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[11131] 【一発ネタ】ドラゴンクエストⅢ 大魔王からは逃げられない(現実→憑依)
Name: 車道◆9aea2a08 ID:555837fb
Date: 2009/08/22 19:30
「また、新しい勇者が城に呼ばれたようですね」

 酒場に駆け込んできた配下、いや仲間の武闘家の言葉に、もう一人の仲間である魔法使いと共に、またかと苦笑をもらす。
 魔王退治に、王の命令で旅立つ勇者は、これが初めてではない。
 最初に送り出されたオルテガから始まり何人もの勇者が城に呼ばれ旅立ち、そして誰も帰ることはなかった。
 魔王を倒さねば人間に未来はなく、しかし襲い来るモンスターから国を守るためには、城の兵士を魔王討伐に向かわせるわけには行かないという事情は理解できるが、オルテガが還らぬ人になった時点で、勇者個人の活躍に期待するなど間違いであると気づくべきであろう。
 ただ一人で魔王に立ち向かい敗れたオルテガを教訓に、ルイーダの酒場を作り仲間を募らせることにしたのは評価できるが、そこに集まる者も、それを率いた勇者たちも、オルテガに比べると小粒にすぎる。
 魔王を倒すどころか、そこに到達することすらできまい。

「今度の勇者は、どこの村の力自慢が選ばれたのやら……」

 哀れみとも、嘲りともつかない言葉に、武闘家が「それが、今回は今までとは少し違うようです」と頭を振る。

「どう違うのだ?」
「今回の勇者は、オルテガを父に持つのだそうです」

 なるほど、確かに今までとは違う。
 勇者というものは、どういうわけか血筋に依存する存在である。
 勇者オルテガの血筋であれば、今までの凡百の勇者たちのような無様はさらすまい。とはいえ……。

「それでも魔王には、敵うまい」

 オルテガは、選ばれし血筋だけに依存せず、その肉体を極限まで鍛えた真実の勇者であった。
 その彼すら勝てなかった相手に、ただ勇者の血筋に生まれたというだけの者が勝てる道理はない。

「まあ、せいぜい傍観させてもらおうか」

 呟き、酒を口に運ぶ。
 どのみち、自分たちには関係のない話だ。この酒場に集まった者たちの中で、最強の戦闘力を持つと自負する自分たちは、魔王には勝てないと諦めきってしまっているのだから。
 おそらく、オルテガの子は、この酒場を訪れるのだろう。だが、自分たちには関係のない話だ。
 杯を仰ぐ。そんな姿に何を思ったのか、武闘家は居心地悪そうに辺りを見回した後、何かに気づいたように、酒場の入り口を指さす。

「あ、誰か入ってきましたよ。多分、あれが新しい勇者じゃないですか?」

 ほう。と呟き、そこにいる者を見て。
 ぶふぅっ、と酒を噴く。

「女……だと……」
「あれ? 言いませんでしたか?」
「聞いとらん」

 とりあえず、説明不足の武闘家に、鉄かぶとでも握りつぶせそうな握力でアイアンクローをかましながら、入ってきた勇者を観察する。
 年の頃は、十代半ば。長く伸ばしているわけでもない漆黒の髪は、星空のようなきらめきを宿し、中性的な美貌は男女を問わず人を魅了する、少年のように丸みの薄い肢体は、しかしこれからの成長を期待させるには充分な健康的な色気を振りまいている。

「さて、勇者に売り込みに行くか」
「え? 魔王退治に行くつもりはないのでは……、って痛い痛い痛い」

 迂闊な口を利く武闘家の頭を握る手に力を入れてやる。

「魔王退治は、我らの悲願であろうが」
「ですよねー」

 魔法使いの追従の言葉には答えず、立ち上がり勇者の下へと向かう。
 自分たちは、魔王を倒しうる勇者を求めて、ここにいたのだから。








 彼女が目を覚ました時、最初に見たものは、見覚えのない女性の顔であった。
 さて、この人は誰であろうかと考えている間に、女性は聞かれもしないのに、自分と彼女自身の事を説明し始めた。
 曰く、女性は彼女の母である。
 曰く、彼女は勇者である。
 曰く、16歳になった本日、彼女は志半ばにしてこの世を去った父オルテガに代わり、魔王を倒さなくてはならない。
 曰く、今から王宮に行って王様に挨拶しなくてはならない。

「えーと、なんのドッキリ?」

 彼女がそう言ってしまったのも当然であろうが、残念ながら母を自称する女性は理解してくれなかった。
 実際、これはドッキリでもなんでもない。彼女がいるのは、アリアハンという国であり、一言で言うと、彼女だって知っている超有名コンピュータRPGの世界であった。
 普通に考えれば、そんな話を簡単に信じられるはずがないのだが、信じざるを得ない証拠があった。
 鏡を持ってきてもらったら、鏡面の向こうに見たこともないボーイッシュな美少女を発見してしまったのだ。
 自分の本来の容姿を鑑みて、特殊メイキャップでもしなければありえない美少女っぷりに、頬っぺたを引っ張ってみたりと試してみたが、間違いなく地肌である。
 憎らしいほどに、張りのある肌であった。
 ボーイッシュなクセに、目覚める前の自分の記憶にあるよりも、微妙に大きい胸にも腹が立つ。

 いやいやいや、そんなことを考えている場合ではない。このままでは、魔王退治に行かされてしまうではないか。
 動かしてみた感じ、無駄なくよく鍛えられた肉体ではあるのだろうが、それでも自分にモンスターを倒すなんて事ができるとは思えない。
 が、なんと言って断ればいい?
 母親に手を引かれるままに家から出て分かったことだが、彼女が魔王退治に旅立つことは決定事項となっており、ここで無理ですとか言っても聞き入れてもらえるとは思えない。
 というか、言ったら村八分どころか国中の人間に袋叩きにされたあげく、町の外に捨てられそうなくらいに熱狂的に応援されている。
 一般的な精神力しか持たぬ彼女には、ここで否と言えるだけの性根の持ち合わせはない。
 かくして、彼女は言われるままに王様に会い。そこで魔王云々、勇者の使命云々、オルテガがいかに活躍したかを云々聞かされた後、小額のゴールドを渡されるのであった。

「えーと、それじゃあ、行って来ます」
「うむ。見事、魔王ハドラーを倒してくるがよい」
「はいはい。承りまし……た……?」

 魔王ハドラー……だと……?

「今、ハドラーと言いましたか王様?」
「ん? 何か、おかしなことを言ったかな?」
「魔王って、バラモスじゃないんですか?」
「なんじゃ、そのバラモスというのは? そんな魔王の名前は初めて聞くが」
「いえ、いいんです。聞かなかったことにしてください」

 突っ込んで質問されても、答えようがない。

 ハドラーって、ダイの大冒険のアレだよね? 初期の魔軍司令のヤツならともかく、超魔生物なら、どんだけレベルを上げても勝てる気がしないんだけど……。

 などと言えようはずもないのだ。

「そうか? では、旅支度が整ったらルイーダの酒場で仲間を集めるがよいぞ」
「はい……」

 思いっきり嫌だけど、反論しようとは思わない。というか、王命なのだ。逆らって無事でいられる保障がどこにあるというのか。




 さて、王様は旅支度を整えたらルイーダの酒場に行けと言ったが、彼女は先に酒場に向かった。
 何しろ、この世界の常識というものが欠如しているのである。旅支度なら、経験豊富な先輩冒険者に教わって買い求めるべきだろう。
 いっそ、戦闘も全部任せてしまいたいところだが、そう上手くはいくまい。
 ゲーム通りなら、ルイーダの酒場にいるのは、レベル1の冒険者だけだろうし。
 まあ、そもそもレベルなんてものが存在するのかどうかも疑問であるのだが。自分のステータスが見れるわけでもないのだし。
 そうして、酒場に入って行ってすぐに彼女は、三人組の冒険者に声をかけられた。
 構成は、魔法使いが二人と武闘家が一人。
 なんだか、バランスのよくなさそうな編成だが、三人は共に女性であり、それは共に旅をするのなら都合がいい。
 全員が元の自分より数段美人なのが、なんだか物悲しいが。
 現在の自分なら負けていないのだが、そちらはどうも借り物の体という意識がある。

「えーと。何の用でしょうか?」

 仲間になってくれるって言うのなら、これから先の交渉をしなくて済んで楽でいいな。
 などと考えていると、ご都合なことに、本当に魔王を倒す旅に連れて行ってくれないかという申し出だった。
 実に、幸先のいい話である。
 もっとも、前衛に出る気概のない彼女としては、魔法使いという後衛要員を二人も仲間にするのは複雑なものがあるが、酒場に他にいる、岩のようにごつい顔をした戦士やら、目が合った相手を睨みつけているような武闘家に声をかける勇気はない。
 勇者として、どうよ? という気もしないでもないが。

「えっと、それじゃあ自己紹介しませんか」

 一緒に旅をするなら、これは必須だろうと考えての言葉を三人は快諾する。

「我の名は、ゾーマ。魔法使いをやっている」
 なんて、金の髪を腰まで伸ばした、肉感的な女性が、ちょっと待てよな名を名乗り。

「ワシの名は、バラモス。同じく魔法使いじゃ」
 などと、栗色の髪を肩に触れるかどうかのところまで伸ばした少女が、オイオイと言いたくなる名を告げ。

「俺の名は、バラモスブロス。武闘家です」
 と、三つ編みにした黒髪を背中に流した、容姿も体格もバラモスと名乗った少女にそっくりの少女が、何なのよ! と叫びたくなる名を口にした。

「……」

「どうした?」

 急に、酔っ払いがするように、酒場の壁に寄りかかった彼女に、ゾーマが尋ねてくるが、とりあえず考える時間が欲しいところである。
 ていうか、いっそこのまま現実逃避していたい。

「ねえ? なんで、魔王やアレフガルドの大魔王が、こんなところにいるわけ?」

 間違っていたらと考えないというか、考える余地のないほどにテンパった彼女の言葉に、問われた三人は、驚くでもなくむしろ関心した顔になる。

「ふむ。さすがは、正当なる勇者というところか。よくぞ、我らの正体を見破った」
「いいから、そんな褒め言葉、聞きたくないから説明してよ。まさか、私が成長する前に殺しに来たとかじゃないでしょうね?」

 言ってみて、もしそうだったならとギョッとするが、ゾーマたちは何を寝ぼけたことをと呆れた顔で首を振る。
 勇者などと言っても、しょせんは人間である。ゾーマにしろ、バラモスにしろ、人間如きを抹殺するために、わざわざ自ら出張ってきたりはしない。

「だったら、なんで?」

 そんな疑問に対し、三人は顔を見合わせたあと、ゾーマが厳かに真実を述べる。

「アレフガルドの城を乗っ取られた」
「はい?」
「だから、城も大魔王の身分も奪われてしまったのだ」
「誰に?」
「大魔王バーンと名乗っておったな。いや、我が言うのもなんだが、とんでもないバケモノだった。メラゾーマを撃ってきたと思ったら『今のは、メラゾーマではない。メラだ』などと言い出して、カイザーフェニックスとかいう科学忍法火の鳥な魔法を使ってくるし、死ぬかと思ったわ」
「ていうか、闇の衣がなかったらゾーマ様死んでましたよね。あっても死にかけましたが」
「その少し後に、ゾーマ様とバラモスブロスが、命からがらワシの所に逃げて来たのじゃが、そしたら魔軍指令ハドラーを名乗る奴が、配下を連れて追って来てな」
「で、バーンがいないなら、なんとかなるかと思って応戦したのだが」
「ハドラーの連れて来た奴らの強いの何の。特に、バランと言う戦士が強くて俺たちでは、まったく歯が立たなくてな」
「で、逃げる途中にモシャスで姿を変えて、姿をくらませて、なんとかここに逃げ延びたというわけなのじゃ」

 わけなのじゃ。じゃないでしょう!
 じゃあ何? 私が戦わなきゃならないのは例のあの魔王軍で、しかも勇者ダイパーティと戦う前の万全な軍隊で、しかもゾーマやバラモスが裸足で逃げ出すくらいの強さってこと?
 勝てるわけないでしょ! 常識的に考えて。

 心の中で叫んでみるが、それで現実は変わってくれたりはしない。いやもう、いっそ夢であって欲しいくらいである。

「それで、なんでルイーダの酒場なんかにいるのよ」

 あと、なんで女になってんのよ。魔王一行が女だなんて聞いたことないわよ。

 投げやりに尋ねてみると、至極当たり前のことを説明するかのような口調で答えが返ってくる。

「第一に、連中は我々の世界征服計画を丸ごと乗っ取ってくれたので、このアリアハンへの侵攻は一番最後になっている」
「第二に、この国は勇者が旅立つ国じゃからな。ワシらだけでは勝ち目のない相手でも、勇者と一緒なら勝ち目がでてくるかも知れんと、有望な勇者が現れないかと捜しておったのじゃよ」
「女なのは、趣味……じゃなくて、その方が魔王軍の目をくらませやすいからですね」

「有望なって、勇者って他にもいたの?」
「何十人といたな。誰一人、故郷の土は踏めなくなったが」

 うわあ。聞かなきゃよかった。

「で、その他の勇者には、声をかけなかったのよね。てことは、私が今までで一番有望だったってこと?」
「いえ、一番有望だったオルテガには、声はかけたんですが、一人で充分と断られました」
「まあ、結局バランと一騎打ちをして、あえなく敗北した程度じゃから、仲間にならなくて正解だったわけじゃが」

 つまり、一番有望な勇者さえ、魔王軍相手には役に立たないということか。

「それじゃあ、私だって役に立たないんじゃない? できれば、別の勇者を捜して欲しいんだけど」

 なけなしの使命感など、ゾーマたちの言葉を聞いて磨耗した。

「それでは、そなたはどうする気なのだ?」

 この国にいる限り、勇者を辞めるなどと言っても、誰も納得してくれないであろうに。

 そんな、言外の言葉に彼女は大丈夫と手を振る。

「他所の国に言って、そこで勇者だってことを隠して平凡に暮らすわ」

 まあ、魔王軍が世界を支配するまでの儚い平和だろうが、勝ち目のない戦いをするよりはマシだ。

 そんな名案に対し、ゾーマらは顔を見合わせて、気の毒そうな顔でため息を吐く。

「何か言いたいことでも?」
「うむ。我らと違って、魔王軍の連中は勇者という存在にことのほか過敏になっていてな」
「勇者と聞くと、即座に刺客を送ってくるのじゃよ」
「更に、オルテガがバランに討ち取られるまで、刺客を全部返り討ちにしていたのが連中に危機感を持たせたらしく」
「今までの勇者には、ほとんどがバランと同格の軍団長やら、殺し屋キルバーンとやらが送り込まれてきて殺されておるのだ」
「といっても、オルテガ以降の勇者は小物ばかりじゃったので、最近では最初にオルテガに送られてきていた者よりも、少し強い程度の刺客ばかりじゃがな」
「それでも、今のあなたを消すには充分な刺客でしょうがね」
「えーと、つまり?」
「そなたという勇者が旅立ったことは、すぐにでも魔王軍の耳に入るだろうな」
「そして、どこに隠れても草の根分けてでも探し出して抹殺しようとするじゃろうな」

 酷い。なんだって私がそんな目に。ようするに何? 大魔王バーンを倒す以外、私の生きる道はないってこと?

「参考までにきくけど……」

 本当は聞きたくないが、聞かなくては話が進まない。

「ゾーマと戦ったバーンって、年寄りの姿をしてた?」
「ん? ああ、人間の老人のような姿をしていたな」

 しかし、何故そんなことを聞くのかと問うゾーマに彼女は答えない。答えられるわけがない。
 老バーンにすら勝てないんじゃ、どう頑張っても若バーンには勝ち目がないなんて絶望を。

 絶対的に勝ち目はなく、しかし大魔王の刺客から逃げ切るのは不可能である。
 夢なら覚めて。
 誰にともなく懇願するが、その願いは誰にも届かず、彼女はゾーマたちと旅に出ることになるのであった。
 勇者の未来に幸あれ。



[11131] ドラゴンクエストⅢ 大魔王は逃げられない
Name: 車道◆9aea2a08 ID:555837fb
Date: 2009/08/22 19:34
「また新しい勇者が現れたようです」

 メタリックな銀色の肌を持つ馬面、というか馬そのものを模した顔を持った部下の言葉に、魔王軍、魔軍司令ハドラーは、「そうか」と憂鬱な声で答えを返しながら思う。
 どうして、この世界では倒しても倒しても新しい勇者が現れるのだろうかと。
 元々、ハドラーは、ここの世界の住人ではない。
 こことは違う世界で、彼が仕える大魔王バーンの下に集まった魔族を指揮する、魔王軍のナンバー2であった。
 ところが、である。
 いざ人間界を攻めようという時になって、彼らは魔王軍まるごと白い光に包まれ、気が付くと見知らぬ夜の世界に運ばれている自分たちを発見する事になったのだ。
 何が起こったのかが分かったのは少し後のことで、とにかく事情が分からなかった魔王軍は、とりあえず見つけた二つの城の一つを攻めることにした。
 情報収集をしてから、というわけにはいかなかった。
 六つの軍団を抱える魔王軍が丸ごと移動してきたのである。この目立つ集団に情報収集のための情報収集などという悠長なことをしている余裕はなかったのだ。
 そして、攻めたのがこの世界に置いて大魔王を名乗るゾーマの城であるのだと知ったのは、本人を前にしてからのことである。
 そこに辿り着くのは簡単であった。
 機動城砦鬼岩城を使い、城まで軍団を運び城内へ到達。城内には、多くの強力なモンスターがいたが、かつて魔王を名乗っていたハドラーや、今の上司である大魔王バーン。それに、六人の軍団長の前に立つには役者不足と言うしかない。
 そして、事情の分からないまま、ゾーマと戦い追い払った後で、その城を拠点として情報を集めた結果、大魔王バーンは一つの結論を出した。
 ここは、自分たちがいたのとは別の世界であり、自分たちを移動させたのは天界の神々の命を受けた精霊たちであると。

 魔王軍は強すぎた。それが、神々を暴挙に走らせた原因である。
 魔界の神とまで呼ばれるほどに強大な魔族である大魔王に、魔王と呼ばれ人間界を震撼させた魔軍司令。
 六人の軍団長の中には、神々によって作られた最強の戦闘生物である竜の騎士までいるのだ。
 これには、人間たちでは絶対に勝てないと神々が考えるのは当然の結論であろう。
 だから、神々は自分たちの手に余る災厄である魔王軍を別の世界に廃棄することにしたのだ。
 廃棄された世界がアレフガルドなのは、ここがゾーマによって半ば支配された世界であったから。
 守護神、精霊ルビスが封じられ、もはや絶望しかない世界なのだ。そこに、新たな魔族が現れたとしても、そこに住む者にとって大した違いなどありはしない。
 ただし、事情が分かったからといって、納得できるかどうかは別の話である。
 大魔王バーンが望んだのは、自分たちがいた世界の人間界を攻めることであり、その後天界に攻め上ることである。まるきり知らない世界を支配することではないのだ。
 とはいえ、現状では元の世界に帰るための方策もない。だから、とりあえずこの地を支配することにバーンは決めた。
 情報を集め、元の世界に帰る術を編み出すためにである。
 そして、逃げ出したゾーマの事を調べてみて、この夜の世界の上にはもう一つの世界があり、ゾーマはそこにいる配下のバラモスの所に逃げ出したと知り、そこにバーンは希望を見出した。
 上と下の二つの世界。それは、本来世界の壁に隔てられているはずの交わらぬ世界である。
 それを繋げる力を持った大魔王というものは、今の現状を打破するに役立つのではないかと考えたのだ。
 だから、バーンはハドラーに命じた。ゾーマを追えと、そして捕らえよと。
 自身が出向かなかったのは、ゾーマの身柄を押さえただけで全てが解決するとは思わない現実的な思考ゆえであり、バーンは下の世界に残り元の世界に戻るための方法を模索しようとした。
 それゆえに、ハドラーに従い上の世界に向かったのは、竜騎将バラン、魔剣戦士ヒュンケル、獣王クロコダイン、氷炎将軍フレイザードの戦闘に向いた四人とそれぞれが率いる軍団である。
 すでに、魔に屈しかけている下の世界には、それほどの戦力は必要と見なされず、魔影参謀ミストバーンと妖魔司教ザボエラの率いる二つの軍団が残った。
 そして、ハドラーたちはゾーマたちと戦い。そして、逃げられた。

 言い訳をするなら、ハドラーたちにはゾーマを生け捕りにしなければならない理由があり、しかしそれをするには相手は強すぎたのである。
 元々、魔王軍にとり、相手を倒すという言葉は殺すと同一のものである。
 生かして捕らえるという行為に向いていない彼らには適度な手加減というものができず、ゆえに取り逃がしてしまう結果を招いたのだ。
 だが、失敗しました。ごめんなさいで済ませるわけにもいかない。子供の、おつかいではないのだ。失敗したなら、別の手柄を立てなければいけないのがハドラーの立場であるのだから。
 そこで、ゾーマたちを捕らえるためにハドラーが考えたのが、上の世界を征服することである。
 ただ、捜索隊を送るより、各国を制圧していったほうが、確実に市井に隠れたゾーマたちを焙り出すこともできるだろうし、元の世界に帰るための情報を集めるにも世界を征服しておくことは都合がいい。
 それに、魔王軍の上位幹部と違って、一般の兵隊の戦闘力は、この世界のモンスターと大した違いがない。
 ただの、捜索隊では返り討ちに合うだけの可能性が高いのだ。

 そう考えての世界征服計画だったのだが、ここでハドラーは一つの問題に行き当たる。
 ここは、彼が元いたのとは別の世界である。
 まるで知らない世界の知らない国々を制圧するなど、簡単に出来るものではない。ついでにいうと、無計画に戦争を仕掛けてバーンから預かった兵を無駄に消費するのも賢くない。
 だから、彼はこの世界を征服するためにバラモスが使っていた計画を、そのま乗っ取る事にした。
 その計画は、人々の心に絶望を植えつけていく目的をも兼ねており、ゆえに時間のかかるものであったが、何も知らない自分たちが立てる計画よりはマシであろうし、大体にして長い寿命を持つ魔族にとって多少の時間など大した意味を持たないのだ。それに、この方法なら、ゾーマたちの命令で動いていたモンスターをそのまま使えば済むというのも、利点である。組織の末端というのは、上が代わっても自分たちのやることに変わりがなければ不満なく働くものなのだから。
 あるいは、計画の中身を知っているゾーマたちが妨害してくるかもしれないが、望むところである。その時こそ捕らえてみせようではないか。

 このように、逃げ出した大魔王ゾーマを捕まえるためだけに、魔王軍の侵攻が始まったわけだが、もちろんそんなことを人間は知るよしもなかった。



 そして、この計画は順調に進むかと思われたが、これにまた別の障害が立ちふさがった。
 勇者オルテガの登場である。
 ハドラーは、勇者という者に嫌な思い出がある。
 自身が魔王を名乗っていた頃に、勇者に討伐されてしまった経験があるのだから、いい思い出になるはずもない。
 更に、現れた勇者をさっさと始末しなかったばかりに、魔王軍の計画が遅れ始める結果になった時は、慌てて魔王軍最強と言われるバランにしとめさせたものだが、ここからハドラーの計画は遅延を見せることとなる。
 なまじ、オルテガが真実勇者と呼ぶに相応しい存在であったのがまずかった。
 オルテガの死後、すぐに現れた次の勇者の話を聞いた時、オルテガのような勇者は早々現れないだろうと思いながらも、ハドラーはバランと同格の軍団長たちに勇者の討伐を命じなくてはならなくなったのである。
 軍団長とは、その呼び名の通り、軍団を率いる者である。そんな者が、一介の兵士のように出かけてしまえば、配下の軍団を動かせなくなるではないか。
 世界を征服するための軍団の一つが動かせなくなってしまえば、その分だけ計画は遅れてしまう。
 もちろん自分が直接出て行って、勇者を倒すなどもってのほかである。

 そもそも、魔王軍とは勇者と戦うために存在している組織ではない。
 ただ単に、魔王軍の目的の障害として勇者が現れるのであり、勇者討伐とはその障害を取り除くための作業に過ぎないのだ。
 勇者を倒すために本来の目的、つまりは世界を征服してゾーマを見つけ出すという計画が遅れていては本末転倒であろう。

 なのに勇者は倒しても倒しても、次から次へと現れる。
 もう、こちらの事情を分かっていて出て来ているだろうと言いたくなるくらいである。
 こちらとしても、いい加減、いちいち軍団長を送り出すわけにはいかなくなるのも当然であろう。
 とはいえ、軍団長以外を刺客として送り出すのも簡単なことではない。
 魔軍司令とは、大魔王バーンに次ぐ魔王軍のナンバー2であり六人の軍団長に命令を下せる身分であるが、逆に言えば直接命令を下せる部下のいない孤独な立場でもある。
 ゆえに、勇者討伐を軍団長に命ずることはできても、誰を送るかの裁量は、それぞれの軍団長に任されているのだ。
 それで軍団長自らが出かけて、そのせいで計画が遅れても文句を言うわけにはいかず、しかし大魔王への報告で言い訳をするのは自分の仕事なわけで、中間管理職の悲哀なんてものを味わう羽目になるのである。
 しかし、そんなものにいつまでも耐えられるほど、ハドラーの胃は丈夫ではない。
 心臓みたいに、胃も二つあればいいのになどと愚痴を吐く日々のあと、どうやってかその苦労を知ったバーンから、ある品物が送られた。
 それは、オリハルコンで出来たチェスの駒。
 その駒を使い、禁呪によって生み出された魔法生物を直属の部下とするが良いという命令に、ハドラーは感動のあまり泣きそうになったという。

 ともあれ、忠誠心が高く、戦闘力でも自分を凌ぐのではないかと危機感を感じるオリハルコンの戦士たちを部下とした、ハドラーはそれらに勇者討伐を命じ、オリハルコンの戦士たちが見事使命を果たすと、次からは軍団長たちも自らが勇者討伐に出かけるわけには行かなくなった。
 愚直な武人であるクロコダインはともかく、ハドラーを格下と見なしているバランや、格下どころか見下しているヒュンケルや、虚栄心の高すぎるフレイザードなどは、ハドラー直属の部下如きに果たせる任務に直接出るわけにはいかなくなったのである。
 かくして各軍団長は、自分の配下はこんな下っ端でも勇者を討伐できるのだと競い合うようになり、どんどん勇者に送る刺客のレベルは下がって行ったわけなのだが、それでも問題なく倒せてしまう勇者というものに、いい加減刺客を送るという行為自体がバカらしくなってきている今日この頃なハドラーであった。
 とはいえ、最初の勇者オルテガの例がある限り、放置するわけにも行かないのだと、憂鬱になるのである。

 かくして、今回もまた勇者に対して刺客が送られる。
 ゾーマを見つけ出し捕らえるという魔王軍の目的の邪魔をさせないために。






「イオナズン」

 その言葉が生み出す魔法の効果が、スライムの群れを吹き飛ばす。

「マヒャド」

 その言葉が生み出す魔法の効果が、いっかくうさぎの群れを吹き飛ばす。

「イオナズン」

 その言葉が生み出す魔法の効果が、以下略。

 アリアハンを発ち、旅に出た一行は、その間まったく苦労することがなかった。
 なにしろ、ボスキャラ三人うち一人はラスボスという規格外れの戦力と旅を共にしているのである。これで、苦戦とかしたら詐欺だと叫んでいただろう。
 とはいえ、問題がないというわけでもない。
 どんなモンスターが現れても、ゾーマ、バラモス、バラモスブロスの三人が使う魔法で瞬殺してしまうのである。
 これでは、何一つレベル1勇者の彼女の経験にならないではないか。
 ゲームなら、黙ってみているだけでも経験値がたまって強くなれるのだろうが、どうやらこれは現実であるらしい。彼女は、アリアハンを出た頃から何一つ成長していなかった。
 仮初めとはいえ、武闘家のバラモスブロスが魔法を使っているのは如何なものかと思ったのだが、本人曰く、転職したと言えば済む話だとのこと。いい加減な話である。
 いい加減といえば、

「こんなことを続けていたら私が強くなれないんだけど……」

 三人の戦闘を見ていると、もうあいつらだけでいいんじゃない? などと思ってしまうのだが、それでは勝てないのが魔王軍である。
 三人の魔王と、それを倒しうる可能性のある勇者の協力。それが、魔王軍と戦いうる唯一の方法であるというのが、ゾーマたちの考えであったはずなのだが、今のままでは勇者たる彼女にはスライムに勝つのも難しい。
 そんなわけで口にした疑問に対し、三人は不思議そうな顔をする。

「強くなれない?」
「何故、強くなる必要が?」

 ちょっと待て!
 お前たちは、何を言っているんだ。

 心に浮かんだ感情を、そのまま口に出そうとした時、「あー」とバラモスブロスが慌てたように叫びを響かせる。

「分かってる。分かってます。確かに勇者様にも成長してもらわなければいけませんが、ゆっくり修行している間に、魔王軍の刺客が来ないとも限らないので、実戦を経験してもらうのは、移動してからということにしようと考えて、今は戦闘に時間をかけないようにしているんですよ」

 なるほど、納得できないこともない説明である。
 しかし、「成長か」と呟いてゾーマが彼女の胸元に、バラモスが腰の辺りに視線を合わせてくるのは、どういうことなのか。

「しかしまあ、ここまで移動すれば、早々魔王軍の刺客に見つかることもないでしょうし、今日はこの辺りで休憩にしましょう」
「うむ。この街には温泉があったはずだしな。疲れを取るのにもちょうどいい」

 言いながら、彼女の体を上から下まで、舐めまわすように見つめるゾーマ。はたしてコイツは本当に疲れを取る気があるのだろうか。
 いやまあ、考えても意味のないことではある。どのみち、旅に出てから彼女に何らかの選択権があったことなどないのだ。

 そうして、宿を取り荷物を置き、魔法使いや武闘家と違い鎧という邪魔な武装を外すのに手間取った後、三人に遅れて温泉に入るために脱衣所に向かいながら、彼女は呟く。

「にしても、ゾーマって大魔王よね。なんか、随分とイメージと違うんだけど」
「どんなイメージだったんですか」
「そうね。なんというか悪の権化とか恐怖と絶望の王とかそんな感じの……」

 おや? と声の返ってきたほうを見ると、先に行ったはずなのに普通に隣を歩いているバラモスブロスがいる。

「なんで?」
「いえ。勇者様が、俺たちと一緒に温泉に入るのが嫌で、逃げ出すんじゃないかということに気づいたゾーマ様に命じられまして」

 何故、逃げ出すなんて思うのだろうか? 女同士で裸を見られるのを恥ずかしがるほどシャイだと思われているのかしら。と考え、そこで彼女は気づき顔を青ざめさせる。
 ゾーマたちは、今は人間の女性の姿をしているが、本当はそうではなかったのだ。
 借り物の体だろうが、相手が人外の生物だろうが、そいつらが今は女性の姿をしていようが、三人もの異性と一緒に温泉に入るなど冗談ではない。

「あっ、私、用事を思い出したから……」
「と、言われたら、無理やりにでも連れて行くように言われています」

 常識はずれの握力で首根っこを掴んだバラモスブロスは、そのまま彼女を脱衣所まで引っ張っていく。

「はーなーしーてー!」

 懇願してみるが、武闘家の少女の姿をした魔王の手は、緩む気配がない。

「そうそう、ゾーマ様のイメージの話ですが、勇者様のそれは正しい。見た目はもちろん、内面も以前とは完全に別人と言っていいほどに変容していますので」

 無理やりに混浴に付き合わせようとしているのに罪の意識でも感じたか、単に彼女を落ち着かせようと別の話をしようとしただけなのか、武闘家の少女はそんなことを言ってくる。
 そして、話してれば、首根っこを掴んだこの手も緩むかもしれないと彼女も、「どういうこと?」と質問し話をあわせる。

「元々ゾーマ様は、恐怖や絶望といった人の持つ負の感情を糧としていたのですが、大魔王の座を追われてからは、人はバーンにその感情を向けるようになってしまいました。
 結果、満足な恐怖や絶望を得られなくなったゾーマ様は、しかし別の負の感情をその身に受けることとなります」
「それは?」
「男が女に向ける劣情です」

 ずるりと足を滑らせ、しかしそのまま引きずられることとなった彼女は、しかし気づかずに問いを重ねる。

「劣情!?」
「ええ。狙ったわけではないのですが、見目麗しい女性の姿をとったのが幸いしたんでしょうな。おかげで、前には劣りますが、負の感情を糧とし続けることが出来たのですが……」
「が……?」
「いわゆる食中毒とでも言うのでしょうか? 女性への劣情という感情を身に受けすぎたゾーマ様は、何年も人間の中で正体を隠して過ごしていたことも相まって、どうも精神的に変質してしまったようなのです」
「具体的には、どんな風に?」
「魅力的な女性を見ると、劣情を抱いてしまうようにです」
「……」
「どうかしましたか?」
「あんたやバラモスは、その対象には?」
「俺たちの正体を知っていて、劣情を抱く男性がいるとは思えませんが?」

 ですよねー。
 てことは何? 私は、こんな異郷の果てで貞操の危機に陥っているの?

 思ったが、口には出さない。その通りです。なんて言われたら、もう立ち直れないから。
 とはいえ。

「いーやー、たーすーけーてー」

 と叫ぶくらいは許されてしかるべきだろう。
 誰も助けてくれなかったが。




「うう……。もうお嫁にいけない」

 呟く彼女は、自身の心を裏切り、火照った体を恨めしく思う。
 この体も、ゾーマたちもなんと憎らしいことか。
 だからといって、ゾーマたちと別れるという選択肢はない。
 自分ひとりで旅を続ける自信がないというのもあるが、色々と企みはあるのだろうが、大人しくしていればもう魔王軍に関わらなくてもいいはずなのに、危険をとして自分と旅をしてくれているのだ。そんな相手を裏切れるような殺伐とした人生は送っていない。

 頑張ろう。
 そう思う。
 旅も魔王軍との戦いも。
 自分のために、命を預けてくれている三人の魔王のためにも。

 勇者の明日はどっちだ。








 続きませんよ?
 一発ネタは、続かないから一発ネタなのですから。


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