<プロローグ>
ファンタジックな世界である。
剣と魔法がズバンズバンドカンドカンと幅を利かせ、力がルールで暴力最高!な世界であった。
もちろんモンスターが火を吹き暴れて人間とかも喰っちゃうぜ!
森では妖精さんたちが輪を描いて踊り、森に入ってきた人間を弓で射殺しまくりだ! 14へ進め!!
そんな世界でも、最近は一大勢力であるところの人間が調子に乗って、あちこちに生意気にもデカい城を中心にした都市国家をガンガン建国して、やたらチームプレイが得意な軍隊が縄張りを主張している。
この軍隊というのが曲者で、基本的に俺様最高なモンスターがせいぜい群れるのがやっとなのをいいことに、モンスターを挟み撃ちにするは、夜襲をかけるは、落ち着けこれは孔明の罠だ!など、やりたい放題である。
このままじゃヤバい!と思っていたのが現地の神、いわゆるゴッドであった。
彼はあくまで暴力最高主義であり、政治がどうのとか、文明がどうのとかいうのには鳥肌を立てるタイプであった。
人間が世界の秩序がどうのとかのたまって平和を謳歌したのでは色々とよろしくないのである。
しかも、すでに都市国家の中には、繁栄のし過ぎで権力構造が腐敗しちゃってるところもあった。
肥え太った王族が下級市民に下の世話をさせながら『お前たちの平穏は我々が授けてるのだよチミィ』とか言っちゃってるのである、暴力大好き人間としてはまさに最悪だ。
中央都市から離れた開拓村では、税金の取立てを任された貴族が好き放題村娘を食ったりしてるし。
一部の変態商人が奴隷として乱獲された妖精を集めて変態調教室で人間様の素晴らしさを身体に教え込んでやるぞとか、アホか。暴力の意味をそもそも勘違いしてるとしか思えない。
ゴッドは、そんなこといいいから戦争しようぜ!っと感じに力を振るうことにした。
モンスターの世界にも、その権力構造を収束すべき建造物を作ったのである。
魔王城。
思わずひれ伏したくなるようなデカくて立派な城であった。
もちろん謁見の間の王座は無数の頭蓋骨で飾られ、腰を落ち着ける場所はぎゅっと押すと、ふわっと押し返すふかふかの柔らか素材で作られているので座り心地はとっても抜群だ。
ちなみにこの頭蓋骨って何の骨なんだ?なんてことは気にしてはいけない。
とにかく最初から頭蓋骨が一体成型で付いてくるのである。玉座っていうのはそういうものだ。
そして、ゴッドは最後の奇跡を起こした。
モンスター達の王たる存在、魔王と、その従者を作ったのである。
魔王の誕生を前に、ゴッドは因果律を歪めまくった反動で深い眠りに入った。
モヒカンがヒャハーッ!とか言いながら斧を振り回し荒野を駆け巡る夢を見ながら。
◆
「それがこの、わらわということだな!」
魔王は、完膚なきまでにロリっ子であった。
暴力の世界に破壊と暴虐をもたらすために降り立ったにしてはあまりにも頼りない貧乳ぶりである。
しかしその王者の風格は本物だった。
全裸でありながら、腰の左右に手を置き、胸を張って立つ姿には一片の恥じらいすら存在しない。
肌は褐色、瞳は黄金。その髪は燃える炎を思わせる真紅であった。下の毛は無い。
「その通りですけど、前ぐらい隠したらどうですか?」
謁見の間でふんぞり返る王の側には、従者の姿があった。
青白い霊気を漂わせた骨である。
こちらが古代の学者を思わせる長衣を身に纏っているのは,全裸の主とは対照的だった。
しかもこの骨、主に服着ろとか突っ込みを入れつつ、自分の服を渡す気はさらさらないようである。
「構わん、捨て置け!!」
「はぁ」
手の平をバッ!と横に振ってそう言われると、骨も『もういいや』という気持ちになって頷いてしまう。
まさに魔王の風格であった。
「それよりも骨! わらわは貴様に問うことがあるのだ!!」
魔王は見た目で名前を決めるタイプだったらしい。
別に神が名前を定めたわけでもなかったので、これ以降彼の名前は骨で決定した。
「なんですかね」
多少嫌そうな顔をしながら従者は返事した。
もっとも頭蓋骨の顔面を持つ彼の表情を読めるものなどいない。、
魔王は、だーっと玉座から謁見の間を突っ切り、中庭を見下ろす荘厳なルイバルコニーまで駆け抜けた。
そして、両手をバンザイと開きながら吠える。
「この魔王城には、なぜ一匹たりとも配下のモンスターがおらんのだっ!!」
その言葉通り、魔王城はもぬけの殻である。
否、誕生して間もないこの建造物は、もともともぬけの殻なのは不思議なことではないのだが。
だが、魔王にとっては大問題である。
臣下なくして何が王か。
「まぁ、自分で集めないといけないんじゃないですかね?」
従者は適当に答えた。
「おぉ! 貴様、頭が良いな!! そうか、自ら臣下を集めてこその王かッ!!」
その適当な返事に対する魔王の食い付きこそが異常であった。
ぱぁぁぁぁぁぁ~っと顔が太陽のように輝き、八重歯の見える口が半円を描く。
あまり威厳のある笑みではない。しかし、臣下を素直に褒めることが出来るのも王者の余裕の現れである。
「じゃ、お前、適当に魔物を集めて来い! それで、わらわが良さそうな者を家臣に取り立てるとしよう!!」
果てしなくアバウトな命令であった。
「はぁ、それじゃ、適当に集めてきましょう」
しかし、恐るべきは神の使徒たる従者の力。
割とあっさり頷いて、従者は光の柱に包まれてその場から消えた。転移魔法である。
そして魔王城には、ただ一人、魔王のみが残される。
「……我が覇道は、これより始まるのだ」
大地を見下ろし腕組みしながらそんなことを呟く。
とりあえず満足した魔王は、謁見の間にてくてく戻って玉座のふかふか感を楽しむことにした。
<君が勝ったなら1へ進め>
■冒険記録用紙
<魔王>
LV:65,535
装備:なし
■魔王城備品
[魔王の玉座]
■配下
<従者> LV: 1,000