた元凶。

中国では警察ですら、そいつらを恐れて手を出せないほど大きな勢力。

唯一、その組織を追い詰めようとしている所といえば、それこそ香港国際警防部隊位のものだろう。

そんな組織を相手に、士郎はたった一人で大立ち回りを演じていた。

一族を殺された恨み、妹である美沙斗から幸せを奪った恨み。

それを力に変えながら、士郎は『龍』の構成員を片っ端から倒していった。

舞台までの道を、士郎は守りきり…左側通路には気絶した男たちの肉体が転がっていた。

しかし今、そこに士郎の姿はない。

何故なら………


「へへっ、コンサートはもう終わりだが、ここで全員始末しておけば問題ない。おい、設置出来たか!」

「あぁ、バッチリだ。『人喰い鴉』が負けたって連絡があったからな。念のために持って来といて良かったぜ。」

「一個だけだが、威力は保証付きだ。天井が崩れて、下にいる女どもは間違いなく死ぬ。」

「ほぅ、それはいい事を聞いた。なら…その爆弾を処理すれば、お前らの目論見は完全に潰れることになるな。」


士郎は今、悪巧みをしている黒服の男たちの背後に立っているからである。


「なっ!」

「てめぇ!何でここに!仲間はどうした!?」


驚き、居るはずのない男がここに居る事に恐怖する。


「お仲間は今頃ぐっすり夢の中だ。まぁ、夢は夢でも悪夢の方だろうがな。」


士郎は静かに刀を抜き放ち、男たちに向かって構える。

殺気の籠った鋭い眼光が自分たちに向けられ、男たちは堪らず萎縮する。


「は、はは…俺の手にはコイツの起爆スイッチが有るんだ。一歩でもそこから動いてみろ…その瞬間にコイツを押してやる!」


男は、乾いた笑い声をあげながら…ジリジリと後ろに下がりつつ、手に持ったリモコンを強調して士郎に見せる。

士郎は、それを見て…ハァ、と溜息を吐いた。


「仕方ない。気は進まないが…自業自得と思って諦めてもらおうか……ッ!」

「はっ!何言っ……て………」


ザンッ!


男が言い切るより早く、鈍い銀色の光が走る。


ザシュ!

……ドサッ


「な……な…!?」

「う、腕が……!」


リモコンを持っていた腕が地面に落ちる。

士郎は、男の腕を切り落としたのだ。


「あ、あぁああああああ!!て、てめぇぇぇぇ!!!」


薬を使っているのか、痛がる様子はない。寧ろ…腕を切り落とされたと言う事実に激昂し、男は全身に殺意を漲らせた。

懐から銃を取り出し、そして………


「お前らには借りもあるし恨みもある。悪いが、容赦なんて出来ん。」


『徹』を籠めた峰打ちを袈裟懸けに放つ。

『龍』の連中など、ホントは殺してやりたかったが、その感情を押し殺して…あくまでも峰での攻撃に徹した。


「…グゥッ!?」


呻き声を上げ、気絶する男。峰打ちの衝撃がダイレクトに体内へと伝わる。そして、男は倒れた。


「チィ!!!」


残ったもう一人の男が、手に持った銃で士郎を撃つ。

だがその銃弾は、掠りもせずに正面の壁へと撃ち込まれた。
そして、次の瞬間…男の意識はあっけなく途絶えた。


『神速』の使用によって一気に接近し、『徹』を籠めた峰打ちで頭部に一撃。ハッキリ言って死んでもおかしくない攻撃である。


「悪いね。桃子と傷は負わないって約束をしていてな、手加減なんかしてやれないんだ。二度も俺の所為であいつを泣かせるわけにはいかないんでな。」


そう呟き、爆弾を思い切り空へ放り投げる。

そして、ホテルから充分離れたところで……


ドォォオン!!


男の腕と共に床に落ちていた起爆スイッチを押し、空中で爆発させた。

こうして、『龍』による襲撃は幕を閉じた。残す障害はアンノウンだけ。

そして、その決着も…もう間近に迫っていた。










ガ、ガルァァァアァァァ!!


大口を開けて突っ込んできたアンノウンの口に、ストームハルバードを突き刺す。

ここに来て、リーチの差が生きてきた。

アンノウンの牙がAGITΩの身に届く前に、ストームハルバードはアンノウンへと届き、その身を貫く。

それでも絶命しないアンノウン。

そのしぶとさには、凌も内心で舌を巻く。

だが、長く辛い戦いも、もう終わり。


ゴオッ!!


ストームハルバードの刀身……

そこから、風が放たれた。


ゴオオオオオォッ!!


それは、まさに荒れ狂う暴風だった。

解き放たれた風の刃は、アンノウンの体内を暴れ回り、その体を完膚なきまでに引き裂いた。


ガァァァァァァァァァァァァァ!!!???


断末魔の叫び。

アンノウンは最後の最後まで、AGITΩに牙を…爪を突き立てようとして、藻がいていた。

そして……爆発。

アンノウンは、その頭上に天使の輪のような光を浮かべ…爆発と共に、完全に絶命した。

それと同時に、AGITΩも…本当の限界を迎え、前のめりに倒れ込んで意識を落とした。










一方、恭也と美沙斗は…黒服の男がこちらを見ているとは露知らず、恭也は美沙斗の肩を担ぎ、ゆっくりとビルを下りていた。


「ふぅ……任務失敗…か。もう情報は手に入らない……さて、この後はどうしたものかな。」


自嘲気味にそう言う。


「相手がテロ組織なら、正当に叩く方法だってあるでしょう。」

「……恐らくは、な。中国じゃ警察でも恐れて手を出さないような連中だが、きっとやる方法はある。」

「なら、それで。もう…俺はあなたとは戦いたくないですよ。」

「私もだ……『閃』の遣い手とはやれないよ。」


くつくつと、美沙斗は声を押し殺して笑った。

肋骨が痛んだが、それでも…美沙斗は笑った。

そんな時だ……


ドゴッ……


突然、大きな音がした。

最初は一つだけだったそれは、次第に連続して起こった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!


「なっ!」

「地震、じゃない…!これは発破だ……くそっ!!」


美沙斗はよろめきながら窓の外を見た。

黒い服を着た男が一人、その目に見えた。男の手にはリモコンが握られている。


「しまった……口封じのつもりか!!」


恭也達がいるのは10階。飛び降りるのは不可能だ。

爆破の影響でミシミシと壁に亀裂が走り、瓦礫が崩れ落ちてくる。


「……くっ、恭也くん…鋼糸は……!?」

「5mと7mの物が2本ずつあります…」


「ギリギリか…厳しいな。それだと、二人分の重量は支えきれない。」


美沙斗の持っている鋼糸は殺傷能力に特化した物で、通称0番(0.05mm)と呼ばれる鋼糸の中で尤も細いものであるため、役に立たない。

恭也の持っている5番(0.3mm)と7番(0.4mm)の鋼糸でも、2人分の体重を支えるのは不可能だ。

外壁を伝って降りることは出来ない。


「…………」

「…………」


他に打つ手はないかと、考えこむ2人。

そんな2人の下へ、思いもよらない人物がやって来た。


「……恭ちゃん!」

「なっ!……美由希か?」


それは、士郎に事情を聞いて駆けつけた美由希だった。

美由希は、あちこちに傷を負ってはいるものの、無事な兄の姿に安堵する。


「美由希、お前…どうして……」

「話は後でするから、まずはこのビルから出よう?」

「あぁ、分かった。」

「恭ちゃん、走れる?」

「ビルを出るまでくらいならな。だが………」


そう言って、恭也は美沙斗の方を見る。

美沙斗は『閃』のダメージが大きく、走ることができなかった。


「だったら、その人は私がおぶって降りる。」

「大丈夫か?」

「うん。恭ちゃんは先に行って、道が崩れてないか見てきて?」

「………あぁ、崩れてたら斬って通れるようにしておこう。」


恭也は、一足先に階段を降りていった。

そして、美沙斗と美由希が残される。


「じゃあ、乗って?かーさん。」

「……!美由希………」


信じられないようなものを見たという表情で、呆然とする美沙斗。

もう、そう呼ばれる事はないと思っていた。


「正直、言いたい事…いっぱいあるけど……今は、そんな事どうでもいい。」

「こんな私を…母親だと、認めてくれるの?」


涙が頬を伝う。


「当たり前…だよ。あなたは私のかーさんで、私は…あなたの娘なんだから……。」

「…………」


声は出なかった。

ただただ嗚咽が漏れないように、口を両手で塞いだ。


「早く、かーさん。」

「あぁ。…あぁ……」


涙を流しながら頷き、美由希の背に乗る。

そのまま階段を駆け下り、一気にビルから抜け出す。

美由希達がビルを出るのに、そう時間はかからなかった。










「さて、次は私とソングスクール卒業生たちによる合唱。アルマ・ライナ『天空の回廊』第2楽章です。」


ティオレとフィアッセによる合唱が終わり、舞台はいよいよ終盤。

それぞれが、自分の気持ちを歌に籠める。

長かったコンサートが終わる。











「凌…!凌……!」

「う、うぅ……」


声が聞こえる。

女性の声が凌の覚醒を促す。


「凌!」

「……はっ。」


途切れた意識が再び繋がる。

意識を取り戻した凌が最初に見たのは、リニスの顔だった。

手を魔力光の紫色に輝かせ、凌の傷を癒している。


「凌…良かった……」


目を開けた凌に安堵するリニス。

凌は体を起こし、キョロキョロと周りを見る。

物音ひとつ聞こえない。

そして気付く。周囲に結界が張ってある事に……


「この結界…リニスが……?」

「はい。……けど、すいません。席を立とうとしたら桃子さんや皆さんに「多分こんなの一生に一度見れるかどうかなんだから見なきゃ損よ!」と言われて、中々抜け出せず……結局、こんな事くらいしか出来ませんでした。」

「あー、そうだったのか。」


リニスは、それでも何とか理由をつけてその場を抜け出し、こうしてここまで駆けつけたのだ。

まぁ、着いた時にはAGITΩになって戦っていた凌が、体中に傷を負いながらもアンノウンに打ち勝ったその瞬間だった為、結界を張るくらいしかすることがなかった訳だが。


「もう、余裕とか全然なくてさ……アンノウン倒すことだけ考えてたから、アンノウンが爆発した時の被害なんて全然考えてなかった…だから、ありがとな…リニス。助かったよ。」

「すいません。そう言って頂けるとありがたいです。」


そう言って、互いに少しばかり微笑む。

そして、凌は一番気になっていたことを聞いた。


「……ところで、コンサートは?」

「はい。……無事成功です。もうすぐ終わる頃だと思いますけど………」

「そっか…なら、良かった。」


ふぅ、と息を吐き…安心する凌。


「さ、安心できたならもう一度寝て下さい?まだ傷が全部治りきってないんですから。」

「え?いや、ここまで治ってたら動けるぞ?」

「痛みもありますし、手の甲とか見える場所にある傷はどうするんですか……フィアッセに心配かけたいのならそれでも良いですけど?」

「うぐぅ……」


流石にそう言われては反対できない凌。怪我していることをフィアッセが知れば、確実に心配するであろうことが容易に想像出来るだけに、断れなかった。


「ほら、頭をここに乗せて寝転がって下さい。」

「いや、ここって言われても……お前の膝なんだけど…?」

「?えぇ、そうですけど……」


ポムポムと自分の膝を叩きながら、頭をそこに載せろと要求してくるリニス。

彼女が言っているのは、俗に言う膝枕であった。


「…恥ずかしいから床でいい。」

「何をバカなことを言ってるんですか。主人を硬い床にそのまま寝かせ、治療する従者がどこに居るんですか……!それに、結界張ってるんだから他には誰も入ってこないんですよ?何が恥ずかしいんですか。」

「別に他人からの視線が恥ずかしいとかじゃなくて、そういう行為が……何か気恥ずかしいって言ってるんだよ。」

「どこがですか!大体、さっきまでもそうやって治癒魔法掛けてたんですから一緒でしょう。」

「なん……だと……」


アンノウンを倒し、『龍』の襲撃も止んだ今…2人の緊張の糸は完全に切れていた。

さっきまでの真剣な顔はそこには無く、ただただフィアッセたちを守りきれたと言う満足感と、安心感で顔に笑顔を浮かべる顔があった。

このくだらない戦いは、どうやらもう少しの間続きそうである。










「また、借りができたな。」


ビルから無事に脱出し、ほんの数分だけ…無言で恭也や美由希たちと休んでいた美沙斗は、徐にそう言って、立ち上がった。


「恭也くん…美由希を、頼む。」

「かーさん……」

「…続けるんですか……?」

「今更、急には…止まれないよ。だけど、少し……やり方を変える。」


そう言って、2人に背中を向ける。


「…自分に胸を張れるようになったら……また、会いに来る。」


月の光が淡く照らす森の中へと、歩いていく。


「あの親子にも、君の友達にも…すまなかったと……」

「…伝えます。」


美沙斗の姿が、影で見え辛くなっていく。


「…落ち着いたら……兄さんも交えて、酒でも飲もう。謝ったり…話をしたりするのは、その時まで待ってくれ……。兄さんと、桃子さんに、よろしく。」


背中でそう微笑んで、美沙斗さんは去って行った。


「ねぇ、恭ちゃん……」

「私…美沙斗かーさんと、静馬とーさんの事……誤解してた。」

「とーさんに、聞いたのか?」

「うん。政略結婚で結ばれて、お互いのことなんて別に愛し合ってなかったんだって思ってた。」

「……そうか。」

「2人が相思相愛だったんだって、とーさんから聞いたときは…半信半疑だったけど。でも……美沙斗かーさんに会ったら、何でか分からないけど…本当なんだって思えた。」

「あの人は、本当に優しい人で…静馬さんも、お前のことも、大好きだったからな……」

「………そっか。今度あったら、静馬とーさんとの話…いっぱい聞こうかな。

「あぁ、それがいい。」


互いに、立ち上がる。

崩れたビルの残骸をしばし眺めた後、2人はどちらともなくホテルへ向かって足を向けた。


「…じゃあ、ホテルに戻ろっ?とーさん、きっと心配してるよ?」

「俺はそれよりも藤見の方が気になるけどな…怪我してないといいんだが……」


既に瓦礫の山と化した廃ビルを背に、2人は歩いていく。

胸を張って、大切な人達に会うために……









雑木林からビルが完全に崩壊したのを見届けて…黒服の男は胸のポケットから手帳を取り出した。

ついさっき、リモコンのボタン一つで…恭也と美沙斗を亡き者にしようとした張本人であった。


「…ち……しくじったか。……だが、まぁいい…どうとでもなる………」

「……ならないよ。」


男が振り返る。

そこに、闇がいた。


「…よくもまぁ……舐めた真似をしてくれたものだな。……まさか、敵の掌中で完全に踊っていたとは思わなかった。」

「ひ……っっ!?」


短く悲鳴を上げる男。

手帳を持った男の左手には、『龍』の構成員である事を示す蜷局を巻いて天翔する龍の刺青。


「貴様自身が『龍』とはな……。だが、まぁいいさ……今日からは、少しやり方を変える。」

「ま、待てっ!」


手帳を取り落とし、静止を掛けようと手を前へ突き出す男。


「その義理はないな。……多少心変わりはしたが、貴様らのような連中を許して置けないのは…相変わらずだ。」

「ひっ……おい、待て…俺を殺したら……」


恐怖に顔を引き攣らせ、無様に後退る。


「…………理不尽な暴力と破壊。…テロリズム。」

「お、おいっ!」

「…『正義』では…なくていい………」

「お……おい!知りたくないのか?あんたの家族を殺したのは…」


この期に及んで、まだそんな事を宣う哀れな男。


「だが、真っ当な力と技で…貴様らを潰す。もう、裏はやめだ。……たとえ何年かかろうと、必ず潰してやる!…一人残らずだ!」


小太刀二刀御神流 正統奥義 『鳴神』


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


ドンッという衝撃が走る。

…一瞬の間の後、男は腹と口から血を流し…断末魔の叫びを上げ……死んだ。


「でないと、一人娘に…叱られるんでな。」


物言わぬ屍にそう言って、美沙斗は…また闇の中へと消えていった。





こうして、世界に名を轟かせる歌姫たちの…コンサートは無事に幕を閉じた。

世界的に有名なテロ組織から、人間を遥かに超えたアンノウンから、コンサートを守りきり…一人の死者も出すことなく。

長い一日が、漸く終わった。

そして、凌は………………










(凌side.)

7月26日。

夜が明け、平和な日常が戻ってきた。

チャリティコンサートの海鳴公演が終わり、今日の昼には飛行機で東京に発つそうだ。

俺はと言えば、アンノウンの攻撃で負った傷も…リニスの魔法ですっかり癒え、今は…………


「ふん♪…ふん♪……ふ~ん♪」


何故か物凄く機嫌の良いフィアッセさんと一緒に…空港近くの原っぱで一緒にのんびりと過ごしていた。


「それにしても、エンジントラブルなんて災難でしたね。」


東京に発つフィアッセさんの見送りに、コンサートに招かれた全員で…コンサートの成功と無事を祈って送り出したのだが……何でもエンジントラブルがあったらしく、機体点検を行うようになってしまったらしい。

まるで漫画みたいな展開だと思った俺は悪くないと思う。

ちなみに、ティオレさんは士郎さんと桃子さんと、高町と美由希ちゃんはアイリーンさんやスクールの人たちと、月村と那美ちゃんはゆうひさんと一緒にどこかへ行ってしまった。


「そうだねー。でも、私は少し嬉しいかな♪」

「嬉しい…ですか?」

「うん、少し…リョウとお話したかったから。」

「あー、まぁ…昨日は結局、話す余裕なんかなくて…そのままコンサートが終わって別れちゃいましたからね。」

「そう、それが残念だなって思ってたの。」


少しはにかんだように微笑んで、フィアッセさんはそう言った。


「ねぇ、リョウ……これから暫くの間、会えなくなるけど…私のこと忘れちゃ嫌だよ?」

「ぷっ、忘れませんって。フィアッセさんの方こそ…俺のこと忘れないでくださいよ?」

「うん、忘れないよ。リョウは私に、たくさん素敵な思い出をくれた人だから。……それに、この子も貰ったし。」


そう言って、フィアッセさんが膝から持ち上げたのは白いウサギのヌイグルミ。

渡すタイミングを逃し続け、今日やっと渡せた文化祭でとったフィアッセさんへのプレゼント。


「この子をリョウだと思って、私…これからのツアーも頑張っていくよ!」

「?何で俺だと思うんです?」

「あ、やっぱりそう言うのは分からないんだね。」


どこか諦めたようにそう言って、苦笑するフィアッセさん。

むぅ、俺があげたヌイグルミだから俺だと思うようにするんだろうか……よく分からないなぁ。


「いいよ、分からないなら。その代わり、一つだけ我儘を聞いてもらっていい?」

「へ?はぁ、まぁ俺ができることなら。」


どうやらさっきの言葉の意味は分からなくても良いらしい。

本命はこっちだったのだろうか。フィアッセさんの事だから無茶なお願いじゃないと思うけど…何だろう。

俺はフィアッセさんが次に口を開くのを待った。


「目を…閉じて欲しいの。」

「目を……?え、ホントにそれだけですか?」

「うん、もうすぐ機体点検も終わるし、行かなきゃならないから……」


ぶっちゃけ目を瞑るという行為にどんな意図があるのか図りかねたが、フィアッセさんの言葉に従い…目を閉じる。

視界が黒く染まり、何も見えなくなる。

そして、次の瞬間…頬に、何か柔らかい感触が触れた。

一瞬、何が起きたか分からなかった。

俺は目を開き、その感触があった方へ振り向く。すると、そこには顔を真っ赤にしてどこか嬉しそうに唇を押さえるフィアッセさんの顔があった。


「あ、あの……フィ…」

「じゃ、じゃあね…リョウ!」


そう言って、フィアッセさんは走り去っていってしまった。

残された俺は呆然と、その場に立ち尽くしていた。


結局、俺がその場から動けるようになったのは…フィアッセさんの故郷だと頬にキスなんて挨拶と同じ意味しかないんじゃないか?と言う事に気がついた時だった。















(おまけ)もしかしたらあり得た別の展開。


迫り来るアンノウン。

もうダメだ…そう思った。


「………♪‥♪……♪…♪……♪…………♪」


だけど、その刹那……歌が聞こえた。

AGITΩになって聴覚がある程度鋭敏になっている耳に、ハッキリと。


「……♪‥…♪………♪…♪…………♪………」


それは、フィアッセさんとティオレさん…2人の歌声だった。

俺が守りたいと思った2人の夢。

それが、今まさに実現している。

心に響いてくる、間違いなく最高の歌。

心が奮える。

折れかけた心が救われる。

さっき、俺は何を思った?

もうダメだ?…違う。まだやれる。

まだ、戦える。そう、戦える筈だ。

俺は、この2人の夢を守るために…この人たちの命を守るために戦ってるんだから。

負けられないのだ。

2人の夢は、今叶っている最中。だったら、それを最後まで守り通さなきゃならない。

ここで俺が挫ければ、あの2人も…スクールの人たちも、危険に晒す。そんなことが許されるのか?

答えは否。断じて否だ!

絶対に守り通すと心に決めた。

だったら、俺はそれを貫き通すだけだ!

(凌side.END)




その時、AGITΩの身体に変化が訪れた。

ベルトから眩い光が放たれ、辺り一帯を覆い尽くしたのだ。

やがて、光が治まると…そこに立っていたAGITΩの姿が、今まで誰も知らない姿に変わっていたのだ。

青かった装甲は黒に染まり、背中には二対の漆黒の翼。

今ここに、誰も見たことのないAGITΩ。

ルシファーフォームが、降臨した。










後書き

えー、微妙になってしまった感が否めませんが、これにてフィアッセ編完結です。次からは那美編に突入ですね。
今回AGITΩが放った技は、Fateのセイバーが使う『風王鉄槌』を参考にしていただければ分かりやすいかと思います。ストームは風の力を宿してるのでこういう技もいけるんじゃないかなと考えたオリジナル技です。
後、小太刀二刀御神流正統奥義『鳴神』について描写がないのは仕様です。原作にも無かったので……すいません。

これで漸く『とらハ編』1/3かぁ…先は長いなぁ……



[11512] 迷い込んだ男 第三十八話「衝撃」
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:d2657d4d
Date: 2010/09/29 13:53
7月29日 AM09:20


カリカリカリカリ

…ペラ……ペラ


そんな音だけが聞こえる物静かな場所。外の暑さを微塵も感じさせない涼やかな空気に包まれたその場所に、俺は居た。

ここのところ、ティオレさん主催のコンサート・美沙斗さんの襲撃・テロ組織『龍』の襲撃・アンノウン襲来・フィアッセさんとの暫しの別れなど、それはもう今迄に無い程忙しかったので、忘れがちなのだが…俺も既に高校三年生。

大学に進まず就職、又はフリーター志望なら焦ることもないのだろうが、生憎と俺の場合は進学志望の受験生なのだ。

結局何が言いたいのかといえば……バイトもない今日みたいな日には少しでも時間を見つけては勉強しておかないといけない、と言うことである。

そんな訳で、俺は今…本格的な受験勉強に入る前に夏休みの課題を全て終わらせる為、海鳴市立図書館に来ていた。










第38話「衝撃」










7月29日 PM12:45―海鳴市立図書館―


「ふ~、まぁこんなものかな。」


此処に来てからずっとやっていた数学の課題をやっとこさ終わらせ、俺はぐ~っと伸びをした。

時間を確認するために腕時計を見ると、既に昼を回っている。

うわ、道理で腹が減ってる筈だよ。じゃあどうしたもんかなぁ……今からどこかに食べに行くか、それとも昼飯抜くか…うーむ。


「あぅぅ、さっぱり分からない。」

「難しすぎだよー、この課題。」


俺が、昼飯をどうしようかと迷っていると、近くの机でそんな会話が聞こえた。


「ん?」


その声の方向に眼を向けると、机に教科書とワークを広げた那美ちゃんと、その隣には同じく教科書などを机に広げて勉強している俺が見たことない女の子が居た。

頭を抱えて、「うぁぁぁ、分からないぃぃぃ!」「ここがこうで、これが………あぅ、凄い変な答えにっ!」等と言っている。

目の前に置かれたワークは、やはり夏休みの課題だろう。まぁ、見た限りでは余り捗ってはいないようだが……

少し気になったので那美ちゃんたちのところに行ってみる事にする。昼飯は…ま、一食くらい抜いても大丈夫だろ。


「こんにちは、那美ちゃん。」

「はぇ?」


後ろから、那美ちゃんの肩をトントンと叩いて挨拶する。俺の方を向いた那美ちゃんは、一瞬呆然とした後………


「せ、せせせせせ先輩!?」


俺の予想以上に驚いてくれた。うん、少しだけそういうリアクション期待して態々後ろから声をかけたのは否めないけど…そこまで予想外だっただろうか、俺が図書館にいるというのは。……だとしたら少しショックだ。


「いや、俺も近くで勉強しててさ。那美ちゃんの声が聞こえたからちょっと様子見に。」

「あ、すいません。騒がしかったですか?」

「いや?気付いたのついさっきだし、勉強してる時は声なんて聞こえなかったよ?」


まぁ、集中してて気付かなかったという可能性もあるけど……


「そうですか、良かったぁ。」

「ねぇねぇ、那美ちゃん。」


そう言って安堵の息を吐いた那美ちゃんに、隣の子が話しかけた。


「なに?」

「……誰?あの人。」

「え?あぁ、学校の先輩だよ。ほら、前に話したでしょ?」

「えーっと、あぁ!那美ちゃんの好k……もがもが」


隣の子が何か言おうとした刹那、那美ちゃんが動いた。普段のドジっ子っぷりからは考えられないような俊敏な動きでその子の口を塞いだ。すげぇ、一瞬見えなかったぞ。


「あ、あはははは。何言ってるのかなぁ?舞ちゃんったら。」

「もが…もが…」


空笑いしながら、依然として口を抑え続けている那美ちゃん。一方、口を抑えられている子はジタバタと暴れている。鼻は塞がれていないので窒息することはないが、それでも大分苦しそうだ。


「むー!むー!」

「あのー、那美ちゃん?そろそろその子離してあげたら?」

「え?あ、ゴ…ゴメン!舞ちゃん。」


俺の言葉で漸くその子がピンチなのを察したのか、口から手を離す那美ちゃん。でもって、やっとこさ開放された子はゼーハーと荒く息を吐きながら恨みがましい目で那美ちゃんを睨んだ。よほど苦しかったのか、少し涙目だ。


「ひ、酷い目にあったよ。」

「確かにやりすぎたけど…自業自得でしょ?」

「う、まぁ…そうかな。」


俺には何の事か分からないが、余程那美ちゃんにとって言われたくない事だったのだろう。まだ若干怒っているようだ。


「なぁ、那美ちゃん。こっちの子は?」


取り敢えず空気を変えるために気になっていたことを聞く。幸いな事に、那美ちゃんは直ぐにこっちを向いて質問に答えてくれた。


「あ、はい。えっと…この子は……」

「あぁ、いいよ那美ちゃん。自己紹介くらい自分でやるから。」

「そう?」

「ボクは我那覇 舞。那美と同じさざなみ寮に住んでます。ちなみに、学校は私立聖祥学園です。」

「へ~、聖祥学園って言えば有名なお嬢様学校じゃないか。」


『私立聖祥学園』と言えば、通学している娘の3割が車で通学。その為の駐車スペースや学生寮もあるという、超ブルジョア高校なのだ。スクールバスもあって、残り7割の生徒の殆どが毎朝これで通学している。制服は、余り見ることのないセーラーブレザーとグリーンのスカート。余談だが、なのはちゃん達が通っている『聖祥大学附属小学校』は、ここの系列校に当たる。

ちなみに、何故俺がここまでこの学園の事を知っているかと言うと、ここの生徒たちが翠屋の常連だからである。


「ははは、その分勉強が難しくて大変です。今も、那美ちゃんと一緒に夏休みの課題をしてたんですけど…分からないところが多くて。」

「私もです。」

「あぁ、さっきの声はそれか。」


大方の予想は付いてたが、見事にどんぴしゃだったらしい。


「んー、ちょっとゴメン。む、数学か。」


2人に断って、ワーク2つを手に取る。ザッと見たところ、那美ちゃんの方も我那覇さんの方もどちらも一応解けそうだ。


「ん、どっちも解けそうだし…教えようか?」


「え?ほ、ホントですか!?」

「お願いします!もう全然分からなくて途方に暮れてたところで……」

「ん、了解。取り敢えずヒント出して、それでも分からなかったら俺が答え教えるって方向性でいい?」


「「はい!」」


そんな2人の元気な返事を聞いて、俺は那美ちゃんと我那覇さんに数学を教え始めた。










7月29日 PM17:15―Gトレーラー―


「……凍死?」

「はい、先日見つかった変死体と同様…つい先ほど発見された死体にも、何かにさされたような痕があり、死因はいずれも凍死だそうです。」


Gトレーラー内部で、リスティとセルフィはアンノウンが関係していると思われる死体について話し合っていた。


「今の季節に凍死……か。まず有り得ないな。」

「えぇ、死んだ2人に血縁関係があることから考えても…アンノウンの仕業と考えて間違いないでしょう。」

「だな。」

「ただ、血縁関係者はこの2人だけらしくて…次に誰が襲われるのかは全く検討が付いていません。」

「そうか……。」

「……ところで、2人とも今の話ちゃんと聞いてた?」


リスティとの話が一段落したところで、セルフィは会話に参加していなかった2人の方を見た。


「ん?」

「はい?」


その視線の先には、折りたたみ式の机を広げて夏休みの課題に取り組む2人の男の姿が。

言わずもがな、高町恭也と赤星勇吾である。


「と言うか、何でGトレーラーで宿題なんてしてるの?あなた達は……」


態々折り畳み式の机なんてものまで用意して勉強している2人に、呆れを含んだ視線を向けるセルフィ。と言っても、恭也の場合は殆ど勇吾の答えを写しているだけのような状態だが。


「いや、だって何時アンノウンが来るか分からないから早めに終わらせておけってリスティさんが……」

「事実だろう?」

「まぁ、言ってる事は間違いじゃないけど……でも、せめてアンノウンに関係する報告してる時はちゃんと聞いててね?」

「あ、いや…話自体はちゃんと聞いてましたよ?」

「ホント?」


勇吾に疑いの眼差しを向けるセルフィ。無理もない、会話をしていたリスティとセルフィを一瞥もせずに、黙々と問題を解いていた人物の言葉をどうして信じる事ができようか。


「えぇ、また新しいアンノウンが出たんですよね。」

「あれ、ホントに聞いてたのね。」

「だから言ったじゃないですか。……まぁ、こっちは聞いてないでしょうけど。」


視線の先には淡々と答えを写す恭也の姿。


「おい、少しはこっちの話に耳を傾けろ。と言うか、写してばかりじゃなくて少しは自分で考えろ。」

「む、しかし分らないところは写していいと言う話だった筈だぞ。約束を違う気か?」


勇吾の言葉に、憮然と言い返す恭也。


「いや、確かに写して良いとは言ったけど…それはお前がどうしても分らない問題だけだ。」

「ふ、む…………」


勇吾の言葉に、少しばかり考える素振りを見せる恭也。そして……


「全部分らないから写してるんだが。」


……等とのたまった。


「お前……考えるのが面倒臭いだけだろ。」

「…そうとも言うな。」

「はぁ…もうそれでいいからセルフィさんの話を聞け。」

「…分かった。」


あまりにやる気のない一言に、思わず投げやりになる勇吾。


「ほら、話を戻すぞー。」

「あ、はい。」


リスティが声を掛け、漸く本筋に話を戻す。


「じゃあ…さっきまでの話の続きからするぞー。えー、種のないスイカというのはどうなんだ。という話だったな。」


訂正。全く本筋に戻っていなかった。寧ろこれでもかと言う程に脇道へ逸れまくっている。本筋のほの字も見えない。


「な・ん・の・は・な・し・を、してるんですかぁぁぁぁ!!!」


バンッバンッ

と机を叩いて怒りを露にするセルフィ。流石に堪忍袋の緒が切れた模様。


「じょ、冗談だ冗談。そんなに怒るな。」

「はぁ、はぁ。誰のせいだと……!」

「じゃ、今度こそ話を戻して…アイスの……」

「リ~ス~ティ~?」

「いや、天丼は基本だろう。」


しれっと答えるリスティ。それを聞いてセルフィは―――


(リスティに真面目さを求めても無駄。リスティに真面目さを求めても無駄。リスティに真面目さを求めても……)


―――必死に自己暗示で怒りを鎮めようとした。

案外、彼女の敵はアンノウンではなく…ストレスなのかも知れなかった。


「じゃ、今度こそ…ごほんっ。まぁ、これはアンノウンと言うか、AGITΩに関する事なんだけどね。」

「AGITΩに……?」

「あぁ、上層部の方でAGITΩを捕獲しようという動きがあったんだ。」

「えぇ?!」

「なっ!?」

「ちょっ、マジですか?」


衝撃的な事実に、動揺するリスティ以外の3人。


「まぁ、一応説得して撤回させたんだけどね。全く、何考えてるんだか…上の奴らは。」

「そもそも、何でそんな話に?」


勇吾がリスティに聞く。何度かAGITΩに助けられている身として、聞かずにはいられなった。


「ん?あぁ、何でも…私たちは後手に回りすぎてる……らしい。」

「しかしリスティさん。それは仕方のないことじゃ?」


そう聞いたのは恭也だ。実際、被害者に血縁関係があると発見した事だけでも、捜査や護衛はやりやすくなったのだ。それ以上は望むべくもない。


「そう思うだろ?だけど、上の方はそれが不満らしいんだよ。誰を狙うか分らない以上、最低一人はアンノウンに殺される。それからじゃないと私たちは動けない。何せ誰が狙われるか分らないんだからな。」

「けど…それは普通の事件にしたって同じでしょう?事件が発生する前に対処するなんて…それこそ、犯罪予告でもしてこない限り……」


セルフィがそう言う。実際、警察が事件を未然に防ぐ…なんてものは稀である。数日前のコンサートの時のように、予告があればその限りではないが…そんなケースは本当に稀少だ。普通は事件が起こってから、犯人の捜査や真相の究明を行うのである。


「正義の味方じゃあるまいし、未然に防ぐなんて出来っこないんだよ。ま、AGITΩがあいつらの存在を感じ取って現れてるのは事実だからな。警察としては正体不明の存在に遅れを取るわけにはいかないんじゃないか?」

「しかし、よく納得させられましたね。AGITΩの正体は私たちですら全く分かっていないのに……どうやったんですか?」

「簡単さ、脅したんだよ。」


その言葉を聞いた瞬間、リスティ以外の3人の顔は同時に驚愕へと染まった。


「ま、まさか…そこまでやるなんて。」

「俺たちの弱みも握られてるんだろうか。」

「い、命知らずな……」


口々にそう言ってリスティから一歩分遠ざかる。


「君らがボクの事をどう思っているのかよーく分かった。言っとくけど、脅したって言ってもそういう意味じゃないからな?」

「「「違うの?((んですか?))」」」


口を揃えてそう返され、流石に口元を引き攣らせるリスティ。


「違う!ボクはこう言ったんだ。『下手に攻撃してAGITΩに敵だと判断されるのは拙い。そんな事になったらG2とG3は破壊されてアンノウンに対抗できる唯一の装備を失うことになる』ってね。」

「ありそうな話で怖いわね。」

「だろう?そう言ったら、すぐさま案を撤回したよ。」

「まぁ確かに、そうなったら本末転倒ですからね。」


実際は余程の事が無い限りそんな事は有り得ないのだが、AGITΩの正体を知らない彼女たちからしたら無理もない反応である。

その頃…そんな風に自分のことが話題に上がっている事など、毛ほども知らないAGITΩこと凌は―――――










7月29日 PM17:38―海鳴私立図書館―


「ふおぉぉ、おわった~。」

「ま、まさか今日一日で数学どころか英語まで終わらせられるなんて……」


あれから今まで、ずっと2人に教えていたのだが…色々驚かされた。

何せ2人とも理解力が非常に高い。1を教えれば10…という程では流石に無いが、1を教えたら4くらいは理解してくれるので教えるのが大変楽だった。

しかも、自分で解ける問題は粗方解いてあったので、2教科の課題を終わらせる事が出来た。

俺も質問が無い時は自分の勉強に時間を割く事が出来たり、人に教えることで自分がどの程度理解できているのかの確認にもなったし、有意義な時間だった。


「さて、じゃあ帰るか?」

「あ、はい。」


2人と一緒に図書館を出る。

そう言えば、2人はこの後どうするんだろうか。


「2人はこの後…何か予定とかあるの?」

「いえ、ボクは特に……那美ちゃんは?」

「あ、私はこの後少し用事があります。」


と、なると…どうしようか。我那覇さんを寮まで送り届けるか…そのまま帰るか。

そんな風に俺が悩んでいると、那美ちゃんから意外な提案が。


「あの、先輩…もし御迷惑でないのなら、舞ちゃんをさざなみ寮まで送ってあげて欲しいんですけど……」

「ボク!?何言ってるの?那美ちゃん。」

「でも…今からだと相当待たないと寮まで行くバス来ないよ?」

「嘘!?うゎ、ホントだ。」


那美ちゃんの言葉に、慌てて携帯を取り出して時間を確認する我那覇さん。そして時間を確認するや否や、がっくりと肩を落として項垂れた。


「俺なら別にいいよ?この後は特に予定も無いし。」

「うぅ、それならお言葉に甘えさせて貰います。」

「了解。じゃあすぐそこにバイク停めてあるから着いて来て。」

「はーい。」


図書館の入り口から十数歩程歩いた所に停めてあったバイクの元まで行き、予備のヘルメットを取り出して我那覇さんに渡す。

我那覇さんがヘルメットをちゃんとかぶったのを確認した後で、後ろへ乗せる。


「それじゃあ那美ちゃん、また今度!」

「先に帰ってるねー、那美ちゃん。」


バイクを発進させ、那美ちゃんに別れの挨拶をしてから…バイクをさざなみ寮へと走らせた。










7月29日 PM17:55―海鳴市 八束神社―

凌と舞の乗るバイクを見送った那美は、そこから少しばかり歩いて八束神社へと来ていた。

これからの用事に、久遠の力が必要かも知れないからである。

先程那美が言った用事とは…彼女の仕事である退魔家業の事である。その仕事内容は、主にこの世に留まる霊の供養、乃至は除霊。

姉と違って戦いはからっきしである那美は、基本的に退魔よりも鎮魂の方が得意だ。ただ、それ故に霊が説得に応じずに襲い掛かってきた場合は抵抗が難しい。その為、護衛の意味もあって久遠を連れて除霊に赴くことが多い。霊的な攻撃術が苦手な那美にとっては、霊に通用する電撃を放つことの出来る久遠は良きパートナーなのだ。


「くぅん!」

「わっ。」


地面から跳躍し、そのまま那美の肩…そして頭へと飛び乗った久遠。

突然増した頭の重量に少しばかり驚きつつ、那美は久遠を連れて除霊の現場に向かう。












「ここが……」

「…くぅ。」


それから数十分掛けて那美と久遠がやってきたのは、5階建ての廃ビルだった。

もう何年も経っている為か随分と荒れ果てている。

警察の協力で、ここに巣食う霊の正体は今から10年前に死んだ、このビルのオーナーであろう事が分かっていた。

感じる霊の力も然程強くなく、単純な供養で済むだろうと予想できた。


「……くぅん」

「うん、そうだね…入ろうか。」


久遠を頭から降ろし、一緒にビルの中へと入っていく。

数年来誰も入っておらず、従って電気も通っていない廃ビルの中は暗かった。今は夏であるため、この時間でも少しばかり明るいが…これが冬であれば真っ暗だった事だろう。

今はまだ大丈夫だが、除霊が終わって帰る頃には恐らくライトが必要不可欠になるだろう。予め夜に来るつもりだった為、那美の背負っているリュックの中には昼間の勉強の際に使用した教科書や課題のワークの他に、寮の管理人『槙原 耕介』から借りたゴツいライトなども入っている。

霊の気配を感じる4階を目指しながら、チラリと久遠の方を見る。

そして、ふと思った。

もし、凌が自分がこんな仕事をしていると知ったらどう思うだろうか、と。


(やっぱり驚くのかな。それとも、気味悪がるのかな。でも、久遠の事はあっさりと受け入れてたし……受け入れてくれる、かな。)


自分でも驚くほど楽観的な希望。でも、それでも先輩なら……と思ってしまうのは、自分が彼に恋焦がれているからだろうか、と少しばかり苦笑する。

そこまで考えたところで、那美は緩んだ気を引き締め直した。階段を慎重に登り、気合を入れる。


(行くよ、那美。)


自分自身に心の中でそう言って、4階へ続く階段を上りきる。

相手は霊。死んで尚無念を残して現世へと留まった哀しい存在。緩んだ顔で相手をしていいものではない。

精神を集中し、霊の相手をする状態を作る。

………霊は、ほんの数歩の距離にいた。


「グゥウウ………!」


久遠が唸って威嚇する。

その久遠を背に、那美は霊に向かって叫ぶ。


「倉持さん!ここのオーナーの倉持さんですよね!?」

「……………」


反応は返ってこなかった。無言で、ただ那美たちへ少しずつ迫ってくるだけであった。

目の前の霊は、やや活性状態にあった。しかし、ただの人に見えるほどには強い存在ではなかった。

だが、微妙だった。

霊の姿は『人型』であるだけで、細かい部分の形……つまり、『自らがこういう存在である』とその姿を決めるための自意識は、既に消え失せてしまっているようだった。

つまり、それは細かい事を思考するような意識が残っていない可能性を意味する。

那美は祈るような気持ちで言葉を続けた。


「倉持さん……もう、ここは貴方のものではないんです。貴方がここを買った時と同じように、他の人が此処の権利を買ったんです。」

「……………出テイケ。」


長い沈黙を破って放たれた一言は、完全に那美の言葉を無視したものだった。


「確かに詐欺同然でしたけど!でも、もうご遺族の方はこの件を究明して、ちゃんと和解金を受け取ってます!だから……」


「出テイケ。ココハ、ワシノ、モノダ」


聞く耳を持たないとはこの事だ。

那美はやるせなくなった。確かに霊の力自体は決して強くない。寧ろ弱い部類に入るだろう。だが、その代わりに成仏できるだけの思考能力も失われてしまっている。

破魔しなくてはならない。つまり、殺さなくてはならなくなる。

出来ればそれは避けたい。那美は袂に隠した護身刀『雪月』を意識しつつ、霊へ必死に呼びかける。


「気をしっかり持ってください!こんな、暗くて寂しい場所にずっといても…仕方ないじゃないですか!」

「出テイケ。」


霊は、その一言と共に本格的に活性化した。

存在が一気に強化され、人の目に見える悪意の塊を纏って具現化する。

それは直径数メートルに及ぶ、靄のような瘴気の塊であった。


「………!!」


那美は目を瞑った。…その心に浮かぶのは、懺悔。救ってあげられなかったという後悔だ。

討つしかない。もう、供養だけで救霊出来る段階ではなくなっている。完膚無きまでに手遅れだった。

袂に手を入れ、中から『雪月』を引き抜く。……が。


「出テイケ!!」

「っ!?」


霊力を込めようと『雪月』を握りしめた瞬間、靄が不完全に変形して那美の手目掛けて飛んできた。

手首から先が一瞬にして動かなくなる。霊に乗っ取られたのだ。

そして、霊に乗っ取られ…握力の消えた手から『雪月』が零れ落ちる。


「や……」


手首の違和感が広がっていくのを感じる。少しずつ支配権が侵食されているのだ。

既に肘の下辺りまで無感覚が忍び寄っていた。

離れなければ危ない。

そう感じた那美は、咄嗟に麻痺していない左手に霊力を集中し、右手に絡みつく霊体を叩いて追い払う。

叩かれた霊体が離れるのと同時に、自由が戻ってくる。

慌てて、先程取り落とした『雪月』を拾い上げる。

那美は掌に霊力を籠める事で何とか攻撃力を獲得しているが、それでも霊を倒すにはあまりにも力不足だ。この短刀――神咲に伝わる神刀『雪月』――こそが那美の攻撃の要であり、元来攻撃の苦手な那美が、唯一霊への『殺傷』を可能とするものだった。

だが、那美の動作は霊にとってあまりに遅かった。然程攻撃力のなかった先の一撃は、霊を少しばかり後退させるだけに留まった。その為、再攻撃を仕掛けてくるのも早く…那美が『雪月』を構えた時には、もう襲い掛かって来る直前であった。

が、その時………


「くぅーん!!」


久遠が飛び出した。

那美に迫る霊に、飛び込むようにして間に入る。


『ヌァ……?』


霊の動きが鈍る。

その瞬間、光が炸裂した。


バシュウッ!!


「あああああっ!!」


人の姿で、久遠が転げるように光から飛び出す。

そのまま雷を手に纏い、無造作に霊へと叩きつけた。


バリバリバリバリッ!!


「!?!?」


霊はそれを受けて、堪らず萎縮する。大きく広がっていた靄は、その一撃を以て一抱え程に縮んでしまった。

久遠が那美の方をじっと見る。

那美は、頷いた。

久遠は、今一度霊へと振り向き…雷を投げつけるように放射した。


「あああああああああっっ!!!」


バババババババババッ!!


電光が霊を穿つ。

霊はその一撃に直撃され、千切れ飛ぶようにして消滅した。

部屋に残ったのは優しき退魔師の少女と、雷の残滓を帯びて立っている金髪の少女。

その身から電気を放電し終わった久遠は、大きく息を吐くと那美に笑顔を向ける。

無垢な笑顔だった。

那美は、自分の手際の悪さに憤りを感じずにはいられなかった。いくら退魔が苦手とは言っても、久遠に頼ってばかりでは駄目なのに……と、自分を攻め立てる。

反省し、次に活かすことを考えながら階段を下りて行く。日は既に完全に沈みきり、ビルの中は真っ暗だった。

リュックからライトを取り出し、道を照らしながら慎重に降りる。

階段を全て降りきり、ビルを出る。その時だ。


「………ウゥウウウ!」


久遠が、闇に向かって唸った。普段の久遠からは想像もつかない程に敵意の籠った声だった。

何か居るのか、と疑問に思い…ライトを久遠の視線の先へと向ける。

ライトの光が闇夜を照らす。


シャーーーーー!!

「チッ、はぁっ!!」


照らされた闇にいたのは、二体の異形。

AGITΩとアンノウン。

人ならざる者同士の熾烈な戦いが、そこでは繰り広げられていた。

那美は、余りに突然な出来事に戸惑い…逃げ出すことも出来ず、呆然とそこに立ち尽くした。










7月29日 PM18:20―自宅―


「ごめんなさい、凌。今から近くのスーパーまで行ってお醤油買ってきてくれないかしら。」

「は?醤油?」

「そうなのよー、仕事帰りにスーパーに寄って来たんだけど…私ったらうっかりして醤油じゃなくて砂糖を買ってきちゃったの。」


我那覇さんをさざなみ寮へと送り、家に帰ってきた俺を出迎えたのは…母のそんな言葉だった。

そして、流石は母さん。何で醤油と砂糖を間違えられるんだ。


「何をどうしたら醤油と砂糖を間違えられるのか追求したいところだけど……まぁそれは置いておいて、他のもので代用できないの?」

「あら、刺身をケチャップやマヨネーズで食べるのならお母さんは別に良いわよ?」

「…………買ってくる。」

「うん、行ってらっしゃーい!」


仕方無しに、俺はもう一度バイクへと跨り…近くのスーパー目指して出発した。











「うわ、もうこんな時間か。」


スーパを出て腕時計を見ると、既に家を出てから約20分が経過していた。

急いで帰ろうと、すぐにバイクに乗ってエンジンを掛ける。

本来ならそのまま帰って夕食の刺身に舌鼓を打ちたいところだったのだが……そこで思わぬ邪魔が入った。


「っ!?」


アンノウンの出現である。


「……マジか。」


さっきとは別の意味で急ぎ、アンノウンのいる場所へ進路を変える。

アンノウンは、結構すぐ近くにいた。

鋏状の針が付いた尾を頭部から伸ばして、獲物を狙っている。

それを見た俺は、周囲を見渡し…アンノウンが狙っていると思われる人を探す。

その人は直ぐに見つかった。何故ならそれは俺が見知った女の子であり、つい先程まで会っていた娘だったからだ。


(那美ちゃん!?)


久遠を連れ、目の前に建っている廃ビルに向かって歩いている。

それを、アンノウンが狙っていた。

瞬間、尾が放たれた。

那美ちゃん目掛けてまっすぐに進むアンノウンの尾。

俺はそれをみすみす見逃す。………訳も無く、バイクを加速させ…那美ちゃんとアンノウンの間、その直線上に割り込んだ。

尚も迫る尾を右手で叩き落す。

たたき落とされ、目標を失った尾は…見る見るうちに短くなり、やがてアンノウンの頭部に収まった。


ギロリ、とこっちに気が付くアンノウン。

俺も負けじとアンノウンを睨み付け、身体を戦う為の姿へと変える。


「変身ッ!!」


ポーズを取り、その言葉を紡ぐことによって…俺の身体はAGITΩのものへと変わっていく。

変身が終わり、AGITΩとなった俺は…アンノウン目掛けて疾走した。










7月29日 PM18:50―Gトレーラー―


「勇吾、恭也!アンノウンが出た!」


今まさに帰ろうとしていた2人は、その言葉で動きを止め…次の瞬間には駆け出していた。

服をインナースーツに着替え、それぞれG2とG3を装着する。


「G2・G3…出動!」


Gトレーラーを発進させ、アンノウンの元へと急行する。

そこで、衝撃的な場面に遭遇する事になろうとは…この時は、誰も想像すらしていなかった。










7月29日 PM19:05―廃ビル付近―


「はっ!」

キシャーーーッ!


AGITΩとアンノウン“スコーピオンロード…レイウルス・アクティア”は、依然として戦い続けていた。

片や斧を片手に持ち、それを振るうアンノウン。

一方のAGITΩは、フレイムフォームとなってフレイムセイバーを手に戦っている。

AGITΩとスコーピオンロードの戦いは拮抗していた。

リーチは短いが小回りの効く斧に対し、リーチは長いが小回りの効きにくい刀。

加えて、スコーピオンロードの持つ斧は…まるでブーメランのように投げても弧を描いて戻ってくるのである。

こちらが優勢になれば、そうやって斧を投げられて仕切り直される。ただ、スコーピオンロードも攻め倦ねいているのか、一向に戦いに決着がつかない。


「ふんっ!」

ギシャーー!


焦れたAGITΩは、一瞬の隙をついてアンノウンを蹴り飛ばし…フレイムセイバーの鍔の装飾を展開させた。

2本角が6本角へと変化し、刀身が熱を発する。

大気が揺らぎ、触れたものを正しく一刀両断する必殺の一撃。

その一撃を見舞うため、AGITΩは駆けた。

スコーピオンロードも、同じようにAGITΩへ向けて走りだす。


「はあぁぁぁぁ!!」


裂帛の気合を込めて、すれ違いざまに一閃。…………する筈だった。


キシャーーーーッ!!


アンノウンは健在だった。

それもその筈、AGITΩの一撃は…スコーピオンロードの身に届く前に、完全に止められていたのだから。

AGITΩがフレイムセイバーを構え、スコーピオンロードを斬ろうとした正にその時、空中から盾が出現した。

蠍の姿が描かれたその盾の名は、『冥王の盾』。そう、スコーピオンロードの武器は『冥府の斧』だけではなかったのだ。

見えない力場に阻まれ、フレイムセイバーは盾の数センチ先から1ミリたりとも動かない。この状態に危険を感じたAGITΩは、トドメを刺すことを諦め…後ろに大きく跳ぶ。

ついさっきまでAGITΩのいた場所を、スコーピオンロードの斧が薙いだ。

AGITΩは焦る。

AGITΩが決着を早く付けようとしたのは、一向に決着がつかないことに焦れたわけではない。

今も廃ビルの中に居るであろう那美の存在を気にかけていたからだ。

那美に危害が及ぶ前に倒そうと、切り札を切った。にも関わらず、スコーピオンロードは倒せなかった。

今も、決着がつかないでいる。


シャーーーーー!!

「チッ、はぁっ!!」


思わず舌打ちし、もう一度フレイムセイバーを振るう。だが、結果は同じ。見えない力場によって完全に阻まれる。

その時、一筋の光がAGITΩとスコーピオンロードを照らした。

AGITΩは、もしやと思い…その光の方を見た。

そこには……ライトを持った那美と、スコーピオンロードへ敵意を向ける久遠の姿があった。

それが、致命的な隙を生んだ。


キシャーーーーッ!!!


人並み外れた怪力による大振りな一撃。咄嗟にフレイムセイバーで受けたものの、AGITΩは大きく吹っ飛ばされる。

スコーピオンロードとAGITΩの間に、距離が開く。

スコーピオンロードは、『冥府の斧』を大きく振りかぶってAGITΩへ投擲し、那美に向かって頭部についた尾を伸ばした。

AGITΩに戦慄が走る。

恐れていた事が最悪のタイミングで起こった。


(くそっ!何て間抜けなんだ!)


自身を叱咤しながら、必死に思考する。

たった1秒にも満たない時。

その間に、AGITΩは行動を決めた。


「おぉぉぉぉ!!!」


渾身の力でフレイムセイバーを投擲し、冥府の斧にぶつける。

同時に、左手をドラゴンズアイに当て…フレイムセイバーと冥府の斧がぶつかり、地に落下する瞬間、力強くそれを叩き…ストームフォームへと形態を変える。

後はただ走るだけ。

スコーピオンロードの尾よりも速く、那美の元へ駆けつける。

速く、もっと速く。ただ貪欲に、AGITΩは速さを求める。那美を守るため、自分の大切な人を傷つけさせない為に。


「きゃっ!」

「ぐぅ!」


果たして、願いは届いた。

ただし、己の身を犠牲にする事で。


「ぐあああぁぁぁあ!!!」


AGITΩの首に尾が巻きつき、毒針が刺さる。

苦しみ、悶えるAGITΩ。

そして、スコーピオンロードはそのままAGITΩを投げ飛ばした。


「があっ!?」


廃ビルに激突し、崩れ落ちるAGITΩ。

そのまま地に倒れ伏し、AGITΩは動かなくなった





(那美side.)


「くぅん!?」


AGITΩが倒れたのを見て、久遠は一目散にそこへ駆けつけた。

私は、もう何が何だか訳が分からず…ただ呆然とAGITΩの方を見ているだけだった。AGITΩが自分を庇ってくれたのは分かる。だけど、その理由が分からなかった。AGITΩが、アンノウンを倒して人を守っているというのは、リスティさんから聞いていたが…それでも、自らの身を挺してまで守ってくれるとは思っていなかった。

けど、その疑問はすぐに明かされた。


「ぐぅっ!」


その声と同時に、AGITΩの身体が光に包まれる。

私は、あまりの眩しさに思わず目を瞑ってしまう。

そして、次に目を開けた時…私は我が目を疑った。


「え?」


呆けた声が口から溢れる。だって―――


「せん…ぱい……?」


さっきまでAGITΩがいたその場所に、先輩が倒れていたんだから。














後書き
漸く本編更新。最低でも15回くらいは展開が思うように行かず書き直しました。やり直しのたびに下がるモチベーションを何とか維持しつつ、やっとこさ書き上げました。
クオリティ低いのは勘弁してください。スランプで絶不調な現状ではこれでもマシな方なんですorz実際、書き直したヤツはこれより酷かった。
前回の本編更新からかなり間が空いてしまいましたが、これにて漸く那美編スタートです。恐らく躓きまくることでしょうが、頑張って書いていくので出来れば応援宜しくお願いします。



[11512] 迷い込んだ男 超☆番外編「まさかのドゥーエEND」 
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/10/22 00:39
ネタです。


本編とは微塵も関係ありません。


一部キャラ崩壊があります


それでも良ければどうぞ。











「ドクター、お久しぶりですわ。」

「やぁ、ドゥーエ。どうだい?最高評議会の様子は。」

「相変わらずです。毎日毎日うだうだと文句ばっかり早く殺したくて堪りませんわ。」

「まぁそう言わないでくれたまえ。ガジェットの数が整い、娘たちが全員完成すれば管理局のシステムなどすぐに崩壊させられる。」

「分かっていますわ。それで、用件は何ですか?ドクターから連絡なんて初めてじゃありませんか。」

「管理外世界の97番、確か地球と言ったかな。そこに居る仮面ライダーなる人物について調べて貰いたい。」

「仮面ライダー…ですか?」

「そう、最高評議会がそれの捕獲を命じてきたのだよ。立場上それなりの事はやっておかなければならないからね。どのような存在なのか、正体は何なのか。頼めるかな?」

「もちろんですわ。ドクターの命令を私が拒むはずがないじゃありませんか。」

「そうかい?それじゃあ頼んだよ、ドゥーエ。」



これが、半年前の会話である。


そして、今。



「ドクター、私……」


スカリエッティの研究室。そこに映し出されたドゥーエの姿に、同じナンバーズである1番と3番と4、5番は驚愕の表情を浮かべる。

スカリエッティに至っては大口を開けてポカーンとしている。

ドゥーエは頬を桜色に染め、ぷるぷると震えながら衝撃の言葉を口走ったのである。


「私……好きな人ができました!!」


その台詞を言いきったドゥーエは、キャー言っちゃったー。と、真っ赤になって悶えながら両手で頬を押さえ左右にブンブン振っていた。半年前では考えられないような仕草を見せるドゥーエに絶句するしかない他の姉妹+スカ。








ネタ?番外編?「まさかのドゥーエEND」








「ど、どういう事だい?君には仮面ライダーの調査を命じていたはずだが。」


意外にも一番早く立ち直ったのはスカリエッティだった。


「ああ、ドクター。よくぞ言ってくれました。そう!あの日、私は運命に出会ったのです。そう、あれは……」


そう言って遠い目をしながら語り始めるドゥーエ。

明らかに恋する乙女の表情。しかも、この流れからして完全にのろけ話。

(これがどう『仮面ライダー』に繋がるのだろう)と、スカリエッティは頭を痛めた。

ドゥーエの話は数時間にも及び、スカリエッティとナンバーズ4人は無糖のコーヒーを何杯もおかわりしていた。砂糖を入れていないコーヒーなのに彼女の話を聞いているだけで甘く感じてくるのだ。

その甘さたるや、口から砂糖を吐きだしそうになる程である。


「要するに、噂の仮面ライダーに助けられて惚れた…と?」

「まぁ、ものすごーく略せばそうなりますね。」


転移直後に謎の怪物が突っ込んでくるという有り得ないアクシデントが起こり、自分のISでは打倒は不可能だろうと諦めかけたその瞬間。

真紅の瞳と金色の角と鎧といういでたちをした仮面ライダーAGITΩに助けられたのだそうだ。

その後は、AGITΩを見かけるたびにストーキング。

AGITΩが変身を解き人間に戻ったところを目撃し、以降は凌に対して他の女性の追随を許さない猛烈アプローチ。

その勢いに負けて告白をOKする藤見凌。

付き合い始めて最初の夜には一気にAとBをすませ、最近ついにCまで済ませたのだとか。


しかし…初Hの内容まで報告するのはやめてほしいなぁ、とスカリエッティは心の中で涙するのであった。


「それで、結局仮面ライダーの情報は入手できたのかい?」

「ええ、それはご安心ください。彼の情報はたとえドクターでも渡しませんけど、彼から他のライダーについて教えて貰いました。」

「!ほう。興味深いねぇ。教えてくれるかな?」

「はい。しかし、条件があります。」

「……なんだい?」

「彼との結婚を認めて下さい♪」

「む、むぅ。それは、あれかい?娘の父親として結婚式の出席とか……」

「それはそうですよ。」

「し、しかしだねぇ。私の今の立場は分かっているだろう?そんな事をしている余裕は…」

「仮面ライダーは私たち戦闘機人全員で掛かってもどうにもならないほどの性能なのに」ボソッ

「!?」

「中にはドクターでも再現できるかどうか怪しいものもあるんですけどねぇ」ボソッ

「そこまで言うならやってやろうじゃないか!結婚式?喜んで出席してやるとも!脳味噌共が何だ!私は自由に生きる!」

「ドクター……♪(フィッシュ!)」


こうしてドゥーエは凌と結婚することになったのだった。



1年後、地球の教会で本来ならば敵対関係になるはずのなのは達やナンバーズが仲睦まじく話しているところが目撃された。

話題は主に、ウェディングドレスを纏って幸せの絶頂にあるドゥーエとタキシードを着て笑っている凌についてだ。

まぁ、あの甘々っぷりはどうにかならないのか、と言ったことを大半の人が思ったそうだ。

ちなみに、例外は高町夫婦と藤見夫婦である。





さらに時は流れて8年後――――



「はぁ、はぁ、クソッ!何だってあんな化け物がッ!」


ミッドチルダの首都クラナガンの路地裏を必死に逃げまどう犯罪者の姿が1つ。

そして、それを追う影も…


「ここまでだな。」

「!?テメェ!いつの間に。」

「どうでもいいだろう、そんな事は。」


戦闘機人NO.3トーレ

それが追跡者の名前だった。


「こ、こんなところでッ、捕まってたまるかぁ!」


男はデバイスを起動させ、トーレに魔力弾を放つ。


「ふん、雑魚が。」


トーレはコートを脱ぎ棄て腰に装着していたベルトを剥き出しにする。そして―――


「来いッカブトゼクター!!」


『カブトゼクター』と呼ばれたそれは放たれた魔力弾をすべて叩き落とし、トーレの手に収まった。


「変身……!」

≪Henshin≫


トーレの声と共にカブトゼクターから電子音声が発せられる。

そして、トーレを徐々に銀色のアーマーが覆ってゆく。


「ひっヒイッ!来るな、来るんじゃねぇ!」


男は恐怖心に駆られて無茶苦茶に魔力弾を打ち始める。


「キャストオフ…!」

≪Cast off≫


電子音声と共に弾け飛ぶ銀の鎧。またしても全てを撃ち落とされ、男は更にパニックに陥る。


それに追い打ちをかけるかのように頭部のカブトホーンが競り上がり―――


≪Change Bettle≫


此処に、最速の仮面ライダー『カブト』が降臨した。





そして、また或る所では―――


「遂に見つけた。ここが奴等のアジトだ。」

「なら、乗り込みましょう。」

「うん。そうだね、ディード。」


ドラゴンやペガサスといった幻想種を捕獲し、改造する管理局暗部の研究チーム、そのアジトを見つけたオットーとディードは其処に堂々と乗り込んでいった。


「な、何だ貴様らはっ!」

「何処から侵入して来た!」


白衣を着た研究者連中が突然の侵入者に喚き始める。


「ただの探偵さ。」

「それに、堂々と入口から入りました。」

「な、舐めやがって!!おい、キメラを出せ!」


研究者たちが端末を操作すると、魔法で作られた檻の中から様々な生物が合成された醜悪な化け物の姿が現れた。


「コイツは我々の作りだした最高傑作だ。到底餓鬼2人で止められるモノでは無い!ヒハハハハハハ!!」


男の一人がそう言うと、残りの研究者たちも次々と笑い始めた。


「はぁ、まっこうなるとは思ってたけどね。」

「行きましょうか、オットー。」

「そうだね、ディード。」


研究者たちの醜い笑いなど聞こえていないかのように2人は顔を見わせて頷きあう。


そして、ディードはその懐からあるものを取り出した。


「ふん、デバイスを取り出したとしてもコイツに勝てる訳が無い。」

「デバイス?それは違うね。これは――」


『ダブルドライバー』



それがディードの取り出した物の正体だった。

ディードはそれを腰に当て、ベルトにする。

すると、オットーの腰にも同じものが現れる


「デバイスでは無い!?貴様ら一体………」


その言葉を研究者の1人が発した途端、2人はキメラに向かって歩き始めた。


「さっきも言ったでしょ、ボクらは2人で1人の探偵さ。」

「行きますよオットー。」

「分かってるよ、ディード。」


≪Cyclone!!≫


オットーが取り出した緑のメモリから電子音声が響く。


≪Joker!!≫


ディードの取り出した黒のメモリからも同じく電子音声が流れる。


「「変身!!」」


オットーがサイクロンメモリを右側のメモリスロットに装填、そして次の瞬間サイクロンメモリはディードのダブルドライバーに転送された。


ディードは転送されて来たメモリを押し込み、ジョーカーメモリを左側に装填する。


≪Cyclone!!≫ ≪Joker!!≫


ベルトから変身音が鳴り響き、ディードの体がアーマーに覆われていく。

風が吹き荒れ、部屋の中の書類が宙を舞う。やがて風が止むと、其処には左右の色が違う仮面ライダーの姿があった。


「「さあ、お前たちの罪を数えろ!!」」


此処に緑と黒の仮面ライダー、Wが誕生した。






「それにしても、こんな事になるなんて思わなかったな。」

「あら、そう?私はドクターがベルトの開発に熱中するようになってからこうなるんじゃないかと思ってたわよ?」


とある家ででの会話。そこには仲睦まじい夫婦がいた。


「お義父さん、俺がお前に言った大分うろ覚えな情報を基にして完璧なライダーシステム作っちゃったんだもんなぁ。」

「しかも、あの娘たち全員が仮面ライダーになっちゃったものね。」

「今じゃ管理局の闇やら非合法薬物の取り締まり、完全に正義の味方だな。」

「それはあなたもじゃない、地球を救った英雄さん♪」

「お、俺の事はいいだろう。大体、今はお前の姉妹たちの話をだなぁ。」

「もう、照れちゃって。そう言うところ昔と変わらないわねぇ。」


そう言って上品そうに笑う女と、その隣に座っている男。

ドゥーエと凌であった。


「さて、そろそろ料理でも始めようかしら。」

「手伝おうか?」

「魅力的な提案だけど今日はいいわ。だって、―――」

「ぱぱー、ままー、どこー?」

「ほらね?」

「あはは、起きてきたかー。」

「あ、ぱぱー!」


ドゥーエと凌に生まれたその子は、トテトテと近寄ってきて凌の膝の上にちょこんと座る。


「えへへー。」




世界が平和で

大切な人がいて

みんなが笑っている

これは、幸せな物語








後書き

はい、と言う訳でネタです。
なのはA’s再放送でテンションが上がって書いてしまいました。
まぁ、内容にA’s関係ないけどね!



[11512] 迷い込んだ男  【嘘予告】 仮面ライダーΩYAJI
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2009/11/14 13:21
仮面ライダーAGITΩ―Another Story Ⅰ―








突如として出現した謎の生命体“アンノウン”



人間達はその存在に怯える日々を送っていた



そんな中、一人の男が戦いの渦へと巻き込まれていく





「うわぁぁぁぁぁ!?」





夏期休講中の大学の研究室に、一人の男の苦悶の声の響き渡る



男は、全身を激しい激痛に苛まれ、床を這いずり回っている



「ぐっ!アァァァァァァァァァ!!!」



途切れる事無く苦悶の声は上がり続ける



それが、どれだけの間続いただろう



漸く体中に走る激痛が収まり、よろよろと立ち上がる



時間の感覚は既に無く、日時を確認しようと己の携帯に手を伸ばす



そして気付く……いや、気付いてしまった



顔を上げた時に見えたガラスに、薄らと映っている自分の姿が、人間の姿をしていない事に



男の人生は大きく変わった



アンノウンが現れるたびに“戦え”と囁く自分の内に眠るAGITΩとしての本能



男にはそれが恐ろしかった



男は戦いを拒み続け、遂に……



AGITΩとしての本能に負け、無意識の内にアンノウンと戦ってしまう。



そこに居合わせたのは、もう一人のAGITΩ



激戦の末にアンノウンを倒す2人のAGITΩ



しかし、力の暴走によって、男はAGITΩに殴り掛かってしまう



AGITΩは、いきなりの不意打ちと、先の戦いの疲労もあって動きが鈍っている



男は、口元のクラッシャーを開き、足元に紋章を描く



危機を感じたAGITΩは、自身もクロスホーンを展開させ、足元に紋章を出現させる



「オォォォォォ!!!」


「ハァァァァァ!!!」



激突する互いの必殺技



倒れ伏したのは、もう一人のAGITΩであった



そして、凄まじいエネルギー同士の激突により正気に戻る男



そこで男が見たものは、変身が解けて気絶している一人の青年の姿だった



男は知っている。これは自分がやったモノなのだと、記憶にハッキリと残っている



男は青年に顔を近づけ、顔を窺う



そして、その青年の顔を見て、男は驚愕せずにはいられなかった



青年の顔は、男がよく知っているものだった



何故ならそれは、自分と妻が手塩に掛けて育てた、自慢の息子の顔だったのだから




男は苦悩し、己の仕事に没頭する事で過去を忘れようとした



それでも、その光景を忘れる事は、全くできなかった



そんな折、その男の妻が、彼の体調を心配して大学を訪れた



そして、そんな彼女を付け狙うアンノウンも又、大学の中へと侵入していた




「きゃあぁぁぁぁぁ!」




目の前で妻が殺されそうになっているのを見て、男の中で何かが弾けた



愛する人を守るため、男は立ち上がる



もう二度と後悔しないため、男は決意する



人々の幸せを破壊するアンノウンを倒すため、男は――――――




「変身!」




強き意思を持って、AGITΩへと姿を変える。



男は、“藤見 記康”は、大切な物を守るために、戦士として生まれ変わった。



















仮面ライダーAGITΩ―Another Story Ⅱ―









それは突然だった



突如として、1人の男が経営する喫茶店に現れたアンノウン



そいつは今、一人の女を殺そうと、己の得物を振り被っている



それを見た男は、愛用の二本の小太刀を手に取る



男は疾走する



鞘から刀身を抜き放つ



男は一瞬の内にアンノウンへ肉薄し、斬りかかる



ガキィンと金属同士がぶつかり合う音が辺りに響く



アンノウンの持つ得物も又、剣



大きな剣であった



激しい戦いが繰り広げられる



アンノウンにとっては唯の人間、にも拘らず、苦戦を強いられるアンノウン



男の全力…剣術の奥義を使い、着々と追い詰めていく



内側に響く剣戟、そのダメージが幾重にも重なり、アンノウンは大きな深手を負う



しかし、アンノウンとてタダでやられたりはしない



アンノウンは大剣を全力で振るった



危機を感じた男は、小太刀を構え、防御の姿勢を取る



しかし、人間の限界を遥かに超えた腕力によって振るわれたそれは、いとも簡単に男の体を衝撃波によって吹き飛ばした



頭を強く打ち付け、朦朧とした視界で男が見たものは、内側へと多大なダメージを受けたアンノウンが逃げて行くところであった



男は、襲われた女―自分の妻―が無事であった事に安堵し、やがて意識を失った



家族は心配し、すぐさま男を病院へと運び入れる



そして、その夜



男の身体を激しい痛みが襲う



数々の荒事を経験してきた男でも耐えきれない尋常ならざる痛み



男は一晩中、苦悶の叫びを上げ続けた



次の日、男の妻が見たのは、ぐっしょりと寝汗をかいた夫の姿だった



男の汗を拭こうと、パジャマを脱がせる彼の妻



眠り続ける夫の身体をタオルで拭いていく妻



二人だけの、穏やかな時間がゆっくりと過ぎて行った



けれど、それをぶち壊す無粋者も存在する



昨日、男が撃退したアンノウンである。



ソイツは窓ガラスを突き破って現れ、頭上の輪から、昨日と同じ大剣を取り出す



アンノウンは大剣を振り上げ、一切の情け容赦なく振り下ろした。



ガシッ



眠っていたはずの男の手が、アンノウンの腕を掴む




「おい、俺の桃子に何やってる?」




グルルルルルルルルゥ




「答えろよ。俺の桃子に、何やろうとしてたって、聞いてんだぁぁぁぁぁ!!!!」




あらん限りの力を籠めて、男はアンノウンをブン投げる



窓から投げ落とされるアンノウン



ドシャリ



地面から聞こえる鈍い音、男は妻に「心配するな」と言うと、脇にあった小太刀を引っ掴み、バッと窓から飛び降りた



ゴシャッ



男はアンノウン目掛けて落下し、その落下速度を利用して、見事に顔面を踏み潰した




「お前は、3つ過ちを犯した」



アンノウンが体勢を立て直そうと起き上がる



男は後ろへ跳躍して距離を取る




「1つ、桃子を襲った事」




ゆっくりと前に前進する男




「2つ、俺と桃子の店を荒らした事」




男は、尚も前進する



アンノウンは、男が放つ圧倒的な殺気を身に受け、動きを鈍らせる




「3つ、桃子を―――」




悠然と歩く男の腰には、いつの間にか1本のベルトが巻かれていた




「―――殺そうとした事だー!!!」




緑色の光が、ベルトの中央―賢者の石―から放たれる



手に持つ小太刀が原子レベルで分解され、新たな姿に変わる



そして、男の姿も変化する



男は変身が完了すると、小太刀をベルトに着いた鞘に収め、駆ける



自身の最も信頼する技の射程まで一気に踏み込む



そして――――




「御神流・奥義之壱―虎切―」



鞘走りを利用した高速の一撃



本能で危機を察知したのか、咄嗟に回避運動を取るアンノウン



しかし、それは余りにも遅すぎる行動だった



鮮やかに切断されるアンノウンの腕



苦しみの声を上げるアンノウン



そして、その間に零距離まで間合いを詰める男




「奥義之弐―虎乱―」




もう一刀を鞘から抜き放ち、二刀での連続技を見舞う




声にならない悲鳴を上げながら、残った腕を振り上げるアンノウン



男は、二本の小太刀を鞘へと収め、アンノウンを蹴り飛ばす



そして、口元のクラッシャーを開く



足元に描かれる紋章



迫り来るアンノウン



紋章が両足に吸い込まれるように消える



そして―――――




「フッ!!」




―虎乱―によって、ボロボロになった胴体へと、必殺の“アサルトキック”を極める



既に死に体だったアンノウンは、断末魔の叫びを上げる間もなく、爆散した



此処に又、新たなAGITΩが生まれた



―高町 士郎―



御神の剣士でありながら、AGITΩとして覚醒した彼の運命や如何に


















仮面ライダーAGITΩ―Another Story Ⅲ―








「ぐあぁぁぁぁあぁ!!」




最強の敵、エルロードによって倒される 藤見記康




「う、ぐっ!」




違う場所、同じくエルロードに敗北した男が一人



AGITΩとなって強化された御神の技も通じず、倒される 高町士郎




絶望する二人の男



エルロードは、尚も人を襲う



男たちは走る



どれだけ敵が強大でも、何度でも立ち向かう



妻を愛し



子を愛し



全ての人の幸せの為に戦う『漢』たち




「あなたは……!?」




「あなたも……ですか」




二人の漢が出会い



そして、手を組む時




「変身!!」




「変ッ身!!」




二人のAGITΩが揃う時




「ウオォォォォォオォ!!!」




「フッ!ハァァァァァァァ!!!」




その力は正に無限大




「「ゥオォォォォォ!ダブルライダー、キーーック!!!」」




“ぬぅぅぅぅ!!おのれAGITΩーーー”




エルロードは倒され、二人のAGITΩはガシッとお互いの手を固い握手を交わすのだった













後書き
仮面ライダーΩYAJI書いてみた。
完全に一時のテンションに任せて書いたので細かい矛盾とか有るかも知れないけどスルーでお願いします。
Ⅲが短いんじゃない!ⅠとⅡが長すぎたんだよ!!



設定

藤見 記康……ノーマルAGITΩ
ただしクロスホーン展開しっぱなし。口にはアナザーアギトと同様のクラッシャー有り。フォームチェンジなし。S.I.C仕様


高町 士郎……アナザーアギト(御神)
基本は原作のアナザーアギトと同様。この姿で木の枝や小太刀を持つと、クウガのように物質を分解し、再構成させる能力を持つ。コイツもS.I.C仕様。



[11512] 迷い込んだ男 番外編 テスタロッサ家の平和な日常
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:d2657d4d
Date: 2010/07/05 23:34
迷い込んだ男 番外編 テスタロッサ家の平和な日常









テスタロッサ家の家長プレシア・テスタロッサの朝。



プレシアは、毎朝6時には起床し、寝間着から私服へ着替えて朝食を作り始める。

アリシアを蘇生させるのに躍起になり、研究に没頭していた頃は使い魔であるリニスがいた為…ご飯は全て彼女にやらせていたのだが、その彼女も今はいない。

アリシアが生き返り、フェイトを娘として見る事ができるようになってからは…また、嘗てのように家事をするようになっていた。


「よしっ、こんなものかしら。」


朝食を見て満足気に頷いたプレシアは、朝食をテーブルに並べて…娘たちと、フェイトの使い魔のアルフがやって来るのを待つ。


「おはようございます、母さん。」

「おはよー、ママ!」

「おはよー、プレシア。」


時計の針が丁度7時を回った頃に、彼女らはやって来た。


「えぇ、おはよう。フェイト、アリシア。」

「プレシアー、わたしはー?」

「はいはい、アルフもね。」

「ん。」


朝の挨拶を終え、2人と1匹は自分の席へと座る。

そうして、他愛もない雑談を交えながら朝食を食べる。


「それでねー、そのラスボスがすっごく強くてね……」

「うーん、どのくらい強いの?」


自分が全く分からないゲームの話にも、律儀に相打ちを打つプレシア。正直なところラスボスがどうだとか言われても、ゲームの内容を知らないのだから理解しようがないのだけれど、それでもプレシアは何とかして理解しようとしている。


「え?えっと、えっとねー。」

「たぶん……Sランク魔導師くらい、だと思う。」

「あっ、そうそうそんな感じ。やっぱりフェイトの例えは分かりやすいね。」

「えへへ、そうかな。」


どういう風に例えようか迷っているアリシアに、すかさずフェイトが助け舟を出す。でもってその事をアリシアに褒められ、照れ照れと頬を染めて笑っているフェイトを衝動的に抱き締めたくなったプレシアだったが、何とか自粛する。


「Sランク魔導師…ね、それは確かに強そうね。」

「でしょ?それを私は頑張って倒したんだよ!えっへん!」


自慢げに胸を張るアリシア。しかしそこに、今まで黙々と食べていたアルフから鋭いツッコミが飛ぶ。


「…そのお陰で寝るのが遅くなって危うく寝坊しかけたのは何処の誰だったかねー。」

「う、アルフの意地悪。」


自慢げに胸を張っていた姿から一転、バツの悪そうな表情になるアリシア。プレシアに怒られるかもと思ったのだろう。


「ふふっ、ダメよ。あんまり夜更かししちゃ。」

「うぅ、ごめんなさい。で、でも今日は早く寝るから!」


しかし、怒りはしないで、優しくアリシアを諭すプレシア。怒るべきかとも思ったが、自分が夜更かしの常習犯であるだけに強く出られなかったりするプレシアだった。


「…ふぅ、何回それと同じセリフを言ったことか。」

「うぅぅ、もう!アルフー!!」

「な、何さ!ホントの事じゃないかい!」


怒ったアリシアがアルフを追い掛け回し、フェイトはその様子をオロオロしながら見ていて、プレシアは微笑ましく見守っている。

これが、テスタロッサ家の朝食時の光景である。



朝食が終われば、食器を洗う。

その後は、昼までの時間を通販サイトを見たり世界情勢を知るのに使い、まったりと過ごす。

全く以て、嘗てのプレシアからは想像もできない生活であった。


しかしまぁ―――――


「あら、この服…フェイトに似合いそうね。少し高い気もするけど…買っちゃおうかしら。それと、フェイトだけに買うとアリシアが拗ねるから…………」


――――――何にせよ、幸せそうで何よりである。










長女、アリシア・テスタロッサの昼(12:00~15:00)



アリシアという少女は、天真爛漫で何事にもアクティブな性格だ。室内で遊ぶことも好きだが、それより外で遊ぶのが好きな性格なのである。

母の許可を貰って、その昔に彼女らが住んでいたミッドチルダ南の山あい『アルトセイム』へ転移し、そこにある豊かな自然の中で遊ぶのが、毎日の日課となっている。

勿論、一人で遊ぶのはつまらないのでフェイトやアルフも一緒に。


「さて、今日は何をしよっか。」

「鬼ごっこー!」

「えと、かくれんぼ。」


澄み切った青が空一面に広がり、ギラギラと輝く日輪の照らす草原にて、3人は今日の遊びを考えていた。


「ん~、取り敢えず…かくれんぼは却下!」

「が~ん!」

「だって遮蔽物一つない草原だよ?隠れる場所なんかないし。結局は鬼ごっこになるじゃない。と言うか、実際なったし。」

「へぅ、そうだったね…ごめん、姉さん。」


肩を落としてションボリするフェイト。


「はいはい、落ち込まないの。フェイトの案だって、ここが森だったら採用だったんだから。」

「うん、ありがと姉さん。」


ポンポンと優しく頭を叩き、慰めるアリシア。


「それで、アリシア…結局誰が初めの鬼やるんだい?」


そこに、人間形態(子供)になったアルフが話しかける。会話に参加させてもらえず、若干不機嫌そうにしている。


「そりゃー決まってるでしょ。」

「は?一体だr……」


アルフがそう言った時には、既にアリシアは走り出していた。フェイトの右手を掴んで、フェイトと共に。


「なっ!?」


そうなると必然的に残るのはアルフだけになる。まぁつまりは『鬼』を押し付けられてしまった訳だ。


「ひ、卑怯だぞ!!」

「へへーん!朝の仕返しだもーん!ちゃんと10秒数えてから追い掛けなよー!!」

「ご、ゴメンねー!アルフー!」


未だに、朝の出来事を引き摺っていたのか、あっかんべーをしながら逃げるアリシア。申し訳なさそうにしながらも、持ち前の運動能力の高さで遠くに逃げるフェイト。


「ふ、ふふふふふふ。そうかいそうかい。そういう事なら容赦しないよ!」


アリシアの言動に怒り心頭のアルフ。しかし、それでも言われた事をきっちりと順守し、10秒数えてから2人…というよりもアリシアのみを追い掛け始める。………獣形態で。


「ちょっ!?アルフ、それ反則!反則!!」

「先にルール違反したアンタが言うな!」

「だ、ダメだよアルフー!」


わー!きゃー!と賑やかに叫びながら、彼女らの午後は過ぎていく。











次女、フェイト・テスタロッサの昼(15:00~18:00)



アリシアの妹であるフェイトは、姉とは対照的に物静かな性格をしている。

そんな彼女は、実のところ姉よりも運動ができ、魔法の扱いにも長けている。幼い頃から嘗て共に生活していたリニスから魔法を教わり、そのリニスが居なくなってからも…彼女の残してくれた戦斧『バルディッシュ』や、使い魔のアルフと研鑽を積み重ねてきた。

数カ月前にはアリシアという姉もでき、プレシアから親の愛情を貰えるようになった。確かに、自分がクローンだと知った時は少なからず驚いたし、ショックも受けた。しかし、涙を流して今まで冷たく接してきた事を懺悔したプレシアと、自分のことを妹として接し、可愛がってくれる姉を前にそんな葛藤など些細な事だった。

実際…アリシアのクローンと言っても、フェイトはアリシアと様々な点が異なっていた。性格も違えば利き手も違う、アリシアと違ってプレシアの魔力資質が受け継がれている等々。謂わば双子の姉妹と言った方がシックリくる間柄なのである。

なので、フェイトはアリシアと極めて良好な関係を築いていた。


「ねー、フェイトーあそぼーよー。」

「ダメだよ、姉さん。さっきまで思いっ切り遊んでたんだから勉強もしないと。」

「う、分かってるけど…退屈なんだもん。」


ペラペラと教本を捲りながらそう言うアリシア。頬杖をついてやる気無さげにしている姿は、さっきまで快活に遊んでいた元気が微塵も伺えない。


「泣き言なんか言ってないでさっさと終わらせなよ。アリシアよりフェイトの方がよっぽど大変なんだからさ。」

「あ~、そうだよねー。普通の勉強に加えて魔法の勉強もあるんだもんね。大変だねー。」

「んー、でも…もう慣れちゃったからあんまり大変って気はしないんだー。それに、私に魔法を教えてくれたリニスとの絆だから。」


今はいないリニスの事を思い出し、少し切ない気持ちになるフェイト。


「リニスかぁ…会いたかったなぁ。ねねっ、どんな感じだったの?リニスって。」

「ふぇ?どんな感じ……って?」

「う~ん、優しそうだった…とか、怖そうだったとか。」


アリシアは、使い魔になる前のリニスしか知らない為、使い魔になってからのリニスに興味津々だった。まぁ、勉強をサボれるなら何でも良かったのかも知れないが。


「う~ん、優しくて厳しかった。」

「それと、滅茶苦茶強かった。」


フェイトとアルフが、それぞれそう言う。

フェイトが思い返すのは、リニスに教えてもらった勉強や魔法。そして、訓練。

アルフが思い出すのは、リニスに教わった使い魔の役割と使命。そして、摘まみ食いした際のお仕置き。


「へぇ~、いいなぁ。私も会いたかったなぁ~。」


羨ましそうな声を上げるアリシア。最早勉強をする気は完全に失せていた。


「………………………」

「あれ、フェイトどうしたの?黙っちゃって。」

「あ、うん。母さんが念話で晩家飯できたから来なさいって。」

「ほんとっ!やったぁ!」

「フェイトー、晩ご飯って何?」

「アルフはお肉だって。」

「ぃやったー!にく、ニク、肉ー!!」


ピョンっと椅子から飛び降りるアリシアに、肉を連呼し小躍りするアルフ。


「あ、姉さん…ちょっとだけ待って。」


カリカリとペンを走らせ、文字を書き終えると…フェイトもアリシアに習って
椅子から飛び降りた。


「アリシア、フェイト!早く行こうよ!肉だよっ、肉!!」


アルフは尻尾をブンブン振って、二人を待っている。パタパタではなくブンブンなところが、アルフの喜びの大きさを表している。

これがテスタロッサ姉妹の午後である。










使い魔、アルフの夜



「ほら、アリシア…今日は早くねるんだろう?」

「んー、後ちょっと……」

「その台詞何回目だい?いい加減にしないと電源切っちまうよ!」

「それだけは勘弁してッ!ぃよしっ勝ったぁ!」


10時半をまわっても寝ようとしないアリシアに注意をするアルフ。

もう何度目かの注意にも関わらず、アリシアは一向にゲームを止める気配がない。

ちなみに、フェイトは良い子なため9時には完全に寝てしまっている。


「ほら、一段落ついたんだろ?いい加減寝な。」

「えぇ~、後もう一戦だけ~。」

「……聞いた話によると、遅くまで寝てない子は背が伸びないらしいよ。」

「何してるのアルフ!早く寝ないとだめじゃない!」


さっきまで散々渋っていたのに…アルフのセリフを聞いてからのアリシアの行動は迅速だった。さっさとデータをセーブして、自ら電源を落としてベッドに寝転んで、目を瞑って寝る体勢になる。

まったくもって現金な子である。

と、こんな感じで何も特別な事など起きずに、夜は終わりを迎えて行く。










後書き
一向にスランプから抜け出せる気配がないorz…今回のも駄文だしなぁ。
那美編も書いてるんだけど、一向に納得できるものが出来ない。皆様がネタを提供してくれたので、前よりは捗るようになったんですが……。くそぅ、崇りとのバトルの構想は頭の中にあるのに!
息抜きにこんなものを書いたんですが……出来が果てしなく微妙。最後のアルフの所が手抜きっぽいなーと思った人は正しいです。書こうとしてもあれ以上書けませんでした。早くスランプから立ち直りたい。



[11512] 迷い込んだ男 【ネタ】Fateとクロス 序章
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:d2657d4d
Date: 2010/07/05 23:38
「なんでよーーーー!?」


穂群原高校に通う女子高生『遠坂 凛』は、自分の屋敷の地下室から居間を目指して全力疾走していた。

遡ること数秒前…聖杯戦争に参加するためにサーヴァントを呼び出そうとした凛は、自分でも完璧な手応えを感じる程の英霊を呼び出した……筈だった。

しかし、現実には彼女の目の前には誰一人として立っておらず、代わりとばかりに居間で大きな爆発音。

予測不能すぎる事態に戸惑う暇も無く、彼女には居間を目指して走る以外の選択肢が無かった。


「扉、壊れてる!?」


居間の扉は歪んでいた。これでは取っ手を回しても意味が無い。押しても引いても開かない扉に、いい加減イライラが臨界に達した凛が取った行動は……


「―――ああもう、邪魔だこのおっ……!」


どっかーんと、ヤクザキックで扉を蹴破り、中に入ることだった。


「ぐおぉぉぉぉ、いってぇぇぇぇぇ!!」


そして、居間に入り…凛が最初に見たものは、打ち所が悪かったのか頭を抱えて悶絶する一見何処にでも居そうな成人男性の姿だった。










スランプ脱出企画:Fateクロス(プロローグ)










凛Side.


「それで。アンタ、なに?」

「あー、まぁサーヴァント。些か乱暴だったけど、ちゃんと契約による繋がりは感じるし…君の身体にも令呪が出てるんじゃない?」

「これのこと?」


どう見ても一般人にしか見えない目の前の男は、正真正銘私のサーヴァントらしい。右腕に浮き出た令呪がそれを証明してしまっている。

それを確認した男は満足気に頷き、「これで間違いないね。」と言った。

にしても、本当に一般人にしか見えないわね。服装は黒いTシャツにジーパン、靴も市販で売っているようなヤツだ。とても過去の人物には見えない。


「…で?アナタは何のサーヴァント?」


取り敢えずクラスは知っておかないと話にならない。クラスによって練る戦略も変わってくるしね。

理性があるからバーサーカーはまず有り得ないし、何となくアサシンとかキャスターって感じでもなさそう。だとすると、残るはセイバーかアーチャーかランサー、ライダーになるのだが……


「(見事にどれにも当てはまりそうにないわね。出来れば三騎士のどれかであって欲しいけど……)」

「クラスはライダー。あ、真名とかも教えといた方が良い?」

「…そうね、お願い。」


内心セイバーでない事にガッカリしていたが、自分のミスなので文句は言えない。そうして己の過ちを悔やんでいたところに、ライダーは更にとんでもない爆弾を投下した。


「真名は藤見 凌。ちなみに、この世界とは違う世界から召喚されたんで知名度によるステータス補正は無いと思って貰ったほうが良いかも。」


……理解するのに、数秒の時を有した。


「はあぁぁぁぁぁぁ!?」


ライダーの言った言葉の意味を理解した私が絶叫したのは、仕方ないことだと思う。










後書きと云う名の懺悔。
ぶっちゃけ適当です。すいません。
スランプで本編が書けないから衝動的に書いた。
取り敢えず何か書いておかないとドンドン書けなくなりそうだったので……。
Fateは好きだけどプレイし直してないので間違ってるところもあるかも知れません。重ね重ねすいません。

p,s,図々しいと思われるかも知れませんが、誰か那美ちゃん関連のネタを下さい!(割と切実。)



[11512] 迷い込んだ男 【設定】 
Name: Ifreet◆6da6c70d ID:1c3ae593
Date: 2010/07/18 11:02
【登場人物】

藤見 凌(ふじみ りょう)

いわゆる転生者で、前世の記憶を持っている。しかし、そのほとんどが劣化しており、前世で見ていたアニメなどの知識もうろ覚え。そのため、高町 恭也・月村 忍両名の名前を聞いても違和感を感じただけで、アニメ・ゲームの登場人物だと気付かなかった。成績については、一度は覚え終わっていることなので今のところ上位に入っている。容姿は恭也に劣るが、それでも格好良い部類に入る。何気に魔力を持っていて、魔力総量Aランク(成長途中)だが、リニスの維持に全て使用しているため魔法は使えない。ようやくアギトに覚醒した。『超能力』と言っていいのか微妙だが、限界ギリギリまで体のポテンシャルを引き出すことができるようになった。ただし、時間制限つきで、大体5分程度しか持続させられない。ストーム・フレイムの覚醒と共に、能力の方も…スピード・パワー・感覚が若干強化された。(追記)


高町 恭也(たかまち きょうや)

『とらいあんぐるハート3』の主人公。古武術「永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術」(御神流)の剣士。この世界では恭也の父である高町士郎は爆弾テロで重傷を負うものの何とか命を取り留めているため、無茶な鍛錬を行っておらず膝に重傷を負っていない。よって、急いで強くなる必要がなかったため、原作のとらハ3の恭也より若干弱くなっている。海鳴市での主人公の最初の友人。なのはを守れなかったことを悔やみ、二度とそんな事が無いように忍の要請を受け入れ、G2の装着者になる。


赤星 勇吾(あかほし ゆうご)

恭也とは中学2年からずっと同じクラスの腐れ縁。成績優秀で顔も格好良い。文武両道で、剣道部に所属している。「草間一刀流」という剣道を修めており、その太刀筋は豪剣で打撃の重さでは恭也を上回る。剣道部員とは実力差がありすぎてまともに練習出来ないことから、恭也と手合わせをするためしばしば高町家にやって来る。主人公とは恭也を介して知り合い、気が合ったため、すぐに友達となった。成り行きでG3の装着者となり、アンノウンと戦うことになる。射撃の腕もメキメキ上達し、銃器の扱いにも慣れてきた。(追記)


高町 美由希(たかまち みゆき)

父・士郎から御神流を教わっている。乱視気味で眼鏡をかけているが剣を握るときは外す。趣味は園芸と読書。また、刀オタクと言われるほど重度の刀剣マニア。高町家(なのはを除く)で唯一料理が出来ないというのが、ひそかにコンプレックスだったりする。


高町 士郎(たかまち しろう)

フィアッセの父親、アルバート・クリステラのボディガードをしていた時にテロに遭い、犯人を全員鎮圧するも、起動用爆薬の爆発からフィアッセを守り、重傷を負う。家族に心配を掛けた事を心底後悔しており、現在は危険な仕事から手を引いて恭也・美由希に御神流を教えている。酒と甘いものが好きで、およそ乗り物と名の付くものなら何でも乗ることができ、「大型特殊、限定解除、工事用特殊車両、セスナ、二級船舶、象やラクダ」と様々である。妻の桃子とは『万年新婚夫婦』と呼ばれるほど仲がいい。翠屋の店長。


高町 桃子(たかまち ももこ)

海鳴商店街にある喫茶店・翠屋の菓子職人。ノリが良く、ポップな性格の持ち主。
海鳴のホテル・ベイシティで士郎と出会い、アルバート・クリステラを狙ったテロ事件に巻き込まれた。士郎に命を救われた後、重傷を負って入院した彼を見舞いに行っていたりするうちに、いつしか愛し合うようになり、結婚することとなった。めったに怒らないが本気で怒り出すと相手に反省を促す不思議な威圧感を持ち、士郎でも頭が上がらない。


高町 なのは(たかまち なのは)

平和主義で戦う力を持たないが、周りの喧嘩や暴力に厳しく、ここぞと言う時の押しの強さや行動力、剣幕の強さは桃子譲り。動物好きでもあり、神社に狐が出ると聞くと、凌とアリサを連れて神社に突撃した。久遠に懐かれようと毎日、食べ物を持っていき、その熱意に久遠も心を許した。魔法の才能も原作通り健在で、巻き込まれることが確定している。


アリサ・L・バニングス(ありさ・ろーうぇる・ばにんぐす)

孤児で、しかもIQ200の天才児。本来は不良たちによって殺される運命だったが、凌が助けることによって生き残る。自分を救ってくれた凌に淡い恋心を抱いているが、自覚はしていない。凌の見舞いに行ってから一ヶ月後に、バニングスグループの総帥であるデビット・バニングスに養子として引き取られる。なのはには凌の紹介で出会い、友達になった。


月村 すずか(つきむら すずか)

おっとりして物静かで相手の心を汲むことが上手い。猫好きで、屋敷には数え切れないほどの猫が暮らしている。実は普段着のボタンも良く見ると猫の形をしている。夜の一族であることがコンプレックスで、引っ込み思案な性格。ちなみに、なのはとアリサとの出会いは原作と違っており、すずかをいじめていた男の子たちをアリサ&なのはが叩きのめしたのが切っ掛け。


月村 忍(つきむら しのぶ)

主人公たちのクラスメイト。どこか無口で冷たいように見えるが、一旦心を許した相手に対しては、かなり開けっぴろげで明るい。学校ではいつも、教室や図書室の片隅で本を読んでいるか、眠っているかのどちらか。「夜の一族」と称する吸血鬼であり、戦闘力より知能面に才能が特化された、ある意味において異端な存在。感受性が鋭く「夜の一族」であること自体にコンプレクスを抱いており、自分を受け入れてもらえない可能性に対する怯えから自分の殻に閉じこもって自閉的かつ没交渉な生活を送っていた。月村家の遺産を狙う親族に殺されそうになったところをすずか共々凌によって助けられ、見返りを求めず、クラスメイトだったから助けた。と言う凌の態度に好意を覚えた。この世界でのGシリーズの産みの親。


ノエル・K・エーアリヒカイト(のえる・きどう・えーありひかいと)

月村家のメイドで、忍の専属ボディーガードも兼任する。メイドであることに誇りを持っており、家にいるときは必ずメイド服であり、少しでも外出するときは必ず着替えている。その正体は『夜の一族』に伝わってきた自動人形。今では失われた技術を用いて作られており、持ち主の忍にも、その用いられている技術の全てが判っているわけではないらしい。戸籍上はドイツ出身で綺堂家の血縁ということになっている。腕にブレードを装着して戦闘をする際は「夜の一族」ですら手が出せなくなってしまう上、忍による改造で右腕にロケットパンチを仕込んでいる。ちなみに、形式名は「エーディリヒ式・最後期型」。もっとも、忍がかなり改造しているので、正式には「エーディリヒ式・改」と言った方が良いかもしれない。凌のことは忍の命を助けて貰った上、忍自身が凌に好意を持っていることもあって好感を抱いている。G2装着による小さな負荷が重なり、動作に少しの異常が生じた為、G2の装着者を辞める。(追記)


ファリン・K・エーアリヒカイト(ふぁりん・きどう・えーありひかいと)
 
ノエルの妹。ノエルと同じく自動人形である。腕には小型マシンガンを装着しており、もちろんロケットパンチも打てる。ミサイルやライフルなど、重火器を主に搭載しており、ノエルが近・中距離を得意とするなら、ファリンは中・遠距離を得意としている。ノエルと同様に形式名は「エーディリヒ式・最後期型」。こちらも、忍がかなり改造しているので、「エーディリヒ式・改」と呼ぶのが正しい。すずか専属のメイドで、すずかのことが大好きである。しかし、精神的に子供っぽいところが多く、すずかのほうが大人に見えることもしばしば。


綺堂 さくら(きどう さくら)

ドイツの血が混じっているハーフの美女。で、実は吸血鬼の父親と人狼の祖父を持つワーウルフヴァンパイア。外国生まれのせいか、酒には強い。ワインは水みたいなもの。人狼の血が入っているので、耳や尻尾が出る。霊感応、心理操作、不老長寿と数々の特殊能力を持つ。忍とすずかは姪にあたり、家族に恵まれなかった2人のことを溺愛している。服は黒系が好き。スカートは長いのが好みで、ズボンはほとんど持っていない。大学院生で、専攻は日本に存在したとされる古代文明。


フィアッセ・クリステラ(ふぃあっせ・くりすてら)

言わずと知れた世界の歌姫。母・ティオレは世界的歌手、父・アルバートはイギリス上院議員と超VIP。しかし本人は庶民感覚に染まっている。動物が好きで、リニス(猫形態)を特に気に入っている。凛(リニス人間形態)とは友人同士。特殊な遺伝子病“HGS”を患っており、その背中に現れるリアーフィンは黒い翼で名称は「ルシファー」。これは内在的な生命力を消費するもので、用いれば用いるほど生命の危機に陥る不安定なものである。翠屋でバイトをしており、主人公の教育係を務める。主人公に恋心を抱いている。

ティオレ・クリステラ(てぃおれ・くりすてら) 【追加】

往年のオペラ歌手。世界有数のソプラノで、通称「世紀の歌姫」。今は新しい歌手を育てることを中心に活動していて、歌手の養成学校、クリステラソングスクールの校長をしている。フィアッセの母親でもある。混血で、中東で戦争の最中、少女時代を過ごした。そのせいもあって、福祉やボランティアにはひときわ熱心である。12歳でイギリスに渡り、以後その才能を開花させる。幼少の頃の傷がもとで、長い間子供に恵まれず、40を過ぎてようやく治療が実ってフィアッセを授かった。現在は60を越える歳だが、歌にかける情熱は変わっていない。


リスティ・槙原(りすてぃ・まきはら)

アメリカ国籍のフィンランド人。旧姓は『リスティ・C(シンクレア)・クロフォード』。「劉機関」というチャイニーズマフィアがHGS能力の兵器転用を狙い、患者同士を人工授精して作った生体兵器で、リスティはその最終試作機。開発コードナンバーはLC-20。保有するフィンは昆虫状の3対の光の羽で、名称は「トライウィングス・オリジナル」。当初は人間自体を蔑み、やたらと攻撃的な性格であったが、現在は自由気ままで飄々とした性格に変わった。能力を人助けに生かすことを志向して警察への就職を望むも、社会に出ることを急いだあまりに学歴を「短大」迄で打ち切ったことが祟り、探偵まがいのエージェントからキャリアを積む羽目になったが、テレパシーやサイコキネシスを活用して高い実績をあげ、最終的には特例で刑事に採用された。


フィリス・矢沢(ふぃりす・やざわ)

海鳴大学病院に務めており、フィアッセの担当医、並びに高町一家と凌の主治医となる。実はひどく恐がりで、夜勤をいやがったりと結構子供っぽいところもあり、看護婦さん達には可愛がられている。甘党でココアが大好物。凌の中のアギトの力をHGSかも知れないと仮定した。実はリスティの遺伝子をもとに作成されたクローンで、遺伝学上では姉妹でなく親子となる。HGSとしてのコードナンバーはLC-23。保有するフィンは昆虫状の光の羽で、名称は「トライウィングスr」。転送能力も自分以外のものを転送する「トランスポート」と、ものを引き寄せる「アポート」が可能なものの、共にごく微細なものしか扱えない。アメリカに留学し飛び級を重ね弱冠20歳にして医師免許と博士号を取得した。


セルフィ・アルバレット(せるふぃ・あるばれっと)

愛称はシェリー。かつて、リスティと知佳を捕獲するためフィリスと共に送り込まれるが、リスティに返り討ちにあい、完全に自由の身となった。その後は、アメリカの災害対策の偉い人の養子になり、アルバレット姓となっている。優しく優秀な義父は、セルフィの誇りだが、身内(親しい人間)に騙されやすく、主にリスティの所為で大変な目に遭っている。(セルフィが。)現在は米国籍で災害対策の仕事をしている。リスティとの関係は姉妹というより、親子に近いのだが、何だかんだで仲良くやっている。


神咲 那美(かんざき なみ)

八束神社で巫女のアルバイトをしていて、さざなみ寮に在住。ぽややんとした非常に穏やかな性格で、幼少時から一緒にいる子狐、久遠が一番の親友。大変なドジで料理はあまり得意ではない上に、おっちょこちょいでよく転ぶ。封印が解けた久遠によって実の両親を殺されており、そのときのトラウマで雷が苦手。ちなみに、恭也が膝を壊していないため、恭也とは出会っていない。


久遠(くおん)

那美が飼っている子狐。かなり人見知りが激しくすぐ物陰に隠れるが、何故か凌には初見で懐いた。毎日神社に餌をもって通い詰めたなのはの熱意に押されてなのはにも懐いた。大福、油揚げ、甘酒が大好物。 その正体は300年前から生き続ける妖狐だが、最初から妖狐だった訳ではなく、なぜか成長しないまま歳を重ね、異能力を身につける変化と化してしまった。かつては、神職という存在に激しい怨念を抱き、理性を失い全国の寺社仏閣を雷撃で無差別に破壊して回り、300年ほど前に一旦、神咲の者によって封印される。が、10年ほど前にその封印が解けて再び大暴れし、神咲一灯流先代の和音と、その孫の薫によってかろうじて再封印された。リニスとの関係はライバル(?)といった感じ。本作品の最大の萌キャラ。


椎名 ゆうひ(しいな ゆうひ)

神戸生まれで、大阪は豊島育ちの、関西バリバリの娘。かなりの方向音痴で、さざなみ寮に初めて来た時は、乗るバスを間違えて山一つを越えていたり、道に迷ってスクールへ着くのが3日も遅れた過去を持つ。イギリス留学を経て、後には世界を飛び回る歌い手となったのだが、英語はほとんど出来ない。


アイリーン・ノア(あいりーん・のあ)

フィアッセの一つ年上の幼なじみにして親友、そして現在はルームメイトとして、遠見市でアパート暮らしをしている。クリステラ・ソングスクールの卒業生で、世界中を飛び回る人気のシンガー。「若き天才」の二つ名で呼ばれている。アイルランド系アメリカ人。ソングスクールでは、フィアッセの同期だったらしい。ちなみに恋人有り。世界的な歌手なのだが、電車で平然と移動してたりする。歌手としてのアイリーンはハイセンスかエレガンスで売っているのだが、普段はロック少年みたいな格好なので、案外気づかれないらしい。


我那覇 舞(がなは まい) 【追加】

ボクっ娘。さざなみ寮に住んでおり、那美の友達の一人。聖祥学園の生徒で、運動能力はかなりの物。
那美とは、『那美ちゃん』『舞ちゃん』で呼び合う仲。


プレシア・テスタロッサ(ぷれしあ・てすたろっさ) 

23歳で結婚。28歳で1児「アリシア」を授かる。 その後、夫とはアリシアが2歳のときに生活のすれ違いから離婚している。
魔導師としても研究者としても優秀な女性。次元を超えた砲撃魔法さえも発動させることも出来き、かつては「大魔導師」と呼ばれていた。過去に仕事上の重圧や、所属していた組織上層部からの無茶で無謀な指令の数々に追われる内、実子アリシアを事故で亡くし、それが原因となって精神の均衡を崩し、以降…彼女の復活の為に全てを擲ってきた。その後「F計画」に参加して人造生物の開発と記憶移植の技術を学び、アリシアのクローン、フェイトを生み出す。しかしどちらも本物とは成り得ず、数々の相違点を有する様になった。そして彼女は「アリシアの代わり」ではなく、「アリシアを蘇らせる」ために死者蘇生の秘術を求めて忘れられし都「アルハザード」を目指すことを決意。その為の力として、ロストロギア“ジュエルシード”に目を付け、着々と準備を進めていた。その途中…偶然発見したロストロギア“オーパーツ”を解析し、闇の力を復活させた。その恩に報いる為に、闇の力はアリシアを蘇生させ、プレシアの願いを叶えた。現在はフェイトの事も1人の娘として見ることが出来るようになり、4人仲良く庭園で暮らしている。


アリシア・テスタロッサ(ありしあ・てすたろっさ) 

プレシアの実の娘。 1期の26年前にプレシアの関わっていた魔導実験の事故で亡くなった。フェイトは、そのアリシアの遺伝子を元に生み出されているため、フェイトとアリシアの容姿や声はまったく同一である。2歳の頃から両親の離婚によって母子家庭で育ったものの、母の愛を一心に注がれ、また当時のプレシアの同僚たちにとってマスコット的な存在として可愛がられたこともあり、大人達に対しても物怖じしない、明るく元気な少女だった。アリシアは魔法資質を受け継いでおらず、左利きである等、才能や精神的な特徴はフェイトと大いに異なっている。享年5歳。闇の力によって復活を果たす。フェイトには姉として接し、可愛がっている。闇の力から貰った力によって8歳まで成長し、フェイトと同い年になった。


フェイト・テスタロッサ(ふぇいと・てすたろっさ) 

フェイトは、プレシアが事故で亡くなった娘アリシアの遺伝子を使って作り上げた人造生命体に、アリシアの記憶を移したものである。 その記憶のうち、自分が「アリシア」である、という部分は消去されている。プレシアの使い魔であったリニスから戦闘訓練を受けていて、魔導師としての才能は非凡なものがある。AAAクラスの優秀な魔導師。高い機動力を生かした中~近距離戦、射撃と近接攻撃を得意としている。回避力に優れる一方、防御にはやや難ありで、バリア出力はあまり高くない。本人曰く、「速く動くこと、動かすこと」「鋭く研ぎ澄ますこと」は得意だが同時発動や遠隔操作は苦手とのこと。 彼女の魔法の師のリニスにも「機動力に頼りがち」と指摘されている。魔力光は金色。魔力変換資質「電気」を保有しているため、変換プロセスを踏まずに電気を発生できる。愛杖は、リニスが作り上げた閃光の戦斧の二つ名を持つインテリジェントデバイス『バルディッシュ』。また、使い魔のアルフとは、本来の使い魔とその主人というよりは、むしろ仲の良い姉妹のような関係に近い。無口気味だが、普段は穏やかで心優しい少女。現在はプレシアやアリシア、アルフと共に幸せな毎日を過ごしている。


アルフ(あるふ) 

ミッドチルダの山奥に住む狼を元にフェイトが作った使い魔。現在1歳。まだ子狼の頃に死病にかかり、群から追放されて死にかけていたところをフェイトに拾われ、命を救う手段としてフェイトが仮契約し、使い魔となった。 その後、双方が同意の上で本契約をし、今に至る。契約内容は「ずっとそばにいること」であり、実質どちらかが死を迎えるまで契約は有効となる。額の宝石は元々その種族に特有のもので、使い魔とは関係ない。フェイトを心から慕っており、その関係は主従というより仲のいい姉妹のよう。戦闘の援護から身の回りの世話まで献身的にこなす。格闘戦に長け、またバリアブレイクやバインドを始めとした補助系の魔法を駆使し、フェイトよりも更に前に出て戦う最前線での近接戦闘サポートをこなす。


リニス(りにす) 

山猫が素体で、まじめで優しく、責任感が強い女性。よく気の回る性格である。リニスはプレシアの使い魔であったため、プレシアの魔力を受け継ぎ、プレシアが保有している多くの魔法や知識を受け継いでいる。大魔導師であるプレシアをして、維持するのも楽じゃないと言わしめた使い魔。そのことからもどれだけ優秀かが窺える。フェイトの教育を終える直前、プレシアの私室にて偶然計画を知る。プレシアとの契約が切れた後すぐに転移魔法を使い地球にやって来た。が、魔力を使い過ぎたため気絶してしまう。地球人は魔力を持っているのが稀なことは知っており、
再契約の相手が見つかるかどうかは賭けだった。凌を通してアギトの力の恩恵を受けることができる。効果は主に能力全般の向上。特に敏捷性と魔法の威力・効果が上がる。しかし、凌がアギトに変身していないときは効果も微々たるもの。魔力光の色は紫。フィアッセがAGITΩの正体を知った際に、凌はリニスについても説明している。

使用魔法

封時結界

結界魔法。通常空間から特定の空間を切りとり、時間信号をズラす魔法。
術者が許可した者と、結界内を視認・結界内に進入する魔法を持つ者以外には結界内で起こっていることの認識や内部への進入も出来ない。
魔法戦や訓練が周囲に被害を与えたり目撃されたりしないよう、使われることが多い。

フィジカルヒール

肉体的な負傷の治癒のための魔法。即効性。

ブリッツアクション

短距離限定の超高速移動魔法。転移とまではいかないが、相手が一瞬目標を見失うほどの速度で瞬間的に移動する。

フォトンランサー

体の周囲に生成した発射体(フォトンスフィア)から、槍のような魔力弾を発射する魔法。
直線飛行のみで誘導性能を有しないが、代わりに弾速が速く連射も可能。

フォトンバレット

単発の魔法弾。
ごく初級の射撃魔法だが、それだけに熟練者が放つと必殺の威力を持つ。

サンダースマッシャー 

リニスの遠距離砲撃魔法。手を標的に翳し、魔法陣を展開して放つ。バリア貫通能力も備わっており、雷撃を伴うため、命中時の直接的な破壊力は高い。「撃ち抜け、轟雷」と言う掛け声で撃つ。移動中での使用は基本的に出来ず、射程もそれなりに長い為、リニスは不意打ち・またはフェイントに使用することが多い。


ライトニングバインド 

設置型捕獲魔法。バインド発生点の付近は雷撃系魔法の威力向上効果もある。空間に不可視(生成時に一瞬だけ見える)の魔法陣を設置し、それに触れた対象を拘束するトラップ型。

サンダーレイジ 

ロックオン系の範囲攻撃魔法。バインド能力を持つ雷光で範囲内の目標を拘束し、動きを止めた上で雷撃による攻撃を行なう。 この雷撃は精度が高く、範囲内でも術者が目標としたもの以外には影響を及ぼさない。リニスにはデバイスがないので、呪文詠唱で発動させる。またこの魔法は自然の力を借りるため、空の見える野外で撃つ場合は、魔力消費が少ない。


闇の力(オーヴァーロード) 

プレシアがオーパーツを解析し、プロジェクトFを利用した事で誕生した、アンノウンの首領的な存在。「闇」を具現化した力そのものであり、人類の創造主である神とも言うべき存在。自分の姿に似せて創り出した人類を自分の子供として何よりも愛していたが、自分と対をなす「光の力」が、人類に「知恵」=アギトの力という自分に制御できない能力を与えようとしたことを嫌い、「光の力」と戦い勝利するも、「光の力」が最後の力を振り絞り人類にアギトの力を植え付けたことで、一度世界を滅亡させた。しかし愛する人類を滅ぼすことを躊躇ったため、全人類、全動物種の中からつがいを一組ずつ方舟に乗せて生き残らせる。そして人類が遥か未来に再び繁栄しアギトの力が覚醒した時のため、アギトになるべき人間を抹殺させるべくエルロードを放ち、自分も人間の進化に伴い現世に復活できるよう自らの遺伝子情報をオーパーツに残していた。復活した際にアリシアを蘇らせ、以後は地球で現代に蘇ったAGITΩの根絶を企んでいる。時々、時の庭園に顔を出している。自分を蘇らせてくれた恩がある為、テスタロッサ一家を襲われないように、他のロード達に指示している。アリシアからは「クロくん」と呼ばれている。


【仮面ライダー】

AGITΩ(アギト)【追記】

「アギト」は、遥か古代に人間の可能性を否定する存在(=「闇の力」)に敗れた「光の力」が、それに対抗すべく人間種に与えた「アギトの力」により、超進化することで誕生した戦士。変身ベルト『オルタリング』のバックルに埋め込まれた「賢者の石」から全身に送られるオルタフォースによって全身が強化されており、複数の形態を使い分ける。

グランドフォーム ジャンプ力/ひと飛び30m 通常パンチ力/約7t 通常キック力/約15t 走力/100mを5秒

必殺技:ライダーキック
グランドフォーム時の必殺技。クロスホーンを開放させてエネルギーを充填してから片足で飛び蹴りを放つ。約30tの破壊力。

超越肉体を持つ金色の形態で、アギトの通常形態でもある。パワー、スピードのバランスがとれた形態で、武器は使用せず、パンチやキックなどの格闘で戦う。額部にある2本の角(クロスホーン)は、必殺技を繰り出す時に6本の角に変化、その際に地面に6本角を模したエネルギーが発生。それを吸収して一時的にパンチ力とキック力を強化する。

ストームフォーム ジャンプ力/ひと飛び50m パンチ力/右腕約3t・左腕約7t キック力/約5t 走力/100mを4.5秒

必殺技:ハルバードスピン
ストームフォーム時の必殺技。ストームハルバードの両端を伸ばした上で超高速で回転させて突風を起こし、怯んだ所で敵に駆け寄り、すれ違いざまに切りつける。約30tの破壊力。

超越精神を持つ青色の形態。風の力を特に左腕に宿す。ジャンプ力とスピードが強化されており、素早い敵との戦いを得意とするが、パワー面では劣る。ベルトから取り出される薙刀「ストームハルバード」を左腕に持つ。

フレイムフォーム ジャンプ力/ひと飛び20m パンチ力/右腕約10t・左腕約5t キック力/約7t 走力/100mを5.5秒

必殺技:セイバースラッシュ
フレイムフォーム時の必殺技。鍔の飾りを展開させたフレイムセイバーで、敵を一刀両断する。突撃してくる敵を待ち伏せする形により、相手の突進力を生かして斬るパターンが多い。約30tの破壊力。

超越感覚を持つ赤色の形態。炎の力を特に右腕に宿す。剣を扱うための腕力を得るほか、感覚力が強化されている。そのため、空中から襲いかかる敵や肉弾攻撃では対応できない敵との戦いを得意とするが、瞬発力と跳躍力では劣る。ベルトから取り出される刀「フレイムセイバー」を右腕に持つ。

搭乗バイク

マシントルネイダー 最高時速/430km  動力/オルタフォース

アギトへの変身と同時にベルトからのエネルギー・オルタフォースを受けて変形して完成する。カウルは分子配列レベルで硬化しており、い かなる衝撃にも耐える。タイヤ部の回転数もアギトの意思で思いのままに変えることができる。 その他あらゆる能力が強化されている。

G1 (追記)※クウガとは若干違うところがあります。

月村忍の作り上げた『対未確認生命体用強化服』その1号。クウガが元になっており、マイティフォームの再現はほぼ完璧。ただし、装着者への負担が大きく、人狼と吸血鬼のハーフである綺堂さくらだからこそ平気でいられる。外見はG3とクウガの中間と言う感じ。

マイティフォーム ジャンプ力/ひと飛び15m 身長/175cm 体重/135kg パンチ力/約3t キック力/約10t 走力/100mを6.0秒

バッテリーの電力をほぼ均等に配分している為、全体の能力のバランスが最も優れている。G1の基本形態で、特別な専用武器は無く、パンチやキックなどの肉弾戦で戦う。装甲の色は赤で、格闘が主な戦闘スタイル。

必殺技:マイティキック(G1)
ベルトに付いている赤いボタンを押し、ベルトから流れる《Charge Up》と言う電子音声の後、バッテリー総量の半分のエネルギーが右足へと送り込まれ、爆発的な破壊力を生み出す。その後、助走をつけてジャンプし、空中回転から飛び蹴りを決める。約25tの破壊力。

ドラゴンフォーム ジャンプ力/ひと飛び30m 身長/175cm 体重/135kg パンチ力/約1t キック力/約3t 走力/100mを3.5秒

バッテリーの電力の内、威力増幅の機能を最低限に設定し、その分を跳躍力及び瞬発力の方面に充てた。その為、素早い敵との戦いを得意している。反面、パワー不足となっており、それを補うのが、固定武装であるドラゴンロッド。この形態になると、装甲の色が青くなる。

必殺技:スプラッシュドラゴン
ベルトに付いている青いボタンを押し、ベルトから流れる《Charge Up》と言う電子音声の後、バッテリー総量の半分のエネルギーが腕を伝ってドラゴンロッドへ流れる。このドラゴンロッドを飛び込みながら敵に突き立て、同時に先端からエネルギーを敵の体内へと流し込み、内側から破壊する。約25tの破壊力。

ペガサスフォーム ジャンプ力/ひと飛び15m 身長/175cm 体重/135kg パンチ力/約1t キック力/約3t 走力/100mを6.0秒 感覚/常人の数千倍

バッテリーの電力のほぼ全てを頭部ユニットに充て、他の機能を殆どカットするという大胆な設定によって、敵の索敵・狙撃に特化した仕様となっている。月村忍が最新鋭のセンサー類をコスト度外視で改造したものを搭載しているため、それらの性能は凄まじく高い。専用武装は、原典の「ペガサスボウガン」よりも一回り大型な形をしている「ペガサスランチャー」。装弾数も弾丸の大きさの関係上、たった一発のみという銃器としては欠陥品だらけの武装だが、その発射速度や威力は従来の銃器と比べてはるかに凌駕するスペックを誇っている。

必殺技:ブラストペガサス
ベルトに付いている緑のボタンを押し、ベルトから流れる《Charge Up》と言う電子音声の後、バッテリー総量の4分の1のエネルギーが腕を伝ってペガサスランチャーへ供給される。それによって、弾丸発射の炸薬爆発時にエネルギー的な圧力をかけてプラズマ化させ、その膨張によって弾丸を発射する。発射された弾丸はライフル銃より遥かに高速で目標に到達する。また特殊な塗料を塗ることによって、弾丸を目視による認識を困難なものにしており、大きさ的にも矢というよりも杭に近い弾丸を開発、内部にはG1本体から供給されたエネルギーを一時的に充填できる蓄電器と弾丸そのものを破裂させる特殊炸薬で構成されている。この弾丸破裂構造は、充填できるエネルギー量が、他の必殺技に用いられるエネルギー量と比べて少ないため、敵の内部で炸裂させるエネルギー量を補う形で取られた苦肉の策であるが、それでも十分な効果を得られる。約25tの破壊力。

搭乗バイク

ビートチェイサー 最高時速/420km 動力/無公害イオンエンジン「プレスト」

G1専用マシンとして作られたバイク。特殊形状記憶合金・BT鋼で作られており、ボディの強度も従来のバイクより遥かに上回る。マトリクス機能対応特殊磁気塗料のおかげで車体の色を自由に変えられる特殊能力も有る。さくらが個人的なバイクとして乗る際は「ブルーライン」、G1を装着した後は「レッドライン」の車体色を用いる。(「0015」のコードで色が変わる)右側のハンドルに「ビートアクセラー」をセットすることで起動する。起動パスワードは、さくらの誕生日に因んで「0322」である。

G2

月村忍の作り上げた『対未確認生命体用強化服』その2号。こちらはクウガを元にしてはいるものの、基本性能はG-1に劣る。というのも、G1は装着者への負担が大きいため、それの解決のため止むを得ず性能を落とした。しかし、G1が素手であるのに対し、G2は超高周波振動ソード2本を主武装としている。装着者はノエルから恭也に変更。基本カラーは黒。

武装

GS-03Ⅱ デストロイヤー弐型×2

G3の物と同性能だが形状が異なる。形は両刃剣で、手に装着するタイプではなく手に持って振るうタイプ。

ジャンプ力/ひと飛び10m 身長/176cm 体重/140kg パンチ力/約2t キック力/約5t 走力/100mを9秒

搭乗バイク

ロードチェイサー 最高速度:380km 動力/無公害イオンエンジン「プレスト」

ビートチェイサーの発展型として作られたG2専用マシン。最高速度は若干落ちたが、その分安定性と装甲強度が上がっている。GS-03Ⅱ デストロイヤー弐型を搭載する事ができる。ビートチェイサーと同様にマトリクス機能があり、「0008」のコードで色が変わる。通常はデフォルト色である「ブラックヘッド」、G2としての出撃の際は「ゴールドヘッド」の車体色を用いる。右側のハンドルに「ロードアクセラー」をセットすることで起動する。起動パスワードは「1224」

※G2・ロードチェイサーの説明は、このSSの独自設定です。

G3

月村忍の作り上げた『対未確認生命体用強化服』その3号。Gシリーズ中最高の汎用性を誇り、様々な武器を使いこなす。基本性能は更なる汎用性を追及した結果G2よりも下になってしまった。警察に送る際、誰でも装着できるようにオートフィット機能を追加した。正式な装着者は赤星勇吾。基本カラーは青。
 
武装

GM-01 スコーピオン

標準装備のハンドマシンガン。鉄球を軽く粉砕する特殊弾を撃ち出す。
スタンダードマガジンには弾丸を最大72発装填できる。

GG-02 サラマンダー

標準装備のグレネードランチャー。専用グレネードユニットをGM-01に装着したもの。GM-01と比べると速射性では劣るが、約20tという一撃必殺の威力を持つ。弾丸は最大3発まで装填可能。

GS-03 デストロイヤー

標準装備の超高周波振動ソード。右腕に装着して使う。
刀身は毎分200万回振動し、太さ1mの鉄の棒さえ軽く真っ二つにしてしまう。

GA-04 アンタレス  

ワイヤー付きのアンカーを射出するユニット。
GS-03同様に右腕に装着して使う。
最長100mまで伸び、最大20tまでの重量の引き込みが可能。

ジャンプ力/ひと飛び10m 身長/185cm 体重/150kg パンチ力/約1t キック力/約3t 走力/100mを10秒

搭乗バイク

ガードチェイサー 最高時速/350km 動力/1300cc水素燃料エンジン

ドラッガー型の世界最強の白バイ。速度よりも安定性を追求したG3専用マシン。坂道やでこぼこ道などの悪路にも強い。高感度赤外線センサーや暗視カメラ、プロジェクターヘッドランプを装備。使用しているスーパーラジアルタイヤ「マグナBTR」には、パンクしてもプロテクト剤が噴射され、その亀裂を埋める機能がある。左右前後4箇所の特殊装備ボックスにはGM-01などのG3の武器を収納している。Gトレーラーによって輸送され、発進時は右側のハンドルに「ガードアクセラー」をセットさせて起動させる。起動パスワードは今のところ決まっていない。突貫作業で白バイへと改造したため、マトリクス機能はオミットされている。


【世界観】
『とらいあんぐるハート』『リリカルなのは』両シリーズの世界観が入り混じったものに、『仮面ライダーアギト』の世界観が加わっている。


【原作との相違点及び補足】(現時点)
とらハ:相違 高町士郎の生存
とらハ:相違 恭也と那美の出会い
とらハ:相違 アリサ・ローウェル生存
とらハ:相違 さくらの大学院での専攻内容
リリなの:相違 アリサ・ローウェル⇒アリサ・L・バニングスに改名
リリなの:相違 なのは達三人組の出会い
リリなの:相違 リニス生存 凌と再契約 パワーアップ 
リリなの:相違 ファリンに関する搭載武装の独自解釈 
リリなの:相違 アリシア復活
リリなの:相違 テスタロッサ一家の日常
アギト:補足 アンノウンはアギトになる可能性のある人間だけでなく、特殊な力を持つ人間も襲う
アギト:相違 Gシリーズ勢揃い+若干のスペック変更
アギト:相違 専用マシンの性能、若干の変更有り


【クウガとの関連性】
原作のアギトでは2年前にクウガ、及びグロンギ族が出現したとされているが、この世界ではグロンギもクウガも復活すらしていない。Gシリーズ開発の参考資料はクウガのミイラが眠る九郎ヶ岳の古代遺跡に記されていたものを解読し翻訳したもの。この世界のグロンギたちは数億年前にクウガによって封印ではなく絶滅させられている。リントの民は争いという概念がなく、殺すという概念がないため、原作では封印で済ませていたが、人間が滅ぶのを良しとしない闇の力、オーヴァーロードにより、知恵を与えられ、絶滅させるに到った。そのため発掘作業も何の問題もなく進んだ。
後に、このことを知ったさくらが、万が一また別の未確認の生命体が現れた時のためを思って忍に依頼し、Gシリーズの開発を進めた。


【プレシアの計画】(概要)
準備(フェイトの戦闘訓練・傀儡兵の製造など)が整い次第、ジュエルシードが眠る遺跡の場所をスクライア一族に流し、発掘させる。管理局への輸送途中に魔法で輸送艦を撃墜し、第97管理外世界に落下させる。その後フェイトに回収させる。

『補足』回りくどい方法をとるのは管理局に発見されるのを出来るだけ引き延ばすため。何故地球なのかは、管理局への輸送ルートの途中にある管理外世界だったから、というもの。
アリシア蘇生につき計画凍結



【妄想空間(需要があれば出すかも)】 (追加)

リニス(AGITΩ形態)sts編あたり

条件:リニスが約12年間アギトの力の恩恵を受け続ける。

詳細:特殊なケースのため、従来のアギトとは違い、『仮面ライダー』と呼ばれるような姿形をしていない。
リニス(人型)の姿のままバリアジャケットを纏ったような姿。
デザインのイメージはグランドフォームカラーの服と上着を羽織って、下はミニのスカートと言った感じ。姿こそ従来のアギトと違うが、性能は同じ。
頭にカチューシャを付けておりそれでネコ耳が隠れている。原作アギトで言うところのクロスホーンの展開は、ネコ耳がピョコンとカチューシャから飛び出す形となっている。
基本のグランドフォームとアクセルフォームの2つの形態がある。
アクセルのほうはふっちゃけファイズと似たようなもの。違う点は時間制限がファイズの2倍であること位。この形態のときはネコ耳と尻尾が立ちっぱなし。(つまりクロスホーン常時展開。)制限時間がくれば自動的にグランドへと戻るようになっている。


「この姿は私と凌の絆の証!倒せるものなら倒してみなさい!」 ピョコン←耳が飛び出す音。


久遠 + ジュエルシード(善) 無印編 神社でイベント発生
久遠とJSが同化した姿。

条件:凌への懐き度がMAXなら、JSに取りつかれた際に自我を失うことなくパワーアップする。

詳細:JSと同化したことにより、本来の雷撃に加え、魔法も使えるようになった。(ただし子供形態では知能が低いため扱える魔法は少ない。)本来ならば大人形態への変身は、久遠がすぐに空腹になってしまうため長時間は使えないのだが、JSによって、(原理は不明だが)カロリーの消費から魔力の消費へと条件が変化している。そのため、JSに内包されている膨大な魔力を使用することにより、好きな姿で居続けられる。(狐,少女,中・高生,大人)魔法を一切使わないのであれば軽く30年は大人形態のまま過ごすことも可能である。
              

久遠 + ジュエルシード(悪) 無印編 神社でイベント発生
久遠がJSに寄生された姿。

条件(原因):凌が獣属性を持つ女性(リニスなど)と共に神社に向かい、JSを咥えた久遠と遭遇するとこうなる。(なのは・那美などはOK。)久遠の嫉妬心によってJSが発動。

詳細:人型ではなく獣の姿。巨大化(見た目は子狐形態と同じ。)し、構ってもらおうと凌にじゃれついてくる。ただし、大きさが桁違いなので、JSを封印しないと大変なことになる。(主に凌が。)そのうえ、見た目はかわいいままなので攻撃できない。というか、したくない。
作者的には、凌にとってもなのはにとっても最強の敵だと思う。


ゼスト・グランガイツ (仮面ライダーBLACK) sts編

条件:スカリエッティがキングストーンを持っている。

詳細:ゼストが「レリックウェポン」では無く、仮面ライダーに改造された姿。本来ならば脳改造を施され、「ブラックサン」としてスカリエッティらに服従しなければならなかったところだったが、なんとか脱走に成功。自ら「仮面ライダーBLACK」を名乗り、スカリエッティの野望を砕くために奮戦する。


ゼスト・グランガイツ (仮面ライダーBLACK RX)

条件:死の危機に瀕した時に奇跡が起きる。

詳細:敵の攻撃によって変身機能を破壊され、死を覚悟したゼスト。その時、奇跡が起こった。体内のキングストーンが太陽の生命エネルギーを吸収、彼を仮面ライダーBLACK・RXとして蘇らせたのだ。太陽の子「仮面ライダーBLACK・RX」、悲しみの王子「RX・ロボライダー」、怒りの王子「RX・バイオライダー」の3つの形態を持つ。


ファリン・K・エーアリヒカイト&ノエル・K・エーアリヒカイト (仮面ライダーW)

条件:月村忍がWドライバー、及びガイアメモリ(Wが使用している物のみ)を制作

詳細:ファリンがボディメモリ(ジョーカー・メタル・トリガー)を使い、ノエルがソウルメモリ(サイクロン・ヒート・ルナ)を使って変身した姿。変身時は、肉体のベースとなるファリンの身体に、Wドライバーを介してノエルの意識が転送される。その場合、ノエルの身体は意識がなくなるので完全な無防備となってしまう。6種のメモリを使い、全9種類のフォームに変わることができる。

「「さぁ!自らの罪を数えなさい!」」

ファリン・K・エーアリヒカイト&ノエル・K・エーアリヒカイト (仮面ライダーW ファングジョーカー)

条件:月村忍がファングメモリを開発

詳細:ファングとジョーカーのメモリで変身した形態。他のフォームとは異なりノエルの肉体がWとなり、ジョーカーサイドも含めて全身に鋭角な意匠が追加される。総合的な身体能力はWの総てのフォームの中で最も高く、野獣の様な猛々しい闘争心全開の戦い方をする。

「後悔しないでくださいね。私はもう、知りませんよ?」


ファリン・K・エーアリヒカイト&ノエル・K・エーアリヒカイト (仮面ライダーW サイクロンジョーカーエクストリーム)

条件:月村忍がエクストリームメモリ、プリズムメモリを開発&姉妹の絆

詳細:サイクロンジョーカーに、ノエルの身体を取り込んだエクストリームメモリが合体することで、2人の意識と共に身体も一体化したWの最強形態。あまりの強さのため、戦闘向けでないファリンではエクストリームの域に到達出来ないかと思われたが、ノエルとファリン2人の絆が不可能を可能にし、変身することに成功した。


イレイン (仮面ライダーアクセル)

条件:イレインがアクセルメモリを所持している&アクセルドライバーを月村忍が開発する

詳細:イレインがアクセルメモリの力で変身した姿。メモリの組み合わせによる汎用性に特化したWとは異なり、アクセルはアクセルメモリ1つの力・特質を極限まで活かした仕様となっており、ドライバーの開発に長期を要した代わりに、非常に高い戦闘能力を獲得している。Wに、お前たちは敵だ!と言いつつも協力するツンデレ。

「さぁ!振り切るわよ!」「絶望があんたのゴールよ!」

補足:忍流ガイアメモリ開発方法
莫大な資金と人材と時間をかけて、メモリに使用する情報を集める。綿密に計画を立て、あらゆる角度から対象の情報を収集する。少しでも違えば純度が落ちるため、なんども検証して正式なデータを割り出す。月村の財力があればこその開発方法。


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